1 :
名無しさんだよもん:
葉鍵キャラ100名を超える人間達が、とあるリゾートアイランド建設予定地に招待された。
そこで一つのイベントが行われる。
「葉鍵鬼ごっこ」。
逃げる参加者。追撃する鬼。
だだっ広い島をまるまる一つ占拠しての
壮大な鬼ごっこが幕を上げた。
増えつづける彼らの合間を掻い潜って、
最後まで逃げ切るは一体どこのどちら様?
「――それでは、ゲームスタートです」
関連サイト
葉鍵鬼ごっこ過去ログ編集サイト
http://hakaoni.fc 2web.com/
(IP抜き対策にスペースを入れてあります)
葉鍵鬼ごっこ議論・感想板
http://jbbs.shitaraba.com/game/5200/ ルールなどは
>>2-5を参照。
2 :
ルールです:03/03/29 02:27 ID:bmEN2Uoo
・鶴来屋主催のイベントです。フィールドは鶴来屋リゾートアイランド予定地まるまる使います。
・見事最後まで逃げ切れた方には……まだ未定ですが、素晴らしい賞品を用意する予定です。
・同時に、最も多く捕まえた方にもすてきな賞品があります。鬼になっても諦めずに頑張りましょう。
ルールです。
・単純な鬼ごっこです。鬼に捕まった人は鬼になります。
・鬼になった人は目印のために、こちらが用意したたすきをつけてください。
・鬼ごっこをする範囲はこの島に限ります。島から出てしまうと失格となるので気を付けましょう。
・特殊な力を持っている人に関しては特に力を制限しません。後ほど詳しく述べます。
・他の参加者が容易に立ち入れない場所――たとえば湖の底などにずっと留まっていることも禁止です。
・病弱者(郁美・シュン・ユズハ・栞・さいかetc)は「ナースコール」所持で参加します。何かあったらすぐに連絡してください。
・食料は、民家や自然の中から手に入れるか、四台出ている屋台から購入してください。
・屋台を中心に半径100メートル以内での交戦を禁じます。
・鬼は、捕まえた人一人あたり一万円を換金することができます。
・屋台で武器を手に入れることもできますが、強力すぎる武器は売ってません。悪しからず。
・キャラの追加はこれ以上受け付けません。
・管理人=水瀬秋子、足立さん及び長瀬一族
能力者に関してです。
・一般人に直接危害を加えてしまう能力→不可。失格です。
・不可視の力・仙命樹など、自分だけに効く能力→可(割とグレーゾーン)。節度を守ってご使用ください。
・飛行・潜水→制限あり。これもあんまり使い過ぎると集中砲火される恐れがあります。
・特例として、同程度の自衛能力を有する相手のみ使用可とします。例えば私が梓を全力で襲っても、これはOKとなります。
| _
| M ヽ
|从 リ)〉
|゚ ヮ゚ノ| < 以上が主なルールです。守らない人は慈悲なく容赦なく万遍なく狩るので気を付けてくださいね♪
⊂)} i !
|_/ヽ|」
|
参加キャラ一覧。【】は鬼です。
fils:ティリア・フレイ、サラ・フリート、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂、【新城沙織】、【太田香奈子】、【月島拓也:1】
痕:柏木耕一、柏木梓、柏木楓、柏木初音、柳川祐也、日吉かおり、相田響子、小出由美子、阿部貴之、ダリエリ、
【柏木千鶴:10】
TH:藤田浩之、神岸あかり、長岡志保、保科智子、マルチ、来栖川芹香、松原葵、姫川琴音、来栖川綾香、
佐藤雅史、坂下好恵、岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ、神岸ひかり、しんじょうさおり、田沢圭子、
【宮内レミィ】、【雛山理緒:2】、【セリオ:1】、【矢島】、【垣本】
WA:藤井冬弥、澤倉美咲、篠塚弥生、観月マナ、七瀬彰、緒方英二、
【森川由綺:1】、【緒方理奈:2】、【河島はるか】
こみパ:千堂和樹、高瀬瑞希、牧村南、猪名川由宇、大庭詠美、長谷部彩、芳賀玲子、桜井あさひ、
御影すばる、立川郁美、九品仏大志、澤田真紀子、風見鈴香、
【塚本千紗:2】、【立川雄蔵】、【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】
NW:城戸芳晴、ユンナ、【コリン】、
『ルミラ』、『イビル』、『エビル』、『メイフィア』、『アレイ』、『たま』、『フランソワーズ』、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:宮田健太郎、江藤結花、高倉みどり、牧部なつみ、【スフィー】、【リアン】
誰彼:砧夕霧、桑島高子、杜若きよみ(白)、岩切花枝、石原麗子、杜若きよみ(黒)、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】、【御堂:5】、【光岡悟:1】
ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ、アルルゥ、ユズハ、ドリィ、グラァ、ベナウィ、クロウ、カルラ、
カミュ、クーヤ、サクヤ、デリホウライ、ヌワンギ、
【エルルゥ】、【オボロ】、【ウルトリィ】、【トウカ】、【ゲンジマル】、【ニウェ:1】、【ハウエンクア】、【ディー:4】、『チキナロ』
Routes:湯浅皐月、リサ・ヴィクセン、梶原夕菜、エディ、
【那須宗一:1】、【伏見ゆかり】、【立田七海】、【醍醐】、【伊藤】
同棲:【山田まさき】、【皆瀬まなみ:2】
MOON.:巳間晴香、名倉友里、高槻、少年、A棟巡回員、
【天沢郁未:2】、【名倉由依】、【鹿沼葉子】、【巳間良祐】
ONE:里村茜、川名みさき、上月澪、椎名繭、柚木詩子、深山雪見、氷上シュン、清水なつき、
【折原浩平:4(3)】、【長森瑞佳】、【七瀬留美:1】、【住井護】、【広瀬真希:1】
Kanon:美坂栞、沢渡真琴、川澄舞、天野美汐、
【相沢祐一】、【水瀬名雪:1】、【月宮あゆ:2】、【美坂香里:4(1)】、【倉田佐祐理:1(1)】、【北川潤】、【久瀬:2】
AIR:神尾観鈴、霧島佳乃、遠野美凪、神尾晴子、霧島聖、みちる、橘敬介、柳也、裏葉、しのさいか、
【国崎往人:1】、【神奈】、【しのまいか】
その他のキャラです。
管理:長瀬源一郎(雫)、長瀬源三郎、足立(痕)、長瀬源四郎、長瀬源五郎(TH)、フランク長瀬(WA)、
長瀬源之助(まじアン)、長瀬源次郎(Routes)、水瀬秋子(Kanon)
支援:アレックス・グロリア、篁(Routes)
祐一「名雪ってキモイよな」
北川「名雪ってキモイじゃん」
あゆ「うぐぅ、名雪さんキモ〜」
舞「キモイ…」
栞「キモイ人嫌いです」
佐祐理「あはは〜、名雪さんキモ〜」
香里「キモイわよ!名雪」
美汐「キモッ」
秋子「あら?こんなキモイ娘生んだ覚えないわ」
いたる氏「しまったキモイ、失敗作だ」
久弥「しまった。マジキモイ、失敗作だ」
麻枝「こんなキモイキャラ作ってんじゃねーよ(プッ」
全日空「名雪をキモイと感じない奴は読解力不足」
地獄車「名雪? ステロタイプな健気キャラ書こうとして失敗しただけだと思うよ。」
お疲れ様〜
それじゃ、新作あげさせてもらいます。
「お腹すいたね」
「うん、お腹すいたよ」
時刻は昼過ぎ、芳賀玲子のもとから逃げ出してから5時間ほど過ぎたころ。
ドリィとグラァの双子は鬼の手を交わしながらかなり広範に動き回りオボロを探していた。
が、このだだっ広い島のこと、たった一人の人間に簡単に遭遇するはずがない。
「食料を集めたほうが良かったかもしれなかったね」
「うん、でも早く若様にあいたいし…ね、あれ何かな?」
ドリィの指差した方を見ると、森の中の空き地にノレンのかかった屋台が見えた。
そのノレンにかくされてはっきりとは分からないが客も一人いるようだ。
「屋台だね」
「うん、屋台だね。お食事できるのかなぁ」
「とにかくいってみようよ」
「そうだね」
そうして、屋台の前に到着。
「すいませーん」
「お食事できますかー」
双子の質問に、屋台の主人と思わしき女性が答える。
「もちろんよ。お金さえ払っていただければね」
その返答に、双子の表情が輝く。金品の類なら多少は手持ちがある。
だが、まさに注文しようとした瞬間に今度は表情が凍りついた。
「にゃはっ☆ドリィ君にグラァ君だ〜」
その芳賀玲子の声とともに。
「ねぇねぇ、なんで逃げるの〜」
「僕らには構わないでくださ〜い」
「ていうか、お姉さん、なんでそんな足速いんですか〜」
「にゅふふふ☆愛の力だよ〜♪」
実際には、おきてから食事もしないで動き回っていたことと、昼まで寝て屋台でしっかり食事したことの差が影響しているのだが。
とはいえ、やはり一般腐女子と間諜までこなす弓手の名手。走力の差は比較にならない。
やがて双子の耳から玲子の声が消えた。
「ふぅふぅ……やっと振り切ったね」
「ハァハァ……水で飲もうよ。もう限界だ」
「うん、川でも探そう。汗だくだし水浴びもしたいや」
数十分後……川のせせらぎの中、下着だけになった双子の姿が見えた。
「ふう、ようやく一息つけたね」
「うん、お腹はすいたままだけどね」
「ほんとだねー……でも屋台もあるし、すぐお食事できるよ」
顔をあわせて笑いあう二人。
「でも、すごい偶然だよね」
「うん、また玲子さんに会っちゃうなんてね」
「うんうん☆ 私たち運命の赤い糸に結ばれてるんだねっ♪
っていうか双子の裸キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!!」
ゆっくりと振り向くドリィとグラァの視線の先に鼻血をたらしながら、
目を輝かせる玲子の姿があった。
「で、久瀬。どのようにして郁美を探せというのだ」
「難しいな……屋台の周りを張るか、闇雲に歩くか。郁美さんやユズハさんの体力を
考えると森の奥などの歩きにくい道は避けるはずだが……」
「確実とは思えぬ」
「仕方ないだろう、このだだっ広い島のこと、たった一人の人間に簡単に遭遇するはずがない。」
「い、いや……そうでもみたいだぞ……」
「……?」
オボロの凍りついたような声に、久瀬と雄蔵は顔を上げた。オボロの視線の先には。
「若様〜 たすけてくさーい!!」
「い、いたずらはいや〜!」
下着姿で泣きながらこちらに走ってくる、双子の美少年二人。そして、
「にゃはははあハアハァハァ(;´Д`)ハァハァ・・!!」
形容しがたい息遣いとともに、双子を追いかける腐女子一人。
目を血走らせ、鼻血を垂らし、体中に吸盤つきの弓矢を貼って失踪するその姿は、
全力で告げていた。美少年双子にハァハァないたずらキボンヌ、と。
「お願いします、若様!!」
「このままじゃ汚されてしまいます!!」
もう、鬼とか逃げ手とかそういうことはどうでもいいような感じで
オボロの後ろに回りこむドリィとグラァ。
結果としてオボロ達は玲子と向き合う形になる。
「何……邪魔するの?」
一転して低い声を出す玲子。
「う、ぐぅ…じゃ、邪魔というか……」
冷や汗を垂らしてあとずさるオボロ。雄蔵はきっぱりと他人のふりをする。
「ま、待ちたまえ。性的ないたずらは一種の暴力として……」
全力で雄蔵を見習いたかったのだが、弱者の保護という理想を思い出し
久瀬は抗議する。
「あ?邪魔するのね?」
理想は潰えた。
久瀬にできることのは、せめて裸はまずかろうと、
ドリィとグラァの肩に持参していた上着をかけてやることのみ。
無論、襷つきで。
「ちょ、ちょっと見捨てないでくださいよ!!」
「助けてくれたらもう二度と、
酔いつぶれた若様ににレッツコンバイン♪ なんてしませんから〜!!」
オボロは玲子に襷を差し出すと、グッと親指を突き出し素敵な笑顔で言った。
「思う存分、いたずらしてくれ」
「あ、あれで良かったのか?」
若様の薄情者〜、おうらみします〜、ハァハァ待って〜、そんな感じで
遠くなっていく声を聞きながら久瀬は問う。
「まあ、な。奴らもこれで日ごろの行いを反省するだろ」
「日ごろの行いって、どんなのだ…」
呆然とつぶやく久瀬のそばで、やはりこんな島に郁美は置けぬ、
と雄蔵は決意を固めていた。
【ドリィ、グラァ 鬼化。下着に上着一枚。弓矢は持っている】
【芳賀玲子 鬼化。腐女子全開。双子を追う】
【オボロ 1ポイントゲット。通算1ポイント】
【久瀬 ちゃっかり2ポイントゲット。通算4ポイント。ポイントは使っていない】
「みんなとはぐれちゃった」
今現在観月マナは一人ぼっちであった。
つい先ほどまでは三人パーティが結成されていたが突然鬼の襲撃に合い、こうして散り
散りになってしまったのである。
「デリホウライさん無事かな?」
マナは真っ先に鬼が狙うのなら相手は自分だと考えていた。
冷静に考えて体力、スライド共に一番劣っているからだ。
そりゃあ、結構コンプレックスにだってしているのだ。
だが、自分たちを襲った鬼は最初から明らかに彼を狙っていた。
そういう変わった人間も世の中にはいるようだった。
突然デリホウライが横へ飛び退いたかと思った瞬間彼の足元にとりもちが着弾、間髪入
れずライフル銃を鬼が茂みの中から姿を現した。
驚きのあまり動けなかった。そんなときデリホウライが『散れ!』と叫びながら鬼に向
かって突進、寸前を掠めるにして逃げ出した。今度は向こうが虚をつかれた番らしかった
が、すぐに凄く愉快そうな笑みを浮かべて追走を開始した。
彼が自らを囮にして作ってくれた隙に残った二人は別々の方向へ、マナは慌てて森の中
に逃げ込んだというわけである。
道無き道を一人歩く。木漏れ日が差して所々に花が咲き乱れていた。
背の高い植物が多く、良い感じにマナの姿を覆い隠してくれているのは実にありがた
い。
──なんか無性に悔しくなった。
腹いせに近くにあった木に蹴りを入れてみた。
思いきり木が揺れた。マナの脚も痛くなった。
「いたた……あー、何やってるんだろう私」
ごろん、と横になる。そう言えば数時間歩きっぱなしだったから少し休憩した方がいい
だろう。葉っぱがちょっとちくちくするのは我慢だ、その分相手からも見つかりにくい。
緑色の空を見上げながら思い馳せる。
「お姉ちゃんと藤井さんに誘われてリゾートに行くことになって」
送られてきた招待状。一も二もなく賛成したけど、本当は二人だけで行かせてあげた方
が良かったかも知れない。
「でもま、行ってみたらいきなり突然鬼ごっこだもんね」
みんなバラバラになっちゃったから、結局二人だけの時間を一緒にという訳にはいかな
かっただろう。
「藤井さん優しすぎるところあるからなぁ、また人にお節介焼いてお姉ちゃんやきもきさ
せてるかも。上手く出会えていると良いんだけど」
彼女は二人が必死のチェイスを繰り広げていることを知らない。
木擦れの音で音で急激に意識が覚醒する。いつの間にか少しうとうとしていたようだ。
誰かが、近くにいる。鬼? 鬼だったら拙い、どうしよう? 動けば自分の存在がばれ
る、でも寝転がったこの体勢だと見つかったら絶対に掴まる。
逡巡してマナは起きあがることを決意した。鬼でないかもしれないし、逃げれるメリッ
トは大きい。
そして。
草いきれ乗っけて立ち上がったマナの目に飛び込んできたのは分厚い胸板浅黒い肌。鬼
の襷をつけたそのイカツイ顔とは僅か5mの距離。
ある日森の中、お嬢さんはクマさんに出会った。
クマって言うよりむしろゴリラだけどね。
【マナ 森の中で醍醐と出会う】
【醍醐 花咲く森の道でマナと出会う】
【デリホウライ 御堂引き連れて逃亡】
【御堂 デリホウライを追っかける】
【時間は南中を少し過ぎたくらい】
【御堂とデリホウライのチェイスはマナと醍醐の邂逅より数時間前】
「だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、疲れた!」
海から上がったD(ピーチ浮き輪着用)は、どさぁっと情けなくパラソルの下に倒れこんだ。
「Yeah....なんだかめいいっぱい動いちゃったね……」
その横に体中から液体を滴らせたレミィが腰掛ける。さすがに元気印が特徴の彼女も、数時間に渡って遊び続けてかなりグロッキーなようだ。
「ん? どしたの2人とも? もう休んじゃうの?」
一方、スクール水着着用のしのまいかはそんな2人の前にたち、まだまだこれからと言った様子ではしゃぐ。
「ねぇねぇ、あっちにでっかいいわばをみつけたんだ。みんなでいってみよーよ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……」
「ワタシたち、少々お疲れmodeだから……」
ぐいぐいと2人の腕を引っ張るまいか。だが歳食った2人は体の方が付いていってくれない。
「ぶー、つまんないの」
「ほ、ほらレミィ。まいかが不機嫌だぞ。責任者として、お前付いていってやれ」
「で、Dこそ。やっぱりここは男の人ががんばるトコロだヨ!」
「どっちでもいいからさぁ〜、ね〜!」
幼女は微塵も引く様子は見せず、疲れきったお父さんとお母さんを困らせる。
真夏の海、もしくは東京鼠園などでよく見られる光景だ。
「あ、そ、そうだまいか! かき氷! かき氷食べたくないか!?」
「あ、そ、ソウだったネ! ええと、確かここに……」
購入したのか、持っていたのか。レミィは脇に置かれたクーラーボックスを慌てて開くと、その中にはこんもり盛られた氷、さらには立派な『かき器』が。
「うわ〜……」
まいかがキラキラとした目線を『それ』に送る。こうなれば俄然、事態は大人のペースだ。
「そぉらまいか! かき氷だぞ! フラッペだぞ! 夏の風物詩だ! シロップは何がいい? 何でもあるぞ!?」
「ウン! strawberry,melon,orange,lemon,blue hawai,coke……勢揃いだヨ! 何にする!?」
「いちご! いちご! いちごっ!」
飛び跳ねながら、まいかはいちごいちごと叫び続ける。
「OK! イチゴだネ! それじゃ、早速……」
……と、レミィは器に直接真っ赤なシロップを注ごうとする。
「……ちょっと待てレミィ」
だが、それはDが制した。
「ン? どうしたのD?」
「お前、何をしているんだ?」
「ナニって、シロップを器に……」
「……? かき氷と言ったら、器に氷を入れ、その上からシロップをかけるのが普通だろう?」
「ウウン違うヨ。ワタシいつも、器にシロップを入れてから氷をかいてるよ?」
「バカな。そんなことをしたら氷とシロップが混ざりにくいではないか。シロップは氷を溶かして下へ沈んでいくのだから、上からかけるのが一番だろう?」
「そんなハズないよ! ワタシ、ずっと昔からこの方法でやってきた! ワタシの友達だってみんなこうだよ!」
「合理的でないだろう! 混ぜるのに余計手間がかかる!」
「Dヘンだよ! 絶対ヘンだよ! 第一かき氷は混ぜるモノじゃない、適度に交わったシロップと氷の境目をシャクシャクとすくうのが一番オイシイんだよ!
全部混ぜちゃったらそれはただのジュースと同じじゃない!」
「変なのはどっちだ! 元々かき氷なんぞ夏の食べ物、冷たくいただいてナンボのものだろう! 極論すれば冷たいジュースと同じだ!」
「だったら最初からジュースを飲めばイイじゃない! かき氷はかき氷として食べるからかき氷としての価値があるんだヨ!」
「ええい貴様などと議論している暇はない! まいか! お前はどうだ!? お前はかき氷はどう食べる!?」
「そ、そうだヨ! ここはまいかちゃんの意見を聞こウう! まいかちゃん、かき氷って……フツー、シロップが先だよネ!?」
呆然と大人気ない二人の言い争いを聞いていたまいか。いきなり話題を振られ、困惑したまいかの答えは……
「まいか……かきごおりは……」
「うん」「ウン!」
「こおりをかいて……しろっぷかけて……」
「そぉらみろレミィ! やっぱり変なのはお前じゃないか!」
「Shit……!」
「……もういっかいこおりをかいて……さいごにしろっぷ……」
「が!?」
「What!?」
ちなみに、その頃の観鈴ちん。
「いいなぁ……いいなぁ……今度はかき氷食べ始めたよ……。わたしも食べたいなぁ……あそこに行きたいなぁ……でも鬼になるのは嫌だなぁ……」
相変わらず少し離れた林の隙間から一家を覗き見ていた。
「やっぱりかき氷は……シロップ、氷、シロップってかけて食べるのがおいしいんだよね……」
……文化の隔たりは大きいようだ。
【D一家 文化の違いから喧嘩を始める】
【観鈴ちん 市原悦子状態】
【時間 午後】
【場所 海岸砂浜】
「なんか疲れた」
「俺もだ」
住井と北川はやる気を無くし、へたり込む。
無理も無い。
邪魔ばかりで人の幸せを妨害し続けてきた二人にとって、
この青春のウエイトを大きく占める海はあまりにも巨大で厳しくて偉大すぎたのだった。
その後。
「人類全員きえねーかなー」
「まったくだー」
二人は人生に絶望していた。
無理も無い。
友人が無条件でもてているのに対して、自分らのなんと情けないことか。
バカップルのすぐ横でニコニコしながら脇役をこなすことに存在価値はあるのか。
その後
「相沢達って恵まれすぎだよな」
「ああ、今すぐに少年院に行ってそこのボスにケツをとられるくらいしなきゃ不公平だ」
無理も無い。
奴らは輝きすぎている。
自分らには輝く場所すらない。
その後
「もういいや、寝よう。海の前では俺たちは無力だ」
「ああ。もうどうでもいい」
無理も無い。
【住井 北川 寝る】
あ、どうも。宮田健太郎です。五月雨堂店主やってます。今は鬼をやってます。
なんていいますか空から魔法使いが衝突して一度死んだり、空から鬼が降ってきて鬼になったりで
そう考えると我ながら割と悲惨な主人公だと思うんですがどうよ?
ま、リレー即死属性ついてるくさいし、ズンパン扱いだし。
今回だって出番が無かったから表記が変わらなかったけど
葉主人公で言えば蝉丸さんの次、時間軸で言えば宗一君のよりも前とかなり早い段階で脱落してるし。
同じ大学生主人公なのに耕一さんや冬弥や和樹に比べてなんでこんな扱い悪いのか。
ああ、申し訳ない。話がそれました。
で、まぁ俺も健康な一人の男として女の子にはいいトコ見せたい訳で
かっこつけて鬼になるまで一緒にいた好恵ちゃんは逃がしてあげまして。
落ちてきた鬼の娘はタイヤキタイヤキ良いながら旅立たれまして。
今どうしてるかってぇと同じくココ暫く出番が無かった
五月雨常連のじょしこおせえなつみちゃんと追いかけっこを終えまして
タッチをしてなつみちゃんに襷を渡し楽しく談笑なんかしちゃってる訳ですよ。
あ、追いかけっこの時
「うふふ、鬼さんこちら〜」
「あはは、待てぇ〜」
なんて少女漫画のバカップルみたいなことしてたことに関してはなつみちゃんに口止めしとかないと
後でスフィーや結花に殺されかねんな。
【健太郎 なつみを捕まえる】
「ん? 何の匂いかしら?」
「焼き魚・・・かな?」
結局朝食を食べられなかった少年+雪見。
現在、森をうろうろ彷徨い中。
「行ってみるかい?」
「その価値はありそうね」
匂いを方へと進んでいく。
森が途切れ、湖にでた。
焼き魚発見。
ついでに、鬼も。
「お? 参加者みーっけ」
昼食を食べ終わり、雑談していた相沢祐一、天沢郁未、名倉由衣の三人。
焼き魚も、残り1本。由衣がゆっくりと食べていた分のみ。
そして、祐一の一声に郁未も少年と雪見を見つける。
「先に逃げていていいよ。ぼくが足止めしておくから」
「一緒に逃げても大丈夫だと思うけど・・・」
「相手は不可侵の力と男性。油断はできないよ」
雪見は、不可侵の力をよく分かっていなかったが少年の使っていた力のことだろうと判断した。
それに、前にやっていたTVの派手な演出も不可侵の力だったような気がする。
「そう・・・捕まったらだめよ?」
「大丈夫だよ」
雪見は、安心した顔で鬼から離れる。
少年を信用しているからか、または自分の身が第一だからか・・・。
そこから、少し離れた位置でその様子を見ている者がいた。
『少年を生贄にしたの。極悪人なの』
「……私達も逃げましょう。気付かれると厄介です」
「茜〜、屋台あったよ〜」
【少年 郁未・名倉・祐一の足止め】
【雪見 逃走】
【茜・澪・詩子 屋台が近くにあるらしい】
【郁未・祐一 雪見・少年を発見】
ふらふらと近づく影。
それを見つけたのは久瀬だった。オボロと雄蔵は互いの妹を探しに近辺を見回っている。
「……1人か。だが、たすきをつけている。
持ち駒は大いに越したことはない、が……」
憔悴しきった様子で、ぶつぶつとなにかを呟き続ける男。あまり役に立ちそうではない。
「スルーするか」
無視を決め込んだ久瀬に、男は呟くように言った。
「ルリコ……僕の瑠璃子はどこにいるんだ……?」
「知らないね」
素っ気なく言う。さあ、早くどこへなりと行ってくれ。
久瀬が願うまでもなく、聞いているのか聞いていないのか、男──月島拓也はふらふらと通り過ぎようとした。
が。
「チクショウ、見あたらなかった。ここらにはいないのかも……と、久瀬、誰だそいつ?」
「オボロ、いい。気にするな」
「そうか?」
じろじろと見ていると、拓也はゆっくりと顔を上げて尋ねた。
「キミは瑠璃子を見なかったかい? 僕の、大切な可愛い妹を……」
「お前も妹を捜しているのか!」
一気に感情移入するオボロ。
「そう、妹……ルリコ……妹だからって……なにが悪いんだ……
愛に禁忌があるのかい?」
「なんだかよくわからないが、気持ちはよくわかる!
唯一無二にして愛すべき妹。それがこんな物騒なところで一人泣いていると思うと!」
くっ、涙を浮かべるオボロ。
「泣いている!? 泣いているのかルリコは!」
「ああ、きっと泣いている。心細く兄の名を呼び、助けを求めているに違いあるまい!」
「そうか! 瑠璃子は僕を求めているんだね!!」
なんだかわからないが手を取り合って感極まって叫ぶ男が二人。
久瀬はそれを冷静に身ながら吐息を付いた。
「そういえば、立川さんも妹を捜しているとか言ったな……」
『シスコンは友を呼ぶ。』
久瀬、あらたなる真理を見つけたり。
【月島:オボロ、久瀬に合流】
【オボロ:新たなるシスコン仲間を見つける】
【久瀬:なんだかため息】
【森。二日目の夕刻】
「それにしても、屋台はどこにあるのかしら…」
「セリオ、何か分からない?」
香里一行。
ただ今屋台と獲物を求めて進軍中であった。
食事をしっかり取っていたおかげで、足取りは軽い。
「申し訳ありません。今はセンサーにはこれといって何も……
ちょっと待ってください。あちらの方向500メートル先に生態反応が見つかりました」
そう言って、小道の向こうを指差すセリオ。
「数は?」
「…1人です。しかも、移動していません」
「隠れているか、休憩中ってあたりね。どちらにせよ行くわよ」
「ええ」
「了解です」
その頃―――
「んぐんぐ…はぁ…なんか俺、この島に着いてからいいこと無いなぁ…。
この辺でお腹を空かせた美少女が通りかかったりしないかな…。
今なら食糧はたくさん持ってるから、
『おや、お嬢さん、お腹が空いているのかい?よかったら、これを食べなよ』
『えっ?で、でもそれは貴方の大切な食糧じゃ…』
『いいんだよ。僕にとっては目の前で女の子が飢えで苦しんでるのを見るほうが辛いんだ』
『ああ、なんて優しい人。よかったら、お礼にこれから一緒に同行させてください』
…なーんてことになっちゃったりしてな!わはははは参ったなぁ!!俺は参ったぁ!!」
立て続けに女運に見放され、ついに暴走が始まってしまった巳間良祐が食事を採っていた…。
微妙に高槻化してるのは、やはり高槻の影響を受けすぎたせいなのか…。
こんな妄想しているものだから、彼は気づかない。
接近してくる3人もの気配に。
「…男のようだけど」
「しかもあの襷は鬼です」
木陰から良祐を発見した香里一行。
独り言を言いながら食事している良祐をまるでUMAを見るかのような目で監視していた。
「鬼でもいいわ。屋台と栞の情報を聞き出せるかもしれないし。
とりあえず、逃げられないように3方向から囲みましょう。香奈子は右から。セリオは左から。あたしは正面から」
「分かったわ」
「了解しました」
パキッ。
小枝を踏む音で、良祐は我にかえった。
音のした方向を見ると、ウェーブのかかったロングヘアーの少女が良祐の方へ近づいてきていた。
「…まさか、俺の願いが叶った!?…神様ありがとう!妹属性とはちょっと離れているけど、俺的には問題ナッシング!」
確かに美少女は来た。
だが、彼の願いをかなえた神様はおそらく、厄病神であったに違いない。
なぜなら、その少女の纏っているオーラは、ヒロイン的萌え萌えオーラではなく、修羅としてのどす黒いオーラだったからだ。
「……逃げよう」
良祐の生物としての本能が警告する。
あれは修羅だ。でなければ鬼神だ。
下心丸出しで近づいていい相手ではない。
食べかけのパンを慌てて飲み込むと、くるりと背後を向けて逃げようとした。
巳間良祐は逃げ出した!
しかし、すでに回り込まれていた!!
「残念ながら逃がすわけにはいきません」
「悪く思わないでね。こっちにも事情があるの」
「…マジですか―――?」
「…さて、と」
唐辛子噴射機を良祐の顔の正面に向けながら、香里は静かに呟いた。
「あ、あの…俺は鬼なんだけど…どうしてこんなことをするのかな?」
両腕をセリオと香奈子に捕まれ、逃げられない良祐。
せっかく美少女が3人も現れたと言うのに、この状況では嬉しくも何とも無い。
「貴方に聞きたいことがあるのよ。正直に答えれば危害は加えないわ」
口調は丁寧だが、その声には有無を言わせぬ凄みがあった。
「は、はい!何でも答えますから、どうか命だけは…」
よく見ると、この正面の少女、どことなく妹の晴香に似ている。
いや、顔だけではない。その身から発している迫力も互角、いやそれ以上である。
良祐は直感的に、逆らったら命はないと感じていた。
「オッケー。なら聞くわね、質問は2つ。その1。
美坂栞と名乗る、ボブカットでストールを身につけた小柄な女の子を見なかった?」
その質問に、良祐の顔色が真っ青になった。
「ち、違うんだ!彼女が君たちに何をしたかは知らないが、僕だって彼女に利用されてたんだ!
彼女の行動は僕の責任じゃない!僕は彼女とは仲間でもなんでも無いんだ!!」
必死の形相で栞と仲間であることを否定する良祐。
どうやら、香里の怒りはあの美坂栞という少女に何かされたせいであり、復讐を企んでいるのだろうと思っているようだ。
…まあ、実際その通りなのであるが。
「栞を知っているのね!?どこ!どこで見たの!?そしてあの子が何をしたの!?正直に答えなさい!」
良祐の胸倉を掴み、噴射機を目の前に突き出す香里。
「…正直に答えないと、唐辛子が目と鼻と口と耳から入るわよ?
その苦しみと言ったら、とてもじゃないけど死んだ方がマシと思えてくるくらいよ?うふふ」
傍から見ると、少し落ち着いたように見える香里。
…そう。顔だけは確かに笑っている。しかし、声は笑っていない。
もはや良祐は尋問を受ける捕虜そのものであった…。
良祐は全てを語った。
栞と出会ったこと。栞の姉が身を呈して栞を救ったと言っていたこと。
病弱な彼女を気の毒に思い、一緒に行動してあげたこと。
鬼に見つかったときに、栞は自分を置いて真っ先に逃げ出したこと。
そして、栞に財布をスられていたこと。
良祐の話が終わったとき、香里のこめかみには怒マークがたくさん浮かんでいた。
「…セリオ。今の話、本当だと思う?」
「体温や脈拍の変化からして、嘘を言っているようには見えません。おそらく本当です」
実は一箇所、「病弱な彼女を気の毒に思い」という所は本当のことではなかったのだが、(栞と近づくと言う下心のためだったし)
半分は嘘でもなかったため、セリオの嘘発見機能に引っかかることはなかった。
「そう…」
淡々と呟く香里。
しかし、その中に含まれる怒気はセリオですら戦慄を覚えるものであった。
「あの子…また人様に迷惑かけて…しかも窃盗と言う犯罪行為まで…。
……ふふ、うふふ……これは一度生まれ変わった方がいいかのかもしれないわね………」
香里以外の3人が、その言葉にかってない恐怖を覚えた。
「あ、あの…もしかして、君が栞くんの言ってた、お姉さ…」
「あたしに妹なんていないわ」
「は、はいっ」
逆らってはいけない。
逆らったら、絶対に命は無い…。
「それで、栞は今どうしているか分かる?」
「知らない。…ほ、本当だ!彼女と別れたのもけっこう前のことだし…本当に知らないんだ!!」
「…そう。なら1つ忠告しておくわ。栞を見かけても、手を出したら駄目よ。あれはあたしの獲物なんだから」
「…分かりました」
そもそも良祐には、元より、二度とあの少女に関わるつもりはなかった。
「それで、聞きたいことの2つめとは?」
「そうだったわね。あたし達、今屋台を探してるんだけど、貴方知らない?」
「そういえば貴方、さっきパン食べてたわよね。あれってやっぱり屋台で買ったの?」
香里の質問に、香奈子が思い出したかのように詰め寄る。
「あ、ああ。財布も主催者のおかげで戻ってきたしね」
さすがに、見ず知らずの人妻に買ってもらった、などとは情けなくて言えない良祐であった。
「屋台は…たしかあっちの方角だった」
そう言って、自分が今来た道を指差す良祐。
「ただ、屋台と言うからには移動している可能性があるから…今も同じ場所にあるかは保障できない」
「それで十分よ。助かったわ」
「ほ、他に何かあるかな?」
内心は、もう勘弁してくれ、状態な良祐であったが、さすがにそんなことを口には出せない。
「…そうね、もう無いわ。協力ありがとう」
「それでは、行きましょうか」
「それじゃあね」
3人は良祐に別れを告げ、屋台のあった方角へと進んでいった。
「…た、助かった…」
その場にヘナヘナと崩れ落ちる良祐。
今の彼にとっては、さらなる女運の無さを嘆く以上に、無事に解放されたことへの安堵感のほうが強かった…。
「…しばらく、女の子のことを考えるのはよそう…」
巳間良祐よ。
賢明な判断だそれは。
「ところで美坂様、よろしいのですか?」
「何が?」
「あの巳間様を仲間に入れなくて、です」
セリオが道中、香里に尋ねた。
栞の情報を持っている以上、仲間に入れてもよかったのではないかと考えているらしい。
「いいのよ。これ以上仲間増やすと相手に気づかれやすいし、身動きもとりにくい。
…なにより、あの男が役に立つとは思えなかったしね」
「それは同感ね」
香里のひどい回答だったが、香奈子は賛同した。
セリオも、特にそれに否定はしていなかった…。
【香里、セリオ、香奈子、良祐と接触。栞と屋台の情報を得て屋台に向かう】
【巳間良祐、捕虜になるも無事解放される。その後の行動は未定】
【時間は良祐が秋子から財布を返してもらってからそう経っていない、昼頃】
31 :
誤報――:03/03/29 14:28 ID:VGtnSzp4
「病気持ちなのに参加するとは、お前、いい度胸してるニャロメ」
「どうも」
興味深げにじろじろ見て来るたまにシュンは微苦笑を返しながら、おでんのハンペンを箸で切り取り、口にする。
隣に座っているあかりが食べているのは、五目炒飯である。
――二人が参号屋台にいた。が、高台から見つけた屋台が果たしてここであったのかは、定かではない。
「参加者の中には、氷上さんと同じ様なハンディキャップを背負った方が複数おられます。
そういう方々の為に、万が一に備えた医療スタッフが待機しているはずです」
「ほぉ〜、準備万端だにゃ。そこまでして鬼ごっこなんかやるなんて、人間ってのはホントにアホだにゃりん――
(すぱぁぁぁんっ!)――ふぎゃっ!?」
「客の前で失礼な物言いすんじゃないよ。御免ね、二人とも」
たまに突っ込んだのは、メイフィアである。その片手にはどこから取り出したのか、スリッパが。
「気にしませんよ。――ああ、大根とちくわ、お願いします」
「あの、私も炒飯、半分だけ御代わり出来ますか?」
「出来るよ。フランソワーズ、炒飯頼むわ」
「はい」
「――で」
スリッパで殴られた頭から煙を上げながら、たまが復活。
「誰が医者を呼ぶんだニャロメ?」
「ナースコールでしょ」
「? それは何だにゃ?」
「――これだよ」
シュンが懐から『ナースコール』を取り出し、たまに見せてやる。臆面も無く、たまはシュンの手からそれを掴み取った。
「この中から医者が出て来るのかニャロメ」
「んな訳ないでしょーが。そこのボタンを押すと医療班がスッ飛んで来るのさ」
「ほ〜」
「今は押しちゃ駄目だよ、たまちゃん」
「解ってるニャロメ」
ちょっと不安そうな声でたまに言うあかりであったが――
ぽちっ…
「「「「「――あ」」」」」
32 :
誤報――:03/03/29 14:30 ID:VGtnSzp4
ヴィーッヴィーッヴィーッヴィーッ!――
ゲーム監視センターに緊急を告げる警報が響いた。
「緊急です。『ナースコール』からの信号を受信。発信地点の座標を送信します。現場へ急行して下さい」
インカムを着けた量産型HM−12が、無感情な声で言う。
『了解』
――応えた声もまた、同じ様な無感情な声であった。
森の一角――
がさぁっ…!――と、茂みから一体の量産型HM−13が飛び出してくる。
「きゃあっ…!?」
その突然の出来事に、偶然傍を歩ていたあさひが小さく悲鳴を上げる。
傍らを風が通り抜けて行ったと感じた時には、HM−13の姿はもう見えなくなっていた。
同じく、森の中――
ざざざざざざ…!!――
森の中を駆ける音。その音が、ティリアとサラの目の前を通り抜けてゆく。
「「――!?」」
短めな緑色の髪と耳の部分にある角の様な物を着けた後姿は、あっという間に木々の間に消えてしまった。
「…押してしまいましたね」
「何やってんだい、このバカ猫は!? ホントに三味線にしちまおうかね!」
「ぎにゃーっ! ワザとじゃないにゃー! 誘惑に負けて思わず押してしまったんだニャロメー!!」
大騒ぎな参号屋台の面々。呆然とするあかり。
――だが、シュンは別段驚く様子も無く、マイペースにおでんを突付いていた。
「大丈夫ですよ。別にやばいことにはならないから。――むしろ、有事に於ける対応の速さが、テスト出来るね…」
ごく冷静な面持ちでシュンが呟いた時――
「信号発信地点に到着。参加メンバー、氷上シュン様を確認」
「状態をチェックさせて頂きます」
「わ、びっくり…! ――セ、セリオちゃんにマルチちゃん…?」
突然現れた警備スタッフの制服を着た二人のHM姉妹に、あかりが目を見開いた。
33 :
誤報――:03/03/29 14:33 ID:VGtnSzp4
――が、すぐに自分のよく知るあの姉妹ではない事に気付き、小首を傾げた。
「――ああ、大丈夫だよ。今のは只の誤報。間違えて押しちゃったんだ」
「そうですか。ですが、念の為のチェックだけでも宜しいでしょうか?」
「いいよ」
「――失礼します」
シュンの胸――心臓の箇所に手を当てるHM−12。掌のセンサーを通じて、彼の心臓の状態を診る。
「……状態は、現在良好の様です。――大変失礼致しました」
「引き続き、ゲームをお楽しみ下さい」
HM姉妹は無感情な声でそう言い、揃って頭を下げると、あっという間に走り去って行ってしまった。
「――うん。信号発信から一分掛かって無いね。これは頼りになる」
「…ど、どこに居たんだろ、あの子達…?」
「多分、そこら中に待機してるんだよ。すぐに対応出来る様に」
「来栖川グループとも提携を結んでいる様ですね」
「……ま、何はともあれめでたしめでたしだにゃ(すぱぁぁぁぁんっっ!!)」
何故か踏ん反り返って言うたまの頭に、メイフィアのスリッパがまた炸裂する。
「あんたは黙っときなさい」
「メイフィアさん。がんもどきと卵、お願いします」
「――あ、はいよはいよ♪」
【あかり・シュン 参号屋台にて昼食】
【たまが『ナースコール』を間違えて(なんとなくワザと臭いが)押す】
【『ナースコール』発信後、現場に量産型HMが急行。医療班到着まで応急処置をするらしい】
【量産型HMは、島中に待機している】
【時間は昼下がり】
「運良く屋台が出ててね、いっぱい買ってきたよ!」
カミュがにこにこと膨らんだカバンを得意げに掲げた。
「……もくもく」
口の中に何か入れているアルルゥが頷く。
「あとねあとね、なんか武器も売ってたから買っちゃったよ。
これだけあれば優勝も夢じゃないかも!」
「でも、お買い物するには、お金が必要では……?」
「おとーさんからもらった」
ようやく飲み込んだアルルゥががま口のお財布を見せた。「おこづかい」
「おじさまってば太っ腹だよ〜。やっぱり娘が可愛いんだね」
「んー」
嬉しそうにアルルゥが頷く。
ゲーム開始前に、ハクオロから「必要なだけ持っていきなさい」と渡された財布。
「…………」
しばらく迷った末。
「んっ」
よくわからなかったので中身を全部抜いて、自分の財布に入れてしまったのだった。
ハクオロが目を離していたのは言うまでもない。
「武器は、何を買ったんですか?」
「えとねー。
『強化兵から認知されなくなる装置 Made by 日本一の弟』
でしょー。それから『打ち上げ花火』」
「……?」
「よくわかんないけど、面白そうなのを優先して買ってみたよ」
「そうですか」
やっぱりよくわからないけれど──ユズハもにこりと微笑んだ。
「さー、ごはんごはん」
「ムックル、あんまり食べちゃダメ」
「グフゥ〜」
「これからどうしましょう?」
「ムックルがいるから、森からは出ない方がいいと思う」
「そだねー。せっかく有利なんだもんね」
などと今後の方針など話し合いつつ食事をし、平和に時は過ぎていった。
【アルルゥ(+ムックル・ガチャタラ)、カミュ、ユズハ:ご飯食べて幸せ。食料と武器ゲット】
【昼〜夕刻。川の近くの森】
沙織から逃げ切った栞&祐介一行。
とりあえずそう遠くない茂みに身を隠す。
そして、
「私は美坂栞です。あなたは?」
栞は神様が与えてくれたクソほどの役に立ちそうもない白馬の王子様(もどき)――もとい祐介に対して尋問、いや自己紹介をすることにした。
「僕は長瀬祐介。栞ちゃんか。よろしくね」
初対面のレディに対していきなりちゃん付けかましてんじゃねえよこのボケが、とは思ってはいるがもちろんそんなことはおくびにも出さず、
「祐介さんですね。こちらこそよろしくおねがいします」
にっこりと笑んで返答。とりあえず色仕掛けで落とすことにする。
「…あ、ああ…よ、よろしく…」
どもりながら、視線を逸らしながら、しかしまんざらでもなさそうな顔で呟く。
効果あり。
数が居ないからこんな男でも有効利用するべきだろう。
もちろん他が現れたらポイ、である。
しかし色仕掛けとは言うが、栞の場合女の魅力という物で落とせたかどうかは果てしなく疑問。
まあ結果オーライということにしておこう。
食い付いたのであとは一気に引きずり込むだけ。
思いついたのは病人のフリ。
栞はふぅーっ、と長いため息をつくと、左胸に手を当てた。
「し、栞ちゃん、どうしたんだい?」
「い、いえ…なんでもないです」
「そんなことないよ、顔色悪そうだし…」
もちろん演技である。ちょっと俯いて苦しそうな顔をすればそれで引っ掛かるらしい。
大体、本来重病人だった(過去形)のだから騙されない方がおかしいのかもしれない。
相手が女だったらバレるかもしれないが、当然女にゃ用が無いので問題なし。
さらに、ここぞとばかりにナースコールを転がして祐介の目に入るようにする。
「…それは?」
祐介が聞いてくる。狙い通り。
「…え?これ…これですか?ナースコール…とか言っていました。私のような病気持ちの人が緊急時に押すと、管理側の人が助けてくれるそうです…」
ぜぇぜぇともうわざとらしく喘ぎながら説明する。
演技過剰も甚だしい。
「…ということは、栞ちゃんは病人…?」
イチイチ訊くなヴォケが、一回聞いたら納得せんかい。(心中)
「…そうみたいです…」
「じゃあ危ないよ。助けにきてもらおうよ」
ハナから他力本願かこのヤロウ。男だったらまず自分で何とかせんかい。
などと祐介≠男みたいな暴言を心の中で吐く栞。
そして
「…いえ、大丈夫です。すぐに治りますから…」
などとぬかしおる。
ていうかさっき沙織に謎ジャムツヴァイ(千鶴製)をぶちまけるだけとはいえ戦闘を行い、全力疾走してきたことは完全に無かった事にしようとしているらしい。
重病人(演技は心臓病患者)がそんなことして無事な訳ねえだろ、とかいう三次元からのツッコミは当然届くわけが無く、
「そっか…でも、無理はしちゃダメだよ」
と納得してしまう祐介。
「…はい。でも、どうしても優勝しないとダメなんです」
そして今度は敵を駆除するための布石を打つことにした栞。
「どうして?」
「お姉ちゃんと仲直りするために」
さあこっからは嘘八百の並べ放題。ここが勝負どころとばかりに栞はまくし立てる。
「私はもう生きられない身体でした。でも、どうしても叶えたい夢があったから、死にたくなかったんです」
この辺りまではまあ本当のこと。
「叶えたい夢…」
「お姉ちゃんと一緒の制服を着て、一緒の学校に行く事。一緒にご飯を食べて、待ち合わせをして一緒に帰ること。そんな些細な事です」
うんまあ嘘じゃないんだけどね。
「できれば、ドラマみたいな恋もしてみたかったですけど」
くすり、と笑って恥ずかしそうに(もちろん演技)付け加える。
「そしたら、本当にドラマみたいな奇跡が起きました。私、死ななかったんです。病気が治ったんです。本当に嬉しかった」
祐一が誰のシナリオを選んだのか、なんとなく分かるような台詞を付け加える。
いやひょっとすると誰のシナリオでも生き残ったのかもしれんが。
「それで私嬉しくって、やっと学校に行けました。友達も出来ました。これでやっとお姉ちゃんといっしょになれると思ったんです。でもお姉ちゃんったら酷いんです。
『私に妹なんか居ないわ』
なんて言うんです…家でも顔をあわせてくれません…」
俯いて悲しそうな顔をして嘘を吐く。しかも声のトーンも脳波にも心拍数も手に滲む汗にも恐らく一切変化なし。
多分嘘発見器でも見抜けないと思う。悪女の条件。
「そんな、酷い…」
もちろん祐介は騙される。
「それで、せめて一緒に遊ぼうとこのイベントに参加しました。最初は一緒に居てくれたんですが、いきなり私達は襲われました。そしたらお姉ちゃんが…お姉ちゃんが…」
泣きそうな顔になる。言葉を切る。
「私を見捨てて逃げたんです!!!」
裏切ったのはお前やぁ!見事に真逆のことを吐きおって!とここらで怒り爆発の気の早い三次元の人からのツッコミなぞとどく訳も無く、
「酷すぎる…」
信じ込む祐介。もうあかん。
「でも、私は何とか逃げ切って、お姉ちゃんを探しました。そして、昨日の夜一度再開できたんです。でも…」
繰り返し。
「『私に妹なんかいないわ』とか言ってメリケンサックをはめた拳を私に突きつけました…」
大嘘。ていうか美坂姉妹は再会すらしてないし。いいかげんうんざりしてきた三次元(略
「酷(略 …」
「だから、この鬼ごっこに優勝して、お姉ちゃんに認めてもらうんです。謝ってもらってそれで解決です。でも一人では無理です…ですから祐介さん、良ければ協力していただけないでしょうか…」
涙目で懇願。ここまで来れば天晴れとしか言いようが無いだろう。
もちろん祐介の答えは、
「OKだよ。栞ちゃんを出来る限り守ってあげる」
最後に重要なことを告げる栞。
「出来れば、このゲームが終わるまでお姉ちゃんとは会いたくないです。美坂香里というんですが、できるだけ避けて行動できないでしょうか?」
「分かった、了解」
これで祐介に『香里=敵』という法則がインプットされた。電波使いを洗脳…多分洗脳する栞。
ますます悪女っぷりに磨きがかかってきた。ていうか栞厨が泣くと思うが、そんなこと気にしたら負けだろう。
栞はにこりと笑い、
「それじゃあ、屋台でアイスクリーム、買ってくれませんか?大好物なんです」
本音が出た。
もちろん祐介は了承してしまった。
ていうか祐介、自分が優勝しようとしていた事忘れてないか?
などという三次元(略
【祐介 栞と共に行動することを決定】
【栞 祐介をひっかける】【祐介 アイスを奢るハメに】
【栞 悪女っぷりに磨きがかかる】
【時間は昼頃】
41 :
握手 1:03/03/29 16:49 ID:TRAN5Pyb
「すやすや……」
郁美が気絶するように眠ったまま随分経つ。
あのタイヤキタイヤキとガイキチのように繰り返すバケモノに追われて
精神的に疲れたのだろう。
郁美は腕の中で寝息をたてている。
たしか身体が弱いとか言っていたのが聞こえたが……。
「厄介なの抱えちまったかな……」
呟きつつも、台詞とは相反して郁美を見守るクロウの目はあくまで
優しかったりする。
「ん……」
郁美は眉間に苦渋の色を浮かべ、うなされだした。
「いや……私、たい焼きじゃないです……っ。
食べても美味しくない……っ。……ぃゃ……
ぅ……お兄ちゃん……っ」
ハッと目を覚まし、郁美はきょろきょろとあたりを見回した。
「あ……えっと………………?」
「やな夢見てたみたいだな、お嬢ちゃん」
「ぁ……」
郁美は慌てて目の端に浮かんでいた涙をぬぐった。
少しの沈黙。
どうやら記憶が混沌としているらしく、郁美は過去を探るようにしばらく沈黙した。
「そっか、私……助けられて……。クロウさん、でしたよね。
お礼が遅くなってすみませんでした。ありがとうございます」
外見にしては大人びた口調で郁美は礼を言った。
42 :
握手 2:03/03/29 16:49 ID:TRAN5Pyb
「いやいや、バケモノに追われた女の子を助けないわけにはいかねぇだろ?」
あゆ、すっかりバケモノ扱い。
「私……立川郁美です」
「よろしくな」
「ここは……」
「ああ、当てもないしな。とりあえず、こいつの(とウォプタルの背を叩いて)エサや
俺達の飯も欲しいから、あの建物の方目指してるんだが……店なんてあんのかねぇ」
「おれたち……?」
郁美が目を丸くする。そして、淋しげに続けた。
「あの、私……。聞こえてたかもしれないんですけど、あんまり……身体強くなくて。
目一杯走ることもできないし……ご一緒しても、足手まといになると思います」
「かまわねぇさ」
「でも……」
「オレやこいつがお嬢ちゃんの足になる。な?」
「あ……」
かすかに頬を染め、郁美は頷いた。
「お願いします」
「おう!」
握手を交わしたあと
「もう、お昼近いんですね」
太陽の高さを見上げ、郁美が呟いた。
【クロウ(+ウォプタル):郁美を保護】
【郁美:クロウに好感度↑】
【二日目昼近く。海岸沿い。建物を目指している】
鶴来屋本社ビル、その一室にて。
「もぐもぐ…栞さんにも困ったものですね」
「もぐもぐ…えぇ。さっき新しい生贄を見つけたようですよ」
「もぐもぐ…なにかやらかさないといいんですが」
「もぐもぐ…そうですね。また犯罪じみたことをしたら、ペナルティも視野に入れつつ…」
ちょっくら休憩中の千鶴さんと、良祐に財布を返して帰ってきた秋子さんが暇つぶしに雑談をしている。
管理者という立場からか、やはり話題は栞の悪行。
「もぐもぐ…それにしても、美味しいですねこのアイス」
「もぐもぐ…そうですね」
「もぐもぐ…でも、ちょっと多すぎますね。体が冷えてしまいました」
「もぐもぐ…2万円分ありますからね。どうしましょう」
………と。彼女らの隣で足立さんが何か言いたげにしている。
あのね。栞の悪行を云々言うのなら、食うなよそのアイス。良祐に返してやれよ。
食うなら食うで代金を良祐に渡すとかさ。
せっかく財布が戻ってきても、諭吉さん2人いなくなってるんだぞ。大丈夫か良祐。
彼の気持ちを代弁するとこんな感じか。
しかし言葉には出さない。
そんなことをしたら口の中のアイスが零れてしまうではないか。
「ごくっ…我々で食べきれないのなら、他のスタッフに分けてあげるというのはどうですか?」
アイスを飲み込み、彼は変わりにそんなことを言った。
「もぐもぐ…そうですね。とてもいい考えです」
「もぐもぐ…了承(3秒くらい)」
「では、私が配ってきます」
「もぐもぐ…はい。いってらっしゃいませ」
山のようなアイスを手にし、部屋を出る足立さん。
(…アイスって、「もぐもぐ」食べるものだっただろうか?)
そんなことを思いながら、彼はアイスを落とさないよう慎重に歩いていった。
良祐のお金の件は…まぁ、そのうち考えよう。
【良祐 財布の中身が2万(+1000)円減っている】
【千鶴、秋子、足立 アイス食べまくり】
「うーん……死ぬにはいい日だ!」
ぐっと伸びをしながら、どこかの部族の酋長のような台詞を吐いたのは、格闘お嬢様・来栖川綾香。
じゃんけんの結果、彼女は芹香と、クーヤはマルチと行動することになった。
もともと綾香は芹香を探していたのだから、この展開はむしろ望むところ
だったのだが……
先の提案で、綾香は肝心な点を見落としてた。
このゲームで勝ち抜いていくための必要にして不可欠の条件。それへの配慮を欠いていたのである。
おかげで鬼から無事逃げ切るどころか、彼女達姉妹は現在更に深刻な事態に陥りつつあった。
ありていにいえば、
お金が無い
のである。
来栖川のお嬢が二人も揃って、手元不如意?
なにを馬鹿な、というなかれ。
古今東西、本当のお金持ちというものは金銭など身に付けないものだ。
更に芹香のように趣味の範囲と活動範囲が限定されると、昼食の弁当、帰りはリムジン(with せばすちゃん)で、
事足りてしまう。自身が財布を持ち歩く必要性など皆無だ。
では、アクティブお嬢様な綾香は、というと、
「浩之たちと食べたとき使っちゃったしー」(*割り勘でした)
などとのたまう始末。
なんという、楽天。
なんという、余裕。
おかげでピンチなのだが。
一応まともな学生であるつもりの綾香にはこれみよがしにカードや小切手を使う趣味は無い。
担保にするような装飾品の類ももちろんない。
芹香の怪しいアイテムのなかにはそうしたモノもありそうだが、無論却下。
つまり、お金が無い、ということになる。
はた、と困った、来栖川姉妹(*綾香だけです)。
まず思いついたのは、セバスチャン召喚。
彼は管理者側のにいるはずだが、芹香がちょっと目を伏せて哀しんでいる仕草などしてみせれば、文字通り”飛んでくる”だろう。
いや、常人には出来なくともアレにはできて不思議は無い。
だが、そうした姑息な手段をとるのは綾香のプライドが許さなかった。
というか、あんなうっとうしいのが目の前でうろちょろする光景は我慢ならない。
もう一度伸びをし、草むらに寝転がる。
―――心地良い風。
―――照りつける太陽。
本当にいい天気だ。
横にはあいかわらず、ポ〜〜としている芹香。
「姉さん。どうしようか?」
「…………………………(こくこく)」
なにを思ったか、芹香は例のとんがり帽子をかぶりなおした。
おもむろとりだしたのは、……壷、魔道書(?)、カラフルな小壜、石……etc。
どこにどのように入ってた、それ。
目を丸くする綾香を尻目に、落ちていた棒で魔法陣を引き始める。
「…………………………………………」
「え? 錬金術で金を精製するって?」
「(こくこく)」
「ね、姉さん。ダメよ。ダメ」
「……?」
「他の人が自分で何とかしてる部分をあっさり魔法で解決してしまうってのは、なんというか、その……
不公平じゃない? あ、別に姉さんが魔法を使うのが悪いとかいってるんじゃなくて……ね……その」
賢明だ、綾香。
ゲームバランスを著しく破壊する行為には、管理者側の修正が働く。
ほら、あちらには青い髪であやしげな色の壜を持った女性が二人の様子を伺ってる。
「……………………………………………………………………………………(こくこく)」
「そう、良かった! じゃあ、次善策を練りましょ!」
なお、同日同時間・管理室の一画で、この光景を衛星からのリアルタイム映像で見た、ある老人が
涙の流しながら飛び出そうとし、量産型HMX-13数体の投入で阻止されたという事件があったが、
参加者の知るところではなかったという。
【綾香 芹香 平原】
【時間 昼】
【姉妹 金策に困る】
49 :
香里大戦略:03/03/29 18:44 ID:4+gHRyzc
「美坂様!」
「どうしたの?」
良祐に示された方向に歩いていた最中、突然セリオが声を上げた。
「高速動体がこちらに接近しています! 2ツが2ツを追いかけ、おそらくは追撃戦かと」
「どうするの?」
香奈子の問い。香里は一瞬考え、
「先回りは?」
「可能です。少し移動すれば30秒ほど余裕が出来ます」
「よし!」
ジャキン、と噴霧器のポンプをしごき上げながら、
「行くわよ。どうせ鬼が増えるなら、そのポイントはこちらがいただく」
即断した。
「賢明な判断です」
「3手に別れるわ。オフェンス・足止め・トドメ。香奈子、噴霧器はあなたが使いなさい」
言いながら銃とガスマスクを香奈子に手渡す。
「え? 私が?」
「難しいことは無いわ。狙いを定めて、引き金を引く。そすれば後は噴出された唐辛子ガスが全てを片付けてくれる。簡単よ。
セリオと香奈子はワンチームで行動。逃げてきた獲物の足下目がけ、セリオが飛び込む。それで終わればそれでよし。
失敗した場合は香奈子の出番。空中にいる獲物相手にガスを噴射、吸い込んで視界が遮られたところを……私が叩くわ。何か質問は?」
香奈子とセリオは首を横に振ることで答える。
「よろしい。出陣(で)るわよ」
マスクと銃は手放すとも、全く衰えぬ修羅の気をまとった女が……そこにいた。
「待て待て待て待て待っちなさーーーーーい! そこの目つき悪い男!」
「待てと言われて待つ鬼ごっこがあるワケねぇだろ! この暴力女がーーーーーーー!!!!」
一方こちらはヌワンギ・七瀬(ついでに麗子・矢島もいるのだが)追撃戦。
確かに麗子の見立て通り、2人の実力は全く同じ、戦いは非常に緊迫したものとなっていた。
50 :
香里大戦略:03/03/29 18:45 ID:4+gHRyzc
「昨日の夜からずーーーーーーっと獲物がいなくてイライラしてたのよ! とっととあたしに捕まってポイントになりなさい! 鬼生活は楽しいわよーーー!!!」
「ふざっけんな俺様は優勝してエルルゥを迎えに行かなきゃならねぇんだ! テメェみてえな男だか女だかわかんねぇような奴に捕まってたまっかよ!」
「なっ、なっ、なっ、なっ……」
瞬間、七瀬の背負う怒気が膨れあがった。
「なんですってーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
そしてそれは速度にも加味される。
「ちぃ、なんだアイツは!? ホントに女かよあの体力!」
走りながらも毒づくヌワンギ。一方麗子は息一つ切らさず、それに付き合う。
「まー彼女は乙女を名乗る漢だしね。剣道経験もあるし、押せば倒れるようなそこらの女の子と一緒にしちゃダメよ」
「れ、麗子……お前、なんでンなこと知ってんだ?」
「さぁ? 何でかしらね?」
ふふーんと笑う。ヌワンギは一瞬訝しげに思ったが、
「ま、いいか」
ということにしておいた。
「それよりあたりには気を配りなさいよ。敵は後ろからだけとは限らない。あんだけ大騒ぎしてれば他の鬼も集まってくるかもしれないからね」
「お、おうよ!」
ヌワンギも状況が状況ゆえに彼には珍しく、他人の忠告を受け入れることにした。
……だが、一つ違ったことがある。
(さてヌワンギくん……。君は彼女たちの待ち伏せに気づくことができるのかしら?)
麗子の言葉は『忠告』ではなく、『警告』であったこということだ。
運命の交錯まで、あと30秒。
【七瀬・矢島によるヌワンギ・麗子追撃戦絶好調開催中】
【セリオ・香奈子・香里による待ち伏せ有り。麗子は既に気づいているが、ヌワンギが気づくのを期待】
【接触30秒前】
【時間 昼】
「うーん……そういえば初めてね。お金の事でこんなに真剣に悩ん
だのは」
「(こくこく)」
などと、千紗の両親や理緒が現場に居たら思わず発狂してしまい
そうな悩みを抱えている綾香と芹香。何となく辺りを散歩しながら
(警戒を怠らないところが流石だ)知恵を絞ってみるも、決定的な打
開策は何も見当たらない。
「……」
「え、いっそ鬼になっちゃうとか? だめよ姉さん。せっかくここまで
逃げてきたんだから最後まで諦めちゃダメ」
「……」
「え? どうせなら……うん、そうね。やってみて損はないでしょう」
「(こくり)」
「決まりね。さ、善は急げよ」
芹香のアイディアに綾香は何らかの得心をする。
早速彼女達は、元来た道を引き返していった。
「ということで、主催者側も何らかの対策を考えて欲しいんだけど」
20分後、二人はショップ屋ねーちゃんの屋台の前に立っていた。
参加者だけで解決できる問題ではないと判断した彼女らは、主催
側に直談判を持ち込んだのだ。平然と現行システムにいちゃもんを
付けるあたりに大財閥の令嬢たる彼女達らしいノリを感じる。
「逃げ手のインフレに対する措置ね。うん、わたしも実は気になって
たところだったのよ」
ねーちゃんは快く相談に乗ってくれた。もちろんねーちゃんは主催
側の立場だけでなく、財力で不利が生じた顧客が買い渋りすること
で売り上げが減少する事に激しく危機感を覚えた、というのが実際
の所だろう。
ねーちゃんはしばし考えた後、本部直通電話を持ち出した。
「あ、わたしです。実は――ええ、その通りです。例の逃げ手の金
銭問題について……はいはい。判ってますよ確かに。でも最後まで
逃げる人間が出るのも明らかなんですから」
「――やっぱり、鬼が増えるから問題ないと思ってたんでしょうね」
「(こくり)」
傍聴していた二人はそう推測する。
一人捕まえるごとに1万。
ということは、最終的にだいたい150万円くらいのボーナスが出回
る計算だ。これだけあれば必要最低限の食事は行き通るだろうと。
「ですが、今そちらでデスクワークに励んでる会長みたいに一人で
行動してるのに10人撃墜しちゃう参加者も居るわけでしょ? だっ
たら」
風向きが変わり、今度はねーちゃんの攻勢が始まる。皮肉めいた
ねーちゃんの形容だったが、しかし副次的に綾香達に情報を漏らし
てもいた。
「……」
「千鶴さんでしょうね、やっぱり」
「はい、了解です。それでは」
がちゃん。
「ふぅ。慣れない事はするもんじゃないねぇ」
「お疲れ様。で、成果の程は」
「んーとね」
一つおおげさに背伸びをし、ねーちゃんは結果を報告する。
「結論から云うと、主催者は未だに100名以上の逃亡者が存在する
現状を考慮して、彼らに対する措置を決定した。つまり貴方達の要
望が通ったのね」
「やったわね、姉さん」
「(こくこく)」
「だけど。そう簡単に金銭を配布するわけにもいかない。撃墜ポイン
トの価値が低くなっちゃうからね。――そこで」
べべべーん。
三枚のカードが卓上に現れる。
「なにこれ?」
「参加者はここにあるカードA、B、Cのうちから一枚引く。
裏に書かれた『お題』を見事遂行すれば」
べーん。
「葉鍵鬼ごっこ限定おこめ券3000円ぶんプレゼント」
「………おこめ券?」
「ああ、おこめ券っても普通の金券と同じだから。ビール券だってコ
ンビニでも普通に使えたりするのと同じよ。気にしないで」
「よくわかんないけど…ま、いいか」
「ただし。『お題』には制限時間が設けられているわ。それまでに終
わらせないとゲームオーバー。再挑戦はきっかり16時間経たないと
できない――こんな感じよ」
ねーちゃんはもう一度ためいきをついた。こんなにいっぺんに喋っ
たのは久しぶりのようだったらしい。
「質問、いい? もしそれが成功したら、再挑戦は」
「不可。失敗した時はもう一回出来るけど、成功したらおしまい」
「……」
「個人能力差はどれだけ影響しますか? って」
「挑戦する人に合わせた内容になってるから安心して。『頑張れば
クリアできる』レベルよ。もちろん二人同時にチャレンジできるけど、
その時は若干むずかしくなるから」
「肝心の金券はどうやって参加者の手に? あと、これは単に興味
なんだけど、成功の是非はどうやって調べるのか」
「おこめ券は参加者に直接お届けするらしいけど、詳しくは聞いてな
いからなんとも云えないわね。――あと後者の質問だけど、来栖川
のサテライトシステムと米軍軍事衛星、それにGPS24基をリンクさ
せて監視するらしい」
「なるほど、ね」
「一番肝心な事だけど、お題の最中でも捕まっちゃったら鬼になる
からね。どうする? さっそくやってみる?」
「勿論。そのためにわざわざ来たんだから」
「(こくり)」
一種挑戦的な目線で綾香が言い放つ。芹香が控えめに同調す
る。準備は端から整っている。
ねーちゃんは早速三枚のカードを提示する。
べべべん。
「うーん、どれにしようかな……あ、どうせだから姉さんの」
「カードを引く時に能力を使うのは禁止ね。お題の途中だったらいく
らでもつかってかまわないけど」
「あら」
「……………………綾香が決めていいから」
「え? いいの? じゃ、これ」
「はいはい、Aね。えーっと――」
さらに30分経った頃。島南端部によく似た二人の姉妹が走ってい
るのが頻繁に目撃された。
「『1時間半以内に島南端部に生えている木の葉っぱを一本むしれ!』
か。わけわかんないわね。大丈夫、姉さん?」
「……(こくり)」
「そう。疲れたら遠慮しないで言ってね。――確かに姉さん随伴だと
ちょっと苦しいな……」
【綾香・芹香 お題遂行中。島南端部】
【貧困逃げ手救済ミニゲーム・お題システム=
・各屋台で提示されたお題を制限時間内に執行、成功すればおこめ券3000円ぶんをプレゼント
・失敗した場合、再挑戦は16時間後
・成功した場合、再挑戦は不可
・遂行中も鬼ごっこは継続しているので、捕まった場合は容赦なく鬼にされる】
さてさて。
霧島姉妹はいまだ詰め所でまったりしていた。
別に鬼も来なければ、最初に見たような(梓とかおり)チェイスもない。
「暇だねぇ、お姉ちゃん」
「そうだな、佳乃」
鬼ごっこなのだからもっとスリリングな展開でもあるのだろうが、あまりに平和だ。平和すぎるこの二人。
先ほどまで同行していたポテトは聖が締め出したまま帰って来ない。
つーか、もう忘れてるっぽい。
話題にも出ない。
「そういえばポテトはどうしたかなあ」
佳乃がポツリと呟く。良かったなポテト。もしかしたら探してもらえるかもしれないぞ。
もう保護されてはいるんだが。
「ポテトは一人前(?)だから一人でもやっていけるだろう。ゲームが終わったらどうせ帰って来るんだし、ポテトはポテトなりにゲームを楽しませてやろうじゃないか」
聖さん冷たい。
「うん、そうだねぇ」
佳乃が0.1秒の躊躇いも無く同意。
まあ二人らしいといえば二人らしいが、やっぱり酷だ。
そして、
「お姉ちゃん、暇だねぇ」
「そうだな、佳乃」
話題からポテトは既に消えていた。
あまりに平和な霧島診療所の二人だった。
でもまあやっぱ平和じゃない人も居る訳で。
美坂香里・太田香奈子・セリオの凶悪三姉妹(?)に囲まれて恐喝紛いで思い出したくも無い魔性の女・美坂栞の情報を搾り取られた挙句、放置プレイを喰らい、財布の中身も寂しいし、っていうかもう女運が無いわで散々な巳間良祐は、ふらふらと歩いていた。
香里の精神圧迫によるダメージは深刻で、もう良祐の顔つきと姿勢は浮浪者のそれと変わらなかったりするわけだが、もはやそれに気付く精神力も無い訳で。
つーかもう逆さにして振っても金はでまへん。
浮浪者となんら変わりなかった。
しかも呟いている言葉は、
「嗚呼、もう誰でもいいから助けてください。
美少女じゃなくてもいいですから。いやもう野郎でも構いませんから。
どうかこの哀れな僕を助けてください…誰かお恵みをぉぉ・・・」
乞食だった。
そして視点は戻って霧島姉妹。
「お姉ちゃん、暇だからちょっと散歩してくるね」
と佳乃。
もうこれが鬼ごっこだってこと忘れてるっぽい。
「一人ではダメだ。佳乃が鬼に捕まってしまっては、私は姉として失格だ。だからちょっと待ちなさい、私も仕度しよう」
聖姉御はしっかりゲームのコンセプトは覚えていた訳ですが、姉というかそれはもう母親。
やっぱ過保護。
「はぁい」
二人で犬小屋を出る。
ポテトが帰って来たとき困るだろうが、もう二人はポテトを自立させる事を決定事項にしているので気にしない。
「おねーちゃん、早く早くーっ!」
佳乃は無邪気に先へ進む。スキップ踏んで。
やっぱりまったりしていた。
そんでもって運命の歯車は再び動き出す訳でして。
良祐はそれはもう虚ろな瞳でふらふら歩いていた。
すると、目の前に、ショートカットの美少女が飛び込んできた。
一瞬にして背筋が伸びる良祐。顔つきも戻る。
やはりどんな目にあっても美少女の魅力は変わらないらしい。
ショートカットでもあの美坂栞の物とは色が違うし、服装も違うし。
何よりも、その眩しいくらいに輝く無邪気な笑顔が――可愛かった。
そして、あの子は鬼じゃない。しかも見たところ一人だ。ならばタッチして鬼にしてポイントを稼ぐ。
換金すれば1万円。屋台はぼったくりだがなんとか食べる事は出来るだろう。
良祐はスキップしながら陽気に歩く、その少女に気配を消して近づくと、残り数メートルというところで一気に駆け寄った。
その鬼気迫る勢いは、どう見ても強姦魔にしか見えなかったが、その台詞は彼女の物じゃなかったのでそういうツッコミは入らなかった。
その代わりに、無数のメスが自分に飛んできて、あっという間にその場にあった大木に縫いとめられてしまった。
「危なかったな、佳乃」
後ろから出て来たのは、これまた白衣に身を包んだ美しい女性。だが、その手に現れているのは数本のメスで、しかもそのオーラは…
あの美坂香里と同じ、修羅の物だった。
「うわぁ、鬼さんだ」
少女の方は暢気に良祐のことを見ていた。
「ほう。では君は足下を掬われ有り金を巻き上げられた挙句鬼にされてしまった。そういうことか」
「うわぁ、情けないよぉ。貧乏鬼さん一号に任命するよぉ」
先ほどまで気付かなかったが、腕に黄色いバンダナを巻いた少女、霧島佳乃があまりに不名誉な称号をにっこり笑って良祐に任命した。
良祐はいまだ木に縫いとめられたままで、手にメスを持ちながら今にも自分を殺しそうなオーラを放っている聖に、
『よりにもよって佳乃を襲った理由を聞かせてもらおうか』
と訊かれた。
つーか、自分が鬼で相手が逃げる側だから当たり前のはずなのだが、そう答えると、
『死にたいのかな?』
といつの間にか手のメスが増えていた。
つーか脅迫はルール違反じゃないのか?と言いたいような気もしたが、そこまで果たしてルールが定められていただろうか。
自信が無かったのと、聖のオーラがあまりにも危険だったので…喋らざるを得なかった。
えあGでのリスペクトは微塵も無く(そもそも面識など無いのだが)、つーか良祐のキャラはもはや完全に逆になっていた。
やっぱ高槻の影響なのかもしれなかった。
無償に悲しかった。
かっこ良いキャラだったあの頃に帰りたい。
そんな良祐の心中など知るはずもなく、
「さて、行くか、佳乃」
聖は無慈悲に良祐をこのままにしたまま行こうとする。
「わかったよぉ」
そして佳乃もそれについていく。
また放置プレイ…いやそうなる前に、
「たっ、頼む!頼むからメスだけは外して!見逃すから!」
と懇願する。
「ダメだ。信用できない」
聖姉御一蹴。
「お願いです!頼みます!この巳間良祐一生のお願いです!どうかこの通り!」
もうプライドもクソもない。
「…仕方ないな…」
聖が歩み寄ってくる。手にはメスが無かった。
チャンスだとは思ったが、ここでタッチしようとすると半殺しにされるかもしれない。
とりあえずここは誠実に行くしかないだろう。
が、そんな良祐の思いも虚しく。
「が、やっぱり信頼できないので眠ってもらう」
はい?
聖が腕を振ると、がしゃん、と音を立ててメスが現れる。
すかさず自分の腕を切り裂く。
「即効性の睡眠薬を塗ってある。いい夢が見れるといいな」
つーか傷に対しての手当ては無いんですか…
良祐の意識は落ちていった…
その後メスは引き抜かれたのだが、支える力の無い良祐はばったりとたれぱんだのようなスタイルで倒れこんだ。
「おねえちゃん、殺してない?」
佳乃が心配そうに訊く。
「大丈夫、眠っているだけだ。心配しなくてもルール違反ではないと思う」
「よかったぁ」
佳乃がにっこり笑う。
いずれにせよ、霧島姉妹はお互いがとても大切なのである。
…が他は知ったこっちゃなかった。
聖姉御、佳乃を守るためならハカロワと寸分変わらぬ手法で突き進む。
ルールは大丈夫なのか?
【霧島姉妹 森の中を散歩(?)中】
【聖姉御 大量の睡眠薬つきメス所持】【ルール違反がちょっと心配】
【良祐 たれぱんだスタイルで睡眠中】
62 :
孤独:03/03/30 00:30 ID:6hnQyTfr
「……見つからん」
岩切は森の中を徘徊していた。
朝食確保のため、みずから上がってもう五時間になろうか。
とにかく、誰とも会わないし屋台も見つからない。
めぐり合いの運の無さ、ここに極まれり、か。
「この島には、壱百人からの人間がいるはずではないのか」
脳内をよぎる、不安な映像。
遥か遠い幼少のころ。かくれんぼ。誰からも忘れられてしまった、あの思い出。
まさか。私が潜っている間に、終了してしまったのか?
「そんなことは無い……はずだ」
開幕して、一日少ししかたっていないはずだ。
たったそれだけで、あれだけの人数が全員捕まってしまうとは、考えにくい。
いくらあの、主催者の女や、強化兵がいるとはいっても、だ。
「つまり、私の運がないだけか?」
そういうことなのだろう。
「しかし、腹がへった」
屋台が見つからん。
「空腹のままこれから過ごすのか……? この陽光の中を……?」
それはごめんだ。
何か、屋台を簡単に見つけ出す方法は無いか…………
63 :
孤独:03/03/30 00:31 ID:6hnQyTfr
「……ふふ、私は何を考えているのだ」
何を屋台にこだわる必要がある。
かつて、軍で習ったことを思い出せ。
このような森の中、いくらでも食べられるものはあるだろうに。
「まったく。この時代の思考に染まっていたようだ」
何を私は、孤独を恐れているのだ。
むしろ望むところではないか。
屋台が見つからない、それがどうした。
食えるものなら、いくらでも転がっているだろうに。
「……さて。探すとするか」
しかし、岩切の心にいったん巣食った一抹の寂寥感は、ぬぐいようがなかった。
【岩切、適当に昼食】
【時間は昼】
ぴーんぽーんぱーんぽーん
「プロレタリアとブルジョアジー」 の作者さま。
「プロレタリアとブルジョアジー」 の作者さま。
ただいま、感想板の愚痴スレにおきまして、貴殿の作品の審議が行われております。
これをお聞きになられましたら、直ちにお越しくださいませ。
繰り返します……
ぴーんぽーんぱーんぽーん
毎回微妙にマイナーチェンジをしてるので読んでほしいこと&連絡事項↓
>>51-55プロレタリアとブルジョアジーは現在議論板愚痴スレにおいて議論中です。
作者の方は議論・感想板にお越しください。
また上記の理由により来栖川姉妹の話の続きは今暫くは投下しないでください。
地の分での作者ツッコミの多用は抑えましょう。ちょっと多用が目立ってきてます。
ルール追加は出来るだけ議論板で相談しましょう。
参加者はこのリストで確定です。
このリレーは余程の反則(電波で他の参加者を操る、魔法で自分を触れなくする)が無い限り能力使用はOKです。
但し原作外のオリジナル設定は基本的に抜きで。ていうか基本ギャグで済ませましょう。
細かいところに拘るより鬼ごっことしての状況を進める方向で
致命的なミスがない限りは脳内保管しましょう。
NGはできるだけ避けるよう書く話のキャラの前話くらいは読みましょう。
前スレも健在なのでリストをたどれば最終行動はわかる筈なので。
また他のスレのネタは知ってる人はニヤリ、あ、このネタ上手いなーくらいにしておきましょう。
能力に関してグレーゾーンな話を書く際には
『葉鍵鬼ごっこ議論・感想板』 へどうぞ
>
ttp://jbbs.shitaraba.com/game/5200/ 後記
本スレより議論の方が活発だった感アリ
「よろしいんですか? このようなことをいきなり決定して」
受話器を置いた千鶴に足立が言葉を投げかけた。
「ええ。こちら側で十人も狩ってしまった事に対しては確かに非もありますから」
ただ、と千鶴は椅子を回転させて窓越しに眼下──鬼ごっこの舞台となっている鶴来屋
リゾート建設予定地を見下ろした。
「あの子達は知らないようですが食糧や金券はそれなりに配置してあります。ですから基
本的にはあの手段は教えません。食べることにも事欠くような、本当に困窮している人の
為の救済措置のつもりですよ」
もう一度椅子をぐるりと半回転。彼女はこのぐるぐるがお気に召しているらしい。
足立はそんな彼女のささやかな無邪気さに軽く目を細める。
「でもあまり無茶な条件も程々にねちーちゃん。必ずどれかの鬼と一度は接近するコース
を通らせられていると知ったら、逃げる方々も気分を害するでしょうから」
「あら、それは鬼側へのチャンス提供ですよ。それに、そうした方が鬼ごっこの進みも円
滑になりますしね」
くすりと笑う千鶴、そんな彼女のことをして人々は『偽善者』と呼ぶのだろうか?
【救済処置、お金がない逃亡者がどうしてもと言ったときだけ情報開示】
【ミッションをこなすためには鬼の近くを通る必要がある】
71 :
集まって集まって:03/03/30 02:55 ID:6hnQyTfr
灯台の出入り口。五人の男女が狭い空間にひしめいている。
「なぁんだ、ヒロもこの志保ちゃんが見つけた洞窟を通ってきたのね」
「なにをふんぞりかえってんだよ、っ」
「いったいわねー」
と、いつもと大して変わらないやり取りをしている浩之と志保。
「……まんが」
「ふふーん、どう、どう? 面白い? 面白いに決まってるわよね、この私が書いたんだから。
ありがたく思ってよねー生原稿よ生原稿、この詠美ちゃんさまがついさっき、この場で書いたばかりの生原稿!」
「すみませーん、よくわかりません」
「……」
とか話している三人。
そんな狭いところで、なにたむろってるんだか。
同時刻。
「下から声がします」
「誰か来たんかな? 騒いではおらんようやから、鬼とは違うみたいやな」
いったん製作の手を止めて、階下に降りてみる二人。
さらに同時刻。
「灯台まで、後少しですねー」
「誰かいるみたいですねー」
「ぴこぴこ」
「食事できると良いですね」
歩き通しで、疲れが出てきている三人。
海から吹く風は、気持ち良い。
おねぇさん三人、灯台まで後少し。
72 :
集まって集まって:03/03/30 02:55 ID:6hnQyTfr
またまた同時刻。
「たいやき、タイヤキがいっぱいいるよ」
激突、気絶から復帰して半日。
空腹に襲われ、疲れに悩まされ、鯛焼きへの一念で行動してきた。
海岸沿いを歩く女性三人を視認して、さらに灯台の入り口にいる大勢の人も視認して、にやりと笑うあゆ。
「鯛焼だよ。鯛焼きだよっ」
そして、潅木の陰から、飛び出すタイミングを計る。
食い逃げと同じ要領で。
いいかげんにしろと言われるかもしれないが同時刻。
「あ……あれはC.O.Fのっ」
「大庭詠美なんだなっ」
「いくでござる! サインをいただくでござるよ!」
「応なんだなっ。緒方理奈ちゃんのサインもあわせて、家宝にするんだなっ」
もはや、傭兵としての誇りもくそも無い二人。
いくつもの偶然が交錯しあい、人々が集まろうとしている。
逃げ手十人、鬼三人。
鯛焼きへの欲望と執念に燃える、月宮あゆ。
サインゲットの煩悩に萌える、縦と横。
そして、何も知らない獲物たち。
【同人組・浩之組 一階出入り口付近でたむろ、歓談】
【南・みどり・鈴香 南側から灯台へ近づく】
【あゆ 潅木の陰、にやりと笑いながらタイミングを計る】
【縦 横 灯台東側から突撃開始】
【灯台の位置 島の西側にある小さな岬】
最近別世界と化している砂浜。
しゃりしゃり。
ざざーん。
しゃりしゃり。
ざざーん。
しゃりしゃり。
ざざーん。
……潮騒に混じり、妙に所帯染みた音が聞こえてくる。
「結局私たちは何をやっていたんだろうな」
しゃりしゃりとかき氷を混ぜるD.『氷の上にシロップ』だ。
「何も喧嘩しなくても、最初からこうすればよかったんだよネ」
しゃりしゃりと底から氷をすくっていくレミィ。『シロップが先』だ。
「ひとって、こんなんだからきっとあめりかといらくのせんそうもおわらないんだろうね」
しゃりしゃりと、いやむしろガツガツと氷を喰らっていくまいか。『氷・シロップ・氷・シロップ』の豪華仕様だ。
小一時間に渡って問い詰めあった結果、D一家は『別に統一する必要もなし。お互い好きなようにかけて喰えばよかったんだ』という結論に至った。
いや、まあ、当たり前といえば当たり前なのだが、頭に血が上ると当たり前のことも思い浮かばないのが人間というものなのだろう。
「さて……これからどうするか。まだまだ日は高いが……」
半分ほど食べたところで、おもむろにDが切り出した。
「ん〜。そうだね……」
あらかた食べ終わったレミィ。顎に指をあて、考える仕草。
「あぎっ……! くおっ……! はぁ……っ! あたま、が……! きぃぃぃ……ん!」
かき氷一気に食った特有のあの頭痛に苦しんでいるまいか。
「……そういえば、私たちは狩りの途中だったんだよな……」
「……ウン、そういえばそうだったネ……」
「……そうだっけ?」
ざざーん……。
明るい日差しが嫌に物悲しい。
「まぁとりあえずは……ふわぁ〜あ……」
何か言いかけようとしたDだが、大きなあくびがそれを阻む。
「なんか……ドッと疲れてきたな……」
と、そのまま後ろに倒れこみ、浮き輪を枕に横になった。
「ン……そだね、ちょっと……休もうか……。ちょっと……ちょっと……ちょっと……だけ……」
レミィもその後を追うようにDの横に寝そべる。
「え〜? つまんないよ〜。もうちょっとあそぼーよー……」
ぶーたれるまいかだが、Dはまいかの頭を抱きかかえると。
「お前も休め。朝から動きっぱなしだろう」
自分の体を枕に、まいかを横たわらせた。
「ぶー。……じゃ、ちょっとだけだよ」
渋々といった様子でDに寄りかかった。
「ああ、ちょっとだ。ちょっとだけ、だ。私もこんなところで油を売っているわけにはいかない……」
とかなんとか言うDだが、明らかに彼の瞼の重量は時間と共に等差数列的に増大していた。
「ウン……ちょっとだけね。……30分……くらい……」
レミィの瞼はと言ったら、そりゃもう半分閉じている。
「というわけだ……あくまでもこれは……休憩……っておい、まいか……」
「……すー……すー……」
既にまいかは静かな寝息を立てていた。
「は……は……いい気なものだ……子供は……呑気、だな……。そう思うだろ……れみぃ……?」
微笑を浮かべつつレミィを見やるD.だが当のレミィも……
「Zzz......」
浮き輪を枕に、意識を深遠の彼方に旅立たせている。
「くは……は……。情けない……奴らだ……これでは……私がお前たちを起こさねば……ならないではない……か……」
カクン、と首が折れた。
結局彼自身もGo to Heaven.
白い砂浜、青い海、澄み渡る空。
そこで寄り添い、折り重なって眠る家族。
「くか〜」
「すー……」
「Zzz......」
まぁ……絵にならないこともあるまいて。
【D一家 仲直り後、お昼寝開始。ちなみに全員水着】
【場所 砂浜。パラソル立ててたりしてかなり目立つ】
【時間 午後】
【いつ起きるかは誰にもわからない】
【観鈴ちんは不明。どこかへ旅立ったかもしれないし、その辺にまだいるかも】
夜も老け、辺りが闇に包まれ
昼間は賑やかだったもの森も今では、時折ミミズクの
泣き声が聞こえる以外は静寂に包まれていた
「ホーー。ホーーー」
「何してるの、浩平?」
「いや、なんとなくムードを出そうと思って」
前言撤回そうでもなかった
賑やかな連中が焚き火を囲って騒いでいた
「えー、昼の間中、皆が頑張ってくれたので色々と手に入りました皆さんおつかれさま〜」
「おつかれ〜」
「つかれたよ〜」
「つかれました」
「結構、疲れましたな」
「では皆様の苦労を労い食事とさせていただきます」
「「「わー、まってましたー」」」
「ではお手元の牛乳をお持ちください」
それぞれが牛乳(紙パック)を持ち目の前に掲げ・・・
「「「「「かんぱーーい」」」」」
宴が始まった
「・・・浩平殿、すこし良いか?」
「何?、トウカさん」
「そのぱーてぃぐっずとやらは何に使うのだ?」
「ああ、これか・・・」
返答に詰まる、正直な話使い方など無い
ネタに使える!と思って脊髄反射で買ってしまっただけなのだから
なんとかごまかさないと・・・そう思い・・・
「これは「切り札」だ」
大嘘をぶっこいた
「なんと!「切り札」であったか!」
こっちも信じた
「今は詳しく言えないが、いざという時ものすごい効果を発揮するんだ」
「ど、どんな効果が?」
「だから、今は言えないって」
「そう・・・なのか・・・」
「まぁ、楽しみにしておいて下さい」
「・・・・・・・」
大嘘ぶっこいてる最中、瑞佳の溜息が聞こえたような気がした
できれば今日のことは忘れてくれますように・・・そう祈った時だった
バサバサッ!
近くの木々が揺れ、それと同時に女性の声が聞こえてきた
「お楽しみでいらっしゃるとこ、失礼しますわ」
声の主はどうやら木の上にいるようだ
「カルラ!」
どうやらトウカさんの知り合いのようだ
「知り合いなんですか?」
「ああ、同じ主に仕えている者だ」
「カルラと申します、以後お見知りおきを」
中々礼儀正しい人だ・・・そう思った
「なんのようだ?」
「見知った方の声が聞こえましたので少しからかって差し上げようと思いまして」
「ほう・・・」
トウカさんの声のトーンが下がった。怒ったらしい
それに気付いたのだろう。女性が切り出してきた
「実は・・・彼女を介抱して頂けないかと」
そう言うと背中の少女を目の前に下ろした
「うー、気持ち悪いよぅ」
目の前の少女はだいぶ調子が悪いようだ、足元もフラフラしている
「大丈夫?」
幼女のピンチに母性本能を刺激されたのだろう、瑞佳が話しかけた
「気持ち悪い」
「大丈夫?ここで横になって」
瑞佳の母性を感じ取ったのかはわからないが少女は瑞佳の膝枕の横になった
「それでは、私はこれで・・・」
目の前の女性が後ろを見せたその時
「待て、鬼の前に現れてそのまま帰れると思っていたのか?」
トウカさんが動いた
「それに、弱った人間は置いていこうという考えが気に入らん」
「そう受け取ってくださってもかまいませんわ」
「・・・」
「・・・」
ガンのくれ合い、飛ばしあい!おお!火花が散ってる!
こんな面白い状況をほおって置かなかった人間が一人
「あいや、またれい。ここは拙者にお任せあれ」
いつの時代の人間だよ。その場の全員が思った
「ここは一つ、勝負で決めませんか?」
「「勝負?」」
吹き抜ける風と共に木々が揺れた・・・
【浩平一行、カルラと遭遇】
【時間は夜】
【しのさいかはダウン】
すいません76〜79のタイトルは山猫は眠れないでお願いします
81 :
人違い:03/03/30 04:28 ID:irop/F+p
「由依、私のために……ありがとう」
それがどちらかというと巳間晴香の必殺技、由依カタパルトを使用しある程度鬼から離れた友里の最初の台詞だった。
「おいおい、それが自分のために妹を犠牲にした人間の台詞か?」
「あら、『死にそうな妹を居ない事にした姉』が『今にも死にそうな妹を』犠牲にするのは許されなくても
『危うく妹に殺されかけた姉』が『妹が普段から友人にされてること』をするのくらい許されてもいいんじゃない?」
流石に巡回員も同情したのだが由依にとっては不幸なことに友里は少々根に持つ姉だった。
そしてそんな香里のプロトタイプでそっくりさんな友里を見かけて香里と勘違いしてしまった栞は
「ゆ、祐介さん。アレがお姉ちゃんです。これで一発ガツーンと先制攻撃を」
同行している祐介に手頃な木の棒を渡し攻撃を頼んだ。
「え、駄目だよ栞ちゃん。人に危害を加えないのがこの鬼ごっこのルールだよ。……一応。
それにさっきお姉さんは見かけても避けるって言ってたじゃないか。約束通り守ってあげるからここは逃げよう」
極めて正論で返す祐介。それに業を煮やした栞は……
「いいんです、テロには先制攻撃も辞さないんです。守ってくれるっていうならココで……」
口論を続ける二人。
82 :
人違い:03/03/30 04:29 ID:irop/F+p
「誰だっ?」
そして流石に間近で騒がれて気づかない巡回員では無かった。
硬直する二人、そして……
「祐介さんっ、後はお願いしますっ」
栞は祐介を置いて一人逃げ出した。
約束は約束、栞を守ると言った祐介は責任を果たす為二人と対峙し口を開いた。
「美坂……香里さんですね?」
「違うわよ」
「……へ?」
「ふーん、成る程ね。それで勘違いした訳か。私は名倉友里よ。その香里さんじゃないわ」
「どうもすいません」
「彼女の身元については俺が保証しよう。しかしその栞とやらの言ってる事、矛盾してる気がするな」
「そうですよね、僕もちょっと変だなとは思ったんですけど……」
結局栞は三人に言動不一致に対する疑問のみを残し去っていったのである。
【栞 単独行動】
【祐介、友里、巡回員 栞の言動に疑問を感じる】
83 :
名無しさんだよもん:03/03/30 05:49 ID:8a8obnnj
_,,...,_
/_~,,..::: ~"'ヽ
(,,"ヾ ii /^',)
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|(,,゚Д゚) <
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ヽ _ノ
U"U
陽も天高く上ったころ、小屋の中の女性とようじょと猫は空腹に耐えかねていた。
「彰お兄ちゃん、遅いねー」
「うん……ちょっと遅いね」
「ミャァー」
ようじょの名はしんじょうさおり。女性の名は澤倉美咲。猫の名は太助
二人と一匹は昨夜いっしょにこの小屋に泊まった青年、七瀬彰を待っていた。
昨晩は持参していたお菓子やサンドイッチで飢えをしのいだものの、それで食料はなくなってしまった。
そこで、彰は食料を探しにいくと、一人で朝から出かけていったのだが……
「お腹すいたねー。何してんだろ、彰お兄ちゃん」
「大丈夫かな……何もなければいいけど」
「ミャァ……」
太助の鳴き声にも元気がない。
「ねえーもうお兄ちゃんなんかほっといて、私達で何か探しに行こうよー」
「うーん、でも約束だし。もうちょっと待ってみよ?」
かなり前からこのような会話が繰り返されていた。
美咲はうまくさおりをなだめていたが、それも限界が近づきつつある。
「もう!!お姉ちゃん、そればっかりなんだから……どうしたの、太助?」
「フー!!フー!!」
みると太助は起き上がり、背を丸くして戸口のほうへ身構えていた。
「あれ……?なんだろ」
さおりは太助を抱き上げ、戸口のほうへ目を向ける。ややあって、その扉が、キィと音を立てて開いた。
「彰君?」
美咲がそう声をかけるが、返答は彰のものではなかった。
「うわーねこだ……ねこーねこー」
戸口には、そんなことを座った目でつぶやく少女が立っていた。
「参ったなぁ……どうしよう」
彰は途方にくれてつぶやいた。その声には強い焦燥感がにじんでいる。
朝、みんなで行動したほうがいいと控えめに主張していた美咲に対して、彰は反対した。
大勢で行動したら鬼に見つかる可能性が高くなる、というのが彰の説いた建前であった。たが、美咲にかっこいいところを見せたかったというのが彰の本音であった。それになりより、美咲を誰とも会わせずに独り占めしておきたかったのである。
だから彰は、自分だけで食料をとってくると強引に美咲を説き伏せた。そして自信満々を装い、出かけていったのだが……
「どうしよう、何も見つからないよ。もう、戻ろうかな……」
だが、手ぶらで戻ったら美咲はなんと言うだろうか。あきれられるかもしれない。幻滅されるかもない。
『彰君、頼りにならないね。冬弥君についていくことにするよ』
こんなことを言われてしまうかもしれない。
「だ、駄目だ!!美咲さんとの仲は誰にも邪魔させない!!誰にも!!冬弥にも!!」
「お、俺が、なんだって…?」
「う、うわぁ!!」
派手に叫んで振り返った彰の前には、汗だくとなった冬弥の姿があった。
「だ、誰ですか?あなた……」
「うわー、もう何するのよぅ!!」
美咲とさおりの声がうわずるのも無理はない。
突然現れた長髪の少女は、いきなりさおりに飛びかかってくると、
そのまま抱きついて放さないのだ。
「うう……かわいい、かわいいよー、猫さん……」
否、抱きついたのはさおりに対してではなく太助に対してらしい。
もっともその太助をさおりが抱いていたのだから、結果としては変わらないわけだが。
「いやー、涙がー!!はなみずがー!!」
「ギニャー!!」
ただ単に抱きつかれただけならさおりも我慢できただろう。
ところがこの女性、涙とはなみずをたらしながら、髪を振り乱し頬を摺り寄せてくるわけで……
「もう離れてー!!」
「ねこー……ねこさんかわいいよー」
さおりの抗議もどこ吹く風、目がヤバイ。座ってる。
「と、とにかく離れてよ!!」
ようやく、さおりは名雪から身をはなすことに成功する。が、
「だ、駄目だよー猫さん取っちゃ駄目だよー」
少女は、グニュッと太助の尻尾を掴む。
「な……!!太助は私のだよ!!」
太助をとられまいと、さおりは太助の首を引っ張る。
「ギニャァァァァー!!」
頭と尾を反対方向に引っ張られて太助は叫ぶが、
「ひどいよー、独り占めは駄目だよ」
「私のだってば!!」
ようじょと少女は互いに譲らない。だが、
「いいかげんにしなさい!!」
美咲の声がその場を切り裂いた。そして、平手がさおりと少女の頬に飛ぶ。
「「な……!!」」
はたかれて、二人は動きを止める。
「いい?太助は生き物なのよ。おもちゃなんかじゃない。
なのにあなた達はそんな風に取り合ったりして、可哀想だと思わないの?」
静かな、だけど厳しい声で美咲は二人を諭す。
「愛情は我侭に押し付けるものじゃないわ。
相手の事を考えて、相手の幸せを願う。そういうものじゃないかしら」
美咲は知らない。その一言が彰に対する皮肉になっているということを。
「「ご、ごめんなさい」」
「謝るのは私に対してじゃないわ、そうでしょう?」
「うん…ごめんね、太助」
「ごめんなさい、猫さん。私、猫を見るとわれを忘れてしまって……」
ふぅ、と美咲はため息をついた。そして、表情を緩める。
「太助も許してくれるわ。ね、太助?」
「ミャァ……」
太助の穏やかな鳴き声に、場の空気がゆるむ。
「ほんとごめんなさい。恥ずかしいです、私。
猫を前にするといつもこんな風になってしまって」
「ううん、私も叩いたりしてごめんなさい。私は美咲っていうの。あなたは?」
その美咲の問いに、少女が答える前に。
「名雪さーん、急に走り出してどうしたんですかぁ?
あ、すごい。二人も捕まえちゃったんですね!!」
戸口に別の少女が現れていた。
「と、冬弥!!」
「おう、七瀬!!ちょっとかくまってくれ」
「え……?」
「由崎の奴に追われてるんだ!!クッもうきやがった!」
冬弥の言を証明するかのように、
「冬弥君〜 逃がさないわよ〜!!」
そんな由崎の声が響く。
「クソッ、あっちに行ったって言っといてくれ!!」
そういって、冬弥は手近な木の後ろに隠れる。それからしばらくして、
「あ、彰君!!冬弥君見なかった!?」
今度は襷をかけた由崎の姿が七瀬の前に現れる。
彰は答えた。
「冬弥?冬弥なら、あっちに行った」
それから、にっこり笑って続ける。
「って由崎さんに答えろって言って、その木の後ろに隠れてるよ」
「な、七瀬!!て、てめぇ!!」
慌てて木の後ろから姿を現す冬弥。
「冬弥君!!そこねぇぇっ!!」
「ク、クソ!!覚えてろよ七瀬ぇぇぇぇっっ!!」
叫びながら遠くなっていく二人の背を見ながら彰はつぶやく。
「誰にも邪魔させない。汚させない。美咲さんと僕との楽園は……」
彰は知らない。そんな楽園なんてもうすでにないのだということを。
【澤倉美咲 鬼化】
【しんじょうさおり 鬼化。太助付き】
【水瀬名雪 2ポイントゲット 通算3ポイント】
【【雛山理緒 名雪と行動中】
【藤井冬弥、森川由崎チェイス続行中】
【七瀬彰 冬弥にうらまれる】
【時刻は昼】
89 :
名無しさんだよもん:03/03/30 08:09 ID:sSbVB74L
「人違い」の作者さま!
早急に感想板へお越しください!
愚痴スレをご覧ください。
以上!
森の中にひっそり(?)と佇む屋台。
意気投合し、夕日暮れの中酒を酌み交わす男たちが会話を弾ませている。
だが、その内容というのは──
「……というわけで兄妹二人、身を寄せ合って生きてきたわけさ!」
「ああ、わかる! わかるぞ、まい同志!」
夜遅くまで交わされる互いの妹自慢。ああ、五月蠅い。オボロ君、君なんか別のキャラ混じってないかい?
久瀬は無視を決め込んでおでんをつついている。付き合ってられるか。
そんな久瀬に、『わかるわ』とでもいう風にメイフィアが曖昧な笑みを浮かべた。
「ただでさえユズハは身体が弱くて──今頃どうしているか……」
「あー、そういや昼過ぎあたりに病気持ちが来たニャロメ」
「ユズハかっ!?」
喜々として腰を上げるオボロだったが、「男だったニャロメ」とあっさり言われて肩を落とした。
「ま、あんまり心配することもないんじゃないの?
ユズハさん……だっけ? ナースコール持ってるんでしょ?
たまのせいで試すことになっちゃって実際に見たんだけど、なかなか迅速な対応だったしね」
「しかし──ッ」
「ま、心配するのは勝手だけど……」
深入りしたくないのか、メイフィアは肩をすくめてそれ以上何も言わなかった。
「ときにオボロ君、キミはいつまで妹と一緒の布団で寝ていたのかい?」
話を逸らすように……というか、話したいだけなのだろうが、拓也は話を『妹』に戻した。
「僕はなんと瑠璃子が中学生になるまで一緒だった」
自慢げに言う拓也に、オボロは言った。
「一応、今でも時々は……」
「ゆ、ユズハさんの年齢は……たしか十代半ばだった、ね?」
思わず会話に介入する久瀬。
「変態ニャロメ」
「違うッ! いや、仕方ないだろう! ユズハが寂しがるから──」
「貴様は瑠璃子を抱きしめて眠っていたのか!」
「誰がアンタの妹と寝るかっ!」
ツバを飛ばして言い争うオボロと拓也に、久瀬は頭をかかえた。
そう、そうだ。妹なんだから、家族なんだからな。ハハ……。
しかも病弱な妹さんなんだから、けして悪いことじゃない。うん。
無理に自分を納得させ、再度はんぺんに箸を戻す。
「それがなんだっていうんだ……」
拓也は、ふふふ……暗い笑みを浮かべて言った。
「僕なんか瑠璃子と セッ<ピ──> した!」
「「ぶーーーーーーーっ」」
一気に口に含んでいた飲み物を吹き出すオボロと、はんぺんを吹き出す久瀬。
動揺のあまりいろいろ倒しちゃったりもして、そりゃもうひどい有様。
「しょ、醤油がーーー! 汚いにゃーーーーーっ」
「ちょっとお客さん、営業妨害よっ!」
見事にひっかぶったたまとメイフィアが怒鳴った。
「な、ななななななんtねあおtじぇあいおrじょあえtじぇぁい」
「それは倫理的に問題だ!」
「何が悪いのか僕にはわからない……。ハハ……」
結局、さんざん飲み食いしたあと。
「それじゃ、お互い頑張ろう……」
食べ物を得たためか、少し正気を取り戻した目をして、拓也は手を振って去っていった。
どうやら同行するつもりはないらしいことに、ほっと胸をなで下ろす久瀬である。
って、お会計は!?
が。久瀬が案ずるまでもなく、オボロが財布を取りだした。
「迷惑かけたな……。これもとっといてくれ」
なけなしの金をメイフィアに支払う。飲食代に加え、屋台を汚した詫びも含まれている。
これで財布はポイントを換金しないかぎりカラだ。
(ま、いざとなったら久瀬が助けてくれるだろう)
かなり久瀬に信頼をおいているオボロである。
その態度が功を奏したのかもしれない。
「オボロ君」
去り際に、メイフィアがにっこりと呼び止めた。
「これは屋台ネットワークの情報なんだけど、川近くの森で白虎やら獣娘がうろうろ
してるの目撃した人がいるとかいないとか……?」
一瞬絶句するオボロ。
「本当か!?」
「さぁ……ね。ユズハさんに関係あるのかもわからないし」
意味ありげなメイフィアの笑み。
「落ち着けよ、オボロ君」
オボロが我を失う直前で、口早に釘を差す久瀬。
「やみくもに行っても妹さんを助けることはできないのだからな」
さらに久瀬は郁美と佐祐理についてを尋ねたが、これ以上メイフィアが何か教えてくれることはなかった。
まずはユズハさんを助ける、か……。それも悪くはないかもしれない。
他に情報がない以上、この広い島でむやみに動くのは得策ではない。
信じてくれていたオボロを、騙して鬼にしてしまったような負い目もある。
不本意ではあるが、ひとまず佐祐理は後回しだ。
「川近くの森に該当する場所がいくつあるかはわからないが、
とにかく思い当たる場所から向かってみようか。
もしユズハさんがまだ鬼でないとしたら──それは運がいいか、情報から考えて他に仲間がいるのだろうな。
一筋縄で鬼になってくれるかどうかは疑わしい」
「白虎なら、おそらくアルルゥと一緒なんだろう」
「アルルゥ?」
「とにかく急ごう!」
「ああ。だが、焦るなよ。うまくいくものもいかなくなるからね。作戦は僕にまかせて欲しい」
「応!」
結局、雄蔵とは合流できなかった。どこかで郁美さんを見つけたのか?
多少気になりはしたが、久瀬とオボロは『川近くの森』を探して歩き出した。
【久瀬:月島がどっか行ったのでほっと一安心。ひとまずユズハの保護を優先させることにする】
【オボロ:ユズハの居場所をゲット。焦ってはいるが久瀬に信頼をおき、従う】
【立川雄蔵:行方不明】
【月島:瑠璃子を求めてどこかへ】
【二日目、夕方〜夜。森の屋台】
「…? 勝負――ですか?」
「…なるほど――某は一向に構わぬ…」
ちゃき…――トウカが静かに身構え、腰の刀に手を掛ける。
鋭い剣気を帯びるトウカの様子を見やり、カルラの双眸が細まった。どこか楽しげな光を帯びて。
「……私も、一向に構いませんわ」
「ちょちょちょ…!? 浩平君、なんて事言い出すの!」
「そ、そうだよ…! まさか、真剣勝負なんかやらせる気じゃないよね!?」
慌てるスフィーと瑞佳に、浩平はニヤリと笑って見せる。
「馬鹿者。勝負はいつだって真剣勝負!」
その言葉に、トウカとカルラの放つ剣気のオーラが、更に強まった。その圧力たるや風が起こりそうな程だ。
「ば、ばか〜っ! ばかなのは浩平だよ〜っ!!」
「――何も、俺は殺し合いをして貰おうとは言っとらんぞ? 勝負は勝負でも――これで決めましょうや」
ぴっ…と浩平が取り出したのは、パーティーグッズの中に含まれていたトランプだった。
「………それは何でござるか、浩平殿」
カルラから目を逸らさぬまま、トランプを視界の端に認めたトウカが、低い声で訊いて来る。
「これは、運命の絵札・闘乱封(トランプ)!――…古の昔、実力の拮抗し合った二人の武将がちょっとした誤解の所為で
私闘を行い、互いに刺し違えて死んでしまった。二人の誤解を解く事も出来ず、また私闘を止める事も出来なかった
彼等の主であった皇は嘆き悲しみ、この『闘乱封』を考案し、以後、仲間内でいざこざが起き、勝負を着けなければなら
なくなった場合、これを用いて雌雄を決するべしとしたのだ…」
「………ポソポソ(……嘘だよね、瑞佳?)」
「………ポソポソ(当たり前じゃないですか…。もぉ〜、浩平ってあれだから…)」
目を点にさせている二人を他所に、浩平の言葉は続く。
「――つまり、何も真剣を用いなくとも、勝負を決する事は出来るという事。……どうです、悪くない話でしょう?」
「……いや、某は浩平殿の提案には乗れぬ。――カルラ殿には、お灸を据えてやる必要があるのでござるよ…!」
「あら――それは楽しみですわね。どんなお灸を据えて下さるのかしら…?」
対峙する二人は、浩平の提案に乗る気は無い様だった。――それどころか、放たれる剣気が益々その圧力を高める。
正に、一触即発! どちらかが少しでも動けば、それは始まる…! ――が、
「――馬鹿者めが!!」
浩平、一喝。――決して大きくは無いが含まれる内圧と鋭さに、瑞佳とスフィーが震え、トウカとカルラも彼の方に目を
向けずにはいられなかった。
「……あんたら、俺の話聞いてたか? ――見たところ、二人の実力は拮抗しあってるんじゃないか? そんな二人が
真剣でやりあったら、両方死ぬぞ? このゲーム自体も中止。何より……トウカさん、あんたの言ってた“聖上”…
ハクオロさんがどう思うかな…? そっちのカルラさんだって、ハクオロさんとは無関係って訳じゃ無いんだろ?」
先程の一喝から打って変わって、浩平の声は穏やかな程に静かだった。
「――せ、聖上…」
トウカの脳裏に、その人物の姿が現れる。――あの優しいお方が今この状況を知ったら、どう思われるか…
「某は…――」
うな垂れるトウカ。彼女からは、既に激しい剣気の放出が消えていた。
――同じくして、カルラもまた、剣気をオーラを脱ぎ捨てていた。
「…まあ確かに、真剣を用いて語り合う程の事では無いかも知れませんわね…」
どうやら、最悪の事態は免れた様だ。瑞佳とスフィーが冷汗を拭い、安堵の溜息をつく。
「解ってくれて嬉しい。――で、そこでこの『闘乱封』の登場って訳だ」
満足げに微笑む浩平が、トランプをケースから取り出し、ジョーカーを抜いてからシャッフルし始める。
「何で勝負するの、浩平? ババ抜き? 七並べ?」
「それじゃ時間が掛かり過ぎる。カルラさんだって、ここから早く離れたいだろ?」
「…ええ」
「それに、勝負を着けるのはトウカさんとカルラさんであって、俺ら迄参加する事は無い。
手っ取り早く、アレで行こう。――いいでしょ、二人とも?」
「……浩平殿に任せるでござるよ」
「…右に同じく」
――と、肩を軽く竦めてカルラが微苦笑を浮かべた時、
「んん〜…、かる…ら…おねいちゃ……ん」
瑞佳の膝枕で横になるさいかが、熱に浮かされた様な表情でカルラを見つめていた。
「――何ですか、さいか?」
「…かるらおねぃちゃん……さいかのこと、おいていっちゃうの…?」
「………」
「……さいかのこと………きらいになっちゃったの…?」
「……そんな事、あるはずは無いでしょう? 好きですわよ、さいかの事は…」
「…えへへ……、さいかもおねぃちゃんのこと、すきー…♪」
――再び、微苦笑を浮かべるカルラ。
「……確かに、少々誠意を欠いていたかも知れませんわね」
「…気紛れなカルラ殿の口から、よりにもよって誠意などと言う言葉が出るとは、某は驚きでござる」
「言ってくれますわね」
睨み合う二人であったが、先程の様な殺伐とした雰囲気は、そこにはなかった。
「よし、じゃ、ルールを説明するぜ? “黒騎士”で勝負を着けよう」
丁度良い平らな切り株を見つけ、浩平はトウカとカルラをそこに招いて勝負ルールを説明し始めた。
“黒騎士”――要は、変則ブラックジャックである。
「――なるほど…。この…王と女王、そして騎士の絵札は10と数え、最終的に21にすれば良いのでござるな?」
「ま、何も21にしなくても、相手よりでかい数字で上がれればそれで勝ちだ。
勝負は一回こっきり。勝っても負けても恨みっこ無し。――トウカさんが勝てば、あの子はカルラさんが
引き続き保護する。カルラさんが勝ったら、俺達が面倒見るよ」
浩平の言葉にトウカが頷き、カルラもまた、同意を示す。
「…瑞佳が触っちまったけど、あの子への鬼タッチはノーカン…無かった事にしよう。黙ってりゃ解んねーだろーし、
何か言われたらそん時はそん時。――ん、じゃ、始めるべ」
浩平が、充分にシャッフルしたカードを、トウカとカルラ、交互に二枚ずつ配る。
二人は切り株の上に配られた各々のカードに触れ、捲った。
トウカは……ダイヤの7。クラブの3。計、10。
カルラは……ハートのA(※カウントは1)。スペードの9。計、10。
「……今の所、引き分け。どうする?」
「もう一枚貰うでござる」
「私も、もう一枚お願いしますわ」
黙って頷き、浩平は両者に一枚ずつカードを配る。――その様子を、離れた所にいる瑞佳とスフィーが、
緊張した面持ちで見つめていた。
「――今配られたのは捲らなくても構わない。自分の判断に任せる。もう一枚欲しいのなら、言ってくれ」
浩平の声を聞きながら、トウカが配られたカードを取り、自分の目にだけ確認させた。
カルラも同じく、自分の目だけにカードを見せ……それから、裏にしたまま再び切り株の上に戻した。
「私は、もう一枚。それで最後ですわ」
「解った。トウカさんは?」
「……某は、これで勝負を掛けるでござる」
トウカは、最後のカードは胸に押し付ける様にして持ち、目を鋭く光らせた。
浩平が、カルラに最後のカードを配る。
「オッケー。これで勝負だな。――じゃあ、トウカさんから」
促され、トウカが胸元に押し付けていたカードを切り株の上へと置いた。――ダイヤのジャック。計、20。
「…20か。いい手だ。――では、カルラさん」
カルラは、黙したまま、三枚目に配られたカードを表に返す。――ハートのクイーン。ここまでの計は、20。
そして、最後に配られたカードは…
――捲らずに、カルラは微苦笑とともに溜息をついた。
「……私の負け、ですわね」
肩を竦めてそう呟き、カルラは瑞佳と共にいるさいかの方へと歩み寄る。
「…待て、カルラ殿。何故最後の札を捲らぬのだ…」
「私の負けですから。――お世話を掛けました。さいかはやはり、私が面倒を見ますわ」
「捲らねば解らぬではないか…!? 待つでござる、カルラ殿!」
正体を失くして眠りこけるさいかを抱き上げ、立ち去ろうとするカルラを、トウカが困惑した様子で声を掛けた。
「――おっと、触れないで下さいな。まだ鬼になる気は無いのですから」
「カードを捲るまで、その子を連れて行かせる訳にはいかぬ!」
「…一体貴女は、私に何をさせたいのです?
この子を置いて行くのが許せない? それとも、連れて行くのが許せないのですか?」
「それはこっちの台詞でござる! カルラ殿の真意を量りかねる! 一体なんのつもりであるのだ、そなたは!?」
だんだんと、再び怒り始めて来ているトウカを見やり、
「それは勿論――」
カルラは、にまぁ…と笑った。
「暇だったので、貴女をからかいに来ただけですわ♪」
「……………ク、ククク、ククククククククケェェェェェェェェェェェェェェェーーーーー!!!」
「ほほほほほほ…♪ それでは皆さん、お騒がせ致しました。それでは良い夜を。フフフッ♪」
さいかを抱きかかえたまま、カルラは高い枝の上へと飛び乗り、投げキッスを置き土産に森の奥へと消えてしまった。
「まままま待つでござるよカルラ殿ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
そなたにはやはりでっかいお灸を据える必要があるでござるよおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおっっ!!!?」
刀を抜いてブンブンと振り回すトウカの顔は、煙を噴出す程に赤熱していた。
「……怒るのも無理はないというか…」
「……トリックスターってやつかな…?」
「――ま、何にせよ、それ程冷たい人でも無いみたいだぜ?」
苦笑する浩平の手には、一枚のカードがあった。――スペードのA。
「………それって…?」
「カルラさんの最後のカード。これを合わせると――」
「…合計、21?」
「――じゃあ、カルラさんの勝ちだったって訳?」
「そーゆー事になるな」
顔を見合わせる、瑞佳とスフィー。その表情は、キツネにつままれたような色に染まっていた。
「クケェェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」
…カルラは、先程見つけた薬草を自分の口の中で噛み砕き、それを口移しでさいかに飲ませていた。
「…うえぇ〜……、にがいよぉ、かるらおねぃちゃぁん…」
「我慢を。酔った時に食べると良い薬草ですから」
更に薬草を噛み砕き、口移しでさいかに。最初は嫌がったが、さいかは素直に薬草を飲み下す。
「………この薬草を噛むのは、久し振りですわね…」
まだ酒に慣れぬ頃、この薬草にはよく世話になったのだ。噛み締める度に拡がる独特な苦味と甘味に、
カルラは懐かしさを覚えていた。
「…………おねぃちゃん…」
「何ですか、さいか?」
「…さいか、あしでまといなら、おいていってもいいよ?」
「………そんな事はしませんわ、さいか。ですから、もうお休みなさい。
薬草を食べたから、目が醒める頃には楽になっているはずですわ」
「うん…。おやすみなさい…かるらおねぃちゃん」
その言葉を最後に、さいかはカルラの豊かな胸を枕にして、眠ってしまった。
さいかのあどけない寝顔を見つめ、カルラが複雑な想いを含んだ笑みを浮かべる。
「……情が移ってしまう前に――と、思っていたのですが」
そして、どこからか取り出した毛布を、さいかの上にかけてやる。
「…手遅れだった様ですわね」
「んん………かる…あ……おね…ちゃ……ん」
「…クスッ♪ こうなったら、最後まで付き合って貰いますわよ、さいか…」
【カルラ 結局さいかを保護し続ける事に】
【浩平一行は、何がなんだか】
【トウカ キレる】
【夜】
由崎と冬弥の激しいチェイスはまだまだ続く。
双方既に体力の限界に近づいているが、諦める気配はない。
「冬弥君待ちなさい〜!」
ヘロヘロになりつつも走るのを止めない由崎。
「待てと…言われて…待つものか!」
息を切らせながら逃げる冬弥。
根性比べの様相を呈してきたこのチェイスに突然の転機が訪れた。
冬弥の足元にかすかな違和感。
「…ん?…って、ぬぅおおぉぉっ!?」
足元に何かが絡まり、そのまま逆さに宙ぶらりんになる冬弥。
現在休憩中の北川・住井組の初期型トラップであった。
道すがらトラップを潰して歩いてきた冬弥だが、当然全部の罠を潰しきれる
わけもなく、未だに多数の罠が健在である。
いくら冬弥の罠技術が向上したとはいえ、彼は一般人である。
注意深く探しながらならともかく、チェイス中に罠を発見するなど不可能である。
この鬼ごっこの参加者の中にはそれを平然とやってのける連中も混じって
いるが、それは単に彼らが異常なだけである。もっとも、その異常な連中達でも
後期型になると、チェイス中の発見・利用は難しく、事前に把握しておかないと
厳しいものがあるであろうが。
ともかく、本来の冬弥なら回避できたであろう品質の罠であったが、疲労と
逃走中で由崎に注意が向かっていたことで、あっさりとひっかかってしまったのだ。
運が悪かったと思うほか無い。もっとも、確率的には先行する逃げ手と、その
後を追う鬼なら逃げ手が先に罠にかかる可能性が高いのだから妥当な結果なのかも
しれないが。
ともかく身動きの取れない冬弥はあっさりと由崎に捕まる。
「はぁはぁ……ふふふ…冬弥君、覚悟はいい?」
「ま、待て由崎!話し合おう!」
「ええ、存分に話し合おうね。」
「殺気のようなオーラを放ちながらだと説得力g」
「問・答・無・用♪」
「うああああぁぁぁ!!!」
冬弥は由崎に問い詰められながら思った。
選択を誤ったと。彼の罠技術は暇つぶしに罠を解除しまくる事にではなく、
自分の身を守るように罠を配置する事に使用するべきであったと。
鬼ごっこでは追う立場になった冬弥だが、人間関係的にはまた追われる事も
あるかもしれないと判断し、罠を解除する立場から積極的に設置する立場への
転向を検討していた。
「ちょっと!聞いてるの!」
「は、はいっ!聞いてます。聞いてますとも!」
【冬弥 鬼になる 宙ぶらりん】
【由崎 冬弥を捕獲 冬弥を小一時間問い詰める】
【修羅場】
(題名は「修羅場モード」で)
103 :
交錯:03/03/30 19:18 ID:3fWPF2GF
(ついに待ち伏せには気がつかなかったみたいね。)
軽くため息をつく麗子。そう、ヌワンギは香里達の待ち伏せについに気がつかなかった。
まあ、能力の拮抗した相手に追われていて、さらにほかの事に気を配れということ自体酷
なので、仕方ないといえば仕方ないのだが。
(さて、どちらに捕まろうかしら)
あくまで普通に参加することにした以上、この包囲網を一気にひっくりかえすようなマネをする
つもりはないし、鬼として立ち回るのも悪くないだろう。だとすればすることは、
捕まる相手を選ぶことくらいである。七瀬はよくここまで頑張って追ってきたから
彼女に捕まるのもいいだろうし、待ち伏せ組みの作戦が見事ならそちらに捕まってみる
のもいいだろう。
そう思った刹那、何者かが足元に飛び込んできた。セリオである。完璧なタイミング
でタックルを仕掛けてくる。そしてなにやら飛び道具を構えている少女と後方に控える
もう一人の少女。香奈子と香里である。
(タックルを避けたところを狙撃して、残った子が捕獲か…いい作戦ね。)
追ってきた彼女達には悪いけど、と、セリオを回避したところで香奈子に
降伏の意を示し、襷を要求する。後ろで構えていた香里は麗子の投降の意思を
読み取ると、すぐにもう一人のターゲットであるヌワンギを追う。
「ちっ!使えねぇ!」
あっさり諦めて投降してしまった麗子を見て吐き捨てる。
(まあ、待ち伏せがあったのは驚いたが、狙いが俺から逸れたんだから
ちっとは役に立ったと思ってやるか)
実際のところは、麗子のほうはその待ち伏せ自体気がついていたのだが。
そして見てみると待ち伏せ組の一人、香里がこちらに向かって動き出したではないか。
囲まれるのを恐れたヌワンギは誰もいない方向に向かって走り出す。
-----香里達の計算通りに
「マテやゴルァ!!」
最後のスパートをかける七瀬。折角の獲物を待ち伏せチームに一人取られて
しまった以上、せめて残りの方だけでも捕らえないと立場が無い。
連れの矢島は主に麗子を追っていたのだが、目の前で獲物を掠め取られて
呆然としている。つまり
(あたしがやるしかないわね。)
ということである。
と、いきなり獲物がコケた。何かに盛大につまづいたようだった。
あまり走りやすい足元ではないが、特に転ぶような要素もないと思うのだが。
(何事かと思ったけど、とにかくチャンスよ!)
うなりながら悶えていて動かないヌワンギに向かってダイブする七瀬。
香里に先を越されるわけにはいかないのだ。
ヌワンギがコケた原因は香里のワイヤートラップだった。
以前北川を捕らえたときに簡単な罠の作り方を教わっていたのだ。
自分で使うことは無いと思っていたが、早速役に立ったようだ。
(北川君には少し感謝しておこうかしら。)
香里の罠は技術力も無い上に急いで作った粗悪品で、それこそ素人目
にも分かる代物だったが、セリオの逃走経路シュミレートがよかったのと、
ヌワンギが色々と余計なこと考えてロクに前見ていなかった為にひっかかってくれた。
しかし勝負はこれからである。ヌワンギが逃げ切れない事は確定したが、
七瀬もヌワンギに迫っているのだ。装備強化のためにも是非とも自分が
タッチしなければならない。香里もヌワンギに向かってダイブする。
「はぁ。後一歩だったのに、結局両方とも持っていかれちゃったわね。」
軽くため息をつきながら言う七瀬。そう、ヌワンギにタッチしたのは
香里だった。ヌワンギが罠に引っかかってコケた時に、状況が把握できずに
一瞬動きが遅くなってしまったのが敗因だった。
結果的には香里達の一人勝ちであった。
「でもまあ、仕方ないわ。残念だけど、それなりに楽しかったし、いいことにするわ。」
先程までの追撃時とは一変して乙女っぽく語る七瀬。
ちなみにヌワンギはコケた時の打ちどころが悪かったらしく、まだ唸っている。
「そうね。確かに楽しかったわ。」
言う麗子。ちなみに彼女をタッチしたのは香奈子である。
香里は例によって栞のことを尋ねるが有益な情報は得られなかった。
「さて、皆様。これからどうしましょう?」
おもむろに切り出すセリオ。こんなところに長居してても仕方ないからだ。
「私は鬼として楽しんでみるわ。」
言って姿を消す麗子。ヌワンギに付き合って鬼にまでなったわりにあっさりと
単独行動を開始した。
「あたしもそろそろ行くわ。そろそろ獲物捕らえたいし。」
矢島を連れて動き出す七瀬。
「私達も行こう。」
香奈子が言う。そういえば屋台を目指していたのだ。あまり時間を食うと
屋台が移動しているかもしれない。
「そうね、ポイントも稼いだし、そろそろ新アイテムも欲しいしね。」
「では私達も参りましょう」
そして残されるヌワンギ。まあ痛みは凄いがたいした怪我ではないので
数分で復活するであろう。
【麗子 鬼になる 単独行動開始】
【ヌワンギ 鬼になる 放置される】
【香里・香奈子 1ポイントゲット】
【香里チーム 屋台を目指す】
【七瀬チーム 収穫なし 次のターゲットを探す。】
前スレまでまとめ終わりました
ミス発見したら指摘お願いします
109 :
108:03/03/30 19:36 ID:f+0sNTj2
やってしまった・・・鬱だ
何事!?
とにかく、お疲れです。
「交錯」作者です。
105について
誤:シュミレート
正:シミュレート
です。鬱だ。
そろそろ日も傾いてきた夕暮れ時。森の脇の小道を歩く、一組のアベックがいた。
何やら手にはカップアイスを持ち、それを口に含みながら。
「(もぐもぐ)なるほど……。祐介さんはあえて勝利のために、どなたとも行動を共にしなかった、と……」
「(もぐもぐ)まぁね。けど、やっぱり栞ちゃんみたいな子が目の前に現れたら放っておけないよ。男というか、人として」
「(もぐもぐ)はい、よろしくお願いしますね祐介さん。頼りにしてますよ」
「(ごっくん)……う、うん! 任せてよ栞ちゃん!」
思わず軽くガッツポーズを取ってしまう祐介。彼にしてみれば、『頼りにしている』などという言葉は非常に嬉しいのだ。
今まで、どちらかというと自分は流されるままに生きてきた。その自分が、誰かの助けになれる……。
……利用されているだけとも言うが、純粋に彼はそれが嬉しかった。
それを無意識のうちに察知したのかしなかったのか。栞は満面の笑みでトドメを刺す。
「はいっ! 今の私には、祐介さんしかいないんですから!」
一方祐介も、ちょっとカッコつけたポーズを決めながら、
「君を守る方法は僕が知っている。僕に任せろ!」
などと言ってみた。少々お調子に乗りすぎである。
「けど祐介さん、今夜の寝床はどうしましょうか? 祐介さんは昨夜はどうなさったんですか?」
「うん……昨日はほとんど誰とも会わなかったからね。適当な場所を探して、野宿したんだ。幸い虫がほとんどいなくて助かったよ。栞ちゃん、君は?」
「はい、私も野宿でした」
「え……? けど栞ちゃん、君、体は……?」
「ああ、それなら良祐さんが」
「良祐?」
思わず本音が漏れてしまった栞。とりあえず慌てて頭を振りながら、
「ちがっ、ちがっ! 違いました違いました! 昨夜は私も……寒さに打ち震えながら、野宿を慣行したんです……。体もそうですけど、心も寒かった……」
ホントにドラマみたいな、いや、昨今ドラマでも言わないような台詞をさらりと言ってのける。だけど祐介には効果覿面で
「可哀想に栞ちゃん……。大丈夫、僕がいるからにはもう安心だよ! 今夜こそきっと、君を暖かい布団の中で眠らせてあげるからね!」
「はいっ、ありがとうございますっ!」
「さぁて、そうと決まればさっそく出発だ。とにかく、屋根のある建物を探そう!」
「はい、よろしくお願いしますねっ!」
喜び勇んで、2人は出発した。
(……………さて、と)
……各々の思惑を抱えながら。
【栞・祐介 寝床(出来れば建物がよし)を探す】
【時間 夕方】
【場所 森の脇の小道】
最初にその事に気づいたのは黒いコートを纏った女性であった。
「む、この空気……明朝には降りだすな。そうすればこのコートも必要なくなるか。ホホホホホ」
強化兵水戦試挑体岩切花枝。
強化兵の弱点である水への耐性克服した反面日光への耐性を著しく損ね、
日中の行動にはコートが欠かせない身である彼女にとって水気はその能力に多大な影響を及ぼす。
そんな彼女であるからこそ天候に対する判断力は人一倍なのであろう。
「降りだしさえすれば水に入らずとも力を出せる。追いかけっこにも力が入ると言うものだ」
しかし彼女は失念していた。
余りの人恋しさからか、全力での鬼ごっこへの期待からか、
或いは水気というものが当たり前のその身では既に思いも及ばない事なのかもしれない。
雨が降れば殆どの参加者が雨宿りを選択し動かないという事を……
【岩切 明朝からの降雨を感知】
【三日目の日の出頃から天候は雨になります】
「ぴこぴこ」
「さあ、もう少しですよー」
「ちょっと遠かったですね。…あれ? 灯台、だれかいるみたい」
ほのぼのな雰囲気の三人組。
その斜め横から、
ダダダダダダダダ――――――
その三人組にむかって急速接近の、『縦』『横』コンビ。
――――獲物を横取り?
思わぬ光景に隠れていた潅木の陰から立ち上がる、あゆ。
「だ、ダメだよっ! そ、それはボクのたいやきだよっ!!」
「ぴこ?」
ケモノ(?)の勘が発動したのか、三人と一匹のなかでいち早く異常を察知したのはUMAだった。
つられてみどりがふり返るとと、そこには…
「あ、――――襷、鬼」
ふりむく、残り二人。
驚愕というには緊張感に欠けた表情を浮かべて、固まってしまった。
逃げ出すには鬼との距離が迫りすぎていたのだ。
表現しがたい形相を浮かべ、トップスピードにのった二人の鬼はそのまま――――――――――目の前を、通り過ぎていった。
「「「「…………え?」」」」
唖然とする南・みどり・鈴香の天然おねーさんチームと、あゆ。
変わらない速度で灯台に一直線の縦横コンビ。
「いくでござる! いくでござるよ!!」
「も、目的はただ一つだけなんだな」
―――彼らの獲物は唯一つ。大庭詠美のサイン。
「―――あらあら。あそこにも鬼がいますね」
ふと森のほうを見て、南がたおやかに微笑んだ。
立ち上がったまま呆然としているところを見つけられた、あゆ。
ああ。逃げていく。たいやき三つが逃げていく。
「……わたし、もう笑えないよ?」
失望のあまり混乱しているらしかった。
最近、某一家と同じく異次元に逝っちゃっている耕一とダリエリ。
二人は川岸で夕日を見ながらまたまた口論していた。
「ダリエリ、最っ高ーの男の女の出会いってのはな。
朝、道を歩いているときにパンを齧ったセーラー服の女の子が『うーっ遅刻、遅刻』て言いながら俺に激突して来るんだよ。
うーん、考えただけでたまんねえぜ」
「甘いぞいっちゃん。いまどきそんなベタベタな出会いがあると思うか?いや…ない」
怪しい仮面を被っているダリエリが耕一に反語で言い返したとき、
向こうから来た二人組みの女の子の一人に、どんっとぶつかった。
「夕霧ちゃん、大丈夫?」
藍原瑞穂がダリエリにぶつかって転んだ女の子に手を伸ばす。
「シャアアアァッ、不注意だぞ人間。世が世なら狩猟者の贄になるとこだぞ!!」
「そ、そんなこといわれても──」
砧夕霧はそう言うと、ダリエリとぶつかったときに落とした度のあっていない眼鏡を拾って掛けなおした。
──ズギュウウウゥン!!
ダリエリの心音がどくどくと高鳴っていく。
「はわ、はわわわわっ」
ダリエリが夕霧の眼鏡を掛けた顔を見て、あまりの衝撃に思わず後ずさったとき、
「どーしたんだ、ダリエリ」
耕一が仮面の裏のダリエリの顔色をうかがった。
ダリエリと耕一は女の子たちに聞こえないように、ボソボソと話を始めた。
「おいダリエリ。まさか、あのお下げの女の子にホの字か?」
「な、な、なにをいってるんだいっちゃん!?高貴な狩猟者たる我が、に、人間に惚れるなどとっ!!」
「大声をだすなよ、お下げの子に聞こえるぞ」
「はうっ!!」
慌てて仮面の上から口を抑えるダリエリ。
(お前、由美子さんに惚れてるんじゃなかったのかよ。案外、気が多いんだな)
(……由美子嬢は襲って子供を孕ませたいというか……
で、でも。あのお下げの嬢はなんというか、その、守ってやりたいというか──)
(──前半は聞かなかったことにしておいてやる)
そんなやりとりの中、夕霧はダリエリに質問した。
「あなたたちは鬼の方ですか?この眼鏡は度が合ってなくてよく見えないんです」
「そ、そうとも。我こそは狩猟者たるエルクゥ、ダリエリ」
「で、でも鬼のタスキをしてませんね?」
瑞穂が不安そうにダリエリ達を見る。
「そうじゃないだろダリエリ、俺達はただの逃げ手だよ」
耕一がそういった後、四人は自己紹介を始めた。
数分後。
灯台の上では壮絶な戦いが繰り広げられていた。
基本的に鬼に触られれば終わりのこのゲーム。逃げ手が少々集まったところで数の優位は働かない。
灯台という閉鎖空間に逃げ込んでしまった時点で、五人は籠の中の鳥状態だった。
「観念するでござる!」
「も、もう、おしまいなんだな」
五人を灯台の屋上に追い詰め、勝利を確信する、縦横コンビ。
「ふっふっふ、大庭詠美のサインはもらったでござるよ」
「なんだな、なんだなっ」
「…アンタら…」
その台詞に青筋をうかべた由宇。
次の瞬間、ニヤリと薄笑いを浮かべて彼女がとりだしたのは紙の束。
「ああーーーーーーっ!!!!! なんでパンダがそれもってるのよ!! わたしのげんこー、かえしなさいよ〜!!」
「……黙らせとき」
「らじゃー、ボス」
凄む由宇に浩之は素直に従った。
むぐ、っと詠美の口を押さえる。
「なあなあ。大庭(カ)詠美サインなんかよりもっとえーもん、欲しない?」
案の定、ピタリと動きを止める縦横二人。
…脈あり。商売人の勘がそう告げていた。
「じゃじゃーーーん!! 見てみい!! CAT or FISH!? の最新作!! し・か・も・できたてほやほや、生原稿やで!!!」
おお〜、と嘆声があがる。
ちなみに浩之と志保はこの時点でついていけていない。
「で、相談やけどなぁ。これと交換に、この場はちょっと見逃してくれへん?」
ちょっと、
更に一押し。
「よぉ、考えてみぃ。生原稿はこの機を逃したら手にはいらんで〜。なーんせあの同人くいーん、ちゃんさまの作品や。
サインはこみパであえればもらえるかもしれへんやろ? どちらがお得か、小学生でもわかる」
浩之と志保は顔を見合わせた。
するとわからない自分達は小学生以下か?
「瑞穂ちゃんは祐介くんを、夕霧ちゃんは自分の眼鏡をそれぞれ探しているんだね?
せっかくここに四人いるんだ、二組に分かれて探そうか?
俺は瑞穂ちゃんと祐介くんを探すから、ダリエリは夕霧ちゃんと一緒に眼鏡を探してくれ」
「わ、我と袂を分かつと言うのか、我が宿敵!?」
ダリエリは驚いて耕一に詰め寄った。
「夕霧ちゃんと仲良くなるいいチャンスだぜ」
耕一はダリエリにそう耳打ちすると、
「じゃあ俺達はいこうか?瑞穂ちゃん」
耕一のことをまんざらとも思っていない瑞穂と共に、ダリエリ達から去っていった。
「ダリエリさん、一緒に私の眼鏡を探て下さいね」
夕霧はダリエリに手を伸ばす。
「手を、手を、手を触ったああっ!!」
ダリエリはまるで夕霧の身体から電気が流れているみたいに、握ってきた手を離した。
「きゃあ、ひどい。ダリエリさん」
その勢いで夕霧が尻餅をつく。
「す、すまん。そんなつもりじゃ」
ダリエリが慌てて夕霧を助け起こそうとしたとき、
「ま、股の間からおパンツが見えソで見えなくて……
ぶうううぅぅーーっ!!」
仮面の間から豪快に鼻血を噴き出させた。
【ダリエリ 夕霧にぞっこん一目ぼれ。二号の仮面を被っている】
【夕霧 ダリエリと共に自分の眼鏡を探す。ダリエリを普通の人間だと思っている】
【耕一 瑞穂と一緒に祐介を探す。残金数千円 一号の仮面を所持】
【瑞穂 耕一と共に祐介を探す】
【川岸 二日目の夕方】
「むぅ、…承知した。ここは取引に応じるでござるよ」
「取引、仕方ないんだな」
「そうそう。ショーバイはそう割り切りよーないとあかん」
にっこり笑みを浮かべながら手渡そうとした刹那、
「あっ…」
「!!!!」
「!!!!!!!」
……バサバサバサバサッッッッッ
紙の束が空に待っていった。
「「フゥォォオオオオオオ!!!!!!!」」」
散らばる紙を追って飛び出していく、縦横コンビ。
「よーし、みんな、今のうちににげるでっ」
「ちょ、ちょっとまちなさいよっ!!! パンダ!!!!」
怒り心頭の詠美ちゃんさま。
「なんや、詠美? あーー、アレか。気にせんでも、あんたがペン入れに失敗したやつとか集めたゴミや。
あんたのほんものは、そこのにーちゃんがまだ持っとる。…原稿は作家の命やで、あんな扱いするわけないやろ」
「うっうっ、パンダ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
「おーよしよし…ほな、逃げ
「うぐっぐっぐっぐっ…」(*笑い声です)
…よ…か?」
「…ふ、藤田さん…あれ…」
「…ああ、まだいたんだな、鬼」
奇妙な笑い声と共に登場のたいやきうぐぅ……もとい、月宮あゆ。窃盗犯にして奇跡を起こす少女である。
実際、この状況は奇跡といえなくもなかった。
追い詰めた獲物を目の前にしながら、譲ってくれる狩り人がいたのだから。
しかも獲物は五人。たいやき五匹と等価である。
…カツン…
…カツン…
得体の知れない瘴気を纏った狩人が、階段を一歩一歩、踏みしめながら上がってくる。
あゆにとってこれはただの階段ではない。
はるかなるたいやきへの道だ。
「ふ、ふみゅ〜〜〜んっ、ど、ど、どうするのよ〜〜〜!! 」
「ね、ねこっちゃ、なんとかしっ!」
「…ねこっちゃ、言わないで下さい…」
「ヒロっ! あんた、かよわい乙女たちのために犠牲になりなさい!」
「むちゃゆーな!」
灯台の出口への道は一つ。入り口も一つ。
そこには襷をかけたあゆ。つまり、鬼。
相手は一人だが、逃げ手は触られたらジ・エンドである。
……ピンチだ。
「……じゅるり……5個……たいやき、5個追加だよ…うぐっぐっぐっぐ…」(*笑い声ですよ?)
また一歩。
「俺が上!!お前が下だ!!!」
びしり、とあゆを指差す浩之。
シチュエーションとしてはまずまずだが、相手が悪かった。
敵は試練云々よりもたいやき命の少女である。
「うぐぅ?」
……まあ、そうなるだろう。
「あかん、そこは『お前が下だ!!浩之!!』やろ! 修行が足らんわ、このちんちくりん!!」
由宇が、実に彼女らしいつっこみをした。
隣にいればハリセンをかましたに違いない。
……そうは見えなくとも、彼らはピンチだった。
【同人組(由宇・詠美・琴音)・浩之・志保 灯台】
【南・みどり・鈴香 灯台から逃亡】
【あゆ 灯台】
【時間 昼】
【灯台の位置 島の西側にある小さな岬】
さすがに長すぎましたか・・・しかも半端だし。
127 :
月光浴:03/03/30 21:40 ID:VGbsRdEC
寝るのが早かったという至極単純な理屈で、二人は夜中に目が
醒めてしまった。やる気が無いことは無論変わりが無く、何ともなし
に海岸で波を見ていた。
「……」
「……」
「もはや男二人並んで体育座りという異様な状況にもツッコミ入れる
気力すらないんだよね。俺達」
「いうまでもない。むしろ言わないで戴きたい」
空に浮かぶ8日目の月が満潮の穏やかさを知らせている。潮の風
がまとわりつくように吹き、二人の鼻腔を刺激している。
「はたらけど はたらけどなお わがくらし らくにならざり じっとてをみる」
「ソウイウモノニワタシハナリタイ」
「いや、なりたくないけど」
「だな」
128 :
月光浴:03/03/30 21:41 ID:VGbsRdEC
威力ゼロのボケツッコミ作業を機械的に繰り返す二人。既に彼ら
のボケツッコミは自己満足という意味すら持たず、いわば呼吸の際
に付加的に吐き出される余分なシロモノに値する。体内から定期的
に吹き出されるフレア爆発と言い換えて差し支えない。やる気とい
うねじが吹き飛んだ北川潤と住井護両名はその爆発を統制・制御
する作業を放棄し、エネルギーに方向性を持たせないまま海辺で
白昼夢を見ているかのように見えた。夜なのにも関わらず。
要はやる気があるんだかないんだか良く分からん状態なのだ。
突如住井が立ち上がり―――また座った。
それにつられた北川も腰を上げ、やっぱり腰を降ろす。
「……ボケにボケで返されても」
「な、今のはボケだったのか!?」
「いや……違う」
「ならいいや」
ボケをボケと認知されないことほど屈辱的なことは無いだろう。住
井は自身が生み出したボケのクオリティを棚に上げて苦悶の涙を流
した。
「……もー一回寝るか。やることもないし」
「ああ。おやすみ」
【住井・北川 再度就寝。廃人の三歩半手前】
【夜(日付けが変わる頃)】
深山雪見は混乱している。
「なんでこんなことろに食べ物があるのよ…」
彼女はつい先程鬼のチームと遭遇するも、連れの少年の計らいにより安全に離脱
成功し、現在は森の中である。
ふと、他の場所から死角になるような位置に、普通ならあり得ないものを発見し、
先程の独り言に至ったのだ。
それは避難訓練とかでみかける乾パン数粒だった。飢えは凌げるだろうが、
決して腹の膨れる量ではない。それが透明の、おそらくはアクリル製の箱に入っていた。
「って、誰かが用意したに決まってるわね。」
少し正気に戻ってさらに考える。問題は誰が用意したかである。
そういえば最初の説明で主催者側は最低限の食料等は色々な形で支給すると
いう旨の説明をしていたが、このことだろうか?てっきり屋内ばかりだと
思っていたのだが。確かに屋台は不確定要素が大きい上に金が無いといけない
ので、十分とは言えない。無論こんな乾パンくらいだと飢え死にしないだけで
体力の回復までは見込めないのでジリ貧だろうが。
しかし、参加者の仕掛けた罠という可能性も十分高い。食料を餌にした罠は
スタンダードだが非常に効果が高い。特に某雪見の親友ならあっさりひっかかるであろう。
鬼も逃げ手も長期戦が前提なので食料は多いに越したことはないので、罠の可能性を
十分考慮している者でもついつい手が出てしまう事が多いだろう。
現に雪見自身怪しいと思いつつもスルーできないでいる。
(罠にしてはエサがセコ過ぎるし、死角に設置するのも不自然ね)
(でも、そう考えるのを見越してのことかもしれないわね)
(かといって、ここまで露骨に不自然だと罠と思うほうが難しいわ)
(でも実際森の中や市街地は罠だらけだったし…)
雪見の決断にはもう少し時間がかかりそうである。
【雪見 森の中で不自然な食料を前に困惑】
【この食料が救済措置か罠かは不明(設定面の話になるので判断を保留します)】
一方その頃……
「うー…また罠だったよ…」
「またひっかかったのかい、あんたは!」
「あ、あはははは…」
クーポンで食事をとるべく屋台を探していた智子一行は、
みさきが我慢できずに匂いに釣られて、こちらは正真正銘参加者の罠であるカレーパンに
ひっかかった為、またも立ち往生していた。
【智子一行 みさきの救助】
【みさき トリモチ落とし穴 救助にやや時間がかかりそう】
(場所は次の書き手さんに任せます)
ピクッピクッ
美しい金髪が怒りで震える。端正な相貌は形相を変えてなお、美しかった。
「ど う 言 う お つ も り で し ょ う」
最初はいきなり果実をぶつけられ、墜とされた。
抱きとめてくれたとは言え、一歩間違えていたならば大惨事になるところ。
それだけでも度し難いのに……まぁ、それはその後色々あって許した。
(ですけれど、今回はっ!!)
とんでもない事をしでかしたカルラを逃し、さらにあのカルラにとんでもないことを聞かれた。
その元凶――黒尽くめの青年――を睨みつける。なのに―
「なあウルト。俺と手を組まねえか?」
元凶・国崎往人はしれっとした顔でそんなことを言ってきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一瞬毒気を抜かれかける、が
「ハッ? って……どの口がそんなことを仰られるのですかっ!?」
当然怒りは収まらない。
「はあ、ほひはへふ、おひふへ(まあ、取りあえず、落ち着け)」
「落ち着いてられますかっ」
この状態でも話は通じていた。意外と冷静なのかもしれない。
「☆×▼◎※▽○*∴!」
「tっかsdjがjgjjかjfg!!」
「×※○●☆▲◎∵★☆!!」
「いgじゃsgかjjぎdgdghh…」
生来の性格の為であろうか、ウルトリィはなかなかきつく責められない、
―と、いうよりも今まで出会ったことのないタイプの男性の
往人のペースにだんだんはまってる、と言った方が正しいか。
それをを良いことに、往人はのらりくらりと対応し、話をそらしていた。
そんな無為な時間を過ごす2人をよそに、国崎の連れの少女は
「にゃぁ〜〜☆、目つきの悪いお兄さんの電波が本当に羽根の生えたお姉さんを呼んでしまったですよ〜〜
羽根、触っても良いですか、いいですよね、えいっ♥」 ブチッ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
実にマイペースだった。
「と、言うことで、だ。俺とこいつだけじゃどうにも戦力不足でな、
そこでマイふぉーちゅんえんじぇるウルトリィにご足労願ったって分けだ」
「ふぉーちうん、ですか……」
なんか何時の間にやら、まるめこまれている。
一度キレると洒落にならない彼女が、既に毒気を抜かれていた。
しかしそれに気付いていながら、ウルトリィはあまり嫌に思っていなかった。
この目つきの悪い青年と、猫のような少女。
彼らと一緒に行動する……この破天荒な先の読めない人々、何故か心が躍る。
その背が示すように、まさに天使と呼ぶにふさわしい美しい笑顔が戻った。
「それで、私はどのような役割を受け持つのでしょうか」
「おおっ、やる気になってくれたか! まずはだな、空から獲物を見つけることから始めるぞ。
鬼が先に見つければ、どんな凄い奴でも色々やりようはあるもんだ」
「はい」
「其れから……………………」
「では……………………」
「にゃあ☆……………………」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
森の中、美しい金髪をたなびかせて歩く人影。
ただ歩いているように見えて、一部の隙もないその姿。
そしてその女の後ろに――
(後方に1人……)
――なんとも分かり易い尾行者が1名、黒い服を着た男。彼は多分、気付かれていることをわかっている。
その上で、こちらを誘導している『つもり』のようだ。
(で、もう一人が前、と)
こっちはばれていないと思っているのだろうか?
10M程先の木の陰から必死に息を潜めているのがよく分かる――てゆーか、さっき背中見えたし。
さらにろくにカモフラージュすらされていない縄がその木と、もう一本の木の間に横たわっている、
しかも片側の木に結ばれているところまでしっかり見える……どういうつもりなのだろうか、
……溜め息をつきそうになるのをぐっとこらえた。
そのすぐ先にあるのは、かなり長い乱雑に捨てられた……余ったロープだろうか?
罠ではないように見えるが……いや、気を付けるに越したことはない。
少し足をとめて考える――と、尾行者も歩みを止めた。まだ仕掛けるポイントではないらしい。
(Trap……でしょうね……)
今見つけた2人は間違いなく「ど」がつくほどの素人。でも、自分が気付くよりも早く自分という存在を発見されている。
(さらに1人)
いるはずだ。アメリカエージェント達のマイティーエースである自分――リサ=ヴィクセンに発見されることなく潜んでいる何かが。
驚くことではなかった。先の柏木千鶴のように特殊なの力を持った者がたくさん集められているこの島。
今、考えなければならないのは脇に逸れるべきなのか、それともあの縄を突破するべきか。
(Fifty-fifty、かしらね)
相手の能力がわからない今、どっちに転んでも何かがありそうな気がする。
コンマ数秒、少しだけ悩むと、
『進路正面、ど真ん中まっすぐ!』
頭の中で彼女のパートナーが叫んでいた。
「まったく、貴方は本当に……」
――決めた。
On your mark……
少しだけ前傾、それとはわからない自然体で構える。
Get set……
正面を突き抜ける!
「NASTYBOYねっ!!」
Go!!!
弾けるように飛び出したリサを、尾行していた黒シャツの青年―往人は慌てて追いかけた。
千紗の存在がばれることなど先刻承知。それよりも問題なのは、それがわかった相手がどう動くか、だった。
相手の進む方向は千紗が居る所、つまり罠がある場所だ。
(賭けに勝った!)
絶対に追いつけないような、恐ろしいスピードで進む女を追いかけながら、
往人は右手を前に突き出した。
まずは一本。あまりの速さのためか、まともに持ち上げることすらなかったロープを軽く跳ねて交わす。
そのすぐ先にある、これまたロープ。近くで見てもやはり罠には見えなかったが、念のため跳ぶ、
その瞬間。
シュルルルッッ
「!? Si!!」
ただのロープが蛇のように絡みつく。そしてその両端が茂みに隠れいていた少女、千沙の手元へと滑る。
肩越しに少し後ろを振り返ると、完全に引き離したと思っていた男が右手を力強く突き出していた。
「Force!? でも…」
そんなに複雑に絡まってはいない。
(甘いわ、小さな娘に抑えられるほど――――私の蹴りはヤワじゃないッ)
強引に引っぺがすため全力で大地を蹴る。多少体勢は崩したがこれだけ離れているなら問題は無い。
「ぎ、にゃああああああぁあ!」
思惑どうりに千紗の手からはロープが抜け、少女も頭から地べたにつっぷした。
「ゴメンなさいね」
後ろを見やり、軽くウインクして謝ったその時、
「ウルトッッ!!!」
往人が叫んだ。
遥か後方に金髪の女性が、得体の知れない力場とともに空から舞い降りてくる。
そして、小さな竜巻ともいえる風を『黒い服の男の背中に向かって』放った。
「ぐゥ…くっ、もらったっ!」
とてつもない急加速。
恐ろしいスピード&奇妙な格好で突っ込んでくる往人を目視したリサは、無理やり身体を起こそうとしなかった。
体勢を整えず、逆に前に倒れこみ、そのまま両手を地面についた。
そして、
「HA!!!!」
裂帛の気合と共に、四つん這いの状態のまま、 跳んだ。
背中を襲う痛みと戦いながらも、往人は勝利を確信していた。しかし、
「なぁっ」
まるで馬跳びをそのまま逆に再生したような動きで、目の前の金髪美人は往人を飛び越えていった……
ゴズッ
鈍い音と共に木の幹から崩れ落ちる往人。それを尻目にリサ=ヴィクセンは木々を伝って逃げていた。
「ぐあああ」
前と後ろ、両方から襲い掛かる痛みに、往人はたまらず声をあげる。
「みゃああ、手、ずる剥けです〜〜」
千紗もたまらず声をあげる。手の平には赤く血が滲んでいた。
「はい、この布で抑えておきなさい、少しは楽になるわ」
優しく千紗の手当てをするウルトリィ。母親が娘を見守るかの様な優しい横顔。
痛みに必死で耐える往人には、それを眺める余裕は無かった。
「もう少しだったのに…なぜだっ、てゆーかウルトッあんなに強くぶちかますことないだろっ」
「何のことでございましょう」
打ち解けたように見えて、やはり引っかかるものがあったようだ。
今はすっとしたのか、機嫌よく微笑む。
「くそっ、次こそは…」
「手が〜」
「うふふ」
リサを逃がしはしたが、取りあえず国崎グループは結束したようである。
【往人、千紗、ウルト 大掛かりなことをした挙句、リサをとり逃がす】
【ウルト 往人に一撃、機嫌を直す】
【リサ 国崎その他から逃げおおせる】
一方
ぱちん
それなりに離れた樹の枝。そこで金髪碧眼のエージェントは爪を噛んでいた。
「Jesus Christ! まさかあんなに追い詰められるなんて……」
縄の絡まった右足首が少し痛む。
その痛みで先程追い詰めてきた青年の顔を思い出す。
「たしかあの顔は、国崎往人……方術使い、方術の詳細は -- unknown」
(あの蛇ロープ、あれがHOUJUTUってわけね…)
もう1人、金髪の天使。
「飾りじゃなくて空を飛べるなんて……本当に、面白い」
微笑み、空を見上げる。
「私の下着は冥土の土産にしか見せ無いはずだったんだけどね……とりあえず疲れたわ」
次はどんな奴だろう、楽しそうに笑ったリサは少し身体を休めることにした。
【リサ ウルト&往人に興味】
【足を少し痛めた(?)大したことは無い筈だが……】
「ぬーん――っ」←気合い。
「ききゃーぁぁあっ」←気合い。
12時間。
この壮絶なバトルが彼女らにもたらした過酷の日々の総計であ
る。参加者の一人である清(略の方式でいうと10時間120分となる
のだが、ここでは便宜上一般的な60進法で表記させて戴く。ご了
承いただきたい。
「「ふっふっふっ!」」
「「むっはっへっ!」」(ビシュッ)
人は極限状態に陥った時、自己の生存に必要な要素以外の情報
を全てシャットアウトする、という性質を持ち合わせている。
例えば沈没寸前の客船から間一髪脱出したとある乗客の証言に
よれば、逃げる途中、まるで鷹の目のように前方に見える非常灯に
だけピントがあい、それ以外の雑多な情報――混乱の元となる他
の乗客、聴覚、痛覚までもが一切記憶に残っていなかったらしい。
この場合で言えば二人の動作にそれが当てはまるだろう。
寸分の狂いも無く正確無比に繰り返し動きつづける右腕。
まるでそう定められたかの如く同じ位置まで回転する首。
時計職人も思わず唸る繊細な動作を繰り出す五指。
そのどれもが相互に完璧な調和を保っている。見る者が見れば実
に官能的な光景だったろう。何しろ彼女達はほとんど全裸なのだか
ら。圭子に吊られて清(略までもがパンツ一枚で臨戦体勢だった。
その姿に至った経緯は依然として不明だが――この情景を揶揄す
る無粋な人間は、少なくとも現在までは彼女らの前には現れなかっ
た。
「「むっふっふっ!」」
「「はっはっほっ!」」(ビシャッ)
しかし一見完璧に見える彼女だが、ただ一点に於いて不可思議
な部分があった。清(略は前方に、圭子は後方にじりじりと動いて
いるのである。時速にしておよそ30メートルといったところか。勿論
双方の力量は全くの互角である。だがしかし、なぜか不思議とそう
なってしまうのだ。これはもう二人の性質が『前方』と『後方』に固定
されていると仮定するしかない。
何が前方で何が後方なのか全くの不明なのだが、とにかく二人
は気付かない内に海岸線を350メートルほど移動していたのだ。全
裸で。
【圭子・清(略 絶!超絶煉獄千日あっち向いてホイ シェフの気まぐれ風ってどんなのよVer.継続中】
【残り17時間38分】
【時間→夜】
【なぜか海岸線を350メートル移動】
結局「人違い」はボツったの?
後発の「SHIORI & YUSUKE」では、「人違い」は無かったことに
なってるけど、あれは完全にNGということでOK?
「………まだここを離れてそんなには経ってないわね……」
足下の砂利をつまみ、軽く指で転がす。
「……エルクゥが2人、少女が2人……。2-2 で、別れた……」
ピタリとそこで起きたことを見通す。
「……私なんかが一般人狙ったって、それはイジメでしかないしね……」
白衣をはためかせ、一人呟く。
彼女の名は石原麗子。
本日昼過ぎ、香里達に捕まった新人の鬼だ。
だが、実力は言うまでもない。超設定の塊。無敵超人。
「……地上最強の生物だのなんのと言ってる彼らなら、私の相手も相応しいか……」
軽く腕を振る……。すると瞬間川面にさざ波が浮き立ち、この世のものならぬ空間をその場に作り出した。
ざざざざざ……………。
魚は急いで潜り、野生の獣は怯えてその場を去る。
「……やっぱり、狙うなら大物、よね」
麗子は微笑んだ。
非常に楽しそうに微笑んだ。
彼女の中に眠る血が、久々に激しく脈打つ。
「……さあ、狩りの始まりよ」
こうして……最強の狩人は、最強の獲物を狙い……動き始めた。
【石原麗子 大物(耕一・ダリエリ)を狙う。最初にどちらに向かうかは不明】
【時間 耕一達が別れた少し後】
【場所 耕一達が別れた河原】
「ええと、祐介さんならこっちの方に来そうな気がするんですけど……」
「うん。確かに俺も祐介ならこの辺に来る事を選ぶと思うんだが、はてさて」
ダリエリと夕霧と別れた耕一と瑞穂祐介を探す為に向かった先は商店街。
そこで耕一は声をかけられた。
「耕一さんっ」
走りよってくるのは同じく商店街に来ていた楓。
「あ、楓ちゃん」
「楓ちゃんこんばんは」
挨拶で返す二人、そして耕一はふと浮かんだ疑問を声に出した。
「でもどうしてここに?」
「私は初音を探しに。……でもどうして瑞穂さんと一緒にいるんですか?」
耕一の質問に答えた上で微妙に棘がある質問で返す楓。
そりゃあ想い人が他の娘と一緒にいるというのは気分の良いものではない。他の姉妹とならまだしも……
「ああそれはさ」
そんな楓の気持ちも気づかず耕一は瑞穂と一緒にいる理由を話し出した。
主人公というのは得てして鈍感なモノなのである。
「という訳なんだ」
「そうなんですか……でもあのダリエリが……」
その説明に微妙に釈然としない顔をしつつもそれなりに納得した後、声のトーンを落とし真面目な顔で耕一に声をかけた。
「それで耕一さん、……気づいていますか?」
「そりゃあ、あれだけ敵意を剥き出しにされりゃあね」
「へっへっへっ、とろそうな男が一人に女が二人。楽勝だな」
耕一たち三人を狙っていたのはヌワンギ。
悶絶している間に他の鬼たちは何処かへ行ってしまい一人憤慨していたのだが
心機一転鬼で優勝してエルルゥに振り向かせようと考えたのである。
単純なのはある種の武器かもしれない。
「どうしましょうか……」
「うーんあれだけやる気って事は自信があるんだろうな。まともにやったら俺や楓ちゃんはともかく瑞穂ちゃんがなぁ」
「あ、私のことは放っておいて貰ってもいいですよ。別に鬼になるだけだし」
「いやいやいや瑞穂ちゃん、そういう訳にはいかないよ」
「その通りです」
即座に瑞穂の自己犠牲を却下する二人。
そして楓は耕一に一つの提案をした。
「……耕一さん。‘全力で’逃げましょう。瑞穂さんは耕一さんに掴まってて下さい」
耕一は楓の意図を直ぐに理解し問題点を指摘する。
「全力でって楓ちゃん、二人してそんなことしたら他のエルクゥに気づかれるよ。
流石に千鶴さんとの追いかけっこはもう勘弁なんだけど……」
「逃げた先で他のエルクゥが追いかけてきたなら耕一さんは瑞穂さんと一緒に隠れていて下さい。
私なら相手が千鶴姉さんでも逃げ切れますから」
「いや、でもなぁ」
悩む耕一の背中を押したのは瑞穂の言葉だった。
「えーと、まずは逃げるべきなんじゃないですか?」
「あぁ、そうだね。じゃ瑞穂ちゃん、しっかり掴まっててよ。跳ばすから」
耕一が瑞穂を抱きかかえ自分の提案とはいえ楓がちょっと顰め面になる。
「あいつ等何やってんだ? バカじゃねぇのか」
一見捕まえてくれと言ってるようにしか見えない獲物たちの動きを見てヌワンギが飛び出した。
だがしかし、直後には目前の三人の姿は無かった。。
正確には耕一と楓が全力を解放し物凄い勢いで駆けて行ったのだが
見縊って油断していたヌワンギにとっては消えたとしか表現出来なかったのである
そして後に残されたのは……
「な、なんだよアイツら……あんなヤツどうやって掴まえろってんだよ」
早くも挫けそうなヌワンギと
「どうすればいいんだ……」
二人の疾走の余波の風を浴びて参っていたビルだけだった……
【耕一、瑞穂 楓と一緒に疾走中】
【ヌワンギ、ビル 呆然】
毎回微妙にマイナーチェンジをしてるので読んでほしいこと&連絡事項↓
現在進行中の灯台編関係者は浩之、志保、琴音、由宇、詠美、サクヤ、舞とあゆの8名です。
サクヤと舞は
>>116-125散らばって散らばってに未登場ゆえレス番は追加されてないので続編作者は注意してください。
>>51-55プロレタリアとブルジョアジーはNGで確定。
>>70主催者側の思惑はの続編になる為連鎖でNGとなります。
来栖川姉妹を書く人は上記の二作を踏まえず
>>44-48に続くようにして下さい。
また追加ルールも現在存在しませんのでその点も注意して下さい。
>>81-83人違いはNGで確定。
祐介栞の続編は上記作を踏まえず
>>112-113SHIORI&YUSUKEに続けるようにして下さい。
参加者はこのリストで確定です。
このリレーは余程の反則(電波で他の参加者を操る、魔法で自分を触れなくする)が無い限り能力使用はOKです。
但し原作外のオリジナル設定は基本的に抜きで。ていうか基本ギャグで済ませましょう。
細かいところに拘るより鬼ごっことしての状況を進める方向で
致命的なミスがない限りは脳内保管しましょう。
NGはできるだけ避けるよう書く話のキャラの前話くらいは読みましょう。
前スレも健在なのでリストをたどれば最終行動はわかる筈なので。
また他のスレのネタは知ってる人はニヤリ、あ、このネタ上手いなーくらいにしておきましょう。
能力に関してグレーゾーンな話を書く際には
『葉鍵鬼ごっこ議論・感想板』 へどうぞ
>
ttp://jbbs.shitaraba.com/game/5200/ 後記
これで開始から2週間。
リレー総合スレに出ている感想板の力の肥大化、ロワ中期のような展開と言う意見が印象に残りました。
坂下好恵は、再び一人身となっていた。
せっかく出来たパートナーが、突然空から降ってきた(?)鬼役の少女と激突。そのまま鬼となってしまったのだ。
……あまりの事態に呆然自失であった彼女は、復帰後、溜息をつきつつその場から急いで立ち去ったのであるが…。
「……ついてないのかしら、私は…」
愛すべき後輩の葵とも、いけ好かないけど嫌いになれない宿敵の綾香とも、まだ会えていない。――というか、
他の参加者との遭遇自体、まともに体験していない。
「始めは木から落ちてくるし、二回目は空から…。何だかアホらしくなって来たわ…」
――正確な時刻は不明だが、もう辺りは暗くなって来ている。それ程深くは無い森の道…だが、不安になるなという
方が無理な話である。何せ、自分は女だ。………そこいら辺をほっつき歩いている、とっぽいにーちゃんなんかよりも
余程強いが。
「…まともな物食べてないから、お腹もそろそろ限界ね」
暗い森の中を歩く不安より、今は空腹の方が辛かった。
「……鬼ごっこやってて飢え死にしていたんじゃ、笑い話にもならない…」
げんなりと呟く、好恵。――その耳に、どこからか声が聞こえて来た。
「その強力過ぎる鼻、なんとかならんのか…!?」
「えへへ…、ごめーんっ。そんなに怒らないで欲しいよ智ちゃん」
「智子さん、あんまり大声出すと鬼が来ちゃいます…!」
…三人? ――その内一つは、何となく聞き覚えのある声だ。
久し振りに人の声を聞いた様な気がして、好恵は思わず浮かれそうになったが、もしかしたら鬼かも知れない。
足音を殺しつつ、好恵は声の方へと近付く――が、
「――っ…!? とっ、智子さん、人の気配が…!」
「何やっ、鬼か…!?」
緊張を帯びる声に、好恵はビクッと肩を震わせた。――が、今の声のやり取りで、向こうが鬼では無い事が解った。
逃げられてしまう前に(やはりちょっぴり寂しかったりした)好恵は自分の方から名乗り出る事にした。
「――待って! 鬼じゃないわ!」
久し振りに見る人の姿に顔が綻びかけるが、自分のキャラを意識してか、ぐっと我慢する好恵。
「私は坂下好恵。まだ誰にも捕まってな――」
「丁度ええわ」
いきなり近付いて来るなり、智子が好恵の手をぐっと掴んだ。
「なっ、何? 何?」
呆気に囚われたまま、智子に引っ張って行かれる好恵。
「人手が必要やったんよ。私は保科智子。こっちの子は柏木初音」
「初めまして、坂下さん」
「――あ、ええっと…」
「で、穴の中におるのが川名みさきさんや」
「やっほー♪」
途切れ途切れの雲の合間から差し込む月光に照らされ、穴の中に少女が一人いるのが見えた。
――穴の中のみさきは、能天気な表情で手を振っている。
「や…やっほー…」
仕方なく、好恵も手を振り返す。
「罠に掛かったんや。落とし穴の上にカレーパン乗せてあってな」
「……そんな罠に掛かるのは野生動物くらいじゃないの…?」
「そうとは限らん例がここにおる」
「えへへ〜♪ カレーパン美味しいよ〜♪」
穴の中、能天気にカレーパンを喰らうみさき。それを見下ろす好恵の目は、点になっていた。
「………(…どうリアクションしたらいいのかしら)」
「――ま、ええわ。彼女を引き上げるの、手伝って貰えるか?」
「え?」
「縄は、蔦を利用して作りました! でも、とりもちの所為で私達だけじゃ…」
「坂下さん、貴女、空手部の人やろ? お願いや! 力が必要なんよ!」
そう言い、手を合わせて懇願して来る智子。見れば、初音まで同じ様に好恵を見つめて来ている。
「………っ(…どっ、どうしよう…)」
好恵は悩んだ。厳しい意見で行くなら、逃げを優先して見捨てるべきだろう。うかうかしている間に、
鬼が来ないとも限らない。…だが、見捨てるのも気が引ける。
「手伝ってくれたら、ご飯奢るわ。――どうや?」
「任せなさい」
即決の秋子さんに勝るとも劣らぬ即答振りの好恵さんだった。
「ふえ〜…。助かったよ、有難う好恵ちゃん」
とりもち穴から引き上げられたみさきが、にっこり笑って好恵に例を言う。
…ちゃん付けが引っ掛かったが、聞けばみさきの方が年上らしいので、同性という事もあって好恵は
反駁する事はなかった。――いや、というよりも、
「よっしーとか、よっちゃんとかって呼んでいい?」
「……好恵でいいです」
――というやり取りがあったりしたのだが。
「とにかくこれで一安心や。さっさと逃げよか。坂下さんも」
「あ――ええ、そうね」
ここで逢ったのも何かの縁という事で、好恵は智子達に同行する事に決めた。これまで孤独で寂しかった
というどことなく乙女チックな理由もあるが、何より――
「………(…ご飯)」
「丁度ええ所に通り掛ってくれたわ、坂下さん。ほんま、感謝しとる」
「え? ――ああ、気にしないで。ほ…しな、さん。…私の事、知ってるの?」
「知っとる。藤田君から色々聞いとる」
「…ああ、あの男か…。顔が広いわね、彼は…」
「ほんまや。お節介やからな、アレは。何にでも顔を突っ込みよるし」
「フ…、フフ…。そうね」
あまり馴染みの無い二人であったが、それなりに話が出来そうだった。これも、“ヤツ”のお蔭だろうか?
「ねーねー、智ちゃん。この腰紐は何?」
「ん? あー、それはやな――」
みさきの腰には紐が結び付けられ、その紐は智子の手に握られていた。
「罠に飛び込んで行かんよう、ストッパー代わりや」
「うう〜っ、酷いよ智ちゃん。私、犬じゃ無いのにぃ〜」
「犬以上や、その鼻センサーは。……今度また自爆しよったら、カレー抜きやで…?」
「しょ、しょんなぁ〜っ!? ぴどいっ、ぴろいよどもぢゃぁ〜んっ…!」
「………鼻垂らしてまで泣くほどの事なの…?」
唖然とする好恵に、初音が困った様な笑顔を向けて来る。
「みさきお姉ちゃんの人生は、大部分がカレーで出来てるらしいから」
「……そう(…リアクションに困るわ………まぢで)」
「ところで、その…ご飯、奢ってくれるって話なんだけど――」
「約束通り、ちゃんと奢るで?」
「…いや、それは勿論――そうじゃなくて、どこで奢ってくれるって?」
「お――坂下さん、屋台システムを知らんようやな。初音ちゃん、説明したり」
「それでは説明致しましょう♪」
「待っててねカレーさん♪♪」
【坂下好恵 森の道で智子一行と遭遇 罠に掛かったみさきの救助を手伝う】
【以後、好恵は智子一行と行動を共に】
【みさき 罠対策に腰紐を付けられる】
【好恵 みさきの救助を手伝ったお礼に、ご飯を奢って貰う事に】
【場所は、島の北側にある森】【目指すは屋台】
【時刻は、そろそろ夜?】
>>155 人違いのNGになった経緯がわけわからん。
感想板行けってこと?
>160
YES。
ムックルを背に、寄り添って眠る三人娘。
久しぶりにお腹いっぱいのご飯を食べられて、雑談なんかしているうちに誰ともなしにアクビが出始めて。
ぽかぽか日だまりの中、幸せに安眠中。
まったく無防備この上なかったのだが、鬼も鬼でない者も彼女らの邪魔をする者は現れなかった。
幸いにもムックルの毛皮は暖かかったし、それほど寒くはない。
そのままお昼寝は夕寝になり、夜寝──つまりただの就寝になってしまった。
深夜──。
月も星も出ていない夜。しかも森の中。まっくら森。
音もなく忍び寄るひとつの影があった──!
「お休み中失礼いたします」
ちっとも失礼しているは思えない感情の欠けたその声に気づいたのは、ユズハだけだった。
カミュとアルルゥはすやすやと眠りこけている。
「はい、なんでしょう……」
二人を起こさぬよう、小声で問い返すユズハ。
「ユズハ様に通達です。この通達は、ナースコール所持者の方に届けられるものです。
本来紙でお渡しするものですが、ユズハ様には音読で連絡させていただきます──」
チカチカとHM-12の目が明滅し、話し出した。
『明日の朝以降、雨の降る確率が90%を越えております。
雨雲が通り過ぎるのにかかると思われる時間は分析中です。
早急に屋根のある場所を探すことをお勧めいたします。
<ナースコール・システムの再確認>
・ナースコールは病弱者の方に至急されます。
・身体の異常を感じられた場合にはご使用ください。
近辺に待機しているHM-12及びHM-13が緊急出動いたします
・ナースコールから身体がある一定以上離れ、一定時間が過ぎた場合、
紛失の可能性が高い為、近辺に待機しているHM-12及びHM-13が出動いたします。
・紛失を確認された場合は、最寄りの屋台に報告するか、その場にて待機ください。
では、引き続き<鬼ごっこ>をお楽しみ下さい』
「──以上です」
「はい。わざわざ、ありがとうございます……」
「いえ──では」
HM-12は去っていった。
しばらくぼんやりしていたユズハだったが、やがて……ぱたり。
寝息をたてはじめた。
──寝ぼけていたのだった。
【ユズハ:明朝雨の報告を受ける……が覚えてるのかな?】
【二日目深夜】
案の定という言葉がこれほどぴったりな状況はそうありはしまい。
「どうせいっちゅーねん」
半日間放置され続けた主人公、山田まさき。
朝に目覚め、新たな出会いを求めて歩き回り、もうすぐ夜という状況なのに。
誰にも会わない。女はもちろん男にも。
正確には海辺で女性約2名を見かけたのだが――
「「ふっふっはっ!」」
「「むっはっほっ!」」(ビシュッ)
――しかも、片方全裸で片方半裸だったのだが――
「「ふっほっへっ!」」
「「めっひっひっ!」」(ビシュッ)
――結局見ないフリをした。あらゆる意味で敵わないと思ったから。
というわけで、実質朝から人っ子一人見かけていないことになる。
(誰かいないかなぁ……というか、腹減ったなぁ……)
まぁ、歩き続けている以上いつかは出会いというものがやってくるわけで。
(……お? 屋台?)
ついに彼は屋台を発見した。ちゃんと灯りがついている。
(…出会い。そして、飯)
何でこんなところに屋台があるのかはわからないが…その辺の疑問は後回しだ。
山田まさき、ダッシュ開始。
「いらっしゃい」
「初めて見る顔だにゃー」
(女! キ…(-_-)キ(_- )キ!(- )キッ!( )キタ(. ゚)キタ!( ゚∀)キタ!!( ゚∀゚ )キタ━━━)
そこは、メイフィア・フランソワーズ・たまの参号屋台だった。
約10分前に久瀬とオボロが出発して、客はいない。貸切だ。独壇場だ。手付かずだ。
(ふふ…半日ぶっ通しで歩き回ったかいがあったぜ…)
新たな出会いに喜ぶまさき。
とりあえず席に着き、
「……で、何でこんなところに屋台が?」
実に現実的な質問をする。この小市民っぷりがまさきらしい。
「あー、それはね…」
かくかくしかじかと説明するメイフィア。慣れたものだ。
「…なるほど。ただの飲食店じゃないのか」
「そういうこと。武器とか買ったら有利になるわよー」
「ふむ…」
鬼になった以上、できるだけ多くの人を捕まえないとつまらない。
しばし考え、
「とりあえず飯にしてくれ。昨日から何も食ってないんだ」
実に現実的な要求をする。この小市民っぷりがまさきらしい。
「はいはい。じゃ、これメニューね」
メニューを渡し、注文された物を客に出すメイフィア。慣れたものだ。
まさきは20分程度かけて幕の内弁当を完食した。
「ごちそうさま。…さて、腹も膨れたことだし商品を見せてもらうよ」
「ごゆっくりどうぞ〜」
席から降り、屋台の中や周りに置かれた商品を見て回る。
基本的な食料に、メリケンサック、トリモチ銃、手投げ唐辛子弾、スタンガン…
「ちょっと高いなぁ…」
「安売りしたらゲームバランスが崩れるからね」
「まあ、それはそうなんだが……」
足りないわけではないが、やはり無駄遣いはしたくないところだ。弁当も新幹線の車内販売以上に高かったし。
「…お?」
ピタッと、彼の足が止まった。視線が一点に集中する。
「なにか気に入るものがあったかしら?」
「ああ。これをくれ」
そう言って、あるものを指差す。
「…え」
「4万か。まぁ標準的な値段だな」
「あ、そう…毎度あり」
メイフィアが商品を渡し、まさきの4万円と交換する。
「じゃあ、俺はもう行く。機会があったらまた利用するよ」
そう言うと彼は商品を抱えて去って行った。
「……妙な客だったわね」
森の中を、まさきが駆ける。
「待ってろよー、まなみー」
彼が大事そうに抱えているのは、
「カードマスターピーチの服、どこにも売ってなかったんだよなー」
何故か仕入れてあった、コスプレ衣装。
あと、適当な食料。
「いやー、鬼ごっこ参加してよかったー」
葉鍵ゲームもいろいろあるが、バイトして買ったコスプレ服をヒロインに着させてHする主人公はこいつくらいだろう。
「本当は別の若い娘とコスプレプレイが一番なんだけど、もうこの際まなみでいいやー」
とりあえず新たな出会いは置いといて、コスプレHを優先させることにした。
走る走る。全力疾走。
――だけど、走っている途中で、
「……、まな、み…?」
忘れかけていた、忘れようとしていた何かを思い出した。
―――まなみは、もういない。俺に失望して、去って行った。
がくっと膝をつく。朝からの疲れがどっと出てきて、体が動かない。
「…まなみ」
ポツッと、愛する人の名を呟く。
それに応える者は、いない。
「俺は馬鹿だ」
自分の愚を呪う。
ずっと一緒で、互いの全てを知り尽くして…本当に大切な存在だった。
何が新たな出会いだ。何が主役は一人の女に縛られちゃいけない、だ。
あいつの代わりなんて、いないのに。
仰向けに倒れ、漆黒の空を見上げる。
救いの光である月は、たった今 雲に隠されてしまった。
「……はぁ」
彼は小さく溜息をついて。
「この服、どうしよう?」
涙声でそんなことを言った。
【まさき 森の中の道で寝転がる】
【所持品:カードマスターピーチのコスプレ服、食料。残金不明】
【夜】
まさき…・゚・(ノД`)・゚・。。
少年と郁未の不可侵の力による飛び道具の応酬が続いていた。
「互角ですね〜」
随分落ち着いている由依。
郁未を信用しているからこそ、落ち着いていられるのだ。
もぐもぐ。
――食事中だからこそ落ち着いているのかもしれないが。
しかし、となりにいる祐一はすこし焦っているように見えた。
由依もそれに気付いたのか、祐一に尋ねる。
「どうしたんですか?」
「やばいかもな…」
「え? 郁未さん、強いじゃないですか。あの人も粘ってますけど…」
たしかに、互角だ。
それは、普通の人から見れば、だが。
祐一には、勝負の行方はなんとなく見えていた。
このままでは、郁未が負ける。
「天沢が、少し押されてるな…。ちょっと、助太刀するか」
「え? 郁未さん、負けてるんですか? っていうか、助太刀できるんですか?」
祐一は、一言だけ残し、郁未のいる方とは別の方向へ去っていった。
「伊達に、囮をやっていたわけじゃないさ」
その頃、少年と郁未の戦いは終えようとしていた。
「これで、終わりだね」
「お前がな」
「なっ!?」
いつからか、祐一が少年の後ろにいた。
少年は郁未との戦いに気が抜けないからか、気配のチェックを怠っていたらしい。
祐一は少年をタッチしようとした。
少年は間一髪祐一の手をさっと交わす。
しかし、その隙を郁未は見逃さなかった。
「やるじゃない、あなた。その根性は認めてあげるわ。あなたのおかげで勝ったんだし」
少年に鬼の襷を渡しながら祐一に言った。
【少年 鬼化。雪見の逃げた方向は知っている】
【郁未 少年ゲット 1ポイント追加。祐一のことを認める】
【祐一 認められて悪い気はしない】
【由依 今だに食事中(w】
不可視の力ではないの?
不可視同士の対決は、ある意味不可侵でもあるよね。
不可視の力の対決って書こうとしたんだがミスった(汗
マジでミスったのかよ!
いいかげんやばい人々。
城戸芳晴 屋台二号店でカップ麺を購入→食。初日のいつか。
【緒方理奈】 朝。河原。縦横を捕まえたとき、自分の歌で人を誘えることに思い至る。
小出由美子 地下道探検終了。五十万円券ゲット。屋台捜索開始。時間不明なれど、恐らく初日。
桜井あさひ 森の中、名雪&理緒を救出して、どこかへ。早朝。
【広瀬真希】 朝。神岸ひかりを追跡するもロスト。失意のままどこかへ。河原。
ティリア サラ 森の中できのこ発見。時間不明。
【エリア リアン】朝八時。リアンは魔法で人捜し中。
クーヤ マルチ 屋台にてほかの五人と別れる。以下不明。初日夜。
ベナウィ 神尾晴子 屋台壱号車。明け方。
高瀬瑞希 久品仏大志 港へ続く道を移動中。八時過ぎ。
【ハウエンクア 皆瀬まなみ】 落とし穴の中。朝。
阿部貴之 エディ 橘敬介 商店街の片隅にある建物に潜伏中。時間はまったく不明。
緒方英二 長谷部彩 白きよみ 背の高い草原。背後に森を控えている。朝。
そろそろフォローが必要ではないか?
【伊藤】 海が見える建物の脇。ケチャップにまみれて気絶中。午前中。
【垣本】 平原。七瀬に撃沈させられる。二日目、時間不明。
【倉田佐祐理】零号屋台。時間は不明なれど、しのさいかがカルラにお持ち帰りされた後。
神岸ひかり 弐号屋台でいろいろと購入ご、観鈴を探しに行く。昼ごろ。
【新城沙織】 だだっ広い平原。可塑性粘液の打撃から回復。祐介の追跡再開。昼頃。
月島瑠璃子 天野美汐 森の中の教会。鐘楼に隠れている。朝十時前後。
松原葵 沢渡真琴 森の中の教会→食料探し。二人は別行動。朝十時前後。
ハクオロ 遠野美凪 みちる 愛の逃避行成功。線路沿いに歩いていく。朝〜昼の間。
【エルルゥ】 上の三人を見失い、森の中に引き返していく。
誰かどうにかしてください。これ。
ジョン・オークランド 屋台零号店にいる。以上。
そろそろ、三日目に入ろうかというころ。
長らく出番が無い人たちをまとめてみました。
特に、
>>176の人たちはいいかげんヤバイです。
いまだに初日な人もいたりします。
参考までに。
森の中、とある屋台にて。
「へぇ……城戸君、その歳でエクソシストなんてやってるんだ……」
「まぁ、そうは言っても勘当同然で家を飛び出して来て、正式なライセンス……というかファーザーの称号は持ってないんですよね」
今まで全然出番の無かった二人……すなわち、城戸芳晴、小出由美子の2人はラーメンを食していた。
既に太陽はかなり高い位置にある。芳晴も由美子もこの屋台で偶然出会い、意外にも意気投合してしまったのだ。
まぁ無理もあるまい。元々好奇心が旺盛な由美子のこと。自分と大して歳も変わらないエクソシストの彼を目の前にして、その虫が疼かない方がおかしいであろう。
「エクソシストってことは……やっぱり、悪魔とか相手に戦ったりするの?」
何気ない由美子の一言。ピクッと反応したのは麺を茹でていたルミラ&アレイだ。
「え……ええ、そりゃ……まぁ、一応……」
非常に複雑な顔をする芳晴。……何せ、目の前にかつて退治した由美子の言うところの『悪魔』がいるのだから。
「ふ〜ん、悪魔ってどんな姿をしているの? やっぱりこう……『ガーッ!』て感じで『グワーッ!』て雰囲気で『ウゴァーッ!』とか言ってるの?」
よくわかるような、わからないようなジェスチャァ&ご説明。芳晴は苦笑しながらも
「いいえ、そんな人間からかけ離れた姿はしちゃいませんよ。元をたどれば天使も悪魔も、そして人間も。一ツの存在だったんですから。
姿形も……考え方も、似たようなものですよ。彼らにも人と同じような喜怒哀楽があり、面白おかしく日々を生きています」
チラリチラリとルミラの様子を伺いながらのご説明。
「へぇ……。一回お会いしてみたいものねぇ。面白そう」
由美子にしてもれば何気なく言ってみたつもりであった、が……
「別に面白くもなんともないわよ」
「え?」
済ました顔で、ルミラが食後のお茶をコトリと差し出す。
「……あ、ああどうも。ありがとう店長さん」
常識人である彼女のこと。とりあえずはお礼だ。
しかしルミラは気にせず続ける。
「あなた、魔族と会いたいって言ったわね。会ってみてどうするつもり?」
「え? え? え? ……な、なにがですか?」
突然質問の受けてに回らされ、やや困惑気味の由美子。
「どうするって……。その、色々聞きたいことが……」
「聞きたいこと? 何かしら?」
アレイは横であわあわとしているが、ルミラは微笑を浮かべたまま続ける。
「その……例えば、人生観とか……生きる目的とか……」
「とりあえずは借金ね。最近は魔族の生活も世知辛くてねぇ、こんな屋台のバイトもしなきゃ借金返せないのよ」
「え? え? え?」
顔中に『?』マークを浮かべる由美子。状況がイマイチつかめない。
そんな由美子に、芳晴の助け舟。
「あ、こちらの女性は……今は屋台のバイトをなさっていますが」
そこから先は自己紹介だ。
「始めまして。魔族の端くれ、デュラル家の当主を務めています。ルミラ・ディ・デュラル。以後よろしく。『お嬢さん』?」
ちょっと胸を張って、誇らしげだ。
「え? え? え? ……ええええ〜〜〜〜〜!?」
【芳晴&由美子 ルミラ・アレイの壱号屋台で昼食中】
【由美子 魔族を始めて目の前に】
【2日目 昼ごろ】
「う〜ん、むにゃむにゃ……。さぁカミュ……今日の授業は保健体育だ……」
「Zzz....親は……関係ないでショ……親は……」
「すぅ……すぅ……。なんで……まいか……たちえがないの……」
赤く染まる海岸線。そこで折り重なって眠るのはD,レミィ、まいかの擬似家族。
「…………………………」
無言で3人を見下ろすのは、悲しき逃亡者観鈴ちん。
「んん……そうだ……いいぞカミュ……まだ(ピー)歳とは思えない……。いいか、これは大人になるためには必要な儀式なんだ……」
「親兄弟のキャラが濃くって……何が悪いノ……。ワタシのキャラが薄れて……何が悪いノ……?」
「というか……なんで……まいか……さいもえに……でれなかったの……」
3人は、夢の中で各々の人生を振り返っているようだ。
「…………………………」
観鈴ちんは黙ったまま……片手に握っていた棒切れを手放す……
トサッ……。
……小さな音と共に、砂の中に倒れた。
「……にははっ!」
そして満面の笑みを浮かべると、その場にしゃがみこむ。
「はーい、砂のお城を作りますよー。まずは砂をいっぱい集めようねー。あっ、ダメだよまいかちゃん。石を混ぜちゃ。手を怪我しちゃうよ?」
一人でガッガッと砂をかき集め、小さな山を作り上げる。
「うわー、いっぱい集めたねっ。よし、それじゃあ次は細かいところを調整していこう!」
反対側に周り……
「おー!」
自分の掛け声に、自分で答えた。
「んー、いい出来ですねー。ひょっとして観鈴ちん、才能あるかも? にははっ! あっ、ごめんごめんまいかちゃん、そうだよね。
まいかちゃんのおかげだよね。まいかちゃんが上手なんだよね」
一人。一人。否、独り。
「よしっ! 次はみんなでビーチバレーだ! わたしとまいかちゃんでチームね! 敵はお父さんとお母さんだ!」
おそらく、父母とはDとレミィのことを示しているのだろう。
眠りこける3人の脇に置かれているビーチボールを、ちょっと拝借する。
「そぉーれっ!」
自分で打ち上げ……
「トスだーっ!」
自分で受け止め……
「えーい、スパイクっ!」
ばん! ……ぱしゃっ。
……自分で叩き、波間に打ち込んだ……。
「にははっ! わたしたちの勝ちーっ! やったねまいかちゃん! うん、みすずおねぃちゃんのおかげだよっ!」
……それは悲しき一人上手。
「それじゃ、次はみんなでかき氷を食べよー! おー!」
……もういい。もういいんだ観鈴ちん……。
30分後。D一家から拝借した遊具を元の位置に戻し、一人渚にたそがれる観鈴ちんの姿があった。
波打ち際に座り込み、沈みゆく太陽を眺める。
紅い太陽は自らの色で全てを染め上げる。
海も、空も、島も、そして観鈴ちんの体も紅く染め上げられ、彼女の背後には長い長い影法師が落ちる……
「…………………………」
観鈴ちんは何も言わなかった。何も……言葉を発することはなかった。
「……………だって……」
今の気持ちを言葉にしたら、泣いてしまいそうだったから。
「ムニャムニャ……おおっ、すばらしいぞカミュ。……いいか、このことは誰にも……。特に、ウルトにはヒミツだからな……」
「何で……ワタシのシナリオ……PC版で……改悪されてるノ……?」
「……おねぇちゃんだってでたのに……。れみぃのおねぇちゃんにかったのに……。なんで、まいかはでられなかったの……?」
その脇では、未だ起きる気配を見せないDたちが、夢の国を旅していた。
【D一家 熟睡。起きる気配なし】
【観鈴ちん 人生について考える】
【場所:砂浜 時間:日没】
Dはカミュに何を教えてるんだ(w
「あ」
「あ」
ばったり。
森の小道を進んでいたあさひは、河原に出た。
…出たのはいいのだが、偶然にもそこには彼女のよく知る人物―――
緒方理奈がいた。
「こんにちは、理奈さん」
「あら、奇遇ねあさひちゃん」
この業界はなにかと人間関係が複雑そうなイメージがあるが、この2人…いや、
由綺も含めた葉鍵アイドル’sは仲が良かった。
だから、ここでも2人は再会を喜ぶ…はずだった。
「…あら、理奈さん、鬼なんですね」
「そうなの。ごめんねあさひちゃん。今はあさひちゃんの敵なのよ。…悪いけど、捕まえるわよ」
「分かりました。では、私も悪いけど逃げますね」
「手加減しないわよ」
「は、はいっ」
そうして、2人による追いかけっこが始まった。
もしここにマスコミがいたら、とんでもないスクープを取れたことだろう。
プライベートとはいえ、トップアイドル緒方理奈と人気声優桜井あさひが2人で鬼ごっこをしているのだ。
これほどのレアショットが他にあろうか、いや無い。
だが、残念ながら彼女達の鬼ごっこは誰にも見られることなく、密かに続いていた。
河原の石畳の上を走る、走る。
他の参加者に比べたら決して早くもないし、特殊能力も無い。
純粋な自分の足だけでの追いかけっこ。
だが、これこそが本来の鬼ごっこである。
「待ちなさい、あさひちゃん!」
「はぁはぁ…鬼さんこちら、ですよ!」
鬼ごっこなど、やったのは何年ぶりだろうか。
いまやアイドルとなり、こんな子供じみた遊びなどする暇の無くなってしまった二人。
小さい頃の思い出は、最近の忙しい生活のせいで忘却の彼方に押しやられていた。
それだけに、今。
楽しい。
純粋に、この単純極まりない追いかけっこが楽しいと思えてくる。
「はぁはぁ…意外と粘るわね、あさひちゃん!」
「理奈さんも、けっこうしつこいんですね!」
口ではそう言いながらも、彼女達の顔には営業用に作られた笑顔ではなく、
子供の頃に帰ったような、本当に自然で無邪気な笑顔が浮かんでいた。
彼女達は、今、鬼ごっこを心から楽しんでいた。
やがて、この鬼ごっこにも終わりが訪れる。
足の速さでは互角だったが、体力の面ではやや理奈に分があったようだ。
少しずつ2人の距離は縮み、やがて理奈があさひに追いついた。
「はぁはぁ…た、タッチ。はい、これであさひちゃんも鬼よ」
「ふぅふぅ…ま、負けました…。ううっ、鬼になっちゃいましたね」
…
……
………
「…あはは…」
「うふふ……」
「ははは…何がおかしいんだろうね、あたしたち」
「ふふ…だって、鬼ごっこがこんなに楽しいなんて思いませんでしたから」
2人が笑いあう。
勝者も敗者も関係なく、純粋に鬼ごっこを楽しめた参加者として。
「ねぇ、それじゃあこれから一緒に行動しない?」
「いいんですか?私なんかで」
「ええ。やっぱり1人より2人だし…ね。あさひちゃんさえよければだけど」
「はい!喜んで」
「…でも、お腹空きましたね」
「そうね。…とりあえず、食べ物探しましょうか」
「でも、どうしましょう…私、魚のとり方も食べられる植物もちょっと分からないんです」
「あたしもちょっとね…。とりあえず、川沿いに行ってみましょう。川の側なら、もしかしたらなにか建物があるかもしれない。
建物の中なら食べ物が配置されている可能性もあるしね。
そうでなくても、もし人が見つかったら食べ物を分けてくれるように頼んでみるのもいいかもしれないわね」
「分けてくれるでしょうか…?」
「天下のトップアイドル、理奈ちゃんとあさひちゃんが頼むのよ?お礼に歌の1つでも歌ってあげれば大丈夫よ」
「うふふ、そうですね」
再び思いっきり笑うと、2人は川沿いに進み始めた……。
【緒方理奈、桜井あさひを捕獲。1ポイントゲット】
【理奈とあさひ、手を組んで川沿いを進む】
【時間は2日目の昼過ぎ。まだ昼食は取っておらず、2人ともちょっと空腹状態】
最初の方でタイトルを付け忘れていました。
タイトルは『Never forget this time』で
いとっぷ… 悲惨な身の上ランキングでトップに限りなく近そうな悲劇の参加者…
その実力見合わぬ惨憺たる結果。
世界から恨まれているとしか思えない究極の悲運。
ああ、この美しさはやはり罪なのだろうか……
…お久しぶりにこんにちは、伊藤です。
湯浅さんの部屋にいたような気がしますが、あれは夢だったのでしょうか?
しかし、あと少しというところで、ケチャップがブチャ!っていうんですから、私の深層意識もなかなか侮れませんね。
そのせいか、起きてからも微妙にケチャップ臭い気がします。
まあ、私ケチャップ好きなので気にしませんが。
「…しかし人が来ませんね」
「…確かに…これでいいのかなあ?」
「マア、うまく隠れてるってコトサ。ドッカの誰かが仕掛けた罠もあるしナ」
おや? 私の脇役センサーに反応する声がどこからか聞こえてきました。
あの声は間違いなく脇役の声です。
フッ、主人公、ヒロインに逃げられても、脇役に逃げられるわけにはまいりません。
この脇役の超新星伊藤。
見事捕まえて見せましょう。
そして私の輝かしきSS人生の初陣を飾ることといたしましょう。
「しかしナア、罠に引っ掛かるならまだしも…」
脇役に見下ろされる…
屈辱です。
奴らは卑怯にもバナナを食ってやがりました。
しかも、ちゃんと片付けてなかったのであります。
数々の罠を突破し、その本拠に迫ったのはよろしかったのですが、そこにバナナの皮が落ちていたのは油断でした。
くそう、これだから独身男は…
しかし、私もただやられたわけではありません。
転ける瞬間、奴らの方向へこの長い手を必死に伸ばしました。
そして、見事3人の内最も若く見える人物を初ゲット。
他の奴らには以前から作ってあったらしい脱出ルートを通って逃げられましたが、2スレッド以上かかってようやくの瞬間です。
あっ、涙が…
【いとっぷ 貴之初ゲット】
【貴之 鬼に】
【エディ&敬介 逃亡脱出ルートより逃亡】
絶体絶命のピンチ!
浩之以下八人の小羊たちは今まさに
たいやきうぐぅ娘の毒牙にかかろうとしていたのだった。
「うぐっぐっぐっぐっ…」
一歩、また一歩と階段を昇ってくるあゆ。
「たいやきがいっぴーき、たいやきがにひーき…」
じりじりと部屋の隅へと後ずさりしていく一行。
「ちょっとヒロ! あんた男でしょ! なんとかしなさいよ!!」
「とはいっても…俺単なる一介の高校生だしなあ。
これが葵ちゃんシナリオだったら多少は武道の心得もあったんだが」
「そーだ、そこの剣道娘! あんたなんとかしてよ!」
「…はちみつくまさん」
「で、でも舞さんの剣は真剣ですよ?」
「せやな、ヘタに使こたらルール違反の恐れもあるか」
「ふみゅ〜ん! そ、そーだねこっちゃ、あんたちょーのーりょく持ってるんでしょ!?」
「…ねこっちゃ言わないで下さい…」
とは言いつつも精神を統一させつつある琴音。
ピキーーーーン!
張りつめる空気。
「!!」
ガシャパリーーーーッン!
「うぐぅ!?」
「…あかん」
ヒュウウウウ…
閉鎖された室内に一陣の風。
…琴音の能力は、一行の背後の窓ガラスを割ったにすぎなかった。
「なによなによねこっちゃのやくたたず! ふみゅ〜〜〜ん」
「す、すいません。…ねこっちゃ、言わないで下さい…」
「仕方ねえ、おい志保、次はお前の番だ! 得意のカラオケ攻撃!」
「まっかして!!
『ホゲ〜〜〜〜〜♪』
『ボエ〜〜〜〜〜♪』!!」
「うぐ!?」
………。
「やっぱ効かねえか」
「って何やらせんのよ!! あたしはジャイアソか!?」
鞘に納められた剣を抜くことも出来ず、構えるだけの舞を先頭に
徐々に部屋の隅へと追いつめられていく。
「たいやき♪ たいやき♪ …はいタッチ」
「…ぽんぽこたぬきさん」
「や、やべ!」
一行の切札と思われていた舞が、いともあっさりタッチされてしまったのだ。
「なんでよ〜〜〜!?」
「うぐぅ、だってこうした方が鍵対葉の対立構造が分かりやすくなるじゃない」
「むやみに荒れを呼ぶような構造にするんじゃなーーーい!」
追いつめるあゆ、舞の鍵組。
追いつめられる浩之、志保、琴音、詠美、由宇、クーヤの葉組。
「ちょっとそこのうさ耳娘! あんたなんかできないの〜!?」
「せや、あんたのそのうさ耳は伊達なんか?」
「…伊達です」
「ああ、せっかくのうたわれキャラなのに、なんでよりにもよって非戦闘員なのよ?」
「そんなこといわれても…」
「うぐぅ、舞さん、ここで一網打尽にして3:3の山分けですよ」
「…はちみつくまさん」
「しゃあない、ここらでホンキだすか、詠美」
「しょーがないわね、このちょーてい詠美ちゃんさまのほんき見せてあげちゃうから!」
「「修羅場モード発動ーーーー!!」」
修羅場モードの同人作家の集中力は並ではない。
例え地震が起ころうと、家が焼けようと、原稿にかける熱意は削がれることはないのだ。
ある意味それはエルクゥの、強化兵のそれをも凌駕するといっても過言ではない。
「!?」
「開明墨汁目くらまし!!」
バシャ!!
「うぐ!?」
「直定規あたーーっく!!」
こーーーん!
「…ぽんぽこたぬきさん」
「デザインカッター…はちとヤバイから、練りケシとりもちや!」
ねちょーーん!
「うぐぅ!」
「そして仕上げはトーンバリヤーよ!」
ベタッ!
「…み、見えない」
「ふっふーん、やっぱり80線、50%以上の濃い目トーンはちがうわね!」
「あんた達、やるじゃない!」
「す、凄いです」
「ああ、漫画描きを正直見直したぜ、
これからは『すすめの三歩』も違った視点で読めそうだ」
「ふみゅん、これがじつりょくよ、じつりょく!」
「あったりまえや! 同人作家をナメたらあかんで! な、ねこっちゃの」
「…ねこっちゃ言わないで下さい…」
平和な足取りで灯台を後にする葉組五人衆。
そして灯台では…
「う、うぐぅ」
「…ぽんぽこたぬきさん」
自在定規で手すりにグルグル巻にしばられた、あゆと舞が残されていた。
【あゆ:舞を捕獲 舞:鬼化】
【浩之、志保、琴音、詠美、由宇、クーヤ:灯台から去る】
【あゆ、舞:灯台で拘束中】
【時間:午後】
【灯台の位置:島の西側にある小さな岬】
「じゃあ、あたしはあっちの方に行くから、葵は反対の道ね」
「影の方向からいって、大体真琴さんは西の方ですね。私は東」
「どっちが沢山食べ物を取ってくるかで、競争よ!」
「ええ、お互い頑張りましょう。負けませんよ?」
と、威勢良く別れてから、はや2時間ほど。真琴は森の中を歩き回ったが、
なかなか目的とする物は見つからない。初めは軽やかだった足取りも、
悪戯を秋子さんに白状しなければならない時のように、重くなってきた。
森の脇道にある切り株を見つけ、これ幸いと座り込む。お尻に堅さを感じるが
真琴は我慢する。
「大体、森の中にそうそう食べ物なんかあるわけないのよね」
上着の襟をパタパタと引っ張りながらぼやく。新鮮な空気が汗ばんだシャツに
当たって心地いい。
美汐には、商店街や海岸は危ないから、なるべく立ち寄らないようにと
言い含められていた。真琴は、あたしが一人じゃ信用できないのとブーたれた
ものの、鬼にとっ捕まってのこのこと教会に戻るような、ぶざまな真似はしたくな
かったので、不承不承、従う事にした。グループを組んでいる以上、瑠璃子や
美汐まで巻き添えにするのは忍びないし―――
「あうーっ、違うわよ!みんな、あたしにこの仕事ができるかどうか不安がってるから、
その期待を裏切ってやりたいだけよ!」
両手に抱えきれない程の、ゴーセイな食べ物を運んで来て、美汐達をビックリさせて
やるんだから。別にトモダチだから助け合うとか、そんなんじゃないんだから。あうー。
「でも、ここじゃあ植物とか動物くらいしかいないし……って、あれ?」
真琴は、風が吹いた拍子に、森の奥の方に何かの影が見えたような気がした。
咄嗟に身構えるが、動く気配がない。
「……鬼かな?」
慎重に、1歩1歩近付くと、それが人ではない事が分かった。森の中に拓けた空間が
あり、そこには―――
「これって、もしかして……」
立て札と、○と×の大書された人間大の発砲スチロールが一つづつと、その奥
にはプレハブ小屋のようなものが続き―――
「○×クイズぅ!?」
立て札には、次のように書かれていた。
「1192年、源頼朝によって鎌倉幕府が開かれた。○か×か?」
その下には、「賞品:うな重3人前」という文字が。
あ、あうっ。字が読めないわよぉ。ゲンライチョー?でも、うなぎは食べたいし……。
真琴は外から見えないかと覗きこもうとしたが、スチロールの扉はピッタリと
壁に密着していて隙間がない。そして、ノブもない。つまり、体当たりでドアを
突破しなくてはいけないという事だ。
うーん、うーん。駄目だわ。考えて分かるクイズじゃないわ。美汐を連れてくれば
多分、カンタンに答えそうだけど……。ううん、ここから行ったり来たりするのは時間が
かかるし、それに、一人で食べものをゲットして、やればできるってところを見せて
やりたい
真琴は答えを心中で決意し、いったん小屋から距離をとった。深呼吸して、一方の
パネルに向かって走り出した。……こういう難しいモンダイは、みんな取り敢えず○と
答えそうだから、きっと裏をかいて、正解は―――
「こっちだわ!」
×の扉に飛びかかる。真琴の体に衝撃が走り、扉が裂ける。と、一瞬の浮遊感ののち、
体がぬるぬるした物に包まれ、呼吸が苦しくなる。真琴は一段下がった地面に置かれた、
水のなみなみと入ったビニールプールに、頭から突っ込んでしまったのだ。
「あうー、ずぶ濡れよぉ……」
さすがに泥んこで無かったのは、主催者のささやかな良心であったろう。
「あっ、それじゃあ正解は……?」
真琴は慌てて○の扉をぶち破って、中に侵入した。すると、中には確かにうな重が
置いてあった。但し、地面に散乱して。見ると、丼ののったお盆に紐が伸びていて、
×のパネルの方に繋がっている。間違えると同時に賞品が台無しになる仕掛けだ。
「お腹すいた……」
真琴はがっくりと膝をついた。
その様子をモニターで見ていた者達がいる。
「あれはサービス問題のつもりで設置したんですが」と足立。
「タマちゃんの種類とかだったら、答えられたと思いますけど……」
秋子さんは頬に手を当てて、困ったように微笑んでいた。
【真琴、食糧今だ入手できず】
【時刻 お昼どき】
すんまそん、素で間違えました。
クーヤ→サクヤでお願いします。
【あゆ:舞を捕獲 舞:鬼化】
【浩之、志保、琴音、詠美、由宇、サクヤ:灯台から去る】
【あゆ、舞:灯台で拘束中】
【時間:午後】
【灯台の位置:島の西側にある小さな岬】
本文中のクーヤもサクヤにしておいて下さい…。
敵は食事中に現れた。
「――――見つけたわよ、晴香」
凛とした声と共に登場したのは、天沢郁未。
いわずとしれた不可視の力の少女。
後ろには祐一・由依がいる。
「郁未に……男に……貧乳?」
いきなりの出現にぽろりと本音を漏らす、晴香。
「誰が貧乳ですか!」
自分を表現するにはあまりの単語に激昂する、由依。
「…気にするな。プロトタイプ栞」
なぜかフォローをいれる祐一。
「よくわかりませんが、その言い方むかつきますね」
「――――」
「――――」
次の瞬間、ぶつかり合う不可視の力。
―――勝ったわ。
郁未は勝利を確信した。
状況が少年を撃墜した、パターンに見事はまっている。
不可視の力には不可視の力を。
均衡している間を、他の一人が背後からタッチする。
少年の時と異なり相手は二人だが、こちらはまかりなりにも三人だ。
上手くいけば、二人とも捕らえられる。
「ちっちっちっ、甘いわね、郁未。あ・し・も・と」
微笑を浮かべながら指差す、晴香。
一瞬後、郁未の脚に縄が纏わりついたかと思うと、引き上げられた。
「なっ…!?」
反射的に振り向くと、そこには晴香と共にいた男――――縄を幹に縛り付ける和樹の姿が。
逆さ吊にされながら慌てて祐一たちの姿を探す。
当の祐一は向かい側で仰向けに倒れていた。
鬼に触ればアウトなのに……いったいどうやって?
あの男は、見かけのよらず不可視の力の使い手だったりするんだろうか。
疑問符を並べる郁未の前に、目を回した由依が文字通り浮かんでいた。
――――ああ、そういえば。どこかで見た光景だ。
前に名倉姉に出会ったとき…
そう。あれは――――由依カタパルト。
…どしんっ
過たず、郁未の鳩尾に伝わる衝撃。
「……な、なんでこんな役回りばっかりなのよ。……主人公なのに」
……がくっ
「主人公は別にあなただけじゃないのよ。それじゃ、ごきげんよう、Class A」
ひらひらと手を振りながら、辺りに充満していた不可視の力を消し去る。
「……昼食、つくりなおさないと」
一方の和樹はむすっとした表情を浮かべたまま、郁未たちに見向きもしない。
食事の邪魔をされたのが、よほど腹に据えかねていたようだ。
本編の濡れ場でもないのに、性格が豹変している。
「それより屋台、探さない?」
また邪魔されるわよ、と晴香は付け加えた。
【和樹・晴香 郁未・由依・祐一を撃退】
【場所 森】
【時間 二日目昼】
【和樹 晴香 屋台へ向かう】
203 :
再起動:03/03/31 14:54 ID:CQ+o21Ep
時は夕飯時をちょっと過ぎた頃
「うがーーー!眠れん!」
突如キレる住井。しかしまあ、そりゃそうである。冬弥に撒かれてから
ずっと休んでいたのである。眠気なんぞあるわけがない。
「むぅ?ではそろそろ動くか?」
住井の咆哮によって目覚める北川。彼も眠気など皆無であった。
「無論!このまま惰眠を貪って活躍しないのは俺達らしくない!」
実際は彼らが寝てる間にも罠のほうは大活躍であった。
特に彼らの宿敵である冬弥の敗因は彼らの罠であったし、
一流エージェント連中も実は何度か後期型トラップを読み切れずに
引っかかっていた。もっとも、彼らの場合わりとすぐに脱出できるので、
チェイス中でもない限り困ることは無いが。
彼らの罠を完全に読みきれるのは無駄に無敵な超設定キャラや神クラスの
連中だけであろう。まあ、神といっても、弱体化したディーには厳しいだろうが。
「ではそろそろ動くか。幸い今は夜だしオレ達にとっては動きやすい。」
「ところで北川、今回はどのように動く?」
住井の問いに暫し考える北川。そしてある事に気がつく。
「むぅ…雲行きが怪しい…雨が降りそうだ。明日は屋内戦メインになるだろう。」
「屋内なら確か、既に山ほど罠を設置していたはずだぞ。アレ以上は無意味だ。」
「確かに罠はこれ以上不要だ。今度の作戦ではオレ達が直接狩りに出る!」
「マヂですか?」
「マヂだ。戦場が屋内に限定されるなら一気に鬼が増えてしまうのは
避けられないから、後は他の鬼の強化を防ぐだけだ。オレ達に狩られるような
雑魚なら他の鬼に捕まってポイントになる前に潰して他の鬼の強化を防ぐ。
鬼は問答無用で潰しておく。例外として、後が怖いから美坂と栞ちゃん
だけは放置する。」
「まあ、いいだろう。あとは屋内以外の罠のメンテも必要だな。」
「資材もある程度揃ってるから武器も多少自作できそうだ。」
「ところで、やけに美坂さんとやらに拘るが、もしかして…」
「多分お前の期待通りではない。逆らうと後が怖いんだ…」
「…その青い顔は照れ隠しではなくマジなようだな」
「ついでに美坂が栞ちゃんを捕獲できない場合、八つ当たりはオレにくるだろう。」
「…必死だな。」
「というわけで逝くぞ。」
【地雷原コンビ 移動開始 建物を目指す】
【深夜ごろを目処に屋内に到着予定】
【屋外の罠のメンテ開始 耐水仕様へ】
【自作装備 トリモチ饅頭 煙花火 激辛唐辛子の粉 などなど他多数】
「どうすればいいんだ……」
「………」
「え? いきなりそんなことを言ったら他の誰かさんと間違えられるって?
ははっ、それもそうね」
あれからずっと金策を練っていた来栖川芹香&綾香両お嬢様。
つい、こんなセリフを吐いてしまうくらい2人は(と言うか綾香は)悩んでいた。
しかしそれも中断せざるを得ないことになる。
「きゅるるるる……」
何の音かは言うまでもない。
無理もない。とっくにに昼の12時を回っている。
「……とっ、とりあえずお金のことは置いといて今食べる物を探そっか?」
少し顔を赤くしながら提案する綾香。
「姉さん、なにか探すのに役に立つ魔法ってない?」
「……………………………………………………………」(←考ているらしい)
「何かいい方法があるの?」
「………(こくこく)」
頷きながら芹香はポケットから何かを取り出す。
細い鎖のような物が付いた円錐状の物体だ。
「それって……? ペンデュラム?」
芹香は再びこくりと頷くとそれをゆっくりと目の前にかざす。
「あっ、なるほど。 ダウジングってやつね」
そして意識を集中する。(もっとも端から見るといつもと変わらずぼ〜っとしているようにも見えるが)
すると指を動かしている様子もないのに、振り子がくるくると回り始めた。
「「…………」」
神秘的な雰囲気の中、綾香も黙ってそれを見つめる。
振り子はしばらく回り続けるとやがて動きを変えて―――
数十分後。
「姉さん、本当にこっちに何かあるの」
振り子をかざしたまま歩く芹香を先頭に森の中の道を進む2人。
「………」
「え、まかせてくださいって?
そうね、魔法のことは全然わからないけど、姉さんを信用するわ」
芹香のダウジングはかつて、浩之の100円玉や黒ネコを見つけ出した実績がある。
間違いなく食べ物の所へ導いてくれるはずだ。
たぶん……
【芹香・綾香、振り子の示す方角へと進む】
【本当に食べ物があるかは不明(逆にdでもない場所に辿り着く可能性も無きにあらず)】
【2日目昼過ぎ】
(#ペンデュラムが目的の物の真上に来たわけでもないのに向きを変えるのは
おかしいなんてつっこまないで(汗))
「………ハッ!」
山の中、森の中。
やっとこさというか、なんというか。
広瀬真希は目覚めた。
「……えーっと…何やってたんだっけ、私」
寝惚けた頭で状況整理を試みること数十秒。
「…そうだ、結局捕まえられなかったんだっけ……」
ひかりと観鈴の2人を追いかけるも観鈴は船で逃亡。ひかりに狙いを絞ったが、今度は普通に撒かれてしまった。
その後ふらふらと河原から森の方へ移動し、木を背もたれにして休憩していたら…
「眠っちゃったのね」
不覚。何たる不覚。
前日たいした睡眠をとってない上に全力で走り続けたのだから、無理もないのだが。
「うーん…全然目立ってないじゃないの」
七瀬と別れたのは失敗だったか…今となってはどうしようもないことだが。
ともかくこんなところでうじうじしても始まらない。
広瀬は腰を上げ…
「よしっ! しっかり休んだし、いっちょ暴れるわよ!」
サバサバした性格がとりえの彼女である。
睡眠によるタイムロスのことは忘れる。今から取り返せばいい。
そう考えて、鬼としての行動を再開した。
「む」
歩くこと数分。どこぞの主人公のような台詞を吐き、広瀬は立ち止まった。
「腹減ったなぁ…やっぱ食べようぜ、きのこ」
「…やめた方がいいと思う」
参加者が2人。見た目は一般人だが、持っているものがヤバイ。
片方は剣。もう片方は鞭。
(なんなのよアレ…)
かかわらない方がよさそうだが…幸か不幸か、どちらも鬼の襷をかけていない。
(…よし。行くわよ)
折角獲物と出会えたのだ。見過ごすのも面白くないし、相手は背を向けている。
小細工は無し――全力で駆ける。
「…!? 何?」
(くっ…)
やはり逸般人だったか。走り出したのとほぼ同時に気づかれた。
「鬼か…しょうがねぇ、逃げるぜ」
「そうね」
逃げる側は光の勇者と大盗賊の頭。追う側は一般人。
普通に考えて、広瀬に勝ち目はないが…
「あぁ…いかん、眠い…」
「ちょっとサラ! しっかりしてよ!」
「そんなこと言われてもなぁ…」
勝機があるとすれば、睡眠時間の差。
「…ところでティリア。ずいぶんとダルそうじゃないか」
「剣が重いのよ、剣が!」
あと、装備品の差。
そんなわけで、意外といい勝負をしている。
「待てぇっ! おとなしく私のポイントになりなさい!」
「あいにく、待てといわれて…」
「待つようなお人よしじゃないんでな!」
夜の山道を走る。全力で走る。他のものには目もくれない。
だから、誰もそれに気づかなかった。
「…ん?」
山田まさきが、失意の底でその物音を察知したときにはもう遅い。
ごすっ!
「うぉっ!?」
「ごふっ!」
サラの足が、まさきの鳩尾にクリーンヒット!
そのままサラはバランスを崩し、壮大に転倒してしまった。
「!? サラ!」
「くっ…大丈夫だ、走れる」
鞭を拾い、また走る。
「待てぇっ!」
チャンス到来だ。広瀬はスパートをかけ、もたついているサラに近づき…
ごすっ!
「きゃっ!?」
「がはっ!」
今度は広瀬の足が、まさきの鳩尾にクリーンヒット!
そのまま広瀬はバランスを崩し、やはり壮大に転倒してしまった。
こっちは一般人だから、こけたからすぐ起き上がるというわけにはいかない。
しばらく痛みに耐え、混乱した頭を正さなければ。
「ラッキー! 逃げるわよ!」
「おう!」
この隙に勇者様ご一行は遠くへ逃げてしまった。
「あぁ、今度こそ捕まえられると思ったのに…」
同じところで躓くとは運がない。
いや、一番運がないのは鳩尾にキックを2発喰らいぐんにょりしているまさきなのだが。
「…追いかけても無駄ね。残念だけど」
ゆっくりと立ち上がり…
「…あら? きのこ?」
落ちているきのこを発見した。このきのこ、少なくともまさきよりは存在感があるらしい。
…と。
「うぅ…ごほっ…」
いきなり響き渡る呻き声。
「わっ! えっ!? 何!」
広瀬は慌てて辺りを見渡して…
「い…痛い……」
「………あ。人間」
…やっとまさきを認知した。
「俺が、何をしたんだ…そりゃ確かに、浮気癖はあるけどさ…」
「あぁ。あんたに躓いたのね…石にしては妙に柔らかいと思ったわ」
「酷い…」
「まぁまぁ。そんなところで寝転がってるあんたも悪いのよ?」
「そりゃそうだけどさぁ…」
なお、初日にまさきは広瀬たちに見逃されているのだが、互いに顔が見えずそれには気づかない。
「あ、そうだ。このきのこ、あんたの?」
広瀬は道端に落ちているきのこを拾い、まさきに見せる。
「きのこ…? そんなもの買った覚えはないけど、もしかしたら買ったかもなぁ…」
「そう。じゃ、これはあんたの物なのね。返すわ」
「ああ。ありがとう」
きのこを渡し、とりあえずスカートについた土を掃ってから、広瀬は少し恥ずかしそうにまさきに聞いた。
「………ところで」
「なんだい?」
「そのきのこでも何でもいいんだけど…ちょっと食べ物分けてくれない? 朝から何も食べてなくて…」
【ティリア、サラ 逃亡。眠い】
【広瀬、まさき 合流】
【サラ きのこを落とす。鬼のまさきに触れたけど、タッチ扱いにはならないでしょう。多分】
【広瀬 ティリアたちを取り逃がす。空腹】
【まさき 負傷。きのこを受け取る】
【さて。きのこを食べるか食べないか? どんなきのこか?】
【夜】
>【サラ きのこを落とす。鬼のまさきに触れたけど、タッチ扱いにはならないでしょう。多分】
いや、なるだろ。
>>211 今までも、鬼が意識的にタッチしないと成立しなかった件はいくつか有ったよ。
誰だか忘れたが、罠に掛かった鬼を救出した時とかなー
う。なるかなぁ。
足だし、まさきもサラも気付いてないし、触れても状況によってはセーフになった前例もあるし、
いいかなと思ったんですが。
神奈・祐一間にゃ互いの「同意」があったっしょ。まぁあれもグレーなんだが。
それに手がよくて足が悪いって道理もないと思うし。タッチは「触れたら」成立なんだから。
各地に潜むHMに捕らえさせるか。おまいは鬼になりますた、って。
>>214 …だな。
他の例外も、「触るけど鬼にならなくていいから」って最初から同意があっての上だしな。
あれは「同意」があったからではなくて、「手で触れない」からじゃなかったか。
まあ別に足ならいいってわけでもないが。あの話もたいがい議論スレで問題になったし。
というか、基本的に主観で鬼になるならないが決まるってのはこの先展開的に危険だと思うぞ。
例えば観鈴がD一家へ入りたいけど入れないという微妙な葛藤も意味がなくなるし。
つか、あゆのポイントがことごとく無効になりかねんのだが…
そこらへんはネタですませましょうやw
では、ちゃちゃっと漏れが
>>215の路線で是正話を書こうと思うがよろしいだろうか?
「基本的に逃げ手は鬼に触ったら問答無用で鬼になる」と。
お互い気がつかなかった場合はHMが逃げ手にたすきを渡しに、鬼に1ポイントゲットの旨を伝えに、と。
そうですね。
サラを鬼にしたくない理由に、サラが鬼になったことを伝える手段がない、というのがあったんですが、
HMに捕らえさせればいいわけで(考えれば他の方法も思いつきそうだけど)
>編集サイト管理人さん
どうもすいません。修正しますので、変更お願いします。
>>222氏
あー、ちょっと待ってください。自分で処理したいので…。
わかりました。では頑張ってください。
【ティリア 逃亡。眠い】
【サラ きのこを落とす。鬼になるが気付いていない】
【広瀬、まさき 合流】
【広瀬 ティリアたちを取り逃がす。空腹】
【まさき 負傷。きのこを受け取る。サラを鬼にしたが気付いていない】
【さて。きのこを食べるか食べないか? どんなきのこか?】
【夜】
鶴来屋、管理室にて。
監視役のHM−13が、無線で島のHM勢に連絡する。
「――鬼になった参加者のサラ・フリートさんが、襷を受け取っていません
至急、サラ氏とタッチをした山田まさき氏にその旨を伝え、サラ氏に襷を渡してください――」
【島中のHM まさき、サラを探す】
――――――――――――――――――――――
HMがサラを捕らえる描写は書き手の皆さんにお任せします(222氏引き止めといてそれかい)。
自分で書くかもしれませんが。
不可視の対決 with 主人公s の祐一と由依の倒され方の説明キボンヌ
智子一行は囲まれていた。
時間は夕飯時、食事のために屋台を探しに出たところで、同じく屋台を探していた鬼のチームに
に発見され、待ち伏せを受けてしまったのだった。相手は3人。こちらは4人。
普通なら4人を囲むのに3人では十分とは言えないのだが、そのうち一人は
いかにも凶悪そうな飛び道具を所持しているため、逃げ切るのは不可能っぽかった。
一応こちらも多少の装備があるが、みさきを連れている分どうしても分が悪い。
最初は鬼に見つかったらみさきに構わず逃げるという話だったが、そういうつもりにはなれない。
「大人しく投降しなさい!」
目下絶好調の美坂チームのリーダー格、美坂香里が呼びかける。
その間にも3人共徐々に智子たちに接近する。
セリオの計算した絶好の待ち伏せポイントが功を奏し、逃げ場は皆無である。
「あの…見逃してもらえませんか?」
「あたし達に見逃すメリットがあると思うの?」
初音の問いに答える香里。そしてそのやりとりに閃く智子。
「ここに屋台クーポン3万円分がある。これでどうや?」
ダメ元で問う智子の声に香里の動きが止まる。脈アリか?
「えー!そんなことしたらカレーが〜」
(こっそりと川名さんに同意)
抗議するみさきと、こっそり同意する坂下の空腹コンビ。
「やかましいわ、そこ!」
思わずツッコミを入れる智子。
ここで香里は計算する。
(ここで彼女達を全滅させれば計4ポイントで4万円分。単純な金額ならこの申し出は不利。)
(でも無駄に鬼を増やすのは得策ではないわ。)
(問題は彼女達の生存時間。彼女達が他の鬼にあっさり捕まるようなら他の鬼の強化を
防ぐために、ここで捕らえたほうがいいわ。)
「セリオ!香奈子!どう考える?」
セリオも香奈子も今の一言で香里の意図を理解した。さすが優等生チーム。
「確かに鬼を増やすのは得策ではありませんが、川名様は目が不自由でいらっしゃいます
ので、すぐに他の鬼に捕まる可能性は高いでしょう。捕獲をお勧めします。」
「そうね。しかも単純に金額も不利だし。」
「決定ね。残念ながらあなた達の交渉には乗れないわ。」
言って襷を差し出す香里。
智子一行の反応はというと…
「そうか、残念や。ウチらには他にカードないしな。」
「やった〜!カレーは守られたよ!」
「はぁ、みさきお姉ちゃんはカレーの方が大切なんだ…」
(さりげなく川名さんに同意)
交渉決裂したというのに何故か喜ぶ人がいたりして。
その後、香里チームも智子チームも屋台を目指していたので暫し同行することに。
そしてその道中、香里チーム恒例の質問タイム。
しかし栞との遭遇者がいない為、有益な情報は得られなかった。
さらに、栞への執着に疑問を持ち問う智子チームに経緯を熱く語る香里。
智子チームを追い詰めたときよりはるかに鬼気迫る表情だったりする。
「なるほどな、気持ちは分かるわ。応援するで。」
「その栞ちゃんって、雪ちゃん並の極悪人だね。」
「み、みさきお姉ちゃんの親友の雪ちゃんって、そんなに極悪人なの(汗)?」
「裏切って逃げたってあたりはともかく、サイフ掏るってのはやりすぎね。」
なにげに酷い言われようの雪見。そして
「ウチらはあんた達に協力するわ。何かあったら言ってな!」
協力を申し出る智子達。美坂栞包囲網は徐々に形作られていく。
そして…
「皆様。前方に屋台を発見しました。」
「ようやく目的地ね。」
セリオの報告に頷く香奈子。
「あ!食べ物の匂いだよ!」
「川名さん引っ張るな!って、なんちゅー馬力や!」
「みさきお姉ちゃんは食べもの絡むと凄いね(汗)」
「やっと夕食ね。かなり遅めだけど。」
「ポイントはかなり貯まったわ。これでかなり装備補充できる。栞…今に見てなさい!」
智子チームは主に食料を、香里チームは主に強化装備を求めて屋台の暖簾をくぐったのだった。
【智子一行 全員鬼になる 香里チームに支援を申し出る】
【香里一行 香里2ポイント セリオ・香奈子1ポイント】
【智子一行&香里一行 屋台に到着】
【夜かなり遅め】
「ふぇー、それにしても舞はどこにいるんでしょう」
ちょっととぼけた感じで呟いた、鬼の襷をかけた彼女の名前は倉田佐祐理。
Kanonサブキャラクターでありながら、PS2版にて見事オマケシナリオを手に入れた人気者お嬢様である。
が、今の今まで出番が少なかったのは、忘れられていた…のかその人気のため扱いが難しいのか…どちらかは謎だが、とりあえず佐祐理は、舞を探してあっちこっち歩き回っていた。
親友の舞と一緒なら佐祐理は大丈夫。
何が大丈夫なのか分からんが、とりあえず親友だから、それでいいのだろう。
「舞と一緒に大人数を狩れたら面白いと思ったのに…」
ちょっとしょんぼりした顔で、凄い事を言う佐祐理。
要は舞(と祐一…?)と一緒に、こんな大多数と遊べる事が嬉しいのだが、物は言い様…だと思う。
「あ、でも舞がまだ逃げ手だったらどうしよう」
そうなると、一緒に行動する訳には行かなくなる。
別に鬼と逃げ手が一緒に行動してはいけないというルールは無いが、不自然には変わりない。
しかし、舞は既に同じKanonヒロインであるうぐぅ…もとい月宮あゆに捕まっているので、鬼である。
ついでに、こみパの同人女子二人組みに捕まって雁字搦めにされているのだが、いずれにせよ佐祐理の知るところではない。
「あははー、どっちにしても舞と会ってからですねー」
とりあえず佐祐理さん、開き直る事にした。
その誰をも魅了する屈託無い笑顔を振りまきながら、とりもち銃と手投げ唐辛子弾、そしてスタンガンを装備しながら歩いていた。
「…誰もいませんねー…」
佐祐理さん、いろいろ歩きとおしたが見事に誰とも遭遇しない。
途中立ち寄った商店街でビルに発見されていたのだが、佐祐理は鬼だし、その存在感の薄さから佐祐理は気付かず通り過ぎてしまった。
存在感を気圧に例えるなら、佐祐理が高気圧でビルが低気圧。
その原理で心なしかビルに向かって風が吹いていたような気がするが、それはまた別の話。
そして、既に夕暮れとなった頃、佐祐理は砂浜に辿り着いていた。
「…佐祐理は悲しいです。なんかみんなに無視されているような気がします」
誰とも出会わなかった。この鬼ごっこにおいて、佐祐理さんの存在感がどんどん小さくなっていくような気がして。
「…あははー…」
軽く微苦笑する。その時、
「……がお……」
と、自分にそっくりな声が、砂浜の辺りから聞こえてきた。
「…え?」
すると、砂浜でビーチパラソルを開きながら熟睡している一家と、離れて一人黄昏ている金髪の女の子がいた。
倉田佐祐理と神尾観鈴。
共に鍵ゲームのc/v川上とも子のヒロインの邂逅である。
【佐祐理 砂浜にてD一家と観鈴ちんを発見】
【佐祐理さんが観鈴ちんをどうするかは後の書き手に任せます】
【ビル 黙殺される】
【時間 夕暮れ時
「あまりろくなものはなかったわね」
そうぼやく香里に対して、香奈子は手に持ったスタンガンをふる。
「そうでもないわよ。このハンドガンタイプのスタンガンなんか結構使えそうよ?」
佐祐理が買ったステッィクタイプのものとは違い、ワイヤーつきで電端子が射出されるものである。
そのぶん勉強させて2丁で4万円と値が張ったが使い勝手はよさそうだった。
「私とセリオで使うわよ?」
「私には噴霧器があるしね」
これで香奈子とセリオは最初の所持金のみ。
そのほかに香里は自分から2万円だして、噴霧器のタンクの補給を行い、携帯食料を少し買い、
さらに警備員が使うようなごつい柄を持つ懐中電灯を2本買って、一本を香奈子に渡していた。
これで、香里の所持金は残り4万円ということになる。
こうして屋台で装備を整えた香里チーム。智子チームと連絡場所を決めると、
軽い食事を終え、本日最後となるだろう探索に出かけた。
それからしばらくして……
「探索方法について提案があります」
セリオの声に美坂香里と太田香奈子は足を止めた。
「探索?栞のこと?」
「いえ、申し訳ないのですが、太田様の件です」
「私?瑞穂のことで何か思い当たることがあるの?」
「はい。確実な方法とはいえないのですが……」
セリオにしては珍しくいいよどむ。
「藍原瑞穂様のご学友には、強力な脳内電波を能力として行使する方がいると
おっしゃっていましたね」
「ええ、詳しくは知らないけど、瑞穂、そういってたわ」
……本当は良く知っていた。香奈子の以前の彼氏もその能力者だったのだから。
「実は以前から私のセンサーが微量の電波の乱れをまれに感知していました。
ただの誤作動と認識していたのですが、あるいはその電波能力者の影響である可能性があります」
「すごいじゃない、セリオ。今もその乱れってのを感知してるの?」
「はい。直線距離にして500m。電波センサーの感知可能距離の限界付近です」
「そう……ひょっとしたらあの人がそこにいるかもしれないわけね……香里さん?」
「私は構わないわ。あてもなく歩くよりましだしね」
香里は、香奈子の「あの人」という言葉にあえて突っ込まず、そう答えた。
「うーん、なかなか屋根のある設備なんて見つからないもんだね」
「やっぱり、この街道を通って市街に出たほうがいいかもしれませんね」
美坂栞と長瀬祐介は街道沿いの空き地で一休みしていた。
「うーん、でも夜になるとみんな市街に向かうと思うんだ。君のお姉さんにも見つかりやすくなるかもしれないし」
「うー。それ困ります」
「でしょ?でも君のお姉さんもひどい人だよね……
メリケンサック一つで珍走団一つを壊滅させて、そのトップにのし上がったんでしょ?」
「はい、他にも北川さんって人を初めに多数の奴隷を所有し、
まるで女王のようにふるまうんですよ」
いつのまにやら話がエスカレートしていた。
「すごいよね。暴力団ともつながりがあるって?」
「そうなんです。警察も抱き込んでいるので法もあの人を裁くことができません。
まさしく人類の敵です」
「ふーん……その美坂香里って人、すごい悪人ね。私と同じ名前なのに大違いだわ……」
「全くです。鬼畜です、大外道です。人類の生み出した汚点です……」
すぐ後ろからの声に、栞はちょっとの間固まる。
「……で、でも、このストールくれたりとか、け、結構いいところもあるんですよっ!!
というかマテマテ、時に落ち着けお姉ちゃん!?」
「やかましいわぁぁぁぁっっっ!!」
なんの情けもなく噴霧器の引き金が引かれた。
「これからどうしようか」
十分すぎるほどヌワンギを振り切った後、耕一・瑞穂と楓は木陰に陣取り、これからのことを話し合うことにした。
「俺たちはさっき言ったとおり、祐介君を捜そうとしてるんだけど楓ちゃん、君は?」
「私は……初音を探しています。耕一さんや梓姉さんに比べて、やはり初音はこういうゲームは苦手ですから。私が守ってあげないと」
「なるほど……」
「妹思いなんだね、楓ちゃん」
感心した様子の耕一と瑞穂。
「……で、これからどうしましょうか? 一緒に……行動、しますか?」
明らかにそれを望むようなトーンの楓の声。だがだが耕一は鈍感だ。
「いや、手分けした方がいいだろう。俺や楓ちゃんならそう簡単には捕まらないし、逆に固まってるところを狙われたら連鎖的に鬼になりかねない。人を捜すのにもそっちの方がいいしね」
「……そうですか」
心底がっかりした楓。だが、文句を言うことはできない。あくまでも行動を共にしないのは『自分の気持ち』の都合なのだし、確かに耕一の言うことの方が合理的だ。
「……わかりました。では、私も祐介さんを探しておきますので……」
と言いながら立ち上がり、早速その場を離れようとする楓。
「ああ、俺も初音ちゃんを見つけたら保護しておくから。……もっとも、もう鬼になってたら遅いけどね」
珍しく勘のいい耕一。その通り。今夜にも初音はあえなく捕獲されてしまう。
「では……私はこれで。耕一さん、ご武運を」
「ああ、楓ちゃんこそ」
「がんばってね」
「………………………」
楓はやや棘のある視線を瑞穂にぶつける。が、全く気付く様子はない。
「……それでは、失礼します」
一言残し、疾風と化した楓はその場を後にした。
「さて、それじゃ俺たちも祐介君探し、続けるとするか!」
「はいっ!」
そして、こちらも出発した。
【耕一&瑞穂、楓 別れる。お互いの情報交換済み】
【夕方】
……否。引き金はひかれなかった。
「な……体が!?」
その寸前に祐介の電波によって香里の動きが止められてしまったからだ。
「あ、あなたが栞ちゃんのお姉さん!?」
「わ、私に妹なんていないわ……」
苦悶に顔をゆがめる香里。それにかわって遅れて登場した香奈子が抗議する。
「長瀬君、ルール違反よ!!」
「お、太田さん?だ、だけど。病弱な妹を傷つけるというのは流石にとめないと……」
「そ、そうですよ。ひどいです、お姉ちゃん。そんなに私のこと嫌いなんですか?」
「だから、私には妹なんて……」
「ほら、また!!妹がいないだんて……私、お姉ちゃん事大好きなのに……」
見事な泣きまねを見せる栞。香里はいつのまにか自分が悪者にされていることを悟った。
「あ、あんたねぇ……病気なんてとっくの昔に全快してあんた健康そのものでしょう!!」
「なんていうこというんですか、お姉ちゃん!!私、体弱いじゃないですか」
「そりゃ、単に運動不足でしょうが!!そうそう!あんた、巳間さんの財布盗んだでしょう!!」
「し、栞ちゃん?」
慌てて栞のほうを振り向く祐介。だが、
「そんな人知りません。それが本当だったら私、もっとお金を持っているはずです。
祐介さんにはさっき持っているお金をを見せたじゃないですか」
冷静に切り返す栞。それを裏付けるように、
「スキャン完了。栞様の所持金は1000円のみです」
セリオが申し訳なさそうに報告した。
どうやら化かしあいは栞に分があるようね、と香里は思った。
フッ と胸中で笑う。
まあ、いいわ。それならそれで徹底的に悪人になるまでよ。
「長瀬君とやら、足りない頭を使ってよぉーく聞きなさい?」
一転して香里は低く静かな声を出す。だが声量に反比例するように空気の重さがましていく。
「いますぐこの金縛りを説きなさい……そうしないとね……」
香里はそこでいったん言葉を止めた。
「君 に 何 を し て し ま う か 、私 に も 分 か ら な い わ よ?」
「……」
どこまでも重い沈黙の後。どこまでも爽やかな笑顔で祐介は言った。
「ごめんね、栞ちゃん♪」
「ゆ、祐介さぁぁぁっっんんっっ!?」
最初に祐介と出会ったときの勘は間違いではなかったと、栞は後悔する。
が、もう遅い。自由になった香里は今度こそ噴霧器の引き金を引く。
覚悟して、栞は目を閉じた。だが、
バサッ
という音に、栞は目を開ける。マントが、七味唐辛子の霧を振り払っていた。
そして、低い男の声が響く。
「ユズハのことで急ぐ身なんだけどな……」
その気迫は香里にも負けない。
「病気の妹をいたぶるってのは、許せることじゃない」
男の名は、オボロといった。
「妹は大事にし、愛でるものだ!!お前は姉者の癖にそんなことも分からないのか!!」
「私に妹なんていないって言ってるでしょ!!なに?あんた近親相姦がお望みなの?」
急に飛び出したオボロを追いかけた久瀬が耳にしたのは、そんな声だった。
「違う!!俺は純粋に妹を愛しているだけだ!!お前のように傷つけようとは思っていない!!」
「うるさいわね、このシスコン!どきなさい!!」
(あれは、美坂姉妹か)
場の熱気に少したじろぐが、久瀬は持ち前の思考能力で状況を把握する。
美坂香里に、ついこの前まで長期の休学をしていた妹がいることは知っていた。
多分、香里は妹の栞に対して危害を加えようとしたのだろう。
それを常人よりはるかに耳の良いオボロが聞き取って、駆けつけた。そんなところか。
「ずいぶんな騒ぎだね?」
久瀬は勤めて冷静な声で場に割り込む。
「なに?久瀬君?」
帰ってきたのは香里の冷たい視線だった。
「あんたも妹愛好者の一人なの?」
「いや、僕にはそういう趣味はないが……病気の人に対しての過度な暴行は生徒会長としても見逃せなくてね」
「あのねぇ……」怒気のこもったため息をついて香里は答える。
「その子はもう、全快したわ。普通に健康よ」
「それはないだろう」眉をひそめる。「栞さんはこの前まで休学していたのだろう?
相当重い病気と聞いたし、よくて病み上がりといったところじゃないか?」
「治っちゃったのよ、冗談みたいに!!奇跡っぽく!!」
「馬鹿な。そんな奇跡など……」
「栞様のカルテのダウンロード完了。久瀬様の指摘は正しいですね。
栞様が現在、健康体である確率は0.00013%です」
「な……!!」
「ですが」
ガシッ
香里の噴霧器を叩き落そうとしたオボロの手刀を、セリオは止めた。
「香里様がそういわれるのであるのなら、栞様は健康なのでしょう」
「セ、セリオ……」
「たまには、こんな非論理的な思考も悪くはないです」
一瞬だけ、セリオの顔に微笑が浮かぶ。だが、すぐに真顔になると。
「栞様が逃げます。ここは任せて追いかけてください」
振り返ると、栞はいつの間にやらスタコラサッサと逃げていた。
「あいつ……ごめん!!任せたわ!!」
慌てて、香里は後を追う。その後をオボロが追おうとするが、セリオが立ちふさがった。
「お前…おもしれぇ……やるってのか?」
「ご安心を。手加減はして差し上げます」
セリオの挑発にオボロはニヤリと笑った。
「それはこっちの台詞だぜ……久瀬、こいつは俺に任せろ。あの妹者を頼む」
「分かった。マントを借りるぞ!」
きびすを返して美坂姉妹の後を追う久瀬の背中に、
「戦闘モードを暴徒鎮圧レベルに設定。オープンコンバット!!」
「殺――――ッ!!」
二つの声が突き刺さった。
【美坂栞 逃走】
【美坂香里 残り4万円 栞の後を追う 噴霧器と懐中電灯を装備】
【久瀬 栞の後を追う】
【セリオ 所持金0 射出スタンガン装備 オボロとバトル開始】
「なんか、取り残されちゃったわね……」
「はぁ」
「とりあえず、ポイントもらっとくわ」
「え?」
【太田香奈子 所持金0 射出スタンガン装備 祐介をチェイス開始】
【香里チームと智子チームは連絡場所を決めている】
「シィィィィィ!」
オボロが腰から抜いた剣をセリオに向かって剣を繰り出す。さすがに、刃は立ってない。
「回避」
そう呟くと腰を落として回避する。
「シャッ!」
もう一本の剣を、取り出して切りつける。二刀流、それがオボロの剣術である。
「予測済みです」
こちらは、軽くバックステップを取って回避する。直後、間合いを詰めるために一気に走り出す。
「させるかっ!」
自分の間合いを保つために、右手の剣を水平に払って間合いを保ち、袈裟懸けに切りつける。
「回避不能」
そう言って、自分の右腕で振り下ろされた剣を受け止める。
ガギィン!
金属同士がぶつかり合う音が響く。
「テメェ……人間じゃないな?」
オボロが驚きの声を上げる。今感じた手ごたえは、間違いなく人間の皮膚じゃない。
「答える義務はありません」
対するセリオも、内心かなり計算違いに驚いていた。剣の速度や力が並じゃなかった。
(予想数値修正。どうやら『手加減』させてもらえそうにありませんね)
原作でも各掲示板やSSでもギャグキャラが板についているオボロだが、原作ではかなりの強さを誇る。手数も多く、足も速い。オボロがうたわれで最強と言う人も少なくない。
「シャッ!」
再び、切りかかる。右手で握った剣を一気に振り下ろす。回避できないと踏んだセリオは左腕で剣を受け止める。直後、オボロの左手に握られていた剣がセリオの腹にめり込んだ。
(浅いかっ!)
当てることはできた。だが、刃が立っていないことを考えると多少、浅かった。
(ダメージレベル28%。どうやら、ほぼ同時に剣を繰り出してきたようですね。活動に支障なし。ですが…)
セリオは即座にダメージを判断する。そして、ちらりと右腕を見た。
(…受け止めるのは限界ですね)
先ほど、剣を受け止めた手が悲鳴を上げていた。
(現状での勝率は12.774%、誤差は1%以内。銃を抜いている暇はありません。戦闘モード【対プロフェッショナル】に切り替えます)
ここまでの思考時間は1秒。そして、さらに1秒後には二人の影はぶつかっていた。
「止めて見やがれ!」
「ご期待に、添えさせて貰います」
【セリオ 苦戦。モードを切り替え】
【オボロ 善戦。これからどうなるかは不明】
どぎゃーん。
「……でかっ」
北川と住井は思わず呆気に取られていた。
贅沢に金銭を投じて建設されたエントランス。
恐怖の4連エレベーター。
各階に張り出したベランダ。
――そして、屋上に燦然と輝く『鶴来屋』の文字。
彼らの目の前に、8階建ての超高級ホテルが鎮座している。
「 」
「いや……ビックリしてるのは分かったから、せめて三点リーダーで
表現してくれ。訳分からん」
と、至極一般人らしいリアクションを儀式的に済ませて二人は早
速入り口へと足を運ぶ。ロビーらしき部分の庭先には綺麗な庭園が
あり、恐らく数匹の鯉が泳いでいるだろう。ごくごく一般的な高級旅
館といった感じだ。
――自動ドア正面に奇妙な立て看板が置かれている。
「なんだ、ありゃ」
二人は近づいてみる。看板には丁寧な字で『ご自由にどうぞ』とだ
け書かれている。首をかしげる二人。
「どういうこっちゃ」
「…分からんな」
とりあえず彼らはホテルの様子を窺う事にした。
――大きい建物である。8階建てという高さもこの島ではかなり大
きい方なのだろう。これだけの収容数を持っていれば、このリゾート
アイランドも効率的に客を回転させられるだろう。
そこまで考えたところで北川はある重大な事実に気付く。
「おい、もしかしてこのホテル――誰もいなくないか?」
「はぁ? んなわけあるかっ……」
試しに住井はエントランスの自動ドアを開けてみた。
しーーーーーん。
「――マジ?」
よくよく考えればこの島に居るのは百五十余名の参加者と少
数の管理者のみである。ホテルは今やゴーストタウンの一角のよう
に静まっており、参加者はおろか管理者らしき気配も無い。
「つまり、だ。『ご自由にどうぞ』ってのはこの建物を好きに使っても
宜しいってことか?」
「たしかにこの時点で反応がないのは妙だな……って、おーい」
そんな住井の懐疑をよそに北川は『いらっしゃいませ』と呟きなが
らガラス戸を通り、館内へと消えて行く。
「マジですか潤さん……」
北川の大胆な行動に呆気に取られながらも、住井は仕方無しに
後を追った。『恐ッ』という彼の声がやたらと響いた。
【北川・住井 鶴来屋リゾートホテル侵入】
【鶴来屋リゾートホテル 中は全くの無人】
【時間→深夜】
「……どうすればいいんだ」
「ああ。確かにどうすればいいんだ」
地雷原コンビ・キタガー&スミー。
現在彼らはどっかの超設定親父みたいな台詞を呟いていた。
いや、呟くしかなかった。
話自体は単純だ。
ゴーストホテルに侵入した2人。誰もいない建物。これから雨が降りそう。
もちろん彼らがやることは……
「レッツ・トラップ!」
に決まっている。
「それでは同士住井、まずはどこから仕掛けることとするか」
「まぁまぁ慌てるでない同士北川よ。まずはこのホテルの内装を調べてからでも遅くはない」
「なるほど、一理ある。というか」
「十理あるだろう」
「ではでは」
「しゅっぱ……」
ガコンッ。
一歩を踏み出したところで、いきなり床が消えた。
いや……開いた。
空中でお互いに顔を見合わせる。
「住井さん。これはひょっとして」
「ひょっとするな」
ひゅるるるるる……
「今まで俺たちが」
「必死こいて作ってきた」
「「トラップ!」」
……というわけだ。
「迂闊だったな。まさか主催者側も罠を用意しているとは」
「しかもかなり落とされた。クッションが用意してあったとはいえ、落下時間を考えると相当深いぞ、ここ」
「鬼ごっこの次はダンジョンクエストか」
「……そのようだな」
お互いに顔を見合わせた後、唯一の扉に視線を送る。
その先には、ウィ●ードリィ風の薄暗いダンジョンの光景が、広がっていた。
【北川・住井 ホテル地下のダンジョンに落とされる】
【ホテル 入り口近くに落とし穴あり。気がつかないとダンジョンクエストへ一直線】
248 :
3つ巴:03/03/31 22:29 ID:NegUGN3p
「悪いことは言わない。その子を置いていきなさい!」
相沢祐一であります。
いやはや、まったくもって能力者同士の対決にはついていけません。
アレは舞の超能力とは違うのかな?
まあ、先程のバトルでは能力あんまし関係なかったけど。
先程といってもそれなりに時間が経過したらしく、ターゲットの影も形も見当たらない。
俺はわりとすぐ目覚めたのだが、二人の回復が遅かった所為で暫く立ち往生
していました。まあ、連戦で疲れたのだろう。
え、俺?俺は生命力だけはバケモノ並ですので。でなきゃ雪国で野宿したり
とか(例:あゆ・栞シナリオ)、魔物とのバトルで吹っ飛ばされたりとか
できません。ヘタすると一部人外連中以上かもしれません。攻撃力が無いから
ガチンコバトルで勝てるとは思わないけど。
ともかく二人の回復を待ったり、罠に敢えて特攻してゲットした食料で夕食を
済ませたりして、気がつくと夜。
さっきの罠に懲りて森を出たところで他の鬼チームに遭遇、いきなり先程の台詞となったわけです。
で、指名された”その子”の方を見て言う俺。
「何か人の恨みでも買うような事したのか?プロトタイプ栞よ。」
「だからその変な呼び方止めてください!私は由依です!!」
「どっちかというと相沢君のほうが呼び出し食らうのが似合いそうね。」
抗議する栞2号と随分な物言いの天沢。
「??…ぷろとたいぷ?」
最初に第一声をあげた短髪の女の子が困惑する。生真面目な子なのだろう。
俺の冗談についていけないみたいだ。まあ、こんな時に冗談を言う俺も俺だが。
「好恵ちゃん、よくわからないけど人違いじゃないのかな?」
なんとなく名雪のようなボケボケした雰囲気の女の子が問う。
二番煎じだが、プロトタイプ名雪と命名しよう。
「そうだね。聞いてた服装と違うし。」
小中学生くらいの感じの金髪少女が答える。
「でも『栞』のことは知ってるみたいやな。いやはや、いきなりすまんかった。実は…」
説明を始めようとした時、
「栞ぃぃぃーーー!待ちなさーーい!!」
「嫌ですぅぅーーーー!」
「むぅ!やらせはせんぞ!美坂さん!」
遠くから聞いたことのある声が3つ。
視点変更:久瀬視点
参った。美坂香里さんの攻撃が想像以上に強烈だ。美坂栞さんがシロかクロかは実はどうでもいい問題で、
何か上手いこと立ち回って栞さんをでタッチできればいいと思っていたのだが、結構しんどい。
僕はオボロのような単純人間ではないから、栞さんと香里さんのどちらが真実を語っているか
は想像がつく。恐らく栞さんはクロ。僕は分かった上で香里さんを妨害しているのだ。
明らかに自分に害を成す相手が迫ってる以上、栞さんの能力では誰かに保護を求めるしかない。
その相手が僕なら彼女を鬼にしてポイントゲット。その後香里さんを撒けばいい。
タッチだけして切り捨ててもいいのだが、それだとオボロがよく思わないだろうから、
やはり一晩くらいは面倒を見ることになるかもしれない。
これくらいの計算を出来なければ反生徒会の連中相手に政治抗争なんてやってられない。
多少悪女っぷりを発揮してても、僕との経験値の差は絶対的だ。今までの連中のようには
いかない。
などと思いつつ香里さんとの攻防を繰り返しながら栞さんを追っている。
予想通り栞さんの運動能力は低く、香里さんとの攻防をしつつもいい感じの
距離を保っている。このままなら栞さんがしびれをきらして僕に保護を求めるのは
時間の問題だろう。
と、思っていたのだが、前方に襷をかけた大所帯。彼らに栞さんのポイントを
取られてしまっては折角の苦労が水の泡だ。
ん?あれは確か相沢君だ。美坂姉妹とは面識があったと思うが、なんとか彼を利用
できないだろうか?
視点変更:香里視点
勝った!久瀬君には意外と苦戦させられたけど、目の前の鬼の集団の半分は
保科さん一行。残りは相沢君一行みたいだけど、最悪相沢君が敵に回っても
戦力はほぼ互角。静観以上なら圧倒的有利!保科さん一行は既に逃走経路を
封じている。戦力的には、
敵:久瀬君一人:5人
味方:わたし+保科さん一行:5人
不明もしくは第三勢力:相沢君一行:3人
さあ、相沢君はどう出る?
視点変更:祐一
ふたたび相沢祐一であります。
現在の状況を説明すると、円を描くように9人からの鬼で栞を囲んでいます。
とっとと栞を捕まえに行けばいいと思うでしょうが、前に出ると香里が手持ちの
武器を向けて睨んでくるのでせっかくの獲物を前におあずけを食らっています。
栞がどさくさに紛れて逃げないようにと、香里が武器で栞を沈黙させたのを見たのだが、
なかなかに凶悪な武器のようだ。あれを食らうのは遠慮したい。
というかアレ以上に何かするつもりなのだろうか(汗)
一体どれだけの恨みを買ったんだ、栞よ。
ついでにいうとプロトタイプ名雪の一行と香里は仲間らしい。
さすが、香里の親友。プロトタイプでも香里を仲間にするか、名雪よ。
状況からしていきなり新しい乱入者が現れることはないだろう。
ここで俺に与えられた選択肢は2つ。
1:おとなしく栞を譲る
2:他の連中を天沢の能力で吹き飛ばして栞のポイントをゲット
1は無難な選択。2は、反則にならずにうまくやる方法はいくらでも
あるだろうが、後が怖い。特に香里。天沢も同じ事を考えているらしく
こちらに向かって「どうする?」と言いたげな視線を送ってくる。
どうやら最終決定権は俺に委ねられたみたいだ。
栞を小一時間問い詰める香里が見たければ1、香里とバトルがしたければ2だ。
俺の決断は----
【栞 香里に一撃を食らい沈黙 まだ鬼になってない】
【智子一行・香里 祐一一行に栞を譲るように要求】
【久瀬 なんとかして栞のポイントを狙う】
【祐一一行 祐一最終決断】
253 :
栞の賭け:03/03/31 23:17 ID:E/y/aTgB
「けほっ……かはっ……ごほっ……! つっ、お姉ちゃん……それは?」
お姉ちゃんの発射した『何か』。避けきれず、私は少しそれを吸ってしまいました。
「あなたを倒すために購入した……唐辛子噴霧器よ! 確かあなた、辛いものが苦手だったわよねぇ!?」
……なるほど。そういうことですか。お姉ちゃんらしい武器です……。
……目の前には復讐に燃える我が姉。その背後には眼鏡の鬼さん。
さらに私は祐一さん含む鬼の方々に囲まれています。
……状況は限りなくブルーですね。
「………さあ栞、年貢の納め時よ。大人しく私に……捕まりなさい!」
一歩、一歩、お姉ちゃんが私に近寄ってきます。
「よくも私を盾にしてくれたわね……」
あのよくわからない武器をこちらに突き付けながら、一歩、一歩、確実に。
「よくも裏切ってくれたわね……」
ガスマスクを付けていますが、その仮面の下の表情は……阿修羅と化していることでしょう。
「よくも他人様のサイフに手ぇ付けてくれたわね……」
……まだです。まだ、機ではありません……。まだ目も回復しきってませんし、息も切れています。まだ……突破は不可能です!
ここは……
「ちょっと待ってくださいお姉ちゃん!」
……ピタリ、と足を止めました。
「なぁに? 今更になって命乞いでもする気?」
「いいえ! 命乞いではありません! 私、もう諦めました!」
「そう……いい心がけね。なら、さっさと私に捕まりなさい……!」
……まだです!
「はい、私は今までさんざん非道いことをしてきました! 確かにお姉ちゃんを盾にしました! 良祐さんを見捨てて逃げました! 良祐さんのサイフを拝借しました! 祐介さんを洗脳しました!」
「認めたわね。認めたわね己の罪を!」
「はい! 生き残る為とはいえ、私は色々と悪いことをしてきました!」
「……けどねぇ、開き直ったら許してもらえると思ったら大間違いよ!」
いいです。いい調子です。お姉ちゃんの怒りは強まっているようですが……その分、冷静さがどんどん薄れていきます。
「はい! 許してもらえるとは思っていません! 何でもします! 謝ります! お姉ちゃんの言うとおりにします! だから……!」
254 :
栞の賭け:03/03/31 23:18 ID:E/y/aTgB
……勝負ッ!
「最後に、ほんの少しだけ猶予を! この……」
取り出したるは最後のバニラ!
「アイスを! 最後に食べさせてください! 執行直前の死刑囚に、せめてものお慈悲を!」
……どうです!?
「……………………………………………」
お姉ちゃんはたっぷり一分ほど沈黙した後、
「いいわ」
よし!
そのままズカズカと歩み寄り、私に銃を突き付けながら
「何を企んでるのかは知らないけど、この状況、いくらあなたでもどうしようもないでしょう。……5分。5分だけ猶予を与えるわ。
せいぜい末期のアイスを味わいなさい。智子さん、相沢君、久瀬君……? いいわね。5分、付き合ってもらうわよ。もし手を出したら……」
ジャキンと天空に銃口を向け、赤いガスを噴射。
「潰すわ」
布石は放たれました。……さぁて、美坂栞、一世一代の大博打!
鬼が出るか、蛇が出るか!
【栞 5分の猶予を得る】
【香里 栞に銃を突き付ける】
【久瀬 香里の後ろ。栞とは少し距離がある】
【祐一一行・智子一行 少し離れた位置から栞を囲んでいる】
「んっふっふっふ」
「な、なによ」
机に両肘を乗せて手を組みながら不気味な眼光を飛ばしまくる大
志。いくら普段の彼の奇行に慣れている瑞希とて、陽の光すら届か
ぬこの真っ暗闇では驚かざるを得ない。
「いやいや何でもないぞ。まいしすたー瑞希よ。若い男女が二人っ
きりで見知らぬ土地の高級旅館に堂々と立ち入る。しかも昼なのに
真っ暗闇ときたものだ。
……なんともはや素晴らしいシチュエーションではないkっぬごっ」
窓辺の卓上→奥の押し入れ間を大志のボディが飛翔する。顔に
釘バットをめり込ませたまま。
「いい加減にしなさいよ、もう!」
瑞希の怒沸点は普段に比べ4割5分ほど低い。ものすごい低気圧
である。
「……おなかすいた」
まあ、無理もないだろう。
今朝のコイン事件の後、彼女らは意気揚揚と食料調達に向かっ
た。向かったところまでは良かったのだが、罠や待ち伏せといったト
ラップから身を守るために市街地を避けて通ったのが間違いだっ
た。待ち伏せが居ない、ということは相対的に人間の数が少ない
――つまりあまり人の立ち入らない場所を選択してゆくことになる。
それでも節度を守れば良かったのだが、
『何をいうかまいしすたー。こんな軟弱な回避ルートではすぐさま鬼
に見つかってしまうだろうッ! 吾輩が思うに(以下略』
と大志の異様なノリに流されているうちに、気がつけば本当に誰
も来なさそうな山の頂上を極めていたりした。そんな所に食料など
置いてある訳が無くそんなこんなで、和樹の捜索すらままならず午
前を終えてしまう事になったのだ。
その訳分からない山を下山している途中、見晴らしの効く展望台
で湧き水に舌鼓を打っていると、眼下に『鶴来屋』の看板が見え
た。なぜ登山途中に気がつかなかったんだろう、だって喉渇いてた
し大志は執拗にせがむし第一後ろ振り向く余裕なんて無かったし
で、とにかく彼女達は無駄な疲労を休め同時に食料を得るためにそ
こに立ち寄る事にしたわけで以下冒頭に続く。
「ま〜いしぃすたぁ〜」
「うわっ! ちょ、ちょっと! あんまり近寄らないでよ!」
「時に腹など減らないかね?」
「え!? ……まあ、確かに…ちょっとは減った、かな――って、も
ともとわたし達食べもの探しに来たんじゃない!」
「そうだな。だから休憩はここまでにして食料捜索に出ようと思った
のだが。不服かね?」
「うぐっ…」
大志のもっともらしい言葉に瑞希は息を詰まらせる。疲労と空腹
が極限に達している瑞希。議論の着眼点のズレにすら気付かな
い。瑞希をそんな状態まで追いやったのは誰だったのか完全に忘
れてしまっている。
「幸いこの旅館には食堂が併設している。主催者の言が正しけれ
ば何らかの物品は置いてあるだろう」
大志は立ち上がって雨戸を開けた。日差しが眩しい。
「……そういえば大志。なんで最初に雨戸閉めたの?」
「気分を出すために決まっているだろう?」
振り向いてメガネの男は指を突き立てた。なんというか瑞希は彼
我の間に決して埋められぬクレバスがあるように感じ、同時にその
クレバスを自分は渡りつつあるという事実に――いわば世間一般で
言うところのオタクフィールドに入りつつある昨今の自分に恐怖し
た。が、現在の所はまだ大丈夫らしい。大志の行動の意味を全然
まったく理解出来ないのが確たる証拠である。
「さあまいしすたー瑞希よ。我輩と一緒にアブストラクトロードを突き
進もうではないかー!」
身体の諸所を壁にぶつけつつ階下の食堂へとバンザイアタックを
開始する大志。その形容こそがアブストラクトじゃないんかいと瑞希
は残り少ない理性を投じてツッコんだ。
【瑞希・大志 ホテル個室→食堂にメシを探しに行く】
【時間 昼過ぎ(2時くらい?)】
昼もだいぶ過ぎた森の中。
「今度こそ、ニンムを成功させてやるんだからっ……!」
びしょ濡れなった服を乾かし、真琴はなおも食糧を探していた。
先の挫折から、更に2時間あまりが経過している。もう、あまり油を
売っている時間がない。はやく見つけなくては。
「あっ!」
小道の傍に、隆々とした木が聳えていた。見上げると、小さな黒赤色
の実が、夥しい数でなっている。
「食べ物、みーっけ!」
真琴は手を伸ばして実を取ろうとしたが、高くて届かない。
「あうー」
ぴょんぴょん飛び跳ねてみるが、やっぱり届かない。
「あうー」
枝を拾って叩き落とそうとするが上手くいかない。もともと根気が
有るほうではないので、何回も失敗している内に心が挫けてくる。
「もう駄目だわ……」
樹の根元に座り込んでため息をつく。腹立ち紛れに、こんな酸っぱい
果実なんて要らないわよ、と叫びそうになったその時。真琴はふっと
体が軽くなるのを感じた。目の前に、切望していた果実がある。
「あっ、あう!?」
「ほら、これで取れるでしょ?」
別に空中に浮かんだわけではなく、誰かに腰を抱えられたらしい。
「誰……?」
「大丈夫よ。鬼じゃないから。さあ、早く」
「う、うん……」
真琴は何だか落ち着かない気分のままで、手早く果実を摘み取って
いく。3ダース程も取って作業が終わり、地面に降ろしてもらった。
真琴は、手助けしてくれた人と向かい合う。赤味がかった髪に、穏やか
な笑み。真琴には、その相手が大人なのか、若いのか、分からなかった。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
……何だか、秋子さんみたい。
「わたしは、神岸ひかり。あなたは?」
「あうーっ、あたし、真琴……」
真琴の視線はたった今手に入れたばかりの収穫に注がれていた。
「これ、なんていう食べ物?」
「ヤマモモよ。日保ちしないから、早めに食べた方が良いわよ」
真琴は一つを手にとって、試食してみた。果汁が口の中に染み出して、
甘酸っぱい味が広がる。
「おいしい!」
感激した真琴はもうニ、三個口の中に入れようとした。が、思い直した
ように首を振る。やおら、教会から持参してきた袋に詰め始めた。
「もう食べないの?」
「これは皆の分だから、あとで一緒に食べるの」
あたしがいないと、他のみんなはお腹を空かせたままだしね。えへん。
「あら、良い心掛けね。……そう、グループを組んでるの。ところで、その
中に、観鈴って子は居ないかしら?」
真琴はまた首を振った。
「じゃあ、その子を見かけた事は?髪が栗色で、白いリボンを付けてて…」
と、ひかりは観鈴の人相風体を伝えたが、答えは同じだった。
「真琴、森の中をいっぱい歩き回ったけど、そんな子は見なかったよ」
「そう……」
ひかりは己の思考に沈んだ。観鈴ちゃんが森に居るという線は薄い。そう
考えてよさそうだ。すると街か、あるいは海か。
(そう言えば……)
観鈴ちゃんの口から海の話を聞いたような気がする。それに、川を下って
いったなら、島の外周へ近付くと考えるのが自然だ。
(……もっとも海岸じゃ見晴らしが良くて長くは逃げられないと思うけど)
「……どうしたの?」
「いいえ、なんでも無いわ、ありがとう。これ、少ないけど取っておいて」
ひかりは手持ちの食糧の一部を、真琴に渡した。
「あうーっ、いいの?」
「ええ、あと二人分は充分あるから。みんなで食べてね」
「え、えっと……じゃあ、代わりにこれ上げる!」
真琴は袋に入れたばかりのヤマモモを一つかみ、ひかりの掌にのせた。
「その観鈴って子と、一緒に食べて」
「ありがとう。あなた、いい子ね」
ひかりに誉められて、真琴は「えへへ」と照れたように笑っていたが、
そんな事をしている暇はないことを思い出した。
「それじゃ、真琴はもう行くね。ひかりさん、バイバーイ!」
【真琴 山桃30個&屋台の食糧1日分ゲット。時刻は午後】
【神岸ひかり 山桃のお裾分けを頂く。観鈴の探索続行】
261 :
仲裁:03/03/31 23:51 ID:NegUGN3p
「そこまでです。オボロ様、セリオ様、戦闘行為を終了してください。」
数体のHM-13が2人を囲む。
そしてそれに気がつき戦闘を止める2人。
「戦闘レベルが死亡または重傷者の発生する恐れのあるレベルに達しましたので、
運営サイド権限でお二人を拘束します。」
量産型とはいえ自分と同型数体に抵抗するのは無理と判断し大人しくお縄につくセリオ。
「くそっ!離せ!うあああ!」
対照的にもみくちゃにされながら拘束されるオボロ。
【オボロ セリオ 連行】
一方祐介はHM-12に囲まれていた。器用にも祐介の逃走スピードに合わせて併走している。
「長瀬祐介様。能力による他人への直接攻撃の反則を確認しました。なんらかの処分がありますので
管理者室まで同行願います。」
「あう…分かりました…。そういうわけで、香奈子さんまた後で…」
追っていた獲物をいきなり連行されて困惑する香奈子。
「えーと、こういうときはあの台詞よね」
ど う す れ ば い い ん だ …
【祐介 連行】
【香奈子 ポカーン】
「今回はちょっとヒヤヒヤしたね。」
「本来はあまり参加者に介入する気はないのですが、
さすがに参加者に大怪我をさせるわけにはいきませんからね。」
管理者室の足立と千鶴はなんとか大事に至らずホっとする。
「いきなり失格は可哀想なのでしませんが、これは少しだけお灸をすえる必要がありますね。」
「まあ、お説教くらいでいいんじゃないの?」
【管理者室 反則者の処遇を検討】
262 :
決着:03/04/01 00:01 ID:O+CfI0Aj
「お姉ちゃん、ここにオレンジ色のジャムはあるんだけど」
「!?」
香里は顔色を青くした。
香里とはいえジャムは怖いらしい。
「………俺には空き瓶にしか見えないんだが」
「そんなことばらす人、嫌いです」
脅すために瓶の蓋を開けた栞だったが、それが失敗だった。
瓶を開けたときに、中身が偶然見えてしまったのだ。
中身は空っぽだった。
さらに、この策は裏目にでてしまった。
ジャムの単語がでたせいか、香里が再び冷静に戻ってしまっていた。
栞が策を失って、5分経過。
もはや、策は残ってないらしい。
俺は、天沢に、「周りを吹き飛ばせ」と、視線で合図する。
………。
通じなかったらしい。
仕方なく、手で合図する。
栞の付近の大地が軽く爆発する。
目晦まし程度の小さな爆発。
皆は怯んだその隙に、俺は栞の横に移動し、いつでもタッチできる状況にしておく。
再度、状況を確認してみる。
俺を避けるように赤いものが飛び散っていた。
天沢が援護してくれたようだ。プロトタイプ名雪組も由依が多少なりとも足止めしていたようだ。
「香里…栞を引き渡す代わりに何かをよこせ…と言ったらどうする?」
「………そうね、条件にもよるわ」
263 :
決着:03/04/01 00:02 ID:O+CfI0Aj
「その武器……で、どうだ?」
もちろん、この交渉であの武器が手に入るとは思っていない。
最初は高望み。
その後、少しづつ条件を下げていく。
だが、相手はあの香里。
ジャムで多少は動揺しているとはいえ、香里相手にどこまで通じるか…。
「いいわよ」
「はい?」
「栞さえ、捕まえればあたしの目標は達成できるもの」
………。
まさか、通じるとは思わなかった…。
「ただし、これ意外と高かったのよね…1万円でどう?」
俺は、元の値段を知らない。
下手すると騙されている可能性もある。
しかし…あれは一万円以上はする。
なんとなく、俺は確信した。
「いいだろう、取り引きは成立だな」
香里は栞に近づき、栞をタッチした。
栞は抵抗しなかった。
264 :
決着:03/04/01 00:02 ID:O+CfI0Aj
あの武器で常に狙われている状況で抵抗すれば確実にやられるだろう。
あの武器はそれだけ警戒するだけ強い武器だってことは分かる。
「はい、これ」
香里は俺にその武器を渡す。
俺も財布から一万円を取り出し、香里に渡す。
「うーん…一万円の出費は痛いな…」
「あら? 屋台にいけば捕まえた獲物一人につき1万円分の賞品が入るわよ? 元は取れるんじゃない?」
「何!? そうだったのか…」
俺は、天沢と由依の元へ行く。
「これで、良かったの?」
「ああ。武器は入ったんだし戦力の増強にはなるだろう。あのまま黙って香里に渡すよりましさ」
「二人とも、仲がいいですねっ。息ぴったりじゃないですか」
【栞 香里に捕まる。鬼化】
【香里 栞ゲット。武器を失う。一万円ゲット】
【祐一 香里の持っていた凶悪な武器ゲット・財布から一万円が飛ぶ】
延々と続くお説教が終わって、ようやく外に出られたときには翌日になっていた。
まだ日が出ていないのに加え、低く曇天が立ちこめているのでかなり暗い。
オボロは、無駄に時間をつぶしてしまったことに深く深くため息をついた。
同じく解放されたばかりのセリオを横目で見ると、これが全く無表情だ。
そういえば、説教を聞いている間もまるでこたえた様子がなかった。
自分ばかりが損をしている気がしてならないオボロである。
「さて──これからどうするか」
久瀬たちと別れた場所からは随分と遠い──ような気がする。
なにせ揉みくちゃにされて連れていかれたもんだから、道はうろ覚えだ。
あれからもう何時間も経つ。
あの悪魔のような姉から病弱な妹を助けるのに、今からでも遅くないだろうか。
オボロは苦悩する。
一刻も早くユズハを救いたい。……が、それには仲間がいる。
自分ひとりではやみくもに島を巡るだけでいつまでたってもユズハには会えないだろう。
だったら──やはり一旦戻ってみるか。合流できないともかぎらない。
そう思った時だった。
「オボロ様──」
セリオが口を開いた。
昨夜勝負をしていた相手から様づけされるのも妙な気分だ。
「ユズハ様の居場所を推測できるかもしれません──」
「なっ」
「昨朝、香里様から得た情報です。
長い黒髪で年齢は十代半ば──猫状の耳を持つ盲目の少女。
私が実際に確認したわけではないので確率は70%強といったところですが──おそらくは」
「ユズハだ……!」
「襷の無いことから、ユズハ様はまだ鬼にはなっていない模様です。
彼女の周辺には鬼の襷を身につけた怪しい男が見受けられました。
その様子は明らかにユズハ様に執着を抱いているものと推測されています──」
「な、な、な……っ!!!!!」
「お望みでしたら、居場所を教えて差し上げますが──いかがでしょうか」
「頼む! 教えてくれ!!」
「分かりました」
セリオは気味が悪いほど素直に、ユズハの居場所を教えてくれた。更に、
「よろしければ、同行し協力いたしますが──」
とまで続ける。
ここまで言われると、さすがのオボロも不信感を覚えた。
「なぜだ、なぜそうまでする?」
「──他意はありません」
セリオは相変わらずの無機質な微笑で応えた。
「……ちっ」
「私は的確にその場所にご案内することが可能です。信じないのは勝手ですが──
ユズハ様がセクシャルハラスメント──性的いやがらせを受けたり
口八丁手八丁手練手管の殿方により、かどわかされるような事態の可能性を
考えるのなら、意地をはらずに私を同行させることをお勧めいたします──」
「わかった! 貴様が何を考えていようが関係ない!
早くユズハのもとへ案内してくれ!!」
*
(これで当分この男に香里様の邪魔は出来ないはず──。
昨夜あの状況で香里様の目的が達成できる確率は不安要素を考慮して70%弱。
もし失敗していた場合、この男に今後も邪魔をされたらかなり厄介──)
実際のところ香里は見事栞捕獲に成功していたのだが、セリオはまだそれを知らない。
【オボロ:ユズハがいたという場所に向かう】
【セリオ:香里から遠ざけるため、オボロに同行。ユズハ捕獲の手伝いをする】
【三日目、日の出前】
<修正です>
> オボロは、無駄に時間をつぶしてしまったことに深く深くため息をついた。
の次に以下の四行を入れ忘れました。すみませんです。
だが、言い換えれば説教だけで済んでよかったとも言える。
今回は警告で済んだが次回はゲームからの強制排除だと言われてしまった。
まだ退くわけにはいかない。
オボロにはユズハを救うという一番の目的がまだ残っているのだから。
毎回微妙にマイナーチェンジをしてるので読んでほしいこと&連絡事項↓
三日目朝から雨になります。病気組と御堂に注意。
このリレーは余程の反則(電波で他の参加者を操る、魔法で自分を触れなくする)が無い限り能力使用はOKです。
但し原作外のオリジナル設定は基本的に抜きで。ていうか基本ギャグで済ませましょう。
細かいところに拘るより鬼ごっことしての状況を進める方向で
致命的なミスがない限りは脳内保管しましょう。
NGはできるだけ避けるよう書く話のキャラの前話くらいは読みましょう。
前スレも健在なのでリストをたどれば最終行動はわかる筈なので。
また他のスレのネタは知ってる人はニヤリ、あ、このネタ上手いなーくらいにしておきましょう。
能力に関してグレーゾーンな話を書く際には
『葉鍵鬼ごっこ議論・感想板』 へどうぞ
>
ttp://jbbs.shitaraba.com/game/5200/ 後記
急展開が多かった気がしますがその分活気付いて良かったような。
274 :
後始末:03/04/01 01:38 ID:7/PZrRYD
そんなことする人きらいですぅぅーーーー…………」
「私に妹なんていないわ…」
怨敵栞を討ち取った私は捕獲現場から少し離れた場所にあるやたらでっかい
落とし穴--おそらく罠の残骸--に栞を放り込んだ。
底が見えなかったりするのは多分もう暗いからでしょう。
せめてもの情けとして屋台で購入した激辛カレーとキムチ詰め合わせ、
飲み物として赤汁を持たせたのでゲーム中に飢えることはないでしょうし、
体自体は健康なんだからナースコールの世話になるような事態もないでしょう。
そういえば置いてきたセリオと香奈子はどうしたのかしら?
皆--事の顛末を生暖かく見守るとかでついてきた--と一緒に、彼女達と別れた現場と
その周辺を探してもどこにもいないし。彼女達にも報告とお礼をしておきたかったんだけど。
気がついたら結構な撃墜数になってたけど、栞を処分した時点で私の中で
鬼ごっこは、もう終わったようなものなのよね。武器もないしセリオも
いないからこれ以上スコア伸ばすのも難しいし。
で、あっちでは久瀬君も仲間と別れてしまってフリーということなので、
チーム再編成会議を始めたみたい。
鬼ごっこはもうおなかいっぱいだけど、連れくらいは欲しいかもしれないわね。
どうしようかしら。
【栞 穴の中 激辛食料完備】
【香里他 チーム再編成会議(主に香里と久瀬について)】
祐介が連れ去られた後、香奈子は今後の事を考えていた。
(先ずは保科さんたちとの待ち合わせ場所に行かないとね。
香里と栞さんがあの後どうなったかは判らないけれどとりあえず会ってあの二人の事は話さないと)
現実には香里が智子たちと再会しているのだがそんなことは香奈子にわかる訳がない。
(香里がまだ栞さんを捕まえてないなら乗りかかった船でこれまでの続き、
捕まえたのならこれまで手伝った分鬼の手助けをして貰おうかしらね。
それに……長瀬君が栞さんと一緒にいたってことは長瀬君はまだ瑞穂と会ってないのかしら)
開始直後に一人で逃げると言ったのに結局人助けをする祐介をらしいと思いつつも、やはり親友の事が気にかかる。
(そうなら会って長瀬君のこと教えてあげるべきかしら)
(なにはともあれ保科さんたちをあまり待たすのもよくないわね、よし)
そして香奈子は集合場所への移動を始めた。
【香奈子 元々の香里チームと智子チームの合流ポイントへ移動開始】
【今後の方針 香里チーム再編成及び瑞穂に祐介のことを報告】
「……これが合図。わかったわね?」
「うん、わかった!ばっちりやるね!」
…誰かいる。ふふふのふ、さてはカモね。
あたしのカンに間違いはないったらないわ。(がさがさ)
「……でも、のど渇いたよぉ〜。ちょっとくらいなら飲んでいいでしょ?」
「ダメだって言ったでしょう?。全く、しようのない子ね。
もう少しこの辺りを見たら下に降りるから、屋台か川を見つけるまで我慢なさい」
移動する気ね。逃がすもんかっつーの。
でもなんだか声の片方、聞いたことある気がしないでもないけど、声の良く似た他人よね。
もしアイツがあんなしゃべり方してたら、ヘソで茶を沸かすどころか蒸発しちゃうって。
(がさがさがさ)
「しっ、誰か来るわ!」
「えっ、えっ、鬼かなぁ?」
げっ。何で気付かれたのかしら。完璧に忍び寄ったはずなのに…。
ちょっとこら、そこを動くんじゃないわよ?(がさがさがさがさがささ)
「「「あ」」」
木々を抜けた1人。そこにいた2人。
3人がハモった、一瞬の沈黙の後。真っ先に口を開いたのは――
「わ〜い、コリンだぁ〜!」
「ぶ」
ぶははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははあは
ははははははははははっははっははっはははっはっはははっはははっはははっはははっはははははは
うはははははっはははひあっははははははっははははっっっはははははははっははーーーーーーーー
大爆笑とともに地面に倒れこんだコリンを、きよみ(黒)とユンナが見つめる。
「……知り合い?」
「うん!コリンっていってね、わたしとおんなじ天使なの。
昔っからすっごく仲良しなんだぁ♪」
「ぶ、ぶひほはははは、ちょ、ど、どしたのアンタ?お、面白すぎ!?
わ、悪いものでも、た食べたんじゃ、うはひひひはっははわはひはは」
図星である。
「それはいいんだけど。あなたのお友達、襷かけてるわね」
「あっ、ホントだね。
うぅ〜残念だなぁ。コリンが鬼じゃなかったら、きよみとわたしと三人一緒に行けて
もっとも〜っと楽しい鬼ごっこになったのになぁ…」
「ちょ、ちょ止めて止めてマジで!笑い死ぬ、死、し、うひゃはははあはひゃはっひひひひー!!」
腹を抱え、足をばたつかせ、涙を流しながら、力の限りのたうち笑うコリン。
横隔膜回路はショート寸前。呼吸困難、それでも笑う。
このまま世界の終わる日まで笑い続けるんじゃないだろうか。
ユンナはそんな彼女の狂態にも、友との再会が心から嬉しいのか
ニコニコとエンジェルスマイルしている。
きよみ(黒)は二人を見比べながら、彼女らが本来どんな関係だったのか大体検討がついた。
そのまま小一時間ほどしたろうか。
「……は、は、は………………………ふー………」
ようやく発作が治まったらしいコリンはゆっくりと立ち上がり、
転がり回ったために土の着いてしまったあたりを、パッパッと払う。
その土のついた手で笑い涙も拭いて、目尻に変な模様の泥汚れがついた。まぬけである。
だがそんなことにはついぞ気付かず、彼女は勿体ぶった動きで二人に向き直り、喋り出す。
「さぁーって。
何だかよくわかんないけど、あたしの大親友のユンナちゃんはお気の毒な状態みたいね。
それじゃいい機会だし、いつぞやの恨み、たーっぷり晴らさせてもらおうかしら。
ついでにそこの黒いあんたも、ポイントゲットしちゃうから☆ クックックゥ〜…」
大親友を前に、蛇のような笑顔を浮かべる天使。まぬけメイクのためさっぱり凄みがない。
わきわきと指を動かしながら、コリンは前傾姿勢で二人にじりじりと迫る。
初めての鬼との対面。
目の前のコリンという女性は、あまり頭は良さそうじゃないものの
一応ユンナと同族だ。
飛行能力、それに霊力はバカに出来ないだろう。ピンチ到来と言っていい。
そのピンチを前にしてなお、心の中で、きよみ(黒)はほくそえんでいた。
その手には口を縛り、お茶を入れたビニール袋―昨日食べたチョコレートパンを
包装していたものだ―が握られている。
いい機会はこちらの方よ。
お気の毒だけど、早速試させてもらうわ。秘密兵器。
【黒きよみ、反転ユンナ コリンと遭遇】
【コリン 二人を狙う】
【黒きよみ 『秘密兵器』(何やらお茶を入れたビニール袋?)を使う気あり】
【この他、現在の黒きよみの持ち物は紅茶入りペットボトル×2、チョコレートパン×2、
そしてセイカクハンテンタケ×2…のはず】
【時間は二日目昼、場所は小山中腹】
「……参加者の方……。鬼じゃ、ありませんね……」
獲物を発見。佐祐理は密かにほくそえむ。
現在のこの場所。砂浜に人影は五ツ。
一ツ、佐祐理自身。
一ツ、波打ち際に座り込んでいる少女。
一ツ……というか、3人まとめて寝こけている一家。
どうやらこの一家は鬼のようだ。
「くか〜……」
「Zzz.....」
「すぴ〜……」
なんつーかもう、完璧夢の世界に旅立っている。いい気なものだ。
「ま……鬼の方は追われる心配はありませんからね。おそらくこのご家族はすでに勝負を捨て去り、気楽にリゾートを楽しんでいるのでしょう」
少女に聞かれない程度にあははーっと笑う。だが佐祐理は知らない。目の前でマヌケ面下げて寝ている男は、自分よりかなり得点が高いことを。
ついでに言うと神様であることを。
「さて……。そんなことより、さっさと獲物を捕まえないといけませんね……」
折角の獲物だ。しかも身体能力も高そうでなく、こちらに気づいていない。絶好のカモである。
「では、手早く済ませることとしますか」
ボソリと呟きながら、佐祐理はスカートのポケットに手を入れる。
「とりあえずこれを投げつけて、七味の味に激しいビートを刻んでるところで……GET! と行くのが楽そうですね」
取り出したるは虎の子の手榴弾。ただし中身は爆薬や鉄片ではなく、七味なのだが。
「それではさようなら……。佐祐理と同じ声を持つ人。恨むのなら、そんなところで黄昏ている自分自身の判断と、運の無さを恨んでくださいね」
ピンを抜いた後……ピッチャー倉田佐祐理、振りかぶって第一球を……
「えーーーーーーーーーーーいっ!!!」
投げたっ!
「えっ?」
掛け声に気づき、後ろを振り返る観鈴。
そこには、迫り来る鉄の塊…………ではなく、
「ん〜? うるさいな……何の騒ぎだ……?」
思わず目を覚ましてしまい、のっそりと上半身を起き上がらせたDの姿があった。
そして、彼の頭は佐祐理―観鈴の直線内にある。従って、当然のごとく、こうなるわけだ。
スコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
「あ」
声を漏らしたのは観鈴と佐祐理の2人。ただし聞き分けることなど不可能。
「……ぐ……ぁ……」
鉄の塊の直撃をこめかみに受け、瞬間的にまたもや夢の世界に旅立たされたD.さらに跳ね返された手榴弾は……
どさっ。
「……え?」
ポトリと、佐祐理の足元に落ちた。
ちゅどどーーーーーーーーーーーーーん!!!
「b^ア9得0アt家wMン@終えあいyウェーb0ア@こえr@あhぽういbじゃえい!?!!!??!?!?」
香里と違ってガスマスクをしていない彼女。もろに自分の放った唐辛子の直撃を受け、その場に悶絶する。
「えー……えーと……」
とりあえずどうしていいのかわからない観鈴ちん。目の前ではお父さんが死んでしまい(※死んでません)、少し離れた場所では鬼の女の子が七転八倒している。
「……こ、ここはとりあえず……」
観鈴ちんは慌てて立ち上がり、服についた砂をぱっぱと払うと、
「逃げよ」
逃げた。
【佐祐理 自分の放った唐辛子弾の直撃を受ける。悶絶中】
【D いったんは目を覚ますも、こめかみに鉄の塊の直撃を受け、再び夢の世界に】
【レミィ・まいか 引き続き絶好調爆睡中】
【観鈴ちん 逃亡】
【時間:変わらず日没時 場所:砂浜】
ちゅどーーーん!
ホテルの床を破って顔を出す2人の男。
「はぁはぁ……やっと出て来れたぞ!」
「あんなミニゲームやってられるか!」
この二人はセオリーを無視していきなりダンジョンを破壊して脱出してきたのだった。
ちなみに現在は明け方である。で、さっそく罠設置。
何部屋か人の出入りの形跡のある部屋も発見したが、待ち伏せなどせずとにかく罠を設置していった。
そして全ての部屋になにがしかの罠を設置して最後に大部屋っぽい部屋の扉をあけると…
「あらあら、北川さんに住井さん。お元気そうですね。」
運営陣の管理者室に来てしまったみたいだ。
「お?秋子さんお久しぶりです。元気そうですね。」
「会長さんまでいますね。もう止めちゃったんですか?」
管理者一同に平然と挨拶をする地雷原ズ。大物なのか、馬鹿なのか。
「私があんまり頑張りすぎても仕方ないですからね。」
こちらも平然と答える千鶴。まあ、彼らが来るのはモニタみてて分かってたから
あわてる理由はないのだが。
「私達は中立な立場なので何もしてあげられませんが、お二人とも頑張ってくださいね。」
突然の珍客にも嬉しそうに答える秋子。この二人だからというより、誰が来ても
こんなかんじで答えただろう。
「でもホテルへの被害はほどほどにしてくださいね。」
苦笑しながら答える千鶴。彼らの設置した罠の片付けは大変だろう。
「(ここの修理費だけで結構な金額になりそうだな…)」
心の中で涙する足立。
「それではお邪魔しました〜」
「ごきげんよ〜」
ひとことふたこと交わして立ち去る地雷原ズ。
その背中を見送りながら、被害額があまり増えないことを祈る管理者一同。
彼らの祈りは…たぶん届かないだろう。
【地雷原ズ 管理者室から退出】
ザシュッ ビイイィィィン……
「やはり。これも、罠でしたか」
鋭く振られた長物がまた一つ、罠を破壊した。
一方、
「ん、んん…」
かすかな物音と振動に気付き、うっすらと目を開ける。
……が、すぐに閉じた。
ゆさ ゆさ
ゆさ ゆさ
ゆさ ゆさ
まどろみの中、心地よい一定のリズム。
揺れるカーテンの様に、やわらかく降り注ぐ光と、
冷たすぎず、強すぎず、程よくそよぐ、風。
優しいアンサンブルが、静かな眠りへと……誘…う……
「って、またんかいっっっっっっっ!!」
鬱蒼と覆い茂った森。隙間から射す光と木々の間を抜ける風の中、
やたらでかくて奇妙な爬虫類の上で、神尾晴子は目を覚ました。
「お目覚め、ですか?」
絶叫と同時に身体を起こすと、前の方から声が聞こえた。
ゆっくりとそちらに目をやると、
「もう昼過ぎになりますよ」
『見知らぬ』青年がこちらを見ていた。
「……………………………………………」
「……………………………………………」
「……………………………………………」
「……………………………………………」
「……………………あんた……だr…って、兄ちゃん」
間一髪。 だが、
「その 間 はいったい……。それに今、『誰』と、言いかけませんでしたか」
その端正な眉が中央に寄る。間に合わなかったようだ。
「はははは」
ごまかし笑いをしつつ、一先ずまだ定かでない記憶を探ってみる。
(そや、屋台で……名前、何ちゅ―たかな? 確か…鍋……ちゃうわ。…えと、べな…べな…)
(ま、ええか)
気にしないらしい。
「ははは、ゴメンしてや。寝起きでちょうぼーとしてたねん、堪忍したり」
とりあえずは謝る。
「いいえ、気にしてませんから」
「そかそか。んで、べなの兄ちゃん、どんな状況やねん」
トゥスクル指折りの戦士にして皇の側近ベナウィ。取りあえず彼の二人称は決まったらしい。
ざ ざっ
ざっ ざざっ
「んで、追い出されたのん?」
「はい。しばらくは屋台の者も眠っていたので問題なかったのですが、
どうやら無意味に長く滞在はしてならない、との決め事のようですね」
晴子を乗せたままウォプタルの口を取って進むベナウィ。
まるで、やんごとなき奇人…もとい、貴人を連れているかのようだ。
「なんで?」
「あの屋台が滞在している周囲、百めとる…どれほどかは定かでないのですが
この距離は鬼が捕らえることを不可にしていると」
「そら、そやな。飯のところで待ち伏せされとったら簡単に捕まってまうわ」
「はい。ですから逃げ手がずっと滞在するわけにも…」
「いかんわな〜。ところでな、100メートルってのはなぁ…そや、
兄ちゃんの歩幅で大体100歩位の距離やで」
大仰に首を縦に振ったかと思うと、いきなり話題を変えてくる。
「なるほど、こちらの距離単位ですか…」
しかし彼は、急な話題変換にも動じなかった。
日頃の多人数の騒がしい者達を相手に繰り広げた訓練。その賜物と言えようか。
「そゆことや……うーん、この体勢話しにくいなぁ。べなの兄ちゃん、ちょいと止まってな。ゆっくり状況整理しよか」
「そうですね……シシェ」
ベナウィが一言声をかけただけでその生物は静かに止まり、腰をかがめた。
「うう、それにしてもうちばっかり長いこと寝てもうたな〜、
ゴメンな兄ちゃん、あんまし寝てへんのと違う?」
「いえ、屋台の時点でかなり…それにもとより長く眠る生活ではないのですよ」
正確には『眠れる』だったりするのだが……陰の苦労人は控えめに言った。
「それでもずっと歩いてたんやろ? 全く…叩き起こしてしまってええのに…」
「いえ、さすがにずっと移動していたわけではありません……まあこの程度、気になさらずに」
なおも謙遜するベナゥイ。
(おんなじ目付き悪いのんでも居候とは、ずいぶん違うんやな〜)
それに対しどーにも反応が物足りなく感じたのか。晴子は、少しつまらなそうな顔をしていた。
しかし、何か思いついたのであろうか? 急に ニヤリ と、嫌な笑みを浮かべたかと思うと、
「あ〜〜っ、なるほど。そか、晴子さんの寝顔を独り占め〜とか、考えてたんやろ〜このスケベ〜〜
はっ、もしかして寝てる間に悪戯してみたりとか! あーん、いややわ〜〜男はみ〜んなけだものや〜」
トンデモないことをのたまった。
そんな身体を奇妙にくねくね躍らせる晴子に対し、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ベナゥイは恐ろしく冷たい視線をプレゼントしてやった。
「ああああああああ、あんまり怒らんといてな、かるーい冗談や、冗談」
ブンッ
「そう、ですか。まだ酔っているものかとばかり」
何故か言葉と共に振るわれる槍が意味深だった。
「と、とりあえず、そんなどうでもいい事は置いといて……そや、うちが寝てるあいだ誰とも会わなかったん?」
無理やり話を戻す晴子。彼女にとって重要なのは観鈴の安否。とは言え、元を正せば、会話をぶち壊したのは彼女なのだが。
それに対し、やはり無駄な行為と感じていたのだろう。ベナゥイはあっさり話題を変えてくれた。
「とりあえず、逃げる者とはとくに遭遇しませんでした。鬼は何度か見かけましたが、
基本的に全員静かにやり過ごしました」
その中につい先程、とんでもないスピードで駆けてゆく顔見知りがいた、とか、
その知り合いをとんでもない形相で追いかけていく、これまた知り合いがいた、とか、
こちらに気付いている風に見えたのに、何故か行ってしまった大きなリボンをつけた少女がいた、
などなどのことは、特に話さなかった。
とある、森の中―――
「貴女の、そういうところっ、好きでしてよっ」
「! その子供、こちらによこしなさいっ!!!!」
「あははー。無理をしてもしょうがないですからねー。狙うべき獲物を狙う。これが一番無駄の無い方法です♥」
強烈なチェイスを見上げた少女が呟いていた。
「ふーむ、とりあえずどうしよか。うちはあほちんを見つけなあかんし……うちはうち、あんたはあんたで…」
「いや、食事をおごっていただいた礼があります。せめて、その娘さんが見つかるまではお供させていただきたい」
晴子の言葉を遮り、深々と頭をさげるベナウィ。そんな彼をからかうように晴子は笑いながら言った。
「律儀なやっちゃな〜、ま、そーゆー事ならびしびし、こき使うで〜〜」
「ふふ、お手柔らかに」
ベナウィの顔に微笑が浮かんだのを、彼女は見逃さなかった。
「ほんなら、早速行こか。あの娘、海が好きやから海岸のほうにいてるかも知れへん」
「わかりました、では、シシェに」
一言、名を発しただけですっと近付き傅くシシェ。
「おお、シシェってこいつの名前なん? 賢い…恐竜? やねえ」
「キョーリューですか? 一応ウォプタルという種類なのですが」
名前を訂正しつつも、顔をほころばせるベナウィ。愛獣へのほめ言葉が嬉しいらしい。
「ははっそか。うちの子、こいつ見たら喜ぶかもな〜、恐竜とか怪獣とか好きなんよ、あの娘。
…………昔な…………ま、ええか。気にせんとき」
「そう、ですか…」
まだ、どう見ても若い晴子という女性。だが話を聞くかぎり、
その娘のミスズはエルルゥ等と同じ位の年かさのようだ。
(理由あり、なのでしょうね)
「って、兄ちゃんは乗らへんの? 一緒に乗ったらええやないの。うちはそんなコト気にせえへんで」
先程と同じく、シシェの口を取って歩き出そうとするベナウィ。
「いいえ、そういうわけでは無くて、長時間2人も乗せていたら、シシェが機嫌を悪くするので」
「そんならうちが降りるわ。兄ちゃんが乗りや」
晴子が抗議した、 その時。
「いいえ……わたしは… ッ 行きなさいっシシェッ!!!」
「な、なんや!?」
急に叫んだベナウィに驚く暇も無く、彼女の下の動物が駆ける。
「うあわ」
晴子が何とか体勢を整え、獣の首にしがみついたその瞬間。
ビチャアッ
シシェが過ぎ去った跡に何か粘液製の物体が通り過ぎ、樹の幹に拡散した。
そこに1人の妙な耳をした青年が転がり込んだ。
「ぜいっ、ぜいっ、くそっ」
息を荒くつく青年。ベナウィも知っている顔だったが、かなり疲労しているようで、
普段の佇まいならよく『視』えた彼の姉に似た力強さは、今まるで感じられない。
そしてその後方、
「ちっ、女を先に逃がしたのかよ…まあいい、そいつのついでだ。おめえも捕まえてやるよ」
液体が飛んできた所から白髪の男が顔を現した。
その瞬間、
「出来るものならやってみなさいっ」
ベナウィは手にもった得物を構え、異常なまでの速度で突き進んでいた。
「や、槍かよ!? ハ、てめえがやる気ってんなら思いっきり相手になるぜえ」
殺し合いが出来る。そう感じた男の目が輝く。
得意なのは銃の扱いだが、この相手に速度の遅いとりもち銃は使えない。
そう判断した御堂は銃を捨て、素手で構える。
(肉を切らせてでも、一度受け止めちめえばこっちのもんだ)
とにかくどのような形でもいいから槍を止め、内側に踏み込み抜き手で貫く。
戦時中に会得した、特別な自分達のための、特殊な格闘術。
「来やがれっ」
せまりくるベナウィ。
御堂は強烈な回転で回る槍のタイミングを見計らい、受け止めっッ
ザシッッ ビイイィィィィン ダッ ダダッ
られなかった。
受け止めるはずの槍は数メートル先に突き込まれ、抜き手を食らわすはずの相手は
その反動で空高く舞い上がり、樹木を蹴って遥か後方へ。
さらには槍を手放さず、上空で枝に引っ掛けて距離を稼ぐオマケつき。
そして、
「シシェッ」
何時の間にか主のために回りこんでいた獣の脇に着地したかと思うと、
「な、なんだあ?」
困惑する御堂を尻目に飛び乗るが早いか、一気に姿を消してしまった。
ドドドドドドドドドドドドドド
ベナウィに抱きしめられ、落ちる心配がなくなったとは言え、
あまりの急で色々な出来事に困惑する晴子。
「な、なんやすっごいな」
「喋ると舌、かみますよっ……シシェ、無理をさせますが、少しだけ頑張ってくださいっ」
【ベナウィ、晴子 偶然かち合った御堂をやり過ごす&海へ】
【シシェ 長くは2人乗せたままに出来ない】
御堂はとりもち銃を拾いながらそっと呟いた。
「ちっ、俺としたことがな……」
こそこそ…
「二兎追うものは、一兎も得ず…か……」
こそこそ……
「なんーて、……言うとでも思ったかよっ! 最悪てめえだけは逃がさねえっ!!」
「くそっ」
騒ぎを良いことに逃げようとしていたデリホウライ。
血気盛んな事で知られるギリヤギナ族の頭首、
そしてカルラゥアツゥレイの若き皇としては情けないかぎりである。
いま、親友としのぎを削っているであろう姉が見たらどう思うであろうか?
何故であろう? デリホウライの脳裏に自分が回転して跳んでゆく姿が浮かんだ。
「待ちやがれっ!!」
チェイス再開。
なんか、もー決着は近い気もするが。
【御堂、デリホウライ 鬼ごっこ、リ・スタート】
なんか、長いです。ごめんなさい。
って、290-291切るとこ間違ったヨ(;´Д⊂
遅れてたグループ達も動きだしたし、新たな絡みにも期待(・∀・)
浜辺ぞいにの人の背ぐらいのちょっとした高台の上、そこには防砂林が作られており、
その中に今二人の男が身を隠していた。
「さて、次のアジトはどこにしたものかな?」
「そうだナァ、やはり町の中のほうがイイと思うヨ」
いとっぷの襲来によって貴之とアジトを失った敬介とエディは鬼から身を隠しつつ、
新たなアジトを求めさまよっていた。
「日が暮れるマエに決めたいネ……」
そういって、エディは防砂林越しに海のほうへ目を向け、動きを止めた。
「そうだね。ろくな照明も持ってないし……エディ君?」
エディの様子にいぶかる敬介。
「て、天女がいるヨ……」
「天女?」
エディの視線を追い、浜辺のほうへ目を向ける。そして、息を呑んだ。
いましも沈もうとする夕日に照らされ、朱色に輝く海。海の青と陽の朱。二つの反する色が交じり合い、波に乗せて溶け合う。
その水と光のコントラストの中で、一人の少女と一人の淑女が波と戯れていた。
少女のほうはまだ育ちきらぬ無垢な体を薄絹一枚にのみ隠させ、しげに水を撥ねさせていた。
瑞々しい素肌が水に透け、まぶしく輝く。
淑女のほうも薄手のシャツのみを身にまとい、少女とともに水と踊っていた。
まるで愛娘を見る聖女のような眼差しを裏切るかのように、夕日はそのその豊満な体を艶やかに照らし陰影を作る。
そう、その光景は。
「炉、ロリっ子キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!!」
「ナ、ナイスバディキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!!」
俗な表現をすれば、そんな感じだった。
「フゥ、ずいぶん遊んでしまったのう」
「フフ、そうですね」
柳也達との一戦の後、神奈と葉子は屋台で軽い食事を取り、神奈の強い希望にしたがって浜辺に出ていた。
『こ、これが海か!』
海を見た神奈のはしゃぎようはすごかった。
『大きいのう……信じられぬ』
『そうですね……どうですか、神奈さん。少し遊んでいきませんか』
葉子のほうも声が弾んでいた。海で泳いだ経験など今までほとんどなかったからだ。
『うむ。いい考えじゃ。許してつかわす』
……そうして、二人はしばし鬼ごっこのことを忘れ、波遊びに興じていたのだ。
「服を乾かす時間を考えると、そろそろあがったほうがいいでしょう」
水着などを持参していなかった彼女達は、薄い服一枚で遊んでいた。
本格的に泳いだりはしなかったのだが、それでもずいぶんぬれてしまっていた。
(しかしはしゃいでいたとはいえ、少しはしたない格好をしてしまったかもしれません)
ちょっと赤面して葉子はそう思う。
「そうじゃの、しかし……」
神奈はほう、とため息をついて夕日を見やる。
「綺麗じゃのう……これがさんせっとびーちというものなのか?」
「そうですね……!!」
葉子は一瞬息を呑む。浜辺の向こう。防砂林のほうから気配がしたのだ。
(ほんとにはしゃぎすぎでしたね、今まで気づかないとはうかつでした)
「?どうしたのじゃ、葉子殿」
葉子は気配のするほうに顔を向けたくなるのを我慢して、神奈を抱き寄せた。
「お、おい抱き合ってるゾ!」」
「み、観鈴、お、お父さんは……(;´Д`)ハァハァ……」
(二人ですか。両方とも逃げ手のようですね)
葉子は彼らと目を合わさないように、視界の端で相手を確認した。
神奈の髪越しに見ているため、相手にこちらの視線が悟られることはないだろう。
(この距離とあの高台では一息に、というのは難しそうですね。防砂林の奥まで逃げ込まれたらやっかいです)
「ど、どうしたのだ葉子殿」
慌てる神奈の耳元に、葉子がささやく。
「逃げ手が二人潜んでいます」
「ま、真か!?」
思わず振り返ろうとする神奈。だが葉子はそれを防ぐために、神奈の頭を自分の胸に押し付ける。
「振り返らないように。気取られると機を失います」
「むぅ……」
素直にうなずく。しかし……
(よ、葉子殿、お胸が大きいのじゃ……)
顔が真っ赤になる神奈。しかもこの淫靡な様子は第三者の目にさらされているわけで……
(こ、これはひょっとして視姦ぷれい、というものなのか!?)
だが、葉子はその様子に気づくことなくさらに神奈に耳打ちした。
「確実にしとめるために策を設けようと思います」
「す、すごいゾ、これは。ついにやってしまうノ?18禁……(;´Д`)ハァハァ」
「み、観鈴。こんなお父さんを許してくれ…(;´Д`)ハァハァ」
知らず知らずのうちに前に出ていた二人は、もはや林からほとんどその姿を見せていた。
もはや二人の興奮状態はMAX。だが……
「そこの二人ィ!!」
そんな二人に、葉子の怒声が切り裂いた。
と、同時に海面が不可視の力によって爆発する。
「「……!!」」
突然の出来事に身をすくませる二人。そこに、凍て付くような葉子の声がひびく。
「のぞきとはいいご趣味ですね……許しがたいです」
すさまじい殺気が叩きつけられる。
「つかまった場合、ただで済むとは思わないでください」
息を呑むエディと敬介。慌てて後ろの林に逃げようとするが……
「ですが」葉子は声を和らげた。
「この格好で追いかけるというのも、少し……ですので」
少し顔を赤らめて、上着を拾い上げ、胸元にたくし上げる。
「一人だけは逃がして差し上げましょう。どちらが助かるのかそちらで相談して決めてください」
「「う……」」
顔を見合わせる。
「ケ、ケースケ!!犠牲になってくれヨ!!」
「わ、私には娘がいるんだぞ!!君こそ犠牲になれ!」
「こ、こういうときは大人のヨユーを見せるトキだヨ!」
「き、君こそ年上を立てろ!!」
しばしいがみ合う二人。
「じゃ、じゃんけんで決めよう!」
少しは建設的な案が出たのは、かなり立ってからだった。
「最初はグーヨ!!」
「分かってる、最初はグー!」
二人が出したのは、パーだった。
しばし動きを止めた後、二人は互いを責めようとした、その瞬間。
「たっち、なのじゃ♪」
背後から神奈の手がエディの肩にポンッと触れる。
「エ……」
先ほどの爆発に隠れて、神奈が空に飛び背後に回った、その事実を二人が認識するよりも早く、
「タッチ、ですね♪」
いつの間にか間合いをつめていた葉子の手が敬介に触れていた。
「結局ですね、最も助かる可能性の高い行動は、二手に分かれて一目散に逃げる。これでした」
「ほう…」
「だから私は、そうならないように彼らに別の逃げ道を提供しました。偽りのね」
相談などしても、両者の利害がかみ合わない以上、結論などでるはずがないのだ。
「策士じゃのう……葉子殿は」
感心する神奈に、葉子は少し微笑むと答えた。
「柳也さんや裏葉さんにはまだまだ及びませんよ」
「うむ。奴らは余の随身だからな」
夕日に照らされて笑いあう二人の女性の下に倒れているのは
適度にボコボコにされた男二人。
まあ、それなりにいいものも見れたので、彼らも一概に不幸だとはいえないだろう。
【神奈 エディゲット 通算2ポイント】
【鹿沼葉子 橘敬介ゲット 通算1ポイント】
【エディ、敬介 鬼化】
「フム、ついていたな。こんなところで屋台を発見できるとは」
「……はい、ただ……お米券が使えないのは、残念です……」
「ん、ハンバーグもう一個お願い」
ここはルミラ・アレイの壱号屋台。ちょうど彼女らが森の外れを通りかかったところで、ハクオロ一行(オロ・なぎー・みちる)に声をかけられた。
「はいはい、お金のあるお客様は神様だからね。ちょっと待っててお嬢ちゃん」
慣れた手つきで注文の品を作っていく。一方、アレイも酒を出したり洗い物をしたりと結構忙しい。
「それにしても……」
おでんをつまみに、清酒を啜っていたハクオロがおもむろに切り出す。
「今夜ももう遅い。これ以上は進まないほうがいいだろう……今夜はどうするか」
「………そうですね……。やっぱり野宿……になっちゃうのではないでしょうか」
「のじゅくかー」
だが、ハクオロの表情は暗い。
「いや……やめておこう。これ以上、お前たちの体に負担をかけるわけにはいかない」
「……なぜですか?」
「いくらお前たちの体が丈夫だとはいえ、女子をそうそう野宿などさせるわけにはいかない。気は大丈夫でも、体は知らないうちに疲労しているものだ」
「みちるはへいきだぞ?」
ハクオロはぐびっと一口飲み込みながら。
「ああ、そうだ。それでいいんだ。その『平気』な状態をいかに維持するか、が大切なんだ。体に不調を感じてからでは遅いんだ」
「……なるほど」
妙に大仰な仕草で納得する美凪。
と、その時、
「お酒と肴をくださいな。ご飯はステーキを。5ポンドお願いしますわ。あと白米も特盛で。そうそうサラダもお願いしますわね」
「はいはい、いらっしゃい。ステーキね。焼き具合は?」
「レアで」
ハクオロの隣に、2人の人影がドカッと座り込んだ。
「こんばんはあるじ様」
「ああカルラか」
一瞬だけ振り返り、その後は引き続き美凪たちとの話を続けるハクオロ。
「はいお待たせ」
程なくして、肉汁ほとばしる巨大なステーキがカルラの目の前に置かれた。
「それではいただきましょうかさいか。なんとお優しいことにお代はこちらのハクオロ様もちですのよ。さ、お礼を」
「うん。はくおろさん、ありがとうございます」
深々とお辞儀するさいか。
「ああ、気にするな気にするな」
しかしハクオロは美凪と話し込んだまま、軽く手を振るだけでそれに答えた。
「ふう、ごちそうさまでした」
「ごちそーさまでしたっ」
……巨大な肉の塊。ほんの十数分で、カルラとさいかはそれを胃の中に収めてしまった(当然ほとんどカルラが喰ったわけだが)
「ありがとうございましたあるじ様。それでは、私たちはこれからゲームに戻りますので」
「ありがとっ。はくおろのおじさん」
「そうかそうか、頑張れよ」
けれどやっぱりハクオロは美凪との話に夢中で、そっち側は上の空。
「ありがとうございました。お代は……」
伝票を差し出そうとするアレイ。が、カルラは受け取らずに
「こちらの方にお願いしますわ。では、私はこれで失礼。なかなか美味でしたわよ」
平然とハクオロに押し付ける。
「ばいば〜い」
さいかと2人で手をふりふり、屋台を後にした。
「……さてそれでは、そろそろお暇することとするか」
しばらくして、腹の膨れたハクオロがおあいそを済ませようとする。
「店主、いくらだ?」
「3万5千円になります」
「ブッ!?」
【カルラ&さいか 夕飯ゲット。お代はハクオロ持ち】
【ハクオロ たかられる】
【時間 2日目夜。けっこう遅め】
神奈の通算ポイントは1ですね。
祐一を捕まえたものと誤解してました。
申し訳ない。
「――我々岡田軍団は今、団長が罠に引っ掛かりまくるという悲劇、団長が一人SMに耽るという奇行、そして
ぱんつ丸見えという数々の大事件を乗り越え、この罠に満ちた街からの脱出を図ろうとしているのであった…!」
「…黙れよ天然女。あんたもパンツ見せてサービスしなさいっ…!」
「やぁ〜んっ、ダメェっ〜。私今、穿いてないんだもん」
「………………まぢ?」
「―― う・そ・♪」
「何やってるよ二人とも〜。あんまり騒ぐと鬼に気付かれるわよっ…?」
三人娘の中で一番の良識家と言われている吉井が、やれやれとばかりに溜息混じりで諌めた。
「…そーね。食べ物も充分確保出来たし、今は街からの脱出が最優先事項だわ」
松本の首を絞めていた手を放し、岡田は額に掛かった髪をピッと掻き払い、鋭く目を光らせた。
「――さて、佐藤君。状況は…」
「佐藤君、どお? 鬼さんいるー?」
復活した松本が、建物の影から周囲を窺っている雅史にさりげなく身を寄せていた。尻尾があったなら、
機嫌好さげにフリフリと揺れていただろう。
「……この色ボケ女が…!(怒)」
「落ち着け岡田。いーから落ち着け」
松本に飛び掛かろうとしている岡田を、吉井が必死に引き止める。
――そんな三人娘のやり取りとは裏腹に、雅史は至って冷静であった。
「しー。静かに。ほら……あそこに鬼がいる」
雅史のその言葉に、ピタリと息を殺す三人娘。――そして、雅史と同じ様に、建物の影から目を覗かせた。
街をうろつくのは、鬼であるヌワンギであった。
「チッ…! まぁ、逃がしちまったのなら仕方ねえ。次の獲物を探すか……もっと狩り易そうなのをよ」
――近くに同じ鬼役らしい男が引っ繰り返っており、「どうすればいいんだ…」などと呟いていたが、これは無視。
耕一達を逃してしまった不機嫌さを露骨に顔へ表しつつ、プラプラと歩いてゆく。
…三人娘と雅史が隠れている方へと――
鬼役の、目付きの悪い青年がこちらへ近付いて来る。
「…やだ、どうしよう。こっちへ来るよ…!?」
「こっちに気付いたって訳じゃなさそうね」
「でもっ…、向こう側に行かないと街から出られないんでしょ?」
「…………皆、このままじっとしてて」
静かな声で、雅史。
「――彼がここを通り過ぎるまで、隠れているんだ」
「えっ…? で、でも――」
「通り過ぎたら、向こうへダッシュ。僕が最後に出て、追って来る鬼をなんとかしてみる。――OK?」
鬼――ヌワンギは、こちらに全く気付いていないが、足取りからして傍を通るのは確実だろう。こちらの
逃げるルートは、自分達が歩いて来た方へ戻る…つまり、今鬼が歩いてゆく方向か、鬼の向こう側へと伸びる
方向の、二つしか無い。歩いて来た方向に今戻れば、すぐに鬼に気付かれるし、戻っても街中は罠だらけだ。
ここは一つ、死中に活路を――賭けてみるしかない。
「…OK」
岡田が同意を示し、他の二人も頷いた。そして、ぴったりと身を寄せ合い、影の中に身を潜める…
「………フン。誰もいやしねぇ。追うのはやめて、とりあえず食い物でも――」
背後で足音…!――反射的に振り向いたヌワンギの目に、歩いて来た方向からは死角になっていた所から
飛び出して走り去る、複数の後姿が映った。
「三人!? ――四人か!」
女が三人。殿に男が一人。――目をギラリと輝かせると同時に、全力ダッシュで後を追う。
「逃がすかよ! 四人まとめて戴きだぜっ!!」
「わわわわっ! 追って来たぁ〜っ!!」
「ったりまえでしょ!? 後ろ見るなダッシュダッシュぅぅう!!」
先頭は吉井に岡田。続いて松本。最後尾は雅史である。その後ろから、ヌワンギが猛然と追いかけて来る。
エルクゥ相手ではどうしようもないが、只の人間相手なら話は別だ。先程獲物を取り逃した鬱憤もあって、
ヌワンギの駆ける脚は早かった。
だが――
――雅史が、持っていたサッカーボールを放り、ドリブルダッシュをし始める。
その所為で彼のスピードが若干落ちた。
「遊んでる場合かぁ!? バカか手前ぇは!!」
背中に嘲弄をぶつけられた雅史は、フ…と、不敵に笑った。普段の雅史では、ない。試合中、フィールドを
駆ける時の表情と似ている。
ポンッ――と、サッカーボールがドリブルから宙へと舞い上がる。そのボールを絶妙なタイミングで、雅史が
蹴った――真後ろへ。走り来るヌワンギに向けて。
「――!?」
ボールは、ヌワンギにそのまま直撃する事はなかった。彼の進路上の路面へ命中―― 一瞬だけその場でスピンし、
その半瞬後、バウンドしたボールは砲弾の様に一直線に飛び、ヌワンギの顔を掠めた。
「うのわっ!!?」
そのまま走り続けていても、ボールが顔面に当たる事はなかった。ちょっと驚かす位の、びっくりアタック。
だが、ヌワンギは大げさに体を動かして避けてしまった。――全力疾走中に。
「っっっでああああああああああああああああっっ!!!」
見事にバランスを崩したヌワンギは、路面を派手にゴロゴロと転がった。そして――ごぃィィィンっ…!
「――怨まないでね」
申し訳なさそうにそう言った雅史の声は、街頭に頭を見事にぶつけてノびたヌワンギの耳に、届く事は無かった。
…未だに倒れたままだったビルの傍を、岡田と吉井が駆け抜けてゆく。起き上がってタッチする間も無い。
「あ〜っ、どいてどいてぇ〜っ!」
呆然と少女二人を見送ったビルに、松本が突っ込んで来る。
ぶつかる!…というか、踏まれる!――と、ビルが思った時、
「じゃんぷ!」
ぴょいーんっ…とばかりに、松本が倒れているビルを飛び越した。
――着地後、数歩走った所で、松本が頬をほんのりと染め、スカートを押さえながらビルに振り向いた。
「………見えた?」
「…………ら、ライトグリーン…」
年甲斐も無く、ちょっぴり赤くなりながら、ビルは応える。
「……おじさんの、えっち…!」
ぷぅっと赤くなった頬を膨らませてそう言うと、松本は再び走り出し、遠ざかって行く…
またもや呆然とするビルの傍を、雅史が風の様に駆け抜けて行った。
「…まだ一人も捕まえていないのに、あんな眼福――いやいや…。………どうすればいいんだ」
【岡田・吉井・松本 雅史 市街地を脱出】
【行く先は不明】
【ヌワンギ 岡田軍団を発見するものの、捕獲失敗。街頭に頭をぶつけてノびる】
【ビル 松本のパンチラ目撃(眼福)】
【二日目の夕方・遅め】
308 :
HARD:03/04/01 21:02 ID:G7bY5IlP
「出てきたらどうだ?」
夕霧は傍らで急速に雰囲気を変えたダリエリに驚いた。
そこに先程までのルンルン気分は微塵もない。
「なるほど、たいしたものね」
音すら立てずに現れる、鬼の襷をかけた一人の女性。
夕霧はその女性を知っていた。
「先生?」
「あら夕霧ちゃんだったの?」
女性…石原麗子は夕霧のほうを見てかすかに微笑む。
しかし、夕霧は笑えなかった。
麗子とダリエリの間に、痺れるような空気が流れているからだ。
正確にはダリエリが常人には耐え切れないほどの殺気を麗子にぶつけ、麗子がそれを受け流しているのだが、戦いに関して素人の夕霧にはそんな事はわからない。
夕霧に解ったのは二人の内に在る圧倒的な存在感、それだけだ。
ダリエリは目の前の女を恐るべきとした。
実のところ、女から感じ取れる力はたいしたものではない。
しかしそれでもダリエリは、麗子を恐るべきとした。
この島では二人目の、自分に匹敵する相手として認めたのである。
……く! この相手では夕霧嬢を守りきれんかもしれん!
見捨てるのは論外。
かといって夕霧を守りながら逃げ切れるとは思えない。
しかし、そんなダリエリの考えを読んだかのように麗子は言った。
「ああ、大丈夫よ。私の標的は夕霧ちゃんじゃないわ」
その瞬間、世界は白に染まった。
この世に存在するありったけの白をかき集め、
何か特別な機械を用いて限界まで圧縮したような、
そんな白。
「……っ、眩しい」
腕で目を覆う。
瞼だけではとても耐えられない白だった。
何分ほどそうしていただろう。
その白が徐々に薄くなってゆくのを感じた。
もう腕で覆わなくても平気だ。
注意深くまばたきを試み、段階的に両の目を慣らしてゆく。
「……」
輪郭を獲得した世界。
一度も見た事が無いのに、なぜか知っている。
とても不思議な場所だった。
河原だった。
足元の砂利。ゆったり流れる水。それに対岸。
対岸があるということは、
つまり、
河川が存在しているということだ。
考えれば考えるほど気になって仕方が無くなったので、
そちらに行ってみることにした。
一歩二歩と踏み出して、初めて自分が裸足だと言うことに気付く。
なぜか痛みは伝わってこなかった。
暖かい川だ。
体温と同じくらいの熱を持った川で、水に入っている感触が全くしない。
もちろん足の裏にも感触は無い。
深さはちょうど足首くらいだ。
川底の石はまったくと言っていいほど摩擦力を維持しており、
コケの一つも身に纏ってない。
その事が妙に印象に残った。
足元の心配が無くなったので普通に歩いても大丈夫だ。
今度は対岸を目指すことにした。
「…………と…」
岸まであと少しというところ、不意に後ろから声が聞こえた。
「…か………と……」
「?」
振り向く。
誰も居ない。
俺は向こう岸に用があるんだ。
邪魔しないでくれ。
「……き………も…と」
また振り向く。
誰も居ない。やっぱり幻聴だ。
くそっ。俺はどうかしてしまったのか!?
「…きも……と」
次第に声は輪郭を帯びてきた。
「…きも…とか」
発生場所も段々近づいている。
「きもと」
立ち止まった。
いや、近づいてくる。
声の主は実体が無く、
自分の周りをぐるぐる回っているらしい。
「きもとかきもとかきもとかきもとかきもとかきもとかきもとか」
やがて、それが一つに収束する。
「―――垣本。起きろ」
がばっ!
「はぁっ、はぁっ…………」
辺りを見回す。――俺一人みたいだった。
「……なんだったんだ、今の夢は」
【垣本 起床】
【声の主は不明だが、情報筋によれば『参加出来なかった脇役の魂』らしい。詳細は不明】
【時間→2日目夕方】
313 :
HARD:03/04/01 21:04 ID:G7bY5IlP
麗子は楽しんでいた。
エルクゥが相手だとは知っていたが、相手は予想以上の大物だ。
ひょっとすれば自分でも取り逃がすかもしれない。
……この殺気、フフ、本気になればどれ程のものやら。
しかし、ハンデがあるのはつまらない。
「あなたが私から逃げ切れば、夕霧ちゃんには手を出さないわよ?」
ダリエリに向けての提案。
夕霧から離れることを意味するそれにやや躊躇したダリエリだったが、最終的にはそれしかないと判断したようだ。
「夕霧嬢… すまんな。 眼鏡探しを手伝えなくなった」
「いえ、仕方ありません。頑張って下さい」
「眼鏡ならあるわよ」
夕霧は麗子が持っていた眼鏡をかけ、ダリエリと麗子に眼を向ける。
なぜかピッタリと度があっていた。
「さてそれじゃあ行きましょうか?」
「ああ…」
その次の瞬間、夕霧の前で地を蹴る二人。
ビュンという風を切る音とともに、
「あれ? この眼鏡おかしいのかな?」
夕霧にとっては、消えたとしか思えないほどのスピードで。
【ダリエリ 麗子との鬼ごっこ開始 仮面かぶってる】
【麗子 ダリエリとの鬼ごっこ開始】
【夕霧 眼鏡取得】
暗い夜道を、2つ影が走る。
「参ったぁっ…俺は参ったぁ…ぜぇぜぇ」
かたっぽは高槻。昼間から叫びながら走り続けて酸欠寸前だ。
「待てぇっ! …ぜぇぜぇ」
もう片方は柳川。昼間から首を絞められながら走り続けて酸欠寸前だ。
相変わらず繭の存在に気づいていないらしい。
「くー」
疲れてしまったのか、繭は柳川の肩の上で眠っている。
「ん……?」
聞き覚えのある…もとい、聞き飽きた叫び声を耳にし、巳間良祐は目を覚ました。
「…はっ! 何故俺はこんなところでたれているのだっ!?」
まだ睡眠薬の効果が残っているのか。意味不明な目覚めのセリフを吐きつつ、
「まいったぁっ…」
「……高槻…?」
なんとか状況確認。
見れば遠くから白衣が近寄ってくる。スピードは出ていないが、走っているらしい。
「まてぇっ…」
その向こうにも薄っすらと人影が見える。追いかけっこの真っ最中だ。
(…なるほど)
良祐はもそもそと起き上がり、
「どうすりゃいいんだ、おれ、はぁっ…ぜぇぜぇ」
草陰に隠れ、
「こうやって猿のように足を動かすしか…はぁはぁ」
すれ違いざまに、
「ない、だろ、う、」
「必殺! 死角から足払いっ!」
「どわあぁぁぁっ!」
ずざぁぁぁぁぁぁぁっ!
「ほら、襷だ」
「参ったぁ…(がくっ)」
高槻を取り押さえた。
「はぁ…はぁ…犯人逮捕に協力していただき、ありがとうございます」
良祐に取り押さえられた高槻を見て、性格を狩猟者モードから一般警官モードに切り替えた柳川が敬礼した。
「逮捕? 鬼ごっこじゃなんですか?」
「そのつもりでしたがね。たまたま犯罪者を見つけたもので」
(ギクッ…)
程度の差こそあれ、高槻と良祐は同じFARGO出身の犯罪者だ。
もし彼が高槻のFARGO時代の罪を知り、逮捕したとすれば…良祐も捕まる可能性がある。
「それで、この男は何を…」
とりあえず他人を装うことにした。
「ょぅι゛ょ誘拐の現行犯です」
「は?」
「この男は、見ず知らずのょぅι゛ょを未成年と知りながら連れ回していました」
「は、はぁ…」
とりあえずFARGO関連ではないらしい。少し安心。
「…ところで、刑事さん」
「何か」
「僕には、貴方がょぅι゛ょを連れ回しているように見えるのですが」
「…?」
「ほら、肩車をしてる…失礼ですが、貴方の娘には見えませんし」
「肩車?」
柳川は不思議そうに肩に手をやり…何かぷにゅっと触れた。繭のふとももだ。
「みゅ?」
その拍子に繭が目を覚ます。
「みゅ…みゅ?」
寝惚けているのか。ぐらりと、体が右に傾いた。
「何だ!?」
「みゅーっ!」
体の傾きを察知し、バランスを立て直そうと慌てて左へ。
「な、何が起こって…」
「みゅーっ!!」
今度は反動をつけ過ぎた。本能的に手で柳川の頭を掴み、がっしりと足を組んだまま、左へ倒れこむ――
「や、やばいっ!」
良祐が止めに入った時にはもう遅い。
――ごきっ。
物凄く嫌な音がした。
ここが東京ドーム地下闘技場なら
『天蓮華ーーッ!』
と実況が入っているところだ。
まぁ、肩車の状態から全体重をかけて相手の首の骨を曲げ折る技だと考えてよろしい。
「………痛い…」
「よく生きてるな…」
「みゅ」
鬼の力のためか、繭の体重が軽かったためか。柳川の受けたダメージはたいしたものではない。
首を擦っているところを見ると、さすがに無傷というわけにはいかなかったようだが。
「しかし、ずっと肩車していたとは…お嬢ちゃん、肩車をしてもらうときには許可を取らないと駄目だよ」
「ふいふい」
(気付いてなかったのか…)
「まあ、たいした怪我じゃなかったからいい。それよりさっさと高槻に手錠をかけて、鬼ごっこを再開しよ――」
首をコキコキと鳴らしつつ、柳川が高槻に近づこうとして…
「「あ」」
良祐は鬼の襷をかけている。
柳川はかけていない。まぁ鬼っちゃ鬼だが。
「――貴様、鬼だったのか!」
「あんたこそ参加者だったのか…。悪いが、タッチさせてもらうぞ!」
「くそっ…まだ俺は捕まるわけにはいかんっ…!」
柳川は慌てて回れ右し、元来た道をダッシュする。
「折角手に入れたチャンス――逃すかっ!」
良祐も後に続く。
「……みゅ〜?」
繭はきょとんとしている。
「まいったぁっ…」
高槻は……疲れきっているようだ。まだ立ち上がれない。
走り去った2人。忘れ去られた2人。
繭は襷をかけてないから良祐に狙われて当然なのだが…女ということで避けられたのか。
高槻も、柳川が鬼ごっこの話をしていなければ今頃手元にモザイクがかかっているところだ。
「…みゅ? おじさん?」
やることが無くなった繭は、疲労で動けない高槻のところへ行く。
「おじさん、起きて起きて」
ゆさゆさ。
日曜の朝、眠っている父親に遊びに連れて行けとねだる子供のように、高槻をゆさゆさと揺らす。
「うぅ…俺は参ったぁっ…」
「みゅーっ…」
起きる気配、なし。パパは疲れてるんだよ。日曜日くらい休ませてあげなさい。
「みゅーっ…」
ゆさゆさ。
ゆさゆさ。
ゆ…。
「みゅ?」
高槻にかけられている襷に気付いたらしい。
「………」
繭はしばし考えた後、
「みゅー。おじさんと、一緒」
ルールがわかっているのかわかっていないのか。自分にも襷をかけた。
【良祐 起床。高槻にタッチし、柳川を追う】
【柳川 負傷。良祐に追われる。職務放棄】
【高槻 鬼になる。繭にタッチ。疲労困憊】
【繭 また高槻と2人きり。鬼になる】
【深夜】
げ。
よく見たら割り込んでしまってるじゃないですか。
>>313さん申し訳ないっす。
いえいえ。
いー感じに割り込んで素敵ですw
321 :
宵闇の駅:03/04/01 22:17 ID:cfdmYEeF
「……駅?」
「見た感じは、そうだね」
目の前に、でん――と置かれた様な、横長の建物。夕陽の沈み行く中、その姿を静かに浮かび上がらせていた。
…暫く前に、ここを含めた付近一帯で、ハクオロ一行とそれを追う“畏るべきもの”エルルゥとの追跡劇が行われた
事など、あかりとシュンは知る由も無い。
「入ってみる?」
「うーん……。…うん、いいよ。暗くなってきたしね」
シュンに頷くあかり。…あかりの背には、くまのぬいぐるみ型のナップザックが背負われていた。先刻立ち寄った
屋台で売られているのを見て、“くま星人(笑)”あかりは、一瞬の躊躇いも無く買ったのである。結局は只の
ナップザックなので、たいした値段ではなかったが。
…駅の中は、無人だった。トイレや事務所らしき部屋があったが、誰もいない。トイレの電灯が点いている所から、
電気は通わされている様だが。
「…電車を走らせるつもりなのかな?」
「んー……いや、それにしては送電線が無いね。人力で動かすトロッコみたいな物とか、エンジン付きの物が
走るんじゃないかな…? ――…どこに続いてるんだろう、この線路」
「うん…。――線路伝いに歩いてみるのも悪くないかも」
プラットホームの上から、島の何処かへと伸び行く線路を眺め、二人はどこかしんみりとした声を交し合う。
何処かへと伸び行く線路には、人に郷愁めいた心情を抱かせる様な何かがあるのかも知れない。
ベンチに座り、あかりはナップザックからペットボトルの飲み物を取り出し、シュンにも渡した。
「今日はここで泊まりかなぁ…?」
「疲れた、神岸さん?」
「…うん、ちょっぴり。でも、まだ大丈夫だよ、私は…」
むしろ、シュンの体を慮ったのだが、当のシュンは別段疲れた様子も無く、あかりに悪戯っぽく笑い掛けて来る。
「浩之君に早く会いたいね。会ったら初めに、どうする? 抱き合ってキスかな?」
「も、もおっ、からかわないで、氷上君っ…」
「フフッ。神岸さん、すぐに赤くなったりするから見ていて楽しいんだよ。
浩之君の話をしている時の顔も、凄く素敵だしね」
そう言って微笑むシュンの表情には、邪気が無い。本当にそう思っているのだろう。
322 :
宵闇の駅:03/04/01 22:18 ID:cfdmYEeF
「――早く会えるといいね。願わくば、どちらかが鬼になる前に」
「うん……。…他にも、志保とか、雅史ちゃん…お母さんに、マルチちゃん……皆、大丈夫かなぁ」
「…心配?」
「……うん。特に志保。結構無茶な事するから…」
「若い頃は、多少無茶な方が丁度良いんだよ」
しみじみ語るかの様にして応える、シュン。――同年のはずだが、しばしばあかりは、彼は実はずっと年上の人間
なのではと思ってしまう時がある。年寄りじみているという物ではなく、妙に達観しているというか…
…やはり、病気の所為……なのだろうか。
「……ね、氷上君。最後まで逃げ切って優勝したら、どうする?」
「? どうするって?」
きょとんと見つめ返して来るシュンに、あかりも小首を傾げる。
「だ、だから…優勝したら……賞品か賞金か、解らないけど――そうだ、もし、何か一つだけ好きな願い事が叶え
られるっていうのだったら、何をお願いする?」
「………もし――か。もし……ね」
その言葉は、シュンにとっては重い意味を含んでいた。“もし、〜だったら…”――
「…今は解らない。その時になってみないと。大体、優勝出来るかどうかも解らないし」
だが、シュンは心奥の翳りを一切表に浮かべる事無く、また微笑みながら、のらりくらりとはぐらかした。
「そういう神岸さんは? 優勝するつもり?」
「うっ…、うーーー〜……で、出来れば、優勝したいよ。勿論…」
「ほう。――では、自信の程は?」
「……………ある」
「ほお…! 豪気だね」
「――なーんちゃって♪」
あのポーズを取る、あかり。――それを見たシュンが、数瞬呆気に取られ、そして吹き出して笑った。
323 :
宵闇の駅:03/04/01 22:21 ID:cfdmYEeF
「っ…きっ、君がっ、そういう事っ、するなんてっ………ふっ、ふふっ…………………意外…だなっ…」
笑い混じりで途切れながらに言って、また笑う。妙にハマったらしい。――あかりは、ウケたので嬉しかったりしたのだが、
同時に彼の心臓に負担を掛けてしまったのではないかと、心配にもなった。
「…こりゃあ、君の友達に会ったら、笑い死んじゃうかも知れないね」
「そ、それはちょっとシャレにならないよ…」
心なしか、青くなるあかり。自分や自分の友人達の所為で笑い死になんぞされた日には、たまった物では無い。
「………」
――と、それまで笑いの余韻に浸っていたシュンの横顔が、急に鋭い物に変わる。
「…どうしたの――」
「し…」
人差し指を唇に当て、もう一方の手の人差し指をあかりの唇に当てて黙らせる。
「………人の気配」
ぼそりと呟くなり、シュンはあかりの腕を掴み、立ち上がった。
「足音を立てない様に」
「――あ…氷上君っ、どこへ…」
聞く間も無く、シュンはプラットホームから飛び降り、地面に音も無く着地。
両腕を伸ばして、あかりにも降りるよう促す。
「鬼…かな?」
「解らない。只…誰か来たのは、確かだよ…」
ホーム下に隠れつつ、二人は足音を殺して端の方へと進んでゆく。鬼であったら、このまま音も無く立ち去り、
森の中の宵闇に身を潜める。…走れない、或いは脚が遅い二人は、こうして静かに気配を殺しつつ、鬼の追跡
をかわして来たのだ。
――やがて…
ヒタ、ヒタ、ヒタ…――と、駅の中へ誰かが入って来る足音が、あかりとシュンの耳に届いた。
【あかり・シュン 駅で一休み――が、人の気配に気付いて身を隠す】
【駅に入って来る人の気配 人数不明。鬼か逃げ手かも不明】
【夕刻〜日没後】
WA:篠塚弥生、観月マナ、七瀬彰、緒方英二、
【藤井冬弥】、【森川由綺:2】、【緒方理奈:3】、【河島はるか】、【澤倉美咲】
こみパ:千堂和樹、高瀬瑞希、牧村南、猪名川由宇、大庭詠美、長谷部彩、
御影すばる、立川郁美、九品仏大志、澤田真紀子、風見鈴香、
【芳賀玲子】、【桜井あさひ】、【塚本千紗:2】、【立川雄蔵】、【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】
NW:城戸芳晴、ユンナ
>>276-279、【コリン】
>>276-279、『ルミラ』
>>300-302、『アレイ』
>>300-302、
『イビル』、『エビル』、『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:江藤結花、高倉みどり、【宮田健太郎:1】、【スフィー】、【リアン】、【牧部なつみ】
誰彼:砧夕霧
>>308-313、桑島高子、杜若きよみ(白)、岩切花枝、杜若きよみ(黒)
>>276-279、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】、【御堂:5】
>>292、【光岡悟:1】、【石原麗子】
>>308-313 ABYSS:【ビル・オークランド】
>>304-307、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ
>>300-302、アルルゥ、ユズハ、ベナウィ
>>284-291、
クロウ、カルラ
>>300-302、カミュ、クーヤ、サクヤ、デリホウライ
>>292、
【エルルゥ】、【オボロ:1】、【ドリィ】、【グラァ】、【ウルトリィ】、【トウカ】、【ゲンジマル】、【ヌワンギ】
>>304-307、
【ニウェ:1】、【ハウエンクア】、【ディー:4】
>>280-282、『チキナロ』
AIR:神尾観鈴
>>280-282、霧島佳乃、遠野美凪
>>300-302、神尾晴子
>>284-291、
霧島聖、みちる
>>300-302、柳也、裏葉、しのさいか
>>300-302、
【国崎往人:1】、【橘敬介】
>>295-299、【神奈:1】
>>295-299、【しのまいか】
>>280-282 管理:長瀬源一郎(雫)、長瀬源三郎、足立(痕)、長瀬源四郎、長瀬源五郎(TH)、フランク長瀬(WA)、
長瀬源之助(まじアン)、長瀬源次郎(Routes)、水瀬秋子(Kanon)
支援:アレックス・グロリア、篁(Routes)
毎回微妙にマイナーチェンジをしてるので読んでほしいこと&連絡事項↓
島内の鶴来屋については管理人室に関して議論が続いています。
その辺の話を書こうとしている方がいたら出来れば議論板にて確認をお願いします。
このリレーは余程の反則(電波で他の参加者を操る、魔法で自分を触れなくする)が無い限り能力使用はOKです。
但し原作外のオリジナル設定は基本的に抜きで。ていうか基本ギャグで済ませましょう。
細かいところに拘るより鬼ごっことしての状況を進める方向で
致命的なミスがない限りは脳内保管しましょう。
NGはできるだけ避けるよう書く話のキャラの前話くらいは読みましょう。
前スレも健在なのでリストをたどれば最終行動はわかる筈なので。
また他のスレのネタは知ってる人はニヤリ、あ、このネタ上手いなーくらいにしておきましょう。
能力に関してグレーゾーンな話を書く際には
『葉鍵鬼ごっこ議論・感想板』 へどうぞ
>
ttp://jbbs.shitaraba.com/game/5200/ 後記
鬼の増加が加速してるようで。鍵サイドが葉サイドに比べると鬼ばっかりになってますね。
お呼び出しを申し上げます。
>>283の作者様。
ただいま貴方の作品について以前の話との矛盾点が見受けられましたので、
リライトを要望する声が上がっております。
問題になっているのは
「鶴来屋本社にあったはずの管理者室が島内の鶴来屋リゾートホテル内にある」
という点です。
この書き込みを見られましたら、至急 感想板・議論スレにお越し下さい。
なお、何らかの理由により外部の感想板にお越しになれない場合は、
その旨をここ 本スレにお書き下さい。
329 :
曇天 1:03/04/02 00:46 ID:EYLXWgjJ
鬼に見つかることなく迎えた、まだ日も明けて間もない早朝。
昨日はいっぱい眠れたし、たくさん食べられた。
いきなりの神奈の追跡以来、(ユズハは襲われたことに気が付いてはいないので)それほどの危機にも出会わずに済んでいる幸せに、カミュは気持ちよく伸びをした。
「今何人くらい鬼がいるのかなあ。もしかしてほんとに優勝できちゃったりして♪」
そんな気持ちと相反して、目に映る天気はどんより曇り空。そう、薄暗いのは明け方だからだけではない。
ただでさえ鬱蒼とした森の中、薄暗いのは気分も滅入るところだが、年頃(?)の娘が三人も集まればそれだけで華やいでたりする。
「アルちゃ〜ん、ユズっち〜、なんか降ってきそうだし、ちょっと移動して雨宿りの準備した方がいいかも〜」
「んっ」
「はい」
昨日さんざん散らかしたままの食いカスやら荷物やらをまとめる。
「あーもう、武器なんて買うんじゃなかったかなー」
早くも後悔しはじめているカミュである。
「かさばるんだもん。よく考えてみれば、打ち上げ花火は武器って感じしないし……
この『強化兵から認知されなくなる装置』ってなんだかわかんないし」
自分で選んでおいて首を傾げている。
「強化兵から認知されなくなるんじゃないでしょうか」
「そりゃまぁ……そうだろうけど。強化兵って何?」
「なんでしょう?」
「?」
「試しに使ってみよっか」
カミュが言ったときに、後ろの茂みがガサァッと音を立てた。びっくりしたはずみに、スイッチを押してしまう。
途端に、茂みからひとりの男が飛び出してきた。襷を付けているその男は、言うまでもなく光岡悟・強化兵。現在ユズハのストーカー。
ムックルはすぐに臨戦態勢に入り、アルルゥはそれに飛び乗る。続けてカミュがユズハを乗せるのを手伝い、
「ムックル!」
「ヴォフッ」
アルルゥの声に従い、ムックルは走りだした。あっという間の出来事だ。
「あ〜ん、食べ物ちょっと置いて来ちゃったよ〜」
330 :
曇天 2:03/04/02 00:47 ID:EYLXWgjJ
しばらく走り、あの男(光岡)が追ってこないのを確認し、ようやくアルルゥはムックルを止めた。
「なんだったんだろ、あの人。びっくりしたねー。……あれ、ユズっちどうしたの?」
「あ……いえ」
先ほど飛び出してきた男の気配に何か覚えがあるような気がしたのだが、確かではなかったのでユズハは「なんでもないです」と首を振った。
辺りはさっきよりもなお、暗くなっている。
カミュが見上げると同時に、ぽつり……頬に雫を感じた。
「うわ、降ってきちゃったよ……」
なんとなく、嫌な予感がした。
──同時刻。
(ユズハ──!!!)
茂みから飛び出してきた白虎の上に、探し続けた妹の姿を見つけてオボロの心臓が跳ね上がった。
だが──
『もしかしたら妹さんは逃げるかもしれない』
久瀬に再三言われた言葉が脳裏をよぎった。
『その可能性は低くはない──いいか、よく覚えておくんだ』
(ああ、覚えてる……)
内心で呟く。だからこそ、今にも飛び出したい心境を押さえることができたのだ。
いくら奇襲をかけたとて、通常時のムックルが全速力で走ったなら、さすがのオボロも追いつける自信はない。
セリオが今日の天気を言っていた。──雨。ならば、今日を逃すわけにはいかない。
「タイミングよく降り出したな……」
頬に当たる水滴に双眸を細める。これほど雨を望んだのは久しぶりだ──。
「機は熟した。行くぞっ」
「──はい」
【アルルゥ・カミュ・ユズハ(+ムックル・ガチャタラ):光岡から逃亡】
【光岡:ユズハたちを見失う】
【オボロ・セリオ:アルルゥ達を捕獲開始】
【三日目早朝、森。食べ物を少し落としてしまった】
長々と続いた御堂とデリホウライの追いかけっこもようやく終焉を迎えた。
「ゲーック、手間取らせやがって。まぁその分楽しめたがな、けっけっけっ」
聞く側にとっては嫌味でしかない台詞をどこか楽しげに吐く御堂。
しかし対するデリホウライはそれどころでは無かった。
「捕まってしまった……ギリヤギナの男でありカルラゥアツゥレイの皇(オゥルオ)たるこの俺が……
姉上がこの事を知ったらどう思われるのか……やはり縦回転は避けられんか……」
多少成長したとはいえプライドとシスコンで構成されたこの男には鬼になったという事は凹む現実でしかないし
気持ちの切り替えも流石に既に噛ませ犬と化したどこぞの小悪党程単純に出来もしない。
暫くの間ブツブツ言っていたが、このままこの場に止まっていてもしょうがない事を悟ったか
顔を両手で擦った後にその場から移動を始めた。
その間休憩をとりつつもデリホウライを眺めていた御堂は何かに違和感を覚えていた。
(なんだ、この違和感は……俺は何を見落としてる?)
元々軍人であるがゆえ些細な違和感こそ重視する。
やがて、謎の人影が駅の中に入ってきたのが足音でわかった。
静寂の支配する駅の中に、カツンカツンと足音だけが響き渡る。
どうやら、聞こえる足音は1人分らしい。
だが、その足音は、駅の中のトイレや駅長室には目もくれず、真っ直ぐにホームへと向かってくる。
「ど、どうしよう…」
小声であかりがシュンに呼びかける。
「…おかしいね、鬼にしろ参加者にしろ、普通は駅の中を最初に探すものだと思うんだけど」
だが、その足音の主は迷うことなくホームに降り立った。
「もしかして、見つけられてるのかな私達」
「…ありえるね。…ねぇ神岸さん。僕が合図したら全速力で線路に沿って逃げ出すんだ。
ここは僕が食い止めるから」
シュンは微笑みながらあかりに言った。
それは、『もしものときは君だけでも逃げろ』という意味であった。
「そ、そんな!できないよそんなこと」
人一倍他人に優しいあかりには、もちろんそんな申し出を受けられるはずも無い。
だが、シュンは静かに首を横に振った。
「ここで2人くっついていたって、連鎖式に鬼になるだけなんだよ。
神岸さん、君にはまだ探すべき人もいる。それに、僕は君を優勝させてあげたいと思っているんだ。
だから、君だけでも逃げるんだ。この鬼ごっこ、どうせ最後は1人しか勝てないんだよ?
…僕のことは、気にしないで」
「でもっ…」
そんなこと出来ない。
あかりは、他人を犠牲にして生き残るくらいなら自分が身代わりになるタイプの人間だ。
シュンの気持ちも理解できるが、自分の気持ちがそれを許さない。
「いいから。…君と一緒になれて、楽しかったよ」
「そんな…」
常人なら見落とすようなその些細な違和感こそが戦場での生死を分けるモノなのだ。
(この感覚、ヤツの行動に起因する事は間違いねぇが……
発言……じゃねぇな、姉上だの縦回転だのは引っかかる事じゃねぇ。
見た目はそりゃ耳にしろ尻尾にしろ特徴的だったが追いかけてる最中にゃ何も感じなかった。
てことは行動か? しかしそれにしたって精々顔を擦ったくらい……ん!?)
そこで御堂は気づき空を見上げた。
草木も眠る丑三つ時、だがその空には時期柄満ちている筈の月すら見えない。
それは酷く馬鹿馬鹿しい迷信でしかない。
だが迷信の背景には経験があり、それこそが最後にモノを言う。
まして今回の話は強化兵火戦試挑体である御堂にすれば軽々しくは扱えない話だ。
実際空模様がそれを示している。
(猫が顔を洗うと雨が降るってか)
【御堂 デリホウライをタッチ】
【御堂 天候の変化に気づく】
すぐ頭上に気配がする。
もうあれこれ言っている暇はない。
シュンは、とにかくあかりを突き飛ばしてでも逃がそうと覚悟を決めていた。
…が、次に上から降ってきた声は、2人にとってまったく予想外の内容だった。
「氷上シュン様。ご心配なく。私は大会運営側の者です」
「…その声は―――」
その正体は、有事に即座に行動できるよう島中に配備された、HMシリーズの一体であった。
「氷上様を含む、ナースコール保持者へ本部からの警告がございます」
その声に、シュンとあかりはホームの下から出てくる。
「警告って、僕はまだ元気だよ?ほら、ナースコールもちゃんと持ってるし、押した覚えも無い」
「いいえ、そのことではありません。まずは、メッセージをお聞きください」
そう言うと、HMー12があらかじめ設定されたメッセージを再生しだす。
『明日の朝以降、雨の降る確率が90%を越えております。
雨雲が通り過ぎるのにかかると思われる時間は分析中です。
早急に屋根のある場所を探すことをお勧めいたします。
<ナースコール・システムの再確認>
・ナースコールは病弱者の方に至急されます。
・身体の異常を感じられた場合にはご使用ください。
近辺に待機しているHM-12及びHM-13が緊急出動いたします
・ナースコールから身体がある一定以上離れ、一定時間が過ぎた場合、
紛失の可能性が高い為、近辺に待機しているHM-12及びHM-13が出動いたします。
・紛失を確認された場合は、最寄りの屋台に報告するか、その場にて待機ください。
では、引き続き<鬼ごっこ>をお楽しみ下さい』
それは、ユズハに伝えられたメッセージと全く同じものであった。
「──以上です」
「分かった。ありがとう。つまり、明日は雨が降るんだね?」
「はい。幸い氷上様はすでに屋根のある場所を見つけているようなので問題は無いと思われますが、移動の際はお気をつけて」
「分かったよ」
「それでは、また何かありましたら」
そう言うと、HM−12は一礼をして去っていった。
「………」
「………」
「別れが延びちゃったね」
「そうだね」
「ふふ…」
「あはは…」
思わず2人が顔を見合わせて笑ってしまう。
シリアスな別れのはずが何事も無く終わってしまい、拍子抜けしてしまったのだろう。
「またよろしくお願いします」
「こちらこそ」
「でも、大丈夫なの氷上君?」
「何が?」
「雨なんて…体を濡らしたりしたら、絶対によくないよ。明日はムリはしないようにしよう?」
「そうだね。でも、ここにずっといても何も進展しないよ」
「そ、そうだけど…でも、雨なら他の参加者の人たちがここに雨宿りに来るかもしれないし」
「かもね。でも、それが神岸さんの探している人たちじゃなくて、鬼だったらどうする?」
「…うー」
氷上を気づかうあかり。
しかし、シュンの方はあくまで鬼ごっこを続ける気のようだ。
「でも、もちろん僕だって雨の中をむやみに歩き回るような無謀なマネはしないさ。
明日はこの駅でしばらく様子を見て、雨が止むか鬼が来たらここを離れる。
それまでは少しここで待機していてもいいかもしれないね。それならどうかな?」
「…うん、それならいいと思う」
シュンの提案に特に文句は無かったので、あかりも素直に賛同する。
しかし、それでもあかりは1つだけ譲れない意見があった。
「でも、鬼が来たときに逃げるにしても、傘も差さないで雨の中を歩くのは駄目だよ。
何か傘の替わりになるものがないか探してみない?」
「うん、それはもっともだね。ちょっとこの駅を探索してみよう」
シュンも素直に賛同し、2人は駅を探索し始めた。
よく見ると分かったのだが、この駅には自分達より前に誰かが訪れたことがあると2人は分かった。
あちこちに、荒らされた後がある。
ロッカーやトイレのドアは開け放しになっていたし、ベンチの配置もずれていた。
誰がいたのか。
そして、その人(達?)はどうしたのか。
考えては見たものの、結局分からなかった。
しかし、駅を荒らした犯人―――エルルゥの目的がハクオロたち人間であり、
駅の物資には何も手をつけていなかったことが2人に幸福をもたらした。
もちろん、そんなことシュンとあかりには知る由もないが。
探索の結果、駅長室のロッカーから、ビニール傘10本と水、バランス栄養食、カップラーメンなどが見つかった。
傘はおそらく置き傘用として置いてあったものだろう。
この貴重な物資の収穫に、2人は心が躍った。
2人は傘を2本とある程度の食糧だけを確保すると、残りをロッカーに戻しておいた。
お湯がなかったためカップラーメンは食べられなかったが、あらかじめ屋台で買っておいた食糧と合わせて
十分な食事を取ることが出来た。
「傘が手に入ったのなら、雨の中でも行動できるね」
「そうだね。でも、やっぱりムリはいけないよ」
「分かっているよ、でも、一日中ここにいるのも退屈だしね。昼をすぎても雨が止まなかったら、やっぱりここを出ようよ」
「……駄目だ、って言っても聞いてくれないかな?」
「うーん、そうだね…ごめん、やっぱりそれくらいは僕にも冒険させて欲しいな」
「…氷上君って、意外と頑固なんだね」
「失礼な、芯が強いと言って欲しいな」
そう言うと、また2人は笑った。
結局、折れたのはあかりの方だった。
その後2人は、やがてやってきた睡魔に負けて、ベンチで就寝することにした。
シュンはしばらくは起きて見張っているつもりだったが、さすがに2日連続で歩きどおしだった体はそうさせてくれなかった。
こうして、2人の2日目は終わりを告げた―――。
【シュンとあかり、明日の天気を知る。明日は雨が止むか鬼に見つかる、もしくは正午を過ぎるまでは駅で待機することに】
【2人とも、各々傘を一本と食糧をいくらか装備】
【2人とも疲れのせいで早々に寝付く。2日目夜】
3日目の天気とナースコールの説明に関しては、勝手ながら
>>162-163さんの文章を引用させてもらいました。
>>『苦難の前兆』作者さん
割り込み申し訳ありません。
>>338 いえいえ寧ろ割り込みが起こるくらい活気があるほうがよいかと
「ぐぬっふっふっふっふ………」
気持ち悪い含み笑いを漏らしながら、コリンは一歩一歩獲物への距離を縮めていく。
鬼を尻目に、きよみ(黒)はユンナに囁く。「いい、打ち合わせ通りよ?」
「う〜。コリンにやるの、やだなぁ…」珍しくユンナがきよみ(黒)に不服を述べる。
「いいのよ、これは鬼ごっこなんだから。
やるからには一生懸命やらないと、あなたのお友達にも失礼になるわよ?」
ぐずるユンナを小声で説得するきよみ(黒)。
「……うん。
ごめんねコリン、わたし一生懸命いくね?」
申し訳なさそうな顔をしながらも、友に真剣勝負を誓うユンナ。
「二人で何をゴチャゴチャっ!」
そんな彼女の言葉をゴング代わりに、コリンの掌から光の奔流が迸った。
スタートダッシュが遅れたユンナの手を引っぱり、きよみ(黒)は駆ける。
一瞬遅れて、彼女たちのいた地面が、バシッという音と共に弾けた。
「ちょっと、ルール違反よ!?あなたにはプライドがないの?」
走りながら、直接攻撃に思わず抗議の声が出る。
「ばれなきゃオッケーオッケー。ほらほらもっと真剣に逃げなさい?
これ当たると痛ったいわよぉ〜?」
心底嬉しそうに言いつつ、コリンは光の翼を背負い、宙に浮かぶ。
そのまま木々を縫うように、逃げる二人を猛追する。
そして、ひた走る二人目掛けて矢継ぎ早に光弾を発射していく。
彼女らの通り道が次々と弾ける。
「ふふふ、もっと逃げなさいユンナ!そして最後には土下座して謝んなさい!
もっとも謝ったって許してやんないけどね」
先程、コリンは『いつぞやの恨み』(
>>278参照)と言った。これは以前、
ユンナがある目的のためにコリンを騙して利用し、あげく不慮ととはいえ、
彼女のパートナーである城戸芳晴を殺しかけた…という、なかなかにシビアな一件に
拠るものである。(詳細はナイトライターをプレイして頂きたい)
だが
「あの何かってたびに人をいちいち小バカにしてくれたムカつきユンナが、いまや
はややチックな6/17状態で何も出来ずにあたしに追われる身!
謝るときもきっとびーびー泣いて鼻水とよだれも垂らして『ごべんなはひィ〜』とか言って
永久保存物の醜態見せてくれるんだわ!あー想像しただけでもう!もう!
ざまみろヒャッホーイ!ぬははははーー!!」
その辺のディープなあれこれは、とっくに日常レベルのしょうもないそれと摩り替わっていた。
走り出してそれほどせずに、きよみ(黒)の息が上がりだす。
元々体を動かすことは不得手だ。
多分相手は本気で狙ってない。こちらをいたぶり、狩りを楽しんでいるのだ。
でなければ、自分の運動能力ではとっくにあれの餌食になっていてもおかしくないだろう。
彼女の後ろを走るユンナが、心配そうにこちらを見ている。こちらはまだ余裕がありそうだ。
せかされ、つい焦りかける心を抑えこむ。今やっても、成功はまず望めない。
へばって本当に捕まる前に、早く作戦決行に適したポジションを見つけなくては…。
数分後。唐突に道を途切っている大木を背にした二人は、
眼前に仁王立つコリンを見つめていた。
行き止まり。獲物は追い詰めた。さあ、ディナータイムの始まりだ。
「うっひっひっひ。ユンナちゃんってば、いよいよ年貢の納め時ねぇ。
豚のような悲鳴をあげなさ〜い?」
自称大親友に対し、イイ笑顔で死刑宣告するコリン。
一方。ぜいぜいと息を吐きながら、きよみ(黒)は追い詰められた顔をしながらも
内心ニヤリと笑っていた。
これを待っていた。案の定、勝利を目前にすっかり油断してくれている。
ここまでは予想通り。ここからだ。これからが、正念場。
隣のユンナは目の前の親友の烈気に押されながら、
さっきから目で自分に訴えかけている。
わかってるわ。あなたこそ、しくじったらひどいわよ。
呼吸を整え、集中力を研ぎ澄まし、きよみ(黒)はずっと手にしていた茶入り袋を
ゆっくりと握り直すと、
「えいっ!」
コリンめがけて思い切り放り投げた。
彼女の手から放たれた茶袋はコリンの頭に……
……命中することはなく、そのかなり上方に逸れた。
「んのーっほっほ、はーずれーっだ!」
避けようともせずに、勝ち誇るコリン。
彼女は気づいていたろうか。その時きよみ(黒)は、悔しい顔も見せずに
自分の左耳を触った。
合図!
「コリン、ごめんねっ!」
ユンナはコリンがしたのと同じように、光弾を撃つ。
それは狙い違わずに、コリンの頭上に飛んだ茶袋を撃ち割った。
たちまち中の茶が飛び散り、頭からコリンに降り注ぐ。
「ぶわーっ!ぬわによこれっ!?
なんかヌルヌルするぅ!うわ、飲んじゃった!?
やだやだやだ、えんがち……………」
唐突にお茶まみれになって喚いていたコリンが、ふと、沈黙する。
思わず息を呑んで見守るふたり。
………………………………………………………………………………
沈黙を打ち破ったのは今回もユンナだった。
「……コリン、だいじょうぶ?」
「……ええ、大丈夫です。
ありがとう、ユンナ。鬼である私のことを気にかけてくれて…」
ああ、神よ。それは信じ難く恐るべくも確かに目の前のコリンが発したセリフであり、
(やったわ!実験は大成功よ!)
それを見届けたきよみ(黒)は心で快哉を叫んだ。
【黒きよみ、反転ユンナ 鬼にされかけるも窮地を脱出】
【コリン 反転する】
きよみ(黒)には、ユンナを仲間にしてから、気になっていたことがあった。
セイカクハンテンタケによる鬼の無効化を行うためには、対象にキノコを食べてもらう必要がある。
が、その辺に仕掛けておいたキノコを無用心に拾って食べるような迂闊者はそういまい。
(実は参加者の中にその該当人物は結構いるのだが、彼女はそこまで知る由がない)
結局、ユンナの時のように至近距離で対象の口に放り込む必要があり、
現実問題として、相手に触れての鬼化はまず避けられない。
折角強力な兵器を手に入れたのというのに、これではリスク以前の問題ではないか。
困っていた時、ユンナが屋台で買ってきた紅茶入りペットボトル(1gサイズ)を見て
一計が浮かんだ。
茶の中に細くひさいだハンテンタケを入れて振り、そのエキスを液中に染み出させる。
そしてキノコと同等の効果を持ったそれを、相手に遠間から浴びせるなり飲ませるなりして
反転させることが出来れば、格段に安全である。
無論、キノコそのものを食べるわけではないから反転する時間はそう長くないだろうし
そもそも本当に効果があるかどうかもわからない。
だが、時間に関しては逃げるだけの間、相手を無力化できればいい。
また、これなら水分を補給すれば、キノコが出涸らしにならない限り
本来あと2回きりだった実弾数を劇的に増やすことが出来る。
あとは、効果がありさえすれば。
かくしてきよみ(黒)はユンナが寝ている間に秘密兵器の作成を行い、
昼近くなって彼女を文字通り叩き起こした後、朝昼を兼ねたチョコレートパンを摂りつつ
鬼に直面した際の打ち合わせを行った。
(全く関係ないが、このパンは随分とお徳用サイズであり、疲労と空腹に悩まされた
昨日ならともかく、その時のきよみ(黒)には少々きつかった――残った分は
反転して食欲も増進したユンナがきれいに平らげたのだが)
そして、出発前にもう少しハンテンタケはないものかときよみ(黒)が
小山を探索しようとした時、ユンナと遭遇し――
はたして、秘密兵器・反転紅茶キノコは見事作り手の期待に応えてくれたのである。
「…そうですか。あちらのきよみさんと、もうそんなに仲良く…」
鮮やかな橙色のワンピースを着、派手なサングラスを頭に乗せた少女が
品の良い笑みをほころばせる。
「うん!きよみのこと、今じゃコリンと同んなじくらい好きだなぁ」
肌もあらわな白いノースリーブに、ミニのジーンズを身に纏った細身の女性が、
眩しい笑顔を浮かべる。
「まあ…何だか恥ずかしいわ、ユンナ」
コリンは頬を赤らめ、下を向く。
「あ〜、コリンったら照れてる照れてる〜♪」
タッチしないように近寄りつつ、うつむく彼女の顔を覗き込むユンナ。
「からかわないで下さい、もう…ふふふ」
「えへへ〜」
中に反転紅茶キノコを入れたペットボトルと、それを詰めるパンの空き袋を手に、
きよみ(黒)は仲睦まじい二人の語らいをぼーっと見ていた。
理知的で慎ましやかで、春風のようにたおやかなコリン。
無邪気でお人好しで、向日葵のようにまっすぐなユンナ。
共に心から相手のことを思いやり、今日の出会いを喜びあう。
「美しき友情、ね……」
お互いにお互い、性格が裏っ返しになった結果の産物だけど。
(でも。両方とも性格が反転した結果、それでも仲がいいってことは。
本当は、この二人案外素でも仲が良かったりするのかしら)
短い時間ながらに本来の二人の姿を見ている彼女は、想像してまさかと失笑する。
(……まあ、わたしにはどうでもいいことだけど)
「きよみさん」
「え?」気が付いたらいきなりコリンが目の前にいた。
「ユンナと仲良くなっていただいて、本当に有難うございます。
これからもどうか、彼女のことを宜しくお願いいたします」
先程まで自分たちをさんざ追い詰めてくれた相手は、暖かな微笑で深々と頭を下げた。
「え?あ、ああ、そうね。わかっているわ。わたしに任せて」
うろたえて、つい答えてしまう。何を任せてと言ったのかわかっているのか。
「ではお気をつけて。あなたとユンナが無事、勝ち残れるように祈っています」
「うんっ!コリンも鬼さん、頑張ってね!行こっ、きよみ!」
そうだ、早く行こう。彼女が元に戻ってまた追いかけてくるといけないから。
何だか照れくさいからでは決してない。
かくしてコリンと別れた二人は、出会いの地である小山を後にした。
目指すは川かどこかの水辺、屋台でもかまわない。秘密兵器には水分が必要だ。
【きよみ(黒)、反転ユンナ 小山を下りる】
【コリン 現在反転中。あまり長持ちはしないと思われる。現在は小山に】
【時間は二日目昼過ぎ。二人はこれから川や水辺、あるいは屋台に向かう予定】
【所持品:反転紅茶キノコ入りペットボトル(現在、回数にして
あと3、4回は使用可能)、セイカクハンテンタケ×1、パンの空袋×3。
現在食料はなし】
日もすっかり暮れ、空には満天の星が瞬いている。
幸いにも今夜はあまり温度も下がらず、たとえ裸で寝ていてもそうそうのことでは風邪を引くまい。
まぁ、そうは言っても……。
「うーん、うーん、すまないウルト……。違うんだ……。私はただ、カミュの知的好奇心を満たしてやろうと……」
「……ンン……。今日の下着は……七色……パンティー……」
「……そろそろ寝言のネタが切れてきたよぉ、脇役は辛いよぉ……」
……いい加減彼らには起きてもらいたいわけであるが。
しかし耳元で模擬とはいえ手榴弾の爆発を喰らっても起きない彼ら。目覚めさせるのは容易でない。
何か、何か強烈な、強いショックを与えなければ……
「「じゃんけんほい……!」」
「「あっち向いてホイッ……!」」(ビシュッ)
「「じゃんけんほい……!」」
「「あっち向いてホイッ……!」」(ビシュッ)
……歩いてきた。向こう側から。
これ以上ないってくらい、強烈なヤツが。
「ん……? なぁに……?」
最初に目を覚ましたのはまいかだ。遠くから漂ってくる異様な声と気配に気づき、目をこすりこすり起き上がる。
「……………?」
「「じゃんけんほい!」」
「「あっち向いてホイッ!」」(ビシュッ)
「………ひっ……!」
徐々に合ってきた焦点。そこに移るものは、全裸と半裸の少女が凄まじき闘気(オーラ)をまとい、壮絶なあっち向いてホイを繰り広げる姿。
「いや……いやぁっ!」
慌てた、いや、恐慌に近いものを起こしたまいかは、急いで両親を起こす。
「おっ、おきてでぃー! でぃー! れみぃおねぇちゃん! こわいのが、こわいのがくるよぅ!」
「ん……? なんだ、どうした……?」
「ンン……? あ、オハヨウ……まいか……」
「それどころじゃないよぅ! おばけがでたよぅ! こわいのがきたんだよぅ!」
慌てて起き上がり、迫る化け物を見据える一家。
「こっ、こいつらは……? 新手の禍日神(ヌグィソムカミ)か……?」
「こわいよぅこわいよぅれみぃおねぃちゃん!」
「だ、大丈夫だから……。泣かないで。ネ? まいかちゃん……」
実際涙は流していないのだが、今にも泣きそうな表情でまいかはレミィにしがみついている。
「「じゃんけんほい!」」
「「あっち向いてホイッ!」」(ビシュッ)
「「じゃんけんほい!」」
「「あっち向いてホイッ!」」(ビシュッ)
自分たちが姿だけで子供を泣かすような状態にあることも気づかず、ひたすら2人は死闘を繰り広げる。
そのあまりにもといえばあまりな姿は、大神であるDすら薄ら寒いものを感じるほどであった。
「いやっ……! いやっ……!」
とうとうポロポロと涙をこぼし始めたまいか。何とかあやそうとするレミィだが、彼女自身だいぶ不安げだ。
「ど、どうしようD……?」
「クッ……」
悔しそうに歯噛みするD.本来ならばあの程度の禍日神、自分の敵ではない。
だが、今の自分はょぅι゛ょと互角に渡り合い、連携プレーで情けない男を一人倒せる程度だ。
出来るのか……? 今の私に……コイツを……倒せるのか……?
自分に問うD.こんなに緊張したのは、初めてであった。だが……!
ポンッ。
不意に、彼の肩に乗せられる手があった。
後ろを振り返る。……レミィだ。
「……ディー」
……普段とは違う発音で、彼を呼ぶ。
「ワタシは……ディーを、信じるよ。だから、ディーも……自分の力を、信じて。きっと、大丈夫だよ。ディーは今まで、頑張ってきたんだから……」
「う……うん。でぃーなら……だいじょうぶ。きっと、あいつらにだってかてるよ!」
妻と娘(※違います)の暖かい励まし。
それは、世界中の何よりも……ディーに、強い力を与えた。
「わかった……。このディー、ウィツァルネミテアのプライドに賭けて……。あの禍日神を、倒して……みせるっ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっっ!!!!!!!!!」
咆哮高らかに、一直線に2人へ特攻を試みるディー。
その時に彼の脳裏に浮かんだのは……かつて……彼に立ち向かってきた、空蝉……ハクオロの姿だった。
(ああ……我が空蝉よ。今なら……今ならお前が我らが運命を拒んだ理由、わかる気がするぞ……)
地を蹴り、空気を切り裂き、禍々しきオーラを発する2人へ向かう。
(……言葉には出来ないが、なんとなく……お前の気持ちを、理解できた気がする……)
そしてチラリと後ろのレミィとまいかを見やった。
何となくキャラクターを間違えております。
「うおおおおおおおおおおおおおおっっ! 喰らえ禍日神(ヌグィソムカミ)よ! これが……うたわれるものの一撃だッ!」
高々と飛び上がり両の拳に全ての想いを込め、いざ行かん!
「ウィツァルネミテア……クラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッシュ!!!!!」
「「ゴチャゴチャうるさいッ! 邪魔ッ!」」
ボッゴォ!
「へぶし!?」
……が、ディーの一撃が決まる直前、清(略 と圭子の放った裏拳が彼の両頬にジャストミートし、そのままディーはふっ飛ばされた。
「あ」
「あ」
ディーは唖然とするレミィとまいかの横を通り過ぎ、そのままの勢いで後ろの木に叩きつけられる。
「け……結局……こうなる、のか」
そしてカクッと首を折り、またもや夢の世界へレッツゴー。
「「じゃんけんほい!」」
「「あっち向いてホイッ!」」(ビシュッ)
2人は変わらずあっち向いてホイを続けている。てゆーか、Dの存在にも気づかなかったようだ。
「……ねぇ、まいか、おもったんだけど……」
ずっと様子を伺っていたまいかが、突然ぽつりと漏らした。
「ン? どうしたの?」
「あのふたり……たすき、つけてないよね? おばけでも……さんかしゃに、なるのかなぁ?」
【清(略&田沢圭子 鬼になる。D一家には気づいていない】
【D ダブル裏拳をもらいK.O.一応ポイント+2】
【まいか&レミィ 2人が逃げ手であったことに気づく(人か禍日神かは微妙だが)】
【時間:夜 場所:海岸(砂浜)】
「さて鬼になったからには罠仕掛けようかと思ったけどいまさらやったところで鍵友人脇役組の二番煎じでしかないわけで主人公たる俺としてはやはりパイオニアとしてありたいわけで
パイオニアってパイを持った鬼というわけではなくそういや由綺もテレビでパイぶつけられてたな英二さんも仕事選べよな所属アイドルに刺されるぞ」
やや壊れ気味の冬弥。
由綺が壊れるのはリレーSSの伝統ではあるが、毎回毎回その壊れたヒロインの相手をする冬弥としては壊れ気味にもなるのも当然かもしれない。
「……ちょっとやりすぎちゃったかな?」
キッパリとやりすぎです。
今回浮気の「う」の字も出ていないのに、あれだけのお仕置きをするなんてね。
しかし、そこは醍醐に鍛えられ多少成長した冬弥。
一通り壊れた後、調子を取り戻した。
「…で由綺、これからどうする?」
「うん、冬弥君が浮気しないように見張ってる」
「……」
冬弥は捕まったからには、鬼として全力を尽くそうと思っていた。
嫉妬心の暴走により恐ろしい能力を発揮する由綺ではあるが、普段の彼女ははっきりいって足手纏いである。
かといって、放っておくのも後が怖い。
(せめて武器でもあればな)
「あれ? 冬弥君、あっちになんかあるよ?」
「……というわけね」
「成る程」
ショップ屋ねーちゃんに一通りの説明を受けた後、屋台の中をぐるっと見渡す。
銃、手榴弾、火炎放射器などいかにもな武器が並ぶ。
バイトで小金もちな冬弥。
結構なものが買えそうだ。
「何かアイドル向きの捕獲武器ってありませんか?」
「うーんそうね。これなんかどう?」
取り出したるはしっとマ…
「それはダメ!」
「冗談よ、本当はこっち」
それはマイクと一匹のシェパードだった。
「あ、かわいい♪」
どうやら由綺のお気には召したようだ。
「この犬は、このマイクで言われたことを実行するよう訓練されてるの。『人を噛め』とかは聞かないけどね」
「なるほど、アイドルにはマイクか…」
「どう? 今ならドッグフードもつけて15万にしとくわよ?」
ギリギリだ。
さすがに迷う冬弥。
「うーんどうするかなあ…」
由綺はシェパードを撫でている。
「…買います」
「毎度あり、名前はつけてあげてね」
【冬弥 オケラ】
【由綺 訓練されたシェパード(名無し)とその犬に命令するためのマイクを手に入れる】
ドキドキしながらの投稿。こういうのはアリかなあ?
>>353 アリアリ、問題は由綺がどんな名前を付けるかだなw
人死にが出ない長編は激しく(・∀・)イイ
これが長く長く続いてくれますように・・・
「はわわわわー、まだ追ってきます〜!」
「むう、やっぱりアグ・カムゥを屋台に置いてきたのはまずかったか」
「ダメですよ〜。あれは反則になりかねなかったんですから」
「そこの2人、大人しく捕まってください!」
舞台は森の中。
半ば忘れ去られていたクーヤ・マルチ組は、エルルゥとデッドヒートを繰り広げていた。
組み分けをした後、岩陰で一夜を明かし、屋台でクーヤが買っておいた食糧で食事を取っていた2人。
島を探検していたところ、ハクオロたちを見失ってさらに殺気立っていたエルルゥに運悪く遭遇してしまったのだった。
元々足の遅い2人組ではあったが、エルルゥがハクオロたちとの追跡劇でかなり疲労していたために
なんとか追いつかれずに済んでいた。
「で、でも、あのエルルゥさん、いつもあんなに怖いんですか?」
「いや、普段は誰よりも優しいのだが…怒ると、特にハクオロが絡むと誰よりも怖くなるのだ」
「そこ、聞こえてますよ!」
エルルゥの怒りゲージがさらに増加した。
このままだと怒りゲージが満タンになるのもそう遠いことではないだろう。
「エルルゥ、余は本当にハクオロのことは知らぬと言っているであろう!」
「それは分かってます!でも、鬼ごっこなんですから私はあなた達を捕まえなくてはいけません!」
鬼ごっこは続く。
と、森の先に開けた岩場が見えてきた。
木々の姿が少なくなると同時に、ごつごつした石や岩がその姿を現し始めた。
そして、目の前には大きな崖。実質の行き止まりであった。
「ど、どうしましょう〜」
マルチが慌てた声で叫ぶ。
「うろたえるなマルチ。あの崖の右か左、どちらかに行けばよいのだ。
お主の力で、どっちに行ったらいいか分からぬか?」
走りながらもクーヤが尋ねる。
既に、崖は目前であった。
「ご、ごめんなさい。さっぱり分かりません〜」
涙目になりながらマルチが答える。
「…ええい、左に曲がるぞ!」
「は、はい!」
崖の目前で左に曲がり、崖沿いに走る二人。
その後方30メートルのあたりをエルルゥが必死に追ってきていた。
…と、右側に続く崖の前方に、横穴が見えた。
このまま真っ直ぐ進んでも、前方には何もない。
また、横穴がどれほどの大きさかは分からない。
二者択一。このまま行くか横穴に入るか。
「ど、どうしますか?」
「…横穴に入るぞ」
「で、でももし行き止まりだったら私たち危険です〜」
「つべこべ言うでない!余に1人であんな不気味なところへ入れと言うのか」
半ば強引にマルチを引っ張って横穴に向かう。
結局、クーヤも1人では怖かったと言うことか。
入り口近くに置いてあった懐中電灯を急いで掴むと、2人は奥へと足を踏み入れていった。
懐中電灯が置いてあることから、ここも主催者側が用意した「何か」が用意されているはずであるが、
今の2人にとってそんなことは知る由もなかった。
中は暗く、懐中電灯無しでは何も見えない。
天井を照らしてみると、鍾乳石が何本も天井から突き出ている。
どうやら、ここは鍾乳洞のようだ。
「はわわっ、何かいますよ。声が聞こえます〜」
「…あれはおそらくコウモリの鳴き声だ。いちいち騒ぐな。余だって怖いものは怖いのだ」
ビクビクしながらも2人は鍾乳洞の奥へと進む。
果たして大丈夫なのだろうか、この2人で…。
一方、エルルゥも2人が洞窟に入るのを見逃さなかった。
確かに洞窟の中に2人は入っていった。
入り口にはまだ懐中電灯が一本残されている。
しかし、入っていってもいいものか。
自分の目的はあくまでハクオロたちのはずだ。
こんなところで油を売っていないで、ハクオロたちを探した方がいいかもしれない。
でも、これが鬼ごっこである以上、あの2人をほっておいていいものなのだろうか―――?
エルルゥは悩んでいた。
【クーヤ&マルチ、鍾乳洞探検開始。懐中電灯2本装備】
【エルルゥ、鍾乳洞に入って2人を追いかけるかハクオロたちを探すかで迷っている】
【2日目夕方】
>>346 筆者です。すみません。【】内のアイテム欄に
空のペットボトル×1
を追加してください。
「……」
これからどう動くか。御堂は結構悩んでいた。
自らの勘(確信に変わりつつある)を信ずるなら明日は雨が降る。風に湿
り気が混じってきたし、腕の皮膚はチリチリと悲鳴をあげている。水が苦手
という御堂の体質が、皮肉にも降雨を察知するのに役立っていた。
「順当に行けばどっかの建物だろうな」
彼の場合冗談抜きで命取りになりかねない。なるべく早期のうちに避難
(若しくは先回り)する必要があるのだが――ふと彼は気付いた。
この島で行動している同種の人間。蝉丸や光岡なんかがそうだが……
奴等も薄々と感づいてるだろう。この天候を。そして雨風の凌げるような場
所に移動を開始しているはずだ。いくらバケモノとはいえ闇雲に身体を濡ら
してしまうのは避けたいところである。
「――ということは。だ」
御堂がにたりと笑う。
ただでさえ月の無い夜、森の中は一条の光すら届いていない。
そんな中を悠々と闊歩する人間――既に人を超越しつつある者かもしれ
ないが、彼らは自身の能力に少なからず自信を持った連中なのではない
だろうか。ちょうど御堂のように。
「つまり、だ」
この時間は比較的戦闘能力の高い人間が行動している。
そう仮定出来るのではないか?
「となれば、話は早いな」
とりもち銃を片手に、御堂は移動を開始した。
「――雨が降ってくるまでが勝負ってとこか」
御堂の推測はあたっていた。天候の変化を察知し草木も眠る丑三つ時に
身を動かす人間。リサ=ヴィクセンもその一人である。彼女はポケットから
腕時計を取り出して(付ける癖は無いらしい)、ぽちぽちと操作する。
「989hPA……か」
気圧が低くなっている。雨の降る前兆だ。腕時計を再びポケットにしま
い、思案する。一流のエージェントとは言えども一個の人間。雨に身を晒し
て気分が良い筈が無い。びしょ濡れの人間が作業効率が低下する事は科
学的にも証明されている。指先を僅かに切っただけでも敏捷能力は80%に
低下してしまう。人はとてもデリケートな動物なのだ。
「風も出てきたし、早いところ宿を見つけないと」
無駄に会敵しないよう細心の注意を払いつつ、リサは森を抜けていった。
「(――ただ。二つ問題がある)」
一つ。鬼が先回りして既に潜伏しているという可能性。
少し勘の鋭い人間や知識を持った人ならばもう予測できているだろうか
ら、これは十分考えられるだろう。屋内戦は得意だが、必要以上に交戦す
ることもない。
二つ目はそもそもそういった建物を発見し損ねた時。この場合ちょっとシャ
レにならないだろうが、まあそんな心配は恐らく無用だとは思うが。
しかし、どっちにしろ降り出してからでは遅い。
とにかく海岸沿いに灯かりが見えるほうに
「(……………SHIT)」
前方に飛び道具を持った人間。
――鬼だ。
まったく、今日は厄日なのだろうか?
苦笑せずにはいられなかった。
「(……)」
無論御堂もリサの存在に気付いていた。
目線は変えない。気付いたと悟らせないためだ。
何気なく銃に目をやる。弾数、のこり3発。
ちょうど良い。
「(――やるか)」
御堂は銃口だけそちらに向けて、発砲した。
【舞台→林】
【リサ 御堂に遭遇】
【御堂 リサをとりもち銃で攻撃。獲物を捕まえ次第どこかの建物に避難する予定】
【時間→午前3時ごろ】
「さて…これからどうしましょうか」
茜は独りつぶやいた。詩子は屋台の方へ偵察に行っている。
屋台を見つけたものの、一食分の食料を持っていた茜達は近くの藪の中で適当に鬼をやり過ごし、
昼食をとったまま隠れていたのだが、いつの間にか夕方近くになっていた。
食料も底をつき、鬼に対してあまり有効な手段を持っていない三人には隠れているしかない。
もちろん、追いかけっここそが鬼ごっこの醍醐味ではあるのだが、ここまできてむざむざ捕まりたくもない。
茜は迷っていた。鬼になって好成績を収めるか、それともこのまま逃げ続けるのか。
「茜、ちょっと見てきたんだけど、あの屋台って食べ物以外も売ってるみたいだよ」
「そうですか…例えば?」
「とりもち銃とか唐辛子銃とかいうの売ってたよ。でもあそこボッタクリみたいよ?」
澪はこれまでの疲れがでたのか、すやすやと眠っていた。
茜は澪を優しく起こした。腹は決まった。
「それでは、あの屋台へ行きましょう。二人ともすぐ出立できるよう準備をしてください」
「了解〜」
『わかったの』
それから数分で準備が整った。
「でも茜、あんなところ行ってなに買うの?」
「あの屋台は何でも売っているみたいです。私の勘が当たれば間違いなく…」
『間違いなく…何なの?』
「それは着いてからのお楽しみです。ついでに夕食も済ましてしまいましょう」
【茜 澪 詩子 屋台へ移動】
【時間 日没直前】
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「いや本当だって。君たちならそのまま芸能界にコンビで売り出しても、立派に通用するぜ」
AV業界に引き込む極悪プロデューサーのようなことを平気でのたまうのは、本物のやり手プロデューサーである緒方英二。
「なんだったら俺がさ……え? だってほら、俺、緒方英二って名乗ったよな。聞いたことない?」
ふるふると、並べて首を振る杜若きよみ(白)と長谷部彩。
「知らない? いやー、結構お兄さんも有名だと思ってたんだけど、まだまだだなぁ」
軽く流しているが、結構ショックな緒方英二。から笑いが空しく草原を吹き抜ける。
だが、無口系美少女を2人もひきつれ、一体何の不満があろうというものか。
さらに、きよみがいかにも純朴そうに、
「緒方さんは、芸能界の人なんですか?」
などと聞くものだから、英二も即、調子を取り戻して、
「ああ。はい、これが名刺。彩ちゃんもどうぞ」
『緒方プロダクション 代表取締役社長』と刷られた名刺を見て、彩は軽く目を見張り、きよみは「まぁ……」と、口に手を当てた。
一見冴えないおっさんだが、そう言われると貫禄があるように思えるから不思議だ。
老けて見える、とも言う。
「緒方……理奈?」
名前と名字。この2つが一致して、初めて彩もぴんときたようだ。
英二が言っていた妹の理奈というのは、あの『緒方理奈』であると。
「あ、彩ちゃん、知ってる? そうそう。あの緒方理奈ちゃんのお兄様。似てないけどね」
似てたら困る。
それはさておき。そんな軽い冗談が飛び出すほどに、緒方英二は上機嫌であった。
二人して無口なため、自然、英二が喋り続けることになるが、そこは海千山千の芸能界を生き抜いてきた男。話題には事欠かない。
聞いてる2人も反応は少ないが、まるで授業中の生徒の如く、真面目に英二の言葉に耳を傾ける。
特にきよみの方は、あまり接触のない分野とあって、時折質問を挟んできたりと、興味津々な態度が窺える。
かるくジョークを挟んでみると、あっさり引っかかってくれたりして、自らフォローも入れねばならない。だが。
虚偽の海にまみれて生きてきた英二にとって、素直すぎるこの2人の反応は新鮮であった。
もはや鬼ごっこをしていることなどすっかり忘れ、大声で話しながらのんきに歩く。
実はこの一行、未だに朝食にありつけていない。
そんなわけで、なにかがあるかも知れないと開けた場所に来たはいいが、見つかる危険も伴う諸刃の刃。
しかし、お嬢様方のお腹の鳴る音を聞かないふりをするのにも、そろそろ限度があるわけで。
緒方英二が必要以上に大声で会話するのにも、そんな意味合いが含まれていたのかも知れない。
「ちょうど2人はカラーイメージが正反対だからさ、黒と白の鮮やかな対比になって、人目を引きつける構成ができると思う。
――うん。本当に悪くないな。どう? その気があるなら俺も本気でプロデュースするけど?」
「いえ、流石にそれは……」
苦笑混じりにきよみは断り、彩もこくこくと頷いて同意する。
「そうか、残念だなぁ」
どこまで本気だったかは分からないが、英二は大げさにため息をついて残念がる。
「いや、本当に。上手くすればうちの理奈ちゃんに匹敵、あるいは凌駕するくらいのユニットになったかも知れないのに」
「森川由綺よりも?」
「うーん、由綺ちゃんは俺が全力を傾けて育てたアイドルだし、今、のりにのってるからなぁ。
まてよ、由綺ちゃんとは逆に落ち着いた魅力を中心に打ち出していけば、静と動という感じで上手く共存できるかも……」
「じゃあ桜井あさひちゃんが相手ならどうかしら」
「あさひちゃんかぁ……うん、あの子もいいものを持っているけれど、カルト的人気が高いからなぁ。
あれを全国レベルまで引っ張るなら、もっと違った戦略でせめていくね、俺は」
「ですって、参考になったかしら?」
「は、はい……あのその、緒方……あ、あ、この場合は英二さんのことで……、
だから、その……緒方英二さんにも認められるように、もうちょっと頑張って……ごにょごにょ……」
はて?
毎日のように聞く声と、仕事上しょっちゅう耳にする声。
きよみと彩とに目をやるが、2人とも無言で首を振り、後ろを指す。
振り向いてはいけない。
神話のオルフェウス同様、そう言われると、振り向いてしまうのが人情と言うもの。
かくして緒方英二は平穏な地上に別れを告げ、黄泉の国への扉を開ける。
ギリギリと、軋む音を立てそうな程に、ゆっくりと首を捻って。
そこには国民一億人中、多分七千万人くらいは顔を知っているアイドルが立っていた。
「鬼ごっこの最中に両手に花で談笑なんて、ずいぶんと楽しそうね?」
「い、いやぁ理奈ちゃん、お久しぶり。我が最愛のまいしすたぁよ」
「私に兄さんなんていないわ……」
パクリゼリフをパクリで返され、冷や汗を背筋に伝わらせる緒方英二。
あさひの体がびくりと震えた。
彼女の横には、先ほどまで無邪気に鬼ごっこを楽しんでいた緒方理奈はもういない。
演じることにかけては天才的な緒方理奈が、全身全霊をかけてその役を演じていた。
すなわち、『鬼』と。
理奈は淡々と語り出す。
「私ね、最初は兄さんに小さい頃いじめられたことを思いだして、復讐さえ考えていたわ。
極道な緒方英二を締めてやるっ! ってな具合で。
でもね、今朝あさひさんと一緒に追いかけっこして……ただそれだけなのに、それが凄く楽しかったのよ。
こんな風に童心に返って遊ぶのも悪くないなって思ったわ。
思い返してみれば、兄さんにも、いじめられたりからかわれたり、かくれんぼで置き去りにされたり、
缶蹴りで缶の中に石詰められたり、泥刑で一対十を強いられたりと……あ、ちょっとむかついてきたわね」
急速に非難の視線が緒方英二に集中した。
「まぁ……許し難いような思い出もあったけど、でもそれ以上に楽しかったのよね。
だって私、毎日のようにレッスンレッスンで、子供の時くらいしか、満足に遊べた時間ってないんですもの。
子供の頃ってついついやり過ぎちゃう時ってあるじゃない? だから、許してもいいかなって思ってたわ」
そして理奈は笑った。
「ほんの、一分前まで」
百万ドルの笑顔が、非の打ち所のないはずの笑顔が、なぜか周囲の人間を凍り付かせる。
理奈が軽く右手を振った。
掲げられた腕には、爪はない、武器もない。込められたのは、ただ殺気のみ。
その殺気が渦巻くオーラとなって立ち上るのを、そこにいた人は確かに見た。
理奈がゆっくりと歩を進める。その先に待つのは死の運命なのに、緒方英二は一歩も動けない。
代わりに左右に控えていたきよみと彩が、押されるように後ずさる。
「ま、待った、理奈ちゃん。暴力反対。これはゲームだぜ。楽しくやろう、楽しく。な?」
震える声を走らせる隙に、理奈は間合いに英二を捕らえる。
「やぁね、ただの鬼ごっこじゃない。タッチするだけよ、タ・ッ・チ」
緒方理奈が言うとどことなく淫靡な雰囲気があるが、英二はそれどころではない。
あの右腕は、対緒方英二限定、今この瞬間だけ、エルクゥに匹敵する凶器となっている。
それに薙がれた者の末路はすなわち、死、あるのみ。
「じゃあね、兄さん。結構楽しいイベントだったわ」
まるで永遠の別れのように言い放ち、弓の如く引き絞られた右腕が、振り下ろされたその瞬間――!
「太陽拳っ!」
「なっ!」
閃光が理奈の目を直撃した。
だが勢いは止まらず、平手は暴圧を纏ったまま空を薙ぐ。その風圧のみで、地面の草が、千切れて宙に舞った。
これをくらったら、あの時、森川由綺は死んでいただろう、と思えるほどの威力だが、標的はすでにそこにはいない。
「くっ、あの男……」
理奈は目を擦っていた。
眼鏡だ。
とっさに英二は眼鏡の角度を調整し、太陽の光を反射させ、理奈の視界を奪ったのだ。
その僅かな隙に、緒方英二の影は丘の向こうへと消えている。まさに鼠を見たときの猫型ロボット並の神速だ。
蹴散らした土煙と葉切れだけがその逃走経路を示している。
「逃がすものですかぁっ!」
理奈も即座に、弾かれたように走りだした。
2人の姿は瞬く間に草原の彼方へと消え、後には呆然とした、きよみと彩とが残される。
いや。
「あ、あの、ごめんなさい。タッチ、です」
その背中を申し訳なさそうに触る桜井あさひ。
ひょっとしたら、緒方英二に拾われてなければ、穴の中で最後まで残ったかも知れない影の薄い2人は、
あえなく桜井あさひによってとっつかまったのであった。
一方そのころ。
「まーちーなーさーーーーーーーーいっ!」
「いやほんと、愛しているってばぁ理奈ちゃん。だから勘弁してくれないかなぁ?」
「この期に及んでなにをーーーっ!」
「やっぱダメかぁ……とほほ」
――結構余裕あるし。
【緒方英二 逃走中】
【緒方理奈 猛追中】
【杜若きよみ(白)と長谷部彩 鬼化】
【桜井あさひ 2ポイント追加】
【困ったことに、朝食にはまだありつけていないもよう】
【昼前ぐらい?】
さてさて、D一家が禍日神に襲われている間、その近くで悶絶していたはずの佐祐理さんは何所行っているのかというと。
「ふぇえ〜…まだ眼が痛いです〜…絶対逃がしませんよー!」
奇襲に失敗した観鈴ちんを、今度は実力で捕まえようと追いかけていたのでありました。
しかし思った以上に唐辛子手榴弾の威力は大きく、まだ佐祐理の眼も喉もヒリヒリしていたため、その声は涸れていた。
制服は赤系だからあまり目立たない…というわけでもなく、リボンがところどころ紅く染みている。
靴下も然り。
もちろん髪の毛も、リボンも。
その上さっきばたばた暴れた上に砂浜を急いで走ってきたので足が少しだるくてふらついてる。
――なんつーか、痛々しいというか。
この鬼ごっこが始まった時、あの佐祐理さんがこんな姿になるなんて誰が予想しただろうか。
ビーチなんだからシャワー室があるかもしれないのに――そして、普段の賢い佐祐理さんならそう判断したはず――そんなこと考えもせず、ひたすら観鈴ちんを追う事しか頭に無かったらしい。
一体どうしてこんなことになっているのか。
「佐祐理をこんな惨めな目にあわせたあの子…いくら声が同じだからといって絶対許しませんからねーあははー!」
案外負けず嫌いらしい。
そして、
「これを機に、佐祐理も一気にこの鬼ごっこで目立つんですよー!!!」
やっぱり、ちょっと気にしていたらしい。
「でも、ちょっとどこに行ったのか分かりませんね…あははー…どうしましょう…」
ちょっと歩いて少し冷静になった佐祐理さん。
「屋台に寄って探知機でも買いますか…?」
しかし、屋台はぼったくりなので財布に痛手を喰う事になる。
佐祐理の家は富豪には違いないが――そして来栖川姉妹とは違い、自身も現金を所持しているとはいえ――やはりあまり金を浪費するのは賢くないであろう。
ひょっとすると電池が別売り(しかもぼったくり)とかそういうオチかもしれない。
確証があるわけではないが、十分ありうる気がした。
「やめておいたほうがいいですね。ただ一人を捕まえるためだけに」
賢明な判断を下す佐祐理さん。しかも観鈴ちん一人だけを追う行為があまり得にはならない、ということも分かっている。
「でも、これはけじめです。この佐祐理が鬼として優勝するための!」
そういうことらしい。
でも…
「…どうしましょう…」
困った。
「あ、そうです」
ぽん、と何かを閃く佐祐理さん。
「あの手を試して見ましょう」
そこで取り出したるは、携帯電話。
――ではない、特殊なトランシーバー。
ここは、やはり金持ちとしての特殊能力をいかんなく発揮するに限る。
特殊能力・黒服。
日本全国何所に居ようと何をしていようと、困ったときに電話すれば黒い服の男達が現れ佐祐理のサポートをしてくれる、という金持ちならではの能力である。
「あ、もしもし佐祐理です」
早速通信を試みる佐祐理さん。
――が、繋がったのは。
「倉田さん?」
「ふぇ、秋子さん?」
管理室だった。
「ごめんなさいね、ちょっと電波を妨害させてもらったわ」
「しかし、佐祐理の能力(?)は人を傷つけませんし、サテライトなどを使う訳でもありませんから、ルール上問題ないのでは?」
「あのね倉田さん、確かに貴女の能力は人も傷つけないしサテライトも使わないからルール上問題ないような気もするわね。でも、これ以上余計な人を管理側としては登場させたくないのよ」
現に、いとっぷを妨害した詠美ちゃん様親衛隊が既に千鶴さんによってどこかに飛ばされている。
「ふぇー…」
「だから、ちょっと妨害させてもらったわ。ごめんなさいね」
それだけ言って、電話は切れた。
そして佐祐理は一人ごちた。
「やっぱりダメでした…」
つまりダメ元だったらしい。
「仕方ありません、こうなったら佐祐理自身で捕まえるしかないようですね」
佐祐理の瞳に力がみなぎる。
「なんとしても! 佐祐理は! あの佐祐理と同じ声の女の子を捕まえて見せます!」
そう決意した。
そして、くぅー、とおなかが鳴った。
「ふぇ〜…まずは夕御飯ですね…」
そして、そうこうしているうちに舞が居るはずの灯台を通り過ぎてしまっていたのだが、佐祐理は気付かなかった。
【佐祐理さん 黒服使用不可能】
【観鈴ちんをなんとしても捕まえようと決意する】
【佐祐理さん 手持ちの食料から夕食をとる】
【舞(&あゆ)が灯台でどうなっているのかは不明】
【時間 夜】
「ごめんね、七海ちゃん。遅くなっちゃった」
なんと由綺は、追いかけっこのあまりの激しさのため、七海と別れた場所を正確に覚えていなかったのだ。
決して書き手が忘れていたわけではない。
その後、屋台で(冬弥の金で)シェパードを買った由綺は、真っ先に別れた七海を探させた。
幸いにも七海の匂いが由綺に移っていたため、どうにか探し出すことができたのである。
「あっ、由綺さんお帰りなさい」
結構待たされたはずであるのに、まったく気にしていない様子だ。
いい子やのう。(大統領風味)
「七海ちゃん。始めまして」
「あ、始めまして。冬弥さん」
まあそんなこんなで3人は合流したわけである。
【冬弥 金無し】
【由綺 七海と合流 シェパードマイク所持】
【七海 由綺と合流】
「随分遅くなってしまいました…」
自嘲するかの様に、葵は呟いた。森の中。陽も沈み、辺りは既に暗闇の衣に覆われている。
月が出ているはずだが――と、葵は木々の切れ間から覗く空を見上げた。
…雲が多い。どうやら、天候が崩れ始めて来ているらしい。
「…明日は雨かな…? ――急がなきゃ」
葵の背には、ナップザックがあった。その中には、見つけてきた食料が詰め込まれている。
…美汐、瑠璃子、真琴、そして自分の四人で分けても、二・三日分にはなるだろう。大収穫だ。
――更には、瑠璃子の捻挫の為の湿布薬までも発見出来、これもザックの中に詰め込まれていた。
「私は運がいいです♪」
内心で呟き、葵は微笑んだ。
……が、その微笑みを踏み潰すかの様な災厄が降り掛かるとは、葵自身、予想だにしていなかったのである…。
進む先にある大木の影から葵の前へと、一人の青年が姿を現した。その体には、鬼の襷が掛けられている。
油断していた――葵は、自分の迂闊さを呪った。早く教会へ戻らなければという、はやる気持ちに押されて、
周囲の気配を窺う事を怠っていたのだ。
…教会で待つ瑠璃子は、鬼になってもいいから必ず戻ってきて欲しいと言ってくれた。だが、だからといって、
おめおめ鬼になる気は更々無い。
葵は、何時でも逃げ出せる様に身構え、緊張に強張った鋭い面差で、青年を見やった。
――だが、葵の目の前に現れた青年は、面白くもなさそうな眼差で葵を一瞥し、すぐに逸らして周囲へ目線を
泳がせる。葵には、全く興味を抱いてはいない様だ。
それならそれでいいと、葵はゆっくりと身を退いて行き、青年との距離を取り始めていた…
「…瑠璃子を知らないか、君?」
ルリコ――その名に、葵の胸は弾かれた様に一瞬大きく動揺した。そして、その一瞬で察する。
(……この人が…!)
「聞こえなかったかい? 瑠璃子を見なかったかな? 僕の妹なんだ。見かけは――」
こちらをじっと見つめて来ながら、その青年が尋ねて来る。――彼が、瑠璃子の言っていた兄、拓也だろう。
彼女の語っていた姿形と、容貌が一致する。何よりも――
「瑠璃子…瑠璃子……早く見つけないと…。…僕が捕まえないと…………瑠璃子…」
彼女の名前を連呼する。…間違いない。
「――その、瑠璃子さんという人を探しているのですか?」
「知っているのか!? 瑠璃子が何処にいるのか――!」
「…知りません。――只、私には興味は無いのですね?」
少しずつ後ろへと下がってゆく葵の言葉に、拓也は眉根を寄せ、不機嫌そうな光を目の中で蠢かせた。
「…無い。知らないのなら、あっちへ行ってくれ。僕は瑠璃子を探しているんだ」
「そうですか。…では、さようなら」
追って来る気が無いのなら、結構な事だ。葵は拓也から離れて行き、迂回する様に進もうとした。
「…………――瑠璃子は、病気なんだ」
拓也の、呻くような声。
「早く薬を渡してやらないと、発作が起きてしまう…」
「っ…! 本当ですかっ!?――」
顔色を変えて振り返った葵の目に、邪悪――と評しても過言では無い、拓也の歪んだ笑みが映った。
虚偽だ――と気付いた時には、もう遅い。
「……瑠璃子が何処にいるのか、知っているんだね?」
葵は――
逃げなかった。
本能的な部分はが、逃げろと告げている。拓也からは、何か得体の知れない威圧感めいた物を感じるのだ。
だが、ここで走って逃げ出せば、瑠璃子の居場所を知っていますと声高に告げてしまう事と同じだ。
既に彼の虚偽の罠に引っ掛かってしまっている。何とか――巧く逃げ出す機会を作らなければならない…
「――知りません」
「本当か…?」
「知りません」
「…………………………………嘘だな。素直に教えた方が身の為だぞ?」
葵は肩を震わせはしなかったが、首筋から背中へと、冷たい汗が流れ落ちるのを感じていた。
「知りません…。そちらこそ、妹さんが病気で発作を起こしかねないと言うのなら、私に構っている場合では
ないでしょう? それに、運営管理の人達に連絡を取れば、すぐに見つけてくれるはずです」
「駄目だ。瑠璃子は僕の手で捕まえるんだ」
「そんな事に拘っている場合ですか? 本当に心配であるなら――」
「瑠璃子は何処だ?」
葵の言葉に、拓也は取り合おうとはしない。夜闇に沈む森の中ででも、彼の双眸がギラギラと光っているのが解る。
「…知りません」
「嘘だ。君は知っている。瑠璃子の居場所を知っているはずだ…!」
「知りません…! 先程も言いましたが、切羽詰っているのなら、その事情を話せば運営サイドの人達が
教えてくれるはずです。私に構っている暇があるのなら――」
「居場所を知っているんだろう!? 何故言わないんだ! 何故隠す!? 何で僕の邪魔をする!?」
「ですからっ…」
拓也の気を何とか自分から逸らせようと、辛抱強く言葉を返そうとした葵だったが――
「っ…? あ………がっ…!? はっ……ああ゛っ………!?!」
チリチリチリチリ…!
侵食……汚染? 解らない。解らない何かが、葵の頭に流れ込んでくる。耳や目を介さず、直接、脳へと。
痛い? 熱い? 押し潰される…!? これは―― …何!?
「………喋れ。君は、瑠璃子の居場所を知っている………そうだろう?」
「ぎっ……あっ…あぁあっ……っっ!?」
薄れて、吹き飛びそうになる意識。脳が破裂するかの様な、“痛みを伴わない激痛”――葵は全身に汗を浮かべ、
頭を抱えて膝を地に落とした。――そして、乱打される意識の中で、瑠璃子の言っていた言葉を思い出す…
『―― …ルール違反を承知で直接電波を当ててくるかもしれないから…』
デンパ…? 電波……!? これが――電波…! 脳を直接蹂躙する、無音の嵐――
「さあ、言うんだ。瑠璃子は何処に居る? 知っているんだろ? 素直に言えば、すぐに解放してあげよう。
タッチもしない。――さあ。楽になりたいだろ?」
生きながら四肢を?がれて行くかの如き感覚。音の無い嵐の中、拓也の声は、葵の耳に優しく響いた。
「っっっ…!! っ……、もっ……もっ…! ぎっ…! …っ、きょっ…きょきょっ……!!」
「んん?」
「っ…! ――っ、しら…ない……! ――しっ…知りませんっ!!!」
葵の根性…精神力は、驚嘆に値した。――が、それは状況を好転させる事は一切無く、拓也の眉間に怒りの
皺を刻ませただけだった。
「……廃人になりたいのか。…そうか。なら、望み通りに――!」
――と、眼光を閃かせた拓也の首筋に、どこからともなく飛来した吹き矢が突き刺さった。
「して―― ………お」
拓也の目が、とろん…となり、更に一瞬後には、彼は地面に倒れて寝息を立てていた。
縛り上げて来ていた電波の鎖から解放された葵は、両手を地に着け、悲鳴を上げるかの様に息を荒らげる。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ……!!」
「――月島拓也様を確保致しました」
「はぁっ、はぁっ……―― …?」
何時の間にやら現れた数体の警備スタッフの制服を着たメイドロボが、倒れた拓也を囲んでいた。
「大丈夫ですか、松原様?」
「…へ、平気です……。っ……マルチさん…?」
肩で息をする葵の前にしゃがみ込んだのは、葵の良く知った顔――マルチだった。
…が、知己のマルチではなかった。量産型のHM−12。
「い…一体、何が…?」
「月島様の能力による参加者への直接攻撃を確認致しましたので、反則行為への対処として介入させて頂きました」
「………」
立ち上がらぬまま、葵は眠りこける拓也を見た。彼を囲むHM達の内、13型の一人が、吹き矢筒を持っていた。
――麻酔針であろう。
「…反則……で、退場――…ですか?」
「一時的に拘束するだけです」
「そうですか…」
「――松原様の方から強くお求めになられるのなら、月島様を失格・退場にさせる事も可能ですが」
「………いえ、流石にそこまでは…。その人……月島さん…も、思い余ってやってしまった事でしょうし…」
まだ鈍痛の様な物が残っている頭を振り、葵は溜息を吐きながら苦笑した。
「私は、何も言いません」
「…承りました。その旨、お伝えしておきます」
…あの場所から少し離れた所にある気の影に隠れ、葵は乱れた呼吸を整え、消耗してしまった体力を回復
させるべく、休んでいた。
その背後――あの現場の上空には、飛来してきたヘリがホバリングし、その爆音を辺りに響かせている。
あれで月島を連行するのだろう。
――数分後、走れるくらいにまで体調を整えた葵は、夜闇の森の中、瑠璃子達の待つ教会へと走り出した。
【葵 森で拓也と遭遇】
【拓也 思い余って葵に直接電波攻撃】
【拓也の反則行為により、警備HMが介入。麻酔針で拓也を眠らせ、捕獲】
【拓也は管理室へ連行。 ※恐らく、セリオやオボロ、祐介が連行された時間と重なっている】
【葵が被害を訴える気が無いので、拓也は恐らく厳しい説教程度で、ほぼお咎め無しとなりそう…?】
【葵 食料と湿布薬を確保。教会へ戻る途中】
【二日目 夕刻〜夜】
「そろそろ夕飯時だねぇ…お?」
水平線の彼方へ消え行こうとしている夕日を見つつ、盛大に欠伸をかましていたショップ屋ねーちゃんは、
こちらへ向かってくる三人の人影を見つけると、すぐに営業スマイルに戻った。
「いらっしゃい。ここは食料から武器までなんでも揃ってるよ」
「では…ラーメンと輪布留を」
「私もラーメン。あ、ザッハトルテありますか〜?」
『お寿司』
「はいはい。ちょっと待っててね」
10分後、三人分の料理が出来上がった。とても常人とは思えないほどの手際の良さだった。
「この輪布留、とても美味しいです」
「ザッハトルテも最高だよ〜♪澪ちゃんは?」
満面の笑みでこくこくと頷く澪。が、それでも寿司を口へと運ぶ動作は怠っていない。
その後、30分程かけて完食した三人は、食後のお茶を飲んでまったりとしていた。
と、おもむろに茜が立ち上がる。
「さて、そろそろ…」
「お、もうお勘定かい?」
「いえ、もう二つ欲しいものがあるんです」
「なんだい?」
「明日分の食料と…バイク用のガソリンは置いてありますか?」
横の二人は、合点がいったように手を叩いた。詩子から賞賛の声があがる。澪もそれに同調した。
「あるよ。何g必要だい?」
「50ccですから…20g程お願いします」
「まいどあり〜、じゃ、食費と燃料代で占めて9000円だね。今回はおまけで給油ポンプも付けとくわ。これで簡単で清潔に給油ができるわよ」
「ありがとうございました」
財布から新渡戸さん一人と夏目さん四人を出す茜。ねーちゃんは、それを相変わらずの営業スマイルで受け取った。
入念に枚数の確認をした後、急にねーちゃんは真剣な顔つきになった。
「そのガソリンだけど、あくまでも燃料用として使ってね。もしそれ以外――例えば鬼をまとめて吹き飛ばすとか、そういう行動に出たら即退場になるから気を付けて」
「わかりました、気を付けます」
「じゃ、せいぜい鬼にならないように頑張ってね」
ガソリンと食料を両腕に抱えた三人は、ぎこちないお辞儀をした後、屋台から去っていった。
「ふふっ…元気だねぇ。さて、整理の続きでも始めようか」
【茜 澪 詩子 屋台で夕食をとる】
【茜 バイク用ガソリンを購入】
【時間 夜の7時くらい】
ムックルが嫌そうに鼻を鳴らす。
それが雨のせいだけではないとすぐに理解したのはアルルゥだけだった。
「つかまって!」
カミュとユズハに急いでそう言い、再度ムックルを走らせた。
と、同時に後ろから叫び声が聞こえた。
「アルルゥ待て! オレだ!!」
だがアルルゥはそれを一瞥しただけで、ムックルのスピードを落とそうとはしない。
「アルちゃん……?」
不思議そうに訪ねるユズハに、アルルゥは短く答える。「たすき、つけてた」
スタートダッシュで随分と引き離したものの、オボロとムックルの距離はみるみる縮んでいく。
女子供とはいえ三人を乗せ、しかも苦手な雨の中だ。それも仕方がない。
あまりにおそろしい形相で追いかけてくるオボロと、そのスピードにでついてこれる場違いに無表情な見知らぬ女性。
──はっきり言って怖い。
「ボロボロお兄様っ! 来ないでーーーっ」
カミュは手当たり次第にものを投げてみたが、案の定オボロもセリオもなんなくそれをかわしていく。
だがその中のひとつが──
ガチャンッ……地面に落ちて鈍い音を立てた。その箱状の機械の側面には『Made by 日本一の弟』──と書かれていた。
オボロとの距離は縮まる一方。
「ガチャタラっ」
アルルゥが叫んだ。その声に応え、ようやく出番かよとばかりに物凄い勢いでガチャタラがオボロの顔周辺を飛び回った。
「うわっ。邪魔だっ」
振り払おうとするがうまくいかない。
「くそっ、セリオ! なんとかしろ!!!」
「──────はい?」
「はい? じゃない!! 早く急げっ」
「──────はい。承知しました。申し訳ありません。
なにぶん雨水のためか聴力感度の具合が芳しくない様で──」
深々と頭を下げるセリオ。
「んがぁーーーーーーーっ。いいから早くしろっ!!!」
「承知しました──」
今のセリオ彼女の目的は『香里の邪魔要素を遠ざける』ことである。
いわば、ユズハはオボロを誘導するための鼻先にぶら下げる唯一のニンジン。
あっさりそれを食われてしまっては、今後のコントロールに支障が生じる。
疑われぬ程度に協力し、捕まえぬ程度に邪魔をする。
(それもこれも香里様の目的の為です──)
ようやくセリオはガチャタラを捕まえると、そのまま思い切りぶんぶんと腕を振り回した。扇風機のごときスピードである。
離したときにはガチャタラは見るも無惨なほどふらふらと方向感覚を失っていた。
「さて──参りましょう」
言われるまでもなくオボロは走りだしている。セリオもそれに続いた。
【アルルゥ・カミュ・ユズハ(+ムックル):オボロから逃走中。強化兵から認知されなくなる装置を落とす】
【オボロ:セリオに振り回されつつ、ユズハを追跡】
【セリオ:香里に忠誠を誓いつつ、オボロに同行中】
【ガチャタラは目を回されてふらふら】
んっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっはいっ!!!!!!
えらい久しぶりの登場になります那須宗一でございます。ついこの間ま
では割と頻繁に登場していた感じも否定できないですが、横に並ぶ坂神蝉
丸とかいうおっさんと関わりだしたのが運の尽き、ゲーム終了まで頑張って
逃げ切ろうと思ってたのに気付けばホモキャラ一歩寸前、あまつさえ不肖
の処女すら奪われるところでございました。本編ではけっこう世界なんか
救っちゃったりとスゴいことしてるのに酷い仕打ちであります。ところで葉鍵
ホモギャグといえば例の変態殺戮刑事(デカ)であるところの柳川祐也氏
が真っ先に思い当たりますが、彼は今ごろ何をやっているんでしょうか。久
しくご活躍を聞かないあたり祐也氏もまた不幸な身に置かれているのでは
ないかと余計な心配をしていたりしてます。――まあどうでもよかったりし
ますね現在の状況を顧みるに。
ここらへんで、不肖の近況なぞちょいちょいとご報告しましょう。
ひょんなことから世界一のエージェントである私那須宗一はあろうことか
残金124円の刑を処されまして、不本意ながら明らかに宵越しの金を持っ
てなさそうなセミマル・サカガミ、ハルカ・カワシマ、及びツクヨ・ミイデラと行
動を共にしている身であります。最初は蝉丸にぴったりくっつく事でコバン
ザメ戦法……いやいや蝉丸の撃墜ポイントを妨害しようと画策したわけな
のであります。事実、先ほども不肖の立てた作戦を横取りしようとしていた
蝉丸を辛くも阻止、痛み分けとは聞き捨てなりませんが結果的にポイントを
半々にすることで決着いたしました。となれば撃墜数に応じて金券を戴け
るシステムの恩恵に見事あずかれる事になるのですからこのおっさんとペ
アを組む理由の少なくとも半分は無くなった訳です。然らばもののふの末
裔な私、二言を挟まずにきっぱりとパーティから外れて単独行動を試みて
も文句は言われなさそうですが――やはりこの男の並々ならぬ能力を捨て
るのは非常に惜しい。百計を巡らして何とかこちらの好いように扱ってゆき
たいところではあります。約二名のおまけはどーにかしたいところだが。
「んー、いいきもち」
「……」←宗一。
「蝉丸、疲れない?」
「いや」
「……」←宗一。
「んもぅ、我慢しないでもいいんだよ?」
「そうか?」
「こういう日はサイクリングに限るね。那須とかいう者」
「……」←宗一。
――はい。なんか知らん間に空気の壁が出来ております。それもどうしよ
うもないくらい巨大なのが。ちょうどラピュタに向かわんとするドーラ一家が
気圧の谷に突っ込む時もこんな気分だったでしょう。ママーエンジンが焼け
ちゃうよーってか。精がでるねぇ。
そんなこんなでハイキングっぽい雰囲気でとことこと歩いていた我々四人
でしたが。
「――蝉丸、あれなに?」
「む」
「神社、だな。ありゃ」
「神社だね。ありゃ」
「真似すんなよ!」
随分と唐突に鄙びた――というにはあまりにもボロクソな社が目の前にど
どーんと姿を現します。うらぶれた鳥居は社名すら読み取れません。
神社。
不肖も神社には少なからず因縁があるわけで、しかもほとんどネガティヴ
な思い出しかないですから何とも妙な気分に襲われます。対して蝉丸、神
社を発見する前後から何か得心したような面持ちで終始微笑が耐えず、ど
うも蝉丸は一計企んでいるとしか思えません。しかしカップラーメン一杯で
鬼捕まえるという労働をこなした後ですから冗談抜きでちょっと休みたい。
とか逡巡している間に河島なる女性は縁側に移動、完璧に腰を落ち着け
ております。こう既成事実が作られてしまってはどうしようもありません。な
し崩し的に我々はそこで小休止を入れる事になってしまいました。
「よっこいしょっと」
なぜ完全に座った後で掛け声をかけるか、河島はるかよ。
「……」
「おい、おっさん」
「なんだ?」
「それを聞きたいのはこっちのほうだ。おみくじなんてアテにならないぞ?」
「なんとなくやってみだだけだ」
――アヤシイ。休憩開始からこっち、蝉丸さん全然落ち着きません。あっ
ちをふらふらこっちをふらふら、お前休憩する気ないだろうって、そういや
さっき断ってたなあいつ。……まあいっか。
「………むぅ」
「――そんなに気になるなら引いてみりゃいいだろ?」
「そ、そうか、青年よ」
「? 何動揺してるんだ?」
「いや、なんでもないぞ別に」
「? ならいいんだけど」
「――いいのか?」
「だからいいって言ってんだろが」
ポケットにしまってあったミネラルウォーター(さっき小川で汲んで来たや
つ。なかなか美味)を口に含みつつおっさんの挙動を監視中。万が一逃げ
だすようなマネしたら速攻で迎撃体勢に入れますよ。
「ならば……」
そういっておっさんは小銭を投じます。こんなうらぶれた神社に金銭投じ
ても祟られるこたぁないだろうに、妙に律儀だなぁ蝉丸は――
「……え?」
――消えちゃいました。唐突に。
坂神蝉丸が。なんの跡形も残さず。
「せ、蝉丸? どこいっちゃったの!?」
「消えてしまったね。坂神さん」
「せみまる〜〜?」
「こうして坂神蝉丸はエイエソの世界へ旅立ってしまったとさ。どんとはれ」
「ちょっと、どこいっちゃったの〜?」
約一名ズレた発言をしたような気もしますが、目の前の事象にただただ
驚くばかりであります。
「……ラストリゾート!!?」
最初に浮かんだのはそれと篁のツラ。
しかし、それはあり得ないはず。
いくら篁が好き者だろうが今の立場は運営サイド、んな身勝手ないたずら
やるはずがないだろう。しかしあの現象は以前篁が消失したときのそれと
酷似しているし、どう考えても――
「うおおおい!?」
こんどは月代とかいう少女まで消えやがりましたよ。
おみくじの棚が空きっぱなし。
そこを調べている間に消失してしまった。
一体――なんなんだ。
「……どうすればいいんだ」
「そんなこといわれても」
あとに残ったのは不肖・那須宗一と河島はるか両名。もはやお約束とな
りつつあるセリフを交互に交わしつつ、途方にくれるしかありませんでした。
【蝉丸 超先生ワープ(2回目)】
【月代 超先生ワープ(1回目)】
【宗一・はるか とりのこされる】
【時間→昼くらい】
【蝉丸と月代の行き先の一致は不明】
>>383-384 「セリオの思惑」修正
>「アルルゥ待て! オレだ!!」
のあとに、
現れたのはアルルゥもカミュも顔見知りの、ユズハの兄オボロだった。
上の文章を追加でお願いします。これがないとすごいわかりにくい。
あ、「改訂版投下用スレッド」に投下した方がよかったのかな……。
申し訳ない、訂正です。
>>385の二段落めを以下に置き換えてください。
これないと分かりづらいですよね……。
ここらへんで、不肖の近況なぞちょいちょいとご報告しましょう。
ひょんなことから世界一のエージェントである私那須宗一はあろうことか
残金124円の刑を処されまして、不本意ながら明らかに宵越しの金を持っ
てなさそうなセミマル・サカガミ(でも一番金持ってる)、ツクヨ・ミイデラ(ま
ああんなことあったからね)、ハルカ・カワシマ(なんでくっついてくるんだよ)
と行動を共にしている身であります。最初は蝉丸にぴったりくっつく事でコ
バンザメ戦法……いやいや蝉丸の撃墜ポイントを妨害しようと画策したわ
けなのであります。事実、先ほども不肖の立てた作戦を横取りしようとして
いた蝉丸を辛くも阻止、痛み分けとは聞き捨てなりませんが結果的にポイ
ントを半々にすることで決着いたしました。となれば撃墜数に応じて金券を
戴けるシステムの恩恵に見事あずかれる事になるのですからこのおっさん
とペアを組む理由の少なくとも半分は無くなった訳です。然らばもののふの
末裔な私、二言を挟まずにきっぱりとパーティから外れて単独行動を試み
ても文句は言われなさそうですが――やはりこの男の並々ならぬ能力を捨
てるのは非常に惜しい。百計を巡らして何とかこちらの好いように扱ってゆ
きたいところではあります。約二名のおまけはどーにかしたいところだが。
後ろを振り向いてもオボロの姿は見えない。
「……ガチャタラ、うまくやってくれたみたいだね」
「お兄様はいないのですか?」
「うん、見あたらないよ」
「……それでは、すみませんが一度ムックルちゃんを止めていただけませんか?
今のうちにユズハを下ろしてほしいのです」
「ダメ!」
アルルゥが怒ったように言ったが、ユズハは「お願いします」と繰り返した。
「多分──お兄様はユズハがいるかぎり追いかけてくると思います。ですから、ユズハは一旦お兄様とお話ししてみます」
「でも……」
「大丈夫。お兄様はユズハを傷つけたりはしませんから……」
「そりゃまぁ、そうだろうけど……」
なら三人で待とうというアルルゥとカミュの意見を頑なに拒否し、懇願するユズハに、アルルゥとカミュも、もしかしたらオボロはユズハを鬼にするために追いかけていたわけではないのかもしれないという気持ちになってきた。
遠くからだんだん近づいてくるオボロの「ユズハーーーーーっ」という必死な叫びが決め手になって、ユズハは一人で地に降りた。
「二人とも、がんばって……ムックルちゃんも」
「ん。ユズっちも」
「無理しちゃダメだよ」
「ヴォフっ」
雨よけにと二人は上着をユズハに被せ、そしてムックルに乗り遠ざかっていった。
にこりと手を振って見送ったあと、ユズハは安堵の吐息をついた。
ユズハが降りたのは、兄のこともあったが、──アルルゥも気づいていただろう、ムックルのことだった。
鬼ごっこが始まって以来、満足いくまで食事を採っておらず、ほとんど三人を乗せて移動していたムックル。ユズハ一人が降りれば、幾分は楽になる。
兄の真意は、本当はわからない。自分を鬼にしようとしているのか、そうでないのか。
どちらにせよ……ゲームを終わりにする覚悟もできていた。
「ユズハ!」
追いついたオボロが、若干息を切らせながら笑った。背後ですべるように走ってきたセリオが音もなく止まる。
「もう安心だ。今すぐユズハを鬼にしてやるからな!」
一歩、踏み出したその瞬間。
「待て!」
ジャーン、という効果音を背負って登場したのは──
「光岡様……?」
例の装置を使われそうになり、思わず焦って飛び出してしまったのが失敗だった。
そのせいで警戒されて逃げられ、見失ったユズハたちの気配。
焦ってはいけない。シンと心を研ぎ澄まし──待つ。
なんのはずみか、神のはからいか、装置の効果は唐突にとぎれた。
同時に、光岡は駆けた──ッ!
その勢い、まさに疾風怒濤。邪魔な木を避け、裂き、雨をはじき飛ばし、光岡は一筋の風となり一直線に彼女の元へ──。
さすがに息が切れている。体内の生命樹が、降る雨に怖じ気づいているのがわかる。
だが──そんなことは無に等しいことだ。長い前髪が汗で額に張り付いた不快感もどこか遠い。
(間に合った……)
「ユズハさん、この俺が来たからにはもう安心だ!」
あと少し遅ければ、そこにいる得たいの知れぬ男が彼女に襲いかかっていただろう。
間に合ったのだ。それだけが実感としてある。
しかも彼女は、一度会話を交わしただけの自分の名を呼んでくれた。
久々の充足感。口元の笑みを押さえられない。
(ここで助けられなければ男ではない……な)
「貴様何者だ!」
オボロがこめかみに血管を浮かべて光岡に向き合う。
「ユズハさんを守る者……とだけ言っておこう」
「なんだとぉ!? 貴様も鬼の分際でぬけぬけと……。
貴様のようなヤツがいるから、ユズハはいち早く鬼になるべきなんだッ!
ユズハの身の安全を考えたとき、鬼になってしまうのが一番だとわからないのか!」
久瀬論をまるで自分が考えたことのように言うオボロに、光岡は一笑した。
「本当にユズハさんを思うなら、彼女の意志を尊重し、それを助けてやる……
それが粋というものではないのかっ!
俺はユズハさんの身の安全だけではなく──それと同時に、彼女の努力を、意志を、心を守りたいのだ!
──それが今の俺の存在価値だ!!!!」
「な……」
「それよりもなんだ。お前こそ呼び捨てとはユズハさんに馴れ馴れしいな」
光岡は剣をかまえた。
「見たところユズハさんにつきまとうチンピラ……といった風情だが」
「それは貴様の方だ! 俺はユズハの……」
「聞くまでもない。ユズハさんを鬼にしようとする者は成敗してくれる」
先手を取ったのは光岡だ。目にもとまらぬスピードで一瞬の間にオボロの目の前に跳躍し、剣を振るった。が、ぎりぎりで見極めたオボロは両手の剣でそれを受ける。
「く……」
双方いったん後ろに飛び退き、無言のまま睨み合う。だがそれも刹那だ。
「殺(シャ)────ッ」
が。
飛び出しかけたオボロがつんのめって倒れ、光岡が見事な空振りをした。
オボロの上着を、セリオがしっかりと掴んでいる。
「オボロ様、お待ち下さい。──二度目はゲームから追放との通告を受けられたはずです」
「離せぇっ! ゲームなんざどうでもいいっ。ユズハをっユズハを守らないと……っ」
じたばたと無様にもがくオボロ。上着がミシミシと音を立てている。
光岡はその隙にユズハを振り返った。
「逃げよう」
「え……」
「雨はじき、ひどくなるだろう。身体に悪い」
「あ……はい」
気圧されるように頷くユズハ。
とはいえ、ユズハはとても走れる身体ではない。
口惜しいが、鬼の我が身では、抱えて走ることはおろか手を引くことすらできないのが現状だ。
一瞬考えたあと、光岡は剣を構え、
「斬ッ!!!」
手近の木々を次々に切り倒し、オボロとの間に些少ではあるが壁を作る。そしてその中の手頃な一本を二メートルほどの大きさに断ち切った。
「ユズハさん、そのまま真っ直ぐ進んだ先に木が倒れている。それに座るんだ。そしてしっかりと身体を固定してくれ」
光岡の真剣な口調に、ユズハは慌てて言うとおりにした。それを確認すると、光岡はおもむろにユズハが座った丸太の逆端を持ち──
「ぬぉりゃあああ!」
──上げた。
どうだ、これで触れずとも連れて逃げることができる!!
「み……光岡様?」
状況を察し、ユズハが不安な声を上げた。「大丈夫ですか……?」
「案ずるな。強化兵はダテじゃない!!!」
ユズハが乗った丸太を抱えて、光岡は猛スピードで走りだした。
【アルルゥ・カミュ(+ムックル):ユズハと別れて逃走】
【光岡:ユズハを乗せた丸太を抱えて逃走。屋根のある場所を目指す】
【ユズハ:混乱しつつも光岡に連れられ、オボロから逃走】
「待て、くそぉおおお! ユズハぁああああ! セリオ! いいかげん離せーーーーーっ!!」
「申し訳ありません──。
どうも──オボロ様に斬りかかられたときの後遺症か、腕の回路が不安定のようです」
「くっっそぉおおおおおおおおっ」
ビリッ!
ようやく上着が破け、オボロが駆け出したときには光岡とユズハの姿はなかった。
「あああぁぁあぁぁ、ユズハが連れていかれた!
テメーはオレを怒らせたっ!!」
「──申し訳ございません」
とりあえず、この怒りをおさめないことにはオボロが単独行動に出てしまう危険がある。
謝罪の言葉を言いながら、セリオは綾香の言葉を思い出していた。
『私はそういうのあんまり好きじゃないんだけどね。
男をコントロールするのに、女の涙は武器になるのよ。
セバスチャンなんか、姉さんの目がちょっと潤んだだけで動揺しちゃって──』
(私はヒトではなく単なる女性型ですが──、一応試してみましょう)
じわり。
セリオの目が潤む。僅かではあるが、オボロがひるんだ。
が、次の瞬間。
「誰〜も知らない、知られちゃいけ〜ない♪」
今まで誰にも気付かれずに街中の建物の中に隠れていた放置コンビのひとり、
御影すばるは桑島高子に頼まれ、屋台に買い物に出かけていた。
………しかし、
「ば、ばきゅ〜、道に迷ったですの…」
──無理もない。
今まではすばる以上に影が薄かった高子が買い物兼偵察係で、
すばるはロクに外に出なかったのだから…
「このままでは大影流の奥義を見せるどころか、なにも出来ずにリタイアですの…」
最初の意気込みはどこへやら、すばるは寂しさに押しつぶされそうになっていた。
それでもなんとかしてお使いを果たそうとするすばるは、いつのまにか街を抜けて森に入っていた。
落ち葉をざくざくと踏み越えしばらく歩いたのち、待望の屋台の明かりが見えてきた。
「ばきゅう、やっと見つけたですの☆
でも……何か騒がしいみたいですの──」
すばるは喜んで屋台に駆け出そうとしたのもつかの間、屋台がざわざわと騒がしいことに気が付いた。
その森の屋台では、ハクオロが絶体絶命のピンチを迎えていた。
「お客さん、まさかタダ食いしようってワケじゃないですよね?」
普段は気弱なタイプのアレイだが、ルミナの前で客に舐められるワケにはいかないのか、食い逃げ予備軍のハクオロ達をつぶらな瞳を細めながら睨んでいる。
「待ってくれ、確かに懐に金子が…金子が……」
何故か財布が見つからず、必死になって探すハクオロ。
「ねえ、美凪はお金もってないの?」
「…私のお米券は…換金不可ですから…
でも…たしか私のお財布は…服の中に…」
ハクオロはついに自分の財布をあきらめ、
美凪の服のポケットを叩いて財布を探しだしたとき、
ハクオロの匂いでも嗅ぎつけてたのか、どこからともなくエルルゥがやって来た。
ジャーーーーー!
「うわっ、冷てっ!! なにすんだ!!」
端から見ればまるで怪光線のごとく、目から水流が迸ってしまった。
「重ね重ね申し訳ありません。水流調整を間違えたようです。
──ご安心ください。綺麗な、ただの水ですから」
幸いオボロに『水流調整』の言葉は聞こえなかったようだ。
文字通り頭を冷やされて、オボロはようやく怒鳴るのをやめた。結果オーライ。
「オボロ様。ユズハ様の去った先なら追跡できます。
ほんの微小の足跡でも、私なら判別することが可能ですから。幸い本日は雨ですし。
──追いかけましょう」
「くっ、わかった! 急ぐぞ!!」
【オボロ:やっぱりセリオに振り回されつつユズハを追う】
【セリオ:オボロを制御しつつ、ユズハを追う】
「助かった。エルルゥ、財布をもっていないか?」
とりあえずの窮地から逃れられると思い、安堵のため息をつくハクオロ。
──だが。
「………ハクオロさん、何をやっているのですか?」
エルルゥは出来る限り穏やかで、それでいて嫉妬いっぱいの声で尋ねた。
「何をって───でぇ!!」
そのときのハクオロは丁度、美凪の腰のポケットに手を当てているところだった。
「…身体検査…私の体の隅々まで……」
美凪が顔を赤らめながら答える。
「ハクオロさーん!私がいない所でよくもよくも!!」
我を忘れたエルルゥがハクオロに飛び掛ってくる。
「にょわわ〜!美凪、屋台は安全なんじゃなかったのか?」
「みちる、私達三人には安全な所なんてないの…」
「にょわ。じゃあ、逃げるぞ!美凪、ハクオロ」
逃走する美凪とみちる。
「金は払うっ、金は必ず払うから〜〜!!」
ハクオロはなんだかんだ言いながら、しっかりエルルゥから美凪達と一緒に逃げ出した。
「わたくしとルミナ様の屋台で食い逃げとは許しませんわ〜」
怪力のアレイは屋台を引っ張ったまま、ハクオロ達を猛ダッシュで追いかけ始めた。
土煙をあげた屋台は優に軽自動車なみのスピードを出して、不埒な食い逃げ犯三人組ににどんどん迫ってゆく。
「待って、落ち着きなさいアレイ!」
ルミナも慌ててアレイと屋台を追いかける。
そんな事情などつゆ知らぬすばるは、暴走する屋台が哀れな三人組に迫っているところを見過すわけにはいかなかった。
「知らなかったこととはいえ、御免なさいですの…」
半壊した屋台の前で、すばるがルミナに土に付くほど頭を下げて謝った。
「気にしなくていいのよ、悪いのは全部アレイのせいだから」
「そ、そんなあ…ルミナさま〜」
屋台の破片を拾い集めていたアレイがルミナに涙声をあげたとき、エルルゥが『進呈』と書かれた包み紙をもってルミナの前に戻ってきた。
「ハクオロさんの逃げた後に置いてありました。
中に入っている宝玉は皆さんの迷惑料として受け取って下さい。
今回、ハクオロさんが支払えなかったお金は必ず明日までに用意するそうです。
それでは、私、ハクオロさんを追いかけますので失礼します」
エルルゥはルミナに宝玉の入った包み紙を渡すと、急いで来た道をUターンしていった。
「ばきゅう☆とっても綺麗な宝石ですの」
すばるが宝石に目を奪われる。
「ルミナ様、この宝玉なら充分壊れた屋台の修理代になりますね」
「まあ、それはそれ、これはこれだから……
──彼らが明日までに3万5千円用意出来なかった場合、どうしようかしらねえ」
ルミナは目を細めながら苦笑した。
【御影すばる 屋台1号を半壊させ、お使いが出来なくなる。高子のところへ戻ろうとする】
【ハクオロ 四日目夜までに屋台に借金3万5千円を返そうとする。エルルゥからは逃げる】
【遠野美凪 ハクオロのお茶目な部分をみて惚れ直す】
【みちる 段々この状況を面白がってきている】
【エルルゥ とにかくハクオロを追いかける。お金は持っていないのか、意地でもハクオロに貸さないのかは不明】
【ルミナ ハクオロに宝玉を貰って、屋台を壊されたことはそれほど気にしていない様子】
【アレイ 食い逃げ犯のハクオロ達をブラックリストに追加する】
【屋台1号 半壊、直せるかどうかは不明】
二日目、夜遅くです。
指摘
ルミナ → ルミラ
愛と正義の大影流>>
割り込み&紛らわしいことしてスマン。
405 :
:03/04/03 00:36 ID:DC5e01bV
光岡推参!>392-396 >396 >399
愛と正義の大影流 >397 >398 >400-402
こちらも申し訳ありません。
これからは割り込みしないように気をつけます。
しかもきれてるし…
「助かった。エルルゥ、財布をもっていないか?」
とりあえずの窮地から逃れられると思い、安堵のため息をつくハクオロ。
──だが。
「………ハクオロさん、何をやっているのですか?」
エルルゥは出来る限り穏やかで、それでいて嫉妬いっぱいの声で尋ねた。
「何をって───でぇ!!」
そのときのハクオロは丁度、美凪の腰のポケットに手を当てているところだった。
「…身体検査…私の体の隅々まで……」
美凪が顔を赤らめながら答える。
「ハクオロさーん!私がいない所でよくもよくも!!」
我を忘れたエルルゥがハクオロに飛び掛ってくる。
「にょわわ〜!美凪、屋台は安全なんじゃなかったのか?」
「みちる、私達三人には安全な所なんてないの…」
「にょわ。じゃあ、逃げるぞ!美凪、ハクオロ」
逃走する美凪とみちる。
「金は払うっ、金は必ず払うから〜〜!!」
ハクオロはなんだかんだ言いながら、しっかりエルルゥから美凪達と一緒に逃げ出した。
「わたくしとルミナ様の屋台で食い逃げとは許しませんわ〜」
怪力のアレイは屋台を引っ張ったまま、ハクオロ達を猛ダッシュで追いかけ始めた。
土煙をあげた屋台は優に軽自動車なみのスピードを出して、不埒な食い逃げ犯三人組ににどんどん迫ってゆく。
「待って、落ち着きなさいアレイ!」
ルミナも慌ててアレイと屋台を追いかける。
そんな事情などつゆ知らぬすばるは、暴走する屋台が哀れな三人組に迫っているところを見過すわけにはいかなかった。
愛と正義の大影流、修正版は議論、感想板に載せておきます。
ルミラさん御免なさい。
もちつけ >DC5e01bV
「ぱぎゅ〜……。しかし困りましたですの。これでは高子さんに頼まれたお買い物が出来ないんですの」
心底残念そうな声をあげ、すばるはその場にへたり込んだ。
「え? お買い物? お客?」
それに反応を示したのは、すっかり商売人気質が染み付いたルミラだ。
「はい……。連れの方に頼まれてお買い物に来たんですの……」
しゅんとしてしまうすばる。だが、ルミラは微笑みながら。
「ん〜……。確かに料理はできないけど……材料なら、用意できるわよ?」
「材料?」
「ええ。だからラーメンとかハンバーグ、おでんみたいなものはダメだけど、にんじんとかお米とかお肉とか。そういうものなら販売できるわ。どう?」
「え? ホントですの!?」
「ええ。アレイ、冷蔵庫は無事?」
「は、はいっ! ちょっと待っててください……」
アレイに視線を送ったすばるが見たのは、瓦礫の中から彼女が巨大な冷蔵庫を掘り出す姿。
どこに隠してあったのかは、気にしてはいけないのだろう。
「……それじゃあ、カレーのルーと、お肉とニンジン、たまねぎとお米をくださいな」
「はいはいちょっと待ってね……」
掘り出した冷蔵庫に歩み寄り、注文の品を取り出すルミラ。
「はい、2千円に……って、え?」
食材を袋に詰め、振り返る。
しかしそこにいたのは……
「Thanks,ハイ、これお代ネ」
すばる……ではなく、微笑みながら代金を渡してくる金髪碧眼少女。
「まいか、D,他に何かほしいものはある?」
「湿布をくれ」
両頬を痛々しく腫らした男と、
「はなび。はなびやりたい。はなびちょうだい」
その男におぶわれた幼女が言う。
「OK,OK,それじゃあ……シップを一箱と、花火をワンセットくださいな」
「え……ええ、いいわよ。はいどうぞ」
瓦礫の中から注文の品を探し出し、手渡すルミラ。
「アリガトウ。それじゃ皆さんオヤスミナサイ。Good night♪」
ウィンク一つ残し、少女と男、それに幼女は連れ立って去っていった。
「……なんか」
「独特の雰囲気を持ったというか」
「マイペースなご家族ですの☆」
後に残されたルミラ、アレイ、すばるであった。
【D一家 壊れた壱号屋台からカレーの材料を購入。これからHouseへ帰る】
【湿布と花火も購入】
【壱号屋台 料理の材料などなら購入可能】
【時間・場所 変わらず】
7割方書き上げたところで屋台が破壊されていました(w
全参加者一覧及び直前の行動(
>>411まで)
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
レス番は直前行動、無いキャラは前回(
>>324-327)から変動無しです
fils:ティリア・フレイ、【サラ・フリート】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂、【新城沙織】、【太田香奈子:2】、【月島拓也:1】
>>375-380 痕:柏木耕一、柏木梓、柏木楓、柳川祐也、日吉かおり、相田響子、小出由美子、ダリエリ、
【柏木千鶴:10】、【柏木初音】、【阿部貴之】
TH:藤田浩之、神岸あかり
>>332-337、長岡志保、マルチ
>>356-358、来栖川芹香、松原葵
>>375-380、姫川琴音、
来栖川綾香、佐藤雅史、岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ、神岸ひかり、
【保科智子】、【宮内レミィ】
>>410-411、【雛山理緒:2】、【セリオ:2】
>>392-399、
【坂下好恵】、【田沢圭子】
>>347-351、【矢島】、【垣本】、【しんじょうさおり】
WA:篠塚弥生、観月マナ、七瀬彰、緒方英二
>>365-369、
【藤井冬弥】
>>374、【森川由綺:2】
>>374、【緒方理奈:3】
>>365-369、【河島はるか】
>>385-389、【澤倉美咲】
Kanon:沢渡真琴、天野美汐、
【相沢祐一】、【水瀬名雪:3】、【月宮あゆ:4】、【美坂栞】、【川澄舞】、
【美坂香里:8(1)】、【倉田佐祐理:1(1)】
>>370-373、【北川潤】、【久瀬:4】
AIR:神尾観鈴、霧島佳乃、遠野美凪
>>397-406、神尾晴子、霧島聖、みちる
>>397-406、柳也、裏葉、しのさいか、
【国崎往人:1】、【橘敬介】、【神奈:1】、【しのまいか】
>>410-411 管理:長瀬源一郎(雫)、長瀬源三郎、足立(痕)、長瀬源四郎、長瀬源五郎(TH)、フランク長瀬(WA)、
長瀬源之助(まじアン)、長瀬源次郎(Routes)、水瀬秋子(Kanon)
支援:アレックス・グロリア、篁(Routes)
毎回微妙にマイナーチェンジをしてるので読んでほしいこと&連絡事項↓
現在スレが436kbです、そろそろ次スレ移行も考えていきましょう。
このリレーは余程の反則(電波で他の参加者を操る、魔法で自分を触れなくする)が無い限り能力使用はOKです。
但し原作外のオリジナル設定は基本的に抜きで。ていうか基本ギャグで済ませましょう。
細かいところに拘るより鬼ごっことしての状況を進める方向で
致命的なミスがない限りは脳内保管しましょう。
NGはできるだけ避けるよう書く話のキャラの前話くらいは読みましょう。
前スレも健在なのでリストをたどれば最終行動はわかる筈なので。
また他のスレのネタは知ってる人はニヤリ、あ、このネタ上手いなーくらいにしておきましょう。
能力に関してグレーゾーンな話を書く際には
『葉鍵鬼ごっこ議論・感想板』 へどうぞ
>
ttp://jbbs.shitaraba.com/game/5200/ 後記
鬼がちょうど半分くらいいですかね。
417 :
補色:03/04/03 01:43 ID:hfkx1E63
「疲れたわっ!」
異様に爽やかな、それでいて妙に強制力のあるスマイルを浮かべながら
七瀬留美は唐突にそんなことを口走った。
「…一体に何に疲れたのか詳細を説明してほしいんだけど」
矢島が困った風に聞き返す。いくらバスケットを習得していようがそんな
事を一瞬で悟れるほど人間うまく出来てはいない。『疲れたわっ!』が先ほ
ど繰り広げられた一戦を差しているのか、幕末のアームストロング砲よろし
くバンブーブレード(竹刀)を正確無比に繰り出していた事(本人はあくまで
も『ツッコミ』と形容しているが)を差しているのか、わずかに島内に配置さ
れた食料を探すのにも疲れたのか――
はたまた乙女という擬態を装うのに疲れたのか。
「擬態いうな!」
ぐべしっ。
「いだっ」
と、矢島の一人称回想とも三人称文体ともとれぬ文章すら見分けがつか
ないほど七瀬(漢)は疲弊していたらしい。
418 :
補色:03/04/03 01:43 ID:hfkx1E63
当座の目標を獲物ニンゲンから食料及び休息所に変更しつつ、七瀬留美
と矢島のサムライ・奴僕(『まだいうか』『俺何も言ってないぞ!?』)もとい
凸凹コンビが突き進む。七瀬嬢、キャラクターが若干清(略)化しつつある
のは多分単純にテンパっているせいだろうか。若しくは相方の矢島のコ
ミュニケーション能力がパワー不足かもしれない。
「(なんか俺も疲れたよ……垣本…藤田…神岸さん……会いたい)」
「どしたの?」
「ああいやいやなんでもないですじょ!?」
勿論、所詮脇役でしかない(名前すら与えられていない!)矢島に折原
並のストレンジさを強要するのがそもそもも間違いというもの。そこらへんは
流石に七瀬も承知しているのだが、承知したうえでボケの応酬を期待しつ
つ矢島に振ってしまうところが何とも脱漢化を衰退させていると言えよう。と
いうかそのロジックは乙女というよりも芸人のそれに近いものがある。
419 :
補色:03/04/03 01:44 ID:hfkx1E63
「……七瀬さん」
「矢島君、言わずとも分かってるわ。――海よ!!」
そろそろ二人の空腹が冗談では済まされないレヴェルに達そうかという
時分、なんか唐突に海に辿り着いてしまった。大海原に沈む太陽は矢島す
らも思わず感嘆の声を上げずにはいられないほど綺麗だった。乙女みたい
な生物・七瀬に至ってはもうどうしようもない。彼女は思いつくおよそ全ての
『乙女っぽい』シチュエーションを描いては消し、描いては消して次に行動
すべき内容を策定している。その思考が既に乙女たらしめていないと誰が
ツッコむべきであろうか。それは誰にも分からない。
一方矢島とは言うと、
「(海→海水魚→焼く→食べる→(゚д゚)ウマー)」
などとサルバトール・ダリも裸足で逃げ出す超現実的思考に捕らわれて
いたりした。この二人による強烈な対比の思想が後の現代アート界に大き
な影響を残すわけも無く、とにかく腹をふくらませないことにはあと4時間ほ
どで両名は行動できなくなるだろう。
彼らは何を選択し、何を捨ててゆくのだろうか。
【七瀬(漢)・矢島 海】
【両名の空腹臨界点 あと4時間】
【時間→夕暮れ】
「ささ、まずは一杯」
「おうおうおうすまぬな北川殿」
住井の手にしたグラスに清酒・禍日神がなみなみと注がれた。某国皇帝
によって開発・製造されたそれは、同国傭兵によって初年度製造分の殆ど
が飲み尽くされそのバケモノじみた呑みっぷりを湛えて名づけられたという
由緒ある清酒である。むろん彼ら二人はそんなこと知る由も無いのだが。
「んでは」
「鶴来屋旅館、巨大ビックリハウス化計画成功を祈って」
「乾杯っ」
グラスに入っていた液体が万有引力に従って住井護の体内へと消えて
行く。所要時間わずか10秒。完飲の証に住井は超特大のげっぷを一発吹
き出した。北川が屁を以ってこれに応じる。
「ははは、護者も存外汚らしい性癖をお持ちじゃのう」
「潤者こそ何を申される。不浄の穴たるアヌスから気体を噴出するなぞ宇宙空間にあってはまさに命取り。貴様もしやオールドタイプだな?」
「馬鹿な。この私に時が見えぬと申すか護者は。よせよ、兵が見ている」
「おうおう、あれほどの量で潤者は召されてしもうたか。貴殿もアルコールが弱くなり申したなぁ――っと、思わず敵製用語を用いてしまったわい」
「かくいう貴殿こそ肝臓に到達したアルコールをアセドアルデヒドに変換しきれず血液循環で脳内に達したアルコールたちによって神経細胞が麻痺すなわち酩酊状態になっているではないか」
「またまたぁ〜一体何を言っているんだい潤たんは? っていうかカンニングペーパー片手に読み上げてもダメだぞ。せめてテレプロンプターを使い給え」
「んなもんあるかっ! 今ココにあるものといえば清酒・禍日神に大吟醸・来栖川の怒りにその他各種アルコール類スピリタスもあるなーんでそれからいろんなつまみと米四合ト味噌ト少シノ野菜だけだね。東に病気の人あれば行って看病してやりたい気分だNEEE!!!!!!!!」
「ふう、またお前こと北川潤はそうやってみーやじゃーわけーんずぃーを引用するんだからやってられんわ。そんなに花巻が好きですか? 好きですか、花巻。Do you Love HANAMAKI? んふん?」
「馬鹿な! 俺が好むところの土地はうつくしまふくしまと風の谷だけじゃ! 遥か天空を目指してイカロスの如き挑戦を午後の日差しの中で夢想しつづけるパズー・住井にだけは言われたかねぇっすよもー」
あーやってられんわーとかのたまいながら大吟醸に手を付ける北川。
と、住井も同じ事を考えていたらしく――偶然、手が触れあった。
「や、潤君…」
「護。……呑むのか?」
「でも、潤君が先に手を付けたんだから、潤君から先に呑んでよ…」
「そんなわけにはいかないだろ。ほら、コップ貸せよ」
潤は護のコップに酒を注ぐ。
手渡す時に再度手が触れ合う。
「潤君…」
「護…」
こうして二人は禁断の園へ一歩足を踏み込む事に――
「なるかぼけがぁああああ」
「んんだこらあぁやんのこああああ」
ならなかった。
それぞれがそれぞれに向かって死の咆哮を叫ぶ。
これから文化大革命さながらの大殺戮劇が始まろうとしているのだ。
「かかってこんかいこのどげどーがー」
「ぬがああやんのかこるぁー」
狂気と正気の狭間で二人はグラスを突き立てる。
「ぬがあああああああきえーーーあーまずは一杯」
「はいはい」
そんな時空を越えた言葉遣いの応酬で宴会は続いてゆく。
【北川・住井 一心不乱の大宴会】
【時間→午前7時ごろかと】
相田響子 篠塚弥生 朝起きて、由綺捜索開始。日の出直後。
ハウエンクア まなみ 落とし穴の中。夜明け直後。
ゲンジマル 混戦の末、郁未に捕まる。一人で森の奧へ。朝。
ニウェ ゲンジマルとの追いかけっこ終了。一人で森の奧へ。朝。
エリア リアン 朝八時。リアンは魔法で芹香を捜索中。
瑠璃子 美汐 森の中の教会。鐘楼に隠れながら、仲間二人の帰りを待つ。朝十時前後。
皐月 夕菜 どこかの家の中で、チキナロ発見。らっきー。時間不明。
霧島姉妹 海岸沿いを散歩中、巳間を睡眠薬メスで撃沈。散歩続行。ルールに違反してないのかな? 時間は不明。
クロウ 郁美 海岸沿いを、ウォプタルにのって何かの建物に向かっている。昼近く。
少年 郁未たちとの戦闘→鬼になる。雪見を追うか? 昼。
雪見 森の中で、不自然な食料に困惑中。昼。
岩切 森の中、適当に昼食を取る。翌日の雨を感知、やる気が出る。昼。
和樹 晴香 祐一一行を撃退し、屋台を探し始める。森。昼。
梓 結花 森の中、小屋を発見。中に。昼。
かおり 森の中の小屋に入っていく梓と結花を発見。暴走。襲撃決意。昼。
反転ユンナ 黒きよみ 小山から、水を探しに出発。秘密兵器所持。昼。
コリン 反転ジュースにより反転中。小山にいる。反転している時間は不明。昼
名雪 理緒 美咲 さおり 猫騒動。名雪が二人ゲット。どこかの小屋の中。昼。
彰 冬弥に恨まれる。場所不明。昼。もう、彼に帰る場所は無い。
マナ 醍醐 森の中で鉢合わせ。マナ、ピンチ。昼。
ドリィ グラァ かなりヤバイ姿。玲子に追いかけられている。昼。
玲子 腐女子満開。双子を追って、背中に矢をくっつけて、どこまでも。昼。
425 :
昼〜午後:03/04/03 02:49 ID:oR9F2eQM
沙織 だだっ広い平原。可塑性粘液の打撃から回復。祐介の追跡再開。昼頃。
真紀子 屋台零号車でジャージ購入。閃光手榴弾×二購入。昼頃。
芳晴 由美子 壱号屋台で食事中。由美子、ルミラの正体を聞いてびっくり。昼頃。
柳也 裏葉 海岸へ向かう。対神奈用の秘策があるようだが? 昼すぎ。
芹香 綾香 ダウジングで食料探索。示した方角に進んでいく。昼過ぎ。
友里 巡回員 森と平野部の境目→どこかへ移動中。昼過ぎ。
ベナウィ 晴子 森の中。御堂をやり過ごして、海岸へ向かう。昼過ぎ。
あさひ 白きよみ 彩 草原。緒方兄妹に置いてけぼりにされる。昼過ぎ? きよみと彩は、激しく空腹。
英二 理奈から逃走中。草原から丘へ。素晴らしい逃げ足。空腹。昼過ぎ?
理奈 英二を激しく追撃中。草原から丘へ。怒りのため人を超えている。多分空腹。昼過ぎ?
蝉丸 月代 超先生神社からどこかにワープ。行き場所不明。共通するかも不明。昼くらい。
宗一 はるか 超先生神社。いきなり二人が消えて、愕然。昼くらい。
冬弥 由綺 七海 平原と森の境目。シェパードのおかげで七海と合流できた。時間は不明だが、昼以降
真琴 森の中。山桃三十個ほか、食料たっぷりゲット。午後。
ひかり 真琴から山桃のお裾分けをもらう。午後。
あゆ 舞 灯台の中でがんじがらめにされている。ひでぇ。午後。
おた縦 おた横 灯台から投げ捨てられた詠美の生原稿を追ってどこかに消える。午後。
浩之 志保 琴音 由宇 詠美 サクヤ 灯台から脱出。午後。
牧村南 風見鈴香 高倉みどり ぴこ 灯台近辺で鬼を発見。逃走。午後。
伊藤 ジョン一行が潜伏していた建物の中。貴之を捕まえる。良く、北住の罠にかからなかったな。時間不明。
貴之 伊藤に捕まる。以上。時間は二日目、日暮れより前。ほか不明。
垣本 平原。川を見る。誰かの声に起こされ、行動再開。夕方。
マルチ クーヤ エルルゥから逃げるため、懐中電灯の置いてあった鍾乳洞へ。夕方。
往人 千紗 ウルト リサを取り逃がす。信頼関係成立? 夕方。
耕一 瑞穂 楓と別れる。祐介探しを再開。夕方、場所不明。
楓 耕一たちと別れる。初音探しを再開。夕方、場所不明。
葵 森の中。食料と湿布薬確保。教会へ戻る道中、月島兄と邂逅。電波攻撃を受けるが、管理者たちに助けられる夕刻。
月島兄 葵を電波で拷問にかけるが、HMシリーズに取り押さえられ、連行。夕刻。
岡田 吉井 松本 雅史 商店街から出る。行き先不明。日暮れ前。
ヌワンギ 商店街。雅史の策により、頭をぶつけ気絶。日暮れ前。
ビル 商店街。松本のパンツ目撃。眼福。つか、本当に背景だな、これ。日暮れ前。
エディ 敬介 夕暮れ時の海岸で、天女を発見。見事に彼女らの策にはまり、ほどよくボコにされる。
葉子 神奈 サンセットビーチに感動。覗きを発見。撃沈。
神尾観鈴 海岸そばの林→どこかへ。訳もわからないまま、とにかく逃げている。夕暮れ。
留美 矢島 空腹臨界点まで後四時間。海岸に到着。日暮れ中。
427 :
夜〜深夜:03/04/03 02:52 ID:oR9F2eQM
祐介 電波による直接攻撃のお叱りを受けに、管理人室へ。夜。
雄蔵 行方不明。郁美を見つけたか? 時間は二日目夜まで進んでいる。
佐祐理 灯台のそば。七味手榴弾の影響により、観鈴を取り逃がす。意地でも捕まえると決意。とりあえず夕食。夜。
清(略 田(略 死闘中、D一家と接触。禍日神? 夜。死闘も残り少しで終わる。鬼になったことには気付いていない。
ティリア サラ 山道→? 真希の追跡を逃れる。茸を落とす。睡眠不足。サラは、知らずのうちに鬼になっている。夜。
真希 まさき 山道。ティリアたちを逃がす。茸ゲット。空腹の真希、まさきに食べ物を無心。夜。
智子 みさき 初音 好恵 祐一 郁未 由依 久瀬 現在、チーム編成会議中。夜。
香里 鬼ごっこはお腹いっぱい。チーム編成会議に参加。夜。
香奈子 智子たちとの合流場所へ向かう。瑞穂に、祐介のことを教えてあげるのが目標の一。夜。
栞 香里に捕まり、辛いものセットと共に落とし穴の中へ。夜。
折原浩平 長森瑞佳 トウカ 伏見ゆかり スフィー 突如来襲のカルラに困惑。トウカ、クケー。夜。
シュン あかり 駅。明日の天気を知る。傘と食料ゲット。疲れたため早々に就寝。二日目夜。
茜 詩子 澪 零号屋台にて夕食&買い物。バイクのガソリン購入。重いよ。夜七時。
カルラ さいか 壱号屋台で夕食を取り、移動。夜遅い。
ハクオロ 美凪 みちる 壱号屋台で夕食、お代に困る。エルルゥ来襲。お題をつけにして逃走。夜遅い。
エルルゥ 破壊された屋台の弁償費として、宝玉を一個残して、ハクオロたちを追っていく。夜遅い。
すばる (高子) すばる、壱号屋台破壊w。カレーの材料を買おうとしたら、D一家と出会う。夜遅い。
D一家 破壊された壱号屋台にて、カレーの材料と湿布、花火購入。HOUSEへ戻っていく。夜遅い
デリホウライ 御堂に捕まった後、どこかへ。現在地不明。時間不明だが、恐らく夜。
巳間 海岸。高槻をタッチして、柳川追撃開始。深夜。
柳川 海岸。職務放棄して巳間から逃げる。天蓮華を食らう。疲労度高。深夜。
高槻 繭 海岸。高槻疲労困憊につき、爆睡中。繭は、おじさんと、いっしょ。深夜。
リサ 御堂 林。追いかけっこ始め。とりもち銃残弾三→二。雨が降ってきたら御堂は危険。三日目午前三時。
北川 住井 ダンジョンから脱出。管理人室を発見→退室。ホテルを罠だらけにする。三日目明け方。
アルルゥ カミュ ムックル ユズハを後に残して、去る。ガチャタラは? 三日目早朝。雨。
光岡 ユズハ 手に手を取って、オボロから逃げていく。屋根のある場所を探す。三日目早朝。雨。
オボロ セリオ セリオは面従腹背。ユズハを追っていく。ガチャタラ撃墜。三日目早朝。雨。
ダリエリ 麗子 鬼ごっこ始め。ダリエリは相変わらず仮面。時間不明。場所不明。
夕霧 いきなり消えた二人に驚いている。度の合ったメガネをもらう。時間場所不明。
健太郎 なつみ 時間場所共にまったく不明。とにかく同行中。
まとめ終了。
少しは見やすくなったでしょうか?
>>419 までの状況です。
めっちゃ乙!!
烈乙
なんと言うか凄まじいですな。
乙。
補足すると
ダリエリvs麗子と夕霧 は
>>122『純愛(PURE LOVE)』より後なので
時間は2日目夕方以降のようです。
すた すた すた
「ちょ、ちょっと〜〜」
時はもうすでに夕暮れ。ここは森の中。そこら中に枝や葉が落ち、根がうねうね露出してたりする。
(なのに……)
すた すた すた
「す、少し、待ってくれません?」
目の前を歩くハイヒールの女性は、
(朝から歩きっぱなし、その上ハイヒール!? しかも昨日寝てないのにっ)
すた すた すた すた すた
「ご休憩なら、お好きにどうぞ。プレスに付いて来てほしいなど、始めから言っておりません」
かけらもペースを乱す様子が無かった。
明け方から始動した弥生と響子は未だに由綺の情報をただの一つも掴めずにいた。
一応幾人かの人間には会った。
だが、その答えは、出会っていない見かけていない、
さらには森川由綺など知らない、ばかりであった。
(以外に知名度が低いのかしら……)
日本を代表するアイドルを知らないものが多いことは響子にとっても予想外。
だが、それ以上に篠塚弥生の由綺に懸ける執念は既知の外に位置する事柄。
当然予想なんか出来るはずもない。
(人を見かけると見境無く近付くし…相手が、鬼かどうかも判らないのに……)
今のところ出会った数名は皆鬼ではなかったが、少しは注意してほしい、とも思う。
(それだけ、森川由綺が大切ってことかしらね。それとも元々鬼ごっこなんかどうでもいいとか……)
そういうことなら判らなくは無い。スクープになりそうなネタと、鬼ごっこ。
どちらかと問われれば自分は迷わずネタを選ぶだろう。
(ま、まだ2日目だしね。鬼なんてそんなに多くないのかも)
彼女は知らない。実はこの時間帯、既に鬼は半数近くに達していたりする。
そして、
すぐ側にも襷をかけた男が隠れていた。
「し、篠塚さんっ鬼ですよっ」
木の陰からいきなり現れた鬼に、逃げ出そうとする響子。
しかし弥生は一言、
「それが、何か?」
そう告げるとそのまま鬼に向かって歩いていた。
「空からなんて……」
弥生を見捨てるかどうか、一瞬迷ったとき空から金髪の女性が頭上から降りてきて、
「たっち、です」
あっさり捕まってしまった。
とにかく疲れていたことが災いしてか、目の前の鳥人間が大スクープだとは思わないらしい。
座り込んで、呆然としていた。
一方で弥生は素早く襷を掛けると、早速森川由綺の情報収集にいそしんでいる。しかし、
「もりかわ、ゆき? 知らないな…」
「申し訳ありません、こちらの世事は……」
「ご存知、ありませんか……」
また不発。少しいらだちながら、由綺の容姿を伝えようとしたその時、相手側の少女が言った。
「にゃあ☆目付きの悪いお兄さんも、天使のお姉さんも知らないですか? 森川由綺。
うちにはテレビ無いですけど…千紗、この間お兄さんの同人誌刷ったから、よ〜く覚えてますですよ」
「……同人誌、ですか?」
急な言葉に驚き、ただオウム返しに単語を放つ弥生。
そして、
「はいです。表紙フルカラー、84Pの大作☆ 森川由綺と、緒方理奈2大アイドルが
『監禁、陵辱で奴隷化、しかもレズシーン有り』
というので冬コミ一番の話題になった大傑作です、はい☆
今度大増刷して下さるので千紗の所は万万歳です♥」
時が、 止まった。
【往人、ウルトリィ それぞれ、弥生、響子を捕まえる】
【弥生 とある情報を入手 和樹の未来は…。・゚・(ノД`)・゚・。】
○月×日△曜日 晴れ
昨日の分を書けなかったので、今日はたくさん書こうと思います。
まいかはさいかお姉ちゃんと一緒に観鈴お姉ちゃんに誘われて、夏休みの旅行で鶴来屋のリゾートアイランド予定地というこの島に来ました。
そうしたら突然すごいたくさんの人と鬼ごっこをすることになりました。
お姉ちゃんたちと一緒に逃げようとしたけど、あんまり人が多いので別れ別れになってしまいました。
お姉ちゃん、病み上がりなのに心配。
とりあえず捕まってはいけないと森に行ったけど、迷ってしまいました。
ずーっとうろうろしているうちにだんだん暗くなっていき、お腹も空いてきたけど、突然出てきたお姉さんに助けてもらいました。
『HM-13』っていう名前みたいで、耳に変わったでっぱりを付けたお姉さんです。その人の姉妹がたくさんこの島の中に隠れていて、困った時には助けてくれるらしいです。
お姉ちゃんのことを訊いたら、大丈夫だって。誰かと一緒だと思うし、どうしようもない時はお姉さんの妹の人が助けてくれるそうです。
お姉さんからもらったお菓子を食べて、歩いているとそのうちヘンなおじさんと会いました。
突然草の間からぬうっと顔を出し、まいかのことを見つけたらものすごい勢いで追いかけてきました。
初めての鬼との対決です。けど、まいかはか弱い女の子。永きに渡る凄まじきデッドヒートの末、木の根っこにつまづいたことが原因でとうとう捕まってしまいました。
なのにディーはまいかのことを手放そうとせず、ずーっとゴロゴロ転がっていきました。
そこから先はあんまり覚えていません。まいかとディーは寝ちゃってたらしいです。
(中略)
ぬぐぃそむかみとかいう怖いお化けを退治した後、まいかたちはお家に帰りました。
途中壊れた屋台を発見したのですが、機能に問題はないようなので万事オッケーです。レミィお姉ちゃんはカレーの材料、まいかは花火、ディーは湿布を買いました。
両頬の怪我が痛いようです。ちょっと心配です。ディーだから大丈夫だと思いますが。
お家ではレミィお姉ちゃんがカレーを作ってる間、まいかとディーでトランプしてました。
けど、ディーはゲームを何を知りません。いい歳して。仕方がないので、ババ抜きや大富豪を教えてあげました。けど、あんまり盛り上がりませんでした。
次はセブンブリッジやポーカー、ブラックジャックを教えてあげました。けど、あんまり盛り上がりませんでした。
仕方がないのでずっと神経衰弱やってました。けど、どういうわけかディーはすごく強いんです。まいかも観鈴お姉ちゃんとの戦いで鍛えられているので自信があったのですが、木っ端微塵に打ち砕かれました。
卑怯です。絶対何かイカサマしてます。証拠は無いけど、見つけたら叱ってやります。
レミィお姉ちゃんのカレーが完成したらゲームは終わりです。結果、1勝15敗。しかも最後のまいかが勝った一戦、ディーは絶対手加減してました。
しかもわからないようにやれば可愛げがあるものを、わざわざまいかにわかるように。舐められてます。絶対。許しません。もっとお姉ちゃんと修行してボコボコにしてやります。
再起不能なくらい。
夕ご飯はカレーです。とっても甘くっておいしかったです。ディーが甘すぎると文句を言ってましたが、あれでちょうどいいと思います。ディーはわがままです。
ご飯の最中はみんなの昔話を聞きました。レミィお姉ちゃんは半分アメリカ人で、今は日本の学校に通って日本語もぺらぺらですが、最初は苦労したらしいです。
なんでも、高校で偶然初恋の男の人に再会して、とってもお世話になったらしいです。恋人なのかなぁ? その人のことを喋るときのレミィお姉ちゃん、とっても楽しそうでした。
ちなみに、ディーがかなり不機嫌になってたのをまいかは見逃してません。嫉妬してます。しっと。情けないと思います。
ディーの昔話はよくわかりませんでした。
てつがくしゃ……というのを目指して、小さい頃からずーっとずーっと勉強してきたそうです。おんかみはむやいとか、うぃつあるねみちあとかよくわからないことを言います。
面白かったのはディーはお姫様の先生をしているというところ。
お姫様かぁ……。どういう人なのかなぁ?
ご飯の後はおやすみの時間です。寝ちゃうまえに今、この日記を書いています。夏休みの宿題なので、頑張ろうと思います。
ディーとレミィお姉ちゃんはとっくの昔に寝ています。まいかの後ろで2人並んで寝ています。
なんだかディーの羽がピコピコ動いてます。本人と違って、可愛らしいです。
ぷちっ。
一本もらいました。本人と違って綺麗な白い羽です。けど、ディー、翼自体はほとんどボロボロです。なんでだろう。一回訊いてみたのですが、すごい不機嫌な顔になってしまいました。
ディーはよくわかりません。ちょっとしたことですごく喜ぶかと思うと、普通のことですぐ不機嫌になります。
見ててあきません。面白いです。レミィお姉ちゃんは優しいです。ちょっと変わったところがありますけど。
この旅行、鬼ごっこっていう感じはあんまりしませんが、楽しいです。いつまで続くんだろう? ずっと続いてほしいです。
さいかお姉ちゃんを見つけて、4人でずっと鬼ごっこができたら―――――――
………パタン。
そこまで読み上げると、ディーは静かに『まいかのにっき』と表紙に書かれた本を閉じた。
その表情は非常に複雑だ。笑っているようにも見えれば、泣いているようにも。あるいは怒っているようにも見える。
「……全く。人のことを好き勝手に書いて……。何がおじさんだ……。何がわがままだ……。何が卑怯だ……。何が嫉妬だ……。というか人の羽を盗んだのか……。
全く……まったく……。何という幼女だ……。まったく……」
いったんは寝付いたのだが、夜中に目が覚めてしまったディー。おそらく昼間の興奮が抜けきらなかったのだろう。
水でも一杯飲んで寝直そうと思ったが、その時、見つけてしまったのだ。まいかの枕元に置いてあった一冊の本を。
悪いとは思ったが、好奇心には勝てなかった。そーっと持ち出し、ページを開いてしまった――――。
「何という幼女だ……まったく、あの子供は将来が不安だ……。フフフッ」
何やかんやと言いながら、徐々に唇が綻んでいくディー。
「フフフフフ……やれやれ、全く、しょうがないな。ずっと続いてほしい、か……」
洞穴に戻ろうとする時、ディーは見つけた。今朝掘った看板の端っこに、三つのてるてるぼうずがかけられているのを。
それぞれ体の部分に『D』、『れみぃおねえちゃん』、『まいか』と書かれている。
……顔は全然似てないが。
「……そういえば、明日は花火の約束をしていたな……」
呟きながら、夜空を仰ぎ見る。
「……雲か」
……一抹の不安を覚えながらも、ディーは祈った。神である自分が祈るなどおかしいと思ったが、祈らずにはいられなかった。
―――明日が、晴れますように―――
【D一家 就寝】
【明日は花火の予定】
【晴れるといいなぁ】
【時間:深夜】
篠塚弥生はちょっとしたジレンマに陥っていた。
――――森川、由綺。
いうまでもなく、緒方英二プロデュ―スのアイドルである。
そして、自分はその担当マネージャー。
それだけといえばそれだけの、しかしその言葉だけでは到底尽くせない関係。
弥生にとって、由綺はただのアイドルではない。だが、それを他人が知る必要はない。
「弥生さん、こんなところにいたんですね」
彼女にしか出来ない微笑を浮かべて近づいてくる由綺。(と誰か知らない少女)
向かいでは、好機とばかりに目を輝かせている響子。
たしかに今、目の前に由綺がいる。
もとより彼女を探していたのだから、それはいい。
しかし由綺は鬼で、自分が逃げ手であるという、この状況。
そして彼女の隣にはあの男がいるという、この状況。
捕まえられればそばにいられるのだが、本意と不本意が入り混じった状況は弥生にある選択をさせた。
弥生の取った選択は―――、
「……藤井さん」
「はい?」
冬弥は第一声が由綺ではなく自分にかけられたことに驚いた。が、
「…私、あなたのこと…本当は愛していたのですよ……本気で…」
「「「「「………………え?」」」」」
弥生の唇から紡ぎだされる予想外の台詞に、四人が四人とも同じ反応を示した。
「ま、ま、待ってくださいっ! 俺、弥生さんシナリオに入った覚えはこれっぽっちも…」
修行の成果か、いつにない立ち直りをみせる冬弥だったが、
「……冬弥君?」
背後から聞こえるのは抑揚のない、由綺の声。
ざぁ、と血の気が滝のように引く音を彼は確かに聞いた。
脳裏には、あの『お仕置き』の情景が浮かんでいるに違いない。
「『…俺だって、同じくらい愛してましたよ…。弥生さんのこと…』といってくれたのは嘘だったんですか?」
台詞とは裏腹に、あくまで冷徹に、揺ぎ無く。しかし、確実に冬弥の『死刑執行文』を読み上げる、弥生。
冬弥の旗色はこの上なく悪かった。
「ふ、ふふふふっ……そうだよね。メインヒロインっていっても、私のシナリオでない限り結局、噛ませ犬。
恋人を裏切る葛藤とドロドロした人間関係を楽しむのがWAの醍醐味だし、製作者から元々浮気ゲーだったとかいってるくらいだし……ふふふっ」
やや壊れ気味の由綺。
震えている七海を横目に、由綺はシェパードの頭を撫でながら首輪を外した。そして、
「……GO」
―――――刑の執行が告げられた。
「あー、もしかしてアイドルとその彼、マネージャーの三角関係とかだったりします?」
あまりの光景に毒気を抜かれたのか、響子は記者らしくない直接的な質問を投げかける。
その質問には答えず、弥生は由綺に追いたてられる冬弥を一瞥すると
「…嘘…ですけどね…」
あの台詞を言った。
シェパードに追われながら、冬弥は思った。
なぜこの場面で、理奈シナリオよろしくビンタが飛ばないのか。
なぜ『契約』もしてないのにお楽しみなしでこんな目にあわなければならないのか。
――――――
【冬弥・由綺・七海 弥生・響子と接触、逃げられる】
【冬弥 金無し】
【由綺 シェパードマイク所持】
や、やっちまった……。・゚・(ノД`)・゚・。
>443
イ`
森を抜けたところで、海が見えた。
「海…か」
「本当にあれでよかったの?」
「…ああ。あまり、戦力にならない足手まといばかり増えてもデメリットにしかならないからな。
戦力ならば歓迎だが」
チーム編成会議では、結局俺達はメンバーを変えず前のままのメンバーだった。
つまり、天沢、由依、俺(祐一)。
「もう暗いですね。宿探しませんか? もう野宿は嫌ですよっ」
「…そうね、私もできれば雨宿りくらいしたいかしら?」
「雨宿り?」
天沢が、無言で空を指差す。
雨が降りそうだった。
「っと言っても、どこかできそうなところはあるのか?」
「あそこに、灯台があるけど?」
「じゃぁ、あそこに避難するか?」
【相沢祐一 強い人材なら歓迎。灯台発見。舞やあゆがいる灯台かは不明】
【天沢郁未&名倉由依 相沢祐一と共に灯台へ】
【時間帯 夜。雨が降りそうなことに気付く】
報告です。
>>440-442『誤解、再び』について、
>>433-435『はい、おっけーです☆』との間に
展開上明確な矛盾点がありましたので、改訂版を
>>1議論・感想板に投下しました。
つきましては、以降の話を書かれる書き手の方には、そちらを一覧の上投下
下さいますよう、お願い申し上げます。
ご迷惑おかけしました。
続けて報告します。
>>420-423 『ふぬぬぬぶふごっのテーマ(酒が呑めるぞVer.)』につきまして、
理解不能・支離滅裂・読める作品じゃない・無理して書いて汚物ができあがる良い例
などのご指摘を戴きましたので、思い切って全面改訂版を議論・感想板改訂スレに
投下いたしました。
……マジで申し訳ありませんでした。
しかし、あと約50KB…次スレの季節ですかな?
ってか改訂ならここにせめて要点だけでもまとめて欲しい。
書き手全員が全員支援板見てるわけではないし。
はっきりいってあそこに依存しすぎ。
依存するのは構わないが、それを他にまで強要するのは止めて欲しい。
そのうち依存が過ぎて、いつもリスト作ってくれてる人がたまたま
来れないと、誰もリスト作らないっていう状態になったり、あまつさえ
誰かが替わりにリスト投下したら「勝手なことするな」とか言い出しそう。
市街地から離れて、海岸からかなり近い道沿いにぽつんと立っている一軒家。
おそらくは海水浴に来た人に利用されるであろうこのペンションに、
今4人の訪問客が現れていた。
「Ok、罠はなさそうだね」
雅史の一言に、岡田、吉井、松本の三人はホッと胸をなでおろす。
「まったく、誰が罠なんか作ってるのかしら。腹立つわ〜」
「引っかかってるのは岡田だけだけどね〜」
「黙れ、この万年お花見女ぁ!」
「はいはい岡田、落ち着いて。でもわざわざ罠を探すのも手間がかかってしょうがないよね」
罠に痛い目にあった4人だけに(正確には岡田だけだが)、
一階、続いて二階とすべての部屋に罠がないかどうか調べたわけだが、確かに手間がかかる。
「まあ、こんな一軒家まで仕掛ける人もいないとは思ったけどね。
なんにせよ罠がなくてよかったよ」
「あ、ねぇねぇ。それじゃ今日はここにとまるの?」
「うん、食料も結構集まったしね。今晩はここでゆっくり休もうよ」
松本の問いに、雅史がそう答えた。
「ふぅ、よかった〜♪」
「よかった?」
胸をなでおろす松本に岡田が目を向ける。
「え、いや、えへへ、なんでもないよ〜?いや、ほらゆっくり休めるところが見つかってよかったなぁって」
「うん、本当ね。今日は疲れちゃったわ」
慌ててごまかす松本に、それに気づかずく吉井が同調する。
「うんうん、疲れちゃったね〜」
そういいながら、松本はさりげなく一階に下りようとする。
……一階にしかトイレがないので。
実は松本、かなり前から我慢していたわけだ。まあ、いわゆる生理現象を。
岡田と吉井は背に腹は変えられぬと、先ほどそこら辺の茂みでやってしまったのであるが、
(私、岡田や吉井と違って繊細なレディだも〜ん。雅史君の前じゃ……ちょっと……ね)
と、まあ一見何も考えてなさそうな松本であっても、
そのような(岡田と吉井にかなり失礼な)悩みを抱えていたわけだ。
(ふう、ちょっと危なかったよ)
そう思って、弾む足取りで階段を下りようとする彼女なわけだが。
「待って!」
雅史の静かな、しかし鋭い制止の声がかかる。
「うぇ?」
ふりかえるまもなく、雅史がグッと松本の腕を引っ張り抱きかかえる。
(う、うひゃぁ〜)
思わず叫び声げそうになるが、既にその口には雅史の手が当てられていた。
(ア、アフン……うう、まずいよぅ)
普段だったら願ったりかなったりのこの体勢なのだが、今はこのような刺激は禁物なわけで。
「雅史君?どうしたの」
その様子に察したのか小声で問う吉井に、雅史は視線で一階の玄関の方を見ろ、と答える。
吹き抜け構造のせいで二階から丸見えになっているその玄関には、
「ああ〜もう、お疲れたし、腹すいたぁ!!」
「まあまあ、ここでちょっと休んでいきましょうよ」
襷をかけた七瀬留美と矢島の姿が見えた。
「参ったわね、あいつら」
「うん……どうしよっか?」
「念のために調べている部屋以外の電気を消していたのは、正解だったね」
そう小声でつぶやきながら雅史は二階の手すりぞいから、
一階のリビングでくつろぐ鬼を注意深く観察していた。
今のところ鬼達が彼ら4人に気づいた様子はない。
「ベランダから下の庭に飛び降りればいいじゃん」
岡田の提案に、雅史は首を振る。
「できなくはないだろうけど、暗いし危ないよ。それは最終手段にしたい」
「じゃあ、どうすんのよ?」
「鬼がこのまま立ち去ればよし。
二階に上がって来るようならひとまずベランダのある部屋にかくれる。
その部屋にも入ってくるようなら、そのときはそこから飛び降りて庭に逃げる。これでどうかな」
「私もそれがいいと思う。下手に動いて怪我したら大変だもの」
「OK、持久戦になるけどしょうがないか」
(ええー!?嘘でしょ〜!?)
うんうん、とうなずく岡田と吉井であるが、その後ろで松本は顔色を変えていた。
愛する雅史のことと言えど、松本的にそれは困るわけである。
「ん?なによ?」
「どしたの、松本」
くいくいっと服のすそを引っ張られて、岡田と吉井は振り向く。
「え、えっとね・・・・・・ま、まあ、なんといいますか乙女の大ピンチといいますか」
「はぁ?なにいってんの?」
「えーと、ひ、ヒント!!ひ、人が生きていくうえで仕方ないこと!!」
「……ごめん松本、ちょっとわからないよ」
「つ、つまり・・・・・・おトイレ・・・・・・」
消え入りそうな松本の声に絶句する岡田と吉井。しばしの後。
「だからさっき行けって・・・・・・!」
思わず怒鳴ろうとする岡田に、雅史が振り返る。
「どうしたの?岡田さん。静かにしなきゃ」
「ご、ごめん。なんでもないよ雅史君、にゃはははは……」
慌てて手を振る松本と岡田の口に手を当てている吉井を見て、
雅史は首を傾げるが、そう、と答えると一階の監視に注意を戻す。
「我慢できないの?」
「うう、ちょっち……」
「じゃ、じゃあ、ごまかしてもしかたないじゃん。雅史君に相談しよ」
「だ、駄目だよ……!!」
吉井の提案に慌てる松本。
「わ、私だって女の子だよ・・・・・・雅史君にこんなこと言えないよぉっ……!!」
「そ、そんなこといったって・・・・・・」
真っ赤になって松本はうつむく。限界が近づいていた。
(う、うわぁん……どうしよ〜)
乙女のピンチであった。
【雅史、岡田、吉井、松本 海の近くの一軒家の二階】
【七瀬留美、矢島 一軒家の一階。二階の逃げ手には気づいていない】
【松本 生理現象により大ピンチ】
【時間は夜】
456 :
飯への扉:03/04/03 20:00 ID:lRW3GwY8
いよぉお待ちどう。俺様こそ水瀬ぴろ。
俺様のように歩道橋の上から落とされても生還できなければ、水瀬家の飼い猫の座は務まらん。でもおでん種にされるのは勘弁な。
しかしま、歩道橋の上からは助かっても、はたしてこのむやみやたらにだだっ広い島から生還できるかどうか。
ハイテンションで1人寂しく強がっていても、空腹をごまかせるわけでもない。
いやあるんだ。飯はあるんだ。俺様の鋭敏なヒゲは、とっくにその存在を掴んでいる。
だけど高い木の枝からぶら下げられたそのビニール袋は、いかに俺様の跳躍力を持ってしても届きゃしねぇ。
登ろうにも爪をとっかける枝もなく、幹にかじりついてみたが、ちーとばっか脚力が足りなかった。
家ネコ生活が長かったせいで、すっかりなまっちまったみたいだ。情けねぇ。
そんなわけで、俺は食料の下をぐるぐる回りつつ、途方に暮れていると言った寸法だ。
ここにはいつもなにかしらの食料を持っている真琴もいねーし、猫缶を開けてくれる名雪もいねー。
暖かい飯を作ってくれる秋子さんはどこへやら。
は? 祐一? この水瀬ぴろ、水瀬家ヒエラルキー的に最下層の居候を、当てにするほど落ちぶれちゃあいないぜ。
もっとも、当てにするにも周りには、猫の子一匹見あたらないが。
そこかしこになわばりを示すべく爪を立て、匂い付けをしてみたものの、国民のいない国の王様になっても空しいだけだ。
――とびっきり美人のメスネコとは言わねぇ。
二本足で立つ不完全な生き物でもいいから、俺を孤独と飢えから救ってくれねぇかな……。
秋刀魚の一匹でも恵んでくれたら、俺は喜んで道化になって、ごろごろと喉を鳴らしてみせるのに。
ああ、秋刀魚……たまんねーよなぁ。この前秋子さんが焼いてくれた、見事に脂ののったあの秋刀魚。
ちくしょう、思い出すだけで唾が出るぜ。秋刀魚、秋刀魚、秋刀魚ー、秋刀魚ーをたべーるとー♪
なんて秋刀魚の夢を見ていたら、どうやら注意力が欠如していたらしい。
ガササササ……と勢いよく草を蹴散らす音が俺に向かってつっこんできた。
「いまだーっ! 食料げーっとっ!」
Holy shit!
457 :
飯への扉:03/04/03 20:02 ID:lRW3GwY8
遠くから躍り込んできた影は、俺様をしっかりその手に捕らえ、渾身の力を込めて握ってきた。
ぐはぁっ。
バニラアイスの小娘のような無様な吐血音を立て(いや、血は吐いちゃいねぇが)、俺様は悶絶する。
「なんだ猫かぁ……」
雄にしては妙に頼りない、不健康な顔色の若僧は、俺様を見て露骨に失望しやがった。
なんだとはなんだ。猫は世が世なら神として崇められていた生物だぞ。
太陽の化身、お猫様を蔑むのか、ああ? お前の枕元で夜な夜な行灯の油舐めたろか。
「でも、どこかの国では食べているって、聞いたことがあるなぁ……」
ベイビー、お互い落ち着いて考えようぜ。
そりゃあ確かに魔女の使い魔として忌み嫌われた時代もあったが、ここしばらく、俺たちは仲良くやってきたじゃねえか。
俺たち猫族は気がいいから、そんな暗い過去などすっぱりと水に流してやる。
だからそんな剣呑なことは言わず、パートナーとして仲良くやっていこうぜ。
「でも美咲さんにそんなものを食べさせるわけにはいかないし」
俺の誠意が通じたかマイブラザー。
と、そうだ。お前にいいことを教えてやろう。
俺様は身体を精一杯上向かせ、天に向かって腕を振り回し、にゃあにゃあと主張する。
「ん? ……あ!」
そうそう、背筋を伸ばしてお天道様を見上げれば、素敵な物が発見できるってもんよ。
その人間は手を伸ばし、あっさりとビニール袋に入っていたそれをゲットした。
「食料だ……えらいぞ、猫っ!」
へっ、あたぼうよ。猫と呼び捨てにされたのは気にいらねえが、存分に俺様を称えるがいい。
ところでボーイ。発見したのは俺、取ったのはお前。
所有権を主張してもいいところだが、ここは公平に山分けといこうじゃないか。
458 :
飯への扉:03/04/03 20:03 ID:lRW3GwY8
さすがに猫缶は見あたらないが、この際贅沢は言わねぇ。
お、そのサラミなんか旨そうだな。早く俺様に……って、なんで走り出すんだよ、おい。
「これできっと、美咲さんも喜んでくれるぞっ!」
おいおい、早速雌に貢ぐのかよ。
まぁ若いうちはそういうのもいいけどよ、でもお前ちょっと抜けてそうだからな……悪い女に騙されてるんじゃなきゃいいが。
しょうがねぇ。ここであったのも何かの縁だ。この頼りないパートナーの面倒をしばらく見てやるとするか。
代わりにそこについたら、俺様の飯をちゃんと寄こせよ。な?
と、ネコ語で言ったが通じたかどうか。
そいつは腕の中に収まったままの俺を見て、
「なんだかやたら猫に縁があるなぁ……」
首をひねって呟いた。
やがて一軒の小屋が見えてきた。
こいつは走り詰めで息も絶え絶えだったが、最後の一踏ん張りと加速する。
俺もにゃあにゃあ声援を送る。
ああ、もうすぐだ。
後ほんの少し。あの小屋に辿り着けば俺様は待望の飯にありつける。
あと二十猫身、十猫身、五猫身……ゼロ!
「ただいま、美咲さんっ!」
そう、いつだって扉は飯へと通じているのだ。
【彰 ぴろと食料(ビニール袋一杯)ゲット】
【小屋内の状況はまったく把握していない】
ハインラインリスペクツ?
「………あれから何時間経ったのかしら…。誰も来ないわねー」
「………」
「来たのは野生の兎ちゃんとか、そういうのだけだし」
「………」
「物凄まじく暇だわ…。ね、ハウ君もそう思わない?」
「…変な呼び方しながら指差さないでくれるかな」
落とし穴の中に、二人の女性がいる。まなみとハウエンクアだ。
――当初、この落とし穴(しかもトリモチ付き)に落ちたのは、鬼であるまなみ(+名雪 ※名雪は寝惚けつつ脱出)
だけであったのだが、穴の上を通り掛った、ハウ君ことハウエンクアに助けを求め…る振りをして、彼を穴の中へと
引きずり込んだのだ。
穴に落ちた際にハウエンクアは気を失ってしまい――先程目を醒ましたのだが、自分の体にしっかりと鬼襷が掛け
られているのを見て、暫し呆然としてしまっていた。
「…………激しく鬱だ…」
頭を抱えるハウエンクア。いくら騒がしかったからといって、助け上げてもタッチしないからと言われたからといって、
何で、何で、何で………僕はアホだ。嗚呼。
「他人を信じた僕がバカだったよ…」
「運が悪かっただけよ、ハウ君。ここにち偶々通り掛った時点で、貴方の運命は決まっていたのね、きっと」
「ハウ君言うな。…フン、絶対にタッチしないって言ったじゃないか。ウソ吐き女」
「はい。そうです。神サマ、私の罪をお許し下さい。ん、どうしたのかねまなみタン、ちょっち神サマであるワタシに
話してみれ。はい神サマ謹んで、私は嘘を吐きました、どうかお許し下さい。ん、許す、気にすんなよまなみタン。
ありがとう神サマ…――――よし。これにて一件落着。終了」
「終了――じゃないよっ! このバカ女っ!」
まなみの奇行(?)に目を点にさせていたハウエンクアが激昂する。
「そんなんで免罪されるのなら、何やったっていいって事じゃないか!」
「うーん。でも、流石に人殺しとかはアウトだと思う」
「…僕は今すぐにでも君を殺してやりたいけどね…!」
声に凄みを効かせるハウエンクアだったが、先程から何度か脅しっぽく揺さ振りを掛けてイニシアチブを取り返そう
と試みているものの、この女――まなみには、ちっとも効果が無いのであった…
まなみは、凄むハウエンクアをのほほ〜んと見やり、また穴の上を見上げる。
「静かねー…」
「っ……!!」
激昂する分こちらが疲れるだけだと解ってはいても、どうにも抑え切れない彼であった。
「…………………………こういう穴ってさ……」
―― 一転して、静かな、神妙な声を紡ぎだすまなみを横目に見、ハウエンクアは、フンと鼻を鳴らした。
「この穴がどうかした? 只の落とし穴じゃないか。鬱陶しいトリモチ付きの」
「…地面より低いから、ガスとかが溜まり易いのよね」
「………ガス?」
「ま、言っちゃえば、二酸化炭素とかの重い気体とか…最悪の場合、火山性のガスとかの――呼吸に障害を齎す様な」
「………」
「――でも、火山とかは無いみたいだから、今の問題は二酸化炭素の方よね」
目を細め、顎に指を当てながら、まなみ。
「穴の中……一人だけならまだしも、二人も人がいる。――このままではそう遅くない内に、二酸化炭素濃度が危険な
域にまで高くなって…」
「…な、何が言いたいのさ……?」
まなみの放つ只ならぬ雰囲気に、既に怖気づいた様子のハウエンクアが、声を震わせていた。
そんな彼に向かって、まなみは薄く微笑み――
「ね、ハウ君。――“カルネアデスの舟板”って話、知ってる?」
………
「誰かーーーっ!! 誰か助けてーーーっっ!! ここから出してくれよーーーーーっっっ!!!」
何やら怖い話(今の様な状況においては特に)を聞かされたハウエンクアの、悲鳴混じりの声が響いたが、
森はやはり静かであった。
「あははははっ♪ 冗談よ、冗談。そんなに早く二酸化炭素溜まったりしないってば。穴自体も大きいし」
「ほっ、ほほほ本当だろうねっ!? すぐに溜まったりしないだろうねっ!!?」
問い詰めて来る様な彼の眼差から、まなみは、ふいっ…と顔を逸らす。
「…しないと思う。……しないんじゃないかな。………まぁ、覚悟はしておけ」
「誰かーーーーーーーっ!!!? 誰か来てくれよぉぉぉぉぉおおおおおーーーーーーーっっっ!!!!」
今やハウエンクアは、もう半泣き状態を通り越していた。
「ハヒィー…ハヒィィ………! な、何で誰も来ないんだよぉ〜っ…」
「気長に待ちましょ。――っていうか、そんなに荒く呼吸したりすると、本気で二酸化炭素、すぐに溜まっちゃうかもよ?」
「っ………!」
青い顔で押し黙るハウエンクア。テンパった眼差をまなみに向けるものの、彼女は相変わらずだ。
「…静かな森ね」
「…。……憶えていなよ。キミ……このゲームが…終ったら…」
「――殺したい程、私が憎い?」
ニタリ…――といった、梅図風味のアレな笑みを浮かべるまなみに、ハウエンクアが息を飲む。
「そりゃそーよね。罠に掛けたんだもの。でもね…――私を殺したりしたら、毎晩貴方の枕元に立つ事にするわ…」
「なっ……なななっ…!?」
「…毎晩毎晩、貴方の枕元に立って、ぢぃ〜〜〜…っと見下ろして…あ・げ・る・♪(ひひひひひひ…」
「いやだぁぁぁあああああああっっっ!!! ぼぼぼ僕の事は忘れて下さいぃぃぃぃぃぃいいっ!!!!!」
再び、森の中に木霊する悲鳴。笑い声。
そして――
………
「本当に静かねー…」
「………うぐっ…うぐっ……うぐぅっ…(まぢ泣き」
「…ところで、ハウ君。――“ブレアの森の魔女伝説”って話、知ってる?(うぅふふふふふふぅ…」
「やだァァァァああああアアアアァァあっ!! 聞きたくないぃぃぃぃぃぃいいっ!!!」
………
「――お前も蝋人形にしてやろうかっ!!(くわっ! ※何故かバックに轟く雷鳴と雷光」
「ヒィィィィィィィィィィィィィィッッッ!!?」
………
「……第十三話…“きょうふのみそしる”…!(ケケケケケケ…!」
「っきゃあああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!?!?」
…やがて、そろそろ陽も沈むという頃になって――
「………暇だわ。半日待っても誰も来ないし、お腹もいー加減空いてきたし…」
「(゚∀゚)アヒャ…アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ…」
「――ハウ君は暫くアレみたいだし…」
――森は、やはり静かだった。
【まなみ ハウエンクア 半日経っても穴の中(笑)】
【まなみ ハウエンクアを暇潰しのオモチャに】
【ハウエンクア 暫くの間、アヒャ状態】
【二日目 もう夕暮れ時】【放置プレイ ケイゾク中】
「…………………………………………」
「…うぐぅ、舞さん…なんか喋って…」
「…………はちみつくまさん…………」
「…………………………………………」
「………………うぐぅ…………………」
思いも寄らぬ反撃で雁字搦めにされてしまった、現在鬼の鍵ヒロイン二人組み、舞&あゆ。
現在の二人の状況。
服はインクまみれでもう最悪。顔面にもかかっており、更にその上に濃い目トーンを張られているのでもう誰だかわからない。
更にインクが乾いてしまったので肌がぱりぱりひきつれて仕方が無い。
しかも縛っている物が自在定規なので肌がこすれて痛いことこの上なし。
――鯛焼き亡者あゆが呟く。
「……うぐぅ…修羅場の漫画家は恐ろしいんだね…」
――そしてうさみみ剣士舞の返答は、
「…………はちみつくまさん…………」
――鯛焼き亡者が鳴く。
「……鯛焼き食べたい……」
――うさみみ剣士は、
「…………ぽんぽこたぬきさん…………」
こんな問答を延々と飽きもせず繰り返し続ける鯛焼き亡者とうさみみ剣士。
エンドレス。
いいかげん抜け出す方法でも考えんかい。
しかも灯台中に反響しているから、外からだと、
「なんか、無気味な声が聞こえませんか…?」
そんな感じだった。
相沢祐一と天沢郁末、そして名倉由依の鬼三人組は、雨宿りのために灯台に向かっていた。
前述の声は名倉由依の物である。
「そう? 気のせいじゃないの?」
いつでも冷静、天沢郁末は信じない。
…――ぅ―…―――…――ん―
「あ、聞こえました! また!」
由依が主張する。
「今時幽霊がいるわけでもないでしょ? 気のせいよ、気のせい。それか風の音」
郁末は冷たく一蹴する。
そして祐一は、
「何やってんだ? 早く行こうぜ」
先先行ってしまっていた。
そして灯台内。
――鯛焼き亡者呟く。
「……うぐぅ…修羅場の漫画家は恐ろしいんだね…」
――そしてうさみみ剣士返答。
「…………はちみつくまさん…………」
――鯛焼き亡者が鳴く。
「……鯛焼き食べたい……」
――うさみみ剣士返答。
「…………ぽんぽこたぬきさん…………」
まだ続いていたこんな問答。
だが、それは唐突に途切れる事になる
「………うぐぁぁー!!! やってられんわー!!!」
鯛焼き亡者がついに切れた。口調がどこかの漢、または禍日神二人の如くになっている。
が、
「…………はちみつくまさん…………」
うさみみ剣士はいつも通りだったので、空回りとなる。
「川澄ィ!! なんでもいいからこれ抜け出すぞ!! うぐがぁあああ!!」
どこかが切れた鯛焼き亡者、呼称まで変えて自在定規を外そうとする。が、その気合の入った掛け声がうぐぅテイストなのでやっぱ少々マヌケだった。
「………ぽんぽこたぬきさん。変に力任せにすると抜け出せない…」
「…なら策があるんかぃ川澄!」
「………ぽんぽこたぬきさん………」
「うぐぁぁぁあー! この役立たずー!!!」
それでもうさみみ剣士は冷静だった。なので、
「! 待って…祐一の気配…」
そんなものを探り当てていた。
「え!? 祐一君!?」
鯛焼き亡者は一瞬にして静まり、いつもの無邪気モードに戻っていた。が、表情はトーンのせいで分からない。
「こっちに来ている…」
「やった! これで助かるよ!」
そして、
(祐一君をとっ捕まえて、鯛焼きを増やすよ!)
そんなことを考えていた。
もし祐一が逃げ手だったら、鬼であるあゆを助けるはずがなかろうに。そこんとこ抜けてるウグゥ月宮。
まあ祐一は既に鬼だから構わないのだが。
そして、あゆは、
「うぐぅ、これでたくさんとっ捕まえて鯛焼きー♪」
叫んだ。
そんなわけで、祐一と郁末、由依は灯台の入り口に辿り着いていた。
既に3人とも灯台内に誰かいる、ということは分かっており、その事について話し合うことにした。
「どんな奴がいると思う?」
郁末が祐一と由依に聞く。
「そうですね、窓ガラスが木端微塵になっていますから凄い人がいるんじゃないでしょうか?」
「でも、そんな奴がずっとここに留まってるとは思えないわね…」
「祐一さんはどう思いますか……祐一さん?」
祐一は固まっている。その理由は中から聞こえてくる声にある。
詳しい事は分からないし、反響しているので誰の声かもいまいちぴんとしない。
だが祐一には分かってしまった。
『うぐぅ』『はちみつくまさん』
これを口癖として使う奴が自分の知り合い以外に果たしているだろうか?
そして聞こえた
『うぐぅ、これでたくさんとっ捕まえて鯛焼きー♪』
反響していたはずなのに、やけにくっきり聞こえたのは長い付き合いの賜物だったのだろうか。
確信した。ここにいるのはアイツで、しかも殺る気マンマン(※殺しはルール違反)の鬼だと。
「相沢、どうしたの?」
二人にはどうも聞こえなかったらしい。
「なんでもない、とりあえず入るか」
そして、邂逅のとき。
「…………………………………………」<郁末
「…………………………………………」<由依
「……………………………………ハァ」<祐一(溜め息)
「……うぐぅ、祐一くーん……………」
「……………祐一、私を助けて………」
もの凄い格好になって雁字搦めになっている二人を見つけ、3人は一瞬固まった。
「………相沢、あんたの知り合い…?」
郁末がやっとという感じで問い掛ける。
「……さ、行こうか。二人とも」
俺は何も見ていない、聞いていないという風に二人を連れて逃げ出そうとする祐一。
「質問に答えなさい」
「このまま放置するのはかわいそうだと思います…」
「うぐぅ、祐一君! ひどいよー!」
「祐一…また私を置いてどこかにいっちゃうの…?」
郁末に襟を捕まれ集中砲火を喰らう。
「冗談だ……何やってんだ、あゆ…舞…」
「…うぐぅ、実は…」
かくかくしかじか。
これこれうまうま。
説明完了。
その間に戒めも解いてやらない祐一一行。
郁末が言うには、役に立つ奴かどうか確かめてから、ということらしい。
ていうか祐一も戒めを解く気はなかったりする。
しかしここで見捨てたら、終わったあとで何をされるかわからない、という危機感もあったわけだが(舞と佐祐理さんに)
「なるほど。葉対鍵の対立構造にしようとして負けた、ということか」
「情けないわねー…それも漫画家に…」
「うぐぅー! 余計なお世話だよ!」
「…修羅場中の漫画家の集中力は半端じゃない…」
ぼそり、と呟く舞。そりゃあれだけやられれば認めざるを得ないというか。
「ふーん…」
半信半疑の郁末。
「そ、そんなことはいいから…うぐぅー…せめて顔のトーンだけでもはがしてぇー…見えない…」
「仕方ないわねー…」
郁末、そういうとあゆのトーンに手をかけて、
べりぃっ!
容赦なく引っぺがした。
うぐぅー! というあゆの悲鳴(?)が響いた。
お肌に悪い。
ちなみに、舞のトーンは祐一がゆっくり剥がしたので問題なし。
「さて、こいつらどうする?」
あゆの悲鳴も一段落して郁末が祐一に尋ねる。
祐一は少し考え込んだ。あゆの束縛を解く気はあまり無い。しかして舞を放置する勇気は無い。どうすべきか。どうやってこの場を取繕うか。
そこまで考えて、ある矛盾点に気がついた。
「そういえば…お前等目が見えなかったはずなのに、どうして俺だとわかったんだ?」
「あ、そういえば…」
すでに忘れ去られそうな由依、なんとかここで一言稼ぐ。
「うぐぅ、それは当然愛の力だよ☆」
などというあゆは軽く無視され、
「祐一の気配がしたから…」
と答えた舞に視線が集中した。
「うぐぅー…」<黙殺
「俺の気配?」
「なんとなく、だったけど。その後登ってきた時、足音で確信した」
「ふーん…」
郁末が少しだけ感心したように呟く。
「ま、たいした物よね。あなた剣士なの?」
郁末が舞の足下に転がる剣に目をやる。
「私は魔物を討つものだから」
その瞳は強い光を放っている。
「舞は強いぞ。まあ今はこんな風だから信じられないかもしれないが。一緒に来れば戦力になる」
祐一がフォローを入れる。これでとりあえず舞は助けるという方向に持っていく。
郁末は特に何も言わない。
「よし、決定だ。一緒に行くか、舞?」
「はちみつくまさん」
即決。秋子さんの了承に近い速度で。
こんな状況にずっといれば、いかな舞といえど流石にきついだろう。
そして、三人は戒めを解いた。
――舞の分だけ。
「祐一君、ボクは?」
「ん? 何がだ?」
「ひっ、酷いよ! ボクも一緒に連れて行ってくれるんでしょ!?」
「ダメだ」
今度は晴子さんの却下に近い速度で。
「どうして…?」
「そうよ相沢、解いて上げるくらいのことはしてあげたら?」
「祐一さん?」
責める口調の同行者二人と泣きそうな顔をするあゆ。ていうかあゆの方は実は演技だったりするのだが。
祐一なら絶対外すと信じていたのに、予想外の展開になったので、あゆも必死なのだ。
しかし祐一、栞という実例を見ているので、その手には引っ掛からない。
それに、天沢さっき役に立つかどうか決めてから解く言うたやんけ、と心の中でなぜか関西弁でつっこむ。
「お前は逃げ足こそ速いが、鬼としてあまり役に立つとは思えない。それにお前はヤル気満々のはずだ。獲物を追い詰めて抜け駆けされちゃたまらないからな」
びしぃ! と突きつける。
「そっ、そんな…ボクがヤル気満々だなんて証拠がどこにあるの!?」
「お前さっき、『うぐぅ、これでたくさんとっ捕まえて鯛焼きー♪』とか叫んでただろ? どうせ屋台で買おうとしたら余りに高くて、食い逃げを敢行しようとしたら失敗して、ポイント稼いで換金しようと思ってたんだろ?」
祐一、『犯人はお前だ!』といわんばかりに事実を突きつける。
が、
「へっ? 屋台なんてあったの? ボク知らなかったよ…」
素で知らない風に返されて、祐一は絶句した。
「それに、『ぽいんとかせいでかんきん』…って何?」
更にボケるあゆ。
「と、とぼけても無駄だ…お前は食い逃げの常習犯だからそんなこと…」
「相沢ー?」「祐一さんー?」
まるで某名探偵の孫の幼馴染の某七瀬嬢が、ゲームで推理を外した時のようなジト目でみる二人。
「そ、そうだ舞! 捕まえられたお前なら分かってるだろ! コイツがヤル気満々だってこと!」
コクリ、と舞は頷く。だが、とても小さかった。
「…ただの鬼ごっこなのにムキになっては月宮さんが可哀想…」
郁末も由依もそれに同意のようだった。が、あゆが少しにやり、と笑ったような気がした…ので。
「そ、それでもダメだ! やっぱりダメだ!」
と最後の悪あがきをしたが、
「うぐぅ…それなら…祐一君、願いはまだ一つだけ残ってるんだよね?」
あゆがいきなり俯いて呟く。
「はぃ?」
「祐一君のくれた天使の人形…願いは三つ…もう二つかなえてもらったから、あと一つだけ…」
「お、おいまてあゆ…」
「祐一君、ボクの最後のお願いです!」
縛られているので敬礼は出来ないが、びしっ、と背筋を正してあゆはそれを行使しようとする。
「だぁぁ! 分かったぁ! 分かったから本編屈指の名ゼリフをここで使うな! 外してやる! 外してやるから!」
ついに折れた。
結局あゆの戒めは解かれる事となった。
(くそぅ、こんどはこんなヘマはしない! ジッチャンの名にかけて!)
ジッチャンって誰や。
(――うっぐっぐ(※笑い声)、これでまた哀れな鯛焼き共を捕まえられる!)
戒めが解かれた瞬間、おさまっていたあゆの思考は再び暴走し始めたらしい。
【祐一 郁末 由依 灯台で舞とあゆを解放】
【舞とあゆはまだインク塗れです】
【舞は同行が確定しています】【あゆはまだ不明】
【祐一 ヘコむ】【郁末&由依 祐一をちょっとだけ軽蔑】
【舞 あゆの現状を知っている】【あゆ 再び暴走開始 屋台の存在を知る】
【時間 夜 まだ雨は降っていません】
「ふっふっふっ…順調だな」
MOON.脇役コンビ、名倉友里とA棟巡回員が割かし元気そうに歩いている。
「出番がない、の間違いじゃないの?」
「…言うな」
郁未をカタパルトで撃退して以降、2人は屋台での食事を交えつつひっそりと移動してきた。
「それにしてもあなた、案外役に立つじゃない。小さな物音にも気がつくし、罠もすぐ見つけるし」
「見回りで飯を食ってきたからな…。半ば職業病だ」
鬼に見つかることもなく、罠にかかることもないまま時は深夜。場所は海岸近くの防砂林。
「………ん?」
今まで何度もしてきたように、巡回員が異常を発見する。
「なに? どうしたの?」
「…なぁ、あれ、何に見える」
何かが――いや、誰かが倒れている。
「…人間?」
「そうらしいな…。駄目だ、襷をかけてやがる」
それは、先ほど葉子に粛清されたエディと敬介。
流石に気絶はしていないが、ボコられて動けないようだ。呻き声を出している。…何故か、微妙に嬉しそうだが。
とりあえずは無視だ。わざわざ鬼に近づく必要はない。
物音をたてないよう、慎重に――
――しかし、運が悪かった。もう少し時間がずれていれば、あるいは出会わなかったかもしれないのだが。
「獲物だの、葉子殿」
「そのようですね。気配を消していて正解でした」
「「げっ…」」
ボコられている人間がいるということは、ボコった人間がいるというわけで。
ボコられた人間が襷をかけているということは、ボコった人間は鬼だったわけで。
人をボコれるということは、人数にもよるだろうがそれなりに強い人間なわけで。
もっと言うと、ボコられたのは2人でボコったのは1人だったりする。
「――お久しぶりですね、名無しさん」
そのボコり犯、鹿沼葉子が巡回員をジッと見つめた。会話の対象ははなから彼のみ。
「まったくだ、A‐9…いや、今は鹿沼葉子と呼んだ方がいいんだろうな」
巡回員もそれに応える。友里と神奈は蚊帳の外。
「――ところで、名無しさん」
「頼むからその呼び方は勘弁してくれ」
「――そこで倒れている2人に、気づきましたか?」
「(無視かよ)…ああ」
「――彼らは、悪事を働きました」
「ほう。見たところ善良そうな人間だが、何をやらかした?」
「覗きです」
静寂。
「名無しさん」
「…は、はぃ」
「前々から、聞きたいことがあったのですが――よろしいですか?」
「……よろしくないです」
「却下します」
「………」
「郁未さんの話によると貴方は……昔、私の着替えを覗いたことがあるそうですね」
再び、静寂。
「何か、反論は?」
「……そりゃあいつの嘘だr」
「却下します」
「………」
「名無しさん」
「…はい」
「とりあえず、鬼としてタッチさせていただきます。――話は、その後です」
容量限界です。
新規書きこみをいったんストップしてください。
ぐは。本当だ…。らじゃーです。
だんだんスレの移行速度が速くなってきてるな。
どうでもいいが、まなみに「騙したんじゃない! これは知略よ!」と言っもらいたかったなぁ
479 :
名無しさんだよもん:03/04/05 10:49 ID:tvpfinxI
480 :
名無しさんだよもん:03/04/05 11:17 ID:UCqC7Mc7
保守。
ほす
もう少し保守っとくか…
ho
umeru
うめ
このスレに限っては最近のナプキンみたいだな。
493 :
名無しさんだよもん:03/04/17 00:21 ID:OrgPswDl