「あ、ああっっ……!!」
可愛らしい嬌声。そんな雪緒の声が一層嗜虐心を掻き立てていた。
奥に達する前に、ぐっ、ぐっ、と腰を振る。
「うぅっ……あっ! ……ああっ!!」
そのたびに声を上げる雪緒。
「あっ……藤井さん、私、もう……!」
雪緒の声が響く。
もう、抑えておくのは限界だった。
ぐぐぐっと、一気に腰を屈める。ペニスが、雪緒の奥に入っていく。
奥のほうに入ったとき、途端に感じる何かを破る感触。
ぷち……ぷち……。
「うぅ……あっ、はぁっ……!!」
雪緒の、処女膜が破れた音だった。
最後に、それまで抑えていた精液が、我慢できずに一気に雪緒の中に放出される。
「あぁぁぁぁぁっっっっ……!!」
雪緒の、最後の声が妙に愛らしく感じた。
「……藤井さん」
ベッドの後始末をした後、雪緒は冬弥に話しかけた。
「ん?」
「子供が出来ていたら、責任は取ってもらうわよ?」
その言葉にドキッとする。
勢いで、中に出してしまったが……。
「まさか、雪緒ちゃん。今日って……」
「ふふ、冗談」
その言葉にほっとする。まだ、自分にそんな甲斐性はない。
「でも……そうでなくても、これからずっと一緒にいたいわ」
顔をほんのり赤くし、俯き加減にボソリと呟く。
「ああ、俺は雪緒ちゃんからもう離れない。ずっと、一緒にいるよ。純潔も奪っちゃったことだし、ね」
雪緒の言葉に、胸を張って冬弥はそう答えた。
それはすなわち、決別。島の外で自分を待つ、由綺への。
彼女以外の人物と一夜を共にする。これが最後のけじめ。
冬弥は心の中で、元彼女に最後の別れの言葉を発した。
―――――さよなら、由綺
【73番 藤井冬弥 グロッグ17 残り11発】
【50番 須磨寺雪緒 所持品なし】
【一回戦終了 時間帯は二日目夜】
以上です。
もし二人が長瀬ちゃんに殺されずに二日目夜まで生き残れていたら……ってことで。
>>954生`
この二人の殺され方で一つ腑に落ちないのがある。へタレ冬弥なら絶対に長瀬ちゃんに話しかける度胸もなく逃げていたっ!
俺がそう書いていたんだから、間違いない。
しーちゃん復興計画の一環として準備していたもの。
時間軸的には、直前に透過されたものの、前に挟めるかと思ったが、
ややこしくなるし、アイテム矛盾もありましたので、素直に没としたものです。
しのぶはゆっくりと、波打ち際に向かって歩いた。
はねた波が靴を濡らす。靴下まで染みてくる。冷たい。不衛生。今はいいけど、きっと後で気持ち悪い。
いつもの潔癖な自分なら、けしてこのままでなんかいられない。
慌てて海から上がって、悪態の一つもついて、神経質に足を拭いて、靴下は洗濯行きだ。
「だけど、洗濯機もなければタオルもないし、悪態をつく相手もいないものね」
ぼそ、と呟くと、自然と笑いが零れた。
本当、毎日ついていた悪態。あの木田に対して、どうして自分はあんなにムキになっていたのだろう。
もっと簡単に解決する方法があったのに。
「そう、殺しちゃえば良かったのよね」
あそこに転がっている死体みたいに。
人は死ぬ。簡単に死ぬ。そのことを思い知ったのは、先ほど流れた放送の中に、
木田という名前と、霜村功というクラスメートの名があったからだ。
たまたま同性だというオチでもなければ、彼の身内だろう。妹がいる、と透子から聞いたこともあったし。
感慨はない。嫌いな人間の妹と、嫌いな人間だ。だけど死んだのなら、さっぱりしていい。嬉しい。
「……ふふっ」
笑いさえ込み上げた。ああ、壊れているなと実感する。
だけど自分は、本質的にこのような人間なのだとも思う。
潔癖性は、差別主義者と根は同じだ。でも、不愉快なものは排除したい。当たり前のことだ。
ただ、モラルなんていうくだらないものが、彼女の行動を阻害する。
けれど、この島にはそれはない。素晴らしいことだ。
波からあがり、死体の元へと戻った。脳天気に近づいてきた、頭の弱そうな少女。
「ヒトデだって、バカみたい」
真っ直ぐナイフを突きだしただけで、勝手に自分から刺さってきた。
良く今まで生き延び、そして殺してこれたものだ。
殺された連中は、よほどマヌケか、無能だったに違いない。
その、マヌケなあゆの頭を軽くつま先でこづいた。すぐに転がって止まる。
それは不気味な色に変色し、切断面には砂がつき、いつの間にか蟻がたかっていた。
しのぶは顔を歪めた。
「気持ち悪いっ」
吐き捨てて、思い切り蹴った。なにかが潰れる嫌な感触が、つま先にあった。
飛び散ったものは、見ないようにした。
それよりも、なにか役にたつものがあるかもしれない。
しのぶは風子のリュックを開き、そこに詰まったたくさんのヒトデを見た。
しのぶは顔を歪めただけだ。
逆さにして中身を全部出した。いくつかのヒトデに混ざって、血臭に染まった食料と水があった。
「使えないっ――」
ヒトデを蹴り飛ばして、風子の上にばらまいた。そんなに好きなら、まみれて死んでいればいい。
ヒトデごと風子を踏みにじり、そのまま潰そうとして、汚れるのがいやだからやめる。
ナイフだけは、使えそうだから拾っておいた。
自分でも持っているが、他の参加者に拾われたら面倒だ。
手入れもろくにしなかったのか、汚れていたので風子の服で拭う。
「綺麗になりましたっ」
語尾だけ真似してみた。恐ろしいほど似合わないと思う。
やはり自分は、榊しのぶにしか成りえない。
榊しのぶとして、栗原透子を守り、このゲームを勝ち抜く。他は殺す。
うん、シンプルでいい。
「殺そう、早く」
どこでもいい、誰でもいい。とりあえず。
【榊しのぶ(39)装備:ブローニングM1910(残弾7発)・ナイフ・米軍用レーション
(10食分)・ビスケット類の食料・缶切3つ・12本綴りの紙マッチ3つ小型ガスコンロ良く切れるナイフ】
こっちが先に書いていたもので、1レス目八行「〜ムキになっていたのだろう」から分岐。
定時放送で透子の名前があったと勘違いしていたのに途中まで気づかず書いていたもの('A`)
だけどもう、ムキになる必要なんてないんだ。
「だって、透子は死んだんだもの」
なのに涙の一片すら零れない。
先ほどの放送。呼ばれた透子の名前。恐れていた最悪の事態に、何故か、自分の心は冷静だった。
いや、恐れてなんかいなかった。自分は透子と一緒に帰るんだって、そう信じきっていたから。
はっきり言って、予測範囲外だ。
まだ、心が受け入れていないのだと思う。死んだ、って、はっきり理解しているのに。
不思議だった。
それからのことは、よく憶えていない。
振り向いたら、まだ、さっき殺した女の子の死体は、転がっていた。当たり前だ。
少し頭の弱そうな、ひとでがどうこうとか言っていた子。
襲いかかってきたので、ただ、真っ直ぐ刃を突きだしただけ。
そうしたら、知らない間に殺していた。
なにか自分で言ったような気もするけど、ただ適当に並べただけで、意味のない言葉だ。
ああ、悪いことをしたかもね。
今さらそんなことを思う。そのくせ、欠片も心が痛まない。
麻痺しているのだな、と分析はするけど、どうすればいいのかは分からなかった。
透子のために人を殺そうと決めて、殺して、それでどうして透子がいなくなってしまうのか。
「このまま死んじゃおうかな」
それもいいか、と考える。
このまま沖まで真っ直ぐ歩いていけば、やがて背が届かなくなり、死んでしまうだろう。
試してみた。
少しずつ上がってくる水位。膝が、腿が、腰が、胸の高さにまで。
波が跳ねて顔にかかる。海水がまとわりついて、服が重くて歩きにくい。
自分に死んで欲しくないとでも言いたげな、海原の抵抗。
「なんなのよ、まったく……」
なんだ、つけるじゃない。悪態。
苦笑した。
進んでいく先には太陽があった。暖かいものが顔を照らす。眩くて、目を細める。
こんな気持ちに包まれて死ぬのも、それもいいかもね。
また一歩、進んだ。
「うぇっ……げほっ、げほっ、ぐぇ……」
砂浜に、海水まみれの吐瀉物を撒き散らした。
汚い、気持ち悪い、醜い。無様だ。なんでなんで、自分はここに戻ってきてしまったのか。
波に飲まれ、海水に覆われ、喉の奥に一気に水が流れ込んできたとき、
その不快な味と感触を、体が全力で拒絶した。
いやだいやだいやだいやだ。死にたくない。殺すのはいいけど、死ぬのはいやだ。
恐い恐い恐い。苦しい。あんな思いは、もうしたくない。
ここで矛盾に気づいて中断('A`) ほんとはここで死の恐怖に駆られたしーちゃんが、
マーダーとして再起動する予定でしたが、透子が死んでいないと言う根本的矛盾はいかんともしがたく。
この後、嘔吐役が浩之&理緒に譲られ、理緒はマーダーとしての道を歩むはめに。前途多難ぽいけど
人間、どこで運命が変わるか分からないものですw
いいねー。アナザーになってなきゃ
その後の方向性も変わってたかもしれない出来だ。
つか、最初の方のしーちゃん(゚д゚||)コワー
そしてまたあゆの扱いにワラタ
みんな酷いよ('A`)
木田組のアナザーなどを載せてみる。以下。
「みんなで、にはは」
二日目の朝。
神尾観鈴が目を覚まし、四人は一塊になって朝食を取る事にした。
円を囲んで、というには程遠く、みんなてんでバラバラの方向を向いて食事をしている。
その様子を見ながら、麻生春秋は少し笑った。
パーティと呼ぶには程遠いこの集団は、なんと表現すればいいのだろうか。
宮路沙耶は切り株に座り、ぼんやりと遠くを見ている。
木田時紀という少年は木の幹にもたれかかったまま、憂鬱そうに空を見上げている。
ただ神尾観鈴という少女だけが、一人ニコニコと笑顔を浮かべていた。
「みんなで食べるとおいしいですねっ」
少しだけ緊張したように、春秋に話し掛けてくる。
「そうだね」
春秋は苦笑して答えた。
肝が太いのか、ただの馬鹿なのか。それでもこの状況下でこれだけ笑えるという事は一つの才能かもしれない。
「時紀さんと、沙耶さんもそう思いませんか?」
観鈴はそう言って二人を見る。
「別に……」
「別に……」
二人はまるでタイミングを計ったように同時に答えた。
「にはは……」
観鈴は苦笑いを浮かべた。
もしかしたらこの観鈴という少女は、バラバラのこの集団を一つにしようとしているのかもしれない。
理由もなく、春秋はそんな事を思った。
「ところで、これからどうするつもり?」
春秋は木の幹にもたれかかりながら、その場にいる者達に聞いた。
だが誰も答えない。
(おいおい、まさか何も考えていなかったのか?)
本当にいい加減な集団だ。だがこのぬるさが、春秋にはどこか心地良かった。
「わ、私は」
観鈴が沈黙に耐えかねたように口を開く。
「お母さんを――」
全員の視線が集まる。
そこで観鈴は口を噤んだ。沙耶と時紀は目付きが悪いから、あるいは睨まれているように感じたのかもしれない。
「お母さんを、探したいな、なんて……。にはは……」
「お母さんがいるの?」
「はい……」
「ふーん。木田さんは?」
「別に、どうでもいい……」
そう言って、だが、時紀はふと思い立ったように再び口を開く。
「いや、人を探すのも悪くないかもな」
誰か探したい人がいるのかもしれないが、春秋は深く訊ねなかった。
(この人は悪ぶっているお人よしだな)
悪ぶって、憂鬱そうにしていて、その実、関わった人間を放っておけない性質だろう。いや、そういう性格だから憂鬱そうなのかもしれない。
だからこの観鈴という少女を見捨てる事もできずにいるのだろう。
春秋は沙耶の方を向いた。
「あんたは?」
聞えているのかいないのか、沙耶は答えず、ただ森の奥を見ていた。
「宮路沙耶、あんたに訊いてるんだけど」
沙耶が億劫そうにこちらを向いた。
「あんたには、関係ない」
「いいじゃん、教えてよ」
沙耶は一瞬、春秋を睨んだ。無機質な、温度をまるで感じさせない刃のような瞳。
彼女のたたずまいや、その存在に、春秋は憧れていた。
「あたしは……」
沙耶は再び、森の奥へと目線をやった。
「あいつを殺した奴を、殺す」
一瞬、ほんの一瞬、無機質な瞳に暗い炎が宿った。
(あいつ? 誰だ?)
だが春秋に考える間も与えずに、沙耶は立ち上がった。
「あれ? どこ行くの?」
「あんたには関係ない」
無言で春秋達に背を向け、歩き出した。
「沙耶さんっ」
観鈴が立ち上がる。
「木田さんと観鈴ちゃんを置いていくの? 仲間なんでしょ?」
「仲間じゃない」
沙耶は立ち止まった。
だが振り返らない。
「たまたま同じ場所にいただけ」
その答えに、春秋は思わず笑ってしまった。
「あてはあるの? 俺達は共通の目的があるわけだし、だったら組むべきじゃないかなあ?」
もっとも春秋の目的に人探しはないし、殺したい奴を探すのと知り合いを探すのが同じ人探しなのかはわからないが。
沙耶は振り向いた。
「だから――」
その瞬間。
『――ピ、ガガ……』
定時放送が始まった。
『諸君、昨晩はよく眠れたか?』
全員の動きが止まった。立ち去ろうとしていた沙耶も、追いかけようとしいてた観鈴も、興味なさそうに沙耶を見ていた時紀も。
『さて、ここまでの死亡者だが、6番、一ノ瀬ことみ。15番、緒方理奈。20番、柏木初音。
29番、木田恵美梨――』
【続く
わきゃーない】
>>963 キャラ掴めてる作品は読んでて安心出来るな
これに懲りないでまた挑戦して欲しい、というかしてください、お願いします
ヒトデ
⊂⊃
〜 (>ヮ<)ノシ 三☆ アナザー用の場所を無駄に使ってはいけませんっ
めんて
971 :
双ツ星:04/05/26 00:40 ID:hUz2KNCb
終わりは呆気ないものだ。
例えば交通事故で死んだ人がいる。
その人死ぬ寸前まで、まさか自分が事故に遭うなんてことは、これっぽっちも思っていなかっただろう。
それは自分が積み上げてきた人生とか、生き様とか、そんなものとは関係なしに。
神さま――死神か――の気まぐれで、あまりにも突然にやってくるのだ。
この島には、気まぐれな神さまがいっぱいいた。
それだけのことだった。
自分の命もここで終わる。
皐月も智代も、そう思っている。
だけど、それでも。
せめて後悔はないように、諦めない自分でいたかった。
「死ぬなよ、親友」
智代が言ったただその言葉だけで、智代が何をするかわかってしまった。
止めなければならない。
このままでは二人とも助からないとはいえ、自分を犠牲にして、逃げるチャンスを作るなんて。
止められなかった理由は、智代の次の行動が、あまりにも素早かったから。
972 :
双ツ星:04/05/26 00:40 ID:hUz2KNCb
「私を甘くみるなよ、芳野」
傷だらけの体の、どこにそんな力があるというのか、一息で芳野の元へ駆ける。
疾風。
その言葉が相応しく。
皐月は一つ勘違いをしていた。
智代は死を覚悟していったのではない。生き抜くつもりでいったのだ。
勢いと、全体重を拳に載せる。
一撃を。この男に一撃を。
神業に近い一連の動作。
その時間は、芳野がサブマシンガンを構えて、狙いをつけて、引き金を引くのに、
あまりにも充分すぎた。
銃弾を浴び、崩れ落ちようとする智代の体。
その向こう側に、皐月はいなかった。
973 :
双ツ星:04/05/26 00:41 ID:hUz2KNCb
(馬鹿っ、馬鹿っ!)
皐月の反応は早かった。
智代が駆け出すと同時に、道のない森の中に飛び込む。
植物全てが障害物だ。銃から逃げるには丁度いい。
追いつかれるかもしれないけれど、その時はその時だった。
澪はすぐさまデリンジャーを向け、発砲する。
銃弾は二発とも、皐月の体に命中した。
それでも皐月は止まらない。止まるわけにはいかない。
痛む体に鞭うって、ただひたすら前に進む。
デリンジャーの装弾数は二発。装弾にわずかなタイムラグがある。
そんな時間をかけるよりも、この手で殺した方が速い。
逃げた皐月の後を、追おうとした。
視界の隅で、何かが動いた。
クレイモアでふきとばした、あの獣だった。
(!?)
思わず足を止める。
今はもう動いていない。
起き上がる様子はおろか、再び動き出す兆しすらない。
それが、トンヌラと名付けられた動物の最期。
最期の微動が、結果的に、澪と皐月の距離を稼ぐことになった。
(く、逃がさないの……)
遅れて後を追う。
その差は、少しばかり広い。
974 :
双ツ星:04/05/26 00:42 ID:hUz2KNCb
倒れそうになる体に鞭打って、残る命の最後を使い、芳野の銃にとりついた。
「くそっ!」
振り払おうとするが、離れない。
まるで、言葉どおりに、死んでも離そうとしないように。
「いい加減に、死んどけっっ!!」
マシンガンを自分から手放し、スパナを智代の頭に振り下ろした。
それが今度こそ最後。
薄く目を開けて、サブマシンガンを抱えたまま、智代は地面に倒れこんだ。
智代からサブマシンガンを奪い取り、逃げたもう一人の後を追う。
「澪、離れとけ!」
小さくなる皐月の背目掛けて、ありったけの弾を撃ち込む。
そのいくつかが、皐月の体を薙いで、
唐突に、皐月は消えた。消えたように見えた。
実際は斜面から転がり落ちただけなのだけれど、芳野にとってはどうでもよかった。
遠目だったけれど、あれで長く生きられるはずもない。
「片付いたかな」
その声には、僅かな疲労以外の、何の色もなく。
975 :
双ツ星:04/05/26 00:43 ID:hUz2KNCb
ポケットから、朋也の写真が落ちた。
閉じていく意識の中、うっすらと目に入る。
(ああ……朋也、すまない。
帰って来いと言っておきながら、私はどうやらここまでのようだ。
写真だけどな、最後にお前に会えてよかった。
私は本当に、お前のことが好きだったんだぞ……)
斜面の下、皐月は一本の樹にもたれかかっていた。
流れ出る血は止まらない。
動くことすらできない。
緩やかに迫る死を迎え入れることしかできない。
幾らかの時間が流れ、朦朧とした意識の中、あの放送が聞こえた気がした。
(坂上智代)
もう何も聞こえなかったけど、その名前だけ、自分に聞き取ることができた。
この島で、誰よりも近い存在だった。
親友だった。胸を張って、そう言えた。
遠くから、宗一が走ってくるのが見える。
それは現実か、都合のいい幻か、わからなかったけれど。
(最期に会えて、よかった)
(朋也……)
(宗一……)
(私たちは、強くいられたかな……)
夕暮れ空に、星が二つ輝いていた。
それは、とても綺麗で――
以上、智代皐月アナザー「双ツ星」でした。
速度で負けたので私もこちらに投稿してしまいます。レッツアナザー。
978 :
死線:04/05/26 09:38 ID:d3kPfdml
人を殺した罪がある。誰かを踏み台にした業がある。いろんな人を犠牲にし
て、こうして最後は生き延びる。本当にそれでよかったのだろうか。
仮初めだった出会いがあって、穏やかだったひとときがあった。そんな幸せ
と引き換えに、何かを誰かから奪っていたのだとしたら、この身は生きていて
良かったのか。
たとえ報いなのだとしても、こんな現実、見たくはなかった。
―――気づくと、握り締めた手に汗をかいていた。ちがう、この汗は、私の
じゃない。手を引いた皐月の、何かを思いつめたように張り詰めた表情がその
温度を上げる。智代は思う、私もきっと同じ顔をしてるのだろうと。
前には芳野、距離は6メートルといったところか。後ろには澪、同じく距離
は5,6メートル、こちらの方が、やや近い。自然と智代と皐月は背中を合わ
せるような体勢に開いていく。どちらの射程にも入っている、どちらの射程か
らも逃げられない。
死ぬのか、私は。
一瞬が凍りついたように長く感じた。この永遠が死の瞬間まで続くのなら、
せめてその枷から抜け出して、隣の少女だけでも助けてやりたい、そう願う。
……汚れた居場所なら、無くなってしまった方がいいのかもしれない。そう
思う潔癖な自分を発見して少し驚いた。何を今更、人を撃ったか殴ったかなん
て、しょせん程度の差に過ぎない。痛みはしっかり刻まれて、忘れないように
残ってる。そんな場所だって、あいつは喜んで帰ってきてくれるだろう。たと
え血に染まっても、あいつはきっと座ってくれるだろう。そうして気づいた頃
には、もしかしたら洗い流されているかもしれない。
その、いやになるほど確かな感触をもって予想できる未来を、この瞬間に捨
てる決意ができたのもまた、岡崎朋也という男のおかげだろうと思った。きっ
とあいつなら、私がこの選択をとったことを知っても、ああ、あいつらしいな、
と笑ってくれる気がするのだ。しかし、だからといって笑っていられてばかり
でも困る、少しは悲しんでもらわないと張り合いがない。それでも、ずっと泣
いていられるよりは、笑っていてくれる方が気分はいい。これが惚れた弱みか
と思うと、納得できてしまうから不思議だ。自然と笑いがこみ上げる。
979 :
死線:04/05/26 09:39 ID:d3kPfdml
―――帰りを待つことは出来ないが、代わりに私がお前の許へ行こう。たと
え姿が見えなくても、途切れることなく傍にいて、ずっと寄り添い続けよう。
それは観念だった。もはやそれ以外に選択肢は無かった。それだけの決意を
一瞬で極めさせるほどに、状況は既に逼迫していた。
この数十秒後、私は死ぬ。
「死にかけの獣に気を割いている時間は無いぞ。そいつより先に、お前らが死
ぬ」
澪に向けた皐月の視線を見咎めた芳野がそう口火を切る。サブマシンガンは
依然として銃口を二人へと向けている。気づくとさっきより数歩は前に来てい
る。
電気を通したかのように、一瞬、皐月の体がぶるっと震えた。腕と背中を通
じて触れ合っている智代以外には気づいたものは誰もいない。
(怖いのか……皐月……)
大丈夫だ。口には出して言えなかったが、代わりに手を強く握ることで智代
は自分の気持ちを示したつもりだった。
智代も自分の決意に溺れていた。だから、その瞬間の皐月の思考を読み取る
ことが出来なかった。
「澪、少し場所をずれろ。そこは位置が悪い。同時に発砲したら共倒れになる」
わかったの、と返事がわりに頷きつつ、澪が斜め前方向に歩みを進めた。無
論、二人を狙ったデリンジャーの構えを解くことなく。
そこには慢心も油断も無かっただろう。それなりの殺人をこなしてきた二人
には、それ相応の勘も手ごたえもあったのだろう。――――だから、それは、
在り得ない咆哮だった。
980 :
死線:04/05/26 09:40 ID:d3kPfdml
グルゥゥゥゥゥゥうううおおおぅうああああぁぁぁぐぁあああアあアああぅ
ぅぇアアォゥウァァァアあああああゥぅああぁあアアアあ!!!
その瞬間、世界から音が消え去った。凍りついた静寂の中で、ただ一人動く
影があった。湯浅皐月、彼女の意思は決まっていた。風のように早く駆け、反
応する暇も与えずに澪に向かって蹴りを放つ。速度と体重が乗った蹴りに澪の
体格は耐えられない。肺を強かに打ちつけて、澪は呼吸困難に陥った。零れ落
ちたデリンジャーが立てた音が、世界に復活した最初の雑音となる。
「くっ!?」
一秒。時の静止が終わった瞬間、迷うことなく吉野は皐月に狙いをつけた。
それは間違いなく普段なら最適な選択だっただろう。……普段なら。弾丸の軌
道には、皐月とともに澪がいる。この銃で今の目標に対しそれぞれ撃ち分ける
などということはできない。不幸にも出来てしまった孤独の同胞が、この瞬間
の迷いの原因となった。
三秒。皐月が片手でデリンジャーを取り上げるのと、智代が芳野の視界から
消え去るのは全くの同時だった。
「智代、退けて―――!!」
叫びとともに放たれた銃弾は、それぞれ右肩、右腕、右腹を貫いていった。
そして。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ダメ押しとばかりに、智代の連撃が、芳野の体を打ちつけた。死角となる横
面からの攻撃に、芳野は抵抗しようにも体がついていかない。銃弾と鉄拳の嵐
を続けざまに食らった芳野は、サブマシンガンを抱えたまま、地に崩れ落ちた。
緊張で硬直した拳がぶるぶると震えだす。こんなことは初めてだ、まるでさ
っきまで自在に体が動いてくれたことは奇跡であるかのようだ、と智代は思う。
後ろを振り向くと、右肩をつらそうにしながら、反対の手でデリンジャーを
握った皐月が、ゆっくりと近づいてくるところであった。
981 :
死線:04/05/26 09:41 ID:d3kPfdml
「……やっほ。大活躍じゃないの」
「……それはこっちのセリフだ」
軽口を叩く皐月に、ようやく智代は安堵の息を吐いた。決死の状況だと思っ
ていたのに、必死の覚悟でいたというのに、どうにか生き残ることができた。
こんな幸運、あっていいのだろうか。信じ続ければ、叶うものなのだろうか。
ずりずりと近寄ってくる皐月の額には玉のような汗が散りばめられていた。
智代はそれを何故だか美しいと思った。大切な友人の無事を前に、二人の気持
ちは弛緩しきっていた。
吐いてはいけなかったのだ。安堵の息など。
―――ダメなの。逃がさないの。
ぶすり、とありえない擬音が響いた。本当はそんな音などしていないはずな
のに、そんな音がしたことを疑う術などここには無かった。不吉な音が、心を
つんざいた。
え、という表情が張り付いた。智代も、皐月も、その状況を理解できなかっ
た。理性が現実に追いつくまでの数秒間、彼女たちは目を合わせたまま、そら
すことが出来なかった。
だくだくと何かが流れる。ナイフの柄を伝って、地面にぽたぽたと雫が落ち
る。
決意の分だけ、早く目覚めたのは皐月だった。振り向いた先には、不気味な
ほどに爽やかに笑う澪の姿があった。
皐月は澪を押しのける。澪はなんの抵抗も無くナイフから手を離した。満足
に動かない右腕で皐月はナイフを握ると、それを引き抜いた。ふたを失った血
流が、勢いを増してさらに流れる。
反対の腕で、まるでそれが一連の動作であるかのように、二発、皐月は発砲
した。
その至近距離、まごうことなく、銃弾は澪の胸に命中した。勢いで澪の体は
またも後ろに跳ね飛ばされた。
982 :
死線:04/05/26 09:42 ID:d3kPfdml
智代はその情景が、まるで映画のフィルムに映された虚構にしか感じられな
かった。自分と言う配役が存在しない映画を前に、無力な観客でいる気がした。
振り向いた皐月が、へへっ、と口元を歪ませて笑った。瞬間、智代は彼女の
元へと走り寄っていた。右脇に首をつっこんで彼女に肩を貸す姿勢をとると、
そのまま自らの腕で彼女の背中の傷を圧迫する。ひどくお粗末な止血だ、する
意味すらもなかったかもしれない。それでも、せずにはいられなかった。ここ
にはもはやいられない。殺人を犯す恐怖と、またどちらかが起き上がって、襲
いくるのではないかという不安が、智代の目を曇らせた。澪の凶刃に、気づけ
なかったのだ―――。わき目も振らずに歩き出す。ここではないどこかになら、
彼女を助ける術があるとでも言うように。
「いやぁ……ドジっちゃった……ね」
「喋るな! 傷に触る!」
声を強く出さなければ、震えていることがばれてしまっただろう。
「はぁい……うふふ……」
智代の命令に従ったかのように皐月は言葉を切る。だがその口元は楽しげに
ほころんだままである。それが、どうにも智代には解せない。なぜ、もはや、
死が、目前である、というのに、笑って、いられるのか。
同じ立場なら、彼女もそうしたであろう。分かりきった答えであった。あの
瞬間、皐月もまた、智代とほぼ同時に同じ結論に達していた。
すなわち、自らの命と引き換えにしても、この相棒の命だけは護ろう、と。
右肩の傷の分だけ、決意の早さも深さも、皐月の方が上だった。そして、な
んとかそれを達成できた。その事実がたまらなく皐月には嬉しかった。だから、
瀕死の傷を負っていても、笑っていられるのだと、自分でも理解していた。
肩を借りて後にする戦場、そこから逃げ出す寸前に、皐月は緩慢な動作で後
ろを振り向いた。視線の先には物言わぬ骸、既にこときれた友人の姿が。
「ごめんね……それと……ありがとう……」
五分後、皐月もまた、命を閉じた。
983 :
死線:04/05/26 09:43 ID:d3kPfdml
人がいなくなった戦場で、倒れた影がむっくり起き上がった。銃弾を受けた
澪だ。
顔をしかめながら上体を起こし、そして手をついて立ち上がる。そしてまる
で何ごともなかったかのように、とことこと歩き出すと、重装備のままぶっ倒
れた友人のもとに寄り添った。
『……生きてるの?』
そう無音で呟きながら、ちょいちょいと澪は芳野のほほをつついた。
「……ぎりぎりな、むしろ、もう死ぬかもな」
言葉とともに、前のめりに倒れていた体を翻して、芳野は寝転んだまま天を
仰いだ。
「お前は大丈夫なのか?」
吉野はそう尋ねた。すると澪はしかめっ面のままで『すっごく痛いの』と口
を動かした。
「そりゃそうだ、いくら防弾チョッキを着てたって、銃弾は銃弾だからな。俺
より傷は浅いんだから、そこはまあ、我慢だな」
くっくっ、と芳野は笑みをこぼす。その様子を見た澪が意味もなく頬を膨ら
ませる。
澪は小さい。だから、しゃがむともっと小さい。自由に動く左手で、彼女の
額へ手を伸ばす。澪はいやがることもなく、不思議そうな目でその動きを追っ
ている。そっと彼女の髪をなで上げると、ぽんと頭に手を載せて、芳野は呟い
た。
「……なあ、歌を歌ってやろうか。遠い昔に流行った歌だ、最後にもう一度く
らい、作り手が歌ってやってもいいだろう……」
首をかしげる澪のことを、芳野はもう見ていなかった。目に映っていたのは、
遠い遠い風景だった。 か細い声にのって、激しい音楽が響き渡る。一度も聞
いたことのない曲だったのに、澪はそれが懐かしいと感じていた。
それが芳野の絶唱となる。最後の小節が終わったとき、澪は自分が涙を流し
ていることに、初めて気がついた。
終了。死線でした。
「ヴォフ…」
一瞬だった。一瞬の澪の注意がトンヌラへと向く。
智代はそのチャンスを逃さなかった。
素早く澪に向かって飛び込み、前方に一回転する。
(甘いの!)
澪も注意がそれたとはいえ、その動きを見逃すわけはなく、智代に向かって発砲する。
パンッ
銃弾が智代の右ふくらはぎを貫く。
「グゥ!!」
――しかし、次の瞬間には澪のお腹のあたりにグロッグ17を押し当てていた。
澪も智代の頭にデリンジャーを突きつける動作をしてはいたが、若干智代の方が早かった。
「ずいぶん…と詰めの甘い…チェックメイトだったな。」
息も絶え絶えにそう言いながら、澪にグロッグ17を向ける。
(しまったの、いくら防弾チョッキを着ていても、ここで撃たれたら痛そうなの)
「皐月、動けるか?」
芳野と澪から注意をそらさず、皐月に言葉をかける。
芳野はサブマシンガンを構えたまま、なにやら考えている。
(まさか…銃を持っているとは…予想外だった…どうする?)
「うん…なんとか。」
「よし、では私を置いて逃げてくれ。」
「智代…何を言って…。」
「いいから、私も後で追いつく、命を張って親友を守る…それは、とても…。」
「わたしらしいとは思わないか?」
そう言って皐月に微笑みかける。
986 :
グロッグ17に注目したSS:04/05/26 11:14 ID:iJA9k26/
次の瞬間、弾丸が智代の体のいたる部分を貫いていた。
「え?」
「なっ!」
(なっ!)
これが芳野の出した答えだった。
(澪は防弾チョッキを着ている。撃たれても…死にはしない。なるべくなら撃たれる前に殺すべきだな)
撃たれた本人は一体何が起こったのか理解できていないようだった。
(朋也…お前だけは――)
そこで坂上智代の意識は途絶え、その短すぎる生涯を閉じた。
「智代っ!」
皐月は親友、坂上智代の元へと駆けつけようとする。
しかし、そのまま芳野の凶弾は皐月の体を貫く。
「智代、宗一…なんで?こんな」
どうしてこの人はこんなに簡単に人を殺せるのだろう?
芳野が皐月に近づいてくる。手にはブラックジャックを持って。
それが、皐月の見た、最後の光景だった。
『なんで撃ったの?』
澪はご立腹のようだった。
「今回は作戦が甘かった。それにあの状況では素早く殺すことが一番いいと思ったんだ。」
『防弾チョッキ着てても撃たれたら痛いの』
「でも、作戦を考えてのはお前だろう?今回は、まさか銃を持っているとは思わなかったからな、俺のミスでもあるが…。」
「しかし、銃の弾がからで良かったよ。次から、もっと慎重になればいいさ。」
『話をそらされているような気がするの』
「いや、真面目な話だ。俺とお前の、命にかかわることだからな。俺はお前の命より自分の命を優先する。当然のことだ。」
「お前は、何かがあっても、俺のことより自分のことを優先しろ。それが…生き残るためだ。」
日はすでに傾むき、夜の始まりを告げていた。
以上誰も注目しないグロッグ17に注目してみました。
智代自身弾数把握してたのだろうか?って話ですね。
988 :
名無しさんだよもん:04/05/27 01:42 ID:Li0uGrX1
てs
ヒトデ
990get!!
せっかくだからここまでで好きな話ランキングでもどうぞ↓
何となくここに死者を埋葬しておきますね
「坂上智代 の はか」
1:ズガン
2:グシュ
3:なんだろうなぁ・・・特になし
228の親友かな?
あーゆーの好き。
私は『カーリー・ドゥルガー』とか『五月の暴風は突然に』かな。
マターリなら『かぜのみち』『かぜのこえ』。
1 死線
2 ひとで
3 ぬくもり
上から順に
「君のために歌を歌おう」
「五月の暴風は突然に」
「笑い」
風子が華麗に998getですっ( >ワ<)ノシ 三 ☆ [1000]
光岡みさき組の話は大体好きだなぁ
その中でも『かぜのみち』は特に。
ずばり優勝者は↓
1001 :
1001:
このスレッドは1000を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。