葉鍵鬼ごっこ 第四回

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413初めての経験:03/04/13 18:04 ID:03QvcCWA
「Dさん」
 とりあえず、優勝を狙うにせよ、雨の中をうろつきまわるのは効率がよくない。まして、幼いまいかの体にも障る。
 というわけで、一旦Houseに戻るべく家路を急ぐ三人の前に女性が一人姿を見せた。
「誰だ? 鬼ではないようだが…逃げ手だというなら、遠慮なく捕まえさせてもらうぞ。今の私には大いなる目標がある」
 女性は頬に手をあてながら、ちょっと困ったように微笑んだ。
「いいえ、私は運営本部から参りました。水瀬秋子と申します」
「運営本部…というと…」 
 Dの顔が少し引きつる。彼には運営側に目をつけられる心当たりがあったのだから。
「お察しのとおり、先ほどのハクオロさんとの件ですが」
「ああ…あれは私が愚かだった。家族のためという目的に囚われ、物事の本質を見失っていたのだからな」
「そうですね。あれはやはり、運営本部としては見逃すことは出来ないほどの重大なルール違反という見解です」
 秋子は淡々と告げた。
「そこでDさんには処分が与えられることになりました」
 それを聞いてレミィとまいかが顔色を変えた。
「でぃーはわるくないよ! わたしがわがまま言ったから…」
「Dが怒られるなら、ワタシも同罪ヨ! Dだけ処分なんてヒドイよ!」
 しかし、Dは二人を嗜める。
「いや、二人とも。私はそれほどの事をしてしまったのだ」
「愚かな思考の果ての行動とはいえ、犯してしまった罪は償わなければならぬ。それが掟というものだ」
「D……」
「でぃー……」
「それでは運営本部からの処分を伝えさせていただきます」
 秋子の声が雨音を圧して静かに響き渡る。
414警告:03/04/13 18:05 ID:03QvcCWA
「めっ」
「は?」
 Dの口から漏れた声は、自分で思うよりもはるかに間抜けな響きだった。
「以上です。あなたはもう全てを分かってらっしゃるようですからね。これ以上は必要ないでしょう」
 秋子は三人を見つめてにっこり微笑んだ。
「家族と言うのは、みんな揃っているのが一番幸せなんですよ。一人でも欠けたら、残された人はどんな思いをするか…」
 そう言う秋子の目は、三人を通して何か他のものを見ているようだった。
「それでは、優勝目指して頑張ってくださいね。失礼します」
 そして秋子は雨の中に消えていった。

「D……」
「でぃー……」
 レミィとまいかは目を潤ませながらDに飛びついた。
『よかったねー』
 一気に二人に抱きつかれたDはバランスを崩して水溜りに倒れこんでしまったが、三人はそんなことを気にも止めずにゴロゴロと転げまわる。
「ははははは、あはははは」
「キャハハハハ」
「でぃー、でぃー、でぃー」
 一通り、歓喜の波が収まったあと、Dは二人を抱きしめて言った。
「私はもう、おまえ達を離さないぞ。絶対だ」
「ウン、何があってもワタシたちは一緒だヨ」
「だって、かぞくだもんね」
 三人は笑いながら…泣いていた。
415警告:03/04/13 18:07 ID:03QvcCWA
【3日目 夕方】
【D一家 泥だらけ】

うがータイトル変え忘れた…
浜辺で見知らぬおじさんに吊り上げられてきます…
416そして残すはただ1人:03/04/13 18:26 ID:vxvRjjdZ
「ただいま、美咲さんっ!」
 本来なら扉を開けたその瞬間から、彼の栄光のロードは再開するはずであった。
 だが、小屋に戻った彰を出迎えたのは、歓喜の叫びでも暖かい笑顔でもなく、
「お、お帰りなさい、七瀬君……」
 美咲のどこかぎこちない笑みと、
「お兄ちゃん、お帰りー」
 無邪気に手を上げるさおりと、
「あ、お邪魔してます」
 触角を2本生やした、どこかくたびれた服を身につけた少女と、
 しゅこーっ。
 不気味な呼吸音だった。

 ――増えてる。 
 出るときには二人だったはずの人数が、いつの間にか四人に。
 しかも全員が全員、見事なまでにお揃いの襷を肩から掛けて。
「み、美咲さん……それ……」
 震える指で襷を指すと、美咲は申し訳なさそうに、
「うん……ごめんなさい」
 16tヘビーボムが彰の脳天を直撃した(イメージ画像)。
417そして残すはただ1人:03/04/13 18:26 ID:vxvRjjdZ
 かくも運命とは残酷なものか。
 守るべき対象を守れなかったばかりか、自ら大口を開けた虎の檻の中に飛び込んでしまった彰。
 この悲劇的状況を作ってしまったのは、あのくたびれた少女か、
 しゅこーっ。
 はたまた、ダイビング用の鼻まで覆うゴーグルをつけ、シュノーケルを装備し、猫じゃらしを握った、
 一心不乱に太助をかまい続けているこの少女かっ!? って、呼吸音の原因はそれかっ! でもなんでっ!?
 彰の物々しい視線に気づいたか、少女はゴーグルの奥の大きな瞳を、ようやくこちらに向ける。
「ふにゅ……? ふぁれ?」
 お前こそ誰だ。どこのクリーチャーだ?
 喉まで出かかったその言葉を、彰はようやくのみこんだ。代わりに胸元からネコが出た。
「うにゃ」
 猫じゃらし、とはなんと凶悪な装備であろうか。
 ぴろは彰のシャツから身を乗り出し、懸命に手を伸ばしている。
「あ、ふぃろだ♪」
 鳴き声に気づいた少女はゆらりと立ち上がり、猫じゃらしを握ったまま、こちらに寄ってくる。
「ふぃろー、ふぃろー」
 その合間にも、しゅこーっ、と。
 笑顔なだけに余計恐い。彰はメデューサの邪眼を浴びたかの如く、固まったまま一歩も動けない。
 ぱたぱたと揺れる猫じゃらしが、少しずつ彰の視界で大きくなってゆき――、
「七瀬君、逃げてっ!」
 美咲の声に、はっと我に返る。
 伸びてきた手から逃れようと、反射的に一歩下がる。だが小屋の玄関は一段高くなっていて、彰の足は空を切った。
 僅かな段差が驚愕と共に彰からバランスを奪い去り、逃れようのない魔手が眼前に迫る。
 しゅこーっ。
 ――殺られるっ!
 彰は戦慄した、が。
「ふぃろーっ♪」
 名雪の手は見事にぴろだけを掴み、彰は草原に無様にひっくり返りつつも、一命は取り留めた。
「なんなんだよ、もう……」
418そして残すはただ1人:03/04/13 18:31 ID:vxvRjjdZ
「えーと、つまり、僕のいない間に水瀬さんと雛山さんがやってきて、なんやかんやあって、鬼になってしまったと」
 しゅこーっ。ぱたぱた。うにゃーっ。ごろごろ。
「う、うん……ごめんね。せっかく七瀬君が1人で、危険を顧みずに外に出てくれたのに……」
 しゅこーっ。ぱたぱた。うにゃーっ。ごろごろ。
「い、いや。美咲さんのせいじゃないから」
 しゅこーっ。ぱたぱた。うにゃーっ。ごろごろ。
「……」
 ムードぶちこわし、である。
 ネコ好きのネコアレルギーというのも気の毒ではあるが、鬱陶しいことこの上ない。
 が、本人はアレルギーを気にせずネコと遊べるとあってか、お気に入りのようだ。
元は可愛い顔立ちなのに、すっかり台無しである。
 かたやもう一人の雛山理緒は、先ほどからうずうずした様子で、
「あ、あのー、タッチしちゃ、ダメですか?」
 と、聞いてくる。
「いや、せめて捕まるのなら美咲さんの手でっ!」
 理緒はそんな指図を受ける理由はないのだが、負い目があるのか元来人がいいせいか、胸元で指付き合わせて、しょぼんと諦める。
「ううっ、せっかくの獲物がっ。私の貧乏脱出プロジェクトが……」
 それを言うなら、君たちこそ僕と美咲さんのスイートライフプロジェクトの邪魔をしてくれたんだけど。と、彰は思う。
 本当なら美咲と二人切りの一夜を過ごすところ、どこからともなく扶養家族が1人にネコまで加わり、
『こうしていると、僕たち、家族みたいだよね』などと自己暗示をかけつつ、一家の長らしく食べ物を調達してきたのもつかの間、
 自宅は占拠され、妻と娘(彰主観)は鬼の手の内にあり、状況はまさに四面楚歌。ついでにネコが、また増えた。
 ……どうすればいいんだ。
 くいくい。
「ん?」
「お兄ちゃん、ご飯はー?」
 お腹を押さえたさおりが、彰の袖を引いていた。
「ああ、そうだね。とりあえず食事に……あ」
「あっ……」
「ああぁっ!」
「ふぉうひふぁふぉ?」
「? なーに?」
419そして残すはただ1人:03/04/13 18:32 ID:vxvRjjdZ
『葉鍵的鬼ごっこ条約第一条 鬼に触れられた者は鬼となる』

 かくして、一家(?)仲良く鬼となってしまったわけだが。
「太助ー、ぴろー、ご飯だよー♪」
 無邪気に猫にエサをあげているさおりを見ていると、文句を言うこともできない。
「ううっ。こんなことなら、私にタッチさせてくれても……」
「あはは……もういいや、どうでも」
 彰はなげやりに突っ伏した。
「お待たせ。ありあわせだから、大したものじゃないけど……」
「いやっ、もう、美咲さんの料理だったら、なんでも大歓迎だよっ」
 美咲の料理を目の前にすると、たちまち彰は幸せを覚えてしまうのであった。
 ――まぁいいや。これはこれで幸せだし。……せめて冬弥には頑張ってもらいたいな。
 自分で由綺に居場所を教えといて、それはないだろう。とっくに捕まってるし。
 いやさ。ホワルバ勢は彰が鬼になったことで、残す逃げ手はわずかに1人。
 それはヒロインでもなければ主人公でもなく、サブキャラの割には重要な役回りと存在感を示す、
場合によっては由綺をゲットしかねない、おいしい男。その名は緒方英二。
 その緒方英二といえば――。


 ――あー、疲れた。
 さすがにこの年になると、全力で走るのはきついなぁ。理奈ちゃんは俺が鍛えただけあって、スタミナ全開だし。
 このままではいずれ捕まるよな。ここで擬装してやり過ごすという、俺の選択は間違っていないはずだ。
 完全に気配は殺した。微動だにせず、音一つ立てずにいれば、この極めて自然な状況下では、
だれもが『ああ、例のあれか』と思って通り過ぎるはずだ。
 ついでに足跡をわざとあさっての方向に残すというカムフラージュも施してある。完璧だね、俺。
420そして残すはただ1人:03/04/13 18:33 ID:vxvRjjdZ
 ――お、足音だ。来た来た。
 思ったよりは引き離せていたみたいだったけど、理奈ちゃん、姿が見えなくても、俺のあとをぴったりついて来ちゃって。
 兄妹愛の為せる技ってやつ? それはそれで嬉しいけど、今回ばかりはちょおっと迷惑だね。
 さぁ、理奈ちゃん。お兄様はとっくのとおに向こうに行ってしまいましたよー。
 こんなところはとっとと通り過ぎて、急いで追わないと逃げられちゃいますよー。
 ……って理奈ちゃん、なんで真っ直ぐにこっちに向かってくるかなぁ?
 ほら、足跡はあっちの方に付いてるじゃん。俺はただのどこにでもある……、
「こんなところにクラーク像があるわけないでしょっ!」
「うわちゃあっ!」
 俺は例のポーズを慌てて解除し、理奈ちゃんの跳び蹴りを回避して、岩から飛び降り走り出した。
「どうして分かるかなぁ? ほら、観光地によくあるじゃん、ああいうの」
「クラーク像は北海道にあれば十分よっ!」
「それもそうだけどさぁ。この際、この島にも観光名所の一つや二つ……」
「緒方英二像なんて建てたら、フセイン像みたいにことごとく引き倒すからね」
 あらら。理奈ちゃん本気の目だよ、あれは。
 休めたのはいいけど、すっかりアドバンテージ失っちゃったなぁ。
 俺様、大ピンチ継続中です。


【彰、鬼になる】
【さおり、1ポイントゲット】
【緒方英二 スタミナがピンチ】
【緒方理奈 ターゲット補足】
【時間 二日目、そろそろ日が暮れてもいいだろう】
【場所 彰一行  出番の割にはどこにあるのかよく分からない小屋の中 
    緒方姉妹 かけずり回っているので、どこにいるんだかもうさっぱり】
421そして残すはただ1人:03/04/13 18:34 ID:vxvRjjdZ
姉妹ってなんだ。兄妹だ。失礼。
422愚か者達の焦り:03/04/13 22:13 ID:QAROjsC/
「良いか、千紗。あいつらが来たら大声で俺を呼べ。何が何でもあいつらを通すな。いいか」
「はいっ。千紗がんばりますっ」
そして西階段を二階に上がっていく往人。東階段にはすでにウルトが待機して、逃げ手達の強行突破を防がんと構えている。
東西両階段ともに、一人ずつでは不安なため、食堂から長テーブルを運んできて、降り口に急造のバリケードをつくってある。
机を二段重ねてあるから、そうたやすく突破は出来まい。
往人は確信していた。これで、四万円ゲットだ、と。
そして、二階。201 202 203 と順に捜索していく。まったく根気のいる作業だが、ほかに有効な手が無い以上仕方ない。
それに、往人は仕事柄、徒労には慣れている。
204……205……206……20
そのとき。通路を歩く往人の目に、あるものが飛び込んできた。
こういう高層の建物には、有ってしかるべき──むしろ、なければおかしい、とある施設が。
「あ──しまった! 俺は馬鹿か!」
そして駆け出す。その施設へ向かって。
423愚か者達の焦り:03/04/13 22:14 ID:QAROjsC/
大志は悩んでいる。自身の判断ミスで、返って皆を窮地に陥れてしまったのだ。責任を感じている。
なんとか、脱出法を見つけんと、その頭脳をフル回転させているのだ。
急いで三階まで降り、窓から飛び降りる? 郁美嬢には不可能。
鬼達が捜索しに来た所を、急襲して沈める? 奴らの戦闘力がわからない。無謀。
通気口や換気口を使って……馬鹿な。我輩は何を考えている。
やはり、強行突破しかないのか……いや、奴らも馬鹿ではあるまい。バリケードくらいは構築していてしかるべきだ。
「──ふ」
落ち着け、我輩。焦ってはならん。冷静に、周囲の状況を観察し、分析するのだ。必ず脱出ルートは見つかる──
ここはエレベーターホール。周りには三人の同志が、それぞれに知恵を絞っている。
大志は一人立ちあがり、壁に張られている、この建物の地図をじっと見る。
階段は東と西にひとつずつ。エレベーターは止められた。階段は押さえられていて使えない。
ならば──まて。これは────っ
「──くくっ、はっはっはっは!」
突如笑いだす大志。何事かと、三人が一様に彼を見る。
「ふっふふ、我輩は心底間抜けだな。こんなことにも気がつかないとは」
「どうしたのよ大志」
「よろこべ、同志諸君。さぁ立ちあがれ。脱出口へと向かうぞ──」
424愚か者達の焦り:03/04/13 22:14 ID:QAROjsC/
「非常階段ですか……」
「まったく盲点だった。焦っていては、これほど簡単なことすら判らぬものか」
「さっさと行くわよ、鬼達が気付くかもしれないし」
「クロウさん、すみません、おぶってもらって」
「かまやしねぇよ、譲ちゃん。それより、しっかり捕まってろよ」
四人は非常階段を早足で降りていく。
狭くて降りづらい、普段はまったく用なしのこの階段が、今の四人にとってはなによりもありがたい脱出口。
しかし──気付くのが少し遅かった。
二階まで降りてきた、後少しで逃げ切れる、そのとき、
まるで弾けるように、扉が開いた。間髪いれず、中から黒いTシャツの男が飛び出してくる。
急停止する逃げ手達。期せずして両者は、真正面から向き合う形になる。
「はぁ、っ。間に合ったみたいだな」
軽く息をついて、往人が言う。そして四人を捕まえんと駆け
「逃げるぞ!」
同時に、クロウが言って、
手すりを乗り越えて、地上へと飛び降りた。
425愚か者達の焦り:03/04/13 22:16 ID:QAROjsC/
【往人 非常階段で逃げ手達発見】
【郁美を背に負ったクロウ 飛び降りる】
【大志 瑞希はさてどうする?】
【夕方 鶴来屋別館の非常階段】
426逆襲の編集長:03/04/13 23:14 ID:C6vPI+kS
「―――――――――――――――と、いうわけなのよ」

 私は、鬼になった。
 失礼。誤解を招きかねない表現だった。
 私―――澤田真紀子は現在『鬼』である。
 無論のことなりなくてなったわけではない。鬼になったのは思い出したくもない経緯があってのことだが、
それはそれ。今、私は『その思い出したくもない経緯』を話し終えたところだった。
 目の前の、彼女たちに。

「ええ、と。つまり……」
「――――澤田様。仮に協力するとして賞品はいかが致しましょう?」
 太田香奈子を押さえ、口火を切ったのは、来栖川重工製HMX-13・セリオである。
 噂には聞いていたものの、目にするのは初めてだ。
「――――いらないわ」
「権利を放棄されると仰るのですか?」
 セリオ、小首をかしげる。
 言いたいことは良くわかる。
 というか、良くできている……。あの耳はなんだろう。
「賞品賞品って目を輝かせるような歳じゃないから。―――――とはいえ、ぜんぜん無欲にもなれないけれど。
そうね、賞品が可分なモノであれば多少分けてもらえばそれでいいわ。それ以外なら、あなたに差し上げるわ」
 美坂香里――――といわれる少女を見つめて、そう言った。
 確かに賞品は私の目的じゃない。
 その問題で分裂する懸念のないチームに出会ったのは、僥倖といっていいだろう。
427逆襲の編集長:03/04/13 23:15 ID:C6vPI+kS
 
 
 鬼になってどうするか。
 不本意極まる経緯で鬼にされて、まず考えたのはそれだった。
 言うまでもなく私は非力だ。物理的な力は一般女性のそれと大差ない。特殊能力も皆無。SS設定で追加機能など
というのも無論ない。このまま終了まで傍観を決め込んでもいいが、それは私のプライドが許さない。
 たとえ”ゲーム”でも勝負事は、勝たなければ意味がないのだ。でなければ、この歳で編集長など務まらない。
 ……となると、自然、チームを組む、ということになる。
 最初あの『天沢』という少女のいるチームも選択肢に入れていたが、結局考慮から外した。
 不審の種というのはとても深く根付く。あの後彼女達がどうなったか知らないが、表面は繕うことは出来ても
後々響いてくるだろう。自分でやったことだが、わざわざその始末に追われるつもりは無かった。
「言うまでもないけれど、鬼は多いほうが有利よ。逃げ手と違ってね」
 そして、とりあえず食事を屋台に向かって、出会ったのが彼女たち。
428逆襲の編集長:03/04/13 23:16 ID:C6vPI+kS


「とはいっても、――――ね」
 香里が困ったように、肩をすくめた。
 みたところ彼女がこのチームの中核のようだが、”ゲーム”への興味は既に無くしたらしい。
 話によれば、「妹」を捕獲―――もとい、復讐――――するのが目的だったというから、目的を果たした今、
彼女のこの状態は無理なからぬことなのかもしれない。
 もっともそれでは困るのだが。
「……そうね。考えてみれば、ここは絶海の孤島。あるのは、手付かずの自然。広い海。白い砂浜。”ゲーム”という
枠から離れてみれば、ちょっとした旅行気分よね。一応リゾートと謳っているし」
「ええ。そうですね」
「適度に鬼を捕まえて換金すれば、資金に困ることもないし」
「ええ」
「バカンスだと思えば、そう悪い状況でもないわよねぇ」
 にっこりと笑って
「――――ほんの半月くらい」
429逆襲の編集長:03/04/13 23:16 ID:C6vPI+kS
「「…………え?」」
 香里と香奈子の声が図ったようにユニゾンした。
 今気づいたが、どちらも「香」がつくのは偶然だろうか。
 いや、どうでもいいことだが。
「い、いえ。そんなには続かない、……と思いますけど」と香里。
「そうかしら? 主催者が期限を指定していたという記憶は無いけれど」
「……そう……だったかしら?」
 眉間に指を置いて、思い出そうとする仕草の香奈子。
「――――セリオ?」
 冷静に香里が向かいに佇むセリオに問いかけた。
「残念ですが、Yesです。香里様。澤田様の仰るとおり、期限はきられていません」
「…………」
 香里の目つきが変わった。
 なるほど、確かにこの不思議時空満載な集団のなかで、8ポイント取ったというのは伊達ではないかもしれない。
 ……これは当たりだったかも知れない。
「――――いいかしら? 現時点で想像しうる”ゲーム”の結末は三つ。『逃げ手』が一定数(もしくは一人)になるか、
『鬼』が全員を狩り尽くすか。或いは、『逃げ手』が一定数で終了し『鬼』は獲得数で賞品を手に入れる、か。どれにせよ、
時間が必要なの。少なくとも、逃げ手がある程度減らない限りこの”ゲーム”は終わらない」
「積極的同意です、香里様、香奈子様。主催者側のこれまで費やしてきたコストを考慮しても、この”ゲーム”を半端に
終わらせることはないでしょう。不測の事態が生じない限り、数日かかる可能性はあります。消極的参加にメリットはありません」
「つまり、こういうこと? 鬼を捕まえない限り終わらない?」
 香奈子が続ける。
 飲み込みが早い。彼女も賢いようだ。
「そうなるわね。――――もちろん、アクシデントで中断ってこともありうるけれど」
「……簡単に終わる遊びはつまらないけれど、終わらない遊びはもっとつまらない。――――わかりました、協力してもらいます、真紀子さん」
 すっと香里が立ち上がった。 
 本当に、当たりだったようだ。
430逆襲の編集長:03/04/13 23:17 ID:C6vPI+kS
 
「けれど、……使える武器の類は売ったじゃない」
「あの唐辛子噴霧器? いいのよ。どうせあと3、4回くらいしか使えないんだし」
「……それで一万円? 詐欺ね」
「商売上手といってほしいわね」
 といいながら、香里と香奈子が屋台の武器を物色し始めた。
 

 ――――実は、彼女達に言っていない事がある。
 換金システムのある『鬼』側と違って、逃げ手側には資金を調達する手段がない。
 彼らが所持しているのは基本的に開始初日に持っていただけ――――つまり、日常的に所持している程度の金額だ。
 ぼったくり屋台で食を充たすことができるとはいえ、そう長くは持たない。
 極々少ない例外があるにしても、勝負期間は、おそらく五日。遅くても七日というところだろう。
 半月も続くはずがないのだ。
431逆襲の編集長:03/04/13 23:17 ID:C6vPI+kS


 ふと視線を感じて顔をあげると、セリオがこちらを見ていた。
「…………あなたは、わかっているのよね? 騙していることになるけれど、いいの?」
「――――構いません。あの方は、ああしているほうが自然ですから」
 驚いた。
 来栖川のメイドロボというのはこういう思考をするのだろうか。
「香里さん――――彼女、あなたのマスター、ではないでしょう?」
「はい。…………ですが、たまにはこういうのも悪くありません」
 セリオは微笑を―――多分そうなのだろう―――浮かべた。


 これは、楽しめそうだ。


【真紀子 香里・香奈子・セリオに合流】
【場所 屋台】
【時間 三日目夕方〜夜】
【天候 雨】
432名無しさんだよもん:03/04/13 23:34 ID:C6vPI+kS
訂正です。

>「つまり、こういうこと? 鬼を捕まえない限り終わらない?」
>香奈子が続ける。

を、

>「つまり、こういうこと? 逃げ手を捕まえない限り終わらない?」
>香奈子が続ける。

に。
ご迷惑かけます。すみません。
433集まる集まる:03/04/14 00:03 ID:X2HFQ6yy
「……誰か来るよ」
突然瑠璃子が言った。四人、教会の中で、談話していたときのこと。
「どうしてわかるんですか?」
「ちょっと変な電波を感じたの。すぐそこまで来てるよ。葵ちゃん」
「あうー、本当? 誰か来るの?」
「うん。絶対来るよ、真琴ちゃん」
「あうー」
「長椅子の影に隠れましょう」
美汐が言う。葵もうなずいて、あうあう言っている真琴を二人がかりでなだめながら、長椅子の影に。
そして、扉が開く。

「あー、つっかれたー」
「だらしないなぁ詠美。ちゃんと運動せなあかんでー」
「あの……お邪魔しますぅ」
「誰かいますか?」
「しかし今日は良く歩いたわねー」
次々入ってくる六人連れ。たすきはかけていないことに、こそりと見ていた四人は安堵する。
「良い寝床が見つかって良かったな」
扉が閉められる。扉を閉めた男性の声は、葵には聞き覚えのある声。
「あれ、藤田先輩?」
立ちあがる。
「あれ、葵ちゃん?」
浩之もあっけに取られた風でそれに答えた。
434集まれ集まれ:03/04/14 00:03 ID:X2HFQ6yy
「こ、こっちなんだな」
「そうでござるな」
くんくん、と鼻をひくつかせながら森の中を邁進する二人の男。
縦と横。正体不明な力でもって、匂いをたどって詠美を追う。
「あ。あの建物が怪しいんだな」
「同意でござる。あの中から匂うでござるよ」
そして、二人は教会へ迫っていく。

そして──ある意味、詠美以上に危険な人物も、そこに向かっていく。
その名は桜井あさひ。無論、彩ときよみも一緒にいるが。
おたく二人にとっては、神以上の存在──
「……建物です」
「良かったです……」
「えと、寝床……ですね」
おたく二人とは反対の方向から。教会へと接近していく。

教会の中には十人もの人。
灯台に引き続き、浩之達は逃げ場の無い建物の中で、鬼の襲撃を受けようとしている。
最悪に危険な二人と、
おっとりのんびりあたふたトリオ。
良くわからない組み合わせの鬼二組を前に、
十人の運命はいかに。
435集まった集まった:03/04/14 00:04 ID:X2HFQ6yy
【教会内にいる人々 瑠璃子 浩之 志保 葵 琴音 由宇 詠美 サクヤ 舞 美汐】
【教会南側から迫る、縦と横。目標、詠美のサイン&生原稿】
【教会北側から迫る、あさひと彩ときよみ 目標、寝床確保】
【総勢十五名】
【森の中の教会 二日目夜】
436ドロドロの戦い:03/04/14 03:19 ID:fCJyYR1c
 二人の男の間に緊迫した空気が流れている。

「悪いが捕まえさせてもらう…」
 一方は藤井冬弥。浮気ゲーム『ホワイトアルバム』の主人公。
 葉鍵一のイケメンという評価もあるが、彼を指す言葉としてはさらに世に浸透しているものがある。
 すなわちヘタレ。
 しかし今の彼は、未熟ながらも確かに漢の顔つきをしていた。
 この島での経験は、冬弥にとって大きな糧となったようだ。

「復帰したばっかりで鬼になるわけにはいかない!」
 その冬弥に対するのは長瀬祐介。
 LVNの初代主人公。
 そのゲーム開始直後にかまされる常人を超えた妄想は、プレーヤーの度肝を抜く。
 電波使いという状況から、おそらくは瑠璃子エンドかと思われるが、LF97設定のようなのではっきりとした所はわからない。
 電波による反則のため拘束されていたが、どうやら開放されたようだ。

 そして今、葉が誇る二大内面ドロドロ主人公が激突する。

「フッ」

 先手を打ったのは祐介。
 その外見を裏切る意外な瞬発力で、冬弥を引き離しにかかる。

「逃がすか!」

 しかし、冬弥も伊達に体力勝負のADをやっているわけではない。
 祐介の動きにほとんど遅れず、大地を蹴る。
 体力なら間違いなく、冬弥の方が上だ。
437ドロドロの戦い:03/04/14 03:21 ID:fCJyYR1c
 雨の中濡れるのも構わず、全力で走る二人。
 速度はほぼ互角である。
 しかし、元々体力に自信の無い祐介は、自分の限界がそう遠くないことを感じた。

「……まずいな」
 しばらくの追走劇の後、持久戦では勝ち目が薄い事を悟る祐介。
 しかし電波は使えない。近くに熊でもいれば別だろうがそんな様子もない。
 このままでは間違いなく捕まってしまう。

(ん? あれは…) 
 そんな時、先に見えたのは川。
 幅は5,6mくらいだろうか? 
 それほど、深くはないものの雨で増水していてとても渡れそうにない。
 川に丈夫そうなあの板が架かってなければ、だが。
 見たところ、板はしっかりと打ちとめられているわけではない。
 人一人の力でも、十分動かすことができるだろう。

 祐介は冬弥との距離、互いの速度、自分の筋力と相談。
 瞬時に結論、板に向かって走る。

「そうはさせるか!」

 祐介の目的を看破した冬弥はスパートをかけた。
 25メートル以上あった差がどんどん縮まる。
 20メートル…15メートル…12メートル…10メートル…8メートル
 しかしそこまでだった。
 そのとき祐介は、すでに板を蹴っていた。
438ドロドロの戦い:03/04/14 03:23 ID:fCJyYR1c
 どんぶらこー、どんぶらこーと川に流れさていく板。
 それを見、フゥと安堵のため息を漏らす祐介。
「すいません、こうでもしないと捕まりそうだったので」
 そして、川の前で立ち往生しているはずの鬼に向かい声をかける。
「……」
 冬弥は何も言わない。
「運がよかっただけです」
「……」
 冬弥は何も言わない。
「…ゲームなので」
「……」
 冬弥は何も言わない。
 しかし、次の瞬間その葉鍵一のイケメンに浮かんだのは笑み。
「悪いな」
「ゴメンね」
 声は前後から同時に聞こえた。



 森川由綺からたすきを受け取りながら、祐介は呆然としていた。
 冬弥は最初からあそこに追い込むのが目的だったらしい。
 確実にしとめるための袋のネズミを作り出す為に。
 たとえ祐介が体力で勝っていても、あの場では板を渡ったことだろう。
 それが冬弥によって置かれたものだということも気づかず。
 そして板をはずしたことだろう。
 もう一人の狩人が迫っていることも知らずに。
 結局自分は冬弥の手のひらの上で遊んでいただけだ。

「落とし穴だけがトラップじゃないぜ」
 少し離れたところの橋を渡ってきた冬弥は笑いながら言った。
439ドロドロの戦い:03/04/14 03:24 ID:fCJyYR1c
【由綺 +1ポイント シェパードマイク所持】
【冬弥 金無し】
【七海 由綺の側にいたんだけどセリフ無し】
【祐介 鬼に】
【朝】


 そしてそのすぐ近くでは…
「祐介の奴捕まったみたいだ」
「そうですか、仕方ありません離れましょう」

【耕一&瑞穂 祐介の捕獲現場を見た後離れる】
440孤独:03/04/14 20:09 ID:MG8sSxXv
 限界が来た。いくらタイヤキが掛かれば無類の脚力を発するこの足も、文明の利器には敵わないか。
 相手はこちらと一定の距離を取って逃亡しているようだ。全く腹立たしい。
 しかし、いくら立腹しても一度疲労を感じてしまえば御仕舞いだ。月宮は頭から砂浜に突っ伏した。
(うぐぅ…)
 ああ、まだバイクの鼓動が聞こえるというのに。
(そういえば、お腹空いたから屋台に行ったんだっけ…)
 しかし、バイクの鼓動は消えない。 それどころか…近づいてくる?

「アンタ、頑張るなあ。こんなに走る予定やなかったんやけどな」
 バイクに跨る女性が喋っている。微妙に距離を取っているのは、油断していない証拠なのだろう。
「まあ、ウチもあの子に会うまで鬼になるのは避けたいんでな。堪忍し」
「…あの子?」
 ボクは顔を上げた。

「…土、積もってるで?」
「…全力でコケたから…」
 泥だらけの顔で、恨めしそうに見上げる。
「ほな、お詫びや」
 そういうと、女性は袋を投げて寄越してきた。 こ、コレは…タイヤキ!?
 正直、踊りだしたいほど嬉しかったが、なんだか悔しかったので愚痴てみた。
「冷めてる…」
「もうちょっと早くギブアップしてたらなー」
 軽くかわされてしまった。
 まあ、元々文句を言える立場じゃない。 大人しく貰っておこう。
441孤独:03/04/14 20:09 ID:MG8sSxXv
 すぐに貪りたいところだが、生憎髪から顔まで土まみれだ。 顔を洗うまで我慢しよう。
 それに、女性の言う「あの子」とやらに興味もあった。
「で、あの子って?」
「あー、ウチの娘や」
 娘が居たのか。
「ちょうどアンタと同じくらい、かな?」
 ていうかアンタいくつだ!?

 女性は娘が自慢なのか、少々過熱気味に話してくれた。
「でな、まあリゾートっちゅーんで、たまには遊んでやろと思ってな。 来てみたっちゅーわけや」
 …やっと言葉が途切れた。 一体何万語語ったのか。
「しかしなー、あの子トロいから」
 いや、まだ続く!

 このままでは折角のタイヤキが、更に冷めてしまう。 ここは、話を切り上げるべきだろう。
 まずは話に割り込まねば。
「でも、その年齢でお母さんと鬼ごっこってのもね」
 女性の表情が曇る。 話に割り込まれて機嫌を害したか?
「…あの子な、子供の頃から友達おらんねん」
 え…
442孤独:03/04/14 20:10 ID:MG8sSxXv
「ヘンな病気のせいでな、小さい頃から誰も一緒に居てくれへんのや…」
(び、病気?)
「まあ、そんな訳でな、鬼ごっこってのも今回が初めてかも知れへん」
(ボクは…祐一君と…でも…)
「ずーーーっと独りでな。 この島でも、ひょっとして独りで寂しくしてるかもしれん」
(ずーっと、独り…)
「あの子トロいからな、多分もう鬼や。 でも、誰も捕まえられへんと思うんよ」
 女性は悲し気に顔を伏せた。
「せやから、せめてウチは逃げ手のままあの子に会って、本気の鬼ごっこをしてやりたいねん」
「…もし、会った時に鬼じゃなかったら?」
「そん時は一緒に逃げるのも、また楽しそうやん?」
 女性は屈託が無い。

 隙あらば飛び掛ろうと思っていた。 ゲージを溜めて、飛び掛る準備もOKだった。
 でも。
「うん、じゃあ、頑張って逃げてね」
 ボクは立ち上がり、髪と顔の土を払う。 タイヤキは懐に入れた。
「ん、もう動けるか」
 女性はバイクを空ぶかしする。 牽制されているのか。
「その子、どんな格好?」
「栗色の長い髪を、後ろで縛ってる。 がおがお言ってたら間違いない」
「…もし、まだ鬼じゃなくて、ボクが見つけたら…」
「本気で、追い掛けてな」
「…うん」
 この女性には敵わない。
「…うん。 じゃあね、おばさn」
「誰がおばさんじゃーーーーいっっ!!」
 ホイルスピンにより、大量の土(いや、泥か)が降ってきた…
443孤独:03/04/14 20:11 ID:MG8sSxXv
「貴女は…」
 隣りを走るべナやん(縮めた)が話し掛けてきた。
「良い、です。 正直、見直しました」
「それを言うなら惚れ直したって」
 睨まれた。 茶化すのは止めようかな。
「まあ、でもな、これはウチの我侭やから。
  観鈴が鬼やったら、アンタまで巻き込む気はない。 遠慮せんと逃げてな」
「ええ、逃げますよ。 標的が多いほうが鬼も楽しいでしょうからね」
「べナやん…」
「いや、べナやんは如何かと」

「結構時間を食いましたね。 あの娘達の元へ戻るのでしょう?」
「そやな。 バイク借りっぱなしやし。
  やっと人に会えたのに、鬼が来たせいで観鈴の事聞けへんかったしな」
「常識的に、視界の広い場所には逃げ手は来ないでしょう…」
「観鈴ちんはアホやから。 海が有れば、そこへ来る」
「…」

【ベナウィ&晴子 あゆを倒して茜達の元へ】
【あゆ 『ガイア式砂地での武闘術』会得。姿は隠せどもタイヤキを食せない諸刃の剣】
【3日目昼過ぎ】
444誰のために鐘はなる?:03/04/14 22:16 ID:7B0EYxU5
 夜の闇に覆われた森の奥の教会。三流ホラー映画にはバッチリのロケーションで
あったが、
 今現在、教会の中はにぎやかなものであった。
 それもそうだろう。なんと逃げ手が10人もいるのだから。
「急ににぎやかになりましたね」
「そうですね〜」
「にぎやかなの、楽しいよ」
「ふみゅ〜ん、お腹すいたぁ! これもも〜らいっと」
「あう〜!それも真琴の!」
「恥ずかしい事すんな、この大庭か詠美!」
「いいですよ、また作りますから」
「サンキュ〜、ごちになっちゃうわね」
「ねこっちゃ、これいらないのか? もらっちゃうぞ」
「……ねこっちゃ言わないでください」
 台詞を考えるだけでも一苦労である。いやまじで。
 だが、そんな団欒の雰囲気を裏切るように、瑠璃子が緊迫した声を出す。
「……! また誰か来るよ」
「本当ですか?」
「うん。なにかいやな電波を感じるよ……」
 そうこういううちにも、正面入り口がギィッと音を立てて開かれた。

「うわぁ、あいつら縦と横じゃない!?」
「しつこいな。あいつらここまで追ってきおったんかい」
 間一髪長いすの裏に隠れた詠美と由宇とサクヤは、入り口のほうを伺う。
 他の逃げ手達も別々の場所に隠れているようだ。このすぐ近くの長椅子の裏には浩
之と志保が隠れており、他の5人もカーテンの裏に隠れる事が出来たらしい。

「むぅ……誰もいないんだな」
「いや、大庭詠美の匂いがするぞ」
「匂いがするんだな……生原稿いただきなんだな」
445誰のために鐘はなる?:03/04/14 22:18 ID:7B0EYxU5
「やっぱり、詠美さんの事狙ってますね」
「匂いなんてしないわよ!」
「そんな事いっとる場合か! こっちに来るで!」
 本当に匂いがするのだろうか。縦と横はうろつきながら徐々にこちらに向かってきている。
(ふみゅーん。どうしよう、あいつら私のことだけ狙ってるのよね)
 詠美は迷う。
(このままだったら、みんなに迷惑かけちゃう……逃げたくても、瑠璃子足に怪我してるし)
「どうしたんや、詠美」
 詠美の様子に気づいたのか由宇は問う。詠美はその由宇にニヤッと笑うと、
「……あんた達、こみぱくいーんの生き様みせてあげるんだから!」
 そういって、詠美は立ち上がる。
「ちょっと!縦に横!!詠美ちゃん様はここにいるわよ!」
 その声に、縦と横は振り返る。
「ぬぅ!そこに隠れていたか!」
「グフフフ……探したんだな」
(き、気持ち悪ーい)
 ちょっと泣きそうになるちゃん様。だが、がんばって虚勢を張る。
「フン! くいーんは逃げも隠れもしなんいだから! 
みじめなあんた達にちょお優しい詠美ちゃん様が原稿恵んでやるわよ!」
 その横で、由宇がスクッと立ち上がった。
「サービスや。今やったら、辛味亭の生原稿も付けたる」
「な、何であんたまで!」
 慌てる詠美に、由宇はニヤリと笑い返す。
「大庭か詠美だけやったら、可哀相やしな。ま、これも付き合いや」
「えへへ、そうですね」
 今度は反対側でサクヤが立ち上がる。
「私は絵は描けませんが、付き合わせてください」
「ふ、ふみゅ……あんた達……」
 ちゃん様、ちょっと涙目。
446誰のために鐘はなる?:03/04/14 22:18 ID:7B0EYxU5
 教会の外には、正面入り口とは反対の方から教会に近づく鬼が三人いた。
「……なにか騒がしいですねぇ」
 きよみの意見に、彩とあさひもうなづく。
「誰かいらっしゃるのでしょうか?」
「うーん、いそうですね。ゆっくり泊まれるようなところだとといいなぁ」

 改めて教会の中、カーテンの裏。
「詠美さん達、犠牲になるつもりですよ!」
「どうしましょう、何とかしてあげたいのですが」
 焦る一同に瑠璃子が口を挟んだ。
「……いやな電波があるよ」
「嫌な電波? あの鬼達からですか?」
「ううん。あっちの方から」
 瑠璃子は浩之と志保が隠れている方を指差した。

(落ち着け浩之、これはチャーンス)
(チャンスよチャンス、志保ちゃん優勝できちゃうかも)
 二人して同じことを考える。
(ここであえて鬼になって)
(他の人を捕まえれば、一気に9ポイント!)
 フェイレス司令もビックリなイイ笑顔を二人は浮かべる。
(主人公の割には今まで活躍する機会もなかったけど、これで一気に優勝候補!!)
(超先生キャラと蔑まれる日もここまでだわ!!)
 浩之は優しい眼差しで、志保を見る。
(志保……超先生キャラの中でもトップクラスに人気がないお前だけど、
ちゃんと俺の踏み台として役に立ててやるからな)
 志保は優しい眼差しで、浩之を見る。
(ヒロ……主人公の中でトップクラスに出番がないあんただけど、
ちゃんと志保ちゃんの優勝の糧にしてあげるからね)

447誰のために鐘はなる?:03/04/14 22:20 ID:7B0EYxU5
「ひょっとしてあの二人、あえて鬼になって私達を捕まえようとしているのではないでしょうか?」
「うん、そんなどす黒い電波だよ」
「あうーっ……にやにや笑ってる……」
「ふ、藤田さん、それはちょっと……ねこっちゃさん、なんとかならないでしょうか」
「ねこっちゃ言わないでください。サイコキネシスで直接攻撃はできませんし……」

「グフフフ……さあ、捕まえて原稿をかかせるんだな」
「あんたら、ファンとして最低やな」
 だが、もっと最低な二人がいたりする。
 浩之と志保、長椅子の背から飛び出すと、浩之は縦を、志保は横をタッチする。
「な、お前!」
「ひ、ヒロ!?」
 お互いの行動に驚く。
「「こ、この裏切りものー!!」」
 お互いに、こいつにだけは言われたくないだろう。

「ね〜琴音、カーテン使えない?」
 真琴の提案に、カーテンの裏の4人は顔を見合わせる。
「(ねこっちゃって言わないでくれた!)……それならいけます!」

448誰のために鐘はなる?:03/04/14 22:20 ID:7B0EYxU5
「俺がタッチする!!」
「抜けがけはなしよ!!」
「き、貴様ら汚いぞ!!」
「醜いんだな!!」
 あまりの展開に反応できない詠美達に、醜い争いを続けながら鬼達が迫まろうとする。
だがその鬼達の上に、

バフッ

 カーテンが覆いかさぶる。
「な、え?何?」
「ねこっちゃや! 逃げるで三人とも!!」
「はい!!」
 この隙に裏口の方から逃げようと、走る由宇達。
「逃がすかよ!!」
 いち早く這い上がった浩之が後を追おうとするが、
「抜け駆けすんなぁ、ヒロ!!」
 志保に足首をつかまれて転倒する。
「ふざけんな、この!!離せ、テメェ!!」
「ポイントゲットは志保ちゃんのものよ〜!!」
 通路に転がったまま、低レベルな争いをする二人。その二人の上を、
「待て〜!!」
「逃がさないんだな!!」
「グア!?」
「フギャッ!?」
 容赦なく、縦と横が踏みつけていった。
449誰のために鐘はなる?:03/04/14 22:22 ID:7B0EYxU5
(よし、これなら逃げられそうや!!)
 裏口を潜り抜け、森の中へ逃走しようとする。だが、新たな鬼三人とばったりと出くわしてしまう。
「あ、あれ? 由宇さんに詠美さん?」
「……お久しぶりです」
「あさひはんに彩はんか……」
 三人に掛けられた襷を見て、由宇は顔をゆがめる。
「なんであんた達がこんな所にいるのよ〜!」
「え、えとえと……寝床を求めていまして……」
「じゃあ見逃せ、ええな!!」
「え、ええと、でも……」
 由宇の剣幕にタジタジとなるが、あさひ達も獲物を逃がすつもりはないようだ。
「……申し訳ないですが……ポイントゲットです」
 由宇達にあさひ達の手が伸ばされる。だが、
「あ、あさひちゃんなんだな!!」
「ぬぅぅぅ……拙者自分の目が信じられぬ!!」
 裏口から由宇達を追ってきた縦と横の大声が、それを阻んだ。
「え、えええ?」
 オタク二人に取り囲まれて、あさひは対応できない。匂いとかかかれちゃってるし。
450誰のために鐘はなる?:03/04/14 22:22 ID:7B0EYxU5
 ちゃん様、それにご立腹。
「……したぼくってなんですか?」
 サクヤが問うが、詠美は答えない。
「そ、それがそんな女にうつつを抜かして……生原稿ずえーったいあげないからあっ!!」
「う、うう、それは困るよヤングウーマン」
「困るんだな、確かに」
「フン!!そんな女、台本がなければアドリブもろくにできない大根役者じゃない!!」
「ひ、ひどい……!! そんな、そんなこというなんて……!!」
 詠美の暴言に、あさひも激昂した。
「お、お二人とも! サイン差し上げますから、詠美さん達を捕まえるの手伝ってください!!」
「縦に横!!生原稿よ生原稿!! いらないの!?」
「うう……どっちもほしいぞ、切実に」
「俗に言う板ばさみなんだな」
 迷う二人に、彩がおずおずと口を出す。
「……よろしければ、私の原稿も差し上げますが」
「それはいらんな」
「ゴミにしかならないんだな」
「…………」 
 プライド被傷害者少女、もう一人追加。
451誰のために鐘はなる?:03/04/14 22:22 ID:7B0EYxU5
「まったくあほらしいわ」
 ガリガリと由宇は頭をかく。と、あさひの肩にポツン、と黒いものが落ちた。
「あさひ、なんやそれ?」
 言われて自分の肩をみるあさひ。その黒いものは。
「ク、クモーーーー!!」
 そのあさひの悲鳴に触発されるように、草むらから鼠や昆虫の群れが這い出して、あさひ達の方へ向かってくる。
「い……」
 言葉を失う、鬼三人。気絶しなかっただけでも僥倖か。
「「「いやーーーーー!!」」」
 口々に叫びながら一目散に走り出す。
 由宇達もパニックになりかけるが、わりと大自然に強いサクヤが叫んだ。
「瑠璃子さんです!! この隙に逃げましょう!!」
 そういって、固まっている由宇と詠美の手を強引に引っ張ると走り始めた。
「ど、どっちを追えばいいんだな?」
「ぬ、ぬぅ……と、とりあえず大庭詠美のほうだ!!」
 かなり迷った末、縦横コンビは詠美達の追跡にかかった
452誰のために鐘はなる?:03/04/14 22:23 ID:7B0EYxU5
 教会の中、裏口から葵は外の様子を伺う。
「由宇さん達、うまく逃げれたようですね」
「ふう、少し疲れちゃったよ」
 葵の報告に、瑠璃子は息をついた。
「うまく詠美さんが時間稼ぎをしてくれて助かりましたね……」
 詠美とあさひの口げんかのおかげで、電波によって鼠や昆虫を集める時間が稼げたのだ。
 無論、詠美にそんなつもりがなかったのは言うまでもないだろう。
「あうー、琴音、由宇達と分かれちゃたね」
「(ねこっちゃ言わないこの子はいい子です……) 仕方ないです。こちらのチームに入らせてもらっていいですか?」
「喜んで。よろしくお願いしますね。それでは念のためここから移動しましょう」
「そうですね。それじゃ、瑠璃子さんおぶりますね」
「ありがとう、葵ちゃん」

 こうして賑やかだった教会に残されたのは踏み潰されて失神した浩之と志保だけ。
 もう一度教会が騒がしくなるのは、数時間後襷を持ってきたメイドロボによって起こされた二人が
壮絶な罵りあいを始めるまで待たなくてはならない。

【瑠璃子、葵、真琴、美汐、琴音  チームを組んで教会から移動】
【詠美、由宇、サクヤ  縦、横から逃走】
【縦、横  各一ポイントゲット。詠美達を追走】
【きよみ、彩、あさひ  昆虫に追われて教会から逃走】
【浩之 縦によって鬼化。教会で失神中】
【志保 横によって鬼化。教会で失神中】
453誰のために鐘はなる?:03/04/14 22:50 ID:7B0EYxU5
し、しまった。コピペミス。
>>450の冒頭が一行たらない。

 ちゃん様、それにご立腹。
「……したぼくってなんですか?」

      ↓

「ちょっと!!あんたら詠美ちゃん様のしたぼくじゃなかったの!?」
 ちゃん様、それにご立腹。
「……したぼくってなんですか?」

こんな感じに、訂正です。
 ――…
 祐一が意識を回復した時、場は、殺伐とした雰囲気に包まれていた。
 郁未と舞が睨み合っている為だ。
 …いや、正確には、睨み付けているのは舞の方で、郁未はバツの悪そうな表情を浮かべていた。
「……何してんだ、二人とも…?」
 横になりながら、呆れた様な声音でそう口にする、祐一。その声に、舞と郁未が――いや、郁未が弾かれた様に
彼の方へ向き、舞は郁未から顔を逸らさぬまま、目線だけをよこして来る。
「祐一っ…! そ、その……ごめんなさい」
「……もしかして、俺の所為で喧嘩してたのか?」
 謝って来る郁未にではなく、自分の傍でオロオロしていた由依に問い掛ける。
「は、はい…」
「…祐一、大丈夫か?」
 申し訳無さそうな顔で佇む郁未の後ろから、元々あまり変化を見せない表情を気遣いの色に染めながら、
舞が顔を覗かせた。
「大丈夫、大丈夫。…でっかいフライパンか何かで全身を叩かれた様な気分だが」
「ごめん…、本当に、ごめんなさい…。アイツの顔見たら、ついカッとなっちゃって…」
「あー…、いいからさ、もう。色々込み入った事情があるんだろうけど、今は……な?」
 皆まで語らず、微苦笑を浮かべて郁未を見つめる祐一。…郁未も、まだ苦い物を含みつつも、微笑んで頷いた。
「…解ったわ。只……ごめんなさいって言いたかったのよ」
「ああ、ありがとう。もう大丈夫だよ。――舞も、天沢はもう謝ったんだから、そんなに怒るなって」
「……解った」
 舞は、まだ何か納得の行かない様な色を眼差に浮かべていたが、祐一がそれ以上郁未を咎めないのを見やり、
静かに了承した。
「ふぅ…」
「動ける…?」
 立ち上がり、体中を捻ったり伸ばしたりしてコキコキ骨を鳴らす祐一。そんな彼に、郁未が心配そうな声を掛ける。
「ん…異常なし。――ハリキッて行こうぜ?」
 実はちょっと痩せ我慢が入っていたのだが、落ち込んでいる郁未の為に、祐一は殊更力強く笑って見せた。
 …もしかすると、郁未は彼の痩せ我慢に気付いていたのかも知れないが(舞は気付いていた)そんな彼の微笑に
応えるべく、彼女も明るく笑った。
「さて、と…。じゃ、次の標的を探さなくちゃな。今度は何を尋ねられても、タッチしてから応えよう。問答無用でまず
 タッチ。話はそれからだ」
「うん。肝に銘じとく」
「…皆さん、皆さんっ…! 誰か来ますよ…!?」
 由依のその小さな声に、他の三人は茂みや木の陰に身を潜め、近付いて来る人影を注視する。
「三人か…」
 彼等の鋭い眼差の先には、森を歩く三人組の少女の姿があった。


 雨の森、折り畳み式の傘を差して歩くのは、雅史を失った岡田軍団である。
「しょぼーん…」
「…ったく、いつまでショボ暮れてんのよ松本は? シャキっとせんかいシャキっと……って、巨乳大阪女の口調が
 伝染っちゃったじゃない。どーしてくれんのよ…っ!?」
「保科さんは大阪じゃなくて神戸だってば、岡田」
「あー、はいはい。神戸牛の神戸ね……って、だからあんなに胸でかいのかあの女わ…!? 牛だけに…!」
「神戸云々は関係無いよ…、単に岡田のムネムネが小っさいだけだよ…」
「岡田、落ち着け岡田。傘で突くのは流石にマズい」
「放せ吉井…! この女は一度脳ミソ穿り返してやらんと…!」
 相変わらずどっちらけなやり取りをしている三人娘であったが、心強い味方であった雅史を失い、落ち込んでいる
のは、何も松本だけではない。他の二人も同様なのだ。
「…(…こうしておバカな会話でもしてないと、不安なのよね…)」
 表情に出している松本も、素直でない為に決して口には出さない岡田も、内心でかく呟く吉井も、今更ながらに、
雅史に大きく頼っていたのだという事を実感しているのだった。
「――ま、いいわ。とにかく、我々は最後まで逃げ延びる…!」
「…うん。…でも、いいの? あの家から出ちゃっても…」
「あそこに留まり続ける方が危険でしょ。佐藤君のお蔭で充分睡眠も摂れたし」
「確かにそうだけど…――? どうかした、松本?」
 突然、松本が立ち止まったので、吉井が怪訝な顔で見やる。
「……………視線を感じる…」
 ぽつりと呟く松本の表情は、緊張に強張っていた。――その表情を目にして、他の二人の顔にも緊張が奔る。
 森――小雨が弱々しく枝葉を打つ音以外は、静かだった……
 ――むしろ、余りにも。
「走れ!」
 岡田が叫ぶ。
 三人娘は、一斉に森の中を走り出した。

「――気付かれた…!?」
「勘の良い奴がいるらしいわね…!」
「よし、作戦Bで追跡!」
 祐一に頷く少女達。
 作戦Aは、このまま静かに追跡しつつ、包囲網を作り上げ、一気に捕らえる物だった。――B案は、背後と左右を
固めつつ逃げ手を追い掛け、先回りした舞のいる地点へ追い込む。
 行き当たりばったりの度合いが大きい即席の作戦だが…
「巧く行く!」
 その意志を胸に、祐一チームは岡田軍団の追跡を開始した。


 ――実際、“作戦B”は巧く行った。
 左を祐一、後方を郁未、そして右側を由依――その三人の中で由依の足が遅めな事もあってか、岡田軍団は
迫り来る左と後方の鬼から逃れる為に、右へ右へと進路が流れつつあった。
「…(――よし、このまま行けば…!)」
 逃げ手の三人が走る先には、舞の待ち伏せポイントがあるはずだった――

「っ…!? ――岡田、すとっぷぅっ!!」
 松本が叫び、三人娘は急停止した。
「なっ、何よ!?」
「……あれ」
 息を上げながら、吉井が進む先にある大木を指差した。
 ――その大木の陰から、先回りしていた舞が、剣を携えて姿を現す。
「………」
 沈黙と鋭い眼差を以てして、三人娘を迎える舞。…ほどなくして、後続の祐一達も到着し、三人娘を取り囲んだ。
「っ……、こ、ここまでなの、私達っ…!?」
「こんなんじゃ、佐藤君に逢わせる顔がないよぅ…!」
 悔しげに呻く、吉井と松本。ここで逃げ手として脱落となれば、あの時の雅史の犠牲が無駄となる。
「――――いえ、まだよ」
 一人、舞に背を向けていた岡田が、ゆらりと彼女の方へ振り返った。――折り畳み式の傘は小さく畳まれてバッグ
の中に捻じ込まれ、代わりにその手が携えるのは、落ちていた木の棒。
「岡田…?」
 鋭い眼差で舞を見据えつつ、岡田は他に拾っておいた同じ様な木の棒を、吉井と松本に渡す。
「道は切り開く!」
「…!?」
 ビュンッ!――と、棒を一振り、舞を指し示す岡田。…そんな彼女から只ならぬ気迫を感じ取り、舞は戦慄に身構えた。
 ――岡田の考えを、両隣に立つ二人も読み取った様だ。折り畳み式傘を畳んでバッグやザックの脇に捻じ込み、岡田
と同様に棒で風を切り、舞を指し示す。
「我々はここで挫ける訳にはイカヌ…!」
「だから道は切り開く…!」
「私達を庇ってくれた佐藤君の為にも…!」
 舞を指し示していた棒を剣の如く掲げ上げ、天高く互いに打ち合わせる。
「我等!」
「岡田軍団!」
「三身一体!」
「「「 三 銃 士 !!! 」」」
 見事にハモる掛け声。まるで勝鬨の如く――そして同時に、三人娘の逆撃が始まった。

「っ……!」
 三人娘の逆襲の意外な激しさに、舞は息を飲んだ。――完全に素人剣術であるのに、見事と言うより他に無いチームワークで、
隙無く打ち出されて来る連撃を、舞は自分の得物で捌くだけで精一杯の状況へ追い遣られようとしていた。
「ウソっ…、舞さんが押されてる…!? ――って、コレって反則では!?」
「真剣とか傘の尖った先っちょとかでやりあってたら反則かも知れないけど…」
「天沢っ、例のヤツで舞の援護…!」
 振り回される三人娘の棒と、舞の無刃剣の所為で、迂闊に近寄れない。
「間にある地面を――軽くでいい!」
「OK!」
 祐一が叫んだ事で“何かを行う”事は知れても、不可視パワーを知らない三人娘には対処のし様がないだろう。舞に
関しては心配無用だ。むしろ、その“目眩まし”に乗じて三人娘の持つ木の棒を払い落とすくらいの事はやってくれる。
「―――…!」
 気勢に呑まれて押されてゆく舞と三人娘の間にある地面に、意識を集中させる郁未。
 だが――
 ドッ!ドッ!ドッ!
「ぐっ…!」
 三人娘の各々の強烈な一撃が、舞の肩、脇腹、、そして向こう脛に命中する。
 そして空かさず――
「「「 とああっ!!! 」」」
「っふぅっっ……!!?」
 三本の棒が、動きの止まった舞の腹を突き、彼女の体を吹っ飛ばした。
「ああっ…!?」
 由依の悲鳴じみた声。郁未も、まさか舞が打ち負けて突き飛ばされるとは思っていなかった為、微かな驚きが
集束しかけていた“力”を霧散させてしまった。
 だが、それでも一瞬在るか無しの隙――
 その僅かな隙を見逃さず、三人娘は棒を投げ捨てて逃げ出していた。
「――追うぞ!」
「この先は川――巧くすればまた追い詰められる!」
 無情な様だが、大したダメージは無いと見て、舞には構わずに祐一は走り出す。その後に、郁未も続く。
 三人娘の逃げ出した先には、川がある。広くはないが、雨の所為で深さと勢いを増している為、渡る事は出来ない
はずだ。また、橋のある場所まで着く前に、郁未と祐一の足で追い着く事が出来るだろう。
 しかし――
「…!? あの子達、何してんの…!?」
 ――三人娘は互いに肩を組み合って走っていた。しかも、その速さまでも増している様で、離されはしていないが、
彼我の距離が縮まらず、追い着くことが出来ない…!
「仕方ないわ! 地面を吹き飛ばしてスッ転ばせる!」
「けっ、怪我させちまわないか!?」
「そん時はそん時! 屋台にでも連れて行ってケアしたげればいいでしょ!? 直接当てる訳じゃないから、ルールにも
 触れてないはず! ――いくわよ!!」

「走れ走れ走れ走れぇぇぇえええええっっっ!!!」
 真ん中で走る岡田の掛け声と共に、彼女達は走った。見事なまでに合致した呼吸とフットワークで、三人娘はまるで
機関車か何かの様に、雨風を切って突っ走った。
 たかが鬼ごっこで、ここまで必死にならなくても――という考えは、今の彼女達の内には無かった。ゲーム開始当初は、
どこかダラけた物が心の中にあったが、今は違う。
 何としてでも逃げ残る。三人の内の最後の一人が捕まるまで…!――
 その想いが、彼女達の体にブーストを掛け、更に加速させる。
「――前方に川! 距離、20!」
「飛び越えて!――」
「みせるよ!――」
 雨の為に勢いを増している川を前に、三人娘は減速を掛けるどころか、より増速した。
 そして――
 ドバぁァァッッ!!
 ――と、三人娘の走っていた大地が爆発する。が、その寸前に、彼女達は大きく跳躍――加えて、大地を吹き飛ばした
その爆圧を踏み台にしたかの様に、更なる飛躍力を見せ、見事に川を飛び越えて向こう岸に着地したのである…

 …川のほとりに、些か呆然として佇む人影が、二つ。郁未と祐一だ。
「……ウソ…」
「んー…、見事なチームワークだ。完敗だな、俺達の」
 ややショックを受けている郁未に対して、祐一はむしろ微笑みさえ浮かべていた。こうまで見事に逃げられると、
却って胸が空くと言おうか、天晴れである。
「……祐一」
 ――遅れて、舞と由依がやって来た。
「…すまない。私の所為だ…」
「そんな事ない。舞も頑張った。――俺達が、向こうのチームワークに負けたんだ」
「――それより、怪我は無い?」
 郁未に尋ねられ、舞は一瞬、目を瞬かせたが、すぐに首を振って見せる。
「無い…」
「そ。それなら問題無しね」
 そう言って微笑む郁未に、舞はやや戸惑いらしき物を揺らめかせていた。
「それにしても、逃がした魚は大きいというか、大量だったわよねぇ――三人も…トホホ」
「ま、あっさり捕まえられたら面白くないだろ?」
「そんな余裕かましてる場合ですか、祐一さん?」
「うぐ、正直スマンカッタ…。――ま、次はもっと巧くやれるさ。今度また彼女達に会ったら、遅れを取る気は無いよ。
 “チームワーク”ってのがどんなに大事か、学んだ気がするし」
「そうね。やっぱりチームワークって大切よね。そう思わない?」
 ぽんっ…と肩に手を回して言って来る郁未を眺めやり、舞は……微かに微笑み、頷いた。
「…はちみつくまさん」


 ――その頃、祐一チームの包囲網を見事に突破した岡田軍団は…
「うへぇ〜…、雨の中走ったから、ビショ濡れになっちゃったよ〜」
「今更傘を差し直しても…って感じね。逃げ切れたからいいけどさ♪」
「――へみ゛っ…!」
「……相変わらずヘンなくしゃみね、岡田」
「やかましい。…とっとと安全な場所、探すわよ」
「はいはい、団長殿」
「あはは、皆服が濡れて体のラインがいや〜んな感じ♪ 岡田の薄いムネムネラインもくっきりで、いや〜んな感じ〜♪」
「うぉのれ小娘…、こやつだけそこいら辺に埋めてやろうか…!?」
「やめなさいっての…。さっさと行くわよ〜?」
 …逃げ果せた途端に、いつもの調子に戻っているのであった――



【祐一チーム  岡田軍団を包囲するが、取り逃がす…】
【岡田軍団  見事なチームワーク(?)で祐一チームの包囲を突破】
【三日目 午前中  森】