"こ の ス レ を 覗 く も の 、 汝 、 一 切 の ネ タ バ レ を 覚 悟 せ よ"
(参加作品内でのネタバレを見ても泣いたり暴れたりしないこと)
※ルール、登場キャラクター等についての詳細はまとめサイトを参照してください。
――――【注意】――――
当企画「ラノベ・ロワイアル」は 40ほどの出版物を元にしていますが、この企画立案、
まとめサイト運営および活動自体はそれらの 出版物の作者や出版元が携わるものではなく、
それらの作品のファンが勝手に行っているものです。
この「ラノベ・ロワイアル」にそれらの作者の方々は関与されていません。
話の展開についてなど、そちらのほうに感想や要望を出さないで下さい。
テンプレは
>>2-9あたり。
3 :
参加者リスト:2007/12/26(水) 20:20:56 ID:tSM9MZSb
2/4【Dクラッカーズ】 物部景× / 甲斐氷太 / 海野千絵 / 緋崎正介 (ベリアル)×
1/2【Missing】 十叶詠子 / 空目恭一×
1/3【されど罪人は竜と踊る】 ギギナ / ガユス× / クエロ・ラディーン×
0/1【アリソン】 ヴィルヘルム・シュルツ×
1/2【ウィザーズブレイン】 ヴァーミリオン・CD・ヘイズ / 天樹錬 ×
2/3【エンジェルハウリング】 フリウ・ハリスコー / ミズー・ビアンカ× / ウルペン
1/2【キーリ】 キーリ× / ハーヴェイ×
1/4【キノの旅】 キノ / シズ× / キノの師匠 (若いころver)× / ティファナ×
2/4【ザ・サード】 火乃香 / パイフウ× / しずく (F)× / ブルーブレイカー (蒼い殺戮者)
0/5【スレイヤーズ】 リナ・インバース ×/ アメリア・ウィル・テラス・セイルーン× / ズーマ× / ゼルガディス× / ゼロス×
1/5【チキチキ シリーズ】 袁鳳月× / 李麗芳× / 李淑芳 / 呉星秀 ×/ 趙緑麗×
1/3【デュラララ!!】 セルティ・ストゥルルソン× / 平和島静雄× / 折原臨也
0/2【バイトでウィザード】 一条京介× / 一条豊花×
1/4【バッカーノ!!】 クレア・スタンフィールド / シャーネ・ラフォレット× / アイザック・ディアン× / ミリア・ハーヴェント×
1/2【ヴぁんぷ】 ゲルハルト=フォン=バルシュタイン子爵 / ヴォッド・スタルフ×
2/5【ブギーポップ】 宮下藤花 (ブギーポップ) / 霧間凪× / フォルテッシモ× / 九連内朱巳 / ユージン×
0/1【フォーチュンクエスト】 トレイトン・サブラァニア・ファンデュ (シロちゃん)×
0/2【ブラッドジャケット】 アーヴィング・ナイトウォーカー× / ハックルボーン神父×
2/5【フルメタルパニック】 千鳥かなめ / 相良宗介 / ガウルン ×/ クルツ・ウェーバー× / テレサ・テスタロッサ×
2/5【マリア様がみてる】 福沢祐巳 / 小笠原祥子× / 藤堂志摩子× / 島津由乃× / 佐藤聖
0/1【ラグナロク】 ジェイス×
0/1【リアルバウトハイスクール】 御剣涼子×
2/3【ロードス島戦記】 ディードリット× / アシュラム (黒衣の騎士) / ピロテース
0/1【陰陽ノ京】 慶滋保胤×
4 :
参加者リスト:2007/12/26(水) 20:22:11 ID:tSM9MZSb
3/5【終わりのクロニクル】 佐山御言 / 新庄運切× / 出雲覚 / 風見千里 / オドー×
0/2【学校を出よう】 宮野秀策× / 光明寺茉衣子×
1/2【機甲都市伯林】 ダウゲ・ベルガー / ヘラード・シュバイツァー×
0/2【銀河英雄伝説】 ×ヤン・ウェンリー / オフレッサー×
2/5【戯言 シリーズ】 いーちゃん× / 零崎人識 / 哀川潤× / 萩原子荻× / 匂宮出夢
2/5【涼宮ハルヒ シリーズ】 キョン× / 涼宮ハルヒ× / 長門有希 / 朝比奈みくる× / 古泉一樹
1/2【事件 シリーズ】 エドワース・シーズワークス・マークウィッスル (ED)× / ヒースロゥ・クリストフ (風の騎士)
0/3【灼眼のシャナ】 シャナ× / 坂井悠二× / マージョリー・ドー×
0/1【十二国記】 高里要(泰麒)×
1/4【創竜伝】 小早川奈津子 / 鳥羽茉理× / 竜堂終× / 竜堂始×
1/4【卵王子カイルロッドの苦難】 カイルロッド× / イルダーナフ× / アリュセ / リリア×
1/1【撲殺天使ドクロちゃん】 ドクロちゃん
1/4【魔界都市ブルース】 秋せつら× / メフィスト× / 屍刑四郎× / 美姫
3/5【魔術師オーフェン】 オーフェン / ボルカノ・ボルカン× / コミクロン / クリーオウ・エバーラスティン / マジク・リン×
0/2【楽園の魔女たち】 サラ・バーリン× / ダナティア・アリール・アンクルージュ×
全117名 残り38人
※×=死亡者
【おまけ:喋るアイテム他】
2/3【エンジェルハウリング】 ウルトプライド / ギーア× / スィリー
1/1【キーリ】 兵長
2/2【キノの旅】 エルメス / 陸
1/1【されど罪人は竜と踊る】 帰ってきたヒルルカ
1/1【ブギーポップ】 エンブリオ
1/1【ロードス島戦記】 カーラ
2/2【終わりのクロニクル】 G-sp2 / ムキチ
1/2【灼眼のシャナ】 アラストール&コキュートス / マルコシアス&グリモア×
0/1【楽園の魔女たち】 地獄天使号×
5 :
ゲームルール:2007/12/26(水) 20:23:14 ID:tSM9MZSb
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
開催場所は異次元世界であり、どのような能力、魔法、道具等を使用しても外に逃れることは不可能である。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給される。
「多少の食料」「飲料水」「懐中電灯」「開催場所の地図」「鉛筆と紙」「方位磁石」「時計」
「デイパック」「名簿」「ランダムアイテム」以上の9品。
「食料」 → 複数個のパン(丸二日分程度)
「飲料水」 → 1リットルのペットボトル×2(真水)
「開催場所の地図」 → 禁止エリアを判別するための境界線と座標も記されている。
「鉛筆と紙」 → 普通の鉛筆と紙。
「方位磁石」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。
「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが一つ入っている。内容はランダム。
6 :
ゲームルール:2007/12/26(水) 20:23:43 ID:tSM9MZSb
※「ランダムアイテム」は作者が「エントリー作品中のアイテム」と「現実の日常品」の中から自由に選んでください。
必ずしもデイパックに入るサイズである必要はありません。
エルメス(キノの旅)やカーラのサークレット(ロードス島戦記)はこのアイテム扱いでOKです。
また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
【「呪いの刻印」と禁止エリアについて】
ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「呪いの刻印」を押されている。
刻印の呪いが発動すると、そのプレイヤーの魂はデリート(削除)され死ぬ。(例外はない)
開催者側はいつでも自由に呪いを発動させることができる。
この刻印はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
24時間死者が出ない場合は全員の呪いが発動し、全員が死ぬ。
「呪いの刻印」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
下手に無理やり取り去ろうとすると呪いが自動的に発動し死ぬことになる。
プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると呪いが自動的に発動する。
禁止エリアは2時間ごとに1エリアづつ禁止エリアが増えていく。
【放送について】
放送は6時間ごとに行われる。放送は魔法により頭に直接伝達される。
放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」「残りの人数」
「管理者(黒幕の場合も?)の気まぐれなお話」等となっています。
【能力の制限について】
超人的なプレイヤーは能力を制限される。 また、超技術の武器についても同様である。
※体術や技術、身体的な能力について:原作でどんなに強くても、現実のスペシャリストレベルまで能力を落とす。
※魔法や超能力等の超常的な能力と超技術の武器について:効果や破壊力を対個人兵器のレベルまで落とす。
不死身もしくはそれに類する能力について:不死身→致命傷を受けにくい、超回復→高い治癒能力
7 :
投稿ルール:2007/12/26(水) 20:24:17 ID:tSM9MZSb
【本文】
名前欄:タイトル(?/?)※トリップ推奨。
本文:内容
本文の最後に・・・
【名前 死亡】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
【残り○○人】※必ずいれる。
【本文の後に】
【チーム名(メンバー/メンバー)】※個人の場合は書かない。
【座標/場所/時間(何日目・何時)】
【キャラクター名】
[状態]:キャラクターの肉体的、精神的状態を記入。
[装備]:キャラクターが装備している武器など、すぐに使える(使っている)ものを記入。
[道具]:キャラクターがバックパックなどにしまっている武器・アイテムなどを記入。
[思考]:キャラクターの目的と、現在具体的に行っていることを記入。
以下、人数分。
【例】
【SOS団(涼宮ハルヒ/キョン/長門有希)】
【B-4/学校校舎・職員室/2日目・16:20】
【涼宮ハルヒ】
[状態]:左足首を骨折/右ひじの擦過傷は今回で回復。
[装備]:なし/森の人(拳銃)はキョンへと移動。
[道具]:霊液(残り少し)/各種糸セット(未使用)
[思考]:SOS団を全員集める/現在は休憩中
8 :
投稿ルール:2007/12/26(水) 20:24:46 ID:tSM9MZSb
1.書き手になる場合はまず、まとめサイトに目を通すこと。
2.書く前に過去ログ、MAPは確認しましょう。(矛盾のある作品はNG対象です)
3.知らないキャラクターを適当に書かない。(最低でもまとめサイトの詳細ぐらいは目を通してください)
4.イベントのバランスを極端に崩すような話を書くのはやめましょう。
5.話のレス数は10レス以内に留めるよう工夫してください。
6.投稿された作品は最大限尊重しましょう。(問題があれば議論スレへ報告)
7.キャラやネタがかぶることはよくあります。譲り合いの精神を忘れずに。
8.疑問、感想等は該当スレの方へ、本スレには書き込まないよう注意してください。
9.繰り返しますが、これはあくまでファン活動の一環です。作者や出版社に迷惑を掛けないで下さい。
10.ライトノベル板の文字数制限は【名前欄32文字、本文1024文字、ただし32行】です。
11.ライトノベル板の連投防止制限時間は30秒に1回です。
12.更に繰り返しますが、絶対にスレの外へ持ち出さないで下さい。鬱憤も不満も疑問も歓喜も慟哭も、全ては該当スレへ。
【投稿するときの注意】
投稿段階で被るのを防ぐため、投稿する前には必ず雑談・協議スレで
「>???(もっとも最近投下宣言をされた方)さんの後に投下します」
と宣言をして下さい。 いったんリロードし、誰かと被っていないか確認することも忘れずに。
その後、雑談・協議スレで宣言された順番で投稿していただきます。
前の人の投稿が全て終わったのを確認したうえで次の人は投稿を開始してください。
また、順番が回ってきてから15分たっても投稿が開始されない場合、その人は順番から外されます。
9 :
追記:2007/12/26(水) 20:25:28 ID:tSM9MZSb
【スレ立ての注意】
このスレッドは、一レス当たりの文字数が多いため、1000まで書き込むことができません。
500kを越えそうになったら、次スレを立ててください。
――――テンプレ終了。
戦ってるときふと思い出すことがある。
そんなに遠い昔じゃない、あの青色の約束。
夜の帳に蒼ざめた月
秋の月夜は真空みたいだ
崩れ落ちる瓦礫がリノリウムに影を落とす
もうもうと舞いあがる粉塵は戦場の匂いがした
動かない左腕、右手は黒く血を流してる
もう使えないものに未練はない
立ち上がることもかなわず、それでも這いつくばってやっと答えに辿り着く
ああ、と小さく息を吐いた
あどけない寝顔に、震える胸、崩れる身体
そして最後に手を伸ばす
手の中から響く、遠い金属音に耳を澄まし
あの時から私は、逃げることが出来なくなった。
◆
風切る音もなく、銀光が走った。
瞬間、風見の時間が停止する。
一振りで彼我の力量差が知れる、という事態はまれに存在することは知っていた。
風見も戦士だ。潜り抜けた死線は両手で数えてもまだ足りない。
当たり前に風見は軽い、一撃で受けるダメージやノックバックが大きいという意味だ。体重がではない。残念ながら。
直撃はただの一撃でも論外、受けてもノックバック分不利になる。戦場では常に避けることを強いられる。
その中で銃弾飛び交う前線を、ルナティック弾幕を走り向けてきた経験。特に目のよさにはそれなりの自負がある。
前兆でもいい、目視さえできればほぼどんな攻撃にも対応してきた。
軌道を見極め、速度を測り、外に出る。いかな砲撃も当たらなければ恐れることはなかった。
その目が、わずか一秒も満たないうちに結論を下す。
必至。 チェックメイト
出来ることなどありはしないない、ただの一手でも動かせば、そこで詰む。
動いたと思った時にはもう何もかもが遅すぎた。
呼吸すらする間もなく、声をかけられ振り返る終えるまでの一刹那。針先のような瞳孔だけが、ナイフの軌跡をただなぞる。
風見は目を見開いたまま硬直する。
そして冷たい刃が皮膚にめり込む、直前だった。
「ひあっ――」
何かが風見の腕を掴み、引く。
きつく柔らかい加速の負荷と独特の浮遊感に頭の芯が麻痺した。
「ひゃん」
悲鳴も終わらないうちに、突き飛ばされて尻餅をついた。衝撃と冷たい水の感触が風見の背筋を走り抜ける。
冷たさに一瞬まっさらになる。水を吸ったの布地が肌に張り付き、濡れたショーツが熱を奪う。
そして、空っぽになった頭に、キリ、と金属の削れる音が響いた。
目の前には限りなく黒に近い青。風見を突き飛ばして諸共にバランスを崩しながらも、ブルーブレイカーがガードを構えナイフを受ける。
鼻先で、きりきりとナイフと装甲が鍔迫り合った。
群青色の火花が散る。金属の削れる音は耳に障る、風見はそんなことをぼんやりと思っていた。
拮抗はすぐに崩れた。ブルーブレイカーが腕を振りぬき、男が逆らわずに距離をとる。
そのまま、二人はじりっと対峙する。
「あ、ちょ、ちょい、待……」
待ちと叫ぼうとして、
彼と目が合った。
絶句する。
訂正しよう、怪物と、目が合ってしまった。
月明かりの森の中爛々と輝く、人を呑み込む、赤く、紅い燃え滾る虹彩と目を合わせてしまった。
全身を電流が走り抜けた。
びりびりと肌が泡立って、頭皮が外気に触れるほど毛が逆立つ。
脳を飛ばし、脊髄へ伝え、自律神経を駆け抜ける。刺激を受けた全器官が強制的に励起する。
ごクリと風見は唾を飲み込む。
赤はあまりにも色鮮やかだった。荒漠で薄っぺらな無機色ではない、どれだけの感情を煮詰めればこんな風になるのか、どこまでも深い、憎悪と歓喜の渦巻く赤の万色。
憎しみがあった。歓喜があった。だが一方で、それは誰に向けられるものでもない、純然な自責のようにも見えた。
どこにも行き場のない、向ける矛先のない絶望を、飴状になるまで煮詰め続けたらこうなるのかもしれない。
人喰いの目。意思持つ怪物、ヒトから怪物になったものの目がこちらを見ていた。
ポーズやブラフの気配はない、そう考えることすらおこがましい、混ぜ物なしの純正品、純度100%の殺意。
ただの停戦の一言でも、決定的な侮辱ととられかねない。
肌が、チリチリする。
それ以前に、アテられて理性が飛びそうだ。
彼から目をそらせずに、左手だけが無意識に首元をなぜた。柔らかい、けれど異常なまでに汗ばんだ皮膚の感触と結露のように冷たい指の感触。
痛いほどの心音が風見が生きてることを肯定する。それでもまだ実感がわかない。
震える爪が浅い切り傷に引っ掛かった。痺れるような痒みとともに、わずかににじむ血が風見の指をつぅと伝う。
「何を呆けている、風見!」
今度こそ風見ははっとなった。
BBの叫びと再び金属音が響く。
交差して、弾きあって、二人がそのまま距離をとる。鈍い金属音が鼓膜を通して脳の深いところで残響する。
弾かれるように風見は二人から距離をとる。意識が収束し、感覚が音をたてて開けた。
再びの交錯。ブルーブレイカーが振り下ろし、梳牙の腹を男が手の甲で払う。
よし、と一つ頷く。
フィルターを取っ払ったように、二人の動きがよく見えた。
進む赤に、立ちはだかる群青の装甲。ブルーブレイカーが梳牙をなぎ払い、
そのまま巨体が宙を舞った。
運動の法則をあざ笑い、怪物がブルーブレイカーを弾き飛ばす。
「う、そ」
風見は呆然となる。
数瞬遅れて、風見は梳牙を足場にした男のもう片方の踵がブルーブレイカーの頭部を、それこそ槌のように打ち据えたいうことをようやく理解した。
錐揉みしながら数瞬の滞空時間を経て、数百キロを超える機体が地べたに叩きつけられる。
「ぐ!!」
墜落の瞬間、風見は思わず両腕で顔を覆った。
衝撃に土と露がはじけて飛沫き、両腕のスキマをぬって頬を走る。ぶつかり合う装甲が派手な金属音を撒き散らす。
最後に圧倒的な畏怖を伴ううすら寒い沈黙が残った。
顔のガードをゆるめると、腕の隙間から、地べたに這いつくばるブレイカーが覗く。
耳が痛い、風見はごくりと唾を飲み込んだ。
体重差があり過ぎる、仮にそれを成すだけの力があるとしても、同じ衝撃の分男のほうが弾かれるはずだった。
すくなくとも接地していたり、X−vi、あるいは5-thやそれに準ずる概念・特殊能力などの補助なしにできることではない。
だが直感はそれを否定する、あれを成したのは純然たる物理法則と鍛錬であると。
ただ、わかてはいても、あまりにも異常過ぎる目の前の光景を、飲み込むことができそうにない。
ざわざわと震えているのがわかる、今更になって動悸を感じる。
末梢がひどく冷たい。
肺は鉛でも詰め込まれたかのように重く、細い。呼気は喘ぐように、胸の奥で小刻みに振動するばかりだ。
酸素が胸の奥まで届かない。
こんなに激しく呼吸してるのに、溺れそうなぐらいに息苦しかった。
彼が、こちらへ向かって一歩踏み出す。
「う……」
瞬間、殺気の刃が音を立てて突き刺さる。風見をその場に縫いとめる。
(あれ?)
握り締めようとした拳が1ミリたりとも動かせない。
(あ、この流れちょっとヤバくない?)
頭の中のどこか冷静な部分がそんな事を暢気に告げる。 リセットカード
ファーストアタックで完全にボードアドバンテージを握られた。そして風見は切り札なんてもってない。
一歩近付かれる。
じわり、と嫌な予感が足の先から忍びあがった。
また一歩。
重い。
構えてるのは格好だけ、体が萎縮してる事実を突きつけられる。
一歩。
不安が雪だるま式に膨れ上がった。いざというとき、動けるか、風見はその自信がもてない。
違和感さえ覚える。さっきまでの意思はどこに行った。自分はこんなにも無力だったのか。
一歩。
ざりっと靴が砂をかむ音が、目と鼻の先で、響く。
風見は、手を出すことができない。
どうしても、ただの一歩を踏み出すことができなかった。
「と」
唐突に、男が後ろに一歩下がった。
意図が読めず混乱しかけた風見の前で、遅れて、梳牙が誰もいない空間をなぎ払う。
「ブルーブレイカー!!」
息を詰まらせながらも風見はその名を叫ぶ。
起き上がりざまに、BBが仕掛けたのだ。
風を切り裂き、風圧が衝撃波の壁となって周囲の草露を弾き飛ばす。
「下がっていろ!」
梳牙が振り下ろされる、男は、それを左手一つでそらすと同時に反動で一歩前へ、腋下をなぞるようにナイフが走る。
鈍い音が響く、全身全速全体重をかけた男のナイフが関節に突き刺さって、なおあっさり金属に弾かれた。
反動を流すように男が一歩後ろへ、そこに、梳牙が殺到する。
左足、右肩、首……秒間3発を超える梳牙の連撃は、逃げ場を囲うようでしかし男に触れることもない。
その一秒の隙間に、男が体を捩り込む。
二人の得物が唸りをあげた。
そのまま済し崩すように、切り結ぶというにはあまりに不恰好な乱舞が始まった。
人の限界を超える速度で木剣が唸る。男は人の限界速度でかわしていく。
ナイフが的確に急所をとらえる、それでも、青い装甲を破れない。
戦術は、これっぽっちもかみ合わない。
洗練さのかけらもない。切り崩す一撃を探るように二人は打ち合った。
すべてが新手で、互いに次がどういう手で来るのか予測がつかない。
じり、と握りしめた拳が汗に滑る。
正直、風見には介在する隙間が見えなかった。
距離をとって、ブルーブレイカーの後ろに回り込むでけで精一杯。そして、いつまでそれが続けられるか分からない。
(どうすればいい?)
心に、通り風が吹いた。
動くに動けない風見の前で、振り下ろされる軌道と切り払う軌道が交差する。
風見はそれを他人事のように凝視して、
【いかん!】
「!」
ぶわり、と肌が泡立った。
悪寒に衝き動かされ、風見はとっさに右足の重心をはずし、さらに首を横に傾げる。
目の前を、弾かれた梳牙が流れた。
ガラスのような、緩やかな時間のなか、舐めるようにエッジが風見の眼の前をかすめて行く。
心臓が、一際強く収縮する。胸がつぶれる。べコリとつぶれるペットボトルの気分。
一瞬が過ぎる。時間が正しく流れ出す。
通過列車の彷彿とさせる。梳牙が風見の視界から流れて消えた。
前髪の2,3本が、まとめてぶちぶちと悲鳴を上げながら毟り取らる。
不覚にも、ちょっと涙が出た。
その一瞬に、赤い男が、弾かれて体を大きく開けたブルーブレイカーを潜り抜け、風見に迫る。
冷汗も出ない。
のけぞった勢いが、風見をそのまま後ろに引っ張っている。
とっさに体を沈め、風見はバランスを強引にニュートラルに戻し、
目と鼻の先で怪物が笑ってた。
「ちょ、はやっ!」
頭の中がびりびりする。
速過ぎる。
遠目でも十分速いのは意識してたがその本質を見誤ってた。
歪む口角に銀色の線。
これは捌ききれない。一瞬で判断が下る。
迎え撃つには、どうしてももうワンテンポ足りない。
理解すると、思わず恐怖が先に立った。
伸ばした右足に重心を移す。靴越しに地面を掴む。体を手繰り寄せてなめらかに押し出す。
全体重の負荷にひざと太ももが悲鳴を上げるが気にしてる余裕もない。ひきつける余裕もなく、精密動作などもってのほか。
できうる限りの大振りな、次を考えないバックステップ。
一撃でもまともに貰えばアウトなのだ。あのサイズのナイフなら切り裂くだけでも十分戦闘不能ダメージが入る。
水の中のように体が重い。直線でありながらなめらかに追尾するナイフが、くの字に引いたあごの下、喉元ぎりぎりを掠め、ブラウスの繊維を巻き込んで走り抜ける。
こちらの体勢を崩すためだけの、たたみかける布石としての薙ぎ払い。
瞬間、風見は勘だけで身体をひねった。上半身だけの半身の脇、さっきまで肩があった位置を刺突が抜ける。
冷汗が背筋を伝う。
今ので風見は確信した。やはり、完全に先の先と後の先を握られてる。
(こっちのモーション完全に見切られてるわね、真正面から対峙してるのに不意を打たれてるような錯覚を覚えるわけだ)
いくら速いとはいっても数値に出るような速さならブルーブレイカーの方がまだ上。しかし、こと格闘戦となるとまだブルーブレイカーを相手にする方が気が楽だろう。
なんていっても、ドツキ合いで勝つのは常にイニシアティブをとった方である。
「くぁっ!」
回避に気を取られてを下半身が前に出過ぎていた。男に風見は強烈な足払いをもらう。
辛うじて衝撃を逃がすが代わりに体が思いっきり宙でコマのように回った。
「こなくっそ!」
風見はすぐさま重力の方向に体をねじった。三次元感覚は伊達に鍛えてない。
つま先から着地、若干後ろに流され、腐葉土に足を取られる。重心を落として、転倒を防ぎ。
そして、顔をあげたその真横に、唸りを上げたブーツの先があった。
「っ!」
至近で火花が弾けた。
まさに目と鼻の先を、青い物体が駆け抜けた。安定翼のはじっこが頬に浅い切り傷を残す。
「ブルーブレイカー!」
声を張る。
何故だかは明白だがまっ先に風見の脳裏によぎったのは、助かったでも安心でもなく、麻婆だった。トマトでもいい。
状況は推測できる。ヒトの頭骨を卵と化す万力のごときマニュピレータ、それが男を捕らえたのだ、その発想自体は至極自然だろう。
だが、ちょっと考えて欲しい。あれだけこっちの期待という期待を鮮やかに裏切っといてその結末はないんじゃないのか?
人間できないことができるから驚くのではない。予想を裏切れるから驚くのであって、
「いいからさがれ! 風見!」
叱責が飛ぶ。その向こうでぎりぎりとつばぜり合いのような音がしていて、
その親指と残り四本の指に、男があろうことかたった二振りのナイフで鍔迫り合ってもそれは当然というものだろう。
「いや驚こうぜ、そこは」
「エンターテイナーが観客に拍手強要してんじゃないわよ!」
風見は息を整えるのもそこそこに怒鳴り返した。ほほを流れる血を拭って息を吐く。やはり普段と同じことをした方が人間頭が働く、余裕もできる。
世の中どんなウルトラCを決めても報われない哀れな存在がいるわけで、人はそれを荒唐無稽というらしい。
「そりゃない、努力したんだぜ。だが、まぁこれは無理だ。さすがに単純馬力で機械には勝てないな」
額に冷汗が一筋流れた。
口調はどこまでも能天気なのに、殺気がびしびし風見に突き刺さる。
加えて、体術自体がどうこうよりも男の神経のほうがあり得ない。
言葉とともに、その隙間が狭まる。圧搾機が眼前に迫ったその状況でも、へらへらと笑みを崩さない精神は不審を通り越してぞっとする。
「詰みだ」
ブレーブレイカーの短い宣告。
「降伏しろ。命までは取らない」
命、という言葉に風見は思わずぎくりとした。
忘れていた、というよりは考えないようにしていたが、ブルーブレイカーは機動兵器。それもとびっきり攻性のだ。
「は」
しかし、男は冷笑で答えた。宣告の欺瞞を見下ろすように、そうでもしないと殺せない傲慢をあざ笑い、同時に腕がその体を引き上げる。
させじと握りしめるブルーブレイカーにコンマ数秒だけナイフが拮抗した。時間稼ぎはそれで充分だった。
上体を弓のようにしならせ、反動をつけて伸びあがる。
つま先がサイクロイドを描いた。
たとえて言うなら吊り輪のよう。マニュピレータとの接点を支えに、握りしめる力さえ利用して、身体がぐるりと宙を舞う。
遅れてブルーブレイカーの禍々しい手が虚空を握りつぶす。
ひとり分の体重を失い、さらに勢いに引きずられるように、その体勢が崩れる。遠く届かない手を伸ばしたように、隙だらけだった。
風見の全身が総毛立つ。
上から怪物がせせら笑う。
「OK、おーけー」
ナイフが、月明かりを受けて冷たい青に染まる。
「お前からだ」
彼の手を離れ、ゆるやかな弧を描き、コマ落としに落ちる。
がら空きのブルーブレイカー肩、伸びきった可動部の隙間にナイフがもぐりこみ、
強烈なかかと落としが、グリップに決まった。
再び音叉の合唱が響きわたる。
完璧な一撃だった、芯も軸ももずれてない、下手な力も入ってない、惚れ惚れするほど奇麗に入った。
そして金属のかけらがこぼれたのは、ナイフのほうだけ。
弾かれ空中でくるくると円を描き吸い込まれるように彼の手に収まる。
折れこそしなかったものの、肉厚な大型ナイフがわずかに歪み、そしてブルーブレイカーはたぶん傷一つ付いていない。
男が口笛一つ、今まで風見が聴いたどんな音色より鮮やかに響いた。
こめかみをはじめ、全身がズキリと痛む。
異常な血圧がホースを大きく脈動させる。
中枢から末梢へ。膨れて戻って熱を奪う。
全身の管という管が焼けるように痛んだ。圧で拳を握れないほどの血流が塊となって、回路を押し広げ、痛めつけながら走る。
体が、制御を超えて研ぎ澄まされた反動だ。
「硬いな」
そのまま数十合の打ち合い、ふと男がつぶやいた。
すべてが関節を狙い、装甲のスキマというスキマを切っ先が走り、弾痕をナイフが穿つ。
振われる腕を、蹴り穿つ足を足場に、縦横にBBの全身を隈なくナイフの洗礼が見舞われる。
けれど、その一閃たりともBBを貫くには至らない。
「硬い、か?」
BBの声には少しだけ呆れてるようにも聞こえる。
「出直してこい。硬度を問題にする時点で、単体で機動歩兵に立ち向かうには準備不足だ」
ガードも崩して、ひたすら進路を防ぐように立ち回る。
「なるほど、これがあんたの支給品ってわけか。下品というかセコイな。 ヒロイン
確かにあんたが使ったほうが生かせるんだろうが、だかこそここはか弱い女主人公に貸してやるのが筋だろう?」
片や、軽口に反してナイフの軌跡が加速する。
「しかし、確かにこれはどうあっても刃が立たない。いや、世界は深いね。今度ウェルズも見てみるか」
男がナイフの持つ向きを逆手に変える、グリップがブルーブレイカーの装甲を打ち、そのたびブルーブレイカーの軌道がわずかに逸れる。
フェイントを織り上げ、狂ったように打撃の嵐が吹き荒れる。
(何とか、なるかもね)
慄きの技も数を重ねれば見切れなくもない。そして、どこを狙ってくるかもわかってる。あと、ウェルズって誰?
確かに彼の技量や体術はそれこそ独逸製奥様は魔女に近いものが、というか概念加護抜きで考えるならそれ以上なのだが、どうにも武装が貧弱だった。
音叉の音にノイズが混じる。
すれ違いざま股関節に一閃、極厚なハンティングナイフの刃が、少しづつだが毀れ歪む。
いろんなGの喧嘩を買ってきた風見の目でさえ、ブルーブレイカーの躯体が持つ物理特性を正しく評価できない。 オモミ
突き崩すにナイフ二振りは、たとえそれが肉を切り裂き骨を断つものであっても、あまりに繊細過ぎる。まず決定的に質量が足りない。
男がグリップをハンマーのように、装甲に打ち据えた。それでも、ブルーブレイカーの装甲にはへこみ一つ疵一つ付かない。
それを突破するには硬度なんかの物理特性とは違うの性質、ブルーブレイカーの言う『気』や風見の知る‘概念’が必要になる。
それでも、そこまで判断できてもまだ風見の不安は晴れない。
証拠をいくら積み重ねても、安心にはならない。
(ブルーブレイカーが抑えて、私が仕留める)
だからこそわずかな勝機を見逃せなかった。
自分の精神状態が普通でないことぐらい風見はとっくに気付いている。
ここは一秒でも早く勝ちを決める。
男が一歩踏み込む。
勝てば、終わらせる。そんなことを願って――油断した。
たぶん男はそれを見逃してなかったんだろう。
同じように、ブルーブレイカーが進路を遮り、
「!」
彼の驚愕が木霊する。
蒼い機体が『自ら』横にスライドした。
風見への射線がわずかに開く。すぐさま姿勢を整えるが遅い。
慄く間もなく、男の手が風見に届く――
◆
「ん、浅いか?」
男のそんな言葉とは裏腹に、喉を守るようにクロスした腕の間から生温い液体が零れ落ちた。
「 」
何か言おうとして、言葉にならなかった。
腕の下の口元から、かはっ、とわずかに赤い飛沫が漏れる。
ねちゃりとした感触が、布越しの腕に染み渡る。油っぽい粘性を持って、風見の腕を滑り落ちる。
一見、明らかに死に至る生命の漏出だった。
セリフを忘れた役者のように硬直する。次にするべき動作が風見には思いつかない。
数秒を要した。それだけ経って風見はようやく全身を弛緩させる。重力に身を任せ、崩れ落ちる。土の反動は意外ときつくて息が詰まった。
吸い込んだ噎せるような緑色の空気に、風見は思わず咳込み、血がそのたびに隙間から溢れ出る。
まだまだ動けるには遠いだろうに、まったく、芸が細かい。
心落ちつけようと土肌に身を寄せると、草のやわらかい感触と消えずに残る草露が風見の体にじんわりと浸みた。
熱が奪われ心地よい。
穏やかにぶれる視界に、梳牙の唸りがぼんやりと映った。
「まぁ、まだだ。お楽しみはこれからだろ?」
金属音をまとって声が嗤う。
「まだあいこにもならないぜ。世界を壊したんだ、どれほどの代償も甘んじて受けるべきだ」
怪物は梳牙をその場を動くことなく避ける。ほとんど隙は見当たらない。
本当に、とんでもない体術だ。いつかみた某UCAT雑技団のレベル。四竜兄弟を思い出す。少なくともコレは不意打ちでもしない限り当たる気がしなかった。
巻き込むように怪物が、そのまま積層装甲を掴み、引く。足を刈り取り、捻る。淀みない即興連動。
ブルーブレイカーがバランスを崩した上で宙に投げ出され――
次の瞬間、その背中が大きく広がった。
飛行ユニットが、枝の間を縫うように展開。見た目、倍近くまで膨れ上がる。
「うお!?」
翼を広げるような威容に赤い男の動きが一瞬止まるのを見て、風見はその身を跳ね上げた。
手足を縮め、押し出す。
靴底に土を噛ませ、右足の切り傷が熱を帯びるのもかまわず、男の膝裏めがけ、そのまま、思いっきり、ワンストライドで加速をかけた。
筋繊維の一本一本に質量を感じる、重い荷物を手繰り寄せるように、体をぐんと、引き寄せる。
さらに一歩。 男の視界の外から、一気に接近する。
ブースターが一瞬だけ火を噴き、熱風が風見を焦がす。
あと一歩で、届く。
――獲った!
風見に猛禽の笑みが浮かんだ。
アフターバーナーが群青の装をが一瞬だけ照らし出す。梳牙が半月を描き、 ――赤く冷めた瞳がこちらを見ていた。
加速が、緩む。
「いや、騙されないし」
風見の眼前に、いつの間にか視界いっぱいの靴底が映っていた。
「っ!」
とっさに体を捩る。
ぎりぎり逃げ切れなかったこめかみが、ラバーにぞりっと抉られた。
痛みはない。そこまで処理がまわらない。ただ痺れるような信号があるだけだ。首が折れなかっただけ僥倖だろう。
足枷をかわした男がブルーブレイカーの飛行機能まで使った円月斬りも余裕をもって優雅に捌く。
バックを、取られた。
(まずっ、いやさっきからこればっかだけどさ、ほんとにまずいってコレ)
どこまでも意識はクリアなのに、思考がそれに追いつかない。
もう怖いもへったくれもない。
でたらめな文字、情報、記憶が風見の視界にぶちまけられる。
詰め込まれた情報で、脳が腫れ上がるような圧迫感に吐き気がする。
順に整理しろ、カラ回る歯車に風見は無理やり思考をかませ一気に巻き取る。
今、一番怖いのはパニックだ。
約束された未来が、前提条件、判断基準が消えてなくなる。
映像としては認識できても、それがどういう意味を持つか、理解が追いつかない。
銀色のナイフ、群青の上腕、子爵の赤、嗤う顔。定まらない視線が、断片映像を狂ったように紡ぎだす。
先が読めない。
何をすれば助かるのかが分からない。何をすれば死ぬのかが分からない。
本当にピンチのとき、時間は間伸びたりはしない。風見の体は刻一刻と、投げ出されるように倒れていく。
空中を知る体に弾幕戦がフラッシュバックする。
数百メートルの虚空を超えて突きつけられる主砲、あたりには覆い尽くす全方位弾。誘導弾が退路という退路を塞いでいる。
体が覚えてる死の恐怖だ。
本能が動くなと叫んでる。動いたら死んでしまうと叫んでる。
体が、硬直した。
ナイフが隙だらけの背中をポイントしたのがわかる。そうとしか思えない殺気の塊が突き刺さる。
瞬間、頭の中が沸騰した。
(わからない! でも、止まれば死ぬ!)
動くなという命令と動けという命令。脳の奥、脳回とか視床下部とかそういうところでがりがりがりがり悲鳴が上がる。
男はあえて、奇襲させたのだ。今の自分は格好のカモだ。だとしたら次に来るのは致命的な一撃。
死ぬのがいやなら動くしかない、確かめてる暇はない。‘理解できるものが何もない’恐怖を無理やり捻じ伏せるしかない。
喉の奥が詰まる。声帯が絞り込むように収縮する。
腹膜がぐっと縮む。声が、舌の付け根の辺りまでせりあがる。
締め付ける痛みがザクザク内臓に突き刺さる。
たった今だけの安全が風見をその場に縫いとめる、一歩でも動けば事故るという確信が、風見を雁字搦めに縛り付ける。
下手な機動は命を脅かし、そして動かなければ死ぬ。
凶刃は、たぶんもうすぐそこまで迫っているはずなのだ!
だから、泣いている暇はなんてない。
なぜこんなにも頑張ってるんだろう、とそう思う。
逃げていれば、よかったのかもしれない、少なくとも彼には子爵も、ブルーブレイカーも殺せない。
プライドにこだわったんだろうか、逃げたくないというのは単なるわがままにすぎなかったんではないか。
泣き喚きたい。地面にへたり込み、みっともなく手足を振り回したかった。
助からなくても、いい。
そう叫んで、ただ楽になりたかった。
プライドの奴隷になって、カッコ良くは死にたくはない。それでも醜態をさらすことは風見自身が許さない。
どの道死ぬのが決まってるなら、少しでいいから報われたかった。
何かが欲しい、空っぽのままじゃ耐えられない。道連れでも、慰めでも、誇りでもいい。
ただ、今このまま死んだら、あんまりにも救いがなさすぎる!
それでも風見は地面を掌で弾き、一挙動で跳ね上がり、
とたん腹の中がごろりと呻いた。
「! おァっ」
咄嗟に口を押さえた。
次いで喉を引き絞る。
息を飲んで、せりあがる胃液をシャットアウト。
それがよくなかった。
抑えつけれらた胃袋が、むずがるようにぐるりとのたうつ。直後猛烈な吐き気が風見の喉をこじ開けてせりあがった。
ナカミが膨れ上がったように一層の圧力をもって逆流する。
胃袋から腕が生えて、食道を、じゅるるるるるっ、と押し広げてくるような錯覚。
ぞわぞわぞわっと、ムカデの足が粘膜を押さえ引っ掻き駆け上がるような、おぞましくも耽美な信号が風見の背筋を駆け上がった。
脳が拒絶と恐怖で真っ白になる。
痺れるようなパルスに、肉が強制的に弛緩。
手で口元を押さえると同時に、あふれ出た液体が音速で口内を蹂躙した。
粘液が舌の裏側を舐めとり、歯茎をなぞって、しゃぶり尽す。
腰が砕けそうになる。
頬が膨らむ、鼻から飛沫が飛び、袖口に線を作った。
(吐いて、たまるか)
風見の中の女に火が入る。
酸が胸をやく、鼻が曲がるような臭気、それを、喉を絞り、目を押し込むような感覚とともに一息に飲みほす。
ぷはぁ、と胃酸臭い息を吐き、顔をあげ、
彼は触れ合うような距離に居た。
世界が凍る。
「ああ、大丈夫、聞きたいことがあるからな、腰のそれさえ抜かなきゃ殺しはしないさ」
まるで、旧知を歓迎するように両手を広げ、彼が穏やかに嗤う。
今度こそブルーブレイカーのフォローは、ない。
「今はまだ、な」
ナイフが向けられる。
今度こそ、死んだ、そう思った。
たしかに、なぜこんなにも頑張ってきたんだろう、と、そう思う。
ブルーブレイカーのことの後悔は強い。
今だって、自分の無力感に泣きたくなる。
世界はこっれっぽっちもうまくいかなくて、誰かをきっと傷つけてしまう。
そんな思いが重なって、風見は前に進むことを躊躇してしまう。
(まだ、殺さないと言っている)
敗北にゆだねてしまいたい。殺され可能性はあっても、今はそれで生き延びれるのだ。
『“鬼嫁”さんとそのつがいは、きっと共には死ねないよ』
それでも、脳裏に、魔女の言葉がリフレインする。
『その時“鬼嫁”さんとその夫は、何か変わってしまうかな?』
不吉な言葉だ。
新庄の、あの控え目ではにかむような笑顔を思い出す。ここにいることが少し申し訳なさそうで、けれどもここでしか生きていけないと信じている笑顔だ。
拍子抜けしてしまうほどあっさりと、人は変わる。
きっとそれはどうしようもないことだ。もうそれは認めるしかない。
出雲の存在はもう風見の組織に癒着した風見の一部で、亡くして壊れないほうがおかしいのだ。
『思いっきり悲しんで、その後は忘れるな』
だが、出雲は、変わらない。
受け流すことなく、代わりを求めるでもなく、悲しみも、その想いも、飲み込んで、この空に溶かしていく。
重い、潰れてしまいそうになる。無謀になれたらどんなにか楽だろう。
結局、風見は誰も傷つけたくないのだ、風見は出雲を傷つけるのは、いやだった。
鉛色が煌く。
風見は神様を恨む。だった矛盾してる。人はどこまでも独りなのに、こんなにも今までに出会ったすべての人たちをを背負って生きている。
苦しくても、悲しくても、風見は死ねない。死ぬわけにはいかない。
風見は強くかみしめた。
迷ってる暇は、なかった。
一か八かだ、幸いにも、スライドストップは外してある。
ブルーブレイカーとのことも、魔女の預言のことも、今の風見にはどうすればよかったのかはわからない。
風見は戦いたくはない、引いてしまえば、誰も傷つかずに済ますこともできる。自分のせいで誰かが傷つくのはいやだった。
命をチップにさしだすのは怖い、失敗したら、それこそ笑うしかない様な死に様になる。
(動け!)
祈り、風見はすべてを忘れて、反射に、今まで積み重ねてきたアルゴリズムに身を任せた。
左足を中心に、両腕を引き寄せ体を一本の軸とする。傾いた姿勢を使って、勢いを回転モーメントに変換し、ターン。
視界の端に銀色が、突きこまれるナイフが映る。
大事なことは動き続けること、思考も体も、絶対に留めてはならない。どんなダメージでも、どんな失敗をしても、動き続けなきゃ死ぬしかないのだ。
右腕と右足を後ろに伸ばし、モーメントを殺す。腰を落として、重心を軸から右足へ。
身体を引き寄せさらに半歩分の距離を稼ぐ。そして気付かれないぎりぎりの幅、直撃ぎりぎりのタイミングで射線軸から右へ寄せた。
半身になった風見の隣をナイフが抜ける。
そして、間髪を入れない引き戻しと、風見のバックステップが交差した。
前に出た左腕に、細い糸のような冷たい圧力が引っ掛かる。
寒気が、走る。
押された肉がつぶれて凹み、摩擦とともにぷっちと弾けた。
「痛ぅ!」
度重なる斬撃でつぶれた刃が、切り口を裂く。歯こぼれした所が引っ掛かり、鋸みたいに柔らかい繊維をぷちぷち毟る。
痛みが神経を駆け上がり、他の雑多な情報にまぎれて消えた。
拳を軽く握る。大丈夫だ、腱と信号は切れてない。
くいしばって、引き寄せた右足で今度は押し出す。体を攻撃領域から引き剥がすと同時にばねを矯め、直角に跳ぶ。
眼前に、ブルーブレイカーが着地した。
守られてることの安堵がかすめ、一瞬気が抜けた。苔むした根に、踵が地面を捉え損なう。
「うぐぅ!!」
制御を外れた体が土の上をワンバウンドして転がった。
衝撃に息がつまる。
みじめだ、宙に浮いたままそう思う。
なぜこんなにも頑張ってるんだろう、とそう思う。
逃げていれば、よかったのかもしれない、少なくとも彼には子爵も、ブルーブレイカーも殺せない。
プライドにこだわったんだろうか、逃げたくないというのは単なるわがままにすぎなかったんではないか。
泣き喚きたい。地面にへたり込み、みっともなく手足を振り回したかった。
助からなくても、いい。
そう叫んで、ただ楽になりたかった。
プライドの奴隷になって、カッコ良くは死にたくはない。それでも醜態をさらすことは風見自身が許さない。
どの道死ぬのが決まってるなら、少しでいいから報われたかった。
何かが欲しい、空っぽのままじゃ耐えられない。道連れでも、慰めでも、誇りでもいい。
ただ、今このまま死んだら、あんまりにも救いがなさすぎる!
それでも風見は地面を掌で弾き、一挙動で跳ね上がり、
とたん腹の中がごろりと呻いた。
「! おァっ」
咄嗟に口を押さえた。
次いで喉を引き絞る。
息を飲んで、せりあがる胃液をシャットアウト。
それがよくなかった。
抑えつけれらた胃袋が、むずがるようにぐるりとのたうつ。直後猛烈な吐き気が風見の喉をこじ開けてせりあがった。
ナカミが膨れ上がったように一層の圧力をもって逆流する。
胃袋から腕が生えて、食道を、じゅるるるるるっ、と押し広げてくるような錯覚。
ぞわぞわぞわっと、ムカデの足が粘膜を押さえ引っ掻き駆け上がるような、おぞましくも耽美な信号が風見の背筋を駆け上がった。
脳が拒絶と恐怖で真っ白になる。
痺れるようなパルスに、肉が強制的に弛緩。
手で口元を押さえると同時に、あふれ出た液体が音速で口内を蹂躙した。
粘液が舌の裏側を舐めとり、歯茎をなぞって、しゃぶり尽す。
腰が砕けそうになる。
頬が膨らむ、鼻から飛沫が飛び、袖口に線を作った。
(吐いて、たまるか)
風見の中の女に火が入る。
酸が胸をやく、鼻が曲がるような臭気、それを、喉を絞り、目を押し込むような感覚とともに一息に飲みほす。
ぷはぁ、と胃酸臭い息を吐き、顔をあげ、
彼は触れ合うような距離に居た。
世界が凍る。
「ああ、大丈夫、聞きたいことがあるからな、腰のそれさえ抜かなきゃ殺しはしないさ」
まるで、旧知を歓迎するように両手を広げ、彼が穏やかに嗤う。
今度こそブルーブレイカーのフォローは、ない。
「今はまだ、な」
ナイフが向けられる。
今度こそ、死んだ、そう思った。
たしかに、なぜこんなにも頑張ってきたんだろう、と、そう思う。
ブルーブレイカーのことの後悔は強い。
今だって、自分の無力感に泣きたくなる。
世界はこっれっぽっちもうまくいかなくて、誰かをきっと傷つけてしまう。
そんな思いが重なって、風見は前に進むことを躊躇してしまう。
(まだ、殺さないと言っている)
敗北にゆだねてしまいたい。殺され可能性はあっても、今はそれで生き延びれるのだ。
『“鬼嫁”さんとそのつがいは、きっと共には死ねないよ』
それでも、脳裏に、魔女の言葉がリフレインする。
『その時“鬼嫁”さんとその夫は、何か変わってしまうかな?』
不吉な言葉だ。
新庄の、あの控え目ではにかむような笑顔を思い出す。ここにいることが少し申し訳なさそうで、けれどもここでしか生きていけないと信じている笑顔だ。
拍子抜けしてしまうほどあっさりと、人は変わる。
きっとそれはどうしようもないことだ。もうそれは認めるしかない。
出雲の存在はもう風見の組織に癒着した風見の一部で、亡くして壊れないほうがおかしいのだ。
『思いっきり悲しんで、その後は忘れるな』
だが、出雲は、変わらない。
受け流すことなく、代わりを求めるでもなく、悲しみも、その想いも、飲み込んで、この空に溶かしていく。
重い、潰れてしまいそうになる。無謀になれたらどんなにか楽だろう。
結局、風見は誰も傷つけたくないのだ、風見は出雲を傷つけるのは、いやだった。
鉛色が煌く。
風見は神様を恨む。だった矛盾してる。人はどこまでも独りなのに、こんなにも今までに出会ったすべての人たちをを背負って生きている。
苦しくても、悲しくても、風見は死ねない。死ぬわけにはいかない。
風見は強くかみしめた。
迷ってる暇は、なかった。
一か八かだ、幸いにも、スライドストップは外してある。
ブルーブレイカーとのことも、魔女の預言のことも、今の風見にはどうすればよかったのかはわからない。
風見は戦いたくはない、引いてしまえば、誰も傷つかずに済ますこともできる。自分のせいで誰かが傷つくのはいやだった。
命をチップにさしだすのは怖い、失敗したら、それこそ笑うしかない様な死に様になる。
それでもたぶん、この死線の上で綱を渡り切るようにしか、人は生きていけないのだ。
失敗しても、傷つけても、それを理由に退いては、あきらめてはいけないのだ。
(死にたく、ない!)
私たちはつながってる人を大なり小なり背負って生きている、そのことを忘れたくはない。そうすれば、自分の感情に振り回されずにがんばることが出来るから。
思い出すのは冬の月、月の光りのさし込む病棟。
あの時風見は確かに約束した。
願ったといってもいい、誓ったといってもいい。
絶対に怯えることはしたくなかった。風見はもっと恐ろしいものを知っている。
どんなに恐ろしくても、怯えることだけはしたくない。
風見には仲間達と違って、UCAT自体には因縁などなかった
風見が戦う必要なんてなかった。誰かに任せても風見自体には何の不都合もなかった。
一年前、出雲と出逢い、引き離された。彼の残滓にすがって、追いかけて、巻き込まれた。
別に風見が戦う必要なんてなかったのだ。
それでも戦って、絶対に退くことはしなかった。
そして、次に彼と出合った時、風見は力の担い手となっていた。
以来、風見の人生はずっと出雲と一緒に回っていた。
(戦えないなら受け入れるしかない。どんなにつらくても、どんなに苦しくても、ね)
戦いから逃げていたら、置いていかれるのだ。置いていかれたら戦うことは出来ない。
守りたいものがあっても戦えない。
諦められない夢も、譲りたくない一線も、どんなに手を伸ばしても、届かない。
今逃げたら、死ぬ。死ねば、出雲が悲しむのを、遠くから見ていることしかできない。
希望を失いたくないなら、戦わなきゃいけない。
戦い続けていくために、戦い続けなきゃならない。
もし戦うことをやめていれば、一光と戦ったとき、出雲と、あの子をきっと守れなかったろう。
(力がなくてもズタぼろになっても、怯えたら、戦うことをやめたらそこで終わりなのよ)
自分が弱いことを知ってるから。
怯えて、萎縮して、逃げ出してしまうことが、何より怖い。
だから、戦うことはこれっぽっちも怖くない!
「子爵!」
突きこまれる右手の下に、風見は左手をねじ込んだ。同時に一息にグロックを引き抜く。
それを見逃す男ではない。子爵がのしかかるのに頓着せず、すぐさま左ナイフが抑えにかかる。
相手の右手を左手で転がしながら、風見は重心を落とし流れるように潜り込む。
中国拳法で言うところの閃通臂。ただし突き出すのは拳ではなく銃である。
あまりにも軽い、金属が樹脂を弾く音。
風見の手を離れる。
「!」
「動くな!」
喉元で、ナイフがぴたりと静止した。
ごくり、と風見は生唾を飲んだ。切っ先がチクリと触れる。
「なるほど」
そして、男が嘲う。
「確かに、これは一杯喰わされたな」
自らを嘲う声。
一見して玩具と取られかねない、重量にしてわずか600グラムに満たぬ、牙。
弾き飛ばされたそれを赤い液体に受け止めさせて、風見はすかさず男のどってっぱらに突き付けた。
耳が痛いほどの、静寂。
じり、と男が一歩左へ、すかさず同じように時計回りに回る。
一歩、回る。こちらも、一歩。
ひどく座った目で、風見は男を睨みつける。腱一筋の動きも見逃すまいと、ねめあげる。
一触即発。
口の中で転がしたその言葉はひどく乾いた味がした。
【B-6/森/1日目/23:50】
【灯台組(出張中)】
【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
[状態]:やや疲労/準グロッキー状態(支えがあれば起き上がれる、文字や一部を動かすぐらいならできる)
[装備]:なし
[道具]:なし(荷物はD-8の宿の隣の家に放置)
[思考]:誰も死なない形でこの諍いを治める
アメリアの仲間達に彼女の最期を伝え、形見の品を渡す/祐巳のことが気になる
/盟友を護衛する/同盟を結成してこの『ゲーム』を潰す
[備考]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
会ったことがない盟友候補者たちをあまり信じてはいません。
【風見・千里】
[状態]:風邪/右足に切り傷/あちこちに打撲/表面上は問題ないが精神的に傷がある恐れあり
[装備]:懐中電灯/グロック19(残弾0・予備マガジンなし)/カプセル(ポケットに四錠)
/頑丈な腕時計/クロスのペンダント
[道具]:懐中電灯以外の支給品一式/缶詰四個/ロープ/救急箱/空のタッパー/弾薬セット
[思考]:どうやってこの状況を打開する。
早く体調を回復させたい/BB・ED・子爵と協力/出雲・佐山・千絵の捜索
[備考]:濡れた服は、脱いでしぼってから再び着ています。
EDを敵だとは思っていませんが、仲間だとも思っていません。
【 蒼い殺戮者 (ブルー・ブレイカー)】
[状態]:精神的にやや不安定/少々の弾痕はあるが、今のところ身体機能に異常はない
[装備]: 梳牙 (くしけずるきば)、エンブリオ
[道具]:なし(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:不明。惰性として風見の味方をしている。
/風見・ED・子爵と協力?/火乃香・パイフウの捜索?
/脱出のために必要な行動は全て行う心積もり?
【クレア・スタンフィールド】
[状態]:健康。激しい怒り
[装備]:大型ハンティングナイフx2
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)、コミクロンが残したメモ
[思考]:この世界のすべてを破壊し尽くす/目の前の奴らをCDの仲間と誤認
“ホノカ”と“CD”に対する復讐(似た名称は誤認する可能性あり)
シャーネの遺体が朽ちる前に元の世界に帰る。
[備考]:コミクロンが残したメモを、シャーネが書いたものと考えています。
シャーネの遺体は木の下に安置してあります
人の身で可能なことは限られている。
風の騎士と謳われるヒースロゥ・クリストフだろうが、例外ではない。
人は何度でも決断を迫られる。後戻りできない岐路は幾度も現れ、人を惑わす。
島のどこかを見て回るなら、その間、そこ以外の地域は探せない。
どこかに行くということは、それ以外の場所に行かないということだ。
目の前ではないどこかで“罪なき者”が死ぬと判っていても、彼は遍在できない。
そして、同行していた仲間すらヒースロゥは守りきれずに見失った。
懐中電灯で足元を照らし、森の中を移動しながら、風の騎士は自問する。
(どうすればいい? どうすれば、この状況を打開できる?)
ヒースロゥ・クリストフは諦めが悪い。
きっと守りきれないと理屈では判っていても、すべての“罪なき者”たちの生命を
最後まで惜しむ。二人を生かすために一人を死なせる、そんな選択を躊躇う。
海洋遊園地で危険人物らしき参加者を放置したのは、これから襲われるかもしれない
誰かよりも朱巳の方が大切だったからではなく、両方とも守れるかもしれない可能性に
賭けたからだ。ヒースロゥ・クリストフは、そういう意味で欲が深い。
守りたいという意志はある。ある程度の力と技も持っている。けれど、足りない。
勝利を掴むための策が足りない。助言をくれる仲間が、今は隣にいない。
(……考えても答えが出ないなら、答えが見つかるまで全力で探し続けるだけだ)
ヒースロゥは前に進む。今の彼にできることは他にない。
朱巳は行方不明であり、どこへ行けば助けられるのかさえ判らなくなってしまった。
符術使いに対しても、このままでは打つ手がない。メモに符術使いの特徴を書いて
目立つ場所に残し、他の参加者に力を貸してもらう、という作戦は選べない。敵の敵が
味方だとは限らない。符術使いが朱巳を人質にしていようが気にすることなく攻撃し、
符術使いも朱巳も殺そうとするような連中にまで、情報を与えるわけにはいかない。
火乃香・ヘイズ・コミクロンの三人組が残していくと言っていたメモは結局一枚も
発見できず、故に様々な憶測が脳裏をよぎるが、確かめる術は彼にない。
(三人組は移動中に襲撃され、行動不能になっているのか?)
相当の実力者たちが揃っており、それぞれの相性も良さそうに思えたので考えにくい
事態ではあるが、だからといって絶対にありえないとは言い切れない。
(あるいは……最初から、こちらを利用するための虚言だったのか?)
刻印を解除しようとする者を管理者が殺さないかどうか確かめるため、ヒースロゥや
朱巳を騙して危ない橋を渡らせ、安全だと判るまでは傍観しているつもりだった――
そんな解釈もできる。三人組には結束力があった。仲間を守るためになら仲間以外を
切り捨てる選択ができそうだ、という見方が可能なくらいには団結していた。
三人組の中では、どうやら火乃香が男二人よりもやや上位の立場らしかった。仮に、
三人組の最優先する行動方針が『火乃香を生き残らせること』だとするなら、今後も
利害が一致したままだとは限らない。敵対勢力として見るなら、あの三人組は厄介だ。
わざわざ言うまでもないことなので朱巳に伝えてはいないが、ヒースロゥが三人組を
警戒している最大の理由は『刻印を解析できると自称しているから』に他ならない。
刻印に干渉できるということは、刻印を発動させられるかもしれないということだ。
敵に回したとき、これ以上に嫌な能力の持ち主など、そうそう存在するまい。
(!)
堂々巡りする思考を打ち切り、ヒースロゥは周囲を確認する。
大きな木々が陽光を遮るため若木や草が育ちにくいのか、森の中でありながら武器を
振るいつつ動き回れそうだった。大昔からある古木の森、といった風情の場所だ。
少し離れた大木の陰に何者かがいる、とヒースロゥの感覚が告げている。
相手はヒースロゥに気づいておらず、単独行動中で、殺意も戦意もないようだ。
(何だ? この違和感は……?)
存在感が独特で微妙に薄い、不可解な参加者が姿を現す。
凶悪な形状の鈍器を手に、虚ろな視線を巡らせながら、その参加者は歩いていた。
小柄な少女だ。年齢は十代前半くらいに見え、頭上には金色の輪が浮いている。
どういう仕組みなのかは謎だが、金色の輪は、何故か彼女の頭上から離れない。
(あの輪は鋭利な刃物だな。支給品か? それとも魔法のようなものか?)
少女が醸し出す雰囲気は、どことなく迷子の幼児を思わせる。
(……少なくとも、殺すことを楽しんでいる手合いではなさそうだ)
表情や歩き方から、彼女が熱病を患っていると見抜き、ヒースロゥは声をかけようと
決めた。風の騎士は、病気で孤独な少女を放っておけるような性格をしていない。
もしも熱病が伝染すれば困ったことになる、と理解していながら、彼女をどこかに
隔離して誰とも会わせないようにすることなど、ヒースロゥにはできそうにない。
「あ」
木の根に足を取られ、少女が派手に転んだ。
「だ、大丈夫か?」
「うん、平気! だけど、涙が出ちゃう……女の子だもん……」
思わず駆け寄ったヒースロゥに返事をして、少女は立つ。自己申告の通りに涙目で。
彼女の膝には、擦り傷ができていた。
怪我をすれば血が滲むし痛ければ涙が出る。血も涙もある存在なら、それは道理だ。
「ひとまず傷口を洗おう。今、水を――」
ヒースロゥが自分の荷物を地面に置くが、少女は彼の話をまったく聞いていない。
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪」
金属製の凶器を片手で高速旋回させつつ、彼女は擬音を発する。
光の粒子が七色に輝きながら舞い踊り、少女の怪我が一瞬で治った。
「おぉ……お? おい!?」
愕然としていたヒースロゥだったが、少女が急によろめいたので慌てて支える。
(怪我は治せるが病気は治せないのか)
ヒースロゥの腕の中で、ようやく少女は彼のことをまともに認識したようだ。
「お兄さん、誰?」
手近な木にもたれかからせるようにして少女を座らせ、風の騎士は名乗る。
「俺は、ヒースロゥ・クリストフだ」
「ビースト……? 男の人って、みんなウルフガイなの……?」
どういうわけか少女が震え始め、木の幹に背を預けて立ち上がり、武器を構える。
奇矯な言動は熱病の影響なのだろうと推測し、ヒースロゥは少女に同情した。
(どうやら怯えさせてしまったらしいな)
相手を安心させるため、とりあえずヒースロゥはゆっくりと後退しながら言う。
「よく判らないが、違う。言いにくければヒースと呼んでくれ」
しかし、混乱した少女は、彼の言葉を右耳から左耳に素通りさせた。
「お兄さんも僕に、いたいことするの……!?」
彼女の悲痛な問いかけに、風の騎士は胸を痛める。
(そうだ、優れた回復力で体の傷は消えても、傷つけられたという過去は消せない)
無邪気な少女を襲った者への苛立ちが、ヒースロゥを熱く昂らせる。
「落ち着いてくれ、俺は君の味方だ」
彼は、自分の荷物を置いてある辺りまで既に戻っている。
「いやぁっ、いやだよ、僕に何するの!? その鉄パイプをどこに挿す気なの!?」
少女の言葉が、ますます支離滅裂になっていく。本来の人格が別の人格に上書きされ
消えかけているとでもいうような、尋常ではない気配が濃度を増す。
「え? あれ? ボクは“ボク”だから“僕”じゃなくて、じゃあ、僕は?」
あまりにも異様な錯乱に、ヒースロゥはふと疑念を感じた。
(本当に熱病のせいなのか? 仮にそうだったとしても、病気の原因は……)
少女の頭上で、金色の輪が懐中電灯の光を反射する。
(この子を苛む異常の元凶は、あの輪なんじゃないのか?)
怪しげな輪の材質は、風の騎士の知識をもってしても見当がつかない。
真実を確かめるため、ヒースロゥは質問を投げかける。
「頭の上の、その輪は何だ?」
「な、何? どうしてそんなこと言うの? それ、どういう意味!?」
少女の顔色が、真っ青を通り越して真っ白になった。
鉄パイプを拾い上げながら、彼はつぶやく。
「やはり、そういうことか」
ヒースロゥは確信した。少女から感じる違和感は金色の円環に由来するものだ、と。
(あの輪が、彼女を狂わせている。外されては都合が悪いからこそ刃を備えていて、
印象迷彩のような仕組みで彼女に違和感を与えないようになっているというわけだ。
おそらくは、他の参加者がこの子を利用しようとして、あんなものを……!)
理不尽な悲劇への憤りを込めて、ヒースロゥは宣言する。
「事情は判った。……俺が、君をその輪から解き放つ!」
力強く告げる声は、聞く者すべてに王者の威風を感じさせた。
○
とある世界の天使は皆、頭上の輪がないと下痢になる。
徐々に三塚井ドクロではなくなりつつある彼女だろうが、例外ではない。
「事情は判った。……俺が、君をその輪から解き放つ!」
などと宣告され、天使の少女は全身に鳥肌を立てて頬を引きつらせた。
当然だ。
輪がないと便意を我慢しきれないと承知した上で輪を奪う、と言われたのだから。
初対面の女の子に排便を強制したがっている超弩級変態が、眼前にいるのだから。
女の子の裸を見たいだとか、女の子に触れたいだとか、その程度の欲望なら彼女にも
把握はできる。恥ずかしくても、照れくさくても、不自然だとは思わない。
けれど、幸か不幸か、彼女にとって排泄行為の強要は想定外だった。
どうしてそんなとんでもないことを望むのか、まるで共感できない。
どこがどう面白くて気持ちいいのか、推測はできても納得できない。
鉄パイプを構えて輪を睨む男が、未知の領域に住まう怪物に見える。
敵の思考回路は異質にして奇怪だ。もはや助平なのかどうかさえよく判らない。
何よりも「俺には恥ずべき部分など一つもない」と言わんばかりに堂々としている
勇姿がおぞましい。凛々しい外見と悪逆非道な主張の落差が不気味すぎる。
気迫を漲らせたその威容は、まさしく王者――変態王と呼ぶに相応しい。
死の不可逆性を理解していない彼女にとって、変態王の野望は死よりも恐ろしい。
敵は、「人前で糞便を漏らさない」という彼女の個性を全否定しようとしている。
とある世界の天使にとって、個性の喪失は存在の消滅と同義だ。
三塚井ドクロである部分と、三塚井ドクロではない部分が、悪寒を等しく共有する。
歪んで不安定になっていた彼女の精神が、最低の脅威を前にして一時的に安定した。
「! ? !? !! ゃ、ぁ……っ!?」
悲鳴をあげるという行為は、意外に大変な重労働だ。
彼女には、もう悲鳴をあげる余裕すらない。
狂乱しつつ愚神礼賛を手に襲いかかる彼女は、変態王を倒すことしか考えていない。
だから――どこからか聞こえ始めた演説を、彼女は少しも気にしない。
○
力任せの重い一撃が、ヒースロゥの頭に振り下ろされる。
『聞きなさい。あたくしの名はダナティア・アリール・アンクルージュ』
聞いている場合ではなかった。
少女の凶器に鉄パイプを叩きつけて軌道をずらしつつ、風の騎士は回避に徹する。
『今よりあなた達に告げる者の名です』
体調が悪いせいなのか、少女の挙動からは、実力の大部分を発揮できていないような
印象が感じ取れた。それでいて雑兵なら一瞬で屠れそうな力量は凄絶の一語に尽きる。
ヒースロゥは、演説を意識の外に追いやり、戦闘のみに集中しようとした。
『あたくしはこのゲームに宣戦を布告します』
だが、できない。力ある言葉が、聞き流すという選択肢を彼から奪う。
ヒースロゥは、ダナティアの声を聞かなかったことにできないまま、得物を振るう。
武器がぶつかり合い、金属音が連なり、止まらない。
懐中電灯の光に切り取られた森の闇に、火花が幾度も散り落ちる。
膂力と得物の破壊力では少女が勝り、技量と実戦経験ではヒースロゥが勝っている。
しかし、少女には敵意がある。生存本能に直結した怯えと恐れが攻撃を苛烈にする。
そして、ヒースロゥには殺意がない。哀れな女の子を殺せぬほどに風の騎士は甘い。
『手伝えとは言いません。逆らうなとは言いません。
それはあなた達が決める事でしょう』
ヒースロゥが自ら決めた勝利条件は、少女の無力化であって殺害ではなかった。
劣勢なのは、ヒースロゥ・クリストフの方だ。
『あたくしはただ、二つのルールを定めるだけ。一つの事実を告げるだけ』
眼前の少女を殺さない。眼前の少女から逃げない。だから、勝てなかったときには
眼前の少女の手が血で汚れる。彼自身が定めた二つの禁則が、一つの事実に帰結する。
『喪った者として告げましょう。奪うな、喪うな、そして過つなと』
奪わせたくないなら、喪わせたくないなら、過たせたくないなら――それなら思考を
止めてはならない。
防戦一方の状況下で、最適な戦法をヒースロゥは模索する。
『奪う事は憎しみを繋ぎ、喪う事は悲しみを繋ぎ、そして過ちは過ちを繋ぎます。
あたくしはそれを許さない』
無垢な少女を殺人鬼に仕立てあげるような悪意を、風の騎士は絶対に許さない。
怒りが力に変換される。
ヒースロゥの構えが流動的に変化し始め、多彩な動作が組み合わされつつあった。
『過ちを犯した者として告げましょう。悔い改めて進みなさい』
剣を模してすらいない鉄パイプを、剣のように扱うのは間違っている。
どの部分でも握れてどの部分でも殴れる――それが剣になく鉄パイプにある特性だ。
鉄パイプを変幻自在に持ち替え、掌握し、風の騎士はより素早く加速していく。
槍のように突き、薙刀のように払い、太刀のように打ち、彼は得物を使いこなす。
千変万化する鉄パイプの連続攻撃は、剣術より杖術に近いものと化している。
少女の乱打とヒースロゥの連打が拮抗し、膠着状態となった。
『喪われた者達の想いから目を逸らしてはいけません』
両者は互角の戦いを繰り広げている。どちらが勝ってもおかしくはない。
『彼らはあなたや誰かを赦さないかもしれません』
少女が体勢を崩され、打ち合いが一瞬だけ止まった。
『最早、何も考え想う事は無いかもしれません』
鉄パイプを右肩に担ぐようにして、風の騎士が構える。
『それでも尚、道を見失う事は愚かです』
ダナティアの言葉に応じるように、ヒースロゥの顔には笑みが浮かぶ。
王者たりえる器の持ち主は、女帝たりえる者の格を認め、その意志を信じた。
『そして――』
だからこそ、銃声が演説を遮った瞬間、風の騎士は激しく動揺する。
隙が、生じた。
『ダナティア!!』
ヒースロゥの気持ちを代弁するかのように、少年の焦りを含んだ叫びが響き渡る。
逆転の機会を逃すことなく、少女の刺突がヒースロゥの腹部へ襲いかかる。
とっさに彼は後方へ跳ぶ。
彼女が一歩、さらに踏み込む。
彼の回避は間に合わず、彼女の猛打が致命傷を与えた。
『そして、進む者として告げましょう』
――強い言葉が、ダナティアの存命を伝え、不屈の意志を告げ、絶望を打ち砕く。
「うおぉおおおおぉおおぉぉおおぉおぉおおおおおぉぉぉっ!!」
致死の衝撃に臓腑を破壊されながら、風の騎士は鉄パイプを右から左へ薙ぎ払う。
彼が放った一閃は、少女の頭上で無防備に浮いていた円環に命中し、弾き飛ばした。
ヒースロゥの背が木に激突したのと少女が頭上の異変に気づいたのは、同時だった。
「う、ぁ……あぁっ……!?」
目を丸くした少女の手から握力がなくなり、鈍器が地面に滑り落ちる。
少女は戦意を失った。恐怖に歪んだ彼女の頬を、大粒の涙が濡らしていく。
どうにか木の根元に背を預け、ヒースロゥは、霞み始めた視界にその様子を捉えた。
(俺は、もうすぐ、ここで、死ぬ……だが――)
彼は少女に向かって微笑む。思いを伝えておくために。
「君のせい、じゃ、ない……君は、悪く、ない……」
重傷を負ったヒースロゥの声は、今にも消えてしまいそうなほど小さい。
未練は山のようにある。守りたい者たちを守りきれない無念は筆舌に尽くし難い。
肉体的な苦痛は無視できるようなものではない。だがしかし、それでもヒースロゥは
笑ってみせねばならない。少女の胸に罪悪感を植えつけて逝くことを、他の誰よりも
ヒースロゥ・クリストフ自身が許しはしない。
しかし、その笑顔は完全に偽物だったのかといえば、そんなことは断じてない。
(これ、で、あの子は、輪の呪縛、から、解放、され、る)
無辜の民の苦しみをほんの少しでも消し去れたなら、ただそれだけで彼は喜べる。
『あたくしを動かすのは……』
途切れることなく続くダナティアの演説を聞きながら、風の騎士は血反吐を吐いた。
(抗って、いる、のは、俺だけじゃ、ない)
耳朶を打つ声に励まされ、ヒースロゥは笑みを深くする。
『……決意だけよ!!』
それは森の中からでも見えた。
北の彼方から曇天の夜空へと赤い柱がそそり立っていた。
煌々、轟々と迸る閃光は上空の雲を貫いていた。
赤い光に照らされながら、ヒースロゥは目を伏せる。
風の騎士は、大切な、たくさんの人々を想う。
「――――」
彼が最期に発した声は、かすかで短いものだった。
『刻みなさい。あたくしの名はダナティア・アリール・アンクルージュ』
故に、朗々たる言葉にかき消されたその一言は、誰の耳にも届かなかった。
こうして、ヒースロゥ・クリストフは、微笑みを浮かべたまま力尽きた。
○
まるで小動物のように恐れ慄きながら、天使の少女はつぶやく。
「ボクは、とんでもない勘違いをしていたんだよ……!!」
即座に「な、なんだってー!?」と反応してくれる者は、ここにいない。
彼女は、涙を拭いもせず、彼の死に顔を凝視していた。
あのように笑える男が、変態王などであるはずはない。
死してなお爽やかに笑っている男が、そんなものであるわけがない。
戦わずに逃げておくべき相手だった。倒そうなどと思ってはいけない相手だった。
「は、早く逃げないと、『俺の煩悩は百八つまであるぞ』とか言いながら第二形態に
なって復活してきちゃう……!!」
変態王などという生易しい称号では、彼の比類なき妄執をろくに表現しきれまい。
彼は、死にかけているというのに喜んでいた。肉体的にも精神的にも限界近くまで
追い詰められて泣いている彼女の姿を、本当に嬉しそうに眺めていた。もしかすると、
致命傷の激痛ですら彼にとっては快感だったのかもしれない。
その生き様と死に様は、まさに王者の中の王者――変態大王と呼ぶに相応しい。
死の不可逆性を理解していない彼女にとって、地獄の底から蘇ってくる変態大王の
想像図は、吐き気がするほどの現実感に満ち溢れている。
片手を腹に添え、下半身を痙攣させつつ内股気味に、彼女は懐中電灯を拾う。
あちこちの地面を照らし、彼女は天使の輪を懸命に探し始めた。
ちなみに、天使の輪は木の幹に突き刺さっており、上を見ない限りは発見できない。
【093 ヒースロゥ・クリストフ 死亡】
【残り 37名】
【G-6/森の中/1日目・21:35頃】
【ドクロちゃん】
[状態]:『天使の憂鬱』発症/天使の輪がないせいで下痢になっている
[装備]:懐中電灯
[道具]:なし
[思考]:ボクのわっか、どこー?/早く逃げなきゃ……!
/桜くんを捜す/攻撃衝動が増加
[備考]:刻印が解除されています。最長で二十時間後、彼女は消滅します。
力を行使すればするほど、消滅までの時間は縮まります。
※懐中電灯以外の支給品一式(パン5食分・水1500ml)が放置されています。
※愚神礼賛(シームレスバイアス)が転がっています。
※鉄パイプ(鉄屑になる寸前)をヒースロゥの死体が握っています。
※天使の輪は木の幹に突き刺さっています。
保守
60 :
イラストに騙された名無しさん:2008/01/11(金) 11:16:21 ID:0uInogI4
age
保守
保守
保守
保守
65 :
イラストに騙された名無しさん:2008/02/09(土) 20:14:17 ID:Dyfu5+AG
AGEあげ
ほ
捕手
ほ
し
まだ頑張れると信じて保守。
待っていても良いんですよねと、保守。
諦められない保守要員。
保守
75 :
イラストに騙された名無しさん:2008/03/15(土) 16:19:34 ID:p7xDq0EV
ho
保守
ほ
っ
未完の美は、美ではない。
by坂口安吾
足曳きの山鳥の尾の。。。
長々し夜を一人かも寝ん
舌打ちしつつ、甲斐氷太は市街地を歩いている。
魔界刑事を殺し上機嫌で大の字に寝転んだ数十分後には、もう仏頂面で起きていた。
それまで意識していなかったものに気がついた結果だ。それ以来ずっと、鬱陶しげに
甲斐は周囲を探り続けている。
妙な気配が甲斐の近くに漂っていた。気配は薄く淡く曖昧であり、だが消える様子が
一向にない。むしろ、徐々に存在感を増しているようですらある。
南の市街地で暴れ始めた悪魔らしき何かに惹かれ、そちらに行こうかどうか悩んだ
こともあったが、それでも優先したのはこちらの気配を調べる作業だった。
他の参加者たちに倒される心配がなさそうな標的よりも、後から出てきて漁夫の利を
得ようと企んでいるかもしれない不確定要素を先にどうにかしておいた方がいい、と
甲斐は判断していた。無粋な横槍を入れられては、戦いがつまらなくなってしまう。
茫漠とした気配は、甲斐の精神をずっと逆撫でし続けている。
気配の正体は判らない。よく知っている何かのようでありながら、そうではなくて
似ているだけの別物であるような気も同時にする。
甲斐氷太が“欠けた牙”だとするならば、その感覚は、欠落した部位を苛む幻痛だ。
呪いの刻印さえなければ、甲斐は事態の本質を把握できたかもしれない。
刻印の気配と、甲斐に付き纏う気配とは、どういうわけか微妙に似ている。
例えるなら、猟犬と野獣がそれぞれ同じ香水を全身に浴びているようなものだ。
周囲に潜む気配には、暗く不吉で禍々しい印象がある。
夜と闇の領域に属する密やかな何かが、すぐ近くにある。
暖かな陽光の下では生まれない、鋭く澄んだ空気がある。
それは、甲斐自身にも共通する要素だ。
動くものを探しながら、住人のいない街角を甲斐は進む。
煙草を取り出し、火種が手元にないことを思い出してポケットに戻す。
ライターは発見できておらず、喫茶店にあったマッチは湿っていた。
ショーウィンドウに映る己の影を一瞥し、甲斐は吐き捨てるように悪態をつく。
ガラスの表面に見えるものは、ただの意思なき自然現象でしかない。
とてつもない強さを誇った“影”は、もはや追憶の中にしか存在しない。
物部景は死んだ。
悪魔狩りのウィザードが甲斐氷太と戦う機会は、もう二度と訪れない。
魔界刑事との死闘によって一度は漂白された頭の中が、急速に赤黒く濁っていく。
忘れえぬ情念が爆発的に荒れ狂う。思考が疾走を始める。
――鮮烈なブルー――鉤爪のような指先が――カプセルを――鏡――ただ心の命じる
ままに――きっと厭なものが――最高に痛快な破壊音を――大気を裂いて泳ぐ――水の
中につながっていて、そこには――闘争の狂喜――“影”は一瞬にして――中と外が
入れ替わる――黒鮫が咆哮を――テメエがどういう野郎かは、この俺が誰より――もう
二度とは元の形に戻らない――消えることのない「笑み」――違う世界が広がって――
赤い瞳は笑っていた――会心の攻撃――見事な回避――この真剣勝負こそが真実だ――
爽快感は、とうの昔に消え失せていた。
カプセルの効果で鋭敏になった神経が、虚無感を強調する。
悪魔を使って超人を噛み殺しても、飢えと渇きは癒えなかった。
ただ、わずかな間だけ誤魔化すことができていただけだった。
魔界刑事は、ウィザードと同じ高みには立っていなかった。
剣道の達人が空手の達人と勝負して勝ったようなものだ。
確かに本気だった。勝ち取ったものは無意味ではない。
しかし、それは最初の目的とは違う別のものだった。
握りしめられた拳の中で、カプセルが潰れ、粘液を漏らす。
苛立ちを声に乗せて甲斐が叫ぼうとした瞬間、どこからか女の声が聞こえてきた。
『聞きなさい。あたくしの名はダナティア・アリール・アンクルージュ』
ダナティアの演説は、堂々と、朗々と、高らかに続く。
その言葉のすべてに対して、甲斐はただひたすらに腹を立てた。
何様のつもりだ、と。何も知らない奴が偉そうに御託を並べるな、と。
『あたくしを動かすのは……』
目を血走らせ、悪口雑言を撒き散らしながら、甲斐は天を仰いだ。
『……決意だけよ!』
それは市街地の片隅からでも見えた。
南東の方角から曇天の夜空へと赤い柱がそそり立っていた。
煌々、轟々と迸る閃光は上空の雲を貫いていた。
『刻みなさい。あたくしの名はダナティア・アリール・アンクルージュ』
赤い閃光が消えた夜空には一筋の光が射し込んでいた。
上空の曇天を貫いた閃光は強い風を生んでいた。
『あなたたちに告げた者の名です』
風が雲に生んだ小さな空の切れ目。
そこから射し込む月光の中、甲斐の視界の端で、何かが動いた。
甲斐が注視した先にあったのは、ショーウィンドウに映った影だ。
ガラスの表面に見えるものは、ただの意思なき自然現象ではなかった。
甲斐は思わず絶句する。
鮮烈なブルーのゴーストが、背後に“影”を従えて立っていた。
ダナティアの演説は響き続けていたが、もはや甲斐は気に留めなかった。
奇麗事で飾られた理想郷などより、ずっと魅力的な戦場がそこにあった。
瞬時に振り返る。
だが、ガラスに映っていた姿は、街角のどこにも存在していない。
慌てて視線を巡らせる。
甲斐の瞳が再びショーウィンドウを視界に捉え、先ほどとは異なる色彩を発見した。
ワインレッドのスーツを着た男が、鬼火を掲げ、長い銀髪を風になびかせていた。
もう一度、甲斐は後方を確認する。やはり誰もいない。
鏡と化したガラスへと、甲斐は向き直った。
ずっと甲斐の周囲に漂っていた気配は、今や鏡面の向こう側から溢れ出している。
漆黒の鉤爪が鱗をめがけて振り下ろされ、細長い尻尾が甲冑を下から打ち据える。
物部景が、死線を楽しむ狂人の笑みを唇に浮かべている。
宙に舞い上がった大蛇が黒い炎を吐き、“影”が瞬時に厚みを消して地面を滑る。
緋崎正介が、冷厳でありながら歓喜に満ちた目を細める。
二匹の悪魔が睨み合う。
二人は同時にカプセルを掴み、口に含んで咀嚼した。
悪魔を使役し戦う者たちの楽園が、そこにあった。
「そういうことか。テメエら、そんなところに隠れてやがったんだな」
甲斐は思う。あいつらはあの『王国』へ行き、だから管理者は生死を見誤った、と。
トリップの影響で鈍磨した思考は、数々の違和感や疑問点を些事として切り捨てた。
涙が滲みそうになるのを堪えながら、甲斐は笑う。
万感の思いを込めて、呼びかける。
「ぃようっ、ウィザード。捜したぜ」
景の視線と甲斐の視線が、一瞬だけ重なり合った。
景が甲斐の存在に気づけなかった、という風には見えなかった。
そして、甲斐に対して一切の興味を示さず、無造作に景は目を逸らした。
塵芥にすら劣る“どうでもいいもの”をすぐに忘れただけ、とでもいうように。
少なくとも、甲斐はそう感じ、その印象を確信した。
甲斐を全否定する情景は、猛毒のごとく精神を熱して蝕んでいく。
「……上等じゃねえか。俺がそっちに行くまで、そこの三枚目で肩慣らしでもしてろ。
どんな手を使ってでも殴り込みに出向いてやるから、覚悟しとけ」
狂犬じみた表情筋の歪みで口の端を吊り上げ、甲斐はカプセルを噛み砕いた。
今の甲斐に迷いはない。他に手がないなら、弱者を捕らえて悪魔を召喚させ、それを
自分の鮫たちに喰わせることでさえ躊躇しない。そうしない理由など一つもない。
――すべては、ウィザードと戦うために。
【A-4/市街地/1日目・21:40頃】
【甲斐氷太】
[状態]:あちこちに打撲、頭痛
[装備]:カプセル(ポケットに十数錠)
[道具]:支給品一式(パン5食分、水1500ml)
/煙草(残り十一本)/カプセル(大量)
[思考]:手段を選ばず、鏡の向こうに見える『王国』へ行く
[備考]:『物語』を聞いています。悪魔の制限に気づいています。
『物語』を発症し、それを既知の超常現象だと誤認しています。
現在の判断はトリップにより思考力が鈍磨した状態でのものです。
肉ダルマ(小早川奈津子)は死んだと思っています。
保守
なお去りがたく。。。
89 :
イラストに騙された名無しさん:2008/05/01(木) 19:09:31 ID:uYhe36DF
あげ
90 :
イラストに騙された名無しさん:2008/05/05(月) 04:58:14 ID:g+Cs++oA
保守
91 :
イラストに騙された名無しさん:2008/05/15(木) 01:55:19 ID:WXR9OLMt
保守
細々とでも続いて欲しいスレです。保守。
保守。
定期
○<インターセプタ>・6
ありとあらゆる存在は、幾重にも重なり合っている可能性の塊だ。
箱の中の確率的な猫は“生きている猫”であると同時に“死んでいる猫”でもある。
箱を開けて中身を確かめるわたしもまた“生きている猫を見るわたし”であると同時に
“死んでいる猫を見るわたし”でもある。
無論、ありとあらゆる可能性を前に、わたしはたった一つの現実しか見出せない。
猫の死亡が観測された時点で観測者の前から“猫が生きている可能性”は消失する。
猫の生存が観測された時点で観測者の前から“猫が死んでいる可能性”は消失する。
二つの可能性は同時に在るが、一つの世界に二つの現実は共存できない。
現実が一つに収斂された時点で、それ以外の可能性は幻想と化す。
故に、“今ここにいるわたし”も“わたしが見る現実”も“この世界”に一つだけ。
どのような可能性がわたしの眼前に残ったとしても、おかしなことなど何もない。
猫が死なねばならない必然性も、猫が生きねばならない必然性も、そこにはない。
わけが判らない何かのせいで猫の生死は決まる。
そして、猫を見るわたしは、不明瞭で曖昧な何かに左右され続けている。
わたしはそれが悔しくて、だから時間を遡り、世界に再び目を向ける。
猫の死を覆したいなら、生きている猫のいる現実を観測せねばならない。
是が非でも、世界の上に新たな現実を上書きせねばならない。
上書きされる以前の現実が、虚ろな幻想に成り果てて断ち切られても。
自分勝手な介入者として、何の罪もない人々に迷惑をかけてでも。
文字通りの意味で、蝶の羽ばたきが嵐を起こす可能性すら、この島にはある。
どれほど些細で微小な相違点だろうが“無視しても構わないもの”ではない。
ほんのわずかにでも差異があるのなら、それは再現ではなく改変だ。
世界の上に現実が上書きされれば、かつて在ったすべては色あせ、台無しになる。
連続性の途絶を滅びだと定義するなら、それは確かにある種の終焉だ。
その気になれば“かつての現実”をどれでも復元することはできる。だが、実行する
場合には“そのときそこにある現実”を犠牲にする必要がある。後退は不可能であり、
ただ逆方向へも前進できるというだけのことだ。贄となる現実の数は減らない。
可能性は多重に在るが、“この世界の現実”は一つしかありえない。
当然、“別の世界”には“この世界”とは違う現実がある。しかし、そこでも幾多の
可能性が現実になれず幻想と化している。可能性の数は、世界の数を遥かに上回る。
この前提が当てはまらない場所を、わたしは見たことも聞いたこともない。
所詮、“今ここにいるわたし”も、星の数より多くある可能性の一つでしかないが。
虹色の淡い光に照らされながら、わたしは静かに目を伏せる。
唯一無二――そんな言葉が脳裏をよぎった。
わたしと出会った彼が何人目の坂井悠二だったのか、わたしは知らない。
今ここにいる自分が本当に自分であるか否かについて、少しだけ彼は語ってくれた。
ただの人間であった坂井悠二は既に亡く、ここいるのはその模造品だ、と。
自分もまた坂井悠二ではあるが、故人・坂井悠二とは明確に異なる、と。
今の自分には、本来の坂井悠二が知りえなかった記憶や感情がある、と。
もしも仮に、この肉体が故人・坂井悠二と同じ物だったとしても、心は異なる、と。
同種であり同属であり同類ではあっても同一ではない、と。
価値観や常識が激変するほどの経験をした彼には、そう言えるだけの資格があった。
坂井悠二は、わたしが何者であるかについても大雑把には知っていた。
魔界医師メフィストの手術を受けた際、わたしが何をしているのか垣間見たらしい。
困ったような顔をしながら、君を許すことはできない、と彼は言った。
現実が上書きされるたび、同じ数だけの現実がそこに生きた皆と共に失われた、と。
認めよう。彼には、わたしを糾弾する権利がある。
もはや“最初の現実”と“当時の現実”は別物だと表現しても過言ではなかった。
わたしは彼らに酷いことをしてきたし、これから先も酷いことをするつもりだ。
蝶と戯れ、しかし個々の蝶を一匹一匹それぞれ識別しないまま微笑む幼子のように、
わたしもまた『宮野秀策』や『光明寺茉衣子』という種類の生物が絶滅さえしなければ
億千万の『宮野秀策』や『光明寺茉衣子』が犠牲になることをすら容認できる。
BがAに近似しているなら、Aが在った場所にBを代入し、それを是としてみせる。
救われる二人が、地獄の苦しみを味わって死んだ彼や彼女とは別の二人だとしても、
わたしはそれを幸福な結末だと言い切ってみせる。
本物の宮野秀策や光明寺茉衣子とは無関係な、複製に過ぎない二人だろうと、本物が
無事であるという証拠がない以上は守らねばならない。
あの二人を救うために必要なら、他の参加者全員を破滅させようが、後悔はしない。
目的のために手段を選ぶつもりは、もうなかった。
坂井悠二を犠牲にし、零時迷子を利用し、彼が守ろうとした仲間を死なせてでも、
理不尽にすべてを奪い取ってでも、あの二人を助けるつもりだった。
だが、そんなわたしに彼は言った。
君を許すことはできない……それなのに、心の底から憎むこともできない、と。
うつむいた表情には、喜怒哀楽が複雑に混在していた。
君を否定したら、“今ここにいる自分”や“今ここにいる皆”まで否定することに
なってしまう、と彼は言った。
“今ここにある現実”は、君の干渉がなければありえなかった、と。
辛く悲しく苦しいけれど、存在しなかった方がマシだったとは思わない、と。
恨んでいないと言えば嘘になるけれど、それでも殺したいとは思わない、と。
その意思を愚かだと嘲る権利は、わたしにはない。
顔を上げて、坂井悠二はぎこちなく笑った。
こうして姿を現したのは、自己満足だとしても会って話したかったからだろう、と。
今こうやって話しているという現実は後で上書きされ、“今ここにいる坂井悠二”も
君に消されるのだろうけれど、だからこそ、せめて約束してほしい、と。
踏みにじったものに見合うだけの素晴らしいものを絶対に掴み取ってみせるから、
数え切れぬほどの犠牲はすべて無駄にしない――そう約束してほしい、と。
わたしは頷き、約束の対価として、彼の手から水晶の剣を譲り受けた。
……“あの現実”も、“あの坂井悠二”も、今はもう記憶の中にしか存在しない。
数多の現実を渡り歩き様々な光景を覗き見たわたしは、この剣のことも知っている。
邪を斬り裂く、人ならぬものが創った剣。魔女の血入りの水で洗われ、本来の目的を
――己の“物語”を少しだけ取り戻しかけている、勇者の武器。
主催者に致命傷を与えられるかもしれない可能性を秘めた、七色に輝く刃。
こんな物が支給品として都合良く会場内にある理由を、わたしは苦々しく想像する。
勝利に届きそうで届かない程度の希望を与えて、最終的に絶望する瞬間を最大限に
盛り上げようとしているのかもしれない。
あるいは、主催者すらも第三者の――“他者の破滅を満喫したい”という願望を抱く
強大な何者かの、掌中に捕らわれた獲物に過ぎないのかもしれない。
どんな経緯があるにせよ、おそらくは、あまり喜ばしいことではない。
主催者の殲滅さえ成功すれば、後はどうにかできるかもしれない。
この世界と関わる異世界の幾つかには、死者の蘇生やそれに近い技術があるらしい。
主催者を排除できれば、犠牲者全員を復活させることすらも夢ではなくなるだろう。
宮野秀策を見殺しにした場合でさえも光明寺茉衣子を救うことはできなかった。もう
他に手はない。彼と彼女の死が避けられないなら、死なせた後で生き返らせるまでだ。
有望そうな参加者が主催者の前に立ったとき、わたしは水晶の剣を託そう。
無論、敗色が濃い参加者に対しては、何の助力もしない。
残念ながら、勝機は一度しかないのだから。
いかに主催者が悪趣味だとしても、自分に直接害を及ぼした相手を野放しにするほど
慈悲深くはないだろう。もしも失敗したときは、きっとわたしは殺される。
万が一、わたしが放置されたとしても、水晶の剣はわたしの手元に残るまい。
剣を託した参加者が主催者に負けた場合、その結末を改変することは不可能に近い。
やり直しはきかない。最初で最後の一回がその後のすべてを決定する。
おかしなものだ。時間移動能力を得る前までは当然だった、こんなにもありふれた
前提条件が、こんなにも恐ろしくてたまらないとは。
この身の震えは、決戦のときまで止まりそうにない。
【X-?/時空の狭間/?日目・??:??】
※水晶の剣は、生前の坂井悠二から<インターセプタ>が譲り受けました。
本来ならば、前衛の攻性咒式士にとってこの程度の損傷は傷のうちに入らない。
特に己の肉体を自在に強化・変態させる生体系咒式士のギギナならば尚更である。
だが、課された制限は重い。気絶から覚醒するのに、彼は数時間を要していた。
恒常咒式は最低限働くようになってきたが、それでも全快には程遠い。
(……制限の度合いが、変動している?)
意識が目覚め、肉体を再び掌握しきるまでの刹那の間に、ギギナは思考回路を回転させていく。
代謝の異常促進、つまり空腹の具合からすでに『その』兆候は確かに現れていたが、しかし――
(制限の仕様か? いや、だがそれで発生する管理側のメリットは思いつかない。
その上で咒力制限が不安定ということは、管理側のミスか……あるいは、誰かが手を加えたか)
ギギナはこれまでさほど刻印に関しては考えたことがなかった。
闘争の場があるのならドラッケンとしてそれに赴くだけであり、ひたすらに命を削り合う愉悦に浸っていた。
だが相棒と仇敵の亡き今ならば話は別だ。多少は、ほかの事に意識を向ける余裕がある。
もっとも、それだけに集中できるような状況でもないが。
制限のことはひとまず放っておいても構わないだろう。変動といっても微々たる物だし、さほど戦力的な影響はない。
なによりまずは、起き上がらなくてはいけない。
その決意を鍵としたように、意思による肉体の掌握が完了した。
五感が戻ってくる。外界の状況を認識し、次いで――己の内の状況、すなわち痛みが湧き上がってきた。
胸部の怪我はまず間違いなく重傷だった。幸い呼吸は出来るが、戦闘行動はほとんど無理だろう。
損傷を前提とした前衛咒式士としての肉体でなかったら、十分に死ねた傷である。
思わず咳き込みそうになるが、それをすると折れた肋骨が致命的な部位に突き刺さるかもしれない。
「……ギギ、ナ?」
必死に耐えていると、横から彼の名を呼ぶ声がした。
金髪の少女。彼がとある恩人から保護を頼まれ、そして先ほど間一髪のところでどうにかその約束を果たせた人物である。
気道を遡る空気の塊を何とか鎮圧し、その名を呟いた。
「クリーオウ、か」
「ギギナっ!」
突如、地べたに座り込んでいた彼女が弾かれたように立ち上がり、横たわる彼に駆け寄ってきた。
彼に、触れようと。
瞬時に湧き上がる嫌悪感。ギギナは女性から触れてくることを決して許さない。
「触れるな!」
「……!」
剣幕に驚いたのか、クリーオウはギギナに触れる寸前、その手を押しとどめていた。
「あ……ごめん、怪我、してたよね」
謝罪。だがその表情には拒絶されたことに対してか、それとも単純に怒鳴られたからか、
なんにせよ深く傷ついたことがありありと見受けられる。
面倒だ。ギギナはそう断じると、ゆっくりと体を起こした。
恩人から頼まれたのはこの小娘の保護と移送。精神面のフォローまでは含まれていない。するつもりもない。
「今は、何時だ?」
「あ、う、うん。えっと、十時半くらいだけど」
時計を見ながら、クリーオウ。それを聞き、舌打ちをひとつしてギギナは立ち上がった。
思ったより時間をとられた。この負傷では約束の時間までに目的地にまで辿り着くのは難しいかもしれない。
弾き飛ばされた屠竜刀を拾い上げ、それを杖代わりにする。
「行くぞ。時間があまりない」
「……待って、ギギナ。私、まだ言ってないことがある」
入り口に足を向けた矢先だった。
溜息を吐きながら――その労力さえ今の体では惜しかったが――振り返る。
「――クエロの埋葬ならば、手伝えん。その時間も、義理も私にはない」
「違うの。ううん、クエロの埋葬もしてあげたいけど、私が言いたいのは――」
そこでようやく、ギギナは気づいた。
目の前で何やら俯いているこの小娘は、先ほどから何かに脅えているような顔をしている。
最初は自分の態度に対してのものかと思っていたが、それにしては少しばかりこれは重症だった。
そして、少女が口を開く。
「さっき私たちを襲ってきた子が、まだ生きてるの……!」
「な――にを?」
咄嗟には理解できない。あれは確かに禁止エリアに投げ込んだ。ならば生きている筈などない。
いや、そもそもあれがまだ生きているならば、自分がこうして目を覚ましていること自体がありえない。
敵の存在を探ろうとしたギギナの目の動きをクリーオウは悟ったのだろう。
「ううん、もう居ないよ。何でか分からないけど、あっちの――」
と、B−3へ続く通路を指差し
「――あっちの通路から、行っちゃったから」
「我々には目もくれず、か? 何故だ?」
「……分からない、けど」
それでも、あの表情には見覚えがある。
二度目の襲撃の時、どこかふざけているような雰囲気など微塵も感じられなかったあの時の表情。あれは、
(ライアンの、表情――)
何かに絶望していた表情だったように、彼女には思えたのだ。
「ならば、なおさらゆっくりはしていられんな。
禁止エリアから抜け出てきたというのは気になるが――さっさといくぞ、娘。荷物を持て」
まるで逃げるような体裁なのはギギナにしてみれば憤懣やるかたないが、だからといってドラッケンは無駄死も奨励していない。
さっさと歩き出そうとするギギナを、慌ててクリーオウは再度呼び止めた。
「あの、待ち合わせしている仲間が居るんだけど……」
「時間がない、と言ったはずだが?」
「でも……」
再び俯いてしまう、クリーオウ。
ギギナは何度目かになる深い溜息をついた。
「……場所はどこだ?」
「行ってくれるの!?」
「常ならば貴様を担いででも連れて行っているところだ。
だが、この怪我では貴様が本気で逃げようとすれば捕まえるのは骨が折れる。
ならば仕方があるまい」
堂々と犯罪チックなことをのたまうこの男に、クリーオウは思わず呟かずにはいられなかった。
「人攫い……」
「何か言ったか?」
「別に? あ、ほらあっちの道だよ?」
そういって先導して歩こうとするクリーオウに、だが今度はギギナが静止の声をかけた。
「――娘、止まれ。貴様、先ほどあの襲撃者は逆の通路から出ていったといったな?」
「う、うん。そうだけど」
急に剣呑な空気をまとったギギナに、クリーオウは動揺しながらも答える。
「ならば、何故あの剣が――」
「剣? 剣なんてどこにもないけど……」
「無いからおかしいのだ。私はあの通路の入り口辺りに、もう一本の剣を置いていた」
魂砕き。
魔神王を打ち破らんがために誕生した漆黒の魔剣が、あるべき筈の場所にない。
だが近づいてみると、代わりに別のものが存在していることが知れた。
ご丁寧に剣を刺してできた穴の真上に、それは置かれていた。
紙切れと、そして先ほど地下通路でクリーオウが落とした懐中電灯である。
性格にはドクロちゃんが拾い上げて、そのあとギギナとの戦闘で取り落としたのだが、幸い故障はしていないようだった。
だが、ここにひとつ問題が発生する。
「これ、ギギナが拾ってきてくれたの?」
「いや? 私ではない」
ならば、それは、
「十中八九、剣を盗んだ下手人だろうな。貴様はずっと起きていたのだろう? 犯人の姿を見なかったのか?」
「私、怖くてずっと逆の通路を見てたから……それに」
「それに?」
剣を取られたことに静かに怒っているらしいギギナに話すのは少々躊躇われたが。
確証というほどの確証は無い。だが犯人は通路の懐中電灯を拾い、ここまでやってきた。
それはつまり、通路の向こう側からやってきたということに他ならず、
そして、待ち合わせ場所だった通路の先に居る筈だったのは――
「多分、これを置いていったのは私の仲間だと思う」
置いてあった、紙切れ――手紙を広げながら、クリーオウはそう呟いた。
■
一方――
ライアン・スプーン・キルマークドと同じだの絶望していただのと一見シリアスに語られそうだった三塚井ドクロは、
現在シリアスとかハードボイルドとかとは無縁の状況だったりする。精々シリアルがいいとこである。
いや、本人から見てすれば大真面目だ。この苦悩だけで大長編が執筆できそうな、そんな勢いである。
だがそんなことに時間を費やしている時間は彼女には無い。彼女にはやるべきことがあるのだ。
誰もが味わったことがあるであろうあの激痛、まさしく神の試練と彼女は戦っているのである。
「僕のわっか、どこ……!?」
何故彼女たち天使を創造した神は、このような弱点を設計したのだろうか。
ミロのヴィーナスのように、欠けている美しさを演出しようとしたのだろうか?
なんて素晴らしいんだろう。死んじゃえ。
――などと思考する時間も、彼女には無い。
彼女が超絶激・真・裏闇変態覇王(憎しみによってパワーアップした)に輪を飛ばされてから、すでに一時間半ほどが経過していた。
一時間半、である。お分かりいただけるであろうか。一時間半、彼女はあの苦痛にさいなまれ続けているのである。
その理由は、わっかの突き刺さった場所が原因だった。
一般的に、腹痛時に視線は下がるものである。
机の上や電車の床を一心不乱に眺め続け、この苦痛からの開放を苦行者たちは待ち望む。
そして通勤や授業から開放された彼らは聖地へと駆け込み、そして事を済ませトイレの天井や空の青さに涙するのである。
だが彼女を拘束しているのは時間的経過で何とかなるものではない。
故に、もはや限界など当に突破している彼女には、わっかを見つけられない。
ついでに言うと、彼女の消失までのタイムリミットも大幅に縮まっていたりする。割と洒落にならない展開である。
――故に、頃合だった。
「――探し物は、これか?」
「……! それ、返して!」
ドクロちゃんが振り返った視線の延長上、隠れ身を解き、金色の輪と魂砕きを手にしたピロテースがそこにいた。
■
もはや説明するまでもなく、魂砕きを盗んだのはピロテースであることは明白である。
だが、いかにして彼女がそれを手にいれる経緯となったのか?
とりあえず八時まで待ってみようと城の地下で待機していた彼女は、突如鳴り響いた轟音を耳にした。
音のした方へ行ってみれば、そこにはクリーオウと銀髪の男、そして凶器を構えた少女の姿。
無論、すぐに声をかけようとしたがクリーオウはすぐにもと来た道を戻っていってしまった。
ここでクリーオウの仲間だと言って出て行っても、自分も事態を把握できていないし、混乱を招くだろうと判断した。
銀髪の男はどうやらクリーオウの味方であるらしかったので、いざとなれば助太刀をする心算だった。
だがそれをするまでもなく、銀髪の男が勝利する。
そこで出て行っても良かったのだが――その頃までには、ピロテースは銀髪の男の特徴が、
クエロの言っていた戦闘狂の特徴と一致することに気づいていた。
無論、ピロテースはクエロのことを手放しに信頼している訳ではない。
だが、彼女が吐いた情報を全て嘘だと断じることも出来ない。
良い策謀家とは、ばれないような嘘を考える者ではなく、嘘と真実をごちゃ混ぜにしてかく乱する者のことだ。
故に、僅かに行動が遅れ――結果的に、それが彼女の命を救った。
奇妙な呪文を合図に、目の前の少女の傷が修復されはじめたのだ。
撒き散らされた血液はそれ自体が生物であるかのようにおぞましく蠢き、主の体内に潜り込んでいった。
傷口はおろか、衣服、両断された凶器の類まで修復され、ゆらりと幽鬼の如く立ち上がる……
明らかな致命傷。それをこうも容易く癒せる人物というのは、とてつもない脅威だ。
故に彼女は慎重に後をつけていった。クリーオウがいるということは、この奥にはせつら達もいるということだ。
それに、再びあの少女が襲い掛かってもまたあの男が撃退するだろう――そんな楽観も、無かったといえば嘘になる。
だが、現実はそう上手くはいかない。
せつらの姿は見えず、クエロは死体となっていた。
せつらがクエロとクリーオウを二人きりにするとは思えない――ならば死んでしまったのか、
少なくとも最早この集団には属していまいと彼女は判断した。
そして少女と銀髪の男の勝負も、彼女の予想とはまるで違う展開になっていた。
再戦までの間隔は僅か数分にすぎない。それなのに、先ほどは容易く斬殺された少女が今度は優勢さを見せている。
空間ごと対象を粉砕するような殴打の応酬は、結果として剣舞士に重傷を与えた。
だが、辛くも勝利を掴んだのは再び狂戦士。少女の首筋を深く切り裂き、さらに禁止エリアとなっている湖に投げ込む。
――これだけだったのなら、彼女はそれを選ばなかったのかもしれない。
怪我人を背負い込んで足が遅くなるのは勘弁だったが、それでもあの男はアシュラムの情報を持っているかもしれない。
同盟破棄は、その上でクリーオウにきちんと告げればいい。
彼女は様子を窺うために潜んでいた通路から身を乗り出し、自分の存在を知らせるため声を上げようとしていた。
だが、その声は永遠に上がることはなかった。
彼女は気づいてしまった。通路のすぐ傍にに突き刺さっていた魔剣と、天使の少女が禁止エリアから再び這い出てきたという異常に。
魂砕きはあの銀髪のものか、それともクリーオウたちが新たに入手したのか――
いずれにしても、それを貰ってすぐ同盟破棄など受け入れられるはずも無い。
そして何より、禁止エリアから出てきたあの少女。
(刻印が、解除されている?)
ならばあの超再生能力も、人外の腕力も納得できる。
数刻前に出会った、ロードスに縁のある者と名乗った少女との遣り取りで、彼女はアシュラムと再会した後の事も考え始めていた。
この島で勝ち残るにしても、脱出を目指すにしても、最大のネックになるのははこの刻印。
――ならば。
彼女は決断した。
突き刺さっていた魂砕きを引き抜き、残り僅かな精神力で隠れ身を張って、天使の追跡を開始したのだ。
■
そして、現在の構図が出来上がる。
ピロテースにとってこの天使の少女の予想外の弱体化は、降ってわいた幸運だった。
「ねえ、それ、返してぇ……!」
「これ、か?」
金色の輪をちらつかせる。どうやらこれがないと目の前の少女は不調をきたすらしい。
だから、こうなるまで放っておいた。
だから――
「返すわけなど、ないだろう」
――全力で、その天使の輪を明後日の方向に投擲した。
少女が悲鳴を上げる。だがそれでどうにかなるわけでもなく、わっかは一瞬で暗い闇の中に消えた。
もう、まともな手段では見つかるまい。
彼女が如何な手段で刻印を解除したのかは知らないが、笑いながら何の力も無い少女を殺そうとするような異常者である。
どうせ外道の手管であろうし、容赦する気は毛頭ない。
「――なんてことする、のぉ……!? まさかっ、お姉さんも、あの変態の仲間……!」
「さて、な。だが、質問に答えれば見つけてやらんことも無い」
森は彼女のフィールドである。まともでない手段など、彼女はいくらでも持っている。
ドクロちゃんは割りと必死だった。
たとえ目の前の女性があの変態王の仲間だとしても、今の彼女は悪魔にさえ魂を売り渡す所存である。
「答える! 答えるから、早くぅ……!」
「ならば、質問はひとつだけだ――貴様は、いったいどのような技術に精通している?」
問うのと同時に、ピロテースはメモをドクロちゃんに突きつけた。
すでに用意してあった、筆談用の紙である。内容はこうだった。
『貴様は、どのようにして刻印を解除した?』
刻印には盗聴機能がある故、彼女たちは刻印に関する話題ではこうして筆談を使う。
――だがこの天使は、そんなことなど知らない。
「刻印なんて知らないよぅ! 解除ってなに!? どうすればわっかを返してくれるの!?」
「ばっ――」
絶句。思わず罵倒しようとして――だがそれも叶わないだろうという諦観が押し寄せてくる。
しかし刻印による制裁は、いつまで経っても訪れない。
「……?」
「ねえ、わっか、取ってきてよう!」
まさか管理者が今のを聞き逃していたという訳でもあるまい。
(刻印解除に関する話でも、取るに足らないということか?)
くっ、と笑う。ならば今まで必死にこそこそと筆談をしていた自分達は道化以外の何者でもない。
いいだろう。その慢心に付け込ませてもらう。
ピロテースは、ドクロちゃんの腹にそっと足を乗せた。
「な、なに……!? 何する気!?」
慌てるドクロちゃん。彼女の腹部はアルマゲドン状態である。いつ爆発してもおかしくない。
だが、ピロテースはそんな彼女の腸内事情を知らない。
ピロテースが把握しているのは、あくまでドクロちゃんの体調が悪化しているということだけである。
具体的な症状など知らず、足を腹部に乗せたのは、ただ効果的に痛みを与えられて、
その上で会話に支障をきたさない部位だったからという理由に過ぎない。
「話さないのならば、相応の痛みは覚悟してもらう」
「だ、だって、僕、そんなの知らない――」
ピロテースは容赦なく足に力を込めた。
もとより、彼女は拷問のつもりである。加減はしてあったが、その加減も死なない程度に、というレベルのものに過ぎない。
――故に、ヒロインにあるまじき惨劇が巻き起こった。
空気が抜けるような音と水っぽい音が同時に響き渡り、そして立ち込める臭気。
描写に耐えない、阿鼻叫喚の地獄絵図がそこにあった。
ところで、慢性的な腹痛でも、いったん出してしまえばその瞬間は楽になるものである。
三塚井ドクロも、それは同じだった。
――まあ楽になったから反撃した、というよりは、
単にこの恥辱の場面を見た者を抹殺しなければという危機感が先に立っていたのだが。
「い……いやあああああああああああああああああああああ!」
振るわれる愚神礼賛。
それは奇しくも、先の風の騎士の最期に酷似した状況だった。
予想外の惨状に気を取られたダークエルフの腹部を、愚神礼賛が殴打する。
そう、それはとてもとてもよく似た状況で――
「ぐっ……!」
だけど似ているだけで、違う結果がそこにはあった。
吹き飛び、地面に転がるピロテース。だが彼女の腹部はまだ存在していた。何故か?
単純に、ドクロちゃんの力が低下していたというのがひとつ。
すでに彼女は、一般人と同程度の腕力しか行使し得ない。
そしてもうひとつの理由は――
「……がはっ、ごほっごほっ」
ごぷりと、口から血色の泡を吹き出す天使の少女。
もうひとつの理由は、ピロテースが咄嗟に手にしていた魂砕きをドクロちゃんに突き刺していたからに他ならない。
腹部を貫通し、背中にまで達したその傷は致命傷だ。
――だが、この天使は致命傷では死に切れない。
「ぴぴる、ぴるぴる……」
詠唱される、呪文。死すら癒す魔法の言葉。
しかし、ピロテースはそれをすでに二度、見ている。
故に、対策も立てていた。
「ぴぴるっ!?」
詠唱が中断する。
それはそうだろう。圧し掛かられ、喉を絞められていれば、声は出せない。
彼女の魔法が如何なるプロセスを経て使われているのかは知らないが、少なくともあの謎の呪文は必須だったようである。
もっとも、もし不必要だった場合、ピロテースはそのまま絞め落とすつもりだったが。
「……死にたくなければ、話せ。そうすれば癒させる」
手を僅かに緩め、ピロテース。
だが、ドクロちゃんは話さない。否、話せない。当然だった。刻印の情報は彼女の既知の外だ。
このままでは、遠からず失血死する。
どうやら、完全に話す気は無いらしい。あるいは、話せないような理由でもあるのか。
内心で舌打ちをしながら、体の上からどき、魂砕きを傷口から引き抜こうとしたその瞬間――
「――あら、じゃあその続きは私が引き継ぐわね」
「……なっ!?」
振り向いたときにはすでに遅く。
放たれた<火球>の呪文が、彼女に直撃していた。
■
■
「ぐっ……貴様、は」
「そんなに睨まないで、といっても無駄でしょうけどね」
肩をすくめながら悪びれもせずにいるのは、数刻前に出会った貫頭衣の少女――カーラである。
ピロテースは致命傷を負い、地面に倒れ付しながらも、自身に不意打ちをしてきたその魔女を睨みつけている。
「なぜ、ここに」
「そう不思議がることではないでしょう?
でもいうならば、そうね、貴女との取引を重視した結果、かしら?」
「――は、」
馬鹿なことを、とでも言いたかったのだろうが、彼女はすでにそんな言葉さえ紡げない。
当然だ。火球は胸部に直撃していた。肺機能も横隔膜も、すでに満足には動いていない。
それとは対照的に、カーラは言葉を紡ぐのをやめなかった。
「別に嘘ではないわ。貴女との約束の時間が迫っていたから、私は城の付近にいた。
さっきの戦闘に遭遇して、あとは隠れ身を解くのが貴女のほうが私より早かったというだけよ。
まあ貴女の望んでいた情報は手に入らなかったのだけど……これはしょうがないわよね?」
「……」
ピロテースは、喋らない。
ただ、怨敵を睨み殺さんばかりの視線が生存を主張している。
「その点、貴女は優秀ね。私の欲しかったものを二つも手に入れているんだもの」
そう言って、カーラはとピロテースが落としていたメモを拾い上げる。
その内容に目を通し、この娘がね、といまだ突き刺さったままの魂砕きを眺めながら呟いた。
「貴女は、魂砕きを誰にも渡さないつもりだったみたいだし……この状況だったら、こうなるのはしょうがないでしょう?」
ねえ? と、同意を求めるかのように、カーラは再び地に臥すダークエルフへ視線を戻す。
だが、唯一生存を証明していたその両目からも、光が完全に消えていた。
「……」
念のために脈を取り、完全に死んでいることを確認してから、やれやれ、と溜息を吐く。
制限下における長時間の隠れ身で、さしものカーラといえどその精神力は疲弊していた。
もっとも、疲弊の度合いで言えばこのダークエルフの方が重度だったのだろうが。奇襲がいとも簡単に成功したのだし。
「さて、と」
さらに視線を移し、刻印を解除したという少女の方を見やる。
血はほとんど流し尽くし、もはやその顔色は蒼白だ。
だが、カーラは別に治療を施そうとも思わなかった。
それよりも、すべきことがある。
流れている血が少ないのは好都合だった。
魂砕きを引き抜き、そして、躊躇うことも無く少女の刻印の付いている方の腕を切り落とす。
こちらの少女も、もはや悲鳴を上げない。
――死体は、悲鳴など上げない。
死とは、停止だ。停まった彼女は、これ以上個性を損なわれることは無い。
デイパックに、少女の手首を放り込む。これでデイパックの中には腕が四本。
「ぞっとしないわね――」
そんな戯言を紡ぎながら、灰色の魔女は楽しそうに笑う。
――思わぬ収穫だった。まさか、すでに刻印を解除している人物がおり、あまつさえ目の前で死に掛けているなど。
「運が向いてきたかしら?」
思ってもいないこと呟き、笑いながら彼女は歩き出した。
■
■
手紙を読み終わったクリーオウは、ゆっくりと立ち上がった。
その様子はどこかないているようにも見える。
「……行こうか、ギギナ」
「仲間は良いのか?」
「うん……ごめんね、剣」
「……本来なら追いかけて三度は切り殺している所だが、構わん。
私の誇りを乗せ、矜持を守る剣はのはこれだけだ」
ネレトーを指し示し、ギギナが背を向ける。
――それが無骨な心遣いのように思えて、クリーオウは嬉しかった。
その手紙は短いものだった。
時間が無かったのだろう。ほとんど殴り書きに近い。
『クリーオウ・エバーラスティンへ。
まずは自分の不義理を許して欲しい。だが、私は私の忠に従う。
私に出来るものは何も無い。私のことを千の言葉で罵り、万の言葉で呪ってくれても構わない。
だが、もしも願えるのなら。
できれば、次に出会ったときに、お互いに殺しあわない関係であればと、切に願う。
ピロテース』
149 :
イラストに騙された名無しさん:2008/07/01(火) 00:34:22 ID:32UyhutY
【G-6/森の中/1日目・23:15頃】
【福沢祐巳(カーラ)】
[状態]:食鬼人化
[装備]:サークレット、貫頭衣姿、魔法のワンド 魂砕き
[道具]:ロザリオ、デイパック(支給品入り/食料減)
腕付の刻印×3(ウェーバー、鳳月、緑麗)
解除済み腕付の刻印×1(三塚井ドクロ)
[思考]:1.フォーセリアに影響を及ぼしそうな者を一人残らず潰す計画を立て、
(現在の目標:火乃香、黒幕『神野陰之』)
そのために必要な人員(十叶詠子 他)、物品を捜索・確保する。
2.解除済みの刻印を解析する。
[備考]:黒幕の存在を知る。刻印に盗聴機能があるらしいことは知っているが特に調べてはいない。刻印の形状を調べました。
【D-4/地下/1日目・22:30】
【ギギナ】
[状態]:肋骨全骨折。打撲。疲労。
[装備]:屠竜刀ネレトー。贖罪者マグナス。
[道具]:デイパック(ヒルルカ、咒弾(生体強化系2発分、生体変化系4発分))
[思考]:クリーオウをオーフェンのもとまで保護。
ガユスの情報収集(無造作に)。ガユスを弔って仇を討つ?
0時にE-5小屋に移動する。強き者と戦うのを少し控える(望まれればする)。
【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:右腕に火傷。疲労。精神的ダメージ。
[装備]:強臓式拳銃 “魔弾の射手” (フライシュッツェ)
[道具]:デイパック1(支給品一式・パン4食分・水1000ml)
デイパック2(支給品一式・地下ルートが書かれた地図・パン4食分・水1000ml)
缶詰の食料(IAI製8個・中身不明)。議事録。ピロテースからの手紙
[思考]:1.E-5に移動。オーフェンに会う。
2.ピロテースを……?
[備考]:アマワと神野の存在を知る。オーフェンとの合流場所を知りました。
ほしゅ?
ラノロワのしたらば移転により、こちらのスレは必要無くなったのです。
したらばって>2の最後のでいいん?
うん。専ブラで見れるようにしとくと見やすいよ。
ありがとう。説明読んでやってみる。
移転するとは言え勿体ないから落ちるまでここ使えばいいのに
>156
書く人がいないから使いようがないのよ。無意味な保守が続いた>87-95の日付見ればわかるだろう。
まあ、感想議論スレが埋まった時にまだ落ちてなかったら、続いてここを使えばいいじゃんとは思うけどね。
わざわざ無駄に保守してまでそうする事もない。
愛着はあるのだがw
消えるのはまだ早い
感想スレ落ちたな…
落ちるとは思わんかった…。
こっちもじきに落ちるな。
毎回しっかりと保守してた人が居たんだなぁって改めて思うよ。
>163
>59-81や>87-95を見るに、保守の前には「無意味に」とつけないとダメだろ
無意味乙
無意味だって知ってるけどね
167 :
イラストに騙された名無しさん:2008/08/13(水) 01:25:27 ID:7pi3otfF
捕手
投手
一塁手
落ちたら新ロワになりそうだな
172 :
イラストに騙された名無しさん:2008/09/11(木) 01:57:36 ID:n3dYfKcX
「かはは、傑作だぜ」
173 :
イラストに騙された名無しさん:2008/09/25(木) 22:47:01 ID:UywWPhEm
ひゃっはぁ
ラ
保守
hs
hosyu
新年保守
hs
hs
ここを保守してる人の中で、避難所の偽予告に目を通してる人、どれだけいるやら。
㋙㋪゚㋬゚㋢゙㋖㋤㋑
●█▀█▄
183 :
イラストに騙された名無しさん:2009/02/17(火) 02:31:46 ID:ydiTFmRm
保守
184 :
イラストに騙された名無しさん:2009/03/07(土) 16:40:03 ID:PUsvV5dC
㋙㋪゚㋬゚㋢゙㋖㋤㋑
●█▀█▄
保守
保守
お久しぶりです 全話感想を書いていた者です
感想スレが落ちてやる気が減少したり、やる気はあっても時間が無かったり
時間があってもやる気が起きなかったりとで今まで空いてしまいました
もうほとんど人がいないでしょうが自分はこのロワが好きなので出来る限り
続けてまいります もし誰かいたら反応してくれるとうれしいです
全話感想 かなり偏った感想になると思われますので、 ご注意ください。
第199話:素人と専門家
祥子様VS宗介 今まで通用した油断させて背後からの一撃だが今回は相手が
悪かった宗介の方が何枚も上手だった このまま祥子様死亡かと思いきや
なんとかなめ登場 次回かなり混沌としそう
第200話:刃こぼれした刃
建国チーム、ムンク小屋作成 こういう魔法の応用は結構好きです
うまく拠点もできたし仲間も増えたしここからの活躍に期待
第201話:GRAVE DIGGER
ブルーブレイカー地下への階段を発見する とりあえず階段の先に何があるのかに期待
第202話:ホワイト隊員の思考
シロちゃん祐巳の容態を心配して自分の血を飲ませようと考える
この考え自体は別にいいんだけどその結果「魔人化騒動」が起きて
しまったんだよなあ リレーの結果とんでもない方向に行っちゃうのは
よくあることだけれどもう少しどうにかできなかったものか
第203話:サッシー捜索隊
佐山詠子地下空間の地図を発見 佐山の突飛な行動と言動、詠子の見えている
ものについての描写など二人についてわかりやすく面白い 後この地下空間について
どうなるかに期待
第204話:御前様がみてる
なっちゃんインボン太君 タイトルと冒頭のくだりはマリ見てが元ネタ
らしいですが知らなくても楽しめました パワーアップはしたが他人との
コミュニケーションが取れない状態だがあんまり関係なさそう
第205話:剣の咆哮
ギギナVSヘイズとコミクロン さすがにこの二人ではギギナの相手はきつかったか
多少負傷して消耗がひどいが逃げられただけで御の字 ここからがんばれ
第206話:気付かぬ再会
長門が心配な悠二ボン太君と遭遇 とりあえず傍目にはギャグっぽいがどうなるか
第207話:見ることの出来ぬ敵
狙撃を受けるミズー達 最初読んだときはそのまま流して気付かなかったけど
子萩達は脱出優先でしばらくは積極的にはゲームには乗らないはずだったのに
なぜか狙撃をしてた もしもの話だがここで矛盾を指摘されて展開が変わってたら
後の展開も大分変わっていてもしかしたら外道王が誕生しなかったかもしれない
そう考えると結構重要な話かもしれない
第208話:もぉにんぐ
オフレッサーに踏まれるフリウ とりあえず次に起きるであろうバトルに期待
第209話:侵食〜Lose Control〜
祐巳暴走する 最初に読んだときはどう思ったかよく憶えていないが多分
そんなには気になって無かったはずだが今回読み直してみて展開のための
展開をやっているようで気になった 気絶する潤さん、祐巳を置いて逃げる
バカップル、血を飲ませるシロちゃん、これらが暴走し恐れられ苦しむ祐巳
という展開のための展開に感じてしまった もしかしたら後の騒動を知ってたから
そういう風に感じたかもしれないがそういう風に思った
乙だぜ
ミテマスヨー
全話感想の人、乙です
リアルタイム組じゃない自分だけど、また改めて読み返してみようかな…違ったものが見えてくるかもしれない
全話感想 かなり偏った感想になると思われますので、 ご注意ください。
第210話:初めての電話
セルティと保胤携帯を拾う 大昔の人間やファンタジー世界の人間が現代文明の
機器を見て理解できずに怪しむという状況はうまく描ければ面白いと思う
こういう通信手段は両方の状況によっては矛盾が起きたり難しいがうまくすれば
一気に情報が集まって話が進行するところがいいと思う
第211話:白竜王の暴走
終の暴走終了 扱いにくい状況をリセットした感じ 刻印や会場についても
少し触れられてるのでそれらがどう転がるかに期待
第212話:池袋最強と世界の中心
クレアと静雄最悪のファーストコンタクト まず間違いなく血を見る展開
果たして同作者の別シリーズの最強対決はどうなるか期待
第213話:食鬼人の憂鬱
祐巳自分の変化に悩む ここら辺でうまく軌道修正ができればよかったんだろうが
結局はああいう結末な訳でこういう結果を見るとつくづくリレーは難しいなあと思う
第214話:お人よしの殺し屋
出夢凪達と別れる とりあえずドクロちゃんに釘バットは危険な気がする
なにかトラブルが起きそうで少々不安
全話感想 かなり偏った感想になると思われますので、 ご注意ください。
第215話:恐怖を知らぬ者
ブラック捜索隊結成か? 読んでてバカップル二人の発言に笑ってしまったが
こういうキャラだよなと妙に納得した やっぱりこういうそのキャラらしい
掛け合いとかが好きなんだよなあと改めて実感
第216話:初めての電話side-B
ムンク小屋組携帯に悪戦苦闘 リナとダナティアだけでも時間をかければどうにか
携帯を扱えたと思うがシャナがいるのでまず問題はないはずどういう情報のやりとりに
なるのか期待
第217話:彼女の覚悟
ミズー麻酔無しで弾丸摘出 とりあえずミズーの精神力が凄かったが新庄以外の
二人は負傷中だがどうなるか
第218話:歪められた最強の存在
哀川潤狙撃で重傷 読み返してみて思ったが狙撃組の二人は状態表では脱出を
考えてるが実際の行動はもろマーダーになってる あと子萩は潤さんと組もうとは
何で思わなかったのか 原作を読んだら納得できるだろうか
第219話:人によって嘘は真実を超える
宗介とかなめ合流する 宗介とオドーの二人の戦力は心強いが集団の中に
潜りこんだ祥子様がすごい不安材料果たしていつ裏切るのか
第220話:三つ巴
パイフウ急襲 個人的にはここで古泉が死ななくてよかった他三人が早めに
ほぼズガンで死んだから残りの二人にはがんばってほしい あと神父はなんか
アレなイメージが強いのでキーリとボルカンを助けたところを読んでなんか
妙な感じを受けてしまった 変な偏見を持たないように反省
神父は超弩級聖人だから、人格者なのは確かなんだよな。
ただ、「神よこのものをお救いください」と神の御許へ送り届けるだけであって。
おお、全話感想の人きてた
乙です、楽しみにしてるよー
自分も暇見て最初から読み返してみようかな
全話感想 かなり偏った感想になると思われますので、 ご注意ください。
第221話:聖者の信仰
アメリア死亡 個人的にはここで暴走状態の祐巳に殺させるのはどうかとは
思うが瀕死だったから多分遅かれ早かれ死んでただろう残念
第222話:決意・豹変
キノ殺し合いに乗る オーフェンの過去とキノの決意の相似が印象に残った
あとさすがにイルダーナフでも完全な不意打ちには対応できなかったか
ヴィルについては知らないので活躍を見れず残念
第223話:遠のく感傷
イルダーナフ死亡 あまり性能は良くないが得物である拳銃も手に入ったので
多少は有利に戦えるだろうが能力持ちのキャラとの戦闘は厳しいだろうし
果たしてどこまで生き残れるのか期待
第224話:Don't Despair
オーフェン決意す 途中までは絶望しないとかオーフェンらしい展開で
とても良かったが最後の最後で無謀編のノリになってちょっと笑った
どうなるオーフェン
第225話:地下へ
景死亡 最初に読んだときは原作を読んでなかったからよく分からなかったが
読んだ後だと景の最期のセリフが切ない 個人的には悪魔を使って活躍する
景を見たかったので残念
第226話:くろうにん
スィリーに振り回されるオーフェン オーフェンとスィリーのやりとりが
すごいらしくて面白かったし途中にあるヒゲ少女のネタも知ってるとニヤリと
出来てよかった
第227話:綱渡り
学校に集結する人々 結構すんなりと合流したゼル達とサラ達 あっさり
しすぎかもしれないが火種もあるしそれがどうなるか
第228話:覚悟の成り立ち
佐山詠子夫妻のロワ考察 最初の異世界考察も盗聴と盗撮を理解した上での
それらを逆手に取った筆談も全部面白い この二人の話は二人のことを十分に
知らなくても面白いのがすごいと思う
全話感想 かなり偏った感想になると思われますので、 ご注意ください。
第229話:Double passes
出雲達と火乃香達すれ違い 二組がどこに行くのかというつなぎの話
それぞれのやりとりもよかったと思う
第230話:After Rondo
ベリアル休息をとる 結構ダメージを受けてたが一応応急処置をして睡眠も
取ったのでそれなりには戦えるようになるだろうから今後に期待
第231話:陽炎
美姫夜まで休憩 アシュラムの催眠はどうにか外せそうだがかなり難しそう
このまま夜まで問題なく引きこもってるかどうか
一時期、本当に生活の一部になってたなぁ
通勤中ずっと話考えてた
かなり文章レベルは高かったよね?
お久しぶりです また間が空いてしまいましたがぼちぼちとやっていきます
全話感想 かなり偏った感想になると思われますので、 ご注意ください
第232話:ムンクと二人
ムンク小屋に接触するテッサとベルガー かなめがいるかもとウィスパードの
共振で呼びかけてるがクロスオーバー的に魔導師のダナティアとかリナが反応
しても面白いと思う
第233話:Prelude
志摩子達チーム分けして行動開始 はっきり言ってこの話では原作を見たことの
あるキャラが一人もいないがそれなりに理解できたしそこそこ面白かった
第234話:王者は嘘つき姫の剣となる
朱巳、屍とヒースを仲間にする 朱巳のペースに巻き込まれた二人だが戦闘も
交渉も結構うまくやれそうなパーティーではあると思うチームワークが最大の問題か
お久しぶりです まだあきらめずにがんばっていくつもりです
全話感想 かなり偏った感想になると思われますので、 ご注意ください
第235話:地下追走
キノ、風見を追って地下へ 暴走はしているが待ち伏せや罠への警戒は
忘れない冷静なキノ 果たしてどれだけ殺してどこまで生き延びることが
出来るのか不安もあるが期待もしてる
第236話:彷徨う不死者
リリアVSウルペンにハーヴェイ乱入 ちょっと思い出せないが不死者は
常人よりも筋力があったっけ スペツナズナイフのバネは一般人には戻せない
くらい硬いと聞いたことがあったので思ったちょっとした疑問 まあ再利用
自体は展開的にあっていいと思うので問題ないと思う リリアVSウルペンも
描写は少ないが納得できる展開での決着なので問題なし
第237話:宮野の刻印推論
宮野の刻印についての考察 能力制限についてはまだどうなるか分からないが
一応納得はできる考察ではある しかしエンブリオは果たして使われるのかどうか
全話感想 かなり偏った感想になると思われますので、 ご注意ください
第238話:手段と目的
アーヴィーVSパイフウは両者痛み分け 対主催の戦力になるかもとパイフウは
見逃したが実はかなりマーダー寄りのアーヴィー 果たして古泉は彼をうまく
言いくるめて戦力に出来るのか問答無用で殺されるのか次での対応がカギ
第239話:場所を超越した会話
携帯電話での会話と深層心理での会話 オムニスフィアとかクレアバイブル
とかの微妙なクロスオーバーがちょっとうれしかったがさらにアラストールも
出てきて少し驚きながらも納得 こういう風に設定をうまい具合に混ぜて
使ってる話はやっぱり面白い
第240話:Escape!
城から離れる人々 読み返してみるとパイフウ襲撃前後の流れがかなり
おかしくなってるように感じるが当時は特に疑問も持たず読んでたから
それだけ当時は勢いだけで進んでたんだろうなあと思った 内容自体は
由乃について対立するキーリと神父とかパイフウ対神父とかオーフェンに
全部なすり付けるボルカンとか面白かったです
保守
――残り人数35名。
その舞台は、確実に閉幕に近づいていた。
◇◇◇
「つまり我らと同盟を結びたい、と?」
「その通り。目的は先ほど放送を行った集団とほぼ同じ。まあ最終的にはあちらとも協力できたらいいとは思っているのだが」
「なるほど、の」
そう呟き、美姫はしばらく値踏みをするように佐山の顔を覗き込んでいたが、
「ところで――お前が佐山なのだな?」
「その通り。何かね、先ほどの自己紹介では不足だったかね? ならばあと七通りの自己紹介方を――」
「要らぬ。それよりも、わたしはお前宛の言伝を頼まれていた」
その発言で、場の空気が変わる。
佐山がその言葉を気にするのは当然だ。
彼宛ての伝言を残すのは、今まで殆ど情報が無かった自分の仲間達の可能性が高いのだから。
だが、美姫の後ろに佇む三人の表情に緊張や疑惑が浮かんだのは――
「……ほう? 誰からかね?」
「名前は、知らぬ」
――その吸血鬼の顔が邪悪に歪んでいて。
「聞く前に、殺してしまったからの」
悪役と、吸血鬼と。
策謀を這わせ、相手を絡めとろうとするのが彼らの手管。
ならば、此度絡め捕られるのは――
――銀光が、美姫と佐山の間を断つように突き刺さる。
その場にいる誰もが気付かぬ内に、屋根の上に筒のような陰が隆立していた。
「君は世界の敵だ――」
月光を背にしているため、そいつの表情を窺い知ることはできない。
だけど、それでも不気味な泡はどこか寂しげに浮き上がり――
「――佐山・御言」
敵の抹殺を宣言した。
無名の庵。
全ての世界から僅かにずれた位相にあるその場所で、彼らは対峙していた。
この物語を終わらすために。
「……なるほど。正直、これは予測していなかった。さすがに魔神の心までは読めないか。
贄はおろか、喚び手もなしに顕現するとはね。
そうか、砕かれた石の名はデモンズ・ブラッド――君にも匹敵する魔王達を表すモノ。
この場で、その全てを捧げた上での芸当というわけだ」
その熱量は膨大。その威容は無限。
審判と断罪の権能を持つ天罰神。故に、その名を、
「天破壌砕――王の中の王。紅世真正の魔神たる“天壌の劫火アラストール”」
文字通り魂を燃やし、世界を灰とする。
魔神にとってそんなことは容易いこと。世界を壊すことなど朝飯前。
神野による呪圏・影。だが輝く炎を前に、それは触れることすら出来ずに消え去っていく。
もとより勝敗は決まっていた。三千世界の闇と、その闇を打ち消す篝火。ならばどちらが勝つのか。
『――捕らえたぞ、神野陰之』
そう。勝敗は、決まっていた。
対主催。このゲームを終わらせようとする者。
だが彼らもまた、盤上の駒に過ぎない。
駒はルールに則って取り除かれる。例外なく。
殺戮の緞帳はゆっくりと閉じていく。
だが、その舞台の上で未だに役割を演じ続ける者もいた。
彼らは名優か、果てまた観客の慰みモノとなるただの道化か。
彼らが転移し、そこに生きている者は居なくなった。
――もっとも、真っ当な生を諦めたものを生者と呼ぶならば話は別だが。
「……あはっ」
千絵は緩みきった笑みを浮かべた。まるで決壊したダムのような、ある種の清々しさがそこにはあった。
――支払うべき対価はここに。あの女怪の記憶は留めている。
「『だが、おまえが私を見つけだして望んだならば、再び吸血鬼にしてやろう』」
約束された言葉を吐き、自ら陵辱した男の残影を背負って。
彼女はゆらりと立ち上がった。
彼女が辿る未来は分かり切っている。
きっと彼女は再び暗黒に堕ちるまで歪み続けるだろう。
「そうだな――」
銃を突きつけられているという、傍目から見れば致命的な状況の中で、この男の態度は飄々としていた。
(そう。傍目から見れば……ね)
体制と表情を崩さぬまま、風見は背筋を落ちていく冷や汗を感じていた。
一般的に言って、指一本の動きで済む拳銃と最低でも手首以上の稼動が必要なナイフ。
有利なのは拳銃に決まっている。撃つべき弾が込められていて、しかも相手が化け物でなければ、だが。
最悪なことに、その条件は両方ともクリアできなかった。つまり、これは本当に張子の虎でしかない。
この男はそれに気づいているのか。気づいていて、こちらを嬲っているのか。
その弱気な思考を見て取ったかのように、怪物が口元を歪めた。
保守
これは賭けだ。臨也はポーカーフェイスのまま、悟られぬ程度に深呼吸をした。
冗談抜きでそれは最後の呼吸になるかもしれない。
だが持ち駒の無い今、使えるのは王将のみ。ならば躊躇っていても詰められるだけだ。
「俺はあの放送を行った集団の生き残りなんだけど――力を貸して欲しい。
こっちの装備と情報は全部提供する。だから、仲間の仇討ちを手伝って貰いたいんだ」
「あの怪物を殺すのなら、私の協力は不可欠のはずよ」
灰色の魔女カーラが差し出す禁断の果実。
一見、グロテスクなだけのそれは、この場においては如何なる金銀財宝よりも価値がある。
「大した条件ではないはずだけど? ねえ――火乃香?」
取引を持ちかけられた少女は、唇を噛みながら魔女を睨みつける。
「そんなに睨まないで欲しいわね――貴女が犠牲になれば、みんな助かるのよ?
まあ最終的な決定権は貴女に任せるけど……全滅か、一人の死か。よく考えてみなさい」
古来より、魔女との取引は破滅の予兆でしかない。
そしてその取引を跳ね除けられるものがいないこともまた、常だった。
「この世界は――最強の防壁です」
涼宮ハルヒの作り上げた箱庭から帰還した古泉一樹はそう報告した。
「涼宮さんは知っての通り、ああ見えて常識人です。ですからこの奇妙な殺し合いの場においては普通の少女でしかない。
だからこそ、彼女は夢想したのでしょう。平凡な日常。それまで当たり前のように続いていた平穏な日々を」
早い話が現実逃避だ。
別に彼女の精神が特別脆かったというわけではない。正常な人間ならば、大なり小なり誰もがそれを日常的に行っている。
だが涼宮ハルヒには力があった。現実逃避を現実にしてしまう力が。
故に、創り上げる。
いつものように無意識無自覚、そして出鱈目な世界。閉鎖空間を。
「ですが、僕ら"機関"が処理していた通常の閉鎖空間がストレス解消の役目を担っていたのに対し、
この閉鎖空間はいわば保身です。涼宮さんが亡くなる直前に、彼女が死を拒絶したことによって生まれた空間。
それも未完成のね。彼女が望んだのは過去の日常。ありがたいことに、長門さんと僕はそこに含まれていたようです。
僕達が進入すればこの世界は完成します」
そして完成してしまえば、それはひとつの確固たる世界として機能する。
涼宮ハルヒによる新たな世界創造。彼女を取り巻く組織が恐れていた終末がすぐ傍にある。
「単刀直入に言いましょう」
古泉一樹は一度唇を舐めて湿らすと、決定的な言葉をつむいだ。
「僕達が涼宮さんの世界のピースになれば、このゲームからは逃れられます。
この刻印による死も、管理者の手も届きません。彼女がそれを認めないのだから。
僕達は――このゲームから労せずに脱出できます」
「なあおにーさん。するってーと、僕は置いてきぼりかい?」
「ふむ――知り合いのサーカス団員だとでも紹介しましょうか? 意外と認めてくれるかもしれませんよ?」
「ぎゃはは、殺戮奇術の匂宮雑技団ってか? 戯言にも程があるぜおにーさん」
彼らは衝突し、騙し、暴走し、そして儚く散って行く。
果たして血まみれの脚本を破り捨てることのできる者は存在するのか。
走る、奔る、疾る。
幾度も幾度も剣を振るった。
敵は目の前。絶対に、何に代えても倒さなきゃいけない奴が手を伸ばせば触れられるような距離にいる。
「無駄だ。それは心の証明にならない。隙間は、暴力で埋まらない」
――だが届かない。
斬撃の数はすでに三桁に届こうとしていた。だが、掠りもしない。
「……当たれ」
呟く。呪いをかけるように。
皆死んでしまった。
こいつの元に辿り着くまでに、皆死んでしまった。
じゃあ、ここで、自分がこいつを倒せないなら――
「誰一人として私を満足させられる回答を持たなかったのだ。そうだな。ならば、無駄死にといっても差し支えはあるまい」
「当たれぇぇぇえええっ――!」
「……そして君もか」
パリン、というとても呆気ない、まるで飴細工が壊れたような音とともに、剣は砕けた。
「君が、来たか」
「そう。私が、来たよ」
「魔女――十叶詠子」
218 :
イラストに騙された名無しさん:2009/08/19(水) 11:53:30 ID:GnchBYlH
保守
219 :
イラストに騙された名無しさん:2009/08/21(金) 16:52:36 ID:EHGTflz3
上のは嘘予告か…
保守
確か前に避難所で出てた奴だっけ?似たようなのを見た気がするが。
保守
何故かシロちゃんの最期思い出した……
保守
保守
保守
225 :
イラストに騙された名無しさん:2009/11/02(月) 08:04:30 ID:X7PWniZx
保守
保守
229 :
イラストに騙された名無しさん:2009/11/25(水) 21:21:58 ID:CQ4TSolj
追いついた
読み終わるまでに1週間くらい費やしたわ
続きが気になる・・・というか、俺が書くっていう選択肢もあるけれど
でもまとめきれそうにないしなぁ・・・
是非書いて欲しい
231 :
イラストに騙された名無しさん:2009/11/25(水) 22:21:36 ID:CQ4TSolj
書きたいのは山々だが…
知らんキャラが多過ぎるのが壁だよなぁ
>>231 もう誰も文句言わないだろうし知ってるキャラだけ生き残ってる状況まで時間跳躍して書けば
半年振りたが、まだあったかぁ…
何らかの形で終わらしてやりたいな
今思うと参加人数が多すぎた上参戦作品が多かったのかもしれない
イザヤ君の優勝でいいよ
236 :
イラストに騙された名無しさん:2009/12/31(木) 21:31:27 ID:titaaD5Y
面白かった
保守
ハルヒ勢のズカンぷりに驚いた保守
239 :
イラストに騙された名無しさん:2010/02/18(木) 09:07:44 ID:SAQxNWhy
続きが気になる 保守
240 :
イラストに騙された名無しさん:2010/02/23(火) 22:04:42 ID:4eleXos2
続き書きたいって気持ちはあるのだけれど
知らんキャラが多過ぎてどう扱っていいか分からない
それでも楽しんで読めたけれど
かなり力ある書き手が集ってる印象がある。
知らないキャラばっかでも楽しめるのはほんとすごい。ここ読んで原作読んだ話もあるし。
これをまとめられる人がいてくれるなら、本当にすごすぎる。
242 :
イラストに騙された名無しさん:2010/03/11(木) 16:44:16 ID:8mxZ2lbu
保守
続かないかな?
保守
245 :
イラストに騙された名無しさん:2010/04/23(金) 19:40:17 ID:AlC4TRLh
偉大なる未完作か…
246 :
イラストに騙された名無しさん:2010/05/15(土) 04:09:36 ID:xHaJZYAI
まだ一日も終えていない、みんながんばれ。保守
247 :
イラストに騙された名無しさん:2010/05/18(火) 23:50:56 ID:+Cis4lv7
保守。
ぜひ続きを読みたい……
248 :
イラストに騙された名無しさん:2010/06/05(土) 17:26:11 ID:anOA3HFP
ほしゅ
249 :
イラストに騙された名無しさん:2010/06/13(日) 02:32:38 ID:zP5tWe7U
今週見つけて読ませてもらいました
シャナのくだりがすごかったです
まだ完結してないのですね…
……ああー、もう。どうせ独自ルート行った時点で、内情はともあれ外見は自分勝
手なヤツなんだから、べつにサイトの公開くらい好きに行っていいんじゃねえか。正
当性が自分にあるとも思わないが、失うものがあるかどうかさえ見極めて、最低限
の自衛が出来ていたら問題はない。そういう強さも必要だわ。
posted at 06:02:02
何この物言い…
誤爆
252 :
イラストに騙された名無しさん:2010/07/03(土) 06:45:23 ID:E//IdzG0
ほしゅ
253 :
イラストに騙された名無しさん:2010/08/23(月) 15:52:23 ID:K/Sh7wB7
ほしゅ
254 :
イラストに騙された名無しさん:
保守