1 :
名無しさんだよもん:
3 :
名無しさんだよもん:2001/06/30(土) 03:26
幾分かすると道は開けた。
そこは……死体が放置されていた。
しかもまだ新しい。
そして、
僕……いや、僕たちはこの顔に見覚えがあった。
「……高槻」
そう、そこには高槻が惨憺たる姿で死んでいた。
しかも複数体。
「どういう……こと?」
「……分からない」
……分からないが、これではっきりしたことがある。
連中は人間をクローンする技術すらも保有していたことだ。
高槻ではない、FARGOにそんなものは無い。
このゲームの黒幕だ……。
――このときの僕はまだ、長瀬の存在を知らない。
「この顔が目の前に何個も並ぶのを想像すると、反吐が出るわね……」
いつになく毒舌な彼女。
……だが、奴を知っているものにとっては無理も無い反応なのかもしれない。
死して尚罵倒される男……この男もまた哀れだった。
顔は……粉々に粉砕されかけている。
マシンガンの掃射を喰らったようだ。
はっきりいって……見ていて気持ち悪いものだ。
よく郁未はこれを見ていられると――。
……そうでもないようだ。
もう吐く寸前の苦しい表情……。
幾分かすると道は開けた。
そこは……死体が放置されていた。
しかもまだ新しい。
そして、
僕……いや、僕たちはこの顔に見覚えがあった。
「……高槻」
そう、そこには高槻が惨憺たる姿で死んでいた。
しかも複数体。
「どういう……こと?」
「……分からない」
……分からないが、これではっきりしたことがある。
連中は人間をクローンする技術すらも保有していたことだ。
高槻ではない、FARGOにそんなものは無い。
このゲームの黒幕だ……。
――このときの僕はまだ、長瀬の存在を知らない。
「この顔が目の前に何個も並ぶのを想像すると、反吐が出るわね……」
いつになく毒舌な彼女。
……だが、奴を知っているものにとっては無理も無い反応なのかもしれない。
死して尚罵倒される男……この男もまた哀れだった。
顔は……粉々に粉砕されかけている。
マシンガンの掃射を喰らったようだ。
はっきりいって……見ていて気持ち悪いものだ。
よく郁未はこれを見ていられると――。
……そうでもないようだ。
もう吐く寸前の苦しい表情……。
「郁未」
郁未はつらそうな表情でこっちを向いた。
「もう、ここいる必要は無い。……行こう」
彼女を促す。
……死体など見ていて気持ち良いわけが無い。
僕たちは、そこから少しばかり先に進んだ。
「……ねえ」
「なんだい?」
郁未が、歩きながら僕に話し掛けてきた。
「……目的、無くなっちゃったね」
「……」
僕は、それにすぐ返事をすることが出来なかった。
クローンがいるなんていうことは予想を越えた出来事だった。
こんなことでは後何体高槻がいるんだか知れたものじゃない。
だが。
「……いいさ」
高槻は殺されていた。
僕たちと同じように考える人が、確実にいることが分かった。
ならば、それでいい。
もしこの先高槻と会うことがあったなら――。
「後は、生きている人間を集めてこの島を脱出すればいい」
――その時改めて殺し直せばいい。
「……そうだね」
「ああ」
郁未は何かいいたげな……ああ分かってる。
彼女はまだ自分がやることがある。
でも、それをあえて忘れた振りをしている。
……僕と、同じように。
だが、僕たちはまだ知らない。
高槻を死んで、管理者を失ったと思い込んでいた殺人ゲーム。
それがまだ続いていることを。
黒幕は、もうずいぶんと側で動いていることを。
そして。
――僕の限界も、もうすぐそこまで来ていたことも。
【郁未+少年:さらに西へ】
……かちゅーしゃがバグって二重カキコしてしまいました。
すまそ。m(__)m
「や、やっと、着いたぁ」
外傷よりも疲労が濃い耕一は息も絶え絶えに言った。よくここまで歩いてこれたのかが不思議なくらいだ。
「っていうか、あんたが勝手に抜け出さなければこんなにボロボロにならなかったでしょうが」
置いてきぼりにされた留美が、すかさず突っ込む。
「いや、男にはやらなきゃいけないことがあるんだ。たとえ苦難の道でもな」
「なにを馬鹿なことを」
留美はそう言って、耕一と彰を見やる。
(男なんて、みんな馬鹿で勝手だ。でも……)
殺人ロボットと源三郎との戦いで消耗してしまった一行は基地を目の前に戦略的撤退を余儀なくされ、葉子とマナが待つ市街地へと戻った。
彼らを出迎えたマナはさらに大所帯になったことに驚くと共に、誰一人欠けることなく戻ってきたことに安堵した。
だが、無事である、という言葉からは程遠い。
特に、
「うわ、この人、まだ生きてるの?」
彰の容態は特にひどかった。
根拠地にしていた町にたどり着いたとき、緊張の糸が切れたのか、彰は倒れた。
「お兄ちゃん! 彰お兄ちゃん!!」
あわててすがりついた初音の肩を蝉丸がつかむ。
「動かさない方がいい、傷に障る」
ビクッと震えるように初音は彰から手を離す。
「彼をとりあえずベッドに寝かせたい。それで傷の具合を見たいので服を脱がせる。あと、ハサミを貸してくれないか?」
「……こっち。救急箱もその部屋よ」
蝉丸の言葉にマナは奥の部屋を指し示す。
「うむ、すまない」
脱がせる、という言葉に思わず顔を赤らめるマナを後目に、蝉丸は彰を抱えて運んでいった。
「手伝いがいる。申し訳ないが何人か来てほしい」
体力を消耗しきってさっそく寝込んだ耕一と葉子がこの家で休んでいると知らされた晴香以外はその後についていった。
蝉丸は血が付着をし無理に剥がすことができないところは布の周りをハサミで切りとり、
そして一枚ずつ服を脱がしていった。
彰は誇張ではなく満身創痍であった。
(これだけの傷を受けながら、よくも……)
改めてその体を確認して蝉丸は内心舌を巻いた。
右太股に銃創があるだけではなく甲も半分以上無くなっている。頭に巻いた包帯は赤くなり、腹には大きな青あざが二つあった。
その他、小さな傷やヤケドは数える気にもなれなかった。
なにより、血が付いて茶色く変色した右足と既に用をなしていない後頭部の包帯がかなりの血を失い消耗していることを物語る。
(彰お兄ちゃんが大変なことになっている。なのに、私は何もできない)
初音は痛々しい彰を見守りながら、自分の無力さを歯がみしていた。
「すまないが体を拭くのに湯か、無ければきれいな水が欲しい」
「それじゃあ、私が!」
蝉丸の言葉にはじかれたように、初音は台所に走っていった。自分も怪我をしているにもかかわらず。
しばらくして、初音はやかんいっぱいにお湯を入れて部屋に戻ってきた。
「お湯、持ってきました」
「すまない、そこに頼む」
蝉丸は先ほどマナが探してきた洗面器を指し示した。初音はそれにお湯を注ぐ。
「これぐらいの熱さでいいですか?」
洗面器にうっすらと湯気がのぼる。蝉丸は指を少し入れてちょうどいい温度なことを確認し、うなずいた。
お湯を注いでいる間、改めて傷の酷さを見て、初音は胸が締め付けられる思いがした。
こんなになるまで戦っていたのか、そう思うと目の辺りにこみ上げる物が来た。
(お兄ちゃん……)
初音はまばたきをして、それを抑えようとした。だが、
カンカラカン
「えっ?」
初音は、ふと我に返る。
音がした方を見ると、手に持っていたはずのやかんが床に転がっていた。
「ご、ごめんなさい……」
何回も頭を下げる初音に蝉丸は言った。
「疲れているようだな、早く休むがいい」
「……」
そして、蝉丸は留美と月代に添え木になりそうな物を探してくるようにと伝えた。
(私は何もできない)
真っ暗な部屋に初音は膝を抱えて座っていた。
(彰お兄ちゃんを助けることも。ううん、もしかしたら足を引っ張っているだけなのかもしれない)
誰もいない部屋、一人でいると気が滅入ってくる。
(お兄ちゃんは私を守ってくれた。お兄ちゃんは私を励ましてくれた。お兄ちゃんは私に希望をくれた、なのに、なのに……)
初音は小さい体をさらに縮ませる。
(私にできること、私にできること、私にできること……)
焦燥感と自己嫌悪で初音の心が満たされたとき、どこからか声が聞こえた。
(あ……よ)
初音は辺りを見回すが誰も見つけることができない。
(ある……よ)
「だ、誰?」
(あるよ……リネ……ト)
彰の手当は終わり、その部屋には誰もいなかった。
初音は静かにドアを開けると音も立てずに中に入っていく。遮光され、暗い部屋だったが不自由なく、彰の方へ近づく。
彰の体の半分以上を新しい包帯を巻かれていた。蝉丸の適切な応急手当は結果だが、失血は補いようがなく、不規則な呼吸が未だ彼が死線をさまよっていることを表していた。
(お兄ちゃん……)
初音は苦しげな彰の寝顔を見て、
(くるしいよね、いたいよね、おにいちゃん……)
枕元にあった救急箱からハサミを取り出し、
(でも、もうだいじょうぶだよ……)
自分の腕に突き刺した。
そして、滴る血が、
彰の口の中に入っていった。
彰パワーアップ計画(?)です。次郎右衛門が助かったあの方法です。
この後、本物の鬼になるか、結界の効果で効き目がないか、暴走するかは次の方次第。
彰はこのまま失血死させるのはあまりにも惜しい人材なので……
謎の言葉は残留思念か転生途中のあの人。だって、ライバルが一人減るから(w
あと、マナって実際医療知識ってどれぐらいでしょうかね。
はかりかねたんでセミーを医者役にしましたが。
15 :
捧げるもの(1):2001/06/30(土) 06:05
乾ききった礫沙漠のように荒涼とした丘の上で。
揺らぐことなく林立する大岩の下で。
あたしたちは移動の準備をしていた。
「それじゃ、行こうか」
びゅうびゅう、と騒ぎ立てながら隙間を抜けて行く風音にのせて、誰かが
そう言うのを、あたしはぼんやり聞いていた。
「…こいつ、どうするの?」
長瀬源三郎とかいうオヤジが岩陰で倒れている。
死んではいないのだろうが、話に聞く痙攣すら治まり、激しかった呼吸音も既にない。
隣でささやかに咲く野草が、いかにも不似合いだった。
「なんなら…あたしがやっても、いいよ」
自らの吐瀉物に顔を埋めて動かなくなった男の傍らに立ち、刀を携えて尋ねる。
「放っておいても、いいんじゃないかな…。
いろいろ聞きたかったんだけど、その様子じゃ…無理だと思うし」
彰とか言う少年が答える。
傍らに小さな女の子を侍らせて、それでようやく立っている満身創痍の彼に
言われると、あえて殺すのも気がひける。
(でも、甘いね-----)
あたしは…目的のために、殺せる。
尋問…いや、拷問みたいな汚れ仕事だって、やれる。
自分の鋭利な決意を、世間の倫理に鈍らせるようなことはしない。
(名もなき兵士達を。
たくさん、たくさん-----殺したから、ね)
で。
16 :
捧げるもの(2):2001/06/30(土) 06:06
ねえ良祐、あんたは、こんな風に死んだの?
智子、あかり、それにマルチ。
あんた達は、こいつを許せる?
由依、あたし、どうすればいい?
天を仰いで皆に尋ねる。
-----答えは、ない。
死人は帰ってこない。
応えてくれるのは、唸りをあげる風だけだ。
眼を、口を、強く閉じて、ゆっくりと息を吐く。
「そ」
たっぷり時間をかけて息を吐き、あたしはさんざん迷った挙句、短い答えをよこした。
(みんな、これでいいかい?)
一行がぞろぞろと歩き始める。
あたしも群れの片隅に身を置くように、遅れて歩き出そうとしたところで、大事なことを
思い出す。
(ああ、あたしとしたことが、忘れるところだったね)
そのまま、かちん、と刀を引き抜き風を切るように草を薙ぐ。
風にのって流れる花を拾い上げ、軽く束ねると、群れから逆行するように歩く。
戦闘用HM-12。
(マルチ、あんたの-----妹だよね)
あまり原型はとどめていないけれど、解る範囲で整えてやる。
幸い腕はだいたい残っていたので、胸の辺りで手を組ませ、花を持たせてやった。
(妹のオイタは、止めておいたからさ。
だから-----のんびり寝てていいよ)
右手に刀を持ったまま、左手で軽く拝む。
(-----さよなら、マルチ)
大きく遅れたあたしを待つように、一人遠くで立つ影があった。
「晴香」
「…ああ七瀬。ごめん」
髪を切ったせいで、一瞬それと解らなかった。
しばらく二人で黙って歩いていたが、やはり聞いてみる。
「…ねえ」
「ん?」
視線を交えもせず、お互い遠くを見ながら会話する。
「もしも、あたしが死んだらさ。
…ああして、花でも添えてくれるかな?」
微笑を浮かべて、言ってみる。
七瀬はちょっと驚いた顔をしたけれど、すぐに真顔になって答えてくれた。
「…そうね。
花くらいは、探してあげるわ」
そしてニッと歯を見せて笑い、言葉を続ける。
「もう髪に、余裕はないからね」
あははは、と。
二人笑う声が、風に乗って。
遠く遠く、視線の遥か先へと、流れていった。
【戦闘用HM-12 起動不可(死亡)】
【長瀬源三郎 瀕死(意識不明)のまま放置】
「捧げるもの」です。
街まで戻る一行の、補完の追加という恐ろしい話なので、もっと小ネタに
収めたかったんですが…そのうえageてしまいますたスマソ。
マルチ関連以下の小ネタと、最後のHM-12の【括弧】文は是非書いて
おきたかったのですですです。
今読み直して、発見したんですが…
>>15の最後にある「で。」は不要です。
どっから来たんだコレ…(汗
(・∀・)イイ!
えっと、すいません。最後に【七瀬彰(068)鬼の血を摂取】を入れていただきたいです。
どうかよろしくお願いします。
ドックン…
なにかが聞こえる。
僕の耳に振動が伝わってくる…。
「初音ちゃん!! なにを!」
僕の近くに人がいる。複数。
「だって…。このままじゃ彰お兄ちゃん死んじゃうよ!」
耕一は血を流す初音の腕をつかみ、自分の方に引き寄せる。
「なんてバカなことを!!」
耕一も知っていた。次郎衛門の話。自分の前世の話だ。
瀕死の次郎衛門を助けるエルクゥ。その方法。
「バカじゃないもん! 私は彰お兄ちゃんを助けるの!
今まで助けてもらってばっかり…。私はいつも役立たず…。
そんなのもう嫌なの!」
初音はもがいて耕一の手を振り切ろうとする。
「離してよ! 離してくれないんだったら耕一お兄ちゃんなんてキラ」
パシィッ…
初音の頬を耕一が…叩いた。初音の体が床に転がる。
「え…ぐ…」
泣き顔でふりかえる初音。しかし口から出かけた言葉はそこで失われた。
耕一の…苦虫をかみつぶしたような表情。
「彰君は男だ…」
その言葉に初音の表情が変わる。
「あ…」
「もしも鬼の力を得て…。そして制御できなかったら」
怯えへと…。
「初音ちゃん。俺はね。この島で一度、鬼に変身なったんだ…」
「えっ?」
力は封じられているはずなんじゃ?
その問いは表情にでた。
「俺は死にかけたとき、初音ちゃん達4人を守る力が欲しいと強く思った。
鬼の血の力。ひたすら力を求めたんだ」
初音はなにも言わない。言えない。
「結界とやらは『人間の操る人外の力』は封印できているみたいだが…」
彰に視線を移す。
「『鬼の操る人外の力』はそうはいかないのかもしれない。もし彰君が鬼に目覚めたら…」
(血…吐かせる…か?)
今からでも間に合うかもしれない。
彰を前に耕一は思案する。
しかし鬼の血でもないことには、死ぬ可能性が高いことは誰の目にも明らか。
「その時は…」
立ちあがった初音が、胸の前で拳を握っている。何かを決意したように。
「初音…ちゃん?」
「鬼になる前に私が…」
彰の方を向く。
あなたを殺します……。そして私も。
それはエゴ。なんで人で無くしてまで生き残らせたと怒られるかもしれない。
それでも私は…。彰お兄ちゃんにこのまま死んで欲しくない!
ドックン…
僕の中に何かが生まれる。
しかしそれはまだ、硬い檻に閉じ込められている。
そう。硬く、そして時にはもろい『理性』という名の檻の中に…。
25 :
林檎:2001/07/01(日) 01:20
わ、誤植
2/3の3行目
「初音ちゃん。俺はね。この島で一度、鬼に変身なったんだ…」は
「初音ちゃん。俺はね。この島で一度、鬼に変身したんだ…」です。恥ずかしい〜
('∀`)<俺はね、鬼に変身なったんだ
('∀`)<あなたを、犯人です
ええっと、あゆだよ。
おじさん、元気でがんばってるかな?
ボクは、元気だよ。
梓さん、千鶴さんと一緒にがんばってるよ。
も、もう…お荷物じゃないよっ!ほんとだよっ!
…ねえ、おじさん?
ボクね。千鶴さんが戻ってきて、みんなで学校出てからね。ずっと、考えてたんだ。
秋子さんって…おじさんは知らないだろうけど…秋子さんってひとがいるの。
強くて。怖くて。ボクを…連れて行こうとしていたんだよ。
それで梓さんも、千鶴さんも、あゆのために戦ってくれたんだ。
でもね。
そのときボクは…何もできなかった。だって、怖かったんだよ。
だれかに殺されるのも。だれかを…ころす…のも、ね。
おじさんも、戦うよね。怖くは、ないの?
あゆは…怖いよ。秋子さんの叫び声、一生…忘れないよ…。
……うぐぅ。
それあと、色々あって。
ボク、死んだことになってるよね。心配してくれてたら、ごめんね。
みんなで学校を出て、最初にお墓のところに行ったんだよ。
遠くにいたけど、煙がもくもくし始めたから誰かいるもしれないと思って、みんなで走ったんだよ。
そしたら、墓地だったんだ。誰も、いなかったけどね。
あちこちから煙が出ていてね。地下室の大きいやつ?みたいのが、ここにあったんじゃないかって。
あゆも、そう思ったよっ!かくれんぼと一緒だよね。
そのあと、森に入ったのかな。
そこで、お爺さんに会ったんだよ。おじさんよりも、お年寄りだったよ。
「千鶴姉…誰か、いるよ」
最初に気が付いたのは梓だった。
気配は、ひとつ。木の下でもたれかかるように、ぐったりと座り込んでいる。
大柄な男。耕一さんよりも、更に大きい。
そのひとは知人だったが、参加者ではなかった。
「!?…あなた、お屋敷の執事さん…?」
その声に老人は片目を開ける。
「む…あんた…鶴木屋の、お嬢さんか…」
鶴木屋のある敷地から、いくらか離れた所にある、別荘地最大の”お屋敷”の執事。
地元代表のひとりとして、千鶴は老人と面識があったのだ。
「耄碌、したものだよ…」
がはっ、と咳をする。もはや吐血か喀血か判断すら出来ない。胴体は、血塗れだった。
いくつもの穴が穿たれ、これでよく生きているな、と思うほどの血が流れている。
呼気は血の湿り気を帯び、どう見ても耄碌とかいう問題ではない。
「一体、誰に!?」
千鶴は老人に手を貸して、気道を確保する。
「なあに…哀れむことはない。
この下らぬ戯事を仕組んだ者どうし、仲間割れしたに過ぎんのだ」
自嘲をこめて語る老人に、梓が表情を固くして、腕を組んだまま尋ねる。
「どういう、こと?」
高槻の更に上に存在する長瀬の存在。その所業。
老人の口から語られる、彼らの絶望的な狂気の沙汰に、千鶴達は言葉を失った。
最後に彼自身の戦い、そして敗北が語られた。
「長瀬源三郎、ですか…」
千鶴が思い出すように、老人を撃った男の名を呟く。
「…腐れ縁、かしらね」
自宅の戸口に、飄々と、しかし貼り付くように立っていた地味な男の姿が目に浮かぶ。
「なあ、鶴来屋のお嬢さん」
千鶴を現実に引き戻すように、源四郎が声をかける。
「わたしを長瀬ではなく、来栖川の執事と呼ぶのなら…心残りは芹香お嬢様だけだ。
この老いぼれを哀れんで、源三郎を追うのは、やめた方がいい。
妙な薬を使っていて…あれは、獣と変わらぬ」
「執事さん、あたし達のこと、知っているんだろう?」
横合いから梓が遮るように尋ね、そして宣言する。
「獣が怖くて…鬼はやってらんないよ」
…そして娘達は去っていった。
わたしの最期が近いことを、知ってはいたのだろう。
しかし、わたしが求めるものは孤独な死である事も理解していたのだ。
「本当に、いいのかい?」
そう言って一度だけ確認すると、鶴木屋の娘達は、振り向くこともなく去っていった。
小さな娘だけは、いつまでも悲しそうにこちらを見ていたが。
…それすらも、慰めになった。
「…お屋敷の、執事さん…か」
ははは、と低く笑おうとしたが、代わりにごぼ、と血がせり上がってくる。
脳にまわる酸素が希薄になってきているのだろうか、思考も視界も薄れていく。
「来栖川の人間として、最期を迎えることができるとは…」
そして無音の世界に包まれる。
「…わたしは、果報者だな…」
そのまま平衡を失い、どさりと横に倒れる。
言葉は、自分に言い聞かせるようなものであったが。
源四郎は満ち足りていた。
ねえ…おじさんは、怖くない?
あのお爺さんみたいに、一人で、誰もいないところで、どこか解らないところへ旅立つなんて。
そんなこと、ボクにできるのかな?
今はみんなと一緒にいるけれど。
いつか、一人になる日が来るのかな?
ほんのちょっと前までは。
いつまでも、今のままだなんて信じていられたのにね。
世界は、ボクを押し流しながら変わっていくんだね。
だから、ボクも変わらなきゃいけないんだよね。
…ねえ、おじさん?
あゆ、がんばるよっ!
そうやって、あゆが思考を締めくくった、まさにその瞬間。
源四郎の情報を元に、岩場にある施設を捜す千鶴達の目前に立ちはだかっていた岩が、
ゆっくりと浮き上がるように持ち上がり、三体のロボットが姿を現した。
「「「只今ヨリ作戦ヲ実行シ、排除シマス」」」
慌てて岩陰に隠れていた三人は、素早く死角に回り込む。
「あゆ、頭引っ込めろ!」
「うぐぅ」
ロボット達は、そのまま千鶴達に気付く事もなく、足早に駆けて行く。
「…物騒なこと言ってたね」
「始末しましょう…わたしが右に回って、梓が左からね。
あゆちゃんは…撃てる?」
「無理しなくていいよ?
アレの場合、”殺す”わけじゃなくて、”壊す”だから気は楽だと思うけどね」
突然自分に話を振られて、あゆは少なからず動揺した。
しかし見た目には、それほどの時間を要することもなく。
彼女は銃を構えて言った。
「う、うんっ!
ボク…がんばるよっ!」
【長瀬源四郎(セバスチャン) 死亡】
源五郎が蝉丸達へ放った、三体の通常HMと戦闘する直前までの補完です。
また、誰も宣言していなかった源四郎の死亡も抑えておきました。
えー「おじさんへ」です。
行動をつらつら書き上げるのは美しくないのですが、あゆなら最適だと
思いました…いかがでしょうか。
別荘地のお屋敷と、鶴木屋の関係に関してはオマケRPGからの半創作
であります。
手が震えていた。
左手のみだ。
いつの間にか握られていた右手は、何とか震えは起きないでいる。
郁未に気付かれる事も無い。
無論、冷え性というわけではない。
緊張しているわけでもない。
いや、むしろそんな理由であった方が良かったかもしれない。
――崩壊が始まっていた。
少年の内には、不可視の力が宿っている。
不可視の力の始祖としての、強大なる力。
これに比べれば、郁未の力も模造品と言っても差し支えない。
故に、障害が生じるのだが。
結界。
これによって封じられた力は、確かに少年の内に在る。
だが、それをいつまでも封じていられるわけにはいかないのだ――。
暴走を始めつつある力は。
時に血の衝動を引き起こし。
限界を超えた力を無理矢理引き出す。
抑える事は出来た。
――己の身体を削る事で。
そう、外に溢れ出さんとする力が、己の身体を傷つけているのだ。
少年は、汗を掻いていた。
それは、実に、実に珍しい光景であった。
「――郁未」
声を掛けた。
何となしに空を見回していた郁未が、顔を向ける。
「何?」
「もし、僕が死んだらどうするつもりだい?」
あまりにも唐突な問い。
少年にも、何故そんな事を訊いたのか良く分かっていなかった。
微かに潜む、死への恐怖がそうさせたのかもしれなかったが。
郁未は、若干虚を突かれたような顔を見せた――
すぐにそれは、少し怒ったような顔になった。
「あまりそういう事は言わない方が良いわ」
「どうして」
「言霊っていうのがあるでしょ」
右手を放される。
郁未は腕を組んで少年を睨んだが、少年は密かに安堵した。
身の震えを気付かれる事が無くなったから。
「死ぬとか殺すとか、そういう事ばっかり言ってると本当にそうなるの」
それから、郁未は。
少し哀しげに目を伏せる。
「私は――あなたに、死んでほしくないから」
心持ち暗い声で、そう言った。
それを聞いて。
少年は、拳を握り、手の震えを打ち消した。
改めて思ったのだ。
僕は、まだ死ぬわけにはいかない、と。
「――そう、だね」
呟くと、いつも通りの笑顔を見せた。
それはまさしく、いつもの少年の笑顔。
郁未も、ようやっと笑顔を返した。
――そこで耳に届く、悲鳴。
郁未の顔が強張る。
少年は、冷ややかな顔を森の奥へ向けた。
「――近いね。気を付けた方がいい」
警告。
郁未は、無言で頷いて返す。
その手には、既に包丁が握られている。
少年は、その手に何も握ってはいなかった。
だが。
辺りに、微かに漂う何か。
不可視の力――。
行き場を失った強大な力を、ほんの僅かに引きずり出す。
濃艶な血の気配が漂った。
それは、これから起こる何かを思わせる。
やがて、草を踏み鳴らす音。
誰かが、近付いてきている。
誰か。
足音は、軽く、妙に安定さが欠けていた。
女。それも錯乱している。
恐らくはマーダーではなかろう。
――少年の察知は見事的中した。
少しして、草木の中から飛び出してきたのは、少女。
少女の名は、天野美汐――
【003天沢郁未、048少年 005天野美汐と遭遇】
【064長瀬祐介 接近中】
36 :
彗夜:2001/07/01(日) 17:04
書きました。ネタ考えてから早15時間……ふぅ。
へぇ…早いね凄いね
>>37 皮肉?
早15時間って、『うお? もう15時間も経っちまったのか!?』
ってことですよ?
――君、朝、あの空き地で、何をしてたんだ?
――…………
――こんな雨の中で、ラジオ体操でもしてたわけじゃないだろ。
――ラジオ体操です。
確か、それが彼女との出会い。いや、正確にはクラスメートだったわけだから…厳密には違うんだが。
それからの一年は、確かに楽しかった日々。
俺と、茜と、詩子と。
本当に、楽しかった。心からそう思う。
気がつけば、雨の似合う少女、里村茜のことを本当に好きになっていた。
それは、初恋というわけじゃなかったけど。
『初恋は実らない』とよく言われているから、それはそれでいいのかもしれない。
俺が、彼女と雨を巡り合わせたくなくなったのはいつだったのだろうか。
あれは、いつかの雨の日。
――待っている人がいるんです。
――あいつ、傘持っていなかったから。
――濡れると風邪をひくかもしれないから…それだけです。
それでも時だけは巡って。
留まっていたかった時間も流れていって。
後悔を残したまま、俺は旅立った。
そして、またここで、忌まわしき死の島で、俺は彼女と出会った。
――ごめんなさい……生きて償っていけなく…て。
――ごめんな…さいっ――!!
それが、最期の言葉。
償う…?それは俺だ。
茜が、茜だけが、罪を背負う必要なんかない。
多分、俺が、茜を追い詰めた。あとは、あいつ…だな。
俺は、そいつは一体何をするべきなんだろう。
大切な人達が――俺の前から消えて…
大好きだった人が――俺の前から消えて…
俺は、一体何をすればいいんだろうか。
――……私が待たなければ、誰が彼を待つというのでしょう。
――……私が、待ち続けなければ、今までの私は、何だったのでしょう。
確かに、そう言った。
すべてを失って、今俺が一番やりたいこと。
ああ、俺は、そいつに会いたいのか。
俺は、茜がずっと待っていた、あいつに会いたいのか。
そうだな、俺が、代わりにずっと待っててやるよ、あの空き地で。…必ず、生きて帰ってな。
生き残ったら武器のテイクアウトは可能なんだろうか?それだと楽でいいな。
帰ってきたそいつに、真っ先に鉛玉をぶち込んでやりたいんだからな。
俺がやりたいことを成すべきに、生きて帰るのが大前提。
俺が、今まで考えたこともなかったこと。
ゲームに、乗るか反るか。
生きて帰れるなら、どちらでもいい。
茜も…あゆも、名雪も……みんなみんな…いなくなったんだから。
他にやりたいことなんて、なくなっちまったんだからな。
「ぐ…ぅ…」
目が覚めれば、見知らぬ天井。湿って腐りかけているかに見える、木の天井。
(ここは…どこだ…?)
どうやら、小さな古びた小屋…のような殺風景な部屋だ。
また、寝ていたらしい。いつこの小屋に辿り着いたかなんて、分からない。
(ひどく…つらい夢を見ていた気がする……)
未だズキズキと痛む頭を触ろうとした…が……
「て、手が動かない……」
ギリギリ…何かが締め付けられる音。
(縛られてる?)
後ろ手に縛られている。
(………)
一体、何が起こったのだろうか。
「あ、目が覚めた…良かったぁ…」
気の抜けたような声。
寝転がったままの祐一に見えたのは、ピョコンと立ったアンテナのようなピンクの寝ぐせ。
「二人ともっ、相沢さんの目が覚めたよ!」
「……」
状況よく分からない。
「あ、ほんとだ。……生きてる?」
「死んでるように見えるか?」
「まあ、そりゃあ、見えないけど」
生意気そうな茶髪のショートカットの女が話しかけてくる。
「………これは、どういうことだ?」
よく、状況がつかめない。一体自分が何をしていたのか。
覚えてもいない夢と、現実とをごっちゃにして、ミキサーにかけられたような感覚。
(要するに、頭が悪い、だ)
違う。
(気分が悪い、だ)
「いきなりそんな格好にして悪いけど、まだあんたのこと信用できないから悪く思わないでね。
あんたの武器も預かってるから。
分かるでしょ?殺人ゲームなんだから。
あらかじめ言っておくけど、私たちにやる気はないから」
早口でまくしたてる。
「殺人…ゲーム…?」
ようやく、頭の中でその単語の意味を理解する。
そうだった。北川と言い合いになって、天野に会って…謎の男に襲われて…
そして…大切な人達が死んだ…などと信じられずに走ってきたんだった。
「俺も…殺す気かっ!?…くそっ!くそっ!」
悔しさと、恐ろしさで、みじめな位足が震えた。
「だから〜…物覚えが悪い人ね…本当になんでこんなのが生きてるんだか…」
生意気な、女だ。
(もしも俺が殺人犯なら、真っ先に殺すタイプだ)
「ふざけるなっ!なんで俺がこんな扱い受けなきゃならないんだ!」
「…信用できるまで」
「……」
「まあまあ、結花…とりあえず自己紹介しようよ。信用も何も…そんな態度じゃ私達が先に信用失っちゃうよ」
信用…できるかどうかは置いといて、今までのやりとりで祐一の胸の中の恐怖心はいつの間にか薄れていた。
「むう〜…私こういう男嫌いなのよね…」
(俺だってお前みたいなガサツな女嫌いだ……)
結花、と呼ばれた生意気な少女をとりなしたアンテナ少女が改めてクルリと祐一に体を向けた。
「私の名前は、スフィー=リム=アトワリア=クリエールよ。簡単にスフィーでいいわ」
髪の毛の色とぴょこぴょこ動くアンテナが気にはなるが…ガサツ女と比べれば幾分可愛らしい仕草でそう答える。
「――――………」
そして、今まで二人の後ろで沈黙を守っていた女性が来栖川芹香、と短く名乗った。
その雰囲気はどこか神秘的に感じられる。
「んで、私は江藤結花。堅苦しいのは嫌いだから結花でいいわよ」
ガサツな奴が最後にそう告げた。
「んで、ガサツ女…」
「結・花・よ!」
とりあえず、この中でガサツ女と呼ばれたら自分、程度の自覚はあるらしい。
「まずこの縄をほどけ」
「ほどけ?」
「…ほどいてくれ」
「イヤ」
(このアマ…)
「あんたなんか信用できないもの…とりあえずあんたのことが聞きたいわ」
「俺か…俺は相沢……ってそういえばなんでお前ら俺の名前知ってた?さっき俺の名前を――」
「ああ、これに載ってたから。写りの悪い顔写真付きでね…いや、写真のほうが写りいいかも…」
失礼な事を口走りながら、俺の顔写真のついた本を見せつける。
「とりあえずほどいてくれ…俺にはやらなきゃならないことがあるんだ」
「やらなきゃならないこと?」
「人を探している。大切な人達だ」
「……あなたの言ってることは嘘かも知れないでしょ?」
「……殺人ゲームなんてふざけるなよ?…俺は信じない」
「あんたバカ?三日間もこの島にいて…せめて現実は見なさいよ!」
そんなこと言われても覚えてないんだから仕方が無い。頭がまた痛む。
美汐に出会った時に思い出された感覚…血の海に浮かぶ真琴の姿が思い出される。
祐一は激しく首を横に振った。
「殺人ゲームが…というより、俺は大事な人達を失ったとは信じたくないだけだ。
いや、絶対に生きている」
あゆも、名雪も、栞も舞も、そしてみんなも……真琴だって、俺の創りあげた偶像に違いない。
祐一は、強くそう信じる。
「それって、逃げてるだけよ…」
「見たことも聞いたこともない…信じてくれなくても構わないが、俺はここ何日かの記憶が飛んでしまってる。
そんな状況でそんなこと…信じられるかっ!」
「だったらなおさら逃げじゃない…つらいことから逃げて…私達だって信じたいわよ!できることならって…
でも、その為に忘れるなんて最低のことだわ。絶対に」
「……」
北川と似たような台詞。それが、祐一の勘にさわる。
「お前に俺の何が分かるんだ!」
売り言葉に買い言葉。
なんで記憶を失ってしまったかなんて祐一にも分からないが…信じる為に忘れたなんて思いたくもない。
「あんたのことなんて知らないし知りたくもないわ!
私達だって…口には出さないけどずっと辛いのよ!…ごめんスフィー、私もう我慢できないっ!」
「結花……」
「私は大切な幼馴染を失って…スフィー達は大切な妹を失って…それでもずっと悲しみを心の奥にしまって…
口には出さないだけで、ずっと、ずっと我慢してるのよ!?」
「結花!」
「私達だって…ずっと、辛かったんだからっ……!!」
「結花…」
泣き崩れる結花をなだめながら…
「ありがと…私も、芹香さんも、おんなじきもちだよ?もう泣かないで」
芹香と、そしてそう言ったスフィーの目にもまた大粒の涙。
「ごめん…ね…言わないように…泣かないようにって…思ってたのに…ごめんね…」
「……」
芹香がそっと、結花の頭を撫で続ける。
「私も…結花とおんなじ意見。忘れちゃ駄目だと思う。絶対に。思い出さなきゃ前になんて進めない。
進んだと思っても、それは横に走ってるだけだよ」
スフィーが結花の代わりと言わんばかりに、祐一と向かい合う。
「だけど…うん……。信じることは大切だって思うよ。
私も、心のどこかでけんたろや、リアン、綾香さんや舞さんや佐祐理さん…みんなみんな生きてるって…
そう信じるだけで強くなれる気がするもの」
今まで、そのやり取りを、黙って聞いていた祐一の顔色が変わる。
「舞!?舞って…まさか…川澄舞!?」
祐一の顔色が真っ青になる。そこで、舞の、佐祐理の名前が出たその意味を。
「えっ…そ、そうだけど……」
「嘘だろ!?舞が…佐祐理さんが…そんな…嘘だ…」
「……」
芹香が、唇を噛み締めるように言った。
――舞さんと佐祐理さんは、敵に襲われて…私たちと離れ離れになって…
「なんだよ…それ…くそっ…俺は…こんなところで何してんだよ…畜生っ…」
「……」
「悪いけど…少しだけ一人にしてくれないか?」
「……」
芹香が、まだ嗚咽を漏らしつづけている結花を肩に抱きながら、ゆっくりと小屋の外へ出る。
そして、スフィーがそれに続く。
スフィーが扉に手をかけながら、言った。
「信じることは大事だって思う。だけど」
一度だけ、祐一を見て。
「信じてるだけじゃ前には進めないんだよ」
ガチャッ…扉がゆっくりと閉められた。
(真琴…舞…佐祐理さん…)
実感が湧かない。当然だ。何も知らないのだから。
(俺だって…思い出したい…俺は…何をしてたのか…何をしたかったのか…)
だけど、あゆ達…いや、真琴達だって絶対に生きてる…と信じることだけはやめたくなかった。
【相沢祐一 捕虜となる】
【江藤結花 サイレンサー付きの銃 一時(?)入手】
※祐一は後ろ手に縛られたままです。
※今の祐一にとって、祐介はただの謎の男です。
※まだ彼は記憶喪失です。
>>44の最後から2行目
×「…信用できるまで」
○「…信用できないから」
です。
どれくらい眠っていただろうか?
目がさめたときには周りに誰もいなかった。
ただ、喉が渇き、体が餓えていた。
何かをたまらないくらいに欲していた…
そのとき、部屋のドアが開き初音ちゃんが入ってきた。
僕の体がビクンと反応した。
「あ、彰お兄ちゃん!目を覚ましたんだ!?それとも私が起こしちゃったかな?」
心配そうな顔で僕のほうを見る初音ちゃん。
僕はただ首をゆっくりと横に振るだけだった。
「よかった♪」
そして、初音ちゃんは僕の側で血で真っ赤な包帯を片付けたり、
僕の額の上にある濡れたタオルをかえてくれたりした。
「彰お兄ちゃん、具合はどう?気分とか悪くない?痛いところとかない?」
初音ちゃんが真剣に僕の目を見ながら聞いてくる。
僕は大丈夫とゆっくり呟いた。
それと同時に僕の心の中の何かが動く。
『ドクンッ』
「ねぇ、彰お兄ちゃん。喉渇いてない?お水持ってこようか?」
と言って初音ちゃんは僕のほうを優しく見つめる。
僕は頷き、初音ちゃんがうんと言って、水を取りにいこうとした。
しかし、初音ちゃんはガクッと何かに引っ張られた様に静止する。
初音ちゃんは不思議そうに僕のほうを見つめる。
それもそのはず、初音ちゃんを静止させたのは他の誰でもなく僕自身だったからだ。
そして、初音ちゃんの体をぐいっと引き寄せると、
初音ちゃんがどうしたの?と言おうとしていたその唇をふさいだ。
初音ちゃんの口内を乱暴に舌で犯す。
ぴちゅ、くちゅといった卑猥な音が部屋に響く。
ぷはっと息が漏れ、その唇を離す。
僕ははっと我に返る。
僕は今何をした?
初音ちゃんの純真でやわらかい唇を汚い欲望だけで犯したというのか?
そんな!?こんなことするつもりなかったのに!!
「あ、彰お兄ちゃん?」
初音ちゃんが顔を赤くしながらうつむき加減に僕を見る。
「そ、その、いいよ。彰お兄ちゃん我慢できないんでしょ?
それは多分私のせいだと思うから…」
初音ちゃんが髪の毛をかきあげながら僕の胸に寄り添う。
初音ちゃんが何を言ってるのかわからない。
僕が無理やりキスしたことを怒ってないんだろうか?
そんなことより、いいってなにが?
何をしていいんだ?誰のせいだって?
そんなことを考えていたつもりだったが、僕はいつのまにか初音ちゃんを押し倒している。
まるで違う誰かが僕の体を操っているかのように…
「んっ!」
僕はまた初音ちゃんの唇を吸っている。
初音ちゃんの唾液で自分の渇きを潤すかのように…
「あ、あの、彰お兄ちゃん」
僕は初音ちゃんの上着をたくし上げる。
「そ、その、痛くしないでね…」
初音ちゃんの声は聞こえているのだが体がいうことを聞かない。
僕は乱暴にそのまだ発育が不完全な胸の先にある桜色に色づく小さな突起物にむしゃぶりついた。
「ひゃ、んん…」
初音ちゃんは耐えているような声色でうめく。
右の胸を舌先で弄びながら、左の胸を指先で弄くる。
そうするうちに小さいながらもその存在を主張する。
「ふあ、あ、あきらおにいちゃぁん」
初音ちゃんが艶かしい声をあげる。
ふと顔を見やると初音ちゃんは目に涙を浮かべている。
いじらしいその表情がたまらなく自分の心を締め付ける。
何故、俺はこんなことをしているのだろうか?
まだこんなに幼く、あどけなさの残る少女に対して…
しかし、そんな心とは裏腹に自分の男性たる象徴は今か今かと主張を続けている。
そして、初音ちゃんのスカートに手をかける。
それをするりと脱がすと白い下着が顔をのぞかせる。
「あ、あんまり見ないで…」
初音ちゃんが恥ずかしそうに手で顔を隠しながら呟く。
僕はその下着の上からスリットにあわせて指を動かす。
初音ちゃんの体がビクッと跳ねる。
そのかわいらしい反応を見てもう少し優しくしてあげたかったが、
相変わらず僕の体は言うことを聞いてくれず、その指の動きは激しさを増すだけであった。
「ん、んんっ!んあっ!」
初音ちゃんは声を押し殺しているようだ。
そうだな、外には誰かいるかもしれない。
いつ誰が入ってきてもおかしくはないだろうに、僕は何をやっているのだろう?
しっとりとしたものが指に確認できる。
初音ちゃんのものなんだろう…
初音ちゃんはハァハァと息を切らしている。
かわいらしい胸が上下している。
ついに僕は最後の一枚に手をかけた。
腰を持ち上げ、それをつかみ一気に引き下げる。
まだ、誰の目にも触れたことのないだろうその体が今僕の目の前にある。
「あ、ああ…」
初音ちゃんは恥ずかしさのあまりか声も出ないみたいだ。
僕は両足を持ち上げその部分が露になるようにする。
そして、顔を近づける。
何をされるか理解したのだろうか、
「あ、だ、だめ!汚いよぉ!もうずっとお風呂入ってないし…」
と言い、僕の頭を押さえる。
初音ちゃんに汚いところなんてないよ。と思ったが、それが音声に変換されることはなく、
僕はその手を引き剥がし、その部分にくちづけをする。
汗のせいだろうか?少ししょっぱい味がしたような気がする。
そんなことも気にせず僕はその部分を丹念に舐る。
初音ちゃんは声を出さないように自分の口に手を当て我慢している。
とてもいじらしく感じた。
だが僕にはどうしようもない…体が言うことを聞いてくれない。
本当にそうなんだろうか?
これは僕の願っていたことではないんだろうか?
僕の中のどす黒い欲望が今体現されているだけなのではないか?
初音ちゃんを一度もそういう対象として見なかったと言い切れるだろうか?
自分がいやになってくる。
今ここで自分を殺して止めてやりたい。
しかし、そんな考えとは別のところで僕の体は動いている。
いつのまにか、僕は今まで自分の目の前にあったものに自分自身のそれをあてがっていた。
初音ちゃんは涙を流している。
俺は何をしているんだ?
そう思った瞬間、僕は初音ちゃんの中に入っていた。
「ん、んあ、や、やあ…」
初音ちゃんの声が僕の心に響く。
「いた、い。痛いよぉ…」
初音ちゃんの声が僕の心を蝕む。
僕は今、この世で一番純真なものを汚している。
結合している部分からは純潔の証が下のシーツを赤く染めていた。
「あ、彰お兄ちゃん。ごめんね、ごめんね」
初音ちゃんが僕に対して謝る。
何故!?僕は今は常ちゃんを犯しているというのに…
謝らなければならないのは僕のほうではないか!!
「私のせいでこんなこと…」
やめてくれ!
初音ちゃんのせいな訳が無い!
自分の弱い心がこんなことをしてるんだ!
僕は自分が許せない!
「私、彰お兄ちゃんのこと好きだよ」
その言葉を聞いたとき、自分の中で何かが高まっていくのがわかった。
そして、僕は初音ちゃんの中で白い欲望を吐き出し果てた。
「僕も初音ちゃんのことが大好きだよ」
その最後の言葉だけははっきりと口に出すことができた。
僕は初音ちゃんの頬に触れた。
そのとき自分の体の自由がもどっていることに気付いた。
それと同時に気が遠くなっていくのを感じた。
「ごめんなさい、彰お兄ちゃん…」
最後に見たのは涙を流しながらそう呟く初音ちゃんの姿だった。
【七瀬彰 鬼の暴走はとりあえず無し】
【柏木初音 処女喪失】(w
らっち―さんへ
題名なんですけど[七瀬のないしょ]
では無くて、[彰のないしょ]
に変更しておいてください。
七瀬留美と勘違いしたら困るんで(w
『さて、貴様ら。この島のことををどう思う?』
『それはどういう意味だ?』
『何かおかしいとは思わないか?』
『そうね、明らかに以前に人が住んでいた気配が感じられないわ。
恐らくこの殺人ゲームの為に用意されたと考えるべきね』
『馬鹿な!そんな馬鹿げた話があるか!』
『いや、俺もそう考えていた。このゲームには間違いなく裏に何かある』
『一体この馬鹿げたゲームに何が隠されていると言うんだ?』
『それは俺にもまだ分からない。何しろ情報が無さすぎる』
「ぴこ、ぴこぴこ。ぴっこぴこ?」
「にゃ〜にゃ〜?」
「シュウ、シュウ。シュウ」
「カァーッ!カァー!」
「ぴいこ、ぴこぴっこり。ぴこぴこぴこ」
「にゃ〜うにゃ〜にゃ〜」
「ぴっこぴっこ。ぴこぴっこり」
「ったく、うるせぇ獣どもだぜ」
「ねえ、したぼく」
「げぼく」
「わたし、思うんだけど」
「げぼくだ」
「うるさいわねっ!」
「いい加減覚えやがれっ!」
「ふみゅーん・・・げぼくぅ」
「下僕じゃねえっ!」
「どっちなのよっ!」
「うるせえ殺すぞアマ!」
「………バカばっかり」
「ご、ごめんなさい……」
「ちっ、別にいいけどな」
強化兵である御堂にとって、いくらふいをつかれたとは言え、目の前の少女の一撃など効きはしなかった。
とは言うものの、出会い頭に殴られていい気のするものではない。
殴られた原因が自分の顔にあるとも知らず、御堂は舌打ちをした。
「で、早速だがお前は誰だ? どうしてこんなところで居眠りこいてた?」
「答えてもいいけど……」
繭はそこで、一旦言葉を切った。
「あなた迂闊じゃない? 初対面の相手に武器も構えないで。
もし私が銃でも隠し持ってたら、あなたおしまいよ?」
繭が警告を投げかける。
だが御堂は、軽く受け流すだけだった。
「甘いな。俺はお前が動くのを見てからでも充分対処できる。
その気になれば……」
御堂の手が動く。
次の瞬間にはその手にはデザートイーグルが握られており、その銃口は繭に向けられていた。
「わかったか?」
「そう。わかったわ」
顔色一つ変えずに言う。
本当にやる気になっている人間ならば、繭は気絶している間に殺されているはずだったからだ。
相手の迂闊さを警告したのだが、どうやらその必要はなかったらしい。
「ならもう一度だ。お前は誰で、こんな所で何をしていた?」
それから、繭はひとしきりのことを言った。
自分の名前。誰を探しているのか。どういう信念で動いているのか。
そして、教会での出来事、崖での出来事も。自分の知る限り、全部。
「はぁ、そんなことになってたのかよ」
開口一番、おもわずそんな言葉が漏れた。
「そんなことって、何か心当たりでもあるの?」
「水瀬名雪と名乗るイカレた女に会ってな。
連れの提案でそいつの後を追ってたんだが、なるほどねぇ」
「そうだったの……」
「おまけにそいつに止めを刺したのが祐一って野郎で、そいつはどこぞの女と一緒に崖から落ちたと」
あいつが知ったらなんて思うだろうか、と、御堂は心の中で口に出した。
「じゃ、もうお前に用はねぇ。とっととどっか行っちまいな」
冷たく言い捨てる。
「はぁ!? 人に訊くだけ訊いておいて、自分のことは何も言わないっての!?
最低ね、オッサン!」
繭が怒るのも無理はない。
「オッサンじゃねぇ、俺は御堂だ、覚えておけ!」
「うるさいわよ、オッサン」
「っ! このチビガキ……!
まぁいい、俺はもう行くぞ」
そう言って、御堂は歩き出した。
「なんでついてくる?」
後ろを歩く繭に、そう問いかける。
「偶然でしょ。私は教会に向かって歩いてるの。
誰もオッサンの後なんか追ってないわよ」
「さっきからオッサンオッサン……いい加減にしねぇとブチ殺すぞ!」
「あぁ、そう。じゃ、やればいいじゃない?」
カチャッ。
無言で銃を構える。
視線が交錯する。
その二人の間を、風が通り抜けていった。
木々の葉がそれに合わせて静かに謳う。
無言の対峙の中で、先に動いたのは御堂だった。
「ちっ……」
銃を下ろして、再び歩き出す。
ここに来てからの自分は、どうしてこうも甘くなってしまったのだろうか。
間違いなく、一人の少女の影響だった。
もっともそのことを、御堂は自覚していなかったのだが。
教会に着いた。
御堂はドアを開けようとして、何かを思い付いたように振り向く。
「チビガキ。一つ頼みがある」
「チビガキ言ううちは、きいてあげないわよ」
御堂は無視して続けた。
「あ前から聞いた話を連れに話す。
だが祐一って奴があの女を刺したことは、伏せておいてくれ」
「何よそれ」
しばしの沈黙の後、言う。
「人間に夢見てるお年頃なんだよ」
「……」
「いいな?」
繭は答えずに、こう返した。
「何があるのか知らないけど。
あんた、顔に似合わず優しいのね」
優しい?
馬鹿馬鹿しい。
土気が下がるのを避けたいだけだ。
教会のドアを開ける。
「おっそーーーい! この、したぼく!」
けたたましい声が鳴り響いた。
互いに自己紹介をし、繭は教会での一件を詠美に話した。
無論、祐一が秋子を刺したことは、伏せたままで。
全ての話が終わり、詠美はつぶやいた。
「そう。結局死んじゃったんだ……」
生徒手帳を取り出して、しみじみと見つめる。
「これは、やっぱりここに置いていった方がいいみたい……」
てくてくと外に歩き、秋子の墓へ。
生徒手帳を捧げて、静かに祈る。
戻って来たとき、詠美は、元気だった。
いつもの笑顔に、ほんの少しだけの涙をたたえて。
「で、お前は何をしに来たんだ?」
「忘れ物を取りに来たの」
詩子と秋子の荷物を回収する。
その際に御堂は詠美に何故拾っておかなかったのかとツッコミを入れた。
詠美はふみゅーんと言うだけだったが。
「これでよしと。って、何これ?」
繭は詩子の荷物に入っていたCDを取り出す。
「あ……」
それを見た詠美も自分の荷物からCDを取り出し、見せた。
「……」
「……」
「……」
「これも何かの縁っ!」
詠美が言う。
御堂はただただ、頭を抱えるだけだった。
【繭、御堂・詠美と合流 一緒に行動】
【詩子、秋子の荷物は繭が回収】
【生徒手帳は墓に放置】
62 :
書き手:2001/07/02(月) 03:56
(3)に誤字発見
>あ前から聞いた話を連れに話す。
お前から〜ですな。
なんてミスだよ。
手、というのは、まああれだね。
人間っていう奴が人間であると言う証明と言うか、
もしくは理性の証明と言うものなんだと思う。
どうしてかって?
うーん……。
一口には説明しにくいんだけどね。
たとえば、何で”手”なのだろうね。
簡単さ、
”前足”じゃないからだよ。
え?
同じ様なものじゃないかって?
いやいや、そんなことはない。
前足では道具を造れない。
前足ではドアノブを握れない。
前足では倒れた人にさしのべることは出来ない。
前足では……彼女の手を握れない。
千切れた右手――。
それはまた一つの崩壊の形。
僕らを形づくるもの、その円環の亀裂。
須らく、人間と言うものはもろく弱いもので出来ているのだ――。
「……どうか、したかな」
少年は笑いかけた。
傷ついたものをさらに傷つけるようなことは、あまり好きじゃなかったから――。
「……」
その少女は何も応えない。
ただ、何かにおびえて、自分の体を抱きしめるような形で震えている。
……だが、その姿勢は心持ち左に傾いた、不自然なものであった。
その一点が、妙に――気になった。
「……」
荒い息。
恐らく叫び声の主は彼女だったのだろう。
なにか……彼女の心を襲う脅威が、森の奥であったに違いない。
だが、この言いようのない不安はなんだろう。
ここ数日の僕なら、真っ先に手を差し伸べていたようなものだ。
なのに……今はそれが出来ない。
どうしたと言うんだ?
「……」
おびえた瞳。
それは最初にここに現れたときに僕らを捕らえてから、
一度として一点に留まらない。
まるで、止まっていることそれ自体を恐れるように――。
「……」
郁未もまた動かない。
いや、どちらかと言うと僕よりさらに警戒の色が強い。
それは……、彼女の行動によるものだろう。
まだ彼女があらわれて少ししか立っていないが……、
彼女はまだほんの一瞬すらも”両手”を見せていない。
それが心配だった。
もし彼女が持っているのが拳銃や炸薬だったら……。
それを考えると油断は出来ない。
久しぶりの再会に、緊張が抜けていたと言うのか。
そう……、
本来この島で信頼できるものなど指折り数えるほどしかなく、
そしてそれですらも危ぶんでなお当然なのが今の状況なのだ。
「……」
彼女は……。
もしかしたら、ただおびえているだけかも知れない。
だが、僕はそれを殺すことになるのかもしれない。
紛散する不可視の力……。
血の衝動は、いつ、どの瞬間に僕に襲いくるのか分からない――。
だが――。
ピチョン……。
状況は――。
「!?」
いつも――。
「……血?」
僕の意志と無関係に動く――。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
そのフレーズが合図のように、彼女は叫びだした。
必死に隠していたものが、とうとう見える。
見たくなかった現実。
認めたくなかった事実。
彼女の右手は、その腕の先が無かった――。
ひゅん。
風を薙いで、なにかがひっかかる。
これは――。
「……ピアノ線!?」
僕の腕を掠めたそれの標的は……郁未!?
「……え?」
郁未の体を一瞬で巻く。
そしてそれが彼女を――。
プツン。
「……!?」
その男は、ほんの少し驚愕した様子で後ろずさった。
……叫び声に飲まれた一瞬を見計らって、この男は襲ってきた。
まるで……暗殺者のように。
「くっ!」
郁未は向き直って包丁を構える。
……そう、偶然にも包丁の刃が内側から糸を断ち切ってくれたのだ。
そして、僕も同じように本を一ページ、切り取って構えた。
「……だろ」
男……、いや少年が何かを呟いた。
「殺そうとしたんだろ? 彼女を」
くすんだ光を灯す瞳に、乾いた笑みを浮かべる口元。
その表情は……正常であったと果たして言えたのか?
「分かってるんだよ……君たちも一緒なんだろ。
その包丁でで……ああるいは二人ががかりででで……。
ダメメメメメだよよぉ? さ、ささせないよぉぉぉ?
ぼ、ぼ、ぼぼぼ僕がいるるるrうちは。そんなことははは?
僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が
僕が僕が僕が僕が僕が彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女
彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女
彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女
ののののののののことことことはははははは守る守る守る
るるるるるまもるまもるるまもるんだだだだからだからだ
からららら……」
――頭が痛い。
……何かが浸食してくる。
脳が……チリつく。
ナンダ……コレハ?
不可視の力じゃない。
だが、何かそれに似ている……。
苦しい……いや、これは――。
狂気は、伝染する――。
狂う。
そうだ。
まるで、
あの時の僕のように――。
ドクン!!
鼓動。
再び、脈打つ。
来る。
狂気が来る。
この程度の電波など歯牙に掛けない、
内面からの脅威が――。
ドクン!!
血が、騒ぐ。
血が、うねる。
血が、沸く。
横目に映るあの子。
郁未。
同じように、彼女も苦しそうな顔をしている。
そうだ、ならば楽にしてあげなくちゃ。
速く痛みから開放してあげよう。
つまらない”意思”に喰われてもがくなど彼女に似合わない。
僕が――。
・
――そんなことが、容認できるか。
・
目の前を望む。
頭の中の狂気ではない、
目の前に迫る現実の狂気。
紅い色を映す鋼線を引いて、彼は僕に迫っていた。
銀色の輪は、思ったよりも俊敏な動きをする。
これに囚われたなら、あっという間に体が輪切りにされていくだろう。
だから……。
ギィィィィィンンン!!!
軋んだ厭な金属音。
彼は糸を、僕は紙を振るった。
そして、糸は断ち切られ、紙の断面は使いようにならないほどボロボロになった。
「ぐぅぅぅぅっっ」
低く彼はうなる。
僕はすかさず新しい紙を切った。
そして彼もまた武器を補充する。
胸から何かを取り出した。
黒い小さなもの……、
……拳銃!?
彼は寸瞬に撃鉄を起こし、迷わず僕に向ける。
「!?」
だが、それは思い通りにならなかった。
郁未が、飛びついた。
「くぅぅぅぅぅぅっっ!」
「ううううぅぅぅぅぅ……」
彼の後ろから組み付く形で両手を抑えている。
ますい、これでは……。
僕は駆け出した。
間に合うか……!?
「ぐぅぅっ!」
「あうっ!?」
彼の肘打ちが、郁未の薄い胸板を強打した。
あえなく郁未は倒れる。
そして彼は郁未に銃を向けた!
パァァァァァアアアアン!!
「んぐがぁぁぁぁぁあああああ!!?」
「……え?」
呻き声が漏れる。
低くうなる叫び声が。
――それは、彼からの叫びだった。
カシャっっ。
着弾のショックで、彼は拳銃を取り落とした。
「逃げろ、郁未!!」
郁未は慌ててそこを離れた。
――僕がとっさに投げた”本”。
それは完全にその弾道を遮断し、そして完璧に銃弾を跳ね返した。
……反射した銃弾は、まごうことなく彼自身を標的とした。
「うおおおおおおおおおおお!!」
ガッッッッ!!
僕は全体重を乗せた蹴りを見舞った。
「ガァァアアあっ!?」
吹き飛ばされる彼、だが、まだ甘い!
「くっ!!」
その瞬間に、彼の顔面を拳で殴りつけた。
ごすっ。
鈍い音がして、そのまま彼は崩れ落ちた。
「はあ……はあ……はあ……」
なんとか……なった。
僕は安心して息をついた。
一瞬、だけどずいぶんと精神をけずるきつい時間だった。
僕らの精神を蝕んでいた気は、いつのまにかどこかへ消えていた。
僕は……郁未のほうを向いた。
「……」
すこし気持ち悪そうではあるが、彼女もまた健在だった。
さしたる怪我も無いようだ。
口の端を軽く吊り上げて、笑う。
――失念していたことが、二つあった。
「!?」
郁未の顔が歪む。
これは……。
振り返る。
そこにあったのは――。
「――君は」
右腕を失ったままの少女が、左手に拳銃を構えて立っていた。
彼を蹴り飛ばした時に一緒に跳んでいった拳銃、
まさかそれを拾われるとは……。
「……」
彼女はにこりともしない。
そしてその視線は僕たちに向いていない。
「……祐介さん」
そのまま、ゆっくりと歩みを進める。
倒れた彼のところまで。
そしてあるところまでいって、止まった。
「……」
少女は、無言でにっこりと微笑んだ。
僕たちの前で見せる、初めての笑顔……。
――もう、いいですよ。
だぁん!
彼女は発砲した。
銃弾は、彼女のももの辺りを貫いた。
銃弾の反射で捻じ曲がった銃口と、彼女の低い握力を以ってすれば、
それは当然の結果だった。
彼女は、そのまま倒れた。
そして、示し合わせたかのように、彼が起き上がった。
倒れている彼女を見ても、彼は何も言わなかった。
その片方しか無い手から拳銃を構えると、
まっすぐ僕らに向かって構えた。
――にぃっ、と彼は笑った。
バァァァアンン!!
そして、
今度は銃弾が放たれるまでも無く、
それを中心に爆発を起こした。
彼は、そのままどさっ、と倒れこんだ。
そして、二度と起き上がってくることは無かった。
捻じ曲がった銃口、果たして彼はそのことを気付いていなかったのか?
それとも――。
安らかに、眠る。
まるで、さっきまでの血で血を洗う戦いが、
全て無かったかのように安らかに。
煙る硝煙、
破損した拳銃、
断ち切られた糸。
弾痕のついた本、
放置された包丁、
横たわる二つ、
立ち尽くす二つ、
何ものも何も語らない。
少年と郁未は、ただその一瞬の出来事に流されるだけ――。
……ゲームは、既に佳境へと映っていた。
・
――ごめん、天野さん。
・
【005天野美汐 064長瀬祐介 死亡】
【ピアノ線は断裂、コルトガバメントは爆砕、本はハードカバーに弾痕、”右手”はこの付近のどこか、包丁は特に損傷はなし】
【少年、郁未:その場に留まる】
74 :
111:2001/07/02(月) 04:12
いきなり誤字を発見…。
>>73 真ん中下の一文;……ゲームは、既に佳境へと映っていた。
移っていた。
下が正解ですね。
よろしくお願いします。
75 :
名無しさんだよもん:2001/07/02(月) 07:24
76 :
111:2001/07/02(月) 17:34
>>62−73
Voiceless Screamingが正しい。
びくり、と、――長瀬祐介の身体が動くのを見て――
まだ、死んでいなかったのか、と――少年は、心底不可思議そうな顔をした。
赤く汚れた身体で、
泥にまみれ、這い蹲って――
――少女。
天野美汐の元へ。
彼は死んでいないのだろうか?
あれ程の傷を受け。
――その、芋虫のような様子を、二人は――止める事が出来なかった。
たぶん、僕、長瀬祐介は。
もう、死んでいたのだと思う。
意志はなかったから。
意味もなく、
守りたかった人の手を。
握りたいと思ったから。
守れなかった人。
けれど、せめて。
そして、漸く、君の横に辿り着いた。
目を閉じて、眠る君をみて、
どうしようもなくなって。
だから、手を握った。
――私、天野美汐は、激痛と共に目を覚ました。
確かに、私は殺された筈だった。
ずきり、とお腹の辺りが痛む。
だが、痛むだけだ。
私は生きている。
だが、何故だろう?
そもそも、ここは――何処だ?
辺りを見回すと、――ドアががちゃりと開いて――喜びに震えた、声が聞こえた。
「――天野さんっ!」
それは、長瀬祐介の声だった。
「長瀬、さん?」
「うん、うん――僕だっ――良かった、目を、覚ましてくれた――」
そう云って――泣きじゃくる。あの素敵な笑みを浮かべながら、涙を流す。
「あの、ここは、何処ですか?」
まさか、と、私は、思った。
「そうだよ。――僕たち、生き残れたんだ!」
あれから――自分たちが殺されたと思った時、すぐ、七瀬彰達が駆けつけ、あの少年達を殺したのだという。
瀕死だった自分達は、それでも辛うじて息はあり、すぐに手当をされたのだ。
そして、――私が眠っている間に。
脱出の手段が見つかり、そして――意外あっさりと、帰って来れたのだという。
すべてが、あの戦いのすべてが――夢だったのだ、という、訳ではなかった。
それが一番望むべき形。
自分の右手首は、確かに、ない。
真琴も、いない。
けれど――
「それで、あの」
ここは、何処だろう?
「――僕の、部屋だよ」
そう云って――祐介は、笑った。
「あれから、皆散り散りになった。大切な人を失って、皆、きっと大変だと思う。
殺人ゲームが明らかになって、皆、色々苦労してる。天野さんのところにも、
色々、色々来ると思う。きっと、好奇心で、傷つける人が」
少し緊張した顔をする。
そして意を決したかのように、祐介は云った――。
「だから、一緒に、――暮らそう」
「え?」
「僕は学校を辞めて――というか、辞めたくなくても、行きようもないからね。
だから、働くつもりだ」
何を云っているのだろう。
「君を傷つける人から、僕は、君を守りたいと思うんだ」
――この人は。
「私は――」
「本音を言えば、ずっと、君と一緒にいたい。君の事が本気で好きみたいだから」
「私も、大好きです、だけど――」
「真琴さん、の、事?」
――そう。
私の脳裏によぎったのは、その名前。
二度と会えない、トモダチ。
「彰兄ちゃんが云っていた事を鵜呑みにするつもりはない。日常なんて何処にでもあるから、
すぐに見つけられるなんて。昔、確かに日常はあった。変わるはずのない日常が」
僕にだってあったから。寂しそうに、そう笑う。
「忘れちゃいけない。大切だった人の事、そして――大切だった、変わらないはずのカタチを。
だからこそ、僕は、君と一緒に暮らしたい、と思う」
誰より、君の悲しさを知ってるから、失った悲しみを知ってるから。
そして、君も、僕の悲しさを、きっと誰より知っていてくれるはずだから。
「だから、暮らそう?」
――私の返事は、決まっていた。
私達の暮らしは、順風満帆という訳にはいかなかったが――それでも、
それなりに、何かを守りながら、見つけながら。
――あっという間に時は過ぎ、季節は冬になっていた。
雪がちろちろと降り出すのを見て、
やはり――真琴の事を思い出す。
「――どうしたの、天野さん?」
「いえ――少し、思い出しただけです」
雑踏を歩きながら、私達は手を繋いで歩く。
「――そっか。冬、か」
早いね、と云って、祐介は笑った。
私には右手がないけれど、祐介は、私の左手を、誰より強く握ってくれていた。
「真琴の事を、少しだけ、思い出しました」
「――そっか」
祐介は、何も云わずに私の手を牽く。
それにしても、寒いね、と、祐介は呟いて――
「肉まん、食べようか?」
そう云って、笑った。
そして、強く、手を牽いて――
その手が、何より温かかったからこそ――
私は、初めて、そこに――日常を感じた。
思い出よりも強い、何かを。
「祐介さん」
「何? 天野さん」
「天野さん、って呼ぶのは今日でお終いです」
「はぁ?」
「美汐、って呼んでください」
「て、照れくさいな……」
「呼んでくれないとキスしてあげません」
クリスマスにキスもしないカップルなんて馬鹿みたいでしょ?
私は、悪戯っ子のように笑う。
久し振りに、心から、笑った。
「――分かったよ。み、美汐ちゃ」
照れくさそうにそう云う祐介の唇を――私は塞いだ。すべて云わせる前に。
ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る。
そんな唄が聞こえて――
長い、長い抱擁。
通行客がひゅーひゅーと冷やかすが、そんなの関係ない。
柔らかな、暖かな祐介の唇に――もっと、触れていたかったから。
「こ、こんな人通りの多いところで」
ぷはぁ、と云う音と共に、祐介は顔を真っ赤にして不満を言う。
「別に私は構いませんよ。恥ずかしかったですか? 私とキスするの」
「べ、別にそう云う事云ってるんじゃないよっ、天野さんがっ――」
「美汐、です」
――私は、もう一度笑った。
新たな日常を、見つけられた事を祝って。
――天野さんが、少し、笑ったのが、見えた。
死に至る眠りの中で、笑った。
僕の、少しだけの、弱い電波が、きっと――
彼女に――束の間の、素敵な空想を、
見せる事が、出来たのだろう。
生きていたなら、守れたなら、確かに生まれたはずの、日常。
今度こそ、僕の意識は途絶える。
暖かな手。
好きだった人。
守りたかった――美汐ちゃん。
畜生。
なんて、無様。
僕は、空を見ようとして。
結局、それを見る事も出来ず――
終わった。
――漸く。
【005天野美汐 064長瀬祐介 死亡】
【少年、郁未 その場に留まるが、それから後の行動は不明】
84 :
111:2001/07/02(月) 18:12
>>63-73の『Voicelass Screaming』はアナザー扱いとなりました。
書き手の皆様、編集サイトの方はご注意下さい。
85は煽りです。無視お願いします。
>>85、
>>87 NGは僕のミス作品について出された物です。『Voiceless〜』にではありません。(タイトル訂正あり)
パァァアン――
そんな音が、聞こえてくる。
もはや聞き慣れた音。この島で、幾度と無く聞いた音。
その音に、往人は歩む足を止めた。
「――近いな」
呟く。
3つ、重なって聞こえていた足音は全て止まっていた。
無論、往人に聞こえる以上は近くに居る者には全員聞こえている。
晴子も。
そして観鈴も、その音に足を止めていた。
「――また」
観鈴が、口を開く。
「また、誰か、撃たれたのかな……」
沈痛な面持ちで。
暗く、沈んだ声で、そう呟いた。
もう、死は見飽きた。
その島のあちこちに転がる死骸――。
目の前で、腕が飛ぶ光景すら見ているのだ。
だからこそ、辛いのに違いない。
「……けったくそ悪いわ」
隣に立った晴子が、ぼやく。忌々しげに。
―――ァァアアあっ――
続けて、響く奇声。
晴子は、さらに顔を顰めた。
「行こか――気分悪なるで」
そう言って、観鈴の肩に、優しく手を置く。彼女なりの配慮。
――観鈴は、俯いたまま、答えない。
「観鈴?」
往人が声を掛ける。
それと同時に、観鈴は、きっ、と顔を上げた。
使命感を帯びた――そんな顔。
二人に、嫌な予感が走る。
「わたし、行ってくるっ――」
――悪い予感とは何故そうも当たるものか。
森の奥に向かって、二人に、顔を見ずにそれだけ言った。
「ちょ、観鈴っ――!?」
晴子が咄嗟に出した手を、避ける。
そのまま、その手にシグ・ザウエルショート9mmを握り、駆け出した。
「観鈴っ!」
返事は無い。
振り返りもせずに、そのまま奥へと消えて行く。
――無論、少し遅れて二人も駆け出した。
「何やってんだあいつは……」
走りつつ、ベネリM3ショットガンに弾を入れる。
念のためだ。
「……ホンマや、捕まえたら一発殴らなあかんわ」
そう言って、傷を抑えていた左手で拳を握った。
その両手には、何も握られてはいない。
―――。
どうして走っているのか。
二人を置いて、何故突然走り出したのだろう?
足は震えている。
勢いだけで飛び出したわけだが、銃を握る手も震えている。
恐らく、撃つ事など到底、無理だ。
だが。
足は止まらない。
止める気も無い。
――嫌だった。
このゲームが。
殺し合いが行われる事が――
自分を護る為に、往人が誰かを殺そうとする事が――
そして、自分の為に、母親が傷付いた事が――。
どうして、こうならなければならない?
何故、殺し合いなどする。
―――。
分かってる。
そんな事は、誰にでも分かる。
恐怖。
恨み。
そして、生き残るという欲望。
それらが、血の惨劇を引き起こしている。
自分は、殺せない。
だが、殺す事が出来ないからこそ、何か出来る事があるのではないか?
そう思った。
だからこそ、走る。
手遅れになる前に。
……無論、それだけではない筈だ。
走りながら、思う。
――もう、足手まといになるのはこりごりだ、と。
銃を握る。
確かな重みを持ったそれが、僅かに勇気を与えてくれるような気がした。
そして木々の間を抜けていく。
「―――」
「―――」
無言。
最後の繋がりを求めて、堅く手を握った二つの死体。
少年は、悲壮な顔を。
もはや光を灯さぬ瞳を、遠い空へ向けて――泣いていた。
それでも、少女は、微かに笑っていた。
死の直前に何を見たというのだろう?
無論、彼らには知る由も無い。
「――この島に居る以上は」
少年の声。
「殺さなくては、生きる事が出来ない。他の誰かの命を奪って、自分だけが生き残る」
拳を握る――
腕が震えているのは、崩壊によるものだけではあるまい。
その一見静かな表情の内に潜むのは――怒り。
「ふざけた話さ――」
締めくくる。
郁未は、返さない。
――二人は、もはや目の前で死んだ彼をただのマーダーとは思っていなかった。
否。この島に居る全てのマーダーもそうだ。
彼らは、この島の被害者。
狂った島の中で。
何かの理由の為に、他の誰かの命を奪っていく。
悲しみを巻き起こし。
そして最後に、己もその中で死ぬ。
彼は。
きっと、本当に、彼女を――
「――埋める?」
提案。
ぽつりと呟かれた郁未の言葉に、少年は無言で頷いた。
本で穴が掘れるわけがない。
無論、包丁でもだ。
適当に、大きめの枝を包丁で叩き折る。
郁未はそれを少年に投げ渡した。
「傷、大丈夫かい?」
――郁未の服には、あちこちに切れ目が作られていた。
ピアノ線。
切れた事で助かったものの、あれで無事でいられる筈も無い。
服の切れ目から、微かに血が滲んでいるのが見えた。
「大丈夫――舐めれば治るわ」
かつ、と枝を叩く音。
「その時は、手伝ってもらうわよ?」
「――やれやれ。良い趣味してるよ」
苦笑気味の、溜息。
それは、暗い、暗い雰囲気を吹き飛ばそうとするようで。
――そして、随分と儚いものだった。
かつ、と枝を叩く音。あと少し。
かつ。
――ばきん。
「……っ」
人の声。
咄嗟に、振り向く。
――少女が居た。
その手に、銃を握り。
左手で、口を抑え。
そして、愕然と、その目が見るのは。
二つの死体。
――違う。
違うんだ!
二人は、そう叫ぼうとして。
だが、それよりも早く。
さらに二人の人物が、森の影から現れる。
「観鈴っ――」
男と、女。
見た事の無い顔。
その二人は。
少女の様子に気付いたようで。
彼女の見ていたそれに、目を見開いた。
――ああ。
どうせなら、蝉丸さんだったら良かったのに――。
何でこうなってしまうのか、といった顔で。
少年は、そんな事を思った。
【003天沢郁未、048少年 023神尾晴子、024神尾観鈴、033国崎往人と接触】
95 :
彗夜:2001/07/02(月) 22:46
書きました。
96 :
彗夜:2001/07/02(月) 23:16
訂正です……
少年と往人はずっと前にNo.20にて面識がありました。
男と、女。
見た事の無い顔。
その二人は。
少女の様子に気付いたようで。
彼女の見ていたそれに、目を見開いた。
↓
現れたのは、男と、女。
――あれは。
ずっと前に――このゲームが始まった頃に、少しだけ言葉を交わした人物。
確か、国崎往人という名前だった筈だ。
共に連れている女は、知らない顔。
国崎は、少年の顔を見て、僅かに眉を寄せ。
それから、少女の様子に気付いたようで。
少女の見ていたそれに、目を見開いた――。
といった感じで修正お願いします。
どさくさに紛れてあちこち改変してますが気にしないで下さい(逝)
「外から見た感じだと施設はこれぐらいの大きさだと思うのだが」
蝉丸さんがペンで基地のだいたいの形を描いてみる。
「まぁ地下がどうなっているかは分かりませんけど、確かに…」
トン……トン…トン…
俺がその施設の外周三箇所を指でたたく。
「ここが俺達の見つけた入り口。裏のこことここ辺りに脱出口がありそうな雰囲気ですね」
自分なりの推理。的確なポイントだと我ながら思う。蝉丸さんの表情が驚嘆のそれになる。
「君は一般人だろう? なかなかの推理力だ。私が考えていたのと変わらん」
「はは…。臆病なだけですよ」
リビングルームに男二人。作戦会議は続いていた。
ん?
そう言えば…。
「蝉丸さん。晴香さんは今何してるか知ってます?」
一人だけ、自分が行動を把握していない人物がいるのに気づいた。
「彼女なら、ドラム缶見つけたからドラム缶風呂をする。とか言って外で準備していたぞ」
は?
「ド…ドラム缶風呂っすか!?」
「うむ。少々危険だとは思うのだがな。やはり婦女子は気になるらしい」
確かに最近皆風呂に入っていない。常に活動しているので汗はだだっかきだ。
婦女子と言わず、男の俺でもそろそろ気になる。
「ふむ…そうだな。施設うんぬんよりそっちの方を決めるのが先決かもしれないな。
男としてやらぬわけにはいくまい」
蝉丸さんはもう一枚紙を取り出し、この家のだいたいの形を絵にする。
「耕一君。君ならどうする?」
え? そんなこと言われてもなぁ…。真面目な顔で言われても…。
確かにマナちゃんや初音ちゃんはともかく、晴香さんあたりは覗いてみたい気はするな〜。
ぐっ…。いかんぞ男耕一。そんな情けない行為を初音ちゃんにでも見られてみろ。
「お兄ちゃんのエッチ〜!!」ばしっ!
ぐらいは食らうかもしれん…。しかしこっちには戦闘・隠密のプロ。蝉丸さんがいるわけだし、
ちょ〜っと俺の好奇心もムラムラ〜と…。
「そうですね。こことここ辺りが最適なんじゃないかと…」
自分なりの推理。的確なポイントだと我ながら思う。しかし蝉丸さんの表情が落胆のそれに変わる。
「残念だ耕一君。そこでは遠すぎる。確かに視界は確保できているが、部屋の中からというのは決定的にまずい」
え? だってそれ以上近いと、確かに楽しいけど見つかる可能性が…。
「特に最重要警戒地点のこの繁みから彼女らが襲われた場合。対処に大きく時間がかかってしまう。
他の参加者が長距離射程武器を持っていないとも限らんしな。
耕一君は攻めは得意でも、警護には向いていないのかな?」
え?
…。
……。
………。
しまったーーーーーーーーーー!!
一人だけで不謹慎な想像していたのかぁぁぁ!!
先生…すっごく恥ずかしいじゃないかーーーー!
不謹慎な僕を許しておくれよ初音ちゃん…。
カタン
俺の魂を現実に連れ戻した、廊下からの物音。
出てきたのはマナちゃんと月代ちゃん。
「あ、彰くんの様子はどうだった?」
当然の問いにビクッと体を硬直させるマナちゃん。
「ああ、あ、げ…元気。元気なんじゃないかなぁ…?
あはは、あはははははは…」
「ふむそうか、なら良かった。だがもう少し休ませて体力を回復させておきたいな」
「体力を回復…ねぇ……、余ってんじゃないかしら(ボソッ」
??
さっぱり要領を得ない。
しかし俺にはもうひとつ疑問がある。
月代ちゃんの仮面ってなんなんだ?
(;´д`)
【083三井寺月代 再び(;´д`)】
【092巳間晴香 ドラム缶風呂準備中】
ジャキン!
往人がべネリM3ショットガンを構え直し、少年を問い詰めた。
「お前がやったのか?」
その問いに、少年は言葉を選びながら、慎重に答えた。
「仕方なかったんだ」
事実を――話す。
「いきなり襲われたんだ。そこの男が持っている糸のような武器で」
往人はなにも答えない。いや、答えられなかったといった方が正しいか。
(くっ・・・・どうする?・・・)
彼の頭の中はフル回転してこの状況を打開する策を考えていたのだ。
ゲームの序盤にあった少年には、やる気は感じられなかった。
だから往人はベレッタを少年に渡したのである。
だけど、今はどうか。
確かに今の少年と話した限りでは。やる気にもなっていないようだし、気が狂ってしまったという印象も感じられなかった。
しかし、それでも最初に感じた得体の知れなさや、結局最後まで名前を明かさなかった胡散臭さは往人のなかから拭えなかった。
(くそう・・)
ベネリM3を持った手に汗が走っていた。
*5行空白*
(さて・・どうしたものか・・)
一方で、やはり少年も窮地に陥っていた。
(国崎さんだったよな・・、あんな武器まで持ってたのか・・)
チラリと、儀典に目をやる。
(あの銃には・・この本も効果が薄いな・・)
銃弾を一回の射撃で一発しか出せない銃ならいざ知らず、マシンガンやショットガンの類には何枚も紙を使わなければいけない。
効率も悪く、あっと結う間に紙も無くなってしまう。
更にこの場合、一度に大量の紙をばらまかなければいけないので、下手をすると弾き損じた弾が自分に当たる可能性もある。
(潜水艦のときのように、最初に撃ってきたのをうまく反射さるしかないけど、果たして彼にうまく当たるかどうか)
話し合いで解決できればいいのだが、きっかけを出す糸口が見つからない。
下手なタイミングでそんなことを言えば変な疑いをもたせてしまう。
(ああ、まいったなぁ・・)
彼もまた、動けずにいた。
時間にして数分。だが彼等には何十時間にも思える時間が過ぎていく。
互いに相手の思考を読み取ろうとし、打開策を考える。
それは正に、精神戦。
【(033)国崎往人 (048)少年 お互いに様子見】
精神戦書いた者です。
感想スレ、過去ログを参考に反射兵器の弱点を書いてみたんですが・・・。
不備があればNGで。
次の瞬間、――僕、七瀬彰は――軽い頭痛と共に目を覚ました、
目を覚ましたのは良い事だ。
もう二度と目覚めなくてもおかしくない程の怪我だった訳だし。
体の調子もすこぶる良いし、少し寝ただけなのに、だいぶ頭痛やその他諸々の傷も癒えてきた訳なんですよ。
霞んでいた視界もなんだか今はすがすがしい!
壁のポスターのあんな小さな文字も明瞭に見える。
なんて素敵な目覚め! わはははは。
豪快な笑いも飛び出す。
こんな死地にいるのにも関わらず、僕は時間を重ねるごとに、だいぶ図太くなっていた。
というか、やけにテンションが高い。身体がぽかぽかと熱いからか。良い調子だ。
まあ、正直申し分ない目覚めなんですよ。
しかしね。どうも不可思議な事があるんだよ。
聞いてくれますか? 我が主よ。
何故? なんで?
何故、初音ちゃんが裸で、僕の横で横たわっているんでしょうか?
「――今寝たと思ったのに、すぐ目が覚めたね。もう、大丈夫なの? ――ごめんね」
本当に、申し訳なさそうな顔で初音は、ごめんなさい、と、云った。
――待て。
待て。え?
冷静になりたまえ、七瀬彰。そう、クールに。
横には、初音ちゃんの裸。
――裸?
薄い胸。白い肌。赤く染まった頬。
「もう。そんなに見ないで、彰お兄ちゃん。もう、服着るね」
そう云って、初音は下着を付け、ベッドの横に置いてあった上着を着込む。
シーツには赤いもの。血、なのでしょうか?
僕は漸く、理解したわけです。
「――初音ちゃん」
「ごめんね。わたしのせいで、お兄ちゃんに」
思い出しました。
思い出しましたよ、やったー、思い出せました。わはははは。
笑えん。全く笑えない。
僕は――遂に、やってしまったのだった。
小学生相手に。
ご、
「ごめんっ! 初音ちゃんっ!」
な、なんて事をした、自分。
たぶん、時間にして十五分ほど前、僕は、自分の昴りを、この目の前の少女にぶつけてしまったのだ。
柔らかな身体に溺れた僕のココロ。
明瞭と覚えているじゃないか。初音ちゃんの肌も、初音ちゃんの唇も、そして、初音ちゃんのその声も。
「ううん――彰お兄ちゃんは、悪くないよ」
初音は、本当に申し訳なさそうに、笑う。
うん。
そうさ。
僕は確かに初音ちゃんが好きだったよ、好きだったけどさ、
それは、守ってあげたい対象、つまり、妹みたいに思っていたからであって、
決して性欲の対象として見ていた訳じゃなかった筈なのだ!
たぶん。
自信がない。
目が覚めた今でも、正気に戻った今でも、僕は初音ちゃんを抱きしめたいと思っている。
唇を重ねたいと思っているし、肌を重ねたいと思っている。
馬鹿な!
僕は小学生に欲情するようなロリータコンプレックスだったと云うのか!
犯罪者の仲間入りか! 僕は有罪ですか!
否定出来ない。僕は今、初音ちゃんの事を心底愛している! 有罪でも構わない!
そして、僕の思考が多少落ち着いた瞬間――罪悪感が走る。
――馬鹿か? 僕は。そんな、自分の事を考える前に。
僕には、彼女に云う言葉があるんじゃないか。
「――大好き、だよ。初音ちゃん」
そう。
「わたしも」
「大好きだから、抱いたんだ。それだけは、間違いない。本当に、ありがとう」
「――ありがとう」
「決して、一時の欲望に溺れたんじゃない。確かに、僕は少し、おかしかったかもしれない。
けど、どんなに僕は狂っても――君じゃなければ、あんな事はしなかった」
乱暴でごめんね。
抱き寄せて、僕は、遂に一線を越えてしまった事を、けれど、後悔する事はなかった。
好きなのだ。たぶん、本当に好きなのだ。
「大好きだ」
ならば、たとえこの子が小学生でも――構わないではないか。必ずこの娘を守り、僕は、帰る。
「たとえ君が今小学生でも、十年後、必ず結婚しよう」
にしても、なんて馬鹿な事を云っているんだ、僕は。
小学生でも今時こんな事は云いませんよ。は。
――だが。
少しだけ、むっとした顔で――初音ちゃんは云った。
「彰お兄ちゃん? わたし、一応、高校生なんだけど――」
僕は、取り敢えず、首を傾げてみた。
「マジか」
「マジです」
沈黙。
沈黙は金。金は高価。高価はダイヤ。ダイヤは硬い。硬いは――ナニ?
「と、と、とにかく――耕一のところに行こう。今の状況を知りたい」
だが、初音は、つん、と拗ねたように、不満げな顔をしている。
そりゃそうだ。きっと初音ちゃんは、自分が小学生だなんて思われていなかったと思っていた筈で。
「ご、ご、ご、ごめん、本気でごめん」
初音ちゃんは少し、自嘲気味に笑って、
「――そっか、ずっと間違われてたんだ……」
はぁ、と息を吐いた。
その様子があまりに可愛くて、僕はまた彼女を抱きしめてしまった。
「彰、お兄ちゃん」
好きだ、好きだよ。
僕は、もう一度――その唇を塞いだ。
別に、彼女のためなら犯罪者にだってなるつもりはあった。
しかし、高校生と分かれば児童ポルノ法は適応されない!
堂々と、というのも変だが、それでもやはり、なんとなく、安心したのである。
「そろそろ、行こうか」
唇を離して、赤く染まった初音ちゃんの頬を撫でている時――僕は、初めて自覚する。
身体が、ほんのりと熱い。それは、心地の良い、熱さ。
失われていた力が、戻ったような。
まだ、初音ちゃんのナイトを演じられそうな、そんな気さえする。
それが僕の自惚れだとは分かる。――けれど、盾くらいにはなれそうな程には、戻った。
初音と連れ添って部屋を出る。
その時、がたり、と云う音が、部屋の外から聞こえたような気もしたが――。
少し足下がふらつくが、初音の肩を借りながら、なんとか僕は耕一達がいる部屋に入った――
「お早うございます」
僕は笑って云う。
だが――その部屋の、何処かおかしな雰囲気に気圧されて、僕は、言葉を失いかける。
マナちゃんが、大きく――やけに大きく、溜息を吐く。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ……」
負けたぁ、負けましたぁ、などと云っているように聞こえる、聞こえます。
そして、お面を付けた月代ちゃんが、――やはり、大きな溜息? 溜息じゃないか?
「(;´д`)初音ちゃんすごい……負けたぁ」
などと呟く。
僕は――初音ちゃんの顔を見る。真っ赤。真っ赤っか。
僕はと云えば、青ざめた顔をしているだろう。きっとスイカみたいに真っ青だ。
せんまっさお。あるいは二千まっさお。
そんな洒落を考えてみたが、あまりにつまらなくて僕は涙が出そうになる。
耕一や七瀬さん、晴香さんや蝉丸さんも、知っているのか? 僕の、僕と初音ちゃんの痴態を!
「お、起きたか、彰」
だが、耕一はそう云って、何も知らないかのように、笑う。
「ま、何にせよ無事で良かったよ」
知らないのなら、それは、まあ、幸いだったが。
「にしても、俺も疲れてるのかな――幻聴が聞こえてさ」
「うむ、俺もだ」
蝉丸もそう云って頷く。修行が足りぬ、などと、ぼやいている。
まあ、二人の顔を、僕はしばらく直視できなかったのだった。
「あ、な、七瀬くん、お、起きたのねっ!」
扉を開けて、七瀬留美が入ってきた。
「わ、わ、割と、元気そう、元気そうじゃない? よ、よ、良かったー」
顔が真っ赤であった。
「あ、あ、あははははははは」
僕は、恥ずかしさのあまり穴に入りたくなった。
【柏木初音 遂にその年齢が彰に明らかになる。目覚めて、作戦会議の方へ。
わりと鬼の血は落ち着いてきてる印象? 風呂イベントは他の人にお任せ。】
109 :
本格的な侵入:2001/07/03(火) 17:00
あたし達は入り口らしき何かに突入するかで悩んでいた。
「どうする、千鶴姉」
「この三人で行くのは不安ね、ばれちゃってるから奇襲はもうできないし」
「一旦戻ろうか」
「それが賢明なようね」
と思ったら、怪しげなおっちゃんが後ろにいたわけよ。
「お前ら、何やってる」
「千鶴姉」
「わかってるわ」
「あ、おじさん!」
気の抜ける一言だったよ、どうやらこのおっちゃん、あゆの知り合いらしい。
「たまたまテメェを見かけたから来ただけだ」
「柏木千鶴です。私達、メイドロボと戦うはめになって…」
「あれぇ?柏木楓ちゃんのお姉さん?」
さらに話の腰を折るように女の子が二人出て来たりで。いったい何故こんなに人が集まるんだろうね。
「おい、この長髪の娘はテメェの知り合いか?」
「したぼくには特別に教えてあげるわ。楓ちゃんから伝言を預かってたのよ…今ではそんなに意味の
無い事なんだけど。爆弾の秘密の事。あと私が楓のお姉さんに頼ると良いとも言ってたわ」
「爆弾は確かにもう私達には意味が無いわね。でもありがとう。私たちを探してくれたんでしょう?」
「雑談してるヒマがあるのか?ここから突入するか考えてたんだろ。早くしねぇと相手の準備が出来
ちまうぜ」
てなわけで図らずも援軍を迎えたわたし達は敵施設(と思われるところ)へと侵入したわけよ。
【御堂グループ、柏木姉妹&あゆグループと合流して、改めて施設侵入】
補修
×往人の中から拭えなかった。
○往人の心の中からは拭えなかった。
この話ってストーリーに何ら進展しないんだよなぁ。
やっぱNGでしょうか?
風が吹いていた。
さらさらと風の揺れる音だけが流れていく。
――静かだ。
森の中、仰向けに倒れたまま北川は思う。
右腕は、まだ痛い。表面だけ引き裂かれたかのような傷が、肘の上から手首まで広がっている。
表面は、とりあえずシャツで縛り直してある。
だが、当然ながら後々消毒が必要になるだろう。
傷口が腐るのだけは勘弁だ。
一応レミィが舐めた、と思いたい。
違う。
舐めたかもしれないが、それでは消毒にはならない筈だ。
気分的な消毒にはなったが。
鳥の鳴き声。
木々のざわめき。
そして――近付いてくる足音。
起き上がる。
咄嗟に、右手に握られた大口径マグナムを向けた。
北川が見たのは――ピンク色の触覚?
何だそりゃ。
「動かないで――」
がちゃり。
鉄の音。
触覚少女の手には、確かに銃が握られている。
突然撃つような真似はしないらしい。助かった。
正直、片手でこの銃が撃てる気はしない。
外して。その後、頭が吹っ飛ぶのが目に見えるようであった。
その上、だ。
「スフィー……?」
触覚少女の後ろから、声。なるほど、スフィーという名前か。
後ろから、もう一人、少女が姿を現す。気の強そうな女の子。
しかし、赤く泣きはらした様な目――
おいおい、せっかくの美少女が台無しだぜ?お嬢さん。
二人目の少女が、北川の存在に気付いたらしい。
まるでウサギのような目を、きっ、と細める。その手に銃を握った。
デザートイーグルか――。
「誰よあんた――」
ひやりとした空気。
どうも、この子はヤバそうだ。銃を向けているのは得策ではなかろう。
降参のポーズを取ろうとして――一度、止める。
口を開いた。
「なぁ――両手を上げても撃たないでくれよな?」
>>110 大丈夫、NGにはならないと思う。
2人とも脊髄反射でパンパン撃ちまくるキャラじゃないから
このお話はアリ。
あと、質問は感想&討論スレに書いた方が返事が早い。
「それで、お前も捕まったってわけか」
「捕まったとは失礼だな!俺はお前みたいに縛られちゃいないぞ」
「似たようなもんだろ」
暗い空間。
湿気。カビくさい空気。
古びた小屋の中に、二人の男の姿が在った。
「あんだけ叫んで走ってったのにな。いきなり捕まってたら世話無いな」
へっ、と皮肉げに、北川。
「こいつらが相手じゃなかったなら助かったんだがな」
憮然とした様子で、祐一。その両手は、未だに縄で縛られたままだ。
祐一の台詞に、結花が睨み付ける。
「――うるさいわね。黙ってなさいよ」
「うるさくしたつもりは無いぞ」
「うるさいっつってんのよ。猿ぐつわかまされたいの?」
「良い趣味してるな――」
ゴッ!
「痛ぇ!」
「……やっぱ殺そうかしらこいつ」
「ゆ、結花……」
参ったな、といった様子でスフィーが口を開く。
どうもこの二人の相性は宜しくない。
口を開けば拳が飛ぶといった感じだ。
それは、北川がここに来てからも変わってはいない。
「はー……」
溜息をついたのは、北川。
もう一人の少女は、ただ、静かに佇むのみ。
近くにレミィの姿は無い。
――捕まった時に、それなりに仲間が居る事は主張した。
結果はこれだ――要は、信用できないという事だ。武器も全て奪われている。
ある意味、正しい選択とは言える――
生き残りを賭けたゲームの中で、多数の来訪者を歓迎するとは思えない。
それに、万が一、敵であったとしても。
捕虜を使えば、生き残る可能性も増える。
だが。
――レミィ。
何処に居るのか。
あれから少し経ったが、彼女は北川が居ない事に気付いたのだろうか?
目の前の少女達は、また散策の為の準備を始めている。
一応、レミィの事に関して触れておいた。彼女達が見つけてくれれば助かるのだが。
――まぁ、後はレミィが下手な事しなきゃいいんだけどな……。
その自信までは無い。
出るのは、先程スフィーと名乗った触覚少女。
そして、滅多に口を開く事の無い、魔法使いのような格好をした少女。コスプレだろうか?
それにしても、北川はまだ彼女の声を聞いた事が無い。
――で。結局残るのが結花という名の少女である。
今のところ、北川は彼女に殴られた事は無い。
どちらかと言えば(祐一よりは)優遇されていると言える。怪我の為だろうか。
「じゃ、行ってきます」
「………」
準備は終わったらしい。少女達が、戸を開く。
明るい光が差し込んだ。眩しい。溶けそうだ。
「私は、こいつらを見張ってるから。大丈夫、下手な事はしないわ」
はは、と苦笑するスフィー。
そうして彼女は戸を閉めた。
差し込んでいた日差しが、消えた。
【029北川潤 捕虜となる 武器一式没収済み】
【094宮内レミィ 不明】
116 :
彗夜:2001/07/03(火) 18:28
書きました。北川が……。
言うまでもないですが
>>114は「分断 - 3」です。
あと、大差は無いですが
>>115の
「猿ぐつわかまされたいの?」
は
「猿ぐつわでもかまされたいの?」
に訂正お願いします。
ミス多いなぁ……。
117 :
彗夜:2001/07/03(火) 18:47
アウチ。さらに訂正!
「触覚」ではなく「触角」です。
疲れてんのかな……。
ムム・・間違い発見。
×儀典
○偽典
ちょこちょこやってしまうケアミス無くさないとなぁ。
蝉丸と耕一は施設襲撃の作戦会議中であった。
「……む」
ペンで施設の近くの地形を描いていた蝉丸。彼の突然の反応に耕一は首をかしげた。
「どうかしました?」
「い、いや、なんでもないと思うのだが」
「……?」
よく分かんない人だな、と耕一。
蝉丸もよく分かっていなかった。
当然である。
――何故。
何故このような時に"喘ぎ声"が聞こえるのか。
随分と血を流したせいで、気の疲れでも現れたか。
それとも、本当に誰かが――。
――まさか、な。
空耳に違いない。
そう思うことにする。
蝉丸は、今も微かに聞こえる「その音」を無視しつつ地図を描き続けることにした。
しかし、気が散って仕方がない。
氷まくらの交換に来た七瀬は、扉越しに怪しい雰囲気を感知した。
激しい、物音。そして呼吸音。
(…ま、ままま…まっさいちゅー…?)
そうだ、これは…間違いない。
真っ最中、だ。
(ちょちょ、ちょ、ちょっと、何してんのよ…)
氷まくらをだきしめて、顔を赤らめたまま呆然と立ち尽くす七瀬。
いつの間にやら近くに晴香が来ていることさえ気が付かない。
「七瀬?何してるの?」
「は!?ははは晴香!? ななな何でもないのよ!?」
猛烈に慌てる七瀬。
「…何でもないって事ないでしょ、声裏返ってるわよ。普通に話しなさいよ?」
「い、いいから今すぐ立ち去るのよ!乙女と明るい家族計画の名にかけて、ここを通すわけにはいかないわ!」
弁慶よろしく戸口の前で仁王立ちする七瀬。
「な、なにムキになってんのよ…(家族計画って何よ)」
「いいから!行くわよ!」
晴香の背を押して、そのまま部屋を離れていく七瀬。
「文句があるなら選びなさい!馬に蹴られるか!アタシに殴り殺されるか!あなたには二つに一つしかないのよ!?」
「ハァ?…わかんないヤツね…(馬って何よ)」
憑かれたように捲くし立てる七瀬。
そして妙に興奮した七瀬が晴香を突っ張りで外へと押し出す。
「ほらほら! お風呂の準備中なんでしょ!」
「え、ええ…」
…氷まくらは、のぼせた七瀬が全て溶かしてしまったそうだ。
「耕一君」
「なんです?」
振り向くと蝉丸はこめかみに手を当て、首を振っている。
「済まんが場所を変わってもらえないか?…疲れているようだ」
「ああ…構わないけど…」
「……む」
耕一の反応に蝉丸は首をかしげた。
「どうかしたのか?」
「い、いや、そうじゃないんですけど」
「……」
君も疲れているのだな、と蝉丸。
耕一もそう思っていた。
当然である。
――何故。
何故このような時に"喘ぎ声"が聞こえるのか。
変身後遺症のせいで、幻聴でも聞こえたか。
それとも、本当に誰かが――。
――まさか、な。
空耳に違いない。
そう思うことにする。
耕一は、今も微かに聞こえる「その音」を無視しつつ見回りを続けることにした。
しかし、気が散って仕方がない。
「……」
「(´ー`)…行ったわね」
七瀬たちと入れ替わるように扉に立つ少女が二人。
マナと、月代。期待に目を輝かせて、戸口に張り付き、覗いてみたりする。
「わ…」
「(゜д゜)…」
思わず言葉を失う。
再び声を取り戻すのには、たっぷりと時間を要した。
「す…進んでるわね…」
「(´Д`)負けた…」
その頃には、激しい敗北感に苛まれていたという。微妙なお年頃、である。
「蝉丸さん」
「どうした?」
振り向くと耕一はこめかみに手を当て、首を振っている。
「すみませんけど、また場所を変わってもらえないでしょうか?…疲れてるみたいなんで」
「……」
「あの…蝉丸さん?」
「……」
…軍人は、冷徹だったという。
「外から見た感じだと施設はこれぐらいの大きさだと思うのだが」
会議は進む。
HMたちが出てきた、換気口の偽装岩の下で。
あたし達は怪しいおっちゃん率いる、怪しい一団と遭遇した。
このおっちゃん、あたしを負かすほど強いんだけど…何度見ても怪しい。
まず、いきなりここに現れたのが怪しい。
次にツレの動物達が怪しい。
とどめに顔が、何より怪しい。
「う、うるせえぞ女!」
あ、ごめんごめん、声に出してたよ。
さて。御堂と名乗る、このおっちゃんに監視がついていることを考えると…。
出入り口付近に腰を据え、口論するのはあまりに危険な行為だった。
だからあたし達は、おっちゃんの言う通りにさっさと入り口へと突入したんだ。
もともと換気口なだけに、通路は急で…というかすぐに垂直になっており、備え付けの梯子を使う
ため仕方なく、いや幸いにして、怪しい動物達には外で待機してもらうことにした。
梯子の前で、全員が輪になって立ち止まる。
迷うことなく先頭を買って、おっちゃんが降りようとする。
「待ちなよおっちゃん」
「なんだ女」
忌々しげに睨んでくる。いや、これが普通の顔なのかもしれない。
「とりあえず、おっちゃん最後な」
「なんでだ」
そう言って不服そうな顔をする。いや、これも普通の顔なのかもしれない。
口論するのも無駄なので、スカートのすそを軽くつまんでヒラヒラさせながら説明してやる。
「あたし達の服、スカート短いんだよ」
「したぼく、スケベ」
「人間として最低ね」
「ぐ…くっ…ししし仕方ねぇ、後詰めは俺が、やってやる」
おっちゃんは怒りからか照れからか、顔を赤くして折れた。
…詠美に、繭。
おっちゃんのツレ二人とは気が合いそうだ、あたしはそう思った。
虎の子であった、戦闘用HM-12の最期。
源五郎は、もはや何も写しはしないモニターの前で、倦怠感に見を苛まれていた。
警護のHM2体に維持を任せ、放心したまま長らく座り込んでいる。
…何度か通信が入ったが…HMに休息中といわせ居留守を使った。
「なんと…裏から御堂がきたか……これまで、かな…」
先ほどレーダーが御堂を捕らえた。
当然通気口にカメラはないが、三体のHMからの返事がない事を考えると、おそらく御堂に
やられたのだろう。
明らかに現状が芳しくないことは理解しているが、何もやる気が起きなかった。
廃人のように動かぬ主人に対し、HMは普段と同じ調子で、淡々と現実を述べる。
「正面口から侵入者です」
「…何?誰だ?」
さすがに源五郎も、乏しい気力を振り絞り重い腰を上げる。
端末を変え、施設入り口のカメラ画像をオンにする。
「なんと…生きていたのか…」
醜く鼻血を滴らせたまま、よろよろと這いずる長瀬源三郎をモニター越しに確認すると、
源五郎は大きく溜息をついた。
入ってくればいいと言った手前、何もしないわけにもいかない。
…今の情況で入ってくるのが、助かる道とも思えないのだが。
「キミは入り口まで行って、手を貸してやり給え。
それからキミは医務室からキャスター付きのベッドを運んで、迎えに行ってくれ。
治療を終えたら戻ってきて、維持作業を続けるように」
HM達へ簡単に指示をすると、再び源五郎は座席に沈み込んだ。
空気の通り道は、人間の通行を優先して考えてはいない。
足場は悪く、道は暗い。
巨大なファンの隙間を抜け、何枚ものフィルタの脇を通り。
ようやくあたし達は人間用の通路に入ることができた。
遠くから風の音が、奇声のように耳に貼り付く。
そのシリアスな共鳴音に混ざって、怪しい動物達の妙な鳴き声も、かすかに聞こえる。
(ぴこぴこ〜…)
(しゃー…)
(クワァ…)
(にゃー…)
(敵陣突入のBGMがこれだなんて…っていうかドナドナ?)
隣で千鶴姉もコメカミに手を当てている。
「ふみゅーん…埃だらけじゃないのよぅ」
上で詠美がこぼしている。
あゆの「うぐぅ」といい、おっさんのツレは変な口癖の娘ばっかりだ。
隣で繭が、あたしと同じようにあきれ顔で上を見ている。
…まともなのも、たまには居るようだ。いや、ホントにたまたまだろうけど。
施設に注意を戻す。
…どうやら、人の気配はしない。千鶴姉と二人で、少し周囲を窺ってみたが人影はない。
危険がないのを確認し、みんなの所に戻るのと、おっちゃんが降りてくるのは同時だった。
「あらよっ、と」
音もなく着地するやいなや、おっちゃんが感心したように口を開く。
「それにしても…幽霊が三人とは驚いたな。
結局のところ、一体どういう仕組みだったんだ?」
あたしではなく、千鶴姉の方を向いていた。
「そう言うあなた方こそ…詠美ちゃんは、一体どうしたんです?」
全員ぞろぞろと歩きながら、千鶴姉も不思議そうに尋ねる。
おいおい千鶴姉、おっちゃんと普通に話してるんじゃないよ。おっさんが感染るよ。
「ああ、こいつゲロ吐きやがったんだよ。
たぶんそん時に発信機みてえなモンを吐いたんだと思ってるんだが…」
廊下の角で警戒しながら、おっさんは小声で答える。
なんと、おっさんのくせして、意外と切れるじゃないか。感心したよあたしゃ。
誰もいないのを再度確認し、千鶴姉とおっちゃんは情報を交換しあった。
そういや千鶴姉は、地元の会合でおっさんの相手をするのが実に上手かった。
オヤジ殺しってやつなのか。耕一もおやじ臭いし。
「さっきから、うるせえぞ女っ!」
「あ、梓!一言余計でしょ!」
あ、ごめんごめん、声に出してたよ。
「おい千鶴さんよ…一言だけなのか…」
おっちゃんが悲しそうな顔で千鶴姉に尋ねる。
「現実は、厳しいものよ」
ああ繭、あんたも厳しいね。
いつしか千鶴姉とおっちゃんの情報交換は、情況予想に変わっている。
「…じゃあ何か、コイツ吐いたはいいが即バレちまってるかもしれねえのか」
千鶴姉の予想と経験に対して、いくつか質問したあと、おっちゃんは締めくくりに尋ねた。
「はい…想像の域は出ないんですけれど。
杞憂でなければ、たぶん擬死だとばれているでしょうね」
「ははは、空からの監視に対して杞憂とは、上手い物言いだな」
おっさんが笑う。無気味な笑いだ。
千鶴姉は、さらりと流して答える。
「そういうわけで御堂さん。
ここから出る時は、お先にどうぞ…わたし達は後から出ますので」
「ああ、解ってる。だが残念だな。
知り合いを除けば、この島に来て出会った相手と初めてまともに話せた気がするぜ…」
やるな千鶴姉、おっちゃんの信頼をゲットだ…オヤジ殺し、おそるべし。
「お前ぇが、いなけりゃな…」
あ、ごめんごめん、声に出してたよ。
「ねえ、したぼく。これ何よ?」
そこで詠美が何かを発見する。
「げぼくだ」
「げぼくね」
おっちゃんと繭が訂正する。
「…下僕じゃねえっつうの!」
自分で訂正しながらおっちゃんが逆ギレしする。
”下僕”のことなんだね、と理解しつつ長くなりそうなので、途中で間に入る。
「あーはいはい、訂正はいいから。
千鶴姉、おっちゃん、これ配電盤じゃない?」
巨大なパネルには、いくつものスイッチ。電球が点灯しており、機能していることを示していた。
全員で、食い入るように配電盤を見つめる。
医務室、倉庫、マザーコンピューター、HM給電所、冷蔵室…いくつか気になる名前がある。
部屋数から推測するに、施設自体は小ぶりなようだった。
隣にある施設見取り図に興味を移し、場所を確認する。
純然たる軍事施設ではないのだろう、兵士の詰め所のようなものは見当たらなかった。
『第四通気口換気扇』のランプが消えているのを、あゆが発見する。
「さっき通ったの、ここかな?」
そう言ってスイッチに手をやるあゆを、おっちゃんが制止する。
「コラ待てって。
獣どものところに戻れなくなるだろうが」
凶悪な顔に似合わぬセリフを吐いたりする。
「おじさん?」
あゆがニコリと笑って、おっちゃんに話し掛ける。
「なんだガキ」
「おじさん…やっぱり、やさしいねっ」
「う…うるせえっ!」
おっちゃんがそっぽを向く。
なんと、あゆはオヤジ好きなのか?
そういや廊下に降りてからずっと、おっちゃんにベッタリだ。
…あゆ、怪しいオジサンについて行っちゃダメだって、習わなかったのか?
【獣軍団、通気口出口にて待機】
【御堂、繭、詠美、千鶴、梓、あゆ 配電盤および見取り図の前で今後の方針を考え(?)中】
「侵入」であります…な、長い…。
鬱な長さの割に、書きたいことが半分も書けずw
だいたいの人間関係は書けたと思うのですが…。
「あ、あのっ!」
その声に、互いの動向に最大の注意を払っていた往人と少年、二人に目を奪われていた晴子、郁未が一斉にその声の主を見た。
静寂を破ったのは――観鈴だった。
一斉に反応した全員に、観鈴は驚いたが、言葉を続ける。
「あ、あなたがたは、やる気になってるんですか?」
少し言葉を詰まらせ、手足を震わせがら観鈴は聞いた。
「観鈴!お前はだまっ――」
「往人さんは黙ってて!」
声を大きくし、観鈴が叫ぶ。
その声は、この島に来てからに来てから――いや、普段の生活でも全くといっていいほど声を荒げない観鈴の大声だった。
――前にも聞いたな、今の観鈴の言葉。
その言葉を聞いた往人は、何故か反論できず、一瞬、そんなことを考えていた。
「どうなんですか?」
もう一度、観鈴が聞く、今度は、ハッキリと。
「え?あ、うん。一応、やる気にはなってないよ。僕も、横にいる――天沢郁未って人も。君達は、どうなんだい?」
少年は答えた。顔に明らかな戸惑いを見せながら。
当然だろう。
この緊迫した状況で、そんな質問を出来る人間など、そうは居ない。
「私達も、やる気にはなってません」
もう、観鈴は震えてはいない。
凛とした表情と、しっかりした声で観鈴は言い切った。
「だからって!」
再び新たな声、その主は――郁未だ。
「ハイそうですかって、簡単に信用できると思っているの?お嬢ちゃん」
少年はともかく、郁未からは、観鈴への猜疑の視線が露骨に現れていた。
(まあ・・当たり前か)
往人は思う。
誰だってこんなとこじゃ、人を疑ってしまう。
他人をを信じられない。信じることが出来ない。
(お袋のときがそうだったな。俺を信用させといて、どっかに行っちまった。思えば、あの時から、俺はこんな性格になっちまったのかもな)
更に、思う。
(だから、俺は心から誰かを信用できない。誰かを信じて、裏切られるのが怖いんだ)
それは、往人の心の中にある悲しみ。
深く、深く、彼に根付いたもの。
そんなことを考えている時、郁未の声が往人を現実に引き戻した。
「大体あなただって、銃を持ちながらそんな事言ったって――」
「なら、これでいいんですか?」
ヒュッ!
その瞬間、その場にいた全員が目を見開いた。
観鈴が持っていたシグ・ザウェルショート9mmを郁未に投げ渡したのだった。
それは、この状況では最も無謀な行為。
相手に殺してくれと言っているようなものである。
だが観鈴はそれを躊躇いなくやった。
「観鈴!」
ベネリM3を少年と郁未に向けつつ、往人は観鈴に近寄った。
「バカ野郎!お前、自分が何したかわかっているのか!?」
往人の大声が周辺に響き渡る。
「ちょっ、ちょい居候!」
近寄った晴子が往人をたしなめるが、そんな言葉は往人の耳には入ってはこなかった。
「さっきもそうだ!お前一人のせいで、みんな死ぬかもしれないんだぞ!」
観鈴は黙っている。
「大体お前はお人よし過ぎる!そんなんじゃいまに――」
「往人さん」
観鈴がいきなり往人の言葉を遮り、
「人を信じなきゃ、ダメだよ」
まっすぐに往人の目を見ながら、言葉を続ける。
「往人さんの言ってることは正しいと思う。それが、ここでは当たり前かもしれない。でも、私はそれだけじゃダメだと思う。
みんなで生き残るんでしょ?だったら、そんな風に疑ってばっかりじゃ、誰も仲間に出来ないよ。
みんな死ぬのが怖いんだよ、私だって怖い。死にたくないもん。
殺しあうのだってそう。本当はみんな弱くて、他人を信用できないだけ、だから殺あっちゃうんだよ。
急に、往人の体に重みが加わる。観鈴が抱きついてきたのだ。
「だから、もっと信じてみようよ、この人達も、他の人も」
「みすず・・」
「みんなで帰ろうよ、あの街に。ね?」
「ああ・・」
往人は強く頷く。
往人は、もう少年と郁未を見ていなかった。
その時、少年も戸惑っていた。このゲームであんなことを言える少女に。
(あれが・・本当の強さってやつなのかな?・・)
ふと、そんなことを思う。
力では決して、得る事の出来ない強さ、それが、観鈴にはあった。
それは少年と郁未に、足元にあるシグ・ザウェルショート9mmを忘れさせるものだった。
しかし、それに気付いた郁未が銃を拾い上げる。
「やめ――」
「わかってるわよ、もう向こうに敵意がないことぐらい」
いくらかふてくされた様子で郁未は三人を見る。
「ちょっと!そこの三人!」
何故か機嫌が悪い、郁未であった。
(3行空け)
「居候!」
「ん?」
観鈴と抱き合ったままの往人に晴子が声を掛けた。
「どアホ!いちゃついとる場合か!前見い!」
「しまっ・・」
今の状況を思い出し、慌てて二人の方を向いた。
ベキッ!
ちょうどタイミングよく、往人の顔に黒い塊が直撃した。
「痛う・・くそう!」
往人は痛みをこらえつつ、二人の方にベネリM3を構えた。
「アホ、よく見てみい、向こうサン、とっくにやる気はないで、ウチが前見いって言ったのは、投げ返された銃に気をつけろってことを言ったんや」
「なに・・・」
よく見ると落ちている銃は確かに観鈴が投げた銃だ。
当の二人はというと。
「ひどいですねぇ国崎サン、投降した相手に銃を向けるんですか?」
「ったっく!イチャイチャしてるからせっかく投げ返してやった銃にあたるのよ!」
とっくに手を挙げていた。
つまり――降参ということである。
「ね、往人さん、向こうも分かってくれたでしょ」
(・・なんか・・釈然としないな・・・)
往人にしてみれば、観鈴のぬくもりを感じている間に、気が付くと二人が手を挙げていたのである。
納得しろという方に無理がある。
「とりあえず二人とも手、下げや」
何故か晴子までもが納得していた。
(観鈴のおかげ、か)
結局、そう自分に言い聞かせ、心の中の自問自答を終わらせ、二人に声を掛けた。
「晴子の言う通りだ。とりあえず手、下げていいぞ」
【033国崎往人023神尾晴子024神尾観鈴と003天沢郁未048少年 和解】
疑う事、信じる事です。
う〜ん、あまり出番のなかった観鈴を使ってみたんですが・・。
流れを大きく変えてしまうものはあまり書いたことがないんで不安・・。
書き込みながらミス発見w
タイトルがレスごとにばらばらですが
疑う事、信じる事です。
ぐは・・早速訂正
3スレ目
×殺あっちゃうんだよ。
○殺しあっちゃうんだよ。
あが抜けると「やあっちゃうんだよ」
ヤバめな感じに・・。
(まさかあそこであんなことをしていいらっしゃいますましとは!)
かなり日本語の扱いかたを間違えた七瀬がここにいる。
漢字のテストで100点を取った美少女の言動ではない。カンニングしたのだが。
(ええっと彰くんはあれはアレで大丈夫そうだから…。よ…、葉子さんの介抱を…。
そう…。そう!私の乙女として怪我人の介抱&手当てを!!)
ポーーーーーーーー…
「やっぱり綺麗ね…。葉子さんって…」
ベッドに横になっている葉子を見て思わずもれた。
七瀬が目指す乙女とはちょっと違うかもしれないが、なんというか「お嬢様」としての美しさがある。
気品に溢れていると言えばいいのだろうか。女の七瀬でも見とれてしまう。
しかしあの気の強そうだった女性が可愛い寝顔で横たわっている。
表情は…。傷が痛むのだろうか時々うめく。そして汗を結構…。
七瀬は持ったきていたタオルで葉子の汗をぬぐい始めた。
(なんというか、怪我して動けない女性を献身的に介抱? これこそ乙女のなせる技よね!)
上半身をはだけさせて拭くときは、流石にちょ〜とだけ照れる七瀬。
ふとさっきのことが頭をよぎった。
彰君が初音を無理やり押し倒す。
(いや、同意があったみたいだから無理やりじゃないんだけど…。
弱い立場の女の子を押し倒すっていうか、悪戯っていうか〜それはやっぱりまずいんじゃないかな〜。
てっ…て…っていうか、なんであんなことしてんのよ!)
彰が初音を強引に押し倒している情景を想像してみる。
(いやそれはそれで嗜虐心がくすぐられる…かな…?)
ちらりと葉子を見る。
ぽーーーーーーーー…
(はっ!?)
「だめーーーーーー!」
七瀬小声で絶叫する。
「ど…どこにこんな乙女がいるのよー!!
ダメダメ! 普通が一番。そうよ…!普通が一番なのよー!
やっぱーあたしぃー普通の乙女みたいなー! うわっ、これ超かわいくない?
ちょーかわいいモジャー!」
「ん…ふぁ…」
葉子は暗闇の中を走る。追われているというのに自分には武装のひとつも無い。
「足が止まっているぞぉ」
パァン!
音と同時に足元に着弾した。
驚きでバランスを崩し倒れる。!」
高槻は、高く、高く笑った。そして、言った。
「服を脱げっ! ストリップだ!」
「ふ、ふざけないでください! そんな事」
パァン!
仰向けに体勢を直した葉子。
その顔のすぐ横に着弾。
「――まあ、良い。どうせお前は無力だ。強引に犯して殺すのも一興だ」
高槻が上にかぶさってくる。
葉子が固く目をつむる。
自分の脚にをなでまわしてくる男の手。
(あれ?)
サワッ…
(気持ち悪くない…)
ゆっくりと目を開ける。
目の前の男が高槻ではなくなっている。
葉子にも良く分からない。良く分からない『やさしい誰か』
脚を撫でられている。
(なんか良くわかんないけど…。気持ちいい…)
「ん…あ…」
「ん…あ…」
ふきふき…。
「んっ…」
ふきふきふき…。
「あ…あ………」
ふきふきふきふき…。
葉子の脚の汗をふき取る七瀬。
ふくたびにかえって汗が出てきている気がしないでもない。
「葉子さん…。これじゃ切りがないわよ…」
「やっ…あ…」
葉子の目が開かれる。
ぽーっとした半開き状態で七瀬を見つめる。頬は赤い。
(!!!!???!!?!?)
ドタンッドカシャカシャカシャカ!!
七瀬はベッドから勢い良く転げ落ちると、しりもち体勢のまま部屋の入り口まであとずさった。
(絶対違う! 絶対乙女じゃないことしてたーーーーー!)
「よよよ葉子さん起きたのね意外と元気が出たみたいだし良かったわねあたし皆に報告してくるね!!」
ガチャッバタン!
そこにいたのは元凶っぽい男、七瀬彰。
「あ、な、七瀬くん、お、起きたのねっ!」
リビングルームになだれ込んだ七瀬が言う。
「わ、わ、割と、元気そう、元気そうじゃない? よ、よ、良かったー」
(落ち着けー、落ち着けあたし。落ち着かないと性格が乙女じゃない方向にっ…
そう、落ち着くの。落ち着いて冷静さを取り戻すことこそが天上界への扉を開くカギをうんたらかんたら)
「風呂できたわよ」
「おお、それでは女性達には早くすませてもらおう。
私達が見張りはするが、一応複数で入ってもらうとして…。
とりあえず留美ちゃんと晴香くん。入ってくれ。
月代たちはあとで3人だ」
(え…)
「落ち着けない…」
―――「乙女」と「漢」はよく似てる…―――
―――だがそんな事はどうでもよかった…―――
私が水汲みから戻ってきたとき、ジュンの姿はそこになかった。荷物は山賊に荒らされたように、ことごとくひっくり返されてめちゃめちゃにされていて、私が覚えている限りの武器だとか食料だとかが持ち去られていて、ただもずくの山だけが散らばっていた。気がつくと私の腕から川で汲んできたペットボトルの容器がどさどさっと落ちて、そのうちの緩く栓をした一本から流れ出した水が私の足元をしとどに濡らしていた。靴下の中に入り込んできた水が、どうしようもなく気持ち悪くて、嘔吐しそうになった。
結局、私の財産は釘打ち器ともずくとCDだけになった。他には何も、誰もなくなってしまった。どういうことだろう、手に入れたいと思ったものはやはり、手の間からこぼれ落ちる水のようにことごとく消え落ちていってしまった。
だから。
だから、今限りで欲しい欲しいと指をくわえて身体を震わすことはやめにした。そう思うこともやめにした。
──これじゃなくちゃ駄目ってものはあるの。何でもそう。これじゃなくっちゃ駄目ってのは。
──麦藁帽子もヒロユキもそう。同じなの。本当にほしいなと思ったものは手に入らなかったの。
──一番欲しいものが手に入ったためしなんてないの。いつもするりと、ワタシの周りを滑ってすり抜けちゃうの
私がジュンに言ったことを彼はまだ覚えているだろうか。あの時私は大変な思い違いをしていたのだと思う。あの麦藁帽子が本当に欲しかったら、あの時谷底に飛び込んでつかみ取ればよかったのだし、本当にヒロユキを求めるのならばすべてをかなぐり捨てて彼を探せばよかっただけなのだ。結局、麦藁帽子は谷底で朽ち果て、ヒロユキは心の底から彼を求めて愛したアカリと一緒に、私がいくら手を伸ばしても届かない場所に旅だった。
そう、おそらくアカリは手に入れることができたんだと思う。彼女はこの世でたった一つの大切な物を手に入れて死んでいったのだと思う。あの笑顔は本当に自分が手に入れたかった物をつかむことのできた人間しかできない笑顔だった。
大体私を含めたそういう人間は事実を認める事に対してただ臆病なだけなのだ。そして結局くだらない事に拘って自滅してしまう。私は現在日本の高校生だけども、髪はブロンドで瞳が青いハーフだ。そしてステイツやニッポンの両方で今迄そういう人間をいっぱい見てきた。その度に嫌な気分を味わい、目をなるたけそむけてきた。距離をとる為に辛い思いもしてきた。
だから私は学校に着くとまず自分を薄い膜で覆っていた。その膜は半透明で、誰にも見えない。私にも見えない。ただ、私だけがその存在を感じ取る事ができる。この膜だけが今のところ、私を守るすべてだ。この膜はいろんな諸々の事、例えばいわれのない悪意や、押し付けがましいだけの善意や、根拠のない期待や、そしてくだらない失敗などから守ってくれる。それはブロンドの髪と青い瞳を持つ”ニッポン”の高校生の私にとって掛け値なしに役だってくれた。
そしてときおりこの膜は縮んだり伸びたりして私を必要以上に大きく見せたり小さく見せたりする。そして様々な形をとって、主に私を翻弄する。他の人にはこの膜は見えない。私でなく膜に過ぎない事がわからない。だからずいぶん、得もしたし損もしてきた。
もしかしたらこの膜はすべての人が持っているのかもしれない。私には見えないからそれがわからない。もしヒロユキやアカリやジュンがこれを持っていて、そしてもう少しうまい使い方があるのなら、是非とも教えて欲しかった。
私にはそれが必要なんだ。でも、残念なことに今は誰も私の周りにいなかった。
だから、私は走ることにした。
ラジオでヒステリックにがなり立てるユースクエイカーのように、私はジュンの名前を何度も何度も叫びながら走った。足が地面につく度に、水を吸い込んだスニーカーの中がぐちゅぐちゅと不快な音をたてたけど、私は気にしないで走り続けた。草が深くて何度も足を取られそうになったけど、私は走り続けた。
走って叫んでいると、目が溜まらなく熱くなって、やっぱり熱いなにかがこみ上げて来て走るのがとても辛くなったけど、私は走るのをやめなかった。
この先ジュンを探し出して、また私が必死で考えたことを彼に伝えることができたときに、そして彼が私を包み込んでくれて、頷きながら私の話を聞いてくれたときにはじめて、今まで私の心を捕らえて離さなかったあの麦藁帽子も、きっとまた私の所に還ってくるのだと思う。
そしてその時私は、本当に求める物を手に入れられるのだろう。
143 :
林檎:2001/07/04(水) 02:43
修正です。
漢と乙女の狭間で(3/3)の最後のほうの蝉丸の台詞を
「うむ……それでは女性達に先に入ってもらうとしよう。
念のため複数の方が良い。最初は……晴香君と留美君で入ってくれ。
月代たちはあとで3人だ。
見張りは俺達がするから。後ろは気にしなくていい」
に変更します。らっちーさんご迷惑おかけします。
蝉丸の口調
一人称「俺」
新規の仲間は「〜(名前)〜君」でいこうって感じになりました
「なぁ、北川」
「何だ、相沢」
突然相沢が声を掛けてきた
「腹、減らないか」
「そうだな、確かに腹減ったな」
そう言えばこの島に来てからほとんどもずくしか食っていないような気がする
「お前何か食べ物持ってないのか?」
「あいにくと持ち物は全て没収されちまった」
「そうか」
全く縛られているのに食欲が沸くなんてこいつは大物だな
そんなことを考えながらも俺はレミィの事が気になっていた
果たして無事なんだろうか?
殺人鬼が蠢くこの島に彼女を一人にしてしまったことは俺の人生最大の失敗だったと言えるだろう
崖の上から降ってきたヤンキー
それがレミィ・クリストファー・ヘレン・宮内(通称ガルベス)だった
俺の支給品のもずくをむさぼり食われたよなぁ(最も俺一人では到底食いきれなかっただろうが)
まぁ、それでも彼女の天真爛漫さに救われていたのは事実だった
突然殺人ゲームに参加されられて期待して開けた荷物はもずくだった、これでへこまない人間はいないのではないだろうか
彼女と出会えたことによって少しだけ不安が解消されたことは間違いないことだった
それからはレミィと一緒に行動していた
そしていろんな彼女の姿を見てきた
「おかあさんといっしょ」の事でからかったら泣き出してしまった
あのことは北川潤一生の不覚であると言える
婦女子を泣かせてしまうとは男の風上にも置けない行為だった(勿論風下にも置けないがな)
彼女が親友が死んでしまったと知ったときの事は今でもはっきりと覚えている
悲しそうな声、悲しい決意をした顔
そう、あの時からだろう
彼女のことを意識し始めたのは
レミィに恋愛感情を抱いているかどうかは正直分からない
ただ、守りたいと思った
守ってあげたいと
俺は香里の事が好きだった
それでも告白することすら出来ず側にいるだけで満足していた
でも、香里は死んでしまった
このクソッたれなゲームに巻き込まれて
結局俺は香里の事を守ることすら出来なかった
だからこそ俺はレミィの事を守りたいと思った
香里を守れなかった分まで
だが結局俺は彼女のことを一人にし、俺は相沢と一緒に捕らわれている
今の俺に出来ることと言えばただ彼女の無事を祈るだけだ
なんて無様な
これじゃ香里の時と同じだ
俺は心底自分のことを情けなく思った
「おーい、北川。何ぼーっとしてるんだよ」
「何騒いでるのよ」
「いや、北川の奴があっちの世界に逝ってるから呼び戻してるんだよ」
【相沢祐一 未だ緊縛中】
少し前までは強かった風も、今では弱い。
それに流れていくように、何かの音。
土を掘る音。
木々の向こうに、木の棒を持った二人の男。
三人の女の姿がその向こうに。
そして――死体は彼らの隣に。
「これくらいかな」
そう呟く少年の手に握られているのは、先を尖らせた木の棒。
先端は土にまみれて茶色く染まっている。
「墓と分かれば良いだろう。わざわざ、こだわる必要は無いな」
同じく土にまみれた棒を放り捨てる往人。
額が汗に塗れていた。
少年は、棒を捨てると遺体を抱え上げた。
祐介。その目は既に閉じられている。
続くように、往人が少女の遺体を持った。
大きめの穴が一つ。その中に、下ろす。
寄り添うように眠る二人――
少年は、目を閉じた。
――黙祷。
「――偽善、だな」
少しして、往人の言葉に少年が目を開けた。
「自分が殺した奴の冥福を祈るのか?」
「―――」
非難じみた言葉。
――実のところ、己への皮肉でもあった。
人の事は言えない。それは往人自身が分かっている事だ。
己の為に――或いは、誰かの為に、何度か人を殺めた。
躊躇った事は無い。
ただ、それでも――
自分が殺した者の姿に。
死に際の、悔恨を残して逝く者の姿に。
――"情け"が顔を見せた事があった。
それは、偽善だ。
そんな自分への憤りが、不意に顔を表しただけの事。
八つ当たりに、過ぎない。
「――確かに、偽善かもしれない」
目を開けた時のままの顔で、少年は返す。
「僕が墓を作ったところで彼が喜んでくれるとは思わないよ。
それでも、僕は――。何も思わずに殺せるやつには、なりたくないからね」
「………」
そんなものは、エゴだ。そう言い切ってしまう事は出来た。
だが。
往人は、口を開かなかった。
開くことが、できなかった。
少年は、墓の横でしゃがみ込むと、祐介の手を握る。
少し離れてしまった、二人の手を、繋ぎ直す。
――その時。
何となく、祐介の顔が、笑ったように見えた。
「これからどうするかでも決めておくか?」
近くに置いたベネリM3を拾い上げながら、往人。
「5人も居るんだ。何か出来る事くらいあるんじゃないのか」
「――そうだね」
偽典を拾い上げ、少年が返す。
その足で3人の居る所に向かった。
――途中、振り向く。
「さっき、君は」
往人も足を止めた。
「僕が目を閉じている間に――目を、閉じていたかい?」
「―――」
数秒、沈黙。
止めていた足を動かした。
答えは、無い。
149 :
彗夜:2001/07/04(水) 14:18
書きました。
どうでもいいのですが、
>>146が何故かいきなり-2になってます。
もちろん-1の間違いです……すいません。
あと、
>>148の少年の台詞、「目を、閉じていたかい?」は「目を、閉じていたのかい?」の間違いです
あー、やっぱ最近疲れてんのかな……っていうか連続投稿食らった
昼間っから風呂など頂いてみたりする。
キンキンに冷やしたビール…じゃないわ、これはジュースなのよ。
そんなささやかな贅沢が、この島では最高の娯楽なのかもしれない。
ドラム缶を湯船に使っているので、なかなかに恐ろしいのが珠に瑕だけど。
この島に来て以来…いや、瑞佳が倒れて以来、これほど安心できたことは無かったと思う。
鼻歌なんか歌いながら、あたしは薄汚れた愛用の制服をたたみ、タオルを服代わりに裸足で歩く。
小さな手ぬぐいで、可能な限り汚れを落とし、短くなった髪を洗う。
いよいよ湯船を攻略よ、と気合を入れて立ち上がり、おろした髪を上のほうに無造作に束ね…
…束ねようとした手が、空を切る。
そうだ。今では、お風呂に入るために髪を上げる必要もない。
洗ったばかりでありながら、自分の”変化”を忘れている。
しかし忘れていた”変化”を思い出せば、喪失感が身を包む。
ためいき、ひとつ。
…そんなちょっとした喪失感は、実際失ったものと比べれば微々たるものなんだけど。
足の指先で、ちょっと行儀悪く具合を確かめて、すとんと湯につかる。
暖かさが、疲れた身体に染み入り、思わず、はあっと息をつく。
そのとき、お隣さんから声がかかった。
ようやく口を開いたな、と思った。
「ねえ、七瀬」
特に何の感動もなく、黙々と作業を進め、先に湯船に到達していた晴香。
無表情に何かを考えていたのは解っていたから。
「…なあに?」
だから誘うように、意思を込めずに促してみる。
「あたし…ここを離れようと思うの」
「え…」
ざば、と音を立てて、晴香は湯船から上がる。
珍しく視線を合わせず、迷いもあらわに晴香は呟いていた。
-----ここを離れる?それは、蝉丸さんや耕一達の庇護の下から離れる、ということだ。
それほどの危険を冒して、一体どうしようというのか。
「潜水艦。
…あなた、信じてるんでしょう?」
大きく息を吸い。
そして吐く。
あの高槻という最低な、そして極めて憐れな人間の、最期の言葉-----の、ひとつ前。
『潜水艦が、何処かにある筈だから、それを、捜せばいい』
その言葉を、思い出してみる。
ええ。
あたしは、信じている。
だから、晴香の目を真っ直ぐ見て、答える事ができる。
「信じて、いるわ」
しかし返ってきたのは、意外な答だった。
「あたしはね…信じていないの」
「……」
だったら、何故?
その疑問を、慌てて飲み込む。今は晴香の言葉を待つべきだ。
「あたしの…人生は。
あたしの人生は、高槻と言う男ひとりに踏みにじられたようなものだから。
ここに来る前も。
ここに来てからだって、そうよ」
悲しみと怒りが、複雑に交じり合った、暗い感情がくすぶっている。
「あたし自身の純潔。
ここで出会った仲間。
ここに来る前からの仲間。
あたしは高槻のために、たくさんのものを失っているのよ」
ああ…なんということだろう。
最初の放送から、何かの因縁があるだろうということは解っていた。
-----しかし、ここまでとは。
あたしはしばらく言葉もなく、ただ晴香の演説を聞いているだけだった。
しかし、ようやく言葉が切れて、あたし達は目を合わせる。
「だったら、何故?」
溜めていた言葉を放つ。
ちょっとした間があいて、返ってきた答は、これまた意外だった。
「七瀬…あなたを、信じているのよ」
晴香は照れ臭そうに、そっぽを向いて誰に言うともなく、さらりと風に流した。
-----全て、解った。
高槻や主催者への憎しみも。
蝉丸さんや耕一たちと、あまり話さないのも。
少しはましとは言え、他の女の子達と話したがらないのも。
心の傷の…全てが、見えた気がした。
眩暈がする。長湯をしすぎたかもしれない。
そんな関係のないことを思いながら、あたしも湯船からあがり、返答を待つ
晴香の隣までぺたぺたと歩いた。
「…解った。
一緒に、行こう」
手をさしのべると、晴香がそれをガッチリ掴んで言う。
「七瀬…ありがと…」
なんだか湿っぽいな、そう思って。
あたしは、にっこり笑って付け加えた。
「これで貸し借りなし、よ?」
たぶん、余計な一言だったけど。
…二人笑えたから、それでいいじゃない?
癒えない傷など、ありはしないのだから。
今はこれで、いいじゃない?
【七瀬留美 巳間晴香 怪我人を任せて、潜水艦探しを決意】
つーわけで「心の傷の行く先は」です。
今すぐサヨナラって訳ではありませんが、別行動を決意しました。
「あ、長瀬様」
そう言ってくる兵士に軽く目配せだけして、椅子にどっかと腰掛ける。
そして、この島の様々な場所にに備え付けられたカメラが映し出す、モニターの数々に目を遣る。
そのモニターに移る、島の様々な風景。
森、草原、住宅地、川、海。
こんなゲームの為だけに、よくもまあこれだけ用意したものだ。
……全く、本当に我々は気狂いの集まりだな。
下に降りて来て、改めてそう思う。
俺が下に降りてきた理由は、名目上は
「体内爆弾を爆破させることはもうないのだから、参加者の反乱で減った兵士の分を手伝ってやってくれ」といったもの。
ま、実際のところは、しつこく反対していた俺や源一郎を鬱陶しく感じたんだろうな。
手元に居られては、いつ反乱するか分かったもんじゃない、と思ったのかもしれん。
御老にとっては、俺がこの地上で野垂れ死にするのが理想的、というワケだ。
いいさ。
罰は受けてしかるべきだ。早いか遅いかの違いでしかない。
御老もいずれは罪を償わなければならないのだから。
そして俺は、再びモニターと向かい合い、人が死んでいくサマを見続けるという、世界一悪趣味な仕事を続ける。
死にゆく人間のその中に……彰や祐介の姿を見たら、俺はどう思うだろうか?
殺した奴を憎むだろうか?
いや、憎むべきは、自分自身であるべきだ。
…その時になってみないと、分からないな。
……その時なんて、来て欲しくも無いが。
だが、『その時』は、来た。
島に響き渡る渇いた銃声を、集音マイクは逃さなかった。
そしてフランク長瀬は、たまらずモニターから眼を背けた。
たった今画面の向こうで息絶えた人物は、他ならぬ長瀬祐介だったからだ。
乗り出していた身を椅子に戻し、定まらない視線で呆然と天井の蛍光灯を眺める。
自分の目が確かなら、間違いなくたった今、長瀬祐介という存在はこの世から抹消されたのだ。
「うわぁ、また死んだか」
背後で、名前もない端役兵士Aの声。
あったかもしれないが、どうでもいい。知りたくもない。
「これで残り何人だ?……っと、23……22人だっけか?」
次いで、端役兵士Bの声。
所詮他人事としか認識していない、気楽な、声。
「ったく、早く終わって欲しいぜ」
そう言って、Aが笑う。
「ま、4分の1以下まで減ったんだ、もう少しだろ。……それより、どうだ?コーヒーでも」
そう言って、Bが何処からかコーヒーを持ち出す。
…………馬鹿野郎。それは俺が自分のために煎れたコーヒーだ。
「…ん、美味い」
ずずっ、と下品な音を立ててコーヒーに口をつけたAが言った。
……そうだろ、美味いだろ?
何と言っても、俺の煎れたコーヒーだ、美味くて当然だ。
いつからだったか?
遊びに来た祐介が、俺の煎れたコーヒーを苦がらずに、「美味しい」と言ってくれるようになったのは。
『やっぱり、いつ来てもこのコーヒーは美味しいです』
そう言って、穏やかに笑う祐介は、もう居ない。
そんな祐介の笑顔を、奪った奴が、居る。
祐介と彰がこのゲームに参加することに反対したのは、俺と源一郎だけだった。
他の長瀬は、「これも運命、諦めろ」とか意味不明な事を平然と言ってのけた。
納得できるわけもない。俺たちは執拗に抗議しつづけた。
そんな俺らに対して、他の長瀬は『説得』と言う名の『脅迫』をかけてきたよ。
そうだな、誰だって結局は自分の命は惜しい。
かといって俺の命と引き換えに彰達が救われるわけでもない。殺され損。これじゃ呑むしかないじゃないか。
だから、俺と源一郎は結局何もしてやれなかった。せいぜい爆弾という自爆装置を外してやる事だけ。
俺の力が、至らぬばかりに、彰は瀕死の重傷を負い、そして祐介は、
死んだ。
誰が悪い、と訊かれれば、俺が悪い。
俺の力が至らなかった所為なのだから。俺が彰を、祐介を護ってやれなかった所為なのだから。
……だが。
だからこそ。
祐介を殺した奴を、俺は許さない。
それは、俺のエゴなのだろう。
結果として、俺が間接的に祐介を殺したと言うのは、疑いようも無い事実だ。
この島のルールを考えると、いつかはこんな事になるのではないかと言う覚悟のようなものもあった。
それでも、俺は祐介を殺した奴がのうのうと生き長らえるのを許してはおけない。
『監視者』として、参加者に自分から手を出すのはタブー。
俺が行動を起こせば、恐らく、いずれ俺も消される運命にあるのだろう。
…構うものか。
俺は、祐介の未来を奪った奴を許さない。
それだけだ。
敵は5人に増えた。
もしかしたら、仲間割れを起こして互いに削りあうかも知れない。
勝手にやれ。
俺は、奴一人殺せれば良い。
だから、奴だけには死んでもらっちゃ、困る。
俺が殺せなくなるからな。
防弾チョッキを着込み、拳銃を手にする。
……重い。
何せ普段コーヒーカップを持ってばかりの手だ。余計重く感じる。
「長瀬様、どちらへ――」
そう言い、Aが駆け寄ってくる。
そうだな、俺の決意を固める必要がある。
後に退きたくても退けなくなるように。
銃を構え、Aが身構える前に、Aの額に銃弾をプレゼントし、黙らせる。
「――ぁ」
遺言の一つも残せずに、Aは逝った。
鮮血を撒き散らしながらゆっくりと崩れ落ちるAの後ろで、Bが叫ぶ。
「な、なにを――!」
端役に発言権なんてものはない。
Bにも同様に、コーヒーの代わりに銃弾を差し出して、また黙らせる。
Bもまた、Aの上に覆い被さる様にして、倒れた。
そして、静寂が訪れる。
……さあ、後には、退けなくなった。
何故か、口元から笑みが零れた。
自分以外動く者のいなくなった部屋の中で、
もう一度モニターの方を振りかえる。
そして山の様に並べられた数々のモニターの中、そのひとつを見る。
決して映りの良いとは言えないその画面の中には、1軒の民家。
複数人が輪となって協力態勢を作り、今はそこで暫しの休息を取っている。
……その中に、彰も居る。
どうやら、あいつはこの島で死ぬより大切なものを見つけたようだ。
まあ、確かに、見た目は、ちょっと、アレだが、な。
信頼できる仲間もいる様だ。心配無い。心配無いさ。
そう思わないと……俺はここから動けない。
奴を殺したその後に、もし俺が運良く生き長らえるようなら、
……そうだな、脱出の手伝いでもしてやるか。
…そんなこと言っても、今更信用されずに、殺されるかもしれんな。
仕方ないさ。このゲームが始まってしまった時点で、俺が罪を犯した事は確かなのだから。
一歩一歩、戦場へと繋がる扉へと近づく。
長瀬。監視者。ゲーム。全てどうでも、いい。
もう俺の頭の中には、奴が苦しみ、のた打ち回りながら死んでいくイメージしかない。
それさえ見れれば、死んでも構わんさ。
奴にも、祐介と同じ苦しみを味あわせてやる。
それが、俺の人生、最後の生きがいだ。
さあ、行くか。
奴の未来を、奪いに。
そして、監視所の重い扉を、開く。
【フランク長瀬 少年を殺すため、「監視者」としての義務を放棄】
【所持品等は任せます。他にも何か持っているかもしれません】
「…で?これからどうするんだ?」
「決まっている。爺とガキと女だけで敵の本陣に突入なんて無茶だ。後を追うしかねぇだろ」
「同感だ。紳士として婦女子や老人をいたわるのは当然だ」
「なるほど…。おい、新入り、お前はどうだ?」
「…興味無い」
「何だと?テメェ真面目にやる気あんのか!?」
「おい、よせよ。こんなところで仲間割れか!?」
「争いはやめたまえ。新入り君、君は協調性という言葉を知らんのかね?」
「…知っている、一応は…」
「ほう、なら何故そんなに消極的なのだね?我々は仲間だろう?」
「…みんな…知らないんだよ…仲間なんて…本当は…薄っぺらい関係なんだ」
「………」
「………」
「………」
「まぁ、何があったか知らねぇが、残りたけりゃ残ればいい。俺は行くぜ」
「俺も行くぜ。なぁ鳥、ちょっと手ェ貸してくれねぇか?登るのは得意なんだが、降りるのはどうも苦手でな…」
「いいでしょう。我々は仲間だ、助け合うのは当然。手はないですが足なら…」
「いでででっ!爪立てるなよ!」
「おっと、失礼…」
「じゃあな新入り、お留守番ヨロシクな」
「………」
毛糸玉と猫と鳥は深い闇へと吸い込まれていった。
一人、残された白い蛇はそれをただ、じっと見つめていた。
【アニマル軍団 ぴろ、ポテト、そら出撃】
【ポチ 入り口で待機】
161 :
朱―AKA― (1/4):2001/07/05(木) 22:43
重い沈黙が辺りをずっと支配していた。
その場の五人は腰を下ろしたまま、先程から一言も発していない。
沈黙は金なり、という言葉があった気がする。
黙っているだけで金になるのなら、今頃俺たちはウッハウハだな。
ラーメンセットも食い放題だ。セットのライスをチャーハンに替えるという贅沢も思いのまま。
などと諺を曲解しながらも、国崎往人は目の前の二人からは視線を逸らさない。
いや、逸らせかった。
先程、二つの死体を弔いたいという少年の申し出があった。
往人はそれを断ろうとしたのだが、横に座っている少女――神尾観鈴のお願いにより、
渋々同意する羽目になった。
往人は思う。
観鈴は純粋過ぎる。この世の中に悪意が溢れていることを知らない、いや信じられない。
それは。吐き気がする程に悪意渦巻く、この馬鹿げたゲームの中でも揺らぐことはなかった。
それが、彼女の長所だとしても。今は、命を落としかねない短所になってしまっている。
彼女を守り、生き残る。願わくば、その純粋さを失わないままで。
――では、今はどうすればいい?
ラーメンセットの妄想に、腹の虫が鳴る。
それに反応してか、観鈴が、にははと笑った。
頬を朱に染めながらも国崎往人は考える。
――生き残るために、最善の方法を。
「観鈴」
沈黙を破ったのは、往人だった。
「なに、往人さん」
「ラーメンセット、ひとつ」
心なし嬉しそうに話す観鈴に、往人はそう注文する。
「え……?」
ぽかん、と口を開ける観鈴。
「しかも大盛りだ。早く頼む」
「うー……でも、材料も道具もここにない」
観鈴は困ったように唸る。
「ならば出前だ。晴子、西来軒でも昇竜軒でも波動軒でもいいぞ。さっそく頼んでくれ」
「頼めるか、アホ」
あっさりツッコミが返ってきた。
両腕の傷が痛むだろうに、その辺のお約束はきちんと守ってくれている。芸人の鑑だ。
往人は、やれやれとため息を吐きながら言った。
「ならば仕方ない。観鈴、晴子。食事に行くぞ」
『……え?』
晴子、観鈴だけではない。その場にいた少年、郁未も声を上げた。
「どういうつもりだい?」
少年が尋ねる。
「どうもこうも無い。腹が減ったから飯を食いに行くだけだ」
その言葉の真意を理解したのか、少年はしばし考えてからこう言った。
「わかった。じゃあ、僕たちはここにいるよ。今は食欲があまり無いんだ」
その言葉に、往人は少し眉を顰めたが、ぶっきらぼうに返した。
「そうか、すまないな」
そのやりとりを見ていた晴子が、じゃ、決まったなとばかりに立ち上がる。
「観鈴、行こ。ウチの腕の怪我もどっかでちゃんと診ないとあかんし」
「う、うん。……じゃあ、また後で」
観鈴は立ち上がると、ぺこりと頭を下げる。
「じゃ、居候。先にいっとるで」
「ああ、ラーメンセット、用意しておいてくれ」
吐き気がするような白々しい台詞の応酬に、顔を歪めながら往人は言う。
それでも、晴子と観鈴が一定の距離を取るまでは、少年たちからは目を離さなかった。
「そういうわけだ」
往人は目の前の二人を見据えたまま、ゆっくりと立ち上がる。
「悪いが、俺たちは別行動を取らせてもらう」
「そうか、残念だよ」
往人の言葉に、少年はわずかながらに微笑んで言った。
「下手な言い訳だったね。僕たちがついて行く、って言ったらどうしたの?」
数瞬の沈黙。そして、往人はぶっきらぼうに返す。
「結果オーライだ」
少年は立ち上がると、ゆっくりと往人の方へ歩み寄る。
後ろの郁未は、ただその様子を見守るだけだ。
往人も、こちらへ来る少年をじっと見つめたままで動かない。
そして、少年は往人の前まで来ると、すっ……と右手を差し出し、こう言った。
「再開を願って。 ……待っているから」
往人は冷ややかな目で少年を見る。
「握手ぐらい、いいだろ? 君は借りをつくったんだからさ」
微笑んでいう少年に、往人はしばしその手を見つめる。
やがて、自分も右手を差し出すと、その手を軽く握る。
「本音を言うと、もう会いたくない」
握手をしたまま、往人は言った。
「もし再び会った時に、また死体が転がってたら」
その言葉の続きを察しても、それでも少年は微笑んだままだ。
「――今後こそ、お前を殺さないといけなくなる」
――その瞬間。往人の視界に入ったものは。
腹を押さえる少年。
そして、鮮血の朱。
『だから、もっと信じてみようよ、この人達も、他の人も』
そうだったのかもしれないな。観鈴。
……もし、信じることで全てが上手く行くのなら、俺は信じ抜いてやるよ。
例え、その格好がどんなに無様だったとしてもだ。
――だが、今はだめだ。
何故かって?
この肩に食い込んだ弾丸。この激痛に耐え、生き延びないといけないからな。
これで、いい。
少年が軽く吹き飛び、往人が肩を押さえうずくまる様子を、フランク長瀬は満足そうに眺めていた。
先程まで構えていたスナイパー銃を辺りに放置し、傍に置いてあったリュックを拾い上げる。
あの儀典とか言う、謎の反射兵器を腹に仕込んでいたか。
フランクは、少年たちの居る場所からやや離れた茂みから、スナイパー銃から弾丸を一発放った。
それは寸分違わず少年の腹部を襲い――がいん、という大きな音と共に兆弾する。
――次の瞬間、弾丸は往人の肩に喰らい付き、鮮血を飛び散らせた。
これでも、いい。
反射兵器を腹に仕込んでなければ、奴はそのまま悶え死んだだろう。
そのときは、このスナイパー銃で五体全てを射抜き、
苦痛にのた打ち回りながら死ぬ姿をゆっくり眺めるつもりだった。
だが、この場合ならば。
先程去った女たちが騒ぎを聞きつけて戻ったとき、女たちはどう思うだろうか?
そして、肩を撃たれた男は?
仲間割れでも、いい。――奴が傷つき、力尽きていく様が見れるのならば。
ようは、最後の止めが刺せればいいのだ。
奴に絶望と恐怖をプレゼントできれば――それで、いい。
フランクは注意深く立ち上がると、リュックを背負う。
その瞳には、朱が宿っていた。――復讐に燃える朱が。
【フランク長瀬 少年たちの元へ】
【スナイパー銃は目立つため放置。その代わり、リュックには別の武器が入っている】
【国崎往人 肩を負傷】
【少年 腹部に軽傷】
改行エラーが多すぎて上手く書き込めませんでした。
訂正。その2の
「そうか、すまないな」のセリフの前の改行は、このセリフの後に付け直してください。
また、その3の
「結果オーライだ」の後に改行を入れてくださるとありがたいです(改行エラーで削ってしまった)
フランクの武器は次の書き手におまかせします。
また、郁未はその場にいます。神尾親子は少々離れた場所(といっても視界に入る範囲)にいます。
――ァンッ
遠くから、そんな音。
刹那。少年の身体に、衝撃。
押し出されるように、息が飛び出す。意味の成さない声。
全身が弾け飛びそうになる。強烈な打撃。なまじ、貫通した方がいいくらいだ!
撃たれた。誰かに、"遠くから"。
弾き飛ばされた弾丸は、目の前に居た往人の肩に食らいついた。
コンマ数秒の出来事。いや、それにも満たない程の。
愕然とした顔。何故、とその目は言っている。
違う。違うんだ。僕達は銃を持ってない。
君を撃ったのは僕達じゃない!
答えたい。
……答えられない。
頭を地面に打ち付けられる。再び浮遊感。次に顔を打ち付けられた。
抗いようの無い浮遊感。そしてそれも終わる。
何故――何故。誰が。どうしてこんな時に!
――どくっ
嗚呼。まずい、"来た"のか?なんて最悪な。参ったな、本当に。
頼む。郁ミ。
――どくん
頼ム、今は。ニげてくれ――逃げてくれ!
まずイこトになリソうなンダ。いや、なる!
だから。
けど、声は出なかった。
ガキィンッ!
「ごぉっ!!」
「……っ!」
遠くから聞こえてくる、銃声。
甲高い音。何かの弾ける音。苦悶の声。鮮血。
風。
郁未の横を何かが通り過ぎる。
目の前にあった筈の少年の姿が消えている。
一瞬の間。
咄嗟に振り向くと、少年の身体が人形のように転がっていくシーンが見えた。
……は?何で、あなたがいきなり転がってんのよ。
二転三転。止まる。
――起き上がっては、こない。
幻でも見ていたかのような顔だった郁未が、無意識のように立ち上がる。
包丁を握り。泥塗れで、うつ伏せに倒れ伏したままの少年に駆け寄った。
「だっ――大、丈夫?」
3秒。
さらに5秒。
返事無し。
瞬間。郁未は、心臓をきつく締め上げられるような感覚に襲われた。
何。え?まさか――死んでる?
余裕のありそうな顔で。いつもの顔で、返事を返さない少年。
それは、郁未にはあまりにも非現実的過ぎる。
極、僅かに残った平静さが、少年の身体を地面に転がす。反転させた。
目が、閉じていた。
咄嗟に、少年の口に耳を近づけた。押し当てたかもしれない。
―――。
ようやっと捉えたのは、呼吸音。ひゅうぅ、と風が漏れたかのようなか細い息。
それでも、生きている。郁未は、僅かばかりに安堵する。
腹部を見やる。両手が当てられている。
無理矢理それを剥がすと、服に円形の穴が空いているのが見えた。
穴の縁が、焼けたように黒い。弾痕には違いない。
だが、本当ならそこから出ている筈の血は流れていない。
服を引き剥がす。人目など気にしない。こんな状況に道徳を持ってきてる場合か?
それで、そこにあったものは。
「……紙」
腹部を覆うように、何枚かの紙が糸か何かの植物の茎で括り付けられている。
こんなもの、いつの間にやったのか?
ともあれ、その糸のようなものを包丁で切り取った。
へこんだ紙。汗でへばり付いているらしい。
剥がすように取り除いた。少年が、痛みで呻く。
――痣。
大きな痣。真ん中の辺りを中心として、赤黒い色に変色している。痛々しさに、目を背けそうになった。
しかし。なるほど。どういう原理か、この紙のお陰で弾丸は通らなかったらしい――
――弾丸?
銃。
そうだ、撃たれた。誰に?
―――。
なるほど。
めくり上げた少年の服を、戻す。郁未が、ゆらりと、立ち上がる。
血の臭い。
振り向く。先程歩いていった筈の晴子と観鈴の姿。往人を囲むように。
晴子。ベネリM3を両手に。
観鈴。シグ・ザウエルショート9mmを。そして、往人の右肩がべっとりと血に塗れている。
全ての銃口は自分達に。――だが、観鈴だけは、震えていた。
晴子と、往人。傷の痛みか、怒りからか――仕留め損ねたからか。忌々しい表情を浮かべている。
確信。
平静を欠いた彼女の心理。平静を欠いた状況。
導かれる、最低最悪の予想。
"裏切り"。
「あんたが――」
殺気が走る。紫電を放ちかねぬ程に。風が起こりかねぬ程に。
血が巡る……巡る。
「あんたらが、撃ったのね――?
最っ低……最初からっ、このつもりで……!!」
歪んだ。
どうも、少年の願いは届きそうにない。
【残り26人】
170 :
彗夜:2001/07/06(金) 16:02
書きました。
>>167と
>>168の間は行間無しでお願いします。
「またおいしいところばかり持っていきやがって」とか言わないでください……(汗)
こういう場面に合うように、自分なりに頑張って書いたつもりです。
でも至ってないかも。嗚呼……。
閉めきられた小屋の中、些細なことで熱くなった熱気も相まって、室温は異常に上昇していた。
「まったく…暑いわね〜…ふぅ〜……」
結花が服の胸元をパタパタと扇ぐ。
「……(じぃー)」
「……(じぃー)」
「コラ、そこの男二人!見るなぁっ!」
その胸元へ注がれる視線に気づいてそこを手で覆い隠す。実際は特に何が見えたわけでもなかったが。
お世辞にも、結花の胸は扇いだ程度で覗ける程豊かだったとはいえない。
「頼む…水をくれ…」
記憶を失ってるので正確には分からないが、かなりの間水分補給をしていない気がする。
祐一が覚えている限りでも、かなりハードに動いていたわけで。喉の渇きは頂点に達していた。
「仕方ないわね…はい…と言っても北川君、あなたのだけどね
一応武器は抜いてあるから」
祐一と北川の前に軽くなった鞄を放り投げながら、結花自身もまた自分の分の水分を補給する。
「お、サンキュ」
北川が鞄から自分の分のペットボトルの封を開けると一気にラッパ飲みでそれを飲み干す。
本来はそんなことをしている余裕などないのだが、体は正直だった。
「なあ、北川、ガサツ女、ちょっといいか?」
「なんだ、相沢?」
「誰がガサツよ…」
「俺に、どうやって飲め…というのだ…」
祐一は、手を縛られている。
「ヨガの使い手でもない限りこの態勢で水を摂取することなど不可能だ」
「仕方ないなぁ…口を開けて上を向け!相沢!」
「へっ!?いや、俺が言いたいのはいいかげん縄を解いて欲しいってことなんだがって…ガボッゴボッ!!」
「覚悟、相沢っ!!」
そう言いながらも律儀に上を向いて口を開いたのが運の尽きだった。
開け放たれた口に容赦なく注がれる水の雨。
「ゴボッ…ゴボッ…ゲボッ…(北川…やめでぐれ〜)」
口から、目から、鼻から、水が溢れては祐一の体に染み込んでいく。
「あんたたちってバカよね…」
「ああ、そうだ結花ちゃん」
「結花でいいわよ」
「じゃあ結花、さっき見てた本を見せてくれ」
北川が、空になったペットボトルで肩を叩きながら、そう切り出した。
「本って…参加者名簿のこと?」
「この状況でラブリーな恋愛小説が見たいとでも思うか?」
「あんたならやりかねないけど…まあ、いいか」
ポン…と北川に投げられる名簿。
先の飲料水の時もそうだったが、結花はまだ決して無防備に二人に近付く、ということはしなかった。
(それって、悲しいこと…だよな)
祐一は思う。
(少なくとも俺は、あいつ、いや、この三人の少女達を信用できなかった)
いきなり気が付いたら縛られていて…他に危害を加えられてない(軽く殴られたが)とはいえ、
信用しろ、という方が無理な話だ。
だけど――
(おい、北川…)
(なんだ、相沢)
結花に聞こえないような小さな声。
だから、北川もまた同じようにそう返す。
(できたら、あいつらを信じてやりたい…って思うのはやっぱりこの島じゃ甘い考えなのかな…)
悲しみを胸にしまって。ただ生きる為に殺す、ではなく、みんなで生きて帰ろうと前に進みはじめた少女達を、
(できたら…信じてあげたいと、思ってる)
記憶を呼び戻したら、そんなことは言っていられなくなるのかもしれない。だけど――
(……)
(やっぱ、甘いか?)
結花から渡された本を開きながら、
(さあな…甘いといっちゃ甘いけどな。…だけど、人間として間違ってると思っちゃいないぜ)
(……サンキュ)
(だけど、この状況は、打破しないとな)
この、捕まっているといっても過言ではない状況を。
パラパラと本をめくる。
「ああ、こいつだ…」
一つのページで北川の指が止まる。
「何?」
「俺達を襲った男だよ。…ほんとにいきなり襲いかかってきやがった。
長瀬祐介か…特殊能力が電波?何だそりゃ?頭が電波ってことか?」
祐一と結花に、その顔写真を見せびらかす。
本当にどこにでもいるような一介の男子高校生といった風貌だった。
「長瀬…ねぇ…」
ここには結花しかいなかったが、芹香やスフィーがいればまた違った反応があったかもしれない。
それは、今の祐一達には分からないことだった。
「まあ、いいか…。とりあえずそいつは要注意人物ってことね」
「そうなるな……(これでよしっ、っと…)おい、相沢!お前も見ておけよ。…何か思い出すかもしれないだろ?」
全員の死角で何かしながら、北川が祐一に本をよこす。
「…ああ」
あまり気が進まない風に本を受け取る。
「あのさ、一応私たちの本なんだから足でページめくらないでよね…」
「仕方ないだろ…縛られてるんだからさ…そろそろ解いてくれよ…」
「……」
肯定も否定も。それに対する返事はなかった。
ア行――1ページ目に自分の名前があった。男子001番相沢祐一。
(この名前に引かれた赤線は、死んだってことなんだろうか…)
自分と、女子005番天野美汐の間に載っている、眼鏡の女、そしてその次の母子の内、母と思われる女性の名前には赤線が引かれていた。
それが死人だとすると、ア行にはずらりと死人が並ぶ。
自分や結花を含めて5人。それ以外の名前に引かれた赤線の意味を想像して、軽く眩暈がした。
カ行――カ行の人間は多かった。
生き残りも多ければまた、犠牲者も…
ある二つの名前で、祐一の手が止まる。
「どうした、相沢…?何か思い出したか?」
「分からん…この親子の顔を見てると…何故か心が騒ぐんだ…知らない奴なのにな」
「神尾晴子と神尾観鈴か…一応お前の記憶を取り戻す鍵かもな」
「いや、そんなんじゃなくて…いや、なんでもない」
漠然と胸に込み上げる嫌悪感を振り払って祐一は再び次のページに目を通す。
(舞…佐祐理さん…)
舞と佐祐理の――赤線の引かれた名前を見つける。
舞達は結花らと一緒に行動していた…という。
(もしかしたら…あいつらが途中で佐祐理さんや舞を…)
どす黒い思いが祐一の頭の中をよぎる。
(いや、そんなはずない…よな?…こんなことばかり考えてたらいつか俺が壊れちまう…)
その二人に引かれた赤線は異様によれていた。
(さっき、できたら信じてあげたい…と決めたじゃないか…
たぶん、彼女達はこの線を引くのをためらったに違いない。
第一そんなことする奴等なら俺達は今、ここで生きてるはずがない)
利用する為…という可能性だってあるにはあるが…無理矢理そう思い込む。
張り裂けそうな悲しみを振り払って次のページをめくろうとした祐一の手が再び止まる。
「どう…した…?」
そのページに倉田佐祐理の名があることを考慮してか、今度は幾分遠慮がちに北川が訊ねてくる。
「……こいつ…知ってるか?」
低い声。
倉田佐祐理よりも二つ程前、男子033番、国崎往人の顔を指差しながら祐一が呟いた。
「知ってるのか?」
「いや、知らん」
「おいおい…」
「だが、記憶を失う前の俺は知っていたのかもしれない…」
その男の目を見ているだけで浮かび上がってくる奇妙な、だけど確かな激情の感覚。
(なんで俺はこんなことを考えている…?これって…憎悪…なのか?)
よく分からない。力無く、祐一が首を振った。
北川と、祐介に殴られた傷が痛む。
「なんだか…気分が悪い…な」
この島に来て、いや、この島で覚えている限りでは今までで一番激しい頭痛が祐一を襲う。
(この本すべてに目を通してしまったら…俺は本当に壊れてしまうんじゃないだろうか…)
たとえようのない漠然とした不安が祐一の全身を包み込んでいく。
「大丈夫か?」
「ああ…心配かけてすまない…」
「国崎往人…ねぇ…あんた達からその名前が出るなんて意外だったわ…」
「…お前は知ってるのか?」
「いや、知らない」
「おいおい…」
再度、北川が同じ台詞を吐く。
「いろいろあってね。今そいつ探してるのよ」
「いろいろ?」
「分かんないけど。その写真だけで芹香さんのハートをゲッチュした人…かな?」
「ゲッチュて…」
「そいつ、危険なの?」
「分からない…」
祐一が頭を再び横に振った。
「あんた分からないばっかりねぇ…頼りになんないなぁ…」
確かに、祐一はここ最近頭を縦に振った記憶がない。
「頼りにしようと思うなら、せめてこの待遇を改善してくれ」
「……悪いわね。悪気はないんだけど…もう、私の大切な友達を失いたくはないのよ。……分かって」
「……まあ、とにかくこいつも危険そう…だよな…特殊能力は法術?なんかの儀式みたいなもんか?」
その話題を逸らすかのように、明るく北川が言った。
「そいつ悪そうだから、私はあまりそいつを探すのは賛成してないんだけどね。
あんた達みたいに素直に捕まるようなマヌケには見えないし」
「ほっとけ!っつーかそいつもまた縛るつもりなのか?」
「信用できないから…ね。私だけならともかく、スフィーや芹香さんまで危険な目にあわせたくないし。
もう、仲間を失うのは…たくさんなの」
「……」
北川の話題を逸らそうという意図は、果たせなかった。
つまり、祐一と北川のこの処遇はすべて結花の独断で取り決めたこと…という話。
(…まあ、気持ちは分かるけど…な)
「最初は、違ったのよ。最初の頃の私はそんなんじゃなかった。
最初から…初対面の人を疑ってかかるなんて…してなかった。
だけど今は――私ももしかしたら…もう狂ってしまってるのかもしれないね」
それに対する男二人の答えはなかった。
男子040番 坂神蝉丸――
長いカ行を終え、サ行へと目を通す。
(……)
真琴までは知らない名前が続く。
さっと読み飛ばす――はずだった。
(…女子043ば…ん……里村…あか…)
パタッ!!乱暴に足で本を閉じる。
「どうした相沢!?もういいのか?」
「……ああ……」
全身から冷や汗が滲み出る。
黙っていても気だるい暑さだというのに、いきなり冷水を浴びせられたかのように体が冷え切っていった。
まあ、この状況で本当に冷水を浴びたら気持ちいいだろうが…今の気分は最悪だった。
(今のは…茜?)
昔、一年もの間、同じ時を過ごした幼馴染み。
本当に好きな人。
(いる…はず…ないよな…)
無理矢理肩で額の汗を拭う。
(そうだ…よな…いるはずが…それに同姓同名だって可能性も…)
だけど、一瞬見えたその写真は、確かに昔見た茜だった。
「すまん…少しだけ…寝かせてくれ…」
「お、おい、相沢?」
ゴロン…というよりは、バキッっという音を立てながら床に寝転がった。
(そうだ、いるはずがない…いちゃならないだろ!?だけど…)
現実に、そこに茜の名前があった。まだ、赤線の引かれていない茜の名前が確かにあった。
(会いたい…茜…)
なんとかしてこの状況から脱出をしよう。
すぐにでも飛び出したい気持ちを押さえ、下唇を強く噛み締めた。
「すまん、俺も疲れたから寝るわ…結花、見張りヨロシクな」
「ちょ、ちょっと…」
北川もまた、本を結花へと投げてよこしながらゴロンと寝転がった。今度は、本当にゴロン、だ。
「なんて呑気な奴等なのかしら…ああ、頭が痛い…」
(おーい、相沢…起きてるんだろ?相沢〜!!)
祐一の目の前で、北川の口だけがそう動いた。
(…ああ)
本当は返事する気にもならない気分だったが、無視するわけにもいかない。祐一もまた軽く口だけをそう動かす。
(へへ…なんとかしてこの状況だけは打破しないとな…)
カリカリ…ペンを紙に走らせる…
(おい、北川、いつの間にそんなもん持ってたんだ?)
『ペンは水分補給した時に鞄からくすねておいた。紙はさっきの本の遊び紙から一枚ちょいと…な』
同時に何枚かのCDを見せながら…紙に書かれていく文字。
(…そういった悪巧みにかけてだけは天才的だな)
『ほっとけ。CDはとりあえず今は気にするな…紙のスペースは有限なんだ、あまり無駄なこと書かせるなよな』
お前が勝手に書いてるんじゃないか…と言ってやりたかったが、本当に紙の無駄なので黙っておいた。
『なんとか、ここから脱出しよう』
コクリ…結花に気づかれていないことを目の端で確認しながら、祐一が頷いた。
(ちょうど俺もそうしたいと思ってた。俺にも…会いたい人がいる…こんなとこでいつまでもSMやってるわけにはいかない)
真実を、確かめなくてはならない。あゆや名雪達みんなのこと、自分の記憶のこと、
そして、茜の名前があったことも。
いるはずのない、いると思いもしなかった茜の存在を確かめるために。
『もちろんだ…SMはお前だけだけどな。とりあえず、この状況をなんとかして覆さないと』
サラサラと、音を立てないようにペンが進む。
『俺だってこんなことしてる暇はない。どんな状況に置かれてても、最悪の事態にならないよう最善を尽くさないとな』
レミィのことを思い浮かべながら、北川が文字を綴る。
(最悪の事態って…なんだ?)
その祐一の問いに、北川は幾分躊躇したが。
『最悪の、事態さ』
ただ、それだけを書いた。
【相沢祐一 北川潤 脱出作戦会議開始】
【北川潤 CD再度入手】
※1/4、2/4の2枚です。無記入CDはレミィ持ちのようなので。
※結花は武器もってます。何を持っているかはお任せで。
※祐一は未だ縛られてます。
よう坂神、御堂だ。まだ生きてるか?
まあ、お前が死ぬわけねえよな…俺以外のやつ相手によ。
既に待ちくたびれてたりはしねえだろうな?
悪ぃが、ちょっとしたチャンスだったからよ。
遅刻覚悟で寄り道させてもらってるぜ。
ここは前から気にはなっていたんだが、もっとやばい所かと思っていたんだよな。
ところが実際入ってみると、歯ごたえのある奴なんか、さっぱりいねえ。
あの硬ぇろぼっとの片割れがどっかにいるんだろうが、施設内まで入っちまえば
飛べやしねえから、多分外にいると思うのさ。
ちょいと見た限り、ここの構造はそんなに複雑でも無ぇ。
三本の筒を立てて、数階ごとに連絡通路が通してやって、地面に埋めてやりゃあいい。
昔の城砦ってのは高けりゃそれでよかったんだが、火力が強まるにしたがって、段々
平べったくなって来やがったから、そのうち地面に埋まっちまうだろうな、とか考えた
事があったが…もう、そういう時代なんだな。工兵は大変だろうな。
ああ、話が逸れたな。それで、だ。
俺達は通気口から地下一階に侵入して、B練って筒の一本を下へ下へと制覇してきた。
そんなに大きくは無ぇから、今では最下層って寸法だ。
「あー…倉庫ぐらいか?」
見取り図を前に、重要そうな部屋をあげつらう。
やはり物資の補給は現地調達に限る。
「ねえ、したぼく」
「げぼくね」
「げぼくだよ」
「げぼくだ」
…詠美のバカは、相変わらずバカだ。
繭ってガキと梓って赤毛にまで日本語を修正されてやがる。
「あたし、思うんだけど」
「げぼくよ」
「げぼくだって」
「げぼくだっつうの」
バカは死ななきゃ治らねえってのは、本当なんだな。
…どうでもいいが。
「ふ…ふみゅーん…げ、げぼくぅ…これなんだけど…」
さすがに三人がかりだと、コイツの減らず口もちったあマシになるようだ。
修正かましてやろうかとも考えたが、涙目になってやがるから大目に見てやって、仕方なく女が
取り出したブツを見てやる。
それは銀色の円盤だった。
しーでー、とかいうやつだ。
「それが、どうした?」
「これは、コンピューターとセットで使うものなのよ」
ガキもいつの間にやら取り出して、円盤をひらひらさせる。
「だから、ここにも寄って欲しいのよ」
ガキは、そう言って”まざーこんぴゅーたー”と書かれた一室を指差した。
若干強めの空調に逆らうように、その部屋は放熱を続けている。
いくつものファンが、わずかな風切り音を重ねて不快なコーラスを作り上げていた。
中央に位置するマザーコンピューターを介した、ひとつの端末で男は陰気に作業を始めていた。
「くそ…御堂は…どこだ?」
三名を候補に上げたまま、放置してあった端末を使い、今ようやく御堂の仲間を確認し終え、
内部の捜索作業に入り始めていた。
今になって、先ほどの三名がどうにも気になる。
しかし、そちらに手間をかけている暇はなかった。
普段はHM達にまかせっきりのセキュリティ関連作業を、源五郎は今、自分でやっている。
レーダーに従い、点在するカメラを使ってB練を上から虱潰しにチェックしていく。
とりあえず、御堂は自分の居る地下三階を通り過ぎて、さらに地下へと進んだようだ。
死角に居なければ、なのだが。
とは言え、それは根本的解決にはならない。
更に下の階へと捜査の手を進めようとしたとき、何度目かの呼び出し音が鳴り響く。
「…源之助さん、か?」
正直、出たくはない。
そう思って躊躇ったが、よく見れば内線だった。
「もしもし-----?」
「…構造から言って、最重要施設はマザーコンピューターなのでしょうね」
千鶴が、腕を組んで意見する。
地下三階の渡り廊下は三角形の各辺を担う通路だけではなく、三角の中央に向かって
伸びる通路も存在している。
その中心には、件のまざーこんぴゅーたーが構えてるってわけだ。
確かに、そこだけは特別な部屋のようだった。
どうせ倉庫を抜けて、通気口に戻るまでの通り道にある部屋だから問題は無ぇ。
「じゃあ、倉庫を荒らしたあとにでも寄るか」
A練、と書かれた筒を指でなぞって進路を定める。
ところが、千鶴がC練の一室を指差した。
「ここなんですけれど…」
C練のその場所を通るには、A練の倉庫を通った場合三階の渡り廊下まで到達し、そこから
再度降りなければならなかった。
千鶴は、露骨に面倒臭そうな顔をした俺に向かって話を続ける。
「わたしたちは仲間の他に…ある怪我人を捜しています。
だから、この医務室に寄りたいのです」
「千鶴姉、それって…」
姉妹で何やら裏がありそうなことを言いやがる。
「余計なお世話なんだろうけど…危険要素の、排除にもなるわ」
千鶴は赤毛に言い聞かせるように、”排除”という言葉を使った。
「…何のことだ?」
キナ臭さを感じて、俺は二人に尋ねた。
医療機関特有の、鼻につく消毒液の刺激臭を漂わせた中に、おびただしい血の臭いを撒き散らす
存在があった。
どうにか縫合止血を終え、骨折部分にギブスを当てて、ベッドに身を沈めたまま、怒りに声を荒げている。
HM達に当り散らすも、いたって常識的な反応しか返さない彼女達では満足がいかなかった。
やがて男は内線電話の存在に気付き、引き千切るように受話器を掴み番号をプッシュする。
『もしもし-----?』
「源五郎かっ!俺だ!源三郎だっ!よくも俺を見捨てやがったな!」
『見捨てるも何も、あなたが勝手にやった事でしょう?
そもそも私が、この計画自体に賛同していなかったのも、ご存知のはず。
どこに、あなたを助ける義理がありますか?』
理路整然と答える相手に血圧を上げてしまい、せっかくの止血も意味が薄れてきている。
撒き散らそうとした不満を、かえって積み上げてしまう結果となっていた。
『それと…御堂が、侵入しておりますよ』
駄目押しの一言。何を隠そう、源三郎自身が勝利者になると予想した相手が御堂だった。
「な…に…」
『あなたの予想が正しければ、あなた生きてはいけないでしょうね。
では、お互い命があったら文句の続きを聞いて差し上げます-----ご愁傷様』
ガチャン、と乱暴な切断音が響いて通話が閉ざされる。
「ぐ…く…」
わずかでも安心感を得ようと、無事な方の手に持っていた銃を確認するが、既に弾切れであった。
「う、うううう…」
今では原形を留めていない顔の、かろうじて残った頬肉を自ら掻きむしり、長らく迷った末に懐へ手を入れ、
ペン型注射器を取り出す。蛋白同化のみならず、原細胞の合成から分化異化までも強力に促進し、筋力や
再生能力を爆発的に増進する薬物。
しかし同時に、癌化やアポトーシス、ネクローシスまでも増進する恐れがあり、よもや使うまいと思って
いた、この悪魔の契約書にサインをするべきかどうか-----。
-----源三郎は、確実な死と恐怖の狭間で迷いつづけていた。
「ようするに、だ」
執事だった男は…坂神と勝負した後、仲間に殺された。
殺した方の男は、怪我人としてこの施設に居るかもしれない。
この施設にいる、あの硬ぇろぼっとを仕掛けた源五郎って奴は、坂神と勝負した男の息子だ。
「…ってことだろう?」
そう言って確認すると、赤毛が頷いた。
「ああ、そうだね。
仇討ち無用とは言われているけど、放っておくには確かに危険すぎると思うんだよね」
それは赤毛にしては、まっとうな意見だった。
「そんじゃ、まあ…」
殺気を抑えて、頭を掻きながら千鶴の隣に移動する。
ここで裏拳でも、と思った俺を鎮めるように、女は言う。
「御堂さん…試すのは、やめてくださいね」
底冷えするような静けさを保ちながら呟く。
…やはりこの女、俺達同様に”イケるクチ”だ。
「そうかい…
じゃあ、お互い心配は無用ってことだろ?」
「どういうことですか?」
「俺達は倉庫に寄る、あんたらは医務室に寄る。
ついでに俺は、どっちかって言えば、源五郎の方に興味がある。
先に行っちまってもいいだろう?」
要するにA練を俺達が上り、C練を千鶴達が上ればいい。
だが、千鶴が反対する。
「別行動は構いませんが…コンピューター室は、危険じゃないでしょうか?
もし一箇所だけ警備するなら、出入り口かコンピューター室だと思いますから」
なるほど、筋は通っている。
結局、中間を取るように、あまり本気でもなく確認を取った。
「じゃあ地下三階で待ち合わせって事にすりゃあ、いいだろうがよ?」
「ねえ、おじさん?」
斜め後で、袖を引っ張りどおしのガキが、上目遣いで睨んでいやがった。
「三階で、また会おうね?」
「あー、そうだな」
適当に返事をしてやる。
「絶対、だよ?」
「あー、そうだな」
いつになく、しつこい。
いまだに袖を離そうとしない。
「約束、だよ?」
「あー、うるせえな!」
堪忍袋の緒が切れる。
手を振りほどいて、いつものように叫んでやる。
「…バカ野郎、俺が死ぬわけ無ぇだろうが!
解ってるよ、俺がこのバカや幼児が先走りしねえように抑えて待っててやりゃあ、いいんだろうが!」
「ちょっと、先走りしそうなのはアンタでしょ!したぼくの癖に生意気よ!」
「動物じゃあるまいし…」
俺はその言葉を聞き流して、詠美のバカに言い返していた。
「じゃあなんだ!倉庫に桃缶があっても俺がいいと言うまで取るんじゃねえぞ!おあずけだぞ!」
「どうしてそこに、桃缶が出てくるのよ!」
「動物じゃあるまいし…」
動物じゃあるまいし、先走りなんかしません。
…思えば、そういう意味だったんだよな。
そうさ。
俺はこのとき、獣どもが入り込んでるだなんて…思いもよらなかったのさ。
【御堂組、倉庫を通って地下三階へ】
【千鶴組、医務室を通って地下三階へ】
【地下三階で待ち合わせてから、マザーコンピューター室へ突入を約束】
※御堂の呼びかた集
詠美=バカ、繭=ガキ、あゆ=チビ、梓=赤毛、千鶴はそのまんま。
ただし、「バカ」及び「女」は他の人にも適用します。
繭とあゆの区別がアレなんですがw
相変わらず長い…サミットに比して、「会議」です。
会議は踊る、とかってシャレてもいいのですが、侵入からの地味な流れで。
このメンバーは無駄話させたくなっちゃって、困ってしまいますね。
「北川。おまえ、手が真っ赤じゃねえか」
「いまさらのようなツッコミありがとう。裕一君」
「いや、冗談じゃなくてな。悪い、気づかなかったんだよ」
「別にいいけどな」
「そんなカオすんなって。マジでどうしたんだよ。止血しているシャツが血だらけじゃねえか」
「ん? ちょっとぶつけちまってな。ひどく見えるかもしれんが傷口はそんなに大きくないぞ」
「そうか、それは良かった」
「……良いのか?」
「不幸中の幸いってやつだよ。もうちょっと小さなしあわせを噛みしめろよ」
「……裕一。青い鳥ってはなし、知っているか?」
「なんだ、急にマジなカオになって。幸せを呼ぶ青い鳥って童話だろ。探しに行ったら実は近くにいましたぁ、ってマヌケなはなしな」
「……そうだな、マヌケだな」
「だから、それがどうしたんだっての」
「そこ、いいかげんうるさい」
「「はい。結花お姉さま」」
「その呼び方やめなさい」
レミィは北川を捜した。
なにかに取り付かれたように、大声で北川の名前を叫びながら。
だが、必死に走り回っても北川を見つけることはできなかった。
突然、行方知らずになった思い人を捜す。
まるで、映画とかによくある紋切り型のはなしだ。
そして、無事に見つけだし、涙ながらに熱い抱擁で愛を確かめあう。そんな筋書きだ。
だが、これは現実。
ようやく見つけたときには、物言わぬ骸になっているかもしれない。
捜している途中で何者かに襲われ、志を半ばに死ぬかもしれない。
そう、彼女がいるのは現実。
狂った、非日常的な現実。
レミィは荒い息をつき、トボトボと山道を歩ていた。
その足に何かがぶつかる。
思わずバランスを崩す。そして、それは彼女のポケットからこぼれ落ちる。
パックに入ったもずく、だった。
レミィはそれを胸元に愛おしく抱きしめる。ほんの少し前には、普通に感じていた非日常の中の日常に。
レミィにとって北川は幸せを呼ぶ『青い鳥』だった。もっとも、逆もまた真なのかもしれないが。
それは、遠くに離れてからようやく気が付いた。
本当の幸せが、すぐ近くにあったということを。
今まで当たり前のように存在した、北川がレミィに与えた非日常の中の日常。一緒にもずくを食べたり、一緒に他愛のない話しをしたり。一緒に百貨店に潜り込んだり……。
それは多くの命が散っていったこの島に作られた虚構なのかもしれない。
その虚構が崩れ去ったとき、レミィは戻された非日常に恐怖した。
そしてレミィは求める。再び『青い鳥』が戻ってくることを……。
こぼれそうな涙をこらえ、レミィはふと、目に入った大きな倒木。そして、それに付いている、赤いもの。
血、であろうか。
それはその倒木を起点に地面に点々と付着している。
レミィはその跡を追っていった。
「あれ、無いや」
「どうした、北川」
「いや、腹減ったんで常備しているもずくを食おうと思ったんだが……。ポケットに入れたやつを落としちまったらしいんだ」
「そうかい。っていうか、おまえ、よく飽きないな」
「まあ、なんだ。今の俺はもずく依存症でな。もずくが無くなると手が震えるんだよ」
「また、そんな、くっだらねぇはなしを」
「いや、マジだって。もずくが無いとなんか現実感が希薄になっていく感じがして、なんか不安になるんだよ」
「ふーん、ああ、そうかい」
「幸せが逃げていく、ような気がしてな」
「なに、わけわかんないことを」
「うるさい。あんたたち」
「「はい。結花お姉さま」」
「だから、それやめなさいと何度言えば分かるの?」
先ほどから漫才を繰り返す二人を見ていると、見張りをしている自分が馬鹿らしい。そう結花は思っていた。
いくつかの死線をくぐり抜けてきた。身を守るためとはいえ、人も殺した。
そんなことはしたくはなかった。でも、自分が生き残るためには仕方がなかった。
自分は生きる。どんなことがあっても。そして、スフィーや芹香たちと普通な生活に戻る。そのためには安易に人を信じてはいけない。引き金をためらってはいけない。それが多くの人の死を乗りこえていった結花が学んできた。悲しいことだが、それが彼女にとっての現実であった。
(でも、あいつらを見ていると、そんなマジになってる私が本当に馬鹿みたいよね)
漫然とそんなことを思っていると、何者かが小屋の荒々しくドアを叩く音が聞こえた。
そして、
「Help! 来るの! あいつが来るの! 開けて! ここを開けて!!」
切羽詰まったような少女の声が小屋の中に響く。
「レミィだ!」
北川が思わず立ち上がる。
「レミィ? あなたと一緒にいると言った?」
「そうだ! レミィが俺を捜しにきたんだ! それで!」
そして、玄関に向かおうとするが結花に止められる。
「私が行くから、あなたたちはこの部屋にいなさい」
「でも!」
「忘れたの? あなたたちは捕虜なのよ。言うとおりにしなさい」
「……はい。結花、お姉さま」
結花にそう言われ北川は唇を噛みしめる。だが、ここで言い争っても仕方がないことを悟り、腰を落とした。
結花は玄関に向かった。だが、
「?」
先ほどまでうるさいほど叩かれていたドアの音が、不意に止んだ。
(まさか……。)
結花は急いで鍵を外し、片手で銃を構えながらノブに手をかけ、ドアを開ける。
刹那。
ドアが思いっきり引っ張られ、ノブを握っていた結花もつられて外に放り出される。
そして、
「樽の中の魚を撃つようなものネ」
そう言って結花の頭に釘打ち機を押し当てたのはレミィだった。
以上です。
なんか、ご都合主義的な話しだなぁ、とアップしてから思ったりしましたが。
ようするにレミィの北川救出作戦です。ただし、この小屋に北川がいるのでは
という推測であって確信的要素はあまりないです。レミィはそれでも博打して、
結果的に勝ってしまうというのがご都合だなぁ、とか。血の跡を見つけるとか。
血の跡が残っていますが、そんなにいっぱい残っているわけじゃなく、いくつ
かみつけて、方角がわかり、その先に怪しげな小屋があった。ってとこです。
青い鳥云々は分かっていただけますかね。なんか書いているうちに自分一人で
暴走してるんじゃないのかって不安になりましたが……。いかがでしょう?
結花たちがいる小屋から少し離れた所を、スフィーと芹香は歩いていた。
二人が外に出たのは、単に周りの様子を偵察するためだったのだが、
10分ばかり歩いたところで、急に芹香が立ち止まった。
「……」
「芹香さん?」
「……」
芹香はゆっくりと坂上の方を指さす。その先には、いささか古ぼけた鳥居が立っていた。
「あ、あれ…。もしかして?」
「……(こくこく)」
「うそっ」
「……!」
スフィーは芹香の手を引いて、その鳥居へと急いだ。
「あれだけ懸命に探してもわからなかったのに、見つかる時は結構あっさりだね」
「……」
急な坂道を駆け上がった先にあったのは、まさしく彼女たちが探していた神社。
リアンや綾香たちと共に結界の主と対峙したものの、南の手裏剣によって目的を果たせぬまま散り散りになった、あの神社だった。
しかし、芹香は感じていた。あの時とは違うと。
この島に来てからずっと感じていた圧迫感、すなわち結界の力は依然衰えていない。
しかし、あの時この古びた社に満ち満ちていた、悲しみにあふれた空気が今はないのだ。
つまりここにはもう結界の主―かんな…だっただろうか―は、いないのか?
芹香が思いを巡らしている脇で、スフィーはひとり舞い上がっていた。
「ねぇ、どうしよう? 結花を呼んでくる? それともすぐに結界を…って、聞いてる?」
さすがにスフィーも芹香の様子に気付いたようで、
「あのぉ…」
芹香の顔を覗き込む。
「……」
「えっ? う〜ん、そう言われてみれば…」
あたりをキョロキョロと見回して、
「なんかあの時と違うね。あ、でも、何が違うかと聞かれても…」
「……」
「えっ?」
「……」
「ってことは…」
「……」
「そんなぁ……」
それまでのはしゃぎ様から一転、スフィーは思わずその場に座り込む。
「あ、ってことは、もう結界もなくなったの?」
「……」
「それもないんだ……」
今度は、パッタリと仰向けになった。
「あ〜あ、結局振り出しに戻っちゃったね」
仰向けのまま、スフィーは誰に言うとでもなくつぶやいた。
「……」
その隣にしゃがみ込んだ芹香が、そっとスフィーの頭をなでる。
「それで、これからどうしよう?」
「……」
「うん、あの人を捜すのはわかるんだけど、当てはあるの?」
「……(ふるふる)」
スフィーは、「ふぅ〜」と大きなため息を付くとむっくり起きあがった。
「何はともあれ、とりあえず結花に報告しようよ」
「……(ふるふる)」
「まだ何かあるの?」
「……」
ちょっと待って、と言って芹香は一旦その場を離れると、しばらくして鞄を一つ抱えて戻ってきた。
「その鞄は?」
「……」
「あ、そうか。芹香さん、南と戦ったときに鞄を置いてきてたもんね」
鞄の中身はほぼ残っていた。理由は解らないが、注射器と白い粉だけがなくなっていたのを除いて。
「……」
「うん、はやいとこ報告しなきゃ」
二人は早足で坂道を降りる。結花の待つ小屋に向かって。
もちろんその小屋がただ事でなくなったことなど、二人に知る由はない。
--------
【芹香:自分の鞄を回収(注射器・白い粉は紛失)】
【結界の主(神奈?)行方不明。ただし結界はそのまま】
はああああああ。
……赤くなってばかりいても仕方がないのである。
自分は青くなっていても話が進まない。いつも青くて問題がないのは空と海だけである。
「――ともかく、話を進めよう」
云う耕一に従い、彰と初音はちょこんと並んで座る。
「で、今まで話し合っていたのがだな、――皆真剣に聞いていたかは判らないけど」
じろりと見回す耕一の顔を直視している人間は誰もいない。蝉丸すらも悲しげな息を漏らしている。
「――脱出方法はどうあれ、俺達は『どのくらいの規模で』脱出出来るか、って事なんだ」
「規模――ああ」
つまり、どれだけの人数で脱出するか、と云う事なのだろう。
全員で脱出できるに越した事はないが、果たしてそれが可能かと云えば相当に難しいだろう。
自分たちの方はともかく、相手側が見知らぬ人間である自分たちをすんなり信じる事が出来るか。
相手がこちらの申し出をすんなり受け入れるであろうか?
まあ、それをやるのが多分、自分たちの使命であるのだが――。
そこで、彰は漸く思い出した。
ある、少年と少女。
初音の捜索を任せた、あの素敵な二人だ。
――突然立ち上がった彰を見て、わたしはやはり――不安を抱かずにはいられなかった。
血が安定していないのだろうか?
血を与えた事で、確かに彰の怪我は癒えた。
だが、――安定性は、崩れかかっているように、感じる。
「どうした? 彰」
怪訝な顔をして耕一も訊ねる。
答える彰の声は、どうしようもないほど、重く、聞こえた。
「忘れ物を、しました」
けして忘れてはいけないものを忘れた。
「だから、捜しに行きます」
そう、真剣な声で、云った。
いや、その目は、真剣と言うよりは、むしろ――
茫洋としている――
そんな、風に見えた。
そして、耕一が声を発する前に、彰はわたし達に背中を向け、部屋を飛び出した。
先程までは――自分一人で歩く事すら、困難なほどの傷だったというのに、
それなりの早さで、駆け出した。
「待って! 彰お兄ちゃんっ!」
事態を最初に呑み込んだわたしは、続けざまに飛び出した。
鬼の力が暴発したのかも知れない!
もし自分の所為で、彰のこころが壊れてしまったのなら、
――自分は、なんて事をしてしまったのだろう。
鬼の力があれば、あれくらいの傷など、大したことはない。
だが、血は――身体に潤いをもたらすのと同時に
――こころも、呑み込んでしまうかもしれない、のだ。
「七瀬くんっ! 初音ちゃんっ!」
「彰っ! 初音ちゃんっ!」
呼ぶ声を無視して、わたしは駆けた。
忘れ物とは何だ? 何があったのだ?
個人行動で、皆に迷惑を掛ける事を判っていながら、何故それでも、何も話さない?
何故わたしに、何も云ってくれない?
混乱する。
ともかく――今、自分が走らなければ、彰はまたいなくなってしまうのだと、
それは判ったから。
もう見えないところまで走っていってしまったかもしれない。
そうだとしたら、自分は永遠に大切なものに届かない事になるのだ。
だが、彰は意外にも、――家のすぐ外で、立ち止まっていた。
「ごめん――また、何も云わないで行って、君に心配を掛けるところだった」
そう云って、彰は微笑む。
茫洋としたその目は、あまりに恐ろしい。
そして、美しかった。
強い風と、穏やかな陽光の下で、その青年は、笑った。
それがあまりに儚げに見えたから、初音は思わず声を震わせる。
「彰、」
お兄ちゃん、と云おうとして――彰は、だが、自分を強く抱きしめ、自分の口を、閉じた。
「大丈夫。忘れ物を――本当に大切なものを忘れていたんだ」
「大切な、もの?」
「そう。――素敵な、二人の友達を。ここに連れてきたいと思うんだ。何処にいるかは大体判ってるから」
――すぐ戻る。心配しないで。
彰はそう、囁いた。
それが本当かどうかなどわたしには判らない。けれど、
けれど、わたしは、それ以上――追及出来なかった。
後から考えれば、もう少し――自分がしつこかったら良かった、と思う。
彰が多少なりおかしな言動をしている事には気付いていた。
せんまっさおって何だろうと、ずっと思っていたし。
なのに、何故、わたしは止めなかったのだろう。
自分の所為で彰がおかしくなっていたのなら、尚更だ。
なのに、どうして。
彰の声が、言動が、思ったより落ち着いていたから?
目の色は、あれ程におかしかったのに。
身体だって、完全に治ったかどうかだって、怪しいものなのに。
何故?
――わたしは。
「――すぐ、戻ってきてね」
そう、呟いてしまったのだろう。
判ってるよ、と、彰は呟く。
「無理もしちゃ、駄目、だよ、身体、まだ、治ってないんだから――」
わたしは、何で、こんな事を云うのだろう?
「判ってるよ、僕は君を守るためにいるんだから。必ず帰ってくるよ」
それ程危険な事なんてない。ない、筈だ。
だから、彰だって、それ程――危険という、わけじゃない。
すぐに帰ってくるなら、
そう、それに、言動だってそれほどおかしくない。落ち着いている。
怪我をしている身体とは思えないほど。
それに、わたしを置いて、遠くへ行ってしまうなんて云う事は、無い筈だ。
だから、彰はここで待っていてくれたのだから。
それに、わたしは、きっと彼を止める事が出来ない。
わたしは、なんて、馬鹿だったのだろうと。――そう、思う。
「それじゃあ、耕一や七瀬さんにもよろしく云っておいて」
すぐに戻るって。
そう云って――
彰は、永遠に、遠くに行ってしまったような。
そんな気がして。
彰は背を向け、走り去る。まるで怪我一つしていないかのような早さで。
わたしが追いつけないくらいの早さで。
二度と追いつけないような、予感。
わたしには、彰を呼び止める声をあげることも出来なくて。
結局、わたしは。
根拠無き喪失の予感で、涙を流す事しかできない、弱い娘で。
すぐに耕一達が駆けてくる。
「彰くんは――」
わたしは、涙を拭いて――答えた。
「すぐ帰ってくるから、心配するな、って」
「馬鹿っ! 彰くんは鬼の血で――」
苦虫を噛み潰したような顔で、耕一はわたしの肩を揺さぶる。
「ああ、くそっ! 何なんだよ、忘れ物って! 自分を危険に晒してまで必要なものなのかよ!」
そして、わたしはやっと自覚した。
大切な人を止められなかった、自分の、責任の重さを。
「だい、じょうぶ、」
だいじょうぶ、だよ、
今にもわたしの声は、壊れそうなくらい震えていて。
「そんな、不安になるような事、いわないでよ、耕一お兄ちゃん」
どうか、わたしの、不安が。杞憂でありますよう。
――耕一は大きく溜息を吐く。
初音ちゃんを責めるべきでないのは判っている。
彰にだって、ちゃんとした考えはあったのだろう。
耕一も、理性の上では、大丈夫だと判ってはいた。
今度は、初音に行き先を告げてもいる。だから、そんなに不安を抱くような事はないのだと思う。
だが――。
もし、鬼の血が荒れ狂ったとしたら?
目の色は確かに少しおかしかったが、それでも落ち着いていた印象はあった。
だが、何かの契機で、血が――暴れたとしたら?
まあ、杞憂に過ぎないかもしれない。
「すぐ帰って来いよ――」
自分だって千鶴さん達を捜したいのはやまやまなんだからな。
ったく、――彰の奴、意外に自分勝手なんだな。
耕一は苦笑した。苦笑できる余裕がある事が、まだ、幸いだった。
――個人活動は、皆に迷惑を掛ける事は判っている。
それに、ずっと初音の傍にいるべきなのだとは思う。
自分は初音の盾なのだから。
だが、きっと今は、それほど危険性はないはずだ。
もう、すべては終わりに近付いてきている。
耕一も蝉丸さんも晴香さんも、それに留美さんもいる。
きっと、あそこは何処より安全ではないか、と思う。
それに、自分もすぐ帰ってくるつもりなのは本当だ。
祐介と天野美汐の位置が明瞭と判るわけではないが、まあ、だからそれ程迷惑を掛ける事はあるまい。
あの二人となんとか合流しなければならない。
傷を舐め合って、互いに、優しく微笑みかける事が出来た、あの素敵な二人と。
管理者は殆ど打倒した。それを伝えなければならない。
初音を捜していてくれているかも知れない。
初音とは既に合流しているから、それも伝えねば。
出来るだけ多くの人数で日常に戻れるならば、それに越した事はない。
彼らが新たな日常を見つけるための手助けでも出来たら。
彰は走り出す。
たぶん、今までの人生の中で、一番身体が軽い。
【七瀬彰 美汐と祐介の捜索に駆け出す。放送前で、放送がどれくらい後に流れるか、それは以後の書き手にお任せ。
作戦会議があんまり、まるで、進んでいないように見えるのは、多分気のせいです。たぶん。きっと……】
――螺旋。交わらずに。くるくると下へと落ちていく。
落ちていく。
ガキィンッ――!
背後から、そんな音。金属音に近い。
何かが倒れ込むような音。そこで、神尾晴子(023番)は振り向いた。
「――居候!?」
見えたのは二人。膝を付いて右肩を押さえた国崎往人(033番)。右肩は、赤く、血に濡れている。
もう一人。天沢郁未(003番)。狐につままれたような顔で、右の方へ駆けていった。
何があったのか。状況を理解するより早く、隣から少女が駆け出していた。神尾観鈴(024番)だ。
言うまでもなく、晴子も自分の娘に続いた。
「往人さんっ――」
「居候、大丈夫か?」
傷の割に酷く冷静な瞳が二人を見た。苦悶の表情。それでも、その目は闘志を秘めている。
「撃たれた――くそっ、少しでも信用したのが失敗だったっ」
「そんな……」
愕然とした顔。信じたのに、裏切られた?そんな、嘘だよ――
だが、事実は事実。現に往人の肩は撃ち抜かれ、血は今も吹き出している。
晴子は、違う。やっぱりそうだったのか、と。忌々しげな表情。
「――けっ、しょーもないわ。……観鈴、構えとき。狙いは、あの倒れとる方やで」
手には、往人の手からもぎ取ったベネリM3。
無骨なフォルム。手に伝わる確かな重み。"凶器"が匂わせる、特有の、危険の香り。晴子に狂気じみた勇気を与えてくれる。
ははん、これなら一人で殺れるわ。
――もはや血を被る事すら厭わない。晴子の怒りは、狂った状況の中で次第に変化していく。
観鈴はその限りではない。両手に、しっかと握ったシグ・ザウエルショート9mm。
銃口は、確かに倒れ伏した少年の身体を捉えている。……かたかたと震えていた。
撃つ?……嫌。撃てるわけないよ――
畏れ。往人撃たれたという怒りは、確かに銃を持ち上げさせた。だが、そこまでだ。
目の前には、確かに、生きてる人間。だけど、裏切り者だ。撃たなければ、自分の命、いや、みんなが危ない。
それでも――撃てないのか?
泣きたくなる。泣きそうになる。自分の不甲斐なさに?
違う。この現実の不条理さに。一瞬で壊れてしまった、薄っぺらな平穏に……。
ゆらり――。少女が立つ。まるで幽鬼の様に。
――包丁持っとるわ。鬼よか山姥っちゅう方がベターやな。
目が、晴子を見た。続けて観鈴を。観鈴の銃を。晴子の銃を。往人の肩を。
酷く、明確な殺意を込めた目。本性を現したのか。
一歩だけ、前に出た。途端。吹き付ける、まるで風の様な殺気!
髪が後ろに流れたかのような錯覚。背中が冷や汗で滲んだ。おぞましい……山姥の方がよっぽどマシだ。
「あんたが――」
包丁の刃が返る。日の光を浴びて、銀の光を、妖しい光を、日に返す。
ただの包丁が、鋭いナイフか刀の様に見えた。
……あれに千切りにされるより早く、散弾を叩き込むには?
打開策は考えつかない。しかも、疑問はもう一つ、やってくる。
「あんたらが、撃ったのね――?最っ低……最初からっ、このつもりで……!!」
………。は?
思わず、そう返しそうになる。何言うとんねん、こいつ。
「……逆恨みもええとこやわ。人のツレの肩、ブチ抜いてよぉそんなん言えるなっ!」
「――ふざけんじゃないわ。私達、銃なんて一丁も持ってないのよ」
――下手な嘘を――。
郁未が前に出る。晴子は、反射的に一歩だけ下がった。美鈴達もそれに呼応する。
さらに一歩。下がる。
一歩。下がる。その度に、少年(048番)の姿が少しずつ遠ざかっていく。
なるほど。セコい作戦やわ。
次の一歩――の前に、ベネリM3の銃口が郁未を捉えた。観鈴が、目を見開いた。悪いが、無視。
「はっ!嘘吐きは、コソ泥の始まりやで」
泥棒さんには、"死"をくれてやる。
【残り26人】
203 :
彗夜:2001/07/07(土) 17:07
書きました。
状況自体は十数秒くらいしか進んでません(逝)
――時はわずかに遡って。
――ステイツでは……――
レミィは考えた。
誘拐された人間と再び生きて逢うことのできる確率が極めて低かった。
つまり、誘拐された人間は様々な交渉の結果、最終的には殺されてしまうのだ。
もちろん、ここはアメリカではない。
しかし、ここはそれ以上に危険な島だった。
北川を一刻も早く探しだし、合流しなくてはならない。
これ以上、大切なものは失いたくなかった。
ましてや、レミィにとって北川は今、もっとも大切な存在だったのだから。
必死に残された血の跡を追い、そして見つけたこの小屋。
この小屋の中に北川が居るかもしれない。しかし、中に北川がいるとは限らない。
無謀な行動で自らの命を危険にさらすことにならないとも限らない。
けれども『自分が躊躇している間にジュンの命が失われてしまったら……』と、
レミィは思った。
「一か八か……やってみるしかないヨ」
二度と大切なものを失うことのないように。
自分がどうかしていれば、それを失うことなどなかったかもしれないなどと
いうような、そんなことにはもう味わうことがないように。
相手が複数いることを想定して、レミィは考え得る限りの作戦を立てた……。
そして潜入を試みた。
――現在。
「動かないで! 動くとこの電動釘打ち機がユーの頭をぶち抜くネ!!」
澄んだ蒼色をしていたその瞳を、赤く血走らせてレミィは言う。
結花は銃を握っていたはずの右手を見やる。
そこには空になった自分の手があるばかりで、銃はドアに引っ張られたときに
取り落としてしまっていた。
「中に、ワタシの探している人がいるかどうか、見るだけヨ」
そういって、結花に釘打ち機を突きつけたまま、レミィは体を小屋の前に
移そうとした。
「ジュン!!」
北川の姿を認め、歓喜の声を挙げたレミィ。
「レミィ!!」
北川も、やや意外だったレミィの状況――結花に釘打ち機を突きつけている
ことだ――に驚きつつも、この再会に喜びの声を上げた。
直後、レミィは背後の草むらから何か物音がしたのに気を取られ、一瞬だけ
結花から目を離した。
草むらから顔を出したのは野ウサギだった。
「Whats!?」
レミィの一瞬の隙をついて結花は拳銃に手を伸ばそうと駆けた。
「Freeze!」
レミィの制止の声を結花は聞かなかった。
「Freeze!!!!」
結花の手が拳銃に間もなく届く。
レミィはついに引き金を……引いた!!
【残り26人】(取りあえず未だ、ね?)
祐一レベルのヘタレのため、決定的瞬間を書けませんでした。
で、早速訂正です。
Whats => What’s です。あはははー。すいません。
207 :
名無しさんだよもん:2001/07/07(土) 21:38
もともと、これと言って決定的な打開策があるわけでもなく。
進まぬ会議に加え、七瀬彰が席を外した。
残る全員が腰掛けている輪から少し離れたところで、愛刀と共に壁に寄りかかりながら
晴香は見るともなく各々の反応を見ていた。
(ちょっと早いけど…頃合い、ね)
つい、と七瀬に視線を投げかける。
しばらく場の雰囲気に飲まれて下を向いていた七瀬だが、ふとした拍子に目が合う。
あたしは彼女の視線を受け止めて、頷く。
七瀬も少しの迷いが残っていたようだが、はっきりと頷く。
「ちょっといいかな?」
刀を拾い、輪の中に入っていく。
蝉丸さんが整備したもので、まだ返却していないものや、使えないと思われるものが積んであった。
あたしは別に刀でなくてもいい。
剣捌きが上手いわけでもないから、近付いたときに使えるものなら何でもいい。
できれば銃器がひとつあると、尚いい。
そう考えながら、マナの大ぶりなナイフを手に取る。
「これ、あたし達が持っていってもいいかな?」
何気ないふりをして、聞いてみた。
「構わないが…あたし”達”が持って”いく”、とは?」
蝉丸さんが睨みつける。
さすがにごまかしは効かないようだ。
ナイフを捨て、肩をすくめながらも、更に希望を付け加えておく。
「できれば銃も欲しいし、ナイフよりも…あなたの刀のほうが、いいんだけどね」
怒っているわけでも無さそうだが、厳しい顔のまま蝉丸さんは予測する。
「…つまり彰くんに続き、七瀬くんと共に離脱する、ということか?」
すばらしく的確だ。
離脱するとは言え、見殺しにしたいわけではないだけに心強い。
「留美ちゃん?…どういうことだい?」
耕一さんが眉をしかめる。
今度は迷いを見せず、七瀬が答える。
「高槻の言っていた潜水艦…探してみようと、思うの」
ざわ、とほぼ全員が反応する。
有るかどうか解らない物を、信用できない人間の言葉を信じて探す。
確かに批難されても仕方ないのかもしれないが…。
しかし、意外な人物が行動で賛成してくれた。
「持っていけ」
ひょい、と七瀬に向かって投げられたそれは、刀だった。
鞘に入っている状態では解らないが、抜けば緑色の怪しい光をたたえた刀。
「…恐らく毒が塗ってある。気をつけて使うがいい」
周囲の驚きをよそに、淡々と解説する蝉丸さん。
「ニューナンブM60、中華キャノン、彰くんのサブマシンガンなどは弾切れだ。
七瀬くんのショットガンも残弾一発な上に、歪みが入っているので、念のため使えない山に置いてある。
鉄パイプも粉砕してしまったし、もちろん金ダライやハリセンも使えないものだな」
「そりゃそうね」
「ジッポライターとダイナマイトは、大掛かりな破壊活動をすることになれば必要だから残して欲しい。
レーザーポインターは…合図にでも使うか?
銃器は初音くんのワルサーP38、葉子くんと俺のベレッタM92F、マナくんの銃は…これに載っていないが
彰くんがグロック26とか言っていたな」
アイテムリストで確認しつつ、銃器の型式からハリセンまで説明するあたり、軍人というのは神経質だ。
レーザーポインターを七瀬に渡してもらい、銃に目を向ける。
少しだけ考えて、いや…もとから欲しかった銃がひとつ、ある。
「…初音ちゃん?」
「…え?」
「初音ちゃんの銃、いいかな?」
それは、良祐の銃。
そして、七瀬の友人を撃った銃だ。
「じゃあ、葉子さんをよろしくね」
「ああ」
耕一さんが苦笑いをする。
七瀬とお別れの言葉を交える姿を見ながら、あたしは考えた。
きっと耕一さんも、やりたいことはあるのだろう、と。
(でも、あんたは、初音ちゃんを放っては行けないでしょう?)
…言うまでもないことだったから、黙っておく。
「千鶴さん達に会ったら、俺達は元気だと伝えてくれ」
「わかったわ」
彼らには、守るべき仲間がいる。
だから、あたし達が積極的に動くべきなのだ。
蝉丸さんのおかげで、大きな反対にあわずに、あたしたちは出発する事になった。
「もし会えたら、だが…御堂という男がいる。
危険な男だが頼りになるはずだ。徒に挑発しなければ助けになるかもしれん。
それと怪我人が出たので待ち合わせには遅れる、と伝えて欲しい」
「ええ、わかったわ」
そうした予定など、あたし達には何もない。
最初に高槻達の死体を調べ、そこから何か解らないか考える。方針はそれだけだ。
あたし達と一緒にいた仲間は、みんな死んでしまったから。
ならば、あたし達だけで道を切り拓いてみせる。
それは人生を賭けた、博打かもしれない。
あたしは…いや、あたし達は、きっと勝ってみせる。
そして最後に、笑ってみせる。
【晴香&七瀬、潜水艦ネタを得るため高槻死体調査へ】
【巳間晴香 日本刀、ワルサーP38所持】
【七瀬留美 毒刀 レーザーポインター 瑞佳のリボン所持】
【残留療養所組 グロック26、ベレッタM92F×2、大振りなナイフ、ダイナマイト、金ダライ、ハリセン】
彰のナイフは、彰が持って行ったということで。
グロック26は、かつて浩平が兵士から奪ったもの。
「あたし達の決意」です。
なんだか無機質なデータ整理を、そうならないように誤魔化し誤魔化し書いたものですなw
晴香という人の、嫌味にならないギリギリの独りよがりなところが出ていれば成功なのですが。
あれ、瑞佳のアイテムリストは?
213 :
名無しさんだよもん:2001/07/07(土) 21:53
コレ、どっかに全部取ってある?
>>213 コレ、というのがこのハカロワ(キャラロワ)を指しているのなら、
このスレの
>>3に書いてあるストーリー編集に行ってみるとよいと思われ。
ビスビスッ!!
奇っ怪な、何か肉を刺すような音が響いた。
「あ……」
「な、な……」
ゴトリ…何かが音を立てた。
「な…なにしてんだよ!レミィ!!」
「アッ……」
幸せは、手の中から逃げていってしまった。
こんな島でも、確かに心を拠らせることのできた暖かい場所。
そんな幸せが逃げてしまっていったことが、あまりに悲しくて。
取り戻そうと、もがいた。
「どうして…なんで!!」
北川の絶叫が響く。
「ジュン…ワタシ…ワタシ…」
声の聞こえた方へ、目を向けると、そこにはレミィが望んでいた場所が広がっていた。
「何で、こんな…」
祐一の声が、どこか遠く聞こえた。
幸せは、形あるもの。だから、いつだって取り戻せる。
探して見つければ、いつだって幸せは手に入るものなんだ、と。
レミィは思った、思っていた。
飛び立っていった青い鳥も、必ず取り戻せると信じて。
「いきなり…撃つなよっ!なんでっ!」
祐一と北川からは、一部始終しか目撃できなかった。
レミィが小屋へ侵入し、結花に狙いを定め、そして逃げようとした結花を躊躇なく撃った。
それは悲しいすれ違い。…それでも、結花が撃たれ、倒れたことはまぎれもない事実。
「あ…ワタシ…ワタシ…」
形のあるものは、すべて壊れてしまう。
ドン!!
銃声が響いた。
「ア……」
「ガハッ…」
息も絶え絶えに、最後の力を振り絞って。
胸から真っ赤な血を滴らせた結花が、レミィに銃を向けていた。
「あんた…なんか…に…」
「ア…ジュン…ワタシ…」
「れ、レミィ!!」
腹を押さえて、一歩、二歩、扉の方へと…
ドン!
また、銃声が響いて、レミィの背中が跳ねた。
「結花に…何するのよぉっ!!」
震える体で振り向いたら、小さな女の子の影。
スフィーの瞳の中には、銃を構えて立ち尽くすレミィと、血を流して倒れている結花の姿だけが映っていた。
幸せは、形なんてなかった。
青い鳥がいたとしても、幸せになんかなれやしない。
北川を一瞬だけ見て。
(幸せは、私達の心の中にいるんだヨネ?ジュン…)
形あるものはすべて壊れる。幸せに形なんてなかったから。
幸せは手の内に仕舞ってしまえば、ずっと壊れることなんてないと、思っていた。
だけど、幸せが壊れるのは一瞬だった。
(ジュン、ワタシ、幸せだったカナ?……ワタシはね、幸せだったって…)
―――――レミィーーっ!!
暗転する視界の中、最後にそう聞こえた。
それは、ワタシの求めていた幸せのかけら。
【094 宮内レミィ 死亡】
【残り25人】
オオオオオオオオオオオオォ………
空気の流れる音だけが響く渡り廊下を進む三人。目指すはこの先にある倉庫だ。
「ねぇ、何で倉庫なんかに行くのよ?」
「…周りをよく見てみろ。警備の兵どころか人っ子一人いねェだろ?」
「そんなの見れば分かるわよっ!だいいち、それと倉庫、何の関係があるのよ!」
詠美の問いに答えたのは繭であった。
「これはあくまで私の憶測だけど、警備兵のほとんどがマザーコンピューター周辺に集中的に配置されているの…
だから、他のフロアの警備が手薄なのよ。つまり、この先の戦闘はさらに激しく、危険なものになる…
それを踏まえた上で、オッサンは倉庫で物資を確保しようと考えたのよ、違う?」
今度は繭が御堂に問いを投げかけた。
「あぁ、ズバリその通りだ。ガキの癖に頭の回転だけは速ぇんだな、お前もろぼっとなんじゃねェのか?」
「その言葉、褒め言葉として受け取っておくわ」
お互いに鋭い視線を交し合う二人…そして、状況把握が出来ていないのが一人…
「??…イマイチよくわかんないんだけど…」
「お前は理解しなくていい」
「ちょっと!どういう意味よ!」
御堂は詠美の抗議をシカトし、繭と話し込む。
「で?オッサンは何が欲しいの?」
「そうだな…とりあえず社で拾った銃と同型のものをもう一丁、予備のマガジン、手榴弾をいくつか…
それと、お前らと梓、千鶴、あゆの5人分の重火器だ。はっきり言ってお前らの武装じゃあ銃弾の餌食になるのが関の山だ。
しかも素人だ。ハンドガンより、機関銃を持たせてやった方が確実だろう?」
「へぇ…オッサン、顔は般若だけど思いやりがあるのね…」
「バッ、バカ!そんなんじゃねえよ!ただ、お前らに犬死されるのが胸クソが悪りぃだけだ!」
「あらそう…どうでもいいけど詠美ちゃんが沈んじゃってるわよ」
それを聞き、御堂は視線を詠美に移す。詠美は二人から少し離れたところをトボトボ歩いていた。
>らっちーさんへ
それぞれのレスの最初の行は2行あけとなります。
ご迷惑おかけします。
「ふみゅ〜ん…いいもん…どうせあたし…バカだもん…」
「…ったく、面倒くせぇ奴だ」
御堂は自分のディバックから桃缶を取り出し、いつものナイフで蓋を開ける。
「ほらよ、これやるから元気出せよ」
「…え?でもこれって、アンタの分なんじゃないの?」
言葉とは裏腹に、詠美の顔には『マジで!?らっきー!』と書いてあった。
「そんな事ぁどうでもいい、お前に拗ねられるよりはマシだからな。ホレ、早く食え」
「な、なかなか気が利くじゃない。いいわ、アンタがそこまで言うんなら食べてあげてもいいわ、感謝しなさいっ!」
詠美は桃缶を受け取ると、ウキウキ気分でスキップまでしてした。
「オッサン、この扉かしら?」
繭の方を見ると、彼女はやや大きな扉の前に立っていた。御堂は見取り図と扉の位置を確認し、
「あぁ、そこだ。ホラ詠美、着いたぞ。桃缶は倉庫の中で食え」
「そうね、廊下で立ち食いなんか、お行儀悪いわよね♪」
すっかり機嫌が良くなってる。桃缶一つでここまではしゃぐ人間は彼女くらいであろう。
「扉…開けるわよ」
扉の青いパネルに繭の細い指が触れる。
ィイイイ…ン
扉が微細な機械音と共に開く…その刹那、倉庫の奥の暗闇で『何か』が鋭く光った。
「チッ!」
反射的に御堂の体が動いた。詠美を抱きかかえ、扉の前の繭の腕を引っ張り、『何か』の視界から離脱させた。
詠美の手からは、一口も食べていない桃が入った缶詰めが滑り落ち、繭は一瞬、何が起こったか理解できなかった。
ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダァン!!!!
桃缶が銃弾の雨によって跳ねあがり、弾け飛び、ズタズタに引き裂かれた。…あの時、御堂が警戒を怠っていたら、彼らがああなっていただろう。
チリンチリンチリー…ン
俳莢された薬莢が倉庫内部の床で踊る音がする―――機関銃での攻撃だった。
「奇襲…失敗…シマシタ」
聞き慣れた事務的な声が響く。…間違いない、アイツだ。御堂は腰の愛銃を抜き、身構える。
「あたしの桃缶…」
【御堂組 HM−13と遭遇】
【御堂からもらった詠美の桃缶 死亡】
【 桃 缶 全 滅 】
(らっちーさんへ 改行は(2)〜(3)だけでお願いします)
螺旋。交わらず。繋がらず。くるくると落ちていく。
落ちていく。
――ガキィンッ!
背後から、金属音。鉄が弾けるような。
続いて、何かが倒れ込むような音。明らかな異変。咄嗟に、神尾晴子(023番)は振り向いた。
「居候――!?」
二人の姿。膝を付き、深紅に染まった右肩を押さえる男。仲間の国崎往人(033番)。
もう一人。天沢郁未(003番)。狐につままれたような顔で、右手の方へ駆けていった。
何があった?状況を理解するより早く、隣から少女が駆け出している。
神尾観鈴(024番)だ。当然ながら、晴子も自分の娘に続いた。
「往人さんっ――」
「居候、どないしたんやっ!」
「撃たれた――くそっ」
黒いシャツは、袖まで血に濡れていた。傷は二つ。右肩の、前と後ろ。貫通している。
紅い肉。血を吹き出し続けるその傷口に、観鈴は一瞬気を遠くする。だが、倒れてる場合ではない。そうだ、止血。
布が居る。……当然、布など無い。服を破る他には。
早速、制服のスカートを引きちぎ――
既に晴子が袖を破っていた。右の袖を。何となく、うなだれた。
硫酸で焼けた傷口が見えた。思わず、目を逸らした。
脇の上をきつく縛り付ける。往人は、痛みを感じない。
「……我慢しときや」
痛くないけどな。
血は止まる。縛り付けられた右肩は迂闊に使えない。失血死よりはマシ、か。
「ったく、あいつらもけったくそ悪いことしよってに。……居候、銃借りんで」
「……おい、勝手に使うなよ」
「一発ぐらいなら変わらんわ」
ベネリM3を晴子が握る。重い。手に掛かるずっしりとした感覚。
鉄の重み。それは確かな「強さ」を伝えてくれた。これなら。
「敵が、何処にいるかは、分からない。注意しておけ」
「――?敵なら、目の前におるやろ」
事も無げに。晴子の言葉に、往人は顔を青ざめた。まさか、お前。
あの少年が撃ったと思ってるのか――?
「ほら、あのガキならそこに転がっとるわ」
やっぱり、勘違いしてやがる。くそっ!
「晴子ッ……ォッ!」
声を出した。――突然、右肩の傷が激痛を。……息が、吐けない!
「往人さん、じっとしてて……後で、ちゃんと診るから。ね」
「……観鈴」
ああ、観鈴……聞いてくれ。聞こえるか?……声が出ない。
痛い。痛い。くそ、傷が熱くなってきた。さっきまで痛くなかったのに!
晴子が、立ち上がる。観鈴も立ち上がった。……いつの間にか、往人は倒れている。目は虚ろ。
ショックで知覚出来なかった痛み。戻ってきたそれは、彼の精神を叩き潰す。
暗くなる。まずい。気を失ってはまずい。言わなくては。伝えなくては。違うと。
違うんだ。あいつは。あいつは、撃ってはいないんだ……!
……伸ばした手が、落ちた。
「……往人さん」
「観鈴、構えとき……アンタが頑張らんと居候が死ぬで」
「………」
唇を噛む。歯痒さ。どうして、こうなるのか?
誰も傷つかないで終わる筈だった。共に行けずとも、それだけで十分だった。それなのに。
裏切るだなんて――。
シグ・ザウエルショート9mmの銃口が持ち上がる。狙うは、目の前の二人。
――撃てるのか?いや、撃たなくては。……護る為に。
銃口は、かたかたと揺れている。
対して。ベネリM3の銃口が揺らぐ事は無い。
ゆらり――。少女が立つ。まるで幽鬼の様に。
――包丁持っとるわ。鬼よか山姥っちゅう方がベターやな。
晴子を見た。続けて観鈴を。観鈴の銃を。晴子の銃を。往人の肩を。
酷く、明確な殺意を込めた目。本性を現したか。
晴子が、一歩、前に出た。途端、吹き付ける、まるで風の様な殺気!
髪が後ろに流れるかのような錯覚。背中が冷や汗で滲む。おぞましい。山姥の方がよっぽどマシだ。
「あんたが――」
包丁の刃が返る。日の光を浴びて、銀の光を、妖しい光を、日に返す。
ただの包丁が、鋭いナイフか刀の様に見えた。
……あれに千切りにされるより早く、散弾を叩き込むには?
打開策は考えつかない。しかも、疑問はもう一つ、やってくる。
「あんたらが、撃ったのね――?最っ低……最初からっ、このつもりで……!!」
………。は?
思わず、そう返しそうになる。何言うとんねん、こいつ。
「……逆恨みもええとこやわ。人のツレの肩、ブチ抜いてよぉそんなん言えるなっ!」
「――ふざけんじゃないわ。私達、銃なんて一丁も持ってないのよ」
――下手な嘘を――。
郁未が前に出る。晴子は、反射的に一歩だけ下がった。美鈴達もそれに呼応する。
さらに一歩。下がる。
一歩。下がる。その度に、少年(048番)の姿が少しずつ遠ざかっていく。
なるほど。セコい作戦やわ。
次の一歩――の前に、ベネリM3の銃口が郁未を捉えた。観鈴が、目を見開いた。悪いが、無視。
「はっ!嘘吐きは、コソ泥の始まりやで」
コソ泥には、地獄行きの切符をくれてやる。
【残り26人】
225 :
彗夜:2001/07/07(土) 22:36
すいません、感想スレッドにて往人の認識に間違いがあると指摘されての訂正です。
少々強引な展開になってしまいました。晴子のキレっぷりがイマイチです(?)
んでもってまたしてもどさくさに紛れてあちこち改変してます(逝)
らっちーさん、スト編ではこちらの訂正版を、
タイトルから「※訂正版※」を抜いて掲載して下さい。すいません。
らっちーさんへ ちょっと訂正いいですか?
誤 詠美は桃缶を受け取ると、ウキウキ気分でスキップまでしてした。
↓
正 詠美は桃缶を受け取ると、ウキウキ気分でスキップまでした。
桃缶が銃弾の雨によって跳ねあがり、弾け飛び、ズタズタに引き裂かれた。(このあと、改行お願いします)
イロイロ注文が多くてすいません…それと、いつもありがとうございます。
「あたし達の決意」、残留組持ち物にアイテムリストを加えてください。
>>212さん、謝謝。
「それじゃ、行きましょうか」
「そうね」
私達は高槻達の死体がある場所へ向けて出発した。
何か手がかりがあるといいんだけど。
「ねぇ、晴香。何か手がかりあると思う?」
「まぁ、無かったらその時はその時よ」
「ま、それもそうね」
晴香とそんな軽口を叩きながら歩いていた。
ふと空を見上げてみた。
青い空。流れる雲。まぶしい太陽。
まるでこの島で起きてることが嘘みたいに穏やかな空。
それでも今の状況は現実でその証拠に私のトレードマークだったお下げはもう無い。
いつも折原にいたずらされて、それでもちょっとだけ構ってくることが嬉しかったあの頃。
もう、取り戻せない日々。
−−浩平を守ってあげられる七瀬さんのことがうらやましいよ−−
そう言ってた瑞佳は最後に折原のことを守って死んでしまった。
その折原もここに来る前に同じクラスだった里村さんに殺された。
里村さんを恨んでいないと言えば嘘になる。
もし私が里村さんのことを話していればあいつは死なずに済んだかもしれない。
それでもあいつは言っていた。
−−……すまない七瀬、茜を許してやってくれよ……−−
分かっていたことだけど、あいつはやっぱりバカだった。
自分のことよりも他人のことを優先するバカだった。
ナイフで刺されたのに自分のことよりも里村さんのこと、そして私のことを気に掛けていた。
「どうしたの?七瀬?」
隣にいた晴香が声を掛けてきた。
「ううん。何でもないわよ」
「そう?」
そう言って晴香はそれ以上何も聞いてこなかった。
そんな晴香の優しさに今は甘えることにした。
あいつの言葉を思い出す。
−−柚木詩子とそれから祐一ってヤツを探してくれ−−
−−茜を頼むって伝えてくれよ、俺じゃどうも駄目みたいだ……−−
今は無理だけど、もしどこかでその人達に会えたらちゃんと伝えなきゃね。
それが折原の最後の頼みだったんだから。
繭のことも見つけられたらいいな。
どこかで泣いてないといいけど。
ひょっとしたら繭は私のことが分からないかもね。
だっていつも繭が引っぱっていたお下げはもう無いから。
代わりに折原がくれた瑞佳のリボンをつけてるけど。
もう一度空を見上げてみる。
どこまでも高く、すいこまれそうなほどに純粋な青。
もし天国がこの空の上に在るとしたら。
折原と瑞佳は私の事を見守ってくれてるのかしら。
二人ともバカがつくほどお人好しだったから。
それとも見ているこっちが馬鹿馬鹿しくなる会話を繰り広げてるかもね。
安心しなさいよ、二人とも。
私は大丈夫だから。
「七瀬、もうすぐ着くわよ」
晴香に声をかけられて私は現実の世界に引き戻された。
さあ、感傷に浸るのはここでおしまい。
センチメンタルな気分に浸るのも乙女って感じで悪くは無いけれど。
そんなことは帰ってからでも出来る。
今は晴香と、そしてこの島で知り合ったみんなと生きて帰るために。
失った日常はもう取り戻せないけど。
それでもこの非日常の世界から抜け出すために。
自分に出来ることからやっていこう。
−−お前は生き残ってくれよ……七瀬−−
分かってるわよ、折原。
なめないでよ!
七瀬留美なのよ、私!
【七瀬留美 巳間晴香 高槻の死体放置場所に到着】
「はっ!嘘吐きはコソ泥の始まりやで!」
その声と共に、ベネリM3から幾重もの銃弾が吐き出される。
ドン!
だが、その弾丸が屠ったものは郁未ではなく、ただの――地面。
「クッ!何処に消えたん・・・」
ヒュン!
一瞬、空気を裂く音が聞こえた後、晴子の左腕には、いつの間にか移動したのか、死角に立っていた郁未の包丁が深く突き刺さっていた。
「あぐあっ・・・・」
「お母さん!」
腕を抑え、苦痛に顔を歪ませる晴子。
母の腕に刺さった包丁に驚く観鈴。
二人の注意は完全に郁未から外れていた。
(今だ!)
そのまま少年の所に駆け、その体を持ち上げ、肩に担ぐ。
(うっ・・やっぱ重っ・・)
それなりの体格とはいえ、やはり担いでいる対象は男、郁未にとって少年の重さは予想以上だった。
(でも・・そんな事言ってらんないわ・・・早くこの場を離れないと)
確かに、少年を傷つけたあの三人は郁未にとって殺してやりたい程憎い、だが考える。
向こうの武器は、ショットガンと銃が一丁ずつ。
それに対してこっちは頼りない包丁一本。
普段なら何とかなるかもしれないが、この島では無理だ。
ならば残された選択肢は一つ、逃げることだ。
そのためには、何処でもいいから一撃で相手が混乱するようなダメージを与える。
だから最初の一撃を交わし、唯一の武器でである包丁を投げてでも相手に『当てる』必要があった。
そして偶然か、思い通りに事が運んだ。
一気に攻めればそのまま三人を倒せたかもしれなかったが、今の状況で『賭け』ともいえる行為はするべきではない。
自分達にとって一番重要なのは、逃げ出すことなのだから。
(覚えてなさい・・必ずこの借りは返すわよ・・)
少年を担ぎ、そのまま力の限り走りつづける。
(3行空け)
「アカン・・あいつらトンズラする気や・・、追わへんと・・」
「ダメだよお母さん!まだ血も止まってないんだよ!」
立ち去ろうとする二人を晴子は必死になって追おうとするが、いかんせん腕の痛みが酷い。
少し動かすだけで、焼けるような痛みが走る。
それを見ても観鈴は、ホッとしていた。
誰も死なないことに。
母がその手を汚さなかったことに。
「うっ・・・ぐう・・」
その時、肩の傷を抑えながら往人が目を覚ました。
「往人さん。大丈夫?」
心配そうに観鈴が顔を近付ける。
「ああ・・まだ生きているようだ」
どうやら痛みのために往人の意識は覚醒したらしい。
「俺の事より晴子、その傷は、まさか!?」
「考え通りやで、女の方にやられたんや」
「バカな・・最初の銃弾だって・・ってオイ!あの二人はどうした?」
「あそこに見えるやろ」
見れば100mぐらい向こうに、引きずるような動きで、少年と郁未がいた。
「男の方はまだ意識が無い筈や、追うで!居候!」
その声に対し、
「バカ!何言ってんだ!アイツが起きてないって事は!」
そう、まだ郁未は、気付いていない。紛れも無い殺意に。
(3行空け)
「ハア、ハア、ハア、・・・」
息を切らせながらも、郁未は走る。
(もう少し・・あとちょっと!)
前方に見えるのは、深い森。
見れば、あちこち植物が生い茂ってる所だ。
視界外に一度逃げれば、いくらでも撒ける。
(よし・・だいぶ離れた!絶対に追いつけない!)
森まであと10m。
ふと三人のほうを見ると、こちらに向かってきているようだ。
(もう遅い!)
あと5m。
銀髪の青年が走りながら何か叫んでいる。
何を言っているか良く聞こえなかったし、聞く気も無かった。
あと1m!
(やった!勝った!)
郁未の口元に笑みがこぼれた。
その瞬間。
ズガガガガガガガガ!
その音と共に郁未の足に何発か、銃弾が当たる。
「ううっ・・」
痛みに耐え切れず、郁未は地面に倒れこむ。
――あの三人に撃たれた?
(違う!今のはマシンガンみたいな銃!って事は!)
その時、茂みから男が現れ、抑揚の無い言葉をその口から紡ぎ出す。
「やれやれ、同士討ちを期待してたんだが・・。まあ、仕方が無いか・・」
手に持っているG3A3アサルトライフルが、不気味な光沢を放つ。
「さあ、絶望と恐怖をプレゼントしてやる」
少年は未だ、動けない。
【フランク長瀬 G3A3アサルトライフル装備】
【天沢郁未 足を負傷】
【神尾晴子 左腕負傷】
>スカイブルー
葉子さんがゆくのならともかく、七瀬(漢)が高槻の死体のところに来る意味は?
セミーから聞いた地下ドックのあるらしい場所に行く方が、
優先順位は高いのではなくて? (セイラさん調)
大空に笑顔で決めッ!! は好きだが。
キャラの設定把握しとけって感じの訂正です。
ああ・・・ヤバイ。
フランクのセリフの部分をすべて「」から()にしてください
×抑揚の無い言葉をその口から紡ぎだす。
○困ったような表情を見せる。
>>234 >>211で【晴香&七瀬、潜水艦ネタを得るため高槻死体調査へ】
ってあったんで行かせてみたんですけど言われてみればそうかも
>>234>>236 >>211での流れは、導かぬ灯台に導きたいと、そう思って書いていたのですが…いかがでしょうか?
初音からの情報や、由依死亡地点、高槻死亡地点の配置次第では推理が可能になると思うのです。
今後議論は感想スレでやりましょう。
白を基調に、無機質なまでに清潔さを誇っている一室。
少し前までは、喚くような大声が鳴り響いていたのだが、今では静けさを保っている。
そこに、三つの人影があった。
正しくは二体と一人の影、なのだが。
長瀬源三郎と、彼の治療のために派遣されたHMが二体。
源三郎への治療行為は実質終了しているのだが、興奮し暴れるため止血がままならず、
本来既に施設の維持作業に戻っているはずのHM達は、いまだに医務室に残留していた。
「もういいと言っているだろうが!戻れ!」
「声紋パターンエラーにより命令無効です」
何度か発せられた源三郎の叫びも、ことごとく無視されてしまい、今では命令すること自体
諦めてさえいる。
(くそっ…御堂が来たところで、こいつら指ひとつ動かさないということか…?)
忌々しげにHMを睨んでみるが、彼女達は動じることもなく、壁際に侍っている。
源三郎は腹立ちを抑えるために、目を瞑り心を静めようとした。
…そのとき。
ダダダダダダダダァン…
銃声、そして轟音。続いていくつかの騒音が遠く流れてくる。
(ついに、御堂が-----!)
慌てて自動扉の覗き窓から外を窺うが、誰もいないようだった。
ここに来て、何度うろたえただろうか?
競馬の対象と変わらなかったそれが、今では明確な恐怖の対象として近くにいる。
人間が馬を追い抜けるだろうか?
…無理な相談だ。
しかし、追い抜かなければ命はない。
手に握り締めた、忌避すべきものだけが…最後の希望だった。
「千鶴さん、今の音…!?」
「まったく、顔の割に派手なおっちゃんだよ…」
別れて間もなく、御堂さんはどこから見つけたものか戦闘相手に遭遇したのだろう。
時に断続的に、時に連続して、不快な低音が施設の中を駆け巡っていた。
「わたし達も、急ぎましょう」
位置的に倉庫にたどり着く方が時間がかかりそうだと予想していたのだが、用心して進む
うちに、手馴れた御堂に抜かれてしまったのだろう。
かと言って警戒を怠るわけにもいかず、三人は御堂に遥かに及ばぬ速度で歩いていった。
「やっぱり警護がいたのかな?」
「倉庫が、ただの食料庫や物置じゃなかったってことでしょうね」
「例えば?」
梓が気にする風でもなく尋ねてくる。
しかしわたしは、今では別行動をとったことを少し後悔していた。
「…例のコンピューターの資料とか、それとも島のデーターが保管してあるとか。
施設の位置が明記されていれば、かなりの重要資料だろうし。
詠美ちゃんや繭ちゃんが持っていたようなCD媒体なら、あってもおかしくはないでしょう?」
「そっか」
「兵士詰め所がないから、装備品自体は少ないのだと思うけれど、武器もあそこにあると思うしね」
だからこそ、御堂さんに行ってもらったのは正しい選択だったと思う。
…全員で、行くべきだったかもしれないけれど。
千鶴達が医務室についた頃、気が付けば銃声は聞こえなくなっていた。
おそらく倉庫の戦闘が終了したのだろう。
(何も、なければいいけど…)
そして、一呼吸。
ようやくたどり着いた医務室にある自動扉の覗き窓から、中を窺う。
HMが見えるが…非武装だろうか、手に包帯を持ったままなのが見て取れる。
心に巣食う不安を祓って、目前の対象に意識を集中する。
「いくわよ」
小声で、短く一言。
応じて梓とあゆちゃんが頷く。
タイミングを計って突入しようとした、まさにその時。
横に開くはずの自動扉が、私のほうへと吹き飛んできていた。
【チヅアズアユ 丁度御堂たちの戦闘が終了したあたりで、到着した感じです】
ドガガッ!
短い衝撃音と共に、注視していた扉と、千鶴姉が同時に視界から消える。
振り向けば、ラグビー選手の体当たりでも受けたかのように、廊下の反対側近くまで吹き飛んだ扉の下に、
千鶴姉が倒れている。
「千鶴さん!」
あゆが駆け寄る。
あたしは、振り向く。
振り向いた先には…鬼が、いた。
「なっ!?」
よく見れば、鬼ではない。
しかし膨張した筋肉と、狂ったような殺気が連想させるものは、まさしく鬼の雄性体だった。
無造作に振り上げられる右腕を、棒で抑える。
…いや、抑えようとして、そのまま両腕ごと万歳するように跳ね上げられる。
危うく棒を投げ飛ばしそうになりながら、あたしは無様に後ろに転がった。
起き上がったときには、間合いを取ることすらままならず、既に相手は目前まで踏み込んでいた。
今度は左脚が飛んでくる。
直撃すれば今度は天井まで飛ぶかもしれないな、などと頭のどこかで考えながらも体は動かない。
(くっ!)
衝撃に耐えるべく、どうにか身体を緊張させるが…
バシン!
…またもや、扉が飛んできていた。
勢いは先ほどと段違いに弱いが、千鶴姉が投げ飛ばした扉を叩き落すために攻撃が止まる。
扉が落ちる虚ろな音か鳴り響き、一時の静寂が訪れた。
「長瀬…源三郎さん、ですね?」
「御堂かと思えば…貴方達でし・でしたか。
なな・何故、いい・生きて生きて生きているのですすす・すか?」
冷静な思考と、暴走する身体がせめぎ合うように、不気味な台詞を繰り出してくる。
ひび割れささくれた添え木と、千切れながらも纏わりつく包帯が鬼の体毛のようでもあった。
「あなたに、教える必要は…ありません」
その言葉が合図だったかのように、再び緊張感が高まり、二人は正対する。
オヤジの右側にあたし。千鶴姉の斜め後方にあゆ。
あたしは、無言であゆに発砲を促す。
殴り合いを始めてしまえば、銃の出番はほとんど無いが-----今なら、当たる。
「うぐぅぅぅぅ…」
銃を手に、低くうめいて震えるあゆ。
(やっぱ、こんなんでも人間相手は無理か…)
あゆに持たせたのは失敗だったかもしれないな、と苦々しく反省するが…一方であゆに人殺しを
させたくないと思う矛盾もあった。
「ぐおおおおおおっ!」
吠えるように叫んで、オヤジは千鶴姉に襲いかかった。
繰り出した右腕の下に潜り、脇から外へ抜けながら切り裂く千鶴姉。
「さすが!」
的確な速さに感心しながら、あたしは怯んだ相手の顔面に棒を叩き込む。
もんどりうって転倒する化け物。
「…どうだ!?」
そのまま様子を窺いつつ、二人で軽く攻撃を放つが、あまり効果がない。
そして起き上がった時には…出血がほとんど収まっていた。
「そこまでして…」
「信じらんない…」
二人で驚き、呆れる。
「こここ・殺す!貴様らも!みみ・御堂も!」
潰れただみ声と、ふいごのような呼吸音を撒き散らしながら、オヤジが突進してくる。
千鶴姉が爪を振り、太腿の筋肉を斬りながら右にかわす。
あたしは左にかわしながら、即頭部を痛撃してやるが、わずかに揺らいだに過ぎない。
ぐらり、と崩れたバランスを取るために、向きを変え踏み出した足の先には…
…あゆが、いた。
「ここ・小娘!貴様からだ貴様からだ貴様からだ!!」
貴様からだ!と連呼しながら。
泡を吹きながら再び突進するオヤジが、あゆの目前に迫る。
「ぅぐ!」
目があって硬直するあゆ。
「あゆちゃん!」
千鶴姉が叫び、突き飛ばす。
オヤジは千鶴姉を横から捕らえ、そのまま両者ひと固まりとなって壁に激突する。
ずだん、という地味な衝撃音から速度を落としたのが解ったが…千鶴姉は捕まっていた。
「…か…は」
ぎりり、と引き絞る音すら聞こえてきそうな、強力な締め付けに声すら出ない。
「このおっ!」
あたしは背中から棒で殴るが、どうやら蟷螂の斧でしかなかった。
「…あ…熱…」
化け物じみた治癒能力が、熱気と激しい呼吸を導き出している。
距離を置いたあたしにまで熱が伝わる。
この怪力では、内臓や骨がやられてしまうだろう。
無力さを嘆いても、何も起こらない。
それでも、叩くしかないあたしの背後から、声がかかった。
「あ、梓さんっ!」
振り向けば、そこに。
あたしは驚いて身を伏せる。
タタタ!
タタタタタ!
軽い連射音が二回。
オヤジの背中にばらばらと弾丸が吸い込まれていく。
そして、化け物は千鶴姉を抱いたまま、膝をついた。
しかし、倒れはしない。
「くっ…」
苦痛にうめく千鶴姉。
「う、うううう!」
あゆが涙目のまま、引き金を絞る。
再びタタタ、と連射音が響いて…
…ようやく、腕がほどけた。
のろのろと千鶴姉は身体を引き抜き、爪を振りかぶる。
もはや動かないだろうオヤジの首を、深々と、そしてゆっくりと切り裂く。
大量の血が、ポンプで放ったように跳ね飛び、あたし達は返り血を浴びた。
「うぐうぅぅ…」
銃を構えたまま硬直しているあゆちゃんの方へと、わたしは歩いていった。
「源三郎さんは…死んだわ。
殺したのは、わたしよ」
人を殺す、という恐怖を乗り越える前に行動してしまった代償として、彼女は錯乱していた。
「あゆちゃん、銃を-----おろしなさい」
血塗れのまま微笑んでも、恐ろしいだけかもしれないけれど。
それでも、わたしのために戦った彼女を救ってやらなければならない。
だから、痛む身体を黙らせて、わたしは手をさしのべる。
あゆちゃんがぽろり、銃を落とす。
「うううううっ!
ち、千鶴さんっ!」
そう叫ぶと、がば、と抱きついてきた。
よくよく-----抱きつかれる日のようね、そんな風にぼんやりと思った。
やっぱり身体は痛かったけれど。
苦痛では、なかった。
【長瀬源三郎 死亡】
【チヅアズアユ 地下三階へ】
※あゆの武器は、やはり短機関銃にしました。
イングラムM10にしようかと思いましたが…ちょっとだけ捻ってイングラムM11でw
これなら1.6kg程度なのでマナやあゆでも持ち運べるでしょう。
※量産HMですが…源五郎の命令に従えば、治療する対象の減三郎が死亡したので
マザーコンピューターの維持に戻ると思われます。
「見敵」「殺人」と連作です。
くっつけてもいいんですが…編集サイトで見ると、ウンザリする長さっぽいので…スンマソン
闇は深く。
それはまるで、海の底の様。彼は一人、漂っている。その中を。
――鼓動。それは深い闇に、延々と響く。
"それ"は不可視の力。抑えきれぬ破壊の力。
溜まりに溜まった暗黒。それは今、彼の身体を壊さんとしている。限界が近い。
どうせ、長くは保たない。分かってる。そんな事は。
――一人ならば。押し寄せる崩壊の予感に、とうに気が狂っていただろうか?
だが今は。狂ってはならないのだ。誰の為でもなく。彼女の為に。
――どくん。
微かな"うねり"。闇は蠢く。
何かが始まった。それは彼自身も聞いていた。闇も。
スガガガガガガガガッ――
聞こえる。遠くから。水の中から聞くように。
銃声。それと、悲鳴。悲鳴だったが、聞き慣れた声。郁未だ。撃たれたのか?
参ったな、助けないと……。
――どくん。
外に出んとする。闇はさらに蠢いて。
力を抑える方法。それは己ごと封じる事。眠る様に。
だが、今はそれどころではない。郁未が危ないのだ。起きなければ。
だが、起きるということは。つまり――
――これで。これで、最後かもしれないってことかな?
力が彼と同化する。交わるように。
……ああ。本当は、君と一緒に出るつもりだったんだけど。すまない、郁未。
外が近付いていく。覚醒は近い。
最後に――
厚かましいかもしれないけど――彼女を頼むよ。国崎君。
微かな、硝煙。火薬の臭いが鼻を突く。
フランクが茂みから姿を現す。本来、殺すだけなら姿を現さずともよいのだが。
理由はただ一つ。彼の目的だ。
少年に絶望と恐怖を与える事――。
恐怖は難しい。飄々としたあの様子。何があろうと恐れはすまい。死んでも、だ。だが、絶望なら?
その為の要素が、今、目の前にいるじゃないか。
天沢郁未――
奴の何かは知らぬ。だが、恐らくは大切な何か。恋人か。それとも。
フランクの顔に笑みが浮かぶ。絶望を与える術。それが思いつく。とても、とても残虐な術。
少年の目の前で、彼女を。
その為に。まずは少年を起こさねばなるまい。蹴るか。それとも撃つか。
天沢郁未が森へと引いていく。少年の身体を引きずりながら。
撃たれた足が痛い。涙目だ。それでも尚、その顔は使命感を帯びて。なんと強い女。
だからこそ、だった。
ズガガガッ!
銃声。四発。その内の三つが、少女の左肩に穴を穿つ。
「うああぁアアッ……!」
悲鳴。半狂乱になって、もがく。遠くから、怒号。そして悲鳴。うるさい。
振り向いて、撃ち放つ。五発。
駆け付けんとする銀髪の男、確か国崎往人、が足を止めた。当たってはいない。
――片手でショットガンは撃てまい?静かにしていろ。
振り返る。少年は未だに目を覚まさない。これでもまだ、目を覚まさない気か?
そうか、なら、次は右肩でも――
びしっ。
妙な音。それは、まるで、何かが弾けるような。
――びしっ。びちっ。
少年の身体から血が噴き出す。目覚めたか?しかし、何故血が出るのだ。
――いや。これは?
ぐううううウゥゥゥゥゥ。
何だ、この声は。待て。"これ"は何だ――!?
「―――」
郁未は、声すら上げない。上げられない。
強烈な重圧?いや、プレッシャー。それは、今立ち上がった者から。
「――イ――――ク――ミ――」
声。辛うじて、呼ばれたのだと気付く。……何?
続きが無い。その代わり、溢れんばかりに浮かび上がった、不可視の力が――消えていく。
そして。
「――すまない、郁未」
最後は、酷く静かな声だった。
【残り25人】
249 :
彗夜:2001/07/08(日) 19:35
やっちまった……英語間違っとる(逝)
正確にゃ「end of a breakdown」ですね……。訂正お願いします。
ああ、カッコ悪い。逝ってきます。
250 :
彗夜:2001/07/08(日) 19:36
……さらに間違っとる。「a」じゃなくて「the」か。
ヒィィィィ……(逝)
物言わぬ肉片となった金髪の少女。
それが誰だったかなんて、どうでもいい。
重要なのは、結花が撃たれて、倒れた。
それだけ。
「結花……結花ぁっ!」
必死で、呼びかける。
ゆっくりと、あたしの手に手が重ねられる。
恐らくは、やがていなくなってしまうその人の、最後の……温もり。
でも、あたしは…それを認めたく、無い。
「スフィー……ゴメンね…」
その声は余りにも弱々しく。
やがて来る喪失の予感に、あたしの目から涙が溢れた。
「やだよ……結花、死んじゃ……死んじゃやだ……」
ぱたぱたと、重ねた手に雫が落ちる。
瞳だけ動かしてそれを見た結花が、蒼白な顔で、笑った。
「私は、魔法も使えなかったし…結局、足手まといになっちゃったけど……
これくらいなら、しても……いいよね?」
そう言うと、重なった結花の手が、背中に回り、
あたしを、優しく抱きしめた。
「はぁ……ずっとこうしていたいわ…」
穏やかな表情。穏やかな口調。いつもと変わらない結花が言った。
……ただ一つ、胸に数本の釘が刺さっていることを除けば。
「いいよ……ずっと抱きしめてて…いいから……」
その言葉に、結花がまた笑って、
「……名残惜しいけど…ちょっと、無理みたいね」
そう言った瞬間、口から紅い血の花が咲いた。
「結花っ!」
あたしの顔にも血が降りかかる。だけど、そんな事は気にしていられない。
「結花っ!死んじゃやだよ、結花ぁっ!
……けんたろーもリアンも、もういないのに……結花までいなくなっちゃうのは……やだよ…」
それも最早叶わぬ事なのだろう。それが分かっているだけに、涙が止まらない。
結花が、血で真っ赤に染まった手であたしの頭を撫でる。
そして、
「…ゴメンね、スフィー……」
その手が、落ちた。
「…………結花?」
答えるものは、もう、無い。
もう動かないそのひとの小さな胸の中で、あたしはもう一度、泣いた。
【009 江藤結花 死亡】
【残り24人】
>>251-252
「喪失」です。
結花がアレで死なんのは嘘でしょう。
すげぇ細かい事ですが…
スフィーの呼び方「けんたろー」ではなく「けんたろ」です。
>>254 おっとすみません。らっちーさん、お手数ですが修正お願いします。
256 :
名無しさんだよもん:2001/07/09(月) 01:08
北川は読み手、書き手共に死なせたくないキャラの中では
かなり上位に食い込んでいるからな。
数少ないギャグキャラだし、パソコン等伏線持ちだし。
誤爆・・・スマソ
「レミィ……」
ぽつり、と呟かれた一言。血の香りの中、微かに漂い、消えていく。
北川は、レミィの亡骸を抱えて。泣きもせず、もはや叫びもせず。
祐一は黙ってそれを見ている。縛られてさえいなければ。くそっ。
でも、俺に何が出来るんだ……今の、北川に。
小屋の外からは啜り泣く声。結花を呼ぶ声。何が起こっているのか?
それも、やがて泣き声しか聞こえなくなった。……死んだのか。
悲劇だった。今、目の前に広がっているのは。
焼け付くような痛み。こんなのは、何度も見た。思い出せぬ記憶が訴える。
違う、そんなものは知らない。そう、いつもの様に訴えようとして。
止める。
事態はそれどころではなかった。北川が、立ち上がる。その手に釘打ち機を握って。
「……北川?」
「悪いな、相沢。話は後だ」
祐一に背を向け、言葉を返す。その顔は見えない。泣いているのか?それとも。
だが、その雰囲気。祐一に、予感めいたものを伝えてくる。これは――危険だと!
「北川、お前まさかッ……!」
「………」
答えない。だが、北川は、迷わず開いたドアから外へ出た。その先は見えない。
その行動は、一つの結論を導いた。
「北川!北川ァッ!」
声は届かない。
「お前――あの二人を殺す気なのかっ!?答えろ、北川っ!」
――返事は無い。ただ、最後に見た背中は。
確かに、そう、言っていた。間違いなく。
泣き声。血の量すら少ないが、状況は同じ。小屋の中と、同じ。
少女が泣いている。少女が倒れている。それはまさしく悲劇。
それでも――許す気はない。
「………」
泣き声は止まった。特に直接何かをしたわけでない。いや、したか。
釘打ち機は、確かにスフィーの頭を捉えている。それは何かを語る事無く。
ただ、"死"を語る。
「お前が、レミィを殺したのか?」
淡々と。北川の目には、狂った様子も見られない。
狂っていないからこそ、狂ってないとも言える。まさしく、そうなのかもしれない。
返事は無い。釘打ち機の狙いが変わる。こいつじゃないとすれば、こっちか。それだけの理由で。
黒帽子は、無表情で北川を見ていた。答えは無い。
「……あたしが撃ったよ」
声。それはまさしく、スフィーのもの。芹香の危険を、察知したからか。
釘打ち機の狙いは、また元に戻る。
「結花を撃ってた……。何があったかは知らないよ。でも、だからあたしも、撃った」
「……そうか」
無表情な会話。ただの事実の確認のように。
ああ、レミィ。何でお前は撃ったんだ?撃たなきゃ、お前は死ななかった。
俺が居ない間に何があったんだ?……くそっ。
北川の顔が歪む。悔やむ。己が離れてしまった事を。
こんな事になると知れていれば、死んでも離れなかった――。
「ひょっとしたら、結花が最初に撃ったのかもしれない。でも、そんなの分かりっこない……。
……レミィさんだっけ?あの人、貴方の仲間だよね」
すぅ、と立ち上がる。地に横たわる、結花の姿。そして、少女が握るのは――
拳銃。
「俺が、レミィの仲間だから……殺すのか?」
「――芹香さん、下がってて」
答えない。ただ、その言葉は、十分過ぎる程の返事だった。
芹香は、一瞬躊躇ったものの――
「すぐに行くから……」
その言葉で、右手の方へ駆けていった。北川は、逃げる芹香を撃たなかった。撃つ気も無い。
静寂。満ちる、殺気。いつ、銃が上がるとも知れぬ、その空気。
――北川!
その中に、一つの声。祐一の声。小屋の中から、空しく響く。
「お前は、レミィを殺した。だから殺す。十分だろ?」
――北川ァッ!
静止を求める声。もはや誰にも届かない。ただ、響く。
スフィーは答えなかった。
――北川、止めろ!北川ァァッ!!
――皮肉にも。
静止を求める、その絶叫が、合図となった。
【残り24人】
261 :
彗夜:2001/07/09(月) 01:40
書きました。
自分なりの解釈です。
262 :
彗夜:2001/07/09(月) 02:08
訂正です。
>>260 「逃げる芹香」の「逃げる」を削除して下さい。余計でした(汗)
銃声と、何か鋭いものが射出されるような音とが、同時に響いた。
「え――」
「な…?」
潤とスフィーが、それぞれ驚愕の表情を浮かべる。
互いが、互いを撃ち殺そうとした。
撃つべき相手は、正面にいる、自分に凶器を向けている相手。
大切な者を殺された、仇であるはずだった。
なのに――
「あ、相沢……」
惚けたように、潤が呟く。
レミィの仇である赤い髪の女を遮るようにそこにいる、彼の視界に写るのは――
いくつかの釘と銃弾をその身に受けた、未だ後ろ手で縛られたままの――祐一の姿だった。
「やめろって……言ってるだろ……二人とも……」
呆然とする二人の間で、言いながら、ゆっくりと、仰向けでその場に崩れ落ちる。
「あ、相沢っ!」
「……」
潤が、祐一に駆け寄る。
スフィーまでもが、拳銃を構えた姿勢のまま、呆然としていた。
殺すつもりで撃ったとはいえ、そこに倒れているのは、違う人間――
撃つつもりの無かった相手なのである。
少なくとも、今は。
人は、そう簡単に、冷酷になったり、狂気に陥ることはできない。
想像外の相手を撃ってしまったことによって、スフィーの心は、混乱していた。
「おい! 相沢、しっかりしろ!」
潤の方は、スフィーのことはすっかり失念した様子で、祐一に声をかける。
「もう……やめろよ………殺すだの…殺されるだの………」
掠れるような声で、空を仰ぎながら言う祐一。
もうその瞳は、誰も捕らえてはいない。
「相沢……」
「訳もわからんまま、疑われて、捕虜にされて……
……人が来ても…また疑って………殺し合って……
そんなの、おかしいだろ?」
潤とスフィーは、まるで独り言のように続ける祐一の言葉を、黙って聞いていた。
「この殺し合いが、強要されてるものだって言うなら…
何故、みんなで協力して、打開しようとしない……
何故、みんな……人を信じようとしない……
…何故、みんなで、抵抗しようとしないんだよ………
そうしなかったら…この「殺し合い」を管理してるやつの…思うツボだろ…」
それは、この狂気の戦場で、皆が忘れていたこと。
いつか死んでいった、白い女性が、己の死と引き替えに、皆に訴えたこと。
祐一が記憶を失ってしまったからこそ、思い出せたこと。
「その現実から逃げちまったらしい俺が、言う台詞じゃ…ないだろうけどな……」
ぼんやりと、視界に広がる空。
掠れて、よく見えない。
遠くから…いや、実際は近いのだろう、北川の声がする。
何を言っているのかは、もう、聞き取れない。
(……どうして、こんなことをしたんだろうな、俺は)
祐一は、刹那と久遠が混在する瞬間の中で、ふと思った。
自分だって、命が惜しい。
わざわざ二人の前に出なくたって、止める方法は、あった筈だ。
(…俺は…死にたがっていたのか……?)
そうかもしれない。
なにしろ現実逃避して、記憶を失ってしまった位だ。
無意識に死にたがっていたとしても、不思議はないのかもしれない。
(だとしたら……さっきのは、本当に俺が言えた台詞じゃないな……)
祐一は、心の中で軽く笑った。
こんな状況でも、皮肉屋祐一は健在らしい。
急に、今まで出会ってきた人たちの思い出が、心の中をよぎる。
これが走馬燈というものなのだろうか?
(名雪……秋子さん……あゆ………みんな………)
この島で、未だ「殺し合い」をさせられてる、
或いは、もう死んでしまったと聞かされた、大切な人たち。
特に、名雪と秋子さんのことを思うと、心が苦しくなるのはどうしてだろう……
そして……
(茜……)
祐一は、昔出会った、好きだった女の子のことを思い出した。
参加者名簿に載っていた、同じ名前。
あの名前が、自分の知っている里村茜と別人であることを、願わずにいられない。
(茜……お前は……違うよな…
こんな酷い世界で、殺し合いなんて強要させられずに、今もあの空き地で、待ち続けているんだろ……?)
祐一は、気づかなかった。
心の中に写る、茜のビジョンが、自分の覚えているものよりもずっと、成長しているものだったことに――
※3行空け
「……」
スフィーは、涙を流していた。
今、この人が言ったこと。
当たり前の事だったのに――
分かっている筈だったのに――
それを忘れずにいれば、きっと、結花も、あの金髪の人も、死ぬことはなかったのに――
「相沢っ! 相沢!!」
潤は必死に、祐一に呼びかけを続ける。
「…みんな……負けるなよ………俺みたいに…な……………」
そう言って、祐一は、ゆっくりと目を閉じた。
001相沢祐一 死亡【残り23人】
書きました。
文分け失敗です。悲しい・・。
叩かれそう・・・。
omaenokatida
YOU WIN!
>>269 侍魂ネタでこんなにもズガーンときたのは初めてだ
272 :
名無しさんだよもん:2001/07/09(月) 04:10
( ̄〇 ̄‖)うううううううう・・・・・
救世主の誕生を祝し
またU1の死を悲しんで一回あげます
Good Job!ъ( ゚ー^)
(;´Д`)ハァハァハアハアハアハアハアハア
中天へと昇りゆく太陽の熱のみが、その場所を支配していた。
じりじりと身を灼く光に晒されながら、言葉を発せぬまま、あたし、スフィーは返り血を浴びたまま呆然と立ちつくす。
嘘みたいに冷たくなった結花のからだ。
そのそばで、不思議と安らかな表情を浮かべて、眠っているかのように倒れ伏すレミィ、と言う少女のからだ。
(結花を殺した、ぬけがら)
(……あたしが殺した、ひと)
事実を反芻して両の握り拳をぎゅ、と固める。銃はとうに地面に落ちていた。
拾い上げる気は、起きなかった。
祐一と呼ばれていた少年のからだは、もう一人の少年の腕にきつく抱き留められている。
北川というらしい彼の瞳からは、まるで機械のように涙だけがこぼれ続けていた。
逆に、さっきあれほどに泣いたのに、今はもう身体中の水分が吸い取られてしまったように、あたしは泣けない。
瞼が酷く、眩しさで熱いのに。その熱以外の温度は、あたしの中からなくなってしまったみたいだ。
代わりとばかりに脳裏を駆け巡るのは、ただひとつだけの言葉。
(――――こんなはずじゃ、なかったのにね)
そう、こんなはずじゃ。
絶対になかった。
ねえ、リアン。どこからあたしたちは間違っていたんだろう。
結花を、金の髪の子を、祐一という少年を、どうして死なせてしまったんだろう。
あなたとはぐれて、南さんを恐れたとき、初めて他人を疑ったときから、何もかもがおかしくなっていたのかな?
舞さんと佐祐理さん、あなたと綾香さんを助けられなかったのを知ったとき?
髪の長い女の人に襲われて、初めて目の前で結花が人を殺すのを見たとき?
それとも……けんたろが死んだんだって知ったときから、あたしは笑顔で不信をごまかすようになったのかな?
あたしたちには、次にするべきことがある。
生き残ること。祐一が残した言葉。意志。
とても簡単なように見えて、とても、むずかしい宿題。
誰も答えを出してはくれない。自分で必死に考えて、解くより他はない。
今でも、憎くないと言ったらそれは嘘になる。
結花は撃たれた。結花はもう笑わない。おいしいパンケーキを食べられない。
最後のあの店との繋がりを、なくしたくなかったのに。
それを壊した人間をめちゃめちゃにしたいと思う。
けれどそれは目の前で亡骸を抱える北川にしても、同じこと。
あたしを何度殺しても、足りないはずだ。
辺りに立ちこめる濃い血の匂いに包まれて、レミィを殺したあたしはただ立ちつくす。
祐一を殺した北川潤は、ただ涙を流し続ける。
人殺しのあたしたちには、祐一への答えを考えることしか許されない。
――――いつまで?
そう自嘲気味に自分に問い返した、刹那。
がさり。
はっきりと、草むらを踏み分ける音があたしたちの耳に届いた。
芹香が、悲しい瞳をして戻ってくる。
足取りは確かだけれど、唇がごめんなさい、と動いたように見えた。
何もできなくてごめんなさい、と。
そして芹香は、ゆっくりと二人の少年の元へと歩み寄る。
放心したような北川の両目の涙を指でつつっとぬぐって、懐から出したハンカチで更に拭き取る。
優しいしぐさで、何度も、何度も。
「…………」
そのたびに、芹香の口元が動く。
「…………」
また。
「…………」
もう一度。
涙が、完全に拭い去られた。目は真っ赤だけれど、もう頬を濡らす水はない。
それを確認して、芹香の手が移動する。
『ありがとう……あなたのこころ、受け取りました』
一切の澱みのない声で、凛とした表情で言って。
芹香は北川の腕の中の祐一に手を伸ばし、彼の頭をくしゃりとなでた。
くしゃり、くしゃりと、まるで母親が子供にするときのように。
もう動かない祐一を、ひたすらに撫でつづける。
その姿はまるで母親のように見えて、ひどくあたしの胸を刺した。
北川の眼からはまたひとすじ、涙がこぼれていた。
「……俺は、相沢と一緒にいた椎名って子を探すよ」
三人の埋葬を済ませるなり、北川は強い声でそう言った。
一度マンションで会ったきりの彼女がどうなったのか、北川は知らない。
だが、祐一がいない今、彼女の身は心配だった。
さらにあの明晰な少女なら、遺されたこのCDについて何か知恵を貸してくれるかもしれない、そう考えたのだ。
芹香の口が、お気をつけて、と言うふうに動いた。
そしてスフィーが、初めて北川に対して口を開く。
「…………許した訳じゃないわ。あなたも同じだと思う。
だけどね、まだ、死んでなんかやらないから。
必ず生き残って、出来ることをやり遂げて、元の生活に戻るまではね」
頷く。
「お前らも、国崎って奴に頑張って会えよ」
それだけ言って、北川は踵を返して小屋をあとにした。
決して、振り返りはしなかった。
俺、もう一度せいいっぱい生きてみる。
香里の、祐一の、レミィの想いを胸に抱いて、一緒に生きてやる。
彼はまた歩き出す。
道は分かたれているけれども、必ず行き先には何かがあると信じて。
――――祐一にも、レミィにも、芹香たちにも。
さよならは、言わずに。
【第八回放送直前、午前十一時四十五分】
【北川、レミィと祐一の遺品、武器を入手】
すみません、
>>277の「パンケーキ」を「ホットケーキ」に修正でお願いします…
――ふと、目が覚めた。
今まで自分が見ていた悪い夢が覚めたのかとも一瞬思ったが……そうではないことにすぐ気づく。
目の前には、ただむやみに大きなテーブルが広がっていた。
既に自分以外の五人は、自分の席についていない。
「……眠ってしまいましたか……いけませんねえ……」
ただ一人その空間に存在している人物、長瀬源之助があくびをかみ殺しながら呟く。
現実問題として――。
ただ一人管理人としてこの場所に残っている以上、当然責任というものは全て自分にかかる。
源四郎も、源五郎も、源三郎も、源一郎も、フランクも。
他の管理者としての『長瀬』は皆、自らの意志でここを降りていった。
「……源四郎殿は、来栖川綾香の死をきっかけとして、己の戦場を求めて」
――皆よ、悪いが私はこの時点でこの円卓を抜けさせて頂こう。
――身勝手と言いたければ言うがいい。私は失った半身を埋め戻しに行く。
――私がいなくとも、源之助、貴様がいれば”長瀬”は動く。問題はない。
――私に長瀬を問うというならば、それは来栖川を優先した前提でのことだ。
――私は、ただ昔に立ち戻っただけに過ぎないのだからな。
「……源五郎殿は、放逐された高槻の役割を自ら背負うために」
――それじゃあ、僕は高槻の代わりに施設の統括を担当してきますね。
――父さんが降りて、僕が駄目って道理もないでしょう?
――憎まれ役は慣れてますよ。第一、僕たちはそのためにここにいる。違いますか?
――源之助さん、僕はね。マルチとセリオを戦場に送る時点で人間をやめているんですよ。
――僕のかわいい娘たちは、もう二度と笑わない。たとえ直せたとしても、ね。
「……源三郎殿は、その強すぎる正義感が祟り、源四郎殿を許せず」
――身勝手なもんですな、あの親子は。……自分たちだけが悲しいとでも思ってるのか。
――悪いが、私もここで下ろさせてもらいます。……二人下ろした上、駄目とは言いますまい。
――ここに戻るつもりはないので。……私は、私以外のモノになってしまうつもりでね。
――私が本気でこんなことに賛同してたとでも思いましたか? 私は……刑事なんですよ。
――柳川よ……恨み言はあっちで聞いてやるさ……。
「……源一郎殿は、自らが抱えた罪への自分なりの贖罪のため」
――悪い。俺も、降りていいか?
――そんな顔しないでくれ。これでも悪いとは思ってる。すまん。
――俺は、ここでこうしてただ見ていることに、疲れた。それだけだよ。
――なあ爺さん。俺たちに誰かを……まして、自分自身を裁く権利なんて、あると思うかい?
――小言は戻ってから聞くさ。どんな罰だって受けてやるよ。
「そしてフランク殿は、祐介が死んだことに対し……復讐を誓った」
――悪い。降りる。
――心の整理が、つかん。
――エゴだ。これは。
――許すなど、できない。
――身勝手、だな。
「…………」
ふう、とため息をつき、源之助は椅子の背もたれに体重を乗せる。
きしり、と椅子のバネがきしんだ音を立て、電子音だけが響く室内を耳障りにかき乱す。
結局のところ、全員が全員、心の底ではこの企画に賛同などしていなかったのかもしれない。
源之助もそうだが、現に彼らのうち数人が配給品に細工を加えた様子もあった。
そしてその気持ちを表に出すには、あまりに彼ら『長瀬』は自分というものを制御できすぎた。
結局のところ……死地に向かう刹那、覚悟の段に至ってようやく、心情を吐露していったのだ。
「長瀬の名を冠するとはいえ……やはり疑心暗鬼には勝てなかったということですか」
遠い目をしつつ、モニターをぼんやりと見つめる源之助。
誰かが映っていたり、風景しか映っていなかったり、何も映していなかったり。
それに関してはどうでもよかった。
「若者とは、幸せですね……自分で死に場所を選べるんですから」
うっすらと目を細め、ゆっくりと口元を緩くする。
その顔は、優しげで、穏やかで……そして、哀しかった。
「私は……ここから決して動きませんよ。動いてしまえば、全てが終わる」
誰へともなく、ぽつりと口に出す。
あるいは、それは自分への戒め、言葉という名の呪いなのか。
「私がここにいなければ……皆の努力が無駄になる」
自らを押さえつけるように、己の身体に誓いの鎖を巻きつけるように。
源之助は、拳をぎりりと握りしめた。
その指の隙間から深紅の液体がしたたり、ぽたりとこぼれ落ちた。
「他人を死地に送る努力など、しない方がいい……ですが、全員が死ぬよりは……まし、ですよ」
そして源之助の瞳が、空を映した片隅のモニターに移る。
先程までからりと晴れていた空が、にわかにかき曇りつつある。
「スコールですか……いささか遅い涙雨ですね」
自分が、そして他の長瀬たちが、敢えて捨てたともいえる涙。
彼らに代わって泣くように、島は徐々に翳りに包まれていった。
――定時放送は、近い。
【源之助、自らの位置を固持】
【残り23人】
長瀬たちの、心の葛藤をを描いてみました。
彼らの目的は、具体的に描写するには状況が厳しすぎます。
……個人的には、彼ら全員の敵である「何か」と戦うための戦士の選抜。
あるいは彼らを自ら死地に追い込むことによる、わずかにでも生き残りを願う。
といったものなのですが、それだと「過去に何度も開催された」と言う点がネックになるので。
突然のように雨が降るのは、祐介が破壊した施設が炎上したためでもあります。
G3A3アサルトライフル。その、無骨なデザイン。手に掛かる、確かな重み。
――それは、恐らく、確実に、目の前の"そいつ"を蜂の巣にする。……筈だ。
拮抗。静かな、対立。少年と、フランクは対峙したまま、動かない。
それを少し遠くから見る、往人の姿。貫かれた右肩は、まだ痛む。だが、それどころじゃない。
少年の後ろ。傷が伝える激痛に、もはや気絶しかねん少女の姿。
天沢郁未。
どうする?俺達は勘違いされたままだ。助けるのか……?
「居候!」
背後より、声。後ろには、少し遅れてやってきた晴子、観鈴。
「往人さん……」
「……お前ら」
口を開く。だが、そこから続けるより早く、晴子は、言い放つ。
「引くで、居候」
「なっ……あいつらはどうする気だ!?」
「………」
答えない。だが、目に宿るのは非情の光。それが答えか。
晴子の右腕は、切り裂かれている。――例え、あれが勘違いだとしても。彼女は郁未を許すまい。
左手は、観鈴の腕を掴んでいた。走り出さないように。決して離さぬように。
その効果はあった。観鈴は、郁未を見ている。だが――走り出す事は、出来ない。
「……っ」
左手に握られた、ベネリM3。ついさっき、晴子から取り返したばかりの銃。
握る手が、汗に滲む。くそっ。俺は、こんな時に……!
別にあの少年がどうなろうが知った事じゃない……いや。あいつは、もう、"助からない"。
それは予感。今にも消え失せんとする、その雰囲気。少年からは、それが僅かに感じ取れる。
だからこそ、あの少女だけは――。
――その時、不意に、左手が涼しくなった。風が、左手の熱を奪う。そこには何も無い。
振り向く――ベネリM3は、観鈴の手にあった。首を振る。行ってはいけない、と。
見捨てるのか?
だが、目に、顔に浮かぶ、悲痛な表情。それは、本当なら、助けに行きたいと。
だけどそれは、他の二人を死に追いやるかもしれない行為。救う為に、誰かを死なせる。そんなのは、嫌だ。
だから。
――往人の顔が、歪む。畜生。
気付けば、自分の身体が一歩前に出ていた。先にあるのは、一瞬即発の事態。
そこは確かに、死が在った。行けば、死ぬかもしれない。
恐い。当然だ。死にたいなどと思った事はない。
……だが。
………。
「おい」
後ろを見ず、呼び掛ける。晴子は、脂汗の浮かぶ顔を、往人の背中に向ける。
「観鈴を連れて、反対の方へ逃げてくれ。……後で追う」
「――居候!?」
「頼んだぞ」
そして、駆ける。観鈴が伸ばした手は、往人を捉える事は出来なかった。
動かぬ事態。変わらぬ対峙。依然として、"そいつ"は動かない。
もはや恐怖、絶望、そんな事にこだわっているレベルではない。"こいつ"は、獣だ。
撃ち落とし。引き裂いて。叩き潰す。それだけだ。死を持って、償わせてやる。
きりきりと、張り詰めた空気。何か、一つ、きっかけでもあれば弾け飛ぶだろう。
背後にへたり込んだ少女。服を、靴を、血に染めている。放っておけば死ぬだろうか……。
―――。
その時。不意に、何かが近付いてくる音。駆ける音。
叫び声。名を呼ぶ声。居候!往人!……往人?
あの銀髪の男か!
振り向く。G3A3の銃口が、向きを変え、銀髪の男を捉える。邪魔だ。撃ち落とせ。
だが、一瞬早く、影が回り込む。それは確かに、少年の姿!
しまった――!
「ぐおおおおおオォォォッ!」
ズガガガガガガガガガッ!
咆吼!続く銃声。放たれた弾丸が、"それ"を叩き落とさんと、空間を貫く。
当たったか?いや、当たる筈が無い。くそ!
だが、それは、一つだけ当たっている。舞い散る血の軌跡、少年は、腹を貫かれていた。よし。
だが、それでも、その疾さは失われてはいない。――化け物め。
バックステップ。少年の姿が、森へ消える。逃がすか。
フランクは、再び森の中へ駆け込んだ。手負いの獣を、叩き落とす為に。
……その一瞬の戦いが、男の存在を忘れさせた。
一か八かの賭け。往人は、郁未に向かって、一直線に駆けた。
ライフルに撃ち抜かれる可能性は、無論、高かった。――だが、幸いにもそれは無い。
ならやる事は一つだ。
辿り着く。郁未は、睨み付けるような視線を往人に送る。
肩を貫かれ、足に穴を穿たれ。だがその眼光は、衰えていない。やれやれ、気丈過ぎるぞ。
「あんたっ――」
聞いてる場合か。少女を抱え上げる。幸い、軽い。左手一本で、何とかなった。
振り返り、駆ける。脇に抱えた少女が何やら叫ぶ。無視。
このまま行ければ、こいつだけは何とかなるかもしれない。
――無論、そんなわけが無い。
がさぁっ!
後ろから、何かが躍り出る。草葉を揺らし、飛び出す影。獣?違う!あの少年か!
あの野郎、追ってきてるってのかッ――!
【残り23人】
288 :
彗夜:2001/07/10(火) 00:40
書きました。
やはり、難しいですか……このパート。
289 :
彗夜:2001/07/10(火) 00:48
些細な事ですが……
>>286の「だが、それでも、その疾さは失われてはいない。」の「だが、」は要りませんでした。
「だが」が二行に渡って並んでしまってますw
らっちーさん、お手数ですが、スト編に於いて修正をお願いいたします。
――ドックン――
(お前は人間じゃない)
(なんだ?)
10分も走った頃だろうか。彰は何かが聞こえたような気がして立ち止まった。
いや、聞こえたのではない。何かを『感じた』のだ。
――ドックン――
(人間があんな怪我の後にこんな元気でいられるか?
お前のその賢いおつむなら分かるだろ)
鼓膜の振動で聞こえる声ではない。
まるで自分の内面から湧き出すような『何か』
(なんだ!? 誰だ!?)
――ドックン――
自分の心臓の音がやけにはっきりと聞こえる。
(お前は人でなくなった)
(そうだ。なんで僕はこんなに元気なんだ?
ちょっと前までは半死半生。気力で動いていたというのに…)
彰は賢すぎた。それが彼の不幸。
――ドックン――
(お前は人でなくなったんだ。あの女のせいだ
あの女は、今のお前と同じ気配がしただろ? 奴がお前を化け物にしたんだ)
(僕は元気になった。怪我も気にならない。横には初音ちゃんがいた…)
寝ている間の出来事は分からない。推理するしかない。
推理は彰の得意とするところ。
見たくない『映像』ばかり浮かんでくる。
ガン!
苛立ちを紛らわすために、そばにあった岩を殴りつけた。
彰は驚愕する。
岩が…。少しではあるがヒビが入っている。。
「なんだ…? なんだ!? これ!!」
『人の操る人外の力』には結界は効果が高い。
しかし『人でないものの操る人外の力』には結界の効果は薄い。
彰は知らなかったが、耕一が自分の体験から立てた推測だった。
そう。身体が化け物であり、そして心も化け物になってしまえば…。
それはもう人ではなくなったということ。
彰を一人にできた。
彼にとってこれは幸運。
促したのは彼自身だが、こうまでうまく行くとは考えてなかった。
出番はもっと後だと思っていた。
男どもが消耗した後。その後の方が安心してヤれる。
しかし機会を前に黙っていられるほど、彼は気長ではなかった。
(初音はウラギリモノだ)
「黙れ!!」
彰が『何か』に向かって叫ぶ。
(お前にも見えただろう? お前の賢いおつむがはじきだした『映像』が)
いけしゃあしゃあと言う。それを想像するように促したのは彼だ。
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇ!!」
叫び、地面を殴る。
(わかったわかった。俺はお前だ。お前が望むのなら黙るさ)
「くそ!くそ!くそ!!」
辺りのものに苛立ちをぶつける。その結果による破壊。
それは、少なくとも彰のような一般人のつくれる跡ではない。
(まぁ落ち着けよ。でもお前も思うだろ? 自分以外の男は邪魔だと)
ガン!!
今までで最大級の衝撃を樹木にみまう。
『何か』が沈黙する。
(落ち着くんだ彰! 冷静に、冷静に。そう落ち着け。
落ち着いて冷静さを取り戻すことこそが…)
自分の呼吸を整える。
そして歩き出した。
ゆっくりと。
初音達の元へ「時間をかけて」戻るために。
(祐介達はどうしたんだっけ…? えっと、そう…。残念ながら会えなかったんだよな)
必死になって探し回った『映像』が『思い出され』る。
なぜか彰の頭から『奴』の存在はすっぽりと抜け落ちていた。
(大きな改竄は力を使いすぎる…な…)
【七瀬彰 ゆっくりと初音達の元へ引き返す。祐介達を探し回った『つもり』になっている】
【『奴』 直接操る計画は失敗。大量に力を使って彰の頭から自分の存在を消す。力を蓄えるために沈黙】
292 :
林檎:2001/07/10(火) 03:45
結論を出すのに時間をかけすぎた&説明不足すみません。
『奴』の能力については、感想スレ10の8〜30で議論がなされています。
(特に)書き手さんは一読しておいてくださるようお願いいたします。
かこん、からん、かん、かかん。
一瞬前まで全ての幸福を象徴するかのように、芳しい香りを振り撒いていた桃缶が、
その人生を終え床に伏したとき。
無愛想なまでに何の飾りも無いまま続く廊下に、アクセントを与えるべく、無数の銃弾
が壁面に喰らいついていた。
犯人は、倉庫の中。
弾薬ベルトを背負い、暗いオレンジ色の照明を浴びて無感情に立つHM-13。
その瞳孔の奥に、ときおり輝く光だけが、今も作動している事を示していた。
御堂たちは、一連の銃撃をかわしきり、なんとか倉庫内に転がり込んでコンテナの陰に
隠れている。
(あ…あたしのあたしのあたしのも、ももも桃缶が桃缶が!)
桃缶が桃缶が桃缶が!
リフレイン。青ざめて虚ろに叫ぶ詠美。
(桃缶ひとつで発狂してんじゃねえ!)
(あなた、そういうキャラじゃないでしょう…)
御堂が吠え、繭が呆れる。
-----それでも一応、みんな小声。
水平に、正確に水平に首が廻り、あたりを窺う。
その鋭敏な聴覚で、下らぬ会話を捕らえたが共鳴が酷く位置を特定できない。
測るように左右に首を振る動きが、やはり機械である事を証明している。
(ふみゅーん…したぼくぅ)
(げぼくだっ!
…つうか遊んでる暇はねえんだよ。
とりあえず俺の銃は使えるとして、ガキ、お前ぇは何を持ってんだ?)
こそこそとコンテナの裏を駆け回りながら、打開策を練るべく御堂が確認を取る。
(硫酸銃と、替えのタンク。秋子さんが持ってた機械と、CD3/4。
他は水と食料ね。置いてきた物は、オッサンも知ってるでしょう?)
血塗れの札束とか、火炎放射器とか、と付け加える。
ワックスの光沢が目に眩しく反射する中、動物達は猛烈な勢いで走りはじめた。
この島に来てからというものの、お馴染みになった銃声に引き寄せられるように
二匹が疾走し、一羽が飛翔する。
「クワ、カァーカァー?」
『本当に、こっちなのですか?』
「ぴこぴこぴっこり。ぴこぴっこり」
『この騒音からして間違いない。嗅覚など使うまでも無いな』
「うにゃにゃ?うにゃん」
『さっそく始めているというわけか?困った連中だ』
「ぴこぴこ、ぴっこりぴこぴこ」
『人間どもが愚かなのは、今に始まった事ではないぞ』
「カァ。カァー」
『確かに。早く行きましょう』
「ぴっこ、ぴっこぴこぴこ。ぴこぴっこり」
『俺達が居ないと、奴ら何回死んでるか解ったもんじゃないからな。世話が焼けるぜ』
距離をおいた冷静さを装いながらも、人情味に溢れた会話をしながら、動物達は転がるように
倉庫へと突進していた。
ズダダダダダダダダダダダダダァン!!!!
再び射線が合い、危ういところで逃れる御堂たち。首を竦め、三人転がるように逃げ回る。
とにかく相手の火力が強すぎて、この直線的な倉庫内では応射することさえ危険だった。
(ちっ…火炎放射器なんざダルくて持ってられるか、とは思ったが…
こんなろぼっとが、まだまだ居やがるなら持って来りゃ良かったな。
感覚器だけでもイカレればみっけもんなんだがよ)
(そうね、この通路の狭さと短さなら、有効だったかもしれないわね。
これも効くだろうけど、当てに行って蜂の巣は勘弁よ)
繭は硫酸銃を構えながら、現実的な分析をする。
御堂たちの代わりに犠牲になったコンテナから、じょろじょろと濃い液体が漏れ出す。
その特有の臭気があたりを埋め尽くす中を歩行し、液が身体にかかるがHM-13は構わず歩行する。
にちゃり、にちゃりと不快な足音を立てながら、顔色ひとつ変えずに目標へ接近していた。
(CD4/4と、ぽちよっ!)
大きく遅れて、詠美が宣言する。
(お前ぇにゃ聞いてねえよ…とにかく、こっちが有利なのは数だけだ。
分かれて、挟むしかねえな)
(そうね、このままじゃジリ貧よ)
老けた男と子供が冷静な会話を続け、年頃の少女がイジケる奇妙な光景がそこにあった。
(コラ、イジケてんじゃねえよ、お前にも大役を授けてやる)
御堂はこつん、と詠美の頭を叩き、意識を自分のほうに向けさせる。
ちょっと借りるぜ、と繭の硫酸タンクを二つ取って、一つを詠美に渡した。
(ああいう相手には手榴弾が最適なんだが、贅沢は言えねえ、コレを使う。
奴の長所は火力、早くて精密な射撃、鋭敏な索敵能力、ってとこだな。
それを踏まえて、だ…)
小声で御堂が指示を与える。
人事を尽くし、天命を待つ。
常にそれを行う限り、人は能力に見合った結果を得ることができる。
-----たいていの、場合は。
【動物達 間もなく到着】
【御堂 デザートイーグル、ナイフ、硫酸タンク一つ】
【詠美 ぽち(Cz75初期型、なんてどうでしょうかw)、CD4/4、硫酸タンク一つ】
【繭 祐一のエアーウォーターガン(硫酸入り)、硫酸タンク、秋子の機械(電源OFF、実はレーダー)、CD3/4】
【HM-13 M60デスマシーン】
「分析」です。施設編の題は、なんか無機質な題になってしまいましたね。
それと、
>>295の
>その特有の臭気があたりを埋め尽くす中を歩行し、液が身体にかかるがHM-13は構わず歩行する。
という一文、あまりに怪しいので
>その特有の臭気があたりを埋め尽くす中、液が身体にかかるのも構わずHM-13は移動し、
に変えてくださいませ。
二文を一つにした名残が、怪しい文章を生んでしまいましたヽ(´ー`)ノ ゴメーン
何一つ無い。それがこの男を表す言葉。
共に歩む者は無く。その手に釘打ち機一つ握りて歩くのみ。
レミィ。相沢。
ふと、思えば。彼らは、彼の、この島に於ける「存在意義」だったのかもしれない。
長く共に居た者。僅かの間、共に居た友。
彼は――北川は、その二つを一度に失った。一つは、目の前で。一つは、己の手で。
………。
やる事はあった。それは、去り際に彼女達に言った。
「椎名という子を探す」
だが、彼は適当に歩き続けている。それもそうだ。場所など分かりはしない。
とりあえずは、何か情報が得たかった。誰かと会うか?いや、それは危険だ。……危険か?
っつーか、今更何が危険なんだ。
在るのは、己一つのみ。それを必死に守り抜く。それが、今、彼の為すべき事。
精一杯生き残る。その為には、何だってする。そうだろう?
例えマーダーに会っても、俺は生き残るさ。戦ってもな。そうだろ?
見てろよ、レミィ。相沢。俺は、バッチリ、お前らの分まで生きてやるぜ。
遠き空から。彼らは、北川に、笑いかけてくれたのだろうか。
少し歩いた。しかし、戦闘の名残か、あれこれと落とし物が多い。
ゴミは拾えって、学校で散々言われてるだろ?全く、みんな物を大事にしないよな。
嘆息。そこは、確かに、色々な物が転がっていた。
ナイフ。
クロスボウ。
そして――死体。
苦笑。……はは。ジョークにしちゃちとブラック過ぎたな。
見覚えのある死体。無論、北川がそれを忘れる筈が無い。
高槻。このゲームの、支配者。いや、「元」支配者か。
あの放送を知らぬ北川ではない。高槻が、処分された事などは知っていた。
ただ。あの頃は。
……どうしても、実感が湧かなかったんだ。
命を賭けたサバイバルゲーム。その中に、自分が居るという事。血生臭い現実。
人が死ぬという事。それは、彼にはあまりにも非現実的過ぎて。
俺は、いつからか、逃げたのかもしれないな……現実から。
逃避。虚ろな現実に逃げようとした。殺し合いというゲームから、いつもの日常へと。
そこで出会う。レミィに。
眩しいばかりに明るい少女だった。下らないジョークだって、彼女となら楽しかった。
そして。それは、いつしか、自分の心を現実につなぎ止める、大切な何かに。
……それはもはや失われた。だが、今更、逃げる気はしない。
逃げるわけが無い。負けるわけにはいかないのだから。……相沢には、な。
ナイフを拾い上げる。30cm程もある、大型のナイフ。十分な武器だ。
高槻の死体から、鞘を抜き取った。刃を隠し、ベルトに差す。武器入手、と。
そして、クロスボウ。一応、飛び道具だ。銃を持った相手と戦うのに使えるかもしれない。
しかし、拾い上げようとして気付く。戦闘中の再装填が非常に難しい。
力も要る。"戦闘"には使い辛すぎた。狙撃には使えるかもしれないが。
……捨てとくか。もったいないけどな。
後は何も無い。日が高い。心なしか暑さが増している。そろそろ放送だ。
日陰にでも、行くか。そんな事を思って、森へと足を進めた。
が。
……がさっ。
「え?」
「あ」
「あ?」
突然、森から出てきたのは――侍?違う。女だ。それも二人。二人とも刀を持っている。
気の強そうな女であった。しかも、ダブルで。
ううむ、こいつはキツいな。俺は、どっちかっつーとおしとやかな方が……。
………。
ま、冗談は止そうぜ。
「……真っ正面から人の事をじろじろ見るなんて、失礼な人ね」
「全くだ。レディーに対して失礼極まりない行いだ……」
溜息混じりに、首を振る。おっと、紳士的にだぜ。
「……それにしても、随分ご機嫌斜めみたいだな?」
冗談めいた会話。だが、その裏に潜む、ひやりと冷えた空気。
女――晴香の刀は、既に抜かれている。その刃は、北川の首の隣に。
だが、釘打ち機は晴香の喉を捉えている。それは、最初に出会した時点で行った。
だが、もう一人。他人事のような様子で、この対峙を見る少女。七瀬留美。
もちろん、刀は既に抜いてある。右手に握り、とんとんと肩を叩いていた。慣れた様子。マズいな
……さぁて、どうすっかな……?
北川の顔に、不敵な笑みが浮かぶ。放送が、近い――。
【残り23人】
300 :
彗夜:2001/07/10(火) 06:23
書きました。
セミー達と北川も結構時間が進んでいたと思ったので。
それにしては、15分では足りない気もしますが……うーん。
あと、例によって訂正。
>>299のラスト辺りです。
「慣れた様子。マズいな。」の「。」が抜けて妙に味のある切れ方になってます(逝)
付け足しておいて下さい……。
いつになったらケアレスミスが無くなるのか。うーん。
301 :
彗夜:2001/07/10(火) 06:25
アウチ。もう一つ訂正。
同じく
>>299のラスト。
「だが、もう一人」の部分を「もちろん、もう一人の方も忘れてはならない」
に変更お願いします……。
アップしてから間違いに気付く事ってありますよね?ね?(何を必死に)
302 :
彗夜:2001/07/10(火) 06:27
ヒィィィ、何回訂正すんだ、俺!(逝)
>>297の「そうだろ?」を削除して下さい。
303 :
彗夜:2001/07/10(火) 06:42
……4回目です。
>>301の訂正は無しにして下さい。今度は「もちろん」が重なってしまいます。
「だが、釘打ち機は〜」の「だが、」を消して下さい。
304 :
名無しさんだよもん:2001/07/10(火) 19:07
あげんでもいいがな
俺の首には刀身が。
彼女の首には釘打ち機が。
まさに一触即発と言うヤツだ。
…しかし。
俺のしていることって、正しいんだろうかねぇ。
「殺しても生き抜くつもり」ってのは、
裏を返せば、相沢の言っていた「主催者側の思う壺」って事になるんじゃなかろうか。
レミィも、結花も、相沢も、結局みんな主催者の手のひらの上で踊らされていたって事になる。
……それは、悔しい、な。
なら、俺一人でも……その手から飛び降りて暴れまわってやるべきじゃないのか?
例えそれが、三蔵法師の手のひらの上で得意げに飛び回る孫悟空の行為そのものだとしても。
…なら、まずは「この島のルール」を破らなくちゃならない。
つまりは、こう言う事。
「ほっ」
左手を、ぱっ、と開く。
当然、がしゃり、と音がして、釘打ち機が地面に落下する。
突然の行動に反応したのか、刀身がぴくり、と動く。
………あぶねぇ、あぶねぇ。
格好よく決意した次の瞬間に殺されちゃあ、格好悪いからな。
「……何のつもり?」
釘打ち機に一瞬だけ目線を泳がせて、彼女が口を開く。
依然として、その刀身は俺の首筋から離される気配は無し。
それじゃあまあ、とりあえず、身の安全の確保だ。
両手は……上がらないので、左手だけ高々と上げる。
コイツが今の俺の降参ポーズ。もしかしなくても凄く変だ。
下手すると降参の意志有りととってもらえず、無慈悲に刀が横に移動するかもしれない。
……そうなると、痛い、と言うか、遺体になってしまう。
そりゃ怖い。なので、とっとと言っておく。
「降参だ」
そんな訳で、また捕虜である。俺はMか?
……兎も角、死ななかったんだ、それでいい。
ゆっくりと信頼してもらって、それで縄を解いてもらえばいいさ。
…では、信頼されるにはどうするべきか?
そう。コミュニケーション、言葉のキャッチボールが必要よ。
「それじゃ、自己紹介と行こうか」
出来るだけ明るく言ってみる。
「……」
あからさまに冷たい眼で見られてしまった。人は分かり合えないのか?
えぇい、構うな!突撃あるのみだ!
「俺、北川潤って言うんだ。気安く潤って呼んでくれ!ダーリン(はぁと)でも構わんぞ」
「…………」
ううっ。紫髪のねぇちゃんの視線が痛いよぉ。
……おや?
多少離れていた青髪のショートカットのねぇちゃんと眼があう。
「……!」
すぐに、逸らされる。
……照れ屋、とは、ちょっと違うよなぁ。
「……巳間晴香よ」
「は?」
しまった。青髪のねぇちゃんに気を取られて、間抜けな返答をしてしまった。
どうやら紫髪のねぇちゃんはカルシウムが足りないらしい。青筋を浮かべるほどの怒りだ。
深呼吸ひとつ、ふたつ。ようやく怒りが収まったのか、紫髪のねぇちゃんが改めて自己紹介をする。
「……巳間晴香よ、北川君」
「是非ダーリンと呼んでくれ」
「…何か言った?北川君」
「冗談です、晴香さん」
だから、刀身を首筋に当てるのは勘弁してください。
「…ふーん、そう」
意外にもあっさり刀身は離れた。俺は助かったのだ!
そして、晴香さんがもう一人の青髪の方に目線をつい、と動かす。
「ほら、あんたも自己紹介しなさいよ」
あぁ、なんて親切。ありがとう晴香様!
ところが、あの青髪。
「げっ」
と、抜かしやがった。
「げっ」って何だよ、「げっ」ってのは。そんなに俺が嫌いですか?
酷いや。初対面なのに……
初対面なのに…アレ?
「ちょっと、名前忘れたって訳じゃないんでしょ?」
痺れを切らしたのか、晴香さんが語気を強める。
「うん、そりゃ、まあ、そうだけど……」
対する青髪はどうも歯切れの悪い言葉。
「だったら早く自己紹介ぐらいしなさいよ、なな」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
キィ―――――…ン。
な、なんちゅう声出しやがるんだ、あの女!
「ちょっと、何いきなり叫んでるのよ!」
ほら、晴香様もご立腹だぞ。
「あ…、ゴメン」
反省する青髪。意外と素直だ。
…しかし、名前を聞かれたくない理由でもあるのか?
むぅ……なな…なな、何だ?
「名無しさん」
「違うわっ!」
……沈黙。
「…………あ」
慌てて下を向く青髪。
……と、いうか。
「…もしかして、七瀬さん?」
「……う」
……どうやら、当たっていたらしい。
倉庫と呼ばれる胃袋…コンテナから滴る液体は、彼らを消化するかの如く、ゆっくりと広がりつつあった。
そのその中では鋼鉄の死神が鎌を構え、御堂達の隠れている一番奥のコンテナに狙いを定めていた。
(いいか、作戦はこうだ、テメェらは奴の足元に硫酸の容器を投げつけろ。
俺はその容器の側に爆弾を転がす、その爆弾を打ち抜けば…)
(なるほど、爆弾の炸裂の衝撃でボトル内の硫酸を浴びせかける…そうでしょ?)
(え?え?どういうワケ?)
(…つまりだ、ろぼっとの足元に『それ』を投げればいいんだよ…)
(なぁんだ、簡単じゃない)
(バカかお前は。この状況でそれができるか!)
(へ?何で??)
(…見てろ)
詠美そう言うと御堂はスッと、手を上にかすめた。それを待っていたかの如く、
ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダァン!!!!
先程、御堂が手を伸ばした空間に鉛玉が飛び交った。
(ほらな。この状況で立ってその容器を投げつけるなんざ、自殺行為同然だ。そんなことも分かんなかったのか?)
(ち、違うわよっ!私だってだいたいそうだと思ってたんだけど、いちおー確認とっておこうかな〜って、思っただけよ!!)
(お前なぁ…いい加減、そうやって屁理屈こねて自分の失敗隠そうとするなよ…)
御堂はあたかも彼女に父親のような口ぶりで詠美を叱った。
(う、うるさいわねっ!私には女帝としてのプライドっていうのがあるのよっ!アンタなんかとは格がちがうんだからぁ!)
(だから、そういう――――――)
(…オッサン、今思ったんだけど、爆弾なんて何処にあるのよ?)
繭がいぶかしげな表情で御堂と詠美の口喧嘩に割って入り、尋ねた。
(何?爆弾?けっけっけ、テメェもやっぱりガキだな)
繭はガキという言葉にムッとして、御堂に再度訪ねた。
(いいから、何処にあるのか教えなさい。作戦に支障をきたすでしょ?)
(あるじゃねぇか、とっておきのがここに…よっ!)
ドン!
御堂はそう言うと自分の腹に拳をねじ込んだ。
(ちょっと!アンタ何やってんのよっ!?)
(…なるほど、オッサン、意外と頭いいじゃない…)
御堂の行為に対して対照的な反応を見せる二人…そして御堂の口から銀色の球体が零れ落ちた。
(へへ…こいつだ…これも立派な爆弾だろ?)
(爆弾のことは分かったわ。…でも、その前に私達がローストビーフになるかもね…)
(何?)
鼻をつく異臭…倉庫内に充満した揮発性のガス…
そう、はじめ御堂達が隠れ、HM−13の弾丸によって打ち抜かれたコンテナに入っていたもの…それはガソリンであった。
「………倉庫内部、ガソリン充満。火気厳禁、火気厳禁。至急退却後、ターゲットヲ、倉庫ゴト破壊シマス」
HMも異変に気付いたらしい。彼女はゆっくりと後退していく…この危険地帯から逃れるために。
(はぁ…何てこった…待ってりゃ火あぶり、進めば蜂の巣…状況悪化だぜ)
(え?何?なんなの?)
(もう…おしまいね)
無知なことは幸せである典型な詠美、冷ややかな顔をして絶望する繭…
しかし御堂は、まだあきらめていなかった。勝負は最後まで分からない…戦うためだけの存在である彼だけはそれを知っていた。
この部屋の守護神は今、守るべきものと共に御堂達を葬るため、扉の開閉パネルに手を伸ばした。
ィイイイ…ン
この後、倉庫に銃弾を2、3発撃ち込めば任務完了…のハズであった。
「ぴこーーーーーーーーーーーー!!」
「カァァァァァァァーーーーーッ!!」
「うにゃあーーーーーーーーーー!!」
彼女が扉を通るよりも早く、2匹と1羽が倉庫内に飛び込み、思いっきり彼女にぶつかった。
ドンドン、ドン!
「!?」
それで。
一応七瀬さんの知り合いと言う事で、俺の縄は解かれた。
流石に武器類は返してもらえなかったが、まあ、仕方ないだろう。
そう、ここから先は、努力次第ってヤツだ。
「まさか、あんたたちが知りあいだったとはねぇ……」
「……まさかこの島でコイツに会うなんて……悪夢だわ…」
七瀬さんがはぁ、と溜息を吐くが、無視。
「そう言えばですね、晴香さん」
「ん?何よ」
「これは、彼女が我が高校にいた時の秘話なのですが……」
「ちょ、きたが…むぐっ!」
即座に晴香さんが七瀬さんの口を塞ぐ。ナイス!
「彼女は、『うっかり転んでしまって、それを見ていた男のひとに優しく起き上がらせてもらう…これこそ乙女ね』と言う、
訳のわからない持論を持っていてですね……」
「むぐ〜〜っ!」
「ふんふん」
七瀬さんの口を塞ぎながら、晴香さんが相槌を打つ。
「…それで、何と彼女、それを実践してしまったのですよ!……通学路で一番の下り坂で!
冬場の凍りついた路面は転んだだけでは止まらず、彼女はごろごろと雪を吸い込みながら坂道を……」
「あははははははは!」
「やめんかぁぁぁぁっ!!」
爆笑した晴香さんの手が一瞬緩み、次の瞬間には。
ごつん、と。
鈍い音が、響いた。
「…いやぁ、あんたって案外面白いのね…」
ところどころに、(笑)を挟みながら、晴香さんが言った。
「……だからコイツには会いたくなかったのに……」
まあそう言わないでくれよ、七瀬さん。熊も殺せるパンチは未だに健在じゃないか。
「殺せんわッ!!」
しまった…声に出していたのか。
なんてベタな落ち!
とか考えてる間に、もう一発、クリーンヒット。
……目の前の風景が歪む。
意識が薄れてゆく。
……兎も角、俺は彼女らとなんとか打ち解けられたようだ。
…良かった良かった。
だから、ちょっと寝かせて。ご褒美に。
そうして、俺が意識を失いかけた、その時――
俺の意識を現実へ引き戻す出来事。
そう、放送が――始まった。
【残り23人】
【北川潤 武器類没収】
【正午】
その瞬間、HMに隙が生じた。わずかに、本当にわずかに動物達の存在に驚き、御堂達が潜むコンテナから目を離しただけであった。
だが、御堂はその一瞬を見逃さなかった。
(あの獣共が!おいしいところ持って行きやがって!)
腰のナイフを抜き、地を蹴り、信じられないスピードでHMとの距離を縮めた。
「!!ターゲット補足!攻撃――――」
賢明なロボット…彼女はあえて発砲しないで、M60を御堂の頭部めがけて振り下ろした。自己防衛のためである。
ガチィン!
御堂のナイフと、HMの銃がぶつかり合い、軽快な金属音を奏でる。
HMの振り下ろした銃身を、御堂が受ける形となった。
ギギギギギギギギギギ…
だが、上と下では圧倒的に下のほうが分が悪い。御堂はジワジワと押されていた。
さらに力を込めるHM…体重が一気に御堂のナイフにかかった。だが、御堂はこの瞬間を待っていた。
「よぉ、お嬢ちゃん…そんなに力むとケガするぜ…」
シュッ!
「!?」
いきなり御堂はナイフを銃から離した。力の均衡が失われ、バランスを崩すHM。
さらに御堂は彼女の持っている銃に手を回し、
「いいモン持ってるじゃねぇかよ、よこしな!」
ザムッ!
M60を吊るすベルトを切り裂き、鋼鉄の死神の手から強引に奪い取る。極めつけは、
ドン!
体当たりである。
そのままま出入り口までHMごと押し進む。だが、扉が閉まっている。とっさに御堂は近くにいた獣達に向かって叫んだ。
「扉を開けろぉ!!」
その言葉に反応したのは…毛糸玉だった。
「ぴこっ!」
毛糸玉は飛び上がり、開閉パネルを押す。
ィイイイ…ン
廊下へ繋がる扉へ突進し、倉庫から脱する御堂と鉄人形。
倉庫から出ればこっちのものだ。銃を撃っても倉庫内の揮発したガソリンに引火する恐れはない。
御堂は先程強奪したM60で遠慮なく撃った。
ズダダダダダダダダダダダダダァン!!!!
銃弾を至近距離から受け、HMは吹き飛ばされた。
タイミングよく、詠美と繭が倉庫から飛び出してきた。
「アンタばっかり、活躍してんじゃないわよっ!」
「オッサン!爆弾、ちゃんと撃ち抜いてよね!」
カコン!カコン!
2本の硫酸ボトルが鋼鉄の死神の後方に転がる。
御堂はそれを確認するとピッ!と、ナイフを持った手の親指から体内爆弾を弾き出した。
そんな事は気にも止めず、ゆらりと立ち上がり、マカロフと呼ばれる拳銃を取り出すHM…
「ターゲット…ホ…ソク攻撃…シマス」
「倉庫に戻れ!早く!!」
詠美と繭は慌てて御堂の言葉に従い倉庫に戻る。
「扉を閉めろぉ!!」
「クワァ!」
鳥類がクチバシで器用に開閉パネルを小突いた。
ダゥン!ダゥン!ダゥン!
HMの放った銃弾の二発は扉にめり込み、一発が御堂の右足を捉えた。だが、御堂は動じない。
「へたくそ」
ドゥン!
御堂のデザートイーグルが火を吹いた。弾は生き物のように体内爆弾へ向かってゆき、
バグォォォォン!!!!
炸裂。側にあったボトルからはあらゆる方向に強酸を撒き散らした。
バシュウウウウウウウウウ………
HMは後ろから濃硫酸をかぶり、背中から煙を噴出させた。体をガクガク揺すり、膝をつく。
「背部に…腐食性ノ…エキタ…イ…フチャ…ク…防弾…装甲…79%…損失…ナオ…モ…シンコ…ウ中…」
(自分が死にそうだってのに被害状況を報告してやがる…軍人の鏡だな)
御堂は彼女の最期を見届けず、倉庫へ戻った。
【倉庫警護用HM 破壊】
【M60デスマシーン 強奪 弾切れ】
【御堂組 獣組と合流】
【御堂 右足負傷】
(らっちーさんへ (1)〜(5)までの間は改行入れなくてもいいですよ)
窓の無い部屋。その中に、彼女、鹿沼葉子は居た。
部屋は暗い。差し込む光の無いそこは、一寸先すらも見えぬ程に。
幸い、電灯は近くにあった。紐を引くと、部屋が白い光で照らされる。眩しい。
蛍光灯――電気は、通じているのだろうか?しぱしぱと、まばたきを繰り返す。
しばらくして、目が慣れてきた。ともあれ、これで部屋の中が見える。
着替えがあった。あの"誰か"が置いていったのだろうか?
それにしても、あの人は何をしてたんでしょうか。
……知る由もない。七瀬自身も分かっていない事なのだから。
ドアを開ける。僅かに、傷が痛む。流石に完治はしていない。
部屋は広い。大きめの机に、多数の椅子。
こんな細かいところまでFARGOは用意したのだろうか?全く、ご苦労な事だ。
椅子は使う者の無い物が多かった。だが、使われているものもある。
人が居た。その中には、自分を救おうとした少女の姿も――。
「あ、起きたのか」
ほっ、とした様子で男が呟いた。妙な服だ。いや、妙すぎる。……変態さん、なんでしょうか。
嘆息。とりあえず、変態さんに頷き返す。葉子の様子に、首を傾げていた。
続いて別の男が立ち上がった。
鋭い眼差し。鍛え抜かれた体付きは、軍人を思わせる。いや、そのものだ。
「起きたようだな……気分の方は?」
「そんなには。多少、傷が痛む程度です」
うむ、と頷く。
「とりあえず、席に着いてくれ。俺達は君の名前を知っているが、君は俺達の名前を知らない筈だ」
「……はい」
言われる通り、席に着く。隣に座る少女は、あの時の少女か。
「無事、だったんですね」
「……うん。……でも、私なんかよりずっと、お姉さんの方が大変だったよ」
そう言った。近くで見れば、なんて優しげな少女。見たところ、傷は受けていない。安堵する。
しかし、あの時の影。気を失う前、一瞬だけ見えた影。"あれ"が、彼女を救ったのか?
"あれ"は何だったのか。
思い出す。……寒気がした。"あれ"は、一体。
――葉子の思考をよそに、自己紹介は始まった。
「有り難う御座いました」
そう言って、頭を下げる葉子。その前に居るのは……マナだ。
彼女が手当をした、という蝉丸の言葉を聞いての行動である。感謝されるのは、もちろん嬉しい。
しかし――何となく、落ち着かない。
こうやって直々に感謝されるというのは、あまり慣れていなかった。
「ま、まぁ……気にしなくていいわ。大した事はしてないから」
「ですが……」
「それに、怪我人を手当てするのは"医者"の務めよ。どんな人でも、ね。気にしなくてもいいわ。
……まぁ、本当の医者ってわけじゃないんだけど」
「……はい」
改めて、葉子は席に着く。それを見つつ、何故か一瞬躊躇したが、とりあえずマナも席に着いた。
こんこん、と指で机を叩く。やはり落ち着かないらしい。……無理もないが。
――マナは気付かない。いや、知らない事なのだから当然だ。彼女は、それを聞いていないのだから。
そう。今マナが言った台詞。それはまさしく、あの人の。
軍人さん、否、蝉丸が席を立つ。机の上に広げられているのは地図。
自己紹介に続き、これからの行動についての説明。今、それが行われているところだ。
施設への侵入。強力なロボットによって守られていた施設らしい。
危険な行為ではある。……だが、脱出への糸口が見つかるのならば。
その為ならば、多少の危険も厭わない。それは葉子も同じだ。
無論、賛成する。一同は、ほっとしたような表情を見せた。しかし、会議はこれでは終わらない。
続いて、侵入口。基本的に入り口と言えば正面の入り口しか確認していない。
だが、予想だが確実に裏にも入り口がある。そこから侵入するのが望ましいのだが。
問題は――
「侵入する時の人員だ」
地図を叩く。こんこん、という音。机は鉄製だった。
今のところ、蝉丸達は六人しか居ない。その内、男が二人だ。
七瀬留美や、巳間晴香。女でも、確かに戦力になる者は居た。だが、それももはやここには居ない。
まさか月代や初音に戦闘を強いるわけにはいかない。だが……。
「……あの」
葉子が口を開く。先程から考え込んでいた蝉丸が、顔を向ける。変態さん――いや、柏木耕一も、それに続く。
「ひょっとしたら、私も戦力になるかもしれません」
「……無理を言うな。君は怪我人だろう」
「いえ」
首を振る。彼等が、彼女と、巳間晴香と共に居たなら。これで分かる筈だ。
「私も、不可視の力が使えます」
「む……」
引き下がる。なるほど、どうも不可視の力の存在は知っているらしい。
心の中で、晴香に感謝しておくことにした。力の使えない今、あれの説明は厄介だった。
「……ですが。今は不可視の力が完全に使えないんです」
「完全に……」
今度は耕一が唸る。結界の効力に関しては、彼自身もよく知っていた。
鬼の力。結界によって封じられたそれは、しかし、僅かにとはいえ引き出す事は可能な筈だ。
現に――僅かな間とはいえ、鬼と化したのだから。
「私が倒れていた所に、力を封じた機械があります。恐らく、それを破壊すれば」
「……なるほど。よし」
耕一が、立ち上がる。話の通じやすい人だ。葉子もそれに続け、立ち上がる。
「行くのか」
「あの場所に居たのは、俺と初音ちゃんと葉子さんだけですから。一人で行かせるわけにはいかないし」
「それなら、私も――」
咄嗟に、初音が口を開いた。しかし、耕一が止めるよりも前にそれは途中で切れる。困ったような顔。
「……ううん。私は、ここに残るね」
そう。彰を待たねばならないから。必ず帰るといった、あの人を。
無論、それは耕一にも分かっている事だった。
「……分かった」
それだけ言った。
「武器はどうする?そんなにたくさんは残っていないが、流石に手ぶらで行くわけにもいくまい」
「銃を……貸していただけませんか」
「俺も、銃を貸ります。使った事無いから不安だけど……
……そうだ。一応、そのナイフも貸してもらえたらいいかな、なんて」
「……武器が、無くなるな」
蝉丸が、苦笑する。無理もない。結局残る"武器"など、銃一丁にダイナマイトくらいだ。
敵が攻め込んできたら、恐らく戦う術は無い。室内でダイナマイトを使うわけにはいかないだろう。
だが。今更戦いを挑む者が居るのだろうか?
ましてや、ここは比較的裏の方。わざわざ攻め込んでくる事もあるまい。そう思った。
だからこそ、蝉丸は銃を貸したのだ。少し甘いかもしれないが、丸腰で行かせるよりは、いい。
「すいません」
「……出来れば、使う事無く済ませたいですね」
そう言って、葉子はグロック26をしまい込む。ベレッタは、耕一が持つ事となった。
……使う気が、しなかった。高槻の武器など。
【残り23人】
320 :
彗夜:2001/07/11(水) 05:13
書きました。
なんだかごたごたしてるように見えますね……(汗)
一応、セミーは本拠地(?)で待機です。他の者も同じです。
説明不足でした。
321 :
彗夜:2001/07/11(水) 05:43
すっかり忘れていました……(汗)
現在感想スレッドの方でセルゲイさんがセミー達を書いてます。
今のところ、まだ本編には組み込まれていませんが、議論中にアップするのも間違っています。
とりあえずアナザー逝きにしておいて下さい。
ピリリリリリリ……
けたたましく鳴り響く電子音。
おそらくは、彼が聞く最後の電子音。
もはや端末をいじることもなくなった男が、その音に顔をあげる。
「そういえばもうすぐ放送ですな…」
気だるい口調の声が漏れる。
恐らく通話口の向こうの相手は、源之助か源三郎か…だが、今の彼にはどちらでもいいことだった。
カチャ…
備え付けられた受話器を軽く、そしてわずかに持ち上げる。
ガチャンッ……!!
そして、勢いよく叩きつけた。
鳴り響いていた電子音の余韻が頭の中でリフレインする。
「もはや、これまでかもしれないな…」
暗く、淀んだ感情をその顔に宿らせながら、もう一度モニターを見つめた。
マザーコンピューターへと続く最後の通路には常時モニターがついている。
そこに、三人の影。…余計な動物が見えた気がしたが、あまり気にしなかった。
「さて…と」
玩具のような銀色の銃と、リボルバー拳銃、そして一枚のCDを懐に、部屋の扉をくぐる。
切り札のある場所で、詰問者を待つために。
その誰もいなくなった部屋に、電子音が響き渡ることはもうなかった。
ヒタヒタ――倉庫を出て、しばらく。一行は最下層の最深部へと進む。
既に、身を隠して進めるような通風口なんかない。
「…誰もいない」
「…だな」
御堂は、詠美の不安そうな呟きに素直に賛同してやる。彼女の言葉に皮肉の一つも無く頷くのは割と珍しい構図だった。
「一本道ね。…これで本当にこの先が施設内で最も重要な場所…ということが分かったわね」
見た目とは裏腹に、極めて理性的な赤毛の少女、繭がそう切り出した。
「そうだな。…何故そう思ったんだぁ?」
御堂も繭と同意見だった。ただ、その結論に行き着くまでの思考は違うかもしれない。
先の見取り図を覚えていれば、そこがマザーコンピューター室だということが確実に分かる。
構造を考えても、恐らくはそこが最重要の拠点だとは推測できる。
ただ、本当にその部屋が最重要かどうかは、行ってみなければ分からないことだからだ。
声を潜めながら、あえてその真意を聞いてみる。
「そうね……まず、一本道だからよ。
ここに到るまでの道が広くないながらも比較的迷いやすいように造られていたのに、急に一本道になった理由。
一本道である方がその拠点に行き着くのが簡単なのは当たり前ね。
でも、裏を返せば、必ずその道を通らなきゃならないってこと。
敵が侵入した時、その方が迎撃しやすいって所かしら?」
同じように、声を潜めて返す。
「ふん、…ガキのくせに頭が回るな」
その回転の早さは、今この施設内で別行動しているもう一組のグループのリーダー格、千鶴より上かもしれない。
「ふみゅ〜ん…よく分かんないけど…千鶴さん達もここを通ったってこと?」
一人だけ、声がでかかった。しかも、見取り図はもう覚えてないらしい。
「それはないわね。千鶴さん達のルートは別の道を…確かあっちの方から別の渡り廊下が伸びてて、そこから来るはずよ。
当然向こうも途中から一本道になってたわね。目的地で道が合流することになると思うわ。
仮に千鶴さん達が道に迷って、ここを通ることになったとしても、まだ辿り着かないわね。
方角、距離、私達の通ってきたルートから考えれば、私達より早くここを通ることはありえない。
確実に私達の方が先に目的地に着くでしょうね」
「?……??……???」
「…まあ、それはこの先何事も起こらなければ…の話だけど」
若干溜息をつきながら、繭がそう締めくくった。
そして、繭の予想通り、何事もなく進めるはずはなく…
「ぴこっ…」
地面に近い位置にいる動物達と、そして御堂がほぼ同時に気づいた。
「いるな…この先に」
緩やかな曲線を描くその廊下の先を見据えた。
御堂の耳は、すでにその先に存在する人の気配を捉えている。
(ゴクリ…)
閉鎖された地下空間の中、詠美の生唾を飲み込む音がやけに大きく響いた。
御堂を先頭に、ゆっくりと歩みを進めた。
(武器は構えてろ…)
左にカーブを描くその壁に映る長き人の影。
それを肉眼で確認した御堂が、手で二人…いや、動物達を含めて5人(?)を制した。
薄暗い電灯が造りだした影。それは歪曲した壁で歪んではいたが、そのシルエットは確かにいつか見た影。
「はじめまして…とは二人には言えませんか…お久しぶり…ですね」
「長瀬…源五郎か…おめぇにはもう一度会いたかったぜぇ…」
お互いの姿が見えぬ内から、そう交わした。
「あなたには…やられましたよ。あなたは…たとえ結界内でも恐ろしい人物でしたね。
でも、驚きですよ。あなたの通った道が…ね」
「……」
武器を手に、御堂が歩を進める。
ほぼ水平な角度で光が照らされているのだろう。壁に映る源五郎の影は長く長く、終わりが見えなかった。
「御堂、あなたは並みいる参加者をその手で殺し…蹂躙し、そして生き残る男だと思ってましたよ。
あなたの経歴と、性格を見る限りではね」
「…そりゃ光栄だな。俺様がやられるとは思わなかったのかい?」
「さあ。どんな人間にもイレギュラーは付き物だからね。死ぬときは死ぬ。あなたとて例外ではない。
最後に生き残るのは誰か…なんて誰にも分からないことですよ」
「初めて会ったときから…正直意外だったんですよ。あなたが一番こちら側に近い人間だと思ってました」
「……」
「前にも聞きましたが…もう一度答えてくれませんか?
…あなたは躊躇なく人を殺せたはず。殺人という行為自体を楽しむことができた。
一人生き残る自信すらあったんじゃないですか?
今のあなた…やっぱりらしくないんじゃないですか?」
通路の奥から、源五郎の声。もはや、ここまで来たらこちらの行動は筒抜けらしい。
「ふん…」
一度、今の会話を聞いていた詠美と繭の表情を目の端で確認する。
――軍部はあなたを必要としなかった…でも今はあなたを必要としてくれる人がいるじゃない――
いつか聞いた台詞が頭をよぎる。
「源五郎さんよぉ…おめぇ、勘違いしてねぇか?軍人として軍部に従っていた俺が言うのもなんだがよ…」
一度、言葉をとぎる。――その間、源五郎からのレスポンスはなかった。
「俺は、指図されるのが一番嫌ぇなんだよ。
自分の好きなことだけ考えて、自分の好きなように行動して、自分の好きなように生きる。
――それが俺だ」
「踊らされるのは嫌というわけですか」
「ふん、踊ってるのはおめぇじゃねぇのか?」
「……」
源五郎との距離が徐々に縮まっていく。
通路の向こうに、よれた白衣が見え隠れする。
(おめぇらはここにいろ…俺は源五郎とちょっくらやってみてぇ…邪魔にならないようここにいな…)
詠美達を再度手で制しながら、立ち止まる。
興味を持った相手とは一人でやってみたい。千鶴にも止められはしたが、御堂の悪い癖だった。
結局、その衝動は押さえきれなかった。
「御堂、あなたは…いや、お前は今は何の為に動いている?」
最後の問い。
「とりあえずは、だな、気にくわねぇ奴をぶっ倒すってところか?」
「シンプルでいいな、御堂…」
通路の向こう、長瀬源五郎の苦々しく笑う表情が見えた。
「今度は物騒な護衛がいねぇんだな…死ににきたのか?」
カチリ…
デザートイーグルを源五郎の左胸へと向ける。
御堂にとっては絶対にはずさない距離。
「戦闘型HMの片割れはもう破壊されましたよ。坂神をはじめとする参加者達にね。
こんなことならこの施設すべての通路に機関銃でも設置しておくべきだった。
まあ、後の祭り…だけどね」
「本当におめぇ、坂神と互角に戦ったっていうあの男の息子か?いやに弱っちぃじゃねぇか…」
期待はずれの答えに、御堂が顔をしかめる。
「そりゃあねぇ…肉弾戦なんてできませんよ。科学の虫でしたから」
軽く首を竦める。その仕草がひどく小さく見えた。
「このゲーム、最初からお前に手出ししなければ良かったよ。
HMを差し向けたときから、こうなる運命だったのかもしれない。
だけどね…もう私も後には引けないんだよ。後が、ないからね」
スッ…と源五郎の手が白衣の懐にのばされた。
同時に、御堂も動く。
「前にも言ったよな?おめぇを殺るのに躊躇はしねぇってな」
ドンドンドン!!
御堂の銃が三度、火を吹いた。
源五郎が懐から手を出す間もなく、心臓を正確に貫いた――はずだった。
ピッ――
衝撃で体をくの字に折らせながらも、源五郎から赤い光が飛んだ。
「ゲッ…?なんだっ!?」
御堂の体を刺し貫く赤いレーザー光線。
腹から、背中へと突き抜けて、壁を照らした。
源五郎がよろめきながらも御堂を見据える。
「御堂…さては…お前、死んだな!?…クソッ!!」
顔を苦痛に歪めながら、口元から血を滴らせながら、前へと体を滑らせる。
「……!?」
銃弾の命中した衝撃でちぎれた白衣の下から、黒いチョッキが顔を覗かせる。
恐らくは全身タイプの高性能の防弾服。
対する御堂を刺し貫いたレーザー光線は御堂に何の害も及ぼさなかった。
そして、『お前、死んだな!?』という台詞の意味。
御堂の後方で控えていた繭が瞬時に理解した。
(もしかして今のレーザー光線は…体内爆弾を…?)
滑るように前へと進む源五郎の瞳が、繭と詠美、そして動物達の姿をとらえる。
「死ねっ!!」
銀色のレーザー銃を、今唯一の生き残り、繭へと向けた。
その玩具にもみえる銃は、ほとんど重量がないのだろう。
その手に何も持っていないかのように、片手で軽々と彼女の腹へと照準を合わせる。
「ちぃっ……!!」
御堂もまた、そのレーザーの意味を理解した。
刹那、一気に一足飛びで後方へと体を流す。
先の一撃で倒せなかったのは、いわゆる西部劇の抜き撃ちを真似た御堂の失態だった。
――それでも頭を狙っていれば確実に倒せたのだが。
御堂の油断、慢心が呼んだ大失策。
本人は気づいてないが、その過信こそが光岡に、岩切に、そして蝉丸にどうしても実力が及ばない決定的な理由だった。
源五郎を再度撃てば確実に倒せる時間はあった。
だが、それをしてしまえば、先程のレーザーの反応速度から考えて、繭は確実に死ぬ。
以前の御堂であれば、繭を見捨てて、源五郎を殺していたのだろう。
今の御堂は、考えるよりも前に体が動いていた。
「死ね、女!」
「ガキ!悪く思うなよ!!」
ほぼ同時だった。どちらが早いかは常人には判別できないレベル。
ドスッ…
「あっ……」
着地と同時、後方に体を流したそのままの勢いで、繭の腹に渾身の肘打ちを見舞った。
そして、繭を刺し貫くレーザー光線。
赤い光が繭の体を貫通し、通路の奥へと高速で走り抜けた――。
グラッ…
繭は、前のめりに声もなく倒れ――
カラン…
一瞬遅れて、地面を跳ねる金属音。
「キャッ……」
詠美の悲鳴だけが短く響いた。
爆発音は、ない。
「……御堂ぉ〜っ!!」
源五郎が銃の引き金を押しっぱなしのまま腕を下へと滑らせる。
通路を刺し貫いたレーザーが、サーベルのように地面へと突き刺さる。
そして、それは一気に床を転がる爆弾へと向かった。
繭を光が刺し貫いた時から、その間わずか1秒。
御堂は殴りつけた格好から流れるように、倒れゆく繭の制服の襟を引っつかむ。
「詠美!おめぇらもだ!!」
さらに、詠美達を後方へと突き飛ばし、そのまま繭をも投げっ放す。
「にゃっ!?」「ピコッ?」(バッサバッサ?)「きゃあっ!!」
後方に一足飛びしてから、そこまでで一連の動作だった。
「……御堂ぉ〜っ!!」
「詠美!おめぇらもだ!!」
「にゃっ!?」「ピコッ?」(バッサバッサ?)「きゃあっ!!」
その同時に発せられた三者の叫びが終わらない内に、ビームサーベルと化した赤い光が爆弾を真っ二つに切り裂いた。
ドガーーーン!!
爆音。
御堂の体の位置は、爆心地から約3メートル。
小さいながらもそれなりの威力を誇ったその爆風に、きりもみしながら吹き飛ばされる。
「ゲェ〜〜ック!?」
火に強い火戦躰とはいえ、結界の内部では常人のそれとほとんど変わらない。
逃げ遅れた下半身に鋭い痛みを感じる。
カチリ…
爆音に紛れ、何かのスイッチが押される音。
「ぐぅ…!!」
なんとか上手く着地し、態勢を立て直す。
着地の衝撃で、焼けただれた足がジュクリとイヤな音を立てる。
「くそが…」
爆風の向こう、源五郎の姿を見据え――たと同時に、御堂は転進した。
立ちこめる爆煙の向こうに見えたシルエット。それは…
「おのれ、御堂っ…!」
壁に隠されていたスイッチを手の甲で叩きつける。
ウイーン…
青銅色の床が開き、中から黒い物体が飛び出してくる。
源五郎がここで御堂らを待ち構えていた最大の理由。
戦闘型HM達が倒れた今となっては、この施設最大最後の切り札。
「…私はここでもう終わりだ…だが、せめてお前も挽肉にしてやる…!!」
後方にもんどり打つ詠美を半ば無理矢理立たせる。
「ふみゅっ……!!」
「走れっ!!」
それはほぼ絶叫に近い。繭を担ぎ、詠美と動物達を促す。
「……っ!!」
この時ばかりは、機敏にそれに従った。
詠美にとって、御堂の初めて見る焦燥だったから。
詠美が走り出したのを確認してから、御堂もまた走り出す。
全身を痛めつけられ、戦闘力皆無の二人(と三匹)を弾き飛ばした状態では、御堂にも勝ち目はなかった。
今の御堂は、普通の軍人よりもはるかに強いとはいえ、ただの人間であったから。
銃を撃っても、手榴弾を投げても…この態勢からでは、あの武器相手に相打ちに持ち込めればいいほうだろう。
しかも応戦すれば、御堂を含め、こちらは確実に全滅する。
「軍部は滅んだ…それでもお前はのうのうと生きるというのか…
…数多くの人間を殺したお前は私と同じ穴のムジナだ…
お前達だけでも…殺してやる!!」
手塩にかけて育てた娘はもういない。施設も御堂達に攻略寸前まで陥とされてしまった。
もう、長瀬としても存在価値などありはしない。
失うものなど、何もなかった。
「今ここで散れ!御堂っ!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ――
詠美と動物達は、なんとか逃げ切った。
狭い一本道の通路とはいえ、緩やかに曲がった廊下を駆け抜ければ、その銃撃からは逃れられる。
詠美の後を走る御堂は、わずかに逃げ遅れた。
回転式機関砲(ガトリングガン)から放射された弾丸のシャワーが御堂を襲った。
「がっ……」
わずかに逃げ遅れただけとはいえ、無数の弾丸が御堂の背中に、足に突き刺さる。
全身で守るように抱えた繭と、前方へすぼめた御堂の頭にそれが当たらなかったのは奇跡であったかもしれない。
震える手で、懐から手榴弾を二つ取り出すと、ピンを抜いて後方へと放った。
それが勢い良く爆発する。
当たるとは思えない。ただの時間稼ぎだ。
手榴弾の爆音を聞きながら、御堂は駆けた。
「ぐうう…」
もう、ガトリングガンの射程距離からは逃れていたが、未だシャワーが壁を穿つ音が響いている。
感覚のなくなった足で、ただ駆ける。
だが、それは来た道をゆっくりと歩いたときよりも遅い足取りだった。
「……!!」
振り返った詠美が御堂の姿を確認すると、血相を変えて走り寄る。
「ちょ、ちょっとっ…」
御堂の背後に、おびただしい量の血が溢れ、地面に小さな赤い川を作り出す。
「どじっ…たぜ…くそが…」
繭を地面にゆっくりと横たえると、壁へと背中を預ける。もう、痛みなど微塵もなかった。
「し、しっかりしてっ!!おじさん!!」
「けっ……下僕、いや、したぼく扱いはしねぇのか…?」
「そんなことっ…!!ねっ、はやく逃げなきゃっ…!?」
「俺は…くそ、体が言うこと聞きやがらねぇ…」
御堂の体からはすでに大半の血が体外へと流れ出ていた。常人ならば確実に死んでいる出血の量。
仙命樹の力はほとんど失われているとはいえ、わずかに残されたその力が御堂の命をつないでいた。
だが、今この瞬間に結界が解かれるならばともかく、このままではあまり長い間はもたない。
壁に付着した血で滑るのにまかせて、そのままずりずりと座り込む。
「おめぇは…逃げろや。この女と畜生共を連れてな…」
「あんた置いて逃げられるワケないでしょ!?」
詠美の視界が、涙で滲んでいく。
「死ぬぞ…」
「置いていくよりマシよ!昔あったみたいにっ…!!」
釣り橋で、身を挺してまで自分を助けた由宇。
自らの浅はかな行動で、命を落としてしまった和樹と楓。
あの時の自分のとっていた行動がもし違っていたら、未来は変わっていたかもしれない。
だが、それはもう過去にあった確かな現実。流れゆく時が逆行することだけは、けしてない。
「もう、二度と後悔なんてしたくないっ……!!」
「じゃあ…戦うか…?」
かすれた御堂の声とほぼ同時に、ガトリングガンの銃声が止んだ。
「…源之助さんは、恨んでいるのでしょうかね…たった一人、重役を押し付けられて」
ガトリングガンはここから移動させることはできない。
射程距離外へと逃げてしまった御堂にとどめを刺す為の最後の武器であるリボルバー銃を手にすると、
白衣を翻して前へと進む。大量の血が流れるその先へと。
「戦うか…?」
呆けたような口調で、だが、目だけは真剣に詠美を見据えて、そう言った。
ゆっくりと、その意味を噛み締めながら、頷く。
「自分から、現実から逃げて…後悔は、したくないから」
「相手を…殺すっ…てことだぜぇ…」
「…うん」
「しく…じれば…おめぇが死ぬ。…それでも…か?」
「…うん」
「生きて帰れば、死ぬよりもつらいかもしれないぜ…罪を…背負うってなぁ…そういうもんだ…」
「覚悟してる」
「逃げるより…後悔するかも…しれない…未来が…あるかも…」
「それも――覚悟してる」
「……」
「……」
「けっ…おめぇなら、大丈夫だ…戦え。機関銃ではなく、そのぽちでな…」
「うん…」
「俺様を、背負え」
「えっ?」
「はやくしな…もう、ヤツがくるぜ…」
「う、うん…」
戸惑いながらも、御堂を背負う。その体は、悲しいほど軽くて。
「通路の向こうへ、下半身に力を入れて銃を構えろ…」
言われたとおりに、両足で踏ん張りながら両手で銃を構える。
「こ、こう?」
「そうだ…」
震える手で、御堂が詠美の手に自らの手を重ねる。
「一発勝負だ…俺…が照準なら合わせてやる…」
全身防弾服を着込んだ源五郎に、非力な詠美では機関銃は分が悪い。
あえて、小銃での一発に賭けさせた。
本来なら御堂が撃つべきなのかもしれない。
だが、もはや照準を合わせ、防弾チョッキに覆われた源五郎に致命打を与えること、
そして、銃の反動に耐えられる力はない。…引き金を引けるかどうかも怪しい。
「もっと…腰を…落とせ…腕はこう…」
「うん…」
「狙うのは眉間だ…俺が撃て…と言ったら…撃て…覚悟は…」
「できてる」
「そうか…。いいな…撃て…と言ったら…引き金…を引く…だけで…いい…」
「ぴこ…」
「にゃう…」
(ばっさばっさ…)
寂しげに、動物達が御堂のそばを回る。
「離れてな…」
獣を一度見て、力なく、笑った。
「これが私の最後の仕事だな…規則違反な上、任務放棄状態だが…まあ、それもいいだろう」
マザーコンピューター室に残した最後のHMが気がかりではあったが、もう、それらを顧みる時間はない。
「最後まで駄目な親だったな」
リボルバーに弾を込め、シリンダを回す。
源三郎には大分劣るとはいえ、射撃の腕はそこらの戦闘員よりは上だ。
傷ついた御堂相手ならば互角以上に戦える。
「さあ、決着をつけようか、御堂…」
詠美の視界の先、廊下の向こうに、源五郎の影が映った。
震える詠美の手の上に重ねられた御堂の手が心強く感じる。
これが、最後の――そして一瞬の勝負。
【長瀬源五郎 体内爆弾爆破光線銃 スミスアンドウエスン 最後の無記入CD 所持】
【椎名繭 気絶中】
【ガトリングガン 放置 移動、持ち運び不可】
………暑いな
照りつける太陽が私の体を蝕んでいく。
いつもならこんな暑い日は木陰でぼんやりしているところだ。
けれど今の私は太陽に照らされながらただひたすら時が過ぎるのを待っている。
………私なにしてるんだろう?
少し熱でボーっとした頭にそんな考えが浮かんだ。
あの人達の誘いを拒んだのに何故私はここに居るのだろう。
彼らに言った言葉が頭の中で駆け巡る。
−−…みんな…知らないんだよ…仲間なんて…本当は…薄っぺらい関係なんだ−−
そう、仲間なんて薄っぺらいもの。
その証拠にこの島ではみんな殺し合っているじゃないの。
私はどこか壊れてしまったのかもしれない。
あの子が消えてしまったときから。
どこか普通の人間とは違う感じの子で、凄くいい顔で笑う少女だった。
あの目つきの悪い青年に懐いていて、私の目から見ても微笑ましかった。
何故あの子がこの世から消えなければならなかったんだろうか?
それがこの島に来たときからあの子に定められた運命だったんだろうか?
私には分からない。
思えばあの子が消える前までがあの喫茶店で幸せを感じられた唯一の時だった。
秋子といういつも微笑みを絶やさなかった人も、名雪という周りをほのぼのとさせる空気をもった子も、
琴音という優しかった子も今はこの世に居ない。
失ってしまったものはもう2度と戻らない。
だから私はもう何も欲しがらないことにした。
そうすれば何も失わずに済むから。
それなのに私は出会ってしまった。あの騒がしい人達に。
失いたくないと思える人達に。
でも、それは無理なこと。それがこの島で私が学んだこと。
それでも私は待ち続ける。
彼らが戻ってくるのを。
期待などはしていない。期待すれば裏切られるから。
けれど、もし彼らが戻ってきたなら。
もう一度信じてみてもいいのかもしれない。
スッと日が陰る。
空を見上げてみると今まで雲一つなかったそらに雲が出始めている。
一雨来そうね。
そんなことを考えながら私は彼らが消えていった場所を見つめ続けた。
【ぽち 外で待機中】
訂正です
>>339の最後から3行目
「雲一つなかったそらに」→「雲一つなかった空に」
見逃していた………
鼓動。自分のものである筈のそれは、酷く大きく聞こえて。
背中に感じる、感触。それは、ずっと共に居た者。それは、今、まさに、死に絶えんとする者。
………。
これが、彼の最期。そんな事は分かってる。
だからこそ、逃げてはならない。逃げる事は許されない。
その為に――殺すのだ。
不思議と、震えはなかった。今から、人を殺すというのに。何故だろうか?分からない。
でも、分からなくてもいいのかもしれない。それは、分からずとも、"知っている"。
手に被せられる、大きな手。微かに震えている。でも、それは、確かに、心強かった。
最後の一撃を。
……最期の一撃を。
あの男に、叩き込む。
この銃に、思う事は何か。恐らく、あの男を殺せば、もう撃つ事は無い。その筈だ。
だからこそ、今思う。必ず、当てると。
音も。匂いも。空気も。
世界を。そして、自分を。全てを、銃と一つに。
否、彼と一つに。
凄まじいまでの集中力。死と、生を越えた、どこかにある、力。
御堂も傷さえ負っていなければさぞや驚いた事だろう。ゲーック!とでも言っただろうか?
………。
―――。
―――。
長い、長い、一瞬。それが、終わる。
姿を現した。白衣。男の顔。そうだ。狙うは、"それ"だ。
「撃てっ――!」
声。それよりも早く、詠美は、引き金を、
――轟音、二つ。
悲鳴を上げる暇すら無かったろう。血と、脳漿を撒き散らし、倒れるモノ。
放たれた弾丸は、その額に穴を穿ち。肉を破り、骨を砕き、脳を蹂躙し、引き裂き、吹き飛ばす。
朱と白の霧、その中に、倒れ込むは、
長瀬源五郎。
グシャァッ!
何かを叩き付けられる。衝撃に、バランスを崩し、詠美は後ろへ倒れ込んだ。無論、御堂も同じだ。
身体を打ち付ける。痛い。思わず、目を瞑ってしまった程だ。
どこ撃たれたんだろ。頭?って、それなら死んでる……よね。
酷く冷静な思考。頭じゃないなら何処なのか?いや、ひょっとしたらもう当たってて実は死んでるのかも?
まっさか。ゆーれいじゃあるまいし。失笑した。
………。
まだ、痛くない。おかしい。……やっぱ私、ゆーれい……?うぅ、いやいや。
………。
……?
当たってない?
気付く。だが、あの男が外す筈も無いだろう。なら、何に当たったというのだ。
ゆっくりと、ゆっくりと目を開く。
―――。
すぐに、それは分かった。
すぐ目の前。びくん、びくんと身を震わせる、何か。
目は虚ろ。生きているのか、死んでいるのかすら分からない。
それは――犬。ポテト、だ。
胴の真ん中。紅い、紅い穴。未だ、血を吹き出し続けるそれは、紛れもなく。
――そう。彼は、身を呈して。彼女を救ったのだ――。
――へへ。
彼は笑う。
へへ。へへへへ。
笑う。心の中でか。それとも、ちゃんと笑ってるのか?そんな事、知ったこっちゃねぇ。
女の顔が見えた。ぽかん、と気の抜けたような顔してやがる。ま、無理もないか。
ああ、痛ぇ。何やってんだろうな、俺。
気が付いたら、飛んでた。犬をナメたらいけねぇ。男の銃が、女の眉間を貫く事など、すぐに分かった。
あとは……このザマだ。くそ、痛ぇ。……なんか痛くもなくなってきてるな。
あぁ、逝っちまうのか、俺。人間の為に命張っちまって、それで死んじまうのか?やれやれだぜ!
………。
……ああ、女が、泣いてる。泣くんじゃねぇよ。せっかく助けてやったのによ。ったく。
あ、見えなくなった。なんかもう痛くもねぇな。とうとうオシマイか?
………。
抱き、上げられてるのか。血が付くってのに、よ。お構いなしかよ。
――でも、暖けぇ――な。
――ああ。こんな、死に方も――悪くねぇ、かも、なぁ――。
「その、獣が、おめぇを庇ったってぇのか」
「……うん」
静かな、通路。その中に、一つ、啜り泣く声。
「……けっ。たかが獣が、大したこと、しやがるじゃねぇか」
笑う。笑えば、笑う程に口から血は吹き出して。もはや笑う事すらままならない。
……それでもいい。死ぬのは分かってる。
顔。顔。記憶の中に埋もれたそれが、走馬燈のようにぐるぐると回る。いや、事実走馬燈か。
蝉丸――ああ、結局勝ち逃げされんのか。けっ。
……まぁ、しょうがねぇ、か。……地獄になんか来んじゃねぇぞ。来たら撃ち落とす。分かったか。
――ああ、あゆっつったか?あのガキか。泣いてやがる。おめぇ、頭の中でまで泣いてんじゃねぇ。ガキが。
くそ、そういやあいつのせいでこんな事になっちまったのか。呪うか?
………。けっ、面倒くせぇ……止めだ。
ぐるぐる。ぐるぐると回る。くそ、こんな所で死ぬなんて、よ。
――生きたかった。だから、何よりも、まずは生き残ろうとした。
最初の頃は――その為には、他人を蹴落とすつもりですらあった。――それなのに。
今じゃ、死ぬ前に笑おうってんだからなぁ……。けっ。腑抜けてやがる。
とりあえず、そう、ぼやく。だが、心の何処かで――それでもいいと。そう思っているのである。
自分は、変わったのだろうか?
白衣の男も言った。らしくない、と。
それに対して自分は言った。踊らされるのは、嫌だと。
……自分は、自ら、これを望んだというのだろうか。本当に、これを望んでいたのか。
これが。これが、本当の、俺なのか……?
詠美は未だ、泣き続けている。
「……泣いてん、じゃねぇぞ」
細く、細く。声は、虚ろに響く。
それでも詠美は、泣くのを止めた。そう、それでいい。
「泣いてたら、おめぇらしく、ねぇ、からな」
「―――」
「笑って――笑って、バカやってろ。そうじゃねぇ、と、おめぇらしく――」
がふっ。
血が舞った。吐き出された血が、死が近い事を示していた。もう、これまでか。
いや、もはや、目の前すら暗くなりつつあった。瞳孔散大。そうじゃなくても死が近ぇってことかぁ?くそったれ。
「……ぁっ」
何を言っているのか?いや、そもそも、何か言ったのか?それとも自分が聞こえてないのか。
「―――」
自分も何かを返す。いや、返した、筈だ。そんな事は知らない。本当なら、聞こえてはいない筈なのだから……。
目も。耳も。もはや全てが死に絶えようとしている。
それでも、口だけが動いていれば。少なくとも、それなら、あのバカは……寂しがらねぇだろう。
――そして、もはやそれすらも、動かなくなって。
……最期に、思った。らしくねぇな……と。
確かにそうだ。だが、それでも、
――満足だった。
【残り22人】
346 :
彗夜:2001/07/11(水) 15:40
書きました。
出来れば、荒れないでほしいと願う。
――それは北川が出発してからすぐの事だった――。
「北川さん、行っちゃったね。」
「……。」
「私達もそろそろ荷物まとめて出発しないとね。」
「……(こくこく)。」
私達は荷物を整理していた。使えるもの、使えないものの仕分け。弾数の確認。
女の子二人では持っていける量も限られるので必要のなさそうな物や、
私達では使えなさそうな物はここに埋めていくことにした。
そして分別がおわり出発しようとしたときスフィーがついにアレを見つけた。
「あれ……このキノコたしか……。」
「……。」
「え、このキノコがどうかしたかって?このキノコはね……。」
――私の国で実験用に昔作られたキノコにそっくりなの。この見た目といい独特の香りといい。
――このキノコは性格反転キノコっていって、私のご先祖様でとっても内気な人がいて、
――その内気な性格を直すために作ったの。
――その内気な性格を直すために作ったの――
――その内気な性格を直すために作ったの――
――その内気な性格を直すために作ったの――
頭の中で何度も繰り返される言葉。
自分の意志を周りに伝えることが出来るようになるキノコ。
綾香も浩平も居ない今、私にどうしても必要な物。
だから私は次の言葉を聞き終わる前にキノコの一つに噛み付いていた。
――その内気な女王様はね確かに内気な部分は治ったんだけど、
――思慮深い部分まで反転してしまったの。
【芹香ついに反転だけを食べる】
【残りキノコは2つ】
NG覚悟の初投降です。
どうか温かい眼で見てやってください。
訂正です。
浩平→浩之
後
題名を「焦り過ぎた故に…」にしてください。
現在の芹香たちの装備は
参加者名簿、出刃包丁、アサルトライフル、ジッポオイル入り水風船
デザートイーグル、消毒液、包帯、虫除けスプレー 、キノコ2つ
です。
「人数は減ってしまったが、今後のことを決める大事な会議だ。
俺達だけでも先に進めるぞ?」
蝉丸は確認するように言い、部屋の中を見回した。
――現在部屋に残っているのは耕一、初音、マナ、そしてあとは妙なお面だけだ――
「(TдT)妙なお面なんてひどいよ、蝉丸ぅ〜!!」
――つい呟いていたらしい――
「すまん」
「(´д`)月代って呼んでよぉ〜」
「……すまん、月代」
「(;´д`)ハァハァ、蝉丸、もう一回、もう一回呼んでぇ〜」
調子に乗ってすがりついてくる月代に、蝉丸は軽く当て身を加え、『それ』を
静かにした。
「不憫だ。本当はこのお面の呪いも、早々に解いてやりたいのだがな……」
蝉丸と月代に怪訝な視線を向けた3人に、言い聞かせるように呟く。
それでその場は収まった。
蝉丸は場が静まるまでの、ほんのしばらくの間だけ、この場にいない人物の
ことを思い浮かべていた。
――葉子は隣室に寝かせてある。彼女の寝ている部屋は窓のないものを選んだ。
外敵の進入は難しい。だから、俺たちは彼女のことを考えるよりも、今は冷静
に会議を続けるべき時間だ。……それにしても――
一同がこの建物の中でも一番広い部屋に陣取っていることもあるのだろうが、
幾人か――晴香、留美、彰達のことだ――が席を外した今、室内は随分と寂しげ
な印象に変わってしまったな、と蝉丸は思った。
――しかし、それもしばしのこと。また元の、いやそれ以上の人数になる……――
「負傷者の傷が癒えるまで、もうしばらく施設の攻略は先送りにしようと思う。
脱出の鍵はあそこ以外にもあるかもしれない。ほぼ確実に危険が待っている、
あの施設の攻略以外で、何か俺たちが出来ることをしよう。そして、潜水艦
のことはあの二人と、先行している例の少年、さらにそれを追っていった、
郁美という名の少女に任せたい。心苦しい選択だが、今は出来るだけ多くの
可能性を模索しなくてはならない時なのだから」
そこで蝉丸は言葉を切った。
皆に先を促され、蝉丸は話を続けた。
「さて、さっき話しかけていた、脱出の規模のことだ。実際、今もって殺る気の
ある 人間がどれだけいるのかと言うことの方が問題だと思うんだ。だが、
俺達が、 今まで 遭遇したやる気のある人間は、もう、全てこの世の者では
なくなっている……」
蝉丸はそこで軽く目を瞑り、うつむいた。
今まで出会い、別れてきた人間のことを思い出しているのかのように。
それを見て、皆はそれぞれの過去を振り返るような表情になる。
今まで、どれだけの人間と逢い、そして死に向き合ってきたのだろう。
単純には言い表せない、出来事。
――きよみ……――
蝉丸は最後に、きよみの姿を思い浮かべた。
――一度は失われたと思っていた、そして、今度こそ完全に失われた、己の、
思い人……。皆に正しき道を生きるよう身を呈して主張した彼女、きよみ。
その思いを、死なせはしない……――
蝉丸はゆっくりと口を開いた。
「結局、脱出までに残っている障害は少ないと思う。潜水艦さえ見つかれば、
それで往復することも考えられるし、今は仲間を集めることこそが、一番
大事な、俺達のできることなのではないかと考える。そのために、俺は……。
俺は、島内全土に行き渡るような呼びかけを行いたい。皆もあの命を賭した
放送は聞いただろう。あれが可能な施設を見つけて、皆に呼びかけたいんだ。
殺し合いはもうお仕舞いだ。一緒に脱出のてだてを講じよう、と……。
悪くない着想だと思わないか?」
蝉丸の意見に、皆は首を縦に振った。
「そうよ、そうよね。もう、こんな殺し合いなんて続けさせられない。私は蝉丸
さんの意見に賛成できる。でも、蝉丸さん。また爆弾を起動させられたら……」
心配そうにマナは問いかけ、蝉丸はそれに余裕を持って答えた。
「あれはあの高槻とか言う男の独断だったはずだ。それに彰くんの言葉を信じる
ならば起爆装置は彼の手によって破壊されている。だから、今回は管理者側が
介入出来る余地はないはずなんだ。それに、もしものことがあったとしても、
犠牲になるのは俺だけだ。損失は少ない。 もし、万が一のことがあったなら。
……そうだな、それを皆に知らせるために……」
そういいながら蝉丸は、そばにくずおれている月代を見やる。
「月代を連れていく。耕一君達にはここを守っていて欲しい。皆が、再び集まる
ための、この場所をだ」
耕一は何か異論を挟みたかったようだが、蝉丸の言葉に口をつぐんだ。
マナは、自分もついていきたいのかやはり得心のいっていない様子だったが、
「マナ君には看病の続きをお願いしたいんだ」
蝉丸にそう言われると断れなかった。
「分かったわ。そこの半端病人を含めて、きっちり治療して待ってるから!」
そういって、耕一を指さすマナ。
「みんなで、誰一人欠けずに待ってるから、あんたも、早く仲間を集めて帰って
きなさいよ!?」
「……うむ」
所在なげな耕一をよそに、頷く蝉丸。
「では、荷物をまとめてくる……」
「おい、ちょっと、俺の意志は!?」
今度こそ不当な扱いを受けたという風に、耕一は抗議の声を挙げた。
「半病人は大人しくしてなさい!!」
マナの伝家の宝刀、すねキックが耕一に炸裂する!!
「いってぇー!!」
「大人しくしてないからよ!」
半ば無理矢理に元気良く叫んで、腰に手をやるマナ。
「遅くても、夜には帰りたいと思ってる……」
蝉丸は月代を担いで部屋を出ていった。
マナは腕を腰にやった姿勢をそのままに、室内へ視線を走らせた。
視界にはいるのは……。
がらんとした部屋。
すねを抱える耕一。
……そして、うつむいたままの初音。
「まずはこの子を何とかしてあげなきゃね……」
軽く耕一に向けて呟くマナ。
「へっ?」
すねを襲う激痛に耐えていた耕一には、マナの言葉は届かなかった。
「ちょっと聞いてんの!? 貴方初音ちゃんのお兄さんでしょうがっ」
「ウゲェッ!?」
再びすねを抱えながらうめく、奇妙な服装の耕一がそこにいた。
――……今年の耕一は厄年か?――
「俺って、こんなキャラだったっけ……? それにこのままだと、帰ってきた時
よりも、ひどいことに……」
――私だって、こんなキャラじゃないわよ!!――
「男だったらぐだぐだ言わないの!! また蹴るわよ? そもそも、その変態
みたいな格好何とかしなさいよ!!」
――彰お兄ちゃん……。どうか無事で……。無事に帰ってきて……――
三者三様の室内。
太陽は、今しも中天に差し掛かろうとしていた。
【晴香、七瀬(漢):市街地を後にし現在は北川と遭遇中。
七瀬(男) :祐介と美汐を探したつもりになり、市街地への帰路に就く。
蝉丸、『それ』 :荷物は未選択だがまとめ次第出発予定。蝉丸完調まで僅か?
耕一、マナ、初音:市街地残留。すね以外は耕一ももうすぐ本調子?
葉子 :市街地残留。隣室で療養中
────残り22人】
『正しい脱出のススメ修正版』です。これで問題のある描写は治っていると思います。
彗夜さん並びにその他のスレ住人の方々、ご迷惑をおかけしました。
「すまない、郁未」
私、天沢郁未の意識を繋ぎ止めたのはあいつのその言葉だった。
そして、その言葉と同時に、私の中で何かが膨れ上がる。
それは、憎悪、恐怖、絶望、戦慄、怒り、悪意、狂乱、殺意、黒いもの、熱く滾るもの。
――――――― 不可視の力。
まずい、これはまずい。
私の怪我なんてどうでもいい。
本能が鳴らすこの警鐘に比べたらどうでもいい。
ライフルを持った男なんてどうでもいい。
目の前の、確かに私が好きな人が放つ、この畏怖感に比べたらどうでもいい。
気がつけば、あの銀髪の男が私を抱えていた。
―――――――なんできたの!馬鹿!!
そう叫ぼうとして、でも私は震えるだけだ。
男、往人の方も聞く耳はないらしい。なんとか林の中へ離脱しようとする。
でも、それは甘い。あれはそんなことを見逃さない。
音も立てずあいつは恐るべきスピードで私達の後ろに回ると、その手が鋭い風きり音とともに振り回される。
「がっ!?」
「はうっ!?」
私と往人はその一撃を受けて別々の方向へ弾き飛ばされる。べネリが転がる。
恐るべき一撃だった。間違いなく不可視の力が込められいた一撃だった。
本来なら私達はその一撃で肉塊に変えられてだろう。
そうならなかった理由はただ一つ。
私が、不可視の力でガードしたからだ。
「…何やってんだよ!?あんた!!」
かろうじて意識をつないだらしい往人が叫ぶ。
「俺は、あんたらを助けようと…」
だが、そこで往人は口をつぐんだ。
気づいたのだ。もはや少年がそんな言葉の通じないところにいる事に。
おそらくは、そのことはライフルの男の方も本能で気づいていたのだろう。
だがライフルの男葉、本能よりも理性のほうを優先させた。
「・・・動くな・・・」
私の頭に銃口を突きつけ少年に警告する。
普通の状況ならば、確かにそれは最善の行動だ。
だが、今の状況はまさしく異常。
人の理性で対処できる範疇にはない。
少年は男にのことを歯牙にもかけず、つぶやいている。
「…消えて…いく…」
うつろな声でつぶやきながらこちらに手を伸ばす。
「僕が…消えて…いく…呑まれていく…」
ぶおん、という耳障りな音が次第に大きくなっていく。
こちらに向けた少年の手のひらにの上の塊が次第に大きくなっていく。
それは力の塊。私にしか見えない不可視の力。
それは、視覚以外の何かで男にも感じる事が出来たらしい。
「グッ・・・」
その表情はひとつの疑問をうかべていた。
それは私の持つ疑問と同じもの。
なぜ、少年は力が使える?
なぜ、私は力が使える?
この島にきてから感じていた抑止力は、結界は、今も確かにあるというのに。
呼応している。私の中の何かが少年に呼応している。
かつて少年が私に教えてくれた事。
不可視の力は少年と性行為をする事で、対象者の中に少年の分身が植え付けられる事で、授けられるという事。
だからなのだろうか?だから、私も少年の影響を受けて・・・
「なくなってしまう…僕が…」
分からない。もう、なにも分からない。
ただ、はっきりとした喪失間が私を満たしていく。
大切な人が目の前で消えようとしている、そういう確信が私を満たしていく。
はっきりとした恐怖が私を満たしていく。
化け物が目の前で私を殺そうとしている、そういう確信が私を満たしていく。
相反する感情が私を満たして、あふれようとして。
私はもうパニックを起こすしかなくて。
「銃を置いてください!撃ちますよ!!」
いつのまにか、観鈴がべネリを構えてライフルの男の頭に突きつけていた。
「わ、私、本気ですよ!!」観鈴が叫ぶ
「馬鹿!!観鈴、逃げろ!!」往人が叫ぶ。
「何やっとんねん、速くこっちへ!!」晴子が叫ぶ。
「・・・」突きつけられたベネリにも注意を払わず男がうめく。
「うあああああああっっ!!」私が叫ぶ。
叫んで、コントロールもおぼつかない不可視の力でシールドをはろうとする。
その中で少年のうつろな呟きだけがやけにはっきりと聞こえた。
「…呑まれていく…神奈に…」
そして、力が放たれた。
すさまじい爆音があたりを轟かし、
私のからだを衝撃がおそい、
薄れていく意識の中で、
「助けて…イ・・・ク・・・ミ…」
そんな声が聞こえたようなきがした。
…闇の中、私は夢を見る。
それは、私の夢じゃない。
夢なのにそれは、はっきりと分かっていた。
それは、少年の記憶、私の中の少年が見せる夢だ。
「成功だ!」
その声ともに数人の白衣の男達が歓声を上げる。
その胸にはFARGOのロゴがついている。
「ようやく、力の結晶化が達成したな…」
それは計画。FARGOが空に浮かぶ少女、呪われた少女、意識を持つ闇を纏う少女を発見した時から始まっていた計画だった。
「やれやれ、あの茶番劇にも意味はあった訳だ」
一つの島に集められた人々。殺し合いを強要される人々。
彼らは贄だ。
空に浮かぶ呪いは、更なる呪詛を求める。
それは、悪意、絶望、恐怖、殺意、怨恨。それが求める呪詛。
殺し合いが進むうちに生まれる贄達の呪詛は、空に浮かぶ呪いに更なる力を与える。
そうして、FARGOはその力を掠め取る。掠め取って結晶化させたのが…
「しかし、これに擬態と偽装人格など必要なのかな?」
「擬態は必要だろう。正視に耐えんよ。この姿は」
「偽装人格も必要ではあるさ。力の植え付けには被験者との性行為が必要だからな」
それが、少年だった。
さわやかな風が私の頬なで、草の匂いが私の鼻腔をくすぐる。
「う…ん」
「やぁ、ようやくめがさめたようだね」
覚醒した私の耳に、少年のいつもの穏やかな声が届く。
私は、ゆっくりと目を開け、周りを見ようとして立ち上がろうとして、崩れ落ちた。
「ああ、まだ動かないほうがいいよ。結界内で力を使った反動がきてしまっているしね。大体、郁未の受けた傷は決して浅いものじゃないんだ。手当てはしておいたけどね」
言われて私は、肩を、足を見る。確かに手当てがなされていた。
「ありが…と」
そういって私はゆっくりと首を回す。
側には二人の人間が倒れていた。栗毛色の髪の少女、観鈴と、ライフルを持った男だ。
二人とも草の中で眠っている。
「…なんで、草原なの?ここ」
確か、林の近くにいたはずよね。
「ああ。」少年は苦笑した。
「結界内で無理に力を使っちゃったからね。しかもろくにコントロールも出来ていない二人が力をぶつけ合っちゃった訳だから力が暴走しちゃってね。島の中のどこかに転移しちゃったらしい。僕ら4人だけ」
「へぇ…大変だったんだね」
けだるく私は返事した。
「何だよ、もっと驚くことなんじゃないかい?」
「だって、どうでもいいもん。」
私、知ってしまったんだもん。
何もかも知ってしまったんだもん。
その声は変わらず穏やかなままなのに、その表情は変わらずひょうひょうとしたままなのに。
私が心から大切に思っていた人はもういないって事を。
「あなたが、ジョーカーだって事を、知ってしまったんだもん」
そっと、草原に風が吹き抜ける。
「…そうか、知っちゃったか。」
少年は変わらない調子で続けた。
「君は僕の継嗣だからね。意識がつながってしまったようだね」
「…いつからそんな風になっちゃたの?」
「君と会うちょっと前ぐらいからかな、姫君と意識が交わりはじめたのはね」
「もっとも僕、いや僕という偽装人格はそれを自覚していなかったけどね。姫君の事は忘れるように偽装人格は施されていたから。実際おかしな話だったんだ。僕だけが結界内で他の人よりも力を使えていたんだからね」
「なんで、そんなことになっちゃたの?」
「長瀬たちの不注意のせいさ。どういう事情があったか知らないが姫君をその力を封じてある社から別の社へ移動したらしい」
「…社?」
「そう、姫君の力を結界という抑止力のみに使うようにするためのものさ。
もちろん、移動中も結界の効力が続くように、何らかの法術は用いていていたらしい。
結界がなくなってしまったらこの大会そのものが成り立たないからね。
ただ、その間にわずかながら姫君の封印が弱くなってね。僕と意識をつなぐことに成功したんだ。だが、意識が融和するさいにFARGOに施されていた偽装人格が邪魔になってしまった。
そのせいで、僕の力が暴走してしまったんだ」
「そして、側にいた私もその影響を受けてしまったわけだ?」
「そういうことになるね。影響を受けたのは多分側にいた君だけだろう。
結界内で暴走した力二つが激突すればただで済むはずが無い。
転移程度で済んだのは幸運だよ」
私は手のひらを見て、そこに意識を集中させた。
「・・・今はもう力はつかえないわね」
「姫君が再び別の社に封じられてしまったからね
もう不可視の力を使うことはできない。」
私は寝転んだまま腕を顔の前に持ってきて表情を隠すと、さらに尋ねた。
「あなたは、もう、いないの?」
「偽装人格の話をしているのなら、もういない。本来僕らには我という考えはないんだ。結局僕らは姫君の分身だからね。FARGOのもうけた偽装人格は先程、姫君の意識に飲まれて消えてなくなったよ。もちろん便宜上、独自の思考能力と、偽装人格が持っていた記憶は残っているけどね」
「…悲しく、ないの?」
「そういう主体性は、僕にはないね。まあ、本来ならあるべき形に戻れたのだから安心すべきなんだろうけど」
「これからどうするの?」
「うん?もちろん姫君の望むとおりこの大会を進行させてもらうよ。確かにこれは贄としては最上のものだからね、ただ…」
わずかに、少年の瞳が鋭くなる。
「今回は、今までとは様子が違うな…。人外の力の持ち主が多すぎる。管理もあまりに杜撰だ。前回の大会で弱体化したFARGOではなく長瀬一族が主催しているというのが気になるな…何を考えているんだろうね?」
少年は肩を竦めた。
「結局、偽装人格には感謝すべきだろうね。僕と姫君とのつながりを隠す、いいカモフラージュになってくれた。
FARGOとの関係は確かに蜜月のものだったけど、長瀬一族はまた別の意図をもっているようだ。
彼らの真意は確認する必要があるね」
「…なぜ、私を殺さないの?」
それが、最後の質問だった。
「…想像はついているだろう?」
「確認したいのよ。もう、甘い期待はしたくない」
「そうか」少年はうなずいた。
「君は、僕の継嗣だ。僕とつながっている。即ち、君たちは姫君とつながっている。姫君の分身が君たちの中にある」
「いつか私達も、あなたのように意識を侵食されるというわけ?」
「そういう事になるね。君たちには僕とちがって我がある。変化は僕よりは緩慢だろう。けれど、姫君の意識はいずれ君の我を飲み込むだろう」
なんで、そんなことが平気で言えるのよ。
さっきまで。ほんのさっきまで、私達恋人だったのに。
私、こんなに悲しいんだよ。張り裂けそうなんだよ。
なのに、なぜ笑っていられるの?あなたは。
そして、なぜ私は。壊れないの?
「一つだけいっておくわ。」
私はかすれた声で言う。
「あなたが、偽装と呼ぶあなたは。姫君とかいうやつが殺したあなたは。本物だった。本物だったのよ。
あなたは本気で怒ってた。私と同じ名前の少女が殺された事に本気で怒っていた。
あなたは本気で心配してくれてた。私の事本気で心配してくれてた。
あなたは本気で悲しんでいた。この島で殺し合いがおきている事を本気で悲しんでいた。
あなたは本気で照れていた。私のいたずらに本気で照れていた。
あなたは本気でわびていた。私に本気ですまないっていっていた。
あなたは本気でおびえていた。消える事におびえていた。私に助けを求めていた。
だから私は」
それは誓い。お母さんの時には果たせなかった誓い。
「あなたを助けるわ。それができないなら。あなたを殺してあげる」
少年は、しばらく私を見て。
「そうだね。君ならそう言うだろうと、思っていた。強いよ、確かに君は」
そうだろうか。
こんなに悲しいのに、それでも壊れる事ができないって言うのは、
とても、絶望的な事じゃないだろうか。
「こいつの荷物と、僕の荷物はおいていこう。僕には儀典があれば充分だろう」
少年は男を担ぎ上げると一度もこちらを見ないで立ち去っていった。
私も、少年の方を見なかった。
ないていた。涙を止める事ができなかった。
どうして、どうしてなんだろう。
どうして、私の大切な人は、私を裏切るんだろう。
初恋の人も、お母さんも、少年も。
わたし、あいしかたをまちがえているのかなぁ…
【少年気絶したフランク拉致。装備は儀典のみ】
【天沢郁未、神尾美鈴、草原に転移】
【郁未、ベネリM3、G3A3アサルトライフル等フランクの荷物
神尾美鈴の荷物、少年の荷物、自分の荷物所持】
【不可視の力は使用不可】
【結界は依然として維持】
【郁未の意識侵食開始】
【国崎往人、神尾晴子の状況は次の書き手に依存】
本スレのほうに書き込ませていただきました。
感想スレで指摘された問題点は訂正できていると思います。
少年はしんだ方がいい等の意見がありましたが、
矛盾点、ルールの抵触等の問題がない限りは
自分の一番面白いと思う形を残したかったので、この形であげました。
無視した形になってしまい申し訳ありません。
レスのほう下さった方ありがとうございます。
それと訂正点です。【5/8】が【4/8】になっています。
すいません。っていうか長文スマソ。
111氏ですか?
>>365 ワラタ ネタは感想スレだけにしようぜ。
態度が違いすぎるよ、彼と111氏では。仮にここまで異なるのが偽装なら、
それはそれで通すべきだ。
「ほら、居候。起きんかい」
……がつん、という音と激痛に往人は目を覚ました。
頭をさすりながら身体を起こす。
と、目の前には一升瓶を抱えた晴子の姿。
「ほれ、飲もか」
晴子は、にんまりと一升瓶を差し出す。
「……殴ったか? それで」
笑顔の晴子とは対照的に、明らかに不機嫌な往人の顔。
「よっしゃ、やっぱ男は酒ぐらい飲めんななぁ」
その視線を無視し、晴子は意気揚々とコップになみなみと酒を注ぐ。
「殴ったか?」
「ほい、あんたの分や」
やはり無視して、ずいっとコップを往人の方に突き出す。
「……」
往人は観念し、渋々そのコップを受け取る。
もはや、ここまで来たらどうにもならない。
「さあ、飲むで〜」
上機嫌な晴子に、往人は取り敢えず尋ねる。
「……で、あんたのコップは?」
「これや」
と、持っていた一升瓶を掲げた。予想通りの回答だった。
「というわけで……乾杯〜」
ごちん、と鈍い音と共にコップと一升瓶が触れ合う。
それは、遠い夏の日の夜。
――国崎往人が、神尾家で迎えたあの夏の夜。
――ちちち……と、外から聞こえてくる虫の音が心地よい。
「全く。神様ってのも残酷やなぁ。そうは思わんか?」
どん、っと畳に一升瓶を叩き置きながら晴子は往人に言う。
その口からは、アタリメの足が顔を出していた。
「神様?」
「そや」
ぐびぐびとラッパ呑みしながら、晴子は頷く。
「普通、神様ってのは皆を幸せにするためにいるもんや。そうやろ?」
「会ったことないからわからない」
ちびちびとコップの中身を呷りながらも、冷静に受け答えする往人。
「おるで、ここに女神様が!」
びし、と自分を指差す晴子。
「……あんた、もう酔ってるだろ」
――扇風機から流れてくる、ぬるめの風が気持ちいい。
「まあ、うちは結構ヒドいことやってるし、
神様のご加護〜ってのはないのかもしれんけどな」
手掴みにしたピーナツを頬張りながら、往人は返す。
「どうした? いつものあんたらしくないな」
「こんなことになってしまったからなぁ、愚痴りたくもなるわ」
そしてまたラッパ呑み。
「こんなこと?」
往人は鸚鵡返しに繰り返す。そう、繰り返してしまった。
――それが、終わりの始まり。
「なんや、もう酔ってしまったんか?」
「いや、そのつもりはないが……」
空になったコップに、晴子は持っていた一升瓶の口をつけて、とくとくと注ぐ。
「ほれ、だったら飲み」
「……ああ」
突如訪れる沈黙。何時の間にか、外の虫の声も聞こえなくなっていた。
何故だろう? 酷く肩が痛い。どこも怪我をしていないのに。
「神様は残酷やなぁ……」
そして再び呟く、その言葉。
「あんな良い子が、どうしてこんな目にあわんなあかんのやろ」
「……観鈴のことか?」
そういえば、観鈴は……どうした?
「なぁ、観鈴はどこにいるんだ。寝てるのか?」
「いいや」
晴子は空になった一升瓶を置くと、
無理して笑おうとするような、そんな表情で往人に言った。
「――」
――そして、夏の夜は終わり。
「なぁ、居候」
「断る」
鮮やかな速攻。息を吐かせる暇もない程のカウンターだった。
「なぁ、居候〜」
「断る」
今度は艶のある声で攻めてみたが、やはり効果はなかった。
「せめて、内容ぐらいは聞き」
「あんた、やっぱり酔ってるだろ?」
晴子は笑う。
「当たり前や。なんで、こんな目に会わなあかん? 答えてみ。……答えてみいって!」
「晴子……」
「おっと。すまんな、居候。堪忍や。……さて、お願いの内容やが」
そこで晴子は背を向け、神尾家の居間は闇に染まる。
「観鈴に、ウチはええ母親だったか……聞いておいてくれんか」
つまり、それは。
「やっぱ、神様は残酷やわ。だって――」
――肩が、痛い。どこも怪我なんかしていなくて、
ここは。穏やかなあの夏の日の夜なのに。だったはず、なのに。
激痛に頭をぶん殴られたような形で意識を取り戻した往人は、吐き気を堪えながら身体を起こす。
いや、見回そうとしたのだが、往人はその有様に思わず顔を歪めてしまった。
――景色が、最後に見たものと変っていた。
「いったい……何が……」
そして、視線の端に何かを捕らえる。
往人は立ち上がろうとして――よろめく。 なんてこった。腕の感覚は無いし、まるで身体が鉛のように重い。
見れば、あちこちには恐らく自分のものと思われる血がこびりついている。
そして、ようやく思い出す。先程の爆発、それに巻き込まれたらしい。
運が良かったのか、それとも思う以上にタフなのかはわからないが、とにかく――生きている。
それなら、行かないといけない。
荒れる息をだましだまし、ゆっくりと彼女の方へ歩み寄った。
そこにいたのは、神尾晴子だった。
往人はなんとなく、そんな気はしていた。
彼女も先程の爆発に巻き込まれたのだろう。うつぶせで倒れており、見える傷が痛々しい。
「おい、晴子。しっかりしろ」
なんとか大きな声をだそうとするのだが、傷が痛んでなかなか上手くいかない。
それに、晴子はぴくりとも反応しない。――気絶したままなのか? それとも……。
その考えを振り払い、もう一度声をかける。だが、晴子は何も応えない。
もう一度。往人は擦れた声で、搾り出すように言った。
「……おい。頼むから……」
往人はまだ動く左手で晴子の腕を掴むと、取り敢えず仰向けにさせようと力を込めて引っ張りあげる。
ずるり。
やけに生々しい音と共に――晴子の身体から、掴んだ腕が抜けた。
何が起きたのか理解できずに往人はただ呆然と腕を握ったままで動かずに
視線はせわしなくその腕と地面の晴子を行ったり来たりを繰り返し
何を言おうにもまるで金魚のように口をぱくぱくとさせたままで語れず
ただじっとその場に腕を握りしめたまま立ち竦んでふと我に返り――そして。
神様は残酷だ。
――愛していた娘。その傍で看取られて死ぬことすら叶えてくれない。
探し回った。それでも、見つからなかった。
神尾観鈴はいなかった。それでも往人は辺りをぐるぐると回り探し回る。
それらしい物体を見つけては、確認し、ほっとする。
それの繰り返し。
痛い。
身体だけでなく、心が――悲鳴を上げている。
初めて、近しい人の死を目の当たりにしてしまった。
こうならないよう、願っていたのに。
俺の知らないところでいなくなってしまった、みちるたち。
そうならないよう、守ろうと誓ったのに。
どうして、こんなことになったのか?
自問自答しては、浮かぶ罪悪感と後悔に押しつぶされそうになる。
それでも、観鈴は見つからない。
諦めきれなかったが、ひとまず晴子を弔おうと思い――そして握力が無いことに気づく。
さっきまでは晴子の腕を握りしめることも出来ていたのに。今は、土すら掘ることも出来ない。
しかも、気を抜くとこちらの方が倒れてしまいそうだ。
「おいおい――なんだよ、これは」
思わず、声が出る。新手のギャグか?
だとしたら、酷く――ひどく、笑えない。
晴子の言ったとおり。神様は残酷だ。
――弔ってやろうと思っても。それすら許してくれない。
「すまない、晴子。だが、あんたの頼みは聞いたから」
往人は、何も出来ない目の前の死体にそっと呟く。
決めたこと。
観鈴を探すこと。
ぼくは――いや、俺は。生きている限り、彼女を探すことを決めた。
彼女がしんでいるのかいきているのかはわからない。
でも、目的が欲しかった。自分の命を繋ぎとめるだけの意味が。
このゲームの主催者を倒す。このゲームに乗っているヤツらを倒す。
そう決めて行動していたが、もうだめだ。
銃は握れない。もう、俺は相手を攻撃する術が無い。
神尾観鈴と神尾晴子。この二人を守り抜こうと決めた。
だが、これももうだめだ。
観鈴はここにはいないし、晴子は――。
だがら、観鈴を探すことに決めた。
幸い、まだ歩くことが出来る。目も見える。耳も聞こえる。声もなんとか出せる。
観鈴を探すことは出来るはずだ。
後、どのぐらい持つのかわからない。
このまま倒れてしまったらどんなに楽だろう。
だが、晴子と約束してしまった。
晴子のため、そして自分のために。俺は観鈴を探す。
だから、神様。もし、アンタがいるというのなら。
――せめて、遺言ぐらい……言う時間を与えてくれ。
【023 神尾 晴子 死亡】
【残り21人】
なんでだろう。
なんでワタシはこんなとろにいるんだろう。
助けて助けてたすけてたすけてタスケテタスケテ
ここは怖い怖いこわいこわいコワイコワイ
なにがなんだかわからなかった。
難しいことは考えられない。
いっぱい人が血を流していた。
「ひぐっ。ううっ。ううっ………」
ただ涙だけが出てくる。
「がお。がお。がおがお」
強くなりたかった。
いや、強いココロが欲しかった。
恐竜さんみたいな強いココロ。
なにかあっても泣かないんだよ。でね。みんなと。お母さんと、
往人さんと、みんなでいっしょに遊んで、ご飯食べて、楽しい事
いっぱいいっぱいするの。
往人さんがおもしろい人形劇して。私がそれを絵日記に書いて、
お母さんに誉めてもらうの。そしてワタシはにははって笑って、
そして、そして・・・。
「がお・がお・がお・がお―――」
ゆっくりと呪文の言葉を唱える。
自分を強くする呪文の言葉。
・
・・
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・・・・・ゆっくりと彼女の意識は「地獄」へと戻ってきた・・・・
………泣いてる?
………確か、郁未さん?
とりあえず、身体を起こす。そこは草原だった。離れたところに森と山が見える。
辺りを見回す。ちょっと離れたところで、天沢郁未さんが座っていた。
私に背をむけて、ぼんやりと宙を観てる。
「・・・・気がついたの?」
不意に話しかけられてちょっとびっくり。
「・・・うん」
返事をして、膝立ちで、天沢さんの方に近づく。
「ねえ。どうしたの。かな」
「・・・・・」
「お母さんたちどこいったのかな」
「・・・・・」
「ここどこだろうね」
「・・・・・」
何を話しかけても私に背を向けた天沢さんからは沈黙しか帰ってこない。
「にはは」
とりあえず笑ってみる。
「・・・・・」
「おなかすいたよねー」
「なんか食べるものさがそうかー」
「らーめんらいすなんか作ったら往人さんよろこぶだろうなー」
無視されても。話しかける。なんとなく、天沢さんは泣いてるのかもしれ
ないと思った。
「・・・・どうして?」
「にはは、ん?」
「・・・どうして笑ってられるの?」
なんの抑揚も無い声で、たんたんとした問いかけ。
「んと・・・」
「観鈴ちんバカだからね。きっとよくわかってないんだよ」
にははと笑う。
「なんか、ここにきて、嫌なものいーっぱい見て」
あれ、なんで泣いてるんだろう。
「でも、お母さんと、往人さんがいたからね。私は笑ってるんだよ
そうすれば、2人とも喜んでくれるんだよ。あ、お母さんは時々怒
るけどね。往人さんはね。困った顔したあと、ちょっとだけ笑うんだ」
なんだろう。お母さんのこと考えると胸がしめつけられるように痛
いよ。
だから・
「天沢さん。観鈴ちん行くね」
「え?」
私が立ちあがると、今までなんの反応も見せなかった天沢さんがびっく
りしてこっちを見た。
「んと、よくわからないけど、往人さんとお母さん探す」
「探すってどうやって」
「にはは。きっとなんとかなるよ。観鈴ちんふぁいと」
自分に言い聞かせる言葉。
「・・・・・んとね」
なんの感情も表してない眼で、見ている天沢さん。
「観鈴ちんバカだから。本当にバカだから、よくわからないんだよ。な
んで私達がここにいて、なんでこんなことさせられてるのか。でも、きっ
と私は笑ってないとだめなんだよ。あと、きっと往人さんやお母さんと離
れてるのもよくない」
うんうん。そう自分にいいきかせて。
だから私は、探そう。二人を。
天沢さんはぽかんと私を見えいたけど、苦笑して立ちあがった。
「なんか泣いてるのがバカみたいだな」
「ん?」
「こっちの話。………そうだよね。結末が変えられないのなら少しでも明
るく。か。私も考えよう。どうするのかどうしたいのか、もう一度」
「んん?」
「なんでもないって。ほら、いこうか」
あ、天沢さんが笑った。
「そういえばさ、あんたとあの国崎ってやつどういう関係なの」
「往人さんは。友達」
「えー。友達って――名前――――――」
「友達だって―――――」
「――――――」
「――――――」
道ずれは、変なオンナノコ。きっとお互い変だと思ってる女の子。
うん。悪くない。ね。往人さんお母さん。
観鈴にもうちょっと愛を〜
感想スレであなざー書いたものです。
なんか扱い悪いけど、観鈴ちんふぁいと!
生意気なお子ちゃまをシめてやるッ!
武蔵川親方が見守る中、制裁は行われた。
既にお子ちゃまの口には出島のサオがねじ込まれている。
「マル、コマしたれ」
親方がいうと、武蔵丸は稽古廻しの横から一物を取り出した。
ゆうに一尺はあろうかという巨大な業物に、お子ちゃまはぶるっと震えた。
しかし、その恐怖とは裏腹に〜いや、お子ちゃまにとってはその恐怖こそが
色欲を沸き立たせるものだったのかもしれないが〜お子ちゃまの花らっきょうの
ような小振りの一物は痛い程にそそり立っていた。
その「花らっきょう」の皮を武双山が唇でちゅるんと器用に剥く。
武双山の口中にアンモニア臭が広がる。
そして、武蔵丸の一尺竿がお子ちゃまの菊門にねじり込まれていく・…
四人総体重700kgを越えるド迫力の4Pファック。
まだ、幕が開いたにすぎない。
悦楽は、ここから始まる。夜はまだ終わらない…。
↑どっかで見た荒らしコピぺもしくはホントの誤爆です。
「!………っ」
また自分のカキコが放置されて、スレが盛り上がりを見せている。
1は、PCの前で頭を抱えた。
レスを貰う為には、何でもやった。
自作自演、煽り、コピペ、時には荒らしさえやった。
しかし、モニターの中では、1などまるで相手にされていなかった。
いくら煽っても、まるで反応が無い。
この前のカキコには自信があった。…にもかかわらず、だ。
「うぅ…っ…くっ…ぐすっ…」
PCの前で涙を流す1。
それでも、誰も1の相手をする者は居ない。
昨日も、今日も、そして…明日も。
「!………っ」
また自分のカキコが放置されて、スレが盛り上がりを見せている。
1は、PCの前で頭を抱えた。
レスを貰う為には、何でもやった。
自作自演、煽り、コピペ、時には荒らしさえやった。
しかし、モニターの中では、1などまるで相手にされていなかった。
いくら煽っても、まるで反応が無い。
この前のカキコには自信があった。…にもかかわらず、だ。
「うぅ…っ…くっ…ぐすっ…」
PCの前で涙を流す1。
それでも、誰も1の相手をする者は居ない。
昨日も、今日も、そして…明日も。
383 :
彗夜:2001/07/12(木) 06:11
書きました。
また、自分ばかりが良いとこ取りです。
384 :
彗夜:2001/07/12(木) 06:14
書きました。
少年が誰を殺すのかは、次の書き手さんにお任せします。
Hey,boy!Let's マターリ!
騙りやめろ。やっぱID制にするべきだな。
今までの晴れが嘘のように曇りだした。そして雷鳴……。島を包み込む涙雨。
スフィーは雷が彩る光と影の中何も言えず見つめていた。
――変わってしまった彼女を――
蝉丸は『それ』を背中に背負いながら雨を見つめていた。
――水の嫌いな戦友の無事を祈って――
初音達は祈るような眼で雨を見つめていた。
――出て行った仲間が無事に帰ってくるの願って――
北川達はその雨を哀しげに見つめていた。
――今は亡き友を想って――
そしてこの島には似合わない優しげな声が島を包み込んだ。
「定時放送を行う……。
001相沢祐一 005天野美汐 009江藤結花 043里村茜 046椎名繭 047篠塚弥生
064長瀬祐介 079牧部なつみ 089御堂 090水瀬秋子 094宮内レミィ 099柚木詩子
生き残りの人数は残り22人、それでは健闘を祈る。」
その放送を聞き終えると同時に走り出す影があった。
それは乾いた心に染み込んだ雨のせいかも知れない。
そして新たな悲しみが島を包み込む。
【現在の天気は雨です。以後の書き手は描写に注意してください。】
【ポチ施設に突入】
晴子の方は長瀬が放送リストをまとめてから事件が起こったということにしています。
もしも晴子の話が通っても次の放送です。
「雨、か……」
晴れの空から一転、突然降り出した滝のような雨に、マナは物憂げに窓の外を見やった。
この島に連れて来られてからは初めての雨。
森を歩いてる時に降られなくて良かったわ――場違いなことを考えている自分に、自然と笑みが浮かんだ。
「……頭の病気か? 怖いぞ、急に笑い出したりして」
「うるさいわね」
窓から見えるのは突き刺すような雨の筋とどす黒い雲だけ。空が一瞬光り、雷鳴が轟く。もしかしたら嵐になるのかもしれない。
(いかにも何か起きそうな天気ね……そう、ミステリーなんかではこんな日に人が死ぬんだわ。
この状況だと、私たちは同じ部屋にいるから安全として……葉子さんがナイフで刺されてたり、とか)
不謹慎な想像が徐々に形になりかけていることに気づき、マナは軽く頭を振ってそれを追いやった。
それでもまだ何となく不安だったので、思わず葉子の様子を窺いに行こうと腰を浮かせかけたが、耕一にバカにされそうだったので止めた。
「なんかさっきから挙動不審だな」
「……あなた、半病人のくせに口数多いわね。私に構ってる暇があったら可愛い従妹の心配でもしてあげたら?」
マナは初音の方を顎でしゃくった。耕一がキュッと唇の端を噛んだ。
雨が降り出す前から初音は窓の外を見つめたっきりだった。どこか遠い目で外の景色をじっと眺めていた。
もちろん、初音が見ているのが景色などでないことは二人とも十分にわかっていた。
「見てて痛々しいわね。……あーあ、妬けちゃうなー」
「なんだ、マナちゃんにはそういう相手はいないのか」
「…………」
言った瞬間、耕一はしまった、と思った。ひとときの平和な時間が、自分たちの置かれている状態を忘れさせていた。
耕一は口をつぐんだ。謝るのは余計に失礼だと思ったからだ。この後、当然予想されるべき気まずい沈黙にも耐える覚悟はあった。
しかし、マナはあっけらかんとして答えた。
「ふーんだ、彼氏の一人もいなくて悪かったわね。どうせ私はナマイキで可愛くないですよーだ」
「…………」
今度は耕一が黙る番だった。しげしげとマナの顔を見つめる。
「ちょ、ちょっと、変なとこで黙んないでよ! 大体、女の子にそんなこと聞くなんてサイテーなんだから!
はっきり言ってデリカシーゼロよ。あーあ、死んでもモテないタイプね、あなた」
慌てて目線を逸らすと、マナは早口でまくし立てた。
それを観察するように見ていた耕一だったが、やがてゆっくりと口を開いた。
「……うん、客観的に見て可愛くないってのはウソだと思うぞ」
マナの頬にサッと赤みが差した。
チラリと横目で見た耕一の顔が真剣そのものなのを見ると、さらに頬が熱くなるのがわかる。
「な、なによ! お世辞なんか言ったって何も出ないわよ!」
「でも致命的にナマイキだからな」
耕一がニカッと笑ったのと、マナの蹴りが耕一のスネに炸裂したのが同時だった。
「ぐおぁぁぁぁぁっ! 痛ぇ! うああ……」
「……ほんっと女の人に縁のなさそうな――」
ザザッ……
マナの言葉を遮るように、外から雨に霞んだノイズ音が飛び込んできた。
(放送……!)
反射的に身が硬くなる。そして――
『定時放送を行う』
(……あれ?)
外のスピーカーから発せられている声は、好む好まざるに関わらず聞き慣れてしまった声ではなかった。
少なくとも、あの不愉快な高槻の声でないことは確かだった。その声が、淡々と死者の名前を読み上げて行く。
(もう、今さら緊張して聞いたってしょうがないんだけどね)
マナにとって大切な人たちは、既に全員この島で殺されていた。
だが、実は夜中に出会い、傷の手当てをし、そして自分の在り方を考える契機となった男女――
長瀬祐介と天野美汐と言う名前の二人がその中に含まれていたことは、マナには知る由もなかった。
――放送が終わると、耕一は無言でマナの方に視線を向けた。マナも同じく無言のまま、首を小さく横に振る。
耕一は安堵したように息をもらした。
「そっか、お互い知り合いは無事か。良かった」
無事でも何でもないのだが、マナは敢えてそれに口を挟もうとは思わなかった。
ただ一つだけ、どうしても聞きとがめたことがあった。
「……良かったっちゃ良かったんだけどね」
静かに目を伏せ、マナは耕一の足元に座り込んだ。
それは以前からずっと思っていたことだったが、なんだか今不意に口に出してみたくなったのだ。
マナは耕一の足に手を伸ばすと、スネ毛を一本引っつかみ、ピッと抜いた。
「いてっ!」
「ああやって名前読み上げる時、自分の知り合いがいないとつい……気をつけてても、不謹慎だなって思ってもついホッとしちゃうのよね。
そういうのってやっぱりなんだかなーって思うわけ。自分がヤになって仕方ないわ」
言いながら、スネ毛をプツッ、プツッと抜いていく。
かなり痛かったが、耕一はマナを制止することができなかった。うめき声をこらえて、一言呟く。
「っ……そうは言っても……なぁ」
「わかってるわよ、ただちょっと愚痴ってみたかっただけ。ごめんなさいね」
深刻になりかけた耕一をフォローするように、しかしスネ毛を抜く手は休めずにマナは言った。
しばらく、部屋の中では外の嵐の音、そして時折もれ出る耕一の声しか聞こえなかった。
「でもまぁ、実際仕方ないとは思うんだけどな」
ややあって、耕一が口を開いた。照れ隠しか、目はあらぬ方向を見ている。
「そんだけ身体がちっちゃいんだ、そんな全部しょい込んだら潰れっちまう。自分の心配できる分だけ心配すればいいんじゃないかな。
誰かのことは誰かが考えてくれるさ。少なくとも俺はそれでいいと思うんだ」
「…………」
ちっちゃい、と言ったことでまた蹴られるかなと思ったが、それはなかった。代わりに、スネ毛を引っこ抜く手が止まっていた。
マナは顔を上げて耕一の顔を見ると、ふっ、とバカにしたように微笑んだ。
「……ふふっ。私もあなたくらい単純だったらなー」
「ちぇっ。大きなお世話だ」
「あなたくらい身体が大きいと、さぞかしたくさん背負い込んじゃえるんでしょうね。
これまでのところ、チビで困ったことは特にないけど……ちょっと羨ましいわ」
「ま、デカいのだけが取り得みたいなもんだからな」
「まったくよ」
二人は顔を見合わせて笑った。
――目も眩むような稲光とともに、天を揺るがすような雷鳴がすぐ近くで爆発するように轟いたのはその時だった。
『キャーーーーーーーーーーーーーーッ!』
絹を裂くような悲鳴が唱和する。マナと初音だ。
「大丈夫だよ初音ちゃん、落ち着いて……と」
耕一は自分の足にギュッとしがみついている少女を見てニヤリと笑った。
「ふぅーん、マナちゃんは雷が怖いんだ、そっかー」
「なっ……! こっ、怖くなんかないわよ! ただちょっと、そう、驚いただけよ!」
自分が何にしがみついているのかに気づき、マナはガバッと飛びすさるように離れた。
「そっかー。へぇー。へぇー」
「この男っ……! 半病人はおとなしく寝てなさいよっ!」
「いやぁ、デカいのとついでに丈夫なのも取り得ですから」
「ム、ムカつくわ……」
背中越しに聞こえる賑やかなやり取りに、静かに雨に煙る景色を見つめていた初音はこっそりと微笑んだ。
雷はマナたちのいる家のすぐ側の木に直撃していた。
だから、その凄まじい雷鳴にかき消された『その音』を聞いた人間はその場にはいなかった。
ん?雨が降ってきたみたいだな
少しずつ薄れていく意識の中雨粒の存在を感じた。
「うわっ!雨!」
「仕方ないわね。多分通り雨でしょうからどこかで雨宿りするわよ」
って俺置いてきぼりっすか?!マジっすか?!
「置いて行かれたくなかったらさっさと立ちなさいよ」
いや、そんなこと言われても。あの熊殺しのパンチを受けたらたとえ矢吹丈でも立ってられませんよ、姐さん。
「誰が熊殺しよっ!」
あれ?さっきから何で会話が成立してるんだ?ひょっとしてエスパー?
「何言ってるのよ。さっきから口にだしてたわよ」
う〜む、またやってしまったか。
「いいからさっさと立ちなさいよ。私濡れたくないのよね」
「了解しました。晴香お姉さま」
確かに婦女子をこの雨の中立たせて置くわけにはいかないからな。
俺が立ち上がろうとしたとき例の死亡者放送が流れてきた。
取りあえず俺達は木陰で雨宿りをすることにした。
放送があった後2人とも一言も喋っていない。
誰か知り合いの名前でもあったのだろうか?
ま、今はその方がありがたいけどな。
今の俺に話しかけられても「いつもの北川君じゃない!」って言われるのがオチだからな。
未だ降り止まぬ雨をぼんやりと眺めながら俺は考え事をしていた。
全く相沢のやつ。難しい問題残して逝きやがって。
人を信じるっていうのは難しいことなんだぜ、特に今のこの島では。
ま、それでも俺はこの島で生きてる限りこのスタンスを貫くけどな。
それが………相沢を殺した俺があいつにしてやれることだからな。
あの世で親友に顔向け出来なくなるようなことはしたくないしな。
相沢が言ってたようにこの殺人ゲームは馬鹿げている。
主催者の鼻をあかしてやるためには出来るだけ多くの人間で生きてこの島を脱出することだな。
そのためには………取りあえずあのCDの謎を解き明かすことだな。
頼りにしていた椎名っていう子はさっきの放送によると死んでしまっているようだった。
結構頭の良さそうな子で、見た目も将来が楽しみな子だったのになぁ。
っと考えがそれてしまった。つまり俺一人であのCDの謎に挑戦しなければならないということだ。
でもなぁ、調べるためのパソコンは壊しちまったからな。
多分この島にマザーコンピュータがあるとは思うけど、マザコンがある場所は警戒が厳重だろうな。
今のところマザコンで調べるという案は没だな。
「………せめてパソコンがあればなぁ」
思わず口に出てしまった。
「パソコンならあるわよ、確か」
「ふぇ?!」
七瀬さんのその言葉に思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。漢北川一生の不覚。
「七瀬さん!それ本当か?!」
「う、うん。確か蝉丸さんが持ってたわよね、晴香」
「さぁ、私は知らないわ」
晴香さんは興味が無さそうな感じだった。だがそんなことは今の俺にはどうでもいい。
前に調べたときはあまり収穫が無かったけどあの後護がやってた事を少しだけ思い出した。
あの通りにやれればもう少し詳しいことが分かるかもしれない。
「でも、何でパソコンが必要なのよ?」
俺は七瀬さんにCDの事をかいつまんで説明した。
「ふ〜ん、そのCDの事が分かればこの島から脱出出来るかもしれないってわけね」
どうやら晴香さんも少しだけ興味が沸いてきたようだ。
「そういうことです、ハイ」
「でもさ、何でそんな物が参加者に渡されてるの?そんな物があったら簡単に逃げられちゃうじゃないの」
「うぐ?!痛いところをつきますね。晴香さん」
そう。そのことが俺が一番引っかかっていたことだ。
この殺人ゲームの目的はよく分からないが参加者が逃げるようなことがあったらマズイはずだ。
優勝者1名ならこのゲームの口止めも可能だろうが何人もの人が逃げ出して殺人ゲームのことを
ぶちまけたら主催者はおしまいだろう。
「それでも、調べてみる価値はあると思う。と言うわけでその蝉丸さんとやらのところに案内してくれ」
「いやよ」
「ち、ちょっと晴香」
「私達は私達でやることがあるのよ」
「よし、分かった。じゃあその蝉丸さんのいる場所を教えてくれ。俺一人でそこに向かうから。
あ、後取り上げた武器その他も返してくれ」
「ダメ」
「何で?!」
「あなたのこと完全に信用したわけじゃないもの。あなたに武器を返したら蝉丸さん達を殺しに行くとも限らないでしょ」
「晴香!言い過ぎよ!」
「黙ってて!七瀬!」
「俺は………俺は人は絶対に殺さない!」
「そんな言葉で信用できるわけないでしょう。現にあなた私と最初に会ったときに武器を私に向けたじゃない」
「う?!」
「それにもし誰かがあなたを殺そうとした時にも人を殺さないって言えるの?」
「俺は………俺は誓ったんだ。親友を………相沢を失ったときにもう人は殺さないって誓ったんだよ!」
「「相沢って相沢祐一のこと?」」
「あ、ああ。2人とも相沢のこと知ってるのか?」
「私は名前だけしか知らないけどね」
「そんなことより今の言葉一体どういう意味?」
俺は2人に話した。
相沢に会ったときに記憶喪失になっていたこと。
相沢を俺が殺したこと。
そして相沢の最後の言葉を。
「………あのヘタレ」
ポツリと晴香さんがそんな言葉をつぶやいた。
「だから俺は人は殺さない。そして今島にいる人みんなで生きて帰りたいんだよ。頼む!」
俺はその場で土下座をした。
雨でぬかるんだ泥が体に付く。
今の俺はきっともの凄く格好悪いだろうな。
そんな考えが頭に浮かぶ。
いいさ。どんなに格好悪くても構わない。相沢に顔向け出来なくなるよりはずっとマシだ。
「………顔を上げなさいよ」
そう言われて顔を上げた俺が見た晴香さんの顔はさっきまでの厳しい顔では無く、少しだけ優しい感じがした。
ちょっとだけ惚れたかも。美坂に少しだけ似てるしな。
「ほら!」
「うわ!」
突然荷物を投げられた俺はその荷物に潰されてしまった。カッコワリィ。
「何やってるのよ、情けない」
うわ!そんなはっきり言わなくても………。
「でもさっきも言ったけど私達はやることがあるから蝉丸さんのところには一人で行ってよね」
「OKOK!」
「まったく、調子いいわね。取りあえず雨が止むまで待ちなさいよ。わざわざ濡れることもないでしょ」
そう言って晴香さんはそっぽを向いてしまった。
「ゴメンね、北川。晴香素直じゃないから」
「ちょっ!七瀬!それどういう意味よ!」
「どういう意味も何も言葉通りよ」
2人のやりとりが面白くて思わず笑ってしまった。
「あんたも何笑ってるのよ!」
「わ!晴香さん!落ち着いて!真剣はやばいって!」
「うるさい!そこにじっとしてなさい!」
「じっとしてたら死んじまうだろうが!」
俺は晴香さんから逃げ回りながら少しだけここに来る前の日常を思い出した。
相沢と俺と水瀬さんと美坂の4人でふざけあっていた日々を。
もうあの日には帰れないけど今はこの幸せを楽しもう。
雨は未だ降り続けている。
だがいつか雨は止むだろう。
その時にみんなで心から笑える日が来る。
そうだろ、相沢………。
取りあえず今は晴香さんを落ち着かせる方法を考える方が先決だけどな。
【北川 自分の荷物を取り戻す】
398 :
目的:2001/07/12(木) 22:26
力と力の干渉。
どこか遠くの場所で沸き上がった異質な力を、『俺』は感じ取っていた。
そしてそれを、自分の力で潰してみたいとも思った。
生命が散る間際の炎ほど美しいものはない。
その命が強大な力を持てば持つ程、その輝きは映えるのだ。
女達を犯すことの他、もう一つの目的が出来た。
あの力を持つ者と戦い、命の灯を積み上げること。
破壊は美しい。
性欲。殺戮衝動。生き物は皆、本能こそが真なる姿。
理性などというものは、必要ないのだ。
放送がかかる。
長瀬祐介、天野美汐の名を聞いた『理性』が激しく揺れ動くのがわかった。
さすがに強靱な精神力を持っているために、それでも一筋縄ではいかないようだが。
焦らず、焦らず時を待つ。
すぐにでも暴れ出してやりたいが、堪えるのもまた一興だ。
愉しみを取っておくことで、その愉しみが倍増するのだから。
雷鳴がする。
空に広がる黒雲は、『俺』に壊されるこの島の連中の未来のように思えた。
積み上げる => 摘み上げる?
ピリリリリリリ……
けたたましく鳴り響く電子音。
おそらくは、彼が聞く最後の電子音。
もはや端末をいじることもなくなった男が、その音に顔をあげる。
「そういえばもうすぐ放送ですな…」
気だるい口調の声が漏れる。
恐らく通話口の向こうの相手は、源之助か源三郎か…だが、今の彼にはどちらでもいいことだった。
カチャ…
備え付けられた受話器を軽く、そしてわずかに持ち上げる。
ガチャンッ……!!
そして、勢いよく叩きつけた。
鳴り響いていた電子音の余韻が頭の中でリフレインする。
「もはや、これまでかもしれないな…」
暗く、淀んだ感情をその顔に宿らせながら、もう一度モニターを見つめた。
もはや虱潰しに御堂達を探す必要など無い。
マザーコンピューターへと続く地下三階の通路だけはすべてに常時モニターがついている。
そこに、三人の影。…余計な動物が見えた気がしたが、あまり気にしなかった。
「さて…と」
ここで待てば、敗北は必至。かといって、迎撃に出たとしても、負けは濃厚だった。
ならば、せめて自分のやりたいように行動しよう。
軽く、首を振って、ゆっくりと席を立つ。
一度だけ名残惜しげにコンピューター室を見て。
玩具のような銀色の銃と、リボルバー拳銃、そして一枚のCDを懐に、部屋の扉をくぐる。
切り札のある場所で、詰問者を待つために。
その誰もいなくなった部屋に、電子音が響き渡ることはもうなかった。
ヒタヒタ――倉庫を出て、しばらく。一行は地下三階の最深部へと進む。
あとは、千鶴達と待ち合わせている場所へほぼ一直線、だ。
既に、身を隠して進めるような通風口なんかない。
「…誰もいない」
「…だな」
御堂は、詠美の不安そうな呟きに素直に賛同してやる。彼女の言葉に皮肉の一つも無く頷くのは割と珍しい構図だった。
通常の人間と比べれば屈強な兵士、HM-13に護られていた倉庫。
その倉庫から武器を予定通り入手すると、一行は先へと進んでいた。
入手した武器は7つ。
まずは手榴弾を幾つか。
御堂の持つ銃と同型のデザートイーグルを一丁、さらにその予備マガジンを幾つか。
詠美、繭にはそれぞれ素人でも狙いがつけ易い機関銃。
――素人が扱うにはいささか重量がある武器かもしれないが、狙いをつけて撃つハンドガンよりは
マシだろう、という御堂の判断だった。少なくとも御堂と行動を共にする内はそれで充分だ。
『本当はレーザーサイト付きの銃があれば一番なんだけどね』
その時、澄ました顔で恐ろしいことをサラリと言ってのけた繭に、若干ながら戦慄を覚えたのもつい先程。
(こいつが戦闘訓練を受けていれば、心強い戦友になれたかもしれねぇな…)
同様に、千鶴達の分の武器もデイバックの中に詰め込んである。
「…これで本当にこの先が施設内で最も重要な場所…ということみたいね」
見た目とは裏腹に、極めて理性的な赤毛の少女、繭がそう切り出した。
「そうだな。…何故そう思ったんだぁ?」
御堂も繭と同意見だった。ただ、その結論に行き着くまでの思考は違うかもしれない。
先の見取り図を覚えていれば、そこがマザーコンピューター室だということが確実に分かる。
構造を考えても、恐らくはそこが最重要の拠点だとは推測はできる。
ただ、本当にその部屋が最重要かどうかは、行ってみなければ分からないことだからだ。
声を潜めながら、あえてその真意を聞いてみる。
「そうね……まず、この三角形型の場所がほとんど一本道だからよ。
ここに到るまでの道が広くないながらも比較的迷いやすいように造られていたのに、急に簡潔な通路になった理由。
単純な構造である方がその拠点に行き着くのが簡単なのは当たり前ね。
でも、裏を返せば、必ずその道を通らなきゃならないってこと。
敵が侵入した時、その方が迎撃しやすいって所かしら?」
同じように、声を潜めて返す。
「ふん、…ガキのくせに頭が回るな」
その回転の早さは、今この施設内で別行動しているもう一組のグループのリーダー格、千鶴より上かもしれない。
「ふみゅ〜ん…よく分かんないけど…千鶴さん達もここを通ったってこと?」
一人だけ、声がでかかった。しかも、見取り図はもう覚えてないらしい。
「それはないわね。千鶴さん達のルートは別の道を…確かあっちの方から別の渡り廊下が伸びてて、そこから来るはずよ。
当然向こうも途中から一本道になってたわね。目的地で道が合流することになると思うわ。
仮に千鶴さん達が道に迷って、ここを通ることになったとしても、まだ辿り着かないわね。
方角、距離、私達の通ってきたルートから考えれば、私達より早くここを通ることはありえない。
確実に私達の方が先に目的地に着くでしょうね」
「?……??……???」
「…まあ、それはこの先何事も起こらなければ…の話だけど」
若干溜息をつきながら、繭がそう締めくくった。
そして、繭の予想通り、何事もなく進めるはずはなく…
「ぴこっ…」
地面に近い位置にいる動物達と、そして御堂がほぼ同時に気づいた。
「いるな…この先に」
三角形型に配置された通路、その廊下の曲がり角の先を見据えた。
その曲がり角の先の道は、外周部分と、中央のマザーコンピューター室へと続く通路の二つが広がっている。
御堂の耳は、すでにその先に存在する人の気配を捉えている。
その人物は、中央へと続く通路の真ん中にいる――
そこで待ち合わせていたはずの千鶴達は、まだいない。
だが、彼女達でない何者かの存在感。
それは、詠美と繭にとって圧倒的な恐怖。
(ゴクリ…)
閉鎖された地下空間の中、詠美の生唾を飲み込む音がやけに大きく響いた。
御堂を先頭に、ゆっくりと歩みを進めた。
(武器は構えてろ…)
曲がり角、その先の壁に映る長き人の影。
千鶴達と約束した場所へと続く最後の道に立ちはだかる男の影。
薄暗い電灯が造りだしたそのシルエットは、確かにいつか見た影。
「はじめまして…とは二人には言えませんか…お久しぶり…ですね」
「長瀬…源五郎か…おめぇにはもう一度会いたかったぜぇ…」
お互いの姿が見えぬ内から、そう交わした。
「あなたには…やられましたよ。あなたは…たとえ結界内でも恐ろしい人物でしたね。
でも、驚きですよ。あなたの通った道が…ね」
「……」
武器を手に、御堂が歩を進める。
「御堂、あなたは並みいる参加者をその手で殺し…蹂躙し、そして生き残る男だと思ってましたよ。
あなたの経歴と、性格を見る限りではね」
「…そりゃ光栄だな。俺様がやられるとは思わなかったのかい?」
「さあ。どんな人間にもイレギュラーは付き物だからね。死ぬときは死ぬ。あなたとて例外ではない。
最後に生き残るのは誰か…なんて誰にも分からないことですよ」
「初めて会ったときから…正直意外だったんですよ。あなたが一番こちら側に近い人間だと思ってました」
「……」
「前にも聞きましたが…もう一度答えてくれませんか?
…あなたは躊躇なく人を殺せたはず。殺人という行為自体を楽しむことができた。
一人生き残る自信すらあったんじゃないですか?
今のあなた…やっぱりらしくないんじゃないですか?」
「ふん…」
一度、今の会話を聞いていた詠美と繭の表情を目の端で確認する。
――軍部はあなたを必要としなかった…でも今はあなたを必要としてくれる人がいるじゃない――
いつか聞いた台詞が頭をよぎる。
「源五郎さんよぉ…おめぇ、勘違いしてねぇか?軍人として軍部に従っていた俺が言うのもなんだがよ…」
一度、言葉をとぎる。――その間、源五郎からのレスポンスはなかった。
「俺は、指図されるのが一番嫌ぇなんだよ。
自分の好きなことだけ考えて、自分の好きなように行動して、自分の好きなように生きる。
――それが俺だ」
「踊らされるのは嫌というわけですか」
「ふん、踊ってるのはおめぇじゃねぇのか?」
「……」
源五郎との距離が徐々に縮まっていく。
通路の向こうに、よれた白衣が見え隠れする。
(おめぇらはここにいろ…俺は源五郎とちょっくらやってみてぇ…邪魔にならないようここにいな…)
詠美達を再度手で制しながら、立ち止まる。
興味を持った相手とは一人でやってみたい。千鶴にも止められはしたが、御堂の悪い癖だった。
結局、その衝動は押さえきれなかった。
「御堂、あなたは…いや、お前は今は何の為に動いている?」
最後の問い。
「とりあえずは、だな、気にくわねぇ奴をぶっ倒すってところか?」
「シンプルでいいな、御堂…」
通路の向こう、長瀬源五郎の苦々しく笑う表情が見えた。
この男はたった一人で、御堂達6人を相手するつもりだったのだろうか。
源五郎の実力を測りかねるように、値踏みしながら御堂は言った。
「今度は物騒な護衛がいねぇんだな…死ににきたのか?」
カチリ…
デザートイーグルを源五郎の左胸へと向ける。
距離は約10メートル。御堂にとっては絶対にはずさない距離。
「戦闘型HMの片割れはもう破壊されましたよ。坂神をはじめとする参加者達にね。
こんなことならこの施設すべての通路に機関銃でも設置しておくべきだった。
まあ、後の祭り…だけどね」
「本当におめぇ、坂神と互角に戦ったっていうあの男の息子か?いやに弱っちぃじゃねぇか…」
覇気のない源五郎の声。その期待はずれの答えに、御堂が顔をしかめる。
「そりゃあねぇ…肉弾戦なんてできませんよ。科学の虫でしたから」
軽く首を竦める。その仕草がひどく小さく見えた。
「このゲーム、最初からお前に手出ししなければ良かったよ。
HMを差し向けたときから、こうなる運命だったのかもしれない。
だけどね…もう私も後には引けないんだよ。引く気もない。後が、ないからね」
スッ…と源五郎の手が白衣の懐にのばされた。
同時に、御堂が一度銃の照準をはずす。
「抜きな、どっちが早いか…ってヤツだぜぇ…」
「……」
一瞬の静寂が訪れる。
ちょうど、源五郎から死角になっている位置から御堂を見ていたにも関わらず、
その緊張の瞬間に、二人の少女の喉がはっきりと動いた。
「………―――死ね!御堂!!」
「前にも言ったよな?おめぇを殺るのに躊躇はしねぇってな」
ドンドンドン!!
御堂の銃が三度、火を吹いた。
源五郎が懐から手を出す間もなく、心臓を正確に貫いた――はずだった。
ピッ――
衝撃で体をくの字に折らせながらも、源五郎の懐から赤い光が飛んだ。
「ゲッ…?なんだっ!?」
御堂の体を刺し貫く赤いレーザー光線。
腹から、背中へと突き抜けて、壁を照らした。
「お、おじさん!?」
その光景に繭と詠美は、御堂へと反射的に駆け寄る。
すべての音が、消失した気がした。
源五郎がよろめきながらも御堂を見据える。
「御堂…さては…お前――死んだな!?…クソッ!!」
顔を苦痛に歪めながら、口元から血を滴らせながら、前方へと体を滑らせる。
「……!?」
銃弾の命中した衝撃でちぎれた白衣の下から、黒いチョッキが顔を覗かせる。
恐らくは全身タイプの高性能の防弾服。
「馬鹿野郎!来るんじゃねぇ!!」
御堂に手を伸ばした二人を目の端で確認すると、狂ったように下がれ、と腕を振った。
御堂を刺し貫いたレーザー光線は御堂に何の害も及ぼさなかった。
そして、『お前、死んだな!?』という台詞の意味。
繭がその時初めて理解した。
(もしかして今のレーザー光線は…体内爆弾を…?)
そして、自分が、自分だけが置かれている状況を。
滑るように前へと進む源五郎の瞳が、曲がり角から姿を現した繭と詠美、そして動物達の姿をとらえる。
「死ねっ!!」
銀色のレーザー銃を、今唯一の生き残り、繭へと向けた。
その玩具にもみえる銃は、ほとんど重量がないのだろう。
その手に何も持っていないかのように、片手で軽々と彼女の腹へと照準を合わせる。
「ちぃっ……!!」
御堂もまた、そのレーザーの意味を理解した。
刹那、一気に一足飛びで後方へと体を流す。
先の一撃で倒せなかったのは、いわゆる西部劇の抜き撃ちを真似た御堂の失態だった。
――それでも頭を狙っていれば確実に倒せたのだが。
御堂の油断、慢心が呼んだ大失策。
本人は気づいてないが、その過信こそが光岡に、岩切に、そして蝉丸にどうしても実力が及ばない決定的な理由だった。
源五郎を再度撃てば確実に倒せる時間はあった。
だが、それをしてしまえば、先程のレーザーの反応速度から考えて、繭は確実に死ぬ。
以前の御堂であれば、繭を見捨てて、源五郎を殺していたのだろう。
今の御堂は、考えるよりも前に体が動いていた。
「死ね、女!」
「ガキ!悪く思うなよ!!」
ほぼ同時だった。どちらが早いかは常人には判別できないレベル。
ドスッ…
「あっ……」
着地と同時、後方に体を流したそのままの勢いで、繭の腹に渾身の肘打ちを見舞った。
そして、繭を刺し貫くレーザー光線。
赤い光が繭の体を貫通し、背後の壁へと高速で走り抜けた――。
グラッ…
繭は、前のめりに声もなく倒れ――
カラン…
一瞬遅れて、金属音。
「キャッ……」
詠美の悲鳴だけが短く響いた。
爆発音は、ない。
「……御堂ぉ〜っ!!」
源五郎が銃の引き金を押しっぱなしのまま腕を下へと滑らせる。
通路を刺し貫いたレーザーが、サーベルのように地面へと突き刺さる。
そして、それは一気に爆弾へと向かった。
繭を光が刺し貫いた時から、その間わずか1秒。
御堂は殴りつけた格好から流れるように、倒れゆく繭の制服の襟を引っつかむ。
「詠美!おめぇらもだ!!」
さらに、詠美達を壁際へと突き飛ばし、そのまま繭をも投げっ放す。
「にゃっ!?」「ピコッ?」(バッサバッサ?)「きゃあっ!!」
御堂自身もむりやり後方へと体を流す。
後方に一足飛びしてから、そこまでで一連の動作だった。
「……御堂ぉ〜っ!!」
「詠美!おめぇらもだ!!」
「にゃっ!?」「ピコッ?」(バッサバッサ?)「きゃあっ!!」
その同時に発せられた三者の叫びが終わらない内に、
ビームサーベルと化した赤い光が、真っ二つに切り裂くかのように爆弾と交錯した。
ドガーーーン!!
爆音。
御堂の体の位置は、爆心地から約3メートル。
小さいながらもそれなりの威力を誇ったその爆風に
きりもみしながら吹き飛び、壁へと叩きつけられた。
「ゲェ〜〜ック!?」
火に強い火戦躰とはいえ、結界の内部では常人のそれとほとんど変わらない。
逃げ遅れた下半身に鋭い痛みを感じる。
カチリ…
爆音に紛れ、何かのスイッチが押される音。
「ぐぅ…!!」
なんとか上手く着地し、態勢を立て直す。
着地の衝撃で、焼けただれた足がジュクリとイヤな音を立てる。
「くそが…」
爆風の向こう、源五郎の姿を見据え――たと同時に、御堂は転進した。
立ちこめる爆煙の向こうに見えたシルエット。それは…
「おのれ、御堂っ…!」
壁に隠されていたスイッチを手の甲で叩きつける。
ウイーン…
青銅色の床が開き、中から黒い物体が飛び出してくる。
源五郎がここで御堂らを待ち構えていた最大の理由。
戦闘型HM達が倒れた今となっては、この施設最大最後の切り札。
「…私はここでもう終わりだ…だが、せめてお前も挽肉にしてやる…!!」
壁に叩きつけられもんどり打っていた詠美を半ば無理矢理立たせる。
「ふみゅっ……!!」
「逃げろっ!!」
それはほぼ絶叫に近い。繭を担ぎ、詠美と動物達を促す。
「……っ!!」
この時ばかりは、機敏にそれに従った。
詠美にとって、御堂の初めて見る焦燥だったから。
詠美が走り出したのを確認してから、御堂が繭を反対側の通路へと投げ捨てた。
詠美、繭、それぞれ別方向の通路へとバラけてしまったが、それぞれ源五郎の持つ切り札からは届かない場所へと
退避したこととなる。あとは、御堂自身だった。
戦闘力皆無の二人(と三匹)を無理矢理弾き飛ばした、そして全身を痛めつけられた状態では、御堂にも勝ち目はなかった。
今の御堂は、普通の軍人よりもはるかに強いとはいえ、ただの人間であったから。
銃を撃っても、手榴弾を投げても…この態勢からでは、あの武器相手に相打ちに持ち込めればいいほうだろう。
しかも応戦すれば、御堂を含め、こちらは全滅するのは確実だった。
「軍部は滅んだ…それでもお前はのうのうと生きるというのか…
…数多くの人間を殺したお前は私と同じ穴のムジナだ…
お前達だけでも…殺してやる!!」
手塩にかけて育てた娘はもういない。施設も御堂達に攻略寸前まで陥とされてしまった。
もう、長瀬としても存在価値などありはしない。
失うものなど、何もなかった。
「今ここで散れ!御堂っ!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ――
繭を安全圏へと無理矢理投げ捨てていた御堂は、わずかに逃げ遅れた。
回転式機関砲(ガトリングガン)から放射された弾丸のシャワーが御堂を襲った。
「がっ……」
わずかに逃げ遅れただけとはいえ、無数の弾丸が御堂の背中に、足に突き刺さる。
すぼめた御堂の頭にそれが当たらなかったのは奇跡であったかもしれない。
震える手で、懐から手榴弾を二つ取り出すと、ピンを抜いて、源五郎の方へと放った。
それが勢い良く爆発する。
当たるとは思えない。ただの時間稼ぎだ。
手榴弾の爆音を聞きながら、なんとかシャワーの届かない通路へと転がりこんだ。
「ぐうう…」
もう、ガトリングガンの射程距離からは全員が逃れていたが、未だシャワーが壁を穿つ音が響いている。
感覚のなくなった足で、ただ進む。それは来た道をゆっくりと歩いたときよりも遅い足取りだった。
「……!!」
御堂が逃げ込んだ通路は、詠美、そして動物達のいる方の通路。
ちょうど、詠美、御堂と、気絶した繭は弾丸のシャワーで寸断された形になっていた。
目の前で、血相を変える詠美の姿が、歪む。
「ちょ、ちょっとっ…」
御堂の背後に、おびただしい量の血が溢れ、地面に小さな赤い川を作り出す。
「どじっ…たぜ…くそが…」
壁へと背中を預ける。もう、痛みなど微塵もなかった。
「し、しっかりしてっ!!おじさん!!」
「けっ……下僕、いや、したぼく扱いはしねぇのか…?」
「そんなことっ…!!ねっ、はやく逃げなきゃっ…!?」
「俺は…くそ、体が言うこと聞きやがらねぇ…」
御堂の体からはすでに大半の血が体外へと流れ出ていた。常人ならば確実に死んでいる出血の量。
仙命樹の力はほとんど失われているとはいえ、わずかに残されたその力が御堂の命をつないでいた。
だが、今この瞬間に結界が解かれるならばともかく、このままではあまり長い間はもたない。
壁に付着した血で滑るのにまかせて、そのままずりずりと座り込む。
「おめぇは…逃げろや…」
「あんた置いて…繭ちゃんを置いて…逃げられるワケないでしょ!?」
詠美の視界が、涙で滲んでいく。
「死ぬぞ…」
「置いていくよりマシよ!昔あったみたいにっ…!!」
釣り橋で、身を挺してまで自分を助けた由宇。
自らの浅はかな行動で、命を落としてしまった和樹と楓。
あの時の自分のとっていた行動がもし違っていたら、未来は変わっていたかもしれない。
だが、それはもう過去にあった確かな現実。流れゆく時が逆行することだけは、けしてない。
「もう、二度と後悔なんてしたくないっ……!!」
「じゃあ…戦うか…?」
かすれた御堂の声とほぼ同時に、ガトリングガンの銃声が止んだ。
「…源之助さんは、恨んでいるのでしょうかね…たった一人、重役を押し付けられて」
ガトリングガンはここから移動させることはできない。
射程距離外へと逃げてしまった御堂にとどめを刺す為の最後の武器であるリボルバー銃を手にすると、
白衣を翻して前へと進む。大量の血が流れるその先へと。
「戦うか…?」
呆けたような口調で、だが、目だけは真剣に詠美を見据えて、そう言った。
ゆっくりと、その意味を噛み締めながら、頷く。
「自分から、現実から逃げて…後悔は、したくないから」
「相手を…殺すっ…てことだぜぇ…」
「…うん」
「しく…じれば…おめぇが死ぬ。…それでも…か?」
「…うん」
「生きて帰れば、死ぬよりもつらいかもしれないぜ…罪を…背負うってなぁ…そういうもんだ…」
「覚悟してる」
「逃げるより…後悔するかも…しれない…未来が…あるかも…」
「それも――覚悟してる」
「……」
「……」
「けっ…おめぇなら、大丈夫だ…戦え。機関銃ではなく、ぽちの方でな…」
「うん…」
「俺様を、背負え」
「えっ?」
「はやくしな…もう、ヤツがくるぜ…」
「う、うん…」
戸惑いながらも、御堂を背負う。その体は、悲しいほど軽くて。
「通路の向こうへ、下半身に力を入れて銃を構えろ…」
言われたとおりに、両足で踏ん張りながら両手でポチと呼ばれる拳銃――Cz75――を構える。
「こ、こう?」
「そうだ…」
震える手で、御堂が詠美の手に自らの手を重ねる。
「一発勝負だ…俺…が照準なら合わせてやる…」
全身防弾服を着込んだ源五郎に、非力な詠美では機関銃は分が悪い。
あえて、小銃での一発に賭けさせた。
本来なら御堂が撃つべきなのかもしれない。
だが、もはや照準を合わせ、防弾チョッキに覆われた源五郎に致命打を与えること、
そして、銃の反動に耐えられる力はない。…引き金を引けるかどうかも怪しい。
「もっと…腰を…落とせ…腕はこう…」
「うん…」
「狙うのは眉間だ…俺が撃て…と言ったら…撃て…覚悟は…」
「できてる」
「そうか…。いいな…撃て…と言ったら…引き金…を引く…だけで…いい…」
「ぴこ…」
「にゃう…」
(ばっさばっさ…)
寂しげに、動物達が御堂のそばを回る。
「離れてな…」
獣を一度見て、力なく、笑った。
「これが私の最後の仕事だな…規則違反な上、任務放棄状態だが…まあ、それもいいだろう」
マザーコンピューター室に残した最後のHMが気がかりではあったが、もう、それらを顧みる時間はない。
「最後まで駄目な親だったな」
リボルバーに弾を込め、シリンダを回す。
源三郎には大分劣るとはいえ、射撃の腕はそこらの戦闘員よりは上だ。
傷ついた御堂相手ならば互角以上に戦える。
「さあ、決着をつけようか、御堂…」
詠美の視界の先、三つの通路が重なり合う中心部、源五郎の影が近付いてくる。
震える詠美の手の上に重ねられた御堂の手が心強く感じる。
これが、最後の――そして一瞬の勝負。
【現在地 正三角形型に伸びる二つの連絡通路と、中央に伸びるマザコンへの通路の3つの通路が交錯する場所
=千鶴、梓、あゆとの待ち合わせ場所】
【御堂 デザートイーグル×2 予備マガジン入手】
【椎名繭 大庭詠美 サブマシンガンをそれぞれ入手】
【御堂達 千鶴 梓 あゆ の分の武器を入手】
【椎名繭 気絶中】
【長瀬源五郎 体内爆弾爆破光線銃 スミスアンドウエスン 最後の無記入CD 所持】
【ガトリングガン 放置 移動、持ち運び不可】
※千鶴達への武器の種類はお任せします。
>らっちーさんへ
施設最終戦
>>322-327はアナザーではなく完全破棄でお願いします。
代わりにこの修正版を挿入してください。
いつもいつもすみません。
力と力の干渉。
どこか遠くの場所で沸き上がった異質な力を、『俺』は感じ取っていた。
そしてそれを、自分の力で潰してみたいとも思った。
生命が散る間際の炎ほど美しいものはない。
その命が強大な力を持てば持つ程、その輝きは映えるのだ。
女達を犯すことの他、もう一つの目的が出来た。
あの力を持つ者と戦い、命の灯を摘み上げること。
破壊は美しい。
性欲。殺戮衝動。生き物は皆、本能こそが真なる姿。
理性などというものは、必要ないのだ。
放送がかかる。
長瀬祐介、天野美汐の名を聞いた『理性』が激しく揺れ動くのがわかった。
さすがに強靱な精神力を持っているために、それでも一筋縄ではいかないようだが。
焦らず、焦らず時を待つ。
すぐにでも暴れ出してやりたいが、今の力でそれは出来ない。
まぁ、いい。
俺は気が短いが、おとなしく辛抱するのもまた一興。
その期間は、後に残った愉しみのための、最高のエッセンスとなるだろう。
雷鳴がする。
空に広がる黒雲は、『俺』に壊されるこの島の連中の未来のように思えた。
らっちー氏>
申し訳ありません、こちらで編集お願いします。
この大会の作られた理由、それは――贄――
不条理な理由で殺されたことによって生まれる様々な感情。
悪意、絶望、恐怖、殺意、怨恨。
空に浮かぶ呪いの求める呪詛。
飽きる事を知らぬ呪いの欲望を満たす為、そしてその力を掠め取るため。
その計画を考えついたのは『FARGO』
しかしその力を結晶化するにはあまりに技術不足であった。だからFARGOは援助を求めた。
『長瀬』のトップ、長瀬源之助に。
空に浮かぶ船の中、老人は一人独白した。
――始めは好奇心だった。これほどの呪詛を秘めた物はグエンディーナでも見たことは無かった。
――新たなる生命を生む悦び、未知なる物に挑戦する快び、それは魔術師としての性。
――己の力を過信していた、たかが呪詛程度簡単に消去できると思っていた。
――しかしその力のごく一部を結晶化するのに成功したとき、自らの過ちに気がついた。
――周りの科学者どもはただ浮かれていた、実験の成功に酔いしれて。
――しかし私には『力』があるが故にその秘めたる力に気がついていた。
――気がついたときには手遅れだった、封印の中で奴は確実に力をつけていた。
――すでに私が相手を出来るレベルでは無くなっていた。
――封印を破らないのは餌が手に入るからだ、上質の贄が。
(3行あけ)
決着は自分の手でつける、他の全てを犠牲にしてでも。
――それからは奴を弱体化するための手段を探し回った。様々な禁呪にも手を伸ばした。
――各方面に援助を求め、長瀬としての力も付けた、各地の能力者とのパイプも作った。
――計画に気が付いた高槻を処分してFARGOの力を削いだ。実権はすべて長瀬へ。
この計画は2つの鍵で成り立っている。一つは人選。
空に浮かぶ呪いは呪詛を求める、それゆえにあるものに弱いのだ。
それは愛情、友情、希望、自分の命を捨ててでも相手を守ろうとする善き心。
それゆえに人選を長瀬の手にまとめる必要があった。
そしてもう一つの鍵があった、それは能力者。
呪いを高めるのはさらなる呪詛、しかし魔術の力を高めるのは強き魂。
「神奈よ、今回の大会がお前の最後です。準備は全て整いました。
この島はすでに血で汚れています、しかしそれを超える思いで満たしました。
そして世界でも最高ランクの能力者達の魂。
長瀬源之助、生涯最大の呪文でお相手します。」
他の長瀬は死に場所を決められた、それは若さゆえの特権。
しかし源之助はそれができない、すでに命の使い道は決まってるからだ。
目の前が涙でふやけて、何も見えなくなっていたよ。
だけど、手に伝わる反動と、あの赤い色は、忘れないよ。
『殺したのは、わたしよ』
…ううん、ちがうよ。
わかってるよ。
腹立たしかったんだ。
何も出来ない、ボクの弱さが。
怖かったんだ。
大切な人を、失うことが。
悲しかったんだ。
引き金を絞って、失った何かが。
だから、ボクは泣いていたよ。
悲しいだけじゃない、怖いだけじゃない、腹立たしいだけじゃない。
説明なんか、出来ないよ。
だから、どうしていいのか解らなくて。
ただ、千鶴さんにすがって、泣いていたよ。
どれだけの間、そうしていたのか解らないけれど。
涙が枯れて、ガチガチだった腕の力がやっと抜けたころ、千鶴さんがボクの
腕をゆっくりほどいて、言ったんだ。
「行きましょう。
御堂さんが、待っているわ」
そうだ。
おじさんは短気だから。
遅れたら、ボク達怒られちゃうよね。
「あゆ、きっとまた怒鳴られちまうぞ?
チビ!あれだけウダウダぬかして、俺様を待たせるたあ、どういう事だ!
…ってさ?」
梓さんも、同じことを考えていた。
そうだよね。
急がないと。
怒られちゃうよねっ。
…嬉しいよ。
みんなでまた笑えるなら。
ボクが失った何かなんて、大したことじゃないよ。
「えへへっ」
また涙が溢れてきたけど。
ボク、がんばれるよ。
おじさん、ちょっと待っててね?
いったん止まったあゆの涙は、尽きる事を諦めないかのように、ぽろぽろと溢れていた。
それと同時に、既に無い扉の替わりを引き受けるかのように、二つの人影が立っていた。
影は、二度と戻らぬ二つのものが失われた、この戦場を無機質な光をたたえて睥睨する。
「…長瀬源三郎、治療不可能ニヨリ、通常業務ニ戻リマス」
泣いているあゆをよそに、医務室の中から無表情なままHMが出てきていた。
あたし達は、その出現に身構えたけど。
本当に何もしないで、彼女達は上へと向かった。
要するにあたし達は、命令の外にあるから無視された…と言うわけだ。
ロボットの行動理由なんて、単純なもんだよな。
それに比べて、あゆの涙には、複雑な感情が入り混じっているのだろう…って事は解る。
人間は、やっぱり難しいよね。
でも、おっちゃんが待っているのは確かな事だ。
今は進まなきゃならないよ。
だからさ。
涙は、おあずけだよ。
あゆの頭をくしゃくしゃと撫でて、みんなで頷く。
あたし達は、ようやく階段を上がる。
残るは執事さんの息子、源五郎だけだ。
執事さんのことを話せば、ひょっとしたら協力してくれるかもしれない。
あたしは-----そんな甘い事さえ、考えていたよ。
…ドンドンドン……
そう、この銃声を聞くまでは。
さっきよりも遠い、微かな銃声を聞くまでは。
うん、転がるように、三人で走ったね。
HMのボンクラ達を突き飛ばして、息を切らせて駆け上がった。
実際、ほんとに長い階段だったけれど。
こんなに長い階段なんて、この世にあって良いわけ、ないじゃないか。
…ごめんな、おっちゃん。
【チヅアズアユ、地下三階へ向け階段を移動】
【御堂、源五郎と戦闘中】
※御堂の対源五郎戦中における、医務室組の行動です。
「残悔」です。
彼女は泣いてる暇なんて、なかったんですね。
そもそも撃たねば、どちらにせよ間に合いませんでしたが。
視点の違いが、語りの時制の違いにもなっているので、少々解りにくいかも。
「アンタとはいい加減決着つけなくちゃって思ってたのよ!」
「からかったのは謝るから真剣もって追いかけてくるのはやめて!」
女の子というのは全くもって不思議な生き物です。こんな島に居ても笑顔でじゃれ合えるのですから。
やはり今の私ではあんなに元気に笑うことはできません。この胸の傷がもう少し癒えるまでは。
彼女達の太陽のような笑顔を見てると傷が少しづつ癒えていく気さえしてきます。
太陽のような笑顔……レミィ……
……全然全く癒えてません。むしろ彼女達の笑顔は俺の傷をさらにえぐってきます。
このままこの思考を続けては立ち直れなくなってしまうのではないでしょうか。
とりあえず横でじゃれ合ってる二人は無視して現状整理でもしますかな。
ともかくCDの回収が第一優先だな。
回収のためには胸くそ悪いけど参加者の死体を見つけたら漁らなければならないだろうな。
それに荷物が多すぎるな……お二人さんが何か欲しい物があれば分けてあげることにしよう。
後はマザコンの場所だな……二人の話だと重要施設らしい場所があったらしいから後で覗いて見るか。
マザコン……何か嫌な響きだな。まるで誰かが俺のことを笑っているみたいだ。
はは、何言ってるんだろう。誰かがお空の上から見張ってたりでもするのかな。
突っ込みが無いと寂しいよ……いつもなら横から口に出してるわよって突っ込み入るのに。
そういえば二人の声が聞こえないな、何かあったか見てくるかな。
(3行あけ)
そこには見覚えのある顔があった。そう言っても直接会ったわけじゃないけどな。
結花に見せてもらった参加者名簿に載っていたスフィー達の大事な人、宮田健太郎。
もう一人は長岡だったかな長森だったかな、そんな感じの名前の女の子だ。
雨と風にさらされて見るも無残なことになっていた。
「気分悪いわね。」
「久しぶりに日常の気分を味わえたって言うのに、まったく……。」
俺は二人が話しているのを無視して穴を掘り始めた。
「……。」 二人は黙って俺を見ていたがしばらくすると一緒になって穴を掘り出した。
穴を掘って二人を穴の中に入れ、土をかぶせようとした時俺は変な丸い装置に気がついた。
「何だ、このドラ○ンレーダーモドキは。」
俺は何気なしにスイッチを押した。
すると機械のほぼ中央に3つの点がそして画面の端ぎりぎりのところに2つの点が映った。
「レーダーか……ありがたく使わせてもらうぜ。
スフィーには俺が一言伝えておくから安心して眠れよ。」
この島は悲しみに満ちている。何時かこの島も解放されて晴れる時は来るのだろうか。
島の様子を象徴するような雨雲は今だ晴れる気配はない。
【北川 志保ちゃんレーダー入手】
レーダーの機能が
爆弾反応型なのか生命反応型なのかは次の書き手に任せます。
感想スレ♯12の383以降の書き込みをよく読んで書いてください。
431 :
失踪:2001/07/14(土) 01:56
彰、晴香、七瀬、そして坂神と月代も出ていった。
あれだけの人数がいたこの家もずいぶんと寂しくなった。
(雨……やまないな……)
降り続く雨を見ているとなぜか感傷的になった。一月以上この島にいるような気がするが実際は一週間も経っていない。
いろいろあった。
この島に来てから出会いと別れを繰り返してきた。
死を目の前にして心がどんどんすり減っていくような思いがする。
藤井さん。お姉ちゃん。澤倉先輩。佳乃ちゃん。先生……
私は何人もの人が死んでいくのをどうして耐えていられたのだろうか。
もしかして、私は狂ってしまったのか。
そう思ったこともある。
だけど、胸にこみ上げてくるものが、私がまだ正常だと安心させる。
涙は今、流すべきじゃない。
この島を抜け出たとき、そしてすべてが終わったとき。そのときに……
「どうした表を見て。また雷観賞か?」
そのときに……。
『ゴスッ』
ああ……。
ごめんなさい、先生。
約束、ちょっと破りたいと思ってしまいました。
「そういえば、そろそろ葉子さんの様子を見に行かなきゃ」
のたうち回っているバカはほっといて、私は自分の仕事をしよう。うん。
別に泣きそうになった照れ隠しじゃない。
そして、私は水の入った洗面器をとタオルを持って葉子さんの部屋に行った。
ノックをしようかと思ったが、寝ていたら悪いので静かにドアを開ける。
「おじゃましまー……ん?」
そこには、かなりの怪我をしていた葉子さんの姿はなく、丁寧に折り畳まれた毛布がベッドに置かれていた。
(い、いない。どこに行ったの? 家の中? それとも外?) 。
布団を触ってみる。まだ少し暖かい。と、いうことは、まだそんなに遠くには行っていないはずだ。
急いで階段を下り、居間に駆け込む。そして、あわてている私を見て怪訝そうな顔をしている二人に言う。
「柏木さん! 鹿沼さんがいないの!」
走る。
突然、降り始めた雨の中、鹿沼葉子は走る。
傷はまだ癒えていない。銃弾が貫通した腹部にはコルセットのように幾重も包帯が巻かれている。
足に巻かれた包帯はほどけて邪魔になったので捨てた。
髪が、服が、水を吸って重い。下着も濡れてしまい、肌に張り付く。
だが、そんなことは気にしていられない。
危険を予感させる胸騒ぎが止まらなかった。それが彼女を疾走させた。
先ほど感じた二つの大きな力。
間違いなく、不可視の力であろう。
しかし、一歩間違えれば暴走しそうな、そんな危うい力の発動であった。
もし、不可視の力が暴走してしまえば、辺り構わず破壊をもたらし続ける。
そして、それは使った本人が破壊されるまで続く……。
不可視の力というのは誰でも操れるというものではない。
葉子が知っている不可視の力の使い手は自分以外で二人。
天沢郁未と少年。
恐らく、その二人が使ったのだろう。
もしくは、彼女の知らない不可視の力を使える者がいるのであろうか?
生きている中で使えそうなのは、巳間晴香。序盤に高槻が行った放送で葉子、郁美、少年と共に呼ばれた者の中で生きているのは彼女だけだった。
そして、彼女がもう一つ腑に落ちなかったことがあった。
なぜ、封印されているはずの力がなぜ発動したのだろうか?
結界が無くなったのだろうか?
それはあり得ない。なぜなら、葉子の力は今でも発動できないからだ。
ならば、結界を凌駕する力、もしくは無効化する力を手に入れたのだろう。そう、葉子は結論づけた。
今の葉子では不可視の力に真っ向から対抗する術はない。それは本人もよく分かっている。
かといって、ベッドで一人震えているわけにもいかなかった。それは、不可視の力がどんなに危険なのかを知っていたからだ。
葉子は自分を助けてくれた人には黙って出てきて悪いとは思った。だが、出かけるのならば彼らを巻き込んでしまうかもしれない。だから、大した武器も持たずに走っている。
場合によっては、差し違えても彼女らを殺さなければいけない。そんな悲愴なことを考えているときだった。
不意に、背後から、
「誰だ!」
雨が地面や葉を叩く音を突き抜けてはっきりと男の声が葉子の耳に入る。
偶然か、それとも遠目で葉子を見つけ、隠れて通り過ぎたところを呼び止めたのか。どちらにしても迂闊だった。
そして、葉子は足を止める。男は銃を持っているかもしれない。
「鹿沼、よう、こ」
息も絶え絶えに、そう答えた。
そして、男は……
【鹿沼葉子、力の発生源を調べに移動中】
【男が誰かは次の書き手に】
声の正体は……
1.彰
2.少年
3.往人
4.北川
5.男声になった反転芹香
ということで、そろそろ葉子さん動かさないと終わるまで寝ていたり、いきなりナイフ刺されていたり
してそうなので動かしました。
結局、男のストーリーが全員無視する方向でしたら。即NGにしてください。
ですが、葉子さん、勘違いしています。思いっきり。
っていうか、誰が一瞬結界がなくなったなんて推理できるのかと考え、こうなりました。
すいません。失踪の修正お願いします。
後ろから2行目
× 息も絶え絶えに、そう答えた。
○ 葉子は息も絶え絶えに、そう答えた。
に、お願いします。
「っ!? 私、意識を失っていたの!?」
繭は目覚めた。
カラスの鳴き声と、獣の騒がしい鳴き声の中、誰かのすすりなく声が小さく、
しかしはっきりと伝わってくる。
T字路のちょうど交わるところ、薄暗い通路の片隅からその声は漏れていた。
そこには、一つの固まりがあった。
固まり、つまりそれは、御堂の体を抱きかかえるようにしてしゃがみ込んだ
詠美である。
「ちょっ!? どういうこと、オッサン!? どうなってるのよ、あなた!?
戦闘は!?」
自分の置かれた状況がつかめない繭は、叫びながら体を起こす。
詠美はすすり泣きを続けている。
――思いのほか体の節々が痛い――
繭はそんなことを考えながら立ち上がった。続いて体の痛みをこらえるように
ゆっくりと詠美の方に歩み寄りながら、記憶の再生を必死に試みた。
――ええと、あのメイドロボもどきが倉庫で襲ってきて、ピンチにはなったけど、
それは何とか撃退して、それから、それから……――
戦闘の経過を思い出そうとするが、いまいち繭の記憶は混乱して、思うよう
にはいかない。
そうこうする内に繭は、詠美の間近にまで歩み寄っていた。
「ちょっと、あなた……」
改めて状況を確認しようとして、繭は言葉を飲み込む。
詠美に抱きかかえられた男、御堂は明らかに死んでいる様子だった。
抱きかかえる詠美の顔までがその血で真っ赤に染まり、凄惨な光景を醸している。
もっとも、詠美はその血で己の顔が、服が汚れることなどお構いなしの様子だが。
詠美はただひたすらに御堂を抱きしめ、何事かを呟いている。
「どうなって……」
もう一度記憶を辿ろうとした繭の頭の中で、ようやくそれが気絶直前にまでつながる。
「あの白衣の男!!」
はっとして前後を見渡す繭。
男の姿はない。
慌てて今度は横方向を確認する。
果たして、そこには例の白衣の男が倒れていた。
転がっていた自分のサブマシンガンを拾い直し、それを白衣に向けながら
ゆっくりと近づく。
――まさか死んだフリなわけ、ないわよね――
慎重に距離を詰め、その仰向けの顔を見て一瞬吐き気に襲われる繭。
長瀬源五郎の額には詠美と御堂が放った最後の弾丸が直撃し、見るに耐えない
風穴が空いているのだ。
気を取り直しつつ、繭はもう一度周囲を見回す。
動く物の気配はない。
「戦闘は終わっているということ……?」
取りあえずの危機は去っているのだと認識し、繭は再び詠美に近づいた。
詠美のすすり泣きは終わらない。
さり気なく御堂の腕をとり、脈を診る。
予想したとおり、その腕から命の鼓動を感じ取ることはできなかった。
繭が意識を失っている間に、決着はついてしまったのだ。
御堂と、あの白衣の男の死をもって。
繭の胸がいっぱいになる
意識が悲しみに包まれる。
涙腺がゆるみ、瞳から透明な液体が流れ落ちる。
――冷静にならなくては。管理者側の増援がいつやって来るとも限らないし、
オッサンの死を悼んでばかりいるわけにはいかない。遺体にすがりついて
いるところを、敵に狙われたら……――
そして、繭の平手が詠美の頬を音高くはたいた。
「しっかりしなさい。ここは敵地なのよ! いつまでも泣いてはいられないわ。
そうしていて敵の増援に殺されたくなければ、武器を手に取り、荷物を抱え
なさい。そして周囲に気を配り、敵の接近に備えなさい。向こうに問題さえ
なければ、千鶴さん達も間もなくここにやってくるはず……」
はっきりと言い放った繭。
その頬には未だ涙が絶えず。
けれど、あまりにも無感情に聞こえる繭の言葉に詠美は耐えられなかった。
今度は繭の頬が音高くはられた。
「バカじゃないの!? 敵、敵、敵、敵、敵、って!! したぼくが、御堂の
おじさんが死んじゃったのよ!? 私たちの、そうよあんたのせいなんだからっ。
何を偉そうに。頭が少しくらい回るからって、威張らないでよ。あんただって、
結局何もできなかったクセに。私が、私たちが二人の力であの男に勝ったんだから。
私が泣いてあげないで、誰が泣いて上げるのよ!!」
詠美の言っていることは滅茶苦茶だ。まるで脈絡がなかった。
それでも繭には詠美の気持ちは痛いほど分かっていた。
――けれども、感傷で生きていけるほどこの島は甘くない。それは事実。だから……――
ハッキリと繭は叫んだ。
「だから、あなたはその感傷のためにしんでもいいというわけ!?」
さらに続けて叫んだ。
「それでオッサンがよろこぶというのなら、いつまでもそうしていればいいんだわ!!」
詠美もそれに応えるように叫ぶ。
「そういうことを言ってるんじゃないわよ! 私は、ただ、したぼくが……!!」
お互いの視線がジリジリと絡み合ったまま、緊迫した空気が辺りを包む。
――うみゅー……まずいわ。こんなにおおきなこえでさけびつづけていては。
こえをきくのがみかたならばいいのだけれど……。って、うみゅー? みゅー?
まずいわ。まだ……あんぜんじゃないのに……。おっさんにもおわかれを
いってないのに……。うみゅみゅー。みゅ! みゅみゅみゅっ!? ――
「みゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
ついにその時がやってきてしまった。
祐一が最後に繭にキノコを食べさせてから、早半日以上。
性格反転キノコの効力は、今や繭の体内から消え去っていた。
「ちょっと、なによ、みゅーって!! 叫んでごまかしても駄目なんだからね!?」
突然の様子に面食らいながらも、詰め寄る詠美。
しかし、ホンの僅かもすれば繭の様子がおかしいのは明らかだった。
「みゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「なに、どうなってんのよ。ちょっと、あんた!?」
戸惑う詠美。
そして詠美は繭に気を取られたまま、背後から聞こえてきたはずの駆け足の物音に
気付くことができなかった……。
【椎名繭:サブマシンガン 祐一のエアーウォーターガン(硫酸入り) CD3/4
秋子の機械(電源OFF、実はレーダー) 水と食料】
【大庭詠美:サブマシンガン ポチ(Cz75) CD4/4 水と食料】
【御堂遺体:デザートイーグル×2 予備マガジン】
【長瀬源五郎遺体:体内爆弾爆破光線銃 スミスアンドウエスン 最後の無記入CD 所持】
【御堂達が倉庫で入手した千鶴 梓 あゆ の分の武器:付近に転がっている?】
【ガトリングガン:移動、持ち運び不可】
『椎名繭は泣かない』をアプしました。
施設内の時を、また僅かばかり進めてみました。
繭の方を書いておきたかったので、詠美の方の心理描写はやや削ってあります。
ですから、それが不満な方は『さよなら』からここまでの間に挟まるような、
詠美の心理を別途書かれるのもいいかもしれません……。
【残り21人?】
らっちーさん江
恐れ入ります。毎日お疲れさまです。
申し訳ないのですが、編集の際には下記の2点を修正していただきたいです。
よろしくお願いします。
●生き残り人数を【生き残り22人】で追加して下さい。
●キノコ のこと。
>祐一が最後に繭にキノコを食べさせてから、早半日以上。
の後を、
『1度目の摂取で繭の体内抗体が作られたせいか、キノコ自体の個体差なのか、
はたまた爆弾を吐いた際にキノコの一部も吐き出されたものだろうか?
性格反転キノコの効力は、早くも繭の体内から消え去ってしまっていた。 』
に。
「その内気な女王様はね、確かに内気な部分は治ったんだけど、思慮深い部分まで反転してしまったの」
そうスフィーが言い終わるか言い終わらないかのうちに、
「そんなの私には関係ないわ」
今までの芹香からは想像もできない、はっきりした声が発せられた。
「?」
「何ジロジロ見てるのよ」
「芹香さん、もしかして食べちゃった?」
「ええ」
「えっ!?」
あまりに咄嗟の出来事にスフィーが驚いたのは言うまでもない。
だが芹香はそれにはお構いなしに、
「さっ、往人探しに出発するわよ」
「ちょっ、ちょっと待って!」
「あ〜もう、何モタモタしてるのよ!」
「あ、あの、放送が…」
ゴタゴタに気を取られて、危うく放送を聞き逃すところだった。
参加者名簿を片手に、スフィーは読み上げられる名前の場所に線を引きながら、
「この声、どこかで聞いたような…」
「知らないわ」
「う〜ん…」
やがて、『それでは健闘を祈る』と放送が締めくくられた。
「スフィー、終わった?」
「うん」
「はい、それじゃあ出発するわよ」
「ちょっと待って」
「今度は何よ?」
「雨が…」
放送の頃から、屋根を雨が打つ音が聞こえだしていたのだ。
遠くから雷鳴も聞こえる。
「雨なんか関係ないわ」
「でも、雨具とかないでしょ?」
「それはそうだけど」
「ここで雨に打たれて体を悪くしたら…」
「心配性ね」
その時、「ドーン!」と激しい音が鳴り響いた。
「きゃっ!」
スフィーは思わずしゃがみ込む。
「あなたの言うことも一理あるわね」
芹香は物怖じしない。
「雷に打たれちゃここまでの意味がないわ。仕方ないから付き合ってあげる」
----
【スフィー・芹香、小屋に滞留。所持品は変わらず】
反転芹香は、「性格だけ綾香っぽい」感じで書いてます。
潮騒。
そして、蝉時雨。
「暑ぃ…」
俺は、タクラマカン砂漠の追放者の如く、飢えと乾きに苦しんでいた。
堤防の上で、乏しく温い夏の風に嬲られながら、俺は劇的に生き倒れている。
薄く包み込むような波の音が、頭蓋骨を攻め立てる蝉の声に締め出されていく。
「暑ぃ…」
こんな日は、冷たい飲み物が何より嬉しい。
晴子が、俺に説教くれながら抱きしめる一升瓶の中身。
いや…ああいう生暖かさは、遠慮したい。
そう思うやいなや、右手に清涼感が伝わる。
「おっ、気が利くな」
観鈴か?と思いながら、掴んだ腕を目の前に持ってくる。
”どろり濃厚”
「……(ぽい)」
捨てる。
ざけんなよ、って感じだよな。
そのまま太陽を凝視する。
叩きつける日差しの強さに、朦朧としながら、なぜか肩に痛みを感じる。
暑さは、肩から伝わってるような気がした。
これ以上ないくらいの明るさに、瞳孔が収縮し視界が眩む。
そのとき、俺は見た。
光を纏った、羽の生えた女が飛んでいる。
その光量は太陽をはるかに越えていた。
あまりの眩しさに、周囲が闇のように思えてくる。
真夜中の月のように。
すべての星を従えて。
女は、笑った。
美しくもおぞましい、寒気のするような、笑いだった。
俺は一人震えて、彼女が西の空へ消えて行くのを見つめていた。
それだけが、俺にできる全てだった。
気がつけば、光に焼かれたかのように蝉時雨が消えている。
入れ替わりにざあざあと、耳障りな騒音が周囲を埋め尽くす。
終わることなく、ざあざあと。
右手に、雫が落ちて規則的に俺を叩いていた。
目を開けてもろくな事にはならない、そう思って長らく耐えていたが、限界はある。
「……うおっ!?」
俺は、草原の中で僅かに群生する、巨大な木の枝の上で寝転んでいた。
高さを利して周囲を見渡すが…俺はこの世界で孤独だった。
雨が降っている。
雷が鳴っている。
世界は姿を変えて、俺を迎えていた。
「観鈴!晴子!?」
観鈴はいない。
晴子もいない。
さっきまで抱えていた、あの女さえいなかった。
「…くそっ」
枝を叩く。
震動で枝葉の纏っていた水滴が零れ落ちる。
続けて、不平を漏らす声。
まるで気がつかなかったが、人がいたようだ。
雨宿りをしながら、山のように詰まれた荷物を分配している。
「ちょっとあんた」
「いい加減にしなさいよね」
呼吸のように自然と湧き出る文句。
真下に、三人。
若いのに、既に晴子のような横柄さを見せる女が二人。
日本刀でのダブル突っ込みは強力そうで、あまり相手にしたくないタイプだ。
そして目を丸くした男が一人。
…なんだ、その熱い視線は?
俺はお前なんか知らない。
知らないぞ。
断じて、知らない。
頑なに拒む俺を無視して、そいつは言った。
「あんた…国崎往人、か?」
目の前に、小山が出来ておりました。
我ながら感心するほどの荷物を、私北川の慈悲の光のもと、婦女子に分け与えております。
間違っても搾り取られているなどとは、私の健康と幸せのために申しませんですハイ。
それでもどうにか、CDとM19マグナム、そしてレーダーだけは死守しておりまして。
携帯やハサミ、怪しい薬に水鉄砲、使えない弾、晴香様にお似合いのメリケンなどは、傍らに
掘った小穴に惜しげもなく廃棄されていきます。
「呆れたもんね…アンタ、物欲の塊だわ」
ダイナマイトも捨ててしまいました。
火種がないので構いませんが。
「物を捨てられない人って、本当にいるのね」
あなた方は捨てすぎだと思います。
…特に女らしさって奴を。
「「うるさいわね!」」
ガスッ!ガスッ!
…婦女子は各々、刀を勝手に交換し手榴弾を強奪、いえ、お受け取りになって口々に感謝の
言葉を下されました。男冥利に尽きるというものですハイ。
そして余ったクマさんと電動釘打ち器、そして大きなナイフを再度鞄に収めようとした時に、
アンビリバボーな事件はおこったのです。
”空から女の子が降ってきた”
いかがでしょうか?ちょっとラッキーなイベントでしょう?
もちろん、体重100kgのジャイアンみたいな婦女子だったら、辞退させて頂きますけれども。
あのイベントは、今では私の心の傷ではありますが、忘れ得ぬ、夢のようなひとときでありました。
…ところが今回は違いますね。
”頭上から野郎が水滴をぼたぼた”
いかがでしょうか?これ以上ないくらい萎えるイベントでしょう?
これが小便だったら、某婦女子二名の性格から言って、血の雨が降っていたでしょう。
そう、私北川は、野獣のような精悍な婦女子に左右を囲まれつつ、野郎の聖水、いや水滴
をこの身に受けたと言うわけなのです。
「熊とか野獣とか、動物ネタから離れなさいよ!」
「聖水って下ネタやめなさいよ!」
ガスッ!ガスッ!
過剰な親愛のゼスチャーに唖然とする樹上の男。
彼に、この境遇を分かち合う覚悟があるかどうか、聞いてみる必要があると思います。
「国崎さん、とりあえず降りてこないか?」
「ゆっくり、ね」
お二人様は相変わらず、お手が早くていらっしゃいまして、既に刀を抜いております。
わかっている、と冷静に答えて国崎さんは降りてきました。
腕に怪我をしているのか、必要以上にゆっくりでしたが。
婦女子二人が彼の行動を見張っている間、私北川はちらりとレーダーを見てみたのです。
…光の点は、いつの間にか四つになっておりました。
神様、この怪しい男を、探していた二人の元へ導く事は、罪になるでしょうか?
【北川 CD1/4、2/4、無印CD、志保ちゃんレーダー、M19マグナム所持】
【晴香 刀を交換(古いものは捨て)、ワルサーP38所持】
【七瀬 毒刀、手榴弾三個、レーザーポインター、瑞佳のリボン所持】
クマ爆弾、釘打ち器、大振りのナイフは地面の上。
【国崎往人 三人の雨宿りしている木の上に転移。神奈の幻を見る】
社を移動したときのイメージで、方向も正しいかもしれません。
「樹上の男」です。
前話で往人の転移は語られていませんが、郁未を抱えていた往人が転移しても不自然は
ないと思います。
少年が認識したのは、その場にいた四人だけ、ということで。
北川-往人コンビになれば結界組との縁もできますし、医療所組とのカップリングも可能でしょう。
もちろん往人は観鈴と晴子の捜索を優先するでしょうが、手掛かりは何もありません。
空を敷き詰める、灰色の雲。雨は鹿沼葉子の身体から容赦なく熱を奪っていく。
雨のカーテンが、男の姿を曇らせる。男――である事しか分からない。
男は返事をしなかった。棒立ちのまま、応えない。攻撃の意志はどうか。いや、そもそも――
「――誰、ですか」
当たり前の疑問。攻撃の意志が無いのなら、応えてくれても構わない筈だ。
だが、男は応えなかった。雨は尚も男の姿を曇らせている。
どうする?近付くか。しかし、相手が武器を持っていたら危険だ……。
逡巡。武器が無いのが痛手だった。力の無い今、素手で男に勝つ事など不可能。
だが、逃げられる自信も無い。……まずい。絶体絶命……か?
「名前は無い」
ふと、返事があった。雨に掻き消されそうな程、軽い声。
聞き覚えのある声であった。つい最近聞いた。記憶違いでなければ……。
……いや、その返事こそが「誰なのか」を言い表している。間違いは無い。
溜息を吐いた。
「貴方、ですか」
雨のカーテンを潜り、姿を現すモノ。
少年。
「すまないね。驚かせてしまったかな」
「……全くです」
苦笑。浮かんだ笑顔は、いつもの少年と何ら変わりはない。
そう、何一つ、変わってはいなかった。
「……その人は」
「ああ、この男かい?」
少年は、肩に一人の男を抱えていた。だらりと腕を垂らしたその姿は、死人にも見える。
無論、葉子も死人かと思ったのは言うまでもない。
「管理者側の人間さ。ちょっと悪ふざけが過ぎるようなんでね――捕まえておいた」
「その男を、どうするつもりですか」
問い掛け。葉子の顔からは、厳しさが抜けていない。
少年は、ふむ、と一つ考える素振り。目は、葉子を見ている。無表情な視線――
「――そうだね、管理側の情報を教えて貰おうと思ってるんだけど」
何気ない様子で返す。しかし、それこそが、葉子の背筋にひやりとした感覚を与える。
管理側の人間が、そう簡単に情報を漏らすだろうか?否、漏らすまい。
当然の話だ。少年もそれは知っている筈。だが、彼は「教えて貰う」と言った。それは、つまり。
……無論、聞くまでもない事だ。
「……惨いことを」
「情けのつもりかい?」
「………」
答えない。心の中で、いいえ、と答えた。
その真意は。
雨の中。髪を伝い、水滴が地面へと落ちる。顔に張り付く髪が、煩わしい。
いっそのこと、切ってしまおうか。戦闘の時に邪魔になるとも知れない。
しかしそこで、思い出す。郁未の顔。彼女の髪は、綺麗だった……少し、羨ましく思う程に。
何となく、切るのを惜しく思った。
……しかし、咄嗟に思い出すのが郁未の顔とは。少し自分を改めた方が良いかもしれない。
「さて……」
随分と間を持って、少年が口を開いた。
「この辺に、人の多い場所は無いかい?出来れば、武器を持っている人達がいい」
「何故、それを聞くんですか?」
「うーん、一人で行動してるとどうしても危険が多いからね。出来れば、多人数で行動出来る方がいい」
当たり前だ。一人の辛さは、知っている。いや、知らされた、が正解か。
人が多いと言えば、今さっき出てきた所だろうか。多数の人の気配。飛び出してしまったが、あそこには何人居たのだろう。
教えられるとすれば、あそこしか無いが――
「……いいえ、知りません」
口から出たのは、そんな言葉。無論、操られているわけでもなく、自分の意志で言った事。
少年は、困ったな、といった顔を見せた。それを見ても、葉子は己の嘘を改める気は無い。
――違和感があった。それは、些細なもの。
目の前に立った少年は、一つ前に会った時と何ら変わらなかった。口調、雰囲気。そして笑顔。
だが、この状況に於いて、その違和感は致命的なものだった。
この島に来て、三日。狂った島に突然運び込まれ、三日だ。
その状況に於いて何一つ変わらない、そんな事が有り得るのか?いや、そんな筈は無い!
違和感は、葉子の中で不信へと変わっていたのだ。今や、彼女の目は、睨むような目に変わっている。
それを見てか――少年は溜息を吐いた。
「……まぁ、しょうがない、か。ゆっくりと探すよ」
くるりと踵を返す。雨の向こうへ、消えていく。
そして、声だけが、雨を潜り抜けて届いた。
「君は、本当に賢い子だね――」
そして、雨の向こうの影が消える。
10秒。それだけ待って、葉子は再び駆け出した。
【残り22人】
453 :
彗夜:2001/07/14(土) 16:37
書きました。
そもそも少年の質問自体がうさんくさいだろうという突っ込みは無しでw
あ、
>>452の最後、「そして、声だけが」の「そして、」を消して下さい。
申し訳ないです。見直しても、この類のミスは見逃してしまうんです……。
降りしきる雨の中、男は戦友の死を知った。
(御堂…俺と決着をつけるのではなかったのか?…何故だ?何故俺を残して…何故…)
蝉丸は少女を濡れないように気を配りながら背負ったまま住宅街を疾走しながら思考を巡らせていた。
光岡、岩切、きよみ、そして…御堂…彼が時間を共有した者は皆、死んでしまった。
ザァァァァァァァァァァァァッ……
(あぁ、そういえば、あの時もこんな雨の日だったな…)
(1行あけ)
―――――――――その時はその時考えりゃいいだろ!!
蝉丸は突然の雨に戸惑っていた。
降りしきる強烈な水の矢が運動場に突き刺さる。
「よぉ、坂神。テメェも居残りか?」
声の主は御堂であった。顔合わせは済んでいる。初日から喧嘩をやらかした仲である。
「健康審査だ。実験体としてふさわしいかの最終審査だった」
「奇遇だな、俺もだ。けっけっけ、楽しみだぜ。この審査に合格すりゃあ、
いよいよ俺も強化兵の仲間入りだぜ。…坂神、テメェは嬉しくねぇのか?」
御堂は蝉丸の顔色を覗きこんだ。
「…実を言うと、不安で仕方ない。自分がどう変わってしまうか、自分が自分では無くなるのではないか、不安なのだ」
強化兵についての噂は、はっきり言って良いものは少ない。
発狂し、己の体を食いちぎり、絶命…手足が膨張、消し飛び、処分…暴走、3人もの研究員を殴り殺し、射殺…
もし、自分がそうなってしまったらと考えてしまうと、蝉丸は不安でいっぱいだった。
「ハァ?何言ってんだ?そんなことグダグダ考えてたら前に進めねぇだろうが!
もしそうなっちまったら、なった時に考えりゃあいいだろうが!!いいか、俺が手本を見せてやる、よく見てろ!!」
そう言うと御堂は豪雨の中に飛び込んだ。当然、彼の体は雨に打たれ、ずぶ濡れになる。
「ハハハハッ!坂神!!濡れちまうのも案外気分がいいもんだぜ!!」
「御堂、風邪をひいたらどうするんだ?」
「その時はその時考えりゃいいだろ!!」
「……そうだな」
気がつくと蝉丸もまた御堂と共に雨に打たれながら運動場を走り回っていた。
(2行あけ)
ザァァァァァァァァァァァァッ……
「(・∀・)…蝉丸?泣いてる…の?」
「雨だ。泣いてなどいない」
「(・∀・)そっか、良かったぁ〜。蝉丸、急に悲しそうな顔するんだもん。心配しちゃったよ」
「そうか、気を遣わせてすまない」
「(・∀・)うん、いいよ。ねぇ蝉丸、アレ、何だと思う?」
月代は赤いシャッターが目に痛い一件の家を指差して言った。仮面の視界からはよく見えないのであろう。
蝉丸の目からはシャッターに書かれた文字まではっきりと読み取れた。
「文字が所々消えているが……『…島消…団』どうやら消防団の詰め所らしいな。
……ふむ、消防団か…拡声機くらいならあるかもしれんな。月代、行ってみるか?」
「(・∀・)え?…でも、あそこに何も無かったらどうするの?それに鍵がかかって入れないかもしれないよ?」
「その時はその時考えればいいだろ?」
「(・∀・)…何かそのセリフ、蝉丸らしくないね」
「あぁ、そうだな。…やはり奴本人の口から、もう一度聞きたかったな」
雨は降り続く。島内にも、男の心の中にも。
【蝉丸&月代 現在位置 住宅街 消防団の詰め所周辺】
【月代のお面 現在は安定し、(・∀・)に】
蝉丸が持っていった武器については次の書き手さんにお任せします。
長い長い階段を抜け、私たちはやっとたどり着いた。約束の地点へ。
そこに居たモノは。
「おじさんっ!」
あゆちゃんが駆け出す。その先に居たモノは。
「おじさんっ!おじさんっ!」
「バカ、あゆ、走るな!」
梓が駆け出すあゆちゃんを止めようとする。彼が殺られていたとしたら…危険に
わざわざ飛び込むようなことは避けねばならない。
全身の感覚を集中させてみる。「敵」らしき気配はなかったが、迂闊な行為は
自分だけではない、全員の危険に継る。
しかし、停める間もなくあゆちゃんは「彼」に辿り着いてしまった。
そこには。
彼を抱き抱え、血だらけの、ぐしゃぐしゃの顔で、戸惑う詠美。
人格が変わったかのようにみゅーみゅー泣きわめく繭。
無惨に脳天を撃ち抜かれた、白衣の男。
そして、明らかに多すぎる血溜りの中で物言わぬ御堂。
そして。
私が追いついたそこには。
「おじ…さん…嘘…だよ…ね…」
呆然と立ち尽くす、あゆの姿があった。
「おじさん!おじさん!おじさんっ!」
「みゅー!みゅー!みゅーーー!」
「ちょっちょっと!あんたたち重い!重いってば!」
あゆ、繭、詠美が御堂の遺体を取り囲み。
そして、啼いていた。
みんな、血と、涙で、ぼろぼろ、だった。
「はは、おっさん、モテモテじゃんか…」
思わず、そんなことしか呟けなかった。
おそらくは相撃ち。
このガキどもを守るために、おっさんとブレーメンの毛玉犬は、犠牲になったんだろう。
おそらく、すべては終わってしまったんだ。---あたしたちが辿り着く前に。
妙に醒めた目で見れる私は、もう慣れてしまったんだろうか。
狂った現実に。
「おじさん!おじさん!目を覚まして!死んじゃやだようっ!」
「やめな、あゆ!おっさんは、もう…」
「そんなの、嘘だよ!だって、約束したもん!ここで逢おうって!おじさんと!」
あゆがあたしに食ってかかる。
でも、今更、あたしたちに何ができるっての?
「あゆ!今は敵地の中なんだ。ここで騒いで狙い撃ちになって、おっさんが
喜ぶとでも思うか?」
「でもでも、おじさんのからだ、まだこんなに熱いいんだもん。
一生懸命手当てすれば、おじさんまた元気になれるよ。
またボク、一緒にいられるよ!もう誰も死なせたくないよ!」
それを聞くや、千鶴姉が驚いたようにあゆに問いかけた。
「…ねえ、あゆちゃん、『熱い』って、なぜ…?」
千鶴姉が、おっさんの死体に、手を近づけた。
「彼」…御堂の死因は、どう見ても明らかだった。
失血死。
致命傷と呼ぶほどの深い傷はない。大量の血液を失い、それでも敵を屠ろうとしたゆえの
失血死だろう。
明らかに血を流しすぎた御堂に、体温と言えるものが、もう、残っているはずはなかった。
そう。「鬼」ではない、人間の御堂に…
私は、御堂の冷たい腕に触れてみた。
脈拍、なし。
頸動脈にも触れてみる。
すでに体温と呼べるものはなく。
明らかに、御堂は息絶えていた。
そして、あゆの血だらけの手を退け、御堂の躯に触れてみた。
なに、これは。
明らかに、体温以上の、なにかの「熱」がある。
ヒトならぬ「鬼」である千鶴には、わからなかった。いや感じられなかった。
丁度御堂がその生命の終焉を迎えたとき、わずかの間、ヒトの力を制限する『封印』が
外れたことを。
「不可視の力」すら抑る、結界がわずかの時間、解かれていたことを。
封じられた仙命樹の力が一瞬、一気に吹き出し、死んだ御堂の中で一瞬、息を吹き返した。
御堂は確かに死んだ。しかし、その中でなにかが「活き」ていた。
なにかは急激に、御堂の躯を再生した。
御堂の血液は出し尽くされたのではなく、出血が止まっていた。
増血とともに、停止した心臓もいずれ鼓動を始めるのだろう。
しかし、その「なにか」の力も急激に衰えつつあった。
このままでは、本当に危険な状態になる。---生き返ることなど、できない。
人として手を尽くさねば、この「活きているモノ」の力は発現せぬまま尽きてしまうだろう。
御堂とともに。
「…そうね、あゆちゃん。すぐ手当てしないと、御堂さんは助からないわ。
手伝ってくれる?」
「うん!千鶴さんっ!」
「お、おい。千鶴姉、正気?」
「梓、あなたも『鬼』なら、知っているでしょう?
世界には、尋常ではない生命力が、ごくわずかだけれど、存在している。
御堂のなかには、『なにか』が『活きている』。もしかすればだけど、
何時間かかるかはわからないけれど、大丈夫かもしれない…」
「何か、だって…?」
「私とあゆちゃんは、医務室へ行くわ。…闘いは、多分、終わっているから…。
それじゃ梓、ここはお願いね」
「え、お願いって?」
そこに残されたのは、
あたし。
詠美。
みゅーみゅー泣く娘。
ブレーメンの音楽隊(マイナス1)。
長瀬のおっさんの、死体。
もしかして、ババ引いた?
[千鶴&あゆ 医務室へ]
[御堂 復活?それとも…]
[長瀬源五郎&ポテト 死亡]
[梓&詠美&繭&ぴろ&そら これからどんどこしょ?]
剥げた大地。粉砕された草木。頬を幾度と無く打つ、水滴。雨だ。
晴子はその中で目を覚ました。
痛みと、息苦しさ。草陰に、転がり込むようにして倒れていた。
すぐ隣にあった木が真っ二つに折れている。幹は30cmもあった。
木が、身代わりになったのか?
少し首を巡らすと、折れた木の半身は案外すぐに見つかった。転がっていた。10m程に先に。
ぞっとする。一歩間違えば、自分がああなっていたのか?
だが、今生きている事には違いない。折れた木に、そっと感謝する。
立ち上がる。と、走る痛み。肩からではない。腕からでもない。足?
何となく見やる。なるほど、原因は知れた。折れた枝が突き刺さり、傷から一本の紅い川が流れている。
細い、細い枝だ。貫いてもいない。降りしきる雨に濡れている。抜き取ると、少し血が出た。
適当に縛り付ける。結局、左の袖も無くなった。
「――観鈴?」
呼び掛ける。何処にいるのかは知らない。倒れているのだろうか?姿は見えない。
返事は無かった。
「居候?」
さらに呼び掛ける。図体も態度もでかい男だ。倒れていても、見える筈。
それでも姿は見えなかった。返事も無い。
それだけではない。少年も。あの少女も。そしてあの男も。
誰も居なかった。誰も。誰一人として、動くものは無い。虫一つ、見当たらない。
「居候?……観鈴ッ!」
声は返らない。何処だ。何処にいる?
倒れているのかもしれない。万が一、傷を負っていたら?
自分は枝が刺さっていた。二人に何が刺さっているか知れたものではない。
細い枝でも、目に刺されば死にかねないのだ。自分は運が良かったに過ぎない。
名前を叫ぶ。観鈴の。往人の。決して届かない、叫び。次第に、その声は悲痛なものになっていった。
雨の水滴が喉を打ち、思わず咳き込む。ようやっと、悲鳴のような呼び声が止まった。
喉が痛かった。何度叫んだ?知るか。数えてなどいない。
今が何時さえも解らない。自分が何処にいるのかすら解らない。
喉が痛い。ああ、目が、熱い。泣いているのか?違う。どうして泣くのだ?何故?
……何でおらへんのやッ。観鈴!
喪失感。気が狂わんばかりの、焦り。もはや声など出なかったが、それでも名を呼んだ。
隣に居た者。護るべき人。狂気の中、狂気の島で、一つだけ、己のココロを繋ぎ止めた"鎖"。
あの子がいる。それだけで、晴子は"普通"でいられた。どんな時も、後ろにあの子が居たから。
何度も、自分の側から離れた。その度に、感じた、焦り。走り出したその背中が、死へと向かっているようで。
まるで、羽が生えているようで。
いつか、共に居た者が、泣いていた時。晴子は、観鈴の話をしてやった。往人の話をしてやった。
彼女は泣きやんだ。笑ってくれた。嬉しかった。まるで、二人が、彼女を救ったようで。
だが、彼女はもう居ない。そして今、自分は、泣いている。
しっかりしぃ、自分。あさひちゃんに笑われんで。
それでも涙は止まらない。悔しかった。自分を殴りつけたかった。腹立ち紛れに、叫んでいた。
時折走るイメージ。血の海で、倒れる二人。お母さん、お母さん――苦しげに、名を呼ぶ声。
違う!二人は生きている。そんな筈は無い。勝手な妄想だ。しっかりしろ。前を見ろ!
再び走るイメージ。無視だ。前を見ろ。名を呼べ。声を出せ!
白光。強烈な光。消えていく景色。光に包まれる、二人の姿。痛い程に鮮明なイメージ。
止めろ。ふざけるな。そんなものは見ていない。そんなものは見ていない。そんなものは見ていない。
二人は生きている。血も無い。死体も無い。何処かに逃げたんだ。そうだ。そうに決まってる。
黙れ!溶けるわけがない!止めろ。止めてくれ。観鈴。居候!目が痛い。観鈴!
「―――」
もはや声など出ていない。口だけが、形を刻む。涙と、泥。歪んだ顔。
血の滲む傷口。縛り付けられた布は、既に真っ赤だった。
見えてくる、剥げた大地。既に三度も見た。ぐるぐると、同じ所を走っているのだ。
もはやそんな事にも気付きもしない。怒り。焦り。そして、渇望。
狂っていた。間違いなく、それは、狂っている。
光を失った目が、何かを捉えた。草の中、雨に濡れて転がる物。
シグ・ザウエルショート9mm。
ふらふらと、歩み寄った。既に走ってすらいない。一歩、一歩。倒れる寸前だ。
ようやっと辿り着く。しゃがみ込んでそれを拾い上げた。
やっと、見つけた。でも、それは観鈴ではない。観鈴ではなく。
「観鈴」
ぽつり、と呟いた。声のない叫び声よりも、ずっと、ずっと明瞭な声で。
持ち主は居ない。誰も居ない。たった一つ、一つだけ、残された銃。
目が熱い。熱い。泣いているんだ。それだけ解った。
立ち上がりもしなかった。ただ、ただ泣き続けた。泣き声が、雨の中に、消えていく。
自分が、倒れていた事にも気付かなかった。落ちていく。奈落の底へ。
そこで見た。思い出す、爆発の瞬間。
白光。衝撃。そして、半身が溶け、消えた、愕然とした顔の、観鈴。
それは明らかな、自分の記憶。間違えようのない、記憶。
つまり、観鈴は死
悲鳴。
最後に、晴子の意識は闇へと落ちた。
【残り22人】
464 :
彗夜:2001/07/14(土) 23:15
書きました。
「道連れは」を見てみたんですが、武器を持った様子は無かったので。
ベネリM3は観鈴の所にあるのかもしれません……。
「二人とも逝っちゃったのか。」
彰は降りしきる雨の中ただ空を見上げていた。
バラバラになりそうになる心を繋ぎ止める鎖、それは初音を無事に脱出させるという思い。
初音を思うということに関しては彰も内より生まれし鬼にも違いはなかった。
愛情と肉欲という致命的な違いはあったが……。
彰は思う。
すぐにでも初音の元に戻るべきか、それとも周辺をもっと探索して安全を確認してから戻るべきか。
鬼は思う。
初音の周りの男どもを始末するか、初音の安全を確保した上で狩りを楽しむか。
彰の中は初音を中心にまわっている、それは疑うことすら必要の無い事実。
『理性』と『本能』両方が認めた美しき花嫁。
しかし、その気持ちを揺さぶる事件が起きた。
(3行あけ)
それは雨の中、診療所に向かっていた時のことだった。
周辺の探索に変更するにしてもこのまま戻るにしても少々離れすぎていたためだ。
そして止みそうも無い雨を恨めしげに思っているときに岩穴を発見したのだ。
雨宿りと人が居ないかを調べるために岩穴に入ったときそれは見つかった。
「この床掘られた跡があるぞ……何が埋められてるんだ。」
『理性』の奴が独り言の抜かしてやがる、だがそんなことはどうだって良い。
この場所から微かに血と『女』の香りがする。同族の女の極上の香りだ。
今の彰の力は常人よりは遥かに上である、この程度のものすぐに掘り返された。
そしてそこに在ったのは……。
「隠し階段……、この下に何があるって言うんだ。」
プンプン匂うぜ、間違いなこの下に『女』がいる。
【彰 施設への別の入り口発見】
【突入するか退くかは次の書き手さん任せです。】
「今の彰の力は常人よりは遥かに上である」
この部分は修正をキボーン
誤爆しました。鬱だ。
修正です
二人とも逝っちゃったのか→二人とももう死んでしまってたのか
今の彰の力は常人よりは遥かに上である、この程度のものすぐに掘り返された。
→余り深く埋められていなかったので比較的簡単に掘り返せた。
間違いな→間違いない
ラストに次の分を追加してください。
しばらくはおとなしく辛抱して後から愉しむつもりだったのにな……。
この武装ではあまり無茶もできないしな、どうしたものか……。
次に新作を上げる方できるだけ新スレを立ててそちらにお願いします。
スレを立てたことが無いので他の人に建ててほしいという場合
感想スレの方に書いてください。
誰かが立ててくれるはずです。
誰かが立てたね
誤爆です。鬱だ。 とりあえず逝って来ます。
当スレッドは容量の都合のため、早めに引っ越しました。
993838953.dat 14-Jul-2001 21:53 440k