ToHeart2 SS専用スレ 4

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1名無しさんだよもん
桜が舞う、暖かな季節。
新しい出会いや恋、そして友情に笑い、悲しみ。
すべてが始まり、終わるかもしれない季節。
季節といっしょに何かがやって来る、そんな気がする―――。


ToHeart2のSS専用スレです。
新人作家もどしどし募集中。

※SS投入は割り込み防止の為、出来るだけメモ帳等に書いてから一括投入。
※名前欄には作家名か作品名、もしくは通し番号、また投入が一旦終わるときは分かるように。
※書き込む前にはリロードを。
※割り込まれても泣かない。
※容量が480kを越えたあたりで次スレ立てを。

前スレ
ToHeart2 SS専用スレ 3
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1107183192/

関連サイト等は>>2-3
2名無しさんだよもん:05/02/15 20:54:39 ID:8r/tBURk0
今描いてるやつ才能ないから書かなくていいよ、邪魔
3名無しさんだよもん:05/02/15 20:54:54 ID:LCH7a5g90
AQUAPLUS『To Heart2』公式サイト
ttp://www.aquaplus.co.jp/th2/

ToHeart2 スレッド 過去ログ置き場(仮)
ttp://f55.aaa.livedoor.jp/~kuma/toheart2/
本スレや各キャラスレはこちらから。

ToHeart2 SideStory Links
ttp://toheart2.ss-links.net/

各キャラの呼称相関図は
ttp://botan.sakura.ne.jp/~siori/hth/
内のToHaert2呼び方相関図を参照。

テンプレ
ttp://www.geocities.jp/koubou_com/template_th2_ss.html
4名無しさんだよもん:05/02/15 20:55:37 ID:LCH7a5g90
各作者さまによる作品保管庫(順不同)

チラシの裏
ttp://www2.tokai.or.jp/v-sat/

ToHeart2 SS(゚w゚)
ttp://www.geocities.jp/karin_th2/

B.C.Projectの住処
ttp://bcproject.h.fc2.com/

未開拓保管庫
ttp://www.geocities.jp/umisouko/

権三郎の書庫
ttp://www17.ocn.ne.jp/~gonzou/

我楽多工房.com
ttp://www.geocities.jp/koubou_com/

紅空精神
ttp://www.geocities.jp/saotome_99/

7thSummer
ttp://www.geocities.jp/fuduki7th/
5名無しさんだよもん:05/02/15 20:58:11 ID:8r/tBURk0
チラシの裏っても最近のは大体が両面印刷されてるからね〜 意味ないよ
6名無しさんだよもん:05/02/15 21:21:44 ID:m/UUkYAQ0
初芝げっと
7名無しさんだよもん:05/02/15 21:22:42 ID:Od9RVJsz0
「トゥハート」とは直接関係無いけど、
「雫」「痕」はコンシューマ移植(PS2とか)は無理だろうなぁ。
「痕」は、まぁ残酷シーンを外せば(Hシーンも)なんとかなるだろう
けど、「雫」はHシーンが物語の中で重要な鍵になってるからなぁ・・・
8名無しさんだよもん:05/02/15 21:25:10 ID:onlRirei0
突然何を言うか。
9名無しさんだよもん:05/02/15 21:58:20 ID:x53cUXnk0
>>1
乙〜
10名無しさんだよもん:05/02/15 22:42:39 ID:YyO+leMn0
>1

11名無しさんだよもん:05/02/16 02:02:16 ID:aArLQ8vn0
>>1
乙彼だぞ、うー。
12名無しさんだよもん:05/02/16 04:53:25 ID:wtnViMlg0
>>1
乙花梨
13名無しさんだよもん:05/02/16 05:03:04 ID:tEW1KRpE0
(゚∀゚)よっち!よっち!

↑がよっちスレの基本フォーマットとなりますた、多分
14名無しさんだよもん:05/02/16 10:22:28 ID:7Wq/AHoe0
ギャグ編が読みたいなあ、などと
おねだりしてみるテスト
15黒の者:05/02/16 13:36:56 ID:8pZkZG0T0
>>1
乙ぅー。
>>14s
ギャグ・・・?
私の得意分y(強制終了)
16名無しさんだよもん:05/02/16 13:54:02 ID:Z5+r4cZB0
>>15
SS書いてるわけでもねえのにコテにすんな。
せめてこのスレは名無しにしろ。
17名無しさんだよもん:05/02/16 14:46:28 ID:8pZkZG0T0
確かに、ここではややこしいですな。
180/7 ただ心だけが 13:05/02/16 20:46:25 ID:ZPc3tbyu0
 前回までのあらすじ
 貴明と愛佳が結ばれたことで、必然的に出会った雄二と郁乃。郁乃が雄二をいい男と言ったことを拡大解
釈した愛佳の後押しで、ふたりは友人となり、今は恋人関係。
 しかし二人が結ばれてすぐに郁乃の病状が悪化して、ついには面会謝絶に。
――……向坂くん……、郁乃は向坂くんと結ばれて幸せだったんですよね……。

 時には本編よりエピローグが長い作品があってもいいんじゃないかと思う。
 冗談、冗談ですよ〜。

第一話から第十二話はこちらで。
ttp://www.geocities.jp/koubou_com/
191/7 ただ心だけが 13:05/02/16 20:47:08 ID:ZPc3tbyu0
 気がつくと電話は切れていた。つーつーと電話が切れた後の発信音だけが耳元で繰り返し繰り返し鳴っ
ている。携帯電話を押し当てた耳が焼け付くように痛かった。左手はその状態のまま固まってしまってい
て、携帯を耳から引き剥がすのに右手を使わなければいけなかった。
 まだ朝に目が覚めてからさほど時間が経っていないような気がするが、窓から差し込む光は夕方のそれ
だった。ずいぶん長い間電話していたような気もする。だが愛佳といったいどんなことを話したのかほとんど
覚えていない。それでもなんとなく頭に入っているのは郁乃のことだった。
 今、郁乃を苦しめているのは自己免疫疾患によるものではなく、病気の進行を抑えるための投薬により弱
りきった体に別のウイルスが入り込んだためだという。そういったことを無くすための新しい治療法だったの
だが、一昨日、昨日と発作に対して使った経口薬は強力な免疫抑制剤で一時的に郁乃の体は外敵に対し
てなんの抵抗力も失っていたのだ。そしてそんな郁乃に対して使える治療法はほとんどなかった。できるこ
とは無菌に近い状態で、郁乃自身の体力が病魔に勝ることを祈る他ないというのだ。
 本当にどうしようもないのかと問い詰めた雄二に、愛佳が電話の向こうで泣き出してしまった。
――本当に……本当にどうしようもないのなら祈ります。それしかできないのならそうします。でも、でも、
薬、あるんです。でもそれは未承認薬で――
 そう、以前にも聞いた。郁乃の病気が不治の病であることを知った直後だ。愛佳自身が言った。もっと新し
い治療法、もっと新しい薬はある。けれど使えないのだという。なぜならそれは日本では認可されていない
から。使えば莫大な費用がかかってしまう。莫大な費用。莫大な費用。
 何百万か、それとも何千万か、もしかしたらもっとかかるのかもしれない。それは個人に負担できるような
額ではない。
 ――普通の個人であれば――。
202/7 ただ心だけが 13:05/02/16 20:47:50 ID:ZPc3tbyu0
 手の中の携帯から父親の秘書を選び出す。
 雄二は初めて父親に願い事をしようとしていた。以前のお見合いの話とはワケが違う。あれは抗議だっ
た。こちらは文句を言って、受け入れられなければ怒って飛び出してくればそれで済んだ。だが、これはそう
いうわけにはいかない。それこそ土下座してでも話を聞いてもらわなければならない。
 幸いにして電話はすぐに繋がった。
「坂下さん、親父は?」
――只今は会議中でいらっしゃいますが、どうかされましたか?
「頼む、取り次いで欲しいんだ。人の、命がかかってる」
 声がうわずるのは熱の所為か、罪の意識故か……。
――冗談……ではなさそうですね。少々お待ちください。
 保留音に切り替わる。いつの間にか床に落ちていた濡れタオルを拾って額に当てる。消えたと思っていた
頭痛が、ずきんずきんと戻ってきている。気を紛らわすために時計をじっと見つめる。再び電話が通話状態
になるのに要した時間はほんの数分だった。
――雄二、真面目な話なんだな?
「父さん、その……」
 あれほど息巻いて電話をかけたにも関わらず、いざ父親が電話の向こうにいると思うと、途端に気持ちが
萎縮してしまう。しかし郁乃のことを考えると、そう萎縮してばかりはいられなかった。
「今、俺の大事な人が……危険な状態らしいんだ……。俺の学校のすぐ裏手にある総合病院に入院してる
子で、今は面会謝絶らしい。すごく勝手な話だとは分かってる。けど、助けてやりたいんだ。ええと、つまり、
なんていってたかな、そうだ! 未承認薬を使いたい。けどそんなことをしたらすごくお金がかかるらしくて、
彼女の家庭にはそんな余裕はない。だから――」
――金、か。
「そう……」
――……将来を誓い合った相手はいない、そう以前言っていたはずだが。
「それは今だってそうだ。そんな将来を誓い合ったりなんてしちゃいない、けどっ、今、郁乃がいなくなること
なんて考えられない……。父さん、頼む……」
 しばらく父親は黙ったまま何も言わなかった。
――金がいくらかかるか分からない。それで助かるとも限らなければ、このままでは必ず亡くなると決まった
わけでもない。その上、先方のご家族のご意向は分からない。お前の独断での電話だな。これは?
213/7 ただ心だけが 13:05/02/16 20:48:32 ID:ZPc3tbyu0
 ぐぅの音もでないとはまさしくこのことだった。そう、たとえ雄二の願いが聞き届けられたとして、愛佳やそ
の両親は何を思うだろうか? そもそも金が工面できたとしても郁乃の両親が首を縦に振らなければ未承認
薬を使うことなどできないだろう。
 だがずきんずきんと止まない頭痛が、雄二に深く考えることをさせなかった。
「――そう、俺の独断……だけど、父さん、今彼女が危険な状態にあるのが俺の所為だって言ったらどうな
んだよ!? 俺は倒れたばかりの彼女を海まで連れ出して、雨に濡れさせたあげく、抱いたんだ……。そした
らその次の日に、これだ。これが俺の責任じゃなくてなんなんだ!? 俺は俺にできる全身全霊をもって彼女を
助けたい!」
――父の力を頼ってでも、か。
「頼む。父さん。俺にできることならなんだってするから……」
 またしばらく電話の向こうで父親は沈黙する。
――……そういえば明後日は見合いの日だったな。
「なに、を……」
――水無瀬家との縁談を了承すれば、その子の治療費は全部出してやると言ったら?
 一瞬迷った。そしてその迷った自分が何よりも許せなかった。
「言ったら、じゃなくて言ってくれ。約束してくれ」
 果たしてこの世に命に換えられるモノがあるだろうか? バカらしい。そんなものはありはしない。
――約束しよう。……後は坂下と話をしてくれ。先方への連絡も坂下に任せればいいだろう。お前よりは
よっぽど上手く処理してくれるはずだ。それと明日の昼にはそっちまで戻るから顔を出すように。私が金を出
すのはその子に対してじゃない。お前に対してだ。分かったな。では坂下、雄二の好きにさせてやってくれ。
「父さん、ありがとう……」
――礼はいらん。それなりの方法で対処すると言ったはずだ。偶然お前から転がり込んできたにすぎん。
 それだけ言って父親は電話を坂下に返したようだった。
――雄二様、それでは病院や、その子について詳しくお聞かせ願いたいのですが……
 説明には10分も必要なかった。坂下は雄二が言ったすべての内容を復唱した上で、何かあれば連絡を
すると約束して電話を切った。今、重大な決断をいくつも通過させたそのすこし熱を持った携帯を枕元に放り
投げる。それはベッドの上で二度跳ねて、隅のほうに収まった。
224/7 ただ心だけが 13:05/02/16 20:49:17 ID:ZPc3tbyu0
 コンコン。
「あの――お電話終わりましたか?」
 恐る恐る春乃の顔がドアの隙間から現れた。その手には氷水の入った洗面器と、その上にかぶせられる
ように乗せられたお盆に水と薬と粥が乗っかっている。
「今日はまだ何も口になさってませんでしょう? 食べられますか?」
 春乃はそう言いながら、テーブルの上にそれらを並べなおす。
「そう、だな。でもその前に着替えたい」
「あ、え、えっと、お手伝いしたほうがよろしいですか?」
「いや、大丈夫。ありがとう、でもすこし席を外してくれないか」
「はい。……お薬は粥を食べてからにしてくださいね」
 そうとだけ言い残して春乃は部屋を出て行った。それから雄二は言ったとおりに着替えを始める。でも本当
は着替えなんてどうでもよかった。汗で気持ち悪いのは悪いのだが、そんなことはどうでもいい。問題は、
今、春乃の顔を見るのがすこし辛かっただけだ。
 ――おめでとう。郁乃の命と引き換えにキミと結婚することになったよ。
 喉元までその言葉は出掛かっていた。こんな酷い事実があるだろうか? でもいずれ知れる。雄二のため
に身を引こうとしてくれた春乃に対して、これ以上の裏切りがあるだろうか? 春乃は決して喜ばないだろ
う。それは雄二にだって分かっていた。だからこそ今自分が辛いからといって春乃の臓腑を抉るようなことは
言いたくなかった。
 下着から全部服を着替えて、テーブルの前に座り、すこし熱い粥を口に運んだ。
 ――いい子じゃないか。
 春乃は報われない努力と思いながらもこうして雄二のために尽くしてくれている。今、それは思いもかけぬ
方向で報われてしまったのだが、まだ彼女はそのことを知らない。それなのに知っているからといって雄二
が一人それに大して苛立ちを感じるのはとてつもなく場違いだ。
 とにかく郁乃が助かってくれさえすれば、俺はそれでいいんだ。
 そう自分に何度も言い聞かせてベッドに横になると、薬の所為か驚くほど安らかな眠りが訪れた。
235/7 ただ心だけが 13:05/02/16 20:49:59 ID:ZPc3tbyu0
 ――緩やかに目が覚める。
 カーテンの隙間から差し込む日の光は穏やかで、まだそれほど日が高くないと分かる。頭は驚くほどすっ
きりしていた。時計を見るとまだ環が学校にでかけてすぐくらいの時間だろうと知れた。そしてその過程で、
ベッドにもたれかかるようにして寝息を立てる春乃に気がついた。頭に乗ったままの折りたたんだタオルは
まだ十分に湿り気を帯びている。彼女は一体幾度これを取り替えたのだろうか? テーブルの上にはすっか
り氷が溶けてただの水が入った洗面器が残っている。
 目覚ましをかけ忘れていたが、どうやら父親との約束である昼には間に合いそうだ。そう思って携帯を手
に取るとメールを着信していた。開くと坂下と愛佳から一件ずつ。なんとなく愛佳からのメールを避けて、坂
下からのメールを先に開いた。
――ご両親の了解を得て小牧郁乃さんに薬を投与することになりました。
 メールの着信時間は昨夜の10時ごろ、一体どういう魔法を使えばこれだけの時間に話がまとまるのか雄
二には想像もつかなかった。その答えは恐る恐る開いた愛佳からの長い、長いメールに書かれていた。
 それは雄二への礼に始まり、昨夜、向坂雄二の代理人を名乗る人物から両親のもとに電話があったこ
と。電話があった時点ですでに別の病院からその未承認薬のストックが郁乃の入院する病院に向けて移送
中であったこと。病院関係者への根回しはすでに終わっていて、両親が許可さえ出せばすぐにでも投与を
始められること。それにかかる諸経費はすべて郁乃を連れまわした雄二の責任として向坂家が負担すると
代理人が伝えたこと。最初は驚いて断ろうとした両親が、すこし迷った末に藁にすがったことなどが書かれ
ていた。
 昨日の電話の履歴を調べると夕方の6時前になっていた。坂下はそれからすぐに各種方面に連絡をして
準備を整えてくれたに違いない。それが彼の仕事だとは知りつつも、雄二は目頭が熱くなるのを感じて、額
に乗っていたタオルを目に当てた。そして一息ついてから起き上がる。
246/7 ただ心だけが 13:05/02/16 20:50:43 ID:ZPc3tbyu0
 頭痛の余韻はこれっぽっちも感じられなかった。体も至って快調だ。感謝の思いを込めて春乃の頭を軽く
撫でる。それからその体を抱き上げて、今まで雄二の寝ていたベッドに春乃を寝かせた。春乃は郁乃よりか
は幾分か重かった。そして着替える。できれば父親のところに顔を出す前に一度郁乃のところに寄って行き
たかったが、顔が見れるとは限らなかったし、時間もあまりなかったので止めておくことにする。
 生きてさえいてくれれば、時間はいくらでもある……。
 それこそが重要なことだった。

 到着の30分ほど前に電話を入れていたお陰で、雄二はすぐさま父親の部屋に通された。雄二がこの部
屋に足を踏み入れるのは初めてのことだった。とは言っても、父がこの部屋にいる時間はそれほど多くない
はずだ。言われるままに応接用のソファに腰を下ろすと、向かいに父親と坂下が座る。
「さて――」
「ちょっと待った、父さん。まず礼を言わせてくれ。……ありがとう」
 雄二は深々と頭を下げる。礼儀ではなく、それは心からのものだった。
「……あまり感謝されたり、歓迎する類のものとは思えないがね。今日、来てもらったのは他でもない。金を
出した以上、これは契約だと私は思っている。だからそれなりの書類にサインしてもらわなくてはならない」
「分かった」
 逃げも隠れもする気はなかった。これは男と男の約束だ。
「内容は簡単だ。お前が水無瀬春乃さんとの婚姻を了承すること。いずれ向坂家の家督を継ぐことを正式に
決定すること。その代わりに私はお前が小牧郁乃さんの治療に必要だとする額を負担する。異論はない
な?」
「――ない。けど俺は郁乃にできるだけの治療を受けさせてやりたいと思ってる。もちろんご両親とも話し合
いをしなきゃいけないだろうけど、金銭面で遠慮なく頼らせてもらう」
 父親がちらりと坂下を見た。坂下が頷く。
「……海外で最新の治療を受けさせると言い出しても十分な金は出せるようにしてある。心配するな」
「安心した。サインする手がジルバでも踊り出しそうだ」
 父親がわずかに唇をゆがめて苦笑するのが分かった。
「お前のダンスの相手が決まって、私も一安心だよ」
257/7 ただ心だけが 13:05/02/16 20:51:27 ID:ZPc3tbyu0
 父親に誘われた昼食を断って一人帰る。駅に降り立った後、その足は自然と坂の上に向いていた。病院
の前で立ち止まり、この大きな建物を見上げる。外から見ればただの大きな建物だ。学校にも似ていると言
えないこともない。しかしこの中では郁乃が命を賭けて戦っている。郁乃だけじゃない。この中では日々命を
賭けた戦いが繰り広げられているのだ。そう気がついてしまうと、もうこれをただの大きな建物だなんて思え
なくなった。
 真っ先に向かったのは郁乃の病室だった。ネームプレートはそのままだったが、扉を開いても中には誰も
いなかった。ぴんと張ったシーツを見ていると、このベッドは部屋の主が帰ってくることを望んでいないような
気がした。
 仕方なくナースステーションに行って声をかける。
「あれぇ? 郁乃ちゃんの彼氏じゃない」
 応対に出てきたのは以前にも声をかけられたことのある看護士だった。
「スーツなんて着てるから分からなかったわよ。お見舞い? ごめんね。郁乃ちゃん無菌室入っちゃってるか
ら、面会はできないのよ。なにか伝言はある?」
「その、郁乃の状態はどうなんですか?」
「意識はまだないけど、容態は安定してる。心配いらないわ」
 ぽんぽんと肩を叩かれる。それだけのことで膝が崩れそうになった。安堵もまた体から力を奪うのだ。
「また来てあげてね。目が覚めたら貴方が来てたこと伝えておくから」
 にっこりと笑って看護士は足早に仕事に戻っていく。その背中を見送りながら、雄二は大きく、大きく息を
ついた。どうあれ郁乃は無事なのだ。それに勝る喜びがあるだろうか。しかしその安心の陰にちくりと胸を刺
す疼きがある。
 人間というのは身勝手な生き物だ。ほんのさっきまでは郁乃が助かればそれでいいと思っていたのに、郁
乃の無事を確認すると彼女から離れなくてはいけないということが重くのしかかってくる。郁乃の目が覚め
れば、いずれ説明しなくてはいけないだろう。できるのならすべてを。自分がどれほど自分勝手な思いで郁
乃を振り回したのかということについて。
 そして目が覚めた郁乃に伝えたかった。でも伝えるべきじゃないと思った。
 ――どんなに愛しているか、を。
26ただ心だけが 13:05/02/16 20:52:10 ID:ZPc3tbyu0
 えーっと前回あとがきに書いたように、医療モノという意識はまったくありませんのでご了解を。
 秘書の坂下さんは1の坂下さんとは一切関係ないと思われます。っていうか、いたよね? 坂下って。
「さかむかい」に対して「さかのした」
 位置情報としては同じ意味と取ることができ、その意味合いとしては正反対というイメージです。
 それではこの物語も次回で終わるハズ。
 長々と続いた物語終わりし後の物語りにお付き合いいただきありがとうございました。

>>前スレ665
違和感を感じられるのであれば俺が春乃に萌えてその辺でプロット書き直したからだと思われます。 orz
ホントは十話以内で終わるハズだったのよ。
それ以外の部分は、受け取り方は人それぞれということで。
27名無しさんだよもん:05/02/16 21:02:13 ID:AB/8hKTg0
>>26
乙。ラスト楽しみにしてます。
28名無しさんだよもん:05/02/16 23:28:54 ID:j+63X8HL0
>>26
実ははハッピーエンド以外の終わりというのがあまり得意ではないのだが、
あなたのストーリーならどういう結末でも良いと思った。
ただ一つ言わせてもらうと、俺は雄二の親父も、春乃さんも信じている!。
・・・とりあえずラストガンガレ
29名無しさんだよもん:05/02/16 23:31:17 ID:j+63X8HL0
酔っぱらったまま書き込んだらいらんとこに句読点入れてたりorz
なんかモニターもさっきから滲みっぱなしだしなぁ、ちくしょう
30名無しさんだよもん:05/02/17 00:20:21 ID:xujrDAhB0
実にイイ。
こんな良作に会えるのはそこらじゅう探し回ってもまずないだろうな。
俺葉鍵の人間でホント良かった
31名無しさんだよもん:05/02/17 02:39:08 ID:aUFjfg/X0
>26

GJ!
惜しみない拍手を送りたいです。

たぶん、なんとなくだけど、
この雄二は、これから優しい嘘をつくのだろうなと思う。
郁乃を傷つけない、というか、傷を最小限に止めるような嘘を。
(本当はそんなに好きじゃなかった、とか、
 最初から縁談が決まってて断われない、とか)

某ゲームのヒロインによると、
 「とぼけても無駄だよ。女はね、女しか持っていない特技を持ってるの」
 「特技?」
 「そう。男の嘘を見抜くことができるの」
とのこと。

郁乃が"お子ちゃまフなら、たぶんその"嘘"には気づかないだろうし、
"女"なら、多分気づくような気がする。
そのへんが、結末の分かれ目かなぁ、と思ってみたり。

32名無しさんだよもん:05/02/17 06:39:14 ID:/UODm9Ex0
春乃さんに萌えてしまった俺としては
突然春乃さんが婚約破棄を言い出さないよう祈るばかりです。
言い出しそうな彼女だから萌えたというのはさておき。
33名無しさんだよもん:05/02/17 13:12:25 ID:MvHMTUaB0
>26
GJ
親父の取引受けてしまったんですね。
読んでる途中ではこれは親父が郁乃にどれぐらい本気か試してる→断れば本物
かと思ってたんだが。
雄二の中では、郁乃と結ばれることより郁乃を助けることが上だったんだね。


細かいことなんだけど、

>19
>愛佳とどんなことを話したのかほとんど覚えていない。
>それでもなんとなく頭に入っているのは郁乃のこと

なのに、次の段落で話の内容を詳しく思い出しているのはちと不自然な希ガス。

34名無しさんだよもん:05/02/17 15:38:33 ID:ls9PsQpT0
……春乃が(雄二を想って)縁談を破談に変える、というENDですらありえる。
35名無しさんだよもん:05/02/17 19:19:15 ID:wvx0PBtkO
>ただ心だけがの人
乙です。もう終わっちゃうんだと思ったらちょっとだけ悲しいです。
まるで本当にギャルゲーをやってるような感じがする素晴らしい作品だと思います。
最終話も必ず読むので頑張ってください!

>>30
うはっwww禿同w
360/9 ただ心だけが 最終話:05/02/17 20:33:23 ID:ssNEva170
 前回までのあらすじ
 貴明と愛佳が結ばれたことで、必然的に出会った雄二と郁乃。郁乃が雄二をいい男と言ったことを拡大解
釈した愛佳の後押しで、ふたりは友人となり、今は恋人関係。
 しかし二人が結ばれてすぐに郁乃の病状が悪化して、ついには面会謝絶に。
 責任を感じた雄二は父親に春乃と結婚することを条件に郁乃の治療への資金援助を取り付ける。
 郁乃の命は救われた。そして――

第一話から第十三話はこちらで。
ttp://www.geocities.jp/koubou_com/
371/9 ただ心だけが 最終話:05/02/17 20:34:06 ID:ssNEva170
 病院から帰ってくると、もう部屋に春乃はいなかった。代わりにテーブルの上に一枚の紙片。
 ――明日の準備のために帰ります。ほんの一週間程でしたが、幸せでした。ありがとうございました。
 それは春乃からの置手紙。一番の当事者であるはずの春乃が、明日どうなるかを知らないというのは奇
妙な感覚だった。もう何の温もりも残していないベッドに腰掛ける。
 それから顔でも洗おうと洗面所に向かったつもりが気がつくと雄二は環の部屋の前に居た。何故かは分
からない。ノックをしようとしていた手を下ろす。踵を返して自分の部屋に戻ろうとしたとき、ドアのほうが先に
開いた。
「……雄二?」
 環がすこしだけ心配そうに首を傾げる。
「風邪はもう大丈夫なの?」
「あ、ああ……あのな、姉貴……」
 なぜか言葉が出なかった。環はこの件で雄二にずっと協力してくれていた。だから事の顛末くらいはちゃ
んと話しておくべきだと思う。それなのに父親を相手にしていたときのような強気な自分は影を潜めてしま
う。環は雄二のことをいつだって頼りない弟としてしか見てくれないから。だから弱気になってしまうのだ。
 ふわっと暖かい温もりが雄二を包んだ。
「よしよし」
 頭を撫でられる。いつもならばバカにすんなよと虚勢を張っていただろう。だけど……。
「何も言わなくていいわ。分かってるから……何も言わなくていいのよ」
 優しい声でそう言われたとき、どっと堪えてきたものが堰を切ったようにあふれ出してしまう。
「……姉貴、俺、間違ってたのかな?」
 ほとんど言葉にならない。視界が歪んで、ぼろぼろと熱い塊が頬を滑り落ちていく。
「ううん。よく頑張ったね。雄二は正しいことをしたのよ。お姉ちゃんはちゃんと分かってるからね」
 無条件の肯定に包まれて、雄二はその暖かい胸に顔を埋めて泣いた。
382/9 ただ心だけが 最終話:05/02/17 20:34:48 ID:ssNEva170
 ネクタイをきゅっと締める。鏡の前でもう一度自分の服装に乱れがないか確かめてから玄関に向かう。幸
い昨夜あれだけ泣いたというのに、目は腫れていなかった。玄関にはすっかり正装に身を包んだ雄二の両
親と、見送りに出てきた環がいた。朝から家族がそろっているなんて何年ぶりのことだろうか?
「雄ちゃん、準備はいい?」
「母さん、頼むから、その雄ちゃんというのは止めてくれ」
「あらあら、そうね。雄ちゃんももう立派な男の人だもんね」
 何も知らない母親がにこにこと笑う。もう訂正する気も失せて靴を履いた。
「それじゃ姉貴、行ってくる」
「ええ、頑張ってらっしゃい」
 ほんの昨日の午前までであれば、このやり取りの意味はまったく違ったものになっていただろう。雄二は
戦いに赴くような思いでここに立っていたはずだった。それが実際にはどうだ? 戦いはすでに終わってし
まっていて、帰還兵のような気分で流れに揺られている。この戦いは果たして勝利だったのか敗北だったの
か、雄二には判断がつかない。
 両手で頬を一度叩いた。
 全力で戦ったのだ。胸を張ろう。
「雄ちゃん、気合たっぷりね。可愛らしいものねぇ。春乃さん。いい子だった?」
「へ……?」
「あらやだ。知らないとでも思ってるの? 見合い前によく知り合いたいだなんて正反対のような気もするけ
ど、ふふ……最近の若い子たちは積極的よねえ」
 どうにも母親には春乃が一週間ほども向坂家に滞在していたことについて、そう伝わっているようだった。
そう間違ってもいないし、今更訂正する必要もないと思って雄二は曖昧な笑みを浮かべるだけだった。
393/9 ただ心だけが 最終話:05/02/17 20:35:31 ID:ssNEva170
 車はどこぞの大きな日本家屋の前で止まった。両親の後について門をくぐる。看板もなにもなかったが、
玄関をくぐって初めてそこが料亭であると分かった。敷地の広さはどれほどであろうか? 少なくとも向坂家
をゆうに越えていることは確かだ。もっとも普通の家庭では比較対象にすらできまい。
 仲居さんに案内されたのは日本庭園に面した部屋で、その雰囲気だけで緊張が走る。
「あれ? そういえば世話人さんは?」
 緊張をごまかそうとして聞いてみる。
「いないよ。公式な見合いというわけでもないしな。お互いすでに顔見知りなんだから大丈夫だろ?」
「まあ、ね」
 会話がそれで終わってしまう。結局そのままじりじりと緊張したまま約束の時間を迎えた。
「いやぁ、遅くなりました」
 聞き覚えのある声がして障子が開き、春乃の父、真蔵が仲居さんに案内されて入ってきた。その後ろに
は春乃の母と思しき女性と、和服に身を包んだ春乃がいた。
 思わず息を呑む。そういえば最初に見た春乃の写真は、とても14歳には思えないものだった。その女性
が今目の前にいる。
「本日はよろしくお願いします」
 水無瀬家の面々が向い側に座り、どちらからともなくそんな言葉が飛び交った。
「私はあんまり堅苦しいのは好きではないので、気楽に行きましょ」
 真蔵はそう言って笑いながらも、自ら春乃の紹介をする。それは一応堅苦しい見合いの手順に則している
はずなのだが、世話人がいないというのがすでに気楽なことなのかもしれない。続いて雄二の父親が雄二
を紹介するようなことを言って、しばらくは質問を散りばめた雑談が続いた。
 そんな会話の中でふと雄二は春乃が不思議そうにじっとこちらを見ているのに気がついた。それで雄二は
春乃がまだなにも知らないということを知った。それならば見合いの席が順調に進んでいるのが不思議でな
らないだろう。雄二ははっきりと春乃に、気持ちには応えられないと言ったばかりだ。
404/9 ただ心だけが 最終話:05/02/17 20:36:13 ID:ssNEva170
「後は若い人たちに任せて」
 とまあ、決まり台詞のようなことを言われたが、実際に席を外すよう促されたのは若い二人のほうだった。
二人して日本庭園に足を踏み入れて、すこし歩く。
「雄二様、あの……」
 春乃の顔は疑問符でいっぱいだ。
「いったいどうなっているのでしょう?」
 なにやら巨大な錦鯉が泳ぐ池の傍に二人で並ぶ。
「……雄二様から断りの言葉を頂けると覚悟して参りましたのに……」
「もう、いいんだ」
 春乃の目が大きく見開かれる。
「まさか、あの人になにか!?」
 青ざめる春乃の表情は本気で郁乃のことを心配していた。それが嬉しくて悲しかった。
「いや、違う。違わないけど、郁乃は大丈夫だよ」
 ほぅと胸に手を当てて、春乃が長く息を吐いた。
「良かった……。でも、違わないとは?」
「それは――」
 雄二は郁乃が体調を崩して危なかったこと、それを助けるために父親と取引したことなどを話した。誇らし
い気持ちになんてなれなかったが、胸は張ろうと決めたばかりだ。
「まあ、そういうわけで春乃さんには申し訳ないと思ってる。あれだけ頑なに断っていたのに、急に話を受け
ることになっちゃうなんてな」
 春乃は何も言わなかった。顔を伏せてじっと池の錦鯉でも追っているかのようだ。
「春乃さん?」
「……雄二様はそれでよろしゅうございますの?」
 ぽつりと呟かれたその言葉が臓腑を抉る。胸を張ろう、胸を張ろうと思っていたことが虚勢だったのだと、
その言葉で気付かされる。しかし、それでも……。
「いいんだよ。男と男の約束だ」
「――下らない」
 その呟きは小さすぎて雄二の耳には届かなかった。
415/9 ただ心だけが 最終話:05/02/17 20:36:55 ID:ssNEva170
「え? なに?」
「いいえ、雄二様はお優しいですわね。――でもお優しいだけですわね」
 つぅ、と春乃の頬を光るものが流れ落ちた。
――雄二さんは優しいよね。……でも、あたし知ってるの。雄二さん、優しいだけじゃないよね。
 鼓膜の奥からその言葉が不意に甦ってくる。二人の言った言葉の内容は本質的なところで違っている。
 指で目を拭い、春乃が雄二の顔を見上げてニコリと笑った。
「それでも嬉しいですわ。たとえどんな理由でも雄二様と一緒になれるなら、私は……」
 そう言って春乃が雄二の胸に飛び込んできて……
 どんっ!
 ――あ……れ……?
 次の瞬間、雄二の体は宙に浮いていた。それは見事なタックルだった。そのまま雄二の体は池に吸い込
まれるように……
 ばしゃぁん!
 水しぶきがあがる。幸いその池は雄二が尻餅をついても、腰よりすこし深い程度だった。
「――なんて言うとでも思われましたか?」
 キリリと眉を吊り上げた真剣な表情で春乃の手が目を白黒させている雄二に伸びる。その手を借りて、雄
二は池から這い上がった。
「雄二様は酷いお方です。愛する人の手に触れられるとき……、その手がどんなに優しく私に触れたとして
も、その人が他の女を思い浮かべていると知っていて、平静でいられる女がどこにおりましょうか……。さ、
参りますわよ」
「え? どこに?」
「決まっていますわ。――こんなバカげたお話を終わらせに! です」
426/9 ただ心だけが 最終話:05/02/17 20:37:37 ID:ssNEva170
 きちんとまとめた長い髪が立ち上がるのではないかという勢いで、ずんずんと春乃が進んでいく。雄二は
その背中を追うしかない。春乃は迷わずに庭を突っ切って、先ほどまで居た部屋の障子を力任せに開ける。
立て付けの良すぎる障子は春乃の開いた勢いのままに奥に激突して大きな音を立てた。
 その中で談笑していた両家の両親が目を丸くして春乃を、そしてその後ろにいるずぶ濡れの雄二を見た。
「おじさま、おばさま、大変申し訳ありませんが、このお話お断りさせていただきます! お父様、お母様、
私先に帰らせていただきますわね」
 一同はぽかーんと口を開けて春乃を見送るしかできない。どかどかと足を踏み鳴らして去っていく春乃の
足音が聞こえなくなった頃、一番先にこの静止状態から抜け出したのは真蔵だった。慌てて雄二に向かっ
て頭を下げる。
「た、大変申し訳ない。春乃がとんだ粗相をしたようで!」
「あ、いや、その……」
 雄二も何が起きたのかいまいち理解しきれていない。
「このお詫びは必ず後日。お、おい」
 真蔵は慌てて妻を促して、ぺこぺこ頭を下げながら春乃の後を追う。
 まるで春の嵐が過ぎ去ったような一瞬のできごとであった。
「ま、まあ、雄ちゃん、ずぶ濡れね。誰かに言ってタオルでも――」
「いや、いい。雄二、そこに座って何があったか説明してくれないかね」
 慌てる母親を手で制して、父親は向かいの今まで真蔵が座っていた席に雄二を促す。居心地の悪い気分
のまま、雄二は春乃にどういう経緯で結婚を承諾することになったかを話したこと、そしてその後の春乃の
訳の分からない行動について話した。
 何も知らなかった母親は雄二が何か言うたびに目を丸くしたり何かを訊ねようとしていたが、最初は真剣
な表情だった父親は話が進むにつれて堪えきれずに笑い出していた。
437/9 ただ心だけが 最終話:05/02/17 20:38:19 ID:ssNEva170
「くっくっくっ――」
 父親は膝をばんばんと叩いて笑っている。
「な、なんなんだよ」
「くくっ、参った。いやぁ、参った。一本取られたよ。はっはっは――雄二、私との契約はどうするのかね?」
 まだ笑いが止まらない様子のまま、父親はそれを訊ねる。
「それは――なんとか春乃さんを説得して――」
「くっくっ、お前なんかよりよっぽど春乃さんのほうがしっかりしてるなぁ。嫁にきてくれそうに無いのが残念
だ。雄二、春乃さんはね、お前の顔を立ててくれたんだよ」
「え……?」
「お前からこの縁談をふいにするワケにはいかなかっただろう? あの子はね、お前のために道化を演じてく
れたんだよ。まあもっともお前の格好のほうがよっぽどみっともないがね。くっくっく――。それも分かって
やってるんだろうなあ。まったくもったいない話だ……」
「俺の、ために……」
「私とお前の契約は、お前が春乃さんとの結婚を了承することだろう? 春乃さんのほうからお前を振ったと
いうのであれば、こちらから無理強いするわけにもいかないじゃないか。まったくしてやられたよ。どうするか
ね? 私なら追いかけていって土下座してでも結婚してもらうがね」
「それは――できない」
 春乃が雄二のためを思ってしてくれたというのならば、それこそ春乃を裏切ることになってしまうだろう。春
乃のあの真剣な表情を思い出す。あの仮面の裏で彼女はいったい何を思っていたのだろう。
「春乃さん、今頃泣いてるわね……」
 ぼそりと母親が呟いた。そうかもしれないと、雄二も思った。でも追いかけていけば涙の素振りも見せず
に、彼女は雄二を追い返すだろう。
448/9 ただ心だけが 最終話:05/02/17 20:39:02 ID:ssNEva170
「どちらにしろ、私は完璧にしてやられて、お前は春乃さんに大きな借りひとつだ。愚痴のひとつも言いたく
なるね」
 とても本気で言ってるとは思えない、まだ笑いの堪えきれない表情で父親が呟く。
「でもまあ、向坂の家督を継いでもらう話は有効なワケだし、早いとこ次の見合い相手でも見つけないとな
あ。ああ、そうだ。その郁乃さんとかいう娘はどうなのかね? うちに嫁にくる娘になら、喜んで投資するのだ
がね」
「なっ、なに突飛なこと言ってんだよ! 今縁談が潰れたとこだろうが」
「――真面目な話さ。このままじゃ私は金の出し損じゃないか。しかもこれからも継続的な出費になるんだろ
う。考えてはくれないか?」
「契約書を作るときに文面に気を配らなかったアンタが悪い」
「これは手痛いね。まあ無理は言わんが、私の精神衛生上、是非ともその郁乃さんとはいい関係でいてもら
いたいものだ」
 父親は懐から葉巻の入ったケースを取り出して、慣れた手つきで端を切ると火をつけた。
「あら、あなた。タバコはおやめになったのでは?」
「こういう時くらいいいじゃないか。負けた時用なんだ。こいつは」
 そう言ってケースを収めた胸ポケットの辺りをぽんと叩いた。
「はいはい。それで雄二――」
 目を爛々と輝かせて、母親がずいと雄二に向かって身を乗り出してきた。
「郁乃さんってどなた? どういう関係? なにがあったのかしら?」
「その前に誰かタオル持ってきてくれ」
 そうして雄二は家に帰りつくまで母親の質問攻めに合うことになったのだった。
459/9 ただ心だけが 最終話:05/02/17 20:39:45 ID:ssNEva170
 帰って着替えた雄二は母親のさらなる追及の手を逃れて病院へと向かった。
 春乃の優しさに救われて、とりあえずすべては丸く収まったような気がする。なのになにか胸の中にもやも
やしたものが残っている。手放しで喜んでいいはずなのに喜べない。その答えがここにあるような気がして
いた。
 病室のドアを開けると、見慣れぬ大きな装置がベッドを覆っていた。厚手のビニールでできた天蓋のような
透明なカーテンがそよそよと揺れている。その内側にある装置が低い唸りをあげている。雄二はテレビかな
にかで見た記憶がある。これは簡易無菌室だ。内側に空気清浄機があって外部から清浄な空気を取り入
れて濾過し、ビニールの内側に放出する。空気の流れは必ずビニールの内側から外側に向かうので菌やウ
イルスを取り入れずに済むのだ。
 そしてその内側に彼女がいた。
「……んふ〜〜〜……」
 ベッドの上で布団を抱きしめるように、横向きになって眠っている。シーツの乱れ具合から、寝相の悪さが
窺い知れた。
「……郁乃……」
 ほんの数日会えなかっただけだというのに、恐ろしいほど長い時間隔絶されていたような気がする。愛し
い気持ちが胸からあふれて、今にもビニールを掻き分け、その髪に、頬に触れたいという気持ちを抑えるの
に苦労しなければいけなかった。
 言いたいことが山のようにあった。謝らなきゃいけないことが山のようにあった。
 天蓋の傍まで行き、眠り姫とはとても言えない寝相のお姫様を見つめる。
 ごろりと背中を向けていた郁乃が寝返りを打った。ほんの1メートルも離れていない場所に郁乃の顔があ
る。だけどその1メートルが長かった。床を膝をついて、ビニールのカーテンに触れた。
 ――目が合った。
 ゆっくりと郁乃の目が開いていた。
 まだ目が覚めたこともよく分かっていないのかもしれないが、雄二の顔を見つけて、へらぁと郁乃の顔に、
らしくもない緩んだ笑みが広がる。それがすべてだった。それが答えだった。
 胸が一杯になって、言いたかった言葉がすべて消え去ってしまった。
「郁乃――」
 残った言葉はただひとつ。
「俺と――」

 --fin--
46ただ心だけが 最終話:05/02/17 20:40:29 ID:ssNEva170
 雄二にとってはここがようやく始まりなんです。
 最後の言葉は想像にお任せ。
 作者の頭には色んな言葉が浮かびすぎて、雄二キュンのようにひとつに絞れなかったとも言う orz
 予定していたより随分長い話になってしまいましたが、読んでくださった、応援してくださったすべての
方々に心からお礼申し上げます。ありがとうございました。

>>33
指摘dクス そうかもと思って書き直そうとしたけど、なんかうまくいかない。
俺にはまさしくどんな話をしたかは覚えてないけど内容は覚えてるってよくあるのだけど、それが根本的に
不自然なのかしらん。

>>34
メル欄のはなんか意味が違うような気がするが、意図が分からんのでノーコメント。
むしろ読者の予想の方が面白かったら、取り入れちゃうくらいの貪欲さでw
47おまけ ただ心だけが 最終話:05/02/17 20:41:32 ID:ssNEva170
 私は社の自室に戻るとお気に入りのイームズのオフィスチェアに腰を下ろす。
 久々の手痛い敗北だったが、若い者にしてやられるというのは時には気持ちのいいものだ。だがその一
方で負けっぱなしというわけにもいかないだろう。ふむ、今度は小牧家との縁談を勝手に進めてやったりし
たら、雄二はどんな顔をするだろうか?
 水無瀬家の娘にしてやられたことが、私の中の悪戯心を再燃させてくれたのかもしれない。
「なあ、坂下」
「はい」
「『え? 向坂家にメイドさん!? 春乃らぶらぶにゃんこdeメイド大作戦』、要らなくなってしまったな」
「……大変ありがたいことでございます。宣伝部の会議に乗り込んで雄二様を懐柔する作戦の立案を命じら
れたときはどうなることかと思いました。――ただ宣伝部について多少疑問が残るところではあります」
「そうか、私は悪くないと思ったのだがな」
 なにか久々に面白みを優先したプロジェクトでも押し通させてみるというのも悪くないか。
「さあ、坂下。仕事に戻ろうじゃないか」

----
春乃らぶらぶにゃんこdeメイド大作戦っていいたかっただけやねん(・ω・)
48名無しさんだよもん:05/02/17 20:58:54 ID:vp7ZYz/60
神乙彼でした久々に毎日SSスレ追ってしまったよ
49名無しさんだよもん:05/02/17 21:51:03 ID:p2380Ssk0
>>47
乙!
GJでした。

最後、奇麗にまとまりましたね。
普通に一本のシナリオに出来そう

春乃さんは14歳とは思えない大人な女の子だw
50名無しさんだよもん:05/02/17 22:31:49 ID:xujrDAhB0
ヒャーッ!すっげぇ綺麗に纏まってる!

激しく感動した、これ以外言いようが無し。
俺葉鍵の住人で良かった。
51名無しさんだよもん:05/02/17 22:57:53 ID:qe5T4q7U0
昨日酔っぱらって訳分かんない事書いた>>28です。
いや、上手くいってホント良かった・・・
最初から読み返して「これでバッドはねえよなぁ・・・」
とか勝手に考えてましたが、これですっきりです。
雄二の親父!あんたは偉い!!
52名無しさんだよもん:05/02/17 23:34:09 ID:NGfwxky80
GJ!
乙彼でした。
凄く面白かったです!
春乃さん・・・やっぱイイ!
53名無しさんだよもん:05/02/17 23:41:05 ID:nLQBYmXL0
>>47
あなたの作品は面白かった!!
私は悲しい結末を予想していました。しかし、あなたが書いた結末は、とてもハッピーでした。
最後は、ハッピーに笑って、物語の終わりを見ることが出来ました。

あなたが産み出した春乃は正義感のある誇り高い女性でしたね。
失恋は春乃に打撃を与えるでしょうけど春乃の決断は正しかったと思います。
女性らしい思いやりもあったと思います。
未来の郁乃と春乃はきっと仲良くなれると私は予感します。

良い作品を書いたあなたにありがとうと言いたいです。
54名無しさんだよもん:05/02/17 23:42:24 ID:xujrDAhB0
色んな意味でExciteして参りました!
55名無しさんだよもん:05/02/18 00:30:00 ID:1GBeiAg00
先生…………よっち……がみたいです。 orz

(つД`)TH2起動するとよっちが登場するたびに電源を切ってしまいます。
―――よっち バスト推定85 身長不明 その愛は本当なのに そのシナリオはニセモノ。
叶わない恋は辛い。
56名無しさんだよもん:05/02/18 00:40:59 ID:1GBeiAg00
もういい、寝る。よっちの夢見る。でも夢で会うのも辛い。
57名無しさんだよもん:05/02/18 01:21:07 ID:ClCLmjic0
正直メインヒロインのSS分が足りないと思う俺。
誰か由真かるーこ書いてくれ。
58名無しさんだよもん:05/02/18 02:18:40 ID:MzVDAtwQO
>>ただ心
SS職人とか言われていい気になってんじゃねぇよ!
クソが!氏ねよ、おまい!




…なんて思ってた時期が私にもありました。
あんた、スゲェよ!!
漏れ…今までの非礼を詫びに吊ってくるよ!
こんな汚れた魂だがあんたに捧げるよ。

G〜〜〜〜J〜〜〜!

゚∀)人(゚∀゚)人(∀゚)
59名無しさんだよもん:05/02/18 02:27:33 ID:x3WOw5ly0
>>46
「読者の予想を裏切るのが物書きなんだから、予想された事は書くなよ」という脅し……だった。
60元祖!メイドロボのテスト:05/02/18 02:34:44 ID:O22lOGqH0
「いってきま〜す」
「じゃ、後はお願いします」
「いってらっしゃい」
家の鍵を3人に任せて家を出た。
マルチはいろいろ都合があるらしく、俺たちとは別にちょっと遅れて行く事になっているそうだ。

「偶然だな、うー」
と、家の前でこれから学校へと通うところであるるーことばったり出会った。
「おはよう、るーこ」
「るー!」
こちらの挨拶に万歳をしながら返す。
これがるーこスタイルの挨拶。
「よろこべ、"うー"」
「なんだ?」
「今から"るー"も学校へ行くところだ。一緒に行ってやる。感謝しろ」
「あ、ああ」
少々強引だがこれもるーこスタイルの一つである。
なんせるーこ係の俺が言うんだから間違いない。
・・・でも本当にるーこはアメリカカリフォルニア州の出身なのだろうか?
数日前に近場の高級マンションに越してきた星をみるのと秋刀魚が好きな本人曰くのちょっとおしゃまな女の子。
本名はルーシー=マリア=ミソラ。
父親は弁護士、母は自然保護活動家。
まんま俺が即興で生み出しそうな設定だし。
それに第一印象は初めて会った気もしないし。
おまけに謎の宇宙共通語なるものも言っていることがなんとなくだけどわかるし。
(さらに謎なのはなぜか珊瑚ちゃんもペラペラって事)
これを本当に不思議で終わらせていいのだろうか!
なんて言ったら完全にあの人が出てきそうだからとりあえず今のところはこの話題は胸へとしまっておこう。
ま、世の中には変な奴も大勢いるんだからるーこがちょっと位かわってるのはなんともないよな。
「"うー"に"うーこの"、どうした。学校へ行かないのか?」
「ああ、今行くさ」
61元祖!メイドロボのテスト:05/02/18 02:37:14 ID:O22lOGqH0
「おす」
いつもの橋で雄二とタマ姉が、
「る〜☆」
そして坂では珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんが。
今日もるーこがいる以外はたいした変化もない。
う〜ん、今日も一日平和であればいいな。
・・・まさかとは思うが間違っても隣国から核ミサイルなんて飛んできたりしないよな。
「どうしたん?貴明〜」
「ん、今日も平和だなぁってね」
「そうやな〜。でもこんな日はどっかからミサイルが飛んできたりしてなぁ〜」
「あ、あはは」
俺とまったく同じこと考えてるよ。
「でももし本当にそんなことになったらみんなでうちの家の核シェルターに逃げこもーな〜」
「核シェルター?!」
ちょっと待て!
あの家そんなのもついてるのかよ。
「核シェルターか。そこで閉じ込められた美少年美少女たち。世界が滅んだ後もその中の人たちは生き残り、子供を作り、子孫を残していくのでした」
「いきなりなんだよ?」
「いや。もし本当にそんなことになったらこんな感じになるんじゃねえかなって」
いや、ならないって。
その以前にさすがにそんな状況にならないと思うが。
「ねぇねぇ、珊瑚ちゃん。その時になったら俺もそのシェルターに入れてね」
「ええよ〜」
ぐっとガッツポーズをする雄二。
はぁ・・・アホだ。
そんな視線で見守る俺とタマ姉であった。
627月文月:05/02/18 02:41:22 ID:O22lOGqH0
我楽多さん、長編乙でした。
面白すぎてこっちの文章がものすごく上げにくいです。

と、言いつつとにかく連載、っと。
やっぱりものすごくチープな文章だ orz


とにかく、次回作にも期待してます!
63名無しさんだよもん:05/02/18 05:42:59 ID:W+SK5PcVO
>>46
さすがSSスレのエース、IDまでssだぜ…
それはともかく、楽しかったです。
長編乙でした。
6446:05/02/18 07:29:13 ID:tjC9qcM80
>>59
なるほど、やはりそうでしたか。
>読者に先を読まれる事は(ry
とは、「予想される結末がひとつしかなく、かつそれが陳腐でつまらない」場合にのみ
有効ではないかと個人的に思っております。
読者の一言で自分が「これだ」と思っていた流れを無理に変えてしまうほうがよほど
物書きとしての恥ではないかと。

こういうことは他の作家さんにもあるやもと思いこちらだけレスさせていただきました。(・ω・)ゝ
65名無しさんだよもん:05/02/18 09:02:30 ID:IJoKII1T0
別に推理小説じゃないんだから
ハッピーエンドで終わったのを喜ぼうよ

つか「お見合い」って単語が出た時点で(以下略
66名無しさんだよもん:05/02/18 09:04:46 ID:HFuYDVdG0
るーこキター
でも収集つくの(´・ω・`)と心配になったりして
67名無しさんだよもん:05/02/18 21:05:23 ID:bSOCaL3c0
奇をてらわず、ど真ん中直球勝負で読ませられるのは
力量のある証なんじゃないかね
ということで乙>46
68名無しさんだよもん:05/02/18 23:39:26 ID:56Snn9J70
なんつーかフルイにかけ終わった後みたいな状態?
時を経てゲームへの熱が引いていった人は離れつつあるような…。
あと雰囲気。いや、いいんだけど。むしろ頑張れ。
69名無しさんだよもん:05/02/20 01:33:59 ID:Dbst714V0
>>47
楽しみに読んでました。
お疲れ様でした。
70跳躍するジャンクション 第二話 0:05/02/20 01:46:37 ID:a/rSB+P10
前スレ>>614-624の続き。
以下12レスほど続きます。
71跳躍するジャンクション 第二話 1:05/02/20 01:49:02 ID:a/rSB+P10
 ひょっとしたら姉貴、今日は口利いてくれないんじゃないかと思ってたんだけど、全然そんなことはなくて、
やっぱり姉貴は姉貴だった。夜中には、アイアンクローをくれながらただ一言。「今度盗み聞きしたら、割るわ
よ?」だとさ。あっさり認めちゃうところは、男以上に男らしいというか、いかにも姉貴らしいというか。でも
一応“女”なんだから、もう少し“恥じらい”とかがあってもいいんじゃねえかと思うんだけどな。
 そういや、こんなことがあった。俺が小学校6年のお盆の時期だったかな。姉貴は九条院から一時的に戻って
きたんだが、俺は最悪のタイミングで、初めて夢精しちまったんだわ。俺はもうびっくりして、濃い精液でどろ
どろに汚れたパンツを、ベッドの下に置いてあったプラモデルの箱に隠しちまったんだ。姉貴の目に触れないよ
うに、目の届かない場所に隠したかったんだな。実際は臭いですぐにわかっちまうんだけど。姉貴もすぐに感づ
いたのか、突然俺の部屋を掃除するって言い出した。そして、俺の制止などシカトして、ズカズカ踏み込んでき
たんだ。そして鼻をクンクンさせて、あっさりプラモの箱を見つけやがった。姉貴が毒液まみれのパンツを掴み
上げたとき、俺はもう恥ずかしくてたまらなくって、涙が出てきたさ。案の定、姉貴には叱られた。「あなたは
男なんだから、堂々としていればいいの! 生理現象なんだから、恥ずかしいことでもなんでもないの!」だっ
て。俺はどうしていいかわからずに、顔を真っ赤にして泣いてた。今から思えば、10歳から13歳くらいの時期
は、女の子の方がずっと大人っぽかった。男はホントにガキだから、性教育とかでいくら精通とかヒゲとか陰毛
が生えてくるのは『恥ずかしいことではない』という知識があっても、そんなのは何の役にも立たなかった。ま
して、女の子とつきあってるなんてクラス中の野郎どもに知れた日には、笑われる対象になるだけだった。
72跳躍するジャンクション 第二話 2:05/02/20 01:50:16 ID:a/rSB+P10
 姉貴も俺をからかって笑いものにするんじゃないかと思ってたんだが……姉貴、叱った後で俺の頭を撫でてく
れたなぁ。姉貴が俺の頭に手をやったとき、アイアンクローかまされるかと思ってビクビクしてたんだが、見事
に肩透かし。そして一言。「ハナ垂れ雄二も、ついに大人の体になったか。おめでとう。お赤飯を炊かないと
ね」だって。しかも、本当に赤飯を炊きやがった。あれにはまいった。
 姉貴に対して、いわゆる“姉萌え”みたいな感情が出てこないのは、ある意味“母親”代わりでもあったから
かもしれない。“よくできた姉”、“理不尽なガキ大将”、“口うるさい母親”、“独裁者”、“理想の女(体
型のみ)”、“家庭教師”、“歩くブラクラ”……いったい俺の中で何役をこなせば気が済むんだろうな。

 そんな姉貴は日直なんで、今日は早めに家を出た。別に夜中の照れ隠しでもなんでもなくて、前日にすでに聞
いてたことだ。久々に姉貴抜きで、貴明やこのみと一緒に登校だ。俺は、貴明とこのみの背後から声をかけた。
「おいすー、貴明。昨日はピザ食ったか?」
「うるさい死ね。挨拶すんな殺すぞ」
 朝から穏やかじゃねえな、てめえは。何年か前、子供がオッサンに朝の挨拶をしたら「うるさい」って殴られ
た事件があったらしいけど、あれはお前がやったのか?
「なんだよつれねーな。相変わらず、しけたツラしやがって。そんなんだから女の子にもてねーんだぞ?」
「うるさいくたばれ、話しかけるな」
 貴明は、昨日の電話のことをまだ根に持っていて、俺とまともに口を利こうとしなかった。いつまでもウジウ
ジしやがって、こいつは。愛の鞭だろうがよお。チビ助も隣で心配そうにしてるじゃねえか。
「ねえねえユウくん、タカくんとケンカしたの? タカくんが『死ね』とか『殺す』とか……」
 異様な雰囲気に耐えかねて、チビ助がこそこそ話しかけてきた。
「ああ、あれは……あれだ、男同士のコミュニケーションってやつでさ」
「え? コミュニケーション!?」
「うむ。どぎつくも愛情にあふれた言葉のキャッチボールこそ、真の友情の証よ」
「ふーん、何だかよく分からないけど……ちゃるとよっちみたいな?」
「そうそうそ。さすが、このみはスジがいいなぁ」
73跳躍するジャンクション 第二話 3:05/02/20 01:51:35 ID:a/rSB+P10
 自分で言ったスジって言葉で、変なことを妄想しちまった。このみも姉貴みたいに、夜な夜な自分のスジをい
じってるのかってさ。幼いつぼみをいじりまわしながら、タカくんタカくぅんって喘いでるんだろうか。確かに
外見はお子様だけど、女ってのはわからないぞ。ドロドロした部分を必死に隠し通しつつ、可愛い妹分を演じて
いるだけかもな。少なくとも、俺の前ではそう振る舞ってると思う。だけど貴明の前では、徐々に本性を見せて
きている。家政婦でもないのに、女の子が家に料理を作りに来てくれるってことがどういうことか、いい加減に
気付けよ貴明。
「でも、よかったぁ。タカくんとユウくんが、ボーイズラブみたいな関係だったら、どうしようかと思ったよ」
 缶コーヒーとか飲みながら歩いてなくて良かった。飲んでたら思いっきり吹き出してたぜ。見えない部分で欲
求不満が溜まってるのか、おかしな方向に進み始めたな、コイツは。
「ちょい待て。なぜ、そこでそんな話が出てくる!」
「その……タカくん、痛かったとか……」
「うらぁ、このマセガキが! やおいマンガの読み過ぎなんじゃコラァ!!」
「う゛あ〜〜〜読んでないよぉ〜〜〜」
「このみぃ、ほっとけ。バカが感染るぞ」
 貴明は、俺の方など見ずに投げやりに言いやがる。
「バカとはなんだバカとは。お勉強でもな、俺様がちょっと本気出せば、てめえなんか三秒でボン!だぞ」
「宿題すらやってないくせに、よく言うわ」
 うぐっ……よく考えたら、今日は英語の宿題があったんだ。ああそうだよ。やってねえよ、ノートは俺の心み
たいに純白だよ。この調子では、絶対ノート見せて貰えないな。やべえ。今日こそ英語教師がキレそうだ。

 珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんとは、今日も通学路では会わなかった。いつもふたりと会っていた場所で、貴明が虚
ろげに空を見上げるところを、俺は見た。こういうのを見ると、俺まで切なくなってくるじゃねえか。だがしか
し、戦いは非情さ。心を鬼にして、断固として『雄二お兄ちゃん好き好き大好き☆めっちゃ愛してる大作戦』を
開始するのだ! 軟弱なライオンから姫百合姉妹を解放すべく、正義の闘争がここから始まるのだっ!
74跳躍するジャンクション 第二話 4:05/02/20 01:52:34 ID:a/rSB+P10
 一時間目が終わった。貴明は予想通り宿題を見せてくれず、英語教師は予想通りにキレた。立たされ散々説教
されて、俺は丸めた教科書で三発くらい頭を叩かれた。貴明はニヤニヤしながら俺を見ていやがった。クソが。
 友に裏切られてちょっぴりブルーな俺は、気分を切り換えるべくカフェオレでも飲もうと思い、休み時間にな
ると即行で自販機へ向かった。自販機のそばで、一人寂しくカフェオレを吸っていると、一年生の集団が目の前
の廊下を通っていく。みんな、まだ真新しい音楽の教科書を持っている。初々しいねえなどと思いつつ、可愛い
子がいないか眺めていると、いましたいました。河のように流れていく一年生の中に、珊瑚ちゃんの姿を見つけ
たのだ。瑠璃ちゃんは、いねえな。いつもは一緒なんだが。表情も伏せ目がちで、毎朝元気に「るー」と挨拶し
ていた時の面影は、カケラもない。ははーん、何か悩みがあるんだろうな? ここは俺が元気づけてあげねば。
これより『雄二お兄ちゃん好き好き大好き☆めっちゃ愛してる大作戦』の状況を開始するのだ、いざっ。
「よお、お姫様っ! 元気かー?」
「ああ……雄二ぃ……」
 珊瑚ちゃんは気のない返事。俺の気合いは空回り。変化球でクルッと空振りした俺を、他の連中は怪訝そうに
俺を見る。なんかバカみてえだが、作戦続行。笑いたい奴には笑わせておけばいい。クールな俺は、常に孤高。
「どうしたよ、瑠璃ちゃんは?」
「先に……教室行ってん。……何か用なん?」
「いや、その……なんだ、一人寂しそうに歩いてるからさぁ。いつもは瑠璃ちゃんとふたりセットでくっついて
いるのにな。……うん? さては、瑠璃ちゃんと喧嘩でもしたのか?」
 珊瑚ちゃんは黙ってしまう。図星か。暗くなってしまうのは避けたいので、ここは話題を変えよう。話題は、
昨日見たテレビ番組からチョイス。
75跳躍するジャンクション 第二話 5:05/02/20 01:53:50 ID:a/rSB+P10
「ああ、それより……またみんなで、どこかに行こうぜ? 行きたいところがあれば、どこでも連れてってやる
よ。知ってるかい? 先週から水族館でな、真っ白いイルカのショーが始まったんだ。テレビでも見たけどホン
トに真っ白。雪で作ってあるみたいでさあ。雪だるまのイルカが、泳いでジャンプしてボール遊びしてペチペチ
手ぇ叩いてる姿を想像できるか? 瑠璃ちゃんも貴明も一緒にさ、行こうぜ? そうそう、でっかいぬいぐるみ
も売ってたぜ、白いイルカのさぁ。どうよ、“お友達”に加えてみないか? そういうの、好きだろ?」
 珊瑚ちゃんは黙って聞いている。俺の下心を、頭のオダンゴ型センサーでビンビンに感じ取っているのか? 
どうも、調子狂うな。考えこそどこか屈折しているが、言うことはハッキリしている瑠璃ちゃんの方が、俺とし
てはやりやすいんだよな。まあいい。ここは適度に、貴明の話も振っておこうか。
「あとさ、貴明も寂しがってるぞ? 最近、珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんに会えないって。修学旅行のお土産、何が
いいかくらい教えて欲しいのにって、メソメソしやがってさ。俺んところに泣きついてきやがった。ハッ、それ
とも、奴が何か酷いことでも言ったのか? そうだとしたら、この雄二お兄ちゃんが天誅を加えてやるぞ」
「……ううん、そんなことない。そんなことないよ」
「そうか? 遠慮しなくていいんだぜ」
「貴明は何もあかんことないよ。ただなぁ、貴明に……迷惑掛けたくなかったから……これはウチらの問題やね
んから。それなのに……貴明にまで悲しい思いさせてしもうたんやね……。ウチは、ホントにあかん子やね」
「……珊瑚ちゃん?」
「あ、もう授業やねんから。貴明にはよろしく言うといて。ほな……」
76跳躍するジャンクション 第二話 6:05/02/20 01:55:17 ID:a/rSB+P10
 ああ、行ってしまった。人生に疲れたサラリーマンみたいにトボトボと歩く珊瑚ちゃんを、俺は見送った。瑠
璃ちゃんと喧嘩しただけで、“迷惑”とか“ウチらの問題”とか、大袈裟すぎだよな。何か他に問題を抱えてる
んじゃないかと案じていると、校舎の窓から視線を感じた。上目遣いでちょっと見てみると、音楽室の窓からこ
っちを窺っていたオダンゴの娘と目があった。その娘はヤバイって表情を一瞬すると、逃げていってしまった。
あれは、瑠璃ちゃんだな。逃げることぁねえだろうによぉ。それとも、喧嘩相手の珊瑚ちゃんと仲良くしていた
から、妬いてるのか? 後で、瑠璃ちゃんにも話しかけておこう。何か誤解しているといけないしな。

 昼休みになった。貴明は授業が終わると、さっさと学食に行っちまった。いつまでスネてんだ、てめえはよ。
いろいろ言いたいことはあるが、このままにしておくのは俺にとってもいろいろ都合が悪い。ここは腰を低くし
て、奴にはエロゲーでもくれてやることにしよう。メイドを自分好みに調教するヤツな。これなら奴も大満足。
 そんなことを考えながらサンドイッチを買っていたら、偶然瑠璃ちゃんに出くわした。俺は早速声をかけた。
「よっ、瑠璃ちゃん。相変わらず元気そうだな?」
 “元気そう”というのは言葉の綾。実際は、瑠璃ちゃんも何だか暗い表情だ。目の下にはうっすらとクマが見
える。珊瑚ちゃんよりも受けているダメージが大きそうに思える。珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんは、今までがベタベ
タしすぎていたからか、ひとたび喧嘩になると双方共に深刻なダメージを受けるんだな。きょうだいなんての
は、俺と姉貴の関係くらいがちょうどいいんだ。
 暗い瑠璃ちゃんは俺の方をちょっと見ると、すぐに目を逸らしてしまった。ぐはっ! シカトされた!! 珊瑚
ちゃんと話していたから、警戒されてるのか? そりゃないぜ、MYハニー。そう言おうとしたとき、瑠璃ちゃ
んがボソッと口を開いた。
「雄二……ちょっと、ええ?」
77跳躍するジャンクション 第二話 7:05/02/20 01:56:46 ID:a/rSB+P10
 俺が「いいぜ」と言う前に、瑠璃ちゃんは俺の学ランの裾を掴み、どこかに連れて行こうとする。あっけに取
られた俺は、ズルズルと拉致されるままになった。これは……もしかして、もしかして告白ってヤツですか? 
『雄二お兄ちゃん好き好き大好き☆めっちゃ愛してる大作戦』は、すでに成就していたというのかあ?
 俺たちは体育館にまで来てしまった。瑠璃ちゃんは俺をその中に引きずり込んだ。瑠璃ちゃんはキョロキョロ
しながら何かを探している。たぶん、人気のない場所だろう。瑠璃ちゃんは「ここでええわ」と言い、俺を小汚
い倉庫みたいな場所に招き入れた。そこは『第二用具室』と書いてあった。ガラクタの海の中に、机や、時限爆
弾みたいな装置や、オカルト雑誌が放置されている怪しげな場所だ。瑠璃ちゃんは、俺に向きなおった。
「どうしたよ、こんなところに連れてきてさ。誰にも聴かれちゃあいけない話でもあるのかい?」
 俺は瑠璃ちゃんにカマトトぶって聞いてみた。
「……あるで、話ぃ」
「よーし、言ってみな。お兄ちゃんが何でも相談に乗ってやるぞ」
「なぁ雄二ぃ、ウチを……雇ってくれへん?」
 ……えーと、“雇う”というのは、どういうことかな? ウチは蕎麦屋とかじゃないしな。
「雄二の家、金持ちやろ? そやけど若いメイドさんがおらへんから、雄二が欲しい欲しい言うてるって、貴明
から聞いてん」
 あのバカ。姫百合姉妹にそんなこと吹き込んでやがったのか。やってくれるぜ河野貴明。デマ宣伝とは汚い手
を使う。情報戦争は、すでに始まっていたというわけか。貴明にエロゲーをくれてやるのは、ヤメだ。
 いや、確かにメイドさんが来てくれれば嬉しいという趣旨の発言をしたことは認めよう。だが、あれはあくま
で、俺の妄想。古くからいる家政婦さんをクビにして、若いメイドさんを入れられるものかよ。勝手にそんなこ
とをしたら、親父や姉貴にどんな目に遭わされるかわかったもんじゃねえ。
「雄二、メイドさんが好きなん? ほなら、ちょうどええやん。ウチ、雄二の家でメイドしたいねん」
「いや、家政婦さんはいるんだよ。家政婦さんは」
78跳躍するジャンクション 第二話 8:05/02/20 01:57:56 ID:a/rSB+P10
「メイド、いらんの?」
「いや、あんまり話が唐突でさ。そりゃあ、瑠璃ちゃんみたいな可愛いメイドさんがいたらうれしいけどな」
 瑠璃ちゃんは、大きな目をうるうるさせて俺を見つめる。ふざけた様子はない。真剣そのもの。彼女の気迫
は、小汚い部屋の空気をピーンと張りつめさせ、ヤバイことが起きそうな雰囲気を過剰なまでに演出していた。
「ならええやん。ウチなんでもする。掃除でも洗濯でもお使いでも。炊事だって自信あるねんで。雄二が食べた
いもの、何でも作ったるねんで。Hぃことだって、してええよ。雄二の言うこと、なんでも聞いたるねんで。ウ
チなんでもするよ。なんでもするから置いて欲しいねん。居させて貰えるなら、お給金もいらんねん!」
 今、さらっと、とんでもないことを言ったぞ。『Hぃことだって、してええよ』って言ったよな? エロゲー
がリアルワールドで再現できるおいしいチャンス……な、わけない。今の瑠璃ちゃんは、一人で興奮して訳もわ
からずに口走っているに過ぎない。目を見ればわかるよ。ヤバイ薬でもやっていそうに、血走ってるもの。何が
瑠璃ちゃんをそこまでさせるんだ?
「瑠璃ちゃん、まずは落ち着け。深呼吸しろ。それから、聞きなさい」
「落ち着いたら雇ってくれるのん?」
 俺は瑠璃ちゃんに深呼吸させてから、肩に手を置いて、大きな目をしっかり見つめて言った。
「……いいかい瑠璃ちゃん。『Hぃことだって、していい』なんて、軽々しく言っちゃあいけないよ。メイドっ
てのは、風俗嬢じゃあないんだからさ」
「雄二も、ウチのこと嫌いなん?」
 彼女のセリフがいちいち気に懸かる。『雄二も』ってことは、珊瑚ちゃんからも貴明からも嫌われてると感じ
ているってことか? 思いこみが激しそうな娘だもんな。思いつめて、自分自身を追いつめていってるんだな。
「そんなことはない。あるはずがない。だから、瑠璃ちゃんはそんなことを言っちゃいけないんだ」
「わかった、Hぃことはせえへん。せえへんから置いてほしいねん」
79跳躍するジャンクション 第二話 9:05/02/20 02:00:15 ID:a/rSB+P10
 瑠璃ちゃんは、どうしてもウチに亡命したいらしいな。そんなに凄い大喧嘩をしたのか? 瑠璃ちゃんは俺の
家に来たいって言ってるけど、実際は俺でなくてもいいんだよな。このみとか、ちゃるとかよっちでもいいんだ。
珊瑚ちゃんと一緒にいるのが苦痛なだけなんだろうから。瑠璃ちゃんと一緒に過ごしたくないと言えばそりゃ
大嘘だけど、こういうのは俺が望んでいるものとは違う気がするんだよな。愛がないもの。
 もう、好き好き大好きとか言ってる場合じゃない。ふたりが仲直りするよう、説得するのが先みたいだ。ここ
は優しいお兄さんになって、瑠璃ちゃんを説得し続けよう。
「何でそんなに俺の家に来たいの? 珊瑚ちゃんと喧嘩でもしたのか? 肉親同士の喧嘩はこじらせると厄介だ
ぞ。俺にも姉貴がいるからわかる。かわいさ余ってなんとやらと言うだろ。今まで可愛い可愛いと思ってた息子
とかきょうだいが、ちょっとしたきっかけでとんでもなく憎らしく思えて、憎しみを募らせた末に、ついに殺し
あっちゃったりするんだ。珊瑚ちゃんに言い出しにくいことがあるならさ、俺が間に入ってやるから。早く仲直
りしてさ、いつもみたいに仲のいい姿を見せてくれよ」
「もう、戻られへんよ……。ウチの居場所なんて、もうどこにもあらへん……さんちゃんには、アイツがおるか
ら、ウチはもうお払い箱やねん……」
 瑠璃ちゃんは、目を真っ赤にして一杯の涙をためている。泣き出すのは時間の問題だ。人が見てなくてホント
に良かった。こんな場面、姉貴にでも見られたら、どんな恐ろしいことになるかわからんぞ。
 ところで、“アイツ”って誰? 空気が重すぎて聞き出しにくい。状況から考えれば、貴明しかいないけど。
「“アイツ”ってのは、貴明のことか!? 貴明はな、瑠璃ちゃんから珊瑚ちゃんを奪ったりはしないよ。瑠璃ち
ゃんのことも、珊瑚ちゃんのことも大切に思ってる。もちろん、俺だってそうだ」
80跳躍するジャンクション 第二話 10:05/02/20 02:01:41 ID:a/rSB+P10
「貴明は、ウチのことなんか嫌いやねん。嫌われて当然や。ウチ、いっぱい非道いことしたねんから。いっぱ
い、いっぱいイジめたねんから。貴明は、さんちゃんさえおればええねん。ウチは、ただのドッキリマンチョコ
のお菓子や。シールさえ手に入れば、道に棄てられるだけの不味いチョコやねんもん」
「そんなことない。貴明は、瑠璃ちゃんのこともずっと心配してるぞ」
 どうして、貴明のことをこんなに擁護してるんだ? ハートの片隅で、尖った尻尾をつけたもう一人の俺が冷
笑している。貴明は瑠璃ちゃんのこと、ウザがってるよ。そう言っちまえば、瑠璃姫のハートはお前のものさ。
虚報には虚報だぜ、兄弟。『据え膳食わぬは男の恥』とも言うだろう? 姉貴も、きっと同じ事を言うぜ?
 その直後、俺の脳裏に、朝に見ちまった貴明の虚ろな表情がフラッシュバックしてきた。何度も。何度も。俺
は、どうすればいい?
「そんなんウソや。貴明はもともと女の子嫌いやもん。でも貴明は優しいから、ウチらとお義理で付き合ってく
れてたんやろ? せやから、もう、迷惑掛けられへんよ……。ウチには、もう雄二しかおらへんもん。好いてく
れるの、雄二しかおらへんもん! なぁ雄二。メイドがあかんなら、恋人ならええのん? ほな、結婚しよ?」
 瑠璃ちゃんは一人で暴走してメチャクチャなことを口走る。俺は焦りが募るばかりで、おお、もう……。
「結婚とか、もっと無理だから」
「雄二も、ウチが嫌いなんや。ウチなんか、河原で一人寂しく野垂れ死ねばええと思っとるんや」
「だから、俺はまだ16歳だから。結婚は18歳にならないと無理だから、って、そういう問題じゃねえか」
 一人でボケて一人で突っ込んでる今の俺は、最高にマヌケ面してるだろうな。
「ほな、ドウセイしよ? そや、それがええ。それならええやろ? ええやろっ? アパートでも借りて一緒に
住もか? パチンコ屋で一緒に住み込みで働くのもええよ。ウチ、雄二のこと、好きになったるから」
「勝手に家出させるな! それに『好きになる』って、今は嫌いなのか!?」
81跳躍するジャンクション 第二話 11:05/02/20 02:03:05 ID:a/rSB+P10
 どうすれば、瑠璃ちゃんは正気になってくれるのかな? もう、ビンタでも張っちゃう? これがマンガとか
なら、こういうシーンで絶対に殴るよな。でも、瑠璃ちゃん、泣いてるよ。涙を流してる女の子は、俺には叩け
ないよ。でも、止めないとならないんだよ。俺は、どうすればいいんだ?
「ヘンタイでも、すけべぇでもええもん! ウチの居場所があればええもん!! なぁ雄二ぃ、恋人になろ? も
う、そうするしか、方法があらへん。ウチにはもう、帰れる場所があらへんねんから。なぁ、どうすれば恋人だ
と思ってくれるん? やっぱり、Hぃことしないとあかんの? ほな、ここでHぃことして、恋人になろ?」
 瑠璃ちゃんは涙をボロボロ流していたが、口元には笑みを浮かべていた。ヤバイ精神状態が見て取れる。
 瑠璃ちゃんはリボンタイを解こうとする。それだけはダメだ。俺は彼女の手を掴んで阻止しようとした。既成
事実を作りたいがためだけに、そんなことをしちゃいけない。それは、俺の美学に反することだ。瑠璃ちゃんは
「なんでぇ、なんであかんの?」と泣き叫びながら、今度はスカートを脱ごうとする。もう、心を鬼にして殴っ
ちゃうしかないのか。殴るか? 女を殴るのか?
 そんなとき、扉の方向から、けくっ、という小動物が鳴くような声がかすかに聞こえた。まさか、姉貴が来た
のか? それとも、貴明かっ?
「ふじゅん、異性交遊ぅ……」
 開いている扉の向こうを見ると、頭の両側に変な髪飾りをつけてる変な髪型の女が、口元をヒクつかせながら
俺たちを見ていた。だ、誰だよ、コイツ!? 体育委員か? まさか、先生に通報する気なんじゃ!?
「なんや、ヒトデ頭ぁ!? あんたには関係あらへんわ、出てけぇ〜〜〜!」
 興奮しきっている瑠璃ちゃんが涙目で叫んだ。
「ヒ、ヒトデ、あたま……」
 怒りのゲージを貯めている変な髪型の女は、手に持っているサンドイッチをムリムリと握りつぶしていった。
タマゴサンドに挟まっていた黄身や白身が、ボタボタと床に落ちていく。
「神聖なぁ、ミステリ研のぉ、部室でぇ……なぁにをしとるんかぁ〜〜〜!!」
「あううっ!?」
82跳躍するジャンクション 第二話 12(終):05/02/20 02:03:50 ID:a/rSB+P10
 女はサンドイッチの残骸を瑠璃ちゃんに投げつけると部屋に飛び込み、そのまま俺たちに襲いかかってくるじ
ゃねえか。俺も瑠璃ちゃんも、慌てて一目散に逃げ出した。
「こらぁ、出てけぇ〜っ! うらぁ〜! うらぁ〜! うらああああぁ〜〜〜!」
 女は部屋にあった玉入れのタマを手当たり次第に掴み取り、俺の顔面に力一杯投げつけてきた。
「ウラーウラーって、お前はロシア人かっ?」
 目に当たらないように必死にガードしながら俺は叫んだ。だが、それがいけなかった。マヌケなことに、足元
に落ちていたタマゴの残骸に足を滑らせ、尻餅をついてしまった。ケツが痛え!
 女の怒りはまるで治まらず、近くにあった赤いコーナーポイントを振り上げて絶叫した。
「ぶるあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 目を吊り上げ、犬歯を剥き出しにした女の形相に震え上がった俺は、決して振り返らず、這うようにそこから
逃げ去った。俺の人生の中で、十指に入るカッコ悪い出来事。ズボンはタマゴまみれになるし、最悪だ。
「うわ〜ん!! 今日こそ、たかちゃんが来てくれたと思ったのにぃ〜〜〜! ばかぁ、死んじゃえ〜〜〜!!」
 女のそんな叫び声が、遠くに響いていた。たかちゃんって誰だよ。

 瑠璃ちゃんは、とっくに逃げ去っていた。もう休み時間も終わりだ。教室に戻ったのだろう。
 俺は何も決断することなく、あの場は終わった。瑠璃ちゃんを諭すことも、受け入れることも、駄目なものは
駄目だとわからせることも出来なかった。俺には、貴明を責める資格はないな。貴明とは違うのだよ、貴明と
は!! なんて思ってたけど、そんなのは幻想だったようだ。俺は激しく自己嫌悪。
 帰れる場所がないと泣きながら訴えていた瑠璃ちゃんは、これからどこへ行くのだろう。「教室だろ?」と
か、そういう突っ込みはナシな。家出とか、しないといいけどな。貴明からふたりの家の場所を聞き出して、行
ってみよう。近いうちにさ。
83名無しさんだよもん:05/02/20 02:04:49 ID:a/rSB+P10
誤字脱字があったらご容赦を。
以上。
84名無しさんだよもん:05/02/20 02:21:07 ID:fe+7K7240
GJ!
続きが読めない。。。
85名無しさんだよもん:05/02/20 03:00:56 ID:bTQK5Fhr0
花梨が貴明の来訪を心待ちにしてる様子が見れてよかった。GJやで〜
86名無しさんだよもん:05/02/20 04:03:56 ID:dUhlx+JX0
>>47
…すんげぇ。もうGJなんて言葉じゃ足りないわ。
こういうときばかりは自分の口下手さを呪いたくなるな。
まぁだらだらと言うのもなんだし、一言だけ言っておくよ。

『ありがとう』
87黒の者:05/02/20 04:09:31 ID:FfKzZDVH0
>>47s
このストーリーが本編であったらなぁ。
ってか、GJ!!
88名無しさんだよもん:05/02/20 14:15:30 ID:FfKzZDVH0
グッハ!!
名無しにつんの忘れてた。
すまん。
89名無しさんだよもん:05/02/20 18:22:53 ID:zRSPly1s0
>>83
双子は好みではないけどこのSSなら読んでみようって気になります。GJ!
>>88
ギャルゲー板の人はその謙虚さがまるでない件について
90名無しさんだよもん:05/02/20 18:43:34 ID:QL92i5zg0
>>47
さっきHPで見てきますた。
下手な小説見るよりみてて面白かったよ。
そしてオマケにワロタ

春乃らぶらぶにゃんこdeメイド大作戦て・・・w
91名無しさんだよもん:05/02/20 19:01:36 ID:Kg6hT+Ry0
タマ姉への血を強く感じる。
92名無しさんだよもん:05/02/20 19:29:44 ID:ukwZw0jG0
花梨すげえなw
チャージルサイフォドン?
93名無しさんだよもん:05/02/20 21:07:53 ID:jboILH4l0
最近、長編が多い(それ自体素晴らしいです)ので
お気軽なギャグ編も読みたくなってきます。
94移植スターフ:05/02/21 02:56:29 ID:IIL3ll8X0
>82 >「ぶるあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
18禁PC版における(゚w゚)の声は若本規夫で決定しました。
95Twofaceの人:05/02/21 10:54:58 ID:V/VmPiS70
あいあい、徹夜で仕上げてこれから仕事なアンガールズです
文量のわりに展開早いような気がしてきた二話目うpでございます。

ttp://www.geocities.jp/saotome_99/twoface02.html
96名無しさんだよもん:05/02/21 11:40:48 ID:HFBe8y/n0
すごくヘビーな話しですけど
続き期待してます。
97るーに関する新たな事実:05/02/21 20:30:20 ID:6+GT2zXI0
 俺とるーこはもう何度も愛し合った。繋がり溶け合い交換した。その度にるーこは微笑むのだけど、それは
決して希望に満ちた営みではなかった。どちらかというと、巣から落ちた二羽の雛が寄り添って、空に向
かって鳴いているような。
 それでも俺にはるーこが必要だったし、るーこにも俺が必要なんだと思いたかった。
 るーこをるーに帰してあげたい。そのためにはなんでもしなくちゃいけない。でも心のどこかでは分かって
る。これは無駄な努力だ。こんなことがなにかになるなんて思えない。それでも俺はるーこを信じてあげなく
ちゃいけないし、自己満足かもしれない行為がるーこにとって何がしかの救いになればいいと思っていた。
「うー、あんまり無理をするな」
 それはいつものありがたい申し出。だけどこれだけは止めるわけにはいかないんだ。
 ――だってそれだけが俺とるーこを繋ぐ確かな絆だから。
「るーこ、るーについてまだ話してないこととかないか?」
 だから質問には答えずにそう聞いた。
「大事なことは全部話した」
「大事じゃなくていい。なにかほんの些細なことでも聞かせてくれないか?」
「うーはつまらないことを気にする」
「それでもいいから!」
「そうだな……。では思いつくままに言うぞ」
「ああ」
「るーの表面積は――」
 後悔したが聞かないわけにはいかなかった。るーこはすらすらとるーに関する物理的データを述べ上げ
る。一体どういう記憶力をしているのかよく分からない。まるで目に見えない百科事典でも読み上げているよ
うだった。そして不意にその言葉が耳に残った。
「――大気圧は220kPaでその構成物質は主に二酸化炭素。その割合は実に92%で酸素と水素、ヘリウ
ムと次いで多い――」
98るーに関する新たな事実:05/02/21 20:31:02 ID:6+GT2zXI0
「ちょっと待った!!」
「なんだ? うー。話を途中で遮るのはよくないぞ」
「いや、すごく気になったんだけど。るーって地球と全然違わない?」
「違う星なのだから当然だぞ」
「いや、なんというかそういうレベルじゃなくて、例えばさ、俺がるーに行ったらどうなるのかな?」
「死ぬ」
 衝撃的告白だった。なんとなくるーは地球型惑星だとばかり思い込んでいたのだ。だってそうじゃないか。
るーこは立ち居振る舞いや考え方が変なだけでそれ以外はまったくの人間に見える。俺はその体の隅々ま
で知っているのだから、誰よりもそう断言することができた。
「で、でもるーこは地球に来ても平気なんだよね?」
「るーがうーにそのまま来たら死ぬぞ」
 当然だと言わんばかりの、というか言ってるんだけど、るーこはそんないつもの表情だ。
 なにか嫌な予感がする。
「そのまま来たらって、それじゃるーこはそのままじゃないの?」
「当然だ。るーこがるーこのままでうーに来たら、ぷくーんでばーんだ」
 相変わらず微妙に肝心なのかそうでないのか分からないところが曖昧だ。
「ってことはどうしてるの?」
「うーに合わせた環境適応服を着ている」
「ふ、服っていつも着てるあれ? でも制服の時もあったよね?」
「服は服だ」
 るーこは『服』を摘まんで見せる。
 ――でもそれは俺から見たら、つまりなんというか、るーこの皮膚なのであって……。
 まさか、まさか、まさか……なあ。
「その服って脱げる?」
「うーはるーに死ねと言うのか?」
「まさか、冗談だよ……。そのぉ、服の下ってどうなってるの、かな、なんて思ってみたりなんかして……」
99るーに関する新たな事実 終わり:05/02/21 20:32:07 ID:6+GT2zXI0
「……見たいのか?」
 るーこがぽっと頬を染める。可愛らしいその仕草が、今は……怖い。肯定も否定もできずにるーこの顔を見
ているしかできない。
「……恥ずかしいが、うーになら見せてもいい」
 どっちかというとベッドの上で聞きたかった――聞けなかった――そんな言葉をるーこは口にすると懐をが
さがさをかき回した。そして小さなボックスを取り出す。
 大きさといい形といいまるで真っ黒なサイコロみたいだった。
「るーの映像記憶装置だ。寂しいときは見るように言われて持ってきた。手早く二度触れると映像が流れる」
 要はダブルクリックしろ、ということらしい。
 俺は恐る恐るその真っ黒いサイコロに指を伸ばし、チョンチョンと二度触れた。

 …………。

 …………。

 …………。

 …………。

    /\___/ヽ   ヽ
   /    ::::::::::::::::\ つ
  . |  ,,-‐‐   ‐‐-、 .:::| わ
  |  、_(o)_,:  _(o)_, :::|ぁぁ
.   |    ::<      .::|あぁ
   \  /( [三] )ヽ ::/ああ
   /`ー‐--‐‐―´\ぁあ

 その日を境に俺のモノは二度と立ち上がらなかった。

----
 すまん、反則だとは思ったんだが、思いついたからやっちゃった。
100名無しさんだよもん:05/02/21 20:39:35 ID:L6pdjXsj0
>>99
ワロス。
GJ!
101名無しさんだよもん:05/02/21 20:52:56 ID:69Gvh/vj0
なかなかの文章スキルをムダに使ってるなw
だがそれがいい、ワロタよ。
102名無しさんだよもん:05/02/21 20:54:58 ID:uuJ6z9Hn0
ハゲワロタ
103名無しさんだよもん:05/02/21 22:22:17 ID:7LKzmhG30
ほほぅ、現在は冷却期間中ですか。
104名無しさんだよもん:05/02/22 08:23:54 ID:IwptUd1DO
>>95
面白かったです。
いきなり愛佳が死んだっていうのは吹いてしまったよwww
105うーの力、うーの道、うーの運命1:05/02/22 11:46:27 ID:2C/Vc9B1O
「このるーも、見くびられたものだな」

目の前に現れた者たちを見て、るーは言った。
人類とるーの将来を決める為の、最後の戦い。
高次元空間に現れたのは、一組のうーとるー。
貴明とるーこ。
幾多の戦いを勝ち抜いてきた彼等を、るーは笑いはしなかった。
るーは彼等の力を侮るべからざるものとして見抜いていたのだ。
下手をすれば、神をも凌駕しかねない、二人の力を…。

「我が被造物よ。汝等がここに来たわけは分かっている。
だが、なにゆえにたった二人でこのるーに挑もうとする?我を倒したいのなら、なぜるーを利用しない?なぜ、うーたちの支援をも断る。」

二人は無言だった。
答える代わりに、貴明は剣を抜き、るーこは魔法を繰り始める。
――問答は、無用。

「よかろう」

諦めた様にるーは言った。

「答えずとも、どのみちお前たちはここで果てるのだからな!」
106うーの力、うーの道、うーの運命2:05/02/22 12:06:17 ID:2C/Vc9B1O
貴明が駆け出すと、るーの深紅の瞳が貴明を凝視した。

「死ねい!」

叫び声と共に、貴明のいた場所が金色の炎に包まれる。
だか、その刹那、貴明は信じられない様な速さで脇へ跳び、炎をかわしていた。

「おのれっ!」

再びるーの深紅の瞳が光る。
しかし、急速に接近する貴明をるーは追い切れず、貴明の駆け抜けた後ろを炎が追いかける形になった。

「馬鹿な!?」

うめくるー。
その瞬間、貴明の不気味な青い光を発する剣が、るーの巨体を斜めに一閃した。
貴明の何倍もの大きさのあるるーの体を、跳躍する事無く一閃するなど、本来、物理的に不可能なはずだった。
だが、貴明は軽々とそれをやってのけ、次の瞬間、巨大な顔として具現化しているるーの、額から顎先までに深い傷が走った。
107名無しさんだよもん:05/02/22 14:00:10 ID:bJKY3JQr0
またか。
108名無しさんだよもん:05/02/22 14:17:20 ID:YkZ32eBVO
なに、このオナニー野郎
109名無しさんだよもん:05/02/22 14:31:22 ID:RnUjEp220
えらく失速してますね
110名無しさんだよもん:05/02/22 16:00:57 ID:2C/Vc9B1O
よっ!俺の名は105。
どMでハードオナニストな変態ニートだ。
趣味はSS作り。
自分の作ったSSがぼろくそに酷評されるのを見るのが三度の飯より大好きだ!
今も上の書き込みを見て激しくイチモツをピストン運動させているぜ!
111名無しさんだよもん:05/02/22 18:17:40 ID:mKXcR7qJ0
後書きのがおもしろいよ
112ある日、アイス屋の前にて(1/4):05/02/22 23:54:27 ID:FMCZ3IXR0
「タカくん、おまたせ」
「うん」
「はいこれタカくんの。バニラとチョコチップのダブル」
「お、このみ、よくわかったな。俺が食べたいのがバニラとチョコチップだって」
「えへ〜、だって、このみはタカくんの、カノジョでありますから」

「……」
「……」

「こっちはこのみの。ストロベリーチーズケーキとキャラメルリボンのダブル」
「お、そっちも美味そうだな」
「でしょ。はいタカくん、あ〜ん」
「あーん。−−うん、美味しい」
「えへ〜、あ、このみもタカくんの、食べてみたいな」
「ああ、いいよ」
「あ〜ん。−−うん、おいしいよタカくん」

「……」
「……」

「あ、タカくんほっぺにアイスついちゃってるよ」
「ん?」
「ほらほら、ここ。拭いてあげるね」
 ふきふき。
「ん、このみ、サンキュ」
「えへ〜☆」
113ある日、アイス屋の前にて(2/4):05/02/22 23:56:08 ID:FMCZ3IXR0
「……」
「……」

「ねえねえタカくん、今度の日曜日、どっか行こうよ」
「んーそうだな。このみはどこに行きたい?」
「ん〜、えっとねぇ……遊園地、水族館、動物園、あ、そういえば観たい映画もあるし……
う〜ん、どうしよ、決められないよ〜」
「ははは、このみは欲張りさんだなあ」
「ねえねえタカくん、タカくんが決めてくれる? このみはタカくんと一緒なら、どこでも
いいよ☆」

「……ば」
「ば?」
「バ〜カップルが〜い〜る〜ぞ♪
 あ〜そ〜こ〜に〜い〜る〜ぞ♪
 そ、そ、そ、そ♪
 そそそそそそそそ蘇我入鹿♪」
「……どうした、よっち?」
「くわ〜〜〜っ!! やってらんねえ〜〜〜っ!!」
「……よっちが壊れた」
「なに、なんなのあの、過剰なまでのラブラブっぷりは?!」
「それは、このみと先輩が晴れて恋人同士に……」
「だからって、いきなりあんなラブラブになるか普通?! もっとこう、恥じらいとか、初々
しさとか、ぎこちなさとか、あるもんでないの?!」
「……このみと先輩は、前から仲良し」
114ある日、アイス屋の前にて(3/4):05/02/22 23:57:24 ID:FMCZ3IXR0
「違う! 以前とは、漂うオーラがまるで違う!! 今の二人は愛のメタフィールドを形成
してるっしょ!! 侵入不可能っしょ!!」
「……ワケの解らないことを」
「つまらん! 実につまらん! なりたての恋人同士を生暖かく見守り、何かあればその都度
ツッコミを入れて楽しむ。それがわたしらのポジション!」
「……いつ決まった、そんなポジション」
「だというのに、あそこにあるのはこのみとセンパイ、二人だけの完璧なる世界! つけ入る
隙、全くなし!! っていうか全然こっちに気付きゃしないし!!
 お二人さ〜〜〜ん、挙式はいつっスかぁ〜〜〜!! 子供は何人作るっスかぁ〜〜〜!!」
「……いい加減、騒ぐな」
 びしっ!
「あいた! 殴ったね?!」
「親父にだってぶたれたことないのに、か?」
「うぐっ……悪かったね、ベタで」
「……私たちは、このみの幸せを素直に祝うべきだ」
「そりゃそうだけど……実際あんなの見せつけられると、何かこう、面白くないというか……
気に食わないというか……」
「ねたんでる?」
「……ぐ」
「そねんでる?」
「……ぐぐ」
「ひがんでる?」
「……ぐぐぐ、うるさーい!! ああそうですよ、その通りですともさ!
 ち、ちくしょ〜〜〜! わたしもカレシがほしーい!!」
「……」
115ある日、アイス屋の前にて(4/4):05/02/22 23:58:38 ID:FMCZ3IXR0
「だがしかーし! わたしらの学校は女子校! オトコっ気ゼロ! 出会いの場、全くなし!!
 もうこうなったら、百合っちゃうか百合! 最近はそういう需要もあるしね!!」
「……需要は関係ないし、第一、私にその趣味はない」
「わたしだってないわ〜っ!!」
 ばしっ!
「……叩いた」
「さっきのお返しだもんね! 冷血キツネ!」
「なんだと、この暴走タヌキ」
「なによ、やるってぇの?」
「……そろそろ、お互いの力関係をはっきりさせておくべきと思ってた」
「上等っしょ。どっちが上なのか、思い知らせてやる!」
「私とよっちは、戦うことでしか解り合えない!!」
 ガッ!!

「あれ、あそこにいるのって……」
「あ、ちゃるとよっちだ! お〜い!」
「全然聞こえていないみたいだな……」
「あ、ケンカしてる」
「なんか、マジのケンカみたいだけど」
「二人はね、幼稚園からの友達なんだよ」
「お互い、グーで殴り合っているんですけど……」
「二人はね、正確が正反対で、よくケンカするけど、ホントはとっても仲良しなんだよ」
「あ、クロスカウンター。……二人ともダウンした」

 おしまい。
116名無しさんだよもん:05/02/23 00:01:00 ID:JiDRy1V70
ウッジョウ!ワロタよ
117ある日、アイス屋の前にて の作者:05/02/23 00:01:46 ID:a1vqIkDZ0
生まれて初めて書いたSSです。
楽しんでもらえると良いのですが……。
118名無しさんだよもん:05/02/23 00:04:17 ID:+50CpcHGO
GJ!
よっちとちゃるにリアルタイムワロンチョス!
(゚∀゚) よっち!よっち!
119名無しさんだよもん:05/02/23 00:18:09 ID:T1k5CVgD0
(゚∀゚)よっち!よっち!よっち!よっち!よっち!よっち!よっち!よっち!よっち!よっち!
120名無しさんだよもん:05/02/23 00:24:09 ID:sVEo+2Xr0
蘇我入鹿ワロタ

いま、欲しいんだよねm9(^Д^)プギャー 君の力が
121名無しさんだよもん:05/02/23 00:31:18 ID:guo2EReg0
よっちも日曜日は早起きなんだな
122名無しさんだよもん:05/02/23 16:30:23 ID:dBAZD0iY0
>>117
ペタワロス
こういうのは好きだ
123名無しさんだよもん:05/02/23 22:12:38 ID:cyCl31wJO
>>117
GJ!!よっちの壊れっぷりに激しく萌えた!w
124名無しさんだよもん:05/02/23 22:17:34 ID:LIK5KNgr0
ほのぼのとしてて良いね。
おまけディスクとかでありそうなシチュエーションだ。
125名無しさんだよもん:05/02/23 22:53:58 ID:+7vmfBh50
よっちがグリグリのバッチグーとかぶって見えた俺はどうすればいいんだ
126名無しさんだよもん:05/02/24 08:02:15 ID:Q4CPkkLB0
俺は携帯にSS入れて読む事が多いんだが最近はこのスレの作品ばっかり読んでる気がする
127名無しさんだよもん:05/02/24 09:07:51 ID:lh4JmSD10
>>125
すいません、蝶同じ事考えました

よっち「○○っしょ!○○なんてありえないっしょ!オマエラ全員そこになおるっしょ!」
ちゃる「お、おいどん恥ずかしいでごわす…………」
128名無しさんだよもん:05/02/24 10:43:05 ID:fdGABBpO0
ここでグリグリの話題が聞けるとはw
129名無しさんだよもん:05/02/24 22:42:18 ID:lh4JmSD10
よっちまだー!?


よっち「良く聞くっスおまえら!このスレではこれからはこの吉岡チエが神として光臨するッス!
    口答えは許さないッス!口答えするヤツはおっぱい揉むッス!でも私より大きくなったらちゃるに潰させるッス!解ったっスか!
    よッス!私はからは以上ッス!続いてちゃるからのお言葉があるッス!
    ちゃるはナイーブで胸も小さいッスけど決してそのことに触れちゃならんッス!触れると大変なことになるッスよ!いいッスね!?」
ちゃる「……………………………………………………………………………死ね」



あー!痛いッス!痛いッスよ!いくらCoolなDの持ち主でも耐えられるのは9mmが限界ッスよ!
見てないで早く助けるッスおまえら!私に初めての穴が空いちゃうッス!ヘールプ!
130名無しさんだよもん:05/02/24 23:02:56 ID:G37QghQp0
>>129
そのまま頑張って書いちゃえ
131名無しさんだよもん:05/02/24 23:10:48 ID:u+BnMcgG0
ちゃるはいつも真顔
132名無しさんだよもん:05/02/24 23:22:19 ID:N+hyR2H7O
47
普通に泣きそうになった
改めて感謝
是非他のキャラのもかいてほしい、ってか書いて下さいお願いします
133ある日、アイス屋の前にて2(1/5):05/02/25 00:23:11 ID:WV/rR4Cq0
「タカ坊、おまたせ」
「うん」
「はいこれタカ坊の。チョコミントとラムレーズンのダブル」
「タマ姉よくわかったね。俺が食べたいのがチョコミントとラムレーズンだって」
「ふふっ、タカ坊のことなら何だってお見通しよ」

「……」
「……」

「こっちは私の。抹茶とクッキーアンドクリームのダブル」
「お、そっちも美味そうだね」
「でしょ。はいタカ坊、あ〜ん」
「あーん。−−うん、美味しい」
「ふふっ。私もタカ坊の、食べてみていい?」
「ああ、いいよ」
「あ〜ん。−−うん、美味しいわよタカ坊」

「……」
「……」

「あ、タカ坊、ほっぺにアイスがついてる」
「ん?」
「ほらほら、ここ。拭いてあげる」
 ふきふき。
「ん、タマ姉、サンキュ」
「ふふっ」
134ある日、アイス屋の前にて2(2/5):05/02/25 00:24:24 ID:WV/rR4Cq0
「……」
「……」

「ねえタカ坊、今度の日曜日、デートしましょうか」
「んーそうだな。タマ姉はどこに行きたい?」
「うん、そうね、美術館、骨董市、プラネタリウム……色々あって、困るわねぇ」
「ははは、タマ姉は欲張りさんだなあ」
「ねえタカ坊、タカ坊が決めてくれる? 私はタカ坊と一緒なら、どこでもいいから」

「……き」
「き?」
「き〜れ〜い〜な〜姉御♪
 な〜ま〜え〜は〜た〜ま〜き♪
 き、き、き、き♪
 きききききききき鍛〜え〜て〜ま〜〜〜す♪」
「……どうした、よっち?」
「か〜〜〜っ!! たまんねぇ〜〜〜っ!!」
「……よっちが壊れた」
「年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せっていうけど、センパイはそれを探し当て
たんだねぇ。まあ、このみの親友としては残念な結果だけれど、ああまで完璧なラブ
ラブっぷりを見せつけられちゃあ、もう何も口出しできないっしょ!」
「……このみ、かわいそう」
「あ〜〜〜っ、わたしも、年下の男の子をカレシにして、あれこれ色々リードして
あげた〜〜〜い!! だがしかーし!! わたしらの学校は女……」
「ちょっとあなた!」
135ある日、アイス屋の前にて2(3/5):05/02/25 00:25:37 ID:WV/rR4Cq0
「へ?」
「そう、あなたです! あなた今、歌の中で”たまき”っておっしゃったけれど、それ
は、あちらにいらっしゃる向坂環様のことなのかしら?」
「う、うん。そうだけど……」
「あなた、どこの者ですの?」
「どこの者って……吉岡家のチエって者ですが、何か?」
「吉岡家? 聞いたこともありませんね……薫子、霞、あなたたちは?」
「さあ? 聞いたこともありませんわ」
 コクコク……。
「ということは、凡民の分際で、お姉様を呼び捨てにしたということですね」
「お、おねえさまぁ?」
「強く、優しく、美しく、聡明なお姉様。私たちですら呼び捨てになど、おそれ多くて
出来ないものを、それをあなたのような凡民が! 無礼にも程があります!
 今すぐ謝罪なさい!! 訂正なさい!!」
「な、なんなのアンタらは?」
「私たちのお姉様、私たちだけのお姉様でいて欲しかった。それが、あのような凡民の
男に心を奪われて……それだけでも腹立たしいというのに、あまつさえ、先程のような
品性の欠片もない歌の中でお姉様を呼び捨て!? 断じて許せません!!」
「……あんたら何? 要はセンパイに嫉妬して、わたしに八つ当たりしてんの?」
「ち、違います!」
「……はっは〜ん。こりゃあアレですわミチルさん。こいつらマジで百合っスわ」
「うん、初めて見た」
「どういう意味ですか百合とは? 私たちを侮辱しているなら許しませんよ!!」
「女が女に恋をするのを百合っちゅうの。言い方を変えればレズビアン」
「真実の愛に性別など関係ありません!」
136ある日、アイス屋の前にて2(4/5):05/02/25 00:26:49 ID:WV/rR4Cq0
「そうです! 私たちはお姉様を愛しているのです!」
 コクコク……!
「うわっ、認めちゃったよこいつら!」
「わかったらとっとと謝罪なさい! さもなければ、あなたたちのような凡民など、私
たちがその気になったら、社会的に排除することも容易いのですよ!」
「……やれるものならやってみろ」
「ちゃる?」
「親の威光にすがらないとケンカも出来ない、虎の威を借るキツネが」
「おお、キツネがキツネを馬鹿にした」
「な、なんですってぇ!? くっ、そこまで言われては引き下がれませんわ。いいで
しょう、私たち自ら、あなたたちに引導を渡して差し上げます!!」
「仕方がありませんわね、あの世で後悔なさい!!」
 コクコクコク!
「上等っしょ。いくよちゃる!!」
「ロジャー!!」
 ガッ!!

「あれ、君たち……」
「玲於奈に薫子に霞に、チエさんとミチルさん、ね。
 あなたたち、こんなところで何をしているの?」
「あ、センパイ……」
「お姉様……」
「理由はわからないけど、女の子が天下の往来で殴り合いの喧嘩なんてよくないわよ。
ほら、もう止めなさい」
「で、でもお姉様、この者たちがお姉様に無礼を……」
137ある日、アイス屋の前にて2(5/5):05/02/25 00:28:00 ID:WV/rR4Cq0
「いいから、もう止めなさい。私の言うことが聞けないの?」
「い、いえ……」
「ね。お互い年も近いんだし、仲良くしなさい。わかったわね。
 じゃ、行きましょタカ坊」
「え、う、うん」

「……行っちゃったね」
「うん、行っちゃった」
「はぁ〜、なんか興が冷めたって感じっしょ。
 ねえアンタたち……ってゲッ! 三人とも泣いてるし! 肩を震わせ、大粒の涙を
ポロポロ流してるし! あ、あ、もう、どうしたものやら……。
 ほ、ほらアンタたち、な、泣かない、泣かないの、ね、悔しい気持ちはわかるから、
ええと、その、何だ、前向き、前向きにね。
 あ、そ、そうだ、一緒にアイス食べよう! ほら、あそこの店のアイス。
 え、食べたことないって? 大丈夫、おいしいから、わたしがおごってあげるから、
ね、ほら、行こ。はい、歩いて歩いて。
 アイスを食べて、愛する二人を祝福しよー、なんちって。はは、面白くないか……」

 おしまい。
138ある日、アイス屋の前にて2 の作者:05/02/25 00:29:09 ID:WV/rR4Cq0
 調子に乗ってまた書いちゃいました。
 よろしくです。
139名無しさんだよもん:05/02/25 00:42:41 ID:lxtHKdR60
よっち「や〜ぁ〜ぱ〜り〜ほ〜し〜い〜♪
か〜れ〜し〜が〜ほ〜し〜い〜♪
い、い、い、い、
ちゃる「・・・言うだけ無駄だよ頑張ろう・・・」
よっち「うう・・(泣」

便乗して書いてみた。私は謝る。
140名無しさんだよもん:05/02/25 00:55:02 ID:2nL50r9X0
>>138
まさかシリーズ物になって帰ってくるとはっ
前回に引き続きちゃるとよっちのテンポ良いやり取りが最高ですなぁ
(*^ー゚)b グッジョブ!!

次回作もキボンして良いですか?
141名無しさんだよもん:05/02/25 00:57:22 ID:R3PzGZYN0
>>47氏以降は投下数が少なくてちと寂しかったよ…
まあ、つまり、>>138GJ。
超GJ!こういうの好きだ
142名無しさんだよもん:05/02/25 01:05:26 ID:3SFqMF3z0
>>138 GJ!
次は由真のが見たい・・・と、ネタ振り
143名無しさんだよもん:05/02/25 01:21:10 ID:vBl5RJoP0
>>138
>「か〜〜〜っ!! たまんねぇ〜〜〜っ!!」
テラワロスw
珍八っつぁんかよ!
最近スレが盛り上がって無かったので続編投下はとても有難いです。
もし続編(連作?)があるのであれば是非頑張ってください。
144名無しさんだよもん:05/02/25 02:10:56 ID:oN77NAlZ0
>>138
たま姉たまんねぇ!
ってかおまいもたま姉スレ見てるのか?w
なにはともあれGJ!

一番見たいのは姫百合+HM3連星だが、もしやるならば最終回でキボンヌw
145名無しさんだよもん:05/02/25 10:23:14 ID:uH82Uf7p0
この調子で全キ(ry
146名無しさんだよもん:05/02/25 12:20:51 ID:oN77NAlZ0
「遅い」
「悪い悪い」
「全く、人のこと誘っておいてほっぽらかしなんて最低ねあんた。」
「はいはい悪かったって、イチゴとチョコでいいんだろ?」
「前にも来たんだから覚えてて当然でしょ」
「まぁこれもひとえに愛の力だな」
「〜〜〜〜ッッッ!!!人の話を聞けっ!アホッ!」

「……」
「……」

「しかしそっちのも美味そうだな、どれどれ」
「食うな!勝手に食うな!」
「うん、なかなか美味いな」
「〜〜〜ッ!バカ!マヌケ!」
「そう怒るなって、体に悪いぞ」
「ぶっ倒れたらあんたのせいよ!起訴するわ!」
「甘い物でも食って頭を柔らかくした方が良いな、俺のも食うか?」
「……………………せて」
「ん?」
「………あんたが食べさせて」
「ふふふ、そうかそうか。はい あ〜ん。」
「………はぐっ」

「……」
「……」

「ん、郁乃、ほっぺにアイスがついてるぞ」
「ふぇ?」
「ほら、ここだよ。取ってやる」
チュッ。
「あふっ、んふぅ………ケダモノ」
147アイス屋の前で 2/5:05/02/25 12:21:42 ID:oN77NAlZ0
「……」
「……」

「なぁ郁乃、今度の日曜日、デートしようか」
「あー、うん。……貴明はどこ行きたい?」
「俺は郁乃と一緒ならどこでもいいぞ」
「……お姉ちゃんも一緒でいい?」
「当たり前だろ、なんならご両親と会ったっていいぞ」
「………バカ」

「……は」
「は?」
「ハ〜レンチ〜がい〜る〜ぞ♪
 ハ〜レンチ〜学園〜♪
 こ、こ、こ、こ♪
 ここここここここ公衆猥褻♪」
「……またか、よっち?」
「うっきゃぁぁぁ〜〜!もう完璧にやってらんねぇ〜〜〜っ!!」
「……げんなり」
「あー!?なんだってか!あの何処に出しても恥ずかしいイチャつきっぷりは!」
「学園公認の仲らしいから仕方ない」
「だからって公衆の面前であんなことするか!?あっりえねぇ〜!12−13日の殺伐とした会話はどこへ行ったのよ!?
 ホェーア イズ ゴー SATUBATU!?ディスハプニングはネバーありえないっしょ!」
「よっちそれ以上踏み込むとヤバイ。」
148アイス屋の前で 3/5:05/02/25 12:22:32 ID:oN77NAlZ0
「もーあたしゃ堪忍袋の緒が切れましたよ!ブッチ切りですよ!銀河最強!
 あたしの怒りの炎はミラクル全開パワーを超えた!テメーはあたしを怒らせた!」
「……そういえば昨夜は劇場版放映してた」
「あーもう嫌だぁ〜!奇跡なんて起こらないッス!起こらないから奇跡ッスか!?
 怒らないから答えて下さいゴッデス!あたしにはサナトリウムでの素敵な出会いは無いんッスか!起こせってんだチックショ〜ウ!」
「……ビートたけしはチック症」
「さっきからうるさいのよあんた達」
「先輩なんか呪われてしまえー!火サスのようにねっとりと刺されてしまえ!
 【美人姉妹の間で揺れ動く間男の情欲!サナトリウム密室殺人事件 看護婦は見た!】とかのサブタイトルで!」
「……ダサイ」
「ちょっと、聞いてる?」
「もういっそリボン付け替えちゃうッスか!ある日突然大人しくなってひよこのように後ろついて回って裾を掴むような純情な後背に早変わりッスか!?
 浜辺で花火なんてしちゃって、雨に濡れて冷たくなった私の体を抱きしめて貰ってイヤンもう!でもあたしに姉なんていないッス!残念!切り!」
「うるさい黙れ」
 げしっ
「あたしを踏み付けにしたぁ!?ぬるぽぉ!」
「したわよ、それが?」
ガッ ガッ ガッ
「あ、痛!痛!痛いッス!車椅子で!痛ッス!殴られたら普通死ぬッス!助けて!ぐっはぁ!」
149アイス屋の前で 4/5:05/02/25 12:23:24 ID:oN77NAlZ0
「大体さっきから黙って聞いてりゃなんなのよアンタ、好き勝手絶頂ヌカしてくれちゃって」
「うるちゃーい!あたしには言う権利があーる!独り者としてバカップルを糾弾する権利と義務があります!だよねちゃる!」
「一緒にされると迷惑。」
「ブルータスお前もかぁ!こうなったらこの星もろとも粉々にしてくれるッス!」
「あっそ、勝手にすれば?」
「……は?」
「ついこの間まで特別病棟に入ってた病み上がりの人間を言葉なり腕力なりで好き放題攻撃すればいいじゃない、
 それが出来るんでしょ?やってみたらどう?」
「ぬ………ぬぬぬぬぬぬ」
「まああんたみたいなどっかの二番煎じみたいなキャラで
 なおかつそっちのメガネとセットでしか登場出来ない中途半端なキャラじゃあ場末のHP人気投票でだって私の価値は決まってるだろうけどね。」
「……よっちと同じ扱いは嫌」
「うるちゃーい!うるちゃーい!少なくとも胸の大きさでは勝ってるッス!」
「あたしは少なくとも今後大きくなる可能性があるのよ、Dで止まってるあんたと違ってね」
「あんですとぅ!?」
「あたしは…………えーと………その………なによ…………今後そういうイベントが追加されるというイベントも………
 いやまぁ予定の上だったとしても………まぁ「大っきいほう」を選択された以上貴明がそういうほうが好きなのは明白で……
 つまり……今後のつきあいの上で……貴明のあたしの成長への貢献は……あー吝かではないんじゃないかと……秘書が。」
「ポカーン」
「ポカーン」
150アイス屋の前で 5/5:05/02/25 12:24:12 ID:oN77NAlZ0
「〜〜〜〜うぅぅぅぅぅぅぅ…………………………バカ!こっちに来なさい!」
え、何?俺?
「こっちへ来い!」
「ヒッ……なんだよ、三人で喋ってたんじゃないのか?」
 ガシッ!んちゅぅぅぅぅぅぅぅ

「なんですとぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!?」
「………大胆」

ふはっ……ふぅっふぅっんっふ……ふぅ」
「うっ、ちょっ……いくらなんでも……急過ぎやしないか、一体どうしたんだ!?」
「うううううううううううぅぅぅぅぅぅ…………わかったかぁぁぁぁ!!!うわぁぁぁぁぁん!!!」
いくのはにげだした!
「郁乃!?郁乃!ちょっと待て!病み上がりなんだから走っちゃ駄目だろ!郁乃ぉぉぉぉぉ!!」
たかあきもにげだした!

「……」
「……」
「……さ」
「……さ?」
「最後まで立ってたヤツが勝ちッス!」
「………………………………そうか」

「勝った、勝ったッスーーーーー!!!」
「……帰る」
よっちはレベルが上がった!
HPが3増えた!
出番が2増えた!
人望が99減った!
くやしさが7増えた!
「まけおしみ」を覚えた!
なんともいえないくやしさだけがのこった!
151名無しさんだよもん:05/02/25 12:26:47 ID:oN77NAlZ0
>>112
>>133
作者様ゴメンナサイ、他人の尻馬に乗って物を書くのは悪いことかもしれんとです………
題名まで間違えたとです………俺がDEATH……DEATH………

でもよっちといくのんが書けて幸せでした……ゴメンナサイ
∧||∧
152名無しさんだよもん:05/02/25 13:22:53 ID:oN77NAlZ0
【探さないで下さい】
153名無しさんだよもん:05/02/25 13:34:53 ID:bcFalCka0
ワロタ
154苦手なものを克服しよう(1/5):05/02/25 19:40:56 ID:RgdJ18OP0
「というわけで」
「ねえタカくん、その……ホントにやるの?」
「はい。本日は、怖いもの系が苦手なこのみに、是非それを克服していただきたいと」
「だからって、ホラー映画を見なきゃいけないの? やだよ〜」
「あのなこのみ、怖いもの系が苦手っていうのは、女の子としては可愛らしくていいとは思う。
でもな、ちょっと怪談話を聞いたからって、夜中に一人でトイレに行けなくなるというのは問題
アリだぞ」
「う〜、だってぇ」
「それとこのみってさ、TVでホラー映画のCMが流れたら、慌ててチャンネル変えたりしてる
だろ?」
「う……うん。だって、CMでも十分怖いもん」
「あの手のCMって、ネタバレにならない程度に怖いシーンを選んで流すからな。でもCMごとき
でいちいち怖がっていても仕方がないだろ?」
「む〜」
「要はさ、慣れだよ慣れ。ホラー映画だって何度も見れば、次第に慣れて怖くなくなるもんだって」
「そ、そうかなぁ?」
「それに今日は、このみだけじゃないぞ。スペシャルゲストを招いている」
「スペシャルゲスト?」
「それではお越しいただきましょう。スペシャルゲスト、姫百合姉妹!」
 ぱちぱちぱちぱちぱち〜
「るー☆」
「うう……」
「いらっしゃい珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん」
155苦手なものを克服しよう(2/5):05/02/25 19:42:14 ID:RgdJ18OP0
「貴明の家でホラー上映会や〜。わ〜い」
「ううううっ、貴明のあほ〜!」
「このみ。ここにいる瑠璃ちゃんもな、怖いもの系が苦手なんだ。同志がいれば、少しは心強い
ってもんだろ?」
「うう〜、余計に怖くなるような気がするけど」
「なーなー貴明、そんで今日は、何見るのん?」
「よくぞ聞いてくれました。今日の映画は、これ!」
 どん!
「『ドン・オブ・ザ・デッド』、ゾンビものや〜。ウチこれ見たかったんや〜☆」
「ぞ、ゾンビ〜!?」
「うううううっ、ゾンビいやや〜!」
「さあ、もうここまで来たら腹をくくる! じゃ、スタート!」

 ・
 ・
 ・

「……で、見終わったワケだが、一同、ご感想を」
「やっぱり怖いものは怖いよタカく〜ん! ゾンビが大勢で追っかけてくるところなんか、泣い
ちゃいそうだったよぉ〜」
「うーん、正直、イマイチやったなー。ゾンビが走るんはどーかと思うで。しかも必死に両腕
ぶんぶん振って全力疾走やんか。怖いと言うより笑えるでアレは。やっぱりヨタヨタ歩くからこそ
のゾンビやで。
 あと、ゾンビもののくせに人食い描写がほとんどないっていうのも不満やなー。まあハラワタ
見せればいいってもんでもないけど、もう少しグロくてもええんちゃうかなー」
156苦手なものを克服しよう(3/5):05/02/25 19:43:02 ID:RgdJ18OP0
「あれ以上グロかったら、ウチショック死してまうわ! うううっ、怖かったよぉ」
「なるほど、このみと瑠璃ちゃんは怖かった、珊瑚ちゃんはイマイチ、と。
 しかーし、今日はこれ一本だけじゃなかったりする! 次はこれ!」
 どん!
「あ、劇場版『口兄怨』や〜。これも見たかったんや〜☆」
「こ、今度はどんなホラーなのタカくん?」
「幽霊もの、になるかな」
「あうううう〜っ! 幽霊もいやや〜!」
「じゃ、二本目スタート!」

 ・
 ・
 ・

「……終わったね。では一同、またご感想を」
「うええええん、怖すぎだよタカく〜ん!! 今晩一人じゃ寝られないよぉ〜〜〜」
「まあまあやねー。ビデオ版と比べるとやや劣る感じやけど、まあウチがビデオ版で見慣れてる
せいもあるし、こんなもんでええんちゃう?
 でもあの白塗りの子供は、相変わらずパンツ一丁で笑えるな〜」
「貴明死ね! 死んでまえ!
 ひっく、ひっく、うえええん、蚊帳子怖い、蚊帳子怖いよぉ〜!」
「なるほど、このみと瑠璃ちゃんはとても怖かった、珊瑚ちゃんはまあまあ、と」
「なーなー貴明」
「なに、珊瑚ちゃん?」
「ウチ、蚊帳子のモノマネできるんやで〜☆」
157苦手なものを克服しよう(4/5):05/02/25 19:43:47 ID:RgdJ18OP0
 珊瑚ちゃんはそう言うと、俺達三人を廊下に連れ出し、階段の前に立たせた。
「ほな、ここで待っててな〜」
 ぱたぱたと階段を上る珊瑚ちゃん。
 しばらくして……
「…………あ゛……」
 ずる……
「…………あ゛……あ゛……」
 ずる……ずる……
「…………あ゛…あ゛…あ゛…」
 ずる……ずる……
 おだんごを解き、その長い髪をぼさぼさにした珊瑚ちゃんが、ゆっくりゆっくり、腹這いで階段
を降りてくる。
 うわ、ホントにそっくりだよ。
「……ひうっ」
「……う、うう」
「……あ゛…あ゛…あ゛…あ゛…あ゛…」
 ずる……ずる……ずる……
「……あ゛…あ゛…あ゛、あ゛、あ゛、あ゛」
 ずる……ずる……ずる……ずる……
「あ゛、あ゛、あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「ふ、ふわああああぁぁぁぁ!」
「いや、いややぁ! さんちゃんもうやめてぇ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「うきゃあああああああぁぁぁぁっっ!!」
「い、いややあああああぁぁぁぁっっ!!」
158苦手なものを克服しよう(4/5):05/02/25 19:44:34 ID:RgdJ18OP0
 どさっ!
「あっ、このみ! 瑠璃ちゃん! ……ダメだ。失神してる」
「あちゃ〜、やりすぎやったかな〜」

 ・
 ・
 ・

「気が付いたか?」
「…………タカくん」
「…………貴明」
「さすがにあれは刺激が強すぎたな。ごめんなこのみ、瑠璃ちゃん」
「ごめんな〜」
「お詫びに明日の帰り、好きなものおごってあげるから」
「…………の…………」
「…………の…………」
「……ん?」
「…………タカくんのぉ…………」
「…………貴明のぉ…………」
「……ん、なに?」
「「ばかあああああああぁぁぁぁっ!!」」
 バキッ!! ゴスッ!!
「ぐはあっ!!」

おしまい。
159苦手なものを克服しよう の作者:05/02/25 19:46:43 ID:RgdJ18OP0
最後のタイトル間違えちゃった。正しくは「苦手なものを克服しよう(5/5)」です。

どもです。
アイス屋シリーズの作者でもあったりします。
今回のは元ネタのホラー見ていないとワケが解らないかも……。

アイス屋シリーズは、思いついたらまた書きたいと思ってます。

>>151
GJです!
っていうかオレのより面白いっす!
160名無しさんだよもん:05/02/25 20:10:11 ID:QbICfCLr0
GJ珊瑚ちゃんがいい
161名無しさんだよもん:05/02/25 21:13:54 ID:BieeEmv50
GJ
階段のシーンの真似は漏れも持ち芸のひとつやわ
162名無しさんだよもん:05/02/25 23:31:07 ID:Zac8iDMy0
最後このみはどうなったの?
163名無しさんだよもん:05/02/25 23:31:45 ID:2UgDUigF0
自殺したんじゃね?
164名無しさんだよもん:05/02/25 23:35:41 ID:Zac8iDMy0
あ、わかった瑠璃と一緒か、スマンね。
165元祖!メイドロボのテスト:05/02/26 00:24:07 ID:AAzNtPWE0
キーンコーンカーンコーン

う〜ん、今日も終わった。
あとはHRが終わればまたこのみといっしょの時間だ。
教室中も放課後への計画や何やらで非常に騒がしい。
「は〜い、みんな〜、聞いて〜」
っと、その中に前で叫んでる委員長を発見。
「も〜、聞いてよ〜」
あ〜あ、相変わらず焼け石に水を差すような状態だな。
ちっとも静かにならない・・・。
しーーーん。
あれ?
「はーい、それでは先ほど言ったように転入生を紹介いたします〜」
先ほど?
(なぁ、一体何のことだ?)
「ん、お前聞いてなかったのか?さっき委員ちょが前で言ってたじゃねーか」
(さっきって?)
「五時間目の休み時間、必死になってみんなに言ってたぞ」
(わり・・・寝てた)
古文の時間は本当に眠いんだ。
だから眠っても仕方がない。
「で、来るのが女の子ってことだからこんな風に静かになってるってわけだ」
「しかし・・・うちのクラス、やけに転入生とか多いよな」
「まぁ・・・確かにそうだが」
知り合いであるるーこと草壁さんもこのクラスだし。
・・・あれ?るーことは知り合いだっけ?
そもそも知り合いならどこで知り合ったんだ?
ん〜〜〜〜〜〜。
まぁいいか。
166元祖!メイドロボのテスト:05/02/26 00:24:53 ID:AAzNtPWE0
「しっかし他のクラスにもまわせよな。教室が狭くなるばっかりだし」
「だが野郎ならともかく、女の子が来るなら俺は万々歳だぜ」
「はーい、そこ、静かにしてくださーい」
『へーい』
「はい、よろしい。でも返事をするときは『はい』ですからね」
『はーい』
委員ちょは得意げにうんうんと頷く。
「それより委員ちょ、転入生」
「あ、そうでした」
こほんと一度咳払いをする。
「それではどうぞお入りください〜」
おいおい、クイズ番組じゃないんだから・・・。
・・・・・・・・・
って、あれ?
誰も入ってこないけど・・・。
『は、はわわ〜。すすすすすすすすみませーーーーん』
ん゙?!
この独特の叫びとも慌てとも取れるような声。
ガラッ。
「す、すみませーーーん。間違えてお隣のクラスに入ってしまいまして」
小さなくきゃしゃな体に緑の髪。
そして特徴的な耳カバー。
「ご紹介します〜。こちら、来栖川エレクトロニクスの試作運用型のメイドロボである『HMX-12・・・』」
「マルチ?!」
「あ、貴明さん」
167元祖!メイドロボのテスト:05/02/26 00:25:35 ID:AAzNtPWE0
教壇の上でこちらに向かって手を振る。
無論、クラス中の視線がこちらに集まる。
「河野くん、またお知り合いさんですか?」
「え゙?あ、ああ〜、ん〜、まぁ・・・」
まさかマルチが家にいるだなんて・・・。
「私、貴明さんの御宅にお世話になってます」
・・・・・・・・・。
「おい、貴明・・・」
「な、なにかな。雄二くん?」
な、なんか目が怖いんですけど。
「お前はこのみと言う存在がありながらこれ以上他の女の子とーーー!」
「ぐおーーー。ご、誤解だって。ゲホッ、入ってる。マジで入ってるって!」
スリーパーホールドを本気でやるのはやばいですって。
くはっ・・・段々意識が・・・。
「は、はわわ、はわわわわわわ〜〜〜〜」
マルチは教壇の上でパニクってるだけ。
「これこそ運命ですっ!」
草壁さんは草壁さんで他の世界に旅立っているし。
ああ、俺も他の世界に・・・。
「"うー"はこれから違う世界に旅立つのだろう。帰ってくるときはちゃんとお土産を持って来るんだぞ」
「い・・・や、戻って・・・これ・・・ないか・・・ら」
あ、あれ?
自分で言ってることも変だけどそれ以前にこれにツッコミを入れるのは俺に天性のツッコミのセンスがあるからなの・・・か・・・・・・な?
「向坂くん、その辺にしないと本当に河野くんが死んじゃいますよ」
「そうだなぁ。そろそろ頃合か」
雄二の締め付ける腕の力を緩めた。
「ゲホッ、ゲホッ。殺す気か!」
しかも俺をチャト〇ンみたいに何体もいるようなことを前提としたようなあつかいをするな!
1687月文月:05/02/26 00:27:53 ID:AAzNtPWE0
ここ最近本当に忙しかったものでずいぶん久々になりましたが投稿です。
こちらも一段落したのでまた投稿できるようになると思います。
楽しみにしていた方、待たせてしまって申し訳ありませんでした。
169名無しさんだよもん:05/02/26 01:59:02 ID:a9apKDLkO
個人的に前作のキャラが出てくるのは大歓迎です
マルチって今作ではフィギュア以外出てきてないよね?まだ全員クリアしてないから分からんけど
170名無しさんだよもん:05/02/26 03:09:01 ID:3l4pQD8o0
>>151
超GJ。
しかし、本当ひなたとキャラ被るな
171名無しさんだよもん:05/02/26 08:28:12 ID:j7+8EcVUO
うぎゅ!
172名無しさんだよもん:05/02/26 10:00:20 ID:phtT78uA0
>>154
大変よいものを戴きました。
なるほど。確かにこのみと瑠璃はそろって怖いものが苦手なキャラでしたなぁ。
しかし見事なキャスティング。珊瑚おいしいよ珊瑚。
また新しいお話、期待して待ってます。
173かおりんの人:05/02/26 21:48:22 ID:dtM7EIlC0
前スレの最後の方にAfterをちょろっと書いて早幾日
続きを書いてみたものの完全に投下タイミングを逃してしまいました・・・
という訳でもし続きが見たいと言う方がいらしたら下記のURLに
ttp://www.geocities.jp/umisouko/
因みにここに投稿しろ!!という方は言ってくださいませです。
最後に相変わらず皆様GJです!!
174名無しさんだよもん:05/02/26 22:36:15 ID:VZHbmaz70
>>173
スレの勢いを保持するためにもここに投下することを具申しますコマンダン!
175焼肉を食べよう(1/5):05/02/27 01:20:34 ID:HyeM+6OG0
「『炭火焼肉・牛飛車』の食事券?」
「うん、商店街の福引きでお母さんが当てたんだよ。
 4名様まで食べ放題、飲み放題の無料お食事券! すごいでしょタカくん」
「へえ、それはすごい」
「でね、お母さんが、タカくんと一緒に行って来なさいって」
「春夏さんとおじさんは?」
「お父さんの会社でパーティーがあって、そっちに行くんだって」
「そっか……4人だよな。タマ姉と雄二のやつでも誘うか?」
「あ、タマお姉ちゃんの家、今日親戚の寄り合いがあって、二人ともそれに参加しないといけない
んだって」
「じゃあダメだな。と、なると……」

「いやー、焼肉食べ放題に招待されるなんて嬉しいっスねー」
「……感謝」
「ちゃるもよっちも、遠慮なく食べてね」
「食べ放題だもんね! よーし今日はガンガンいくっしょ!」
「……太るぞ」
「うっさーい! 体重を気にして焼肉が食えるか〜っ!
 すみませーん! カルビとロース4人前、あとタン塩2人前、それから……」

「ううん、と……」
「どうした、このみ?」
「うん、メニューを何度も見直してるんだけど、見つからないんだよ」
「何が?」
「ジンギスカン」
176焼肉を食べよう(2/5):05/02/27 01:21:49 ID:HyeM+6OG0
「うーん、置いてる店は確かにあるけど、ここは無いんだろ。仕方がないよ、専門店じゃないんだし」
「うう〜〜〜、ひつじ肉〜〜〜」

 ジュ〜〜〜ッ
「お、いい感じに焼けてきた」
「そうだね、じゃあ、食べちゃお〜っと」
 ひょい……ぱくっ、もぐもぐもぐ
「うん、おいひいよタカふん」
「こら、口にものを入れて喋るなって、春夏さんにも言われてるだろ?」
「う〜、ごっくん。おいしいよタカくん」
「いや、改めて言い直さなくても」

「……それにしても、ちゃるはよく食べられるね、それ」
「ホルモンか? うまいぞ」
「いや、それって内臓っしょ。わたし、内臓系はちょっと……」
「小さい頃からよく、父と一緒にホルモン焼きの店にいっていたから、慣れてる。
 そういえばこの店、ホルモン、ミノ、レバー、ハツはあるけど、私の好きなハチノスとコブクロは
無いな」
「ハチノス? コブクロ?」
「ハチノスは牛の2番目の胃袋。コブクロは豚の子宮。どっちもうまいぞ」
「し、子宮……」

「あ、これもう焼けてる。はいタカくん、あ〜ん」
「よ、よせって、このみ」
「どうして? タカくんロースは嫌い?」
177焼肉を食べよう(3/5):05/02/27 01:22:35 ID:HyeM+6OG0
「いやそうじゃなくて…… その、ふたりが見てるし……」
「……(ニヤニヤ)」
「……(じ〜〜〜っ)」
「ん? 何か変? ほらほら早くあ〜んして」
「ミチルさんミチルさん。そういえばわたし、以前こんな話を聞いたことあるんでゲス」
「何だ?」
「男女が焼肉屋で食事をするということは、その後、セクシャ〜ルな関係になるということらしい
でゲスよ」
「ほほう」
「セ、セクシャル!? ち、違うぞ、俺とこのみは、そんな……」
「まあまあセンパイ。今更ごまかす必要なんてないっスよ。
 聞けば今晩、このみの親は帰りが遅いようですから、まあガンバってくださいっス。ゲヘヘ」
「……よっち、一つ気になるのだが」
「ん、なにが?」
「さっき男女と言ったが、ここには私とお前、女がもう二人いる。こういう場合はどうなる?
 ……も、もしかして、4ぴ……」
「な!? そ、そんなワケないっしょ!!」

「うっし、カルビを食うっしょ〜♪
 まず焼きたてのカルビをタレにつけて、それをご飯の上に一旦のっけて、それから食べる。こう
することでご飯に肉汁とタレが染みて、ご飯がおいしくなるんだよね〜☆
 ぱくっ、もぐもぐ……うん、おいし〜い! これが焼肉のジャスティス!!」
「……フッ」
「ん? なにが可笑しい、ちゃる」
178焼肉を食べよう(4/5):05/02/27 01:23:23 ID:HyeM+6OG0
「所詮よっちはその程度。本当のカルビの食べ方を知らないお子様。
 いいか、カルビはこうして、サンチュの上にのせて、コチジャンを塗って、サンチュで包んで
食べる。こうすることでお肉と野菜を一度に食べることが出来る。
 ぱく、もぐもぐ……うん、うまい。これぞ焼肉のジャスティス」
「ぐ……な、何か負けた気分」
「そもそも焼肉にご飯という組み合わせがお子様。焼肉にはやっぱり生ビー……」
「わ〜〜〜っ! ダメダメダメ! わたしら未成年っしょ!
 はっ! ま、まさか、その手にしているジョッキの中身は……」
「これか? ウーロン茶だ。まあ今日はこれでいい」
「き、今日は、ね……」

「さ〜て、焼けた焼けた、タン塩ちゃ〜ん♪」
 べしっ!
「あいた! 何すんのさ!」
「……それは、私が焼いていたタン塩だ」
「こういうのは早い者勝ちっしょ!」
「そうはいかない。そのタン塩は、私が丹念に焼き上げたものだ。タヌキには譲らん」
「ふふん、ちゃる。焼肉屋における『弱肉強食』の意味、知ってるか?」
「……?」
「焼肉屋における『弱肉強食』、それは、弱いものが肉を焼き、強いものがそれを食べるという
意味! あんたは文句を言わずに黙って肉を焼け! それをわたしが食べる! あ、内臓系は好き
に食べていいから」
「……それは事実上、私への宣戦布告と捉えていいのか?
 第一、内臓系がダメなくせに、タンは平気なのか? 牛の舌だぞ、舌」
「チエワールドにおいては、タン塩は内臓系にカテゴライズされませ〜ん!
179焼肉を食べよう(5/5):05/02/27 01:24:07 ID:HyeM+6OG0
 あの独特の食感がいいんだよね〜なんていっている隙に、それっ!」
 ひょいっ!
「あ、私のタン塩! ……待てタヌキ。それ、何をしている?」
「ん? タレにつけたが、何か?」
「……タン塩はそのままか、レモン汁につけて食べるもの。それを、タレにつけるなどとは、邪道、
いやまさに外道! お前に焼肉を食べる資格などない!」
 サッ−−ベキッ!
「ああっ! わたしの割り箸を折った! 何するかこのえせグルメキツネ!」
「やかましい外道タヌキ。謝れ、牛を育てた畜産農家の皆さんに謝れ!!」
「だがわたしは謝らない!!」
「ウェーイ!!」
 ガッ!!

「お、おいこのみ、この二人ケンカ始めちゃったぞ」
「へぇ〜、クッパと冷麺もあるんだ〜。頼んじゃおうかな〜」
「なあ、止めなくていいのか? 二人ともマジで殴り合ってるぞ」
「平気だよ〜。二人はよくケンカするけど、ホントはとっても仲良しなんだから。
 あ、杏仁豆腐もあるんだぁ。これも頼んじゃおうっと☆」
「あの、お客様……店内でのケンカは……」
「あ、す、すみません、今すぐ止めますから。な、なあ、このみ……」
「でも巨峰シャーベットも捨てがたいし……どうしようかなぁ……いっそ両方頼んじゃおうかなぁ。
 ねえ、どうしようかタカくん?」
「はは……もう、勝手にして……」

 おしまい。
180焼肉を食べよう の作者:05/02/27 01:25:20 ID:HyeM+6OG0
 現在ダイエット中の作者が、「ああ〜焼肉食いてぇ〜」という思いを込めて書いてみました。
 ああ〜ホントに食いてぇ〜。
181名無しさんだよもん:05/02/27 01:38:53 ID:+Vwq1oI0O
よっちよっち!!
182元祖!メイドロボのテスト:05/02/27 01:50:17 ID:Blcv3tKy0
「あ、タカく〜ん」
すでに校門の前で待っているこのみがこちらへと手を振るのにこちらも返す。
「待ったか?」
「ううん、今来たばっかりだよ」
嘘ばっかり言いやがって。
この炎天下の中でここにいたもんだから顔にうっすらと汗がにじんでるぞ。
「今日はどうする?」
「そうだな〜」
う〜ん、少し小腹もすいてるし、待たせて悪かったこともあるけどこんな炎天下だったら食べるものは一つ。
「アイス食べに行くか?」
「うー、食べたいけどお金ないよ〜」
「安心しろ、今日はおごってやるよ」
「本当?!やた〜。それじゃあ私はオレンジとミントとバニラの三段がいいなぁ」
「これ、調子にのるな」
「あいたっ」
軽くデコピンをすると『えへへ』と笑って俺の隣をとことこと歩き始めた。

「そういえばさ」
「ん〜?」
「マルチ、うちのクラスに編入することになったぞ」
「そうなの?」
「ああ。ただ・・・」
「ただ?」
「マルチが家で世話になってることはなしちまってな・・・」
「あ、あはは・・・」
このみもその時点で俺に何があったかは何となくわかったみたいだ。
マルチに限らず、メイドロボは正直なんだろうけどまさかこんな目にあうとはな。
はぁ・・・しかもまた俺の係が増えちまったな。
『河野くんでいいですね』
『ちょっ、ちょっと待った、俺にはるーこ係があるんだからここは雄二が・・・』
『却・下』
はぁ・・・俺ってもしかして厄介物を押し付けられるタイプなのかな?
183元祖!メイドロボのテスト:05/02/27 01:51:01 ID:Blcv3tKy0
「ゔ〜〜〜〜〜ん、ちゅめたーい」
このみのアイスにはしっかりと歯型が残っている。
「そう急いで食べなくても大丈夫だって」
「そんなこと言ってるとタカ君のも食べちゃうよ〜」
「って、もうしっかり食ってるだろ」
しかもそこ、俺がさっき舐めた場所だぞ。
・・・俺が・・・舐めた・・・・・・。
・・・・・・・・・余計なこといわなきゃよかった。
ものすごいこっ恥かしい。
と、いきなり暖かな感触を感じ、目の前が真っ暗になる。
「だ〜れだ?」
この声と、そして・・・せ、背中にあたるこ、この感触は・・・あわわわわわ・・・。
「どうしたんすか〜?」
「た、タヌキっ子だよね」
「チエですよ、ちーえ」
「ちなみに私はミチル」
「あんたはいいんだって」
よ、ようやく放れてくれた。
「ちゃる、よっち〜」
「こーのみ〜。なになに、先輩とデート?」
「このみ、大人だ」
「え、えへ〜」
それはどっちのことで照れてるんだ?
184元祖!メイドロボのテスト:05/02/27 01:52:19 ID:Blcv3tKy0
「あ、先輩たちもアイスを食べにきたんスね」
「え?ああ、まぁ」
「ゴチになりやス」
「なりやす」
「ちょっと待て、いつ俺がおごるって言ったんだよ」
「やだな〜」
おばさんみたいに手首を振って俺の隣へと座る。
「かわいい後輩のためにアイスをおごってあげるのが先輩としての役割じゃないすか〜?」
片腕を胸元へと引き寄せ・・・・・・あわわわ、あわわわわわわ、そ、それは反則・・・。
「・・・どこにかわいい後輩がいるかわからない」
「ぬわんだって〜!」
「別に」
「きーーー!」
今度は俺のことをほっぽりだし、キツネっ子のほうに向かっていく。
た、助かった・・・。
「何事もなかった風になんかさせないわよ〜、今日こそ決着をつける!」
「・・・上等だ。望むところだ」
「ほあた〜」
「・・・そんな動き、見切った」
「ちゃ、ちゃる〜、よっち〜」
はぁ・・・まったく、おごればいいんだろ、おごれば。
やっぱり押し付けられるタイプなのかな?
ってか何かに取り付かれてるんじゃないのか?
1857月文月:05/02/27 01:55:02 ID:Blcv3tKy0
皆さんGJGJですよ〜。
でも以前と比べてずいぶん投稿数が減ってちょっと残念な気がします。
見るだけじゃなくてもっと書いてほしいものですね〜。
って、サボりぐせのある自分がこんなこと言う義理合はないですね

せっかくだから、
(゚∀゚) よっち!よっち!
186名無しさんだよもん:05/02/27 09:56:12 ID:sktS9DTU0
GJGJ
焼肉喰いたくなったよ
あと、(゚∀゚) よっち!よっち!
187名無しさんだよもん:05/02/27 10:01:54 ID:u3hDz4bs0
謝らない、とかウェーイとか。。。とにかく、(゚∀゚)よっち!よっち!
188名無しさんだよもん:05/02/27 10:30:09 ID:6CD8G2/h0
よっちスレ出張所みたいになってきたな。
だ が そ れ が い い !
(゚∀゚) よっち!よっち!
189名無しさんだよもん:05/02/27 13:47:57 ID:fz7LR1nE0
>>95
遅くなったがGJ!GJ!
当然いくのんとラブラブなんだろうな?
ラブラブじゃなかったら、ころs(ry
190名無しさんだよもん:05/02/27 15:07:40 ID:fe+orEIH0
あえて流行に逆らってみよう。

(゚∀゚) ちゃる!ちゃる!

なんでよっちばっかなんや(つд`)
191名無しさんだよもん:05/02/27 17:08:51 ID:L+LP/whp0
劇中の台詞が少ないからじゃないか?
192名無しさんだよもん:05/02/27 18:11:32 ID:u6bySfiq0
いや、乳の差が人気の秘訣。
つーかよっちはイイキャラしてますよ。

(゚∀゚)よっち
193名無しさんだよもん:05/02/27 20:43:35 ID:QASckBEV0
(゚∀゚) ちゃる!ちゃる!
   ↑
…イマイチ語呂というかリズムが悪いな。というわけで

(゚∀゚) よっち!よっち!
194名無しさんだよもん:05/02/27 21:31:41 ID:jWWku76nO
よっちとちゃるがあるのに一人のけ者にするわけにはいかんので



(゚∀゚) このみ!このみ!
195名無しさんだよもん:05/02/27 21:52:24 ID:U4YmwJBW0

(゚∀゚) 春夏!春夏!
196名無しさんだよもん:05/02/27 21:55:23 ID:L+LP/whp0
(゚∀゚)ダニエル!ダニエル!
197名無しさんだよもん:05/02/27 21:56:13 ID:nS7TzKIm0
( ´,_ゝ`) おばさん!おばさん!
198名無しさんだよもん:05/02/27 22:13:13 ID:yNm2Go+20
(゚∀゚) ゲンジマル!ゲンジマル!
199名無しさんだよもん:05/02/27 22:32:58 ID:JDH3cu8b0
>>197
いい度胸だな・・・
200名無しさんだよもん:05/02/27 23:14:54 ID:8pDBFG/v0
>199
誰も春夏さんなんて言ってないぜ。
201名無しさんだよもん:05/02/28 01:03:37 ID:OeogbI2r0
>200
>199も春夏さんなんて言ってないぜ。
202名無しさんだよもん:05/02/28 01:09:46 ID:cCz2t16I0
>>146
ぬるぽとやかまタンのネタにギガワロタ
203受け継がれるもの(1/6):05/02/28 11:46:21 ID:LZiZaSk40
 トントン、トントントン。
 リズミカルに、包丁の刃がまな板を叩く。
 まな板の上で小口切りに切られているのは、傍らのコンロで温まっているお吸い物にいれる青ネギだろう。
 柚原家の夕餉、今日は揚げ物とポテトサラダ、溶き卵のお吸い物、ほうれん草の和え物というラインナップ
だった。
 キッチンには、他の家族の姿はない。
 ただし、キッチンとダイニングを隔てる水屋の陰に、大きなネズミもしくは室内犬の姿が一つ。

(……えへ〜。やっとチャンス到来でありますよ、隊長〜)

 ひょこん、と頭を突き出してキッチンの様子を確認し、このみはにんまりとほくそえむ。
 キッチンの中は美味しそうな料理が立てる騒音に満たされていて、その番人である母親は背中を向けて
包丁捌きに没頭している。
 なかなか隙を見せてくれないので仕上がり間近のこんな時間になってしまったが、だからといって機会が
訪れた以上、つまみ食いを決行しないわけには行かないのだ。

(あれれ? そういえばキッチンに来たのは別の用事があったような……)

 ほんの少し、何か自分の中にかすかな違和感を覚えたような気がして、このみはきょとんと小首を傾げた。
 実のところ全力で手段と目的を取り違えているのだが、なにぶん料理の美味しそうな匂いがこのみを
ぐいぐいと引き込むように誘ってきている。
 結局のところ、その勧誘に拒否解答を出すのはこのみにとってかなり酷な話で。
 というか違和感そのものを忘れ去る。
 なんていっても、このみだし。

204受け継がれるもの(2/6):05/02/28 11:48:00 ID:LZiZaSk40
 息を潜め、まず半身。
 続けて全身を水屋の陰から引っ張り出し、タイルを踏みしめる脚が物音を立てないよう、忍び足でキッチンの
入り口へと歩を進める。
 そして半秒、全身をバネのようにして力を溜めて―――

(…………てやっ!)
「こーのーみぃー?」

 飛び出した瞬間腰砕けになった。
 どうやら、地雷原と鉄条網で固められた縦深陣地に正面から突入してしまったらしい。
 隊長、敵陣のPAKフロントはとても頑強なのでありますよ〜。
 かりうすもびっくり。


「ふわわっ」

 目標物―――皿にまだ盛られていない、油きり皿に盛られたエビフライまでは遠かった。
 急制動をかけたこのみの正面、目を半眼に細めて、しかし口元だけはにっこり微笑み振り返る母with
肉斬り包丁。
 このみは食材をつまみ食いにきたのであって、断じて食材になりにきたわけじゃなく。
 踏み出した第一歩が床に着くよりも早く、軸足がくるんと回れ右。
 そのままキッチンから全速力で遁走する。

 下半身だけが、遁走する。

「こらっ、逃げるんじゃないの」
「え゛」

 上半身、襟首はとっくにがっちり春夏の手に握られていて。
205受け継がれるもの(3/6):05/02/28 11:50:43 ID:LZiZaSk40
 それと気がついたときには、襟首を点Oとしてつま先を円周上とする円運動。
 運動神経がよさそうな割りに、バランス感覚だけはさっくり欠けているこのみの脚はすぱーんとタイルの
上を空しく蹴りあげて中空へと登り、

 ―――つるんっ、ドシン! びたーん! がらがらがらがら。

「う゛あ゛〜」

 騒々しい物音と、情けない悲鳴が家中に響く。

「いたたたたたっ。ひ、ひどいよお母さん〜。私は食べてもおいしくないよ〜」
「なにお馬鹿なこといってるの。ほんとにもう、珍しくつまみ食いにこないと思ったら……」

 幸い、テーブルにならんだ食器類は激しく揺られたものの無事に済んだ。
 当然、その上に盛り付けられた料理にも大きな損害は見られない。
 とはいっても空を飛んだ人間のほうはそうもいかないわけで。
 転んだついでにしたたか打ちつけたらしく、後ろ手に腰をさすりながらのたうつこのみの姿に呆れた様子で、
母親は愛娘の手を取り引き起こす。
 ついでにばちん!とこのみの額を弾き、その指をびっ、とこのみの鼻先に突きつける。

「ほんっとに、食い気が先行する子なんだから。
 最初にキッチンに来た目的はそうじゃなかったんじゃないの?」
「え!!? え、ええと……」

 先ほど思い出すのをさっさと放棄したせいか、本気で忘れていた。
 とっさに思い出せないこのみの姿に、今度はすりこぎを手にした春夏が再び半眼になる。
 破滅へのカウントダウン、1,2,3,4,5,6,7,8,9……

「あ、そうだ! お母さん」
206受け継がれるもの(4/6):05/02/28 11:53:17 ID:LZiZaSk40
 危機一髪。
 10カウントKOで母の雷が落ちる寸前、辛うじてこのみは本来の事情を思い出す。
 
「あのね、明日のお弁当なんだけど……」

 勢い込んで話し出した言葉が尻すぼみに小さくなり、

「あの、ね? わたしも、手伝っていいかな……なんちゃって」

 困ったような、はにかんだような笑みとともに、このみは呟くようにしてその一言を紡いだ。
 その意味、意思をはっきりと理解して、小さな驚きとそれよりもよほど大きな納得が、春夏の心を満たして
ゆく。

(このみもやっと……形になってきたってことかな)

 誰でも人は、いつまでも子供のままではいられない。
 みんな限られた時間の中で、少しずつ自分の外と中を変えていく。
 このみのつつましやかな胸の内に広がっているだろう戸惑いが、自分のことのようにむずがゆい。

(そっか。もう15だもんね。15年間、追い続けてきたんだものね……)

 このままむずがゆい娘を見ていると、むずがゆさが本当に伝染して抱きしめてしまったりしそうだった。
 だから春夏はこのみの問いに直接答えず、少しからかってやることにした。

「それは構わないけど、起きられるの?」
「う〜。それは、お母さんに起してもら……あたっ」

 まったく、変わらないところは変わらないんだから。
 こういうところも大人に近づいてほしいんだけど。
 親としての不満も篭めて、ぽくっ、とすりこぎで頭を叩いてやる。
207受け継がれるもの(5/6):05/02/28 11:55:05 ID:LZiZaSk40
「だ、大丈夫だよ。きちんと起きるから……多分」
「ふぅ。自分で起きなくちゃダメよ」

 打たれた額を涙目でさする娘にため息を吐いて、春夏は水場へと向き直った。
 凶器のすりこぎを水洗いして水切り籠に移し、まな板の上に置き去りにした包丁を手に取る。
 そして背中を向けたまま、まだなにか物問いたげに立ち尽くしている愛娘に告げた。

「タカくんに食べてもらうお弁当なんだから、頑張らなきゃね」

 背中を向けたままでも、娘の顔にいくらかの不安が浮かんだのがありありと見える。
 料理の上手な母親を持てばこそ。
 そして今現在その母親にお昼のお弁当を作ってもらっているからこそ。
 味付けがよくないといわれたらどうしよう、春夏さんと比べて下手だっていわれたらどうしよう。

 なにより、どんなに失敗を重ねたって、料理の腕前が上達することがなかったら?

 幾つもの不安が小さな胸を去来し、その度に大丈夫だと自分に言い聞かせて打ち消していく。
 だが消しきれなかったわずかずつの不安は、澱のように貯まっていくのがわかった。
 本当に、不安だったわけじゃない。耐えられないほどの不安だったわけでもない。
 でも、気がつけばこのみの口は、母親からの絶対の保証を求めていた。

「お母さん……私、上手につくれるようになるかな?」

 お母さんみたいに。
 タマお姉ちゃんみたいに。]
208受け継がれるもの(5/6):05/02/28 11:56:58 ID:LZiZaSk40
「さあ、どうかしら? このみはまだ、作るほうじゃなくて食べるほうだものね」

 何気なさを装って、春夏はやはり背中を向けたままでいう。
 う゛〜、という不服と諦めが入り混じったような声が聞こえてきた。
 比率としては、不服八割、諦め二割といったところ。
 よしよし、そうでなくっちゃ教え甲斐がない。
 手にしたばかりの包丁を再びまな板へと戻し、春夏は優しい笑みを浮かべて振り返った。

「でもね、このみ。あなたは私の一人娘なんだから。
 頑張ろう、このみ。
 タカくんに私の腕前まで疑われちゃたまらないから、みっちり教え込んであげるからね」

 そう、このみは可愛い一人娘。
 悪いところは似なくて結構、でも良いところは受け継いでほしい。
 そして料理は間違いなく、春夏が自分の長所として胸を張れる要素の一つ。
 いずれは育ち巣立つ時、このみのためになる技術。

 そして、自身が意中の人を射止める際に最大の武器となったモノ。

 だから、覚悟しときなさい。
 恋する娘。
 必ずコレは身に付けさせてあげるから。

「……うんっ!」

 親の心、子も知る。
 愛娘は、弾けるような笑みを見せて春夏の胸に飛びついた―――
209例の三人組:05/02/28 12:01:36 ID:LZiZaSk40
うぎゃ、最後に連番ミスorz
>>208でラストでございます。

鳩2に惹かれて葉鍵板に里帰り〜
なにもかも懐かしい……
210名無しさんだよもん:05/02/28 12:39:50 ID:cCz2t16I0
このみが出るということはよっちが出ると言うことですか。

作者様期待age。
応援してるからがんばってくだちゃい
211名無しさんだよもん:05/02/28 13:30:56 ID:gS4pJcE50
よっち書いてるよよっち
ちゃる難しいよちゃる
212かおりんの人:05/02/28 14:10:23 ID:WiJ0nBci0
とりあえず4話まで完成です。
こっちへの投稿は5話くらいから始めようと思います。
突然で何のことかわからん!!という人はこちらまで。
ttp://www.geocities.jp/umisouko/
213名無しさんだよもん:05/02/28 20:49:52 ID:630+rMlZ0
>>203
実にこのみらしい!
弁当作りのこと出来たはずなのにいつの間にやらつまみ食いに移行していることといい……
しかし文章うまいっすねぇ。見習わねば。
なにはともあれ、GJです。続きに期待してます。
214黄昏への帰還 (1/5):05/02/28 23:33:27 ID:1DcWvPFd0
帰ってきた。
私は、帰ってきた。彼の住む街に。
神さまの悪戯なのか、年に数回帰省していた10年の間一度も彼には会えず終いで
学校の行事、卒業アルバム。雄二と一緒の写真と記録の断片のみ。
九条院に隔絶された私が彼を知る手段はそれしなかった。
「背は俺と一緒か、少し低いかもしれない。相変わらず女を避けてるぞ。」
あんたがいじめ抜いたからだ。と、付け加えたくて躊躇している雄二。
私はもちろん、雄二の前頭部に腕を伸ばす。
「いだだだだだだ。嘘は言ってないぞ。」
言わなくてもわかるのよ。

彼をいじめたのは彼と一緒に居たかった。その一心だったような気がする。
好きな人と一緒にいるための手段というか…まあ、詳しくは覚えていないけれど。

「まあ、寺女に行くんだから関係ねぇ話だよな。」
「これが私の制服よ。」
ひらひらとピンクのセーラー服をかざしてみる。自分で直した自信作だ。
「ううううううちの学校のじゃねぇかよ!」
「寺女に行くなんて言ってないわよ。」
「だからって、うちの学校に来るなんて聞いてねぇぞ。」
「初めて言ったもの。」
215黄昏への帰還 (2/5):05/02/28 23:33:51 ID:1DcWvPFd0
明らかに歓迎されていない。またいじめられると思っているのだろう。
それは間違ってないかもしれないよ雄二。でも、もっと大事なことがある。
同じ学校の制服を着れば彼と同じ空気が吸える。彼と同じ空間にいられる。

「どうでもいいけど、ちいさかねぇか?貴明も喜ぶんじゃねェの?」
「女として磨けるものは全て磨く、至極当たり前の日常を送っただけ。」
「すげぇな。それで男っ気がねぇってんだからありえねぇ。」
「必要ないもの。」
「同性愛か?ごきげんようお姉さまってやつ?」
「確かにそういう友達もいたけどね…」

これははっきりといえる。
誘いが無かったわけじゃないけど、彼より魅力的な人というか
私を本気にさせるというか、あのときの気持ちを払拭するような人はいなかった。

覚えているのは告白の一部始終。あれは今でも夢に見る。
許容量を越える悲しみは、心を押しつぶすだけでは済まなかったのだ。

「そうだ。うちの学校に来るのなら通学路確認したほうが良いと思うけどなぁ。」
「珍しく良いことを言うのね。じゃあ早速。」
下校する彼に逢えるかもしれない。たったそれだけのために私は出かけようとしている。
大胆なのか臆病なのか自分でもよくわからなくなる。

「珍しくは余計だ。はいはい、いってらっしゃーい」
「エッチなビデオ見るのは良いけど、ちゃんとしまっておきなさいよ。」
「うるせぇ」
嬉々として自室に戻る雄二。彼もそういうの、見るよね。
でもあの女たちより私のほうが魅力的だと、胸を張って言える。
というか、言えるように努力したつもりだった。
216黄昏への帰還 (3/5):05/02/28 23:34:16 ID:1DcWvPFd0
私は家を出て、公園を通って堤防へ向かう。

公園で迎えたラストシーン。彼の気持ちがわからなかった10年前の記憶…
今でも夜中に突然、目が覚めることがある。
忘れ去ろうとしている自分への警鐘と、罰なのだと思う。

忘れるわけないのに。自分で自分ことを信じられないのか、私は。

春とはいえ少し肌寒い。
堤防の桜もまだ、つぼみが膨らみ始めたような感じ。
ここから学校まで残り半分、引き返そうと思ったところでこのみの声が聞こえた。
話かけようとして声のほうを向くと、このみと彼が一緒に歩いてくる。

写真よりも大きくなっている彼は、あのときの面影をしっかりと残したまま
高校生になっていた。まあ、わたしも高校生になったけれど。

あ…

彼を見て疑問が浮かんだ。嫌われてたらどうすればいいのか。
私は彼を…でも、彼は?いじめっ子のたま姉が嫌いだったら?

あの時だって、答えを焦ったから彼は…

このまま逢うわけにはいかない。私は急いで来た道を戻った。
久しぶりの全力疾走は思いのほか身体に堪える。

私は玄関先に倒れこんでいだ。
217黄昏への帰還 (4/5):05/02/28 23:34:36 ID:1DcWvPFd0
「おいおい、はぇぇよ。こっちにも予定ってもんがあるのに。」
ズボンのベルトを締めながら雄二が歩いてきた。
「やかましい!」
「顔が赤いぜ。初恋の人でも見たのか?」
……
「おいっ、俺の靴投げんなよ!」どうする?いじめっこのたま姉では敬遠されてしまう。
それでは何にもならない!

最初の一手を考える必要に迫られていた。
彼に嫌われずに、印象を良くするにはどうすればいいのか。
今の私のことを知らないはずだから…

決戦は日曜日か。彼を家に呼んで……雄二が邪魔になる。
「おいおい。こっち睨むなよな。」
ふっ。邪魔なら排除するまで。
「いやーな笑いだな。」
「雄二」
「何?」
「彼の家の電話番号は変わってないの?」
「彼…って誰よ。姉貴よ、ちょっと変だぞ。」
「たか坊の電話番号に決まってるでしょ、たか坊の家の電話。」
「決まってる。って…うちと同じでIPにしたはずだから変わってる。後で教えるよ」
「ありがと。助かるわ。」
「なんだよ、貴明を彼なんて呼ぶからびっくりしたぞ。」
自分の得意なもの…手料理と優しさでなんとかなるはず。
「姉貴よ、いつまでも玄関にいないでそろそろ飯の用意してくれよ」
「できたら呼ぶから部屋に戻ってて良いわよ。」
「やっぱいつもの姉貴か。へいへい。」
218黄昏への帰還 (5/5):05/02/28 23:34:56 ID:1DcWvPFd0
あのことを忘れていたら間違いなく上手くいく…でも、忘れていて欲しくない。
自分を取り繕って何になるの?でも、取り繕わずにはいられない。
たか坊のことをまともに考えると、答えが出ないままぐるぐる回る。
時間だけが悪戯に過ぎていく。
自分自身でこの渦を止められないのはわかっていた。
だから、私はケリをつけるために帰ってきたのだ。
「…あっきれた姉貴だな、まだ玄関にいたのかよ。風邪ひくぞ。」
陽はとうに暮れ、廊下も真っ暗になっていた。
「えっ?あ、うん。ついでだから手伝ってよ。」
「そのつもりだよ。今日の姉貴ぜってぇおかしいぞ。」
雄二。お姉ちゃんね、恋してるんだよ。一人で勝手に恋してるんだよ。
10年間ずーっと恋してるんだよ。
今日、たか坊を見てはっきり実感したんだよ。
無駄じゃなかった。自分の選択は正しかった。
嬉しくて不安なんだよ。最悪で最高なんだよ。
おかしくなっちゃっても仕方ないと思うよ。

「どうした?泣いてるのか?」
感情のコントロールが上手くいかない。これもたか坊のせいだと思う。
「うるさい!」
「しょうがねぇな。包丁使って怪我でもされたらたまンねぇから寿司でもとろうぜ。」
「…私が持つわ。」
「お、めっずらしい。じゃあ、よろしく。」
日曜日には消えてもらわなくちゃならないからね。
「何か?」
「ふふふー。いいからいいから。」
「やっぱり変だ…」
--
お詫び
いろんな意味で申し訳ない。
219名無しさんだよもん:05/03/01 00:16:44 ID:9+BONVr+0
この葛藤のなれの果てが好き好き大作戦かよw
220元祖!メイドロボのテスト:05/03/01 00:51:24 ID:z9533tX70
「えっと、今日はナスときゅうりが安いんであります、っと」
バサバサバサ。
「おわっ!だからって両方ともに5袋も買うことはないだろ」
「大丈夫だよ〜。食事の量も五人になったんだからこれくらい一日でなくなってしまうでありますよ」
一日って・・・この量をどうやって一日で食うんだ?
「831(野菜)食べ食べジンギスカーン♪710(納豆)食べ食べジンギスカーン♪」
お決まりの歌を歌いながらカートの籠は山積になっていく。
・・・今月の生活費、切り詰めないと食費にまわせなくなりそうだな。
はぁ・・・小遣いも減額かな・・・。
しっかし、このナスときゅうりって言う組み合わせは・・・。

『あ・・・た、タカ君。だ、駄目だよ・・・・・・』
『そう言ってるわりにはちゃんと反応してるじゃないか。ほらほら♪』
『ひゃうっ・・・。抜き差ししちゃだめぇ〜』
『ほーら、体は正直だろ〜♪』
『も、もう駄目・・・た、タカ君のが・・・タカ君のがほしいよ・・・』
『何がほしいのかな?』
『た、タカ君の意地悪〜』
『ふふ、冗談だって。それじゃ、いくぞ』
『タカ君・・・タカ君タカ君タカ君』
221元祖!メイドロボのテスト:05/03/01 00:52:08 ID:z9533tX70
「タ〜カ〜く〜ん〜!」
「うおわっ?!」
このみの声で我に返る。
「どうしたの?ボーっとしちゃって。なんか心なしか鼻の下が伸びてた気もするけど」
「な、なんでもないし気のせいだろ。あ、あははははははは」
「?」
このみは『なんだろう?』とでも考えてるようでじっと俺のことを見つづけた。
ものすごくピンク色な妄想だったぞ、今のは。
我ながら暴走気味だぞ。
まぁ・・・ここんところ一人でやってないってこともあるんだろうけど。
でもまぁ、妄想だけならこんなことをできるけど・・・現実じゃ・・・うん・・・その、ね。
なんせ月に一度チャンスがあるのに未だにそのチャンスを物にできずにスルーしているんだからなぁ。
典型的なヘタレだな・・・俺。
「あれ?貴明くんにこのみちゃん?」
ふと後ろから声が聞こえる。
「あ、あかりさん。あかりさんもお買い物ですか?」
「うん、今晩のおかずを作るためにね」
「ちょうどこっちも晩飯の材料を買いに来たとこですよ」
「そうなんだ・・・でもすごい量。こんなにまとめ買いして大丈夫なの?」
「いや・・・それが・・・」
ちらっとこのみに視線を送る。
「これで今日と明日の分でありますよ〜」
「え゙?!こ、これで一日分?」
流石にこれで一日分と聞いたら普通は誰だってこんなことを言うだろうな。
「そうですけど。何か?」
「うん・・・こんなに一日じゃ食べられないし、余ったお野菜も悪くなっちゃうよ」
「ん〜、うちじゃこれくらいだったら今日と明日でなくなるんだけどな〜」
「あ、あはは。私、特殊なのかな?」
いや、これはこのみの家が普通じゃないだけで神岸さんは至って普通ですから安心してください。
222名無しさんだよもん:05/03/01 00:54:09 ID:dHU4yGRW0
>>218
ワラタw
GJ
223名無しさんだよもん:05/03/01 00:57:53 ID:JL9blaQz0
(゚∀゚) GJ!GJ!
2247月文月:05/03/01 00:58:12 ID:z9533tX70
はは・・・途中で変なシーンが入っちゃいましたね。
貴明、絶対こんなキャラじゃないよな。

ここで流れに逆らって、
∩(i) ェ(i)ノ∩ミ・チ・ル!ミ・チ・ル!
225名無しさんだよもん:05/03/01 10:59:54 ID:sCDb8/rC0
>>224
なにそのAA、ふざけてるの?
226名無しさんだよもん:05/03/01 11:30:13 ID:qrZcy9Ad0
>219
ワロス
227名無しさんだよもん:05/03/01 13:31:12 ID:IsYaF8Pk0
>>204
ラッチェバムの砲列ですか?ハリコフですか?ぱいぱーもびっくり。

このみって歴史群像、丸、PANZER、世界の艦船、航空ファンあたり定期購読してそうでイヤだw
228名無しさんだよもん:05/03/01 15:33:03 ID:tnf8DAY60
>>218
GJ

昏さが逆に新鮮で(・∀・)イイ!!
229名無しさんだよもん:05/03/01 16:10:47 ID:sCDb8/rC0
そのうち返事がヤボールコマンダン!
230名無しさんだよもん:05/03/01 18:20:18 ID:Kc8SN8kW0
>>218
イイ!
再開した日のSSもいけそうでつねw
231ある日、アイス屋の前にて3(1/5):05/03/01 21:17:55 ID:9J7gmC450
「たかあき、おまたせ」
「ああ」
「はいこれ。コーヒーとココナッツミルクのダブル」
「よくわかったな由真。俺が食べたいのがコーヒーとココナッツミルクだって」
「ま、まあね。たかあきの好みなんて、お見通しだし」

「……」
「……」

「こっちはあたしの。ストロベリーとマスクメロンのダブル」
「お、そっちも美味そうだな」
「でしょ。……食べてみる?」
「あーん。――うん、美味しい」
「あたしもたかあきの……食べてみていい?」
「ああ、いいよ」
「あ〜ん。――うん、おいしい」

「……」
「……」

「あ、たかあき、ほっぺにアイスがついてる」
「ん?」
「ほらほら、ここ。みっともないよ」
 ふきふき。
「ん、由真、サンキュ」
「うん」
232ある日、アイス屋の前にて3(2/5):05/03/01 21:19:13 ID:9J7gmC450
「……」
「……」

「ねえたかあき、今度の日曜日ヒマ? ならどこかに行こっか」
「んーそうだな。由真はどこに行きたい?」
「うん、ええっと〜、ゲーセン、水族館、映画もいいかも……」
「ははは、由真は欲張りさんだなあ」
「ねえたかあき、あんたが決めてよ。こういうのは男がリードするものなんだからねっ!」

「……せ」
「せ?」
「せ〜ん〜ぱいが〜い〜る〜ぞ♪
 メガネっ子〜と〜い〜る〜ぞ♪
 そ、そ、そ、そ♪
 そそそそそそそそ孫社長♪」
「……球団買収?」
「むぉ〜〜〜っ!! くすぐってぇ〜〜〜っ!!」
「……よっちが壊れた」
「いいねいいねいいっスね! ちょっと強気なメガネっ子と、それを優しく受け止めてあげるセン
パイ! 凹凸がぴったりはまっているかのような二人!」
「メガネっ子ならここにもいるが」
「ああなるまでにはきっと、数多くの衝突があったのでしょうよ。でもその中で次第にお互いのこと
を理解し合って、いつの間にかそれが二人の確かな絆になったんだろうねぇ。
 なんとまあ爽やかなカップルではありませんか!!」
「……まるで実際に見たような物言いだな」
233ある日、アイス屋の前にて3(3/5):05/03/01 21:20:19 ID:9J7gmC450
「あ〜〜〜っ、わたしも、あんな風に言いたいことを言えるカレシがほし〜〜〜い!!
 だがしかーし!! わたしらの学校は女……」
「ほっほっほ。よきかなよきかな」
「うわっ、いきなりなんだこの爺さん!?」
「由真と小僧、どうやらうまくやっているようじゃな。うむ、よいよい」
「なんか、独りで満足に浸っているし……」
「なかなか良いアベックではないか。のう、お嬢さんたち」
「へ? え、ええ、まあ……」
「うむうむ、よいよい、よ…………い…………」
 ぶわっ!!
「うわっ!! 爺さんいきなり泣き出したよ!!」
「……漢泣き」
「じゃが、じゃかのう、わしはやっぱり諦めきれんのじゃ!! わしの可愛い由真。わしの後を
継ぐと言ってくれた由真。じゃがその言葉は過去のものとなり、その未来はわしとではなく、あの
小僧と共に築いていこうとしておる。それはそれでよい、よいのじゃ。
 じゃが、その未来の選択肢に、執事は全く含まれていないのか!? わしは、ささやかな希望
すら抱くことは叶わぬのか!? ダニエルはわしの代で絶えてしまうのか!?」
「な、なんか、重い話だね……」

『おじいちゃん、あたしダニエルになる〜』
『ダニエルになる〜』
『なる〜……』

「い、いま何か聞こえなかった!? 小さな女の子の声で!?」
「……きっと、爺さんの大切な記憶」
234ある日、アイス屋の前にて3(4/5):05/03/01 21:21:28 ID:9J7gmC450
「思い出しておくれ由真、あの時の想いを! このわしにもう一度夢を!
 リメンバーマイメモリーズじゃ!!」
「いちいち山場でOP曲流せばいいってもんじゃないっしょ!」
「……わかる人しかわからないな」
「小僧と結婚し、かつ、執事を継ぐのもよいではないか! いやいっそのこと、小僧には婿養子と
なってもらうのもありじゃ。由真はダニエルとして日々働き、小僧は主夫として家事全般を執り行い
由真を支える。うむ、我ながらナウなアベックにふさわしいナイスアイデアじゃ!」
「え〜と……独りで盛り上がってますねぇ、この爺さん」
「うむ、これは早速由真に伝えねば!
 おお〜〜〜い、由真と小僧、わしの話を聞いておくれ〜〜〜!!」
「あっ、爺さんが飛び出した!」

「あれ、あそこからこっちに向かっているのは……」
「おじいちゃん!?」
「な、何か凄い勢いだけど……」
「うーん、嫌な予感がする……たかあき、逃げるわよ!」
「え!? い、いいのか?」
「ほら早く、後ろに乗って!!」
「いつの間にMTBに!? わ、わかった」
「飛ばすからね、しっかりつかまって!!」

「ゆ、由真、何故逃げるのじゃ!? 待て、待っておくれ由真、由真〜〜〜っ!!」
「……あ〜あ、行っちゃったね」
「うん、行った」
「ゆ、由真……わしの由真が、わしの夢がぁぁぁ…………」
235218:05/03/01 21:22:02 ID:KTHZZGlCO
一部、コピペをしくじって申し訳ない
236ある日、アイス屋の前にて3(5/5):05/03/01 21:22:49 ID:9J7gmC450
「ありゃ、爺さんまた泣き出した。ああもうしょうがないなあ。ほら爺さん、いい歳して泣かない
泣かない」
「涙を拭け。ほらハンカチ」
「…………おお、すまんのうお嬢さんたち」
「うーん、何かいろいろ事情があるみたいだけど、同年代として言わせてもらうと、あの年頃の、
しかもカレシ有りの女の子は、ふたりっきりの時間を誰にも邪魔されたくないっスよ。
 だからね、別に、爺さんを嫌って逃げたわけじゃないと思うっスよ」
「ドンマイだ、爺さん」
「……お嬢さんたち、こんな見ず知らずの爺に、何と思いやり溢れる言葉……。今時の娘御とは思え
ぬ、優しいお嬢さんたちじゃのう」
「いやぁ、それほどでも」
「……袖擦り合うも他生の縁」
「うむ、気に入った!!
 どうじゃお嬢さんたち、その優しさを活かし、来栖川家にメイドとして仕えてみんか?
 メイドといえば昨今はメイドロボがもてはやされておるが、機械にはない慈愛と献身の心で主人
に奉仕する、人間のメイドこそが今、真に求められておるのじゃ!!
 お嬢さんたちならきっと、いや必ず、真のメイドとなるに違いない! どうじゃ、どうじゃ!?」
「断る!! メイドが欲しけりゃメイド喫茶にでも行け!!」
「……私たちにメイド属性はない」
 すたすたすたすた。
「ああっ、何処へゆくのだお嬢さんたち!? 何故じゃ、何故誰も、わしの言葉を聞き入れてくれぬ
のじゃ〜〜〜っ!?」 

 おしまい。
237ある日、アイス屋の前にて3 の作者:05/03/01 21:23:44 ID:9J7gmC450
 遅くなりましたが、>>142さんのリクエストにお応えして、由真編を書いてみました。
 どうっすかね?
238218:05/03/01 21:27:32 ID:KTHZZGlCO
割り込んでシモタ…
度々スマソ

謝ってばかりだな…
239名無しさんだよもん:05/03/01 22:07:54 ID:Iahp6tnv0
アイス屋キター!

>『おじいちゃん、あたしダニエルになる〜』
>『ダニエルになる〜』
>『なる〜……』

の部分で不覚にもワロタ。ちゃるとよっちにも聞こえるのね。
恐るべし、ダニエル!
次回作、期待してます。
240名無しさんだよもん:05/03/01 22:22:26 ID:QgkWaXHX0
外まで漏れる記憶w

由真編というよりダニエル編w
241142:05/03/01 22:49:23 ID:qdek3rOd0
まさか拾ってくださるとは・・・感無量です!
あまりにも大容量の爺さんの記憶にワロタw
242また、明日(1/6):05/03/01 22:53:32 ID:zpxy+GJQ0
「だいたいあんた卑怯なのよ。あそこであんな……!」
「ひっかかるほうが悪いんだよ。あの連携は定番だぞ」
「なんですってぇ……!」」
 沈もうとする夕日に照らされた、河原の土手。貴明と由真はゲーセンの帰り
道にあった。いつものように由真は熱くなり、つられて貴明もまた熱くなり…
…それは対戦の後にも続き、こうして帰り道でも熱く語り合っているのだった。
 いつものようにMTBを押し歩く由真と、それに合わせて歩く貴明。言い合
う口調は激しいものの、端から見れば仲の良い友達にしか見えない二人だった。
 ふと、由真は立ち止まる。
 見えるのは川。その川沿いに綺麗に立ち並ぶサクラの木。由真にとって知っ
てはいるが見慣れない場所であるそこは、既に彼女の帰り道から大きく外れて
いた。
 急にしゃべることもやめ立ち止まった由真を不思議に思い、貴明もまた立ち
止まる。
「おい、由真……?」
「……はかったわね」
 答えるのは地の底から響くような声に、貴明は最近すっかりなじみになって
きた感覚を抱く。つまり、嫌な予感。と言うか、確信。
「このあたしを巧みな話術で翻弄してどこに連れてていくつもりっ!?」
「巧みな話術ってただのゲーム話だろ……」
 ぼやく貴明に、由真は当然耳を貸さない。辺りを見回し、夕陽が沈もうとい
う時間であること、そして辺りに人通りが無いという事実を認識。思考開始。
湾曲。歪曲。反転。爆裂。そして結論を導き出す。
「ひょっとして送り狼のつもりっ!? あんたみたいな無気力なダメ男が狼を
気取ろうなんて語るに落ちたわねっ! このスケベへんたい社会不適合者っ!
 おーとーこーのークズッ!!」
243また、明日(2/6):05/03/01 22:54:37 ID:zpxy+GJQ0
 あまりの言いように貴明は言い返そうとし……しかしぐっとこらえる。こう
なってしまった由真に感情のまま言い返したところで火に油を注ぐようなもの
だ。かといって放っておいたところで由真は勝手にニトロチャージで大爆走だ。
 だから、いつものように。貴明は冷静に指摘することにした。
「おまえ自転車あるんだからそれで帰ればいいだろ?」
 由真の引くMTBを指さしながら、つまらなそうに言う。それでもなにか言
い返されるだろうと覚悟したが、
「あ……」
 由真はその一言に固まってしまう。
 そう、そうなのだ。簡単に帰ることができてしまう。少々帰り道を外れたと
ころでこのMTBがあれば簡単に帰ることが出来てしまう。
 帰れば、今のこと貴明との時間は終わってしまう。明日はまた会って、いつ
ものようにこんなやりとりをするかもしれない。でも、それはなんの保証もな
いことだ。いまこの瞬間、別れたことで二度とそんなことはないかもしれない。
終わってしまうかも知れない。
 こんな、「自転車があるから帰れる」なんていう、あっけないくらいの簡単
さで。
 だって今の由真は「十波 由真」だ。長瀬ではない。貴明といるときだけの、
そんな不安定な存在。向き合うべき未来から目を背けるだけの、不出来な自分。
 この時間が終わらない保証なんて何処にもないのだ。
 子供の頃、楽しい時間はいつも夕陽が沈むと終わってしまった。だから、今
のこの時間。夕陽が沈もうというとき。「終わってしまうかも知れない」とい
う予感を、由真は強く感じてしまった。それが由真の動きを止めていたのだ。
「じゃあ、今日はもうこれでさよならだな……」
 急に黙りこくる由真に居心地を悪いものを感じ、貴明は別れを告げようとす
る。
 さよなら。別れの言葉。その響きが由真を急き立てる。
244また、明日(3/6):05/03/01 22:55:48 ID:zpxy+GJQ0
「ねえ、もし……!」
 口を開いて気づく。そう、なにもかもが終わる。日が沈んで今日と言う日が
終わってしまうように、今の時間だって、いつかは終わる。だから、由真は問
わずにはいられない。「もしあたしがおとなしい女の子だったら……」
 息を呑み、見上げ、たまらない必死さで、
「どうする……?」
 そう、問うた。その問いかけが貴明に対してだったのか、あるいは自分自身
に対してだったのか言った由真にもわからない。
 だが、わからないのは貴明の方だ。唐突な質問に目を白黒させる。
「おとなしい女の子って……?」
「メガネかけて、勉強ばっかりしてるみたいで、あんまりしゃべらない。そん
な女の子……」
 由真は「長瀬 由真」を、普段の自分を思いながら言う。
 不器用な貴明は、こんな不安そうに問いかける少女を適当な言葉で流すこと
が出来ない。だから、ただひたすら真剣に考える。
 真剣に由真が眼鏡をかけた姿を思い浮かべ、大人しく図書室にで本でも読ん
でいる姿を想像してみる。もしそんな女の子だったら、自分は声をかけるだろ
うか。もしかけるとしたら、
「由真、本さかさまだぞ」
「なっ……!」
「わからないくせにそんな難しそうな本読むなよ。眼鏡までかけて」
「なっなっ……なんですってー!」
 いままでボンヤリとしか浮かばなかったメガネで大人しい由真のイメージを、
彼のよく知る由真がぶちこわす。だから、
「ぷっ」
 気づけば貴明は吹き出していた。それを目の当たりにして、今度は由真が目
を白黒させる。
245また、明日(4/6):05/03/01 22:56:56 ID:zpxy+GJQ0
「な、なに笑ってんのよ!?」
「いやだっておまえ、想像にも限界ってものがあるぞ」
「な、なによそれっ!?」
 本来の自分をこれ以上ないほどあっさりさっくり否定され、由真はヒートア
ップする。
「まじめに考えなさいよっ!」
 いきなりわけのわからない質問をしてまじめに考えるも何もないが、由真が
理不尽なのはいつものことだ。だから貴明もまたいつものように軽口で答える。
「ああ、でもそうだな。そっちの方がいいかもな」
「え!? そ、そうなの?」
「だってそうだろ? おとなしかったらこんな風につっかかって来ることもな
いだろうし俺だって苦労をかけさせられることもないからな」
「そうなんだ……」
 貴明の言葉が聞こえているのかいないのか、由真は視線を落とし呟く。その
表情はほんのすこしの微笑。でも、揺れる瞳はひどく不安をたたえているよう
に見えた。安堵と不安。矛盾した感情が同居していた。
 それを見て、貴明は不安になる。なにかを失ってしまいそうな、そんな予感。
 いまや夕陽は沈もうとしている。昼が失われ、夜に包まれる。そんな不安な
時間が、貴明にそんな感傷をもたせたのかもしれない。
「でも、それじゃきっと……つまらないよな」
 気づくと貴明はそんなことをつぶやいていた。え、と見上げる由真になぜか
気恥ずかしさを感じ、そっぽを向きながら、ぶっきらぼうに言う。
「今日もけっこう楽しかったしな。そんなお前だったら、こんなふうに楽しく
はなかったと思う」
 そう、楽しかった。由真と過ごす時間は騒がしくて振り回されて、それでも
確かに楽しいと呼べるものだった。それだけは貴弘にとっても認めざるを得な
い事実だった。
 その言葉になにかたまらないものを感じ、由真は俯いてしまう。
246また、明日(5/6):05/03/01 22:58:26 ID:zpxy+GJQ0
「……?」
 鈍い貴明にもわかる。さっきから、由真の様子がおかしい。いつもおかしな
やつではあるが、それともひと味ちがうおかしさだった。前髪に隠れその表情
は見えない。辺りが暗くなっていくから、見えづらくて余計にどんな顔をして
いるか気になる。だから自然と貴明は顔を近づけていった。
 瞬間、由真は顔を跳ね上げ、
「なっ……!」
 叫びかけ、しかし固まった。
 『なにいってんのよっ!』。そう、続くはずだった。それを言えなかった理
由は、二人のあまりの近さだった。
 動けば鼻がぶつかりそうな至近距離。それはもはや目で確かめる距離ではな
く、触れて確かめ合う距離だった。
 こうしたことにまったく免疫がない貴明は動くこともできず、由真にしても
それは同じようなものだ。二人とも息すらできない。だって息をしたら相手に
かかってしまう。それほどに近い。
 なにもできず、ただ見つめ合う。
 夕陽は急速に沈み周りからは赤が失われていくのに、それに反して二人はど
んどん赤くなる。そして夕陽が沈んだ瞬間、もっとも暗く感じられる一瞬。
「はぁっ」
「はあっ」
 ふたりともこらえきれなくなり、同時に息を吐いた。まざりあう息と息。そ
れが顔に触れる。唇をかすめる。
 それはふたりにとって、とてつもなく恥ずかしさを感じさせた。
 まるで磁石が反発するかのように二人して距離を開く。
 ずざざと地をこする音がやけに大きく響く。
 先ほどまでの見つめ合いではなくもはやにらみ合い。気まずい沈黙を、顔を
出した月と星が照らし出す。
 しかし、今度の沈黙は短い。
247また、明日(6/6):05/03/01 23:00:08 ID:zpxy+GJQ0
「こ……」
 沈黙を破ったのは由真だ。
「こ?」
「これで勝ったとおもうなよーっ!!」
 全力で叫び、全力を越えた全力で自転車をこぎ出す。
 土煙を上げ一瞬にして由真走り去っていった。
 あっけにとられる貴明。全力でMTBをこぎ続ける由真。
 静と動。まったくの逆の状態にある二人の、しかし思うことは同じだった。
 
 こんな変なことがあったけど。
 また、明日。いつもように。
 会いたい、と。


248242:05/03/01 23:01:22 ID:zpxy+GJQ0
ああ、ラストの文章量が中途半端にorz
初書きです
ネタ被ったらすいません
249名無しさんだよもん:05/03/01 23:22:17 ID:nEc1Fusc0
>>242
おおっ!由真SS連発とは良いかな良いかな。
本編中での話ですよね、雰囲気がこの二人らしくていいですね。GJ。

>>231
こっちを後に読むと笑えるw
「メイド属性は無い」って自分で言い切るか、ちゃる・・。
250元祖!メイドロボのテスト:05/03/02 01:28:48 ID:y57jfdjr0
う〜ん、久々に小池さん家からいい匂いがする。
この匂いは味噌ラーメンか・・・。
いや、でもその割にはニンニクの匂いがちょっと弱い気がする。
やっぱり味噌ラーメンにはニンニクが入ってないとな。
それに付け合せの餃子といっしょに食べるのがまた格別にうまいんだろうなぁ・・・。
その代わりに食ったらちゃんと牛乳を飲まないと次の日に学校で何か言われるだろうし、おいおいこのみとキスもできない。
(まぁ、このみの場合ニンニク臭いからキスを嫌がるんじゃなくて自分抜きでラーメンやギョーザを食ったことの怒るんだろうけど)

ぐ〜〜〜〜。

食べものを思い浮かべてきたら小腹が空いてきた。
ついさっきに約三人分くらいの料理を食ったのがまるで遠い昔のようだ。
ううっ、こういう時は眠気に任せて腹の虫を抑えるためにとっとと眠るのが一番だ。

カチッ。

・・・・・・・・・・・・・・・。

なんかさっきとはまた違う匂いが・・・。
小池さん、味噌ラーメンとはまた別のを作ってるよ。
うわ〜、匂いからすると今度は塩ラーメンかよ。
くー、いつも食いたいわけじゃないのに何でこういうときばっかり腹の虫はラーメンを求めて鳴りつづけるんだよな〜。

カチッ。

だめだ、誘惑に勝てない。
確かキッチンにインスタント麺が残ってたよな。
夜食に塩ラーメンを作ろう。
251元祖!メイドロボのテスト:05/03/02 01:29:51 ID:y57jfdjr0
一人のときと違うからみんなを起こさないようにそーーーっと。
ってあれ?リビングにまだあかりが点ってる。
だれか起きてるのかな?
そっと顔を覗かせてみるとソファーには浩之さんと神岸さんが持参しているノートPCに向かってなにやら格闘している様子だった。
「なにをしているんですか?」
「ん?ああ、ちょっとな。貴明もまだ起きてたのか?」
「ええ。ちょっと小腹が空いたから夜食でも食べようかと思って。何なら二人とも作りましょうか?」
「わり、そうしてもらえると助かるぜ。俺たちもちょうど小腹が空いてな」
「さっきあれだけ食べたのにね」
神岸さんはそう言うとお腹のあたりをちょっとつねって苦笑いを浮かべた。
それだけの量を食べたのは俺だけじゃないってことだ。
「それじゃ、二人分のも作りますね」
「あ、私も手伝おっか?」
「大丈夫ですよ。神岸さんも忙しそうですし、そっちを優先させてください」
「ありがとう。それじゃあ、その言葉に甘えてそうさせてもらうね」
「お任せを」
「あ、それと」
「はい?」
背後を向いた瞬間に声をかけられ、再び後ろを向く。
「前々から言おうと思ってたけど、貴明くんもこのみちゃんのように私のこと名前で呼んでもいいよ。私は全然気にしないから」
「了解しましたっ」
神岸さ・・・いやいや、あかりさん、そのことに気を配ってたんだな。
あんまり余計な気を使わせないようにしないと、二人とも大変そうだし。
252元祖!メイドロボのテスト:05/03/02 01:30:31 ID:y57jfdjr0
まずは鍋に水を張って火にかけるもう一方でやかんにも水を入れて火にかける。
こっちのやかんは純粋にスープのために沸かす水。
で、こっちは麺をゆでるための水である。
麺のゆでる水とスープの水をいっしょにする人をたまに聞くけどそんなの言語道断。
インスタント麺にはインスタント麺なりにうまく食べるための方法があるのだ。
俺が知っているこの方法だって数ある中でのたった一つに過ぎないんだがそれが出来上がりの味に大きな影響を及ぼすのだ。
戸棚の中にしまってある丼を3つ取り出し、その中にインスタント麺の粉末スープをひらいてお湯で溶かし、
少々固ゆでくらいの麺を入れ、その上から熱湯を注いで下にたまっているスープとよくなじませる。
ここでのポイントは固ゆでってこと。
注ぐ熱湯でちょうどいい具合にやわらかくなるならそれがベスト。
ゆで過ぎるとスープの味より油分の多いお湯のほうを吸ってしまう。
あと麺をゆでるほうには卵なんかを入れておくとゆで卵も一緒にできて具が一品増えるからこれもおいしくさせる知恵の一つだ。
他には好みでハムや海苔なんかをトッピングで飾れば出来上がりだ。
うん、最近は夜食を作ってなかったけどやった感じではなかなかの出来栄えだ。
「はい、できましたよ」
「お、この匂いは塩ラーメンだな」
「ピンポーン。正解です」
「ねぇ浩之ちゃん。塩ラーメンって時々本当に食べたくなるときがあると思わない?」
「確かにな。あとドライカレーとかコンビーフとか」
「うんうん、いつもはそんなに食べたいと思わないのにね。すごく不思議だよね」
ふむ。どうやら俺と同じことを思っている人がここにも二人ほどいたらしい。
こういう事を聞くと妙に親近感が沸いてくるよなぁ。
253元祖!メイドロボのテスト:05/03/02 01:31:12 ID:y57jfdjr0
「ふぅ・・・ごっそーさん」
「お粗末様でした」
ふうっ、やっぱり結構ボリュームはあるな。
毎日こんなの食べて寝たら確実に太りそうだな。
時間は・・・午前一時をまわったところか。
「さて、後もう一仕事だから頑張るか」
「そういえば何をやってるんです?」
横からPCをのぞいてみるとエディタにびっしりと記入されているコンピュータ言語にサインカーブみたいなグラフが映し出されていた。
以前珊瑚ちゃんが『自作ソフトやで〜』って紹介された時にディスプレイに写っていたものとよく似ている。
「今やってるのはマルチのソフトチェックさ」
「ソフトチェック?」
「マルチはすでにHMX-12のときの基盤やマルチ自身の性格は出来上がってるけど、
 まだ完全にこっちのボディーや新しいソフトに適応したとは言いにくくてな。
 マルチが試験試用をしている理由の一つでもあるし、チェックをして不具合が出たらそこを直さなきゃいけない。
 それが俺たちがマルチにしてやれることの一つだからな」
「私にはちんぷんかんぷんだけどね」
そう言うとあかりさんは小さく『あはは』と笑った。
人がメイドロボにしてあげる、か。
本来は逆の立場に立つはずのことをあたかもそれが普通であるかのように振舞うのは言うのは簡単でも実際にやってみるとすごく難しい。
俺もイルファさんにはいろんな事をしてもらったし、世話にもなった。
その・・・秘め事とするような事も知っている仲でもあるし・・・。
でも俺がイルファさんにしてあげたことは一体どれだけのことがあるんだろうか?
メイドロボは見返りなんかを求めないのがあたりまえだし、人間もそれが普通だと思っている。
俺だって市販されているメイドロボに対してそう思っているのが現実だ。
だけどその世話をしてくれるという行動に心があればどうだろう。
少なくても俺はマルチやイルファさんが俺のために心をこめて一生懸命何かをやってくれたらそれに対してこっちからも何かをしたくなる。
きっと浩之さんとあかりさんもそうであろうから自分たちにできる彼女への御返しとして見つけたものがこのことなんだろう。
254元祖!メイドロボのテスト:05/03/02 01:31:52 ID:y57jfdjr0
「よし、終わり。データ領域に不具合なし。ソフト、ハードともに正常機能。問題はない」
「よかったぁ〜」
「貴明。明日からマルチもいっしょの時間帯に登校することになってるから。その身辺でのこと、よろしく頼むぜ」
「え。あ、はい」
急なことについ声一つで答えてしまった。
「さて、うーーーん、寝るか〜」
大きく仰け反ると立ち上げているデータを保存し、PCをシャットダウンさせて、コンセントからプラグを引き抜いた。
「俺たちはもう寝るけど、あと電気とか頼むぜ。居候の俺たちが言うのは方違いだってのはわかってるけどな」
「いえ、気にしないでください」
「そか、じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい、貴明くん」
二人が出て行くとリビングは急に寂しくなった。
腹もふくれたことで眠気も襲ってきたことだし、俺がここで何かするをこともない。
素直にベッドで横になるのが得策だろう。
パチッ。
リビングの照明を落とし、できるだけ音を立てないように二階へと上がっていく。
ベッドに横たわって目を閉じるとさっきのことがまた頭に浮かんできた。
俺には何ができるんだろうか?
すでにマルチは家の中をぴかぴかになるまで綺麗にしてくれた。
もちろんメイドロボであるからそうするのは当たり前だと言ってしまえばそれで終わりだけど一生懸命やってくれたんだからやっぱり何かやってあげたい。
・・・・・・・・・・・・・・・うーーーーん。
考えても何をしたらいいか思い浮かんでこない。
逆に考えてたら瞼が重くなってきた。
とりあえず、この事は保留にしておこう。
なかなかいい案は浮かんでこないなら流れでいい案が浮かぶのを待つのもまた一つの手だろうし。
そういうわけで、今日はもう寝よう。
おやすみ・・・。
255名無しさんだよもん:05/03/02 08:45:15 ID:pL3UwlzhO
>>232>>242
GJ!!!
由真たん最高
256名無しさんだよもん:05/03/02 10:46:24 ID:VT27xIf50
>テスト様

細かいことですが小池さんでなく、古池さんですよ。

それとは関係ありませんが最近エロ分が不足で
干からびそうでつ、、、誰か挑戦してみま専科。
257名無しさんだよもん:05/03/02 16:01:18 ID:SO7OSLeH0
>>234
>「いちいち山場でOP曲流せばいいってもんじゃないっしょ!」
ワロタ
258名無しさんだよもん:05/03/02 23:49:26 ID:ZITE9G0Q0
>234
曲名は「リメンバー・ダニエル」なんだな?(笑)
259帰還 EX-TIME:05/03/03 22:57:40 ID:htnENlpp0
「ふう。」
風呂に入る。
入るのも出るのも自由。
自由って素晴らしい。
さっき入れた入浴剤から生薬の匂いが香ってきた。今までとは比べ物にならないほど温まる。

「たか坊は一人でいるんだよね…」
一人の空間だから口に出せる。
雄二は勘定に入らないことが多いけど、たか坊のことは別。

「たか坊…」
まだ5分も入って無いのに少々のぼせてきた。入浴剤恐るべし。

夕方に聞いたたか坊の声。
思い出しただけで身体の芯が熱くなる。幸せな感じ。このままお湯に溶けていきそうな…
そういえば、このみと笑っていたっけ。

このみと笑ってた?今度は芯より少し上のほうで何かが潰れたような鈍痛が走る。

これは……このみに嫉妬してる?まさか。
そんなはず無いよ。たか坊にとってこのみも私も幼馴染ってやつだし。

このみは可愛い妹みたいな存在で私はおっかない姉御
たか坊はこのみと一緒に笑えるけど、私と一緒だと……

「はぁ……」

苦悩の夜が更けていく。タマ姉の明日はどっちだ?
----
しまった。エロい要素が入らなかった…orz
260名無しさんだよもん:05/03/03 23:41:59 ID:V5f+r8v00
貴明がひとりごっつをしている時間帯に
タマ姉がこんな風に悩んでたかと思うと
261ある日、アイス屋の前にて4(1/5):05/03/04 00:33:17 ID:51cXQFW50
「たかあきくん、おまたせ」
「うん」
「たかあきくんのはこれ。エスプレッソとマカダミアナッツのダブル」
「よくわかったね愛佳。俺が食べたいのがエスプレッソとマカダミアナッツだって」
「え、えと、なんとなく、そうなのかなぁって」

「……」
「……」

「こっちはあたしの。メープルウォールナッツとオレンジのダブル」
「お、そっちも美味そうだな」
「たかあきくん、その、た、食べて、みる?」
「あーん。――うん、美味しい」
「あ、あの、あたしもたかあきくんの……食べてみて、いい?」
「ああ、いいよ」
「あ、あ〜ん。――うん、おいしい」

「……」
「……」

「あ、たかあきくん、ほっぺにアイスがついてるよ」
「ん?」
「あ、動かないで、拭いてあげるから」
 ふきふき。
「ん、愛佳、サンキュ」
「くすっ……うん」
262ある日、アイス屋の前にて4(2/5):05/03/04 00:33:55 ID:51cXQFW50
「……」
「……」

「ねえ、たかあきくん、今度の日曜日、その、で、デートしない?」
「んーそうだな。愛佳はどこに行きたい?」
「うん、ええと……、い、色々あって困るかも……」
「ははは、愛佳は欲張りさんだなあ」
「や、や、もぉ……たかあきくんたら。
 ねぇ、たかあきくんが決めてくれる? あたし、たかあきくんと一緒ならどこでもいいから」

「……う」
「う?」
「う〜い〜う〜い〜し〜い〜ぞ♪
 と〜って〜も〜い〜い〜ぞ♪
 そ、そ、そ、そ♪
 そそそそそそそそ曽我町子♪」
「……ヘドリアン女王?」
「うひ〜〜〜っ!! ありえねぇ〜〜〜っ!!」
「……よっちが壊れた」
「なんという初々しさ!! やっぱ、なりたてカップルはああでなくちゃ!!
 あれぞ究極!! あれぞ至高!!」
「大興奮だな、よっち」
「特にカノジョのぎこちなさ! きっとカノジョ、男の人に頼ったり甘えたりするのに慣れていない
んだろうね。それでいてしっかりセンパイとラブラブしてるあたり、いかにあの二人が信頼し合って
いるかってことっしょ!!」
263ある日、アイス屋の前にて4(3/5):05/03/04 00:34:38 ID:51cXQFW50
「……お似合いの二人」
「あ〜〜〜っ、わたしも、あんな風にいちゃいちゃできるカレシがほし〜〜〜い!!
 だがしかーし!! わたしらの学校は女……」
「あんたたち、何してるの?」
「ん、わたしら?」
「そうあんたたち。さっきから人の姉をネタに究極だの至高だの好き勝手言ってるあんたたち。
 一体なんなの? 覗き?」
「の、覗きとは失礼な!
 なりたての恋人同士を生暖かく見守り、何かあればその都度ツッコミを入れて楽しむ。それがわた
しらのポジション!」
「……いつ決まった、そんなポジション」
「何それ? バカじゃないの、そんなことしていて楽しいわけ?
 大体あんなの見て何が面白いのよ。発情した男と女がベタベタしてるだけじゃない」
「発情って……あんたの姉ちゃんっしょ」
「そ、残念なことにね。
 こうして車椅子に乗っている妹のことも忘れて、男といちゃついてるのがうちの姉。
 あーあ、男が苦手な姉にも一人前に性欲があったとはね」
「……はっは〜ん。そういうことか。
 要するにあんた、お姉ちゃんが構ってくれないからご機嫌斜めなんだ」
「な、ち、違うわよ!」
「……お姉ちゃん子」
「違うって言ってるでしょ! あ〜もう!
 姉があのバカと何しようが、あたしには関係ないっつーの!!」
「まあまあ、こういう時は素直にならないと。
 人間素直が一番! でないとお姉ちゃんみたいに素敵な恋はできないっしょ」
264ある日、アイス屋の前にて4(4/5):05/03/04 00:35:36 ID:51cXQFW50
「別に恋なんてしたくない。しようとも思わない。あんたみたいに年中そんなことばっかり考えて
いられる程、あたしはのんきな人生送っていないから」
「……なんとも、クールな子っスねぇ」
「いいよね。脳天気に愛だの恋だの浮かれていられるのって。
 世の中にはその日その日が生きるかどうかって人間もいるのに」
「……」
「お気楽な奴。授かった命の重みも考えないで、日々のほほんと過ごしてる。そういう奴って凄く
不愉快」
「……」
「大体あんたも男がいないから、そうやって他人のいちゃつきを見て羨んでいるだけでしょ?
 虚しいよね。自分でもそう思わない?」
「……」
「脳天気で、お気楽で、どうしようもなく虚しい。それがあんたよ。
 果たして生きる価値さえあるかどうか。少しは考えてみたら、自分のおバカ加減について」
「……」
「何、さっきから黙って? 泣く? それともあたしのこと殴る? いいよ、どうぞご自由に」
「…………いい」
「え?」
「……いいキャラだわ、こいつ。最っっっっ高!!!
 言葉責めってヤツ? ここまでキツイこと言われたのって初めて! これって一種の才能だよね。
わたしの中で何かが目覚めそう!」
「……Mかお前は」
「あんた!」
「な、何よ……」
「私の名前は吉岡チエ。”よっち”って呼んで。
265ある日、アイス屋の前にて4(5/5):05/03/04 00:36:13 ID:51cXQFW50
 こいつは山田ミチル。”ちゃる”もしくはキツネと呼べばいい。
 で、あんたの名前は?」
「……い、郁乃。小牧郁乃」
「郁乃ね。よし! 郁乃、わたしらと友達になろう!!」
「はぁっ!?」
「あんたみたいなキャラ、このまま黙って見逃すのは惜しいっしょ!
 キツネもたまにツッコミ入れてくるけど、郁乃ほどハードじゃないし。
 あんたは敵に回すと恐ろしいけど、味方にすると頼もしい。なら答えはひとつ!」
「ち、ちょっと、勝手に決めるな!」
「そうと決まれば善は急げ! まずはわたしらの素晴らしき出会いを祝し、一緒にアイス食べよう!
あんたの分はわたしがおこるから! さ、ホラホラ」
「勝手に車椅子を動かすなぁ〜!!」
「……諦めろ。よっちは暴走機関車。走り出したら止まらない」
「止めろ〜〜〜っっ!!」
「郁乃の来ている制服って、このみの学校のだね。今度、このみも紹介してあげるから!
 大丈夫、このみはとっても人懐こいから、すぐに仲良し!!」

「あ、郁乃、あんなところにいた」
「あれ、郁乃と一緒にいるのは、このみの友達だ」
「そうなんだ……。なんだか、とっても楽しそう」
「そうか? 何か郁乃、振り回されてるみたいだけど……」
「三人でアイスを買うみたい。アイス、郁乃の分もあるんだけど、いらないかな?」
「うん、そうかも……って食べちゃったよ一瞬で!?」

 おしまい。
266ある日、アイス屋の前にて4 の作者:05/03/04 00:36:58 ID:51cXQFW50
 どうもです。
 今度は愛佳編(というか郁乃編)を書いてみました。
267名無しさんだよもん:05/03/04 01:28:15 ID:KT/mYzMB0
>>266
乙、そしてGJ!
誰かよっちの手綱を引いてやれ、郁乃の命にわりと関わるw
268名無しさんだよもん:05/03/04 02:00:02 ID:MD82tqRR0
GJ!
何というか、ちゃるの描写が果てしなくうまいのでちゃるスキーとしてはこう、
ちゃるルートをばリクエストしたくなるのですが?(何故疑問系
269名無しさんだよもん:05/03/04 05:01:35 ID:wSC2b7on0
瞬殺!
東鳩2のくいしんぼキャラは化け物かァァァッ!!!
270名無しさんだよもん:05/03/04 09:32:28 ID:g7ee0eYz0
アイス屋キター!
今回も楽しませていただきましたよ、ええ!
すっげえ楽しい。
もう最高。
郁乃のひね具合が可愛い。さらに暴走よっちも可愛い。さり気に突っ込むちゃるも可愛い。
また次回作も楽しませていただきます。
で、郁乃は今回だけなの?
271名無しさんだよもん:05/03/04 10:53:10 ID:krGYoYfE0
(゚∀゚) エロス!エロス!
272名無しさんだよもん:05/03/04 13:13:00 ID:CDAfmugJ0
そりゃあ郁野メインでもう一本あるわよねぇ?
273名無しさんだよもん:05/03/04 15:55:34 ID:w4SsZ1wW0
274名無しさんだよもん:05/03/04 18:24:16 ID:3AKgJowb0
>>259
GJ!!
本編で登場する前のタマ姉の話もいいねぇ。
275名無しさんだよもん:05/03/04 18:53:50 ID:BPNXgL9rO
>テストのひと
浩之が無理に『浩之』を演じている気がする。
あと、個人的に機械に詳しい浩之は違和感がある。

と書いてみる。でもGJ
276かおりんAfter 5-1:05/03/04 19:52:10 ID:3e/8sOkD0
「そうだ、貴明は今日の夕飯はどうするつもりなの?」
少し前の騒動が落ち着いたところでミルファが俺に聞いてきた、確かにもうそんな時間だ。
「ん、別に特に決めてないけど。薫子はどうするつもり?」
「私も特には決めてないけど」
「それじゃ私が台所を借りてもいいかな?」
ミルファは一応メイドロボだけあって料理は上手である、何度か作りに来たことがある。
「あっ、薫さんも一緒にどうぞ」
「・・・かっ、かおるさん?!・・・そんな風に言われるのは初めてだわ」
「駄目だったでしょうか・・・?」
「別に駄目じゃないわよ、ミルファさん好きなように呼んでくれて構わないわ」
そう聞くとミルファは嬉しそうに顔を上げて。
「ありがとうございます、それじゃ貴明、台所借りるね」
そうしてミルファは台所の方へ向かった。
「相変わらず・・・人間的というか人間と変わらないわね」
俺の横で薫子が呟く。
「そうだよな、俺も久しぶりにアイツに会ったけど、やっぱ変わらないな
 でも、珊瑚ちゃん達の家に行けばもう一人メイドロボいるんだけどな」
「その人もあんな感じなの?それともイルファさんみたいなのかしら?」
「ん〜・・・外見はやっぱ似てるけど、中身は全然違うというかなんと言うか・・・・」
「ふ〜ん・・・興味深いわね」
そんな感じの会話を二人でしていると、準備が済んだのかミルファがやってきた。
「準備できたよ〜、さぁどうぞどうぞ」
そうして俺達は食卓に着いた。
277かおりんAfter 5-2:05/03/04 19:53:07 ID:3e/8sOkD0
「どうかな?研究所じゃ料理なんか作らないから、ちょっと不安なんだよね」
不安そうな顔でミルファが俺達に聞いてきた。
「ん、普通に旨い」
「・・・・悔しいけど美味しい」
悔しいって・・・・あっ、そういえば薫子は料理が出来なかったな。
「よかった〜、これで暫くは研究所帰らなくて良いよ〜」
「って、これは実践テストかなんかなのか!?」
「まぁ、それも入るけど、貴明の家ですると決めたのは私の意思」
「・・・・まぁ、旨いからいいけどな」
「それはそれは、お粗末さまです」
そうして食事の時間は過ぎていった。
「じゃ、片付けも済んだし私そろそろ帰るね」
「あぁ、飯ありがとな」
ミルファは玄関の方へ向かっていく。
「なら、私もちょうど良い時間だから帰るわ」
「それならさ二人とも、途中まで送ってこうか?」
「私は平気よ。貴明もたまには家に遊びに来てよ
 イルファ姉さんにもシルファも最近会ってないでしょ?」
「ん、わかったよ。いつかそっちにも行くよ」
「別に大丈夫よ、それじゃ明日、学校で会いましょう」
「あぁ、明日な昼でも一緒に食おうな」
そうして二人は俺の家を後にした。
「・・・・はぁ〜・・・疲れた〜・・・」
俺は居間のソファーに寝転がる。
今日のことを振り返る、ホントに一日で状況がここまで変わったものだとつくづく思う
三年への進級、新しいクラス、転校して来た薫子、帰ってきたミルファ
・・・・・・これからは忙しい日々が続きそうだ。
278かおりんの人:05/03/04 19:56:19 ID:3e/8sOkD0
少し前に報告したように5話から投稿開始です
非常に短いですが今までの前フリ終了です。
ttp://www.geocities.jp/umisouko/
いつもながらですが、話が解らない人なんかはどうぞです。
279名無しさんだよもん:05/03/04 20:48:14 ID:ivFPfg+j0
afterキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
期待してまつ
280名無しさんだよもん:05/03/04 20:50:31 ID:OWSzb3Gq0
キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!!!!

かおるん'`ァ(*゚∀゚)'`ァ
281つないだ手の先、指の先・1(1/5):05/03/05 05:21:51 ID:AK4DWt0f0
時間があるやつは校門前に集合。それが俺たち幼馴染み4人組の暗黙のルール。
HRから30分たっても来なかったら待たずに帰る。待ちたいやつは待つ。ただそれだけ。
俺がタマ姉と付き合うようになってからも、それは変わらない。

といっても、気を利かせてくれているのか、最近は雄二もこのみもいないので2人っきり、
って場合が多いけど。
(ま、雄二のヤツは単にタマ姉と一緒に帰りたくないだけなんだろうが…。)

でも、それだって毎日一緒に帰っているわけじゃない。俺にも、タマ姉にも、用事がある
日だってある。だから、遅くなりそうな日は前もって言うようにしてるし、急用が入った
時でも、元々30分以上は待たないってルールだから、待ちぼうけを食うことも、食わせる
こともない。

…はずだった。



HRが終わると同時に凄い勢いで雄二が教室を飛び出した。今日は確か緒方理奈のサイン
会だか握手会だかの整理券の配布があるらしい。前に借りて聞いたけど、確かに悪くない
歌声だった。でも、だからって教師より先に教室飛び出すのもどうよ?まぁ、途中で抜け
出すよりはマシなんだろうけどさ。

そんな雄二の分も掃除当番を押し付けられた俺は、一人中庭のゴミ拾い。
4人の当番中、1人がサボり(雄二)、1人が部活、1人は欠席ってどういうことだろ。

落ちている紙くずやらビニールを拾っては袋に入れ、拾っては袋に入れ。
俺は全生徒に問いたい。お前らエコロジーって言葉を知ってるか?
…。
そんな感じで20分も毒づいたら一通りはきれいになった。気がした。
集めたゴミを焼却炉に捨て、教室へ向かう。その途中に鎮座するは自動販売機。
むむ。これはかなりの誘惑ですよ?
282つないだ手の先、指の先・1(2/5):05/03/05 05:22:56 ID:AK4DWt0f0
「ちょうどのども渇いたし一服してくかな…」
ポケットの中の小銭を探っていると、右斜め後方より殺気が飛んできた。
「来たな、プレッシャー!」
「はぁ?なにバカなこと言ってんのよ!?」
俺をバカ呼ばわりしたこやつは十波由真。何かといえば俺を目の敵にする女。
それも俺が悪いならいざ知らず、9割方…いや、7割方…う〜ん5割方くらい?は、どう
見ても自滅してるはずなのに、全部俺のせいにして突っかかってくる自爆型テロリストだ。
「あのね。そんなとこに突っ立ってられると邪魔なワケ。買わないならどっかいったら?
 うんうん。世間様にもそれがいいってもんよ!いっそ二度と世の中に出なきゃいいのに」
おいおい。お前様ぬけぬけと何言いやがりますか?
「あのな…」
待て待て。そういえば何度かこいつのコーヒー買うのを邪魔したことがあったな。
わざとじゃなかったんだけど、こいつは絶対根に持ってるはず。
君子危うきに近寄らず。
ここは広い心を見せて道を譲ってやるのが大人の対応ってもんだよな。やっぱ。
「いいよ。先に買えよ」
「…なんか企んでる?」
あくまで疑り深い。まぁ、俺がこいつの立場でもそう思うだろうけど。
「ないない。小銭が足んないみたいだから、お先にどうぞ、ってこと」
「ふふふ…惨めね、河野貴明!コーヒー1本買えないとはね!ちゃんちゃらおかしいわ!」
いや、嘘なんだけど。
すっかり信じ込んでやがる。
…こいつって意外と人を疑わないっていうか、まっすぐ、なんだな。
うん。なんていうか、その、猪突猛進?
283つないだ手の先、指の先・1(3/5):05/03/05 05:23:42 ID:AK4DWt0f0
ちゃりんちゃりん。
小銭が吸い込まれていく。
こういう時、俺は雄二ほど優柔不断ではないものの、それでもわりと迷う方だ。
しかし、由真は一秒も迷わずエスプレッソのボタンを押した。
…こういうところもまっすぐ、なのな。

カチッ
気の抜けた音。

カチッカチッカチッ
何度押してもエスプレッソは出てこない。

ガチッガチッガチッ
返却レバーを引いても自販機は無言のまま。

「う〜〜〜〜〜〜っ」
カチッカチッ ガチッガチッ ガチガチガチガチガチガチガチガチ!

数分の格闘の後、辺り一面を膨大な殺気が支配した。
「すんなり先を譲ると思ったら…」
俺のスカウターには計測不能の文字。
「どうりでおかしいと思ったのよ…。あんたなんかがそんなことするわけないってね…」
バ…バカなっ!この反応はっ!
「謀ったわね〜〜〜〜〜〜〜っ!」
「ま、待て、誤解だっ!ほ、ほら、そんなに大声を上げると運動部の連中が…」
「へ?」
俺の必死の抗弁に辺りを見回す由真。若干ではあるがちらほらと人の視線を感じる。
284つないだ手の先、指の先・1(4/5):05/03/05 05:24:18 ID:AK4DWt0f0
急転直下で真っ赤になる頬。
なんでお前が赤くなるんだよ。伝染っちまうだろ。
「こ…これで勝ったと思うなよ〜〜〜〜〜〜っ」
脱兎のごとく走り去ろうとする由真の手を掴む。
なんだかわからないけどこのまま去らせちゃいけない気がした。
俺のこの先の人生のためにも。

「な…なによっこのヘンタイッ」
今度は変態呼ばわりか。
「まぁ、待て。このまま諦めるのはお互い寝覚めが悪い。…ちょっと試してみないか?」
「試す?何を?」
うわ、思いっきり怪訝そうな顔。
「古今東西、電化製品というものは叩けば直るもんだろ?」
「あんた、バカ?…ううん、そうだった。バカだったよね。ごめんごめん」
「…お前な」
今度は呆れ返った挙句にいやらしい笑いまで浮かべやがって。
「どうせ出てこないんだったら別に試すくらいいいだろ?」
そんなこんなで、1回だけ叩いてみることにした。

よーく狙って。
右斜め上45度の角度から。
振りぬくように打つべし、打つべし、打つべし!

ガコンッ ガラガラガラガラ…

エスプレッソは2本出てきた。
285つないだ手の先、指の先・1(5/5):05/03/05 05:24:57 ID:AK4DWt0f0
「べ、別に、あたしが頼んだわけじゃないんだからねっ」
「わかってるよ。だいたい、お金入れたのはお前なんだし。」
ごくごく。
2人並んで缶コーヒーを飲む。
「そ、そうよね。…ってことは、あんたが飲んでるそれはあたしの奢りってことよね」
「?いやこれは自販機を叩いた俺への正当な報酬だろ…」
「ふ〜ん、そっか。あんたはこのあたしに奢っていただいているってわけね」
「だから人の話を…」
「お礼は?」
「は?」
「だから、感謝の言葉。今日び無料で奢ってくれる親切な美少女なんて中々いないわよ?
 『由真様、この哀れな貴明にお慈悲ありがとうございます〜』くらい言っても、罰は
 あたらないわよ」
「哀れなのはお前の頭だ」

声にならない叫び。
作戦失敗。関係改善どころか致命傷を与えた模様。
隊長、戦術的撤退を進言いたします!

ぎゃんぎゃん吠え立てる由真を振り切って決死の逃避行を試みる俺だった。
286タマ姉に弄られ隊隊員:05/03/05 05:37:08 ID:AK4DWt0f0
ども。初SSあげさせていただきました。

書きはじめた時はタマ姉のSSだったハズなのですが、どこまでいっても
タマ姉が出てくる気配を見せませんorz

心優しい方、タマ姉を見かけたら知らせてください…
287名無しさんだよもん:05/03/05 08:43:18 ID:Cdw7Jj5Q0
ほんと、タマ姉SSかと思ったのに
由真の微笑ましさに萌えてしまったw
うまいよ
288名無しさんだよもん:05/03/05 08:55:29 ID:MPHyTeFYO
>>286
ハイル由真タン!(・∀・)ノ
289名無しさんだよもん:05/03/05 14:11:15 ID:CQyESvOM0
さすが!
由真+タカ坊+自販機のコンボは伊達じゃない!
290名無しさんだよもん:05/03/05 14:21:36 ID:9oXix8L60
(´∀`)ああ、やっぱUMAはええなぁ
291名無しさんだよもん:05/03/05 16:21:19 ID:qd66Fe000
お〜い、誰かタマ姉の行方をしらんか?
292名無しさんだよもん:05/03/05 19:05:50 ID:vivRZod+0
>291
そしてループするのか?
293名無しさんだよもん:05/03/05 21:06:03 ID:Hst6Ip2M0
ミネラルウォーター吹いた
294たか坊、帰還せず:05/03/05 23:07:27 ID:/KbailVE0
いつものように校門の前でたか坊を待つ。
雄二とこのみが遠慮してくれるようになったのは嬉しいけど
ちょっと申し訳ない気がしてくる。

今日は掃除当番だといってたし、遅れるようなら先に行くのがルール。

でも、今日は待っていた。
ゲンジ丸を助けた時と同じモノを感じたのだ。
たか坊を置いていくと後悔する。と、何かが知らせていた。

変に緊張しているのは自分でもわかる。背中に嫌な汗を掻いて喉が渇いているのだ。

「何か飲もうかな…」

たか坊のことを考えてる時に独り言が多い、と雄二にもよく言われる。
余裕が無いのだ。雄二やこのみと違って、たか坊には通用しないものが多すぎた。

"帰った"のサインを置かずに、私は一番近い自販機へ向かって走る。
サインを置かずに行くことのできる唯一の自販機。学校の一階にある自販機へ…

-----
スマソ勝手に書いてみた。
無視して鎌○ヌ
295名無しさんだよもん:05/03/06 00:20:12 ID:+UErWv4U0
>>294
GJです!続き期待してまふ。
296名無しさんだよもん:05/03/06 00:34:28 ID:TKLLQMLg0
細かいことだが「タカ」坊にしてくれるとありがたい。
キモオタだからこんなところばっか気にしてしまう。
2971/4:05/03/06 11:12:31 ID:u+VWFQwN0
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1105005926/259-262
の続き。とんでもなく間が空いてるが。


「発情期だ」
「……発情期?」
「はつじょう期?」
部屋に引いた布団と、その両側から同じ言葉が出る。
俺とこのみは布団の上空で困惑した視線を絡ませた。

俺の背中でぐったりした後、気を失ってしまったるーこだったが
なんとか家に辿り着き、このみに横にしてもらい氷嚢を使わせると気がついてくれた。
今は意識も呼吸も落ち着いているようだ。いつものるーこに戻ってくれている。
さすがに視線をあわせるのはまだ恥ずかしいものがある。
もちろんこのみには何があったかなど漏らせる訳がないので、あの件は内緒にした。

「発情期って、あの発情期か? 動物にある」
「るー、愚かだぞ。うーも動物の一種に変わりはない。
 人間の発情期は4月だと故川島四郎先生も言っている」
「へ〜、そうなんだ、知らなかったよ。るーこさん博学だね」
……本当か?
2982/4:05/03/06 11:14:02 ID:u+VWFQwN0
「まあ、それはいいとしてだ。じゃあるーにも発情期なんてものがあるのか?」
「ある。だが、るーのそれは激しいものではない。
 時間、場所、相手、状況などによってるーの中から刹那的に訪れ、去っていくものだ。
 さきほどるーが感じたような強制的なものではない」
「んー、まぁ、それなら人間も同じようなものだな。4月にそれが多いかどうかはともかく。
 でも、どうしてそれならその……さっきは、あんなことになっていたんだ?」
顔が熱くなるのが分かった。るーこの顔にもわずかに赤みが差す。
「……わからない。にゃーに魚をあげようとしたのだが、食べようとせずに
 あの鳴き声をあげつづけていた。その声を聞いているうちに、何も考えられなくなった」
「うん、あの鳴き声気になるよね。ゲンジマルも犬なのに耳をピクピクさせるんだよ」
「ゲンジマルもおいといてだ。あの鳴き声が引き金なのか?」
「確証はない。るーにはにゃーはいないから。
 だが、にゃー以外の猫ではさっきのようにはならなかった」

それなら、にゃーから引き離しとけばいいってことだろうか。
だったら話は簡単だ。当分俺の家にいればいい。

しかし、るーこは忘れているようだが俺にはあの言葉が頭から離れない。
『少しだけ。あとはうーの家までがまんする』
──あれで、少しだけ。

あの時見た表情。視線。感触。
濡れた紅唇から薄い舌の先端が伸びて頬骨をなぞる。
身体を振るわせた時に見せた、閉じられない舌の代わりにきゅっと閉じた眼が誘っているようで。
震えは舌にまで伝わって頬に柔らかな圧迫感を伝えていた。
……
2993/4:05/03/06 11:15:18 ID:u+VWFQwN0
「タカくん? おーい、タカくーん」
「……ああ。どうした、このみ」
「なんだかすごい顔してたよ、タカくん」
「そうか。うん、呼んでくれてありがとう、このみ。
 ちょっと遠いところを旅してたみたいだ」
「えへ〜、どういたしまして」

少し自分が信じられなくなる。
間違いが起こらないとも限らないし、るーこをこの家においといていいんだろうか。
逆に、にゃーを引き離したらいいのかもしれない。それなら公園に戻ったほうが。

でも、本当ににゃーだけなのか、たまたま他の猫でも同じ事になったりしたら。
にゃーが公園に舞い戻ったりしたら。

さっきの公園では理性が残っていたからいいけど、さっきおぶった時みたいに
制御が利かなくなったら。
この町の猫の発情期がいつまで続くのかわからないが、もしこんな状態のままで
ずっと公園にいたりしたら。
とんでもないことになったりしないだろうか。
3004/4:05/03/06 11:16:36 ID:u+VWFQwN0
   「う〜〜トイレトイレ」
   今トイレを求めて全力疾走している俺は学園に通う絶世の美少年様だ。
   強いて違うところをあげればメイドさんに興味があるってとこかな。
   名前は向坂雄二。
 
   そんなわけで帰り道にある公園のトイレにやって来たんだ。
   ふと見るとベンチに一人の女の子が座っていた。
   「おぅ、るーこちゃん」
   美人だよな。るーこちゃんって。

   そう思っていると突然るーこちゃんは俺の見ている目の前で
   制服のリボンをはずしはじめたのだ……!
   「 や ら な 」

「そんなの絶対駄目ーっ!」
「うわっ、びっくりしたぁ。タカくん、急に大声出さないでよ」
「まったくだ。粗忽だぞ、うー」
「るーこっ、当分俺の家にいろっ!」
「るっ、るうっ?」
「いいなっ、絶対外にでるんじゃないぞっ」
301名無しさんだよもん:05/03/06 13:05:12 ID:xka3Yk9qO
>>300s
乙!これからエロエロ〜になるのかな?
(*´Д`)ハァハァ
302名無しさんだよもん:05/03/06 13:54:55 ID:pcpq64iM0
>>300
「 や ら な い か 」 かよ!
爆笑しますた。
303名無しさんだよもん:05/03/06 22:13:35 ID:CCTbcrQAO
>>300
ハゲワロ
誰が絶世の美少年様だよw
304ある日、アイス屋の前にて5(1/5):05/03/06 22:47:46 ID:akRwKfnQ0
「待たせたな、うー」
「ああ」
「うーのはこれだ。レモンシャーベットとメロンのダブル」
「よくわかったなるーこ。俺が食べたいのがレモンシャーベットとメロンだって」
「当然だぞ、うー。るーはうーのお嫁さんだからな」

「……」
「……」

「るーのはこれだ。マンゴーとカスタードプディングのダブル」
「お、そっちも美味そうだな」
「食べるか、うー?」
「あーん。――うん、美味しい」
「るーもうーの、食べてみたいぞ」
「ああ、いいよ」
「あ〜ん。――美味いぞ、うー」

「……」
「……」

「頬にアイスがついてるぞ、うー」
「ん?」
「動くな、拭いてやる」
 ふきふき。
「ん、るーこ、サンキュ」
「るー」
305ある日、アイス屋の前にて5(2/5):05/03/06 22:48:23 ID:akRwKfnQ0
「……」
「……」

「うー、今度の日曜日、デートするぞ」
「んーそうだな。るーこはどこに行きたい?」
「る〜……、色々あって困るぞ」
「ははは、るーこは欲張りさんだなあ」
「うーが決めろ。るーは、うーと一緒ならどこでもいいぞ」

「……ふ」
「ふ?」
「ふ〜し〜ぎ〜な〜か〜の〜じょ♪
 あ〜の〜こ〜は〜だ〜れ〜だ♪
 だ、だ、だ、だ♪
 だだだだだだだだダルビッシュ♪」
「……時事ネタ?」
「むぉ〜〜〜っ!! わかんねぇ〜〜〜っ!!」
「……よっちが壊れた」
「なに、なんなのあの、不思議オーラ全開のあのコは!? 違う、普通の女の子とは何かが違う!!
 でも具体的に何が違うのかがわからない! あ〜もう!!」
「少し落ち着け、よっち」
「その不思議っコとセンパイの組み合わせ! 非日常と日常のカップリング!
 本来出会うはずのない二人が出会い、恋人同士になるまでには、きっと人智を越えた試練があった
に違いない! そして二人はそれを乗り越え、今、ああして幸せになったんだね〜!
 いや〜、感動できる話じゃありませんか!!」
306ある日、アイス屋の前にて5(3/5):05/03/06 22:48:55 ID:akRwKfnQ0
「……勝手な憶測で勝手に盛り上がるな」
「あ〜〜〜っ、わたしも、普通と違ったカレシがほし〜〜〜い!!
 だがしかーし!! わたしらの学校は女……」
 ガシッ! グイ〜〜〜ン!
「へ?」

「ん、どうしたるーこ?」
「……かかった」
「かかった? おい、どこに行くんだ?」
「るーるる、るーるる、るーるーるー」

 ブラ〜〜〜ン、ブラ〜〜〜ン
「うわ〜〜〜っ!! な、な、なんなのこれ〜〜〜!?」
「……よっちが逆さ吊りに」
「た、た、助けて〜〜〜!!」
「……よっち、一ついいか?」
「な、何!?」
「パンツ丸見え」
「う、うわ〜〜〜っ!! み、見ないでぇ〜〜〜!!
 こんな公衆の面前でパンツ晒すわたし、恥ずかし過ぎ〜〜〜っ!!
 こ、こら〜っ! そこの男、見るな〜〜〜!! そこのオッサンも見るな〜〜〜!!
 そこのあんたたち、手を2回叩いて拝むな〜〜〜!! どういう意味だそりゃ〜〜〜!?
 あ、わ、わかった! 手をパンと2回叩くから『パン』『ツー』、『パンツ』って意味っスね!
 ってわかっても意味ねぇ〜〜〜!! 誰でもいいから助けて〜〜〜っ!!」
「…………るーるる、るーるる、るーるーるー」
307ある日、アイス屋の前にて5(4/5):05/03/06 22:49:33 ID:akRwKfnQ0
「な、何この、不気味な声は?」
「……るーるる、るーるる、るーるーるー」
「声が段々近づいてくる……な、何かが近づいてくる……」
「るーるる、るーるる、るーるーるー」
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
「べっかんこ」
「…………え?」
「人間か、食えないな。リリース」

「すまなかったな、うちのるーこのせいで……」
「うわぁぁぁぁぁぁん!! パンツ見られた〜〜〜!! 大勢に見られた〜〜〜!!
 もうお嫁に行けないっス〜〜〜!! センパイが責任取れっス〜〜〜!!」
「お、俺!?」
「それはダメだ。うーは既にるーの旦那だ。重婚はこの国では犯罪だぞ」
「ま、まだ結婚はしてないけどな……。それにしてもるーこ、何であんな罠を仕掛けたんだ?」
「うーに、いつもと違う肉を食わせたかった」
「違うって、どんな?」
「バッファローとかガゼルとかだぞ、うー」
「どっちもこんな場所にはいないし、いても狩っちゃダメ! 罠なんか仕掛けるな!」
「る〜……。るーの故郷では、狩りは日常茶飯事だったぞ」
「……故郷ってどこ?」
「アメリカ・カリフォルニア州だぞ」
「カリフォルニアではこんな場所にもバッファローやガゼルがいるっスか!? 恐るべし米国!!」

「あ、お兄ちゃんとお姉ちゃん!」
308ある日、アイス屋の前にて5(5/5):05/03/06 22:50:19 ID:akRwKfnQ0
「菜々子ちゃん!? 久しぶりだね」
「懐かしいぞ、ちびうー。あまり成長してないな、もっと飯を食え、ちびうー」
「う、うん……」
「菜々子ちゃん、あの後、どうだった?」
「うん、ゆっこちゃんにごめんねって謝って、仲直りできたよ!
 それと、ちゃんとゆっこちゃんに四つ葉のクローバー、渡せたよ!
 せんぶお兄ちゃんとお姉ちゃんのおかげだよ、ホントにありがとう!!」
「よかったな、ちびうー」
「あ、お母さん待たせてるから、もう行くね。じゃあね、お兄ちゃんお姉ちゃん!」
「うん、バイバイ」
「ばいばいだぞ、ちびうー」
「……なんかよくわからないけど、いい話みたいだね」
「……きっと、素敵な思い出」
「あ〜あ、なんだか、どうでもよくなってきたっしょ。それじゃ、わたしらもそろそろ退散……」

 ガシッ! グイ〜〜〜ン!
「きゃあぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」
 ブラ〜〜〜ン、ブラ〜〜〜ン
「あ、新たな犠牲者が!?」
「あ! さ、笹森さん!? お、おいるーこ、あれもお前が……」
「あそこにも仕掛けたぞ。うー」
「あ、た、助けてぇ〜〜〜、たかちゃ〜〜〜ん!!」
「パンツ丸見え」

 おしまい。
309ある日、アイス屋の前にて5 の作者:05/03/06 22:50:58 ID:akRwKfnQ0
どうもです。
今度はるーこ編を書いてみました。どうでしょう?

>>272さん。
郁乃メインは>>146さんが既に書いておられるので……。
310名無しさんだよもん:05/03/06 23:00:31 ID:wJctpV2N0
メインじゃなくて、よっちちゃるコンビに混ぜて欲しかった人
311名無しさんだよもん:05/03/07 01:49:37 ID:j3mWNb/z0
GJ!
まさかとは思うが、会長編はこれでOKってことはありますまいな?(w
312つないだ手の先、指の先・2(1/4):05/03/07 04:26:38 ID:FJt9yJyB0
「おかしいな〜、確かに途中までは友好的だったんだけどな…」
自分の心に正直すぎる俺が悪いのか、そう言わせるような言動をとるあいつが悪いのか。
まぁでも、傍迷惑なヤツだけど、意外とあいつと一緒にいる時間は嫌いじゃない。

きっと、アレだ。
夕日の沈む浜辺とかで、しこたまぶん殴り合った後に友情が芽生えるやつというか、男
同士特有の、拳で語り合う友情というか。とにかく死闘の後にお互いを認め合うという
やつだな。
…つっても、実際殴りあったこともなければ、そもそもあいつは『男』じゃないんだけ
どさ。

…そう、忘れがちだけど、あいつ『女の子』なんだよな。
だけど、出会いが出会いだったせいなのか、いつもいつも真剣勝負をしてるせいなのか、
とにかく、あいつといると、あいつが『女の子』ってこと自体を忘れちまう。
きっと俺の中であいつは『女の子』という分類ではなく『十波由真』という分類なんだ
ろう。だから、こんな俺でも変に気を張ることなく普通に相手できてるんだと思う。

そう考えると、由真って、タマ姉やこのみ以外で『女の子』と意識せずに接することの
できる数少ないサンプルなのかもしれないな。
うむ。サンプルは、大事にしなければ。
いつアンブレラ社のウイルスに犯されるかわからないからな。
…って、そりゃアンプルか。
313つないだ手の先、指の先・2(2/4):05/03/07 04:28:32 ID:FJt9yJyB0
なんてことを考えながら廊下を歩いていると、向こうからダンボールが歩いてきた。
右にふらふら、左にふらふら。
ふ〜ん、最近のダンボールって自立歩行するんだ。
耳を澄ますと「うう〜」とか「ふーっふーっ」とか苦しげな息遣いまで聞こえてくる。
口まで聞けるのか、このダンボールは。
いや、もしかしてボディがダンボール製のロボットだったりするのか?
…って、そんなわけないよな。
どう考えてもアレは人間がダンボールを運んでいる、ってただそれだけの話。
ただ、そのダンボールがそいつの体よりかなりでっかいってだけで。
それも、すれ違い様にのぞきこまなきゃ誰だかもわからないくらい大きいってだけで。
ついでにいうと、あの感じからすると中身も相当重たいんだろうな、って感じ?

自分よりも力のある、大きなやつに運んでもらえばいいのに。
誰にも頼めないのか、誰かに頼むということすら思いつきもしないやつなのか。
どっちにしろ不器用なやつだ。
…でも。こんなハメに陥る人間を俺は一人だけ知っている。

心に浮かんだその名を口にしてみる。

「…小牧さん?」
「えっ?あっ、わ、わ、わ、わひっ!?」

途端に挙動不審。危うくダンボールと床が仲良しになりかけるところを阻止する。
そしてダンボールはそのまま俺の手に。
ずっしり。
うむ。予想通り結構重たい。
む?このダンボールが俺の手にあるということは、今までこれに隠されていた人物は…

「ふわぁっ、に、荷物が…って、こ、こ、こ、こここ河野くん!?」
314つないだ手の先、指の先・2(2/4):05/03/07 04:30:55 ID:FJt9yJyB0
現れたのは、俺の想像通りの人物。我らがクラスの「いいんちょ」こと委員長の小牧。
荷物が手元から消えたことに驚いているのか、俺がそこにいたことに驚いているのか。
もしや両方か?
…前言撤回。意外と器用じゃないか、いいんちょ。

「も〜、急に声掛けるからビックリしたじゃないですかぁ〜」
小動物のように手を振り回しながら、抗議してくる小牧。
でも、瞳が笑ってるから本気で怒ってるわけじゃないようだ。
「ごめんごめん。お詫びにこれ持ってくよ。どこまで?」
「え?」
おいおい、そんなに目を見開いたら目ん玉落っこちちゃうぞ、いいんちょ。
「だから、俺がこのダンボール運ぶからさ」
「や、や、そんな、悪いですよぅ。そんなに重くありませんしっ」
いや、さっき明らかにふらついていただろうが。
「いいっていいって。たまには周りも頼りなよ、小牧さん」
「え〜、でも…」
それでもまだ逡巡している風味。
「こういう時はさ、ありがとう、って言えばいいんだよ?」
我ながらちょっと、いや、かなりキザだったかな。
小牧の反応を横目で窺う。困っているのか、足元をずっと見ているようだ。
う〜ん、強引過ぎたかな…。

俺が前言撤回しようとしたその時。
「…ぁ…」
消え入りそうな声で。
恥ずかしいのか、俯いたままで。
「…ありがと……」
真っ赤な顔をした小牧が呟いていた。

こうして俺は、資料室まで小牧の荷物持ちとなった。
315つないだ手の先、指の先・2(4/4):05/03/07 04:35:24 ID:FJt9yJyB0
資料室までの道行きはお互い無言。
少し前の俺だったら「何か話さなきゃ、でも何を話せばいいのかわからない」って感じで
すごく居心地の悪い思いをしたんだろうけど。
それは、そう悪い沈黙じゃなかった。

「この辺に置いとけばいいかな?」
「多分…。先生からも『資料室に持ってけ』って指示しか受けてませんからね〜。
 ええ、ええ、この際どこに置こうが知ったこっちゃないですよ〜」
あら、珍しくなんか強気?つーか、何気に得意気?
「でも…河野くん、つき合わせてごめんね。ホントに用事とかなかった?」
「あったらこんなことしてないよ。だいたい、それは言わない約束だろ、おとっつぁん」
「ゲホゲホ、いつもすまないね〜、…って、何言わせるんですかぁ〜」
しかもノリまでいいぞ。もしや意外とご機嫌なのか?
「他に運ぶものってないの?」
「も〜、いくら私でも一度にそんなに頼まれ事はしませんですよ〜だ」
ベーっ、と舌を出しながら言われても。しかもその舌の色、人間の舌の色じゃないし。
「小牧さん…もしかして食堂に売ってた変なキャンディー食べなかった?」
「え?そ、そ、そそそ、そんなことないですよ〜」
お〜い、あからさまに動きが変ですよ?
「だいたい、何を証拠にそんなこと…」
無言で壁にかかってる鏡を指差す。
「あれさ、ドラキュラキャンディーって言うんだけど、味は普通なのに食ったら舌の色
 変わるから一発でわかっちゃうんだよな〜」
「食べてません」
「だってその舌…」
「これは、その、そう、さっき舌を噛んじゃったんです!ほ、ほら、もう用事も済んだ
 んですから帰りましょうよ〜」

将来ピュリツァ賞を取る男としてはここで追及の手を緩めるべきではないのだが、小牧
があまりにも必死なので大人しく帰ることにする。つーか、別にそんな賞狙ってないし。
316タマ姉に弄られ隊隊員:05/03/07 04:47:23 ID:FJt9yJyB0
すいません、途中名前欄間違えました。>314は正しくは3/4ですね。
またもやタマ姉まで至らず。これがほんとの「うちのタマ(姉)知りませんか?」orz

とりあえず話の分量でいくと、今回のが
雄二「あっちでタマ姉の足跡見たよ!」
ってな感じなので、この後の連続演出の後黒王に乗ったタマ姉が
タマ姉「待っていたぞタカ坊!」
といったらBB確定のはずです。

…ってことでガセ演出でなければもう2回くらいで終われるはず。
長い上に北斗ネタですんません。

>294タソ
続き書いてください是非!
タマ姉分が足りないので人様の話で補給したいのです…。
3171/4 297−300の続き:05/03/07 11:11:48 ID:h/2a/2kt0
「るー…… 迷惑になったりしないか」
相変わらず渋るるーこ。だけど嫌がってというわけじゃない。
なによりも俺の妄想みたいなことになるのは何が何でも止めなくちゃいけない。
ぎゅっと手を握ってかきくどいた。
「迷惑なんかじゃないって!
 公園でも言っただろ。こんなときは頼ってくれていいんだ。
 俺の家にいてくれよ」
「る」
もう一方の手で掛け布団をずり上げた。顔が半分がた隠れてしまう。
「るー」
そのままうなずいてくれた。

「む〜」
「良かった。じゃあ、晩御飯の用意をしないとな。何がいい?」
「む〜む〜」
「るー。おにぎりがいい」
「む〜む〜む〜」
「なんだ、またか。別のでもいいんだぞ」
「む〜む〜む〜む〜」
「うーの握った、あれがいい」
「む〜む〜む〜む〜む〜」
「そうか……って、うるさいな。
 どうした、このみ、ふくれっつらして」
珍しく険のあるこのみの視線の先にあるものを見た。
「あっ、悪い、すまん」
慌てて手を離す。
「ごめん、わざとじゃないんだ」
「気にするな」
相変わらず顔を隠したまま、るーこがつぶやく。
それでもこのみのふくれっつらはまだ直っていなかった。
3182/4:05/03/07 11:13:29 ID:h/2a/2kt0
「いいな、いいな、るーこさんはずっとタカくん家に泊まれて」
「そんなつまらないことを羨ましがらなくたっていいだろ。
 だいたい、このみだって月一回は家に泊まりに来てるんだし」
「でも一回だけだよ。るーこさんはずっとなのに」
「それは、るーこには理由があるんだからしょうがない」
「そうだけど……」
布団から顔を出した。いつもの声で、喋りだす。
もう今は完全に普通に戻ったようだ。
「うーこのはうーの家に泊まりに来るのか?」
「あっ」
しまった。
あまり話したいことでもなかったのに。

「いや、それは……」
「それは、うーこのにも月に一回発情期がくるからか?」
「っ! うんっ! そうだよるーこさん」
やにわに笑顔になってるーこに近づくこのみ。
「ちょうどこのみも今日からなんだ。4月だし、今月は長いんだよ」
「ちょっ、ちょっと待てこのみ。おまえ発情期の意味分かってんのか?」
「それくらい知ってるよ。動物が繁殖のために行動する時期でしょ。
 猫が鳴き声をあげたり、孔雀が羽を広げたり、象がいい匂いを出したりするの」
「いや……間違いじゃないけど、それが主目的じゃないんだぞ……」
「駄目なの? タカくん……」
「うっ」
「うー、見苦しいぞ。さっきうー自身が言ったはずだぞ。
 うーこのがこんなふうになったら、うーはずっとそばにいてやると」

……いや、ずっととまでは言ってませんけど。
このみはこのみですげえうれしそうな顔してこっち見てるし。
3193/4:05/03/07 11:14:42 ID:h/2a/2kt0
「いや、あれは発情期じゃなくて風邪だと思ったからで……」
「タカくん、発情期だと熱が出るのなら風邪と一緒だよ」
あくまで押し通そうとするこのみ。
さすがに、少しは厳しくしてやらねばなるまい。

「じゃあ、このみは発情期なのに熱も出てないだろ」
「あうっ」
指先で額を突く。
「どうした、発情期じゃなかったのか?」
「うう〜」
「うーこの、違うのか?」
「え、えっと」
追い詰められてきょろきょろと視線をさまよわす。
はっと表情を変えたかと思うと、
「そっ、そうだ。ゲンジマルが耳をピクピクさせるのが面白いから、
 あの鳴き声に似た声をこのみ出せるんだよ。
 えへ〜、これでこのみも発情期ということで、一緒に泊まっていいよね?」
「なんだ、そりゃ。それは猫の習性だろ……」
……いや、ちょっと待て……それって──
3204/4:05/03/07 11:16:36 ID:h/2a/2kt0
「じゃあ、いくね」
「このみ、やめ」

「にゃ〜、なお〜」

空間が凝固した気がした。


るーの神様。俺は何も聞いてません。そんな鳴き声なんて聞いてません。
それにこのみは人間です。いかに声が似ていようと霊長類です。
猫ではないのです。にゃーでもありません。
そうです。だから後ろの布団からもぞりという音が聞こえるのも幻聴に決まってます。
このみが視線をあげて俺の背後を不思議そうな顔して見ているのは何かの見間違いです。
しゅるしゅるという音が聞こえるのも幻聴です。
肩に手を置かれた気がするのは気のせいです。
耳元に息がふきかかっているのは窓から風が入っているからです。

「 や 」 幻聴です。
「 ら 」 幻聴です。
「 な 」 幻聴です。
「 い 」 幻聴です。
「 か 」 いやあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!
321名無しさんだよもん:05/03/07 12:39:45 ID:DJvkVi350
ここのところ、るーこ分が多くて嬉しいぞ
これをやる

つi

>>316
このまま最後まで出てこなかったら
ある意味、神。
果たしてタカ坊はタマ姉にめぐりあえるのか!?
322名無しさんだよもん:05/03/07 13:49:41 ID:5oC0Dq99O
>>320
つi


つーかこの際、タマ姉出てこなくてもいいから委員ちょハァハァSSをぁpぇ
323名無しさんだよもん:05/03/07 21:05:29 ID:FRoRrMhC0
(゚∀゚) エッロッス!エッロッス!
324名無しさんだよもん:05/03/08 08:51:46 ID:jnB9cV+K0
いいんちょ!いいんちょ!
325たか坊、帰還せず1.2a:05/03/08 22:52:14 ID:nUdUnloH0
自販機まで一直線に走る。
途中で同じクラスの数人とすれ違ったりはしたものの、タカ坊とはすれ違わなかった。

自販機の横に置いてあるくずかごの前に、見覚えのある二年生の女の子が立っていた。
「"ありがとう"ぐらい言わせなさいよ、バカ貴明…」
手に持っていたエスプレッソの空き缶をゴミ箱へ勢い良く投げつける。
「うそおっ…」
少し残っていたのであろう。濃褐色の液体が彼女の顔に飛んだ。
「貴明……覚えてなさいよ!」

貴明…タカ坊のこと…だよね、この娘となんか関係あるのかな。

「タカぼ…貴明が、何か?」
一緒に登下校していたから、顔は覚えられていたようだ。
「あ゛っ、さ、ささようならっ!」
私の顔を見るなり後ずさりして走り去ろうとしている。
人の顔を見て後ずさりって感じ悪くない?もちろん顔には出さずに返す。
「はい、さようなら。気をつけて」
自分でもわかるほど引きつった笑顔。口元が少しゆがんでる気がする…タカ坊のことだけは冷静になりきれないのだ。
「は、はいっ、うわぁっ!」
彼女は通用口の段差に思いっきりけ躓いていた。あの娘、一つのことしかできないタイプと見た。
なぜあんなに貴明に闘争心を燃やすのか?

そういえば、私もタカ坊を見ると無性に"触りたい"という衝動に駆られる。
あれには確たる理由がない。タカ坊がいるから触りたい。匂いをかぎたいと思う。
生き物として本能のようなものだ。
私も彼女も、タカ坊に狂わされている。それは間違いないみたいではある。

…タカ坊、恐るべし。
326たか坊、帰還せず1.2b:05/03/08 22:53:02 ID:nUdUnloH0
自販機の残された私は……そうだ、喉が渇いてたんだっけ。
「何飲もうかな…」
しばらく考えて紙パックに入ったレモンティにした。

校門に戻ろうと思ったけど、さっきの娘がやっぱり気になる。
タカ坊って他の女の子とも仲良く出来るんじゃないの?。

教室で待ってみよう。そうだ。そのほうが簡単だ。
鞄が残っていれば待機、空振りだったら急げばいいし。
ルール違反なのは重々承知してる。でも、タカ坊が気になる。
ほんとは掃除当番じゃなくて、他の女の子と会ってたりして…
…まさかね、そんなはずない。タカ坊はそんなことしない。
困ってる人を助けて面倒なことに巻き込まれるとかはありそうだけど。

疑ってるわけじゃないけど下駄箱に向かうことにした。下駄箱からタカ坊の教室を目指せば
すれ違いは無いはずだから。

自分の靴を上履きに入れ替え、ついでにタカ坊の下駄箱もチェックする。帰ってたらまずいからね。

中には靴が入っていた…ラブレターは無し。
まだ学校にいる。
私はタカ坊の教室へ向かって歩き始めた。今度はすれ違う生徒にも気を配りながら。
327環流の人:05/03/08 22:54:55 ID:nUdUnloH0
続けてしまいますた。
弱タマ姉でお送りしております。
恐れ入れます。
328名無しさんだよもん:05/03/08 23:33:05 ID:c8nNjI2N0
ケツメイシのさくらを聞くと、脳がタマ姉で一杯になってしまうのは多分俺だけなんだろう。
それはともかくGJ(゚∀゚)
329名無しさんだよもん:05/03/08 23:50:57 ID:nUdUnloH0
>>328
俺的に、タマ姉の心情はaikoの 桜の時 だと推測しております。
ご参考までに
ttp://www.utamap.com/showkasi.php?surl=65614&title=%BA%F9%A4%CE%BB%FE&artist=aiko&ss=aiko&sk=aiko
330名無しさんだよもん:05/03/09 00:05:30 ID:ZaROuZco0
西脇唯の彼女になりたかった日のサビを聞くたびタマ姉アフターを妄想するのは俺だけでいい。
それはそうと>>325、GJ。
3311/4:05/03/09 00:17:16 ID:P0Cyb8jl0
>>297-300 >>317-320

「ふふふ」
珍しく小さな声で笑いながら、背中から抱きしめられた。
「うー。しよう」
もう冗談めいた口調はまるでない。ぞくぞくと何かがかけあがる。
それが辿り着く前に慌てて俺は振り向いた。
「待て、ちょっと待て」
「考え直せ、もう一度。るーにそんな標語は必要ないぞ」
正面から抱きつかれる。ぎゅうと押し付けられた。
それほどふくよかではなさそうなるーこだったが、さすがにここまで密着すると
何がどうなのか少しわかってしまった。母さん、少し賢くなったよ。

邪な思考を横に押しやり、返す刀でるーこの身体を離す。
「頼む、るーこ。ちょっと落ち着いてくれ」
目をあわせて即ぐらついた。あの表情と視線が戻っていた。
「家までがまんしたんだぞ。うー、ほめろ」
「ああ、よくがんばったな、るーこ。だから、もうちょっとがんばろうな」
「それはできない」
三度抱きついてくる。
「るーこ、今はこのみの声のせいでたまたまそうなっただけだ。
 ちゃんと、そういうことは、るーこの意思で相手を選ぶべきだ」
なんとか自分を曲げて身体を離す。

るーこは少し表情を変えた。いつものそれに近くなり、安堵した。
「うーは一つ勘違いしているぞ」
「な、何を?」
なんとか引き伸ばしたい。落ち着ける方策を考えるまで。
「発情期でも、上に乗せる雄を選ぶのは、雌の役目だ」

息を飲む声は聞こえてしまったろうか。
3322/4:05/03/09 00:18:46 ID:P0Cyb8jl0
「迷惑じゃないと言ったのは嘘だったのか?」
「そ」
「頼ってくれていいと言ったのも嘘だったのか?」
「それは」
「そばにいてもいいと言ってくれたのも嘘だったのか?」
「違う、嘘じゃない」
「うーはるーが嫌いか?」
「嫌いじゃない」
「るーでは発情しないか?」
「違う、そんなことない」
「それなのに?」
「ごめん、でも、駄目だ」
だから、今は駄目だ。

「うーは嘘つきだ。嘘つきは泥棒のはじまりだぞ」
「ごめん」

るーこが下を向く。表情が見えなくなった。
代わりに、その後ろに硬直した顔のこのみが見えた。
なにげなく言葉が口をついた。
「それに、ほら、今はこのみもいるから」

俺はその言葉を後でひどく後悔した。
3333/4:05/03/09 00:21:09 ID:P0Cyb8jl0
「そうか」
冷たい声音が聞こえた。
「そういうふうにいうのか」
髪を舞い上げて上を向いた。
「見損なったぞ、うー」
とん、と胸を突かれた。それは本当にたいしたことのない力だった。
たたらを踏んだのは、後傾姿勢のせいなのか、その表情とさきほどまでとは違う
光りかたをした瞳のせいなのか、どちらともわからない。
どちらにせよ、気づくと俺は椅子に座り、後ろ背に両手にキーボードのコードが
絡みつき、両足首には何重にもくくられたマウスのコードがあった。
それ以上は、すぐに布のようなもので目隠しをされた俺にはわからなかった。

「な、なんだ、これ」
不自由な姿勢で力をこめる。
どんなふうにからみついているのか、手や足はまるで解ける気配をみせない。
「無駄だ。そのマウスやキーボードの引っ張り強度はかなり強靭だ。
 そんな態勢で無理に切れるものか」
「冗談だろ。そんな都合よくいくわけが」
「”るー”の力をみくびるな。
 るーがうーを押した時にバランスをくずしたのも、
 椅子がちょうどこっちを向いていたのも、
 動いた椅子が机にぶつかってマウスとキーボードが落ちたのも、
 マウスとキーボードがたまたま両手両足にからまったのも全ては確率の問題だ」

このみの大きな声がかかる。
「タカくんっ」
「このみ」
その呼び方をしたのは俺ではなかった。るーこの声だ。まるで聞いたことのない。
見えてはいないが、このみの声はそれ以上しなくなった。
3344/4:05/03/09 00:23:19 ID:P0Cyb8jl0
「どうした、このみっ」
「心配するな、うー。このみには何もしない」

このみの声がしなくなり、ゆっくりと近づいてくるような雰囲気の中、ふと俺は気づいた。
「そうか、そうだ、るーこ。エイプリルフールだろ。そうだろ」
「よく気づいたな、うー。今は4月馬鹿だ」
ほっとした。強張りが抜けるとともにぴんとはっていたコードが若干緩む。
「間違いだ。るーこ。エイプリルフールはずっと続くんじゃない。
 4月1日だけなんだ」
ズボンのベルトの留め金がはずされた。
「そうか。不便だな」
ボタンをはずす。
「それなら、4月1日馬鹿とでもすべきだ」
ゆっくりとジッパーが下ろされていく。
「うー。るーを信じろと言ったのを覚えているか?」
トランクスの上をなぞる。
「あっ、ああっ、覚えてる。だから、るーこ、いいかげんに」
すぐに充血をはじめたそれが起き上がる。
「そうか、覚えているのか」
直接触れられた。
「るっ、るーこ!」
熱い息が俺自身にかかる。
「あれは嘘だ」

先端を、噛まれた。
335名無しさんだよもん:05/03/09 03:49:04 ID:G7E7ZO240
ギャー!
336名無しさんだよもん:05/03/09 09:07:15 ID:Wwlz372d0
寸止め〜
かよ!
337名無しさんだよもん:05/03/09 20:41:21 ID:d04hdova0
てっきり「や ら な い か」でオチがついたものと思ってたよw
3381/5 言葉はいらない その1:05/03/10 02:00:03 ID:R/gzJ1SL0
 吐く息が白く煙り、風にたなびく。
 教科書が一杯に詰まった鞄を肩にかけなおし、空を見上げると黒く重い雲が広がっていて、世界はまるで
フライパンか鍋で、雲で蓋をされてしまったかのように見える。
 そんな空からひとかけら、白い結晶が舞い降りてきた。俺のところに落ちてくると思ったそれは、風に乗っ
て方向を変え、どこかに消えてしまった。

 新たな季節を告げたのは雪。吹き付ける風はどこまでも冷たかったけど、自然と頬が緩む。
 何かを期待していたワケじゃない。
 そんな季節の物語。


 言葉はいらない

 チャイムが鳴って、自分がいつの間にかリビングのソファに寝転がってテレビを見たまま寝てしまっていた
ことに気付いた。そういえばまだ晩飯も食べていない。時計を見ると夜の十時。そこでもう一度チャイム。こ
んな時間にこの家を訪れるようなのは一人しか思いつかない。
 まったく……、この前オトナなDVDを手に嬉々としてやってきた時のことをもう忘れてしまったのだろうか? 
二人して画面に集中していた所為で、雄二が家に居ないことに気付いたタマ姉がやってきたことに気付け
なかったあの悲劇を。あの恐怖体験は筆舌に尽くしがたい。ホラー映画として一本分くらいの価値はあった
かもしれない。
 そういうことならば二本分お得だったワケで、まあつまりそのブツそのものには感謝しているし、その後の
ことを差し引かなければ十分に感謝に値する。で、こんな時間にやってくるということはまた同様の用件であ
る可能性が高いワケで、そういうことなら無視してやることもない。
 などと思いつつそそくさと玄関に向かっている辺り、まあ、なんというか、俺も男だということだ。
「こら、雄二、こんな時間になに考えてんだよ。タマ姉に気付かれないようにしてきたというならあげてやらん
でも……」
 そう言いながら玄関を開けて固まる。
 そこにあったのは予想だにできなかった光景。
 肩を震わせて立ち尽くしている一人の少女と、地面に落ちたスポーツバッグと、強烈な違和感。
3392/5 言葉はいらない その1:05/03/10 02:00:46 ID:R/gzJ1SL0
「…………」
「…………」
 無言で見詰め合う。
 違和感はふたつ。
 ――ここにいるわけない娘がここにいること。
 ――知っている娘なのに、違う娘のようだということ。
「……えっと、よっち……だよね?」
 無言のまま少女は頷く。その瞳は真っ赤で、頬には涙の跡が拭かれもしていない。
「この……」
 このみの家なら隣だよ、と、言いかけて、自分の愚かさを恥じた。そんなことは分かりきっているはずだ。
その上でこの家にやってきたというのなら、俺に用件があるのだろう。夜の十時、涙の跡を隠しもせずに、友
人とすら言えないような男の家のチャイムを鳴らす、そんな用件が。
「……このみ関係?」
 ふるふると力なく首が横に振られる。
「このみに連絡したほうがいい?」
 ふるふる。
 開け放たれたままの玄関から、冷え切った空気が流れ込んできて、体が震えた。とりあえず玄関先で涙
目の女の子といつまでも話にもならない話を続けるワケにもいかない。ご近所に見られたらどんな噂が立つ
か分かったものではない。
「あがる?」
 こくん。
 よっちは足元のスポーツバッグを拾い上げると、まるで幽霊のような足取りで玄関をくぐる。
 ほんの数分、外気に晒されていただけなのにすっかり体が冷えてしまっている。リビングの扉を開けるとエ
アコンの効いた暖かい空気がありがたい。
「とりあえずそこに座ってて、何か暖かいものをいれるよ。コーヒーでいいかな。インスタントだけど」
 よっちは言われるままにリビングのソファに身を沈めると、こくんと頷いた。
 やかんに水を入れてコンロにかける。マグカップを二つ用意してインスタントコーヒーをひと匙ずつ入れて、
角砂糖のビンを出してくる。
3403/5 言葉はいらない その1:05/03/10 02:01:28 ID:R/gzJ1SL0
 ふと顔を上げてリビングの様子を覗き見ると、どうしたのか、寒くないはずの室内で肩を震わせるよっちの
頬を一筋の涙が流れ落ちるのを見てしまう。慌てて洗面所に行ってタオルを一枚持ってきて渡す。
「洗面所、あっちだから、なんだったら顔を洗ってきたらいいよ」
「……あり……がとう……」
 やっと口を利いてくれた。ほっと一安心したところで、コンロにかけたやかんが激しく自己主張しているのに
気付いて慌てて駆け寄って火を止める。沸騰したばかりのお湯をマグカップに注いで、リビングのテーブル
の上に並べる。その間に洗面所からは水音が聞こえてきて、よっちが本当に顔を洗いに行ったのだと分か
る。
 自分の分のマグカップに角砂糖をひとつ放り込んで、口をつけると熱すぎて慌てて離す。
 足音が聞こえて、そちらを見ると顔を洗ったよっちがやってきて座った。少なくとももう新しい涙は湧いてな
い。
「……落ち着いた? コーヒー熱いから気をつけて」
「はい。見てましたから――」
 不思議な感じだった。今、目の前に居る少女は俺の知っている「よっち」という娘のどんなイメージとも違っ
ている。別人だと言われたら納得してしまいそうだが、それが間違いであることもまた分かっている。そして
以前からよく知っている彼女のことはすごく苦手だったはずなのに、今目の前に居るこの少女に苦手意識を
感じたりはしない。
「……何も訊かないんですか……」
「話したくなければ、とりあえずは訊かない」
「……センパイ、昔から変なところで聡いッスよね……」
 よっちはマグカップを手に取り、ブラックのままのコーヒーに口をつける。
「……薄い」
「こんな時間に濃いコーヒー飲むわけにもいかんだろ」
「……それもそッスね……」
 そして沈黙。なんとなくその空気が重くて、なんでもいいから口にしなきゃいけないと思った。
「寒くない? エアコン、温度あげようか?」
「いえ、大丈夫です。コーヒー、暖かいから……」
「そっか……」
3414/5 言葉はいらない その1:05/03/10 02:02:11 ID:R/gzJ1SL0
 会話終了。ダメだ。もっとなにか続くような話題を見つけないと。あー、話題話題。なんか共通の話題という
と、やっぱりこのみのことか? このみのことじゃないって感じだったから、このみの話題は出してもいいんだ
よな?
 ……それとも今はただ黙って沈黙に身を委ねるほうがいいのか?
 そんな風に思い悩んでいた俺はどんな顔をしていたのか、いつの間にかよっちはマグカップを手にしたま
まじっとこちらを見つめていて、それに気付いた俺がその視線を受け止めるとクスッと、初めて笑った。
「センパイ、困ってるッスね」
「ああ、いや、その、ほら、びっくりはした」
「ごめんなさい。他に行くアテが思いつかなくて……」
 このみのところも、ちゃるという仲の良さそうなキツネ娘のところにもいけなかったということ。それはどうい
う意味なんだろう。
「センパイ、今夜ご厄介になってもいいですか? どこで寝ろって言われても文句言わないですから……」
 まだ充血した赤い目で上目遣いされてしまっては、断れるわけがない。でも……。
「帰らないと、家の人、心配するよ……」
 きゅっとよっちの眉がひそめられた。そして大きく首を横に振る。
「心配なんて……、心配なんてしないッスよ、あの人たちは……」
 歯を食いしばって涙を堪えようとしているのは分かったが、同時にそれは失敗もしていた。ぽたりとマグ
カップの中に涙の一滴が落ちる。
「センパイ、お願いだからあたしがここにいること誰にも言わないで」
「そんなことできるわけ……」
「……お願い……」
 ぽたぽたとよっちの膝に涙の雫が落ちる。多分女の子の涙には何かの魔力が宿っているのだろう。それ
を見ただけで体は動かなくなり、頭は何も考えられなくなる。胸は締め付けられたように苦しくて、このまま
だと死んでしまいそうだ。
「……分かった。でも一晩だけだぞ」
「……はい……」
 そう言って頷いたよっちは明るい笑顔を……浮かべたりはしなかった。ただゆっくりとその眼を伏せると、
大きな涙の粒が一筋、頬を伝って、落ちた。
3424.5/5 言葉はいらない その1:05/03/10 02:03:12 ID:R/gzJ1SL0
 よっちは「どこで寝ろって言われても文句言わないですから」とは言ったものの、さすがに女の子をリビング
で寝かせるわけにはいかないし、かといって俺の部屋というのはもっとダメだ。幸いなことに我が家にはこの
みという前例がいるので、その慣例に従うことにして、俺のベッドで一緒に……ってそれ違うだろ。自分。
 このみがいつも泊まっていくのは一階の客間だ。――いや、だった、というべきか。独り暮らしが始まって
この方、泊まりとなるとこのみはいつも俺の布団に潜り込んでくる。最近はもう仕方ないなと諦めムードでも
ある。このみにはいい加減「俺離れ」してもらわないと将来困ったことになりそうだ。
 布団を敷き終わってリビングに降りると、ちょうどよっちがシャワーを浴びて出てきたところだった。着ている
ものが変わっているところを見るに、スポーツバッグの中身はお泊り対応済みということだったみたいだ。つ
まり始めから外泊するつもりで家を出てきたということになる。
 最初から俺の家に来るつもりで……?
 いいや、なんとなくそれは違うような気がする。そうだったなら「行くアテがなくて」なんて言葉は出てこない
だろう。よっちは途方に暮れて、そしてここにたどり着いたのだ。このみのところでも、ちゃるのところでもな
く、ここに。
「やっぱりあたしセンパイ困らせちゃってるッスね」
 俺がそんな思索にふけっていたからだろうか。
 らしくもなくボソリとよっちが呟く。
 11時を過ぎてテレビはなにやらニュースを垂れ流しにしている。
「困らせてるのはいつものことだろ」
「そう、ッスよね……。ごめんなさい」
 素直に謝られてしまって、本当に困った。
「あ、いや、そんなつもりじゃないから。びっくりはしたけど、ほら、ウチにはこのみもよく泊まりにくるし、そん
な困るようなものでもないって」
 それにこんな大人しいよっちは調子が狂う。もちろんいつものように元気一杯でこちらを困らせまくる、そん
なよっちにもいつも調子は狂わされっぱなしなんだけど。
3435/5 言葉はいらない その1:05/03/10 02:03:55 ID:R/gzJ1SL0
「とりあえず俺晩飯食ってないから、カップ麺でも食おうと思うんだけどいる?」
「……お腹空いてないから大丈夫ッス」
「そか、食いたくなったらキッチンに置いてあるから遠慮なくどうぞ」
「……はい」
 やかんに残っていたお湯を火にかけなおしてカップ麺に注いでリビングへ。
「センパイ、もしかして晩御飯それだけッスか?」
 二杯目のコーヒーの入ったマグカップを手によっちが苦笑する。
「あー、いや、ほら、なんというかこんな時間に腹いっぱい食べるわけにもいかないだろ」
「むむむ、顔にいつもカップ麺が晩御飯ですって書いてあるッスよ」
「ぬお、バレたか。このみにはひとつ内密で頼む」
「はい。センパイには迷惑かけちゃってるッスから、任せてください」
 すこし陽気な会話、けれどよっちは視線を漂わせて、ひとつ長いため息をつく。
「……センパイ、独り暮らしってどうですか?」
「どうって言われても、気楽といえば気楽かなあ。朝ちゃんと自分で起きなきゃいけなかったりはするけど。
まあ俺の場合、このみとかタマ姉が世話焼きに押しかけてきてくれるから助かってるといえば助かってるし」
「寂しかったりしません?」
「いーや、全然」
「お父さんとお母さん、海外でしたっけ?」
 あれそんなこと話した覚えないぞ。
「このみから聞いたんスよ。センパイのご両親は海外に行ってるって。連絡とかまめにしてるんスか?」
「いーや、それも全然。向こうからの電話も月に一回あるかないかってところだなあ」
「そッスか……」
 それっきりよっちは黙ってしまう。話しながらちゃっちゃと食い終わっていたカップ麺の汁をシンクに流す。
「とりあえず寝るとこ、こっちだから」
 そう言ってよっちを一階客間に案内して、自分はシャワーを浴びた。出てくるとリビングの明りはついたま
まだったが、よっちの姿はすでに無くて、俺は奇妙な高揚感を感じながら明りを消して自分の部屋に戻る。
この高揚感にはなんとなく覚えがあった。修学旅行なんかでクラスメイトと同じ部屋に寝るときのあの不思議
な高揚感だ。
 やれやれ、うまく寝付けるかどうかあまり自信が無い。
344名無しさんだよもん:05/03/10 02:05:31 ID:R/gzJ1SL0
眠気の力を借りてかなり危険な見切り発車してみる。
生暖かくヲチしてくだされ。
345名無しさんだよもん:05/03/10 02:17:51 ID:/M8wK6zI0
\( ゚∀゚)/<よっちキター!!!!

これからどうなるか楽しみだGJ!!
346名無しさんだよもん:05/03/10 02:18:44 ID:/M8wK6zI0
あげちまった・・・orz
347名無しさんだよもん:05/03/10 03:05:13 ID:Q/EVr2j30
この後よっちの親父が手下連れて殴りこんできたら・・・ (((( ;゜Д゜)))
348名無しさんだよもん:05/03/10 04:50:25 ID:xwN6KGsp0
キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!!!!

よっちスレの彼ですか?死ぬほど応援してるぞ、ガンガレ!

(゚∀゚)よっち!よっち!
349名無しさんだよもん:05/03/10 09:14:14 ID:Q3sHiGha0
>>347
実家がそっち系統なのはちゃるじゃなかったか?
350名無しさんだよもん:05/03/10 10:50:30 ID:JRE/FZgc0
(゚∀゚)よっち!よっち!
まぁ当然、自分の部屋には……!?
351名無しさんだよもん:05/03/10 13:17:28 ID:BtiN61D3O
よっち可愛いよ可愛いよよっち

妙にしおらしいよっちがなんか(・∀・)イイ!
352名無しさんだよもん:05/03/10 13:45:41 ID:FKTqS2Yp0
>>344
上手いなーと思って読んでたら我楽多の中の人でしたか
執筆ペースが落ちてるとの事ですが焦らずまたーり続き期待してますよ
3531/9 言葉はいらない その2:05/03/10 22:41:42 ID:R/gzJ1SL0
 ピピピピピ――。
 いつもどおりの朝が訪れる。思ったよりはよく眠れたようで、頭はすっきりだ。問題はいまいち布団から出
る勇気が出ないところだろう。冷え込みのキツさに比例して布団の中の心地よさは上がるから、今日のこの
感じだと相当冷え込んでいるに違いない。
 だがエアコンのリモコンは遥か遠く。分かっている、布団から出られるように、と、布団の近くに置かないで
おいてみたのだ。もっともそれならば目覚ましを遠くに置けばいいのだろうが、まだそこまでの勇気は湧いて
こない。というか、これだとますます布団から出にくいだけのような気がする。
 だがいつまでもこうしているワケにもいかない。特に今日などはよっちが下にいるワケで、であるからして
間違ってもこのみの襲来を許すわけにはいかず……、まあこのみが布団からそう簡単に出てこれるわけな
いし、その辺は安心してるけど……。
 ええい、とにかく気合を入れたら出られる。出るぞ、出るぞ、出るぞ、布団から出るぞッ!
 ……でも布団気持ちいいなあ。いつもにも増して布団が暖かい気がする。夜の一時間より朝の五分だよ。
ここで目を閉じれば至福の時間を得られるのは間違いない。ああ、でも出なきゃなあ。
 よし、やるぞ。
「どりゃぁっ!」
 気合を入れて布団を跳ね上げようとして失敗する。というのも右手に絡みついた柔らかい感触がその動き
を封じたからで……。
「どわぁっっ!」
 さすがのこのみもこの不意打ちだけはなかった。右手に絡み付いていたのは当然、ではないけどよっち。
その肩を揺さぶって起こそうとして、その手が固まる。
 俺は差し出した手を引いて、そっとベッドを抜け出した。
 よっちの頬には拭いたはずの涙の跡。ということはこれは昨夜、あれよりも後に流された涙だ。
 結局何があったのか何も聞いていないし、聞くわけにもいかないような気がしている。けれど分かってしま
うこともある。よっちは独りで眠ることに耐えられなかったんだろう。見知らぬ家だから、というわけではない
ような気がする。もしそれだけならばよっちはこの家には現れなかっただろう。
 誰かに傍に居て欲しかった。でもその相手は限られてもいた。
 そりゃいくら鈍感な俺にだってよっちが家出してきたことくらい分かる。
3542/9 言葉はいらない その2:05/03/10 22:42:25 ID:R/gzJ1SL0
 幼い頃には俺も家出したことがある。その頃の自分の記憶を掘り返すと、笑ってしまうほど些細なことが原
因だったはずだ。家出先だって雄二のところだった。笑ってしまう。すぐ親に知れることを心の何処かで望ん
でいたのかもしれない。
 よっちを起こさないようにそっとベッドを抜け出す。本当なら起こすべきだろう。そして追い出すべきだ。俺に
は何の関わりもないし、大体子供なんて本当にずっと家出してられるものじゃない。そりゃ今から本当に失
踪とかされたらすごく後味は悪いだろうケド……。
 やっぱりこのみには連絡しておいたほうがいいのかもしれない。よっちが家にいる今のうちに……。
 着替えを持ち出してリビングで震えながら着替える。食パンを焼いてほおばり、ルーズリーフを鞄から取り
出してシャーペンを咥えながら、文面に悩む。
 もしもこのみに教えるなら、よっちのことはウチで確保しとくべきだ。親御さんは多分心配しているだろう。
そういう意味ではよっちが何処にいるか、少なくとも俺が把握しているのは大事なことだと思う。
 でも……。
 俺は白紙のルーズリーフを持って自分の部屋に戻る。
 よっちはまだ起きていない。枕元に腰をかけて、その寝顔を眺めてみる。
 頬に残る涙の跡。
 もしこのみに教えれば、俺は俺を頼ってきたよっちを裏切ることになってしまうんだろう。もちろん頼るのは
俺でなくても良かったんだろうケド、そしてこのみに教えるのが一番いいことなんだろうケド……。
 けど、けど、けど……。
 何度も何度もその言葉を頭の中で繰り返しているうちに気付く。
 けど……、の後に続く言葉はなんだ?
 そう考えてみると、答えはひとつしかなかった。
 正しいと思うことと、正しいと感じることは、時として背反する。
3553/9 言葉はいらない その2:05/03/10 22:43:08 ID:R/gzJ1SL0
 冬休みを目前に控え、期末考査も終わった学校はもう開放的なムードに満ち満ちていた。生徒たちの話
題は主にクリスマスのことに終始しているようだ。考えてみれば終業式が24日だから、終業式が終われば
そのまま集まって遊びに行くという生徒が多いのかもしれない。
 とは言っても俺にはあまり関係が無い。今のところ残念ながらクリスマスには何の予定も入っていないし、
我らがタマ姉の存在が公になっている今、大抵幼なじみグループに振り回されてこの手のイベントを過ごす
俺を誘おうなどと言った酔狂な者は誰も居なかった。ただ一人を除いては……。
「貴明、ブラックサンタ団に入らないかね」
 そう声をかけてきたのは当然ながら雄二。これでは幼なじみグループからの脱却は一生図れそうに無い。
 まったく昨夜来たのがこいつだったらどれほど救われたことか。だがそれは言っても仕方ないことだ。
「ブラックサンタ団? なんだそりゃ」
「決まってるだろう。街角で恋人とあま〜いクリスマスを満喫している連中に、一人身の我らから心からのク
リスマスプレゼントを届ける。そんな愛と夢にあふれた秘密結社だ」
 くっくっくっと底意地の悪い笑い声をあげる。
「それは、なんというか、今世紀最も夢の無い秘密結社ということになりそうだな」
 少なくとも今の時期からその方向に努力を向けるなら、まだ女の子に声をかけるほうがよほどマシなん
じゃないだろうか? 女の子の中にもクリスマスを一人身で過ごすのは寂しいとか、そんな風に考える子が
いてもおかしくないとは思うのだけど。
 しかしそれは決して口に出さない。そんなことをすれば、俺も巻き込まれるからだ。もしも万が一雄二が俺
も含めて女の子との約束なんかを取り付けた日には、俺はクリスマスまでにサンタクロースのバイトをするた
めにフィンランドに飛ぶことになるだろう。
「というわけで貴明には俺の親友としてナンバー2の座を空けてある。さあ喜んで拝命仕れ」
「謹んで辞退させていただく。だいたいクリスマスなんて一大イベント、タマ姉が放置すると思うのか? 俺も
お前もまたなんかに強制参加させられるのは目に見えてるぜ。目を閉じれば浮かんでくる。なあ、南瓜騎士
の雄二くんよ」
 さっと雄二の目が恐怖の色に染まる。
3564/9 言葉はいらない その2:05/03/10 22:44:48 ID:R/gzJ1SL0
「あの万聖節前夜祭の悲劇が再び繰り返されるのか? そうなのか? 貴明、お前何か知ってるのか!?」
 忘れもしないアレはひと月半ほど前の話だ。タマ姉に呼び出されて向かった先は近所の幼稚園前だった。
そこではすでに雄二が待っていて、何が起こるのかを聞こうとしたらその前に背中を突付かれて振り返ると
黒マントにトンガリ帽子をかぶったこのみがいて、ハロウィンのことなんてすっかり忘れていた俺がその姿に
ツッコミを入れようとした瞬間背後から雄二の悲鳴が響き渡り、驚き振り返るとそこには雄二の頭に顔の形
をくりぬいたカボチャを叩き付けたタマ姉が立っていて……。
 あわわわわ、その後のことはもうよく覚えていない。なんか初冬の道端で思いっきり脱がされて着替えさ
せられたような記憶は多分なにかの間違いだ。
「知るわけ無いだろ。むしろ情報収集はお前の役目だ。タマ姉がこのクリスマスに何を画策してるか、早急
に調査してくれよ」
「そうか、任せとけ……」
 雄二は肩を落としてとぼとぼと歩き去っていった。

「タカくんはクリスマスはどうするのー?」
 帰り道でこのみにそう訊かれる。
 このみ、お前もか。
 しかしこのみがわざわざ予定を聞いてくるということは、
「タマ姉からまたなんか悪巧みの話とか聞いてないのか?」
「えー、タマお姉ちゃんはそんな悪代官みたいなことはしないよー」
 一瞬脳裏に時代劇の悪代官に扮するタマ姉が浮かぶ。もちろん越後屋はこのみ。ほっほっほっ、越後屋、
お主も悪よのぅ。いえいえーお代官様ほどではありませんでありますよ。
 なんか妙にしっくりくる。
「あー、なんか雄二と遊ぶ約束しちまったような気もするなー」
 とりあえず逃げの一手を打っておく。
「あ、タカくんもなんだ」
 なに!? まさかこのみ、ブラックサンタ団に入ったのか。
「わたしも友達と遊ぶ約束しちゃった。タマお姉ちゃんに言っておいたほうがいいかなぁ」
「そうだな。そうしてくれると助かる」
 このみから言えばタマ姉も無茶なことは言い出さないだろう。
「…………?」
3575/9 言葉はいらない その2:05/03/10 22:45:30 ID:R/gzJ1SL0
 このみと別れて、ポストを覗くとピザ屋のチラシが一枚だけ。それ以外には何も入っていなかった。
 そうか、それが答えか。
 家のドアに手をかけると鍵はかかっていなかった。玄関先は今朝のまま、よっちの靴が転がっている。
「ただいま」
 よっちに言ったというよりは両親がいた頃の習慣だった。いつの間にか誰も居ない家の中に、返事のない
ただいまを言うことに何の違和感も感じなくなっていた。
「あ、センパイ、おかえりなさいッス〜」
 だから「ただいま」に返事が戻ってくるということがどんなことかすっかり忘れてしまっていた。
「一晩だけの約束だぞ」
 よっちの声が返ってきたリビングを覗くと、エプロン姿のよっちが台所で格闘中だった。
「まだその約束の有効期限内じゃないッスか〜」
 まあ確かに今夜泊まっていかない限りはそういうことになるだろう。
「一宿一飯の恩は返さないといけないッスから、センパイの食生活に愛と潤いをッスよ〜」
「そいつはありがたいな」
 どうやらすっかり元気を取り戻したようだ。すこし安心する。
 部屋に戻って着替えるとすることがなくなって、なんとなく顔は出しておいたほうがいいだろうと思ってリビ
ングに降りる。
「で、なにを作ってんの?」
「ふつーにカレーッスよ〜。大目に作っておけばしばらく食べられますよん」
 カレーが普通なのかどうかは分からないが、数日分の食い物になるなら確かにありがたい。
「手伝うこととかある?」
「いやぁ、大丈夫ッス。厨房はあたしに任せておいてくつろいでてくださいッスよ〜」
 そういうことなら大船に乗ったつもりで待っていよう。
 まあそれが大きな間違いだったワケだが……。
3586/9 言葉はいらない その2:05/03/10 22:46:12 ID:R/gzJ1SL0
 ――三時間ほど後――。
「カレーだな……」
「カレーッスよ」
「見た目は……」
 この際じゃがいもの皮が剥かれていないことなどは目をつぶろう。幸い洗って芽を取るくらいはしてあるみ
たいだ。ニンジンはまあ剥かなくてもいいだろう。肉はどうやら焼かずにいきなり煮込んだようだ。これも大し
た問題ではない。
「これはなんだ?」
 俺は皿に盛り付けられたカレーライスのルーの中から大きな塊をスプーンですくいあげる。
「リンゴッス。隠し味ッスよ〜。知らないんスか?」
 知ってるとか知らんとかの前に、磨り潰せ! 隠れてないものは隠し味とは言わん!
 あまりに心のツッコミが激しいと逆に声が出なくなるもんなんだと初めて知った。
「まーまー、美味しいかもしんないじゃないッスか〜」
 もちろんその可能性はある。口にするまで分からないのが料理だ。見た目が綺麗で不味いものも、見た目
がダメでもウマいものもある。だが調理した本人が、美味しい……かも?
「味見してないだろっ!!」
「味は見るもんじゃないッスよ〜。舌で感じるもんス」
「ぬぅぅ、屁理屈を。先に食え、じゃないと食わん」
「む〜ワガママッスねえ。美味しいに決まってんじゃないッスか」
 心外だと言わんばかりのむくれ顔で、カレーもどきをひょいと一口放り込む。
「……う゛…………おいしいな〜」
「絶対ウソだーーーー!!」
「まあまあ、センパイも一口。死にゃしませんって」
 食事に命はかけたくないぞ。とは言っても、実際のところよっちが何時間か苦闘して作ったカレー。食わな
いわけにはいかないだろう。具の中で圧倒的な存在感を誇るリンゴを避けて、できるだけルーとご飯だけを
スプーンに乗せる。
 ……ええい、儘よ。
 ぱくっ……。
3597/9 言葉はいらない その2:05/03/10 22:46:55 ID:R/gzJ1SL0
 …………。
 …………。
「……うわぁ……」
 普通、カレーで失敗したというと、水とルーの分量を間違えたとか、辛さを間違えたとか、ルーを焦げ付か
せたが関の山。その辺りのことなら覚悟できていた。だが、これは……。
「よっち……」
「うッス」
「……不味いって、なんなんだろうな……」
 カレーの革命――レヴォリューション――だ! といえば、これはひとつの革命かもしれない。
 なんせ苦い。辛いとか甘いとかじゃなく、苦いのだ。リンゴが入ってるんだから、どちらかというと甘いのを
想像していたのが過ちだった。ストレートパンチを警戒していたら、反則の蹴り技が飛んできた感じだ。一体
材料になにを使ったのかが気になるが、恐ろしくて訊けたもんじゃない。
「ダメ……ッスか?」
「食物としての域を離脱してるとまでは言わんが、食欲をそそられはしないのは確かだな」
「にゃはは、じゃ、センパイの分もあたしが食べるッスね。お鍋の分はもったいないけど捨てちゃいましょう」
 明るく笑ってよっちが俺の分の皿を自分のところに引き寄せる。
「食わなくていいって。コンビニかなんかでお弁当買ってこよう、な?」
「……食べるッス! 自分で作ったものの責任は自分で取るッスよ!」
 くわっと目を見開いて断言する。まあその心意気は良しとすべきだろう。
 心の中だけでため息をつく。まったく俺はなにやってんだろうな。
「しゃーねーな。ほれ、皿返せ」
「え?」
「俺も食うよ。コンビニから帰ってきて倒れられたりしてたら困るからな」
 そうして二人で苦いカレー食べた。二人とも皿の上の分が食べ切れなかった。
3608/9 言葉はいらない その2:05/03/10 22:47:38 ID:R/gzJ1SL0
 ざー……。
 よっちは洗い物もすると言って聞かなかったが、なんとか説き伏せてキッチンに立つ。多分このカレーもど
きを自分で処分したかったのだろう。聞けば材料もこっそり自分で買いに行ったのだという。鍋に一杯の量。
これだけの材料を持って帰ってくるだけでも一苦労だっただろう。
 それを思うと、なんとなくこのまま捨てるのは忍びない。もしかすると一晩置けば味が変わるかもしれない
し、どうにか味を調整できるかもしれない。まー、単に俺が貧乏性なのかもしれないけど。
 洗い物が終わり、エプロンを外してリビングを覗くと、すっかり意気消沈したよっちがソファに沈み込んで、
テレビを眺めていた。テレビはなにか大仏やらを解説したりしている。間違いなくNHKか教育……。
「帰んないのか?」
 もうひとつのソファの方に腰を下ろす。時計は8時過ぎを指している。外はもう真っ暗で、帰るんだとすれば
一応送っていくつもりでいた。
「……あたしってダメだなぁ……」
 それは独り言のようだったので聞こえないフリをする。
「センパイもあたしなんて邪魔だから早く出てけばいいって思ってるッスよね……」
「それは……」
 違う、とすぐに断言できない自分の弱さを悔いた。
「いいんスよ。言葉より、センパイの困った顔が全部教えてくれるッス」
 よっちは両手をあげて、大きく伸びをする。
「あー、長々とお邪魔してごめんなさいッス。なんもお礼できなくて申し訳なかったッス」
 立ち上がってペコリとこちらに頭を下げる。そしてくるっと振り返って、客間のほうに歩き出す。
「帰るのか?」
 その背中に呼びかけても返事はない。俺は仕方なく立ち上がると、玄関に向かう。すぐにスポーツバッグ
を肩からさげたよっちが現れる。
「送るよ。そんな無茶苦茶遠くはないんだろ。家」
3619/9 言葉はいらない その2:05/03/10 22:48:47 ID:R/gzJ1SL0
 よっちの表情が固まった。笑うことも、怒ることも、思い浮かばなかった顔。その奥からなんとかよっちはい
つもの笑顔を引っ張りだしてくることに成功した。
「悪いからいいッスよ〜」
「悪いもクソも、こんな暗い中女の子独りで返せないよ。さ、いこう」
「……イヤだっ……」
 張り付いていた笑顔の仮面は脆くも崩れ去っていた。ここにいるのは昨日、この家のチャイムを鳴らした時
のよっちだ。このよっちと、俺が知っていたよっちと、どちらが本当のよっちの姿なのかは分からない。
「あたし、帰らない……帰れないよ……」
 震えているよっちの肩を掴んで抱きしめるべきなのかどうか、迷う。多分そうするべきなんだろう。けど体は
思うようには動いてくれなかった。俺の無言をどう捉えたのか、よっちはすがるような目でこちらを見上げる。
「ねぇ、センパイ、置手紙に書いてくれたよね。帰るなら鍵はポストに入れとけばいいから好きにしていいっ
て。だからあたしはここにいるの。だからここにいるのよぅ……」
 よっちの手が俺の服を掴む。
 抱きしめたい。
 けど、ダメだ。
 ……違うから。よっちのこと好きだったりはしないから。
 よっちがすがりつくことのできる誰かを――俺を、じゃない――必要としていて、それに応えられるところに
たまたま俺が居たというだけのことなんだろう。だからほんのすこしの間抱きしめて、よっちが落ち着くまで
そうしてあげればいい。
 でも、できなかった。
 よっちは俺の胸に顔を埋めて泣いている。
 俺は迷い続けている両手をぎゅっと握り締めて、結局何もしなかった。
 拒絶でも抱擁でもない。それが俺の意思表示だった。
362名無しさんだよもん:05/03/10 22:49:55 ID:R/gzJ1SL0
 よっちにもっと様々な失敗をさせた上で(´・ω・`)ショボーンさせようとも思いましたが、そこまで不器用じゃな
いと思うんだよなあ。そればっかりであんまり行を割くのもなんなんで、料理だけで。
 貴明のヘタレっぷりを書けるといいのですが、あんまりヘタレられても困るし難しい……。
 あと、よっちスレの彼は俺じゃありませんです……のよ。
363名無しさんだよもん:05/03/10 23:02:48 ID:uoXKwjm4O
>>362
神様乙です!
またしばらく2ちゃんに張りつく日々が続きそうだ………www
364ある日、アイス屋の前にて6(1/6):05/03/10 23:41:18 ID:tvsGlYDH0
「たかちゃん、お待たせ!」
「うん」
「はいこれ、たかちゃんの。アーモンドとクランベリーヨーグルトのダブル」
「よくわかったね笹森さん。俺が食べたいのがアーモンドとクランベリーヨーグルトだって」
「もう、たかちゃんったら! 二人っきりの時は『花梨』って呼んでって言ってるのに!」
「う、うん……花梨」
「たかちゃんのことなら全てリサーチ済みだかんね! 何だってお見通しだよ!」

「……」
「……」
「……」

「私のはこれ。バナナとクッキー&チョコレートのダブル」
「お、そっちも美味そうだね」
「たかちゃん、食べてみたいの? しょうがないなぁ。一口だけだよ」
「あーん。――うん、美味しい」
「私もたかちゃんの、食べてみていい?」
「ああ、いいよ」
「あ〜ん。――うん、おいしい!」

「……」
「……」
「……」

「あ、たかちゃんほっぺにアイスがついてる」
「ん?」
365ある日、アイス屋の前にて6(2/6):05/03/10 23:41:51 ID:tvsGlYDH0
「ほら、ここ。拭いてあげるね」
 ふきふき。
「ん、花梨、サンキュ」
「えへへ」

「……」
「……」
「……」

「ねえたかちゃん、今度の日曜日、デートしようよ」
「んーそうだな。花梨はどこに行きたい?」
「う〜ん、裏山の探索にもまた行きたいし、幽霊が出るって噂の廃屋にも行ってみたいし……」
「ははは……、それはデートとは言わないね花梨」
「よし、決定権をたかちゃんに委ねま〜す! 私はたかちゃんと一緒ならどこだっていいよ!」

「……せ」
「せ?」
「せ〜ん〜ぱいが〜い〜る〜ぞ♪
 あ〜の〜こ〜は〜……♪」
「……帰る」
「歌わせてよ! 最後まで歌わせてよ!!
 ってか郁乃、帰るってなにゆえ!?」
「何の用で連れ出したのかと思えば、まさか覗きだったとはね。やってらんない」
「覗きじゃないよ郁乃、これはいわば、社会勉強の一環!
 カップルの行動から何かを学び、自分の時にそれを活かす! そのためのウォッチング!」
「その、自分の時っていつなわけ?」
366ある日、アイス屋の前にて6(3/6):05/03/10 23:42:29 ID:tvsGlYDH0
「ぐ……痛いトコついてくるね」
「……予定は未定」
「それに、あの二人から何が学べるっていうの?」
「それは、これからこれから♪」

「う〜ん、行き先かぁ。遊園地なんてどう……」
「あ、やっぱナシ。今はとっても裏山の探索がしたい気分!
 というわけで日曜日は、裏山に行きま〜す!!」
「いきなり覆すし! 何で裏山に行きたいの?」
「うん、一番身近なミステリスポットでありながら、私たちはまだまだ、あの裏山を知り尽くして
ないと思うんよ。
 私たちにとって未開の部分をくまなく調べれば、何かに遭遇できるかもしれないよ!」
「何かって、何?」
「ツチグモとかヤマビコとか」
「それは日曜朝のヒーロー番組! フィクションだよフィクション!
 万が一いたとしたら、それは危険すぎ! 鬼さんに任せよう!」

「日曜日に、裏山で化け物探し、だってさ」
「……」
「……」
「で、あの二人から学べるものって?」
「そ、それは……。
 あ、そ、そう! ピクニック、カノジョはピクニックに行きたいんだよ!
 ただカノジョ、ちょっと素直じゃなくて、何か理由付けがしたかったから、化け物探しとか言って
るっしょ。そうに違いない!」
「ピクニックの言い訳が化け物探し? 無理があるでしょ」
367ある日、アイス屋の前にて6(4/6):05/03/10 23:43:05 ID:tvsGlYDH0
「その無理を押し通すのが、恋する女の子のラブパワー! うん、これは学んでおくべきっしょ!!」
「……無理があるのはお前だ、よっち」

「ところでたかちゃん、ミステリの勉強はちゃんとしてる?」
「い、いや、最近は、あまり……」
「もう、駄目だなぁたかちゃんは。ミステリへの探求心がまだまだ足りないね。
 いい? 日頃の地道な知識の積み重ねこそが、ミステリへとつながる鍵なんよ!」
「ご、ごめん」
「とまあ、お説教はこれくらいにして。今日はそんなたかちゃんに、じゃ〜ん!!
『Yファイル』ファーストシーズン全24話のDVDで〜す!!」
「え、何これ?」
「たかちゃん『Yファイル』知らないの?
 世界中で実際に起こった不可解事件を基に作られた、全米で大人気のドラマシリーズだよ!
 ミステリ研会員なら絶対見ておくべきだよ!
 ホントは全9シーズン持ってきたかったけど、さすがに重たいから、とりあえず今日はファースト
シーズンだけ。はい、たかちゃん貸したげるね。
 で、花梨会長からたかちゃんに宿題。これ、日曜日までに全部見て、感想文を提出してください。
 わかった?」
「全24話って、これ、1話大体1時間だよね。ってことは全部見るのに約24時間!?
 今日は金曜日だから…………って無理、絶対無理!!」
「睡眠時間を削れば大丈夫だよ!」
「睡眠くらいまともにとらせてくれ〜!!」
「もちろんこれで終わりじゃないよ! ファーストを見終わったらセカンド、その次はサード、その
また次はフォースと、9シーズン全部きっちり見てもらうからね!」
「勘弁してくれ〜〜〜!!」
368ある日、アイス屋の前にて6(5/6):05/03/10 23:43:47 ID:tvsGlYDH0
「ドラマDVD24話、日曜日までに全部見ろ、だってさ」
「……」
「……」
「で、今度は何が学べるの?」
「うむむ……な、何が学べるかって……。
 あ、そうそう! 趣味の共有っしょ!
 やっぱ大好きな人には、自分の好きなものを同じく好きになってもらいたいじゃない!
 趣味の共有はカップルの長続きの秘訣! カノジョの場合、その趣味があのDVDだってこと!」
「なるほどね、要するに、大好きな人にはああやって、自分の好きなものを無理やりにでも押しつけ
ましょうってことね」
「ま、まあね」
「……趣味の押しつけ、よくない」

「……たかちゃん」
「今度は何かな、花梨」
「さっきアイス買ったとき、ちょっと気になるフレーバーを見つけたんよ」
「ん、新しいフレーバー?」
「うん、今日から発売の新製品、バニラアイスに豆板醤と細切れの白菜キムチを混ぜた、その名も
ずばり、豆板醤キムチ!」
「…………で?」
「たかちゃん、探求心って、大事だよね」
「……もしかして、俺にそれを食べてみろ、とでも?
 嫌だよそんなマズそうなの! どう考えたって絶対アイスに合わないものが、しかも二つも!」
「たかちゃん、物事は何でも実際に試してみないとわからないものだよ」
「そんなに言うなら花梨が食べればいいじゃないか!」
「私はもうアイス食べちゃったから」
369ある日、アイス屋の前にて6(6/6):05/03/10 23:44:31 ID:tvsGlYDH0
「俺もだよ!」
「たかちゃんは男の子なんだから、あれくらいでお腹いっぱいにはならないでしょ?
 花梨はもうお腹いっぱいなんよ」
「嘘つけ! あの程度のアイスで腹がふくれるか!」
「たかちゃん……たかちゃんは、花梨がおデブちゃんになってもいいっていうの?」
「花梨は俺に地獄を見せたいのかよ!?」
「ちゃんとしたお店が売ってる品物なんだから、間違っても死んだりしないよ」
「死ななきゃ何でもいいのかよ!?」
「いいからいいから、花梨がおごってあげるから、レッツチャレンジだよたかちゃん!
 じゃ、買ってくるから待っててね!」
「人の話を聞け〜〜〜っ!!」

「豆板醤キムチ、だってさ」
「……」
「……」
「で、学ぶべき点は?」
「え、え、ええと……愛には時として試練が……。
 ああ、カノジョ、ホントに買ってきたよ。
 センパイ、ホントに食べるのかな…………迷ってる迷ってる…………、あ、食べた。
 うわっ! センパイの顔がみるみる真っ青に!? で、でも、センパイ、さらにもう一口。
 ああ、センパイ、黙々と食べてるよ。どうして、あんな、見るからにマズいアイスを!?
 食べた、食べきったよセンパイ! なんかわからんけどセンパイ格好いいっス〜〜〜!!」
「……きっと、あれも愛の形」
「そ、そう……?」

 おしまい。
370ある日、アイス屋の前にて6 の作者:05/03/10 23:45:06 ID:tvsGlYDH0
どうもです。今度は花梨編です。
>>310さんのリクエストにお応えして、ちゃるよっちコンビに郁乃を混ぜてみました。
どうでしょう?
371某研究者:05/03/10 23:59:28 ID:1v2A+ZPy0
一体タカ坊は何股かけているのであろうか
やはり由真と愛佳の同時攻略は見果てぬ夢なのであろうか
まあこれがギャルゲーの主人公というものだろうか(苦笑)
372名無しさんだよもん:05/03/11 00:34:12 ID:QG3qxSkZ0
クラスタークラスターレールガンの召喚魔法なしででてきたかよw

そしてついに郁乃常連化ですな。
毒舌ガンガレ、超ガンガレw
373名無しさんだよもん:05/03/11 00:56:36 ID:EgGV9ier0
GJ!
これでいざというときは委員ちょといくのんの出歯亀させて、
ちゃるとよっちバージョンに敢行GO!(w
374名無しさんだよもん:05/03/11 01:23:43 ID:Pgyn3KmYO
>>361の直後にアイス屋よっちが来るもんだからもう何が何やらwww
だが二人とも禿しくGJなのでこれをやる。

つi
375名無しさんだよもん:05/03/11 01:27:09 ID:tLusF4u10
>>353-361
天いなの葉月真帆ルートを思い出す… orz
376名無しさんだよもん:05/03/11 01:56:54 ID:iM0itnKr0
アイス屋のひとすげええありがとう。・゚・(ノД`)・゚・。
377名無しさんだよもん:05/03/11 02:07:19 ID:N0rnPJEj0
アイス屋のひと、俺も感謝。・゚・(ノД`)・゚・
378名無しさんだよもん:05/03/11 05:07:19 ID:P3Q5K+Kq0
このSSスレは(゚∀゚)よっちフィーバー!
379名無しさんだよもん:05/03/11 09:19:40 ID:jLVeplmS0
なにげに某研がいる・・・
380跳躍するジャンクション 第三話 0:05/03/11 21:48:51 ID:EM99ZmrN0
久々に投下してみる。>>71-82の続き。
誤字脱字があったらご容赦を。

以下、11〜12レスほど続きます。
381跳躍するジャンクション 第三話 1:05/03/11 21:49:49 ID:EM99ZmrN0
 実のところ、俺は背が高くてバン・キュッ・ボン!のお姉ちゃんが好きなんだよ。瑠璃ちゃんはこのみより少
し背が高い程度だから、第一条件の「背が高くて」にすら当てはまらないはずだが、俺はやっぱり瑠璃ちゃんを
ドラフト一位で獲りたいと思う。なぜか? それは、一言で言えば、“青田買い”。あの背――150センチそ
こそこでバスト80は、結構ある方だと思うんだ。背が高ーくなれば、胸の方も相当の成長が期待できるよなあ
って算段。90超えたりしてな? おおっ、姉貴がゴミのようだ!
 高校生ってのは、背が結構伸びるらしいしね。なんでも聞くところによると、30センチ伸びた人もいるんだ
って? あの貴明も、中学時代はむしろチビだったけど、高校に入ったら随分と伸びて、俺様とドッコイのナイ
スガイになりつつあるしな。瑠璃ちゃんも、目指せスーパーモデルとは言わないが、せめて160以上になって
くれると俺的には嬉しいね。コッテコテの高濃度牛乳とかカマンベールチーズとかいっぱい乳製品を食べて、適
度に運動もしてさ。九条院流で朝に何キロか走ってみるといいかもしれんね。あ、俺は走らないよ。走るのは瑠
璃ちゃん、もしくはドラフト上位指名の女の子な。俺はコーチ。ママチャリに跨ってエヘエヘ笑ってるだけの。

 でもね……こういうこと言うのは今さらかも知れないけど。女ってのは、体や顔も重要なファクターだけど
も、それだけじゃないわな。愛だよ、愛。ハートよ。心よ。内面よ。俺は痛切にわかるよ、誰よりも! 顔や体
がグラビアアイドル並みでも、ハートが猛獣並みじゃどうしようもないよな。それによ、好きでもない女に「雄
二好きすきー」なんて言われても、全然信用できないよな。怪しげな部活や宗教に誘われて、気がついたら化学
兵器やカラシニコフ作ってました、なーんてことになったら目も当てられねえや。
382跳躍するジャンクション 第三話 2:05/03/11 21:50:27 ID:EM99ZmrN0
 そりゃ、恋人になろと言われて(もしくは言って)ホイホイ恋人になれるなら、この世に持てない男も売れ残
り女も存在しないわけよ。俺は瑠璃ちゃんに恋人になろなろと言われたわけだが、実のところは俺は瑠璃ちゃん
にとって、中国にある日本大使館程度の存在でしかないわけだ。ただの脱北者の亡命先、への窓口。瑠璃ちゃん
は亡命を受け入れてもらいたいから、メイドで雇えだの、恋人になろだの、必死に言いつのるわけだが、いずれ
第三国に出て行くのは火を見るより明らか。それじゃあ意味ない。だから、まずは二人の関係を正常化させるの
が先。話はそれからだ。やっぱり、すさんだ心で好きとか言っちゃいけないよ。ドロドロしたのはイヤだ。みん
なで幸せにならなきゃ。俺も、瑠璃ちゃんも、珊瑚ちゃんも、みんな、みんな。
 午後の授業は、そんなことをグダグダと思いながら聞いてた。幸いにも、誰からも指されなかった。現代文の
本読みなんか、俺の前の席でピッタリ終了でラッキー。現代文の教師は、やれ本読みの声が小さいだの、イント
ネーションがおかしいだの、鼻濁音がヘタクソだのとゴチャゴチャうるさい、小姑みたいなヤツだ。俺らはMH
Kのアナウンサーじゃねえっての。もしかして、今日は基本的にツイてる日なのか?

 帰りのホームルームが終わった。今日は修学旅行の打ち合わせがあるので、俺はひとあくびして会合の始まり
を待った。一緒の班の貴明クンは帰り際、俺に向かって決まり悪そうに「後はよろしく」と言うと、さっさと帰
ってしまった。素直じゃない野郎だな。それとも、己のデマ戦術を恥じて、俺に顔向けできないでいるのか? 
貴明はこれからどうするのだろう。珊瑚ちゃんのところにでも行ってやるのか? ああ、それがいい……ってナ
ニ応援してんだ、俺は。ヤツは『雄二お兄ちゃん好き好き大好き☆めっちゃ愛してる大作戦』の仮想敵、地に引
きずり倒すべきレーニン像なのだぞ。瑠璃ちゃんは、ヤツを避けている。俺が最も懸念するのは、ヤツが珊瑚ち
ゃんに介入して、結果的に二人の溝を広げてしまうことになりはしないか、ということだ。ヤツはチキンボーイ
とはいえ、時折無駄に行動力を見せるときがあるしな。まあ、そんときはそんときだ、俺はひたすら前進!前
進!前進!って、中国の国歌かよ。
383跳躍するジャンクション 第三話 3:05/03/11 21:51:20 ID:EM99ZmrN0
 何気なく廊下を見ると、変な顔の髪飾りをつけた変な髪型の女と目が合ってしまった。覚えているぞ、こいつ
は昼休みに、俺の顔面目がけて玉入れのタマを手榴弾のごとく投げつけてきた、ウラー(“万歳”の意味)と叫
ぶ女ロシア兵だ。とりあえず、ここでは“アンナ”と呼称する。
 アンナ(仮名)は、ウチのクラスの教室内をじろじろ覗き込み、誰かを捜しているようだった。他のクラスの
学級委員だろうか? そうだとしたら、探してるのは委員ちょだということになるが、その小牧愛佳はよく目立
つ教壇のところでプリント配る準備をしてるしなぁ、たぶん違うんだろうなぁ。アンナ(仮名)は舌打ちをする
ような表情をすると、俺の方を向いて何やら手招きをしているじゃないか。近くの女子でも呼んでいるのかと思
って周囲を見渡しても、それらしき女子はいない。もう一度、廊下を見た。「キミだよ、そこのキミッ!」とア
ンナ(仮名)が俺を指さして叫んでいる。どうやら、俺を呼んでいるようだった。周囲の野郎どもがヒューヒ
ュー冷やかしやがる。俺はしぶしぶ廊下に出た。

「そこのキミ、ちょっといいかな?」
 アンナ(仮名)が馴れ馴れしく話しかけてくる。
「昼休みのロシアンギャルかい? これから修学旅行の打ち合わせだから、用があるなら早くしてくれよな」
 俺は毒づきながらも、アンナ(仮名)を品定め。こいつの髪型は趣味じゃないが、よく見ると胸や顔つきは悪
くない。背丈も平均的だ。髪をストレートにして、形のいい胸をもう少し強調させればいいかもしれんね。この
学園にもまだこんな女がいたのか、まさしく“美女の原石”だな、などとちょっぴり感心して関心を抱いた。
「ん〜? だれがロシア人なのかなぁ? 私はミステリ研究会の会長、笹森花梨だよ」
「俺は水戸脱藩、向坂雄二。このツラは、一度見たら忘れねえだろ」
 一応、さりげなく自己紹介。ええと、アンナ(仮名)改め、笹森花梨ちゃんね。後で名簿で調べてチェックし
ておこう。ところで、おうちはどこかな?
 その前に、こいつには用具室で襲撃されているわけで、まずは来意を問いただしておく必要がある。
384跳躍するジャンクション 第三話 4:05/03/11 21:51:52 ID:EM99ZmrN0
「露助でもチェチェン人でもいいんだけどさ、俺に何の用? 昼のこと、まだ根に持ってるのか? あれが部室
だなんて知らなかったんだ。つーか、知らねえだろ普通、あんなガラクタ置き場で部活やってるなんてさ?」
「キミ、たかちゃんの友達でしょ?」
 そういえば花梨ちゃんってば、用具室で“たかちゃん”とかなんとか言ってたよな。
「たかちゃんって、誰よ?」
「え? だからぁ、河野貴明くん。たかちゃんは、ミステリ研究会の名誉会員なんよ」
 俺は思わず吹き出した。飲み物とか飲んでなくて、本当に良かった。今日、そう思うのは三度目か?
「ぷぷぷっ、“たかちゃん”はねえだろ、“たかちゃん”は。“タカくん”や“タカ坊”もいい加減にハズいと
思ってたがなぁ、やっぱり“たかちゃん”はありえねえだろ」
 花梨ちゃんはむくれ顔。ムッとした顔も可愛いじゃないの。こういう美女の原石タイプは、ドラフト下位で指
名して、じっくりと育てたいものだね。
「会長と会員を結ぶ“愛のニックネーム”をバカにするのは、人としてどうかと思うけどなぁ」
 花梨ちゃんはそう言うが……貴明って、部活に入ってたっけ? 奴も俺も、ただの帰宅部なんだが?
「ちっちっち。キミは甘すぎ。ベリースウィート。そんなんじゃあ、次のステージに行けないまま、時空の狭間
に飲み込まれちゃうんよ!? まあ、それは冗談として……たかちゃんは、ちゃあんと将来を見据えた上で、ミス
テリ研に入ってるんだからね!」
 なんだい? “ステージ”だの、“時空の狭間”だのって。もしかして、怪しい新興宗教チックなサークルな
のか? 霊的エネルギーで宇宙人と交信するとか言い出したら、ビンゴ。即時撤退だ。
385跳躍するジャンクション 第三話 5:05/03/11 21:52:22 ID:EM99ZmrN0
「たかちゃんも人の子だよね。課外活動で頑張ってアピールして、内申書を少しでも良くしたいってわけね。就
職するときの履歴書にも、クラブ活動の実績を記入する欄がちゃんとあるんよ、知ってた? そこに“部長”と
か“副部長”とか書いてあれば、『おっ、こいつは人をまとめていくリーダーシップがあるな、よし採用だ!』
ってなるわけ。部活に入るだけならどこでもいいんだろうけど、たかちゃんは私と波動がバッチリ合ってたみた
い。そうだよね。どうせだったら相性バッチリな人同士で、好きなことをやるのが一番だもんね。たかちゃん
は、もうミステリ研に猫まっしぐら。そして、『お願いだ笹森さんっ! どうかどうか、僕をミステリ研に入部
させてください! 僕はミステリ研で、笹森さんと一緒に青春の炎を燃やしたいんだ!』って、目をキラキラ輝
かせながら、私の目を真っ直ぐに見て言うんよ。花梨ちゃんだって石や木じゃないんだから、たかちゃんのそん
な姿を見せられちゃあ、気持ちが動かないわけないでしょ?」
 貴明がオカルト系クラブに猫まっしぐらなんて、1ミクロンほどもありえねえ。どうせ騙して入部させたか、
それとも超弩級の妄想パワーで、脳内部員と一緒に脳内クラブ活動してるのか。こいつはヤバそうだと感じてし
まうと、だんだんと気持ちが萎えてくるのがわかる。結構可愛いのになぁ。いや惜しい、まったく惜しい。
「そんな話は初めて聞くなぁ。だいたい、何が言いたいの? 俺だってヒマじゃないんだよね。これから修学旅
行の打ち合わせがあんだよ。用件だけ頼むわ」
 俺は、女の子には発ガン性の疑いがあるチクロ並みに激甘のはずなんだが、一旦気持ちが萎えると応対はぶっ
きらぼうになっていくばかり。教室から感じる委員ちょの冷たい視線も、イライラの増幅に一役買った。
「せっかちだね〜、キミは。そんなんだから、女の子を不安にさせて、ああまで思い詰めさせちゃうんよ? ぶ
っちゃけた話ね、たかちゃんに、もっと積極的に部室に来るように言って欲しいんよ」
「おいおい、何で俺がそんなことしなけりゃならないんだ? そんなもん、電話でも掛けて自分で言いなよ」
386跳躍するジャンクション 第三話 6:05/03/11 21:52:51 ID:EM99ZmrN0
「もちろん、ただでやって欲しいなんて言わないよ? 花梨ちゃんに協力すると、なーんと、もれなくミステリ
研の名誉会員になれちゃいまぁす! 帰宅部のキミにとっても、悪い話じゃないと思うんだけどなあ」
「わりいな、俺は帰宅部に忠誠を誓っているんだよ」
 俺は、部活動自体にさしたる興味がないんだよ。特に体育会系とか、最悪。脳髄や脊髄まで筋肉で出来てるん
じゃないかと見紛うような連中と、一年三百六十五日スポーツ漬けで過ごしたくなんかない。中学生の頃、気の
迷いで野球部に入ったことがあるんだけど、三日で辞めた。スパルタ軍隊式で、事あるごとに連帯責任を持ち出
しやがる。声が小せえ! 連帯責任。ダッシュが遅え! 連帯責任。誰それがサボった! 連帯責任……てな具
合で。集合が遅いからという理由で、部員同士でお互いの顔を殴らされた時、もうやってられんと思ったね。そ
れでバックレた。それ以来、部活と名の付くモノには手を出していない。
 ところで……なんなんだ、“名誉会員”って?
「一応正会員なんだけど、来ることは強制しない、みたいな〜?」
「貴明のこと、さっき“名誉会員”だって言ってなかったか?」
「そうだったかな〜? たった今、たかちゃんは正会員に昇格したから、毎日部室に来る義務があるんよ」
 うわ、チョー我田引水! 水だけで済めばいいが、堆肥や農薬、赤いトラクターまで持っていっちまいそうな
勢いだ。田んぼに残されているのは、ジャンボタニシの卵だけという有り様。じゃあ俺はジャンボタニシの卵
で、タニシタマゴサンドでも作りますか? 食ったら舌が腐りそうだけど、花梨はそれすらも持ち去っていきそ
うだ。冷え切った俺の心は、花梨をドラフトでの指名を見送る意志を示している。
「……ダメ?」
「うーん、ダメだな」
「……どうしても?」
「あきらめろ。そこで終了ですよ」
 そう言って教室に戻ろうとすると、背後ですすり泣く声が聞こえた。花梨だ。さっきまでの威勢はどこへや
ら。肩を震わせて、小さくなって泣いているじゃねえか。教室がどよめいた。「雄二が女を泣かせた!」って。
こちらを見守っている小牧愛佳は驚愕の表情を見せ、それは程なく軽蔑の視線に変わった。ぐう、ヤバイ。
387跳躍するジャンクション 第三話 7:05/03/11 21:53:21 ID:EM99ZmrN0
 この時、俺の脳内で飼っている軍師が囁いた。殿、この娘は使えまする、と。貴明の双子への介入が懸念され
る今、こいつを上手く使わない手はないってわけだ。きっと花梨は、貴明のことが好きなんだ。そうでなけれ
ば、自分のクラブに引きずり込むのに、こんなにも執念を燃やさないだろう。家族構成から好きな食べ物、座右
の銘まで、ちゃんと調べているんだろう。俺が貴明の友人だということも知っていた。素晴らしいね。それにし
ても、貴明はよりどりみどりだな。貴明を教祖にして、宗教団体でも作りたい気分だ。
「うん、まあ、なんつーか……まあ、わかった。でも、期待はすんなよ? ヤツが嫌だって言うのを強制するの
は、俺としてはできねえ相談だからな。せいぜい、嫌われてねえことを祈りなよ?」
 俺は脳内軍師の進言に従い、花梨の話を受けることにした。これぞ「夷を以って夷を制す」の計、ってか。そ
の時、脳内軍師が何やらつぶやいた。他にすることはないのですか? ……どういう意味だ、そりゃ。
「うんうん。さっすが、たかちゃんの友達だね! 話が分かるじゃない。それじゃあ頼んだよ!」
 花梨は即座に満面の笑顔になり、手を振って去っていった。へいへい、猿芝居ってやつね。
 仮に、花梨が貴明とくっついたとしても俺の腹は痛まないし、貴明はナイス乳の女とラブラブになれるのだか
ら、何の文句もあるまい。貴明は花梨と幸せになればいいんじゃないの。俺は双子ちゃん達とよろしくやるよ。
姉貴とこのみは……幼なじみではいられるから、少なくとも不幸にはならないだろう。あの二人なら、将来的に
も恋の相手に不足することはないだろうし……。ふふっ、俺って策士よのぉ。
 だけど、何かギアが噛み合わないというか、潤滑油が足りずにギイギイ鳴るというか。そんな感情が、朝のテ
レビ番組の時刻のように、心の片隅にこびり付いて離れないのは、なにゆえ?

 修学旅行の打ち合わせが淡々と続く。全体行動のスケジュールの確認。ああ、かったりい。イベントは好きだ
けど、こういう下準備は苦手なんだよな。ぶっちゃけ、北海道に繰り出してバカ騒ぎする目的の慰安旅行なんだ
からさ、各自で好きに行動すればいいじゃんかよ、俺たちは幼稚園児じゃねえんだ。君よ、そう思わないか?
388跳躍するジャンクション 第三話 8:05/03/11 21:53:58 ID:EM99ZmrN0
 こういう時は、そうだな、お土産について考えよう。何を買って帰るか、だ。家政婦さんには適当にお菓子の
詰め合わせでも買えばいいとして、問題は姉貴だ。さて、どうしたものかな。去年の修学旅行のお土産は、マカ
ダミアナッツだったよな。カナダなのに。行き先はカナダなのに。食い物にするならさ、アイスワイン買ってこ
いなんて言わないから、メープルリーフクッキーとかさ、サーモンスライスとかさ、いろいろあるじゃない? 
なぜ、マカダミアナッツ? 沖縄土産に鳩サブレや雷おこしを買ってくるようなものだろ。なめてんのか?
 今回はその報復としてだな、西郷像のミニチュアとか、東京タワーの模型とか、いろいろ考えたわけだが、や
はりそれは普通すぎる。どうせなら、「やられた!」と思わせるようなヤツを贈らなければ。姉貴の土産も、マ
カダミアナッツじゃなくて、“MADE IN CHINA”と書いてあるアロハシャツだったら、まだ笑って
許せたかもしれない。何が言いたいのかというと、ボケをかますにはそれなりのセンスが要求されるのだという
こと。姉貴にはそれが致命的に欠落しているのだ。要するに、寒いんだよ。アルカトラズ級の閉鎖された環境に
いたから、感受性が伸び悩んでしまったんだ、きっと。ここは俺がハイセンスな手本を示してやらねば。
 例えば、名古屋城のプラモデル。北海道の城と言えば五稜郭だが、五稜郭のプラモデルなんてないだろうし。
あったとしても買うもんか。姉貴は金のシャチホコでも眺めてろ。土方歳三グッズなんて意地でも買わねえぞ。
 例えば、自衛隊のミリタリーグッズ。空自のパイロット章とか、迷彩柄のショルダーバッグとか。なんだか、
このみが喜びそうだよな。このみの親父さんは陸自の人だからな。姉貴はきっと、笑顔でこのみに渡しちまうか
ら……ダメだ。姉貴が苦虫噛み潰したツラで、地団駄踏むようなヤツじゃないとダメなんだよっ。
389跳躍するジャンクション 第三話 9:05/03/11 21:54:22 ID:EM99ZmrN0
 例えば、ニポポ人形。網走刑務所の受刑者が手彫りで作ってるヤツで、できるだけ気持ち悪い顔してるヤツが
欲しいね。夢に出てきそうなニポポスマイルで、姉貴を骨抜きにしてやるんだ。夢の中で、貴明だと思って背後
からギュッと抱きしめたら、ニポポ人形。貴明だと思ってちゅーしたら、ニポポ人形。貴明の写真をオカズにマ
ンズリこいてたら、いつの間にかニポポ人形の写真にすり替わってるんだ。もう、ニポポ人形でしかイケない体
にしてやる。ただしちょっと問題があって、網走まで行かないと買えないらしい。どうにかならないかなあ。
 その他に、13個ほど候補を考えたんだが、今日はどれもイマイチイマニ。まあ、こんな日もあらぁな。

 家に帰ってから、貴明に電話した。姉貴に見つからないように自分の部屋で、携帯からコッソリと。先日は言
い過ぎたことを詫び、罪滅ぼしにエロゲーを譲渡することを約束した。一度は渡さぬと決めたものの、『雄二お
兄ちゃん好き好き大好き☆めっちゃ愛してる大作戦』を成就させるため、高度な政治的判断により方針を転換さ
せた。それに、このままでは日常生活に支障を来す。今朝の英語の時間みたいなこと(宿題を忘れてボロクソに
怒られたんだよ)になるのは、もうこれっきりにしたいわけだ。ああ、俺はヘタレのタニシだよ、何とでも言
え。笹森花梨のことについては、今は何も言わないでおいた。今それを言ったら、実は花梨に焚きつけられて電
話してきたのではないかと勘ぐられちまうからだ。それはまた、後日。修学旅行のお土産で、このみにミリタ
リーグッズを買っていってやるのはどうか、と会合中に思いついた話をしてみたところ、「それはやめとけ。食
い物の方がいいだろう」との返事。姉貴にはニポポ人形を買おうと思っていることを話したら、「こけしにしと
け。クマのこけしとかじゃない、駅の売店で売ってるような安っぽいヤツ」というありがたいお言葉。いつもの
貴明に戻ったようだ。とりあえずは、これでオッケーだな。
390跳躍するジャンクション 第三話 10:05/03/11 21:55:04 ID:EM99ZmrN0
 部屋でウダウダして夕飯を待っていると、エプロン姿の姉貴がやってきて、買い物を頼まれてしまった。醤油
と料理に使う酒が足りないんだそうだ。ウチで使ってる醤油は、スーパーに置いてあるようなプラスチックのボ
トルに入ったヤツじゃなくて、老舗の醸造元で丹誠込めて一本一本ビン詰めした高級品なんだわ。それを扱って
いるのは市内でも二、三件の酒屋だけだ。買いに行くなら、商店街まで歩いていかなければならない。チャリン
コなんかで行ったらビンが割れちまう。まったく、会合で疲れてるのにメッチャだるいわ。勘弁して欲しい。
「そんなもん、いつものように三河屋のサブちゃんに持ってきて貰えばいいだろ。何で俺が……」
「知らないの? 昨日、三河屋さんのご主人が病気で入院しちゃって、今日は臨時休業なのよ。今日は手術の日
だから、家の人たちが出払っているの」
「マジか? あの風邪も引いたことないオッサンが? いったい、何の病気なんだ?」
「ええと……痔瘻だって」
 ウチはこれでも旧家なので、地元の古くからの商売人たちと交流があるわけだ。叔父さんが地元の商工会議所
の会頭をやっているからか、正月には地元の企業のトップと会わせられたりすることがしばしばある。俺なんか
に会ってどうするつもりなのかは知らないけどさ。俺は適当に頭を下げて、適当な話をして、結構な額のお年玉
を頂戴して、そいつは親父や姉貴に没収されるわけだ。でも、そういう偉い人たちと会うよりは、地元の商店街
の人たちと会う方が気が楽なんだよ。堅苦しくないしな。で、お年玉を貰って、やっぱりそれはボッシュート。
 三河屋のオッサンも、商店街の人たちの一人なわけだ。痔瘻の手術か。どんな格好で手術するんだろう? 
ナースのお姉さんたちに、アナル丸出しの姿をバッチリ見られちゃうんだろうか。うは、痔にはなりたくねえ。
 とにかく、醤油がなければメシにありつけないわけで、俺はしぶしぶながら出かけることにした。こんな時、
クルマがあると楽だろうになぁ。昔は、16歳でも軽自動車の免許が取れたんだぜ。360ccの頃だけど。
「雄二。やっぱりあんた、ハイエナになるの?」
 玄関口で、姉貴が不意に声をかけてきた。
「は? 何の話だよ?」
「タカ坊と、珊瑚ちゃん瑠璃ちゃんの話」
 昨日の話を覚えていたか。どうでもいいことばかり頭に入っていやがる。ここは適当に優等生チックな解答を
しておくことに。
「だから……あれは、貴明に喝を入れるためにああ言ってやったわけでさ。多少貴明達の仲がギクシャクしてる
のは事実みたいだけど、あいつら自身の問題は、貴明に解決させないと意味ないだろ? もちろん、ヤツがいつ
までもグズグズしててハッキリしないなら……そんな状況が続けば、珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんが不幸になっちま
うだけだし、俺が取っちまうってことは十分あり得るぜ?」
「そう……」
 姉貴は、歳不相応な保護者っぽい表情で俺を見た。最近、姉貴はこういう表情をすることが多くなった。姉貴
は俺の下心などとっくに見抜いているのだろうか。それとも、何か他のモノを見ようとしているのだろうか。
「じゃあ、行ってくる」
 俺は保護者モードの姉貴から逃げるように、玄関を飛び出した。どこか無理してるように見える(そう見える
だけかもしれないけど……)のが、いたたまれなくて。
「雄二は、もう少しこすっからくて丁度だと思うんだけど、やっぱり無理か」
 姉貴が苦笑いっぽい声でボソッと言った。
「はぁ?」
 俺は思わず振り返った。
「でも、それが雄二のいいところでもあるから……」
「わけわかんねえ。腐った牛乳でも飲んで酔っぱらったか?」
「バカね。ほら、早く行った! ダッシュで!」
 俺は姉貴に「脳病院に行け」と、頭を指でちょいちょいと指す仕草をしながら、薄暗い路地に駆けだした。

「ガンバレ、雄二」
 そんな声が聞こえたような気がしたが、まさかな。きっと、ボス猫の鳴き声だろうよ。
392名無しさんだよもん:05/03/11 21:58:22 ID:EM99ZmrN0
以上です。
気が向いたら、呼ばれなくてもまた来ます。
393名無しさんだよもん:05/03/11 22:09:09 ID:3ng39Y580
GJ!アンナワロタ
394名無しさんだよもん:05/03/11 22:36:52 ID:aGjQpncc0
陸自のひと…だったのか。
395名無しさんだよもん:05/03/11 22:42:51 ID:AFeRnNPg0
>腐った牛乳でも飲んで酔っぱらったか?

エイリアン・ネイション?
396名無しさんだよもん:05/03/12 18:10:37 ID:Que5z17B0
「言葉はいらない」
第二話ラストにちょいと追加部分が発生したので、1レスだけですが、
まずそちらからどうぞ。
39710/10 言葉はいらない その2:05/03/12 18:11:19 ID:Que5z17B0
 かち、かち、かち、かち、かち……。
 時計の針の音と、よっちのしゃくりあげるような泣き声と、自分の心臓の音だけが聞こえている。よっちの
手は俺の服の胸の辺りをぎゅっと掴んでいて、多分伸びてしまっていることだろう。その両手に挟むようにし
て、俺の胸によっちの頭がぎゅっと押し付けられている。だから俺にはよっちの後頭部しか見えない。
 視線をさ迷わせてみても何も事態の解決になりそうなものは何も無かった。
 どれほどそうしていただろう。俺が何のアクションも示さなかったからだろうか、よっちの手が緩んでそっと
頭が俺の胸から離れた。でもよっちの顔はうつむいたままで、その表情は見えない。
「ねえ、センパイ……」
 涙で詰まった震える声に、心が揺れる。
「あたしずっとここにいちゃダメですか? 家のことなんでもします。センパイの言うことなんでも聞きます。だ
から……」
「無理だよ。すぐ見つかる。このみもタマ姉もこの家の合鍵持ってるんだから……」
 例え俺がいいと思ってもそれが現実だ。
「…………」
 押し黙ってしまうよっちに、俺ができることが何かあるだろうか?
「……あ……」
 俺はそっとよっちの頭に手を乗せる。これが正しい選択なのかは分からない。
「でもカレー全部食うまでは責任とってここにいろよな」
「あ……はいっ!」
 大きく見開かれた目が俺を見上げる。それからその目がぎゅっと閉じられて、顔一杯に笑みが広がる。
「任せておいてくださいッス!」
 それからよっちは涙でぐしゃぐしゃになったからと、顔を洗うついでにそのままシャワーを浴びにいった。俺
はのんびりとリビングでテレビを眺めている。なんだかこういうのもいいかもしれない。家の中で自分以外の
誰かの息遣いを感じられるというのは妙な安心感がある。
 まあ、なるようになるだろう。
 そんな風に楽観的に考えていたとき、いきなり電話が鳴った。慌てて受話器を取る。
「はい、河野です」
――……よっち、いる?
3981/8 言葉はいらない その3:05/03/12 18:13:40 ID:Que5z17B0
――……よっち、いる?
 受話器の向こうから聞こえてきたその小さな声に息が止まる。
「だ、誰?」
――……山田……じゃ分からないか。ちゃる。
 ちゃる……いつもよっちとセットでいたキツネ娘。ぱっと頭にその顔が浮かぶ。でもなんで。
――……このみから番号聞いた。よっち、そこにいるでしょ。
 何故か分からない。だがちゃるはよっちがここにいることに確信を持っているようだった。ならばわざわざウ
ソをつくこともあるまい。直接来られたらすぐ分かることなのだ。
「あ、ああ、昨日からいるよ」
――……ならいい。
 素っ気無く突き放すような語調。
「ちょっと待ったっ!」
――……なに?
「今、電話切る気じゃなかった?」
――……切っちゃいけない?
 にべも無い。無論、電話を切るか切らないかということなら、それはちゃるの自由だろう。けどこちらとしても
混乱しているのだ。もう少しなにか分かりやすく話をしてくれてもいいのではないだろうか?
――……よっちが先輩のところにいると分かれば問題ない。
 ああ、それもそうか。多分ちゃるはよっちの両親から連絡を受けて心当たりを探していたのだろう。ならば、
俺の家によっちがいることが分かれば、それをよっちの両親に伝えればそれで済むことだ。残念ながらよっ
ちのプチ家出もこれにて終了。いつもどおりの日常に回帰する。つまりはそういうことだ。
「その……、黙ってて悪かった」
――……悪いことしたの?
「い、いや、なんにもしてないけど」
 どうにも会話が成立しづらい。
「よっち、家出したんだよな? 何が原因か知らない?」
――……不仲だから……。
3992/8 言葉はいらない その3:05/03/12 18:14:22 ID:Que5z17B0
「不仲って、よっちと両親が?」
 それは十分に予測できたことだった。よっちは言った、「あの人たち」と、それは両親のことであろうし、両
親をそんな風に呼ぶという時点で想像が付く。
――……それもある。両親が不仲というのもある。先輩、よっちをよろしく。
「へ?」
――……ウチにいると言っておいた。
 ちゃるの言うことは一々唐突でその意味を理解するのに時間がかかる。
「それはつまり、よっちが今ちゃるの家に居るって、ええと、よっちの両親に言ったってこと?」
――……そう、ウチに来なかったのはちょっと腹が立った。
「えっと……ゴメン」
――……先輩が謝ることじゃない。よっちが自分で戻る気になるまで預かってやって。
「それは、構わないけど、戻る気にならなかったら?」
――……結婚すれば?
「ぶはっ!」
――……冗談。
「わ、分かってるよ!」
――……先輩、ありがと。
「え? なに?」
 聞き返した時にはもう電話は切れていた。受話器を置いて、ため息ひとつ。
 でも収穫もあった。そういう家庭の事情ならば、俺が首を突っ込んでも仕方のないところなんだろう。ちゃる
の言うとおり、よっちが自分で戻りたくなるまでそっとしておくのが一番いい。それでダメだったら、もう両親
に引き取りに来てもらうしかないだろう。とりあえずはちゃるのところにいるということで、よっちの両親は納
得してるようだし、それでいい。
「センパーイ、上がったッスよ〜」
 どうやらよっちもシャワーを浴びて気分を切り替えたようだ。
「ああ、分かった」
4003/8 言葉はいらない その3:05/03/12 18:15:04 ID:Que5z17B0
 俺もシャワーを浴びて出てくると、よっちはソファに寝転がりながらお笑い番組を見て笑っていた。ううむ、
さっきまでの落ち込み具合はなんだったんだ、と。
 俺もソファに腰を下ろす。
「さっきちゃるから電話あったぞ」
 びくっとよっちがこちらに振り返る。
「な、なんですとー!? センパイ、教えちゃったんスか!?」
「さもよっちがいるのが当然みたいな言い方だったから、つい。カマかけられたのかも知れないけど」
「ああぅ、……そうだ。センパイ、駆け落ちしましょう!」
「なんで俺を巻き込むんだよ。行くなら一人で行け。……というのはまあ冗談で、ちゃるはちゃるのとこによっ
ちが居るって事にしてくれてるみたいだから、後で感謝の連絡くらいしておくように」
「そうなんスか……、流石はあたしの親友。あたしの目に狂いは無かったってことッスね〜!」
「さりげなく自分褒めてるのな」
 苦笑しつつも、ほっとする。やっぱりよっちはこうでないといけないと思う。
 だから、ちゃるから聞いたよっちの家族の問題については言葉にしなかった。
 その代わりに、
「あ、そうだ。よっち、今日学校サボったろ」
「なんのことか分からないッス〜」
 よっちはテレビに視線を向けなおして、足をぱたぱたと動かして返事する。
「く、とぼけおって」
「にっひっひ〜」
「んでも、寺女ってことはそれなりに優等生なんだろ?」
 少なくともこのみの学力では手も足も出なかったくらいではあるはずだ。比較対象に多大な問題があるよ
うな気がしないでもないが、それでも平均と比べれば上のほうになるのは間違いない。
「ん〜、そんなことないッスよ〜。人間集まりゃピンキリいるもんス」
「で、よっちはピンなの? キリなの?」
「真ん中あたりッスかね〜。つまんないですけど〜。こ〜、どうせなら一番下とかスリリングな学校生活が送
れそうなんスけど」
4014/8 言葉はいらない その3:05/03/12 18:15:46 ID:Que5z17B0
「それは勘弁したいな」
 言われてみれば高校なんて、ある程度の学力の範囲内の人間が集まるワケで、それぞれの学力はある
程度均一であるにも関わらず、学校内であっという間に学力格差が生まれていくのは何故なんだろうか? 
そりゃ数人の何でこの学校来たの? という優等生どもは除いたとしても、だ。
「そーゆーセンパイこそ受験とか考えてるんスか?」
「受験か〜」
 まだあまり実感は無い、というのは遅すぎるのだろうか?
「大学に行くつもりではいたけど、どうなるかな……」
「どこか遠い大学に行ったら独り暮らしできるんスかねえ」
「独り暮らししたいの?」
 夜中に――多分寂しくて――人のベッドに潜り込んでくるような娘が?
「独りじゃなくてもいいんスけどね〜」
 よっちはちらっとこちらを見て、またテレビに視線を戻す。
「とにかく家を出たいんスよ」
「家を出るのなら実行中じゃないか」
「む〜〜、センパイがすぐ見つかるって言ったじゃないッスか。ちょっとくらい先取りしたいんスよ」
「まあ、好きにしたらいいさ。できればタマ姉に見つかるような事態は避けたいけどな」
「間男ならぬ、間女ッスね〜。しっかしセンパイもホント、モテモテッスよね」
 くるんとソファの上で仰向けになって、よっちはこちらを見てニヤニヤと笑っている。
「へ?」
「またまたトボけちゃって〜。このみに姉御にあたしにちゃると、モッテモテじゃないッスか〜」
「待て待て待て、またワケの分からんいい加減なことを」
「冗談ッスよ〜。本気にしちゃいました〜?」
 よっちの悪戯っ子みたいな、本当に子供みたいな笑顔。
「んったく、俺はもう寝るぞ。電気消しとけよ」
「はーいッス。あ、センパイ、昨夜は寝顔可愛かったッスよ〜」
「今夜は入ってくんなよ!」
「にひひ〜」
4025/8 言葉はいらない その3:05/03/12 18:16:29 ID:Que5z17B0
 部屋に戻ってからしばらくはネットしたり、雑誌を読んだりして時間を潰す。下からは小さくテレビの音が聞
こえてくるのでよっちはそのまま何かの番組を見ているのだろう。そんなことをしているうちにだんだん眠気
も出てきて、電気を消してベッドに入る。
 ぼけぇとしばらく眠気の襲い来るままに任せていると、いきなり体が揺れる。
 すわ、地震か! と目を開けた瞬間、視界にアップになったのはよっちの顔。どうやらいつの間にか半分
眠ってしまっていたらしい。その間にまたしてもベッドに入り込まれたというわけだ。
 もうため息しか出ない。
「お前、やってることがこのみと同レベルだぞ」
「えへへ、このみとは同い年ですもん。不思議じゃないッスよ」
 そう言われてみればその通りだ。このみだけやけに幼い感じだからそんなことすっかり忘れていた。
「まあ、いいや。さっさと寝ろよ」
「も〜〜、センパイって変な人ッスよね。年頃の女の子が夜這いにきてんスから、それなりの反応とかあっ
てもいいんじゃないッスか?」
「夜這いなの?」
「う……そんなマジに返されても困るんスけど、なんというかセンパイ、あたしに対する態度変わりましたよ
ね。前はちょっとくっついただけでガッチガチに固まってたじゃないッスか」
「今でもいきなりやられりゃきっとそうなるよ」
「そッスか? えいっ」
 ぎゅっと腕に絡み付いてくるよっちの柔らかい感触。でも不思議と以前のような戸惑いはなかった。そりゃ
このみと比べて圧倒的な、そのなんだ、特別柔らかい部分のボリュームに心臓が一回跳ね上がらなかった
かというと、それは否定しない。でもそれはすぐに落ち着いてしまう。
「やっぱり硬くならないじゃないッスか。むふふ、これはこのみとおんなじくらいセンパイに近づいたってことッ
スね」
「つまり女の子扱いじゃなくなったってことだな」
「む〜〜、それは嬉しいような、悲しいような……」
 しばらく黙り込んでしまったので、そのまま寝てしまおうと目を閉じたところで、腕がぎゅっと抱きしめられ
る。
「やっぱり嬉しいッス」
「…………」
「あー、寝ちゃダメッスよ〜」
4036/8 言葉はいらない その3:05/03/12 18:19:07 ID:8hqHXY2C0
 本当にやってることがこのみと一緒だ。
「話がしたいなら、電気つけて起きようか?」
「ダメッス。人間、眠りかけのベッドの上でしか話せないようなこともあるんス」
「ふぁぁ、そうか。がんばって。おやすみ。……いたっ、いたた、頬をつねるなっ」
「にひひ、このみがセンパイのこと好きなの分かるッスよ」
「は? このみが?」
「はい。お兄ちゃんとしてッスけど。センパイって口ではなんだかんだ言っても、相手のこと拒絶しないじゃな
いッスか。眠るのにあたしが邪魔ならベッドから追い出しゃいいんスけどしないっしょ? そもそも昨日だって
普通ならすぐこのみにあたしを押し付けてそれで終わりッスよ。だから安心して寄りかかれちゃうんスよね」
 なんというか、また随分と過大評価されてしまっているのだろうか。拒絶するのも面倒だ、という考え方をし
ているとは思われないらしい。
「そんなもんなのか?」
「そんなものッスよ」
「それじゃ今からでもこのみんとこ連れてくか」
「にひひ」
 よっちが体をすり寄せてくる。
「そう言って、結局そうしないとこがいいって言ってんスよ。お兄ちゃん」
「はいはい。参った参った」
「も〜、人の話ちゃんと聞いてんスか?」
「ふぁ、きーてるよ……」
「……でも本当は聞いてくれてなくてもいいんス」
「どっちなんだよ」
「どっちも本当の気持ちッスよ」
「それじゃ俺は寝るぞ」
「はい。センパイの耳元で一晩ぼそぼそと喋り続けますから、夢の中で聞いててくださいね」
「うわ、悪夢を見そうだな」
「うなされてたら起こしてあげるッスよ。さ、どうぞ、寝てくださいッス」
「そんな顔を思いっきり見られて眠れるかっ!」
「はぁ〜い」
4047/8 言葉はいらない その3:05/03/12 18:19:50 ID:8hqHXY2C0
 いそいそとよっちの顔が布団の中に潜り込んで、俺は今度こそ目を閉じた。
 それからしばらくは静かに時間が過ぎていった。
「……センパイ、寝ちゃいました?」
 唐突によっちが小さな声で呟く。まったく、まだ寝る気がなかったのか。
「…………」
 本当は俺もまだ眠っちゃいなかった。だけど返事をするのは億劫で、このまま眠る努力をすることにする。
「……センパイ、起きないでくださいね……」
 よっちの息遣いが近づいてくるのが分かる。それは本当に耳元で止まる。
 まさか本当に一晩中そこで何か喋り続けるつもりじゃないだろうな。
「センパイ、ありがとう。それとごめんなさい」
 耳朶に寄せられる暖かい感触。
「もうすぐお別れです……」
 息が止まった。体が強張って、しまった、と思った時にはもう遅かった。
「あっ……!!」
 逃げようとしたよっちの体を捕まえる。
「センパイ、寝たフリなんてずるいッス!!」
 俺の腕の中で、よっちの両手が俺の胸をぐいっと押す。
「ズルいのはそっちだろ。なんだよ、お別れって」
「…………」
 しばらくよっちは無言で腕を突っ張っていたが、やがてその腕から力が抜ける。
「……離婚するんス」
「…………」
「ウチの両親、前から夫婦仲はあんまりよくなかったんスけどね。色々あって今度は本当にもうダメみたい
で、あたしはママの実家のほうに行くことになるみたい」
 ちゃるの言うとおりだったけど、事態はそれよりも一段階悪いほうに進んでいたようだ。
4058/8 言葉はいらない その3:05/03/12 18:20:33 ID:8hqHXY2C0
「でもママは一緒にこない。聞いちゃったんスよね。両親があたしを押し付けあってるの。そりゃどちらも愛人
がいりゃあたしみたいなコブは邪魔ッスよね」
「それで家出を?」
「あたしはこの街が好き。生まれ育った街で、たくさんの思い出があるし、友達もたくさんいるから、だからこ
の街を離れたくないんスよ。でもそれはあたしのワガママだってことも分かってるんス。ちょっと好き勝手して
みたかっただけ」
「そうか……」
 それ以上に言葉は出てこなかった。それに多分なにを言ってもよっちの救いにはならないだろう。俺たちは
まだまだ子供で、大人の都合というものには逆らえない。もし俺がこの家でよっちを預かると言ったところ
で、世間がそれを認めるわけもないのだ。
「それで、いつ行くんだ?」
「終業式の次の日……。早く新しい街に慣れたほうがいいからって……」
「……あと、何日もないのか……」
「……ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ。でもだったらこんなことしてちゃダメじゃないかな」
「……え?」
「ちゃるやこのみに話してないだろ? 少なくともちゃるは知らないみたいだった」
「……何も言わずに行くつもりだったんス。ほらあたし泣き虫だから、絶対泣いちゃうんスよ。そんなのってヤ
じゃないッスか」
「イヤじゃないよ。黙っていなくなられるよりよっぽどマシだと思う。ちゃるもこのみも、なにがあってもよっちの
味方なんだから、明日話そう。な?」
「……はい……」
 そっとよっちの体が寄り添ってくる。
「センパイ、ちょっとだけ泣いていいッスか?」
「いまさら訊かなくていいよ。よっちが寝るまでは起きてるから」
 そう言うと、俺の胸に顔を押し付けてよっちは嗚咽を漏らし始める。
 もっと大きな声で泣いてもいいのにな。
 俺はそんなことも思いながら、ずっとその肩を抱いていた。
406名無しさんだよもん:05/03/12 18:21:31 ID:8hqHXY2C0
前回のラストに無理やり追加を挿入したことを反省している。
実を言うと今回はプロットとかほとんど書いてない。話がぐだぐだでもあまり反省はしていない。
俺の話は主人公宅に女の子が押しかけてくる展開ばっかりだが好きだから反省しない。
それと天いなは全然知らないので、話が被ってても反省はしない。
よっちに無理やり妹属性つけてみたが、悪戯っぽくお兄ちゃんと言われてみたいので反省などしない。
もちろん連投規制食らって慌ててIPを変えたことについても反省なんぞしない。
4071/3:05/03/12 18:50:03 ID:zlmnXYXB0
>>297-300 >>317-320 >>331-334

ちゅくちゅくとぺちゃぺちゃと淫猥な音だけが聞こえる。
視界を塞がれた俺にはその音と暖かい舌の感触だけが全てだった。
くわえられる。舐めあげられる。すすられる。先端を掘りおこされる。
指先が亀頭をいじる。手のひらで揉まれる。爪先がやわらかく刺す。
何度も何度も。

握ったそれをやわらかくしこった何かにこすりつけられる。
自分の身体を動かし、小さい範囲で刺激を与えているようだ。
その女の声が漏れた。
「うー……」

制止の声はもう止めていた。一回目の放出の後に。
るーこだと思わないことにした。視界がふさがれているのが幸いだった。
壊れてしまわないように、自分を騙した。
早く、その女の嵐が過ぎ去ってくれるように。

「噛んでもかまわないぞ」
口の中に指を差し込まれる。
指が口内を撫でさすり、唇を擦りながら行き来する。
自分の意思でなく動く物体に、身体が犯されている。
混乱した。
不定期に強く突かれる指先に、唇を窄めて抵抗した。
摩擦が強くなる。抽送の回数を増やされる。
喉から、自分のものとも思えないような声が漏れた。

指先の進入とともに、記憶が底から掘り起こされた。
いつか、似たような記憶があった。
犯された記憶。
4082/3  >406 直後書き込み申し訳ない:05/03/12 18:52:41 ID:zlmnXYXB0
幼い俺。熱っぽい体。そこには自分より大きな身体の人がいた。
その人が俺を覗き込んでいる。
弱い力で必死で抵抗する俺の下着をはぐ。
まるで躊躇もせず、笑いながらそれは行われた。
恥ずかしい格好をとらされ、眺められた。俺はきっと泣いていた。
その人は長く太いそれを取り出し、先端の皮をはいだ。
樹液のように白いものが染み出す。
ひどい太さとつやつやとした表面が恐怖を倍加させた。
冷たい先端が汚いところを探る。震えた。ただ、恐ろしさに。
『力を抜きなさい』
その人の名を叫んだ。泣きながら。
無理矢理貫かれた。
なんの意味もなく理由もわからず勃起した性器が悲しかった。


気づくと、責苦は止んでいた。
「目を閉じて、見なかったことにすればいいのか、うー」
女が問うた。誰かに似た声で。
俺は答えない。

「そうやって自分や相手を騙してきたのか、うー」
「……」

「このみも今日から発情期だ」
「っ……」
このみの名を出された。
「るーが寝ていた布団は、このみが使っている布団なのだろうな」
「……」
「うーの家に泊まりに来ていたのだからな」
4093/3:05/03/12 18:54:42 ID:zlmnXYXB0
「るーはこのみに嫉妬していた」
「……」
「今は違う。きっといつものように、そばにいるだけだったのだろう」
「……」
「このみの気持ちは、るーもすぐに分かった」
「……」
「うーも、気づいているはずだ」
「……」
「だが、それを気づかないふりをする」
「……」
「何かの理由をつけて、自分や相手を騙し、ごまかす」
「……」
「さっきのように」

「ひどい男だな、うーは」
「……」
「るーと同じように」
「……」
「きっと、このみもうーに」
「……」
「猫のように甘い声をあげたり、孔雀のように艶やかな場所を見せつけたり、
 象のようにいやらしい匂いをかいでほしいと思っていたのだぞ」

誰かが動く気配がする。
それはのろのろとしていて、快活なこのみとはとても相容れない。
きっとそれももう、このみではないのだと思った。
410名無しさんだよもん:05/03/12 20:05:25 ID:8hqHXY2C0
えろい空気感がたまらんですな。
GJ!!
411名無しさんだよもん:05/03/12 20:39:12 ID:3HwiAPwB0
GJ!!
こんなエロい展開になると思わなかった。
ただタマ姉好きの見地からいわせてもらうと・・・・あの例のネギ事件を『笑い話』
と捉えず割とシビアな貴明のトラウマの原因というのは・・・まあ、確かにそうなっても
無理も無いんだけどねw
ゴメン、けち付ける気は無いので気を悪くせず、続きドンドン書いてください。
412名無しさんだよもん:05/03/13 01:04:53 ID:8QKfZ6dZO
よっちが、よっちが!(*゚∀゚)=3
413つないだ手の先、指の先・3(1/5):05/03/13 02:20:54 ID:Hmf+favV0
資料室には俺たち以外誰もいない。
ということは、帰るなら電気は消さねばな。省エネは資源に乏しい日本に生きる国民の
義務。エコロジストな俺は戸口にあるスイッチに手を伸ばした。

む。スイッチにしては柔らかい。…って、これ、小牧の手じゃん!
「ひゃあっ」
慌てて引っ込められる手。そういや、小牧って男が苦手なんだっけ。
「ごごごご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!あたし、電気消そうとしただけで
 その、いえ、決して河野くんがどうとかじゃなくって、あの、その、ごめん、なさい…」

真っ赤に染まったうなじ。俯いてるから表情は見えないけど、きっと泣きそうな顔。
見えなくても俺にはよくわかる。だってそれは、ちょっと前までの俺の姿だから。

どうしたらいいかわからなくて、パニくっちゃって。でも相手に悪いから無理して平気な
振りをしようとして。そんな色んな感情がごちゃ混ぜになって。よくわからないけど自分
が悪いような気がしてとにかく謝っちゃって。それでまた自己嫌悪に陥っちまう悪循環。

異性に臆病なのはお互い様。
相手に嫌われたくないから臆病になるのか、相手に好かれたいから臆病になるのか。
俺が前者なら、きっと小牧は後者。一見同じようなそれは、裏返しの関係。

相手が女なら、誰にでも優しい。
でも、優しさには限りがあるから。
自分が磨り減らないように、できるだけ近づかないようにする。
結局そうやって誰にでも優しい振りして、その実誰にも優しくない。
深入りを怖がっているだけの弱虫蛆虫チキン野郎。

昔、俺をそう評した雄二。
当たっているよ。だが、それがどうした。
だって俺はもう、誰も泣かせたくなかったんだ。
414つないだ手の先、指の先・3(2/5):05/03/13 02:21:33 ID:Hmf+favV0
タマ姉が転校する前のあの日。俺はタマ姉を傷つけ、泣かせてしまった。
あんなにケンカに強かったタマ姉が。それも、俺なんかの言葉で。
そんな苦い思い出から、俺は女の子にどう接したらいいのかわからなくなった。

わからないから、苦手だった。
泣かせたくないから、甘やかした。
だって、優しくすれば、少なくとも相手が泣くことはないから。
そして、無意識のうちに深入りを避けていた。

そんな自分を知りながら、いつか平気になるだろう…なんて根拠のない未来に期待して。
バカだよな。自分で動かなきゃ何にもはじまらないのに。


でも、俺にはタマ姉がいた。
タマ姉が、逃げ腰の俺を叱り飛ばして、目を覚まさせてくれた。

確かに、相手の気持ちがわからないのは、怖い。
当たり前だ。俺たちはエスパーじゃないんだ。他人の気持ちなんて、わかるはずがない。
だけど、俺たちには言葉がある。抱きしめあえる体がある。
わからなければ、話せばいい。言葉で足りなければ、触れ合えばいい。
怖いのは、嫌われたくないから。失いたくないから、踏み出せない。
でも本当に失いたくないなら、動かなければいけないんだ。

タマ姉が俺に教えてくれたように。
小牧にも、伝えてやりたい。
俺なんかと違って、本当に他人を想って動ける小牧だから。
そうしたら、小牧の中でも何かが変わるだろうか?
415つないだ手の先、指の先・3(3/5):05/03/13 02:22:10 ID:Hmf+favV0
えてしてパニックなんていうものは、傍らが落ち着いていると意外とすぐに沈静化する。
俺がぼ〜っと考え事している間に、小牧も何とかリカバリーできたようだ。

「…落ち着いた?」
「え、うん…ごめんね。あたし、なんだか恥ずかしいところ見せちゃったみたいで…」
「そんなことないぞ。俺だって似たようなもんだ」
「嘘ですよ〜。河野くん、全然冷静でしたよ?」
「そう見えるとしたら、それは最近…そう、ほんの最近そうなっただけ、だから」
「最近、ですか…?」
「うん」

「…。え〜っと、そのぅ…」
聞きたいけど、聞けないような。聞いていいのか。そんな感じでまごつく唇。
聞きたいなら、聞いてもいいよ。俺はできるだけ優しい声で先を促す。
「何?」
「その、ということは、河野くんは最近よくこんな風に女のコとこうなることが多いって
 ことですか?だから平気ってことでしょうか…?」

うわぁ、そうきたか。
いや、まぁそれもあながち間違いじゃないんだけどさ。
タマ姉の激烈スキンシップに比べたらこのくらいは、確かに。ねぇ?

「いや、小牧さん、あのね?」
「や、その、大丈夫!あたしこう見えて口堅いですからっ」
「だからさ、そうじゃなくてね?…自分で言うのもなんだけどさ、俺もその…女の子が
 苦手だったんだ。ただ、今はまあ、前よりはマシになった、ってそういうこと」
「『俺も』?」
「えっと…その、小牧さんも男子が苦手な方、だよね?」
「え?え?」
…もしかしてばれてないって思ってたのか?
416つないだ手の先、指の先・3(4/5):05/03/13 02:22:46 ID:Hmf+favV0
口をパクパク。まわりをキョロキョロ。しかし彷徨う視線はどんな助けも探し出せず。
観念したのか、ゆっくり口を開く。
「やっぱり…そう見えちゃいますか?鈍い河野くんにもわかるってことは、その、かなり
 はっきり『私男の人ダメなんですよ〜』オーラみたいなものが出まくりやがっちゃって
 るって感じ…です…か?」
動転しているのか、茫然として自分が何を言ってるかわかってないのか。
とにかく、あんたさり気にひどいこといってますよ?俺に対して。
…まぁ、気持ちはわからんでもないけどさ。

「いや、そこまでは流石に。ただ、なんとなくそうかな〜、って。でさ、単刀直入に聞く
 けど、何でダメなの?男の人と一緒にいるのが怖いってこと?」
「や、それは別に。怖いわけじゃないんですよね。単に苦手なだけというか、なんか緊張
 しちゃうというか…」
「なんで緊張しちゃうんだと思う?」
「それはぁ〜そのぅ〜。…ホントになんでなんでしょうね?よくわからないんですけど、
 とにかく頭が真っ白になっちゃうんですよね…。だから余計に避けちゃったりして…」
「でも、HRの時とか普段はわりと普通に話したりしてるよね?」
ときどき涙目だけどさ。
「それはそうですよ〜。でなきゃ日常生活送れませんもん。っていっても、まぁ事務的な
 会話がほとんどだからかもしれないですけどね。…だからこんな風に、特に用件もない、
 話すこと自体が目的となってる会話を男のコとするって方が珍しいんです」
「ふ〜ん。あれ?そういう会話ができるってことは、俺は大丈夫な方ってこと?」
「え?あー…そういえば、河野くんとは、わりと普通に話せてる…気がするかも」
「未だに敬語だけどな」
「うぅ〜それは〜。…あたし誰に対してもつい敬語使っちゃうんですよねぇ。ほら、礼儀
 正しいですからぁ〜」
「却下。…って冗談は置いといてさ。その、俺と普通に話せるってことは、理論上他の男
 相手だって大丈夫ってことじゃないか?」
「それは河野くんだから…」
「え?」
417つないだ手の先、指の先・3(5/5):05/03/13 02:23:55 ID:Hmf+favV0
「や、や、その、ほら、河野くん優しいから、よく手伝ってくれるし、だ、だから、こう
 して2人で話すのにも慣れちゃったのかもしれませんよね!」
なんだろう、そんなに慌てて。
「う〜ん、俺と普通に話せてる理由が『慣れ』だっていうのなら、頑張れば他のやつとも
 ってことじゃないのかな、やっぱり」
「そ、そそそそそうですよね、きっと!ええ、そりゃ〜もう!抜群に!すべからく!って、
 あっもうこんな時間!ああああたし資料室の鍵返さなきゃ!それじゃ河野くんお先に〜」
言うが早いか、小牧は見たこともない速さで走り去っていった。

偉そうにも、小牧に何かを伝えてやりたいと思ったけど。
やっぱり俺じゃ役不足だったみたい。伝える前に逃げられてしまった。



人気のない校舎を一人歩く。
日中はあんなに賑わっている教室も、今は人っ子一人いない。
まるで、世界に取り残されたよう。

柄にもなく、恋愛相談の真似事をしようとしたせいだろうか。
心の乙女スイッチが入ってしまったようだ。
「なにバカなこと考えてるんだか…」
軽く頭を振って、妙な感傷を振り払った。

そう。そんな感傷は振り払ったんだから。
下駄箱の「帰る」のサインを見て、隣にいて欲しい「誰か」がいないことにどうしようもない
寂しさを覚えたことは。きっと気のせいだ。

だから、
「たっかちゃ〜ん」
なんて、声が遠くから聞こえるのも気のせいだ。うん。間違いなく気のせいに違いない。
418タマ姉に弄られ隊隊員:05/03/13 02:36:03 ID:Hmf+favV0
>281-285、>312-315 の続きです。

思ったより愛佳の出番が長引き、このままでは主役を乗っ取られ、
愛佳…恐ろしい子!となりそうだったのでばっさり削ってみました。
その代わりに出す予定のなかった(゚w゚)が出てきて自分で困惑中。

おかしいな〜本当は、タマ姉シナリオよりちょっとだけ男らしく、成長
したタカ坊が、タマ姉とお手々繋いでラブラブ〜ってだけの話を書く
予定だったんですがorz


ということで、「もうちょっとだけ続くぞい@亀仙人」お付き合いください。
419名無しさんだよもん:05/03/13 08:41:09 ID:M4LQSXMK0
>418
それ、あと十年くらい続きますよねえ!?
420名無しさんだよもん:05/03/13 13:51:47 ID:YBtwuMfK0
>>418
大長編だな
ガンガレw
421名無しさんだよもん:05/03/13 15:54:37 ID:YGFlIfsmO
>>419
うはwwwwwwww(゚皿゚;)wwwwwwwwおkwwwwwwww
422名無しさんだよもん:05/03/13 15:55:45 ID:t1TcLZ250
>もうちょっとだけ続くぞい@亀仙人
っていつ頃の話だったっけ?>DB
423名無しさんだよもん:05/03/13 16:04:33 ID:VLhJnQ4p0
>>422
セル編が終わってブウ編が始まるちょっと前。

>>418
乙。
424名無しさんだよもん:05/03/13 16:26:07 ID:pW26Z9Hf0
ピッコロ(マジュニア)編のあとサイヤ人編の前じゃなかったっけ?
425名無しさんだよもん:05/03/13 16:32:58 ID:x0ZkCikx0
>>424だと思っていたが>>423を見て自信が無くなって来た
どっちだっけ?
426名無しさんだよもん:05/03/13 16:44:54 ID:mHnn9uN/0
両方合ってる
今確認した。
427名無しさんだよもん:05/03/13 16:54:56 ID:mbtZvxm90
どっちなのかによって随分長さが変わるな
428名無しさんだよもん:05/03/13 19:05:17 ID:t1TcLZ250
>>423-424
サンクス。下限が2年で上限が7年程か。凄い長さだ(W
429名無しさんだよもん:05/03/13 20:48:32 ID:KMMLUy1v0
ぽまいら内容に対するコメントはどうしたw
430名無しさんだよもん:05/03/13 21:01:36 ID:b+MDMmqD0
シルファの話とか誰か書いてくんないかなー。
431名無しさんだよもん:05/03/13 21:43:20 ID:KFop2fcu0
>>430
激しく百合な話になりそうだな
432名無しさんだよもん:05/03/14 08:07:17 ID:q9iyzLHRO
>>431
だがそれがいい
433名無しさんだよもん:05/03/14 09:26:24 ID:DZnr598u0
シルファってマザコンなんだろ
434名無しさんだよもん:05/03/14 14:03:03 ID:SXgGSMNP0
俺の脳内では某インフィニティドライブのミルファ、イルファが公式
435名無しさんだよもん:05/03/14 21:05:25 ID:KCK3PH970
>>431
珊瑚とシルファ。ちゅ〜ばっかりしてそう。
んでそれに瑠璃がヤキモチ、と。
436名無しさんだよもん:05/03/14 21:14:48 ID:q7fooGdj0
葉鍵三国志にハマってるせいで、そのミル・シルの顔グラが俺の公式になってしまった
437ある日、アイス屋の前にて7(1/6):05/03/14 23:31:30 ID:tg/yK4sW0
「お待たせしました、貴明さん」
「うん」
「はい、これが貴明さんのです。小豆とカフェオレのダブル」
「よくわかったね草壁さん。俺が食べたいのが小豆とカフェオレだって」
「ふふっ、よかった」

「……」
「……」
「……」

「私のはこれです。ラズベリーとミルクティーのダブル」
「お、そっちも美味そうだね」
「貴明さん、食べてみます?」
「あーん。――うん、美味しい」
「私も貴明さんの、食べてみていいですか?」
「ああ、いいよ」
「あ〜ん。――うん、美味しいです」

「……」
「……」
「……」

「あ、貴明さん頬にアイスがついてます」
「ん?」
「ほら、ここです。動かないで」
 ふきふき。
438ある日、アイス屋の前にて7(2/6):05/03/14 23:32:00 ID:tg/yK4sW0
「ん、草壁さん、サンキュ」
「ええ、どういたしまして」

「……」
「……」
「……」

「貴明さん、今度の日曜日、お暇ですか? よければ私と出かけませんか?」
「んーそうだな。草壁さんはどこに行きたい?」
「ええと……プラネタリウムもいいですし、もう一度水族館でお魚さんを見るのもいいですし……。
 あ、そういえば、見てみたい映画もありますし……」
「ははは、草壁さんは欲張りさんだなあ」
「貴明さん、貴明さんが決めて下さい。 私は貴明さんと一緒ならどこでもいいですから」

「……ろ」
「ろ?」
「ロ〜ン〜グ〜ヘ〜ア〜が♪
 す〜て〜き〜な〜カ〜ノ〜ジョ♪」
 じょ、じょ、じょ、じょ♪
 じょじょじょじょじょじょじょじょあしたのジョー♪」
「……マンモス西?」
「最後まで歌ったわね、じゃ、帰る」
「待って待って郁乃、帰るのはまだ早いっしょ!」
「はぁ、だからさ、他人がいちゃついてるのを覗いて、何が楽しいっていうの。
 時間のムダよ、はっきり言って」
「他人じゃないよ郁乃。
439ある日、アイス屋の前にて7(3/6):05/03/14 23:32:33 ID:tg/yK4sW0
 あっちの長い髪の女の子は知らないけど、河野センパイとわたしらは知り合いだよ。
 そのセンパイが知らない女の子とラブラブ。こりゃあ興味がわいて当然っしょ!」
「……まるでストーカーの自己弁護」
「そこのキツネうっさいわ! とにかく、もう少し様子を見守りましょうって」
「こ、こら、車椅子を引っぱるな」

「貴明さん、昔の約束、覚えてます?」
「約束?」
「ええ、『河野って名字をくれる』って約束」
「え? あ、ああ、覚えてるけど……。
 あ!? その、あの時のあれは、決してプ、プロポーズの意味ではなく、その、とっさの思いつき
というか、なんというか……」
「ええっ! プロポーズじゃなかったの!?」
「あ、だ、だからといって、草壁さんのことが嫌いというわけではなく、そ、その、俺達まだ高校生
だし、結婚はまだ早いというか……」
「……ふふっ」
「?」
「わかってますよ貴明さん。別に今すぐ結婚してってわけじゃないですから。
 ただ……」
「ただ?」
「ただ、ね、少しは期待……してるんです。そういう未来。
 だって私たち、4度も運命的な出会いをしたんですから!」

「……はぁ、いい雰囲気だねぇ」
「……ラブラブ」
「センパイったら、そんな約束をあのコとしてたんだぁ。
440ある日、アイス屋の前にて7(4/6):05/03/14 23:33:10 ID:tg/yK4sW0
 昔って言うことは、小学校くらいの頃の話かな?
 だとしたら、センパイってば奥手そうに見えて、その実、子どもの頃からやることはしっかりやっ
てたんだねぇ。いやぁ、意外だったわ」
「小学生時分から女に求婚とは、確かに恐れ入る女たらしっぷりね」
「ただ、気になることが一点」
「?」
「さっきから聞いてるとセンパイ、あのコのこと、『草壁さん』って呼んでるね。
 あれって名字だよね。なんで名前で呼んであげないんだろ?」
「さぁ? どう呼ぼうが別にいいんじゃない?」
「それは違うっしょ! 恋人同士なんだから、やっぱ名前で呼び合わないと!
 よっし! そのあたり、実際に聞いて確かめよう!!」
「だから勝手に車椅子を動かすな〜〜〜!!」

「センパイ、こんちわっス!」
「……ちわ」
「……」
「あれ、吉岡さんと山田さん、それに郁乃も」
「やだなぁセンパイったら。わたしらは”よっち”と”ちゃる”って呼んでって、いつも言ってる
じゃないっスか」
「貴明さん、この方たちは?」
「ああ、こっちの二人は、俺の幼なじみの親友。こっちはクラスメイトの妹さん」
「こんちわっス!」
「……初めまして」
「……どうも」
「あ、はい、初めまして」
「センパイ、こちらの方は?」
441ある日、アイス屋の前にて7(5/6):05/03/14 23:33:50 ID:tg/yK4sW0
「ああ、彼女の名前は草壁優季さん」
「で、センパイと草壁さんとのご関係は?」
「……あ、その、なんというか、草壁さんとは、一応、おつきあいしてると言うか……」
「何モジモジしてるっスかセンパイ! 『こいつは俺のオンナだぜ!!』くらい言い切って下さい
っス! あと、おつきあいしてるのに何故呼び方が『草壁さん』なんスか!? カノジョなら名前で
呼んであげるべきっスよ!」
「な、名前で!? い、いや、それはまだ早いかなと……」
「……私も、是非そうして欲しいです」
「草壁さん?」
「私のこと、『優季』って呼んで欲しいです。一度、呼んでくれたじゃないですか」
「あ、あの時はとっさで……」
「私は『貴明さん』って呼んでます。だから、貴明さんも『優季』って呼んで下さい。
 だって、そちらの方は『郁乃』って、名前で呼んでますよね、しかも呼び捨てで。
 どうしてですか?」
「え、いや、郁乃の場合はお姉さんとの呼び分けで……」
「だからって、いきなり呼び捨ては馴れ馴れしいよね」
「じゃあ『郁乃ちゃん』とでも呼べと!?」
「……うわっ、背筋がゾッとする」
「じゃ、どうしろと!?」
「とにかく、郁乃さんのことを『郁乃』って呼んでるんですから、私のことだって『優季』って呼べ
ますよね? そうじゃなきゃ何かおかしいです。
 それともまさか、貴明さん、郁乃さんのこと……」
「え!? ち、違うぞ! 郁乃とは別に何も……」
「そ、そうよ違うわよ! 何であたしがこんなバカと!」
「……離れていた時間が長過ぎましたから、こういう事態はあり得るとは思ってました。
 でも私、負けません! だって私と貴明さんは運命で結ばれているんだから! デスティニー!」
442ある日、アイス屋の前にて7(6/6):05/03/14 23:34:24 ID:tg/yK4sW0
「回想シーンで水増しするのもいい加減にするっしょ!」
「……わかる人しかわからないな」
「く、草壁さんとにかく落ち着いて……」
「『優季』です!!」
「あ、う、うん、ゆ、優季」
「よく聞こえませんでした。もう一度呼んで下さい」
「ゆ、優季」
「もう一度」
「優季」
「もう一度」
「優季」
「もう一度!」
「ゆ・う・き!」
「はいっ! 貴明さん、よく出来ました!
 どうです郁乃さん、これで勝負は互角です。私、負けませんからね!!」
「だから勘違いだっつーの!!」
「あははっ、ライバル宣言っしょ!」
「……思わぬ三角関係」
「そこ! 笑ってないで誤解を解け〜〜〜っ!!」
「ええ〜、郁乃とセンパイの関係なんて、わたしらもわかんないしー」
「あんたたち、他人事だからって楽しんでるでしょ!?」
「うん! 思いっきり!」
「郁乃、グッジョブ」
「うああああぁっ! この薄情者〜〜〜っ!! 恨んでやる!! 呪ってやる〜〜〜っ!!」

 おしまい。
443ある日、アイス屋の前にて7 の作者:05/03/14 23:34:55 ID:tg/yK4sW0
どうもです。今度は優季編です。
「委員ちょルートでもないのに何で貴明、郁乃知ってるんだよ!」
といったツッコミはご勘弁下さい(苦笑
444某研究者:05/03/14 23:49:55 ID:RYaGD04M0
突っ込むなといわれれば突っ込むのがやはり人情というものなのだが
これはやはりタカちゃんは複数人と付き合っているということなのだろうか
しかしアイスを食べた仲の郁乃に見られてもタカ君は慌てる素振りすら見せなかったのだが
これは付き合っている女性に郁乃はカウントしていないということなのだろうか
まあやはり最終回は複数股かけていたことが全員にばれて制裁を受けるのであろうか(苦笑)
445名無しさんだよもん:05/03/14 23:51:48 ID:3C5APgV30
>>443
いつもながら(*^ー゚)b グッジョブ!!
郁乃加わっててワラタ

ヒロイン制覇までもうすぐですな
サブキャラ編なんかもあったら見てみたいですね
446名無しさんだよもん:05/03/14 23:55:16 ID:1aECgPpY0
>>444
ステージが固定された中でのパラレルだというのが俺の解釈ではあるけど、
遊び人貴明というのもそれはそれで面白いね。

>>443
いつもにやけながら読ませていただいております。
今回もGJ!!
447名無しさんだよもん:05/03/15 00:06:53 ID:xjWSVE7g0
前作から猊下がレス付けてるのがw
448名無しさんだよもん:05/03/15 02:37:01 ID:nYldWfnH0
>>443
ちゃるよっち郁乃トリオ、たいへん楽しませていただきました
4491/7 Tender Heart その1:05/03/15 04:09:10 ID:uH5HUmup0
「えと……ごめんねタカくん」
「謝ることないって。寝坊ったって、まだ学校には余裕で着く時間だしさ」
「でも、タカくんの朝ごはん作ってあげられなかったし……」
 パジャマのまま玄関先でうなだれるこのみ。
 俺はそんなこのみを慰めながら、なんだか不思議な懐かしさを感じていた。
 そう、ほんの何ヶ月か前までは、こんなふうにこのみが寝坊して俺がこのみの
家へ迎えに来ることのほうが普通だった。
 でも、この春、「単なる幼なじみ」をやめたあの日以来、このみは頑張って
早起きし、毎朝俺の家に来て俺を起こし、弁当のみならず朝食まで作ってくれ
るようになった。三日坊主で終わるかと思いきや、一週間、二週間、一ヶ月と
それは続き、いつのまにかそれが日常になっていて……。
 このみが寝坊したのは、あれ以来初めてなんじゃないだろうか。
 だからそんなに気に病むことなんかないのに。
「気にするなって。それより、体調悪いとかそういうことは無いのか」
「え、ううん。大丈夫だよ」
 やっと顔をあげて笑顔をみせるこのみ。
 俺は起き抜けでまだ髪を結んでいないこのみの頭に手を載せて、ぽんぽんと
子犬にするように撫でた。
「それならいいけど、無理するなよ。――っと、それよりこのみ。早く着替え
てこないと本当に遅刻しちまうぞ」
「う、うんっ。すぐ着替えてくるから待っててね!」
 たたたたっと足音を響かせて階段を登っていくこのみと入れ替わるように、
今度は春夏さんが奥からやってきた。
4502/7 Tender Heart その1:05/03/15 04:11:03 ID:uH5HUmup0
「あ、おはようございます春夏さん」
「おはようタカくん。ごめんね、あの子このごろずっと頑張ってたのに、今日
は全然起きなくて」
「あ、いえ。ていうか、このみの寝坊が珍しく思える日が来るなんて、なんだ
か感無量で」
「あはは、言えてるわね」
「む〜、タカくん聞こえてるよ〜!?」
 二階からすねたような声だけが降りてきて、俺と春夏さんは顔を見合わせて
小さく笑った。
「あ、タカくん朝ごはん食べた? おにぎり作ったから、ちょっとお行儀悪い
けど食べながら行きなさいな」
 手渡される小さな包みの重さとぬくもりも、なんだか懐かしい。
 礼を言って包みを開き、一口かぶりついたところでこのみが階段を下りてき
た。
「お待たせ〜。あー、タカくんずるい。お母さんこのみにも!」
「ちゃんとタカくんに渡してあるわよ。――ほら、このみ。襟がひっくり返って
るわよ」
「え、どこどこ?」
「もう、しょうがない子ねえ」

 ――きっと、俺たち二人の記憶に生涯残る、長い長い一日はこんなふうに
始まったのであり。
4513/7 Tender Heart その1:05/03/15 04:12:22 ID:uH5HUmup0
「――じゃあ、行ってきます」
「はぐはぐ……ひってきまーふ」
「はい、行ってらっしゃい。気を付けてね」
 玄関先で見送ってくれる春夏さんが、あ、と思い出したように声を上げたの
はその時だった。
「それと――タカくん、昨日お願いした通り、また今夜このみをお願いね」
「ああ、はい」
 昨日柚原家で夕食をごちそうになったとき、お願いされていたことを思い出
した。
 今日からまたおじさんの出張に付いていくんだよな。
「お母さん、お土産お願いね。絶対だよ?」
 もぐもぐしていたおにぎりを飲み込んで、このみがおねだりする。
「はいはい。分かってるわよ。このみもちゃんとタカくんの言うこと聞いてお
手伝いするのよ?」
「もちろんだよ。今朝作れなかった分、晩ごはんで挽回するのでありますっ。
……ねぇタカくん、学校終わったら一緒に買い物して帰ろう?」
「ああ――って、うわっ! もうこんな時間じゃないか。まずい、走るぞこの
み。春夏さんそれじゃ!」
「いってきまーす! お母さんもいってらっしゃーい」
「明日の夜には帰るから、それまでよろしくね!」
 朝の町を走り出した俺たちの背中を、口元に手を当てた春夏さんの良く通る
声が叩き、追い越していった。

「……てなわけで、今夜はこのみが泊まりにくるんだ」
 朝の教室。
 HR前のざわついた空気のなかで、俺は向かい合う雄二にそう今日の予定を
説明した。
 全速力で――後半はこのみにひっぱられながら――駆け続けた結果いつも通
りの時間に到着してしまい、自分の席で力尽きて伸びていた俺に、雄二のやつ
が『ナイスでグッドな話』を持ちかけてきたんだけど……
4524/7 Tender Heart その1:05/03/15 04:13:45 ID:uH5HUmup0
「すまん、だからそのお宝とやらは自分ちで見てくれ」
 さすがに巨乳が売りのアイドルDVDはまずい。
「だあっ、それが無理だからお前に声をかけたんだろうが……」
 情けない声を上げながら顔に手を当てて天を仰ぐその姿に、タマ姉による取
り締まりの厳しさをうかがい知る。
 一度その摘発現場を目撃したことがあるが、その冷徹きわまる捜索と処断に
は他人事ながら背筋が凍った。
「タマ姉、あいかわらずか」
「変わらずどころか悪化してるんだよっ。姉貴のやつ、最近親父に小型の焼却
炉を買わせてな、俺の緒方理奈コレクションを全部灰も残さず焼きやがったん
だよ。それも後ろで監視しながら、俺の手で燃える炉のなかにひとつひとつ投
げ込ませて……」
 言いながら思い出したのか、掌を見つめぷるぷる震える雄二。それはきっと
我が子を我が手で殺めるがごとき壮絶な悲しみだったことだろう。
 俺は慰めの言葉が見つからない。
「あー……そういう処刑をした戦国武将がいたよな」
「知らねえけど、きっと姉貴はそいつの生まれ変わりだよ」
 はああ、と長めのため息をついた雄二はどかりと席に腰を下ろし、それで気
分を切り替えたらしい。
「――ま、このみが来るんじゃしょうがないよな」
 顔を上げ、サバサバとした笑顔で雄二は言った。長いつきあいながら、こい
つのこの切り替えの速さはいつもうらやましく思う。
「で、このみんとこの親父さんたち今度はどこ行くんだって?」
「沖縄だってさ。お母さんたちばっかりズルいってこのみがすねて、昨日は機
嫌を取るのが大変だったんだからな」
 マンゴーデザート詰め合わせで手打ちがなされた昨晩の柚原家緊急家族会議
の様子を思い出す。
4535/7 Tender Heart その1:05/03/15 04:15:59 ID:uH5HUmup0
「相変わらずだな、あのガキンチョも」
 目を細めてたははと笑う雄二。
 その通りなので俺も苦笑するしかない。
「――しかし、なんだな。お前とこのみが幼なじみじゃなくて恋人同士になっ
たってのに、親父さんも春夏さんも未だに平気で娘を預けて行くのな」
 ふ、と雄二が笑うのをやめ、俺の表情をうかがうようにしてそんなことを言
った。
「……どういう意味だよ」
 俺もつられて笑いを納める。
「お前に酷だ、って話だよ。信頼されてると言えばそれまでだけどな。……な
あ貴明、ぶっちゃけて聞くから正直に答えろ」
 身を乗り出すように寄せて、声を低めて雄二は真正面から聞いてきた。

「――このみを抱きたいと、思わないわけじゃないんだろう?」

「……雄二お前な」
「大事なことなんだよ。いいか貴明。確かにこのみはまだまだお子ちゃまで、
そういうのはまだ早いって思う気持ちも分からんでもない。でもな、お前はあ
いつとつきあってる。恋人同士だ。あいつのことを、ちゃんと女の子だと意識
したからそうしたんだろお前は」
 いつものおちゃらけた感じじゃない。
 雄二は、どうしてだかは分からないが、とても真剣な目で俺を問いただして
いる。どうやら適当にはぐらかすわけにはいかないと悟り、俺は改めて考え始
める。
4546/7 Tender Heart その1:05/03/15 04:22:00 ID:pxN9pKd10
 このみを異性だと――そんなことは、言われるまでもないことだ。
 告白し、つきあい始めて三ヶ月。
 デートは何回したかわからない。
 キスだってした。そりゃあ平均的なカップルからすれば控えめかもしれない
が、俺たちにとってはその度その度が大事件で、大切な記憶だ。
 手を握ればどきどきもするし、腕を抱かれれば最近胸が大きくなったなあと
思ってドギマギもする。
 しかし、いま雄二が俺に言っているのはそんな意味での「女の子」ではない。
 それはきっと、もっと原始的で、本能的なもの。
 言うならば「女の子」としてというより、むしろ「女」として見ているか、
という事。
「雄二、俺は――」
「このみが大事だって言うんだろ。わかってるさ」
 俺の言葉を先取りして、雄二はがりがりと頭を掻いた。
「野暮なこと言ってるってわかってるよ。ふたりのことは、ふたりが決めるこ
とだ。けしかけるつもりはねえさ。――ただな、お前達ふたりのつきあい方を
見てると微笑ましすぎて不安になってくるんだよ」
 矛盾しているような言い草に、しかし俺は胸に痛みを感じる。
「だいたいだな、彼女が家に来て、泊まって、おまけに一緒のベッドで寝てる
ってのに、これまで何にもなかったって方がむしろ異常なんだよ。……なあ貴
明、俺は過激なことを言ってると思うか?」
 答えようとして、俺は言葉に詰まった。
4557/7 Tender Heart その1:05/03/15 04:22:55 ID:pxN9pKd10
 このみを傷つけたくない。その思いは俺の中で強い。
 だから雄二の言葉には反射的に言い返したくなるのだが、しかし同時に、雄
二はまっとうなことを言っているのだとも理解できる。
 雄二の言葉は、俺とこのみの関係の、これまであえて触れなかった歪みを直
接指摘するものだ。
 歪み? たしかにそうだ。俺たちの関係はどこかズレている。恋愛の手順が
逆さになっている。
「……姉貴経由で聞いたんだがな、お前とこのみ、泊まりに来た時は寝る前に
おやすみのキスをするらしいじゃないか。俺はそれを聞いた時嬉しかったよ。
ああ、ちゃんと恋愛してるんだなって。でも――何回たっても、お前達はそこ
で終わる。なんでだ。お前に性欲はないのか。幼稚園児の恋人ごっこじゃねえ
んだぞ!」
「雄二、声がでかい」
 俺が口元に指を当てると、雄二ははっと周囲を見渡して、やや居心地悪げに
咳払いをした。
 目の端で俺もちらと見渡すと、頬を紅くしてこちらをうかがう委員長と目が
あった。慌てて目をそらし、何も聞いてませんよ〜?という顔をするが、悲し
いほどにバレバレだ。
 ……どこから聞いていたのか分からないが、あとでフォローしておいたほう
が……いや、逆効果か。
「コホンゴホン。あー、そのなんだ。……悪ぃ、ちょっと言い過ぎた」
 いつも通りのへらっとした笑顔で謝る雄二。
 しかし、ふっと目線をそらし前を向きながら、雄二は捨てぜりふのように言
い放った。
「だけどな、無意識にせよ意識してにせよ、そんな風にずっとそういう欲求を
押し殺し続けてると――」
 一瞬、言葉を探すように雄二は目を閉じ。
 開いた時にはまっすぐにこちらを見て、洒落のない口調で言った。
「……肝心な時に、辛い目にあうぞ」
 そこに担任が入ってきてHRになった。
 言い返すタイミングを失った俺は、お陰で午前中の授業はまるで身に付かな
かった。
456Tender Heart 作者:05/03/15 04:28:06 ID:pxN9pKd10
 初めて書き込みます。
 ここに寄せられるSSのレベルの高さにちょっと尻込みしますが
初めての東鳩2SSだということで勘弁してください(^^;)
 仕事しながらなんでゆっくり投稿になりそうですが、よろしく
おねがいします。
457名無しさんだよもん:05/03/15 04:33:43 ID:a+2ZNzsi0
乙!
続き読みたい
458名無しさんだよもん:05/03/15 04:37:05 ID:PgaTn75Q0
初めてリアルタイムで作品みたよ。
続き楽しみにしてます。
459ある日、あるアイス屋の前にて(偽:05/03/15 06:46:54 ID:80+rsN5OO
「貴明、お待たせ!」
「ああ」
「ほれっ、貴明の!納豆とたこ焼きのダブルな。」
「よく分かったな雄二。俺が今、納豆とたこ焼きが食べたいって」
「ははっ!当たり前だろ!何年の付き合いだと思ってんだ!」
「そうだな…」
「貴明の事ならケツのシワまで分かるぜ!」
「ばっ…。よせよ!気持ち悪い!」
「ははっ、冗談だって。気にするな!ちなみに俺はこれ。ホルモンにとんこつラーメン」
460ある日、あるアイス屋の前で(偽2:05/03/15 06:54:55 ID:80+rsN5OO
「おっ!そっちも美味そうだな。」
「何だ、貴明食いたいのか?
しょうがねぇなぁ…。一口だけだぞ。」
「サンキュ!…うん、美味い!」
「な、なぁ…俺も…貴明の食っていいか?」
「ん?ああ、いいぞ。」
「…おっ!貴明。ほっぺにアイスが付いてるぜ!」
「ん?」
「ほら、ここ…。
ったく、拭いてやるよ!」

  ふきふきふき

「ん…サンキュ、雄二!」
「はははっ!」
461ある日、あるアイス屋の前で(偽3:05/03/15 07:01:08 ID:80+rsN5OO
「なぁ貴明?今度の日曜どっか行こうぜ!」
「んー、そうだな…。雄二はどこに行きたい?」
「う〜ん…。秋葉原のメイド喫茶か…。新作メイドロボ展示会ってのも捨てがたい!」
「本当、雄二はメイドが好きだな。」 
「ばっ、馬鹿野郎!俺が本当に好きなのはおま…いや、何でもねぇ…。」
462名無しさんだよもん:05/03/15 07:02:18 ID:80+rsN5OO
ゴメソ、まるまるパクりですorz
463名無しさんだよもん:05/03/15 08:54:51 ID:VhJmWFf00
うほっ
悪くないから続きを頼む
464Tender Heart 作者:05/03/15 13:04:38 ID:8fZsmiul0
>>456
肝心な時に辛い目に……って、つまり

ひ ろ ゆ き ち ゃ ん

でつか? 
465名無しさんだよもん:05/03/15 16:43:35 ID:aLJI7lzs0
どういうこと?
466名無しさんだよもん:05/03/15 18:32:35 ID:R9FYUkc80
うほっ
467名無しさんだよもん:05/03/15 19:09:20 ID:KvtdR+Gd0
自爆で自己レス・・・
どんまーい
4681/11 言葉はいらない その4:05/03/15 20:16:04 ID:mYLcr7Su0
 穏やかに眠りが頭の中から去っていく。目の前にはニマニマと笑うよっちの顔。
「なんだよ。先に起きてたのか」
「んふふ、だってセンパイが腕を放してくれないスもん」
 そう言われて、俺の腕がまだがっちりとよっちの肩を抱いていることに気付く。
「センパイって意外と甘えん坊さんなんスね」
「寒かったからじゃないか」
 言い訳しながらそっと腕を放すと、ぴったり寄り添っていた体の間に冷たい空気が入り込んでくる。それで
本当によっちの体が温かかったんだな、と気付いた。その妙な気恥ずかしさを誤魔化すために、ベッドから
抜け出してエアコンのスイッチを入れる。
「下の部屋暖めてくるから、着替えたら降りてこいよ」
「りょーかいッスー」
 着替えを手に部屋を出る。リビングのエアコンも入れて、さっさと着替えてしまうと、ダダダッと豪快に階段
を駆け下りる音。
「センパイ、センパイ、センパイーー!!」
「なんだよ。慌てて。黒い悪魔でも出たか?」
 かっちり制服姿に着替え終わったよっちが慌てた様子でリビングに顔を出す。
「違うッスよ! 忘れてたんス」
「なにを?」
「センパイ、おはよッス!」
「あ、ああ、おはよう……。それだけ?」
「それだけ? じゃないッスよ。昨日朝起きたらもうセンパイいなかったじゃないッスかー。朝起きたらまずお
はようッス。そこは譲れないッス」
「そうか。分かったからとりあえず寝癖を直してきたらどうだ? 朝飯はカレーだぞ」
「……う゛ぃーッス」
4692/11 言葉はいらない その4:05/03/15 20:16:47 ID:mYLcr7Su0
 あのカレーの味を思い出したのか、肩を落としたよっちが洗面所に消えるのを確認して、カレーの鍋を火に
かける。普通、カレーというのは一晩寝かせたらコクが出て美味しくなるものだ。しかしそれにはまず前提と
してその基本となる前日のカレーが美味しいというものがあるだろう。ならば苦いカレーは果たして一晩置い
たらどうなるのか? 興味の尽きない疑問ではある。もしも食べるのが自分で無ければ、だが。
 カレーが鍋に焦げ付かないようにぐるぐるとかき回す。しかし朝から何の因果でこれを食わねばならんの
か。不味すぎて食えないというほどでもないことは昨日実証されたが、食が進むというほどのものでもない。
それでも人間、腹は空くから食わねばならんのだ。
 よっちの分の皿はルーを大盛りにしておいてやる。やっぱり育ち盛りは朝からちゃんと食わないとな。
 ばっちり決めて洗面所から出てきたよっちが、皿の上の物体を見てまた肩を落とす。
「たっぷり食えよ。この家出てくまでにルーを全部片付ける約束だからな」
「それは食べ切れるまでずっとこの家に居ていいってことッスよね。足し水ならぬ足しカレーで永年契約も
可ッスね」
「カレー以外のものを一生食わん気か」
「冗談ッスよ。冗談〜。さ、食うッスよ」
 ま、なんにせよ目の前の皿をカラにはしなくてはならない。俺たちは気合を入れてスプーンを手に取った。

 玄関を開ければ今日も吹き付けてくるのは北風。
「う〜、今朝も冷え込むッスね〜」
 吐く息が白く染まる。よっちはかじかむ両手を口に当てて、はーっと息を吐きつける。
 中身の少ないスポーツバッグを肩にかけ、トントンと軽く二度ジャンプ。
「それじゃセンパイ、また放課後に」
 びしっと敬礼。俺も軽く笑って額に指を当てるように敬礼っぽくお返し。
「行ってきます!」
 元気よく駆け出していくその背中を見送る。
 多分、俺の顔には苦い微笑が浮かんでいることだろう。まったく勝手に人のところに入り込んできたくせ
に、なんて唐突に去っていくのだろう。昨夜抱いた肩の温もりがまだ腕に残っている。だけどそれも冬の寒さ
にすぐに消えてしまうのかもしれない。
 俺はそれを寂しいと思うんだろうか? 多分思うんだろう。
 そしてそれでもやっぱり俺には見送ることしかできないのだろう。
4703/11 言葉はいらない その4:05/03/15 20:17:29 ID:mYLcr7Su0
 学校へ向かう道すがら、いつもの面々には理由を言わず放課後に付き合って欲しいと告げた。不思議そう
な顔をされたが、クリスマスイベント関係だと思われたらしく、あまり否定はしないでおいた。よっちのことは
よっち自身の口から話されるべきことだろうし、プレゼントを貰ったら贈ったりするわけではないが、よっちが
この街を去るのはそのクリスマス当日のことになるだろうから。
 雄二には今日もBS団なる不毛な集団への参加を呼びかけられたが、無視しておいた。何でもそこそこの
人数が集まっているらしい。要はイベントにかこつけて騒ぎたい連中が集まりつつあるだけのようだ。
 このみは昨日にクリスマスだかイヴだかは知らないが、友人と約束があると言っていた。よっちの現状を
考えればその友達というのは今の学校でできた新しい友達なのだろう。
 幼なじみのグループとは言ってもこうして環境が変わっていく中で、それぞれの世界ができあがっていくん
だな。そういえばタマ姉の予定だけはまだ聞いていない。最初はまた何かとんでもないことをやらかすので
はないかと思っていたが、この様子では何か用意していたとしても空振るに違いない。
 授業が終わって、掃除をいい加減に終わらせて、校門に向かうともう三人ともそこで待っていた。
「寒いんだから、あまり待たせんなよ」
 屋上の掃除を割り当てられていたはずの雄二がぼやく。
「お前、掃除はどうしたんだよ?」
「あ、んなもん用事があるって抜け出してきたに決まってんだろ」
「ナ・ン・デ・ス・ッテ」
「あ、あ、あ、タンマタンマタンマーーあ゛あ゛あ゛ーーーーーー!!」
「それでタカくん、どうするの?」
 タマ姉のアイアンクローを背景に、雄二の断末魔をBGMに、にこやかにこのみが訊いてくる。このみのス
ルースキルも中々どうして上がってきたようだ。
「とりあえずカカオに集まることになってるから」
「集まることに……?」
「それって私たち以外にも誰か誘ってるってこと?」
「うん。まあ行けば分かるよ」
4714/11 言葉はいらない その4:05/03/15 20:18:11 ID:mYLcr7Su0
 そうして四人で坂道を降りていく。
 駅前にあるカフェのカカオならそれほど遠回りというわけでもない。いつもの寄り道コース上だ。
 ひゅぅと冷たい風が通り過ぎて、身をすくめる。空を見上げると晴天で、太陽の光は弱々しくもわずかな温
もりを与えてくれる。
「今日は晴れてよかったわね」
「ずっと曇りだったもんね。でもわたしは雪が降って欲しいなあ」
 タマ姉の呟きにこのみが応じる。雪が降ればまた朝からゲンジ丸とはしゃぎまわるのだろう。もっとも、は
しゃぐのはこのみ一人で、ゲンジ丸のほうはあまり動きたがらないみたいだが。
「そうね、初雪は結局積もらなかったし、このみは雪が積もったらなにをしたいのかしら?」
「う〜ん」
 首を捻るこのみ。
「雪合戦かなあ。でも雪ダルマも捨てがたいし〜……」
 雪合戦とはまた懐かしい。しかしもし雪合戦をすることになれば男女でチーム分けをすることになり、この
みの機動力と、タマ姉の正確無比な射撃スキルによって男性陣が総崩れするのは目に見えている。できれ
ば止めておいてほしい。
「天気予報では今夜辺りから寒波がって言ってたから、明日はできるかもね。雪合戦」
 空を見上げると、切れ端のような雲が風に飛ばされるように流れていく。確かに空は寒そうだった。
4725/11 言葉はいらない その4:05/03/15 20:18:53 ID:mYLcr7Su0
 からんからんとドアに取り付けられた鐘が乾いた音を立てる。
 お洒落というよりはこじんまりとした感じの落ち着いたカフェで、夏ごろにこのみが発掘してきて以来、よく
通っている。Theobroma-テオブロマ-が店名らしいのだが、誰もがこの店のことをカカオと呼ぶ。儚げな感じ
のする白い花の看板が目印で、これはテオブロマカカオの花なんだそうだ。
 本物はカカオの木の幹にびっしりと花が咲くそうで、単品で見たような儚い雰囲気はまるでないらしい。
「マスター、こんにちは」
 冬でも浅黒い肌のマスターに挨拶だけして店内をぐるっと見渡すと窓際のテーブル席に陣取っているよっ
ちとちゃるがいた。
「お待たせ」
「ホント、待ちくたびれちゃったッスよ〜」
「その割りにグラスの氷はほとんど融けてないみたいだけどな」
「ちゃるー、よっちー!」
「このみー、久しぶり〜」
「……ひさしぶり」
 と、まあ、三三五五に挨拶が乱れ飛ぶ。
 マスターがグラスに水を注いでやってきて、それぞれに注文を頼んだ。
「みんなタカくんに呼び出されたの?」
「あ、えっと、あのね……」
 言いよどんだよっちを、ちゃるが肘で小突く。この様子だともうちゃるには全部話してあるみたいだ。
「今日はあたしの方からセンパイにお願いして皆に集まってもらいました」
 首を傾げる面々。それはそうだろう。よっちからの連絡が俺を通じて皆に回されたことなんてこれが初めて
だ。大抵よっちが何かを思いついて事を起こすときは、よっちからこのみとちゃるに、このみからタマ姉に、そ
れから俺と雄二に話が伝わるのがいつものことだった。
「本当に急な話なんですけど、あたし、吉岡チエは25日を持って引っ越すことになりました」
 固まる一同、それはそうだ。25日というともう数日後の話だ。
「ちゃんと確認したのか?」
 ふと気になって聞いてみる。元々よっちが家出したのはその話を偶然聞いてしまったからであり、親から
ちゃんとその話を聞かされたわけではなかったからだ。
「はい。今日電話してちゃんと確認したッス」
「そっか……」
「タカくんは知ってたんだ……」
 まだ呆然とした様子のこのみが訊いてくる。
4736/11 言葉はいらない その4:05/03/15 20:20:09 ID:gY4ONFo70
「ああ、ちょっと相談されてたんだよ」
 このみは微妙に納得していない表情を浮かべる。
「……と、まあ、そういうワケでこれまでありがとうございました。春から本当に色々ありましたけど、すっごく
すっごく楽しかったです」
 改めて言われてみれば本当に色々あったな。ストーカー騒動やら、海への旅行とか、ハイキングでの失踪
騒ぎとか……。
 いや、全部無事に切り抜けたから楽しい思い出だって言えるけど、色々ヤバかったぞ。マジで。
「そう、寂しくなるわね」
 タマ姉の言葉は心から出たものだろう。なんだかんだでタマ姉はよっちのことを気に入っていた節がある。
「それで引越し先は?」
「ずっとずっと西のほうです。だから気軽に遊びに来たりとかはできないッス」
「準備のほうは?」
「業者さんに任せてしまうそうなので、ほとんどすることないッス」
 ふんふんとタマ姉が二度頷く。
「そうね、それじゃあ今日は送別会ね」
「さすが姉御〜最後まで優しいッス〜」
「アナタはその最後まで……」
 ぐいっとタマ姉の手が伸びてよっちの両頬を捉えた。
「あふぇ、ふひはへんふひはへん」
 ぎゅ〜っとほっぺを捻られて、まともに喋れなくなるよっち。それでもなんとか謝っていることは伝わったの
か、ようやく解放されて、タマ姉を見上げる。
「えっと、……ありがとうございます。タマ姉さん」
「うむ、よろしい。それじゃあどうしようかしら?」
「あっ、あたしとりあえず行きたいところがあるッスー!」
「そうね、まだ時間もあるし……、みんな今日は時間は?」
「何かとフリーッスー!」
 そりゃ家出中だもんな。
「……連絡さえすれば大丈夫」
「わたしもタマお姉ちゃんが一緒なら、お母さんに電話だけすれば大丈夫だよ」
「タカ坊と雄二は当然拒否権無しね。それじゃあ丁度飲み物もできたみたいだし、すこし思い出話なんかで
もしてから出発しましょうか」
 もちろん誰も異論はなかった。
4747/11 言葉はいらない その4:05/03/15 20:20:51 ID:gY4ONFo70
「それで、行きたいところって、ここ?」
 夕焼け空、北風は急にその温度を下げて、せっかくコーヒーで温まった体をあっという間に冷やしきってし
まっていた。確かに今夜は冷えそうだ。
 そんな中、よっちが俺たちを連れてきたのは幸いにしてカカオからそれほど離れていない場所だった。
「そッスー!」
 よっちが片手をびしっとあげる。確かにここは思い出深い場所であった。特に、夏ごろにかけて。
「真冬にアイス!?」
「そう、冬にアイス、これこそ究極の贅沢。しかもあたしはぬるま湯に浸かってアイスを食べようなんて思わ
ないッス。さ、外でだべりながら食うッスよ〜」
「外でッ!? ……そうか、がんばれ。俺は店内から応援してるから」
 手を振って店内に逃げ込もうとした俺の背中に声がかけられる。
「待ちなさい。タカ坊。あなた、逃げるの?」
「……男らしくない」
「そうだ。男らしくないぞ。貴明」
 おいこら、雄二。お前も俺と一緒に店内目指してただろう。
 だがこうなってしまっては諦めが肝心。
「分かったよ。今日はよっちが一日王様だな。なんでも言うこと聞きますよ」
「それじゃアイスはセンパイのオゴリッスー」
「うぉぉいっ!」
 慌ててサイフの中身を確認する。
 幸か不幸か、全員分のアイスを支払っても今月はなんとか乗り切れそうだ。
4758/11 言葉はいらない その4:05/03/15 20:21:33 ID:gY4ONFo70
 まあ、しかしなんというか、これだけ寒いというのにみんな元気なものだ。
 アイスを食った後はカラオケになだれ込み、大騒ぎ。よっちがオンチで、ちゃるが上手いというのはなんと
なくイメージからすると逆だった。ちゃるはマイクを持つと人が変わるタイプらしい。歌うのも最新のヒット曲
だったりして、ううむ。よっちは耳だけで聞きかじった曲を無理に歌おうとして失敗ばかりしていた。
 逆にイメージ通りだったのがタマ姉。上手いのは上手いのだが、持ち曲が演歌ばかりというのは年頃の娘
さんとしてはどうなのだろうか? このみは無難なほうなのだが、たまに懐メロが混じるのはおばさんの影響
なのかもしれない。雄二は何故かアイドル曲ばかり歌っていた。
 カラオケが終わると、
「ちょ、ちょっと待って、私はいかないからね」
「だーめですよー。今日こそはタマ姉さんにも来てもらうんスから〜」
 タマ姉の初ゲーセンと相成った。
 流石のタマ姉も今日のよっちには逆らえない。タマ姉は情に訴えられると弱いところがあるから仕方ない
のかもしれない。
 しかしまさか――
「タカ坊! もう一回勝負よっ!」
 レースゲーム。
「ああああっ、惜しい。なんで取れないのかしら」
 プライズゲーム。
「ちょっと、これって反則じゃない? 反則じゃないの!?」
 対戦格闘、と。
 まさかここまでハマるとは。
「た、タマ姉さん落ち着いて。100円玉を積まないでっ」
「ここで引いたら武士の名折れよー!」
 雄二、対戦台でタマ姉にバレてないからってそこまでボコボコにしてると、後でバレたときが怖いぞ。俺に
は真似できん。
4769/11 言葉はいらない その4:05/03/15 20:22:15 ID:gY4ONFo70
「ダメだ。ああなった姉御は誰にも止められないッス。こうなったら仕方が無いので、センパイ、あっちで協力
プレイやりましょうよ」
 よっちに誘われたのはいわゆる音ゲー。ブームは過ぎたものだと思ってたけど、結構筐体残ってるんだな
あ。
「いいけど、あの音感の無さっぷりでプレイできるのか?」
「ムッキー!! あれは何かの間違いッス。いつものあたしの声ならば完璧に歌えてるんスよ!!」
 それは単純に自分で聞こえてる自分の声と、他人に聞こえてる自分の声は違うというヤツだろう。いくら自
分では上手く歌えてると思っても、実際にマイクを通してみなくては分からないものだ。
「新曲ばっかり歌わないで、なにか得意曲作ったほうがいいんじゃないか?」
「ほとんど歌わなかった人にアドバイスされるほど落ちぶれちゃいないッスよー! しかも洋楽ばっかりっ
て、空気読んでくださいよ!!」
「むむ、結構有名どころをチョイスしたつもりだったんだけどな」
「知らない曲を歌われても上手い下手が分からないじゃないッスか。はっ! さてはそれが狙いだったんス
ね。ということはセンパイは歌が下手、と」
「それは聞き捨てならんな」
「というわけで勝負ッスよ!」
 協力プレイじゃなかったのか、と。つっこむ間もなくよっちがコイン投入。手馴れた仕草で2P対戦を選択。
よっち、キサマ、慣れてるな。
 ゲームは画面上を落ちてくる記号を、リズムに合わせてタイミングよく、いくつもある対応したボタンを押す
というだけのもの。まあ音ゲーってのは全部そうなんだけど……。そしてこの手のゲームは結局のところ、リ
ズムを知っていなくては話にならない。目でタイミングだけで狙うということもできないわけではないが、体で
覚えるのが一番手っ取り早い。
 だから初心者の俺にはせめて曲を選ぶ権利くらい……
 流れ始めるイントロ。すでに曲も決定済みーーー!?
47710/11 言葉はいらない その4:05/03/15 20:22:57 ID:gY4ONFo70
 …………。
 くそう。結局音ゲーではよっちにいいようにやられてしまった。
 その後レースゲームで溜飲を下げたものの、結局よっちとの対戦はその一勝一敗で幕を閉じた。
「うー、遊んだわね〜」
 ぐいっと伸びをするタマ姉。どうやら堪能していただけたようだ。
「な、ゲーセンも悪くないだろ。姉貴」
「そうね、たまには雄二の言うことにも本当のことがあるものね」
「たまには、って姉貴が信じないだけだろうが。俺は正直村の住人かって言うほど正直だぜ。な、貴明、この
み」
「う〜ん、どうかなぁ」
「雄二の場合、アレだな。自分の欲求に正直」
「お前らを信じた俺がバカだった……」
「まあ、雄二のことはどうでもいいとして、晩御飯はどうしようかしら? 今から作るにしても遅いわね」
 時計を見ると20時を回っている。カラオケなんかでちょくちょく摘んでいたものの、確かにそろそろ小腹も空
いてきた。しかし送別会という名目であるにも関わらず、真っ先に自分で作るという選択が出てくる辺りはタ
マ姉らしい。
「できればくつろげるところがいいわよね〜。かと言ってこの格好じゃそろそろ外を出歩くのも問題かしら」
 そうしてポンと手を打つ。
「そうだわ。いいところがあるじゃない。決定ね」
 相変わらずタマ姉は一人で話を進める人だなあと思うが、まあいつものことなので気にもならない。正直、
こういう人の傍にいるとついていくだけでいいので、楽だと言えば楽だ。
「それじゃ各自一度家に帰って着替えてからタカ坊の家に集合〜。場所はみんな知ってるわよね?」
 前言撤回……。迷惑をかけられることも多い。
「……このみの家の隣」
「うん。大丈夫みたいね。それじゃ一旦解散しましょ」
 どうせ拒否権は無いので俺は反論すらしなかった。
47811/11 言葉はいらない その4:05/03/15 20:23:39 ID:gY4ONFo70
 いつもの帰り道を6人で歩く。いつもの角でよっちとちゃると別れる。
「タカ坊、店屋物適当に注文しておいてね」
「はいはい。後で割り勘でいいよね?」
「当たり前じゃない。タカ坊の経済状況を一番分かってるのは誰だと思ってるの?」
 それはタマ姉で間違いないです。はい。
 そうしてタマ姉と雄二も自分の家への角を曲がる。
「タカくん、お片づけちゃんとしてる?」
「いや、まあ、ちょっと誤魔化すくらいはしないとだなあ」
 リビングの状況を思い返せば一目瞭然。朝食ったカレーの皿も水にはつけたものの洗ってないな。
「それじゃ着替えたらお手伝いに行くでありますよ」
「そりゃ助かる」
 さて、自分の家に帰ってきてリビングを一瞥。確かに片付けはしないといけなさそうだ。腕まくりをして、ま
ずはリビングに投げ出されたままのパジャマからと手を伸ばそうとしたらチャイムが鳴る。
 おいおい、このみ。いくらなんでも早すぎるだろう。
 そう思って玄関に向かうと、
「いやぁ、こんなことしてるとホント、間女って感じッスよね〜」
 そこには制服姿のままのよっちが立っていて、そんなことを言いながらそそくさと上がりこんでくる。
 一旦解散した後、よっちはちゃると一緒に帰っていった……フリをしただけで結局タイミングを見計らって
こっちにきたらしい。
「家に連絡取ったんだろ? 一度帰っても良かったんじゃないか?」
「いーや、そんなことしたら絶対家から出してもらえないッスもん。とりあえずこのままじゃマズいから着替え
てくるッスね。覗いちゃダメッスよ〜」
「わざわざ覗かないよ」
「フォォォォ! そう言われたらなんか乙女の繊細なハートが傷ついたッスよー。こう、見たいけど見ちゃダメ
みたいなそんなトキメキは無いんスかー!」
「うん。無いな」
「くーー。こうなったらセンパイの目の前で着替えを」
「どうでもいいが、さっさと着替えないとこのみあたりが来るぞ」
 ――ガチャ。
 多分、言霊というのは本当にあるんだろう。
「タカくん、お手伝いにきたでありますよ」
479名無しさんだよもん:05/03/15 20:24:22 ID:gY4ONFo70
 多分言霊ってのは本当にあるんでしょう。
 寒波云々のところを書いてから用事があって外に出ると豪雪。
 俺が呼んだんじゃないってことは分かってる。分かってるけど orz
 今回タカくんが回想してるのは、大本の構想にあった各種イベントであります。
 それらを通じて近づいていく貴明とよっちの10ヶ月間を描く予定だったのですが、流石に長くなりすぎそう
でしたので、色々考えた末にカットカットカットーーーーー!! した結果がこの作品であります。
 ではまた次回は数日後に(´・ω・`)ノシ
480名無しさんだよもん:05/03/15 20:30:23 ID:O/nKWrCqO
>>479s
激しくGJ!
リアルタイムで読ませていただきましたよ。これからも頑張ってください!
481名無しさんだよもん:05/03/15 21:36:37 ID:KvtdR+Gd0
>>479
GJ!!
また2ちゃん巡回の日々が始まってしまった・・・
482名無しさんだよもん:05/03/15 21:42:48 ID:DLqItEOc0
ぬおおおお
待ってました>>479
続きが数日後なんて殺生な
483名無しさんだよもん:05/03/15 21:57:24 ID:TmMnKYJ6O
この展開、日溜りの詩の修羅場思い出すよ。・゚・(ノД`)・゚・。
484名無しさんだよもん:05/03/15 22:56:49 ID:nr/lwj7v0
(゚∀゚)よっち!よっち!
(゚∀゚)よっち!よっち!
(゚∀゚)よっち!よっち!
485お弁当狂想曲(1/9):05/03/16 00:51:58 ID:mWe9nW140
 カチ、コチ、コッチン♪
 音が鳴る。

 それはもちろんまじまじと見つめる液晶パネルのデジタル時計ではなくて、ダイニ
ングの壁に据え付けてある壁掛け時計の秒針の音。

 秒針の音は、決して立ち止まることのない時間の歩みを報せてくれた。
 液晶パネルの表示は、歩み続ける時間が今どこを過ぎ去ったのかを教えてくれる。
 緊張も顕わに液晶パネルを見つめるこのみの世界は今、そのそれぞれ一つずつの音
と映像に埋め尽くされている。

 時刻は朝五時、五九分。
 日の出まで、あと十数分もない。
 もう、ほんの少しだ。まじまじと待ちわびるその時間まで、ほんの数秒。

「……」

 はふ、と思わず息を呑む。
 その瞬間、アナログが秒針の一秒一秒を刻む音に載って、デジタル時計の時刻が六
時へと進んだ。
 秒針の音だけがピピッ、と短く甲高い電子音。
 そしてその電子音に続いて無機質な声音が、秒針の音だけが支配する空間に無遠慮
に割り込んだ。

『時間です。ご飯が炊けました』

 待ち望んだ、瞬間。
 このみが見つめる液晶パネル。その傍らに小さく表示されていた赤色の炎のシンボ
ルと『炊飯中』の表示が消えていた。
 白い蒸気を吹き上げて、ことことと微かに振動していた炊飯器がゆっくりと揺らぎ
を止め、保温モードへと切り替わる。
486お弁当狂想曲(2/9):05/03/16 00:53:01 ID:mWe9nW140
 四月といえども早朝の空気はまだ冷たく、それが却って心地よい。

「んー……っ! よし」

 小さい胸に精一杯空気を取り込んで、それを大きく大きく吐き出した。
 気分は爽快、意識は明瞭。
 ちょっと寝たりない気もしたけれど、今の炊き上がりのメッセージで意識は確かに
覚醒した。
 すっきりしたのは意識だけで、身体のほうがついてかないかもしれないけれど。

 というより、そのうち意識も春の妖精さんに攫われてしまうかも。

 まあそこらへんは、学校の午前中の授業でカバー、カバー!
 入学早々早くも居眠りはしちゃってるんだから、怖いものなんかないのでありますよ〜

「……あら、このみ。もう起きてたの!?」
「わわっ! 
 ……お、おはよう、お母さん」

 やましいところがあるから、背後から掛けられた聞きなれた声に、必要以上に激しく
動揺するのであって。
 母、春夏はそのこのみの慌てぶりににわずか怪訝そうな表情を浮かべたが、そんな
疑問よりはるかに驚くべき光景が目の前に展開していることを思いだした。
 あらためてまじまじと、この時刻に起きたばかりか、すでに櫛を髪に通し、着替え
まで済ませている娘を見つめる。
 とりあえず、わざとらしく自分の頬を抓ってみた。
 うん、痛い。夢じゃない。
 このみも軽く息を吹き込んだ紙風船のように膨れているし。
487お弁当狂想曲(3/9):05/03/16 00:54:14 ID:mWe9nW140
「ほんと驚いたわ。絶対にまたぎりぎりまで布団の中にいて、タカくんが迎えに来て
から『ヒドいよお母さん、どうして起してくれなかったの〜!』って叫ぶんだって思
ってたのに」
「うぅ〜、お母さんがなんかヒドいこといった」

 母の軽口にさらにぷくーっ、とふぐのようにむくれる娘。
 ツンツンと怒ったような気配の針を逆立てているから、ふぐというよりハリセンボンかも。
 その仕種にくすりと微笑い、春夏は椅子に掛けたままだった青いエプロンを取り腰
に巻きつける。
 そしてもう一つ、制服姿のこのみには、家庭科御用達の白い割烹着(ゲンジマルの
アップリケ付き)を手渡した。

「じゃぁ、はじめましょうか。
 愛妻弁当だもの、頑張って作らなくちゃね」

 まるで咲き誇る桜のように、このみの頬がほのかな桃色に染まった。


488お弁当狂想曲(4/9):05/03/16 00:55:35 ID:mWe9nW140
「ん……っ、よ、っと……」
「包丁を持つ手は力を抜いて、人差し指と親指だけに力を入れて」
「こう、かな……あいたっ」

 ビュンッ、スパコーンッ!
 瞬間、精魂注入棒ならぬおたまが一閃、娘の頭で小気味の良い音を立てた。
 あんまり軽快な音がするものだから、春夏は一瞬中身の方が不安になる。

 ……もともと入ってるのかどうかという方向性で。

「う゛、う゛あぁ゛〜。叩くのもヒドいけどなんだか目線もヒドいよお母さん!!」
「手から力を抜くの。腕まで力を抜くんじゃないの!」

 ぺしんっ、とこのみのおでこを中指で弾いたのは意外と聡い娘の追求から逃れるための
意味合いが強く。

「腕から力を抜いちゃったら、切れるわけが無いでしょ」 

 誤魔化し半分とはいえ、出てくる叱責は至極真っ当。
 だから恨めしげな視線で春夏を見るこのみもそれ以上の追求はできない。


「で、でも言葉で言われても難しいよ」

「そうしようと頭で考えて難しいなら、もう一度やってみる。
 やってる内に慣れるわ。慣れるまではひっぱたいて上げるから、安心しなさい」 
「ちっとも安心できないよ〜」
489お弁当狂想曲(5/9):05/03/16 00:56:53 ID:mWe9nW140
 うーっ、と不安げに唸りつつ、このみは再びまな板に向き直る。
 その上にちょこなんと載っているのは、市販の皮付きウインナーだ。
 任務は簡単、お弁当作りの手始めに、これの腹と端に軽く切れ込みを入れて、タコ
さんウインナーを量産すること。
 ただそれだけ、のことなのだけど、ぎこちない包丁捌きはやはり少々気に掛かった。
 
(ふぅ、野菜の皮を怪我なしで剥けるようになるのはいつかしら。皮むき機を買って
来ないと危なっかしいったら……)

 この調子では、タカくんの家でカレーを作るときの大騒ぎがうかがい知れる。
 隣家の童顔の少年が心配げに台所の様子を窺っている光景を想像し、それでもなん
とか努力の甲斐らしきものが認められる娘の手つきを見て、母は微かな苦笑を浮かべた。
 そして暖かい苦笑を浮かべたままで、くるりと水場に背を向ける。
 あんまり過保護なのはいけない、できるところまで自分でやらせないと。
 トラブル災難見越した上で、わざわざ早めに時間を取った意味がない。




 とはいえ、手綱を離れた子犬は大体のとこいらん事をしでかすもので。




 その後姿をこそこそと、鼻歌唄いのこのみが横目に眺めていたことに彼女は不幸に
も気が付かない。
 水屋に向かった母が振り向きそうにも無いことを確認し、ひょい、っと背後から取
り出しましたるは、何の変哲も無い味塩胡椒のビン。
 この瓶や味の素、その他諸々の調味料、このみに『こういう時』に持たせるとえらい
事になるのを、母親は誰よりもよく知っている。
490お弁当狂想曲(6/9):05/03/16 00:57:25 ID:mWe9nW140
 しかしもちろん、背中に目がついてたりしない彼女には、味塩胡椒のビンを握り締
めて『にへら〜』と幸せそうな笑みを浮かべてる娘の姿にもやっぱり気付かないのだ。
 続けて、さささささっ、とこのみの手に握られたビンが何往復も何往復も何往復も
(中略)何往復もしたことにも気が付くわけもない。

 かくて母のあずかり知らぬ間に、たちまちあらびきタコさんウインナーは『調味料
に塗れた何か』に成り果てた。

「ええと……で、これをフライ鍋で揚げるんだよね」

 隠し味(というか味覚破壊)は準備万端、発覚する前に揚げてしまわないと。
 まずはお鍋のサラダ油の温度確認。
 お母さんに教えてもらった方法は、確か……

「てりゃっ」

 まな板の脇に置いてあったサラダ用のキャベツから一切れ、フライ鍋に放り込む。
 海を二つに割れそうなほど真剣な眼差しで見つめる中、二秒ほどのことだろう。
 キャベツの断片がすっと浮き上がってきたのを見て、このみが両の拳をぐっと胸の
前で握る。

「……むむ、準備万端でありますよ」

 お母さんの話だと、これでフライに最適な温度―――180度前後―――を保ってい
るはずなのだ。

「お母さーん、揚げ物揚げるよー」
491お弁当狂想曲(7/9):05/03/16 00:58:43 ID:mWe9nW140
 一応、母親に断りを入れて、
 返事が返る前に投弾……

「熱っ!」

 しようとしたら、鍋から撥ねた油が飛んできた。

「油の撥ねに気をつけ……まったく、もう」
「うぅ……遅いよ〜、お母さん」

 忠告が後半呆れへと変化した声にこちらは恨みがましい声音で返して、このみは染
みのできてしまった制服の袖を濡らしたナプキンでごしごしと拭き落とす。
 そして改めてウインナーをつまんだ菜ばしを握りなおし、真剣な表情でフライ鍋と
向き直る。

「む〜……」

 ぱちぱち、ぱちぱちと勢いも良く、お鍋の中から時折油が飛んでくる。
 絶え間なくというわけでも、定期的というわけでもなかったけれど、逆にいえばい
つどんな勢いで撥ねるか分からないわけで。

(気をつけるって、どうしたらいいのかな?)

 お母さんが戻ってくる前に、どうしてもウインナーを揚げてしまわなきゃ。
 きょときょと、と水屋の側を盗み見る。
 まだ大丈夫、まだ大丈夫。
 なら早く済ませてしまわないと。
492お弁当狂想曲(8/9):05/03/16 00:59:51 ID:mWe9nW140
 先ほどの手順を再確認。
 といっても、ウインナーを放り込もうと腕を鍋に近づけただけ。
 その簡単な作業の中でいったい何が問題だったのか、このみなりに理由を考えてみる。
 考えるのは苦手だけど、ともかくなんとか考えてみる。
 いろいろ考えて……

(そうだ、近づきすぎたからいけないんだ)

 朝から頭を使いすぎて、眠気を催す刹那、なんとか彼女なりの結論にたどり着いた。
 同時にその解法にも。

「……えへ〜、こうすれば、っと」

 得意げな笑みが顔に浮かんだ。
 その笑みと同じ高さに、菜ばしwithウインナー。
 しかしてフライ鍋の高さはこのみの腰ほどのところなので。

 その高さのままに、ウインナーは鍋の上空まで水平移動して……

 ……高高度水平爆撃。

 腕が鍋に近すぎて撥ねた油が飛んでくるのなら、安全な距離を保てば大丈夫という
とても合理的な見解だった。

 隊長、爆撃高度と進入角は最良なのであります。
 主にこのみの主観的に。
493お弁当狂想曲(9/9):05/03/16 01:04:57 ID:mWe9nW140
「ちょっ、こらっ、このみ!」

 そこでようやく、現場がとんでもなく冒険主義的なことをやらかそうとしているか
に気が付いて、旦那と愛娘と未来の婿殿(予定)三人分のお弁当箱を抱えた春夏が、
水屋から足音荒く駆け戻ってくる。




 ―――けど、一歩も二歩も遅かった。
 

 どぼんっ、じゅわわつ、ばしゃっ!!


「ほわーっ!」
「こーのーみーっ!!」

 隊長、シルカとSA−6を組み合わせた敵陣の防空火力は極めて強力なのでありま
すよ〜。
 もしぇ・だやんもびっくり。




 ぽかんっ、とすりこぎの頭を打つ陽気な音が、朝の爽やかな空気の中に吸い込まれ
ていく。
 かくしてこの日のこのみの挑戦はウインナー一本に止まり。

  タカくんが昼食時に偉い目にあったことはいうまでもない。
494例の三人組:05/03/16 01:07:51 ID:mWe9nW140
>>203-208でございます。


……はて、萌え路線続行のはずだったのにどこで道を誤ったのかorz
萌えって難しい……
495名無しさんだよもん:05/03/16 07:49:30 ID:cWMtVHVv0
いやいやGJ こっちの方が萌えだと思う  この調子で今後も頼む
496名無しさんだよもん:05/03/16 20:42:33 ID:KCkCA6Kn0
この頃SS職人が休業中だな。
リンクからも更新が無い。。。
497名無しさんだよもん:05/03/16 21:45:31 ID:JGeSitE/0
いくのんでなんかやってほしいと思うんですけど。
既出の話で捏造以外でお勧めは?
捏造に萌えました。
498名無しさんだよもん:05/03/16 22:05:06 ID:Y9pTwrra0
三ヶ月経つしネタ切れ感もあるしなぁ。
499名無しさんだよもん:05/03/16 23:29:00 ID:OmbAfZ4a0
攻略可能キャラが前作と比べると普通すぎて今一ネタにしきれないという感じが。
500名無しさんだよもん:05/03/16 23:56:06 ID:Ctc9DlqEO
>>499
だからこそ甘々なエロ物を書くには適した作品だとは思わんかね?(´∀`)b


500ゲト
501名無しさんだよもん:05/03/16 23:57:49 ID:w9IagIH50
>>499
タカ坊とタマ姉で甘甘もハードなのもいけるのは素晴らしいと思う。
502名無しさんだよもん:05/03/17 00:06:47 ID:jIOvtT2M0
昨日は新規投稿なしか。
丸一日投稿無しはかなり久しぶり灘。

確かに今回は一風変わった特技持ち、ってキャラは多くないからねぇ。
5031/4 Tender Heart その2:05/03/17 01:36:19 ID:7vO1AAzz0
「タカく〜ん! こっちこっち」
 昼休み、屋上に上るとこのみが手を振っていた。
 プリント柄のレジャーシートの上で弾けるような笑顔を見せて俺を呼ぶこのみの側で、タマ姉も
にこにこと手を振っている。
 日差しが強い。俺は思わず立ち止まり、手をかざして空を見上げた。
 このところ雨続きだったから屋上でのランチも久しぶりだ。前にここで弁当を食べたときにはま
だどこか長閑さを残していた日差しも、今では夏の訪れを力強く証明するかのように半袖の肌をち
りちりと灼き、俺の目を眩ませる。
 季節は、時間は、確かに流れているんだな。
「なーにそんなとこで突っ立ってんのよ、タカ坊」
 すぐ側から掛けられた声に視線を地上に戻すと、シートに座っていたはずのタマ姉がいつのまに
か俺の顔を斜め後ろからのぞき込むようにして立っていた。
「ほら、早く座りなさい。四時限目体育で私お腹空いてるんだから」
「あれ、そういえば雄二は?」
「雄二なら、なんでもクラスのお友達と相談があるから今日は学食に行くって言ってきたわよ。ま
あ、どうせまたろくでもないことたくらんでるんでしょうけど」
 ……ああ。あいつはまだ夢をあきらめないでいたのか。
 俺は朝に持ちかけられた『ナイスでグッドな話』を思い出す。限定プレスで、ネット予約は即時
完売、オークションではすでにプレミアが……と熱く語った友の瞳の輝きを思い出す。ついでに向
坂家の小型焼却炉の話も。
 武運を祈る、雄二。そして成仏しろ。
「ねーねー、タカくん。早く食べようよ〜」
 またぼーっとしていたらしい。
 このみが袖を引っ張る感覚でもの思いから戻る。
「あ、ああ。そうだな、ごめん。このみ」
「どうしたの、タカ坊。具合でも悪いの?」
5042/4 Tender Heart その2:05/03/17 01:37:20 ID:7vO1AAzz0
「いや、そうじゃなくて……ここ暑いなあって思ってさ。屋上でお弁当ってのも、そろそろ限界なん
じゃないか?」
 このみから手渡された弁当箱を空けながら別のことを答えた。ちなみに今日の弁当は竜田揚げとだ
し巻き卵。もちろん寝坊したこのみに作れるはずもなく春夏さんの手によるものだ。
「そうね、確かに言うとおりだわ。これじゃゆっくりできないし、なにより日に焼けちゃうものね」
 タマ姉がまぶしそうに目を細めてすっかり夏めいてきた街並みを見回しながらそう言うと、このみ
が箸を動かす手を止めた。
「じゃあもうみんなでお弁当食べるのやめちゃうの? わたしそんなのやだよ、タマお姉ちゃん」
「大丈夫よ、このみ。私だってやめる気なんてさらさらないから。涼しくて、落ち着けて、ゆっくり
ごはんが食べられて、おまけに眺めも最高な場所をきっとタカ坊が探してくれるわ。――ね、タカ坊?」
「俺が!?」
 突然話を振られて、危うく米粒を吹きかける。
 しかし俺の抗議をタマ姉はむしろ心外だといわんばかりの顔で受け流す。
「あら、タカ坊はやめたいの?」
「タカくん……」
 胸元でぎゅっと拳をにぎってこっちを見つめるこのみ。
 そしてその後ろでにっこり笑うタマ姉。
 ……ああもう、負けだ!
「わかった、わかったよ。いい場所探しておくから、そんな目をするなこのみ」
「ほんと!? ありがとうタカくん!」
「わわっ、抱きつくな。こらっ」
5053/4 Tender Heart その2:05/03/17 01:38:02 ID:7vO1AAzz0
「えへ〜、本日のタカくんエネルギー充填なのでありますよ〜」
 横合いから飛びついたように抱きつかれ、俺はあわてて手をついて体重を支えた。そのはずみ
に、このみの横で結んだ髪が鼻先をくすぐった。
 果物のようなシャンプーの匂い。その中にこのみのやわらかい汗の匂いも感じて、俺は急に顔
が熱くなるのを自覚した。
「ば、ば、ばか。離れろって。みんな見てるだろ?」
「みんなもう慣れてるわよ」
 やれやれとお茶をすするタマ姉。
「今更なに気にしてるの。あなたたちの関係を知らない人なんてこの学校にはもういないんだか
ら。このみの彼氏なら、もっと堂々としてなさい」
「ど、堂々って……」
 朝の、雄二の言葉が脳裏に蘇る。
『――このみを抱きたいと、思わないわけじゃないんだろう?』
 どきん。
 胸の奥で心臓が大きく跳ねる。
 胸元に寄りかかるこのみの頭の重みが、途端に生々しいものに変わる。
 腕にぶつかるこのみの胸の柔らかさに、体の奥がじんじんと疼き始める。
 香るこのみの甘い匂いが、このみがもはや昔の小さな女の子ではなく、成長した――つまりは、
男を迎える準備のできた――女であることを否応なく意識させ……。
「このみ、そろそろ勘弁してあげなさい」
 ――タマ姉の声で救われた。
5064/4 Tender Heart その2:05/03/17 01:38:55 ID:7vO1AAzz0
「タカ坊がゆであがっちゃうわ」
「はーい」
 ちょっと残念そうな声をあげて俺から離れるこのみ。
 ほぅ……と、大げさでなくため息が漏れた。
 それは緊張が解けたというよりも、理性を失うまえに事態が収まったという安堵のため息で。
「タカ坊も、いつまでも反応が初々しいのは良いけど、もっと自然に応えられるようにならない
とねぇ。そんなにまっ赤になられるとこっちまで恥ずかしくなって――って、ちょっとタカ坊?
どこ行くのよ」
「ごめん、ちょっと……トイレ」
 引き留められる前に立ちあがって駆けだした。
 足を急がせたのは、わき上がる罪悪感と未だ収まらぬ興奮。
 ――くそっ。それもこれもみんな雄二のせいだ。
 毒づきながら階段を駆け下り……そのまま昼休みが終わるまで屋上には戻らなかった。
507Tender Heart 作者 :05/03/17 01:54:13 ID:7vO1AAzz0
 どうでもいいことですが464は私じゃありません。困惑してます。なにがしたかったの?
 ま、私は一生懸命SS書くだけなんで、どうでもいいんですが。
 書きながら思ったのは、このみって初音と似ているなあということ。
 兄妹のような関係で、甘えん坊で、すごく良い子で、胸が無くて(笑
 作者の妄想だけで突っ走る話ですが、ちゃんとラストまで考えてますので
 お楽しみいただければ幸いです。
 
508名無しさんだよもん:05/03/17 02:18:38 ID:XWjmWpS+0
>507
乙GJ。
トリップつけたほうがいいかもしれんね。
気にせずに今後もガンガレ
509名無しさんだよもん:05/03/17 02:32:27 ID:YAV2Ackb0
新作キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!!!!
このみの甘えん坊振りにGJ!
>>507どんどん妄想して下さい
510名無しさんだよもん:05/03/17 08:57:04 ID:fLQNwmTE0
>>507
GJ、このみのべたべたっぷりが激しく愛い(゚∀゚)

トリップはつけたほうがいいかもわからんね。
何の意図があってHN騙られたのかは判らんが、自己防衛はしとくに限るっしょ。
511名無しさんだよもん:05/03/17 15:06:08 ID:rzO7ums50
今まで東芝ビクター松下とゴーストの新機種が出ると
買わずにあれこれ言うより買って後悔しようと
決めて買い続けたが、
ゴースト除去後の絵は松下がいい。
除去能力はビクターだが擬似ゴーストが出ることも。
CATVに左ゴーストが出るならビクター。
東芝はクリアビジョン一発目の単体は良かったが、
今はいまいち。DVD搭載なら松下。
512名無しさんだよもん:05/03/17 15:48:51 ID:cyJD5OxAO
何処の誤爆さ
513名無しさんだよもん:05/03/17 23:34:56 ID:2ZhEYg9B0
AV機器板なのは間違いない
住人層からしてアニメヲタのスレっぽいが
514名無しさんだよもん:05/03/18 00:10:30 ID:mAdsxhUc0
んな事はどうでもいい

タカ棒と雄二のアイス屋SS続きマダー?(チン AAry
515名無しさんだよもん:05/03/18 00:15:09 ID:TrTggWtu0
なにチンチン?
516名無しさんだよもん:05/03/18 00:42:11 ID:m3+3YmGB0
アイス屋読みたい
別に雄二でなくていい。
ダニエルでもいいから。
517名無しさんだよもん:05/03/18 00:54:28 ID:HtGVSv8D0
アイス屋読みたい
別に雄二でなくていい。
春夏3でもいいから。
518名無しさんだよもん:05/03/18 01:25:22 ID:h/RXMBB60
>>516-517
ここは利益誘導なインターネッツですねw
519名無しさんだよもん:05/03/18 07:34:04 ID:opYRMiMf0
アイス屋読みたい
別に18禁でなくていい。
よっちが出てくればそれで全部OKだから。
520名無しさんだよもん:05/03/18 16:03:54 ID:r9P3iAHI0
18禁読みたい
521名無しさんだよもん:05/03/18 19:42:10 ID:4MLtAXmbO
ていうかよっちを揉みたい。
もとい読みたい。
522名無しさんだよもん:05/03/19 00:41:13 ID:ZsMIU1bq0
>よっちを読みたい
ヘブンズドアで本にされたよっちが荒木絵で

    /\___/ヽ   ヽ
   /    ::::::::::::::::\ つ
  . |  ,,-‐‐   ‐‐-、 .:::| わ
  |  、_(o)_,:  _(o)_, :::|ぁぁ
.   |    ::<      .::|あぁ
   \  /( [三] )ヽ ::/ああ
   /`ー‐--‐‐―´\ぁあ

となっている姿が脳裏を過ぎってorz
523名無しさんだよもん:05/03/19 01:20:40 ID:zNFlqXHm0
ここ、容量はまだ大丈夫なんですかね?
ブラウザからだとわかんねのですが
524名無しさんだよもん:05/03/19 01:23:37 ID:eVyJAEyP0
現在360k強
まだいける
525つないだ手の先、指の先・4(1/5):05/03/19 05:44:03 ID:4abkocV50
「グッドタイミングだよ、たかちゃん。これも運命のなせる業かなぁ?」
幻聴だけでなく幻覚まで見えてきた。
今日は色々あったし疲れてるのかな?こんな日はさっさと帰って寝るに限る。
何事も早期発見、早期対処が肝心。よし、俺には何も見えない、聞こえないぞ。

「では、会員も揃ったことだし。じゃ〜ん!今日のミステリ研究会は課外活動ということ
 でえ、商店街の不思議食料の探索で〜す」
それって買い食いって言わないか?
おっと、これは幻聴だった。だから突っ込みも禁止。
寝言に返答したら夢の世界から戻ってこれないっていうからな。
この幻聴に返答したら、俺もあっちの世界から戻ってこれないに違いない。

「昨日タウン誌で見たんだけど、なんとあの商店街には『おしるこピザ』なるものがある
 らしいんよ!日本のおしることイタリアのピザがいかなる過程で出会ったのか?これは
 もう未知との遭遇レベルだね!」
いや、どうして出会ったかも気になるけど、俺はそれ、現物には会いたくないよ?
だいたいおしることピザとどっちがメインなんだよ…。
「しかも、会長は太っ腹だからね〜。今日はたかちゃんのおごりでいいよ」
「それ太っ腹じゃないし!」
しまった。あまりの理不尽さに、つい突っ込んじゃった。
「え〜、せっかくミステリ研究会全員集合なんよ〜?」
「全員って2人しかいないじゃない…。とにかく、俺は行かないから」
突っ込んでしまったものはしょうがない。
かくなる上はこれ以上の被害拡大の防止に努めるしか。
「たかちゃんのケチ〜。もう、しょうがないなあ。じゃあ、割カンでもいいよ」
「だから、俺は行かないんだってば。なので、おごりも割カンもなし」
「どうしても?」
「どうしても」
「絶対に?」
「絶対に」
526つないだ手の先、指の先・4(2/5):05/03/19 05:44:58 ID:4abkocV50
やけに食い下がるな。
きっと自分では『おしるこピザ』なるものを食いたくないから必死なんだろう。
だったら行かなきゃいいのに、不思議探求の血が騒ぐのかそれとも他に理由があるのか。
どちらにせよ、ここで折れては俺の胃袋に一生消えないトラウマが刻まれてしまうからな。
断固たる決意でお断り申し上げよう。

「だから、何度も言うようだけど…」
「くすんくすん…せっかく見つけたのに…」

何故そこで泣き出しますか?
…いや、きっとこれもいつもの嘘泣きに違いない。
俺だってそうそう何度も同じ手に引っかからないぞ?
…だいたい、トラウマは昔のタマ姉だけでお腹いっぱいなんだし。

「2人しかいないのに…たかちゃんに断られたら誰と不思議を探せばいいんよ…」

でも毎度同じ手に引っかかるのは、やっぱり泣いている女の子に弱いからなのか。
まぁ、女の涙に弱いのは、古今東西、男の共通項っていうしね。
…腹はくくった。
だから、別にこれが嘘泣きだってなんだって。
これ以上泣いてる顔を見たくないんだからしょうがないだろう?
…自分でもバカだとは思うけど。

「その…、ちょ、ちょっとだけなら…まぁ、」
躊躇いがちに肯定の返事を返そうとする。
が、
「ホントっ?…なぁんだ、もしかして、たかちゃんってば焦らしプレイ?」
何だか、妙に明るい、声が…
「チッチッチ。この花梨ちゃんの灰色の脳細胞の前には、そんな見え透いた手は通用しな
 いんだから!…まぁ、たかちゃんにしてはイイ線行ってたけど相手が悪かったね☆」
527つないだ手の先、指の先・4(3/5):05/03/19 05:46:13 ID:4abkocV50
って、やっぱ嘘泣きじゃないか!…過ちはあらたむるにしかず。ここは速やかに前言撤回。
『女の涙』には笹森さんのは含まれないってことで。つーか、含まれてたまるか。

「…って言おうと思ったけど今のなし。やっぱ俺帰るから」
「ええ〜『会長と一緒ならどこへでも行けます!2人で世界の不思議を暴きましょう!』
 って目を輝かせていってたたかちゃんはどこへいったんよ〜」
「いや、そんなこと一言も言ってないし」
「ひどい!たかちゃんが私の気持ち弄んだ〜!」
「も、弄ん…ってそんな人聞きの悪いこと言うなよ!俺何もしてないよ!」
「私の胸触ったくせに〜」
「そ、そんなこと大声で言うなよ…っていうかだいたいアレは事故じゃ…」

がしっ

俺の腕を何か強大な力が押さえつける。同時にふにゅっと柔らかい感触が腕に伝わる。
俺はこの感覚を知っている。しかし、それ故に身体が振り向くなといっている。

「なかなか来ないから何しているのかと思ったら…」

地獄の底から聞こえるような低い声。
振り向けば死が待っている。しかし振り向かずとも死は待っている。前門の狼、後門の虎。
座して死を待つか、前向きに散るか。悩む俺の頭を強制的に振り向かせる神の見えざる手。

ギリギリギリ。
油の切れたゼンマイ人形のようにぎこちなく首が回る。
その、先には。
予想通りの。

「タ、タマ姉!!」
鬼の形相のタマ姉が立っていた。
528つないだ手の先、指の先・4(4/5):05/03/19 05:47:00 ID:4abkocV50
「私を待たせるなんて、タカ坊も随分と立派になったものね…」

むぎゅ〜〜〜〜〜〜〜!
「ひて!ひてててててて!!」
「もう、どうしてくれようかしら…」
どうするもこうするも今あなたの手は俺の頬をものすごい勢いで捻り上げてるんですけど。
っていうか、そろそろ頬が千切れます、お姉さま!

俺の限界が近いことを悟ったのか、はたまた単に気が済んだのか。
とにかく戒めは解かれた。

「もう、ちょっと目を離すとこれなんだから…」
拗ねた口調で頬をふくらませるタマ姉。
「だからごめんってば。…って、あれ?タマ姉帰ったんじゃ…」
そうだ。確か下駄箱には『帰る』のサインがあったはず。

「何よ!私が待ってちゃ悪い!?」
「い、いや、悪くはないけど…っていうかむしろ嬉しいって言うか。でも、待ってるなら
 そう言ってくれればいいのに。下駄箱、何にもなかったから…その、ごめんな。なんか、
 待たせちゃったみたいで」
知らないこととはいえ、待たせてしまったことを素直に詫びる。そして会いたかったことも。
「え?えっと、その、ほら、私もさっき用事が終わったばっかりだし…っ」
途端にしどろもどろ。さっきまでの怒りはどこへやら。
普段は完璧超人なのに、こういうイレギュラーにはてんで弱いんだってこと。
付き合いだして、初めて知った。

「た、たかちゃんがアブダクトされてる〜!これはもしや我がミステリ研を壊滅に追い込む
 大いなる陰謀!?地球外知的生命体の襲来!?」

…忘れてた。こいつの存在。
529つないだ手の先、指の先・4(5/5):05/03/19 05:50:21 ID:4abkocV50
肉食獣は空腹時にしか狩りはしない。野生の動物たちはそれをよく知っている。
だからこそ、肉食獣のすぐ側で草食獣がのほほんと草を食べたり…なんてことができるのだ。
しかし、人間は違う。
満腹になってゴロゴロする至福の時を邪魔されたら。
空腹でなくとも。

「…こんにちは。私、向坂環。あなたは…お名前なんていうのかしら?」
にっこりと、しかし拒絶を許さない絶対零度の微笑み。
「え、えっと…さ、笹森花梨。…です」
さすがの笹森さんもビビリ気味。
そりゃそうだ。こんなドス黒いオーラを放つタマ姉に歯向かえるなんて雄二くらいのもんだ。
いや、雄二ですら、ここまでのタマ姉には逆らわないだろう…っていうくらいヤバイ。

「…そう、笹森さんっていうのね…。では、笹森さん」
「は、はいっ?」
「あなたはタカ坊とどういう関係なのかしら?」
「え?」
ぽかんと見開かれる笹森さんの目。対照的にスッと細められるタマ姉の目。
「私を宇宙人呼ばわりするのはともかく。どうしてあなたが【私の】タカ坊を下の名前で、
 しかもちゃん付けまでしてるのか?私にもわかるように、一言一句、事細かにお話して
 いただけないかしら?」
そういっていつの間にか手に持っていた空き缶を握り潰す。それも縦に。
これはなんのデモンストレーション!?次は手刀でビール瓶でも切るつもり?それとも笹森を?

俺の背中を冷たい汗が流れる。タマ姉は本気だ…。
その空気を笹森さんも感じ取ったのだろう。ヤツはいきなり空を指差し、駆け出した。
「ああっ!あんなところにスカイフィッシュ!ビデオ取ってこなくちゃ!」
おい、ビデオにしか写らんものが何故肉眼で見える?

…そうして俺は。連行されるグレイのようにタマ姉に引きずられて学校を後にした。
530タマ姉に弄られ隊隊員:05/03/19 06:09:21 ID:4abkocV50
>281-285、>312-315、>413-417 の続きです。

このスレ内でケリをつけるべく流れを無視して貼ってみました。
とりあえずタマ姉が出せたのでラストも近いはず。
行き当たりばったりで書いてるので本当か知りませんけど…orz

ちなみに、おしるこピザは静岡駅近くの店に実在します。
ピザ生地の上に餡子が塗りたくられ、白玉がのり、更に上からチーズが覆い被さり
焼かれている代物。一見普通のピザですが、一口食うと餡子の甘さとチーズの乳
臭さとしょっぱさの絶妙なハーモニー。多分もう二度と食べることはないでしょう…。
531名無しさんだよもん:05/03/19 11:28:53 ID:kSdzvPLV0
「タカくん、一緒に学校に行こう?」
「い、嫌だ!」
「早くしないと遅刻するよー?」
「うるさいうるさい! お前だけで行けよ!」
「えー。このみはタカくんと一緒に学校に行きたいよ。」
「帰れ!」
「タカくんタカくんタカくんタカくんタカくんタカくん
 タカくんタカくんタカくんタカくんタカくんタカくん
 タカくんタカくんタカくんタカくんタカくんタカくん
 タカくんタカくんタカくんタカくんタカくんタカくん」
「やめろ────!!!!!」
532名無しさんだよもん:05/03/19 13:03:31 ID:kGLf6aluO
>>531
貴くんに何があった!?www
533名無しさんだよもん:05/03/19 15:10:18 ID:D4Ri/NEQ0
なんだろう…斧もっておっかけられたとか、その辺かな?
534触媒と還元について (1/2):05/03/19 15:45:16 ID:Ehk+AGOo0
よっちはちゃるが掃除当番のため一人で帰っていた。

いつものパフェを通り過ぎ、商店街へ
何気なく横道の路地を見る。
人が一人すれ違うのがやっとの狭い路地。
出入りの業者や猫が出入りするのは見るけどそこには…
『た、貴明センパイと乳デカ星人…』
思わず立ち止まるよっち。乳デカ星人の長い髪で貴明の顔と乳デカ星人の口元が隠れている。
『なんて言ってるッス?』
読唇術を試みるも髪がよくわからない。
幸い、二人だけのワールド状態なのでこちらに気付いていないのを確認。
接近してみた。
「……きよ、貴あ…。」
「…んか恥ず…しいよ、タマね…た、環。」
「ふふー。かーわいい!」
ぎゅーっと貴明センパイにベアハッグをかける乳デカ。貴明センパイ危うし!
「!!」
驚いたのは乳デカ星人のほうだった。貴明センパイの右手が乳デカの下腹部に伸びていたのだ。
「あっ…」
乳デカの顔が天を向くように上を向くのと同時に締め上げていた腕が一瞬にして垂れ下がり、膝が折れる。
「おっと。危ない危ない。大丈夫ですか?お嬢様。」
倒れそうになった乳デカを貴明センパイの左腕が抱きかかえた。
「大丈夫…タカ坊、どんどん上手くなっていくのね。こっちが恐いぐらい…」
「こういう俺は、嫌い?」
額がくっつかんばかりに顔を近づけていた。
「…意地悪。」
腕を貴明センパイの首に絡めると、そのまま…



535触媒と還元について (2/2):05/03/19 15:45:56 ID:Ehk+AGOo0
『うっわー、うわー。これが若さか……』
自分でも驚くほど興奮している。身体じゅうの、普段は汗をかかないような場所から汗が噴出していた。

「……」

喉が異常に渇くし、こめかみから首筋に汗が滴る。
顔の汗、拭かなきゃ…。鞄からハンカチを出そうとした。
興奮時に分泌される脳内麻薬は筋肉の緊張を促進させる。
と、何かで読んだ気が……手がすべって鞄が地面に落ちたのだ。
口の開いた鞄の中からジュースのおまけについてきた小さい鏡が路地のほうへ跳ねて行った。
『さ、さいあくーっ!』
かつん。鏡が何かにぶつかって止まった。乳デカ星人の足だ…
「……見てたのね?」
「た、タマセンパイ。コンニチハ。」
地の底からわきあがってくるような声。タマセンパイは目からビームを出しそうな勢いで睨んでいる。
「み、見られてたね…」
対称的にハイテンションな貴明センパイの声。
「あ、ああははははは。その鏡はセンパイにあげるっス。じゃあさよならー」
昔の人は言いました。走為上。逃げるが勝ちだ!
鞄を拾い上げて立ち去るしかない。と、思って後ろを向いた瞬間、なぜか頚部に圧迫するものが…
「逃がさないわよぉ。さぁて、どうしましょうか。…そうだ、食べちゃいましょうよ。」
ギリギリと首を締め上げる乳デカ。背中越しに柔らかいものが…。また大きくなってる気がする…
「共犯になってもらったほうがいいのかな?ごめんね吉岡さん。行きがかり上、仕方ないと思うよ。」
「仕方ないで食べられちゃうんスか?うちは脂肪ばっかで美味しくないっス!」
「馬鹿ね、柔らかいから食べ甲斐があるのよ。ねぇ、貴明さまぁ。」
「そういうこと。じゃあ、家に行こうか。」
「えええっ?貴明センパイってそういうキャラっスか?」
「私もね、戸惑ったんだけど。気持ちいいからいいかなー。なーんて。…何言わすのよ!」
痛いのを通り越して気持ちよくなってくる。…マジック?パトラッシュ…なんだか…つかれたよ……
「タマ姉やばいって!締めす……」

この後、貴明センパイの部屋で目を覚ますのだがそれはそれで別のお話。
536環流の人:05/03/19 15:47:40 ID:Ehk+AGOo0
またエロくなくてすまぬ。
537名無しさんだよもん:05/03/19 18:02:03 ID:4UsCengP0
>>536
詳しく!詳しく!
もうちょっと目を覚ますまでのやりとりを事細かに詳細にねっとりじっくりたゆんたゆんと書いてくれ!
538ある日、アイス屋の前にて8(1/7):05/03/19 21:04:30 ID:Fx5VTz+R0
「待たせたな〜、貴明」
「うん」
「はい、これが貴明の。パイナップルとアップルパイのダブル」
「よくわかったね珊瑚ちゃん。俺が食べたいのがパイナップルとアップルパイだって」
「ウチちゃうねん。選んだの瑠璃ちゃんやぁ〜☆」
「そうなんだ、瑠璃ちゃん、ありがとう」
「て、てきとーに選んだだけやもん。ラッキーやったな」

「……」
「……」
「……」

「ウチのはこれ〜。練乳アズキとイチゴミルクのダブル。
 瑠璃ちゃんのはシナモンロールとパッションフルーツシャーベットのダブルや〜」
「お、そっちも美味そうだね」
「貴明、食べてみる?」
「さんちゃんあかん! 貴明なんかに食わす必要ない!」
「瑠璃ちゃん、そないなこと言うたらあかんよ。瑠璃ちゃんが自分のを貴明に食べさせたいんやった
ら、素直にそう言わな」
「ちゃうもん! 食わせたいんちゃうもん〜っ!」
「ええからな、はい、瑠璃ちゃんのも」
「あーん。――うん、美味しい。
 瑠璃ちゃんのも。――うん、美味しい」
「なーなー、ウチも貴明の、食べてみてええ?」
「ああ、いいよ」
「あ〜ん。――うん、うまいよ〜☆
539ある日、アイス屋の前にて8(2/7):05/03/19 21:05:28 ID:Fx5VTz+R0
 ほら、瑠璃ちゃんも貴明の、食べてみたらええよ」
「う、ウチはええよ。別に」
「ええからええから、ほらほら」
「さ、さんちゃん……もう、しゃあないなあ。
 貴明、ひ、一口だけやで。あ〜ん。……」
「瑠璃ちゃん、どう?」
「……う、うまい、よ」

「……」
「……」
「……」

「あ、貴明ほっぺたにアイスついてる」
「ん?」
「ほら、ここ。ウチが拭いたげる」
 ふきふき。
「ん、珊瑚ちゃん、サンキュ」
「あ、そっちもついてる。そっちは瑠璃ちゃんが拭いたって」
「な、何でウチが……」
「ええから、な」
「も、もうしゃあないなぁ。貴明もベタベタと子供なんやから!」
 ふきふき。
「ん、瑠璃ちゃん、サンキュ」
「え、ええよ別に」

「……」
540ある日、アイス屋の前にて8(3/7):05/03/19 21:05:58 ID:Fx5VTz+R0
「……」
「……」

「なーなー貴明、今度の日曜日、みんなでデートしよ☆」
「んーそうだな。珊瑚ちゃんはどこに行きたい?」
「ウチはな〜、遊園地もええし、ロボフェスも興味あるし、あ、そういえば新作ホラー、今週から
上映中やし、う〜ん、困ったな〜」
「ははは、珊瑚ちゃんは欲張りさんだなあ。
 瑠璃ちゃんはどこに行きたい?」
「う、ウチは、別にどこでも……」
「ははは、瑠璃ちゃんはケンキョだなあ」
「そや〜、貴明が決めて〜な。ウチらは貴明と一緒ならどこでもええよ〜☆」

「……」
「……」
「……ん? 歌わないの?」
「な、な、なんじゃ〜〜〜! あの光景は〜〜〜っ!?」
「……先輩、両手に花の図」
「双子の姉妹を両方ともたらし込むとは、あのバカ、意外とやるわね」
「この国、一夫一妻制! 重婚、犯罪! あれ、よくない!」
「なんで日本語がカタコトになるのよ」
「男と女は1対1でカップルが基本! いや鉄則!!
 あれがセンパイの奪い合いってならまだ許すが、3人でまったりとラブラブしてるし!
 不純っしょ! 不潔っしょ!!」
「意外と倫理観にはうるさいのね、あんた」
541ある日、アイス屋の前にて8(4/7):05/03/19 21:06:34 ID:Fx5VTz+R0
「あんなものわたしは認めん、断じて認めん!!
 全世界幾千万の独り者の怒りと憎しみと妬みを力に変え、天誅を下すっしょ!!」
「……よっち、マジギレ」
「うおおおおおっ! センパイ覚悟〜〜〜っ!!」
「お待ち下さい!」
「誰!? ってうおっ! 似たようなメイドロボが3体も!?」
「瑠璃様たちの邪魔は断じて許しません!」
 ガシッ!
「うわっ! メイドロボに羽交い締めにされた!? こ、こら〜、離せ〜!」
「あの場は瑠璃様、珊瑚様、そして貴明さんの3人だけの世界。何人たりとも立ち入ることは許され
ないのです! そう、私たちですら!」
「……は?」

「……ふーん、あんたたち、イルファ、ミルファ、シルファだっけ? あんたたちもあの3人の関係
者ってわけ?」
「その通りです。私ことイルファは、瑠璃様をお慕いするメイドロボです」
「とか言って姉さん、貴明のこと、旦那様にしたいとか言ってるよね。この浮気者。
 その点、私ミルファは、なんたって貴明専属のメイドロボだもんね!」
「……シルファは、珊瑚ママ……」
「随分と個性豊かなメイドロボね。こんなの初めて見た」
「……技術進化、恐るべし」
「な、なんか、すごい相関関係図が出来上がりそう……。
 で、そのあんたたちが、なんでこんなところにいるの? 行けばいいっしょ、3人のところに」
「……それは出来ません」
「なんで?」
「今、お三方は、それぞれのアイスを食べ合っておられます。つまり、あの場にいる資格があるのは、
542ある日、アイス屋の前にて8(5/7):05/03/19 21:07:09 ID:Fx5VTz+R0
”アイスを食べ合うことが出来る者”のみなのです。
 しかし私たちには、食事をする機能がありません。だからこうして、ただ見守ることしか許されな
いのです!
 何故私たちはアイスを食べることが出来ないのでしょう!? お恨みします、長瀬のおじさま!!」
「姉さん考えすぎだってば。食べられなくても別にいいじゃない。私行くよ」
「……シルファも……」
「二人ともダメです! あの場に私たちが行ったって何も出来ずに見てるだけ、いわばヘビの生殺し
状態になってしまうというのが何故わからないの!?」
「ん〜……、単にアイスを買って、それぞれ相手に食べさせたらいいっしょ?」
「それでは”食べ合う”ことにはなりません。一方的ではダメなんです」
「いやに形にこだわるメイドロボね」
「ん〜……、要は、何らかの形であれに参加できればいいっしょ?
 例えば……」
「例えば?」
「アイスを身体の一部に塗って、それをなめさせるとか。うひゃ〜、自分で言っててエロすぎ」
「……いいかも」
「ちょ、ちょっとミルファちゃん! なんで自分の胸を見てるの!?
 ってシ、シルファちゃん! なんてトコ見てるの!? そんなトコにアイス塗るなんて、CERO
審査に引っかかります!!」
「……何の話だ」
「ま、少なくとも天下の往来で出来るような行為じゃないわね」
「うむむ……。ねえ、あんたたちって、食べ物は全く口には出来ないの?」
「調理の際に味見をするので、その程度のごく少量でしたら大丈夫です」
「じゃあさ、アイスを食べさせてもらって、口の中いっぱいになったらそのつど吐き出すとか……」
「そんなの気持ち悪すぎます!」
「百年の恋も一瞬で冷めるわね。もう少しまともな提案しなさいよ」
543ある日、アイス屋の前にて8(6/7):05/03/19 21:09:07 ID:Fx5VTz+R0
「なにさ郁乃! さっきから聞いていれば人の意見に文句言ってるだけじゃない。あんたも何か
考えるっしょ!」
「む……そう言われると、確かに困るわね……」
「……もう、いいんです」
「イルファ?」
「やっぱり私たちは、あの場に入ることは出来ないんです。それが人間とロボットのあいだにある、
越えられない壁なんです」
「姉さん……」
「……イルファお姉ちゃん……」
「ふふっ、なんだか自分が哀れに思えます。たかがアイス、されどアイス。あんな片手で持てる程度
の存在の前に、私たちは為す術もありません。
 おまけに、心はこんなに悲しくても、私たちは涙を流すことさえ出来ないんです……」
「イルファ、あんた……」
 ぽつ、ぽつ……
「ん?」
 ざぁーーーっ……
「うわっ、いきなり雨が!? さっきまであんなに晴れていたのに?
 ……はっ!? み、見て、郁乃、ちゃる! イルファたちの顔が雨に濡れて、まるで、まるで……」
「涙を、流しているようね……」
「……きっと、イルファたちの涙雨」

「うわ、にわか雨かよ」
「うわ〜、かなわんな〜」
「うう〜っ、雨で濡れてまうやん。貴明、カサは?」
「え、持ってきてないけど?」
「何で用意してないの、アホ貴明!」
544ある日、アイス屋の前にて8(7/7):05/03/19 21:09:47 ID:Fx5VTz+R0
「そんなこと言われたって……」
「とりあえず早く家に帰るで。あれ、イルファたちは?」
「そういえばさっきから姿が見えないけど…………あ、あんなところにいた。
 おおーい、イルファさーん! クマ吉ー! ミルファちゃーん!」

「ほら、呼んでるっしょ。早く行きなよ」
「で、でも私たちは……」
「もう、まだ言ってる。こんな雨じゃ、外でアイスなんて食べてられないっしょ。
 ほら、さっさと行った行った」
「そうね、3人とも待ってるみたいよ。さっさと行きなさいよ」
「……早く、いけ」
「みなさん……わ、わかりました」
「姉さん、早く行こう? おおーい、貴明〜っ!」
「……珊瑚ママ……」

「……行っちゃったね」
「そうね、行ったね」
「あれ? 雨が止んだ。なんだかな〜、タイミング良すぎっしょ」
「……やっぱり、イルファたちの涙雨」
「ところでよっち」
「なに、郁乃?」
「あんた、最初にあのバカたちの関係に激怒してたけど、更にイルファたちが加わって、もう両手に
花どころの話じゃないと思うんだけど、それはいいわけ?」
「……言われてみればその通り。うおおおおおっ、センパイ、天誅〜〜〜っ!!」

 おしまい。
545ある日、アイス屋の前にて8 の作者:05/03/19 21:10:19 ID:Fx5VTz+R0
どうもです。双子編です。
ミルファとシルファは完全脳内妄想キャラ。どんなもんでしょ。

一応これで、自分勝手に目標にしてた全ヒロイン攻略は完了しました。
サブキャラ編につきましては……考えてみます。
546名無しさんだよもん:05/03/19 21:25:07 ID:GA00FF5J0
いいよいいよ〜  
次は新シリーズ期待してるけど、その前に春夏さんを・・・・
547名無しさんだよもん:05/03/19 21:26:52 ID:TsJCR9dWO
>545
GJ!&乙でした。
サブキャラ編も期待しています。
548名無しさんだよもん:05/03/19 22:49:20 ID:xN59zbxDO
・愛佳郁乃姉妹丼編
・ちゃる抜け駆け編
・よっち悲願成就編
・奈々子ちゃんロリロリ大作戦編

こんなところか
549名無しさんだよもん:05/03/19 22:53:15 ID:TsJCR9dWO
メイドロボ三姉妹編は?
550名無しさんだよもん:05/03/19 22:56:53 ID:kSAcZqEU0
ワシントン海軍軍縮条約で軍縮対象として主力艦に空母が入れられていたのはなぜですか?
当時、空母は主戦力としては認識されていなかったと思ったのですが。
551名無しさんだよもん:05/03/19 22:57:51 ID:kSAcZqEU0
すまん、誤爆…
552名無しさんだよもん:05/03/19 22:57:59 ID:nn4fO/gBO
ダニエル編
九条院三人娘編
ゲンジ丸編
図書委員長編


立ち絵あるだけで、これだけある
553名無しさんだよもん:05/03/19 22:59:46 ID:R/YaXnPV0
>>550-551
IDが…?
554553:05/03/19 23:00:54 ID:R/YaXnPV0
見間違えた…orz
555Twofaceの人:05/03/19 23:49:51 ID:5SttmKdA0
覚えている人が少ないと思いますが、一応続きUPしたので読んでみてください。
パソトラブル(現在進行中)で執筆活動があまりできてなくて遅くなりましたが…orz
書いてる本人が言うのもアレですが、グダグダですw

ttp://www.geocities.jp/saotome_99/twoface03.html
556名無しさんだよもん:05/03/20 00:09:50 ID:vsnVt30K0
>>555
いくの(*´д`*) ハァハァ

ヽ(´ー`)ノマターリ頑張って下さい〜
557名無しさんだよもん:05/03/20 00:54:08 ID:JSwViukzO
親子丼
558名無しさんだよもん:05/03/20 01:01:01 ID:9MK39RII0
奈々子ちゃん編を忘れてないか。
5591/11 言葉はいらない その5:05/03/20 01:24:50 ID:HJrDMeb70
「タカくん、お手伝いにきたでありますよ」
 開け放たれた玄関からは客間に通じる廊下まで丸見えで、当然玄関にいた俺も、客間前にいたよっちも
隠れようもなかったし、隠れるなんてことを思いつきすらしなかった。このみの視線はまず俺に、その後その
後ろにいるよっちに向けられ、このみの首がわずかに傾げられた。
「あれ? よっち早いね」
「あは、あははー、じゃ、センパイ、後よろしくッス」
 誤魔化すようにそう言って、手を振りながらよっちはささっと客間の中に逃げ込んでしまう。
 ってちょっと待てー! 俺に全部押し付けて行くなー!
「あれ? どうしたの?」
 さらに傾げられるこのみの首。
「いや、それはだな。とりあえず片付けしながら話そう」
 このままにしておくとそのうちこのみが横に倒れそうだったので、とりあえずリビングにあげ、勝手知ったる
なんとやらに頼ることにする。このみはリビングの惨状を眺めてため息ひとつ。最近このみがあまり顔を出さ
なくなったので油断していたのが丸分かりだ。
「とりあえず適当に頼む」
「はぁ、分かったよ〜」
 とにかく手をつけなければ始まらない。自分の部屋に持っていくべきパジャマだったり雑誌だったりを手に
取ると、俺は階段をあがる。それらを自分の部屋の中に放り投げてようやく一息。
 さて、どうしたものか。
 考える時間を作るためにも、自分も着替えをすることにする。
 まあ、変にウソをつくのもなんだし、正直に話したほうがいいんだろう。単に家出してきたよっちを二日ばか
り置いてやっただけなんだしな。うん。
 そもそも制服姿だったよっちが、客間から着替えて出てきては言い訳の余地もないだろう。
 覚悟を決めて階段を下りると、このみはキッチンで洗い物をしていた。今朝のカレーの皿だ。二人分の。
「あ、タカくん、ご飯の注文したー?」
5602/11 言葉はいらない その5:05/03/20 01:25:32 ID:HJrDMeb70
「いや、まだだけど」
「それじゃあまずそれをお願いー。その後、何にも言わないからよっち引っ張り出してきてー」
 何も言わないからということは、つまり何か言いたいことがあるということだ。
 言われる前にこちらから言ってしまうべきだったかもしれない。だが今は時間をかけて説明している時間も
無い。もたもたしているうちにタマ姉がやってくれば雷のひとつやふたつではすまないだろう。
「分かった」
 とだけ返事をして電話に向かう。
 そもそもやましいことなんてないんだから、気にすることなんてないな、うん。
 電話のところに貼っつけてあった出前のチラシから、ピザやら中華やら寿司やらを適当に注文した。まあ
ちょっと余るくらいでも問題はないだろう。それから客間に向かってドアを叩く。
「よっち、着替え終わったか?」
 …………。
 返事は無い。
 いくらなんでも着替え終わってないということはないだろう。
「開けるぞ」
 一応断ってドアを開ける。するとよっちは畳んだ布団の上に座っていた。
「ほれ、今更気にしても仕方ないだろ。出てきて掃除手伝えよ」
「このみ、怒ってなかったッスか?」
「いや、別にそんな感じではなかったけど」
「センパイはこのみが怒ったらどんなに怖いか知らないからヘーキな顔してられるんスよ〜〜」
 このみが怒ったら……?
 確かにワガママを言うところならいくらでも見てきたし、ちょっと腹を立ててるところならイヤというほど知って
いる。けど、よっちが言っているのはそういうことじゃなくて、このみが本気で怒ったら、ということなんだろう。
 ちょっと想像してみる。が、いまいち実感が湧かない。
5613/11 言葉はいらない その5:05/03/20 01:26:15 ID:HJrDMeb70
「そんなに怖いのか?」
「姉御なんて比じゃないッスよ。あれは鬼ッス」
「へぇ、誰が鬼なのかなぁ?」
 その聴きなれたはずの声に、背筋を冷たいものが滑り落ちた。
 いつの間にかエプロン姿のこのみが俺の後ろに立っていた。腕を組んで片手にお玉。その顔は笑ってい
る。笑っているのだが、いつものこのみの笑顔とはまた違っていて、でも……俺はこの顔を知っている。
 すこし考えて俺は答えに行き当たった。
 ――おばさんが本気で怒った時の顔だッ!
「タカくん、今、わたしのことおばさんとか思わなかった?」
「おおお、思ってません。当然思うわけないです」
 心を見透かされて、思わずこのみ相手に敬語になってしまう。
 流石は母娘ということか……。
「よっち、正座」
「ハイッ!」
 ばっと布団から飛び降りて正座するよっち。
 このみが一歩前に出て、お玉を手のひらにパシパシと当てた。
 タマ姉が怒ったときの威圧的なオーラとはまた違う、なにかドス黒い感じの雰囲気が漂っている。俺の知
らないこのみだ。これはいわば、ブラックこのみ!?
 常闇の胎内からやってきたブラックこのみは、そのお玉を武器によっちに冷たい視線を投げかけている。
「さて、お台所に鍋に入ったカレーがありました。わたしとしてもカレーは思い入れのある料理なので、思うと
ころあって味見などしてみたら、大変おいしくなかったです。作ったのはだれかな?」
5624/11 言葉はいらない その5:05/03/20 01:26:57 ID:HJrDMeb70
「わ、わたくしであります」
「その後、リビングにあったタオルなんかを持って洗濯物かごに入れてきたら、乾燥機にはどうしてか女物の
服と下着が入っていました。だれのかな?」
「……わたくしであります」
「……よっち」
「ハイッ!」
 振り下ろされる言葉の刃に、びくっと震えるよっち。まさに蛇に睨まれたカエルというか……。
「いつからタカくんちにいたのかな?」
「……ふ、二日前からであります」
 そのよっちの返事を聞いて、このみが小さくため息をついた。漂っていた黒い気配のようなものが一瞬揺ら
ぐ。
「やっぱり……ちゃるからの電話、そういうことだったんだね」
「へ?」
 しかしそれも一瞬のこと、再びびしっとお玉がよっちの顔に突きつけられる。
「さて、と、よっち、最後の質問ですよ」
「……ハイ」
「わたしはなにを怒っているんでしょうか?」
「え? ……えと、それはこのみに断りもなくセンパイの家に泊まったりしたから……」
 そのまま突き出されたお玉がよっちの額にコツンと当たった。
「ぃたっ!」
「ハズレです」
「そ、それじゃセンパイに美味しくないカレーを作ったから。あたっ!」
 またしてもコツン。
「それも違うでありますよ」
5635/11 言葉はいらない その5:05/03/20 01:27:42 ID:HJrDMeb70
「え、じゃあ、えっと、……夜な夜なセンパイのベッドに潜り込んだのバレてるッスか?」
 今度はよっちの頭めがけて軽くお玉が振り下ろされた。カコン。
「あいたっ」
「聞き捨てならないけど、違うですよ」
「あぅえ、ヤブヘビってヤツッスか。え、っと、それじゃ、んーっと……」
 考え込んでしまうよっち。それはそうだ。俺のところに泊まったことじゃないのなら俺だってこのみがどうし
て怒ってるのか分からない。このみは腕組みしたまま、よっちが答えるのを待っていたが、埒があかないと
思ったのか自分から口を開いた。
「……よっち、二日前、タカくんところに来た日に引越しのこと知ったんだね?」
「は、ハイ」
「だったら……」
 このみがお玉を握る手にぎゅっと力を込める。もしこのみがそれでよっちを力いっぱい叩こうとしたら、間に
入ってでも止めなくちゃいけないだろう。
 しかしそれは杞憂に終わった。
 このみの肩から力が抜ける。そこにいたのはブラックこのみなんかではなく、いつものこのみ。俺の幼なじ
みで、よっちの親友のこのみだった。
「だったらどうしてわたしやちゃるに相談してくれなかったの!?」
 このみはそう叫んで、よっちに飛びついた。
「びっくりしたんだからね。びっくりしすぎて、まだよく分かんないんだからね」
「あ……、このみ……ごめん……」
 しっかりと抱きしめあう二人……。どうやら心配したような事態にはならないようだ。俺は肩の力を抜く。
 このみに抱きつかれたよっちの目にはもう涙があふれてきている。本当に涙もろいヤツだ。
 ……ふぅ、俺はお邪魔だな。
 リビングの片付けも終わってないし、この辺で……と、そう思って客間を抜け出そうとした俺の背中に、
「タカくん! よっちのこと黙ってたお仕置き、いつかたっぷりするから覚悟しとくでありますよ!」
 死刑宣告が投げかけられた。
5646/11 言葉はいらない その5:05/03/20 01:28:50 ID:EAKUA9JR0
「よっ、お邪魔するぜ」
「こんばんは」
 それから10分くらい過ぎて、なにやらビニール袋を片手に雄二とタマ姉がやってきた。
 このみが結構手際よく片付けておいてくれたお陰で、リビングキッチンあたりは綺麗になっている。
 勝手知ったるなんとやら――あれ、これ言うの今日二度目だな――で、上がりこんできた二人はリビング
を覗いて小首を傾げる。
「あら、このみとよっちはどうしたの?」
 確かに玄関には二人の靴があったけど、
「どうしてよっちって分かるのさ?」
「どうしてって、ずっと後ろをコソコソしてたじゃない。真っ先にこの家に来たと思ったんだけど?」
 うわ、俺は全然気付かなかった。俺が鈍感なのか、それともタマ姉が鋭敏すぎるのかは分からない。
「なんだよ。修羅場が見れるって期待してたのによ。あいてっ」
 軽口を叩いた雄二の後頭部をタマ姉がはたく。
「茶化すのは止めときなさい。でも、本当にどうしたの? いるんでしょ、二人とも」
 心配そうなタマ姉がなにを考えているのかは分からない。でもそんな心配するようなことは何も無い。
「二人なら客間で別れを惜しんでるよ。ちょっと入り込めない雰囲気だから放置してる」
「あらあら、湿っぽくなっちゃったのね。……それじゃ天の岩戸を開くとしましょうか」
 そう言ってテーブルの上にどんとビニール袋を置く。
「今日だけ特別よ。ただし量はほどほどにしておくこと」
「けっ、うわばみがよく言うぜ。どうせ自分でほとんど飲むくせによ……あ、あ、か、勘弁。姉貴、勘弁。――
ぎひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 間違っても雄二の絶叫では天の岩戸は開かないと思うぞ。
 そう言って止めようとしたときチャイムが鳴って、俺は仲の良い姉弟のじゃれあいを背中に玄関に向かう。
「……先輩、寿司来た」
5657/11 言葉はいらない その5:05/03/20 01:29:33 ID:EAKUA9JR0
 そこにいたのは何故か寿司の出前を持ったちゃる。
「あれ? 寿司屋じゃないよね?」
「……ちょうど玄関で一緒になったから」
「そっか、お金は後で清算すっから」
「……分かった」
 ちゃるから寿司を受け取ってリビングに向かおうとした俺の背中に、
「……よっちたちは?」
 ちゃるはタマ姉と同じことを聞いてくる。
「客間で別れを惜しんでるみたい。こっちだよ」
 リビングでは雄二がタマ姉のプロレス技の練習台と化しているようだ。プロレスは詳しくないので、それら
の技の名前とかは分からないが、とにかく痛そうだ。ちゃるにしてみればそっちよりも、多分よっちやこのみ
の方に顔を出したほうがいいんじゃないだろうか? そう思ってちゃるを客間の前に案内する。
 そのとき、またチャイムが鳴って、ピザがやってきたので俺は玄関に向かう。
 箱を受け取ってお金を払い、それをもってリビングへ。
 するとなにやらこんがらがった絞め技をくらった雄二が青い顔でピクピクしている。
「……志賀絞め」
 何故かちゃるがいて、技名らしきものを呟く。
「あれ? 客間はいいの?」
「……二人とも寝てた」
 ありゃ、確かに今日ははしゃぎすぎたところもあったからなあ。でもそうなるとこの出前どう処理したもの
か。どれも熱かったり新鮮だったりするうちに食べたほうがいいに決まってるけど。
「仕方ないわね。それじゃ今日は忘年会ということにしておきましょ」
 落ちた雄二を解放して、タマ姉がコップを煽る。って、それ水だと思ってたけど酒かーーーー!!
 ちょっと目を離した隙にもう飲み始めるとは恐るべし、タマ姉。
「んじゃ、ちょっと様子見てくる」
「カンパイするからすぐ戻ってきなさいね」
 すでに飲み始めてるのに乾杯もなにもないと思うが、
「……了解」
5668/11 言葉はいらない その5:05/03/20 01:30:15 ID:EAKUA9JR0
 客間のドアを開けると、ちゃるの言ったとおり、よっちとこのみが折り重なるように、畳んだ布団にもたれか
かって目を閉じていた。こうして見ているとまるで仲のいい姉妹を見ているようで暖かい気持ちになる。
「二人とも、メシきたぞ。食べないのか?」
 無駄だとは思いつつも小声でそう呼びかける。やはりというか二人の眠りは深いようで反応は無い。涙の
跡こそあったものの二人の寝顔があまりに穏やかだったから、わざわざ揺り起こす気にもなれなくて俺はド
アをそっと閉めるとリビングに舞い戻った。
「遅い!」
「遅いって、ドア開けて声かけてみてすぐ戻ってきたよ」
「いいの、私が遅いと思ったら遅いの」
 うわぁ、すこし外しただけなのにタマ姉、すっかりできあがってないか? そういえばタマ姉と酒なんて飲ん
だことないけど大丈夫なんだろうな? 唯一確認を取れそうな雄二はすでに酒とは違う理由であっちの世界
に逝ってしまっている。
 とりあえずちゃると二人で出前で取ったものをリビングのテーブルの上に並べていく。それからペットボトル
のウーロン茶とコップも用意。途中でこのみらが起きてくるときのことも考えて六人分用意する。そんなことを
してる間に上手い具合に最後の中華も届いて準備完了。
「……カンパイ」
「早ッ!! っていうか、ちゃるももう飲んでる!? せめて雄二起こそうよ」
「なによぅ、雄二なら気持ち良さそうに寝てるんだから起こしちゃ可哀相じゃない」
 タマ姉、顔面蒼白で泡吹いてるのは気持ちよさそうという分類なのでしょうか?
「ほら、タカ坊もグラスを取りなさい」
 とくとくとくと一升瓶からグラスに注がれる日本酒……。
「いや、タマ姉、俺はウーロン茶で」
「なによぅ、カンパイの時くらいいいじゃないのよ」
「……酒or酒だ、先輩、選べ」
 ひぃぃぃぃ。これに抵抗なんてできるわけがない。
5679/11 言葉はいらない その5:05/03/20 01:30:57 ID:EAKUA9JR0
「さて、今年も色んなことがありましたが、皆さんお疲れさまでした」
「……お疲れ」
「……お疲れ様です……」
「残念ながらここにいる一人は明々後日を以って引っ越していくことになりましたが、彼女のこれからに健康
と幸がありますよう、また私たちも来年を素晴らしい一年にできるよう、乾杯〜」
「……乾杯」
「カンパイ」
 その「ここにいる一人」は、ここにいないけどな。もう俺は抵抗の素振りを見せることすら諦めて流れに乗る
ことに決めた。

 ――1時間後――

 後悔先に立たずとはよく言ったものだ。この場合、後悔するのは分かっていたけど、どうしようもなかったと
いうのがより正解に近いけど。
 何が量はほどほどに、なんだか。雄二の言ったことは正しかった。ただし半分だけ。
 まさかタマ姉だけでなく、ちゃるまで酒乱だとは誰が想像しただろうか?
「んふふ〜、タカ坊の肌ってほんと触り心地いいわよねえ〜〜」
「……先輩、いい」
 やめて、やめて、服の中にまで手を入れるのは止めてくれーーー!!
「ああ、身もだえするタカ坊ってホントに最高〜〜」
「うわぁあ、誰か助けてくれーー雄二、起きろ、起きてくれっ!」
 この必死の叫びが届いたのか、雄二がううんとすこし唸って薄目を開けて、……また閉じた。
「雄二、テメー、今絶対目合ったろ! 寝たフリするなー!」
「……寝てるよ」
「今返事したーーーー! タマ姉、ちゃる、ほら、雄二が起きてるから、起きてるから止めてーーー!」
「あら、雄二が起きててもどっちでもいいじゃない。私はタカ坊を堪能できればそれでいいのよ」
「……右に同じ」
 ああああああああああーーーーーーー!!
56810/11 言葉はいらない その5:05/03/20 01:31:40 ID:EAKUA9JR0
 ――さらに30分後――

 うっうっうっ、母さん。俺、汚されちゃいました。
「あ〜〜タンノーした〜」
「……ふふふ」
 俺は上半身裸にひん剥かれて、ソファの後ろにうつ伏せに倒れ、さめざめとカーペットを濡らす。
 なんだか人間に構われて嫌がる猫の気持ちが分かったような気がする。もうこれからは小動物を見かけて
も変に触りに行ったりしないようにしよう。
「さ、それじゃ次の肴は……」
 ゆ・う・じ! ゆ・う・じ!
 しかし俺の祈りは天には届かなかった。
「そうよ。今日の主賓をまだ弄ってないじゃない!」
「……忘れてた」
 おいおい。主賓ってのは弄るものだったのか。大体寝てるんだからそっとしておいてあげようよ。
 なんて止めようものならこちらにまた矛先が向くに違いない。俺は何も言わず泣き寝入りするしかないの
だ。
「さ、タカ坊も行くわよ」
 え? あれ? ね? 普通こういうときって起こしていくんじゃないの? タマ姉、なんで俺の脚を持つの? 
ねえ、それでどうするの? ねえってばぁぁぁぁっ! 痛い痛いからっ! 足持って引きずらないでぇぇぇ!!
56911/11 言葉はいらない その5:05/03/20 01:32:23 ID:EAKUA9JR0
 暖房の効いたリビングとは違い、客間はすこしひんやりしていて、熱に浮かされたようになっていた思考が
すこし落ち着く。ああ、そうか、俺もすこし酔ってたんだな。ついでにタマ姉とよっちの頭も冷えることを心から
願ってやまない。
 その中ではこのみとよっちがさっき見たままの姿で寝息を立てている。
 まったく、完全に寝てしまってやがる。
「あら、見覚えのあるバッグ」
 そう言ってタマ姉が摘み上げたのはよっちのスポーツバッグ。もちろん今日よっちが学校に持っていったも
のだから、よっちが学校帰りに直接こっちに来た以上ここにあって不思議ではない。
「中身を拝見〜」
 止める間もなくバッグを開けるタマ姉。
「変だと思ったのよね〜。学校帰りはこんなにバッグ膨らんでなかったし〜」
 ごそごそ。そしてタマ姉の顔がこちらに向けてあげられる。酔っ払いの表情は掴みにくい。
「で、どうしてよっちの着替えとかがここにあるわけなのかなぁ?」
「そ、それは……」
「……よっちが先輩のとこに泊まってたから」
 さらりとちゃるが言葉を繋いでくれる。
 いや、むしろ、多分、ゼッタイ、それ、自分の口から言ったほうがよかったよ。
「ほほぅ、それでタカ坊はそのことをお姉ちゃんに黙ってたわけだ〜」
「だだだって、わざわざ言うようなことでもないだろ」
「……やましいことがあるのか?」
「ナイ、絶対ナイ!」
 そう断言した直後だった。
「むにゃぁ、センパイ、そんなに抱きつかないでくださいッスよ〜」
 空気が固まった。
570名無しさんだよもん:05/03/20 01:34:28 ID:EAKUA9JR0
 お待たせ致しました。言葉はいらない第五話了であります。
 やはり前回ラストの展開が日溜りの詩と似ていたということで心配された方も多かったようですが、一応こ
の作品は当初ラブコメを目指して製作されているということで、そのノリを利用して回避してみましたが、どう
でしたでしょうか? ラブコメというものを書いた経験がないものでこれでいいのか心配ではあります。
 ではまた次回でお会いしましょう(・ω・)ゝ
571某研究者:05/03/20 01:56:33 ID:sOtFY19U0
いよいよ姫百合姉妹まで同時攻略してしまったわけで覇道は止まらぬのであろうか
しかしタカ坊はこれでメイドロボまで歯牙にかけようものなら何股ということになるのだろうか
まぁこれがばれたときに一番怖い相手とは誰なのであろうか
一般的にはタマ姉と見せかけてこのみということになりそうだが由真を弄んだと知った時の
ダニエルの反応も捨てがたいわけでありそうなると花梨の(゚w゚)や愛佳の郁乃も脅威であろうか
まぁ何をしでかすかわからないという意味ではやはりるーこが一番の脅威というわけだろうか(苦笑

>>550
    ∧_∧
    (゚∀゚  )ー┐ クラスタークラスター!
    しヽ   し′
    彡 >  彡)
      /  / /
     (_(__)
    ∧_∧
 ┌ー(  ゚∀゚)レールガンレールガン!
  丶J   /J
   ( ミ   < ミ
   丶 丶 丶
   (__)_)
572名無しさんだよもん:05/03/20 02:08:19 ID:IWoEvo100
>571
草壁さんのバイツァ・ダストが最凶
573名無しさんだよもん:05/03/20 04:32:25 ID:cTZXrhVN0
るー「草壁よ、お前はすでに100時間ほど前に負けている。」 (ドドドドドドドド

メメタァッ!
574名無しさんだよもん:05/03/20 06:04:33 ID:uWrAUNJd0
>>570
乙と言わざるをえない。
575つないだ手の先、指の先・5(1/8):05/03/20 09:45:26 ID:IJo13FLw0
学校を出てからこっち、タマ姉はずっと無言で俺の腕を引っ張っている。
これはもはや腕を組んでいるというより、腕を極められている感じ。
ちょっと締め付ける力が強すぎる気もするけど、後姿が怖いから黙っておく。
長い付き合いで身に染みている。
こういう時はタマ姉が機嫌を直すまで放っておくのが一番だ、ってね。


腕を引かれるまま、何となくタマ姉の後姿を見つめる。
こうやって俺を引っ張っていくところは昔と変わらないけど、外見は昔とは全然違う。

肩口に届くか届かないかくらいの長さだった髪は腰まで伸びて。
すらりと伸びた手足にちょっと高めの身長。引き締まった腰に丸みのあるお尻。
今は見えないけど胸のボリュームだって相当なものだ。
つまり、どこからどう見てもイイ女そのもの。

そんなタマ姉が、今こうして俺とここにいるんだよ、な。

そう意識するとなんだか顔が熱くなってくる。
本当は、そんな美人が近くにいるだけで緊張しちゃってガチガチになってしまうんだけど。
でも、中身は昔のまんま、変わらないから。

そう、昔からタマ姉はこうだった。
俺や雄二の手を引き色んなところへ連れ回した。
それは多少(いやかなり?)強引ではあったけど。
でも、おかげで俺たち、行けるようになったところ、できるようになったこと、たくさん
あると思う。(まぁ、一部トラウマになってることもあるけどな…)

そんな風に、俺はいつもタマ姉に手を引かれ、時には尻を叩かれここまで来た。
きっと、これからもそういう場面はいっぱいあるんだろうけど。
いつか。いつかは、俺がタマ姉の手を引いていけるようになりたいって思う。
576つないだ手の先、指の先・5(2/8):05/03/20 09:46:14 ID:IJo13FLw0
なんて物思いに耽っていると。

「…ヵ…っ  …ヵ坊っ  …んもう、タカ坊ってば!」
いつの間にか立ち止まっていたらしいタマ姉が俺の名を呼んでいた。
「えっ?」
「私の話、ちゃんと聞いてる?」
「あ、ごめん、ちょっと考え事してて…」
「もう!こ〜んなキレイなお姉さんと一緒にいるのに何が不満なのよ!
 …さてはさっきの子のこと考えてたんでしょうっ!」

ムギュゥ〜〜〜〜ッ

「ひててててて。誤解だよ誤解!あんなヤツのこと考えてなんかいないって」
「どうだか。…だいたい、誰よさっきの子!」
「え、誰って…だから、笹森さんっていうんだけど」

ムギュギュゥ〜〜〜〜ッ

「ひてひててててて」
「名前は本人から直接聞いたから知っているわ。私が聞きたいのはそういうことじゃない。
 あの子がタカ坊の何なのか?って聞いてるの」
「何って…詐欺まがいの手口で俺をミステリ研究会に引きずり込んだ悪の権化」
「何それ」
「いや…言葉の通りの意味なんだけど…。とにかく、それ以上でもそれ以下でもないし」
「じゃあ、胸触ったってどういうこと?もしかして…今日遅かったのって…!」
「あれは事故だって!しかもそれ誤解!」
「ふ〜ん。ってことは触ったのは本当なんだ…。私には手も出してくれないのに…!」
やば。話が変な方向にいきかけている。一刻も早くこの誤解をとかないと俺の命が大ピンチ!

「いや、ほんと事故も事故!超不幸な偶然が重なった事故なんだって!」
そうして俺は笹森のことから今日の放課後の所業に至るまでの出来事全てを報告させられた。
577つないだ手の先、指の先・5(3/8):05/03/20 09:46:51 ID:IJo13FLw0
「…事情はわかったわ。でも、それだけ。納得したわけじゃないから」
「じゃあどうすればいいの?俺にできることなら何でもするから」
身を守るために必死な俺。
…しかし、自分で言っといてなんだけど、一体どんなすごいことを要求されるんだろう?
俺はちょっぴり及び腰になりながらタマ姉の返事を待つ。

「…私といる時くらい私のことだけ見てて」
「え?」
「タカ坊が女の子なら誰にでも優しいは知ってるし、そういう優しいタカ坊だから好きに
 なったんだけど。でも、一緒にいる時は私以外の子のこと考えないで」

それは、拍子抜けするくらい簡単な。
だけど、タマ姉にとっては大切なことなんだって、真剣な瞳がそう言っている。

「だから、…ううん、ホントは……私といない時も…私のことしか…考えて欲しくない」

恥ずかしさからか、それとも他の感情からなのか。消え入りそうな声で。
さっきは中身は変わってないって思ったけど。
こういうところは、すごく。ああ、女のコなんだなって思う。
いつもの強気な姉貴分の顔もいいけど。もっと色んな向坂環という女のコの顔をみたい。

微笑ましさに、口元が緩む。
そんな、俺の微笑みの気配をどう捉えたのか、睨みつけてくるタマ姉。

「…どうせ独占欲が強いわよ。笑いたければ笑いなさい」

だから、そんな真っ赤な顔で睨まれてもかわいいだけだって。

「…タマ姉って自分にも嫉妬するんだ」
「え?………あっ」
578つないだ手の先、指の先・5(4/8):05/03/20 09:47:24 ID:IJo13FLw0
さすがに面と向かって言うのも恥ずかしいから、抱き込んで、顔を見られないようにする。

「だから、考えてたのってタマ姉のことだよ」
「嘘…」
「嘘じゃない。そういえば、昔もこんなことあったな…って思ってただけだよ。だから、
 俺が考えてたのは昔と今のタマ姉のこと。だいたい、そんなこと当たり前なんだから。
 今更あらためてお願いする必要ないだろ?」
「だって、不安なんだもの。タカ坊あまり何にも言ってくれないし、だからって行動で
 示してくれるわけでもないし。私ばっかりタカ坊のこと好きで、不公平じゃない…」
「そんなことないよ。俺だって、その、タマ姉のこと…好きだよ」
「どのくらい?」
「どのくらいって…言葉じゃいえないけど…」
「やっぱり不公平じゃない〜」
だから、こういうのに公平も不公平もないだろ?

「あ〜あ、よく惚れた者が負けっていうけど、なんか癪よね」
拗ねたような甘えたような、そんな口調から。

「そ、そう?ほら、負けるが勝ちっていう言葉もあるじゃない?」
「タカ坊も知ってると思うけど、私、負けるってことが大っ嫌いなのよね…」
だんだんとよく見知ったタマ姉の人の悪い笑みが浮かんでくる。
この顔が出てくる時は危険信号。

「ん〜、何をしてもらおうかなぁ〜?」
「いや、お願いはさっきしただろ?」
「でも、とっくに叶ってるんだったら、それは『私の』願いを叶えたことにはならないわ
 よね?…ってことは、ワンモアチャンス、じゃなくって?」

マジですか?俺、一体何をお願いされるんです?
っていうか、もしかしなくても早まった???
579つないだ手の先、指の先・5(5/8):05/03/20 09:48:11 ID:IJo13FLw0
「ほら、そんな顔しないの。私だって何も、タカ坊にできないことさせるつもりなんてない
 わよ。お願いするのは、ちゃんとタカ坊でもできることだから」

だから、その笑顔が怖いんだって。
俺の心を知ってか知らずか、唇に指を当ててじっくり考え込む仕草のタマ姉。
いや、そんなに考えてもらわなくても結構ですから。

「そうね…。じゃあ、タカ坊からキスして」
「へ?」

川べりとはいえここは天下の往来。少ないとはいえ人通りがまったくないわけではない。

「こ、ここで…!?」
「うん。タカ坊にできることだったら、何でもしてくれるんでしょ?」
「それ、本当に今ここで俺ができることだと思う?」
「うん。だって、タカ坊には私を抱きしめる腕もついてるしキスする唇もついてるじゃない。
 だったら、不可能じゃないでしょ?」

物理的には可能でも精神的には不可能なんですけど…。
つーか、アンタこういう表情してる時が一番生き生きしてるってどうなのよ?

「ほら。もたもたしてるとホントに誰か来ちゃうわよ?」

いつの間にか、俺の背後にタマ姉の腕が回されている。
きっと、キスしないと一生解放されないに違いない。
…ここは覚悟を決めるしかないのか?
580つないだ手の先、指の先・5(6/8):05/03/20 09:50:18 ID:IJo13FLw0
右を見て。
左を見て。
周りに人がいないことを確かめる。

ちゅっ

軽く触れるだけのキス。
それでも、心臓が飛び出そうだった。
だっていうのに。この人は。

「短すぎてわかんなかったから、もう1回」

…できるかぁ!
今のは俺の羞恥心を全身全霊で押さえ込みしてやった荒業だぞ?
投げ技ほどの華はなくても寝技だって充分一本だろ?
いや、確かに柔らかいタマ姉の唇の感触がまだ残ってたりして名残惜しくはあるんだけど。
さすがにこれ以上は俺の理性が持たないってば。

「お願いは、お一人様一回までとさせていただきます」
「タカ坊のケチ〜」

何とでも言え。
男子高校生の欲望には安全装置などついてないのだ。
撃鉄起こしたらネコまっしぐらだぞ?

「じゃあ、私からしよっか?」
「本日の営業は終了しました」


…結局、ブーブー言うタマ姉を宥めるためにもう1回だけキスさせられた。
581つないだ手の先、指の先・5(7/8):05/03/20 09:51:29 ID:IJo13FLw0
先ほどのキスの余韻か、2人の間に漂う空気が甘い。
並んで歩くだけじゃ物足りない。でもキスほど大それたことをするつもりもない。
悩んだ俺は…タマ姉の手をとった。

「タカ坊…?」

でも、手をつなぐって、意外とハードルが高いよ?

腕を組む時はいつもタマ姉から仕掛けられるからか、俺はなんか『腕を組まれてる』って
風に感じてしまう。つまり『組む』じゃなくて『組まれる』、受身の行為。
だけど、手をつなぐってのは、お互いがお互いの意思でつなごうって思わないとできない
ものだから。だから『握る』じゃなくて『つなぐ』。受身じゃいられない行為。

あとさ。結構恥ずかしい。
なんていうか、小さい頃は手をつなぐ方が当たり前だったから、逆にその頃のイメージが
強くて、手をつなぐなんて子供がすることだ、って思っちまってすごく気恥ずかしい。
そう、『恥ずかしい』じゃなくて『気恥ずかしい』んだよな。

それに、なんたって直接素肌と素肌が触れ合うわけだし。
緊張して手に汗かいてることだって筒抜けになっちまう。

だから、俺にとってはすごくハードルの高い行為。

でも、俺はタマ姉といるとこんなにドキドキしてるんだってことを知ってもらいたいから。
いつもみたいに受身じゃなくて俺から伝えたいから。

ギュッと手を握る。俺の気持ちが伝わるように。

ほどなく、俺と同じくらいの強さで。手が握り返されて。
俺たちは手を『つないだ』。
582つないだ手の先、指の先・5(8/8):05/03/20 09:53:33 ID:IJo13FLw0
つないだ手から言葉以上の何かが伝わってくる気がするから。
何も話さなくても、ただ歩いているだけで嬉しい。

そうして2人、手を握ったまま川べりを歩く。
だけど、楽しい時間は永遠じゃなくて。いつだって終わりはあるわけで。

もうすぐいつもの分かれ道。
なんとなく、お互いの足が鈍くなる。

「なんだか、手を離すのがもったいないな…。ふふっバカよね、私。明日だってこれから
 だって、ずっと一緒にいられるのにね…」

いつだって、望めばこんな風にいられるんだろうけど。
でも、今という時間は二度とは来ないから。この時間を大切にしたい。
その気持ちは俺も同じ。だから、ちょっとだけ、提案。

「少し回り道する?それともどこか寄ってこうか?」

しばらく考え込んだ後、遠慮がちに開かれたタマ姉の唇。

「だったら…タカ坊の家に、行きたいな」

手を握る力が、少しだけ強くなった。

「家?あんまし掃除してないけどいいの?」

ぎゅう〜〜〜っ

「もう、タカ坊ったらムードないんだからっ」
ごめんタマ姉、俺が悪かった。だから、指を極めるのは勘弁して…。
583タマ姉に弄られ隊隊員:05/03/20 10:09:56 ID:IJo13FLw0
>281-285、>312-315、>413-417、>525-529 の続きです。

とりあえず書きたいなと思ってたところまでは何とかあげられました。
ここから先は蛇足ということになりますが、書けたらいずれまた。

あ、タカ坊の性格が一貫してない気がするのは、大宇宙の意思ですので。…orz


そんなことよりも>325-326続きまだ〜?(AA略
584名無しさんだよもん:05/03/20 10:54:59 ID:cTZXrhVN0
タマ姉たまんねぇッス!

誰かタマ姉のエロSSを(ry
585名無しさんだよもん:05/03/20 14:02:53 ID:nrQ8zVtM0
>>584
タマ「ハァハァ・・・・ニャ、ニャニャァァァァァァ!」




タラ「ママー、タマが知らないネコとくっついてケンカしてるですー」
サザエ「ンガックック、そ、それはケンカじゃないのよ」
586名無しさんだよもん:05/03/20 14:35:41 ID:iRCOkJX80
誰か>>585に水かけろ
587名無しさんだよもん:05/03/20 18:36:39 ID:+3z/MW6i0
むしろ山文京伝的にゲンジ丸に一方的に蹂躙されるタマ姉がみt
…あだだだだ、割れる割れる割れるー!
588名無しさんだよもん:05/03/20 19:20:26 ID:H5JKWTiD0
>>555s
私が一番期待しているのは、あなたのSSです。
がんがってください。
589ある日、アイス屋の前にて9(1/6):05/03/20 23:35:24 ID:202NcHWr0
「タカくん、おまたせ」
「はい」
「はい、これがタカくんの。チョコチップとバーガンディチェリーのダブル」
「よくわかりましたね春夏さん。俺が食べたいのがチョコチップとバーガンディチェリーだって」
「ふふっ、春夏さんはタカくんの好みなんてお見通しなのよ」

「……」
「……」
「……」

「わたしのはこれ。グリーンティーとリッチミルクのダブル」
「お、そっちも美味そうですね」
「でしょ。タカくん、食べてみる? はい、あ〜ん」
「あーん。――うん、美味しいです」
「でしょ。わたしもタカくんの、食べてみていい?」
「うん、いいですよ」
「あ〜ん。――うん、美味しい」

「……」
「……」
「……」

「あ、タカくんほっぺにアイスがついてるわよ」
「ん?」
「ほら、ここ」
 ふきふき。
590ある日、アイス屋の前にて9(2/6):05/03/20 23:36:15 ID:202NcHWr0
「ん、春夏さん、ありがとうございます」
「わたしとタカくんの仲だもの、このくらい当たり前よ」

「……」
「……」
「……」

「ねぇタカくん、今度の日曜日、一緒に出かけない?」
「んーそうですね。春夏さんはどこに行きたいですか?」
「う〜ん、ショッピングもいいし、ピクニックもいいし、森林公園で散歩もいいかも……」
「ははは、春夏さんは欲張りさんですね」
「そうだ、タカくんに決めてもらおうかしら。わたしはタカくんの行きたいところでいいわよ」

「……せ」
「せ?」
「セ〜ン〜パイと〜春夏さん♪
 な〜か〜よ〜く〜し〜て〜る♪」
 る、る、る、る♪
 るるるるるるるるランランルー♪」
「……ドナルド?」
 ぺたん。
「どうしたのよっち、腰を抜かして」
「…………え……えらいもの……見てしまった」
「ああ、あの二人? あのバカと、女の人が一緒ね。あれがどうかしたの?」
「あ、あの女の人は、こ、このみの……お母さん……」
「え!?」
591ある日、アイス屋の前にて9(3/6):05/03/20 23:37:00 ID:202NcHWr0
「せ……センパイと……春夏さんが……ふ、不倫……」
「ち、ちょっと、それってまずくない?」
「……かなりまずい」
「……お、男の人は大抵マザコンだっていうけど、よりにもよって幼なじみのお母さん、しかもちゃ
あんと旦那さんがいる春夏さんに手を出すなんて……」
「最低ね、あのバカ」
「どうしよう……」
「えっ?」
「ねぇ、どうしよう、郁乃、ちゃる?」
「ど、どうしようって言われても……」
「……わからない」
「まずいよ。あんなのまずいよ!
 ちゃるだって知ってるでしょ、このみの気持ち! それがまさか、自分の母親に……!
 あ、あんなところ、もし、このみが見たら……」



「……お母さん?」



「こ、このみ!?」
「……このみ」
「……」
「あ、ああ、こ、このみが見てしまった……。
 も、もうダメ。何もかもおしまいっしょ……」
592ある日、アイス屋の前にて9(4/6):05/03/20 23:37:50 ID:202NcHWr0



「このみ……」
「このみ……」



「…………いよ」



「こ、このみがあの2人に近づいていく。
 怒るかな? 泣くかな? ああ、どうしたらいいの!?」
「……どうにもならない」
「……」



「…………るいよ」



「ああっ、もう見てられない!
 このみ! このみ! 待ってて、すぐに行くから!!」
「……このみ!!」
593ある日、アイス屋の前にて9(5/6):05/03/20 23:38:41 ID:202NcHWr0



「お母さん、ず〜る〜い〜よ〜! タカくんと二人でアイス食べてる〜!」



「「「……はぁ?」」」



「何言ってるのよこのみ。このみがいつまでも決められないから、タカくんと一緒にアイス食べて
待ってたんじゃない。で、決まったの? 新しい靴」
「うん、決めてきたよ」
「そう、じゃあ、もう一度靴屋さんに行きましょうか。
 あ、タカくんはもう少しここで待っててくれる?」
「ええ、いいですよ」
「お母さん、わたしもアイス〜」
「ええ、靴を買ってからね。
 あ、そうだこのみ。今度の日曜日、タカくんと一緒に出かけるわよ」
「ホント? やた〜!」
「行き先はタカくんが決めてくれることになったから。
 お弁当作って、みんなで出かけましょう。このみ、お弁当作るの、手伝ってくれる?」
「うん!」
「今晩のごはんもタカくんを招待しようね。今晩はスキヤキよ〜」
「スキヤキ、やた〜!」
594ある日、アイス屋の前にて9(6/6):05/03/20 23:40:15 ID:202NcHWr0

「……」
「……」
「……」
「……ええと……結局……なんだったのかな?」
「……仲良し親子?」
「……そ、そうみたいね」
「で、センパイはこのみと春夏さんの買い物につきあわされてただけ、と」
「状況から察するに、どうもそうみたいね」
「じゃあ、センパイと春夏さんの関係は……」
「……タヌキの早合点」
「わたしだけのせい!? あんたらだってそう思ってたっしょ!」
「さあ、なんのこと?」
「……記憶にないが」
「うわっ! 二人ともすっとぼけるし!
 い、いやまだ、まだ終わってないよ! まだもう一つの可能性が残っている!」
「可能性?」
「そう、センパイと春夏さんの仲良しっぷりを見ても動じなかったこのみ。
 も、もしかしたらセンパイってば母娘ど……」
「……妄想もいい加減にしろ」
 ビシッ!
「あいたっ!」

 おしまい。
595ある日、アイス屋の前にて9 の作者:05/03/20 23:41:01 ID:202NcHWr0
どうもです。
>>546さんのリクエストにお応えして、春夏さん編です。
ベタなオチでスマンです。

>>552さん。
立ち絵があればなんでもいいってもんじゃないっしょ!(w
596名無しさんだよもん:05/03/20 23:53:40 ID:EAKUA9JR0
グッジョ!!
母娘ど(ry 説を強く推したい。
597名無しさんだよもん:05/03/20 23:54:26 ID:A4AN74Bf0
こうなったらこのみノーマルENDでwwww
598名無しさんだよもん:05/03/21 01:50:13 ID:yu0/zuZy0
炉な俺としては是非ともるーこ編に出てきた
奈々子ちゃんでアイス屋ってほしい。
で、貴明がほっぺのアイスを拭いてあげるのな。
599名無しさんだよもん:05/03/21 02:14:52 ID:cYJ8O2xB0
次はダニエルを(ボソリ
600名無しさんだよもん:05/03/21 02:40:05 ID:vRxYaOba0
九条院の三人娘に比べたらダニエルの方がまだ簡単そうだ
601名無しさんだよもん:05/03/21 03:37:05 ID:HkaR6+1O0
>>555
GJ!!!!!
602偽アイス:2005/03/21(月) 06:26:13 ID:DRr4URh7O
「待たせたな、小僧!」
「別に大丈夫ですよ」
「ほれっ、これがヌシのじゃ。」
「よく分かりましたね?俺が緑茶と渋皮栗のダブルが食べたいって。」
「ぬはは!来栖川の執事たるもの、この程度お茶のこさいさいじゃわ!」 
「流石ですね。」
「褒めても何も出ぬぞ、小僧。
ちなみに儂はダージリンとローズヒップじゃ」
「あっ!そっちも美味しそうですね!」
「何じゃ、小僧?儂のモノを食したいのか?
仕方がない…。一口だけじゃぞ。」
ペロペロペロ
「…うん、美味しい!」
「小僧。儂も一口もらってよいか?」
「はい、どうぞ!」
パクパクパク
「ははっ、髭にアイスが付いてますよ。」
「何?」
「ほら、ここ…。
じっとしてて下さい。」
フキフキフキ
「すまぬの、小僧。」
「ははっ、どういたしまして!」

603名無しさんだよもん:2005/03/21(月) 06:27:24 ID:DRr4URh7O
ゴマソ、またパクっちゃったよorz
604名無しさんだよもん:2005/03/21(月) 07:40:07 ID:qZFngaNj0
>>595
うはwwwww俺のリクだよthx  そしてGJ
>>603
あんたも乙
二人とも新作期待してるからwwwwwww
605名無しさんだよもん:2005/03/21(月) 12:25:23 ID:LZWEwSorO
どちらもGJです。
イルファ三姉妹や九条院三人娘は個別で読みたいと言ってみる。
606名無しさんだよもん:2005/03/21(月) 13:01:56 ID:dTCFAKih0
雄二とタマ姉の姉弟愛とかはまずいっすかね?
607名無しさんだよもん:2005/03/21(月) 13:06:33 ID:xdZmz7YW0
>>606
ファンとタマ姉に殺されるぞ
608名無しさんだよもん:2005/03/21(月) 13:33:10 ID:lgt/sp9MO
>>607
そういうエロ同人はある
609名無しさんだよもん:2005/03/21(月) 16:09:09 ID:uIbsSaXG0
二人(タカ&タマ)の前ではなんともなくとも、それ以外では欝気味のこのみを
雄二が面倒見るとかはベタだが非常に見てみたい。
610名無しさんだよもん:2005/03/21(月) 16:09:52 ID:xdZmz7YW0
>>609
つ環月記
611名無しさんだよもん:2005/03/21(月) 17:06:40 ID:c6Sf706u0
>>608
つつみ氏の冬コミのあれの事かな?
俺は本編プレイよりも先にあの同人を読んだが、
最初読んだ時はなんとも思わなかったが、本編プレイしてからあの本を読むと違和感有りまくりでダメだ。
まあ、発売前で設定と脳内補完のみで描かれた作品だし、当然といえば当然なんだけどなw
612名無しさんだよもん:2005/03/21(月) 17:15:32 ID:vq6mN9kS0
春夏ママのアイス屋は良かった

'`ァ(*゚∀゚)'`ァ
613名無しさんだよもん:2005/03/21(月) 17:46:40 ID:uIbsSaXG0
>>610

thx. このみと愛佳の泥々がもう。
614名無しさんだよもん:2005/03/21(月) 23:05:56 ID:eRlXajCJ0
>>610
どっかで見たページだと思ってたら汀書いた人のページだった訳ね。
相変わらず続きが気になるSSを書いてくれますね(;´Д`)ハァハァ
615言葉はいらない その6:2005/03/22(火) 20:29:41 ID:Ios0Og6K0
あらすじ
 話が長くなってきたのでそろそろいるかな。
 両親の離婚、それが原因でよっちはこの街を去ることになった。残された時間はもう後四日だけ。
 急にそれを知らされたいつもの面々はよっちの送別会を開くことにするのだが、いつの間にやら忘年会に。
その上、よっちが貴明の家に二泊したことがこのみにバレて、タマ姉にもバレちゃった。

第一話から第五話はこちらで
ttp://www.geocities.jp/koubou_com/
6161/9 言葉はいらない その6:2005/03/22(火) 20:30:24 ID:Ios0Og6K0
「さて……」
 腕組みしたタマ姉からは鬼神の如き威圧感が放たれている。俺はまるで床に這いつくばって許しを請う罪
人だ。実際にはうつ伏せのままここまで床を引き摺られて運ばれてきたというほうが正しい。部屋の中には
4人の女性と俺。たぶん他の男なら羨むような状況なんだろう。
 もちろん俺はちっともそれには同意できない。
「言い訳を聞きましょうか」
 言い訳、というのはもちろん先ほどよっちが発した寝言。
 つまり――「むにゃぁ、センパイ、そんなに抱きつかないでくださいッスよ〜」――に対する俺の弁明を求め
ているということなんだろう。
 しかしそんなものは、そんなものは……多分ない。
 理由はふたつある。
 ひとつは俺が実際に昨晩よっちを抱きしめて眠ってしまったということ。
 もうひとつは、今のタマ姉になにを言っても無駄であろうことだ。
「……何も言わないということは、つまりそういうことだと受け取っていいのかしら?」
 ふふふ、とタマ姉の口から薄気味の悪い笑いが零れる。
「いやいやいや、タマ姉、ただの寝言でしょ? それが事実を指し示してるとは限らないわけでしょ?」
 だけど人間無駄だと分かってても言い訳したくなるものなのだー!
「では事実を示してはいない、ただのよっちの妄言だったと、そう言うわけね? 心当たりは一切無い?」
「それは……」
 こういう時はつくづく自分がイヤになる。世の中にはさらりとウソを言える人がたくさんいるみたいだが、そう
いう人の頭を開いて覗いてみたいものだ。少なくとも俺はどうしても言葉が詰まる。
「その、よっちが泣いたから慰めたりはしたけど……」
「な、な、な、慰めたですってぇー!」
「……慰み者」
 え? あ? あれ? タマ姉もちゃるもなんだか違う方向に勘違いしておられませんか?
「わ、私はタカ坊をそんな子に育てた覚えはありません!」
 育てられた覚えもありません。
「……姉御、再教育の必要ありだ」
「ふふふ、その通りね。タカ坊にはまだまだ色々と教えたりないようだわ。さあ、覚悟なさい!」
 う、うそぉぉぉぉぉぉ!!
6172/9 言葉はいらない その6:2005/03/22(火) 20:31:06 ID:Ios0Og6K0
 それから小一時間程タマ姉とちゃるによって如何に女の子は大事に扱わなくてはならないかについての
講義が行われた。その詳細はここに伏せておく。というのも講義というよりは洗脳だったからだ。また女の子
に近づくのがイヤになりそうだ。
 おかげで頭の中がグラグラしている。もちろん真面目に聞いていたわけではないので、断片的にしかなに
を言われていたかは覚えていないが、女の子は女の子は女の子はと頭の中でワケの分からない感じでぐ
るぐるしている。
 冷たい畳の上に突っ伏せると、散々引っ張られて痛い頬が気持ちいい。
「それで……どうするの?」
 ふと神妙な顔つきになってタマ姉がそんなことを呟く。
 それが自分に問いかけられたものであるということに気付くのにすこし時間がかかった。
「分かってるの? よっち、いなくなるのよ」
「そんなこと言われても……どうしようもないだろ」
 そう、どうしようもない。どうしようもない。
 それがこの出来事に対する唯一不変の答えなのだ。
 それとももしも俺がよっちのことを好きだったら、何かできることがあるというのだろうか? そもそもよっち
自身がそれを望むだろうか? 人生には出会いがあるようにまた別れもある。それに泣いてすがってもなに
も良いことはない。大事なことは、どう別れるか? だ。
「俺は何もしないよ。いつもどおりにする」
「そうやって別れて後悔しない?」
 タマ姉が顔を歪める。それはタマ姉自身が別れに後悔した経験があるからかもしれない。
「分かんないな、それは……」
 なにをどうしたって後悔するときはするんだろう。後悔するかしないかを決めるのは未来の自分だ。今の自
分があれこれ考えても仕方ない。
「そんなのよりさ。よっちには皆との思い出のほうがいいんじゃないか? だから明日もさ」
「……先輩、違う」
6183/9 言葉はいらない その6:2005/03/22(火) 20:31:48 ID:Ios0Og6K0
「え?」
 突然ちゃるがキツイ口調で断言した。
「……よっちは先輩のとこに来た。だからそういうこと」
「それこそ違うぞ」
 確かによっちが逃げ込む場所に選んだのは俺のところだ。けどそれは親から隠れられるところが俺のとこ
ろだったからだろう。ちゃるやこのみのところではよっちの両親も把握してるだろうし、それぞれの両親もい
る。雲隠れというわけにはいかない。
 その点、俺のところなら両親は不在だし、よっちの両親も俺のことまでは把握していまい。男の独り暮らし
ではあるが、安全パイと思われたのだろう。
 そんな風に考えている俺をどう思ったのか、ちゃるは俺の正面に座り込む。
「……先輩、好きだ」
「は? いきなり冗談言うなよ」
 ちゃるは俺の目をじっと見つめている。その後ろでタマ姉はなぜか顔を背けた。
「……うん。冗談だ。でももし私が本気でも先輩はそう言う。そうやって逃げる」
 ちゃるの言葉が突き刺さる。どうしてかその言葉はすごく痛い。
「……先輩は分かってる。でもよっちが言葉にしないから分からないふりをして逃げてるだけ」
「だったら……」
 まっすぐにちゃるの瞳を見つめ返す。
「俺はどうすればいいんだよ」
「……先輩がよっちをどう思ってるのかは知らない。でもよっちの気持ちをはぐらかさないで」
 ちゃるがちらっとよっちの寝顔を一瞥する。
「……変な思いをこの街に残していって欲しくないから」
「よく……、分かんないよ」
6194/9 言葉はいらない その6:2005/03/22(火) 20:32:35 ID:Ios0Og6K0
「まったく……」
 タマ姉が大きな、大きなため息をひとつ。
「興が削がれたわ。さて、と、酔いも冷めちゃったし、私は帰るわね」
「……私もそうする」
「そう、それじゃタカ坊、ちゃるを送っていきなさい。まさかこんな夜道を女の子一人で帰らせたりはできない
でしょう?」
「う、うん。分かった」
 タマ姉は客室を出てリビングへ。俺とちゃるもその後に続く。
 リビングではいつの間に目を覚ましたのか……、いやさっき絶対目が覚めていたはずだから、俺がタマ姉
に連行された直後には起き出していたのだろう雄二が寿司の口に詰め込んでいるところだった。
「おーい、雄二〜、帰るわよ〜」
 いきなり言われて面食らった雄二が慌ててコップのウーロン茶で口の中の寿司を喉の奥に流し込む。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺はまだ食べてる途中で」
「問答無用。自分の足で帰るのと、自分の足を引き摺って帰るのとどっちがいい?」
 にっこりと笑ってタマ姉がぽきぽきと指の骨を鳴らす。
「……自分の足で帰りたいです」
 雄二、哀れ。だがさっきのことがあるから同情はしないぞ。
 コートを羽織って玄関を開けると、風が鳴って冷たい空気が吹き込んでくる。家の明りや街灯の光が暗闇
の中、舞い落ちる白い結晶を浮かび上がらせる。節操がないとすら思えるようなその光景に思わずため息
がでる。
 それはとても幻想的な光景だったけれど、玄関を開け放していても寒いだけなので一度閉めた。
「参ったな。タマ姉の言ってたとおりになった」
「ここまで降るとは思ってなかったけど、本当に明日積もるかもね」
 タマ姉も苦笑顔だ。
6205/9 言葉はいらない その6:2005/03/22(火) 20:33:17 ID:Ios0Og6K0
「傘、適当に使って」
 そう言いながら自分の傘を確保する。
 タマ姉も雄二もちゃるもそれぞれに傘を手に取ると、俺たちは雪降り注ぐ真冬の空の下へ歩み出した。
「タカ坊、ちゃるまで襲うんじゃないわよ」
 いつもの茶化すような口調ではなく、至って真面目な口調で言われて俺のほうが苦笑してしまう。
「「まで」ってなんだよ。「まで」って」
「自分の胸に聞きなさい」
 ふむ、自分の胸に手を当てて考えてみる。
「心当たりなんてなにも無いよ」
「もぅ、そう言うなら一生そう言ってなさい」
 頬を膨らませ、肩を張ってタマ姉が歩いていく。
 こそこそっと俺の隣に雄二がやってきた。
「ぉぃぉぃ、なんか姉貴、機嫌悪そうじゃないか? なにやったんだよ。貴明」
「なんにも。ちょっと色々勘違いされたみたいだ」
 雄二が大きなため息ひとつ。
「そっか、早めに誤解解いとけよ。とばっちりを食うのは俺なんだからよ」
「ああ、そうだな」
 本当にそうだな。しばらく誤解させたままにしておくか。
「……ほら、なにやってるの! 雄二帰るわよ!」
 いつの間にかタマ姉は角を曲がっていて、雄二は慌ててその後ろを追いかける。
 それからはちゃると二人、雪の夜道を歩いていく。
 そう言えばちゃるとこうして二人で歩くのは初めてのことだ。
6216/9 言葉はいらない その6:2005/03/22(火) 20:34:00 ID:Ios0Og6K0
「…………」
「…………」
 ちゃるは饒舌なほうじゃないし、俺もわざわざ話題を探してくるほど器用じゃないので、自然と二人の間に
は沈黙の帳が下りる。大玉の雪は地面を冷やして、徐々にその領地を広げ始めている。
「……先輩」
 不意に呼びかけられる。ちゃるはまっすぐ前を向いて歩いたままだ。
「なに?」
 だから俺も前を向いて歩き続ける。
「……よっちは先輩の傍にいたいから先輩のとこに行った。信じろ」
「信じろって言われてもな……」
「……先輩は言葉が無いと何も信じられないのか?」
「少なくとも言葉があったほうが信じやすいのは確かだな」
「…………」
 例えば、だ。もしよっちが俺に好意を抱いてくれていたとしても、よっちがそれを口にしないということは、つ
まりそういうことなのだ。言葉にしないほうがいいこともある。
 だってそれで俺は気付かないふりができるじゃないか。
 だってそれでよっちは俺が気付かないふりをしてることに気付かないふりができるじゃないか。
 ……奥歯を強く噛み締める。
 もしも、こんな急な別れが来なければ何かが違っていたのだろうか?
「……ここまででいい」
 不意にちゃるが歩みを止める。考え事に没頭していた俺は何歩か行き過ぎてから立ち止まる。
「え、でも」
 家までちゃんと送っていかないとタマ姉に怒られそうだ。
「……誰かに見られたら先輩に迷惑がかかる。すぐそこだから問題ない」
6227/9 言葉はいらない その6:2005/03/22(火) 20:34:42 ID:Ios0Og6K0
「そっか、そういうなら分かった。……またな」
「……また」
 俺だけが手を振ってちゃるを見送る。
 まったく余計な考えばかり増えていくようだ。俺はただできるだけ普通によっちを送り出してやりたかった
だけだというのに、それの何がいけないというのだろう?
 しかしそんなことばかり考えていても仕方が無いので、家に帰ろうと振り返る。
「……先輩」
 何歩も行かないうちにその声に立ち止まり、もう一度振り返る。
 ちゃるが街灯の光の中――切り取られたようにそこだけ雪が降っているように見える――そんな中で立ち
止まってこちらを向いている。
「……私は悔しい。よっちが先輩を頼っていったのが悔しい。だから責任取れ」
「…………」
 それに俺はなんと答えればよかったのか。
「おやすみ」
 分からなかったから答えになっていない挨拶だけで俺は踵を返した。
「……先輩!」
 初めてちゃるが声を荒げるのを聞いた気がする。それだけちゃるにとってよっちが大事な友人だということ
なんだろう。でもだからって俺にできることなんてなにもない。
 俺はその叫びには応えずに、そのまま歩き続けた。
「……卑怯者!」
 唇を噛み締めた。弁解はしない。今は甘んじてその言葉を受け入れよう。
6238/9 言葉はいらない その6:2005/03/22(火) 20:35:24 ID:Ios0Og6K0
「ただいま……」
 そう呟いて玄関をくぐる。
「おかえりなさいッス」
 リビングから聞こえてくる返事。
「あれ、起きたのか」
 コートを脱いでリビングに入ると、ソファに膝を抱えるように座って、マグカップに淹れたコーヒーをすする
よっちがいた。
「はい。さっき起きたッス」
 そう言って苦笑い。俺は余ってるほうのソファに腰掛ける。
「みんな帰っちゃったんスね」
「グースカ寝てるよっちが悪い」
「それもそッスね。いやぁ、このみがあんまりにも暖かいものだから……」
 それはこのみの体温のことなのか、それともまた別の何かのことなのか……。
「食べろよ。冷えちゃってるかもしれないけど、なんなら暖めなおすから」
「……はい」
「このみはまだ寝てる?」
「はい。ちゃんと布団敷いて寝かせてきたッスよ」
「そりゃサンキュー。おばさんに連絡しとかなきゃな」
 思い立ったら即行動。立ち上がって電話に向かう。
 電話はすぐに繋がって、おばさんにこのみがウチで寝てしまったことを伝えると迷うこと無くこちらで預かっ
といてというようなことを言われた。
――このみがタカくんのところに泊まるのは久しぶりね。
 そう言われて、ここしばらくはこのみが泊まりに来ていないことに気がついた。
6249/9 言葉はいらない その6:2005/03/22(火) 20:36:07 ID:Ios0Og6K0
「まったくこのみといい、おばさんといい、よっちといい……」
「なんスか?」
 リビングに戻るなりボヤいた俺によっちが不思議そうな顔をする。
「男んところに年頃の娘が泊まるってことをもうちょっと考えて欲しいよな」
「あはは、考えたほうがいいッスか?」
「まぁな。俺じゃなかったら何されても仕方ないぞ」
 肩をすくめると、よっちが手の中のコーヒーに視線を落とした。
「……センパイこそ……」
 よっちの言葉はそこで途切れる。
「なんだよ?」
「……女が男の人が寝てるところにいくのに、どんな気持ちかもうちょっと考えたほうがいいッスよ」
「……なんだよ。それじゃまるで……」
 よっちの視線はコーヒーに注がれたままでぴくりとも動かない。
 そして俺は「まるで」の後に続く言葉が出てこない。
「…………」
「…………」
 ちゃるに言われたことが頭をよぎる。
 分かってる。本当は分かってるんだ。でもだからと言ってどうしろというんだ。
 何か言わなくちゃいけない。いけないのは分かってるんだけど。
「センパイ、眉間に皺が寄ってるッスよ」
 いつの間にか目の前にやってきてたよっちの指先がちょんと俺の眉間をつつく。その感触を追うと、よっち
と目があった。ドクンと心臓がひとつ跳ねる。なんだよ。昨日はもっと近くで顔を見てたろ。
 そう、俺は昨日よっちを抱きしめて眠った。
 今更、本当に今更心臓が激しく高鳴り始めた。
 本当に、今更に――。
625名無しさんだよもん:2005/03/22(火) 20:36:49 ID:Ios0Og6K0
 いきなりちゃるが前面に出てきて驚きました。これまでちゃるというキャラを掴めずにいたのですが、自分
なりに形にはなったようです。もっとも最近プレイしなおしてないから、ズレてるやもしれませんが。
 今回でやっとこ貴明がよっちを女の子と見るようになって、はてさてどうなりますやら。
 次回「言葉はいらない」第七話
「あたしはあたしを振りほどかないセンパイの腕を信じてる」
 ホントに第七話でここまで行くんかいな('A`)
626名無しさんだよもん:2005/03/22(火) 21:42:41 ID:jToLXUvrO
>625
いつもながらGJ!!期待してます。
627名無しさんだよもん:2005/03/22(火) 22:15:28 ID:j3WI5Zn30
よっち━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!!!!
628名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 00:55:07 ID:FwzZCjRq0
うん。まったく素晴らしい。
性描写は死と同じで、劇的だけど安直にもなりうる。
この話ではもっと難しいことを描いて欲しいと思うし
今まさにそれを成し遂げつつあるようにも思う。
がんばれ! めっさ応援してます。>>625
629名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 00:58:10 ID:dSWP7kgu0
これの後にうpする勇気は無い罠。しばらく休む
630名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 01:40:01 ID:6cx1mBxmO
あえて言おう。ちゃるに萌えた。
しかしそれを誰が責められよう。いいや責められまい(反語)
631名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 09:12:50 ID:DJ5Q8MKhO
前スレからここまで一気に読んだ。

なんで今までこんな良スレに気づかなかったんだ…orz。
632名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 14:17:16 ID:IqeVdwpgO
>>631
心の清い人にしか見えないからです。
633631:2005/03/23(水) 14:18:39 ID:DJ5Q8MKhO
葉鍵に来たのが初めてなだけだけどな。
634名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 17:46:19 ID:DFARd3Nj0
誰かえちぃ話を書いてくれ(´Д⊂グスン
635名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 17:48:35 ID:jH4lRJ3o0
ここはお前n(ry
636名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 18:03:27 ID:/7/7hGkl0
>>634
頑張ってくれ
楽しみに待ってるよ
6371/23:2005/03/23(水) 21:35:48 ID:dFAbu2IB0
 布団の中から手を伸ばし、目覚まし時計のスイッチをオフにする。

・・・・・・ん・・・・・・う。

 あ・・・・・・れ? もう朝か・・・・・・。

 布団に入ってから、まだほんの少ししか立っていないような気がする。
 半分眠ったままの腕をのろのろと動かし、カーテンを開いた。
 まぶしい朝の光が差し込んで、部屋を明るく染める。
良く晴れた、気持ちのいい朝だった。
布団越しに日差しのぬくもりが伝わってくる。
 
 ぴんぽーん

 と、まるでこちらが起きたのに合わせるかのように呼び鈴が鳴る。
 だれだよ、こんな朝っぱらから・・・・・・。

 ぴんぽーん

 再び鳴り響く呼び鈴の音。
6381/23:2005/03/23(水) 21:36:29 ID:dFAbu2IB0
 ああ、はいわかりました、今行きますよ。だから、もうちょっとだけ、この朝のまどろみに身をゆだねさせて・・・・・・。
 あまりの日差しの心地よさに、睡魔たちは大張り切りでもう一度眠りの世界へ俺を誘ってゆく。
 呼び鈴の音は鳴り止まないけれど、そのうち親父かお袋が出ることだろう。だからノープロブレム。俺が出て行かないからって、何も問題はない。それに、恨むなら・・・いくら寝ても寝不足な今の季節に言ってやってく・・・・・・ぐぅ。

「貴明さーん」

 窓の外から聞こえてくる声に、片足どころか腰の辺りまで眠りの国に浸かっていた意識が一度に覚醒した。

「貴明さーん、起きていますかー?」

 慌てて窓を開けて部屋の下、玄関を見下ろした。
 こんな朝っぱらから人の名前を大声で呼ばないで欲しい。
 いや、そんな大きな声で呼んでいる訳じゃないけど、万一ご近所に、とくに隣の家の家族に聞かれていたらと思うと、恥ずかしくて外を出歩けなくなる。

「おはようございます、貴明さん」

 窓から身を乗り出したところで、ちょうど俺の部屋を見上げていた彼女と眼が合ってしまった。出来るだけ不機嫌そうな顔を作っていたつもりだけど、彼女にはあまり効果が無かったみたいだ。
 俺の目をみつめたまま、にっこりと彼女は微笑む。
 子供のころから見慣れた笑顔。
 なんだか本気になって怒るのが馬鹿馬鹿しくなって、俺も笑顔で、でも不機嫌そうな表情は崩さないという器用な真似をしながら彼女におはようと言う。
6393/23:2005/03/23(水) 21:37:12 ID:dFAbu2IB0
「おはよう、草壁さん」

 彼女の名前は草壁優季。小学校のころからの俺の、幼馴染と言えるんだろう、多分。
 同じ中学、そして去年の春から同じ学校に一緒に通っている。
 学校の前の坂道で待ち合わせて、俺と草壁さんそれにこのみと雄二、4人で坂を上っていくのが毎朝の習慣だ。
 だから逆を言えば、草壁さんが朝うちを訪ねてくることなんてそうそうあることじゃない。全く無いわけじゃないけど、うちからだと通学路が離れていて、いつも朝会うのは学校の前の坂道でだ。

「どうしたの、今日は。お袋に何か用事でもあった? あ、ま、まさか!?」

 慌てて時計を見るが、ふぅ、まだ針は7時を回ったばかりだ。遅刻の心配どころか、普段起きる時間よりも30分は早い。
 あれ、何で俺、こんなに早く目覚ましのタイマーをセットしていたんだろう。

「まだ学校のチャイムが鳴るには早い時間ですよ、貴明さん。でも二度寝してしまったのでは、せっかくいつもより早く起きたのが台無しになってしまいます」

 くすくすと笑いながら、草壁さんが俺の顔を眺めている。俺が何に慌てたのかまでお見通しらしい。
 これだから長い付き合いと言うのはやりにくい。まるで自分の行動パターンを全部把握されているみたいじゃないか。
 恥ずかしさに顔が熱くなるのがわかった。

「それに、おば様もおじ様も、今頃は海の向こうの国ですから。お会いしたくてもお会いできません」
6404/23:2005/03/23(水) 21:37:47 ID:dFAbu2IB0
 ・・・・・・あ、そうか。

 今日から親父もお袋も出張で家を留守にするから、誰もいないんだった。
 通りでさっきから家の中が静かなはずだ。
 一階からは毎朝聞こえてきた炊事の音や、朝のニュース番組の音が聞こえてこない。
 そのことにあらためて気付かされ、二人とももうこの家にはいないんだな、と言う実感が湧いてきた。

「あの、それで、もし貴明さんがご迷惑じゃなかったらだけど・・・・・・」

 そこまで言うと、なんだか躊躇いがちに目を伏せてしまう。
 いや、これは躊躇っているというよりも、恥ずかしがってもじもじしていると言った様子か。
 だってなんとなく顔も上気しているようだし。

「貴明さん1人じゃ、朝ご飯の用意するのも大変だろうと思って、家からサンドイッチ、持ってきたんですけど・・・・・・貴明さんさえよかったら、一緒に食べませんか」

 そこまで言われてようやく、草壁さんの手に通学カバンのほかにランチボックスが握られていることに気がついた。
 多分あの中にそのサンドイッチが入っているんだろう。

「そのためにわざわざ? もちろん大歓迎だよ。それじゃあちょっと待ってて。今、鍵を開けるから」
6415/23:2005/03/23(水) 21:39:50 ID:dFAbu2IB0
「はい」

 嬉しそうな表情をする草壁さんに、窓を閉めてほんの少しだけの別れを告げると、俺は大慌てで一階に降りていく。
 俺のためにわざわざ遠回りしてまで朝飯を届けてくれるなんて。
 朝、早起きしてサンドイッチを作っている草壁さんを想像すると、なんだか面映い気分になる。
 
・・・・・・何を朝から照れているんだ、俺は。
 
いかん、このままじゃ玄関を開けても草壁さんを直視できそうに無い。落ち着け、俺。
 そうだ、サンドイッチの具は何だろう。ハムか、レタスか、ツナか。タマゴサンドがあると嬉しいな。大体の人はハムサンドかタマゴサンドで好きな具が分かれるけど、俺はやっぱりタマゴサンド派だな。
 ハムサンドも悪くないけど。
 そこら辺は心配する必要は無いか。草壁さんとはお互いに好物は良くわかっているし。
 そういえば寝起きなのにずいぶんとお腹もすいているな。昨日は2人とも昼には出かけちゃって、夕飯はスーパーの弁当だったからなぁ。ああいったところの弁当って、けして不味くは無いけれど味気ないんだよなぁ。

 ・・・・・・よし、大分落ち着いた。

 もう一度だけ深呼吸をして、シリンダー錠を回す。
 
「おはようございます貴明さん」
6425/23:2005/03/23(水) 21:40:32 ID:dFAbu2IB0
 こちらから扉を開けると、草壁さんはさっきと変らない、いや、さっきよりももっと嬉しそうな表情をしているように見えるのは、俺の気のせいか。

「おはよう草壁さん。でも、おはようならさっきも言ったよね」

「いいえ、窓にいた貴明さんにご挨拶するのと、こうやって玄関でご挨拶するのでは全く別のものになるんです。あ、もちろんいつも坂の下でおはようとご挨拶することも、まったく別のものですよ」

 そんなものなのかなぁ、などとは思うけれど、草壁さんがあんまり嬉しそうに言うものだからそれならそれでいいか、となんとなく納得してしまった。
 
「いつまでも玄関に立ってるのもなんだし、上がってよ。今、顔洗ってくるから、ちょっと待ってて」

「はい、おじゃまします・・・・・・あっ」

 洗面所に向かおうとする俺の後ろで、草壁さんが息を呑むのがわかった。
 慌てて振り返ると草壁さんは、目を伏せて、唇を硬く結び、まるで何かを耐えるように通学カバンを握る手に力を込めている。
 な、なんだ、何が起こった。
 周囲を見渡しても何も変わった所は無い。
 辛そうな瞳で草壁さんが見つめるその先は・・・・・・ま、まさか俺の身に何かっ!?

「・・・・・・貴明さん」
6437/23:2005/03/23(水) 21:41:39 ID:dFAbu2IB0
 ごくり・・・・・・。

 自分の唾を飲む音が嫌に耳に響く。

「貴明さんの髪の毛に、凄い寝癖が」

      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
 デコピン。

「あっ・・・・・・」

 ぺし、ぺし、ぺし。

 お仕置きとばかりに草壁さんのおでこにデコピンをしてやる。
 デコピンっと言ったって人差し指で軽くはじく程度。身をよじって逃げようとする草壁さんも、なんだか楽しそうだ。
6448/23:2005/03/23(水) 21:42:15 ID:dFAbu2IB0
「・・・・・・あっ、あっ、あっ」

 ・・・・・・なんだかオラ、楽しくなってきたぞ。

「貴明さん、貴明さん、お願いですからやめてください」

 やだ、やめない。なんと言ったってこれは、人の事をからかって遊ぶような悪い子にするお仕置きなんだから。
 けして草壁さんの反応を見て楽しんでいるわけじゃないぞ、うん。
 よし、今度は左手も使って左右から挟み撃ち・・・・・・

「タカくん、おはよ〜」

 柚原(ゆずはら)このみ。
 隣に住んでいる一つ年下の幼なじみ。
 このみの家とは家族ぐるみの付き合いがあって、小学校のころから一緒にいる草壁さん以上に、物心つく前から一緒にいることが多かった。
 一人っ子だった俺にとっては、妹みたいなものかな。
 その妹が、物凄く生温かい目で両手にデコピンを作る俺のことを見つめてくれている。

 ・・・・・・やめろ、やめてくれ、そんな瞳で俺のことを見ないでくれ。
6459/23:2005/03/23(水) 21:42:57 ID:dFAbu2IB0
「おはようございます、このみちゃん」

「あっ、優季お姉ちゃん、おはよ〜」

 草壁さんが、まるで何も無かったかのようにこのみに声をかけている。
 応えるこのみも元気な声で挨拶をする。
 女って強いな。いまだにデコピンの態勢のまま固まっている俺だけがまるで馬鹿みたいじゃないか。
 いや、じっさい馬鹿丸出しなんだろうけど。

「このみ、何でまたこんな朝早くに?」

 こうなればこんな恥ずべき出来事は無かったことにしてしまうしかない。幸い草壁さんもそれには同意見のようだ。
 まずは当たり障りの無い会話から日常生活への復帰を図っていこう。
 それでとりあえずこのみ、目を細めてこちらを見るのをやめろ。

「あ、えっとね」

 そう言ってこのみの取り出した物は、鍵のついた可愛い猫のキーホルダー。
 どこかで見たことのあるその鍵は、あれ、もしかしてその鍵、うちの家の鍵か?
64610/23:2005/03/23(水) 21:44:04 ID:dFAbu2IB0
「おばさんから預かったんだ。留守のあいだタカくんのことお願いしますって。だからタカくんが寝坊しないよう、起こしにきたんだけど」

 お願いしますって・・・・・・あのさ、お袋。
 いつも寝坊して待たされるのは俺の方だって、突っ込んでいいかな。

「優季お姉ちゃんの方が先に来ちゃってるんだもん。ちぇ〜、せっかくタカくんの寝顔が見られると思ってたのに」

 ・・・・・・どうせ渡すのなら、草壁さんの方がはるかに適任だろうに。お袋、絶対人選誤ったって。

「貴明さんの寝顔、きっと可愛らしかったでしょうね。もうちょっと遅く来ればよかったかな」

 前言撤回。
 俺の周りには俺のプライバシーに対して配慮を示してくれる人間は存在しないようだ。
 そもそも、一人暮らしの男の家の鍵を他人に預けるなんて何を考えているんだ。俺の身が危ないとは思わないのか、お袋。

「あれ、優希お姉ちゃん。それ、もしかしてサンドイッチ?」

 このみが、草壁さんの手に握られたランチボックスを目ざとく発見する。
 と言うかこのみよ、何で中身も見ずにそれがサンドイッチだと判るんだ?
64711/23:2005/03/23(水) 21:45:28 ID:dFAbu2IB0
「ええ。貴明さんの朝ごはんに作ってきたんだけど、たくさんあるからこのみちゃんも一緒に食べませんか?」

「やた〜。それじゃ早く食べよ。二人とも、早く早く〜」

 大喜びでリビングに駆け上がっていく。
 そのサンドイッチは俺の朝飯であり、このみの空腹を満たすための物ではないとわかってるか?

「すぐに支度するから、草壁さんも上がっててよ」

「はい。あ、貴明さん・・・・・・あの、その、ふ、ふたりでデコピンとかしてるの、誰かに見られると恥ずかしいですから・・・・・・
 あ、で、でも本当に嫌だって言うわけじゃけしてなくて、その、どうせなら誰も来ないところでして欲しいなって。や、やだ私ったら、何を言ってるんだろう」

 早く忘れてください。
 ・・・・・・洗面台の蛇口を捻ると、朝の冷たい水が流れ出す。
 恥をかく原因となった寝癖を、まるで親の仇のようにとかしていく。
 うわ、確かにこれは凄い寝癖だ。
 このまま学校に行っていたら、確実に変なあだ名を奉られているところだっただろう。一人、嬉々としてそのあだ名を付けようとする人間に心当たりがある。

『貴明さんー、飲み物はコーヒーにしますか、紅茶にしますか?』
64812/23:2005/03/23(水) 21:46:06 ID:dFAbu2IB0
 部屋に戻って制服に着替えていると、下から草壁さんの声がした。
 よくうちの家に遊びに来る草壁さんの影響で、我が家のティーセットや茶葉の買い置きにはちょっとした物がある。
 普段滅多に使わないくせに、親父にしろお袋にしろ、妙に形から入ろうとするのは一体誰に似たんだろう。おかげで中学生のころ、草壁さんが毎週のように通っては二人にお茶の入れ方を教えると言う妙な時期があった。
 ただ、味の違いがわかるほど繊細な舌をしているわけじゃないけど、ドリップされるコーヒーや、ティーポットから注がれる紅茶からはインスタントじゃけして味わうことの出来ない雰囲気があるのも確かだろう。
 でも俺使い方わからないから、草壁さんが来た時以外埃をかぶっていそうだな。

「どっちでもいいやー。あ、でもどうせなら草壁さんの入れてくれた紅茶がいいかなー」

『はい、用意して置きますねー』

『ねえ優季お姉ちゃん、わたしも入れてみたいでありますよ〜』

『んー、ごめんねこのみちゃん。今日は私が入れてあげたい気分なんです』

 良く言った草壁さん。
 このみにやらせた日には下手をすると、紅茶色した単なる渋いお湯を飲まされかねない。
 着替えを終えて、カバンを手に取り扉を開ける。
64913/23:2005/03/23(水) 21:46:51 ID:dFAbu2IB0
 ・・・・・・ん〜。

 いい香りだ。
 下から紅茶の、多分これはミルクティーだな、ほっとするような香りが漂ってくる。
 階段を下りる足も自然と速くなり、リビングの扉を開けようとする手にも期待に力がこもる。

「さ、どうぞ貴明さん、席について下さい。今お茶を入れますから」

 リビングに射す暖かい朝の日差しの中で、草壁さんがポットをもって笑っていた。
 テーブルの上には色とりどりのサンドイッチが盛られたお皿と、カップが3つ並んでいる。
 思ったとおり美味しそうなサンドイッチだ。このみなんて今にも皿に跳びかかりそうなくらいそわそわしている。
 やっぱりこいつは花よりダンゴなやつだなぁ。

「貴明さんはミルクティー、今日はミルクから入れますか? それとも、紅茶から?」

 そんなこと、決まっている。

「もちろん、紅茶からだよね」

「はい、わかりました」
65014/23:2005/03/23(水) 21:47:32 ID:dFAbu2IB0
 嬉しそうに微笑むと、草壁さんは慣れた手つきでティーカップに濃いめの紅茶と、ミルクを注いでいく。
 草壁さんは猫舌で、熱いお茶じゃすぐ飲むことが出来ない。だからいつもミルクティーをいれるときは紅茶から注いで、それからミルクを入れて飲みやすい温度にするのが2人のあいだでの決まりごとだ。
 わざわざ聞かなくても答えは決まっているのに、それでもいつもどちらから入れるか草壁さんが俺に聞いてくるのは、たぶん、そうやっていつもと同じ会話が出来ることを楽しんでくれているからなんだろう。

「じゃあ、いただきます、と」

「いただきま〜す」

「はい、どうぞめしあがれ」

 全員に紅茶が行き渡ったところで一緒に手を合わせる。
 まずはミルクティーを一口。
 うん、美味しい。
 十分に濃く入れられた紅茶が、まだ完全に目覚め切ってない頭をすっきりとさせてくれる。
 そしてメインのサンドイッチに手を伸ばす。
 最初はレタスとトマトのからいってみようか。
 一口頬張ると、シャキシャキとしたレタスのはごたえに、トマトの甘酸っぱい酸味が口の中に広がる。
 空腹感も手伝ってレタストマトサンドを一気に食べ切ってしまうと、紅茶をもう一口。
 胃の中が暖かくなっていくような感覚。
 なんだか幸せな気分だ。
65115/23:2005/03/23(水) 21:48:08 ID:dFAbu2IB0
「美味しいよ、草壁さん」

 おかげで素直に感想を口に出して言うことができた。
 へたに色々な言葉を使うよりも、美味しいって言うだけの方が、作ってくれた人にその思いを伝えやすいと思うから。

「ありがとうございます。貴明さんにそう言ってもらえると、とっても嬉しいです」

「本当においしい。優季お姉ちゃんのサンドイッチは最高だね〜」

「このみちゃんもありがとう。そんなに一生懸命食べてもらえるなんて、もっと作ってくればよかったかな?」

 このみもよほど草壁さんの作ったサンドイッチが気に入ったんだろう。もう一心不乱という表現が似合いそうなくらい一生懸命お皿に手を伸ばして・・・・・・って、コラ。お前一体一人で幾つ食べる気だ?
 あっ、それは俺が目をつけていたハムサンドだ、取るな、返せ。

「ごちそうさまでした」

 手を合わせてそう言うと、このみはさも満足そうに背伸びをする。
 結局このみ一人に半分以上のサンドイッチを食べられてしまった。
 俺も途中からはまるで競うように食べ始めたんだけど、このみの小さな体のどこにあれだけの量が入るんだろう。不思議だ。
65216/23:2005/03/23(水) 21:52:32 ID:dFAbu2IB0
「おそまつさまでした。貴明さん、紅茶をもう一杯いかがですか?」

「あ、うん、もらおうかな。ごちそうさま、美味しかったよ」

「どういたしまして」

 食後の一杯を注いでもらうと、それを持ったままソファへと移動する。
 ソファのある辺りにはベランダからの春の日差しがちょうど当たっていて、ずいぶんと心地よさそうな雰囲気をこちらに見せ付けていた。
 ポカポカと降り注ぐ日差しを体中に浴びて、草壁さんの入れてくれたミルクティーを飲む。学校なんて行くのはやめて、このまま一日中日向ぼっこでもしていたい気分だよ。
 このみなんてもう、テーブルにうつぶせになって、今にも眠りそうなくらい顔をとろけさせているじゃないか。

「おいおい、このみ。寝るなよ、学校に遅れるぞ」

 だからと言って本当に昼寝(この場合は朝寝になるのか?)をはじめる訳にも行かないだろ。

「ん〜、ちょっとだけ・・・・・・。ちょっとだけだよ・・・・・・それに、まだ学校に行く時間じゃないし、だから・・・・・・だいじょうぶ・・・・・・」
65317/23:2005/03/23(水) 21:55:28 ID:dFAbu2IB0
 時計を見る。
 7時45分。
 確かに家を出るには、まだ少し時間があるし、少しくらいなら大丈夫か。
 たまには、こんなゆっくりした朝もいいだろうし。

「草壁さんも、片付けなら学校から帰ってきた後俺がやっておくから。ゆっくりしてるといいよ・・・・・・草壁さん?」

 あれ?
 つい今までテーブルの上の片付けをやっていた草壁さんの姿が見えない。
 キッチンの奥へ行ったわけじゃないようだし、どこへ行ったんだろう?

「うわっ!?」

 唐突にかかった太ももへの重量に、もう少しで持ったティーカップを落とすところだった。
 慌てて視線を下げてみると、そこには俺の両足に頭をのせて、ソファに横になる日下部さんがいた。

「草壁さん・・・・・・」

「それじゃあお言葉に甘えて、ゆっくりさせていただきます」
65418/23:2005/03/23(水) 21:56:21 ID:dFAbu2IB0
 まるでいたずらっ子のようにくすくす笑う草壁さんは、そう言うと目を閉じ、寝息を立て始めてしまった。

「あ、ちょっと、草壁さん」

 慌てて立ち上がろうとしたけど・・・・・・まあ、いっか。
 いつも何かと世話にはなっているし、今日だってサンドイッチを持ってきてもらった。そのお礼だとおもえば膝枕くらい安いものだろう。
 それに、その・・・・・・なんだ。
 こんな間近で、草壁さんの寝顔を見ることが出来るなんて、そんなに機会があるわけじゃないし。
 両腿に草壁さんの体重を感じながら日向ぼっこを続ける。
 まずいな、俺まで眠ってしまいそうだ・・・・・・ふぁぁ。

「貴明さん」

「あ、ごめん、起こしちゃった?」

 草壁さんは静かに目を伏せると、軽く首を横に振る。

「ねえ、貴明さん。貴明さんはあの約束のこと、覚えてくれていますか」
65519/23:2005/03/23(水) 21:57:59 ID:dFAbu2IB0
 真剣な表情で、俺のことを見つめる草壁さん。
 でも、すぐに、申し訳無さそうに顔をそらしてしまう。

「ご、ごめんなさい。急に変なことを聞いてしまって」

「もちろん、覚えているよ、高城さん」

 立ち上がろうとする草壁さんを手で制して、ゆっくりと笑顔で言ってあげる。
 小学校のころ高城さんに、俺の名前をあげるって言った約束。
 忘れるはずなんて、ない。

「貴明さん、私、いまとっても幸せです」

 草壁さんの細い指が、俺の制服を握り締める。

「いつもみんなと、このみちゃんや、雄二さんや、それに貴明さんと一緒にいることが出来て・・・・・・でも、だからこそ不安になるんです。
 あのとき、両親が離婚して、私が高城優季から草壁優季に変ってしまったとき、もし貴明さんと離れ離れになっていたらどうなっていたんだろうって。貴明さんが呼んでくれた私は、私のままでいられたんだろうかって」

 俺の体に抱きつく草壁さんを、俺はゆっくりとその髪を撫でてあげる。草壁さんの不安が少しでも消えるように。
 俺が、ここにいるよ、って証明してあげるために。
65620/23:2005/03/23(水) 21:58:33 ID:dFAbu2IB0
「大丈夫、俺はどこにも行かないよ。ずっと草壁さんの側にいる。それに、たとえほんの少しだけ離れ離れになったって、草壁さんには俺の名前をあげたんだから、だから、草壁さんが別の誰かになってしまいなんかしない。頑張るっていっただろ、ずっと一緒に遊ぼうって」

「貴明、さん」

 俺を見上げる草壁さんの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
 怖い夢でも見たのかな。
 でも、その表情には笑顔が浮かんでいて、草壁さんが安心したことが嬉しいのと同時に、綺麗だな、なんてずいぶんと場違いな感想を抱いてしまった。

「草壁さ・・・・・・優季」

 その瞳から、もう目をそらすことなんて出来やしない。
 優季の肩を抱く手に力が入る。
 だんだんと2人の顔と顔の距離が近くなっていって。

──あと30センチ──

 優季の瞳が閉じられる。
65721/23:2005/03/23(水) 21:59:04 ID:dFAbu2IB0
──あと20センチ──

 息遣いどころか、体温まで感じられるようになってきた。

──あと10センチ──

 2人の唇が、とうとう触れあ

「あ〜〜〜〜〜っ!!」

 このみの叫び声に、俺と草壁さんはソファの端と端まで一気に飛び跳ねる。
 も、もう少しだったのに、じゃ無くて、優季も顔を真っ赤にして俯いてる、でもなくてえーっと、その、どうした、このみ。
 このみに顔を赤くしていることがバレはしないかドキドキものだったが、そんなことには全く気付く様子もなくこのみは俺に時計を指し示す。

「タカくんタカくん、大変だよ、遅刻しちゃうよ〜」

 遅刻って、まだそんなに慌てるような時間でもないだろ。
 時計は、7時45分。まだ十分に余裕が・・・・・・って、あれ。
 さっき見たときも7時45分じゃなかったか?
65822/23:2005/03/23(水) 21:59:38 ID:dFAbu2IB0
「た、大変です、貴明さん」

 そういって優季が見せてくれた腕時計は・・・・・・・
 
『8時15分』

「ヤ、ヤバイ!!」

「タカくん、先に行くよ〜」

 おい、コラ、待てこのみ。カバンも持たずにどこへ行く気だ。

「貴明さん、私たちも急がないと」

「ああ」

 左手で自分のカバンを手に取って、そして右手は、優季の手を握り締める。
 優季は少しだけ頬を赤らめたけど、笑顔で力強くうなずくと、俺の手を握る指に力を込めてくれた。
65923/23:2005/03/23(水) 22:01:25 ID:dFAbu2IB0
「行こうか、優季」

「はい、貴明さん。一緒に、ずっと一緒に行きましょうね」

 玄関の扉を開けると、外には限りなく澄んだクリアブルーの空が広がっていた。
 このままじゃ、よほど急がない限り遅刻は確実だろう。
 先を走るこのみを追いかけて、途中でこいつも遅刻しそうな雄二を追い抜き、俺と優季、2人で手をつないだまま学校の前の坂を駆け上がっていく。
 これから2人の間には、いろいろなことが起きるんだろう。
 楽しいことや嬉しいことだけじゃなく、辛いことや、悲しいことも。
 けれど、優季といっしょならどんなことでも乗り越えていける。2人は、絶対に離れ離れになんてならない。
 両手を伸ばせば体ごとその青に溶け込んでしまいそうな、そんな吸い込まれそうなくらいの春の青空が、まるでこれからの2人を祝福してくれているようだった。



   終
660名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 22:02:17 ID:dFAbu2IB0
草壁さんが書きたかった。
かければ他はどうでも良かった。
今は後悔している。
661名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 22:21:46 ID:ZeJn4e4y0
>>660
そらもうGJよ
だが、オレは草壁さんを(タカ坊の嫁に)やるなんて全然、考えていない。まったく考えていない。一切、考えてない。
662名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 22:44:18 ID:n5f1fFRL0
>>660
(*^ー゚)b グッジョブ!!
こういうIF物も良いね
663名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 22:55:43 ID:IqeVdwpgO
>>660
に、253!?
すさまじい長編だな、がんがれ(´∀`)b
664名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 23:13:00 ID:tyQJpSW90
>>660
こういうのもアリか・・・・  とにかくGJ
665名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 23:19:51 ID:Z0QJq5F10
>>663
携帯で見るとそう見えるんだよな……俺も同じ勘違いしたよ。
そして>>660GJ。この状況でタマ姉が帰ってきてからのも見てみたいな。
タマ姉が九条院に行ったのと草壁さんとの「約束」とどっちが先だったんだろう。
666名無しさんだよもん:2005/03/23(水) 23:29:16 ID:Vk4VV4Xw0
>>665
タマ姉のほうが先じゃないか?
告白はタマ姉が九条院の小学校に行く直前の話じゃないの?
667ある日、アイス屋の前にて10(1/5):2005/03/23(水) 23:30:09 ID:jzrhUZBz0
「菜々子ちゃん、おまたせ」
「うん、お兄ちゃん」
「はい、これが菜々子の。ストロベリーとキャラメル&クリームのダブル」
「わあっおいしそう。お兄ちゃんありがとう!」
「気に入ってくれた? うん、よかった」

「……」
「……」
「……」

「俺はこれ。ベルギーチョコレートとマカダミアナッツのダブル」
「あ、お兄ちゃんのもおいしそうだね」
「でしょ。食べてみる? はい、あ〜ん」
「あ〜ん。――うん、おいしいよ」
「俺も菜々子ちゃんの、食べてみていい?」
「うん、いいよ」
「あーん。――うん、美味しい」

「……」
「……」
「……」

「あ、菜々子ちゃん、ほっぺにアイスがついてるよ」
「ん?」
「ほら、ここだよ」
 ふきふき。
668ある日、アイス屋の前にて10(2/5):2005/03/23(水) 23:31:10 ID:jzrhUZBz0
「あ、ありがとうお兄ちゃん」
「うん」

「……」
「……」
「……」

「ねぇお兄ちゃん、今度の日曜日、どっか行かない?」
「んーそうだね。菜々子ちゃんはどこに行きたい?」
「ええっと、遊園地も行きたいし、動物園も行きたいし、水族館も行きたいし……」
「ははは、菜々子ちゃんは欲張りさんだなあ」
「あのね、お兄ちゃんに決めて欲しいな。あたし、お兄ちゃんと一緒ならどこでもいいよ」

「……せ」
「せ?」
「セ〜ン〜パイと〜ロ〜リっコ♪
 な〜か〜よ〜く〜し〜て〜る♪」
 る、る、る、る♪
 るるるるるるるるるーるーるー♪」
「……ネタ切れ?」
 ガクガクブルブル…………
「どうしたのよっち、いきなり震えだして」
「…………え……えらいもの……見てしまった」
「あのバカと、小学生くらいの女の子が一緒ね」
「せ……センパイってば……ろ、ロリコンだったとは……」
「……犯罪?」
669ある日、アイス屋の前にて10(3/5):2005/03/23(水) 23:31:55 ID:jzrhUZBz0
「堕ちるところまで堕ちたって感じね。サイテー」
「こ、このことをこのみやタマ姉さんが知ったら、どんなことになるやら……。
 っていうか、ちんまいのがいいんだったら、このみでいいじゃないよセンパイ!?」
「このみはロリではないと思うが」
「生えるものが生えた女には用はないってことでしょ。人間の屑ね」
「ただ、気になることが一点」
「?」
「さっきから見てるとセンパイ、なんか引っかかるんだよね。一見、あの子と楽しくしているよう
だけど、なんかムリしてるっていうか……」

「ねぇ、お兄ちゃん……」
「ん?」
「…………お姉ちゃんは、まだ……戻ってこないの?」
「……うん……」
「……」
「……」
「……あ、あのね、お兄ちゃん。
 あたし、お兄ちゃんとお姉ちゃんのおかげで、ゆっこちゃんと仲直りできたでしょ。
 お兄ちゃんとお姉ちゃんにはとっても感謝してるの」
「……」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんのおかげで、あたしは幸せになれたの。だから、お兄ちゃんとお姉ちゃん
にも幸せになってほしいの。でも、お姉ちゃんがいなくなって、お兄ちゃんは……」
「……」
「だから、だからね、今度はあたしが、お兄ちゃんを幸せにしてあげたいの。
 あたし、まだ子供だから、なにができるかわからないけど、お兄ちゃんが幸せになれるよう、なに
かしてあげたいの」
670ある日、アイス屋の前にて10(4/5):2005/03/23(水) 23:32:51 ID:jzrhUZBz0
「……菜々子ちゃんはそんなこと気にしなくてもいいよ」
「気になるよぉ! だってお兄ちゃん、さっきから全然笑ってない!」
「そんなことはないよ、あははっ、ほら」
「そんなのウソだもん! あたしにだってそのくらいわかるもん! 作り笑いなんて、全然幸せじゃ
ないもんっ!」
「菜々子ちゃん……」
「あ、あたし……お兄ちゃんに、本当の笑顔になってほしいの……。
 う、うう……ひっく……。
 だって、だって……あたしがゆっこちゃんのことで困ってたとき、お兄ちゃん、笑顔であたしの
言うこと、聞いてくれたもん……、助けてくれたもん……。
 あたしがゆっこちゃんの乗ってる電車に行くときも、笑顔で見送ってくれたもん……。
 お兄ちゃんは、笑顔でいてほしいもん。だから、だから……」
「菜々子ちゃん…………じゃあ、一つ、お願いしてもいいかな?」
「ひっく……ひっく……な、なに?」
「もう泣かないで、菜々子ちゃん。
 俺さ、あいつが、るーこが俺の前から突然いなくなって、正直、かなりまいってた、いや、今でも
まだ立ち直ってないんだろうな、きっと。
 るーこは、『さよなら』って置き手紙だけ残していなくなった……。多分、るーこはもう、俺の元
に戻ってくることはないんだって、最近、わかったんだ……。
 でも、さ、上手く言えないけど、菜々子ちゃんがこうして俺のそばで、笑顔でいてくれたら、いつ
かきっと、立ち直れる、笑顔を取り戻せるような気がするんだ。
 だからさ、菜々子ちゃん、笑ってくれるかな?」
「お兄ちゃん…………う、うん!
 あたし、笑うね。お兄ちゃんの前で、笑顔でいるね!」
「うん、ありがとう、菜々子ちゃん」
671ある日、アイス屋の前にて10(5/5):2005/03/23(水) 23:33:52 ID:jzrhUZBz0
「……」
「……」
「……」
「……なんか、ワケありだね」
「……そうね」
「話から察するに、センパイ、誰か好きな人が他にいたけど、その人が突然いなくなって、それを
知った菜々子ちゃんは、センパイを元気づけようとしてるみたいだね」
「……健気」
「そうね。ちょっと下衆な想像しちゃったみたいね」
「おお、郁乃が珍しく反省してる」
「あんたもでしょ。っていうか最初に勘違いしたのはあんたでしょうが、よっち」
「ぐ……ま、まあ確かに。
 でもよかったねセンパイ、菜々子ちゃんがいて。
 ああやって、誰かの笑顔が救いになって、失恋の傷もきっと癒えていくんだね……」
「ふぅん、たまにはいいこと言うわね。あんた」
「たまに、は余計っしょ。
 はぁ。なんだかこっちも、つられて笑顔になるね……」
「……そうだな」
「そうかもね……」

「……よっち、オチは?」
「ないよ。たまにはこんなまったりムードで終わるのもいいっしょ」
「そうかもね……」

 おしまい。
672ある日、アイス屋の前にて10 の作者:2005/03/23(水) 23:34:55 ID:jzrhUZBz0
どうもです。
>>598さんのリクエストにお応えして、菜々子ちゃん編です。
673ある日、アイス屋の前にて10 の作者:2005/03/23(水) 23:38:25 ID:jzrhUZBz0
うぎゃー! 間違い発見! すみませんです!

1/5の3行目。
誤)はい、これが菜々子の。
正)はい、これが菜々子ちゃんの。
674某研究者:2005/03/23(水) 23:50:02 ID:FAPvUk/q0
もしかするとるーこはもう戻ってこないのであろうか
これでは予想していたハーレムエンドオチが達成されないかも知れぬ
まあそもそも何れの話もパラレルであろうことも想定されるかも知れぬし
だが矢張りいささか寂しいのでるーこには戻ってきてもらいたいものだ(悲泣
675名無しさんだよもん:2005/03/24(木) 00:14:25 ID:B4oQN4wF0
598です。妄想具現化ばんざーい!
つか、「菜々子」ちゃんでしたね。奈々子って……(^^;)
毎回、アイスの選択もナイスです!
(偽アイス氏の抹茶&渋皮栗のダニエルチョイスも受けた)

個人的に菜々子ちゃんのクローバー探しの話は
東鳩1のレミィシナリオ迷子イベントとすごく重なるように感じます。
そういやるーことレミィのキャラ設定も、どこか共通点が多いような。

さておき、いつも楽しい話ありがとうございます!
676名無しさんだよもん:2005/03/24(木) 01:41:32 ID:WT2sThfk0
菜々子ちゃん編がキタと思ってニヤニヤしながら見ていたが
るーこBAD後ってのでぐっと来るものがあった。
最初は郁乃のかわりにるーこかと思ったりした漏れはぬるぽ

とりあえず>>667GJ!!
これでなにか買って食え つii
677名無しさんだよもん:2005/03/24(木) 01:42:25 ID:1VjwSP0Q0
うう・・・
ちゃる編はいつになったら読めるんだろう・・・orz
678名無しさんだよもん:2005/03/24(木) 01:44:08 ID:pvPbHD8D0
よっちはそこそこ多いけどちゃるは見た事無いな
679名無しさんだよもん:2005/03/24(木) 02:12:29 ID:yEu0MmOR0
今日の先輩は一人

ちゃるがいないことに気づくよっち
「あれ、ちゃるどこっすかー」

いくのんが先輩の隣でアイス食べてるちゃる発見。

いつの間にぃぃ


というか、ちゃる編が見たい(゚w゚)
680名無しさんだよもん:2005/03/24(木) 12:55:32 ID:bBCvuU1tO
GJ!

>676
一応ガッ。
681名無しさんだよもん:2005/03/24(木) 19:11:56 ID:VNQk7jkL0
>>660
遅ればせながらGJ!!!!
草壁さんファンのオレには心の癒し〜
682名無しさんだよもん:2005/03/24(木) 22:16:59 ID:9XvbhVAv0
もう容量一杯かな?
683名無しさんだよもん:2005/03/24(木) 22:22:18 ID:Uq2yFhkm0
現在473KB
684名無しさんだよもん:2005/03/24(木) 23:00:11 ID:/BBwAv4H0
今更ながら>>234がわかる人になりました。
山場のたびに笑ってしまうじゃないか!どうしてくれるw
685偽アイス2号:2005/03/24(木) 23:52:28 ID:lZNmfRHJ0
「雄二君、おまたせ」 
「おう」 
「はいこれ雄二君の。ウニとイカスミのダブル」 
「お、よく分かったな。俺が食べたいのがウニとイカスミだって」 
「うふふ、雄二君のことなら、なんだって分かっちゃうんだから」 

「こっちは私の。納豆とキムチのダブル」 
「お、そっちも美味そうだな」 
「でしょ。はい雄二君、あ〜ん」 
「あーん。──うん、美味しい」 
「うふふ、あ、私も雄二君の、食べてみたいな」 
「ああ、いいよ」 
「あ〜ん。──うん、おいしい、雄二君」 

「あ、雄二君ほっぺにアイスついちゃってるよ」 
「ん?」 
「ほらほら、ここ。拭いてあげるね」 
 ふきふき。 
「ん、サンキュ」 
「どういたしまして☆」


「あれ、あそこにいるの雄二先輩じゃないっすか?
 一人でアイスを二個持ってなにブツブツ言っているだろ?」 
「……よっち、ここは見なかったことにしてあげるのが思いやりだ」
686名無しさんだよもん:2005/03/25(金) 00:12:41 ID:4spL+tnB0
こんな時間に声だして笑ってしまったじゃないかw
687名無しさんだよもん:2005/03/25(金) 00:19:56 ID:Kk7IcCWK0
>>685
マジ面白かった(w
688名無しさんだよもん:2005/03/25(金) 01:07:32 ID:PkawbRIZ0
パペットマペット!

雄二の七色の声色なら不可能じゃない。
なんて悲しい一人遊び……。
689名無しさんだよもん:2005/03/25(金) 01:32:54 ID:XqZzkftX0
そろそろ次スレに移行ですかね?
690名無しさんだよもん:2005/03/25(金) 02:33:49 ID:vwiG/36IO
ロリロリ☆大作戦キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!
と思ったらなんか(・∀・)イイ!話じゃないですか。
691名無しさんだよもん:2005/03/25(金) 02:39:14 ID:HByjI59Q0
>>685
マジワロタw

しかもウニ・イカスミ・納豆・キムチって
なんでもありだな、あのアイス屋は
692名無しさんだよもん:2005/03/25(金) 08:44:03 ID:V+Ii9t8i0
>>691
小樽の某アイスクリーム屋にはそれが全部あったりする
693名無しさんだよもん:2005/03/25(金) 14:13:08 ID:gVUt09JPO
>>692
納豆まであるのかw
694名無しさんだよもん:2005/03/25(金) 16:33:41 ID:t2XqhcfJ0
次回予告

図書委員長編
695名無しさんだよもん:2005/03/25(金) 17:47:59 ID:lEm3vvQ10
次回予告

某研究者編
696名無しさんだよもん:2005/03/25(金) 21:21:09 ID:VkO0jw0v0
次回予告

真委員長編
697名無しさんだよもん:2005/03/25(金) 21:49:19 ID:1nFHiWdHO
>>685
デラ・ワロス
698偽アイス2号 :2005/03/26(土) 11:58:03 ID:pd0pqu+K0
>692
多分、小樽郵便局の近くにある
そのアイス屋を思い出しながら書きました。
6990/13 言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:16:22 ID:w3emcs4/0
あらすじ
 両親の離婚、それが原因でよっちはこの街を去ることになった。残された時間はもう後四日だけ。
 急にそれを知らされたいつもの面々はよっちの送別会を開くことにするのだが、いつの間にやら忘年会に。
そこでちゃるに色々言われて貴明もよっちのことが気になりだしたのだけど……。

第一話から第六話はこちらで
ttp://www.geocities.jp/koubou_com/

ギリギリなんだけど、強行投下
7001/13 言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:17:05 ID:w3emcs4/0
 結局一晩中降り止まなかった雪は、翌朝には町中を白く埋め尽くし、それに飽き足らずに今だ深々と降り
続いていた。朝の、冬の、雪の冷気が開け放った窓からひゅるりと部屋の中に侵食してきて、俺はぶるりと
体を震わせ、それでもまだ窓を開けたままにしていた。
 風に誘われひらひらりと雪の一片一片が窓辺に落ちて消え、消えずに残り、やがて薄く降り積もっていく。
 吐いた息は白く染まり、窓の外で風に吹かれてさっと消える。
「センパイ、おはーッス!」
 勢いよくドアが開けられて、着替えはしてるものの頭には寝癖の残ったよっちが顔を出す。
「ああ、おはよう」
「うおーーー、何で窓開けっ放しなんスか? 寒いッスよ! ほら、閉めて閉めて!」
 部屋の寒さにぎょっとしたよっちが、ずかずかと部屋の中に入ってきて窓を閉める。
「もー、雪が嬉しいのは分かりますけど、朝から体を冷やしたら風邪引いちゃうッスよ。ほら、窓んとこ積もっ
ちゃってるじゃないッスかー!」
 よっちの指先が窓辺に薄く積もっていた雪をさっと払う。その飛沫が俺の顔にすこしかかる。
「あ、センパイ、ごめんッス」
 そう言って俺に伸びたよっちの手が、俺の顔には触れずに止まった。
 指先を閉じて、よっちはゆっくりと手を引こうとして、もう一度思い直して、そして勢いよく俺の頬を、雪の飛
沫を受けた頬をぐいっと指先で拭くと、ぴょんとベッドから飛び降りた。
「それにしてもセンパイといい、このみといい、朝に弱いッスよね」
「む、それは心外だぞ。このみと比べられるのは納得いかん」
「そッスか〜? 朝から寝ぼけて雪を眺めてたのは誰ッスかね〜。あたしがいなかったらあのまま雪ダルマ
になっても気付かなかったんじゃないッスか?」
 なんとなく否定できない。確かに今朝には一段と頭が重い。本当に風邪でも引いたのかもしれない。
「それじゃあたしはこのみも起こしてくるッスよ〜! 朝ごはん、昨日の残りッスから、早く起きてきてください
ねー!」
 そう言い残してよっちはばたばたと階段を下りていく。
 俺は自分の額に手を当てる。とりあえず熱は無いようだ。
7012/13 言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:17:47 ID:w3emcs4/0
 せっかくの休日だっていうのに熱を出して寝込むなんてバカらしいもんな。
 それにもう明後日にはよっちはこの街からいなくなるのだ。せっかくの思い出作りにそんなものを追加する
こともないだろう。
 俺は着替えて伸びをする。
 多分顔を洗えば、この頭が重いのも収まるだろう。
 そう思って階段を下りる。
「このみー! 起きろー!」
 客間からはこのみを相手に苦戦するよっちの声が聞こえてくる。
 休日と知っているときのこのみの寝ぼすけっぷりはよく知っている。というよりあれは半意図的なものなの
で性質が悪い。しかも今朝のこの寒さともなれば、このみと包む布団は今や鋼鉄の盾だろう。しばらくはこ
のみを起こせまい。
「うわーーー、なんでこのみは起きないんスか? どうしてッスか? あれだけ寝たのになんで起きないん
だー!」
 客間の喧騒をそっと無視して洗面所に向かう。
 顔を洗って鏡を覗くと酷い顔がそこにあった。目の下には大きな隈ができている。
 むむむ、これは一体どうしたことか。自分で思う体調より、顔色が悪い。
 顔を指でつまんでみても、顔色の悪さと目の下の隈以外にどうも異常はないように思える。
 俺は首を傾げつつ、リビングに向かう。
「このみ〜〜〜!! 朝だってば! あーーさーーー!!」
 ダイニングには昨日の残りの中華やらピザやら寿司やらが、それぞれに皿に移されて並んでいた。それと
インスタントコーヒーを入れたマグカップ。まあ朝食とは言いにくいラインナップではあるが、見栄えはよくなっ
ている。よっちのわりにはよく準備したというべきだろうか? 俺はヤカンを火にかけて、リビングのエアコン
をつける。
 エアコンもつけずに朝食の用意をしてたのか。
 リビングのカーテンは開け放たれていて、白化粧の庭がよく見える。残念ながら厚い雪雲が掛かっていて
日の光は望めそうに無かったけど、それでも雪の降り積もる光景をこうやって見られるというのはいいもの
だ。
7023/13 言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:18:29 ID:w3emcs4/0
 沸騰したお湯を一杯だけマグカップに注ぎ、かき回して手に取りリビングへ。
 テレビをつけると、この大雪の中をリポーターが中継し、休日だというのに出勤中のすっ転ぶサラリーマン
なんかを映していた。事故も結構起きているようだ。まさかこんなに降るとは思わなかったもんなぁ。
「くそー! こうなったら最終手段ッス。意地でも起こしてやるッスよ〜!!」
 なんだかそろそろ助けに入ったほうがいいような気がしてきた。気がしてきたけど、結局俺はソファに腰を
下ろしたまま、またマグカップのコーヒーに口をつける。
「ふぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 テレビはまたどこかの中継をしていた。そこは雪が降っておらず突き抜けるような晴天で、風は強く寒そう
だった。当たり前のことだけど、同じ日本でも遠く離れれば空の色はまったく違っていて、たとえ電話ですぐ
に話せたとしても、同じ天気の話題で盛り上がることはなくなるんだろう。
「あ、センパイ、降りてきてたんなら手伝ってくださいッスよ〜」
 リビングに顔を出したよっちはまるでサンタクロースのような姿になっていた。もっとも肩に担いでいるのは
白い袋ではなく、白い掛け布団だ。中に入っているのはオモチャじゃなくてこのみなんだろう。ミノムシみた
いにすっかり掛け布団の中に包まり隠れてしまっている。
「このみったら全然起きないんスよ〜。もう11時間は寝てるッスよ〜」
 よっちはそのままこのみ入り布団をリビングの中まで引き摺ってくると、ようやくと言った風で息をついた。
「そりゃ災難だったな。叩いてもつねっても起きないだろ」
「叩いたり、つねったりする前に布団から絶対出てこないんスよ」
「寒がりってワケじゃないんだけどな。スイッチが入るまではどうしようもないから、しばらくエアコンの真下あ
たりに置いておけば自然解凍するんじゃないか」
「そッスね〜」
 最早引き摺ることすらせずによっちはごろごろとエアコンの真下までこのみ入り掛け布団を転がした。
「それじゃセンパイ、朝ごはんにしましょ!」
 パンパンと手を叩いて、よっちがにっこりと笑った。
7034/13 言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:19:11 ID:w3emcs4/0
 ピザをオーブンで温めなおしていると、その匂いに釣られたのか、もそもそとこのみが起き出してきて、寝
ぼけ眼のままでダイニングの椅子に腰掛けた。よっちと顔を見合わせて苦笑する。
「あれぇ、みんなはぁ?」
「帰ったに決まってるだろ。ほれ、お前も食ったら帰れよ」
「えー、どうしてー?」
「どうしてって……」
 そう言われて初めて気付く。
 あれ? どうしてだろう?
 俺はそんな動揺を隠して、都合のいい言い訳を探す。
「……いや、ほら着替えとかあるだろ?」
「あ、そうだねー」
 このみはにぱっと笑うと、ピザの一切れをばばばっと胃の中に収めてしまう。
「お前、ちっとは噛めよ」
「えー、タカくん、なにか言った?」
「いや、何も言ってない」
 そんな言い合いをしている間にもこのみの前の料理は平らげられていき、
「ごちそうさま!」
 両手を合わせてそう宣言すると、このみは立ち上がり、
「それじゃタカくん、よっち、また後でねー!」
 駆け出していった。
 その余りの忙しなさに、こちらが呆気に取られてしばらく呆然としてしまう。あれがさっきまで布団から出て
来れなかった人間の行動力なのだろうか? まあ、今更驚いてみたところで、こんなのはもう見慣れた風景
だ。このみはアクセルを踏むと同時にトップギアなのである。
 ――かと思うと、このみが全力ダッシュで戻ってくる。
「うわわわわわわわっ! タカくん、タカくん、雪っ! 雪なのでありますよっ!」
「気付くの遅ッ!」
7045/13 言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:20:28 ID:FkWPtsU/0
「タカくん、よっち、お待たせー!」
「今度は早ッ!」
 昨日の残りをなんとかよっちと二人で平らげて、食器と後片付けを分担して、その後身だしなみなんぞを整
えていると、もうこのみがやってきた。
「さー、遊ぶでありますよー!」
 そんな気合を入れて遊ばなくても、と思ったら、
「オーッス!」
 よっちもやる気満々でしたか。
 仕方がないので目いっぱい厚く着込んで庭に出ると、まだ空からは深々と雪が降り続けていた。
「おいおい、どこまで積もるんだよ」
「わたしより高くなるといいなあ」
 そんなことになったら都市機能が完全に麻痺するぞ。家も潰れるやもしれん。と、思ってふと屋根を見上げ
たが、幸い雪かきしなくてはならないほどでもないようだ。
「てやっ!」
 ばしゃ!
 そんな俺の横顔にこのみの投げた雪球が命中する。
「こらっ、いきなりは卑怯だぞ」
「えへー、油断してるほうが悪いんでありますよ」
 俺も負けじと足元の雪を手のひらで丸めてこのみめがけて投げつける。
 このみはひらりとそれを避けてみせた。
「甘い、甘すぎるであります」
 しかし避けた直後のこのみの顔に、予想外の方向からきた雪球が命中した。
「ふっふ〜、あたしのことを忘れてもらっちゃ困るっしょ」
「忘れてないよ」
 ひょいと俺の投げた雪球がよっちの頭に命中。
「センパイが寝返ったーーー!!」
 もうその後はしっちゃかめっちゃかだった。
7056/13 言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:21:11 ID:FkWPtsU/0
 しかしまあ高校生にもなって雪ひとつでここまではしゃげるとは、俺もこのみのことを子供っぽいとか言って
られないかもしれない。そんな風にしているうちにあっという間に昼になって、昼食をどうしようかということに
なった。
 するとこのみがにこやかにアテがあるといって俺の家の中に入っていった。あれ? なにかあったかな、と
その後を追うと、キッチンには、あの、カレーの鍋に火をかけるこのみがいた。
 うわ、忘れてた。まだそれがあったんだった。
 仕方なく三人でよっち特製カレーを口に入れる。残念ながら何日置いても苦味は抜けてくれないらしい。
「よっち……、一体何を入れたらこんな味になるでありますか?」
 やばい、このみの目が据わっている。これは、ブラックこのみだ。自分で勝手にカレーに決めておいて、食
べると文句を言う辺りが、多分にブラックだ。
「あわわわ、お、覚えてないであります。マム!」
「カレーを作ったのに材料を覚えてないですとぉー」
 火に油を注ぐとはこのことか。結局、このみはカレーに関してもしっかり怒っていたらしい。
「カレーを舐めるなでありますっ!」
 ずびしっ!
 このみチョップがよっちに炸裂。
「だって、色々入ってるほうが美味しいっしょ……」
「その結果がこれでありますよ。よっち、カレーとは味のハーモニーなのであります。色んな具材が入ってて
も、それぞれがそれぞれを引き立たせて高めあう、そして美味しいカレーができるのであります。オーケスト
ラに三味線が入ってたら台無しなのでありますよ!」
 それはそれでちょっと聞いてみたいような。よっちも同じことを思ったのか、
「でも意外とイイかも知れないっしょ?」
「三味線だけならまだしも、お琴に、ギター、のこぎりまで入ったらもうオーケストラとは呼べないのでありま
す!」
 いや、のこぎりは楽器ですらないだろ。
7067/13 言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:21:53 ID:FkWPtsU/0
 しかしなんとなく分かった。ブラックこのみの発動条件は不味いカレーなのだ。おそらくは幼いころからおば
さんの必殺カレーで育てられてきたこのみにとって、不味いカレーとは冒涜に値する代物なのだろう。そして
その怒りゲージが頂点に達したとき、このみはカレーの国からやってきた必殺天使ブラックこのみんへと変
身するのだ。
「……タカくん、なんか変なこと考えてない?」
「か、考えてません!」
 こわっ! ブラックこのみの時は余計なことを考えるのも止めておこう。
 このみのカレー談義を聞きながら、俺とよっちは黙々とスプーンを口に運んだ。今年の3月頃に初めてカ
レーを作ったヤツが、よくもまあ言うもんだ、とも思ったが、このみのカレーは確かに美味い。というよりおばさ
んのレシピがいいのだろう。
 う、このみのカレーの味を思い出したら、このカレーを食ってるのが悲しくなってきた。
 しかしまあ、お陰でカレーの残りはほんのすこしだ。あれを全部食べきったのかと思うと、すこし感動する。
人間、苦難を乗り越えるというのは素晴らしいものだ。
「でもね、このカレーの味に腹が立っちゃうのは仕方ないけど」
 仕方ないんだ……。
「よっちの手料理食べれて良かったよ」
 不意に戻ってくるいつものこのみの笑顔。
 そしてこのみは立ち上がって三人分の食器をまとめ、手馴れた手つきで洗い場に向かう。
「あ、洗いモノはあたしがやるッスよ〜」
「それじゃ手伝ってー」
 並んで洗い場に立つ二人。後ろから見てるとよっちが姉でこのみが妹にしか見えないが、実際の主導権
はこのみが握っている。俺はただぼんやりとそれを眺めていた。
「さて、それじゃわたしは帰るでありますよ!」
 洗いものが終わると、ぱんぱんと手を叩いてこのみがそう宣言した。
7078/13 言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:22:36 ID:FkWPtsU/0
「え、あれ? まだ昼過ぎだよ」
「うん。でも雪遊びでドロドロになっちゃたし、お風呂も入りたいかなって」
「そっか」
 確かに風呂には入りたいかもしれない。髪の毛は拭いたものの、濡れた感触は心地よいとはいえない。
「また後で来るか?」
「ううん」
 このみは横に首を振る。
「タカくんがずっとよっちを独り占めにしててズルかったから、今日はその分のお返ししてもらったんだ。でも
それもここまで。わたしの出番はこれにて終了だよ。よっち、楽しかった。ゼッタイ連絡してね」
 ぎゅっとこのみが強くよっちに抱きついた。
「うん。……うん。ゼッタイ連絡する」
「……それじゃよっち、またね……」
 このみはさよならとは言わなかった。これが永遠の別れじゃないからだろう。連絡だって取れる、いつかま
た会える。だから、またねと言って別れられる。
 よっちの体からこのみが離れ、二人は手を振って別れる。
 よっちはしばらく胸に手を当てていたが、やがて笑ってこちらを振り向いた。
「センパイ、ほら、あたし泣かなかったッスよ。えらいッスか?」
「そうだな。えらいえらい」
 その頭に手を乗せてゆっくりと撫でてやる。
「へへ、褒められたッスよ」
 このみが帰っていってしまうと、急に家の中が寂しくなった。
「そうだな。俺らも風呂入るか」
「え? 一緒に、ッスか?」
「んなワケあるか」
 よっちの頭を軽く叩くと、パカンといい音がした。
「あたっ、やだなあ。冗談ッスよ〜。それじゃお先〜」
7089/13 言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:23:42 ID:FkWPtsU/0
 よっちの後にシャワーを浴びて、リビングで一服。
 朝から結構走り回ったからか、心地よい疲れがある。
「休憩なだ。休憩」
「そッスね〜」
 二人してそれぞれソファに転がる。大きく息を吐く。
「……これからどうしようか……」
 時間はないはずなのに、時間が余っている。そんな不思議な感覚。
「明日は終業式だろ……」
「そッスね……」
 そうしてしばらくよっちはソファに顔を埋めたまま黙り込んでいたが、やがて顔を上げた。
「センパイ、明日学校行ったら、あたしはそのまま家に帰りますね」
「……そっか」
 それはそうだろう。もう明後日には引っ越して行くのだから、本当なら今日だってこんな風にのんびりして
いて良いワケがない。けれどよっちが家に居るよりもここに居る時間を望むなら、俺はそうしてやりたいと
思った。多分、よっちにはそれくらいのワガママが許されていいはずだ。
 よっちの両親もそう思っているのだろう。そうじゃなかったら、いくらちゃるのところにいると思っていても、迎
えにいかないワケがないのだ。
「センパイ、ワガママ聞いてくれてありがとう……」
「なに言ってんだよ。らしくないぞ」
 よっちのしたいようにすればいい。そしてそれを受け入れることこそが俺のすることだ。
「……だったら、隣にいってもいいッスか?」
 窺うようによっちが訊ねる。
「それがらしくないんだってば。いつもならこっちの都合なんてお構いなしだろ」
「だって……」
 口ごもるよっち。
「センパイ、昨夜からなんか変ッスよ……」
70910/13 言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:24:44 ID:a2PjcpUA0
 ドクンと心臓が一度強く打った。なんだろう? 俺に何か変なところがあっただろうか?
 俺が返事をせずに考え込むと、よっちはゆっくり立ち上がってこっちにきた。俺がソファに座りなおすと、そ
の隣によっちが腰を下ろす。
「あたし、なにかしちゃったッスか?」
 恐る恐る、まるでとても恐ろしいものに触れるかのように、よっちの手が俺の腕に触れた。
 俺にはよっちが何を言っているのか分からない。俺はいつも通りだし、よっちは何もしていない。
 よっちの手は俺の腕を確認するようになぞり、やがてゆっくりと腕を絡めてきた。
「なんでそんなにビクビクしてるのさ」
「だって、センパイ、また眉間に皺が寄ってるんスもん」
 よっちは今にも泣き出しそうな顔だった。

 どうしてそんな顔をしてるんだよ?
 俺はよっちにそんな顔をさせたくなくて……。

 胸が締め付けられるように苦しくて……。

 ……そうだ。
 忘れてたワケがあるだろうか?
 ……忘れたかっただけだ。
 忘れているフリをしていただけだ。
 俺は、俺の脳は、心は、体は、神経は、胸は、指先は、全部が、全部を、全部覚えている。
71011/13 言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:25:26 ID:a2PjcpUA0
 ――――――。
 ――昨夜――。
 ――――――。

「センパイ、眉間に皺が寄ってるッスよ」
 いつの間にか目の前にやってきてたよっちの指先がちょんと俺の眉間をつつく。その感触を追うと、よっち
と目があった。ドクンと心臓が跳ねる。
 そんな俺の動揺を知ってか知らずか、よっちは俺の隣にストンと腰を下ろすと、甘えたように腕にしがみつ
いてきた。その柔らかさにカッと体が熱くなる。な、なあ、誰か俺に腕にしがみつかれたときに、その腕の指
先をどう扱えばいいのか教えてくれ。腕を動かすとよっちの柔らかさを再確認してしまうだけのような気がし
て、俺は不自然な形のまま右腕をピクリとも動かせずにいる。
「センパイ……」
 呼びかけられてよっちを見ると、よっちはこっちを見ずに軽く目を閉じていた。
「なに?」
「センパイ……。センパイ……。あたしのセンパイ……」
 噛み締めるように一語、一語、よっちは繰り返す。
 ぎゅっと腕を抱く手に力が込められる。
 その声は、言葉は、感触はとろけるような甘みを持って俺の脳髄から神経の末端までをあっという間に侵
し尽くした。抗いがたい甘い誘惑――。
 それに身を委ねてしまえばどんなに甘美だろう。
 けれど、その甘い果実はもうすぐ遠いところに、行って、しまうのだ。
「……センパイが何も言ってくれなくても、あたしはあたしを振り解かないセンパイの腕を信じてる」
 ――いなくなる。
 そう思ったとき、右手が動いた。
 それはもう自分でも信じられないような勢いで、絡みつくよっちを振り解いた。
「えっ……」
 びっくりした顔で、大きく目を見開いて、よっちは固まってしまっている。
 胸の奥がぎゅっと締め付けられる。違う、そんな顔をさせたかったんじゃない。
「……よっち、今夜はもうおやすみ。客間の押入れにまだ予備の布団があるはずだから……」
 違う、こんなことを言いたいんじゃない。
71112/13 言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:26:29 ID:a2PjcpUA0
「え……あ……、はい……」
 行き場を失ったよっちの手が、そのままぎゅっと握られた。
 ――傷つけた。それが分からないわけがあるだろうか?
 よっちは言ったのだ。振り解かない俺の腕を信じてる、と。それを聞いて俺は振り解いたのだ。
 ――そしてまた、傷つき、しおれる彼女が――例えそれが俺の所為だとしても――狂おしく―しかった。
 俺はその手をこの手で包みたいと思った。その躯を掻き抱いて、その髪に顔を埋め、唇を奪い、肌に掌を
当て、総てを知り、総てを味わいたいと……、そしてそう望む俺をよっちは受け入れてくれるだろう。
 しかしだからといって、
 しかしだからこそ、
 俺はそうするわけにはいかないのだ。
 ちゃるが言った。
 よっちの気持ちをはぐらかすな、と。だから俺はよっちを受け入れようと思った。よっちがそれを俺に望んで
いると思ったからだ。
 でも、これは違う。
 これは違う。
 これは、俺の気持ちだ。
 俺の、すごく個人的で、独善的で、自分勝手で、一方的な、俺の、俺だけの想いだ。
 だから、俺はよっちを受け入れるから、この気持ちを押さえ込んでしまうから、お願いだから一晩だけ待っ
てくれ。
 だけど、それは言葉にはできなかった。
 ただ俺は、茫然自失となったよっちをリビングに残したまま、重い足でそこを去ることしかできなかった。
 それしかできなかったのだ。
 本当にできなかったんだ。
 部屋に戻ると窓の外には止まぬ雪が明りに照らされ、ほんのすこし暗闇の中から切り出され、映し出され
て降り積もっている。
 それを隠したくなくて、俺はカーテンを開けたままベッドに潜り込んだ。
 ただ深々と降り続く雪が、この気持ちを覆い隠してくれますように。
 ただ深々とこの気持ちを、誰にも、俺にも見つからないように。
71213/13 言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:27:12 ID:a2PjcpUA0
 ――――――。
 ――今日――。
 ――――――。

 深い雪の底で、それはしっかりと息づいていた。
 いくら隠そうとしても、それは雪を押しのけて競りあがってきた。
 せっかく忘れようとしていたのに……。
 せっかく忘れられそうだったのに……。
 心のうちから湧き上がる感情に、俺はもう抗えない。
 黙りこんでしまった俺が怖かったのか、よっちは俯いてしまっている。
 その目に涙があふれかかっているだろうことは、顔を上げさせないでも分かる。
 ああ、どうしてこうも弱い姿を俺に見せるのか?
 膨れ上がる守りたいなんて感情は全部嘘っぱちだ。
 これはよっちのための気持ちなんかじゃない。
 ただ、俺がこうしたいだけなんだ。

 そして、俺は初めて、

 自分のために、

 よっちの体を抱き寄せた。
713言葉はいらない その7:2005/03/26(土) 14:31:15 ID:580DiJqs0
「言葉はいらない」第七話はこれにて終了。
 次回必殺天使ブラックこのみん第二回
「激闘喫茶店! カレーかハヤシかオムライス」
 見ない子は必殺カレーで……すみません。悪ノリしました orz

あー、ギリギリの投下で違った方向に緊張感でいっぱいでした。
連投規制くらいまくったしw

というわけで次スレ
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1111814888/
714名無しさんだよもん:2005/03/26(土) 15:23:41 ID:2WuQDuP00
よっちいいなあ・・・ 乙
715名無しさんだよもん:2005/03/26(土) 15:44:25 ID:2oz1GblG0
                 ,,_ , - ''  ̄ ̄` - 、_ 静まれーぃ!静まれーぃ!
              /´           ヽ,, この紋所が目に……静まれぃー!
        O    。 /    i        ヾ, `ヽ, 皆の者〜、静まれっ!
             /,      l i i,       ヽ_  ヽ,      ,、 静まれーぃ!
         o  /   / ,/| l, l   ヽ,  \ヾ ヽ ,li  , -ノ_,/ノ このお方をどなたと
      O      i /   | l l j ヽ   i、 ヾ \__l  li/ i/-/ 静まれーぃ!
       ゜      l l   ーi-l、|_|リ  ト_ 、, 、,y__ノ-、ll////∠-、_ ええぃ!静まれっ!
       。     |ii,  l li i _ヾヽ,ヽヽ_>__ヾ,_ `-ノゝ_´`-/ 静まれ!静まれーぃ!
          o    ||l .l リ 〃、 ::l`ヽ ヾ`, イっ::ヽ_ ソー|ソ/≡l i i 先の副将軍、
            ll,l ii li ` i:;;;;:l    ` l::;;;,:/r,/  !/〃 | /l l 水戸の御老……静まれーぃ!
     __,─── 、_ゝi  トi C`'´   ,   `ー'っ/l i |ソ丿 i/ i/ 静まれーぃ!皆の者、静まれーぃ!
   r'~´       ~l   |`>,,   r,─ 、   /<i, l |ヽ、_ 水戸の……静まれーぃ!静まれーぃ!
   |         /'i.  i, l、ゝ、,_ l _ ノ , イ::::::| ,/ll:::///
  , ─ー- 、=====| ヽ トl ヾ:::::|` ─. ''´ ,/:::::::l /:/:///\ みんなっ静まれ〜〜ってばぁ〜〜!!!
  (_,-ー<_   _ _ ヽ_ ト lヾ::::::::|_=====/:::::::,ノ::/ /~  \
  (__ ,_ '/ヽ////:::::::l/ヾ、|ヾ、:::::::ヽ   /  ,/r/      \
   (   ノヽ/// ::::::|) i `ヽ_==,\ /==-ー'  l       \
   l ロ二´ 、_  `  ::::::l  /    二>-i''::┬,<_    ,|        \
   (__ , ノ    :::::::l 丿 ,-- ':::::''::::,i::: lヾ;;::::::`ヽ,_ l'          \
     i , -'´ ̄ ̄ ̄`` j' /::::::::: :::/:::/r j、::::::::::::::::::/\_          \_
716名無しさんだよもん:2005/03/26(土) 17:21:48 ID:iU3VXkIl0
>>713
ブラックこのみにワラタ

どうでもいいことかもしれませんが、
クラシックギターが中心になったオーケストラはありますよ。
ちょっと新鮮でギターの音が何気に合ってるんですよ。
どうでもいいですけどね・・・

とりあえず、続きを楽しみにしてます!
717名無しさんだよもん
      /`ヽ∠> 、
 +  / /,´     ヽ
     |/〃,´  j、    ヽ
     {  { ノ__ノハ_,,,, } }       
     i  Y''"_,、 _、 ノjノ   +
    (i  l`' ̄ノ ヽ  ゞ;l  
.     iヽ l r `__"_ヽ ,|;/ 
     | .iヽ、~`'''''" /;;ヾ 
     | i/`r、_-,,,,,,r"ノ''ii{      
     / \ `ー- '"ヽ`ヽ、
  ,-'"~ i   ヽ   /,,\||  ` ::
  ;;,,   フ  ヽ. 〈/ヽ, |   ::''
   '';;,, \   ヽ |  ヽ |,,::''
     '';;,,\   ヽ|,,;;;;;::::'''