ラノベ・ロワイアル Part4

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1イラストに騙された名無しさん

"こ の ス レ を 覗 く も の 、 汝 、 一 切 の ネ タ バ レ を 覚 悟 せ よ"
(参加作品内でのネタバレを見ても泣いたり暴れたりしないこと)

※ルール、登場キャラクター等についての詳細はまとめサイトを参照してください。


――――【注意】――――
当企画「ラノベ・ロワイアル」は 40ほどの出版物を元にしていますが、この企画立案、
まとめサイト運営および活動自体はそれらの 出版物の作者や出版元が携わるものではなく、
それらの作品のファンが勝手に行っているものです。
この「ラノベ・ロワイアル」にはそれらの作者の方々は関与されていません。
話の展開についてなど、そちらのほうに感想や要望を出さないで下さい。

テンプレは>>1-10あたり。

2イラストに騙された名無しさん:2005/05/02(月) 10:29:29 ID:0ziiDsFh
ラノベ・ロワイアル 感想・議論スレ Part.10(実際にはpart11)
(感想・NG投稿についての議論等はすべて感想・議論スレにて。
 最新MAPや行動のまとめなども随時更新・こちらに投下されるため、要参照。)
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/magazin/1114965988/

まとめサイト(過去ログ、MAP、タイムテーブルもこの中に。特に書き手になられる方は、まず目を通して下さい)
ttp://lightnovel-royale.hp.infoseek.co.jp/entrance.htm

過去スレ
ラノベ・ロワイアル Part3
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/magazin/1112542666/
ラノベ・ロワイアル Part2
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/magazin/1112065942/
ラノベ・ロワイヤル
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/magazin/1111848281/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/4216/
3参加者リスト(1/2):2005/05/02(月) 10:29:59 ID:0ziiDsFh
3/4【Dクラッカーズ】 物部景× / 甲斐氷太 / 海野千絵 / 緋崎正介 (ベリアル)
2/2【Missing】 十叶詠子 / 空目恭一
3/3【されど罪人は竜と踊る】 ギギナ / ガユス / クエロ・ラディーン
0/1【アリソン】 ヴィルヘルム・シュルツ×
1/2【ウィザーズブレイン】 ヴァーミリオン・CD・ヘイズ / 天樹錬 ×
3/3【エンジェルハウリング】 フリウ・ハリスコー / ミズー・ビアンカ / ウルペン
2/2【キーリ】 キーリ / ハーヴェイ
1/4【キノの旅】 キノ / シズ× / キノの師匠 (若いころver)× / ティファナ×
4/4【ザ・サード】 火乃香 / パイフウ / しずく (F) / ブルーブレイカー (蒼い殺戮者)
2/5【スレイヤーズ】 リナ・インバース / アメリア・ウィル・テラス・セイルーン× / ズーマ× / ゼルガディス / ゼロス×
4/5【チキチキ シリーズ】 袁鳳月 / 李麗芳 / 李淑芳 / 呉星秀 ×/ 趙緑麗
3/3【デュラララ!!】 セルティ・ストゥルルソン / 平和島静雄 / 折原臨也
0/2【バイトでウィザード】 一条京介× / 一条豊花×
4/4【バッカーノ!!】 クレア・スタンフィールド / シャーネ・ラフォレット / アイザック・ディアン / ミリア・ハーヴェント
1/2【ヴぁんぷ】 ゲルハルト=フォン=バルシュタイン子爵 / ヴォッド・スタルフ×
4/5【ブギーポップ】 宮下藤花 (ブギーポップ) / 霧間凪 / フォルテッシモ / 九連内朱巳 / ユージン×
1/1【フォーチュンクエスト】 トレイトン・サブラァニア・ファンデュ (シロちゃん)
2/2【ブラッドジャケット】 アーヴィング・ナイトウォーカー / ハックルボーン神父
3/5【フルメタルパニック】 千鳥かなめ / 相良宗介 / ガウルン ×/ クルツ・ウェーバー× / テレサ・テスタロッサ
4/5【マリア様がみてる】 福沢祐巳 / 小笠原祥子 / 藤堂志摩子 / 島津由乃× / 佐藤聖
0/1【ラグナロク】 ジェイス ×
4参加者リスト(2/2):2005/05/02(月) 10:30:25 ID:0ziiDsFh
0/1【リアルバウトハイスクール】 御剣涼子×
2/3【ロードス島戦記】 ディードリット× / アシュラム (黒衣の騎士) / ピロテース
1/1【陰陽ノ京】 慶滋保胤
4/5【終わりのクロニクル】 佐山御言 / 新庄運切 / 出雲覚 / 風見千里 / ×オドー
2/2【学校を出よう】 宮野秀策 / 光明寺茉衣子
1/2【機甲都市伯林】 ダウゲ・ベルガー / ×ヘラード・シュバイツァー
0/2【銀河英雄伝説】 ×ヤン・ウェンリー / ×オフレッサー
5/5【戯言 シリーズ】 いーちゃん / 零崎人識 / 哀川潤 / 萩原子荻 / 匂宮出夢
2/5【涼宮ハルヒ シリーズ】 キョン× / 涼宮ハルヒ× / 長門有希 / 朝比奈みくる× / 古泉一樹
2/2【事件 シリーズ】 エドワース・シーズワークス・マークウィッスル (ED) / ヒースロゥ・クリストフ (風の騎士)
3/3【灼眼のシャナ】 シャナ / 坂井悠二 / マージョリー・ドー
1/1【十二国記】 高里要 (泰麒)
2/4【創竜伝】 小早川奈津子 / 鳥羽茉理× / 竜堂終 / 竜堂始×
2/4【卵王子カイルロッドの苦難】 カイルロッド / イルダーナフ× / アリュセ / リリア×
1/1【撲殺天使ドクロちゃん】 ドクロちゃん
4/4【魔界都市ブルース】 秋せつら / メフィスト / 屍刑四郎 / 美姫
4/5【魔術師オーフェン】 オーフェン / ボルカノ・ボルカン / コミクロン / クリーオウ・エバーラスティン / マジク・リン×
2/2【楽園の魔女たち】 サラ・バーリン / ダナティア・アリール・アンクルージュ

全117名 残り85人
※×=死亡者
5ゲームルール(1/2):2005/05/02(月) 10:31:01 ID:0ziiDsFh
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
開催場所は異次元世界であり、どのような能力、魔法、道具等を使用しても外に逃れることは不可能である。

【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給される。
「多少の食料」「飲料水」「懐中電灯」「開催場所の地図」「鉛筆と紙」「方位磁石」「時計」
「デイパック」「名簿」「ランダムアイテム」以上の9品。
「食料」 → 複数個のパン(丸二日分程度)
「飲料水」 → 1リットルのペットボトル×2(真水)
「開催場所の地図」 → 白紙、禁止エリアを判別するための境界線と座標のみ記されている。
「鉛筆と紙」 → 普通の鉛筆と紙。
「方位磁石」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。
「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが一つ入っている。内容はランダム。
6ゲームルール(2/2):2005/05/02(月) 10:31:33 ID:0ziiDsFh
※「ランダムアイテム」は作者が「エントリー作品中のアイテム」と「現実の日常品」の中から自由に選んでください。 
必ずしもデイパックに入るサイズである必要はありません。
エルメス(キノの旅)やカーラのサークレット(ロードス島戦記)はこのアイテム扱いでOKです。
また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。

【「呪いの刻印」と禁止エリアについて】
ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「呪いの刻印」を押されている。
刻印の呪いが発動すると、そのプレイヤーの魂はデリート(削除)され死ぬ。(例外はない)
開催者側はいつでも自由に呪いを発動させることができる。
この刻印はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
24時間死者が出ない場合は全員の呪いが発動し、全員が死ぬ。
「呪いの刻印」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
下手に無理やり取り去ろうとすると呪いが自動的に発動し死ぬことになる。 
プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると呪いが自動的に発動する。
禁止エリアは2時間ごとに1エリアづつ禁止エリアが増えていく。

【放送について】
放送は6時間ごとに行われる。放送は魔法により頭に直接伝達される。
放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」「残りの人数」
「管理者(黒幕の場合も?)の気まぐれなお話」等となっています。

【能力の制限について】
超人的なプレイヤーは能力を制限される。 また、超技術の武器についても同様である。
※体術や技術、身体的な能力について:原作でどんなに強くても、現実のスペシャリストレベルまで能力を落とす。
※魔法や超能力等の超常的な能力と超技術の武器について:効果や破壊力を対個人兵器のレベルまで落とす。
不死身もしくはそれに類する能力について:不死身→致命傷を受けにくい、超回復→高い治癒能力
7投稿ルール(1/2):2005/05/02(月) 10:32:04 ID:0ziiDsFh
【本文】
 名前欄:タイトル(?/?)※トリップ推奨。
 本文:内容
  本文の最後に・・・
  【名前 死亡】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
  【残り○○人】※必ずいれる。

【本文の後に】
 【チーム名(メンバー/メンバー)】※個人の場合は書かない。
 【座標/場所/時間(何日目・何時)】

 【キャラクター名】
 [状態]:キャラクターの肉体的、精神的状態を記入。
 [装備]:キャラクターが装備している武器など、すぐに使える(使っている)ものを記入。
 [道具]:キャラクターがバックパックなどにしまっている武器・アイテムなどを記入。
 [思考]:キャラクターの目的と、現在具体的に行っていることを記入。
 以下、人数分。

【例】
 【SOS団(涼宮ハルヒ/キョン/長門有希)】
 【B-4/学校校舎・職員室/2日目・16:20】

 【涼宮ハルヒ】
 [状態]:左足首を骨折/右ひじの擦過傷は今回で回復。
 [装備]:なし/森の人(拳銃)はキョンへと移動。
 [道具]:霊液(残り少し)/各種糸セット(未使用)
 [思考]:SOS団を全員集める/現在は休憩中
8投稿ルール(2/2):2005/05/02(月) 10:32:34 ID:0ziiDsFh
 1.書き手になる場合はまず、まとめサイトに目を通すこと。
 2.書く前に過去ログ、MAPは確認しましょう。(矛盾のある作品はNG対象です)
 3.知らないキャラクターを適当に書かない。(最低でもまとめサイトの詳細ぐらいは目を通してください)
 4.イベントのバランスを極端に崩すような話を書くのはやめましょう。
 5.話のレス数は10レス以内に留めるよう工夫してください。
 6.投稿された作品は最大限尊重しましょう。(問題があれば議論スレへ報告)
 7.キャラやネタがかぶることはよくあります。譲り合いの精神を忘れずに。
 8.疑問、感想等は該当スレの方へ、本スレには書き込まないよう注意してください。
 9.繰り返しますが、これはあくまでファン活動の一環です。作者や出版社に迷惑を掛けないで下さい。
 10.ライトノベル板の文字数制限は【名前欄32文字、本文1024文字、ただし32行】です。
 11.ライトノベル板の連投防止制限時間は20秒に1回です。
 12.更に繰り返しますが、絶対にスレの外へ持ち出さないで下さい。鬱憤も不満も疑問も歓喜も慟哭も、全ては該当スレへ。

 【投稿するときの注意】
 投稿段階で被るのを防ぐため、投稿する前には必ず雑談・協議スレで
「>???(もっとも最近投下宣言をされた方)さんの後に投下します」
 と宣言をして下さい。 いったんリロードし、誰かと被っていないか確認することも忘れずに。
 その後、雑談・協議スレで宣言された順番で投稿していただきます。
 前の人の投稿が全て終わったのを確認したうえで次の人は投稿を開始してください。
 また、順番が回ってきてから15分たっても投稿が開始されない場合、その人は順番から外されます。
9蛇足:2005/05/02(月) 10:33:08 ID:0ziiDsFh
【スレ立ての注意】
このスレッドは、一レス当たりの文字数が多いため、1000まで書き込むことができません。
512kを越えそうになったら、次スレを立ててください。

____
テンプレ終了。
なお、現在のところ投稿宣言中の作品はありません。
10哲学の小径 1/3  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/02(月) 17:59:17 ID:PAL+SMKl
保胤は暗闇の中を歩いていた。
月も星もない、夜ではありえない闇の中、傍らにはあの化け百足、足元に数多の蟲たち。
彼らに敵意は感じられなかった。ただ親しみを込めたようにキチキチと笑うだけである。
その理由が保胤には分かる。彼らは皆、蠱毒の成れ果てだ。
食われたもの。倒れたもの。生き残り、そして退治されたもの。
死は必然とはいえ怨に飲まれた彼らの死は、いずれにせよ安らかなものではありえない。
今、自分は彼らと同じ道の上にいる。
無論、蠱毒がすべてというわけでも無いだろう。あくまでこの殺し合いの一つの側面とし蠱毒の術があるというだけだ。
自分には吸精術があった。使う使わないは別として、本来の威力ならば四方一里に満たないこの島など半刻を待たずに荒野と化す。
今では使ってみないと分からないが、おそらく地図にして1枡ぐらいの範囲の人を気絶させるのがせいぜいだろう。それも自分の死と引き換えに。
まったくもって不便な力だと保胤は思う。諍いを止めることも身を守ることもできない。
また、セルティの話では、自分は千年も過去の人間らしい。
名簿を見ても、見慣れぬ名前のほうが多い。昨日見た夜空の星も自分の知っているものとは少しばかり異なる。
新しい技術や武器、道具。おそらく一人では自分の状況すら満足に理解できないだろう。
だから彼らは笑うのだ。
自分が彼らと同じ立場に立ち、強力で大味ゆえ制限で切り札を失い、しかもこの殺し合いの場で人に頼らなければならないことを、
親しみと侮蔑をもって笑っているのだ。
保胤は暗闇を歩く、道に凹凸はなく歩きやすい。考え事をするにはいい場所だ。
まず、どうすればこの殺し合いをとめることが出来るのか。
いったん蟲毒の壷に入れられて密閉されてしまえば後は利用されるだけである。最後の一人になることに意味は無い。
やはり、これを皆に伝えていくしか無い。幸い電話もある、彼女たちにも手伝ってもらい呼びかけていけば、積極的な殺し合いは少なくなるはずだ。
諍いのさなかに出会ったときも、誰かに襲われたときも、この事を伝えれば、話し合いに応じてくれるだろう。
11哲学の小径 1/3  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/02(月) 18:00:57 ID:PAL+SMKl
それでも先ほどの男のようなものもいる。
身を守るにはやはりある程度強い力のある符が必要になる。墨とつづりに筆、そして霊力のある木と水。
後者の2つは少し入手が困難だろうが、最終的には主催者たちと話し合い、場合によっては争う必要がある。早いうちに用意しておきたい。
と、そこまで考えて保胤は足を止めた。
主催者たちは時間も超えることが出来る。千年後でもそのようなことは不可能だそうだ。
そのような存在が、果たして何を目的にして蠱毒を扱っているのだろう。
蠱毒で得られる効果はいくつかあるが、そこまで高度な術というわけでもない。
保胤は時間を越えるために書を志した。その時間を越えたものたちははるかに格上のはずだ。
しかし保胤ですら蠱毒で得られる程度の効果なら、もっとうまい手段がいくらでもある。
やはり自分の推論が間違っているのだろうか。
保胤はまた歩き始めた。無論、考えるためである。
否、この儀式のようなものが蟲毒でなくとも関係ない。
一人を利用するために一人を選び出すことにはちがいない。
生き残って得られるものは何も無いのだ。皆にそれを理解してもらわなければならない。
かしゃかしゃという足音を聞きながら。保胤は暗闇を歩いていく。

12哲学の小径 3/3  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/02(月) 18:02:58 ID:PAL+SMKl
【A−1/島津由乃の墓の前/1日目・09:45】
『紙の利用は計画的に』
【慶滋保胤(070)】
 [状態]:不死化(不完全ver)、昏睡状態(特に危険な状態ではない) 夢のようなものを見ている
 [装備]:ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている
 [道具]:デイパック(支給品入り) 、「不死の酒(未完成)」(残りは約半分くらい)、綿毛のタンポポ
 [思考]:最後の一人になる無意味さを皆に伝える/静雄の捜索・味方になる者の捜索/ 島津由乃が成仏できるよう願っている


【セルティ(036)】
 [状態]:正常
 [装備]:黒いライダースーツ
 [道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)、携帯電話
 [思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/保胤が起きるまでこの場に待機
[チーム備考]:『目指せ建国チーム』の依頼でゼルガディス、アメリア、坂井悠二を捜索。
       定期的にリナ達と連絡を取る。
13魔女と魔術師 <前哨戦> 1 ◆PZxJVPJZ3g :2005/05/02(月) 18:22:31 ID:A4ETfJww
「さて、とりあえず我々は目的地に到着したわけだが──」
「どうでもいいですけど班長、人に話すときはせめてその人のほうを向いて話すのが礼儀ではない
のですか?」
「いやいや茉衣子くん、我々を監視する者達のためにもこういったパフォーマンスは必要なのだよ」
「そんなパフォーマンス必要ありませんわ」

いつもの尊大な態度で茉衣子の質問に返す宮野。ちなみに宮野の視線の先にある樹木には監視
カメラの埋め込まれた樹があったのだが、今回の話にはまったく関係ないので割愛させていただく。

「しかし班長、今度からあのような方法で向かう場所を決めるのは控えるべきだとは思いませんか?」
「『成功の影に失敗はつきもの』と言うではないか、さしたる問題ではあるまい」
「その方法に問題があったから、こうして申し上げているのですっ!! しかもまだあんな方法で行
く先を決めるつもりですか!?」

宮野に罵声を浴びせた茉衣子は、嘆息した後に目の前にあるものよく観察する。
そこにあったのは、佐山達や悠ニが利用した小屋であった。しかし「小屋」と呼ぶには少々、いや多少
腐敗が進んでいてむしろ「廃屋」と呼ぶべきではないかと思わないでもない。
廃屋の周りも調べてみるが人影はなく、生き物の気配すらまったく感じない。生き物のいない森と
いうのがこうも不気味だとは茉衣子も思わなかったが、逆にそれが安全であるという証明であるなら
仕方がないと自分に言い聞かせる。
仮にあと数分早く着いていれば悠ニと出会っていたのだが、これも今回の話とは関係ないのでどう
でもいいことである。
先ほどからずっと虚空を見つめていた宮野が、やっと口を開いた。

「しかしいつまでもこうしている訳にはいくまい、とりあえず中に入るか」

なんの衒いもなく廃屋の中に進む宮野、そしてそれに付き従うかのように茉衣子が後に続く。口先
では罵倒しながらもこういった場面で付き従うあたり、やはり自分は班長を信頼しているのだと再
認識する。
(まぁ、師と仰ぐべき人間としては最底辺の部類ですけど……)
14魔女と魔術師 <前哨戦> 2 ◆PZxJVPJZ3g :2005/05/02(月) 18:24:06 ID:A4ETfJww
今更どうしようもない事を考えながら、茉衣子は廃屋の中を見渡す。
廃屋の中には、無数に散乱した錆びた工具と2枚の紙切れ、そして水の入ったペットボトル。よく
見れば、それは参加者全員に支給された物と同じだとすぐにわかった。

「それにしても、何でこんなところに水が?」

誰かが一時的にここへ置いたものだろうか? しかし、辺りに人の気配がまったくなかったことを
考えれば、その可能性は全く無いように思える。
すると、横合いから宮野が一枚の紙を茉衣子に差し出した。内容を見ると、尊大な文面でこの水
を有効に活用しろと書いてあった。

「なんとなくですけど、班長と気が合いそうな方のように思えますわ」
「何を言っておるのだね茉衣子くん、正義と真実をこよなく愛する公明正大がモットーの私が、何が
悲しくて悪役志望の偏った思考を持つ変態生徒会副会長と仲良くせねばならんのだ」
「妄想の如き班長の戯言はともかく、この水はどうしましょうか?」
「ふむぅ……」

思案すること数秒、宮野はペットボトルを手にしてこう言った。

「まぁ、さほど気にすることでもないだろう。ここは佐山御言なる人物の厚意に甘えるのも悪くはあるまい」

そう言ってから、宮野はペットボトルの蓋を外す。ご丁寧にも左手を腰に添えて、ペットボトルの中の水を口に含む──

その寸前に宮野は手を止めて、わずかにペットボトルの中の水に視線を向ける。
『どうした? 飲まねぇのか?』
宮野の胸元のエンブリオが話し掛ける。すると突然、宮野は中の水を室内に盛大にぶちまけた。
15魔女と魔術師 <前哨戦> 3 ◆PZxJVPJZ3g :2005/05/02(月) 18:25:16 ID:A4ETfJww
「なっ、何をなさるのですか突然!? 奇特な行動は控えた方がよろしいとあれだけ──」

間一髪で水を避けた茉衣子が、宮野に罵声を浴びせる。しかし宮野の顔を見て、茉衣子は声を出せなくなった。
宮野のその表情はまさしく「戦慄」。普段の宮野からすれば、全く予想出来ない表情である。
(へらへらした班長からこのような表情が見られるなんて、正直意外ですわ……)
いつもの宮野からは想像出来ないその表情に、茉衣子は僅かに心を奪われたがすぐに正気に戻った。

「突然どうしたのですか班長? その水に何か異常でもあったのですか?」
「……分からん。 だが何か毒のようなものが入っていたかも知れん」
「毒!?」
「本当に毒だったのかは分からん。だがコレを飲むと、なんとなく危険なような気がしたのだよ」

額に浮かんでいた脂汗を、白衣の袖でぬぐう宮野。

「しかし、一体誰がこのような事を……」
「それも分からん。 佐山御言なる人物の厚意を利用したものか、本人が仕組んだものかさえな」
「……」

沈黙が廃屋の中を漂う。
その中で二人は、これが生死を賭けた椅子取りゲームであることを結果的に再認識することになった。

16魔女と魔術師 <前哨戦> 4 ◆PZxJVPJZ3g :2005/05/02(月) 18:26:13 ID:A4ETfJww
【今世紀最大の魔術師(予定)とその弟子】
【Eの5/廃屋の中/1日目・8時23分)】

【宮野秀策】
[状態]:健康
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)・エンブリオ
[道具]:通常の初期セット
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。

【光明寺茉衣子】
[状態]:健康
[装備]:ラジオの兵長
[道具]:通常の初期セット
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。


[備考]
廃屋内にあったペットボトル(詠子の血入り)は破棄、「物語」はまだ読んでいません。
廃屋内にあったペットボトルの中に、毒物に類するものが混入されていたと考えています。
ペットボトルに毒物を混入した犯人として、佐山御言が挙げられています。ただし同時に佐山御言の名を利用した行為であるとも考えています。

<前哨戦>
● 魔女VS魔術師 ○
決め技:宮野の直感(と言うかEMP能力の一端)
17殺戮者と姐さん1/2 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/02(月) 20:22:04 ID:JO36UuIi
 石碑より脱出した二人は、森の陰に隠れて互いの情報を交換していた。
 互いの捜索する相手や、これまで出会った者たちの様相、行動。
 そして――
「物部景という少年が死亡。放送の分を加え、現在確認された死者は24人か」
「ええ。私がもう少ししっかりしていれば、アイツも死なずに……」
 青い殺戮者は、何を言えばよいのか分からない。
 ――昔にも感じた困惑だ。
 と、その思いを敏感に感じ取ったのか、風見が苦笑を浮かべ。
「ごめん。今言うべき事じゃないわね……とりあえず暫く時間を置いて戻って、アイツを埋葬して、それから――?」
「そのまま地下を探ってみたい。何か有益な情報が得られるかもしれない」
 火乃香、パイフウは放っておいても死にはしないだろうという確信がある。
 むしろ禁止エリアが増えてからの方が探し出せる確率は高いだろう。
 しずくがこの状況で生存できるかは不安要素が多いが、焦燥から無茶な探し方をしても我が身を危険に晒すだけで益は無い。
 ……ならばやはりエリアが狭まるのを待つべきだと、青い殺戮者は判断する。
「次の放送を待ち、禁止エリアの指定によって発生する人の流れを地下に潜って回避」
「そして地上が再び落ち着くまで地下を探り、狭まったエリアの中で目標の七人を捜索、ね」
 青い殺戮者は、得られた情報を元に再び思考。
 まず、自分の目的は正常な命令系統への復帰。
 そしてそのために情報を収集し、それを火乃香に届け、恐らく脱出のために動いているであろう彼女に協力する。
 途中、可能な限りはパイフウ、そしてしずくとの合流を果たしたい。
 ここまでが単独行動時の思考。
 これに加え、風見の話に出てきた佐山、新庄、出雲、オドーの四人を捜索対象に追加。
 恐らく彼女の思いは、自分がしずくを気にかけるものと同質だと判断し、優先順位は同格に。
 更に、風見は己の武器である槍を探しているという。
 原始的な武器だが、火乃香のカタナのような事例もあるため侮るわけにはいかない。
 優先度を一段落として、捜索の対象に。
 そして二人は、静かに放送を待つ――
18殺戮者と姐さん2/2 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/02(月) 20:23:06 ID:JO36UuIi
【D-4/森の中/1日目・11:05】

【蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)】
[状態]:少々の弾痕はあるが、異常なし。
[装備]:梳牙
[道具]:無し(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:風見と協力して、しずく・火乃香・パイフウを捜索。脱出のために必要な行動は全て行う心積もり。
[備考]:BBと風見は次の放送を待ってもう一度地下に潜るつもり。

【風見千里】
[状態]:精神的に多少の疲労感はあるが、肉体的には異常無し。
[装備]:グロック19(全弾装填済み・予備マガジン無し)、頑丈な腕時計。
[道具]:支給品一式、缶詰四個、ロープ、救急箱、朝食入りのタッパー、弾薬セット。
[思考]:状況を整理したい、仲間と合流。景を埋葬したい。
[備考]:BBと風見は次の放送を待ってもう一度地下に潜るつもり。
19遭遇:魔人と悪役と魔女の場合1/3 ◆MvRbe/bNEg :2005/05/03(火) 01:39:05 ID:r+0I4lYH
 甲斐と情報交換から数分後、佐山と詠子は森の中で息を潜めていた。
 二人の視線の先には一人の少女がいる。
 年齢は自分達と同じくらいであろう。幾分やつれた顔をしながら草原を南に向かって歩いている。その足取りは重い。
 すぐにでも声を掛け、その不安を取り除き感謝されたいところが、そうもできない理由がある。
 服が血塗れなのだ。
「ゲームに乗った子…… なのかなあ?」
「……その可能性は否定できないが、見たところ彼女は凶器となるような物を持っていない。
 彼女が我々の知る一般的な人間の少女であるならば、素手で殺人を行う事はまず不可能だろうね」
「……んー、視た感じは……普通の人間? ……に何か別のモノが混ざった感じ? 今は“狂気の現身(うつしみ)”さんかなあ」
「別の者? 二重人格の類かね?」
「……あー、そうじゃなくてねえ。んー、何か別の強い存在が巣食っている、とでも言った方が良いのかな」
「ふむ……。その間借り人が何者であれ、彼女自身に敵意があるようには思えない。話し合う余地はあるだろう」
 いいね? と言った佐山に詠子は頷いた。
 ──この子、とても興味深いしね。

 詠子の了承を得た佐山は勢い良く草むらから立ち上がり、大声で少女に呼びかけた。
「私は佐山御言、自他共に認める世界の帝王だ! こちらに敵意は無い。ゲームに乗っていないのであれば話し合おう!」
 少女、──福沢祐巳は突然森の中から現われたソレに驚き、そして、
「い、いやあぁぁぁぁぁ!!」
 市街地に向かって逃げ出した。
20遭遇:魔人と悪役と魔女の場合2/3 ◆MvRbe/bNEg :2005/05/03(火) 01:39:42 ID:r+0I4lYH
「待ちたまえ!」
 森から飛び出した佐山は祐巳を追走。
 ──逃げたと言う事は、ゲームには乗っていないと判断していいだろう。
 ──それならばなおさら、ここでしっかり話し合い、良好な関係を築いておくべきだ。
 心の中でプランを練りつつも数秒で追い付き、腕を掴んだ、
「君に危害を加えるつもりは無い。私の話を聞いて欲しい」
「わっ、離してっ!」
 祐巳は抵抗する。
「落ち着きたまえ。お互いに冷静になろうではないか」
「うるさい化け物!」
「化け物? ……サッシー3か!? 何処にいる!?」
「鏡を見ろーっ!」
 ──鏡か。そういえば今朝はチェックをしていなかった。
 私とした事が。そう思い、空いている手で頭を抱える仕種をしようとする。
 が、指は髪に届かず、代わりに大量のベタベタした種が指に纏わりついた。
 ……おやこれは──?
「……法典君、頭が凄い事になってるよ?」
 遅れてやってきた詠子が指摘する。
「……凄い?」
「……あれ、普通の人も一緒?」
 詠子を見て、幾分冷静さを取り戻した祐巳の腕から手を離し、佐山は自らの頭を調べる。
 支給品に鏡は無かったので、メスを代わりにして自分を見てみた。

 ……紫に変色した納豆のような種を山のごとく頭に乗せている自分がいた。
21遭遇:魔人と悪役と魔女の場合3/3 ◆MvRbe/bNEg :2005/05/03(火) 01:41:18 ID:r+0I4lYH
【残り85名】

【D-4/草原/1日目・10:35】

【福沢祐巳】
[状態]:健康。
[装備]:保健室のロッカーに入っていた妙にえっちなナース服(血まみれ) ヴォッドのレザーコート
[道具]:ロザリオ、デイパック(支給品入り)
[思考]:この人達は?
    お姉さま・潤さんに逢いたい みんなを守ってみせる 聖様を救う 食鬼人のことは秘密 子爵に対して疑念を抱く
[備考]:自身がアメリアを殺したことに気づいていません

【佐山御言】
[状態]:健康。
[装備]:Eマグ、閃光手榴弾一個、メス
[道具]:デイパック(支給品一式)、地下水脈の地図
[思考]:1.仲間の捜索。2.地下空間が気になるが。3.少女と会話。

【十叶詠子】
[状態]:健康。
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:1.元の世界に戻るため佐山に同行。2.物語を記した紙を随所に配置し、世界をさかしまの異界に。3.少女の魂の形を見極めたい。
22 ◆MvRbe/bNEg :2005/05/03(火) 10:04:07 ID:EELrIKQ7
>>19-21はNGにします。
23イラストに騙された名無しさん:2005/05/03(火) 10:07:02 ID:d/Smff/V
      ∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧
    <     なんだってーーーーーーーーーー!!!!!        >
      ∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨
            ,. -─- 、._               ,. -─v─- 、       _
            ,. ‐'´      `‐、          , ‐'´        `‐、, ‐''´~   `´ ̄`‐、
       /           ヽ、_/)ノ   <         ヽ‐'´            `‐、
      /     / ̄~`'''‐- 、.._   ノ   ≦         ≦                ヽ
      i.    /          ̄l 7  .....1  イ/l/|ヘ ヽヘ ≦   , ,ヘ 、         .i
      ,!ヘ. / ‐- 、._   u    |/  / ̄l |/ ! ! | ヾ ヾ ヽ_、l イ/l/|/ヽlヘト、       |
.      |〃、!ミ:   -─ゝ、    __ .l /  ...レ二ヽ、 、__∠´_ |/ | ! |  | ヾ ヾヘト、    !
      !_ヒ;    L(.:)_ `ー'"〈:)_,` /.|\  riヽ_(:)_i  '_(:)_/ ! ‐;-、   、__,._-─‐ヽ. ,.-i、
      /`゙i u       ´    ヽ  !..|(・)  !{   ,!   `   ( } ' (:)〉  ´(:.)~ヽ  |//ニ !
    _/:::::::!             ,,..ゝ!...|⊂⌒.゙!   ヽ '      i゙!  7     ̄     | トy'/
_,,. -‐ヘ::::::::::::::ヽ、    r'´~`''‐、  /....| |||||||||!、  ‐=ニ⊃   / !  `ヽ"    u    i-‐i
 !    \::::::::::::::ヽ   `ー─ ' /  ......\ ヘ_ ..ヽ  ‐-  /  ヽ  ` ̄二)      /ヽト、
 i、     \:::::::::::::::..、  ~" /    .........\__..ヽ.__,./   //ヽ、 ー         / ゝ
 .! \     `‐、.    `ー:--'´       ./  .//イ;;:::::    //〃 \   __,. ‐' ./ / \
  ヽ \     \   /       ..⊂ (    ./  /i:::::.   //      ̄ i::::  / /
24存在しえない守るべき者 ◆lmrmar5YFk :2005/05/03(火) 14:11:53 ID:82vV6hBz
「本気…? もちろんです…。だって、ミラを、たす、けなきゃ…」
撃たれた腿を押さえながらもきっぱりとそう言い放つ青年に、古泉一樹はとりあえず肩を貸した。
何とか立ち上がる彼に、古泉は再び声を投げかける。
「ミラさん…ですか。その人を探しているんですか?」
向き合った相手がこくりと頷く。その顔に先ほどまでの修羅の如き恐ろしい表情はない。
「れが…俺が、守らなきゃ、いけ…ないんです、…ミラはまだ…ちい、さいから」
青年は、脚の痛みも気にせずに必死に訴える。
吐く呼吸が少し荒くなっているのは、銃創のせいというよりも『ミラ』を思い出したことによる焦りや興奮からだろう。
「なるほど…」
古泉は目の前の青年にそう言うと、不審気に思うのを顔に出さず、持っていた名簿を片手で取り出した。
ざっと一瞥すると、彼の記憶は正しくその紙に『ミラ』という名は載っていなかった。
顔に貼り付けた笑みを絶やさないまま、古泉は目まぐるしく考える。
この人がミラという少女を探そうとしているのは間違いないようですね。
もしも楽に殺人を行うために人探しの振りをしているのだとしたら、さすがにどんなに馬鹿な人でも名簿にある名前を口にするでしょう。
そもそも、この状況下ではだまし討ちをする必要もないはずですし…。
武器も防具も何一つ無い己の有様を思い、古泉は心中苦笑した。
いくら傷を負っているとはいえ、あちらは銃を手にしているんです。あれでずどんと一発やればいいだけですからね。
この近距離なら、特に狙わずとも身体のどこかに当てることくらいは難しくないでしょうし。
それをしないということは、やはり彼は本心からその人を見つけようとしていると考えて間違いはないようです。
しかし、それならばなぜ彼はこの場にいない者を探そうとするのでしょうか…?
古泉は青年の思惑を推測する。とりあえず思いつくのは二つのケース。
一つは、彼が何らかの理由でまだ名簿を見ていない場合。
もう一つは、名簿の既未読に関わらず、彼が『ミラ』をこの島にいると勝手に思い込んでいる場合。
一体、どちらなんでしょう? 前者ならともかく、後者の場合はちょっと厄介になりそうですね。
先刻銃を振り回していたときの恐ろしいまでの形相を思うに、彼は思い込みが激しい―もっと言えばごく近視眼的で視野の狭い人間のようです。
25存在しえない守るべき者 ◆lmrmar5YFk :2005/05/03(火) 14:13:14 ID:82vV6hBz
それに加えて狙撃銃の所持、見たところ戦闘経験も十分にありそうなことを加味すると、下手に刺激するのはまずいかもしれません。
ただ、主催者打倒を掲げていることを思えば、決して味方になりえない訳ではないでしょう。
あれほど高い戦闘能力。上手く恩を売って仲間にすれば、こちらの人探しが容易になるかもしれません。
古泉は、とりあえず『ミラ』の名が名簿に無いことをこの場で指摘することは止めることにした。
…それを指摘して向こうの逆鱗にでも触れることがあれば、その瞬間に僕の命はお終いですからね。
「とにかく、一旦どこかの部屋に行きましょう。傷の手当てをした方がいいですから」
相手を肩に抱いたままずるずるとホールの脇に延びる廊下を歩く。
突き当たった端に物置のような小さな部屋を見つけ、人の気配がないのを確認してそこに入った。
室内は様々なガラクタがうず高く積まれ、お情け程度に敷かれた灰色の絨毯には一面にうっすらと埃が積もっている。
かび臭いそこに眉をひそめながら、運んできた相手を床に座らせると、古泉は室内をぐるりと見渡した。
窓に近づき、そこに掛けられた色褪せた薄手のカーテンを力任せに引き裂く。細長い短冊状になったそれを、青年に手渡した。
「もっと使えるものがあるかと思ったんですが、ちょっと見つかりませんね。…とりあえずこれで止血してください」
青年は渡された布きれを手に取ると、痛みに顔をしかめながらペットボトルに入った水を傷口にばしゃばしゃと掛けた。
流れ出る血が、汚れた絨毯に染み込んでいく。青年は撃たれた腿に器用に布を巻きつけると、端をぎゅっときつく縛り上げた。
「く、い、痛…っ」
苦悶の表情で歯を噛み締める彼の、そのすぐ隣の床に無造作に置かれた銃をちらりと見て古泉が言った。
「少し眠った方がいいですよ」
「そんな、で、できません。だってミラが…」
心底心配そうに言うその言葉に、古泉はにこりとして答えた。
「大丈夫ですよ。僕がちゃんと見ていますから。もし彼女を見つけたら、すぐに貴方を起こしてしらせます」
「でも…」
言い淀む相手に、古泉は駄目押しとばかりに言葉を重ねる。
まずは彼にある程度の回復をさせねばならない。この傷で共に城を出るのでは、手駒として使うどころか足手まといになってしまう。
26存在しえない守るべき者 ◆lmrmar5YFk :2005/05/03(火) 14:14:02 ID:82vV6hBz
彼の怪我が最低限治まったら、ここを脱出して長門さんを探しに行く。『ミラ』については、道中で適当に話を合わせておけばいい。
わざわざ自分から彼を襲ってまであの銃を奪うつもりはない。
そんなリスクの高い賭けをしても得られる物は少ないし、そもそも自分には人を殺傷できるに足る銃撃の腕がない。
あんなに巨大な銃だ。自分などではまともに扱うことさえ不可能だろう。その点、彼がいれば使用者には困らない。
銃単体ではなく狙撃手ごとを己の武器に出来れば、あるかどうかも分からない包丁などを探すより、より高確率で戦闘能力を高められる。
強い者の利用と操縦。それこそが、今の自分に実行できる数少ない生き残るすべだ。
「その怪我でミラさんを守れるんですか? 貴方には休息が必要ですよ」
「でも…」
眼前の彼が放った単語は二度とも同じものだった。だが、それを口にした時の表情は一度目と二度目で真反対に豹変していた。
刹那、青年は脇に置かれた銃を神速のスピードで抱えると、銃口を無機的に古泉に向けた。
引き金に掛けた指に力が込められる。
―――――タンッ!
鋭い銃声が狭い室内に響く。一瞬の後、古泉は業火が燃えるような激痛に襲われた。
見れば、左肩にぽっかりと開いた穴からどくどくと血が溢れ出ている。
「なっ…」
驚いたような顔で相手を見つめる古泉には気にもとめずに、青年は急ぎ足で部屋から出て行った。
無感動な、それでも何かを決意したような声で台詞の続きを呟きながら。
「でも、それでも俺は…ミラを守らなきゃいけないんです…」
27存在しえない守るべき者 ◆lmrmar5YFk :2005/05/03(火) 14:14:53 ID:82vV6hBz
【残り85名】
【G-4/城の中/1日目・07:30】

【アーヴィング・ナイトウォーカー】
[状態]:情緒不安定/修羅モード/腿に銃創(止血済み)
[装備]:狙撃銃"鉄鋼小丸"(出典@終わりのクロニクル)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:主催者を殺し、ミラを助ける(思い込み)


【古泉一樹】
[状態]:左肩に銃創
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式) ペットボトルの水は溢れきってます
[思考]:長門有希を探す/怪我の手当て
28子連れクライマー(1/5) ◆1UKGMaw/Nc :2005/05/03(火) 17:51:20 ID:XQBC+uY8
「ねえ、覚」
「なんだ、アリュセ」
「……なんで私達こんなとこにいるんですの?」
 コアラの親子よろしく覚の背中にへばり付きながら、半眼のアリュセがぼやいた。
「なんでってそりゃお前……」
 答えようとした時、覚の右手が掴んでいた岩がボコッと音を立てて外れた。
「お?」
「きゃああああ! また!!」
 耳元でアリュセの悲鳴を聞きながら覚は掴んでいた岩を離すと、
「なんのっ!」
 はっしと別の岩を掴み、身体を固定する。
 一呼吸分間を置いて、『ふぅ……』と二人は同時に息をついた。
 今離した岩はその間に眼下の森に落ちて行き、木に隠れて見えなくなる。
 二人の現在位置は、なんと崖の中腹である。
 地図で言えばF-3に当たる。F-4との境界線に程近いその場所に、覚とアリュセはいた。

「……あ〜、なんだっけ?」
「な・ん・で・こ・ん・な・と・こ・に・い・る・ん・で・す・の・?」
 ぷぅと頬を膨らませ、アリュセはジト目で覚を睨む。
「いや、仕方ねーだろーが。なんかえらいヤバそうな奴だったしよ」
 二人が目指すのは島の北西にある市街地である。
 崖の東を抜けて倉庫の辺りまで進み、そこから北上するつもりだったのだが、森の入り口あたりで異様な風体の"何か"を見つけたのだ。
 なにやらふもっふもっと鳴きながら、地響きでも立てそうな感じで練り歩いている"何か"を。
 その"何か"とは、もちろん小早川奈津子その人である。
 毛唐を追って散々あちこち走り回った挙句、結局撒かれてしまった奈津子は、いつの間にか『あたくしの僕佐山』+1とはぐれていることに気がついた。
(佐山もきっとあたくしとはぐれて心細い思いをしているでしょう。おお可哀想に……待ってなさい、あたくしが今迎えに行ってあげてよ!)
「ふもぉーーーーっふもっふもっふもっ!!」
 不気味に哄笑するその姿を見て、関わらないほうがいいと判断。接触を避けて進むことにした。
 実は目的地が同じだったりするのだが、もちろん覚とアリュセはそんなことは知らない。
 だが、その"何か"が自分達と同じ方向へと進んでいたことは、二人にとって問題だった。これでは、やり過ごして先へ進むというわけにはいかない。
29子連れクライマー(2/5) ◆1UKGMaw/Nc :2005/05/03(火) 17:52:19 ID:XQBC+uY8
 それで東西どちらかへ回りこむことにしたのだが、これもまた問題だった。
 普通ならば東へ回り、中央の森を掠めて北西へ進むのだろう。
 だが、ここに一味違った男がいた。
「そっちにも何かいるかも知れねーだろ。ここは誰もいないルートを進むぜ」
 そして西回りへ。
 確かに誰もいないルートであったが、それは人が通る道ではなかったから、というか道ですらなかったからだろう。
(……馬鹿ですわ)
 天を仰いだアリュセの顔に縦線が入っているのは見間違いではあるまい。
 左腕を怪我しているというのにロッククライミングなど、馬鹿としか思えない。
 フォローのために、アリュセはさっきから飛行魔術を使いっぱなしだ。
 まぁ、それ自体は常日頃使っているものなので、苦にはならないのであるが。
 むしろ歩いてる時間より飛んでる時間のほうが長いのだ。

「大丈夫だって。この程度の崖、俺にとっちゃ障害にもなりゃしねぇ」
「その割には、もう二回も落ちてますわよ」
「何言ってんだ、そんなの百回に一回もない超レアイベントだ。お前、歴史の証人になれたんだぞ」
「また訳の分からない理由で誤魔化す……」
「アリュセよぉ。お前、がきんちょの癖に細かいこと気にしすぎだ。禿げるぞ?」
「禿げませんわよ! レディに対して失礼ですわ!」
 始終こんな調子で会話しながら、ほいほいと登っていく。
 魔術のフォローがあるとはいえ、左腕の怪我をほとんど感じさせない登りっぷりだ。
 慣れてきたのか、むしろスピードが上がっている。
(……しかも体力馬鹿ですわ)
 二回落ちて、登るのは三回目だというのに、呼吸はほとんど乱れていない。
 この男の体力は本当に無尽蔵かと疑いたくなってきた。
 見る見るうちに頂上が近づいてくる。
「今度こそ登りきれますわよね?」
「おお、まかせろ。昔っから言うだろうが、二度あることは三度ある」
「それを言うなら三度目の正直ですわよ……」
 ぐったりとした感じで覚の肩にあごを乗せた。

30子連れクライマー(3/5) ◆1UKGMaw/Nc :2005/05/03(火) 17:53:13 ID:XQBC+uY8
(ま、正解っちゃ正解だったわな)
 覚は思う。
 予想した通り、アリュセのフォローのおかげでかなり楽に登ることが出来る。
(しかも、落ちても全然大丈夫だしな)
 それも見越してのこのルートだ。
 このコンビだからこそ移動できる場所と言えるだろう。
 覚としては、今は出来るだけ人に会いたくはないのだ。
 自分は怪我を負っている上に、武器は何一つとして持っていない。
 アリュセが攻撃魔術も使えることは聞いているが、だからといって彼女に戦わせようとは微塵も思っていなかった。
(街でなんか武器になるものを見つけるしかねぇな)
 それまでは、出来るだけ人と接触しない方向で進む。
 そう覚は決めていた。
 だが、そう決めたからといって確実に人と出会わないかというと、そうではないわけで――
31子連れクライマー(4/5) ◆1UKGMaw/Nc :2005/05/03(火) 17:54:15 ID:XQBC+uY8
「よう」
 ようやく頂上まで辿り着いた二人を、仁王立ちした女子高生が待っていた。
 二人の顔に緊張が走る。
「なんでこんなとこに人が……って顔してるな。あれだけ騒いでいれば誰だって気づくだろ」
 女子高生――霧間凪は呆れたようにそう言った。
 とはいえ、そんなに遠くまで声が聞こえていたわけではない。
 凪が……あ〜、その、つまりなんだ、不浄のために仲間から離れてこちらまで来ていなければ、気づくことはなかっただろう。
(……やっぱり馬鹿ですわ)
 凪の言葉にアリュセは後悔する。
 覚も馬鹿だが自分もだ。
 まだ自分達は崖の縁にしがみついたままなのだ。
 彼女がゲームに乗っていて、かつ飛び道具でも持っていたらその時点で終わりだろう。
 そのアリュセの表情を読み取ってか、凪は苦笑しつつ口を開いた。
「心配するな。俺は殺し合いをする気はないし、あんたらもそうだろう? いいから上がって来いよ」
 だが、覚はその言葉に反応せず、じっと警戒したような目つきで凪を見る。
「どうした? まさか女一人が怖いってわけじゃないだろ」
 その言葉に、ようやく覚は反応する。
 凪を見上げ、真剣な表情のまま呟いた。
「……ブルーのストライプか」
 覚の顔面に凪の靴の裏が炸裂した。


32子連れクライマー(5/5) ◆1UKGMaw/Nc :2005/05/03(火) 17:55:33 ID:XQBC+uY8
【覚とアリュセ+炎の魔女】
【F-3/崖の淵/1日目・08:50】

【出雲・覚】
[状態]:左腕に銃創あり(出血は止まりました)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/うまか棒50本セット/バニースーツ一式
[思考]:千里、新庄、ついでに馬鹿佐山と合流/アリュセの面倒を見る


【アリュセ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:リリア、カイルロッド、イルダーナフと合流/覚の面倒を見る


【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 サバイバルナイフ 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:こいつらをどうしようか

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【F-4/森の入り口付近/1日目・08:20】

【小早川奈津子】
[状態]:右腕損傷。殴れる程度の回復には十分な栄養と約二日を要する。
[装備]:コキュートス / ボン太君量産型(やや煤けている)
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:1.竜堂終と鳥羽茉理への天誅。2.傷が癒えたらギギナを喰らい尽くす。美しくない異国人は敵。
     3.佐山を追って市街地を目指す
33凶姫乱舞1 ◆CDh8kojB1Q :2005/05/04(水) 08:00:52 ID:rUaO3ciF
ヘイズが半身のまま指先を前に突き出す特異な姿勢へ移行し、
接近戦の覚悟を決めたその時。
ヘイズと同じく森まで押し戻されたコミクロンは一つの決断をした。

「ヴァーミリオン、俺はエドゲイン君を探す。そいつの相手は任せた!」
叫んで森の奥へ走り去る。
だが逃走ではない。
なぜなら自分とヴァーミリオンは魔術と論理回路の同時発動が出来ず、
援護攻撃できる武器が無い現状では近接戦は不利だからだ。
ギギナと戦い腕を斬られた事が頭を過ぎる。
ならば相手の行動予測が可能がヴァーミリオンが相手を足止めしている間に
自分が武器を探して同時攻撃を仕掛けた方が効率が良い。

「エドゲイン君は確実にここら辺にあるはずだ」
ギギナは剣を持っていた。
両手持ちのエドゲイン君を持っていくとは思えないし、
あの男の戦闘スタイルからして、わざわざ飛び道具を使用するとも思えなかった。


森の奥に向かって疾走を始めたコミクロンを確認し、
ヘイズはドレスの女へ向き直った。
(何でバンダナが逃げてコイツがここに残ってるんだよ…!)
最初は囮かとも思ったが、バンダナが戻ってくる気配は無い。
「ま、向こうから見りゃこっちも同じようなもんか」
肩を落としつつ接近戦に備える。
<I−ブレインの動作効率を85%から95%に再設定。未来予測開始>
「そんじゃまあ、威嚇攻撃といきますか」
<予測演算成功。『破砕の領域』展開準備完了>
こちらに向かって突撃してくる女の剣を狙って指を鳴らす。
パチンッ
論理回路が形成され、女が剣を落と――さなかった。
「なんだと!情報解体が効かねえのかよ!まさか…騎士剣か!」
34凶姫乱舞2 ◆CDh8kojB1Q :2005/05/04(水) 08:02:26 ID:rUaO3ciF
現時点で自分が捜索し、しかし自分と最も相性の悪い武器――騎士剣
情報的にも物理的にも強固なこの剣は、
能力低下中の『破砕の領域』では傷一つ付ける事はできないだろう。
「やばい…銃さえあれば…」
後悔先に立たず、もう女は5メートル程手前まで接近してきている。
砂袋を探すためデイパックに手を入れたヘイズは、ある物に気づいた。
「こんな物でも、一回くらいなら…」
意を決してヘイズは女の行動を予測し始めた。

3メートル手前で女は更に加速。
寸分違わずヘイズの頚動脈を狙って超高速の一撃を放つ。
常人なら反応すらできない速度の斬撃、しかしそれは目標を大きく外れ、虚しく空を切る。
ヘイズは足を軸にして背中から回転し女の側面へ回り込む。
対して女は更に素早い回転でヘイズを正面に捕らえ払い切りを叩き込む。
それすら予測しているヘイズは既に射程の一歩手前に後退している。
それは戦闘を超越していた。
近づき、離れて、回転し、しかし決してぶつからず。
それは舞踏。
赤いふたりは森で華麗に舞っていた。
35凶姫乱舞3 ◆CDh8kojB1Q :2005/05/04(水) 08:03:14 ID:rUaO3ciF
だが舞踏は唐突に終わりを告げる。
赤い男、ヘイズは消臭剤を投擲する。
赤い女は右手の剣でそれを打ち落とした。
ヘイズは更に砂袋を投擲。
反射的に女はそれを左手の剣で打ち落とす。
袋が破け、砂が女の視界を潰す。
さらには両手で防御に回ったために斬撃の嵐が一瞬途切れる。
<予測演算成功。『破砕の領域』展開準備完了>
「悪いな、我慢してくれ。アンタは隙が無さ過ぎるんだ」
パチンッ
ヘイズが狙ったのは騎士剣ではなく右手首だった。
血管と共に腱が切れ、出血と共に剣が落ちる。
女の脇に飛び込み剣を掴む。
(は〜、やっと目標の一つをクリアか…先が思いやられるぜ)

しかしそれを思うのもつかの間だった。
女はドレスを切って止血をすると、先ほどの倍の早さで斬撃を繰り出す。
「おいおい舞踏の再開かよ」
しかも今度は二倍速だ。
予測可能で今度は防御可能とはいえこちらに女を殺す気が無いので、
どうしても押され続けることになる。
剣戟音が響く中ヘイズはぼやく。
「今度は流石にヤバイな…コミクロン、マジで急げよ」
白衣のおさげからの答えは返ってくるはずも無く、目の前の女は常に無言のままだった。
36凶姫乱舞4 ◆CDh8kojB1Q :2005/05/04(水) 08:07:09 ID:rUaO3ciF
突然、女が木の枝を切り飛ばしてきた。
先ほどの自分の攻撃同様、次が来るかとヘイズは構える。
しかし、女が取った行動はヘイズを驚愕させた。
「斬るのは木その物かよ…」
細木だったので女の剣速と騎士剣の硬度なら不可能ではない。
破砕音と共にヘイズめがけて倒れてくる。
「発想のスケールで…負けただと、くそっ」
ヘイズは横っ飛びで木を回避するがそこには女が立っている。
死神に見えるのは気のせいではあるまい。

死神はその左手で必死の一撃を繰り出した。
ヘイズに高度演算能力が無ければそれは確かに必死だった。
しかしヘイズは軌道を予測し、僅かに体を逸らした。
結果、剣は心臓を逸れ、しかしヘイズの左肩に突き刺さった。
「ぐああああああぁぁぁぁぁ!!」
絶叫が森にこだました。 
37凶姫乱舞5 ◆CDh8kojB1Q :2005/05/04(水) 08:09:38 ID:rUaO3ciF
【F-5/北東境界付近/1日目・11:06】(火乃香が戻り始める直前)

【シャーネ・ラフォレット】
[状態]:右手首負傷、疲労
[装備]:騎士剣・陽
[道具]:デイパック(支給品一式) 
[思考]:1、赤髪・三つ編みを攻撃 2、クレアを捜す

【凸凹魔術師】
【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:左肩負傷、疲労
[装備]:騎士剣・陰
[道具]:支給品一式 ・有機コード
[思考]:1、オレ、死にそうだ。火乃香らと交渉に失敗? 2、刻印解除構成式の完成。
[備考]:刻印の性能に気付いています。


【コミクロン】
[状態]:軽傷(傷自体は塞いだが、右腕が動かない)
[装備]:未完成の刻印解除構成式(頭の中)
[道具]:無し
[思考]:1、エドゲイン君回収。戦闘が終わったから相手との平和交渉、情報交換 
    2、刻印解除構成式の完成。3、クレア、いーちゃん、しずくを探す。
[備考]:服が赤く染まっています。


【備考】シャーネ大暴れ中。火乃香が接近中。両チームとも海上遊園地へ向かう。
38彼女の選択 1/6 ◆69CR6xsOqM :2005/05/04(水) 09:48:27 ID:rGRJDDfJ
血だまりを後に少し進んだ場所で……福沢祐巳は足を止めた。

どくん

祐巳の視線の先にあるのは……明らかに人為的に盛り上がった土と
その上に置かれた両手で抱えるくらいの石。
石には何も刻まれてはいない。しかし墓だということは充分に認識できた。

どくん どくん

恐らくは、あの少女の墓。子爵が作ったのだろう。
いや、子爵は……でも……もしかしたら。

どくん どくん どくん

近づく。
一歩を踏み出すたびに心臓が跳ねた。
全身の血液が沸騰しているかのように熱い。

どくん どくん どくん どくん

背中に広がる赤に染まった草原を思い出して体が異常に火照り始めていた。
この、名も無き墓を見てから。

どくん どくん どくん どくん どくん

頭の中に浮かんでは消える悪夢の一場面。
子爵の元にいた少女を自分が襲う、とても恐ろしい夢。

どくんどくんどくんどくんどくんどくん

夢?本当に……夢だったのだろうか?
39彼女の選択 2/6 ◆69CR6xsOqM :2005/05/04(水) 09:49:07 ID:rGRJDDfJ

自分には倉庫から海までの記憶が無く、真っ直ぐに進んだのならここはその通過点……。
そして血塗れの自分の衣服。

どくんどくんどくんどくんどくんどくんどくん

その簡素な墓の前に跪く。
「嘘よ。そんなはず……ない」
盛り上がった土に手をかける。

ざくり、ざくり、ざくり

何をしているんだろう、自分は。
掘り出して何をしようというのだ。これは明らかな死者の冒涜だ。
マリア様はいつもみていらっしゃる。このような行為が許されるはずは無い。
このことを知ればお姉さまも許しはしないだろう。

ざくり、ざくり、ざくり

やめるんだ。今ならまだ間に合う。
大体遺体を確認して何をしようというのだ?
この下に埋まっているのはあの少女であることは確信しているというのに。

ざくり、ざくり、ざくり

止まらない。
頭ではこれは禁忌の行為だと理解しているのに、手は機械のように土を掘り返し続ける。
掘り返し続けてしまう。何かの予感に責めたてられながら。

ざくり、ざくり、ざく

白い布が露出した。刺繍に見覚えがある。
40彼女の選択 3/6 ◆69CR6xsOqM :2005/05/04(水) 09:49:42 ID:rGRJDDfJ
やはり彼女の纏っていたマントだ。ここに埋まっているのはやはりあの少女なのだ。
もうやめよう。確認は終わったのだから。

ざく ざく ざく ざく ざく

「どうして……もう、いいじゃない」
祐巳は再び土を取り除き、遺体を掘り起こし始める。
何か、いいようのない衝動に突き動かされ遺体の上の土を掻き分ける。
だんだんと遺体の露出が多くなり……そして終に完全に露出した。
朱茶色に染まった元は白であっただろう洋服。
体のあちこちに引き裂かれたような傷跡。
……そして、肩口に明らかな牙の後。まるで吸血鬼に血を吸われたかのような。

 ど く ん

フラッシュバック。
眠っている少女を襲う爪。
切り裂かれ、目を覚まして恐怖に歪む少女の顔。
そして……その肩口に牙をつきたてる……獣となった自分の姿。
鮮血に染まる私の服。
思い、出した。
「いやああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
私が殺した。
あれは夢なんかじゃない。私が起こした現実。
無抵抗な少女を。子爵が、潤さんが救った命を私が奪った。
私は力が欲しかった。
でもそれは他人を傷つけるためではなく、守るためだったはず。
お姉さまを、志摩子さんを、守る。聖さまを……止める。
そして由乃さんの分まで生きると誓い、手に入れたはずの力。
それなのに……ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
41彼女の選択 4/6 ◆69CR6xsOqM :2005/05/04(水) 09:50:19 ID:rGRJDDfJ
私、福沢祐巳はあなたを殺してしまいました。
謝って許されることではないけれど、ごめんなさい。
……どうしよう。
潤さんにも、疑ってしまった子爵にも……もう会うことなんて出来ない。
お姉さまにも……もう合わす顔なんてない。
……終わろう。ここで私を終わらせてしまおう。
そうすればもう誰も傷つけることは無い。お姉さまを傷つけることも無い。

どれくらい、座り込んでいただろう。数分か数時間か。
頭の中に響き渡る声で祐巳は覚醒した。どうやら放送を聞き逃してしまったらしい。
しかしそれももうどうでもいい。祐巳はゆっくりと立ち上がり、ヨロヨロと幽鬼のように歩き始める。
坂を上り、木々の間をすり抜け……崖の上に立つ。
不意にヴォッドのレザーコートが風になびいた。
ヴォッド。自分に力をくれたダンピール。いや、私が一方的に力を奪ったのだ。
だからその礼として共に行こうと彼のコートを羽織った。
でも……もうその資格もない。彼はさぞ自分に失望しただろう。
祐巳はコートを脱ぐとそれを崖の下へと投げた。
風に乗って何処かへと舞い飛ばされていくレザーコート。
次は、自分だ。
一歩、崖へと近づく。
これで……私は終わる。もうお姉さまとも会うことは無い。
志摩子さんとも聖さまとも、潤さんとも……もう、会えない。
お父さんとも、お母さんとも、祐麒とも二度と会えない。
楽しかったあのリリアン女学院の日々にはもう戻ることはできない。
足が、止まる。
肩が、手が、足が震え、それを押さえつけるように祐巳は肩を抱いてその場に座り込んだ。
涙が知らずに溢れ出て頬を伝う。
「……そんなの、やだぁ……いやだよ……誰か、助けて……」
怖い、死ぬのが恐ろしい。
これが一番良い方法だと判っているのに竦んで体が動かない。
死にたくない。ごめんなさい。ごめんなさい。
42彼女の選択 5/6 ◆69CR6xsOqM :2005/05/04(水) 09:50:58 ID:rGRJDDfJ
人の命を奪ってしまったのに……、自分は死にたくないんです。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
涙を絶え間なく流しながら呪文のように唱え続ける。
「たす……けて……」
「助けてあげるわ。私があなたを苦しみから解放してあげる」

不意に、声が、聞こえた。

振り向くとすぐ傍に剣を携えた少年が佇んでいた。
哀しそうな瞳でこちらを見つめている。
「可哀相に……この島の狂気に囚われてしまったのね。
 でももう苦しむことはないわ。永遠の安息をあなたに与えてあげる」
そう言って、彼……カーラは手にした剣、吸血鬼を振り上げた。
祐巳はその姿をただ呆然と見上げている。

殺される?ここでこの人に?いやだ。何故。望んでいたはずじゃない。私は終わる。
いやだ。受け入れるべきだ。いやだ。私は罪を犯した。逃げろ。許されるはずが無い。
いやだ。逃げろ。どこに。生きろ。死ぬべきだ。逃げられない。それでも。生きたい。
死ね。死にたくない。生きたくない。死にたくない。死ね。死にたくない。死にたくない。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない……。

どくん

心臓が活性化を開始する。
血液が全身を駆け巡り、臨戦態勢を整える。
「さようなら。願わくばあなたの来世が幸せでありますよう」
そして剣が振り下ろされ……祐巳の意識はそこで途絶えた。
43彼女の選択 6/6 ◆69CR6xsOqM :2005/05/04(水) 09:51:50 ID:rGRJDDfJ

【C-4/崖の上/一日目、12:07】
福沢祐巳】
 [状態]:看護婦 魔人化 記憶混濁
 [装備]:保健室のロッカーに入っていた妙にえっちなナース服(血まみれ)
 [道具]:ロザリオ、デイパック(支給品入り)
 [思考]:死にたくない
 [補足]:12時の放送を聴いていません。
※【ヴォッドのレザーコート】がC-4付近の何処かへ飛ばされていきました。

【竜堂終(カーラ)】
[状態]:やや消耗
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし/ サークレット
[思考]:目の前の少女を救う/フォーセリアに影響を及ぼしそうな参加者に攻撃
                   (現在の目標、坂井悠二、火乃香)
44浮沈は定まらず1/2 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/04(水) 15:39:44 ID:JvjNeZ23
 町の外れの、一軒家の中。
「う、ううううううっ……」
 どこをどう走ったか覚えていない。
 たしか麗芳とはぐれてしまった“ように”思う。
 そのあと何か物騒な物音を聞いた“ような”気がして、逃げるようにひた走ってきたのだ。
 どこをどう走ったかも、もはや記憶にないが――
 宮下藤花は、台所の冷蔵庫の陰にうずくまり、頭を抱えていた。
「どうしてこうなるのよう……せっかく、せっかく何とかなりそうだったのに……」
 麗芳といると落ち着けた。話しているだけでも不安が紛れた。
 しかし、また孤独に逆戻りだ。
 なぜ自分はこんなにも運が悪いのだろう。
 そもそもこんな馬鹿げたゲームに参加させられたことだって……
 際限の無いマイナスの思考が、頭の中をぐるぐるぐるぐる回り続けている。
 と、遠くから花火のような音が聞こえた。否、花火ではなく――銃声か。
 驚きに一瞬身を竦ませ、藤花は更に身を縮める。
 そのまま、どれだけの時が経過したのだろうか……


「まったく、そんな事では竹田君が泣いてしまうだろう? もう少し頑張ってはくれないかな」

45浮沈は定まらず2/2 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/04(水) 15:40:21 ID:JvjNeZ23
 ふと、そんな呟きが藤花の口から漏れた。
「さて、どうだろう……今回はかなり不安定みたいだ。どうにもノイズが厳しいな」
 今回の出現は、かなり不安定なものらしい。
 次がもう少しだけでも安定している事を祈りつつ、宮下藤花――いや、ブギーポップは颯爽と衣装に身を包む。
「武器は――この程度、と。糸が欲しいところだが、まあ仕方がない」
 皮肉げに肩を竦めながら包丁を探り当て、布巾に包んで身に帯びる。
 そして左右非対称の不思議な表情を浮かべると、不気味な泡は歩き出す。
 世界の敵を求めて――


【B−4/民家/一日目10:22】


 【宮下藤花(ブギーポップ)】
 [状態]:健康
 [装備]:ブギーポップの衣装・包丁
 [道具]:支給品一式
 [思考]:世界の敵の捜索

*『まもるべきもの』と『Are You Enemy?』の中間に位置する話です
「持って行くのはこれだけでいいわね。この斧はガユス、あなたが使う?」
 缶詰、救急箱、ロープ。
 それらを自らのデイパックの中にしまい、ミズーはガユスに話しかけた。
 ある意味ちょっとした事件と言えるあの騒動の後。
 二階の人物と接触するため、そしてガユスの武器を取りに行くための準備を三人は進めていた。
 彼は一人で武器を取りに行くことを主張したが──こちらにも探すものはあるし、戦える自分と新庄の剣はあった方がいいだろうと説得して今に至った。
「いや、できればそっちのナイフと交換して欲しい。新庄はその剣で俺達を守ってくれ」
「うん」
 ガユスにナイフを渡し、斧を手に取る。
 普通の斧よりも重量面と耐久力に不安はあるが、ガユスの魔杖剣とやらが手に入るまではこれで行くしかない。
 B-1とD-1なら近いし、念糸すら防ぐ新庄の剣があれば大抵の相手はやりすごせるだろう。
 それに、いざとなったらその剣自体を自分が使えばよい。
(それにしても……斧、ね)
 ジュディアと最初に旅をしたときのことを思い出す。たった数ヶ月前のことなのだが、ずっと昔のことのようにも思えた。
(あの頃のわたしだったら、躊躇無くこのゲームに乗っていたでしょうね)
 胸中で苦笑する。それが今となっては赤の他人の子供と男と共同戦線を張っている。ずいぶん変わったものだ。
「あ、あと懐中電灯も持って行った方がいいと思うよ。支給品のもあるけど、電池切れちゃうかもしれないし」
「カイチュウ……なに?」
 新庄の手には、よくわからない細長い筒が握られていた。
 筒には黒い突起がついており、底にはガラスが張られている。確かにデイパックの中にも入っていたような気がする。
「カイチュー氏が製造した高機能掘削機だ。鉱泉や危険な地底怪獣探索の役に立つ」
「……それってここで役に立つの?」
「立たない。嘘だし」
「…………」
 発火しない程度の熱量を、念糸でガユスに送り込む。汗が、一筋ではなく大量にガユスから流れ始めた。
「…………俺が悪かったですごめんなさい」
「……あの、ミズーさん、その辺にしといた方が」
「……そうね」
 笑いを含んだ新庄の声に馬鹿らしくなり、念糸を解く。
(今のは確かにムキになりすぎね。何やってるの、ほんとに)
 少し紅潮した顔を二人からそらす。振り回されすぎだと思う。
「ええと、懐中電灯ってのはね、ここのスイッチを押すと明かりがつくの」
 言葉通り、新庄がスイッチを押すと底のガラスから明かりが漏れだした。意外に強い光だ。
「確かにこれは便利ね。夜は不用意に明かりをつけるべきではないけれど、全くないというのも困るわ」
「じゃあ、ボクの方にいれておくね」
 そして新庄のデイパックが閉じられ、準備が完了する。
「それじゃ行こう。方針はさっき言った通り。……いいな、新庄」
 誰の知り合いでもないのなら、包帯と消毒液でも渡して恩を売っておく。相手が信用できて同行したいと言うなら連れていく。
 相手が襲ってきた場合は、動けなくなるまで痛めつける。もしくは────殺す。……そういう方針だ。
「…………ボクは、信じたい」
 先程の言葉を繰り返すように、新庄はこちらを見つめて強く言った。
「確かにミズーさんもガユスさんも赤の他人だけど、裏切るだなんて考えたくない。信じたい。
それに他の人も、こんなところに巻き込まれて嬉しい人なんて、少ししかいないと思う。
しょうがなく相手を疑っちゃって、戦いになってしまう人の方がきっと多い。……だから、出来る限り説得したい」
 剣を握りしめながら、一つ一つの言葉をゆっくりと自分たちに向けて投げかける。盲信ではない、信念を持って他人を信じているのだ。
(……甘すぎる。ここで知り合っただけの、名前ぐらいしか確かな情報がない他人を信じるのは無謀すぎる。……でも)
 こんなところで確かな信頼を他人に持つことができるというのは、ある意味強いのかもしれない。
 自分を騙しているかもしれない、自分を殺してしまうかもしれないという疑念は、大きくなることはあっても完全に払拭することは難しい。
 ……極論すれば、最初から疑念を一切持たなければいい。相手が本当に善意で助けてくれているのであれば、無駄な疑心暗鬼を起こさずにすむ。
 もちろん相手が悪意を持っていたならば、散々利用されたあげくに──殺される、だろうが。
 そのことをすべてわかっていながら、なおかつ彼女は信じているのだ。
(ただ、新庄には生き延びる力がそれほどない。だから誰かを信じるしかない。……彼女と違って、わたしには力がある)
 一人で、あるいは誰かと協力して、ここを脱出することができるかもしれない力。
 主催者を倒すことができるかもしれない力。
 そして、ここで殺し合いを繰り広げることが可能でもある力。
(……殺すのは、最後の手段でいい。それはもう決めたこと。それに……多分、わたしはこの二人を信頼している)
 でなければ、傷口を無理矢理焼いて気絶、なんてことはしない。
 お人好しを絵に描いたような新庄。ふざけることはあるが、切れるガユス。少なくとも、今はこの二人を信頼している。
 いや、フリウと合流、脱出することを考えるのならば、仲間は多い方がいい。
「……二階の人物と協力し合える可能性はある。でも、油断は禁物。放送は聞いたでしょう?
ゲームに乗っている奴らが複数いるのは確かよ。だからこそ相手を見極めて──必要ならば、無力化するしかない」
 長い沈黙を隔てて、ミズーは言った。
「右に同じ。俺達みたいなの協力的な奴らばかりじゃない。戦意はないようだったが、覚悟はしておくべきだ」
「とにかく会いましょう。ここで議論していても何も進まない」
「…………うん」
 不承不承に新庄がうなずく。
(……ここまで話し合って誰かの知り合いだったら滑稽ね)
 ふとそんなことを思い浮かべる。そうあってほしいものだが。
「では、行きましょう」
 今度は抜けないようにと、しっかりと斧を握りしめた。



(なんかなぁ……もしかして俺ってかなり運悪うないか?)
 仮眠室で男が下に戻る足音を確認した後、ベリアルは嘆息した。
 いきなり強大な怪物を操る少女と会い大怪我を負い、ビルに逃げたと思ったら他の参加者に接触してしまっている。
 そしてあれだけ探し回って見つかったのは、ただの風邪薬のみ。
(まあ、殺されへんかっただけでも運がいいのかもしれへんが)
 あの怪物の力が落ちていたことと、接触した参加者がそれなりに話がわかる奴だったこと。それはよかったのだが。
(あー、今ごろあいつに会わへんかったら武器も手に入ってたんやろうに。疫病神め)
 胸中でぼやく。あんな怪物はちゃんと武器として没収しておくべきだと思う。
(……すぎたこと考えてもしゃあない。逃げるか接触するか考えよか)
 ──と。階下からどたばたと何かが暴れる音が聞こえてきた。それと共に、争うような声も。
(……仲間割れか?)
 あの男の単独行動は、やはりチームが崩壊したからなのだろうか?
(こちらを牽制した後、元仲間に俺のことを誇大に伝えて去る。ゲームを引っかき回すやり方としては通じるわな)
 だとしたら、自分はその隙に逃げるべきだ。わざわざ気が立っている時に接触してもメリットはない。
 ──そして、激しい音が止まった。物音と話し声はまだ聞こえてくるものの、先程よりは落ち着いている。
(あの男が去ったか? ……もしくは和解したか。
どちらにしろ接触しない方がええな。情報は欲しかったんやけど……しゃあない)
 禁止エリアの情報が手に入らないのはかなりつらい。
 だが、争い終った後の微妙な空気の中に見ず知らずの人間が来ても、はたして正確な情報を分けてくれるかどうかは怪しい。
 遅かれ速かれ誰かに聞かなければいけないが、今の下の奴らに接触すれば──最悪、殺されてしまうかもしれない。
(……放送が近くなれば、だいたいの奴らは集中して聞くためにどこかにとどまるやろ。
そこでなんとか敵意がないことを見せて、情報交換するしかない。問題は……その放送まで生き残れるかどうかや)
 時計を見る。……九時二十五分。次の放送まではまだ時間がある。
 今のようにどこか建物の中に身を隠すのがいいが、誰かが入ってくる可能性もある。
 地図を確認すると、南に商店街、南東にもう一つのビルがあった。
(商店街はNGや。ゲームに乗らない奴らが身を寄せ合ってるかもしれへんが、殺し合ってる奴らがいかにも狙いそうな場所や。
ビルは……いけそうやな。場所もここから近い。
なによりビルの中なら、ああいう巨大な化け物は使えんやろ。1Fの奥に潜んでいれば放送までやりすごせそうや)
 ……やっと行動が決まった。かなり面倒なことになってしまったが、まだ自分は生き残れるチャンスがある。
(せっかく生き返ったんや。こんな序盤で死んでやらへん)
 地図を詰め、デイパックを背負う。そして探知機を手に取り────
(…………ちょっと待てや、オイ)
 光点が三つ、表示されていた。しかもこっちに近づいてくる。
(不干渉やなかったんかい!……ああもう、なんでこっちの計画をわざわざ崩しにくるんや?!)
 姿が見えない三人に胸中で罵倒する。
(三つ……ってことは、和解したことは確かやな。後は、方針を変えて三人で情報交換しにきたか……三人で殺しに来たか)
 殺しに来たとしたなら、こちらに抗うすべはない。考えても無駄なのでその可能性は無視する。
 情報交換を求めてきたならば、平和的にこちらの望む情報を引き出させなければならない。
 覚悟を決めて、立ち上がる。先手を取られるよりは、こちらから接触してイニシアチブを取った方がいい。
(……ここが勝負時やな。ええ加減運が回ってきてくれや、ほんまに)
 ドアを慎重に開けて、廊下の奥に向き直った。
「……不干渉やなかったんかいな、姉ちゃん達」
「──!」
 最初に見えたのは女だった。手には、火災用の斧。
「気が変わってな。情報交換がしたい」
「ボクたち、ゲームには乗ってないから!」
 続いて、眼鏡の男と少女。男の方が先程自分と交渉した奴だろう。
 男はナイフと銃器、少女は長剣を持っている。……もちろん、銃口はこちらに向けて。
「あなたもこちらも怪我をしている。戦うのは損にしかならない。でも、それでも抵抗するというなら──容赦はしないわ」
 斧をこちらに向けて、女が言った。よく見るとかなりの美女だ。
 真紅の髪とマントという外見は、こちらの常識からしたら異常だが──きっとあの疫病神がいるようなところの住人なのだろう。
 男と少女の方はそれほど違和感はないので、この二人は自分の知っている世界にいたのかもしれない。
「そんなに脅さなくてもええやないか。こっちには武器はないで」
「その左手にあるのは?」
「これは人間探知機ってやっちゃ。半径50メートル以内に参加者がいると、ぺこーんって光るんや。
誰が近づいてるかまではわからへんのが玉に瑕やな」
 ……本当のことを言ったのだが、疑いの目は晴れていないようだ。当然だが。
「だいたい、これが武器で俺にやる気があったらその兄ちゃんが通ったときに使ってるで? 百歩譲ってこれが武器だとしても、俺にはやる気があらへん」
 そう言って、探知機を床に置いて彼らの方に軽く蹴った。これくらいでは壊れないはずだろう。……多分。
 女と男は一瞬視線を合わせ、そして女の方が言った。
「とりあえずは、信頼するわ」
「疑り深いやっちゃなぁ」
 へらへらと笑う。こちらに余裕がないことを知られてはいけない。
「それじゃあまず────あなたが今探している人がいれば、教えて欲しいんだけど」
 ……まずはこちらに情報を開示させたいらしい。
 嘘をつくよりは正直に言った方がいいだろう。どんな反応にしろ今は情報が欲しい。
「ああ……物部景、甲斐氷太、海野千絵の三人や。特徴は────」
 言い終わると三人は顔を見合わせ、そして互いに首を振った。……はずれのようだ。
「その三人と会う目的は?」
「ここに来る前の知り合いや。信頼できる仲間と会いたいのは当然の心境やろ?」
 半分本当で半分嘘だ。“信頼できる仲間”ではない。カプセルのことは、今は隠しておくべきだろう。
「……いいわ。次に、あなたが今まで会った人の特徴を教えて」
「おいおい、今度はこっちの番やないのか?」
「…………」
 ……無言で斧を投げつける仕草をするのはやめてほしい。どうやら、火力の差から完全に主導権を握られたようだ。
(くそ。だが、こいつらを味方につけることができればかなりの収穫や。なんとか信頼を得るべきやな)
「だからそんなに脅さへんと、こっちは素手なんやから。
……そうやな、一人会ってはいるんやが、情報はこちらからは教えとうない。そいつが狙われたら嫌やからな」
「……」
 女が考え込む。他の二人とも小声で相談しているようだ。
 ここで挙げてくるのは、おそらくこちらに情報を握られて襲われても立ち向かえる人物であろう。
 もしこのまま三人と別れるようなことがあっても、これで一人の危険人物をマークできる。
 一分ほど時間が経っただろうか。女が口を開いた。

「フリウ・ハリスコー。短い茶髪の少女。左眼に眼帯をしているわ」




(…………あんのクソガキ、どこまで俺を苦しめるつもりや)
 胸中であの疫病神に呪いをかけながら、この後の身の振り方についてベリアルは必死に頭を回し始めていた。


【B-3/ビル2F、廊下/1日目・09:15】

【緋崎正介】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。それなりに疲労は回復した。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:なんとかこの場をやり過ごす。できれば信頼を得て情報を引き出したい。
カプセルを探す。生き残る。
[備考]:六時の放送を聞いていません。
刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は、まだ正確に判断できていません)
『されど罪人はエンジェル・クロニクル』
【ミズー・ビアンカ】
 [状態]:左腕は動かず。
 [装備]:火災用の斧
 [道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)、缶詰、救急箱、ロープ
 [思考]:目の前の男との情報交換。フリウとの合流
【新庄・運切】
 [状態]:健康(切モード・身体が男性になっている)
 [装備]:蟲の紋章の剣
 [道具]:支給品一式(懐中電灯×2、支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)、部屋で発見した詳細地図
 [思考]:目の前の男との情報交換。佐山達との合流。殺し合いをやめさせる
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
 [状態]:右腿は治療済み。戦闘は無理。疲労。
 [装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ)
 [道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
 [思考]:目の前の男との情報交換。魔杖剣と咒弾を回収しに(傷を悪化させてでも)B-1とD-1へ。


※探知機がミズー達の近くに落ちています。
54野犬の出立(1/6) ◆Sf10UnKI5A :2005/05/04(水) 19:38:25 ID:qrV0HpYy
 前衛芸術の極致ムンク小屋では、リナ、ダナティア、テッサの三人が話し合いをしていた。
 ベルガーの申し出をどうするかという相談なのだが、
シャナだけは、ベルガーが寝るのを見て同じ様にすぐ眠ってしまったのだ。
 疲れが取れていないのだろうが、先ほどの一瞬の攻防の結果に拗ねただけかもしれない。
 ともあれ、会議は続く。
「疑うようなことは言ったけど、やっぱりあたしはベルガーに賛成。
いずれは動かないといけないんだし、携帯電話の持ち主を見に行ってもらうだけでも十分意味があるわ」
「あたくしは反対ですわ。
エルメスに乗ったとしても単独行動は危険だし、せめて次の放送を待ってから動くべきね」
「でも、シャナさんや皆さんの知り合いのことを考えたら、少しでも早い方が……」
「あら。貴方は今まで自分を守っていたナイトをあえて危地へ送り出すのかしら?」
「随分卑怯な言い方をするんですね……ダナティアさん。
……ベルガーさんは、私と一緒にいたら、私を守るために死ぬと思います。
だから、一人の方がいいと思うんです」
「は? 何よそれ。ノロケ?」
 リナの言葉に、テッサはわずかに笑みを浮かべる。
「私とベルガーさんは、まだ会ってから半日も経っていません。
ただ、解るんです。『そういう人達』に沢山会ってきましたから。
私は弱い人間ですし、生き残るためには誰かに守られないといけません。
でも嫌なんです。こんな状況なんだから、自分の命を一番大切にして欲しいんです」
「……わたくし達になら守られてもいいというのは、最悪の時に自分のことを見捨ててくれると思ったから?」
「少なくとも、シャナさん、それにリナさんはそうじゃないですか?」
「……喧嘩売ってんの?」
「違います。一人で生き残る力を持っている人が、
一人じゃ生き残れない私を守るために死ぬのは間違ってる。そう言ってるんです。
勿論、守ってくださるというのは有り難いと思っています」
「……あんた、随っ分ネガティブ思考する子ねー。普段守られっぱなしの反動?」
「そうかもしれませんね」
 ――現状、ウィスパードの力は何の役にも立ちませんから……。
 テッサは口には出さず、心の中でそう付け足した。
55野犬の出立(2/6) ◆Sf10UnKI5A :2005/05/04(水) 19:39:32 ID:qrV0HpYy
 要するに、自分とベルガーが共にいるというのは、
役に立つか解らない物しか作れない科学者の護衛に優秀な兵士を付けるようなものだ。
 それは兵士の飼い殺しでしかない。
 はあ、とダナティアが嘆息するのが聞こえた。
「言いたいことは解ったけど、何も今行かせる必要は無いのではなくて?
さっきも言った通り、次の放送まで待ってからでも――」

 ピルルルルルルル…… ピピルピルピルピピル……

 ダナティアの声を遮ったのは、携帯電話の着信音だった。
「何、また電話?」
「違いますね、メールです。
……要するに、声だけじゃなくて文字も送りあえるるんですよ。読みますね?
『こちらはセルティだ。戦闘があり保胤が怪我をした――――』」
 そのメールの内容は、悪い知らせとしか言い様がなかった。
「今は安全な場所にいるみたいですね。でも……」
「セルティってのがどれだけ腕が立っても、怪我人抱えてちゃ話にならないわ。
今敵に襲われたらどうしようもないわね」
「それもそうですが、電話と違ってメールは相手を声で判断出来ません。ですから……」
「……そういうことね」
 罠の可能性が更に高くなった、ということになる。しかし、
「罠だとしたら、わざわざこのフォルティッシモって奴の情報を送ってくると思う?」
「普通はそんな余計なことしないわね。とは言え、頭から信用するのも危険そのもの」
「……ちょっと待ってくださいね」
 テッサは手際良く携帯を操作し、返信メールを送った。

『今はどこにいるんですか?』
56野犬の出立(3/6) ◆Sf10UnKI5A :2005/05/04(水) 19:40:44 ID:qrV0HpYy
 すぐにメールが帰ってきた。
 『今はA−1にいる』
「「「…………」」」
 三人は、顔を見合わせ沈黙した。
 島の隅という、襲われて逃げ込むにしては不自然すぎる場所。
 地図を見る限りでは、特に身を隠しやすいエリアというわけでもなさそうだ。
「……判断保留ね」
 最初に口を開いたのは、ダナティアだった。
「はっきり助けを求めているわけではない。ならば、無理にこちらから行く必要は無いわ。
向こうからまた連絡してくるか、それか次の放送までは――」
「案外薄情だなあ、アンタ」
 聞こえてきたのは男の声。そして、この小屋にいる男は一人だけ。(無生物を除く)
「いつから起きてたんですか?」
「いや、さっきの電話の音で目ぇ覚めてな。話まとまったか?」
「決まってないわよ。ダナティアが折れる気無いってさ」
「嬢ちゃんは?」
「シャナ? すぐ寝ちゃったわよ。ま、怪我人だし」
 そうか、と言って、ベルガーはサングラスを掛け直した。
 そして壁に立てかけてあった贄殿遮那を掴む。
「テレサ。電話の相手に『一人そっちに向かう』って伝えておいてくれ」
「待ちなさい!」
 用だけ言いつけ出て行こうとするベルガーを、ダナティアが呼び止めた。
「……生き残るため、この島から脱出するためには、団結しないとどうしようもないわ。
バラバラに動いていては、主催者側に対抗しようにも勝ち目が無い」
「ダナティア。ダナティア・アリール・アンクルージュ。
君の考えは正しいが、一つ大切なことが抜けているな」
 その物言いに、ダナティアの眉がわずかに上がる。
「それは……何?」

「形だけではなく、心から団結しなければならないということだ」
57野犬の出立(4/6) ◆Sf10UnKI5A :2005/05/04(水) 19:42:17 ID:qrV0HpYy
「もっと単純に言えば、信頼関係を築こう、ということだな。
ダナティア、君は、シャナが君のことをどう思っていると考える?」
「……良くは思ってないでしょうね。
友人を助けに行きたくても、自分の守護者は『止めろ』と言う。
――それも、あたくしを通して」
「風邪の友達を見舞おうとしたら、『病気が移ります!』って親に止められたようなものね。
そしたら、その子供は誰を恨むのか」
 リナが要約した。ベルガーは頷いて、
「だから、代わりに優しいお兄ちゃんが様子を見てきてやるんだよ。それで一件落着だ」
 更に別の声が加わる。
「ミイラ彫りが魅入られないといいね」
 しかし全員が無視した。
「……このあたくしに、ご機嫌取りに媚びへつらえとでも?」
「君は君のすべきことをすればいいさ。俺には駆けずり回るのが似合ってるってだけだ」
「……ええ、ええ! 解りましたとも! そうするのが一番良いと言うなら、勝手にしなさい!」
「ダナティアさん!? お、落ち着いて……」
 突然大声を上げたダナティアを、テッサが慌ててなだめようとする。
「ただし、十二時の放送までに帰ってらっしゃい! エルメスに乗れば簡単でしょう!?」
「使わせてもらえるのか。そいつは助かった」
「運転は得意なのかい?」
 エルメスが尋ねる。
「散々乗り回してたからな。多少荒いかもしれないが、大丈夫だろ?」
「うん、キノも結構乱暴だからね」
「あの、ベルガーさん……」
 バイクと話すベルガーに、テッサが声をかけた。
「何だ?」
「その、勿論、相良さんやかなめさんを見つけて欲しいんですけど、
……見つからなかったとしても、絶対に帰ってきてください」
58野犬の出立(5/6) ◆Sf10UnKI5A :2005/05/04(水) 19:44:17 ID:qrV0HpYy
「安心しろ。こう見えても俺は、世界で二番目に運が良いんだ」
「どうせなら一番って言った方が格好つくわよ」
「俺は謙虚なんでな」
 リナとベルガーの遣り取りに、テッサは思わず笑ってしまった。
「それで、どう行くつもりなの?」
「時間は十分ある。地図に載ってる道を通って、大回りにA−1まで行くつもりだ。
無事に合流出来たら連絡しよう」
 言いつつ、ベルガーはエルメスのスタンドを外し、重い車体を押し始める。
「それじゃ行ってくる。シャナが起きたら、刀は十二時まで借りておくと伝えといてくれ」
「行ってきまーす」
 一人と一台がムンクを出て行く。
 暫く後、エンジン音が響いたが、それもすぐに遠ざかっていった。


【G−5/南西/1日目・10:05】

『野犬:単車装備型』
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:エルメス(乗車中) 贄殿遮那 黒い卵(天人の緊急避難装置)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:道なりにA−1へ移動。慶滋保胤、セルティと合流。
    テッサ、リナ、シャナ、ダナティアの知人捜し。
 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
59野犬の出立(6/6) ◆Sf10UnKI5A :2005/05/04(水) 19:45:40 ID:qrV0HpYy
【G−5/森の南西角のムンクの迷彩小屋/1日目・10:05】

『目指せ建国チーム』
【リナ・インバース】
[状態]:少し疲労。心に強い怨念。
[装備]:騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:仲間集め及び複数人数での生存。管理者を殺害する。

【シャナ】
[状態]:かなりの疲労。腹部に内出血(治癒中) 睡眠中。
[装備]:鈍ら刀
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:睡眠中。
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。

【ダナティア・アリール・アンクルージュ】
[状態]:左腕の掌に深い裂傷。応急処置済み。
[装備]:エルメス(キノの旅)
[道具]:支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル
[思考]:群を作りそれを護る。シャナ、テレサの護衛。
[備考]:ドレスの左腕部分〜前面に血の染みが有る。左掌に血の浸みた布を巻いている。

【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:少し疲労
[装備]:UCAT戦闘服
[道具]:デイパック×2(支給品一式) 携帯電話
[思考]:宗介、かなめが心配。

[チーム備考]:『紙の利用は計画的に』の依頼で平和島静雄を捜索。
       また、島津由乃を見かけたら協力する。定期的に保胤達と連絡を取る。
「……本当に、人を殺して回ってる人がいるのね」
 海岸沿いの道で、金色の髪の少女――リリアは目の前の少年の冥福を祈る。
 ユージン。天色優とも呼ばれていたその少年は、首と胴を分かたれ事切れていた。
 犯人は明らかに殺す気だったのだろう。でなければ、こんな無残な死体は出来上がらない。
 ふと、少年のものと思われるデイバッグが目に映った。
 ジッパーは閉まったままだ。殺人者は支給武器を奪うことはしなかったのか。
(死体漁りみたいで気が引けるけど……)
 この馬鹿げたゲームを終わらせるために役立つものが入っているかもしれない。
 心の中で少年に謝罪し、デイバッグを開けた。

「これは、メガホンかしら?」
 中に入っていた少年の支給武器。
 見慣れない取っ手やボタン等がついているが、見た目はリリアが知っているそれと大差なかった。
 不特定多数の人間に呼びかけたい時に、このアイテムは役立つだろう。
 でも、と思う。
(今は駄目ね)
 へたをすると殺人者を呼び寄せてしまう。
 空を飛べないことから、自身の魔術が制限されていることは承知している。
 カイルロッドやイルダーナフと合流できているならまだしも、自分一人では高確率で返り討ちに遭うだろう。
 無益な殺人を止めたいとは思う。思うが、今の自分がすべき事は仲間と合流することだ。
 メガホンをデイバッグにしまうと、自分のデイバッグと一緒にG−Sp2に引っ掛ける。
「行きましょ、G−Sp2」
 魔術で重さを軽減しているため、二つあっても軽いものだ。
 よいしょ、と肩にG−Sp2を担ぎ、リリアはその場を後にした。


 草原で、リリアはふと足を止めた。
 暗くて見えにくいが、どうやら前方に人がいるようだ。
 とっさに身を低くし、目立つG−Sp2を地面に横たえる。
(……女の人?)
 遠目にも、その髪が燃えるような真紅であるのが見て取れる。
 彼女ははたしてゲームに乗っているのだろうか。
 乗っているなら、いつ見つかるかもしれないこの場所にいるのは危険だ。
 だが、乗っていないなら、現状打破のために力をあわせることが出来るかもしれない。
 リリアが次の行動を決めかねていたその時――

「――ミズー・ビアンカ!」

 怒号と共に、一人の男が森から飛び出して来た。
 ミズーと呼ばれた紅い髪の女も、男を迎え撃とうと駆ける。
 それを見たリリアの反応は早かった。
 G−Sp2を引っ掴むと、脱兎の如く走り出す。
『ニゲルノ?』
「そうよ! 今しかないわ!」
 小声でG−Sp2に返答しながら全力で走る。
 あの二人が互いに注意を向けている今なら、どちらに気づかれることもなくこの場を脱出できる。
 名前を呼んで襲い掛かったということは、恐らく元いた世界で敵同士だったのだろう。
 なし崩しに戦闘が始まってしまえば、もうゲームに乗った乗っていないを判断するのは困難だ。
 ならば、ここは逃げの一手だとリリアは判断した。
 と、
「あっ!」
 リリアが声を上げる。
 走っているうちに、少年のデイバッグがG−Sp2から外れて落ちたのだ。
 一瞬逡巡するが、意を決してリリアはそのまま走り去った。
 今は一刻も早くここから立ち去らねばならなかったし、メガホンも絶対に必要なものだとは思えなかったからだ。
(早く、早く皆と合流しなくっちゃ!)
 このゲームを止めるために。一人でも多くの者を救うために。
 彼女はそれだけを考え、走り続けた。


 もし、この世に偶然を司る神という者がいたならば。
 その神は、彼女に一体どんな恨みがあったものか、ことごとくリリアを裏切っていた。

 ――少年の死体のそばにもう少し留まっていれば、リリアはヒースロゥ・クリストフという目的を同じくする同士と出会えただろう。
 ――あの二人の戦闘をもう少し傍観していれば、リリアはミズー・ビアンカがゲームに乗っていないことを知っただろう。
 ――この後、難破船を発見するのがもう少し早ければ、リリアはカイルロッドとの再会を無事に果たすことができただろう。

 だが、実際はそのどれもが果たされず、数時間後、彼女は残酷な運命を迎えることになる。
 皮肉なことに、この時目撃した男が自らの死神となることなど、今の彼女には知る由もなかった。


【B-6/森近くの平原/1日目・03:10】

【リリア】
[状態]:健康
[装備]:G−sp2
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:できるだけ多くの人々と共にこの世界から脱出/アリュセ・カイルロッド・イルダーナフ・風見千里を探す


【ミズー・ビアンカ】
[状態]:疲労
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品入り) 、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ)
[思考]:フリウとの合流


【ウルペン】
[状態]:健康
[装備]:無手
[道具]:デイバッグ(支給品一式) 
[思考]:C-6へ移動。 蟲の紋章の剣の障壁を破れる武器を調達してくる。


*備考:【136話.デュアル・ビースト(絡み合う運命)】の場面に遭遇しました。
*重要事項:メガホンの入ったデイバッグは、放置されています。
 音も光もない世界で、子供が一人立っている。
 小さな子供だ。

 その背丈は低く。
 その肉付は薄く。
 その肌は真白く。
 その体は脆く。
 その瞳は、清浄だった。

 子供はじっとこちらを見ている。
 暗闇に浮かび上がり、気負うこともなく、崩れることもなく、こちらを見ている。
 子供の唇は結ばれたまま動かない――――ここに言葉は存在しない。
 子供の腕は垂れ下がったまま動かない――――ここに動作は存在しない。
 ただ視線だけが何かを語る世界。
 子供は、初めから何かを語り続けているのだ。
 静止画の中で、子供の意思を汲み取ろうともがく。
 色のない視線に身を晒す。
 
 その子は何を言いたいのか。
 その子は何を伝えたいのか。
 永劫とも思える時間考えて、結局、その程度のことがわからなかった。
 やがて終わりの時間が訪れる。
 ゆっくりと闇が薄れていく。
 広がっていく白に塗りつぶされるようにして、子供の姿も薄れていった。
 
 夢が終わることを自覚する。
 夢に留まろうと手足に力を込めるが、白の侵食は迅速に広がっていく。
 抗うことは無意味だった。 

 
 世界が消え、浮遊感が身を包む。  

 
 夢から覚める最後の一瞬。
 子供の右頬の涙を見て――――ただ、それが昔の自分だと気づいた。



 フリウ・ハリスコーは森の中で目を開いた。
 溢れかえる緑が目に痛い。
 少し瞼を閉じて半眼になりながら、フリウは短い夢を反芻する。

 デイバックを抱えて座り込み、すでに三時間以上が経過している。
 木に体重を預けてはいるが、背中を中心に筋肉がこっていた。
 それでもフリウは立ち上がろうとは思わなかった。
 立つのが億劫なほど疲弊していたというのもある。
 しかし、それ以上に何かをしようとする意思が希薄だった。
 夢の世界とは違う。
 ここには言葉も動作も存在する。
 そのどちらも鈍く、錆びついた状態でフリウ・ハリスコーの中に放置されている。
 一度投げられたそれらを拾うには莫大な力が必要だった。
 少なくとも……誰かを殺すのと、同じくらいの力が。

 フリウは喉元まで這い上がってきた悪寒に耐えるように、さらに視界を狭めた。
 森の緑がぼんやりとした黒に削られる。
 じっとしていれば、また夢を見るのだろう。
 出来ることなら夢さえ見れないほど深く眠りたかった。
 懇願に似た感情で、思う。

 自分でも無理だとはわかってはいるのだ。
 高ぶった神経が、血液とともに駆ける熱が、深い眠りを許さない。  
 起きているのか眠っているのか。
 次第に境界線が曖昧になるのをフリウは自覚した。

 体の芯がひどく重かった。
 頭は脳に鈍器を突っ込まれたような痛みを持ち、血液を送り出す心臓の音だけが耳
に響く。
 それ以外の感覚は麻痺したように感じない。
 火傷の痛みも、骨折の痛みも。
 一線を越えた痛みが、容易に上から塗り潰してしまった。
 フリウは短い夢を反芻する。
 
 一人立っている子供。
 黒く停止した世界。
 動かない唇、存在しない言葉。
 動かない体、存在しない動作。
 視線だけが物語る。
 やがて白が世界を消してゆく。
 すべてが消える瞬間、子供の右頬に涙が見える。

(きっと……)

 胸のうちが締めつけられる痛みに、フリウは心を震わせた。
 
 夢の中の小さい自分。
 あれは、最初に村を蹂躙した自分だ。
 呪わしき破壊の王。
 世界に拒絶された、はじめのフリウ・ハリスコー。

(……あの夢は、別れの夢だ。あの頃のあたしと、今のあたしが別れる夢だ)
 
 今の自分は、あの頃とは違う。
 あの頃とは違ってしまった。
 同じ殺戮者でありながら、二人の間には一本の線が横たわっている。
 
 超えてはならない境界線。
 無力な子供ではなくなる線。
 賢しい大人ではなくなる線。
 
 殺人者の、一線。 
 フリウは心の底から渇望した。

 ……眠りたい。

 深く、呼吸すら止まるほど深く眠りたい。
 聞き入れられることない願いだと、自分でもわかっている。

「あたしは人を殺したんだから。一時でも、それを忘れるなんて、許されない」
 
 小さく、かすれた声で呟く。
 フリウはデイバックを手放し、両手で左胸を押さえた。
 
 
 やがて夢が始まるまで.
頬を伝う涙に気づかぬまま、少女は無力に境界をさまよい続ける。
 
  

【A-5/森の中/10:00】
【フリウ・ハリスコー】
[状態]: 精神的に消耗。右腕に火傷。顔に泥の靴跡。肋骨骨折。
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)
[道具]: デイパック(支給品一式)
[思考]: 思考停止中(ミズーを探す)
※第一回の放送を一切聞いていません。ベリアルが死亡したと思っています。
 ウルトプライドの力が制限されていることをまだ知覚していません。
69 ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/04(水) 22:23:56 ID:T+oosHb8
ようやく一息ついた宗介ら一行が立っているそこは、草が生い茂る猫の額ほどの古びた墓地だった。
少し離れた場所にはぼろぼろの教会も見える。
宗介は腰を下ろすと、ポケットの中から一枚のハンカチを取り出す。
「これは…?」
「クルツから借りたままだった…死体を回収することは叶わないが、それでもせめて弔いくらいは
 してやりたい」
ざくざくと素手で地面を掘っていく宗介。
「オドーさん…」
「そのことは今は考えるな」
かなめを嗜める宗介、どうせあと5分ほどで放送だ…。

しずくは無言で墓石にもたれかかっている、機械でも疲れるのだろうか?
(逃げ出す前に確認した時間が11時40分だったから…)
確かに10分以上全力疾走を続けていただけに、もしそうだとしても不思議はないかもしれないと、
かなめが思った刹那。
きょろきょろと周囲を見回すしずく、
「どうしたの?ねぇ」
そう行って墓石を支えに立ち上がろうとしたかなめ、その時墓石が耳障りな音を立てて大きく前方にずれる。
「あわわわわっ」

たたらを踏んで前のめりに転びそうになるのをこらえるかなめ、体制を整え下を見ると
地下に続く階段があった。
「地下墓地か?」
音に気がついた宗介が階段の先を覗き込む。
「地下に何か反応があります…でもこれは?」
首を傾げるかなめ、しかし…
この奇妙な反応は何だろう?人でもなければ機械でもない、今までにまったく覚えがない、そんな反応だ。
70 ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/04(水) 22:26:13 ID:T+oosHb8
「ここで待ってろ」
そう言ってソーコムを構え地下に入っていく宗介だったが、
「ここまで来てそれはないでしょ」
やはりというか何というか…かなめとしずくもそれに続いていた。
「どのみち安全な場所なんて無いんだから…だったら宗介のそばが一番安全だと思うから」
「何を言って…」

「頼りにしてるわよ」
それきり何も話さなくなったかなめ、宗介も無言のまま階段を下りていく。
そして突き当たりの扉を開けた時、眼前に広がった光景に思わず3人は息を飲む。

そこは闇の中でもありありと見えるほどの荘厳な装飾に彩られた地下の礼拝堂だった。
「すごい…」
感嘆の言葉を口にするかなめ、それとは対象的に宗介は油断無く闇の中しっかりと身構えている。
「君の言う奇妙な反応とはどこのことだ」
「あそこです…」
しずくが指差した先には巨大な十字架が立っていた、そしてその袂には…。
十字架にもたれるようにして眠る美女の姿があった。
銃を構えじりじりとにじり寄る宗介、しかしその手はぶるぶると小刻みに震えている。

聖母マリアのごとく安らかに目を閉じている美女、その美しさには宗介といえども、
息を飲まずにはいられなかった。
「きれいな人…ですね」
しずくも感嘆の言葉を隠さない、いつの間にかかなめも彼らのそばにまでやって来ている。
71Terrible Joker ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/04(水) 22:26:51 ID:T+oosHb8
ようやく一息ついた宗介ら一行が立っているそこは、草が生い茂る猫の額ほどの古びた墓地だった。
少し離れた場所にはぼろぼろの教会も見える。
宗介は腰を下ろすと、ポケットの中から一枚のハンカチを取り出す。
「これは…?」
「クルツから借りたままだった…死体を回収することは叶わないが、それでもせめて弔いくらいは
 してやりたい」
ざくざくと素手で地面を掘っていく宗介。
「オドーさん…」
「そのことは今は考えるな」
かなめを嗜める宗介、どうせあと5分ほどで放送だ…。

しずくは無言で墓石にもたれかかっている、機械でも疲れるのだろうか?
(逃げ出す前に確認した時間が11時40分だったから…)
確かに10分以上全力疾走を続けていただけに、もしそうだとしても不思議はないかもしれないと、
かなめが思った刹那。
きょろきょろと周囲を見回すしずく、
「どうしたの?ねぇ」
そう行って墓石を支えに立ち上がろうとしたかなめ、その時墓石が耳障りな音を立てて大きく前方にずれる。
「あわわわわっ」

たたらを踏んで前のめりに転びそうになるのをこらえるかなめ、体制を整え下を見ると
地下に続く階段があった。
「地下墓地か?」
音に気がついた宗介が階段の先を覗き込む。
「地下に何か反応があります…でもこれは?」
首を傾げるかなめ、しかし…
この奇妙な反応は何だろう?人でもなければ機械でもない、今までにまったく覚えがない、そんな反応だ。
72Terrible Joker ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/04(水) 22:27:14 ID:T+oosHb8
「ここで待ってろ」
そう言ってソーコムを構え地下に入っていく宗介だったが、
「ここまで来てそれはないでしょ」
やはりというか何というか…かなめとしずくもそれに続いていた。
「どのみち安全な場所なんて無いんだから…だったら宗介のそばが一番安全だと思うから」
「何を言って…」

「頼りにしてるわよ」
それきり何も話さなくなったかなめ、宗介も無言のまま階段を下りていく。
そして突き当たりの扉を開けた時、眼前に広がった光景に思わず3人は息を飲む。

そこは闇の中でもありありと見えるほどの荘厳な装飾に彩られた地下の礼拝堂だった。
「すごい…」
感嘆の言葉を口にするかなめ、それとは対象的に宗介は油断無く闇の中しっかりと身構えている。
「君の言う奇妙な反応とはどこのことだ」
「あそこです…」
しずくが指差した先には巨大な十字架が立っていた、そしてその袂には…。
十字架にもたれるようにして眠る美女の姿があった。
銃を構えじりじりとにじり寄る宗介、しかしその手はぶるぶると小刻みに震えている。

聖母マリアのごとく安らかに目を閉じている美女、その美しさには宗介といえども、
息を飲まずにはいられなかった。
「きれいな人…ですね」
しずくも感嘆の言葉を隠さない、いつの間にかかなめも彼らのそばにまでやって来ている。
73Terrible Joker ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/04(水) 22:28:46 ID:T+oosHb8
「死んでるの…かな?」
「わかりません…こんな反応は初めてですから」
3人はまるで魅入られたように美女の顔を眺めている、惜しむらくはその美女の顔半分は、
長い緑の黒髪によって隠されているということだ。

宗介が人差し指を口に当てる、静かに、のサインだ。
そして彼がゆっくりと美女のこめかみに銃口を突きつけた…その刹那だった。
「!!」
瞬きよりも速き鋭さで繰り出された拳がしずくの腹部を貫き、
悲鳴を上げることさえ出来ずぶっ飛ばされるしずく。
「逃…」
言葉を放つ暇さえなく宗介もまた蹴りを受けて吹っ飛ばされる。
彼ですらまるで反応できぬこの所業、何が起こったのであろうか…

げほげほと息を整え立ち上がる宗介、そこで彼が見たもの、それはかなめの体を小脇に抱え、
嫣然と微笑む美女の姿だった。
「わたしの眠りを妨げた以上、覚悟はできておろうな?」
そして時計の針が12時を指した。
74Terrible Joker ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/04(水) 22:32:31 ID:T+oosHb8
【D-6/地下/1日目/12:00】

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ。
【道具】荷物一式、弾薬。
【思考】恐慌状態

【千鳥かなめ】
【状態】健康、精神面に少し傷。
【装備】鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】恐慌状態

【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ。(撲殺天使ドクロちゃん)
【道具】荷物一式。
【思考】恐慌状態

【美姫】
 [状態]:通常
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:寝起きでかなり不機嫌
75ベルの旅(1/3) ◆J0mAROIq3E :2005/05/05(木) 00:29:04 ID:IQP1JkVf
 島の外周を回る道を、一台のモトラドが走っていく。
 それにまたがるのは気楽にあくびをする黒衣の男。ベルガーだ。
「しかしこのエンジン音はどうにかならんのかね。謙虚さの欠片もないぞ」
「そりゃ悪いね。けど生憎と三連鎖は搭載してないんだよ」
「サイレンサー」
「そうそれ」
 お互い黙り、静かな昼の空気をエンジンが破壊していく。
 そのやかましい沈黙を再び破ったのはやはりベルガーだった。
「キミというのも何だが、キミは中に人が入ってんじゃないだろうなエルメス」
「ん? そちらさん、モトラドが無口な国の出身?」
「無口も何も機械が自分から喋るかよ。喋っても『運命とは猫娘をひん剥くものなり』とかそういう堅苦しい定型文だけだ」
「あれま。そりゃまたつまんない国だね。機械だってそんな押さえつけられると怒るよ」
「かもな。テロ起こして貧乳娘さらって北極星目がけて特攻空中分解した航空戦艦が出てくるぐらいだし」
「ははぁ、そりゃまた独創的なお方だね。意外と面白いのかも」
「やめとけよ。単車はろくでもない燃料注がれて一晩で400マイル走らされるのがオチだ」
「世の中ナメた距離だね」
「まったくだ」
 嘆息し、速度を上げる。
 太陽――本当に太陽かどうかはともかく、光源は天球上を真上へと上りつつある。
76ベルの旅(2/3) ◆J0mAROIq3E :2005/05/05(木) 00:29:53 ID:IQP1JkVf
「……っと、止まるぞ」
「あいよ」
 海岸沿いの道、D-8でベルガーは一時停止した。
 道路標識があったわけではないが、その億倍タチの悪いものが道に転がっていた。
「蝶ネクタイ?」
「焼死体。無理が出てきたぞヘルメス」
 下りて、二つの死体を見下ろす。
 片方は荼毘に伏されたようにこんがりと焼かれ、性別も分からない。
 もう片方は頭部から大量の血を漏らす少女のものだった。
 たかる蝿を適当に払い、少女の方は射殺されたことを確認する。
「随分時間が経ってるみたいだな。……多分、六時の放送よりは前か。探し人じゃないな」
 そのことに安堵し、安堵に少々の罪悪感を抱く。
 見るからに鍛えられてない少女。
 彼女はこのゲームに放り出され、何も出来ずに殺されていったのだろうか。
「慣れてるね」
「戦争明けでね。死体には慣れがある」
「どうしてぼくの乗り手はこう殺伐としてるのかなぁ」
「ほっとけ」
 タンクを一度蹴飛ばした。
77ベルの旅(3/3) ◆J0mAROIq3E :2005/05/05(木) 00:30:30 ID:IQP1JkVf
 次いでベルガーは傍に転がるデイパックに目を落とした。開けられている。
 倒れたときに落ちたのだろうが、その割に中身散乱していないということは。
「殺した奴が支給品を持っていった。まぁ当然か」
 念のため中を見ると、食料はまだいくつか残っていた。
 いつ補給できるか分からないので、二つほど自分のデイパックに移してエルメスにまたがった。
「墓場ドロボー」
「緊急の事態だ」
「死者に一言ぐらい弔いの言葉を捧げるもんじゃないの?」
「身内に神がいると信仰もいい加減になるってなもんだ」
「さいですか」
 うろ覚えの弔詞を呟いたことが悟られず、内心安堵の息を付くベルガーだった。

【D-8/平原/1日目・10:35】

【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:エルメス(乗車中) 贄殿遮那 黒い卵(天人の緊急避難装置)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:道なりにA−1へ移動。慶滋保胤、セルティと合流。
    テッサ、リナ、シャナ、ダナティアの知人捜し。
 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
78Gia Corm Fillippo Dia ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/05(木) 02:26:32 ID:tSFT+ZKp
「くっ!」
反射的に拳銃を構える宗介、だが…
「入り口が其方側にもあったのはわたしの不注意ゆえ、仕方がないが、
 侘びの言葉の代わりに鉛弾とは礼儀知らずにもほどがあろうぞ」
引き金を引くよりも早く、美姫の掌底が宗介のどてっ腹に炸裂する、
強制的に腹の中の空気を全て放出させられ、悶絶する宗介。

見た目こそまさに聖母マリアのごとき美しさだが、
その正体は数トンもの巨大兵器を片手であしらい、灼熱のレーザー光線の海の中を平然とまかり通り
音よりも速く空を舞う…恐るべき吸血美姫である。

それでも視線だけでも美姫を殺そうと睨みつける宗介、
「はな…せ」
離せと言われて、今気がついたとばかりにわざとらしくかなめの体をこれみよがしに
自分の前面に持ってくる美姫。
かなめはぐったりとして動く気配がまるで無い、その様を見て
宗介の顔に狼狽の表情が浮かぶ。

「そうか…おまえの主はこの娘ということだな…ふふふ」
実に楽しそうに笑う美姫。
「面白き座興を思いついたぞ」
そう言うなり、かなめの背中を軽く叩き…気を入れる。
「な、なに!」
叫ぶ間も無く美姫の魔眼がかなめの瞳を射抜く、いかに弱体化していても
一介の女子校生に抗う術はなかった。

がくりと床にへたりこむかなめ…その手元に転がっているのは宗介のジャケットから
転がり落ちたスローイングナイフだ。
79Gia Corm Fillippo Dia ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/05(木) 02:27:07 ID:tSFT+ZKp
がくりと床にへたりこむかなめ…その手元に転がっているのは宗介のジャケットから
転がり落ちたスローイングナイフだ。
「い…いや…いやぁ」
かなめはまるで操り人形のようにナイフを拾う…その表情は恐怖に彩られている。
そして彼女はそのナイフを自分の首筋へと近づけていく。
「いやぁぁぁぁ!」
泣き叫ぶかなめ、それでも体は自由にはならない。

ナイフが無慈悲にも首の薄皮を、頬を、耳を切り裂いていく、また悲鳴を上げるかなめ。
これまでにも散々危険な目にあってきた…だが今のそれとは比べ物にはならない
自分の体が自分の物でなくなる恐怖は、これまでに潜り抜けてきた幾多の死線にも勝るものだった。

「止め…ろ」
絶え絶えの息の中…美姫を見る宗介、その視線は先ほどの憎悪の視線ではなく
哀願の色が濃くなっていた。
だが、美姫はそれには応じない、そしてかなめの持つナイフが軌道を変え
今度はその右目を貫こうと動く。
「宗介っ!助けて…!」
完全に恐怖に飲まれ泣き叫ぶかなめ、
「頼む…代わりに俺を…」
「ならぬの、もう手遅れじゃ…それにまだわからぬか?」
呆れ顔の美姫、もっと他に言うべきことがあるだろうに…。

「やめてください!」
不意の大声、そこにはしずくがいた。
「ごめんなさい!勝手に起こしたのは悪かったです!だからもうやめてください!」
その言葉を聞いて微笑む美姫。
「その一言が何故言えぬのじゃ…お前は、これは仕置きが必要じゃの」
美姫は自分の手で右の瞼を切り裂き、パニック状態のかなめの首筋に軽く触れる
と、かなめの肢体から力が抜けていく。
どさりと床に倒れるかなめ、駆け寄る宗介…。
80Gia Corm Fillippo Dia ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/05(木) 02:28:11 ID:tSFT+ZKp
「きさ…」
「勝手に動くでない」
言葉より早く美姫の手に握られたナイフが一閃し、宗介の頬を軽く裂く。
「まだ生きておる…この娘が助かる助からないはお前次第じゃ…ふふふ」
「それは…」
どういうと言いかけた宗介の声に美姫の声が重なる。
「日没までに首を五つ取ってまいれ、この娘を救いたくば」
値踏みするように宗介を眺める美姫。

「お前からは血の匂いがする…数え切れぬほどのな、いまさら何を迷う、
 まぁその他大勢に義理を立てて自分の主を見捨てるのも美談としてありではあるかの」
「くそっ…」
歯噛みする宗介…彼に選択の余地はなかった、彼女もそれを見抜いているのだろう。
「わかった…」
苦渋の表情で条件を飲む宗介、きっとかなめは自分を一生許すことはないだろう。
だがそれでも…彼はかなめに生きていて貰いたかった、僅かでも可能性があるのならば。
「必ず約束は守るんだな…」
「そちらから条件を持ちかけていい立場か?」
愚問だった、それはともかく。

「ただしお前が日没を待たず死ねば、今度こそこの娘も殺すぞ…それにお主も宗介のいない世界で生きていとうはあるまい、
 のう?かなめや」
かなめの顔から滴る血を舐め取りながら微笑む美姫、目を逸らす宗介。
「それからこの事、誰にも言うてはならぬ、大佐殿とやらにもの」
その言葉に愕然とする宗介、心を読まれているのか!?
「その通りよ、わたしをたばかろうとは思わぬことだ…決しての、私はお前の目と耳と口を解して
 いつでも全てを見通す事ができるということ、ゆめゆめ忘れてはならぬぞ」
この発言はいわばフカシであるが、心の断片を読みとったことは無論事実である。
「わたしを討って彼女を取り戻すという道もあるが…断っておく、わたしが死ねばこの娘も死ぬぞ」
81Gia Corm Fillippo Dia ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/05(木) 02:29:26 ID:tSFT+ZKp
宗介の口からギリギリと歯軋りが聞こえだす、それが収まった時には
もう彼の顔に迷いはなかった。
振り向いた彼の視界にしずくが入る。
「その娘は今は許してやれ、カラクリとはいえ、今時珍しく殊勝な心をもっておる
 誰かとは違っての」

「逃げてくれ…」
震える声でしずくへと話しかける宗介。
「そしてこのことは誰にも言わないでくれ…頼む、そして次に俺と出会ったら、必ず逃げるんだ…
 次に出会えば…俺は君を殺す!…約束…してくれ」
震えながらもこくりと頷くしずく。
「さぁ行くんだ…振り向くな」
宗介の叫びを聞きながら走るしずく、そして彼女の流す涙の雫がまるで追いかけるように床へと降り注いでいった。
闇の中でも鮮やかに。

しずくの姿が完全に見えなくなったのを確認し、地下を後にする宗介
その背中に何かが投げつけられる、ディバックだ。
「首を運ぶのに不便であろう、持って行くがよい」
無言で拾い地上へと出て行く宗介だった。

「そう…すけ…だめ…」
先ほどのやり取りは聞こえていたのだろう、閉じた瞳から涙を零すかなめ。
「何を泣いておる…主のために命を賭け戦いに赴く士、これぞ本懐ではないか…それに
 惚れた男が命を張ってくれるのだぞ、女冥利に尽きるではないか…なればこそ」
82Gia Corm Fillippo Dia ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/05(木) 02:30:41 ID:tSFT+ZKp
美姫の唇から牙が覗く、
「その方にも試練を与えねばならぬの」
そう言うが否かの間に、美姫の牙がかなめの喉に突き刺さる。
「!!」
声にならぬ叫びをあげ悶えるかなめ…。

「安心せよ、宗介がそなたの見込んだ男であるのなら、真の士であるのならば
 そなたがいかな悪鬼と変じようとも受け入れるであろう…」
そしてぴちゃぴちゃと滴る血を舐め取りながらさらに囁く。
「さすれば、わたしも約束は守ろう、かならずそなたを人に戻し宗介の元に返してやろうぞ…まぁ
 闇の快楽を知った上でなお、人に戻りたいと願えばの話だが」
宗介の血がついたナイフをかなめの完全にちらつかせながら笑う美姫。

そして時計の針が12時を指した。
83Gia Corm Fillippo Dia ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/05(木) 02:34:41 ID:tSFT+ZKp
宗介の血がついたナイフをかなめの眼前にちらつかせながら笑う美姫。

そして時計の針が12時を指した。

【D-6/地下/1日目/12:00】

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ。
【道具】荷物一式、弾薬。 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず

【千鳥かなめ】
【状態】吸血鬼化?
【装備】鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。(ディバックはなし)
【思考】不明

【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ。(撲殺天使ドクロちゃん)
【道具】荷物一式。
【思考】恐慌状態、逃走中

【美姫】
 [状態]:通常
 [装備]:スローイングナイフ
 [道具]:デイパック(支給品入り)
 [思考]:座興を味わえて上機嫌

(アシュラムは地上部分の教会にいます)
84Gia Corm Fillippo Dia ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/05(木) 02:35:24 ID:tSFT+ZKp
【D-5/地下/1日目/12:00】 ね。
85危地へ1/4 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/05(木) 03:10:05 ID:R0wJdO8O
「あのビルの狙撃手より身を隠しつつ、街へ行くのは――」
「やっぱり難しい、かな?」
 佐山と詠子が、森の影で言葉を交わす。
 二人は甲斐と別れた後に、やや東寄りに移動していた。
 その傍らにはペットボトルがあり、片手にはパン。
 軽い食事と共に、今後の方針を練り直しているのだ。
「手段は幾つか考えられるが……やはり、そうだろうね」
 二人は地図を広げて検討を行い、結局4つの試案を出した。
 1つ目は平野に身を晒す事になるが、来た道を戻っていったん南下し、町の南端へ回り込む。
 2つ目はできるだけ物陰を選んでそのまま西へ進む。
 3つ目は石段を上って町の東北部へ向かう。
 4つ目は街へ行く事を諦め、森を基点に他を捜索、というものだ。
「まず論外なのは2の案。南部への狙撃が行われた直後だ、狙撃手もそちらには注意を向けているはずだからね」
「同じ理由で1の案もやっぱり危ないかな。それに同じ道は、何だか通りたくなくて」
 詠子の目的は異界の発生。できるだけ広い地域に『物語』を浸透させたい。
 その意図からの言葉だったが、佐山は件の魔法じみた直観かと判断。
「さて……」
 残るは3と4。
 はむ、とパンに口をつける詠子を見るともなしに見つつ、佐山は黙考。
 3の案では風見の目撃情報があり、恐らく最も人が集中するであろう市街を探れる。
 4の案では港やC−8やC−6の小市街を探れるが、詠子の体力が気がかりだ。
 ――決断を下す。
86危地へ2/4 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/05(木) 03:10:40 ID:R0wJdO8O
「折衷案としようか。このまま北東に進んでC−6を経由。そのまま湖から地下へ入れるかを調査する」
 水脈の地図は、湖にも確かにそれが通っている事を示している。
「無理な状況であれば、海岸沿いに市街へ向かおう」
 途中に身を隠す森が豊富であり、休息も取りやすい。
 しかも状況によっては灯台や港町に向かう事も可能だ。
「ふむ、やはり私は素晴らしい。おお快なり!」
「無視して言うけれど、いつまで休むのかな?」
 時計の針は、既に10:30を指している。
「11時前後には行動して、C−6へ向かおう。放送は落ち着いた環境で聞きたいのでね」
 食事が終わると、30分ほど寝かせて欲しいと申し出て、佐山は木に凭れて眠りに落ちる。
 詠子はその肩に自分の上着を掛けて、楽しげにその寝顔を眺めている。
 ――多少異様だったが、それは確かに平和な光景だった。


 突如、轟音。


 佐山が跳ね起き、Eマグを構える。
 詠子もゆっくりと周囲に目を配るが――
『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう、そしてみんなで生き残る方法を考えよう』
 放送ではない。
「参加者の誰かが、拡声器のようなものを入手したらしい。――危険だ」
 既にゲームに乗っている者が居る事を、この眼で確認しているだけに明白だった。
 肩に掛かった上着に気付き、佐山が詠子にそれを返す。
「うーん、どこからの声だろう?」
 詠子が首を傾げつつ、いつでも移動が可能なようにと荷物をまとめる。
 既にこの状況に、かなり順応している。
 その間にも呼びかけは続き――
87危地へ3/4 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/05(木) 03:11:11 ID:R0wJdO8O
 銃声。
 騒乱。
 悲鳴。
 そして、沈黙。
「銃声がメガホンを通したものと通常のもの、二重に重なって聞こえた。音源は恐らくC−6の小市街だ」
「うん、私にも同じように聞こえた。……殺人者さんもいるはずだけど、どうする?」
 黙祷を終えると、方針を変更するべきかとの詠子の問いに、佐山を首を横に振る。
「間近にいる殺人者を放置してはおけない」
「それは、正義感かな? それとも……」
「佐山の姓は悪役を任ずる――それだけの事だよ、詠子君」
 悪に対して、更なる悪でそれを潰す。
 それが祖父より受け継いだ己のスタンスだ。
「傍らに居なくとも分かる。新庄君は恐らく、この状況に私が飛び込む事を良しとしないだろう」
「凄いね、法典君は――正しく間違いを犯すために、命を危険に晒せるの?」
 佐山が答えずとも分かる、晒せるのだろう。そう確信させる何かが、彼にはある。
 魂のカタチが本当に強固だ――破格と言っても良い。
「それでは暫しのお別れだね。危険なので、詠子君は隠れていたまえ」
 と、その言葉に詠子は苦笑し、首を左右に振る。
 さては別れを惜しんでいるのだろうか、と佐山は思う。
 このような状況で一人になるのは、やはり心細いのだろう。
「さあ、私の胸に飛び込んできたまえ!」
「もういちど無視して言うけれど、私は法典君についていくよ?」
 荷を背負い、黒檀の柄の施された短剣――アセイミを手にした詠子に、佐山は問う。
「本気で言っているのかね?」
 頷く詠子と、視線が交錯する。
88危地へ4/4 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/05(木) 03:12:07 ID:R0wJdO8O
【Missing Chronicle】
【D-5/森の中/1日目・11:04】

【佐山御言】
[状態]:健康。
[装備]:Eマグ、閃光手榴弾一個、メス
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)、地下水脈の地図
[思考]:1.殺人者(パイフウ)をどうにかしなければ。 2.仲間と合流したい。 3.地下が気になる。

【十叶詠子】
[状態]:健康
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)
[思考]:1.佐山に付いて行く。 2.物語を記した紙を随所に配置し、世界をさかしまの異界に。
89少年少女VS暗殺者1/4 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/05(木) 05:53:52 ID:R0wJdO8O
 返り血を拭い、パイフウは移動を開始していた。
 まずは森に潜み、先程の銃声に正義感に燃えた愚か者や他のマーダーが引き寄せられないか、待ち伏せるのだ。
 ……もう、ややこしい事は考えない。
 考えても無駄だ。
 とにかく、どう殺すかだけを機械のように考える。
 そう、昔のように――
「君は先程の騒ぎから逃げてきたのかね?」
 と、声が聞こえた。
 迂闊だった。迷いを鎮めるために周囲への警戒が疎かになるとは――
 慌てて視線を飛ばし、木々の影に佇む少年に声を返す。
 鋭い眼に、数房の白髪が印象的な少年だ。大口径のリボルバーを手に提げている。
「そうよ。あなたは?」
 距離は6mほど。
 木々があるため、一気に接近は出来ないだろう。
「私は佐山御言という。このゲームを終わらせるために動いている者だ」
「……パイフウ。目的も同じよ」
 上手い言い方だ。
 参加者全員を殺戮しようと、管理者と主催者を殺戮しようと、ゲームが終わる事に違いは無い。
 さっと髪をかきあげ、1歩を踏み出す。
「ところで君は、本当に逃げてきたのかね?」
 向こうも1歩を、詰める。
 互いの火力は同程度。銃火を交えれば勝てるだろうが、下手をすれば怪我を負う上、音も響く。
 となれば、格闘で仕留めた方が良いだろう。
「何故そう思うのかしら?」
 更に1歩。あと3歩もあれば肉弾戦の間合いだ。
 少年もそれなりに心得はあるようだが、自分と比べれば可愛いものだ。
「先程からずっと、走る君は振り返らなかった。危険から背を向けて逃げたならば、背後は確認したいものだろう?」
 1歩。佐山と言う少年が踏み出し、言葉を続ける。
「背後にはもう何もないと、殺してきた後だと。そう知っているからこそ振り返らなかった……違うかね?」
 更に、1歩。
 パイフウがあと一歩の間合いを詰めようと――
90少年少女VS暗殺者2/4 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/05(木) 05:55:58 ID:R0wJdO8O


「こんにちは、“生き人形”さん」


 新たな声……ウェポンシステムを握らない右手の側からだ。
 気が散っていた所に佐山が現れ、そちらに注意が集中し過ぎていた。
 素人でもしないようなミスを連発する自分に、歯噛みしたくなる。
 人形――先程自分を操り人形に喩えた。
 殺人機械と評された事もある。
 そんな自分には、相応しい評価かも知れない。
 しかし、なぜ初対面の少女がその事を――?
「あ、そうそう……あなたは“動けない”し、“戦えない”よ」
 少年まであと半歩の距離で、がくりと身体が重くなる。
 咄嗟に腹腔から全身に気を巡らせ、重圧を弾こうとするが――
「簡単には無理だよ。魔女の言葉は“軛”だもの……耳を貸したら、捕まっちゃう」
 身体が硬直する。恐らく深層心理に働きかける類の催眠技術。
 頭では理解できるが、身体の対処が追いつかない。
「――っは。くぅ!」
 気の循環と整息で身体の自由を取り戻した時には、鳩尾を狙った佐山の鋭い前蹴りが迫っていた。
 回避が間に合わずに右腕で蹴りをいなす。
 右腕に走る鋭い痛みと共に、翻った蹴り足が足刀で膝を狙い――
 飛び退いて回避。
 と、足に注意が向いた隙を突いてメスを投擲された。
 怪我を覚悟で咄嗟に右手で掴み取り、続く銃撃を木の陰に飛び込んでやり過ごした瞬間、
「あなたは“撃てない”し、”走れない”よ」
 またあの言葉だ。
 今回は予め気を巡らせ、耳を貸さぬよう気をつけていたつもりだったが、それでも動きが鈍る。
91少年少女VS暗殺者3/4 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/05(木) 05:58:39 ID:R0wJdO8O
「殺しはしない。ただ人を傷つけられぬよう、拘束させて頂こう」
 木の向こうから、確かに少年の声がした。
 振り向きざまに銃撃を加えようとするが、。
「な……ッ!?」
 どこにもいない。
 少年の姿が見えない。
 足音も無く、気配も無い。――いや、気付いているのに気付いていないもどかしい感覚。
 認識がずれている?
 ならば、と少女に銃を向けた瞬間、左の鎖骨の辺りで木の枝を叩き折るような音。
 激痛が走る……銃把を叩きつけられた?
 思わず取り落としかけたウェポン・システムを右手に握り替え、身を翻して駆ける。
 機先を制された時点でこちらの不利は確定的だった。
 あの時点で逃走を選択していれば――!
「“逃げられない”よ?」
 耳を貸さない。気を用いて防御。
 牽制に背後に向けて銃弾を乱射し、一心に走る。
 ――まだ、自分は殺さなくてはならないのだ。


「パイフウ君が動揺していて命拾いをした。……下手をすれば我々二人ともが失われていたところだ」
「うん。でも、逃げて行っちゃったね――追う?」
 佐山はかぶりを振った。
「深追いは危険だ。手傷を与えた以上、暫くは無茶も出来ないだろう」
 詠子は頷き、佐山に尋ねる。
 これからどうするべきか、と。
「とりあえず小市街の方へ向かおう。パイフウ君は南へ行ったようだからね」
 ひとまずの勝利に微笑みを交わし、二人は歩き出す。 
92少年少女VS暗殺者4/4 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/05(木) 05:59:54 ID:R0wJdO8O
【D-6/森の中/1日目・11:13】


【パイフウ】
 [状態]右掌に浅い裂傷(未処置)、左鎖骨骨折(未処置)
 [装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス
 [道具]デイバック(支給品)×2
 [思考]1.不利を悟り南へ逃走 2.主催側の犬として殺戮を 3.火乃香を捜す


『Missing Chronicle』

【佐山御言】
[状態]:健康
[装備]:Eマグ、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)、地下水脈の地図
[思考]:1.いったん北の小市街へ。 2.仲間と合流したい。 3.地下が気になる。

【十叶詠子】
[状態]:健康
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)
[思考]:1.佐山に付いて行く。 2.物語を記した紙を随所に配置し、世界をさかしまの異界に。
93悪夢だったら覚めてくれ 1 ◆CDh8kojB1Q :2005/05/05(木) 07:32:21 ID:rkyY8ebI
叫び声を上げたヘイズは焦燥にかられていた。
パニックと無縁のいつもの自分らしくない。
(くそっ、ついに喰らっちまった)
演算に専念するタイプのI−ブレイン故、痛覚処理が出来ずに激痛が走る。
ヘイズは痛みを堪えてバックステップし、ドレスの女より距離を取った。
途中、肩から剣が抜け傷口から血があふれ出た。

(こいつぁ…ちょっとヤバいな)
I−ブレインとて脳の一部だ。
貧血になれば当然演算速度も低下し、攻撃を回避する事が不可能となる。
(このまま動き続けると、持ってあと2,3分か…)
それまでに目の前の女を倒し、最悪バンダナとも戦わねばならない。
脳内時計による戦闘開始からの時間経過は40秒。
コミクロンが帰ってくるのはまだ先になるだろう。
「デンジャラスすぎだぞ、不幸は打ち止めたはずじゃなかったか?」
しかし、ヘイズの顔に絶望は無い。

自分の養父の遺言を
自分は決して忘れはしない。
――生きて、突っ走って、這いつくばって、笑え――

「オレは諦めたりなんかしねえ。たたっ斬られようが、吹っ飛ばされようが、
 余裕で笑って生き抜いてやる!」
<全感覚器官、全神経をI−ブレインの制御下に再設定。未来予測開始。>
全ての感覚処理が通常の脳からI−ブレインに移行する。
同時に本来のヘイズの感覚がI−ブレインの中の感覚と統合される。
<I−ブレインの動作効率を95%から100%に再設定。>
「もう逃げ回るのはやめだ。けりつけてやるぜ」
同時にヘイズは跳躍した。
94悪夢だったら覚めてくれ 2 ◆CDh8kojB1Q :2005/05/05(木) 07:33:38 ID:rkyY8ebI
同時刻、コミクロンはギギナとの戦闘現場に戻ってきていた。
あたりに飛び散る自分の血液が生々しい。
「やっと見つけたぞ、愛しのエドゲイン君!こんな短時間で発見できるのも
 俺が大天才である事の証に違いない!」

その次の瞬間
「ぐああああああぁぁぁぁぁ!!」
絶叫が森にこだました。

数十秒前まで自分の横にいた男の声だった。
最悪の事態が脳を過ぎる。
「ヴァーミリオン!待ってろよ、今すぐこの大天才が助けてやるっ!」
叫んで、エドゲイン君を担ぐと再び疾走を始める。
(元居た場所まで約100メートル、間に合ってくれよ…)
元々頭脳労働派のコミクロンだが、ヘイズの命が掛かっているため全速力だ。
途中何度も木の根に足を取られそうになるが、全力で姿勢を制御する。
白衣が枝で裂けるが、それでも無視して走り続ける。
(本当にこーいうのはアザリーやキリランシェロの担当だ!
 俺にはもっとエレガントな役がふさわしい。いやむしろそういう役しか…)

十数秒ほどして、視界の中に赤い男と女をついに捕らえた。
舞闘士が舞い、森に剣戟音が響いている。
95悪夢だったら覚めてくれ 3 ◆CDh8kojB1Q :2005/05/05(木) 07:34:34 ID:rkyY8ebI
ドレス女が横薙ぎに剣を繰り出す。
狙いは喉だが、こっちはそれを二手ほど前から予測している。
ヘイズは一歩下がって其れを回避し、リーチを生かして突きを放つ。
女は姿勢を沈め、回転しながら足払いをかけてくる。
ヘイズが片足を上げてやり過ごすと、すぐさま下段からの連撃。
(…全部読めてるぜ)
上げた足で近くの木を蹴り跳躍して避ける。
距離が開いて攻撃が途切れる。
ふと草原を見ればバンダナが接近してくるのが分かった。
(あと十秒ちょいか…もたもたしてらんねえな)
ヘイズは自ら距離を詰め、

ズドン!!

雷の様な砲撃音を聞いた。
女が横っ飛びに回避した鉄球は、まごうことなきエドゲイン君の物。
そして、
「コンビネーション4−4−1!」
ギギナ戦で見たコミクロンの魔術が炸裂する。
――空間爆砕の反作用のエネルギーで対象を吹き飛ばす力技。
空中の女は回避不可能の衝撃波をまともに受けて、吹っ飛び動かなくなる。
96悪夢だったら覚めてくれ 4 ◆CDh8kojB1Q :2005/05/05(木) 07:35:08 ID:rkyY8ebI
ヘイズが砲撃主に向き直ってみると、白衣が見えた。
「女は気絶したみたいだな。やっと助かったぜ相棒」
「まだ早いぞヴァーミリオン。バンダナが来る」
森の奥から白衣の魔術師が姿を表す。
「全力でトータル一分走ったから俺はもう動けん。バンダナは任せたぞヴァーミリオン」
「負傷者に向かって何言ってんだ馬鹿野郎。良く見やがれ、血がどくどく出てんだぞ俺は」
「……コンビネーション1−1−9」
ヘイズはキレかけた。
「なんだ?傷塞いだからお前がやれってか?殴るぞ」
対してコミクロンはお手上げとばかりに首を振った。
「俺だってバンダナと戦いたくない。構成を破られたの見ただろ?エドゲイン君も弾切れだ」
「同感だ。オレも破砕の領域を見切られちまった。二対一でも勝てるかどうか…」
ここに来てバンダナがあと10メートルの所まで接近してきたのに気づく。
「逃げても無駄みたいだな。もうこうなったら最終手段しかないな」
「ああ、こうなりゃやけだ。用意は良いな?」


バンダナが5メートル手前で停止した。
ドレスの女が生きている事を確認すると、
「かかってきな。二人同時でもあたしは構わないよ」
こちらを睨み居合の構えを取る。
その瞳は世界の何者にも屈さなさそうな光を帯びている。

無問題だ。
こちらがする事といったら一つだけだ。
武器を捨て、
「「ごめんなさい。降伏します」」
男二人は謝罪した。全面的に。

「……は?」
バンダナは牙を抜かれてほうけた表情をこちらに向けた。
97悪夢だったら覚めてくれ 5 ◆CDh8kojB1Q :2005/05/05(木) 07:36:00 ID:rkyY8ebI
「事情はわかったよ。けど、いきなり降伏なんて何考えてんのあんた達?」
降伏の申し出を受けたバンダナに二人は尋問されていた。
二人に敵意が無いのと、ドレスの女にとどめを刺さなかった事が伝わり、
とりあえずは距離を取っての対話を行っている。
「だからさっきも言っただろ。無理に戦闘する気はなかったって」
「シャーネ吹き飛ばしといて何言ってんだか。あとあたしが言いたかったのは
 もしあたしが申し出受けないで攻撃したら、あんた達どうする気だったの?ってこと」
「その時はその時で戦うさ。武器を拾って弾幕張りながら特攻かけるつもりだった。
 こっちも意地はってまで戦う気は無かったんだ。もともとゲームに乗ったわけじゃない。
 被害が大きくなくて正直ほっとしてる」
緊張感ゼロの様子でコミクロンはバンダナに返事する。
コミクロンにヘイズが続く。
「それにあの女が問答無用で攻撃したから、こっちもマジになっちまったんだ。
 いや、先に手を出したのは謝る。だが最初から殺そうとしてたわけじゃねえんだ。
 オレ達は交渉したかった。そこんとこは分かってくれ」

バンダナはしばし沈黙の後に、
「いいよ。あたしは許す。だけどシャーネが起きたら謝っときなよ。
 ちなみにあたしは火乃香、よろしく」
どうやらある程度の信用は得られたらしい。
二人も応じて名乗っておく。
「欠陥品の魔法士、ヴァーミリオン・CD・ヘイズ」
「牙の塔、チャイルドマン教室の大天才にして科学者、コミクロン。
 ついでに信頼の礼だ…コンビネーション1−1−9」
コミクロンの医療魔術がシャーネの傷を塞ぐ。
火乃香は改めて見る魔術に興味を持ったようだ。
二人をしげしげと見つめる。
ヘイズは思い切って交渉してみることにした。
98悪夢だったら覚めてくれ 6 ◆CDh8kojB1Q :2005/05/05(木) 07:37:24 ID:rkyY8ebI
取り出した紙に素早く文章を書く。
『刻印には盗聴機能がある。
オレ達はこの刻印を解除できそうな知識人や協力者を探してる』
火乃香の顔色が変わった。
向こうも紙を取り出し返事をつづる。
『あたし達を誘ってるって事?』
『ああ、既に刻印解除構成式を作成した。だが未完成だ。複数の世界の技術で作成されてて、
 オレ達だけじゃあ解読できない。協力してくれないか?』
『生憎だけどあたし達特殊な知識なんか持ってない。それに人探しの途中でね』
『行動を共にするくらい構わないだろ?こっちは戦力的に不十分で、
 近接攻撃に弱いんだ。あんた達といればなにかと便利だ。』
ヘイズの提案に火乃香は少し思案する。

(確かにこいつ等といれば遠距離戦にも対応できるし、赤髪の演算力や
おさげの魔術も魅力的だね…刻印も解除できそうならそれこそ御の字か…)
個人的には少数精鋭が望みだが組むメリットは大きい。
抜け目無さそうに見えるが裏切るとも思えない。
取り敢えずは組んでみるべきだろう。

『いいよ、その話に乗った。けど不審な動きしたらその場でたたっ斬るからね』
『構わねえよ。戦ってたら今ごろどっちかはたたっ斬られてただろーしな』
利害の一致で三人は同盟に合意する。
さらなる話し合いで取り敢えず海洋遊園地に向かう事が決定した。
話す内に火乃香とヘイズはお互いの世界の事で盛り上がり、
コミクロンは寝転がって頭の中の刻印解除構成式の研究に入る。
森は静けさを取り戻した。
99悪夢だったら覚めてくれ 7 ◆CDh8kojB1Q :2005/05/05(木) 07:41:32 ID:rkyY8ebI
……!!」
しばらくしてシャーネが目を覚ました。
男二人は、すかさず五体倒地で謝罪する。
二人に気づいて騎士剣を片手に固まるシャーネに火乃香が事情を説明した。
「こいつ等は取り敢えず子分だと思っといてよ」
「「おい!!」」
「降伏したんでしょ?あんた達。なら必然的にワンランク下だよ」
間髪いれず入ったツッコミを火乃香はさらりと受け流す。
シャーネは傷の塞がった自分の手を見て、
次に魔術師二人を見比べて、紙に何かを書き出した。
『手が痛い。荷物持って』
魔術師二人は天を仰いで呟いた。
「「子分確定……最悪だ」」


【F-5/北東境界付近/1日目・11:15】
【戦慄舞闘団】


【火乃香】
[状態]:健康
[装備]:魔杖剣「内なるナリシア」
[道具]:
[思考]:1、シャーネの人捜しを手伝う 2、子分が出来た
100悪夢だったら覚めてくれ 8 ◆CDh8kojB1Q :2005/05/05(木) 07:44:49 ID:rkyY8ebI

【シャーネ・ラフォレット】
[状態]:右手負傷
[装備]:騎士剣・陽
[道具]: 
[思考]:1、クレアを捜す 2、子分が出来た


【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:左肩負傷、子分化
[装備]:騎士剣・陰
[道具]:支給品一式 、有機コード、火乃香のデイパック(支給品一式) 
[思考]:1、刻印解除構成式の完成。 2、もうどうにでもなれ…
[備考]:刻印の性能に気付いています。


【コミクロン】
[状態]:軽傷(傷自体は塞いだが、右腕が動かない)、子分化
[装備]:未完成の刻印解除構成式(頭の中)・エドゲイン君一号
[道具]:シャーネのデイパック(支給品一式) 
[思考]:1、刻印解除構成式の完成。2、クレア、いーちゃん、しずくを探す。
    3、この大天才の有能さを気づかせてやる
[備考]:服が赤く染まっています。

[チーム目的]:1、海洋遊園地に向かう。2、情報収集

【このレディと共に倒れていたので既に死亡したか気絶しているものと思っていたが──いやはや、無事でよかった!
それにしても、ふむ、君は何者だね? 魂からして人間でも吸血鬼でもダンピールでも食鬼人でもないようだが……】

肺の痛みに堪えつつ目の前の相手との間合いを計る。警戒心は解かない。
こいつ、オレが普通の人間じゃないって気づいてる? なら近からず遠からず曖昧に答えるのが得策か。
後は話題転化。大丈夫、カードで鍛えたシラフで切り抜ける。顔に出やすい少女は今は居ない。
「確かに“普通の”人間では無いけど一応人間。他のやつより治癒力が高いだけ。
 オレから見たらあんたのが全然吸血鬼に見えないよ」
【我輩はゲルハルト・フォン・バルシュタイン! 子爵の位を賜り、グローワース島のー】
…いや、繰り返せとは言ってないから。

【傷の具合はどうだい?】
「…まぁ、なんとか」
【いやはや、全く君の回復力には敬意を表するよ!!】
「そりゃどうも」

とりあえずあの後、簡単な自己紹介(もちろん自分が不死人であることは伏せてあるが)と情報交換を
済ました結果、お互い殺意が無い事が分かり、それから他愛も、少なくとも自分にとって本当に他愛も無い
会話を続ける事、数十分。とっとと何処かに行くのかと思ったら(きっと自分がそう願ってただけだけど)
どうやらこの長ったらしい名前の血液子爵はコミュニケーションを止める気は無いらしい。
文字通り何も言わないから分からないけど(もともと意思疎通は苦手だ)たぶん怪我をして動けない
自分を気遣って残っててくれているのだと思う。本当はもう動ける程度には回復してるんだけど。
まぁ、どっちにしろ今襲われたら対抗する術が無いから正直ありがたい。相手が素人ならともかく
先ほどのウルペンのような特殊な攻撃を仕掛けてくるようなやつが出てきたらひとたまりもない。
この島には変な奴ばかり集めらてるらしい。小さな溜め息を一つ、完治したばかりの肺から吐き出す。
…どうやらオレの周りに集まるやつは、お人好しか、明らかに敵意を露にしているやつの可能性が高いらしいな。
【服は着替えたほうが良いであろうな。そんな血みどろの格好ではレデイに対する第一印象は最悪の部類に属するだろう。
あぁ、いや他の紳士淑女に対してもだがね!!】
「分かってるよ」
慣れないやりとりに、最初は戸惑いつつも、数分で違和感が無くなったのは
自分の適応力のおかげと言うか、頼るのは視覚じゃなくて聴覚だけど似たような口うるさい旅連れがいるせいと言うか、
はたまた非日常が日常茶飯事故と言うか。そもそも自分自身が非日常の塊なのだから人(?)のこと言えないし。
そんな事を考えていると不死人として何十年も生きてきた自分に、大半の人間があたりまえに持ってる日常を
少しづつ分け与えてくれたのが他ならぬ、霊感の強いネガティブ思考の少女だったのだと改めて思い知らされた。

ごろんとコンクリートの上に再び寝転がる。背中がひんやりと冷たい。真昼といってもそんなに気温は高くないようで
降り注ぐ日差しも眩しくはあるが熱波というには程遠い。そもそもこの世界に季節なんてものが存在するのかは知らないが
過ごし易い気候だ。全く、こんなとこを配慮するくらいなら、最初から俺たちを巻き込まないで、どこかもっと遠くの
次元で殺し合いなり何なりしてもらいたかった。教会のやつらはこの状況を見てもまだ神様が存在すると思うだろうか?

透き通るような青空は以前変らない。流れる雲は白い。自分達が居た世界とは大違いだ。
…っと、そろそろ無駄な思考は中断。今は生き残る方法を最優先で考える。
とりあえず今後の方針は固まってる。時間的にもう始まるであろう放送を聞いて死亡者と禁止エリアを
確認した後、武器を調達しつつ人気が集まりそうな場所へ移動。子爵とは此処で別れよう。
キーリに再開出来たら、また怪我してるとか言われるだろうけど、きっと何だかんだ言って人に負けないくらい
あいつも擦り傷だらけでいるような気がする。早く見つけなきゃ。
ぐるぐるといろいろな考えが頭を占領する。するとネガティブ思考なのは自分も同じようで最悪の事態が頭の隅を掠めた。
今まで考えないようにしてた事。じわじわと範囲を広げていく。それはまるで大地震のP波のような災害直前の警鐘。
いや、直前と言っては語弊がある。P波が発せられる時点で災害はすでに確定事項であり、始まっているのだ。
今の自分にとっての最悪の災害、それは…。
もしキーリが死んでいたら…自分はどうするだろう。

自殺する?
…それは絶対ありえない。そんな簡単に死ねないし。痛いのやだし。

ゲームに乗る?
…昔のように兵士として淡々と人を殺す姿を思い浮かべるのは、そんなに難しいことでは無い。むしろ…。

協力者を集めて脱出する? もう、キーリは居ないのに?
………あぁ、興味ねぇ!!

ガバッと勢いをつけて起き上がる。赤銅色の瞳にはもう青い空は映ってない。
脱水症状も治った。肺も完治した。あとは放送を待つのみ。
そっと目を閉じて心を静める。どんな結果が出ても冷静に対処できるように。

そして第二回目の放送が始まる。どうか杞憂でありますように…。
【No Life Brothers?】
【C-8/港町/1日目・12:00】

【ハーヴェイ】
[状態]:完治。動くのに支障無し
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:武器調達をしつつキーリを探す。ゲームに乗った奴を野放しに出来ない。特にウルペン。
[備考]:服が自分の血で汚れてます

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン子爵】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
[思考]:放送を聞く。祐巳と潤の不在を気にかける。食鬼人の秘密を教えたのは祐巳だけであり、
    他者には絶対に教えない。アメリアの死を悼む。
 ※祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません

 *ハーヴェイは不死人・核の事については話してません。
  子爵も祐巳の食人鬼について話してません。
105乾いた血の朝(1/5) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/05(木) 14:45:02 ID:qZJvIvQ3
「ありゃ無理だな」
すごい速さで走り去っていく男を見て<人間失格>はつぶやく。
相手はこちらに気づいていたようだが歯牙にもかけず走り去っていった。
「ありゃあどう見ても殺し屋とかそんな感じだわな。
 流石に物騒なヤツが三人集まったら何が起こるか」
独白を呟いてシニカルな笑みを浮かべる。
でもいいナイフ持ってたな。少し惜しい。
手に持つ血にまみれた包丁を見下ろす。
後で研いでおくか。いつまでも切れ味の鈍いもの使うなんて勘弁だな。
やたら切れ味のいい、兄貴の持ってた大鋏を思い浮かべる。
とりあえず凪のところへ戻るか。

がさがさ
凪ちゃんのもたれかかった木の枝が揺れる。
「おーい戻ってきたずぇっとわっ!?」
零崎の声、と同時に凪ちゃんが後ろの木を蹴りつけた。
あいつの乗っている木を思いっきり蹴られ、枝から落ちた。
ひょいっと体を猫のように一回転させ着地する。ビバ・身の軽さ。
「おいおい凪っちさんよぉぉ。俺以外のヤツが近づくはず無ぇんだから木を揺らさないでくれっかよぉ。
 俺が例えばスペランカーなら今のでお陀仏さんだぜ?」
「糸に掛かった奴かもしれん。一応の用心だ」
「それに零崎、スペランカー先生はそんな木の上なんていう死地には赴かないよ」
「それもそうだな。ん? おやおや? <人食い>の匂宮はどこへ行ったんだ?」
大げさにあたりを見回して聞く。相変わらずリアクションが巨大な奴だ。
ちょうど出夢くんが出て行って10分。入れ違いすれ違いになった形だ。
「僕と凪ちゃんとドクロちゃんで出夢くんを手ゴメにしようとしたら愛想をつかされて・・・」
がきん。がつんがつん。
わりかし本気で殴られた。軽い冗談のつもりなんです。追撃はやめてください。
ドクロちゃんは意味が分からなかったのかほけーっとしている。ずっとそのままの君でいてくれ。
106乾いた血の朝(2/5) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/05(木) 14:45:40 ID:qZJvIvQ3
「あいつは仲間を追っかけていった。それより糸に掛かった奴はどうだったんだ?」
「ああ〜。駄目だった。もう駄目駄目。完全に人殺しって感じの男で見向きもしないで走り去っていった」
かははっ、と笑いながら説明になってないような説明をした。人殺しかどうか一目でわかる殺人鬼も便利だな。
「うん? おっ! そこのぴぴるのガキが持ってるのって愚神礼賛<シームレスパイアス>じゃねぇか!
 大将のバットだぜ!」
ぐいっと釘バットを引っ張って──離さないドクロちゃんをげしげし蹴りながら──重さを確かめてみる。
「この凶悪な重さは間違い無ぇ…零崎一族のエースの武器だぜ。
 もっとも、この場合はスラッガーって呼んだほうが好いかもしれないけどなっ」
ぱっとバットを放して、その反動でドクロちゃんが転んでいる。ひどいなあ零崎。女の子は大切にしないと。
まぁこいつの基本方針は、老若男女差別なく、だし。
「で、お前はその引っかかって外れた糸を戻してきたのか?」
「糸? なんの事だ?」
おい。
神様、こいつはアホですか?
「張りなおして来い」
びしっと零崎が行ったほうを指す。
零崎はずずいっと僕の目を見てきた。手伝え、ということなのだろう
「…欠陥製品♪」
「嫌だ」
「戯言遣い☆」
「お断りだ」
「…愛してるぜ」
「甘えるな」
言い争う僕と零崎。いい加減僕だって張りなおすなんていう単純作業は勘弁だった。
「いいから二人で行け」
「「はい」」
凪ちゃんの一声で僕らは再三の罠修復作業に向かった。

「ただいま」
ようやく糸を張りなおして戻ってきた。
精神的に疲れた。木の根に座り込む。
どうやらドクロちゃんは眠ったようだ。零崎のバッグを枕にして、釘バットを抱えて寝ている。
107乾いた血の朝(3/5) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/05(木) 14:46:15 ID:qZJvIvQ3
「零崎。石ころなんか拾ってきてどうするつもりだ?」
「ここらの石ころは質が良くてな。砥石の代わりに使えそうだからな。
 いい加減この包丁も血糊落とさねぇと錆びるっつーの」
そういって零崎はデイパックの水をこぼして、包丁を研ぎ始めた。
ああもったいない。そういえば僕のデイパックどうしたっけ。
うーん。喋るベスパのエルメス君はちょっと惜しかったかも。
しばらくして凪ちゃんが立ち上がって歩き出した。
「どうしたんだい凪ちゃん?」
「小用だ」
小用?小さな用事?それっていったい。
「何ならついていこうか?」
「来たら殺す」
殺す言われました。隣では零崎が肩を上下させている。笑ってるのか?
そう思ってる間に凪ちゃんは森の奥へ進んでいった。
「そっちは崖があるから気をつけろよ凪」
消えていったほうに声を上げる零崎。
ああ小用ってトイレね。なら最初からそういえばいいのに。
僕は零崎の研磨作業を見ていた。
さらに少しして、彼女が戻ってきたときは愉快な仲間が二人ほど増えていた──
108乾いた血の朝(4/5) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/05(木) 14:47:08 ID:qZJvIvQ3
【戯言ポップぴぴるぴ〜】
(いーちゃん/零崎人識/霧間凪/三塚井ドクロ)
【F−4/森の中/1日目・09:15】
【いーちゃん】
[状態]: 健康
[装備]: サバイバルナイフ
[道具]: なし
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ

【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 サバイバルナイフ 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:出雲とアリュセをどうしようか

【ドクロちゃん】
[状態]: 頭部の傷は軽症に。左足腱は、杖を使えばなんとか歩けるまでに 回復。
    右手はまだ使えません。 睡眠中。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: このおにーさんたちについていかなくちゃ
  ※能力値上昇中。少々の傷は「ぴぴる」で回復します。

【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]: 出刃包丁
[道具]:デイバッグ(支給品一式)  砥石
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。 罠に掛かった奴を探す
[備考]:包丁の血糊が消えました。
109乾いた血の朝(5/5) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/05(木) 14:47:46 ID:qZJvIvQ3
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【出雲・覚】
[状態]:左腕に銃創あり(出血は止まりました)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/うまか棒50本セット/バニースーツ一式
[思考]:千里、新庄、ついでに馬鹿佐山と合流/アリュセの面倒を見る


【アリュセ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:リリア、カイルロッド、イルダーナフと合流/覚の面倒を見る
110敵の敵は? 1/3 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/05(木) 15:42:11 ID:R0wJdO8O
 緊迫した雰囲気の中、ベリアルの脳裏に天啓が閃いた。
(そや、これなら!)
 自分の機転を内心で自画自賛しつつ、早速その案を実行に移そうと口を開いた、その時――


「ふもぉーっふもっふもっふもっ――!!」


 響いた声に四人が咄嗟に窓を見ると、そこには不気味な哄笑をあげる肥大化したぬいぐるみ――小早川奈津子が居た。
「あ?」
「うわ……」
「きゃ!」
「な、何なんや!?」
 どこをどう歩いて、何をどうしてきたのだろう。
 皆が思わず声を上げるほどに、それは異様な風体だった。
 と、ぬいぐるみの視線がこちらを向いた。
 舐め回すかのような視線が、まずベリアル、次いでガユスに。
 思わず悪寒と共に己が身を掻き抱く二人。
 最後に判断に迷うような視線が新庄を撫で、その嫌悪を催す感覚に、新庄は思わずミズーに身を寄せた。
「ふもぉ、ふもっ! っふも、ふぃーも、ふもっも!」
 興奮するような奇態な鳴き声とともに、ぬいぐるみが疾走を開始。
 ――速い。
「あかん、こっち来るわ!?」
 慌てて探知機に飛びついたベリアルが叫び、
「逃げよう! 何だか分からないけど凄く危険だよ! ……色々な意味で」
 その言葉にミズーとガユスも視線を交わし、
「D-1に公民館があったな。あそこで合流だ」
「ガユス、あなたは?」
「アレが何かは知らんが、狙いは俺とそこの男だろう――奴を撒いてからそちらを追う」
「……死なないでね」
「当たり前だ」
 共通の敵(?)を得た四人は、頷きと共に行動を開始する。
111敵の敵は? 2/3 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/05(木) 15:43:16 ID:R0wJdO8O


(をーっほほほほほ! 待っていなさい、そこの男ども! あたくしの僕にして差し上げるわ!!)
 奈津子はどたどたと階段を上り、踊り場で折り返して二階へと進む。
 と、その足が滑った。
 勢い良く階段から転落し、踊り場に全身を打ち付けるが――
(おのれ小癪な! さてはあの女の仕業!? それともあたくしの覇業を阻まんとする何者かの陰謀!?)
 足を滑らせた原因は、階段に転がされた懐中電灯。
 と、階段の上にモデルのような長身が見えた。
 けぶるような銀髪はスラブ系の血が入っているのだろうか。
「ふもっ! ふもーっ! ふぃーも、ふぃもっふ!」
 蹴り砕くかのような勢いで階段を踏み締めて、奈津子は前進を開始。
「ま、待てや! 置いてかんといてくれっ!」
 慌てて身を翻すベリアルを追い、更に前進を続けると――今度は何かに足を取られてまた踊り場に落下。
(おのれ小癪な! さてはあの女の仕業!? それともあたくしの覇業を阻まんとする何者かの陰謀!?)
 ……階段に張られたロープの仕業です。
 今度こそとロープを跨ぎ越してベリアルを追いかける。
 前方を走るベリアルの向こうには、もう一人の男も。
(をーっほほほほほほほ! 二人まとめて私のしもべーっ!)
 背後で微かな物音がした。
 物陰に隠れていた新庄とミズーが、奈津子の上ってきた階段を下って逃げ出した音なのだが、奈津子はそれに気付かない。
「――早く走れ!」
「あかん、追いつかれるで!?」
 前方の男二人が悲鳴を上げつつ、雑貨で狭くなった通路を縫うように走る。
「ふもっ! ふもももも! ふもーっ!!」
 奈津子が奇声を上げつつ、雑貨で狭くなった通路を雑貨ごと吹き飛ばして猛進する。
「何で俺こんな不幸……」
「いいから肩貸せ!」
112敵の敵は? 3/3 ◆a6GSuxAXWA :2005/05/05(木) 15:46:00 ID:R0wJdO8O
【B-3/ビル2F、廊下/1日目・09:22】
【小早川奈津子】
[状態]:右腕損傷。殴れる程度の回復には十分な栄養と約二日を要する。
[装備]:コキュートス / ボン太君量産型(やや煤けている)
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:1.竜堂終と鳥羽茉理への天誅。2.佐山を探す 3.逃げる二人を自分の僕に

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)。戦闘は無理。精神的肉体的に疲労。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ)
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:なんとか変な生き物を振り切る。合流と魔杖剣と咒弾の回収に(傷を悪化させてでも)D-1の公民館へ。
【緋崎正介】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的に疲労。
[装備]:探知機
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:なんとかあの変な物を振り切る。カプセルを探す。生き残る。
[備考]:六時の放送を聞いていません。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は、まだ正確に判断できていません)

『エンジェル・クロニクル』
【ミズー・ビアンカ】
 [状態]:左腕負傷(処置済みだが動かず)
 [装備]:火災用の斧
 [道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)、缶詰、救急箱
 [思考]:公民館へ逃げる。ガユスを心配。フリウとの合流
【新庄・運切】
 [状態]:健康(切モード・身体が男性になっている)
 [装備]:蟲の紋章の剣
 [道具]:支給品一式(懐中電灯、支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)、部屋で発見した詳細地図
 [思考]:公民館へ逃げる。別れた二人を心配。佐山達との合流。殺し合いをやめさせる
113Cross Point 1/6 ◆69CR6xsOqM :2005/05/05(木) 22:38:03 ID:9geCcxpU

「あぁああああぁ嗚呼ああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」
「何っ!?」
ガギィンッ
咆哮、そして金属音。
硬質化した祐巳の右の爪が振り下ろされた吸血鬼を弾き返す。
不意を突かれ、カーラは体勢を崩してしまった。
その隙に懐に入った祐巳の拳が心臓を正確に撃ち抜く。
「ぐ……は……っ!」
胸に白い竜麟が浮かび上がり、心臓を傷つけるまでは至らない。
しかしそれでも一瞬、呼吸を止められてしまった。
そしてさらに追い討ちをかけてくる祐巳。鋭さを増した爪を持った五指を振りかぶる。
魔術を行使するには時間が足りない。
瞬時にそう判断したカーラは吸血鬼を盾にして呼吸を整える。
衝撃。
小さな見た目に合わない、その異常なほどの膂力にカーラは吹き飛ばされてしまう。
接触した瞬間に吸血鬼を発動させようとしたのだが、
祐巳の想像以上のスピードに呼吸を整えるのが間に合わなかった。
何とか空中で体勢を整えて着地し、祐巳の方を見る。
今度はすぐには襲い掛かってはこなかった。
うなり声を上げながらこちらの様子を見ている。
『まずいわね。身体能力ならこの竜の子が最高位だと思っていたけれど
 あの娘のほうが若干上回ってしまっているよう。
 魔術で勝負をつけたいけれど、あの娘の速さを出し抜くのは少々難しいわね。
 あの娘、先ほどとはまるで雰囲気が違う。説得や、詐術は……通じそうにない。
 どうすれば…』
「アアアアアアアアアアアアアァァァァアァ!!」
ほんの数秒の思考時間しか与えられず、再び祐巳は咆哮をあげながら襲い掛かってくる。
自分の魔力を補佐するリングやアミュレットは今はない。
通常の戦士が相手ならばどのような手練であろうとも、
剣を撃ち合いながら呪文を唱える自信はあった。
自分の剣士としての技量はかつての英雄たちと遜色ない位置にあるはずだからだ。
114Cross Point 2/6 ◆69CR6xsOqM :2005/05/05(木) 22:38:40 ID:9geCcxpU
しかし彼女の速度と膂力は尋常ではない。まさに魔獣のそれだった。
攻撃を凌ぐことが精一杯で呪文に集中するどころではない。
意識を防御から一瞬でも逸らせば、その瞬間にこの強靭な爪で引き裂かれてしまうだろう。
相手が無力を装っているからとて、不用意に接近しすぎたことが失策だった。
しかしまだ勝機はある。
彼女はまるで狂戦士のように闘争本能のみで撃ちかかって来ており、そこには技もなにもない。
よって速度にさえ慣れてしまえば、攻撃の軌道を読むことは可能になる。
それに実際のところ、カーラは勝つ必要はない。
このまま殺されても、次の肉体が目の前の少女に移るというだけのことなのだ。
しかし一つの懸念がある。それは相手が二つの意識を持っているらしいこと。
弱き少女の心と理性無き獣の心。
今まで、一つの肉体に二つの精神を擁する相手を支配した例は無かった。
そこにどんなイレギュラーが起きるか判らない以上、敗北はなるべく避けたい。
『私は負けるわけにはいかない。
 なんとしてもフォーセリアに帰還し、再び灰色の均衡に世界を導かねばならないのだ』
そしてその時は訪れた。
カーラの誘いにかかって祐巳が繰り出した右の一撃は見事に空を切り、決定的な隙を曝け出す。
その一瞬を逃さずに左側面から吸血鬼を繰り出すカーラ。
しかし祐巳の反射速度はその致命のはずの一撃をも上回った。
空を切った右腕の下をくぐるように左手が現れ、吸血鬼を受け止めてしまう。
刃を握り締め、さらに右の腕を振りかぶる祐巳。
そして、カーラは微笑んだ。全ては目論見どおり。
ぐん、と吸血鬼に力が送り込まれその能力が発動する。
その剣に刻まれた……接触した相手を瞬時に切り刻む能力が。
カーラはその接触の時間を半秒だけでも作り出せばよかったのだ。
祐巳の全身に裂傷が生まれ、鮮血が迸る。
カーラは勝利を確信する。しかしそこに一つの誤算があった。
全身が血塗れになっても祐巳は怯まずに右腕を振り下ろしたのだ。
「そんなっ!?」
裂傷が生まれる際の衝撃によって攻撃の軌道は逸らされたものの、
その一撃はカーラの額冠を弾き飛ばしていた。
115Cross Point 3/6 ◆69CR6xsOqM :2005/05/05(木) 22:39:17 ID:9geCcxpU

カランッ キィン どさっ

乾いた音を立てて落ちる額冠と吸血鬼。重い音を立てて崩れ落ちる少年の肉体。
自分に対する悪意が消えたことによって満足したのか、祐巳は黙って佇んでいる。
その身体に生まれた裂傷はすでに治癒が始まっていた。
数分もしないうちに傷口は全て塞がり、そして……祐巳は目を覚ました。
「……あれ、私は……?」
周囲を見渡し、そして蒼白になる。
少年が倒れていた。
この少年がいつ現れたのかは全く記憶に無い。
意識の無かった自分。そして倒れている少年。
それを見て蘇る少女を殺した……悪夢。
「そんな!大丈夫ですか、しっかりしてください!」
慌てて少年の身体を抱き起こしてみる。
……生きていた。呼吸も心臓の鼓動も正常だった。
ところどころに裂傷があるけれど、どれも深刻なものではなかった。
安堵する。それと同時に再び涙が溢れ出してきていた。
また自分は人を傷つけてしまったのだ。
また一つ罪を重ねてしまった。やはり自分は消えなければならないのだろう。
怖い。でも勇気を振り絞らなければならないのだ。
もう誰も傷つけない覚悟を決めなければならないのだ。
震える全身を止めようと心臓の辺りの衣服ををぎゅう、と握り締める。
【その必要はないわ】
「えっ?」
不意に聞こえた声に周囲を見回す祐巳。
【あなたの望みは何? 私なら、それを叶えてあげられるわ】
その声は、地面の上の額冠から聞こえてきた。
カーラもまた賭けに出たのだ。このまま放置されても目覚めた竜の子に砕かれるは必至。
自分は彼の願いを裏切ったのだから。
ならば結果が不確定とはいえ、祐巳を支配することを選ぶしかない。
116Cross Point 4/6 ◆69CR6xsOqM :2005/05/05(木) 22:40:01 ID:9geCcxpU
「私の……願い?」
【そう、あなたは泣いていましたね。それは叶わぬ願いがあるからではないのですか?】
核心を突かれる。
祐巳は項垂れ、懺悔のつもりで話始めた。
「私は、力が欲しかったんです。お姉さまを、友達を守る力が。
 理不尽に死んでしまった友達の分も生きる力が。そして私はその力を手に入れたはずでした。
 でも……それは私には制御できなかった。そのせいで……」
一人の少女を死に至らしめてしまった。。
【そう、それはとても哀しく、辛いことでしたね。
 自らに釣り合わぬほどの大きな力は須らく破壊への導火線となってしまう。
 均衡を外れた力はそれほどに危険なのです。
 福沢祐巳。わたしを受け入れなさい。そうすれば新たな力ともにあなたの願いは叶えられるでしょう】
祐巳は恐る恐る額冠を拾う。
「本当に、できるんですか?私がみんなを救うことが……」
【あなたは食鬼人というとても強い肉体を手に入れました。
 しかしそれを制御するにはあなたの精神は脆弱にすぎたのでしょう。
 わたくしは魔女。力を制御する術は他の誰よりも深く理解しています。さあ】
そうだ。私の心が弱かったから私は自分の力に負けてしまったのだ。
それならば……。
祐巳は目を閉じ、静かに額冠を装着した。
「やめろぉっ!」
突然の制止の声と風切り音。
背後から伸びてきた腕を祐巳は鋭い身のこなしで回避した。
「ちっくしょう!遅かったか」
「もう目覚めたのね。流石竜の子といったところかしら」
そう、そこにいるのはカーラの呪縛から解き放たれた竜堂終だった。
「よくも俺の気持ちを裏切ってくれたな。
 俺もどうかしてたけど、あんたはもっと酷いぜ!さあ、その女の子を放せ!」
「悪いけど、今はあなたに構っている暇はないの。この娘の力に慣れないといけないから」
祐巳……いや、祐巳の肉体を手に入れたカーラは不敵に微笑むと呪文を唱え始めた。
終はそれを見るや否や、カーラに向かって突っ込んでいく。
117Cross Point 5/6 ◆69CR6xsOqM :2005/05/05(木) 22:40:54 ID:9geCcxpU
先ほどまで自分自身がカーラだったのだ。彼女の魔法の恐ろしさはよく理解していた。
能力を制限された自分が耐え切れる攻撃ではないということも。
それならば魔法の完成前に額冠を奪い取るしかない。
しかしカーラの唱えていた呪文は攻撃のためのものではなく、終の予想よりも早く詠唱が終わった。
詠唱が終了したと同時にカーラは巨大な鳥に変化し、終の間合いの届かない場所まで舞い上がったのだ。
カーラが単独での長距離移動に使用するロック鳥への変化だった。
「あ?きったねえ!」
カーラはそれに応えることもなく、南の方へ飛び去っていく。
終は放置されていた吸血鬼を拾い上げ、空へと構えた。
あの距離、制限されているとはいえ自分のライフルアームならばまだ撃墜は可能だ。
だが結局は断念し、吸血鬼を降ろす。
そしてもうカーラは目視のかなわない場所まで飛び去って行ってしまった。
カーラは許せない。しかしカーラに憑かれている少女には罪はないのだ。
カーラを通してみた少女の涙が思い返される。
「絶対に助けてやるからな。待ってろよ」
決意を音に出して風に乗せる。
兄である竜堂始が死に、家族同然であった鳥羽茉理が死んで、目標を見失ってしまった終だが
新たな目標を持って胸に熱いものがこみ上げてくる。
「家訓曰く恨みは十倍返し。待ってろよカーラ」
そして終は走り出した。まずは仲間だ。
自分ひとりではやれることにも限界がある。
カーラの存在を広め、助けてくれる人を募るのだ。その為には人が集う市街地を目指すことにした。
彼の瞳にもう、迷いはなかった。

一方、カーラは島の南端まで飛ぶつもりが、あまりの消耗の激しさに途中で着陸せざるを得なくなっていた。
変化を解いて、森の中に着地する。
その瞬間眩暈に襲われた。思わず膝を突いてしまう。
血が足りないのだ。傷口は塞がっているものの、失血を取り戻せるわけではない。
食事をし、休養を取らなければならない。
市街地へ赴けば食糧の問題は無い。しかし今の状態で人の密集する市街地は危険だ。
118Cross Point 6/6 ◆69CR6xsOqM :2005/05/05(木) 22:41:36 ID:9geCcxpU
デイパックから地図を取り出し開く。現在地はF-4。すぐ南に城があるらしい。
人がいないとは言い切れないが、市街地よりはマシだろう。
少数ならば説得する自信もある。何より今はか弱い少女の姿なのだから。
それにいざとなれば……祐巳のデイパックに視線を落とす。
「本当に優しい娘……人を支配することに忌避を感じ封印していたのね」
そう、祐巳に支給されたアイテムはあの太守の秘宝の一つ、「支配の王錫」だった。
オリジナルと違い、いろいろと制限を加えられているがそれでも強力にすぎる道具。
マニュアルに曰く、一度に5人までしか支配できない。
曰く、支配している間は常に王錫を手にしていなければならない。
曰く、王錫の力が働いている間はいかなる能力・魔法も使用できない。
つまり5人を支配し、忠誠を受けることが出来る代わりに自分自身が無力化してしまうということだ。
だが、過去いかなる英雄も抗うことかなわなかったという力。
その制限を以って有り余る力だった。
「私はこの力を持って、必ず世界を理想へと導いてみせる
 黒でも白でもない灰色の世界へ」
そう呟いて、カーラは城へと向かって足を踏み出した。

【F-4/森の中/一日目、12:18】
【福沢祐巳(カーラ)】
 [状態]:看護婦 魔人化 失血による貧血、疲労
 [装備]:サークレット 保健室のロッカーに入っていた妙にえっちなナース服(血まみれ)
 [道具]:ロザリオ、デイパック(支配の王錫)
 [思考]:フォーセリアに影響を及ぼしそうな参加者に攻撃
    (現在の目標、坂井悠二、火乃香)

【C-4/崖の上/一日目、12:18】
【竜堂終】
[状態]:あちこちにかすり傷 かなりの疲労
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:市街地へ向かい仲間を探す/カーラを倒し、少女を救う
119The quartet goes to the west ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/06(金) 00:36:32 ID:OsIEuikw
 陽の光が薄い森の中。
 女二人に男が二人、かなりのペースで森を踏破していた。
 前を歩く女性陣のコース取りがいいのだろう。
 障害の多い地形にも遮られることなく、四人は西へと進んでいく。


「おのれ……なぜこの天才が荷物持ちなど」
「あきらめろ。オレ達の扱いなんてこんなもんだ」

 不遇を呪うは白衣にお下げ、半ば木枠がはみ出てたバックを背負い、同じバックを右手で抱
えた少年――――コミクロン。
 コミクロンは自分と同様二つのバックを抱えた相方・ヘイズの諦観を聞くや否や、無意味に
大きくかぶりをふり、唾を飛ばして訴えた。
 口を開くのに合わせこれまた無意味に目の奥が光る。
 
「なぜだ、ヴァーミリオン!
 俺達は今いわれのない労働を強いられているんだぞ!?
 俺は認めん、断じて認めん!
 そもそもこういうのはキリランシェロかハーティアの役目だろうに。
 くそ、こういう時になぜあいつらはいないんだ!
 弁護士だ……腕利きの弁護士を呼べ!」
「いいじゃねえか、バック持つくらい。
 向こうは女の子なんだしよ……――――今でも信じられないけどな」
120The quartet goes to the west ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/06(金) 00:37:44 ID:OsIEuikw
「うむ、残念ながら黒魔術士は性差廃絶主義だ。
 そもそもこの天才に言わせれば、女がか弱いなどというのは史実離婚の妄言だな。
 政府の巧妙なプロパガンダ以外のなにものでもない!
 アザリーなんか、にっこり笑いながらリンゴを片手で握り潰すんだぞ!?
 あの怪物どものどこがか弱い!?」
「シジツリコン…………事実無根のことか?
 とりあえず落ち着け、コミクロン。
 そのアザリーとやらは知らんが、あの二人にリンゴは潰せんだろ。
 せいぜい果物ナイフで人体バラす程度のはずだ」

「あんたらさ、ひょっとしてわざとやってるの?」

 さきほどから後方でわめいている子分二人を半眼で見やり、火乃香は深くため息をついた。
 眉の間に無意識に皺が寄る。
 軽い頭痛を感じるのは気のせいなのかそうでないのか。
 海洋遊園地に向けて歩き出してまだ五分も経っていない。
 その間にコミクロンが叫ぶこと七回。
 ヘイズが合いの手を入れて悪化すること三回。
 後方が騒がしくなるたび一睨みして黙らせていたのだが、さすがの火乃香も根負け寸前、メ
リットに釣られて二人を仲間にしたのをこっそり後悔する有り様だった。
 居合い使いの忍耐をわずか五分で削りきるのは、偉業といえば偉業ではある。
121The quartet goes to the west ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/06(金) 00:38:31 ID:OsIEuikw
 もっとも相方のナイフ使いは無表情のまま歩みを止めない。
 木の根を越えてすいすいと進んでいく。
 心なしか後姿が楽しそうに見えるのは、まあ目の錯覚だろうと火乃香は判断した。
 
「つまらないことで騒いでて襲われでもしたら目も当てられないからね。
 すこし音を抑えて。 ……コミクロン、次騒いだらお下げを片結びにするよ」
「なっ!? お、横暴だぞ!」
「言ったろ、ワンランク下だって。子分は親分の言うことを聞かなきゃね」
「あきらめろ、コミクロン。お前の扱いなんてこんなもんだ」
「裏切る気かヴァーミリオン! 自分には罰がないからってずるいぞ!」
「ずるいってあんた……。じゃあ、ヘイズは騒いだら髪を全部青くするってことで」
「……勘弁してくれ」

 不毛な騒ぎは一分ほどで終結した。
 その間無言で歩き続けたシャーネに追いつくために、若干駆け足になる三人。
 追いついてからは駆け足の音も消え、奇妙な静寂が四人を包んだ。

(なんか、逆に落ち着かないかもね)

 胸中で頬をかきながら火乃香はシャーネの背中に従う。
 少女はその細腕に似合わず卓越した刃捌きで枝を払っていく。
 その分後続は楽に歩けるはずなのだが、最後尾のコミクロンは木枠が邪魔で幾分苦労してい
るようだった。
 時々白衣の裾を自分で踏んづけて、べちゃりと潰れている。
122The quartet goes to the west ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/06(金) 00:39:59 ID:OsIEuikw
 葉の擦れる音が耳に馴染んできた頃、森の出口が見え始める。
 ここから先は平原だ。
 南へ行けば城があるし、真っ直ぐ西へ進めばまた森に入ることになる。
 どちらも危険度は未知数だ。
 否、もとよりこの島に安全な場所などない。
 必要なのは危険を払いのけるだけの実力だ。
 多少手荒なことになっても、この面子なら切り抜けられるという自信はある。
 
 出発前に、どちら寄りを進むかは決まっていた。
 
「じゃあ、予定通り森を掠めるようにして西へ突っ切るってことで」
 火乃香の言葉に、残りの三人が頷く。

 
 まさか南の城に探し人がいるとは露とも知らぬまま、四人は草原へと踏み出した。
 
 
  
【F-4/草原と森の境目/1日目・11:25】
【戦慄舞闘団】

【火乃香】
[状態]:健康
[装備]:魔杖剣「内なるナリシア」
[道具]:
[思考]:1、シャーネの人捜しを手伝う 2、子分が出来た
123The quartet goes to the west ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/06(金) 00:40:40 ID:OsIEuikw
【シャーネ・ラフォレット】
[状態]:右手負傷
[装備]:騎士剣・陽
[道具]: 
[思考]:1、クレアを捜す 2、子分が出来た


【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:左肩負傷、子分化
[装備]:騎士剣・陰
[道具]:支給品一式 、有機コード、火乃香のデイパック(支給品一式) 
[思考]:1、刻印解除構成式の完成。 2、もうどうにでもなれ…
[備考]:刻印の性能に気付いています。


【コミクロン】
[状態]:軽傷(傷自体は塞いだが、右腕が動かない)、子分化
[装備]:未完成の刻印解除構成式(頭の中)・エドゲイン君一号
[道具]:シャーネのデイパック(支給品一式) 
[思考]:1、刻印解除構成式の完成。2、クレア、いーちゃん、しずくを探す。
    3、この大天才の有能さを気づかせてやる  4、片結びの危機
[備考]:服が赤く染まっています。

[チーム目的]:1、海洋遊園地に向かう。2、情報収集
124Cross Point(修正) 6/6 ◆69CR6xsOqM :2005/05/06(金) 00:52:17 ID:MEY2ttwS
デイパックから地図を取り出し開く。現在地はF-4。すぐ南に城があるらしい。
人がいないとは言い切れないが、市街地よりはマシだろう。
少数ならば説得する自信もある。何より今はか弱い少女の姿なのだから。
それにいざとなれば……祐巳のデイパックに視線を落とす。
「本当に優しい娘……人を支配することに忌避を感じ封印していたのね」
そう、祐巳に支給されたアイテムはあの太守の秘宝の一つ、「支配の王錫」だった。
オリジナルと違い、いろいろと制限を加えられているがそれでも強力にすぎる道具。
マニュアルに曰く、一度に2人までしか支配できない。
曰く、支配している間は常に王錫を手にしていなければならない。
曰く、王錫の力が働いている間はいかなる能力・魔法も使用できない。
曰く、王としての徳を失うような行動・命令は支配の破棄を招く
(※自殺命令・支配相手へ直接攻撃意思を持つ・被支配者の同士討ち命令等)
つまり2人を支配し、忠誠を受けることが出来る代わりに自分自身が無力化してしまうということだ。
オリジナルと比べて遥かに弱い効力だが使い方次第では非常に有利に立ち回ることが出来る。
「私はこの力を持って、必ず世界を理想へと導いてみせる 黒でも白でもない灰色の世界へ」
そう呟いて、カーラは城へと向かって足を踏み出した。

【F-4/森の中/一日目、12:18】
【福沢祐巳(カーラ)】
 [状態]:看護婦 魔人化 失血による貧血、疲労
 [装備]:サークレット 保健室のロッカーに入っていた妙にえっちなナース服(血まみれ)
 [道具]:ロザリオ、デイパック(支配の王錫)
 [思考]:フォーセリアに影響を及ぼしそうな参加者に攻撃(現在の目標、坂井悠二、火乃香)

【C-4/崖の上/一日目、12:18】
【竜堂終】
 [状態]:あちこちにかすり傷 かなりの疲労
 [装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
 [道具]:なし
 [思考]:市街地へ向かい仲間を探す/カーラを倒し、少女を救う
※支配の王錫はオリジナルより強制力が弱いので強靭な精神力を以ってすれば抵抗は可能です。
 また支配されてしまっても、親しい者の声やそれに類するきっかけによって 抵抗力が強まり、支配から脱することができる場合があります。
125闇の眷属(1/4) ◆1UKGMaw/Nc :2005/05/06(金) 19:19:28 ID:ied326Sx
 森の中を行く影が一つ。
 黒い肌と長く尖った耳を持つ長身の女性――ピロテースである。
 オーフェン、リナ、アメリア、そして敬愛する黒衣の将軍――アシュラムの捜索のため、ピロテースは島中央の森を訪れていた。
 だが、
(……結局、誰とも会うことはなしか)
 時計を確認する。時刻は11:20。
 その四名どころか、他のどの参加者とも出会うことなく、この時間になってしまった。
 森の精霊達が微かに騒いでいる。幾人かの参加者がこの森を通過したことは間違いないだろう。
 だが、その者達と接触できないのでは何の意味もない。
 見つけたものと言えば、無人の小屋だけだった。
 デイバッグと空のペットボトルが放置されていたので、誰かがここを利用していたのは確かだった。
 デイバッグの中身は気になったが、これ見よがしに置いてあること自体が怪しい。
 罠の可能性を考え、これには手をつけなかった。

(そろそろ戻るべきだな)
 集合時間まで残り40分。
 収獲なしだが、時間に遅れるわけにはいかない。
 現在地は、崖と湖畔の中間地点辺りだ。ここからなら、警戒しながらでも40分あれば十分に戻れるだろう。
 学校へ戻ることを決め、踵を返そうとしたところで……、ピロテースは異常に気づいた。
「……血の匂い?」
 微かに風が運んできた、嗅ぎ慣れた匂い。
 ピロテースは警戒した面持ちになると、その匂いを辿り歩き出した。

126闇の眷属(2/4) ◆1UKGMaw/Nc :2005/05/06(金) 19:21:32 ID:ied326Sx
 その死体は、半ば土に埋もれていた。
 元は白かったであろうその服も、土と、そして死体自身のものと思われる夥しい血によって赤黒く汚れている。
(なんだ? 一度埋めてからまた掘り返したのか?)
 どのような意図があってそうしたのかは分からないが、この現場を見る限りそうとしか思えなかった。
 不審に思い、ピロテースはその死体をよく観察する。
 若い女性だ。肩の辺りで揃えた癖の強い黒髪に白いローブ。腰の辺りに一房のアクセサリー……
(……待て)
 まさか、と思う。
 この容姿は、協力関係にある石人形のような肌の男――ゼルガディスの探し人と一致しないだろうか?
 確か、名前はアメリアといったはずだ。
(人違いであるに越したことはないが……一人脱落か)
 これは戻って報告しなければなるまい。
 そう考えると、今度は死因を調べることにする。
 その死因を付けられる武器を持つ者がいたら、要注意人物と見てかかることができるからだ。とはいえ、
(……酷いな。これではどれが決定打かもわからん)
 アメリアの全身には、引き裂かれたような傷跡と出血の跡があった。
 言わば、その全てを総合して致命傷となっているというところか。
(まるで獰猛な魔獣にでも襲われたかのようだな。背後はどうなっている?)
 身体を返そうとしてアメリアの顔を動かした時、首筋に"それ"が見えた。
「!!」
 反射的に飛び退り、センス・オーラをかける。
 最悪の予想が脳裏をよぎった。
 アメリアの精霊力に異常が見えれば、彼女はヴァンパイア化していることになる。
 が、予想に反して精霊力に異常は見当たらなかった。
 首筋の、二本の牙の痕を露出させたまま、彼女はピクリとも動かない。
(ヴァンパイアではないのか? ……いや、しかし)
 首筋のあの痕。ピロテースの知る限り、闇の眷属の中でも上級に位置するヴァンパイアの仕業に違いない。
 だが、彼女がその眷属と化していないのはどういうわけだろうか。
(つまり……私の知らない類のヴァンパイア、ということか?)
 自分の知らない能力を持つ者なら、協力者の中にもいる。自分の知らない闇の眷族もまた、存在していてもおかしくはない。
 断定は出来ないが、この場ではピロテースはそう結論付けた。
127闇の眷属(3/4) ◆1UKGMaw/Nc :2005/05/06(金) 19:22:18 ID:ied326Sx

 アメリアの腕輪と腰のアクセサリーを外し、自分のデイバッグへ移す。
 これらをゼルガディスに見せ、本当に彼女がアメリアかどうか確認する必要があるだろう。
 土を被せてやるべきかとも思ったが、もうそんな時間は残されていなかった。
「収獲なしのほうがマシだったかもしれんな」
 そう独りごちて立ち上がり、アメリアに背を向ける。
 数歩踏み出したところで、最後にちらりと視線だけで振り返った。
(ヴァンパイア……気に留めておいたほうがいいかもしれんな)
 そしてピロテースは、今度こそ学校を目指し駆け出した。

128闇の眷属(4/4) ◆1UKGMaw/Nc :2005/05/06(金) 19:25:30 ID:ied326Sx
【D-4/森の中→草原/1日目・11:35】

【ピロテース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/アメリアの腕輪とアクセサリー
[思考]:アシュラムに会う/邪魔する者は殺す/再会後の行動はアシュラムに依存
[備考]:ヴァンパイアの存在に気づきました。

*行動:学校へ戻り、アメリアの遺品をゼルガディスに渡す。

129 ◆1UKGMaw/Nc :2005/05/06(金) 19:39:35 ID:ied326Sx
>>125-128【闇の眷属】はNGとします。
失礼しました。
130黒魔術同盟(1/4) ◆/91wkRNFvY :2005/05/06(金) 21:08:14 ID:O/lA1OnF
「さて、茉衣子くん。いつまでもノンビリしているわけにもいくまいな」
 小休憩のあと宮野は、立ち上がり服に付いた埃を払いながら言った。
「それはそうなのですが、これからは何処へ向かうおつもりですか?
 まさかその佐山様というお方へお礼をしに行くなどとは言いませんわよね?」
「当たり前だ。先程も言ったと思うが、何故私が悪人と仲良うせにゃならんのだ」
 言いながら2枚のメモのうち、茉衣子に渡していない方をポケットにしまい込む。
「そちらには何と?」
「佐山御言なる人物についての自己紹介だ」
 当然そうではない。そのメモにあった「物語」は――。

『けけっ、コイツはとんだ喰わせモンだな!?』
 宮野にあわせエンブリオが騒ぎ立てるが、それは無視して、
「とりあえずだな、ここを出て適当に歩いてみようではないか。先の方法はえらく不評だったのでな」
「適当なのは変わっていませんわ」
 とは言うものの、特に進むべき指針があるでもなし、大人しく宮野に従う。
(その時になったら、いつものように班長がパパっと解決してしまうのですわ)

『いーんじゃねぇの?その方が多くのヤツらと会えそうだぜ』
「うむ、その通りだ。もし相手が敵意丸出しの乱暴者でも、私が茉衣子くんを護ると保障しよう」
「そのような保障はいりませんわ、自分の身くらい自分で護れます」
 言いながらも出立の準備を始める茉衣子。
(結局班長に頼ってしまうのですわ、いつからこうなってしまったのでしょうか)
「うむ、では行こうか」
(あの時からですわ、吸血鬼事件の後のわたくしは全くもってどうにかしていました、ですが…)
 茉衣子は荷物を背負い、佐山からの水や食料はそのままに宮野と共に小屋を出る。
(これで良いのかもしれませんわね)
131黒魔術同盟(2/4) ◆/91wkRNFvY :2005/05/06(金) 21:09:50 ID:O/lA1OnF
 小道を道なりに歩き、
「茉衣子くんは、どうして我々がこの空間に連行されたと思うかね?」
 唐突に問いかける。
「珍しいですわね、班長が人の意見を求めるなんて」
「心外である、高性能の論理演算ユニットを積んでいる私とて、全ての事象に通じているわけではない。
 それに、愛弟子の意見も聞かずして何が師か」
「愛弟子というのはおやめください。わたくしは第3EMPの生徒自治会保安部退魔班の班員で、
 班長はその退魔班の班長なのです、年齢も一つしか違いません。ただそれだけですわ」
「むぅ、そういう風に教育した覚えは無いが、そもそもキミは私とコンビを組んで仕事をしているではないか」
「会・長・命・令、ですわ。でなければ誰がトリ頭の班長などと好き好んで行動を共にしますか。
 それに、そうでない風に教育された覚えもございませんわ」

 茉衣子は諦めたように、はぁ、と溜息をつく。
「わたくしたちがこの空間に連行された理由、こんな場所で殺し合いをさせられる理由。
 そうですわね、わたくしたちの様な能力者を集めて頂点を決めようというのは如何でしょう?」
「あり得ない話ではないが、私は否定する」
「何故でしょう?」
「私は他学園の能力者について多少は知ってはいるが、名簿を見たところ私の知っている者は君しかいなかった、
 EMP能力での頂上決戦というわけでも無さそうだ」
 
「でしたら、以前班長が仰っていた平行世界云々という話がございますが、その世界から集められた方々ではありませんの?」
「この100名強についてはおそらくそうだろう。兵長氏の世界は我々の知っているそれではない」
132黒魔術同盟(3/4) ◆/91wkRNFvY :2005/05/06(金) 21:12:57 ID:O/lA1OnF
『確かにな、俺のいたところじゃ魔術なんて存在しなかったしな、
 お前たちのいた日本という地名も、聞いたことの無い所だ』
 茉衣子が首から下げている、ラジオに憑り付いた兵長。彼は母星から移民した人々の末裔だ。
 頷くような動作のあと、
「また、何かしらの異能力を競争させる場合だとしても、ここに呼び出されるのは我々である必要は無い、
 それこそ性悪テレパス娘と妖撃部の女部長か遊撃部の連中を呼べば良いのだ、
 支給品にしろ、それぞれが得意とするものでなければ効率的とは言えん」
「確かにそうですが」
 数時間前、先ほどの小屋にいた2人が似たような話をしていたが、それはこの2人の知るところではない。
 今度は少し考え込み、
「それでは、こうしてわたくしたちが出会うことによって何かを得ようとしている、というのは如何でしょうか」
「ふむ、我々が「出会う」事により何かを「得る」か、中々的を射た表現ではあるなあ」
「私もその意見に概ね賛成だ、細かい所まではまだ判らんがな」
「とりあえず、だ」
 急に立ち止まり、間をおく。
「そこのキミ!よければこの私、宮野秀策が擁する黒夢団に加入する気は無いかね!?」
 見かけは木々しか見えない空間に向かって声をかける。

「ほんと俺、ツイてないよな……」
 深い溜息と共に返ってきた声は、何故かやけに疲れた若い男のものだった。
133黒魔術同盟(4/4) ◆/91wkRNFvY :2005/05/06(金) 21:13:40 ID:O/lA1OnF
【キーフェンを出よう!-from the aspect of ENJOU-】
【残り85人/E6/森の中/1日目/09:30】

【宮野秀策】
[状態]:健康
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)・エンブリオ。
[道具]:通常の初期セット。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
   :この空間からの脱出。

【光明寺茉衣子】
[状態]:健康
[装備]:ラジオの兵長。
[道具]:通常の初期セット。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
   :この空間からの脱出。

[備考]
廃屋内にあったペットボトル(詠子の血入り)は破棄、「物語」はまだ読んでいません。
廃屋内にあったペットボトルの中に、毒物に類するものが混入されていたと考えています。
ペットボトルに毒物を混入した犯人として、佐山御言が挙げられています。
ただし同時に佐山御言の名を利用した行為であるとも考えています。

【オーフェン】
[状態]:精神的に疲労気味、いろんな意味で。行動には支障なし。
[装備]:牙の塔の紋章×2
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本、パンが更に減っている)、獅子のマント留め、スィリー
[思考]:クリーオウの捜索、仲間を集めて脱出(殺人は必要なら行う)
※第一回放送を冒頭しか聞いていません。
134閑話 〜女三人集まれば〜(1/4) ◆Sf10UnKI5A :2005/05/07(土) 00:51:28 ID:WuHAkTpQ
 魔法と芸術の(略)にて

「…………」
「…………」
「…………」
「あのさー……」
「な、何ですか?」
「あんたってホントに軍人なの?」
「……やっぱり、見えませんかね?」
「見えないわよ。体弱そうだしドンくさそうだし美少女だし」
「最後のは関係あるんでしょうか……」
「あたくしは特に不自然とは思わなくってよ。
貴方と同じ年頃に、法学者として最高の地位に着いた女を知っているもの」
「……それが、サラ・バーリンさんですか?」
「勘が良いのね。その通りですわ」
「ンなこと言ったらあたしだって、可憐な少女時代には既に数々の魔法を習得し、…………」
「どうかしましたか?」
「…………うん。ちょっと、すっごぉぉぉく嫌な肉親との思い出が……」
「はあ、その、ご愁傷様です……」
135閑話 〜女三人集まれば〜(2/4) ◆Sf10UnKI5A :2005/05/07(土) 00:52:25 ID:WuHAkTpQ

「ところでテレサさあ」
「あ、テッサでいいです。元いた場所ではそう呼んでもらってました」
「そお? じゃあテッサ、あんたどうしてベルガーと一緒に動いてたの?」
「ええとですね、たまたま最初に飛ばされた先が一緒で、それで…………」
「ん? なんか顔赤いけど」
「いえ、そんな何でもありませんっ! たまたま一緒だっただけなんです!!」
「……ふーん、そお。にしちゃあさっきは随分気にしてたみたいだけど」
「そりゃあ、一人で行く人を心配するのは当然じゃないですか……」
「絶対とは言わないけれど、あのエルメスが一緒なのだから平気でしょう。
あんな速い乗り物は見たことも聞いたことも無かったわ」
「あたしも同じ。テッサは?」
「私は、よく知ってますし、ベルガーさんもそうみたいですけど……」
「……なかなか複雑そうですわね。
どうして、どうやって、こうも違う人間ばかりが大量に集められたのか」
「考えてみる価値はありそうね。シャナが起きたら、彼女にも事情聞きましょ」

「それにしても、シャナさんよく寝てますね……」
「大怪我抱えてさんざん走り回ってたみたいだから、当然でしょ。見た目はガキだってのに化けモンよねー」
「たとえ何か力を持っていたとしても、無茶をする人間が多すぎるわ。そういう人ばかり集められたのかしら」
「……何であたしを見て言うのよ?」
「さあ? 御自分で考えなさったら?」
「二人とも、その、仲良くしましょうよ……」
136閑話 〜女三人集まれば〜(3/4) ◆Sf10UnKI5A :2005/05/07(土) 00:55:19 ID:WuHAkTpQ

「……電話、来ませんね。順調に行けばもう着いてていいのに……」
「そろそろ一時間経つわね。メールっての、またこっちから送る?」
「あまりこちらから問うようでは、疑ってると思われても仕方ありませんわ。
もう少し待つとしましょう」
「そう、ですね」
「……テッサ、そう悲観することはなくってよ。
誰か捜し人と合流して、それで遅れているのかもしれないわ」
「エルメスって、せいぜい三人くらいしか乗れそうにないし、歩くとなりゃあ時間かかって当然よねー」
「そうですよね、本当に……」
「……テッサ、寝てれば? あたし達起きてりゃ、誰か近づいてもすぐ解るし」
「いいえ、大丈夫です。実は、ベルガーさんに見張ってもらってそれなりに眠れたので……」
「あら、そうでしたの? 彼、自分でチンピラと言うわりには、見かけによらないものですわね」
「確かに。もしかして、テッサに気があるんじゃないの?」
「……リナさん、何でさっきからそんなことばかり言うんですか?」
「退屈だし。いいじゃんちょっとくらい」
「…………まあ、別に構いませんけど。……サガラさん、無事みたいですし……」
「何か言ったかしら?」
「いいえ、何も」
137閑話 〜女三人集まれば〜(4/4) ◆Sf10UnKI5A :2005/05/07(土) 00:55:40 ID:WuHAkTpQ
【G−5/森の南西角のムンクの迷彩小屋/1日目・10:55】

『目指せ建国チーム』
【リナ・インバース】
[状態]:少し疲労。心の深層に強い怨念。
[装備]:騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:仲間集め及び複数人数での生存。管理者を殺害する。

【ダナティア・アリール・アンクルージュ】
[状態]:左腕の掌に深い裂傷。応急処置済み。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル
[思考]:群を作りそれを護る。シャナ、テレサの護衛。
[備考]:ドレスの左腕部分〜前面に血の染みが有る。左掌に血の浸みた布を巻いている。

【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:少し疲労
[装備]:UCAT戦闘服
[道具]:デイパック×2(支給品一式) 携帯電話
[思考]:ベルガー、宗介、かなめが心配。

【シャナ】
[状態]:かなりの疲労。腹部に内出血(ともに回復途中) 睡眠中。
[装備]:鈍ら刀
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:睡眠中。
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。

[チーム備考]:『紙の利用は計画的に』の依頼で平和島静雄を捜索。
        また、島津由乃を見かけたら協力する。定期的に保胤達と連絡を取る。
138存在しえない守るべき者 ◆lmrmar5YFk :2005/05/07(土) 02:09:00 ID:bi4kSkEP
城内三階の一室で、クレアは一人悩んでいた。
「おいおい、魔王は一体どこにいるんだ?」
愛しき婚約者を探してここまで来たものの、捜索の相手は一向に見つからない。
そもそも姫を攫った憎き敵役すら発見できない。
物語に出てくるような豪奢な部屋は確かにあったにはあったのだが、うち捨てられたそこには鼠一匹潜んではいなかった。
埃を吸った赤絨毯と朽ちた家具の多くが、時の経過の残酷さを物語るのみだ。
壁に身体をだらりともたれ掛けて、クレアはひとりごちる。
……俺の勘が間違ってたのか? いや、そんなはずはない。何せ世界は全て俺の都合がいいように出来ているんだからな。
だが……それならなぜシャーネはいないんだ? こんなにも俺が探しているってのに。
脳裏に浮かぶ恋人の姿はこの世の誰よりも美しい。それこそ、主催者に囚われても仕方のないほどに。
彼女の影を求め、さらに奥の部屋へと足を伸ばそうかと廊下へ出たそのとき、階下から数発の銃声が聞こえた。
パイフウが連射した銃弾の音は、三階のクレアの元にまで届いていたのだ。
ダンダンと鳴り響くそれに、踏み出していたクレアの足がぴたりと止まる。
「何だ、俺以外にも勇者気取りがいるってのか?」
興味を駆られ、一気に階段を一階まで駈け下りる。
ホールの柱に身を寄せて辺りを見渡せば、当の狙撃手は既にその場を離れた後らしくどこにも見当たらない。
代わりにそこに居たのは、こじ開けた城門から今にも外へ出ようとする二人の男であった。
全身に生々しい傷跡を持つ巨漢と、背の低い青年の二人組。そのどうにも奇妙な二人の後姿に、クレアは躊躇いなく声をかけた。
それは、自身の考えたことが絶対であるクレアにとっては当然の行為であった。
「おいおい、魔王と御付きが揃ってどこに行く気だ? まさか、正義の騎士に怯えて逃げようとしてる訳じゃないだろう?」
1393+1 ◆lmrmar5YFk :2005/05/07(土) 02:10:04 ID:bi4kSkEP
挑発的な口調でそう言うと、巨漢――ハックルボーン神父はぎろっと顔を上げて振り返った。
その顔面にも、巨大な惨たらしい傷が縦横に爪痕を残している。
いつの間にやら背後に直立していた赤毛の青年に不審そうに視線を向けると、彼は重々しく口を開いた。
「私が魔王」
「ああ、そうだろ。違うのか? まあ、違うって言われると少しばかり俺が困るんだが」
「私は神の使い。それを魔と呼ぶとは愚の骨頂」
「神……まさかそのなりで神父か? ははっ、そいつはちょっと冗談が過ぎるんじゃないか」
天を仰いで笑うクレアに、神父の目つきが変わる。己と己の信仰する聖なる神とを愚弄されたことに、怒りを覚えているのだ。
「我が神を穢すな」
喉太い声で言うが早いか、血管が浮き出そうなまでに両の拳を握り締める。
腕こそまだ振り上げていないが、覚悟さえ決めればすぐにでも相手を撲殺できる距離だ。
一方のクレアも顔は笑っているものの、両手に持ったナイフをぎらりときらめかせる姿には微塵の油断も感じさせない。
「この程度の言葉で穢れる神か? そりゃ随分と安っぽいんだな」
「不届き者よ。神は全ての行いを見ているというのに」
目の前の男に対する深い憤怒と悲しみを込めてそう言うと、顔を厳しくしてクレアの瞳を見つめた。
先ほどの少女達といい、この男といい、この世界には神を信じぬ者のなんと多いことか。
ただ素直に信仰しさえすれば、神は全ての者に平等な平和と安息をもたらしてくれるというのに。
だから、神を疑い、嘲り、罵倒する者達については、この私が神のゆるぎなき存在を教えせしめなければならない。
まずは尊き御言葉を伝え、説くことで。それでも不可能なら、この手で直接神の居られる天上へと連れゆくことで。
――神よ、この青年をどうすべきでしょうか。
1403+1 ◆lmrmar5YFk :2005/05/07(土) 02:18:09 ID:bi4kSkEP
握り締めた拳、その皮手袋の内側から血がたらりと垂れ落ちる。
この『聖痕』からの出血は、神と同調し神の御意思を伝え聞いたときのみに訪れる。
――そうでしたね。『施すべき相手に善行を拒んではならない』いつも、神が言われていることです。
脳の内側で神託を聞いた神父が、ずいと一歩、クレアに向けて歩を進め、両腕を肩の上まで振り上げる。
その姿に、クレアもハンティングナイフを目の高さに構え直す。窓から差し込む陽光に反射して、砥がれた刃の部分が禍々しく光る。
まさに戦闘開始か、と思われた刹那、走る誰かの足音が徐々に近づき、――ふと止まった。
開け放たれたままだった扉から現れたのは、額に青筋を浮かべた金髪の青年――平和島静雄だ。
静雄は睨み合う二人の間に流れる殺気だった空気を気にもせず、てくてくとクレアの脇まで歩いていく。
目で殺すとはこういう状態のことだろうかと言わんばかりの目つきでじろっとねめ上げると、大音量で苛つき加減最大の声を上げた。
「人にぶつかっといてあの態度はねぇよなぁ? ってわけで殺す」

ちなみに睨み合う男共三人の横では、完全に忘れ去られたボルカンが小声で嘆息していた。
「俺、あいつの御付きかよ……」


【G-4/城の中/1日目・09:10】

【ハックルボーン神父】
 [状態]:健康
 [装備]:宝具『神鉄如意』@灼眼のシャナ
 [道具]:デイパック(支給品一式)
 [思考]:この青年に神の御意思を 神に仇なすオーフェンを討つ
 
【ボルカン】
 [状態]:健康
 [装備]:かなめのハリセン(フルメタル・パニック!)
 [道具]:デイパック(支給品一式)
 [思考]:打倒、オーフェン/神父から一刻も早く逃げたい
1413+1 ◆lmrmar5YFk :2005/05/07(土) 02:18:42 ID:bi4kSkEP
【クレア・スタンフィールド】
[状態]:絶好調
[装備]:大型ハンティングナイフx2
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:目の前の男たちをどうにかする 姫(シャーネ)を助け出す

【平和島静雄】
[状態]:怒り爆発
[装備]:山百合会のロザリオ
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:こいつを殺す!
142紅白怪我合戦(1/4) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/07(土) 13:09:23 ID:GwAkbpAU
ビルの事務室だった。
そこのソファーに哀川潤は寝転がっている。
その胸には白い子犬を抱き、その心には苛立ちと倦怠感を抱えて。
「ふん」
鼻でため息をつく。ため息。全く似合わない。いや、似合うのか?
あたしは何をしても似合うのだからある意味ため息をついていても似合うのではないか。
そこまで考えて、面倒になって止めた。
何をやっているのだ。あたしは。
遡る事数十分前──

ようやっと巨竜と化したシロちゃんをビルに運び込んだ。
そこらの自動車よりよっぽど重かったが、普段の彼女だったら余裕で持てたはずだった。
が、今は全身に裂傷が走っており、血も足りず、<人類最強>とは言い難い力しか発揮できなかった。
お気楽男と女、それと学生に手伝ってもらい、なんとか白竜をビルのホールまで運んだのだった。
「ふぅう…なんとか目立たない、な。
 おい起きろ起きろ。死んでしまうとは何事だ」
「大事ですよ」
「ホワイトを起こさないとね!」
「そうだねアイザック!」
バシバシと竜の頬…かどうか分からないがそれらしい場所を往復ビンタしてみる。
高里が心配そうに見ているが、とにかく彼女は起こそうとする。
「……お姉ちゃん痛いデシ」
「おお起きたか。そなたにもう一度チャンスをやろう」
「ロシナンテ、大丈夫?」
「ミリア!ホワイト隊員が起きたよ!」
「本当だアイザック!」
「ファルコン。犬の姿に戻れるか?」
「はいデシ……」
素直に従うシロちゃん。さっき殴られたのを少し怯えてるようだ。
あっという間に、元の白い子犬の姿に戻った。
143紅白怪我合戦(2/4) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/07(土) 13:10:37 ID:GwAkbpAU
止血に巻いてた布が外れるが、哀川潤は再び巻きつける。
「よし。もう寝とけ。ほーれ、らりほーらりほー」
言葉も無く、哀川潤の指先を見つめ、数秒で眠りについた。催眠術である。
「潤さんも傷の手当てしないと」
「あん? こんなの唾つけとけば治るさ。あたしの唾はケアルラより効果が高い」
「無理ですって。僕の服あげますから血を止めてくださいよ」
服を脱いで、上半身が肌着のシャツになる。
やや不満そうな顔でその服を傷口に押し当てる。
あっちの事務室なら休めるか…そう思って視線を向けた先に、お気楽軍団がいた。
「食べ物だね…」
「食べ物だね…」
「あん?」
「よしミリア!グリーンとホワイトのために町に行って栄養のある食べ物を盗んでこよう!」
「泥棒だねアイザック!」
意気込んでいる二人を見て肩を落とす哀川さん。
「あのなお前ら」
「いいと思います」
高里が肯定的な発言をした。
「商店街はすぐそこですし、ついでに救急箱でも持ってきてもらえばきちんと包帯が巻けるではないですか」
「そうだねイエロー!さすが知性派!一緒にイエローも行くんだよ!」
はぁ…と哀川さんはため息をついた。
説得するのは無理だということが読心術を使わなくても分かる。
「わかった。行って来い。ただし12時までには戻って来い。
 危なくなったら『天さん!助けて!』と叫べ。あたしがバータより早く駆けつけてやる」
ちなみにバータとは某DBでの自称宇宙一の速度のザコである。
「行ってくるよグリーン!ホワイトをよろしく!」
「待っててくださいね、潤さん」
「絶対死ぬなよ。必ずだ。約束を破ったらキッツイお仕置きをするからな」

そういって見送ったものの、ヒマであった。
こんな傷では、子荻を殺すぐらいはできるけど、祐巳を助けてやるのは無理だ。
まだまともには走れない。しかし彼らの悲鳴が聞こえたら足が千切れても助けに行くつもりだった。
144紅白怪我合戦(3/4) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/07(土) 13:13:57 ID:GwAkbpAU
商店街はすぐそこだからあたしの聴力なら悲鳴は聞こえる。
せめて足だけでも直して、あいつらと一緒に祐巳を探す。
あいつらと一緒ならば、きっとあの娘も笑えるはずだ。
あたしの支給品がまともなら持って行かせたのにな…
デイパックをごそごそ探る。
出てきたのはペットボトル。硬い栓がされてある、銀色のボトルだ。
中身の説明がフランス語で書かれている。極悪な紋章と一緒に。
『種類:生物兵器
 プラスチック・ポリエステルを分解するバクテリア
 摂氏37度前後で大増殖・数時間で死滅
 副作用:肩こりが治る』
バカ兵器の一種か。
「ふん」
また鼻を鳴らして手元の子犬を撫でる。
ファルコンは死なせはしない。
あいつらも全員守る。そう思って聴覚を研ぎ澄ました。
なにやらふもふもいう音が聞こえて遠ざかっていったけど、まぁ関係ないだろう。

【C−4/ビル一階事務室/一日目/11:00】
【哀川潤(084)】
[状態]:怪我が治癒。内臓は治ったけど創傷が塞がりきれてない。太腿と右肩が治ってない。
[装備]:なし(デイバッグの中)
[道具]:生物兵器(衣服などを分解)
[思考]:祐巳を助ける 邪魔する奴(子荻と臨也)は殺す アイザック達に何かあったら絶対助ける ファルコンを守る
[備考]:右肩が損傷してますから殴れません。太腿の傷で長距離移動は無理です。(右肩は自然治癒不可、太腿は数時間で治癒)
    体力のほぼ完全回復には12時間ほどの休憩と食料が必要です。

145紅白怪我合戦(4/4) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/07(土) 13:14:39 ID:GwAkbpAU
【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:気絶。前足に深い傷(止血済み)貧血  子犬形態
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:思考なし
[備考]:血を多く流したのと哀川さんの催眠術で気絶中です。
    回復までは多くの水と食料と半日程度の休憩が必要です。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
町探査組

【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:待っててグリーン!ホワイト大丈夫かな! 商店街で泥棒!

【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!

【高里要(097)】
[状態]:正気
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:救急箱を取らないと 潤さんとロシナンテ大丈夫かな
[備考]:上半身肌着です

生物兵器:出展 フルメタルパニック!
146闇の眷属(1/4) ◆1UKGMaw/Nc :2005/05/07(土) 22:04:35 ID:4iD3st6k
 森の中を行く影が一つ。
 黒い肌と長く尖った耳を持つ長身の女性――ピロテースである。
 オーフェン、リナ、アメリア、そして敬愛する黒衣の将軍――アシュラムの捜索のため、ピロテースは島中央の森を訪れていた。
 だが、
(……案外、遭遇しないものだな)
 時計を確認する。時刻は10:05。
 まだ時間はあるが、今までその四名どころか、他のどの参加者とも出会っていない。
 森の精霊達が微かに騒いでいる。幾人かの参加者がこの森を通過したことは間違いないだろう。
 だが、その者達と接触できないのでは何の意味もない。
 今までに見つけたものと言えば、無人の小屋だけだった。
 デイバッグと空のペットボトルが放置されていたので、誰かがここを利用していたのは確かだった。
 デイバッグの中身は気になったが、これ見よがしに置いてあること自体が怪しい。
 罠の可能性を考え、これには手をつけなかった。

(残りの時間は、あと半分か)
 その間に成果は上がるだろうか。
 現在のところ収獲なしだ。たとえ今後もそうであっても時間通りに戻らなければならない。
 この森からならば、警戒しながらでも40分もあれば戻ることが出来る。猶予はあと一時間強といったところか。
 さらに森の奥へ向かおうと足を踏み出したところで……、ピロテースは異常に気づいた。
「……血の匂い?」
 微かに風が運んできた、嗅ぎ慣れた匂い。
 ピロテースは警戒した面持ちになると、その匂いを辿り歩き出した。

147闇の眷属(2/4) ◆1UKGMaw/Nc :2005/05/07(土) 22:05:16 ID:4iD3st6k
 森を出て少し行った草原に、その墓はあった。
 墓碑銘は無い。
 ただ、そこだけ土が盛り上がって露出しており、その周囲に血溜りが出来ていることから、目の前のこれが墓だと判別できた。
(誰が眠っているのだ?)
 逡巡する。
 ここに埋葬されているのが自分達の探し人である可能性もあるだろう。
 死体を見るのは慣れている。死体の野晒しも慣れている。だが、だからと言って墓を暴く趣味は無い。が――
「……やむを得ないな」
 そう呟き心の中で死者に詫びると、精霊への呼びかけを開始。
 精神を集中し、対象範囲を拡大して、その分奥行きを浅くするようアレンジを加える。
「"我が友なる地霊(ノーム)よ、豊かなる大地の子よ。その強大なる力をもって、大地に穴を空けよ"」
 精霊語(サイレント・スピリット)による詠唱が響く。瞬間――
 目の前の地面がいきなり陥没したように変形し、墓のあった場所を中心に円筒形の浅いクレーターが出現していた。
 そしてその中央に、一人の女性が横たえられていた。

 女性は出血が酷かったようで、その姿は見るに耐えないものだった。
 元は白かったであろうその服も、土と、そして死体自身のものと思われる夥しい血によって赤黒く汚れている。
 だというのに、ピロテースは僅かにほっと息をついた。
 死者に対してはすまないと思うが、自分にとって最悪の予想は外れてくれた。
 気を取り直して、その女性の死体をよく観察する。
 まだ少女だ。肩の辺りで揃えた癖の強い黒髪に白いローブ。腰の辺りに一房のアクセサリー……
(……待て)
 まさか、と思う。
 この容姿は、協力関係にある石人形のような肌の男――ゼルガディスの探し人と一致しないだろうか?
 確か、名前はアメリアといったはずだ。
(人違いであるに越したことはないが……一人脱落か)
 これは戻って報告しなければなるまい。
 そう考えると、今度は直接の死因を調べることにする。
 その死因を付けられる武器を持つ者がいたら、要注意人物と見てかかることができるからだ。とはいえ、
(……酷いな。これではどれが決定打かもわからん)
 アメリアの全身には、引き裂かれたような傷跡と出血の跡があった。
 言わば、その全てを総合して致命傷となっているというところか。
148闇の眷属(3/4) ◆1UKGMaw/Nc :2005/05/07(土) 22:06:09 ID:4iD3st6k
(まるで獰猛な魔獣にでも襲われたかのようだな。背後はどうなっている?)
 身体を返そうとしてアメリアの顔を動かした時、首筋に"それ"が見えた。
「!!」
 反射的に飛び退り、センス・オーラをかける。
 最悪の展開が脳裏をよぎった。
 アメリアの精霊力に異常が見えれば、彼女はヴァンパイア化していることになる。
 が、予想に反して精霊力に異常は見当たらなかった。
 首筋の、二本の牙の痕を露出させたまま、彼女はピクリとも動かない。
(ヴァンパイアではないのか? ……いや、しかし)
 首筋のあの痕。ピロテースの知る限り、闇の眷属の中でも上級に位置するヴァンパイアの仕業に違いない。
 だが、彼女がその眷属と化していないのはどういうわけだろうか。
(つまり……私の知らない類のヴァンパイア、ということか?)
 自分の知らない能力を持つ者なら、協力者の中にもいる。自分の知らない闇の眷族もまた、存在していてもおかしくはない。
 断定は出来ないが、この場ではピロテースはそう結論付けた。


 アメリアの腕輪と腰のアクセサリーを外し、自分のデイバッグへ移す。
 これらをゼルガディスに見せ、本当に彼女がアメリアかどうか確認する必要があるだろう。
 デイバッグを閉じたところで、足元の地面が僅かに震えたような気がした。
(時間切れか)
 そのまま、背後へと跳躍する。
 ピロテースが地面に降り立った時には、もうそこにはアメリアの身体もクレーターも無く、元通りの墓があるだけだった。
「収獲なしのほうがマシだったかもしれんな」
 そう独りごちて、墓に背を向ける。
 数歩踏み出したところで、最後にちらりと視線だけで振り返った。
(ヴァンパイア……気に留めておいたほうがいいかもしれんな)
 そしてピロテースは、また森へと消えていった。

 自覚もないまま殺人者となった哀れな少女がその墓を訪れる、僅か数分前のことだった。


149闇の眷属(4/4) ◆1UKGMaw/Nc :2005/05/07(土) 22:08:00 ID:4iD3st6k
【D-4/草原/1日目・10:20】

【ピロテース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/アメリアの腕輪とアクセサリー
[思考]:アシュラムに会う/邪魔する者は殺す/再会後の行動はアシュラムに依存
[備考]:ヴァンパイアの存在に気づきました。

*行動:捜索後、学校へ戻り、アメリアの遺品をゼルガディスに渡す。


注:
>>129にて一旦NG宣言したものですが、修正可能と判断し再投下したものです。
150 ◆69CR6xsOqM :2005/05/08(日) 00:15:48 ID:+m1KC7Ig
>>118
>>124
上記2点は無効です。
修正を議論板の修正スレ99に投下させて頂きました。
ご迷惑をお掛けしました。

鯖落ちに直撃したから多重投稿してるかも……。
151Tightrope Walkers(1/6) ◇l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 15:16:02 ID:7kYhrPYj
「酒で酔わせてその隙に毒を盛り、刺殺……ひどいわね」
「真正面から殺すよりも、信頼させてから隙をついて殺す方が確実だ。生き残る方法としてはいい手段なんだろうな」
「……こちらを睨みながらで言われると、まるで私に対して言ってるように思えてしまうんだけど」
「どうだろうな」
 言って、ゼルガディスは居酒屋の中を調べ始めた。……こちらへの警戒を忘れずに。
 学校の周囲を調べ終った後。
 クエロとゼルガディスは、地図には書いていなかった南の商店街を見つけ、居酒屋の中でこの少年の死体を発見していた。
 ……彼の不信感は、学校にいたときよりも露骨になっていた。
(仕掛けてくるとしたらこの辺りね。さすがにいきなり斬る、なんて馬鹿な真似はしないでしょうけど)
 ──剣と魔法。
 彼はこちらに対して圧倒的な力の差がある。別行動した途端に、自分が死体になるのは怪しすぎる。
(にしても……クリーオウといい、ここにはきちんと参加者へのカモも用意されてるのね)
 死体に再び目を移す。こんなところで酒を飲む奴だ。ただの馬鹿か“一般人”なのだろう。
 つまり、人を疑う事を知らない平和主義者。こんな遊戯に巻き込まれることなど想像もしない、ごく普通の日常に生きている者達。
 単純な殺し合いの他にも、参加者同士の血生臭い葛藤も主催者は望んでいるようだ。
(その嗜好には虫酸が走るけど、駒じゃ指し手は倒せない。……例外が起こらなければ、ね)
 学校で結成された、反乱軍とも言える七人の同盟。
 こんな短期間に、これだけの有能な人物が集まることができたのは本当に僥倖だった。
 彼らといれば脱出できる可能性も十分にある。あるいは主催者を殺すことも。
 もちろん、その可能性が薄くなれば、あっさり“乗る”側に回るのだが。
(このまま脱出側になる場合、心残りなのはあの二人)
 ガユスとギギナ。脱出を考える場合、彼らには同盟の誰とも会わずに死体になってくれるのが一番いい。……だが。
(やっぱり、そう簡単には死んで欲しくないわね。できれば、私の手で苦しめて……潰す)
152Tightrope Walkers(2/6) ◇l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 15:16:39 ID:7kYhrPYj
 彼らが苦しむことなく殺されてしまうことなど許されない。放送で名前が呼ばれるだけの死などいらない。
 ──学校に集合したときに、彼らのことは話すべきだろう。強大な敵として。
(もし会ってしまった場合……ギギナは有無を言わずに戦いを求めるだろうからいいのだけど……問題はガユスね)
 あいつのことだ。こちらと同じように、誰かと協力して脱出を企図しているだろう。
 彼と出会えば、瞬時に自分の思惑が露見される。……そうなれば、かなりややこしいことになる。
(どちらにしろ……こいつは邪魔ね)
 脱出するにしろ殺す側に回るにしろ、ゼルガディスは障害でしかない。ここまで疑われていては信頼を取り戻すことは不可能だ。
 他の五人からはきちんと信頼を得て、保持していかなければならない。
 そして、最終的には隙をついて彼を殺す。
 ──と、ゼルガディスが調査を終えてこちらを向いた。
「特に何もない」
「そう。この人の支給品も持って行かれてしまったみたいね。まだ時間に余裕があるから、北東の方の商店街に行きましょう」
「──待て」
 刹那、ゼルガディスが剣を抜き、白の切っ先をこちらの首に向ける。
 予想していたことなので特に抗わず、クエロはそのまま彼を不快感と不安の混じった目で見つめた。
「……何のつもり?」
「聞きたいことがある」
「尋問ってわけね。……脅すなら、その刀身は取った方がいいんじゃないかしら?」
「……」
 彼の表情に一瞬驚愕と焦りが見えた。予想は当たっていたようだ。
(……やっぱりね。あの剣には何かある)
 皆の前で武器を見せたとき、彼は“普通の剣”と言っていた。
 サラが言うには何か魔力のようなものが感じられたらしいが──詳細は不明とのことだ。
(魔力と言うからには、ゼルガディスが“普通”というのは少しおかしい。
……それに、無作為に渡される武器は、他の参加者の持ち物から選び出されている可能性がある。
彼がこの剣の本来の持ち主かも知れない)
153Tightrope Walkers(3/6) ◇l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 15:17:08 ID:7kYhrPYj
 咒弾。自家製だというせんべい。そして、“知り合い”。
 七人中三人、という的中率は微妙だが──わざわざ百人以上の武器をどこかから調達してくるよりは、参加者から奪ったものを渡した方が効率がよい。
(そして、何らかの条件で選び出された参加者達。彼らの所持品は、他人に取っては不可解で特殊なものの可能性が高い)
 普通の剣や銃器が支給される確率の方が低いのではないだろうか? 今持っているナイフも、何らかの効果があるのかもしれない。
 ──仮説の上に仮説を重ねた、稚拙な空論。だが、鎌を掛けるには十分だった。
「……確かに、この剣の刀身と柄を分けるための針も鞄の中に入っていた。
刀身、あるいは柄が何かの効力を持っているとは思う。だがそれ以上はわからない」
「たとえば──何らかの方法で、柄から魔力の刀身が生えてきたりしてね?」
 架空小説のような人物が何人もいる世界だ。そんなものがあってもおかしくはない。
「その可能性もあるな」
 あくまでしらを切り通すようだ。──何にせよ、あの剣は要注意だ。
「それをなぜ、支給品を確認したときに言わなかったの?」
「俺はまだ全員を信用していない。……お前こそ、何故その弾丸のことを隠す?」
 その切り返しも予測済みだ。もちろん、素直に話す気はまったくない。────もっとややこしくしてやろう。
「隠してなんかいないけど? 私は本当にこの弾丸のことを知らない。…………そうね、仮説はあるんだけど」
「……言ってみろ」
「まず、この弾丸が私達の知らない特殊な銃器に対応するものの場合。これはあまり考えられないと思うの。
弾丸がここにあるってことは、その特殊な銃器は使えないわけでしょう?
弾丸のない銃器という、“はずれ”として支給する場合もあるだろうけど……それなら、もっと普通の銃器を選ぶはず。
主催者ならば、そんな特殊な武器があるならそれを使って存分に殺し合ってもらいたいだろうし。
弾丸だけもらった側としても、まったく使えないし意味がないから、捨てられてしまう可能性も高い。
そもそも、ここには銃器を知らない人もいるもの」
「……」
154Tightrope Walkers(4/6) ◇l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 15:17:43 ID:7kYhrPYj
「ここからが本題。私はこの弾丸を、何らかの──たとえば脱出の手段としての“鍵”だと考えるわ。
……ええ、もちろん普通は鍵なんてこんな形はしていない。でも、だからこそ。
不要な者としてすぐ捨てられそうなものを“鍵”──つまり、一種の希望として支給品の中に放り込んでおく。
いかにもあの趣味の悪い主催者のやりそうなことじゃない?」
「飛躍しすぎている」
「わかっているわ。“鍵”は確かに極論だけど──私は、この弾丸を単体で効果を持つ特殊な道具と考えているの。
それこそ何らかの魔法で動く武器かもしれない。どちらにしろ、かなり特殊なものだと思うわ」
「それをなぜ、あのときに言わなかった?」
「長い仮説を唱えても議論は進まないでしょう? ……もちろん、私はみんなを信じているわ。あなたと違って、ね」



(確かにその可能性はあるが……やはり信用できん)
 こちらを牽制するように微笑するクエロを見て、ゼルガディスは胸中で舌打ちした。
 光の剣のことを見破られたことは厄介だが、それでもこちらの優位は変わらない。
 この状況なら、殺そうと思えばいつでも殺せる。だが、二人きりになった途端に彼女が死体になるのは露骨すぎる。
(この死体を殺した奴のように、こいつが手のひらを返して裏切る可能性は十分にある)
 そんな怪しい輩を、脱出という目標を掲げる同盟に入れておく訳にはいかない。
 もちろん、クエロに言ったように彼女以外の全員も完全に信じたわけではない。だが、彼女よりはましだ。
(こいつは冷静すぎる。この状況の中で──なぜそんなにも“主催者”視点で物事を考えられる?)
 まるで────自らも駒であるくせに、他の駒を操る“指し手”として考えているような。
 やはり底が知れない。完璧すぎる。
(ボロが出るまで待つのは長すぎる。……ならば)
 ──“いるにはいる”という彼女の知り合い。言い方からして、どうやら味方ではないらしい。
(そいつらとできれば接触して、情報を得たい。こいつ以上にたちが悪い相手かもしれんが……会う価値はある)
 彼らと協力して、クエロを追い出すこともできるかもしれない。
155Tightrope Walkers(5/6) ◇l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 15:18:18 ID:7kYhrPYj
(おそらく次の放送で集合したとき、そいつらのことを話すだろう。
何割かは本当のことが混じっているかもしれないが……信用できるわけがない)
 ──クエロの言動と挙動を見極め、そしてクエロよりも早く彼らと接触する。それが今考えられる一番の対策だった。
(リナとアメリアを探すことも重要だが……不安要素は早めになくした方がいい)
 そう結論づけて、剣を納める。この場は引くしかない。
 クエロは一息ついて、
「……二人で疑い合っていても先に進まないわ。とにかく今は、周辺の探索を進めましょう」
 そう言った。────確かに、今は一挙一動を監視していくしかない。
「わかった」



(次の放送が分岐点ね。さて、どうでるかしら?)
(次の放送がポイントだ。さあ、どうでる?)



綱渡りはまだ、終らない。
156Tightrope Walkers(6/6) ◇l8jfhXC/BA:2005/05/08(日) 15:18:56 ID:7kYhrPYj
【E-1(遊園地前商店街)/1日目・10:00】
【七人の反抗者・周辺捜索組】

【クエロ・ラディーン】
[状態]: 健康
[装備]: ナイフ
[道具]: 支給品一式、高位咒式弾
[思考]: C-3商店街へ。集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
    +自分の魔杖剣を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
[備考]: 高位咒式弾のことを隠す

【ゼルガディス・グレイワーズ】
[状態]: 健康、クエロを結構疑っている
[装備]: 光の剣
[道具]: 支給品一式
[思考]: C-3商店街へ。リナとアメリアを探す
[備考]: 光の剣のことを隠す
一度目。売られそうになって、眼を調べられた。
 ……村人が大勢死んだ。実父母が自殺した。──でも、ベスポルトがいた。
 二度目。養父となったベスポルトが重傷を負った。黒衣に殺されそうになった。
 ……村人が大勢死んだ。黒衣が死んだ。──でも、サリオンがいた。

 三度目。─────────────────────────────誰もいない。


 夢と現実の境界線を放浪する。熱と寒気と痛みが身体を侵す。
 はっきりと意識を自覚することも出来ず、深く眠ることも出来ない境界の虚ろ。
 何回目の夢なのか、あるいは何回目の現実なのか、それを考える暇もなく、フリウ・ハリスコーは静かに落ちていった。
 ただ、もうそこには────無力な子供は、いなかった。



 そこは荒野だった。生えていた草が蹂躙され、荒れ果てた土地。
 そこには死体があった。髭を生やした偉丈夫が死んでいる。
(父さん?)
 数ヶ月前に、帝宮の人工林で死んだはずの父──養父。ベスポルト・シックルド。
(……じゃあ、これは夢だね)
 数ヶ月前の、約束を守れなかった自分がいる夢の世界。信じる方法がわからず、彼を守れなかった自分。
 ──両目を閉じて眠る、その骸の顔に手を触れる。
 夢だからであろう、温かくも冷たくもなく、曖昧な感触だけが指先に伝わった。
 ただ屍臭だけがはっきりと鼻を刺激している。血はもう流れていない。
(……あれ?)
 夢だから──いや、それとは違う違和感がある。何かが曖昧なところにいるような、気持ち悪い感覚。
 血は流れていない。それでいいはずだ。
(えっと……)
 血は流れていない。
 血は流れていない。
 血は流れて──────いない?
「あ」
 気づく。手を触れている顔は養父のものではない。
 髭を生やした偉丈夫。だがまったくの別人だった。──彼は、自分が殺した、
「あ、」
 思わず手を引っ込める。刹那、
「────っ?!」
 首がごろりと転がり、見開いた眼がこちらをのぞき込む。今更のように、血が流れ出した。
「あ────」
 あっという間に鮮血が足下を包む。温かくも冷たくもなく、曖昧な感触が伝わった。
 赤い液体は荒野を蝕み続ける。男の目がじっと見ている。ちぎれた首の付け根から白い骨が



「あああああああああああああああああ!」
 自らの絶叫で飛び起きた。
 最初に目に入ったのは赤ではなく、鮮やかな木々の緑だった。──血は流れていない。
(夢……だよね)
 実際には念糸で遠距離から殺した。血には触れていないし、骨も見えなかった。……今のはすべて妄想だ。
「でも、殺したのは現実。それからは逃げちゃいけない。忘れちゃいけない……」
 自分に言い聞かせるようにつぶやく。
 荒い息が収まらない。心臓の音がうるさい。悪寒がする。屍臭が相変わらず鼻を刺激している。
(…………あれ? 臭い?)
 ──これは夢ではない。だが、辺りには今まで気づかなかったのが嘘のような、濃厚な血の臭いがただよっていた。
(近くに、死体がある)
 見に行くべきだろうか?
 殺人者は、自分を見逃しているほどなので近くにはいないと思うのだが──やはり、まだ身体を動かす気にはなれなかった。
(死体って言えば……あたし、放送聞いてないね)
 死者の名前を無慈悲に羅列するという放送。気絶から即座に戦闘に巻き込まれていたので、ずっと忘れていた。
(あの人は……大丈夫だよね。呼ばれてないよね?)
 ミズーが死ぬことなど信じたくない。
 だが、辺りを包む屍臭が否応なく“死”を連想させてしまう。
(死ぬわけがない。武器なんてなくても、あの人は十分に戦える。……でも、さっきみたいな人とかと会っちゃったら……、
────だめだ、そんなことを考えちゃいけない。あたしは信じなきゃいけない)
 一度不安を持ってしまうと、それが膨らむのは容易だった。
 疑念を抱く自身を責めるように、心臓の音がうるさく身体に響く。
(…………確かめるだけ。それで落ち着くなら、その方がいい。確かめるだけ。あたしは信じてる……)
 悪寒に耐えるように身体を抱いて、立ち上がる。
「────!」
 途端に、今まで消えていた火傷と骨折の痛みが身体を責めた。熱い。痛い。寒い。
「確かめるだけ、あたしは信じてる……」
 そのつぶやきの声は、自分でも驚くほど小さかった。


 言葉も動作も存在する、現実の世界で。
 フリウ・ハリスコーはふたたびそれらを拾って歩き出した。
 先程殺人を犯した時と、同じ理由がきっかけになっていることには気づかずに。
 ミズー・ビアンカの存在だけが、今の彼女を支えているとは気づかずに。
 そしてここでは、それがどんなに脆いものなのかわからずに。

【A-5/森の中/11:40】
【フリウ・ハリスコー】
[状態]: 精神的に消耗。右腕に火傷。顔に泥の靴跡。肋骨骨折。
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)
[道具]: デイパック(支給品一式)
[思考]: 屍臭のする方向へ
[備考]:第一回の放送を一切聞いていません。茉理達の放送も聞いていません。
 ベリアルが死亡したと思っています。ウルトプライドの力が制限されていることをまだ知覚していません。

※尚、“Tightrope Walkers”及び“フラジャイル・ベイビー”は、
 ◆l8jfhXC/BA氏が規制で投稿できなかったために、代理投稿したものであり、
 騙りや荒らしではありません。
 また、まとめサイト掲載時には、この注釈は不要のものとし、
 純粋に◆l8jfhXC/BA氏の作品として扱ってもらいたいと思います。
「いや、見たことねぇ」
「悪いけど、僕も知らないな」
 風見千里やカイルロッド等、探し人の容姿を聞いた返答がそれだった。
「そうか……いや、ありがとよ」
 零崎人識といーちゃんの言葉に出雲覚は内心落胆を覚えたが、表面上は笑みを浮かべて礼を言った。

 結局誰も自分達の求める人と出会ってはいなかった。
 いや、約一名ずっと寝ている少女がいるが、起こすのもなんだし、「あー、聞いても多分無駄だぜ。頭痛くなるだけだ」
という零崎の言葉に不穏なものを感じたので彼女には聞いていない。
 凪には、ここに来る道中確認した。

「邪魔したな。んじゃ行くか、アリュセ」
 そう言って尻の汚れを払いつつ立ち上がる。
「え、もう行くのかい?」
「おう、愛しの女が待ってるんでな」
 いーちゃんの言葉に覚はにやりと笑ってみせる。
「よくそんな恥ずかしいこと真顔で言えますわね」
 なんとなく面白くなさそうな顔でアリュセがぼやく。
 その様子に零崎が、かははと笑った。
 凪が見送ろうと立ち上がる。
「そうか……俺達としては、お前らにも仲間に加わって欲しいんだけどな」
「悪ィな。千里達見つけてまた会えたら、そん時ゃ喜んで仲間に……」

 そこまでしか覚の言葉は続かなかった。

 その男は茂みの中で銃を構えていた。
 ここに来るまでに何度か試射を行い、ある程度の距離で動かない標的ならば当てられることが分かった。
 糸を使ったトラップを発見したことで人の存在を知り、その範囲から大体の位置を割り出した。
 そこに複数人が潜んでいるのは微かに聞こえる話し声で分かった。姿は見えなかったが。
 相手は複数、実力も分からない。
 だから、待った。
 狙撃できる瞬間を。
 男が立ち上がり、そして女も射線上に立ち上がった。
 そして――男は引き金を引いた。


 凪の背後、離れたところにある茂みで何かが光ったのを覚の目は捉えた。
(なんだ?)
 覚は一瞬訝しげな表情を浮かべ――次の瞬間、いきなり凪を押し倒した。
「な!?」
 ほぼ同時に聞こえる"ぎゅぼっ"という鈍い銃声。
 一瞬前まで凪がいた空間を銃弾が切り裂く。
「凪ッ!」
「覚っ!」
 二人が倒れるか倒れないかのところで、零崎がいち早く飛び出した。
 少し遅れてアリュセも。
 いーちゃんは思わず罠の木の枝を見る。
(落ちてない……!)
 周囲数十メートルに渡って張り巡らせているトラップ。
 それが反応せずに、ここが銃撃を受けている。
 とすれば結論は一つ。罠を見破られたのだ。
 と、あるものに目を奪われいーちゃんの思考は中断された。零崎も同じものに気づいて足が止まる。
「「青色ストライプ!」」
 思わずハモッた零崎といーちゃんに、凪は倒れたまま無言で石を拾って投擲。
 あやまたず額に投石を食らって二人は悶絶した。
「そんなことやってる場合じゃない。敵襲だ!」
「だったら、さっさと退け」
 射殺しそうな視線で睨まれ、覚は身を低くしたまま、そそくさと凪の上からどいた。
 ここは木の根が露出しており隠れるのに適した場所だ。
 身を低くしていれば銃撃を受けることはないだろう。
 だが――
「……ごはん?」
 今の騒ぎで起きてしまったドクロちゃんが、木の根からひょこっと顔を出してしまった。
「戯言使い!」
 とっさに凪が近くにいたいーちゃんに指示を出すが、それよりも早く銃弾が――ではなく、
「わわっ!?」
 ドクロちゃんの首に"銀色の糸"が絡み付いていた。
 そして、聞き覚えのない男の声が皆の耳朶を打つ。
「動くな。動けばこの娘は死ぬ」
 その言葉に、いーちゃんの動きはぴたりと止まった。
 振り返り、凪のほうを見る。
 凪は無言で首を振った。
「いつだって、その瞬間はこともなげに訪れる。呼びかけに答えろ、娘。そこに左目に眼帯をした娘はいるか。名は、フリウ・ハリスコー」
 ドクロちゃんの瞳に、隻眼の黒衣が目に映る。
 だが、状況を理解できていないドクロちゃんは「え? え?」と困惑するばかりだ。
「言え。さもなくば……」
 と、ドクロちゃんの表情が変わった。
「や……ひぅ、か……!」
 驚愕の表情を浮かべ、首を押さえて苦しみだす。
「やめろ! ここにはそんな娘はいない! 知りもしない!」
 飛び出しそうになる零崎を手で制しながら、凪が叫ぶ。
 同時に、ドクロちゃんの苦しみが楽になった。
 急激に乾いた喉で、必死に浅い呼吸を繰り返す。
「本当だろうな」
「本当だ!」
 男――ウルペンは思考しているのか、少し間が開いた。そして、
「……全員、そこから出て来い。出なくば、この娘の命はない」
(苦しい選択を迫ってくれる……!)
 凪はギリッと奥歯を噛み締める。
 こちらには飛び道具の類は何一つない。
 出れば皆殺しにされる危険性が高いだろう。
 だが、出なければ三塚井が死ぬ。あの苦しみようは尋常ではなかった。
「凪、今回はいいだろ? 俺が回りこんで殺ってくる」
 小声で言ってくる零崎に、しかし凪は首を振る。
「いや、駄目だ。奴も不意打ちは予想しているはずだ」
 巧妙に隠したトラップを抜けてきた実力者だ。見つかる可能性が高い。
 三塚井の命を盾に取られている以上、その選択はあまりにリスキーだった。
「しゃーねぇ、出るか」
 ばりばりと頭をかきながら覚がぼやいた。
「ちょっと、覚……」
「仕方ねーだろーが、この場合。……あとは運を天に任す」
「待て、出雲!」
 立ち上がろうとする覚を凪が押し留める。
「なんだよ、それともなんかいい手があるってのか?」
 凪は必死に何かを考えるように押し黙った。
 だが、その言葉に、今まで黙っていたいーちゃんが口を開いていた。
「ある……かもしれない」
 その言葉に全員の視線が集中した。

「もう一度言う。全員そこから出て来い。三度目はないぞ」
 ウルペンの声が再度響く。
 時間は、もう無かった。

「ほう……」
 声に従い出てきた面々に、ウルペンは内心舌打ちした。
 確かに凪達は全員姿を見せていた。
 ただし、巨木の左側からいーちゃん、頭上の枝に零崎、巨木から伸びる根の右側から他の木の背後を経由して覚、根と地面の隙間にアリュセ、
そして中央に凪、と、それぞれが離れた位置にである。
「これで全員だ。言っておくが、お前が妙な真似をした場合、俺達は全力でお前を潰す」
 中央に立つ凪が堂々と宣言する。
 ウルペンは、口の端を歪め、視線だけで相手の面々を見渡す。
 もし、ここで念糸なり炭化銃なりで攻撃を加えた場合どうなるか。
 相手の間隔が狭ければ問題はないだろう。
 だが、ここまで開いていては……この距離なら二人三人は自分のところまで到達する。
 これだけの人数が固まっているとは予想外であった。
(考えたものだ)
 こんなところで手傷を負う気はない。
 相手としても、仲間を失う気はないだろう。
 互いに相手を傷つけたが最後、確実に互いにとって不幸なことになる布陣。
 ここでの最善の行動は、お互い無傷で収めることであった。
(仕方があるまい)
 最善の行動を選択する。
 フリウ・ハリスコーはこの状況で出てこない娘ではないと思えた。恐らく、本当に彼女はいないだろう。
 ならば、もうここに用はなかった。
 ゆっくりと後ろに下がろうとしたところで、一人の少女が目に止まった。
(……なんだと?)
 自分が殺した面妖な術を使う少女。その少女と同じ服装、同じ顔立ちをした少女がそこにいた。
(なに……? 私を見てる?)
 確実に目が合った。しかも相手はその目を逸らそうとしない。
 アリュセがその視線に負けてたじろぎかけた時、ウルペンの唇が微かに動いた。
『双子か?』
「!!」
 声は聞こえなかった。
 だが、アリュセが見た唇の動きは確かにそう言っていた。
「待って! あなた、リリアに会ったんですの!?」
 急いで根の下から這い出し、森の奥へ消えていくウルペンへ向けて叫ぶ。
 突然のアリュセの行動に、皆の驚く視線が集まった。
「……やはり、身内か。リリアというのか、あの金色の髪の娘は」
「どこで、どこで会ったんですの!?」
 足を止めずに言うウルペンに、必死の形相で問いかける。
「港町で」
 初めて得た仲間の情報に、アリュセの表情に明るみが射す。
 だが、次の一言が、その表情を絶望の色へと――
「俺が殺した」
 ――塗り替えた。

「アリュセッ!!」
 放心し、その場に崩れ落ちるアリュセに覚が駆け寄り、その小さな身体を支える。
 ウルペンは微かに口の端を吊り上げると、踵を返して森の奥へと駆けて行く。
「逃がすと思ってんのか!」
「待て、零崎!」
 後を追おうとする零崎を凪が制止する。
 ドクロちゃんの首に巻きついた念糸は、まだ解かれていなかった。
 舌打ちする零崎が待つこと数秒、ようやく念糸が掻き消えた時には、ウルペンの姿は木に紛れて完全に見えなくなっていた。

 んくんく、と喉を鳴らしてペットボトルの水をがぶ飲みしているドクロちゃんのそばで、覚は出立の用意をしていた。
「とんだ別れになっちゃったね」
 いーちゃんから自分とアリュセのデイバッグを受け取り、覚はまとめて左肩にそれを通した。
 右腕には失神してしまったアリュセを抱えている。
 覚は、市街地へ行く予定を変更し、黒衣の男が消えた方角――南へと進むことにしていた。
 方角的には戻ることになるが、城や、その西に広がる森など行っていない場所も多い。
 黒衣の男を追いつつ、仲間を捜すつもりだった。
「なら、これを持っていけ」
 凪が手渡したのは、彼女のサバイバルナイフだ。
「いいのかよ?」
「助けてもらった礼代わりだ。遠慮せずに持っていけ」
 それならばと遠慮なく受け取り、腰の後ろでズボンに挟む。
「悪ィな。さっきも言いかけたが、千里達見つけてまた会えたら、そん時ゃ……」
「お前といると無様なところばかり見られるような気がするけどな……ああ。共に脱出しよう」
 何かを思い出すような顔をした零崎といーちゃんに裏拳をぶち込みつつ、凪は答え――

 そして、凪達は去っていく二人を見送った。


【F−4/森の中/1日目・09:50】
【戯言ポップぴぴるぴ〜】
(いーちゃん/零崎人識/霧間凪/三塚井ドクロ)
【いーちゃん】
[状態]: 健康
[装備]: サバイバルナイフ
[道具]: なし
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ

【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ

【ドクロちゃん】
[状態]: 頭部の傷は軽症に。左足腱は、杖を使えばなんとか歩けるまでに 回復。
    右手はまだ使えません。 多少乾いています。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: このおにーさんたちについていかなくちゃ
  ※能力値上昇中。少々の傷は「ぴぴる」で回復します。

【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]: 出刃包丁
[道具]:デイバッグ(支給品一式)  砥石
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。
[備考]:包丁の血糊が消えました。

170血を分けた者の死神と(10:2005/05/08(日) 19:44:58 ID:aFBUqxYg
-----------------------------------------------------------------
【覚とアリュセ】
【出雲・覚】
[状態]:左腕に銃創あり(出血は止まりました)
[装備]:サバイバルナイフ
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/うまか棒50本セット/バニースーツ一式
[思考]:千里、新庄、ついでに馬鹿佐山と合流/アリュセの面倒を見る/ウルペンの捜索(名前は知らない)

【アリュセ】
[状態]:健康/気絶中
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:リリア、カイルロッド、イルダーナフと合流/覚の面倒を見る


-----------------------------------------------------------------
【ウルペン】
[状態]:軽傷(二の腕に切り傷)
[装備]:炭化銃、スペツナズナイフ
[道具]:デイバッグ(支給品一式) 
[思考]: 蟲の紋章の剣を破るためにフリウを探す。
171台風一過(1/5) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/08(日) 21:05:18 ID:7kYhrPYj
 走れ。走れ。走れ。走れ。走れ。

 走る。走る。走る。走る。走る。

「俺は今風になっている!」
「そないなこと叫んだかて、速くは走れんで……」
「……やっぱり?」
 言ってる間にも、後ろから奇怪な着ぐるみが追いかけてきている。
「ふもっふもーっふ!」
 …………言葉が通じるって、俺達が思っているより素晴らしいことなのかもしれない。
 最後に残った懐中電灯の電池を後ろへ放りつつ、俺は素晴らしい相棒に声をかけてみた。
「ところでどう思う、逃走者B?」
「なにがや、逃走者A?」
「中身」
「そうやな――」
 逃走者Bの科白を遮って、擬音にすればズダーンという、派手な音が響いてくる。
 恐る恐る後ろを振り向くと、着ぐるみがヘッドスライディングをしていた。電池よ、お前の犠牲は忘れない。
「で、どう思う?」
 視線を前に戻すと、また会話を振る。
 どうやらアクションシーンには慣れているらしく、逃走者Bは走りながらも普通に会話を返してくる。
 ……尤も、元々全速力とは言い難いのだが。
「そうやな、やっぱこう……見るからにごっつくて、髭生やしよって――」
「ふもっふーーー!」
「ちゃう。やっぱ熊や。絶対あん中には熊が入っとんねん」
 その意見には激しく賛成したかったが、返事をしている暇はない。
「今だっ!」
「応っ!」
 まさに間一髪。着ぐるみの腕が後髪を撫でたと思った瞬間、俺達は廊下を曲がる。
「ふもっ!?」
172台風一過(2/5) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/08(日) 21:05:58 ID:7kYhrPYj
 もつれ合うように横の通路へと倒れ込む俺達の背後で、曲がり切れなかった着ぐるみがドタドタと廊下を直進していく。
 響いてくる乾いた音は、おそらく着ぐるみが奥に積まれていたダンボールに特攻をしかけた音だろう。
「ふもふもーっふ!?」
 ……俺は逃走者Bに肩を貸すと、無言で逃走を再開する。


「はっ……はぁ……はぁ……なぁ。こないな時、なんて言うたらええんやろな?」
「はぁっ……はっ……“袋の鼠”か? それとも“窮鼠猫を噛む”か?
 少なくとも、俺は……噛みたくはないな」
「同感や」
 あれから右へ左へと曲がること二回。そしてもう一度曲がった時、三度目の正直が俺達の前に立ち塞がった。
 ――用法が間違っているが知ったことか。
「部屋の中に出口はひとつ。廊下には着ぐるみ改め熊。隠れるような物陰も部屋には無し。
 ……策はあるか、逃走者B?」
「あらへん。そっちは?」
「無い」
「ふもーっふっふっふ! ふもっふふもっふ、ふも!」
 俺達の声が聞こえたのか、熊が何かを喋ってくるが、さっぱり解らない。
「……何て言ってると思う?」
「“はーっはっはっはもう逃げられんぞ俺様の拳を食らえ”ってとこやろ。多分」
 平坦な声で逃走者Bが翻訳をしてくれる。泣けてくることに俺も同意見だった。
「ふもっふあぁぁぁぁああああ!」
「……今度は?」
「もう解らへん。ところでちょい、気付いたことがあるんやけどな」
「俺もだ。試すか?」
 言って、逃走者Bの方を向く。視線が合った。
 一瞬の静止。そして、互いに頷き合う。
 そして……それを合図と思ったのか、熊が特攻をかけてくる。
173台風一過(3/5) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/08(日) 21:06:44 ID:7kYhrPYj
「ふもっふ、ふもふも、ふもーーーっ!」
 俺は、目を閉じる。余計な感覚は捨てる。聴覚だけあればいい。

 ドタ、ドタ、ドタ――
  タイミングが、命。

 ドタ、ドス、ドス、ドス――
  足音が変わった。部屋に入ったのだろう。

 ドス、ドス、ドス、ドス――
  ドクン、ドクン、ドクン――
   俺の心臓の鼓動が、邪魔をする。
   焦るなガユス! まだだ、まだ早い!

 ドス、ドスッ、ド――
  今だッ!

 俺は一瞬の躊躇も停滞もなく、全身全霊を込めて横へと飛ぶ。
「……ふもっ?」
 声を聞き、目を開けた俺の視界に映ったのは――



「それにしても、この部屋が窓際にあってよかったな……」
「……せやな」
 そう、最後の最後に思いついたのは、あの突進力を利用した自滅。
 偶然にも、行き着いた先が窓際だったのは不幸中の幸い、だろうか。しかし……
174台風一過(4/5) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/08(日) 21:07:19 ID:7kYhrPYj
「なんで……元気なんだ、あの熊?」
「知りとうもないわ、そんなん」
 見下ろす視界には、腕を振り上げ「ふもふも」と喚いている熊が見える。
 窓ガラスに突進し、二階から墜落しても何故か元気一杯だった。
「…………なんなんだろうな、あれ」
「……幻覚やろ。俺らが見た白昼夢。それでええやん」
 そうかもしれない。
 一応知覚眼鏡に情報を記録すると、俺は逃走者Bに声をかける。
「で、これからどうす――」
「ふもーーーーーーーっふ!」
「……一階の入り口の方、駆けていきよったな」
「そこら辺に落ちてるシーツでも使って、降りるか」
 と、シーツを拾おうとして、まだ大事なことを忘れているのを思い出す。
「あ、そういえば」
「なんや?」
「俺はガユス・レヴィナ・ソレル。咒式士……まぁ、魔法使いのようなことをやってる。あんたは?」
 一瞬、咒式士のことは隠そうかとも思ったが、面倒くさくなってやめる。
「…………俺は、緋崎正介。仲間内ではベリアルて呼ばれとる。職業は――」
 緋崎はそう言うと、にやりと笑ってこう続けた。

 ――職業は、悪魔や。
175台風一過(5/5) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/08(日) 21:08:25 ID:7kYhrPYj
【B-3/ビル2F、廊下/1日目/09:40】
【小早川奈津子】
[状態]:全身数箇所に打撲。右腕損傷(殴れる程度の回復には十分な栄養と約二日を要する)
[装備]:コキュートス / ボン太君量産型(やや煤けている)
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:1.竜堂終と鳥羽茉理への天誅 2.佐山を探す 3.あの二人は絶対に逃がさない

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)。戦闘は無理。精神的、肉体的にかなり疲労。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ)
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:あの熊のことはもう忘れたい。合流と魔杖剣と咒弾の回収に(傷を悪化させてでも)D-1の公民館へ。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的にかなり疲労。
[装備]:探知機
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:あの熊のことはもう忘れたい。カプセルを探す。なんとなくガユスについて行く。
[備考]:六時の放送を聞いていません。 走り回ったので、骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は、まだ正確に判断できていません)
176古泉一樹の憂鬱【1/2】 ◆wkPb3VBx02 :2005/05/08(日) 23:56:14 ID:+kWXLZvp
「待ってください!……ぐぁっ!」
タン!と二度目の銃声。今度は肩ではなく足を狙ったのか、右脛に激痛を古泉一樹は感じた。
前のめりにつんのめり、しかし右手は打たれた左肩を押さえていたため、咄嗟に反応出来ず古泉はその場に転倒してしまう。
「くっ……何故……?」
どくどくと血と飲み水が流れ絨毯に染みを作っていくのを尻目に、古泉は遠ざかってくアーヴィーの背中を見つめた。足を怪我している割には、その速度はえらく速い。
自分の発言のどこが発砲のきっかけに成ってしまったのだろうか、と古泉は漠然と疑問に思う。
(……しかし、これは返って良かったのかもしれませんね)
優秀な射撃手を失ってしまったことは大きな損失だが、このまま時間が経ってここぞという時に裏切られるよりはずっとましかもしれない。
完全に見えなくなってしまったアーヴィーを意識から振り払い、古泉は床を無事な右手と左足で這って壁まで辿りつく。
手頃な棚を支えにして上半身を持ち上げ、そのまま壁にどさりと凭れる。視界の霞みが焦燥感を煽った。
「怪我の手当てを……しなければいけませんね……」
声は掠れ、何時ものアイドル然とした彼の笑顔も今は苦しげだ。引き攣り気味な笑顔は、明らかに無理して笑っているとしか思えない。
古泉は近くのガラクタを探り、治療器具もしくはそれに準ずる物がないか探した。不幸なことに、使えそうなのは一本の短剣だけだったが。
「これだけ、ですか……覚悟を決める他ないようですね……」
古泉は懸命に独り言を続けて意識を保とうとした。そうでもしなければ、今すぐ気絶してしまいそうだった。
短剣の鞘を抜き、ぎらりと輝く銀の刃が錆びていないことを確認した後、古泉はそれを逆手に持った。
何度か深呼吸して気持ちを落ち着かせた後、古泉は短剣を左肩に突き込んだ。
177古泉一樹の憂鬱【2/2】 ◆wkPb3VBx02 :2005/05/08(日) 23:56:49 ID:+kWXLZvp
「……く、ぐぁ……あああっ!!」
ぐちゅり、という肉を抉る音を間近で聞きつつ、手首を捻って体内に残る弾丸を抉り出す。
ぽとり、と弾丸が絨毯の上に落ちて転がって行ったのを見て、古泉は短剣を放り出す。付近のボロ布を手繰りよせ、残り少ない水で傷口を洗ってからきつく縛ろうとした。
が、上手く出来ない。左肩は思うように動かず、些細な衝撃で激痛齎すだけだ。口を使って縛り上げるのに、古泉は少々時間を食った。
縛り終えた頃には視界のほとんどはぼやけていて、目蓋が酷く重く感じた。このまま寝てしまいたいという誘惑に勝ち続ける自信が、古泉には無かった。
「足の方はどうやら掠っただけみたいですね……」
誰にともなく、古泉の独り言は続く。まるで自分を励ましているかのような行為に、若干の空しさを覚えながらも。
古泉はまたもや苦労して右足を止血処理を施し、安堵の溜息を吐いた。蒼白だった顔も、止血前よりかは幾らか穏やかになっている。
(どうにかして、長門さんと合流しなければなりませんね……)
当初の計画はほとんど崩れてしまった。また、新たに練り直さねばならないだろう。
だが、そんな余裕は肉体的にも精神的にも残ってはいなかった。
無事手当てを終えたという事実から来る安堵感に浸りながら、古泉は目を閉じた。
やらなくてはいけないことも、酷く遠い物に感じていた。
そのまま、古泉は眠るように気を失った。
古泉一樹、ゲーム開始から二度目の気絶であった。


【G-4/城の中/1日目・08:00】

【古泉一樹】
[状態]:気絶中。左肩、右足に銃創(共に止血ずみ)
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式) ペットボトルの水は溢れきってます
[思考]:長門有希を探す
178嗚呼、ボルカンよ不運なれ ◆lmrmar5YFk :2005/05/09(月) 00:56:39 ID:+Gsaw34O
「あの程度で謝るって、器の小さい男だな。そんなんじゃもてないだろ?
まあ、その点俺はお前と違って世界一できた彼女がいるわけだが」
「……てめぇの恋愛事情なんざこれっぽちも興味ねぇんだよ」
言うが早いか、持っていたデイパックをクレア目掛けて力の限り投げつける。
その細腕でなぜ出せるのか分からない豪速で飛んできたそれに、クレアはひょいとナイフを持ったままの手を伸ばした。
当たれば軽く指の骨折くらいは免れなさそうな勢いのそれを、特に難しくもない顔で払い落とす。
虚空で切り裂かれたデイパックが床に落ち、裂かれた隙間から静雄の支給品であるロザリオが顔を出した。
それを見たクレアが面白そうな顔で静雄へと尋ねる。
「なんだ、お前も『神父様』の御付きだったのか?」
「あ?」
「俺はこれから魔王とやりあわなきゃならないんだ。お前みたいな雑魚に構ってる暇はないんだよ」
「雑魚、だ? ……お前、マジで殺す」
言うが早いか武器一つ持たぬ状態で突進してきた静雄が、固めた拳をクレアの頬へと向ける。
「遅いな」
いまだ十二分に余裕のある声で悠々と殴打を避けると、右手のナイフを相手の腹部へと滑り込ませる。
腹を深々と抉ろうと突き刺したそのナイフは、しかし表面の薄皮を数ミリ切っただけで進攻が止められた。
静雄の人間離れした腹筋が、それ以上のナイフの前進を阻んでいるのだ。
刃を押し込めようとする力はそのままにして、クレアは面白そうに歓声を上げた。
「おいおい、何だよ、その腹筋。お前本当に人類?」
「人に見えなくて悪かったなぁ」
179嗚呼、ボルカンよ不運なれ ◆lmrmar5YFk :2005/05/09(月) 00:57:17 ID:+Gsaw34O
怒り心頭の静雄は、手近に置かれていた古椅子の背もたれを両手で掴み取ると、それを身体の前に掲げ、クレアに向かって突進した。
暴れる猪のように脇目も振らず直進し、クレアの目前数センチのところで手にした椅子を薙ぎ払う。
びゅんという風切音と共に、長く伸びた椅子の足が顔面をこそげ取ろうとした瞬間、クレアはさっと一歩後退して静雄から離れた。
静雄の振るった椅子は、先ほどまでクレアの頭があった空間をむなしく横に通過したのみだ。
後ずさったクレアを追って、静雄も前に歩を進める。先ほど振り払った勢いを殺さぬまま、再び椅子を頭蓋めがけて振り下ろす。
太い四本の脚が、獲物を狙う猛虎の勢いで頭上からクレアに襲いかかる。
普通の人間ならまず避けることすら不可能なスピードであった。
だが彼はクレア・スタンフィールドである。
彼は、左右の手を冷静に振り上げると、己の頭骨を粉砕せしめんと降下された椅子の脚の内の一本を、二本のナイフで両側から挟み込んだ。
――ガキィィン!
拮抗する腕力の二人の間で、椅子はもはや動くことなく静止する。
「雑魚にしちゃ、意外とやるなぁ」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
感心したとばかりに相手を賞賛するクレアに、静雄は苛立ちながら全く考えなしで新たな攻撃を仕掛けた。
抑えられた椅子は手にしたままで自身の右足を振り上げ、クレアへと激しい蹴りを向けたのだ。
鳩尾を狙ったその攻撃を身体を右にひねってかわすと、クレアはナイフを椅子の脚から離し、再度胸の前に構え直す。
らんらんと光るその武器は、一般の人間ならば見ただけで恐怖におののいて攻撃の手を止めるであろう。
だが、憤激した状態の静雄に怖いものなど何もない。
彼は自由になった椅子を手に、体勢を整えることすらせずクレアの元へと突っ込んでくる。
だが突撃してきた相手にナイフを差し向けた瞬間、クレアは予期していなかった背後からの気配を感じて、急遽横へと飛びすさった。
180嗚呼、ボルカンよ不運なれ ◆lmrmar5YFk :2005/05/09(月) 00:57:54 ID:+Gsaw34O
「戦を諌める。それもまた神の使いの務め」
そこにいたのはむくつけき巨漢、ハックルボーン神父で、その手にはいつの間にやら人身並みの長さの戦槍が握られていた。
クレアは素早く神父から距離をとると、ハンティング・ナイフの片一方を神父へと向けた。
「二対一か。ハンデには十分だな」
ひらりと方向転換して神父へ向き直ると、大振りなナイフの刃をはためかせ、高い跳躍で飛び掛る。
振りかぶったナイフが神父の太い首を突き抜こうと迫り、一方の神父はクレアごとナイフを下落させようと手の中の槍を真正面に迎える。
しかし次の瞬間、二人の間に割って入ったのは、先ほどまでクレアと対戦していた青年、平和島静雄であった。
当然、クレアの安全のために身を挺してかばったわけではない。自分の邪魔をされて怒り狂っているだけだ。
双方の間隙を縫って戦闘中の男たちの胸中に割り込んだ静雄は、右手でクレアの手首を、左手で槍の柄を同時に握り締めた。
彼の二本の腕には、はちきれそうなほどに血管の青い筋が浮かび上がっている。
激情に凍り、触れただけで誰もが凍傷を起こしそうなほどに冷たい声で、静雄は神父に忠告した。
「おい、おっさん。邪魔すんならてめぇから殺すぞ」
「――汝もまた神を信じぬ哀しき仔羊か」
悲しみに暮れた声でそう言うと、神父は全力でぶんと静雄の手を振り切って、再び槍の自由を手に入れた。
いまだクレアの獲物を握ったままの静雄へ距離を詰めると、苛烈の勢いで前方への打突を繰り返す。
「ちっ、糞が!」
素早くクレアの腕を放し、上下左右から降り注ぐ神父の槍を本能的な所作で避け続ける。
だが、防戦一方が性にあわない静雄は、手に持つ椅子を神父の上体へと力任せに投げつけた。
突然放たれたそれを神父が槍で一閃し薙ぎ落とすと、椅子がバラバラと分散され木片たちが床へと落下して折り重なる。
181嗚呼、ボルカンよ不運なれ ◆lmrmar5YFk :2005/05/09(月) 00:58:39 ID:+Gsaw34O
「神に仇なすか、愚かな者共」
「うるせぇ、死ね」
言って、今度は何一つ持たぬ状態で神父へと爆走していく。前身を低くかがめ、足に狙いを定めて肩から力強くタックルする。
だが一瞬早く突き出された神父の槍が、向かってきた静雄の胸元にぐいと突きつけられる。
体勢を低くしていたためろくな攻撃も出来ず、静雄は神父の兇悪極まる顔をただ見上げるしかない。
神父は、静雄の頭を狙って満足そうな表情で拳を繰り出す。幾人もの人間を天上へ強制シフトしてきたあの拳だ。
「貴方に神の祝福を――」
しかし神父の放った拳は静雄へと届きはしなかった。
静雄は、自分の腹に槍が突き刺さるのにも躊躇せずに、自分から神父の腕の下へと潜り込んだのだ。
突然の信じられない行動に驚き、一瞬動きが止まる神父。静雄はその瞬間を見逃さなかった。
鋭利な穂先が己の腹部にぐりっと穴を開けているのも全く気にせずに、渾身の力を込めた右の拳を神父の身体に放つ。
そのスピードからはいかな神父でも逃げ切れるものではない。
池袋最強と言われる殴打を正面からまともに喰らった神父は、どがっと小山でも崩壊したような轟音を響かせて膝を突いた。
「どいてろ、糞が」
吐き捨てると、腹に刺さったままの槍をぐいと引き抜く。
体内で十二分に生成されるアドレナリンが痛みも感じさせないのか、随分の流血も気にならないようだ。
自身の血液で血塗れたそれを右手で勇壮に床へ突き立てると、今の戦いを静かに傍観していたクレアに視線を向ける。
「今度こそ殺る」
その台詞に、クレアは困惑とちょっとした怒りとを込めて呆れ声で返答した。
182嗚呼、ボルカンよ不運なれ ◆lmrmar5YFk :2005/05/09(月) 00:59:17 ID:+Gsaw34O
「お前何してるんだよ。あいつは俺が倒す予定だったんだぞ?
まさか自分が魔王を倒したからって、俺のシャーネを横取りするつもりじゃないだろうな?」
「あぁ? 意味分かんねぇなー。俺はただお前に心底ムカついてるだけさ!」
静雄はクレアにそう言うと、手にした槍を目深に掲げ全速力で飛び出した。
先端があと何ミリかでクレアの喉笛をぶち抜くところまで届く。静雄は柄にかける力を増してさらに強く槍を前方へ突き出す。
だが刃物の扱いも超一流のクレアが、素人同然の静雄の動きを見切れぬはずも無い。
ナイフで器用に槍の軌道を逸らし、自分の肌には傷一本つけさせない。
「糞、面倒くせぇ!」
静雄は苛立ちながらそう咆哮すると、槍を投げ捨てていまだ倒れたままの神父に駆け寄った。
もちろん、助け起こすためではない。己の武器にするためだ。
ゆうに百キロは超えていそうなその巨体を苦も無く肩の高さまで持ち上げると――クレアの方向へ力一杯ぶん投げた。
「おいおい……」
まともに激突すればあばらの一本や二本ではきかなそうなそれを、クレアが紙一重のところでかわす。
頬ぎりぎりを風が掠めたのを感じる。
放り投げられた神父は無慈悲にも壁にぶち当たり、その衝撃でドンガラガシャンと雷鳴のような音が轟いた。
これほど肩に負担の掛かりそうな行いをしても全く平気な顔をして向かってくる相手に、しかしクレアは笑みを見せた。
「御付きにしちゃ随分とやる。だが――」
落ちたままだった槍を目にも止まらぬ速度で拾い上げると、懲りずに走ってくる静雄へとその先端部を突き立てる。
運悪くトップスピードで突撃してきた静雄は、左右に身体を避けることもできない。
183嗚呼、ボルカンよ不運なれ ◆lmrmar5YFk :2005/05/09(月) 01:00:18 ID:+Gsaw34O
クレアの圧倒的な力と己の走力とで奥へと押された刃は、ずぷずぷと嫌な音を立てて静雄の腹に吸い込まれて行った。
「ぁ、あぁあぁぁぁぁぁっ!」
「――俺に勝てる奴はいない」
床に倒れこむどさりという音と苦痛に叫ぶ悲鳴とをバックミュージックに、クレアはひとりごちた。
「ううむ、魔王を倒したのはあいつなんだよな。……でもあいつを倒したのは俺だからまぁいいか……」
勝手な理屈で決め付けると、彼はその場で自分以外に唯一立っている小柄な青年に問いかけた。
「で? 姫はどこにいる?」


【G-4/城の中/1日目・09:25】

【ハックルボーン神父】
 [状態]:全身に打撲・擦過傷多数/気絶中
 [装備]:宝具『神鉄如意』@灼眼のシャナ
 [道具]:デイパック(支給品一式)
 [思考]:神に仇なすオーフェンを討つ

【ボルカン】
 [状態]:健康
 [装備]:かなめのハリセン(フルメタル・パニック!)
 [道具]:デイパック(支給品一式)
 [思考]:やばい死ぬ怖い逃げなきゃ化け物が死ぬ死ぬ/打倒、オーフェン
184嗚呼、ボルカンよ不運なれ ◆lmrmar5YFk :2005/05/09(月) 01:00:43 ID:+Gsaw34O
【クレア・スタンフィールド】
[状態]:絶好調
[装備]:大型ハンティングナイフx2
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:姫(シャーネ)を助け出す

【平和島静雄】
[状態]:下腹部に二箇所刺傷(貫通はせず)
[装備]:山百合会のロザリオ
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:こいつを殺す!
185戯言精霊の傑作殺し(1/4) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/09(月) 22:37:27 ID:tqYbTgDi
「んっく、んっく」
ドクロちゃんが水を飲んでいる。几帳面に音を立てて。
あの出雲さんとアリュセちゃんが立ち去ってからしばらく。
ずっとドクロちゃんは水を飲んでいる。
殺し屋から首を糸で絞められてからやたらのどが渇くそうだ。
零崎はあの後、張られた糸を気づかれないように巧妙に張り直したようだ。
「今度こそバレずに引っかかるはずだぜ」
零崎と他愛の無い会話をしているとさっきの男との事がまた浮かんできた。
─あの時あの男が殺人行動にでたら
─最初の弾丸が凪ちゃんに当たってたら
─ドクロちゃんを絞める糸に力が加えられてたなら
物騒な想像をしていると口の中が乾いてきた。
でも僕のデイパックはダナディアさんの所で失くしてしまったので、当然水も無かった。
「凪ちゃん、水のボトル持ってる?」
「俺のは三塚井にやった。俺の飲みかけの一本は飲みきって、もう一本は今飲んでる」
「ドクロちゃんは…デイパック無いんだったね。零崎は?」
「ん? ああ俺の奴は一本は飲んだのと包丁砥ぐのに使っちまった。
 あと一本あるぜ」
ああじゃあそれを飲も──
「それじゃあ僕たちの残りの水は」
三人の気持ちが一つになった。一本。いや、ドクロちゃんの飲みかけが──
「ぷふぅ」
ドクロちゃんは飲み終わったボトルを地面に置いた。
からん。ころころ。転がった空ボトル。どこからか吹いた風で転がる。からからと。空空と。

「いいか? ここから近くて水が採れそうなのは」
「湖は…飲めるかどうか分からないね。井戸も毒が入れられてないとも限らない」
「すると、この商店街か」
「やってくれるな? 零崎」
「俺しかいねーだろ?」
「全部詰めたら三キロになるけど、大丈夫か?」
「おいおい俺を誰だと思ってやがる」
186戯言精霊の傑作殺し(2/4) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/09(月) 22:38:45 ID:tqYbTgDi
「1時間以内に帰って来いよ」
「おう」
「なるべく殺すなよ」
「そりゃ保障できねーな。かははっ」
「おい!」
「じゃ、行ってくるぜ」
「ちっ…」
「あれ? ドクロちゃんが落書きしてるのって」
「零崎の…地図だな…」

「おかしーな。商店街が見えてこねぇ」
とことこ歩きながら呟く。辺りは森だった。横に普通の道が見える。
地図でもう一度確認しようとして、デイパックを探って──
探って探って探って。
地図を忘れた事を確認した。
「参ったなー。三塚井の奴に落書きされてそんまんまだったか」
一回戻って地図を持ってくるのも間抜けな話だ。
誰かに道を聞ければいいんだが…そう思ってとりあえず森を歩く。
なにやら少し先に三人組がいた。男二人女一人。
まったく用心せずに正面から近づいていく。ただし背中に隠した包丁はいつでも取り出せる。
三人の動きが止まる。先頭の目つきの悪い黒ずくめの男が警戒心丸出しで半身ずらすのが見えた。
「よぉあんたら。ちっとばかし道を聞きてーんだけど──つっても人せ──」
突然正面の男のデイパックの中から、青い虫のようなものが飛び出して語りだした。もちろん人生について。
「道を聞きたいと。そもそも道なんてのは人や場所や考えについて回るものだ。
 人ならば人道。街ならば街道。剣ならば剣道。沼なら沼道か?
 他人の作った思想の道を歩かないで済む方法を知ってるか?地位とほんの少しの勇気でいい。
 なんとも無いことをなにか有り気に言い切る勇気と、なんとも無いことなのに何故か重く聞こえるほどの地位だ──
 っておう。 それで思い出したけど何故あの占い機甲軍団は退屈なことばっか呟くのに、それを皆真に受けまくってあたふたせねばならんのだ」
187戯言精霊の傑作殺し(3/4) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/09(月) 22:39:38 ID:tqYbTgDi
「…先に言われちまった。戯言のように傑作だな」
笑みを深めて零崎は呟いた。
戦闘体勢をとってた黒ずくめのオーフェンは肩を落として声を上げた。
「頼むから、こいつに語り掛けないでくれ…」
それから数分間、オーフェンが止まらないスィリーをポケットに詰めるまで──
その『道』についての演説(内容はどんどん変わっていったが)は続けられた。

【キーフェンを出よう!-from the aspect of ENJOU-】
【残り85人/E6/森の中/1日目/09:55】

【宮野秀策】
[状態]:健康
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)・エンブリオ。
[道具]:通常の初期セット。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
   :この空間からの脱出。 状況様子見

【光明寺茉衣子】
[状態]:健康
[装備]:ラジオの兵長。
[道具]:通常の初期セット。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
   :この空間からの脱出。 状況様子見

【オーフェン】
[状態]:精神的に疲労気味、いろんな意味で。行動には支障なし。 偏頭痛。
[装備]:牙の塔の紋章×2
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本、パンが更に減っている)、獅子のマント留め、スィリー
[思考]:クリーオウの捜索、仲間を集めて脱出(殺人は必要なら行う) コイツどうしよう。スィリー黙れ。
※第一回放送を冒頭しか聞いていません。
188戯言精霊の傑作殺し(4/4) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/09(月) 22:40:30 ID:tqYbTgDi
【零崎人識】
[状態]:平常  迷子。
[装備]: 出刃包丁 (隠し持ってる)
[道具]:デイバッグ(空のボトル三個)  砥石
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。 水を汲みに商店街まで。道を聞く。11時までには戻りたい。
[備考]:包丁の血糊が消えました。
──────────────
【F−4/森の中/1日目・09:55】
【戯言ポップぴぴるぴ〜】
(いーちゃん/(零崎人識)/霧間凪/三塚井ドクロ)
【いーちゃん】
[状態]: 健康
[装備]: サバイバルナイフ
[道具]: なし
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ 零崎を待つ

【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ 零崎を待つ

【ドクロちゃん】
[状態]: 頭部の傷は軽症に。左足腱は、杖を使えばなんとか歩けるまでに 回復。
    右手はまだ使えません。 乾きは大体治りました。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: このおにーさんたちについていかなくちゃ
  ※能力値上昇中。少々の傷は「ぴぴる」で回復します。

備考:水が残り1リットルしかありません。
189灯火と帰還者の物語1/5 ◆QhOm486dgg :2005/05/09(月) 23:20:02 ID:ttpEd9IO
 クリーオウは時計を見る。時刻は11:00
 空目と交代してから1時間が経つ。
 隠れるながら窓から外を見る。

(誰か来るかと思ったけど……意外)

 皆と別れてからすでに3時間になるが人影は無かった。
 クリーオウはふとため息を吐く。そのとき、空目が目を覚ました。

「あ、ごめん。起こしちゃった?」
 クリーオウは小声で謝る。
「いや、問題ない。……燃える臭いがするな」
 空目は軽く鼻をひくつかせながら言う。
「え、そんな臭いはしないけど」
 クリーオウはそういぶかしげに答える。
「……外か」
 空目はそう言って突然歩き出す。
「え、ちょっと待ってよ!」
 空目の突然の行動にクリーオウは慌て、急いで空目を追いかける。



 そこには休んでいた人間がいた。
 相手もこちらに気がついたのだろう。慌てた様に手に銃を持ち直す。
「そこで止まれ!」
 その人間は制止の声を放つ。その声にクリーオウと空目は止まる。
 そして止まった直後空目は言う。
「……お前は、何だ?」
 その言葉にクリーオウは疑問を持つ。普通なら誰だと聞く。何故『何だ』と聞いたのか。
 相手もその言葉に疑問を持ったのだろう。不審な顔をしながら、しかし次の瞬間納得したように答える。
190灯火と帰還者の物語2/5 ◆QhOm486dgg :2005/05/09(月) 23:21:26 ID:ttpEd9IO
「僕は坂井悠二。坂井悠二本人の残り糟から作られた代替物、トーチと呼ばれる存在。
……よく僕が人間じゃないって分かったね」
 クリーオウはその言葉に驚き、空目は無表情のまま言う。
「俺はこの世の物でない匂いが識別できるだけだ。
匂いの原因が何か知るために来たが、君自身が怪異だったか」
「怪異か……確かにそうかも知れないな。まぁ、僕のことは置いといて君たちはどのように行動しているの?」
「今は人探しの最中だ」
「僕も同じく人探しの最中。まずはお互い情報交換しようよ」

 情報交換が始まる。お互い探している人物は知らないこと。そして――

「この『物語』は一体どこから手に入れた?」
『物語』を読み終えた空目は悠二に質問する。
「森の中の小屋。場所はE-5付近だよ」
「そうか」
「この『物語』は絶対脱出の役に立つんだと思うんだ。恭一もそう思うだろ」
「不明だ」
「……そうか」
悠二の露骨に残念そうな声、しかし空目の言葉には続きがあった。
「だが、この『物語』は本物だな」
「本物?」
 空目はその疑問に目を瞑りながら話し始める。
「これは合わせ鏡の物語。恐らくは魔女……十叶詠子が仕込んだ物だろう。
『物語』は人から人へ"感染"し、"感染"した人間は『物語』により認識された異界が牙を向く。
以前遭遇した鏡に関する『物語』では40人死んだ」
 悠二は不安になったように疑問を放つ。
「この『物語』は危険な物?」
「不明だ。だが、調べる必要はあるだろう。
異界をこの世界に呼び込むとしたら、異界に耐えられない人間には危険だろうな」
 その言葉に悠二は考え込む。
191灯火と帰還者の物語3/5 ◆WqFkbhvlZA :2005/05/09(月) 23:22:16 ID:ttpEd9IO
「……つまり耐えられる人間だけに伝えれば良いわけか。
僕はどっちかっていうと、君の言葉で言う怪異そのものだからそこまで危険ではないけど、
ただの人間であるクリーオウさんにとっては危険な物。だからクリーオウさんには見せなかったんだね」
 悠二の考えに空目はうなずきつつ答える。
「その可能性が高い」
「これからは見極めた上で『物語』を読ませるよ」
「それがいいだろう」
 悠二は自分の意思を空目に確認、空目はそれに同意する。
「ありがとう。この『物語』が危険かもしれないって分かっただけでも良かったよ。
……さて、そろそろ僕は行くよ」
 今までの会話について行けず黙っていたクリーオウは、その言葉に反応する。
「え、一緒に探さないの?」
 悠二は苦笑しつつ
「いや、止めておくよ。僕はシャナと長門さんを探さなきゃいけないし、君達の中だと僕は足手まといにしかならない。
でもシャナ達を見つけたら僕は港C-8に行ったって伝えて欲しいな」
「……分かった」
「あ、そうだ。友好の印にこの缶詰をいくつかあげるよ。中身何か分からないけど」
 悠二はバックパックからIAI製と書かれた缶詰を10個取り出すとクリーオウに渡す。
「え、これいいの?」
「うん、良ければ食べて。……それじゃまた。恭一、クリーオウさん」
「ああ」「また後でね」
 こうして悠二はこの場所から立ち去って行った。
192灯火と帰還者の物語4/5 ◆WqFkbhvlZA :2005/05/09(月) 23:22:57 ID:ttpEd9IO
「恭一はなんで物語を読ませること自体に反対しなかったの? あの『物語』は危険なんでしょ」
 悠二と別れ、学校に戻りながらクリーオウは空目に聞く。それに対し空目は、
「現段階では情報不足だ。第一本当に魔女が関係しているかも不明だ。
また力で止めようとしても相手は怪異そのもの。逆に此方が死ぬことになる」
 口ではそういいながら空目はクリーオウに紙を渡す。そこにはこう書かれていた。

『どこからか主催者が聞いている可能性もあるためここに書く。
物語に"感染"しなければ、異界はその人間に影響を与えない。また、
異界が発生した場合、異界に耐えられる者にとって刻印の効果を一時的にでも無効化できる可能性等利点もある。
ならば、異界に耐性がある者に同意を得た上で『物語』を読ませたほうが良い。
坂井が考えていたことはそういうことだ。それを止める理由は、今の所俺にはない』

「でもそれって……」
「なんにしても不明なことが多い。まず何が起きているか知る必要があるな」
「皆が戻ってきたら相談だね」
「そうだな」

 もうすぐ二回目の放送が始まる――

【居残り組な悠二】
【残り85人】
【D−2(学校周辺)/1日目・11:20】

【坂井悠二】
[状態]:健康・感染
[装備]:狙撃銃PSG-1
[道具]:デイパック(缶詰の食料、IAI製)、地下水脈の地図 (かなり劣化)
[思考]:1.シャナ、長門の捜索。2.異界に耐性ある人に物語を知らせる。3.港C-3に移動
[備考]:悠二のMAP裏に零時迷子のこと及び力の制限に対する推論が書いてあります。
    ただし制限の推論が正しいかは不明です。
    缶詰の中身、物語・感染の詳細は後の人に任せます
193灯火と帰還者の物語5/5 ◆WqFkbhvlZA :2005/05/09(月) 23:23:35 ID:ttpEd9IO
【学校居残り組】

【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式。缶詰の食料(IAI製10個)
[思考]:みんなと協力して脱出する/オーフェンに会いたい

【空目恭一】
[状態]: 健康/感染
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式/《地獄天使号》の入ったデイバッグ(出た途端に大暴れ)
[思考]: ゲームの仕組みを解明しても良い/詠子が何をしているか知る。
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。

*行動:交代で二時間睡眠。皆が戻ってきたら寝かせて見張り。
    学校を放棄する時はチョークで外壁に印をつけて神社へ。
    また、『物語』について皆に相談する。
194人界の魔王は斯く詮ずる(1/3) ◆J0mAROIq3E :2005/05/10(火) 00:10:32 ID:ajd64o8Y
 学校の一階、保健室。
 数時間前に一人の少女が寝ていたベッドに、今はクリーオウが横になっている。
 その寝顔を無表情に見やり、空目は手にしていた本を閉じた。
 机の上に置いてある地図や名簿を改めて見る。
 空目のデイパックはサラから開けることを禁じられているため、クリーオウのものだ。
 先ほどの会議で初めて見たが、そこには看過できない文字があった。
(十叶先輩――魔女、か)
 このゲームの主催者側ではないのかと思っていたが、彼女も“参加者”のようだ。
 だが、それならば自分のようにじっとしている人間ではないことは分かっている。
(とはいえ、それほどの脅威にはならないか……?)
 何しろ参加者達の国が違い、世界が違う。
 魔女の脅威は“異界”にあるのだから、そもそも知識基盤の違う人間の集まるここでうまく立ち回れるとは思えない。
 共通の物語を多人数に植え付けなければ異界は生まれない。
 そして何らかの手段で感染させようとしても、魔女には自分と同じく直接的な戦闘能力がない。
 物語をばらまく前に殺人者に殺されるであろうことは容易に推測できる。
 ならば仲間を作れば危険だろうかと思い、その可能性も否定。
 自分の場合は協力者を得ることが出来たが、生まれながらに発狂している彼女とまともにコンタクトを取れる人間などいはしないだろう。
 だが、一回目の放送でその名前が呼ばれることはなかった。
 隠れているのか、たまたま殺人者に遭わなかったのか。
 魔女の暗躍を否定する要素が揃ってるとはいえ、確定はしていない。
 仮に次の放送でも呼ばれなければ、再び集まった皆に言う必要がある。
195人界の魔王は斯く詮ずる(2/3) ◆J0mAROIq3E :2005/05/10(火) 00:11:41 ID:ajd64o8Y
(皆、か。俺も自分の立ち位置を決めなければならんな)
 椅子の背を軋ませ、空目は腕を組む。
 目を閉じ、結論に至るまでに要した時間はわずか十秒。
(選択肢が広がった以上、生存を選ぶのが妥当か)
 別に死んでも構わないと思っていたが、生き延びられるならそれに越したことはない。
 万が一、自分が死んで魔女が帰還するなどということがあっては目も当てられない。
 自分が死ねばあやめは空目家で永遠に自分を待ち続けるだろう。
 あやめがいなければ武巳達には異界に抗う術がなくなる。
 ――それは決定的な敗北を意味する。
 可能性が薄いとはいえ、刻印の解除を目指すのが最もマシだと判断した。
 何より――こちらの方が大きな理由なのだが――自分とは違う世界の人間。その知識は興味深い。
 刻印の解除に際しては多様な知識と見解が飛び交うことだろう。
(結局、異界でも屠殺場でも俺は変われんか)
 その事実に軽く鼻を鳴らし、再び本を開こうとし、
「……ん……恭一、そろそろ交代?」
 身を起こしたクリーオウが目を擦っていた。
 時間を見ると10:15。確かに交代の時間だった。
196人界の魔王は斯く詮ずる(3/3) ◆J0mAROIq3E :2005/05/10(火) 00:12:50 ID:ajd64o8Y
「ああ」
 短く答えるとクリーオウと入れ替わりにベッドに入った。
 思考のためには睡眠も必要だ。眠れるうちに眠っておくべきだった。
「じゃあ二時間……あ、放送の前になったら起こすね」
「ああ」
 平坦な声で再び返し、目を閉じる。。
 他人の体温で温まった寝台は、意外なほどに寝心地が良かった。

【D−2(学校1階・保健室)/1日目・10:15】

【居残り組:じゃじゃ馬と魔王】
【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:みんなと協力して脱出する/オーフェンに会いたい

【空目恭一】
[状態]: 健康。就寝。
[装備]: 図書室の本
[道具]: 支給品一式/《地獄天使号》の入ったデイバッグ(出た途端に大暴れ)
[思考]: ゲームの仕組みを解明しても良い。放送まで睡眠。
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。

*行動:交代で二時間睡眠。皆が戻ってきたら寝かせて見張り。学校を放棄する時はチョークで外壁に印をつけて神社へ。
197夢の中の幻(1/7) ◆5KqBC89beU :2005/05/10(火) 12:25:40 ID:ChRCP+19
 青年が目を開けると、そこは何もない世界だった。
 平坦な空と地面が続くだけの、シンプルな世界である。
 灰色がかった深い瞳が、呆然と地平線を見つめる。
「……なんや、これ?」
「夢だ」
「幻さ」
 地面に座る悪魔たちが声をかけた。
 背後にいる二匹に気づき、青年が振り返る。
「待っていたぞ、正介」
 と親しみのこもった声が言う。
「さて。また会ったね――という挨拶が正確かどうかという議論はひとまず
 置いておこうか。僕ら――という呼称が実は当てはまらないという複雑な現状の
 確認も後回しにさせてもらおう。なにしろ時間が足りないからね。これでも
 急いでるんだ。とにかくコミュニケーション優先で話を進めるとしよう。
 正介。僕ら『盟友の幻影』は君の奮闘を応援する」
 と嬉しそうに興奮した声が言う。
 青年――緋崎正介は、二匹の悪魔に目を向けて唸った。
「……ベリアルて言え」

 そうして悪魔は三匹になった。
198夢の中の幻(2/7) ◆5KqBC89beU :2005/05/10(火) 12:26:49 ID:ChRCP+19

 かつて楽園を追い出され、ヒトの祖先は地に堕とされた。
 地上の世界は住み難く、ヒトの末裔は苦しんだ。
「神様は、僕らを愛していないのさ」
 三人のヒトが悪魔を呼んだ。彼らは儀式を成功させた。
 小さな悪魔が召喚されて、彼ら三人は喜んだ。
 けれども悪魔は怯えて逃げた。逃げ延びた先に誰かいた。
 少年が、一人でぽつんと立っていた。少年は笑い、悪魔に言った。
「ねぇ、僕は、君と友達になれるかな?」
 小さな悪魔は頷いて、少年の為に、少女に化けた。
 彼ら三人は悪魔を追って、二人の居場所を見て驚いた。
 そこは美しい『王国』で、まるで楽園のようだった。
199夢の中の幻(2/7) ◆5KqBC89beU :2005/05/10(火) 12:28:03 ID:ChRCP+19

 舞台は、ここではないどこか。時間は、今より少し過去。
 その街にはセルネットという麻薬組織が存在していた。
 扱うクスリの名はカプセル。カプセルは、錠剤に化けた特殊な悪魔。
 のめば悪魔の力が宿り、幻覚を媒介にして悪魔を“認識”させた。
 素質ある者は力を捕らえ、魂の奥底から、分身たる悪魔を呼んだ。
 それも、今では過去の話――だったはずなのだが。

 何故か、今ここに、セルネットのトップ・スリーだった三名がいる。
 ベルゼブブ。バール。ベリアル。それが彼らのコードネーム。
 “最初の悪魔”を召喚し、紆余曲折を経てセルネットを創設し、最後には
自らを悪魔と化してまで暗躍した、ろくでもない悪党たちである。
 ベルゼブブが発端となり、バールが追随し、ベリアルが加担した形だったが、
彼らは互いに対等な盟友だった。

 彼らは“最初の悪魔”を利用して、悪魔の力で“理想の世界”を創ろうとした。
 強大な悪魔使いへと成長した少年――物部景や、その仲間たちと敵対し、
一度は勝利したものの……最終的には敗北し、すべての力を失った。

 だから、このように、平気な顔して登場できる訳がないのだが。
 それでもやっぱり、今ここで、彼らは舞台に立っている。
200夢の中の幻(4/7) ◆5KqBC89beU :2005/05/10(火) 12:29:21 ID:ChRCP+19

 ベリアルの体験談を聞き終え、『幻影』たちは顔を見合わせた。
「いや恐れいったね」
 とベルゼブブは愉快そうに言った。
「似たようなことを考える人間は、いくらでもいる――あの時そうは言ったけれど、
 さっそく巻き込まれるとは思わなかったよ。いや、違うか。僕らの主観的には
 半日も経ってないけれど、現世での時間経過に関しては謎だからね。その上、
 この島がある空間では、普通に時間が流れているかどうかも怪しい。いやはや、
 さすがに驚いたよ。この島も、集められた参加者も、呪いの刻印とかいう術も、
 何もかもが実に興味深い。ある意味、オカルティスト冥利に尽きるね」
 いきなり話が長くなりつつある。
「しかし、妙なことになったな」
 とバールは肩をすくめた。
「いったい何をどうすれば、『ベリアルを生き返らせる』なんて芸当ができるんだ。
 それに、こうやって話している俺やベルゼブブは何なんだ。説明できるか?
 悪魔をよく知る俺から見ても、異常だとしか言いようがないぞ」
 『幻影』の分際で細かいことを言う。
「知らんがな。むしろ俺が教えてほしいくらいやわ」
 とベリアルは眉根を寄せた。
「推論でよければ話せるよ。この場で公正に証明する方法はないけれど。
 でもね、いくら説明しても無駄だと思うよ。記憶できなくなってるようだから。
 再構成された時に、僕らは認識を操作されたらしい。余計なことを忘れてしまう
 ように、忘れていることさえ忘れてしまうようにね。この夢が終わった時点で、
 この夢の記憶は忘却される。そういう操作のされ方だ。それでも聞きたい?」
 ベルゼブブの問いかけに、バールとベリアルは軽口を返す。
「もったいぶるなよ。無駄でも何でもいいから、とっとと話せ」
「そうや、そうや。ほんまは言いとうてウズウズしとるくせに」
201夢の中の幻(5/7) ◆5KqBC89beU :2005/05/10(火) 12:30:18 ID:ChRCP+19
 彼らの反応は、どうやらベルゼブブを満足させたようだ。
「それでは遠慮なく、仮説を述べよう。無論、信じるかどうかは君たちの自由だ。
 真偽のほどは君たち自身が保有する情報との整合性から判断してくれ。OK?」
「「OK」」
「グッド。では始めよう」
 穏やかに微笑を浮かべながら、ベルゼブブは語りかける。
「あんまり時間が残ってないし、もう結論から言ってしまおう。厳密に言うならば、
 緋崎正介は生き返っていない。『今のベリアル』の正体は、かなり特殊な悪魔だ。
 ベリアルの記憶と人格を継いだ『ベリアルのようなもの』――ってところかな。
 おや? “だったら肉体ごと蘇ってるのは何故なんだ”と、そう思ってるね?
 いいから黙って聞きなさい。その件も、ちゃんと具体的に解説してみせるから。
 ものすごく大雑把に表現すると、『今のベリアル』は実体化し続けている悪魔だ。
 カプセルと同じ……いや、それ以上の“成功例”だと思ってくれて構わない。
 物理法則を無視できないほど強固に実体化していて、もはや人間と大差ない存在だ。
 ベリアルの姿をした悪魔が、人間に擬態している――と言えば分かりやすいかな?
 周囲の状況に合わせて、“人間だったらこうなるだろう”という状態を、自動的に
 再現し続けているわけだね。当然、物理的ダメージを無効化したりなんかできない。
 限界以上のダメージを与えられれば、二度と目覚めぬ停止状態をも再現するはずだ。
 つまり“永眠”してしまう。おお、我ながら的確な要約だ。エロイムエッサイム。
 人間のフリをしている以上、身体能力については、普通の人間と同じくらいだろう。
 とはいえ、一応は悪魔だからね。現状のままでも、どうにか鬼火くらいは出せるよ。
 大蛇を召喚したりとか、強力な火炎を操ったりとか、悪魔としての力を
 存分に発揮したいなら、カプセルをのむ以外に方法はないだろうけどさ」
202夢の中の幻(6/7) ◆5KqBC89beU :2005/05/10(火) 12:31:13 ID:ChRCP+19
 ベルゼブブの口調に、からかうような響きが混じった。
「なぁ、ベリアル。認識を操作されているせいで、君は気づいてないようだね。
 この島にカプセルが存在するって発想は、本来とても奇妙なものなんだよ。
 あの夜、力の源を失って、悪魔もカプセルも消え失せたはずなんだから。
 もしも、たった一錠でもカプセルが残っていたりしたら……それは奇跡だよ。
 もっとも、僕らを再構成した連中なら、カプセルだって自力で造れるはずだけど。
 ……ああ、やっぱり何のことだか理解できないか。やれやれ、思った通りだ。
 悪魔とは認識に影響される存在であり、“もう悪魔は消えてしまった”という
 認識など持っていたら、君自身が消えてしまいかねない――って理屈だろうね。
 これは考えても意味がないけど……主催者の都合に合わせて造られた今の君は、
 主催者の招きたかったであろうベリアルと、はたして同じベリアルなのかな。
 そのへんについて主催者がどう思っているのか、ちょっとだけ気になるね。
 ちなみに『この僕』と『このバール』は、ベリアルの記憶から造られた『幻影』。
 まぁ要するに、擬似人格みたいなものだ。あんまり出来は良くないけど。
 僕らの人格はバールの肉体に同居していただろう? その時の“なごり”さ。
 非常に陳腐な言い回しで恐縮だけど、僕と彼は、君の心の中に生きているんだよ。
 けれども所詮は『幻影』。こうして夢の中に出てくるだけだ。他には何もできない。
 しかも夢に見た情報は、君の記憶に残らない。でも、これはこれで面白いかもね。
 うつし世は夢、夜の夢こそまこと。――さぁ、朝まで語り明かそう」
 ベルゼブブは上機嫌だった。
 バールが再び肩をすくめた。
 ベリアルの頬がひきつった。
 楽しい悪夢の始まりだった。
203夢の中の幻(7/7) ◆5KqBC89beU :2005/05/10(火) 12:33:06 ID:ChRCP+19


 夢の中で見た幻を、ベリアルは既に憶えていない。
(そういや今朝は、なんか夢にうなされて目ぇ覚めたっけ……ずぶ濡れのまんま
 瀕死状態でビルまで移動したせいやな、多分。……ちょっと弱っとるなぁ、俺。
 まぁ、もう風邪ひいても平気やねんけどな。風邪薬には不自由してへんし)
 というか、現実と戦うだけで精一杯だった。


【B-3/ビル2F、仮眠室/1日目・09:05】

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。それなりに疲労は回復した。
[装備]:探知機
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。生き残る。次の行動を考え中。
[備考]:六時の放送を聞いていません。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は把握できていません)

*この話は【サモナーズ・ソート(獅子と蛇の思索)】へ続きます。

[夢に関する注意事項]
 【ベリアルは沈黙する】で見ていた夢です。
 ごく普通の単なる夢だったのかもしれません。
 「認識の操作」「『今のベリアル』の正体」「『幻影』の存在」等、
 どの情報も、真実だと確定されていません。
204Warped Resolution(1/4)  ◆l8jfhXC/BA :2005/05/11(水) 18:59:23 ID:/q16CcjQ
「──っ、と」
 死体と共に男子トイレに入り、鍵を掛ける。そして、壁に頭をぶつけないように跳躍。
「死体はこれでいいわ。……この血の量じゃ、どこかに移動させたらかえって跡がつくもの」
 難なく床に着地する。一つだけ扉が閉じられていると不自然なので、他のトイレも同様に鍵を掛けていく。
 血は小さなトイレの室内に染み渡っている。どの個室に隠してあるかはわからないだろう。
「そもそも、なんで処理──隠す必要があるのよ?」
 聖が怪訝な顔をして聞いてくる。
 男の血を吸い尽くした後、すぐに移動するはずだったのだが──千絵が死体を“処理”することを提案した。
 彼女としては、早く移動して知り合いを探しに行きたいのだろう。
「確かにこの殺人ゲームで死体を隠すなんて行為は無駄ね。……でも、私たちは普通じゃないもの」
「吸血鬼だからって、隠す必要はないでしょ?」
「ここにいる全員が、吸血鬼の存在を知っているなら、ね」
「……?」
「確かにスタート会場には、いかにも吸血鬼がいそうな世界の住人がいた。
でも、私たちみたいな“現代”世界の人間もいるでしょう?
そのいかにもな世界の人たちでも、ここに吸血鬼がいるということは知らないかもしれないし」
「わざわざ噛み跡を見せて、吸血鬼の存在を知らせなくてもいい、ってこと?」
「そう。──私たちは確かに吸血鬼。普通の人間よりも強い。……でもね、普通の人間にしか勝てないのよ」
「……」
 自分も彼女も、元は一般的な体力しか持たないただの少女だ。戦闘技術は皆無。
205Warped Resolution(2/4)  ◆l8jfhXC/BA :2005/05/11(水) 19:00:29 ID:/q16CcjQ
「いかに強い力を持っていても、技術がなければ使いこなせない。そして私たちにはそれがない。
──あなたは最初、奇襲してアメリアに撃退されたじゃない。まともに参加者を襲ってもああなるのは目に見えてる。
なら残るのは、瀕死の参加者を狙うか──騙し討ち。
その場合、相手が“吸血鬼”のことを知らない、あるいは“吸血鬼”がここにいることを知らないことが望ましいわ」
「……それっぽい“いかにも”な格好をした奴は避ける。
吸血鬼を知らなさそうで──奇襲すれば、私たちでも殺せそうな奴から狙っていく、ってこと?」
「そう。吸血鬼の存在を知っているけれど、ここにいることは知らない人たち。
彼らに噛み跡を残した死体を見つけられて存在を知られ、対策を立てられるのはまずいわ。
一般人にしても、“吸血鬼”の特徴は知っているでしょうし。……まさか、本当に存在するとは思っていないだろうけど」


 そこまで言って、一息つく。
 ──やっと頭が回るようになってきた。
 最初の内はただただ血の快楽に魅了されていただけだったが、あの男から“補給”して、本来の頭脳を取り戻せた。
 ……いや、以前よりも頭がすっきりしているように感じる。

 ──────まるで、無駄な思考がすべてはぎ取られたかのように。


「わかったわ。……でも、あの男にその牙の跡を付けたのはあなたじゃない?」
 あきれ顔で聖が言った。
「あのときは……まだちょっと本調子じゃなかったのよ」
 先程の自分を思い出して、少し顔を赤らめる。
 剃刀の傷口や、壁や路面にこぼれた血まで残さず舐め取ったものの──まだ足りないと感じてしまい、傷口の上から口を付けて啜ってしまった。
 今思えば浅はかな行動だが、あのときはどうしても止められなかった。
「でも、そう考えると昼の間は行動できないわね。……あーあ、祐巳ちゃん達を早く仲間にしたいのに」
「我慢よ。……ああ、ねえ、殺して欲しくない──仲間にしたい男が二人いるんだけど」
「誰? 私いらないからあなたが吸ってよ?」
「もちろん」
206Warped Resolution(3/4)  ◆l8jfhXC/BA :2005/05/11(水) 19:02:14 ID:/q16CcjQ
 物部景と甲斐氷太。
 彼らはここから助け出さなければならない。その決意は開始当初からまったく変わっていなかった。
 彼らと共に元の世界へ帰る。それも変わらない目標だ。
 ……ただ一つ、ささやかな欲望が加わっただけだ。
 (物部くんや甲斐さん……それに、梓さんや水原はどんな味がするのかしら? ……楽しみね)
 ここにいる二人はもちろんのこと、元の世界にいる友人たちも“仲間”にしたい。
 ──皆でこの心地よさを共有したい。たったそれだけの、純粋な希望だ。

(こんな世界なんて早く抜け出して、みんなを“仲間”にして、そして、死にた………………あれ?)

 自らの中に一瞬浮かんだ考えに、訝しむ。
(何でそんな考えが浮かぶのかしら? 死にたいなんて一度も思ったことないのに)
 何かがひっかかっている。ぼんやりとしたよくわからない感情が、心の中で叫声をあげているような気がする。
「…………ちょっと、名前とか特徴とか教えてくれないと対処できないんだけど?」
「……ああ、ごめんなさい。ぼうっとしてたわ。まず、物部くんの方は──」
 ──聖に呼びかけられ、彼らの特徴を伝え終ったときには、先程の違和感はもう消えていた。
「甲斐氷太、って、もしかしてさっきのあの人? それこそ勝てそうにないじゃない」
「なんとかゲームに乗っていない強そうな人を探して、隙をついて仲間にする。
そしてその人に捕獲してもらう……くらいしか、今のところは思いつかないわ。
……まあ、先の話よ。彼も物部くんも簡単には死なないし。とにかく、彼らは殺さないで」
「わかったわかった。……何? あなたの彼氏なの?」
「違うわ。どちらも他に相手がいるもの。ただの仲間よ」
「……ふうん?」
 意地悪くこちらを見つめる聖に、半眼でにらみ返す。
207Warped Resolution(4/4)  ◆l8jfhXC/BA :2005/05/11(水) 19:03:54 ID:/q16CcjQ
「だから違うってば。……そうだ、この服もなんとかしないとね」
 至近距離で剃刀を、しかも喉を切り裂いたので二人ともかなりの返り血を浴びている。これでは怪しすぎる。
「汚れてない服を着てる死体を探すしかないわね。服一着がマンションにぽつんと置かれてる可能性はなさそうだし」
「そうね。戦えなさそうな子から奪ってもいいし。なんにせよ、夜まで待ちましょう。
……放送の前後は、知り合いの名前の有無と禁止エリアを確認するために立ち止まる人が多いと思うの。
日が沈むのは……おそらく前の放送の時と同じ、六時。
六時前になったら、カーテンで日を遮りながら周辺を探索。さっき言った条件に合う参加者がいたら監視。
──そして、放送が終了した瞬間に奇襲する」
「了解。……それにしても、あなた何者? こういうの慣れてるの? ずいぶんと頭が回るみたいだけど」
 彼女に問われて──少し考えた後、千絵は言った。

「────“探偵”よ」


【C-6/住宅地のマンション内・地下駐車場男子トイレ/1日目・11:15】
『No Life Sisters』
【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼化(身体能力向上)、シズの返り血で血まみれ
[装備]:剃刀
[道具]:支給品一式、カーテン、
[思考]:六時の放送まで待機。己の欲望に忠実に(リリアンの生徒を優先)
    吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。
【海野千絵】
[状態]: 吸血鬼化(身体能力向上)、シズの返り血で血まみれ
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式、カーテン
[思考]: 六時の放送まで待機。景、甲斐を仲間(吸血鬼化)にして脱出。
    吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。
    死にたい、殺して欲しい(かなり希薄)。

※シズの死体が男子トイレのある個室に移動しました。
 上記含め男子トイレのすべての個室に鍵が掛けられました。
208Walking on the Blade ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/11(水) 22:21:29 ID:57nIGLlS
「やられたわね」
舌打ちするパイフウ…手の傷はともかく肩の傷が酷い。
ヒーリングをかけてはいるが…骨が繋がり動くようになるまでにはまだ時間がかかる。
左利きでしかも銃器使いである彼女にとって左肩の傷は命取りになりかねない。
森の中をよろよろと進むパイフウ、どこかでしばらく落ち着かなければ…。
藪を掻き分けたその先には…墓地と…そして古ぼけた教会があった。

ふらりと教会の門を押し開くパイフウ、音もなく扉は開く…
「?」
その扉の開き方に違和感を覚えるパイフウ…床に目をやる。
(足跡?)
埃の中うっすらと残る幾人かの足跡を見やったその時だった。
「!!」
真正面からの斬撃、間一髪で飛び退るパイフウ…前髪がわすかにはらりと落ちる。
そして彼女の視界には闇から溶け出してきたような黒衣の騎士が立っていた。
(この男…強い)
あの大広間で散った二人の剣士もそうだったが、おそらくは彼も火乃香に匹敵する剣士だということを、
一瞬の邂逅で彼女は肌で感じていた。
いや純粋な剣技だけならば、わずかに上を行くかもしれない。

その黒衣の男の握る刃に龍を象った大薙刀が再び唸りを上げる、今度も紙一重で回避するパイフウ
しかしその顔に満足感はない…あるのは怒り。
「どういうつもり?」
彼女は気がついていた、この男がわざと最初の一撃は紙一重で斬撃を行っていたことを…。
でなければ自分は今頃真っ二つだ。
本気であろう二撃目をギリギリで避けられたのは少し自慢したくなったが。

「敵なら討つが…だが迷い人とも限らんからな…それに主の眠りを血で汚したくはない」
平然と言い放つ黒衣の騎士、その名はアシュラム。
「早々に立ち去るんだな…そしてここの事は口外するな」
209Walking on the Blade ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/11(水) 22:22:07 ID:57nIGLlS

「ちょっと!殺しかけておいてそれは無いんじゃないの?」
ついつい言い返してしまうパイフウ…アシュラムの目が鋭い光を放つ。
「やめておくんだな…利き腕を怪我しているのだろう?それを承知なら俺も舐められたものだ」
苦笑しつつも水を向けてやるアシュラム。
「お互い長生きしたいだろうからな」

その言葉にふっと息を吐くパイフウ。
皮肉にも今のやりとりがパイフウに失っていた自制と冷静さとを取り戻す契機になったようだ、
無論、焦りもあるし余裕もそれほどあるわけではないが。

しかしそれでもこのお世辞にも万全とは言いがたき状況で、目の前の黒き騎士を相手にするつもりはなかった。
まして万全であってもレートはおそらく五分と五分、今の自分の力では、
死力を尽くして何とか相打ちにもっていくのがやっと、それは彼女の望む結末ではない。
スキあらば別だが、それでもこの男がスキを見せることなど期待するだけ無駄である。

ならばここは退くか?しかし、ズキリと痛む肩に顔をしかめるパイフウ、
一刻も早く落ち着いて休息を取らねば肩の傷が慢性化する危険が出てくる…、
だが、ここを出てその落ち着ける場所までたどり着けるのだろうか?
アシュラムをもう一度見るパイフウ、考えたくはないが正直このクラスがゴロゴロしてるとして、
そんな状況で往来を歩くのは自殺行為のように思えた、だから…。

「わかったわ、なら屋敷の中までは入らない、だから少しだけ休ませてくれない?」
まな板の鯉、大胆極まりない提案を持ちかけるパイフウ。
無論、彼女には彼女なりの計算もあった。
理由はわからないが彼にはここを動けない理由があるようだ、
なら自分の傷が治るまでついでに弾避けになってもらおう、もし手に余る相手が襲ってきたなら
彼を手伝って撃退するも、逆にそれに乗じるもありだ。
「その代わり誰かが襲ってきたら…出来る限りのことはさせてもらうわ」
210Walking on the Blade ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/11(水) 22:22:34 ID:57nIGLlS
(この女…狐だな)
アシュラムはアシュラムでとうに自分とやりあうつもりはないにせよ、
こちらの事情を察して盾にするつもりであろうパイフウの魂胆に気がついていた。
力ずくで追い払うのが本筋ではある…だがアシュラムもまたパイフウの実力を察している。
いかに手負いとはいえ一筋縄ではいかぬ相手…今の彼女ならば退けることもできるが、
捨て身の攻撃で相打ちに持ち込まれぬとも限らぬ…狐は最期の瞬間でも油断できないのだ。
それは何としても避けたい。
こちらの手の内は見せた、相手も状態が万全に戻ればおそらくは自ら退くだろう。
狐は機を見るに敏でもあるのだ。

「いいだろう…お互い死ねぬ身のようだ、ならば一時休戦といこう…入れ
 そこに立たれていては目だって仕方が無いのでな…ただし」
アシュラムは刃を床に滑らし器用に線を刻んでいく。
「この線より手前に入れば休戦協定を破ったとみなす、それなりの覚悟をすることだな」
「望むところよ…お互い長生きしたいんでしょ、少しでもね」
アシュラムの言葉に鼻白んで言い返すと、パイフウはそのまま壁にもたれて、
おもむろに銃の手入れを始めるのだった。

カチャカチャと金属の触れ合う音が教会の中に響く、
空の薬莢がパイフウの足元に転がる…ちらりと横目でアシュラムの様子を伺う…水を飲んでいる。
握った薬莢に気を込めて指で射ちだす…狙いはアシュラムの手のペットボトル。
だが、アシュラムは右手に持った薙刀の刃をわずかに軽く翻す…それだけでパイフウの指弾を確認すらせず
何事も無いように弾き返した。
薬莢はパイフウが放ったそれと寸分違わぬ軌道で彼女の手の中に戻っていく。
「悪ふざけは止めろ」
「やっぱこの程度じゃ動じないか」

軽く唇をゆがめるパイフウ。
やはり一戦交えるのは避けるべきという思いを再認識するパイフウ…しかし。
もしその時が、チャンスが来たとして自分に我慢できるだろうか?
何かがあってくれればいいと思う反面、何もなく過ぎ去って欲しいと願うパイフウ。
「ねぇ?あんたの主って…」
211Walking on the Blade ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/11(水) 22:23:37 ID:57nIGLlS
その時地下でなにやら争う物音、アシュラムの視線が剣呑なものに変わるが…。
『心配はいらぬゆえ、お前はそこにいるがよい…おお1人客が増えたか…ふふふ』
地下から響く声にそのまままた静かに祭壇の上に腰を下ろす。
「で、俺の主とは誰のことを言っているのだ?」
アシュラムの言う主とは、1人はもちろん今は亡き暗黒皇帝ベルド、
もう1人はこの地下に眠っている姫君のことである。
洗脳されているとはいえ、ベルドへの忠誠が消えうせたわけではない。
だがそれに変わる生きがいを与えてくれた地下に眠る姫君への忠義もまた本物。
それが一時の偽りの感情であったとしても、自分に恥をそそぐ機会を与えてくれた以上は、
この身朽ち果てるまで尽くす、たとえ本当の自分が戻ってきたとしても、
せめて夕刻までは身を挺して盾となる…それが彼の結論だった。

しかしパイフウはアシュラムの思いなど、先ほどの質問などもうすでにどうでもよくなっていた。
「何よ…こんなのがいるなんて…」
あの争いの最中一瞬だけ感じた、地下から湧き出るような恐るべき鬼気…
まるで冥界から心臓をわしづかみにされたようなそんな気がした。
あれがアシュラムがいう主…なのだろうか?

それでも何とか二の句を告げようとするが、もはや言葉は出てこなかった。
212Walking on the Blade ◆Wy5jmZAtv6 :2005/05/11(水) 22:25:01 ID:57nIGLlS
【D-6/教会/1日目・12:00】

【アシュラム】
[状態]:健康/催眠状態
[装備]:青龍堰月刀
[道具];冠
[思考]:美姫に仇なすものを斬る

【パイフウ】
 [状態]右掌に浅い裂傷(処置中)、左鎖骨骨折(処置中)
 [装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス
 [道具]デイバック(支給品)×2
 [思考]1.傷が治るまで休息 2.主催側の犬として殺戮を 3.火乃香を捜す
213弾丸の選ぶ道 その1  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/11(水) 22:27:40 ID:NpFFHb/Y

(目標は単独で5人の暗殺、武器、弾薬の補給はなし、
制限時間は6時間、失敗すれば…彼女が死ぬ。)
相良宗介はさっきまでいた住宅街に戻っていた。
前に来たときに大体の地理は把握していた、
隠れるものも多く、人がやってくる可能性も高い、
この場所は彼にとって絶好の狩場だった。
そして宗介はとりあえずの優先すべき項目を
『武器の確保』とした。
今の自分の装備では未知の敵

――オドーを殺した相手のような――

と戦闘になったらまず勝ち目はないだろう。
戦力差を覆すには策略が必要だが
策略を実行する武器がなければ話にならない。

宗介は端からまともに“決闘”をするつもりはなかった。
彼の身体能力はかなり高い水準とはいえ所詮は常人、
オドーのような超人がうようよいるであろうこの島では、
単体としての戦闘能力は低い方と見積もっていた。
(だからといってやられるわけにはいかない、
実戦は決闘ではない、策略を巡らせば必ず勝機はあるはずだ…!)
そう、彼には地の利があった。
無論地の利というのは住宅街に限ったことではない、
森の中にある毒草、
砂漠での身の潜め方、
見破られにくい罠、
彼本来の姿とはただの高校生ではない、
優秀なソルジャーなのだ。
214弾丸の選ぶ道 その2  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/11(水) 22:28:48 ID:NpFFHb/Y
そして彼は民家の前に絶好の獲物を発見した。
男が2人、片方は少年、そして女が1人だった。
(人数、物腰などから見れば制圧は容易だが油断はできない。
ここは1人になったところを襲撃するのが適当か…。)
物陰に潜みつつ様子を見る、
やがて男女が
「いいかミリア。日本の伝説によれば、勇者だったら、
タンスの中身を持ってっても怒られないんだぜ!」
「泥棒勇者だね! 私たちと一緒だよアイザック!」
などと言いながら中に入り、少年が見張りとして立った。
(頃合いか…!)
疾風のごとき速さで相手に近づく、
相手が反応したときにはもう遅い、
腹部へ強烈な一撃を放ち、気絶させた。
何故殺さなかったかは自分でも分からない、
年端もいかない少年を殺すのは気が引けたのか?
なんだかんだで死体は人目についてしまうからか?
理由は分からないが気絶させた状態で引きずり、
先ほどまで自分のいた物陰に引きずり込む。
そして別の場所で予め確保していたロープで少年を縛り、
デイバックの中を確かめる。
少年の支給品は宗介を驚かせた。

デイバックの中から出てきたのは年期の入ったギターケース、
そのケースは間違いなく放送で名前を呼ばれた仲間、
クルツ=ウェーバーのものだった。
突然目の前に現れた友の形見に戸惑いつつ、
ケースの中身を確かめる宗介。
そして中から出てきたのは彼の愛用のギター……
215弾丸の選ぶ道 その3  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/11(水) 22:29:31 ID:NpFFHb/Y
……ではなく、自分が選択を迫り、
そして彼がギターの代わりに手に取ったあのライフルだった。
「…クルツ…」
手にとって再び友を思い出す、そのとき後ろから声がした。
『よお、いつも通り元気なさそうだな、ネクラ軍曹。』
驚きと共に宗介が振り返る、
すると周りの風景が変わり、
白で塗りつぶされたような空間になった。
その空間の中には、クルツ=ウェーバーその人がいた。
『どうしたんだよ?化け物でもでたか?』
「おまえ…本当にクルツなのか!?」
信じられないといった調子で宗介は尋ねる、
それに対しクルツは少し怪訝そうな顔をしながら
『あたりまえだろ?こんないい男が他にいるかよ。』
と答えた。
そして宗介が軽く言葉を失っていると
『反応無しかよ…まあいいや、端から期待してねーし。
……さて、今回は俺が死神だ、おまえに……』
その言葉を聞いた瞬間宗介は距離をとり構えをとる。
敵の誰かの催眠術にかけられたのか?
それともこのクルツ自体が化けているてきなのか?
大分この状況に慣れてきたのか、
やや非現実的な見方をしているとクルツは呆れたように声をかける。
『バーカ、早とちりすんなよ、お前の悪い癖だ。
……前にこのライフルとギターを持ってお前が現れたとき、
俺がなんていったか覚えてるか?』
クルツの問いに宗介は記憶を手繰り寄せ答える。
「……《今回ばかりはお前が死神にみえるぜ。》だったか?」
『大当たりだ、で、今回俺からの選択は…』
一拍置いてクルツは選択を口にした。
216弾丸の選ぶ道 その4  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/11(水) 22:31:21 ID:NpFFHb/Y
『5人の他人の命、彼女1人の命、さあ、おまえはどっちを選ぶんだ?』

覚悟ならとうにできていた。
当たり前のことを聞く友に軽い怒りを覚えながら宗介は答える。
「今更何を聞く…、当然彼女の…」

『あの娘がそれを望んでないとしてもか?』

「!!」
宗介は言葉を失う。
その言葉は宗介に重くのしかかった、
あえて考えないようにしていた事柄を突きつけられたから。
そう、当然彼女は望んでいない、
彼女がそういう人物だからこそ、宗介は彼女を命がけで守ろうと誓ったのだ。
奥歯を噛み締める宗介、その気持ちを見抜いたかのようにクルツは追い討ちをかける。

『もう1度聞くぜソースケ。5人の命―

そのときクルツの右手に人の手が握られる、
その手は先ほど宗介が気絶させた少年の手だった。

―それとも、彼女1人の命―

クルツの左手にコンバットナイフが握られる。
それは、宗介が今装備している武器だ。

―おまえは、どっちを選ぶんだ?』

宗介の中の葛藤、
何をするのが彼女のためなのか、
どうすれば彼女が苦しまずに生きていけるのか、
それのみを考える、そして彼の出した結論は…。
217弾丸の選ぶ道 その5  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/11(水) 22:31:53 ID:NpFFHb/Y
『本当にこっちでいいんだな?』
「ああ。」
宗介の手に握られていたのは、殺戮を表すナイフだった。
『けどお前……あの娘に会えんのか?
血まみれの首を持ったままで。』
「いや、もう彼女には会わない、
俺は彼女を、幽霊(レイス)として守るつもりだ。」
宗介は彼女の前から姿を消すことを決断した。
彼は首をあの女に渡すとき、
1つの要求、お願いをするつもりだった。

それは、彼女を誰か安全な人物の側におくこと。
今までの護衛方法は宗介が表から彼女を護衛し、
“レイス”と名乗る人物が彼女を影から護衛していた。
これからは自分がそのレイスとなり彼女を守る。
そして彼の要求とは自分の代わりを探してもらうことだった。
無論、交渉には細心の注意を払うつもりだ、
今度失敗すれば命はないだろう。
だが、あの女の性格を考える限りこの要求は通るだろう。
自分にこんな任務を与えた、あの女なら。

『《あの娘のために》ってことか?』
クルツは軽く哀しそうな顔をして尋ねた。
「いや、彼女だけではなく俺のためでもある。
俺は……彼女に嫌われてしまうからな。」
今までの《大嫌い》とは違う、
彼女は本気で自分を軽蔑するだろう、それが宗介には耐えられなかった。
だが彼女の元から立ち去る気はない、彼女は死ぬまで自分が守ると決めた。
これまでとすることは変わりない、表からか、裏からか、その違いだけだ。
『そうか…。』
クルツはため息をつく、
そして…
218弾丸の選ぶ道 その6  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/11(水) 22:32:44 ID:NpFFHb/Y
ゴッという鈍い音が衝撃と共に宗介を貫いた。
クルツの右のパンチが彼をとらえたのだ。
倒れる宗介の胸倉を掴み、クルツは叫ぶ。
『とりあえず今はこんだけだ、続きはとっておいてやる…
…今度会うときまで自分の言ったことよく考えろ、鈍感ヤローが!』
そう言って宗介を突き飛ばす、
宗介は何故殴られたのか理解できず尻餅をつく。
そしてクルツはゆっくりと消えていった。
「まてクルツ!」
立ち上がったときには宗介は元の世界に
ライフルを持ちながら立ち尽くしていた。

(何故俺が殴られなければならない…)
「…一体俺の何が間違っている……答えろクルツ!」
天に向かって宗介は叫ぶ。
クルツが考えろと言ったこと、
それは彼が彼女の前から消えると言ったことだった。
まだ宗介は勘違いしていた、
彼女は確かに彼を軽蔑するかもしれない、
だが、決して彼のことを嫌いには、
近くに居たくないとは思わないだろう。
何故なら彼女は彼のことを…好きなのだから。
だがそのことに宗介は気づかない、
彼女にとって彼とは、彼が思っている以上に大きな存在だった。

そのとき民家から先ほどの2人が出てきた。
それまでの思考を止め、早急に少年を殺さなくてはならない。
コンバットナイフを振りかぶり、少年の首を容赦なく切断しようとする。
「アイザック、要…かなめがいないよ!」
「本当だ!かなめが消えちまった!」
219弾丸の選ぶ道 その7  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/11(水) 22:34:28 ID:NpFFHb/Y
…カラン、と宗介はナイフを落とした。
(かなめ…かなめというのかこの少年は…!)
これまであえてその名を口に、思考の中でも呼ばなかった。
もう2度と合わないことを決めたそのときから。
その名前は宗介の中に波紋となって広がる。
(この少年はかなめではない…いや、かなめではある、だが俺の知る千鳥かなめではない!
…俺はこれからかなめを殺すのか?そんなことできるわけがない。だがこの少年は…)
混乱の極地に陥りながらも宗介はナイフを拾い上げる。
(この少年はかなめではない、千鳥かなめではない…。
この少年はかなめではない、千鳥かなめではない…。
この少年はかなめではない…千鳥かなめではない…!)
自分に言い聞かせ再びナイフを振り上げる、しかしそのとき少年が目を覚ました!
「…え?……うああああああああああ!!」

少年の絶叫に宗介は我に戻る、SOSは完全に向こうまで聞こえたようだ。
2人がこっちに走ってくる。
(くっ!今からでは殺せたとしても首の切断が間に合わない…退却すべきか。)
少年と自分のデイバック、そしてライフルの入ったギターケースを担ぎ逃げ、
少年を一瞥すると即座に退却する。


宗介は自分があの少年を殺さなかったことをどこかで安堵していた。
だが少しずつカシムと呼ばれたあの頃の感覚は戻ってきている、
次からは獲物に容赦はしない。
そんな彼が背負ったギターケースが日光を受け煌いた。
そこに宿った友の魂は何を思うのか。
それは誰にも分からない、だがあえて予想するとすればその感情は…

――鈍感な友の考えに対しての憤怒か、
    宿命に立ち向かうことに対しての悲哀か――
220弾丸の選ぶ道 その8  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/11(水) 22:35:08 ID:NpFFHb/Y
【C-3/商店街/一日目、12:15】

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ、
    クルツのライフル、ギターケース
【道具】荷物一式、弾薬、 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:商店街で泥棒!要が見つかってよかった。

【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!

【高里要(097)】
[状態]:やや不安定
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:救急箱を取らないと 潤さんとロシナンテ大丈夫かな、怖かった。
[備考]:上半身は服を着ました
221弾丸の選ぶ道 その9  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/11(水) 22:39:47 ID:NpFFHb/Y
この作品は、◆3LcF9KyPfAにネタを提供してもらい、
また題名をつけていただきました、熱く感謝!
222 ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/13(金) 22:33:09 ID:kZnAFCoT
弾丸の選ぶ道はNGになりました。
スイマセン…。
223『……死んじゃえ』(1/9) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/14(土) 17:29:01 ID:TfbhJuAo
「だから、キーリでいいってば。私も由乃のこと呼び捨てしてるし」
「あっ、ごめん。いつも友達をそう呼んでるからさ。つい癖で」
 同年代の友達を『さん』づけで呼ぶのが日常とは。
 この人はどこかのお嬢様だったのかな、と思ったがキーリはそれを口に出さなかった。
 パンを囓っていたから、口に出せなかった、という方が正しいかもしれない。
 
 逃げるようにして城を出てから、二人? は禁止エリアを避けて北西へと足を進めた。
 そのまま市街や人の居そうな所へ向かう予定が、
 崖に阻まれ遠回りせざるを得なくなる(地図上の線のようなものが崖を示しているとは気付かなかったのだ)。
 幽霊の由乃は通り抜けて行けるのだが、彼女はキーリに付いてきた。
 正直、こんな状況で独りでいるのはひどく心細いので、
 幽霊とはいえ同年代の女の子が一緒にいてくれるのは有り難い。悪霊では無さそうだし。
 目の前にいる女の子がこの島で誰かに殺された、という事実は恐ろしいが、この際そこには目を眼を瞑っておく。
 
 しばらく歩くと、崖のふもと、森の入り口付近に小屋を見つけた。
「私は休憩なんかいらない!」と喚くおさげの幽霊を「だったら一人で行けば」と強引に説得し、今に至る。
224『……死んじゃえ』(2/9) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/14(土) 17:30:44 ID:TfbhJuAo
 埃っぽい小屋の中。
「じゃあ、キーリさ……はそのハーヴェイさんと、兵長っていう喋るラジオを探しているのね。
 ラジオが喋るっていうのがちょっと信じがたいけど」
「うん。兵長は居るかどうか分からないけど、ハーヴェイは名簿に載っていたから。……また『さん』って言いかけた」
「いいじゃない、そんなこと! はいはい、いくらでも呼び捨てしてあげるわよ。キーリ! キーリ! キーぃーリ!」
 癇癪を起こしたように連呼する由乃を、キーリはあきれたような目で見遣る。
「でも、名前で呼び捨てするのってなんだか新鮮。祐巳さんにだって一度しか……」
 そこで声のトーンが急に暗くなった。
 怪訝に思ったキーリが何か口を挟む暇もなく、由乃が続ける。
「令ちゃんの事を呼び捨てするような日もいつか来たのかな。ううん、令ちゃんはいつになっても令ちゃんよね。
 何歳になっても、もし結婚したとしても、私と令ちゃんは一緒で。令ちゃんはやっぱり私に甘くって」
 みるみる溢れだした涙が由乃の幽体の頬を伝った。
「令ちゃんって?」
 とても幽霊には見えないな、と妙なことに感心しながら、相槌を打つようにキーリが問いかけた。
「私の従姉妹。家が隣同士で、生まれた時からのつきあいで、お姉さまで、剣道が強くて、格好良くて、可愛くて、
 料理がとっても美味しくて、でも時々抜けてたりして……」
 キーリに向き直り涙で溢れた目を輝かせて由乃が応え、
 その人の事を語るならば百万言をもってしても足りない、という勢いで由乃がまくしたてた。
 脈絡のない言の葉の断片ではあったが、言いたい事は十二分に伝わる。
 由乃は、その人の事が、好きなのだ。
 
 由乃の声が段々と大きくなり、ついには怒気さえ込めて叫ぶ。
「いつも一緒だったのに……なんで? なんで私がピンチの時に令ちゃんは居なかったの?
 あそこで駆けつけてくれるのが令ちゃんじゃない! なんで来てくれなかったのよっ」
 大きく息を吸い込み、思いっっっっっっっっきりに、叫ぶ。
「令ちゃんの馬鹿。令ちゃんの馬鹿ぁ。ばかばかばかぁ!!!」
 
 『ばかばかばかぁ!!!』を最後に由乃は声を止め、あとはただ、泣いていた。
225『……死んじゃえ』(3/9) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/14(土) 17:35:30 ID:TfbhJuAo
 由乃が落ち着いた頃を見計らって、
「すっきりした?」
 幽霊の涙を拭けるハンカチでもあれば気が利いてたのに、などと考えつつキーリが声をかける。
「うん、すっきりしたわ。『強く思わないように』って言われてたけどさ、吐き出しとかなきゃそのうち私、
 本当に悪霊にでもなってたかもしれないし。……恥ずかしい所みせちゃったわね」
「ううん、そんな事ない。むしろ、ちょっと――」
 『むしろ』以下の言葉はほとんどささやき声で、由乃の耳には届かなかった。
「そう言ってくれると助かるわ。ありがとう」
 すっぱりきっぱりとした笑顔で、由乃は礼を言った。

 ちょっと――――羨ましかった。
 ハーヴェイは不死人だけれど、絶対に死なない訳ではない。
 もしハーヴェイが死んでしまったら。
 もし私が死んで、その事をハーヴェイが知ったら。
 そんな事を想像していたら、あれだけ想われている人がなんだか羨ましくなったのだ。
 いいな、と。
 
 そうして、気が緩んだせいだろうか。瞼が段々重くなってきた。
 そういえば昨夜は寝ていない。とても寝ていられる状況じゃなかったな、と思い出す。
「ねえ。私、眠くなってきちゃった。私が寝てる間、見張りお願いできるかな」
 ふわぁ〜あ〜、と大きなあくびをしながら由乃に頼む。
「私、時間無いんだけどなあ……なーんて。キーリには借りがあるからね。いいわよ。ちょっとだけね。
 誰かが近づいてきたらコテンパンにやっつけてあげる。こう見えても私、剣道やってるんだから!」
 剣道? 物を持てないんじゃ意味無いんじゃない? とは突っ込まなかった。眠いから。
「うん、じゃあちょっとだけ。ちょっと寝たらすぐ起きるからぁ、何かあったら教えて……」
 もう頭が回らなくなってきた。適当な場所に体を横たえる。埃っぽいけど仕方がない。
 そういえば、スタンガンを由乃に渡しておけば良かったな。
 いやいや、それこそ持てないんじゃあ意味がない。
 今からでも起きて、スタンガンを使って罠でも張っておいた方が……幽霊の由乃だけでは不安……
 思考が渦を巻いてぐるぐる回るけれど、キーリにはもはや起きているだけの気力は無かった。
226『……死んじゃえ』(4/9) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/14(土) 17:37:40 ID:TfbhJuAo
 ふと、とうに眠り込んだキーリの手を握ろうとしてみる。当然、透過してしまう。そこにあるモノに触れられない。
 やっぱり死んでるんだなあ、私。眠っているキーリを気遣い、声には出さずに想う。
 せっかく手術して元気になったのに。もっとずっと生きていたかった。悲しいし、悔しい。
 でも今はもう、そんな事はどうでもいい。
 私――島津由乃は、もう死んでいる。今私の意識がこうして在るのは多分、とてもラッキーな事だ。
 物体に触れられないとはいえ、この身体を与えてくれたあの人には感謝してもし足りない。
 現状を認識した上で、今の私が最優先でするべき事は。
 
 私が死んだって知ったら、令ちゃんは駄目になる。
 手術をして、お互いに色々話し合って、
 私と令ちゃんは一緒に肩を並べて歩けるようになってきた。
 でも私もそうだけど、令ちゃんはまだまだ私に寄りかかっている。
 今の令ちゃんなら発作的に後追い自殺とかしかねない。
 それは、絶対に、嫌だ。
 天国で令ちゃんに会えたら嬉しいな、とか思う気持ちもほんのちょっぴりあるけれど、
 やっぱりそれは駄目。それだけは駄目。
 私のことは忘れられないだろうし私も忘れて欲しくないけど、
 それでもいつかはすぱーんと立ち直って、私の分まで幸せにならなきゃ嘘だ。
 私はまだまだ生きたかったんだからね。
 令ちゃんに二人分幸せになってもらわないと。

 伝えたい事が、たくさんある。
 令ちゃんを支えてくれそうな人で、この島に居る人。 祥子さまか祐巳さん……志摩子さんでもいい。
 彼女らの誰か一人に会って、生き残って令ちゃんに私の言葉を伝えてもらわないと。
 本当はキーリを放って今すぐに駆け出したい。
 でも、やみくもに探すだけじゃあ見つかりっこないのはよく分かった。
 もう既に2時間ほど探したけど、影も形も踏めなかった。
 キーリと協力して情報を集める方が現実的だ。
 最悪、時間切れになるようなら、キーリに頼み込んで伝えてもらってもいい。
 できれば自分の口から伝えたいが――
 
 その時、島中に声が響き渡った。
227『……死んじゃえ』(5/9) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/14(土) 17:39:27 ID:TfbhJuAo
 これは多分、夢だ。夢のはずだ。だって私、眠ったはずだもん。
「いやはや。美女に殺され死んでからも美少女を助けるとは俺らしいっつーか」
 金髪碧眼の美青年が、目の前で先程からなにやらくっちゃべっている。
 実にリアルで人間的な喋り方だ。
 あまりに人間的で下世話なせいで、容姿の好印象を台無にしている。
 それにしても、この声はどこかで聞いた気がする。城門付近だったか。
「そうそう、あの時の声が俺だ。城の出口教えてやったろ? それにしても下世話って。ひでぇなあ」
 ということは、この人はもう死んでるの?
「残念ながらそうみたいだな。『お前はもう、死んでいる』ってヤツ? 
 ……反応無し。今の子どもは知らないのかねえ。寂しいよ、俺は」
 何言ってるのか分からない。
「まあいいや。せっかく話が出来たんだから、ちょっと伝えたい事があるんだ。オレ、もうすぐ消えるし。
 起きたときに覚えているかどうか分かんねーけど、まあ駄目元ってヤツだ」
 本当にコレ、夢なのかなあ。
「夢、ユメ! ちょー夢だって! なんでキミの夢の中でこうして話せてるのか不思議だけどな。
 俺とキミの相性が素晴らしく良かったんだろうなー。ああ、10年遅ければ」
228『……死んじゃえ』(6/9) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/14(土) 17:41:40 ID:TfbhJuAo
 もうなんでもいいや。それより、早く話して。
「ちぇ。それじゃあとっとと話そう。まず忠告。パイフウっていう美女には気をつけろ。
 主催者になんか弱み握られて、マーダーになってる。かくいう俺も彼女に殺されちまった」 
 殺されたっていうのにどうしてこんなに陽気に話せるんだろう。
「死んじまったもんは仕方ねーもん。それと、ソースケってヤツに会ったら言っといてくれ。
 『もうカナメちゃん泣かせんなよ』って。そのカナメちゃんには『アホを見捨んでやってくれ』って」

 あれ? 青年の姿がぼんやりと……。
「あと、テッサって娘には『テッサは将来もっと激美人になるのになー、いやー、勿体無い事した』」
 視界がさらにぼやける。それに『外』で何か大きな音がしてるような――
「これぐらいかな。あ、いや、忘れてた。その三人に『死ぬな』って。いや、う〜〜〜ん。
 俺が死んじまってるからなあ。説得力が無いっていうか恥ずかしいっつーか。
 やっぱこれ無し。パス。今の忘れて! ……おっと、そろそろ終わりか?」
 視界はもう、何が何だか判別できなくなってきた。だが、覚醒する前に、聞いておくべき事が一つある。
 あなたの名前は?
「俺の名前を聞きたいかあ〜。モテる男は辛いねえ。俺の名前は――」
 青年が無駄口を叩いている間に意識がぐんぐんと立ち上がってゆき――
229『……死んじゃえ』(7/9) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/14(土) 17:43:37 ID:TfbhJuAo
『皆さん聞いてください――――』
 疲れていたのだろう。ぐっすりと眠っているようだ。キーリが目を覚ます気配はまだ無い。
 突然聞こえてきた声に、キーリを起こすべきかどうか由乃が迷っていると、
『確かに私たち個々の力は微々たるものかもしれないが――――』
 放送は続く。
 あれ?
 この声にどこか、聞き覚えがあるような気がする。何だろう?
 由乃の無いはずの心臓が、ドクンと跳ねた。
 
『「君、何があったかは知らないが…止めないか」』

 映像が半強制的に頭に浮かぶ。
 倒れた男。突き出される細身の刃。
 ああ、そういえばあれって、レイピアって言うんだっけ……。
 刃の先が私の喉に――――
「ひっ」
 思わず声が出た。
 そうだ、あの男に私は。
 黒い感情が一挙に沸き上がり、由乃の身体と心を蝕もうとする。
 
『「恨みの気持ちが強くなると、貴方は怨霊と化し永遠に苦しむことになります」』

「そんなの嫌! それにまだ私は令ちゃんに伝えて無い!」 
 令ちゃんの事をひたすら想う。
 あの男がいなければもっと令ちゃんと、といった負の感情の代わりに、
 楽しかった思い出を掘り起こす。
 令ちゃんの、格好良さや可愛さや料理の美味しさを、
 祐巳さんの、どこか人を和ませる雰囲気を、
 志摩子さんの、のほほんとした縁側の老猫的笑顔を、
 祥子さまの子どものように拗ねた顔、お父さん・お母さんの優しい笑顔、たくさんの幸せな思い出を追想する。
 
 ……私って幸せだったんだなあ。
230『……死んじゃえ』(8/9) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/14(土) 17:48:48 ID:TfbhJuAo
 気がつくと黒い感情は収まり、由乃は荒い息を吐く自分に気付いた。
 呼吸が安定し冷静になると、理解が頭に浸透してくる。先程の放送。
 あの人は悪い人だったのではなく、私の事も殺したくて殺した訳じゃなかったのかもしれない。
 あの時あんなに取り乱してなかったら、もしかすると助かっていたかも……。
 私、馬鹿だ。令ちゃんに合わす顔がない。
 でも、もう会う事はできなくても、せめて言葉だけでも伝えなければ。
 令ちゃんを放ってはおけない。
 色々伝えたいことはあるけど、何から伝えれば良いものか。
 令ちゃん、だーいすきっ! てのは必須よね。
 それからそれから……。
 
 ――――と、キーリがぼそりと何かを呟き、身を起こす。
 さっきの放送は聞いていなかったみたいだけど、キーリに伝えるべきだろうか。
 島中に協力を呼びかけた人達のこと。銃声のこと。
 そして、その人達の一人が私を殺し、またその人達も殺されたかもしれないこと。
 いや、結局成功しなかった呼びかけだ。あまり意味は無い。
 危険な人物がいる、という事実だけそれとなく伝えれば良いだろう。
 私自身、まだ心が整理しきれていないし。
231『……死んじゃえ』(9/9) ◆pTpn0IwZnc :2005/05/14(土) 17:52:45 ID:TfbhJuAo
「探さなきゃいけない人が増えちゃった」
 寝惚け眼で突然キーリが切り出した。なんでも夢の中でことづてを頼まれたらしい。
 それが、城門で聞いたあの声の主だという。
 にわかには信じられない話だったが、その夢で会った男の語った名前は名簿に載っているようだ。
 ソースケ・カナメという名前は、相良宗介・千鳥かなめという人物に該当する。
 テッサという名前はおそらく、テレサという人物の愛称だろう。
「別にそんな頼み、無視しちゃってもいいんじゃない?」
 私がそう言って水を向けると、
「それはそうなんだけど……」
 どうにもキッパリとは無視できないようだ。
 はっきりとしないキーリの回答に、その男が一体どんな人物だったのか少し気になってくる。
「もしかして、物凄く格好良い男の人だったりする? それで迫られて引き受けちゃったとか」
 私の言葉を聞いて、キーリの表情が固まった。
 そして、いわく形容しがたい珍妙な表情で、なんだか腹を立てたようにして、
「……死んじゃえ」
 と、寝起きに『名前も知らない彼』に向かって言ったらしい言葉を再び呟いた。



【F-3/崖のふもと、森の入り口付近の小屋/1日目・11:25】

【島津由乃】
  [状態]:すでに死亡、仮の人の姿(一日目・17:00に消滅予定)、刻印は消えている
  [装備]:なし
  [道具]:なし
  [思考]:支倉令への言葉を誰か(祥子・祐巳・志摩子が理想)に伝え、生き残って令に届けてもらう。
  
【キーリ】
  [状態]:多少睡眠が取れた。健康
  [装備]:超電磁スタンガン・ドゥリンダルテ(撲殺天使ドクロちゃん)
  [道具]:デイパック(支給品一式)
  [思考]:ハーヴェイを捜したい/宗介・テッサ・かなめにことづてを/由乃に協力
 数歩歩くたびに立ち止まっては肩で息をする。
 弱々しい足取りが幾度も木の根に絡めとられる。
 肋骨と火傷の痛み。
 うるさい心臓の音。
 体を湿らせる汗。
 死体の発する腐臭。
 そういった現実が、胸中の面影を歪ませる。
 
 例えば、赤い髪の女が頭から血を流している光景。
 例えば、赤い髪の女がナイフに貫かれている光景。
 例えば、赤い髪の女が紅蓮の炎に焼かれている光景。
 例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば。

 頭に反響する無数の絶望。
 涙腺を滲ませ、その一つ一つを破壊しながら、少女は森を進んでいく。
 嗅ぎ取った死の臭い、それが何から生じているのか確かめるために。

「大丈夫。あの人は無事だから。あたしは、そう信じてるから」

 熱に浮かされたように呟きながら、少女は自身の矛盾に気づかない。
 信じるとはどういうことか。
 もし信じているというのなら、それは確かめる必要すらない。
 もし確かめるというのなら、それは信じていないのと同義である。
 悪寒と痛み。
 心と体の苦しみに耐え切れず、突き動かされるように少女は歩く。


 ミズー・ビアンカ。
 少女自身、気づかぬままに縋る最後の偶像。 

 その存在一つで支えられるほど――――この島は、フリウ・ハリスコーに優しくはない。
 もう幾度目かも覚えていない。
 爪先に硬い木の根の感触、そして前のめりに転倒する。
 近づいてくる地面を人事のように眺めていると、そのまま地面にぶつかった。
 土が軟らかいせいだろうか。
 どこか間の抜けた激突音に次いで、わき腹の辺りに灼けるような熱が奔った。
 思考は依然として空白に近い。
 それでも無意識に筋肉が収縮して痛みにこらえるよう体を丸める。
 ちらつく面影に縋りながら、フリウは右目と眼帯のない左眼の両方をきつく閉じた。
時間は痛みを和らげてくれる。すでに痛みに耐えるという行為自体がひどい苦痛になっていた。
 
 痛みは怖い。
 痛みに耐えることは苦しい。
 
 いっそ感覚すべてを剥ぎ取りたい衝動に駆られながら、フリウは必死に痛みをやり過ごした。
 極端に体力を消耗しているのを自覚する。
 手足に力が入らず、反応も鈍い。
 五時間近くも座り込んでいたのだから無理もないのだが、時間間隔が麻痺しているフリウにとって
はこれほど体力を消耗しているのは予想外のことだった。
 倒れたまま、思う。

(もう、何も残ってない。あたしは何もできない?)

 もともとフリウに戦う力はなかった。
 彼女にあったのはただ一方的に壊す力だけだ。
 あらゆる物質を、区別なく、苛烈に破壊する力。
 一線を越えた今――――人を壊すのではなく、殺した今、自分は戦う力を持つのだろうか?

(そんなの、ないよね)

 腕力はない。
 足が速くもない。
 武器も使えない。
 体力も敵わない。
 この島では、戦えないのなら死ぬしかない。
 フリウは静かに笑った。


 どれほどそうしていたのだろう。
 長い時間が経ったような気もするし、一瞬のことだった気もする。
(立たなきゃ。確かめに、いかないと……)
 倒れたまま、フリウは奥歯を噛み締めた。
 歯を食いしばって乾いた土に手をつき、立ち上がる。
 節々がひどく痛んだ。
 全身が埃っぽく、冷えた汗が不快だった。
 着替えたいという強い欲求が生まれると同時、そんな悠長なことをしている余裕は、時間的も物質的に
もないと思い出す。
 強張った笑みを浮かべながら、両手の土を叩いて払った。
 歩き出そうと足に力を込めて――――そこで気づいた。
 自分の体をじろじろと見回す。
 体の右側。
 肩から肘にかけては真っ黒だし、ズボンは擦った跡が残っている。
 頬にも土が剥がれる感触がある。
 なのに、左側はきれいなものだ。
 袖口は多少黒ずんでいるし所々汚れてはいる。
 それでも胸から上、特に顔は一切汚れていない――――くっきりとついた靴跡を除いて、だが。
 その事実が示すことは……
「……かばったんだ。左側」
 顔の左側。
 視力のない白い眼球を意識する。
 それは養父の――――ベスポルドの最初の教えだった。

 ……水晶眼に傷が入れば、精霊は莫大なエネルギーとともに開放される。
 ……その威力は一つの山を消し飛ばして余りある。
 ……だから、転んではいけない。
 
 実際には教えられてからもフリウはたまに転んだ。
 何回か転ぶそのうちに、転び方がうまくなった。
 右側から落ちて、左側をかばう。
 年を重ねるにつれて転ぶ回数も減って、わざわざかばう必要もなくなった。
 すっかり忘れていた、それでも体は覚えていた、どうということもない習慣。
 フリウは眼帯のない左眼の上に、静かに手をおいた。
 深く息を吐く。
 熱のこもった空気を、森の冷めた空気に入れ替える。

「戦う力じゃなくても……あたしにも、まだ、残ってるものがある」

 それだけ呟くと、フリウは重い体を引きずって再び歩き出した。
 ほんの少しだけ、胸の奥から、力が湧いた気がした。
 左の腕がない。右の足がない。そして、首と胴体が分離している。
 圧倒的な外力を持って破壊された人体だった。
 一欠片の尊厳も認めず。
 一切の慈悲も容認せず。
 この島にふさわしい、殺人ゲームの象徴のごとき、死体。 
 赤黒く乾いた水に横たわり、濃厚な屍臭を発しながら。 

 ――――それでも、その死体は笑っていた。
 
 第三の目を思わせる銃痕を持ったその顔は、最後まで唇を吊り上げたままだった。
 死の瞬間であろうとも、恐怖を跳ねのけ現れる歓喜。
 それは、狂気と呼ばれるものだ。
 凄惨な死体の様子と暗い狂気を前に、フリウは静かに佇んでいた。 
 不思議と心は落ち着いていた。
 死体がミズーのものでないことに小さく安堵しながら、思う。
(この人はどういう気持ちだったのかな)
 怖いとか悔しいとか。
 悲しいとか寂しいとか。
 そんな気持ちがあったのだろうか。
 答えのでない問いではあった。
 他人の心がわかるほど、人は万能ではない。
 ましてや死者の言葉を聞く術などどこにも存在しない。
(そんなことはわかってるけど……やっぱり、あたしは知りたいと思う。言葉があれば、死んじゃった後でも
 人は生きていられるんだから)
 首のない死体。
 それはあの髭を生やした偉丈夫と容易に結びついた。
 自分が殺した男。
 彼にもまた、抱いた言葉があったはずだ。
 フリウは震えを押さえ込むように、自分で自分の体を抱いた。
 眼球の裏側が熱かった。
 頭が沸騰したように思考がぐちゃぐちゃになる。
 泣きそうになるのを堪えようとして、失敗する。

 フリウは泣きながら、枝を使って地面に穴を掘り始めた。
 体のすべてを埋めることは出来なくても、頭ぐらいは埋められるはずだ。
 重くのしかかる疲労。
 意識を包む倦怠感。
 そういったものに耐えて、手を動かす。
 視界が涙で滲むたびに、服の左側で目を拭う。
 
「お墓をつくって、少し休んだら、あの人を探しに行こう。あたしがしたことは取り返せない、償うことすらできない。
 それだけは前と変わらない。 ……だからって、ずっと泣いてていいわけじゃない」
 

 ミズー・ビアンカ。
 少女自身、気づかぬままに縋る最後の偶像。 
 その存在一つで支えられるほど、この島は、フリウ・ハリスコーに優しくはない。

 それでも。
 そこにあと一つ何かが加われば、涙を止めることくらいは出来るはずだ。


「戦う力じゃなくても……あたしにも、まだ、残ってるものがある。
――――父さんや、爺ちゃんや、サリオンたちがくれた言葉がある」
 

 だから、まだがんばれる。

 そう胸中で呟いて、フリウは手を動かし続けた。
【A-5/森の中/11:55】

【フリウ・ハリスコー】
[状態]: 精神・肉体共に消耗。右腕に火傷。顔に泥の靴跡。肋骨骨折。
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)
[道具]: デイパック(支給品一式)
[思考]: 墓をつくる。休息後ミズー捜索へ。
[備考]:眼帯なし。第一回の放送を一切聞いていません。茉理達の放送も聞いていません。
 ベリアルが死亡したと思っています。ウルトプライドの力が制限されていることをまだ知覚していません。
239雷速の殺し手(1/10) ◆J0mAROIq3E :2005/05/14(土) 23:36:40 ID:ztKDUiiC
「……ひどいものね」
「……ああ」
 ゼルガディスとクエロは海の見える高台に足を伸ばしていた。
 そこに転がっていたのは俯せに倒れる少女の死体だった。
「背中から一突き。手口がさっきの死体と同じね」
「傷の大きさも似ているな。……同じ奴か?」
「こちらの方がスマートといえばスマートだけど……動揺は大きかったみたいね」
 指し示したのは死体のすぐ傍に広がる吐瀉物。
「素人が腹を決めてゲームに乗った、といったところか。……許せんな」
「そう? 何の能力も持たない一般人がこんなとこに放り出されて、冷静でいられると思うの?」
「錯乱など理由にはならん。異常な状況で殺人に走る人間は、最初から人を殺せる人間だ」
「いちいち私の方を睨まないでほしいんだけど。
 ……でも、そうね。確かに最初会ったときにもクリーオウはナイフを振り回さなかったわ」
 話題を逸らすように『仲間』の少女の名を口にする。
 彼女が状況によっては刃物で斬り掛かる猟奇少女であることは、さしものクエロでも想像の外だったが。
 しかしゼルガディスは警戒を解かず、真っ直ぐにクエロを見つめる。
「――お前は表情一つ変えず人を殺せる人間だ。演技力は認めるが誤魔化しきれると思うな」
「……いい加減にして。先入観を捨てないと見えるものも見えなくなるわよ」
「これは勘と言うより確信だ。気を緩めては尻尾を見逃すことになるのでな。悪く思うな。
 ……お前が元の世界で何をしようと勝手だが、ここではおとなしくしててもらおうか」
「言われなくても事を荒立てるつもりはないって何度も言ってるはずだけど」
 その苛立ちの表情さえ演技。
 化かし合いでは自分に分があることを、クエロはよく理解していた。
240雷速の殺し手(2/10) ◆J0mAROIq3E :2005/05/14(土) 23:37:24 ID:ztKDUiiC
「……待って」
 何とかゼルガディスが自制し、崖沿いに商店街へ向かおうとした矢先だった。
「まだ何か……ん、あれは……?」
 呼び止めるクエロの視線の先には、西へ向かう小さな人影が見えた。
 影は二つ。
 距離が遠く、姿まではよく見えない。
「危険人物の可能性も、探し人の可能性もあるわ。後を尾けてみるべきだと思うけど」
 今ばかりは単純な警戒心からの提案だった。
 もしかしたら二つの死体を作った犯人であるかもしれない。
 一瞬黙考したゼルガディスだが、これに関しては裏はないと思えた。
「珍しく意見が合ったな。西から回り込むか」
 頷き、砂浜へ下りられそうな場所を探す。
 
 ……この選択がお互いにとって最悪の選択であるなど、知る由もなかった。
241雷速の殺し手(3/10) ◆J0mAROIq3E :2005/05/14(土) 23:38:11 ID:ztKDUiiC
 シーツで急拵えのロープを作って何とか窮地を脱したガユスと緋崎は西へと向かっていた。
 いくらか逃げたところで背後から聞こえた咆吼は全身全霊を賭けて無視。
 無視しながらも歩調を速めるのは紳士のたしなみだ。
 緋崎の持つ探知機に、奈津子の反応はない。
「しかしイタい奴だなお前。職業悪魔なんて今時ヒネたガキだって言わないだろ」
「俺の周りのセンスじゃこれが普通なんや」
 軽く赤面しながら緋崎は吐き捨てる。
 これだから正直者は馬鹿を見るのだと噛み締めながら。
「……それはともかく、公民館に向かうんなら遮蔽物の多い南へ行った方が良かったんやないか?」
 地図を見るまでもなく、この砂浜を横断しては狙撃の格好の的になる。
「B1とD1に俺の武器があるんだ。D1の方は多分新庄達が探してくれてるだろうからな」
「はぁん。そりゃ頼もしい限りやな」
 二人が無事に辿り着けたことを柄にもなく祈り、ガユスは視界の中で大きくなってきた海を見据える。
 見たところ建物や箱のようなものはない。
 焦燥感に駆られながら足を速める。
 目だった物が見つけられないまま、とうとう二人はB1に辿り着いた。
「あったとしても、先に取られたんと違うか?」
 つまらなそうに呟く緋崎の言葉に焦り、それでも北側の平原との境目である岩地を知覚眼鏡で探ると、
「……何とか、不幸も打ち止めか」
 岩の間。
 よく見ても見逃すであろう狭い隙間から、一振りの魔杖剣――贖罪者マグナスを取り上げた。
242雷速の殺し手(4/10) ◆J0mAROIq3E :2005/05/14(土) 23:39:24 ID:ztKDUiiC
「銀髪の男だな」
「ええ。もう一人はどこかしら」
 低い岸壁を飛び降り、クエロとゼルガディスは人影を視界に捉えた。
(銀髪っていっても……どう見てもギギナではないわね)
 長身ではあるものの、あのドラッケン族とは似ても似つかないことに安堵する。
「そこのあなた」
 小銃程度なら精度の鈍る距離を保ち、声をかける。
 それに気付いた銀髪の青年が慌てて振り返ってばつが悪そうに呟く。
「あちゃ……探知しても見とらんかったら意味ないか」
 そして何かを探していたらしいもう一人が岩の陰から這い出て、クエロの思考は止まった。
「クエ…ロ……?」
「……っ!?」
(本当に、どこまでも間の悪い男……!)
 出てきたのはかつての恋人。ガユス・レヴィナ・ソレルだった。
 その様子を見て即座に状況を察したのか、ゼルガディスは剣に手をかけてガユスに目を向けた。
「動くなクエロ。……お前はこの女の知り合いだな? ならば幾らか聞きたいことがある」
 最悪の事態だ。この島で最大級の危機と言っていい。
 ここでゼルガディスが自分の意図を知っては学校に戻るどころではない。
 ガユスを即座に殺しても遅い。ゼルガディスの不信感をさらに高めるだけだ。
 何より、苦しまずに息の根を止めるというのは自分の憎しみが許さない。
 かといってこちらを警戒しているゼルガディスをナイフ一本で殺害するのは不可能。
 体術で劣るとは思えないが、向こうには剣のリーチ、剣の未知の能力、そして魔法がある。
(どうする……!?)
 その時、視覚が一つの情報を読み取った。
 ガユスが右手にぶら下げる魔杖剣。そして自分のポケットには高位咒式弾があった。
 その瞬間から賭けが始まった。
243雷速の殺し手(5/10) ◆J0mAROIq3E :2005/05/14(土) 23:40:56 ID:ztKDUiiC
 クエロは重心を落とし、脚力の限りを尽くし砂浜を疾走した。
 運動能力を隠していた甲斐があり、目測を誤ったゼルガディスの剣が背後の地面を打つ。
 変な真似をすれば斬るというのが脅しでなかったことを知り、背を冷や汗が伝う。
「この女狐がっ!」
 すぐさまゼルガディスが追撃にかかる。こうなっては最早糸一本で成立していた同盟も破綻だ。
 ナイフを抜き、岩地へと駆ける。
「おい!? 何なんやあの女、さっき危ない言うてた奴やないのか!?」
 突然加速した事態に銀髪の男は誰何の声を上げるが、ガユスは迷うように言い淀む。
(相変わらず煮え切らない男ね。でも今だけは感謝してあげる!)
 迷いながらこちらへ魔杖剣を向けるガユスの懐に獣の跳躍力で飛び込む。
 ある程度鍛えているとはいえ所詮後衛であるガユスと、かつてギギナ以上の剣舞士であったクエロとの接近戦能力の差は歴然。
 クエロは最早迷わなかった。
 ナイフを一閃。マグナスを持つ右腕を斬り付け、そのまま左腿へ深く突き刺す。
 敢えて重要な血管を避けた刺突は致命傷にならないまでも甚大な苦痛を伝達。
「つっ! クエロ……!」
 力の抜けた手から魔杖剣をもぎ取り、勢いを殺さぬまま岩を駆け上る。
 連れの男は明らかに負傷が見て取れるため、牽制の手間は省く。
 振り向けば予想より近くにゼルガディスが迫り、こちらに殺気を向けている。
 魔法とやらを使うより早く、魔杖剣を確認。予想通り個人識別装置は取り外され、弾倉は空。
 自動式のヨルガでなく、回転式のマグナスであったのは僥倖だ。巨大な咒式にも耐えられる。
 高位咒式弾を装填しながら横へ跳躍。それがクエロの命を救った。
244雷速の殺し手(6/10) ◆J0mAROIq3E :2005/05/14(土) 23:41:55 ID:ztKDUiiC
「地撃衝雷(ダグ・ハウト)!」
 地に手をついたゼルガディスが叫ぶと同時、一瞬前クエロの立っていた岩から無数の錐が隆起。
 その勢いは咒式士の肉体さえ貫けると容易に想像できるものだった。
(無駄に用心深くなければいい『仲間』だったろうに、ね)
 利用できなくなった仲間は敵よりたちが悪い。
 浮き上がる恐怖感を殺意で塗りつぶし、己の咒力と意思力で仮想力場を生成。
 使い慣れない他人の魔杖剣。何故か鈍る計算能力。得意の電磁系咒式も即座に発動とはいかない。
「逃げろ緋崎! 前言ったことは撤回だ、俺がいるからにはお前も殺される可能性が高い!」
「んな疫病神的に無責任なこと言うたかて、あんな無茶な速さの奴から逃げられるかっ!」
 男二人がごちゃごちゃ言ってるが、今は無視。努めて冷静に咒式を展開。
 それより早くゼルガディスが掌を向けた。
「崩霊裂(ラ・ティルト)!」
 高い音と共に青い炎が足元から巻き上がるのをクエロは回避運動の最中に見た。
 靴の先がその炎に焼かれる。
 その程度なら構うまいと高をくくったのが間違いだった。
「……くぅっ!?」
 脳髄を焼かれるような苦痛。
 肉体的には傷一つないというのに、精神が抉られるように痛んだ。
 思わず膝をつく。
 その隙を逃すはずもなく、ゼルガディスが素早く剣の刀身を外した。
「光よ!」
 叫びと共に、柄だけの剣から光が伸びる。
 光線か熱量の収束か、それはどういう原理か剣の形に定着。
 闇を撒く者の武器・ゴルンノヴァが遥か遠い異世界に顕現した。
245雷速の殺し手(7/10) ◆J0mAROIq3E :2005/05/14(土) 23:43:16 ID:ztKDUiiC
「やはりお前は放っておくには危険すぎる。覚悟はいいな」
 ゆっくり歩み寄るゼルガディス。
 この状況で即座にとどめを刺さず、敵に声をかける。
 その甘さをクエロは嘲笑った。
 あらゆる要因で遅れた咒式がようやく完成。
 それに気付くことなく、一刀の元に斬り捨てようというのかゼルガディスは剣を振り上げる。
 マグナスの引き金を引くのに要する時間は斬撃より遥かに短かった。
 刀身が紫電を帯びる。
 反応し剣を正面に構えるゼルガディスに構うことなく咒式が発動。
 脳の血管が千切れるような苦痛と引き替えに、死神が姿を見せた。
 位相空間で加熱し加速した高温高速のプラズマジェットにアルカリ金属粒子を添加して電気抵抗を低下。
 プラズマに放電。発生する磁場がプラズマを収束。電流自体の効果と荷電粒子の熱量による伝導体の発熱でプラズマが加熱。
 1平方センチあたり100キロワットルの熱量密度でプラズマジェットを噴射。
 電磁雷撃系咒式第七階位〈電乖天極光輪嶄(アリ・オクス)〉。
 異貌のものや竜さえ容易く斬殺する光輪が、ゼルガディスの胸から背中へと貫通した。
「ぐっ……あ……!」
 胴体との接点を失った両腕が剣と共に落下し、続いて滑るように上半身が崩れ落ちた。
 目の前に落ちて尚逸らされない視線を受け止め、クエロは柔らかく微笑んだ。
「……残念。ここでは〈処刑人〉でありたくなかったのに。本当よ?」
「……っ、きさ、ま……!」
 声だけで魔法を発動できる可能性を考慮して、岩の固さを持つ喉を潰さんばかりに掴んだまま立ち上がる。
 そしてクエロは、その青黒い頬を対照的な赤い舌で舐め上げた。
「不味い。本当に岩の味がするのね、あなた」
 楽しげなその囁きを聴くことなく、ゼルガディスの目は光を失った。
246雷速の殺し手(8/10) ◆J0mAROIq3E :2005/05/14(土) 23:44:19 ID:ztKDUiiC
 砂浜に転がる光の剣はしばらく光輪と同じ色を帯びていたが、ゼルガディスの死と共にただの柄に戻った。
(不完全とはいえ、電乖天極光輪嶄を吸収した? ……面白い剣ね)
 持ち上げて試しに呟く。
「光よ」
 予想通りに伸びた光の刃は、先ほどのものより遥かに短いナイフ程度の長さだった。
 使用者の魔力とかいうものによるのか、体調によるのか。
 第七階位を一発撃っただけで脳が焼き切れそうな自分を省みるに、精神力だろうか。
 苦痛を押して振り返ると、満身創痍の男二人が逃げられもしないままに視線を向けていた。
 今ここでゆっくりと殺すのも悪くない。今を逃せばチャンスはいつになるか。
 その思考は、緋崎と呼ばれた男の赤く染まった瞳に断ち切られる。
「――っ!」
 いつの間にか発生していた小さな火の玉がクエロのスーツを焼いた。
 砂を転がって火を消し、残る気力を振り絞って立ち上がる。
「へっ、あんたも結構いっぱいいっぱいやないか。逃げるなら今のうちやで」
 汗を浮かべながら言うその姿はイタチの最後っ屁としか思えなかったが、
(ヘマをして死ぬ可能性もなくはないわね……)
 精神への打撃、咒式の反動。鈍った思考での戦闘は避けたい。
 ダメージはこちらが少ないとはいえ、二対一で、緋崎の能力もよくわからない。
 歯を食いしばり、光の剣をガユスに放り投げる。
 持っていては怪しまれるし、近接戦闘は魔杖剣で十分という自負がある。
「あげるわ。……それを使ってせいぜい生き延びなさい、ガユス。私があなたを殺すまで」
「クエロ! 今はそんなことを言ってる場合じゃないはずだ!」
「あなたにとってはそうなんでしょうね。その程度の気持ちで私を刺したんだから」
 嘲るように言ってはだけて見せたスーツの襟元、乳房の上に醜い傷痕が覗いた。
 まだ何か言おうとして、しかしガユスは黙ってうなだれた。
247雷速の殺し手(9/10) ◆J0mAROIq3E :2005/05/14(土) 23:45:21 ID:ztKDUiiC
「じゃあね。私のためだけに生き延びなさい」
 吐き気すら覚える疲労を表に出さずに微笑み、クエロは素早くその場を離れた。
 追撃はないことに軽い安堵を覚える。
(さて、どうしたものかしら)
 邪魔は消えたが、他の連中に怪しまれることは確実だ。面倒なことになった。
 疑われて第二のゼルガディスが現れてはこの疲労も無駄になる。
(いえ……収穫はあったけど、ね)
 魔杖剣と高位咒式弾による最強の矛と盾。
 雷轟士と呼ばれた自分が出せるジョーカー。
 しかし刻印による制限のせいか、マグナスでは満足に高位咒式が出せない。
 下手をすればあと1,2発で自分が死ぬことになる。
(内なるナリシア。あれもどこかに存在するはず)
 天才レメディウスから奪った最高の演算能力を誇る魔杖剣。
 それさえ手に入れば自分の戦闘力は盤石のものとなる。
 弾の残りは4発だが、自分が直接戦闘をする機会を最低限にするよう努めれば十分な数だ。
 欲を言えば治療用に通常弾も欲しいが、そこまで上手くいくかはさすがに疑問だった。
 思考が煩わしくなり学校への足を速め、しかし考えなければならないことに気付く。
(どう切り抜けようかしら……)
 涙ぐらいは流すべきだろう。激昂の演技も得意分野だ。せいぜい不安定でいよう。
 『ガユスにゼルガディスが殺された』のだから。

【029 ゼルガディス・グレイワーズ 死亡】
【残り84人】
248雷速の殺し手(10/10) ◆J0mAROIq3E :2005/05/14(土) 23:46:22 ID:ztKDUiiC
【B-1/砂浜/1日目10:50】

【クエロ・ラディーン】
[状態]: 精神的に相当の疲労、気を抜くと意識を失うレベル。
[装備]: 魔杖剣・贖罪者マグナス
[道具]: 支給品一式、高位咒式弾(残り4発)
[思考]: 学校へ戻る。集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
    魔杖剣・内なるナリシアを探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)


『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)、左腿にナイフ。戦闘は無理。精神的、肉体的に限界が近い。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、ナイフ(太腿に装備)
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:D-1の公民館へ。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的にかなり疲労。
[装備]:探知機 、光の剣
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。なんとなくガユスについて行く。
[備考]:六時の放送を聞いていません。 走り回ったので、骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は、まだ正確に判断できていません)
「どうも皆さん、随分と乗り気みたいだね」
「全くだな。同意したくはないが……」
 黒衣をはためかせるベルガーが、ガタガタと揺れつつ走るモトラド――エルメスに答える。
 一回目の放送の時点で多数の死人が出たことは解っていたが、
それにしたって、実際に死体を見ると気が滅入る。
「で、目的地はまだ?」
「もうすぐだ。……ところでお前さん、そろそろ黙っといてくれ」
「どうして?」
「パンピーは喋る単車なんて見たら驚くんだよ。それが原因で面倒事になったらどうする」
「ひどいなあ。モトラド権の侵害だよ」
 どこかの妖精に似た文句を言いつつも、エルメスはおとなしく黙った。
 ――面倒な道のりだったが、何が待っているのやら……。
 何故か道が階段になったり、迂回した先の川から水が消えていたりしたが、
結局死体以外に会う事無くA−2の荒れ地に到達していた。
 市街地を経由することも考えはしたが、まずは電話の相手と合流すべきと判断、
砂丘地帯ではエルメスを活かせないと考えてのルート選択だった。
 にしても、これで待っているのが殺人鬼だったら酷すぎる。
 リナは『いかにも善人っぽい優男の声』と評していたが、それもどこまで信用出来たものか。

 多少の不安を覚えつつも、数分後、ベルガーは小さな墓を見つけた。
 爆音が聞こえていたのだろう。黒ずくめの人間がこちらを見つめている。
 しかし、近づくにつれベルガーは気付く。
 ――首無し人間?
 モトラドのスピードを落とし近づくが、やはり気のせいではないようだ。
「立ったまま死んでるのかな?」
 ンなわけあるか、と内心でエルメスに反論。
 ――何か妖物の類か。敵意は無いのか?
 ベルガーの出身は英国倫敦。神から悪魔、化け猫から狼男まで揃っている妖物の本場だ。
驚きはしたが、『魔法』が使える人間もいるのだからこれもアリなのだろう
 ひとまずエンジンを止め、エルメスから降りる。両手を上げて敵意が無いことを示し、
「電話で話していたリナ・インバース達の使いだ。名はダウゲ・ベルガー」
 首無しの黒いライダースーツは、頷くような仕草をし、一枚の紙を突きつけた。
『連絡は受けている。私の名はセルティ・ストゥルルソン。見ての通り口が無いので、筆談で失礼する』
 セルティが話の通じる相手であることに――話し合いは出来ないのだけれども――ベルガーは安堵した。

 セルティは次の紙に手早く文字を書き、
『そこに寝ているのが慶滋保胤だ。
私達は、彼に怪我を負わせたフォルティッシモという男以外誰にも会っていない』
「了解だ。こちらの人員構成はさっき知らせたとおり、…………」
 話す途中で、ベルガーは一つの異常に気付いた。
『? どうかしたのか?』
「……いや。あのな……」

「何で俺、あんたの書く字が読めるんだ?」

 明らかに日本人ではないベルガーが、セルティと意思疎通出来ている謎。
 数秒の沈黙の後、先に口を開いた――否、手を動かしたのはセルティだった。
『ファンタジー、というやつだろう』
「あ? 何だそりゃ」
『そもそも、不可解な力であれだけ多様な人間が集められ、そしてまた不可解な力でこの島に飛ばされたのだ。
きっと不可解な力で言語等の統一が行われているに違いない』
「随分と乱暴な推論だな……」
『深く考えても仕方が無い。私とて、池袋では存在自体が不可解とされていたのだ。
むしろ容易に意思疎通出来る事を喜ぶべきだろう』
 ベルガーは、頭に手をやり悩むような仕草をする。あー、と前置きして、
「……確かにそうかもしれん。今は小難しいことを考える時じゃあないな。
それじゃ、こちらの情報だが――」
 今度こそ話そうとするベルガーを、また別のものが遮った。

『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう――』
 突如響いた謎の声は、銃声と呻きで締め括られた。
『どう思う?』
「……最初の広間にいた連中の介入は無いな。あいつらなら銃ではなく刻印の力を使うだろう。
つまり、あの銃声は参加者の者。それも徒党を組まれると不都合が出る奴だ。
それと、銃声が直接聞こえなかった。どこか別の場所に放送施設があるのかもしれない」
『最初からそういうものが用意されていたのだとしたら、
彼女らは連中の掌の上で踊らされてしまった、ということになる』
「そうだな。とんでもない話だ」
 嘆息。ベルガーはデイパックから地図を出しつつ、
「電話、……携帯電話か。貸してもらえるか?」
 そう告げると、セルティは躊躇いなく取り出して操作した。そしてベルガーに渡す。
『私は喋れないからな。こちらの状況は好きに話してもらって構わない』
「そいつはどうも」
 コール二回ですぐに相手が出た。
『ベ、ベルガーさんですか!?』
 声は随分大きく響いた。
 セルティが自分にも聞こえるように音量を調整していたのだが、それにしても大きすぎる。
「違うと答えられたらどうするつもりだった、テレサ・テスタロッサ。
何にせよ、こちらは無事合流した。セルティ・ストゥルルソンに慶滋保胤の二人で間違いないようだ。
残念ながら、それ以外の人間と会うことは無かった」
 死体には会ったけどな、と内心で付け足す。
 各人の捜し人の特徴と一致していないのだから、無理に話すことはあるまい。
『そうですか……。でも、無事で良かったです。
こちらは特に変わったことはありません。シャナさんがまだ寝てるくらいですね』
「そうか、ところで――」
『あの声、そっちにも聞こえてたんですか……』
「ああ。ところで、そっちの居場所をセルティに話してもいいか?」
『ちょっと待ってください』
 電話の向こうで話し合う声。三十秒ほどして、再びテッサが出た。
『はい、大丈夫です。F−5ですね』
 一瞬だけ地図の別の場所――ムンクのあるG−5を見て、そして
「間違いないな。とりあえず、こっちでこれからどうするか話し合う。決まったらまた連絡しよう」
『解りました。それでは……』

 通話は終わった。ベルガーは携帯をセルティに手渡そうとして、
『何か嘘をついているな』
 突きつけられたその紙を見ても、ベルガーは眉一つ動かさない。セルティはまた手を動かし、
『詳しい仕組みは知らないのだが、私は普通の人間より少し視界が広いらしい。
F−5と言われた時の、君の目の動きが少し変だった。実際には違う場所にいるのだろう?』
 ――成程。見た目だけが化け物というわけじゃないんだな。
 油断していたと思いつつ、素直に頭を下げる。
「すまない、その通りだ。どうやら向こうの連中は、未だ君達のことを信用出来ないらしい」
『いや、当然のことだ。君に彼女らの本当の居場所を訪ねるつもりは、少なくとも今は無い』
「……実際、そんなに離れた場所じゃない。彼女らもギリギリの線で嘘をついたんだろう」
 軽く溜め息をつき、そしてまた口を開く。
「話は変わるが、、あの放送が島の反対側にまで届いたという事実が重要だ。
放送施設があるとすれば、まず間違い無く市街地だろう」
『根拠は?』
「例えば森の中に隠されていたとしたら、放送が始まってすぐに襲撃者が現れたのが理解しにくい。
何か目立つ建物があったと考える方が自然だ」
『こじつけだな』
「それを言うな。とにかく、今市街地を通るのは避けたい。そうだな……」
 時計は十一時十分を回っている。放送まであと約五十分。
「……十二時、放送の時間まで様子を見るか。寝てるそいつも起きるかもしれんしな」
『それまで君が生きていれば、向こうの彼女らも信用してくれるか?』
 その物言いにベルガーは苦笑し、
「――そうであることを祈ろう。実のところ、俺自身まだ信用されて無いフシがあって困っている」

「そんな!? 今からそっちを出ても、十分戻ってこれるじゃないですか!」
 小屋――ムンクの中に、またしてもテッサの声が響いた。
『どのルートを通ったとしても、市街地は避けられない。危険なのは言った通りだ。
それにこっちには怪我人がいる。エルメスに三人乗せるのは不可能だし、
だからといって俺一人戻るわけにはいかんだろう』
「それは、そうですが……」
『十二時になるか、何か異変があったら連絡することにしよう。それじゃ』
「あ、ちょっと……」
 電話は既に切られていた。テッサは嘆息。
「随分勝手するわねアイツ。やっぱ信用できないんじゃない?」
「向こうには向こうの考えあってのことだと思いますけど……」
「セルティとやらに脅されている可能性は?」
「声の調子と物音だけが判断材料ですが、それは無いと思います」
 ベルガーの口調はしっかりしていた。それに、言っていることも筋は通っている。
 彼を信用するならば、向こうが今まで話した内容に虚偽が無いのは解ったし、
 ――放送後ならば、余計な人捜しをしないで済むかもしれませんもんね。
 現状、情報は生死を分ける要だ。あと五十分弱でそれが得られるなら、下手に動かない方が得策かもしれない。
「まあいいですわ。仲間になりそうな人間を確認出来ただけでも良い結果ですもの」
「ンな楽観視していいのかしらねー」
「悲観したってキリがありませんわ。それより、放送後にどう動くか検討いたしましょう」
「あー、シャナがゴネるかもしれないもんね……」
 話す二人は土のテーブルに地図を広げる。
 テッサはそれを見つつ、これからどうなるのだろうか、と答えの無い疑問を内心浮かべていた。

 その疑問が、最悪の形で答えられることになるとは知らずに。
【A−1/島津由乃の墓の前/1日目・11:15】

『ライダーズ&陰陽師』
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:エルメス(停車中) 贄殿遮那 黒い卵(天人の緊急避難装置)
[道具]:デイパック(支給品一式+死体の荷物から得た水・食料)
[思考]:放送までA−1で待機。セルティと情報交換。 ムンク組の知人捜し。
 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。

【セルティ(036)】
[状態]:正常
[装備]:黒いライダースーツ
[道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)、携帯電話
[思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。ベルガーとの情報交換。

【慶滋保胤(070)】
[状態]:不死化(不完全ver)、睡眠状態(特に危険な状態ではない)
[装備]:ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている
[道具]:デイパック(支給品入り) 、「不死の酒(未完成)」(残りは約半分くらい)、綿毛のタンポポ
[思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。 島津由乃が成仏できるよう願っている

[チーム備考]:放送後、『目指せ建国チーム』と連絡を取る。
【G−5/森の南西角のムンクの迷彩小屋/1日目・11:15】

『目指せ建国チーム』
【リナ・インバース】
[状態]:少し疲労。心の深層に強い怨念。
[装備]:騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:放送後の行動予定を相談。仲間集め及び複数人数での生存。管理者を殺害する。

【ダナティア・アリール・アンクルージュ】
[状態]:左腕の掌に深い裂傷。応急処置済み。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル
[思考]:放送後の行動予定を相談。群を作りそれを護る。シャナ、テレサの護衛。
[備考]:ドレスの左腕部分〜前面に血の染みが有る。左掌に血の浸みた布を巻いている。

【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:少し疲労
[装備]:UCAT戦闘服
[道具]:デイパック×2(支給品一式) 携帯電話
[思考]:放送後の行動予定を相談。ベルガー、宗介、かなめが心配。

【シャナ】
[状態]:かなりの疲労。腹部に内出血(ともに回復途中) 睡眠中。
[装備]:鈍ら刀
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:睡眠中。
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。

[チーム備考]:『紙の利用は計画的に』の依頼で平和島静雄を捜索。
         島津由乃を見かけたら協力する。放送後、『ライダーズ&陰陽師』と連絡を取る。
 公民館。ソファーやテーブルが置かれた談話室のような場所に、二人の女性がいる。
「ガユスさん達遅いね。大丈夫かなあ……」
「あの襲ってきた化け物、頭の方は空みたいだから平気でしょう」
「うん、それはそうなんだけど……」
 小早川奈津子inボン太くんの強襲を受け、ビルから逃げ出したのが約二時間前。
 左腕が動かせないミズーのことを考え、市街地を避け、どうにか公民館に着いたのが十時頃。
 その後館内を捜索し、無事目的の咒弾の入った小箱を見つけていた。
 それからもう大分経つのだが、ガユスと緋崎は未だ来ない。
 もしかして捕って喰われたんじゃ、と新庄は思うが、縁起でもないとその考えを振り払う。
 ――でも、やっぱり遅いよね。
「あ、あのさ、やっぱりボク……」
「駄目よ。何度言わせるの? 今から動いても行き違う可能性があるし、
あなたのその剣だって何か弱点があるかもしれない。今はただ待ちましょう」
 この遣り取りも何度目だろうか。
 新庄はガユスらを気にしているが、怪我人を連れ回す、もしくは一人で置いていく気にはなれないらしい。
 もっとも、ミズーが新庄を抑えているのは、
 ――この子は人を殺せない。襲われて戦ったとしても、……止めは刺さない。
 優しすぎる。それがミズーの新庄への評価だ。甘えといってもいいかもしれない。
 初めて会ったときも、いざ戦わんとする自分とウルペンを制止した。
 そして――宿敵同士とはいえ――殺し合おうとしていた自分を信用し、今こうして横にいる。
 その性格が命取りになるかもしれない。これは、そういう『ゲーム』だ。
 ふう、と溜め息を一つついた。悩み事が多すぎる。
 しばらく後、玄関の方からかすかに足音が聞こえてきた。
「やっと来たのかな?」
 そう言って腰を浮かせる新庄だが、しかし
「待ちなさい。足音が一つしかないわ」
 ソファーに寝ていたミズーは右手だけで体を起こし、傍に置いておいた斧を手に取った。
「新庄も剣を」
 小声でそう指示する。襲撃者の可能性は十分にあるが、しかし、
 ――随分と派手な足音ね。
 本当の殺人者ならば、足音を消して館内を調べるだろう。なら、この足音の主は何者なのか?
 ミズーは気配を消してドアの横に張り付き、新庄を反対側に行かせる。
 かすかに聞こえるドアの開閉音。全部の部屋を調べるつもりだろうか?
 そしてしばらく後、二人の潜む部屋のドアが開かれ――
「動かないで」
「……ッ!?」
 ドアの向こうにいたのは、長身の、腰まで届くような長い黒髪の女性だった。
 背にデイパックを背負ったきりで、手には何も持っていない。
「ゆっくり両手を上げて。変な真似さえしなければ、危害を加えるつもりはないわ」
 女性は指示通りに手を上げる。体がかすかに震えているのは、斧を突きつけられている恐怖からだろうか。
 顔には怯えの色がありありと浮かんでいる。
「まず中に入って。……名前、あとここに来た目的を言いなさい」
「ミ、ミズーさん……」
 ほとんど尋問に近いミズーの話し方に、新庄までが怯えた声を出す。
 迂闊に名前を呼んだ新庄に内心で舌打ち、しかしミズーは表情を変えずに斧を構えている。

「……佐藤聖、と申します。ここには、誰か知り合いがいないかと思って……」
「そう。佐藤さんも大変だったんだね」
「ええ。ですが、祐巳や志摩子達も大変だと思います。由乃ちゃんも、何でこんなことに……」
 ソファーに座った佐藤聖は、横に座る新庄と話をしていた。
 ミズーはテーブルを挟んだ反対側に座っている。しかし先ほどから一言も喋らず、射すくめるかのように聖を見ていた。
斧は手を伸ばせばすぐ届くように置いてある。
「それで、佐山君がまた壊れちゃってね」
「……あの、すみませんが御手洗いに行ってもよろしいですか?」
「へ? ……あ、ご、御免なさい……」
「それでは、少し失礼します」
 優雅な動きで立ち上がると、聖は談話室から出て行った。
 新庄は、もしかして逃げるのかなと思い、しかし荷物が残っていることを理由に否定した。
 何より、友人の死を悲しむ表情は本物だったし、とても殺人を犯すような人には見えなかったから。



 ――何とか上手く誤魔化せたみたいね……。
 女性用トイレの個室に座り込む女性――小笠原祥子は、突きつけられた斧を思い出しわずかに身震いした。
 オドーと別れ、商店街には留まれず、かといって学校は人が多そうに見えて、半ば勘でここに来たのだ。
 聖の名を騙るのは賭けだったが、成功して本当に助かったと思う。
 彼女が六時の放送で名前を呼ばれなかったと言うことは、上手く逃げ隠れしているか、協力者を得たかのどちらか。
 彼女達のような美女がもし協力者ならば、聖は絶対に離れようとしないだろう。
 それほど分の悪い賭けではなかったのだが、それにしても肝が冷えた。
 ――でも、彼女らと一緒には動けないわね。
 新庄はともかく、ミズーの眼光、物腰、声の圧力。とても自分達のように平和に暮らす人間のものとは思えない。
 もしかすると、オドーのように何か特異な力を持った『戦士』なのかもしれない。
 そんな人間を生かしておいて、祐巳を助けることが出来るのか。
 ――もう、後には退けないわ。
 一度殺すことを覚えた獣は、もう殺さずに生きることは出来ない。
 環境が、そして偏執とも呼ぶべき祐巳へのすがる想いが、既に祥子を獣に変えつつあった。
 ……いいよ、ミズーさんはここで……
 ふと、新庄の声が聞こえた。どうやらトイレの外にいるらしい。
 ……二人で行ったら驚くよ。大袈裟だって……
 気がつけば、随分と長い間篭っていたらしい。心配して見に来たのだろうか。
 ――今なら殺せる?
 人を殺すというのは、不意を突くということ。それを、祥子は過去二回の殺人で学んでいた。
 ソースケと呼ばれた男には見破られたが、新庄はとても同類には見えない。
「佐藤さんいる? 遅いから気になったんだけど、大丈夫?」
 ほら、こんな風に声を掛けてくる子だ。優しい子だ。まるで祐巳みたいに。
 ――でも、私には祐巳以外何もいらないわ。
「御免なさい、気に掛けさせてしまったようで。ちょっと待ってくださる?」
 そう言って水を流す。その音に紛れて、スカートの中に隠していた銀の短剣を取り出した。
 たまたま見つけたタオルで無理矢理縛り付けていたので心配だったが、こうもすぐに役立つことになろうとは。
 スカートを直し、右手で剣を握り、それを背に隠す。
 剣は一瞬見えなければ、それで十分。何よりも躊躇わないことこそが、殺人のコツなのだから。
 開いた左手で扉を開ける。キィッと立て付けの悪さが目立つ音がした。
「あっ、佐藤さん。御免ね、御節介な真似しちゃって」
「いえ、そんなこと……」
 微笑みながらそう言って、静かに新庄に歩み寄る。
 新庄のあどけない顔は、疑念や警戒というものが全く無い。
 ――幸せ者ね。
 スッと背中に隠していた右手を前に出し、そしてそのまま体ごと新庄にぶつかった。

「えっ……?」
「――ごきげんよう、新庄さん」

 新庄の体に突き刺さった短剣へ力を込める。ぐいとねじって、そしてすぐ引き抜く。
「佐藤、さん……?」
 祥子は新庄の横を歩いて抜ける。
 手洗い場の鏡に映る彼女は、手元が赤黒く濡れていた。

「うぁ、あ……ああぁぁぁぁあぁぁあぁぁああッッ!!!!」
「新庄!?」
 濁った叫びが耳に入る。ミズーは壁にもたれていた体を翻し、トイレに入ろうとした。
 しかし、その体は飛び出してきた佐藤聖――祥子と激突。
 体重と筋肉の差で祥子は床に倒れるが、ミズーは、
「ぐぅっ……!」
 左肩。凶弾に打ち抜かれたそこに、祥子の体がぶつかっていた。
 激痛が走るがそれを堪え、視線を前に向けると、
 ――何よ、これ……。
 既に立ち上がっている祥子の右手には、血に濡れた短剣。
 その奥、床に座り込む新庄の下に、徐々に血溜まりが出来つつあるのが見える。
 と、目の前に祥子の体があった。
「――ッ!?」
 ミズーは罵声を吐く間も与えられず、強引に体を制御して祥子の突進をかわす。
 ――斧は置いてきた。なら念糸? いや……。
 彼女の動きは甘い。素人だろうか? もし手練ならば、最初の激突の時に自分は殺されている。
 ――それなら!
 念糸を紡ぐ間すら惜しい。激痛を生み全く動かぬ左手を無視して、ミズーは祥子に殴りかかった。
 祥子の顔面を狙ったミズーの拳は、受け止められることも無く綺麗に入る。
 ――やはり素人? ならば、このまま潰す!
 鍛えられた拳はそのまま凶器になる。祥子は一発で既に膝を着いていた。
 ミズーは素早く右拳を引き、追い討ちの一撃を浴びせんとする。
 
 この時、彼女の左手が生きていれば、その左拳で祥子は沈んだだろう。
 もしミズーの中に獣が生きていれば、――祥子が獣になりつつあることに気がついただろう。

 片膝着いていた祥子は、その姿勢から一気に加速した。飛び掛かるような動きで、ミズーの懐に入ろうとする。
 既に引き戻され、打ち出されつつあったミズーの右拳は、伸びきることなく祥子の左胸に突き刺さる。
 ミズーの拳に打たれながらも、祥子の意識はただ前にあった。

 そして、ミズーの右拳は祥子の肋骨を砕き、祥子の銀の短剣はミズーの腹に刺さった。
「……くっ!!」
 短い刀身の半ばまで――あるいはそれ以上が、ミズーの腹に刺さっている。
 遠くなる意識を自分の身体に留め、ミズーは短剣を無理矢理引き抜く。
 ――この娘を生かしてはならない……!
 紛れも無くあれは獣だ。たとえどれほどに未熟であろうと。
 肋骨を砕かれ床に横たわったまま動かぬ祥子へと、既に銀と朱のまだらになった短剣が振り下ろされる。
 避けることなど到底出来ず、振り下ろされた勢いのまま祥子に突き刺さった。
 祥子の体がビクリと一度跳ね、そしてそのまま動かなくなる。
「……祐巳…………貴方は、これで…………生きれるわね…………」
 ただ一つ、その呟きを残して、彼女の時は止まった。

 血塗れの喧騒。わずかな時間に起きたこの騒ぎは、あっさりと終結した。
 既に新庄と祥子は物言わぬ体となり、血溜まりの中、冷たい床に横たわっている。
 ただ一人、壁に寄りかかるように腰を下ろしたミズーだけが、荒い呼吸をしながら止血をしようとしている。
 しかし左肩は激痛しか生まず、全く動かない。右手でどうにか止血しようとするが、上手くいかない。
 ――ほんの一瞬なのね、終わる時って。
 それは、何も今初めて知ることではない。
 幾度となく視線を潜り抜け、他人は勿論自分だって終わりそうになった事はある。
 ――今度も生き残れたら良いのだけれど。
 気がかりは二つ。フリウ・ハリスコーと、ウルペン。あの二人は今どうしているのだろうか?
 ――精霊アマワ……。あなたは、この『ゲーム』すらも見越していたの?
 今となっては、もはや何が真実で何が虚偽かなど解らない。
 しかし、どうやら自分の体から血が減っていくのは真実のようだ。
 フッと、眠りに落ちる瞬間のように静かに安らかに、ミズーは意識を失った。

 【061 小笠原祥子 死亡】
 【072 新庄運切 死亡】
 【残り82人】
【D-1/公民館/1日目11:35】
【ミズー・ビアンカ】
[状態]:左腕負傷。腹部に刺傷。昏睡状態(瀕死の重傷です)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)、缶詰、救急箱
[思考]:……………………
[備考]:治療を受けない限り、放送前に死亡します。

[備考]:公民館の一室に、
    ・火災用の斧  ・蟲の紋章の剣
    ・支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)、缶詰、救急箱
    ・支給品一式(懐中電灯、支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)、部屋で発見した詳細地図
    ・支給品一式(青酸カリ)
    が置かれています。

    また、公民館のトイレ周辺は血の匂いが充満しています。
    祥子の死体には銀の短剣が刺さったままです。
※ 状態及び時間の修正です。

 【D-1/公民館/1日目11:50】

 【014 ミズー・ビアンカ 死亡】
 【061 小笠原祥子 死亡】
 【072 新庄運切 死亡】
 【残り81人】

また、一部内容修正を修正スレに落としてあります
 部屋だった。そこは。
 何もない、石造りの部屋。灯りのない、凍った暗闇。
 音として聞こえるのは聞き慣れた鐘の音だけだった。もう聞くこともないと思っていたイムァシアの弔鐘。赤く貫かれた空隙から漏れ出す音。
「――君は死ぬのかな?」
「……わたしは、死ぬんでしょうね」
 忌々しい響きに舌打ちしながら、ミズーは呟いた。
 石の床を黒ずんだ赤が染めていく。それは血だった。
「判断は正しいよ。幼稚な獣が君につけた傷は深い」
「新庄はもう、死んだのでしょうね」
 反響すらしない闇の停滞が、呟きを呑み込む。
 新庄・運切は死んだだろう。彼女を佐山・御言に会わせてあげることができなかった。
 見えない蛇のように、悔恨が身体に巻きついてくる。
 じわじわと蝕んでくるそれに身を任せ、自分の生んだ血溜まりの中に倒れこむ。
 赤い体液が衣服に染みてくる。そのことに不快感を覚えながら、ミズーは呟きを続けた。
「それで――君はそこで終わるつもりなのかな? ミズー・ビアンカ」
「わたしはここで終わる……けれど」
 暗闇がある。空気がなく、動くこともできない。
 そこに誰かがいる。どこにいるのかは分からないが、誰かがいる。
「君にはぼくの囁きが聞こえない。だけど……なぜだろうね。ぼくには君の呟きが聞こえる」
「――伝えなければ」

 伸ばした手が、石の床を引っ掻く。
 暗闇の中で光を求めるように手が動き、這いながら出口を求める。
 出口などないと理解しながら、それを求めて動く半死人。傍から眺めれば滑稽ではあった。
「それは多分、君の遺す言葉を聞くためだ。君のやり残したことをするためだ」
「佐山・御言に。新庄・運切のことを伝えなければ」
 口から出る呟きの一つ一つすら、暗闇は呑み込んでいく。
 反響すら許さず、ただ鐘の音だけが狂ったように響きを伝えていた。
「君の言葉はぼくが伝える。だから泣かずに逝っていい……ミズー・ビアンカ」
「伝え……なければっ!」
 最期の叫びだけは、暗闇を響かせた。



 その刹那、佐山は猛烈な軋みを感じた。
「っ……!!」
 身を貫く痛みに膝を付き、胸に指を立てる。身体を軋ませる痛みは、これまでで最大のものだ。
 何故だ、と佐山は痛みに問いかけた。
 痛みを生むようなことを考えてはいなかったはずだ。

 ……ならば何故――

 思った瞬間、軋みが終わった。
 痛みの残滓をこらえつつ、体勢を戻す。
「……大丈夫?」
「心配は不要だよ。少々、疲れが出たようだ」
 気遣うように声をかけてくる詠子に手を振って答える。
 見ると、彼女は訝しげな表情を浮かべていた。その視線の先はこちらの顔だ。
「なにかね? 私に見惚れているようだが……唐突に惚れでもしたのなら、残念だが断ろう。私には新庄君がいる」
「欠けちゃったね」
 “魔女”の言葉が、嫌に身に染みた。
 震えを押し隠し、佐山は問う。
「何が……欠けたと?」
 詠子は答えず、こちらの顔に手を伸ばした。
 目元に伸びる指に反射的に警戒するが、指は何かを拭うように頬を撫でただけだった。
「うん。……教えてくれてありがとう、“吊られ男”さん」
 “魔女”の視線は、佐山の背後を見ている。振り返るが、なにもない。
 彼女だけに見える何かだろう、と結論し、詠子の撫でたあたりを指でなぞる。
 水分がついていた。舌先で舐めると、血にも似た塩の味がする。
 涙だ。
 それを知り、佐山は表情を引き締めて、
「私は、――泣いていたのか」
 何故だろう、という問いは生まれなかった。
 何故か、新庄のことを考えていた。

 ……新庄君。

 声には出さずに、佐山は呟いた。
 その呟きを、“吊られ男”は届ける。

【C-6/小市街/1日目・11:51】


『Missing Chronicle』
【佐山御言】
[状態]:健康
[装備]:Eマグ、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)、地下水脈の地図
[思考]:1.新庄はどうしているのだろうか。 2.仲間と合流したい。 3.地下が気になる。
【十叶詠子】
[状態]:健康
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)
[思考]:1.佐山に付いて行く。 2.物語を記した紙を随所に配置し、世界をさかしまの異界に。
268リサイクル(1/8) ◆eUaeu3dols :2005/05/15(日) 10:04:16 ID:98BLYvIG
「ところで先から思っていたが、あなたは随分と良い男だな」
サラは唐突に言った。
せつらは茫洋と気の抜けた、それでも尚、自ら輝くが如き美貌の唇を動かして返す。
「おや、そうですか?」
「うむ、そうだとも」
サラは断言した。
「まずはその顔。井戸端会議の奥様方から深窓の御令嬢まで、
全ての女性と同性愛の男性を心ときめかせ恋の虜にする事間違いなしだ」
全く持って事実であった。
だがしかし、それを話すサラ自身はいつも通りの鉄面皮である。
「その上、料理の腕も見事だときている。
先ほど皆で頂いたあなたの店の煎餅は素晴らしかった。
あの粳米の風味と香ばしさの多重奏を奏でる焼き加減の絶妙さ。
ザラメ一つとっても妥協しない、煎餅という物の奥深さを味合わせていただいた」
「せんべい屋としては当然ですよ。むしろ、それを判っていない職人が多すぎる」
(実にあっぱれな情熱だ)
自らの仕事に対する誇りに感心しつつ、話を続ける。
「副業の人捜しも見事な腕前だそうで」
「ええ。住んでいた街では一番を自負しています」
魔界都市新宿の人外魔境ぶりを考えれば世界一と言っても過言ではない。
「更に、女性に対する博愛主義の傾向があるようだ。主夫の神様にだってなれる」
「ちょ、ちょっと待ってください。どうしてそう思ったのですか?」
「うむ。いや、大したことはない。観察の結果だ」
「え?」
せつらの口がぽかんと開く。サラは滔々と理由を話した。
「実は、先ほど学校で皆と居た時、全員の行動を観察していた。
例えばクリーオウが友人の死を知り、呆然となっていた時に倒れないように支えた。
ナイト役は最終的に空目がかっさらったが、実に自然で優しい動きだった。
他にも傍目には見えてこないが、女性陣への態度は対男性時に比べ実に穏やかだ」
「……ずっと観察していたんですか?」
「この状況での情報は金銀よりも価値があるから」
半ば趣味だとは言わない。
269リサイクル(2/8) ◆eUaeu3dols :2005/05/15(日) 10:05:06 ID:98BLYvIG
二人は歩く。海岸のど真ん中の開けた場所を、堂々と。
「だから例えば、全員の癖だとか、角が立たないよう振る舞ってる者が居たとか、
今言ったようにあなたが女性に対して博愛主義の傾向が有る事にも気づいている」
「そうですか」
「おかげであなたの価値をまた一つ認識できた。
その上、“後腐れが無さそう”な事もわたしにとって実に理想的だ。
こんな状況でなければ口説いていたかもしれない」
やはり鉄壁不動の鉄面皮に平坦な口調で好きなタイプだと宣い出す。
彼女の真意は秋せつらにもよく判らなかった。
ただ、せつらの手の中に一つ紙切れが押し込まれたのは揺るぎない事だった。

『そんな、わたしにとって好みのタイプである上に信用出来る、
超一級の煎餅屋にして人捜し業まで営むナイスガイになら出来る依頼がある。
今もピロテースから依頼を受けているあなたに更に依頼は出来るだろうか』
『捜す人物が同一でなければ』
素早く返事が返る。サラは頷いて、歩きながらの筆談を続ける。
『実は、捜して欲しいのは特定の個人ではなくある条件を満たす人だ。
“刻印”について何か知っている人、解除しようとしている人を捜して欲しいのだ』
『詳しい話をお願いします』
『わたしは刻印を外す事を画策している。
この刻印には、知っての通り管理者の任意でわたし達を殺す機能が有り、
更に生死判別機能、位置把握機能、盗聴機能を持っている事を確認している。
この刻印を外す手段を見つけなければ、わたし達は管理者達に手も足も出ない
そして――』
会話が筆音を誤魔化すように、波の音が僅かに残る筆音さえも掻き消していく。
海洋遊園地を出てから神社までの300mの波打ち際が、筆談を完璧な物にしていた。
『――というわけだ。というわけなので、空目以外の刻印への抵抗者を捜して欲しい』
現時点の情報と、それが空目との協力で得た物である事を伝え、サラは依頼した。
せつらは頷いた。
『判りました。その依頼、お受けしましょう』
270リサイクル(3/8) ◆eUaeu3dols :2005/05/15(日) 10:08:40 ID:98BLYvIG
潮騒に紛れた筆談が終わってから少しすると、二人は神社へと到着した。
森に囲まれた、人気が無いがらんとした神社。
「やはり、禁止区域の袋小路に人は居ないか」
「ええ、生きた人は居ないようですね」
だが、誰も『無い』わけではなかった。
神社の境内には、一つの死体がごろんと転がっていた。
銀色に輝く左腕を持つ、その死体の頭部は粉砕されていた。
それは丁度3時間前に、オドーに頭を叩き潰されたジェイスの死体だった。

サラは死体の数m背後の地面に屈み込んだ。
「何か見つかりますか?」
せつらの言葉に、頷く。
「ここに跳躍痕が有る。その姿勢と、手に握っている砕けた剣からして……」
地面を指差し、そこから死体へと放物線を示し、次に入り口の鳥居近くを指差す。
「跳躍して誰かに斬りかかろうとした所を、背後上空から何かに撃たれたようだ」
「背後上空からですか。鳥居の上に誰か居たのかもしれませんね」
鳥居を振り返るせつら。
サラは空を仰ぎ見た。
「あるいはそれこそ空を飛んでいたのかもしれない」
だが、澄み切った青い空には一片の影すら見当たらない。
例え空に何か居たにせよ、それはもうここには居ないのだ。
「どちらにせよ、今から気にする事でもないでしょう?」
「確かに。死斑と死後硬直が現れ始めている。死後2〜4時間という所か。
下手人は既に周辺には居ないと考えて良いだろう。
遭遇する事があるかも不明だ」
今考えるべきはカードキーの事。あるいは……
「しかし、限り有る資源は大切にしなければならない」
サラは、名も、顔さえ知らぬ首無し死体の残した物を見下ろした。
271リサイクル(4/8) ◆eUaeu3dols :2005/05/15(日) 10:10:00 ID:98BLYvIG
刀身を砕かれた魔杖剣・断罪者ヨルガの柄を握りしめる。
「それ、使えるんですか? 砕けてますよ」
「心配は無用だ。わたしの世界の“杖”は魔術のシンボル以上の役割を持たなかった。
それに対し、この“杖”は本来の機能こそ失われているが、
特殊な材質で作られた魔術の増幅具とでも言うべき物のようだ。
例えこんな有様になっていても――」
“杖”を一振り。それだけで空気中の水分が凍結し、氷の球体が生まれた。
空いている方の手で氷の球体を撫でると水に変わり、蒸気に変わり、霧散する。
「――そう捨てた物では無い。悪くない使い心地だ」
「なるほど。役に立つようですね」
「そう、とても役に立つ」
といっても、戦力としてではない。
元々、サラの世界の魔術は杖が無くても有る程度は使用できる。
(元の世界で杖が手元に無い時は、同時に魔術を封印されている事が多かったのだが)
また、そもそもサラは戦いにおいてあまり魔術を使わないタイプだった。
彼女の得意とする武器は知略とハッタリと爆弾なのである。
彼女が魔術をよく使う場面は、格下の相手をあしらう時か、あるいはその逆。
ここぞという時、これという事の為だ。例えば、この状況では……
(刻印の解除の為に、杖は必要だ)

それと、サラはもう一つ気になる事が有った。
砕けた刀身を頭の中でパズルのように並べ、本来の形を復元する。
この“杖”は剣の形状をしている。
だが、弾丸を篭めるような奇妙な部分が有るのだ。
まるで杖であり、剣であると同時に、銃でもあるかのように。
そして、問題となるのはその弾倉。
(賭けてもいい。クエロが持っていた弾丸がすっぽりと納まる)
無論、たまたま同じサイズなだけかもしれない。
だが勿論、そうでないかもしれない。
(刀身も持っていった方が良いだろう。魔法生物の材料にだってなる)
サラは砕けた刀身を布でくるむと、デイパックの中に放り込んだ。
272リサイクル(5/8) ◆eUaeu3dols :2005/05/15(日) 10:10:58 ID:98BLYvIG
更に死者のデイパックを開封する。
「地図に禁止区域のメモが無いな。
どうやら6時より前、つまり3時間以上前に死亡したらしい。
水と食料が概ね残っている。……すまないが、頂いていこう。
おや、これは」
「どうしました?」
サラは『AM3:00にG-8』と書かれた紙と、鍵を見せた。
「どうやらわたしと同タイプの支給品は他にも有るらしい。
この男のものか、あるいはこの男が誰かから頂いた物だな」
それも時間制限付きという、サラの物より更に制限の厳しい物だ。
「誰かに斬りかかった事、刀身に彼より乾燥した血が付いている事からして、
もしかすると誰かを殺して奪った物だったのかもしれない」
「物騒な話ですね」
殺し殺され奪われる。仁義無き戦いだった。
「それで、リサイクルはもう終わりですか?」
「他に何か……いや、そうか」
サラはその問い掛けの意味に気づいた。
そう、恐らくジェイスの残した中で、最も価値のある物。
それは……
「………………死体か」

死体にまだ刻印の機能は残っているのか。
この死体をすぐ近くの禁止エリアに放り込めばどうなるのか。
あるいは、肉体が死を迎えれば、刻印は解除されるのか。
そのどれもが、これ以上無いほどに貴重な情報だ。
(だが、それは許される事だろうか?)
死者の物を勝手に頂いている以上、今更ではある。
医学を学んだ時に解剖実験に参加した事も有る。
前科無し傷害未遂の悪霊を狭い壺に押し込もうとしたり、
勝手に人畜無害な吸血鬼の血液を採取して研究した事も有った。
禁断の死後の世界にずかずか踏み込んで見物して帰ってきた事も有ったし。
死者を、ではないが、罪無き恋する乙女を勝手に悪霊を呼ぶ囮にした事も有った。
273リサイクル(6/8) ◆eUaeu3dols :2005/05/15(日) 10:12:39 ID:98BLYvIG
(おや、振り返ってみるとなかなかの暴れん坊だな、わたしは)
実に今更であった。
既に魂の抜けてしまったこの死体が刻印を発動させても、誰も被害を受けない。
サラは、せつらに頷きを返した。

どうせ刻印に有ると思われる発信器としての機能で、この実験はバレるのだ。
ならばいっそ、宣言をした方が良いだろう。
「そうだな。禁止区域の範囲を正確に調べたい。その死体が使えるかもしれない」
そう、単なる禁止区域の範囲を正確に知るための実験と偽った。
地図ではその正確な位置は判らない。地図自体がやや大雑把な物だからだ。
だからこの建前は十分な説得力を持っていた。
「では、死体の方にご協力願いましょう」
せつらの鋼線が閃いたかと思うと、ジェイスの死体がぎこちなく起きあがる。
秋せつらの魔技は人を意のままに操る事さえ可能とし、死者すらもその手中に落ちる。
例え扱いづらい鋼線であっても、視界内で簡単な動きをさせる程度は容易であった。
「行け」
せつらが重たげに腕を振る。
それに応え、死体はゆっくりと歩き始めた。
……禁止エリアへと。

「あと1歩から10歩ほどのはずだ。ゆっくりとお願いする」
「判りました。10歩進んで発動しなかったら、戻りますからね」
もし死者の刻印が発動しなかった場合、それに気づかずに自分達が自滅したら、
それは単なる間抜けである。この実験は慎重に行わなければならない。
死体の歩みが更に遅くなる。20秒に1歩。
……2歩。……3歩。……4歩。……5歩目を踏みだそうとしたその時。
忌まわしい刻印は、形骸へと役目を発揮した。

既に破壊されたその身の内、本来魂が有る場所が砕かれていく。
肉体としての器ではなく、魂としての器が浸食され、崩れ去る。
知識の為に行われる死体の更なる破壊。それは正しく、死体の解剖だった。
刻印の発動が納まると、せつらは鋼線を引き戻し、死体を回収した。
274リサイクル(7/8) ◆eUaeu3dols :2005/05/15(日) 10:15:02 ID:98BLYvIG
再利用は終わった。
実験にまで使わせてもらった死体を、データを取ってから浅く埋葬すると、
サラは、これでエリアの正確な位置が判ったと呟きながら、
この“解剖実験”により得られたデータを紙に書き込んでいた。
「少し顔色が悪いですよ」
「おや、そうか」
いつもながらの鉄面皮で首を傾げる。
そうかもしれない。彼女だって、気分を悪くする事は有る。
サラは僅かに寒気と吐き気を感じていた。
「問題無い。許容範囲だ」
間近で改めて見た刻印のもたらす破滅は、相手が死体であっても残酷な物だった。
だが、おかげで得られた情報も多い。
刻印の発動の様子。魂の器とも言う部分の破壊痕。死体だからか20秒ほど遅れた発動。
それらをしっかりとデータに纏め、紙に書き込む。

そんなサラを見やりながら考える。
(どうやら完全な冷血女でも無いようだ)
割と呑気に。
せつらにとって、この実験は別に大した事ではない。なにせ、提案したのは自分だ。
もちろん得られた結果は重大な物だが、生憎とせつらの担当分野外だ。
サラに任せておくしかないだろう。
(よく冗談か本気か判りにくい事を言う癖は困ったものだけれど)
後腐れが無い貴方が好みだという発言の真偽は未だによく判らなかった。
冗談に思えたが、考えてみれば案外本気かもしれない。

しばらくしてサラは顔を上げると、
びっしりと書き込まれたメモをデイパックの中にしまい込んだ。
「それじゃ、行きますか」
「そうだな、行こう」
何処へ、と訊く必要は無かった。
まだ、ここへ来た最初の理由が残っているのだから。
275リサイクル(8/8) ◆eUaeu3dols :2005/05/15(日) 10:15:26 ID:98BLYvIG
賽銭箱に見つけたスリットにカードキーを通す。
すると賽銭箱がガラガラと横に移動し、その下に1m四方程の穴が開いた。
さっさと下に滑り込み、周囲を見回す。そこに有ったのは……
「地下連絡通路。それに案内板付きか。当たりかな、これは」
薄暗い通路が二方向に伸びていた。
北へ。海洋遊園地地下を経て学校、そこから市街地や地下湖に続く道。
東へ。海岸の洞窟を経て城の地下、そこから北に伸び地下湖に続く道。
更にその通過地点全てに出入り可能を示すマークが付いていた。
つまり、隠された出入り口がそれらの建物の地下にも有ったのだ。
それに加え、幾つかの枝道は、島の東北にまで続いていた。
「ここを通れば、学校まですぐに帰れますね」
「それどころか城に寄って、地下から様子を見て地下湖を経て帰ってもいい」
顔を見合せる。
「さあ、どうしたものだろう」「どうしたものでしょうね」
恵まれすぎて恐い。

【H−1/神社の地下連絡通路/1日目・10:20】
【神社調査組】
【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、断罪者ヨルガ(柄のみ)
[道具]: 支給品二式、断罪者ヨルガの砕けた刀身、『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
刻印が発動する瞬間とその結果を観測し、データに纏めた。
【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:支給品一式
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/刻印解除に関係する人物をサラに会わせる
依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。刻印の機能を知りました。
276第二回放送 ◆PZxJVPJZ3g :2005/05/16(月) 00:02:26 ID:mu4efi/M
ゲームに参加するものに等しく聞こえる声がある。
それは絶望と憎悪を振り撒く鐘である。

「諸君、これより二回目の死亡者発表を行う。

001物部景 010ヴィルヘルム・シュルツ 014 ミズー・ビアンカ 019シズ 027アメリア 029ゼルガディス 
061小笠原祥子 072新庄運切 075オドー 081オフレッサー 099鳥羽茉理 103イルダーナフ 105リリア

……以上、13名だ。
次に禁止エリアの発表を行う。13:00にE-6、15:00にD-3、17:00にF-3が禁止エリアとなる。
ふむ、先程の放送の約半分か、まずまずといったところだが……まあいい。
それと、いまからフィールドに多少の変化を与える事にした。
準備に少々時間がかかるため今すぐとはいかないが、まぁその時を楽しみにしてるといい。
今一度言っておくが、これは己が生死を賭けたゲームだ。勝者はただ1人のみ、例外はない。
その事をよく考えて、殺し合いに勤しむといい。それでは諸君等の健闘を祈る」
277第二回放送 ◆PZxJVPJZ3g :2005/05/16(月) 00:03:15 ID:mu4efi/M
書き忘れた……_| ̄|○

[備考]
14:30より3時間、島内全域に雨が降る。また以降1時間は霧に包まれる。

278・――意志は壁を穿つ。(1/4) ◆J0mAROIq3E :2005/05/16(月) 00:07:18 ID:up/tus9E
 ――072新庄・運切――
 その名は何の感慨もなく、無機質な声で頭に響いた。

 予め、感じてはいた
 詠子の言葉と得体の知れない胸の痛み。
 予め、考えてはいた。
 傷つけることを躊躇う新庄の正しさが、このゲームでは裏目に出ることを。
 ただ一つ。
 心臓を抉られるようなこの痛みだけは、予測できなかった。

「くっ……ぅ……」
 悲しみは脳へ到達する前に胸で激痛へと置換された。
 たまらず地へと崩れ落ち、アスファルトに強く五指を立てる。
 顔色は死人に等しく、滴る汗が路面を濡らす。
「大丈夫?」
 ――なに心配は無用だ。君の知人は息災かね?
 そう言おうと開いた口からは、引きつれた息だけが漏れた。
 認めてしまおう。
 元よりこの女性に心を隠すことはできない。
 ましてや心に亜(に)たものしか持たない役――悪役たる自分が何を隠せるものか。
「詠子君……申し訳ないが、少しばかり周囲を見回ってきてはいただけないだろうか」
 何も言わず、聞かず、詠子は頷いた。
279・――意志は壁を穿つ。(2/4) ◆J0mAROIq3E :2005/05/16(月) 00:08:18 ID:up/tus9E
 新庄・運切。
 その名から思い出される数々の言葉と光景。
 悪役の対極に立つ人。おかしく、有り難い人。共に在りたい人。
 初めての出会い。聖歌・清しこの夜。
 運と切。二つの体。両親を求める記憶喪失の子供。
 根性シューター。人を撃てない優しさ。人を殺せない正しさ。
 長い黒髪。胸から尻、腿の丸さとその手触り。
 照れた頬、はにかむ唇、触れる指先、自分へ紡がれる無数の言葉と想い。

「すまない新庄君。……君の死を、防げなかった」
 意志に反して流れる涙を指で拭う。
 ああ、決して忘れまい。忘れるものか。
 あらゆる瞬間の新庄を。今のこの感情を。これまでの想いを。
 だが、今立ち止まることは許されない。
 新庄が死んでもこの狂ったゲームは少しも変わらない。だから。
「――止めてみせよう」
 嘆きも後悔も、全ては後だ。
 持てる力の全てを以て、自分以外の全ての人間の力を以て。
 脅し利用し騙すことさえ厭わず、この島の歪みを変形するほどに矯正して。
 この馬鹿げた篩を壊し、黒幕連中に教訓を与えよう。
 悪役として。しかし、新庄の望んだであろう形で。
 それが出来なければ、自分に悪役を名乗る資格などありはしない。
 それだけが――今の自分が送れる、最大の手向けなのだから。 
280・――意志は壁を穿つ。(3/4) ◆J0mAROIq3E :2005/05/16(月) 00:09:44 ID:up/tus9E
「……もう、いいかな?」
 立ち上がる背中に詠子の声がかかる。
「ああ。私は前へ進む。何もかもを切り捨てず、進撃する。
 私は人を傷つけることを厭わず、しかし誰も殺さず、主催者さえ殺さずにこのゲームを止める」
 決意の表れを口にする。流す涙は既にない。
 全てを終えるまで意志を貫き通すと、その声が告げている。
「差し当たって、先ほどの放送の内容を教えてもらえるかね?
 恥ずかしながら聞き逃してしまったのでね」
 顔色は悪いままに、言葉はもはや落ち着いている。
「……やっぱり凄いね、『裏返しの法典』君は。自分の優しさと弱さにさえ容赦しないんだから」
 呆れたような称賛するような言葉をこぼし、詠子はマークした名簿と地図を見せた。

「オドー大佐まで、か。聞こえてはいたがにわかには信じられなかったよ。
 生身で機竜の編隊と渡り合える超人が、とはね」
 彼は己の正義に殉じられただろうか、と答えのない問いを想う。
「それじゃあ、そこまでの力を持たない私たちは諦めるのかな?」
 試すような詠子の問いを、佐山は首の一振りで否定。
「断じて否、だ。愚問だね詠子君。私は殺人者も主催者も殺す気はなく、しかし許さず容赦もしない。
 諦めなどその辺にかなぐり捨て、余剰スペースに前進の意志を込めたまえ。
 私はこれより全力で動き始める。同行の危険は今までより大きいかもしれないが……ついてくるかね?」
「それもまた愚問だね。私はあなたが気に入ったの。
 欠けて傷ついて、それでも折れず破れないあなたの魂を私は尊敬するよ。
 あなたは生き続ける限り物語であり続ける。だから、私は最後まで法典君の味方だよ」
 誰にも理解できない理由で、魔女は契約の言葉を口にした。
281・――意志は壁を穿つ。(4/4) ◆J0mAROIq3E :2005/05/16(月) 00:10:26 ID:/EFhPitW
 詠子の言葉に力強く頷き、佐山は懐から一枚の紙片を取り出す。
『ついては君の“魔女”としての力を借りたい。
 君の企んでいること隠していること、全て吐きたまえ。利用させてもらう』
 確信に満ちた笑みを詠子は否定しなかった。
「……ばれちゃってたんだねぇ」
 微かに恥ずかしそうに小首を傾げ、魔女は目だけで満面の笑みを浮かべた。

【C-6/小市街/1日目・12:10】

『Missing Chronicle』
【佐山御言】
[状態]:精神的打撃(親族の話に加え、新庄の話で狭心症が起こる可能性あり)
[装備]:Eマグ、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)、地下水脈の地図
[思考]:1.風見、出雲と合流。2.詠子の能力を最大限に利用。3.地下が気になる。
【十叶詠子】
[状態]:健康
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)
[思考]:1.佐山に異界の説明(ただし常人に理解可能な説明ができるかは不明)
     2.物語を記した紙を随所に配置し、世界をさかしまの異界に。
282大佐の決意 ◆RG9zhxsXMI :2005/05/16(月) 00:23:48 ID:7KGU6M60
しずくは泣きながら草原を駆けていた。
もうどうしていいかわからない…だから早く私を見つけて欲しい…でも
彼女の脳裏に宗介の悲痛な表情が浮かぶ…ダメだ言えない。
例えBBや火乃香さんたちにも…一体どうしたらいいの?私一人じゃ抱えきれないよこんなの。
八方塞がりの中、彼女が出来たこと、それはただ野を駆けることだけだった。
見た目に反して頑丈な身体を精一杯動かし、林の中を藪を走る。

気がつくとそこにはムンク小屋があった。

「どうしましょう…」
テッサは小屋の外で頭を抱えていた。
中からはリナとダナティアの口論が聞こえてくる。
本来ならば止めねばならないのだが、彼女らが自分の言葉を聞くとは思えない。

なぜならば彼女らは自分と違い、直接戦場に立ち戦場の匂いを肌で感じ生きている存在。
いかに軍人とはいえ基本的には安全なブリッジの中で命令を下すだけの自分の
言葉が通じるとは思えなかった。
「サガラさん…」
彼女は今、一番そばにいて欲しい人の名前を呼ぶ。
彼は今何をしているのだろう?かなめさんをやはり探しているのだろうか?
もしかすると一緒にいるのかもしれない…。
そう思うと胸が痛んだ、どうして?
そんな時だった…わずかな声が耳に入る。
「ソースケさん」
テッサは声の聞こえた茂みの中に目をやる、そこにはまだ年端のいかない子供が
目を真っ赤にしてさめざめと泣いていた。
283大佐の決意 ◆RG9zhxsXMI :2005/05/16(月) 00:27:45 ID:7KGU6M60
「そんなことが…」
しずくの語る内容はまさに晴天の霹靂だった。
かなめが敵の手におち、そして宗介がその敵の手先とならざるを得ない状況に陥っている。
リナたちに早く教えなければ…いやそれは危険だ。
下手を打てば宗介の命が危なくなる、彼女らは別に宗介のことなどただの他人でしかない。
それに迷惑は掛けられない、彼女らには自分と違い人々を救える明確な力が、
そして大切な役目があるのだ。
これは自分の問題…少なくともかなめに接触し、何らか情報を引き出すことができれば
また状況は変わる、リナやベルガーらに相談するのはその後だ。
「場所はわかるんですね?」
「はい」
地図を見るテッサ、ここまで正確な位置がわかれば、接近し共振を試みることが出来る。
かなり危険な賭けだが、やらねばならない。
今こそ自分が彼らを救わなければ…。


だが…彼女は心の奥底で思う。
情けないと、何故彼女は、かなめは自ら死を選ばなかったのだろうかと。
(私なら…サガラさんの負担になるくらいなら命を絶つのに)
自分にもその覚悟があるのに…でも彼は彼女を選んだ…。
一抹の寂しさを抱えつつも、テッサは携帯電話を軒先に置き、
必ず戻ります、心配しないでとメモを残し
しずくと共にムンク小屋を後にした。
284大佐の決意 ◆RG9zhxsXMI :2005/05/16(月) 00:31:45 ID:7KGU6M60
【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ。(撲殺天使ドクロちゃん)
【道具】荷物一式。
【思考】テッサを教会に案内

【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:やや焦っている
[装備]:UCAT戦闘服
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:教会に向かいかなめに『共振』を試みる。

【G-5/12:40】
285生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ ◆lmrmar5YFk :2005/05/16(月) 00:49:03 ID:GHvqjN7o
どくどくどくどくどくどくどくどく。
腹の穴から血が流れていく。
どくどくどくどくどくどくどくどくどく。
意識が朦朧とする。
どくどくどくどくどくどくどくどくどくどく。
目が霞んできた。
どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく。
流出する血の量は次第に多くなっていく。

俺は死ぬのか? 胸中で一人自問自答する。いいや、正確には自問だけだ。答えは出ない。
むしろ分かりきっていて出す気にもなりゃしねぇ。 この傷は――そのうち死ぬ。
臨也の糞を殺しておきたかったなぁとか、あの赤毛の野郎を殺しておきたかったなぁとか、
でかいおっさんを殺しておきたかったなぁとか、くだらねぇゲームの主催者を殺しておきたかったなぁとか。
そんな事ばかりが縦横無尽に脳内を駆け巡る。
死の間際にも他者を殺すことしか思いつかない自分が、馬鹿みたいだと思った。
死の間際にも他者を貶すことしか思いつかない自分が、最低だと思った。
そして、死の間際にも自分が自分であるという単純なことが、最高だと思った。

目蓋が鉄を乗せられたように重い。目を閉じて眠ってしまいたい欲求にかられる。
寝たら死ぬかな、と考える。こちらの方も感じ取れる答えは簡単すぎて、わざわざ単語に置換するのが面倒だ。
だが、それでもいいと思う自分がどこかにいる。
俺の中の弱い部分。臆病で臆病で己にすら怯えている、親とはぐれたガキのような部分。
人には決して見せられない心の奥底で、そいつが甘い声を上げて俺を誘惑する。
286大佐の決意 ◆RG9zhxsXMI :2005/05/16(月) 00:49:18 ID:7KGU6M60
>>282-284
はNGとさせていただきます、ご迷惑おかけしました。
287生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ ◆lmrmar5YFk :2005/05/16(月) 00:49:45 ID:GHvqjN7o
――もういいだろう、平和島静雄。これでやっとお前はその馬鹿な身体とおさらばできる。
なかなかお前の言うとおりになってくれなかった、力だけは無駄にある最低最悪の身体。
人を傷つけて、恐れさせた身体。お前自身まで怖がっていた、憎んでいた身体。
死ねば、やっとそいつから逃げ出せられるんだぜ? ほら、力を抜けよ――。

鎌を振るった死神が、俺に向けておいでおいでと手招きをする。先に見えるのは、奈落の闇。
その誘いに、ああ、そうかもなと俺は応える。そうだ。俺は今まで何度もこの身体に悩んできた。
自分の物なのに自分の思い通りにならない筋肉を、神経を、髪から足の爪の先までの全てを嫌悪していた。
数え切れないほどの人を傷つけてきた、守りたかった人すらも離れさせた拳の力。
それを捨てられるなら、死ぬのも悪くねぇかもな。けど……。
「……俺はなぁ、もうてめぇの言いなりにはならねぇんだよぉ!」
絶叫して俺は両足に力を込めた。膝ががたがたと震える。
思考停止は何よりも馬鹿らしい。諦めるな。止まるな。生きろ。生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ!
糞下らねぇ俺の身体さんよ。こんな時に使い物にならねぇで一体いつ有効に使えるってんだ。
動け。俺の命令どおりに動きやがれ。歩いて歩いて、血反吐吐いてぶっ倒れる瞬間まで歩きやがれ!
咆哮のような命令に足は応えた。大丈夫だ、これなら十分に動ける。
刺さったままだった槍の柄を握って力任せに抜き取ると、ごぽぅっと耳をふさぎたくなるような音がした。
腹部に走った激痛を、意志の力で無理やり押さえ込む。
そうさ。『痛くはない』。ぶっ飛んだアドレナリンが、俺に痛みんか感じさせずにいてくれる。
シャツの袖を引きちぎって適当に腹に巻きつける。ぎゅっときつく縛ると、布地に黒々と血の染みが生まれた。
抜いた血濡れの槍を杖代わりに床に突き立てると、そのまま一歩足を前に出す。
息が切れる。ぜぇはぁと。吸っても吸っても肺に空気が溜まらない。
前進するたびに鈍痛が下腹をしたたかに襲うのを無視して、俺は歩みを速める。
288生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ ◆lmrmar5YFk :2005/05/16(月) 00:51:00 ID:GHvqjN7o
俺を好きほど痛めつけてくれた赤毛の男は、いつのまにかこの場を去っている。
糞、あいつはそのうちぜってぇぶっ殺してやる。余裕な顔しやがって、何様のつもりだ。死ね。
俺が殴ったおっさんの方はまだ脇に倒れたままだったが、生死を確かめるつもりも止めを刺すつもりもなかったので放っておいた。
俺はただ、ここから離れたかった。外に出たかった。空が見たかった。
生きていることを、今まで不要だったこの力が意味を持っていることを実感したかった。
城門を抜けるとそこは晴天で、上空から射す陽光が顔を赤く照らした。
吹く風が心地よく、俺は無意味に大きく深呼吸した。
そのままどこかに歩き出そうとした刹那、俺の耳に二度目の放送が飛び込んできた。
あの場に寝転がっていた間に、いつの間にか三時間近く経っていたことに驚きつつ、
その羅列の中に知っている名前が存在しなかったことに、俺はほっと安堵した。
臨也はどうでもいい。俺の手で殺れねぇのは残念だが、とりあえずまったくもってどうでもいい。
だがセルティは。彼女だけは死なせるわけにはいかない。数少ない自分の友人の彼女だけは。
セルティの強さは知っているから、そう簡単にやられるとは思えない。
とはいえ、さっきの赤毛のような常識以上の異常な存在がいるこの島では、『必ず』なんて言葉は存在しない。
彼女が次の放送まで生きていられる保証など、島中のどこを探してもないのだ。
俺は今、人生で初めて己の力に感謝した。
ああ、二十年以上も生きてきて、こんなに嬉しいのは初めてだ。
歓喜と昂揚で心が奥底からふつふつと煮え立ち、器から溢れたそれが沸騰した湯のように体外へと吹き零れていく。

――この馬鹿げた力が、誰かを守るために使える日が来るなんて。

俺はくすりと笑って、再び歩き出した。
289生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ ◆lmrmar5YFk :2005/05/16(月) 00:52:07 ID:GHvqjN7o
【G-4/城門近く/1日目・12:03】

【平和島静雄】
[状態]:下腹部に二箇所刺傷(未貫通・止血済み)
[装備]:山百合会のロザリオ/宝具『神鉄如意』@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:俺の力でセルティを守る/赤毛(クレア)を見つけたら殺る

【G-4/城の中/1日目・12:03】

【ハックルボーン神父】
 [状態]:全身に打撲・擦過傷多数/気絶中
 [装備]: なし
 [道具]:デイパック(支給品一式)
 [思考]:神に仇なすオーフェンを討つ
290気になる名前 1/5:2005/05/16(月) 02:11:29 ID:T6V6KJRi
「どうやらお互い、知ってる名前の脱落はなかったようだね」
無人のコンビニからくすねた缶コーヒーを飲みながら、折原臨也が声をかけた。
「そうですね、私としてはあのまま、出血で赤き征裁が死んでくれる事を望んでいたのですけど」
同じようにオレンジジュースを飲みながら萩原子荻が答える。
B-3にあるビルの一室、そこで二人は休憩をかね今後の方針を話し合っていた。
「しかし当てが外れたね」
無人のビルに臨也の声が響く。
「ええ、まさか、あの怪我でこの短時間に移動するとは思いませんでした」
哀川潤を撃った事でアジトを追われた二人の行動指針は、仲間を作るといったものだった。
刻印を何とかできる人物を探すためとこのゲームにのっている人物に狙われにくくするため。
よしんば狙われても『仲間』を犠牲にする事で助かる可能性も増える。
駒が多くなればそれだけ打てる策も増えてくる。
そこで出た案が子荻自らが撃った相手との共闘だった。
仲間が一人ライフルで撃たれた、さぞや不安になるだろう
そんな状況下で友好的でゲームにのっていなさそうな人間を見れば
話ぐらいはできるだろうと思ったし、そのためにライフルまで隠しておいたのだが。
「死体も無いって事はどこかに逃げたんだろうけど、よくやるね」
つまらなさそうに臨也が言う。
291気になる名前 2/5:2005/05/16(月) 02:12:00 ID:T6V6KJRi
「ビル内に争った形跡がありますから、それが原因でしょう」
「原因はともかく、これで状況は振り出しだね、どうしようか?」
ここを第2のアジトとして留まるか、それとも仲間を探すため外に出るか。
「とりあえず、動いた方がよさそうですね、思ったよりペースが速いです。
最初に10人程度残るまで共闘といいましたが、下手をすると気づいたときには
私達以外全員が怪物揃い、といった事になりかねません、
そのときのリスクと今犯すリスクを考えれば動くべきでしょう」
もっともな話だ。元々二人の狙いはこの場からの脱出。
そのためには、多少危険でも動くしかない。
そして、その危険に対する保険、切り札もお互い隠し持っているだろう。
「で、荻原さんの方は刻印について知識があって、友好に話が出来そうな人物に心当たりある?」
名簿を広げながら臨也が問う。
「私の世界には異能力を持つ人間はいましたがこの手の物に対しての知識は無いですね。
強いて言えば操想術専門集団『時宮』が近い気がしますが、
いくら彼等が呪い名とはいえ本当にこんな呪いをかけられるわけがありませんし」
同じように地図を広げながら子荻が答える。
「呪い名・・・・・・か、本当に近いようで遠い世界だね」
最初のアジトでの情報交換の際に出た名前だ。
彼女等の世界における一つの勢力『呪い名』そして『殺し名』
情報屋である彼の耳に入ってこないのだから、本当に別世界の話なのだろう。
292気になる名前 3/5:2005/05/16(月) 02:12:25 ID:T6V6KJRi
「そうですね、話を聞いてると、出版されている雑誌や音楽、史実などは完全に同一ですが」
そうなのだ、臨也と子荻の世界は数少ない差違を除けばほとんど同一といっていい。
「パラレルワールドって奴かな?まさかそんな話が本当にあるとは思わなかったけど」
よくSFや遊馬崎達が読んでる小説などに出てくる話だ。
「平行世界ですか、無い話ではないと思っていましたが、
もしかしたら、よくある神隠しや集団失踪事件などのなかには、
私達のように異世界に連れ去られた、というものもあるかもしれませんね」
彼女にしても実際にこんな体験をしなければ鼻で笑い飛ばす話だろう。
「ノーフォーク大隊みたいな話かい?無いとは言い切れないだろうね、実際に遭遇すると。
まあ、そんなことは戻れたら考えよう。今は仲間さがしだけど、俺に一人心当たりがある」
そう言うと、臨也は名簿の一人に○をつけて子荻に渡す。
「彼女は俺の知り合いでね、刻印について、もしかしたら知っているかもしれない」
臨也の台詞に、子荻が名簿に目をやる。
「セルティ・ストゥルルソン・・・・・・ですか?」
外国人としてならば、何の変哲もない名前だが。
「実は、彼女はデュラハンでね、何百年か生きてるそうだ、もっとも記憶喪失らしいけどね
物語の中ではデュラハンは死を告げる妖精だし、もしかしたら刻印に何か心当たりがあるかもしれない」
子荻は流石にデュラハンと何気なく言われて驚いたが、
今までの体験から考えるとデュラハンぐらいはいてもおかしくないとも思えた。
しかし、不安な点もある。
「大丈夫なんですか?というか、意思の疎通ができるんですか?デュラハンと」
はたから聞けば、デュラハンなど零崎や匂宮以上に会いたくない相手だ。
「その点については大丈夫だよ、それじゃあ行こうか、隠しておいたライフルも拾っておかないといけないしね」
ゆっくりと臨也が歩き出す。
多少、半信半疑ながらも子荻も臨也の後を追い歩き出した。
293気になる名前 4/5:2005/05/16(月) 02:12:48 ID:T6V6KJRi
デュラハン、物語の中の生き物。
もし何らかの手段で臨也がそんな怪物を手懐けていて、合流した時に裏切ったとしたら?
(それならそれでいいでしょう)
もし、折原臨也が何かを企んでいたとしても。
(例え相手がデュラハンであろうとも、私の名前は萩原子荻。
私の前では怪物だって全席指定、正々堂々手段を選ばず
真っ向から不意討って見せましょう・・・・・・それよりも)
歩きながら、再び名簿に目をやる。
(この、『いーちゃん』というふざけた名前がやけに気になるのは何故でしょう?)
294気になる名前 5/5:2005/05/16(月) 02:13:08 ID:T6V6KJRi
【B−3/ビル内/1日目・12:25】
【折原臨也(038)】
[状態]:正常
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)ジッポーライター 禁止エリア解除機
[思考]:セルティを探す/ゲームからの脱出?/萩原子荻に解除機のことを隠す

【萩原子荻(086)】
[状態]:正常 臨也の支給アイテムはジッポーだと思っている
[装備]:ライフル(ビルの近くに隠してある
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:セルティを探す/哀川潤から逃げ切る/ゲームからの脱出?
295Refrain(1/6) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/16(月) 17:03:47 ID:VK/CbIu8
「正直言うて、俺もキツいんやけどなぁ……」
「すまないな。止血しても、流石に限界で……肩貸してもらわないと、歩けそうにもなくてな」
 クエロが去ったあの後。俺は傷の応急手当をすると、緋崎に肩を貸してもらいD-1の公民館へ向かっていた。
 最初は緋崎から「休憩せなあかん。もう一杯一杯や」と、有り難くも拒否のお言葉を貰っていたが、放送も近いので少し無理をすることにした。
 放送。それがただの定時連絡だったなら何も問題はなかっただろう。だが、問題は禁止エリアだ。
 もしD-1が次の禁止エリアになったりしたら目も当てられない。放送前に、公民館でミズー達と合流する必要がある。
 それと、クエロ……まさか、こんなに早く出会うとは思っていなかった。いや、思いたくなかった、だけかもしれない。
 昔の同僚。昔の相棒。そして――昔の恋人。
 クエロは、俺を許さないと言った。自分が殺すまで生き延びろ、と。
 俺もクエロを許さない。それは同じだ。だが、俺にクエロが殺せるのだろうか……
「……ユス……? おい、ガユス? どないしたんや!? おい、しっかりせんかい!」
「え? あ、いや、すまない。どうやら、考え事に没頭していたらしい」
「……何を、考えてたんや?」
「そのレーザーブレードのこと」
 即答で嘘を吐いた。
 俺はご丁寧にも指を突きつけると、緋崎のベルトに挟んである剣の柄に視線を送る。
「……便利な道具、や。あの白いマントの奴が説明書持ってへんかったからな、細かい使い方までは解らへんけど」
「そのことなんだけどな、ちょっと思いついたことがあって考えてたんだ」
 舌と頭が同時に働く。もしかしたらもうバレているのかもしれないが、それでも嘘は出来る限り隠し通さなければいけない。
 クエロの事を話すには、まだ早い。
 ――俺の、心の準備が。
296Refrain(2/6) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/16(月) 17:05:22 ID:VK/CbIu8
「なんや、言うてみい?」
「さっき、最後にクエロが放った咒式だが……」
「『魔法』みたいなもんやな?」
「ああ、そう解釈して構わない。で、その咒式に触れた刃の部分が、咒式の一部を吸収して変色するのが見えた」
「魔法の上乗せが出来る光の剣、っちゅうわけか?」
「おそらくは、な。更に、刃の伸長率にも法則がありそうだ。
 クエロが一度刃を作ってみせた時、長さが白マントのものよりも短かった。多分、魔力だかなんだかの器量によって決まるんだろう」
「ちょい待ち。お前らんとこの世界にも、『魔法』はあるんやろ? そないに差ぁ出るもんやろか?」
「例えば、だ。免許制で限られた人間しか魔法の使えない世界と、大人から子供まで当たり前のように魔法に馴染んでる世界。
 俗に『魔力』って呼ばれるような力を操る潜在能力が、同じだと思うか?」
「……成る程、確かに差ぁ出てもしゃあないな」
 スラスラと言葉が口から滑り出ていく。こんな時でも、俺の舌は絶好調らしかった。
 クエロのことを頭から追い出す為、忌々しい想いを込めていつもの精神安定剤を心の中で言葉にする。
 ギギナに呪いあれ!


「お、ようやく到着やな。ほら、見えてきたで、公民館」
「ようやく、休めるな……もう忘れたがビルの中で追いかけられたような気がしないでもない幻覚を見た時から休んでないからな」
「せやな。もう忘れたがビルの中で追いかけられたような気がしないでもない幻覚を見てから休んでへんもんなぁ」
 本当に、あの熊は一体なんだったんだろうな……でもそれ以上は思考停止。もう忘れた。熊ってなんだ?
 それより、ミズー達はもう公民館に辿り着いてるだろうか?
 いざとなったら新庄の剣があるので、俺達より遅れるということもないとは思うのだが……
「で、どないする? 念の為に裏口回ってく?」
 俺と同じことを考えていたのか、緋崎が目配せをしてくる。
「……いや、正面からでいいだろう。
 確かに彼女達以外の何者かが中にいれば危険だろうが、裏口から回って万が一にでもミズーに敵と間違われたらもっと危ない」
 言って、その状況を想像してしまう。こんな時ばかりは俺の明晰な頭脳が恨めしい。
「というわけで、正面からいくぞ。足音を消す必要まではないと思うが、警戒は怠るなよ」
「先刻承知や」
297Refrain(3/6) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/16(月) 17:07:02 ID:VK/CbIu8
 方針が決まり、俺達は公民館に近付いていく。
 ボロボロの俺達を見たら、新庄はまた驚くかもな……膝枕をしてほしいとか言ったらしてくれるだろうか?
 多分盛大に引かれるから言わないけど。
 ミズーはどうだろう? ……きっと呆れたような溜息でも吐くんだろうな。
 悔しいので、またからかってみよう。拗ねた顔が可愛かったし。
 ……勿論後が怖すぎるので自粛するが。多分。
 そして、目の前に公民館の入り口が近付いてくる。
「……ええか?」
 緋崎は小さく「光よ」と呟くと、光の剣を構えて扉の前に立つ。
 あの白マント程は刀身が伸びず、光の剣というよりは光の短剣という風情だったが。
「ああ、いくぞ」
 俺はと言えば、何もできないので時計だけ確認して扉を開ける。

 ……現在、十一時五十七分。俺は、地獄の蓋を開けてしまったようだ。


『――ルツ、014 ミズー・ビアンカ、01――』
 煩い。黙れ。言われなくても解っている。
 目の前に、死体があるんだから。
『――原祥子、072 新庄・運切――』
 あぁ、畜生。頼むからやめてくれ。もう何も言わないでくれ……
「あ……あぁ……」
 何を悲しむガユス? 人の死なんざ見飽きているだろう? 仕方なかったんだ。今はそういう状況なんだ。
「違う……見ろ、この傷。まだ新しい。三十分も経ってはいないだろう。
 つまり、俺が最初から公民館を目指していればこうはならなかったんだ……クエロにも遭わなかったんだ!」
 違うな、冷静になれガユス。お前がいたからといってどうなる?
 咒式も使えず、満足に戦闘行動もできない。そんなお前がいて、彼女達を護れたのか?
 最初から公民館を目指していたとして、本当にクエロに遭わなかったのか?
「関係無い!! 俺は認めない。俺を認めない……黙れ。黙れ! 俺の思考を邪魔するなガユス!
 落ち着け。落ち着け! クエロのことは今は考えるな!」
 そうだ、落ち着け。いつもの俺になれ。冷静沈着な攻性咒式士、それが俺だ。
 クエロのことは忘れろ……
298Refrain(4/5) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/16(月) 17:08:10 ID:VK/CbIu8
 ――よし、意味不明で支離滅裂な喚き声はこれで終了。まずは現状を把握だ。
 緋崎は、放送が始まる少し前に「一応、他に誰かおらんか探してくるわ」と言って建物の奥に入っていった。
 放送も聞き逃してしまったし、後で緋崎に聞こう。
 そして、ミズーと新庄の死の原因……恐らく、この女だろう。
 見覚えのない黒髪の女が、ミズーの近くに倒れていた。その胸には、やはり見覚えのない銀の短剣。
 新庄がトイレの中で倒れている状況と照らし合わせる。
 恐らくは一般人の振りをしてここに逃げ込んできた第三の女が、ある程度打ち解けたところで気分が悪いとトイレに行った。
 新庄ならば、心配して覗きに行っただろう。
 その新庄を隠し持っていた短剣で刺し、トイレの入り口で駆けつけたミズーと相討ち。そんなところか。
 女の胸に短剣が残っているのは、犯人がここにいない第三者ではないことの証拠。消去法で犯人は黒髪の女。
 ここで行われた黒髪の女の行動は、つまり――
「……裏切り……」
 また、裏切り。この言葉は、どこまで俺を苦しめれば気が済むというのか。
 さっきの醜態も、裏切りという単語がクエロを連想させたからか……
 それとも、ジヴの代わりをミズーに見出していたのか……
 どちらにせよ、格好悪いことこの上ない。
 ところで……
「あぁ……それにしてもなんで……」

 なんで俺は、泣いているんだろう……
299Refrain(5/5) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/16(月) 17:08:43 ID:VK/CbIu8
【D-1/公民館/1日目/12:10】

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)、左腿に刺傷(布で止血)、右腕に切傷。戦闘は無理。軽い心神喪失。疲労が限界。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、ナイフ
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:これから、どうしようか……
[備考]:十二時の放送を一部しか聞いていません。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的に限界が近い。
[装備]:探知機 、光の剣
[道具]:支給品一式(ゼルの支給品からペットボトルを補給) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。他に、なんか人おったり物落ちてたりせぇへんかな?
[備考]:六時の放送を聞いていません。 骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は、まだ正確に判断できていません)

【014 ミズー・ビアンカ 死亡】
【061 小笠原祥子 死亡】
【072 新庄運切 死亡】
【残り81人】
300逃走─to so─闘争(1/2) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/16(月) 18:44:02 ID:xs2ErB3T
獣から危機一髪に長門を助け出したはいいが妙な女と対峙することになった。
明らかに殺るき満々な相手と対峙したからには、退治してやっても良いが心に秘める事は一つ。
(面倒臭えな)
殺戮は一日一時間だけ、とは言ってもそれは<殺人奇術の匂宮>としての仕事の時の話だ。
引退した今としては殺すのは面倒なだけだった。
問答無用で痛めつける、という手もあるが、そこまで露骨に手加減はできなさそうな相手だ。
それにまだ抱っこしている長門はかなりの疲労だ。お節介としての性格が出てきた。休ませたい。
先ほど降ろせと言われたが、長門の体重程度、抱えても全く問題にならなかった。
マージョリーと向き合いながらほとんど口を動かさずに長門に伝える。
──トンズラこくぜ 『それじゃあ』って言ったらしがみ付け
伝わったかどうかは確認せずにマージョリーに告げた。
「おいおいおねーちゃんよぉ!こっちは一日一時間しか殺戮できねぇっていったよな。
 生憎こんな昼にもなってないところで貴重な一時間を使う気なんてねぇな。
 どうしても戦いたいなら徒党でも組んでくるんだな!一時間で殺せるだけ殺してやるってーの。ぎゃははっ」
「…素敵な挑発ね。あんたの意思は関係ないの。強いんなら戦いなさい」
「そうかい。『それじゃあ』──」
言うが早いか、足元の土を蹴り上げ、盛大な土煙を上げさせた。
「ひゃっほうっ! あばよ、一喰い!」
土煙が収まらないうちにあたりの樹木を<一食い>でなぎ倒し、かく乱する。
そのまま荷物の重さを感じさせない速さで逃走した。
「ぎゃはははははっ! 長門! しっかり捕まってろ!」
「待ちなさい!」
マージョリーの叫びを無視して凄まじい速さで消えていった。
(なんか今回逃げてばっかりだな)
それもいいかも知れない。
殺しをライフワークにしていた殺し屋が誰も殺さずに逃げる。
おにーさん風に言えば──
「戯言だなっ!」
301逃走─to so─闘争(2/2) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/16(月) 18:44:38 ID:xs2ErB3T
【残り88人】
【E-4/草原/1日目・07:40】
【匂宮出夢】
[状態]:平常
[装備]:シームレスパイアスはドクロちゃんへ。
[道具]:デイバック一式。
[思考]:生き残る。あんまり殺したくは無い。 とりあえず休める場所へ。長門を休ませた後、一緒に坂井を探す。

【長門有希】
[状態]:疲労が限界/僅かに感情らしきモノが芽生える
[装備]:ライター
[道具]:デイバック一式
[思考]:現状の把握/情報収集/古泉と接触して情報交換/ハルヒ・キョン・みくるを殺した者への復讐?
[備考]:疲労の回復のため昼あたりまで休ませられます(出夢君が強制的に)

【マージョリー・ドー(096)】
[状態]:肋骨を一、二本骨折 (ほとんど治りかけ)
[装備]:神器『グリモア』
[道具]:デイバッグ(支給品入り)
[思考]:シャナ探索。あいつ今度あったら戦う

※E-4の木が数本薙ぎ倒されました
302勘違いと剣舞 その1  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:29:28 ID:kB3qy5h7
11:00、巨木の下で一休みしているときに放送を聞いた九連内朱巳は、ただただ不機嫌だった。
彼女は被害者に対し感情を吐き捨てる。
(まったく、馬鹿なやつらね。放り込まれて、追い込まれて、助けを求めて、自滅して……。
冗談じゃない、そんな死に方真っ平ゴメンだわ。そういうのを甘えてるっていうのよ!)
彼女にとってこの状況はいつもと変わらなかった。周りに自分より弱い者はいない、
気を抜いてミスをした瞬間に命はない、それはここでも向こうでも同じだった。
彼らの行為はあのシステムの中で『皆で中枢を倒し、自由に生きよう!』等と叫んでいることと変わりがない。
そんな策もない愚かなことをしていれば、3日後にはその姿は消えている。
理想だけでは生き残れない、彼らはそのことを知らなすぎた。
朱巳は他の2人の表情を見る。ヒースロゥの眉間には皺がよっていた。少し話しただけだが彼の思考からして
怒りの矛先は自分とは違い殺した方に向けられているだろう。
屍は相変わらずの顔だ。なんの乱れも生じていない。この程度のこと、彼の言う魔界では日常茶飯事ということか……。

「そういや、あんたの支給品ってなんだったの?」
妙に居心地の悪い空気を変えるため、純粋に気になっていたのもあり朱巳は屍に質問をぶつけてみた。
「特に必要のないものだ。」
「分かんないわよ、使い道のない物を渡す意味なんてないし。」
とは言ってみたものの、朱巳も自らの支給品に使い道を見出せずにいた。
あんなもんを一体どうしろと?
「じゃあ使い道を教えてもらおうか。」
屍がデイバックを開け中身を取り出す。中からでてきたのは素っ気無い椅子だった。
「あら、使い道なんてみえてるんじゃない?」
「・・・・・」
屍は無言で睨み付ける。普通の人間ならそれだけで震えが止まらないほどの威圧感を持っている。
だがそれを受けてなお、朱巳の顔にはニヤニヤとした笑みが張り付いていた。
「とりあえずは普通の椅子だが、何か仕掛け、もしくは罠があるかもしれないな。」
言ったのはヒースだ、怒りが静まり、表情は落ち着きを取り戻している。
303勘違いと剣舞 その2  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:30:11 ID:kB3qy5h7
「仕掛ける場所なんて見当たらないけど。」
「印象迷彩で隠してあるのかもしれない、迂闊に座ったりしない方がいい。」
「とは言ってもねえ・・・・・。」
椅子を見る朱巳少しめんどくさそうだ。
「用心にこしたことは無い。」
言いながらヒースは鉄パイプで座る場所をつっついてみた。反応は特に無い。
「それで分かんの?」
「いや、他にも体熱で反応したり一定以上の重さを加えないと反応しない場合もある。」
「壊した方が早くないか?」
「まあそうだがもし何か有利になるものだったら・・・・・」
言葉をヒースは途中で切った。屍も気づいたのだろう、先ほどと比べてさらに目つきが鋭くなる。
「・・・・・来るな。」
「ああ・・・・・。」
「よく気づくわね、あんたらやっぱ化け物?」
呆れる様な表情で彼女は呟く。
朱巳も常人に比べたら遥かに気配を感じる能力は優れている。しかし彼らはさらに異常だった。
戦闘タイプの合成人間と同等、いや、それ以上の危険察知能力だった。
「化け物というのは案外鈍感なものだぞ。」
「違いねえ!」
屍の言葉と同時に3人は散開する。直後、彼らのいた場所に1人の男が剣を振り下ろし舞い降りた。
「貴様ら、ヒルルカに暴行をはたらき、挙句殺そうと・・・・・首から下との別れを済ましておけ!」
舞い降りたこの世のものとは思えぬ美しい剣士は周りを睨み付ける。その剣士の名はギギナといった。
304勘違いと剣舞 その3  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:31:25 ID:kB3qy5h7
突然の襲撃と怒りの言葉を受ける。だが彼らにはさっぱり見に覚えの無いことだった。
ヒースと朱巳はお互いを見て目で確認する。無論互いにそんな覚えはない。
「待て、俺たちはそんな人物は知らないしまして暴行など・・・・・」
「しらばっくれる気か!?」
ギギナの水平切りがヒースを襲った。突然のことだったが後ろに身を引いてヒースはその切っ先をかわした。
それを見てギギナの表情に笑みが浮かぶ。
「ほう、手加減したとはいえ今の一撃をかわすとは、性根は腐っていても腕はいいようだな、面白い!」
2回目の剣撃がヒースを襲った。1回目とは明らかに違う、雷の如き一撃が首を飛ばそうとした。
2回目もヒースはかわす。だが前と違い余裕はない。
鉄パイプを構え、向かい合う。最早話し合いは通じない、ここで倒すつもりだ。
そしてギギナは3度襲い掛かる、2人の(動機の不明な)決闘が今始まった。

「わけわかんないわよ、あいつ何者?」
屍のもとに向かいながら朱巳が愚痴る。
「さあな、だが腕は確かだ、このままじゃ殺されるぞ。」
「なんで?」
そう朱巳がいうのも無理は無い。2人の戦いは5分5分に見えた、決してヒースは劣っていない。
「単純なことだ、獲物に差がありすぎる。」
屍は2人の方を向きながら言う。自ら戦いに参加するつもりは無いようだ。
「見ろ。」
「!」
305勘違いと剣舞 その4  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:31:57 ID:kB3qy5h7
「楽しいぞ!そんなもので私と舞えるとはな!」
魂砕きが左の足元からヒースの胴を狙う。
鉄パイプで受け止めるも鉄パイプはそのまま真っ二つになり、切っ先はヒースに吸い込まれる!
「くっ!」
ヒースは体を右に捻った。魂砕きによるダメージを最小限に抑える。
だがそれでも避けきれず、わき腹に熱い痛みが走った。
同時に彼の体に生じる脱力感、体に力が入らない。
状況を認識した朱巳は若干かったるそうに呟いた。
「うーん、まずいわね・・・・・まあ恩も売っておいて損はないし、ちょっくら行ってきますか。」
あの手のには慣れてるし。と付け加えると彼女は2人のもとへ歩いていく。
「おい。」
屍が声をかける。彼女があの戦いに割り込んでも即殺されるのがおちだと思ったからだ。
だが彼女はその呼びかけに対し振り向いてニヤッと笑い、
「まあ見てなさいって。『傷物の赤』のお手並み、拝見させてやるわよ。」
とだけ言った。

「ハァ、ハァ。」
息を荒げるヒース、前の7割程の長さになった鉄パイプを相手に向ける。
「さあ、覚悟はいいな。」
対峙するギギナ、息一つ乱していない。
その手に持つ大型剣、魂砕きは血を浴びることが嬉しいのか、その輝きを増す。
完全に窮地に追い込まれたヒース、だがその目は輝きを失っていない。
(止めをさす一太刀には必ず油断が生じるはずだ・・・・・そこに俺の勝機がある!)
集中の極地、2人の目には互いの姿以外何も見えてはいなかった。
「ヒルルカの報いを受けろ・・・・・行くぞ!」
同時に地を蹴る、互いの姿がどんどん近くなる。
と、その間に・・・・・
306勘違いと剣舞 その5  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:33:05 ID:kB3qy5h7
「はいストップ。」

1人の少女、九連内朱巳が割り込んだ。
「なっ・・・・・!」
「くっ・・・・・!」
2人とも太刀筋をギリギリで止める。魂砕きに至っては髪の毛に触れていた。
思わず止めてしまったギギナは怒りに顔を歪め、押し殺した声で朱巳に言う。
「女・・・・・戦いを汚す気か?
 後で始末はつけてやる。それとも今この場で物言わぬ屍となるか?」
そこにはギラギラとした殺気が篭っていた。
「あら、無抵抗の少女を手にかけるなんて随分と安いプライドね、色男さん。
 そんな接し方だと女の子も逃げちゃうわよ?」
ヘラヘラとした表情で言う。その表情に恐怖は無い。
ギギナは激昂した。女云々ではなく、『安いプライド』などとドラッケン族としての誇りを侮辱したことに。
「貴様、ドラッケン族の誇りを侮辱するとは……」
そのとき朱巳の手がスッと彼の胸元に動いた。
あまりにもゆっくりと、自然な動作で、ギギナは反応できなかった。
奇妙な形に手を捻る。

がちゃん

それは鍵を掛ける仕草に酷似していた。
「あんたもかわったところに鍵があるのね〜。」
言った直後首筋に剣を突きつけられる。
動こうとするヒース、だが朱巳はそれを手で制した。
「貴様…何をした!?」
「だから鍵を掛けたのよ、あんたのその『ムカムカとした気持ち』にね。
 そんなイライラした状態で戦闘が出来るかしら?」
相手が少し手を動かすだけであっさりと自分が死ぬというのに、朱巳の表情はまだかわらぬままだ。
307勘違いと剣舞 その6  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:34:01 ID:kB3qy5h7
「そんなバカなことが・・・・・」
言いながらも彼は自分の中にチクチクしたようなものが絶えず動き回っているような気がしてならない。
それを見越してか朱巳は言葉を続ける。
「ほらまだ怒ってる。そのままじゃ胃に穴が開くわよ。」
この状況でケラケラと笑っている彼女は、恐怖に鍵でも掛けているのだろうか。
だが事実はそうではない、彼女の手のひらは汗まみれになっていた、単純に隠しているだけだ。
隠しているのはそのことだけじゃない、今この場でついている嘘もだ。
彼女の鍵を掛けるという能力、『レイン・オン・フライデイ』とは全くの嘘っぱちだった。
ただの暗示をかけて、相手をその気にさせているだけだ。
その演技はついに、自らの体を知り尽くしている生体強化系咒式士まで騙したのだ。

「外せ!」
握る剣に力を込める、断った瞬間に掻っ切るという意志が籠められていた。
「外すわよ。あんたがもう襲わないっていうなら。」
「それはできない。」
「は?なんでよ?」
驚く朱巳、ここで終わらせるはずだったのだが。
「貴様らはヒルルカを陵辱した!その行為は万死に値する!」
そういえば。と彼女はこの件の発端となった言葉を思い出した。
「だからヒルルカってだれよ?」
「知らないとは言わせんぞ。今しがたあれだけのことをしていながら・・・・・」
「ちょっと待って、今しがたって・・・・・」
記憶を遡る朱巳、暴行?殺そうと?確かこいつが来る直前に・・・・
308勘違いと剣舞 その7  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:34:33 ID:kB3qy5h7
屍の言葉が蘇る――

――壊した方が早くないか?

「・・・もしかして・・・・・ヒルルカってあれ?」
彼女の指差す先には先ほど

ヒースが鉄パイプでつっつき、

屍が『壊したほうが早い。』

と言ったあの椅子があった。
「ああ、そうだ。そういえば言ってなかったな、あの椅子の名はヒルルカ、私の愛娘だ。」
激しくため息をつく朱巳。
目を点にするヒース。
くだらんといいそっぽを向く屍。
「……椅子に暴行とか殺害なんて正気?」
ただ疲れたという表情を満面に出しながら朱巳が言った。
「そう、正気の沙汰ではない。だからこそ貴様らは・・・・・」
「「「そういう意味じゃ(ねえ。ない。ないっつーの。)」」」
見事にヒースと朱巳、そして屍までもの声が重なった。


その後、掛けていた暗示を解き、朱巳からの説明が始まった(無論一部を捏造し、一部を改変し、一部を削って)。
309勘違いと剣舞 その8  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:34:59 ID:kB3qy5h7
そしてギギナはすっかり朱巳の作り話を信じた。
「うむ、貴様らが火にくべられようとしたヒルルカを助けてくれたのか・・・・・。
 ならば今回はその行為に免じてひくとしよう。」
そしてギギナはヒースの方に向きニヤッと笑う。
「貴様との戦いは楽しかった。名を聞いておこう。」
「ヒースロゥ・クリストフだ。」
「そうか、私の名はギギナ・ジャーディ・ドルク・メレイオス・アシュレイ・ブフ。
 次合うときは互いの命を賭け、死の淵まで存分に戦おう。」
一瞬の迷いを見せるがヒースはこの誘いに
「・・・・・ああ。」
と答えた。
「それでは――剣と月の祝福を。」
神をも惚れさせるような微笑を浮かべると、くるりと後ろを向きギギナは歩き出した。
その左手にはヒルルカを持っている。
「どうして仲間に誘わなかったんだ?」
ヒースは朱巳に尋ねた。彼女のことだから自分と同じように誘うと思ったのだった。
「あの手の単細胞タイプに誘いは無理よ。一匹狼気取るのが性分だから。」
(そうかな・・・・・。)
彼は心の中で呟いた。同じ戦闘好きでも彼とフォルテッシモは違う気がしたのだ。
彼の戦い方は1人での戦い方にしては積極的すぎだった。
あの戦い方はそう・・・・・後ろに信頼できる相棒がいるような、そんな戦い方だった。
(きっといい仲間がいるのだろう。)
ヒースはもしギギナが聞いたらその場で全生命力を賭けて否定するようなことを呟いた。
「それに、次仲間にするなら話上手がいいから。無口と堅物じゃやっぱり盛り上がらないわ。」
その言葉にヒースと屍が顔をしかめたが、朱巳は知らん振りした。
そのとき、12時の放送が鳴り響く。
310勘違いと剣舞 その9  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:36:03 ID:kB3qy5h7
【風により傷物となった屍】
【E3/巨木/一日目12:00】

【九連内朱巳】
【状態】上機嫌
【装備】なし
【道具】パーティゲームいり荷物一式
【思考】エンブリオ探しに付き合う、とりあえず移動。


【屍刑四郎】
【状態】呆れ気味
【装備】なし
【道具】荷物一式
【思考】とりあえずついていってみるか。


【ヒースロゥ・クリストフ】
【状態】背中に軽い打撲
【装備】鉄パイプ
【道具】荷物一式
【思考】EDを探す。九連内朱巳を守る。ffとの再戦を希望する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【ギギナ】
[状態]:若干の疲労。かなりご満悦。
[装備]:魂砕き、ヒルルカ
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:強者探索
311Drop&Dog 1/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:39:23 ID:CLmyMTtb
「BB、火乃香……」
 この島の中で頼れる数少ない名前を唱えながら、しずくは湖岸を駆ける。
 地下墓地での一幕から二十分ほど。
 放送にはオドーの名前と祥子の名前があった。
 その事実に思考が停止しかけるのを、しずくは必死で耐えた。
 ほんの少しの間とはいえ、一緒にいた人に、もう会えない。
 死という現実に触れる痛みを知ってはいた。それが耐え難いものであることも、また。
 それでも、ここで泣いているわけにはいかないのだ。

(今かなめさんたちを助けられるのは、私しかいない)

 その事実がしずくの背中に確かな重みとなって存在していた。
 幸いにも、元の世界での知り合いたちは無事のようだった。
 ならばなんとしてでも合流して――――いや、彼らでなくてもいい。
 とにかく誰かに、自分が見た情報を伝え、助けを求めなければならない。
 しずくは滲む涙を袖口でぬぐいながら、それでも前を見据えて走り続ける。
 外見は人と変わらなくともしずくは機械知性体だ、その運動能力は生身の人間よりも高い。
 リスクを度外視してでも島を駆け回る覚悟はできていた。
 なにせ、タイムリミットは日没までだ。
 残された時間は決して多くないし、それに日没まで待たなくても宗介がその手を汚してしまう。
312Drop&Dog 2/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:40:22 ID:CLmyMTtb
 千鳥かなめ。相良宗介。
 二人ともいい人だった。こんな島の中ででも、出会えてよかったと思えるほどに。
 だからこそ、しずくは二人を助けたいと思う。
 かなめを救い出したいと思うし、宗介に手を汚して欲しくないと思うのだ。
 再び溢れてきた涙を拭った時、視覚センサーが人影を捉えた。
 幸運としかいいようがない。
 こんなに速く誰かと接触できるのは予想外だった。
 しずくは速度を緩めて歩み寄ると、その人影――――皮のジャケットをまとった男に声をかけた。
「あ、あの!」
 声をかけられても、男は無反応だった。
 俯いているため顔は見えない。
 癖の悪い黒髪と、握り締めた両のこぶしが妙にしずくの印象に残った。
「いきなりすいません! でも、すごい困ってるんです。力を貸して――――」
「悪いな」
 いきなり割り込まれ、しずくは思わず言葉を止めた。
 え? と呟いた後、男の言葉が拒否を表すものだと思い至る。
 そしてそれが誤解だと気づくのに、一秒とかからなかった。
 思わず歩み寄ろうとしたしずくを遮るように、男が右手を突き出し、握る。

「憂さ晴らしだ――――付き合えよ」

 しずくが何かを言うよりも男のほうが速かった。
 その眼光が紅く尖る。

 そして、頭上に巨大な影が出現した。
313Drop&Dog 3/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:41:19 ID:CLmyMTtb

 ナイフのような背びれが空気を切り、筋肉に鎧われた巨体が宙を泳ぐ。
 その動きは見る者が優雅さを感じるほどに滑らかだ。
 大きく裂けた口。
 びっしりと並ぶ牙の群れ。
 赤い眼球。
 縦に長い瞳孔。
 いくつかの点で相違はあるが。
 男の頭上を旋回するそれに近い生物は、しずくの知識の中に確かに存在する。 
(これって……)
 半ば愕然としながら、しずくは認めた。
 彼女の世界では支配種ザ・サード以外は知りえないだろう生物。

 それは三メートルを超える、巨大な鮫だった。


 甲斐氷太は暗い眼差しで少女を見た。
 久しぶりにカプセルを飲んだ高揚感も、悪魔を呼び出した興奮もない。
 体の芯にねっとりとした闇が巣食う感覚。
 血液という血液が死んだように冷たい。
 それもこれも、あの放送のせいだった。
 ありえない。許されない。
 あのウィザードが、物部景が――――……
 そこから先は言葉にせず、現実感が希薄なまま動く手足を確認して、甲斐は黒鮫に命令を下した。
 目の前の少女は細く、脆い。
 餌というのもおこがましい、惰弱な存在だ。
 言葉通り、ただの憂さ晴らしに過ぎない。
 子供がおもちゃを壊すように、あっけなく、容赦なく。

 ――――喰い千切れ。 
314Drop&Dog 4/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:42:06 ID:CLmyMTtb

 猛烈な勢いで黒鮫が迫った。
 鼻先で突き殺そうとするかのような突進。
 切り裂かれた大気が悲鳴を上げ、巻き上げられた風にバランスを崩しかける。
 しずくがその一撃をかわせたのは奇跡に近い。 
 横っ飛びに転がった数センチ横を、黒鮫が一瞬で通過していった。
 風に髪が叩かれる感触は、機械であろうとも背筋が寒くなるものがある。
 デイバックから支給品を取り出しながら叫ぶ。
「は、話を聞いてください!」
 しずくの叫びを甲斐は黙殺。
 その時点でしずくは己の失敗に泣きそうになった。
 完全にゲームに乗った人間に声をかけてしまったらしい。
 それも理屈はわからないが巨大な鮫を操る、とんでもない危険人物に。
 嘆く時間すら、相手は与えれくれない。
 小さな弧を描いて鮫が反転、再びこちらに鼻先を向ける。
 顎が開き、びっしりと並んだ牙が光を弾いた。
 陽光を塗りつぶすように、甲斐の両目が紅蓮に瞬く。

 セカンド・アタック。

 コマ落としにすら感じる突進。
 唸りをあげる大気を従えて、鮫が黒い砲弾と化す。
 しかし一度目よりはわずかに遅い。
 こちらが横に逃げても追撃可能な速度――――つまり今度は横に飛んでも回避できない。
315Drop&Dog 5/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:42:48 ID:CLmyMTtb
 理解すると同時に、いや、それより速く体は動き始めている。
 ザ・サードのデータベースに接続してから吸収した情報は莫大な量だ。
 その中には高度な知識を必要とする先端技術もあれば、辺境の遊びなども含まれている。
 
 
 たとえば、バットの振り方。

 
 凶悪な棘つきバットであるそれを振りかぶり、思いっきりスイングする。
 タイミングを計る必要はなかった。もとより、最速でも分の悪い賭けなのだから。
 激突は刹那のこと。
 黒鮫の顔の側面にバットが当たる。
 一瞬で足が浮き、鮫とバットの接触点を軸に独楽のように弾き飛ばされる。
 瞬間的に手首に甚大な負荷――――破損した。バットを手放す。
 だがそれと引き換えに、しずくの体は宙を飛んだ。
 黒鮫の上をまたぐ形で、ほんのわずかな時間、飛翔する。
 青い空が視界に広がった。
 しずくの故郷とすらいえる、空。
 そこにわずかに見とれながらも、次にくる衝撃に備えて体を丸める。
 ――――激突。
 衝撃は予想よりもひどいものではなかった。
 足の短い草たちが、多少は衝撃を和らげてくれたらしい。
 それでも、行動に障害がでるレベルのダメージだ。
 駆動系の一部に異常。ただでさえ感度の落ちているセンサー類がさらにダウン。
「あ……」
 思わず声が漏れた。
 気がつけば後ろは湖だった。
 水まであと一メートルといったところ。
 あれだけ勢いがついていて落ちなかったのは運がいいといえば運がいいが、次がかわせなければ意味がない。
316Drop&Dog 6/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:43:29 ID:CLmyMTtb
 前髪がちりちりと焼ける気がする。
 三度、黒い鮫と正面から対峙する。
 エスカリボルグは棘が肉に食い込み、鮫の顔面にそのままぶら下がっている。
 手元にもう武器はない。
 体もダメージが残っている。
 どう足掻いても、かわせそうにない。

 サード・アタック。

 鮫の姿が近づいてくる。
 センサーの異常だろうか。
 なぜかゆっくりと見えるその光景を、しずくは自ら閉ざした。
 倒れたままきつく瞼を閉じて、最後を覚悟する。
 脳裏に浮かぶのは火乃香であり、浄眼機であり、オドーであり、祥子であり、
(ごめんなさい。かなめさん、宗介さん……さようなら、BB)
 いっそう強く眼を瞑り、しずくはその瞬間を待った。
 
 一秒、二秒、三秒……。
 
 何もおこらない。
 恐る恐る瞼を上げると、目の前に足が見えた。
「え?」
 呟きをかき消すように、背後で轟音が鳴る。
 そして。
「きゃ!」
 降り注いだ無数の雫を浴びて、しずくは悲鳴をあげた。
 陽光は弾きながら、雨のように水が降り注ぐ。
 視覚センサーを手でかばいながら上空を見れば、まずはびしょ濡れの男が、そのさらに上に黒鮫が見えた。
 どうやら、鮫を湖に突っ込ませたらしい。
 この水滴は鮫の背中に乗った湖水が落ちてきたものだ。
317Drop&Dog 7/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:44:19 ID:CLmyMTtb
 わけがわからず、しずくは目の前の男を見た。
 男――――甲斐氷太はあいもかわらず不機嫌そうに、赤い瞳でこちらを見ている。
 何を言ってくる様子もなく、このままでは埒が明かない。
 しずくは口を開いた。


「あの……」
 少女がそこまでつぶやいて、再び黙る。
 こちらの顔が険悪になったのを見たからだろう。
 甲斐は胸中にわだかまる憎悪を意識した。
 ウィザード――――最高の好敵手を失った、憎悪。
 そう簡単にヘマをする奴ではなかったが、この異常な島ではいつも通りに立ち回れなかったのか。
 それとも他の理由があるのか。
 例えば、連れの女に寝首をかかれた、というような理由が。
 甲斐はぎりっと奥歯を噛み締めた。
 一人、回想する。
 初めて会った公園での対峙、地下街での戦い。
 長い探索を経て、倉庫で再戦を果たす。
 その後はなし崩し的に同盟を組んでセルネットと決戦。
 繁華街で無理やり悪魔戦を繰り広げたこともあった。
 王国では自分だけ犬の姿という理不尽な扱いを受けたが、まあそれはいい。
 塔での戦いでは少し助けてやっただけで、直接は顔を合わせていない。
 そして、この島で、果たされなかった決着をつける……はずだった。

「あの野郎。勝手にくたばってんじゃねえ……よ!」

 こぶしを思いっきり振り下ろした。
 鈍い音が響く。
 亜麻色の髪を数本巻き込み、甲斐のこぶしが少女の頬――――そのすぐ横にぶつかる。
 少女が眼を白黒させているのを見下ろしながら、こぶしを引く。
 濡れた髪から滴る水滴を払い、ぶっきらぼうに言う。
318Drop&Dog 8/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:44:58 ID:CLmyMTtb
「悪かったな。もう行け」
 少女は余計に目を白黒させるが、甲斐は構うことなく背を向けた。
 なんの造作もなしに悪魔を消すと、背に残っていた水が激しく地面を叩く。
 不安定な精神状態にありながら、甲斐はすでに悟っていた。
 悪魔を使うには、いくつかの枷がある。
 一つ目――――恐ろしく燃費が悪い。
 今回甲斐が使用したカプセルは二錠。
 二錠まとめて口に放り込んだのだが、それらが甲斐にもたらした魔力は微々たるものだった。
 カプセルが粗悪品なのか、悪魔のせいなのかはわからない。
 二つ目――――悪魔との同調が鈍い。
 かつては手足のごとく操った悪魔が、どうにも言うことを聞かない。
 悪魔戦のエキスパートである甲斐氷太ですら、完全に制御しきれないのだ。
 シンクロしようとすればするほど、自分から悪魔が遠ざかっていく。
 そして、三つ目。

「……しっかりと見えてやがるな」

 呟きは空気を動かさないほどに小さく、それゆえに強い毒を含んでいた。
 本来、悪魔はカプセルを飲んでいない人間には見えないはずだ。
 しかし、目の前の少女は不可視のはずの攻撃を二度防いだ。
 ヘビーユーザーならカプセルなしでも視認できるが、この少女はその類ではないだろう。
 過去にそういった事例がなかったわけではない。
 甲斐が繁華街で景を追い回したときは、明らかに一般人に悪魔が見えていた。
 これもあの時と同じ現象なのだろうか。
 ならば、ここは王国の亜種のようなものなのだろうか?
 緋崎正介ならなにか知っているかもしれないが、現時点でその推論を確かめる術はない。
 とりあえず、悪魔を使うのなら注意が必要だ。
 それだけを頭の中に留めて、甲斐はびしょ濡れの少女を捉えた。
 その威圧感が緩んだことに、本人だけが気づかない。
319Drop&Dog 9/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:45:50 ID:CLmyMTtb
 どうにも勝手が違ったのは確かだ。
 突撃させるだけという素人以下の操作だったのも認めよう。
 それでも、目の前の線の細い少女はよくがんばった方だと、甲斐は素直に思った。
 悪魔と渡り合う一般人など姫木梓だけだと思っていたが、なかなかにやる。
 ほんの少しだが、楽しめたのは事実だ。
 
 だが、だからこそ、甲斐は許せないのだ。
 こんな素人相手でなく、もしも相手がウィザードなら。
 互いに死力を尽くし、生命を燃やし、ぎりぎりの戦いを行えたのなら。
 それは、最高の時間だったはずだ。
 もはや二度と手に入らない至高の瞬間。
 一度あきらめ、再び鼻先に吊るされた餌が、また寸前で取り上げられてしまった。
 
「俺が望んだのはこんな遊びじゃねえ。ウィザード、お前との――――」
 
 
 
 身を起こしながら、しずくはぼんやりと男を見上げた。
 わけもわからず襲われて、わけもわからず見逃された。
 随分身勝手な人間だとは思うのだが……

(……泣いてるんでしょうか、この人は)

 しずくには、ずぶ濡れで空を見上げるその男が、やけに小さく見えた。
320Drop&Dog 10/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:47:04 ID:CLmyMTtb
【D-7/湖岸/12:20】  

【しずく】
[状態]:右手首破損。身体機能低下。センサーさらに感度低下。濡れ鼠。
[装備]:
[道具]:荷物一式。
[思考]:1、かなめたちの救出のため協力者を探す


【甲斐氷太】
[状態]:左肩に切り傷(軽傷。処置済み)。ちょい欝気味。濡れ鼠。
[装備]:カプセル(ポケットに数錠)
[道具]:煙草(残り14本)、カプセル(大量)、支給品一式
[思考]:1.ウィザードの馬鹿野郎 2.ベリアルと戦いたい。海野をどうするべきか。
    ※『物語』を聞いています。 ※悪魔の制限に気づきました

※エスカリボルグはその辺に落ちてます。二人が別れるかは次の書き手に任せます。
321そして不死人は竜と飛ぶ (1/8)  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/17(火) 10:46:14 ID:CufxhmbP
『……諸君らの健闘を祈る』
 放送が終わった。
「風見」
 BBが異常に気づいて声をかけた。
 風見は答えない。鉛筆をもつ手が061で止まっている。瞳は宙に囚われ、口は半開き。
 BBはこの表情を知っている。
「風見」
 もう一度声をかけた。
 ああ、とつぶやいて風見は手元に視線を落とす、そしてまた止まる。
「風見、放送の内容を告げる、メモの用意だ」
 BBは一字一句正確に放送を再現する。
 風見はのろのろとメモを再開した。
 再放送も終わって、ひどく緩慢な動作で風見はメモを地図に書き込む。

 001 物部景
 線を引く。

――馬鹿なやつ、私に誰かを重ねて見て、私を庇って死ぬなんて。

 全竜交渉でも死者は出ている。風見とてただの小娘ではないし、戦場での死は初めてではない。
 だが、今回は違う、と風見は考えている。景は私をかばって、つまり私のせいで死んだのだ、と。
 彼に失礼だとは分かっていても、風見はその後悔を捨てることが出来ない。
 自分は戦闘訓練を受けていた、というのも今思えば驕りでしかなかった。
 新庄も、オドーでさえも死んでいるというのに。
 まさしくいいとこなし、と言うやつである。
322そして不死人は竜と飛ぶ (2/8)  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/17(火) 10:47:32 ID:CufxhmbP
072 新庄運切
 線を引く。そう、新庄も死んだ。
 風見は新庄の顔を思い出そうとするが、何も浮かんでこなかった。
 すっかり余裕をなくしていることに苦笑する。笑みが自然と自嘲的になる。
 水着を買いにいって、いざ試着のとき男だったなんてこともあった。
 移動の際はいつも楽しそうにそして自慢げに旧式ゲームをしていた。
 よく騙され、からかわれるくせに、佐山の誤魔化しに気づくこともある、警戒心の強いのか弱いのか分からないコ。
 そうだ、新庄という人間はそういう娘だった。
 かわいい、新しい後輩だった。

 075 オドー
 線を引く。
 米国UCAT幹部というより歴戦の戦士だった。
 自分が概念核を用いて対峙した機竜を、腕一本でねじ伏せる男。

 BBは何も言わない。その気遣いが風見にはありがたい。
 新庄、オドーはどんな死に様だったのか。誰に殺されたのだろうか。
 相方が無言をいいことに、風見は自分の世界に沈み込む。
 装備型のEx−stはともかく、オドーの悪臭までは取り上げられてないだろう。
 機竜を打ち砕くオドーすら倒れるこの島で銃ひとつ、その事実に風見は小さく震える。
 やはり先にG−sp2を探すべきだろうか。
 戦闘とあらば文字通り飛んでくる相棒を思い浮かべ、風見は大切なことを忘れていることにようやく気づいた。
「そうだ、飛んでこれるんじゃない」
 がっくりと肩を落とす風見。テンションが急激に下がり、底割れして一回り、結果いつもに戻る。
 どうも今ひとつ調子が出ていない。
 打撃してないのが原因ではあるまいか、と風見は半ば本気で考えた。
「まさかアンタをぶっ飛ばすもいかないわよね、痛そうだし」
 どうも自分にはガンガン突っ込めるタイプの相方が必要らしい。
「何がしたいかは分からないが、それが賢明だろうな」
 律儀に答えるBB。悪いとまでは言わないが、こうもお堅いとさすがにフラストレーションがたまる。
 風見は深呼吸して気を取り直した、G−Sp2がくればBBにも手を痛めずに突っ込める、調子も戻るだろうと考えて、
「さて、ちょっと上をチェックしといて、どこから飛んでくるのか分からないから」
323そして不死人は竜と飛ぶ (3/8)  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/17(火) 10:49:12 ID:CufxhmbP
怪訝な様子のBBを無視して、
「G−sp2!」
声を張った。
 一拍の間をおいて、東から飛来する衝撃音とそれにつづく風切音を二人は捕らえる。
 そして風見は、また一つポカをしたことに気付いて頭を抱えた。

    *    *    *

 時刻は数分ほどさかのぼる。放送のメモを終えて子爵とハーヴェイは移動の準備に取り掛かった。
 少女の遺体を野ざらしにしておくのは忍びなかったが、埋葬する時間はハーヴェイにない。たまたま今回の放送に名前は
無かったが、次の放送でキーリが呼ばれない保障はどこにもない。最悪、今この瞬間にも彼女が死の危地に直面しているか
もしれなのだ。
 子爵もそれを察して、埋葬しようとは言わない。
「これで勘弁してくれ」
 二人は少女の亡骸を木に寄りかからせて、目をそっと瞑らせた。
【さて、放送も終わった。私は流離いの一人旅に出たいと思うのだが、君はどうするかね。尋ね人がいるのなら、協力するの
 にはやぶさかではない。かような私だが言付を預かることぐらいはできるつもりだが?】
「いや、いい。こんな状況で待ち合わせやら伝言やらを頼むのにはアンタにも俺達にも危険だからな」
 ハーヴェイは真っ赤な自称吸血鬼のスライムにキーリの特徴、ウルペンの危険性、炭化銃の性質を教えてお別れを言った。
【それでは君の健闘と君の友人の無事を祈っている】
 子爵が赤い触手のようなものを伸ばしてきた、握手のつもりなのだろうと、彼は判断し、それを生身の手で握り返した。
 ほんのちょっぴり後悔した。 
 子爵は液体となって流れるように去っていく。彼は気取られないようにそっと手を拭きながら見送った。

「武器はこれだけか」
 その後、ハーヴェイは生き残りの手段を求めてウルペンが置き捨てた長槍を手に取った。
 奇妙な形状、用途不明の突起、不可解な装甲。これも非常識な物体なのかと首をひねる。
 直後、コンソールに緑色の光がともった。
『コンニチワ!』
324そして不死人は竜と飛ぶ (4/7)  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/17(火) 10:50:38 ID:CufxhmbP
「ああ、こんにちわ」
 淡々と返すハーヴェイ。
『ビックリシタ?』
「もう慣れた」
 槍は穂首をがっくりと落とした。ハーヴェイがリアクションに困っていると今度は辺りをきょろきょろと眺め始める。
『ヨンダ?』
 ハーヴェイもそれに倣って辺りを探るが気配すらない。
「いや。誰もいないし、というか声すら聞こえなかったぞ」
『キコエタノ!カザミダヨ!』
 疑問視を浮かべて答えるハーヴェイ。
『ハナシテ』
 言われるままに手を離してから、猛烈にいやな予感を覚えた。
『イマイクヨ!』
「ちょっと待て!」
 くるりと長槍が身を翻した。義手がとっさにその柄をつかむ。
 風船を破る、というよりアドバルーンを破るような音がして、ハーヴェイが気が付いたときには、その身ははるか上空を
飛んでいた。
 さすがのハーヴェイも眩暈を覚えた。
「……どこに行く気だよ」
 すさまじい慣性がハーヴェイを後方に引きずる。
 地上を眼下に見下ろしながら、振り落とされないようしがみつくハーヴェイ。
 ほんの数秒の飛行後、ハーヴェイは自分が危機的状況にあるのに気が付いた。
 だんだんとハーヴェイにかかる慣性が消えていく、眼下の景色も地上からだんだんと水平線へ移っていく。
「おいおい、マジか」
 冷や汗が流れる。
「落ちてるぞ……」

 衝撃。そして暗転。

    *     *    *
325そして不死人は竜と飛ぶ (5/7)  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/17(火) 10:52:03 ID:CufxhmbP
 二人は流れ星が墜落するを呆然と見ていた。
「取りに行くか?」
「冗談、あんな大騒ぎになりそうなとこ行ったら幾つ命があっても足りないわ」
 千里は腕組みして鼻を鳴らした。ショックはそれなりに、少なくとも表面上は吹っ飛んでいる。
「G−Sp2には悪いけど、あの子がいないと死ぬわけでもないし……寂しいけど当初の予定通り行きましょ」
「結局悩みの種が一つ増えただけだったな」
 風見は返す拳もない。
「まったくよ」
 いまだけはBBの装甲が恨めしかった。

    *     *     *

 暖かい日差しに目を覚ましたハーヴェイが最初に見たのは、天井に開いた穴とそこからのぞく青い空だった。
 もう、どこまでもブルーである。
「なんだったんだ、今のは」
 全ての原因はG−Sp2に施された個人識別解除処理のためだが、そんなもの風見もハーヴェイもG−Sp2も知るわけ
がない。
 とりあえずハーヴェイは全身をチェック、一箇所を除いて傷らしいものも異常は見られなかった。
 その代償はぼろ雑巾と成り果てた左腕。
 腕一本ですんだのは僥倖と言えた。かばった腕はしばらく使い物にはならないが、行動不能よりはましである。
 しばらくの黙考の後、ハーヴェイは手元に長槍がないことに気が付き、とりあえず穴から上へよじ登った。
 集合住宅の屋上らしき場所、ざっと見渡して確認できるものは、血痕のあと、ディバック、メガホン、そしてコンクリー
トに横たわる槍。人影は死体のみ。
『シクシク』
 コンソールだけで器用に泣くG−Sp2。
 ハーヴェイはやるせない気持ちで、それを眺めていた。
326そして不死人は竜と飛ぶ (6/7)  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/17(火) 10:54:06 ID:CufxhmbP
【残り85人】

【D-4/森の中/1日目・12:10】
【蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)】
[状態]:少々の弾痕はあるが、異常なし。
[装備]:梳牙
[道具]:無し(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:風見と協力して、しずく・火乃香・パイフウを捜索。脱出のために必要な行動は全て行う心積もり。


【風見千里】
[状態]:表面上は問題ないが精神的に傷がある恐れあり、肉体的には異常無し。
[装備]:グロック19(全弾装填済み・予備マガジン無し)、頑丈な腕時計。
[道具]:支給品一式、缶詰四個、ロープ、救急箱、朝食入りのタッパー、弾薬セット。
[思考]:BBと協力する。地下を探索。仲間と合流。景を埋葬したい。とりあえずシバく対象が欲しい。


【C-8/移動中/1日目・12:05】

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
[状態]:健康状態 
[装備]:なし
[道具]:デイパック一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
    アメリアのデイパック(支給品一式)
[思考]:アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている 。
[補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
    この時点で子爵はアメリアの名前を知りません。
    キーリの特徴(虚空に向かってしゃべりだす等)を知っています。
327そして不死人は竜と飛ぶ (7/7)  ◆MXjjRBLcoQ
【C-6/住宅街/1日目・12:10】

【ハーヴェイ】
[状態]:生身の腕大破、他は完治。(回復には数時間必要)
[装備]:G−Sp2
[道具]:支給品一式
[思考]:まともな武器を調達しつつキーリを探す。ゲームに乗った奴を野放しに出来ない。特にウルペン。
[備考]:服が自分の血で汚れてます。
    鳥羽茉理とカザミを勘違いしています。

【C-8】から【C-6】に向けてG−Sp2が飛びました。音に気づき、場合によっては目撃したものがいると思われます。
 放送によりウルペンがハーヴェイの生存に気づいた可能性があります。
 個人識別解除処理が施されているため、G-Sp2は誰にでも使用できますが、呼びかけない限り風見に気づけません。