1 :
イラストに騙された名無しさん:
"こ の ス レ を 覗 く も の 、 汝 、 一 切 の ネ タ バ レ を 覚 悟 せ よ"
(参加作品内でのネタバレを見ても泣いたり暴れたりしないこと)
※ルール、登場キャラクター等についての詳細はまとめサイトを参照してください。
――――【注意】――――
当企画「ラノベ・ロワイアル」は 40ほどの出版物を元にしていますが、この企画立案、
まとめサイト運営および活動自体はそれらの 出版物の作者や出版元が携わるものではなく、
それらの作品のファンが勝手に行っているものです。
この「ラノベ・ロワイアル」にはそれらの作者の方々は関与されていません。
話の展開についてなど、そちらのほうに感想や要望を出さないで下さい。
テンプレは
>>1-10あたり。
【Dクラッカーズ】 物部景 / 甲斐氷太 / 海野千絵 / 緋崎正介 (ベリアル)
【Missing】 十叶詠子 / 空目恭一
【されど罪人は竜と踊る】 ギギナ / ガユス / クエロ・ラディーン
【アリソン】 ヴィルヘルム・シュルツ
【ウィザーズブレイン】 ヴァーミリオン・CD・ヘイズ / 天樹錬 ×
【エンジェルハウリング】 フリウ・ハリスコー / ミズー・ビアンカ / ウルペン
【キーリ】 キーリ / ハーヴェイ
【キノの旅】 キノ / シズ / キノの師匠 (若いころver)× / ティファナ×
【ザ・サード】 火乃香 / パイフウ / しずく (F) / ブルーブレイカー (蒼い殺戮者)
【スレイヤーズ】 リナ・インバース / アメリア・ウィル・テラス・セイルーン / ズーマ× / ゼルガディス / ゼロス×
【チキチキ シリーズ】 袁鳳月 / 李麗芳 / 李淑芳△ / 呉星秀 ×/ 趙緑麗
【デュラララ!!】 セルティ・ストゥルルソン / 平和島静雄 / 折原臨也
【バイトでウィザード】 一条京介× / 一条豊花×
【バッカーノ!!】 クレア・スタンフィールド / シャーネ・ラフォレット / アイザック・ディアン / ミリア・ハーヴェント
【ヴぁんぷ】 ゲルハルト=フォン=バルシュタイン子爵 / ヴォッド・スタルフ×
【ブギーポップ】 宮下藤花 (ブギーポップ) / 霧間凪 / フォルテッシモ / 九連内朱巳 / ユージン×
【フォーチュンクエスト】 トレイトン・サブラァニア・ファンデュ (シロちゃん)
【ブラッドジャケット】 アーヴィング・ナイトウォーカー / ハックルボーン神父
【フルメタルパニック】 千鳥かなめ / 相良宗介 / ガウルン ×/ クルツ・ウェーバー× / テレサ・テスタロッサ
【マリア様がみてる】 福沢祐巳 / 小笠原祥子 / 藤堂志摩子 / 島津由乃× / 佐藤聖
【ラグナロク】 ジェイス ×
【リアルバウトハイスクール】 御剣涼子×
【ロードス島戦記】 ディードリット× / アシュラム (黒衣の騎士) / ピロテース△
【陰陽ノ京】 慶滋保胤
【終わりのクロニクル】 佐山御言 / 新庄運切 / 出雲覚 / 風見千里 / オドー
【学校を出よう】 宮野秀策 / 光明寺茉衣子
【機甲都市伯林】 ダウゲ・ベルガー / ×ヘラード・シュバイツァー
【銀河英雄伝説】 ×ヤン・ウェンリー / オフレッサー
【戯言 シリーズ】 いーちゃん / 零崎人識 / 哀川潤 / 萩原子荻 / 匂宮出夢
【涼宮ハルヒ シリーズ】 キョン× / 涼宮ハルヒ× / 長門有希 / 朝比奈みくる× / 古泉一樹
【事件 シリーズ】 エドワース・シーズワークス・マークウィッスル (ED) / ヒースロゥ・クリストフ (風の騎士)
【灼眼のシャナ】 シャナ / 坂井悠二 / マージョリー・ドー
【十二国記】 高里要 (泰麒)
【創竜伝】 小早川奈津子 / 鳥羽茉理 / 竜堂終 / 竜堂始×
【卵王子カイルロッドの苦難】 カイルロッド / イルダーナフ / アリュセ / リリア △
【撲殺天使ドクロちゃん】 ドクロちゃん
【魔界都市ブルース】 秋せつら / メフィスト△ / 屍刑四郎 / 美姫
【魔術師オーフェン】 オーフェン / ボルカノ・ボルカン / コミクロン / クリーオウ・エバーラスティン / マジク・リン×
【楽園の魔女たち】 サラ・バーリン / ダナティア・アリール・アンクル
△は未登場者、×は死亡者。
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
開催場所は異次元世界であり、どのような能力、魔法、道具等を使用しても外に逃れることは不可能である。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給される。
「多少の食料」「飲料水」「懐中電灯」「開催場所の地図」「鉛筆と紙」「方位磁石」「時計」
「デイパック」「名簿」「ランダムアイテム」以上の9品。
「食料」 → 複数個のパン(丸二日分程度)
「飲料水」 → 1リットルのペットボトル×2(真水)
「開催場所の地図」 → 白紙、禁止エリアを判別するための境界線と座標のみ記されている。
「鉛筆と紙」 → 普通の鉛筆と紙。
「方位磁石」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。
「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが一つ入っている。内容はランダム。
※「ランダムアイテム」は作者が「エントリー作品中のアイテム」と「現実の日常品」の中から自由に選んでください。
必ずしもデイパックに入るサイズである必要はありません。
エルメス(キノの旅)やカーラのサークレット(ロードス島戦記)はこのアイテム扱いでOKです。
また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
【「呪いの刻印」と禁止エリアについて】
ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「呪いの刻印」を押されている。
刻印の呪いが発動すると、そのプレイヤーの魂はデリート(削除)され死ぬ。(例外はない)
開催者側はいつでも自由に呪いを発動させることができる。
この刻印はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
24時間死者が出ない場合は全員の呪いが発動し、全員が死ぬ。
「呪いの刻印」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
下手に無理やり取り去ろうとすると呪いが自動的に発動し死ぬことになる。
プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると呪いが自動的に発動する。
禁止エリアは2時間ごとに1エリアづつ禁止エリアが増えていく。
【放送について】
放送は6時間ごとに行われる。放送は魔法により頭に直接伝達される。
放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」「残りの人数」
「管理者(黒幕の場合も?)の気まぐれなお話」等となっています。
【能力の制限について】
超人的なプレイヤーは能力を制限される。 また、超技術の武器についても同様である。
※体術や技術、身体的な能力について:原作でどんなに強くても、現実のスペシャリストレベルまで能力を落とす。
※魔法や超能力等の超常的な能力と超技術の武器について:効果や破壊力を対個人兵器のレベルまで落とす。
不死身もしくはそれに類する能力について:不死身→致命傷を受けにくい、超回復→高い治癒能力
【本文】
名前欄:タイトル(?/?)※トリップ推奨。
本文:内容
本文の最後に・・・
【名前 死亡】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
【残り○○人】※必ずいれる。
【本文の後に】
【チーム名(メンバー/メンバー)】※個人の場合は書かない。
【座標/場所/時間(何日目・何時)】
【キャラクター名】
[状態]:キャラクターの肉体的、精神的状態を記入。
[装備]:キャラクターが装備している武器など、すぐに使える(使っている)ものを記入。
[道具]:キャラクターがバックパックなどにしまっている武器・アイテムなどを記入。
[思考]:キャラクターの目的と、現在具体的に行っていることを記入。
以下、人数分。
【例】
【SOS団(涼宮ハルヒ/キョン/長門有希)】
【B-4/学校校舎・職員室/2日目・16:20】
【涼宮ハルヒ】
[状態]:左足首を骨折/右ひじの擦過傷は今回で回復。
[装備]:なし/森の人(拳銃)はキョンへと移動。
[道具]:霊液(残り少し)/各種糸セット(未使用)
[思考]:SOS団を全員集める/現在は休憩中
16 名前:投稿ルール2 メェル:sage 投稿日:2005/03/29(火) 16:36:06 ID:kJWbDHZr
1.書き手になる場合はまず、まとめサイトに目を通すこと。
2.書く前に過去ログ、MAPは確認しましょう。(矛盾のある作品はNG対象です)
3.知らないキャラクターを適当に書かない。(最低でもまとめサイトの詳細ぐらいは目を通してください)
4.イベントのバランスを極端に崩すような話を書くのはやめましょう。
5.話のレス数は10レス以内に留めるよう工夫してください。
6.投稿された作品は最大限尊重しましょう。(問題があれば議論スレへ報告)
7.キャラやネタがかぶることはよくあります。譲り合いの精神を忘れずに。
8.疑問、感想等は該当スレの方へ、本スレには書き込まないよう注意してください。
9.繰り返しますが、これはあくまでファン活動の一環です。作者や出版社に迷惑を掛けないで下さい。
10.ライトノベル板の文字数制限は【名前欄32文字、本文1024文字、ただし32行】です。
11.ライトノベル板の連投防止制限時間は20秒に1回です。
12.更に繰り返しますが、絶対にスレの外へ持ち出さないで下さい。鬱憤も不満も疑問も歓喜も慟哭も、全ては該当スレへ。
【投稿するときの注意】
投稿段階で被るのを防ぐため、投稿する前には必ず雑談・協議スレで
「>???(もっとも最近投下宣言をされた方)さんの後に投下します」
と宣言をして下さい。 いったんリロードし、誰かと被っていないか確認することも忘れずに。
その後、雑談・協議スレで宣言された順番で投稿していただきます。
前の人の投稿が全て終わったのを確認したうえで次の人は投稿を開始してください。
また、順番が回ってきてから15分たっても投稿が開始されない場合、その人は順番から外されます。
9 :
1:2005/04/04(月) 00:45:37 ID:3ptx0w1o
テンプレ終了。
なお、現在のところ投稿宣言中の作品はありません。
「かなめ?」
宗介は呆気にとられていた。
いつかは出会えると思ったがこんな形、彼らの間ではある意味日常茶飯事な形で再会できるとは思わなかった。
「ソースケ!あんたまさかこんなゲームに乗るつもりだったの!?」
かなめは宗介の目の前まで来ていた、どうやら先程の一件は見ていなかったようだ。
「かなめ、こいつが、こいつがおまえの探していたやつか?」
後ろにいた男がかなめに尋ねた。
「ええ、見てのとおりの戦争オタクよ。」
かなめが答えた。
「良かったですね、かなめさん!探してた人に会えて!」
男の隣りにいる女の子が言った。
「そうね〜嬉しいわ〜、でもこの人はどうやらゲームに乗り気なようだからここでお別れしなくちゃ〜。」
かなめはじ〜っと宗介を見ながら言う。
「それは違うぞかなめ、さっきのあれには事情が…」
「武器も持ってない女の子にピストルつきつけるのにどんな事情があるのよ!」
宗介の言葉をかなめが遮った。
宗介としては今回間違ったことはしていないハズだった。
無論それは正論だったが、普段のこともあって宗介の脂汗は止まらない。
『今のうちに…。』
3人の視線が宗介に向いているうちに祥子としては剣をとり逃げるつもりだった、銀の剣に手がのびた。
が、直後剣と自分の手の間に銃弾が放たれた。
宗介のソーコムピストルだった。
「動くな。」
宗介の声が冷たく響く。
「ん?」
目の前から殺気が…。
「だ・か・ら!無抵抗の女の子に銃を向けるなっていってんの!!」
かなめのキックは宗介の顎を直撃した。
「かなめ…間違ってるぞ、今のは…」
宗介は必死に抗弁しようとする。
「何が間違ってるのよ!あんたのことだからいきなり茂みから飛び出して問答無用で倒したんでしょ!」
そしてかなめは祥子の方を向いた。
「そうでしょ?」
同意を求める。
戸惑いながらも祥子は考えた。
このまま一人で行動を続けるのは宗介のような相手にまたあったとき得策ではない、
このままついてってころあいを見て裏切るべきだと祥子は決断した。
返事がないのでかなめはうろたえた。
「え?もしかして違うの?」
祥子はボロを出さないように答える。
「ええ…彼がいきなり飛び出してきたから私も構えてしまって、その結果取り押さえられてしまって。
…その後自己紹介をして一緒に行動することになったのですが…その後私拳銃を持っているのを思い出して彼に教えようと取り出したときに…彼の前方に人影が見えた気がしたわ、だから…」
少しツラいか、と思いつつ相手の反応を伺う。
「発砲したのか?」
宗介が聞いた。
「ええ…けど拳銃なんて扱ったことなかったから弾は方向がそれてあなたの方に飛んでいったわ…
ごめんなさい。」
「ふ〜ん、じゃあ一概にソースケが悪いとは言えないわけね。」
祥子は安堵した、なんとか乗り切れたようだ。
剣をとり皆の側に行く。
「けどソースケ!いきなり襲いかかったりしたところはやっぱりあんたが悪い!」
「だが相手は武装していた、交渉するにも戦力を削いでからのほうが…」
ゴッ!また鈍い音が響き渡る。
「待て、待てかなめ。
そろそろ自己紹介をさせろ、俺はオドーと呼んでくれ。」
このままでは埒があかないと思いオドーが名乗った。
「あ、私はしずくです。」
続いてしずくが名乗る。
「ふぅ…まあいいわ、今に始まったことじゃないし。
あたしは千鳥かなめ、ソースケがお世話になったわね、よろしく。」
「小笠原祥子と申しますわ、よろしく。」
「相良宗介、階級は軍曹であります。」
最後に宗介が名乗った。
敬語なのはオドーがいたからであった。
「おお、物腰を見てもしや、もしやとは思ったがやっぱり軍隊出身か、よろしくな。」
オドーが答えた。
「ハッ!」
宗介は敬礼した。
【E1/海洋遊園地/7:40】
【正義と自由の同盟】
残り94人
【相良宗介】
【状態】健康
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ
【道具】前と変わらず
【思考】あの女は油断ならない。大佐と合流しなければ。
【千鳥かなめ】
【状態】健康
【装備】鉄パイプのようなもの(バイトでウィザード/団員の特殊装備)
【道具】荷物一式
【思考】宗介にやっと会えた。早くテッサと合流しなきゃ。
【小笠原祥子】
【状態】健康
【装備】銀の剣
【道具】荷物一式(毒薬入り。)
【思考】どのタイミングで裏切るか。祐巳助けてあげるから。
【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ(撲殺天使ドクロちゃん)
【道具】荷物一式
【思考】かなめさんが探してた人に会えて良かった。BBと早く会いたい。
【オドー】
【状態】健康
【装備】アンチロックドブレード(戯言シリーズ)
【道具】荷物一式(支給品入り)
【思考】協力者を募る。知り合いとの合流。皆を守る。この娘少々危険な気がする。
その3の後の方は4です、すいません。
もういっこ修正、宗介のセリフ内でかなめと書いてあるのは全部千鳥に直してもらいたい、度々すいません。
「・・くっ!」
パイフウは悪態をつく。最初の一撃で確実に一人を仕留め、混乱する一行へ続けて銃弾を浴びせる予定だったが、
突然の破壊音に驚き、手元が僅かながらくるったのと、古泉が振り返ったことにより精密に心臓を狙ったつもりが
虚しくも弾丸が捕らえたのは肩に掛けたデイパックのみだった。中にしまってあった水入りペットボトルを貫通したらしく、
じわじわと水が溢れデイパックに染みをつくっていく。もう少し軌道がズレていたら、その染みを作る液体成分は
古泉の紅い流血であったことであろう。
「な、なんだぁ!!」
状況についていけないらしく、ボルカンは驚愕している。キーリも二度の轟音に動けずにいた。
古泉は自分が狙われた事には気づいたものの、どう動くべきか瞬時に判断がつかなかった。
そんな中、状況を理解し、一番先に行動を起こしたのはハックルボーン神父であった。
近くにあった長テーブルを弾が飛んできたであろう方向へ投げ捨てると同時にこちらへもの凄い勢いで駆けて来る。
「失礼」
「きゃっ!」
「ぬおっ!」
キーリとボルカンをいとも容易く抱え上げ、古泉に目で合図を送る。古泉は意図を理解し軌道の死角を選びながら
近くの通路へ逃げ込む。ハックルボーン神父ら3人も古泉と対になる通路へ移動を終了していた。
「・・・ぅぅ!」
パイフウは二度目の悪態をつく。長テーブルは彼女が身を潜めていた壁際に直撃したため、彼女自身に外傷は無かったが
そのテーブルが木製であったため衝撃に耐えられず粉砕し、破片が四方八方に散って彼女の視界を一時遮る。
それは古泉たちに避難するのに十分な時間を与え、パイフウの再襲撃のチャンスを奪った。
僥倖に恵まれた結果と言えよう。テーブルを投げたのは、たまたまハックルボーン神父の手の届く範囲にあったからだ。
パイフウは逡巡する。この位置からではあの人達を同時には狙えない。
どちらか片方なら身を少し乗り出せば撃てない事はないが、二手に別れてしまった今、身を晒すのは危険すぎる。
筋肉質な男がテーブルを投げてきた事から彼が銃器類を持ってない事は明らかだが他の3人は分からない。
片方を狙っている間に逃げられる可能性もあるし、ガラスを割った人物のこともけして軽視出来ない。
侵入者であれば今の銃声と破壊音に気づき様子を見に来るだろう。もしかしたら複数かもしれない。
元を辿ればそいつのせいだ。あのガラス音さえなければ最低でも一つは死体が出来たのに!
一旦引く?いや、駄目だ。私はまだクルツ一人しか殺せてない。このままでは、ディートリッヒがほのちゃんに
迫るかも。ほのちゃんが悪魔に汚されてしまうのだけは避けなければいけない。
エンポリウムタウンの人たちだって、あと一週間しか期限が無い。・・・今の私に、ゆとりは無い!!
「・・・出来る限り一人でも多く、殺さなきゃ!」
覚悟を決め、飛び出した矢先━
「ミラ、ここに居るの?待っててね、すぐに助けるから。あいつら、主催者全員殺すから・・・」
続いてホールに現れたのは狙撃銃"鉄鋼小丸"を携えたアーヴィング・ナイトウォーカーだった。
【G-4/城の中/1日目・06:30】
【神父と仲間達】
【ハックルボーン神父】
[状態]:健康
[装備]:宝具『神鉄如意』@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:襲撃に対処。
【キーリ】
[状態]:健康
[装備]:超電磁スタンガン・ドゥリンダルテ(撲殺天使ドクロちゃん)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:混乱気味。
【ボルカン】
[状態]:健康
[装備]:かなめのハリセン(フルメタル・パニック!)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:キーリを護る。打倒、オーフェン。混乱気味。
【古泉一樹】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式) 穴が開きペットボトルの水が溢れてます
[思考]:厨房で武器調達後、長門有希を探す。襲撃に対処。
【G-4/城の中/1日目・06:30】
【パイフウ】
[状態]健康
[装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない)
[道具]デイバック一式。
[思考]主催側の犬になり、殺戮開始/この五人を皆殺し/火乃香を捜したい。
【アーヴィング・ナイトウォーカー】
[状態]:情緒不安定/修羅モード
[装備]:狙撃銃"鉄鋼小丸"(出典@終わりのクロニクル)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:主催者を殺し、ミラを助ける(思い込み)
【残り94人】
『人によって嘘は真実を超える』と『下手な嘘』のオドーの一人称を「私」に変更してください、本当何回まとめてくれる人に迷惑かけてんだか…。
おかしい。
ゲルハルト・フォン・バルシュタインは、眼下の少女を見下げながら思った。
祐巳君と潤君がここを出てからもう二時間は経つというのに、一体どうして戻ってこないのだろう?
少し話しただけだが、彼女たちの内、潤君のほうは中々に手だれのようだったから、それほど心配する必要はないかもしれない。
とはいえ、自分のような吸血鬼を始め常識では信じられない存在がうようよしているこの島を、娘二人だけでいるのは大変に気に掛かる。
先ほどまでの一時の油断をも許さぬ状況と違い、幸いこちらの彼女のほうは朝と比べて多少容態が安定してきたようだ。
この近辺を軽く一周してくるくらいなら、おそらく問題はないだろう。
そう考えた子爵は、アメリアの傍を離れて辺りを見渡しに行った。尤も、彼女をあまり長い間一人にすることは出来ないから、周囲を少し見て回るだけだ。
ふよふよと宙に浮く血液の固まりは、傍から見れば随分とアンビリーバブルな光景だったが、幸運にも彼の姿を目にした者は居なかった。
このときもしどこにも行かずその場に留まっていたら、彼は異形化した祐巳を発見していたことだろう。
しかし彼は、そこから離れてしまった。―この偶然の悪戯が、彼と彼の保護した少女との運命を決定付けた。
―ふむ、見当たらないか。と、なるとやはり彼女らの身に何かが起こったのだろうか?
もっと遠くまで捜索に行きたかったが、置いてきた少女のほうも心配だ。
そう思った子爵は再びふよふよと浮遊しながら元の場所まで戻る。
その道中には、いつの間にか誰かが通ったような跡が残されており、子爵は祐巳と潤が帰ってきたのかと思った。
しかし、彼のごく楽観的な判断は180度間違っていると言わざるを得なかった。
―彼が戻った先に居た者、それは血の海の中で横たわる少女だった。―
子爵が去ってから数分後、倉庫から海へと向かって真っ直ぐに走っていた祐巳は途中の草原で一人の少女を見つけた。
尤も、このときの祐巳を『祐巳』と言うのは彼女が可哀想かもしれない。
人間としての理性も記憶も失われた彼女にとって、この瞬間あったのは獣としての本能のみであったのだから。
獣は自分の進行方向に倒れている丁度良い少女を見つけた。
獣はこの時腹が減っていた。
獣は―。
アメリアは自分に何が起こったかわからなかった。
何か恐ろしい生き物が自分の目前にいたことまでは辛うじて覚えていたが、それが何だったのか判然としない。
(ああ、そうだ…私、吸血鬼に襲われて…それから…?)
身体を起こそうとするが、全身を襲う激痛は、彼女に一切の行動を許さない。
己の意思では、指一本動かすことすらできそうにはなかった。
身体のあちこちからだくだくと流れ出る血液は、さながら彼女の魂までも押し出してしまいそうだった。
もはや目はかすみ、痛いという感覚さえろくにない。
それでも彼女は、喉から絞り出すようにして声を出した。―友に届けと。
「…リ…ナさ…」
『いかん、喋ってはいけない!』
子爵が綴る言葉を目の端に捕らえ、アメリアは少し自嘲的に思う。
(ふふ、私、とうとう幻覚まで見えるようになっちゃたみたい…でも、どうせ幻覚を見るのなら、リナさん達の姿の方が良かったけれど…)
そう思う彼女に、神は最後の慈悲を与えたのだろうか。薄く目を閉じた彼女の目蓋の奥に浮かんだのは、何よりも大切な三人の仲間の顔だった。
(リナさんにゼルガディスさん…それにガウリィさんも…)
戦いの中に身を置いていたとはいえ、楽しかった日々の映像が脳裏に浮かんでは消えていく。
馬鹿話をして笑いあった。皆で食事をした。そんな何でもないことが、宝物のような記憶となって蘇る。
瞑った目から一筋の涙がつぅっと流れ落ち、ぽたぽたと草の葉を濡らした。
苦しみと悲しみ、そして死の淵からの手招きによって混濁する意識の中、アメリアは誰に聞かせるでもなく、無意識に呟いていた。
「…リナっ、さん…ゼル、ガディ、ス…さ…ごめ、な、さ…」
それだけ言うと、彼女は残る力を振り絞って両手を胸の上へと掲げ、指を組んだ。ずきずきと痛む傷も、崇高な祈りの前には気にならなかった。
何もない空をもがく彼女の両手の指に、精一杯の力が込められ、固く固く閉じあわされる。
「…せ、めて…あなた、たちは、いきのび、て…」
彼女が最期に願ったのは、友の無事だった。ゲームが開始すらする前に、目の前で最も信頼する友人の一人を失い、今まさに自身の命も消えようとしている。
けれど、けれど自分以上の強さを持つあの二人なら、きっと大丈夫。
この下らないゲームの中でも、きっと生き残れるはず。
だから神様、お願いです。二人が生きて元の世界に戻れますように。
少女はそのまま、ゆっくりと息を引き取った。
彼女の死を看取った赤い形状不定物は、己の無力を噛み締めながら一言、少女のための言葉を手向けた。
それがひどく陳腐だと分かっていても、彼はその言葉を残したかった。
『少女よ、安らかに眠り給え』と。
【残り93人】
【死亡 アメリア・ウィル・テスラ・セイルーン(027)】
【D−4/草原/一日目、09:00】
【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン子爵】
[状態]:体力が回復し健康状態に
[装備]:なし
[道具]:デイパック一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
[思考]:こんな状況でもどこまでも真っ直ぐな祐巳に対し、好感を持つ 食鬼人の秘密を教えたのは祐巳だけであり、他者には絶対に教えない アメリアの死を悼む
[補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません
【福沢祐巳】
[状態]:看護婦 魔人化 記憶混濁
[装備]:保健室のロッカーに入っていた妙にえっちなナース服 ヴォッドのレザーコート
[道具]:ロザリオ、デイパック(支給品入り)
[思考]:お姉さまに逢いたい。潤さんかっこいいなあ みんなを守ってみせる 聖様を救う 食鬼人のことは秘密
[補足]:この後、海へと向かい正気を取り戻す。 自身がアメリアを殺したことに気づいていま
三人がキノを追う事を決め、十分程が経過した。その間、四人はずっと階段を降りている。
先頭のキノの歩みは遅々としたもので、三人の歩調もそれに合わせて、遅い。
キノを追う事を決め、互いの紹介を済ませてからは、誰も口を開かなかった。
師匠と呼ばれた女性が、キノにとってどれ程大きな存在だったのか、彼らにはわからない。
だからこそ、キノに対して彼らは何も出来ない。心の整理が付くまでの時間を与える事がせいぜいだ。
幽鬼のようなキノの後ろ姿を見つめながら、オーフェンは今の自分自身の源流を思いだしていた。
汚点という呟き。葬列。共同墓地。無名の墓標。空の棺。その埋葬。
キリランシェロという自分を捨て、オーフェンという自分になった日の事を。
「…ちっ」
言い様のない苛立たしさが、舌打ちとなって現れる。
腹の奥に鉛を飲み込んだような奇妙な重圧があり、同時に胸の奥で何かが毛羽立っている。
過去を思い出す自分が苛立たしいのか。
視線の先にある過去を思い出させる後ろ姿が苛立たしいのか。
一時とはいえ、時間を共にした人間が死んだ事が苛立たしいのか。
わからない。ただ、嫌な予感がしている。確信にも近い、嫌な予感が…。
そんな時、不意に頭の中に、老人と子供が同時に喋っている様な奇妙な声が響いた。
死亡者の名前が呼ばれはじめてすぐ、「師匠」という呼び名が出た瞬間、
「決めました」
唐突に、先に進んでいたキノがその身を翻し、三人に向けて、云った。
先ほどまでの茫然自失とした状態が嘘のような、強い意志のこもる声。
その手にはいつの間にか拳銃が握られており、銃口は後続の三人対して向けられていた。
死亡者の中に知り合いがいないか、放送に集中していたイルダーナフが最初の犠牲者になった。
「なっ」
イルダーナフが驚きの声を上げるのとほぼ同時に、キノの放った銃弾が彼の腹部を撃ち抜く。
突き抜けた銃弾が鮮血を撒き散らし、傷を負ったイルダーナフはそのまま態勢を崩して、階段を滑り落ちていった。
「イルダーナフさんっ!」
ヴィルが声を上げ、落ちたイルダーナフを追おうとするが、それをオーフェンが手で制した。
が、その静止を振り切り、ヴィルは階段の途中で段差に引っ掛かるように倒れているイルダーナフの元に走る。
「馬鹿、止めろっ」
オーフェンが叫ぶ。ヴィルとキノ、両者に対する制止の声は、しかし無意味に終わった。
ヴィルがキノとすれ違い、数歩進んだ瞬間、二発目の銃声が響く。
放たれた銃弾がヴィルの足を貫き、バランスを崩したその体が、宙に投げ出され、階段へと落ちる。
頭を強く打った。ごき、ぐちゃり、と硬い何かが砕ける音と粘ついた音がした。
そのまま、ヴィルはイルダーナフを追い越し、より下の方へと転がり落ちていった。
気付けば、放送は終わっている。その中に自分の知り合いが含まれいたかどうか…
急転する事態の中で、それをオーフェンは聞き損ねた。だが、目の前の脅威に比べれば、それは些細な問題だ。
生き残る事を決意した少年と自分はどことなく似ている、研ぎ澄まされた意識の片隅でオーフェンはそんな事を思っていた。
目の前の少年は、何故か、牙の塔を出奔した当時の自分を思い出させる。
世界に絶望し、自分だけの力で目的を果たそうとした、滑稽な程、何も見えていなかった…自分自身を。
あの頃の自分はあまりに頑なだった。そして、目の前にいる少年もまた、そうだ。
大切な何かをなくしたが故に、なりふり構わずに何かに縋り付く。
そして、銃を向ける少年がとって縋り付くものがあるとすれば、
「…僕は、このゲームに乗る事にしました。そして、最後の一人になります」
死してまで自分を生かした者の遺志だろう。
「師匠と向かい合った時、怖かった。終わってしまうかと思いました…」
キノの独白じみた言葉の間にも、オーフェンは魔術構成を編む。
問答無用で二人を撃った時点で、既に説得は無意味だ。
「でも、師匠は、僕のために死んだ…僕のために死んだんです。僕は、最後まで生き残ります。どれだけの人を殺しても…」
魔術と拳銃、速度だけならば拳銃に分がある。
イルダーナフとヴィルへの攻撃を見て、咄嗟に構成したのは防御のための魔術だった。
魔術の威力が下がるこの空間で、どの程度までの攻撃が防げるかはわからない。
が、銃弾一発程度ならば、充分に食い止められるだろう。
オーフェンがそう判断を下すのと同時に、
「だから…ごめんなさい」
キノが躊躇なくトリガーを引き、
「そうかよ」
険のある声に乗せ、オーフェンが魔術を放った。
オーフェンの眼前に、無数の光輪が連なり合った魔術による盾が展開され、銃弾を防ぐ。
さらに発動前の一瞬、オーフェンは魔術の構成に僅かな手を加えていた。
連なる光輪はそのままの形で、キノの方へと一直線に突っ込んでいく。
魔術を初見するキノは咄嗟に反応できず、そのまま、光輪に直撃され、階段横の草むらにまで弾き飛ばされた。
だが、弾き飛ばされる最中にも、キノは銃を撃つ。放たれた弾丸がオーフェンの肩口を抉る。
焼けるような痛みに歯を食いしばりつつ、オーフェンは、キノが吹き飛ばされたのとは反対方向へと駆けだした。
【C-5/階段付近/1日目・06:10】
【キノ (018)】
[状態]:通常。
[装備]:『カノン(残弾1発)』 師匠の形見のパチンコ
[道具]:支給品一式
[思考]:最後まで生き残る。
【イルダーナフ(103)】
[状態]:腹部に銃創。出血多量。
階段の途中で、気絶中。
[装備]:ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り20発)
[道具]:支給品一式
[思考]:気絶中
【オーフェン(111)】
[状態]:精神、肉体共に疲労。肩口に銃創。出血。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:この場(キノ)から逃げる。傷の治療。
オーフェンがどこに逃げるかは、次の方にお任せします。
このメンバー全員、禁止エリアや死亡者の情報をまともに聞いていません。
【ヴィルヘルム・シュルツ(010) 死亡】
【残り93人】
『聖者の信仰』での、
子爵の[思考]と祐巳の[補足]をそれぞれ以下に変更します。
[思考]:祐巳と潤の不在を気にかける。食鬼人の秘密を教えたのは祐巳だけであり、他者には絶対に教えない アメリアの死を悼む
[補足]:この後、海へと向かい正気を取り戻す。 自身がアメリアを殺したことに気づいていません。
「申し訳ありません、師匠。確実に眉間を狙えと仰っていたのに」
立ち上がり服の草を払うと、キノは師匠に詫びた。
――殺すつもりでいたのに、また腹部や足を狙うとは……。
師匠の呆れ顔が目に浮かび、キノは小さく首を振った。
(きっと彼らが武器を構えていなかったせいだ)
どうやら相手に殺意がない限り、殺さない方針でいた普段の習慣が体に残っていたらしい。
だが、これからは違う。これからは確実に殺す。
今回は真正面から戦ったが、今回だけだ。
一度は一緒に行動しようとしようとした二人と、師匠と共にいてくれた一人に、敬意を表しただけにすぎない。
(次からはどんな手を使ってでも――)
決意を新たに固めたキノは、ふと自分の得物に目を落とした。
カノンは、あと一発しか撃てない。
(そういえば、あの二人も銃を持っていたな)
キノは階段に近づいていった。
そっけなかった階段は、二人の人間と夥しい血により様相を変えていた。
まずキノは、足を打たれただけならまだ救いがあったであろうが、バランスを崩し転んだせいで頭が陥没し、
もはや顔の確認すら出来ない不運な少年の、銃とデイパックを奪い取る。
そしてこつこつと数段のぼり、腹部の銃創からどくどくと血を流す男のそばへ歩み寄った。
男の傷は誰が見ても瀕死の重傷で、放っておいても死ぬだろう。
しかしキノは構わずカノンを男の眉間に向けた。
無粋な行為ともいえたが、キノの頭には師匠と一緒にいた男がいたのだ。
交戦した後見失ってしまったが、あの不思議な力が気にかかった。
よくわからない力を持つ者がいる。
もしかしたらそのせいで、この先自分の常識が及ばないことが起こるかもしれない。
例えば、瀕死の人間が回復するとか。
一度腹部を狙っておいて言えたことではないが、確実に止めを指しておきたかった。
「……う……」
「!」
しかしいざ引き金を引こうとした時、男が覚醒した。
キノは驚いて思わず手を止めてしまう。
カノンを構え警戒をしていたが、男はやけにうつろな瞳で、自分の現状に気付いていなかった。
どうやら、死を目前に幻覚でも見ているらしい。
男は色を失っていく目を這わせ、やがてキノの姿を認めると、呟いた。
ごぼごぼと口の端から血が泡となって溢れ出て、声は全く聞き取れなかったが
か・い・る・ろ・ど
血染めの唇は、確かにそう動いた。
(……ああ、そうか)
冷めた目でキノは思い出す。酷く大昔に思えることを。
(そういえばボクは、この人の知り合いを探してたんだっけ)
――でももう、どうでもいいことだ。
カノン最後の銃声が、響いた。
【C-5/階段付近/1日目・06:20】
【イルダーナフ(103)死亡】
【残り91人】
【キノ (018)】
[状態]:通常。
[装備]:『カノン(残弾無し)』 師匠の形見のパチンコ
ベネリM3(残り6発)
ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り20発)
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。
注:残り人数は「聖者の信仰」でのアメリア死亡を含めてカウントしています。
もし「侵食〜Lose Control〜」がNGになることにより「聖者の信仰」が無効になった場合は
【残り92人】になりますのでよろしくお願いします。
「我は癒す斜陽の傷痕」
傷口はふさがれたが、まだねばつくような熱い痛みが残っていた。苛立ちが募る。
石段の西にある高架下の森の中、息を潜めてオーフェンは身体と精神を休ませていた。
不満はあったが、それなりにうまくやれていたあの女性との関係。
そして弟子と会い、彼女は弟子を生かすために死んだ。そしてその弟子は遺志を継いで生き延びる選択をした。
……最初がごたごたしただけでこのゲームではこれが普通ではなのかもしれない。だが。
「……」
参加者の誰かの力を目覚めさせるため。
最後に残った一人に用がある。
なにかの儀式。
──どれもこんなゲーム(そう、奴らにとってはゲームなのだ!)を成り立たせていい理由にはならないし、なってはいけない。
「……あいつは生き残っても救われないだろうに」
“オーフェン”になったばかりの頃の自分と似ている、絶望にとらわれた少年。
師の遺志に縋りながら、多くの参加者の命をあの武器で奪っていくのだろう。
「純粋な殺人者よりも、ああいう奴の方が多いんだろうな、この──“ゲーム”には」
内にたぎる主催者に向けての怒りを抑えながら、オーフェンは今後の行動について考えた。
「……こんな状況だ、身内以外には頼らない方がいいのかもしれない」
こちらが信じようとしても、相手が疑心暗鬼に陥ってしまう可能性はある。
最終的に脱出を目指すなら赤の他人との協力は必須になってしまうだろうが……今は知り合いから頼った方がよいだろう。
デイパックから名簿を取り出し、改めて眺める。
知り合いは4人。意外と多い。
「ボルカンのやつはほっといても死なんだろ。あいつの死体が出てきたらそれこそこの世の終わりだ」
それに、もうややこしい奴には会いたくなかった。
「クリーオウは早く保護しないとまずいな。あいつには戦える力がない」
一人旅に出た後、彼女がどうなったかは知らないが……どちらにしろレキがいなければ彼女はただの少女だ。
「マジクは強い味方になってくれる。クリーオウを見つけるまでうまく無事でいて欲しいんだが」
マジクには魔術がある。彼は自分の弟子となり、旅の途中で一人前になり、自分から離れた。
クリーオウと同じくしばらく会っていないが、きっとより強くなっていることだろう。
……そして。
「……ほんとになんでもありか、ここは」
改めて溜め息をついた。
コミクロン。
チャイルドマン教室の一員。
医療技術に優れた魔術士。
──チャイルドマンに殺された、魔術士。
「…………」
捜すべきかどうか、迷う。
単純に同名の別人かもしれないし、あるいは前の『キリランシェロ』のように誰かがそう名付けて命じた殺人人形かもしれない。
「本当に本人だったらどうする? 死ぬ前に戻っているのなら、俺にいい感情は持っていないかもしれない。
……いっそのこと“キリランシェロ”の時の奴ならいいんだが」
そもそも前者は外見も知らない。
生き残って欲しいと思いつつ、あちらからコンタクトがあるまで積極的に動かない方がいいようだ。
一通り考えがまとまると、オーフェンはデイパックからペットボトルを取り出し、半分ほど水を飲み干した。パンにもかじりつく。
「……」
パンを腹の中に流すように咀嚼し、エネルギーを無理矢理補給する。
そしてふと、考えた。
「……ここまで生き残って──しかもゲームに乗らないことを選んでいる奴は何人くらいだろうな」
自分は放送をほとんど聞いていない。死人の名を告げる放送も二人分のみしか耳に入っていない。
できればその二人だけで終わっていることを願うが、まず間違いなくそれ以上の犠牲者が出ているだろう。
そして身内が死んだことで殺す側に回る者もまた多くなる。
……あの少年のように、絶望に食われてしまう者が大勢出てくるだろう。
「くそ」
一体何人が、正気を保ったままここで生きていけるだろう?
一体何人が、誰も殺さずにここで生きていけるだろう?
一体何人が、絶望せずにここで生きていけるだろう?
「……俺は、」
──正気は保っていられる。……だが、もしマジクやクリーオウが死んでしまったら怒りを抑えられないかもしれない。
──ここで殺さずに生き残るのは多分不可能だ。その手段を選ばなければいけないときが必ず来るだろう。
──神はいない。人は自立しない。それでも生きていかなければいけないことが絶望。
『なにかあるんだ! 奇跡はないかもしれないが、それと同じものが。じゃなけりゃ、誰も生きてなんていけるものか!』
以前、自分がクリーオウに言った言葉を思い出す。
一体何人が、奇跡と同じなにかを見つけることができるだろう?
「……俺は、できる」
誰かに宣言するように、声を出した。
「俺は、絶望しない。マジクやクリーオウは俺が取り戻す。他の奴らだって、絶望していない者はいるはずだ。
……好きで殺し合ってる奴ら。好きでもないのに殺し合っている奴ら。そいつらよりも俺たちの方が多くなれば、俺たちの勝ちだ」
二人を捜し、同志を探し、ここから脱出する。できないことではない。……絶望しなければ。
──神はいない。人は自立しない。それでも生きていかなければいけないことが絶望。
だが、自分は絶望しない。
「それが俺だ」
「自我の確立というものは健全な青少年にとって一番重要なものだが、お前さんの年ではちと遅すぎやしないか?」
「いきなり黙るのは身体に悪いぞ」
「………………」
ゆっくりと、深呼吸をする。
「……いいか、よく聞け」
目の前のそれを見つめる。できるだけ小声で話しかける。
「うむ」
「この期に及んで見るからにややこしそうな奴がでてくるなあああああ!」
青い虫のようなものに向けて、言ってやった。
【C-4/高架下の森/1日目・06:40】
【オーフェン】
[状態]:身体の疲労は回復。精神はお察し下さい。
[装備]:スィリー(気絶から復活、真下のオーフェンのところへ)
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1と1/2、パンが少し減っている)
[思考]:マジクとクリーオウの捜索、仲間を集めて脱出(殺人は必要なら行う)
※放送を冒頭しか聞いていません。
※周囲のどこかにアメリアの支給品(支給品一式+獅子のマント留め)があります
【残り91人】
洗い場に皿を放り込んで戻る途中、窓の端に何かが見えた。
茂みの陰に、黒い上着――身を翻して、奥の部屋へ。
「誰かいる、起きろっ」
「…………!」
緊迫感に満ちた、しかし静かなその一語に、風見は一気に覚醒した。
油断無く銃を取り、デイパックを背負って身構える。
景もデイパックを背負い、ナイフを手に。
「東方向、外。茂みの陰に黒い上着が見えた」
そんな説明に、風見は頷く。
「東っていうと正面玄関ね。逃げるなら南の店舗か、北の勝手口か……それとも西の窓?」
二人が判断を下す前に、まず音がした。
東側から、硝子の砕ける音。
「窓を破るとは、あまり平和的にも思えないが――どうする?」
思案気に呟く景に、風見は一語で応じる。
「逃げるわよ」
そのやりとりと共に、壁に背を預けて風見が慎重に移動を開始。
向かう先は西の店舗。
雑多な品々が並べられた店ならば、逃げるのにも隠れるのにも便利だろう、と。
景も頷き、後を追う。
家は破砕音の後は静まり返っており、かえって不気味な印象だ。
しぃん、と静まり返ったその家を、無言で移動する。
周囲の安全を確認し、未だ正体不明の客人に注意を払い――
西の店舗に繋がる扉に達した時には、思わず二人の口から安堵の吐息が漏れた。
「さて――」
風見が銃を構えて警戒を続ける中、静かに積み上げた椅子のトラップを降ろす。
景の作業の終了を確認し、風見が扉に手をかける。
「開けたら一気に走り抜けるぞ」
「了解……途中でバテないでよ?」
――そして、扉が勢い良く開いた。
「…………え?」
見えたのは、黒いジャケットを着て、腰をベルトで締めた十代の少年。
その黒い瞳には、紛れも無い殺意が宿っていた。
腰だめに構えられた散弾銃の銃口は、こちらが扉を開ける瞬間を狙っていたらしい。
そして引き金が絞られる様子が、やけにゆっくりと見え――
銃声と共に、扉が砕けた。
しかし、風見は既に扉の前にはいない。
その身は脇に押し倒されていて、
「ぐ……ぁああああああああッ!」
眼前には血染めの景が居た。
また、助けられたらしい。
ぼんやりと頭のどこかが呟くが、身体が動かない。
そんな中、景は獣じみた咆哮と共に右手のナイフを投擲。
その動作によって風見の視界に入った左肩や脇には、大量の硝子や木片が刺さっていた。
そして、景の投げたナイフが散弾銃の銃身に弾かれ、びちゃりと景の血が頬に付着するに至り、風見は正気を取り戻す。
「く――ッ!」
身を起こす。
こちらが銃を構えるのに気付いて物陰に飛び込んだ相手に、数発の威嚇射撃。
先程の椅子を倒し、左手で景の肩を抱えて全力で逃げる。
二発ほど散弾銃のものとは違う銃声がしたが、幸い風見の頬を掠めた程度だ。
風見はマガジン一つの残弾を使い尽くし、後方に盲撃ち。
廊下の角を曲がり、景の歩調に合わせて走り、走り――
東の窓の傍には、硝子片と共に小さな小石が落ちていた。
が、それだけだ――誰も侵入などしていない。
「御免、私のミスよ。いつから見られていたかは分からないけれど……こっちの行動を見越して待ち伏された」
それを見て言いながらも、近くの雨戸を蹴破ってその向こうへ。
「気に、しないで、いい……それより……きみは、だいじょ……ぐ……」
「喋らないで!」
支える風見の左手にも、ぬめった血の感触。
重傷の景を連れては、遠くへは行けない――何処に逃げるかと庭を見渡せば、都合良く地下へのものらしき扉が見えた。
金属製の錆の浮いた扉を開けて、再び閉め、懐中電灯をつけて階段を降る。
恐らく、景の血の痕が点々と残っているだろう。
それを目印にした追撃の可能性を考えて、せめて迎え撃てる場所まではと降り続ける。
階段の最後の一段を降り、周囲を見渡す。
遠く広がる洞窟らしきものと、水を湛えた湖があった――地下水脈、だろうか。
「もう大丈夫――すぐに治療を……」
追って来る気配が無い事を確認して、風見は景を階段脇に横たえる。
「し、ないで、いい――もう、無駄、だろう?」
「…………」
風見は無言。
確かに懐中電灯で照らした景の出血は、救急箱程度ではどうにもならないものだった。
今も、じわじわと景の周囲に赤い血だまりが広がっていく。
「海野さんを、手伝ってあげて、欲しい……あと……甲斐が、馬鹿をしていたら、遠慮は……いらな、い……」
景の瞳が、徐々に光を失っていく。
風見は、景の手を握って頷く。
濃厚な鉄錆の香りも何も、もはや二人の意識には無い。
「緋崎、正介は、危険……だから、近付くな……君は、生き延びる事を、優先して……」
ふと、風見は己の視界の歪みに気付く。
ぽたりと、握った手に液体が落ちた。
「泣い、て……いる、のか……?」
「馬鹿ね。私が泣くわけ、ないじゃないの――アンタみたいな、見ず知らずの他人に、何で……」
風見の言葉に構わず、ありがとう、と景は呟いた。
ぽつり、ぽつりと零れる雫の下で、景はゆっくりと風見を見上げた。
その瞳に映っているのは風見ではない、誰か。
「ぁ……さちゃ……ごめ、ん」
ゆっくりと、景の唇が動く。
右手がゆっくりと、震えながらも恭しく、空を掴むように伸ばされて――
「……なたを……まも、れ……」
景の右手が、力を失った。
それが、魔法使いであり騎士であり語り手であった少年の最後となる。
少女の嗚咽を刻み、懐中電灯の光の向きはゆらゆらと定まらない。
――周囲の影が少年の死を悼むように、ぼぅ、と揺らいだ。
【C−3/商店街(及びその地下の湖)/一日目/09:52】
【物部景(001)死亡】
【残り90人】
【キノ (018)】
[状態]:通常。
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ベネリM3(残り5発)
ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り18発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。
【風見千里(074)】
[状態]:健康だが血塗れ。景の亡骸が傍らに。精神的にダメージ?
[装備]: グロック19(弾切れ)、予備マガジン一本(弾は十分に)、頑丈な腕時計
[道具]: デイパック&景のリュック(合わせて支給品一式、缶詰四個、ロープ、救急箱、朝食入りのタッパー、弾薬セット)
[思考]: 1.安全な所まで逃走。 2.景を埋葬。 3.仲間と合流。
注:残り人数は「聖者の信仰」でのアメリア死亡を含めてカウントしています。
もし「侵食〜Lose Control〜」がNGになることにより「聖者の信仰」が無効になった場合は
【残り91人】になりますのでよろしくお願いします。
「いいか! 俺は現状でいっぱいいっぱいで、それでも頑張って生きてるんだよ! それをテメエは――」
びしりと指をさして、オーフェンは叫んだ。大声を聞きつけて誰かが近付いてくる危険性など忘れて。
「執事か!? 執事なのかテメエは! ああ?」
「シツジ。まあそう呼んでくれも構わないが、自分ではスィリーという名前が気に入っている」
「……スィリー?」
半眼で、その単語を口に出した。スィリー。
ふよふよと飛びながら、スィリーと名乗る羽虫小人は続けた。
「名前は適当だよ。なんだったら、好きなようにつけてもらってもいいくらいだ」
「赤紫マダラ接続式ゾウガメ」
「スィリーって名前、気に入ってるんだホントに。うん。このやり取りも何度かした覚えがある」
「つまり」
片目をつむり、見下ろす。腕組みをする赤紫マダラ接続式ゾウガメ(仮)は、重力に逆らって浮いていた。
オーフェンは息を吐いた。聞く。
「スィリーって呼んで欲しいのか?」
「強制はしないぞ。それがルールだからな。ルールは破るためにあるとか言ってる奴こそ、そういうルールを自分に架してるんだ」
「良く分からん。それで結局、お前は何なんだ?」
「種族的には人精霊というものにカテゴライズされるらしい。誰が区分けしたのか知らんが、きっと髭の長いやつだろう」
「髭?」
「髭だ。偉いやつほど髭を伸ばしたがる。つまり存在係数的に最強小道具は付け髭だ。間違いない」
言い切ったスィリーが風に流されて体勢を崩すのを見ながら、オーフェンは何故か脳裏に浮かんできた付け髭少女を意識から追い払った。なんでまたそんなものが浮かんできたのか。
人精霊という単語に、聞き覚えはなかった。強いていえばフェアリー・ドラゴンの使う精霊魔術か。
(……精霊魔術で生み出された擬似生命か?)
推論を浮かべたところで、確証はない。本人に聞いたところで明確な答えは返って来ない――そんな確信だけはあった。無意味に。
かぶりを振った。どうでもいい。こんなところで人精霊とやらの戯言を聞くよりも、やることがある。
オーフェンは座り込んで地図を広げた。地形しか分からないのならあまり意味はないが、有利な地形を進んだ方がいいだろう。
ついでにパンを取り出してかじりながら、考える。
(身を隠すなら森伝いに進んだ方が安全か。森林内なら木が邪魔して銃器は使いづらい)
思い出して、オーフェンは撃たれた箇所をさすった。魔術で治療したが、まだ痛みは残っている。
(……D-5の森で、待ち伏せといくか)
決めて、オーフェンは地図を畳んでバッグにしまった。水を一口飲んでパンを胃に流し込むと、立ち上がる。
「ん? なんだ黒いの。討ち入りか? 討ち入りに行くのか?」
「……ついてくるつもりか?」
「そこはかとなく嫌そうだな。対黒い者用最終兵器・燃えライオンがそこら辺に転がってるのを知らないのか?」
「なんだそりゃ」
「そこに落ちてるだろ」
人精霊の指差す先を見る。と、草に埋もれた何かがあった。
かがんでそれを拾う。獅子の彫金がなされた、レリーフ。瞳の部分には白い水晶のようなものがはめ込まれている。
「確かに獅子だが、燃えてないぞ」
「あんた精霊使いか? 残虐拘留装置に封じられた精霊は、精霊使いに酷使されるものだが」
「分からんって」
人精霊には適当に答えて、オーフェンはとりあえず、獅子のレリーフをバッグに入れた。
【C-4→D-5/高架下の森/1日目・06:55】
【オーフェン】
[状態]:身体の疲労は回復。精神はお察し下さい。
[装備]:スィリー(気絶から復活、真下のオーフェンのところへ)
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本、パンが更に減っている)
[思考]:マジクとクリーオウの捜索、仲間を集めて脱出(殺人は必要なら行う)
※放送を冒頭しか聞いていません。
【残り91人】
失礼。抜けていました。
【C-4→D-5/高架下の森/1日目・06:55】
【オーフェン】
[状態]:身体の疲労は回復。精神はお察し下さい。
[装備]:スィリー
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本、パンが更に減っている) 獅子のレリーフ
[思考]:マジクとクリーオウの捜索、仲間を集めて脱出(殺人は必要なら行う)
※放送を冒頭しか聞いていません。
【残り91人】
「ようこそお客人」
流石にそう出迎えられるとは3人とも思わなかったようで、侵入者である3人は面食らってしまった。
クエロ、クリーオウ、そしてゼルガディスの3人は、慎重に学校内の探索を行った。
勿論学校――しかも木造の――であるわけで、さしたる武器や食料と言ったものも無かった。それどころか、人の気配すら殆ど無かった。
「……無駄骨か」
ゼルガディスは憮然と呟いた。古い作りなので足音が響くし、いざとなれば脱出ロも多い。雨風がしのげ、調理場のようなものもあるようだった。
「拠点にするには悪くないと思ったんだがな…」
実の所、タッチの差で彼らは人類最強+1と擦違っているのだが、彼らが慎重を期していた事、人類最強が急いでいた事の両方が作用したおかげで、ここで鉢合わせとは行かなかった。
結果的にアメリアと再開できなくなることまでは、管理者と言えど予想はしなかっただろうが。
「さて、どうするのかしらゼルガディス」
値踏みするようなそんな声で横を歩くクエロが言う。
はたから見れば、彼女は容姿も美しく、気立ても良く、頭も周り、行動力もあった。
(……だが、それが気に入らない)
ゼルガディスは、強くなる為にまっとうな人間の肉体を捨てた。その末路がこの岩人形と邪妖精、そして人間が混ざった哀れな姿だ。
完璧な人間などいない。かの赤法師でさえ、その全能と言える力の代わりに、その視覚を奪われていたのだから。
(赤法師……レゾ)
ゼルガディスを騙した男。仲間を殺した男。大魔道師レイ・マグナスと並び称される魔術の才を持ちながら、己の盲目だけは治せなかった哀れな魔王。
「ちょっと、ゼルガディス?」
「……ああ、すまん。考え事をしていた」
クリーオウに言われて現実に戻る。
「クエロ、放って置いて先に言っちゃったよ。ほらあそこ」
前を見れば、クエロが部屋の前で立ち止まっている。次の探索はあそこのようだ。
(俺は……同じ間違えはしない)
光の剣を腰に確かめて、クエロの後を追った。
そうして扉を開けて、先の挨拶であった。
「……ゲームには、乗っていないのか?」
ゼルガディスが口を開いた。中の二人、一人は男、一人は女。挨拶をしたのは女であり、風体的にはどちらも戦闘向けとは言い難い。
「まぁ、そんな所かな。こちらは特に敵対の意志は無い。そちらは未だ読書に夢中のようだし…」
サラは空目を見やったが、彼は現在10冊目の読書を終わろうとしている。かなり驚異的なペースである。
「私としても、君達3人を相手にして生き残れるとも思えない」
「……そう単純にも思えないがね」
ゼルガディスはそう言って剣から手を離した。敵意はお互いに無かった。
「信用するの?」
「アンタよりはな」
クエロは内心舌打ちをした。このゼルガディス、ガユス等よりよほど「裏」の事情に精通しているか若しくは……兎も角彼は思いのほか用心深く、簡単に信用を勝ち取る事は出来なかった。
お互いが綱渡りであった。今は利害の一致で一緒に行動しているに過ぎない。
「まぁとにかく、今はお互い情報の交換といかないかね。それに……もうすぐだ」
「何がだ?」
ゼルガディスがサラの言葉に疑問符を投げる。
「管理者様からの、ありがたい放送タイムさ。それまでにお互いの情報を整理しようじゃないか」
【残り91人】
【D−2(学校内3階図書室)/1日目・05:30】
【クエロ・ラディーン】
[状態]: 健康
[装備]: ナイフ
[道具]: 高位咒式弾、支給品一式
[思考]: ゼルガディスに同行する、サラと会話
+自分の魔杖剣を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
【C-2/高台の下辺り/1日目・03:05】
【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:ゼルガディスとクエロに同行する
【ゼルガディス・グレイワーズ】
[状態]:健康、クエロを結構疑っている
[装備]:光の剣
[道具]:支給品一式
[思考]:サラと情報を交換する、リナとアメリアを探す
【サラ・バーリン(116)】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾や煙幕を幾らか。及び、メスや鉗子など少々。
[道具]: 支給品一式/巨大ロボット?※1(詳細真偽共に不明)
[思考]: 刻印の解除方法を捜す。ゼルガディスらと情報を交換する
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
【空目恭一(006)】
[状態]: 健康
[装備]: 図書室の本(読書中)
[道具]: 支給品一式/原子爆弾と書いてある?※2(詳細真偽共に不明)
[思考]: 書物を読み続ける。ゲームの仕組みを解明しても良い。
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。
床に座って食事を摂りながら、ふと詠子が口を開いた。
「さっき法典君は“異世界の戦闘民族”って言ったよね。どういう見解かな?」
「おやおや、自説を固めるために意見を聞きたいのならそう言ってほしいところだね。
実際のところ、私より多くのモノが見える君ならばかなり真実の近くにいるのではないかね?」
「そうでもないんだけどなぁ。私の透見は世界っていう物語を楽しむためだけのものだからね」
「ふむ。物語を楽しむためならば尚更、本質的な情報が得られていると思うのだが」
「ふふ、やっぱりあなたは誤魔化されてはくれないんだねぇ。
……うん、でも本当にまだよくは分かってないんだよ。まだ一章第二節ってところかな」
「登場人物も出揃ってはいない、か。それに関しては同感だね。まだ情報が足りない。
……だが開会式の様子、ギギナ君などを見ても、こう……過剰にメルヘンだったね?」
「最初の二人が死んだときの“刻印”も、私の知る限りのどの魔術とも違ったものだったよ」
「そこで、だ。……例えば君と私は同じ世界の人間かね?」
「その証明は難しいけど……地球の、日本だよね?」
「ああ。時間は2005年。IAIのとある部署で世界を回している」
UCATに関しては、一応伏せた方がいいだろうと判断した。
が、これに対し詠子は意外な反応を見せた。
「……IAIっていうのは?」
「出雲航空技研。出雲社の子会社の一つでそこそこ名の知れた企業だが……知らないかね?」
「私だってそんなに社名を知っているわけじゃないけど……有名だったら、聞いたことぐらいはあるとおもうなぁ」
困ったように、肩をすくめる。
「少し見えてきたか。では詠子君の所属……ああ、学校などで構わないが、聞かせてくれるかね?」
「房総半島にある羽間市の聖創学園大学付属高校の3年生だけど、これだけじゃ分からないよね」
市名も、学校名も、聞いた覚えのないものだった。
「……どうやら確定したようだ」
そしてもちろん、詠子は尊秋多学院の名を知らなかった。
「ふむ、ここでも異世界人とコンタクトが取れるとは……異世界というのも珍しくないのかもしれないね」
「並行世界っていうのかな。ふぅん、面白いねぇ」
まったくここに来てからは驚きばかりだった。
(見たところ恐らく遺伝子レベルまで私たちと変わらぬようだが。
いや何より驚くべきは詠子君は年上か。小柄で無邪気で不思議な年上女性とはまた……)
「おお快なり! いや失敬。少し汚れた哀れな御老体の思念が取り憑いたようだ。
ともあれ、名簿を見る限りで似た言語基盤から名付けられた人間も多様な異世界から集められたとすると……どうなるだろうね?」
「それはこれの開催者のことかな?」
「それもあるし、そこからこれの目的や脱出方法をひねり出せないかと考えている」
「うーん……」
詠子は紙を取り出すと、膝の上でさらさらと文字を連ねた。
『体に入った刻印から定期的に何かが出ている→多分音声、体調などが主催者側に筒抜け』
「ああ――盗聴のことなら知っている」
佐山は堂々と主催者に宣告した。
「法典君は時々勢いで喋ってるんじゃないかぁって思うんだけど、どうかな」
言葉ほどに呆れた様子は見えず、反応は眉尻が下がる程度のものだった。
「ははは私は理性と英知の鬼だよ? まぁこれを見たまえ」
佐山は懐から小さな機械を取り出す。
大豆ほどの大きさのそれは、よくよく見ると監視カメラだと知れた。
そのレンズに佐山は目一杯顔を近づける。
「ここで見つけた。盗聴器の類はないことから何らかの形で音声データは送られていると思った。
これほどの技術は私の世界にはないし、動力も電気的なものとは限らないがね。
上手く隠したつもりだろうが、プロの私に言わせればまだまだだね。
いいかね。盗撮のカメラとは小賢しく物の陰に隠すのではなく賢く心の陰に隠すものだ。
加えてあの位置では脱衣シーンを得られたとしても肝心な部分を素敵な位置から撮れない。
せっかくなので私見を述べるとこの隠し方は機能的であっても美学がない。
もう一度言おう。ま・だ・ま・だ・だ・ね。おお快なり!
ふふふ隠れた趣味の暴露というのも素晴らしいね詠子君」
「航空技研の、盗撮班なのかな?」
「いやいや私が盗撮・盗聴を行うのは新庄君ただ一人だよ。
本人にもきちんと開示してあるからそう貶されたものではない」
重々しく頷き、監視カメラを自分の顔を見上げる位置に固定。
『これで筆談も問題ない。隠し事なら徹底的にやろうではないか』
顔を下に向けず、そう記した。
「さて、脱出以前にどれほどの拘束性があるのかもまだ不明な段階だからね。
残念ながら脱出の方法はここでは置いておこう」
「それに、脱出したところでまた連れてこられると思うよ」
「『連れてくる』。ふむ、どうやって?」
「スタートのときの移動から考えて、魔術的方法だとは思うよ。
私達の世界では『神隠し』っていって、人を私の見ているような世界に連れていく方法が、ある」
どうやる、どのような存在がやる、何のためにやるか詠子は言わなかった。
「では……君の見ている世界と君が存在している世界の関係はどんなものかね」
「私の視る世界は人が作った物語で出来ているからね。うーん、どうだろう。
知っている人はその世界を怖がるね。私は“それ”と一緒に生きてきたから、仲良くすればいいと思うんだけど」
「つまりそのコンタクトはあまり友好的ではない、と?」
「そうだね。……それはとても悲しいことだけど」
「ふむ……私の住む世界は10の異世界と戦争をして勝利し、現在その戦後処理に追われている。
どの世界の住人にも譲れないものがあり、しかしお互いに幸いであろうとしている。
思うに、どのような関係であれ異世界に干渉できる術があるのならば、今回のこれは唐突すぎる」
「本来ならそれ以前に何らかの接触を持っているはず、ってことかな?」
「その通り。何故119人の私たちなのか。何故殺し合いなのか。何故これほどに脈絡がないのか。
これら全ての“何故”にそれぞれ答えはあると思う」
「かつての剣闘士みたいに戦わせて楽しむだけ、という考えはあると思うんだけど」
「それは最も理解し難く、理解しやすい理由ではあるが……
これだけの人数を、恐らく多くの異世界から掻き集めるリスクに足る理由とは思えない。
もちろんまったく思考基盤の違う人間が主催してるわけではないことを前提として、だが」
「実験、例えば干渉できる世界の中での最強を見つけようとした、っていうのはどう?」
「実のところ、それは真っ先に否定したい。
私の世界だけ見ても子煩悩の軍神やこの期に及んで右翼の魔法使いなど、強烈な面々が跋扈している。
客観的に見て世界での知名度、戦闘能力などは進化途中の私より格段に上だろうね。
そしてそれでは装備品をわざわざばらけさせる理由もない。
何より……失礼ながら、詠子君は特殊な能力を持っていても戦闘向けとは言えないと思うが?」
「そう。私は確かにあるけど見えない、そういう世界を見るだけだからね。
銃やそれ以上のものは元より、普通の男の子の腕っ節にも敵わないと思うよ。
でももしいろんな世界から無作為に選んだとしたら?」
「――それでは素敵に無敵な私及びまロいマスターである新庄君が当選するのもおかしい。
世界一無敵な私と世界一まロい新庄君、だよ? おのれまロみ収集家か開催者めっ!」
「ちょっと同じ日本語でも齟齬があるみたいだけど、そうだね……儀式はどう?」
「それは即座に否定するわけにはいかない、あり得る話だね。儀式に限らず宗教的な理由という線は」
『だが私はこう思っている』
カメラに対して変わらぬ様子を見せながらペンを走らせ、口はブラフのための装置へと変換。
「度が過ぎた宗教が殺人行為に至るのはそう珍しくはないし、」
『とある何かを備えた人間を見つける実験、それには同意する。しかしそれは戦闘力ではない』
「それであればあらゆる疑念を無視してこのゲームの開催理由ともできよう」
『それは、運命とも言えるものに干渉する能力、危機的状況をどうにか何とかする能力ではないだろうか』
『運、ってことかな?』
「血と死を以てして行う儀式というのも使い古した話だがね。それこそ魔女の領分だ」
『快い字だね→『運』。ともあれそう言い換えることもできるだろう。
戦闘能力も技量も知略もあらゆる要素を超越し、最悪を幸いへと導く存在。
それを見つけるための篩というのが現時点での私の予想だ』
「血も死も最も神聖視される構成物であり、現象だもんね」
それを用いた儀式を元の世界で再開するために帰るのだ、とは勿論言わない。
『悪くはない考えだとは思うけど、飛躍しすぎてる気はするかな』
「そう。悪魔でも召喚するのか神でも慰撫するのかは知らないがね。ともあれ――」
『だから君の詩と同じく、現時点ではただの戯言だよ。
この仮説がいい感じに正解であろうと、口頭でのブラフが面倒にも正解であろうと――』
苦笑。
「――私たちに出来ることは一つ。
何があろうとも、己の予測できないことごとくに立ち向かわなければならない」
カメラの向こうへその覚悟を告げ、思う。
もし幸いへの鍵を探しているのだとして、黒幕は自分たち以上の窮地に立たされているのだろうか、と。
それは、交渉材料になるだろうか、と。
【E-5/北東の森の中の小さな小屋の中/1日目・07:30】
【佐山御言】
[状態]:健康
[装備]:Eマグ、閃光手榴弾一個、メス
[道具]:デイパック(支給品一式)、地下水脈の地図
[思考]:1.仲間の捜索。2.市街地でサッシー捜索
【十叶詠子】
[状態]:健康
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:1.元の世界に戻るため佐山に同行。2.物語を記した紙を随所に配置し、世界をさかしまの異界に
「ねえ、これからどうするの?」
海岸を行くアリュセが、後からついてくる出雲に訪ねる。地図を見ながら歩く出雲は、何処に向かうかずっと
考えていたのでアリュセの問いかけには気付かなかった。
最初の放送で互いに知り合いの名前が呼ばれなかったか確認した後、2人は朝食のパンとうまか棒
を食べながら今後の方針について話し合っていた。
結果として、アリュセの方の知り合いを先に捜す事になったが、その間ずっとアリュセは子供扱い
されていたのが気に入らなかったらしい。
ちなみにその時「子供扱いも何も、まんま子供じゃねえか」と出雲がそう言ったせいで、アリュセから股間に
鋭い一撃をもらったのはまぁどうでもいい事である。
それはともかく、出雲はこれから何処に向かうべきか考えていた。正直に言えば、捜す手立てがない以上
何処へ行っても一緒だと思った。
「なぁお嬢ちゃん、ちょっとこっちに来てくんねえか?」
出雲はアリュセを手招きして、こちらの方へ呼び戻したあと地図を見せてこう言った。
「お嬢ちゃんの知り合いのいそうな場所とか、わかんねぇか?」
アリュセはしばらく地図を眺めて、ある一点を指した。
出雲がその理由を尋ねるとアリュセは、「王子って盆栽が趣味だから、盆栽の有るところにいるんじゃないか
と思って」と答えた。
正直、盆栽が趣味の王子様というのはどうなのかと出雲は思ったが、流石にもう一度股間に一撃をもらうのは
嫌だったので口にはしなかった。
「それじゃ、そこに向かうか」
出雲がそう言ってから、2人はまた歩きはじめた。
「さっきの人達、もうどっかに行ったみたい」
洞窟の影から2人を見ていた火乃香がシャーネにそう告げた。
洞窟内での一件のあと、互いに敵意がない事を確認した2人は洞窟内で一旦仮眠をとって、今後どうするかを
考えていた。その最中に外から声が聞こえてきたので、2人は洞窟の奥の方で隠れていたのだ。
「それで、シャーネさんはどうするつもり?」
火乃香の問いかけに、シャーネは地図に記された海上遊園地を指し示す事で答える。
「そこに、さっきいってたクレアって人がいるの?」
シャーネは少し躊躇いながら頷いた。別に確証があっての事ではないので、そこにクレアがいるかどうかは
保証できない。ただ、こういうのは彼の趣味に合いそうだという理由だけで選んだに過ぎないのだ。
「ふぅーん……、じゃあとりあえずそこに行ってみよっか?」
その意見に、シャーネは驚きを隠せなかった。
この少女は何の衒いもなく自分を信用している。それがシャーネには不思議でならない。
このゲームでは、他者を信用しない事を強要する。誰もが殺人者になりうるし、誰もが被害者になりうる
こんな状況では、誰一人として信用なんてできない。
なのに彼女は自分を信用している。どうして……。
「なに、どうかした?」
火乃香がシャーネの顔を覗き込む。その顔には、ただシャーネを心配する様子だけが見えた。
「もしかして、あたしの知り合いを心配してる?」
そう言ってから、火乃香は笑いながらこう返した。
「だったら心配いらないよ。うちの知り合い連中は、みんなタフだからさ」
火乃香はシャーネの手を取って歩き出す。
「だからさ、早くクレアって人を捜さないとね」
そして彼女たちもまた、活動を再開した。
【H-5/海岸 /1日目・7:00】
【出雲・覚】
[状態]:左腕に銃創あり(出血は止まりました)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/うまか棒50本セット/バニースーツ一式
[思考]:UCATの面々と合流/アリュセの面倒を見る
【アリュセ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:リリア、カイルロッド、イルダーナフと合流/覚の面倒を見る
【備考】
北北西方向(だいたいD-3あたりに住宅街があるということで)へ向かう。
【H-5/洞窟 /1日目・7:00】
【火乃香】
[状態]:健康
[装備]:騎士剣・陰陽
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:シャーネの人捜しを手伝う
【シャーネ・ラフォレット】
[状態]:健康
[装備]:魔杖剣「内なるナリシア」(出典:されど罪人は竜と踊る)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:クレアを捜す/襲ってくる奴は殺す
【備考】
海上遊園地へ向かう。
【残り91人】
「…………っと」
──正直、かなりきついわ。
己の無力さを認めざるを得ず、ベリアルは歯噛みした。
川から南西にあるビルの中。死にものぐるいでそこにたどり着き、幸いにも置いてあった救急箱から消毒液や包帯を引っ張り出して今に至る。
左腕と口を使い包帯を巻き終わったときにはもうスタミナを使い切っていた。
「もうあいつには会いとうない。誰かが殺してくれるのを待つしかないわな」
眼帯の奥に白い眼を持つ少女。あの強大な悪魔だけですら脅威なのに、正体不明の銀色の糸も使ってくる。
体術はたいしたことないが、場慣れしている印象を受けた。
「そもそも……なんで俺はここにいるんや」
一度死んで、しかも悪魔になり、そしてそれも消滅し────だが、今こうしてここにいる。
バールに呼び戻されたのなら──いや、肉体ごと復活しているのは明らかにおかしい。
「……生き返った、としか考えられんな。ゾンビなのか、俺は」
苦笑する。あんな“悪魔"がいるならゾンビが出てきてもおかしくない気もするが、さすがにそれは行き過ぎだろう。
「まぁ、いまここにいるってことが大事や。理由はどうでもええ」
無理矢理自分を納得させ、ペットボトルの水を飲みほした。疲労は既にピークに達している。
「ここで休んだ後カプセル捜索。……いや、ある程度人数が減るまでここに隠れてた方がええかもしれへん」
ある程度実力がある者がそれなりに減った中盤以降。そこで参加者の隙をついて殺すしかない。
「あー、こそこそやるんは似合わんなー……、せめて右腕が折れてなけりゃば肉弾戦が出来るんやけど」
利き腕を失ったのは痛すぎる。炎は出せるが──それだけだ。
「もしくは探知機に引っかかった連中をなんとかごまかして武器──できれば銃器を強奪、か……? まったく、こういうのはバールのすることやろ」
溜め息をついた。せっかく生き返ったというのに、行動が制限されすぎている。
「ま、今は休憩や」
ゆっくりと立ち上がって、無理に階段を上る。血痕が残っている1Fにいるわけにはいかない。
階段を左に行った奥から二番目の部屋で、どっと床に倒れ込んだ。
「…………っ」
睡魔をなんとか抑えながら、ドアを閉め、ベッドと壁の隙間に匍匐前進で潜り込む。
「……限界やわ」
デイパックを奥に押し込み、それを枕にベリアルは深い眠りへと落ちた。
およそ四時間後に響いた足音に、彼は気づかなかった。
【A-4→B-3/ビル2F、階段を左に行った奥から二番目の部屋/1日目・03:00(眠りに落ちた時間)】
【緋崎正介】
[状態]:睡眠中。右腕・あばらの一部を骨折。
[装備]:
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本)、探知機(半径50メートル内の参加者を光点で示す)
[思考]:身体を休めるのが先決。カプセルを探す。生き残る。
※ミズーらの入った入り口とは別の入り口からある一室まで血痕が続いています。
【残り91人】
>62の
「あー、こそこそやるんは似合わんなー……、せめて右腕が折れてなけりゃば肉弾戦が出来るんやけど」
を
「あー、こそこそやるんは似合わんなー……、せめて右腕が折れてなければ肉弾戦が出来るんやけど」
に変更します。
りゃばってなんだよorz
「伴天連寺にてこの身を休ませることになろうとは皮肉よの」
古びた教会の中で唇を歪める美姫、その足元には十字架が転がっている。
彼女にとってそのような物は何ら意味を持たない。
その傍らに控えるのはアシュラム、微動だにせず直立不動だ。
その姿を見て、どこか懐かしげに目を細める美姫、その瞳の中に写るは
はるか昔の殷の宮廷なのかもしれなかった。
「かの魔界医師が言うておった、わたしが死ぬときは希望を失のうた時だとな、だがこうしてわたしは生きておる」
美姫の脳裏に蘇るのは、あの魔界都市で出会った黒衣の男の肖像…。
あの男を忘れるべく自分はまた果てのない時空間の旅へと出た、しかし忘れることなど出来はしなかった。
もう手に入れることは叶わぬと知っていながら…。
あの男もまたこの地に降り立っていることは承知している、だが逢いたくはなかったし
だからといって殺す気も起こらなかった。
そこでアシュラムが始めて口を開く。
「主よ、貴方様は死に場所を求めてらっしゃるのでは?」
美姫はふっ…と力なく笑う、その笑顔は確かに藤堂志摩子言うところの翳りに満ちていた。
「四千年、長く生き過ぎたかもしれぬ…だがただではこの命くれてはやれぬ」
しかし瞳だけはまだ光を失ってはいなかった。
「この地に集いし者の中でわたしを討てる者がおるか、誰がわたしを殺しえようかと」
「それを考えるとやはり胸が沸き立ってたまらぬ」
くくく…と今度は実に楽しげに美姫は笑ったのだった。
「この寝所が禁止エリアとやらになったれば、かまうことはない…この場を離れればよい」
「わたしの魂が朽ちればおまえの呪縛も解けよう、好きに生きるがよい」
「そしてわたしが眠りについておる間に、おまえを真に必要とする者が現れ、おまえの心が戻れば
かまう事はない、その者のためその力振るうがよい」
そこまで言い終えて一拍置く。
「だが、陽が沈みわたしが目覚めた時、未だおまえがここに留まっておるのならば、おまえの体も命も心も
わたしの物ぞ、遥か冥府までも」
そして自嘲気味に微笑む美姫。
「人が言うにわたしは心の臓を貫き、首を落とさば死ぬらしい…死んだことがないゆえ
それで本当に死ぬのかどうか分からぬがの」
最後にそれだけを言って、美姫は教壇の下の地下室へと姿を消していった。
後に残されたのはアシュラム、彼は文字通り壁となって夕刻まで主の眠りを妨げる者は、
誰であろうと斬るつもりであった。
今の自分が偽りの自分であるということを感じていながらも。
そして万が一自分の本当の心が戻ったとしても、この限りなく美しく邪悪でそして孤独な女に刃を向けることは
まして寝首を掻く事など考えるべくもなかった。
もし戦うことになるのならば、勝てないまでも堂々と正面から名乗りを上げて戦いたかった。
【美姫】
[状態]:通常
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)、
[思考]:己の欲望のままに/夕刻まで睡眠
【アシュラム】
[状態]:健康/催眠状態
[装備]:青龍堰月刀
[道具];冠
[思考]:美姫に仇なすものを斬る
現在位置 【不明/教会/一日目、06:00】
「きゃっ!」
ずるっ
「あっ!?」
どてっ
「いやぁっ!!」
ずべしっ
「……テレサ・テスタロッサ。一つ聞くが、君は普段から転びやすい体質なのか?」
「い、いいえそんなことは。でも森の中は不慣れで、どうにも足元が……」
――たかだか一キロちょっとの移動に、何故一時間近くかかるんだ?
支給された時計の示す時刻は、既に七時を大きく過ぎている。
城の方から銃声が複数聞こえてきたこともあって、
ベルガーはこの周辺一帯から早く離脱したいと考えていた。
しかし、テッサの歩みは予想を遥かに超えて遅かったのである。
立ち上がり土を払うテッサを横目に、ベルガーは地図と方位磁石で現在地を確認。
「……城との位置関係からして、H-4の北東辺りだな。
もう少し歩いて、森の切れ目が見えてきたら休憩にしよう。いいな?」
「はい、それで結構です」
歯切れの良い返事。テッサの服は大分汚れていたが、その呼吸に乱れは無い。
「さ、どんどん行きましょ――きゃあっ!」
言った傍から木の根に足を引っ掛けたテッサを見て、ベルガーは軽く溜め息をついた。
そろそろ森が切れるだろうという所で、二人は異形の建造物を発見した。
遠目に見れば木の集まりに見えるのだが、にしては不自然。
ベルガーは「絶対に転ぶなよ」とテッサに釘を刺し、
出来るだけ気配を殺して謎の小屋――別の角度から見れば、
『歪んだムンク』に見えないことも無いそれに接近した。
「……何なんでしょう、アレ」
「自然に出来た物でないことは確かだな。
……もう少し近づいてみる。君はここにいろ」
そう言うと、ベルガーは贄殿遮那に手を掛けつつ、ゆっくりとムンクとの距離を詰める。
近づくにつれ、複数の声がはっきりと聞こえるようになってきた。
残り十数メートルほどの位置でベルガーは足を止め、
声に耳を傾けた後、テッサの潜む茂みに戻った。
「あの中に少なくとも四人は隠れている。声の調子からして、男一人に女三人。
話の中身までは聞き取れなかったがな……」
「その中に、その……乱暴そうな女性はいましたか?」
「ん? ああ、怒鳴り声を上げてるのが一人いたが……」
その返答に、テッサはどうするべきかと悩む。
千鳥かなめ。彼女ならば、見ず知らずの人間相手に
普段と変わらぬ口調で話していたとしても違和感は無い。
ならば、
「……ベルガーさん。一分でいいので、時間を貰えませんか?」
「一分か。……アレに動きがあったらすぐに逃げるぞ」
ムンクを指し示しつつ、ベルガーはそう答えた。
「ありがとうございます」
礼を言うと、テッサは近くの木に背を預け、目を閉じる。
(……かなめさん、聞こえてますか? ……かなめさん……)
共振。それは、『ウィスパード(囁かれし者)』として熟達したテッサから、
同じくウィスパードであるかなめへ送ることが出来る一方通行の思念。
(……かなめさん、もし聞こえていたなら、外に出てきて……)
島にテレポートしてきた時には、かなめの所在が解らず使用出来なかったこの能力。
――でも、もしあそこにかなめさんがいるのなら……。
目を閉じて集中するテッサ。ベルガーは、周囲を警戒しつつ彼女を見守っている。
【残り91人】
【G-5/ムンクから数十メートルの茂み/07:45】
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:贄殿遮那@灼眼のシャナ 黒い卵(天人の緊急避難装置)@オーフェン
[道具]:デイバッグ×2(支給品一式)
[思考]:ムンクと接触するか考え中。テレサ・テスタロッサを護衛する。
・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:UCAT戦闘服
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:ムンクに向けて『共振』中。宗介とかなめを探す。
[備考] ムンク内の魔法使い二人が、『共振』に反応出来るのかは不明。
ダナティアが二人の接近に気付かなかったのは、携帯電話騒動のせい。多分。
今更気付いた。
×【残り91人】
○【残り90人】
です。
午前10時…日差しに照らされ砂浜がそろそろ熱を帯びだす、そんな頃合。
「しかしそんなに急ぐ必要もないだろうに、出来れば君とはもっと語りあいたい」
メフィストの優しい声に、ぶるぶると首を振る鳳月。
「い…いえ!俺そっち方面は興味ないんで」
「実に連れない、まだ若いうちから女性の害毒に侵されては将来が心配だと言っているのに」
「害毒以前にあんたに侵されそうだっての!!」
「失敬な!私がまるで無理強いをしていると言わんばかりではないか!」
優雅極まりない仕草で鳳月の手を握るメフィスト、それを払いのける鳳月。
「…只者ではないと思ってはいたが」
わずかな時間であったがメフィストが披露した数々の魔技は彼らを驚嘆・尊敬させるに十分だった。
しかし…だかしかし…。
「そういう趣味の持ち主であったか…」
血を吐くような声でうめく緑麗。
「惜しいような、でも納得できるような…そんな気持ちですね」
こちらは絶世の美形と美少女にしか見えぬ少年との倒錯的なやり取りを、熱っぽい瞳で眺める志摩子。
「やはり君も只者ではないな…」
緑麗はため息交じりで呟くのだった。
で、結局貞操の危機を見かねて緑麗も出発したいと言い出し
かくしてパーティーは二手に分かれることとなった。
志摩子がすごく嬉しそうで、そして残念そうな顔をしていたのが、妙に気になったが…。
ともかく二人は浜を離れ、草原の只中へと入ろうとしていた。
この辺でいいだろう。
緑麗はそっと目配せをする。
鳳月は頷いて懐から一枚の紙を取り出した。
まず初めに断っておく。
我々の体の刻印だが、ホールで殺された例の2人の死因を鑑みて、おそらく魂に干渉する作用があると思われる。
したがって、我々の思考とまではいかないが、何らかの形である程度の行動は筒抜けになっているだろう、
ゆえにこの方法を取らせてもらう。
君たちに頼みたいのは偶然を装いつつ、なるだけ多くの者に志摩子君の意思を伝えてもらうことだ。
ただし彼女の名前と刻印の話は伏せた上でだ。
注意点としては必ず君たちは二人一組で行動し、一人で動いている者には声を掛けないこと、
現時点で一人で動いている者は「乗った者」である可能性が高い。
またあまりに多人数の者たちにも声を掛けないほうがいいだろう、
所詮は呉越同舟、分裂の引き金にもなりかねない、そうなってしまえば水の泡だ。
主催側の目的は殺すことではなく争わせることが目的だろうと思われる。
ならばまずは彼らの思惑に乗らぬことが大切だということ、味方もなく怯えている者たちに冷静な判断を思い出させた上で、
争いを望まぬ者こそ多く存在しているということを教えることだ。
24時間で全滅というのは私が考えるにおそらく争いを加速するためのはったりに過ぎない。
不特定多数の魂に干渉し、なおかつ完全粉砕できるほどの呪いを行使するには莫大な負荷がかかる上に、
それ自体が彼らの敗北を示すものであるに違いないからだ。
いずれにせよ我々が動かなければ彼らも動かざるを得なくなる、そこで初めて反撃の機会が訪れると、
私は考えている。
なお、この刻印のことで何か調べている者に出会えればどんな小さいことでも構わないので、
書き留めた上で私に教えて欲しい。
お互い生きていればひとまずPM5時に以下の場所で落ち合おう、そこで成果を聞かせていただきたい。
幸運を祈る、そして願わくば君たちとそして私の求め人に出会えることを。
Dr メフィスト
PS ついては鳳月く…
その部分は破いて捨てた。
「なるほど…」
したり顔で頷く鳳月と緑麗、確かに多くの人が死んだ…だがその多くは、
状況もわからずただ闇雲に恐怖に飲み込まれただけに相違ない、被害者はもとより加害者も。
自分たちの他に同じ考えを持つものがいる、という事実、
それを知るだけでどれほどの励みになるだろう?
本当に血に飢えた者などほんの僅かに過ぎないはずなのだから。
「さて、行くぞ…お前も早く麗芳どのに会いたいだろうからな」
「そっ、そんなことはっ!俺は今崇高な義務感に燃えているんだってのに!」
図星をつかれたらしい、赤面してしどろもどろの鳳月、その仕草を見て少しだけ胸が痛む緑麗…。
「…うらやましいな」
「何か言ったか?」
耳聡く聞きつける鳳月、こういうことには耳聡い。
「何も…」
「いや言ったぞ!確かに聞いた!」
「うるさい!それがしが何を言おうとそれがしの勝手だ!」
「そんなこと言うとよけいに気になるじゃないかぁ!!」
たまらずグーで殴りつける緑麗。
「お前は小学生か!終礼時の学級裁判じゃあるまいし!!」
痛みに頭を抱える鳳月に怒鳴りつけると、一人でとっとと北へと進んでいく緑麗。
後を追ってくる鳳月の足音を聞いて、どこか安堵している自分を嫌だな、と思いながら。
そして…再び砂浜。
メフィストは彼らに託した手紙の中に一つだけ嘘を書いていた。
仮説に過ぎないが、この刻印が自分の考えたとおりの物ならば誰も死ななければ、
やはり24時間後一瞬で間違いなく全員死ぬ、これが彼本来の結論だった。
だが、それを彼らに教えて何になる、今は気休めであろうとも希望を与えることこそが、
最も適切な判断だと彼は考えていた、もとより仮説で他人を説得しようとは思わない男だ。
(しかし…)
メフィストは刻印を恨めしげに見る。
かのガレーン・ヌーレンベルグといえども、
これほどまでに大規模かつ精緻で高性能な呪いを構築することは出来ないに相違ない、
いや彼女ならばもしかしてと思える部分もある…生きていればの話だが、
メフィストは美姫との戦いで壮絶な死を遂げた大魔道士のことを思い出していた。
(やはりこれを打ち破らぬ限り、我々に勝利はありえぬか…)
「あの?」
志摩子が呆然とメフィストの顔を覗き込んで、慌てて顔を背ける
その頬はわずかに赤く染まっているようにも見えた。
「どうしたのかね?」
無造作に聞くメフィスト、
「いえ…」
まるですすり泣くように小声で返事をする志摩子…。
(神様、私は感謝していいのかどうかわかりません…何故こんなにまで美しい人を今の私の前に遣わすのです)
この人に魅入られてはいけない、この人は人の身で触れてはならぬ禁忌の存在だ…。
思わず十字を切って、さらに手を合わせる志摩子、
彼女は実家が寺なのにキリスト教徒という風変わりな境遇の持ち主だった。
そんな彼女を見つめるメフィストはやはり無表情のままだ。
「では我々も行こうか、まずは君の友人…福沢祐巳君か、彼女を探そう」
「あの…でもそれより…」
志摩子が何を言わんとしているのか感づいたのか、メフィストが応じる。
「昼間の吸血鬼を探し出すのは至難の技だ、こんな狭い島でも」
通常、吸血鬼は自分の寝床を決して、例え同族にも明かすことはない。
階級社会である吸血鬼の世界では陰謀・謀略は日常茶飯事。
最強魔族と詠われる吸血鬼たちでも昼間の寝所に刺客を送られればむざむざと殺されるしかない。
ゆえに彼らは本能で安全な寝床を嗅ぎ分ける力を持っている、おそらくは今ごろは夢の中だろう。
「だから今は人の時間だ、人として出来ることを考えたまえ」
それだけを言ってまた踵を返すメフィスト。
「ええ…」
少し安心し、そして何故か少しがっかりしながら、志摩子はメフィストの後についていった。
【袁鳳月】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具];デイパック(支給品入り)
[思考]:他の参加者に争いを止めたい意思を伝える /仲間を探す
【趙緑麗 】
[状態]:健康
[装備]:スリングショット
[道具]:デイパック(支給品入り)、
[思考]:他の参加者に争いを止めたい意思を伝える /仲間を探す
現在位置【G−6/草原/一日目、10:00】【残り90人】
(いったん中央部まで出た後、東に向かいます)
【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を探す
【Dr メフィスト】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)、
[思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る
現在位置【H−6/海岸/一日目、10:00】
【残り90人】
「じゃああんたたちも日本の、しかも東京から来たっていうわけ?」
男と女が小洒落た喫茶店の奥で話し込んでいる。
端から見ると兄と妹のようにも見えないし年の近い親子のようにも見えない。
それっぽいのはお嬢様とその護衛、または誘拐犯とその対象といったところか。
だが護衛にしては相手に対し敬意が足りないし誘拐されたものとしては緊張感が足りない。
「まあな。」
店の構造的に入口から誰かが入ってきたら音が鳴るようにできていてかつ気付かれずに非常口から外に出ることが可能なので選んだのだった。
彼らは4時頃にここにきて以来ずっと話し込んでいる。
…というよりほとんど朱巳が一方的に話しかけているだけだが。
「けどあたしたちの世界の新宿はそんなもんじゃないわよ。
あたしたちの世界の東京は…なんつーか飲み込まれそうな場所よ、流れの中心なんだけどだからこそなのか、穴ぼこの底って感じなのよね。」
「こっちも似たようなもんだ…まさに掃き溜めみたいな場所だ。」
「はあ…どこの世界も変わらないものね〜、なんか面倒くさ。」
「死にたくなったら好きにしろ、止めはしない。」
「あんたっていっつもそうなの?そんなんじゃあ…」
彼の手が言葉を遮る。
彼女も察してトーンを落とす。
『誰かきたの?』
答える前にドアが開く、カランカランと言う音が来客を告げた。
『しゃーない、退散しますか。』
非常口から出ようとする。
「そこに誰かいるのは分かっている、出てきてくれないか?」
店内に低い声が響き渡った。
「嫌だっていったら?」
朱巳は聞いてみる、特に深い意味はない。
「この状態で話を続けるだけだ。」
答えを聞いて朱巳は姿を表した、刑四郎は見えない位置の座席に座る。どうやら見学を決め込んだようだ。
「話って何?」
相手を見る、えらくファンタジーな格好をしている。どことなく騎士や侍を連想させる雰囲気を持つ男だった。
「人を探している、銀髪の髪で目元を隠す仮面をつけているんだが…。」
「この島どころかあたしのこれまでの人生でも出会ったことないわね。」
物怖じせずに答える、こういうところが彼女の強さのあらわれか。「そうか…あと十字架の形をしたものを探している。見たことないか?」
「何それ、えらくアバウトね。なんで探してんの?」
「ある男に言われてな、なんでも俺に必要な物らしい。
殻を破るとかどうとか…。」
彼女にはその話を聞いて思い当たるふしがあった。
「あんたあの単細胞に目ぇつけられたの?とんだ災難ね〜。」
相手はどうやら驚いたようだ。
「あいつを知っているのか?」
「ええ、なんつったって同僚だから。」
なんだかだるそうに答える。
「そうなのか?だがあんたが戦いに向いているようには…。」
「組織のやつがみんなあんな単細胞みたいだったら世界はとっくに滅亡よ。」
本気とも冗談ともつかない調子で言う。
「だがじゃああんたは…。」
「そう、十字架がどういうものかも知ってるわよ、組んで損はさせないわ。」
相手と同時に刑四郎も『は?』と目を丸くする。
「いいでしょ?あんた強そうだし、今のパートナーとだと話もイマイチ盛り上がりに欠けるのよね〜。」
刑四郎は深く溜め息をついた。
こんなところで話を盛り上げても意味ないだろうが。
「あたしはあんたの目当てのものを見たらすぐに教える、代わりにあんたはあたしを守る、取引よ。」
「…いいだろう、今から目標が見つかるまでの間だが。」
相手は了承した。
「あたしは九連内朱巳。で、そこにいんのが屍刑四郎。」
「なんで勝手に話を進める。」
多少怒りながら姿を表す。
「ヒースロゥ・クリストフだ、よろしく頼む。」
風の騎士は名乗った。
「さてと、とりあえず移動しましょうか。
フフン、なんだかお姫様になった気分ね。」
自分の両脇に立つ男達を見ていう。
その言葉に対し、彼らは
『まあ確かに月柴姫に通じるものはあるな。』
『お姫様より女王様のほうがあってんだろ。』
とそれぞれ心の中でつぶやいた。
【嘘つき姫とその護衛たち】
【A-2/喫茶店/一日目8:00】
残り90人
【九連内朱巳】
【状態】上機嫌
【装備】なし
【道具】パーティゲームいり荷物一式
【思考】エンブリオ探しに付き合う、とりあえず移動。
【屍刑四郎】
【状態】呆れ気味
【装備】なし
【道具】支給品一式
【思考】とりあえずついていってみるか。
【ヒースロゥ・クリストフ】
【状態】背中に軽い打撲
【装備】鉄パイプ
【道具】荷物一式
【思考】EDを探す。九連内朱巳を守る。ffとの再戦を希望する。
最初に飛び出して来たのは女の方だった。
無抵抗な者に銃を向ける事に対し、脳の奥底で誰がか止めろと警告するが、師匠に貰った命を繋ぐためにはこうするしかない。
頭部、眉間を狙って引き金を引く。
射出された弾丸は思い描いた理想の軌道を瞬時になぞり、無防備な女に命中する──はずだった。
着弾する直前、女の脇から飛び出してきた男が女を突き飛ばし、そして、被弾した。
苦痛を訴える叫びも一瞬、男は右手の得物をこちらに向かって投げ付けてくる。
「くっ!」
銃身で弾いて凌ぐが、その行為によってできた隙は女に銃を構える時間を与えてしまった。
女が引き金に指を掛ける。
咄嗟に近くにあった物陰に飛び込みやり過ごす。数発の銃声が響き、何かが壊れる音がした。
音が止んだところで手だけを物陰から出し、二人がいるであろう方向に撃つ。まぐれ当たりに期待したが、再び銃声が響きその期待は外れた。
少しの時間をおいて呼吸を整えたのち、周囲を警戒しつつ物陰から出る。
ここを襲う前に周辺に人がいない事は確認しているが、銃声を聞き付けた好戦的な輩が乱入してこないとは限らない。
二人が逃げた方向に目をやると、男のものと思われるおびただしい量の血が廊下を染めていた。
この量から考えるに恐らく男は助からないだろう。
だが女は生きている。自分が生き残るためには女も殺す必要がある。
──生き残らなければならない。どんな事をしてでも。
……ですよね? 師匠──
亡き人を思い、自分の決心を再確認し、血の道を辿る。無論、周囲への警戒も怠らない。
過去に自分は自分のものではない血を使って敵を欺き殺した事がある。
女がそこまで機転を利かせるだけの状態かどうかは分からないが、注意しないに越した事はない。
赤い道標は屋外──庭の中程にある不自然な扉の前まで続き、そこで途切れていた。
女が中で待ち伏せている可能性を考慮しつつ、慎重に扉を開く。
金属製の扉はあちらこちらに錆が浮き、硬質の物体の軋む音が周囲の空気を震わせる。
銃を構えながら中へと入る。中は暗く、開けた扉から差し込む光だけが四方を壁で囲まれた室内を照らしている。
下へと続く階段以外は何も見当たらない。
足音を極力たてないようにゆっくりと階段を降りて行く。懐中電灯はつけない。
自分が逃げる立場であれば、この階段の終わりで待ち伏せ反撃する。
今から行くので襲ってくださいと主張するような代物は使わないに越した事はない。
最初は扉から差す光で気付かなかったが、階段内は発光する玉黴のようなものが所々に浮いていた。とりあえず足元が分かれば問題ない。
しばらく進むと階段の終わりが見えた。警戒を一層強め一歩一歩慎重に進む。
階段の先は大きな空洞になっており、少し離れたところから先は黒い水面が広がっていた。
階段脇には先程撃った男が横たわり絶命していた。とりあえず周囲に人の気配は窺えない。
キノは少しだけ警戒を解き、改めて周りを見渡した。
【C-3/地下の湖/(1日目・09:56)】
【残り90人】
【キノ】
[状態]:通常。
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ベネリM3(残り5発)
ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り18発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:女(風見千里)を探す。最後まで生き残る。
「……本当に殺し合いやってるんだな」
目の前の死体を見つめながら、ハーヴェイはぼそりと呟いた。
港町で見つけた二つの死体。
片方が少女だったように見えたので急いで駆けつけたが、その少女は彼が探している人物ではなかった。
死体はすでに硬直している。
何時間前に死亡したのかは分からないが、犯人はもうこの辺りにはいないだろう。
だが、胸部を銃で撃ち抜かれたこの死体は、ゲームに乗った者が確かにいるということを雄弁に語っていた。
「判断、ミスったかもな」
あの時聞こえたテレサの悲鳴。
キーリを探すことを優先してベルガーに任せてしまったが、自分も駆けつけるべきだったかもしれない。
放送で名前が呼ばれなかったので一応無事であるとは思うが、もし呼ばれていたら自己嫌悪で鬱になっていたかもしれない。
今にして思えば、キーリを探すにしても、三人で行動したほうが安全性も高かったのではないだろうか。
もう一人の死体を見る。
こちらは男で、胸にナイフが刺さっていた。ただし刃の部分のみ。
少女の死体のそばには、ナイフの柄だけが転がっている。
(不良品? いや、発射式のナイフか)
しばし考える。自分の手持ちは炭化銃一丁のみ。
対不死人用のこの銃の威力は嫌になるほど知っているが、接近戦で使用できる得物も欲しいところだった。
「……すまない」
一言謝ってナイフを掴む。
何度か力を込めて引くと、ゴリッという音と共に胸から引き抜かれる。
と、その拍子に男の懐から何かが転がり落ちた。
「? なんだ、これ」
それは四つの宝玉からなる、装飾品――タリスマンであった。
魔力を持つものが見れば、このタリスマンの力に気づいたかもしれないが、あいにくハーヴェイにはただの装飾品にしか見えなかった。
(こんな状況で高価なもの持っててもな)
荷物になるだけと判断し、これは放置することに決めた。
柄と刃を合わせてみるとカチッと音がして固定された。
近くに落ちていたデイバッグの中からプラスチック製の鞘を見つけ、ナイフを腰の後ろに装着する。
デイバッグの中には他に武器の類は入っていなかったが、食料と水は残っていた。
少し考えて、それらを自分のデイバッグに移す。
「さて、こんなもんか」
ナイフが手に入ったのは収穫だった。
キーリもまだ生きていることは先ほどの放送で分かっている。
早く探してやらなければ。
そう思い、この場を立ち去ろうと腰を上げかけたところで――ハーヴェイの耳が微かに物音を捉えた。
「――!!」
とっさに横に転がり、身を起こしざまに炭化銃を背後に向けて構える。
だが、見える範囲に何者かの姿はない。
(……気のせいだったのか?)
構えを解きかけたところで、また物音と、今度は言い争う声。
(やっぱり誰かいる!)
ここからは少し離れたところだろう。
片方の声は若い女のようだった。
まさか、という思いがハーヴェイの中に湧き起こる。
いつでも撃てる心構えで炭化銃を構え直し、ハーヴェイは声の聞こえたほうへと駆け出した。
「きゃあっ!?」
小柄な、まだ幼いと言っていい少女の身体が宙に舞い、重力に従って地面に叩きつけられた。
それを冷めた目で見つめる男。
その手には少女が持っていた長槍――G−sp2が握られている。
「ふむ、使い勝手は悪そうだが無手よりはマシか。これは俺がいただくぞ、娘。
フリウ・ハリスコーと会う前に、武器を調達しておきたかったのでな」
黒髪をオールバックにした隻眼の男――ウルペンだ。
地面に倒れた金髪の少女――リリアは、ウルペンに何か言い返そうと口を開いたが、やがてがくりと頭を垂れた。
「気を失ったか、悪く思うな。年の割には、お前はよくやった」
ミズー・ビアンカとの決着の邪魔をしたあの娘とは違い、装備に頼らずに念糸を迎撃された。
あまつさえ、面妖な術で反撃に転じさえしてきた。
そこでウルペンは念糸を囮にして接敵し、接近戦で蹴り飛ばしたのだ。
体術は専門外だったのか、決着はそこでついた。
「このような場所では、いずれ誰かに消されるだろう。せめてもの情け、痛みも恐怖も感じぬまま送ってやる」
リリアに近づき、長槍を振り上げる。
コンソールに『ヤメテ! ヤメテ!』と文字が表示されるが、歯牙にもかけない。
狙いは心臓。
そして、そのままウルペンは――突如身を翻し、飛び退った。
同時に、鈍い銃声。
一瞬前までウルペンのいた位置を銃弾が貫通し、着弾した背後の樹木の一部を炭と化す。
「……なにやってる」
押し殺した低い声。
油断なくそちらを見据えたウルペンの目に、銃を構えた右手が義手の青年が映る。
ハーヴェイが、そこに立っていた。
【残り90人】
【C-8/港町/1日目・08:00】
【ハーヴェイ】
[状態]:健康
[装備]:炭化銃/スペツナズナイフ
[道具]:デイパック(支給品一式/食料・水×2)
[思考]:キーリを探す
【ウルペン】
[状態]:健康
[装備]:G−sp2
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]: 蟲の紋章の剣を破るためにフリウを探す。
【リリア】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:気絶中
備考:ヤン・ウェンリーの死体のそばにタリスマンが落ちています。
出展:
タリスマン@スレイヤーズ
(効果:魔力増幅効果。ただし、起動に呪文を唱える必要あり)
「嫌ですわ」
これまでのお互いのいきさつを話し終えた後、エンブリオの効果と、それを彼女に使いたいと言う言葉を聞いた茉衣子は、
寸分の間も置かずに開口一番そう答えた。あまりにも即急な否定に、流石の宮野もわずかに呻きを漏らす。
「なぜかね?」
「わたくしは少なからず自分の能力に誇りを持っています。なぜなら、それが自身の資質と努力のみによって培われたもの
だからです。それを今更、そんな趣味の悪い何とも知れぬ十字架によって覆されるなど、冗談ではございません。
ましてやそれが班長によってもたらされた物などと……わたくし清水の舞台から身を投げ打ってでも拒否致しますわ」
肩を抱いて大仰に身を震わせながら、茉衣子はまくし立てた。
『おいおい、この娘さんアンタの弟子じゃあなかったのか?』
その言葉に、この十字架にしては珍しく飽きれを含んだ声で問いかけた。それにもまた、誰よりも早く茉衣子が反論する。
「誰が誰の弟子などと。班長とは、極めて不幸にも偶発的、一時的に組織での上下関係に置かれているだけに過ぎません」
『おーおーひどい言われようだな相棒、ひひひひひ』
「むぅ……そこまで拒否されるようでは仕方なかろう。しかしどうしたものかなこれは。無駄に持っていても五月蝿いだけで
一向に利益がないのだが」
「班長が他人を五月蝿いとのたまうなど、冗談にしても笑えませんが……。力を引き出すためのものなのでしょう? でした
ら、この状況を打破できうる能力の持ち主に使用させるべきですわ」
「例えばどんな能力かね?」
『オレとしちゃ、誰であろうと殺してくれりゃ文句はないんだがねぇ』
「そうですわねぇ……。一つは、このゲームの主催者を倒しうる力を持つ能力。もう一つは、この煩わしい刻印を解除できる
能力。最後に、この島から脱出できる能力。……といったところでしょうか?」
指折り数えながら、茉衣子は答えた。
「なるほど。その中でならば刻印の解除を優先させるべきであろうな」
「あら、なぜでしょう?」
『なーんかオレらまるで居ないことのようにされてねぇか? ヒヒヒ』
『まぁ、所詮ラジオと十字架だ。こんな扱いだろうさ』
「一つ目の主査使者を倒しうる力だが、刻印がある限りその例え持ち主とて簡単に殺されてしまう。無意味だ。
三つ目の脱出の能力は、その能力者だけが逃げてしまう可能性もある。さらに、脱出できたとて刻印が必ず消えるとは限らん」
「なるほど……」
「そしてもう一つ。茉衣子君も気付いておろうが、今現在我々のESP能力はかなり低下している」
『どうよ、ラジオのアンタ。アンタでもいい俺を殺してみねぇか? 喋るラジオが、喋るMDラジカ
セぐらいになるかもしんねぇぜ?』
『いらん』
「ええ、それは分かっておりますが」
「その原因は、高い確率でこの刻印によるものだと私は推測しているのだよ」
その言葉に、茉衣子は首をかしげた。
「何故でしょう? 島全体に結界のようなものをかけているのやも知れませんわ。刻印のせいだと言う確証は――」
『そう連れないこと言うなよ。同じ喋るガラクタ同士じゃねぇか、ひひひひ』
『誰がガラクタだ誰が!』
「ええい、お黙りなさい!」
いい加減耐えかねたのだろう。茉衣子が宮野の持っていた十字架をもぎ取り、ペイとラジオに向かって投げつけた。
カコンと実に小気味良い音が響く。
『ぐあ! 何しやがる、ただでさえガタが来てるってーのに!』
『なぁんだよ、どうせならもっと思いっきり投げてくれや。そうすりゃ晴れて殺されて俺も万々歳だってのによ』
黙りなさいと言っています! ……コホン。ええと、なんでしたかしら……。そうそう、刻印のせいだと言う確証はないはずですが?」
「ふむ。では聞こう。その結界とはどういった原理で力を抑制するのかね?」
「どういったといわれましても……」
分かるわけない、と首を振る。そのことに、宮野はさも当然と言うように頷いた。
「であろうな。なぜなら一つではありえないからだ。一概にESP能力といっても、効果は様々だ。テレパスやサイコキネシスに始まり、発火能力、透視能力、
どこぞの加速装置じみた能力もあったな。それら全ての能力は効果の違いに従い、発生のプロセスも違うはずなのだ。ならば、それぞれに対応した結界が必要となる!
その結界全てを島全体に張り巡らすなど無駄もいいところだ。各個人単位に、それぞれにあった結界をかけた方が遥かに効率が良いに決まっている」
確かに、と納得する。理論は通っている。取り敢えず、否定する材料は見つからなかった。
「では決まりましたわね。刻印を解除できる能力者、あるいは素質を持つ方を探しましょう。……それで、どこを探すのでしょうか?」
その問いかけに、宮野はむぅと腕を組んで黙り込んだ。十数秒ほどそうした後、おもむろににディパックから地図を取り出して、床に広げた。
さらに転がっていたエンブリオを拾い上げ――ヒョイと極めて適当な動作で地図の上に投げ落とした。乾いた金属音を立てわずかに転がった後、
十字架が地図の一端を指し示す。
「……Eの5だ!」
「あまりにも適当すぎます!」
自信満々の表情で述べた宮野に、茉衣子は迷わず怒鳴り声をあげた。
【今世紀最大の魔術師(予定)とその弟子】
【残り90人】
【Dの1/公民館→Eの5/時間(1日目・8時00分)】
【宮野秀策】
[状態]:健康
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)・エンブリオ
[道具]:通常の初期セット
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
【光明寺茉衣子】
[状態]:健康
[装備]:ラジオの兵長
[道具]:通常の初期セット
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
エンブリオは確か触れると発動するんだよな。茉衣子は宮野から奪って兵長に投げ付けたから、発動しなかった。でいいんだよね?
触れる必要はないよ。素質のあるものには声が聞こえ
その時点で心の殻というようなものがもろくなり、
なんらかのきっかけで能力が表に出てくる。
――ホールに飛び込んだ途端、銃を持った女が飛び出してきた。
――壁際から飛び出した途端、銃を持った男が飛び込んできた。
「「!!」」
暗殺者としての性が、修羅の衝動が反応する。
一瞬で互いの視線と銃口が交錯。
――銃声。
飛び出した勢いを殺さず、身を投げ出し前転したパイフウの頬と、
横っ飛びに跳躍し、床に伏せたアーヴィーの肩から鮮血が迸る。
(何者!?)
(……敵! やっぱり主催者がいたの!?)
そこまで自動的に反応してから、相手の姿を確認。
だがそれも一瞬で、二人とも即座に次の行動に移る。
相手が何者なのかは分からない。
だが、自分に銃を向け撃ってきた以上は――敵だ。
二人の技量に甲乙をつけるのは難しいかもしれない。
が、行動する直前の体勢と武器の差が、ここで僅かに明暗を分けた。
互いに応射しつつ、射線を遮れる場所へ飛び込んだ、その時――
「うあっ!?」
アーヴィーが苦悶の声を上げる。
その腿からは鮮血。
腹這い状態だったアーヴィーと、前転後の屈んだ状態で即座に行動に移れたパイフウ。
さらに得物が、取り回しの難しい狙撃銃と、拳銃モードのウェポンシステムである。
この一瞬の遭遇戦では、行動速度でも速射性でもパイフウが上回っていた。
(い、痛い……いけない、ミラを、ミラを助けなきゃいけないのに……!)
打ち抜かれた腿を押さえて苦悶する。
幸いにして、開け放たれた扉からホールの外に出ることはできた。
相手も待ち伏せを警戒するから即座に追撃を受けることはないだろうが、ここに留まるわけにもいかない。
「くっ…主催者を、倒さなきゃ……ミラを、助けなきゃ……!」
壁に手を着いて何とか立ち上がろうとしたところで、声が聞こえた。
「主催者を倒す? あなた、それは本気ですか?」
通路の先へ駆け出しかけていた、古泉一樹がそこにいた。
アーヴィーの呟きは、パイフウの耳にも届いていた。
(主催者打倒……本気なの? この男)
逡巡する。
今しも、トドメを刺しに行くか逃げた連中を追うか、決断しようとしていたところだ。
一瞬前の戦闘を思い浮かべる。
出会い頭の戦闘で、自分とほぼ互角に渡り合った技量。
装備によっては、彼と自分の立場は逆になっていたかもしれない。
そんな男が、主催者打倒へ向けて動き出しているとしたら――?
(……泳がせるのが、得策かしら)
自分のスタンスは、主催者の犬となり参加者をできるだけ殺害すること。
それは『手段』ではあるが、『目的』ではない。
自分の目的は、エンポリウム・タウンの人々と、そして火乃香を守ることだ。
いや、最終的な目的で言えば、火乃香さえ守れればそれでいい。
そのためには――
(どちらでも構わない)
参加者を殺し、火乃香に手出しをさせずにワクチンを手に入れるのでも。
主催者を殺し、火乃香の安全を確保した上でワクチンを手に入れるのでも。
ならば。
「数を稼がなきゃ……。無力化はしたし、ここはあの連中を追うのが得策ね」
呟く。わざと。何らかの方法で自分たちをモニターしている主催者へ向けて。
この城でディートリッヒに会った時の、「そろそろ来る頃だと思ってたよ」というセリフと用意の良さをパイフウは忘れていない。
大体、自分を殺戮者に仕立てておきながら監視をしないなどとはありえない。
間違いなく、参加者の行動は主催者側に漏れている。
だから後者の手段は自分では不可能だ。
反旗を翻したが最後、ディートリッヒはワクチンを処分し、その毒牙を火乃香に伸ばすだろう。
だが、他の誰かが勝手にやる分には問題はないのだ。
銃弾を弾いた装備や忌々しい刻印のこともある。
主催者打倒が成る確率は低いだろう。
だが、可能性がゼロではないなら、それに賭けてみるのもいいかと思った。
賭けるチップは、自分や火乃香ではないのだから。
逃げた連中は一人と三人に分かれた。
一人のほうは、あの男のいる通路側だ。しかも、あの男と接触している。
ならば、自分が追うのは三人のほうだろう。
都合よく数も多いことだし、銃を持った男を相手取るより危険度も低いと思える。
こちらを追ったほうが主催者側にも怪しまれない。
連中が逃げた通路の先に、脱出できるような場所はあっただろうか。
夜の間に自分の足で確認して回った城の構造を思い出しつつ、パイフウは駆け出した。
逃げた者たちを、殺すために。
あの男が逃げる時間を、稼ぐために。
(逃げなさい。あなたはあなたの目的を果たすために。私は私の目的を果たすために行動するから。
けど、戻って来た時、まだこの辺りにいるようなら……その時は殺すわ)
【残り90人】
【G-4/城の中/1日目・06:32】
【パイフウ】
[状態]健康
[装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない)
[道具]デイバック一式。
[思考]主催側の犬になり、殺戮開始/逃げた三人(神父/キーリ/ボルカン)を殺す/火乃香を捜す
【G-4/城の中/1日目・06:32】
【アーヴィング・ナイトウォーカー】
[状態]:情緒不安定/修羅モード/腿に銃創
[装備]:狙撃銃"鉄鋼小丸"(出典@終わりのクロニクル)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:主催者を殺し、ミラを助ける(思い込み)
【古泉一樹】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式) ペットボトルの水は溢れきってます
[思考]:厨房で武器調達後、長門有希を探す/目の前の男(アーヴィー)が主催者打倒を掲げるなら助ける
「あんた何?」
リナの言葉に、携帯電話が喋りだした。
『……モシモシ、ですか? そう言うんですね。呪術ですか?
あ、確かに声がします。本当に話せているようですね』
誰かと喋っているような内容が聞こえてくる。ダナティアとリナは首を傾げた。
その時、横になって休んでいるシャナが口を開く。
「携帯…電話…?」
シャナの言葉に振り返るダナティアとリナ。
「「ケイタイデンワ?」」
「そう。電波によって、遠く離れた所にいる人と話す装置」
「うん、それで合ってるよ。ぼくと違って、それの向こうの人が話してるんだよ」
エルメスがフォローする。ダナティアはそれで概ね性質を理解した。
(マリアが作った“伝言でんでん”と同じ物ね)
伝言でんでんとは彼女の姉妹弟子の一人が作った携帯電話と似た機能の魔法生物であり、
彼女の居た電話も無い世界からすると軽く数百年は時代を先取りしている代物であった。
「リナ、これが喋っているのではなくてよ。
別の場所にいる、これと同じ物を持っている相手と話しているんだわ」
「……通話のマジックアイテムの強化版という所ね」
リナも薄ぼんやりと理解する。
リナの世界にも、それよりは質が劣るが似たような魔法の品は存在していた。
「あたしはリナ。リナ・インバースよ。あんたは?」
『私は慶滋保胤と申します。他にセルティという方ともご一緒しています』
名簿を引っぱり出し、名前を確認する。
「そう。こっちは他にダナティア・アリール・アンクルージュとシャナと同行……」
その時、彼女達は奇妙な感覚に包まれた。
(……なに? この感覚は)
普通の人間では気づかない、異質で小さな感覚。
ムンクの小屋に居た3人と1台は全員普通では無かった。
が、それでもそれが何なのかは判らなかった。
シャナは存在の力や自在法を思い浮かべ、すぐに違うと判断した。
ダナティアは何となく違和感を感じる事しか出来なかった。
「何? どうしたのさ?」
エルメスは3人の様子に面食らうだけだった。
リナだけは似た感覚に思い当たった。
そう、これは……
「これ、クレアバイブルが有った場所と同じだわ」
「クレアバイブル?」
「異界の知識が流れこんでるモノよ。……アカシックレコードとでも言うのかな」
その言葉にダナティアは沈黙し、少しして言った。
「………………。
リナ、シャナ。ケイタイデンワの相手を頼むわ。
エルメスは……どうでもいいわ」
「酷いなぁ」
「ちょっと、ダナティア?」
「ちゃんと外にも注意しておきなさいよ」
透視が使える自分が見れば確実だが、今はそれより先にする事がある。
ダナティアは部屋の隅に座り込み、座禅を組む。
目を閉じると、すぐに瞑想状態に入った。
何が起きているのかは判らなかったが、何処に働きかけているかはなんとなく判った。
(おそらく、深層心理に働きかける何かだわ)
もしこの予想が当たっていれば、瞑想状態ならこの『何か』の正体が判るはずだ。
それだけ決まれば迷っている暇も惜しい。
ダナティアは自己の深層心理に飛び込んだ。
十分な準備をしてなら、仲間を連れて他人の封印された記憶に潜った事すら有る。
深層心理とはいえ、自分の中に潜るのはプールに飛び込むようにスムーズな感触だった。
(……当たりだわ)
ダナティアは潜るにつれ、どこからか少女の声を聞き取っていた。
「かなめさん……かなめさん……居ないんですか? かなめさん……」
知らない声だ。おそらくは参加者の誰かだろう。
ダナティアはその声の主を手繰り、深層心理の最深部へと降り立った。
「……かなめさん、もし聞こえていたなら、外に出てきて……」
「生憎と、かなめという子は知らないわ」
「!?」
驚愕する波動。それは咄嗟に自分の領域へと逃げようとし、
「お待ちなさい!」
「!!」
ダナティアの力を持った呼びかけが逃亡を阻止した。
声の主、テッサは深層心理の奥底で動きを封じられた。
「尋ねてきて人違いだからと謝りもせずに逃げるのは失礼ではなくて?」
「だ、だめです、帰してください!」
「そんなに怯える必要は無いわ。別に取って食べはしない……いえ。
そうか、ここに長居するとそうなるのね」
少女とダナティアはほんの僅かずつ溶け合っていた。
ここは個人の枠が曖昧になっている場所だ。
オムニ・スフィア。精神の最深部。物質の裏側。
ウィスパードが“ささやき声”を聞き取れる場所。
「判ったら帰してください。
あなたが誰かは知りませんけれど、ここがどれだけ危険な場所かは判るはずです」
テッサは少なくともすぐに自分をどうこうするつもりは無いと判断し、冷静になった。
おそらくは理屈で交渉が出来るはずだ。
「そうね。あたくしもこんな所まで来るのは初めてだけれど、よく判ったわ」
今、2人の間で行われている会話は、会話でありながら通話ではなく、思考の共有だ。
もしここで自らを見失えば、2人の自己同一性は崩壊し、精神が崩壊してしまうだろう。
「だけど、しばらくは持つわ。あなたと少し話をする位、何の問題もなくてよ」
自我の強さにかけてダナティアに並ぶ者は少ない。
そして、二つの液体の片方が混ざりにくい液体であれば、もう一方も混ざりようがない。
テッサはそれでも長居すべきではないと思ったが、話を終わらせた方が早いとも判じた。
そろそろベルガーと約束した1分が経過したはずだ。
ダナティアによって捕縛されてしまったせいで、彼女の肉体は昏睡に陥っているだろう。
肉体自体はすぐにどうこうという事は無いが、テッサの昏睡をベルガーがどう捉えるか。
最悪の場合、(おそらくはムンク小屋に居る彼女達と)戦闘になる恐れすらある。
「判りました。それでは手短にお話します。
まず名乗っておきます。わたしはテレサ・テスタロッサです」
「あたくしはダナティア・アリール・アンクルージュよ」
「わたしは知り合いの相良宗介さんと千鳥かなめさんを捜していました」
そこで言葉を切る。ムンク小屋を発見した、つまり近くに居る事を話すのは危険が伴う。
目の前の彼女が信用に値するか、せめて簡単に確認しておかなければならない。
「次はわたしから質問です。ダナティアさん、あなたの目的は何ですか?」
たとえ殺人が目的でなかったとしても、生き残る、答えないなども危険な解答だ。
「あたくしの目的は出来るだけ多数で生き残る事。そして、主催者の打倒よ」
それに対しダナティアは、即答で言葉を返した。
テッサは余りに率直な答えに戸惑いを覚えたが、少なくとも悪人ではないと判断する。
「ではもう一度、あたくしから訊くわ。こうなった経緯もお話願えるかしら?」
「……わたしは、ベルガーさんという人と森を歩いていて、奇怪な小屋を見つけました。
そこで中にかなめさんが居るかもしれないと思い、共振を試みたのです」
「共振……これの事ね」
「はい。わたしとかなめさんはウィスパードと呼ばれるある種の能力者です。
その間でだけ通じる、危険のある意思の伝達方法なのですが……
まさか他に繋がる人が居るとは思いもしませんでした」
彼らが集められたこの世界は狭いが、集めてきた世界は途方もなく広い。
「とにかく一度帰してもらわないとベルガーさんが不安です」
「ええ、判ったわ。争わないためにも、外で改めて話をしましょう」
ダナティアがテッサを解き放ち、彼女が自らの領域へと帰ろうとした時。
突如、深淵の世界に火の粉が舞った。
「これは……!?」
火の粉が舞い、灯火が溢れ、紅蓮の炎が踊り、一つの姿を為していく。
ここに在る比較対象は何も無く、正確なところは判らない。だが、知る意味も無い。
2人が視たそれは、天を衝くほどに巨大な劫火だった。
「我が名は“天壌の劫火”アラストール」
劫火は遠雷のような声を響かせた。
「まず、何処かの世界より連れられし誇り高き皇女にして魔女よ。
我が契約者を諫め、その傷を知らしめてくれた事に感謝する」
その言葉でダナティアは気づいた。
「あなた、シャナという娘に入っている精霊ね」
「如何にも。我はフレイムヘイズに蔵されし紅世の王」
(とてつもない代物を宿したものね)
彼女は臆しこそしなかったが、同時にアラストールがどれほどに偉大な存在かも理解した。
彼女の世界における最強の守護聖獣に匹敵し、あるいはそれを凌駕し調停者にも類する強大な存在。
だが、彼女は如何なる存在を前にしようと変わらない。
「テレサ・テスタロッサ、下がりなさい。彼はあたくしの客のようよ。帰ってもいいわ。
そして、アラストール。あなたはあたくしに何の用かしら」
「……我は、契約者の前に意志を顕現する術を失っている。
そこの異界よりの囁きを聴く娘の接触が無ければ、この出会いも叶わなかったであろう」
アラストールがシャナやその周囲の人々と話すには、神器コキュートスを通さねばならない。
しかし、コキュートスは支給品として別の参加者に渡され、シャナの元に無かった。
アラストールはシャナの最も身近に在りながら、一言の言葉を交わす事も出来なかった。
「その神器コキュートスを捜せ、とでも言うのかしら?」
「違う。我はそのコキュートスを通して、既に坂井悠二と出会っているのだ」
「……なんですって?」
それは今から1時間と幾らか前の事。
量産型ボン太君スーツを纏う小早川奈津子と、長門有希を捜す坂井悠二の遭遇であった。
『紙の利用は計画的に』
【B−2/電話中/1日目・07:50】
【慶滋保胤(070)】
[状態]:正常
[装備]:着物、急ごしらえの符(10枚)
[道具]:デイパック(支給品入り) 「不死の酒(未完成)」・綿毛のタンポポ・携帯電話
[思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/ 島津由乃が成仏できるよう願っている
【セルティ(036)】
[状態]:正常
[装備]:黒いライダースーツ
[道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)
[思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索
『目指せ建国チーム』
【G−5/森の南西角のムンクの迷彩小屋で電話中/1日目・07:50】
【リナ・インバース(026)】
[状態]: 少し疲労有り
[装備]: 騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]: 支給品一式/携帯電話(ダナティアから一時的に任された)
[思考]: 仲間集め及び複数人数での生存/電話相手との会話
【シャナ(094)】
[状態]:かなりの疲労/内出血。治癒中
[装備]:鈍ら刀
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:しばらく休憩後、見張り/悠二を捜す/電話相手との会話
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。
【ダナティア・アリール・アンクルージュ(117)】
瞑想中。次に記載。
【G−5/ムンク小屋内で瞑想し、アラストールと会話中/1日目・07:50】
【ダナティア・アリール・アンクルージュ(117)】
[状態]: 左腕の掌に深い裂傷。応急処置済み。/瞑想中
[装備]: エルメス(キノの旅)
[道具]: 支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル
[思考]: 群を作りそれを護る/アラストールの話を聞いたら、戻ってテッサに会う
[備考]: ドレスの左腕部分〜前面に血の染みが有る。左掌に血の浸みた布を巻いている。
【G−5/ムンクから数十メートルの茂み/07:50】
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常/※:テッサの一時的昏睡に対しどう行動したかは不明
[装備]:贄殿遮那@灼眼のシャナ 黒い卵(天人の緊急避難装置)@オーフェン
[道具]:デイバッグ×2(支給品一式)
[思考]:ムンクと接触するか考え中。テレサ・テスタロッサを護衛する。
・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:心身ともに平常/深層心理から『帰還』中?
[装備]:UCAT戦闘服
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:深層心理から『帰還』中? 宗介とかなめを探す。
○携帯電話組
B−2:慶滋保胤/セルティ(慶滋保胤との筆談を経由)
G−5:リナ・インバース/シャナ
○深層世界組
G−5:テレサ・テスタロッサ(帰還中?)/ダナティア・アリール・アンクルージュ
???:アラストール(本体はシャナの中に居るが、端末は別所に存在する)
○ムンクの近く
G−5:ダウゲ・ベルガー/(テレサ・テスタロッサ(帰還中?))
時計を見る…もう2時間も経過している。
「まいったなぁ」
パイフウはため息をつく、眼下にはハックルボーンら3人の姿。
「あの筋肉親父、かなり出来るわね」
さりげなく立っているように見えて、しっかりと自分の位置からは死角になる、
そんな絶妙のポジショニングだ…まぁ偶然なのだが。
だからといって接近戦はもっての他、あの身体能力は脅威以外の何者でもない。
ならば退くか…だが自分の入ってきた入り口へと戻るには彼らのいる場所を通過せねばならない。
他の出入り口を探すのも手だったが、今の状況で出会い頭の遭遇戦は避けたかった。
そんなこんなで不毛な時間が続く中、
パイフウはゆっくりと呼吸を整え、気を練っていく。
最初はかなり戸惑ったが。ここ数時間の慣らしによってかなり練れるようにはなってきている。
それでも本調子とわけにはいかないが。
とにかく焦ってはならない、慎重に行かねば…
「でも、何か動いてくれないと…ね」
「あ、おっきなお城」
島津由乃は目の前にずでーんと広がる城壁をみて嘆息する。
とりあえず入り口を探してくるりと周囲を適当に回ってみたが、見つからない。
ちなみにその時立小便している人(平和島静雄)を見つけたが、なんだか雰囲気が怖そうだったので、
声をかけるのはやめにした。
「あ、もしかして幽霊だから大丈夫かな…」
そーっと城壁に手を沈めていく由乃、音もなく手は壁へと侵入していく。
「あ、やっぱりOKか、なんか手品師になったみたい、奇跡のイリュージョニスト
ヨシノ・シマヅなんてね」
こうして城へと進入を果たす由乃、すでに自分が死んでいることはなるだけ考えないようにしていた。
そして城の中に入ったその時、
「誰?」
少しだけ外の空気を吸いにきたキーリと鉢合わせしたのだった。
「あああああっ…あのっ」
いきなりの遭遇に慌てたのは由乃。
「あっ、あやしい者じゃないんです…わたし島津由乃っていいまして、ちょっと理由があって
でもでも、昨日の朝まではちゃんと生きていてっ!」
そこで由乃はキーリがまったく驚いていないのに気がつく。
「あの…私幽霊なんだけど、驚かないの?」
「うん、私そういうの見えるから」
特に感情を込めることなく応じるキーリ。
「本当にいたんだ」
どちらかといえば、そういう話をする自称霊感少女を嘘つき呼ばわりしてた由乃である。
ちょっと目からうろこが落ちた。
でも、驚いてくれなかったのはちょっと残念な気がした。
「私の名前はキーリ」
キーリはやはり感情を込めることなく、由乃に自己紹介をする。
笑ったらもっと可愛いのに、と思いながら握手をしようとして、もうそんなことはできないというのを、
思い出し、由乃はそっと手を引っ込めた。
「声?」
白い大理石の廊下を歩くキーリと由乃
「うん…由乃ならわかるかなと思って、多分最近ここで殺された人だと思うんだけど」
事も無げに血なまぐさい言葉を口にするキーリ。
「何か私に伝えたいことがあるような…そんな声、よく聞こえないんだけど」
由乃は一瞬ぎょっとしてきょろきょろとせわしなく首を動かす。
自分も同じとわかっていてもやはり怖い。
「どう?わからない?」
そんな自分に真剣に答えを求めてくるキーリ。
(やっぱりこういう子って普通じゃないんだ…もったいないな)
「あのさあ」
見えるのは認めるとして、もう少し普通に…、と由乃が言いかけた時だった。
「彼女から離れなさい!!」
振り向いた先にはハックルボーンのむくつけき姿があった。
「キーリさんから早く離れなさい!不浄なる者よ!」
由乃に向かい断言するハックルボーン、その口調に怯えキーリの背中に隠れる由乃。
「あっ…ああああっ、あの、それはわかるんです、でも」
「ほら…いいいいろいろ未練がありまして、その…ねぇ」
自分でも何を言っているのかわからない、とにかく成仏する意思はあるのだということを
伝えないと…折角戻れたのに、このまま何も出来ないままではあの人に申し訳がたたない。
だが由乃のそんな葛藤などこの神父は一切考慮しない。
「未練がある!?何をおっしゃるのですか…貴方は神の御許に逝けたというのに」
「天門に召されて何を迷う必要があるのです!迷いを抱くということはそれだけでも神への背信!」
ずいと進み出るハックルボーン、気押され下がるキーリ。
「ですけど神父さま…由乃は嫌がってます」
「それが間違っているというのですよ!」
ああ…この人も同じだ…。
キーリの頭にヨアヒムの顔が浮かぶ。
でも…欲望に忠実なだけヨアヒムの方がまだマシな奴かもしれない。
少なくとも自分の正義に酔ってる奴より。
「さぁお退きなさい!」
ハックルボーンはただでさえ厳しい顔をさらに険しくして、キーリらに迫る。
キーリは由乃をかばうように立ちはだかる。
「ならば、仕方がありません…」
ハックルボーンは拳を構える。
「せめて2人そろって神の御許へ逝かんことを」
その時だった…彼らの間を分かつように銃弾が飛来したのは、
ハックルボーンの注意がそれた時にはキーリはすでに逃げ出していた。
「死んじゃえ」
そう捨て台詞を吐いて。
当然後を追おうとするハックルボーンだが、さらなる銃弾が彼の脇腹に命中する…しかし
「このような物で我が鋼の信仰は砕かれたりはせぬわ!!」
ムン!とポーズを決めると脇腹の傷から弾丸がひしゃげて床に転がり落ちる。
そしてハックルボーンは弾丸の飛来した方角へと猛ダッシュをかけるのだった。
「なっ…なによあいつは」
ハックルボーンの恐るべき肉体を目の当たりにしたパイフウ。
気で弾丸の軌道を曲げておかなければ、今ごろここを捕捉され…あえない最期を遂げていただろう。
なれない事はするんじゃない、あの最初の一撃が命中さえしていれば…。
とにかく脱出口が開いた、もうこの城には用はない。
パイフウも神父が戻らぬうちにと撤収を開始した。
一方のキーリと由乃。
「はやくっ!はやく逃げて!!」
かんかんとリズミカルに階段を降りるキーリ、ふと振り向くと由乃が転んでいる。
「あなた幽霊でしょう!!何人間みたく転んでるのよ!!」
「まだなって2時間しか経ってないんだからいいじゃないの!!」
口論しながら走る2人。
「そこ、そこから私城にはい…」
鈍い音がしたかと思うと額を押さえうずくまってるキーリ。
「あ…ここすり抜けたんだ、私」
「どうせ落ちは読めてたけど…死んじゃえ…もう死んでるか」
恨みがましい目で由乃を睨むキーリ。
どうしよ…そんな表情でおろおろする由乃、その時。
「え…あ…はい」
突如僅かだか耳元に聞こえる声に返事をする由乃、声の主は若い男のものだった。
「何…右に亀裂……はい」
男の声は用件を一方的に告げて消えてしまった。
今のがさっきキーリが話していた、「声」なのだろうか?
なんか自分がまた一歩本格的に幽霊になってしまった、そんな気がして落ち込む由乃、
そんな彼女はさておき、キーリはすでに亀裂から外へと脱出していた。
そして…残されたのは神父と、
「何をしているのです?こちらに来なさい」
傍観しなくりで怯えまくりの地人だった。
「まったく持ってこの地には不信神者が多すぎる…そうは思わぬかね?」
静かな、しかし途方もなく深い怒りと悲しみを込めてハックルボーンはボルカンに問いかける。
「そ…それはぁ」
殺される、何か言わないと殺される。
社会の底辺に生きる者ゆえの生存本能でボルカンは危険を察知していた…。
しかし察知しただけで何も出来ないのが地人の悲しさだったが、しかし。
「全部オーフェンが悪い」
思わず口をついて出た言葉に自分でも驚くボルカン。
「オーフェン?何者ですか?」
もはや止まらなかった…ボルカンはここぞとばかりにオーフェンがいかにひどい奴か、
そしていかに自分が虐げられているかを、
次々と脚色をふんだんに交えまくしたてていった…そして。
「なるほど!これは捨て置けぬ!…オーフェンとやら即刻浄化せねば!」
神父がその気になるのにそうは時間はかからなかった。
「そ、それじゃあそういうことで…」
わなわなと義憤に両手を握り締めるハックルボーンを横目に見ながら、そっと退場しようとするボルカン。
「待ちたまえ!出会えたのも何かの縁だ」
その肩をむんずとつかむやたらとでかい掌。
「共に行こうではないか!遠慮はする必要はない」
もはやボルカンに抵抗することはおろか、選択する余地すら与えられていなかった。
【G-4/城の中/1日目・08:52】
【ハックルボーン神父】
[状態]:健康
[装備]:宝具『神鉄如意』@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:神に仇なすオーフェンを討つ
【ボルカン】
[状態]:健康
[装備]:かなめのハリセン(フルメタル・パニック!)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:打倒、オーフェン/神父から一刻も早く逃げたい
【G-4/城の中/1日目・08:52】
【パイフウ】
[状態]健康
[装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない)
[道具]デイバック一式。
[思考]主催側の犬になり、殺戮開始/火乃香を捜す
【G-4/城の外/1日目・08:52】
【島津由乃】
[状態]:すでに死亡、仮の人の姿(一日目・17:00に消滅予定)、刻印は消えている
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:生前にやり残したことを為す
※仮の人の姿について(バランスを崩さないために、少し原作とは設定を変更)
人の姿はしているが実体はない。そのため、物に触れることはできない。
出来るのはせいぜい、人と話をすることくらい。
【キーリ】
[状態]:健康
[装備]:超電磁スタンガン・ドゥリンダルテ(撲殺天使ドクロちゃん)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:ハーヴェイを捜したい/由乃はどうしようか?
「――さて、ここからどうしようか」
そうつぶやく男――姫を助けにきた王子であるクレア・スタンフィールド――は、
目の前の城門を見上げると、ひとりごちる。
「やはり、王道としては正々堂々正面から名乗りをあげるのが格好良いか……
だがしかし、ここで敢えて前代未聞に挑戦してみるのも悪くはないな?」
そう呟いてクレアは、後ろを見る。
大分離してはあるが、先程の男がしつこく追いかけてきているのが見えた。
「悪の手先じゃないなら、あいつを倒しても別に格好がつくわけじゃないしな……」
シャーネを助けるまでは、面倒は御免だった。クレアは即決する。
……何より、「前代未聞」という単語がとても自分らしく、格好良いと思えてきた。
「よし、それじゃあ行くか」
ニヤリ、と擬音のつきそうな笑顔と共に、クレアは鼻歌混じりで巨大な扉を開いていった。
「……捕らわれのお姫様ってのは、最上階にいるのが定番だと思ったんだがな……?」
中に入って直後、クレアは面倒くさい追っ手(平和島静雄)を足止めするべく即座に城門を閉めると、
そのまま正面入り口へは向かわず、手近にあった木を登り。壁面の縁に飛び移り。
そして、比較的凹凸の大きい壁面を運良く発見するなり、一気に登って最上階から侵入したのだった。
だが結局、侵入した階全体を見回ってみてもシャーネを発見することができず、現在に至っている。
「城でないとすると塔か……? だが、この島にはそんな気の効いたものはないしな。
地図にある灯台は、塔と呼ぶには役者不足だし……」
言っている間にも、やや苛立ちが外面に見え始めていた。
……と、何を閃いたのか、クレアが唐突に走り出す。
それは“疾風迅雷”とでも評するのが相応しいような、後先を考えない全力疾走だった。
「はは……そうだ、そうだよな。“城”っていうからには、謁見の間とかそういうのがあるはずだ。
悪役ってのは、偉そうに座って『冥途の土産』とやらを聞かせるのが好きだしな。絶対そこだ」
半ば自分に言い聞かせるように、クレアは駆けていく。
【G-4/城の中/1日目・07:00】
【クレア・スタンフィールド】
[状態]:健康、焦りと苛立ちで神経過敏
[装備]:大型ハンティングナイフx2
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:謁見の間を探す。シャーネはどこだ!?
申し訳ありませんが、場所表記を
【G-4/城の中/1日目・08:00】
に修正お願いしますorz
其処にあるのはどこまでも真っ黒な空間。
今にも脆く崩れ去ってしまいそうな脆弱な空間。
其処に居るのはどこまでも真っ赤な存在。
果てしなく強く決して崩れることの無い歪められた存在。
赤色は何をするでもなく真っ黒な空間にたたずんでいる。
この空間に彼女が現れてから、どれくらいの時間が経過しただろうか。
それは何年も前かも知れないし、ほんの一瞬前かもしれない。
ただ、彼女にとってそれは、無限に等しい時間だった。
唐突に口笛が聞こえてきた。その口笛は『ニュルンベルクのマイスタージンガー』。
おおよそこの場所には似つかわしくない、派手派手しい曲だった。
彼女は大して気にするでもなく、口笛が聞こえてくる方を見る。
そこに居たのは、男とも女ともつかない顔の、筒のようなシルエットをした人影だった。いや、人かどうかも疑わしい。
「うまいんだな」
曲が終わると彼女は拍手をしながら言った。彼は答えない。
「世界は、どこまでも不安定だ」
突然に、本当にこれほど唐突なタイミングは無いだろうと言うくらい突然に、黒帽子のシルエットが言った。
「脆弱で、隙だらけで、壊れやすい。だから『世界の敵』が現れて世界を崩壊させようとする…世界は脆い」
彼は少し間をおいてから言う。
「僕はブギーポップ、世界の敵の敵さ」
彼――ブギーポップの独白は、どうやら自己紹介だったようだ。
また沈黙が続き、彼女が言った。
「ここは……まるで世界そのものだな」
「そうだね、この空間もすぐに壊れてしまうだろうね。」
「じゃぁお前は…この『世界』を崩壊させようとしているあたしを倒しに来たってわけか?」
彼女はシニカルな笑みを浮かべて言う。
「いいや、確かにここは『世界』に似ているけれど、それでも世界じゃない。それに―」
彼は左右非対称な笑みを浮かべて続ける。
「――それに君は、もう存在が消えかかっている」
「……知ってる」
思い出したように、彼女の胸や腹から大量に血液があふれ出てくる。彼女の身体がじょじょに冷たくなっていくが、
彼女は眉一つ動かさない。シニカルな笑みを浮かべたままだ。
「ここはイメージの世界だ。この島に居る者達が作り出した精神の世界だ。本当ならこのイメージの世界で君が傷を負うわけが無い。
人は傷つくのを嫌うからね、自分が傷つく姿をイメージするはずが無い。」
どくどくと彼女の傷口からあふれる血液は、もうすでに失血多量で死んでいるはずの量を超えている。それでも真っ赤な鮮血は
とめどなく彼女の身体からあふれ出す。どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく溢れ出す。
「君は現実の世界に戻りかかっている。それは生を意味するのか死を意味するのか。僕には分からないけれど、とにかく君はもう
ここに居られないようだ」
「…みたいだな」
彼女はそういうと、彼が吹いていた口笛を真似して吹き出す。彼も釣られて口笛を吹き出す。
口笛の合奏はいつまでも続いたが、すぐに一つになって、やがて消えた。
そして……
【イメージの世界、??:??】
【残り90人】
【哀川潤】
[状態]:瀕死の重体(銃創二つ。右肺と左脇腹損傷)
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:気絶中
>>111 修正
「彼女から離れよ」
振り向いた先にはハックルボーンのむくつけき姿があった。
「不浄なる者よ。彼女から離れよ」
由乃に向かい断言するハックルボーン、その口調に怯えキーリの背中に隠れる由乃。
「あっ…ああああっ、あの、それはわかるんです、でも」
「ほら…いいいいろいろ未練がありまして、その…ねぇ」
自分でも何を言っているのかわからない、とにかく成仏する意思はあるのだということを
伝えないと…折角戻れたのに、このまま何も出来ないままではあの人に申し訳がたたない。
だが由乃のそんな葛藤などこの神父は一切考慮しない。
「未練など捨て、神の御許へ召されよ。迷う必要などない。迷いこそ神への背信」
ずいと進み出るハックルボーン、気押され下がるキーリ。
「ですけど神父さま…由乃は嫌がってます」
「それこそが神への背信に他ならない」
ああ…この人も同じだ…。
キーリの頭にヨアヒムの顔が浮かぶ。
でも…欲望に忠実なだけヨアヒムの方がまだマシな奴かもしれない。
少なくとも自分の正義に酔ってる奴より。
「神を疑うことなかれ」
ハックルボーンはただでさえ厳しい顔をさらに険しくして、キーリらに迫る。
キーリは由乃をかばうように立ちはだかる。
>>112(修正)
「あなた方の神に祝福を」
ハックルボーンは拳を構える。
「2人そろって神の御許へ召されよ」
その時だった…彼らの間を分かつように銃弾が飛来したのは、
ハックルボーンの注意がそれた時にはキーリはすでに逃げ出していた。
「死んじゃえ」
そう捨て台詞を吐いて。
当然後を追おうとするハックルボーンだが、さらなる銃弾が彼の脇腹に命中する…しかし
「我が鋼の信仰はこのような物で砕かれたりはせぬ」
ムン!とポーズを決めると脇腹の傷から弾丸がひしゃげて床に転がり落ちる。
そしてハックルボーンは弾丸の飛来した方角へと猛ダッシュをかけるのだった。
「なっ…なによあいつは」
ハックルボーンの恐るべき肉体を目の当たりにしたパイフウ。
気で弾丸の軌道を曲げておかなければ、今ごろここを捕捉され…あえない最期を遂げていただろう。
なれない事はするんじゃない、あの最初の一撃が命中さえしていれば…。
とにかく脱出口が開いた、もうこの城には用はない。
パイフウも神父が戻らぬうちにと撤収を開始した。
一方のキーリと由乃。
「はやくっ!はやく逃げて!!」
かんかんとリズミカルに階段を降りるキーリ、ふと振り向くと由乃が転んでいる。
「あなた幽霊でしょう!!何人間みたく転んでるのよ!!」
「まだなって2時間しか経ってないんだからいいじゃないの!!」
口論しながら走る2人。
>>113(修正)
「そこ、そこから私城にはい…」
鈍い音がしたかと思うと額を押さえうずくまってるキーリ。
「あ…ここすり抜けたんだ、私」
「どうせ落ちは読めてたけど…死んじゃえ…もう死んでるか」
恨みがましい目で由乃を睨むキーリ。
どうしよ…そんな表情でおろおろする由乃、その時。
「え…あ…はい」
突如僅かだか耳元に聞こえる声に返事をする由乃、声の主は若い男のものだった。
「何…右に亀裂……はい」
男の声は用件を一方的に告げて消えてしまった。
今のがさっきキーリが話していた、「声」なのだろうか?
なんか自分がまた一歩本格的に幽霊になってしまった、そんな気がして落ち込む由乃、
そんな彼女はさておき、キーリはすでに亀裂から外へと脱出していた。
そして…残されたのは神父と、
「何をしている?こちらに来られよ」
傍観しまくりで怯えまくりの地人だった。
「この地には不信神者が多すぎる。汝はどうなのだ?」
静かな、しかし途方もなく深い怒りと悲しみを込めてハックルボーンはボルカンに問いかける。
「そ…それはぁ」
殺される、何か言わないと殺される。
社会の底辺に生きる者ゆえの生存本能でボルカンは危険を察知していた…。
>>114(修正)
しかし察知しただけで何も出来ないのが地人の悲しさだったが、しかし。
「全部オーフェンが悪い」
思わず口をついて出た言葉に自分でも驚くボルカン。
「オーフェン?何者か?」
もはや止まらなかった…ボルカンはここぞとばかりにオーフェンがいかにひどい奴か、
そしていかに自分が虐げられているかを、
次々と脚色をふんだんに交えまくしたてていった…そして。
「そのオーフェンとやらを即刻浄化せしめよう」
神父がその気になるのにそうは時間はかからなかった。
「そ、それじゃあそういうことで…」
わなわなと義憤に両手を握り締めるハックルボーンを横目に見ながら、そっと退場しようとするボルカン。
「待つがよい。ここで我らが会えたのも神のご加護に他ならない」
その肩をむんずとつかむやたらとでかい掌。
「共に行こう。それが神の御意思である」
もはやボルカンに抵抗することはおろか、選択する余地すら与えられていなかった。
ようやく城から遠ざかることが出来たキーリと由乃、
全力疾走でくたくたのキーリに対し、幽霊である由乃は平然としている。
それを見ている内に、だんだんとむかついて来るキーリ、
「じゃあ私行くから」
それだけを伝えてとっとと東の方向へ足を向けたのだが。
案の定、由乃がしっかりとくっついてきているのを知ると、今度は西へと足を向ける。
「いじわるしないでよ」
由乃の声に冷たい口調で応じるキーリ。
「何でよ、由乃のせいで私追われる身になってしまったんだから」
「お願い…伝えたいことがあるの…私今日の5時で消えちゃうから、だから手伝って!」
「そんなの知らない」
由乃の訴えを無視して先へ進むキーリ。
だが、その耳にはしっかりと由乃の泣き声が聞こえてくる。
それでも構わず先を急ごうとするが、しくしくしくしくと声はキーリの心を締め付けるように、
その頭の中に響いてくる。
「ちょっと泣かないでよ!私が悪いみたいじゃないの」
耐えかねて振り向く、そして相手が握り返せないのを承知の上で右手を差し出す。
「たまたまだからね、私は由乃なんか知らないけど、でもハーヴェイを捜すのに連いて来るなら
別に構わないから」
ありがとうありがとうと泣きじゃくる由乃を見ながら、キーリは少しだけ微笑んだ。
「長居は無用ね」
パイフウがいるのは城の北端の窓際だ、窓際から城壁までは十数メートル
窓から地上までもそれくらいはあるだろう。
「さて」
パイフウは城内で見つけた、その先端には鉤状に折り曲げられた鉄パイプが結わえられている。
を思い切り城の外へと投げる、パイプが城壁の外に引っかかったのを確認し、
彼女はロープに気を込めていく…とだらんと足れ下がっていたロープがパイフウの気を受けて
ピンと堅く張って行く、十分な強度となったのを確認し、
パイフウはくるりと身を翻して、ロープの上に乗るとそのまま綱渡りの要領で城壁までらくらくと歩いていく。
城壁まで来れば、あとは簡単だ。
そのまま飛び降り…着下寸前で気を地面めがけたたきつける。
空気の摩擦するような音が聞こえたかと思うと、地面に穴が開き、その反動で軽く跳ね上がったパイフウは
そのまま鮮やかに着地したのだった。
「じってんれい!ね」
そう一言漏らすとパイフウもまた先を急いだ。
そして…
轟音と共に扉をぶち破ったのはハックルボーンとボルカンだ。
「さあ行かん、神罰を代行するは我にあり」
「はいはい…」
やる気満々の神父とは対照的にもうどうにでもなれと憔悴しまくりのボルカンだった。
【G-4/城門/1日目・09:00】
【ハックルボーン神父】
[状態]:健康
[装備]:宝具『神鉄如意』@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:神に仇なすオーフェンを討つ
【ボルカン】
[状態]:健康
[装備]:かなめのハリセン(フルメタル・パニック!)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:打倒、オーフェン/神父から一刻も早く逃げたい
【G-4/城外北/1日目・09:00】
【パイフウ】
[状態]健康
[装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない)
[道具]デイバック一式。
[思考]主催側の犬になり、殺戮開始/火乃香を捜す
【G-4/城外西/1日目・09:00】
【島津由乃】
[状態]:すでに死亡、仮の人の姿(一日目・17:00に消滅予定)、刻印は消えている
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:生前にやり残したことを為す/キーリについて行く
【キーリ】
[状態]:健康
[装備]:超電磁スタンガン・ドゥリンダルテ(撲殺天使ドクロちゃん)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:ハーヴェイを捜したい/とりあえず西へ
意識がここに還ってきた。
同時に、右肺と左脇腹の神経が再び痛みを告げ始める。
だが、彼女はそれを黙殺して立ち上がろうとする。
不意に、喉元から何かが込み上げてくる感覚。
そのまま跪いて、彼女は盛大に血を吐いた。
(……そーいや肺に一発喰らってたっけ)
今更のように、撃たれた事を認識する。
しかし、それでも彼女は立ち上がる。
「君の命はもう残り少ない」
どこかで聞いた事のある声が聞こえた。その声の主の事は少しだけ知っている。
黒い帽子をかぶった筒形のシルエットに、男か女か分からないその顔。
人かどうかすら怪しいそいつの名は──、
(ブギー、ポップ……か)
「君の人間離れした身体をもってしても、おそらく1時間と保たないだろうね」
(勝手な事言ってくれるじゃねぇか……)
「だからこそ、君は彼女を助けるというのかな?」
(……)
自分はそこまで殊勝な人間ではない事は、彼女自身良く知っていた。だが、知り合ってしまった人間を
見捨てる事が出来るほど、彼女は冷徹ではなかった。
なんとか立ち上がったものの、身体がうまくいう事を聞いてくれない。
身体を揺らしながら、よろよろと彼女は歩き始める。
「きゃぁぁ!!、アイザック、グリーンを止めてぇぇ!!」
「よーし!! まかせとけミリゃぶへぇ!!」
「わぁぁっ!! アイザックー!!」
目の前に男が立ち塞がったが、それを軽く振払って彼女は再び歩きはじめた。
世界から見放されて、誰かの気を引く事しか出来なくて、そんな空しい自分だけれど。
しかし、いやだからこそ──。
(祐巳……待ってろよ…………今、助けにいくからな……)
強すぎる力を持ってしまった彼女を救いたかった。
そして彼女は天に向かって吼えた。
スコープで捉えた彼女の様子を見て、萩原子荻は冷静にライフルを構え直した。
「……さすがは『赤き征裁』、といったところですか」
照準を左太腿へと合わせて、静かにトリガーを絞る。
命中。彼女の身体がくずおれた。
「何か言ったかい?」
「いえ……、何でもありません」
「そう、それならいいけどね」
淡々とした臨也との会話。
当たり前と言われれば当たり前の事。彼との同盟は、完全に利害だけで成り立っている。
寝首を掻かれる事を前提とした、薄氷のような同盟。
思考を切り替えて、意識をスコープの先へと移す。
彼女は、再度立ち上がろうとしていた。
しかし、先の太腿を合わせて三発も銃弾を受けている身体では、うまく立ち上がることは出来ないようだ。
その姿を見ていて彼女は気付いた。
『人類最強の請負人』哀川潤の瞳が、こちらを向いている事に。
身体中の震えが止まらなかった。
只相手に見つめられただけで、こうなってしまった。
(あの眼は何!? 私は……、あんな眼を見た事がない!!)
萩原子荻は動揺を隠せなかった。
スコープから見えた彼女の瞳は、子荻が見た事のないものだったからだ。
(あれは"殺意"や"敵意"とは違う……。ましてや"狂気"でもない)
(あの意志すら見られない瞳……、あれはまるで──)
そこまで考えて、急にライフルが火を吹いた。それと同時に、子荻の意識が現実へと引き戻される。
どうやら、身体の震えを制御できずに誤ってライフルを撃ってしまったらしい。
すぐに彼女の状態を、スコープで確認する。
彼女の左手が右肩を押さえていた。
僅かに身体を揺らすが、すぐに彼女は歩きはじめた。その向かう先にあるのは、このビルだ。
この後どうするかを彼女は考える。
だが既に答えは出ていた、そしてそれしか生きる道はない。
「ここから逃げます」
ライフルを片付けながら、子荻は臨也に告げた。
「……」
理由を告げないことを不信に思わずに、臨也も手早く片づけをはじめる。
しかし──、
荷物を片付ける手を休める事なく、彼女は思った。
あんな眼をした『赤き征裁』から、無事に逃れられるのかと。
【C−4/ビルの屋上/一日目/09:35】
【萩原子荻(086)】
[状態]:正常 臨也の支給アイテムはジッポーだと思っている
[装備]:ライフル
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:哀川潤から逃げ切る/ゲームからの脱出?
【折原臨也(038)】
[状態]:正常
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)ジッポーライター 禁止エリア解除機
[思考]:彼女についていく/ゲームからの脱出?/萩原子荻に解除機のことを隠す
【C−4/ビルの正面/一日目/9:35】
【哀川潤(084)】
[状態]:瀕死の重体(銃創四つ。右肺、左脇腹、左太腿、右肩損傷)
[装備]:なし(デイバッグの中)
[道具]:なし
[思考]:祐巳を助ける/邪魔する奴(子荻と臨也)は殺す。
【D−4/森の中/一日目/9:35】
【アイザック(043)】
[状態]:超心配
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:グリーンを助けないと!!
【ミリア(044)】
[状態]:超心配
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!
【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:健康(前足に切り傷)
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:お姉ちゃんが大変デシ!!
【高里要(097)】
[状態]:正気
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:潤さんが……!
[備考]:上着は外に出る際に着ました。
【備考】
哀川さんはあと1時間程度で死ぬと思われます。
また過剰に身体を動かせば、その分寿命が縮まる事が予想されます。
【残り90人】
マストの上にぶら下がり続けてかれこれ5時間が経過していた。
空を彩る闇もかなり薄くなってきてしまっている。
「ああ、わたしは一生をここで終えてしまうのでしょうか……」
流石に悲嘆にくれる淑芳。
そこに良く通る一声が届いた。
「おーい、大丈夫ですかーー」
声をするほうを見やると海岸の崖の上に銀髪の青年が白馬ならぬ白犬を従えて手を振っている。
敵意のあるものがわざわざ声をかけてくることもあるまい…
…などと考える余裕もなく淑芳は慌てて声を張り上げた。
「ど、どなたか存じませんが助けてくださ〜い!」
青年はそれを聞くと犬と顔を見合わせ頷きあい、崖を駆け下りてくる。
傾斜の緩やかな場所を見計らって駆けるその身のこなしに迷いはなく、
青年はその体術においてかなりの実力を持つことが推し量れる。
全く危なげなく、砂浜に降り立つと一足飛びに甲板へと上り、マストの根元に立つ。
ここまで一分と掛かっていない。淑芳ならば崖を降りるだけで一刻は経過していただろう。
少しおくれて白犬も青年の下に到着した。
「どうする気です?カイルロッド」
「ま、見ていろよ」
カイルロッドと呼ばれた青年は太いマストに手をかざし、念を集中する。
「タ・オ・レ・ロ ――――!!」
呼気と共に吐き出した念はその掌から青銀の稲妻となって迸り、マストを直撃した!
「おお!?」
「あ、あれ?」
しかしその電撃の威力が思ったよりも弱かったのか、
それはメインマストの根元をを1/3ほど炭化させただけで終わり、カイルロッドは怪訝な声を上げる。
「なんとなく力が制限されていることは感じていたけど、これほど威力が弱まってるなんて――」
力を制御しきれていなかった当時ならともかく今の自分は完全に力を使いこなしているはずだ。
空を覆うほどの魔物を一瞬で消し飛ばしたこともある自分にとってこれはかなりの衝撃だった。
「くそ!」
思わずマストを蹴り飛ばす。
ボロッ……ミ、ミシミシ、ギギ、ギギギギギギッギーーーーー
すると炭化した部分が崩れ落ち、自重を支えきれなくなったマストが倒れ始めた。
カイルロッドたちのほうへ。
「う、うわあっ!?」
咄嗟に避けるカイルロッド。
「き、きゃいや〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「あ、忘れてた!」
淑芳の悲鳴に自分のすべきことを思い出したカイルロッドは倒れ行くマストに足を掛け
マストの頂点にいる淑芳目掛けて駆け上り始めた。
段々と傾斜が水平に近くなり…淑芳が地面に激突する寸前でカイルロッドは淑芳の襟首を掴み取り、
高々とジャンプする。
そして轟音をたてて砕け散る腐ったメインマスト。
カイルロッドはそれを尻目に空中で淑芳をお姫さま抱っこに抱え上げ、砂浜へと着地した。
淑芳は初めてカイルロッドの顔を真近に見、整った顔立ちとその精悍な表情に
(実際余裕がなかっただけなのだが)頬を赤らめる。
ふう、と一息ついたカイルロッドは淑芳を降ろそうとするが淑芳はカイルロッドの首にしがみついて放さない。
「あ、あの…もう大丈夫だから」
「ああ、はしたない所をお見せしてしまい申し訳ありません…
この身を救っていただいて有難うございます。お名前をお聞かせ願ってよろしいでしょうか?」
「カ、カイルロッド…」
何か変な娘だなぁと思いながらもカイルロッドは正直に答える。
「かいるろっど様とおっしゃるのですね。何て美しい響きでしょう。
申し遅れました。わたくし、これでも神仙のはしくれ、銀仙華児の李淑芳と申します」
淑芳の潤んだ瞳とか弱い声に何故かたじたじとなるカイルロッド。
「しゅ、淑芳か。とにかく、下に降りて落ち着いて話を…」
しかし淑芳はますます強く腕を絡めてくる。
「恥ずかしい……でも、わたしには他に礼をする術が…」
「恥ずかしいのはあなたの脳みそのほうだと思いますが」
顔を紅潮させてカイルロッドに迫っていた淑芳だが、不意に掛けられた声にきょとん、とする。
きょろきょろと辺りを見回し、カイルロッドの足元に座って淑芳を見上げている白犬に気付く。
「い、犬が喋った?」
「なんですか失礼な。喋らない犬もいれば喋る犬もいますよ。
そういう決め付けは世界を狭くすることに他ならないと思いますがね」
「お、おい陸…」
その陸と呼ばれた犬の返答を小癪と感じたのか淑芳は眉を吊り上げる。
「なんて野暮な犬でしょう。こういう時は気を利かせて姿を隠すものですわよ?」
「何故あなたに気を利かせる必要があるのですか。
そんな色気振りまいている暇があったら、この異常な状況を何とかする方法を探すほうが建設的です」
「なんですって――」
「ちょっと待った!ここはいがみ合ってる場合じゃないだろう。
淑芳、確認するが君はこのゲームに乗る気はないんだな?」
淑芳の気が陸に逸れたのを見計らって、すかさず彼女を身体から放したカイルロッドは
無理やり話を変えた。
「そんなのモチコース!ですわ。
こんな腐ったゲーム、麗芳さんや鳳月さんあたりなら パーペキに頭から湯気出して怒り狂ってますわね。
わたしも当然、このような生理的嫌悪感を掻き立てるような企て、許容できるはずもございません」
ぐっと拳を握り締めて力説する淑芳。
「よし、それなら淑芳がよければ一緒に行動したい。
君の仲間や支給品について聞かせてくれないか?」
それを聞いて、再びカイルロッドにしな垂れかかる淑芳。
「ああん、もちろんですわカイルロッド様ぁん♪」
「い、いや。ともかくそうくっつかないでほしんだけど…」
「こういうのを仲間にしても足手まといになるだけだと、思いますけどね…」
陸は溜息をついた。
「とにかく、火をおこして一服しよう」
そういってカイルロッドは淑芳を引き離し、砕けたマストの破片を集め始めた。
手伝おうとする淑芳だったが、ふと自分のデイパックに気付く。
『そういえば、わたしまだ支給品を確認してませんでしたわ』
ごそごそとデイパックの中に手を突っ込む。
そして手に何か固いものが当たり、それを掴んで力任せに取り出した。
ぴ ぎ っ
それを見て石の如く硬直する。
「ん、どうしたんだ淑芳?」
シュバッ
「ななななななな〜んでもありませんわ!オホホホホホホ」
電光石火の早業で取り出したものをデイパックに突っ込み、口に手を当てて笑う淑芳。
「そういえば、あなたの支給品はなんだったのですか?
強力な武器でもあれば、今後楽になると思いますが……」
淑芳はデイパックを後ろ手に背中に隠し、引きつった笑みで答える。
「わ、私の支給品は…は、ハズレ!そう、ハズレだったのです!
通常の配給品以外何も入っていませんでしたわ!ああ、なんて口惜しい!」
そういってどこから取り出したのか淑芳はハンカチを口にくわえて悔しがる。
その淑芳の様子に陸は首をかしげる。
「?しかし先ほど、あなたは何かを取りだ――」
「陸」
カイルロッドは陸の言葉をさえぎり、振り向いた陸に向かって黙って首を振った。
それを見て、カイルロッドを尊重してくれたのか陸はすごすごと引き下がった。
淑芳が何かを隠しているのは明らかだったがカイルロッドはそれを無理に追求したくはなかった。
隠すなら隠すなりの事情があるのだろう、必要になれば話してくれる筈だ。
そう信じて、カイルロッドは再び薪にするためにマストの破片を拾い始めた。
淑芳も黙ってそれを手伝い始める。
『こ、これは誰にも渡してはなりませんわ。
いえ、知られるわけにも参りません。
わ、わたしが隠し続けなければ……なんとしても』
淑芳の支給品。それは淑芳のよく知る恐るべき武宝具。
あたりハズレで言えば大当たりだろう。
これほど強力なアイテムは他にほとんどないだろうと思える。
それは芯の部分がデコボコに波打っている金属製の棒で握りのところに紅い房がついている。
これこそは彼女の師であり天界の重鎮・太上老君の鍛えし『雷霆鞭』だった。
持ち手によって威力が増減するとはいえ、その威力は凄まじく
淑芳程度の者が使用しても大地に大穴を空けることが可能であるのだ。
これがもし、悪しき力を持つ者の手に渡ったら……考えたくもない。
持つ者次第ではこのおよそ一里四方の島など一撃で吹き飛ばしかねない。
威力範囲を絞っても、これで人体を叩くものなら例えどのようなものが相手であろうと必殺だ。
『絶対に、絶対に知られてはなりませんわ……』
彼女は小さく震え、背負ったデイパックのベルトを握り締めた。
【B-8/海岸の崖、その直下の難破船/一日目、05:25】
【李淑芳】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式。雷霆鞭。
[思考]:雷霆鞭の存在を隠し通す/カイルロッドに同行する/麗芳たちを探す
/ゲームからの脱出
【カイルロッド】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式。陸(カイルロッドと行動します)
[思考]:陸と共にシズという男を捜す/イルダーナフ・アリュセ・リリアと合流する
/ゲームからの脱出
「ちょっと、人の顔踏んで謝らないつも」
意識の回復したフリウはそのまま去ろうとしていた、2メートル近い大男に
抗議を最後まで言えなかった。
「それは済まなかったな、謝罪の代わりに貴様の肉を鍋に放り込んでフリカッセ
を作ってやろう」
振り向いた男、オフレッサーが放つ獰猛な殺意に打たれて。
直後、オフレッサーはガラスの剣を手に突っ込んで来る、その凶獣の様な
男にフリウはうめいて念糸を飛ばした。
「ピアノ線かッ!」
オフレッサーは器用に剣で念糸を絡め取ろうとする、フリウもその動きに逆らわず、
巻き付けた念糸を『捻る』、突然加えられた力にオフレッサーが抗える筈も無く
ガラスの剣は弾き飛ばされた、だがオフレッサーは止まらない。
「フンッ!」
まともにタックルを喰らって吹っ飛んで行くフリウを見ながらオフレッサー
は一瞬だけガラスの剣の位置を確認すると、水晶の剣を抜き放ちながらゆっくりと近付いて行く、
「……その道」
地面に叩きつけられたフリウは動かない。
「武器が無ければ勝てるとでも思ったか?低能がw」
「…作法に記され…俄かにある伝説の一端にその指を、…」
オフレッサーも急がない、今の一撃で肋骨の折れる音を聴いていたから。
「開門よ、成れ」
『我は破壊の王、ウルトプライド』
突如オフレッサーの前に銀色の巨大な人影が現れ、吠える。
「お、俺はオフレッサー上級大将だ!」
咄嗟にオフレッサーも吠える、相手に呑まれない為に、相手を呑む為に。
『全てを溶かす者!』
精霊の振り下ろす拳を、水晶の剣の魔力とオフレッサーの筋肉が辛うじて受け止める。
第二ラウンド、開始。
【B-5/枯れた川/06:43】
【オフレッサー】
[状態]:やや睡眠不足
[装備]:水晶の剣、ガラスの剣
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:皆殺し、G-1に移動
【フリウ・ハリスコー】
[状態]: 右腕に火傷。顔に泥の靴跡 、肋骨骨折
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)
[道具]: デイパック(支給品一式)
[思考]: ミズーを探す。殺人は避けたい。
※ウルトプライド召喚中、ガラスの剣はその辺に放置。
海からの強い風に、せつらの髪がなびく。
海沿いに連なる、動かぬ冷たい機械の群れ。
F−1エリア、海洋遊園地にあるジェットコースターのレール。その一番高い場所に、秋せつらは立っていた。
「しかしまぁ、またよく分からないものを作ったものです」
眼下に見えるアトラクションの山を一瞥し、嘆息する。
本来ならばカップルや子供連れの家族で賑わうべき遊園地も、この島においては不気味にその巨大な威容を誇示するだけだ。
「殺人ゲームの舞台に、こんなものまで用意するとは……主催者は相当に悪趣味ですね。
いえ、逆に趣味がいいと言うべきか?」
ぐるりと周囲を見渡すと、彼方に小さく動く影をいくつか見ることができる。
他の参加者たちだ。
月の光の下、お世辞にも良い視界とは言えないが、それでもせつらの視力はかなり遠くまでの確認を可能としていた。
元々いた位置から近いこともあり、まず目視で広範囲を偵察できる場所として、せつらはここを選んだのだ。
「とはいえ、どうやら見える範囲にアシュラムさんはいない、と」
そのアシュラムの捜索を依頼したピロテースは、鉄の塊である遊園地を嫌って近くの森に潜伏している。
危ないですから一緒に行動しましょうと言ったら、バカにするなと怒られてしまった。
あまつさえ、勝手に一人で周辺を捜索して回っているらしい。
「まぁ、彼女も結構やりますし、いざとなったら姿隠しなんて反則技がありますからね。あまり心配はしていませんが。
アシュラムさんのことを語ってる時は、恋する乙女って感じで可愛いんですけどねぇ」
本人が聞いたら本気で殺しにかかって来そうなセリフでも、こんな場所なら気兼ねなく吐ける。
一通り周辺を見回し終えると、懐から地図を取り出し眺め始めた。
近場で情報が手に入りそうな場所を物色する。
「やはり……城、かな。少し戻ることにはなるけど、ピロテースさんもアシュラムさんもファンタジー住人みたいですしね」
失礼な検討の仕方をする。
「もしくは、北上して町に入るか。……幾人か人がいるのは確かですし」
せつらはしばし黙考していたが、やがて方針を決定したのかレールを降り始めた。
レールからレールへひょいひょいと跳躍し、危なげなく地面に足を着く。
そして何を思ったのか、近くの従業員出入り口に近づきドアノブを回す。が、
「ふぅ。ま、閉まってるとは思ったけれど。仕方ない」
言うなり懐から銃を取り出し、ドンッと一撃。
蝶番を破壊してそのまま中に入っていった。
そのまま数分が経過し――
戻ってきたせつらの手には、20メートルほどの鋼線が握られていた。
これが、せつらが海洋遊園地を目指したもう一つの理由である。
"糸"の代用品となる武器の調達。
蒼い殺戮者(ブルー・ブレイカー)と遭遇した時に、配電線を"糸"の代わりとすることを思いついたのだ。
ここなら配電線の予備くらいあるだろうと当たりをつけたら、案の定であった。
「さて、どれほど使えるかな」
そっと、端を掴んだ鋼線を地面に垂らした次の瞬間――耳障りな音と共に、少し離れたアトラクションの柵が火花を散らした。
続いてアスファルトが、傍らの樹木が、背後の電灯が、音と火花を散らし弾け飛ぶ。
そして――、
「ふむ」
せつらのその呟きと同時に、辺りにまた静寂が戻った。
「切断も出来ず、精度も悪い。参ったなぁ……重いし太いし短いし、これは予想以上に扱いづらい」
本来のせつらの糸繰りなら、こんな騒々しいことにはならないのである。
静かに、誰にも気づかれることなく、目標を切断することも意のままに操ることすらも可能であったのだが……
さすがに、今回の無様な糸繰りぶりにはちょっと落ち込んだようだ。
だが、とりあえず戦闘になら使えないこともないと、無理やり自身を納得させるせつらであった。
とにもかくにも、いつまでもここにいても仕方がない。
近くに放置していたデイバッグを掴むと、辺りを見回す。
「さて、ピロテースさんはどこにいるんでしょうか。……ピロテースさん、出発しますよ」
小声で呼んでみる。
反応なし。
ふむ、と嘆息。そして考える。
どうせ先ほど盛大に騒音を撒き散らしてしまったのだ。
音につられた他の誰かが来るなら来たで、情報源になって貰おうと割り切った。
「北の町に向かいますよ。聞こえていますか? ピロテースさん」
あろうことか、大声で呼びながら歩きだした。
せつらが、森から飛び出してきたピロテースに「騒ぐな!」と怒られるまで、あと30秒。
【残り90人】
【人捜し屋さんチーム】
【F-1/海洋遊園地/1日目・04:10】
【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:デイパック(支給品一式/せんべい詰め合わせ)
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる
【ピロテース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:アシュラムに会う/邪魔をするものは殺す
[備考]:F-1 → 北へと移動します。
保胤は携帯という不思議な道具を使用して、離れた場所の人物と会話をしていた。
セルティに教えてもらってなんとか使いこなしているが、どうも落ち着かない。
向こう側には、これまた聞きなれない名前の人物が3人いるようだ。
セルティに確認してもらったところ、たしかに3人とも名簿に載っていた。
話し声からすると他にも一人いるようだったが、相手側にも何か事情があるのだろう。
そのことには、あえて触れないでおいた。
携帯にでて話をしているのはリナとかいう名前の女性らしい。
向こう側からは、なにやらアカシがどうとかいう話が漏れ聞こえてきた。
何か問題でも発生したのだろうか。
「え〜と・・・もしもし、リナさん。どうかしましたか?もしもし?」
何度か呼びかけ続けるとやっと返答が帰ってきた。
『ああ、少し取り込みごとがあってね。もう大丈夫よ。それで何?』
「もしもし、え〜とですね、こちらは今B−2の砂地にいるのですが、そちらの場所は?」
リナは今いる場所を正直に言うべきかどうか迷った。
声を聞いた限りでは無害そうな男の様ではあるが、人は見かけ(聞きかけ?)によらないものだ。
状況が状況だけに携帯の向こう側の相手が、殺しにくるという可能性も否定できない。
相手側は自分の居場所を教えてきているが、それも本当の情報かどうか怪しいものだ。
(それに、ですます口調の男は信用したくないのよね。)
ゼロスのことを思い浮かべると、結局リナははぐらかして答えることにした。
「こちらは森よ。細かい場所は今ちょっとわからないわ」
嘘は言っていない。今いるこのムンク小屋は森のはずれにあるのだ。
だが、マップ上には森があちこちにある。こちらの場所を特定はできないはずだ。
「森・・・ですか。う〜む・・・」
マップを見ながら保胤はうなった。これではどこにいるのかさっぱりわからない。
どうやら、むこうはこちらを警戒しているようだ。
(この状況では当然か。私のほうが少し無警戒すぎるのかもしれないな)
保胤は苦笑すると、まずはこちらに敵意がないことを伝えることにした。
相手が信じてくれるかは解らないが、正直に語りかけるのが彼の流儀なのだ。
「もしもし、最初に言っておくべきでしたが、私たちは誰とも戦う気はありません。
あなた方とも敵対する気はありませんので、安心してください。」
『はぁ・・・(ため息)』
携帯の向こうからなにやら、ため息が聞こえてきた。
「あのねぇ、殺し合いをさせられてる中でそんなセリフ聞かされて、本当に安心できるわけないでしょ。
第一、誰とも戦う気がないって、この状況下で誰とも戦わずにすむと本気で思ってるわけ?」
呆れた調子でリナが言葉を返した。
『私もさすがに、そこまで楽天家ではありませんよ。戦わざるを得ない時はもちろん戦うつもりです。
しかし、こちらからあえて敵を作ったりするつもりはありません。
相手が何者であれ、こちらからいきなり攻撃を仕掛けることはありません。』
「このゲームの管理者であっても・・・?」
『はい。もちろん最初は話し合うつもりです。本気で話し合えばやめてくれるかもしれませんから。
ですが、説得できなかった場合は戦う気でします。このようなことは許されることではありません。』
リナが突然激昂した。
「ふざけないで・・・、話し合いで何とかしようだなんて・・・!
もうすでに20人以上もの人間が死んでいるのよ!ガウリイもあいつらに殺されてしまったわ!
あいつらを殺さないと死んだ人も浮かばれない。私はあいつらを許すことなんて出来ない・・・!
話し合いなんて論外よ!」
リナはかなり感情的になってしまっている。
シャナもそばにいて電話の声を一緒に聞いていたのだが、
リナがこうも激昂してしまってはとても話に入れるような状況でなかった。
「大仏殿だねえ」
エルメスがぼそっとつぶやいた。誰も訂正しなかった・・・
保胤は電話の向こうのリナの心に強い怨念がうごめいているのを感じ取った。
さっきまでは普通に会話としていたのに、管理者の話題になったとたんに精神が不安定になってしまった。
どうやら、管理者にガウリイという名の仲間を殺されたことが要因らしい。
今は一応は正気を保っているようだが、いつかは完全に怨念に飲まれてしまうかもしれない。
保胤にもリナの気持ちはわかる。
ごく親しい人物が目の前で殺されたりしたら、さすがの保胤も平静に話し合いをしようなどとは思わないだろう。
保胤自身も今は当事者の一人には違いないのだが、幸い(?)にも参加者名簿には知り合いがいなかった。
先ほどの放送で死亡者の名前と人数を聞いた時、保胤も怒りを覚えた。
だが、それもあくまで他人事と割り切った上での怒りだったのかもしれない。
遠い国の領主が悪政で民を苦しめていることを聞いたときに感じるような、
自分とは関係のない、他人事への怒りとして。
島津由乃は、仲間を残しては逝けないと訴えていた。
リナは、自分の仲間が目の前で殺されてしまったことで管理者を怨み憎んでいる。
一緒にいるセルティも、同じ世界から来た平和島静雄をまずは探そうとしている。
皆感情は違えど、一緒にこの世界に来た自分たちの仲間への想いを持っているのだ。
自分が何を言っても、それは第三者からの奇麗事にすぎないのかもしれない。
それでも、保胤はリナに語りかける。
このまま放っておくわけにはいかない。
「第三者の私には、今の貴方の気持ちを理解することは無理なことなのかもしれません。
でも、これだけは言わせてください。人への怨みは自らの身を落とすことになります。
怨みは、相手を殺したくらいで晴れるものではありません。
相手を殺したとしても、それ以降の人生をいや死後も無限の怨みを抱き続け、永遠に苦しむことになるのです。
貴方の死んだ仲間もその様なことは望んではいないと思います。
死んだ者は、誰しもこの世に残してきた親しい人の行く末を案じています。
死んだ者の安らかな成仏のためにも、怨みに身を落とすことだけはしないでください。
怨みとは決して“晴れる”ものではないのです。それだけは肝に銘じておいて下さい。」
リナは保胤の言葉を聞きながら考えていた。
夢の中でルークと話をするまでの私は、保胤の言う「身と落とした」状態だったのかもしれない。
ルークとダナティアのおかげで私は正気に戻ることが出来た。
けど、あいつらへの怨みはこれっぽっちも消えてはいない。
あいつらを殺せるのなら、なんだってするつもりだ。
なんなら、いつかのようにロード・オブ・ナイトメアにこの身を任せてもいいと思っている。
このままだと、私はまた「身を落とす」ことになるのだろうか。
あいつらを殺せるのなら、それでも構わない。
永遠に苦しむことになったとしても、絶対にあいつらを殺してやる。
でも・・・・・
そんな私を見てガウリイはどう思うのだろう。
ガウリイが悲しむのは嫌かも・・・
「そのことついては私自身の問題よ・・・、余計な説教は結構よ。」
リナは迷いを無理やり断ち切ると、いきなり話題を変えた。
「とりあえず、こっちはこっちで自由に動かさせてもらうわ。そっちはそっちで自由にやって。
完全には信用できないけど、しばらくはお互い協力しあうってことでいいわ。」
『・・・わかりました。それで、これからのことなんですが』
保胤とリナはその後は事務的な会話に終始した。
両者は、定期的に携帯で連絡を取り合うこと、
お互いが探している仲間を共同で捜索することで合意した。
保胤は平和島静雄の捜索依頼と、幽体で歩き回っている島津由乃を見かけたら協力してあげて欲しい旨を伝えた。
リナ側はとりあえずゼルガディス、アメリア、坂井悠二の捜索を依頼した。
一通り決まったところでリナは
「それじゃ」
とだけ言うと一方的に電話を切った。
一回目の通話はこうして終了した。
リナは通話を終えると、隣で静かに聞き耳を立てていたシャナに携帯を渡した。
リナは保胤に痛い所をつかれ、少し混乱しているようだ。
通話が終わってからは何も言わずに俯いたままだ。
シャナとエルメスもそんな様子のリナを見て黙り込む。
ダナティアはまだ瞑想をしている。
少しの間、ムンク小屋の中を静寂が包みこんだ。
―――突然、小屋の扉がノックされた。
深層心理から帰ってきたテレサがベルガーと共にやってきたのだ。
挨拶もできないまま一方的に切られてしまった。
保胤は携帯をセルティ渡すと、「ふう・・」とため息をついた。
慣れない携帯での会話に少し疲れたようだ。
『なにやら、白熱していたな。』
「ええ。ああいう場合、放ってはおけない性分なんです。」
「やっかいな性格だな」
「ええ、よく言われま・・・えっ!?」
突然、背後から声がかけられた。
保胤とセルティが振り返ると、5mも離れていない場所に少し背の低い男が立っていた。
一見すると少年にも見えなくもないが、纏っている雰囲気がそれを否定している。
今の今まで二人はこの男の存在に全く気づいていなかった。
「屋外での長電話はやめたほうがいい。こんな所でバッテリーが切れたらめんどーだ。
オマケに隙だらけになる。背後から強襲されても文句はいえない。
ま、俺はそんなつまんないことはしねーがな。」
男は平然と語りかけてくる。
「今度は二人いっぺんか・・・。少しは歯ごたえがあるといいんだがな」
その男――フォルテッシモは目をぎらりと光らせた。
【B−2/砂漠の中/1日目・08:10】
『紙の利用は計画的に』
【慶滋保胤(070)】
[状態]:精神的に少し疲労
[装備]:着物、急ごしらえの符(10枚)
[道具]:デイパック(支給品入り) 「不死の酒(未完成)」、綿毛のタンポポ、携帯電話
[思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/ 島津由乃が成仏できるよう願っている
/フォルテッシモに驚いている
【セルティ(036)】
[状態]:正常
[装備]:黒いライダースーツ
[道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)、
[思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索 /フォルテッシモを警戒
[チーム備考]:『目指せ建国チーム』の依頼でゼルガディス、アメリア、坂井悠二を捜索。
定期的にリナ達と連絡を取る
【フォルテッシモ(049)】
【状態】正常
【装備】ラジオ
【道具】荷物ワンセット
【思考】ブラブラ歩きながら強者探し。早く強くなれ風の騎士 /セルティ、慶滋保胤と戦う
【G−5/森の南西角のムンクの迷彩小屋/1日目・08:10】
『目指せ建国チーム』
【リナ・インバース(026)】
[状態]: 少し疲労有り/心に強い怨念/少し混乱
[装備]: 騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]: 支給品一式/
[思考]: 仲間集め及び複数人数での生存/管理者を殺害する
【シャナ(094)】
[状態]:かなりの疲労/内出血。治癒中
[装備]:鈍ら刀
[道具]:デイパック(支給品入り)/携帯電話(リナから手渡された)
[思考]:しばらく休憩後、見張り/悠二を捜す
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。
【ダナティア・アリール・アンクルージュ(117)】
[状態]: 左腕の掌に深い裂傷。応急処置済み。/未だ瞑想中
[装備]: エルメス(キノの旅)
[道具]: 支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル
[思考]: 群を作りそれを護る/アラストールの話を聞いたら、戻ってテッサに会う
[備考]: ドレスの左腕部分〜前面に血の染みが有る。左掌に血の浸みた布を巻いている。
[チーム備考]:『紙の利用は計画的に』の依頼で平和島静雄を捜索。
また、島津由乃を見かけたら協力する。定期的に保胤達と連絡を取る
【G−5/ムンクの迷彩小屋、扉前/08:10】
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:贄殿遮那@灼眼のシャナ 黒い卵(天人の緊急避難装置)@オーフェン
[道具]:デイバッグ×2(支給品一式)
[思考]:テレサ・テスタロッサを護衛する。
・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:少し疲労
[装備]:UCAT戦闘服
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:宗介とかなめを探す。/ ダナティアと話をする
"蒼い殺戮者"は暗闇の中を進む。
先程の石碑の下から現れた扉の前で逡巡し、結果進むことにした。
自らリスクを負う必要も無いが、この全てが不明瞭な世界では少しでも情報が欲しい。
石碑から察するに、この地下には何か『原因』のような存在があってもおかしくはない。
数日間は問題ないが、残りの燃料の事もある。
何が起こるか判らない以上、極力無駄遣いは避けなければならない。
そう判断した"蒼い殺戮者"は、可能な限り出力を落とし洞窟内を進んでいた。
マッピングは常に行っている。これならば暗闇でも、戻るだけならば相当な速度を出すことも出来る。
自分では太刀打ち出来ない相手に出くわすことも考えられるのだ。
以前は、逃走の手段など考えた事は無かった。
逃げる必要も無く、自分が最強だったからだ。いや、最強だと思い込んでいた。
自分が負けるはずが無いと、負ける事などあるはずが無いと。
だが、出会ってしまった。負けてしまった。
あの砂漠で、あの少女に、蒼い瞳の刀使いに。
━━━━火乃香━━━━
たった一人で数十機のザ・サードの自動歩兵と死闘を繰り広げた。
最高水準の遮蔽装置を装備した自分の、超々至近距離からの音速を遥かに超える狙撃をも切り裂いた。
親友の仇敵のはずの自分と肩を並べて戦場を歩いた。
その際、一時的に役に立たなくなってしまった自分を彼女は斬る事も出来た。
殺したいと思っているはずの、自分が持ち込んだ厄介ごとを引き受けてくれた。
惑星を統治するもの「ザ・サード」と刃を交えてまで、自分の片翼を守ってくれた。
以前は、何が彼女をそうさせるのかは全く理解できなかった。
だが、今なら、自分の理由を見つけた今なら。少しは理解できる。
自分の理由、この想いが彼女をあそこまで強くさせるのか。
不意に視界が開ける。長い通路を抜け、洞窟の中の巨大な空間に出たようだ。
地底湖らしく、巨大な鍾乳石や水溜りが見受けられた。今出てきた通路以外にも、いくつかの通路がある。
周囲を確認する、動体反応な無い。
いや。
暗視モードで遠方を確認する。
ジャケットを着た少年が、ショートカットの女性と銃撃戦を繰り広げていた。
銃撃戦というより、少年が女性を追い回しているようにも見える。
少年は、このゲームに乗ってしまったのだろうか。
こんな時、浄眼機ならば何と命令するだろうか。
あの刀使いならどうするだろうか、自分の片翼ならば何と言うだろうか。
様々な疑問が生まれる。
"蒼い殺戮者"は、隠密接敵モードで静かに近寄っていく。
物陰に隠れ様子を伺う、明らかに女性が劣勢だ。
火乃香やしずくに出会う前の"蒼い殺戮者"であれば、この戦いの勝者を間違いなく強襲していた。
『殺さずに生きる方法があるのなら、それを見つけたいと思った』
いつか、浄眼機に語った言葉だ。
迷って、迷って、迷い抜いて、それで出した答えならば、あながち間違ってはいないのだろう。
心はもう、決まっていた。
モード選択。ミリタリー、MAX。
そして"蒼い殺戮者"は少年と女性へ向かって飛び出した。
ショットガンを2発ほど撃ったが、上手いこと岩陰に隠れられてしまい、無駄弾になってしまった。
この妙な形のパースエイダーは、見たところ完全な整備がされているとは言えない。
ここぞというときに暴発されても困るので、出来るだけショットガンで仕留めたい。
女も応射してくるものの、凄腕のパースエイダー使いでも、
特に明るいわけでもないここで、走ってるキノに当てるのは難しいだろう。
付かず離れずのを維持しながら、時折落ちている石を投げつけ、飛び込むタイミングを計る。
今度は数個同時に女に向かって投げつける。
命中、当たり所が悪かったのか、女は少しバランスを崩す。
それで十分だった、キノは一気に開いていた距離を詰め、ショットガンをぶっ放した。
読まれていたのか、近距離過ぎたのか、弾が開ける前にギリギリ避けられてしまう。
だが、避けたての不安定な状態。それを待っていた。
ショットガンを投げ捨て、瞬時に折りたたみナイフに持ち構え、女の首めがけ突き出す。
「━━━━ッ!?」
女の顔が驚愕に歪む。
だが、ナイフは女の首に刺さることは無く、キノは横っ飛び、さらに距離をとって岩陰に隠れた。
刹那、轟音と共に舞い降りてきたのは"蒼い殺戮者"だった。
風見は唖然としていた、殺されると思った間際、自分と少年の間に割って入った蒼い機体。
人では無い、機竜でも無さそうだ。
「撤退する、走れるか?」
電子音がかった、しかし明瞭な声。こちらに背を向け、少年が飛びのいた方を警戒している。
「え、えぇ、あなたは・・・」
風見には応えず、蒼い機体は足元のショットガンを拾い、遠くへ投げ捨てる。
「お前に危害を加えるつもりは無い、撤退するが、走れるか?」
「走れるわ、でも何処へ?」
敵では無いようだ。気持ちを切り替え、目の前の蒼い機体に返答する。
「俺が入ってきた入り口がある、そこまで後退する。少し離れろ、お前を回収して一気に離脱する」
ここで問答しても仕方ない、殺したいなら放っておけば良かったわけだから。
「・・・・・・解った、任せるわ」
逡巡の後、少年が隠れた方向とは逆の方向へ走る。
瞬間、少年が物陰から拳銃を持って飛び出し、撃ち込む。
正確無比な射撃が装甲を叩くが、ザ・サードの誇る積層装甲を撃ち抜けるほどではない。
"蒼い殺戮者"は回避行動をとりつつ接近、木刀で足元をすくう。
きわどい所で"蒼い殺戮者"の斬撃から逃れた少年は、発砲しながら"蒼い殺戮者"と距離をとり、再び岩陰に隠れた。
しばしの静寂。遠くへと女性が走る音だけが空間に響く。それも暫くすると消えてゆく。
少年が岩陰にいることはセンサーで確認済み、感度が悪くなったとは言え、これだけの至近距離ならばはっきり判る。
女性が撤退する時間を稼いだ後、"蒼い殺戮者"も後退。フェイクの為に女性の向かった方向とは別の方向へと飛び去る。
薄暗く足場も不安定な地底湖ではそこまでの距離を稼げるわけも無く、
一度は違う方向へ飛んだものの、たやすく女性に追いついた。
「つかまれ、離脱する」
手を伸ばすが、返ってきたのはやや怪訝な目と、
「あなたを信用して良い訳?」
という言葉だった。
「ここで死ぬつもりは無い、自分からこの状況に乗るつもりも無い。この空間から抜け出したいと思っている。
だが、ここから脱出する為には捜さねばならない者がいる、お前にはいないのか?」
「確かに・・・ね。私もバカとエロと友人と老人を捜してるの。これは協力しようって事かしら?」
「そうだ、だが今ここで話している時間は無い、この地底湖から離脱する方が先だ」
「解ったわ、とりあえず外に出ましょ、詳しい話はそこで」
今度は女性から手を伸ばす。
手を取った"蒼い殺戮者"は、なるべく騒音を立てないように浮上。巡航モードで来た道を戻る。
「そういえば、あなたの名前を聞いて無かったわね、私は風見、風見千里よ」
見上げる風見を見ずに、言った。
「"蒼い殺戮者"(ブルー・ブレイカー)と、呼べ」
【残り90人】
【C3C4D3D4の地下に広がる地底湖・1日目・10:25】
【蒼い殺戮者(ブルー・ブレイカー)】
[状態]:少々の弾痕はあるが、異常なし。
[装備]:梳牙。
[道具]:無し(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:風見と協力して、しずく・火乃香・パイフウを捜索。脱出のために必要な行動は全て行う心積もり。
【風見千里】
[状態]:精神的ダメージ、やや回復。
[装備]:グロック19(残り8発・空マガジンは投げ捨てた)、頑丈な腕時計。
[道具]:2人分の支給品、缶詰四個、ロープ、救急箱、朝食入りのタッパー。
[思考]:状況を整理したい、仲間と合流。
【BBと風見はD4の石碑へ向かう】
【キノ】
[状態]:通常。
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガンの弾2発。
:ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り10発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。
:とりあえずショットガンの回収。
【地底湖にはC3D4の出口以外にも、他にいくつかの通路があります】
彼女にとって、その接触はまったくの予想外だった。
休めもうと近づいた建物には先客がいて、危険を冒して移動しなければならなかった。
“親”に連れられて結局住宅街までやってきて。
適当な民家で体を休め、しばらくして誰かが近づいてきた。
その相手が彼だったのは、運命としかいいようがない。
相手は困惑し、憤っていたけれど。
朦朧とした意識を総動員して、最後になんとかメッセージを託した。
彼は気づいてくれたようだった。
本当に良かった。
これで希望が繋がった。
どうか、私がほんとうにいなくなってしまわないうちに。
お願い、私を――――
A.M.6:45。
甲斐氷太は自分のスタート地点、D−3エリアへ戻ろうとしていた。
早足に進んだせいか、緑の草原はすぐに姿を消し、薄汚れたコンクリートの群れが目立ち始める。
朝の陽光は街の雰囲気を一変させていた。
白く照らされた街並には廃墟然とした面影はない。
民家そのままの郵便局。
聞いたことのないコンビニ。
砂場と滑り台だけの公園。
夜には気づかなかったが、比較的緑も多く、のどかな田舎町といった雰囲気である。
甲斐は自身の逃走経路を出来るだけ正確に頭に描き、逆に辿って民家を目指した。
途中で煙草の自販機の前を通り、進むこと二分。
ウィザードらと別れた民家の裏手に到着する。
庭の草が荒れ果てている点は他の家と同じだが、明らかに踏みつけた跡がある。
甲斐が逃げる時に通った跡だ。
視線を上げれば開いたままの窓。
うろ覚えではあったが、どうやらちゃんと戻ってこれたらしい。
甲斐は土足のまま窓から家の中に忍び込んだ。
フローリングの床に着地すると、ブーツがカタリと音をたてる。
中の様子は甲斐がいた時と変わっていないようだった。
這いつくばって床を見ると、うっすらと足跡らしきものが見える。
足跡は二人分で、サイズは両方とも同じくらい。
ウィザードと連れの女のものと見ていいだろう。
足跡は玄関の方へと続いていた。
連れの女が銃を抜いた瞬間逃げてしまったので、甲斐は二人がどちらへ逃げたのかも知らなかったのだ。
最悪、二人分の死体が転がっていることも覚悟はしていたが、その心配は杞憂に終わったらしい。
「はっ。こんなとこであいつがくたばるわきゃねえか。とりあえず玄関まで見送るかね」
安堵しながらも甲斐の表情は芳しくない。
なんせ玄関から先は当てがないのだ。
この島内を無策に歩き回らなければならないというのは、考えるだけで憂鬱だった。
襲われる危険性も増すし、なによりめんどくさい。
ウィザードとの再戦のためなのだから我慢は出来るが、その作業量を想像すれば気が進まないのも仕方がなかった。
未来を憂いてため息をつくと、足跡に沿って歩き出そうとして、
「なんだ、こりゃあ……」
一瞬で甲斐の視線が鋭くなる。
ウィザードたちの足跡に重なるように存在する、別の足跡に気づいたのだ。
それも向きは逆向きだ。
数歩分重なってから、逆向きの足跡は横の階段へと分かれていた。
「二階に誰かがいるってことか。人数は……判別できねえな」
甲斐は小声で呟くと迷うことなく階段へ向かった。
この時、甲斐の頭にはなぜか逃げるという選択肢はなかった。
まるで鉄が磁石に引かれるように、ごく自然に階段を上っていった。
あるいは予感があったのかもしれない。
この先に見過ごせない何かが待っている――――そんな予感が。
すでにかなり音をたてている。
向こうも気づいている可能性は高いのだ、今更隠密行動もないだろう。
ズボンのポケットからカプセルを一錠取り出して口に含む。
飲み込まずに舌の上にカプセルを留めると、甲斐は一気に階段を駆け上がった。
外観から判断するに二回は一部屋だけだ。
相手はそこに潜んでいるはず。
「なんだ?」
二回にたどり着いた甲斐は奇妙なにおいを感じた。
ざらついた鉄の匂い……血の匂いだ。
負傷しているのか、それとも誰かの返り血か。
甲斐は口内のカプセルはそのままに、視線を一際鋭くした。
皮ジャンを脱いで丸める。
相手がゲームに乗っていた場合、間違いなく待ち伏せされている。
即席のダミーだ。
甲斐は肩膝を立てた姿勢でノブに手をかけた。
ひんやりとしたスチールの感触が全身を冷やしていく。
……冷静になれ。
……イメージ通りに動け。
二呼吸分おいてから、甲斐は扉を開けてダミーを放り込んだ。
一拍おいて自分も頭から中へ飛び込む。
カーペットの上で前転を一回。
ヒュオッと空気を裂いて、頭上を何かが横切ったのを感じる。
飛び込む形でなければ危なかった。目が闇に慣れているのか、ダミーを見破っている。
内心冷や汗をかきながらも甲斐の行動は迅速だった。
回転を終えるや否や横に飛んで距離を空けると、紙一重で第二撃も空を切る。
自己防衛のための行動というには狙いがあまりに正確だった。
相手は確実に殺すつもりで来ている。
(相手はゲームに乗った奴か)
ならば遠慮はいらない。
全力で叩き潰すまでだ。
一挙動で立ち上がり、甲斐は前方を睨んだ。
部屋は闇に沈んでいた。
カーテンは閉め切られ、一筋の光さえ入ることはできない。
その空気は暗く、冷たく、重い。
カプセルを奥歯で挟みながら甲斐は全身を緊張させた。
全身が沸騰したように熱いのに、芯は氷のように冷えている。
夜のアンダーグランドで、幾度も味わった感覚だった。
命をコインに賭ける感覚。
エッジの上で踊る感覚。
それを思い出し、甲斐は歯をむき出しにして笑った。
甲斐の前方に、影が二つ。
一人は壁にもたれぐったりとしている。
もう一方は立ち上がっていて、右手に何かを持っていた。
先ほど頭の上を通過した凶器だろう。
鈍器か、刃物か。どちらにしろ当たるのは拙そうだ。
ようやく目が慣れてきた。
二つ影が、二人の少女へと溶けていく。
「お前らがどこの誰かは知らねえが、容赦しないぜ?」
甲斐が不適に宣言する。
さあ、宴の始まりだ。
悪魔を喚べばウィザードは気配に気づくだろう。
カプセルを求めて近づいてくるか、逆に逃げるかは知らないが、絶対に追い詰めてみせる。
そして、もう一度……。
甲斐の目が強く力を放つ。
甲斐はカプセルを噛み潰そうと、奥歯に力を込めて――――
「甲斐、さん?」
いきなり名前を呼ばれ、その動きを止めた。
おもわず口から零れたカプセルがカーペットの上に落ちる。
誰だあいつは?
なんで俺の名前を知っている?
いや、落ち着け。久しく聞いていなかったが、今の声は……。
甲斐は混乱を沈めようと声の主を見た。
凶器の剃刀を構えたまま、真剣な眼差しで甲斐を睨む女の後ろ。
壁に寄りかかっていた少女が、ゆっくりと起き上がる。
「お前……海野、か?」
甲斐の声には戸惑いの色が濃く現れていた。
艶やかだった髪はくすみ、肌の色も青白い。
眼光はどこか妖しく、見るものを惹きこむような魔力があった。
なにより、その少女は襟元まで真っ赤に汚れていた。
なにをすればあそこまで汚れるのか、甲斐には思いつかないほどに。
信じられなかった。
名簿で名前を見たときから、この探偵少女は主催者と戦う道を選ぶと思っていた。
例え勝ち目がなかろうと誰かを殺すくらいならそうするだろう。
それが、海野千絵のはずだ。
なにかが狂ってる。
現実とイメージのギャップが埋められない。
「海野。お前、誰かを殺ったのか」
声が乾いているのを自覚する。
甲斐の問いに、少女は俯いたまま答えなかった。
甲斐が続けて問おうとした瞬間、頭で考えるより速く体が動いていた。
身を捻りながら足を跳ね上げる。
左肩に熱い痛み。
同時に爪先が柔らかいものを抉る感触。
(くそ、なにやってんだ俺は!? 敵を前にしながら隙をつくるなんてよ!)
甲斐は流れる血をそのままに、ポケットから再びカプセルを取り出す。
それより速く、もう一人の女――――佐藤聖が動いていた。
甲斐の蹴りがわき腹を抉ったのだろう。
つらそうに押さえながら部屋に備えつけられた机へと駆け寄る。
「ああああああああああああああああああああっっっ!!」
聖は大音声で叫ぶと、あろうことか机を頭の上に持ち上げた。
机は木製のしっかりしたもので、とても女の腕力で持ち上がるものではない。
聖は重さに顔を歪め、膝が砕けそうになりながらも、甲斐めがけて机をぶん投げた。
「んなっ!?」
巨大な質量が迫り、甲斐は大慌てで部屋から外へと飛び出す。
いかにタフだろうとあんなものを食らったら一発でお釈迦だ。
(なんなんだあの女は!?)
甲斐が部屋から脱出した直後、盛大な激突音が家そのものを揺さぶった。
耳を突き抜ける衝撃に耐えながらもカプセルを手に部屋へと戻る。
しかし、机が邪魔だった。
ドアは壊れていたが、投げられた机は原型を留め、入り口の下部を塞いでいた。
甲斐が机に足をかけた時にはすでに聖がカーテンを頭からかぶり、窓から飛び降りるところだった。
一瞬で視界から聖が消える。
千絵も同様にカーテンをかぶり、後へ続こうとする。
「待ちやがれ海野!」
甲斐の怒号に千絵が振り返った。
その表情に生気は薄く、かつてカプセル撲滅に邁進していた少女とは別人のようだ。
「どういことだてめえ! ゲームに乗ったのか!? あの女はなんだ!? お前の顔の汚れはなんだってんだ!」
「甲斐さん……ごめんなさい」
「わけわかんねえぞコラ! ちょっとそこで待ってろ!」
甲斐は勢いよく机を飛び越え、窓へと疾走する。
一方の千絵は軽く跳躍すると、容易く窓枠を乗り越えた。
彼女の運動能力では考えられない動きだった。
甲斐が手を伸ばすが間に合わない。千絵の姿が下へと消える。
その寸前。
甲斐は、千絵の口元が動くのを確かに見た。
少女の口は四つの音をつくって視界から消える。
甲斐が窓から下を見れば、カーテンをかぶった人間が二人、東へと走っていくところだった。
二階から飛び降りて無事なのもおかしいが、二人とも女の脚力にしてはやけに速い。
二人はあっという間に角を曲がって見えなくなる。
取り残された甲斐は、苛立たしげに頭をかいた。
本当に頭が痛い。
千絵の赤い汚れ。二人の異様な身体能力。肩の負傷。そして千絵が最後に呟いた言葉。
「こ、ろ、し、て……か。くそ、俺にどうしろってんだ」
めちゃくちゃになった部屋の中。
埃にまみれたジャケットを拾い上げ、甲斐は悪態をついた。
【残り90人】
【D−3/民家内/1日目・07:00】
【甲斐氷太】
[状態]:左肩に切り傷(深さは不明)
[装備]:カプセル(ポケットに三錠)
[道具]:煙草(残り14本)、カプセル(大量)、支給品一式(ヴォッドのもの)
[思考]:ゲームに乗る、ウィザードと戦いたい、海野をどうするべきか
【D−3/路上/1日目・07:00】
『No Life Sisters(佐藤聖/海野千絵)』
【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼化/身体能力等パワーアップ、左手首に切り傷(徐々に回復中) /わき腹に打撲
[装備]:剃刀
[道具]:支給品一式、カーテン(日よけ)
[思考]:なんとか森に逃げ込む。
吸血、己の欲望に忠実に(リリアンの生徒を優先)
【海野千絵】
[状態]: 吸血鬼化/身体能力等パワーアップ
[装備]: なし
[道具]: カーテン(日よけ)
[思考]: 聖についていく/殺してほしい←かなり希薄です
突如、空に轟音…しかしそれは何か慌てふためくような声がしたかと思うと、
それっきり音沙汰がなかった。
参加者たちは時計を見る…AM10:45。
まだ放送には早すぎる…何があったのだろうか?
「びっくりした」
鳥羽茉理は手にしたメガホンのスイッチを切って、隣にいるシズの顔を見る。
このメガホンは草原に放置されていたディバックの中から回収したものなのだが、
まさか島中全てに…おそらく何らかの仕掛けがあるのだろう、聞こえるようになっているとは
思わなかった。
だが、これは思わぬ拾い物だ…。
もともとこれで仲間たちの名前を呼びながら人探しをしようとしていたのだが、
これで手間が省けた。
2人は顔を見合わせ頷き合った。
市街地の入り口で時間を確認するパイフウ、あと一時間ほどで放送だ。
あれからまだ誰も殺せていない…早く結果を出さないことには…。
途中何人かには遭遇したが、すべてやり過ごした…見かけた者たちのほとんどがかなりの手誰れ、
だということは挙動を見るだけで理解できた、今は単独のようだが…彼らが団結すると、
厄介なことになるはずだ、その前に何か手を打たねば…、
そんな彼女の視界に2人組の男女が目に入った。
AM11:00
2人はとあるビルの屋上にいた。
はやる気持ちを抑え、深呼吸をする茉理…頭の中で何度も何度も考えた言葉を反芻する。
大丈夫だきっと出来る…。
(始さん…私を守って)
頷くとおもむろに茉理はメガホンのスイッチを入れた。
また島中に声が響きわたった。
『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう、そしてみんなで生き残る方法を考えよう』
まずはシズが口火をきる。
『確かに私たち個々の力は微々たるものかもしれないが、だからこその協力だ!
みんなで一緒に戦おう』
『そうよ!あいつらの好きになんかさせちゃダメ!…わたしは…ダンダンダンッ!!』
銃声が茉理の声を掻き消した。
背後からの銃声にいちはやく気がついたのはシズ、
放たれた弾丸は3発、その内1発はシズのレイピアが弾いた、
だが外れたかに見えた2発は屋上の手すりに当たって跳弾し、1発は背中からシズの胸板を、
そしてもう1発は茉理の腹部を無情にもそれぞれ貫いていた。
さらに2発、今度もシズは茉理をかばおうとするが、傷ついた身体では間に合わず
弾丸は茉理の肩口と、わき腹を抉る。
『ああああっ!』
悲鳴がメガホンに乗せられ、島中に響き渡る。
(どこだ…どこに…いる…)
シズは激痛に顔を顰めながらも必死で気配を探る。
もう自分たちは長くない、だが…それでもせめて刺し違える、でなければ後に続く者たちに
申し訳がたたない。
(そこか…)
射撃地点を割り出したシズはレイピアを構え、ふらふらと屋上の給水塔の影へと回りこむ。
(頼む…せめてこの一撃だけでも)
裂帛の気合と同時に繰り出した一撃、しかし…
レイピアは無情にも空を切る、と同時にその背後…非常階段脇に潜んでいたパイフウの気を帯びた手刀が、
振り向く間もなく、シズの片腕をレイピアもろとも切断し、さらに返す一撃がシズの背中をなぎ払う。
そして止めの一撃がシズの胸板を貫こうとしたのだが、それは残念ながら空を切った。
何故ならシズはもうすでに、自らの血で足を滑らせ無様にも非常階段を転がり落ちてしまっていたからだった。
その様子を冷めた瞳で見つめるパイフウ…彼女だって本当は彼らに協力したいに違いない。
だが…それはもはや叶わない。
自分はたった一人で戦わなければならない、いかなることになろうとも…
したがって標的たちが団結されることは非常に困るのだ。
『たす…たすけ…始さん…』
一方の茉理はか細い声で…メガホンに向かい今はもういない人の名前を呼ぶ。
もう島のみんながとかそういう気持ちはどこにもなく、ただ愛しい人への思い…
それのみが彼女の心を支配していた。
だがパイフウはそんな彼女にも無慈悲な一撃を放つ。
『がっ!』
弾丸は茉理の太股を貫いていた、一撃で仕留めるつもりがやはり動揺してるのか狙いが外れてしまった。
『いや…やめて…こないで…始さん…聞こえているんでしょう?、なんできてくれないのよお!
始さんっ!続くん!終くん!余くんっ!』
もう一度銃口が、泣き叫ぶ彼女の頭を捉える。
『死にたく…ない』
狙いをつけるパイフウ、噛み締めた唇からは一筋の血が流れ出す。
(ごめん…ごめんね)
ガンッ!その銃声を最後に放送は終了した。
そして苛立ちを隠せず路上をさまようパイフウ
この襲撃は紛れも無く自分の意志で行ったことだ…だが今の行為がどれほどディートリッヒらの思惑に沿うことに、
彼らのやっていることを助けることにになるのかも、彼女は承知していた。
「なによ…これって…」
彼らの誘いに乗った時点で、彼女は自分を犬と自嘲していた…だが、
今の自分に比べれば犬ですらまだ自由だ、自分の思い通りに動いたようで、実は何一つままならない…、
自分はもはや犬以下の操り人形に成り下がってしまった。
そして操り人形の糸を操るのは…。
(殺す…殺してやるわ…絶対に)
あの悪魔だけは…ディートリッヒだけは許さない!
屈辱で狂いそうな心を憎悪で?ぎ止めながら、パイフウは次の標的を求めていた。
「待ってて…かならず…助けを…」
シズは全身を朱に染めながらも、未だ生き永らえていた。
最も片腕は切断され、胸は撃ち抜かれ、さらに背中を引き裂かれて…両足は転落の際に砕けてしまっている。
それでも…とうに死んでいるはずのダメージを受けながらもシズは、
強靭な意志と責任感で命の灯火を燃やし続けていた。
「何も…できない…まま死ぬわけには…いかない…から」
ずるずると血に染まった身体を引きずり着いた先は。
(地下か…)
坂道を上がれないため低いところ低いところと転がるようにしていたら、結果たどり着いてしまった、
中は妙にがらんどうでやけに広かった、駐車場だろうか?
先の見えない闇の中に身を進めるのはさすがに気が引けたのだろう、シズは壁にもたれるようにして
ずりずりとカニのように鈍く進んでいく。
と、背中に何かを感じた途端、彼は背中からずりおちるように床に倒れてしまう。
(トイレか…)
男子便器のチューリップがいくつも並んでいるのが彼の瞳に写る。
(あれは…)
清掃用具入れのロッカーが半開きになっている、妙に気になる。
ふらふらとシズが扉を開けると…中にはまるで夢見るように寄り添い眠る、いや息絶えている2人の少女の姿。
(死んでいる…)
おそらく事態を儚んで自ら命を絶ったのだろう…。
(惨い…可哀想に)
自分ももう死に瀕しているというのにそれでも目の前の死者を悼む心を忘れないシズ。
「せめて…こんな狭い場所で眠るのは可愛そうだ…」
少女らの死体に手を伸ばすシズ…だが。
ロッカーの正面には洗面台の鏡がある、何気なく覗き込んだシズだが…
その鏡には血まみれの自分の姿しか映っていないのだ。
シズは緩慢な仕草で振り向く、そこには確かに彼女らの死体がある、
だが鏡には映らない…。
鏡に映らない死体…そのココロは。
(ヴァンパイア!!)
気がついたときにはもう手遅れだった。
「…男か…私いらないや、死んで」
目を開いた少女の口元に牙が光ったようなそんな気がしたかと思うと、もうシズの喉は命もろとも、
剃刀で切り裂かれてしまっていたのだった。
「佐藤さん飲まないの?おいしいのに」
四つんばいになってぴちゃぴちゃとシズの血を啜る千絵、壁や路面にこぼれた血も丁寧に舐め取っていく。
「だから私男の血は飲みたくないんだってばさぁ」
「根っからレズなのね…やっぱりあそこの生徒ってみんな…」
「ふふふっ、それは歪んだ情報…心配ないって、みんな素朴で可愛い女の子ばっかりよ、
私が保証するんだから」
聖はまるでどこかの占い師のような怪しい言葉で千絵に説明する。
あれから倉庫で陽光を凌ごうと考えていた2人だったが、
倉庫付近で奇怪なラジヲ体操もどきをしていたアイザックとミリアを見て、夜明け近い時間にトラブルは
得策ではないと方向転換、その後色々あってこのマンションに辿りついたのだった。
人一人としていないマンションはかなり不気味だったが、入ってみるとなかなか居心地がよい。
敷地内に何棟かあるマンションは全て地下の駐車場での行き来が可能だし、隠れ場所にも事欠かなかった。
「その素朴な女の子をみんな吸血鬼にしちゃうのよね、悪い人ね」
「そうよ、あーあ、由乃ちゃんもあんなに早く死んじゃうなんて勿体無い…せっかく仲間にしてあげようと
思ってたのに」
その言葉には死者に対する手向けなど一片たりとも含まれていなかった。
「で、ころして欲しいんじゃなかったの?」
聖は意地悪く千絵の耳元で囁く。
「そうなんだけど…飲み終わったらまた考える」
「ふーん」
聖もそれ以上は聞かなかった、そもそも本気で死ぬつもりなら外に飛び出せばそれですむ。
まぁ、あれで死ななかったのだから…多分太陽もそれほど恐れる心配はないのかもしれない。
多少肌がヒリヒリするが…。
そんな聖の足元にゆっくりと赤が広がっていく…、
「でも…やっぱり欲しいのよね?」
千絵は物欲しげな聖の表情を見逃さなかった。
「私の血ならいいでしょ…はい」
千絵は自分の唇を聖の唇に重ね、そこから飲んだばかりのシズの血を口移しで流し込んでいく、
「あは…おいし…しおりぃ…」
恍惚の表情でうっとりと喉を鳴らす聖、血を受け入れると同時に傷の治癒が早くなっていく、
そして千絵は千絵でまた次の準備に取り掛かっていた。
「飲み終わったら死体の処理をして、また隠れましょ…次の隠れ場所も任せて…」
【鳥羽茉理 シズ 死亡】【残り88人】
【C-6/住宅地/1日目・11:00】
【パイフウ】
[状態]健康
[装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない)
[道具]デイバック一式(茉理の分も回収)
[思考]主催側の犬になり、殺戮開始/火乃香を捜す
【C-6/住宅地/1日目・11:00】
『No Life Sisters(佐藤聖/海野千絵)』
【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼化/身体能力等パワーアップ、左手首に切り傷(徐々に回復中)
[装備]:剃刀
[道具]:支給品一式/カーテン(シズの荷物を回収)
[思考]:次の隠れ場所に移動
吸血、己の欲望に忠実に(リリアンの生徒を優先)
【海野千絵】
[状態]: 吸血鬼化/身体能力等パワーアップ
[装備]: なし
[道具]: 遮光カーテン
[思考]: 聖についていく/己の欲望に忠実に (今でも死にたいかは不明)
「何者かがいる」
「ええ、ようやく情報源に会えるかもしれない」
耳の長い黒い肌の女性と、茫洋とした黒いコート姿の青年は小声で言葉を交し合う。
街中の大きな建物――学校の前に二人は立っていた。
今は明け方。彼方の空が白み始めているが、どうやら全ての明かりが点いているらしくこの学校は目立つことこの上ない。
校庭の砂には足跡が残っていた。それも複数。
それを辿って校舎前まで来たが、出る足跡より入る足跡のほうが多かった。
他の場所から出たのでなければ、中にはまだ人がいる。
「それと、気づいていますか? ピロテースさん」
「わかっている。血の匂いだな」
ピロテースの言葉に、秋せつらは頷いた。
校舎内から、微かに血の匂いが漂ってくるのだ。
中で殺人が行われた可能性が高い。
その犯人が残っているとすれば。もしくは第三者がいて誤解が重なったら……
(これは、荒事になるかもしれないな)
外面にはおくびにも出さず、せつらは内心でそう思う。
「気をつけたほうがいい。最悪の場合、戦闘になる」
ピロテースが忠告してきた。
同じことを考えていたと知り、内心で苦笑する。
「そうですね、気をつけます。ですが……」
そう前置きして、時計を見せる。
「もうすぐ放送の時間です。とりあえず、それを確認してから入りませんか」
時刻は5:58。
「わかった。……将軍の無事を確認してからとしよう」
あえて、ピロテースはそれを声に出す。敬愛する黒衣の将軍――アシュラムが死したかもしれない可能性を否定するように。
せつらは楽観する。自分の知る新宿の魔人たちはそう簡単に死することはないと。
ピロテースは神妙な面持ちで、せつらは茫洋としたままで、死者の名を告げる放送を待った。
【残り88人】
【人捜し屋さんチーム】
【D-2/学校前/1日目・05:58】
【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:デイパック(支給品一式/せんべい詰め合わせ)
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/学校内の何者かと接触し、情報収集
【ピロテース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:アシュラムに会う/邪魔する者は殺す/建物内の何者かと接触し、情報収集
ヒュッ!…ズドォォォォォン!
地面が抉られ穴が開く。
「なんで当たらないのよ! 」
「空間の情報結合に干渉。歪曲場を構成」
ヒュッ!…バゴォン!
巨木が弾かれ二つに割れる。
「あんた!」
一瞬のにらみ合いの後、二人は戦闘を止めて向き合った。
「やるじゃぁないの。あんたの名前は?」
一陣の風が二人の間を通り抜ける。彼女が答えた。
「………長門有紀」
「どーするべきかねぇ……」
デイパックを背負った小柄な少年が、以上に長い手を組んで思考していた。
「やっぱ長門を追うべきか?いや…あいつは只者じゃぁなさそうだった。
じゃぁ坂井?でもあいつだってなかなか場馴れてたしなぁ」
人食いの殺戮者は深く深く思考する。
「ふぅん…長門有紀ねぇ……私は『弔詞の読み手』マージョリー・ドー。
そしてこいつが『蹂躙の爪牙』マルコシアス」
「ヒャーッハッハ!よろしくなぁ、おねーちゃん」
群青色をした寸胴の獣が陽気言った。対して長門有紀と名乗った少女は無表情だ。
「…あんた、戦う気はあるの?」
獣が問う。
「ない。現在、情報統合思念体にアクセスして脱出の方法を探っている。しかし今は僅かにしか
アクセスできない。場を歪めるしか空間に干渉できない」
長門が答えた。
「あ?何言ってるのかわかんないけど、でもあいつらを倒そうってのなら無駄よ。ここじゃぁ力が制限されてて
封絶さえ張れやしない」
「しってる。情報統合思念体とのアクセス率も通常の0.00003パーセント」
そういう長門は、苦虫を噛んだような顔をしている……ミリ単位で、だが。
「あーもう!そういうごちゃごちゃしたのは苦手なのよ!」
「ヒヒヒ!じゃぁ行くか?我が麗しき乱暴者、マージョリー・ドー」
獣は ザッ!と地面を踏みこむ
「長門有紀!あんたに戦う気は無いかもしれないけれどこっちにはあるの。本気でかかってきなさい!」
獣が半ば叫ぶように言う。長門は、まるで一人漫才をしているようだった獣をみても、
こくりとうなずいて
「了解した」
と短く言っただけだった。
ドゴォォォォォォン!
「あ?なんだこの音……長門が向かった方から聞こえてくるが………」
深く思考していた少年は、突然の轟音に顔を上げる。
ふぉーっふぉっふぉっふぉっふぉ!!
「うぉっ!なんだ今のは!……坂井が向かった方から聞こえてきたが………」
再び思考をはじめた少年は、突然の奇声に顔を上げる。
ズドォォォォォン!
「ッッ!くそっ!」
二度目の轟音に、少年―――匂宮出夢は走り出した。
「戦闘形態をターミネートモードに移行。歪曲場の構成情報を攻性情報戦闘用に書き換える」
「おどるオドル。マリーは踊る!踊りすぎて目が回る!」
長門の周辺の地面ねじれ矢になると、獣に向けて弾け跳ぶ。
獣は火球を出現させると、矢にぶつけて爆散させる。
しかし長門は矢を出現させると同時にもう一つ手をうっていた。それは矢が爆散すると同時に発動する。
なんと地面が大きく歪み、巨大な槍となって獣を襲ったのだ。
常人なら絶対によけられない速度で迫るそれを、獣は紙一重でかわし長門に肉薄する。
迎撃しようとする長門。しかし長門はもう、今の攻撃で力を使い果たしていた。
「喰らいなさい!」
「ヒャッハァ!終わりだ!」
獣が大きく腕を振りかぶり、長門へととどめの一撃を繰り出す。そのとき
ヒュッ!
何かが凄まじい速度で獣の下を潜り抜けたかと思うと、長門は宙を舞っていた。お姫様抱っこで抱きかかえられて。
獣の一撃が虚しく地面に突き刺さる。長門を抱きかかえた何者かは、言わずもがな、匂宮出夢だった。
「さぁて、そこの未確認生物。僕と殺りあうには少し人数が足りないんじゃないか?
僕かぁ殺戮は一日一時間って決めてんだ。僕としても獣一匹に貴重な時間を浪費したくなんか無いんだ」
そこまでいうと出夢はいったん言葉を区切り、ギロリと獣を睨み付ける。
「どうしても僕と殺るってんなら、今度は群れで来いよ」
出夢の人も殺せそうな視線を浴びて、それでも獣は平然と立っている。
すると唐突に獣の身体がはじけ飛ぶ。出夢は身構えたが、そこに獣が居なくなっただけだ。
獣が居なくなった。その代わりに現れたのは、果てしなくナイスバディな、小脇に巨大な本を抱えた女性だった。
「あ?女?」
呆然とする出夢に向けて、美貌の女性は口を開く。
「随分と言ってくれるじゃないのよ。あんた何者?まさかフレイムへイズじゃぁないでしょうねぇ」
「は?フレイムへイズ?残念ながら僕はそんなかっちょわるい通り名じゃぁねぇよ。匂宮雑技団最高の失敗作。
殺戮奇術の匂宮兄妹その兄。『人食い』の出夢だ」
出夢は両手をひろげ、舞台役者のように言った。
「ふぅん……まぁいいわ。ところであんた、戦う気はあるの?」
マージョリーといった女は心底どうでもいいと言うように言う。
「だからぁ、僕と殺りあうなら群れで来るか、戦車でも持ってくるか、あるいは死色でも連れて来いっての」
「このあたしに向かって、たいそうな口を利くじゃないのよ。あんた強いの?」
マージョリーの言葉に、出夢は少しむっとして言う。
「あ?あんたこそ誰に言ってんだよ。残念ながら僕は最強の次に強いんだ。死なないうちに帰りな」
出夢にさらに何かを言おうとしたマージョリーだったが、長門が先に口を開く。
「降ろして」
このとき出夢ははじめて、自分が、長門を抱っこしたままだと気付いた。
【残り88人】
【E-4/草原/1日目・07:30】
【匂宮出夢】
[状態]:平常
[装備]:シームレスパイアスはドクロちゃんへ。
[道具]:デイバック一式。
[思考]:生き残る。あんまり殺したくは無い。
【長門有希】
[状態]:疲労が限界/僅かに感情らしきモノが芽生える
[装備]:ライター
[道具]:デイバック一式
[思考]:現状の把握/情報収集/古泉と接触して情報交換/ハルヒ・キョン・みくるを殺した者への復讐?
【マージョリー・ドー(096)】
[状態]:肋骨を一、二本骨折 (ほとんど治りかけ)
[装備]:神器『グリモア』
[道具]:デイバッグ(支給品入り)
[思考]:シャナ探索。こいつをどうしようか?
※マージョリーによる轟音はE-4全体と周囲のエリアの一部にも響いています。
(……ばかみたい。泣いてわめいても意味がないのに)
自分自身が滑稽すぎて、クリーオウは溜め息をついた。
図書館で出会った二人との情報交換。そして放送。
──老人と子供が一緒に喋っているような声で伝えられたのは、見知った少年の名前だった。
世界が自分から切り離されたかのような感覚。他人の声とも思える自分の絶叫。
すべてが空になっていく。誰かに宥められたり励まされたような気もするが、他人事のように頭から通り抜けていった。
今はもう、自分を貶められるくらいには安定しているが──安定しているだけで、心の中は先程よりも暗く淀んでいた。
(……なにもできなかった。なにもしてあげられなかった)
マジク。
同じ学校に通っていた。ずっと一緒に旅をしていた。
自分とは違い魔術が使える。自分とは違い戦える力を持っている。自分とは違って──もっと生き延びることが出来たはずなのに。
彼に対してなにもしてあげられなかったことが、クリーオウの虚無感と自己嫌悪を増大させていた。
(わたしだけが、無力)
クエロもゼルガディスも戦士だ。サラと名乗った女性は自らのことを魔術師だと言っていた。
もう一人の少年の方──空目恭一の方はよくわからないが、情報交換の時の会話から自分よりも相当頭が回ることがわかった。
(戦えないし、頭もよくない。……何も役に立てないね、わたし)
以前の旅をしていた頃の彼女なら想像もつかないほど、クリーオウは落ち込んでいた。
「落ち着いたか」
「あ……うん
悪循環する思いに心を沈ませていると、突然声が投げかけられた。
──顔を上げた先には、空目恭一の姿があった。
少し異質な響きを持つ名前(名前が下に来るらしい)と、かなり異質な雰囲気を持っている、自分と同世代の少年。
(この人は、何でこうしていられるんだろう)
まるでこれがそのまま日常だと言っているかのように、落ち着き払っている。
戦いに慣れ切った歴戦の兵には見えない。すべてを見通す賢者とも、少し違う気がする。
(達観してる──すべてに絶望してるみたい)
今、こんな風になれたらどんなに楽だろう。
このゲームのどこかで生きているオーフェン。このゲームのどこかで死んでいるマジク。
彼らのことを考えずにいられたら、どんなに楽だろう。
「──」
「えっと……なに?」
何も言わずに、自分を見ている──見つめているのではなく、まるで道ばたに落ちている石を見ているかのような少年に、クリーオウはただ戸惑った。
彼女が少し不安を抱き始めた頃、やっと彼は口を開いた。
「君の知り合いが死んだのは、君の責任ではない」
「え?」
「人を殺す機会と手段が十分に与えられているこの状況下で、コンタクトがとれないまま知り合いが死んでいってもそれは君の無力が原因ではない。
その知り合いの運が悪かっただけだ」
「…………」
わかっては、いる。理解はしている。でも、
「自らの手の及ばないところで起きた事象を自らの責にしてはいけない。
すべての問題を抱き込み自らを傷つけその傷を舐める行為は死者に対する愚弄にしかならない」
「…………」
でも、
「自己完結しておくのは精神安定を図る行為としては間違ってはいないし個人の勝手だが、
切迫した状況に加え集団行動を取っている今現在ではマイナスにしかならない」
「────」
声が喉から出る前に、反論する気力はなくなっていた。
彼の紡いでいる言葉があまりに率直であり図星すぎて、何も言えなかった。
かなりひどい顔をしているであろう自分を見つめながら、恭一は更に言葉を続けた。
「死んだ彼の事を思うのならば、己の出来ることをすることだ。
思考を停止させずに脳を働かせれば、何をすればいいのか、何をすべきでないのかは誰でも理解できる」
なにか。自分ができるなにか。自分が今考えるべきなにか。
──以前、オーフェンに言われたことを思い出す。
自分とは違い、諦めることも絶望することもしなかった彼は、奇跡と同じなにかがあると言っていた。
(……わたしにも何かができる? わたしにもなにかが見つけられる?)
戦えない。頭も回らない。……それでも、ここで思考停止に陥っているよりはまし。
悔しいくらいに同意できる意見だった。そんな簡単なことにすら気づかずに座り込んでいた、先程までの自分を殴ってやりたくなるくらいだ。
「……うん、わかった。何かやらなきゃオーフェンにも会えないし、ここからも出られないよね」
ここで泣いているよりも行動した方がマジクへの弔いになるし、脱出を考えているであろうオーフェンに対しても間接的に協力できる。
一度沈んでしまった心は完全には立ち上がってはいない。だが、今は前進しなければすべてがこぼれ落ちていってしまう。
──やっとそこまでを、脳ではなく心で区切りをつけられて、クリーオウは大きく息を吐いた。
「……、ありがとう、恭一」
「礼を言われるようなことをしてはいない」
そう言うと、踵を返して本が積まれている机に戻っていって、何事もなかったかのように本を読み始めた。
(マジク──)
胸を切り裂かれるような感情を必死にしまい込む。泣くのは後回しだ。
──と。
「誰か来た。足音が二人分聞こえる」
引き戸の向こうで見張りをしていたゼルガディスが中に入ってきた。
資料になりそうな蔵書を漁っていたサラと、それを手伝っていたクエロも手を止めて彼に注目する。
「まぁ、出迎えるしかあるまい。……一応、武器はあるしな」
サラがつぶやいた。ゼルガディスが腰の剣に手をかけ、クエロが本を机に置いて軽く身構える。
……恭一はそのまま読書を続けていたが、一応注意は引き戸の向こう側にあるようだ。
(……マジク、わたし、あなたの分までがんばるから)
部屋を包む緊張感を噛みしめながら、クリーオウははっきりと決意した。
【残り88人】
【D−2(学校内3階図書室)/1日目・06:15】
[共通思考]:向かってくる参加者と交渉
【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:健康、なんとか落ち着いた
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:みんなと協力して脱出する、オーフェンに会いたい
【空目恭一】
[状態]: 健康
[装備]: 図書室の本(読書中)
[道具]: 支給品一式/原子爆弾と書いてある?(詳細真偽共に不明)
[思考]: 書物を読み続ける。ゲームの仕組みを解明しても良い。
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。
【クエロ・ラディーン】
[状態]: 健康
[装備]: ナイフ
[道具]: 高位咒式弾、支給品一式
[思考]: ゼルガディスに同行する
+自分の魔杖剣を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
【ゼルガディス・グレイワーズ】
[状態]:健康、クエロを結構疑っている
[装備]:光の剣
[道具]:支給品一式
[思考]:リナとアメリアを探す
【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子
[道具]: 支給品一式/巨大ロボット?(詳細真偽共に不明)
[思考]: 刻印の解除方法を捜す。ゼルガディスらと情報を交換する
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
※ある程度の情報は交換済み。ただし刻印についての情報を三人に話したかどうかは不明
『人捜し屋さんチーム』
【D-2/学校内3階のどこか/1日目・06:15】
【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:デイパック(支給品一式/せんべい詰め合わせ)
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/学校内の何者かと接触し、情報収集
【ピロテース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:アシュラムに会う/邪魔する者は殺す/建物内の何者かと接触し、情報収集
「足らぬ」
ギギナが直面した問題は食料だった。
コミクロンとヘイズを逃した後にゲーム開始から初めて食事をしたのだが、前衛咒式士であるギギナは常人の数倍も食う。
コミクロンの落としたデイバッグの食料を合わせてもまだ食い足りなかった。
「このままでは餓死してしまう……」
そして、食料を得るには。
「……他の参加者から食料を奪うしかあるまいな」
地面から腰を上げたギギナは何か考えた後、北西を向いた。
「この方向に行ってみるか」
単に勘だったのだが、まさにそのむこうには大勢の参加者が、そして強者がいたのだった。
そして美しき獣は森を駆ける……。
【残り88人】
【F-5/森/一日目07:00】
【ギギナ】
[状態]:食い足りない
[装備]:魂砕き
[道具]:支給品(食料はすべて消費。水は一本消費したが、コミクロンから拝借した二本を合わせて三本)
[思考]:食料と強者を求め、F-5からF-4北部へ移動
※エドゲイン君1号は放置されています。
商店街の入り口に5人が立っている。
「こっちのほうに飛んでったのよね?」
その中の1人、千鳥かなめが尋ねる。
「はい・・確実ではないですけど・・。」
しずくが答える、彼女の探し人を追って中央まで来たのだが
そこから足どりがつかめなくなっていた。
「さて、これから、これからどうする?」
「そうね・・最悪しらみつぶしに探すしか・・」
ぐう。
疲れからなのか盛大に腹がなった・・。
「千鳥、空腹は思考を鈍らせる、腹が減っていたのなら・・」
「うるさい!」
バックパックがもろに顔面をとらえた。
「何故殴る?」
「あんたの辞書にはデリカシーって言葉が載ってないの!?」
首を傾げる宗介、それを見てかなめは確信した。
『載ってないわね・・。』
「それじゃあそろそろ朝ごはんにしましょうか、そのあとこれからの行動を考えましょう。」
しずくが提案した。
「え・・でも・・。」
「大丈夫ですよ、それに私も少し疲れました。」
「私も賛成しますわ、幸いここならば食料には不自由しないでしょうから。」
まだいけると言おうとするかなめをしずくと祥子が押しとどめた。
『それに・・ここならば逃げることも恐らく可能ですし。』
祥子はチャンスと思った。
ここまで逃亡のチャンスを伺ってきたが
常に注意を払っている宗介のもとから逃げ出すのは不可能だった。
「そうだな。それでは、それでは二手に分かれて食料を調達するとしよう。」
「じゃあ私とオドーさんとしずくさん、相良さんと千鳥さんで分かれるのはどうでしょう?」
しめたとばかりに祥子がきりだす。
「そうだな・・それで、それでいこう。よろしいかな皆の衆。」
オドーが同意を求めた。
「ハッ!」
「ええ。」
「じゃあ15分後にあそこの店に集合ってことで。」
宗介、しずくが承諾し最後にかなめが集合場所と時間を決めた。
2人で商店街を歩きながらかなめはいつもの光景を思い出していた。
「ねえ宗介・・。」
「なんだ?」
「なんかさ、こうしてるといつもと変わんないよね。
この商店街いつも学校から帰るときに通るとことなんか似てる・・。」
「そうだな。確かに似ているかもしれない。」
「まだ少し信じられないんだよね〜、
今あたしたちがいる場所が戦場の真っ只中なんて。」
「千鳥・・。」
会話をしながらもかなめは店先においてある食材をバックパックに入れていく。
「わかってはいるの、分かってはいるけど・・怖くはないんだ。
あんたと一緒にいるからかもね。」
少し微笑みながらかなめは言った。
「そうか・・ならよかった。」
宗介も微笑む、が、どこか寂しげだ。
「宗介・・。」
「クルツは・・。」
「・・・。」
あえて触れていなかった名前を宗介は出した。
「あいつは・・女がとにかく好きなやつだった。」
かなめは少し笑って言う。
「なによそれ。」
宗介も少し微笑んだ。
そして言葉を紡ぎだす。
「だから・・おそらく手当たりにしだいに声をかけて・・・失敗したんだろう。」
「・・そうよね・・きっとそう・・。」
かなめも頷いた。
「まったく・・馬鹿なやつだ。」
その口調は淡々としていた。
「バカはあんたも同じでしょうが・・。」
微笑みを崩さずにかなめは言う。
「そうだな・・。」
「・・宗介・・我慢しなくていいわよ・・。」
「俺は何も我慢してなどいない、君こそ・・」
言いかけたところで言葉が止まった。
微笑んだ彼女の目には大粒の涙があった。
そして彼女は宗介の胸に顔をあてた。
「別にあたしは・・何も我慢してないわよ・・。」
その声は震えていた。
「そうか・・。」
そして、彼は自分の頬を伝わるものを感じた。
「ねえ宗介・・あんたまで勝手に死なないわよね・・。」
「・・・当たり前だ、最後まで君を守りきるのが俺の任務だからな。」
それはYESの意味ではなかった、彼女を守るためなら勝手に死ぬということだから。
それでも彼女は
「うん・・。」
と言った。
【C3/商店街/10:30】
【正義と自由の同盟】
残り90人
【相良宗介】
【状態】健康、精神面に少し傷
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ
【道具】前と変わらず
【思考】大佐と合流しなければ。クルツ・・。
【千鳥かなめ】
【状態】健康、精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの(バイトでウィザード/団員の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】早くテッサと合流しなきゃ。 クルツくん・・。
【小笠原祥子】
【状態】健康
【装備】銀の剣
【道具】荷物一式(毒薬入り。)
【思考】どのタイミングで逃げるか。祐巳助けてあげるから。
【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ(撲殺天使ドクロちゃん)
【道具】荷物一式
【思考】BBと早く会いたい。食料探さなきゃ。
【オドー】
【状態】健康
【装備】アンチロックドブレード(戯言シリーズ)
【道具】荷物一式(支給品入り)
【思考】協力者を募る。知り合いとの合流。皆を守る。食料を探さなければ。
残り88人でした、どうもすいません。
ミズーを寝かせた後、俺と新庄は周囲で役立ちそうな物の探索をしていた。
今のところ、マッチや糸などの小道具ぐらいしか見つかってない。
そして部屋の片隅にあったデスクの引き出しを開けた。
「……新庄、これは何だと思う?」
中に入っていた数十枚の紙をデスクの上に広げながら俺は新庄に言った。
棚を漁っていた新庄がこちらに来て、その紙を見て驚いた。
「これって…地図?」
「ああ、どうやら各エリアの地図が拡大されているようだ。
支給された地図よりも詳しく書かれているな」
地図には建物の後に数字が記されていたが、その意味は最後の紙を見て理解した。最後の紙には数字の後に文字が書かれていた。
ああ、神様ありがとう! どうやら今まで不幸だった俺に幸運が舞い込んできたようだ。
「おそらく数字のところにアイテムが置かれているんだろう。
そして、その中には俺の贖罪者マグナスと咒式用弾頭がある!」
咒式が使えるようになればミズーの治癒もできるし、俺も戦える。この二つを手に入れればかなり有利になる。
「なら、早く取りに行った方がいいね。他の人に取られちゃうかもしれない」
マグナスと咒弾の場所はB-1とD-1。現在地から考えると運が良かったとしか言いようがない。
しばらく考えた後、俺は新庄に言った。
「ミズーを頼む。俺が一人で行く」
「え?! 一人じゃ危ないよ!」
「この状態じゃ一人でも三人でも変わらない。
ミズーを看てて欲しいし、外は危険だ。
女の子を危険に晒すわけにもいかないからな」
新庄は納得していない顔で言う。
「でも…」
「行きさえ無事なら、ある程度の敵でも勝てる自身はある。心配するな」
「…うん、わかった」
心配そうな顔で了承してくれた。やっぱりいい子だ。
足の痛みも多少、引いてきた。どうせ咒式で直せるんだから無理してでも走って行けばいい。
「とりあえず、まずは屋上に行って人のいない道を確かめる。
その道を通れば多少危険は低くなるだろうし」
「がんばって、ガユスさん」
「ああ」
俺は部屋を後にし階段を上る。
どん底の俺たちに希望の光が差し込んできた。
【残り88人】
【B-3/ビル一階/一日目/08:20】
【ミズー・ビアンカ】
[状態]:気絶。左腕は動かず。
[装備]:グルカナイフ
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:気絶
【新庄・運切】
[状態]:健康
[装備]:蟲の紋章の剣 救急箱
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:1、ガユスが戻るまでまで休憩 2、佐山達との合流 3、殺し合いをやめさせる
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿は治療済み。戦闘は無理。疲労。
[装備]:リボルバー(弾数ゼロ) 知覚眼鏡(クルーク・ブリレ)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:屋上で安全ルートの捜索。傷を悪化させてでも、B-1とD-1へ急行。
焚き火を囲んで簡潔に情報交換するカイルロッドと淑芳。
「そ、そのリリアとアリュセという人はカイルロッド様にとってどういう方ですの?」
「ん?ああ、彼女たちはウルト・ヒケウ…といってもわからないか。
俺たちの世界の術者の中で頂点にたつ者の称号を持っているんだ。
彼女たちか、フェルハーン大神殿の大神官だったイルダーナフならこの刻印について
何か答えが出せるかも知れない」
カイルロッドは自分の右手に浮かび上がっている刻印をじっとみつめた。
「そういう意味ではなかったのですけど…」
淑芳は呟くが、カイルロッドの口調からそういう関係の相手ではないらしいと知って少し安堵する。
「この刻印に使われている術法はわたしたちの扱うものとは全く系統が違うようです。
確実なことは言えませんがヨーロッパ世界の魔法に近いものかと……
ああ、ここに老師か太白さまがいらっしゃったら…」
「わからないことを論じても仕方ないでしょう。
今はこれからどう動くべきかを考えましょう。
このままここでじっとしているわけにもいきませんし」
陸に言葉をさえぎられ、淑芳はムッとするが特に反論もせずに地図を取り出した。
カイルロッドもまた地図を見つめる。
「俺たちが今いるところが、このB-8あたりらしいな。
近くに人が集まりそうな場所は――港か灯台くらいか。……灯台には近づきたくないけど」
「何人かは森の中に潜伏している可能性もありますわね。
しかしここは危険を承知で人が最も集まりやすい市街地に移動するべきでしょう。
敵に遭遇する危険が大きくなる代わり、味方に出会う可能性も高くなります。
それに人に出会えば情報を手に入れることができます。今わたし達に必要なのはまさに情報です。
ハイリスク・ハイリターン。虎穴に入らずんば虎児を得ず、ですわ」
力強く言い切る淑芳。しかし小さくその拳は小さく震えていた。
『なにより、ここにいても麗芳さんたちには会うことはできないわ。
大丈夫。カイルロッド様も頼もしいし、麗芳さんたちと会うまで……』
「見た目に似合わず、意外にハイカラな言葉を知っていますね。
とはいえ、私も同意見です。どうしますかカイルロッド?」
「うーん…」
カイルロッドは地図を熱心に見つめ、身体がだんだん前のめりになっていく。
地図はカイルロッドの身体の正面に固定され、そのすぐ後ろには焚き火の炎が…。
「あ、あの…カイルロッド様。そんなに火に近づくと地図が燃えてしまいますわ」
「え?ああ、ごめん……って、うわあ!」
なんとすでに地図の端に火が燃え移ってしまっていた。
慌ててカイルロッドは飲料水を取り出す。
「あ、カイルロッド様!それくらいでしたら、貴重な水を使わなくとも…」
時遅く、カイルロッドは水筒の水を地図にぶちまけたあとだった。
「ああ、水が…」
「これでなおさら市街地へ赴かねばならないようですね…」
池や湖もこの島には存在するようだが、毒を混入されている可能性を考えるとおいそれと口にする気にはなれない。
カイルロッドはようやく己の失敗に気付き、びしょ濡れの地図を摘み上げながら意気消沈する。
「ご、ごめん」
「仕方ありませんわ。それよりも地図を乾かしましょう、着物に水がかかってはいませんか?」
淑芳はカイルロッドの世話を焼こうといそいそと傍に近寄る。
『前言撤回。少し頼りがいに欠けるようですわね。
でも少々頼りない殿方のお世話を焼くというのも、これはこれで母性本能を刺激されますわ♪』
以前自分が彩芳と名づけた少女の世話を焼いたときと同じような感覚を淑芳は思い出す。
「大丈夫だよ、これくらい自分でできるさ」
「まぁまぁ、遠慮なさらず……あら?」
淑芳はカイルロッドの地図に異変が起きていることに気付く。
カイルロッドと陸も遅れてそれに気が付いた
地図は二層構造になっており、水に浸すことで隠された地図が浮かび上がる仕組みになっていたのだ。
一変した地図を二人と一匹で囲んでまじまじと見つめる。
「これは……地下空洞?」
「おそらく…地底湖や水路などが描かれてますからね。
海と繋がっている部分もあるようです…怪我の功名という奴でしょうか」
「この海洋遊園地の地下にある格納庫というのは何だ?」
「それは、やはり倉庫や武器庫と書かずに格納庫というからには…
それなりに大きな物が格納されているのでしょうね。武器か…乗り物か…」
「もし先にこれを発見できれば、他の参加者よりも立場的に有利に立てるかもしれませんわ。
主催者がわざわざ隠すくらいですもの。気付いた者勝ちで有効なアイテムを用意しているやも…」
それを見て興奮する淑芳だが、そこに陸が水を差す。
「殺し合いを強制するような主催者が用意したものですよ?
格納するものといえば、私どもの世界では兵器と相場が決まっていたものですが」
それを聞いて黙り込む一同。
しばらく沈黙が続き、カイルロッドが口を開いた。
「いこう。もし有効なものがあるならば利用する。
もしそれが、破壊にしか使えないようなものなら他の参加者に利用される前に破壊する。
仲間を探すよりも、こちらが先決だな。それにもしかしたら道中で出会えるかもしれない。
今は05:38。ゲームが始まってまだ6時間も経っていないし、これに気付いたのは俺たちが最初だろう。
島の反対側になるけど急げば間に合う」
デイパックを背負い立ち上がる。
淑芳もそれをおって立ち上がった。
カイルロッドの決意の表情に頬に朱を浮かばせる。
『普段は少し頼りなくとも、決めるべきときには決める。
ああわたしの見込んだとおりの方ですわ』
麗芳探しが後手にまわるのは残念だったが、もし地下に隠されたものが兵器で、
麗芳がその毒牙にかかってしまったらと思うと淑芳に否やはなかった。
「それでどこから進入しますか?地図によると進入路はいくつかあるようです。
C3の商店街、D4の石碑の他にもB7の湖、H1の神社、H4の洞窟…そして件の海洋遊園地ですわ。
ちなみにどこも隠し扉になっているようですわね。
見ただけではおいそれと分からないようになっているみたいです。
一番近いのはB7の湖ですけど…」
「地図によると水の底だな。潜っていってもいいけど、淑芳もいるし濡れるのはマズイ。
水の中だけあって探すのに手間取るかもしれないしな。
ここはまっすぐ地上から海洋遊園地に向かおう。
危険はあるが、仲間に出会えるかもしれない。淑芳がさっき言ってたとおりにね」
淑芳は頷き、カイルロッドの手を取った。
「あなたに命を預けますわ。カイルロッド様…わたしを守ってくださいね」
カイルロッドは少しビックリしたようだが、頷き手を握り返した。
「ああ、大丈夫だ。」
『もう誰も…ミランシャやパメラのようにはさせない!』
『きゃー!きゃー!やりましたわ♪これでカイルロッド様とは相思相愛♪』
少し思いに食い違いのある二人だった。それを呆れたように見ていた陸は溜息をつく。
「どうでもいいですけど、方針が決まったのならば出発しませんか」
この時、カイルロッドは少し待つべきであったかも知れない。
彼らが経ったすぐ後に、リリアが難破船に立ち寄ったからだ。
しかし運命の女神は少し微笑むように彼らのすれ違いを容認した。
そして6:00の放送で淑芳は星秀の死を知ることになる。
その時、誰にも見咎められず彼らはF2の位置まで進んできていた。
知り合いの名前がないことに安堵していたカイルロッドと陸。
しかし振り返ると放送を聴いて膝をつく淑芳がいた。
「大丈夫ですか、淑芳」
「知り合いが…いたのか……」
淑芳は袖を目に当てて涙を拭っている。
「…はい。あの人は神将にしては頭が悪く、軽薄で威厳のかけらもございませんでしたが
このような場所で死んでいい人じゃなかった…。
ああ、なんてことでしょう…仮にも神将を勤めるほどの手練れのはずでしたのに…
大方、わぉ美少女発見!とか何とかいってホイホイついていった挙句、
一服盛られてジタバタしてる間に背中をぐさりとやられてしまったのでしょうけど… 」
一応、淑芳は本気で哀しんでいる。
何とも気まずい雰囲気が流れたが、その時カイルロッドが前方に井戸を発見した。
「淑芳。今は深く考えないほうがいい。
そこに井戸があるから少し顔を洗うなり、身体を拭くなりしてきたらどうだろう?
俺たちは周囲に誰かいないかどうか見回ってくるから、な、陸」
「はい、貴女には休息が必要です。
何かあればすぐに駆けつけられる位置にいますから、ゆっくりと自分を落ち着かせてください」
「お二方ともありがとうございます……ではお言葉に甘えさせて頂きますわ。
あ、カイルロッド様とならご一緒に身を清めてもいいのですけれど……ぽ」
それを聞いてどきまぎするカイルロッド。顔を真っ赤にして慌てる。
「い、いや、遠慮しとくよ。さあ、陸。いこう!」
そういってさっさと走っていってしまった。
陸も遅れてカイルロッドの後を追う。
『これだけのしたたかさがあれば余り心配することもなかったかもしれませんね』
陸は溜息をついた。
【F-2/井戸の前/一日目、06:25】
【李淑芳】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式。雷霆鞭。
[思考]:井戸の水で身を清める/海洋遊園地地下の格納庫にある存在を確認する。兵器ならば破壊
/雷霆鞭の存在を隠し通す/カイルロッドに同行する/麗芳たちを探す
/ゲームからの脱出
【カイルロッド】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式。陸(カイルロッドと行動します)
[思考]:井戸のの周りを見回る/海洋遊園地地下の格納庫にある存在を確認する。兵器ならば破壊
/陸と共にシズという男を捜す/イルダーナフ・アリュセ・リリアと合流する
/ゲームからの脱出
うっかり相談したのが間違いだった。ベルゼブブは、盟友の不幸を悲しむより先に、
笑顔で現状分析を始めた。もう四時間以上ずっと、ややこしい仮説を語り続けている。
「あのアホを黙らせてくれっ」とバールに泣きついたら、無言で耳栓を贈られた。
最終的に、「ああもう嫌や、堪忍やぁ!」と叫んだあたりで目が覚めた。
夢を見ていたようだったが、内容は忘れてしまった。
(ええと、なんやったっけ……)
眠い。まぶたが再び閉じそうになる。災難にあった記憶が、脳裏をよぎった。
……その記憶は、夢だったのか現実だったのか。まだ頭がぼんやりしている。
「―〜―〜―〜―っ!!!!」
無意識に姿勢を変えようとして、激痛で涙が出た。声も出せないほど痛かった。
けれど、そのショックで頭が冴えた。そして同時に、違和感に気づいた。
違和感の正体を探るべく、息を殺して、静かに集中する。
『……? ……ッ……!』
何か聞こえる。声だ。人の声か。他にも物音が聞こえる。誰かいるのか。
(反響で、何を言うてるのか分からへん。俺が居るって事はバレとるか?)
声はダクトの中から聞こえている。別の部屋の音が、ダクトを伝声管がわりにして
届いているようだ。そういう具合の反響だった。
どうやら少人数の集団らしい。声の雰囲気からして、今すぐ殺し合いを始める
ような気配は無い。こちらを発見していないのか、もしくは罠か。
音をたてないよう注意しつつ探知機を取り出し、確認する。画面中央に光点が一つ。
自分以外の反応が無い。50メートル以上、相手と離れているようだ。
この探知機は、呪いの刻印そのものを探知する、と説明書に書いてあった。
説明が本当なら、刻印を解除する以外に、参加者が探知を無効化する方法は無い。
(このまま隠れてやりすごすか?)
自分は今、普段の力を出せず、武器を持っておらず、おまけに負傷している。
相手は複数で、ひょっとすると、もっと多くの仲間がいるかもしれない。
この状態でケンカを売っても、まず間違いなく勝てまい。
交渉して仲間になる、という選択肢もあるが、ハイリスクだ。様子を見たい。
(今んとこ、考えるくらいしか出来る事あらへんなぁ)
仕方がない。とりあえず、今後の方針を再考してみる。
(最終目的は生き残る事……必須条件は刻印の解除やな)
その為の方法は二つ。他の参加者全員を死なすか、自力で解除できる参加者を
探し出すか。ちなみに、自分自身だけで解除するのは無理だ。
オカルト関連の知識は有る方だが、戦闘以外の技術は専門外なのである。
(ううむ、「最後の一人は解放する」って約束、ほんまかどうか微妙やしなぁ)
情報が足りない。不確定要素が多すぎる。分からない事だらけだ。
ふと時計を見る。七時半を過ぎていた。なんと、放送を聞き逃している。
少しだけ後悔したが、疲労回復が必要だったのも確かだ。反省はしない。
(そういや、そもそも俺の存在自体が最大の謎やったっけ)
考えても答えが出ないので、あえて考えないようにしていた問題だった。
けれど、ヒマ潰しには良いかもしれない。
(『オリジナルの俺』は死んどる。そのコピーやった『悪魔の俺』も消滅しとる)
そして気がつけば何故か生き返っており、この戦いに参加させられていた。
(両方の『俺』から記憶と人格を継いどる『今の俺』は、たぶん三人目か)
いや、この認識さえも、本当に真実だとは限らない。疑おうと思えば疑える。
(あるいは『今の俺』は、『俺』やないのかもしれへんなぁ)
だが、もしも全てが幻だったとしても――それでも。
(ああ、それでも俺、やっぱり死にとうないなぁ)
改めて、やりたいようにやろう、と決める。今さら生き方は変えられない。
少し気分が落ち着いた。すると、唐突に疑問が浮かんだ。
(……ん? あれ? もしかして主催者って、死者の復活が出来たりするんか?)
今さら気づいた。他ならぬ自分自身が、文字通り「生き証人」だというのに。
(いやいや、でも『今の俺』って、ほんまに『俺』かどうかも怪しいしな)
よく似た別人を造る術ならば、反魂法でもネクロマンシーでもない。別の術だ。
(せやけど、ほんまに本物の復活かもしれへん……)
一応、探ってみるだけの価値は有るだろう。ハイリスクだが、ハイリターンだ。
(ふむ、あとは……やっぱりカプセルを探さんとな)
この島の中で、カプセルが有るとすれば、どこだろうか。ゆっくりと考える。
例えば、自分と同じ世界から呼ばれた三人は、きっとカプセルを探しているだろう。
(他の参加者よりは、入手しとる可能性が高そうやな……接触するか?)
接触するなら、相手からこちらに近づくよう、仕向けるべきだろう。
(そうやな……「物部景の名を騙ってメッセージを送る」とか)
これならば、三人全員が無視できない。物部景は、己の偽物をどうにかする為に。
甲斐氷太は、物部景と戦う為に。海野千絵は、仲間と合流する為に。
それぞれが、それぞれの理由で動くだろう。結果的に彼らを欺けずとも、
何らかの流れを作る「きっかけ」くらいには、なるはずだ。
(……俺、ちょっとバールやベルゼブブに似てきたか? なんか嫌やなぁ)
朱に交われば赤くなる。昔の人は、よく言ったものだ。
(さーて、これから、どないしようか……)
【B-3/ビル2F、階段を左に行った奥から二番目の部屋/1日目・07:55】
【緋崎正介】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。それなりに疲労は回復した。
[装備]:探知機(半径50メートル内の参加者を光点で示す)
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本)
[思考]:カプセルを探す。生き残る。次の行動を考え中。
※ミズーらの入った入り口とは別の入り口からある一室まで血痕が続いています。
※緋崎正介(ベリアル)は、六時の放送を聞いていません。
『死にたく…ない』
AM11:05
島中に響き渡った惨劇は、この一言を最後に幕を閉じた。
そしてそれを同じくして浜辺で絶叫する少年が一人…。
「なんでなんでなんだよ!」
兄に続いて従兄弟までもが…己の無力…そして残酷な運命にただ叫び涙する、竜堂終。
「竜になれ!竜になれ!竜になれ!竜になれ!」
頭を掻き毟り、砂浜でのたうち、己の中の超常の力を引き出そうとする終、
だが終の慟哭にも関わらず、一向に身体は竜に変化することはなかった。
すでに先程の変身によって、力を消耗してしまっていたのだ。
「こんな時に竜になれなくっていつ竜になるんだよ…ちくしょう」
「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!」
終は何も出来ない怒りをぶつけるように、波間に向かって叫び…足元の砂めがけ拳を叩きつける。
最初は自分の力なら皆を守れると信じていた、だが結果はどうだ?
誰一人…何一つ守ることが出来なかった…。
こんなはずはない…壊したい…こんな世界はみんな…。
【その願い叶えてあげましょうか?】
不意に響いた声に終は周囲をきょろきょろと見渡す…と、波打ち際に紫色の飾りが落ちている。
終は導かれるようにその飾りを手に取った。
【逞しき竜の若者よ…貴方の怒り、そして悲しみ…晴らしてみたいとは思わない?】
「そりゃ…あたりまえだろ!」
激情のままに叫ぶ終。
【なら、力を貸してあげるわ…そのかわり】
もう終は女の言葉を聞いてなどいなかった…迷ったら負けだ。
「かまわねぇ!この間違った世界を正せるんなら、…もう一度やりなおせるなら!
俺の全部をくれてやる!!」
【いいでしょう…なら受け入れなさい、私の全てを】
そして終は、声に導かれるままに、サークレットを自らの額に装着したのだった。
「ようやく身体を手に入れましたか、マダム…いえ今はボーイでしょうか?」
「竜族の肉体とはね、予想外よ」
竜堂終、いやカーラは声の方向に振り向く、そこには何時の間にか”魔術師”ことケンプファーが立っていた。
「正直私は”人形遣い”と違って、あまり介入は良しとしない方向なのですが…」
「貴方の参入は当初の予定に含まれている以上、一応確認した方がよいかと思いましてね」
「御託はいいわ…それより例のもの、本当にあるのでしょうね?」
ケンプファーは頷くと、ポケットから小さな砂時計を取り出す。
「お望みの物です…とはいえ抽出できたのはわずかな物に過ぎませんが」
ケンプファーは砂時計を太陽にかざす、と中身は砂ではなく何やら複雑な何かがうねうねと螺旋を描いている。
「お分かりですかな、これがアカシックレコードです」
アカシックレコード…宇宙開闢以来の全ての存在の全ての事象をその誕生と結末に至るまでも記録したアーカイブ。
その断片が今、目の前にある。
魔術師の性は知識を求めるもの、それは如何なる者であっても変わらない、
アカシックレコード…それがたとえ僅かな欠片に過ぎずとも、
数百年にわたり一つの勢力に組せず、ただ世界の均衡を守る、
それのみに力を注いできた魔女の方針を転換させるに十分な代物だった。
「十分よ、わずかこれだけでも私たちの世界では入手は適わぬもの」
我が意を得たりと頷く、ケンプファー
「では当初の予定通り、と言いましてもあって無きが如しですが、動いていただけますかな?」
「たまには己の心の欲するままに戦いを楽しむのもいいでしょう…ふふふ」
終の姿、終の声で…他人の肉体を乗っ取り数百年の時を生きてきた魔女は微笑む。
そしてケンプファーは長居は無用とばかりに己の影の中に姿を消す、
「老婆心ながら忠告を…その姿で女言葉はおやめになられた方がいいかと思いますよ」
などと余裕の言葉を残して。
現在位置【C-1/浜辺/一日目、11:15】
【竜堂終(カーラ)】
[状態]:通常
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし/ サークレット
[思考]:主催者の意向に沿って他の参加者に攻撃
(衣服のみ入手しているものとします)
「なんだ、お前は」
「お前こそなに」
ウルペンの問いをハーヴェイはそのまま返した。
「ウルペン」
「……ハーヴェイ」
お互い名乗る。恐らく、数分後には意味のなくなる名乗りを。
この場に辿り着いて最初に目にしたのは、男が少女に長槍を振り下ろそうとする場面だった。
とっさに撃った。
撃ってから倒れた少女がキーリではないことを確認したが、まあいい、対応としては間違ってなかったはずだ。
もしもキーリだったらと思うとぞっとする。
一度分解して乾燥させたのが功を奏したか、炭化銃は通常通りの効力を発揮してくれたようだった。
「あんた……殺し合いに乗ってんの」
ハーヴェイの問いに、ウルペンの口元が僅かに釣り上がる。
「そうだ……だが、よくよく邪魔が入るものでな。まだ一人も殺してはいない」
じりじりとすり足で立ち位置を移動させる。
リリアから離れるように。行動の障害になるものから離れるように。
ハーヴェイの持つ炭化銃の銃口も、それに合わせて移動していく。
「でも、そのうち誰か殺すわけ」
「そうなるな」
「……あっそ」
その呟きを終えると同時に引き金を引くつもりだった。
だが、その呟きが始まるかどうかのタイミングで、ウルペンは地を蹴った。
「っ!!」
慌てて銃口をポイントしようとするが、その時ハーヴェイの視界の隅に不自然に煌く何かが映る。
戦場で培った第六感がブランクにもめげずに警報を発令。
照準を早々に諦めて横っ飛びに跳躍する。
同時に、ハーヴェイのいた位置を銀色の念糸が薙いでいた。
(なんだ、こりゃ!?)
地面を転がって起き上がったハーヴェイは驚愕する。
ウルペンの身体から、倒れた少女の背後を経由して死角へ回り込むように、銀色の糸が伸びていた。
(これに気づかせないために、あの子から離れたのか)
役目を終えたかのように消失する糸を横目に、ウルペンの狡猾さに舌を巻く。
そのウルペンは今の隙に走る軌道を変え、真っ直ぐにハーヴェイに向かって突進して来ていた。
二人の距離は僅かにあと数歩。
「よくぞかわした!」
叫びつつウルペンが長槍で突いてくる。
ハーヴェイはそれを何とか回避したが、ウルペンの攻撃はそこで止まらない。
長槍を短く持ち、突き、薙ぎを織り交ぜて、ハーヴェイに付け入る隙を与えない。
「……このッ」
接近戦で銃を持っていても不利なだけだ。
仕方なく炭化銃を捨てて、腰の後ろに手を伸ばし――
「――ッ!?」
ウルペンが初めて表情を歪め、一歩後退した。
二の腕の黒衣が裂かれ、赤い線が見えている。
「ほう……お前もナイフを使うか」
「それなりに。ナイフファイティングは久しぶりだけど」
スペツナズナイフを持つハーヴェイの構えは、まさに軍隊式のそれだ。
思わぬ好敵手の出現にウルペンの口元に笑みが浮かぶ。
じり、じり、と微妙に立ち位置を変えながら睨み合い――
「ゆくぞ」
宣言と同時にウルペンが動いた。
ハーヴェイは長槍の初撃を回避するため一歩下がって……呟いた。
「やべ」
ウルペンは前に出るのではなく、後ろに下がったのだ。
ハーヴェイが下がった分と合わせ、その距離はナイフどころか槍の間合いさえも越えていた。
銃の間合い。
ハーヴェイの炭化銃は足元だ。手元にはない。
ではこの間合いのウルペンの武器は――銀色の糸が、来た。
「ぐおおぉおぉおおッ!!?」
絡め取られた瞬間、全身の水分が蒸発するような感覚がハーヴェイを襲った。
急激な脱水症状を起こし、力が抜けて立っていることすら辛くなる。
(まずい!)
思った時には、ウルペンが目の前まで迫っていた。
ナイフを奪うと同時に足払いをかけられ、身体が一瞬宙に浮く。
そのままウルペンはハーヴェイに圧し掛かるように倒れこんだ。
身体が地面に叩きつけられる重い音と、ハーヴェイの口から空気が漏れる音が同時。
そのハーヴェイの右胸に、深々と、ウルペンの全体重を乗せたナイフが突き刺さっていた。
「惜しいな。俺にもナイフがあれば、正々堂々一戦交えたかもしれん」
呟き、ウルペンは立ち上がる。
まだ微かに息はあるようだが、肺をやられていては遠からず死亡するだろう。
中断していたリリアのトドメを刺そうと振り返ったところで、目の前に火球が迫っていることに気づく。
「むっ!?」
寸前で回避し、そちらを見据えたウルペンの視線と、こちらを睨み付けるリリアの視線が絡んだ。
「あなた……なんてことを」
「目を覚ましたか、娘。そのまま寝ていれば楽に逝けたものを!」
叫びと共に念糸を放出。同時にリリアに向かって駆ける。
対するリリアは、まだ苦しげな表情をしながらも前方に小さな火球を作り撃ち出す。
が、あるいは回避され、あるいは念糸で相殺された。
「甘いぞ、娘!」
「くっ…!」
迫りくる殺意へ向けて再び火球を作り出すが、ウルペンは完全にそのタイミングを見切っていた。
火球が打ち出されると同時に高く跳躍。
空中で身を捻って、驚愕の表情を浮かべるリリアの背後に降り立つ。
そのままリリアの首に腕を回し、締め上げながら吊り上げた。
「か……ハッ……!」
身長差がありすぎるため、完全に足が地面を離れる。
と、次の瞬間、「かふっ!」と空気が漏れるような声と共に、リリアの口から血の塊が吐き出された。
「なるほど。どうにも術にキレが無いと思えば、先ほどの戦闘でアバラがイッていたか」
言いながらもギリギリと締め上げていく。
落とす締め方ではなく、折る締め方だ。
首にかかる負荷に、次第にリリアの視界に靄がかかっていく。
(こんなことって……アリュセ…王子……!)
リリアの手が、何かにすがるように前方に伸ばされる。
その両の瞳から涙があふれ、そして――
――ゴギン
その音と共に、伸ばされていた手が力なく垂れ下がった。
「いつだって、その瞬間はこともなげに訪れる。悪く思うな」
脱力したリリアの身体を地面に寝かせ、ウルペンはハーヴェイに歩み寄る。
そしてナイフを掴み、勢いよく引き抜いた。
反動でハーヴェイの身体が一瞬跳ね上がる。
「ハーヴェイと言ったか。お前のナイフと銃、俺が使わせてもらうぞ」
炭化銃とナイフの鞘を回収し、ウルペンはその場を後にする。
自らが殺すべき相手を探すために。
(待っていろ……フリウ・ハリスコー、そして我が義妹よ)
ナイフを抜かれた衝撃で、ハーヴェイは意識を取り戻していた。
かすむ視界の中に、去っていくウルペンの姿が見える。
あの男を野放しにするのは危険だと、全身が警報を発している。
だが、身体は動かない。
かつて心臓のあった位置に埋め込まれている《核》は、徐々に身体の修復を始めている。
それでも、肺を貫かれ、重度の脱水症状を起こした身体を動かせるようにするまでは、まだいくばくかの時間を必要としていた。
ふと、あの少女のことを思い出し、視線だけで辺りを見渡す。
先ほどとは違う位置に仰向けに寝かせれ、ぴくりとも動かない少女を発見した。
(……助けられなかったのか)
何とか身を起こし、ウルペンを追おうと必死にもがく。
だが、いくらもがいても、身体は意思に反してほとんど動かすことができなかった。
そして、ウルペンの姿は視界の端から消えていった。
(あー、くそ……)
動くことを諦め、そのまま大の字になったまま空を見上げ、かすれた声でハーヴェイは呟いた。
「……しゃれになんねー」
【リリア 死亡】
【残り87人】
【C-8/港町/1日目・08:15】
【ハーヴェイ】
[状態]:重傷、数時間は動けず(徐々に回復中)
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式/食料・水×2)
[思考]:キーリを探す/ゲームに乗った奴を野放しに出来ない。特にウルペン
【ウルペン】
[状態]:軽傷(二の腕に切り傷)
[装備]:炭化銃、スペツナズナイフ
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]: 蟲の紋章の剣を破るためにフリウを探す。
備考:G−sp2は放置されました。
ウルペンは、ハーヴェイが死亡したと思っています。
「十分よ、わずかこれだけでも私たちの世界では入手は適わぬもの」
我が意を得たりと頷く、ケンプファー。
「では当初の予定通り、動いていただけますかな?」
「ええ、気は進まないですが…これも全ての世界の均衡を守るため
この地に集う彼らの命は世界の恒久的な安定に繋がることでしょう」
終の姿、終の声で…他人の肉体を乗っ取り数百年の時を生きてきた魔女は
ひどく事務的な口調で呟いた。
そしてケンプファーは長居は無用とばかりに己の影の中に姿を消す、
「老婆心ながら忠告を…その姿で女言葉はおやめになられた方がいいかと思いますよ」
などと余裕の言葉を残して。
『死にたく…ない』
AM11:05
島中に響き渡った惨劇は、この一言を最後に幕を閉じた。
そしてそれを同じくして浜辺で絶叫する少年が一人…。
「なんでなんでなんだよ!」
兄に続いて従兄弟までもが…己の無力…そして残酷な運命にただ叫び涙する、竜堂終。
「竜になれ!竜になれ!竜になれ!竜になれ!」
頭を掻き毟り、砂浜でのたうち、己の中の超常の力を引き出そうとする終、
だが終の慟哭にも関わらず、一向に身体は竜に変化することはなかった。
すでに先程の変身によって、力を消耗してしまっていたのだ。
「こんな時に竜になれなくっていつ竜になるんだよ…ちくしょう」
「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!」
終は何も出来ない怒りをぶつけるように、波間に向かって叫び…足元の砂めがけ拳を叩きつける。
最初は自分の力なら皆を守れると信じていた、だが結果はどうだ?
誰一人…何一つ守ることが出来なかった…。
「何のために俺はこの力を持って生まれてきたんだ!」
泣いている間にも刻一刻と人が死んでいく…その恐怖に愕然となる終。
だがそれ以上に他の誰かが自分と同じ思いをしているということの方が遥かに嫌なことのように思えた。
「もう…いやだ、誰かが苦しむのを見るのは…」
【その願い叶えてあげましょうか?】
不意に響いた声に終は周囲をきょろきょろと見渡す…と、波打ち際に紫色の飾りが落ちている。
終は導かれるようにその飾りを手に取った。
【逞しき竜の若者よ…貴方は何を望むの?】
「みんなを助けたい…始兄貴や茉理ちゃんが出来なかったことをしたいんだ」
声は続いていく、より鮮明に。
【それは茨の道よ…犠牲なしでは成し得ない道】
「わかってる…だけど挑まなければ道は開かれないだろう?」
声に応じる終、もうその声から怒りは消えていた。
【それは茨の道よ…犠牲なしでは成し得ない道】
「わかってる…だけど挑まなければ道は開かれないだろう?」
声に応じる終、もうその声から怒りは消えていた。
【なら、力を貸してあげるわ…そのかわり】
終は導かれるように宝石に手をやる、何の抵抗もなく…
すでに彼の精神はカーラに導かれるままだった、その意識、思考はそのままに。
【受け入れなさい、私の全てを】
そして終はサークレットを自らの額に装着したのだった。
「ようやく身体を手に入れましたか、マダム…いえ今はボーイでしょうか?」
「竜族の肉体とはね、予想外よ」
竜堂終、いやカーラは声の方向に振り向く、そこには何時の間にか”魔術師”ことケンプファーが立っていた。
「正直私は”人形遣い”と違って、あまり介入は良しとしない方向なのですが…
貴方の参入は当初の予定に含まれている以上、一応確認した方がよいかと思いましてね」
ケンプファーは、ポケットから小さな砂時計を取り出す。
「アカシックレコード、こんな小さな欠片でも、宇宙の叡智が秘められているとは」
ケンプファーは砂時計を太陽にかざす、と中身は砂ではなく何やら複雑な何かがうねうねと螺旋を描いている。
アカシックレコード…宇宙開闢以来の全ての存在の全ての事象をその誕生と結末に至るまでも記録したアーカイブ。
その断片が今、目の前にある。
「私は知識の学冠の力を借りて、私たちが住まう世界以外にも複数の世界が並行して存在し、
そしてそれがいくつも重なり合って影響を及ぼしあっているということを知ったわ
でも、何もできなかった」
「この地に集いし者たちは皆、多かれ少なかれ世界を変革しうる力を持っているわ…でもその変革が
フォーセリアを、そして最終的にロードスを危機に陥れないとは言い切れない」
カーラは寂しげに呟く。
いかに自分であったとしても世界を覆う滅びの運命からは抗うことなどできない。
だが…その運命を回避できるとしたら、どうだろう?
「皮肉なもの…己の世界を良くしようと行っていることが、他の世界を危機に導くことになりかねないなんて
知らなければよかった、知りさえしなければ私はただ己の世界のみに、
ロードスにとどまっていられた物を」
カーラの言葉が止まったのを見て、ケンプファーは煙草に火を点そうとするが、
彼女の非難がましい目線に気がつき、慌てて足で踏み消す。
「いやはや愛煙家には厳しい世の中だ、で…そこでアカシックレコードですか?」
カーラはケンプファーの手の中の砂時計を改めて覗き込む。
「ええ、貴方がたにその存在を提示され、私は私の考えが間違ってなかったことを悟ったわ、
わずかこれだけであったとしてもその解析に成功すれば、幾つもの世界の事象を
全て操り、均衡を保つことが出来る…それこそが真なる安定への道、もっとも、
その全貌を掴むまでには幾千・幾万の歳月が必要でしょうけど」
ケンプファーはカーラの声を聞きながら考えていた。
(風が吹けば桶屋が儲かる…か)
「しかしその少年には少々酷なことになりましたな」
「ええ…ですが彼ならばきっと理解してくれるはず、危機を乗り越えるためには
流さねばならぬ血もあるということを」
終の姿、終の声で…他人の肉体を乗っ取り数百年の時を生きてきた魔女は寂しげに微笑む。
彼女の脳裏にはすでに絵図面が描かれているのだろう?
だれを討ち、そして誰を生かすかを…。
そしてケンプファーは長居は無用とばかりに己の影の中に姿を消す、
「老婆心ながら忠告を…その姿で女言葉はおやめになられた方がいいかと思いますよ」
などと余裕の言葉を残して。
現在位置【C-1/浜辺/一日目、11:15】
【竜堂終(カーラ)】
[状態]:通常
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし/ サークレット
[思考]:参加者に攻撃
(衣服のみ入手しているものとします)
221 :
聖なる光:2005/04/20(水) 01:06:47 ID:Wo9NkoAl
「グリーン! グリーン落ち着けよ!」
「そうだよ! そんなの癒し系の仕事じゃないよお!」
血濡れの背中に声がかかる。
癇に障るほどやかましい声が、酷く遠い。
――うるせぇ……
声にならぬ声を上げ、潤はずるずると己の身を引きずり続けた。
一歩踏みしめるごとに、神経が悲鳴を上げる。
片足を上げるごとに、銃創から血が吹き出る。
「潤さん……っ」
「……わ、わんデシ!」
さらに悲壮な声が近づいてくるが、構わず潤は歩き続けた。
「グリーン! いくら癒し系だからってブラックジョークは良くないぜ!」
「そーだよ! ブラックとラブラブなんて百合の花だよぉ!」
――うるさい、あたしはグリーンじゃねえ。
あたしは哀川潤だ。『人類最強の請負人』とまで呼ばれた女だ。
そして……
(祐巳……)
祐巳を、あの子を助けてやると誓った女だ。
大切な者のために、人間を捨てて、でも、それゆえに苦しんでいる……かわいそうで、しかし強い、あの子を救ってやる女だ。
『最強』が女の子一人救えないでどうするよ?
(祐巳、泣くんじゃないよ。あたしが今行くからな)
でも、その前に……
奴を倒さねば。
222 :
聖なる光:2005/04/20(水) 01:07:13 ID:Wo9NkoAl
――バリンッ!
不意にガラスの割れる音が響き、潤は一瞬だけ朦朧とした意識を覚醒させた。
目の前のビルは、未だ立ちつくしたままだが……
(……あいつか!)
ビルを挟んで向こう側から、北西に向かって走り去っていく人影が見えた。
入り口側にいる潤を恐れたのか、2階から窓を破り飛び降りたらしい。
人影は二つ見えたが、潤のかすんだ目には誰だか認識できなかった。
――だが、それで十分だ。
(――待ちやがれっ!)
痛みを黙殺し、右足を踏みしめる。
目を閉じ、数瞬力を足に集中させる。
(祐巳……待ってな。すぐ行くからな)
やがてかっと目を見開くと、勢いよく地面を蹴ろうとした。
――が、
「やめてくださいデシ!」
突然、閃光が視界を支配した。
なんと前に回り込んだ白い犬が飛び上がり、至近距離で光のブレスをはいたのだ。
「うっ…………!?」
潤はたまらず倒れ込む。
自ら叩き付けた体は、その衝撃による激痛に襲われた。
全身が引き絞られるかと言うほどの痛み。
集中していたために一度は忘れていた痛みまでもが一気に襲いかかり、潤は悲鳴を上げることも出来なかった。
そのまま視界が暗くなっていく。
223 :
聖なる光:2005/04/20(水) 01:08:01 ID:Wo9NkoAl
「人殺しはダメデシ。それに、今動いたら死んじゃうデシ」
「ホワイト! いつのまにそんな超能力を得たんだ!」
「すごぉい、すごぉい! ホワイト何者!?」
「え、えっとボクは……」
「ロシナンテ……? いや、それより潤さんが! 二人とも聞いてますか!?」
「おおそうだ、グリーンを助けねば!」
「治療だね! どうやるの?」
「唾つけただけじゃ治らねえよなあ」
「そもそも汚いよ」
「と、とにかく仰向けにして……」
うざったいほどの騒ぎ声が遠のいていく……。
人が瀕死な時にはそぐわないジョークとも本気ともつかぬ会話に、潤は内心苦笑を浮かべた。
(こいつ等と一緒だったらあの子も笑えるか?)
意識が途絶える直前、潤は地面が心地いいことに気付いた。
【C−4/ビルの正面/一日目/9:45】
【哀川潤(084)】
[状態]:瀕死の重体(銃創四つ。右肺、左脇腹、左太腿、右肩損傷)気絶
[装備]:なし(デイバッグの中)
[道具]:なし
[思考]:祐巳を助ける 邪魔する奴(子荻と臨也)は殺す アイザック達に興味
【アイザック(043)】
[状態]:超心配
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:グリーンを助けないと!! ホワイトがすごいぞ!
224 :
聖なる光:2005/04/20(水) 01:08:59 ID:Wo9NkoAl
【ミリア(044)】
[状態]:超心配
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!
【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:健康(前足に切り傷)
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:お姉ちゃんが大変デシ!! 正体ばらしちゃうデシ?
【高里要(097)】
[状態]:正気
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:潤さんが……!
[備考]:上着は外に出る際に着ました。
【備考】
哀川さんはあと1時間程度で死ぬと思われます。
また過剰に身体を動かせば、その分寿命が縮まる事が予想されます。
【萩原子荻(086)】と【折原臨也(038)】はB-3あたりへ向かっているようです。
トリップ付け忘れました、すいません。
慶滋保胤は突然現れたその男に驚いた。
保胤とセルティは男から距離をとろうと少しずつ後退していく。
「貴方はいったい・・・」
その男は不敵な笑みを浮かべている。
「俺はフォルテッシモだ。お前はまた時代錯誤な格好をしてんだな。最初に会ったときにあいつみたいだ。」
「はあ。フォルテッシモさんですか。私は慶滋保胤と申します。こちらはセルティさんです。」
結局、保胤はいつもの通りに自己紹介をした。
「ま、お前たちの名前なんて知ってもたいした意味はない。お前たちは俺と戦うことになるんだ。
覚悟はいいか?」
少しおどけた感じでフォルテッシモは宣戦布告をしてきた。
「え?ちょ、ちょっと待ってください。私たちは貴方と敵対する気はありません。」
保胤はさっき電話の向うに伝えたのと全く同じセリフをフォルテッシモにも伝えた。
「敵対する気がないだと・・・?はっ!そっちに敵対する意思があるかなんて俺の知ったことじゃない。
俺は強い奴と戦いたいただそれだけだ。それにここで生き残るには戦うしかないんだろ?
理由付けはばっちりだ。」
嘲るように言うとフォルテッシモは一歩踏み出した。
保胤はその瞬間転がるように背後に退いた。
フォルテッシモが能力を使用して攻撃しかけてきたのだ。
保胤は道士としての勘が働いたのか、間一髪のところでそれを逃れた。
いや、ただ単に運が良かっただけなのかもしれない。
(今度この攻撃を受けたら危ないな・・・)
怪我はないものの、着ていた直垂の裾の部分がざっくりと切れてしまった。
保胤はなんとか起き上がると相手に静かに怒りの思いをぶつけた。
「あなたは、人の命をなんだと思ってるんですか!」
その瞬間、保胤の目が一瞬だけだが確かに光った。
フォルテッシモは彼としては珍しく、保胤の雰囲気に押され背筋を寒くした。
(こいつ・・・もしかしたら当たりかもしれないな)
本当のところはあまり期待してなかったのだが、フォルテッシモは保胤に
何かしらの隠された強い力があると判断した。
「面白い。慶滋保胤、全力でお前を葬ってやることを約束しよう。」
もっとも、彼は油断を全くしない能力の持ち主なので何時でも全力で戦っているわけなのだが。
保胤は後退しながらも、相手の攻撃について考えていた。
相手がどのようにして攻撃をしてきたのか、保胤にはさっぱり解らなかった。
相手からは十分に距離をとっていたはずだ。
それに、相手は何かを投げるどころかほとんど何の動作もしなかった。
術による攻撃にしても、武器による攻撃にしても動作がなさすぎる。
ただ、一歩こちらに踏み出してきただけだ。
相手が距離を詰めてきたと同時に攻撃が来たという事実があるだけである。
このことから、保胤は相手の攻撃は射程距離があるのだと判断した。
「セルティさん。相手からさっき以上の距離をとるよう注意してください。」
保胤はセルティに一言注意を促すと、遠距離から攻撃を仕掛けることにした。
セルティは保胤に言われたとおり、離れた距離まで下がって様子を見ている。
昨夜即席につくった符をフォルテッシモ投げつけた。
しかし、符はフォルテッシモに届く前にずたずたに切り裂かれてしまった。
保胤はためしに距離をとりながらフォルテッシモの側面に回りこんでから
同じように符を投げつけた。結果は同じだった。
保胤フォルテッシモに届く前に符はずたずたに切り裂かれて地面に落ちた。
「どうした?こんな紙切れを投げつけるのがお前の能力なのか。」
フォルテッシモは鼻先でせせら笑う。
(やはり、近づくものは全部切り裂かれてしまうか。なら・・・)
保胤は今度は符の一つをくしゃくしゃに丸めると再び投げつけた。
しかし、今度は切り裂かれはしなかった。
切り裂かれるギリギリの位置で丸められた符は 強烈な光を発したのだ。
「むっ!」
(目潰しか。だが、この程度は問題にはならない。)
フォルテッシモは目がくらんでしまったが、まだまだ余裕があった。
この隙にもし保胤が接近してきたら、保胤はずたずたに切断されていたことだろう。
だが、誰も攻撃を仕掛けてこない。
(どういうことだ?何をたくらんでいる・・・)
目が回復し、フォルテッシモが見たもの、それは・・・
【B−2/砂漠の中/1日目・08:20】
『紙の利用は計画的に』
【慶滋保胤(070)】
[状態]:精神的に少し疲労
[装備]:着物、急ごしらえの符(残り7枚)
[道具]:デイパック(支給品入り) 「不死の酒(未完成)」、綿毛のタンポポ
[思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/ 島津由乃が成仏できるよう願っている
[行動]:フォルテッシモと戦闘中(目潰し中になにかをたくらんでいる)
【セルティ(036)】
[状態]:正常
[装備]:黒いライダースーツ
[道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)、携帯電話
[思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索
[行動]:フォルテッシモと戦闘中(現状では打つ手がないので離れて様子をうかがっている)
[チーム備考]:『目指せ建国チーム』の依頼でゼルガディス、アメリア、坂井悠二を捜索。
定期的にリナ達と連絡を取る
【フォルテッシモ(049)】
【状態】目潰し状態(もうすぐ回復する)
【装備】ラジオ
【道具】荷物ワンセット
【思考】ブラブラ歩きながら強者探し。早く強くなれ風の騎士/保胤の隠れた力に気がつく
【行動】慶滋保胤、セルティと戦闘(現在、目潰し状態で待機中)
230 :
別れ1:2005/04/20(水) 07:03:21 ID:6xnzi/yZ
宗介とかなめがクルツの死を悲しみつつ商店街を歩いている時、
彼らと一時別れた祥子・しずく・オドーの三人はまじめに食料を探していた。
「BBは何処にいるんでしょうか…?火乃香さんのことも気がかりです」
誰にともなくしずくはつぶやいた。
今、自分は商店街の端にある酒屋の中で食料を探している。
しかし意識はこのゲームに参加しているはずの知人の方へと向けられる。
「そもそもザ・サード管理下にある私達をどのように連れ出したのでしょう…痛っ!」
思考に集中していたため、足元にあるわずかなへこみに足をとられて転倒。
(何してんでしょう私…あら?)
転倒し、視線が低くなったおかげでカウンターと床のわずかな隙間に取っ手が見えた。
「何であんなところに取っ手が?何か隠し物でも有るのでしょうか?」
(こういう時は、とりあえず報告しましょう)
しずくは店を飛び出した。
オドーには気がかりな事があった。
「恐ろしい、恐ろしい民族だな。日本人とは…」
原因は先ほどからの千鳥と宗介の様子だった。
宗介に出会ったのもつかの間、いきなり千鳥は宗介に蹴りを入れ、
空腹を指摘されるとバックで顔面を殴打した。
しかも彼女にはそれが日常らしく、彼女は普通の高校生だという。
「ならば、ならば普通の高校生は日常的に強力なツッコミを入れることになる」
日本で暮らす事になった自分の唯一の血族である、
ヒオ=サンダーソンのことが猛烈に心配だった。
(あの娘は、あの娘は本当に大丈夫だろうか…!)
そんなオドーの心を吹き飛ばすように声が聞こえた。
しずくが自分を呼んでいる。
231 :
別れ2:2005/04/20(水) 07:04:32 ID:6xnzi/yZ
「ここです、オドーさん」
「分かった、分かった。私がカウンターをどかせば良いのだな」
パチンッ!
指が鳴り、カウンターが斜め上から打撃され横にスライドする。
「やっぱり、扉です」
そこには頑丈そうな鉄扉が床にすえつけられていた。
「鍵が、鍵がかかっているな。ではこのアンチロックブレードとやらでこじ開けるか。
しずくは、祥子を呼んできてくれ」
「はい、そろそろ八百屋のシャッターを開けてくれている頃ですね」
---数分後---
三人は扉が封じていた物を見ていた。
「地下室…ですか?良く見つけましたねこんな所」
「そうなんです。怪我の功名というかなんというか」
しずくは転倒したことは隠して、しかし何処と無くうれしそうだ。
「まず、まず私が入ろう。何が有るかわからんからな」
オドーに続いて祥子・しずくも地下室に入ってゆく。
地上の光と懐中電灯の光だけが頼りだ。
しかも入った地下室は思ったより広く乱雑に物が置いてあり何が有るのか良く分からない。
「えっと、ここにスイッチが在りますね」
次の瞬間部屋に光がともりそこになにがあるかがはっきりとした。
「ここは、武器庫?」
見渡すと白い巨剣や細身の長剣などの他に弾薬やショットガン、暗視ゴーグル等も有る
「軍曹が、軍曹が喜びそうだな。っ!これは…賢石か?」
「何ですか?その宝石はのような物は」
「後で話そう。しずく、千鳥と軍曹を呼んできてくれ」
232 :
別れ3:2005/04/20(水) 07:06:03 ID:6xnzi/yZ
しずくが去った後、オドーと祥子だけが残された。
「さて、さて我々は本題に入ろうか」
「何のことです?私に問題でも?」
「なかなかの、なかなかの演技力だった。しかし貴様は軍曹に注意を払いすぎだ。
不自然なほどにな」
「当然です。あの人は、会ったばかりの私を殺そうとしました」
「あくまで、あくまでしらを通すつもりか?だがじき分かる」
オドーは傍にある棚からボリュームスイッチのついた機械をとりだし、
スイッチを半分ほど回した。
・━━秘密とは隠し事ではない。
どこからか声が聞こえた。
「なんですか?それは?」
「我々の、我々の世界の素敵な発明品、賢石尋問機”シェイムフル2000”だ
秘密をぶちまけたくなる概念で誰でも自分に素直になれる」
「え…そ、そんな物が…」
「時間が、時間が無いのでな。駆け足で質問させてもらおうか」
(紅薔薇様のために尋問は省略します)
「そういう、そういうことか。要するに人探しの途中か」
「そ、その通りです。これ以上喋らせないで…」
オドーはスイッチを切り、祥子に薄い長剣数本を差し出した。
「これは、これは扱いやすい剣だ。受け取り、去るがいい」
「私は敵となるかもしれないのに…なぜ?」
「簡単な、簡単なことだ。獅子身中の虫などいらぬし、単独で動くには危険すぎる。
何より私はこんな下らんゲームに反対でな」
「では、私はお言葉道理に行かせてもらいます」
剣を受け取り踵を返す。
地下室から去り行く祥子にオドーは声をかける。
「探し人が、探し人が見つかったら戻ってきてほしい。
共に脱出法方を考えよう…」
祥子の返事は聞こえなかった…。
233 :
別れ4:2005/04/20(水) 07:07:06 ID:6xnzi/yZ
しずくに呼ばれた宗介達は少し遅れて地下室にやってきた。
飲料水確保に手間取っていたらしい。
宗介は祥子が居ないことに気づき、
「大佐、あの女は何処に?野放しにすると危険ぐはぁ!…何をする千鳥」
「うるさい!ったくあんたはどーしてそうネガティブな方向へ話を持ってくのよ!」
「しかし、常に最悪の状況を考えて行動したほうが…」
オドーは二撃目を叩き込もうとする千鳥を制し、
「もうよい、もうよいのだよ軍曹。彼女は人探しの途中だった、群れるより
単独の方が動きやすい。だから別れた、過去のことはこの際忘れろ」
「…了解しました」
場に漂う気まずい雰囲気を壊すため、しずくが口を開いた。
「じゃあ私達はこれからどうしましょうか?見つけたい物はだいたいありましたし」
オドーが手を差し出し、賢石を千鳥としずくに渡して、
「賢石と、賢石と言う物だ。鉄パイプやトゲ棍棒より便利だろう。
しばらくはこれを使いこなす練習だ。私が軽くレクチャーしよう」
さらに宗介をを見て、
「軍曹、軍曹はここから必要なものを持っていけ。それがすんだら八百屋で
食料の調達をしてほしい」
「了解。進路を決めるのは次の放送の後くらいでよろしいですか?」
「そうね、午後から動きましょう」
234 :
別れ5:2005/04/20(水) 07:08:42 ID:6xnzi/yZ
【C3/商店街/11:00】
【正義と自由の同盟】
残り88人
【相良宗介】
【状態】健康
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ 、ショットガン、暗視ゴーグル
【道具】荷物一式、弾薬
【思考】大佐と合流しなければ。
【千鳥かなめ】
【状態】健康、精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの(バイトでウィザード/団員の特殊装備)、 賢石(終わりのクロニクル/1st-G)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】早くテッサと合流しなきゃ。
【小笠原祥子】
【状態】健康
【装備】銀の剣 、ギュエスの剣5本(終わりのクロニクル/アルミ定規ほどの軽さで鋭い)
【道具】荷物一式(毒薬入り。)
【思考】オドーに借りができた。祐巳助けてあげるから。
【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ(撲殺天使ドクロちゃん)、賢石(千鳥と同じ)
【道具】荷物一式
【思考】BBと早く会いたい。
「別れ」にNG判定を出します。
ご迷惑をおかけしました。
二階に上がった俺は、まず足を止めて周囲を警戒した。
新庄にはああ言ったが、わざわざ屋上へ上るのはこちらの理由の方が大きい。
すなわち、勢いで飛び込んだこのビルに他の参加者がいないか。
いたとしてそれが平和的な人間ならいいが、俺はそこまで性善説を信奉していない。
俺がヨルガを取りに行く間に二人が冷たくなっていたら何の意味もないのだ。
足音をできるだけ立てず、知覚眼鏡をフル稼働しながら廊下を歩く。
埃や無機的な匂い分子が視界をよぎり、それら全てを無視。
ドアのごく細い隙間から何か目だった成分が漏れていないか慎重に調べ上げていく。
覗きみたいだが背に腹は代えられない。
俺だってごく親しい女性以外を覗く趣味はない。
ジヴは風呂や着替えを覗くと怒るが、これも愛情表現だと分かってほしいものだ。
表示を目で追いながらつらつらと愚にも付かないことを考えると、
(……いるな)
奥から二番目の扉。そこからまだ揮発してない消毒液の匂いが漏れていた。
だからこそ感じられたこの気配は……俺の方に注意を向けていた。
さてどうする。
新庄みたいなぽややん平和主義者なら、まず声をかけてくるだろう。
殺し合いに乗った賢い馬鹿野郎なら俺が間抜けにもゆっくり歩いてる隙を狙っただろう。
そのどちらかは分からないが、結構な量の消毒液の匂いと混じる微かな血の匂い。
怪我をしていてここに身を潜めているのだろう。俺達と同じだ。
それならば放っておいても危険はないか……いや、そんなわけがあるか。
声量を抑えたわけでない下での会話は、十中八九聞こえていただろう。
踏み込んで無力化しようにも、今の俺に戦闘能力は皆無。
なら……こっちの剣しかないということだ。
「そこにいるお前。こっちに敵意はないから、聞いてほしい」
我ながら間の抜けた台詞だ。返事の代わりに銃弾が扉を突き破れば俺の命はない。
一歩横にずれ、それこそ隙間を覗くようにして喋る。ああもう本気で間抜けだ。
「下には俺の他に二人仲間がいる。どちらも積極的に攻撃はしないが、怪我人を仕留める程度の戦力は持っている」
はったりだ。ミズーは重傷で気絶、新庄は消極的にさえ攻撃できない可能性が高い。
「お互い干渉しないなら、この場でのお前の命は保障する。
ここから出るなり、そのままじっとしてるなり任せる。だが、変な真似をすれば撃つ」
わざとらしく撃鉄を起こす音が静かな廊下に響く。
弾はない。正真正銘ブラフだけの綱渡りだ。
「…………」
返事はないが、こちらの声は届いているらしく呼吸音が微かに乱れる。
「お前もその怪我で荒事は御免だろう。こっちも他に目的があるから怪我人に構ってはいられない。
だから……俺達はいないものと考えろ。同意してくれるなら床を二回叩け」
漏れ出るアンドロステノンの量からすると恐らく男だ。都合が悪い。
ろくな男に会ったことはないことからも危険度は女の256倍と断定。
だが怪我は明白なこの男にとっても悪い申し出ではないはずだ。
脂汗を拭きながら反応か反撃を待つと……コツ、コツ、と確かな音が二つ聞こえた。
聞こえないように大きく息を吐く。
「……分かった。下の二人は二階に上がらせないから無視してくれ。
この後階段を上り下りする音が聞こえるだろうが、それは俺だ」
再びコツ、コツ、と反応。
かくして急ごしらえの契約は締結された。
扉を離れる前、一つだけ柄にもない善意が湧いた。
「クエロ・ラディーン。こいつにだけは気をつけろ。死にはしなくてもろくな目に遭わない」
かつての恋人を貶めるのはひどく無様だが、この状況。
例えばどこかの馬鹿ならここぞとばかり強者を求めてうきうきしているだろう。
が、クエロはどうあっても自分の生存のみを念頭に置いて狡猾に動く。
そのための軽い、牽制とも言えない布石。信じるも信じないも相手次第。
それは善意とは言えないと、階段を上り始めてから気付いた。
【B-3/ビル2F、階段を左に行った奥から二番目の部屋/1日目・08:35】
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿は治療済み。戦闘は無理。疲労。
[装備]:リボルバー(弾数ゼロ) 知覚眼鏡(クルーク・ブリレ)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:屋上で安全ルートの捜索。傷を悪化させてでも、B-1とD-1へ急行。
【緋崎正介】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。それなりに疲労は回復した。
[装備]:探知機(半径50メートル内の参加者を光点で示す)
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本)
[思考]:カプセルを探す。生き残る。次の行動を考え中。
※緋崎正介(ベリアル)は、六時の放送を聞いていません。
(受け止めた?!)
銀色の精霊の拳が美しい長剣に阻まれるのを見て、フリウは戦慄した。
目の前の男は見るからに屈強な戦士然としているが、破壊精霊の一撃を人間が止められるわけがない──はずだった。
(あの剣が──!)
七色に輝く水晶細工の剣。……皮肉なことにまた水晶だ。
ともかくあの剣に何かがあるのは間違いない。
あれをなんとかすれば精霊で、いや念糸でも────
(殺せる?)
簡単にその思考に行き着いてしまい、自身に軽い衝撃を覚える。
(……そういえば、あたし、もう殺しちゃってるんだよね)
胸中で呟く。自分自身で決めてしまったのだ。
彼に武器を渡さないという選択と、彼に念糸を使うという選択。
それに、彼に破壊精霊を使うという選択を。
破壊精霊が消えた後には、あの銀髪の男の死体はなかった。川に流されたのだろう。
どちらにしろ、あの一撃を受けて生身の人間が無事でいられるわけがない。
「──フンッ!」
膠着状態が解かれ、大きく後退した男の太い声が響く。
その刹那、再び振り下ろされた硝化の拳が荒野を跳ね上げ、砂煙が視界を阻んだ。
(……げ)
当然、左眼の世界も茶色に染まる。破壊精霊は即座に砂煙の空間から抜け出た。
そして、ふたたび雄叫びをあげて、拳を振り上げる。砂煙。雄叫び。拳。砂煙──。
破壊するものが見あたらない破壊精霊は、ただ大地に欲求をぶつけるように拳を叩きつける。
やがて砂煙は、こちらにまで広がって来た。
(やばっ!)
このままではぶつかってしまうのではないか。そう考え、慌てて視線を右にずらす。
まるで最初からそこにいたかのように、破壊精霊は右の大地に音もなく出現した。……そして、また同じ行動を繰り返す。
(どうしよ、このままじゃキリがない…………あ)
視界が阻まれているのは相手も同じだ。つまり、逃げられる。
もう一度目の前に砂煙を起こし、閉門式を唱え、背を向けて走り出す。十分可能だろう。
……でも。
(あたしの足で逃げ切れる? あんな見るからに鍛えていそうな人に? もし逃げきれたとしても、また会ったら同じ事になる。
あいつはあたしを確実に殺そうとしてる。人間を料理にするなんて言ってる奴を説得できるわけがない)
それに、もしここで自分が逃げたら他の誰かを殺してしまうかもしれない。
銀髪の男は武器を持っていなかった。だが、今戦っているこの男は立派な剣を持っている。
(今、あいつを止められる──殺すことができるのは、あたしだけ)
正面の砂煙が晴れ始めている。もう一度正面に視線を合わせ、ふたたび破壊精霊を移動させる。
「────!」
あの男の叫ぶ声と、鋭いもの同士が抗いあう音が聞こえた。
精霊と人間がほぼ対等に渡り合える状況など信じたくなかったが、これが現状だ。
(あたしはまた、選ばなきゃいけないんだ……)
リス・オニキスの言葉が脳裏に浮かぶ。
──即座に選べ。選んだ結果が死なら仕方がない。だが、選ぶことも出来ずに死ぬのはくだらない。
以前に、殺さずに殺す感覚を味わったことはあった。一線を超える感覚、とリスは言っていた。
破壊精霊の拳による殺戮は、フリウに何の憎悪も狂喜も残さない。あるのは、油のように重くねばついた感覚だけ。
破壊精霊以外の力で殺したことは、一度もない。一線を超えたことは、なかった。
(決めなくちゃ、いけない。
選ばずに死ぬか。逃げることを選んで、後で死ぬか。逃げることを選んで、あいつが誰かを殺してしまうことを許すのか)
選ばないのは問題外。……では逃げるか?
他人とはいえ、自分と同じ巻き込まれただけの参加者達があいつに殺されてしまうかもしれない。
……もしかしたら、本当にもしかしたら、ミズーを殺してしまうかもしれない。
それは嫌だ。
(なら……、殺すことを、選ぶか)
硝化の拳が大地を舐める音と、男の罵倒する声が耳に響き続ける。
────ふたたび破壊精霊は近くに来た時には、答えは決まっていた。
「──」
素早く閉門式を唱え、折れているであろう肋骨を抑えながら立ち上がる。
そして、砂煙のどこから相手が出てきても対応できるように、ある程度後退する。
(あいつが出てきた瞬間、意思を飛ばせられればいい)
念糸は、相手と自分を繋ぐ思念の道。距離は関係ない。
「ふはははは! やっと正々堂々戦う気になったか!」
そして、待つ暇もなく男が右の方から突進して来た。
(あたしは──殺さなくちゃいけない!)
意味のない叫び声を口から吐き出しながら、胸中で自分に言い聞かせる。
叫びと同時に放たれた念糸は、男の首へと向かった。
「ぬっ! また奇妙な技を!」
フリウから伸びる念糸をふたたび絡め取ろうと、男は足掻いた。
先程のように剣をはじかれても、タックルなぞせずに殴り殺せばいいのだから、まぁ間違ってはいない。
(でも、もう遅い!)
先程とは違い、剣を無視して男の首に集中する。そしてそのまま、
「あ?」
ねじった。
肉と骨が折れる嫌な音が、やけに大きく聞こえた。
重力に逆らうことなく、男の首がごとりと地面に落ちた。
それと同時に、血が首と胴体の両方から泉のように湧き出ていく。
死んだ。
こいつは死んだ。
自分に、殺された。
破壊精霊ではなく、自分の念糸で。
「…………殺した」
意味もなく、つぶやく。否定しがたい恍惚感が身体を包む。
「あたしが、殺した」
身体が震える。耐えられずにその場にへたりこむ。暑いのか寒いのかわからないあの感覚が、数ヶ月ぶりによみがえった。
「……とにかく、逃げないと」
この場を誰かに見られるかもしれない。
正当防衛であることは確かだが、首と胴体が離れた死体を見たらいい感情は持たないだろう。
「逃げないと」
興奮を抑えながら立ち上がり、北にみえる森へと歩き出した。森ならば、身を隠せるだろう。
眠るように気絶していた分、体力は残っていた。
精神の方は、自分で自覚できるほどに異常ではあったが。
「早く、にげないと」
うわごとのように呟きながら、フリウはよろよろと足を運ばせた。
【オフレッサー 死亡】
【残り86人】
【B-5/枯れた川/06:55】
【フリウ・ハリスコー】
[状態]: 興奮中。右腕に火傷。顔に泥の靴跡。肋骨骨折
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)
[道具]: デイパック(支給品一式)
[思考]: A-5の森で休む。ミズーを探す。
※第一回の放送を一切聞いていません。ベリアルが死亡したと思っています。
ウルトプライドの力が制限されていることをまだ知覚していません。
※ガラスの剣は周囲のどこかに放置。水晶の剣はオフレッサーの死体のそばで放置(血の海の中)
宗介とかなめがクルツの死を悲しみつつ商店街を歩いている時、
彼らと一時別れた祥子・しずく・オドーの三人はまじめに食料を探していた。
「BBは何処にいるんでしょうか…?火乃香さんのことも気がかりです」
誰にともなくしずくはつぶやいた。
今、自分は商店街の端にある酒屋の中で食料を探している。
しかし意識はこのゲームに参加しているはずの知人の方へと向けられる。
「そもそもザ・サード管理下にある私達をどのように連れ出したのでしょう…痛っ!」
思考に集中していたため、足元にあるわずかなへこみに足をとられて転倒。
(何してんでしょう私…)
「大丈夫ですか?」
転んだしずくに祥子が手を伸ばす。
「あ、はい、大丈夫です」
しずくは手をとって立ちあがった。
「そういえばオドーさんはどこですか?」
「彼ならお店の外で待っていますわ」
店の外を見ると思考にふけっているオドーの姿があった。
背中には背負っているデイバックは食材を詰め込んでいるはずなのにちっとも膨らんでいない。
『何を考えているのかしら?まさか・・・』
自分のことに勘づいたのか?祥子の顔に不安の色が浮かんだ。
オドーには気がかりな事があった。
「恐ろしい、恐ろしい民族だな。日本人とは…」
原因は先ほどからの千鳥と宗介の様子だった。
宗介に出会ったのもつかの間、いきなり千鳥は宗介に蹴りを入れ、
空腹を指摘されるとバックで顔面を殴打した。
しかも彼女にはそれが日常らしく、彼女は普通の高校生だという。
「ならば、ならば普通の高校生は日常的に闘争の中に置かれていることになる」
日本で暮らす事になった自分の唯一の血族である、
ヒオ=サンダーソンのことが猛烈に心配だった。
(あの娘は、あの娘は本当に大丈夫だろうか…!)
そんなオドーの心を吹き飛ばすように声が聞こえた。
しずくが自分を呼んでいる。
「どうかしたんですか?オドーさん」
「いや、少々、少々気になることがあってな。
これで買うものは揃えたか?」
「ええ、大体は。
まだ少し時間がありますね、どうしましょう?」
「そうだな、どうせなら、どうせなら隠れる場所も見つけておくとしよう。
先ほどの場所は色々と都合が悪い」
---数分後---
三人は少し怪しげな地下にある店の中にいた。
「オドーさん、ここって・・・。」
看板を見る『クラブ・パラダイス』と書いてある。
「いわゆる、いわゆるクラブだな」
「なぜこのようなふしだらな場所に?」
祥子が不機嫌そうに問う。
「見つかる可能性が低いし出入り口が一つだけだから奇襲が不可能だ。
お嬢さん方には少々、少々居心地が悪いかもしれんが」
少し笑いながらオドーが言った。
「私は大丈夫ですけど・・・」
「仕方がないですか・・・」
オドーに続いて祥子・しずくも店に入っていく。
中はいかにも《それ》な感じだった。
どっかりと座れるソファー、机がありカウンターもある。
少し奥の部屋にはキッチンもあった。
「これは、これは休憩するにはもってこいの場所だ。」
笑いながらオドーが言う。
「それではこちらに集合しましょうか?」
「そうするとしよう。しずく、千鳥と軍曹を呼んできてくれ」
しずくが去った後、オドーと祥子だけが残された。
二人はソファーに座って向かい合った。
「・・・さて、さて我々は本題に入ろうか」
急に真面目な顔つきになったオドーをみて祥子はたじろぐ。
「何のことです?私に問題でも?」
「なかなかの、なかなかの演技力だった。しかし貴様は軍曹に注意を払いすぎだ。
不自然なほどにな」
「当然です。あの人は、会ったばかりの私を殺そうとしました」
「あくまで、あくまでしらを通すつもりか?ならばこちらにも考えがある。」
そういうとオドーは指を鳴らした
見えない力が祥子を押し付けた。
「ぐっ!なんですかこれは!?」
ソファーに押し付けられて祥子は口を開いた。
「これが、これが私の力だ、手加減はしているが。」
「…」
相当な力で押し付けられる、体が潰れそうだ。
「時間が、時間が無いのでな。駆け足で質問させてもらおうか」
ここぞとばかりにオドーが睨み付ける。
喋らなければ殺される、そう察した祥子は真実を話した。
「そういう、そういうことか。要するに人探しの途中か、危ない橋も渡ってきたようだな」
「はい…」
祥子は全て真実を話したが、一つ嘘をついた。
彼女の殺人は全て相手が襲ってきてそれに立ち向かった結果とした。
オドーの指が扉をさす。
「止めはしない、彼らが、彼らが来ないうちに行くといい」
「私は敵となるかもしれないのに…なぜ?」
「簡単な、簡単なことだ。獅子身中の虫などいらぬ、だが自ら進んで殺す気もない。
私はこんな下らんゲームには反対なんでな」
「そうですか・・・では、私はお言葉道理に行かせてもらいます」
銀の剣を握りしめ、踵を返す。
パラダイスから去り行く祥子にオドーは声をかける。
「探し人が、探し人が見つかったら戻ってきてほしい。
共に脱出法方を考えよう…」
祥子の返事は聞こえなかった…。
しずくに呼ばれた宗介達は少し遅れてパラダイスにやってきた。
飲料水確保に手間取っていたらしい。
宗介は祥子が居ないことに気づき、
「大佐、あの女は何処に?野放しにすると危険ぐはぁ!…何をする千鳥」
「うるさい!ったくあんたはどーしてそうネガティブな方向へ話を持ってくのよ!」
「しかし、常に最悪の状況を考えて行動しなければ最悪の事態に陥る、この前とある国の…」
オドーは二撃目を叩き込もうとする千鳥を制し、
「もうよい、もうよいのだよ軍曹。彼女は人探しの途中だった、群れるより
単独の方が動きやすい。だから別れた、過去のことはこの際忘れろ」
「…了解しました」
場に漂う気まずい雰囲気を壊すため、かなめが口を開いた。
「それにしてもこんな場所で休憩ってなんかヤダなー」
「そうか?これほど敵からの奇襲を防ぎやすく心休まる場所はなかなかないと思うが」
「そういう意味じゃないってんの、全くこれだからこいつは・・・」
「ハッハッハ、確かに、確かにそのとおりだ軍曹。
かなめ、おまえのボーイフレンドはおもしろいやつだな。」
「お褒めに預かり光栄であります、サー」
「褒めてないって・・・。
それとオドーさん、こいつはボーイフレンドでもなんでもありませんから!」
「アプローチは、アプローチはかけてないのか軍曹?」
「いえ、大佐、今以上のアプローチはおそらく不可能かと」
「ちょっ・・・!あんたなんか勘違いしてるわよ!」
「ん?アプローチの意味ぐらい理解しているが?」
「馬鹿!この場合のアプローチっていうのはね、その・・・」
「前途、前途多難だなかなめ」
会話が大分それてきた所でしずくが本題に引き戻す。
「じゃあこれからどうしましょうか?」 、
「おっと話がそれていたな。そうだな、とりあえず、とりあえずは食事を取るとしよう。
そのあとはこの後の行動の検討。私と軍曹の腕の見せ所だな」
さらに宗介をを見て、
「軍曹、軍曹は何か意見があるか?」
「ハッ、進路を決めるのは次の放送の後からのほうがよろしいのではないかと。」
「ふむ・・・そうだな、それでは、それではそうするとしよう」
「そんじゃあ今からはあたしの出番ね、しずくも手伝ってくれる?」
「はい。」
二人はキッチンへ向かっていく。
「軍曹、彼女の、彼女の料理の腕は?」
「ハッ、自分が食したところでは問題ありません。」
「手料理を食べたことがあるのか!?やはり、やはり軍曹、君は彼女に・・・」
「オドーさん、そこらへんにしとかないと・・・。」
いつのまに後ろにいたのか、かなめだ。
周りにはオーラが満ちている。
戦場でにいた彼らにはすぐ分かった、これは・・・殺気だ。
「すまん、かなめ、かなめ、悪かった」
まずいと悟ったのか流石のオドーも素直に謝る。
釘を刺した後かなめは再びキッチンに戻っていく。
「軍曹、君も、君も大変だな」
「・・・肯定であります、サー」
二人がため息をつくのは同時だった。
【C3/商店街/11:00】
【正義と自由の同盟】
残り88人
【相良宗介】
【状態】健康
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ
【道具】荷物一式、弾薬
【思考】大佐と合流しなければ。
【千鳥かなめ】
【状態】健康、精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの(バイトでウィザード/団員の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】早くテッサと合流しなきゃ。
【小笠原祥子】
【状態】健康
【装備】銀の剣
【道具】荷物一式(毒薬入り。)
【思考】オドーに借りができた。祐巳助けてあげるから。
【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ(撲殺天使ドクロちゃん)
【道具】荷物一式
【思考】BBと早く会いたい。
【オドー】
【状態】健康
【装備】アンチロックドブレード(戯言シリーズ))
【道具】荷物一式(支給品入り)
【思考】協力者を募る。知り合いとの合流。皆を守る。
この『赤い薔薇とのフェアウェル(別れ)』はID:6xnzi/yZさんの作品『別れ』を作者の許可を得て修正、推敲したものであります。
この作品の投下を許可してくださった皆様に深く感謝の意を表します。
「ふぅ……」
ガユスが上がっていった後、新庄は深々と嘆息した。
(何やってるんだろう、ボク)
三人の中で自分が唯一無傷だというのに、ガユスに任せてしまった。
いくら咒式とかいう術で治癒できるにしても、その道中は危険に違いないのだ。
とはいえ、ミズーを放っておくわけにはもちろんいかず、自分の持つ剣は防衛に向いている。
Ex-Stでもあればまだ積極的に動けるのに、と再び嘆息。
「戦力面で駄目なら……考えるしかないよね」
地図を前にして首を傾げる。
「佐山君ならどう動くかな……?」
この殺し合いを止めようとする。それは間違いない。
まず出雲と風見と自分を見つけようとする。その確率も高いだろう。
同行者がいるにしても佐山は我を貫くだろうと、そこまでは予測できる。
(でもひょっとして、佐山君もボク達の動きを考えて動いてたらすれ違いになるかな……)
それならば一番高いところに上るという佐山的選択は捨てていいかもしれない。
なら向こうは自分の動向をどう予測するだろうか。
『ふふふ! 新庄君といえば尻、尻と言えば水浴び! 湖へ行くぞ諸君、尻が待っている!』
思考を三秒で打ち切った。
「あ……でも尻といえば……」
変なことを思い浮かべたせいだろうか、自分の最大の特性に思い至った。
途端、新庄の周りを微風が包んだ。
「や……こ、こんなときに……」
白い水蒸気のようなものが浮かんで消えると、そこには一見変わらぬ新庄がへたり込んでいた。
「切になっちゃった……」
いつもの時間に変化しないので油断していた。
女物の服の胸元が頼りなく垂れ、裸になったような感覚に新庄は身を縮める。
「ど、どうしよう……まだガユスさんたちに説明してなかったし……女物の服じゃ落ち着かないし……」
きょろきょろと見回しても、残念ながら衣服はない。
スカートの裾が鬱陶しいほどに意識される。
困った。下りてくるガユスに説明する必要があるが、時間をとらせるわけにもいかない。
あのなんとかブリュレとかいう高性能な眼鏡は誤魔化せそうもない。
(き、嫌われたりしないかな? ガユスさん女の子好きっぽいし)
忙しなげに太ももを擦り合わせる仕草がひどく色っぽい。
こんなとき屁理屈大王の佐山ならどう対処するだろうか、と再び思考。
『心配は要らないよ新庄君。運君であろうと切君であろうと君の肉体は等しくまロいのだから!』
一秒で打ち切った。
【B-3/ビル一階/一日目/08:35】
【ミズー・ビアンカ】
[状態]:気絶。左腕は動かず。
[装備]:グルカナイフ
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:気絶
【新庄・運切】
[状態]:切(男体)に変化。動揺。
[装備]:蟲の紋章の剣 救急箱
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:1、下りてくるガユスに説明 2、佐山達との合流 3、殺し合いをやめさせる
ライターの仕組みを知らずとも、火のつけ方を覚える事はできる。
悪魔が使えるからといって、超常現象が何でも理解できるわけではない。
(「呪いの刻印」か……なんとなく寄生型の悪魔に雰囲気が似とるけど、別物やな)
己の魂を調べてはみたものの、これくらいしか分からなかった。
(寄生型の悪魔やったら、寄生された側の様子が本体に筒抜けなんやけど……)
あるいは「呪いの刻印」も、術者に情報を送るものなのだろうか。
(あー、少なくとも位置情報は送っとるな。発信機がわりに使えるみたいやし)
ダクトの向こうの音を聞き、手の中の探知機を見ながら、考えを巡らせる。
(この探知機と同じ物か、もっと高性能な物を、主催者側も持っとるはず……)
こちらの位置情報は主催者側に把握されている、と考えるのが妥当だろう。
さっきから、ダクトの向こうでは物音が連続している。
(探し物か? 俺も武器になるもん探したいけど、騒ぐと居るんがバレるか)
食欲は無かったが、今のうちに食べておいた方がいいかもしれない。
(腹の虫が鳴いたせいで見つかったりしたら、死ぬほど間抜けやしな)
デイパックに手を伸ばした瞬間、向こうの物音が消えた。会話する声だけが残る。
(お? 何や?)
今度は、なんとなく扉を開閉したような音がした。あわてて探知機を覗き込む。
画面の端あたりに光点が一つ表示され、しかも、だんだん近づいてくる。
(確か、あの場所は階段やったな……動きからして、一階から来たみたいやけど)
相手は周囲を探索しているらしいが、ほとんど足音が聞こえてこない。
じっと気配を殺して待つ。だが、相手はこちらに気づいてしまったようだ。
こちらが相手に気づいている事も、おそらく既に悟られている。
どうするか迷っているうちに、相手から話しかけてきた。
「そこにいるお前。こっちに敵意はないから、聞いてほしい」
(ふむ……手持ちの情報が一気に増えた訳やけど……)
話しかけてきた相手は、銃を持った男。彼は、こちらが怪我人だと気づいている。
それなりに強い仲間が一階に二人居り、積極的に戦う意思は無く、殺人以外の目的があり、
こちらには干渉してほしくないそうだ。本当かどうかは知らないが。
とりあえず無難そうな答えを返しておいたら、あっさりと男は去っていった。
「クエロ・ラディーン。こいつにだけは気をつけろ。死にはしなくてもろくな目に遭わない」
最後のセリフは、親切で言ってくれたのだろう。多分。
(どないするべきなんやろか……)
キャラクターの状態は「口先の龍理使い」と基本的に同じですが、
緋崎正介に関して補足があります。
【B-3/ビル2F、階段を左に行った奥から二番目の部屋/1日目・08:35】
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿は治療済み。戦闘は無理。疲労。
[装備]:リボルバー(弾数ゼロ) 知覚眼鏡(クルーク・ブリレ)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:屋上で安全ルートの捜索。傷を悪化させてでも、B-1とD-1へ急行。
【緋崎正介】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。それなりに疲労は回復した。
[装備]:探知機(半径50メートル内の参加者を光点で示す)
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本)
[思考]:カプセルを探す。生き残る。次の行動を考え中。
※緋崎正介(ベリアル)は、六時の放送を聞いていません。
※「呪いの刻印」の発信機的機能に気づいています。
※その他の機能(盗聴など)については、まだ正確に判断できていません。
一人の少年が、薄暗い洞窟の中、岩に持たれて真っ黒な天井を見上げていた。
そして天井を見上げるその目は、どこか虚ろだった。
よく見ると、彼は少年ではなく、精悍な顔立ちの少女だと分かる。
「これで、これでいいんですよね……師匠」
少女がポツリと呟く。その時、
「それはどうかな?」
唐突に彼女の目の前から声が聞こえてきた。女のようでも、男のようでもある
不思議な声だった。少女がゆっくりと顔を下げる。
「それはどうかな?君は本当にそれでいいと思っているのかな?」
そう言うそいつは黒帽子をかぶっていて、筒のようなシルエットをしていた。
「誰……ですか?……」
少女が黒帽子を見て、警戒するように訊いた。その手はすでに、腰のナイフにのびている。
「殺そうとしている相手の名前なんかどうだっていいだろう」
黒帽子の言葉に、少女はナイフを握っていた手をこわばらせた。
カランカランと、ナイフが硬い地面を転がる音が洞窟内に響く。
「しかし、君のような奴がいると思うと彼女が心配だな。気絶させてきたのは失敗だったか?」
――カチャリ
銃を構える音に、遠くを見ていた黒帽子は、視線を少女に戻す。
黒光りする拳銃の銃口が、黒帽子を完全に捕らえていた。
それを見る黒帽子に、全く同様の色はない。
そして、少女の方にも、まったく迷いの色は無かった。
「ぱぁん」
一ミリのずれも無く、黒帽子の心臓を捕らえていた銃口から、鉛の弾丸が吐き出される。
しかし、黒帽子の行動は早かった。少女が引き金を引く前に横に動いて、弾丸が黒帽子の元いた
場所を通り過ぎる頃には、完全に射線上からずれていた。
そして、放たれた弾丸が反対側の壁を削る頃には、もう勝負が付いていた。
黒帽子の持っていた包丁が、少女の首筋に添えられていたからだ。
「ここの入り口があった家から頂戴してきたんだ。いや、何も持っていなかったから助かったよ」
少女はもう動かなかった。動けば、黒帽子の包丁が彼女の頚動脈を掻っ切るのは明確だったからだ。
「本当は、こんなことはしたくないんだがね。どうやら僕の存在に制限がかかっているみたいで、君が本当に世界の敵かどうか
確信が持てないんだ。いやはや、本当に困った」
そう言って、黒帽子は困っているような、楽しんでいるような、左右非対称の笑みを浮かべた。
「さて、もう一度訊こう。君は本当に、それでいいと思っているのかい?」
「……ボクは――」
少女はゆっくりと口を開いた。
「これでいいと思っています。師匠は、ボクのために死んだ……だからボクは、この島にいる人達全員を敵に回してでも
絶対に生き残ります。だから――」
「だから?」
「だからここで、貴方に殺されるわけには行かない」
それは寂しそうな、しかし決意に満ちた声だった。
その少女を、黒帽子は真剣な目で見つめている。
どれくらいその時間が続いただろうか……唐突に、黒帽子が口を開いた。
「どうやら、君は世界の敵ではないようだ。君は相手の意思と自分の意思を取り違えているが、しかし真っ直ぐだ。
世界の敵のように歪んでいない。……失礼したね、どうやら僕の間違いのようだ」
黒帽子はすまなさそうな、哀れんでいるような、左右非対称の笑みを浮かべると、首筋に突きつけていた包丁を離した。
「それではさようなら、キノくん。お気をつけて」
黒帽子はそれだけ言うと、キノが目を離した一瞬のうちに、初めからそこに居なかったかのように消えうせた。
キノと呼ばれた少女は、ナイフを拾って腰に戻すと立ち上がる。
(君は相手の意思と自分の意思を取り違えている)
キノは目を閉じて、さっきの黒帽子が言った言葉を反芻する。
「あ……そういえば、なんでさっきの人は、ボクの名前を知っていたんだろう……」
キノはまあいいか、と言うと、奥へと続く通路を歩き出した。
【C3C4D3D4の地下に広がる地底湖・1日目・11:00】
【残り88人】
【キノ】
[状態]:通常。
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン、ショットガンの弾2発。
:ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り9発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。
【宮下籐花(ブギーポップ)】
[状態]:健康
[装備]:包丁
[道具]:支給品一式。デイパックの中にブギーポップの衣装
[思考]:世界の敵を探す。
「ふぉーっふぉっふぉっふぉっふぉ!」
どこからか、魔の声が聞こえてくる。
木に隠れながら、悠二は呟く。
「くっ・・・何で僕があんな化け物に追いかけられなきゃいけないんだ…」
いまだに悠二を探し続けるボン太君の叫びを聞きながら、なぜこんなことになったのかの過程を思い出す。
「なんだ、これ……」
目前で奇妙な叫びを上げるボン太君を見ながら、悠二は呟いた。
きぐるみに覆われているので、表情は分からない。
だが、きぐるみから発せられる禍々しい気配から、中の人(人か?)が危険人物と判断出来る。
(…関わらない方がいいな)
そう判断した悠二は、踵を返そうとするが、
「ふぉふぉ! ふぉふふぉふぃふぉーふぇん! ふぉふぃふぉふぉい!」
こちらに気付かれ、声をかけられた。
きぐるみを着ているせいで、何と言っているのか全く分からない。
返答に困っていると、いきなり怒った様子でこちらに走ってきた。
(ヤバイ! 早くにげなきゃ!)
そして悠二は南を向き、全速力で駆けていった。
何かが粉砕される轟音を聞いて、ハッっとなる。
いつのまにかあの化け物がこちらへと向かっていた。
「しつこすぎる…」
このまま留まっていては、いつか発見されてしまう。殺されるわけにはいかない。
そう思い打開策を考える。
いくら走力があっても、森なら別だ。
あの巨体なら、木にひっかかってうまく動けないだろう。
なら、体格の小さい自分の方が有利。
「よし…これなら逃げ切れる」
悠二は、大きく深呼吸してからさらに森の奥へと駆けた。
「ふぉーっふぉっふぉっふぉっふぉ!」
息を荒くしながら、悠二は駆ける。
「嘘だろ…!?」
後ろを見て己の目を疑った。
あの化け物を阻むはずだった木は、どれも化け物の体に当たると粉砕されていった。
追いつかれるのは、時間の問題。
(ああ、ここで終わるのか、僕…)
諦めながら走っていたそのとき。
ドンッ!
誰かにぶつかって、盛大に地面を転がった。
痛む体に耐えながら、ぶつかった相手を見る。
銀髪で、黒い服を着ていた。刺青のある美しい顔と、美しい剣を携えてこちらを睨んでいる。
もう、こうするしかない。
「た、助けて下さい! 化け物に追われているんです!」
男が眉を顰めながら、答える。
「ぶつかった相手に、謝罪もせずに面倒事を押し付けるのが貴様の礼儀か?」
「うぅ…」
そして少し考えた後、口を開いた。
「…いいだろう。その化け物とやらからお前を逃がしてやろう」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「ただし…」
条件として、男は食料と水を要求してきた。
「わ、分かりました。どうぞ」
悠二はデイバッグから要求された物を取り出し、男に渡した。
「うむ。貴様はさっさと逃げた方が良い」
「はい、ありがとうございます!」
そして悠二はその場から逃げ去った。
「ハハハっ! 私は運が良いな!」
森の中で、ギギナは嗤っていた。
「化け物というからには、さぞ強いのだろうな!」
そしてギギナの前にあった木を粉砕して、《化け物》が現れた。
【F-5/森/1日目・7:02】
【残り88人】
【小早川奈津子】
[状態]:絶好調
[装備]:コキュートス(アラストール入り。アラストールは奈津子の詳細を知らず)
ボン太君量産型(脱衣不可能)
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:1.竜堂終と鳥羽茉理への天誅。2.正義のための尊い犠牲をこの手で
【坂井悠二】
[状態]:かなり疲労。かすり傷多数
[装備]:狙撃銃PSG-1
[道具]:デイバック(食料、水なし)
[思考]:1.この場から離れる 2.長門さんとシャナの捜索
【ギギナ】
[状態]:狂喜
[装備]:魂砕き
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:化け物と戦う
フォルテッシモが見たもの、それは自分の周りにある結界だった。
保胤は、フォルテッシモの目がくらんでいる隙に
射程外の位置の三方向に符を設置し結界を作ったのだ。
気づいた時には、フォルテッシモは結界に閉じ込められた。
「ひとまず、あなたを結界に閉じ込めさせていただきました。
少したてば自然に結界は解けるはずなので安心してください。
その間に私達はこの場から立ち去ることにします。」
保胤はフォルテッシモにそう宣言した。
フォルテッシモはためしに結界に触れてみた。
感触は何もないが結界を超えることはできない。
見えない空気の壁でも存在しているかのようだ。
保胤の策は決まったかに見えた。
ところが・・・
次の瞬間、フォルテッシモは前方にある結界の一つの面を空間ごと切り裂いた。
そして、フォルテッシモは結界から出るとここで保胤との距離を詰める。
一気に勝負をつけてしまうというのだろう。
だが、ここでセルティがフォルテッシモに側面より強襲を仕掛けた。
セルティはずっと離れた場所で様子をうかがっていた。
別にぼけっとしていたわけではない。
フォルテッシモはずっと保胤ばかりを気にしていて、こちらにはほとんど注意を向けている様子はなかった。
正攻法で行ってもフォルテッシモの能力でやられてしまうだけだ。
そう判断してずっとフォルテッシモに隙が出来るのを待っていたのだ。
保胤が目潰しを使った時、普通に考えればこれも隙になるのだが
フォルテッシモは目を潰されながらも余裕を持っていた。
もしこの時、近づいて攻撃していれば、セルティは投げられた符と同じ運命となっていたことだろう。
しかし、今フォルテッシモは保胤に対して攻勢に出ようとしている。
今なら相手も反応できないはずだ。
武器はもっていなかったが、素手での戦いは慣れている。
影から鎌を作り出すことも出来たが、そんな目立つことをすれば相手の注意がこちらに向いてしまうだろう。
セルティは素手のままフォルテッシモに突っ込んでいった。
フォルテッシモは保胤との距離を一気に詰めていく。
しかし、正確な攻撃の出来る射程範囲に入る前に、横からセルティが突っ込んできた。
だが、フォルテッシモはそれを読んでいた。
フォルテッシモはイナズマと初めて戦った時、相手一人を意識しすぎてしまったために
乱入してきた谷口正樹に対応できず、攻撃を食らってしまった経験がある。
同じことが起こらないように、フォルテッシモは周りも気にしていたのだ。
あの時とは違いここは砂漠の真ん中である。近くに隠れられるような場所ほとんど無い。
ようは、二人だけを気にしていればいい。
戦いなれしているフォルテッシモにとって、このくらいのことは簡単だった。
セルティが射程範囲内に入ってきたところで、フォルテッシモはセルティのほうに向き直った。
だが、いざ攻撃しようという段階で一瞬の迷いが生じてしまった。
どこを攻撃すればよいのか、考えてしまったのだ。
いつもは習慣的に頭を狙う。頭を吹っ飛ばして生きていられる人間はいないからだ。
ところが、このセルティという名の女には首から上が最初からない。
最初に会った時には目を引いたが、たいした問題ではないと深くは考えていなかったのだ。
(いくら首がないとしても、胴体を真っ二つに切断してしまえば無事ではすまないはずだ。)
フォルテッシモはセルティの胴体を攻撃対象とすることにした。
だが、その一瞬の迷いが事態を変えてしまう。
保胤はフォルテッシモが距離を詰めてくるのを見て後ろの方向へ跳躍する予定だった。
陰陽師は術により、常人よりも大きく跳躍したり、水面を歩いたりすることができる。
だが、ここで予想外のことが起こってしまった。
セルティがフォルテッシモに突っ込んでいくのが見えたのだ。
隙を突いたつもりのようだが、フォルテッシモは予想していたようだ。
セルティが危ない、そう考え保胤はセルティに向かって跳躍した。
セルティの拳が相手に届く前に、フォルテッシモはセルティの方向に向き直った。
保胤もセルティの方向に跳んではいるが間に合いそうにない。
(このままでは・・・!)
だが、ここでフォルテッシモは攻撃を一瞬遅らせた。
保胤はその一瞬のおかげで、何とかセルティを突き飛ばすことができた。
セルティは保胤に突き飛ばされたおかげで攻撃を受けず、地面に転がり込む。
しかし、次の瞬間保胤は体をずたずたに切り裂かれ、その場に倒れこんだ。
幸い真っ二つにはならなかったが、全身血まみれだった。
「馬鹿な・・・この状況下で・・・捨て身で仲間を助けるだと?」
フォルテッシモはうわ言の様につぶやいている。
セルティはこの間に保胤を担ぎ上げて逃げ出そうとしている。
だが、フォルテッシモをそれをぼんやりと眺めるばかりだ。
「イナズマと最初に戦った時のあいつと同じだ。」
フォルテッシモの声はわずかに震えていた。
ライダースーツが保胤の血をはじく。ぬるぬるとして滑ってしまう。
それでも、セルティは力任せに保胤を担ぐと北西の方向に走り出した。
本当は逃げたくはなかったのだが、フォルテッシモという男の能力は強力すぎる。
自分にはとても太刀打ちできそうもない。
保胤もいくつかの術を使って対処していたがそのほとんどが効果がなかった。
力任せにいくしかない自分は隙を突いたつもりだったのだが、最初から読まれていた。
(くそ!私があそこで飛び出したりしていなければ!)
セルティは自分の無力さを悔やんだ。
フォルテッシモは、保胤を背負って逃げ去っていくセルティをそのまま見送った。
(あの保胤という男はもう助からないな。奴の隠された力を見てみたかった)
「ちっ!」
フォルテッシモは不機嫌そうに舌打ちをするとその場から歩み去った。
セルティ達はほんの数時間前までいたA−1の島津由乃の墓の前に再びやってきた。
保胤は瀕死の状態だ。出血はまだ続いていた。
(まずは傷の手当てだけでもしなければ)
セルティは保胤をその場に下ろすと、傷の手当ての出来そうなものがないか荷物を調べた。
二人ともデイパックを背負い続けていたので、荷物自体は無事だった。
せめて包帯の代わりになるものが欲しいのだが代わりになりそうなものは何もなかった。
さすがに、紙では包帯の代わりにはならない。
セルティの着ている服にしても皮製のライダースーツを包帯にするには無理がある。
結局、保胤のボロボロになってしまった着物を代用することにした。
しかし、この状態で今更傷の手当てをしたところで助かるのだろうか。
だが、このまま放っておくわけにはいかない。
せめて消毒だけでもしようと、セルティは保胤の荷物の中にあった酒を取り出した。
消毒用の薬があれば一番なのだがこの状況では贅沢は言っていられない。
保胤のボロボロになった着物の一部を破り、酒をしみこまして傷口を拭いていく。
傷自体はたくさんあるがそれほど深くはない。だが、出血量が尋常ではない。
血は全然凝固しておらず、出血が止まる気配はない。
一通り拭いたところで、着物の布を利用して傷口を包帯で巻いていく。
巻いた着物の布が血をすってすぐに真っ赤となった。
隙間から血が染み出してきて滴りだす。出血が止まらない。
(このまま血が止まらなければ危険だ。どうすれば・・・)
セルティは焦ったが、医者でもない彼女にとってはこれ以上は何をすればいいのか検討もつかない。
セルティは最後に、気付けにと保胤の口に酒をふくませた。
すると保胤に劇的な変化が起こった。
突然、地面に溜まっていた血が見る見るうちに保胤に戻りだしたのだ。
まるでビデオの巻き戻しを見ているような光景だった。
布に染み付いていた血も見る見るうちに消えていく。
傷口のなかに戻っていっているのだ。
全てが終わった後、セルティは恐る恐る巻きつけた布をほどいた。
傷は完全に消えていた。
(なんなんだ、これは・・・。この酒が原因なのか?)
先ほど飲ませた酒は「不死の酒(未完成)」と書いてある。
(「不死の酒」だと、まさか)
驚愕するセルティの傍らで保胤は静かに眠り続けていた。
【B−2/砂漠の中/1日目・08:40】
【フォルテッシモ(049)】
【状態】不機嫌
【装備】ラジオ
【道具】荷物ワンセット
【思考】ブラブラ歩きながら強者探し。早く強くなれ風の騎士
【行動】いずこかへと歩き去る
【A−1/島津由乃の墓の前/1日目・09:30】
『紙の利用は計画的に』
【慶滋保胤(070)】
[状態]:不死化(不完全ver)、昏睡状態(体力の消耗と精神の消耗による)
[装備]:ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている
[道具]:デイパック(支給品入り) 、「不死の酒(未完成)」(残りは約半分くらい)、綿毛のタンポポ
[思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/ 島津由乃が成仏できるよう願っている
【セルティ(036)】
[状態]:正常
[装備]:黒いライダースーツ
[道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)、携帯電話
[思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/保胤の傷が突然治ったことに驚愕
[チーム備考]:『目指せ建国チーム』の依頼でゼルガディス、アメリア、坂井悠二を捜索。
定期的にリナ達と連絡を取る
※不死化(不完全ver)について
原作(バッカーノ!)の設定のままではバランスが悪すぎるので以下の通りとします
・傷はその圧倒的な治癒力ですぐに回復するが、体力は回復しない
・完全な不死ではなく、一般人よりも即死しにくい程度とする
・不老ではない、完全な不死者には一方的に食われる、という設定は原作のまま
「大事な……妹さんなんですね」
歩きながら藤花が訊いた。
「まあね」
少し照れながらも麗芳は答える。
二人は広い草原を、雑談を交わしながら歩いていた。
(いいな――麗芳さん)
藤花に姉妹はいない。それどころか親との仲も大してよくない。
それに対して守るべき妹がいる麗芳を、素直に「いいな」と思っていた。
しかし、藤花はそんなことをおくびにも出さずにまた雑談を始める。
本人は気付いていないだろうが、麗芳の話は全て、妹と言う淑芳につながっていた。
「しかし、自分よりも他人を愛す、それは少しだけ危険だ」
唐突に藤花が口を開く。しかしその声は、男のようでも女のようでもある、奇妙な声だった。
「え?」
そう言って、麗芳は立ち止まってしまう。
「今、藤花ちゃん…なんて?」
「へ?わたし、別に何も言ってませんけど……」
困惑気味の麗芳に対し、不思議そうに言う藤花。
(空耳?それにしてははっきりしていた様な……)
「ごめん……なんでもないわ。少し疲れてるみたい」
「はぁ……」
そんなやりとりをして、二人は再び歩き出した。
しかし、少し歩いたところでまた声がした。
「でも、そんなもの行き過ぎなければ世界の危機でもなんでもない。まぁ、世界の危機なんてものは、
たいていそういった“行き過ぎなければ大した事の無い物”なんだけどね」
「またっ!?」
「えっ?…またって……何がですか?」
(やっぱり、この娘が言ってたんだわ。でも自分が言ったことに気づいていない……?)
少し考え込んでしまう麗芳。そんな麗芳に、後ろから声がかかる。
「どうやら君は、世界の敵ではないようだ。しかし、相手の話を聞かないと世界の敵かどうかも分からない
なんて、ブギーポップの名折れだな」
(油断した!?後ろを取られた!)
「しまっ――」
――とんっ
振り向こうとする麗芳。しかし彼女が振り向くより早く、藤花の手刀が麗芳に当て身を食らわせていた。
「うっ」
崩れ落ちる麗芳を藤花は見ようともせず、バックの中から奇妙な衣装を取り出していた。
藤花は、その筒のような衣装を着終わると、麗芳を見下ろしていった。
「悪いが、少し寝てもらうよ。存在を制限されている今、自力で『世界の敵』を探さなくてはいけないのでね」
奇妙な衣装を着た藤花は、麗芳をうまく背の高い草で隠した。
「それではさようなら麗芳くん。君の守るべきものが妹さんであるように、僕の守るべきものは世界なんでね」
麗芳を隠した藤花はそう言うと、スタスタと歩いていった。
それは、今から世界の敵を倒しに行くような足取りではなく、『ちょっとコンビニへ』と言うような
軽いものであった。
―― 数分後 ――
「おや?こんなところに女の子が」
涸れた湖から出た『ED』ことエドワース・シーズワークス・マークウィッスルは、
草原に倒れる一人の少女を見つけた。
【C−7/湖底のそば/07:00】
【宮下藤花(ブギーポップ)】
[状態]:健康
[装備]:ブギーポップの衣装
[道具]:支給品一式。
[思考]:世界の敵の捜索
【李麗芳】
[状態]:気絶
[装備]:凪のスタンロッド
[道具]:支給品一式
[思考]:淑芳を探す/ゲームからの脱出
【ED(エドワーズ・マークウィッスル)】
【状態】健康
【道具】飲み薬セット
【装備】仮面
【思考】同盟の結成/ヒースロゥを探す
【行動】少女をどうにかする
※この話は『Are You Enemy? 』に続きます。
現れたのはネズミのような熊のような、しかし柄はキリンのような奇怪な動物だった。
さしものギギナも一瞬呆気にとられる。
「ふもっふふもっ!(うほっ、いい男!)」
数々の美男を無惨に食い散らかした奈津子から見てさえ、ギギナの美しさは際だっていた。
憎き竜堂家の次男と比べても遜色ないほどに。
「ふもふもっふふもっふ!(そなたが生まれたのは我が伴侶になるためと知るがいいわー!)」
ボン太君の作り物の瞳がきらきらと光る。
『それ』は奇声を発しながら両腕を広げ、飛びかかってきた。
丸太のような巨腕を屈んで回避。一瞬の判断の鈍りは、ギギナの銀髪を一筋奪い取った。
「……なるほど。そのふざけた着ぐるみは油断を誘うためか。よく状況を理解している」
低空を跳躍して距離を取り、何故かショックを受けているような化け物を見据える。
「ふもっふ?」
「言葉は通じぬか。下らぬ戯言で興を削がれる心配はないな。好都合だ」
抜き身の剣を構える。
相方の眼鏡といい、先刻遭遇した態度の巨大な少年といい、無駄な言葉は闘争を汚す。
先ほどの一撃を見るに、化け物は今の自分と同格の身体能力を持っている。戦意も十分。
着ぐるみの膨れ方は中身がラルゴンキン級の人型重戦車だと告げている。
「ならば最早私も一振りの剣となろう。――さあ、闘争の時間だ」
白磁の腕に潜む筋肉が膨れ上がった。
恒常的に作用していた咒式がない以上、頼れるのは己の筋力と技術と剣のみ。
「いぃぃぃぃぃあっ!」
雷撃のような踏み込みで放つ斬撃に化け物は反応。
その巨体に見合わぬ素早さで、ステップを踏むように横に回った。
「ふもっふふも!(何故、どうしてあたくしの愛を受け入れないの!?)」
愛とはかくも悲しいものなのか。何故にこの美丈夫は自分に刃を向けるのか。
着ぐるみを装備したことがこうも裏目に出るとは正義の戦士にも予測できないことであった。
傷ついた心はすぐさま憤怒という皮膜で覆われていく。
「ふも……ふもっふ!(調教が必要なら……容赦はしなくてよ!)」
ボン太君の命持たぬ瞳がギラリと光る。
化け物の行動は迅速だった。
何事か喚くと愚直なほどの右ストレートを叩き込んでくる。
速い。即座に回避よりも防御を選択。剣の腹を拳に向けた。
着弾。そうとしか形容のできない衝撃が、ギギナの巨体を後方に飛ばした。
「なっ……!?」
背面の木を激突寸前で蹴り、着地。腕には久しく忘れていた痺れが残った。
化け物は追い打ちをかけるでもなく悠然と歩み寄ってくる。
規格外の生物。その事実は恐れより喜悦を分泌させた。
化け物の戦術は単純にして明解。
近づき、殴る。飛びかかり、その重量+加速度を叩き込む。
その単純な攻撃は意外なほどに厄介だった。
剣の分リーチは勝っても、身体能力は驚くことに化け物の方が高い。
(異貌のものと考えた方が良いか。実に素晴らしい)
これこそ己の求めた闘争だとギギナは確信する。
打撃を回避し、通り抜けざまに切り払った横腹には何の傷も残らない。
長命竜の鱗に匹敵するほどの耐久性だ。
(こちらの破壊力が限られている以上、戦術の幅も狭まってくるな)
それは面白くないことであったが、同時に快いことでもある。
勝ちづらい相手に核融合や音速超過の砲弾で決着を付けるのは自分には向かない。
「るぉぉぉああああああ!!」
肉体を颶風と成し、切っ先を槍のごとく突き入れる。
垂直に突き立つ刃であれ。ドラッケン族の格言を形にしたような突きにさえも化け物は動揺を見せない。
「ふもぉぉぉぉっ!!」
あろうことか刀身に両の拳を叩き付ける。
大きく軌道を外された魂砕きは着ぐるみの腹を裂くことなく滑り、隙を生んだ。
がら空きの胸部に丸みを帯びた前足がねじ込まれる。
急制動をかけた脚での回避は半端に実現した。
着ぐるみの柔らかさもあり、拳撃は胸骨を砕くには至らなかった。
しかし人体から発生し得ないその破壊力はドラッケン族の強靱な肉体にさえ作用した。
敗北を知らない剣舞士がほんの一瞬膝をついたのだ。
「っくぅ……くくく……!」
明らかなダメージを負い、無様に膝を土で汚し、それでもギギナは笑った。
それは見る者を惑わし畏怖させる、肉食獣の笑み。
「愉しいぞ化け物。これほどに心の震える闘争は久方ぶりだ……!」
その言葉に化け物はショックを受けたようにのけぞったが、言葉が通じないので気のせいだろう。
痛覚を意思で封殺。震えを戦意で強制停止。
ギギナを最強の剣舞士たらしめているのは、優れた生体咒式の扱いに限らない。
いかに傷つこうと、その膂力を最大限に振るえなければその称号は得られまい。
構え、冷静な闘争心を真っ直ぐにぶつける。
「ふもっふもっふもっ」
化け物は気負う様子もなく再び歩み寄り、弓のように腕を引き絞る。
(身体能力は正真正銘の怪物。だが技術は皆無。傲りが過ぎるな)
急所を狙いもしないその動きはチンピラと大差ない。
「ならばこの私と舞えると思うな!」
ギギナは下段に構えた剣を振り上げ、上空へと放り投げた。
それを罠と取らず、視線を逸らしもしない化け物の右拳が腹へと突き出され、
「得意分野とは言い難いがな……!」
獣のしなやかさで、ギギナの全身が右腕へと絡み付いた。
腕一本の筋力を全身の筋力で破壊する。
自由に暴れ回れる着ぐるみの柔軟性は外部からの圧力も正確に中へ伝達。
折る。その試みは正確には成功しなかった。
が、分厚い着ぐるみの奥からはミシリと嫌な音が響いた。
「ふもぉーーーーーっ!!」
それが悲鳴であることは疑いようもない。
混乱した左拳が迫る中、罅を入れた右腕を鉄棒のように使いギギナは跳躍。
中空にある無防備な彼を拳は追尾。
不完全な構えから放たれたとはいえ、人身を破壊するには十分な威力であることは見て知れる。
それを見据え、悠然とギギナは空へ手を掲げる。
降参のポーズなどでは有り得ない。その証拠に、天は掌中に一つの物を与えた。
魂砕き。
正確に握ったそれを腕力のみで振り下ろし、打撃を受け止めた。
軽々と吹き飛ばされるが、痺れる腕で大剣を振り回し重心制御。
音もなく腐葉土に降り立った。
その躍動する美しさに風さえも止んだ。
「さぁどうする化け物よ。攻撃力が半減してもまだ私と殺り合えるか」
自身の苦痛を表情にも出さず、或いは自分でも気付かずにギギナは告げる。
言葉は通じずとも意思は通じるだろう。
「ふもっふ……ふも……」
表情を変えないまま化け物はじりじりと後退し、怒りの踵を地面に叩き付けクレーターを生成。
次いで身を翻し駆け出した。
あの化け物は傷が癒えたら再び襲い来る。
その確信はギギナに凶悪な笑みを作らせた。
かつてない苦痛に奈津子は地を揺らしながら逃走する。
「ふも! ふも! ふもっふ!(戦術的撤退! 戦術的撤退! これは敗走ではなくてよ!)」
背後からはあの可愛さ余って憎さ八億倍の美神の声が朗々と響く。
「また会おう着ぐるみの男よ! 次は命の果てまで奪い合ってやる!」
「ふもっふぁあぁあああ!!(あたくしは女じゃぁぁぁ!!)」
思いは正しく伝わらない。
【F-5/森/1日目・7:15】
【残り88人】
【小早川奈津子】
[状態]:右腕損傷。殴れる程度の回復には十分な栄養と約二日を要する。
[装備]:コキュートス(アラストール入り。アラストールは奈津子の詳細を知らず)
ボン太君量産型(脱衣不可能)
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:1.竜堂終と鳥羽茉理への天誅。2.傷が癒えたらギギナを喰らい尽くす。他の連中にも容赦無用。
【ギギナ】
[状態]:疲労。休息が必要なダメージ。かなりご満悦。
[装備]:魂砕き
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:食って休んで強者探索。
小早川奈津子は走りながら――尤も速度は幾分落ちている――思考する。
既に気付いている。このペースで戦っていては持たないということに。
負傷しているだけではなく、武器がないのだ。
武器、もしくは使える部下が欲しい―――――そういえば。
『アラストール、と言ったかしら。お前は何かできないのかえ?』
奈津子は気付く。アラストールについて何も知らない。
もし、何か武器になるのならば、と考えるが、アラストールは無情にもNOの返事を返した。
『今の我が本体は契約者たるシャナにある。コキュートスは意志を顕現するだけにすぎん』
その後アラストールは自分達について少々語った。
普段なら語りはしないだろうが、今の異常な状況では話が別である。
何故か契約者の下へと戻れない。
だから誰かに直接契約者の元へと届けてもらう必要があった。
その為にも奈津子には死なれてもらっては困る。
こんなふざけた着ぐるみで放置されるのは迷惑である。
もっとも、奈津子が契約者に素直に渡すかどうかは別の話なのだが。
『オーッホッホッホ! つまりその契約者とやらが死ねばあたくしにもその力を受けるチャンスはあるってことね!』
アラストールが語り終わったとき、嫌な言葉を聞いた。
(……悪夢だ)
この人間と契約するなど、という思いがアラストールの心を満たした。
たしかに正義感はあるようだし――独り善がりだが――奈津子の器は大したものだが……。
(む。性格を無視すればなかなかの器になれるのかもしれぬが……)
契約する相手を選ぶアラストールだ。契約する気は今は、ない。
そんな事態がこないように、アラストールはシャナの無事を願った。
――――そして、声が聞こえた。
「さて、そろそろサッシー捜索へと乗り出したいのだが……準備はいいかね?」
佐山は身を起こし、詠子の方へ顔を向けた。
あれから休息はずいぶんと取ったし、新庄のこともある。
佐山は佐山なりの焦りはあった。
決して表に出すことはしないが。
「私の準備はできてるよ」
「ならば行くとしようか」
そういって小屋の扉を開け――――
「詠子君、賞賛したまえ。どうやら早速サッシーを見つけたようだ」
――――サッシーが姿を見せていた。
「怪我をしているようだが、大丈夫かね?」
サッシーこと小早川奈津子に佐山は心配の声を掛ける。
最初こそ佐山が暴走していたものの、怪我に気付いた後は落ち着いた対応であった。
話が通じない、というデメリットに気付き、奈津子は着ぐるみは一度脱いだ。
丁度使える僕(しもべ)が欲しい、と思っていたところであり、丁度いいので対応したのだ。
「おーっほっほっほ。これくらいの傷どうってことなくてよ!」
強がりではあるが、今から部下にしようと企む相手に弱みは見せられない。
奈津子は痛みをこらえながら佐山を見つめる。
(よくみるといい男じゃない。ぜひとも愛のまほろば計画に加えて差し上げますわ!)
「悪役さん。どうやら小屋には包帯とかないみたい」
「そういうわけだ。治療などはできないが……そちらはこれからどうするのかね?」
佐山と詠子は奈津子に注目する。
奈津子は少しの間を空けることもなく、即答した。
「あたくしには悪を討つという使命があってよ! あの銀髪もドラゴンも討つわ!」
「竜を討つとはまた物騒な話だね。知り合いの参加者に竜がいるのかね?」
「竜堂終という名に聞き覚えはないかえ?」
「残念ながらないようだ。そちらは新庄と言う名に心当たりはないかね?」
奈津子は首を横に振る。
そうか、と返答し佐山は沈黙した。
やがて奈津子は立ち上がり、口を開こうとして、佐山が先に言葉を紡いだ。
「――――待ちたまえ。私は怪我人を一人で行かせるほど無慈悲な人間ではない。
今から市街地へ向かうのだが、そこに診療所があるかもしれない。
……一緒に行くかね?」
奈津子はこれ幸いと今度は縦に首を振った。
【E-5/北東の森の中の小さな小屋の中/1日目・07:45】
【佐山御言】
[状態]:健康
[装備]:Eマグ、閃光手榴弾一個、メス
[道具]:デイパック(支給品一式)、地下水脈の地図
[思考]:1.仲間の捜索。2.地下空間が気になる。
【十叶詠子】
[状態]:健康
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:1.元の世界に戻るため佐山に同行。2.物語を記した紙を随所に配置し、世界をさかしまの異界に
【小早川奈津子】
[状態]:右腕損傷。殴れる程度の回復には十分な栄養と約二日を要する。
[装備]:コキュートス / ボン太君量産型(今は脱いでます)
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:1.竜堂終と鳥羽茉理への天誅。2.傷が癒えたらギギナを喰らい尽くす。
『死にたく…ない』
AM11:05
島中に響き渡った惨劇は、この一言を最後に幕を閉じた。
そしてそれを同じくして浜辺で絶叫する少年が一人…。
「なんでなんでなんだよ!」
兄に続いて従兄弟までもが…己の無力…そして残酷な運命にただ叫び涙する、竜堂終。
「竜になれ!竜になれ!竜になれ!竜になれ!」
頭を掻き毟り、砂浜でのたうち、己の中の超常の力を引き出そうとする終、
だが終の慟哭にも関わらず、一向に身体は竜に変化することはなかった。
すでに先程の変身によって、力を消耗してしまっていたのだ。
「こんな時に竜になれなくっていつ竜になるんだよ…ちくしょう」
「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!」
終は何も出来ない怒りをぶつけるように、波間に向かって叫び…足元の砂めがけ拳を叩きつける。
最初は自分の力なら皆を守れると信じていた、だが結果はどうだ?
誰一人…何一つ守ることが出来なかった…。
「何のために俺はこの力を持って生まれてきたんだ!」
泣いている間にも刻一刻と人が死んでいく…その恐怖に愕然となる終。
だがそれ以上に他の誰かが自分と同じ思いをしているということの方が遥かに嫌なことのように思えた。
「もう…いやだ、誰かが苦しむのを見るのは…」
【その願い叶えてあげましょうか?】
不意に響いた声に終は周囲をきょろきょろと見渡す…と、波打ち際に紫色の飾りが落ちている。
終は導かれるようにその飾りを手に取った。
【逞しき竜の若者よ…貴方は何を望むの?】
「みんなを助けたい…始兄貴や茉理ちゃんが出来なかったことをしたいんだ」
声は続いていく、より鮮明に。
【それは茨の道よ…犠牲なしでは成し得ない道】
「わかってる…だけど挑まなければ道は開かれないだろう?」
声に応じる終、もうその声から怒りは消えていた。
【なら、力を貸してあげるわ…そのかわり】
終は導かれるように宝石に手をやる、何の抵抗もなく…
すでに彼の精神はカーラに導かれるままだった、その意識、思考はそのままに、
幾多の勇者、賢者たちがそうだったように、彼もまたカーラの術中に嵌ってしまったのだ。
【受け入れなさい、私の全てを】
そして終はサークレットを自らの額に装着したのだった。
ようやく身体を手に入れることが出来た、しかも竜族の肉体とは嬉しい予想外だ
竜堂終、いやカーラは満足げに歩く
数百年の時を生きる魔女である彼女は知識の学冠の力を持って、自分たち以外の世界の存在を知り…
それらがお互いに及ぼしあう影響についても知ることが出来た…。
そしてその研究の果て、
アカシックレコード…宇宙開闢以来の全ての存在の全ての事象をその誕生と未来に至るまでも記録した
アーカイブの存在にまで行き着いたのだ。
しかし肝心の干渉そのものについては叶わなかった。
生まれては滅び行く世界の数々、そしてその影響を受けフォーセリアが、そしてロードスもまた
次々と変遷していく…。
世界は決して単独で成り立っているわけではない、自分の住まう世界のみならず…
可能性の分だけ世界が世界の分だけ可能性が存在し、ドミノのように危うげなバランスでギリギリの共存を保っている、
一つの世界が僅かでも道を踏み外せば、その結果は幾千幾万の世界に影響する。
防がねばならない…。
だが、彼女といえども世界の壁を乗り越え、異なる世界へと移行することは叶わなかった。
やり方は何とか編み出すことができた、だが壁を乗り越えるのは単独では力が足りない。
向こう側から呼んでもらわなければならなかったのだ。
ただ日々変わり行く世界を眺めては一喜一憂する空しい日々、
そこにこの一件である…まさに千載一隅だった。
カーラは迷うことなく次元転移の大呪文を実行した、そしてその代償に己の肉体は滅んだものの
幸運にもまたこうして再び肉体を入手することが出来たのだった。
この地に集いし者たちはすべて多かれ少なかれ世界を変革しうる可能性を持った者ら、
だが全てを可能性のままにしておけばいずれは崩壊を招くのみ…
だれかが調停せねばならない、それは自分の役目ではないか。
カーラは悲しげにため息をつく。
「皮肉なものね。皆己の世界を良くしようと戦って結果…他の世界を危機に陥れていることも知らず」
正直知らなければと思うこともある、この事実さえわからなければ、彼女はただロードスの安定だけを
ただ考えればよかったのだから
やはり悲しげに目を伏せるカーラ、彼女の脳裏に浮かぶのはかの繁栄を誇った古代王国の崩壊していく様だ。
あの悲劇をくりかえすわけにはいかない…いつ、いかなる時間、場所であろうとも。
終末の破壊、悲しみを防ぐためならば、いかなる犠牲を払ってでも食い止めなければならない、
その崩壊が引き金となって、いつロードスが、そしてフォーセリアが巻き添えになるか分からないのだ。
この宿主の…まっすぐなまでに純な願いを裏切ることになるのも彼女にとっては辛いことだった。
だが彼ならばきっと理解してくれるはずだ、危機を乗り越えるためには流さねばならぬ血もあるということを。
カーラの足はいつしか商店街へと向いていた。
その目に連れ立って歩く4人組が入る、老人とあとはまだ10代半ばの子供たちという奇妙なパーティだ。
(あれは…)
一度死んだのと次元転移の荒技とで、何を成すべきかという記憶をほとんど失っている彼女だったが、
その一部残った記憶の中にあの老人は存在していた…確か。
カーラはゆっくりと呪文を唱え始めた。
「慎重に、慎重にだ、実際に動いている輩を確認した以上、一箇所に留まるのは危険だ」
あの衝撃の放送は無論、彼らの耳にも届いていた。
こうなってしまえば事態は急変する、慎重にしかし一刻も早く本来の仲間たちと合流しなければならない、
彼らは矛盾した命題を抱えつつも、とにかく商店街を離れようとしていた、その時
「!?」
突如飛来する巨大な火球、いち早く察知したオドーが指の一振りでそれを叩き落す。
炎が弾け飛び、熱気が周囲に立ち込め、陽炎が立つ。
その向こうには少年の姿を借りたカーラが不敵に構えているのだった。
「ここは引き受けます!大佐は早く退いてください」
言葉と同時に発砲、しかし標的はひらりとビルの影へと姿を隠す。
「いや、私が、私が残る…君こそ退きたまえ」
「お言葉ながら私には軍略の才はありません、しかし大佐がおられれば…」
オドーは宗介の言葉を手で制する。
「軍曹、軍曹、冷静になれ、今は君自身が守るべきものを優先したまえ、君が守らなくて誰が彼女を守るのだ」
オドーはかなめを示して宗介を説得する。
「しかし!」
「ならば命令、命令しよう、君はただちにこの場から退き…彼女らを守れ
それに、このような戦いともなれば、君の存在も私にとっては足手まといになりかねんのだよ」
オドーの目が不敵に輝く…老いたりとはいえやはり彼もまた戦士だった。
「了解…大佐、どうかご無事で」
それだけを伝え、宗介はかなめとしずくの手を引き、街を離れるのだった。
そして1人残ったオドー…その口元には笑みが浮かんでいる。
面白い…震えが止まらない…、年を取り今では大佐などと祭り上げられてはいるが、
やはり自分は軍人であり戦士なのだとこうなると再認識してしまう。
もしかすると彼らを先に行かせたのは…今の自分を見られたくなかったからなのかもしれない。
「さあこい、さあこい…少年!」
オドーはまるで初陣の若者のようにカーラに向かい、吼えた。
先制攻撃はオドー、指を打ち鳴らすと同時に上からの圧力がカーラを押しつぶそうとする。
だがカーラも宿主の身体能力を生かして素早くその圧力から逃れ、反撃の火球を次々と撃ちだす。
「甘い、甘い少年!!」
しかしそれらは全てオドーに届く前に見えない圧力に潰され消滅していく。
(……)
カーラはその様子を怪訝な顔で見る。
何故だ?何故そんな回りくどいことを…空間や重力を操れるのならばもっと楽なやり方があるのではないか?
その疑問を確かめるべくカーラは今度は射撃攻撃ではなく、範囲魔法を詠唱する。
と、炎の渦がオドーを取り囲んでいく。
が、それも指の音と同時に次々とかき消されていく。
カーラは舌打ちをするとまた火球を連発する…、少しでも僅かでも相手に反撃のスキを見せてはならない。
だが…それらは全てオドーに届く遥か先で撃墜されていく…。
「少年、少年どうやらそこまでのようだな」
攻撃の合間に己の勝利を確信したか、オドーが余裕の言葉を吐く。
キッとオドーを睨むカーラ、その手にまた炎の煌きが生まれる…だが。
「少年、少年、無駄だ」
横っ飛びと同時に放たれたそれに向かいまた指を鳴らすオドー、しかし…
今度はこれまでまっすぐだった火球が軌道を変えオドーの頭上から落ちるように飛来する。
それを無造作に避け、また指を鳴らそうとした彼だったが…。
「そこまでなのはあなた」
カーラの一言と同時に打ち鳴らそうとした指が突然動かなくなる…足元を見ると、
(図ったか!!)
すでにカーラは見抜いていた、この老人の攻撃の特性とその弱点を明確に
オドーの攻撃は基本的には打撃攻撃、それも上方からのみの打撃に終始している…。
したがって自分の頭上と足元には攻撃できない。
オドーの足元の地面が妖しい輝きを見せている、見る人が見ればそこから
オドーの全身を戒めるロープのような物を見ることができるだろう。
そして先ほどの火球が無防備なオドーの体を焼き尽くさんとまた軌道を変える。
「舐めるな、舐めるな、若造」
叫びと同時にオドーを戒める魔法のロープがぶちぶちと切れていく。
そしてまた指の音…オドーの眼前で消し飛ぶ火球。
だが、掻き消えた炎の背後にオドーが見たもの、それは。
大剣を構え、自らへと突進するカーラの姿。
そして吸血鬼の刃が…宿主である終の命を吸って鮮やかに輝き…オドーの体を貫いていた。
「馬鹿な、馬鹿な…」
「私とは年季が違うわね…坊や」
さんざん若造呼ばわりされた鬱憤をこの場でぶつけるカーラ。
「何故だ、何故私を狙った…」
最後の疑問をぶつけるオドー、彼が宗介たちを先に逃がしたのはわけがあった。
最初の攻撃…あれは明確に自分のみを狙っていたというのを彼は悟っていたのである・
「全竜交渉…こちらの都合で解決するのにあなたは邪魔だったの」
「そんな…りゆう…りゆうで」
カーラは返答と同時にまた刃を深くオドーへと沈める。
オドーはまだ何か言いたげだったが、それから数秒後物言わぬ躯となった。
オドーの死体を無感動に眺めるカーラ。
さて次は誰が標的だ…戦いの最中に思い出した記憶を整理する。
一番の目標であった涼宮ハルヒはすでに死んでいるようだが…ならば
己の魂に宝物を秘めた少年か、それとも3つの目を持つ少女か…
彼女の標的には善悪も強弱も関係はない、彼女がロードスにとってフォーセリアにとって
脅威であると思えばその瞬間から討つべき敵となる…それだけのことに過ぎなかった。
現在位置【C-3/商店街/一日目、11:50】
【オドー:死亡】残り87人
【竜堂終(カーラ)】
[状態]:やや消耗
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし/ サークレット
[思考]:フォーセリアに影響を及ぼしそうな参加者に攻撃
(現在の目標、坂井悠二、火乃香)
【相良宗介】
【状態】健康
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ
【道具】荷物一式、弾薬
【思考】大佐と合流しなければ。
【千鳥かなめ】
【状態】健康、精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの(バイトでウィザード/団員の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】早くテッサと合流しなきゃ。
【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ(撲殺天使ドクロちゃん)
【道具】荷物一式
【思考】BBと早く会いたい。
保胤は安らかな顔をして眠り続けている。
特に熱があるわけでもなく、見た感じでは特に問題は感じられない。
(傷もふさがったことだし、このまま寝させておけば大丈夫だろう。
ひとまずこちらの状況をむこうに連絡しておくか)
セルティは携帯を取り出すとメールを打ち始めた。
『こちらはセルティだ。戦闘があり保胤が怪我をした。
幸い傷は塞がったが、今は寝てしまっている。
私は喋ることができないため、電話に出ることが出来ない。
しばらくの間、連絡はメールでしてくれ。
またそういう状況なのでこちらはしばらく行動できない。
あと、フォルテッシモという奴には気をつけろ。
見えない攻撃で物を切り裂く能力を持っている。
目測だが5m以内には近づくな。保胤もこの攻撃でやられてしまった。
また何かあったら連絡する。』
セルティはリナ達のもつ携帯にメールを送信した。
送信時間は09:45だった。
【A−1/島津由乃の墓の前/1日目・09:45】
『紙の利用は計画的に』
【慶滋保胤(070)】
[状態]:不死化(不完全ver)、昏睡状態(特に危険な状態ではない)
[装備]:ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている
[道具]:デイパック(支給品入り) 、「不死の酒(未完成)」(残りは約半分くらい)、綿毛のタンポポ
[思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/ 島津由乃が成仏できるよう願っている
【セルティ(036)】
[状態]:正常
[装備]:黒いライダースーツ
[道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)、携帯電話
[思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/保胤が起きるまでこの場に待機
[チーム備考]:『目指せ建国チーム』の依頼でゼルガディス、アメリア、坂井悠二を捜索。
定期的にリナ達と連絡を取る