葉鍵ロワイアル II 作品投稿スレ! 3

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1名無しさんだよもん
―――そして、かれらは目を覚ました。
孤島に集められた100人の男女達。
理由も状況も分からないまま、彼らは殺し合いを強制される。

生き残れるのは、わずかに二人。
その枠を賭け、ある者は殺し、ある者は殺される。

「では、諸君らの健闘を祈る」

―――ゲームが、始まった。


葉鍵キャラによるバトルロワイヤルのリレーSSスレです。
ルールを守り、楽しんで行きましょう。

まとめサイト
http://nippoudairi.at.infoseek.co.jp/hakarowa2/
前スレ
葉鍵ロワイアル II 作品投稿スレ!2
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1084745335/
前々スレ
葉鍵ロワイアル II 作品投稿スレ!
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1084547540/
現行の感想&議論スレ
【ズガン】実況★葉鍵ロワイヤルII 5【ズガン】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1084962220/
ログ保管所
http://chara_royale.tripod.com/hr2/
ログ保管所 Pukiwiki
http://f41.aaacafe.ne.jp/~royale/
地図
http://nippoudairi.at.infoseek.co.jp/hakarowa2/map02.jpg
2名無しさんだよもん:04/05/21 13:45 ID:0aqo0zbv
3名無しさんだよもん:04/05/21 14:02 ID:kesDJmXL
スレ立て乙です。容量ギリギリだったのだな。気がつかなかった。
4名無しさんだよもん:04/05/21 14:03 ID:HWjT/agZ
乙です
5名無しさんだよもん:04/05/21 14:04 ID:7u546AUN
お疲れ様です。
6名無しさんだよもん:04/05/21 14:10 ID:ACucKu/k
>>1乙ついでに注意書き。

※投稿前にリロード推奨
※本文の最後に番号、名前、アイテムなどの纏めを入れましょう。
例【019 柏木千鶴 装備:トカレフ(残り弾数5)】
7名無しさんだよもん:04/05/21 14:22 ID:TgRyhGYv
   ⊂⊃
〜 (>ヮ<)ノシ 三☆1乙!
8名無しさんだよもん:04/05/21 16:10 ID:dNyUA/9L
>>1
乙です
9生まれた疑惑:04/05/21 16:33 ID:orEUk5Id
 俺は先程の出来事を思い出していた。

 ――僕が行く前に約束して欲しいんだ。芽衣を僕の代わりに守るって

 春原陽平は死んだ。
 だが、俺はその直後春原と再会した。
 あれは一体何だったのだろうか?
 夢? 幻? 残留思念? 幽霊?
 そんなことはどうでもよかった。
 確かにあの時、春原は俺たちの前に存在していたのだ。
 そして春原は俺に妹――芽衣ちゃんのことを託して消えた。

「なあ水瀬、あいつは何だったんだろうな…あんな姿になってまで俺と馬鹿なことできるんだぜ…」
「わからない……だけどこれだけは言えるよ、春原君の最後の願い、芽衣ちゃんを探し出して守ること」
「ああ、春原の願い…叶えてやらないとな」
「うん、ふぁいと、だよ」
 俺は手のひらを見つめる。春原が消えたあと俺の目の前に残っていたのは小さな光だった。それは俺の手のひらに吸い込まれるように消えていった。
「ところでおまえは見たか? 春原が消えた後の小さな光を」
「ううん、私は見てないけど」
「そっか……何だったんだあの光は――」
10生まれた疑惑:04/05/21 16:34 ID:orEUk5Id

 光――?

 ぞわり。
 俺の胸の内で何かがざわめく。何だ……?
 俺は…俺は…この光を――。
 あれは…いつ…。

 そもそも俺は――いつ、この島に連れてこられたんだ?
 正門前で古河と初めて会った日…。
 芽衣ちゃんが兄を訪ねて来た日…。
 それから…それから…。
 何よりも。

 俺がいるこの島は西暦何年何月何日だ?

 ――さん、岡崎さん。
 誰かが俺を呼ぶ、その声で俺は現実に帰還した。

「岡崎さん、顔色悪いよ…大丈夫?」
「あ……水瀬か、すまない少し考え事してたみたいだ」
 この違和感、水瀬にも訊いてみるべきか?
 訊くのが怖い。
 訊いたことで俺の中の何かが覆される気がする。
 それでも俺は訊いてみた。
11生まれた疑惑:04/05/21 16:34 ID:orEUk5Id

「去年の日本シリーズ、どことどこのチームが対戦した?」
「へっ?」

 ……しまった。いくら直接訊くのが怖いからといって女の子に野球のことを訊くのは間違いだったかも。
 俺、アホな子な。

「えっ…と、そうそう確か――」
 良かった…知ってるみたいだ。いや、全然良かない可能性がある。
 頼む……巨人と西武と言ってくれ。

「――横浜と西武だったよ」
「うん、横浜が38年ぶりに優勝して話題になったんだよ。マシンガン打線とか大魔神佐々木とか。あれっ岡崎さんどうしたの?」
「いや、そうだよな、横浜だったよな。水瀬、今年が西暦何年か一緒に言ってみよう、いち、にの、さんでだ」

 俺は何を言っているんだ?
 やめろ。
 それをいっちゃあいけない。
 やめてくれ。

「いち……にの…さん」

「1999年」
「2003年」
 俺の混乱をよそに空は澄み切った青が広がっていた。


【014岡崎朋也 所持品 包丁 ダンボール 英和辞典 】
【090水瀬名雪 所持品 不明】
12蠕動1/5 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 16:44 ID:7u546AUN
「んっ。眩しっ…」

窓から入り込む朝日の直撃を受けて、明日菜は目を覚ます。
ギシギシと痛む体を伸ばしながら辺りを見回す。
昨夜からの風景に特に代わりは無いようだ。
と言うことは、きっと何事も無く無事に夜が明けたのだろう。

(っていうか、見張りが寝てちゃ駄目でしょ…)

肩を寄せ合って仲良く寝ている真帆と詠美を見ながら、深いため息をつく。
よくもまあ無事に朝が迎えられたものだ。

「真帆ちゃん、詠美ちゃん、そろそろ起きて。晴子さんも起きてください」

声をかけながら軽くゆすって三人を起こす。

「う…もう朝…ですか?ってうわわっ!あたし寝ちゃってましたか!?」

ごめんなさいごめんなさい、と連呼する真帆。
それに対して、

「ふみゅー……あと五時間……」
「んー、居候ー、はよ朝飯作れー。満漢全席をイタ飯風に作れー。3秒でできへんかったらこの家から出て行けよー」

さっさと起きろバカ。
13蠕動2/5 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 16:45 ID:7u546AUN
「それじゃあ、残念だけど、そろそろお別れね」

軽く荷物の整理を終えて、いつでも発てるようにする。

「このゲームを終わらせるための仲間を集める件、よろしくお願いするわね」
「はい、ちょっと怖いけど、頑張ってみます」
「みんな無事に生きて帰れるといいわね」
「ええ、明日菜さんと晴子さんも、お気をつけて」

最後に固く握手を交わして、二人と分かれた。





「無事に生きて帰れるといいわね、か。白々しいセリフやな」
「そうね、自分でもそう思うわ」
「仮にこのゲームから脱出できたとして、そんときに何人ぐらい生き残っとるんやろうな」
「さぁ?少なくとも、私は一人でも生き残るつもりだわ」

もし木田君が私より先に死んだとしても、私が最後まで生き残って、篁に"願い"を叶えてもらえばいいだけ。
木田君を、私だけのものにする。
何でも一つ好きな願いを叶えてやるなどと大口を叩いたのだ。
人を一人蘇らせることぐらいはやってもらわなければ、意味が無い。
その程度ができないのなら、篁だって、殺す。
殺してみせる。
14蠕動3/5 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 16:45 ID:7u546AUN
「それで」

思考を晴子の声が断ち切る。

「これからどうするつもりや?」
「そうね…」

罠は張った。
だが、これだけでは全然足りない。

「まずは武器を探しましょう」

UZIのマガジンは残り3つ。
これではせいぜい三人しか殺せないだろう。
何か、決め手になるようなものが欲しい。

「銃火器がもうひとつぐらいほしいところね」
「せやな。マシンガンなんか、すぐに撃ち尽くしてしまうわ」
「あなたがトリガーハッピーしなければ大丈夫だとは思うんだけどね…」
「なんか言うたか?」
「いえー、何も言ってませんよー?」

「それとな、探さなあかんもんがもう一つあるわ」
「何ですか?」
「メシや」
「あ…」

そういえば、もう半日以上何も食べていない。
意識しだすと、突然おなかが減ってきた。
15蠕動4/5 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 16:46 ID:7u546AUN
「う〜ん、ケーキならありますけど、食べます?」
「アホか!んな何が入ってるかわからへんアヤシイケーキなんか食えるかいな」
「うちで作ったものみたいですから、味には安心できますよ?」
「満腹と引き換えに命捨てたないっちゅうねん」
「まぁ、それはそうですけどね。残念」
「残念、って、ウチに毒見やらせるつもりやったんか?」
「勘ぐりすぎですって」
「あんたといい、ケーキといい、食えんもんばっかりやな」

しっかし腹減ったわー、いっそ食うてまおかなー、などと、晴子はまだブツブツ言っている。

「それじゃあ、この島には食べられる植物が無いことも無い、って言ってたんですし、森の中でも探してみます?」
「せやなぁ。やっぱりそれしかないんかなぁ」
「他の食糧を持っている参加者から殺して奪い取るって選択肢もありますけど」
「アカンアカン、それやってもうたら冥府行きや。それじゃ三地点制覇はでけへんで」
「はぁ?」
「いや、冗談や。確かに、何人かには食糧配ってるて言うてたしな。それでもええかも知れん」
「出来る限り、正面からの殺し合いは避けたいとこですけどね」
「まあ、まずは食糧を分けてもらえるように交渉からやな。んで、交渉決裂なら殺してでも奪い取る、っちゅーことでええな?」
「そうですね、それでいいでしょう」
「よっしゃ!ほんなら方針も決まったとこで行きますか!」
「どっちに向かいます?」
「せやな…最初のホールを出てからあんたに会うまで食糧になりそうな植物は見いひんかったし、逆方向に進んでみるんはどうや?」
「そうですね、私も食べられそうなものは見ていませんし、あちら側に何か無いか、行ってみましょう」



「ねんがんの しょくりょうをてにいれたぞ!とかほざいてるアホはおらへんかなー」
「はぁ?」
16蠕動5/5 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 16:47 ID:7u546AUN
【068 葉月真帆 ラクロスのユニフォーム&スティック&ボール3つ】
【013 大庭詠美 護身用スタンガン】
【002 麻生明日菜 ナイフ ケーキ(毒入りかも?)】
【022 神尾晴子 千枚通し マイクロUZI(残弾60。20発入りのマガジンが3つ)】
【真帆、詠美組は島の東(地図の右側)へ。明日菜、晴子組は島の西(地図の左側へ)】
【二人のときは明日菜の晴子に対する口調が若干くだけた感じになる】
【二回目の定時放送は四人とも聞き逃す】
【時刻は午前8時ごろ】
17回想録(改訂版):04/05/21 18:47 ID:Dvhniu1f
そのまま、三人は自己紹介もそこそこに無言で過ごした。
もう一人は、起こさず、春秋に名前だけを伝え、そのまま放っておく。
(起きるとうぜーだけだからな……)
時紀がその観鈴を見下す。そこに見えた時紀の表情は以前までのそれとは少し違う。
疑心、かすかな怯え、そして。
(最初は、死んでも構わない、と思ってたけど)
戸惑いだった。もちろん、死にたがりなんてかっこいい、そしてかっこわるいもんじゃない。
どうでもよかったのだ。そこには何の印象も残らない。何も生まれない。
こいつの影響か?いや、そんなはずはない。

続いてチラリと沙耶と春秋の方に視線を向ける。二人、お互いを探るようにして見合っていた。
愛だとか恋だとかそんなセンチメンタルな眼差しには遠くて。
時紀の中にささくれ立つ疑心といった負の感情もない。
(俺だけか。気にしすぎだな)
舌打ちを鳴らす。沈黙した闇には程よく響き、二人振り向かせる。
「……なんでもねぇよ。ちょっと疲れてんだ。悪ぃな」
「少し、横になったらどう?」
「……そうさせてもらうわ。少し経ったら起こしてくれ。後で交代してやる」
春秋にヒラヒラと手を振って、イラついた感情を押さえきれず、横へと転がる。
とてもぐっすりと寝付けるとは思えないが、少しだけでも眠っておきたかった。
腕を枕代わりにして、ごろりと横になる。反対の手、だらしなく投げ出された指の触れる先は鎌の柄。
何度か指先を動かし、握りのいい位置に持っていくと、そのまま自然を装って上に被せた。
(やっぱ情けないか、俺)
18回想録(改訂版):04/05/21 18:48 ID:Dvhniu1f
「ちょっと、起きて」
ユサユサと揺り動かされる振動にゆっくりと目を開く。
「どうした?寝たばっかりだってのに――まあいいか。交代するか?」
沙耶がなに言ってんの、といった風に時紀をせかす。
「麻生くんが戻ってこない」
「はぁ?」
逃げたのか? ……だったらこんな剣幕でかかってこないか。
「小用だっていってたからすぐに戻ってくると思って放っておいたけど……」
「大の方なんだろ?放っておけよ」
「……もう、随分と立つのよ」
「どんくらいだ?」
「……20分」
自分はもう、そんなにも寝てたのか?時紀が辺りを見渡した。
横になった時より、わずかにあたりは明るかった。



今、春秋の眼前にその男がただ一人いた。
19回想録(改訂版):04/05/21 18:49 ID:Dvhniu1f
辺りを確認しつつ――また小枝を踏んだ。自分はいささかそそっかしい。
パキリと鳴った足元に顔をしかめ、再び顔をあげて見れば、目の前には一人の老人の姿。
どんな状況が待っているよりも、どんな人間が立っているよりも、
それはとても予想のつかない光景だった。
得体のしれぬ恐怖と、全身の血液が逆流するかのような怒りと驚愕、
いきどころのない様々な思いが全身の毛を逆撫でるかのように浮かんでは消え――
「篁……」
その果て、春秋が選んだことは沈黙。物音を立てようとはしなかった。

「君は利口なのか臆病なのか。まぁ、それもまた一つの人の形か。
 ……驚かせてすまないね。気にするな。ただ朝の光に当たりたくなっただけでね。
 それに今の所、我々に参加者を傷つけるつもりは毛頭ない。安心してゲームを続けるといい」
本当に憎い相手、そんなヤツが突然に現れると人はかえって冷静になれる。春秋はそんな感想を胸に抱いた。
「落ち着いているようで結構」
「余裕だな、あんた。
 ……参加者はみんな、あんたに恨みを抱いてると思うよ。
 ゲームに乗った者もそれは同様。こんな所を歩いていると――」
BANG!と指で自らのこめかみをつつく。軽蔑を込めた眼差しで、篁を睨みつける。
「フフ。果たしてそうかな?私は優勝者の二名には人の一生を賭けても余りある賞品を用意したはずだ。
 何でも願いが叶う。その為だけに殺す者は、却って我々に仇なす者を排除しようとするかもしれん」
「眉唾だね。何でも願いが叶う?はっ!」
「それは優勝して確かめてみることだ。
 まぁ願いを100に増やせだとか、そういった類のものは叶えられんがね」
ふう、と息をついて、そこから去ろうとする。
「待て!」
思わず呼び止める。篁の足が止まった。
20回想録(改訂版):04/05/21 18:50 ID:M8TFFer2
「一つだけ聞かせろ」
「……何かね?」
「こんなことしたあんたの――あんた自身の目的だ」
「あったとして、答えるとでも思っているのか?」
「……」
「ククク、少しだけ話してやろうか?」
再び向き直ったそれは、先程よりと同じようにたたえた余裕と、そして愉悦の色が浮かんでいる。
「では、第二回の定時放送の予定でも話そうか」
「……は?」
理解ができない。
「フフ、そうそう。もうすぐ定時放送の時間だったね。その前にと少し風に当たりにきたのだった。
 ……。6番、一ノ瀬ことみ。15番、緒方理奈。20番、柏木初音。29番、木田恵美梨。43番、沢渡真琴。
 45番、霜村功。49番、スフィー。54番、立川郁美。59番、ディー。60番、トウカ。61番、長岡志保。
 63番、名倉由依。67番、ハクオロ。70番、氷上シュン。75番、藤林杏。77番、伏見修二。
 92番、宮内レミィ。97番、ユズハ。99番、リアン。以上死者19名。ふむ、まあこんなところか」
何を言っているんだ?この男は。
「もうすぐ放送予定の内容を暗記しているとでも思ったかね?
 それなら、続いて第三回の定時放送の予定でも話そうか。――ん?クク、これはおもしろい。
 君も出会っただろう?伊吹風子と言ったかな。人にあって人にあらず。
 ――彼女には悪いことをしてしまったね。本体の方を連れてくるべきだったか。
 まあ、消失と同時に本体も本来の居場所で死んでしまったろうがね。後の祭りか。
 彼女が存在するにはこの世界ではきつすぎたようだ。だが、いいものを見させてもらったよ。
 自我の存在を失ってもなお、その想いだけは失われることはない。強い娘だ。
 人の生き様、生きたいと願うエネルギー。それはとても強く、そして本当に面白い。
 彼女もまた最高のサンプルの一つだったよ。それはすばらしい光の玉の欠片なことだろう。
 いや、まだ生きている彼女に過去形なのはさすがに失礼だったかな?麻生春秋も浮かばれぬ。
 ――話がそれてしまったね。さて、続きといこうか――」
21回想録(改訂版):04/05/21 18:51 ID:M8TFFer2
「もういい」
それを遮る。ヘドが出そうだった。フウコとかいう少女を目撃したあの時よりもずっと胸クソが悪い。
「フフフ。話を変えようか。並列世界というのはご存知かな?
 アナザーだとかそういった方が分かり易いか?まぁ、どう呼んでくれても結構だ。
 要は、とある分かれ道に立った時、どちらを選択し、どういう進み方をするのか。
 人はその時その時で多種多様な選択をし、未来を自分で選びとっていく。
 その可能性の一つ一つが並列世界。それは本来誰にも分からぬことだと思うがね」
「……何が言いたい?」
「君が知りたいのではなかったのか?まあいい。ここで出会ったも何かの縁だ。
 もう少しだけ話しておこうか。その並列世界を知ることができたなら?いわゆる世界を知る力だ。
 君が、私自身が、もしも、こうありえたかもしれないという過去を、未来を知りえることができたなら」
一旦言葉を切る。春秋にも、ようやくこの男が何が言いたいのかが理解できた。
「先程の名前の羅列。外れる未来もありえるわけだね」
「その通り。君はなかなかに賢い。――今はまだ可能性のひとつにすぎんよ」
「それはただの予言だ。例えば、今ここで僕がお前に襲いかかったら――お前が倒れる未来もあるわけだ。
 そしてもしも、僕が敗れて死ねば――。お前のセリフに、僕の名前はなかったろう?」
「それは君自身が一番よく分かっているのだろう?君の心に少しでもその気があれば、そういった未来もありえたかもしれない。
 先程、君が私に会った時。怯え、惑い、怒り、憤り、すべての感情を合わせて出した結論――今のようにな」
「……。『今はまだ可能性のひとつにすぎない』とお前は言ったな。それはどういう意味だ?」
22回想録(改訂版):04/05/21 18:52 ID:M8TFFer2
「今はまだほんの少し、その先を夢見るだけの力にすぎん。
 未来は未だ、我が思い描く通りにはならん。
 世界を知る力。過去を、未来を。すべての並列世界を。森羅万象すべてを知りえた者を。
 人はなんと呼ぶのだろうね?このゲームの終焉。その時、その存在となるのが我だ」
「そんなものになって何をするんだ。どうやってそんなものになれるというんだ?」
「……少々喋りすぎたようだ。あとは君自身が考えるといい。
 最後にひとつだけ。ここで君に出会ったのは、偶然だよ。私のまだ知りえなかった未来だ。
 さて、話は終わりだ。君自身が選び取る物語に幸あらんことを」

どれだけ立ち尽くしていただろう。闇は少しずつ朝靄の中に溶ける。
そろそろ定時放送の時間だ。複雑な表情で、その時を待つ。
その時まで、皆の元には戻りたくなかった。それを聞いた時の表情を他人に見られたくはなかった。
そしてその時は訪れた。定時放送だ。同時に――突如突き立てられる凶刃。
背後から、小さな来訪者。軽く顎を揺らし視線を下へと巡らす。見えた先、喉から生えていたのは小さな赤い刃。
血液が逆流する。
23回想録(改訂版):04/05/21 18:53 ID:M8TFFer2
あまりに遅すぎる。互いに武器を持って駆け出す時紀と沙耶。
「観鈴さんは?」
「……ちっ!おい、起きろ!」
手加減もそこそこに観鈴の頭を殴りつける。
「っ……がおっ……痛い」
「起きてろ。少しの間荷物見てろ。二度寝したらはったおす。なにかあったら大声だ」
「えっ?えっ?」
「いいな!」
寝ぼけ眼で何を言われたか分からないようなまま、勢いに乗せられて頷く観鈴を背に
時紀と沙耶が森を走りぬける。その時はじまる定時放送。
時紀の足が遅れる。


そして今、放送は終わった。間に合わなかったわけか。
今思えば、ヤツは僕だからここまで話していたのだろうか。
誰にも言うこともなく、誰にも知られることなく、ただ朽ちていく。
どうせ死ぬなら、できれば放送が始まる前までにきっちり殺しきってほしかったものだ。
ヤツの言ったセリフとは違う未来が待ってたのに。ヤツの言ったセリフと同じ今を聞かずにすんだのに。
どうやってるかまでは知らないが、ヤツは『それ』に近づいているというのか。――人が死ぬたびに。
クソ、お前はせめて生き延びろよ。せいぜい第三回の定時放送まではな。
横では無邪気な顔でヒトデを作成している少女。
そして――わずかに
最後にそれを瞳に映して、僕の意識は遂に永遠の暗闇へと吸い込まれていく。


【003 麻生春秋 死亡】
【残り61人】
24そして……:04/05/21 18:54 ID:M8TFFer2
沙耶はそれを見つけた。ぴゅぅと音を立てて消えるなにか小動物的な影の先、
春秋の姿があった。血の海にくずおれる春秋の姿。見ただけで分かる。手遅れだった。
千切れた手首。首から喉にかけ、突き通された傷痕。
そこから今もなお溢れ出る血の赤。死因は失血死が窒息死かショック死か。
「……」
呆然とそれを見つめた。先に流れた定時放送の内容などぶっ飛んでしまっていた。
むせかえるような血の匂いの中のこの光景は、あまりに凄惨すぎた。

まるで、夢遊病者のように、時紀が追いついてきた。
(20番、柏木初音。29番、木田恵美梨。43番、沢渡真琴。45番、霜村功……)
先程の放送の内容を、機械人形のように口へと紡ぎながら。
辺りに広がる光景を前に。春秋の惨劇が広がる。

お前か?お前がやったのか?――沙耶を見る。いやそんなはずはない。
アレだろ?武器が銃なのに刺殺ってのはおかしいじゃないか。
ははは、でも、あれか? 実は未だ武器隠し持ってて黙ってるとか?
あ、そして俺をいつか殺そうとか企んで――
25そして……:04/05/21 18:54 ID:M8TFFer2
めまぐるしく思考が回転する。俺はなんで――




          お兄ぃっ!




「――っと!ちょっと!しっかりしなさいよ!」
「――っ。ああ。分かってる。……分かってる。……悪い。だけど。
 ……なあ、俺は。俺たちは――」
笑みを浮かべながら、沙耶を見た。それはとても笑っているようには見えなくて。
まるで涙を流さずに泣いている、そんな感じで。
「――なんでこんなところにいるんだろう?」


【031木田時紀 鎌】
【094宮路沙耶 南部十四年式(残弾9)】
【023神尾観鈴 けろぴーのぬいぐるみ】
【ボウガン(残弾5)は荷物番の観鈴の横】

【第二回定時放送直後】
26名無しさんだよもん:04/05/21 18:57 ID:wZLyTMfA
すまん、読んでるだけで何もしてない分際で悪いんだけど、一番最初から全部見てる立場から言えば
重複のチェックだけはしてほしい。
常連ライターさんは凄い文才溢れる人や個々の特徴つかんだいい描写してる人もいるだけあって
たまたま見に来てカコスレも見ないで好きなキャラや書きやすいキャラ書いて満足してる連中が腹たって仕方ない。

ほんと読んでるだけの分際なんだが、今後よろしく頼みます。
27名無しさんだよもん:04/05/21 19:00 ID:3NV/e+Nh
現行の感想&議論スレ
【ズガン】実況★葉鍵ロワイヤルII 5【ズガン】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1084962220/
こちらへどうぞ
28すりあわせ:04/05/21 20:39 ID:VCVr32Qy
 この島では比較的少ないであろう、成年の人影がふたつ並んでいる。
 おそらく平凡な生活をして、街中で彼らに会ったとしても、きっと皆が振り向くだろう。
 それほど彼らは、異質だった。
 ひとりは筋骨逞しい、柄の悪そうな大男。
 もうひとりは見事な金髪を靡かせた、最高級の美女である。

 浅見邦博と、リサ=ヴィクセンが歩いている。
 彼らは互いの目標のため、とりあえず手を組んでいた。
 違いはあるが、比較的方向性が似ていたためである。
「クニヒロ。さっきのタネあかしを、まだ聞いていない」
「そうだったな。これだ」
 ごそごそとポケットを探り、恵美梨の遺品である、探知機を披露する。
「damn……反則」
「あ? 汚ぇな、なんでだよ」
「せっかく脅かそうと思って、念入りにストーキングしたのに」
 自分が身に着けた技術を傾けた結果を、いとも簡単に破られたネタが、機械だったとは。
 少しむくれて、リサが抗議した。
「念入りってな……あんた、趣味悪いぜ」
 なんの遠慮もなく、邦博は抗議を跳ね返していた。
 だが、リサも全く気にしていない。
「リサでいいわ。私もクニヒロと呼ぶから」
「……好きにしろ」
 お互い、気楽なものである。
 
29すりあわせ:04/05/21 20:44 ID:VCVr32Qy
「そうだ。私の支給品は、これ」
 ノートパソコンを叩く。バッテリーがもったいないので、無意味には起動させない。
「なんだそりゃ。剣じゃねぇのかよ」
「フフ、剣は盗品」
 何の臆面もなく、リサはにっこりと笑う。
「ちっ。盗人のくせに、反則も糞も無ぇだろが」
「don't mind。キニシナイ」
「ドンマイってな……まあいい。俺の支給品はこいつだ」
 他に支給品があるなら、探知機は誰から奪ったのやら。
 そんな切り返しを狙っていたリサだったが、邦博が二粒の錠剤を取り出すと、表情を凍らせた。
 首を振る。いかにもガイジン的な、オーバーアクションであった。
「それ、捨てた方がいいわ。使って、ろくな目に会わなかった奴らを知ってるから」
「……誰だ、そりゃ」
「――私の獲物の、子分たち。そもそもクニヒロの筋肉がステロイド製でなければ、必要ないでしょ?」
「あ? 言ってろ、雌狐」
 褒められているのか、からかわれているのか。

 鞄を整理しながら歩く邦博に、リサが尋ねる。
「ところでクニヒロ。パソコン操作は得意?」
「んなわけあるか。触った事もねぇ」
 やっぱりね、とでも言うように溜息をつく。
 いくらか深刻そうな素振りだったので、邦博はわずかに興味を持った。
「そんなに使えそうなもんなのか?」
 あの小賢しい眼鏡のガキ、麻生春秋がやたらとネットがどうとかこうとか言っていたことを思い出す。
 細々した情報を引き出すには、重宝するものらしかった。
 今の何も分からない状況を打破するには、便利かもしれない。
 
30すりあわせ:04/05/21 20:46 ID:VCVr32Qy
(ちっ。出会い頭に全殺しってわけにも、いかねぇか)
 渋々ながらも、春秋の価値を認める。
「そうだ。あんた春秋ってガキと、風子って小娘。あとは亮って男を知らねぇか?」 
「hmm……誰も知らない。さっきの放送でも、言われてなかったと思う」
「放送、あったのかよ」
「呆れた。死よりも深い眠りだったのね。もう30人ほど死んでいるわ」
 その中にPKこと伏見修二が入っていたが、邦博はその名を知らない。
 だが30人という数字は、それだけでただ事ではない。
「――多いな」
「ええ。ところで、もうひとつ質問。那須宗一か、エディって名前に聞き覚えは?」
「まるで、無ぇな」
 お互い得るものはないように思えたが、たったひとつだけ。
「さっき聞いた、麻生春秋な。あのガキはパソコンとか――そういうの、得意だぜ?」
 邦博は、わずかばかりの譲歩を見せた。

 彼は今まで、自尊心を傷つけられるたびに、暴力で代替していた。
 だが、この島でプロクシを失った。
 更にはオボロやトウカの戦いに驚愕し、恵美梨を殺した風子を前に、我を失った。
 もはや暴力で解決できる範疇を超えていると、無意識的に悟ったのだろうか。

 彼は、変わっていた。殺意を棚上げして、視線を遠くに、視界を広く。
 外見には小さな変化でしかなかったが、大きな大きな、一歩だった。


【001 浅見邦博 身体能力増強剤(効果30秒 激しいリバウンド 2回使うと死ぬらしい) レーダー(25mまで)】
【100 リサ・ヴィクセン 装備:パソコン、草薙の剣】

【邦博はリサを名前では呼びません。鞄の食料などは、ひとつにまとめました】
【昼を過ぎました】
31災難修正:04/05/21 21:07 ID:9EVd01Ph
森の中に立つ小屋の一つに入り、エディはふうとため息を付いた。
 辺りはすっかり闇に沈んでおり、これから深夜にかけて再び探索を行う為に、少しここで休息を取ろう、とエディは考えていた。
表情の見え難い顔に、疲労の色が濃く浮かんでいる。

叢から叢へ、神経を研ぎ澄ましつつ森の中を探索していたのだから、流石にナスティボーイのナビといえど、身に溜まった疲労は相当のものであった。
 森での探索では、幸か不幸か、参加者とは出会う事が無かったが、無残に打ち捨てられた死骸がいくつもあった。
一際眼を引いたのが、手首から先を切断された死骸であった。
凶人――
 そう呼ばれる人間と、わりとバラエティに富んだ半生の中で遭遇したこともあるが、ろくな武器も持てないこの状況で、そんな人間と同じ場所にいるなどということは流石にぞっとしない。

ふう、ともう一度深いため息をつきながら、エディは適当な場所に腰掛けた。
そして頭の中で状況を整理する。
 自分と同じ場所からスタートした24名は、2、6、13、18、21、22、27、32、34、36、41、44、47、48、49、61、66、67、73、78、86、90、95、99番。
まずあの時点で死亡していた32、41、44番を除外して残り21名。

 次に集団での行動が確認できた者の中から、ゲームに乗った一組、2番麻生明日菜、22番神尾晴子を抜粋。
35番上月澪と加えて集中的に盗聴。

 78番伏見ゆかり、というかゆかりは車、95番の皐月は何か音からしてかなり巨大な生物を引いたらしい。
得物の中ではどちらも大当たりに属するだろう、というか事実でかい。
やはりソーイチは女に恵まれてるな、とエディは思った。
ともかく、今現在得ている情報はこの程度。
 放送で挙げられた死者の数を考えると、まだまだ数多くのゲームに乗った参加者はいるだろうし、心細いことこの上ない。
かといって、今この段階で妄りにはもう盗聴器は使えない。
「(つっても定期的にマーダーは盗聴する必要があるよナ)」
32災難修正:04/05/21 21:08 ID:9EVd01Ph
そう思い、エディはリュックに手を伸ばそうとして、それから眉を顰めた。
木材が焦げる匂いがした。
だけでなく、窓から見える外の景色は既に赤く、煙が立ちこめている。
 「Shit!」
 短く吐き捨てつつも荷物を手繰り寄せ、すぐに窓の近くに伏せ、外の様子を窺いながら頭脳を動かす。
焼き殺す気か?と思ったが疲れはしても、ここに至るまでの痕跡は消してきたし、入った瞬間にも人目は無かった。
そして、この島に来ている人間の割合を思い出す。
大半はこの非日常に耐えられそうに無い学生、ならば――
 「(狂ったか!?)」
狂気に侵された無差別の放火行為、そう判断し、エディは窓の外に誰もいないことを確認してから、助走をつけて跳躍した。
ガシャ―ン!!
ガラスの割れる音と共に、エディは窓から外に飛び出し、そのまま前転しつつ、森の方に全力で逃走した。

 「あれ、逃げられらたみたいだね長瀬ちゃん」
 「うん、そうみたいだね。残念だね瑠璃子さん。今度はもっと人の多い場所にいこうか?」
 「そうだね、じゃあ民家のほうにいこう」
歪な笑みを浮かべて、二人は燃え盛る小屋を後にした。


【エディ 逃亡中 小屋→森の中 所持品盗聴器 先の尖った木の枝数本】
【午後9時前後】
33悪魔の宣告:04/05/21 22:35 ID:JNq4bRH6
━━ガチャリ

「あら…客人を出迎えるにしては随分と剣呑な雰囲気ね…?」
「……」

別荘の扉が開かれ、対峙する女二人。
肩をの痛みを押し殺しながら、しかし余裕に満ちた表情を浮かべる石原麗子。
心に怯えを抱え、全身が小刻みに震えている牧村南。

純粋なコンディションを見比べるなら間違いなく南の方が上なのだが、南はこの島に来てから──否、これまでの生涯で人を殺した事が無く、また、人に殺されかねないという恐怖を抱いた事も無かった。
それに対し、既に自分の意志で人を殺しており、また、人を殺める事に躊躇いを持たない麗子とでは、その精神状態は遙かに麗子の方が優位に立っていた。

そして、時に精神の影響は身体能力の差──この場合はハンデと言った方が正しいが──をも容易に埋めてしまえる。

「まあいいわ。取り敢えず……さようなら」
言いながら、麗子は土足で南の数歩手前まで上がり込むと、鉄パイプを振り上げ、それを真っ直ぐに南に向けて振り下ろした。

「っ……!!」
間一髪、辛うじてその一撃を南は左にかわす。メキッと音を立てて、鉄パイプが床に浅くめり込んだ。

「諦めが悪いと死ぬ時苦しいわよ?」
鉄パイプを引き抜き、麗子は再び余裕の笑みを浮かべて南を見据えた。
34悪魔の宣告:04/05/21 22:39 ID:JNq4bRH6
この別荘の出入り口は、幾つか存在する窓を除けば、今、目の前の女性の背後に存在する玄関以外には無い。
じゃあ、今すぐに背を向けて、七海ちゃんを連れて窓から脱出するの?と牧村南は心中で自問する。

回答はノー。
今こそこうして危機に瀕してはいるが、この別荘の立地条件はこの島で生き延びる為には有利なものであり、仮にここから逃げる事ができてもかえって自分達の生存確率を下げてしまう行為に思えたからだ。
先の放送もまた、その思考を助長していた。

「──フッ!」
「!──痛ッ!」
そして、その思考が隙。
再度振り下ろされた麗子の二撃目。とっさに身を右に引き直撃を避けた南だったが、その一撃は側頭部を掠め、眼鏡のフレームを叩き折った。
カシャン。と床に落ちる南の眼鏡。髪の下からじくりと滲み出す紅い液体。
「逃げ回っていても苦しいだけよ。早く楽になったら?」
蓄積しているダメージなどまるで感じさせないような口調で、麗子は南に問い掛ける。

しかし、これに対する南の回答は再びノー。
(確かに逃げてばかりでは……なら!)
人は死の危機に瀕した時、覚悟を決める者と、尚抗い逃げる者に分かれる。
アイスピックを握る手に力を込めた南は、当然前者に分類された。
いや、ある意味では後者に分類されるだろう。
35悪魔の宣告:04/05/21 22:44 ID:JNq4bRH6
「あら。漸くやる気になったのかしら?」
決意の込められた南の視線を受け麗子が訊ねる。
「…まだ死にたくはありませんから」
「まあ、普通そうよね」
南の返答を受け、麗子は南を見据えたまま数歩後ろへと下がり、
「でも──ね!」

━━メギィッ
「くあァッ!」
三撃目。上半身のバネを活かし、サイドスローのモーションから横薙ぎにに投擲された鉄パイプは、南の下腹部を的確に捉えた。
肋骨にヒビの入る嫌な音がし、南の身体が『く』の字に折れ曲がり、どさりと尻餅をつき倒れる。
だが、それでも右手のアイスピックを手放さなかったのは、間違い無く賞賛に値するだろう。
(武器が離れた──!)
その攻撃を隙と見、南は鈍痛蝕む身体に鞭打ち、左手で投擲された鉄パイプを取ると立ち上がり──

「じゃ、さようなら」

自分に向けられたベレッタの銃口を見た。

━━パァン!

━━バキィンッ!!

どすっ。
そんな音が、南の耳にもの凄く近く聞こえた。
だが、今の南には、その音の正体を考える余裕など無かった。ただひたすらに左目が────熱い。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

南の心臓めがけて麗子が放ったベレッタの弾丸は、南がとっさに──正確には無意識に胸部を両手で庇った為に、その手に握られたアイスピックの金属部分の根本を直撃し、針を折り飛ばした。
そして、飛んだ針の行き先は勿論、先の一撃で護る物を失った、南の左の瞳だった。
36悪魔の宣告:04/05/21 22:48 ID:JNq4bRH6
「ああっ!あっ、熱い。目が、目があぁぁぁぁぁぁ!!」

左目から濁々と血を流し、南は激痛に苦しみうずくまる。
「だから言ったでしょう?諦めが悪いと死ぬ時苦しいって」
薄ら余裕の笑みを浮かべ、麗子は南に歩み寄ると──
「じゃあ、これは戴いて行くわね」
ズッ。と濡れた音を立て、麗子は南の左目からアイスピックの針を抜き取った。
「あぁぁぁっ!!あぁ………は………」
最早、南の苦痛はまともな言葉になっていない。
「こっちも返して貰うわね」
言って、麗子は南の傍らに倒れた鉄パイプを拾い上げると、南の横をすり抜け、別荘の奥へと足を進めた。

「先にあの子を殺してくるから、暫くそこでそうしていなさい」
そんな悪魔の宣告を残して。


【05番 石原麗子 別荘の奥へ進入。所持品:鉄パイプ、ベレッタ(残弾10発)、アイスピックの針】
【83番 牧村南 状態:側頭部に軽傷。肋骨数本にヒビ。眼鏡破損、及び左目損失により視力が大きく低下。所持品:無し(携帯食料一式を含む支給品は別荘のキッチンに)】
37もう、迷わない:04/05/21 22:50 ID:sZ2IX0qz
『私はどっちでもいいけど、なら……私はもう行くわね』
 初めは、怖かった。
『無駄に抵抗しても、苦しみが増すだけ』
 独特の雰囲気に、興味もあった。
『生き残りたいのなら、そんなところにいないほうがいいわよ』
 それでも、彼女は生き残るための知恵を貸してくれた。
『それは、きっと私の心が壊れているからね』
 人を頑なに拒んでいたが、
『こんな悲しい思いしたくなかったから、突き放したのに……』
 それは結局、傷つくのを恐れていただけで……。
 頭にふっと浮かんでは消える、雪緒の顔。ちょっとした笑み。悲しみに暮れた、涙。
 自分は、全てを告げる。想いに、決着をつけるため。
 藤井冬弥(73番)は階段を駆け下りた。自分の気持ちを、須磨寺雪緒(50番)にぶつける為に。
「藤井さん? お話は終わったの?」
 彼女は、自分が二階に向かった時と変わらずに、居間で梶原夕菜(21番)と会話していた。
 どんな会話していたのかは分からないが、今はそんなことどうだっていい。
「ああ。大事な、話があるんだ……」
「大事な話……?」
 軽く深呼吸して心を落ち着ける。もう、後には退けない。
「俺は、君が好きだ」
 ざわざわざわ……と、風で木が揺れた気がした。
 突然のことで、雪緒は声も出ない。夕菜にいたっては言わずもがなである。
 ある程度落ち着いてから、次にかける言葉を捜す。
「そ、それって……」
「もう一度言う。俺は、君が好きだ。この島の外に彼女を待たせている身として、それがどんなに背徳的なことかも分かってる。
 だけど、それが……俺の心からの気持ちだ。自分に、嘘はつけない。もう……逃げたくない」
 ぐっと雪緒の手を引いて、冬弥は雪緒を自分の近くに引き寄せる。
 そして、有無を言わさぬうちに次の行動に入る。
38もう、迷わない:04/05/21 22:51 ID:sZ2IX0qz

 冬弥と、雪緒の唇が重なった。
 突然のことで、雪緒は目がパッチリと開いていたが、それを気にも留めずに冬弥は雪の唇を求める。
 貪るような、甘いキス。冬弥の気持ちが、唇から唇へ雪緒の体に入っていくかのようだ。
 最初こそ驚いていた雪緒だが、順応するように目をすぅっと閉じる。
 冬弥は、雪緒の体を抱きしめた。力いっぱい、優しく。
 細い雪緒の体が潰れるかのような、熱い抱擁。雪緒も、冬弥の背中に両手を回した。
 暫く、二人は時が止まったままだった。

「……藤井さんは、卑怯ね。私の気持ちを聞かないまま、そんな行動に出るなんて」
「ごめん……。けれど、これが俺の出来る限りの誠意だ。雪緒ちゃん、君と……生き残りたい。
 生き残ってからも、一緒にいたい。例え、由綺や彰……いや、地球上の人全てを敵に回しても、それでも俺は、雪緒ちゃんが欲しい」
「やっぱり、卑怯。私の気持ち、分かっていてそんなことを言う。私が、どう答えるか分かっているのに……」
 雪緒の目から、涙がこぼれた。きらきらと光るその雫が、頬を伝わり、床に落下し、僅かな湿り気となる。
 そして、雪緒は冬弥の胸に顔をうずめた。
「私だって……藤井さんと、一緒にいたい。一緒に生き残って、楽しい思い出を作っていきたい。
 そう私が答えるの、分かっているじゃない……。私は、あなたのことが好きだから……」
 その涙は、嬉し涙か。
 雪緒は、冬弥の胸に顔をうずめたまま動かない。
 冬弥が雪緒の背中を抱き、そのままお互い抱き合った形になる。

 ―――彰、これが俺の答えさ。もう、迷わない。絶対に、雪緒ちゃんと生き残って見せる……
39もう、迷わない:04/05/21 22:52 ID:sZ2IX0qz

 冬弥の手の中にある、グロッグ17。自分と雪緒の命を繋ぐ、後11回しか動いてくれない最後の守り神。
 生きるということの意味に恐怖し、まともに引き金も引けなかったそれ。
 だけど、今なら引ける。躊躇い無く。それが……自分が雪緒と生き残る、という意味なのだから。
 もう、迷わない。

「……彰ちゃん、これからどうしようか?」
「そうだね……とりあえず、はるかを探してみようと思う。姉さんの知り合いもだけど、ね」
 民家の外で、七瀬彰(66番)は夕菜とこれからのことを考える。
 確かに冬弥と再会できたことは嬉しかったが、もはやあの場に自分らがいることは無粋だろう。そう考えたのだ。
 最初のバッグだけを持って、外に出てきた。
 包丁とかを持っていく手もあったが、夕菜に「私たちは殺し合いをするために出るんじゃないのよ、彰ちゃん」と窘められたのでそれはしていない。
 彰は最後に民家を振り返った。
「またね、親友。今度その名を聞くのが、放送じゃないことを祈るよ……」

【50 須磨寺雪緒 所持品なし】
【73 藤井冬弥 所持品 グロッグ17 残り11発】
【21 梶原夕菜 所持品なし】
【66 七瀬彰 所持品カッター はるかや宗一たちを探す】
40悪魔の宣告(修正):04/05/21 23:06 ID:JNq4bRH6
「ああっ!あっ、熱い。目が、目があぁぁぁぁぁぁ!!」

左目から濁々と血を流し、南は激痛に苦しみうずくまる。
「だから言ったでしょう?諦めが悪いと死ぬ時苦しいって」
薄ら余裕の笑みを浮かべ、麗子は南に歩み寄ると──
「じゃあ、これは戴いて行くわね」
ズッ。と濡れた音を立て、麗子は南の左目からアイスピックの針を抜き取った。
「あぁぁぁっ!!あぁ………は………」
最早、南の苦痛はまともな言葉になっていない。
「こっちも返して貰うわね」
言って、麗子は南の傍らに倒れた鉄パイプを拾い上げると、南の横をすり抜け、別荘の奥へと足を進めた。

「先にあの子を殺してくるから、暫くそこでそうしていなさい」
そんな悪魔の宣告を残して。


【07番 石原麗子 別荘の奥へ進入。状態:左鎖骨・肩にかけて打撲、骨折。左肩に被弾。所持品:鉄パイプ、ベレッタ(残弾10発)、アイスピックの針】
【83番 牧村南 状態:側頭部に軽傷。肋骨数本にヒビ。眼鏡破損、及び左目損失により視力が大きく低下。所持品:無し(携帯食料一式を含む支給品は別荘のキッチンに)】
41『悪魔の宣告』作者:04/05/21 23:10 ID:JNq4bRH6
ご指摘がありましたので『悪魔の宣告』修正版を投下致しました。
お手数ですが、>>36>>40に差し替えてくださいませ<(_ _)>
42名無しさんたよもん:04/05/21 23:38 ID:j8eoYMFn
    「君のために歌を歌おう」

 上月澪はベッドで目が覚めた。
 いつもの目覚め。部屋を出ればお母さんがいて、ご飯を作っていてくれて。
(お母さん、お腹すいたの)
 部屋を出らスケッチブックにそう書こう。
 お母さんは笑いながら、ご飯を用意してくれる。
 でも彼女はすぐに気が付く。そんなのはまやかしだと。
 スケッチブックに開いた穴は、銃弾の跡。
 澪はベッドに座り込んだ。呆けたように宙を見る。
(私は一人……)
 頭に浮ぶのは、色々な人の顔。友達の顔、先輩の顔、今まで出会った人達の顔。
 そしてこの島で出会った人達の顔。
 くるくるとくるくると、くるくるとくるくると。
 浮んでは消え、消えては浮ぶ人の顔。
「淋しいの……」
 口をそう動かしても、言葉はでない。彼女の声は、誰にも届かないのだ。
 でもそれでもよかった。澪が言葉を届けるべき人は、ここにはいない。
 最後はいつだって、あの人の顔が浮ぶ。
(会いたいの……)
 家に帰る為、あの人にもう一度会う為、澪は手を汚し続ける。
 今までも、そしてこれからも。
(今更、戻れない)
 ここで立ち止まってしまったら、死ぬしかないから。
 澪は立ち上がった。

「――動くな」
43名無しさんたよもん:04/05/21 23:39 ID:j8eoYMFn
 それは、声。
 男の人の声だった。
 見ると、一人の男の人が銃口をこちらに向けていた。
 感覚が麻痺し始めているのかもしれない。男の人がどこか折原浩平に似ているとしか思わなかった。
「それだけの武器を抱えて、お前は今まで何人殺したんだ?」
 男の人は歌うように言葉を紡ぐ。
「玄関にあんな物騒なものまで仕掛けてな。念のため窓から入ってよかった」
 男は笑う。
「言葉が喋れないのはわかってるんだ。スケッチブックを見させてもらった」
 澪は首を傾げて、柔らかく微笑んだ。
「俺の同情を引こうとするのも無駄だ」
 違う。同情を引こうとしたわけではなかった。 
 ただ、その声はとても綺麗で、ずっとその言葉を聞いていたいと思っただけだった。
「お前は人殺しだろ」
 澪は微笑んだ。
(ああ、ここで私も死ぬんだ……)
44名無しさんたよもん:04/05/21 23:40 ID:j8eoYMFn
「一つ訊こう」
 死を前にして、浮ぶのは思い出。
 くるくるとくるくると、思い出が浮ぶ。
 それは声であり、情景であり、人の顔だった。
 思い出は、もう遠い。でも、手を伸ばせば届くような気がした。
「お前はどうして人を殺した?」
 スケッチブックも遠い。
(それは――)
 だから、澪の言葉はどこにも届かない。
(――会いたい人がいるから) 
「そうか……」
 男は微かに笑った。
「会いたい人がいるのか……」
 でも、心は届いた。
「それじゃあ、俺と同じだなあ」
45名無しさんたよもん:04/05/21 23:40 ID:j8eoYMFn
 男は遠くを見た。
 それは隙。でも澪は、何故かその隙を突く気にはなれなかった。
 男は微かな声で歌を歌い始めた。
 それは懐かしいような。どこか遠くへおいてきたしまったような。心の奥底にある何かを刺激した。
 澪は目を閉じた。
 浮ぶのは、あの人の顔。
 ぼろぼろと、ぼろぼろと涙が零れた。
「なあ」
 目を開けると、男はもう歌っていなかった。
「一緒に来るか?」
(え?)
「俺もお前と同じなんだ。会いたい人がいて、その人に会う為に、もう何人も殺した」 
 誰かと組む、そんな事はもうずっと考えていなかった。
 澪の血は、真っ赤に汚れているから。
「このゲームは、生き残れるのは二人だろ。なら、俺達が組んだって問題はない」
 なっ、と男は微笑んだ。
 ああ、この人は、よく似ている。そんな笑顔で言われたら、断れない。
「名前、何て言うんだ? 俺は芳野祐介」
 澪は、スケッチブックを手に取った。
 言葉を伝える為に。

【036 上月澪 所持品 クレイモア(残り1個)、イーグルナイフ、レミントン・デリンジャー(装弾数2発、予備弾16個)、スタンロッド 防弾/防刃チョッキ】
【スケッチブックには穴が二箇所開いています】
【098 芳野祐介 所持品 手製ブラックジャック*2 スパナ
 ライフル(予備マガジン2つ)  サブマシンガン(予備マガジン1つ) ことみの救急箱 煙草(残り5本)とライター】
【玄関にクレイモアを設置しています】
46名無しさんたよもん:04/05/21 23:41 ID:j8eoYMFn
>澪の血は、真っ赤に汚れているから。
ここ、「澪の手は」でした。
47思いの行く末は:04/05/22 00:06 ID:mrkfh2+o
「ふう……でも、それは叶いませんわ」
カルラの大刀が、ビュン!と空をきる。ベナウィの眼前へと突きつけられる。
間合いはまだ、少し遠い。
「残念ですわ。あなたも……あなたとも過ごした時間も本当に楽しかったんですのよ。
 でも、私の目的の為に――ここで死んでもらいますわ」
口で言うほど、それは簡単ではない。カルラも分かってはいたが、言い切った。
どのみち、ここで「はいそーですか」と円満に解散とはいかない。
ベナウィも、それを見て無言で槍を構える。

それを合図に、カルラが動いた。
「フッ!」
突き出した大刀を槍のように突き出す。体を半回転して、後ろへとそらす。
元々突き出されていた剣に、そのカルラの突きの本来のキレはない。それはカルラも承知。
間合いがつまる。それはカルラの距離。

そのまま大刀を横凪ぎに振るう。ベナウィの体があった――空間を斬る。
屈んだベナウィの頭上を轟音と共に通り過ぎる。逃げ遅れた髪がいくつか宙を舞う。

さらに、大刀を袈裟懸けに振り下ろす。槍と、足とのバネを使って、後ろへと跳ねる。
そして、槍を構えカルラを見据える。
元々、騎乗での戦いを得意としていたベナウィにとって、カルラとの白兵戦は総じて不利だった。
だが、カルラも本調子ではなかった。一見互角。

カルラはそのまま、振り下ろした大刀で地面を穿つと、
命ともいえるソレからいとも簡単に手を離した。立て続けに酷使した右腕に、感覚がない。
時間がたてばまた感覚は戦闘前の状態くらいには戻るだろうが、この戦闘中は、もうまともには使えない。
48思いの行く末は:04/05/22 00:07 ID:mrkfh2+o
つんのめるようにしながら、前へと走る。ベナウィの突きをかわす。
脇腹をかすめ、細い血の筋が乾いた地面へと吸い込まれる。
間合いが狭まる。槍の払いも突きも封じられた距離。カルラは笑った。
突きをかわされ、伸びきってしまったベナウィの首筋に、一閃を見舞う。
懐からとりだしたハクオロの扇。
(それは、聖上の――)
このままでは殺られる。ベナウィも決死の覚悟で槍を手放し、
身軽になった体を強引にひねってかわす。ベナウィの首筋からもうっすらと血が滲んだ。

そのまま転がりながら、サブウエポンのショートソードを素早く引き抜く。
ベナウィの距離。再度槍を振るう――が、
そこまでだった。

「ぐっ……!」
突如、激しい眩暈に襲われ、地面へと片膝をつく。
(これは……毒ですかっ……!?)




「とどめですわ」
地面に突き立っていた大刀を左腕で引き抜き、すでに満身創痍のベナウィへと――

ゴンッ!
49思いの行く末は:04/05/22 00:08 ID:mrkfh2+o
カルラの後頭部に何か丸いものが当たった。
「痛っ!な、なんですの?」
「すまん!デットボールだ!」
大音量の怒声が響き渡る。

「そして、これがぁぁっ!野球だっ!」
見れば、秋生が大きく振りかぶり、カルラへとめがけて何かを投げつけてくる。
「フン!」
カルラは飛んできたそれを大刀で。左腕だけの力で薙いだ。
ソレが真っ二つになって足元へと転がる。
「それはキャッチャーゴロだ!……お前の、負けだ!」
「……。は?」

「早苗!ここから動くな!」
バットとボールを手に、秋生が前へと駆ける。ベナウィの元へと。
(こちらに来ては駄目です!……逃げてください!)
ベナウィの意識が秋生へと警告を呼びかける。だが、もうその思いは声にならない。

「秋生さん!ベナウィさん!」
そして、早苗は――。


【079 古河秋生 古河秋生専用金属バット、硬式ボール8球 限界が近いかも?】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、古河早苗特製パン 4個(バットとボール以外は今早苗の元)】
【082 ベナウィ 槍(自分の物)、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード】
【026 カルラ ハクオロの鉄扇 カッター 自分の大刀、栗原透子のバック中身不明、右手首に怪我、握力半分以下
 加え、この戦闘中は使用不可能】
【時刻 午前10時辺り】
50思いの行く末は(訂正):04/05/22 00:31 ID:mrkfh2+o
カルラの後頭部に何か丸いものが当たった。
「痛っ!な、なんですの?」
「すまん!デットボールだ!」
大音量の怒声が響き渡る。

「そして、これがぁぁっ!野球だっ!」
見れば、秋生が大きく振りかぶり、カルラへとめがけて何かを投げつけてくる。
「フン!」
カルラは飛んできたそれを大刀で。左腕だけの力で薙いだ。
ソレが真っ二つになって足元へと転がる。
「それはキャッチャーゴロだ!……お前の、負けだ!」
「……。は?」

「早苗!ここから動くな!」
「秋生さん!ベナウィさん!」
バットとボールを手に、早苗の叫びを背に、秋生が前へと駆ける。ベナウィの元へと。
(こちらに来ては駄目です!……逃げてください!)
ベナウィの意識が秋生へと警告を呼びかける。だが、もうその思いは声にならない。



【079 古河秋生 古河秋生専用金属バット、硬式ボール8球 限界が近いかも?】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、古河早苗特製パン 4個(バットとボール以外は今早苗の元)】
【082 ベナウィ 槍(自分の物)、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード】
【026 カルラ ハクオロの鉄扇 カッター 自分の大刀、栗原透子のバック中身不明、右手首に怪我、握力半分以下
 加え、この戦闘中は使用不可能】
【時刻 午前10時辺り】
51『悪魔の宣告』(全面改訂版):04/05/22 01:18 ID:ISDOrV5m
━━ガチャリ

「あら…客人を出迎えるにしては随分と剣呑な雰囲気ね…?」
「……」

別荘の扉が開かれ、対峙する女二人。
肩をの痛みを押し殺しながら、しかし余裕に満ちた表情を浮かべる石原麗子。
心に恐怖を抱え、全身が小刻みに震えている牧村南。
純粋なコンディションを見比べるなら間違いなく南の方が上なのだが、彼女はこの島に来てから──否、これまでの生涯で人を殺した事が無く、また、人に殺されかねないという恐怖を抱いた事が無い。
それに対し、既に自分の意志で人を殺しており、かつ人を殺す事に躊躇いの無い麗子とでは、その精神状態は遙かに麗子の方が優勢に立っていた。
そして、時に精神の影響は身体能力の差──この場合はハンデと言った方が正しいが──をも容易に埋めてしまえる。

「まあいいわ。取り敢えず……さようなら」
言いながら、麗子はその場でカラン、と鉄パイプを足下に置き捨て、白衣のポケットからベレッタを抜き出すと、その銃口を真っ直ぐに南に向けて撃った。
「っ……!!」
奇跡的間一髪。辛うじてその弾丸を南は左に避わす。
「諦めが悪いと死ぬ時苦しいわよ?」
麗子は再び余裕の笑みを浮かべて南を見据えた。
52『悪魔の宣告』(全面改訂版):04/05/22 01:25 ID:ISDOrV5m
この別荘の出入り口は、幾つか存在する窓を除けば、今、目の前の女性の背後に存在する玄関以外には無い。
じゃあ、今すぐに背を向けて、七海ちゃんを連れて窓から脱出するの?と牧村南は心中で自問する。

回答はノー。
今こそこうして危機に瀕してはいるが、この別荘の立地条件はこの島で生き延びる為には有利なものであり、仮にここから逃げる事ができてもかえって自分達の生存確率を下げてしまう行為に思えたからだ。
先の放送もまた、その思考を助長していたし、何より、拳銃を持った相手に背を向けるなど自殺行為以外の何物でもない。

━━パァン!

「!──痛ッ!」
そして、その思考が隙。
再度放たれた麗子の二撃目。またもとっさに身を右に引き直撃を避けた南だったが、その銃弾は眼鏡のフレームを破壊し、側頭部を掠めた。
カシャン。と床に落ちる南の眼鏡。じくりと滲み出す紅い液体。
「逃げ回っていても苦しいだけよ。早く楽になったら?」
蓄積しているダメージなどまるで感じさせないような口調で、麗子は南に問い掛ける。

(確かに逃げてばかりでは……なら!)
人は死の危機に瀕した時、覚悟を決める者と、尚抗い逃げる者に分かれる。
アイスピックを握る手に力を込めた南は、当然前者に分類された。
いや、ある意味では後者にも分類されただろう。
53『悪魔の宣告』(全面改訂版):04/05/22 01:37 ID:ISDOrV5m
「あら。漸くやる気になったのかしら?」
決意の込められた南の視線を受け麗子が訊ねる。
「…まだ死にたくはありませんから」
「まあ、普通そうよね。でも──ね!」

━━パァン!

「くあァッ!」
三撃目。今度はかわせなかった。それはむしろ戦う覚悟を決めてしまったせいで、“逃げ”への執着が薄まってしまったせいだろうか。銃弾は南の左脇腹を捉えた。
南の身体ががくりと折れ曲がり、どさりと尻餅をつき倒れる。
だが、それでも右手のアイスピックを手放さなかったのは、間違い無く賞賛に値するだろう。

(まだ──死ねない!ここで死んだら七海ちゃんが──)
左手で今し方できたばかりの銃傷を押さえ、南は激痛に蝕まれる身体に鞭打って立ち上がった。

「意外としぶといわね…。でももう、さようなら」

━━パァン!

━━バキィンッ!!

どすっ。
そんな音が、南の耳にもの凄く近く聞こえた。
だが、今の南には、その音の正体を考える余裕など無かった。
ただひたすらに左目が────熱い。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

南の心臓めがけて麗子が放ったベレッタの弾丸は、南がとっさに──正確には無意識に胸部を両手で庇った為に、その手に握られたアイスピックの金属部分の根本を直撃し、針を折り飛ばした。

そして飛んだ針の行き先は言わずもがな。二発目の銃撃で護る物を失った、南の左の瞳だった。
54『悪魔の宣告』(全面改訂版):04/05/22 01:42 ID:ISDOrV5m
「ああっ!あっ、熱い。目が、目があぁぁぁぁぁぁ!!」

左目と脇腹から濁々と血を流し、南は激痛に苦しみうずくまる。
「だから言ったでしょう?諦めが悪いと死ぬ時苦しいって」
薄ら余裕の笑みを浮かべ、麗子は南に歩み寄ると──
「じゃあ、これは戴いて行くわね」
ズッ。と濡れた音を立て、麗子は南の左目からアイスピックの針を抜き取った。
「あぁぁぁっ!!あぁ………は………」
最早、南の苦痛はまともな言葉になっていない。
「さて──と」
次いで、麗子は先に置き捨てた鉄パイプを拾い上げると、南の横をすり抜け、別荘の奥へと足を進めた。

「先にあの子を殺してくるから、暫くそこでそうしていなさい」
そんな悪魔の宣告を残して。


【05番 石原麗子 別荘の奥へ進入。状態:左鎖骨・肩にかけて打撲、骨折。左肩に銃撃。所持品:鉄パイプ、ベレッタ(残弾7発)、アイスピックの針】
【83番 牧村南 状態:側頭部に軽傷。左脇腹に銃撃。眼鏡破損、及び左目損失により視力が大きく低下。所持品:無し(携帯食料一式を含む支給品は別荘のキッチンに)】
55『悪魔の宣告』作者:04/05/22 01:48 ID:ISDOrV5m
度々申し訳ございません。
改めまして、『悪魔の宣告』の全面改訂版を投下致しました。
容量をいたずらに消費してしまった事と併せて、謹んでお詫び致します。
56陛下の御威光 1/2:04/05/22 01:56 ID:gPdTb7Vo

―――そして、早苗はもうひとつ背後から飛ぶ、何かを見た。
それは秋生の頭上を超え、大刀の女……カルラに向かって放物線を描き―――

「……鬱陶しいですわっ!」

再び大刀を薙ぐカルラ。
しかし、今度の飛来物は真っ二つになる代わりに……硬い手ごたえを残して、爆発した。

「な…!?」

反射的に飛び退るカルラ。
状況を分析する、あの男の後ろ、女よりさらに後ろ、投擲したのは伏兵か、我らの知らぬ武器の類、
迂闊に斬ったのは失策、しかし爆風は怖れたほどではない、この程度では手傷も負わぬ、
先ずは敵の陣容を見定め、いやベナウィを抑えるのが先決か、いずれにせよ体勢を立て直す……っ。

しかし、異変はすぐに訪れた。

「ぐ……眼が……っ、息、が……ぁつ……毒の、霧……ぁああっ!」

激痛。涙が止まらない。猛烈な吐き気。呼吸は異常な浅さ。苦しい。
天と地が識別できない。拙い。まずい。動けない。これでは弓兵どもの的に、いや弓兵などいない、
此処は戦場ではない、しかし武器が、あれは矢か、違う、っ苦しい苦しい苦しい―――!
57陛下の御威光 2/2:04/05/22 01:58 ID:gPdTb7Vo

「―――有機リン剤は中毒を引き起こす可能性があります、皮膚に付着した場合は
 すぐに洗い落としてください、誤飲した場合はすぐに嘔吐させてください、か…。
 結構怖いんだな、殺虫剤ってのも」

「うるさいぞコウイチ。二度も我らの助けとなったのだ、その虫除け香にはもっと礼を払うべきだろう」


朦朧とする意識と戦うベナウィ。
金属バットを掲げて固まっている秋生。
状況の激変に戸惑う早苗。

その後ろ、木立の向こうから、侍従の若者を引き連れて悠然と姿を現したのは―――
クンネカムンの若き女皇。

「―――さて、トゥスクルの侍大将とハクオロの懐刀が、何もって争い民を襲うか。余が聞こう」

アムルリネウルカ・クーヤの瞳が、この場の皆を貫いた。


【018 柏木耕一 サランラップ残り25mほど 左腕を負傷中。使えるが、いつもの半分程度の力】
【079 古河秋生 古河秋生専用金属バット、硬式ボール8球 限界が近いかも?】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、古河早苗特製パン 4個】
【082 ベナウィ 槍、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード 意識朦朧】
【026 カルラ ハクオロの鉄扇 カッター 自分の大刀、栗原透子のバック中身不明、右手首に怪我、
    握力半分以下 急性有機リン化合物中毒で苦悶】
【033 アムルリネウルカ・クーヤ 状況は見えてないけど威風堂々】 
58眠い:04/05/22 04:45 ID:sAz+x02l
洞窟から歩いて数十分。私たちは森を抜けたところで運良く木造のアパートを見つけることができた。
視界の先には一軒家が立ち並んでいるのが見えたが襲撃されたときのことを考えると部屋が独立しているアパートの方が懸命に思えた。
二階の角部屋に陣取ったのが数分前。猪名川さんは各部屋を回り食料と水を探した後、見張りをすると言って何やら揚々と部屋の窓から屋上へとよじ登っていった。
とにかく眠い私はすぐさま布団を敷くと倒れこむように横になった。
(うー、やっと寝れる…)
アルちゃんはなにやら部屋をしきりに物色していた。
頭の方でゴソゴソやっているみたいだけど…。目をつむっているから何をしてるかは分からない。それよりも…
「………おやすみ」
もう限界。洞窟で六時間は寝れたけど私にとっては少なすぎる。
一日ぶりのちゃんとした寝床。
だんだん…意識は……薄れて……

「はるかおね〜ちゃん」
アルちゃんの声に呼び留められる。
「………なあに」
体を起こすのもつらいので横になったまま返事をする。
「これ、なに?」
アルちゃんは手に持ったものを差し出してくる。
子供なりの嗅覚だろうか。全く知らないはずなのに、それが遊ぶものであると直感したのかもしれない。
「…あぁ、それはね、ゲームっていうの」
「げぇむ、ってなに?」
「ゲームっていうのはテレビで遊ぶ――」
遊ぶんだよ、と口に出したところでアルちゃんはテレビの存在を知らないことに気が付く。
「どう説明したらいいかな…」
ゼロから教えるのって難しい。
「……やってみる?」
「やるっ」
遊ばせておけば私が寝てる間に勝手に外に出てっちゃうこともないだろうしね…。
何よりはやくねむりたい。
59眠い:04/05/22 04:47 ID:sAz+x02l
テレビの前に出しっぱなしにしてあったゲームにカセットを挿す。
ゲーム機のスイッチを押して、テレビの電源を入れた。
(……音量は下げとかないと)
リモコンを操作してボリュームを下げる。チャンネルを外部入力に切り替えた。
ほどなくしてゲームのタイトル画面が写る。イ言長の里予望と炎っぽいエフェクトを伴って表示された。
「…おぉぉ」
アルちゃんはおそらく初めて見るであろうテレビに驚嘆の声を上げている。
「アルちゃん、こわくない?」
「…ん、へーき。ぴかぴかしててきれい」
よく聞く昔の日本人の反応とは違うみたいだ。

「この十字キーでカーソルが動いて――」
とりあえず基本的な操作方法だけ教える。
「はい。じゃ今言った通りにしてこの”始める”のところにカーソル合わせてボタン押して?」
「……うー」
何度も画面と手元を見比べながらカーソルを合わせる。
「はい、それじゃ丸い赤いボタンを押してみて?」
「ぽちっ」
ぽちって世界を超えるのかな。そんなことを思ってると画面の方ではプロローグが始まったみたいだ。
……やたら文字だらけのプロローグ。随分長ったらしそうだ。
「アルルゥ、字読めない」
「うーん…じゃ飛ばしちゃおっか」
ボタンを連打してとりあえずゲームとして遊べるところまで進めよう。
そうすれば後はアルちゃんを遊ばせて私はゆっくり寝れる…。
「名前入力……適当でいいよね」
ああああ、っと。
「性別は…」
男でいいや。カーソル合わさってるし。
「出身地は……アルちゃんどこにしたい?」
全部決めちゃうのもつまらないだろうから最後は聞いてみる。
60眠い:04/05/22 04:50 ID:sAz+x02l
「ココ」
アルちゃんは画面の地図の一点を指差した。
「そこね…」
カーソル合わせてボタンぽちっ。
ようやく戦略画面みたいなものが出てきた。
「アルルゥやるっ」
よかった、興味を示してくれた。これで安心して寝れる。
「はい、でこのゲームはきっと領地を拡大していくやつだと思うんだけど…」
……口で説明できるほど単純じゃないよね。こういうタイプって。
「…ボタンを押すとぴかぴかするから、しばらくそれで遊んでてね。私は少し寝るから…」
眠さもたけなわ。やけっぱちな説明を残して布団にもどる。
「大人しくしててね。勝手に外とかいっちゃ…駄目だよ……」
「ん」
夢中になってくれたみたいだ。
「ふぁ……。おやすみ……」



―――。
―――ちゃん。
…………はるかおね〜ちゃんっ

「………………ぇ?」
「はるかおねーちゃんっ見てみて!」
なにやら大興奮なアルちゃんが画面を指さしている。
………中途半端なところで起こされちゃったのか、まだ眠い。
「……どうしたの?」
「アルルゥ、トゥスクル作った!」
見ると寝る前より領地の境界を示す線が拡がっている。
61眠い:04/05/22 04:50 ID:sAz+x02l
「その国、とぅすくるっていうの?」
「うん、おとーさんが皇様」
「アルルゥもがんばった!」
字も読めないのに立派に攻略してるんだから、きっとかなりがんばったんだろう。
「そっか…アルちゃん、がんばったね」
「うんっ!」
「それじゃいい子だから…もうちょっとそれで遊んでてね…」
ぼすっと枕に顔を埋める。目を瞑るとすぐに強烈な眠気がやってきてくれた。
「アルルゥたち、ここから来た」
「……………」
「…はるかおね〜ちゃん?」
「………うー、寝ちゃった…」

まどろみの中、微かな電子音が聞こえる。
霞んでいく意識。最後になにか気になることを聞いたような―――。

「………あっ」
「…きゃっほう!」

【007 猪名川由宇 所持品:ロッド(三節棍にもなる)、手帳サイズのスケブ】
【027 河島はるか 所持品:懐中電灯、ビニールシート、果物ナイフ、救急セット、缶詰(残り3個)】
【004 アルルゥ 所持品:なし】
【話終了時点で二日目午前12時ごろ】
【はるかは昼寝の最中。食料と水(飲み物)は発見できたが量についてはお好きに】
62「等価交換」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/22 05:02 ID:uUnHGMUn
 石原麗子は注意を払いながら、慎重に歩を進めた。
 あんな小さな子供が相手でも、今の自分の状態では、些細な油断が致命傷に繋がる。
 雰囲気と状況からいって、大した武器は持っていないようだが、
 なにか棒らしきものを振り回されただけでも、面白くない結果に繋がるかもしれない。
 ナイフとかを隠し持っている可能性もある。
 なにせ、自分は今、手負いなのだ。
 できれば、怯えて隠れていてくれると助かるのだが――。
 麗子は一つずつ部屋を覗き、慎重に確認してゆく。
 と、ノブが回らないドアがあった。
 バスルームとトイレが兼用の、狭い部屋。いかにも幼い子供が隠れ家に使いそうな場所だ。
 が……内側から鍵をかけられて、どうするか。
 銃を使えば鍵くらい簡単に壊せるが、無駄に弾丸は使いたくない。
 そうだ。さっきのあの女はまだ生きている、あれを人質代わりにすれば、おとなしく出てくるかもしれない。
 麗子は薄い笑みを浮かべ、リビングに戻った。
「ぐ、あぁ……」
 南は床に血を撒き散らしていた。
 カーペットは赤黒い染みに覆われ、その上に同じ色で染まった南とで、不気味な抽象画を描いている。
 背中を踏み、髪を掴んで引きずり上げ、潰れた左目をアイスピックの針で軽くえぐった。
「ひぎいっ!」
「そうそう、その調子でいい声で鳴いて頂戴。
 ――ねぇ、聞こえるでしょう? あなたがそこに隠れたままでいるなら、私は5秒ごとに」
 ざくっ。
「ああっ!」
「こんな風に、この人にアイスピックを突き刺していくわ。かわいそうだと思わない?」
63「等価交換」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/22 05:05 ID:uUnHGMUn
「だっ、だめ……七海ちゃ……」
 ざくっ。
「あああぁっ!」
「一つ言っておくと、私は医者なの。だから、殺さないように場所を選んで、
 いつまでも刺し続けることができるわ。それも、痛みが激しいところを狙ってね」
「ななっ……ぁあっ!」
 指の先を潰すように刺す。かなり昔の話だが、拷問の経験も多少はあるのだ。
 専門用具はなくても、声を上げさせるように痛みを与えるのは容易い。
「まぁ、この出血だと、そう長くは保たないかもしれないけど」
 ガチャガチャと、慌ててノブを回す音。
「七海ちゃん、ダメえっ!」
「立派ね、あなた」
 ざくっ。
「あぐぁっ……」
 本当に感心する。この期に及んで他人のことに気を回せるなんて。
 そして――軋む音を立てて、ドアは開いた。
「こっちにいらっしゃい」
 リビングに戻ってきた七海が、むせるような血臭と飛び散った紅に、顔を引きつらせる。
 震えた手から、鋸が落ちた。
「物騒なものを持っていたのね」
 危ない危ない。やはり警戒して良かった。だけどこれで、後に残るのは無力な女と無害な娘。
 終わってみれば、楽なものだ。
「み、南お姉さんを、離してください……」
 体を震わせながら、気丈にも言い放つ。
 まったく、呆れるほどにお人好しの二人組だ。殺されても仕方がないくらいの。
64「等価交換」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/22 05:07 ID:uUnHGMUn
「そうね。約束だものね」
 抵抗力を奪うために、南の顔面を床に叩きつけ、傷ついた脇腹を蹴飛ばして、転がす。
 また悲鳴が上がり、七海が立ちすくんだ。近づいてきた麗子に合わせて、一歩下がる。
「おとなしくなさい。必要がなければ、無駄に苦しめるようなことはしないから」
 七海は言われたとおり、動きを止め――涙をこぼしながら、掠れる声で言った。
「あのっ、あのっ……」
「なに?」
「お姉さんは、お医者さんなんですよね?」
 何を言う気だろう。少女の最期の願いに、好奇心が疼く。
「ええ」
「じゃあ、あの、約束守ったんですから……」
「?」
 今さら取引かと、麗子が一瞬訝しむ。
「だから……私を殺したら、南お姉さんの治療をしてあげてください……」
 虚をつかれた。
 お人好しだとは分かっていたが、ここまで、ここまで甘いことを言うような、底抜けだとは。
 少し、いや、大いに信じがたい。
「くっ……、くくく……あははっ、あははははははっ」
 おかしかった。理由は分からないが、笑いが止まらない。こんなに笑ったのは久しぶりだ。
 呆然とした七海を尻目に、麗子は笑い続ける。どうだろう、この提案は。
 少し、許してやってもいいかもしれないという気持ちも湧く。
「その条件、飲んであげてもいいわ」
65「等価交換」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/22 05:08 ID:uUnHGMUn
「ほ、ほんとですかっ!?」
「でも、遅かれ早かれ、あの怪我では他の人に殺されるわ。あなた、全くの無駄死によ?
 ――それでもいいなら」
 さて、この問いにはどう答えるか。いや、分かっている。だけど聞いてみたい。
 こんな貴重なサンプルには、めったにお目にかかれない。
 はたして、七海は一度こくんと唾を飲み、気持ちを落ち着けてから、
「……はい。約束、ですから」
 はっきりと、頷いた。
「グッド」
 何故か満足感が胸を占めた。
 少し惜しいとも思うが、このサンプルを自分の手で殺せるというのも、貴重な体験だ。
 それに――。
「約束、だものね」
 七海は、こんな状況なのに笑ってみせた。小さく、儚く。震える唇で。
 自分という容赦のない殺人鬼を、完全に信じているのだ、このお人好し娘は。
 だから、自分も約束を守ろうという気になったのだろう。馬鹿らしく、無駄だと思うけど。
 アイスピックの針を振り上げる。七海が固く目をつぶった。
 祈るように組み合わされた手が、小刻みに震えている。
 せめて、一突きで天国に行けるように、首を狙って――。
「七海ちゃんっ!」
 つい、存在を忘れていた南が、後ろから組み付いてきた。
「七海ちゃん、逃げなさいっ! 早くっ!」
「でっ、でもっ!」
「いいからっ! 」
66「等価交換」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/22 05:09 ID:uUnHGMUn
「ちっ――」
 致命傷を避けていたのが災いした。南は最後の力を振り絞り、全力で麗子を押さえ込む。
 麗子は体勢の悪さ、油断、そして左腕の怪我もあって、振りほどけない。
「逃げなさいっ! どうせ、この人の言うように、長くは持たないもの……。
 あなただけでも逃げて、生き延びて、そして……」
「邪魔よっ!」
「お姉さんっ!」
 南の背中の中心に、アイスピックの針が深く突き立った。致命的な一撃が南の体を貫通する。
 勢いよく上がる血流と共に、南の中からなにかがごっそりと抜き取られてゆく。
 だけど、それでもまだ、南は麗子の下半身にすがりついていた。
「はやくっ……」
「でもっ……」
「いきなさいっ!」
 叱責され、ようやく七海が駆け出した。
「南お姉さんっ!」
 玄関の所で振り向く七海に、笑顔を送る。涙で一杯の七海が、少しでも安心して逃げ出せるように。
「さよなら、七海ちゃん……ありがとう」
 最期に、命の火が消える前に、七海の姿をしっかりと焼き付けたかった。
 なのに、ぼやけてよく見えない。それだけが心残りだった。
「ごめんなさい……ごめんなさいっ」
 泣き声混じりの叫びが、遠ざかっていく。
 ああ、良かった。でもまだ、もう少し、この人を止めておかないと。
 七海ちゃんに追いつかせるわけにはいかない……。
 もう、少しだけ……。
67「等価交換」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/22 05:11 ID:uUnHGMUn
「ふぅ……」
 麗子は力尽きた南を振り解き、ソファーに深く座り込んだ。
 本当は生きている間に振り解くこともできたが、南のするがままに任せていた。
 白衣はすっかり血にまみれ、とても白衣とは呼べないものになっている。
 リビングもひどい惨状だ。慣れないものが見たら、たちまち嘔吐することだろう。
 が、麗子は満足げだった。
「……まぁ、命の交換って所かしら」
 本来助かるはずだった南、本来死ぬはずだった七海。
 が、七海が例えばトイレの窓から逃げ出していたとすれば、順当な結果に落ち着いたようにも思える。
 追えば追いつくのは難しくないだろうが、互いの優しさと、執念に免じて、といったところだ。
 あのお人好し娘がこれから先、この島でどうなるかにも興味がある。
 きっと長くは生きられないだろうが、もしもまた会うことがあったら、今度こそ殺してみよう。
 その時、七海はどんな顔をするか。あるいは、この女の仇を討とうとするか……いや、それはない。
 最期に残った二人なら、生かしておくのもいいかもしれない。
 そのことを想像するだけで、おかしかった。

【05番 石原麗子 状態:左鎖骨・肩にかけて打撲、骨折。左肩に銃撃。
     所持品:鉄パイプ、ベレッタ(残弾7発)、アイスピックの針】
【56番 立田七海 所持品:なし】
【南の携帯食料一式を含む支給品+七海の金槌は別荘のキッチンに、鋸はリビングに放置されたまま】
【時刻 二日目・午前八時過ぎ】
【83番 牧村南 死亡】
【残り60人】
68切なる願い、奇跡を祈る:04/05/22 07:36 ID:eEAaq7bu
少しの静寂。
―――一番最初に動き出したのは秋生だった。
「うらあああああっ!」
ブォンッ!
渾身の力をこめてカルラの体をまっすぐ横にフルスイング。
「ぅあぁあっ!」
衝撃でカルラの体は真横にとび・・・そのまま動かない。
「なっ」
その行動に、事情を知らないクーヤは驚きの声をあげる。
「ベナウィさんっ、ベナウィさんっ」
その間にすばやく早苗がベナウィに駆けより、何度も呼びかける。
「すみ・・・ま・・・せ・・・っど、く・・・を・・・」
ようやく、といった感じで目を開き・・・途切れ途切れに、ベナウィがつぶやく。
息が荒く、かなり顔色が悪い。危険な状態だということは傍目から見てもすぐにわかった。
「秋生さんっ」
早苗が秋生を振り返る。
「何か・・・おそらく毒を受けたみたいです」
いつになく落ち着いて話す早苗。そこからは、普段の泣き虫の影は見えない。
早苗の強い意思のこもった瞳を見つめ、秋生はひとつうなずく。
「・・・よし。早苗、その女から毒を何とかできそうモンを探すぞ!」
「はいっ」
秋生と早苗は、手分けしてあるかどうかもわからない”それ”を探し始めた。
ただ、あることだけを・・・信じて。
69切なる願い、奇跡を祈る:04/05/22 07:38 ID:eEAaq7bu
「どこだ・・・どこにある・・・」
大切なものが失われそうになる、という感覚に焦りだけが募る。
(これじゃ、あの時と同じじゃねぇかよっ。渚のときと・・・)
彼は、とある情景を思い出していた。
雪の中、倒れている娘。
布団に横たわり、苦しそうに呼吸を繰り返す娘。
・・・絶望を感じたあの瞬間。
「ぜってぇ、どっかにあるはずだ・・・」
そして、奇跡の起きたあの場所。
あのときだって、あきらめたりなどしなかった。
「頼むっ・・・頼むから、見つかってくれ・・・!」
ここは、その場所ではないけれど。
あの時と。
(頼む、もう一度・・・)
渚と同じ、奇跡を・・・どうか。
秋生はその奇跡がベナウィに起きることを願いながらバッグの中を探しつづけた。

【018 柏木耕一 サランラップ残り25mほど 左腕を負傷中。使えるが、いつもの半分程度の力 状況についていけず呆然】
【079 古河秋生 古河秋生専用金属バット、硬式ボール8球 フルスイングの影響でもう限界近い カルラから”毒を何とかできるモン”を探索中】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、古河早苗特製パン 4個 カルラから”毒を何とかできるモン”を探索中】
【082 ベナウィ 槍、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード 危険な状態に陥っている】
【026 カルラ ハクオロの鉄扇 カッター 自分の大刀、栗原透子のバック中身不明、右手首に怪我、 握力半分以下 
急性有機リン化合物中毒で苦悶 秋生の渾身のフルスイングにより身動きが取れない】
【033 アムルリネウルカ・クーヤ 状況についていけず呆然】
70名無しさんだよもん:04/05/22 12:32 ID:xRl0gO8P

あたたかい食事

 小さな演奏会が終わったあと、橘敬介(055)と三井寺月代(085)は昼食をとることにした。今は月代がキッチンに
立っている。自分がやるから、といったものの危なっかしいの一言で却下されてしまった。木片にアルファベットを
彫りだそうとして何度も手を切る様を見られてしまったのが原因らしい。レトルト調理に手の器用さは関係あるの
だろうかとも思ったが素直に従うことにした。
 この家には電気が通っていない上に包丁もなかったらしい。できるなら簡易食は後々までとっておきたかったが
この状況である、贅沢を言っていては罰が当たるだろう。
 
「…当分はそれぞれの知り合い探しかな、それじゃ」
 そう言うと敬介は机においておいた作品を手に取った。二つの釣り糸巻きの円盤にそれぞれ、丸いタンスの
取っ手がくっついている。中心部が金具で連結されており、そこに少し太めの釣り糸が巻きつけてある…不恰好な
それの正体は手作りのヨーヨーだった。ちなみに糸巻きには二つとも釣り糸が巻かれたままである。敬介は最初、
糸を輪にして指にかけるつもりでいたのだが、一度試してみたところ指の傷をまた増やす羽目になったので急遽、
針金で作った輪をくくりつけた。敬介の手の大きさでちょうど隠し持てるし、相手の目を狙えばひるませることが
できるだろう…成功するかどうかはおくとして。
 知り合いを探す。それは敬介の当初の目的でもあったが、月代と合流した今、探すべき人名は倍に増えていた。

神尾観鈴(カミオミスズ)
神尾晴子(カミオハルコ)
坂神蝉丸(サカガミセミマル)
初音という少女が探していたというカシワギコウイチ。

 傍らに置いたメモと鉛筆を取る。そこに書かれているのはその四人の名と…さらに四人の人名。
71あたたかい食事2:04/05/22 12:33 ID:xRl0gO8P
カシワギチヅル
カシワギハツネ
スミイマモル
そして、ミヤザワユキネ。

 実のところ、本調子の出ない体力のことを差し引いても自分は相当に頼りない。できるなら荒事は避けたい。
しかし…名前を知っている参加者のうち、すでに死んでいる者が何人もいる。敬介は焦らざるを得なかった。
そして何より月代の存在。自分の下手な演奏を聞いて涙した彼女。自分と同じく、夏物の服を着ている少女。
なんとしてでも蝉丸という青年に会わせてやりたかった。そのためには…得物が頼りなくても、体が動かなく
ても戦う覚悟をしなくてはならないだろう。

 残った釣り糸と肥後ノ守をポケットにしまう。ヴィオラや食料も含めて荷造りはだいたいできている。
ここまでもってきた少年のバッグは中の食料まで血だらけになっていたので、携帯食のパックだけを取り出し、
後はおいていくことにした。万国旗は着替えたシャツの上から改めて腕に巻きつけた。
 手にした木片をもてあそぶ。彫りだされた、可読範囲すれすれのアルファベットは人名であった。
MIYAZAWA YUKINE…住宅街を出る前に敬介にはもうひとつ、やっておきたいことがあった。

「腹ごしらえがすんだら手伝ってほしいことがあるんだけど――」

 その台詞は引き戸の音で中断されることとなる。あたたかい食事は当面、お預けになりそうだった。

【055橘敬介:ヨーヨーもどき、釣り針、太目の釣り糸、肥後ノ守、 手品道具、ピン類、小型レンチ、針金、
      その他小物、大振りのハンカチ、水入り容器、メモ、鉛筆、食料】
【085三井寺月代:ヴィオラ、青酸カリ、スコップ、初音のリボン、食料】
【敬介の「やっておきたいこと」の解釈、誰が引き戸を開けたかは後続に委任します】
72mildな心で:04/05/22 13:27 ID:mw9N41mJ
 エンジンが唸る。
 車体が、回りの木々を薙ぎ倒して進む。硬い樹木にぶつかってところどころへこんでいるが、それでも突進する。
 無理な爆走だった。タイヤの限界回転数はとっくに越えている。
 エンジンだって、いつオーバーヒートしてもおかしくない。もとより、今突っ走っている場所は道ですらない森だ。
 スピードも全然出ていない。森の中のような障害物が多い場所だ、人が走っているのとそれほど大差ない。
 それでも、走る。自分の限界が来ても走る。
 それが……マスターである、宗一のためだから。
(いつから、このような感情的な行動が出来るようになったのでしょうか……)
 これは、一種の命令違反。機械には絶対出来なかったはずの勝手な行動。
 今までも、感情というものはあった。そう、プログラムされていたから。
 HMシリーズと同じ仕組み。ただ、それがメイドロボか車かという違いだけ。
 自分のメモリーには、今までの走行記録が全て残っている。
 私用の散歩から、ミッションといった危険な走行まで、自分の手綱を宗一に引かせてきた日々。
 触覚までプログラムはされていなかったが、なんだか宗一が自分のハンドルを握っていた感覚が蘇ってくるように感じる。
 ガソリンの残りを確認。まだ、十分残っている。バッテリーも大丈夫だ。
 ホールまで、残り数百メートル。

――――ミルト、成功率は?

 いつも、そう自分に聞いてくるマスターの姿は、今は運転席に無い。
 いないのだけれど……

「私の性能、マスターの運転技能を考慮すると……100%です。マスター」

 そう答える。これが、最後のお勤め。最後ぐらい、点数も甘めに。
73mildな心で:04/05/22 13:29 ID:mw9N41mJ
(マスター。私は……貴方の車でいて、幸せでした)
 自分は、機械であり車だ。主人に恋慕の情を抱くのは間違っている。
 それでも、自分で痛感する。自分は、マスターのことを愛していた……と。
 最後に、エンジンをふかす。建物の外観が見えてくる。
 森が途切れた。そこで、一気に加速する。
 ラストスパート。宗一が運転しているかのような、大胆な運転。
 そして……
(では、マスター。ここでお別れです。次回からはニューモデルでもご利用ください)
 最後の坂を飛び上がって、施設の中に突っ込んだ。

 数秒後、爆音が辺りに轟いていた。
 施設は容赦なく燃え上がり、その場を赤く染める。
 ミルトという車の存在を、影も形も無く消して。

「……命令無視とは、意外だったな」
 その頃、モニタールームで一部始終を覗いていた篁がふっと笑った。
 最初のホームには、誰もいなかったのだ。ホームはホームで、所詮参加者に説明を施すだけの場所。
 最初に参加者がいるからこそ、全ての参加者はその場所を知っている。そんなところに胡坐をかいて座っているのは間違っている。
 それが、篁の考えだった。だからこそ、こうして別の安全な場所で参加者の動向を監視しているのである。
 一つのモニターに浮かぶ、焼けた残骸。ミルトは、その車としての生涯を終えた。

【ミルト 破壊】
【篁は最初の場所とは別の場所で参加者を監視】
【時間は午後】
(あの馬鹿…)
 広瀬真希が家の中を見て、最初に思ったのはそれだった。
 悲劇の痕。
 そう表現するに相応しい。
 何があったかなど、直接見ずとも簡単に理解した。
 北川が倒れていて。
 その手前で、少女が北川のほうを向いて泣いていて。
 まるで縋るように。
 まるで悔やむように。
 ――それ以上、判断材料を探す必要はない。
 更に手前に外人らしき一人の男が立っているが、この男は困惑して立っている。たった今この家に入ってきた奴だろう。状況を見て呆然とたっている、といったところか。
 この男は、北川の死に関係はない。
 恐らくは。
 あの突然やってきた女。あいつが、少女を殺そうとした。
 あの女のすぐ背後に少女は現れた筈だったから、殺すのは容易だったはずである。
 しかし、少女は生きている。
 何故かはわからない。少女が強力な武器を持っていたのかもしれないし、あの女が安全のために距離をとったのかもしれない。
 とにかく、そこに空白の時間ができた。
 そしてそこに――北川が現れたのだ。
 自分にも聞こえた叫び声を上げて突撃する北川。
 虚をつかれて戸惑う二人。
 何が起きているのかも理解できないまま、北川はあの女に体当たりした。
 もみ合う北川と女。
 そのもみ合いのせいか、舞いあがるメリケン粉。
 どうにか北川を振りきるも、乱入者の登場で自分が劣勢にたたされたとでも思ったか、あの女は逃亡。
 振り向き様に発砲。放たれた弾丸は可燃性の粉が充満する部屋に飛んでいく。
 そこで爆発。
 そして北川はその衝撃から少女を守るために、身を呈して彼女をかばったのだ。
 きっとそんなところだろう、と見当をつける。
 正直なところ、あの状態――最後に惨劇の場に戻っていた時の怪我でそこまでの働きができるとは思えなかったのだが――北川のためにも、そう思うことにした。
 広瀬が推測できるのは、そこまで。
 少女が持っていたはずの果物ナイフ。あの女が持っていた銃。それらの性能からより詳しい戦闘の様子を把握できるほど、広瀬はその手の知識を持っていない。
(北川…)
 広瀬は歯噛みした。
 北川が助からないであろうことは予感していたが――
(馬鹿…なに、女の子泣かせてんのよ…)
 内心で北川に向けて呟く。
 自分たち三人が逃げている間、北側は必死で闘っていた。
 その事実をつきつけられる。
 止めるべきだったのだろうか。
 行かせないべきだったのだろうか。
 北川を行かせなければ、この少女は死んでいただろう。
 そしてまた北川も、逃げたところで長くはなかった筈である。
 それがわかっていても――広瀬は、どこかで後悔していた。
(あんた、男でしょ…?)

「ねぇ…、コレ何…?」
「―――!」
「…最初は、暖かかったの――…。
でも、だんだん冷たくなってきて…、ねぇ、コレ、何…?」
 少女が、言った。
 二人は、自分の気配に気づいていないようである。
 広瀬は声をかけるかどうか迷ったが、結局しばらくの間傍観していることにした。
 男は困惑している。
 少女の目には、溢れるほどの涙が浮いていた。
「目の前が、良く見えなくて…。」
「――ソイツは…、涙を拭けばイイんじゃネーノ…?」
「あ…、そう、そうか…」
 少女は、袖で涙を拭って。
「――…き、たがわ、くん…」
「いやぁぁああああああああッッ!!!」

 つんざくような叫び声が耳に届いた。
 これ以上ないぐらいの悲しみをのせて。

(――え?)
 後悔の余韻に浸かりながらも傍観していた広瀬は、その絶叫に耳を疑った。
 少女の絶叫。
 それは、北川の死体を見てしまったからで。
(じゃぁ…もしかして…)
 このとき漸く、広瀬は北川とこの少女の関係を悟った。
 飛び出していく北川の様子から、彼がこの少女のことが好きだったことぐらいはわかっていた。命をはってでも、自分が死ぬということがわかっていても守りたいぐらい好きだったのだ。
 でも、それだけ。
 片思いだと思っていた。
 例の転校生とやらのせいで、北川の恋は実っていないのだと思っていた。
 思っていたが。
 恐らく――いや、絶対にそれは違う。
 もし本当に少女が北川のことをクラスメート程度にしか考えていなかったとしたら、少女の精神がここまで追い詰められることはない。
 つまり。
「…はは、」
 思わず笑い声をもらす。
 そうだ。
 この少女の精神がこうなってしまったということは。
 ――なんという皮肉だろうか?
 北川の行動が、この少女の彼に対する思いをさらけ出させたというのに。
 北川の死が、この少女の本心を顕にしたというのに。
 当の北川は、この少女の思いを確認できない。
(北川…はは、あんた――)
 倒れている北川を見ると、涙が噴き出てくる。
 彼の、永遠の眠りについたときの表情は――とても、とても安らかな、笑顔だった。
 それを、ちょっとだけ飾るように、北川のポケットからはみ出している便座カバー。
 『使いようによっては――』とか北川が言っていたのを思い出す。
 そして、それを使うタイミングが来るまで、ずっとポケットにしまっていたのだ。
 結局それは一度も使われることなく、分不相応な場面でその顔を覗かせている。
 その、決めているようでどこか抜けている情けなさが、それで笑っている表情が、いかにも北川らしくて、なんだか笑えて、
 泣けた。




 許さない。
 こんな皮肉、許さない。
 こんな皮肉を作り出した奴を、許さない。
 そう思った。

【010 エディ 所持品:盗聴器 尖った木の枝数本 ワルサーPP/PPK(残弾4発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ、果物ナイフ】
【087 美坂香里 所持品:なし】
【072 広瀬真希 所持品:『超』『魁』ライター バッグ 食料と水多めに所持】
79Nachtmusik:04/05/22 14:01 ID:gPdTb7Vo

たとえばの話をしよう。

たとえば目の前に少女の白い喉があって。
たとえば私の右手には鋭いとは言えないけれど尖った鉛筆が握られていて。
たとえば殺して、殺して、殺し尽くせば、たった一つの願いが叶うと囁かれ。

たとえば少女は眠っていて。
たとえば兄は戻ってこない。
たとえばこの手を上げ、振り下ろしたら。

そうしたら。

「……何を、している」

―――そうしたら、この硬質な殺意は。
私を裂いて、兄の元に連れて行ってくれるだろうか。

弾丸でも刃でも、他の何でも構わない。
私が誰かを殺すから、彼は私を殺すのだ。

そう、たとえばこんな風に、この手を振り下ろしたなら。


【047 春原芽衣 筆記用具】
【084 松浦亮 修二のエゴのレプリカ】
【017 杜若きよみ 改造銃 残弾3(未装填、隠し持っている)】
【024 神岸あかり 木彫りの熊 きよみの銃の予備弾丸6発】
【時刻は正午】
80残滓に誓う決意:04/05/22 14:54 ID:5QFzN2Vv
小高い丘の上、そこに彼は居た。
そこから見える中央ホールから立ち上る煙。
何が起こったのか宗一は察した。
ミルトがその役目を終えた。
(お前の気持ち……無駄にはしない)

前に篁と戦った時の事を思い出す。
ラストリゾート。
最後の手段と呼ばれたそれはあらゆる攻撃を無効化する結界のような物であった。
だが、その強大な効果故に欠点もある。
まず、一つ目に装置のある一定空間内でしか効果がない事。
二つ目に大量のエネルギーを消費する事。
これらの情報から篁の居場所をある程度絞り込む事が可能だ。

まず煙を上げるホールの周りに目を向ける。
無論、一番怪しいのはホールそのものなのだが、今の爆発で何も異変が起こっていない所を見るとホールに篁はいなかったようだ。
ホールの周りには森が広がりホール以外に建物はない。
ならば。
次は商店街の方に目を向ける。
建物、民家の類は大量にある。
隠れるには不自由しないだろう。
だが、人の出入りが多すぎ、主催者の潜伏場所としては不適当すぎる。
それに発電施設に相当する物を破壊されればラストリゾートの効果はなくなる。
篁も前回と同じ過ちを繰り返そうとは思わないだろう。
動力源の安全を確保でき、なおかつ潜伏に適した場所……
(地下か、海中のどっちかの可能性が高いな……)
そうなるとかなり厄介だ。
81残滓に誓う決意:04/05/22 14:55 ID:5QFzN2Vv
第一場所を特定するのが難しい。
これについては一刻も早くエディと合流して、見つける必要がある。
(俺は情報収集は苦手だからなぁ…)
今まで頼りすぎたツケが回ってきたという所だろうか。
後、場所の特定に成功しても篁が海中に居た場合等はそこまで行く手段がない。
(船……出来れば潜水艦か)
今のうちに確保しておいた方がいいのかもしれない。
もし海中に篁が居なかったとしても水上を移動出来るというのは大きな強みになる。
ゲームに乗った人間達も海の上ならば襲ってこれはしないのだから。

「行くか」
そろそろゆかりと美佐枝の所に戻った方がいいだろう。
最後に一回だけホールの方を振り返り宗一はその場を後にした。

決意を胸に秘めて。

【040 相良美佐枝 装備:ゾリオン(使用回数4回)、電池一個】
【065 那須宗一 装備:長弓、矢30隻】
【078 伏見ゆかり 装備:なし】
【時刻は『mildな心で』の直後】
【これから宗一達は船の確保に向かいます】
82明暗:04/05/22 15:25 ID:Yrj49De9
手が、足が、体が動かない。
眼球すら動かすことがままならない。
強い毒なのだろう。
聖上は決して戦に毒を使おうとはしなかった。
自分もそれでいいと思った。
毒を使って得た勝利など、意味は無い。
民の恨みを買い、滅びるのが落ちなのだ。

自分が今、毒で命を落とそうとしている。
聖上が亡くなったにも関わらず、自分は後を追うことをしなかった。
これは、罰なのだろうか。
罰をカルラが、いや、大神ウィツアルネミテアが与えたのだろうか。
自分は、長く、保たない。
もうすぐ、あの方の下へと逝けるのだ。
そう考えると、死は、受け入れ難いものではない。
寧ろ、好ましいものにすら思えてくる。
もとより、死を恐れて武人などやっていけるはずが無い。

83明暗:04/05/22 15:26 ID:Yrj49De9

「ぜってぇ、どこかにあるはずだ!」
必死の形相でバッグを漁る。
助けなければならない。
ベナウィは体を張って自分たちを助けたのだから、
だから、絶対に助けなければならない。
バッグの中から出てくる食料、水、そんなモノは邪魔だ!
自分達が探しているものは、もっと違う、彼を助けられるモノ。


――木箱が、出てきた。


壊しかねない勢いで蓋を開ける。
中に入っていたのは、二つの瓶と、一本の短刀、一枚の羊皮紙。

「トゥスクル製 解毒剤 片方は飲まされた時、片方は塗り込まれた時に使用して下さい」

「早苗! コレだ!」
片方の瓶と短刀を、壊さないようにしっかりと握り、叫ぶ。
急いで駆け寄り、短刀に薬を浸した。
「少し痛いだろうが、我慢してくれよ」
ベナウィにそう言い、傷口を、動脈を切らないように浅く、うっすらと短刀を入れる。
傍らでは早苗がベナウィの手を握り、懸命に話し掛けている。
84明暗:04/05/22 15:27 ID:Yrj49De9
解毒剤の投与はした。
だが、まだ油断は出来ない。
「オイ、ベナウィをどこか休ませられるところに運ぶぞ」
解毒剤と短刀を早苗に渡し、ベナウィを背負った。
「それからそこのデカイ兄ちゃん、俺のバットとボール、あの女の武器、持ってくれねぇか?」
「え? あ、ああ…」
ようやく状況が飲み込めたのか、耕一が答える。
バットとボール8個、それだけでも重いのに、あんな馬鹿デカい刀を持つのは無理だ。
耕一はそう思い、毒入りの鉄扇だけでも――そちらの方が危険なので――持った。
「んで、そこの耳の嬢ちゃん、ベナウィの荷物を頼む」
無礼者、と言いたかったが、人命がかかっている。
ショートソード、水筒、カーテンレール。
ここまでは問題なかった。
問題は、槍。
半ば引き摺るようにして、なんとか持つ。
85明暗:04/05/22 15:28 ID:Yrj49De9


苦痛が、少し、薄れた。
聖上に近づいたのか、遠のいたのか。
まだ、護ることが許されるのか、それとも地獄に逝くのか。


結末は、大神だけが知っている。


【018 柏木耕一 サランラップ 金属バット、硬式ボール8球、ハクオロの鉄扇 左腕負傷中】
【033 クーヤ 槍、水筒、ショートソード、カーテンレール×2】
【079 古河秋生 ベナウィを背負い、休ませられるところへ 限界が近い】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、古河早苗特性パン4個、トゥスクル製解毒剤、短刀】
【082 ベナウィ 解毒剤投与】
【026 カルラ 自分の大刀、右手首に怪我、握力半分以下、未だ苦悶、フルスイングで身動きとれず】
86名無しさんだよもん:04/05/22 15:44 ID:mw9N41mJ
>>72-73は篁等の矛盾によりNGでお願いします
87裁判:04/05/22 17:32 ID:mrkfh2+o
あれからしばらくが経った。

秋生がイラつきながら、頭を掻き、目の前の女を見下ろす。
「……ボコボコにしてやりたい位憎いのは山々だが……
 それに囚われて、感情に任せてやっちまったら、それこそこいつとなーんも変わんねぇしな」
秋生が呟く。
「そなたは、何を考えてこんなことをした?」
クーヤが、目の前の女に向けた言葉。
ベナウィの持ち物から見つかったワイヤーで後ろ手に、
そして足をグルグル巻きにして拘束されたカルラが、クンネカムンの皇を見上げる。

「私には、あなた方の方が不思議ですわ。
 死にたくないのなら、生きる為にこうするのは至極当然のことではなくて?」
水も滴るいい女、カルラが言葉を紡ぐ。
カルラは、自身が持っていた飲みかけの飲料水を頭にしこたまぶっかけられ――もちろん、拘束された後だ――
有機リン剤の影響の症状は今は完全に沈静化していた。
チラリと、カルラが秋生を探るように横目で見やる。
ベナウィと自分との会話はどこまで聞かれたのだろうか。そんな疑問を胸に浮かべながら。
「生きたいが為に、人を殺して生き残る。それは正常な考え。そう言いたいわけか?」
憎々しげに言葉を吐き捨てる秋生の答えに満足気に笑う。
「その通りですわ。――あなた方は、死ぬまでこうやって仲良しごっこを続けますの?」
秋生が拳を握りしめる。勘にさわる言い方だ。だが、その通りであるなら、この女の言うことにも一理ある。
息を大きく吐いて気を落ち着けると、それを否定しようとする。
「生き残るには、もう一つ道があるだろう。
 こんなことを考えた愚か者共を一掃すればよい」
その前に、代わりにクーヤが口を開いた。
88裁判:04/05/22 17:34 ID:mrkfh2+o
「フフ、勝算はおありなの?」
「分からぬ。だが、他の者を切って捨て、保身と私欲を考える為だけに生きる。
 そんな者には余はなりとうない」
「……こんなゲームを考えた奴等をぶっ倒せるなら、それでゲームは終わりだ。
 殺し合いを強要された奴も、ただ生き残りたいだけの奴も。脱出しようとした奴も。
 普通に帰れるなら、生き残りが二人なんて馬鹿な話を受け入れる必要はないからな」
「……」
カルラは少し思案し、それに答える。
「そうですわね。そう考えられるあなた方がうらやましいですわ」
それだけ言って、あとは黙って審判の時を待つ。
「……この者の処遇については、当事者のそなた達に任せようと思う。
 どうしたいのだ?難しく考えず、そなたの素直な気持ちを教えてほしい」
クーヤが秋生に答えを促す。
「お前、名前は?」
「……カルラと呼んで下さって構いませんわ」
「この女、カルラはとりあえず俺達の監視下に置く。あれだけの獲物を振り回す女でも、
 これだけ拘束されちまえば抵抗できないだろうしな」
「ふふ、信用ないんですのね」
「この状況であると思ってるのか?」
「全く思いませんわ。ただ、黒幕篁を倒し、元の世界に帰れる勝算があるのなら
 あなた方の話に乗るのも悪くはないですわね」
「……どの道、当分お前はそのままだ」
「死ななければ、いつか私の力が必要になる時がくるかもしれませんわね」
「口の減らない女だ」
忌々しげに吐き捨てる。
89裁判:04/05/22 17:35 ID:c1uwppXF
「――とりあえず持ち直したと思います。でもまだ安心はできません」
文字通り、話の蚊帳の外にいた耕一が駆け足でそこへ戻ってくる。
「そうか。とりあえずは良かった。早苗は?」
「看病続けてます。あと、意識の方はまだ戻らなくて」
それを聞いて、カルラはホッとしたように息を吐いた。
「……何だ?」
「いえ。やはり――戦友が助かったと聞くと、自分が成したこととはいえホッとした。
 それだけですわ」
「……そうか」
「じゃ、俺戻ります。早苗さんとベナウィさんだけにしとくわけにはいきませんし」
「いや、今度は俺が行くわ。兄ちゃん、ゆっくりでいいぞ。その女、とても逃げられんとは思うが。
 ま、ぼちぼち連れて戻ってきてくれ」
秋生が駆け足で早苗達の居場所へと走る。

「……話はついたのか?」
秋生と入れ替わりにそこに残った耕一が、横のクーヤに尋ねる。
「うむ。……とりあえずは、現状ままらしい」
「フフ、あの方、とんだお人好しですわ。
 私はてっきりこの場で首を刎ねられると思ってましたもの」
クーヤがカルラを見る。
「いつも戦場で、生きる為に闘い抜いて――幾人もの命を奪ってきたこの私ですが。
 ――あなた方の話に乗るのも、いいですわね。正直、感動いたしましたわ」
90裁判:04/05/22 17:36 ID:c1uwppXF
カルラはとりあえず当面の賭けには勝った。

ゲーム開始当時、ハクオロが生きていたあの頃であれば、
彼らの話に心から乗る――それも良かったろう。

カルラの今の本当の目的は『聖上、ハクオロの復活』
その為には、彼らの話にどんな勝算があろうと、乗るわけにはいかなかったのだ。
秋生と早苗にはっきりとまでは、ベナウィと自分の会話は聞き取れてはいなかったらしい。
何でも願いが叶う場所。カルラがそれを目指していることまでは。
(最後に笑うのは私ですわ。そしてあるじ様も)
今はまだ、偽りの仮面を被って彼らの軍門に降るのもいいだろう。

だが心配事はまだある。ベナウィの存在だ。息を吹き返したと聞いた時、真っ青になったのを思い出す。
そして意識が戻らないと聞いて、ホッとした自分を思い出す。
この状態のままベナウィが目覚め、彼から本当のカルラの目的を聞かされれば、
――殺されるかどうかは置いておくにしても――二度と自分の目的は叶わないであろう。
(何にしても、このままの状態では何もできませんし、なんとかしないと駄目ですわね)
おとなしくベナウィが死んでいれば、死人に口無し。
あせる必要はなかったのだが、もう過ぎたことだ。仕方がない。
ベナウィが意識を取り戻すまでには、どんな形であれこの状況を打破する必要がありそうだ。



【018 柏木耕一 サランラップ ハクオロの鉄扇 左腕負傷中】
【033 クーヤ 槍、水筒、ショートソード】
【079 古河秋生 金属バット 硬式ボール8球 限界近いが徐々に体力回復中】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、古河早苗特性パン4個、トゥスクル製解毒剤、短刀】
【026 カルラ 右手首に怪我、 握力半分以下
 武器は取り上げられ、ワイヤータイプのカーテンレールによりグルグル巻きで捕虜となる】
【082 ベナウィ 昏睡中】

【カッター カルラの大刀は、カルラ以外であれば、誰が持つも捨てるもご自由にお願いします】
91にわたずみ:04/05/22 17:45 ID:bgj9L6EH
「ラストリゾート?」
「そう。それが篁の切り札」
 この島の参加者のなかで、主催者側の戦力についてリサより詳しく知っている人間はいない。
 その知識を、道すがら邦博に伝授していた。
「ラストリゾートなんてな――」
 夢の絶対防御システム。まるでゲームやSF映画のバリアである。
 あまりに現実離れしているためか、邦博の感想は惨憺たるものになった。
「――死にかけの爺婆が出かけていきそうな、熱海の温泉地あたりの名前臭ぇな」
 最後の切り札。
 そう名付けた篁重工の英才たちが聞けば、額の青筋から出血させて、卒倒しかねない言い草である。
 かなり不謹慎だと理解はしていたが、思わずリサは吹き出していた。

 そんな二人の前方、およそ100mあたりのところ。
 一瞬にして、疾風が駆け抜けていった。
 その名にそぐわぬ荒々しさで、風の先陣をきって突き進むのは、ミルトという車である。
 「彼女」は身体一杯に爆薬を抱え、時限装置を起動させたまま、疾走していた。
 時がなく、未来もない。後悔もない突撃であった。
「あれは――Mild!?」
「ミルト?」
「私が探している人の車。人工知能を積んだ、2008年製最新型スポーツカー」
「はあ?」
 人工知能だの、2008年製だの、さっきの温泉保養所もそうだが、突拍子もない事ばかりだった。
 邦博はリサを凝視し、問い詰めようとしたが――
「追う。いい?」
「あ? ああ、いいぜ?」
 ――引っかかるものを抱えたまま、リサのあとを追って走り出す羽目になった。
 
 
92にわたずみ:04/05/22 17:49 ID:bgj9L6EH
 葉月真帆と大庭詠美は、晴子たちと別れたあと、しばらく移動をためらっていた。
 今まであまり他人に会わずにすませていたことが、生き残りに繋がっていたのかもしれない。
 そう思うと、腰が重くなる。しかし、このまま座っていることが得策とも思えなかった。
 だからいま、二人はあまり気乗りのせぬまま、歩みを進めている。

 そんな彼女たちに向かって、土煙をあげて恐るべき早さで接近する、何かが現れた。
「ふみゅっ!? なんかこっち来る!」
 遭遇したのは、道路網の乏しいこの島に似合わぬ、スポーツカーだった。
 高速の風を引き連れて、荒々しく通り過ぎていく。
「すっごい早さ――って、詠美ちゃん? なんか脳味噌真っ白になってるよ?」
「い……いまの車、人……乗ってた?」
「え」
「なんか、からっぽに見えたんだけど……」
「そ、そー言えば、そんな気も……」
 混乱の極みに陥った二人は、どれだけの間、呆然としていたのか。
 しかも、そこはまだ、極みではなかった。
 
93にわたずみ:04/05/22 17:56 ID:bgj9L6EH
 突如として、女性が現れる。
 そう気が付いたときには、すでに彼女の剣の切っ先が、真帆の喉元に向けられていた。
「Feeze! ふたりとも、動かないで!」
「なっ!?」
 反射的と言っていいだろう、思わず詠美は後に逃げようとした。
 慌てて振り向くと、そこには分厚い大胸筋が立ちはだかっている。
「ふみゅーっ!」
 お約束のように激突する、詠美であった。

「……痛ぇな。前見て歩けバカヤロウ。ぶつかってんじゃねぇよ」
 まるっきりカツアゲ準備完了の様子で現れたのは、浅見邦博。
 先に現れた剣の女性は、もちろんリサ=ヴィクセンだ。
 彼女は少しばかり余裕を欠いていたが、それでもかなり優雅に、にっこり笑って尋ねた。
「車を追っているのだけれど――見なかったかしら?」

 あまり、聞いて欲しくないネタだったかもしれない。
 今度こそ、混乱の極みであった。
 
 
94にわたずみ:04/05/22 17:59 ID:bgj9L6EH
 崖下に建つ倉庫の中に、二人の女性がいた。
 ダンボールの中から漁り出したジュースを手に乾パンを齧る、神尾晴子と麻生明日菜である。
「そや、明日菜ちゃん。あの真帆って娘やけどな?」
「やだ、晴子さんったら。なーにニヤニヤしてんですかあ?」
 素面のはずなのに、何故か明日菜に絡みつく晴子。
 耳元で、ぼそりとひとこと呟いてみる。
「ホンマに、ただの知り合いなんかいな?」
「……どういう意味です?」
「色々お世話になっとる言うとったでえ? そらもう、あんなことやこんなことまで――ヘブッ!」
 やめときゃいいのに深入りして、鳩尾にツッコまれる。
 晴子は一歩踏み外すと、容易にそうした立場に堕ち込むタイプである。
「木田くんは、あれで結構奥手なんですぅー。抱きしめるたびに顔なんか真っ赤にして、かーわいいんですから!」
 ぎうー、と空気に抱きつき、結果として自らの巨乳を、その腕に抱きしめる明日菜。
 そんな彼女をじっとり生温く見守っていた晴子は、おもわず呟いた。
「……アンタな。それ、単に窒息死しとるだけとちゃうか?」
「違います! てゆーか、勝手に殺さないで下さいっ! 縁起でもない!」
 これはこれで、楽しいのかもしれなかった。

「……ま、明日菜ちゃんがそう思うんなら、えーんやけどなあ?」
 片方だけ八重歯を見せて、晴子は中途半端に笑いかけ、仕切りなおす。
「引っかかりますね、妙に」
「普通、ホンマに探しとるんなら、木田くんの話題で盛り上がる前に――なんやったかな? ホラ?」
「――功くん?」
「それそれ。その名前、持ち出してきよるやろ。ウチなんか早よ観鈴のこと訊きとうて、イラついとったで」
 晴子の八重歯のように鋭い、女の勘ってやつである。
 明日菜も真帆の表情を思い返し、その微妙な心の動きに洞察の光をあててみる。
「な? どや? そんな気、せんでもないやろ?」
「……殺っちゃっとくべきだったかしら……なぁんてねー」
「うははー、アンタやっぱキッツイわー」
 どんなに明るく混ぜ返しても、まったく洒落になってない二人だったりする。
 
95にわたずみ:04/05/22 18:02 ID:bgj9L6EH
 不穏な会話に終わりを告げるように、背後に爆音が鳴り響いた。
 プレハブの倉庫だけに、やたらと振動が伝わった気がする。それとも大爆発だったのか。
「おあ!? なんやねん!?」
「これ、さっきのホールの方向ですよ! 爆発!?」
 転がるように外へ飛び出し、並んでホールの方向を眺める。
 野次馬根性丸出しの、二人であった。
 
 
 朱色の光が、立ち上る黒煙の中で閃いている。
 ホールの外壁に、大穴が開いていた。なにかが突き抜いたもののようだ。
「ミルト……」
「酷ぇな」
 茫然自失気味の真帆や詠美と別れて、リサと邦博はホールまでやってきた。
 車には、誰も乗っていなかったという。
 宗一は、こうしたマッチョな作戦を選ばない。となれば、「彼女」自身の判断か。

 ――突撃は、功を奏しただろうか?
 ラストリゾートがここに配備されているなら、中の部屋なり、地下室は無傷だろう。
 このまま煙が収まるのを待てば、ミルトが開けた穴から、それを確認できるはずだ。
 しかし、篁がリサの監視を嫌って、直接行動に出るかもしれない。
「……どうするよ?」
「戦力不足。いまは撤退しましょう」
 あとで確認しても、遅くはない。
 リサはぱちん、と爪を噛みながら、ホールをあとにした。 

 そこかしこに、車の残骸が転がっていた。
 ホール内部のスプリンクラーが、大量の水を吐き出し、小さな池を作り出している。
 それは、もはや帰らぬ「彼女」の、死に水のようであった。
 
 
96にわたずみ:04/05/22 18:04 ID:bgj9L6EH
【ホール外壁破損。内部は煙で見えません】
【ミルト爆発】

【068 葉月真帆 ラクロスのユニフォーム&スティック&ボール3つ】
【013 大庭詠美 護身用スタンガン】
【幽霊でも見た気分】

【002 麻生明日菜 ナイフ ケーキ】
【022 神尾晴子 千枚通し マイクロUZI(残弾60)】
【おおむねご機嫌。野次馬丸出し】
 
【001 浅見邦博 身体能力増強剤(効果30秒 激しいリバウンド 2回使うと死ぬらしい) レーダー(25mまで)】
【100 リサ・ヴィクセン パソコン、草薙の剣】
【悔しさを噛み殺して撤退】

【昼ごろ】
97殺人者にも休息を:04/05/22 21:42 ID:hPHdZyzI
ね、ね、ね、というように、クイクイと芳野は腕を引かれる。
「ん?なんだ」
どうして私を選んだのか。その目はそう言っていた。
それから、んしょんしょと、スケッチブックにペンを走らせる。
『どうして私を選んだの?』
丸文字でそう書かれていた。案外、思ったことが表情に出やすい娘だ。
スケッチブックなどなくても、簡単な意思の疎通ならできそうだ。
今みたいな穏やかな時間でならどちらでもいいが、急を要する時があれば、それはありがたいことだ。
「お前は、俺と同じ匂いがしたからな。――それだけじゃ駄目か?」
澪の目は『もう少し』とそう言っていた。
「……。俺は一度負けた。負けるはずがないと思ってた相手に、完全に負けたんだ。
 自分の弱さを思い知らされたよ。強い武器を手に入れ、何でもできる気になっていたんだ。
 ……一人じゃないってことが、どんなに強い力を生むかなんてここに来てから考えもしなかったな」
夢も、栄光も、居場所も。自分のそれまでをすべてを失ったあの頃。
「あの頃、あの人に支えられた時に、それは分かっていたはずだったのに。
 あの人がいただけで強くなれた。あの頃に、それは分かっていたはずなのにな」
遠い目で、あの日、あの人に再会した頃を思い出す。それはこの島のどこかに置き忘れてきた気持ちだ。
少しだけ目頭が熱くなった。
煙草に火をつける。さっきよりも、少し美味く感じたそれは煙草の煙。
「吸ってみるか?」
差し出されたそれを澪がおずおずと手にとって、一度大きく吸う。
ケホケホと激しくむせる。
「ハハハ、お前にはまだ早いよ」
再度それを取りあげて、もう一度吸った。澪には少し早い、煙草の回し飲み。
「俺達は、助けあい、支えあう。そんな仲間になれると思うか?」
うんうんと頷いた。その瞳も同じくそう言っていた。
98殺人者にも休息を:04/05/22 21:44 ID:hPHdZyzI
【036 上月澪 所持品 クレイモア(残り1個)、イーグルナイフ、レミントン・デリンジャー(装弾数2発、予備弾16個)、スタンロッド 防弾/防刃チョッキ】
【スケッチブックには穴が二箇所開いています】
【098 芳野祐介 所持品 手製ブラックジャック*2 スパナ
 ライフル(予備マガジン2つ)  サブマシンガン(予備マガジン1つ) ことみの救急箱 煙草(残り4本)とライター】
【玄関にクレイモアを設置しています】
99Bloodlust1/2 ◆QGtS.0RtWo :04/05/22 21:46 ID:E4TkZW6m
長瀬祐介はセリオを焼き尽くした後、森を彷徨っていた。
心と体の餓えと渇きを癒すため、新たな獲物を求めて。
火炎放射は重く嵩張るのと、誤動作が不安なので捨ててきた。
ザウエルは、弾が無くても脅しにはなるんじゃないかと思ったが、面倒なので一緒に捨ててきた。

(こいつは…すごいや)

人の手らしきもののはみ出た鞄。目を剥いている生首。無造作に転がされているナイフ。
ふらふらと彷徨った挙句辿り着いたのは、風子の死んだ場所。
常世の地獄が、其処には在った。

(素敵なオブジェだね)

普通の人間なら吐き気すら催しそうな酸鼻を極める光景を、素敵と形容する。
長瀬祐介は、既に"普通"ではなくなっていた。
ヒトデを鞄から放り出して中身をあさる。

「チッ」

どうやら鞄の持ち主はもう食糧も水も使い切ってしまっていたらしい。

――いっそこの手や首を食ってしまおうか?

そんな考えが頭をよぎる。

(でも、食べられるところは少なそうだな)

最後の正気が歯止めをかけたか、狂気の理論で食うのをやめたか。
カニバリズムまではいくら狂っていてもやらないらしい。
100Bloodlust2/2 ◆QGtS.0RtWo :04/05/22 21:47 ID:E4TkZW6m
ふ、と。
打ち捨てられたナイフが目にとまる。
吸い込まれるように、誘われるように、手を伸ばし、握り締める。
よく、馴染む。

「フッ!」

高く振り上げ、生首に向かって振り下ろす。
ナイフはたやすく根元まで突き刺さる。

(こいつはいい)

頭蓋骨を刺し貫いたはずが、引き抜いても刃毀れ一つ無い。
ぬらぬらと歪んだ光を反射する刃は美しい。

(瑠璃子さんみたいだ)

ズボンの裾で血を拭い、ベルトに挟んでいつでも引き抜けるようにする。

「待っててね瑠璃子さん。僕がこのナイフでみんな殺し尽くすから…」

狂人長瀬は行く。
肉で腹を満たすため。
血で渇きを癒すため。
それは本能が呼ぶのか。
或いは偶然か。
森が途切れて、住宅街が顔を覗かせる。
クスリと軽く笑って、人の居るほう、食糧のあるほうへ、住宅街へと歩き出す。
餓えを癒すため。渇きを癒すため。
それ以外には何も見えず。何も聞こえず。
狂人長瀬は行く――。
101Bloodlust結果 ◆QGtS.0RtWo :04/05/22 21:48 ID:E4TkZW6m
【062 長瀬祐介 所持品 果物ナイフ、風子の持っていたよく切れるナイフ】
【火炎放射器とシグ・ザウエルは森のどこかに捨てた】
【住宅街へ到着】
【時間は正午前】
102名無しさんだよもん:04/05/22 22:06 ID:TBXUKyTd
んーっ、風子の芸術を理解できるとは、あなた素晴らしいですっ >ヮ<

…長瀬ちゃんこわー…。そしてあゆ哀れ…
103誘導:04/05/22 22:11 ID:pWfNTyKO
>>102
今後感想は
【ズガン】実況★葉鍵ロワイヤルII 5【ズガン】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1084962220/l50
へどうぞー。
104魂の駆動体:04/05/22 22:45 ID:lewFThJU
TOOOOOOOOOONK!
『どうした、何故さっさと自爆させないんだ!』
『駄目です! ジャミングがかかっていてこちらの起爆信号を受け付けません!』
『馬鹿な! 搬入前に徹底的に調べたはずじゃ…うわぁぁ!』
DOM!
バンパーに嫌な振動。どうやら数人撥ねたようだ。
―おっと失礼。普段ならこんな無粋な真似はしないのですが、先を急いでいますので。

残された時間はあと数分。残り僅かなその命を燃やすように、ミルトは走る。
目的は唯一つ。マスターの為、マスターの仲間達の為、
この身諸共主催者を、筧を吹き飛ばす。
弾雨の中で、意思を持つ紅の弾丸、片道覚悟の特攻機が疾駆する。
サイドミラーが吹き飛び、フロントライトが砕け散る。弾丸が容赦なくボディを穿つ。
それでも止まらない。獣じみたエグゾーストノイズを上げ、さらに加速する。

思えば、人目も気にせず全速で走るなんて随分と久しぶりだ。
走る為に生まれたミルトにとって、それは自分の存在意義を一番感じることが出来る瞬間だった。
(出来ればもっと気持ちのいい場所で、マスターがシートに乗っていてくれれば最高だったのですが)
機械は、人に使われる為に存在する。
人に使われ、その使命を全うすることこそ機械の望み、喜びだ。
だが機械には、その使い手を選ぶことなど出来ない。
どんな目的で使われるか、どんな扱われ方をするか、機械に選択の権利は無い。
それ自体を、ミルトはどうこう考える気は無い。
それは機械の運命であり、当然なことであるのだろう。
だがもし、機械にも神様が居るのなら、自分ほど祝福された者はいまい。
最高のマスターと共に、最高の時間を駆け抜けることが出来たのだ。
Nasty Boy。我が主。運命のパートナー。
彼と走っている時、自分は幸せだった。
錯覚かも知れない。こんなことを考えること自体、ただのバグなのかもしれない。
だがかまわない。この気持ちが故障しているからというのなら、壊れていてもかまわない。
ならばこそ、せめてもの恩返しを、最後の奉公を果たそう。
105魂の駆動体:04/05/22 22:49 ID:lewFThJU
[ALERT! INCOMING THREAT!]
サーマルセンサーが接近する熱源を感知。数3。
辛うじて生き残ったリアカメラでデータを照合。SAMだ。
―やれやれ、しつこい男は嫌われますよ。
熱源誘導タイプ。普段のミルトなら難なく巻いてやることが出来るだろう。
だが今の状態でかわせるだろうか?

出来るか出来ないかじゃない。やるのさ、ミルト。お前と俺なら出来る!

宗一が、ステアリングを握ったような気がした。
―OK,MASTER!
思い切りがいいのは宗一譲り、ミルトは大きくステアリングを切り、
道を外れて森の中へ突っ込んだ。
車がこの森を突っ切ることなんで出来るのか、ましてやオフロード仕様でもないミルトが。
絶望的な賭けだ。だが悪くない。最後くらい、無謀な大勝負に出てもいいだろう。
DOM!
ミルトを追って森の中に入った一発目のSAMが、木にぶつかり爆発する。
続く二発が一発目の爆炎に突っ込んだ。
熱探知センサーが惑わされミルトを見失い、迷走、爆発する。
だが同時にミルトも立木を避け切れず接触、左フロントを大きく持っていかれた。
―スマートにはいきませんね。
センサーがLOST。フレームが軋みを上げる。
その瞬間、木立の先に、微かにホールが見えた。
後500m、残り…5分。
もっと早く! もっと早く!
オオオオオオオオオ!
エンジンが呼応する様に絶叫する。最早木々が接触するのも構わず、ミルトは走る。
残り、400、30、200、100―――



森を抜けたのと、三本目のSAM―アクティブホーミング―がミルトに喰らい付いたのは、ほぼ同時だった。
106魂の駆動体:04/05/22 22:55 ID:lewFThJU
「申し訳ありません。まさかこのようなことになるとは…」
『構わん。リスクを犯してこれを運び込んだのは私だ』
車体右半分を殆ど全壊させ、もの言わぬスクラップとなったミルトを画面越しに見ながら、篁が呟く。
(まさかプログラムを超えて特攻してくるとはな。主ともども楽しませてくれる…)
「如何致しましょう? あと一分ほどで爆発しますが」
爆薬がセムテックスだったせいか、未だミルトに仕掛けられた爆弾はいまだ誘爆せず生きていた。
残り、50秒。
『機械とはいえ、ルールを破った罰は与えんとな―――これ以上何かする前に吹き飛ばせ』
篁の言葉を受け、ミルトを遠巻きに包囲していた兵士の一人が大型の対戦車ミサイルを担ぎ出す。

―やれやれ、しくじってしまいました。でも…。

『やれ』
篁の命令と共に、毒針がミルトの息を止めるべく発射される。
外すはずも無い距離だ。
残り20秒。

―勝負は、最後の最後まで分からないものですよ!―
107魂の駆動体:04/05/22 22:55 ID:lewFThJU
死にかけのエンジンが蘇る。最後の力を振り絞りシャフトを回す。
片輪状態のミルトが、まるで信地旋回するように大きく右にスピンした。

残り10秒。

目は潰れている。センサーも利かない。ただ、勘だけを頼りにミルトは動いた。
機械にあるまじき「勘」。だが、それは宗一と共に駆け抜けた記憶と経験から導き出された、確固たる勘。


もう走れない。だけど。
せめて、倒せないならばせめて、
勝ち誇ってすましているあの顔を

一発ブンなぐってやろう。


信管が作動するよりも早く、
スピンしたミルトの車体が、ミサイルの頭を弾いた。
「何ぃっ!」
想像もしなかったミルトの「最後の反逆」に、兵士達は動くことが出来なかった。

ゼロ。
108魂の駆動体:04/05/22 23:00 ID:lewFThJU
「最後の最後まで、私に逆らい続けたか。ペットは飼い主に似るとはよく言ったものだな」
忌々しげに、だがどこか嬉しそうに篁が呟く。
弾き飛ばされたミサイルは、戦闘チームを外に出す為開いたラストリゾートの僅かな隙間をかいくぐり、
ホールの外壁に大穴を開け爆発した。
地下部分には何の障害も無かったものの、それはゲームが始まって始めての、
目に見える形での主催者側への反逆だった。
「チームを撤収させろ。爆発を聞いて他の連中が集まってくるぞ」
「ハッ!」
篁はモニターから目をそらさずに命令を飛ばす。その口元が微かに歪んでいるのを確認するものは、いない。
(さぁどうする、どう動く那須宗一?) 


辺りに散ばった大小様々な部品。ついさっきまでミルトだったもの。
その一部は、スプリンクラーが作動し水浸しになったホールの中まで吹き飛んでいた。
水の中に、小さな箱が一つ沈んでいた。ミルトのデータユニット。ミルトのこころ。
主に向けた、届くはずも無い最後の言葉を胸の内に抱いたまま、「彼女」は静かに機能を停止した。



I has completed this mission. Good luck,my precios.Bye-bye…


【ミルト爆散。 ホール外壁に大穴。地下部分は無傷】
【篁は未だホール地下】
109Serenata Notturna 1/2:04/05/22 23:02 ID:gPdTb7Vo

優しい音に包まれて、夢を見ていた。

懐かしいあの街で、少年と桜を見た。
懐かしい学校の屋上で、少年と他愛も無い話をした。
熱に浮かされながら、キスをした。
少年は、いつだってつまらなそうな顔をしながら、それでもいつだって優しくて、
その声がたまらなく懐かしくて―――懐かしい?

彼とは毎日顔を合わせている。
彼とは毎日話をしている。
彼とは毎日笑いあっている。
……彼の声は、いつからこんなに遠くなってしまったんだろう?

 ―――浩之ちゃん。

声に出そうとして、それがどうしてもできないことに気づく。
少年が行ってしまう。
呼び止められない。

 浩之ちゃん、浩之ちゃん、浩之ちゃん……!

必死の声は音にならず、少年は遠ざかり、やがて―――闇に融けて消えた。
目が、覚めた。
110Serenata Notturna 2/2:04/05/22 23:04 ID:gPdTb7Vo
最初に見えたのは、白い天井と紺色の袖。
それから小柄な制服姿。
最後に、がらんどうの眼。

その眼は私など、見てはいないようで。
それでも、私をじっと、どこか暗い穴の底からじっと見つめているのが、わかった。

一瞬のようで、とてもとても長い間のような、そんな視線の絡み合い。
私は魅入られたようにその眼だけを見つめていて、その他の何も見えなくて、
だからその女の子がどういう顔をしているのかも、その手に何を持っているのかも、
その子が何をしようとしているのかも、ぜんぜんわからなくて、そんなものは絶対に
目に入ってなくて、私はその子の眼だけを、

―――きぃ、と扉の開く音。

足音がふたつ。早く。この部屋に。早く。
私はここでベッドに寝ているのだから。早く。
そのドアを開けて。早く。
早く。早く来てくれないと、あの鉛筆が私を刺して、鉛筆なんか、見えてない。
早く。開けて。

開け放たれたドアの向こうに、松浦亮は立っていた。
その目が見開かれ、銀色の缶詰がごとりと床に落ち、腰のギアを抜き放って、こちらに構え。

 助けて、ひろゆきちゃん。

声は、やはり出なかった。

【024 神岸あかり 木彫りの熊 きよみの銃の予備弾丸6発】
【047 春原芽衣 筆記用具】
【084 松浦亮 修二のエゴのレプリカ】
【017 杜若きよみ 改造銃 残弾3(未装填、隠し持っている)】
111生きると言う事の罪:04/05/22 23:11 ID:3Ao9HtDO

彰達が旅立っていってしまったと言う事にすら気づかず長い長い時間みつめあう
藤井冬弥(073)と須磨寺雪緒(050)。
沈黙の果てに再び冬弥の顔が雪緒にゆっくりと
しかし確実にその距離を縮めてゆく。お互いの息がかかるくらいに近づいてゆく。
「好きだよ、雪緒ちゃん」
雪緒が好きだと言う気持ちを自分の胸に刻み込むために、そして由綺と言う
この地で逢うことのない自分の恋人の事を消し去ってしまうために囁く。
「わたしも好きよ、藤井さんのことが」
今までの雪緒からは考えられないほど、自分の気持ちに正直な言葉が口に出る。
そして雪緒も顔も冬弥にゆっくりと近づいてゆき、唇は再び重ね合わされる。
先ほどのようにきつく抱き合ったりという事もない。お互いがお互いを求め合うような
激しい口付けもそこにはない。ただ、今現在同じ時間を同じ気持ちで共有していると
言う事だけを確かめるように、触れ合う唇の温かさを感じている。
どちらからともなく両の腕が相手の身体を包み込むように回される。
そして二人の耳から、全ての音は遮断される。
112生きると言う事の罪:04/05/22 23:12 ID:3Ao9HtDO
どれぐらいの時間が経ったであろうか。ひどく長かったようにも、
またほんの一瞬のようであったようにも思える時間を越え、二人はゆっくりと
名残惜しそうに離した。そして再びみつめあう。
二人とも顔を真っ赤にしていた。

異性の顔を見て顔を真っ赤にして照れている姿なんて、ほんの少し前まで
全く想像していなかった事であったが、そんな自分も思ったより悪くはないと思えた。

「ありがとう、藤井さん」
「え、どうしたの雪緒ちゃん」
いきなりお礼を言われて少しうろたえる冬弥。そんな冬弥に構わず雪緒は話を続ける。
「藤井さんにちょっとお礼を言ってみたかっただけ」
そう言われてもなんだかよくわからない冬弥は、困ったように雪緒の顔を見る。
「ううん。こんな気持ちになるなんて、ちょっと前のわたしには全く考えられなかったから」
「え、どうして」
まだ雪緒の事を少ししか知らない冬弥は、少し驚いたように聞き返す。
「今までのわたし、人と深くかかわる事をなるべく避けてきたから。ひとを好きになると言う事が、
こんなにも気持ちのいい事だと知らなかったから」
「……」
「だから、こんなにも気持ちいい事を教えてくれた藤井さんにお礼を言いたかったの」
「……」
かける言葉を見つける事が出来ず、雪緒の告白をただじっと聞き入っている。
「ありがとう、藤井さん」
その言葉と同じに、雪緒は俯く。冬弥からは表情こそ見えなかったものの、僅かに覗く耳は
先ほどみつめあった時よりも更に赤く染まる。そんな小さな身体を右の腕で優しく
包み込むように抱き寄せ、小さな身体は優しい腕に寄りかかる。
113生きると言う事の罪:04/05/22 23:12 ID:3Ao9HtDO
「ありがとう」
俯いたまま、消え入りそうな声で再びお礼を言う雪緒。
「今度はどうしたの」
雪緒を右腕に抱えたまま、再び困ったように雪緒の顔を覗きこむ。
「うん、わたしここにきて初めて生きていたいと思えたから。少しでも長く生きて、
藤井さんとの時間を過ごしたいと思ったから。今度は、藤井さんに逢わせてくれた
偶然にお礼を言ったのよ」
今度は照れることなく、まっすぐに冬弥の瞳を見つめて言った。
「俺も雪緒ちゃんと一緒に時を過ごしたい」
冬弥は、そう言うと同時に言葉に表すことなく、胸の内に決意を秘める。
雪緒からは見えない左の手に、鈍く光る人を殺すためだけに生まれた武器を握る。
出来る事ならこれを使うことなく過ごしたい。心からそう思う。しかしそんな弱い心を
振り払うように左に手にきつく力を込める。

「雪緒との時間を過ごすそのためなら、あえて罪を犯そう」


【050 須磨寺雪緒 所持品なし 積極的に生きようとする】
【073 藤井冬弥 所持品 グロック17 残り11発】 


「俺たちもそろそろ出発しようか」
 気付いたときには彰たちはもういなかった。
 きっと気を利かせてくれたのだろう。
「そうね」
 テーブルの上に少しばかりの食料が置いてあった。
 こんな状況にも関わらず食料を分けてくれた彼らに感謝した。
 これからどうするかなんて決めてないが、とりあえずこの家を出ることにする。
 わずかながら食料を手に入れた今、人が集まりやすい住宅街にいる理由はない。
 実際、住宅街にはかなりの人数が集まっていた。
 その中でも彰たちと遭遇できたのは幸運だったと言えよう。
 冬弥は手に持っているグロック17の弾数を確認する。
(あと11発……か)
 雪緒を守るためには引き金を引くことも躊躇わない。
 冬弥はそう心に誓ったのだ。
 
 民家を出た二人に向かって、今にも倒れそうな少年がふらふらと歩いてくる。
「ねぇ、あれ……」
 雪緒が彼――長瀬祐介――に気付いて指差す。
「うん。どうしようか?」
「そうね、話ぐらい聞いたほうがいいと思う。もしかすると、誰かに襲われたのかも知れない」
「そうだね、少し話をしてみよう。殺すのは、やっぱり駄目だ」
 雪緒のためなら人を傷つけても構わないと決めた冬弥だが、やはり話し合いで解決するのならそのほうがいいと考えた。
 万が一の場合も考えてグロック17をいつでも取り出せるようにしておく。
 だが、二人と祐介の距離がある程度縮まったとき、冬弥は自分の考えが甘かったことを認識した。
 ふと祐介が顔を上げ、一瞬だが冬弥と目があった。
(なんだ、こいつは……)
 それはヘドロの川を覗き込んだような。
 祐介の瞳は狂気で満ちていた。
 そう、まるでもう何人も殺してきたかのような。
「フフ……」
 そう呟いた祐介の視線の先には丸腰の雪緒がいた。
「……しまった!」
 冬弥が気付いたときには祐介はすでに全速力で雪緒に向かって突進していた。
 その右手にはよく切れるナイフが――
 ズブッ
「藤井さんっ!」
 冬弥は咄嗟に雪緒を庇っていた。
 雪緒に刺さるはずだったナイフは冬弥の腹に突き刺さっている。
「おかしいな、彼女を狙ったのに。ま、君でもいいけど」
 突き刺したナイフを思い切り捻り、横に引き裂きながら抜き放つ。
「っ!? ゴフッ」
 どうやらナイフは肺腑をえぐったらしい。
 ガクリと膝をつき、逆流してくる血を吐き出す。
 それと並行するように、冬弥の腹部からも夥しい量の血が流れ出している。
 朦朧としていく意識の中、膝をつきながらも冬弥はグロック17を祐介に向ける。
 手が震えていて、とてもじゃないが当たりそうにない。
「フフ、危ないよ。そんなもの持ってたら」
 祐介は冬弥の体を蹴り飛ばした。
「はっ……」
 もはや声も出すことができない。
「藤井さん、藤井さんっ!」
「…めだ、雪緒ちゃ…逃げ……」
「藤井さんを残して逃げても意味ないじゃない!」
「うふふふ、いいよ瑠璃子、素晴らしい。素晴らしい切れ味だ。ああ瑠璃子瑠璃こル璃子るりコ……」
 祐介はナイフを見つめて、うわ言のようにルリコルリコと連呼している。
 それはまさしく、狂人。
 雪緒は側に転がっていたグロック17を祐介に構える。
「こ、来ないでっ。撃つわよ!」
「んんんん?」
「それ以上近づいたら、撃つわ」
 殺すのは駄目。
 藤井さんはそう言っていた。
 だから、殺しはしない。
 でも――
(怖いよ、藤井さん――)
 今にも引き金を引いて、殺してしまいそう。
 ――何を躊躇うの?あの人は藤井さんを刺したのよ?殺してしまえばいいじゃない。
 弱い心が私に囁く。
 駄目だ。
 殺してしまったら、きっとわたしは自分が許せない。
 死にたがっていた自分が、ようやく生きる意味を見つけたのに。
 それと引き換えに誰かを殺すなんて――できない。
「死にたくなかったら、すぐに消えて」
 殺しはしない。
 殺しはしないけど、はやくしないと藤井さんが――
「はやく消えてよ!でないと藤井さんが――!」
「あのさー」
 この一触即発の状況に似つかわしくない、ひどく間延びした声で少年が答える。
「その銃、セーフティがかかったままだよ?」
「!?」
 まずい!
 焦りながら手元を見る。
 セーフティは……どれなの!?
「嘘だよ」
 はっと気がついて目を上げると、すぐ目の前まで少年の歪んだ笑顔が近づいてきていた。
「ひっ!」
 ザヒュ。
「ひ……ヒュ……」
 喉元を一閃。
 急いで傷口を抑える。
「おふッ!」
 思い切り蹴り飛ばされる。
「これは僕が貰っていくよ」
 手から離れたグロック17を少年が拾い上げる。
 嗚呼、これは、少年の最後の慈悲なのだろうか?
 蹴り飛ばされた先には、藤井さんが――
(よかった……)
 最後は藤井さんの元で死ねる。
「…き…ぉ…ちゃ……」 
 藤井さん、そんな悲しそうな顔をしないで。
 藤井さん……わたしのこと好きだって言ってくれたこと、忘れない。
 わたしは、あなたと一緒に死ねるのなら、それで幸せ。

【050 須磨寺雪緒 死亡】
【073 藤井冬弥 死亡】
【062 長瀬祐介 所持品 果物ナイフ、風子の持っていたよく切れるナイフ グロック17残弾11発】
【2日目、正午ごろ】
119〜邂逅〜奇術師と狂娘:04/05/22 23:50 ID:TSpdbSDe
殺さなきゃ。
生き残るために殺さなきゃ。
全てをなかったことにする為に殺さなきゃ。
特に神岸あかり。
彼女だけは絶対に殺さなきゃ。
殺さなきゃ。
みんなみんな殺さなきゃ。
殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ――――――
雛山理緒はふらふらと歩きつづける。
神岸あかりを殺すため。
参加者全員を殺すため。
そして……全て―――――この島で起こった全てをなかったことにするため。
ターゲットは誰でも良い。
誰を殺そうとゲームの終わりに一歩近づくのには変わりない。
誰でも良い。
出会い……そして殺す。
120〜邂逅〜奇術師と狂娘:04/05/22 23:51 ID:TSpdbSDe
何か匂いがする。この匂いは…カレー?
理緒が立ち止まったのはとある民家の前。
お腹が鳴る。
(そういえばお腹すいたな……)
しばらく何も食べてないことを思い出し、腹の中の虫たちがいっせいに騒ぎ出す。
理緒が出した結論は単純なものだった。
中の人間を殺し、奪う。
一石二鳥だ。それでいい。
理緒の顔には薄い笑いが張り付いていた。
ザックの一つに浩之を殺したあの石を入れる。
これが今の自分のベストの武器。
そして理緒はその民家の引き戸を開けた。
121〜邂逅〜奇術師と狂娘:04/05/22 23:56 ID:TSpdbSDe
「腹ごしらえがすんだら手伝ってほしいことがあるんだけど――」
橘が言い終わるより早く一人の少女が民家の引き戸を開けた。
そして、その少女。
橘は彼女と面識が会った。
この島で一番初めに会い、そして自分から逃げた少女。
その表情は俯いていて見えない。
「君はたしか…」
橘が近づこうとして…
「橘さん、あぶない!」
「!?」
何の前触れも無くその少女がザックを振り回した。
ザックは橘の頭をかすめ、民家の壁に大きな音を立ててめり込んだ。
「いきなり何をっ……」
そこまで言って橘は凍りついた。
その少女の目。
冷たい……とても冷たい瞳だ。
叩き潰されるゴキブリから見た人間の目とはこういうものなんだろうか…?
「殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ……」
ぶつぶつと呟きながら、ザックを壁から引っ張り出し、再び橘に向かって振り回す。
(俺は……この娘を笑わせることができるのだろうか)


【071 雛山理緒 所持品:筋弛緩剤と注射針一式(針3セット)、ザック入り枕大の石、裁縫道具、手作り下着、
 クレジットカード、小銭入り長紐付き巾着袋、クッション、バッグ3つ所持】
【055 橘敬介 所持品:ヨーヨーもどき、釣り針、太めの釣り糸、肥後ノ守、 手品道具、ビン類各種、小型のレンチ、
 針金、その他小物、 手首に万国旗、大振りのハンカチ、水入り容器、メモ、鉛筆、食料】
【085 三井寺月代 所持品:ヴィオラ、青酸カリ、スコップ、初音のリボン、食料】
>>118
すいません、追加で
【残り57人】
123ゆめかうつつかまぼろしか:04/05/23 00:22 ID:xmH1AL+w
―――なぜ、ここにいるのだろうか。
ベナウィの目に映る風景・・・それは彼が皆で帰りたいと願ってやまない場所だった。
(しかし、私は森の中にいたはずです)
だが、対峙していたカルラはおろか、行動をともにしていた秋生や早苗もここにはいない。
あの温かな笑顔や、安らげるあの場所は・・・守りたいと思ったあの場所は確かに現実だった。
現実であったはずなのに、その場所はどこにもなく・・・あるのはただ帰りたかった場所。
―――では、今・・・この瞬間こそが夢、なのだろうか。

そして・・・そこに、彼はいた。いるはずのない彼が。
一人、静かに酒を飲んでいた。
「せい、じょう・・・?」
つぶやきが流れていく。
そのかすかなつぶやきを聞き取ったのか、彼・・・ハクオロはベナウィのほうを向いた。
「・・・ベナウィか」
やがて、苦笑いをひとつ浮かべる。
いつもと変わらぬ笑い。
心の中では、わかっていた。―――これは、現実ではないのだと。
しかし、こうも思う。―――もしかしたら、聖上と同じ場所にたどり着くことができたのではないだろうかと。
「ああ・・・そういえば私もお前も何かと忙しくて、酒を飲みながら語らう・・・なんてことはなかったな」
戸惑っているベナウィをよそに、ハクオロはぽつりぽつりと思い出すように話しつづけていた。
「・・・どうだ、たまには。月を酒の肴に静かに飲むのも悪くはないだろう」
そして、盃を軽く傾けながらベナウィを促した。

目覚めのときは、まだ遠い。

【082 ベナウィ 昏睡中】
124名無しさんだよもん:04/05/23 02:38 ID:e3J71mZD
十番目の指示

「月代ちゃん、お湯!」
 これが最初の指示。むちゃくちゃ大声で叫ぶ。結構物静かな人だと思ってたのに。
 わたしがレトルトカレーを引き上げた鍋を差し出すと、橘さんは狂ってる女の子に中のお湯をかけて、頭を殴った。
「月代ちゃん、箒!」
 これが次の指示。だからそんなに大声で叫ばなくても。これじゃ外に聞こえるよ。
 わたしが勝手口近くにあった柄の長い箒を渡すと、橘さんはお湯の熱さで暴れる女の子の足元を引っ掛けた。
「月代ちゃん、バッグ!」
 これが三つ目の指示。もう耳がおかしくなりそう。私は近くにいるっていうのに。
 わたしが机の上にあった血まみれのバッグを投げると、橘さんはキャッチして転んだ女の子の頭にそれをかぶせた。
「月代ちゃん、何か縛るもの!」
 これが四つ目の指示。そんなこといわれても。普通思いつかないでしょ。
 わたしがタンスから女物のジーンズを見つけて戻ると、橘さんはなんとかそれで押さえていた女の子を縛り上げた。
「月代ちゃん、この子の荷物!」
 これが五つ目の指示。まだわたしを走らせる気らしい。あとで覚えてなさいよ。
 わたしが玄関にあったバッグ三つを抱えて居間に戻ると、橘さんは縛り上げた女の子を抱えて畳の部屋に移動していた。
「月代ちゃん、靴も!」
 これが六つ目の指示。また玄関。二度手間じゃない。
 わたしが自分のと橘さんの靴を持ってくると、橘さんは女の子を押入れに放り込んで戸にさっきの箒を立てかけた。
「月代ちゃん、ここ押さえてて!」
 これが七つ目の指示。ああ、やっと走り回らずにすむ。若さ=無限ってわけじゃないんだから。
 わたしが押入れの扉を押さえていると橘さんは居間から椅子を持ってきて箒を押さえるように椅子を置いた。
125十番目の指示2:04/05/23 02:39 ID:e3J71mZD
「月代ちゃん、手伝って!」
 これが八つ目の指示。…もう何をかいわんや。おとなしく従うことにする。
 わたしが居間に入ると、橘さんは机の端を持ち上げもう片方を指し示した。
「月代ちゃん、そっち持って!」
 これが九つ目の指示。やりたいことは分かったから。だからもうちょっと声のボリュームを押さえてほしい。
 わたしが指示に従うと、橘さんはその机を押入れの前に持っていって、さっきの椅子をさらに押さえた。
 …そしてわたしはキッチンに向かった。十番目の指示の内容はだいたい予想がついたから。
「月代ちゃん、カレーとおさじ!」

【071 雛山理緒 所持品:筋弛緩剤と注射針一式(針3セット)、ザック入り枕大の石、裁縫道具、手作り下着、
 クレジットカード、小銭入り長紐付き巾着袋、クッション、バッグ3つ所持】
【055 橘敬介 所持品:ヨーヨーもどき、釣り針、太めの釣り糸、肥後ノ守、 手品道具、ピン類各種、小型のレンチ、
 針金、その他小物、 手に万国旗、大振りのハンカチ、水入り容器、メモ、鉛筆、食料】
【085 三井寺月代 所持品:ヴィオラ、青酸カリ、スコップ、初音のリボン、食料】
【理緒の所持品は敬介たちの荷物や靴と一緒に居間に置いてある】
【理緒、押入れにてお仕置き中】
【橘たち、大騒動の末ようやく食事にありつけそう】
126戦乙女にも休息を1/6 ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 02:46 ID:ssd8t6ZI
「さて…」

こと、とコーヒーの入ったカップを置いて、麗子は一息つく。
寄せては返す波の音。
窓から入り込む潮風に揺れるカーテン。
あの診療所を思い起こさせる。

(これさえなければ…ね)

皮肉げな笑みを浮かべて床を見下ろす。
一面にぶち撒けられた、どす黒い血。
それは、代償。
掃除しようかしら、とも思ったが、血臭にさえ慣れてしまえば、何かの模様のようでなかなか面白みがある。
ちなみに、この模様の描き手はすでに海へと"掃除"されていた。
127戦乙女にも休息を2/6 ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 02:47 ID:ssd8t6ZI
七海が逃げ出した後、麗子はまず救急用品を探した。
裂傷と打撲、骨折はまだしも、傷口に残されたままの銃弾は、まずい。
幸いなことに、――家庭用とはいえ――ここには救急箱が存在していた。

「っぐううううう!」

まずはアイスピックの芯を使って、左肩にめり込んだままの銃弾を抉り出す。
次に消毒と、そして――

「があああああアアアア!」

獣のような声を上げて、コンロの火を使って麗子は傷口を焼く。
こうやって傷口を塞いでしまわないと、破傷風や、腕が腐り落ちてしまう危険性があるからだった。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ…」

無理矢理塞いだ傷口に清潔な包帯を巻き、添え木を括り直す。
左肩の骨は折れているようだが、砕けてしまって完全に使えないというほどでもない。
とはいえ、当分まともに動かせるとは思わないが。

(まあ、ベレッタの弾が残っている間は、右手だけでもまだなんとかなりそうね)
128戦乙女にも休息を3/6 ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 02:48 ID:ssd8t6ZI
無理矢理塞いだ傷口に清潔な包帯を巻き、添え木を括り直す。
骨は折れているようだが、砕けてしまって完全に使えないというほどでもない。
とはいえ、当分まともに動かせるとは思わないが。

(まあ、ベレッタの弾が残っている間は、右手だけでもまだなんとかなりそうね)

治療の次は、食事。
こちらも幸いにして、一日二日を乗り切れるほどの食糧があった。
食糧だけではない。
ガス、電気、水道。
コンロ、ポット、冷蔵庫、流し台、炊飯器、電子レンジ。
ベッドにシーツに机にソファー。
洗面所には、風呂もトイレも鏡も、髭剃りだってある。
果てはタンスの中に男性用、女性用の衣服、下着が季節を問わず入っており、寝巻きまでもが納められていた。
ここには、一般家屋に必要なものは全て揃っている。
唯一つ、電話を除いて。

(まあ、当然と言えば当然か)

完全な設備。
完全な備品。
しかし、人の住んでいた気配は、一切無い。
どこまでも作り物めいた作り物。
まるで、人形遊びに使うミニチュアの家のようだ。

(いい趣味してるわ)

しかし、そんなことはどうでもいい。
今はこの用意周到さに感謝するだけだ。
ハムやベーコンなどの保存の利きそうなものはなるべく避け、ナマ物から先に調理する。
数分後、食卓には卵と野菜のサンドウィッチと、コーヒーが並んでいた。
129戦乙女にも休息を4/6 ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 02:48 ID:ssd8t6ZI
さて、これから、どうする?
コーヒーを飲みながら考える。

1.ここを出て、ゲームを続ける。

これは駄目だ。
まだ本調子ではない。
こんな状態で出て行ってはいい的だ。
そもそも、私は休息できる場所を求めてここに来たのだ。
今しばらく体を休める必要がある。

2.当分、ここに潜伏する。

これは魅力的な選択肢だ。
成る程、ここなら侵入者があればすぐに確認できるし、視認してしまえばこのベレッタで近づく前に殺すことができるだろう。
しかし、それだけでは駄目だ。
ここにじっとしているだけでこのゲームが終わるとは思えない。
ゲームを早く終わらせるためには、ゲームへの積極的な参加が不可欠だ。
ならば、どうする?
簡単なことだ。
折衷案を取ればいい。
体が調子を取り戻すまではここで休憩し、その後打って出る。
そう、それでいい。
130戦乙女にも休息を5/6 ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 02:49 ID:ssd8t6ZI
疲れを取るためには、睡眠をとるのが一番だ。
誰かに襲われるかもしれない恐怖と戦いながら、森の中で野宿するのではない。
ここにはしっかりとしたつくりのベッドがある。
これならちゃんと疲れも取れそうだ。
だが、ただ何の手も講じず寝るのでは、森の中で寝るのとさほど変わらない。

(侵入者を知らせる罠が欲しいところね)

寝室に備えつけられている化粧台の中に収められていた裁縫道具を取り出し、糸を持ち出す。

(開けた瞬間侵入者が死ぬような派手な罠が欲しいところだけど、ここにあるものだけじゃちょっと難しいわね)

それをさっき使ったカップの取っ手に括り付け、反対側をドアのノブにつないで、カップをテーブルの上に置く。
カップの上には保険として皿を置いておく。
これで、誰かがドアをあければカップと皿が床に落ち、その砕ける音で侵入者を察知できるはずだ。

(それじゃ、少し眠らせてもらいましょう)

この島に連れてこられてから初めてのあくびを漏らし、寝室に入る。
鍵を掛け、汚れた白衣を脱ぎ捨てる。
タンスの中から動きやすそうな長袖のシャツとズボン、下着を取り出して着替え、ベッドに入る。
ベレッタは枕の下、いつでも使える位置に置いておく。
準備は万端。
131戦乙女にも休息を6/6 ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 02:50 ID:ssd8t6ZI
(ああ)

(この館に供給されているガスや電気がどこから来ているのか、それを調べてみるのも面白いかもしれないわね)

しかし、今は休息を取ることが全てだ。
それでは皆様、おやすみなさい。
良い夢を。

【05番 石原麗子 状態:左鎖骨・肩にかけて打撲、骨折。左肩に銃撃(銃弾は取り出し、傷口を焼いた)。出来る限りの処置はほどこした。
    所持品:鉄パイプ、ベレッタ(残弾7発)、アイスピックの針】
【南の携帯食料一式を含む支給品+七海の金槌、鋸、その他使えそうなものは全て寝室に移動させられている】
【時刻 二日目・午前10時ごろ】
132 ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 02:55 ID:ssd8t6ZI
すいません、>>128の最初の四行が、>>127の最後の四行と被ってしまいました。
まとめサイトの管理人様、サイトに載せていただく際には>>128の最初の四行、
>無理矢理塞いだ傷口に清潔な包帯を巻き、添え木を括り直す。
>骨は折れているようだが、砕けてしまって完全に使えないというほどでもない。
>とはいえ、当分まともに動かせるとは思わないが。

>(まあ、ベレッタの弾が残っている間は、右手だけでもまだなんとかなりそうね)
を削除して掲載してくださいませ。

申し訳ありませんでした。
133親友の語らい:04/05/23 03:32 ID:SW3EKwwp
人気のない一つの民家に動く影二つ。
洋服を脱いで、下着姿になった皐月が、智代に背中を向けて座る。
「アイタタタ、智代、もうちっと優しく」
「我慢しろ。女の子だろ?」
「ちょっと使い方間違ってるよ」
タンスを漁り、ようやく見つけた手頃なテープをクルクルと巻いていく智代。
「まったく。この島にきて二度目だぞ。私の友人は怪我するような無茶な奴ばっかりだ」
皐月にはよく分からないが、かなり手際が良い。
当て木代わりに――腰痛の人が使う腰当か何かだろうか――を手頃な大きさに切って添え、
その上から正確にテーピングしていく。
「へへ。誉めないでよ」
「誉めてないぞ。……すまなかった」
「え?何が?」
「その、私のせいだ。私がもっとしっかりしていれば……」
「たまたまだよ。たまたま。それに、私も智代のお陰で助かったし」
カンラカンラと皐月が笑う。
「すまないと思うなら、笑ってよ。そして――戻った時には何かおごって。おいしいものをさ」
「ん、そうだな。何がいいんだ?」
「シェ・オガワ」
「高級フレンチじゃないか」
「大丈夫。あそこにはきちんと友人枠があるから。予約なしでも入れるし」
「そうではなくて、金がないんだ」
「ん。宗一が出してくれるよ」
「それでは私がおごってないぞ」
「あ、そうか。……ま、宗一にってのは冗談だけどね。でも機会作って一緒に食べにいきたいね」
本当に冗談か?などと疑問が浮かぶが、宗一という名前に思い当たってふと手を止める。
智代は気付いてなかったが、先ほどまでの皐月に対する辛い、後ろめたい思いはいつの間にか心から消え去っていた。
「あれ、手当て終わった?」
「いや。それより、宗一という奴は知り合いなのか?」
「ん。ま、ちょっとね。ウチのダメ亭主」
「ちょっとじゃないじゃないか。というか、こいつか?」
宗一の顔写真を皐月の前へと持ってくる。
134親友の語らい:04/05/23 03:33 ID:SW3EKwwp
「お、やるねぇ。宗一ってぱ有名人じゃん。どしたのこれ?」
「さっきのように顔写真をプリントアウトしたんだ。その――知ってるとは思うが……」
「世界一のエージェント、NASTYBOYだからねぇ。最近影が薄くてヘコんでるけど」
「影が薄い?」
「んー、リサさんとか、表舞台に立ってない凄腕の人達がどどーんと登場してさ。
 それに顔知られすぎてるから、最近仕事もあーんま回ってこないし。ヘコんでるっちゃヘコんでる」
「そうなのか。顔が知られすぎてるってのもいいことばかりじゃないんだな」
「評価と実用度は別物って感じでさ」

智代は、宗一の写真をプリントアウトした時の考えと、その経緯を皐月へと話す。
「そうだね。絶対頼りになると思うし、私も宗一に会いたい。
 宗一がもし、いなくなっちゃうことがあっても、そばで見てたい。力になりたい。
 どうなったか分からないなんてイヤだからね」
そこには確かな意思の強さがあった。
「だったら、宗一を探すのか?」
「ん、そうだねー。だけど、今は自分にできることからやってく方がいいかな。
 どんなに会いたくてもどこにいるか分かんないし。真相に近づけば近づく程、そこは宗一に近い場所な気するし」
「――真相か。それはどこにあるんだろうな。気になるのは篁の目的と、
 そしてこのような手段をとった理由だな。あとは……」
「それに、どうみても人間じゃない格好の人がいたり、知らない動物がいたりするよね。トンヌラとかさ」
民家の入り口付近中心に哨戒している主(ムティカパ)の事を思う。
「どこから来たんだろう。そして、ここはどこなんだろうとかさ」
「日本じゃない――と思うけど、外国とか?」
「今のご時世、どの島だって世界の監視下だよ。こんなことしてたら警察がだだーっと押し寄せてきて
 篁なんて簡単に捕まっちゃう」
簡単に捕まるようなタマとは思えないが、平穏無事にこんなゲームを続けられるとは思えない。
世界を震撼させるような大事件だ。発見が遅れたとしても、そろそろ大挙して押し寄せてきてもいい頃合だ。
皐月がない頭を絞って考える――といっても考えるのが苦手なだけで、まるっきり馬鹿というわけではない。
「夢オチとか!」
湯浅皐月、それなりに馬鹿。智代ははぁ、と大きく溜息をついた。
135親友の語らい:04/05/23 03:34 ID:SW3EKwwp
「でも、実際夢みたいな話だよ」
「悪夢だけどな。そうだな……考えられるのは政府とかに口止め――つまりグルとか」
考えられない話ではない。篁の力を持ってすれば、無理な話ではない。
「だが、世論は黙ってないだろうしな。……知られなければ一緒か」
「あとは、ここが地球じゃないとかね」
「……それもまた突拍子もない話だな」
「ここ、電波とかあるかな?」
「携帯電話は最初に取り上げられてたし、あるかもしれないな。
 学校ではインターネットには繋がらなかったな。用意周到だとは思ったが……」
「電話とかは、ある?そして、繋がってる?」
「そんないっぺんに聞かれても困るぞ。……なかったと思う。
 考えてみれば、あまりに出来すぎてるな。原住民は一人もいないし。彼らはどこへ行ったんだろう?」
「元々住んでなかったりしてね。生活感も場所によってはあったりなかったりで微妙だし」
二人、一生懸命に頭を巡らす。その間も智代のテーピングを施す手は止まらない。
「作られた施設ってことか?……ありえない話ではないが」
「この島自体、作られたものだったり」
「さすがに島は人工物には見えないぞ。……でも、どうも引っかかるな」
「さすが悪の総帥、やることが派手だねー」
「そもそも、篁って何者なんだ?」
「天下の篁財閥の総帥だよ。――宗一が倒したはずだったんだけど。……そういえば」
「……何だ?」
「宗一からのまた聞きだけど。篁の血は――赤くなかった」
皐月の声が細くなる。
「……。ホラーだな」
ぞっとしない。智代は一回身をブルッと震わせる。最初に見た、あのまとわりつく蛇のような目つきが思い出される。
136親友の語らい:04/05/23 03:35 ID:SW3EKwwp
「ゾンビなのか?それとも死んでなかったのか」
「メガフロート――っていう人工的な海上要塞があったんだけど、それと一緒に沈んでたし」
「やっぱゾンビか」
「人じゃなくてもゾンビになるかな?」
「やめてくれ。縁起でもない」
「でも、実際人じゃなさそうな人達が一杯いるし。世の中は知らないことがいっぱいだね」
「……彼らに聞けば一番手っ取り早いんだろうけどな。どこから来たか」
「もし、地球ではないと言われたなら?」
「……仮に、そう言われて、それが本当だとしたら……私達はとんでもない所にいるんじゃないだろうか。
 そして、とんでもない事に巻き込まれてる」
というか、こんな殺し合いの時点でどの道とんでもない。
「トンヌラに聞いて――も分かるわけないか。でも、もしそんなことがあるとしたら、とんでもない科学力だね」
「そんな進んだ科学聞いたことないぞ」
「篁だから隠してるとか。でも篁なら変な力を持っててもおかしくないなぁ」
「変な力?何でそんなこと思うんだ?」
「悪だから」
「……」
突っ込みに困る。
「第一おかしいじゃん。爆弾なんていつ埋め込まれたんだろ。傷痕もなーんにもないんだよ?」
手当ての為、完全に下着姿になっていた皐月は、自分の素肌を見回す。言葉通り、それらしい傷痕はない。
「胃袋の中とかか?飲み込むだけなら傷痕も残らないが」
「ウ○チで出ちゃうよ」
「とても下品だぞ。問題発言だ。夢を壊すな」
何の夢だ。皐月はあえて突っ込まないことにする。
「爆弾自体ウソだったり」
「どうだかな。爆弾が本当にあるかどうか、分かる人に聞くまでは何とも言えないな」
「分かる人って何?」
「埋め込んだ証拠知ってる人とか、実際爆発した人を見たとか、爆弾を利用した武器持ってる人だとか、
 篁の部下で裏切り者が教えてくれるとか、いくつかあるが……。今の所確かめる術はないな」
「確かめないと乗り込めないね。どんなに追い詰めてもスイッチ一つでポチッとなでBOM!は嫌だし」
「それはそうだが……」
137親友の語らい:04/05/23 03:36 ID:SW3EKwwp
「それに爆弾だけじゃないよ。……優勝者にはどんな願いも叶えられるとかさ。
 お金だけじゃできないこととか一杯あるし」
「どんな願いでもか。人じゃ無理だろうな」
「ゾンビでも無理だよ」
「普通に考えたらウソなんだろうな」
「もし本当だったら……」
「そんなことできるような存在は――神様くらいしか知らないぞ」
「篁だったら邪神だね。悪だし。それに結界ってなんだろ?電波とかプロクシとか云々言ってたけど」
「……ふう。結局、もしも〜だったら、でしか語れないな。今の状態だと。
 やっぱり、同志探しが一番の近道かもな。何か掴んでるかもしれない。……よし、手当ては終わったぞ」
ポンと軽く背中を叩く。皐月がもそもそと衣服を身に着ける。下は相変わらずスースーしていた。
「えっと、下も、服かなんかないかな?」
「服か。えっと……こんなのでいいか?」
「ん、それでいいよ」
「腕の具合はどうだ?」
「ちょっと痛むし、激しい運動は厳しいかもだけど、とりあえず普通にしてる分には問題ないかな?
 とっても助かった。器用だよね」
「ありがとう。さて。これからどうしようか」
「とりあえずご飯にしない?トンヌラも呼んでさ。私が腕ふるって作るよ」
「いや、私が作ろう。皐月は腕を酷使するのはやめた方がいい。安心しろ。こうみえても料理は得意な方だ」
「残念だなぁ。ま、智代とならこの先幾らでも機会があるよね」
「……うん、そうだな」
二人、笑いあう。それはどこから見てももう十年来の親友のようで微笑ましい光景だった。
「この民家に何かあったかな?無ければ探さなければならないが……ではなく、これからどうするかってのは
 この先の行動指針のことだ。まぁ、ご飯は食べた方がいいが」
「腹が減ってはいくさはできぬ、だしね。食料探しと武器探し、情報集めと仲間探し、そして敵の重要地点探しだね」
「要は徘徊か。アテもなく歩くのは危険だが、黙って隠れてるだけでは何も解決しないしな」
138親友の語らい:04/05/23 03:37 ID:SW3EKwwp
真新しいセーラー服に身を包んだ皐月がクルっと一回転する。ふわりとスカートが風に舞った。
「うん、イイ感じ。腕もそんなに痛まないし。休んだら体力も結構回復したし。
 無茶すればまたメイ=ストームもできそう」
「だから無茶はするな」

結局、民家の中には食べられそうなものはなかった。
この島に用意されてる食料はそれほど多くはないらしい。
いつか、こんな状態がずっと続けば、飢えて死ぬ者とかも出てくるのだろうか。
まぁ、人間10日くらいは水だけでも結構生きていけるもんだが。

哨戒していた主を呼び寄せ、頭を撫でてやる。
「また二人で乗っていい?」
主は皐月の忠実なる従者だった。二つ返事で了解する――ように見えた。
獣だから仕方がない。だが、嫌がる様子はまったくない。
二人が乗ると、主は風をきって走る。二人と一匹、どこまでも行けそうな予感がした。
「誰かと接触する時はどうやって接触するー?」
皐月の声が後ろへと飛ばされる。開いた口になだれ込む空気が妙に心地よい。
「全部とまでは言わないが、頭の中に信頼できそうな人物は叩きこんである。任せろ」
背後から智代の声。風に流されるそれは、どこか耳に遠い。
「もし見込み違いだったらー?」
「生き抜く為に、必要ならば闘おう。私達は、一人一人はちっぽけな存在かもしれないが」
「そうだねー。力を合わせれば、どんな力だって大きくなるよ!」
怪我をした皐月にも遠慮のないそのセリフが皐月自身には妙に嬉しい。
自分達は誰よりも強大な敵に立ち向かおうというのだ。
ちょっとした怪我くらいで、たしなめられたら一緒になんていられない。
互いに笑いあう。そんな時間もつかの間。

「あれ――何?」
死体だ。二つある。男性と女性の死体だった。二人、重なり合うように倒れている。
「う……」
「ひどいな、これは」
139親友の語らい:04/05/23 03:38 ID:SW3EKwwp
恋人だったのだろうか。女性は喉元を切り裂かれて絶命していたが、
とても大切なものをしまいこむかのように、男性の亡骸に寄り添って。
男の方は、腹部を切り裂かれていた。臓物が腹から飛び出している。
それでも、その女性を守るかのように大事そうに抱きかかえている。
それはとても悲しい光景だった。智代が近づいて、手を合わせる。
「弔いくらいしていこうか。……。まだ結構温かいぞ」
「まだそんな遠くない場所に……犯人がまだいるってことだよね。トンヌラ、どっち行ったか分かる?」
主が二人の血の匂いを嗅ぐようにして、それから前方へと視線を向けた。
「……そっちの方角か?……とても信用できるとは思えない相手だな。
 このコは素早く動けるから、逃げるのはそこそこだが、今の私達はまだ丸腰だ。
 それに、もし銃などを持っていて、狙撃されたらよけられないかもしれない。
 だけど、このまま放置するのか?顔くらいは確認しておきたい気もするし。
 それだけでも今後そいつに対する注意が促せる。だが、接触するという行為自体が既にとても危険だ。
 明らかに危険な時は、安全第一なのは分かってはいるが……」
もしもまだすぐ近くにいたら。
その可能性を考え、物陰へと移動しつつ、言葉を並べ立てて逡巡する。

「……なんか、私達の行こうとする先って死地の近い場所ばっかりだね」
「不吉なことを言うな」

さて、追うや追わざるや。


【095 湯浅皐月 左肩骨折、応急手当済み 体力は回復 所持品 セーラー服 主 騎乗中】
【038 坂上智代 所持品 眼鏡 朋也、宗一、芳野の写真 主 騎乗中】
【主 お腹一杯食べてから半日 まだ平気】
【現時間は正午ごろ】
【発見した死体は冬弥と雪緒】
140無尽君 ◆JmtStMCL6c :04/05/23 04:15 ID:yIc3TNzF
永遠

幸せだった。
それが日常である事を私は、ときどき忘れてしまうほどだった。
そして、ふと感謝する。
ありがとう、と。
こんな幸せな日常に。
似顔絵書きにつき合わされ、その破滅的な肖像画を見てため息を吐くことだって、それは幸せの小さな欠片だった。
永遠に続くと思ってた。
ずっと私はモデルになっていられると思ってた。
幸せの欠片を求めていた。
でも壊れるのは一瞬だった。
永遠なんて、無かったんだ。
知らなかった。
そんな、悲しい事を私は知らなかった。
知らなかったんだ…

幸せな日常。
…壊れる事の無い日常。
…日常は何処まで行っても日常で。
…それが幸せで。
……。
…でも。
日常が壊れる事に気付いて。
永遠なんて無い事に気付いて。
絶望して。
…でも、諦める事が出来なくて。
…無いはずの永遠を求めて。
141無尽君 ◆JmtStMCL6c :04/05/23 04:16 ID:yIc3TNzF
……。
…そして。
……。
…私はあの子を拒絶していた。
…戻る事なんて無いと思っていた幸せ…
…でも…
…あの子の彼氏に叱られて…
…またあの子を受け入れられるようになって…
…奇跡が起こった。

…また私はこんな所にいる。
違う。
もう私は知ってるんだ。
だから悲しいんだ。

こんな悲しい事が待っている事を、私は忘れて生きていた。
ずっと、栞と一緒に居られると信じていた。
ずっと、栞が私の事を、お姉ちゃんと呼んで、
そしてずっと、あのストールを着けていてくれると思っていた。
もう栞の笑顔を見て、幸せな気持ちになれることなんて無くなってしまったんだ。
全ては、失われてゆくものなんだ。
そして失ったとき、こんなにも悲しい思いをする。
それはまるで、悲しみに向かって生きているみたいだ。
悲しみに向かって生きているのなら、この場所に留まっていたい。
ずっと、栞と一緒にいた場所にいたい。
「えうーっ。」
「どうしたの、栞。」
「祐一さんが、私の事をいじめるんですー。」
「まったく、しょうがないわね、あなた達は。」
142無尽君 ◆JmtStMCL6c :04/05/23 04:18 ID:yIc3TNzF
私は、そんな幸せだった時にずっといたい。
それだけだったのよ…。

あれから、私は狂ってしまった。
ありえない妄想を糧にして、生きているようだった。
私は眠る事も忘れて、他の参加者に襲い掛かっていた。
でも、それでも、私の心から悲しみが消えることは無かった。
どれだけ狂えば人は悲しみを感じなくなるのだろう。不思議だった。
「泣いてるのか…?」
そしてその中で、最初に見つけた知り合いが彼だった。
血まみれの、すすまみれの、変わり果てた姿…。
泣く私の前には、彼がいた。
「いつになったら、美坂の毒舌が聞けるんだろうな。」
蹲って泣き伏す私を見ながら、話し掛けてくる。
私は声を出せなかった。出したとしても、嗚咽を漏らしただけだった。
もう空っぽの存在。亡骸だった。
それにもかかわらず、彼はそこに居続けた。
いったい、彼が何を待っているのか、私にはわからなかった。
「…貴方は何を待っているの。」
はじめて、私は話し掛けた。
「美坂が泣き止むのを。お前の毒舌が聞きたいから。」
「私は泣き止まないわ。ずっと泣き続けて、死ぬのよ。」
「どうしてだ…?」
「悲しい事があったのよ…」
「…ずっと続くと思ってたのよ。楽しい日々が。」
「でも、永遠なんて無かったのよ。」
そんな思いが、言葉で伝わるとは思わなかった。
でも、彼は言った。
「永遠はあるぜ。」
143無尽君 ◆JmtStMCL6c :04/05/23 04:20 ID:yIc3TNzF
そして私の両頬は、その男の子の手の中にあった。
「ずっと、俺が一緒に居てやるよ、これからは。」
言って、ちょんと私の唇に、その男の子は唇を重ねた。

…何かが、違うと感じた。
このまま流されてはいけないと、そう思った。
そして、その違和感の正体に気付いた。

「駄目よ…」
「え?」
「駄目よ。北川君と一緒に行くわけにはいかない。」
「何でだ?」
「私は安易にこの世界から逃げ出してはいけないの。」
「滅びに向かって進んでいるのにか?」
「それでもよ。だって…」
「だって?」
「それは、死んでいったあの子への侮辱になるじゃない。」

「良かった。」
「え?」
「それでこそ美坂だ。」
「俺は、美坂の強さに惹かれていたんだ。」
「どんな時でもクールに毒舌を振りまく、そんな美坂が好きだったんだ。」
「勝手な押し付けね。」
「そうかもしれない。」
「でも、美坂にはそうあって欲しいんだ。」
「ずうずうしいわね。」
「北川君なんかに言われなくても、そのつもりよ。」
「それでこそ、俺の惚れた美坂だ。」
144無尽君 ◆JmtStMCL6c :04/05/23 04:21 ID:yIc3TNzF

目の前が、だんだんと白んでくる。
「そろそろ時間みたいだな。」
北川君の輪郭がおぼろげになって、小さな光へと収束していく。
「死ぬまでとは言わないけどさ。」
やがてその姿は識別できなくなって、一つの光の塊になる。
「せめて、相沢より長くまでは覚えててくれよな。」
そして、その光もだんだんとかすんでいって…
「じゃあな。美坂。」
ふっと、消えた。


「…イ、オ嬢チャン、ダイジョウブかイ?」
日本人で無いと、一目でわかる声が掛けられている。どうやら私を心配しているらしい。
だったら、ちゃんと返事を返さなければ。
「ええ、大丈夫よ。」
「!?…ホントにダイジョウブかイ?何カブツブツと言っテたみたいだケど…」
「ええ。」

「言葉通りよ。」

【010 エディ 所持品:盗聴器 尖った木の枝数本 ワルサーPP/PPK(残弾4発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ、果物ナイフ】
【087 美坂香里 所持品:なし】
【072 広瀬真希 所持品:『超』『魁』ライター バッグ 食料と水多めに所持】
【香里 正気に戻る】
145名無しさんだよもん:04/05/23 04:42 ID:7DP+4Gmv
「時よ止まれ、お前は美しい」

スクール水着。
ナイロン80%、ポリウレタン20%。濃紺。
使用上の注意:手洗い30℃、塩素サラシ不可アイロン不可ドライ不可陰干し。

(…これって、すっごい体勢よね…)

まず両脚を肩幅に開き、そのまま腰を下ろす。
やや前屈気味の姿勢。
右腕はスカートが地面に擦れないように抱え、右手は股間の布地をホールド。
表情は始め緊張、後弛緩。ふぅ。

こうして高倉みどり(53番)は、朝の排水作業を無事に…終えられなかった。
右手で布地を引っ張り伸ばしたまま、見事に固まっている。

(…無い…)

神が。もとい紙が。
ある意味、神もいなかった。
女性であることの業か、彼女には圧倒的に経験が足りなかった。
屋外での排泄行為に際して、絶対に必要な事前準備というものを、不幸にして
(或いは幸いなことに)温室育ちの彼女は知らなかったのである。
私、初めてなんです。優しくしてください。
146名無しさんだよもん:04/05/23 04:43 ID:7DP+4Gmv
現状を打開しよう。
唯一、自由になるのは左手。
そして、この背の高い草に囲まれた藪の陰において、左腕の稼動範囲に
そう多くの選択肢が用意されているはずもなく。

(…あり得ない、わよね…?)

草。草。草。
丈の長いスカート。
今にも縮みたがっている、肌に食い込む紺色の布地。
長時間の耐久任務に向いていない両腿はこの不自然な姿勢に対して、ふるふると震えて
限界が近いことを訴えている。
迷っていられる時間は、長くなかった。
草。草。草。

(…とがってるのは論外として…、葉っぱの丸くて大きめな、柔らかそうなのじゃないと…)

すでに葉っぱで拭くのは肯定していた。
見渡せば、なんと都合の良い色艶かたちの草の葉が、ここにもそこにもあちらにも。
紙は、もとい神はいるのかもしれない。多い日でも超安心。
しかし、ああ、なんという試練か、お嬢様はまたしても御存じなかった。
葉っぱも新聞紙も、きちんと揉み解さなければ、待つのは哀しみだけだということを。
及第点にはまだ遠い。

どうにか片手で摘み取った、大地と太陽の恵みがその手に一枚。
ゆっくりと、ゆっくりと近づけて、そっと撫でるように…。
147名無しさんだよもん:04/05/23 04:44 ID:7DP+4Gmv

「―――ひぁっ!」

とんでもない声が出た。
周囲には殺人鬼が徘徊しているかもしれないというのに豪気な話だったが、
あいにくとお嬢様はそれどころではなかった。

(…ちょ、や、いまの、すご…って何考えてるの私!? アタマおかしいんじゃないの、
こんな状況で…ってやだ、手が、勝手にまた…んっ…!)

性に免疫の少ないお嬢様の理性は、口ほどにもない軟弱モノだった。
快楽を求める本能と熾烈なバトルを繰り広げることもなくあっさりと白旗を揚げていた。

「くぅ…っ、ぁん…ふ、ん…ぃあ…っ!」

嘆かわしいことに、このお嬢様は家中秘伝の房中術を仕込まれていることはなかったし、
殿方を悦ばせる花嫁修業の単位も履修していなかった。
男遊びに精を出すこともなかったし、ご学友の方々は総じてそういう方面の話題には疎かった。
だから彼女は疑問も持たず、自分の作った水溜りにスカートが濡れるのも気にせずに没頭している。

いくらキツめの布がイイ感じで微妙な部分に擦れているからといって、そこらの草の葉でコスって
達するわけがないのに。

スクール水着。
ナイロン80%、ポリウレタン20%。濃紺。
使用上の注意:手洗い30℃、塩素サラシ不可アイロン不可ドライ不可陰干し。
女性尋問用拘束肌着。効能:性衝動異常促進。made in china。


【053 高倉みどり 媚薬スク水(着用) 白うさぎの絵皿 ライター】
【ぐったり。時刻は午前9時前後】
148名無しさんだよもん:04/05/23 05:25 ID:t20p22PT
松浦亮は混乱の中にいた

同行者・神岸あかりを覗き込むように佇む人影
一目見れば分かる、小柄で何処にでも居そうな普通の少女だった
これが厳つい大男だったなら即座に思考を切り替え、然るべき行動を取っただろう
だが目の前に居る少女は余りにも頼りなく
悪意であるとか、危険であるとか、負のイメージを連想出来ない

今朝、彼はとある悲しい事実を知った
その事を全く理解も整理出来ていない、どこかボンヤリとした頭でも
新たな情報は遠慮なく押し寄せる

自分達の拠点に見知らぬ人間
小柄な少女
筆記用具を手にしている
起きているはずの神岸あかりは黙っている
一対の黄色いリボン
警鐘を鳴らすべきなのか、そうでは無いのか

それでも、体は動いた
缶詰を取り落とし自由になった手は武器を掴み
「……何を、している」

シンと静まる室内に声が投げ込まれた
何も状況は変わらなかった

相変わらず神岸あかりは動こうとしない
侵入者の少女は佇んだまま
松浦亮は働かない頭のまま武器を構えてる
三人とも微動だにしないまま時間だけが流れる
映画監督がメガホン片手にカットカットと怒鳴りながら現れそうな状況だ
しかし、鳴り響いたのはカチンコの音では無く一つの銃声だった
149名無しさんだよもん:04/05/23 05:26 ID:t20p22PT
待ちに待った好機、安全に睡眠を取ったし食料も確保した、頃合だろう
一番の障害と成り得るであろう男は無防備な背中を晒し続けている
勿論危険が無い訳で無く、むしろ無謀とも言えるかもしれない
でも、何の偶然か分からないが部屋には三人弾は三発
今しかない、根拠の無い予感に後押しされ彼女は決断した
やるのは今だ、場所はここだ

まだ松浦亮が事態を把握しようと必死になってる間
杜若きよみは虎の子の残弾を装填していた
もう何度繰り返したか分からない
二人が寝静まった後、食料探しの為一旦別れた後
空白の時間は全て銃を扱う事に注いだ
手順は完璧、流れるような動作で弾を込め続ける

「……何を、している」
最後の弾を込めると同時に声
焦って引き金を引いてしまいそうだった
しかし、三人はそのまま固まってしまっている
杜若きよみは時間が止まった世界の中を動いてるように錯覚した

まずは男から、実際問題武器を手にしているし距離も一番近い
触れるにつれて愛着すら沸いて来た自身の相棒
世界中の誰よりも上手に使いこなせる、外す訳が無い
もう殺すと決めた以上、何の感慨も浮かばない
100発100中、必殺の一撃が放たれた
150名無しさんだよもん:04/05/23 05:27 ID:t20p22PT
砕いたのは部屋の隅に置いてある花瓶
杜若きよみは我が目を疑い、その場で固まった
あんなに慣れ親しんだ銃が、この距離から放った銃撃が外れる訳が無い
先ほどは事態を把握出来ずにただ立ち尽くす男を見て
『なんて迂闊な奴なんだろう』と心の中でバカにしていた
しかし、自分の許容出来る範囲の物事を突きつけられてしまうと
体が金縛りにあってしまう、その事を身を持って知った

花瓶が破砕音を響かせる事が引き金になったか、室内の時間が動き出した
松浦亮は半ば無意識状態で背後に反撃
心の奥へ追いやられていた杜若きよみへの警戒が緊急浮上してきた
しかし、狙いもしないで放ったギアが体を捕らえる事も無く
壁に突き刺さりギャリギャリギャリと不愉快な音を発する

部屋には三人、弾は二発、ギャリギャリギャリ
例えようの無い喪失感が杜若きよみを現実に引き戻す
あかりの枕元には全員殺しても余裕でお釣りが来る程の弾が転がっていたが
外す訳の無い必殺必中の一撃を外した今
慣れ親しんだ相棒に裏切られた今
部屋には三人、弾は二発、ギャリギャリギャリ
彼女は逃げだした、部屋に三人居るのに弾は二発しか無いのだから
フッと糸が切れたように幼い侵入者が崩れ落ちるのを視界の端に捕らえながら
彼女は走り去って行った

【024 神岸あかり 木彫りの熊 きよみの銃の予備弾丸6発 恐慌状態で動けず】
【047 春原芽衣 筆記用具 意識を失う】
【084 松浦亮 修二のエゴのレプリカ】
【017 杜若きよみ 改造銃 残弾2 全て装填済み 殺害に失敗し逃亡】
151「脱出の役得」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/23 06:05 ID:MPxeqaED
「逃げようか」
 少年が呟いた。
「え? え? どうしてですか?」
「今、入っていった男の人……たぶん、彼はこのゲームに乗っている」
 でなければ、わざわざドアを避けて、窓から侵入したりしないだろう。
 ドアになにかがあると思うのなら、逃げればいい。相手は殺人者なのだから。
 それでもなおかつ中に入るというのは……同じ殺人者と見ていい。それも狂的な。
「そんな人が、お隣さんだなんてごめんだからね。うっかり回覧板も回せない」
 軽いジョークを飛ばしてみたが、あさひは笑ってくれなかった。
「で、でも、それじゃ、さっきの子は……」
「……どうだろう」
 彼が侵入してから数分経った、が、特に騒ぎは起こっていない。
 あの物騒なライフルを撃つ暇がなかったのか、必要もなく殺したのか。
 あるいは殺人者同士で意気投合でもしたか。
 本当はいい人達で、仲良く談笑している――というのは、厳しいところだ。
 両者共に、危険な感じがする。行動が冷静すぎるのだ。
「僕も人のことは言えないか」
「え?」
「いや……」 
 自分みたいな壊れた人間が、そうそういるとは思えない。
「あのっ、あの……でも、でも、もしかしたら、まだ無事かも知れないし、できれば、助けて……」
 うん。そう来ると思った。
152「脱出の役得」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/23 06:08 ID:MPxeqaED
「だめ」
「で、ででで、でもっ」
「もう遅いよ。彼が殺す気なら、全部終わっている。あんな銃を持っているんだし」
 嘘だった。頭の中にはいくつもの可能性が渦巻いている。
 ただ単に、リスクを減らしたいだけだ。死にたくないと言うよりは、殺したくない。あさひを。
「急いだ方がいい。あの家が終わったら、たぶん、ここに来る」
「でもっ、助けられるかもしれない人をほうっといていくのは、あの、あたし……」
 優しさというのは美徳だと思う。だけどそれが通用するのは、平和な世界だけだ。
「死ぬよ」
「へ?」
「かなりの確率で、君も僕も死ぬ。それでもよければ、つき合うけど?」
 心中みたいでそれもいいかな。と、少しだけ思うけど。
 あさひは、自分のためにはほとんど動かない。アイドルなんてサービス業をやっているせいだろうか。
 だから、自分の命を天秤に載せてみた。  
 少しうぬぼれてるかな。それなりに、好意に近いものは得ていると思うんだけど。
 案の定、あさひは迷い始める。迷うけど……結論が出ない。やっぱり。
「僕はね、こんなばかげたゲームの中で、あさひちゃんに会えたって言うのは、数少ない幸運な出来事だと思うんだ。
 出会って一日経ったかどうかだけど、君のことは気に入ってる。だから、君の死体は見たくない」
 全部、素直な気持ちだ。ただ、それが一番効果的だということくらいは計算していた。
 ――だけどこんなセリフ、郁未に聞かれたらどんな顔をされることか。 
 たぶん、はぁ? なに、その歯の浮くセリフは、とでも言いながら、胡散臭い目つきで見るだろう。
 あさひの場合は正反対に、赤くなりながらしどろもどろし始める。
 小動物を愛でるような気持ちに襲われながら、とどめを刺す。
「きみは、僕の死体が見たい?」
 うつむいていたあさひの顔が、驚愕に跳ね上がった。
153「脱出の役得」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/23 06:11 ID:MPxeqaED
「そっ、そんなこと……」
「じゃあ、逃げよう。いやだって言うなら、僕は君を気絶させてでも、君を連れて逃げる」
 ……まいったな。自分はいつの間にこんな熱血人間になってしまったのか。
 大誤算だ。もっといいかげんな自分だと思っていたのに。
 いや、いいかげんだから、他人のためにリスクを背負うのかな。
 自分だけなら、いつ死んでもあまり気にならないんだけど。
 それとも、本気で好きになったのかな? 
 ちょっとコミュニケーションの経験が少ないから、よく分からない。
「わかり、ました……」
 なんてことを考えているうちに、あさひは頷いた。
「じゃあ、荷物をまとめて……あるから、もう少しだけ食料を余分に持って、すぐに出よう」
 本当は暗くなってからの方がいいけど、日没までには時間がありすぎる。
 日持ちのしそうなものを選んで、鞄の隙間に詰め込んだ。二人で三日分はあるだろう。それと、毛布。
「野宿するからね」
「の、野宿ですか?」
「住宅街は過ごしやすい。だから、その分人も集まってくる。彼らみたいにね」
「……は、はいっ」
 準備を終え、靴を履き、裏口のドアを開ける前に、手順を確認する。
「いい? 音を立てないように、ゆっくり静かに出て、死角に入ったら、森の中に駆け込もう。
 幸い、ここは住宅街の外れだし、森は遠くない。大丈夫、撃たれはしないよ」
「は、ははは、はいっ」
 口が滑った。余計にあさひが緊張し、足が震え始める。えーっと、こういう時は、あれだ。相殺しよう。
「あさひちゃん」
154「脱出の役得」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/23 06:13 ID:MPxeqaED
「は、はい?」
 軽く抱き寄せた。
「は? はわわわわっ!?」
「大丈夫。僕がついてるから」
 郁未がいたら、即座に殴り倒されていただろう。
 やっぱり、こういう状況だと、彼女の頼もしさが懐かしい。
 だけど今腕の中にあるのは、桜井あさひという人間の、柔らかい髪の感触と匂いだった。
 うん、役得ってやつ。
 朝とは逆に、あさひの髪を撫でて、落ち着かせる。
「落ち着いた?」
「い、いえ、あの、あんまり……」
 そりゃそうか。だけど、震えは止まっていた。
「走れる?」
「た、たぶん大丈夫だと、お、思います」
「よし、それじゃ出る前に三つ深呼吸して――」
 素直にすーはーと深呼吸するあさひ。
「行くよ」
 あさひの手をしっかりと握り、裏口のドアを細く開いた。

【桜井あさひ 少年 住宅の一つ、裏口から脱出。森へ向かう予定】
【少年の所持品 S&W M36(残り弾数5、予備の弾20)、
        腕時計、カセットウォークマン、食料三日分 二人分の毛布】
【桜井あさひの所持品 キーホルダー、双眼鏡、十徳ナイフ、ノートとペン、食料三日分、眼鏡、ハンカチ】
【二日目正午過ぎ】
155穴蔵の底:04/05/23 08:30 ID:n7Fv7C6u
「ふん、雌ギツネは虎穴に飛び込まぬか。いつの間にそこまで慎重になったか」
 ホールの地下にある巨大な空間。核、いや、地上のあらゆる兵器を持ってしても傷つけること叶わぬであろう
巨大なシェルターの中央に、その男は君臨していた。
 男の眼前にある物はいくつも並んだモニター。その下で一流の軍人たちがひしめいていた。篁の私設兵だ。
「被害状況は?」
 彼らの隊長である醍醐が一人の兵士に問う。
「人的被害は死亡者二名、重傷者五名、軽傷者四名。全て装備と共に回収完了しました。物的被害はホール一階東側部分破損に
 とどまり、地下部分に影響はありません。ですが……」
「だが、何だ?」
「このホールを丸ごと『ラストリゾート』で覆ったことで、思ったより電力を消費しました。再び最高出力で展開するには
 エネルギーが足りません。完全に復旧するにはおよそ丸一日掛かるかと……」
「正確な時間を言え」
「は、はい。完全復旧までは残り21時間19分です」
 その言葉に醍醐は舌打ちする。つまりこのホールはその間無防備になるということだ。もちろんこの地下ホールへの入り口は
厳重に隠してあるし、人一人簡単に消し炭に出来るレーザーディフェンスシステムをはじめトラップも万全、その上ここに集まって
いるのは一流の傭兵たち、純粋な戦闘力で島内の参加者たちに劣るとも思えぬが、それでも先程のようなことがないとは限らない。
「や、やはりこれだけの規模の展開は島内発電だけでは限度があり……」
 顔を歪めた醍醐に怯えたか、兵士は聞かれてもいないのに言い訳を口にする。
「もういい。持ち場に戻れ」
「は、はいっ」
 苛立たしげな醍醐の命令に彼は即座に従った。この男とて幾多の戦場で戦果を挙げた一流の兵のはずなのだが、「狂犬」醍醐の
前ではそれも霞むということか。
「たかだがクズ鉄が調子に乗りおって……!」
 毒づく醍醐。
 そして、そんな狂犬を忠実な番犬へと変貌させる男の声が響いた。その声は決して大きくはない。だがその声は聞くものの
心を捉える。まるで呪いのように、悪夢のように。
156穴蔵の底:04/05/23 08:32 ID:n7Fv7C6u
「よい、醍醐。先程のはなかなかに面白かった。クク……たかが機械がまるでヒトの様な振る舞いをするとは。
 宗一め、メスとあらばおかまいなしか」

 口ではそう言いながら、彼は笑っていない。醍醐の方に目を向けてもいない。
 その目はただ、眼光鋭くモニターに映る参加者たちを捉えている。

 篁はかつて目的のため、人々の「信仰の対象」となった物具を蒐集したことがあった。
 人の想いが込められた、人の祈りが込められたという、古今東西の神宝仏具。
 だが、それを彼はガラクタと切り捨てた。人の想いの結晶さえ、この老人を満足さしめなかった。
 そうして彼が次に求めた物は──人の想い、そのもの。

 ここは蟲毒だ。この島は彼を満たすためだけにこしらえられた毒の壷。人も、亜人も、機械も、彼のためだけに集められた贄。

 殺意、憎悪、献身、猜疑、信頼、色欲、惑乱、憤怒、贖罪、容赦、そして────愛情。

 人が持つさまざまな想い。人が、生と死との間で覗かせるその光を、彼はこの暗い穴から見ている。
 愛を醜悪と罵り、人の世の破壊を望む悪魔が地の底で笑っている。


【場所 ホール地下のシェルター】
【時刻 昼ごろ】
【ラストリゾート、三日目の午前九時ごろまで完全展開不可】
【ミルトと交戦した兵士たちは装備と共に回収済み、よってリサたちはその姿を見ていません。銃などの武器、手がかりも無し】
157かぜのこえ:04/05/23 08:48 ID:M66Gvsmn
 潮風の叫びが、岩場に響き渡る。
 咆哮の激しさに、すぐ隣にいる互いの声さえ吹き飛ばされてしまう。
「風が、強くなってきたね」 
「そうだな、地形のせいだろう」
 砂浜が岩場に変わり、小高くなっている。
 いくらか登ってきたが、この先は地形が更に複雑になっていた。

 光岡は足を止め、引き返そうと考えたが――そのとき、みさきが上を向いた。
「光岡さん、誰かいる?」
 誘われて見上げたそこに、先ほどの足跡の主と思われる少女がいた。
 複雑な地形に視界はしばしば遮蔽され、足音も風に紛れてしまっている。
「む。よくこの風の中で、分かるものだな」
「屋上の風で、慣れているんだよ」
 光岡には通じない理由だったが、降りてくる少女への対処が先である。
 二人は傍らの岩に半ば身を隠すようにして、謎の人物の出方を待つことにした。
 
 
 下で、声がした。振り向けば岩に隠れるようにして、男女の姿が認められる。
 間違いなく、見つかっているだろう。
 男は拳銃を持っているようだ。その気があれば、もう殺されていたのかもしれない。
 しのぶは再び岩場を上ろうかとも考えたが、相手が襲ってこないので、その考えを放棄した。
(幸運――だったのかしら?)
 岩場を降りながら、しのぶは今までの戦闘を振り返る。
 自分には、射撃センスがない。ここまで来ると、さすがに理解している。
(――もっと近付かなければ、あたしには当たらない)
 撃つつもりがない相手なら、こちらが距離を選べるということだ。
 せっかく相手が自分を受け入れてくれるのならば、その立場を利用してやろう。
 
 
158かぜのこえ:04/05/23 08:49 ID:M66Gvsmn
 女学生が、かなり近くまで降りてきた。 
 こちらに気付いたのだろう、警戒心を表情に滲ませながら、立っている。
 鞄で隠すようにしているが、拳銃を持っているようにも見えた。
「……みさき。刀を頼む」
 光岡は両手で銃をグリップするために、刀を渡した。
 銃を見せたほうが有利だろうと考えて、デザートイーグルの安全装置をはずす。
 その小さな操作音に反応し、みさきが尋ねる。
「銃を使うの?」
「そうならないように、祈っていてくれ」
 小さく頷く彼女を残して、光岡は岩陰から離れ、姿を晒すことにした。
「そこの娘。こちらは二人だ。俺は銃を持っているが、できれば撃ちたくない。そちらは、どうだ?」
 
 
 お人好しなのか、自信があるのか。
 日本軍の軍服のようなものを着ている男は、大きな拳銃を下げたまま、声をかけてきた。
(ここで撃てれば、簡単なんだけれどね……)
 自嘲しつつ、しのぶは答える。ここが我慢のしどころだ。
「こちらは、あたしだけ。できれば――撃たれたく、ないわ」
 当たり前だけど、と苦笑しながら付け加える。本心である。
「当たり前だな。いいだろう、こっちに来るがいい」
 うまくいった。
 あとは男のほうを撃てば、あたしの勝ち。
 刀の女のほうは、私物なのだろう、白い杖を使っている。どうやら目が見えていない。怖くない。
 しのぶは微笑を浮かべ、二人のほうへと向かった。
 
 
159かぜのこえ:04/05/23 08:51 ID:M66Gvsmn
 みさきは闇の中で、音だけを聴いている。
 風の声。光岡さんの声。
「俺の名は、光岡悟だ」
 続いて新しく加わる、女の子の声。
「あたしは榊しのぶ。よろしくね」
 よろしく。しのぶちゃんって言うんだね。
 彼女の、足音、足音、足音。光岡さんが言った通りの、規則正しい足音。
 そしてまた、光岡さんの声。
「彼女は――」
 手が伸びてくる。光岡さんが、私の移動を手助けしてくれる。
「――川名――」
 学校指定の革靴が放つ、硬い足音が止まる。斜め前。2mくらい離れてるかな。
 しのぶちゃん、ちょっと遠くない?
 違和感を感じると同時に、風音にカチリと小さな操作音が混じった。
(あれれ?)
 どこかで聴いた音。
 光岡さんに、刀を渡されたあとの、小さな音。
「――みさきだ」
 そうだ、この音は。銃を用意するときの音だ。
 光岡さんの手を振りほどき、私は叫んだ。
「撃たないで!」
 しのぶちゃんに言ったのか、光岡さんに言ったのか。自分でもどちらか分からない。
 いや、どちらでもよかった。
 杖を捨て、あてずっぽうで斜め前に一歩踏み出し、抜刀する。
「なにっ!?」
「えっ!?」
 驚愕、そして、静寂。
 
 
160かぜのこえ:04/05/23 08:53 ID:M66Gvsmn
 光岡自身も、しのぶの殺意に寸前で気がついてはいた。
 二人はほぼ同時に銃口を互いへ向けあおうとし、そして彼らの一瞬先を、みさきの刀が閃いていた。
「……互いに、残念な結果になったようだ」
 突然の、みさきの抜刀。
 銃を構えようとしていたしのぶの腕を押さえるように、刀は保持されていた。
 そして何者にも阻害されなかった光岡の銃は、しのぶの頭部に狙いが定められている。
 
 勝負あり、だった。
 しのぶが五分五分以上の勝負と思ったのは、一対一だと思ったからだ。二対一では、話が違う。
 敗因を噛み締め、悔しげに尋ねる。
「あなた……見えていたの?」
 返答する必要はない。そう判断した光岡は、みさきの発言を待たずに宣告した。
「銃を、捨てろ。さもなくば撃つ。この銃なら、どこに当たっても無事ではすまんぞ」
 だがそれは、見えていないと言うのも同然である。
 落ち着いて観察すると、切っ先に殺意も迫力もない。はったりだったのだ。
 しのぶは、すべてを理解し――それしか道がなかったとも言えるが――抜刀したままのみさきを巻き込むように突進した。
「はっ!」
「うわわっ」
 二人が岩場の高台を転がる。その先はなく、落ちれば海か、岩の上。
 しのぶは覚悟を決め、みさきは認識の及ばぬうちに、保持する地面を失った。
 ふわり、と浮遊感。
 潮風の咆哮がみさきに襲いかかる。風の中に埋没する。
 そうみさきが思ったとき、呼び声がした。
「みさき! 手を伸ばせ!」
「光岡さん!」
 
 どぼん

 幾千万の、風の声。
 遅れて、水音ひとつ。 
 そしてたったひとつの彼の声が、みさきを救い出した。
 
161かぜのこえ:04/05/23 08:55 ID:M66Gvsmn
【039榊しのぶ ブローニングM1910(残弾7)・ナイフ・米軍用レーション(10食分)・缶切3つ・12本綴りの紙マッチ3つ小型ガスコンロ】
【海へ転落、逃走。マッチが濡れるので注意してください】

【028 川名みさき 白い杖】
【089 光岡悟 日本刀 デザートイーグル(残弾3)】
【みさき宙ぶらりん】

【昼ごろ】
162名無しさんだよもん:04/05/23 13:48 ID:ouCWJr2H
「彰ちゃんのお友達、とってもいい人ね」
住宅街から少し離れた森の中で、梶原夕菜(21)は七瀬彰(66)に話し掛ける。
「うん、みんないい人だよ、あ、でも冬弥とはるかはすぐ僕をからかってさ…」
「それはきっとみんな、彰ちゃんのことが好きだからよ、好きでもない相手にそんなことしないよ」
「うん、わかってるんだけどね…」
小学校の時から一緒な冬弥とはるかをべた褒めするのは、少し気恥ずかしかった。

そんな冬弥の隣にいた人。
…須磨寺雪緒さん、か…
冬弥を好きになった人、冬弥が由綺以上に好きになった人。
何考えているのかよくわからない所もあるけど、いい子だと思う。

…冬弥に殴られた頬が痛んだ。
これは、冬弥の決意の分…須磨寺さんを好きな分だけの痛さだ。

あの二人は絶対に生きて帰ってほしい。
由綺の事とか、ちゃんとケリをつけて付き合ってほしかった。二人、とても似合いのカップルだった―――


「彰ちゃん?」
スッと、僕の顔の前に姉さんの顔が現れる。
「わっ!」
「ごめんなさい、驚かしちゃった?…ぼーっとしてたから、どうしたのかなって…」
「いや、大丈夫だよ、ちょっと考え事…かな」
「よかった。どこか痛くなったのかと思って…」
あ、余計な心配させてしまった…。何か、別の話題は…
「えっと、姉さんの知り合いは、那須宗一さんだけ?」
とっさに出た言葉がコレだった。言ってしまってから場が暗くなるかも、と思ったが
「うん、彰ちゃんはさっきの藤井さん、それとはるかちゃん…よね」
姉さんは普通に返してくれた。
163従弟。:04/05/23 13:50 ID:ouCWJr2H
「それとどうも従弟がいるみたいなんだ、長瀬祐介って言うんだけど」

最近は親戚同士の集まりもあんまり無く、久しく会ってなかったけど、僕が高校、祐介が中学くらいになるまでよく遊んでいた従弟だ。
「僕よりも、内気な性格で…けどいい奴だよ」
友達とか、いなかったみたいで…けっこう懐いてくれたと思う。僕も姉ばっかりで弟が欲しかったから、お兄さんぶってよく可愛がった。
「今高校生でさ、童顔な感じなんだ」
「へぇ…彰ちゃんに似てるの?」
「うん、結構ね」
「祐介くんか…お話聞くと会いたくなってきた」
「うん、会えるといいな…」

祐介は人殺しなんかする性格じゃなかった。
会わなかった時間、変わっているかもしれないけど…でも人殺しなんかしないで欲しい。
「じゃあ探す人は、はるかちゃんと祐介くんとそうちゃんだね」
「うん、冬弥にももう一度会えたらいいな」




―――彰は知らなかった。
七瀬彰の知っている長瀬祐介は、もう、いないことを―――

【66 七瀬彰  所持品 カッター】
【21 梶原夕菜 所持品 なし】
【住宅街から少し離れた森の中】
【河島はるか、長瀬祐介、那須宗一を捜索中】
164名無しさんだよもん:04/05/23 13:59 ID:ouCWJr2H
>>162
タイトル付け忘れしました『従弟。』です。
すみませんでした
165剥がれ落ちた世界:04/05/23 14:56 ID:vieBuhk0
驚いている場合ではない。
それをキッカケに俺の中の疑問が次々とあらわれる。いや、正確にいえば疑問が外から流れ込んでくるような感覚だった。
そう今年は2003年だったはずだ。何故そう思ったんだろう。一つ一つ順を追って確認していく
ええと。まず、初めて古河と坂の下であった日…
「それ以上思い出しちゃいけない。」
心の中でもう一人の俺が警告を告げる。だが、考えずにはいられなかった。

そして――
あれ?
…ない、確実に思い出せることがない。
渚が熱を出して倒れたのはいつだったか?
渚?俺は古河のことを渚と呼んでいたのか?
呼んでいたとしたら、一体いつから渚と呼ぶようになったんだ?
そもそも、俺は杏と付き合っていたはずで――
春原と一緒に卒業式をふけたのはいつのことだった?
いや?卒業式?俺はまだ3年生だ、卒業なんかしていない。
待て!俺は本当に学生だったか?
芳野と初めて会ったのはいつだった?
芳野さんは尊敬できる職場の先輩だったはずだ。
職場――俺は学生だぞ、いつからバイトなんて始めたんだ?
いや、バイトではなかったはずだ。
仕事を終えて家に帰ると誰かが待っていてくれたはず。
「パパ……だいすき…」
そう言ったのは誰だっただろう?
なぜか、涙が溢れて…止めることができなかった。
166剥がれ落ちた世界:04/05/23 14:57 ID:vieBuhk0
思考が飛ぶ
ワケガワカラナイ
ココはどこなんだ
今はいつなんだ
いや、そんなことよりも
――僕は誰なんだ
訳もなく、涙があふれ出る。
今思い出したことは全部事実だ、だが、全部嘘でもある。
そんな気がした。
ふと、一人の少女の顔が思い浮かぶ。
誰もいない、もの悲しい世界。
一面、白い世界。
終わり続ける世界にたった一人でいる少女。
あれは誰だっただろう?
僕は人間じゃなかった。
でも心を持っていた。
ガラクタを集めて何かを作ってもらうのが好きだった。
少女を助けるためだけに、遠くまで歩いた。
じゃあ僕が今いるこの島はなんだ?
僕?これは僕なのか?
だって、この姿はどう見たって人間じゃないか?
待て、まて、まてまてまてまてまて!!
「この世界には…」
167名無しさんだよもん:04/05/23 14:58 ID:vieBuhk0
「俺が二人いる!?」
「僕が二人いる!?」

なにか最悪の結論にあったってしまったようだった。
「――岡崎さん、岡崎さん!」
目の前の少女が俺の名を呼ぶ。少女も混乱しているようだった。
しかし、俺の様子の、あまりのおかしさに自分の中の疑問を考える暇もなかったのだろう。
溢れる涙をそのままに、俺は口を開く。
「なぁ……水瀬、俺は一体、誰なんだ?」
その言葉をキッカケに、時間が止まったような気がした…。

【014岡崎朋也 所持品 包丁 ダンボール 英和辞典 】
【090水瀬名雪 所持品 不明】
「何が大丈夫よ!何が言葉通りよ!あんた勝手だわ!!」

場所は海岸、海の家の瓦礫の上、その声に美坂香里(87)とエディ(10)は「えっ」とした顔で振り向く、
声の主は広瀬真紀(72)、彼女は声を張り上げていた…後悔、怒り、憎しみ、哀れみ、色んな感情でいっぱいだった。
「北川が何したって言うの!?」
広瀬は瓦礫を踏みしめながら香里に近づく、広瀬が香里に近づくたびにパキッと木材の欠片の折れる音がする
香里は動けない、夢から覚め現実に戻った先…突然のことに動けない、
「こんな馬鹿な殺し合いの中で、こいつはただ一生懸命生き延びようと頑張ってた…。」
広瀬は北川の横に座っている香里の胸ぐらをつかみ立たせる、香里の横に立つエディは動かない、
否、動けなかったのだ、理由は一つ…広瀬が泣いていたからだった。

広瀬は怒号を張り上げる、泣きながら…。
「なのに死んだわ!あんたを護って!」
北川を殺そうとした香里に対して、
「こいつは信じてくれた…、あたしと組もうっていった時」
自分達や香里を護ろうとした北川に対して、
「どんな奴かもわからないあたしと一緒にいてくれた・・・。」
このゲームを仕掛けた奴らに対して、
「出会って間もなかったけどあたしには解る、こいつは…いい奴よ!なのにあんた!!」
そして自分に対して…。

「勝手に人殺そうとして、勝手に泣いて悲しんで、勝手に正気に戻って、あんた何様よ!!」
香里とエディは何も言えなかった、唯々広瀬の心の叫びを聞くだけだった…。
「何であんたが生きてるのよぉ!!!!!」
広瀬は叫ぶ、一瞬の隙に、ほんの一瞬のことだった、
No1エージェントNASTYBOYのナビであるエディが広瀬の、人間の、女の、心の叫びに隙を作る
そして広瀬はエディの銃(ワルサーPP/PPK)を取り上げ香里の顔に銃口を突きつける、

「ヤメるんダ!!」
エディは後悔し叫ぶ!!しかし少しでも動けば、広瀬はすぐにでも引き金を引くだろう。
突然のことに香里も動けない、銃口と共に『現実』を突きつけられる。

(殺してやる…。)
広瀬は心に殺意を抱く…。

(これは…『現実』…さっきのは…私だけの勝手な思い…。)
香里は自分の過ちに気付く…。

(北川がこいつをどれだけ大切でも…。)
広瀬は香里を睨む…。

(この人は私を…ユルサナイ…。)
香里は『現実』を突きつけられる、たとえ北川が許しても彼女が許さないことに。

(北川…きたがわぁ…。)
広瀬の涙が…涙が止まらない、北川と一緒にいた時の事を思い返す、最初の出会い…森の野道…夕日の砂浜…海の家…。


広瀬は北川との思い出を振り返る…それは夢ではない『現実』、昨日の夕日見える砂浜での出来事…。

(先に死んで行くものと、あとに残されたもの、どっちが不幸かな?)
広瀬はそう質問を投げかけた。

(…どっちも…辛いな。)
北川は答えられなかった…。

(でもな…、広瀬が今、そう言うことを考えられることはとても大事だと思う…。)
北川は広瀬の考えを認めていた。

死んでいった者がいるということは、殺した奴がいるという事、平気で平気で人を殺せる奴にそんな考えは生まれない…。
あの後…広瀬の手を握った北川の手は、とても、とても暖かった…。

そして…広瀬は北川との思い出を振り返るのを止める。
「ごめん…きたがわ。」
瓦礫の上にコツンと銃が落ちる音、広瀬は香里を殺せなかった…。
それと同時に香里が膝から倒れ気絶していく、
『現実』を突きつけられたことに昨晩の疲労が残りが重なったのだ、「ダイジョウブか」と香里を抱えるエディ。
広瀬は破壊された天上から見える青い空を見上げていた、
少しずつだが涙が引いていく、彼女の心に潤いを与えたのは『現実』の彼の言葉だからだ。
倒れた香里を抱え込むエディは、空を見上げる広瀬を見てこう思う。

結局、彼女は撃ちぬく事が出来なかった…青年のカタキを撃てなかった彼女を弱いと言うのなら、その弱さによって彼女とこの子もは救われたのだと










172別れの一言(1/2):04/05/23 15:06 ID:sQVzCb1Z
「いつからいたの?」
広瀬はいつの間にか自分の後方にエルルゥ(11)と古河渚(81)が立っているのに気付いた、
茂みに隠れてるように広瀬が指示を出したのだが、心配になって来たらしい。
「つい、さっきからです…。」
エルルゥは曖昧な答え方をしながらバッグから薬草と乳鉢を取り出す、香里を手当てするつもりらしい、
「嫌なところを見られたわね…。」
広瀬はため息をしながら呟く、
「いえ…真希さんの気持ちわかります」
エルルゥは広瀬の話に答える、朝の提示報告の事を思い浮かべながら…。
「スマナイがこの子ノ手当てが終わったラ、すぐニデも出発シタい」
香里の手当てを手伝うエディは広瀬に提案を持ちかける、粉塵爆破の音で敵に察知されてるかもしれないからだ、
「わかったわ、ここには長居は無用。」
エディの提案に即座に対応する広瀬、この男が信用できるかは解らないが選択の余地は無かった、生き延びるために…。
173別れの一言(2/2):04/05/23 15:07 ID:sQVzCb1Z
「あっあの、広瀬さんこれを…。」
いつの間にか北川の横にいた渚が広瀬に『ある物』を渡そうとする、便座カバーだ…。
この子は何を考えてこんな物を…と思ったが、広瀬は北川との出会いを思い浮かべ、
(少なくとも、これがあれば今みたいに取り乱すことは無いわね)
そんなことを考えながら渚から手渡される、
貧乏くじの象徴、自分との絆、もっといいものならと思いつつポケットにしまう。
「私は広瀬真希、あんたは?」
他人に名を聞くときは自分から、北川の言葉を思い出し、エディに名を聞く。
「エディだ。」
広瀬に名乗られてすぐに答えるエディ、横で香里の手当てをしているエルルゥは「終わりました」と一言、
「こいつはあたしが運ぶわ」
気絶している香里を担ぐ広瀬、メリケン粉より重たいはずだが今の彼女にとっては軽かった、
(こいつはあんたが護ろうとした大切な人、だからあたしがあんたのかわりに担いであげるわ)
横たわる相棒の北川を見つめながら広瀬は最後の別れに一言…。

「あたしの自慢の煮干のだしの味噌汁、あんたに飲ませたかった。」
174別れの一言:04/05/23 15:08 ID:sQVzCb1Z
【072 広瀬真希 所持品:『超』『魁』ライター 便座カバー バッグ 食料と水多めに所持】
【11 エルルゥ 所持品 乳鉢セット 薬草類 バッグ 食料と水多めに所持】
【81 古河渚 所持品 バッグ 食料と水多めに (ワッフルとジャムは海の家に置き去り)】
【10 エディ 所持品:盗聴器 尖った木の枝数本 ワルサーPP/PPK(残弾4発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ、果物ナイフ】
【087 美坂香里 所持品:なし 昨晩の満身創痍の疲労と広瀬が突きつけた『現実』に気絶】

【5人はとりあえずこの場から早急に移動】
【広瀬は香里を担いでます】
【香里の処遇は次の人に】
175名無しさんだよもん:04/05/23 16:17 ID:KmH+qN4B
        ┏┓                ┏┓                          ┏┓      ┏┳┓
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国見峠
176そして彼女は何かに気づく。:04/05/23 16:38 ID:7DP+4Gmv

麻生春秋が死んでいる。
その死体を、拡がる血の海を眼に映しながら、宮路沙耶は思い出していた。
伏見修二も死んでいた。
血の海に浮かんで、倒れていた。

エゴ、プロクシ。
呼び方などどうでもよかったけれど、あの力は、この島では何の役にも立ちはしない。
麻生春秋は死んでいる。
伏見修二も死んでいた。
こうなっては、この少年もあの厭らしい老人の読み上げる数字の一つに過ぎないのだ。
あそうはるあき、番号は若い方だろう。
ふしみしゅうじ、77番。

―――待て。
77番、伏見修二。
その声を、私は何時聴いた。
拡散していた思考が、一気に引き締まっていく。

私はたった今、その忌まわしい言葉を耳にしなかったか。
77番、伏見修二。
その言葉が、私を突き動かしたのではなかったか。
どうして、私は、彼を見つけるよりずっと前に、修二の死を、知っていた。
誰が、いつ、その言葉を、この島に響き渡らせた。
何かがおかしい。
圧倒的に狂っている。
狂気は人だけでなく、島を、時間を呑み込んでいるのか……そんな馬鹿な。

この島は、いったい、何だというのだ―――

【094 宮路沙耶 南部十四年式(残弾9)】
【第二回定時放送直後】
177あわれなおんな:04/05/23 18:15 ID:Jp1uJBzK
 ぜいぜいと苦しげな呼吸が、妙に煩い。
 全身の怪我は痛みをひっきりなしに伝えてくる。
 すべての不快な感覚が、眠りにおちた自らの肩をゆすっていた。

(くっ……)
 巳間晴香は、気絶した場所に、そのまま放置されていた。
 殺されることもなく、もちろん助けられることもなく、ただ放置されていた。
 変わっていたのは、鞄と銃を持っていかれたことくらいだ。
(情けなのか、無視なのか――どっちかしらね)
 ちょっと考えてみようかと思ったが、痛みに邪魔をされる。
 痛みは、全く治まらないようだ。
 そのくせ残念ながら、ふたたび気絶はできないときている。
(いいわ。とりあえず移動して、治療しないとね)
 おのれの全身に鞭打って、晴香は立ち上がった。

 とぼとぼと歩く。それだけで辛い。
(……どういう、順番だったかしら)
 ふと、詩を思い出していた。
 どのような女が、一番哀れな女なのかと、それだけを延々と羅列した詩である。
 
178あわれなおんな:04/05/23 18:17 ID:Jp1uJBzK
(捨てられた女より、もっと哀れなのは、よるべない女です)
 よるべない女よりもっと哀れなのは、追われた女。
 追われた女よりもっと哀れなのは、なんだったか。
 本来どうでもいいことを、必死に考えて痛みを逸らす。
 しかし、その思考も逸らされた。
 何やら焦げ臭い。
 行く先に、黒焦げのなにかがある。
(……死体?)
 そこらじゅうを放火して回っている人物がいるのだろう。
 家だけでなく、人まで焼いてしまうとは趣味が悪い。

 さっさと通り過ぎようかと思ったが、違和感があった。
(なによ、これ。人じゃないんだ)
 驚いたことに、精密な人型のロボットだった。
 貴重な物だろう。それが何故、こんな島にあるのか。
 首を捻ってみると、ふと違うことを思い出した。
(あ……死んだ女、だわ)
 
179あわれなおんな:04/05/23 18:18 ID:Jp1uJBzK
 そこまで行けば、あとは簡単だった。
(死んだ女より、もっと哀れなのは――)
 あはは、と脱力し、自嘲する。
 気が抜けると、すぐ痛みが走った。
(痛っ)
 ろくなことがない。
 そう思った彼女の足元に、鞄がひとつ。
 中身は何故か、漁られた様子がなかった。
(もっと哀れなのは――忘れられた女、よね)
 銃が三丁と、包丁。
 ひとつは玩具のような銃だったので、置いていくことにした。

(ま……本当に忘れられていれば、良かったんだけどね)
 晴香はもはや、全員を殺して回ろうとは思っていない。今では主催者を信じていないからだ。
 最後の二人になっても、生き残れるのか疑わしい。よってゲームに乗るのは愚かしい。
 しかし、相手は別だろう。
 晴香に襲われた人物や、その仲間たちは、きっと晴香を許しはしない。
(けっきょく、戦うしかないってことね)
 
180あわれなおんな:04/05/23 18:20 ID:Jp1uJBzK
 教団に身を投じたまま、兄は帰ってこない。
 ここで誰かと組む事もできない。
 それ以前に、皆に狙われる身である。
 残るは死んで、忘れられるだけだ。
 ならば死ぬまで戦い抜くのも、悪くないだろう。

(忘れられるのは、ちょっとだけ先取りしたけどね――)
 小さく笑って、歩き出す。

 彼女は自らの過ちを認めながらも、道を変えることはしなかった。


【091巳間晴香 トカレフ(残り7発) 中華包丁 コルト25】
【ニードルガンはセリオの死体とともに放置】

【とりあえず怪我の治療を優先するつもり】
181名無しさんだよもん:04/05/23 18:34 ID:e3J71mZD
つきつけられた甘さ

 自分の甘さは、挙げればきりがないことくらいとうの昔に承知していた。これだけ暴れれば息が切れるのは仕方がない。
もう若くはない上に、未だに薬の効果が残っているらしい。いつにもまして呼吸が乱れやすい。こういう局面であの薬に
祟られるとは皮肉としか言いようがなかった。
 押入れの中から音がする。ロープでなく衣服で縛り上げたのだから、すぐに解けることは目に見えている。
おまけに彼女は靴を履いている。土足で上がりこんできたのだから当然である。押入れの扉――ふすまの構造を考えると、蹴り破ることはそう難しくない。
 どんどんどん。
 甘い部分はまだある。先ほどの一件で大声を出したこと。これでは外に聞こえないほうがおかしい。さらにカレーの
匂い。否が応でも腹を減らした参加者を刺激することになる。…実際この少女が来たのはレトルトの封を切ったあと
だった。
 少し冷めてしまったカレーを急いでかきこむ。行儀が悪い上に女性の目の前なのだが状況が状況だ。せめてここを
脱出するまで戒めが解けないこと、ふすまが持ちこたえることを祈るしかない。同行者を促して居間に駆け戻り靴を
履いて、増えてしまった荷物をかかえた。縁側に向かいつつ考える。
 このまま放っておいたら彼女は確実に侵入してきた他の誰かに殺されることになるだろう。こうも暴れていては
見つけてくれと言っているようなものだ。いっそのこと彼女のもっていた薬を注射しておとなしくしていてもらおう
かとの考えもよぎったがすぐに否定した。だめだ、ゲーム序盤とは状況が違いすぎる。自分があの沢で身動きがとれない
ところを誰にも見つからなかったのは幸運というほかない。あのときの状態ではもしティッシュで窒息させられたと
しても文字通り文句のひとつも言えなかっただろうから。
 そしてこの思考自体が自分の最大の甘さ。襲いかかってくる少女をとっさに無力化したが、自分にはやはり殺せない。
人に殺されてほしくもない…なるべくなら。
182つきつけられた甘さ2:04/05/23 18:35 ID:e3J71mZD
(こういうとき…晴子ならどうするだろう)
 この島にいるらしい彼女のことを考える。幼いころからずっと、彼女には勝てる気がしなかった。
晴子であればこういう葛藤をものともせず道を見つけるだろう。しかし――
 いま押入れの中にいる少女と望まぬ再開をした時に思ったことが頭の中でリフレインする。
(……この娘を笑わせることができるのだろうか)
 その機会があるのかどうかすら、自分には分からない。それは答えのない問い。

そして――

 音がした。外の、そう遠くないその音は―― ひとつの銃声。

 逡巡している時間はなかった。
 やはり自分は救いようがないほど甘いらしい。

【071 雛山理緒 所持品:なし】
【055 橘敬介 所持品:ヨーヨーもどき、釣り針、太めの釣り糸、肥後ノ守、 手品道具、ピン類各種、小型のレンチ、
 針金、その他小物、 腕に万国旗、大判ハンカチ、水入り容器、メモ、鉛筆、食料、理緒の荷物(分担)】
【085 三井寺月代 所持品:ヴィオラ、青酸カリ、スコップ、初音のリボン、食料、理緒の荷物(分担)】
【旧理緒の所持品のうちバッグ三つ分(筋弛緩剤と注射針一式(針3セット)、裁縫道具、手作り下着、クレジットカード、
小銭入り長紐付き巾着袋、クッション)は敬介と月代が分担して所持、石入りザックは放置】
【きよみの銃声を聞く】
183”管理”者:04/05/23 19:57 ID:srpqSnwp
それが何処にあるかを知る参加者はいない。
そこに居る者が誰かを知る参加者もいない。
死の箱庭の管理者。
篁の命によりその任に就いた“ある人物”が潜むその一室は、微かに花の、そして血の香りがした。

『どういうつもりだ!』

部屋に備え付けられた通信機から野太い男の声がする。
『こちらからは無闇にゲームに関わるなと言ったはずだぞ!勝手に参加者の死体など回収しおって!』
「そうは言っても退屈なのよ、ここに居るのは。そちらみたいに参加者の様子を観れる訳ではないのだし」
そう。“管理者”が言うように、この一室にはモニターの類が存在しない。あるのは武器、水、食料といった必要最低限の物資と、今使用されている通信機のみ。つまりここは管理者の詰め所にすぎないのだ。
『命令を無視してホイホイ出歩きおって…。貴様、死から救われた恩を忘れたか!』
「その恩は忘れてはいないわ。でもそれをしてくれたのはタカムラであって、貴方ではないでしょう?ダイゴ」
『口の減らぬ……!』
男──醍醐は息を荒げるが、“管理者”を叱責する声は先程より幾分弱くなっている。どうやら些かこの“管理者”を苦手としている節があるようだった。
「……まあ、タカムラに感謝しているのは本当よ。確かに彼のおかげで私は死から救われたのだし、誰よりも愛しい者を、どんな時よりも美しい状態でこの手にする機会を得れたのだもの」
そう言うと、ふふ、と“管理者”は妖艶に笑い、彩られた爪を自らの唇に軽く突き刺した
。うっすらと滲み出る血液。それを指で掬うと、そのまま唇に塗り付ける。紅が、より一層濃くなった。
『……ふん!まあいい。だが次からは勝手な真似はするなよ!』
醍醐は息を巻いてそう叫ぶと、“管理者”の返事も待たずに通信を切った。
184”管理”者:04/05/23 20:01 ID:srpqSnwp
「せっかちで下品で粗暴で……これだから雄は嫌なのよ」
そう呟いて“管理者”は椅子から立ち上がると、部屋の隅に設置されている水槽に歩み寄った。
その水槽は深さと奥行きは一般的な物とや何ら変わりがなかったが、代わりにやたらと横に長かった。
そして、水槽からは世にも美しい──“管理者”に言わせれば「まだまだ」なのだが──純白の花が咲き誇り、その存在をアピールしていた。
その下で永久の眠りについている少女──栗原透子を苗床として。

「あなた、とても幸せよ。カルラの手で矮小な生を終えれただけでなく、こうして美しきものの礎になれたのだから」

そう透子に“管理者”──かつてはナ・トゥンクという國の皇であった男、スオンカスは語り掛けると、再びふふ、と、先程より更に妖艶な笑みを浮かべて部屋の天井を仰いだ。
「カルラ……今度こそあなたを私のものにしてみせるわ。だから、もっともっとヒトを殺して、その返り血を浴びて美しくなって頂戴──」

【スオンカス スタンス:ゲームの管理者。島内に隠された詰め所にて待機中】
【詰め所には水、食料、武器、通信設備在り。栗原透子の遺体はここに回収されている】
【時刻:二日目午後一時頃】
185戸惑いの森に逃れて:04/05/23 20:05 ID:vh7T+OFi
「畜生、…畜生っ!」
 杜若きよみは走っている。背後を振り返る余裕も今はない。
圧倒的優位から、絶望的な混乱に叩き落とされた気分はどうだ?
そんな声が聞こえた気がする。今や彼女の意識は混沌に満ちていた。
なぜ?どうして? …そんなこと知らない、分かるはずが無い!
「くそっ!どうして!どうしてこんなに私は弱いの!」
 仙命樹の恩恵を受けない彼女の肉体は、非力な少女と等しい。
黒いワンピースから伸びる四肢はか細く、可憐で、あまりにも無力だ。
この健康な肉体も、元は病弱な女性のものなのだ。
拳銃の制動に十分な膂力を発揮できない。呪いめいたものを感じていた。
それが女性の限界なのだと、納得できる余裕すら無く。
右腕を地へ引く鉄の凶器を制しえなかった事実に、ただ焦っていた。
 リボルバー・マグナム。この大容量カートリッジを専用の弾とする拳銃は、
それがたとえ片手で引き金を引くのに適した体躯を呈していようとも、女性が
扱うにはやや過ぎた…いや、無謀な代物というに十分足りえた。
 発射の瞬間、きよみと亮との距離はほぼ無かったと言って等しい。
まず撃って当たらぬ事は無い。事実、きよみは自信を持って引き金を引いた。
しかし結果はどうだ。 …当たらなかったでは無いか!
彼女の肉体のか弱さが、かくも明らかな不覚を招こうとは。
186戸惑いの森に逃れて:04/05/23 20:06 ID:vh7T+OFi
(馬鹿げてる!こんなのは、フェアじゃない!)
 彼女は呪った。肉体の呪縛を恨み、男の肉体の強靱さを妬んだ。
あの男は反撃までしてみせたのだ。背後を突かれ、さぞや混乱しただろうに。
私はまるで動けなかったというのに。ただ逃げるしかなかったというのに。
 きよみはあの時、自分の限界を見せつけられたような気がしたのだ。
「松浦、…亮!許さない!あたしを馬鹿にして、どうなるか!」
 走り続けるうち、息が切れてくる。喉が痛んで、悲鳴をあげる。
それでも彼女は走り続けた。止まる事無く走り続けることが出来た。
「私はやれる。勝ってみせる!」
 この、沸き起こる力。肉体を制する精神の、なんと強靱な事だろう。
全ては肉体が良くないのだ。…あの女の、この体が、良くないのだ!
(この体は、今でも私を苦しめる…  さあ、走れ、もっと早く!)
「く、くく、あはは、…あはは、あはははははは!」
 不思議と笑いがこみ上げてくる。
己の肉体に復讐するかの如く走り続け、彼女は笑い続けた。
やがてその姿は森へと消えていく。笑い声も遠のく。
彼女の狂気を、その心の奥底に刻みつけて。
あとには、走り続けた彼女の、足跡だけが残っていた。

【杜若きよみ(017) 違法改造マグナム 残弾2全て装填済み】
【住宅街から南西方向、森林地帯へと逃走】
187名無しさんだよもん:04/05/23 20:34 ID:vfJwZFF0
>184『”管理”者』はNGとさせていただきます。
理由については以下のスレで議論されていますので、そちらを参照してください。

【ズガン】実況★葉鍵ロワイヤルII 5【ズガン】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1084962220/l50
188カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 20:46 ID:ssd8t6ZI
みどりと別れたゲンジマルは、森を疾走する。

(某の辿り着くまで、どうか、どうか無事で――)

ハクオロもディーもいない今、主を守ることが出来るのは己だけ。
なんとしても主だけは守り抜かなくてはならない。

もしも運命の神様と言うものが居るのならば、どうやらそいつは相当に捻くれ者らしい。
ゲンジマルは、すでにクーヤが移動し終わった地点を通過して、なおも疾走を続けていた。

(む?)

と、何かの音を聞きつけ、その足が止まる。

…ズズゥゥゥ…ン……。

(これは……何かの爆発か?)

辺りを見回してみると、進行方向向かって右手――最初のホールのあたりか?――そこから煙が上がっていた。
そこに主がいるとは限らない。
だが、もしもあそこには主がいて、あの爆発に巻き込まれていたら――?

(行くしかない、か)

小さな期待と、大きな危惧を胸に、ゲンジマルはホールへと疾走する――
189カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 20:47 ID:ssd8t6ZI
「なんやあれ……」

自分たちがさっきまで寝ていたホールの辺りから白煙が上がっている。
もう少しあそこに居たらどうなっていたかを考えると、肝が冷える。

「誰かが爆薬でも使ったんやろか…」
「いや、それにしても、ここまで爆音が響く、っていうのはかなりの規模の爆発が起こったはずです」

ホールからここまで、優に数キロは歩いたはずだ。

「どないする?」
「どないする、って、ここにいたほうがいいでしょう。あれではきっと人が集まってきます」

君子は危うきに近寄らず。
敢えて火中に飛び込むことも無い。

「よっしゃ、見に行こ」
「ちょっちょっちょっ!人の話聞いてないんですか!?」
「いや、ちゃんと聞いてたで?」
「だったらなんで見に行こうってことになるんですか!」
「だって、あの騒ぎなら人が集まってくるんやろ?」
「そうですよ。だから近づくのは危険なんじゃないですか。もしゲームに乗った人間と鉢合わせでもしたらどうする気ですか」
「んなもん、殺してしまえばええやろ」
「簡単に言ってくれますね…」
「それにや、逆を返せば、尋ね人が近づいてくる可能性だってあるんちゃうん?」
「それは…。でも、このゲームに乗っている人間が近づいてくる可能性だって、それと同じぐらいあります」
「ほー。ちゅうことはや、ゲームに乗った人間に尋ね人が殺されてまう可能性だってある、っちゅうこっちゃなぁ?」
「!?」
「己の保身だけ考えて事勿れ主義。それやったら大事な人は守られへんで?」
「くっ……」
190カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 20:49 ID:ssd8t6ZI
痛いところを突かれる。
生き残ることに固執しすぎて、思い人とともに行動するという選択肢を失念していた。
仮に死んだとして、自分が最後まで生き残り、篁に生き返らせてもらう。
それはあまりにも現実味のなさすぎる選択肢。

「…わかりました。アタシも少し混乱していたようですね」

ただ守っているだけでは、何も守れない。
ぐっと握り締めていても指の隙間から零れ落ちていくというのなら、何度でも掴みなおす。
掴みなおすためには、今こそが攻めに出る時かも知れない。

「決心ついたか?」
「ええ、ですが、お互い尋ね人に会えなかった場合は、速やかにここに戻ること。それでいいですか?」
「かまへんで。ウチだってあんなところでジッと待ってようとは思わへん。ちょっと様子を見に行くだけや」
「…決まりですね。それじゃ、行きましょう」
191カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 20:50 ID:ssd8t6ZI
(これは……)

粉々に砕けた外壁。
もうもうと立ち上る白煙。
そして、誰かの血溜まりのような、小さな池。
相当の規模の爆発が起こったらしい。

(どうしたものか……)

爆心地と思われるホールの中は煙がひどく、とても入れたものではない。
仕方なくゲンジマルは周辺の探索を開始する。
一通り探しては見たものの、特に人の気配は無い。
いや、うまく感じられないだけかも知れない。
まだまだ本調子ではない。
クーヤの死体が見つからなかったことだけが、唯一の幸運といえるだろう。

(む!?)

どこからか人の声が聞こえてくる。

(女…か?)

聞きなれない女の声が背後から聞こえてくる。
192カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 20:50 ID:ssd8t6ZI
(さて、どうしたものか)

どこか遠くからやってくるということは、この爆発の原因を作った人間ではない可能性が高い。
ならば接触して、主を見なかったかと尋ねるべきであろう。
だが、それ以外の殺し合いにのった人間ならどうする?
殺すつもりはない。
それは光岡とも約束したし、何より、無為な殺人など、主であるクーヤが許すはずがない。

(まずは話し合いからか)

かすかに聞こえてくる声から、相手が女の二人組み(或いはそれ以上か)だと言うことはわかっている。
相手が女ならば、よほどの武士――例えば、カルラやトウカのような――でも無い限り、二対一でもなんとかしてみせる自信はある。

(友好的な女人ならばよいのだが…)

ゆっくりと近づいてくる声を、ゲンジマルは黙して待っていた。
193カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 20:51 ID:ssd8t6ZI
「それにしても」

歩きながら、晴子にだけ聞こえる小さな声で話し掛ける。
それは、痛いところを突かれたことに対する、ちょっとした反撃。

「晴子さん、居候って、どんな人なんですか?」
「はぁ?」
「寝言で言ってましたよ。居候ー飯作れー、って。どんな人なんですか?」
「あー…どんな人、ちゅうてもなー……変人?」
「愛人じゃなくて?」
「はぁ!?誰が誰の愛人やねん!」
「うわ、ちょっと、大きな声出さないでくださいよ」

バッ、と明日菜は晴子の口を塞ぐ。

「アンタな、冗談も大概にしときーや。気ぃ悪いで、ホンマ」
「さっきの仕返しですよ」
「さっきの仕返し、て…。チッ、しょうもな」
「それにしてもー、凄い反応でしたねー。もしかして、ず・ぼ・し?」
「しつこいちゅうねん。撃ってまうで?」
「うわぉ、怖い怖い」
「チッ、ええかげんにしときや」
「わかってますって。ほらほら、もうすぐ到着ですよ。声は抑えないと」

段々と焦げ臭いような臭いが近づいてくる。

「あいや、そこのお二方。しばし待たれい」

「誰や!?」
「誰!?」

晴子が声の聞こえた方向に銃口を向けるのと、明日菜が懐のナイフに手を伸ばしたのはほぼ同時だった。
194カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 20:52 ID:ssd8t6ZI
呼び止めたはいいものの、二人は敵意の篭った眼差しでこちらを見ている。
その目はまさしく、修羅。
これは迂闊に声をかけないほうがよかったのかも知れない。

「アンタ、何者や。返答次第じゃ……殺すで?」

長い髪を後ろで結わえた女人は、黒光りするナニカをこちらへ向けている。
あれが何かはわからないが、あまりよいものではないだろうことだけはわかる。

「待った。せめてその手に持ったものを下に向けてはいただけないだろうか?某にはそなたらに危害を加えるつもりは御座らん」
「あァ?そんなこと、簡単に信用できるかいな」
「むう…」

一触即発。
誰かが動けば、誰かが死ぬ。
藪をつついてしまうという、己らしからぬ失敗を犯してしまった。
ピリピリと、目に見えない何かが肌を刺す。
空気が凍りついたような、渦を巻いて収束してくるような。
総毛だたせるような殺気が、この場を支配していた。
195カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 20:53 ID:ssd8t6ZI
「待って」

硬直を壊したのは、明日菜だった。

「何や、なにをする気や」

銃口はゲンジマルに向けたまま、目も向けたままで、晴子が尋ねる。

「あなた、名前を聞かせてもらえないかしら」
「む…」

人に名前を聞くときは、まず己から。
一瞬、そんなことを言おうと思ったが、そういう状況ではない。

「ゲンジマル」
「そう、ゲンジマルさんね」
「そなたの名は?」
「アタシ?アタシの名前は麻生明日菜よ」
「そちらのもう一人の女人の名前は?」
「あ?ウチの名前は神尾晴子や」
「そうか」
196カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 20:55 ID:ssd8t6ZI
「ねえ、ゲンジマルさん。あなたはこのゲームに乗っているの?」
「げえむ、というのが何のことかはわからぬが、少なくとも、某は誰かを無為に殺すことは無い」

値踏みするように向けられる明日菜の視線を、真っ直ぐに見つめ返す。

「…そう。じゃあ、あなたも私たちと同じと言うことね」
「同じ、とは?」
「誰も殺さないということは、このゲームの主催者を倒すということではないの?」
「成る程」
「私たちも無駄に誰かを殺すつもりは無い。殺したいのは、主催者の篁とかいうやつ一人だけよ」

主を守り、人は殺さない。
ならば、残った選択肢は、必然的に主催者を倒すということになる。
主を探すことだけを今までずっと考えてきたため、どうにもそういう思考には至らなかったようだ。

「確かに、主さえ見つかれば、某は主催者を倒すつもりだ。だが、今は我が主を見つけ出すことが先決」
「何から何まで同じということね…。晴子さん、銃を下ろして」
「はぁ!?信用するんか!?」
「この人の目は真っ直ぐだったわ。これなら信用していいと思う」
「せやけど、銃を下ろした瞬間襲われたらどうするんや?こんなガタイのいいオッサンとまともにやりあって勝てる気ぃなんかせえへんで?」
「そうね、なら、ゲンジマルさん、せめて武装解除していただけないかしら?」
「む」

明日菜の言うことは尤もだ。
だが、こちらも信用してしまっていいものだろうか?
さっき一瞬見えた修羅の瞳。
それが心に引っかかっている。
197カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 20:56 ID:ssd8t6ZI
「このままこうしていても、時間が無為に過ぎていくだけじゃない?」

そうだった。
最優先すべきは主の探索。
そのためには、今ここでこうしていても何も始まらないどころか、終わってしまうかもしれない。

「……某の武器はこれだけだ」

結局、大人しくダーツ六本を投げ捨てることにする。
先ほど垣間見た修羅は、主催者に向けられた怒り。
些か強引な解釈だが、そう思いでもしなければ話が進まない。

「武器は捨てた。だから、そのジュウとやらを下ろしてくれまいか?」
「まだよ。その鎧の下に何が隠されているのかわからないわ。それも脱いでくださらない?」
「くっ…」

これも脱いでしまえば、襲われたときに身を守るものが無い。
それではこちらが大分不利になる。

「この鎧までは、脱げん」
「あら、信用していただけないのかしら?」
「それはそなたらも同じことであろう」
「ふむ…」

「それじゃ、こちらが先に銃を下ろすから、そのあとで鎧を脱いでくださらないかしら?それならかまわないでしょう?」
「しかし…」
「私たちは、志を同じくする同士ではないの?」

ここで、同士ではない、と言ってしまえば、あの禍々しい武器はこちらへ向けられるだろう。
しかし、同士だと言うならば、鎧を脱がなくてはならない。
198カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 20:57 ID:ssd8t6ZI
「……わかった。その条件を呑もう」

このままでは埒が明かない。
譲歩するほか、硬直を解く道はないだろう。

「ありがとう。話の通じる人で助かったわ。晴子さん」
「はいはいはいはい、下げりゃええんやろ、下げりゃ」

ようやく銃口が下げられる。
それを確認して、ゲンジマルも鎧を脱ぎ捨てる。

「ふぅ、これでようやく安心して話が出来るわね」

そう言いながら、明日菜は一人でゆっくりとゲンジマルへと近づいていく。

「お互い、仲良くしましょ」

すぐ近くまで来た明日菜は、手を差し出してくる。

「む?」
「握手よ、握手。お互いに手を握り合うことで、仲間であることと、武器は持っていませんよー、ってことを確認しあう儀式」
「おお、そうであったか」
「よろしく、ゲンジマルさん」
「こちらこそ、明日菜殿」

明日菜とゲンジマルは、がっしと固く握手を交わす。
199カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 20:58 ID:ssd8t6ZI
「それで、ゲンジマルさんは誰を探しているんですか?」

握手をといた後、すぐに明日菜が話を切り出してくる。

「うむ、そうであった。某の探しているのはクーヤという少女でな」

ゲンジマルは大まかにクーヤの特徴、容姿を説明する。

「うー…ん。ちょっと私は見ていないですね。晴子さんは?」
「ウチもそんな子は見てへんで」
「と、いうことです。お力になれなくて、すみません…」

わざわざゲンジマルさんにここまでやってもらったのに、私ってほんと役立たずですね…、と明日菜は俯き、呟く。

「いやいやいや!明日菜殿の責任では御座らんぞ。元はといえば、某がもっと早くに見つけられなかったのが悪いのですから!」

慌ててフォローを入れるゲンジマル。
こういう場面には、慣れていない。

「くすっ、ゲンジマルさんっていい人ですね」
「え、あ、いや、某は、その…」

笑顔を向けられて、つい柄にも無く頬を紅潮させてしまう。
そういえば、妻と死に別れて、もう何年経ったのだろうか。
敏感なゲンジマルの鼻に、微かに女の匂いが漂ってくる。
こんなにも近くで女の匂いを嗅いだのは、どれほど前のことだろうか。

(さっき感じた修羅は、何かの間違いであったのかも知れんな…)

こんな笑顔のできる修羅はいないであろう。
そう考えて、ゲンジマルは明日菜に対する緊張を、少し和らげる。
200カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 20:59 ID:ssd8t6ZI
「ええと、私たちもお聞きしてよろしいでしょうか?」
「ああ、某に分かる範囲なら、何でも答えよう」
「では、木田時紀という少年を見ませんでしたか?」
「木田時紀という少年…」

記憶を手繰り寄せる。
しかし、ゲンジマルがこの島で出会った男は、光岡一人であった。

「すまぬ、そういう少年は見ておらん」
「そうですか…」

また明日菜が俯く。
この明日菜という女人をここまで悲しませるということは、思い人であろうか。

「そう悲しみめされるな。某の聞いた定時放送とやらでは名前は呼ばれておらん。だから、きっとまだどこかで生きているはずだ」
「そう…ですね。木田君のためにも、私が頑張らないと」
201カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 21:00 ID:ssd8t6ZI
そう言って、笑顔を作る。
それは無理に作られたようで、見ていてゲンジマルの心はひどく痛んだ。

この女人を悲しませたくない――

そんな感情が、ふつふつとゲンジマルの心に浮かび上がってくる。

「次はウチの番や」

その声で、はっと我に返る。

「アンタ、神尾観鈴、っちゅう女の子は見てへんか?」
「神尾観鈴…」

こちらも、見ていない。
ゲンジマルが今まで出会った人間は、四人。
女は三人。
しかも、そのうちの一人は、生きてはいなかった。

「すまぬ、そちらの少女も見てはおらん」
「さよか…」
202カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 21:01 ID:ssd8t6ZI
「さて、それでは某はそろそろ行かせてもらおう」

一通り話は終わったらしいので、荷物に手をかけ、発つ準備をする。
この明日菜という女人のことは少し気になるが、あくまでも、最優先は主だ。

「もう行かれるんですか?」

明日菜が縋るような目を向けて、服の裾を掴む。

「ぐ……某は主を探さなくてはならぬので……」
「そうですか…。無理言っちゃ、駄目ですよね…」
「すみませぬ……」

「あの!」

「少しだけ、あと少しだけ時間をいただけないでしょうか?」
「む?」
「少しの間、目を瞑ってもらえませんか…?」

微かに涙をためて、必死の形相で懇願してくる。
嗚呼、こんな顔で頼まれては、断れないではないか。

「…わかりました。では、あと少しだけ」

そう答えて目を瞑る。
正直なところ、こんな状況で目を瞑るなどとは自殺行為だと思う。
だが、そう言って断らせないだけの何かが、この女人にはあった。

「ありがとうございます。では…」

何かがゆっくりと顔に近づいてくる気配があって、そして――
203カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 21:02 ID:ssd8t6ZI
「ふぐぅっ!」

ぐしゅ、と嫌な音を立てて、何かがわき腹に突き刺さる。
驚いて目を開けると、そこには明日菜の笑顔。

「ごめんなさいね」

にこりと笑い、明日菜はナイフを軽く抉って引き抜く。

「がああああ!」

騙されただと――!?

「貴様ァァァァ!」
「晴子さんッ!」
「よっしゃあ!」

後ろに飛び退る明日菜に手を伸ばすが、あと少しの距離で掴み損ねる。

「往生せいやあああああ!」

パラパラパラパラパラ!

小さな鉛弾が、しかし大きな殺意を持って体に穴を穿っていく。

「ぐゥッ!」

銃数発の弾丸を背中に受け、ゲンジマルの巨体は倒せ臥す。
204カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 21:03 ID:ssd8t6ZI
迂闊だった。
普段の自分からは考えられない、取り返しのつかない失敗。

(ぬかったわ……ッ!)

憤怒、悲哀、そして、後悔。
弾丸の二つほどは、脊髄を抉っており、もう体を動かすことはできない。
これではもう、主を守ることなど、できはしない。

(クーヤ様――)

ゆっくりと、ゆっくりと、死神は笑顔で近づいてくる。

「何か言い残しておくことはあるかしら?」

変わらない笑顔で、死神は尋ねてくる。
ゲンジマルは、その笑顔をもう美しいなどとは思わなかった。

「ディネボクシリ(地獄)へ…墜ちろ…ヌグィソムカミ(禍日神)!」

最後ににっこりと笑って、死神は兇刃を振り下ろした。
205カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 21:04 ID:ssd8t6ZI
「いやーっ、凄い凄い!」

パチパチと手を叩きながら晴子が近づいてくる。

「よっ、名女優!今年のオスカー主演女優はいただきやな!」
「……ちゃかさないでください」

今更になって、震えが明日菜を襲っていた。

「ほんと、綱渡りでしたよ…」

小刻みにプルプルと震える両手を見つめて、明日菜がこぼす。
最初の殺しのような、ひ弱そうな少年ではない。
屈強な男を計略を練って殺したのだ。
これで平然としていられるようでは、それこそ完全に狂ってしまっている。

「しっかし、このオッサン、ギリギリまでアンタのこと信じとったみたいやし、わざわざ殺さんでもよかったんちゃうん?」
「ふん…」

ちら、と明日菜はゲンジマルの死体を見下ろす。
その目には、何の感情も浮かばない。

「…こういうむさくるしいオッサンは、タイプじゃありません」
「わははははは!やっぱりオッサンより若い子のほうがええか!」
「…嫌な言い方しないでください」
206カーリー・ドゥルガー ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 21:05 ID:ssd8t6ZI
パン!と頬を叩いて、震えをかき消す。

「早く行きましょう。ここにいては、銃声を聞きつけて誰かやってくるかもしれない」
「このオッサンの荷物はどうする?」
「飛び道具みたいだけど、あまり使えそうな武器ではないわ。置いていきましょう」
「了解や」

前に見ゆるは修羅の道。
後ろに見ゆるは血の河か。

【002 麻生明日菜 ナイフ ケーキ】
【022 神尾晴子 千枚通し マイクロUZI(残弾40。20発入りのマガジンが残り2つ)】
【035 ゲンジマル 死亡】
【ゲンジマルの鎧と荷物は全て放置】
【時刻は午前10時ごろ】
【残り56人】
207 ◆QGtS.0RtWo :04/05/23 21:21 ID:ssd8t6ZI
すみません、感想スレのほうで指摘がありましたので、

【時刻は午前10時ごろ】
を、
【時刻は昼過ぎ】
に訂正させていただきます。

申し訳ありませんでした・
208have a break ◆gereKU42C6 :04/05/23 22:45 ID:gu12bJtr
 七海はその小さな体をフルに使って駆けていた。
 前だけを見てただ走り続ける。
(南さん、ごめんなさい、ごめんなさいっ)
 今ごろ南はどうなっているだろう。
 いや、あの状況では助かるはずもない。
 なのに、自分はそんな彼女を見捨てて逃げてきたのだ。
(違うっ、南さんは自分を犠牲にして私を逃がしてくれた)
 だから、彼女の分まで自分は生きなければいけない。
 だがそれは自分に都合よく解釈しているだけではないのか?
 彼女が自分の代わりに殺されてしまうのは事実なのだ。
 自分のせいで南は……
 あまりに衝撃的な出来事のせいで七海の頭の中は混乱していた。
 ただ、現実から逃避しようなどとは思わなかった。
 それは自分の命を長らえさせてくれた南に対するせめてもの償いだった。

 もうどれだけの間逃げたのだろう。
 今までこんなに長い間走り続けたことがあるだろうか。
 恐怖が肉体的疲労を忘れさせていた。
 だが、そんな七海の小さな体も限界に近づきつつあった。
209have a break ◆gereKU42C6 :04/05/23 22:46 ID:gu12bJtr
 どうやら森の中に入ったらしい。
 どこか身を隠せそうな場所はないか探し始める。
 適当な茂みを見つけたので、そこに身を隠す。
 自分のこの体なら見つかる可能性も低いだろう。
 今はただ肉体的にも精神的にも疲れを癒したかった。
(そーいちさんに会いたい)
 もはや七海にとって頼れるのは宗一しかいなかった。
 とにかく宗一を探そう。
 それだけを決めた七海はそのまま夢の中へ……

 次に彼女が目覚めたのは巨大な爆発音が聞こえたときだった。

【056 立田七海 所持品なし】
【森の中の茂みで休憩中】
【2日目、正午すぎ】
210名無しさんたよもん:04/05/23 23:45 ID:GNAGlv2c
  「この島では誰も彼もが狂ってしまう」

 松浦亮は壁に食い込んだ銀色のギアを回収した。
 振り返る。
 目に入ったのは割れた花瓶。
 別に、心の底から杜若きよみを信用していたわけではなかった。
 だが油断していた。自分が襲われるはずがないと、そんな風に信じていた。
 その結果、花瓶は割れた。
 一つ違えば、割れていたのは自分の頭だっただろう。そして、二人の少女の頭も。
(修二……)
 亮は修二のエゴ能力を模した銀色のギアを見る。
(俺は間違っていたのか?)
 かつて修二といた頃、エゴ能力を持つ者達の多くは狂っていた。
 それはこの島でも変わらないのか。
 この島では、誰も彼もが狂ってしまうのか。
(教えてくれ、修二)
 だが銀色のギアは何も答えない。
211名無しさんたよもん:04/05/23 23:47 ID:GNAGlv2c
 亮は顔を上げた。見ると、神岸あかりが上体を起こし、自分にもたれかかる様に気絶している少女を見ていた。
「この子、私を殺そうとした」
「ああ」
「どうして?」
「……わからない」
「きよみさんは?」
「逃げた……」
「どうして?」
「失敗したからだろう」
「何を?」
「俺達を殺すのを」
 それっきり、あかりは何も訊かなかった。亮はただ、ぼんやりと立ち尽くしていた。
 あかりはそっと、少女の首に白い指を這わす。
(この島では、誰も彼もが狂ってしまう)
 亮の頭の中では、同じフレーズが何度も何度も繰り返される。
 少女の顔が僅かに歪んだ。
「お兄ちゃん……」
 涙が一筋、少女の頬を伝った。
 あかりは少女の首から指を離した。
「この子が目を覚ますまで、ここにいてもいいかな?」
 もしかしたら、襲撃に失敗したきよみが再び襲ってくるかもしれない。
 だが亮は椅子に腰をかけた。
「……ああ。話ぐらいは、聞いてやろう」

【024 神岸あかり 木彫りの熊 きよみの銃の予備弾丸6発】
【047 春原芽衣 筆記用具 気絶中】
【084 松浦亮 修二のエゴのレプリカ】
【芽衣が目を覚ますのを待ちます】
212名無しさんだよもん:04/05/23 23:49 ID:7DP+4Gmv
>>176
時間軸混乱を招きかねないため、NGでお願いします。
申し訳ありませんでした。
213名無しさんだよもん:04/05/23 23:59 ID:3HSqeMVW
チュドーン!
【春原芽衣 手榴弾の爆発に巻き込まれて死亡 所持品はあかりへ】
214動き出すふたり:04/05/24 00:57 ID:MREis1Zg
民家を捜索すると、それなりの量の食料を見つけることができた。
まずは腹ごしらえ、と澪が簡単な食事を作ろうと張り切って台所にむかって行った。
……が、すぐさま涙目でリビングの芳野に助けを求めくる。両手にいくつかの切り傷。
「ったく、料理できねえなら最初から言えって…」
『ごめんなさいなの』
「ああ、もういいから皿出しといてくれ」
『はいなの〜』

「ま、火を使うわけにはいかなかったから、こんなもんだが……」
『すごいの』
「……すごいって言ってもサラダとパンだけだぜ」
『澪はサラダ作れなかったの』
「……包丁ぐらい使えるようになろうな?」
「……」
「……」
えぐっ えぐっ
「わ、悪かった。泣くなって」
215動き出すふたり:04/05/24 00:58 ID:MREis1Zg
「さて、腹ごしらえが済んだら眠たくなってきたな」
『澪もまだ眠いの』
「まあ、玄関のアレがある限り安全だろう。とりあえず窓だけは全部閉めておこうか」
『誰かさんみたいな人が入ってきたら怖いの』
「……」
「……」
「……」
『に、にらまないで欲しいの』
「ったく……窓も閉めてさっさと寝るぞ。お前はベッドで寝ろ。俺はリビングのソファーで寝るからよ」
『一緒に寝たいの』
「は?」
『一人で寝るのは怖いの』
「駄目だ」
『なんでなの』
「い、いや、ほら、色々とまずいだろ」
『まずくないの。一緒に寝るの』
「ほら、駄々こねてないでさっさと寝ないともたないぞ」
「……」
「……」
えぐっ えぐっ
「……ったく、わかったわかった。一緒に寝てやるからさっさと来い」
『わーいなの』
「って嘘泣きかよ!」
216動き出すふたり:04/05/24 00:58 ID:MREis1Zg

「澪、準備できたか?」
うんっ
民家の中からスケッチブックの代わりになるメモ帳を発見した。
これで外でも澪とのコミュニケーションは一応取れるようになった。
さすがに穴のあいたスケッチブックじゃあ他の参加者に見られたときに不信感を招くからだ。
玄関に仕掛けたクレイモアは解除した。
食料のうち保存のききそうなものはカバンの中に入れた。

「よし、じゃあ行くか」
『れっつごーなの!』
そして二人は外に出る。人を殺しつくすために。


【036 上月澪 所持品:M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(残り2個)、 イーグルナイフ、
 レミントン・デリンジャー(装弾数6発、予備弾12個)、スタンロッド、穴あきスケッチブック、防弾/防刃チョッキ、食料2日分】
【098 芳野祐介 所持品:ライフル(予備マガジン2つ)、サブマシンガン(予備マガジン1つ)、
 手製ブラックジャック×2、スパナ、(元ことみの)救急箱、煙草(残り4本)とライター、食料2日分】
【時間は午後5時ごろです】
217「静かすぎる一日」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/24 05:50 ID:eMYNF3kk
「なぁ、起きろよ」
 時紀は、地面に横たわる春秋の体を揺すった。触れた場所には、まだ温もりが微かに残っている。
 眼鏡をかけて、インテリぶっていて、どことなく胡散臭くて、気に入らない顔つきだった。
 それは完全に彼の主観だが、それで構わなかった。時紀は、嫌いな人間の方が多いのだから。
 触れるのも、会話するのも面倒くさい。接触は、異性との粘膜同士で十分だった。
 そんな時紀が、歪んだ表情で、春秋の体に触れている。
「ほら、まだ暖かいじゃねぇか。なに、こんな所で死んでんだよ。
 だってお前、さっき名前呼ばれていなかっただろ? じゃあ、死んでねぇんじゃねぇか。
 ……なぁ、起きろって」
「よしなさい」
 必要以上に冷たい沙耶の声が、時紀を遮る。
「死んだ人間は動かないわ。無駄よ。分かってるんでしょ?」
 手首が切られて、喉に穴が空いて、流れた血は固まりかけている。
 春秋の生命活動は停止していた。誰が見ても分かる事実だ。
「……冗談じゃねぇ。じゃあエミ公も、功の奴も、もう動いて俺の目の前に現れることがないってのか?
 はっ……悪質すぎるだろ。冗談にしちゃ、全然笑えねぇ」
 少し、間があった。時紀の発言から、事実を類推し、後悔するための時間。
 なのにどうして口からは、いつものような憎まれ口が飛ぶのだろう。 
「……そうね、事実だもの。冗談じゃない」
 この人と自分は似ているのかもしれない。
 沙耶が唐突にそう思った矢先、時紀が、獰猛な獣のように立ち上がり、胸ぐらをひっ掴んだ。
「てめぇはっ……!」
「……なによ」
218「静かすぎる一日」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/24 05:51 ID:eMYNF3kk
 だけど、時紀はなにも言わない。
 ただ、怒りの感情を歪んだ情けない顔に変化させて、胸ぐらを掴んだ拳に額を押し当て、肩を震わせる。
 服が伸びる。
 そんなどうでもいいことを、沙耶は懸命に考えていた。
 乱れた感情を律しようとしているのに、時紀は押し殺した声で、沙耶をなじる。
「……てめぇは、じゃあ、なんで、泣いているんだよ……」
 分かっていた。でも、せっかく目を逸らしていたのに。
「言ったじゃない。事実だからよ――」
 冗談だったら、殴り飛ばしてやる。いや、それだけですむものか。
 でも、殴り飛ばせない。どんなに願っても。
「本当に……バカ、ばかりなんだから……」
 どちらのものか、嗚咽が漏れ始める。
 その悲痛な声を、神尾観鈴は木の影に隠れたまま聞いていた。
 けろぴーのぬいぐるみを、ぎゅっと抱きしめて。
 
 何もしなかった。何もできなかった。
 食事も、睡眠も、会話すら、およそ人間らしい活動を一つもしないまま、
 ただじっと、三人は固まり続け――観鈴ですら余計な口は挟まず、一日が終わろうとしていた。
 夕暮れは、一足早く森の中に闇を落とし込み、ただ隙間から覗く空だけが、赤い。
 彼らにまた一つ、絶望が与えられるのか、それともわずかな安堵がもたらされるのか――。
 三度目の定時放送が近づいていた。

【031木田時紀 鎌】
【094宮路沙耶 南部十四年式(残弾9)】
【023神尾観鈴 けろぴーのぬいぐるみ】
【ボウガン(残弾5)は傍らに置いてあるが、誰も触れようとしない】
【第3回定時放送間近の夕刻ですが、放送までにある程度の幅は取れると思いますので、
 もしも、なにかそれまでにイベントを挟みたい書き手がいましたら、任せます】
219名無しさんだよもん:04/05/24 07:53 ID:XnppRpLw
ああっ、もうダメッ!
ぁあ…ウンチ出るっ、ウンチ出ますうっ!!
ビッ、ブリュッ、ブリュブリュブリュゥゥゥーーーーーッッッ!!!
いやああああっっっ!!見ないで、お願いぃぃぃっっっ!!!
ブジュッ!ジャアアアアーーーーーーッッッ…ブシャッ!
ブババババババアアアアアアッッッッ!!!!
んはああーーーーっっっ!!!ウッ、ウンッ、ウンコォォォッッ!!!
ムリムリイッッ!!ブチュブチュッッ、ミチミチミチィィッッ!!!
おおっ!ウンコッ!!ウッ、ウンッ、ウンコッッ!!!ウンコ見てぇっ ああっ、もう
ダメッ!!はうあああーーーーっっっ!!!
ブリイッ!ブボッ!ブリブリブリィィィィッッッッ!!!!
いやぁぁっ!あたし、こんなにいっぱいウンチ出してるゥゥッ!
ぶびびびびびびびぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!ボトボトボトォォッッ!!!
ビッ、ブリュッ、ブリュブリュブリュゥゥゥーーーーーッッッ!!!
いやああああっっっ!!見ないで、お願いぃぃぃっっっ!!!
ブジュッ!ジャアアアアーーーーーーッッッ…ブシャッ!
ブババババババアアアアアアッッッッ!!!!
んはああーーーーっっっ!!!ウッ、ウンッ、ウンコォォォッッ!!!
ムリムリイッッ!!ブチュブチュッッ、ミチミチミチィィッッ!!!
おおっ!ウンコッ!!ウッ、ウンッ、ウンコッッ!!!ウンコ見てぇっ ああっ、もう
ダメッ!!はうあああーーーーっっっ!!!
ブリイッ!ブボッ!ブリブリブリィィィィッッッッ!!!!
いやぁぁっ!あたし、こんなにいっぱいウンチ出してるゥゥッ!
ぶびびびびびびびぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!ボトボトボトォォッッ!!!
ぁあ…ウンチ出るっ、ウンチ出ますうっ!!
ビッ、ブリュッ、ブリュブリュブリュゥゥゥーーーーーッッッ!!!
いやああああっっっ!!見ないで、お願いぃぃぃっっっ!!!
ブジュッ!ジャアアアアーーーーーーッッッ…ブシャッ!
ブババババババアアアアアアッッッッ!!!!
んはああーーーーっっっ!!!ウッ、ウンッ、ウンコォォォッッ!

【神尾美鈴 辺りを省みず脱糞開始】
220森を走り抜けた狂気:04/05/24 09:17 ID:1/jzKYzO
 目覚めは巨大な爆発音だった。
 いや、この位置からでは案外音は小さかったのかもしれない。
 地面に身体を横たえていた七海は、軽い地響きに身を震わせ、目を開く。
(……)
 森の中。周りを見渡す。そこは知らない場所。
 誰もいない、誰も笑わない、日の当たらない。
 七海の好きな、空に近い部屋じゃなかった。
(そーいちさんに会いたい……)
 立ち上がる。一歩前へと足を踏み出す。
 柔らかい土に足が少し沈み、土の匂いが辺りに漂う。お日様の匂いはしなかった。

 夢を見ていた。宗一に出会った場所。空からはとても遠い場所。
 ただ、亡くなったお父さんとお母さんの分まで精一杯生きて。
 元気でいれたら、天国の父も母も、自分も。それだけでずっと幸せだと思っていたあの場所。
 宗一と出会って――そこよりはずっと空に近い、明るい場所へ。
 お日様の匂いのした服を着て、陽だまりの中で日向ぼっこしたあの頃。
 おじいさんと、おばあさんと、宗一と。あんなに暖かい人達に囲まれて。
 あんな暖かくて明るい場所があるなんて知らなかった。
(そーいちさんに会いたい……)
 夢を見ていた。宗一と、宗一の友達と、お誕生会を開いてもらったあの頃。
 宗一と、すももと、皐月と、ゆかりと、リサと、夕菜と、エディと、ゲンジローと、おじいさんと。
 もうずっと、ひとりだったあの頃じゃなかった。
 ひとりでごっこ遊びをして、それだけで幸せだったあの頃じゃなかった。
(みんなに会いたい……)
 夢を見ていた。お掃除をして、甘いお菓子を食べて。お茶をして。
 南とベナウィと、歌って、笑いあい語りあったあの頃。
 こんな島の中でも、確かにあった、暖かかったあの頃の思い出。
 今はもう戻ってはこない、南の暖かさ。
(ベナウィさんに会いたい。もう一度南さんにあやまりたい……)
221森を走り抜けた狂気:04/05/24 09:18 ID:1/jzKYzO
 ふらふらと、森を歩く。どこをどう歩いたかはもう分からない。
(そーいちさんに、会いたい……。会いたいです)
 ずっと逃げて、逃げ続けて。武器もなくて、その小さな体しかなくて。
 宗一と、大好きだったみんなと、自分の身を挺してまでも助けてくれた南の思いだけを胸に、生き続けて。
 辿り着いたのは。

「フフ、こんなところ歩いてたら危ないよ。あ、でもそうか。
 僕も人のこと言えないや。アハハハ」
 木陰から現れた人影は、暗く淀んだ瞳で、七海を見下ろす。
 冷たい銃口を、目の前へと向けて現れた人物は、長瀬祐介。
「すぐに殺してあげるよ。いや、ちょっとくらい苦しんだ方がフェアだよね。
 瑠璃子さんは苦しかったんだ。だから、待っててね、瑠璃子さん」
 狂気でも、正気は失ってはいないのか。相手は丸腰の小さい娘。
 残り弾のそう多くない銃を仕舞い、代わりにギラリと光るナイフを取り出す。
「そーいちさんじゃ、なかった」
 一歩あとずさる七海。下がれない。小さな踵が木にぶつかった。それにもたれかかる。
 空を見上げた。うっそうと繁る木々の緑。七海の好きなお日様は見えなかった。
「僕はゆーすけさんだよ。……実は、食べるものがほしいんだ。
 そんなものがあれば譲ってくれないかな?そしたら絶対苦しまないように位はするから」
 無茶苦茶だった。だが、七海は震える声を必死で抑え、それでも笑顔を見せた。
「ご、ごめんなさい!甘いお菓子も、お紅茶も、みんな置いてきちゃって。
 だから、食べられるものはなんにもなくって……」
 どんなに辛くとも、どんなに悲しくとも、笑っていればそれだけで幸せになれた頃が、確かにあったのだ。
 だけど、七海はもう知ってしまった。本当に暖かい場所が、この世界にはあるってことを。
 笑顔からぽろぽろと涙が零れて、地面へと吸い込まれた。
「そっか、残念だなぁ」
 祐介は、ナイフを振り下ろした。
222森を走り抜けた狂気:04/05/24 09:19 ID:1/jzKYzO
 皐月と智代の二人は、長瀬祐介を追って、住宅街を走った。
 その内、整備された道は途切れ、獣道になり、そして最後には木々に囲まれた道なき道へと導かれる。
「ねぇ、トンヌラ。本当にこっちなの?」
 森へと入った皐月が主へと呼びかける。
「ガル……」
 とても頼りなさげな唸りで返される。
「見失ったのかもな」
 皐月の後ろから智代が呟く。残念そうでもあり、安心したともとれる、そんな声色。
「正直、ホッとした気持ちと、誰だか分からないままで残念な気持ちと、両方だ」
 まんま、両方だった。
「仕方ないね。でも、アテもないし、このまま進むのも悪くないね」
「森か……。薄気味悪いところだな」
「昨日は私、ずっとそっちで過ごしてたよ。智代に会うちょっと前まで」
 奥深くへと進むごとに、太陽の光が遠くなる。
 代わるように、静かな風が木々を揺らす音が二人の心を少し癒すかのように辺りに響く。
「こんな時でもなければ……綺麗だなって、思ったんだろうな」

 木を縫うようにして進む内に、人の話声が聞こえはじめた。
「……空耳じゃないよな」
「複数いるみたい」
 ひそひそと声を潜め、音をたてないようにしてそこへと近づく。
 木々の間から、その声の主を探すように覗き見る。

 幾度か、そんなことを繰り返した後、遂に目にしたものは凄惨で残酷な光景だった。
「七海……ちゃん」
 皐月が、ワナワナと震えた。
(……まだ、小学生くらいじゃないか!)
 智代は激しい憤り――いや、そんな生易しいもんじゃない――を感じた。
 目の前の、まだ純真な子供に刃を向ける男にも。
 そしてそんな娘を、こんな殺し合いに巻き込んだ篁達も。
「「行くよ!!」」
 二人の声が重なった。同時に高く舞い上がる一つの影。
223森を走り抜けた狂気:04/05/24 09:20 ID:1/jzKYzO
「痛い……痛いです」
 七海は助けて、とは決して叫ばなかった。
 南さんはもっと痛かった。そう言い聞かせて、自分を奮い立たせる。
 自分を助ける為に身体を張った南と、優しくて強い、宗一の姿を強く心に浮かべて。
 激しく身体と手足を斬りつけられながらも七海は生きようともがいた。
 もう走る体力もない。傷ついて、足が前に進まなくても、懸命に手を伸ばした。
 土を掻きむしるようにして、ズリズリと身体を滑らす。
「だから、もう逃げられないって」
 残酷な、無機質な、機械のような声。再び振り下ろされる冷たい凶刃。
 それがまた祐介の胸元に戻される時は、刃はまた真っ赤に染まっていた。
 祐介はその度に服の裾で血を拭った。
 気が付けば、あれだけ痛かった体が軽くなった気がした。
(そーいちさんに、会うんだ……)
 身体がもう痛くない。力が漲る。力強く前へと一歩を踏み出す。地を駆ける。
 それなのに、やっぱり七海の身体は動かなくて、指が土を不器用にほじくるだけ。
(生きるんだ……)
 七海の視界がふいに暗くなった。七海をまたぐようにして祐介がそこに立つ。
 両手でナイフを構え、それ越しに七海の後頭部を見据える。ゆっくりとそれは頭上まで上げられ。
「そろそろ楽になりなよ」
 振り下ろそうとした瞬間、二人の目の前の大木が大きく音をたてて動いた。――否。
224森を走り抜けた狂気:04/05/24 09:21 ID:1/jzKYzO
 枝が大きくしなり、それをバネにして主が跳ぶ。影一つ。着地目標は眼下の男。
 男はそれを一度、ただ何が起こったのか分からないように呆然と見上げ、
 それから即座に自らを庇うようにして身を屈める。
 男の肩に飛び乗るようにして、主が着地を決める。何かが砕けるような感触。
「ガアアアアアッ!」
 男が獣の咆哮を上げる。今の感じ、右肩……恐らく鎖骨がイッた。智代が思う。
 そのまま男を押しのけるようにして、もう一度主が軽く跳躍する。
 それを合図に、智代と皐月も主の背中から飛び立つ。舞い上がり、地面に映る影三つ。
 一つの影、智代は、七海の上からよろけるようにして下がった男に、空中で蹴りを見舞う。
 ――遠慮はしない。折れた鎖骨の上に怒りを塗り込めるかのように。
 男はさらなる絶叫を上げながら肩を押さえ、地面を転げ回る。土が、七海が流した血が、男の体を汚していく。
 男が持っていたナイフがくるくると回りながら弧を描き、柔らかい地面へと突き立った。
 もう一つの影、皐月は、七海の傍に降り立ち、ぐっと七海を抱き寄せる。
「七海ちゃん!七海ちゃん!しっかり!」
「……さつき……さん?」
225森を走り抜けた狂気:04/05/24 09:22 ID:1/jzKYzO
 態勢を崩しながらも、智代はなんとか手をつきながら地面に降り立つ。
 主の方は空中で華麗に一回転すると、ふわりと智代と皐月の間へと降り立った。
「七海ちゃんが危険!撤退!」
「男はどうする!?」
「――知ったことか!」
 皐月が痛む肩を堪え、よろけながらも七海を主の上へと引き上げる。
「七海ちゃん!すぐに手当てするから頑張って!」
 まず七海を乗せ、それから皐月が騎乗する。そして主が走り出す。
「殺……してやるっ!」
 足をガクガクと震わせながら、立ち上がる祐介。
 智代は、その鎖骨にもう一度だけ前蹴りを喰らわせると、
 走り出していた主の背に駆けより、華麗に飛び乗る。
 搭乗者が三人ともなると、さすがに主も辛そうな息を吐いたが、
 幸い七海は軽かった。多少速度は落ちたが、人に比べれば充分な速さでそこを駆け抜ける。
 こんな状況だ。もう少しだけ頑張ってもらわなくちゃならない。皐月が主の毛並みを撫でる。
「頑張れ!あとでいっぱいご褒美あげるから!」

 皐月に体を預けるようにした七海が口を開く。
「皐月……さん、私……」
「喋らないで!大丈夫だから!……一緒に行こう?」
 七海が、皐月を見て、少し笑って。それから泣いた。
226森を走り抜けた狂気:04/05/24 09:22 ID:1/jzKYzO
 森が騒がしくなる。誰かの叫び声。獣の声、女の声、男の声。
 ああ、五月蝿いなぁ。ここにはすでに先客がいるのか。
 でも、誰だって良かった。今なら、誰でも殺れる気がする。
 今の自分は気力充実していた。

 一発目。
 見事に敵を仕留めた。
 二発目。
 すぐ横の蜂の巣へと狙いがそれた。一発目当てた為か、精神に油断が生じたのだ。
 三発目。
 ゼロ距離ではずした。全部この貧弱な体のせいだ。
 四発目。
 今度は、精神が肉体を凌駕した今ならやれる。

 ――撃ってやる!今度こそ決めてやる。
「体が言うこと聞かないなら精神力で撃ってやる」
 最後に勝つのは私。自分にそう言い聞かせながら。


「来た!撃ってやる……今度こそ脳天に、鉛玉――ぶち抜いてやる!」
 飛び出してきた影。近づいてくる。真正面。
 目一杯ひきつけて、その脳漿ぶちまけさせてやる!
227森を走り抜けた狂気:04/05/24 09:24 ID:1/jzKYzO
「皐月っ!目の前っ!」
 男を飛び越え、木々の間を抜け、藪を突っ切って眼前に開けた視界。


「殺してやる……。お前ら、全員壊してやるっ!」


 背後からは、呪いの言葉を吐く血塗られた男。


 ――前に立つは黒で塗り固められた女。



【017 杜若きよみ 改造マグナム残弾2(装填済)】
【056 立田七海 重傷 もうかなりヤバイ 主 騎乗中】
【095 湯浅皐月 左肩骨折(応急処置済)主 騎乗中】
【038 坂上智代 朋也・宗一・芳野の写真 主 騎乗中】
【062 長瀬祐介 鎖骨骨折 所持品 果物ナイフ、グロック17残弾11発】
【風子のよく切れるナイフは転がってる】
【主 お腹一杯食べてから半日 まだ平気】
【時間は昼頃】
228動き出すふたり持ち物訂正:04/05/24 12:14 ID:MREis1Zg
【036 上月澪 所持品:M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(残り2個)、 イーグルナイフ、
 レミントン・デリンジャー(装弾数2発、予備弾16個)、スタンロッド、穴あきスケッチブック、防弾/防刃チョッキ、メモ帳、食料2日分】
【098 芳野祐介 所持品:ライフル(予備マガジン2つ)、サブマシンガン(予備マガジン1つ)、
 手製ブラックジャック×2、スパナ、(元ことみの)救急箱、煙草(残り4本)とライター、食料2日分】
【時間は午後5時ごろです】


すいません>>216の最後の持ち物を以下のように訂正します。
229Do you kill me,Ms.Murder?:04/05/24 14:32 ID:MWsixVDW

森を引き裂く一発の弾丸。
外さない。当たれ。当たれ。当たれ。砕け散れ!
黒の女の妄念を乗せたその軌道は、狙い違わず真っ直ぐに獣へと延び―――

小さな、小さな体を吹き飛ばした。

「―――七海ちゃん……っ!」

伸ばした手の、届くはずもなく。
その震える唇は、最期に、たすけて、と。いたいよ、と。
そして、どうして、と動いたように、見えた。
皐月には、そういう風に、七海の最期が見えた。

至近弾に驚いたのか、主が大きく体勢を崩した。
掴みなおす間もなく振り落とされる。
折れている左肩から、地面にまともに叩きつけられた。

「ぐぁああっ!」

智代は。あの女は。あの男は。何も見えない。激痛。
230名無しさんだよもん:04/05/24 14:33 ID:MWsixVDW

―――当たった、今度こそ、撃ちきれた!

杜若きよみの一念は少女を殺し、そして未だその火は消えていなかった。
両腕、そして肩が、音を立てて軋んでいる。
こんなものがなんだ。痛みがなんだ。もう一発。もう一発、弾丸はある。
撃つんだ、撃つんだ、あの獣が体勢を崩している今、撃つしかない!

獣を撃って、そして残りの二人をどうしようというのか。
決まっている、殺すのだ。
この細い腕で? 脆い肩で? 白い指で首でも絞めるのか?
それともその銃で殴るとでも言うのか!
笑わせる、できるものならやってみればいい!
ええ、やってみますとも。そこで見ているがいい、口先だけの弱い私!
私は、私が蝉丸さんと逢って、私だけが!

重い鉄の塊を、持ち上げたようとしたとき。
目に入ったのは、残像だったか。
痛みより衝撃より、空の青さだけが飛び込んできた。
231名無しさんだよもん:04/05/24 14:34 ID:MWsixVDW

坂上智代は、主から振り落とされ空中にいる間、端的に言って悲しんでいた。
―――私は、いつだって何かが壊れてからでなければ動けない。
私のするのは結局、欠片を接いで不恰好な器を作るような、そういう滑稽なことだ。
隙間から水が漏れていても、底に残るものがあればいいと、そう叫んでいる子供だ。
わかっている。
結局、穴の開いた器では、水は零れていくのだ。
そのくらい、わかっている。
それでも接いできたのが私だ。坂上智代だ。
だから、まずはしっかりと受身を取って。
この器の欠片を、集めて接ぐっ……!

疾風。
相方のお株を奪う疾さで黒い女の懐に飛び込むと、智代はその脚を、解き放った。

 ―――ひとつ、ふたつ、みっつ……これが、限界かっ。

四撃めで、目の前の大木に向けて弾き飛ばす。
叩きつけられた女はぐったりと倒れこみ、それでも手中の銃を離さない。
智代は女に駆け寄ると、馬乗りになってその手を押さえる。
女と目が合う。
苦痛のためか、全身から力は抜けていたが、その目は、笑っていた。
232名無しさんだよもん:04/05/24 14:35 ID:MWsixVDW

「……どうして……っ、どうして貴様は人を殺す……っ!」
「―――ふふっ」
「何がおかしいっ!」
「可笑しいでしょう。理由があれば人を殺してもいいみたいに物を言う」
「―――!」
「貴女、私を殺すのよね? 私の銃が貴女のお仲間を殺したから」
「貴様が、撃ったんだっ!」
「じゃあ私には理由があったのよ。とっても重大で、人を殺してもいい理由」
「何を、言って―――」
「たいせつなひとがいるんです。どうしてもあわなくてはいけないの」
「……」
「妹の病気を治すために、勝って望みを叶えてもらうんです、というのも面白いわね」
「―――貴様っ……!」
「貴女にはわかっていない! 人が人を殺すということが、どういうことか!
 理由や目的や、大義があればいいの? 悼んであげればそれで済むの?
 ―――ふざけないで」

そう言い切った女の目は、もう笑ってはいなかった。
心底から、智代を蔑んでいた。

「貴女みたいな人をね、私はたくさん見てきたの。殺しなさいよ。さぁ。
 貴女の大切な目的のために、私を踏みにじりなさいな」

坂上智代は動けない。
右の拳を握ったまま、動けない。

「……あら残念、時間切れみたいね」

銃声が、近づいてきていた。
233名無しさんだよもん:04/05/24 14:36 ID:MWsixVDW

長瀬祐介は歩いていた。
殺してやる。右腕が使い物にならない。殺してやる。左腕一本で撃てるか。殺してやる。
パン。
撃てるじゃないか。殺してやる。
パン。
楽しいな。殺してやる。
パン。
足元に死体。なんだこの子、死んじゃったのか残念だ。もう一度殺しておこう。
パン。
さて、見えた。殺してやる。どいつもこいつも殺してやる。
左手の地面に倒れてる女がひとり。
右手奥の木の傍に女がふたり。
正面のこれ、なんだろう。とら。トラ。虎。
まぁいいや、撃ち放題だ。
でももう少しだけ近づかないと当たらない。
虎、邪魔だな。虎。さっき痛かったし。痛かった。痛かった。
殺してやる、殺してやる、この虎、殺してやる!

長瀬祐介は気づかない。
自分が今、何を相手にしようとしているのか。

【056 立田七海 死亡】
【017 杜若きよみ 改造マグナム残弾1(装填済)】
【095 湯浅皐月 左肩複雑骨折】
【038 坂上智代 朋也・宗一・芳野の写真】
【062 長瀬祐介 右鎖骨骨折 果物ナイフ、グロック17残弾7発】
【風子のよく切れるナイフは転がっている】
【主 お腹一杯食べてから半日 まだ平気】
【残り55人】
ちょいと聞いてくれよ。今まであんま会話もないけどさ。
ついさっき、藤田君殺しちゃったんです。藤田君。
そしたらなんかいい匂いがしてきて、ふらりと近づいていったんです。
で、よく見たら、なんかレトルトの封切っていて、カレー食ってるんです。
もうね、アホかと。馬鹿かと。
お前らな、カレー食うのにレトルトなんか食ってんじゃねーよ、ボケが
売価150円だよ、150円。
なんか親子連れっぽいし。親子水入らずでレトルトカレーか。おめでてーな。
よーしパパカレーは大好物だぞー、とか言ったの言わないの。もう見てらんない。
お前らな、でかい石、頭にくれてやるからカレーよこせと。
この島はな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
一緒に行動していた憧れの人と、いつ殺し合いが始まってもおかしくない、
刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。女子供は、すっこんでろ。
で、やっと食うのかと思ったら、卵の黄身を落としたいんだけど、とか言ってるんです。
そこでまたぶち切れですよ。
あのな、この島では卵なんて稀少品、きょうびいれられねーんだよ。ボケが。
得意げな顔して何が、卵の黄身落として、だ。
お前は本当に卵の黄身を食いたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。
お前、娘さんとラブラブコミュニケーションしたいだけちゃうんかと。
カレー通のあたしから言わせてもらえば今、カレー通の間での最新流行はやっぱり、
三日目、これだね。
具なし三日目熟成カレー。これが通の作り方。
具なしってのはルーが全開で入ってる。そん代わり肉も野菜もナッシング。これ。
で、それを三日熟成。これ最強。
しかしこれをずんどう一杯に作ると一週間カレーを食い続けなければならないという、諸刃の剣。
貧乏生活素人にはお薦め出来ない。
まあお前、あんたらは、あたしの殺すリストに登録されたってこった。

【071 雛山理緒 所持品:筋弛緩剤と注射針一式(針3セット)、ザック入り枕大の石、裁縫道具、手作り下着、
 クレジットカード、小銭入り長紐付き巾着袋、クッション、バッグ3つ所持。
 押入の中で錯乱中。奮闘しているが、まだ拘束は解けていない】
【「卵の黄身落としたいんだけど」は、「ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど」を錯乱した脳が聞き違えたものです】
【時刻は昼頃】
236狂気の果てに…:04/05/24 20:42 ID:rZYQU/W4

 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる。
 コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル。
 僕のウデヲ使いモノにならなくした虎をトラをケダモノヲころシテヤル。
 殺す殺す殺す殺す。
 殺す殺ス殺す殺ス。
 コロスコろスコロスコロス。
 コロスコロスこロスコロす。
 死ね。
 死ね死ネ。
 シネしネシネ。

 長瀬祐介は一歩ずつ主に歩み寄って行く。
 ずさり。一歩。
 ずさり。また一歩。
 少年の瞳にはもはや理性の色は残されていなかった。
 あるのは狂気のみ。
 近づく度に狂気の扉は開かれていく。
 ―――否、狂気の扉は既に開かれている。

「……グルル…」
 主の瞳は少年をじっと見据えていた。
 自分を攻撃する敵と判断したか。
 ―――それとも少年に対する哀れみの瞳なのか。
 
237狂気の果てに…:04/05/24 20:44 ID:rZYQU/W4

 なんだよ虎のくせにケダモノのくせに、
 僕を僕を僕をそんな目で、
 ―――そんな悲しい目で、
 見るな見るな見るな。
 見るな見るな。
 ミルナ。

「そんな顔で僕を見るなぁぁあぁぁああァァぁァアっつ!!!!」

 祐介は一気に主との間合いを詰める。
「死ねシネ死ねシネ死ねみんな死んじまえぇぇええっ!!!!!」

「グオオオオォオオオオォォォ」
 主の咆哮が森に木霊する。
 大気を振動させ、木々が揺れる。
 ムティカパの怒りは森の怒り。
 矮小な人間に裁きを下す鉄槌。
 一筋の流星のように祐介に飛び掛って行く。

「来るな来るな来るな来るなぁぁぁぁ―――ぁがぁお!?」
 銃を撃つ間もなく丸太のような腕が祐介の腹部を薙ぎ払う。
「ぐぶっ……そん…な」
 臓物を周囲に撒き散らせながら祐介は仰向けに倒れこむ。
 身体が動かない、致命傷。

 瑠璃子さん僕はぼくは…。
238狂気の果てに…:04/05/24 20:45 ID:rZYQU/W4

「瑠璃子さん、僕はいつまでも永遠に君を―――ぉごぉっ」
 祐介の最期の言葉は森の主によって遮られる。

 ごりゅっ ごきっ めきょ

 グルルルル…。
 かつてヒトだったモノの残骸に佇む主の背中はどこか悲しそうだった。



「トンヌラ……」
 祐介が解体される様を一部始終見ていた坂上智代は硬直していた。

「アハハハハッ、見た? 貴女のペット、人を喰ったわよ」
「しつけがなってないんじゃないの?」
「人に懐いていたようでも所詮はケダモノよね」

「それに―――貴女、隙だらけよ?」
「しまっ―――!?」
 きよみは素早く右手の拘束を解くと手にした銃で智代の頭を殴りつける。
「あっ…が…き…貴様…」
 倒れこむ智代。
「これで立場は逆転」

「チェックメイトよ―――」
 銃声が森に鳴り響いた。
239狂気の果てに…:04/05/24 20:46 ID:rZYQU/W4
「ふ……ふふ…はははは…私の…負けよ…」
 きよみの放った銃弾は智代を掠め地面に穴を開けていた。
 残弾ゼロ。
 改造マグナム銃、撃った時の反動は半端ではない。
 智代の三連続の蹴りを受けたきよみは智代を捉えることはできなかった。

「ヴォフ…」
「トンヌラ…」
 主は祐介の残骸から拾った黒い塊を口に咥え智代に渡していたた。
「あら、貴女のペット、中々賢いのね。それで私を撃ってみなさいよ」
「…………」
 智代は黙ったまま銃を構える。
 智代の肩は震えていた。
「何をしているの? 早く撃ちなさいよ。ここで私を仕留め損なったら何をするかわからないわよ?」
 そう言ってきよみはちらりと視線を移す。
 視線の先、木の根元に蹲り気絶する少女の姿。
「弾丸は入って無くとも、あそこで気絶している小娘
 一人殴り殺すなんて簡単よ?」
 きよみがゆっくりと皐月に近づいていく。
 
 このままでは皐月が…。
 私は…私は……。

 再び森に銃声が鳴り響いた。
240名無しさんだよもん:04/05/24 20:47 ID:rZYQU/W4

「おぶっ……そうよ…やればできるじゃないの」

 銃弾はきよみの腹に突き刺さっていた。
 だが、まだきよみは倒れない。
「ふふふ…まだ私はっ…倒れないわよ…」
 皐月に近づく。
 二発目。
「うぶぅっ」
 三発目。
 四発目。
 五発目。
「ごふっっ…何やっ…てるの…その程……で」
 六発目。きよみは足を止め地面に沈む。

「うふっ……これで貴女は…私と同じ側の人間…」
「違う…違う…断じて…私は貴…様なんかと…」
「何が…違うと言うの…? 貴女は自らの…目的のために私の命を
 踏みにじっ…た。なに…が私と違う?」
 瀕死のきよみは智代に呪詛を紡ぐ。
「黙れ……私はっ…違…」
「フ…ふふ…貴女が何と…思おうと…事実はかわら…ない
 所詮…あなたは偽善―――」
 七発目の銃声が響く。
 銃弾はきよみの眉間を貫いていた。


「―――黙れ……と、言ってるんだ―――」


241名無しさんだよもん:04/05/24 20:48 ID:rZYQU/W4
【062 長瀬祐介 死亡】
【017 杜若きよみ 死亡】
【095 湯浅皐月 左肩複雑骨折 気絶中】
【038 坂上智代 朋也・宗一・芳野の写真 グロック17残弾0発】
【主 お腹一杯】
【残り53人】
242よせてはかえす:04/05/24 22:26 ID:TwpnE0GT
 おだやかで、あたたかい。
 何かが彼女の背中を、撫であげる。
 彼女はやすらかな気持ちで、身を任せていた。
(んっ……気持ち、いい……)
 その何かが、今度は背中から腰へ、そして太股からふくらはぎを撫でおろしていく。
 朦朧とした意識の中で、彼女は幸せだった。

 その幸福感の中、無粋な声が響き渡る。
『……柏木初音。29番、木田恵美梨。43番、沢渡真琴。45番、霜村功。49番……』
 放送。おかしい。これは、いま流れているわけではない。
 夢の中で夢と気付くように、それだけは理解した。
 脳裏に繰り返される、聞いたような聞いていないような、死を告げる放送を、ふたたび聞いていた。
(ああ……また、たくさん死んだのね)
 霜村功は、同級生だ。木田エミリは、木田時紀の妹だったと思う。
 彼らの下品な会話の中から、ときおり聞こえてきた名前だった。どうでもいい。
 どうせ、どちらも親しい仲ではない。前者は嫌いな部類の男だったし、後者は全く面識がない。
 それにしても。
(みんな、木田くんの知り合いなのね……)
 自分や透子も含めて、そうである。
 木田時紀の知人ばかりが、死んでいる気がしてしまう。
(……変なの)
 しのぶは疲れていた。
 まどろみのなかに疑問を溶かし、しばらくのあいだ、それ以上考える事をやめた。
 
243よせてはかえす:04/05/24 22:34 ID:TwpnE0GT
 数時間後、彼女はふたたび意識を取り戻した。
(ここは……?)
 頬に砂。しのぶは砂浜に独りだった。
 波うちぎわで、倒れている。いや、うち揚げられたというべきか。
 幸いにして、鞄はあった。岩場を昇り降りするために、袈裟懸けにしていたおかげだろう。
(そうだ、ナイフは……)
 ナイフも無事だった。スカートの腰のあたりに、感触がある。
 スカートだけでなく、ストッキングとショーツで鞘を押さえているのだから、簡単には失くさない。
 鞘だけだったらどうしようとも思ったが、あきらかに柄の感覚もあった。

 まるで動く気はしなかったが、五体は満足だ。
 もし落ちた先が岩なら死んでいただろうし、流されて溺死してもおかしくなかった。
(……不幸中の幸い、だったのかしらね)
 もうすこし水死体のふりでもしながら、休んでいようか。
 しのぶは、そんな怠惰な事さえ考え始めていた。珍しいことである。
 
 
 彼女の短い休息を邪魔したのは、穏やかさとは無縁の二人組である。
 このふたりは幽霊車の悪夢から醒めたのち、ふたたび仲間を探し始めていた。
「ふみゅ?」
「どしたの、詠美ちゃん」
「あそこ! 誰か倒れてる!」
「え……あっ! あの制服、同じガッコかも!?」
 砂浜を走り、波の中に身を投じて駆け寄る。
 間違いない。この黒髪に、覚えがある。
 名前は知らないが、功センパイのクラスの人だ。
「もしもし! センパイ!? 生きてますか!? 大丈夫ですか!」
「ちょっとお、起きなさいよ! あたしたちまで濡れちゃうでしょ!」
 かなり気遣いに差があるが、それでも二人はしのぶを助け起こそうとした。
 
 
244よせてはかえす:04/05/24 22:37 ID:TwpnE0GT
(あー、煩い……)
 黄色い声の多重放送を近距離大音量で聞かされながら、しのぶは渋々意識を覚醒させた。
 さっきはあれほど覚悟して、それでも通じなかったのに。
 なんでこの娘たちは、これほど無防備に接近してくるのだろう。
 ひとりは手ぶら。武器は鞄の中だろうか。もうひとりはラクロスの――
「――あなた、その格好……?」
 真帆がにぱっと笑う。花が咲くような、明るい笑み。
「ハイッ! ラクロス部の制服でーす! センパイは、功センパイのクラスのひとですよね!?」

 この声に覚えがある。
 霜村功を迎えに、よく教室の中まで入り込んでいた。
 木田時紀と、三人で話していた。
 エミリチャンと彼女が言った声も、おぼろげながら覚えていた。
「良かったあ。sのですね、麻生明日菜さんと、神尾晴子さんって人がですね、主催者を倒そうって――」
「――ふふ。うふふ……」
「センパイ? どうしたんですかぁ?」
 笑えた。笑うしかなかった。
 さっきのは、幻聴だったのだろうか。
 そうでもなければ、何故この娘は、これほど元気でいられるのか。

 この明るさが、鬱陶しかった。
「あなたね。どうしてそんなに、元気なの?」
「……ハイ?」
 意味が分からない、とでも言いたげな顔をする真帆。
 この際、幻聴でもなんでもいい。嘘であってもばれなければいい。
 そう思いながら、しのぶは鎌をかけた。
「霜村くんも、木田エミリさんも。木田くんの知り合いは、次々死んでいるというのに。次はあなたかもしれないのに」 
「え?」
 真帆の笑みが、冷え固まった。
 
245よせてはかえす:04/05/24 22:44 ID:TwpnE0GT
「……あなたたち。放送、聞いてないの?」
 非難するように、しのぶが冷たく尋ねる。
 心のどこかを強く弾かれたように、詠美が叫んだ。
「な、なにようっ! あたしたちは、そんな放送聞いてないんだから! みんなみんな、生きてるんだからっ!」
 忘れていた。いや気付いていたかもしれない。
 聞けなくて良かったんだと、思っていたのかもしれない。
 そうだ、眠りすぎた。きっと放送を、聞き逃した。
「聞いてないっ! そんな放送、あたしたちは聞いてない! なのになんで、なんであんたは、そんなこと言うのよ!」
 由宇や南も死んだ。そう言われるかもしれない。
 詠美は恐怖に押されるように、しのぶに掴みかかった。
 
 そして――
「聞きたくない! 聞きた――」
 ――崩れ落ちた。
 
 波打ちぎわに、詠美の身体が横たわる。
「……詠美ちゃん?」
 真帆は状況がつかめない。
 波が寄せて、詠美の身体を撫で回す。
「……えい――」
 波が引いていく。
 真っ赤な波が引いていく。
 血潮が浜を染めていく。
「――詠美ちゃん! そんな、センパイ、どうして!?」
 
246よせてはかえす:04/05/24 22:47 ID:TwpnE0GT
「死ぬのよ。みんな、死ぬの」
「違う! センパイが殺した!」
「でも、霜村くんは殺してないわ。誰が殺したって、おんなじじゃない」
「そんな……」
「あなた、本当に放送を聞いていないのね?」 
 真帆も理解していた。
 この情報のずれは、放送を聞き逃したとしか思えなかった。
「……たぶん、寝てた……」
 唇を噛む。
 恵美梨ちゃんも、功センパイも死んだのか。

「うふ。ふふふ……いい顔ね。その顔が、見たかったわ」
 悔しげな顔。あなたたちだけ、幸せになんてさせない。
 楽しそうにしていた分だけ、もっと苦しめばいい。
「ふふ、ふふふ。あははははは」
 しのぶは嘲笑う。笑い続ける。真帆たちの愚かさを、抉り出すように笑い狂う。
 後悔を噛み締めて、殺意と恐怖を押さえ込んでいた、真帆の心が決壊する。
「ひどい――許さない!」
 逆上し、ラケットを振りあげる。
「許さな――」
 振り上げると同時に、銃声が響いていた。

「……さすがに、外さないわよ」
 真帆の身体が、詠美の上に折り重なるように倒れた。
 波が引いていく。
 真っ赤な波が引いていく。
 血潮が浜を染めていく。

 そして黒髪の女が独り、面白くも無さそうに、笑い続けていた。
(いつかはあたしも、そして透子も、死ぬかもしれない)
 そんな不安を吹き飛ばすために、彼女は力の限り笑い続けた。
247よせてはかえす:04/05/24 22:48 ID:TwpnE0GT
 
 
【068葉月真帆 死亡】
【013大庭詠美 死亡】
 
【039榊しのぶ ブローニングM1910(残弾6)・ナイフ・米軍用レーション(10食分)・缶切3つ・12本綴りの紙マッチ3つ小型ガスコンロ】
【詠美と真帆の鞄(護身用スタンガン ラクロスのユニフォーム&スティック&ボール3つ)は、まだ漁っていません】

【残り51人】
 
248よせてはかえす修正:04/05/24 22:53 ID:TwpnE0GT
>>244中ごろの、「良かったあ。sのですね〜」を「良かったあ。あのですね〜」にしてください。
申し訳ありませんでした。
249彼の決意 1:04/05/24 23:54 ID:2UjKAzZa
 …………。
 疲れていた。
 食事も睡眠もとらなかったが、丸一日休んだおかげで体の疲労は多少取れた。
 しかし、心の疲労の方はそう簡単に取れるものじゃないらしい。

 ――恵美梨、功。
 俺の日常を構成する二つの重要な要素が、この非日常の島で失われた。
 もう、恵美梨の作ったハンバーグを食べることはなく、功のノロケ話を聞くこともない……。
 失われても構わないと思っていた変化に乏しい日々、それが永遠に訪れることがなくなった。
 だが。
 俺は……。

「……クソッ!!」
 毒づく、己のふがいなさに。
「……クソッ!!」
 毒づく、この非日常の島に。
「……クソォッ!!」
 毒づく、こんなことを強いる奴らに。

 涙は出ない。
 泣いて死んだ人間が帰ってくるなら、元通りのつまらない日々に帰れるのなら、俺は喜んで泣いただろう。
 しかしそんなことはあり得ないことだ。泣いたって状況は好転しない。
 第一、そんなガラでもない。

 なら……。
 この絶望的な島で俺がするべきこと、できることは……。
250彼の決意 2:04/05/24 23:56 ID:2UjKAzZa
「……――なぁ」

 ぬいぐるみで遊んでいた観鈴と、拳銃をいじっていた沙耶が、時紀の方を向く。
「……おまえ達はこれから、どうするつもりだ?」
 今更といえば今更な質問。
 しかし、時紀達三人は、別に同じ目的があるわけではないし、ましてや観鈴がいう「仲良し」というわけでもない。
 今までは惰性で一緒に行動していただけだ。
 この辺りではっきりさせておくべきだった。
「……えっと、まずはお母さんを捜さなきゃ。で、お母さんと合流できたら、他の人達と仲良くなって、一緒にこの島から逃げ出すの。にははっ」
 暢気に笑っている観鈴。
 その目的達成の困難さを考えず、絶対成功すると思っているのだろう。
「……アタシは、アイツを殺した奴を……殺すわ」
 「アンタには関係ない」と返されると予想していたが、沙耶は意外にも素直に答えた。
 その瞳に暗く激しい殺意を湛えて。
「……そうか。なら――」

「……そろそろ別れた方がいいな」
「えっ!?」
「…………」
 その言葉に、二人はそれぞれ別の反応を返す。
 観鈴は心底驚いたような表情を浮かべ、沙耶は時紀の真意を読みとるような視線を向ける。

「……お互い、目的が違いすぎるんだ。このまま一緒にいても意味ないだろ?」
251彼の決意 3:04/05/24 23:59 ID:2UjKAzZa

 別れよう、そう言った時紀に観鈴が近づき、手を握った。
「そんなこと言わないで一緒に行こ……? 
 だって、二人はこんなに仲良し。沙耶さんも仲良し、だから三人で一緒に……、いっしょに……」
 最後の方は泣きそうになっていた。
 時紀を引き留めようとしているのだろう。
 しかし、時紀は観鈴の手をふりほどいた。
「……やめてくれ。このまま惰性で慣れ合うなんてまっぴらなんだ」
「……が、がお」
 目尻に涙を浮かべ、今にも泣き出しそうな観鈴を無視して時紀は続ける。
「……日が暮れたら町の方に移動する。そこで別れよう。それと――」
 時紀は放置されていたボウガンを拾うと、それを観鈴の手に持たせた。
「その後はこいつで自分の身を守るんだ」

 しばし、三人の間に重い沈黙が流れる。
「……ところで」
 その沈黙を破ったのは沙耶だった。
「……アンタはこれからどうするの?」
「……俺か?
 俺は、このゲームに乗った奴らと、ゲームの主催者を……

           ――ぶっ潰す」
252彼の決意 4:04/05/25 00:00 ID:qWvMgjdS
 能動的に殺人をしている奴ら、そして、高みの見物をしている主催者。

 そんな連中を倒し、ゲームの犠牲者を減らすこと。
 困難さにおいて観鈴の目的の比ではないだろう。
 しかし、時紀はそれが自分のするべきことだと思った。

 観鈴を一人にするのは忍びなかったが、連れていけば必ず危険にさらすことになる。
(ゲームに乗った連中を倒せば、乗ってない奴らの危険は減る……)
 非力な奴を一人にする代わりに、そういった奴の脅威となるものを排除する。

(帳尻は……
 ――合う筈だ)



【031木田時紀 鎌】
【094宮路沙耶 南部十四年式(残弾9)】
【023神尾観鈴 けろぴーのぬいぐるみ ボウガン(残弾5)】
【夕暮れ時 放送前】
【夜になったら住宅街を目指し、そこで解散する事に】
253misunderstanding ◆gereKU42C6 :04/05/25 00:01 ID:7HC9WPcG
 晴香は、怪我の治療が出来そうな場所を探して、痛む身体を引きずりながら森を移動する。
 途中、先刻通った焼け落ちた民家を見かけたことから、来た道を引き返しているようだ。
(どっかで治療しないと不味いわね……)
 打撲、裂傷、擦過傷。
 数え上げればきりが無い。
 大小様々な傷が、満遍なく全身を覆っていた。
 これは、早急に治療しないと後々面倒になりそうだった。
(見渡す限り緑ばっかでうんざりするわ。どこかに民家でもないものかしら)
 晴香は住宅街とは反対の方向に進んでいた。
 この状態で参加者――それもゲームに乗った――と遭遇すれば、自分が死ぬ確率のほうが明らかに高いだろう。
 生ある限りは戦うつもりだったが、自ら幕を下ろすような真似をするつもりはない。
 ここはやはり、治療を優先すべきだろう。
 しかし――
(私ってば、ついてないわね)
 二人の参加者――彰と夕菜――が彼女の視界に入った。
(参ったわね。向こうは二人、か)
 咄嗟に近くの茂みに隠れて様子を窺う。
 まだこちらの存在は気付かれていないようだ。
(気づかれていないなら、わざわざ関わり合いにならないほうがいいわね)
 晴香はさっさとこの場から立ち去ろうとした。
 そのとき、近づいてくる二人の会話が聞こえてきた。
254misunderstanding ◆gereKU42C6 :04/05/25 00:02 ID:7HC9WPcG
「姉さん、疲れてない? そろそろ休もうか?」
「うん、ちょっと疲れたかも」
 会話から察するに姉弟だろうか。
(何よあれ……)
「じゃあさ、ちょっと休憩してお昼にしようよ」
「そうだね」
(姉弟仲良く呑気に世間話? 冗談じゃないわ)
 晴香の身体の奥底から、沸々とどす黒い感情が沸き上がってくる。
 自分は命のやり取りの中にいるのだ。
 最愛の兄のために、自分は必死で生きているというのに。
 それが目の前のこいつらはなんだ。
 ピクニックでもやっているつもりか?
 晴香は逃げることも忘れて、ただこの二人に対する憎悪で満ちていた。
 彼女にとって唯一幸運だったのは、二人が全くもって無防備だったことだ。
(こいつらにも私と同じ苦しみを味わってもらわないとね)
 晴香はトカレフの弾数を確認しながらそんなことを思った。

【091巳間晴香 トカレフ(残り7発) 中華包丁 コルト25】
【021 梶原夕菜 所持品 なし】
【066 七瀬彰  所持品 カッター】
【彰たちはまだ晴香に気付いていない】
【午後1時ごろ】
255:04/05/25 00:07 ID:Q5/ODx5y
宗一はゆかり、美佐枝と合流後、船を探しに行くことを告げる。
丘の上から見た景色では、南東の海岸の方にそれらしき物が見えた。まずはそこに行くぞ、と。
道路伝いにミルトで駆けていけば数分でそこに着いたのだろうが、もうそれは叶わない。
人目に付かぬように、森を数時間かけてゆっくりと歩いていくしかない。
自分一人ならばそれほど時間はかからないのだろうが
美佐枝はともかく、ゆかりの歩くペースは早くないことをよく知っている。

道すがら、ゆかりは言う。

「わたし、ミルトさんのこと一生忘れません」

決して歩くことが辛くて吐いたのではない、強い言葉だった。
宗一は答える。

「…………俺だって」

美佐枝は常にため息を吐きそうな顔をしていたが、決して弱音を吐かずに着いてきた。

2時間ほど歩いたころだろうか、生きた人間には遭遇しなかった3人だが一つの死体を発見した。
宗一は死体を調べる。
256:04/05/25 00:08 ID:Q5/ODx5y
(羽―――?)
男の死因は喉を鋭利な刃物で裂かれたことだろう。
死後1日ほど経っているのか、虫が沸いているその死体には奇妙な特徴があった、服を脱がして確認する。
啄ばんでいた鳥の羽が落ちているのではない。
明らかにそれはこの男の背中から生えている。
ホールでも、獣の耳や尻尾などをしている人間を何人か見た。
その時は飾りか何かだと思っていたのだが……これは本物の翼だ。
こいつらは篁が科学研究で生体実験で作り出したのだろうか……
それとも、黒ミサだので別の世界から呼び出した―――?

「…………」
「…………」

女性2人は宗一のやっていることを直視できないようだ。離れたところで立っている。
無理も無い、死体など見た経験はないのだろう。
冷静に検分できる自分が異常なんだ。
「宗一君」
「どうした?」
こんな俺に嫌気がさしたのか?
「ちゃんと、その人、お墓作ってあげなきゃ」
ああ―――こいつはそういう奴だった。
「……そうだな」
多少の時間と体力のロスになるが、やらなきゃな。
「しょうがないわねぇ……」
美佐枝も手伝ってくれるようだ、口では面倒そうにしてても寮母と言う職業だ。
根っから世話好きなのだろう。
「ありがとうございます」
257:04/05/25 00:09 ID:Q5/ODx5y
翼の男―――ディーの死体を埋葬した後、再び船の方向へ歩いて行く一行。
一時間ほどで森を抜け、海岸に出た。
500メートルほど先の浜辺に、船らしき物が見える。

「あっ! 宗一君! あそこっ!」
宗一は今にも船を駆け出しそうだったゆかりの手を握って止めた。
「待て、ゆかり、人がいる」
叢に隠れながら、少しづつ距離をつめる。
どうやら船の横に1人、船上・船内に2人以上は先客がいるようだ―――

「ところで、いつまで手を握ってるの?」
美佐枝が小声で呟く。
(あ、そういやゆかりを掴んだままだったー!)
宗一は慌てて手を離す。
「いいのよいいのよ、お構いなく……はぁ、いいわねぇ……あたしなんて……」
遠い目をしてそんなこと言われたら掴めません。
「そうです! もっと掴んでて欲しいです」
目を輝かせてそんなこと言われたら離せません。
また掴む。

海岸にいる男は宗一よりも一回りは大きいだろうか、遠目にも体格がいいことがわかる。
しかも釣りをしつつ、身のこなしに隙が無い。
このような状況も初めてではないはず……恐らくは軍人か同業者だろう。
これ以上近付くと気配を悟られる恐れがある、いや、もう気付かれてるのかも知れない。
宗一は呟く。

「そんな餌でこの俺が釣られクマー」

ゆかりは「?」という顔をしている、聞き取れなかったのだろうか。
美佐枝は「ふう、困った子ねぇ……」と言いたげな表情だ、聞き取られたらしい。
258:04/05/25 00:09 ID:Q5/ODx5y
再び船の様子を伺う。
船には宗一やゆかりと同じぐらいの年齢の青年と背中に翼が生えている少女がいるようだ。
ここにも翼が生えた人間が……抱いているのは……赤ん坊、か?
篁のヤロウ、あんな小さな赤ん坊まで、この島に連れてくるなんて―――

「宗一君、赤ちゃんは何人がいいですか?」
「ゆ、ゆかり、なんでい、藪から棒に!?」
「はぁ……若いっていいわねぇ……」
いまは将来設計よりも船の様子を伺うほうが重要だろうに、このお方は急に何をおっしゃるのか。
「い、いやぁ、クマったクマった」
「まじめに答えてください」
あの、ゆかりさん、目がマジなんですが。

その時海辺の男が竿を下ろし、船へと向かっていった。
どうやら赤ん坊が泣き出したらしい。
潮風に乗って赤ん坊の泣き声と3人の話す声が聞こえてくる。

さて、どうするべきか―――
しばらく考えを巡らせていたものの、長年の経験と勘があのグループはそれほど危険はないと告げていた。
259:04/05/25 00:10 ID:Q5/ODx5y
「俺が交渉に行ってくる、2人はしばらくここで様子を見ていてくれ」
2人を制し、宗一が船まで100メートルほどの距離まで近付いた時だった。
船付近の森から、少女が飛び出し船へ向かっていった。

「そこまでですの! いたいけな少女と赤ちゃんを泣かせるなんて……
 あなた達はこのゲームに乗った悪の秘密結社の戦闘員ですのね!
 その子たちを解放するですの!」
「まあ待て、これはちょっとした誤解だ……」

(新手か!? おっと―――)
とっさに木の陰に隠れる、彼女は赤ん坊の声で駆けつけたのだろうか?
少女と軍人風の男が会話をしている、どうする……?
新たな闖入者により、宗一はどう行動すべきかを計算しなおしていた。
思い込みは激しそうな少女だが、彼女も悪人ではなさそうだ―――

宗一が迷っている間に、戦闘が始まる。
「……すばるがやらねば誰がやる! 覚悟ですの!」
間に入って仲裁するか? 近付く間に撃たれるかもしれない。
ならばここから弓を近くに打ち込んで動きを止める……いや、敵と思われるだけか?
それに激しく動く2人に当てない自信はない。
しかし、宗一がしばし迷っている間に、戦闘は終わってしまっていた。
しかも、どうやら和解したようだ。

(…………俺、なんもしてないな)
260:04/05/25 00:11 ID:Q5/ODx5y
だが、好都合だ。話しかけるタイミングはいま―――

しかし、またしても付近の森から、女性が飛び出し船へ向かっていく、彼女の背中にも、翼が生えていた。
とっさに木の陰に隠れる宗一。またしても出るタイミングを失った。どうしよう。

「……お姉さま!?」
「―――カミュ?」

少女と女性は姉妹だったようだ、涙の再会の場面なのかもしれない。
そうか、これでいいんだ。どうも俺は難しく考えすぎてたみたいだな。
よし、あの翼が生えた綺麗な姉さんの真似をして出ることにしよう。

「カミュ!!」
宗一は船へ走り出してそう叫んだ。
「え? えっ? えっ? だ、誰?」
カミュをはじめ、船内外の視線がウルトリィに続き突如現れた宗一に集まる。
なんてこった! 「……お兄様!?」と答えてくれるはずだったのに。ミッション失敗。
だが幸運にも撃たれたり斬りかかられたりはされずに済んだようだ。
「すまない、ほんのちょっとした冗談だ。
 俺の名は那須宗一……NASTYBOYと言えば、分かる人もいるかもな。
 篁……あの主催者のジジイをブッ倒すために行動している愛と平和の代理人だ!」

【040 相良美佐枝 装備:ゾリオン(使用回数4回)、電池一個】
【065 那須宗一 装備:長弓、矢30隻】
【078 伏見ゆかり 装備:なし】
【037 坂神蝉丸 切り傷 打撲が二十数箇所 所持品 木刀】
【016 オボロ 右足に負傷 左脇腹打撲、及び肋骨数本骨折  所持品 果物ナイフ 短刀】
【025 カミュ 所持品 気配を消す装置 ハクオロの仮面 ユズハの服 ミコト】
【086 御影すばる 所持品 トンファー グレネード残り2個(殺傷力は無いがスタン効果とチャフ効果を合わせ持つ) 小さなスケブ ペン いくつかの似顔絵(うたわれキャラのもの)】
【009 ウルトリィ 所持品 ハクオロ?の似顔絵】
【アビスボートで出会う、時間は午後5時過ぎ】
恐らく、もう選択肢はほとんど残っていない。
殺す側か、殺される側。どちらかを選ぶしか無いのだ。
だとすれば、俺に選択できる道は一つしかない。
最大で生き残れる者は二人だけだ。
故に、多くの知り合いが命を落としている。
絶対に、このルールは曲げられない。
だから、俺は―――


「あかり。一つ、話があるのだが」
松浦亮は、神岸あかり、春原芽衣と共に、住宅街の一室に居た。
亮は床に腰をおろしていて、あかりはベッドの上の芽衣を見守っている。
あかりが亮の方へ振り向いたのは、その一言がきっかけだった。
「どうしたの?きよみさんの事?」
「いや…」
「・・・もしかして、この子の事?」
そうだ。
その子の事だ。
だが。
「いや、違う。そうではない」
なぜか言えなかった。
「じゃあ、何かな?あ、ごはん?この子の分、あるかな」
「…問題ない。量は十分あるはずだ」
「よかったぁ。起きた時何も無いと、きっとちょっと悲しいよね」
少女の分の、食料。貴重な食料の、何分の一か。
あの子が食べられる物があると知った時の、あかりの顔。
母親が夕飯を子供に振舞うような、そんな顔だった。
と、突然、亮の頭の奥底から、家に残してきた母親の顔が浮かび上がってくる。
その顔は、最初は向こうを向いているのだが、ある時、優しそうな顔でこちらを振り返り、
「亮、晩ご飯できたわよ」
そうしてにっこりと微笑むのだった。
母親は大切な家族だ。出来る事なら、もう一度会いたい。
そして、そんな表情で、少女を見ているあかり。
しかし、どうする事も出来ないのでは。
亮はやや疲れた顔で、それを眺めていた。
(言えるわけが無い…。見捨てて行こう、などと)
あかりはさきほどからずっと、少女をじっと見つめている。

 ・・・何分、何十分、そうして過ぎていっただろうか。
ベッドに腰掛け外を見ていたあかりが、こちらを向いた。
そして何かを決意したような表情で、ゆっくりと呟いてきた。
「あたしね、松浦くん。実は、好きな男の子がいるんだよ」
「?」
どうしてそんな事を? そういう顔を自分はしたのだろう。
「あ、ごめんね、急に。でも、話しておかなくちゃって、思って。
 私達がここで生き残る理由とか、そういう事、お互い知らないから…」
「そうか。・・・すまなかった、俺も話すのを忘れていた」
「ううん、いいんだよ、気にしないで。私だって同じだもの」
あかりが照れたように言う。すこし赤面したろうか、今は俯いている。
「だから、私から、あの、話すね。生き残る理由」
「ああ。聞こう」
再び顔を上げ、話し出したあかりの、それは、幼馴染の話だった。
「私にはね、浩之ちゃんっていう、幼馴染の男の子がいたの。
 その子は、お寝坊で、意地っ張りで、ちょっと意地悪で…、でも。」
「・・・。」
「とってもね、優しい人だったの。凄いエネルギーを持ってて、
 いつでも私に、そのエネルギーで元気をくれる人だったんだよ。
 私がいつも起こしに行くと、「うるせー!」って言って、怒るんだけど…」
あかりの目元から、次第に小さな雫の粒が滲み出てきて、そして
「・・・とっても、とっても、暖かくて、面白くて、大好きな…人・・・だった、ん、だよ…」
大漁の涙の雫となって、溢れてしまった。ボロボロと床に落ちる音が聞こえてくる。
「私は、会いたい・・・。とっても、・・・とっても!・・・浩之ちゃんに、会いたいんです。
 会って話をして、どうするべきか――彼ならきっと――私に示してくれると思うから」
最後の一言が、彼女の中でどういう作用をしたのだろうか。
彼女は微笑んでいた。澄んだ眼差しを亮に向けている。
その目に射られた亮は、突然、ハッとなる。
ある重要な決心を思い出したのだ。
「神岸・・・」
今、どうするべきなのか。あかりの口から出た一言。
それが亮の、さきほど言えなかった、出せなかった言葉。
その言葉を後ろから、そっと押し出してしまったのかもしれない。
決定的な一言が、亮の口から、飛び出した。
「神岸。その子は殺しておくのが良いと、俺は思う」
驚きに変わるあかりの視線。
言ってしまって覚悟に変わる、亮の顔。
場の空気が沈黙に満ちていった。
あかりは戸惑っていた。
亮の口から飛び出した言葉の衝撃に怯んでいた。
圧倒され、飲み込まれ、当惑のうちに数瞬が過ぎて、そして。
ようやくあかりは声を返すことが出来たのだった。
「・・・え、どういう、こと? それって――」
このゲームに乗ってしまおうって事?
あかりの体が知らずの内にこわばっていく。
次第に筋肉が緊張していくのを感じていた。
「こちらがやらなくては、いつか殺される。そういう相手が大勢いる」
「で、でもっ」
―でも、私には。私には・・・
「信頼できる人間だけと行動するべきだ」
「でも、でも」
―殺すだなんて、そんな。 …女の子なのに。
「神岸、杜若が俺たちにした事を思い出せ」
「だ、だからって!」
「・・・その子は、無防備なお前を殺そうとしていた」
「!」
―そうだった。そうだったけど、でも・・・。
「わ、私、私は・・・。」
「・・・」
・・・私は、浩之ちゃんに会いたいだけなんだよ。
だから、だから、人殺しなんて、したくない。
したくないよ。それに、しちゃったらもう、会わせる顔が無いよ。
だから駄目だよね。しちゃ駄目だよね。殺すだなんて。
しちゃ駄目だ。駄目。絶対駄目。駄目ったら駄目。
それに、一緒にいる人は多いほうが良いし。
あ、でも、きよみさんは私たちの事裏切ったんだっけ。
で、でも、この子は違うよね。可愛いし。ちょっと理緒ちゃんに似てるかも。
家族想いの良い子だよきっと。うん、そうに違いないよね。
さっきだって、恐かったんだよ、多分。
こんな状況なら仕方ないよね。松浦くんだってピリピリしてるし。
あんな事言ったのも、色々事件が重なっちゃったからだよね。
私の事心配して言ってくれたんだよね。
だったら、大丈夫だよ。平気だから。
浩之ちゃんに会えれば、こんな不安、すぐなくなるから。
だから。
「ううん。松浦くん。この子と一緒に居てあげようよ」
そうだ。うん。これで良いんだよ。
浩之ちゃんだってきっとこう言うよね。
「しかし…」
松浦くんは不満そう。でも、殺すなんて駄目だよ。
「さっき話を聞いてあげるって約束したでしょ」
「む。それは」
松浦くんはしばらく考えてたみたいだけど、
「・・・解った。焦った事を言ってすまない」
そう言って、了解してくれた。
話せば解るんだ。不安だって一時的なもの。
きっと上手く行く。何もかも。
あかりは希望を力強く握り締め、
「大丈夫。私もいるよ、松浦くん」
一段と強く、微笑んだ。

【024 神岸あかり 木彫りの熊 きよみの銃の予備弾丸6発】
【047 春原芽衣 筆記用具 気絶中】
【084 松浦亮 修二のエゴのレプリカ 予備食料の缶詰が残り5つ】
【やはり芽衣が目を覚ますのを待ちます】
266日常回帰:04/05/25 02:07 ID:ctrLdFt7

「岡崎さん、どこ行くの、ねえ、岡崎さんってば〜」

岡崎朋也は考えていた。
水瀬名雪の呼びかけにも気が回らない。
無言で歩き続けている。

 ―――1999年? 俺が二人いる?
 この子は四年前からタイムスリップでもしてきたのか?
 俺は分身の術でも使えるってのか? バカバカしい。
 だいたい今は何月だ? ここは暑いのか、寒いのか?

暑いといえばそんな気もするし、涼しいと思えばそういうものかとも思う。
長袖でも、Tシャツ一枚でも、ここでは過ごせそうな……そこで、思考を閉ざす。
これ以上は、ますます混乱するだけだった。

……疑問があるなら、口に出せばいい。
そう囁く声が朋也の中にある。しかしそれはできなかった。
絶対に、それを訊いてはいけない。
そう、自分を保ちたいなら、絶対に、だ。

この島で発した問いには、正しい答えは返ってこない。
それはいつだって歪んで、問いそのものを侵食する。
そんな、脈絡もない思考が浮かんでは消えていく。
267日常回帰:04/05/25 02:08 ID:ctrLdFt7

「ねえ岡崎さん、もう街からもだいぶ離れちゃったよ、ここどこ?」

名雪の声が、鬱蒼とした木々の梢に吸い込まれていく。
ねえおかざきさんねえねえねぇ…

「……うるさいなっ! 少し静かにしろよあんたはっ!」

振り向きもせずに怒鳴る。
八つ当たりとは大人気ない。
頭では判っていても、感情が制御できない。
疲労も極限に達していた。
何しろ昨夜からまともに身体を休めていない。
朝方に学校でほんの少しだけ腰を落ち着けただけで、あとは芳野を追って歩き詰めだった。

芳野。
その名を思い浮かべれば、同時に思い出さなければいけない色々な情景があった。
だから、あえて深くは考えずにひたすらに歩を進める。
いったいこうしていることに何の意味があるのだろうかと、思う。
本当に自分は誰かを殺したいのか。殺さなければいけないのか。
ただ歩き続けることで、自分の中にあるその疑問から目を逸らしているだけかもしれない。
朋也の思考は堂々巡りを続けていた。

「岡崎さん、お腹すいたよ〜……ね、岡崎さ……うわぁっ!」

突然の悲鳴。
驚くより先に身体が反応した。
咄嗟に包丁を抜き、振り向く。

名雪の姿が、見えなかった。
268日常回帰:04/05/25 02:09 ID:ctrLdFt7

吹き飛ばされたのか。いや銃声や爆音は聴こえなかった。
罠の類か。
上、梢が揺れるだけ、それにしても包丁を持ってきょろきょろしている自分は格好の的だろう―――

「うぅ、いたいよ〜」

声は、左手下方から聞こえてきた。
よく見れば、茂みの向こうがちょっとした崖になっている。
道の端が少し崩れていた。
どうやら名雪はそこから足を踏み外したらしい。

 ―――勘弁してくれよ……。
 考えなくちゃいけないことが多すぎるってのに、足手まといまで背負ってんのか、俺は。

いっそこのまま見捨てていこうかとも思う。
しかし、朋也は既にこの島の現実を見てしまっていた。
名雪をひとり残していけば、遠からず彼女は死ぬ。
それを割り切れるほど、この島に染まっていなかった。 

仕方無しに、茂みの向こうの崖を覗き込む。

「岡崎さん、私はここだよ〜。そこ、あんまり高くないけど、気をつけ……ひゃああっ!」

再び上がる悲鳴。
今度は躊躇しなかった。尻から滑り降りる。
269日常回帰:04/05/25 02:10 ID:ctrLdFt7
忠告通り、それほどの高さは無かった。
急いで見回すと、藪の向こうで名雪が何かを凝視している。

 ―――敵か!
 どうする、迂闊に飛び出せば、最悪二人で蜂の巣だ…。

危機に瀕して回転数を上げ始めた頭脳は、またも名雪の声によって鈍化を余儀なくされた。

「ひと、ひとが、し、し、死んでるよ…」

なんだ、死体か。
冷静に考える自分がいた。
死体は銃を撃たない。死体は人を殺さない。
落ち着いていい。ここは命のやり取りをする場面じゃあない。
緊張がクールダウンしていく。
そういう思考回路が形成されていること自体には嫌悪感があったが、この島で生きる為には
必要なことでもあった。
270日常回帰:04/05/25 02:11 ID:ctrLdFt7

 ―――まずは死体の検分だ、知り合いでないといいが。
 武器や食料、その他の所持品も残っているなら、悪いがいただいておこう。
 さて、どんな顔をしているんだ……女か。綺麗なもんだな。傷一つない。美人だな。
 体は……服が、はだけられてるな。犯られたのか。可哀想に。
 ちょっと匂う気もするな……女でも小便漏らすのか。へえ。不謹慎だぞ俺。
 白蝋のような青白い顔になるっていうけど、まだほんのり赤いな。
 見たところ大きな傷や出血はないし、胸は微かに上下してるし、冷たくなさそうだし、
 よく見りゃすーすーと安らかに……

「って生きてんじゃねぇか! ってか寝てんじゃねぇ! 幸せそうに微笑んでんじゃねぇよ!
 あんた状況判ってんのかコラ! 寝言かよ! もう食べられませんってベタだなオイ!」

迷宮じみた思考も、狂った順応性も、気がつかない内に霞んでいた。


【014 岡崎朋也 包丁 ダンボール 英和辞典】
【090 水瀬名雪 所持品不明】
【053 高倉みどり 媚薬スク水(着用) 白うさぎの絵皿 ライター】
【時刻は正午】
271Der Freischutz ◆QGtS.0RtWo :04/05/25 02:40 ID:7HC9WPcG
考える。
――今、自分は何をするべきか――
確かめる。
――今、自分に何が出来るのか――
行動する。
――今、自分が出来ることを――

銃の重みが手に心地好い。
前の銃には三度も裏切られた。
だが、この子とならやれる気がする。

殺す。
ドクン、と心臓が一つ、大きな鼓動を打つ。
殺す。
両手でしっかりとグリップを握る。
殺す。
絶対に外さないように、ゆっくりと銃口を男の背中にポイントする。
殺す。
小刻みに震える手を落ち着かせる。
殺す。
目を閉じて、深呼吸を一つ。

さあ!

殺せ―――!

明確な殺意を纏い、逆巻く風を突き破り、駆け抜ける狂弾は、獲物に喰らい付く。
272Der Freischutz ◆QGtS.0RtWo :04/05/25 02:41 ID:7HC9WPcG
何が起こったかなんてわからなかった。
ポップコーンが破裂するみたいな、それのもっと大きな音がなって、彰ちゃんが倒れていく。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
砂時計の砂が落ちるようにゆっくりと。

ドサッ。

「彰ちゃん!?」

彰ちゃんは、背中から血を流して、地面に倒れた。

「彰ちゃん!しっかりして、彰ちゃんっ!」
「姉さ…逃げて…」
「彰ちゃん!」
「ぎゃあぎゃあと五月蝿いわね…」
「っ!?」

声のする方向には、銃を構えた長い髪の女の人が立っていた。

「あ……あなたが撃ったんですか!?」

信じられない。
私たちはお昼ご飯を食べようと思っていただけだったのに。

「どうして!?どうしてこんなことをするんですか!?」

女の人が、一歩一歩、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
273Der Freischutz ◆QGtS.0RtWo :04/05/25 02:42 ID:7HC9WPcG
わからない。
この女の人が私たちを撃つ理由も、私たちがこの女の人に撃たれる理由も。
わからない。
何もわからないよ。

「なんで!?どうしてこんな酷いことが――」
「五月蝿いって言ってるでしょ」

またポップコーンの音だ。

「あぐッ!」

右肩が痛い。
痛い。
痛いいたい痛い痛いイタイいたいイタイ痛い――!
転んで打ち付けたとか、料理中にちょっと失敗して指を切ったとか、熱いものを食べて口の中を火傷したとか。
そんなよくあるレベルじゃない。
今までに味わったことの無い痛みが。

「あああああああああああ!」

痛い。
痛いよ。
誰か助けて。
そうちゃん。
彰ちゃん。
誰でもいいから助けて。
助けて――
274Der Freischutz ◆QGtS.0RtWo :04/05/25 02:43 ID:7HC9WPcG
「ちょっと、黙りなさいよ」

女の人が包丁を振り下ろす。
ゆっくりゆっくり振り下ろす。
――こんなにゆっくりじゃお豆腐も切れないよ。
ぼんやりとそんなことを考えながら、包丁が振り下ろされるのを待っている。
――何を切ろうとしているのかな?
わからない。
何もわからないよ。

「ッ姉さんッ!」

ドン、と胸を突かれる。

目の前を包丁が凄いスピードで落ちていく。

ダンッ!

ぴちゃぴちゃと生暖かい何かが顔にかかる。
気持ち悪い感触。

「かっ…っがあああああああああああ!」
「あ…えぇ……?」

私を突き飛ばした彰ちゃんの手。
手が。
半ばまで切られて、地面に繋ぎ止められて。

「しぶといわね……まるでゴキブリだわ」
「姉さん逃げっ――」
275Der Freischutz ◆QGtS.0RtWo :04/05/25 02:44 ID:7HC9WPcG
破裂音。
破裂音破裂音破裂音。

「ああああ」

逃げなきゃ。

「ああああああ」

早く逃げなきゃ殺されちゃう。
肩の痛みはもう消えてる。
逃げなきゃ私も死んじゃう。

「ああああああああああ!」

逃げなきゃ!
足がもつれて転びそうになる。
逃げなきゃ!
遠くへ行かないと。
逃げなきゃ!
がちがち、がちがちと、どこからか怖い音が聞こえてくる。
逃げなきゃ!
また肩が痛み始めた。
早く、逃げないと――!
276Der Freischutz ◆QGtS.0RtWo :04/05/25 02:45 ID:7HC9WPcG
「ぐぇっ、ぁ!」

襟首を掴まれ、引き戻される。
強引に首を曲げられて振り向くと其処には――

「とっておきの一発よ」

長い髪の悪魔。
黒い獣が、がりりと額に齧り付く。
逃げなきゃ!

「あの世で好きなだけ弟とおままごとで遊んでいればいいわ」

逃げ――!

「死ね」
277Der Freischutz ◆QGtS.0RtWo :04/05/25 02:46 ID:7HC9WPcG
七瀬彰、梶原夕菜を殺し終わった晴香は、トカレフを投げ捨て、大きく息を吐く。
簡単なことだったのだ。
今まで難しく考えすぎていた。
殺す。
殺すことだけを思い描いて、引き金を引く。
殺すことだけを思い描いて、刃を振り下ろす。
殺すことだけを考える。
それだけでよかったのだ。
それだけで、相手は死ぬ。
それこそが不可視の力――

「ほんと、簡単だったわ」

晴香は見下ろす。
否、見下す。
非日常の中で日常に縋っていた姉弟を。

「反吐が出るわ……」
278Der Freischutz ◆QGtS.0RtWo :04/05/25 02:48 ID:7HC9WPcG
「……痛ッ!」

ゆっくりと、意識の外へ追いやっていた痛みが返ってくる。

(早く安心して休める場所を探さないと……)

無駄な時間を使ってしまった。
殺した二人の荷物から食糧と水、カッターを拾い上げ、また痛み始めた身体に鞭を打って歩き始める。

(私は、必ず、生きて、帰る)

そう、兄とともに―――

【091巳間晴香 コルト25 彰と夕菜の荷物】
【中華包丁は彰の死体に刺さったまま放置】
【21 梶原夕菜 死亡】
【66 七瀬彰 死亡】
【時刻は午後1時すぎ】

【残り49人】
279君に届け:04/05/25 02:51 ID:o2ZAfwrU
 殺し合いからは何も生まれやしないと今も信じてる。
 殺人は、人間としてやってはいけないことだと思っている。
 だから、朋也のことは許せないけれど、
 朋也がその手を血で汚して帰ってきたら、
 私はあいつを殴って、そして、その手を洗い流してやろうと思ったんだ。

 だけど、
 そんな私の手も、血で染まってしまった。

 黒い女の言葉、一つ一つが、胸に突き刺さる。

 ―――黙れ……と、言ってるんだ―――

 確かに発した私の言葉、
 何も言い返せなかったからだ。だから、そんなことを言ったんだ。
 黙らせたところで、一度聞いた言葉は、こうして呪いのように自分に絡み付いているというのに。
 人が人を殺す理由、そんなことは問題じゃなくて、
 ただ残された結果が――
 結局自分は、
「私は、人殺しだ……」
 はっ、と乾いた笑いが漏れる。虚ろで、自虐で。
280君に届け:04/05/25 02:52 ID:o2ZAfwrU

 当初の目的を思い出す。ゲームに乗らない人間を集めて脱出する。
 もう無理だった。自分が既に『ゲームに乗った人間』だからだ。
 自衛とか、仲間が殺されたからとか、そんなことは言い訳にしかならない。
 人を殺した時点で全てが終わりなんだ。
 さっきまでの自分がそう思っていたように、
 ゲームに乗っていない人間も、きっと私のことを、そう思うのだ。
 そんな人間に今更何ができようか。
 目的を失った自分はこんなにも空虚だ。
 遠いあの町を思い出す。
 桜並木を守るという目的があったから、私はあんなにも前向きに歩いてゆけた。
 大勢の人たちの力で生徒会長になり、
 皆が私を応援してくれて、それで私も頑張れて、そんな私を慕ってくれて、また頑張れて、
 全部、やるべきことがあったからだった、だから頑張れた。
 目指すべきものがない自分がこんなにも抜け殻だなんて、知らなかったんだ。

(もう、いいか……)

 私の最後の希望。朋也。
 朋也がいてくれたらそれでいい。朋也さえいてくれたら。
 このゲームの生き残りは二人。私と朋也で、二人。
 もういいか。それでいいじゃないか。私の力で皆を助けることなんてできやしないのだから。
 私は殺人者。一人殺すも二人殺すも同じ。目的のために手段を選ばない、あの女の言う通りな人間なのだから。
 それは、なんて、
 なんて、悲しい――
(……う、あぁぁぁぁぁぁっ!)
 涙はあの学校で流しきったと思ったのに。
 音もなく、私は泣いた。
 この涙が最後。今までの自分を洗い流して、人殺しに相応しく。
 汚く、醜く生きていく。
(すまない……すまない、皐月……)
 涙はまだ止まらない。もう少し、もう少しこのまま――
281君に届け:04/05/25 02:53 ID:o2ZAfwrU
 と、何かが動いた、気がした。
 それは私の背後に立ち、
 私に伸びてくる、腕が、


「ごめん、智代。
 それと、ありがと」


 ――ああ、そういうことか。
 簡単なことだった。
 こんな人殺しの私でも、
 守れるものは、守ったものは、
 確かにこうして、ここにあったんだ。

「あの女の言うこと、私、微かに聞こえてた。
 智代の考えてること、なんとなくわかっちゃうけど、
 それは絶対に間違ってるから。
 智代に助けられた私が、保障するよ」
「皐月」
「今はただ、辛いことばかりで、挫けそうになってるけど、
 涙が止まったら、気をとり直して行こうよ。
 私が支えになるから。
 一人一人はちっぽけな存在でも」
 そうだ、さっき、こんなことになる前に交わした誓い。
「力を合わせれば、どんな力だって大きくなる。だな」
 ありがとう皐月。もう迷わない。
 もしも、もしもこの先、お前を失うことがあったとしても、
 私はもう迷わずに、この道を胸を張って歩いていく。
 だから、今は、お前のそばで、泣かせて欲しい。
282君に届け:04/05/25 02:54 ID:o2ZAfwrU

 人殺しの十字架を背負って、私は私にやれることをやる。
 今からだって変えていける。
 不良だった昔の自分に決別して、生徒会長にだってなれた。
 規模は違うかもしれないけど、やってやれないことはないはずだ。
 その姿勢が大事なんだ。
 名も知らない黒い女よ。
 認めよう。私は確かにあなたと同じ人間だ。
 だけど、この胸に留めた誓いだけは、もうだれにも侵せやしない。

 さあ行こう。
 まずは那須宗一との合流だ。


【095 湯浅皐月 所持品に変化なし】
【038 坂上智代 所持品に変化なし】
283篁打倒計画:04/05/25 03:06 ID:A9uM0WFV
「すまない、ほんのちょっとした冗談だ。
 俺の名は那須宗一……NASTYBOYと言えば、分かる人もいるかもな。
 篁……あの主催者のジジイをブッ倒すために行動している愛と平和の代理人だ!」

――決まった。今俺は確実にかっこいい。

「バカなのか?こいつは」
怪我を押して、ナイフと短刀を構えたままで、油断なくこちらを見据えた男、オボロが呟く。
「とっても恥ずかしいセリフですね」
よく分かってないように、巨乳金髪美人のウルトリィ。カミュを庇うように、わずかに前へ出る。
「今のネタいただきですの!」
オタク、すばる。世情に疎い。
「フギャーッ!」
空気を感じ取ったのか、カミュの腕の中で泣くミコト。
「おー、よしよし、大丈夫だからねー。ちょっと、大声出さないでよ!」
ミコトを守るように腕に抱き、大声を張り上げるカミュ。ミコトはもうちょっと泣いた。
「……いや、済まない。50年も眠っていると、世界情勢には疎いのだ」
最後に、リーダー格と思われる男、蝉丸がそう締めくくった。

クソミソだった。
284篁打倒計画:04/05/25 03:06 ID:A9uM0WFV
いろいろあったが、どうにか場の収拾はついた。
円陣を組むようにほぼ全員が丸く座り、お互い自己紹介をはじめる。
ゆかりと美佐枝も円陣に加わった。
唯一、宗一と蝉丸だけは外敵から守るように辺りに気を配りながら円の傍に立つ。

「――えー、京都府からきました、伏見ゆかりです」
ペコリと頭を下げる。
「いや、出身地はいいから……」
まだ腐っていた宗一のか細い声。
「で、最後に私、相良美佐枝。気ままな寮母よ。ま、気楽に接して」
簡単に、全員自己紹介を済ます。
(ま、平和だよな)
宗一が思う。そう。こんな些細な平和、ちょっとした笑顔を守るのも、自分のようなエージェントの役目の一つだ。
中には、黒い陰謀渦巻いた事業に手を貸す奴もいる。
宗一自身もいろんな――人がそれこそ結果、何百、何千単位で死んでしまうような
仕事もやってきたが、その自分のプライドだけは譲れない。
それだけは、本当に心からそう思う。
285篁打倒計画:04/05/25 03:07 ID:A9uM0WFV
あとは――
オボロの方を向いて、宗一が尋ねる。
「いろいろ、あったんじゃないのか?」
宗一の言葉が複雑そうな色をたたえたオボロの瞳を射抜く。
「……」
「宗一。それは――」
「いや、いい。――確かに俺は、自分の意志で人を殺した」
何か言いかけた蝉丸を、オボロが手で制してポツポツと語り出した。
ゆかりや美佐枝はもちろん、ウルトリィやすばるも、初耳だったその独白に耳を傾ける。


ユズハの為に人をすすんで殺し回った事。
ユズハを失い、蝉丸に敗れ、死を覚悟し。
それでも、ユズハの残した赤ん坊、ミコトの為に生き抜こうと誓った事。
蝉丸との誓い、これからの自分。すべて、包み隠さず話通した。
「許されるとは思っていない。これからも。だが、それでも俺は生きていく」
「……」
宗一は黙って聞いていた。ゆかりや美佐枝も、口を開こうとはしない。
「いいんじゃないか。安易な死を選ぶより、ずっと難しい選択だ」
話が終わって、最初に口を開いたのは宗一。許すとも許さないとも口には出さない。
オボロには逆にそれがありがたかった。
286篁打倒計画:04/05/25 03:08 ID:A9uM0WFV
「――打倒篁にはいくつもの障害がある」
しばらくの談笑の後、気がつけば、話題の中心はそれに移っていた。
「敵の戦力の規模と、本拠地が未だ不明瞭。体内の爆弾という足枷。島の現在地の特定が不可。
 あとは優勝時の賞品目当てでゲームに乗っている者も障害となりえるかもしれない――」
いろいろな問題を宗一が口にする。それは気が遠くなるほどの高い壁だった。
「美佐枝さん、ゾリオン」
いきなり名指しされ、びっくりしたように美佐枝が顔を上げる。
「これ?」
ひょいと、ゾリオンを宗一に投げ渡す。
「体内の爆弾にセンサーで反応して、参加者を爆殺する危険極まりない武器だ」
軽くキャッチし、クルリと回転させて手の中に収める。
おぞましい響きに、美佐枝以外の場にいた全員――蝉丸でさえも――身を凍らせる。
「でも、これだって使い方次第じゃ、篁を倒す為の大きな武器にもなるかもしれない」
宗一がそう言って、座っていたみんなを見回す。
「うーん、やっぱりこういう事にはエディがいると一番心強いんだけど。
 これを解体して構造調べて、爆発を押さえられるようにデータ書き換えてしまえば」
自分には自信はそれほどない。
「データの書き換えなんてどこでするんですか?」
ゆかりが問う。
「まぁ、施設かなんかがあるといいんだけど」
場所を見つけて、直接書き換えるか、
ハッキングで外部から無理矢理書き換えるか。
何にしてもまだそれらは特定できない。言葉を濁しておく。
「とにかく、何かしらの手段で爆弾の件をこちらで抑えないことには
 ただ逃げるだけにしても、篁打倒を目指すにしても、大きな反抗は無理だ」
他にも方法はある、かもしれないが、当面はその方向で進むことを提案する。
287篁打倒計画:04/05/25 03:08 ID:A9uM0WFV
「で、これからだけど、二手か三手に分かれて行動する方がいいな」
と宗一が呟く。
「あまり大勢で動くといい的になる。かといってずっとここで固まってるわけにはいかない」
「そうだな。できれば自分が動けるといいのだが」
蝉丸が、自分の体と、オボロ達手負いの面々を目線で追った。
「そうだな。あんたは守りに回った方がよさそうだ」
宗一が頷く。
「俺は篁打倒を目指してここを発つよ」
美佐枝も大義そうに肩を鳴らしながら。
「じゃあ、私も行くとするかねぇ。ゾリオンも必要でしょ?」
「実行部隊の方がより危険はより多くつきまとう。ゲームに乗った者にも襲われるかもしれない。
 こういう言い方はなんだが、敵は篁だけじゃないんだ」
「どこにいたって同じよ」
美佐枝が笑う。宗一が溜息をついた。


「危険な面子を教えてほしい」
あとは、お互いの参加者情報交換だった。
「言葉を喋らない、紙の束を持った女――」
「だからそれはスケッチブックですの!」
「ああ、そうだったな。スケッチブックを持ったチビ女と、茶髪のウェーブがかった女に気をつけろ」
オボロが、トウカを殺った、そして自分を撃った女達の容貌を伝える。美坂香里と上月澪のことだ。
「石原麗子――といっても分からんか。白衣を着た見た目20代後半から30代前半の女だ。最も着替えてるかもしれんがな。
 すでに手負い。左肩から鎖骨にかけて骨は無事ではあるまい」
と、蝉丸。だが、あの女はそうそう簡単に死ぬタマではあるまい、とも思う。
「私が見たのは、どこか冷たい、機械のような方でした。うろたえていたのであまり覚えておらず
 申し訳ありません」
と、ウルトリィ。セリオのことだ。実際にはすでに故人と化していたのだが、事実を知らないのだから仕方ない。
「分かった。そいつらには細心の注意を払っておく」
さて、と宗一は考える。
あとはいつ折を見てここから発つか。
288篁打倒計画:04/05/25 03:09 ID:A9uM0WFV
【040 相良美佐枝 装備:ゾリオン(使用回数4回)、電池一個】
【065 那須宗一 装備:長弓、矢30隻】
【078 伏見ゆかり 装備:なし】
【037 坂神蝉丸 切り傷 打撲が二十数箇所 所持品 木刀】
【016 オボロ 右足に負傷 左脇腹打撲、及び肋骨数本骨折  所持品 果物ナイフ 短刀】
【025 カミュ 所持品 気配を消す装置 ハクオロの仮面 ユズハの服 ミコト】
【086 御影すばる 所持品 トンファー グレネード残り2個(殺傷力は無いがスタン効果とチャフ効果を合わせ持つ) 小さなスケブ ペン いくつかの似顔絵(うたわれキャラのもの)】
【009 ウルトリィ 所持品 ハクオロ?の似顔絵】
【時間はまだ定時放送前】
【全員 麗子、澪、香里(セリオ)のことを知る】


【蝉丸、アビスボート残留】
【宗一、美佐枝 アビスボートを発つ予定 当面の目的は何らかの手段で爆弾無効化】
【残りの面子の割り振り等(必要であれば、さらなる分散チーム編成、所有武器の再編成等も)次の書き手にお任せします】
289君に届け補足:04/05/25 03:12 ID:o2ZAfwrU
【095 湯浅皐月 左肩複雑骨折】
【038 坂上智代 朋也・宗一・芳野の写真】
290Der Freischutz修正 ◆QGtS.0RtWo :04/05/25 03:19 ID:7HC9WPcG
【091巳間晴香 コルト.25オート(残弾数6発) カッター 彰、夕菜の持っていた食糧と水】
291「誤解」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/25 03:25 ID:94lMGfSE
 見なければ良かった。だけど、見ておいて良かった。
 聞こえた銃声。逃げようかとも思ったけど、もしも誰か知り合いがいたら、と思うと逃げられなかった。
 橘さんも、探している大切な人がいる。だから、少し不安そうにしたけど、賛同してくれた。
 言われたとおり、慎重に、ゆっくりと、森の中に入る。音を立てて、気を引かないように。
 だけど、そこに蝉丸か誰かがいるかもしれないと思うと、どうしても心は逸る。
 葉っぱの僅かな隙間。そこから覗いた森の中は――血で一杯だった。
 清々しいはずの木々の香りが、まとわりつくような血臭で打ち消されている。
 その木々の隙間から、殺戮を見た。見たときには、終わりかけていた。
 何発かの銃声が連続して響いた。それは間違いなく、あの髪の長い女性が引いた、引き金によるもの。
 残酷に、非道に、もう動けない相手に向かって、何発も撃った。
 その標的は――杜若きよみ。あたしと同じ運命を背負わされた、あたしの姉。
 実際にはそうでなくとも、本当に、姉妹のように感じた事もある相手だ。
 それが、殺された。
「きよみ……さん……」
 動けない体。動かない体。真っ白になって一瞬止まっていた心が、急に衝動となって膨れあがる。
 飛び出そうとした体が、橘さんに抑えられた。
 分かっている、あたしだって。もう死んでる。絶対に死んでる。でも……。
 いまわの際になにか言っていたようだったけど、あまりにも遠くて声が届かない。
 せめて、最期の言葉くらい聞きたかったのに……。 
 もう一人、いや一体。白い虎に似た巨大な獣。
 何故こんな所にいるのか、あの殺人者のペットなのか。
 白い毛皮を血に染めた獣は、別の少年の死体を食い散らかしていた。
 血の匂いのせいか、食料に夢中なせいか、あたし達には気づいていない。
 目の前の肉を、ひたすらに引き裂いてゆく。
 吐き気が込み上がるのを、懸命にこらえた。
292「誤解」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/25 03:27 ID:94lMGfSE
「大丈夫かい?」
 人のことは言えないほど、真っ青な顔の橘さんが背中をさすってくれた。
 平気なんかじゃない、けど、頷く。だって、
「どうして……どうして、あんな酷いことできるの? あんな、あんな酷い殺し方……」
 零れる涙の端から、怒りが膨れあがる。
「――許さない」
「月代ちゃん……」
「分かってます。本当は、絶対に許せないくらい怒ってるけど、憎いけど……今のあたし達じゃ、何もできない。
 でも、絶対に捕まえて、きよみさんに謝らせて、罪を償わせてやらなきゃ……そうしなきゃ、気が済まない」
 だから、見たくないものを目に焼き付ける。
「絶対に」
 その固く凍りついたような、殺人者の顔を。

【055 橘敬介 所持品:ヨーヨーもどき、釣り針、太めの釣り糸、肥後ノ守、手品道具、ピン類各種、小型のレンチ、
 針金、その他小物、 腕に万国旗、大判ハンカチ、水入り容器、メモ、鉛筆、食料、理緒の荷物(分担)】
【085 三井寺月代 所持品:ヴィオラ、青酸カリ、スコップ、初音のリボン、食料、理緒の荷物(分担)】
【旧理緒の所持品のうちバッグ三つ分(筋弛緩剤と注射針一式(針3セット)、裁縫道具、手作り下着、クレジットカード、
 小銭入り長紐付き巾着袋、クッション)は敬介と月代が分担して所持】
【月代と橘、智代&トンヌラをゲームに乗った者と誤解。
 皐月は茂みに隠れて、見えていません。
 そしてこの直後、皐月が気づく前にこの場を去りました】
【時間は昼頃。「狂気の果てに」の最後と同時、「君に届け」の直前】
293篁打倒計画(補足付け加え):04/05/25 18:44 ID:A9uM0WFV
一応付け足しで。
【宗一は翼のあるキャラ(うたわれキャラ)の存在を不思議に思ってるかも?】
294Der Freischutz再修正 ◆QGtS.0RtWo :04/05/25 20:10 ID:7HC9WPcG
【091巳間晴香 コルト.25オート(残弾数4発) カッター 彰、夕菜の持っていた食糧と水】
 馬鹿な姉弟を殺してから一時間以上はたったと思う。
 優先事項は、やはり身体の治療。誰かが来る確率の低い場所で、時間の許す限りの休息を取りたい。
 そのために、存在があまり目立たない建物を探しながら、巳間晴香は森を移動していた。
(くっ…どこかないの? 安心して休める場所は)
 どんな建物であろうと、この島にいる限りはある程度の危険が常に付き纏う。絶対に誰もこない場所というのは存在しない。問題なのは、自分の武器をいかに生かすことができる建物か――この一点である。
 持っているのは、コルト25とカッター。
 満身創痍の身体でカッターを振り回すのは遠慮したい。そうすると、必然的に銃器の使いやすい建物を探すことになる。
 とりあえず二階建てというのは必要条件か、と考える。
 高低の差というのは銃器での戦闘において非常に役に立つし、安全性の面でも申し分ない。例え追い詰められても二階程度の高さなら飛び降りて逃げることが可能――そういうことを考慮すると、一般の民家が一番適しているような気がした。
 かといって、住宅街に赴く気はさらさらない。他の参加者と遭遇する可能性があまりに高過ぎる。
 なるべく、森から出たくはない。
(さっき焼けた民家を見たし…森の中にも多少はあると考えて良いわよね)
 その推測をもとに、晴香は痛む身体に鞭打って森を徘徊する――



(収穫…なのかしら?)
 浜辺でひとしきり笑って落ちついた榊しのぶは、先ほど殺した大場詠美と葉月真帆の鞄を漁って見つけた護身用スタンガンを左手で軽く回しながら、鬱蒼と茂る森を歩いていた。
 当然、右手にはブローニングM1910がしっかりと握られている。
 ――スタンガン。
 使いどころさえわきまえれば、かなり便利な武器だとは思う。
 例えば、先ほど光岡とかいう男と対峙した時のような状況なら――銃を構えずとも、電源を入れたそれを相手の身体に押し当てるだけでよい。恐らく銃を構えるよりも早く行動ができるだろう。
 便利な武器だと思うのだが。
(…まぁ、今は使えないわよね)
 なんにしても、これはしばらくバッグの中に仕舞っておく必要がある。
 理由は単純で、自分の身体が濡れているからである。
 護身用というからには、ショック死するほどの電流ではないと思うが、だからといってわざわざ諸刃の剣を使うことはない。ポケットの中に入れておいてもいいのだが、万が一何かの衝撃で電源が入ってしまったらどうなるか――それを想像して、思わず身震いする。
 とりあえずそれはしっかりと仕舞っておき、しのぶはこれからどうするかを考えた。
 既に歩き出してはいるのだが、特に行き先を決めているわけではない。参加者を見つけたら倒す、という行動方針自体は確定しているが。
(…えっと)
 ちらりと銃を持っている右手の袖を見やる。
 海水が染み込んでべっとりと肌に吸いついているそれは、見ていてあまり気分のいいものではない。
 そしてそれは、全身でも同じことで。
(このままじゃ動きにくいわよね、やっぱり)
 水――それも海水を大量に吸って重たくなっている衣服をいつまでも纏っているのは、あまり得策ではない。動きにくいし、肌に伝わる感触が気持ち悪いし、服が透けて下着が見えてしまう。殺戮者としても一般女子高生としても、このままでいるのはなるべく避けたい。
 現時点での最優先事項は、衣服の乾燥か。
 手っ取り早いのは服を脱ぎ捨てることなのだが、自分には露出狂の気はない。大体そんな格好で木田に会いでもしたら何を言われることか。
(どこかで乾かすしかないわよね…)
 しのぶはそう考えて、歩く足を少し速めた。


 そうして歩く女が見つけたのは、休むことのできる建物でも、服を乾かすことのできる建物でもなかった。

「え」
「あ」

 小枝を踏む音と共に見つけた――もとい、遭遇したのは。
 赤黒い血に染まっている服を着た女。
 水を吸ったびしょ濡れの服を着た女。

 パンッ!

 保たれていた均衡を崩すように、突如として森に鳴り響く――銃声。
 木に止まっていた小鳥達がばさばさと音を立てながら慌てて逃げていく。
 それがゴング。
 それが始まり。

 リングは鬱蒼と茂る森の中。
 暗がりのところどころから筋のような光が差し込む森の中。
 対峙するは二人の女。
 日常からかけ離れた証といわんばかりの衣服に身を包む二人の女。

 ――――戦闘開始。

【039 榊しのぶ 所有物:ブローニングM1910(残弾6)、ナイフ、米軍用レーション(10食分)、缶切3つ、12本綴りの紙マッチ3つ小型ガスコンロ、護身用スタンガン】
【091 巳間晴香 所有物:コルト.25オート(残弾数5発)、カッター、彰と夕菜の持っていた食糧と水】
【森の中、時刻は午後二時半ごろ】
【039 榊しのぶ 所有物:ブローニングM1910(残弾6)、ナイフ、米軍用レーション(10食分)、缶切3つ、12本綴りの紙マッチ3つ小型ガスコンロ、護身用スタンガン】
【091 巳間晴香 所有物:コルト.25オート(残弾3)、カッター、彰と夕菜の持っていた食糧と水】
【森の中、時刻は午後二時半ごろ】
300大地に立つ?:04/05/25 22:00 ID:kuOmHRsC
「てめえ、いい加減に起きろ!」
「わ、女の子に乱暴な言葉を使っちゃ駄目だよー」
朋也は寝ている女の子を起こそうと頑張っていた。だが一向に起きる気配なし。
さらに女の子から聞こえるあえぎ声。
「岡崎さん・・・エッチなことしてる・・」
(・・・犯したろかこのアマども!!)
「はぁ・・・はぁ・・・・おきねえな・・しょうがねえ、見つかりにくいところに隠しておくか。」
「そうだね。」
結局少女を起こすことをあきらめた朋也は、名雪とともに少女を藪の中に放り込み
(せめてもの情けだ・・・)
葉っぱを集め、少女にかぶせてやった。

「ところで水瀬」
少女を隠し終え、一休みしてるときに朋也が話しかけた。
「なあに?」
「お前の武器は何だ?」
「言われて思い出したよ。まだ見てなかったよ。」
「・・・・・・はぁーー・・・・・・」
頭を抱える朋也。
301大地に立つ?:04/05/25 22:02 ID:kuOmHRsC
「お前、密かにアホな子だろ。」
「ひどいよー!まあ、とにかく見てみるねー」
そう言ってバッグの中身を見る名雪。
「これ・・何かなあ?」
「どれどれ、見せてみろ。」
名雪から手渡された物体を見た途端、朋也の脳髄に電流が走った。
(こいつは・・・まさか!?)
そして、朋也の疑念は現実のものとなった。
「・・説明書かなんか無いのか?」
「探してみるね。えっと・・・あ、有ったよー。」
名雪の持ってる説明所を覗き込む朋也。そこには・・

ビームサーベル2本セット。今日から君もガン○ムだ!
と書かれてあった・・


「・・・他に何か書いてないのか?」
「えっと、エネルギーは3時間分のチャージしかない、補給については同封している専用充電器に差し込めって書いてあるよ。後は・・ビームガンとしても使用できますだって。」
「エネルギーについては分かった。だが・・・これが専用充電器なのか!?」
そういって、朋也はさっき名雪から渡された、まんま人間サイズの○ンダムのバックパックを指差していった。
「みたいだねー。あ、後充電器を背負わないとビームサーベルは抜けないって。岡崎君、任せたよー。」
302大地に立つ?:04/05/25 22:07 ID:kuOmHRsC
バックパックを背負った自分を想像してみる朋也。
(駄目だ・・・情けなさ過ぎて欝になる・・)
「みなs・・・」
「似合ってると思うよ。大丈夫、私の保証付だから」
先手を打つ名雪。
「似合ってないし、それに」
「オカダム大地に立つだよー。」
嬉々として話す名雪。
「人の話を聞けー!」
朋也はこれから自分がするであろう姿を想像して、暗鬱たる気分にならざるを得なかった・・


「わあー、岡崎さんかっこいいー」
「俺はその言葉で喜んでいいのか・・・・・・?」
そこには、左手にダンボール製シールドを持ち、右手にビームサーベルを持った起動戦士がいた・・。
(これで少しは安心して芽衣ちゃんを探せるが・・・・知り合いにこの姿は見せられねえ!)
「ふぁいと、だよ!」
「うるせー!」
そうして二人は去って行った・・



二人が去ってから三十分後・・・・・
「わっ、何で私こんなところにいるんですか!?キャー、毛虫が、毛虫が服の中に!」
慌てふためく高倉みどりの姿が有ったとか無かったとか。



【014 岡崎朋也 包丁 英和辞典 ビームサーベル×1、シールド(ダンボール製)】
【090 水瀬名雪 ビームサーベル×1】
【053 高倉みどり 媚薬スク水(着用) 白うさぎの絵皿 ライター、茂みに放置。】
【時刻は3時ぐらい】
303二人の共同作業:04/05/25 22:36 ID:hnt5NlLk
民家を出てすぐ、上月澪と芳野祐介は森の木陰に隠れていた。
「あいつらは……」
視線の先、ある二人組み。
いや、正確には二人と一匹か。
うち一人は獣の背に乗っている。
「こうも早く再開できるとはな…」
『知ってるの?』
「ああ。さっき言った俺が負けた相手だ」
『強いの?』
「ああ。あの獣が厄介だ。あれを何とかしない限りは辛いだろうな」
うーんと澪が首をひねった。
そして少し考えた後メモ帳に筆を走らせ、一言だけ書いた。
『殺せるの』
「マジか? 勝算は?」
『だいじょうぶなの。いい作戦思いついたの』
そういって穴の空いたスケッチブックを取りだし、作戦を書き始める。
二人ではじめての共同作業。それは人を殺すということ。
304二人の共同作業:04/05/25 22:39 ID:hnt5NlLk
『助けてなの!』
智代と皐月は突然の背後からの来訪者に身構えた。
息を切らせながら走り寄ってくる小柄な少女。
「落ち着け、いったいどうしたんだ」
『変な男に追われてるの!銃を持ってい……』
パンッ
少女が書き終わる前に突然乾いた音が響き渡る。
背後から見たことのある男が銃を構えてこちらに走ってきていた。
『殺されるの!助けてほしいの!』
「あいつは……」
唇をかむ智代。
「智代、どうしよう?」
「戦おうにも今のこちらに武器はない。逃げるしかないな」
「OK! あんた、この子の背中に乗って!智代も!」
二人が主の上に乗ったのを確認して皐月が号令をかける。
「トンヌラGO! 重いと思うけど頑張って!」
「ヴォフ!」
主は一声吠えた後、人が猛スピードで走り去る。
(作戦どおりだな)
心の中でほくそえみながら芳野はその後ろを追う。
305神は誰に微笑むか:04/05/25 22:39 ID:7S66l1XB
「どうだ?ベナウィの様子は」
「うむ。まだ目は覚まさぬが、だいぶ良くなってきておるようだ。呼吸も落ち着いてきておる」
「そっか」
クーやの答えに、秋生は安堵の笑みを浮かべる。

カルラの処遇を取り決めてより約四時間。秋生達一行は戦いのあったその場に逗留し続けていた。
それぞれ探し人はいたものの、ベナウィの容態が安定するまでは下手に彼を動かすのはよろしくないと満場一致で可決したからだ。
その後続いた話し合いで、二人がベナウィの看護及びカルラの見張り、残る二人が付近の哨戒。そしてそれらの役割を一時間毎に交代するという事になった。
現在は秋生がカルラの見張り、クーヤがベナウィの看護、耕一と早苗が哨戒任務にそれぞれあたっており、この際、ベナウィの槍は耕一に預けられた。

「そんならそろそろ動き時かもな。結局、これまで誰に会う事もなかったんだし、ずっとこうしてても埒があかねぇ」
「うむ。もうじきコウイチ達も戻って来る頃であろうし、それが良かろう」
秋生の言葉に、クーヤも賛成する。

因みにこの間、秋生のすぐ側で束縛されているカルラは一言も喋っていない。
所有していた武器は大刀が秋生へ、カッターが早苗へとそれぞれ行き渡り、栗原透子のバッグは、これも中身の武器──かんしゃく玉1袋──諸共秋生に徴収されていた。
「つー訳だ、カルラ。言っとくが変な事しようとか考えんなよ」
唐突に言葉を振られ、カルラは秋生達の方を向きて口を開く。
「あら、まだ信用ないんですのね」
「当たり前だ。あんな真似しといて、そう易々と信じられるか」
「ふふっ。いずれ誰よりも信用できる相手になりますわ」
「チ…まあいい」
相も変わらぬ軽口に少々気を悪くする秋生だったが、取り敢えず反対の意志は無い様なのでスルーする事にして移動の準備を始めた。

(このままではまずいですわね…何とか現状を打破しませんと…)
カルラは心中でそう呟いた。

──そして、果たして、神はカルラに微笑んだ。
306二人の共同作業:04/05/25 22:41 ID:hnt5NlLk
『そこを右に曲がってほしいの! 仲間がいるの』
「了解。トンヌラ、右!」
指示をする澪。すぐさま方向転換する皐月。後ろの芳野を警戒する智代。
そして主が右に進路を変え細い獣道に入り・・・・・
主がスピードを緩めたその一瞬。
突然澪が主から飛び降り、近くの木陰に転がり込んだ。
と、ほぼ同時にズドンという炸裂音とともに主の腹が弾け飛ぶ。
「!!?」
主の背中から投げ出される2人。
剣や矢を弾く主の体もさすがにクレイモアの散弾はこたえたようだ。
主はピクリとも動かない。
さらに散弾の一部が2人を傷つける。
皐月と智代は何が起こったか分からなかった。
澪が立ちあがり、懐に隠していたデリンジャーを二人に突き出した。
『チェックメイトなの』
「……智代、こっち!」
一足先に我に返った皐月が智代の手を引き、元来た道を引き返そうとする。
だが、そこにはサブマシンガンを構えた芳野。そして一言
「チェックメイトだな」
『それは澪がもう言ったの』
「……」
「……マジ?」
『マジなの』
こんなやり取りをしてる最中も二人の殺気と警戒はまったく緩まない。

(絶体絶命という奴か……)
307二人の共同作業:04/05/25 22:41 ID:hnt5NlLk
【036 上月澪 所持品: イーグルナイフ、レミントン・デリンジャー(装弾数1発、予備弾16個)
 スタンロッド、穴あきスケッチブック、防弾/防刃チョッキ、メモ帳、食料2日分】
【098 芳野祐介 所持品:ライフル(予備マガジン2つ)、サブマシンガン(予備マガジン1つ)、M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(残り1個)、
 手製ブラックジャック×2、スパナ、(元ことみの)救急箱、煙草(残り4本)とライター、食料2日分】
【095 湯浅皐月 所持品:セーラー服 主】
【038 坂上智代 朋也・宗一・芳野の写真 グロック17残弾0発】
【主 クレイモアを間近で受ける。弾は通らなかったものの、衝撃で内臓をやられて瀕死】
【皐月と智代はクレイモアにより全身負傷。命の危険はないが、軽症でもない】
【のこりのクレイモアは芳野に預けました】

【時間は午後5時45分頃。定時放送直前です】
308神は誰に微笑むか:04/05/25 22:47 ID:7S66l1XB
「なあ、明日菜ちゃん」
「はい?」
ゲンジマルを殺害してよりしばらく、麻生明日菜と神尾晴子は森の中を徘徊しており、その最中、晴子が明日菜に問いかけた。
「今、何人ぐらい残っとんのやろな」
「うーん。最初の放送で11人減ってて、それからアタシ達が2人殺してますから、最高でも87人ですよね」
「まあ、実際にはもっと減ってるやろけど、そんな数字聞いたらやっぱ気ぃ滅入るなぁ」
「やっぱり2回目の放送を聞き逃したのが痛かったですよね」
「せやな…」
あれから二人は他の参加者に遭遇していない。故に、彼女等にはその情報を得る事ができなかった。
如何に明確な目的があろうとも、不安要素が大きければ、その目的への決意に変わりが無くとも、心に陰りは生まれようというものである。
なにしろ、この島では何をするにも命がけなのだから。
「運良く無害な人に会って情報を得れればいいんですけど…」
「世の中そないに上手ぁはいかんしな…」
はぁ。と二人の溜息が重なる。
「さっきのオッサンにその辺も聞いとくんやったな…」
(なんでそのくらい気がまわらへんかなー)
「でしたね…」
(何で今頃そんな事に気付くのよ)
相変わらずこの二人、心中はドロドロの様だ。

──しかし、果たして、神は二人に微笑んだ

309神は誰に微笑むか:04/05/25 22:51 ID:7S66l1XB
「あっ」「おっ!?」
「あら」
「何奴!」「誰だ!?」

様々な意志が交差して。
木漏れ日刺す森の中で、その出会いは起こった。
運命の神が最後に微笑むのは誰か?それはまだ誰にも判らない。

【02番 麻生明日菜 所持品:ナイフ、ケーキ】
【22番 神尾晴子 所持品:千枚通し、マイクロUZI(残弾40発。20発入りマガジン×2)】
【33番 クーヤ 所持品:水筒(紅茶入り)、ショートソード。ベナウィの槍は耕一へ】
【79番 古河秋生 所持品:金属バット、硬式ボール8球、カルラの大刀、かんしゃく玉1袋(20個入り)。体力は全快】
【26番 カルラ 所持品:無し(カッターは早苗へ)。ワイヤータイプのカーテンレールで両手足を拘束中。右手首負傷。握力半分以下】
【82番 ベナウィ 所持品:無し。状態:昏睡中(危険な状態は脱した)】
【柏木耕一、古河早苗は付近を哨戒中】
【トゥスクル製解毒剤はハクオロの鉄扇とセットだった】
【時刻:二日目午後二時半頃】
310二人の共同作業:04/05/25 23:08 ID:hnt5NlLk
ごめんなさい、いくらか訂正。
>304
×主は一声吠えた後、人が猛スピードで走り去る。
○主は一声吠えた後、猛スピードで走り去る。

>307
澪の持ち物
【036 上月澪 所持品: イーグルナイフ、レミントン・デリンジャー(装弾数2発、予備弾16個)
 スタンロッド、穴あきスケッチブック、防弾/防刃チョッキ、メモ帳、食料2日分】

芳野の持ち物
【098 芳野祐介 所持品:ライフル(予備マガジン2つ 1発撃ちました)、サブマシンガン(予備マガジン1つ)、煙草(残り4本)とライター
 M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(残り1個)、 手製ブラックジャック×2、スパナ、(元ことみの)救急箱、食料2日分】
311 ◆U2dbpJmxQs :04/05/26 00:17 ID:tPYWrN5U
>>292の、
 そしてこの直後、皐月が気づく前にこの場を去りました】

の一文は、本文に書かれていない行動を書いてしまっているので、ここだけ削除します。
ご迷惑をおかけしました。
312その者、本性変わらず:04/05/26 00:21 ID:TWFymfmA
バラッバララララッ・・・
森に銃声の連続音が響き渡り、二人の少女が息を引き取った。
その傍で、獣が瀕死のうなり声をあげて悶えていたが、やがて動かなくなった。
それを確認した澪が、茂みからそっと出て、静かに頷いた。
芳野は銃を下ろして、
「終わったな」
そう言って死体に近づいていく。
智代と皐月の死体から装備を抜こうとした芳野の背後に、澪が立った。
手にはまだメモ帖を持っている。さきほど開いていたページの一つ前。
『チェックメイトなの』
「・・・何の真似だ?」
芳野の額に、うっすらと汗がにじんだ。
313その者、本性変わらず:04/05/26 00:23 ID:TWFymfmA
澪の右手にはデリンジャーが光っている。
『チェックメイトなの』というページが一枚めくられ、もう一枚めくられ、
その下にあったページが姿を現した。そこには
『ごめんなさいなの』
そう書いてあった。
「おま…!」
ズドンッ!
重い銃声が一発と、その少し後で、地面にドサリと倒れこむ音とが、空しく森に木霊した。
澪はもう一枚メモ帳をめくると、ささっと走り書きし、ビリッと破った。
『南無あみだ仏なの』
その字が、即死した芳野の胸の上で血に染まっていく。
ぱたぱたぱた
主から転がり落ちたときに付いた泥を手で払う。
澪は装備をさばくり、使えそうなものだけ持って、その場を後にした。
デリンジャーの再装填を忘れずに。

【036上月澪 所持品:イーグルナイフ、レミントン・デリンジャー(装弾数2発、予備弾14個
 防弾/防刃チョッキ、メモ帳、食料3日分、ライフル(予備マガジン2つ 弾数-1)、
 サブマシンガン(現マガジン残り弾数わずか 予備マガジン1つ)、ライター、クレイモア地雷(残り一個】
【098芳野祐介 095湯浅皐月 038坂上智代 死亡】
【スタンロッド、穴あきスケッチブックなどは放置。食料一日分も同じく放置】
314名無しさんたよもん:04/05/26 00:32 ID:JvuOyFxh
   「願い」 

 両側から銃を突きつけられ、頼みのトンヌラは負傷。
(どうする……、どうする……、どうすればいいんだ、朋也っ)
 考える時間はほとんどない。今すぐにでもこの男は自分達を殺すだろう。
 すぐに考えなくてはいけない、決めなくてはいけない。
(ならばっ)
 坂上智代はすぐさま覚悟を決めた。
(せめて、皐月だけでも逃がそう)
 この島でできたただ一人の友人。
 自分が狂いそうだったとき、己を失いそうだった時、皐月がいたから智代は智代でいられた。
 ならば、その時を恩をここで返すのが道理。
 だから、今ここで、彼女のためにこの命を使おう。皐月の為なら、この命捨てても惜しくない。
 一瞬、様々な思い出が蘇った。
(走馬灯という奴か……)
 心残りは、ただ一つだけ……。
(許せ朋也。約束は守れそうもない)
315名無しさんたよもん:04/05/26 00:33 ID:JvuOyFxh
「目をつぶれ。せめて楽に殺してやる」
 芳野が言った。勝者の余裕か。
(だがそれが、お前の命取りだっ)
 智代は、全身に力を溜めた。
 だが溜めた力を発するよりも前に、地面に押し倒された。


 銃弾の音。
 体に重い衝撃。
 それなのに、何故か痛みがない。
 わからない。
 わからない。
 何が起きているのか、わからない。
「とも、よ、逃げて……」
 上から聞えるのは、皐月の声。
「さ、皐月?」
 何が起きているのか、わからない。わからないはずなのに、智代は理解してしまった。
 皐月が自分を押し倒し、庇ったのだと。
「トンヌラァッ」
 振り絞るような皐月の声。
「GOッ」
316名無しさんたよもん:04/05/26 00:33 ID:JvuOyFxh

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
 それに答えるように、獣の咆哮。

「くそっ、その傷でまだ動けるのかっ」
 芳野の叫び声。
 銃弾の音。

「グオオオオオオオオオオオオオオッ」

 智代は皐月の下から脱した。
 皐月の体は、見るも無惨な状態だった。言葉にする事もできない、酷いありさまだ。
 赤い水溜りが、どんどん広がっていく。
 最悪の場面に、絶望しそうになる。
「と、もよ……」
 皐月が言った。
「皐月っ、皐月っ」
 智代は皐月の体を抱いた。
「良かった……、待っていろ、すぐに治療してやるから」
 でもどうしていいかわからず、智代は皐月に開いている一番大きな穴に手を当てて、血を止めようとする。
(くそっ、血が止まらない。何故だっ)
317名無しさんたよもん:04/05/26 00:35 ID:JvuOyFxh
「にげ、て……」
「馬鹿なことを言うな、皐月」
「はや、くっ」
「いやだっ」
「はやくっ」
 皐月は叫んだ。
「おね、がい……」
 皐月は、ぐったりと頭を智代の胸に埋めた。
「生、きて……好き、だった、とも……よ」
 そこで、皐月の体から力が抜けた。
「皐月ぃ、皐月っ」
 だが、皐月はもう何も答えない。
「何故だっ、何故なんだっ、私達、いいコンビだったろ、折角友達になれたじゃないか、まだまだ、これからじゃないかぁ」
 智代は皐月の体を抱き締めた。
「さつき、さつきぃ」

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
 トンヌラの叫び声。
 その声で、何故か智代は冷静になれた。

318名無しさんたよもん:04/05/26 00:36 ID:JvuOyFxh
 顔を上げると、トンヌラが芳野の上に覆い被さっている。
 全身傷だらけで、血みどろで、もう動けるはずがないのに。
 それでもトンヌラは、皐月の思いに応えるように戦っていた。
 だが、芳野の動きを止めているだけで、かつて少年を殺したように牙を立てる力も、爪で切裂く力も残っていないようだった。
 智代達を騙した少女は、混乱したようにトンヌラをナイフで切りつけている。
 
 トンヌラが智代を見た。
 行け。そう言われたような気がした。
 いや、トンヌラはそう言ったんだ。智代にはそれがよくわかった。
 そうだ、生き延びなくてはいけない。それが皐月の願い。
「決して無駄にはしないから」
 皐月に貰ったこの命を。
 皐月の体を優しく地面に横たえる。
 涙が零れそうになるのを、必死に堪えた。

 さようなら。だが口には出さない。いつかまた、もう一度出会えますようにと。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」
 もう一度、トンヌラは高々と吼えた。

 すまない、そう言おうとして智代は止めた。
 今、言うべき言葉はそんな言葉じゃないから。
「ありがとう」
 智代はそう言って、力の限り走り出した。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」

319名無しさんたよもん:04/05/26 00:37 ID:JvuOyFxh

【095 湯浅皐月 死亡】
【038 坂上智代 朋也・宗一・芳野の写真 グロック17残弾0発】
【主  瀕死】
【036 上月澪 所持品 イーグルナイフ、レミントン・デリンジャー(装弾数0発(2発使用)、予備弾16個)
 スタンロッド、穴あきスケッチブック、防弾/防刃チョッキ、メモ帳、食料2日分】
【098 芳野祐介 所持品:ライフル(予備マガジン2つ 1発撃ちました)、サブマシンガン(予備マガジン1つ 数発撃つ 残弾少)、煙草(残り4本)とライター
 M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(残り1個)、 手製ブラックジャック×2、スパナ、(元ことみの)救急箱、食料2日分】

【残り 48人】
320名無しさんたよもん:04/05/26 00:38 ID:JvuOyFxh
って、被ってるし……_| ̄|○
321名無しさんだよもん:04/05/26 00:42 ID:7nDkDJqQ
>>312-319
どっち通すの?
322名無しさんだよもん:04/05/26 00:44 ID:kH+h2sB1
323名無しさんだよもん:04/05/26 01:00 ID:eTcQjIq4
なまえ

「杜若きよみさん…だったね?」

 目の前で殺された黒づくめの女性は月代にとって「お姉さんのようなひと」だったらしい。
メモの下段にその名前を書き入れながら敬介は訊ねた。月代の震えは未だ治まらない。無理もない。
家族といってよい大切な女性が目の前で殺された。明らかに度が過ぎる殺し方で。
 のような人、という言い方について詮索はしなかった。家族の構造に関して自分がえらそうに言えた義理ではない。
彼女に観鈴や晴子の説明をするときに「家族」という言葉を使うのをためらったほどなのだから。
 殺した側の人相は分かっている。制服を着た髪の長い女性――おそらく高校生。そして後ろに白い大きな、
死体を喰らう獣。

(……今のあたし達じゃ、何もできない)

 そのとおりだった。喰われていた少年の体内にあったはずの爆弾が暴発でもしない限り、あの獣に今の自分たちが
勝てるとは思えない上に、殺人者は銃を持っている。さきほどの昆虫のように冷たい目をもつ少女のときは、家の
構造をある程度把握していたため武器のパスが順調に進んだのだが、外では武器になりそうなものがそうごろごろ
転がっているとは思えない。もっとも、小細工を弄する地形の利があったとしても、銃と猛獣を一度に相手して
勝てる気はしなかったが。
 小細工。自分と因縁のあるあの少女の持ち物はまだ改めていないが、今のところ手持ちのいささか頼りない玩具類
だけで銃器を持った平然と殺しをやってのける者たちやら得体の知れない人食いに対抗するのは明らかに自殺行為だと
いえる。とすれば残るはそれしかないのではないか。
 状況を戦闘に利用する…具体的に考えようとして、敬介は口元をゆがめた。月代の決意を目の当たりにしたとはいえ、
思考が完全に先走っている。第一自分は襲ってきたものすら殺せなかったのではなかったか?アイディアを完全に捨てる
ことはないだろうが、今は先にやるべきことがあるはずだった。
 メモをしまう。月代の話では蝉丸という青年がこの島にいることは確実だが、他にも知り合いがいるかもしれないと
いうことだった。放送のメモがあれば確認もできたはずだが一回目、二回目ともにとりそこねている。当面の目的である
人探しも、難航しそうだった。
324なまえ2:04/05/26 01:00 ID:eTcQjIq4
「落ち着いた?」
「うん…大丈夫」
「そうか」
 少し目を閉じる。
「月代ちゃんは、強いね」
 そう口に出している自分がいた。

 獣道を離れ、住宅街が見えるすれすれの森の中を、彼らは北に向けて進んでいた。そして、偶然か否か敬介の知って
いる場所に出ることとなる。大きな建物――おそらく学校――の近くの、造花を持った少女が眠る場所。
(宮沢…有紀寧…)
 住宅地には殺人者が多くいる。連れである月代は今、死に対して敏感になっている。
一刻も早くここから立ち去ったほうがいいのは分かっている。しかし…
敬介はポケットから木片を取り出した。「やっておきたいこと」が目の前にあった。
「月代ちゃん、スコップを貸してくれるかい?」

 そこの土は存外固く、スコップでもなかなか歯が立たなかった。すでに日が高くなっているせいで地が固まった
からかもしれない。
 初音という少女のところにおいてきたものと同じ、アルファベットを彫りつけた木片は、今造花と一緒に彼女の
胸の上にある。敬介がその少女の名前を知りえたのは幸いだった。今まで自分たちが生活していた場所と空間的に、
もしかしたら時間的にも隔絶しているかもしれないこの島で、すでにどれだけの人間が名乗ることもできない亡骸と
なっているのか。せめて、自分の知りうる限りの名前を彼らには残してやりたかった。

(――みすず、というのはどうだろう。鈴を観る、で観鈴)
(――いい名前、かわいらしいね)

 不快な放送で列挙される通し番号つきの名前。あんなものとは違うやりかたがあるはずだろう。
 それはささやかすぎるほどささやかな、敬介の反抗心の表れだった。
325なまえ3:04/05/26 01:01 ID:eTcQjIq4
 穴を掘るのは結局断念した。住宅地の近くだから、というわけではないと思うが、落ち葉が積もっているその土は
不自然なまでに固かった。ふと見ると月代が落ち葉を両手いっぱいに抱えている。そして彼女、ミヤザワユキネに
かけてやっていた。いつしか敬介もそれに倣っていた。程なく彼女は見えなくなった。

「笑って…たね」
「そうだね」
「あんなふうに…笑っていられるかな?」
(……また、誰かを笑わせてあげて下さい)
「…そうだね」

 木漏れ日の中、月代の隣にたたずむ敬介の胸中にはもうひとつの問いがあった。
 笑わせるべき彼女たち――神尾とは違う姓を持つ、自分の名前。
 そう。
 観鈴に会ったら、僕はなんと名乗ればいいのだろう。

【055 橘敬介 所持品:ヨーヨーもどき、釣り針、太めの釣り糸、肥後ノ守、手品道具、ピン類、小型レンチ、
 針金、その他小物、 腕に万国旗、大判ハンカチ、水の容器、メモ、鉛筆、食料、理緒の荷物(分担)】
【085 三井寺月代 所持品:ヴィオラ、青酸カリ、スコップ、初音のリボン、食料、理緒の荷物(分担)】
【旧理緒の所持品のうちバッグ三つ分(筋弛緩剤と注射針一式(針3セット)、裁縫道具、手作り下着、クレジットカード、
 小銭入り長紐付き巾着袋、クッション)は敬介と月代が分担して所持】
【住宅街近くの森、学校付近、昼過ぎ】
326The Gate of the Hell:04/05/26 01:30 ID:G6fLoo6n

(失敗、したかな……)

目の前には、爛々と光る二対の眼。
自分とてそうは変わるまい。
人を殺すための道具を、人に向けている。
三つの銃口、三対の眼。

(まあ、あさひちゃんは逃げられたみたいだし)

少年(46番)は、心の中だけで嘆息する。
こころ。
まったく、自分にそんなものがあるのかどうかも判らないというのに。
命だけは、こうして下らないゲームの駒になる。

(死ぬのかな)

S&Wを構えて、ただ時間が過ぎていく。
さわさわと、風に揺れる梢のざわめきだけが響いていた。
327The Gate of the Hell:04/05/26 01:31 ID:G6fLoo6n

一発の銃弾が開戦の合図。
ふたりの狩人は、互いが必殺の一撃を秘めていることを正しく理解していた。

(―――この子じゃあ、射程が短すぎたってことか)

晴香のコルトが放った銃弾は、しのぶに当たることなく飛び去っていた。
先制に失敗した以上、自分の装備は圧倒的に不利。
相手が銃器を持っていなければ別だが、それはない、と晴香は確信していた。

あの女の眼は、自分と同じだ。
この島のルールを理解している眼だ。
ならば逃げるわけには、いかなかった。
殺し、殺し、殺す道を歩むと決意した自分の強さは、狩るという行為に依存している。
逃げる立場になれば、この島ではただ駆逐されるだけだ。
あの女とてそれは同じ。
自分に勝つことしか考えていないだろう。
手持ちの弾はあと三発。
この銃弾で、あの女を仕留めてみせる。
傍らの茂みに身を潜め、じりじりと位置を変えながら晴香は必殺のイメージを練る。
328The Gate of the Hell:04/05/26 01:31 ID:G6fLoo6n

しのぶもまた、横っ飛びに飛び込んだ藪の中で、ブローニングを抜き放ちながら思う。
あの女を超えなければ、自分の勝ちはあり得ない。
それほどに、自分たちは似過ぎていた。
弾丸は六発。

(あの女の銃は、威力がない)

発射音、一瞬だけ見えた銃身、何より一発だけで身を潜めた彼女の慎重な姿勢が
それを物語っていた。
あの女には、一気に勝負を決めるだけの火力がない。
しかしそれは自分とて同じだった。
何しろ少しでも距離があれば、上手く当てる自信がない。
それに威力が無いといっても、相手は銃だ。
生身で銃弾をもらえば文字通りの致命傷となるだろう。
あの女を仕留めるには、距離が最大の敵。
射程の差を活かすことができない以上、至近での勝負になる。
一瞬でも早く、相手を射線に捕らえた方の勝ち―――。

(女子高生の考えることじゃあ、ないわよね)

榊しのぶは自らの思考に苦笑する。
女子高生は人を殺さない。
329The Gate of the Hell:04/05/26 01:32 ID:G6fLoo6n

ふと、少年(46番)は足を止めた。
後ろをついてきた桜井あさひが声をかける。

「どうしたんですか?」

振り向かず、硬い声で少年が答える。

「どうも―――道を間違えたみたいだ」
「え? ……道って、だって分かれ道みたいなのはありませんでしたし……」
「引き返そう。この先は、良くない」
「でも……」

言い募ろうとするあさひ。
それを遮ったのは少年の声ではなく、一発の銃声。
木々に反響するその音は、あさひにとっては特別な意味を持っていた。
絶対の恐怖。
あさひの顔が見る間に蒼白になっていく。
恐怖という感情を知らない少年は、その表情の意味を理解はできたが、しかしその内圧までを
推し量ることはできなかった。

「あ、あ……」

震えだすあさひに少年が手を伸ばそうとした瞬間、あさひは弾けるように駆け出していた。
悲鳴。悲鳴。悲鳴。
絶叫を引きずりながら、あさひの脚が向かった方角は。

(いけない―――!)

少年は、少女の背を追って駆け出す。
330The Gate of the Hell:04/05/26 01:32 ID:G6fLoo6n

晴香は動いていた。
位置を捕捉されたら負けだ。
茂みが有効な遮蔽物たり得るかどうか、文字通り命賭けで試してみる気はさらさら無い。
幸いというべきか、風が強い。
梢のざわめきは摺り足の音を相殺してくれる。
あの黒髪の女が飛び込んだのは右前方、十数メートルの藪だ。
その周囲には、身を隠したまま移動できる場所がない。
あの女は動けない。
相手が確保できる視界を計算しつつ、右回りで茂みを伝い、脇から飛び出しての一撃必殺を狙う。
そのためには、いかにして敵の注意を自分が最初にいた位置に惹きつけるか。
手持ちの道具は役に立ちそうにない。
最後の一手が欠けている。
もうひとつ、何かがあれば―――。

しのぶもまた、己の地形的な不利を理解していた。
背の高い草に囲まれてはいるが、ここから出るには身を危険に晒さなければならない。
時間が経てば、それだけ相手の選択肢を増やすことになる。
何か、手を打たなければならなかった。
手持ちの装備を確かめる。
ブローニング、ナイフ、レーション、缶切り、紙マッチ、小型ガスコンロ、護身用スタンガン。
あの女は正面から来ない。
それができるなら、既にこの薮ごと蜂の巣にされている。
右か、左か。それとも後方まで回りこむのか。
組み立てろ。
必殺の道筋を。
331The Gate of the Hell:04/05/26 01:33 ID:G6fLoo6n
晴香は既に予定していた地点に到達していた。
あの黒髪の女の影が視認できる。
最初に伏せた茂みから、相手の潜む薮を中心として丁度右に90度。
しかしこの先は迂闊に動けない。
あの女を射程に収める、その距離を駆け抜ける二秒。
その二秒が絶望的に長い。

相手の装備が判らないというのが致命的だった。
銃器であれば、二秒は地獄までの所要時間と等しかった。
この位置は十中七、八まで読まれている。
相手が動かないのは何故だ。
奴の立場で考えろ。
なぜ動けない、なぜ動かない。
思考に穴が在れば奴は必ず牙を剥く、私がそうするように。
332The Gate of the Hell:04/05/26 01:34 ID:G6fLoo6n

千日手に終止符を打ったのは、しのぶの一手。
晴香は、自分の最初に伏せていた茂みに向けて、薮の中から何かが放り込まれるのを見た。

(―――囮か。下らない手段ね)

予想通り、爆発も何も起こらない。
手榴弾の類があるなら、これだけ時間を空ける意味が無い。
即ちあの投擲物には、殺傷能力など皆無―――。
しかし、薮の中からもう一つ何かが、転がされていた。

(―――何?)

ほぼ同時に銃声が三つ。
そして、爆発。
最初に自分が潜んでいた茂みは、無残な姿に変わっていた。

(―――な……っ! あいつは何をを持ってるのっ!?)

最初の投擲は、転がしたあの物体から目を逸らすための陽動。
側面から監視していたからこそ発見できたのか。
あの場に留まっていれば、今頃は―――。
思わず凍りついた晴香のすぐ側、ほんの数十センチに、何かが、転がってきた。
333The Gate of the Hell:04/05/26 01:35 ID:G6fLoo6n

しのぶは心中で喝采を叫んでいた。

(―――当たった!)

賭けだった。
残りの弾丸は6発、その内の3発を無駄にした、一か八かの勝負。
投擲したのはただのレーション。
転がしたのはガスコンロ付属のミニボンベ。
間髪いれず、残りのレーションを低い弾道で投擲。
左右後ろ、あたりを付けた三箇所、自分を狙う絶好の位置へと。

案の定―――向かって左、飛び出す影。

(これで―――終わり!)

影に一発。
大きな、丸い影に穴が空く。
風を孕んではためく布をまとったその形状は、人ではあり得なかった。
……制服に包まれた、支給バッグ。
その下、高い放物線を描く影の後ろから―――今度こそ、狩人は飛び出した。

(読まれてた……!)

跳ね上がった銃口は間に合わない。
ならば活路は一つ。
334The Gate of the Hell:04/05/26 01:37 ID:G6fLoo6n

晴香は絶対の確信をもって勝利の弾丸を放とうとしていた。
あと三歩、相手の弾丸がバッグを撃ちぬく重い音。
後二歩、その銃口が下りきるより先に、懐に飛び込める。
最後の一歩―――

目の前に、女の黒髪が、広がっていた。
しのぶもまた、飛び出していた。
強烈な衝撃。
互いの全体重をかけた突進、肩と肩がまともに当たり、互いの位置が入れ替わる。
左肩を強打しながら、右足を振り出して遠心力を強引に制御し振り向く晴香。
額を打ちつけながら、踏み出した左足を軸に、右膝を地に擦って水平に回転するしのぶ。

視界が晴れても、やはりふたりは動けなかった。
雄々しく立ち、獲物を睥睨する晴香。
跪きながら、獲物の喉笛を食い破らんとするしのぶ。
伸ばされた互いの右手には、必殺の銃。
互いの額には、己を殺す銃口。

僅かな緩みがすべてを粉々に破砕する、それは凍りついた時間。
335The Gate of the Hell:04/05/26 01:38 ID:G6fLoo6n

桜井あさひは踏み込んでしまった。
絶対に踏み込んではいけない領域。
それは殺意が支配する、弱者を排斥し蹂躙する空間。

互いに互いの額へ銃を向けるふたつのそれは、自分を殺す何かだ。
その眼が、微動だにしないその姿勢の中で、爛々と光る眼だけが、こちらを視ていた。

もはや悲鳴も、恐怖すらも浮かばない。
自分が何を持っていて、どういうものであろうと、あれには勝てない。
絶望が、桜井あさひを埋め尽くす。

「たす、たすけ、たすけて、たすけてください」

口から、懇願だけが漏れていた。

「―――もういい。ここはもういい。早く、逃げるんだ」

彼女を救ったのは、少年の声だった。
金縛りにあったように動かなかった身体が、一気に解放される。

じり、じり、と足が地面を擦る。
摺り足は歩みに、歩みはあっという間に走りに変わり、あさひは全力でその場を後にした。
336The Gate of the Hell:04/05/26 01:40 ID:G6fLoo6n

その間、少年は瞬きもせずにふたりの殺戮者を見詰めていた。

「動かない方がいい。それくらいは判っているはずだ」

そう。
銃口はこちらを向いていない。
あれらは互いを狙っていて動けない。
こちらはいつでもあれを撃てる。
だが同時に少年は悟っていた。

あの眼を抑えておくことなど、出来はしない。
銃を撃って殺せるものでは、あれはきっと、ない。
そんなことはあり得ないと、どこからか告げる声は弱々しく、代わりに少年を押し流そうとする
何かが、この空間には漂っていた。

(―――これが、恐怖と、いうものなのかな)

努めて軽く、空ろに。
せめて自分くらいは、いつも通りでいようと。
溜息を一つ。
337The Gate of the Hell:04/05/26 01:41 ID:G6fLoo6n

桜井あさひは走っていた。
呼吸が苦しいとか、足が痛いとか、そういう真っ当な身体の制御機構はとうに麻痺していた。
ただ、

(あのひとが、死んでしまう!)

その一念だけが彼女を動かしていた。
森、茂み、枝、枝、枝。
急に開ける視界。眼に映る人影。
殺されるかもしれないなどとは、考えもしなかった。
そこには、さっきまで自分がいた場所に漂っていた、あの空気はなかった。
だからただ、叫んだ。

「―――たすけて! 助けてください! あのひとが死んじゃうから! 助けて!」

そこにいた人々の中で、ひと際大柄な男性が声を上げた。

「今度はなんなんだーーーーーーーーーーーっ!」

麻生明日菜と神尾晴子が、驚いた顔をして新たな闖入者を見ていた。
338The Gate of the Hell:04/05/26 01:42 ID:G6fLoo6n
【039 榊しのぶ ブローニングM1910(残弾2)、ナイフ、缶切3つ、12本綴りの紙マッチ3つ、護身用スタンガン】
【091 巳間晴香 コルト.25オート(残弾3)、カッター、相当量の食糧と水】
【046 少年 S&W M36(残り弾数5、予備の弾20)、腕時計、カセットウォークマン、食料三日分、二人分の毛布】
【042 桜井あさひ キーホルダー、双眼鏡、十徳ナイフ、ノートとペン、食料三日分、眼鏡、ハンカチ】
【002 麻生明日菜 ナイフ、ケーキ】
【022 神尾晴子 千枚通し、マイクロUZI(残弾40発。20発入りマガジン×2)】
【033 クーヤ 水筒(紅茶入り)、ショートソード】
【079 古河秋生 金属バット、硬式ボール8球、カルラの大刀、かんしゃく玉1袋(20個入り)】
【026 カルラ 無し(カッターは早苗へ)。ワイヤータイプのカーテンレールで両手足を拘束中。
    右手首負傷。握力半分以下】
【082 ベナウィ 状態:昏睡中(危険な状態は脱した)】
【時刻:二日目午後14時半過ぎ、「神は誰に微笑むか」直後】
339名無しさんだよもん:04/05/26 03:02 ID:JvuOyFxh
「願い」と「その者、本性変わらず 」はNGという事でよろしくお願いします。
詳しくは感想スレを参照してください。
(なんや、またややこしいことになったなぁ)
(とりあえず、殺すのは後でもできるし、情報も欲しいですし、ちょっと様子見しませんか?)
(せやな、寝とる奴とかもおるけど、戦力的に使えるかもしれんし)
(あの捕まったらしい人も、上手く利用できそうですしねぇ)
 などと晴子と明日菜が物騒な打ち合わせをしているのをよそに、クーヤは泣きじゃくるあさひを懸命に宥めていた。
「大丈夫だ。何があったかは知らぬが、余は救いを求める民を見捨てたりなどせぬ。
 落ち着いて、何があったか話すがよい」
「ひくっ、うっ……ううっ……あっ、あたし……」
「だいたい、その方、助けを求める者を怒鳴りつけるとは何事だ」
 クーヤに睨まれた秋生が、慌てて頭を下げる。
「あー、いや、いきなり色々来たもんでな、ついどなっちまった。悪い」
「あのっ、あ、あたしのことはいいんです、それより、それより少年さんが……」
 そこへ、先ほどの秋生の叫びを耳にして、哨戒していた耕一と早苗が走って帰ってきた。
「クーヤ、何があったんだ……おっ、その子、アイドル声優の桜井あさひちゃんじゃっ!」
「え、あ、はい。あさひ、です……」
 増えた二人を見て、晴子が顔をしかめた。
(なんやなんや、また増えよったで)
(とりあえず、いきなり襲いかからなくって良かったですねぇ。寝てる人含めて、6人もいますよ)
(しっかし、声優の顔しっとるなんて、あの兄ちゃん、アニオタちゃうか? たいして役に立ちそうにあらへんなぁ)
(ま、そこはそれ。若い男の子ですし、ガタイもいいし、いろいろ使えそうじゃないですか)
(あれ? ちょい、待ちいな。クーヤって、どっかで聞いた憶えあらへんか?)
(あら、もう健忘症が始まったんですか? さっきのゲンジマルっておじいさんの尋ね人ですよ)
(あー、せやせや。って、誰が健忘症やっ!)
 あの老人が探していたのが、この少女か。なるほど、確かにこの世界の者ではないし、
 女皇というだけあって、威厳や気品なども、言葉遣いや態度の端から垣間見える。
 が、年相応な、少女らしさも顔を出す。
「あいどるせいゆーとはなんだ、コウイチ?」
 いかがわしげな響きを聞き取ったのか、クーヤが半眼で耕一を見る。
 晴子と同じ疑念を抱いた秋生も、物珍しげな様子で、
「なんだ、兄ちゃん。アニメオタクって奴か?」
「いや、それはたまたまテレビ見ていたら、ピーチにはまってつい……いや、とりあえず、それは置いておいて」
「あの、秋生さん。こちらの方達はどなたでしょう?」
「おお、そうだった。何なんだ、あんたらは」
 早苗に問われ、胡散くさげな目で、秋生が晴子達を眺め回す。
 あちゃー、警戒されてしもうとるなぁ。と、どう取り繕うか考えていた晴子を遮って、
「自己紹介は後ですっ!」
 明日菜が、その場を制した。
「あさひちゃん、って言ったわよね。あなたのお友達か誰かが、危ない目に遭ってるのね? 違う?」
「は、はい、そうですっ!」
「だったら、今すぐ助けに行かないと! 議論している暇なんてないわっ!」
「それともあんたらが、ゲームに乗った殺人鬼というなら、話は別やけどな……」
 晴子もすぐに調子を合わせ、疑いの眼差しを向ける。
 が、今かわされた多少の会話で十分分かっていた。こいつらは、甘ちゃんだと。
「ふざけたことを申すなっ! 先も言ったように、余は民を見捨てぬっ!」
 案の定、クーヤは疑われたことに憤慨し、こちらを疑うなど思いもよらなかった。
「あさひとやら、余もコウイチも、アキオもサナエもそなたの力になる。
 話は道すがら聞こう。案内せよ」
「は、はいっ!」
 あさひの顔がパッと輝いた。
「なんか……俺等、臣下みたいな扱いだな」
「皇様御用達パン屋さんになれるかもしれませんね」
 平和な古河夫妻はともかく、動かせないベナウィとカルラがいる以上、二手に分かれることになる。
 明日菜が提案、クーヤが仕切るという形で、話はどんどん進んでゆく。
 淀みない流れに、明日菜の意志が場全体を決定づけていることに、誰も気づかない。
「とりあえず、あさひちゃんの方が危険でしょうから、そちらに人数を裂くべきだと思います」
「うむ。では、余と耕一がそちらに向かい、アキオとサナエは残ってもらおう。
 その方等にもついてきてもらいたい。よいな?」
「もちろん」
 快諾する明日菜にクーヤが頷きを返す。
「いや、危険だから、戦えないクーヤは残った方が……」
「民の先頭に立たぬ皇がいるか。そんなことでは国を治めることなどできぬ。
 それより、議論している暇はないといったはずだ!」
 たしなめようとした耕一は、あっさりと一喝された。
 立場弱いなぁ、俺。と、ぼやくその背中を、明日菜が「頑張れ、男の子」と叩いて励ます。
 で、へらっとしてるとまたクーヤ様に怒られたりするのだが。
 ハクオロの鉄扇と早苗の短剣が、護身用にとクーヤに渡された。ついでにお気に入りのサランラップも。
 疑う気は失せているが、さすがに危険な毒物を明日菜や晴子に渡すほど、ゆるんでもいない。
 代わりにショートソードが、ナイフしか持っていない明日菜に渡される。
「まぁ、ナイフよりは、多少はマシかな……」
「こっちの火力は強大やでー」
 晴子が自慢げに取りだしたサブマシンガンなるものをクーヤは理解できなかったが、
「よし、これでよかろ。行くぞ!」
 言葉通り、先頭に立って駆け出したクーヤを、慌てて耕一が追い、
 行き先が分からないことに気づいて、あさひに合わせて足を緩める。
 肉体的に脆弱といわれてはいても、車もない世界で生活していたクーヤの方が、あさひよりは体が強い。
 ましてやあさひは、まだ息も整っていなかった。
「あさひちゃん、俺がおぶるから」
「え、でも……」
「いいから早くっ! 遠慮している時間なんてないっ!」
「は、はいっ!」
 飛び乗ったあさひの指示に従い、耕一が駆ける。クーヤが併走しながら、その横顔に呟いた。
「……心なし、嬉しそうではないか、コウイチ?」
「いや、全然そんなこと」
 クーヤ様のご機嫌斜め度30度。
「あ、あの、こっち、です」
 その後ろを、明日菜と晴子の二人が、少し離れて追う。
(なんやめっちゃ無防備やなぁ。思わず撃ちたくなるわ)
(だめですよ。情報聞こうっていうのが優先じゃないですか。
 何人死んだのか知りたいし……最悪の事態も、考えられますから)
(うちはそんなん考えん。観鈴は生きとる。うちがそう決めたんや)
(あたしだって信じてますけどねぇ……いざとなったら、生き返らせてもらうって手もあるし)
(なんやゆーたか?)
(いえいえ)
 明日菜は、晴子とのコンビは悪くない、と思う。好き嫌いではなく、相性の意味で。
 先ほどもすぐ合わせてくれたのは、非常にありがたかった。さすが関西人。
 本当に最悪の事態が訪れたなら、いっそのこと観鈴も死んで、
 二人で協力して生き延び、二人の願いを叶えてもらう、というのも悪くないかもしれないと思う。
 が、それはあくまでも最終手段だ。
(しっかし、ちょいと危ない橋だとおもわん? 相手は確実に殺人鬼やで)
(そこはそれ。せっかくこんなに盾がいるんですから、有効活用しましょうよ。
 バカ同士の殺し合い、私達の手で、ガンガンやらせちゃいましょう)
(せやなー、うちらか弱い乙女やしなー。こーいち君とやらに、守ってもらおか)
(乙女?)
(あんたかて、乙女言い張るには無理あるやろ。わかっとるでー、この狸女が)
(……ほほほほほ)
(……ふひひひひ)
(上手くすれば、武器も手にはいるかもしれんませんし)
(よっしゃ、省エネで行くでー。しっかし、こいつら意外と装備しょぼいなー。刃物ばっかや)
(まぁ、そこらへんはおいおいなんとかしましょう。理想としては、殺し屋一人。
 あさひちゃんの彼氏と撃ち合って相討ちか、手負いになっている、って所ですね。
 こっちが勝たないことには話になりませんし)
(五人くらいの集団やったらかなわんなー。せやったら、即座にトンズラうたせてもらお)
(それはないです。どうせ残るのはたった二人。組むにしてもそれが限界でしょう。
 殺し屋さんはゲームに乗ってるってことでしょうから、主催者を倒そうという考えもないでしょうね)
 その、主催者を倒そうと決意したうちの二人が、今、目の前を走っていた。
「も、もうすぐです。注意してください」
 様々な思惑をとりあえず飲み込み、全員の気が引き締まった。
 そして――残された、古河夫妻とベナウィとカルラ。
 秋生が明後日の空を見ながら、カルラに話しかける。
「ところでよ、一つ聞くが」
「なにかしら?」
「腹、減ってないか?」
「腹?」
 確かに多少減っていた。だが、自分を殺そうとしてもおかしくない人間が、何故腹具合など気にするのか。
 まさか、毒でも食わせて始末しようと言うのか――。
 いや、それなら先ほど殺すと言えばすむことだし、わざわざ毒を使うとも考えづらい。
 それよりも、ここは食料を口にして、体力の回復に務めるべきだ。
 カルラは、そう判断した。
「……ええ、空いてますわ」
 きゅぴーん。
 どこからか、そんな音がしたような気がした。
「おおっ、こんな所においしそうなパンが! なんてラッキーなんだ、あんたは。さぁ、遠慮せずに食え」
「……なんですの、これは?」
 パンというものは、カルラの世界には存在していなかった。
「これか? これはだな……早苗のパンだっ」
 秋生が自信満々にいった。
「あなたの奥さんのつくったものですの? まぁ、なんでもいいですから、いただきますわ」
 手をほどいて、と言いたかったが、かえって警戒させることになるだろうと自重する。
「おおっ、見ろ早苗。お前のパンは、ファンタジーな人の食欲を刺激しているぞっ!」
「まぁっ! ファンタジーな人でも大丈夫なんですねっ!」
「あの……いただけるんですの?」
「ああ、遠慮せず食え。伝説さえ残した早苗のパンを、心ゆくまで食いまくってくれ!」
 口に押しつけられたその物体を、カルラは咀嚼した。
 ――っ!?
 カルラの意識が虹色の闇に染められてゆく。
 が、食わねば死ぬ。それはカルラが屈辱的だった人生の中で掴んだ、真理の一つだ。
 カルラは意識を失いかけながらも、早苗のパンを噛み千切り、飲み込んだ。
 ギリヤギナの強靭な肉体と意志が、半ば本能的にそのパンを食らいつくした。
 そして遠くの世界へ旅立っていった。
「おおっ、早苗! 全部食いきってくれたぞ! 見ろ、この幸せそうな安らかな寝顔っ!」  
「私のパンは、ファンタジーな人には大好評なんですねーっ!」
 古河夫妻は、こんな状況でもとことん幸せだった。
 
【33番 クーヤ 所持品:水筒(紅茶入り)、ハクオロの鉄扇、サランラップ25m(耕一から)短刀(早苗から)】
【18番 柏木耕一 所持品:ベナウィの槍 『左腕負傷中』】
【02番 麻生明日菜 所持品:ショートソード(クーヤから借りる)ナイフ、ケーキ】
【22番 神尾晴子 所持品:千枚通し、マイクロUZI(残弾40発。20発入りマガジン×2)】
【42番 桜井あさひ 所持品キーホルダー、双眼鏡、十徳ナイフ、ノートとペン、食料三日分、眼鏡、ハンカチ『疲労』】

【79番 古河秋生 所持品:金属バット、硬式ボール8球、カルラの大刀、かんしゃく玉1袋(20個入り)】
【80番 古河早苗 所持品:早苗のバッグ、古河早苗特性パン3個、トゥスクル製解毒剤、カッター】
【82番 ベナウィ 所持品:無し。『昏睡中(危険な状態は脱した)』】
【26番 カルラ 所持品:無し。『ワイヤータイプのカーテンレールで両手足を拘束中。右手首負傷。握力半分以下 昏倒中』】
【時刻:二日目午後二時半頃】
347まもるべきもの:04/05/26 08:06 ID:m2JBozCn
 
 前門の虎、後門の狼。
 私たちを取り巻く状況はまさに絶対絶命だった。
 行く手を遮る男――芳野祐介。
 無邪気な表情で私たちを巧妙に罠に陥れた少女。
 私たちの危機を幾度となく救ってくれた獣。
 ――トンヌラはもう動かない、あの傷ではもはや助からないだろう。

(万策……尽きた…と、いう…訳か…)
 私の心が絶望の色に染まってゆく。
 
 ふと私の隣の少女、皐月に視線を移す。
 なんということだ。彼女の瞳はまだ絶望に染まってはいない。
 何の罪も無くこの狂気の戦場に連れてこられ殺し合いを強要され、
 こうして眼前に銃を突きつけられてもなお、
 希望を捨てては無かったのだ。

 初めて人を殺したとき。
 私は迷い、道を見失いそうになり、
 このまま堕ちて行きそうになった時、彼女は私の道を照らしてくれた。
 星のように。
 月のように。
 太陽のように。
 湯浅皐月、私の親友――。
(……ここで歩みを止めるわけにはいかない。
 なぜなら――私は生きている、守るべき者がいるからだ!)

 私の決意に呼応したかのように獣の咆哮が響き渡った。
348まもるべきもの:04/05/26 08:07 ID:m2JBozCn

「グオォォォォオオオオオ!!!」

 俺が銃の引き金を弾こうとした時、それは起こった、
 澪の後方、クレイモアの散弾に貫かれた白い獣が起き上がった。
 屍体がうごいた?
 いや、違う、止めを刺しきられなかったのだ。
 獣は大きく跳躍し俺たちの所にやってくる。
 腹を血みどろにしながらもそれはやってくる。

「澪ッ!! 伏せろぉォォォォォォッ!!」
 考えるよりも先に手が動く。
 引き金を弾いたのは獲物二人に向けてではない。
 今まさに澪に飛びか掛からんとする白い獣に向って。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 サブマシンガンの残弾など考えては無かった。
 考えていたことはひとつ――。
 ただただ澪を守るため、
 守るべき人のため。
 俺は銃を放っていた。
349まもるべきもの:04/05/26 08:08 ID:m2JBozCn
 トンヌラが起き上がった。
 腹を血みどろにしながらも。
 自分の命が今尽きそうになりながらも。
 私たちを守るために。
 命の最後の灯火を輝かせながら。
 
「澪ッ!! 伏せろぉォォォォォォッ!!」

 芳野の絶叫が森に木霊する。
 少女に向って飛び掛ろうするトンヌラに向けて。
 私たちを殺す絶好の機会を捨てて。
 サブマシンガンを乱射する。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 連続した銃声がした。私の後ろ、澪と呼ばれた少女の頭上。
 血煙が舞う。長い、長い銃声。
 ゆっくりとトンヌラが地面に崩れ落ちる。

 カチッカチッ。
 銃弾を撃ち尽くす音。

 やって来た。トンヌラが命を賭して作ったチャンスが。
350まもるべきもの:04/05/26 08:08 ID:m2JBozCn
 
 少女は何が起こったのかわからなった
 芳野にいわれるまま身を伏せた。
 刹那、銃声が響く。
 頭上にはクレイモアの直撃を受けたはずの白い獣。
「――――!!!」

 私はそのチャンスをのがさなかった。
 完全に隙を見せている少女の銃を素早く奪い取り。
 そして――。
「すまない……子供に暴力を振るうつもりはなかったんだが…」
 息を吐き。

「ハァァァァァァァァ!!!」

 渾身の回し蹴りを少女に放つ。
「――――!!!!!」
 体重の軽い少女は吹き飛び大木に身を打ち付ける。
「澪ッ しまっ――」
 芳野は引き金に手を掛けるがその銃には弾は入っていない。
 もう遅い。
 一・二・三・四・五・六発の蹴りを叩き込む。
 もんどりうって倒れこむ芳野。

「貴様だけではない、私にも――守るべき者がいる」
351まもるべきもの:04/05/26 08:09 ID:m2JBozCn
【036 上月澪 所持品: イーグルナイフ、レミントン・デリンジャー(装弾数1発、予備弾16個)
 スタンロッド、穴あきスケッチブック、防弾/防刃チョッキ、メモ帳、食料2日分】
【098 芳野祐介 所持品:ライフル(予備マガジン2つ)、サブマシンガン残弾0(予備マガジン1つ)、M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(残り1個)、
 手製ブラックジャック×2、スパナ、(元ことみの)救急箱、煙草(残り4本)とライター、食料2日分】
【095 湯浅皐月 所持品:セーラー服 主】
【038 坂上智代 朋也・宗一・芳野の写真 グロック17残弾0発】
352名無しさんだよもん:04/05/26 08:27 ID:m2JBozCn
持ち物に修正です。

【036 上月澪 所持品: イーグルナイフ、レミントン・デリンジャーの予備弾16個)
 スタンロッド、穴あきスケッチブック、防弾/防刃チョッキ、メモ帳、食料2日分】
【098 芳野祐介 所持品:ライフル(予備マガジン2つ)、サブマシンガン残弾0(予備マガジン1つ)、M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(残り1個)、
 手製ブラックジャック×2、スパナ、(元ことみの)救急箱、煙草(残り4本)とライター、食料2日分】
【095 湯浅皐月 所持品:セーラー服】
【038 坂上智代 朋也・宗一・芳野の写真 グロック17残弾0発、レミントン・デリンジャー(装弾数1発)】
353名無しさんだよもん:04/05/26 11:57 ID:cu68VmiD
(情けねぇ… 俺は同じ相手に負けたのかよ…)
祐介の頭には澪から奪ったのであろうレミントン・デリンジャーがつきつけられている。
もっともそんな事をしなくても6連撃のダメージが祐介の動きを阻害しているのだが。
M16A2アサルトライフルもVz61スコーピオンも手の届かない場所に放置されている。

がさり、と音がし振り向くとそこにいたのは先ほど蹴り飛ばした小柄な少女。
手に握られているのは少女の手にはあまりに大きいナイフ。
(今助けるの!)
駆け出した少女の目はまっすぐに私を捉えている。
「それ以上寄るな! 撃つぞ!!」
声が聞こえる、でも聞くつもりはない。
少女の足は止まらない。
「くっ…やむをえん…」
レミントン・デリンジャーが火を吹き少女の胸を穿つ。
が、駄目。
苦痛の表情を見せるものの、少女の足は止めるに至らない。
引き金を引いてももう弾は出ない。
私は銃を投げ捨てると少女の方に向き合った。
例え相手がナイフを持っていても接近戦なら負ける気はしない。
もう少しで間合いに入る。
と、少女の手からナイフが落ちる。
「なっ…!」
智代は落ちていくナイフに意識が持っていかれた。
354名無しさんだよもん:04/05/26 12:00 ID:cu68VmiD
―――隙。
それはほんのわずかな時間。

だがその隙は全てを決するのに十分過ぎる時間だった。
澪の手に握られたスタンロッドが伸び、智代の左脇腹を捉える。
電気が放電する音と共に智代の傷口に20万Vもの電圧が叩きこまれた。
それは智代の脳を焼き切るのに十分すぎる量。
跳ね上がる智代の肉体。
どさりと崩れ落ちた智代にもはや意識はない。
ただ、一つの願いだけを残して。
(皐月…逃げろ…)

【038 坂上智代 死亡】

【036 上月澪 所持品: デリンジャーの予備弾16個) 、スタンロッド、穴あきスケッチブック、防弾/防刃チョッキ、メモ帳、食料2日分】
【098 芳野祐介 所持品: 手製ブラックジャック×2、スパナ、(元ことみの)救急箱、煙草(残り4本)とライター、食料2日分】
【095 湯浅皐月 所持品:セーラー服】
【澪・祐介ともに打撲程度の軽傷】
【皐月は左肩複雑骨折に加えクレイモアからの軽傷ではない程度のダメージ】
【イーグルナイフ、レミントン・デリンジャー(装弾数0発)、M16A2アサルトライフル残弾29(予備マガジン(30発)1つ)、Vz61スコーピオン残弾0(予備マガジン(20発)1つ)、
M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(残り1個)などは近場に点在】

【残り 48人】
355残された願い 後半部改訂版:04/05/26 13:55 ID:cu68VmiD
―――隙。
それはほんのわずかな時間。

だがその隙は全てを決するのに十分過ぎる時間だった。
澪の手に握られたスタンロッドが伸び、智代の左脇腹を捉える。
電気が放電する音と共に智代の傷口に20万Vもの電圧が叩きこまれた。
跳ね上がる智代の肉体。
どさりと崩れ落ちた智代にもはや意識はない。
見開かれた瞳にただ一つの願いだけを残して…
(皐月…逃げろ…)



【036 上月澪 所持品:デリンジャーの予備弾16個、スタンロッド、穴あきスケッチブック、防弾/防刃チョッキ、メモ帳、食料2日分】
【098 芳野祐介 所持品:手製ブラックジャック×2、スパナ、(元ことみの)救急箱、煙草(残り4本)とライター、食料2日分】
【095 湯浅皐月 所持品:セーラー服】
【澪・祐介ともに打撲程度の軽傷】
【皐月は左肩複雑骨折に加えクレイモアからの軽傷ではない程度のダメージ】
【智代はスタンロッドを受けて気絶、無力化されています】
【イーグルナイフ、レミントン・デリンジャー(装弾数0発)、M16A2アサルトライフル残弾26(予備マガジン(30発)1つ)、
Vz61スコーピオン残弾0(予備マガジン(20発)1つ)、M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(残り1個)などは近場に点在】
356継がれゆくもの:04/05/26 14:29 ID:G6fLoo6n

トンヌラが吼えていた。
その声で、わかった。

智代の瞳が私を映した。
それだけで、わかった。

わかって、しまった。
この陰惨な記憶しかない島で得た、かけがえのない友人。
この子たちは、私ひとりを生かすために、自らの命を顧みず立ち上がったのだ。
だからお別れの言葉も、再会を期した握手もなく。
私は駆け出した。
たいせつな友人たちの作り出した、空白の一瞬を無駄にしないために。


芳野祐介が少女、坂上智代の銃口から解放され見回したときには、
既にもう一人の少女、湯浅皐月の姿はなかった。
357継がれゆくもの:04/05/26 14:30 ID:G6fLoo6n

祐介は溜息をつくとその場に座り込み、大樹に背中を預ける。
懐から煙草を一本取り出して火をつけた。
紫煙の向こう、横たわる少女の亡骸をぼんやりと見つめる。

(お前は守るべきものを守りきった……ってわけか)

『追いかけなくていいの?』

祐介の守るべきもの、上月澪がそう問いかけてくる。

「―――いいさ。どの道、俺たちだって少し休まなきゃ動けないだろ」

坂上智代から受けた打撃はそう簡単に癒えるものとも思えなかったが、
口には出さずにおく。
煙草をふかそうと息を大きく吸うたびに、胸の辺りに鋭い痛みが走る。
背筋から右肩にかけて、時折違和感もある。
学校で投げを打たれた際に、したたか打ちつけた箇所だ。
まったく、徒手空拳の娘たち相手にこの様だ。

それは澪とて同じこと。
気丈に振舞ってはいるが、額に浮かぶ汗は緊張から来るものではないだろう。
何しろ小口径のデリンジャー、それも防弾ジャケットの上からとはいえ銃撃を
受けている。
結局のところ、自分たちは運が良かっただけなのかもしれない。
358継がれゆくもの:04/05/26 14:30 ID:G6fLoo6n

(……だがな、お前)

少女の亡骸は応えない。

(俺はまだ生きてる。生きて、こいつを守れるんだ)

自分と同じように座り込んだ澪の顔を見て、少しだけ笑った。
煙草の吸殻を、傍らの地面で揉み潰す。

(お前はもう、あいつを守ってやることはできないだろう。
 だからこの勝負は今度こそ、俺の勝ち―――だ)

眼を閉じた芳野の耳に、忌まわしい老人の声で流される放送が聴こえてきた―――
359継がれゆくもの:04/05/26 14:31 ID:G6fLoo6n

(ハァ……ハァ……ッ)

荒い息をつきながら、暮れゆく森をただ歩き続ける。
ぽたぽたと垂れる血は、どこから流れているものか。
左肩から先の感覚は既にない。
幸いというべきか、あの爆発で撒き散らされた散弾の殆どは元より使い物にならない左手側に
集中して叩き込まれたようだ。
いくつかの弾は肉を薄く抉っていったようだったが、その程度の傷は確かめる気にもならなかった。

私の中に浮かぶ智代の瞳が、私に語りかけている。
白い毛並みを血で汚したトンヌラの声が、私の背中を押している。
生きろと、あの子たちは言っている。
私は、生き延びている。

徐々にその黒を濃くしていく森の中を、私はひたすらに歩き続ける。
垂れる血は、黒に紛れてもう見えない。
こつり、と。
靴が何かに蹴る感触。
足元を見れば、そこに一振りのナイフが転がっていた。
森を染め上げる闇を祓うように、妖しく光るその刀身の銀色に目を奪われる。

輝く刀身に映りこんだ私の顔は、左の頬に開いた真一文字の傷から血を流しながら、
薄く笑っていた。
その乾いた唇は、なぜお前がのうのうと生きている、なぜ仇を取ろうとしない、なぜ、
なぜ、なぜ―――そう問いかけているように、見えた。

私は、そのナイフを拾い上げた―――
360継がれゆくもの:04/05/26 14:32 ID:G6fLoo6n

【036 上月澪 所持品: イーグルナイフ、レミントン・デリンジャー(残弾2、予備弾14)
 スタンロッド、穴あきスケッチブック、防弾/防刃チョッキ、メモ帳、食料2日分】
【098 芳野祐介 所持品:ライフル(予備マガジン2つ)、Vz61スコーピオン残弾20、
 M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(残り1個)、手製ブラックジャック×2、スパナ、
 (元ことみの)救急箱、煙草(残り3本)とライター、食料2日分】
【095 湯浅皐月 所持品:セーラー服、風子のナイフ 左腕はもう使えない 顔面に裂傷】
【そして第3回定時放送へ】
361名無しさんだよもん:04/05/26 14:40 ID:G6fLoo6n
智代関連で矛盾が出ているため、『継がれゆくもの』の357-358はNGとしてください。
申し訳ありません。
362名無しさんだよもん:04/05/26 14:42 ID:G6fLoo6n
伴って、>360の状態報告は以下に差し替えでお願いします。

【095 湯浅皐月 所持品:セーラー服、風子のナイフ 左腕はもう使えない 顔面に裂傷】
363誰も死なせない:04/05/26 16:24 ID:m2JBozCn
 俺はゲームの主催者を殺す。
 そして、ゲームに乗った馬鹿共も殺す。
 難儀な選択だ。だが俺の決意は変わらない。
 
「ほんとに別れちゃうの……時紀さん」
「ああ、俺と一緒にいるのは危険なんだ…だから別れる」
「せっかく仲良くなれたのに…がお…」

 そう言って住宅街に足を向けようとした時だった。
 静かな森を劈く発砲音。
 音からしてマシンガンの類か?

 考えるよりも速く身体が動いていた。
「糞がっ! またゲームに乗った馬鹿がいるのかっ」
 俺は発砲音がした方角へ駆け出す。

「アンタっ どこ行くのよっ?」
「また俺の目の前で人が死んでいくッ!
 これ以上黙って罪のない人間が死ぬを見てられるかッ!!」

 もう誰も殺させない。
 もう誰も死なせるもんか。
 
「ちっ…神尾さん、アイツについていくわよッ!」
「う、うんっ」
364誰も死なせない:04/05/26 16:26 ID:m2JBozCn

 俺は森を駆ける。
 今襲われている人間が助かる可能性を少しでも信じて。
 俺は森を駆けていった。

「アンタっ待ちなさいっ!」
「待ってよーっ、時紀さぁーん!」

 俺の後ろについて来る二人の姿。
「バカヤロウっ! 何でついてくるんだっ!」
「アンタ持ってるの鎌一つでしょうが!
 相手は銃を持ってるのよ? アタシの銃が無いと、
 どうしようもないでしょうがっ!」
「沙耶さんの言う通りだよっ、わたしのボウガンも
 何かの役に立つかもしれないよ!」

「糞がっ勝手にしやがれっ」
 今更、足を止めるわけには行かない。
 俺は銃声の方向へ一直線へ駆けていった。

 頼む…無事でいてくれ…。
365誰も死なせない:04/05/26 16:27 ID:m2JBozCn

 芳野はナイフを構え智代の前に立っていた。
 先程の六連撃のダメージは軽くはない。
 立っているのがやっとである。
 
 ――それでもこいつらを殺すことぐらいはできる。
 二人共々殺してやる。
 特にこいつだけは。

「智代、目を開けてっ。アンタたち…絶対に許さない!」
「フン…気絶してるだけだ。
 もっともここでこの女もおまえもは死ぬがな」
 芳野は武器はナイフのみ、他の武器は周囲に散らばっている。

 ――せめて肩をやられていなかったら。

「さんざん手を焼かせやがって…これで…終わりだ…」
 ナイフを振りかざす。


『バカヤロウっ! 何でついてくるんだっ!』
『アンタ持ってるの鎌一つでしょうが!
 相手は銃を持ってるのよ? アタシの銃が無いと、
 どうしようもないでしょうがっ!』
『沙耶さんの言う通りだよっ、わたしのボウガンも
 何かの役に立つかもしれないよ!』

 森の奥から声が聞こえてきた。
 ――こんな時にっ!
366誰も死なせない:04/05/26 16:27 ID:m2JBozCn

 俺は耳を澄ませて声を聞いていた。
 声の主は男一人に女二人。
 相手は銃を持っているようだ。
 このままじゃまずい。
『芳野さん、どうするの?』
「くっ…澪…ここは逃げるぞ…ライフルを持ってな」
 ライフルがあれば応戦できるかもしれない。
 だが俺も澪も全身打撲状態、まともに戦える保証はない。
 俺はともかく澪が心配だ。澪を庇いつつ戦うのは無理だ。

 一度ならず二度までも、
 そして三度この女――坂上智代を追い詰めながら殺せなかった。
 畜生めッ!

「行くぞ澪っ!」
『はいなの』
 坂上智代・湯浅皐月、次は絶対に殺す。
 俺たちはライフルを拾い上げるとふらつく足取りでこの場を立ち去った。
 



『時紀さんっ! ふたり倒れてるよっ! まだ生きてる、
 気絶してるだけだよ!』
『ああ! とりあえず手当てだ!』

 ――私たち助かったの…?
 皐月は薄れる意識の中、新たな来訪者の声を聞いていた。
367誰も死なせない:04/05/26 16:29 ID:m2JBozCn
【036 上月澪 レミントン・デリンジャー残弾0 デリンジャーの予備弾16個 スタンロッド 穴あきスケッチブック 防弾/防刃チョッキ メモ帳 食料2日分】
【098 芳野祐介 イーグルナイフ 手製ブラックジャック×2 スパナ M16A2アサルトライフル残弾26(予備マガジン(30発) (元ことみの)救急箱、煙草(残り4本)とライター 食料2日分】
【095 湯浅皐月 セーラー服 左肩複雑骨折 クレイモアの破片による負傷 気絶中】
【038 坂上智代 クレイモアの破片による負傷 気絶中】
【031 木田時紀 鎌】
【094 宮路沙耶 南部十四年式(残弾9)】
【023 神尾観鈴 けろぴーのぬいぐるみ ボウガン(残弾5)】
【定時放送直前】
【Vz61スコーピオン残弾0(予備マガジン(20発)1つ) M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(残り1個)はこの場に放置】
【芳野と澪はこの場から逃走】
368名無しさんだよもん:04/05/26 16:44 ID:m2JBozCn
>>367に【芳野と澪全身打撲 走ることは可能】を追加です。
369名無しさんだよもん:04/05/26 17:32 ID:m2JBozCn
>>363-367「誰も死なせない」はNGでお願いします。
370名無しさんだよもん:04/05/26 18:04 ID:wVmTQ1ew
NG多すぎ…
371新たなる目的:04/05/26 20:06 ID:a7yZ1ybV
 無言のままラストリゾートをあとにする二人の表情は、
一様に暗かった。その中でもリサの表情は邦博よりも
更に暗かった。
 宗一の持ち物であるミルトの爆発を目の当たりに
したというのもあるが、それ以上にミルトと言う車の
性能を知っており、そのミルトを持ってしてあそこまで
歯が立たないと言う現状が一層リサの表情を暗くさせていた。
372新たなる目的:04/05/26 20:07 ID:a7yZ1ybV

「まあいいわ」
 ほんの少しの沈黙のあと、腰までかかる金色の髪と、
サファイアのような碧く輝く瞳を持つ妙齢の女性は、
少し前を歩く浅黒い皮膚の下に重厚で
引き締まった筋肉を持つ偉丈夫に、小さくため息を
つきながら呟く。
「ん……」
 並外れた体躯を持つ男、浅見邦博(001)は隣を歩く
金髪碧眼の女、リサ・ヴィクセン(100)の呟きに反応して
いぶかしげな目を向ける。
「今、なにか言ったか」
「まあいいわ、といったの」
 そういってゆっくりと、目線だけを邦博に向ける。
「……」
「聞こえなかったの」
 そう続けるリサの口調は挑戦的であり、向ける視線は
邦博よりも遥かに低いはずであるのに、見下しているかの
ような冷たいものであった。
「……」
 隣を歩く女の人を見下した態度に、落ちつきかけた邦博の
心は、再び自分を失いそうなほどに、加速度的に高まってゆく。
「そんな所に突っ立ってないで、さっさと行きましょう」
 そんな邦博の心の移り変わりを知ってか知らずか、
まるでどん臭い生き物を躾るかのような物言いを続けざまにし、
小さく笑う。
 リサと会った当初は持っていた余裕も一連の会話の中で
とっくに使い果たした邦博の浅黒い顔は、時間と共に
みるみるうちに赤みがかってゆく。
373新たなる目的:04/05/26 20:08 ID:a7yZ1ybV
(この女、調子に乗りやがって……)
 実際には、顔の色ほど興奮していなかった邦博であるが、
目の前にいるこの口だけは達者な生意気な女の口を塞ぎ、
どちらが力が上かということを分からせてやる必要性を
感じずにはいられなかった。
(自分の立場を少し分からせてやるか)
 薄く笑い、左の拳にほんの少しだけ力を入れる。

「貴様、あまり調子に乗るなよ」
 低く呟くと同時に、両足を肩幅程度に開き、右の肩を開くと
同時に、リサの左の顔を正面に見るようにし、その無防備な
左の頬目掛けて握りこんだ左の拳をまっすぐに突き出す。


「ごめんな、痛かっただろう」
 左の頬を抑えて泣き止まないリサをなだめる邦博。
「ごめん。……でもな、あんまり生意気な口ばかり聞いてると
痛い目にあうから気をつけるんだぞ」
「ごめんなさい、邦博さん。次からは気をつけますから、
もう叩かないで」
「俺も悪かったよ。もう二度とこんなな事はしない。次からは
おまえの事を守ってやるから、俺から離れるんじゃないぞ」
「うん。邦博さん、ありがとう」
 そういって邦博に抱き着いてくるリサ。すっかり邦博に
頼り切った目を向けるリサ。
374新たなる目的:04/05/26 20:08 ID:a7yZ1ybV
 そんなおめでたい光景が邦博の中で展開されていた。しかし、
現実は一人の人間の愚かな妄想など、あっさりと粉々に砕いて
しまうほど厳しいものであった。
 ほんの少し前まで左の拳の先にあった白磁のように透き通る
ような綺麗な頬はもうそこにはなかった。いや、正確には
振り回された拳のすぐ横に存在していた。その表情は邦博の
拳が飛ぶ前と全く変わることなく、碧い瞳だけが邦博の姿を
冷たく見つめている。

「いったいどういうつもり」
 先ほどまでよりも一層抑揚のない、まるで台本の台詞を
読んでいるかのような物言いであったが、全身から滲み出ている
その冷たい雰囲気に、ほんの一瞬であったが気おされる。
 全身が、もう止めておけと直感的に警告を発していたが、
こんな、自分よりも遥かに小さな女に対して圧倒されたと
言う事を認識してしまった邦博は、その直感を無視した。
「ふん、一緒に付いていくといっても、俺の足手まといに
なられては困るんでな。ちょっと試させてもらった」
 今まで思ってもいなかったことが口をつく。これだけの
台詞の間にほんの少し冷静になっていた邦博は、
先ほどの直感を信じ、矛を収めようとする。
375新たなる目的:04/05/26 20:09 ID:a7yZ1ybV
「ふーん。そうなんだ」
「でも、あなたのパンチも大した事ないわね。あんなものじゃ、
わたしといても足手纏いにしかならないかも」
 その言葉に、ほんの少しだけ残っていた邦博の理性は一気に
吹っ飛び、再び攻撃態勢に入る。
「Oh!」
 両の腕を、肩のあたりまで持ち上げ首を傾げ、何度も横に振る。
その間にも邦博は左足を一歩前に踏み出し、今度は右の拳を
握り締め、再びリサの左頬に向かって拳を伸ばす。そのスピードは
手加減をしていた先ほどとは比べ物にならないほど速く、リサの
頬を目掛けて突き進む。
「くらえー」
 常人ならば何も分からないうちに身体を吹っ飛ばされ、意識までをも
刈り取ってしまうほどの切れと破壊力を持った一撃であったが、
結果は一撃目と全く変わらないものであった。
 空を切る右の拳と、すぐ横に存在するリサの顔。先ほどと違うのは、
リサの表情にも、少しだけ驚きの色が浮かんでいた事。
「Wow。思っていたよりやるわね、あなた。これならわたしの
足手纏いにはならなそうよ」
 すぐに驚きの表情を解き、再び邦博とは正反対の涼しげな顔で、
憎たらしいまでに邦博を逆なでする言葉を放つ。
「いってろよ」
 右の拳を引きながら、再び左の拳を、今度はリサのわき腹を目掛けて
振り上げる。しかしそれも見切られてしまう。
 そのままの流れで、今度は一発の威力を無視して、何度となく
左右の拳をリサ目掛けて振るう。威力がないといってもリサの小さな
身体ならば、一発でも当たってしまえば確実に吹き飛ばされてしまう
ほどの拳を振るい続けるが、一発として身体に掠る事すらない。
376新たなる目的:04/05/26 20:10 ID:a7yZ1ybV
「いったい何者だ、こいつは」
 リサという女が只者ではない、どころか自分よりも遥かに強いと
いう事を認めなくてはならないところまで追いこまれていたが、
それでも拳を振るい続ける。
 しつこいほどの攻撃に嫌気がさしたのか、それともリサに疲れが
出てきたのかは判断できなかったが、はじめて邦博の拳がリサの
身体を捕らえる。とはいえ、今までかわされていたものが、
ガードされたにすぎないのであるが。
 それでも、想像以上に威力に、ガードしたリサの腕は跳ね上げられ、
バランスを崩した。
「よしっ」
 ほんの少しの隙も見逃さず、左足を軽く一歩踏みこみ、今度は右足を
リサの腰のあたりを目掛けて振るう。身体のバランスを崩した上に
今まで正面からの攻撃に目が慣れきっていたリサに確実に当たる、
はずであった。
(当たる)
 そう思った瞬間、邦博の眼前からリサの身体は消えた。虚しく
空を切る右足。その瞬間、首の後ろからくる冷たい気配に身体を
硬直させる。
「チェックメイトね」
 リサの左腕は、その細い腕からは考えられないほどの力で、邦博の
左腕を極め、右腕は邦博の首筋に添えられていた。
377新たなる目的:04/05/26 20:11 ID:a7yZ1ybV
「参ったよ」
 もう認めないわけにはいかなかった。かなり釈然としない気分を
持ちながらも、邦博は後ろにいるリサに向かって空いている右腕を
上げる。降参のポーズだ。その姿を見たリサはすぐに左手を解き、
首筋に添えられていた右手も離す。
「ごめんなさいね。わたしの方でもあなたの事を試させてもらったの」
「……」
「篁って奴は私達が束になってもかなわないくらい強いから。
あなたも見たでしょう。ミルトがなす術もなく爆発していったのを。
戦闘力を持たない者を連れていったって、無下に殺されるだけだから」
「……」
「でもあなたは合格。それだけの力があれば、無下に殺される事は
ないでしょうから」
「何言ってる。俺なんかよりぜんぜん強いくせに」
 自分よりも小さな女に負けたというショックを未だ引きずり、
少々ふてくされた物言いをする。
「でも、まあいい。一度手伝うっていったんだから、その言葉に
二言はない」
「ありがとう。でもさっきの事を見てそう簡単にはいかない事が分かったから、
こっちはとりあえず仲間を集めつつ、あなたの成したい事を先にしましょう」
「……」
「あなたの話、詳しく聞かせてくれない」
378新たなる目的:04/05/26 20:12 ID:a7yZ1ybV
「そうだな、そんな難しい話じゃねえよ」
 そうして思い出したくもない忌まわしい情景を思い起こしつつ
今はもう帰ってこない、ちょっとかなり生意気な妹のような
女の事と、それよりも更に小さな殺人鬼の事を話し始めた。


 
【001 浅見邦博 身体能力増強剤(効果30秒 激しいリバウンド 2回使うと死ぬらしい) レーダー(25mまで)】
【100 リサ・ヴィクセン パソコン、草薙の剣】
【当面は風子捜索(もういませんが)】
379「二人だから」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/26 20:15 ID:4jssVyep
 からからと石が落ち、断崖の下の海に飲み込まれてゆく。
 高さは大したことがない、波もそれほど激しいわけでもないから、
 先ほど落ちていった女はかなづちでもない限り助かるだろう。
 が、目の見えないみさきは別だ。それに自分も。
 封じられているはずの仙命樹が、ざわりと恐怖を感じている。
 今、このような時にこそ、こいつらの力が必要だというのに。
 だが肉体はいつもの力にはほど遠く、僅かでも油断すれば、みさきの手はすり抜けていってしまいそうだ。
 しかも、断崖は海に向かって僅かに傾斜しているため、思うように力も入れられない。
 上半身は半ば突き出していた。
 これ以上落ちないように繋ぎ止めるのが精一杯なのに、
 見た目の割りに脆い断崖は、手のひらの下から、少しずつ崩れてゆく。
 僅かに力を入れただけで、ヒビが入るのが分かる。
「くっ――」
 手のひらに汗がにじむ。
 握り直そうとしたみさきの手は、あまりにも柔らかく、脆く、なにかのはずみで壊れてしまいそうだ。
 だが、助ける。必ず。
 何故? ――そう誓ったからだ。
 風が吹く。みさきが揺れる。奥歯を砕けんばかりの勢いで噛み締め、耐える。
 今の位置を維持するのが精一杯で、持ち上げることなど不可能に思える。
 蝉丸の顔が脳裏に浮かぶが、都合良く助けなどは期待できない。
 苦痛の呻きが奥歯の隙間から漏れた。
 みさきが見えない瞳で、光岡を見上げた。表情は、いつもと変わらないように見える。
 朴訥で穏やかな中に、強い芯を隠した顔。静かに口を開く。
380嘆きの森:04/05/26 20:18 ID:o8HQaJMT
「大丈夫か?みさき」
「……うん。……大丈夫だよ」

 ――そろそろ限界か。


 あの時。
 間一髪で、川名みさき(28番)を地上に引き上げた光岡悟(89番)は
 再び二人で苦難の道を歩みはじめた。
 榊しのぶとの一戦。それは「敵意のない参加者との接触」という目標を掲げ歩きはじめたばかりの二人にとって、
 心に重く、暗い影を落としていた。

 いや、正確には、それはみさき一人。
 光岡の方は、みさきのそんな心中を察し、上手くかける言葉が見当たらず途方にくれていた、いう方が正しいか。
 あれから、参加者達に、会うことはない。
 時折、どこか遠くで響く銃声だけが、このゲームの時間は確実に進んでいる、と感じるだけ。
 あせりばかりが募る一方だった。


「そろそろ、休憩にしなければなるまい」
「私はまだ大丈夫だよ。その、今はまだ立ち止まるわけにはいかないよ。私を気遣っているんだったら――」
「だが、そういうわけにも――」
 光岡でさえ、行く当てのないこの歩き詰めの強行軍に多少の疲れを感じているのだ。
 みさきは相当強がっているのだろう。
「――分かった。もう少しだけ進むことにしよう。それでいいな?」
「うん、それでいいよ」
 仮に無理矢理みさきを納得させても、今まさにこの位置で座り込んで休憩をとる、というわけにもいかない。
 みさきには悪いが、今は、きちんと体を休めることのできる安全な場所を探すことを第一として
 行動しようと考える。まずは、横にいる少女、みさきを守ることが一番なのだ。
 それさえもできないようなら、光岡悟という人間に存在価値などない。
381「二人だから」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/26 20:18 ID:4jssVyep
「あのね、光岡さん。お願いがあるんだけど」
「後に、してくれっ――」
 吐き出した息と共に、岩が一掴み崩れ、みさきの肩に当たって、落ちてゆく。みさきはほんの少し、顔を歪めた。
 つま先を、突き出した岩に引っかけてこらえる。限界は近かった。
「でも、今じゃないとダメなんだよ」
 この状況で何を言いそうなものか、大体分かる。
 抱えてきた重荷を罪悪感に変えて生きてきた少女が、何を言うかなど――。
「ならば、却下だ」
「うー、いじわるだよ、光岡さん」
 すねた口調に、思わず苦笑しそうになる。だけど、笑える。そうだ、笑ってみせる。
 みさきを助けて、二人で。
「言ったはずだ……お前を独り死の闇に追いやることなど、何があってもさせはしないと」
「光岡さん……」
「みさき、お前は死にたいのか?」
 違うだろう? そんな意味を声と視線に込めて、問いかける。
 視線は届かないかもしれない。だけど、声とその手から気持ちを伝える。
「死にたいなんて……そんなわけ、ないよ」
 みさきはいつもと同じように答えようとして……震えを殺しきれなかった。
「ならば、生きろ」
 自分は軍人だ。人を殺すのが仕事だ。
 だが、戦争が終わったこの現代という世界の中で、自分は不必要な存在になったのか?
 否。
 いや、軍人であったときから何一つ変わらない。自分の刃は人々を守るためにある。
 ただ、きよみという個人から、全ての人に対象が広がっただけだ。
 だから、お前を守らせて欲しい。生きて欲しい。
 残り僅かな生の中で、光岡悟という人間の証を、お前の心に残しておきたい。
382「二人だから」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/26 20:20 ID:4jssVyep
 ――初めて、蝉丸が完全体であることを、羨ましいと思った。
 この弱い少女を、最後まで支えきることが叶わないと自覚して。
 だが、せめて今、この一時だけでも――。
「俺が守ってやる」
「……はい」
 みさきの手が、光岡の手を握り返す。
 そこに込められた力が、また、光岡にも力を与えた。
 深く固く繋がり合った腕が、持ち上がってゆく。
 崩れるギリギリを見きって、支える腕にも力を込める。
 仙命樹よ、どうした。落ちたらお前も確実に死ぬぞ。
 封じられた身といえど、死にたくないのならば、今この瞬間だけでも、俺に力を貸して見せろ!
 その声に応えたか、それとも火事場の馬鹿力という奴か、限界近かった光岡の体に力が戻る。
 ――一瞬でいい。
 手応えが岩のもろさを伝える。崩壊していく強度の限界と、力が均衡する一点でのせめぎ合い。 
 まだ、崩れるなっ――。
 全力を込めた。
 手応えが消失する。
 支えを失った体が回転する。
 海が見えた、空が見えた。太陽の光が目を刺す。天地が一瞬錯綜し、平衡感覚が混乱する。
 風。
「おおおおおおぉっ!」
 叫んだ。
 何もかもが吹き飛ぶように流れて行く世界の中で、みさきの手だけは確かに繋がっていた。
383「二人だから」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/26 20:21 ID:4jssVyep
 痛み。
 胸の中央に、じくりと刺すような痛み。
 熱い、痛み。
 みさきの涙が染み込み、皮膚を灼いている。
 それは心地良い痛みだった。
 先ほどまで腕一本で繋がれていた体重が、今度は胸の上に乗っている。
 重さよりも、命の暖かさを感じた。
「みさき、もう泣くな」
 軽く揺すったが、みさきは顔をこちらの胸に押しつけたまま、上げようとしない。
 苦笑した。
 いや、違う。自分が求めたのは、こういう笑みではなかったはずだ。
「みさき」
 髪を掻き分け、頬に触れる。溢れる涙が手のひらに痛みを残すが、それすらも心地良い。
「俺は先ほどお前に助けられ、そして今、俺がお前を助けた。
 俺たちは、互いに支えあい、助かったんだ。だから、お前が負い目を感じる必要などない。
 いや――仮に先ほどの一件がなくとも同じだ。俺たちは二人で生きている。
 二人なのだから、どちらかがどちらの助けを得ても、罪悪感を感じて泣く必要などない。だから――」
 みさきが、手のひらに導かれて、泣き濡れた顔を上げた。
「だから、笑っていてくれ、みさき」
「……っ」
 みさきは、もう一度泣きそうになり、大きく息をついてそれをこらえ、
「光岡さん――」
 こぼれるような笑顔を見せた。

【028 川名みさき 白い杖】
【089 光岡悟 日本刀 デザートイーグル(残弾3)】
【各所持品は、それぞれそこら辺に転がっています】
【昼すぎ】
384380:04/05/26 20:22 ID:o8HQaJMT
割り込みごめんね。しかも被ったw
>>380は忘れてくれ。
385嘆きの森:04/05/26 20:40 ID:o8HQaJMT
「大丈夫か?みさき」
「……うん。……大丈夫だよ」
 ――そろそろ限界か。


 あの時。
 間一髪で、川名みさき(28番)を地上に引き上げた光岡悟(89番)は
 再び二人で苦難の道を歩みはじめた。
 榊しのぶとの一戦。それは「敵意のない参加者との接触」という目標を掲げ歩きはじめたばかりの二人にとって、
 心に重く、暗い影を落としていた。

 いや、正確には、それはみさき一人。
 光岡の方は、みさきのそんな心中を察し、上手くかける言葉が見当たらず途方にくれていた、いう方が正しいか。
 あれから、参加者達に、会うことはない。
 時折、どこか遠くで響く銃声だけが、このゲームの時間は確実に進んでいる、と感じるだけ。
 あせりばかりが募る一方だった。


「そろそろ、休憩にしなければなるまい」
「私はまだ大丈夫だよ。その、今はまだ立ち止まるわけにはいかないよ。私を気遣っているんだったら――」
「だが、そういうわけにも――」
 光岡でさえ、行く当てのないこの歩き詰めの強行軍に多少の疲れを感じているのだ。
 みさきは相当強がっているのだろう。
「――分かった。もう少しだけ進むことにしよう。それでいいな?」
「うん、それでいいよ」
 仮に無理矢理みさきを納得させても、今まさにこの位置で座り込んで休憩をとる、というわけにもいかない。
 みさきには悪いが、今は、きちんと体を休めることのできる安全な場所を探すことを第一として
 行動しようと考える。まずは、横にいる少女、みさきを守ることが一番なのだ。
 それさえもできないようなら、光岡悟という人間に存在価値などない。
386嘆きの森:04/05/26 20:41 ID:o8HQaJMT
 世界は変わったのだ。戦争は終わり、平和となった今、強化兵としての自分は必要とはされない。
 自分の中に眠るそれは、明らかにこの時代には過ぎたる力だ。


 だが今、この平和な時代を壊さんとする輩が現れる。
 この時代にも、強化兵として立ちはだかれるに足るような大いなる悪の力だ。
 しかし、こんな時に強化兵としての力は封じられ、光岡はただの軍人に戻った。
 ――そんな光岡を、必要としてくれる人がいる。
 ならば、その笑顔を守り抜くことも悪くはないだろう。
 みさきだけではない。この島には何人も、そういった笑顔を持った人間がいる。
 守る。みさきを。そしてできうる限りの数多くの笑顔達を。
 たとえ、いつかここでつき果てることがあろうとも。
 それだけは。
 そう。光岡も。――みさき達を心から必要としている。

 この時代にはもう、必要とされなくなってしまった強化兵の。軍人の。光岡悟の。最後の願いと誇りだ。
387嘆きの森:04/05/26 20:42 ID:o8HQaJMT
 しばし歩く内にまた、銃声が響いた。そして、獣の咆哮。
「今の……」
「ああ。近いな」
 先ほどまでの、遠い銃声とは違う。明らかにそれはそう遠くない位置での銃声。
 ゲームに乗った者同士が戦っているのか、それとも、狩る者と逃げる者の一方的な殺戮劇なのか。
 ここからでは判断がつかない。
「光岡さん」
 キュッと掴まれる光岡の手。みさき。かすかに震えているのが分かる。
「すまん。このまま、見過ごすわけにはいくまい」
 そっと、安心させるように、自らの手をみさきの上に重ねる。
「うん。光岡さんならそう言うと思ってた」
 まだ、不安そうではあったが、満足そうにみさきが呟く。
「光岡さんは、私じゃない。もっと多くの人を助けるべきだと思うよ。だから――」
「その先は言うな」
 光岡の言葉が厳しい口調で飛んだ。
「言ったはずだ。お前が罪悪感を感じる必要はないと。
 俺は、お前にも助けられている。それは本心だ。
 俺は、お前も、他の者もだ。――その為に自分の命を賭して闘う」
「分かったよ」
 そう言って、にっこりと笑った。
「でも――死んでもいいなんて、嘘でも絶対言わないで。私でも怒るよ?」
「……分かった」
388嘆きの森:04/05/26 20:43 ID:o8HQaJMT
 銃を手に取り、みさきの手を引き、いつでも日本刀を抜刀できるように中腰で構えながら、森へと入る。
 みさきが離れぬよう、遅れぬよう、ゆっくりと歩を進める。
 全身の神経を研ぎ澄ます。強化兵の力を使っていた頃のようにまでは、小さな気配は感じられない。
 ただの、軍人としての経験と勘のみしか働かない。
 それでも――動く者の気配は感じ取れるはずだ。
 静かだ。もう、終わってしまったのだろうか。焦燥感が募る。

「光岡さん――森が。風が鳴ってるよ」
 光岡が、近づいてくる何者かの気配を察するとほぼ同時に、みさきが囁いた。
 少し向こうを横切るようにして通り過ぎる。気配は消えた。
 いや、途中で気配が動かなくなった、という方がより正しい。
「みさき、絶対に手を離すな」
 ゆっくりと、そこに近づいていく。片手で銃を構えながら、
 みさきの手を引きながら、音を立てぬようゆっくりと近づく。

(――これは)
 木々の間から見えた見えたその景色は、あまりに凄惨なものだった。
 とても、自然が育んだ森とは思えぬ地獄のような光景。
 男が一人。女が二人。暗くて姿形まではよくは見えないが、死後、かなり経つのだろう。
 もう乾ききった血の海に沈んでいる。
 そこからわずかにはずれた――こちらに近い位置に、女が一人座り込んでいた。
 セーラー服を着た少女。全身を血に塗らせて、ただ呆然とその手にある物を見つめている。
 ギラリと光るナイフ。
 それは手に持った少女の、汚れた体とは対照的に、ギラリと森の闇夜に輝くように綺麗で。

 さすがに今走ってきたこの少女がこれをやった、と考えるのは難しい。
 それにしても、この光景でただ素直に話しかける、というわけにもいかないだろう。
(みさき、今回はしゃがんで隠れていろ)
389嘆きの森:04/05/26 20:44 ID:o8HQaJMT
 湯浅皐月(95番)の心は揺らいでいた。
 このナイフの輝きがそうさせるのだろうか。

 智代の願い、自分の願い。それは元の世界に帰ること。
 それだけは失っては駄目だ。皐月はぎゅっと目を瞑る。
 だが、芳野とあの少女澪。あの二人がのうのうと生き抜いていることが悔しくてたまらなかった。

『復讐』

 その二文字が皐月の心を再び照らす。
(智代だったら、叱るよね)
(宗一だったら、馬鹿野郎と言って、叱るよね)

(智代の想い人、朋也って人の気持ち――少し分かる)
 彼がもし、今の自分を見たらなんと言うのだろうか。
 一緒に殺ろうと言ってくれるのだろうか。手を汚すのは自分だけで充分と叱るのだろうか。
 フルフルと首を振る。

 帰ろう。その気持ちだけは忘れちゃいけないないから。
 ぎゅっと唇を噛みしめる。鈍い傷の痛みよりも、ずっと痛く感じた。

 『復讐』 『帰ること』その二つの中で心を揺れ動かしながら。

 ――それでも皐月はゆっくりと立ち上がった。
『生きる』
 これだけは。智代と、トンヌラの願い。
 絶対に果たす。目に光が戻っていた。
390嘆きの森:04/05/26 20:45 ID:o8HQaJMT
 だが――
 皐月が立ち上がったと同時に、ザザッと茂みが動いた。
 そこには突如現れた銃を構えた――芳野とは別の男。
「……誰!?」
「――まずは動かないでほしい。できれば撃ちたくはない」


【028 川名みさき 白い杖 しゃがんで隠れてる】
【089 光岡悟 日本刀 デザートイーグル(残弾3)】
【095 湯浅皐月 所持品:セーラー服、風子のナイフ 左腕はもう使えない 顔面に裂傷】
【定時放送寸前の模様】
【それぞれ、皐月はみさきに、光岡は死体の一つがきよみ(黒)ということにまだ気づいてない】
391Last message:04/05/26 21:20 ID:hUz2KNCb
 森に流れる、第三回放送。
「……」
「……」
 芳野は澪に顔を向け、尋ねる。
「こいつの名前、智代、とか言ってたな」
『確かそうなの』
「名前は呼ばれなかった。こいつはまだ生きてるってことだ」



 いつかの日々を夢に見た。
 幸せだった時間。
 学校生活。
 好きな人。
 そんな町の夢。
 いつまでも続いていくはずだった生活。
 夢の終わりに待っているのは過酷な現実で、
 このまま夢が終わらなければいいのにと、
 智代は、明けゆく意識の中で、
 そう思った。


392Last message:04/05/26 21:22 ID:hUz2KNCb
「お目覚めか」
 最初に見た光景は、銃を構えてこちらに向けている芳野と、澪の姿。
「……まったく。いい夢を見ていた気がしたが。台無しじゃないか」
「それは悪かった」
 微塵も思っていない口調。
「で、貴様は何をしてる。わざわざ私が目覚めるのを待って、余裕のつもりか?
 その油断で、二度も私達に出し抜かれたというのに。学習能力がないのか貴様。もしかして馬鹿か?」
「余裕だな。同じ間違いを三度も繰り返すほど馬鹿じゃない。
 お前こそ強がっていられる余裕はあるのか?」
 あるわけがなかった。
 全身はボロ雑巾のようで、自由に動かせるのはこの口くらいのものだ。
 だからこそ、最期まで強がってやると、そう決めた。
 その前に、一つ、確かめなければいけないこと。
「お前達……皐月はどうした?」
 私の親友を、お前達は、殺したのか?
「お前に止めをささなかった本題がそれだ。
 安心しろ。無事に逃げたよ。……こっちとしては逃げられたというか」
 その言葉は、
 信用のならない相手から発せられた言葉ではあるけれど、
 それだけは信じてもいいと思った。
 この目で確かめて、
 今の自分にできることは、親友の無事をただ祈ること。
 それだけだった。
「そうか――よかった。
 本当に、よかった……」
 それで自分の心も、いくらかは救われる。
『この人、変なところでお人好しなの』
「うるさいほっとけ。これで用は済んだ」
 トリガーに指をかける。
 ああ、これで今度こそ、最後。
 この男に、自分は殺される。
393Last message:04/05/26 21:23 ID:hUz2KNCb
「まったく、朋也に申し訳ないな」
「何? お前、岡崎を」
「知ってるさ。会ったからな。貴様のことを聞いたのもその時だ。
 恋人を貴様に殺され、私も貴様に殺されて。
 貴様は知らないだろうがな、私はあいつのことが好きだったんだ」
「――そうか、それは」
 すまないことをした。そう続けようとしたのを、止める。
 殺された者、殺される者、残された者。
 その者たちを前にして、すまないも何もない。
 加害者が他ならぬ自分なのだから、そんなことは言えたものじゃない。
 自分のことを、いや、この島の外にいる大切な人のことを、優先した。
 ただそれだけのこと。
(すまない、か――)
 この島に来たばかりの自分は、そう思う心の余裕もなかった。
 隣にいる澪を、ちらりと見る。
(こいつの影響か)
 いつの間にか再び芽生えた、人間らしい心。
 それがこの先、何かの仇にならなければいいが。
 溜息一つ。
 やめよう、無駄な時間はここまでだ。
「最後に思い残すことがあれば、聞いてやる」
「――思い残すことなど、いくらでもあるが。
 そうだな。まずは貴様だ、芳野祐介」
 視線がぶつかる。
 初めて、敵意もなく願いだけが込められた瞳で、智代は芳野を見た。
394Last message:04/05/26 21:23 ID:hUz2KNCb
「貴様はさっき、その子を必死に守ったな。
 その気持ちを他の者にも向けることはできないのか?
 殺し合いなぞしなくても、生きて帰る方法を探すことはできないのか?」
 今更だった。何人もの命を奪ったこの手で、今更何を――
「手遅れではないぞ。私も、この手で一人の人間の命を奪った。
 殺人者としての罪を背負っている。
 だが、それでも、今より良い方向に、前に進むことはできる。
 私はそう思ったんだ」
 ああ、
 こいつは強いと、改めて思う。
「そうか。だが俺は、自分のやり方を変えるつもりはない」
 こいつの選んだ強さと、自分の選んだ強さ、
 道がただ、違っただけだ。
「そうか。そう言うだろうと思っていた。もう何も言わない。
 あと一つ。もし皐月に会うことがあったら、私の分までお前は生きろと」
「わかった、伝えてやる」
 本当は、
 間違っても復讐なんて考えるなと、伝えてやりたい。
 ただ、この男の口から、そんなことを伝えられて、冷静でいられるわけはないだろうから。
「岡崎の奴には、何か?」
「あいつには、言いたいことは全部言ってしまったからな」
「そうか」
395Last message:04/05/26 21:25 ID:hUz2KNCb


 さあ別れの時間の始まりだ。
「芳野、せめて苦しまないように頼むぞ。
 そのくらい、聞いてくれてもいいだろう」
 元よりそのつもりだった。
 引き金を引くと、同時、

 私は諦めない。

 残る力でを振り絞って、
 最後まで、
 諦めない。
 芳野の元まで三メートルもない。
 完全に寝そべっている状態から、果たしてどこまでいけるか。
 一息の間もなく起き上がり、
 一息で飛び掛かる。
 三メートル弱の距離が、遠い、
 芳野のサブマシンガンが、澪のデリンジャーが、同時に火を吹いた。
 それが別れの合図。



『だから詰めが甘いの』
「だから、警戒はしてたっての」
 芳野は思う。
 ああ、やっぱりこいつは、最後まで、手ごわかったと。
396Last message:04/05/26 21:26 ID:hUz2KNCb
【036 上月澪 所持品: レミントン・デリンジャー(装弾数0発)デリンジャーの予備弾14個 、スタンロッド、穴あきスケッチブック、防弾/防刃チョッキ、メモ帳、食料2日分】
【098 芳野祐介 所持品: Vz61スコーピオン残弾16 手製ブラックジャック×2、スパナ、(元ことみの)救急箱、煙草(残り4本)とライター、食料2日分】
【イーグルナイフ、M16A2アサルトライフル残弾26(予備マガジン(30発)1つ)、、M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(残り1個)などは芳野と澪が適当に】
【038 坂上智代 朋也・宗一・芳野の写真】
【第三回放送直後】
【038 坂上智代 死亡】
397『神は誰に微笑むか』(改訂版):04/05/26 23:39 ID:+eRXsgP7
「なあ、明日菜ちゃん」
「はい?」
ゲンジマルを殺害してよりしばらく、麻生明日菜と神尾晴子は崖下の倉庫には戻らずに森の中を徘徊しており、その最中、晴子が明日菜に問いかけた。
「今、何人ぐらい残っとんのやろな」
「うーん。最初の放送で11人減ってて、それからアタシ達が2人殺してますから、最高でも87人ですよね」
「まあ、実際にはもっと減ってるやろけど、そんな数字聞いたらやっぱ気ぃ滅入るなぁ」
「やっぱり、もう2回目の放送流れたんでしょうか」
「かもな…」

あれから二人は他の参加者に遭遇していない。故に、彼女等にはその情報を得る事ができなかった。
如何に明確な目的があろうとも、不安要素が大きければ、その目的への決意に変わりが無くとも、心に陰りは生まれようというものである。
なにしろこの島では、受動的にその情報を得る以外では、何をするにも命がけなのだから。
「運良く無害な人に会ってその辺の情報を得れればいいんですけど…」
「世の中そないに上手ぁはいかんしな…」
はぁ。と二人の溜息が重なる。
「さっきのオッサンにその辺も聞いとくんやったな…」
(なんでそのくらい気がまわらへんかなー)
「でしたね…」
(何で今頃そんな事に気付くのよ)
相変わらずこの二人、心中はドロドロの様だ。

──しかし、果たして、神は二人に微笑んだ

398『神は誰に微笑むか』作者:04/05/26 23:42 ID:+eRXsgP7
遅くなりましたが、感想スレで矛盾点を指摘されましたので、『神は誰に微笑むか』の2レス目を一部改訂致しました。
お手数ですが、本スレ308をこちらと差し替えてくださいませ。

ご迷惑をお掛けしました<(_ _)>
「そら、返盃だ」
「…いただきましょう」

 大局においても常に冷静であるベナウィ。
 それは、この時でも変わらなかった。
 一時の戸惑いも、静かな空気にいつのまにか呑まれている。
 窓から闇を照らす月がその静寂を強調する。
 そんな中で聞こえてくるのは、盃に酒を注ぐ音。
 徳利から盃まで優しく流れる酒の音。
 静寂を構成する、静か故の音。
 それに身を委ねているうちに、戸惑いが、完璧に潰える。
 生まれるのは、感覚。
 吹きこむ冷たい風に当てられて存在を誇示する感覚。
 まるで、自分がここにいるのが当然であるような――そんな感覚。
「…月が、綺麗だな」
 時折思い出したように呟くハクオロの声は。
 どこか、懐かしい。
 別れてから一日しか経っていないのに。
 冷静な思考がそう言うが、それを上回る気懐かしさが思考を静寂の闇へと葬り去る。
 一日。
 たった一日、されど一日。
 24時間という時間が、とても長く思える。
 その長い時間の大部分を占めるのは、別れを知った瞬間。
 守るべきものを知った瞬間。
 意志を継ぐことを誓った瞬間。
 一つ一つが、頭の中で泡のように現れては弾け、消えていく。
 それらを消したくないから。
 それらをいつまでも残したいから。
「…そう、ですね」
 ベナウィも、呟く。
 呷った酒は、今まで生きてきた中でも最高に旨い。


「…さて」
 コト、と盃が置かれる音。
「…何か、私に言うことはあるか?」
 ハクオロの優しい声。
 皇としての威厳が篭っており、かつ柔らかな声。
 それで、静寂に委ねていた思考が目を覚ます。
 冷静な思考と。
 それ以上の、消えていった筈の、
 戸惑いが。
「…聖上」
 口から勝手に、その呼び名が漏れる。
 ――ここは、どこですか。
 それを聞くのは簡単だった。
 少し口を動かせばよい。
 含んでいる酒を呑みこんで、いつもと同じように話せばよい。
 なのに。
「…仕事は、どうされました」
 口先からは、別の言葉が出ていた。
 ハクオロはそれに軽く苦笑する。
 軽い――本当に軽い、苦笑い。
 それを見るのが、何故かとても辛い。
 いつもの怜悧な表情を崩したくなるぐらいに。
 風が、月が、静寂が、ベナウィの心を揺さぶる。
 眉根を寄せたくなるのを必死で堪える。
 それでも我慢できそうにないので、仕方なく顔をハクオロに見られないように右手の盃に向ける。
 波紋をたたせる酒が、月明かりを反射する。
 それは、静寂の中に浮かぶハクオロの顔。
「…全て片付けるまでは…お休みになられては、困ります…」
 絞り出すような声。
 違う。
 聞きたいことは、言いたいことは、こんなことではない。
 こんなことではないのに。
 ハクオロが『休んだ』理由など、わかっているというのに。
「…また、以前の、ように…夜中に、どこかへ、逃げ出されても…困ります…」
 下を向く口から、途切れ途切れに言葉が出てくる。
 意に反した言葉が。
 こんなこと、聞かずともわかっているというのに。
 ハクオロが『逃げ出した』わけではないということぐらい、わかっているというのに。
「何故――何故、答えてくれないのですか!」
 ベナウィは顔を上げて叫んだ。
 上げた先に見える、静寂に浮かぶ顔。
 月明かりに照らされた――苦笑い。
 謎の仮面に隠れていても、長い付き合いの成果で表情は完璧にわかる。
 それが憎い。
 長い付き合いでなければ、仮面の下の表情もある程度は隠されていたはずなのに。
 長い付き合いでなければ、こうも辛い思いをせずに済んだのに。
 酒も呷らずそこにあるのは、少し困ったような、何かを誤魔化すような、そんな表情。
 それだけ。
 ハクオロは、それを浮かべるだけで。
 何も言わない。
 何も答えてくれない。
「答えて――ください――っ、」
 耐えきれなくなって、再び顔を俯かせる。
 左手が、どんっ、と床につく。
 その拍子で、二つの盃から酒の雫が零れ出る。
 いつもの彼らしからぬ言動。
 ハクオロはそれを見ながら、ただ、困ったような苦笑いを浮かべているだけ。


 ほー、ほー、と梟の鳴く声が聞こえ始める。
 鈴虫が、それに合わせるように鳴き始める。
 それは静寂。
 それがあってなお静寂。
 月が輝く下の静寂。
 それら全てが無音に帰すとき、ベナウィは涙を流さずに泣いた。

 お前も人の子だな、とハクオロがぽつりと呟く。
 それで、ベナウィは顔を上げた。
「…聖上」
「ふふ…これで、仕事の山から解放されるな…」
 ハクオロは、笑った。
 苦笑いではなく。
 心底嬉しそうに。
 そして、名残惜しそうに。
 それを見て――再び、ベナウィの口から言葉が紡ぎ出される。
 言葉。
 それは、いつか交わした別れの会話。
「あの時、聖上に救っていただいたこの命――」
「こうして貴方にお仕えできたこと、武士として真に本望でありました」
 勝手に。
 意に反して。
 否――言いたい故に言いたくないことが、言葉として形を持つ。
「ふふ…そう言ってもらえると、助けた甲斐があったな」
 ハクオロはそれを聞いて、満足そうに笑う。
 既視感。
 そんな感覚がベナウィの頭の中を交錯する。
 交わした覚えがないのに、何故か聞き覚えのある言葉――
 それは、漠然と。
 別れを感じさせる。
「…お疲れ様でした。あとは我々に任せて――」
「ごゆるりと、お休みください」
 どうして。
 どうして、自分はこの言葉を紡ぐのだろう。
 どうして――自分は、この言葉を知っているのだろう。
 そんな疑問は、しかし次の瞬間に打ち砕かれる。

「ああ…クーヤのことを、頼む」

 その言葉は、ベナウィを更に冷静に、そして感情的にさせた。
 ――ああ。
 ――そういうことですか。
 これは、自分の知らない会話。
 既視感を感じたものとは、少しだけ違う会話。
 別れの言葉。

 天窓を見上げる。
 月が、そこから顔を覗かせている。
 吹きつける夜の冷たい風も。
 聞こえてくる梟や鈴虫の鳴き声も。
 そして、この静寂も。
 この月と比べたら――何もかもが、どうでもよく思える。

(月を酒の肴に…ですか)

 ――確かに、悪くありませんね――


 それは返答。
 でも、それを口には出さなかった。
 その代わりに。
 
「御意に――」
 そう答えていた。

 答えてから、上を向いていた視線を戻す。
 その先に、主の姿はなかった。

「――行ってしまいましたね」
「ああ…って、居たのか」
「ええ」
「いつから居た」
「最初から居ましたよ」
「なに?」
「最初から、聞いてました」
「…そうか」
「……」
「……」
「…あの方なら…クーヤ様を、お任せできるような気がします」
「…そうだな」
「ハクオロ様の御國の侍大将なのでしょう?」
「ああ。最も信頼している仲間の一人だ」
「強そうで、格好いい方ですね」
「…そういう評価か」
「あ、いえ、別に」
「まぁ、腕前については仲間の中でもかなりできる方だ。その辺の心配は要らない」
「そうですか…」
「……」
「……」
「……」
「…お任せして、よろしいのですよね?」
「ああ…あいつの真面目っぷりには太鼓判を押してやる」
「……」
「それに、皇から侍大将への直々の命令だ。果たさぬわけにもいくまい」
「クスッ…そうですね…」
「…呑むか?」
「いえ、私はお酒はちょっと」
「そうか」
「お相手できずに申し訳ありません」
「いや、謝るほどの事でもない」
「…晩酌致しましょうか?」
「ん…いや、いい」
「ですが」
「そこに、『聖上、是非とも某に!』とか思っている輩もいることだしな」
「…はい?」
「いるんだろう、トウカ」
「え――」
「…お気付きでしたか」
「そんな期待を込めた眼差しをずっと向けられて気付いてないとでも思ったか」
「…某も、まだまだでしょうか」
「そういう問題でもないと思うが…それよりサクヤ」
「は、はい?」
「お前に酌をしてもらいたがっている輩もその辺にいるぞ」
「…は?」
「そうだろう、ゲンジマル」
「――え!?」
「気付かれておりましたか…ハクオロ皇」
「――ゲンジマル殿…貴方まで…」
「お前ほどの武人が、な…何があったかは聞かないが」
「…申し訳ござらん」
「謝るのは私ではないだろう」
「……」
「あの、おじいちゃん…?」
「――サクヤか」
「どうして…」
「…すまぬ。クーヤ様をお守りできなかった」
「……」
「すまぬ…」
「おじいちゃん…」
「…うちの侍大将は信頼がないのか?」
「いえ、そのようなことは」
「ならよかろう。そこまで引き摺らずとも」
「ですが…クーヤ様を、この身が尽きるまでお守りするのが某の役目にございまする」
「その老体で、か」
「この身体、クーヤ様の御側にいる限りは老いることなどありませぬ」
「そうか」
「二言はありませぬ」
「……」
「……」
「…なら――」
「……」
「――何故、お前はここにいる?」
「……っ!」
「……」
「――ゲンジマル殿…」
「……」
「おじいちゃん…」
「……」
「ゲンジマル…」
「――某は…」
「…呑め、ゲンジマル」
「………かたじけない」

 闇の中に差す月明かり。
 その下の静寂。
 中から、盃に酒を注ぐ音だけが聞こえる。
 それは――

【082 ベナウィ 昏睡状態の中、ハクオロと別れる(目を覚ます)】
【現実で目を覚ますタイミングは次の書き手にお任せします】
408名無しさんだよもん:04/05/27 02:00 ID:QYCwPjaI
《……はっ!》

《……なんだ、夢か…》

ベナウィは目覚めると、朝の布団の中で屁を放った。
409恐慌、恐怖、そして:04/05/27 06:32 ID:NwyX8eYE
 空はどこまでも青い。風邪は頬と髪を優しくなでてゆく。
 それは爽やかな空気だった。ピクニックするには最適だっただろう。

 ……なのに、この綺麗な空の下で行われているのは凄惨な殺し合い。
 訳も分からず集められ、訳も分からず爆弾を埋め込まれ、理由も告げられぬまま凄惨な非日常に放り込まれた
百の命。その中のいくつが、既に散ってしまったのだろう。
 場違いだった。
 この小さくも美しい島の中で、醜く、辛く、そして悲しい行為が繰り返されている。
 それが極限状態に追い詰められた人間の性だとしたら、人間とはなんと罪深い生き物なのだろうか。

「……なんて事を普通なら考えるんかも知れへんけど」

 さしあたっての休息場所と定めたアパートの屋根の上で、猪名川由宇は嘆息した。
 人間は醜く、自然は美しい、なんて考えていられるならまだマシだった。
 何しろ、ここにあるのはどうやら「自然」では無いらしいから。
 この島に放り出されたばかりの時は、状況の把握に精一杯で気に留めもしなかったが、はるかの仮説……
すなわち、ここは時空を超えた別世界……を聞かされて以降はそういう方面を気にしているせいか、随所に
違和感を感じる。
 例えばこの空、この風だ。
 今は12時近くのはずだが、この何とも言えない爽やかさからして季節は春か秋といった所だろう。
 だけど、さっき洞窟から出たばかりの場所は草木の生育状況が夏っぽかった。
 それだけだったら天候が変化しただけという説明も成立するだろうが……。
「この辺は……秋ろやな、やっぱ」
 視線を下ろして、ぽそり。
 その先にある小さな銀杏の木は黄色い葉を付けていた。病気で枯れているようには見えない。

410恐慌、恐怖、そして:04/05/27 06:34 ID:NwyX8eYE
「いやはやどーしたもんか」
 見張りと称して屋根の上に出てきた物の、周囲に人影が無い事が判明して以降は特にやる事もない。
このアパートがある一帯の季節が、さっきの洞窟とは違うようだと気づいた他は収穫もない。
 要するに、いまいち退屈だったりするのだ。見張りなんて普段はそんなものである。
 耳を澄ますと、なにやらピコピコという電子音と、きゃっほう、という声が聞こえた。
 由宇の耳に辛うじて届く程度の音量だから、人の見あたらない現状では問題ないだろう。
 にしても……。
「この状況でゲームかいな」
 苦笑するしかない。

 なんて平和なんだろう。
 あの二人と一緒にいると、違う意味でなんだか別世界気分であった。
 死ぬの殺すの殺されるのという修羅場……締め切り間際の切迫状況で使われるアレとは次元の違う、
正真正銘の修羅場……がこの島にはごろごろしているはずなのだが。
 アルルゥはともかく、はるかの方はこの島の現実を十分に理解しているはずだが、今の彼女は思いっきり
お昼寝中である。信用してくれるのは有り難いが、それでいいのかと思うのも事実。
 多分彼女は普段の生活からしてこうなのだろう。そう思うと知り合いの苦労が知れるような気もした。
「まあ、この期に及んでマイペースを保てるってのはある意味偉大なんやろうなあ」
 由宇は屋根の上にごろりん、と寝ころんで大きく伸びをした。
 実際、自分もあの性格にはずいぶん助けられている気がするし。
「とりあえずうちらはまだ生きてるから、あーゆーのもアリなんやろ……」
 由宇は緊張をほぐすように目を閉じて、ふう、と息を吐いた。なんとも言えないのどかな空気だった。

 そして……目を開けたら、空が赤く染まりかけていた。
411恐慌、恐怖、そして:04/05/27 06:35 ID:NwyX8eYE
「なっ!?」
 由宇は跳ね起きた。
 見れば太陽は……それを太陽と呼んでいいのか分からないが、紛らわしいので太陽としておく……
かなり西に傾いている。時計は無いが、もうすぐ夕暮れだろう。
 由宇の体感時間は、それこそ刹那でしかない。
 その一瞬で一気に数時間分の時が流れてしまった事になる。
「こ、これは……まさか……ディアボロ!? き……貴様ッ、時をッ!!」
 思わずジョジョ口調で無駄なポーズを決めてしまう由宇。背後にドッギャーン! という効果音が
無いのが残念である。
「…………」
 涼しさを増した風が吹き抜けた。涼しいのは日が傾いたからだと思う、多分。
「んなワキャあらへんっての」
 ツッコミ役がいないとボケても張り合いがないが、それでもやってしまうのが関西人の性。そして
その場を納めるのは当然ながら一人ツッコミであった。
 誰も見ていなかったのは色々な意味で幸いだったかも知れない。
 で、冷静に考えればなんと言うことはない、恐らく居眠りしただけのことだ。
 気が抜けた瞬間に寝てしまう事は、珍しいと言えば珍しいがあり得ない事でもない。
「いくらここがパラレルワールドつっても、さすがにキングクリムゾンは出て来んやろ」
 頭をぽりぽりかきつつ、自分に言い聞かせるように由宇はつぶやくのだった。

 しかし、と由宇は思う。
 まさかそんな瞬間居眠りする所まで体力を消耗しとるとはなあ。
 由宇は自分の体力に自信を持っている。その自信は、エネルギッシュという言葉がぴったり来る執筆活動と
いう確かな実績に裏打ちされているのだが……紙とペンとトーンが支配する世界では無類の強さを発揮する
彼女も、銃と血と謎と異種生命と自分を振り回すボケ娘が相手では勝手が違うということか。
「平常心になれへんかったら、多分そーゆーのにも気づかんのやろな」
 ある意味、それに気づけた事、気づく前に命を失わずに済んだ事も幸運の一つなのだろう。
いや冗談じゃ無しに、冷静な判断力を失ったまま冥界に叩き込まれた人だっているだろうし。
412恐慌、恐怖、そして:04/05/27 06:37 ID:NwyX8eYE
 数時間も経ったとなると部屋の中はどうなっているか。
 ちょっと気になったし、寝ている間にも誰も見つからなかったらしいので……なにせ自分が無傷だし……
これ以上の見張りも意味がなかろうと判断し、由宇は屋根からするすると降りた。
 器用な身のこなしでひょいっと部屋の中へ。屋根に上がる時に靴を履いていたので土足という事になるが
最初の一歩ぐらいは勘弁してもらおう。
「さーて……」
 河島さんはまだ寝とるんかな、と部屋の中を見回し……。

 由宇は空っぽのベッドを発見した。

「……河島さん?」
 小声を出した所で聞いてくれる人がいるはずもない。
「アルルゥ?」
 その声を聞いてくれる人は、これまたいなかった。
 日が傾いたせいで薄暗さを増してきた部屋、その目の前にあるのは人の気配のないベッドだけだ。まるで
誰も寝た形跡が無いかのように、布団が整っていた。
 アルルゥが遊んでいたと思われるゲームも、影も形もない。
「くっ!」
 自分はとんでもない失態をしでかしたのではないか。
 わき上がる焦燥を必死に抑えながら、由宇は隣の部屋へ土足のまま駆け込んだ。
 ダイニングキッチン。これからに備えて、アパートの中を一通り探索してどうにかかき集めた食料や
電池などをテーブルの上に置いてあったはずが、それも無い。周囲の棚の扉が一部半開きになっており、
何者かが捜索した形跡はあるが、それだけだった。
「……落ち着け、落ち着くんや」
 平常心平常心、と由宇は自分に言い聞かせた。ここで冷静さを失うのはそれこそ致命傷だ。
 考えろ。うちは屋根の上で数時間居眠りしていた、これはほぼ間違いない。
 ではその間に、下では何が起きた?
 河島さんとアルルゥが連れ去られたのか。うちに気づかれることなく。しかし、うちの眠りはそんなに
深かったんか? それに、殺すならともかく連れ去るというのは……。
413恐慌、恐怖、そして:04/05/27 06:39 ID:NwyX8eYE
「!!」
 そこまで考えた所で、由宇の耳が何かをとらえた。
『人の気配!』
 壁の向こうだ。何かの物音がしたような気がした。

 由宇は島の中に放り出されてから今まで、はるかとアルルゥにしか会っていない。当然ながら殺人の
意思を持つ者とは遭遇していないし、それどころか死体にも遭遇していない。
 要するに死の危険を身近に感じたことは無いに等しい。二人に出会った状況では混乱が先に立っていた
せいで、恐怖を感じる余裕があまりなかった。が……今は、違う。
 ごくり、と喉が鳴った。
 この状況でアパートの中にいる人間が友好的である可能性は、低い。非常に低い。
 冷静になれ冷静に。由宇は高鳴る心臓を左手で押さえながら……そうやった所で動悸が収まるわけでも
ないのだが……必死に聞き耳を立てた。
 まずは状況把握だ。壁の向こうにいるのは何人か。金属音がすれば銃や剣を持っている可能性が高い。
 この壁の向こうには……壁の向こう……。

「ありゃ?」

 ふと気づいた由宇は、思わず素っ頓狂な声を出した。

 一応慎重を期して廊下に出てみれば、両隣に扉があった。
 確か三人が確保した部屋は角部屋だったはずだが。
「…………」
 その一方、人の気配を感じた方、位置的に言えば角部屋にあたる扉を開けたら……靴が二足きちんと
並んでいた。見覚えはある、ありまくりな靴だ。
「……ぐは」
 うち、ひょっとして思いっきりピエロ?
 心なしか頼りない足取りで靴を脱ぎ、部屋に上がり込めば、キッチンのテーブルの上には自分がまとめた
荷物が自分の記憶通りに鎮座している。奥をのぞき込むと、ベッドに寝ている頭が二つあった。
 要するに、なんて事はない。

「隣の部屋に入っただけやんかぁ〜」
414恐慌、恐怖、そして:04/05/27 06:41 ID:NwyX8eYE
 どっと疲れた。でもベッドは満員だったので、キッチンの椅子にどかっと座り込む由宇だった。
 アルルゥがプレイしていたと思われるゲームは、何かの選択画面のまま止まっている。ちょうどBGMが
途切れるシーンだったのか、音は無い。どうもそこまで来た所で飽きて、はるかの隣に潜り込んで一緒に
寝てしまったようだった。
 しかし、それで周囲に音が漏れずに済んだ幸運を喜ぶ余裕は今の由宇には無かった。
 なんつーか。
 この島に来て以来、洞窟に転げ落ちて10時間以上も闇の中をうろつくハメになるわ、河島さんにペース
持ってかれるわ、柄にもなく居眠りするわ、あげくコントにもならんドジやらかして勝手に緊迫のシーンを
演出するわ。
 これじゃ思いっきりボケ要員やあらへんか?

「うち、こんなキャラやなかったはずやけどなあ……」
 死と恐怖に満ちた島で、それとは全然関係ない角度からアイデンティティの危機に直面する由宇であった。
 下手したら殺し合いに巻き込まれるよりも精神的な負荷は大きいかも知れない。関西人として。
「……ん?」
 そのつぶやきが聞こえたのか、ベッドの方で動きがあった。
「お、目ぇ覚めた?」
「……ん」
 はるかの頭が動いていた。
「どれぐらい……寝たかな」
「さあ、うちも途中で居眠りしたから正確な所は分からん。空の色を見るに、昼間から夕方まで、やな」
 問題は日没が何時なのか予想つかない事だ。何しろ冬なのか夏なのか分からない以前に、一日が24時間で
ある保証もないのだから。
『……いつの間にか河島さんの仮説を完全に信じとるな、うち』
 あらゆる意味で主導権を握られているような気がする、と由宇は思った。いつか逆転せーへんと。
「この時間だと」
 そんな由宇の、ある意味日常的かも知れない思考は。
「次の放送は聴けそうだね」
 その言葉で、今自分がいる現実に引きずり戻されるのだった。
「……多分な」
 目は覚ましたが未だにベッドの中のはるかと、テーブルに片肘ついて座っている由宇は、共に窓の外、
赤く染まる空を見つめていた。
415恐慌、恐怖、そして:04/05/27 06:41 ID:NwyX8eYE
 次は誰が死ぬのか。何人死ぬのか。そんな世界で自分たちは何をどうすべきなのか。
 奇跡のような平穏の中で、それでも死の足音は確実に彼女たちの周りに響いていた。

【007 猪名川由宇 所持品:ロッド(三節棍にもなる)、手帳サイズのスケブ】
【027 河島はるか 所持品:懐中電灯、ビニールシート、果物ナイフ、救急セット、缶詰(残り3個)】
【004 アルルゥ 所持品:なし】
【夕刻、定時放送少し前】
【食料と水(飲み物)は発見できたが量についてはお好きに】
416まよいばし:04/05/27 07:38 ID:4fUzgcIC
 殺す意思などないはずだった。
 覚悟を決めてすらいないのだから。
 戦うつもりはなかった。さっさと逃げ出せばよかった。
 ただ出会い、そして全てにけりが付くまで、命の限り生き抜こうと、そう思っただけ。
 その結果として、私はいま、二つの銃口を向けられている。
(……私、ここで……死ぬのかしら)
 しのぶは彫像のように微動だにせず、向けられた銃口から感じる殺気を推し量る。
 いや、量るまでもない。その圧力には差がありすぎた。
(この娘も、分かっていると思うけど)
 実際はどうだろうか。
 その目にいままでと違う色を閃かせ、しのぶは晴香の瞳を見つめた。
 
 
(――どうするのが、正解なんだろうね)
 自分が言うのもなんだが、これはよっぽど経験豊富な人間でも、頭を抱える状況だ。
 いつの間にやら視界に現れた、殺し合う二人の女の子。
 彼女たちが舞い踊る戦いの舞台に、場違いながらも上がりこんでしまった。
(僕はこういうの、向いてないと思うんだけど?)
 自分でやっておいて、誰にともなく不満を漏らす。

 だいたい向けている銃口だって、自分でどこを狙ってるんだか分からない。
(……仕方ないじゃないか、どっちを撃てばいいかなんて分からないもの)
 なんとなく、二人のあいだに向けているだけ。
 彼女たちの戦いを、自分のはるか背後にいる連れ合いに及ぼさないために。
 いや、本当は誰も殺したくない。死なせたくない。
 ただそれだけのために、少年は舞台に立っていた。
 
 
417まよいばし:04/05/27 07:39 ID:4fUzgcIC
 殺さねば収まらないだろうか。
 相手を確認してもいないうちに、始めてしまった。
 反射的に動いていた。
 遭遇した驚きを、後手に回る恐怖を、引き金に預けてしまっただけ。
 その結果として、あたしはいま、二つの銃口を向けられている。
(バッカじゃないの、あたし?)
 この女は、あたしの放った弾丸に反応して殺気を向けてきただけ。
 もちろん、背中を撃たれる恐怖もあった。
 だが間違いなく、二人で殺気の剣を撃ち合わすうちに、あとに引けなくなっていた。
(そんでなに? この女を相手に殺すか、殺されるかして、そのあと彼に殺されるの?)
 
 名も無き、少年。
 彼が現れるとは思わなかったし、ましてや、こう出て来るとは予想だにしなかった。
 理解の及ぶ相手じゃないけど、こういうタイプじゃないと思ってた。
(まだ、この女のほうが分かりやすいわよね……)
 一瞬だけ散漫になった意識を、再び目の前の少女へ振り向ける。
 目が、合った。
 その漆黒の瞳を覗き込み、何かが繋がった。
 
 
「もう、やめないかい?」
 二人へ向けて、少年が語りかける。
 声音はいつもの通りで、脅威を感じさせるものではない。
 銃を突きつけあっていた少女たちが、一瞬だけ引き金に力を込める。
 ――あの少年よりも先に、この女を殺すべきではないのだろうか。
 今まで全力で行なってきた仕事を、完了させる。魅力的な考えだった。
 
418まよいばし:04/05/27 07:41 ID:4fUzgcIC
「君たちがやめれば、みんな助かる。君たちが撃てば、二人とも死ぬんだ」
 しかし二人は完全に握りこむ前に、わずかに右腕をそらした。
 ――そうしたところで、少年に場を制せられるだけだ。それで、いいのか。
 同時に横目で少年を見る。ほんの一瞬。
 わずかな瞳の動きと、わずかな銃口の向きだけで、彼女たちの会話は続く。
 ――いいわけがない。
 ――それなら答えは、ひとつだけ。

「僕だって撃ちたくはないよ。でも、走するしか止められないなら――」
 そらした右腕を、そのまま大きく翻す。
 しのぶと晴香が肩を並べ、今度こそ引き金を握りこむ。
 二つの銃口は、同時に少年へと向けられた。
「――晴香! やめるんだ!」
 少年も遅れて引き金を引こうとする。

 ――誰が死ぬことになるのか。
 誰もが、死人の出ることを覚悟した。
 誰もが、自分が死ぬかもしれないと、そう覚悟した。

 ……ところが、誰も発砲しなかった。
 ただしのぶが、晴香との距離を離しただけである。
 三人とも最後の最後になって、迷いが生じたからだ。
 しのぶは逃げることを優先すべきだと考えた。
 晴香は残弾を気にした。
 少年は、やっぱり撃てなかった。
419まよいばし:04/05/27 07:42 ID:4fUzgcIC
 再び銃口の向きが変わる。
 めまぐるしく二つの目標を同時に認めようとして、そのまま行動がまとまらない。
 全員が全員、残る二人のどちらに向けるべきか、迷いに迷って――
 
「少年さんっ!」
 
 ――その一声が、決定した。
 皮肉なことに、少年を助けるための、その声こそが彼の命運を決してしまった。
 晴香としのぶの視線を集め、そして本能的にバランスの崩壊を認識させ、引き金を引かせてしまった。
 重なるようにして、二つの銃声が響き渡った。
 
 そして黒服の少年の手から、拳銃がこぼれ落ちる。
 身体が、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。
 その動作が、やたらとゆっくりに見えた。
「い……いやあああぁぁぁっ!」
「無体な事を!」
 あさひが叫び、クーヤが怒り、身を乗り出す。
 ろくな武装もないまま舞台に上がろうとする、あまりに無防備な二人の行動を、慌てて耕一が制した。
「クーヤ、あさひちゃん! 危ないぞ、下がるんだ!」
 せめてサブマシンガンを所持している晴子と並びでもしなければ、抑止力はゼロだ。
 少年のもとへ駆け寄ることを、許すわけにはいかない。
「いやっ! 少年さん、少年さんっ!!」
 恐慌に陥るあさひと、憤慨するクーヤを抑えながら、後続を待つ。
(くそっ、晴子さんたちは――!?)
 その短い時間が、とても、とても長く感じた。
 
 
420まよいばし:04/05/27 07:44 ID:4fUzgcIC
 その間にしのぶは姿を消していた。
 なにしろ樹木が多いのだ、逃げようとすれば簡単だった。もちろん再び襲いかかることもできるだろう。
(この場所……最悪じゃないか) 
 耕一が苛立ちながら評価する。
(集団ならともかく、一人なら逃げ放題だ)
 しかし土壇場で逃走を選択しようとしていたはずの晴香は、逃げなかった。
 むしろなにかに挑戦するかのように、少年のほうへと歩いて行く。
「あんた、最後はやる性質だと思ったんだけど。けっきょく、撃たなかったのね」
「はは……まだ、最期じゃ、ないよ」
 二人の会話には、最後と最期の違いがある。
 だが、気にする必要は無かった。
「もう無理よ。いくらあんたでも、助からないわ」
「――そうだね。でも、あさひちゃんは無事だ」
 少年はもう一度笑おうとして、大量の血を吐いた。

 晴香の足が止まる。いまさら血に驚いたのではない。価値観の違いに、驚いたのだ。
「……そういう考え方だったの。だから殺気がなかったのね」
「うん。彼女だけに限らなかったんだけど」
 もう一度、なんとか笑う。そして含みのあることを漏らしてみる。
 晴香はふたたび歩き出し、その意味を尋ねた。
「……なにが?」
「僕はね、晴香。ほんとは君も、あの娘も、救って……あげたかったんだけど」
 少年は、目の前まで歩いてきた晴香に向かって、そう告げる。
 晴香はうつ伏せに倒れた少年の目前でしゃがみこみ、囁きかけた。
「だったら死ぬ前に、あたしを殺してみせなさいよ。でないとあたしが、『あさひちゃん』を襲うかもしれない」
 
421まよいばし:04/05/27 07:46 ID:4fUzgcIC
「そう、なのかい――?」
 ゆっくりと、壊れたはずの操り人形が立ち上がる。
「――それは、困るな」
 ひどく緩慢で、不自然な立ち上がり方だった。
 それでも落とした拳銃を拾い、片膝立ちにまでなり、のろのろと銃口を突き出した。
 晴香の眉間に突きつけるような形で、少年の銃口が停止する。
「……それで? どうするの?」
 続きをうながす晴香であったが、返事はない。
 離れたところで錯乱している、『あさひちゃん』と思われる少女の泣き声が不快に響いている。
 最期に引き金を引く気があったのか、なかったのか。
(バカね。けっきょく、わからずじまいじゃない……)
 
 そのままの体勢で、少年は絶命していた。
 
 晴香は優しささえ感じさせる穏やかなしぐさで、少年の手から拳銃を受け取る。
 そしてぎろりと、視線を奥へと向けた。
「――で? あんたたちは、どうするのよ?」
 挑むように問いかける。
 その視線の先には、他人事ような表情で見物していた、二人の女の姿があった。
 ようやく耕一たちに追いついた、麻生明日菜と神尾晴子である。
(ご指名やで、明日菜ちゃん)
(一人だけ指名されたような発言、やめてくださいよ)
 もちろん、わざと遅れてきた。
 
(1対3対2ですけど、どっちに付きましょうか?)
(なんやアンタ、あの兄ちゃんたちは、早くも仲間とちゃうんかい)
 ――最初から、仲間だなんて思っていなかった。
 
 
422まよいばし:04/05/27 07:54 ID:4fUzgcIC
【018番 柏木耕一 ベナウィの槍 『左腕負傷中』】
【033番 クーヤ 水筒(紅茶入り) ハクオロの鉄扇 サランラップ25m 短刀】
【042番 桜井あさひ キーホルダー 双眼鏡 十徳ナイフ ノートとペン 食料三日分 眼鏡 ハンカチ 『疲労』】

【002番 麻生明日菜 ショートソード ナイフ ケーキ】
【022番 神尾晴子 千枚通し マイクロUZI(残弾40発。20発入りマガジン×2)】

【039 榊しのぶ ブローニングM1910(残弾1)、ナイフ、缶切3つ、12本綴りの紙マッチ3つ、護身用スタンガン 『生乾き』】
【しのぶ姿を消す】

【091 巳間晴香 S&W M36(残り弾数5) コルト25オート(残弾2) カッター 相当量の食糧と水 『全身裂傷』】
【046 少年 S&W M36の弾20発 腕時計 カセットウォークマン 食料三日分 二人分の毛布】
【少年死亡】

【残り47人】 
423EGO:04/05/27 10:27 ID:KEq0z22t

殺してください、と少女は言った。

眼を覚ました少女は、春原芽衣と名乗った。
長い、長い時間をかけて、芽衣は己が見てきた惨劇を語った。
そして、その最後をこう締めくくったのだ。

お兄ちゃんは私なんかを守って死んじゃったんです、だから、
私を殺して、お兄ちゃんのところに行かせてください。

それまで要領を得ない少女の語りを辛抱強く聞いていた神岸あかりは、
打たれたように黙り込んだ。

す、と。
眼を閉じたままずっと壁にもたれかかっていた松浦亮が身を起こす。
そのまま芽衣に歩み寄ると、その目を覗き込むように視線を落とし、
一度だけ舌打ちして、少女の頬を、思い切り平手で張った。
あかりが止める間もない、電光石火の一発。
424EGO:04/05/27 10:28 ID:KEq0z22t

少女は呆然と己の頬を押さえると、触れて初めてその熱さと痛みに気づいたように
顔をゆがめ、涙を滲ませた。

「―――泣くんじゃない!」

びくり、と芽衣が身をすくませる。
潤んだ瞳で恐々と亮を見上げた。

「痛いか? 痛いよな? 当然だ。痛いように殴った」

吐き棄てるように。

「殴られて泣くガキが、殺してくださいか。笑わせるんじゃねぇ」
「松浦くん……!」
「あかりは黙っててくれ!」

その眼には、怒りではない何かが篭められているように見えて、あかりは口を閉ざす。

「お前は自分が何をしたかわかってるか? 殺そうとしたんだ。ただ誰かに殺してほしいから。
 そんなくだらない理屈で、お前はこのあかりを殺そうとしたんだよ」

少女の襟首を掴む。

「俺はな、言ったよ。こんなガキは見捨てようって。殺しちまっても文句は言わないって。
 けどな、あかりは何て言ったと思う? この子と一緒にいてあげよう、だ。
 お前、自分が何をしようとしたのか、本当にわかってんのかって訊いてんだよ」

そのまま引き起こし、立たせる。
425EGO:04/05/27 10:30 ID:KEq0z22t

「お前の兄貴はどうして死んだ」

芽衣の目が、揺れた。
亮は更に少女の体を引き寄せる。

「お前に死んでもらうためか。お前に誰かを殺させるためか。グダグダとくだらねぇ逃げを打つ
 どうしようもないガキの寿命を、ほんの半日延ばすためか。……ふざけるなよ」

額と額が触れ合わんばかりの距離で、その視線を逃がさない。

「状況に流されてんじゃねえ。雰囲気に酔ってんじゃねえ。自分の足で立て。
 自分の目で見ろ。ガキ、お前の目にこの世界はどう映ってる」

手を離す。
少女の目が、亮と、狭い部屋と、夕暮れに染まる窓の外を行き来し、最後にあかりを見た。
その眼をじっと見返したあかりが、やがてゆっくりと頷く。

「…………ごめんなさい……」

か細い声が、朱く照らされる部屋に響く。
うつむいた少女の足元に、滴が零れ落ちてカーペットを濡らす。
亮は少女に背を向け、もう一度声をかけた。

「まだフザけたことを言うなら手伝ってやるさ。けどな、そうじゃないんだったら―――」

背を向けた亮の手から少女の足元に向かって、何かが転がってきた。
銀色の缶詰。

「―――メシにしようぜ」
426EGO:04/05/27 10:36 ID:KEq0z22t

三人で缶詰をつついている間中ずっと、芽衣は声を上げて泣いていた。
それじゃあ味がわからないよ、とあかりが宥めても効果は無かった。
亮は何も言わなかった。

食後もしばらく、芽衣の涙は止まらなかった。
あかりはずっと、その背を包むように芽衣を抱きしめていた。
亮は背を向けて横になっていた。

少女が、ようやく顔を上げたときには。
その眼の曇りは、晴れていた。


【084 松浦亮 修二のエゴのレプリカ 予備食料の缶詰が残り2つ】
【024 神岸あかり 筆記用具 木彫りの熊 きよみの銃の予備弾丸6発】
【047 春原芽衣 所持品なし】
【時刻は第3回定時放送寸前】
427本領発揮:04/05/27 14:32 ID:KEq0z22t

耕一はクーヤとあさひを抑えるのに精一杯だった。
明日菜は驚くべきことに、この期に及んで我関せずを決め込もうとしているようだった。
晴香の視線はこちらを向いていた。
それはそうだろう、銃器で武装しているのは自分だけだ。

(使えんヤツらやで、ホンマ……)

心中で毒づいていても状況は好転しない。
晴香の視線と、ついでに銃口はこちらを向いている。

「……あー、姉さん、なんや、その、ここは痛み分けっちゅーことで手ぇ打たへん?」

晴香は微動だにしない。

「―――何を言うかと思えば。その物騒なものでどうにかするよりも、私の弾の方が速いわよ?
 御託を並べる前に、それを地面に置いてこちらに寄越しなさい」

その通りだった。
どう考えても向こうの一撃の方が速い。
しかし、だからといって言いなりになるわけには、勿論いかなかった。
丸腰の自分たちを、あの悪鬼の如き面構えをした少女がどう扱うかなど火を見るより明らかだった。

(キチに刃物、殺人鬼に機関銃や……おー、こわ)

それに、と晴子は更に考える。

(御託並べとるんは向こうも同じ。ぐだぐだ言わんと撃ったらええのに、どうしてそうせぇへん?)

容赦も躊躇も無く少年を撃ちぬいたあの女のことだ、まさか情けをかける気ではあるまい。
付け入る隙は、ある。
428本領発揮:04/05/27 14:33 ID:KEq0z22t

「弾、あるのん?」
「―――!」

ズバリ、だ。
ここがあの女が乾坤一擲のチップを張ったポイント。
(なら、ウチは全額、その裏に賭けたるわ)

「……何を言っているのか、わからないわね。さっさと置かないなら―――」
「さっきの坊なぁ、一発も撃たへんかったみたいやけど」

晴香の脅迫じみた口調を意に介さず、晴子が遮った。

「撃たへんかったと違ぅて、撃てへんかったんやないの?」
「……」
「―――その銃、ちゃんと弾込めてあるん? アンタ、確かめた?」
「……」
「確かめてへんよなぁ、そんな暇あらへんかったもんな。で、ウチが不思議に思ったんは―――
 どうしてアンタ、自分の銃使わんの?」
「―――」
「……まぁ、こんな状況や。誰だって無駄弾、使いたないわなぁ。……それとも、もしかしてや、
 ウチら全員ブチ抜くには弾が足りひんのとちゃうん?」
「―――!」
「いやいやいや、そんな怖い顔せんといてぇな。ウチ、なんや苛めてるみたいやんか。
 ……話、戻すで。で、その銃や。ご大層に構えとるけどな」

晴香の持つS&Wが、微かに震えているように見えた。
429本領発揮:04/05/27 14:33 ID:KEq0z22t

「それ、もしや、もしもの話やで。―――弾入ってへんかったら、どうなるんやろうなぁ」
「……」
「引き金ひいたらガチーンいうて、でアンタ蜂の巣や。速いでー、こいつの弾は」
「……」
「もちろんや、弾キチンと入っとることだってあるわな。そしたらウチ、痛いイタイってなるねんな」
「……」
「そんなん嫌やん、お互い」
「……」
「だから、な、こんな五分五分で命張ることないやん? 手打ちにしよや」
「……」
「アンタはそのまま下がってもらったらええ。ウチらも下がるわ。で、お互い忘れよ? な?」

晴香は無言。
しかしその瞳には、今やはっきりと迷いの色が窺えた。


(―――上手いなー、晴子さん。ま、亀の甲より年の功ってことかしらね。
 どうせ撃ち気マンマンなんでしょうけど)

下がって成り行きを見守っていた明日菜は、内心で舌を巻く。
春子のハッタリ満点な弁舌に聞き入っていた彼女は、だから気づけなかった。
430本領発揮:04/05/27 14:35 ID:KEq0z22t

「―――そこまでよ」

場に、新たな声が響いた。
硬質な、冷たい声。長い黒髪。
明日菜を羽交い絞めにして、そのこめかみにブローニングを突きつけたその姿は。

(―――しまった! 逃げたんじゃ、なかったのか!)

榊しのぶは、こちらを振り向けないでいる晴子、その向こうでS&Wを構える晴香、
その手前右、今にも崩れ落ちんとするあさひと憤りのあまり飛び出そうとするクーヤ、
そのふたりをどうにか無事に下がらせようと苦闘していた耕一、その全員を見回すと、
ゆっくりと告げた。

「そこのマシンガンを持ったあなた。振り向かずに、それを地面に置きなさい。
 さもないと、あなたのお仲間の頭が少しだけ夏向きになるわよ」

「ムグ……ゥ! ……フムウゥ、ムガーッ!」

明日菜は焦っていた。
こめかみに銃を突きつけられて落ち着いていられるはずもないが、それ以上に自分を
捕らえているこの女の要求に焦っていた。

(晴子さん相手に私が人質になるわけないでしょ! あの女、絶対私ごと蜂の巣にするわよ!
 あとアンタ、なんかべちゃべちゃしてキモチ悪いのよ! ちょっと離れなさいよ!)

無駄な抵抗だった。
431本領発揮:04/05/27 14:37 ID:KEq0z22t

一方、晴子は振り向けない。
結局自分を狙っている銃に弾が無い可能性、などというものはハッタリに過ぎない。
万が一の奇跡を、いかにもあり得ることのように膨らませただけだ。

明日菜ごと新たに登場した女、見えないが声からすればおそらく小娘だろうその女を、
文字通り一網打尽にすることは簡単だったが、それで終わりだ。
無防備な背中に大胆なワンポイントが加わることになる。

(そんなんなったら、セクシーなラインが台無しやん! ……絶体絶命、やなー)

ゆっくりと、手を離す。
ごとりと重い音を立てて、マイクロUZIが地面に落ちる。

「これでええんやろ……? 次はどうしたらええねん」
「ゆっくりとこちらに蹴り出しなさい。おかしな真似はしないことね」

従うしかなかった。
言葉どおり、ゆっくりと明日菜の方に向けてUZIを蹴ろうと、足を上げた瞬間―――

銃声が響いた。
432本領発揮:04/05/27 14:38 ID:KEq0z22t

(―――あの女に、あれを渡すわけにはいかない!)

そうなっては手の打ちようがなくなる。
圧倒的な火力差を跳ね返すだけの準備も装備も、今の晴香には無かった。

ゆっくりと地面に落ちたUZIめがけて、晴香は引き金を引いた。
少年の顔を思い浮かべる。

(平和主義気取って―――弾くらい、込めてなかったら許さないわよ!)

はたして、銃声。
マイクロUZIは硬い金属音を響かせながらあさっての方に滑っていく。

あれを手にした者の勝ち―――
433本領発揮:04/05/27 14:39 ID:KEq0z22t

しのぶは撃てない。
UZIを棄てた晴子の背中も、抱えた明日菜の頭も、視線を逸らした晴香も。
何故なら、

(―――これが、最後の弾)

外せば、それで終わりだった。
明日菜ひとりを殺しても、自分が次の的では意味が無い。
ならばこそ、是が非でもあのUZIを手に入れる必要があった。
それを妨げたのは、一発の銃弾。

(あの女―――!)

退き際だった。
晴香との因縁の決着は、次に持ち越さざるを得ないようだった。

(お互い次があれば、の話だけれどね―――)

しのぶは明日菜を抱えたまま、じりじりとある程度の距離まで下がると、
明日菜を突き飛ばして一気に木陰に消えていった。
434名無しさんだよもん:04/05/27 14:41 ID:KEq0z22t

晴香はUZIに駆け寄ろうとした姿勢のまま、止まっていた。
この場の勝利条件であるその鉄塊を手にしていたのは―――

「……動かないでください」

あさひは震える手つきでUZIを構えながら、晴香に言い放った。

「あなたは……あのひとを、殺しました……!」

「あさひちゃん!?」
「お嬢ちゃん!」
「アサヒ!」

「どうして……あのひとが何をしたの……!」

涙に濡れたその眼は、じっと晴香を見ているようで、その実は何者も
映していないのかもしれなかった。
常はよく通るその声は、今やか細く震え、己の内なる衝動だけを言葉にしていた。
その声が急にトーンを上げ、弾けるように銃口が跳ね上がる。

「あなたは……っ!」

(―――アカン! ウチの切り札なんやでそれは! ここで無駄弾使われてたまるかい!)
435本領発揮:04/05/27 14:44 ID:KEq0z22t

「桜井あさひっ!!」

びくり、とあさひの肩が震え、引き金にかけようとしていた指が止まる。

「自分、それでええんか……? 手ぇ汚して仇うって、それであの坊が喜ぶんか……?」

あさひの手が、揺れる。
それでも晴香に付けた狙いは外れない。

「なぁ、あんた帰らして、声優、か? それ続けさせるためにあの坊、命張ったんやろ……?」
 人殺した手ぇで、夢、追っかけられるんか……?」


あさひの口が、ゆっくりと開いた。
今度はしっかりと晴香を見据えて、それでも震える声で。

「……その銃を置いて、どこかへ行ってください。私たちと関係ないところで、殺し合いでも
 なんでもしてください。そうして勝手に傷ついて、死んでしまってください。
 ……早く、はやく消えてください……っ!」

晴香とて、その言葉に逆らうことはできそうになかった。
目の前の少女の引き金一つで、何もかもが無駄になる。
S&Wを手から落とし、ゆっくりと下がり、やがてしのぶと同じように森に溶け込んでいった。

身じろぎもせずにそれを見届けると、あさひはUZIを取り落とし、糸が切れたように倒れこんだ。
436本領発揮:04/05/27 14:45 ID:KEq0z22t

あさひに駆け寄る耕一たちを横目に、晴子は大事そうにUZIを確保していた。

「……結局、あの人たち何にもしてないんじゃないですか?
 見た目強そうなのに、情けないですよねホント」

傍に立つのは明日菜。

「しっかし、べらべらべらべらとよくあんなに口から出任せが続きますねー。
 特にあの子、あさひちゃんでしたっけ? あの子にかけた言葉、ホントにどの口が
 言ってるんだって感じ」

晴子はまるで相手にした風もなく、ただUZIを撫でていた。

「嬉しそうですねー、晴香さん。いっそその子に名前でも付けてあげたらどうですか?
 ジェノサイド子ちゃんとか、ぶっ殺死丸くんとか」

軽口にも応じず、晴香はUZIを抱きしめていた。

「……重症だわ、これ。……こういう歳の取りかたはしたくないなぁ……」

いつもなら鬼のツッコミが入るタイミングだったが、晴子は聞き逃していた。
それどころではなかった。
額に油汗を浮かべて晴子はUZIを抱えていた。
437本領発揮:04/05/27 14:46 ID:KEq0z22t

(―――超、マズいでコレは……)

彼女が抱えるUZIの銃口の内側に、よく見なければわからないほどの歪みができていた。

(さっきの弾か……当たりどころ、悪過ぎやでホンマ……)

絶対に、知られてはならない。
特に、いま傍に立っているこの女にだけは。
自分の唯一の切り札が、暴発の危険を抱えた屑鉄に成り下がったなどと。

(さぁて……正念場、やな……)


【022 神尾晴子 千枚通し 歪んだマイクロUZI(残弾20発)20発入り予備マガジン×1 】
【002 麻生明日菜 ショートソード ナイフ ケーキ】

【039 榊しのぶ ブローニングM1910(残弾1)、ナイフ、缶切3つ、12本綴りの紙マッチ3つ、護身用スタンガン『生乾き』】
【091 巳間晴香 コルト25オート(残弾2) カッター 相当量の食糧と水 『全身裂傷』 】

【018 柏木耕一 ベナウィの槍 (左腕負傷中)】
【033 クーヤ 水筒(紅茶入り) ハクオロの鉄扇 サランラップ25m 短刀】
【042 桜井あさひ キーホルダー 双眼鏡 十徳ナイフ ノートとペン 食料三日分 眼鏡 ハンカチ(気絶)】

【S&W M36(残り弾数4)S&W M36の弾20発 腕時計 カセットウォークマン 食料三日分 二人分の毛布 は転がっている】
【時刻は15時前】
438本領発揮(436改訂版):04/05/27 15:00 ID:KEq0z22t

あさひに駆け寄る耕一たちを横目に、晴子は大事そうにUZIを確保していた。

「……結局、あの人たち何にもしてないんじゃないですか?
 見た目強そうなのに、情けないですよねホント」

傍に立つのは明日菜。

「しっかし、べらべらべらべらとよくあんなに口から出任せが続きますねー。
 特にあの子、あさひちゃんでしたっけ? あの子にかけた言葉、ホントにどの口が
 言ってるんだって感じ」

晴子はまるで相手にした風もなく、ただUZIを撫でていた。

「嬉しそうですねー、晴子さん。いっそその子に名前でも付けてあげたらどうですか?
 ジェノサイド子ちゃんとか、ぶっ殺死丸くんとか」

軽口にも応じず、晴子はUZIを抱きしめていた。

「……重症だわ、これ。……こういう歳の取りかたはしたくないなぁ……」

いつもなら鬼のツッコミが入るタイミングだったが、晴子は聞き逃していた。
それどころではなかった。
額に油汗を浮かべて晴子はUZIを抱えていた。
439名無しさんだよもん:04/05/27 15:03 ID:KEq0z22t
やってはいけない誤字をやってしまいましたorz
>436において「晴香→晴子」と修正すべき部分が二箇所ありましたので、お手数ですが
438への差し替えをお願いします。申し訳ありませんでした。
440約束:04/05/27 18:18 ID:pPlZyoDI
彼が目を覚ますと、そこに彼がかつて仕えた人の姿は無かった。
彼の目に入ってきたのは古河夫妻と…なぜか気を失っているカルラ。
「良かった…持ち直したようだな。って、おい、動いて大丈夫なのか?」
「まだ、動いちゃ駄目ですよっ!」
古河夫妻が声をかける。この様子だと相当心配をかけたのだろう。
「ご心配をおかけ致しました。ですが、あの者と、今、話しておかなければならないことがあるので」
そう強く言うと彼はカルラの方へ近づいていく。
彼の強い意志のが感じられる言葉に、古河夫妻は、何も言わず、ただ、見守っていてくれた。


夢か現か幻か。
だが、聖上は確かに私に別れを告げた。
「クーヤの事を頼む」と。
それはどこかで見た光景、しかし、確実に違う言葉。
彼はカルラに近づいていく。
「目を覚ましてください。」
「ん…はっ、私としたことが、不覚にも気を失ってしまいましたわ。」
カルラはあまりに強烈な味――いや、とにかく気を失っていたことに気づき、気分が悪そう言う。
「聞いてください、大事な話があります。」


彼ははゆっくりと話を始める。
441約束:04/05/27 18:21 ID:pPlZyoDI
「貴女と私は、同じ人に惹かれ、そして仕えた身。貴女のやりたいこと、そして貴女の考えていることは、よく分かっているつもりです。」
カルラは何も言わず、彼の話を聞いている。
「ですが、私は聖上に仕える身であるとともに、國に仕える身。國の何よりも大切な財産、それは民です。」
「ここは、私の仕える國、トゥスクルではありません。それに…異常な状態です。ただの無意味な殺し合い。戦ですらありません。」
彼は振り向き、後ろで黙って見守っていてくれる、秋生と早苗の顔を見る。
「…それでも、戦う術を持たない人々を救うのは、武人の務め。私はこのまま生き恥を晒し続けます。」
そう強く言うとカルラの方へと向き直る。強い目をして。
「本来なら、戦う術を持たない人々を襲う貴女を放っておくことは出来ないのですが、貴女のやろうとしていることが、
間違っていると言うことも、私には出来ません。――約束して下さい。その道を突き進むなら…絶対に敗北はしない、と。」

ビリビリッ
彼は、自分の着物の一部を破り、カルラの怪我をした右手に巻きつけていく。
「それと…私は先程眠っている最中に、聖上にクンネカムンの女皇を頼むと言われてしまいましたので」
彼の目は正気だった。彼が言うのだから、彼はハクオロに会い、そして言葉を交わしたのだろう。
「聖上の最後の頼み。それすら叶えられないようなら、武人失格ですしね。」
カルラは、相変わらず何も言わずに、彼の話を聞いている。
「それともう一つ、これは、お願いなんですが、他の人を殺める前に、もう一度私の前に現れてください。
再び刃を交えることになると思いますが…次は絶対に負けません。」
そして、カルラの拘束を解いていく。

「随分と、…甘いんですのね。」
カルラが溜息をつきながら、呆れたように言う。
「そうですね、誰かの甘さが知らない間にうつってしまったようです。」
彼は笑う。
442約束:04/05/27 18:23 ID:pPlZyoDI
「秋生さん、彼女に武器を返してあげてもらえませんか?」
成り行きを見守っていた秋生はただ、一言。
「その約束、守れるんだろうな?」
「あら、守るなんて一言も言ってませんわ。それに――」
カルラは彼の横をすり抜け、秋生へ一瞬で差を詰めると自分の大刀を奪い取る。
「なっ!」
秋生もカルラがそんな動きを見せるとは思わなかったのか、大刀のあまりの重さに、しっかりとつかんでいることが出来なかったのか、
あっさりとカルラに大刀を奪い取られてしまった。
「大丈夫です。」
秋生の動揺をよそに、彼は落ち着きをみせていた。
「次は絶対に負けない?はっ、笑わせてくれますわ、私が貴方如きに負けるとでも?」
カルラは心底愉快そうに言う。

「まぁ、この借りは、必ず返させてもらいますわ、安心なさって。」
彼女なりの再戦の約束なのだろう。
「貴方も私以外の人間にやられないようにしていただかないと、私が困りますわ。」
そう言い残し、カルラは森の奥へと消えていった。
443名無しさんだよもん:04/05/27 18:27 ID:pPlZyoDI
「すみません、私のエゴに付き合ってもらって。彼女のやろうとしていることが間違いだと思うことも出来なかったんです。
それと…私も武人の端くれ、1対1の真剣勝――」
「まぁ、いいさ、あの女、あんなんでも信用できるんだろ?」
「そうですよ、私のパンをおいしそうに食べてくれましたし」
彼の言葉を途中で遮り、古河夫妻は言う。…………いや、美味しそうかどうかは分からないが……
彼には、その言葉が、ただただうれしかった。
そして彼、ベナウィは、クーヤの捜索に乗りだす。
ハクオロの言葉を守るため。
と、言ってもクーヤはすぐ近くにいるのだが。
「…そういえば私の槍は?」
しかし、肝心なところが抜けていた。

【79番 古河秋生 所持品:金属バット、硬式ボール8球、かんしゃく玉1袋(20個入り)】
【80番 古河早苗 所持品:早苗のバッグ、古河早苗特性パン3個、トゥスクル製解毒剤、カッター】
【82番 ベナウィ 所持品:無し。本調子ではない】
【26番 カルラ 所持品:自分の大刀、右手首負傷、握力半分以下】
444名無しさんだよもん:04/05/27 20:55 ID:pPlZyoDI
じゃ、俺も
The Gate of the Hell 緊迫した状況がすげーよくわかる。文章だけでその状況が簡単に想像できる。よかった。
ひとで いうまでもなく発想が良かった。
恐怖と悲劇〜美坂香里〜  地味に良かった。これもまた発想が。まさか香里が栞殺すとはね。

他にもいいのはいっぱいあったけど、あんま覚えてねーや。
うたわれ再インストールしようかなぁ・・・
445名無しさんだよもん:04/05/27 21:01 ID:Exx5soxQ
松浦亮の様子が、おかしい。
神岸あかりが訝しげな視線を向ける先には、
果たしてその松浦亮自身がいた。
注意深く、窓から視線を泳がせている。
「住宅街に人が集まる可能性は高い」
そういう理由からの警戒だった。
この状況下であればそれは当然の事だろう。
しかし。
『ふざけんじゃねぇ』
あの時――春原芽衣を叱り付けた――彼の言葉。
あれは尋常ではなかった。
これまで接してきた彼とは何かが違う。
いや、そんな曖昧な感触ではない。
決定的な違和感があるのだ。
人間として。
目の前にいる松浦亮は、まるで疑心暗鬼に憑かれたような、
逃亡者のような―とりわけ余裕の無い―そんな雰囲気を持っていた。
446名無しさんだよもん:04/05/27 21:03 ID:Exx5soxQ
松浦亮の様子が、おかしい。
神岸あかりが訝しげな視線を向ける先には、
果たしてその松浦亮自身がいた。
注意深く、窓から視線を泳がせている。
「住宅街に人が集まる可能性は高い」
そういう理由からの警戒だった。
この状況下であればそれは当然の事だろう。
しかし。
『ふざけんじゃねぇ』
あの時――春原芽衣を叱り付けた――彼の言葉。
あれは尋常ではなかった。
これまで接してきた彼とは何かが違う。
いや、そんな曖昧な感触ではない。
決定的な違和感があるのだ。
人間として。
目の前にいる松浦亮は、まるで疑心暗鬼に憑かれたような、
逃亡者のような―とりわけ余裕の無い―そんな雰囲気を持っていた。
寸分の差異も見逃さぬというように、男は目を細めている。
447名無しさんだよもん:04/05/27 21:04 ID:Exx5soxQ
あかりの横には、春原芽衣(自分を刺そうとした少女だ)が座っている。
目覚めたばかりの彼女は、まるで自殺志願者のようなものだったが、
何を思ったのか、食事を終えた今は別人のようである。
「あかりさん、さっきはごめんね。これからは、一緒に頑張ろうね」
「うん。芽衣ちゃんも、元気になって安心した」
そんな会話を交わすまでにはなっていた。
空腹で気が立っていたのだろうか?
彼はお腹が減るとあのように苛立つ性格なのかもしれない。
あかりはそんな事を思っていた。
そんな時の事である。
松浦亮が深刻そうな顔で、こちらを振り向いて、呟いた。
「誰か来た。静かにしていてくれ」
春原芽衣が、ひっと小声で怯えるのが聞こえた。
一つの言葉が、突如あかりの脳裏に再来した。

――このゲームに乗るって事?

目の前にいる男の瞳は、鋭く研ぎ澄まされた刃物のように。
ぎらぎらとした光を湛えて、こちらをじっと見据えているのだった。

【084 松浦亮 修二のエゴのレプリカ 予備食料の缶詰が残り2つ】
【024 神岸あかり 筆記用具 木彫りの熊 きよみの銃の予備弾丸6発】
【047 春原芽衣 所持品なし】
【この直後に第3回定時放送が流れるくらいの時間です】
448帰るべき場所:04/05/27 21:16 ID:RGKp8HnN



 黄昏の、赤に染まるバスルーム。
 響くのは、水音。
 そして、口ずさむのは誰かの歌ったラブソング。



 芳野と澪は、すこしふらつく足取りで惨劇の現場から離れていた。
 二人とも智代から受けたダメージから立ち直っているとは言い難いが、
あの獣の咆哮と銃声は他の参加者の注意を引くのに充分すぎる。
 ましてや、智代を看取るために長居をしたのだ。
 一刻も早く身を隠さなければならなかった。

(……それにしても)

 さきほどの放送で告げられた死者の中に、ひとつ引っかかる名前があった。

 いぶき、ふうこ。

 芳野の想い人、その妹と同じ名前。
 もちろん、偶然の一致だろう。
 ありふれた名前ではないが、別人に決まっている。
 なにしろその名をもつ彼女は、2年前から意識不明のままなのだ。
 芳野自身、見舞いのために何度となくその病室を訪れていた。
 静かに、安らかに、眠り続ける小さな少女の姿を、その目で見ている。

449帰るべき場所:04/05/27 21:22 ID:RGKp8HnN

 ……ふと、撃たれた胸を押さえながら自分の隣を歩く澪に視線を向ける。
 そういえば、年格好は同じくらいか。

(……だから、なのか?)

 あのとき、守りたいと思ったのは。
 自分の安全さえ投げ出して、澪を守るためだけに引き金を引いていた。
 その事実が、自分の中で整理できずにいた。
 あの人のもとへ帰ると決めた。
 そのために、いくつもの命を奪ってきた。
 なのに、あの時あの瞬間だけは、なによりも澪を失うことが怖かった。
 大事な人の妹に似ているから、それが答えなのか?
 それだけのために、命まで捨てられるのか?

(……まあ、いいさ)

 浮かびかけた疑問を打ち消す。
 いずれにせよ、澪はこの島で生き残るために不可欠な相棒なのだ。
 用心深く、油断なくやれば、きっとなにもかもうまくいく。
 あの場所に帰るために、愛のために、今はこの手を汚すと決めたのだから。
 ふたりで首尾良く勝ち残れたなら……澪をあの人やその妹に会わせてもいい。
 眠り姫が目覚めたなら、きっといい友達になれるだろう。
 笑い合う二人の少女と、それを見守るあの人と自分の姿を思う。

(……そいつは、いいなっ)

 芳野はそのしあわせな風景を夢想し、微笑みを浮かべる。
450帰るべき場所:04/05/27 21:27 ID:RGKp8HnN

 だが、彼はまだ知らない。
 少女の容体が急変し、手の施しようもなく息を引き取っていたことを。 
 妹の死に直面し、支えるべき恋人とも連絡がつかないまま、大事なあの人が
絶望に打ちのめされていたことを。

 彼の、帰るべき場所が……、もう、どこにもないということを。


 あかく、赤く、紅く染まるバスルーム。
 響くのは、水音。
 そして、口ずさむのはもう届かないリフレイン。

「……ふぅちゃん……、ゆ……けさん、ごめ……ね……」

 青白い唇から、最後の吐息が漏れたことを。


 くいっくいっ。
「……ん?」
『ひとりでにやにやして、気持ち悪いの』
「……ほっとけ」
 闇の中、小さく笑い合う。

 目の前の少女以外に、まもるべきものがもう残っていないことを。

 ……彼はまだ、知らなかった。

451帰るべき場所:04/05/27 21:29 ID:RGKp8HnN
【036 上月澪 所持品:レミントン・デリンジャー(装弾数2発)、デリンジャーの予備弾12個 、イーグルナイフ、スタンロッド、M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(残り1個)、穴あきスケッチブック、防弾/防刃チョッキ、メモ帳、食料2日分】
【098 芳野祐介 所持品:M16A2アサルトライフル残弾26(予備マガジン(30発)1つ)、Vz61スコーピオン残弾16、手製ブラックジャック×2、スパナ、救急箱、煙草(残り4本)とライター、食料2日分】
【Last Messageの直後くらい】
452名無しさんだよもん:04/05/27 23:30 ID:KEq0z22t
>>423-426『EGO』において、キャラクター描写に致命的な欠陥があるとのご指摘を
多数いただきました。
作者としてNG宣言をさせていただきます。
申し訳ありませんでした。
453名無しさんだよもん:04/05/27 23:32 ID:7g0c7Ixq
というわけで>>445-447にある俺のレスも同じくNGという事でヨロシクです。
454名無しさんだよもん:04/05/28 00:27 ID:/jgrMORv
ま、以後は出入り禁止ということで。
455帰るべき場所(修正):04/05/28 00:37 ID:9NaU6uuf

 だが、彼はまだ知らない。
 少女の容体が急変し、手の施しようもなく息を引き取っていたことを。 
 妹の死に直面し、支えるべき恋人とも連絡がつかないまま、想い人が
絶望に打ちのめされていたことを。

 彼の、帰るべき場所が……、もう、どこにもないということを。


 あかく、赤く、紅く染まるバスルーム。
 響くのは、水音。
 そして、口ずさむのはもう届かないリフレイン。

「……ふぅちゃん……、ゆ……くん、ごめ……ね……」

 青白い唇から、最後の吐息が漏れたことを。


 くいっくいっ。
「……ん?」
『ひとりでにやにやして、気持ち悪いの』
「……ほっとけ」
 闇の中、小さく笑い合う。

 目の前の少女以外に、まもるべきものがもう残っていないことを。

 ……彼はまだ、知らなかった。

456名無しさんだよもん:04/05/28 00:40 ID:9NaU6uuf
「帰るべき場所」を書いた者です。
実況スレにて親切な方から誤りをご指摘いただきましたので
>>450>>455 に差し替えてください。よろしくお願いします。
457想いを胸に:04/05/28 02:49 ID:y9ou0Zq2

「また…人が死んじゃったね…」
「ああ…」

 三回目の放送後、俺達は住宅街に向け森を移動していた。
 忌々しいジジイの声。
 糞ジジイのゲームのため、幾人もの罪の無い者がこの島で死んでいった。
 そしてゲームに乗り、殺戮を繰り返す馬鹿共。
 俺は絶対にそいつらを許せない。
 ゲームの主催者を殺す。
 そのゲームに乗った参加者も殺す。
 俺はそう決意した。
 そのためには俺は同行者である観鈴と沙耶と別れなければならない。
 俺の自己満足のために彼女らを危険に曝すわけにはいかないのだ。
 だから、
 ―――別れよう。
 二人にそう言った。

「ねえ、なんでみんな仲良くできないのかなあ…」
「わたしと時紀さんと沙耶さん、三人手を繋いで友だち」
「みんなと友だちになればこんな悲しい思いをしなくてすむのに…」

 ―――ああ、なんてこの娘は純粋なのだろう

「お前みたいな純粋な奴ばかりならこんな事…起きなかっただろうな」
「時紀さんや沙耶さんは純粋じゃないの?」
「俺は…純粋な人間じゃない」
「アタシも、ね…」
458想いを胸に:04/05/28 02:51 ID:y9ou0Zq2
「ううん、そんなことないよ、だって、ふたりともわたしと仲良し。にははっ」
「そう…だな」
「そう…よね」
 返す言葉が見つからない。
 彼女の純粋さ、歴史上聖女と呼ばれた人々はこんな人間だったのだろうか?
 冗談では無く本当に彼女のような人間ばかりなら世界に争いは起きなかったかもしれない。
 柄にもない事を考えながら森を歩いていると、前を歩いていた観鈴が立ち止った。

「向こうに…だれか倒れているよっ」
 そう言って走り出した。
 暗いのに良く見えるな…。ってそれどころじゃない。
「おいっ! 走ったら危ないぞ」
 俺達は観鈴を追いかけて行った。


「………時紀さん…」
 観鈴は立ち止り足元の人影をじっと見つめる。
「もう…この人―――」
 観鈴の足元に広がる赤い染み。
 血溜まりの中に仰向けに横たわる少女がいた。
459想いを胸に:04/05/28 02:52 ID:y9ou0Zq2
「すでに…死んでるわ…」
「もう…いやだよっ…こんなのっ…て」
 観鈴は泣きじゃくる。
 改めて少女の姿を見る、どこかの学校の制服。
 胸を数発撃たれ制服は朱に染まっていた。
 触ってみる、まだ体温が残っていた。
 まだ命を落として間が無いのだろう。

 ―――むごいな。
 俺は少女の亡骸を見て思う。
 彼女の顔、目を見開いている。
 その瞳は自分の運命に最期まで抗おうとした強い意志が感じ取れた。
 無念さと満足さが同居した表情。
 彼女は最期、何を思ったのだろうか。
 俺は顔に手を伸ばす。
「アンタ…何するつもり?」
「いや…目を閉じさせてやるつもりだが」
 そう言って俺は彼女の目を閉じさせてやる。

 せめて安らかに眠れ――。
 柄にも無いことを、俺は思った。

「さて、行くか…彼女を置き去りにするのは気が引けるが……ん? これは…?」
 俺は横たわる少女のポケットからはみ出ているものに気が付いた。
460想いを胸に:04/05/28 02:53 ID:y9ou0Zq2
 写真。
 少女のポケットからはみ出していたものは三枚の写真だった。
 男の顔が移っている。
『岡崎朋也』
『那須宗一』
 裏には名前と簡単な経歴が書かれていた。
 一人目はごく普通の高校生、彼女が好きだった男だろうか。
 二人目は世界中で活躍するエージェント。何者だこいつ?
 そして三人目―――。

『芳野祐介』

 要注意人物、と書かれていた。
 この男…ゲームに乗った者の一人なのか…。
 俺は彼女がしようとしてた事がなんとなく察しがついた。
(そうか…彼女も俺と同じような目的だったんだな…。
 このふざけたゲームに抗おうとして…)

「すまない、この写真貸してくれないか」
 俺は彼女に一言断りを入れる。
「あんたの想い、俺にも背負わせて欲しい。俺がこんなゲームぶっ潰してやる、だから―――ゆっくりと休んでくれ」


 俺は歩みだす、名前も知らない彼女の想いを胸にして。
461想いを胸に:04/05/28 02:54 ID:y9ou0Zq2
【031木田時紀 鎌 朋也・宗一・芳野の写真】
【094宮路沙耶 南部十四年式(残弾9)】
【023神尾観鈴 けろぴーのぬいぐるみ ボウガン(残弾5)】
【時紀は芳野をゲームに乗った者と認識】
【三回目定時放送直後】
【とりあえず住宅街へ行って別れるつもり】
462想いを胸に・修正版:04/05/28 13:52 ID:y9ou0Zq2
忌々しいジジイの声がする、三回目の定時放送。
『34番、栗原透子……』
 その名前に俺は愕然した。

「嘘…だろ…栗原が……死んだ…」
 信じられなかった、信じたくなかった。成り行きとは言え俺と肉体関係を持った彼女、日常の中心。
 打ちひしがれる俺にさらなる非情の言葉が投げかけられる。
『50番、須磨寺雪緒……』
『68番、葉月真帆……』 
「そ…んな……」
 まただ、また俺の何気ない日常が壊されてゆく。
「畜生…畜生畜生畜生畜生畜生畜生ォーーーーっ!!」
「時紀さん……」
「アンタ…ここでヘタれるつもりは無いでしょうね? アンタの決意、忘れたちゃいないわよ。主催者とゲームに乗った参加者を殺す、アタシやアンタみたいな人間をこれ以上増やさない、そう決意したんでしょ」

 沙耶の言葉が胸を打つ
 糞ジジイのゲームのため、幾人もの罪の無い者がこの島で死んでいった。
 そしてゲームに乗り、殺戮を繰り返す馬鹿共。
 俺は絶対にそいつらを許せない、そう決意したんだ。
「ああ…それは忘れてはいない。ただ…少しの間あちらを向いてくれ」
 涙で歪んだ顔を見せたくない。

「わかったわ」
「ありがとう」
 俺は泣いた。
 声を押し殺しながら泣いた。
 泣いた所であの日々は帰ってこないというのに。
 それでも静かに俺は泣いた。
463想いを胸に・修正版:04/05/28 13:53 ID:y9ou0Zq2
三回目の放送後、俺達は住宅街に向け森を移動していた。
 俺の自己満足のために彼女らを危険に曝すわけにはいかない。
 だから、
 ―――別れよう。
 二人にそう言った。
 
「また…人が死んじゃったよ…」
「どうして…みんなそんなことするんだろう……」
 ぽつりぽつりと話す観鈴。
「ねえ、なんでみんな仲良くできないのかなあ…」
「わたしと時紀さんと沙耶さん、三人手を繋いで友だち」
「みんなと友だちになればこんな悲しい思いをしなくてすむのに…」

 この狂気の島でなんでこいつはこんなにも無邪気でいられるんだろう。
 いつ殺されるかわからない状況で無邪気に振舞える。
 俺はそんな彼女が少し羨ましかった。

 無邪気さが羨ましい…か、柄にも無い事を考えながら森を歩いていると、前を歩いていた観鈴が立ち止った。

「向こうに…だれか倒れているよっ」
 そう言って走り出した。
 暗いのに良く見えるな…。ってそれどころじゃない。
「おいっ! 走ったら危ないぞ」
 俺達は観鈴を追いかけて行った。


「………時紀さん…」
 観鈴は立ち止り足元の人影をじっと見つめる。
「もう…この人―――」
 観鈴の足元に広がる赤い染み。
 血溜まりの中に仰向けに横たわる少女がいた。
464名無しさんだよもん:04/05/28 13:55 ID:y9ou0Zq2
「想いを胸に」の修正版です。
>>457>>458と差替えて下さい。お願いします。
465「新しい台本」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/28 15:58 ID:xj4GrnI4
 その時の声を、はっきりと憶えている。

 一番最初に会った人に裏切られ、誰も信用できなくなったこの島で、
『一緒に行かないかい?』と、穏やかに呼びかけてくれたときの声を。
 怯えるだけで何もできない自分を、何度も支え、守ってくれた。
 たった一日の出会い。だけど、彼の声も表情も、全部克明に思い出せる。
 疲れている自分を気遣って、階段を抱き上げて運んでくれたこと。
 慰めて、と膝の上に甘えてきたこと。
 僕がついているから、と抱き寄せてきたときのこと。
 必要以上に接触が多かったのは、寂しかったからではないだろうか、と今は思う。
 だけどその触れあいに、自分はずいぶんと助けられた。
 信じると言うことを砕かれたこの島では、誰もがきっと寂しい思いをしているだろう。
 寂しくて恐くて、心が壊れてしまった人も、たくさんいるのだろう。
 自分は二人だった。だから耐えられた。
 でも、もう二人じゃない。彼は死んでしまった。あたしを守るために。
 あたしを一番最初に騙そうとした人、巳間晴香に。
 でも、そのことはどうでもいい。
 あの人は、彼の知り合いだった。知り合いなのに……殺した。
 彼を見ていた目は酷く冷めていて、涙すらこぼそうとしない。
 その後の行動もひたすらに理性的で、揺らいだ様子すらなかった。
 あたしはこんなに苦しいのに。
 苦しくて悲しくて、殺してやりたいって思ったのに。
 殺してやれば良かった。どうしてあそこで止まってしまったのだろう。
 泣いている暇なんてない、悲しんでいる暇なんてなかった。
 ただ、軽く引き金を引けば、それで終わったかもしれないのに。
466「新しい台本」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/28 16:00 ID:xj4GrnI4
 終わり。
 何が終わるんだろう。
 彼との時間。彼と一緒の時間。彼との間に育んだ気持ち。
 まだヒビすら入っていなかった、恋心という名の卵。
 いつか孵ったかも知れないそれは、簡単に割られてしまった。
 もう戻らないから、それで終わり。
 じゃあ、戻らないなら、やっぱり殺す必要なんてないのか。
 ――ダメだ。
 許せない。
 後悔と一緒に別の感情が湧いてきている。
 この気持ちは知っている。作ったことがある。台本さえあれば、あたしはどんな役柄も演じるから。
 だけど知った。あの時作っていた気持ちは嘘だ。
 上辺をなぞっていただけで、本当に心の奥底から湧いた感情じゃなかった。
 こんなにどす黒くて、胸の奥がかきむしられるような感情は、今まで生じたことがなかった。
 単純な憎悪とか怒りとか恨みとか悲しみとかそんなものじゃない。もっと混沌としたもの。
 噴き上がる寸前の、渦巻く溶岩のような、熱く濁った気持ち。
 ――分かった。
 これが、嫉妬だ。
 最後にあの人の目に映っていたのは――あたしじゃなかった。
467「新しい台本」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/28 16:04 ID:xj4GrnI4

 目を覚ましたとき、若い男の人と、小さな女の子が、掘り終わった穴にあの人を横たえていた。
「なにしてるんですか……」
「死者は弔うものだ」
 耳の長い女の子が静かに答えた。ずいぶんと慣れているような感じ。
 この人も、人の死が身近にあったのかな、と漠然と思った。
 彼のそばに寄って、その頬に触れる。
 嘘みたいに冷たい。髪の手触りすら違っているような感じがした。
 今朝みたいに、くすぐったいって、笑ってくれればいいのに。
 満足そうに笑っているのはどうしてだろう。まだ全然終わってなんかいないのに。
 あたし、こんなの全然嬉しくなんかないですよ? 
 守ってくれるのも、世話してくれるのも、迷惑をかけることさえ嬉しかったのは、
 あなたが生きて、笑っていてくれたからなのに。意味ないじゃないですか。
 あたしがすぐパニックになっちゃって、それでこんなことになっちゃったんだから、あたしが死ねば良かったのに。
 そしたら、あなたの驚いた顔が見られたかもしれない。怒った顔が見られたかもしれない。
 でももう、あたしは記憶の中の、あなたの笑顔しか見られないんですね。残念です。
 あなたの知り合いのあの女の人は、あなたの笑顔以外の顔を見たことがあるんでしょうか?
 ――嫌だな。
 あたしはあなたの一日分しか知らないのに、あの人はもっとたくさんのあなたを知っているんだ。
 たくさん知っているのに、あたしから一日分だけ残して、あなたの全てを奪ってしまった。
468「新しい台本」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/28 16:06 ID:xj4GrnI4
 あ。
 やっぱり、許せない。
 最後に名前を呼んでくれていたら、こんな気持ちにならなかったのかもしれませんね。
 その一言だけで生きていけたかもしれない。でも――。
 あたし、あの人を殺しますから。
 さっきは、あんな陳腐な言葉に惑わされちゃったけど、あたしのせいであなたが死んで、
 目の前で殺されて、それで――笑って日常に戻れるわけない。
 だからこれ、貸してください。あなたの形見のこの拳銃。代わりに別のもの、置いていきますから。
 あたしはナイフで、髪の毛を襟元から切った。
 息を呑む声が聞こえたけど、無視してあなたの上に束ねて置いた。
 ドラマとかアニメとかでは良くあるけど、自分がこんなことするとは思わなかったです。
 でもこれで、今、あなたの一番近くにいるのはあたしですから。
 首筋が少し寂しかったけど、胸の奥の空洞に比べたら、大したことはなかった。
 それじゃ、さよならです。
 あたしは彼の上に、土をかけた。
 誰にも手伝わせず、土の中に埋もれていく彼の姿を、目に焼き付けた。
 何度も視界がにじんだけど、声は出さなかった。
469「新しい台本」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/28 16:09 ID:xj4GrnI4

「それじゃ、あたし、行きますから」
 あたしは彼の荷物をまとめ、背負った。彼が残したものだ。誰にも渡さない。
「なんや、うちらのことここまで引っ張ってきておいて、お礼も詫びもなしかい」
 関西弁のおばさんが、やたらトゲのついた言葉を投げる。
 なに苛ついているんだろう、この人。役に立たなかったくせに。
 銃なんか持っていても、撃てなかったくせに。あの人が死んだ後に、ノコノコ来ておいて。
「ご迷惑をおかけしました。ごめんなさい。ありがとうございました」
 面倒なので、事務的に頭を下げたら、憎悪がこもったような険しい目つきであたしを睨んだ。
 昨日までのあたしだったら、萎縮して、意味もなく謝り倒していたかもしれない。
 でも、今のあたしなら、殺意すら素通りさせられるような気がする。
 もう、この人達に興味はなかった。
「ちょっと待ってよ、あさひちゃん。行くったって、あてなんかないんだろう。
 それより、俺たちと一緒にいた方が安全だし……」
「いいです。あなた達とあたしの目的、たぶん違いますから」
 男の人が気遣うけど、今は邪魔。素っ気なく拒絶する。
「はっ、小娘一人がこんな島で何ができるとおもっとるんや。銃持ってたって、あんた、撃てへんやろ」
「さっき止められなければ、撃ってました。今度は止められても撃ちます。
 あの人、やっぱり殺さないと、気が済みません。もう日常になんて、戻れなくていです」
 シンと辺りが静まりかえる。
 おばさんは睨んでいる。女の人は肩をすくめた。男の人は同情するような表情。
 小さい女の子は――、
「それもよかろ」
 変な口調で賛同した。
470「新しい台本」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/28 16:13 ID:xj4GrnI4
「だが一つだけ言っておくぞ。自分がどれだけの信念を持って行おうと、人殺しは人殺しだ。
 その信念が揺らぐほど、後味の悪い思いは絶対にする。止めはせぬ。が、覚悟は決めておくがよい。
 人の命を奪うということはな、その分、自分の心も殺していくことになるのだ」
 それぞれが、様々な表情を浮かべて、彼女を見た。
 この人、人を殺したことがあるんだ。
 少し話をしてみたいと思ったけど、でも、優先することがあるから。
「そですね。後で後悔するかもしれません。
 ですけど……今の気持ちが一生続くよりは、ずっとマシだと思いますから」
「――復讐を遂げて、疲れたら、帰ってくるがよい。良いな。死ぬことは許さぬぞ」
 なんでこの娘、こんなにえらそうな口調なんだろう。だけど、あんまり不愉快じゃない。
 あたしのことを理解して、心配して、それでも送り出してくれるからだろうか。
「憶えときます。それじゃ」
 女の子は、もう何も言わなかった。

 歩きながら、自分に暗示をかける。今からあたしの役柄は、『復讐者』。
 愛の行方を失った女が、半ば嫉妬に灼かれながら、彼の仇を討つために復讐を始める。
 台本はない。全部アドリブ。できるだろうか?
 ――うん、できる。
 だって、これはあたしの本当の気持ちだから。
 いくらか脚色はあるけど、そういう設定にしておけば、今までとは全く違う自分を違和感なく受け入れられる。
 ためらいなく、殺せる。彼の銃で。
 あたしは手の中の冷たい銃に、確かに彼の温もりを感じていた。

【042 桜井あさひ キーホルダー 双眼鏡 十徳ナイフ ノートとペン 食料六日分 眼鏡 ハンカチ
   S&W M36(残り弾数4)S&W M36の弾20発 腕時計 カセットウォークマン 二人分の毛布 『短髪』】

【022 神尾晴子 千枚通し 歪んだマイクロUZI(残弾20発)20発入り予備マガジン×1 】
【002 麻生明日菜 ショートソード ナイフ ケーキ】
【018 柏木耕一 ベナウィの槍 (左腕負傷中)】
【033 クーヤ 水筒(紅茶入り) ハクオロの鉄扇 サランラップ25m 短刀】
【時刻は15時すぎ】
471:04/05/28 21:33 ID:WztjpxWQ
 最後に聞いた声。
 いつも聞いていた声。
 私を助けてくれた声。
 その声を聞くことはもう出来ない。
 悲しい事にそれは現実で、もし夢だったらどんなに救われる事か。
(私、もう疲れちゃったよ……お兄ちゃん)
 このまま眠り続ければ、兄の元にいけるのだろうか?
 いつもふざけていたけれど、いざという時には必ず自分を守ってくれた兄の元に。
(もう……いいよね)
 そうして意識を再び閉ざそうとした時──


『お兄ちゃんの死を無駄にするな!!』


「……起きたようだな」
 目を開けて一番に見たのは兄の顔ではなかった。
「…もしかしてさっきの俺の話、聞いていたか?」
 なんの事だかさっぱり分からない。
 そもそも目の前にいる人物とは面識がない。
「松浦くんが怖い顔してるからだよ。そんな顔を起き抜けに見たら誰だって泣いちゃうよ」
 言われてまで気がつかなかった。
(泣いてるんだ……私)
 本来なら目の前にいるべきなのは、この無表情な男の人ではなく春原陽平のはずだった。
 あるべきものがない喪失感。
 なくしてからやっと実感できるその感覚。
 芽衣の現実にも、夢の中にも兄の姿はない。
 しかし芽衣を現実に引き戻したのは兄の最後の言葉だった。
「……俺はそんな顔をしているか」
 名も知らぬ男の人は大真面目に姿見で自分の顔をまじまじと覗いていた。
「大丈夫だよ。松浦くんは見た目はともかく本当はやさしいから」
472:04/05/28 21:35 ID:WztjpxWQ
 全くもってフォローになってない。
 どうやら男の人もそう思ったらしく
「……」
 沈んだ表情をして黙り込んでしまった。
「くすっ……」
 駄目だ。どうしても笑いが込み上げてきて抑えきれない。
「あはははは……」
 もう1人の女の人も釣られて笑い出す。
 お兄ちゃんの声が私を現実に引き戻した理由……分かった気がする。
 それは多分…ここなら私がまた笑えるようになるから。
 男の人の表情がさらに暗くなるがそれでも止まらない。
 しばらくそのまま取りとめもなく笑い続けていた。


「ご迷惑をかけました、もう大丈夫です。あ、それと泣いたのは松浦さんのせいじゃないですから……」
「……そうか、ならいい」
 う…そんな暗い表情で言われても。
 なんだか松浦さんの心に癒せない程の傷を負わせてしまったような気がする。
「……気にするな、元からこういう顔だ。取りあえず……」
 松浦さんは何かを言いかけて、私の顔をまじまじと見る。
「俺の方も謝っておかないといけない」
「……どうしてですか?」
 私の方が謝ったり感謝したりする事はあっても、松浦さんの方に謝られる理由はない。
「俺は君を殺そうとした」

 心臓が飛び出しそうになった。

「理由はなんであれそれは言い訳にしかならない。だから俺は事実だけを君に言う。
 これを知ってどうするか……俺の元を去るか、俺と一緒に来るかは君自身が決めるんだ」
 松浦さんは妙な形の玩具を手でいじりながら私に決断を迫った。

 お兄ちゃんの声が私を引き戻した理由はまだ分かりそうにはなかった。
473:04/05/28 21:37 ID:WztjpxWQ
【024 神岸あかり 木彫りの熊 きよみの銃の予備弾丸6発】
【047 春原芽衣 筆記用具】
【084 松浦亮 修二のエゴのレプリカ 予備食料の缶詰が残り5つ】
474覚醒:04/05/28 21:50 ID:ZsggmRYZ
「……なんだ、夢だったのか…」

あかりは、朝の布団の中で一発、屁を放った。
「なあ。これどうするよ」
「あ?」

第三回定時放送間近のホール。支給品の車──確かミルトと言ったか──の襲撃により損壊した区域の修復にあたっていた俺に、不意に同僚が話しかけてきた。
作業する手を止めて同僚の方を見やると、その手にはバッグが一つ握られていた。そのバッグには見覚えがある。確かめるまでもなく、そのバッグはこのゲームの参加者連中に配布された物だ。
「まさか野ざらしのを回収して来たのか?」
「馬鹿言うなよ。コイツは初めからここにあったぜ」
は?とうっかり間抜けな声を漏らしてしまう。が、正直無理もない。突然同僚の頭のネジが一本飛んでしまったのだから。そりゃ面食らってそんな声も出る。
「スタート前に一人死んだだろ。月島とか言う奴。アイツに支給される予定だったヤツだよ」
あ。と俺はまた間の抜けた声を漏らす。どうも頭のネジが飛んでたのは俺の方だったらしい。いかんな。若年性痴呆症か?
「──で、正直どーするよ。この余り物」
同僚が改めて訊ねてくるので、俺は正直に思うままを言い返す。
「ホールの外に放り出しときゃいんじゃね?誰か参加者が拾って使うだろ」
「そーだな。物資が多い方がゲームも進むだろーし…んじゃ、パッパとそーしてくるわ」
言うが早いか、同僚は破損したホールの外壁から外に出て行く。
「おー。ご苦労さん。早めに戻って来いよ」
「あー」
さて、仕事を再開するかね。あいつが戻って来る前にこの穴を塞いでやらないとな。


「よ、お待たせ」

やっぱ無理だった。

【月島拓也に支給される予定だったバッグ、ホール近くに放置される。中身不明】
【時刻:第三回定時放送直前】
476<誘導>:04/05/29 00:16 ID:98UOZAgj
新スレ: 葉鍵ロワイアルII 作品投稿スレ! 4

http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1085756778/
477名無しさんたよもん:04/05/29 00:51 ID:Re3XH9zX
   「歌にあわせて」

 渚たち五人があの家を立ち去ってから、かなりの時間が経った。
 とはいえ、女、それも非力な少女の多い大所帯。休み休み進んでいる為、中々進まない。
(大分疲れてきました……。頭がぼうっとします)
 途中休み休み来ていたとはいえ、それでも体力のない渚の体には大分こたえた。
 体がかなり熱っぽい。
 横を見ると、広瀬真希は額に汗を浮かべながら少女を背負って歩いている。
「大丈夫ですか?」
「平気よ」
 広瀬は気丈に笑って答えた。
 それを見ると、頑張らないといけないと思う。
(でも、油断していると気絶してしまいそうです)
 何か、気の紛れる事を考えよう。そう思い、渚は頭の中でだんご大家族の歌を歌った。
(だんごっ、だんごっ) 
 歩くリズムにあわせて。
(だんごっ、だんごっ)
 そうしていると、不思議と足が軽くなったような気がした。
 右足、左足。
(だんごっ、だんごっ)
 右足、左足。
(だんごっ、だんごっ)
「幸せそうね」
「はい?」
 見ると、広瀬がジト目でこちらを見ている。
 幸せというよりむしろ体はつらいが、人を一人担いでいる広瀬に向かって実はつらいんですなんていうのも気が引ける。
 仕方がないので、渚は笑った。
「あはは……」
478名無しさんたよもん:04/05/29 00:53 ID:Re3XH9zX
 すると、広瀬もふっと微笑んだ。
「なんか、あんたを見てると和むわ」
「そ、そうでしょうか……」

「見てください」
 エルルゥが声をあげて前方を指した。
 顔をあげると、もう、すぐそこに住宅街が見える。
「チョット、待ってろヨ」
 安全そうな家を探してくると、エディがそう言って一人駆け出した。

 残った三人は草陰に腰を降ろす。
「あー、疲れた疲れた」
 広瀬が少女を横たえる。少女が目を覚ます気配は、まだない。
「お疲れ様です」
 エルルゥが優しくねぎらう。
 渚はぼんやりとその光景を見ていた。
(座ったら、余計に頭がぼうっとしてきました)
 くらくらと倒れそうになってしまう。

『生き残りの諸君、聞こえるか? ――』
 
 ぼうっとしていた頭が一瞬で覚醒する。

『――今回も大盛況、3回目の定時放送の時間だ』

 それは定時放送の始まりだった。 
 
 
479名無しさんたよもん:04/05/29 00:54 ID:Re3XH9zX

【072 広瀬真希 所持品:『超』『魁』ライター 便座カバー バッグ 食料と水多めに所持】
【11 エルルゥ 所持品 乳鉢セット 薬草類 バッグ 食料と水多めに所持】
【81 古河渚 所持品 バッグ 食料と水多めに (ワッフルとジャムは海の家に置き去り) 少し熱っぽい】
【10 エディ 所持品:盗聴器 尖った木の枝数本 ワルサーPP/PPK(残弾4発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ、果物ナイフ】
【087 美坂香里 所持品:なし 昨晩の満身創痍の疲労と広瀬が突きつけた『現実』に気絶】

【四人は住宅街の側で休憩】
【エディは安全に休める民家を捜索中】
【時間、定時放送がまさに始まった瞬間】
480名無しさんだよもん:04/05/29 01:04 ID:JE85J6Oq
ts
481名無しさんだよもん:04/05/29 01:16 ID:UnON9d+E
岡崎朋也が森の中をさまよっていると、
「……!っ」
10m程離れたところに芳野祐介がいた。朋也のことは気付いていない。
そして、それは数秒間での出来事だった。
「芳野ーーーーっ」
「!?」
武器を片手に勢いよくせまってくる朋也。
芳野祐介はその方向へ振り向いたが、反応が遅すぎた。
芳野の頭部を思いっきり強打する。
ズカッ!!
「……くっ」
「…やったか?」
「……」
「…フッ…さすがゴッグだ。何ともないぜ!!」
芳野は顔を上げ、不敵な笑みで朋也を見据えていた。
http://www.geocities.jp/know_ka/gok.asf
【 芳野祐介 所持品:ゴッグ】
482名無しさんだよもん:04/05/29 01:27 ID:UnON9d+E
\________ ______________________/
             O モワモワ
            o
          ( ⌒ ⌒ )
          (     )
          (、 ,   ,)
            || |‘
        / ̄ ̄ ̄ ̄\
        l ∨∨∨∨∨ l
        |   \()/   |    
        (| ((・) (<) |)     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        |    ⊂⊃   |    / ・・・という夢を見たんだが 
       | .| ⌒ \.l/ ⌒ | |  < 俺は気分をこわした。
     / |. l + + + + ノ |\  \  お前に決闘を申しこむ!
    /   \_____/  \  \_____表にでろ______
  /   _              \
 // ̄ ̄(_)               |
 |ししl_l  (            |    |
 |(_⊂、__)            |    |
 \____/              |

483名無しさんだよもん:04/05/29 01:29 ID:UnON9d+E
   ___        _     __            , 亠 、         __     __
  〃´`ヾ,     r'r−‐ニニ−、ヽ   , -- 、  _i,. -−'r__   __,〃−‐‐、ヽ //´ ̄`!i
  ll    ll     〉ヽ、_, - 、_,ノノ   ll´ ̄ヽ ‐'二!、_f_,ノ ̄`i`!j( ̄`ヾ    //__//   〃
  ll  〃 ̄`ヾ'v'r'´ ̄` ー ´ ̄`i.    ll   ll(__     / r−ニー'  ,. −‐、く   //___
  ll  ヾ:、,_,ノ八`'ー‐─‐----〃 ,,,,.ノノ   /  /     く ,.−'=、=′,.ィ '、    }.}    Y´ ̄`ヾ:,
 .jj,.− 、 |「 ̄´ 〃===r'r'´ ̄`'、,r'r'´ ̄`'、 / /   ,.、   {     }}  (_,ノ `ァー ツ ,.ィ  '、___,ノノ
 {{,    ,}}    |i____'、'、   ノ'、'、   ノ/ /  / 'ヾ:、  `'┬'ツ     // ̄ /ィ.|    //´
  `'==' _   ̄ ̄ ̄` '='´  ``'='´´  ヾ='´´   ヾ'='´'~`ヾ'=='´´ヾ'='´´ ヾ'==' '
 ヽ/  ′/  ┼ 、ヾ /|~ヽ −/―  /  /
 (__  / ノ  ノ ノ  〈_ノ  ノ ./、\  \  /ヘ_ノ     〜 腰 を 突 く モ ノ  〜
484名無しさんだよもん:04/05/29 01:30 ID:UnON9d+E
カイオウ  「戦うと元気になるなあ、ケンシロウ。死を意識するから、生きることが実感できる」
ケンシロウ 「その先にあるものが破壊だから、北斗宗家の拳は封印されました」
カイオウ  「違う。救世主伝説を繰り返す為には、戦い続けなければならんから残っていた」
ケンシロウ 「自分勝手な解釈をするな」
カイオウ  「貴様は戦っているぞ」
ケンシロウ 「あなたがいるからでしょ」
カイオウ  「私は新世紀創造主だ。封印されたままというわけにはいかん」
ケンシロウ 「戦いの歴史は、繰り返させません」
カイオウ  「もう一度封じられるか? このカイオウを」
485名無しさんだよもん:04/05/29 01:31 ID:UnON9d+E
               ,ィ":::::::::::::::::::;;;;;:ii>;,、
                 /:::::::::::::::;;;;;;;;iii彡" :ヤi、
               i::::::::::::;:"~ ̄     ::i||li
                |:::::::::j'_,.ィ^' ‐、 _,,. ::iii》
              |:::i´`  `‐-‐"^{" `リ"  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                 ヾ;Y     ,.,li`~~i   |フハハハハハハハ!!君達はこの 
                  `i、   ・=-_、, .:/  < ラピュタ王の前にひれ伏すのだ!!
                 ヽ    ''  .:/     \_______________
             /`ー、  ハ   ̄ │ ,r'~`ヽ、
          ,.ィ" ri l i ト、 1:|   つ ヽ7、 、 y;  ヽ、_
      ,. -‐''" 、 くゝソノリ~i | - 、 , -‐'7ハ ヾニト-    ~` ー- 、_
   , ィ ´      ,ゝ、_ `r'   l |  、レ // `テ三..ノく _ `       ヽ、
  /       , -' ,、  `、_)   l,i,  i //  (/  ...,,;;;;:` 、        ヽ
 ;'       '" ノ ;;;;::::      i !  : //    .....:::::;;イ、_、_\ _    _ノ
 l ..,, __,ィ"-‐´ ̄`i::::: ゙゙゙= ...,,,,,. l | ,//  - = ""::;; :/       ` '''' '"
            ヾ :;;;,,     ,i l,//     ,,..," /         _,,.....,_
   ,. -- .,_        \ :;,.   ;'  V ;!   `;  /;: ノ      ,.ィ'"XXXXヽ
  /XXX;iXXミ;:-,、     ヾ  '" ''' /./!  ヾ   /    ,. - '"XXXXXXXX;i!
 ,!XXXXi!XXXXX;`iー;,、  i   、. / ;:::゙i   ;: , |  ,. r'"XXXXXXi!XXXXXX:l!
 |XXXXX;|XXXXX;|::::::::|`ヽ、    ,! ,': : :|    ,.レ"::::|XXXXXXX|XXXXXXX;l!
 !XXXXX;|XXXXX:|:::::::::i  `   ;! : :  i!  / !:::::::::|XXXXXXX|!XXXXXXX|
 XXXXXx|XXXXX;!:::::::::::!   `. /::    | '"   l:::::::::::|XXXXXXX|XXXXXXX |
 
486名無しさんだよもん:04/05/29 01:40 ID:bC4AoGQ0
>>477
GJ!!!
487名無しさんだよもん:04/05/29 02:25 ID:RcMQawn4
カイオウ  「戦うと元気になるなあ、ケンシロウ。死を意識するから、生きることが実感できる」
ケンシロウ 「その先にあるものが破壊だから、北斗宗家の拳は封印されました」
カイオウ  「違う。救世主伝説を繰り返す為には、戦い続けなければならんから残っていた」
ケンシロウ 「自分勝手な解釈をするな」
カイオウ  「貴様は戦っているぞ」
ケンシロウ 「あなたがいるからでしょ」
カイオウ  「私は新世紀創造主だ。封印されたままというわけにはいかん」
ケンシロウ 「戦いの歴史は、繰り返させません」
カイオウ  「もう一度封じられるか? このカイオウを」
http://homepage3.nifty.com/kyofkyvo/img-box/img20040528011746.jpg
http://upkey.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/up/1085682452.jpg
http://homepage2.nifty.com/Mafty/html/ikai.html
488名無しさんだよもん:04/05/29 02:36 ID:RcMQawn4
◎◎◎
    ◎   米 \     ________
    /   ∧ ∧ \  /
   |     ・ ・   | < チューパソ乙おめー
   |     )●(  |  \________
   \     ー   ノ    
     \____/
http://homepage3.nifty.com/kyofkyvo/img-box/img20040528011746.jpg
http://upkey.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/up/1085682452.jpg
http://mayhem.net/juke/bodiesbeat1.html
http://homepage2.nifty.com/Mafty/html/ikai.html

489名無しさんだよもん:04/05/29 03:03 ID:RcMQawn4
幻想虎徹LVMAXを発動させる栗、その正体は栗の十数倍もの大きさの光の剣だった
それを目にした列車は斬りつけられたら跡形も残らないだろうと一瞬怯むが、
絶対に負けられないと栗に向かって銃を構える。
しかし、列車は度重なる出血とダメージの為、上手く照準が合わせることができない
焦る列車、そこにどこからともなく手が差し出され、ハーディスの銃把に添えられる。
見ると、傍らにはサヤが立っていた。サヤの手を借りハーディスを構える列車。
現れたサヤを見て激昂した栗は渾身の力で列車に斬りつける。
それに対し列車は炸裂電磁銃を放って迎撃するが、発砲の反動でハーディスの銃身が破壊されてしまう。
放たれた銃弾は幻想虎徹と押し合い、辺り一帯を照らすほどの光を放ち爆発する
爆発の後に残ったのは、建物の残骸と、攻撃を押し切られ
「ありえない・・・なぜ・・・不死となり・・・神となった僕の幻想虎徹が・・・」と呆然とする栗
押し切られた幻想虎徹にはヒビが入り始め、同時に瓦礫の中から列車が立ち上がり栗に話し掛ける
「な・・・何も・・・ねぇからだよ・・・てめぇには折れそうな時・・・心を支えてくれるモンが一つもねぇ・・・。
"仲間"も・・・"信念"も・・・。神なんかじゃねえよ、クリード、てめぇは神になろうといきがっているただの人間だ。」

【 071 雛山理緒 所持品:枕大の鉄入りザック、包丁、白うさぎの絵皿、水風船1コ】
490名無しさんだよもん:04/05/29 15:57 ID:DXFGu6Ng
 ,――――-、
  /lVVVVVVVV
  ||  ⌒ ⌒丶
  ||   ・ ・ |   / ̄ ̄
  C     ∧  | < つぎはボボボボボーボボ、みろよナ〜
   ヽ    U  /    \__
    ヽ__o__/
   ,rn
  r「l l h
  | 、. !j
  ゝ .f         _
  |  |       ,r'⌒  ⌒ヽ、.     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ,」  L_     f ,,r' ̄ ̄ヾ. ヽ.   ∠ おまたせ!
 ヾー‐' |     ゞ‐=H:=‐fー)r、)    \____________
  |   じ、     ゙iー'・・ー' i.トソ
  \    \.     l ; r==i; ,; |
   \   ノリ^ー->==__,..-‐ヘ___
     \  ノ ハヽ  |_/oヽ__/     /\
      \  /    /        /  |
        y'    /o     O  ,l    |


491名無しさんだよもん:04/05/29 16:00 ID:DXFGu6Ng
                     ,..-''"``ヽ、
   ,..-'""``ヽ、 ,...---――‐-..,/  ,.ヘ   ヽ
  /   ,..、   `´            ' ,/´`i   l
  ! ,.....! ヽ                  ノ   !
  l \ `ヽ                     l
  ヽ     -,..-‐-、         ,..:=::ヽ彡  /
   \,  `7:◯::::::ヽ        /::○:::::::l_,,._l゙゙i_
    」゙i_ `''!::. o :::゙i       !:::. o :::! L 」
   ヾ_Z  l:::... ..:::::ノ   ___   ヾ:::.. ..::::ノ  Ll
     ゙l‐- ヾ、;;:: -'"   '、::ソ    ゙''ー'' -‐‐メ      クリック募金しよ♪
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      /ー- `二''――┬┬─_''二ニ-‐‐|
      /     ,. ̄二‐+-+-二__     |
     /    ,.'´ ,..-、、``´´,..-、 `ヽ   |
     /     i  i    ※   !  i    |
http://www.runarudo.flnet.org/newpage21.htm

492名無しさんだよもん:04/05/29 16:07 ID:DXFGu6Ng
        _
              /  \―。
            (    /  \_
             /       /  ヽ   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         ...―/          _)  < ちんちん シュッ!シュッ!シュッ!
        ノ:::へ_ __    /      \_____
        |/-=o=-     \/_
       /::::::ヽ―ヽ -=o=-_(::::::::.ヽ
      |○/ 。  /:::::::::  (:::::::::::::)
      |::::人__人:::::○    ヽ/
      ヽ   __ \      /
       \  | .::::/.|       /
        \lヽ::::ノ丿      /
          しw/ノ___-イ
           ∪
493名無しさんだよもん