●特捜案件となった「グッドウィルM&A脱税」に蠢く魑魅魍魎
NO.623 2009.6.1
『毎日新聞』が、5月25日付の朝刊社会面トップで、「グッドウィル・グループ(現ラディアホールディングス)による人材派遣会社の買収を巡り、
仲介した投資ファンドが約380億円の利益を得ていながら、
ファンド運営者の公認会計士が適正な税務申告を怠り、この経緯を把握した東京地検特捜部が脱税捜査を開始した」と報じたことが、波紋を広げている。
脱税疑惑そのものは、昨年10月に東京国税局が公認会計士の中澤秀夫氏に強制調査を入れた段階で、『日本経済新聞』が報道、弊誌もNo.614で、「国税が調査するグッドウィル脱税疑惑の全貌」と題して詳述した。
毎日記事の衝撃は、特捜部が既に、この脱税疑惑の捜査を開始、経済事件として大きく扱うことが判明したことである。
「今年秋口から来年にかけて特捜案件になると思っていたので、取材体制を敷いておらず、『毎日新聞』を読んで驚きました。
西松建設事件も二階ルート(別項の二階俊博経済産業相の記事を参照)を残してほぼ終了しただけに、この件が次の特捜案件の“目玉”となります。
金額が大きいだけでなく、政界から暴力団までいろんな勢力が、この M&Aには絡んでいます。弾けると各方面に展開する可能性があり、気を抜けない取材となりそうです」(民放の司法記者)
構造は、ごくシンプル。日本一の人材派遣会社のクリスタルグループを買収するにあたり、
中澤氏はコリンシアンパートナーズという自らの投資会社でファンドを組成、そこにグッドウィルが883億円を投じてクリスタル株の67%を取得、5000億円企業を傘下に収めた。
中澤氏が凄腕なのは、実は、クリスタルグループのオーナーの林純一氏に支払われたのが500億円だったこと。
グッドウィル以外の出資者である中澤、空手の極真会館を率いる松井章圭、UA(ユナイテッドエイジア)グループを事実上経営する緋田将士の3氏には、383億円と残りの旧クリスタル株が、自動的にもたらされた。
「濡れ手に粟」とはまさにこのことで、わずか3人の出資者に支払われるM&Aに絡む配当金としては、前代未聞である。それだけに、この買収劇には魑魅魍魎が取りついており、それが事件の展開を複雑にする。
例えば、特捜案件となる前に、警視庁が中澤関連を架空増資事件や恐喝事件に絡めて捜査していることだ。
「現在、捜査二課が、ジャスダック上場のトランスデジタルで架空増資があったとして、会社側と増資を引き受けた山口組企業舎弟の野呂周介や永本壹桂を捜査しています。
また、大証二部上場の東邦グローバル(アソシエイツ)を巡っては、中澤の意向を受けた暴力団関係者が、鬼頭和孝ら反中澤派を排除するために動いており、こちらは恐喝事件になりそうです」(警視庁捜査関係者)
トランスデジタル、東邦グローバル、ビービーネットといった企業群は、巨利を得た中澤氏の投資先である。
383億円のうち、経費請求をした中澤氏が183億円(松井、緋田の両氏は各100億円)と、最も多くを取得、上の業績不振企業に資金を投じてオーナーになった。
ところが、後任のコリンシアン社代表で右腕の鬼頭氏が、「自分の指示を受けずに会社を勝手に運営、資金を流用している」として、中澤氏は鬼頭氏とその周辺関係者を、山口組系を自称する暴力団関係者を使って脅迫したという。
前述のように、脱税事件としては「M&Aによる巨額利益を申告しなかった」というシンプルなものだが、利益が大きいだけに、こうして投資先で暴力団に絡むトラブルが発生、さらに東邦グローバルでは、
久間章生元防衛相がロシアのソチ五輪向け人工島建設で動き、中川秀直元自民党幹事長の元秘書が上場維持のために金融庁幹部を紹介するなど、「政界ルート」が垣間見える。
さらに、中澤氏だけでなく、松井、緋田の両氏にも、あまりに巨額資金がもたらされたためか、資金使途先に大物芸能人が登場するなど、不可解なカネの流れが存在する。
それを特捜部はどこまで解明するのか。西松建設事件でミソをつけただけに、OBを含めて奮起を期待する検察関係者は少なくない。
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