1 :
鮫牙:
2 :
名無しさんだよもん:02/06/10 23:35 ID:5AQpln9Y
ポカソ
佐藤はよ次巻刊行せい駄スレ
おめ〜
>>3 なんで貴様が出張ってくるのだ、佐藤はよせぇには禿同だがw
乙〜
6 :
名無しさんだよもん:02/06/12 01:01 ID:tH58FSDy
age
7 :
埋伏 1:02/06/12 19:21 ID:89y6jAit
鍵自治州領での夜明けは、大葉鍵嶺の稜線に太陽が顔を覗かせることで始まる。
山容秀麗な山際に陽光が差す一瞬は、例えようもなく美しい。
しかしその絶景を観賞できる大地は今、鋼鉄製の暴虐に見舞われていた。
州都から西北西10キロの距離にある小都市・タケダタウン。その近くにある森の中で、
紅茶すらいむ中佐はレーションでの侘びしい朝食を摂っていた。味など期待するだけムダなのだが、
早朝の清々しい空気だけが慰めになっている。
「ま、味に文句を付けるのは贅沢ってことか」
「そういうもんですって、中佐」
既に味覚に関する欲求を諦めきっているkagami中尉が、投げやりに答える。
「大体、モノが食えるだけありがたいって思わないと」
弾薬に関しては何とか不自由しない程度に確保できた集成旅団だっったが、その代わり糧食に関しては
かなり厳しい状況にあった。旅団将兵の戦闘糧食だけなら1週間保てるだけはあるのだが、
残留鍵系市民――戸越中将に言わせれば棄民どもに食わせる食料は、危機的に少ない。
JRレギオン少将が月姫系義勇兵を受け入れた背景には、食料を求めて市民が再び暴徒化した場合の
警備兵力確保という面もあった。もっとも、義勇兵を受け入れたために将兵への配給は当然にして減少し、
兵站将校の顔が青くなったのだが、また別の話であるが。
「それにしても、難民問題で奔走したその足で出撃なんだから、もうちょっとマシな飯を期待したいよ」
「旅団長がくれたじゃないですか、昔水瀬大佐から貰ったとかいうジャム」
「アレを食えというのか、貴様!?」
「中佐、そろそろ最後の打ち合わせやった方が良いんじゃないか?」
一足先に食べ終えていた男が声をかけてきた、やや小柄のラテン系の顔立ちをした軍人
――司令部付隊カーフ対空特務隊指揮官、ヴィットリオ・カーフ少佐だった。
「ああ、そうだな」
不味そうな表情で最後の一口を飲み下すと、紅茶すらいむは一同に告げた。
「それでは、攻撃に関する最終的な打ち合わせを始める」
同時に心中で呟く。まったく、限定的とはいえこっちから打って出るとは、考えてもみなかったな。
8 :
埋伏 2:02/06/12 19:22 ID:89y6jAit
“EREL”集成旅団は装備劣悪な三級部隊。積極的な反撃などできるはずがない――これは、
当の旅団将校を含めたほとんど全ての軍関係者に共通する認識だった。ある意味当を得た評価だったのだが、
だからこそ『新兵器を装備したカーフ対空特務隊を中核に限定反撃に出る』という
JRレギオン少将の作戦に一番驚いたのは、当の旅団将校たちだった。
呆気にとられる彼らに向かって行った旅団長の説明を要約すれば、次のようになる。
「こちらが州都から打って出ることは、敵味方双方とも予想していない。その油断を衝き、
敵に心理的動揺を与える。装備劣悪な点については、投入戦力を少数精鋭とすることで解決する。
直接的な戦果は期待しないが、動揺により敵の攻略開始を幾分か遅らせれば成功だ」
そして、反撃主力に司令部付隊からkagami督戦隊、それと第11戦車連隊からは第1大隊を指定した。
いずれも、旅団内部では装備、士気、練度ともにまともな部類に属する。
この大隊戦闘団をタケダタウン郊外の森に潜ませ、油断して接近する敵RR装甲師団の先鋒に
限定的な打撃を与える――これが作戦の骨子だった。
ただしこれを成功させるには、森の近辺まで敵をおびき出す囮が必要になるのだが――
「基本的な情勢に変化はない。既に敵の偵察隊はこのあたりにも入り込んでいるが、
『こちらの方』はまだ発見されていない。いまのところは順調だ。予定どおり攻撃を
始められるだろう」
一同の中の最上級者にして、大隊戦闘団指揮官の役目まで押しつけられた紅茶すらいむが説明した。
「航空情報はどうなっている?」
カーフ少佐が尋ねる。
「ホーカムに関しては、まだ司令部から何も言ってきていない。おそらく出てくると
予測して行動した方が良いだろう」
「了解。通天閣騎兵隊が支援可能な位置にいるってのは、安心できる材料だな」
「過剰な期待はしない方が良いな。おそらく連中、最初はホーカムとツングースカの撃破を
優先するはずだ。いざというとき、こっちに気を回す余裕がないかもしれん」
9 :
埋伏 3:02/06/12 19:22 ID:89y6jAit
「普通、こういう場合は前線航空統制官が頑張るもんじゃなかったですか?」
kagamiの疑問に、紅茶すらいむは肩をすくめる。
「ウチの旅団に、AIR航空隊と緊密な連携なんて芸当を期待するのか?」
「……了解」
集成旅団の母体はOHP師団戦車連隊なのだが、指揮官のアレ具合故か囚人兵をはじめとする
OHP師団将兵のイメージの悪さ故か、他の鍵っ子義勇軍部隊との関係は大して強くない。
そんな状況でAIR航空隊との緊密な関係を期待するのは、確かに無謀だった。
「そりゃまあ確かに、いくら使いでのある新兵器が手に入ったからといって、こんな限定反撃
やれるだけの余裕があるのかどうか、結構疑問だったりするな」
「その意見は判らなくはないが」
と、カーフは紅茶すらいむに苦笑いしながら、そばに停車している自らの愛車を見上げる。
「こんな化け物手に入れたら、一つ派手な作戦でも立ててみたくはならないかな」
「それは言えてる」
思わず紅茶すらいむも笑って答えた。視線の先には、巨大な砲塔を乗せた異形の戦車が
鎮座している。砲塔上のレーダーアンテナ2基がさらに異様さを際だたせている。
試作対空戦車“OTOMATIC”――イタリア・OTOブレダ社の開発した防空ユニットである。
この手の対空車両の場合、通常は機関砲か対空ミサイルを搭載するのが常であるが、
そこで水上艦艇用の76mm速射砲を搭載するあたり、かなりぶち切れた兵器といえる。
その速射砲の発射速度は毎分120発。しかも対空・対地両用砲のため対戦車車両としても使用可能、
おまけに対空レーダーや射撃統制装置も完備しているとなれば、攻撃面に限れば
ほぼ無敵の戦車だろう。
ただ難点を言えば、装甲が薄いこと、試作兵器故の実戦データ不足の点が上げられる。
もちろん、この場に1両しかないという点も無視できない(予備パーツと、砲塔のみが逝っている
レオパルド1とを組み合わせて、もう1両を現地生産する作業が進んではいたが)。
10 :
埋伏 4:02/06/12 19:24 ID:89y6jAit
「この作戦には、この化け物の威力を敵さんに見せつけるという意味もあるはずだ」
カーフはOTOMATICを頼もしげに見上げた。
「そうだと割り切って、直接的な戦果を度外視するなら、ここまで出張ってきた甲斐も
あるんじゃないか?」
「確かに、旅団長の狙いがその辺にあるのはわかるさ。しかし危険な賭であることに変わりはない」
そこまで言うと、紅茶すらいむは肩をすくめた。
「ま、今更こんなこと言っても仕方ないな。とにかくこっちは、命令をこなして
旅団長の期待に応えるしかない」
そして、腕時計に視線を落とす。
「そろそろ時間だな――では、各自持ち場に戻り、別命あるまで待機。
kagami中尉は督戦に赴いてくれ」
「了解、kagami中尉、バ鍵っ子どもの督戦に赴きます――日雇いSS軍曹、いくぞ!」
「はっ!」
敬礼した日雇いは、少し離れたところでレーションを囓っていたヌワンギの背後に音もなく近寄ると、
力の限り後頭部をぶん殴った。
「ヌワンギ! なにやってんだ、このグズ! 早くしろっ!」
地面に派手に転がって呻くヌワンギ。ヌワンギは一応、妖狐兵団から司令部付隊に派遣と
いうことになっている。狗法使いにしてみればJRレギオンに対する協力の一環に過ぎなかったのだが、
当のヌワンギにとっては災難以外の何物でもなかった。
ふらふらと立ち上がったヌワンギは、ニヤニヤ笑いながら立ち去る日雇いの背中を睨みつけて、ボソッと呟いた。
「畜生、いつか殺してやる……」
11 :
埋伏 5:02/06/12 19:25 ID:89y6jAit
“EREL”集成旅団OHP歩兵第3連隊長・柳葉勇樹大佐――彼への評価は、大抵の場合
「無能」の一言に尽きた。兵棋演習では連敗記録を更新し、野外演習ではすぐにへたばり、
言動は妄想一歩手前を彷徨うばかり。周りに引きずられて感萌主義極右運動に足を突っ込んでしまい、
その結果戸越中将にマークされてしまったという意志の弱さまでおまけで付いていた。
外見こそ白皙の美青年といって差し支えない風貌で、絵心や文才も多少あるなどの美点があったのだが、
軍人としては全くプラスに働かない長所でしかない。
そんな彼が連隊長の地位にあるのは、戸越中将が全く投げやりな年功序列的人事で、
麾下の歩兵連隊の人事をやったからに過ぎない。戸越にとって戦力として期待していたのは
JRレギオンの戦車連隊やShin223の砲兵連隊であって、巫義治大佐や石川ひじり大佐、
そして柳葉大佐率いる歩兵連隊など「屑の掃き溜め」程度にしか認識していなかった。
そして、柳葉自身もそれを認識していた。自分が全く軍人向きではないことを、
誰よりも理解していたと言っていい。だからこそ、旅団長から以下の命令を受けとったとき
心の底から驚愕してしまった。
「第3連隊は隷下の懲罰第999大隊とともに、タケダタウン西方のハイエキ丘陵に布陣、
侵攻してくる敵RR装甲師団を迎撃しこれを撃破せよ」
柳葉には判らなかった。彼と旅団長の間柄は、決して良いものではない。何度も無能を詰られ、
優柔不断を叱責され、言動が妄想だと罵倒された。あまりに厳しい「いじめ」に、
人目も憚らず泣き喚いたこともある。彼にとって旅団長とは恐怖の対象でしかなかった。
その恐ろしい上官が、何故このような敵主力撃破の大役――そう、柳葉はそう感じていた――
を自分に任せたのか、それがまるで判らない。
判らないなりにも、彼はこの深夜に届いた急な命令を完全に履行すべく努力した。
命令に(柳葉には理解できない理由で))疑問を感じる連隊幕僚たちにかまわず指示を出していき、
トラックを掻き集めるだけ掻き集めて、夜明けを迎える頃にはなんとかハイエキ丘陵への布陣を完了させた。
別に、軍人としての義務に従ったわけではない。旅団長からまた叱責されるのが怖くて、
それで必死になったに過ぎない。それでも結果は結果、なんとか命令通りには布陣できた。
12 :
埋伏 6:02/06/12 19:25 ID:89y6jAit
「これはこれは柳葉大佐、どうやら旅団長の言うとおりに布陣できたようですな」
一息ついてレーションを摂っていた柳葉は、その一言で一挙に恐怖に捕らわれてしまった。
旅団長に次いで彼が恐怖を覚える対象――司令部付隊所属のkagami中尉。
思わず固まってしまう彼の前に回り込んで、kagamiはこの哀れな連隊長を見下ろした。
「それでは、本日も私は督戦の任を努めさせていただきますよ。せいぜい、
背後から撃たれないような戦いぶりを見せることですな」
冥府から聞こえてくるような慇懃な声に、柳葉はガクガクと震えながら頷いた。
過去何度もkagamiは、柳葉の目の前でバ鍵っ子囚人兵を射殺してきた。北部国境地帯での
小競り合いでは、ぐずぐずと判断を迷っていた柳葉の連隊本部に銃撃を浴びせたこともある。
彼を見下すような言動に至っては、枚挙に暇がない。
本来なら柳葉の方が階級が上なのだが、ことOHP歩兵連隊においては、将校の地位は
同じ歩兵連隊内でしか作用しない。バ鍵っ子に指揮権を邪魔されることを嫌った戸越が
そういう風に規定してしまったのだ。そのため、司令部付隊の中尉であるkagamiは、
歩兵連隊の大佐である柳葉を自由気ままにいたぶることができる。
狂ったようにガクガク頷く柳葉に冷笑すると、kagamiは余裕綽々といった態度で連隊本部を
後にした。近くにいたバ鍵っ子たちが、慌てて彼から離れる。
13 :
埋伏 7:02/06/12 19:27 ID:89y6jAit
その光景を眺めつつ、kagamiは冷笑の度合いを少し大きくした。
そして、流血に臨む際の癖である丁寧な口調で、密かに思う。
うん、あの莫迦は気づいていませんね。自分が囮にされているなど、
夢にも思っていないときています。
バ鍵っ子を督戦するkagami、そして大隊戦闘団の将校にはあらかじめ旅団長の意向が
伝えられていた。
何も事情を知らせずに歩兵連隊を前線に配置、これを囮とする。柳葉大佐の指揮ならば、
まず間違いなく戦闘に惨敗し、連隊は「本気で」潰走する。その潰走する連隊を敵が追撃に
入ったところを、埋伏していた大隊戦闘団が奇襲する。
いわゆる「釣り野伏」戦法であるが、この戦法の成否は「囮」がいかにうまく敵を誘引するかに
かかっている。
このため、柳葉大佐、そして懲罰第999大隊の神楽坂龍之介少佐には、戦術の全貌は完全に
伏せたままで命令が発せられている。彼らはあくまで、独力で敵を迎撃するものと考えている。
背後に機甲大隊が潜んでいるなど、夢にも思っていない。そうであるからこそ、
彼らは潰走するときは本気で、それこそ囮とはとうてい思えない真剣さで逃げまどってくれるだろう。
そしてこれには、「バ鍵っ子の効率的処分」という側面も存在していた。練度は限りなく低く、
士気など期待する方が無駄なバ鍵っ子ども。彼らを味方に抱えたまま州都に籠もるより、
前線に出して敵に後腐れなく処分してもらう方が遙かにましと、旅団長や鍵スト参謀長は
判断していたのだ。ついでに、その処分によって浮いた糧食を他に分配できるというおまけすら期待できる。
そして、今のところそれはうまくいっている――kagamiはそう判断していた。
この、目立つように布陣させた歩兵連隊がとうの昔に敵偵察隊に補足されていることも、
彼は知っている。仮に釣り野伏がうまく機能しなかったとしても、敵がこいつらを蹂躙しに来るのは
間違いない。それはそれで、旅団にとって損な取引ではない。
14 :
埋伏 8:02/06/12 19:27 ID:89y6jAit
そこまで考えを進めて、kagamiはついに我慢しきれなくなって、小さく声を上げて笑い始めた。
柳葉連隊長、よく覚えておきなさい。最高の囮役とは、自分が囮であることにすら気づいていない、
そんな愚かなやつにしか務まらないんですよ。
もっとも、とkagamiは続けて思った。その教訓を得る前に戦死してしまうだろうでしょうがね。
15 :
旅団長:02/06/12 19:30 ID:89y6jAit
>>1スレ立て乙彼。
そして
>>7-14「埋伏」投下完了です。
というわけで、カンスースク経由の2個師団――
第1RR“ライプスタンダルテ・シモカワ・ナオヤー”と第2RR“ダス・リーフ”
の前に餌を放ってみました。
16 :
旅団長:02/06/12 19:31 ID:89y6jAit
>>14 ×戦死してしまうだろうでしょうがね。
○戦死してしまうでしょうがね。
アフォだ自分……
17 :
名無しさんだよもん:02/06/12 19:46 ID:gN9vo4oj
保守
18 :
名無しさんだよもん:02/06/12 20:53 ID:JipnQgqE
ヌワンギってどんな奴なの?
劇中では中村役のようだけど。
19 :
名無しさんだよもん:02/06/12 21:08 ID:ZTtvCxyu
(・∀・)メンテ!
20 :
旅団長:02/06/12 21:11 ID:yVxC/nTX
>>18 一応、ネタバレなんで注意を。
「うたわれ」では序盤の悪役。エルルゥの幼なじみ。
根はいい奴なんだけど、やることなすこと全て裏目に出る。
エルルゥを得んがために、権力に溺れ横暴に振る舞うようになる。
終いには主人公たちを追い込みまくり、ついには反乱の原因となってしまう。
最期に改心したけど、その直後に落ち武者狩りにあってあぼーん。
ただし作中ではあくまで「生死不明」扱い。
……一言で言えば「哀しきアフォ」(w
こんなところかな。
詳しくはこちらへどうぞ↓
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1013825221/
日雇いSS軍曹率いる督戦隊は4両のBTR-152に分乗してハイエキ丘陵へ向かっていた。
「軍曹殿!景気付けにいつものアレやりますか!」
「上等だ!貴様のナノグラムのお頭にしては上等だ!運転手、止めろ!」
軍曹が叫ぶと、先頭のBTRを運転していた兵士は慌てもせずブレーキを踏みこんだ。
軍曹殿のアレはそれくらいの名物だったので、慣れたものである
停止したBTRの運転席の屋根に上って仁王立ちとなった軍曹は、後続の車両全てが停止したのを見届けるとおもむろに叫んだ。
「わたしが日雇いSS軍曹である!
話しかけられたとき以外は口を開くな
口でクソたれる前と後に“サー”と言え
分かったか、ウジ虫ども!」
「「「「サー!イエス・サー!」」」」
四両のBTRに乗った兵士達全てが唱和する。
「ふざけるな! 大声だせ! タマ落としたか!」
「「「「サー!イエス・サー!」」」」
「そこのブタ顔!名前は!」
「もわ〜二等兵です、サー!」
「ふざけるな!お前は今からウンコ食い二等兵と呼ぶ!」
「サー!イエス・サー!」
「お前のその銃は何のためにある、ウンコ食い!」
「殺すためです、サー!」
「ナニを殺すためだ!10文字で説明しろ、ウンコ食い!」
「敵を殺すためです、サー!」
「お前らの敵は何だ!」
軍曹のその問いかけの瞬間、爆発したように全ての兵士が唱和する。
「「「「バ鍵っ子! バ鍵っ子! バ鍵っ子!」」」」
「お前らはクソ鍵を愛しているか!クソ鍵に忠誠を誓えるか!」
「「「「センパーファイ! ドゥ・オア・ダイ! ガンホー! ガンホー! ガンホー!」」」」
「お前らのクソの肥やしは何だ!」
「「「「ブラッド! ブラッド! ブラッド!」」」」
「おれたちの商売は何だ、バ鍵っ子ども!」
「「「「キル! キル! キル!」」」」
「声が小さい!爺ィのファックの方がまだ気合いが入ってるぞ!」
「「「「キル!! キル!! キル!!」」」」
「良く言った最低の豚女郎ども!司令部督戦隊、前進!」
「「「「サー!イエス・サー!!」」」」
来るんじゃなかった。
ヌワンギは、生まれてきたことを今ほど後悔したことは無かった。
もっとも、そう思えることすら幸いであることをこれから厭というほど学習することになるのだが。
25 :
鮫牙:02/06/12 22:34 ID:/5fzowNq
「釣り野伏」戦法は柳川が椎原撃退するとき使っていたよ。途中でバレて
それこそ無駄死にの可能性が…
>>24 荒れるからというより、本人やキミのようなシンパが来て雑談をはじめかねないから
という理由で葉鍵板のコテの出演は控えろというような話だったかと思うが?
>>26 >本人やキミのようなシンパが来て雑談をはじめかねないから
それが『荒れる』とゆーことだと思うのだが、如何?
ま、すでに出てしまったことはしかたないけどね。
漏れも雑談はこれくらいで切り上げるとして、せっせこSS書きに励むとしますわ〜
と言うか、俺みたいに鍵コテほとんど知らない人間
もしくは知ってても嫌いな人間
があんまり楽しめない方が問題な罠。
まあ、上の問題発言は置いといて
最近、葉鍵キャラの出番が少ないのが寂しかったり。
特に正統葉に行った奴らなんて
既に登場人物から外されてそうな勢いだし。(w
ああ、誰か正葉書いてくださいってのはあるねw
それぞれの勢力に書き手ついてるのに、正葉だけは書き手さん休筆以後書き手がついてないし……
だれか救済者はおらんか?
どちらかというと、このスレに煉獄上がりがいそうだってことの方が驚きだ・・・・
31 :
旅団長:02/06/13 00:59 ID:WUgjLAs9
>>25 今回は釣り野伏の変形で、別に敵の殲滅など目指していないという罠。
その分リスクは減少するし、囮は所詮使い捨て。
>>28 正葉の場合、痕Rの詳細がわからないことにはうかつにネタにしにくいってのも(w
下手したら正葉軍主力が消滅しかねないし。
ああ、超政権もあのままだ……
32 :
名無しさんだよもん:02/06/13 21:52 ID:SUhFI5qz
あげ
メンテ
「罠……か?」
第1RR装甲師団“ライプスタンダルテ・シモカワ・ナオヤー”師団長は首を捻った。
偵察隊からもたらされた『ハイエキ丘陵に増強大隊級の敵部隊を確認』との報告に、
どう判断してよいか迷っている。
州都にこもる敵集成旅団が練度、士気に重大な問題を抱えた部隊であることは、
軍司令部からの情報により彼もよく承知していた。であるからこそ、今この段階で
積極出撃に転じたことに戸惑いを覚えている。
とにかくもっと情報がいる。師団長はそう考えを進めた。本当なら空軍に航空偵察を
要請したいところだが、制空権獲得で手一杯の空軍にそんな余裕があるとは思えない。
あるいは、師団が保有するKa-50“ホーカム”攻撃ヘリでさっさと片づけるべきだろうか
――そうも考えたが、すぐにそれをうち消した。軍司令部から『敵攻撃ヘリ部隊に出撃の兆候あり』
との警告が確度中レベルとはいえ届いている。空軍が頼りにならない現状では、
ホーカム搭載の対空ミサイルは対ヘリ戦術の貴重な手駒になる。あまりうかつに動かしたくはない。
あれこれ悩んでいる師団長にさらに詳細な報告が届いたのは、その時だった。
『敵部隊の中に、懲罰第999大隊の存在を確認。残りもOHP歩兵連隊の公算大』
「――はぁん、なるほど」
その報告に、師団長はニヤリと唇を歪めた。
「つまり、敵さんは不良債権の大量処分がご所望のようだな」
「あの悪名高き懲罰大隊を、こちらに始末させようという魂胆ですか」
参謀長が得心のいったように頷いた。
鍵っ子義勇軍懲罰大隊の悪名は、葉鍵国はおろか遙か遠いエロゲ国旧大陸本領にまで轟いている。
最低最悪の人間の屑ども。麻枝教原理主義者とも言うべき狂信者の群れ。たいていの軍人は
彼らを嘲ると同時に、そんな部隊の指揮など執りたくないと切実に願うという。
だからこそ、このハイエキ丘陵でのあからさまな敵部隊の布陣の意味を、彼らは即座に
「厄介払い」だと誤断してしまった――いや、誤断というのは間違いだろう。
確かにJRレギオン少将の意図には、「懲罰大隊をはじめとするバ鍵っ子の処分」
という要素が多分に含まれている。確かにその意味で、師団長たちの判断は正鵠を射ていた。
「どうしますか、師団長。このまま敵さんの思惑通りに動くのも、何か釈然としませんが」
「とはいえ、こいつらをこのまま放置しておく訳にもいくまい。いくらまともな戦力とは
言い難い懲罰大隊を中心とした部隊でも、後方に潜り込まれたら厄介だ――確か、先鋒の大隊が
そろそろ接触する頃だな?」
「はい、小一時間もすれば接触します」
「兵力の構成は?」
「いつも通りのやつです。戦車と歩兵戦闘車の混成」
「ならバ鍵っ子どもには十分すぎるな――よし、大隊に命令。
『直ちにハイエキ丘陵に展開する敵部隊を補足し、これを撃滅せよ』」
師団長はそう命じたあと、少し考え込むようにしてこう付け足した。
「『敵部隊が敗走した場合は、タケダタウンまで追撃せよ。以後は本隊の到着を待て』
――あまり突出しすぎて反撃を食らうのも何だしな」
タケダタウンまでなら、ハイエキ丘陵からさほど距離もなく横っ腹を狙われる心配もあるまい。
師団長はそう判断した。地形から判断して、敵が先鋒の包囲殲滅を目指すなら
もうちょっと先で罠を張るはずだが、そこまでつきあう必要もあるまい、うん。
――彼は、敵指揮官が『包囲殲滅』など端から考えていないことを知らない。
あるいは、ここにいたのが第13RR装甲師団“ヨーク”だったなら、柳川大将本人だったなら、
また違った展開になったかもしれない。だがしかし、柳川が全ての事情を察し、
師団長に連絡を入れたのは、全てが手遅れになった後のことだった。
やはり柳葉連隊長の戦術能力には疑問を抱かざるを得ない面がある。何しろ、
布陣したはいいがろくな偵察部隊を放っていなかったのだ。このため、RR装甲師団先鋒が
攻撃を開始したとき、連隊はほとんど奇襲に等しい衝撃を受けてしまった。逆に装甲師団側が、
あっさり接近できたことに疑問を感じてしまったほどである。
「あ、あ、あぁ……」
思いも寄らぬ――少なくとも柳葉にとっては――状況に二、三度口をぱくぱくさせてから、
彼はほとんど泣き喚くように命令した。
「こ、攻撃開始!」
しかし、一旦『奇襲』を受けてしまうと、なかなか精神的に立ち直ることは難しい。
しかも、装甲師団側はT90とBMP-3の機械化部隊で押してくるのに、こちらにはろくな装甲車両が
存在しない。元々懲罰大隊にはT55-105が、歩兵連隊にはT62-105が配備されていたのだが、
両者とも『装甲車両の効率的配備』を名目に大半が戦車連隊に召し上げられていた。
その代わりBTR60は潤沢に配備されていたが(この車両に関してだけは、集成旅団は定数以上の数を確保していた)、
これでT90に立ち向かえるほど、現実は甘くない。
この結果、当然にして彼らは壊乱した。普通ならばここで潰走状態に入ってもおかしくないのだが、
多くのバ鍵っ子たちは持ちこたえた。別に勇気に満ちあふれていたからではない。
彼らの背後には、ある意味敵よりも始末の悪い存在が陣取っていたのだから。
神楽坂龍之介少佐率いる懲罰第999大隊は、敵先鋒大隊の火力をもっとも苛烈に受けていた。
最初こそ、督戦隊への恐怖から持ちこたえていたものの、それにも限度というものがある。
戦車砲のつるべ打ちに、神楽坂少佐の忍耐はあっけなく切れた。
「て……撤退! 撤退!」
そう喚いて、自ら先陣を切って逃げ出す神楽坂。
「畜生! なんで俺がこんな目に遭わなくちゃならんのだ! この、戸越中将閣下から
直接叱責を賜ったという名誉を持つこの俺が!」
ちっとも自慢にならないことを叫びながら、神楽坂は駆けた。ちなみに叱責の原因は、
鍵系“優良”市民婦女子に対する暴行陵辱容疑である。月姫難民や“不良”市民だけに
やっていれば戸越も口は出さなかったろうが、さすがに立派に市民権のある相手を陵辱したと
あっては、話が大きくならざるを得なかった。
「そうだ! 俺は戸越閣下に顔と名前を覚えていただいた、特別な人間なんだ!
こんなところで死ぬなんて真っ平御免だぁっ!」
好き勝手なことをほざいていた神楽坂の横で、突然囚人兵の頭部が吹き飛んだ。
血飛沫と脳漿をまき散らしながらもんどり打って倒れる。
「!!」
思わず立ち止まる神楽坂。そんな彼の前に立ちこめる土煙がゆっくりと晴れ、
その中から一人の男が悠然と近づいてくる。
「う……ふぇ!」
神楽坂の喉が奇妙な音を立てる。今や、懲罰大隊の全将兵が、彼と同様に硬直して、
その近づいてくる男を凝視している。
「何をしているのですか、神楽坂少佐?」
督戦隊隊員ですら直視を憚るような凄まじい冷笑を浮かべて、kagamiは語りかけた。
「な、な、何をしているも何も……態勢を立て直すため、一時撤退中だ!」
膝をガクガクさせながらも、神楽坂はそう言い放った。さすがに、最低最悪の屑どもを
率いるだけの器量の持ち主、というべきだろうか。色々評価に異論のある人物であるが、
少なくとも柳葉よりは指揮官としての適正を有していた。
とはいえ、そんな多少の指揮官適正など、この『戦場の魔王』の前では全くの無意味でしかない。
kagamiの右手がさりげなく動いた次の瞬間、ワルサーP99の銃口が閃光を放った。
銃弾は正確に神楽坂の右手を撃ち抜き、彼の口からは絶叫がほとばしった。
「かぐらー君、まだ誰も撤退など許可していませんよ? 敵前逃亡が重罪だと言うことくらい、
君も十分ご存じでしょう?」
「き、貴様……戸越閣下から直接叱責を賜った名誉を持つこの俺に刃向か……」
銃声。今度は左肘の関節が砕かれた。さらなる絶叫をあげ、地面に転がる神楽坂。
「何度も言ったはずですよ? それはちっとも自慢にならないってことは」
虫けらを見下ろすほどの気持ちで彼を一瞥すると、kagamiは懲罰大隊一同を睥睨した。
「諸君! よく覚えて起きなさい!」
戦場音楽の中、驚異的によく通る声でkagami中尉はあたりに宣言――というよりは威圧した。
「弾が前からしか飛んでこないなどという、甘い考えは捨てることです!」
同時に、日雇いSS軍曹がBTR-152の車載機銃をぶっ放した。運悪く先頭にいた
バ鍵っ子囚人兵が血飛沫を上げて絶命し、神楽坂の上に倒れる。神楽坂は盛大な悲鳴を上げ、
ついには失神した。
「こ、殺す殺す殺す殺すぅっ!」
狂犬の忌み名に相応しい威圧感のkagamiに、殺す気満々で機関銃を構える日雇いを
はじめとする督戦隊。強権と暴力をもってバ鍵っ子たちの上に君臨してきた魔王の軍勢が、
ここでも立ちふさがったのだ。
「さぁ、どうします諸君! 今ここで逃げて私たちに殺されるか、それとも敵に突撃して
生還の可能性に賭けるか! 君たちには2つの選択肢があります! どちらを選ぼうが、
それはあなた達の自由です!
さぁ、諸君の感萌主義の言うところの『奇跡』とやらに期待して、突撃してみてはどうですか!」
実質的には「貴様等に死ぬ以外の道なんてない」と言い放っているようなものだが。
数瞬の間、懲罰大隊に迷いの空気が流れた。彼らとて、kagamiの言を本気で信じている
わけではない。とはいえ、このまま督戦隊に射殺されるのではあまりに情けなさすぎる。
そのとき一人の肥満した囚人兵が、突如として奇声を発した。唖然と凝視する周囲にかまわず、
そいつは妙に甲高い声で喚き始めた。
「僕は、僕は偉大なる麻枝元帥閣下のお教えに触れて心の雪が解けた。いや、正確に言うと、
僕は生まれ変わった!」
既に焦点の定まっていない目で、その囚人兵は叫び続ける。
「前まで僕はデブでみじめでなさけなくて、部隊のみんなにいじめられいた」
ケタケタと調子の外れた笑い声を上げ、両手を大きく振り回す。
「でも、今は違う! 僕はつよくなったんだ!! 僕には麻枝様がいる、いたる様がいる、
折戸様がいる、指導部のみなさまが、あの萌えるみさき大隊長殿が、七瀬大隊長殿が、
そして、みんながいる。みんな僕のことをみてくれている!! 僕は強い」
そして、小銃を振り上げると、奇声を発しつつ敵先鋒大隊の方へ駆けだしていく。
「僕はつよいんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
発狂した囚人兵につられるように、懲罰大隊は雪崩をうって反転した。どっちみち両方から
撃たれるなら、せめてわずかでも生き残れる可能性のある方へと、その追いつめられた頭で考えたのだ。
「……はぁ」
心底呆れたようにため息をつくと、kagamiはくるりと日雇いの方に向き直った。
「確かにああは言いましたけど、それを信じますかね、普通――まぁいいでしょう。
ここはもう用済みです。次に行きますよ」
「りょ、了解!」
血走った眼で荒く息をしつつ、日雇いは敬礼で答える。
そろそろ頃合いでしょうか、と考えるkagamiの鼓膜に、戦車砲弾が次々着弾する音と
囚人兵たちの断末魔の悲鳴が、心地よく響いた。
ヌワンギの心情は、もうすでに「後悔」という次元を余裕で突破していた。
彼とて、いままで品行方正な人生を送ってきたわけではない。元々は東葉領の少数民族の
出なのだが、そのころは権力者の血縁ということで結構好き勝手なことをやっている。
反乱鎮圧を名目として、無関係の村落を襲撃したことすらある。ハクオロ一派に追われて
東葉を出奔し、傭兵として狗法使いの元に流れ着くまでも、大抵のことはやってのけた。
しかし、その彼の常識から見ても、kagami督戦隊は異常すぎた。ここまで公然と味方を
殺しまくれる部隊を水準にすれば、ヌワンギの過去の悪行など赤子の遊戯同然とすら思える。
エルルゥ、俺帰りてぇよ――心中で幼なじみの少女に泣きを入れるヌワンギ。
口にはしない。口にしたら、それこそ日雇いにどれだけ殴られるか知れたものではない。
そんな悲惨な彼の耳に、無線機に向かって話すkagamiの声が虚ろに響いていた。
「ええ、十分保たせたでしょう。そろそろ私は隠れますよ――心配しなくても、私がいなくなれば、
すぐに全面敗走に移りますよ。柳葉大佐が変に動くこともないでしょうし――
ええ、それじゃ後は頼みますよ、紅茶すらいむ中佐」
41 :
旅団長:02/06/14 22:53 ID:BXTs3tgE
42 :
名無しさんだよもん:02/06/15 01:23 ID:LvcNGm/B
保守保守
43 :
鮫牙:02/06/15 22:32 ID:yw0I6jqX
そういや、鍵集成師団誰も書かないね。
ここって、dat落ちしてた鍵っ子スレの次スレと考えて良いのか?
45 :
狂気の連鎖:02/06/15 22:54 ID:g5SJo2I9
東方、鍵自治州で懲罰部隊の受難が始まるより数時間前のこと。
その朝、ロイハイト市は雨だった。
ただし、天より降り注ぐのは大地を潤し人に恵みをもたらす水滴ではない。
砲弾と爆弾。
死と破壊をもたらす鋼鉄の驟雨。
昨日までも、今と同じ雨が兵と市民の頭上に降り注いでいた。
その点においては、これまでと今とこれからに変わりはないのだろう。
田所軍集中的な爆撃を受けていたから、すでに死の雨が空を覆うことはロイハイト市民にとっても日常となっている。
ただ今までのように、空襲警報と同時に各家庭、あるいは公共施設に設けられた防空壕に篭り、無差別に行なわれる市街地への砲撃をやり過ごせば良いものと思っていた。
将校や一部の兵たちは、この攻撃が今までより大規模かつ本格的なものなものであることにすぐに勘付いた。
「だからと言って、なにかできるものでもないか……」
ずしん、ずしんと頭上に震動が走る。
裸電球が細々と室内を照らす地下壕陣地の中、岡田は腹立たしげにくたびれたパイプ椅子を蹴り付けた。
ロイハイト市役所、と底面に所属がマジックで書きつけられたそのパイプ椅子が、がらがらとけたたましい音を立てて剥き出しの地肌を転がって行く。
打ち続く敗戦に、岡田はさらに剥き身の刃物のような攻撃性を増している。
今の彼女に近づけるのは、アクアプラスシティの警察将校を除けばもう一人、机を挟んだ向かい側に座るとぼけた表情の将校のみ。
「空軍の上空支援は? 中尾大佐はいつまでAFの連中に気侭させとくつもりなのよ!?」
「支援ならちゃんと出てるよ〜」
寝不足、疲労で眼を血走らせて叫ぶ親友の神経を逆撫でするようなマイペースな語調。
46 :
狂気の連鎖:02/06/15 22:55 ID:g5SJo2I9
松本リカ少佐はこの期に及んで普段と変わらぬ様子を見せている。
いや、普段とは違うものがあった。それは外見、左腕を首から吊り、頭部にも血の滲んだ包帯を巻き付けているのだ。
北部国境、抵抗と敗走の旅路を続けた末の名誉の負傷である。
しかし、そんな見るからに痛々しげな印象を相手の脳裏からさっぱり削除させるほどに、当人の様子は何時も通り普段通り。
まったくこの娘の神経構造は羨ましいんだか羨ましくないんだか、とは岡田少佐の愚痴である。
「でもね、仮設空港が幾つか巡航ミサイルの攻撃受けて……滑走路の復旧にまた二日はかか……」
「二日も待ってりゃこの街は落ちるに決まってるじゃない!!」
叫んで叩き付けた岡田の拳が、ベニヤ製の机の天板を割った。
瞬間、ずずんと大きな揺れが地下壕を襲う。
電球が明滅した。おそらくは食器だろう、陶器の割れる派手な音。
至近弾。さすがに不安を感じたのか眉をきゅっと寄せ、松本はやはり湿気た土を掘り崩しただけの天井を見上げた。
「岡田ぁ、この壕ボロなんだからあんまり大暴れしちゃダメだよ?」
「……あんたって娘は」
場を紛らすためかあるいは本気でのたもうているのか、やれやれとジト目でこちらを見つめる松本に怒りを通り越した頭痛を覚え、岡田はこめかみを抑えて前のめりとなった。
だめだ、この娘のペースに巻き込まれちゃダメだ。
引き込まれたが最後、進む話も進まなくなる。でも引き込まれなくても進まない気も……ああもう、吉井がいてくれたらなぁ。
……でも現実問題、今ここに纏め役の吉井はいないわけで。
あたしがこのあんぽんたん以下役立たずの部下連中の鼻輪を引きずりまわして、勝ち目のない戦争をしなくちゃならない。
となると、怒鳴り散らす必要はあっても愚痴ってる暇はないはずなのだ。
47 :
狂気の連鎖:02/06/15 22:55 ID:g5SJo2I9
「……斉藤准将は? 例のモノの使用許可は出たの?」
などと、ひとしきり胸中で愚痴をこぼしたあとのこと。
ようやく精神状態の平衡を取り戻し、岡田少佐は眼差し鋭く松本に問う。
斉藤准将とは、同じく国境より敗走し、今はロイハイト防衛司令官を努める第三国境警備旅団長の名だ。
「う〜ん、ここに集積されてるのは事実だけど、使用の許可は絶対に出せないって」
ぴっ、と人差し指を頬に当て、その時の様子を思い出しながら松本は表情を曇らせる。
日ごろそう真面目な方でもないあの青年将官が、珍しく真顔になって首を横に振った。
それだけは絶対に認められない、取り返しのつかないことになる。
岡田の指示に従って斉藤のもとへ赴いた松本にしても、その斉藤の拒絶にこそ共感を覚えたものだ。
だからわずか、声を落とし上目遣いとなり、彼女は親友に最後の翻意を促した。
「ねぇ……止めといたほうが、良くないかな?」
「止めて、あたしたちが生き残れるならね」
まさしく一蹴である。
松本に向けた声も眼差しも冷徹に、彼女は机上から取り上げた一通の書類を指で弾いた。
「空軍はぼろぼろ。制空権は敵のモノで、テネレッツァ軍の解囲は当分期待できない。弾薬はともかく、武器と食糧に欠ける我が方に持久がかなうはずもない……」
ならこれに頼るしかないじゃ無いの、と岡田が投げた書類は松本の正面へと滑り込む。
その書面から岡田へと不安げな視線を移す松本の前で、彼女は椅子から立ちあがり、傍らに掛けた外套と制帽を手に取った。
「どうせ、ロイハイトより北は死人以外はAFと月厨ばかりよ。周囲の被害に気を払う必要はないわ」
そう傲然と言い放つ。
かつてのアルゲマイネSSのそれに良く似た色調、フォルムの制帽を目深に被り、彼女は嘲るような笑みを口許に薄く浮べる。
「……口の固い兵を選んどいて。斉藤准将を『説得』にいくわ」
<糸冬>
48 :
旅団長:02/06/15 23:21 ID:6ZyYGqLN
>鍵集成師団
さゆりんパパ頃しちゃった人としては、その責任は取りたいなとか思ってたり。
誰も書かなくなっちゃったし(吐血
そのためには、きちんとkanonを全部やりこまないとなぁ(遠い目)
50 :
報告書:02/06/16 20:36 ID:cpEXnQiQ
鍵国が空き地の街に対して統制を強めている模様・・・戦えぬ倉田大隊、されど情報収集能力に関しては侮れず。。
川澄舞ハ特殊部隊レベルの戦闘力、倉田佐祐理の情報収集力に関しては相当な注意を払う必要性アリ。
裏葉大佐の着任は内政干渉に他ならない。早急に平和的解決を求める・・・ロディマスへ鍵国部隊を移動するのが一番の最良策か?
『鍵国に領土的野心アリ』、早急に本国より強力な戦闘部隊を送られたし。
遠野財団軍団・・・利己主義からか、周囲5キロの絶好のキルゾーンを無視して空き地の街へ高槻師団の侵入を許す結果を招くいた模様。
乾有彦少佐の意思ではなく上層部の意思との判断。 乾戦車大隊ハ今ダ戦意旺盛。
正統リーフ高橋本隊の接近の一報なるも今だ到着の気配なし。
但し、空き地の街の反強制独立に関しては注意が必要ナレド、現在一番の友軍部隊である。
原田海兵隊:戦闘力の高さは認めるものの要注意が必要である。
51 :
報告書:02/06/16 20:37 ID:cpEXnQiQ
空き地の街において以下の部隊が再編成完了
民間防衛隊を拡大した『第1機甲騎兵大隊』 坂上蝉丸少佐
主力兵器M1A2、M3A3、M163、アヴェンジャーSAM、M48チャパラルSAM(増強)
戦車中隊隊×2、騎兵中隊隊×3、増強防空中隊×1
砲兵 175ミリ自走砲×16両
航空戦力(電波花畑連合国海兵隊、陸軍パイロット担当) 暫定司令官は米村高広中将(特別将官選抜試験突破)
AV-8B+ ハリアーUプラス ×25+12(予備機) アムラームAAMによるアウト・レンジ攻撃 低脅威に対するスパローAAMでの攻撃
マーヴェリックによる確実な航空支援
RAH-66コマンチ ×12 +6(予備機)
輸送、空中機動作戦用途
ブラック・ホーク(特殊戦用)、HH53スーパージョリーグリーンジャイアントを主力とする輸送ヘリ多数
海上戦闘部隊 N/A
アビス・ボート、ミサイル駆逐艦×1 強襲揚陸艦×1 補給艦×1
戦闘艦艇はスタンダードSAM、シー・スパローSAM、RAMシステムにおいて空き地の街防空、索敵を担当。
アビス・ボートは敵原子力潜水艦に対する徹底した潜水艦狩りを厳命
特殊部隊 2個中隊 岩切花枝(大佐)+電波花畑連合国大佐
岩切水戦隊+RR青紫派残存部隊+電波花畑連合国特殊部隊
早急なる本国軍の派遣を要請。 鍵国の干渉を出来るだけ排除し、空き地の街の市民生活を守る必要アリ。
鍵国兵士の略奪から市民を防護する為食料、医薬品、建設資材の輸送の増加を要請。
以上本国へ送信する次第。 特別将官選抜試験を突破せしアノ少女に関する情報を本国ヨリ送信されたし
ソロソロ保守せんとマズイと思ったら・・・スマソ
新スレおめでとうございます。
高橋、水無月率いる叛徒集団、正葉討伐のために編成された河田中将幕下、テネレッツァ軍。
編成表の上では、二個師団の戦力を持つはずであった。
あくまで編成表の上での話である。
未だ編成途上、訓練未完の現在実質的に戦力として活用できるのは、歩兵と戦車がそれぞれ一個連隊と一個攻撃ヘリ大隊のみ。
実勢は一個旅団規模の兵力を有するに過ぎない。
もちろん、テネレッツァ軍の北部への投入に当たり、DOZA大将の首都管区軍より一個歩兵旅団の提供を受けることになってはいる。
また編成未完の部隊も含めて師団隷下部隊の動員は今までよりもさらに急いで進められているが、それでもあと三日でもう一個連隊の投入がやっとだろう。
その上、アクアプラスシティより北は連日の空爆と月厨の活動により鉄道が寸断されていた。
果たしてロイハイト市陥落までに、これらの増援が河田のもとに届くかどうかは微妙なところだ。
問題は他にもある。河田中将と中尾大佐の確執である。
かつて原田派の重鎮であった中尾大佐の批判は容赦なく河田中将へも向けられており、2.14事件後両者の関係は極めて険悪なものとなっている。
これまでそれが露呈しなかった理由はただ一つ、原田追放後は中尾大佐も派手なことをしでかす余力はなく、彼の姿が河田中将の視界に入るようなこともなかったからだ。
しかし、今は違う。
中尾大佐が支配する防空軍は、緒戦で大打撃を受けたしぇんむ〜空軍にとってもっとも貴重な戦力であった。
下川にとって自分と中尾と商品価値はどちらが高いか、微妙なところである。
そんな懸念がなおのこと河田中将を焦らせ、苛立たせている。
そしてそれは、中尾大佐にとっても同じことであろう。
「……空軍の支援は」
「技術上の問題が……あと二日待っていただきませんと」
河田中将の粘ついた視線を受け、カグラ空軍基地司令官、みゃくさまさかず大佐が汗を拭きながら答える。
「なにぶん、AFが巡航ミサイルを保有しているとの情報は入っておりませんでしたので……」
最も早くAF空軍の空爆によって撃破され、先ごろようやく復旧したカグラ空軍基地は、稼動を目前にしてまたしても滑走路に大穴を空けられる事態となっていた。
田所の有する轟炸6型爆撃機。
射程千キロと言われる空中発射型の新型巡航ミサイル『紅鳥2型』は、開発国である中共本国ですら未だ実戦配備に至っていない。
そんなものを田所風情が持っているというのは、確かに寝耳に水のことではある―――が、しかし。
「きちんと警戒しとれば、どうっちゅうこともなかったんとちゃうんか?」
所詮、巡航ミサイルは巡航ミサイルである。弾道弾と違い、通常の防空システムで対処できる相手だ。
さほどの数が発射されたわけでもない。きちんとした防空体制を整えていれば、被害は最小限に抑えられたはずだ。
加えて言えば、すぐに復旧出来ないこともない程度の損害ではないのか。
……あるいは実際損害を受けていないかも。
河田中将は、そこまでを口にするほど愚かな人物ではない。
だが、彼が抱く中尾大佐への不信感は、そんな疑念を前提に行動させるほどに深刻なものだ。
……恐らくは怨敵も同じであろうという邪推、これもまた彼の絶対的な行動規範。
そんな疑心暗鬼が、(敵中しているいるだけに)なおのこと両者の亀裂を広げ深めているのだが……わかっていても収まらないのだ。
真実、互いに憎みあっているのだから。
「とにかく、兵力で負けてんねん。エアカバーがあらへんとなんともならん」
ロイハイトが落ちたら、責任問題になるからな。
言い捨てて中将は野戦司令部のテントを後にする。
敵前にて権力闘争に固執する将軍たち。
彼らはまだ、これから下葉北部に起こるさらなる混乱を予期してはいなかった。
水溜り。
こんな雨の日には相応しい水溜り。
鋼鉄の雨の日に相応しい、紅い色をした水溜り。
重い音を立て、地に倒れ伏した将軍を中心に紅い水溜りが勢い良く広がっていく。
銃声は三発。
頭に一発、心臓に二発。
銃弾を放った岡田警察少佐以外の全員が、とっさに目前の光景を理解できない。
松本警察少佐すら呆然と、その様子をただ眺めていることに心地よさすら感じながら、岡田は立ち尽くす警備兵の一人の前に歩み寄った。
マカロフを腰のホルスターに戻し、身を竦ませる哀れな警備兵のまえに仁王立ちになる。
「敵の攻撃に勇敢に立ち向かい、名誉の『戦死』を遂げられた斉藤准将閣下の指揮権は、岡田警察少佐が引き継いだ」
その声は決して大きくはない。
だが、凛としたその声音は同様から立ち直れない兵たちの精神を圧倒するに足りるものだった。
「キーを解除しなさい。そして全軍に命令を。
ファシスト軍が市街地に突入した時点で、全戦線において化学戦を展開する!」
<糸冬>
先のは前編ってことで(タイトル思い浮かばなかったですよ)
>>50-51 正直、彼らの再登場ってどうよ?
俺はちょっと遠慮してもらいたい。
57 :
旅団長:02/06/16 23:54 ID:S2QyFRDc
>>56 いきなり顧問団再登場とか、電波花畑連合国からの大量援軍とかのアレな展開でなかったら、
別にいいんでない?
SSよんで、それが筋道立ったものだったら……ええんとちゃう?
59 :
鮫牙:02/06/17 00:15 ID:hdswXHhO
ん〜いいんでない?正し、今までのように名無しオリキャラでなければ。
正直、キャラでもスタッフでもない連中が主役級の扱いってのもね。
俺案
軍事顧問団→犬大工+ねこバナナのメンバ+陣内
電波お花畑→既知街
車長→菊地研一郎(既知街のライター周星馳ファン)
砲手→陣内
操縦手→うごく田中
特殊部隊大佐→閂夜明
ってのはどう?
60 :
或る阿呆:02/06/17 20:39 ID:QWu8bRqz
案としては・・・同人は解らぬのでありまして・・・552と以前の情報より・・・
車長=有島裕也(ONEで人生を狂わされたことを表には出さないが根に持っている。旧タクの栄光という幻影を追う者。茜=慰め=栄光を奪われる事を恐れている)
砲手=陣内ちから(酒はやる、女も抱く、M60を腰溜めで撃つ男)
操縦手=渡辺茂雄(後退の言うのは嘘、教員という職業は強烈なストレスから来る、キティーと紙一重という現代に対する皮肉+実は鋭い奴だったとか)
大佐=消えた茜の幼馴染(贖罪の人、だから市民の為としきりに訴える。)
若しくは・・・
車長=陣内ちから(己の目的のために戦う男)
砲手=渡辺茂雄(士官学校に嫌気が差した為・・・大義名分を憎み己に真実に生きようと決意)
操縦手=有島裕也(鍵に対する皮肉を吐きまくる。)
大佐=茜の幼馴染(贖罪の人)
有島=小ヒットラーであるのであれば、軍事技術吸収という事で派遣されたのが定着してもOKかなと思いまして・・・(汗)
ナチに潜入したるアドルフ君。 茜を将官にしたのは・・・扇屋のチカゲちゃんにヒントを得たとか得なかったとか。
車長=陣内だと、「あ、原田君?今からソッチ行くから。え?リアルシムシティ−(空き地の街運営)とゴスロリ(茜問題の根底)にハマっちまったから。」
車長=有島なら「フン、タクを見限り久弥将軍さえ居ない癖に・・・それでも茜を奪おうと言うのかね?麻枝にはいたるが居るんじゃないのかね?」
「贅沢は敵だとか言っている本人が贅沢を望むとは・・・贅沢は素敵だの間違いじゃないのかね?」
此処の設定では麻枝といたるは夫婦だった筈・・・ その前に基地外軍団呼び戻しても大丈夫なのだろうか・・・
61 :
或る阿呆:02/06/17 20:43 ID:QWu8bRqz
62 :
鮫牙:02/06/17 23:12 ID:mG84AfoD
閂は立派にリーフスタッフ(元)だよ
それはともかく書かれよ諸公w
64 :
或る阿呆:02/06/17 23:28 ID:b+afE+Fi
>>62 うわ・・・やっちまったスマソ。 慌てて確認しますた。
うごく田中辺りは唯一まともな偵察員に向いているかも。
「第1大隊、大隊長および中隊長全員戦死! 大隊本部と連絡が取れません!」
「第2大隊第5中隊、現在××曹長が指揮を代行!」
「BTR60、損耗率が5割を突破した模様!」
次々ともたらされる凶報に、柳葉勇樹大佐は腰が抜けたようにへたり込んでいた。
あまりにあっけなく崩壊していく連隊の有り様に、恐怖を感じると同時に「ああ、やっぱり」
という諦観も感じていた。今までさんざん言われ続け、自分でも認識してきた「自身の無能」
という現実を、ここでも再確認していた。
「連隊長殿、もうすでに抵抗は不可能です。このままでは完全に殲滅されます。撤退の命令を」
柳葉の前に膝をつき、視線の高さを同じにしてひとりの将校が進言してきた。
連隊本部付中隊長・はにお少佐――OHP歩兵第3連隊における、ほとんど唯一の「まともな」
将校だった。かつては「言動が電波」と言われて他のバ鍵っ子と同列視されていた時期もある。
しかし、その軍事的才能が言動ほどアレではなく、むしろほとんどの局面をそつなく切り抜けられる、
なかなか使える指揮官だと判明してからは、他からも一目置かれる存在となっていた。
最近では言動から電波も抜けている。
司令部の方では一時期、はにおを引き抜いて「使える」歩兵指揮官として温存することを
画策していたことがある。しかしはにお本人がこれを固辞、あくまでも柳葉の指揮下にとどまってきた。
彼がいなかったら、柳葉はとっくの昔に北部国境地帯で屍を晒していただろう。
「で、でも、kagami中尉がいたら撤退できないよ。殺されるよ……!」
「大丈夫です、連隊長殿。先ほどから、kagami督戦隊の姿が見えません。今なら撤退できます」
事実、このときkagami督戦隊は姿を消していた。もちろん「柳葉連隊の本気の敗走」を誘うための
規定の方針だったのだが、はにおもさすがにそこまでは見抜いていない。ただ、kagamiが連隊の
退却を見逃すだろうということは、うすうす感づいていた。
「今ここで退かないと、結局は全滅です。ならば、まだ今のうちに退いておいた方が、まだしも
損害を押さえられます――命令してください」
多分退却してもそんなに変わらないだろうとは、はにお自身も思っている。柳葉連隊の実力では
整然とした退却など望むべくもなく、RR装甲師団にいいように狩られるのがオチだろう。
旅団本隊には救援できる余力もない。いや、そもそも旅団は最初から連隊を見捨てるつもり
だったに違いない――彼はそう判断している。
しかしそれでも、はにおは退却を諦めるつもりはなかった。彼は、柳葉が嫌いではない。
どうしようもなく無能なバ鍵っ子ではあるが、ある意味愛すべき天真爛漫な人間とさえ言える
柳葉のことを、「世話のかかる子供」のように思っている。少なくとも神楽坂少佐のように
憎むべき対象ではない。そんな彼をなんとしてでも生かして連れ帰りたかった。そのためなら、
あらゆる手段を試してみるつもりだし、その際の責任も取るつもりでいる。
「――う、うん、わかった」
弱々しく頷くと、柳葉はよろよろと立ち上がった。
「全部隊に命令――この場を後退、タケダタウンにて態勢を立て直す。はにお少佐、
申し訳ないけど細かいことは任せていいかな?」
「了解」
敬礼を返したはにおは、早速各部隊に命令を飛ばしていった。徐々に退却していく各部隊。
しかしその大半は、敵先鋒大隊の容赦ない攻撃に補足され、叩き潰されていく。早くも、
全面崩壊の様相を呈し始めていた。
「さぁ連隊長殿、我々も退きましょう」
命令をあらかた出し終えて、はにおは当然のように告げた。しかし、力無く首を横に振る柳葉。
「……連隊長殿?」
「駄目だよ、少佐。まだみんな逃げ切っていないよ」
半ベソになりながらも、柳葉は笑って答えた。
「まだ随分残っているんじゃない?」
「確かに、1個大隊弱は残っていますが――しかし連隊長殿!」
「前線指揮官が兵士を置いて逃げ出すなんて、そんなことできないよ。僕が逃げるのは一番最後で
いいから、ね?」
「いや、しかし、だからと言って!」
「ああ、他のみんなはいいよ。僕につきあわずに、早く逃げて。僕の代わりにタケダタウンで
態勢を立て直してほしいな」
「……」
「……お願いだよ、少佐。僕に、僕に最期の見栄くらい張らせてよ、お願いだよ」
誰憚ることなく涙を流して懇願する柳葉に、はにおは二の句が継げなかった。正直、
この愛すべき無能連隊長に「指揮官としての責任」なんて代物が備わっていることが、
信じられない。
「……わかりました」
容易なことでは翻意できないと悟ったはにおは、そう言うとスッと立ち上がった。
呆然とやりとりを見つめていた連隊幕僚を見回し、一喝する。
「何をボンヤリしている! 連隊長殿のお言葉が聞こえなかったのか! 貴様等は直ちに
ここを撤収、タケダタウンにて反撃の体制を整えろ!」
弾かれたように動き出し、次々と連隊本部を後にする将校たち。最後に柳葉を見る
彼らの表情には、呆れとある種の感動が入り交じったものが浮かんでいた。
「……少佐? 少佐は逃げないの?」
もうふたりしか残っていない連隊本部で、柳葉はきょとんとした表情で尋ねた。
「いいじゃないですか、一人くらい連隊長殿と一緒に残っても。まぁ私自身のけじめみたいな
ものですけど、最期までおつきあいしましょう」
苦笑しつつ、はにおは柳葉の隣に立った。そっとハンカチを差し出す。
「涙でも拭いてください。ほら、散り際くらいはちゃんとしてましょうや。連隊長殿は、
黙って立ってれば結構見れる顔なんだし」
「……ごめん、巻き込んじゃって」
「別にかまいませんよ。バ鍵っ子嫌いのあの旅団長の下では、遅かれ早かれこうなることは
目に見えてましたから。覚悟はとうの昔についてます」
乾いた笑い声を立てた後、はにおはふと真顔になって尋ねた。
「しかし、よくご自分だけ残られる決心をされましたな。失礼ながら、連隊長殿が
そういう考え方をなさる方だとは思ってもいなかったんですが」
その問いに、柳葉は寂しそうな表情で答えた。
「実はね、前に旅団長――あのときは戦車連隊長だったけど、とにかくあの人に散々殴られた
ことがあるんだ。『指揮官なら、臆病風に吹かれて自分の部隊を見捨てて逃げるなんて真似を
するな。怖くて逃げたいならその場で腹かっ捌いて死ね。それが嫌なら一番最後に逃げろ』って」
まだ彼らがOHP師団に所属していた頃、北部国境地帯のテンマシティを巡るゲリラ掃討戦で、
月姫ゲリラが歩兵連隊本部に奇襲をかけたことがある。そのとき柳葉は激しく取り乱してしまい、
一人で勝手に逃げてしまったのだ。その時彼の襟首をつかみ、顔が腫れ上がるほどに殴りつけて
連れ戻したのが、当時まだ大佐だったJRレギオンだった。
「あの時の旅団長の、冷たい目線が忘れられないんだよ。今逃げたら、きっと僕のことを許さないよ。
僕を銃殺するよ――怖いんだよ、あの人のことが」
ガクガクと震えて、柳葉は頭を抱えた。
「僕だって怖いよ! すぐ逃げたいよ! でも仕方ないじゃないか! あの人は、
僕がみんなを見捨てて逃げることを絶対に許さないよ! だったらここで死んだ方がマシだよ!」
それはちょっと違うんじゃないかな、とはにおは心中で突っ込んだ。旅団長が言いたかったのは
「臆病風に吹かれるな」であって、硬直的に「逃げるな」と言っているわけではあるまい。
ましてや「分隊長のように全ての兵士が逃げてから自分も逃げろ」ではないだろう。
後衛戦闘を指揮しつつ後退しようと努力すれば、(柳葉にそれができるかどうかはともかく)
ある程度後ろにいても、旅団長も事情は察してくれるはずだが――
いや、そうでもないか、とすぐに思い直す。どうせ旅団長はこの連隊を始末したがっている。
ならば、何のかんの理由を付けて連隊長殿を処断しようとするだろう。仮に生還できたとしても、
敵前逃亡の罪で銃殺にしかねない。あぁ、畜生あの野郎ふざけやがって。
万が一生きて帰れたら、何発かぶん殴ってやる!
「……それじゃ、あのふざけた旅団長に笑われないように、最期を飾るとしますか」
ああ、これでふたりとも戦死確定か――はにおは心中で苦笑いしながら、覚悟を固めた。
『柳葉連隊、崩れ始めた。もういくらも保たないな。敵も追撃を始めた。
そろそろ、そっちにも行くぞ』
「了解。そっちも補足されないようにこっちに合流してくれ」
kagamiにそう答えて通信を切ると、紅茶すらいむは大きなため息を一つついた。
バ鍵っ子たちを囮にしての、新兵器OTOMATIC対空戦車のデビュー戦。確かに効果的なのは
彼も理解している。しかしバ鍵っ子でも言って解らせて矯正させたい紅茶すらいむとしては、
決して本意ではない作戦だった。
とはいえ、彼も柳葉連隊が全くのお荷物でしかない現実は理解している。
懲罰第999大隊に至っては、矯正できるようなレベルを遙かに超えているという現実も
渋々受け入れていた(彼は、神楽坂に何度も煮え湯を飲まされている)。
そのため、旅団長が柳葉連隊を生け贄に選んだことに、彼は強く反対できなかった。
「――いや、反対するのが面倒だっただけか」
思わず口に出して、自嘲気味に笑う。「旅団一の常識派将校」も何のことはない、
本質的には旅団長と同じか。結局は、バ鍵っ子が救いがたい存在だと認めているではないか。
自分の日頃の言動の、なんと偽善に満ちていることか!
とはいえ、紅茶すらいむにはその「偽善」をやめる気はなかった。矯正路線が現実に難しいなら、
せめて「最悪の中の最善」くらいは希求したいと考えている。
ただ――何も迷うことなく「かまわん、相手はバ鍵っ子だ、撃てっ!」と命令できれば
どれほど楽だろうか、と思わなくはない。旅団長やkagamiなら何の躊躇いもなく
そう命令するだろうし、他の大部分の指揮官も躊躇はするだろうが、やはり最終的には
バ鍵っ子を犠牲にするだろう。バ鍵っ子とは、それほどまでに疎まれて当然の存在なのだから。
しかし、紅茶すらいむにはその踏ん切りがつかない。そして、それでいいのだと思っている。
例えそれが「偽善」だと分かり切っていたとしても。
「――敵、視認圏内に入りました。まだ気づかれていません」
部下からの報告が、紅茶すらいむの思考を断ち切った。すぐに気分を切り替える。
「まだ撃つなよ。十分引きつけてから喰らわしてやれ」
そういいつつ、各種モニターに視線を走らせる。街道上を算を乱して逃げるバ鍵っ子たち。そして、
その背後から容赦なく攻撃を加える敵軍。それらがモニターのカメラ越しに確認できた。
そのまま目標表示装置にも視線を走らす。少なくとも現時点では、この森に気づいている敵軍はいない。
「司令部から、敵航空情報について更新は?」
「ありません。『周囲に敵航空戦力を確認せず』のままです」
「よし。事前の打ち合わせ通りに攻撃を実行する。敵先頭がポイントAに到達次第、攻撃を開始」
旅団の現状からすれば、装備していること自体が奇跡とすら思えるフェネック装甲偵察車の中で、
紅茶すらいむは命令した(ちなみに、フェネックはこれ1両しかない)。ちなみに、彼が指揮する
主な装甲車両はレオパルド1A5戦車4両、Strv103無砲塔戦車(Sタンク)4両。その他、
カーフ対空特務隊のOTOMATIC対空戦車1両、T68J3戦車3両。あとはKJPZ4-5カノーネ駆逐戦車が
4両と、BTR60が40両。BTR60のうち8両は、兵員室を潰してかなり強引に対戦車ミサイルを
装備した独自改造車で、旅団ではこれをBTR65Jと非公式に呼称している。
戦車大隊を中核にしているにしてはかなり貧弱な陣容だったが、これが旅団の持てる
遊撃装甲戦力の過半だった(BTR60を除く)。定数としてはまだまだ多くの装甲車両を
有しているが、その多くは整備不良により稼働状態にはない。このうち砲塔部分が
生きているものに関しては、交差点や重要施設などの要衝に配置し、周りを土嚢で覆って即席の
トーチカとして陣地構築していたが、それでも旅団が深刻な兵力不足に悩んでいることに
変わりはない。そういった意味で、この逆撃は危険な賭だった。もしこの攻撃が失敗すれば、
旅団は州都防衛の主要手段を喪失する。
「旅団を生かすも殺すも、俺次第か。なかなか得難い経験だな」
双肩にかかる重責にある種の爽快感を感じながら、紅茶すらいむは通信をカーフ対空特務隊に合わせた。
「カーフ少佐、そっちの準備は?」
『いつでも大丈夫だ。76mm速射砲の威力、とくとご覧あれ』
「期待している」
「敵先頭、ポイントAに到達――一部、こちらに向かってきます!」
「ふん、何か感づいたようだな。さすがはRR装甲軍」
急速に迫りつつある戦闘の予感に、精神が急速に高揚していく。
手元のマイクを軽く握りなおし、紅茶すらいむはよく通る声で命令を発した。
「全隊に告ぐ――攻撃開始ッ!」
72 :
旅団長:02/06/18 19:49 ID:YGn5+8sQ
>>65-71「指揮官たち」投下完了です。
柳葉連隊長については……
……ごめん。自分、ギバちゃんに萌え萌えだから(w
73 :
鮫牙:02/06/18 21:42 ID:imr/YC1d
しかし、旅団長腐れ外道ですな(W…俺もぼちぼち何か書こうかと思います。
74 :
日雇い:02/06/18 21:46 ID:HG2Gpq+E
虐殺を!一心不乱の大虐殺を!
つーことで後で神楽坂処刑させてください。
ギバちゃんはあれはあれでおもろいから放置(笑)
75 :
或る阿呆:02/06/18 23:29 ID:TyIi6XYe
OTOMATICの登場ですか・・・期待
空き地の街での坂上機甲騎兵大隊の演習風景を暫くしたら投下してみたいと思います。
基地外の指揮官をどちらにするか検討中。
鍵っ子のヲチはやめちゃったの?
77 :
崩壊:02/06/20 01:48 ID:4F+ECns7
RR装甲軍前衛大隊指揮官から突然の悲報が伝えられる。
「師団長、まるで艦砲射撃のような弾幕だ!」
馬鹿な、このタイミングで砲撃だと?しかもこの量は我々の師団は包囲されてるという事か?
ライプスタンダルテ・シモカワ・ナオヤー師団長が敵の予想外の攻勢に思考を加速させる。
「師団長、敵が包囲殲滅を狙っているのなら、このまま撤退すれば総崩れを起こす可能性がある。このまま正面
突破を図る」
いや、それはありえない。それならば他により最良のタイミングがあった筈だ。敵の目的は包囲殲滅ではなく
他にある。それは一体…。
第1RR装甲師団“ライプスタンダルテ・シモカワ・ナオヤー”師団長、女物の服を着用し街を歩けば、数分に
一人の割合で声をかけられる美貌を持つ彼女は、その外見に反して言葉使いは冷淡である。
「ふん。そういうことか、前衛大隊に通達しろ」
「敗走する歩兵連隊は捨てておけ。森鼠に反撃準備」
「つまりだ、少佐、連中の意図は包囲殲滅戦等ではなく、打撃戦だ。心理的動揺による停滞作戦」
「今までは連中の意図通りのジルバを踊っていた訳だ」
「成る程、無謀な賭けに出たものですな」
「そうでもないだろう、現に我々は今の今まで騙されていたわけだからな。だがこれ以上付き合う必要もない」
「砲兵連隊の砲撃まで森への反撃は控えろ。破壊された車両を盾にして待機しておけ」
「了解、これ以上の磨耗は極力避けましょう」
78 :
崩壊:02/06/20 01:52 ID:4F+ECns7
フェネック装甲偵察車の中で紅茶スライム中佐は戦況に耳を傾けていた。状況は今のところ予定通り。
「前衛大隊の動きが止まりました」
「交戦意欲を削ぐのに成功したのでしょうか?」
「いや、連中はこの程度で進行を止めてくれる程甘くはない」
「敵の様子は?」
「後退もせず、前進もせずです」
その報告に紅茶スライム中佐は悪寒を覚えた。敵は我々の罠に気がつき、報復の準備をしているのだ。
「戦闘大隊全軍撤退!森から出ろ」
「ファイエル!」
紅茶スライムと第一RR装甲師団砲兵連隊長の声が重なる。
砲兵連隊所属の自走砲、2S5ギアツイントと2S7ピオンの砲列から連続発射される高性能榴弾は森に潜む
戦闘大隊だけでなく、森そのものを消滅させようとしていた。
木々をなぎ払い、大地を抉り取り、生命をその痕跡ごと消し去っていく。
砲撃終結から10秒後、紅茶スライム中佐は横転した車両から体を強引に引きずり出し、立ちあがった。
「くそ、誰か生きてるか?」
上を見上げると半分折れた木に兵士の死体が突き刺さって、腸がツタのように絡み付いている。
耳鳴りと頭痛の酷い頭を押さえながら、叫ぶ紅茶スライムの声に一人の若い下士官が走りよる。
「大隊指揮官殿、我々以外に生存者はいないようです…指揮官殿左腕が」
下士官のその言葉に紅茶スライムは自分の左腕か肘から下が無くなっている事に気がつく。下士官が慌てて
応急処置を施す。当の紅茶スライムは意外と落ち着いていて、その様子を見ながら、唯一生き残った無線機に
話かける。
「各中隊、状況を報告せよ」
「第一中隊生存は私を含め10名です」
「第二中隊生存48名、内負傷10名」
「第四中隊生存60名、負傷28名」
「第五中隊生存124名」
「カーフ対空特務隊、生存は20名。OTOMATICは無事だが、T68J3は全部食われちまった」
79 :
崩壊:02/06/20 01:52 ID:4F+ECns7
第三、第六中隊と連絡は取れなかった。恐らく全滅したのだろう。現在生き残った車両は
レオパルド1A5×1
KJPZ4-5カノーネ×1
BTR60×20
それに、OTOMATIC…なかなか絶望的だ。
「…カーフ少佐、頼みがある」
『何だ?』
「戦闘大隊はこれより降伏する。貴官は戦場を離脱し、移動中のkagami中尉と合流してくれ」
『…』
「絨毯砲撃をもう一度食らえば我々は全滅する」
『了解した』
次に紅茶スライムは前衛大隊指揮官に連絡を取った。
「装甲軍大隊指揮官殿に連絡を取りたい。戦時条約を尊重して頂くのなら、当方に降伏の準備がある」
『こちら、前衛大隊指揮官だ。降伏を受け入れよう』
それから、30分後紅茶スライムと彼の指揮する戦闘大隊は装甲軍前衛大隊に投降した。その間、カーフ少佐の
OTOMATICとレオパルド1A5、KJPZ4-5カノーネが一個小隊程の兵士を引きつれて戦場を離脱していった。
80 :
野営地の夜:02/06/20 04:42 ID:xwVbMEp2
タケダタウン郊外、OHP師団臨時野営地。
死に物狂いの撤退を成功させたカーフを待ちうけていたのは、カーフに対しての敵意に満ちた
OHP歩兵連隊の生き残り部隊、元OHP旅団長、巫大佐率いる悪名高きOHP歩兵連隊の主力部隊。
そして、敗者に対して冷笑を浮かべたkagami提戦隊の面々だった。
提戦隊の部下達を引き連れたkagamiの言葉を聞き、カーフはやつれた顔をしかめた。
「お疲れのところを申し訳ないが、人払いをお願いできますか、カーフ少佐。重要な話があります」
深夜、武装した提戦隊員達が厳重な警戒を引く幕僚室の一室。
「中尉、一体どういうつもりだ?私にはやる事がこれから山積み…」
kagamiはカーフの言葉を遮り、脇に抱えた書類ケースを取り出す。
「少佐、OHP歩兵連隊など放っておきなさい。当たり前の事ですが、先の戦いで生き残った
歩兵連隊は司令部を心から憎んでいます。のこのこと出歩けば、それこそ殺されますよ」
「…それは」
カーフの口をkagamiの声がまた遮った。
「あなたが『良識』派であることは重々承知ですよ。このような囮作戦に反対していた事も。
ですが、歩兵連隊の連中に取って、そんなことはどうでも良いのです。奴らにとって、
OHP師団司令部とは、自分達を虐める最低の司令部としか映っていませんから。
まあ、そんな事はどうでもいい」
カーフは何か、いいようのない不穏なものを感じた。
提戦隊をkagamiに預けたのは、失敗だったのではなかろうか。
「中尉、何がいいたい?本題はなんだ?」
「本題はですね、このままだと我々は戦場では無く、牢獄で死ぬことになるということですよ」
81 :
野営地の夜:02/06/20 04:45 ID:xwVbMEp2
「は…?」
カーフは茫然とkagamiを見つめた。
「巫大佐を筆頭とするOHP旅団の一派が、内通の証拠を掴みつつあります。
そう、『我々』の内通の証拠を」
カーフは一笑に帰そうとした、内通の証拠だって、馬鹿馬鹿しい。
私は完璧な連絡方法をとってきた、それが暴かれる筈がな…。
そんな内心の声はバラバラの書類がテーブルの上へに投げてよこされた瞬間、消し飛んだ。
「少佐、少佐はタクティクスがお好きなようで」
「…この書類はどこで入手したんだ、中尉」
カーフの怒りに満ちた静かな声をkagamiは軽くいなした。
「少佐、気に病むことはありませんよ。OHP師団の幹部面々、そのほとんどは、
諸外国との、第三勢力との内通者でもある事を確認しています。
鍵に忠誠を誓ってる馬鹿はバ鍵っ子だけで十分、そうじゃありませんか」
「中尉、それはどういう意味だ」
「スパイはスパイを知り、内通者は内通者を知るとでも表現しましょうか。
少佐、内務に動かれては互いに厄介です。その前に『処理』をしなければなりません。
手伝って頂けますよね?」
82 :
旅団長:02/06/20 08:45 ID:jV2+/onO
>>80-81 OHP師団関係が、結構おかしくない?
編成上別部隊の、OHP師団と集成旅団の指揮系統がごちゃまぜになってるような気が。
あと、「提戦隊」じゃなくて「督戦隊」ね。
83 :
鮫牙:02/06/20 12:28 ID:N+TtV+Ct
あ、書き忘れ。『崩壊』を書いたのは俺です
鮫牙氏、それから「野営地の夜」作者も、“糸冬了”書き忘れてる。
終わってるか分からないと発言しづらいから以後注意よろ。
それと、「紅茶すらいむ」は平仮名な。
誰も気にしないと思うけど一応人名だから突っ込んでおく。(w
なんだか間違ってるみたいでスマソ…
OHPは元々巫少将が牛耳っていて、巫が降格されて
旅団→師団に再編成されたものかと思ってた。
巫って、前の板だと少将なのが、こっちだと大佐になってるし。
“糸冬了”
86 :
旅団長:02/06/20 18:54 ID:iMtwfT2m
>>85 OHP師団の編成については、大戦記スレ271の設定が一度リテイクされて、311になってるよ。
で、その状態で州都防衛戦直前に編成替えが行われたという設定。
編成替えの要点としては
・OHP師団から戦車連隊、歩兵第3連隊、後方支援連隊の一部を引き抜き
新設のEREL集成旅団へ。
・自治州軍の敗残部隊もEREL集成旅団へ合流。
・OHP師団は戸越中将指揮のまま、規模を縮小してデジフェスタウンで待機中。
だから巫大佐は戸越中将の統制下でデジフェスタウン(州都から50キロ)にいることになる。
っていうか、スマソ。この設定、支援連隊の方に掲載してなかった。今からのっけます。
……で、リテイク出されます?
まともな部隊のはずなのに壊滅早すぎてちょっとアレだなぁ…
もう少し粘って欲しいもんだが。
確かにあっさりしすぎてる。
89 :
名無しさんだよもん:02/06/22 03:13 ID:XvbZBmOv
age
空き地の街(独立都市 住民は正統リーフ陣営寄り)
第1機甲騎兵大隊 基本編成(中隊単位で独自に戦闘行動を行う事を目的としているが合撃も可能)
指揮官:坂上蝉丸大佐(昇進)
中隊単位での戦闘序列
A中隊(通常編成)
戦車小隊×2、騎兵小隊×3、防空小隊×1
B中隊(戦車主体)
戦車小隊×3、騎兵小隊×2、防空小隊×1
C中隊(通常編成)
戦車小隊×2、騎兵小隊×3、防空小隊×1
D中隊(岩山陣地)
戦車小隊×1、騎兵小隊×1、防空小隊×1(アヴェンジャー、M163)、対戦車特技兵小隊×2
E中隊(補給専門、豊富な護衛戦力を用いて遊撃戦闘が可能)
騎兵小隊×4(補給)、戦車小隊×2 騎兵小隊×2(護衛)防空小隊×1
定数は戦車小隊はM1A2×4両 騎兵小隊は1両増強したタイプのM3A3×4両 防空小隊はM163バルカン×4両+M48チャパラルSAM×2
対空機関砲の有効性は皮肉な事に湾岸においてA−10等が証明・・・
大隊規模戦術(1個装甲師団と戦闘可能)から、中隊規模において、ロシア式戦車大隊との戦闘に耐えうるとされている。
大隊単位の戦闘序列
A中隊(騎兵中隊) 騎兵中心
B中隊(戦車中隊) 戦車中心
C中隊(戦車中隊) 戦車中心
D中隊(対戦車増強中隊) 岩山陣地を中心とする対戦車部隊
E中隊(補給専門騎兵中隊) 言わずと知れた戦闘補給隊
増強防空中隊(M163、M48、アヴェンジャー)
空中騎兵としてコマンチ攻撃ヘリが加わる場合がある。エア・カバーにAV-8B+が加わる場合がある。
砲兵は空き地の街より直接支援(射程30km 175ミリ自走砲16門)
91 :
演習・1:02/06/22 13:48 ID:RBlb2EfS
空き地の街自治都市所属 第1機甲騎兵大隊 A中隊 演習ブリーフィング資料
今回の状況、葉鍵回廊を突破中のロシア式増強機械化大隊(T-80U主力)が空き地の街を蹂躙すべく接近中。
敵部隊は、航空支援を受けている強力な機械化大隊である。
使用できる陸上戦闘部隊はA中隊のみ。機甲騎兵の保有する兵器の特性、敵の特性をよく理解した上で訓練に望んでもらいたい。
尚今回はハルダウン攻撃ではなく通常の機甲戦闘によっての戦闘である事を忘れてはならない。
陣地による有利な戦いではなく機甲騎兵戦闘である場合、敵Tu-160等の絨毯爆撃にさえ甚大な被害を及ぼすと見て良い。
アドバイスとしては、
カタログ・スペックではTOWU一発、120ミリAPFSDSでT−80Uが吹き飛ぶ事になっているが絶対にカタログを鵜呑みにしてはならない。
友軍部隊の状況
海上戦闘艦艇は残念ながら全て沈んでしまったと想定してもらいたい。防空用パトリオットSAM、遠野財団軍団ホークSAM、175ミリ自走砲の援護は期待できない
しかし、AV-8ハリアー攻撃機部隊は健在、コマンチ攻撃ヘリ、衛星通信の使用は可能である。
但し、今回の演習の目的はあくまでも陸上戦闘部隊による機甲戦闘であることを忘れて欲しくない。
M3A3ブラッドレイといえどもコンピューターには限界があり、突如コンピューターに示されていない敵が現れる可能性も十分に考えられる。
しかし、恐れることは何も無い、諸君にはペリスコープも目もついているのだから。
中隊における各小隊コール・サイン
第一騎兵小隊 スカウト
戦車隊 ディフェンダー 2個小隊+中隊(大隊)本部(大隊長陣頭指揮)で一つの部隊
第二騎兵小隊 レッド
第三騎兵小隊 ブル−
防空小隊 サイト
92 :
演習・2:02/06/22 13:57 ID:RBlb2EfS
現在の布陣は、第1騎兵小隊を先頭、楔体形で2個戦車小隊と中隊本部たる戦車2両、後方を固めるのは2個騎兵小隊が随伴する形である。
「3時方向、T-80!」
蝉丸の命令に従い中(大)隊長車と右翼戦車が一斉に主砲を旋回させ仮想敵に砲口を向ける。
(今回の敵役はB中隊全部、第C中隊より戦車、第E中隊より戦車、機甲騎兵が担当。破壊と判定されても何度も登場)
「ファイア!」
命令一過、見事な一斉射撃である。蝉丸率いるA中隊は戦車10両、騎兵戦闘車12両の立派な戦闘力を保持した機甲騎兵中隊である。
攻撃の手順は1両がHEAT、1両が徹甲弾という電波花畑式の機甲戦闘術である・・・HEATがリアクティブ・アーマーを吹き飛ばしそこを徹甲弾で止めを刺す確実な方法である。
尚、戦車一両でも早撃ちのできるM1A2ならばHEATの後SABOTを続けざまに浴びせるやり方も存在する。そこらへんは各指揮官の判断次第である。
「12時方向!BMP・・・」
「ファイア!」
騎兵小隊の小隊長車からの号令で25ミリ機関砲の射撃に続きTOWUが撃ち出される・・・やはり、リアクティブ・アーマーを意識した連合国の機甲戦術であった・・・
よく米国式訓練を行う場合はワン・サイドゲーム主体かと思われがちであるのであるが、次の瞬間・・・
「ディフェンダー・・・3号車被弾レーザー測距使用不能!8号車大破!脱出を報告してきています!」
「スカウト2号車ダウン!乗員は全滅した模様・・・」
スカウト小隊とは前衛たる騎兵小隊で4両のM3A3で編成されている・・・損害をこうむった際の戦闘訓練を行うのも重要事項の一つであった。
常に中隊戦力が健在とは限らないものである・・・時に故障、時に奇襲を受ける場合も考えられるからである。
93 :
演習・3:02/06/22 13:58 ID:RBlb2EfS
「スカウト1、3ファイア!」
騎兵戦闘車でT-80Uと戦うのは困難を極める・・・本来ならば25ミリ機関砲でリアクティブアーマーを破壊してからTOWU連射戦法が有効とされてきていたが
危険を伴う場合は2両1チームにおいてTOWU四連射戦法が用いられる事が増えてきていた・・・
数においては非常に不利であるが、確実にT-80Uを乗員もろとも消し飛ばす事が可能となった・・・
但し、スカウト小隊のように3両となってしまっては25ミリ機関砲をぶっ放した後にTOWUニ連射で切り抜けるしか方法が無かった・・・ミサイルの弾数の問題もある・・・
しかし、ミサイルに頼り切らず機関砲をぶっ放すという事は、25ミリHEが命中すればシュト-ラーシステムを吹っ飛ばせるかもしれないし、
APFSDFならば確実にリアクティブアーマーを吹っ飛ばせるので
悪化した状況が招く訓練は必ずしもキツイとは限らず、各隊員に対して有益な場合も多い。
「これでも十分じゃねぇ・・・」
映像で見た高槻師団前衛と、顧問団機甲騎兵中隊の戦闘場面が蝉丸の脳裏をよぎる・・・あの基地外達はもっと素早く確実な戦い方をしていた筈である。
「ホーカムッ!11時方向!MPATッ!」
この最悪な状況にも関わらずディフェンダー戦車隊左翼が対空戦闘の構えを見せる・・・息つく暇も無いとはこのことであった。
「レッド・ワン、レッドスリーダウン!レッド・ツー・テイキング・コマンド!」
だが、対空戦闘を行う前に第二騎兵小隊が大損害を受ける・・・コンピューターは無慈悲にも第二騎兵小隊が大損害を受けたと弾き出していた・・・
「エンゲージ!ホーカム・・・ファイア!」
漸く防空小隊のバルカンが射撃を開始、続いてチャパラルSAMが照準を合わせている・・・
「サイト・ツーダウン!サイト・フォー・・・やられた、脱出する!」
頼みの綱である筈のM48チャパラルが大破、M163バルカンも1両破壊されたとコンピューターが弾き出していた・・・
94 :
演習・4:02/06/22 13:59 ID:RBlb2EfS
「MPAT・アップ!」
ディフェンダー戦車隊はMPATの斉射を行うべく準備する・・・各個射撃は数秒に一発の割合で行われているが、斉射を行う事で威圧効果を狙っているのだ。
「ファイア!」
ディフェンダー戦車隊左翼120ミリ戦車砲が火を吹く・・・
「ホーカム・イズ・ヒストリー!」
皮肉な事に防空小隊の射撃より先に戦車隊の対空砲火が一機のホーカムを撃墜したと弾き出していた・・・続いて、無事な第三騎兵小隊の25ミリ機関砲の射撃が一機撃墜を記録・・・
「何やってんだ!防空小隊がキチンと働かねぇと全部お釈迦になちっまうんだぞ!」
蝉丸は内心少し焦りながら激を飛ばす・・・だが、戦車隊、騎兵小隊の頑張りは此処数ヶ月で随分とマシになってきていることをも伺わせていた。
蝉丸の激が効果あったのかどうかは別として防空小隊はその後キチンと仕事を果たし、ホーカム3機を叩き落していた・・・判定は完全な撃墜だった。
今回の演習には航空部隊は味方のみと記されていた筈であるが、米村将軍のイタズラなのかもしれない。ホーカム訳はコマンチ攻撃ヘリだった・・・
最初は機甲戦闘も知らない連中を短期間で育て上げた事も凄いことであるが、何より空き地の街民間防衛隊の士気の高さも手伝っているのかもしれない・・・
久弥将軍の居なくなった後の空き地の街は顧問団到着までは風前の灯火であったのだから・・・しかし皮肉な事に元月姫ゲリラというのも今では笑い話である・・・
タイで行われたゲリラに対する帰順呼びかけは空き地の街でも効果絶大であった・・・『過去は問わぬ、帰順せよ、そして街を守れ!』
空き地の街での戦闘は七瀬戦車大隊の手柄と鍵国は宣伝しているものの空き地の街の被害を最低限度にしたのは民間防衛隊の対戦車中隊が必死の反撃を行ったことも忘れてはならない・・・
動けぬ乾戦車隊に変わりLAW-80、AT-4、TOWUで必死に戦う姿は記憶に新しい・・・
タクティス領から鍵領へ、そして・・・久弥将軍亡き後の苦難の歴史・・・だが彼等は屈することなくその街の誇りを失わなかった・・・
95 :
演習・5:02/06/22 14:01 ID:RBlb2EfS
しかし、ゲリラ戦や渡辺茂雄の編み出した戦法による対戦車戦闘には強いが、顧問団の残した戦車、新たに送られてきたM3A3ブラッドレイのような戦闘車両にはド素人だったのである・・・
それが半年で第一線部隊と同等の戦闘レベルまでもってこれたという事はそれだけ彼等を奮起させる出来事があるほかにならない。
戦闘も大詰めを迎え、防戦から攻撃へと戦術も変更される・・・残った戦車隊、騎兵小隊による追撃戦闘に切り替わる・・・
「クリアー!」
ハリアーUの援護を受けて漸く今回の演習は終了した・・・航空奇襲に対する防御能力に関しては『海上の戦闘艦艇』が今回は全滅したと仮定しての演習であったが
海上援護の無い場合の脆弱な部分を露見する形となってしまったことは早急な対処が必要であるがマズマズの結果であると蝉丸は結論付けた・・・
と同時に、今まで少佐であった彼が大佐に昇進した事もあわせて付け加えておく。
ここでは、今回の敵役がM1A2であったからこの結果ということは理由にならない。
なぜなら敵より良い環境の敵を迎え撃つ事でより最悪の状況をも想定できるのだから。
特殊部隊上がりの蝉丸には不向きかと思われた機甲戦闘であったが適正は良い方だと言われている・・・
<終>
96 :
或る阿呆:02/06/22 14:23 ID:RBlb2EfS
と、言うわけで演習風景です。
再検討した連合国正規派遣軍の面々(まだ仮)
車長:陣内ちから(中将)
「あ、原田君?今からそっ行くヨ。Kをヤッチまわない?だってサ・・・Kが空き地の街で暴れられると茜ちゃん泣いちゃうから。」
砲手:有島裕也(少将)
「俺が守ってやる・・・見やがれ偽善者共!久弥も居ネェくせに俺達から茜まで取り上げるのか?バ鍵っ子は3等市民(囚人部隊)月姫難民は二等市民(隔離)とかほざやがる。」
「ヨーロッパ人も驚く偽善主義よはオドロキだ」
操縦手: N/A (募集中) 皮肉屋を探している状況。
偵察員:渡辺茂雄(大佐)
「んあ〜っ、ワシは生徒達を戦場へ送る為に教師になったのではない。ワシは生徒達に明るい未来を与えるべく教師となった。大義名分はもう聞きたくもない」
「そうか里村、可愛がってもらっているのか。生き方の良い悪いは里村が判断することだ。」
里村茜(少佐)「・・・嫌です。詩子、全て自分の価値観が正しいと思わないで下さい。」
大佐:茜の幼馴染(城島司?) 「俺は大きな罪を犯した。しかし、神のお告げでここにいる。」
ヨクヨク考えてみると・・・車長・砲手は元からの通り、偵察員を髭と交替すると違和感がない?
茜は突然機甲騎兵を指揮するよりもだんだん学習するなり、寄りかかりながらも自分に出来る事を少しずつ広げていく方が良いかなとか思ったり。
新しい学習指導要綱じゃないケド、生徒が学習する=茜が戦闘を体験する事により学ぶ、作戦室に顔を出す事で戦術も学ぶ・・・
社交術(交渉からはたまたベットの上でのお勉強まで)
茜の衣装はやっぱりゴスロリ服(爆)
扇屋のチカゲちゃん方式・・・だってサ国土交通もようしらんチカゲちゃんに副官が居なければ国土交通は滅茶苦茶だよ・・・恐らく。
気になること。
いたるのお気に入りキャラだった茜(外見)、瑞佳(内面)、このあたりの比較を使えないかと思っている。
いたるが美女として描かれている・・・すると米村も茜をみて妙に納得しそうだと思ったりする(汗)
次のお題?
山葉堂を巡る 鍵VS空き地の街所属特殊部隊+米村? あたりが面白そうだなと思う。
ああ、ヤッパリ俺は阿呆だ。
ところで、坂神蝉丸のキャラクタ知ってる?
と突っ込んでおく。
誰彼やらなくてもいいから、書くならせめてそのキャラクタぐらい掴もうよ……
また空き地かよ。うざ。
茜は他のキャラに比べて異常な状態で、はっきりいってうざい。
しかし、それもまたいい。
電波お花畑はお腹いっぱい。
あれだけ批判を浴びた意味がまったく分かってない。
めんてをしながら。
正直茜はもう登場して欲しくないと思う。
みていてつらいのよ。
(・∀・)イイ!!感じに腐ってきたな…
そうでもないよ
正統リーフは混乱を極めていた。
理由は簡単である。
月姫の一派、遠野の正嫡、遠野四季大佐を指導者とする『歌月十夜』師団がAF師団と共に下葉北部へ侵攻。暴虐の限りを尽くしているからだ。
彼らは指揮系統上、実際には正葉どころかエロ同人国の月姫勢力にも属さない。
資金、人員、全てがエロゲ国内から捻出されている完全なエロゲ国傀儡というべき存在だ。
しかし、名目上とは言えども師団長はエロ同人国月姫系、今現在この正葉に留まるOKSG大佐。
月姫旅団の両輪として、正葉国軍に重きをなすのは四季と同じく遠野の名を関する遠野志貴、秋葉の両大佐。
歌月十夜師団の将校たちには月姫大佐、羽居中佐、瀬尾少佐など秋葉や志貴に近しい人物が多数いる。
例えその質からして別物であろうと、係累として見られぬ道理がない。
彼らは今、近隣葉系住民や戦友たる葉系将兵の不審と敵意の中で生存を謀らざるを得ない状況に追いこまれていた。
一方、正葉の側にも問題がある。
水無月徹大将。
正葉軍事務総監。独立戦争の英雄の一人。
その彼が、RR菌保菌者の疑いを掛けられていた。
まだ疑いの段階である。
精密検査が終ったわけでもない。
しかし、RR菌の症状とそっくりな言動はすでに一部に現れていた。
第二次防衛整備計画『痕R』
新編の一個師団を編成しようというその計画は、彼らしくもなく国家体力を無視したひどく強引で現実性のない作文だった。
これでは病状に関する緘口令すら意味を持たない。
すでに計画の大まかな内容を知った一部兵や民衆の間には、英雄を喪失することへの恐怖が広がっている。
その恐怖は、『独善的』で『本質的に野蛮で残忍』な月厨による正葉領簒奪への恐怖と極めて短絡的に直結した。
今のあの飼い犬たちは、偉大な主人の力でよく躾を叩きこまれている。
だが、その主人が病に倒れた時――とかく反抗的なその飼い犬どもは、忠良な飼い犬のままで居続けるだろうか―――?
「―――まったく、あの男は!!」
怒声とともに、机を激しく打ち据える音。
叫んだ遠野秋葉大佐の髪は赤。
椅子を蹴立てて立ちあがったそのあまりの剣幕に、臨席の純白の姫君が鼻白んだ様子をみせる。
「……妹ー。横で怒鳴られるとうるさい〜」
「誰が妹ですかっ!」
……別に驚いた訳ではなく、ただわずらわしかっただけらしかった。
自らへの『誤った呼称』を聞き逃すことなくツッコミをいれてくる秋葉に対し、やや首を傾げつつ仁王立ちの上官(兼、妹)を見上げるアルクェイド。
「えー、だって志貴はわたしのだから、妹は妹だし」
「勝手に人の兄の所有権を主張しないでくださいっ!」
すでに秋葉も馴れたもので、発言即否定である。
鍵自治州の水瀬明子大佐並に反応速度が上がりつつある、とは両者と面識のある柏木耕一大佐の評だ――もちろん、秋葉自身はそんな評が立っているとは微塵も知らないのだけれど。
「それに、私的な立場ならいざ知らず、公的な場では職位というものを弁えてですね……!」
「むー、じゃぁ妹もきちんと義姉に対して礼儀を示して欲しいなー」
『誰が誰の義姉ですかっ!!』
最後は秋葉大佐とシエル少佐の同時ツッコミである。
「……どうすればいいんだ」
どこかで聞いたような台詞を呟き、頭を抱えて机に突っ伏すのは志貴大佐。
「……嬉しい災難だな、大佐殿?」
苦笑とも嘲笑ともつかない微妙な笑い口許に湛え、眼鏡の青年をミハイル・ロア・バルダムヨォン中佐と言う。
「この状況が嬉しいか否かは、この場合当人の主観的立場に立脚して考えるべきだと思うのだが」
そのロア中佐の盟友たるネロ・カオス中佐は、周囲の状況をさほど気にも留めていないようだった。
二人とも元より他者とは致命的に感覚のズレた、神官や学者階級出身の将校である。
薄情にも、わずかばかりも事態収拾への意欲を見せずに傍観者の立場に回った二人の部下を恨めしげに一瞥し、志貴大佐は再び机に突っ伏した。
とりあえず、この嵐に積極的に首を突っ込むと怪我をするのは自分だけ。
これまで幾度となく積み重ねてきた、実験と失敗(と命の危機)からの学習の結果による選択だった。
極めて賢明な判断である。
さらに、嵐が向こうから避難先にまで押し掛けてきて、結局自分は大怪我せざるを得ないという運命を予期し、許容さえしている諦観ぶりはさすがは月随一の名将と呼ぶに相応しい……のだろうか?
もっとも、今回は幸いにして、そんな宿命が彼に振りかかることはなかった。
コホン、と一つ咳払い。
何故か、それは室内に良く通った。
騒いでいた連中も含め、室内にいる月姫軍幹部全員の注目がドアへと向けられる。
そしてすぐさま立ちあがり、
「気をつけ! 旅団長閣下に、敬礼!」
志貴大佐の号令が響き渡る。
「皆、揃ってるね」
十数人からの月姫系将校の敬礼を受け、武内崇大佐と琥珀大佐を従えた奈須きのこ少将は、やや面持ちを強張らせて頷いた。
武内大佐が周囲を窺がうようにしてドアを閉めるのを確認してから、彼はおもむろに一同に告げる。
「では会議をはじめよう。
さまよえる月の民、我々はまだ神の許しを求めてあてどない航海を続けるのか。
それともその生死を賭けても、今はまだこの土地あの友人たちに安息の夢を託すのか。
……指導部だけでは決められない。皆の意見を聞きたい」
<糸冬>
以上、投稿しますた。
四分五裂して揺れる月姫、彼らの航海のあてどはお任せですw
109 :
旅団長:02/06/23 06:40 ID:8vFJ4fXy
SS収録担当から諮問。
今のところ
>>77-79「崩壊」
>>80-81「野営地の夜」
>>91-95「演習」
の3作に疑問符がついていますけど、NG出しますか?
それともNG出さずにこのまま続行しますか?
個人的には、明らかに今までの設定と矛盾する「野営地の夜」はNG、
他の2つはみなさまの判断待ちと考えていますが。
110 :
崩壊:02/06/23 08:47 ID:/d3Spax3
だって、敵は砲兵連隊所有してんだから、限定的な打撃を与えても報復反撃
であらかた、食われると思ったんだもん。今続きを書いてますけど、一応書き
終わったら投下しますんで、まあNGならそれを含めてってことで。
めんてめんてめんて
演習もNGにしてくれ。茜厨にはうんざりだ。
作品投稿したら、レスリンク貼ったりしてageるようにしたらいいと思うんだけど。
114 :
日雇い:02/06/23 20:48 ID:8FSv9Wq0
砲撃下での撤退くらい出来ないで何のための装甲車両だよ。
掩体無い状況下で砲撃食らったら普通逃げるし、直撃は仕方ないにしろその際の弾片避けるための装甲だろう?
大体森一つ消し飛ばす砲撃って一体何十分かかるか知れたもんじゃないぞ。カチューシャならともかく、だ。
>大体森一つ消し飛ばす砲撃って一体何十分かかるか知れたもんじゃないぞ。カチューシャならともかく、だ。
ウーラガンやらスマーチならともかく、撃ってたの普通の自走砲だったしねぇ。
というか、個人的には支援可能な位置に陣取ってたはずの通天閣騎兵隊は何処?という疑問が。
どっかで下川派のヘリ戦力と撃ちあいにでもなったか?
話はまったく変わるが、最近横行している単純な顧問団叩きには反対するぞ。
きっかけ作った
>>97の苦情を撤回するつもりはないが、今のはあまりに低質過ぎ。
ウザイだけじゃ批判にもならんて。
116 :
鮫牙:02/06/23 21:20 ID:+gwsPtNk
ううごもっとも。自分の無知さが恥ずかしいです。
ではNGって事で。
117 :
日雇い:02/06/23 21:42 ID:8FSv9Wq0
>鮫牙氏
無知は恥ではないしあんたが書かなくなるとスレが停滞しちまう。
リテイクでがんがれ。
あのな、リレーなんだから出てきたモノにケチつける前に自分で書けよ。
こちとら後の書き手(特に(以下略 )に設定シカトされた上で続けられて
もその後自分でフォローしてんだからよ(w
だから、茜に出て欲しくないと思うなら、皆が納得しやすい形で
茜にご退場いただくようなモノを書きゃいいんだよ。わかった?
ま、だからといって殺すと文句が出そうだけどな(w
120 :
或る阿呆:02/06/24 00:08 ID:DF0XVoAI
全くスマソ、阿呆は阿呆であり阿呆でしかないから阿呆な事を書く。
味方が
>>99殿しか居ないようであり、
>>101殿の叫び声を聞きまして、茜抜きの第二案(仮)を
特に
>>97殿の指摘はまったくもってすいませんでした・・・
>>112 スマン・・・
茜抜きならば・・・まだ逆上陸の段階ではないので報告書は笑い飛ばされ、大佐は召還、戦術指導も全て完了したから物資援助のみに切り替える・・・
いわゆる『ベトナム化』政策をコケにしたのはだうでしゃう?
空き地の街に武器、弾薬、医薬品、食料は大量に送るし金が無ければ金を送る。
米国式だから最後までまで米国式・・・(汗)
1、現在の超政権を母体としたそのままの体制を維持する+少しだけ継ぎ足す。
機甲騎兵大隊の指揮官には、渡辺茂雄を投入?
対戦車戦闘強いからそのまま機甲騎兵でもOKかと・・・
坂上蝉丸、岩切花枝:強化兵は特殊作戦向きとのことでそのまま特殊部隊へ
米村高広・・・航空部隊、防空部隊を指揮。
ハリア−、(増強予定)パトリオットSAM、防空指揮所は揚陸艦艇?
超先生・・・政権担当。交渉の窓口?
2、電波花畑連合国・・・かつて存在した基地外達程度であり、戦術、武器弾薬辺りの存在として既に過去のものであるということにする。
顧問からの戦術は既に習得済みというのは如何なものか?
パイロット、水兵は連合国で短期間に訓練を受けた為自前とか・・・実戦さながらの演習を行っていれば短期間でも戦闘は可能か?
以後茜の話は出てこない筈。
基地外ではなくまともな状況にすれば阿呆が書かずともまともな書き手さんにつなげられるかとも思う。
121 :
或る阿呆:02/06/24 00:21 ID:DF0XVoAI
>>116 鮫牙殿
良い作品を多々出されていますゆえ、頑張ってください。
森の部分と第三、第六中隊との連絡切れが通信隊に直撃弾を受けた等、レオパルド、スエーデン戦車の残数は指揮系統の混乱で数の把握が間違っていた等としてはどうでしょう?
これならNGにはならないかも・・・と出過ぎた真似を失礼しました。
>>118-119 スマソ・・・いっそのことNGにしてしまえばOKかもしれませんね・・・
そうすれば空き地の街を再編成する際に新しい書き手さんの自由な再編成が出来そうですから・・・
冷静に考えてみると『演習』をNGにすると話が通るような気がしてきた・・・(汗)
『演習』NGで俺が消滅すればヤッパリつじつまが合う・・・引っ掻き回してすいません。
>>121 別に謝ることじゃないと思うが。
それにNG云々が話題になるってのは、まだこのスレ住人の許容範囲だってこと
だから、そう気にしなくてもいいと思うぞ。
陸軍スレの頃の黒歴史、シェンムーの細菌兵器使用の描写に係る混乱の際は
もっと酷かった。シェンムーが首都で細菌兵器を使う(wような設定で話が進んで
いたのに、いざ使ったっていうモノが現れた途端、「嫌だ」「気に入らない」とかで
勝手に無かったことにした挙げ句に、変な設定(中上が細菌入りミサイルを無効
化する工作を事前にしちゃってました、と(w )にすり替えていた。
あれこそが最悪のパターン、ホンマもんのNG(と住民が考えるもの)は瞬殺という
のがこのスレの流儀だから、それに至っていない今回の件は全く気に病む必要は
ないと思うよ(w
123 :
旅団長:02/06/24 06:46 ID:+N1Rm5WA
124 :
旅団長:02/06/24 06:49 ID:+N1Rm5WA
125 :
鮫牙:02/06/24 19:10 ID:pxxF/Ap3
ありがとうございます。ところで私もようやく「うたわれるもの」プレイしましたが
あの双子の弓兵萌えって旅団長まさか…。
>125
関係無い話は余所でどうぞ。
しかしOTOMATIC壊れなかったか…
ここでいきなり切り札失って旅団長大慌て、と言うのも
見てみたかったかな(w
ま、文才の無いオイラは大人しく観客として楽しませて貰いますよ。
バ鍵っ子たちが完全に潰走状態に入ったことを確認した先鋒大隊長は、全隊にタケダタウン
までの追撃を命じた。
このとき、第1RR装甲師団“ライプスタンダルテ・シモカワ・ナオヤー(LSN)”は、
時計回りで北西方向から州都を衝く機動を見せていた。タケダタウンはちょうどその
進撃路上に位置する町であり、州都との位置関係から言って、師団司令部を進出させるのに
絶好のポイントだった。バ鍵っ子に逃げ込まれて防備を固められたら、対処可能ではあるが
あまり面白くない事態になる。
大隊長車として幾分か手を加えたT90の中で、先鋒大隊長は矢継ぎ早に指示を出していた。
とはいえ、もうすでに「狩る」だけの段階となっているので、さほど頭を悩ます必要はない。
各隊が突出しすぎないように注意していれば、大抵の事態にはすぐに対処できる。
大隊を全隊としてタケダタウンへと指向させつつ、大隊長は進路右側の森を車長用の
モニタースクリーンに映し出した。先ほど地図で確認してから、何とはなしに気になって
いたのだ。確かに、街道上の目標に伏撃をかけるにはいい地点ではある。
「……気に入らんな」
まだこの段階で伏撃をかけられるとは、彼も思っていない。タケダタウン付近でかけた方が、
包囲殲滅には都合がいいからだ。しかし、妙に嫌な感じがする。
念のため、あの森を叩いてみるか――大隊長がそう決断した。無線で先陣の戦車中隊を
呼び出し、森を叩くよう命令する。やや突出気味の中隊だったから、足並みをそろえるのにも
好都合だった。
「さて、吉と出るか凶と出るか……」
中隊が一部のT90を割いて森の方に向かわせるのを眺めつつ、大隊長はぽつりと呟く。
森の中に変化が生じたのは、その時だった。
突如として、森の木陰に閃光が走る。彼が今まで何度も眼にしてきた、砲撃の兆候だった。
「ちっ! 本当にいやがった!」
軽く舌打ちして、森への総攻撃を命令しかけて――彼の思考は停止した。
先頭に立って接近していたT90の砲塔部分に敵砲弾が命中し、複合装甲がそれを軽々と跳ね返す。
そこまでは彼も見慣れたものだった。だが、次の瞬間またもや同じ場所に砲弾を叩き込まれた。
そして、少し遅めの機関銃弾並の間隔で砲弾が襲いかかってくる。ハンマーで乱打される
ような感じで多数の砲弾を浴びたT90は、それっきり動かなくなった。おそらく、
同じ箇所に複数の砲弾が命中し、そこから貫通を許してしまったのだろう。いくら強靱な
複合装甲を誇るT90でも、同じ箇所への被弾が続けば種々の装甲が劣化し、小口径弾でも
貫通されてしまう。
先鋒大隊の全員が呆気にとられているうちに、第二撃が来た。今度もT90に対して、
信じられないほどの短い間隔で砲弾が叩き付けらる。どういった力が働いたのか、
ターレットが車体から吹き飛んで空中数メートルの高さまで跳ね上がり、そして
クルクルと回転しながら味方のど真ん中に落下していった。一瞬後、砲身に
装填されていた砲弾が炸裂し、砲塔内部を完全に破壊する。
「そんな……莫迦な……」
機関銃並みの速さで発射される対戦車砲弾。そんな陸上兵器が存在するなど、
大隊長には信じられなかった。少なくとも彼の常識では、砲弾とは数秒間隔で
飛来するものであって、機関銃とタメを張るような間隔で襲って来るものではない。
『大隊長!』
とんどもない厄災に見舞われている戦車中隊の隣にいる機械化歩兵中隊から、
中隊長が悲鳴混じりで連絡を入れてきた。
『鍵っ子の持ち出してきたの、ありゃ速射砲です!』
「速射砲!?」
『以前、上陸戦演習で見たんです! 確か、海軍で使ってる艦載速射砲が発射速度こそ
違いますが似たような……』
黒マルチ艦隊所属の改キーロフ級巡洋戦艦“7月26日”が搭載する130mm砲のことを
言っている。ちなみにこの130mm砲は、下葉軍の通例でオリジナルに改良の手が入っている。
「莫迦言え! ここから一番近い海岸まで何百キロあると思ってる!?
第一鍵は海軍を持ってないぞ! 河川舟艇だって先の戦闘で壊滅してる!」
『そんなこと言われても……』
彼らが会話をしていたほんの僅かの間に、更に3両のT90と2両のBMP-3が血祭りに
上げられていた。いずれも、多数の砲弾を一気に浴びて沈黙している。BMP-3に至っては、
原形を留めぬまでに破壊されていた。このころになると、通常の戦車砲や対戦車ミサイルに
よるものと思わしき攻撃も混じりだしている。
「……全隊に命令! 一旦、敵兵器の射程外まで後退! 稜線の陰に隠れろ!」
これが、通常の伏撃だったら、あるいは追撃戦故の気のゆるみがなかったら、
大隊長も退却はしなかっただろう。大隊の一部を割いて迂回挟撃をかけるくらいの命令は
咄嗟に出していたはずだ。だが、優位を確信していた最中にあまりに非現実的な攻撃を受けて、
うろが来てしまった。
「師団司令部に連絡! “ホーカム”の支援を要請する!」
そう判断できただけでも良しとしなければなるまい。
『砲兵支援は!?』
先ほどの中隊長が尋ねてくる。
「莫迦言え! 気象データもなしにドカスカ撃たれたら、こっちまで吹き飛んじまう!
とりあえずはホーカム! 砲兵支援はその後データが揃ってからだ!」
「ひぃ、ふぅ、みぃ……戦車12、装甲車8か。予想以上に稼げたな」
フェネックの中で、紅茶すらいむは上機嫌で頷いた。このうち、OTOMATICだけで戦車7、
装甲車4のスコアを叩き出している。こちらは、向こうが当てずっぽうに撃った
125mm砲弾が運悪く命中してレオパルド1A5が1両とBTR60が2両がやられている。
まずは大成功といって良かった。
「目的も達したし、怖い怖いホーカムお姉ちゃんが出てこないうちに退かせてもらうか
――歩兵連隊の連中はどうした?」
「街道上を一目散、ですな。放っといても逃げ切れるでしょう。もっとも、
そのまま脱走兵になりかねませんが」
「そこまでは責任持てん」
苦笑いする紅茶すらいむに通信が入ったのは、その時だった。
「はい、紅茶すらいむ中佐」
『督戦隊、kagami中尉。あまり報告したくはないんですが、一応報告』
なにやら不機嫌そうな声でkagamiは告げた。
『柳葉連隊長、まだハイエキ丘陵に陣取ってますが、捨て置いていいですね?』
「……何?」
『連隊本部付中隊が、まだしんがりで残ってるんですよ。どうします?』
「……おい、丘陵をモニターに出せ!」
傍らの操作要員が、慌てて各種モニター装置を搭載した伸縮マストを操作した。
CCDビデオカメラ等を取り付けたマストが車体上部から高く伸び、丘陵方面へ焦点を合わせる。
「……あれか」
確かに、丘陵上で四方八方を取り囲まれた部隊が見える。撤退した敵先鋒大隊の一部が、
行きがけの駄賃とばかりに攻撃を加えているようだった。森からはギリギリ稜線に隠れる
位置で包囲している。
「あれが、本当にギバちゃんなのか?」
『さっき、敗走中のバ鍵っ子数名に尋ねました。間違いないでしょう』
どういう手段で「尋ねた」のかは、敢えて聞かないことにした。
「何で逃げなかったんだ、あの莫迦……」
呻きながら、紅茶すらいむはさっとモニター類に目を走らせた。
まだ余裕は多少あるから、撤退を支援してやるべきか……いや駄目だ。稜線が邪魔をして、
効率的に敵を叩けない。解囲は無理だ……いや、こっちが街道上に出て
一斉射撃を喰らわせれば……おい待て! 俺は一体何を考えている!?
思わずはっと我に返ると、紅茶すらいむは慌てて頭を振った。考えるまでもない、
作戦の目的に照らせば、柳葉は見捨てるべきなのだ。そう、その点に疑問はない。
だが、彼にはその割り切りを付ける決心ができなかった。誰が見ても救いようのないバ鍵っ子。
だが、彼にとっては……
ひときわ大きなため息をつくと、紅茶すらいむはある種達観した表情でマイクを握った。
「これより大隊は歩兵連隊残存兵力の撤退を支援、これを完了した後に撤収する。
対空特務隊は直ちに速射砲弾を補充せよ。kagami中尉は対象と接触し、撤退を誘導」
『まぁ、中佐なら多分そうおっしゃるだろうとは思ってましたが……』
心底呆れたという風にkagamiが答える。
『中佐、あなた自分がどんな愚かな命令を下したか、わかってますか?』
「理解はしているつもりだ」
『なら、なぜとっとと逃げないんですか! もう既に所定の目的は達しています。
これ以上ここにとどまれば、敵も正気を取り戻して、受けなくても良い反撃を
喰らうでしょう。いや、それどころかホーカムまで寄ってくるかもしれない。だいたい、
旅団長は最初から柳葉を見殺しにする気だったじゃないですか』
「確かに、旅団長はそのつもりだろう。しかし私は違う。懲罰大隊なら確かに考えるが、
私は柳葉大佐を救えるとわかってなおも見殺しにする気はない」
『それは、下らんヒロイズムですな。柳葉が生き残ったところで、戦局には何ら寄与しない』
「いや、柳葉大佐を救出すれば、囚人兵以外の比較的穏健な鍵っ子歩兵の感情が軟化する。
無駄ではない」
『たったそれだけのために大隊を壊滅の危機にさらすのですか? 莫迦らしい』
「そう判断したければ、そう思うがいい。ただ、私には勝算がある。確かにこちらの戦車には
限りがあるが、OTOMATICを全力発揮させるなら、一時的には優位に立てる。中尉が手際よく
柳葉大佐を誘導してきてくれるなら、そう時間もかけずに全てが終わるはずだ」
数秒の沈黙の後、無線機から呆れの度合いを更に増した声が聞こえてきた。
『何度でも言いますよ、紅茶すらいむ中佐。あんたは莫迦だ、莫迦だ莫迦だ莫迦だ莫迦だ、
莫迦でお人好しでくだらないヒロイズムに毒されたどうしようもない莫迦だ!』
そこまで一気に言って――ふぅ、とkagamiはため息をついた。
『そして、私はそれに輪をかけた大莫迦野郎ですな――kagami中尉、これより柳葉大佐の救出に
向かいます。あぁ畜生!』
森から姿を現した大隊戦闘団は、丘陵上の包囲部隊を攻撃できる街道付近まで進出すると、
歩兵連隊が遺棄していったBTR60を遮蔽物にして次々と砲撃を開始した。陣容としては、
防御力をそれなりに期待できるレオパルド1A5、Sタンク、T68J3を前に出し、その後方に
カノーネを、遠く離してOTOMATICと護衛のBTR60を置く形をとった(OTOMATICの最大射程は16キロ)。
やはりここでも、高性能射撃統制装置の加護を受けた76mm速射砲が猛威をふるった。
後ろから不意をつかれた形となった包囲部隊は、装甲車両が次々に血祭りに上げられていく。
歩兵部隊に対しては、105mm戦車砲弾が死に神として降り注ぐ。
だが、彼らも下葉軍最精鋭と謳われるRR装甲軍の一員だった。
「あれか……あれが怪物の正体か!」
稜線の影に隠れた偵察部隊からの転送画像を確認して、先鋒大隊長は歯噛みした。
モニターに、かなり小さくOTOMATICの姿が映っている。
「数自体は多くないな。怪物は1両、戦車も中隊程度か」
勝てるな。大隊長は即断した。敵の実体が見えたことで、冷静さをかなり取り戻している。
稜線を遮蔽物として、あの怪物に身を晒さないように注意深く射撃していけば、
前衛の戦車は何とか潰せる。怪物にかなり喰われたとはいえ、まだ戦車の数ならこちらが
倍近く持っている。それに、あの怪物もそのうち弾切れするはずだ。
『師団司令部から連絡。ホーカムによる支援を承諾! 現在中隊16機全機が急行中!』
レシーバーから朗報を告げる声が聞こえたのは、稜線沿いに展開したT90が
猛烈な砲撃を加え始めた時だった。大隊長の表情に、凶悪な笑みが浮かぶ。
「さぁて、この恨み、利子を付けて返してやる!」
「チャンス到来、と言いたいところだが……」
はにお少佐はそう嘆きつつ、肩に背負った柳葉がずり落ちないように抱え直した。
包囲部隊が崩れた隙を見逃さず、はにおは残存の中隊全力(そのころには1個小隊程度
にまで撃ち減らされていたが)をもっとも混乱した一角に叩き付けて脱出をはかった。
ちなみに、柳葉はこの段階ですでに失神していた。つくづく軍人に向いていない。
脱出自体は何とか成功したものの、すぐさま敵の追撃に絡め取られしまったのは
誤算だった。なんとか、手近な森(大隊戦闘団が潜んでいたのとは別の森だった)に
逃げ込むことはできたが、すでに中隊残存兵はちりぢりになっていた。今はにおの周囲には、
3人の歩兵が付き従っているだけにすぎない。
どうやってここから逃げようか、そう思案を巡らしかけたときだった。
「何でくたばってくれなかったんですか、あんたら」
何の前触れもなく、背後から声が聞こえてきた。思わず柳葉を取り落としかけた
はにおが振り向いたその先に、日雇いとヌワンギを従えたkagamiが立っていた。
「苦虫を噛みつぶしたよう」という表現の絶好の典型、といった表情ではにおたちを
見つめている。
「紅茶すらいむに恩義があるからといって、何でまた私は……」
そう首を振って、kagamiは冷たい視線を彼らに放つと、慇懃無礼な口調で恭しく一礼した。
「全くもって不本意ですが、あなた方をお迎えに参上しました。それでは、
kagamiエクスプレス旅団司令部行きへ、どうぞご乗車ください。なお、命の保証は
いたしかねますので、できるだけお静かに」
『柳葉連隊長救出、これより独自に脱出する』
kagamiからの待ちわびた一報を受けて、紅茶すらいむは全隊退却の命令を発した。しかし――
「やっぱり、無理があったか」
フェネックの中で、紅茶すらいむはほぞを噛んでいた。
それなりに善戦した、とは思う。包囲部隊を散らした後は、こちらも緩やかな起伏を
もつ地形を最大限に活用して、派手に戦術機動を展開し続けた。OTOMATICの遠距離射撃も、
精度こそ低下したものの弾幕の役割を果たしてくれた。
しかし敵大隊も稜線を活用した攻撃に長けており、結局戦車を6両も撃破されてしまった。
今残っているのはレオパルド1A5が1両、Sタンクが2両、T68J3が1両。あとは後方にいる
カノーネとBTR60とOTOMATIC。こちらもそれに数倍する装甲車両を葬り去ったものの、
兵力の絶対数で劣る旅団にとってみれば、決して望ましい事態ではない。
そして、その戦果の大半を稼ぎ出した無敵の守護神も、すでにその力を失っている。
OTOMATICが弾切れに陥っていたのだ。一応10発ほど予備で残っているが、これは
万が一のための対空砲弾だった。これでは装甲車を2、3両撃破するだけで終わってしまう。
もっとも難しい局面である撤退戦においては、何ら役に立たない存在でしかない。
当初予測していたよりも、遙かに砲弾消費量が多かったことが響いている。
おそらく、今ここで撤退しても敵大隊の追撃を受けて――そして本当の終わりだ。
後方の対空特務隊ならば距離が離れているから逃げ切れるだろうが
(何しろアレはイタリア製だ)、俺たちはだめだ。たった4両では、あっという間に
揉み潰されてしまう。ああ、俺もアリエテやチェンタウロを装備していれば逃げ切れたか?
イタリア製兵器に対する密かな偏見と悲観的観測に支配されつつある紅茶すらいむに、
カーフがさらに追い打ちをかける通信を入れてきた。
『中佐、レーダーに感。西方より飛行物体約20が接近中。どう考えてもホーカムお姉ちゃんだな』
OTOMATICにはヘリ識別機能付きの対空レーダーが完備されている。
「万事休す、か」
穏やかに呟いて、彼は首を振った。やはり、自分が甘かったのか……
「カーフ少佐、君は残存を率いて全速力で後退しろ。私はここで……」
『あきらめるのはまだ早いんじゃないか、紅茶すらいむ中佐?』
突然、女性の声で通信に割り込みがかかった。
「誰だ、あんた?」
『真打ち登場だというのにずいぶんな挨拶だな』
苦笑を通信に乗せて、その相手は楽しげに自己紹介した。
『AIR航空隊通天閣騎兵隊長、霧島聖中佐だ。遅れてすまなかった。すまんついでに
あと3分保たせてくれ。現在そちらへ全速で急行中!』
『おお、確かにこちらでも感あり。グラツィエ、聖先生』
霧島姉妹と多少の面識があるカーフが嬉しげに補足する。紅茶すらいむは、自分の緊張が
一気に解けるのを実感した。人目がなかったら柳葉のようにへたり込みたいところだ。
「感謝する、霧島中佐。今こっちはホーカムお姉ちゃんに押し倒されそうで、どうやって振ろうか
困ってたんだ。対空特務隊のデータをリンクで送るから、よろしく頼む」
『ふふ、女性の誘いを無下に扱うのは感心しないな――まぁいい、了解した中佐。
通天閣騎兵隊の実力、しっかりとその目に焼き付けてくれ!』
136 :
旅団長:02/06/24 21:05 ID:mvWgQzoM
>>127-135「騎兵隊」投下完了です。一応、書きかけだったネタ+αでやってみますた。
ちなみに、ギバちゃん救出を決意する時のふたりの会話は、鈴木輝一郎『首都誘拐』が元ネタ。
>>126 自分の腹案でもいずれ破壊されるけど、もうちょっともたせてや(w
なんつか、何をおいてもまず、さりげなく仕込まれている
『そんなこと言われても……』にワラてしまたw
どうすればいいんだ。
今日は6月26日なのでめんて?
もっかいメンテ。
ひろゆき敗訴祭りはよ終らんかのぅ。
補修。
141 :
旅団長:02/06/29 01:09 ID:CpkwEFFQ
だーはら大先生、下級生2のシナリオを書くのか……
正葉のネタが増えるのは喜ばしかったり(w
142 :
鮫牙:02/06/29 06:22 ID:VE06dXiO
エルフ軍に寝返りか…。正統リーフもう駄目っぽ
ものみの丘の外れにあるAIR航空隊基地。その司令部は丘陵を掘削して作られた巨大な
ブンカーの中に設えられている。工事担当企業の宣伝文句に従えば『メガトン級反応弾の
直撃にも耐えられる』とのことであったが、果たしてどうであろうか? もっとも、
このブンカーが自治州最高指導部の緊急避難所として指定されていたという事実と
照らし合わせると、少なくともその宣伝文句が信じられていたことは間違いない。
今、そのブンカーの主要区画である統合防空指揮所の司令席に陣取った神尾晴子大佐は、
非常に上機嫌で矢継ぎ早の指示を出していた。無理もない。鍵自治州領本土決戦開始以来
はじめての積極出撃である、通天閣騎兵隊の出撃が進行中なのだ。ウィリアム・ハルゼー並の
積極型指揮官である晴子が、この状況を楽しまないわけがなかった。もっとも、
本来なら自らヴァルキリーで出撃したかったところだが。
そんな晴子は、先ほどから正面の壁面一杯に設置された大型スクリーンを楽しげに
眺めている。自治州総軍防空識別圏の航空情報をいちどきに表示する巨大表示板だった。
スクリーン右端から中央部――空き地の町近辺から葉鍵中央回廊にいたるあたりは、
飛行中の機体を示す光点はほとんどなかった。空き地の町戦役終了後、その空域は
つかの間の平穏を楽しんでいた。時折、通告のあった正統リーフ軍所属機が哨戒飛行を
行っているのみである。
スクリーン上端部――北部国境地帯も、やや光点は多いものの比較的平穏だった。
ただし、レーダーサイトが過去にいくつか破壊されたままなので、ところどころが黒く
消灯したままになっている。内戦勃発後、地理的に近いちぇりー師団やライアー師団が
戦術偵察機の出撃回数を増やしてはいたが、さほど緊迫した事態にはなっていない。
エロゲ国で広く使われているRF-4E“ファントム”戦術偵察機相手に、こちらも
スクランブル機で「丁重にお迎え」していた。時たまちぇりー師団の“経国”や
ライアー師団の“ラビ/殲撃10型”といった戦闘機が出張ってくることもあったが、
大事には至っていない。
そして、残りの部分――自治州中央部から南方先端部にかけてが、光点も密集している
「主戦場」だった。
密集した光点は、その色と形によって大きく4つのグループに分かれる。
飛行機を象った赤いマークは、下葉防空軍をはじめとする敵航空部隊。こちらは
中央部からすでにRR装甲軍が占領した南方先端部にかけて制空戦闘に動いている。
数は少なく約30機。画面左端にはさらに同程度の光点が存在しているのだが、
これはロイハイト地方に侵攻したAF・月姫合同軍を叩くための航空戦力で、
当面こちらには影響しない。
同じく飛行機を象った青いマークは、AIR航空隊をはじめとする味方航空部隊。
これは現在、中央部全域で防空戦闘を展開している。数はこちらもそう多くはなく、
20機を超えていない。
そして今日は、昨日までなかった2種類の光点が出現していた。
ヘリを象った赤いマークはRR装甲軍の攻撃ヘリ、Ka-50“ホーカム”。これはさらに
2つの集団に分かれ、1つは州都東方のやや離れた空域に展開していた。位置関係から
言って、第13RR装甲師団“ヨーク”の師団飛行隊と思われた。もうひとつは
州都西北方近傍に出現しており、第1RR装甲師団“LSN”の師団飛行隊と推測できる。
そして最後の、ヘリを象った青いマーク。これは言うまでもなく、通天閣騎兵隊の
ユーロコプターPAH-2“タイガー”攻撃ヘリだった。これも2つの集団に分かれ、
霧島聖中佐直率の第1中隊はLSN飛行隊の方へ、第2中隊はヨーク飛行隊の方へ突進している。
両者とも、あと数分で接触する頃合いだった。
『ドクターよりニンギョ。旅団隷下の紅茶すらいむカンプフグルッペと連携成功。
データリンクを受けた。これより攻撃を開始する』
「ニンギョよりドクター。遠慮はいらんで先生! ど派手にいてこましたれ!」
ものすごく嬉しそうに命令を下す晴子を見て、傍らの副司令・橘敬介中佐は何とも
言えない表情になった。脳裏で密かに、珍走団の格好をさせてみる。
――似合いすぎていた。
地を這うような飛行――ナップ・オン・ジ・アースで西方へ突進する通天閣騎兵隊
第1中隊。その16機のタイガーの指揮官機ガンナー席では、聖が表情を変えずに
じっと前方を見つめていた。
普段は不敵な笑みを浮かべるなど余裕綽々な態度で陣頭指揮を執る聖だが、さすがに
今回はその余裕が失われていた。今までの月姫ゲリラやエロゲ国各軍閥のような、
装甲戦力を小出しにする相手との戦闘とは訳が違う。今回は、装甲部隊の集中運用を
遠慮なく行う、そして間違いなく新大陸最強のRR装甲軍が相手なのだ。
聖はモニターに視線を合わせた。彼我の各部隊の位置関係を瞬時に読みとる。
ちょうどいい頃合いだった。
「中隊全機に指令、高度を上げろ! 目標をロックオン次第、全弾発射!
その後は各自、対空車両に留意しつつホーカムを撃破! かかれ!」
彼女の声に忠実に従い、16匹の猛虎は一斉に雄叫びを挙げた。
「――東方に通天閣騎兵隊を視認!」
モニター要員の叫びに、紅茶すらいむも叫び声で返した。
「全車、全速後進! 照準は適当でいいから、派手にぶっ放しつつとっととづらかれ!」
4両の戦車が猛然とキャタピラを唸らせ、派手に土煙を上げつつ退却にかかった。
それを確認した紅茶すらいむも、自分の乗るフェネックに退却の指示を出した。こちらは
タイヤを唸らせ慎重に遮蔽物を選びつつ逃走する。
ジグザグに駆け回りながら必死に逃走を図る彼らの頭上を、「メスを投げるよう」に
飛翔するスティンガー対空ミサイルとトライガット対戦車ミサイルの一群が過ぎ去っていった。
『敵、退却開始』
「今更遅いわ! 追撃開始! 1両残らず狩れ――」
先鋒大隊長はそう言いかけて、モニターが映し出した光景に言葉を失った。不意に――
としか言いようのないタイミングで攻撃ヘリが出現し、一斉にミサイルを放ってきたのだ。
その標的は、言うまでもなく自分たちだった。
滝のような勢いで血の気が引いていくの実感しながら、大隊長は殆ど絶叫するような
調子で命令した。
「敵機飛来! 全車散開しろ! 急げ!」
だが、ミサイルにとっては殆どゼロ距離から攻撃された彼らに、対処する時間など
残されてはいなかった。運良く遮蔽物に身を隠しトライガットのシーカーから逃れられた
車両も存在したが、多くのT90やBMP-3がこの新型対戦車ミサイルにロックオンされてしまった。
殆ど同時としか知覚できないほどの間に、次々と命中していく。大隊には2S6M“ツングースカ”も
配備されていたのだが、レーダー上で突然出現した通天閣騎兵隊に、対処する暇を
与えられなかった。自慢の対空兵装が火を噴く前に、トライガットの餌食にされていく。
「AIR航空隊は積極出撃してこない」という思いこみの過ちを、彼らは身をもって体験する
羽目になった。
大隊長車も、その中で激しい衝撃に見舞われた。モニターに額から突っ込んで激しく
流血しながらも、大隊長は直撃はしていないなと冷静に判断していた。痛みが恐怖を
一時的に緩和したのかもしれない。
実際、大隊長車は直撃を免れていた。トライガットの姿勢制御装置に微妙な誤差があり、
それが土壇場で影響したのだ。しかし、至近弾となったおかげで、覆帯を千切る程度の
効果は発揮していた。
幸い、第二撃はやってこなかった。額の傷口を左手で押さえながら、大隊長は無線で
被害状況の確認にかかる。
「残存車両、T90が4両、BMP-3が3両……だけだと?」
大隊長の身体が、痛み以外の感情でワナワナと震える。降車展開していた歩兵こそ
殆ど無傷だったとはいえ、これで大隊装甲戦力は実質的に消滅してしまった。
いくら敵戦車の過半を撃破したとはいえ、これでは誰がなんと言おうが敗北でしかない。
「……畜生っ! 畜生っ! 畜生っ! はめられた! 俺たちは鍵っ子にはめられたんだっ!」
こみ上げてくる激情を自分でも制御できなくなって、彼は拳を壊れたモニターに叩き付けた。
いくつもの破片が拳に突き刺さり、真っ赤な血が勢いよく吹き出てくる。
『だ、大隊長! どうされたんですか』
運良く生き残った中隊長の一人が、慌てて通信を入れてきた。無線機のスイッチが
入ったままだったことに、彼自身ようやく気づいた。
「わからんのか! 奴らが殆ど死に体の歩兵連隊を救出に来たのも、いや、あの怪物を
持ち出してきたのだって、全部攻撃ヘリの奇襲を成功させるための欺瞞だったんだよ!
俺たちの注意を攻撃ヘリに向けさせないための、壮大な罠だったんだ! 俺たちを
殲滅戦へとのめり込ませて、対空警戒を疎かにさせるためのな! そうに決まってる!」
実際には、通天閣騎兵隊の「奇襲」は殆ど偶然の成り行きで、JRレギオン少将も
そこまで意図してはいなかったのだが、大隊長はそんな事情を知る立場にはない。
いや、例え知っていたとしても、自らの被った大敗北が「偶然」によって引き起こされた
などと、信じることができたかどうか――
地上で大隊長が怒り狂っているころ、空中ではまだ死闘が続いていた。
先鋒大隊に比べ、LSN飛行隊はまだしも幸運な立場を保てた。大隊よりも後方にいたため、
スティンガーに対処する時間が、僅かではあるが生まれていたのである。スティンガーに
ロックオンされた今となってはお荷物でしかない対戦車ミサイルを照準もなしに慌てて
発射すると、各機はホーカムの持てる機動性を最大限に発揮して回避にかかった。
やはり下葉軍最精鋭を誇るだけのことはある。明らかに不利な態勢で奇襲されたにも
かかわらず、飛行隊はスティンガーを間一髪のところであしらい続けた。それでも4機の
ホーカムが爆散の憂き目にあったが、のこり12機はかろうじて回避に成功した。
だが、それでも不利な状況であることに変わりはなかった。通天閣飛行隊の全隊が
“ヨーク”攻撃に向かっていると誤断していたため、彼らは対空ミサイルを装備して
いなかったのだ。使えるのは、固定武装の30mm機関砲のみであった。これらと、
30mm機関砲ポットを搭載した8機のタイガーがヘリ同士の空中戦に突入する。
残り8機のタイガーは残弾ゼロのため一旦後方へと下がる。
LSN飛行隊は善戦したと言える。奇襲を受けた不利な心理的状況を即座に脱し、
互角に通天閣騎兵隊と渡り合った。本心では既に作戦目的を喪失しているから撤退したい
のだが、さすがにハイそうですかと撤退できる状況にはない。また通天閣騎兵隊も、
紅茶すらいむたちの撤退を支援するために今しばらくとどまる必要があった。
自身も30mm機関砲の射撃を操りつつ、聖はLSN飛行隊のしぶとさに軽く舌打ちした。
既に、3番機と7番機がホーカムの巧みな機動に翻弄された挙げ句に喰われている。
もう頃合いだろうか、と思いつつ聖はインカムのスイッチを入れた。相手を先ほどの
紅茶すらいむ乗車のフェネックに合わせる。
「こちらドクター。茶すらくん、撤退はまだか!」
『こちら紅茶すらいむ。ありがとう先生。なんとか安全圏に到達した。あとは自分たちだけで
何とかなるよ』
「それじゃ、こっちも退かせてもらうぞ。このあばずれ、どうにもしつこくてな」
『俺たち、ホーカムお姉ちゃん自体は嫌いじゃないんだがな……とにかくありがとう。
また後日、改めて礼をさせてくれ』
「了解。騎兵隊一同、あまり期待せずに待ってるぞ――聞いたなみんな!
通天閣騎兵隊、これより撤収する!」
ようやくいつもの余裕を取り戻すと、聖は中隊全機に撤退を命じた。今しばらくは
ホーカムと死闘を演じなければならないだろうが、両者とも撤退の意志を持つならば、
特に策を弄しなくとも容易に撤退できるはずだった。なにしろ、両者とも機関砲しか武装がなく、
それも弾切れしかかっていたのだから。
こうして、州都攻防戦の第一ラウンドであるハイエキ丘陵の戦いは終わった。
全体としてみれば、EREL集成旅団の勝利といえるだろう。OHP歩兵第3連隊と懲罰第999大隊の
「処分」に成功し、OTOMATICの劇的デビューを演出することができた。しかし貴重な稼働戦車
7両を失ってしまったのは痛い。旅団の保有する「使える」戦車(レオパルド1A5、Sタンク、
T68J3の3種)の稼働14両が7両にまで落ち込んでしまった。確かに、T55-105とT62-105は
28両ほど残ってはいるが――
一方のLSNは、先鋒大隊を完全に叩き潰されてしまった。歩兵こそ損害は少なかったものの、
装甲車両をあらかた撃破されてしまっては、敗北としか言いようがない。そして、「怪物」
OTOMATICに為すすべもなかった。この、RR装甲軍を後々まで苦しめるOTOMATICショックはしかし、
まだこの時点では誰も深刻に捉えてはいなかった。装甲軍上層部の目は鮮やかに奇襲を決めた
通天閣騎兵隊と霧島聖中佐に向けられており、イタリア製のイロモノ対空戦車に注意を払う者は
ほとんどいなかった。もっとも、すぐにそうも言っていられなくなるのだが。
麻枝元帥が切り札と考えている集成師団と第4師団の州都近辺展開まで、あと6日。
Airシティを巡る戦況は、混迷の一途を辿っていた――
150 :
旅団長:02/06/29 09:55 ID:UYWx5zhy
>>143-149「始まりの終わり」投下完了です。
もうちょっと粘って書いてみたかったり、でもええ加減長すぎるとも思ったり……
めんて
152 :
鮫牙:02/07/01 23:22 ID:G+OUYCjm
ぼちぼち書いてます。
整備兵 − ただいま飛行機のメンテ中 −
154 :
鍵の狂気:02/07/03 02:21 ID:aBWUUzET
LSNの先鋒大隊敗北の報はヨーク師団司令部にその数分後には届いていた。
司令室で装甲軍司令官とヨーク師団を兼任する柳川大将は、LSN師団の師団長
をつとめる女性司令官からの報告をソファに座りながら聞いていた。
その背後には参謀総監月島中将の姿も見える。
『申し訳ございません閣下』
「その言葉は俺ではなく、死んでいった将兵に言うべきだな。悔やむなら最善を
つくせ」
『は、』
「甘くみるつもりは無かったその考え自体が既に甘えだったという事か」
柳川は通信を切った後、師団司令室のソファに背中を預けながら静かに呟いた。
ヨーク師団を強襲してきたヘリコプター中隊は囮だった訳だ。どうりでまるで戦う
意思が感じられない訳だ。
そう心の中で呟いた後、言葉を続ける。
「あと二日だ。この間にAirシティを陥落させる事が出来ないのなら、戦線を
けろぴ〜シティ迄後退させる」
「しかし、それでは」
「ああ、泥沼の長期戦だが、停戦の可能性もある」
「といいますと?」
155 :
鍵の狂気:02/07/03 02:21 ID:aBWUUzET
「えろげ国が北部に圧力をかけてきている当然、我々はそれに対処せざるえない。
そこに鍵と反乱軍の生き残る可能性が出来る訳だ」
「祖国の分断ですか…久瀬内務尚書が聞いたらお嘆きになるでしょうね」
「あまりにも出来すぎた話だ。俺がこれを演出した者だとしたら…強大な葉鍵国
を分断させた後は各個に潰していく。葉鍵国一つを纏めて相手にするより遥かに
能率的な方法だ」
月島は柳川の言わんとしている事に、一瞬動作を停止させる。つまり一連の戦乱
は葉鍵の戦力を疲弊させ、分断させる為の何者かの謀略の可能性があると。そして
現に既に相当数の戦力を内乱により疲弊させている。
しかし、素早く思考の停止から立ち戻ると言葉を発する。
「ええ。ですがそうはさせません。少なくとも我々がいる限りは後ろでこの戦争を
操っている連中を引きずりだして、何れ負債を払ってもらいます」
「ああ。それはそうと例の件はどうだ?」
「志願兵の募集ですか?けろぴ〜シティで三千名。各小都市で合わせて五千名の
応募がありました」
「これにRR月姫義勇兵部隊二千、数だけは揃える事は出来たな。使い物になるのは
当分先だろうがな」
「彼らが使い物になる頃にはこの内乱も終結していることでしょう。彼らには反乱
の討伐ではなく防人の役目を負ってもらいます」
「そうありたいものだな」
156 :
鍵の狂気:02/07/03 02:22 ID:aBWUUzET
同時刻、Airシティから50`離れたOHP師団が駐留している田舎町で戸越
中将は不機嫌な表情を隠そうともせず、ひとりの男と向き合っていた。
「この度偉大なる馬場総裁から准将を拝命することになりました」
男の名は巫義治。デジフェス騒乱事件、久弥派議員惨殺事件の黒幕と噂され、
かつてまごめ中将が幾度となく削除、忙殺を目論んだがその悉くが失敗に終わり、
その不気味な迄の政治力でOHPに君臨する男である。思想面からも極右系鍵っ子
としてその名を知られており、OHP良識派のShin223大佐と幾度となく対立し、
現在より二時間前に起きたShin223大佐襲撃事件で真っ先に疑いの声が上がり、身柄
を拘束されたがその数分後には証拠不充分で釈放される。
そして現在まごめ中将に自らの昇進の報告をしていた。
「それで、Shin223大佐の御様態は如何ですかな?」
大して感情の起伏の感じられぬ、嫌らしい言い回しに神経をイラつかせながらまごめ
中将は返答する
「爆弾で片腕を吹き飛ばされている上に全身に破片が突き刺さっている。予断を許さ
ない状況だ。彼の妻と子供は即死だそうだ。休暇に家族サービス中の所に車に爆弾を
投げ込むとは流石にやることがえげつないな」
「それでは、まるで私がやったようではありませんか」
「ちがうのか?」
「ふふ、唯Shin223大佐はこの自治州の軍人にあるまじき、弱腰な言動が目立ちました
からね。この鍵を切に愛する者が正義の鉄槌を下したとしても可笑しくはありませんね」
その言葉にまごめ中将が遂にしびれを切らす。
「もういい、さっさとお荷物の歩兵連隊を持って失せろ!そして俺の前に二度と顔を
だすな!」
「では、失礼います。選ばれし鍵の戦いぶりを披露するとしましょう」
そう言うと、彼は司令室を後にした。後にはイラついた表情のまごめ中将だけが残
された。
157 :
鍵の狂気:02/07/03 02:23 ID:aBWUUzET
「懲罰第999大隊の被害はあまりにも大きすぎますね。大規模な補充必要かと」
廊下で巫の腹心の零中佐が先の戦闘で壊滅した懲罰第999大隊の報告をする。
「では、高野山刑務所の囚人で補充するとしましょう。葉の連中に偉大なる鍵の為なら
凶悪な囚人であろうとも一騎当千の勇者になる事を教えて差し上げましょう。で、
神楽坂龍之介少佐の様態はどうですか?」
「現在集中治療室で治療中ですが、今日が山かと」
「わかりました」
神楽坂龍之介の全身には包帯が巻きつけられ、幾つものコードが機械と彼を繋げて
おり、最早誰の目にも助からないように見えた。その彼の病室一人の男が入っていく。
「ハジメマシテ。私は巫と申します」
その言葉に包帯まみれの神楽坂の指が動く。
158 :
鍵の狂気:02/07/03 02:24 ID:aBWUUzET
「一つお聞きします。貴方をこんな目に合わした方々へ復讐したいですか?もし、した
いのなら、指でベットを叩いて下さい」神楽坂の指が力無くベットにあたる。
その動作に巫は微笑ながら、注射器を取り出す。中には緑色の毒々しい液体が入
っている。
それを神楽坂の首筋に突き刺し。そして流し込む。
「運が良ければ、これで貴方は助かりますよ願わくば、貴方に復讐の女神が微笑む事を」
そして、それからまもなく鍵最悪の師団として名を馳せる第36武装擲弾兵師団が登場する。
第36武装擲弾兵師団 巫義治准将
参謀長幻大佐
参謀零中佐
第一歩兵連隊“バ鍵っ子第一” 巫義治准将兼任
第二歩兵連隊“バ鍵っ子第二” 石川ひじり大佐
懲罰歩兵連隊 神楽坂龍之介少佐
懲罰第333大隊「凌辱」 SHION少佐兼任
懲罰第666大隊「逆ギレ」インディブルー少佐
懲罰第999大隊“バレネタ”神楽坂龍之介少佐兼任
159 :
鮫牙:02/07/03 02:26 ID:aBWUUzET
以上、鍵の狂気投稿終わりました
160 :
鍵っ子追放委員会:02/07/03 15:47 ID:K4RNV73C
あげ
161 :
>159:02/07/03 19:03 ID:xa6GFrFN
面白い展開。期待します。
「戸越中将より通告。懲罰第999大隊を当旅団指揮より分離させるとのことです」
「歩兵第3連隊はそのまま現状の指揮系統を維持」
「神楽坂少佐、巫により収容された模様」
「旅団長名義での抗議文、戸越中将に送信しました」
様々な報告が飛び交う部屋の中で、眼鏡をかけた少女がじっと通信機と向き合っていた。
「……」
集成旅団司令部が置かれているAirシティ中央貨物駅の駅舎地下壕。以前は鉄道公社
集中列車制御指令室があったこの部屋の一角で、清水なつき少尉はため息をつきつつ
通信機のスイッチを切った。メモ紙に走り書きした通信の内容を、傍らに立つ参謀の
観鍵りっ子中佐に渡す。
「参謀、通信文です」
「……」
しばし無言で文面を眺めていた観鍵りっ子は、軽く頷くとメモ紙をなつきに返した。
「戸越やしのり〜には気づかれなかったか?」
「特に傍受された形跡はありません。断言はできませんが、可能性はほとんどありません」
通信要員のひとりが答える。
「とはいえ、通信の事実自体は掴んでいるだろうな」
唇を少し歪めて笑うと、彼はなつきに向き直った。
「清水少尉、通信の内容を旅団長に報告しろ。おそらく口頭での報告を望んでいるはずだ」
「了解。清水少尉、これより旅団長に口頭で報告します」
敬礼をして、なつきは足早に部屋を後にした。彼女の耳に、鍵ストと観鍵りっ子の会話が
微かに聞こえてくる。
「これでkagamiやカーフに先んじることができた。一安心だな」
「ねこねこ師団が結構危なかったがな。あいつらが来ると勝てる戦も勝てん」
「『敵にするなら1個連隊で迎撃できるが、味方にするならフォローに10個師団が必要』な
部隊だからな。まったく、紅茶すらいむもなんでそんな連中とつるんでるんだか」
「……いいのかな、これで」
自治州鉄道公社が「新時代の鉄道物流拠点にふさわしい戦略頭脳拠点」などという、
訳のわからないキャッチフレーズの下に建設したブンカー。その中の廊下を歩きつつ、
なつきは何とはなしにポツリと呟く。手にしている通信文――WINTERS師団からの、
師団航空隊による支援受諾を告げる通信。
旅団長がWINTERS師団と水面下で連絡を持ち始めたのは、集成旅団が州都防衛を命じられた
ころだった。なつきの見るところ、最初はWINTERS師団から接触してきたらしい。かつて
真冬戦車学校に在籍していた旅団長の伝手を、向こうがたぐり寄せてきたようだった。
しかし、だからといって、この葉鍵国の内戦に外国勢力を呼び込もうとする行為を、
こうも平然と行うというのはどんなものだろうと、なつきは思う。
彼女も、旅団の置かれた現状が苦しいことは理解している。紅茶すらいむ中佐率いる
大隊戦闘団は大損害を出し、遊撃装甲戦力は半減した。OTOMATIC対空戦車こそ無事で、
76mm速射砲の威力を敵に見せつけることには成功していたが、収支決算としてみると
赤の方に傾いている。確かにT62-105やT55-105は結構残っているが……
だからといって、それを外国勢力の介入で穴埋めしようとする(それも旅団長独断で)
というのは、あらゆる意味であまりに危険すぎる。特にWINTERS師団は見返りに千島列島の割譲を
――彼らの視点に立てば『返還』を要求してくるだろう。
そして参謀たちはそれを咎めるどころか、自身が生き残る手段として積極的に容認している。
それどころか、主立った幹部はそれぞれ独自に外国への内通を画策している、あの『良識派』
紅茶すらいむ中佐ですら、ねこねこ師団へ介入を要請している。そんな売国行為を、
鍵に多い愛国者たちが知ったなら――
「――愛国者、か」
その言葉を呟いた途端、なつきは発作的な笑いの衝動に襲われた。壁に寄りかかって、
それが表に出ないよう必死に努力する。
愛国者! 愛国者! この、鍵自治州の誰からも忌み嫌われた「呪われた存在」が、
愛国者の立場で鍵のことを慮るなんて!
鍵自治州には、厳然とした特権階級が存在する。麻枝やいたるといった
「建国の元勲」と、その元勲の覚えめでたい「元勲恩顧組」だった。元勲恩顧組は
出世や昇進で明らかに優遇されており、元勲とは直接関わりのない「非恩顧組」
との間には埋めがたい格差が存在していた。もっとも、非恩顧組でありながら
第5師団“ノベライズONE”師団長にまでのし上がった館山緑中将や、元勲恩顧組で
ありながら見捨てられた里村茜のような僅少な例外も存在するが。そして、なつきは
非恩顧組として辛酸を嘗めさせられてきた。
彼女は、今でも忘れていない。長森瑞佳や七瀬留美といったいわゆる「戦術派」の
一員として、鍵っ子義勇軍の幹部候補生として嘱望されるはずだった自分。しかし、
元勲恩顧組ではないという、ただそれだけの理由で虐げられた日々。北部国境地帯での
戦功も全く評価されず、少尉のままで留め置かれた過去。
何度もバ鍵っ子たちに貞操を蹂躙され、人格を否定され、「鍵の面汚し」と蔑まれ、
「清水な(以下略)」とフルネームを呼ぶことすら汚らわしいと罵られた。何とか苦境から
はい上がろうと昇進試験を受けようとしたが、それも戸越中将に「君は元勲恩顧組ではない」
と冷たく言い放たれて拒絶された。
そんな私が、何故鍵の「愛国者」の立場でものを考える必要があるのだろう?
鍵原理主義の矛盾に押しつぶされてきた私が、「鍵の愛国者」とやらに忠義だてする
必要がどこにあるのだろう?
なつきは手元の通信文を見つめた。エロゲ国一軍閥によるコミットメント。確かに、
内戦に外国勢力を呼び込むのは亡国への一里塚。でも、何故それを「私」が憂えなければ
ならないのだろう?
鍵自治州の誰もが、私を虐げた。麻枝元帥は言葉では気遣ったが結局は見捨てた。
バ鍵っ子たちは性奴として弄んだ。鍵の市民たちは石を投げていたぶった。
でも、旅団長だけは違った。どんな意図があるのかは判らなかったけど、私を副官にしてくた。
私にできるだろうかと心配になるような仕事も任せてくれた。いろいろと人がましくしてくれた。
あの地獄の日々からすくいあげてくれた。
――そこまで考えて、なつきはようやく笑いの発作を抑えた。呼吸を整えて、旅団長室へと
歩き始める。
旅団長がなつきをどう思っているのか、彼女自身にもわからない。あるいは、柳葉のように
使い捨ての駒として見ているのかもしれない。でも、それでもかまわないとなつきは思う。
少なくとも、彼女をまともに評価してくれたのは旅団長だけなのだから、それだけでも
恩義を感じるに値する。少なくとも、元勲恩顧の地位に甘んじ、またはその特権階級に
こびへつらう他の連中よりは。
それならば、何も迷うことはなかった。彼女にとっては、鍵への忠誠心よりも旅団長への
恩義の方がはるかに重要だった。ならば、このWINTERS師団のコミットメントに反対する
理由など何もない。それで鍵が亡国への道を歩もうとも、彼女にとってそれは大した意味を
持っていない。ただ、旅団長の判断に従えばよい。彼はなつきの「お兄ちゃん」ではなかったが、
もはやなつきにとって、そんなことはどうでもよくなっていた。
「そう、それで滅びるような国なら、さっさと滅んだ方がいいのかも」
小さな声が、壁へと吸い込まれていった。
同時刻。
鋼鉄の暴風が吹き荒れたハイエキ丘陵は、“LSN”師団本隊が到着したことによって
また別の喧噪に包まれていた。戦車回収車が縦横に駆け回り、撃破されたT90を次々に
回収していく。
「こりゃまた、手ひどくやられたもんだな、同志」
第2RR装甲師団“ダス・リーフ”師団長は、何とも言えないという風に嘆息した。
髭をしごきつつ、傍らに立つ“LSN”師団長を見上げる。このふたりの男女の間には、
まるで漫才のような身長差が存在していた。
「ああ――と言いたいところだが、貴殿のいっているのは、攻撃ヘリにやられたことでは
ないのだろう?」
“LSN”師団長が、厳しい表情で辺りを見つめたまま尋ねる。
「そうだ。同志の部隊が報告した“怪物戦車”の方に、観戦武官殿が興味を持たれてな」
「“LSN”先鋒大隊壊滅」の報に接した時、“ダス・リーフ”師団長は驚倒した。彼も、
州都に籠もる集成旅団が積極反撃を仕掛けてくるなど想像してもいなかったのだ。だが、
詳細を聞いて「通天閣騎兵隊に奇襲されたなら仕方ない」とも考えていた。彼も、
この一連の戦闘を「攻撃ヘリ部隊による奇襲を成功させるための欺瞞」と捕らえたのだ。
その見方に異議を唱えたのが、観戦武官のハクオロ大佐だった。
「同行の横蔵院少佐が『機関銃並みの速さで対戦車砲弾を放った怪物』のことを非常に
気にかけています。申し訳ありませんが、現地を視察できるよう取りはからって
いただけませんか?」
ご苦労なことだ、とは思ったものの彼はこの申し出を快諾した。個人的にハクオロのことを
気に入っていたことも影響しているだろう。それに、決して弱兵ではない“LSN”先鋒を
叩き潰した敵の戦果を、この目で見てみたいという武人としての誘惑も存在していた。
こうして、Mi-17に観戦武官団とともに乗り込んで、ハイエキ丘陵へとやってきた
“ダス・リーフ”師団長だった。そこで現地視察中の“LSN”師団長と鉢合わせたのである。
「しかし、信じられるか? 機関銃並みの間隔で襲ってくる対戦車砲弾など、
私は聞いたことがない」
「とはいえ、この撃破されたT90を見ると、信じざるを得んな」
ふたりの師団長の眼前には、無数の砲弾に乱打されたT90があった。貫通された箇所は
1箇所しかないが、その1箇所に複数の弾痕が集中していた。一見して、それほど
大きくない砲弾に襲われたとわかる。
「見たところ、大口径砲弾ではないな。105mm砲弾でも、もうちょっと派手に凹むはずだ。
100mm――いや、下手をしたら80mm以下の砲弾に乱打されたんじゃないか、同志?」
「そんな豆鉄砲に、我らの誇るT90が敗れたのか。ある意味屈辱だな」
吐き捨てるように呟く“LSN”師団長の前に、T90を調べていたハクオロたちが戻ってきた。
ハクオロが、敬礼しつつふたりの師団長に告げる。
「横蔵院少佐が、これを攻撃した兵器に心当たりがあると言っています」
「「本当か!?」」
勢い込んで尋ねるふたりに頷くと、ハクオロは傍らにいた蔕麿に話を振った。横に大きく
伸びた巨体を揺すって、蔕麿が前へ出る。そして、いつもどおりのアレな口調で話し始めた。
「だ、弾痕からして、砲弾の口径は3インチ(76mm)だと、お、思うんだな。3インチ砲を
持っていて、こんな芸当のできる戦車は、ぼ、ぼくの知ってる範囲では一つだけなんだな
――ま、間違いなく、OTOブレダ・OTOMATICだと、だ、断言できるんだな」
「OTOMATIC? ――ちょっと待て、以前一度だけ聞いたことがある。確か、イタリアで
試作された対空戦車じゃなかったか?」
“ダス・リーフ”師団長が記憶の糸をたぐり寄せながら尋ねる。確か、あの試作兵器の兵装は――
「そ、そのとおりなんだな。76mm艦載速射砲を搭載した戦車なんだな。多分それを、
対地攻撃に使ったと、お、思うんだな」
「……艦載速射砲だと!?」
“LSN”師団長が美貌を歪ませる。
「なんだってイタ公どもはそんな基地外兵器を――というより、何だって敵がそんな代物……」
「師団長。確か先日、月島参謀総監が『州都に1両だけ大型装甲車両が追送された』
とか言っていませんでしたか?」
傍らのハクオロが口を挟む。
「……あれか! ああ、そう考えれば辻褄は合うな、確かに」
“LSN”師団長はそう呻くと、改めて眼前のT90に視線を戻した。
「観戦武官殿、その速射砲の発射速度はどのくらいだ?」
「ま、毎分120発なんだな」
蔕麿が答える。
「毎分120発!? 冗談じゃない、そんな速射砲に対抗できる戦車なんて、
この世に存在しないぞ!」
この期に及んで、ようやく“LSN”師団長も事態の深刻さを悟り始めた。ほぼ無敵の
攻撃力を誇る戦車が籠もる州都に、これからろくな対策もなしに突入しなければならない。
防御力自体はそう強くないだろうから撃破が不可能なわけではないが、市街戦では
OTOMATICが身を隠せる遮蔽物がそれこそ無数に存在する。いったいこの怪物を撃破するのに
どれほどの犠牲を払えばいいのか――その恐ろしい想像に、彼女は慄然とせざるを得なかった
冷や汗を浮かべる彼女に、伝令がかけよってメモを手渡した。吹き出る冷や汗が一気に増えた。
「防空軍が泣きを入れてきたぞ。制空戦闘中に州都上空に紛れ込んだSu-27が2機、
対空砲火で撃墜された。なんでも、『驚異的な命中精度』の高射砲に喰われたらしい」
「……どう考えても、OTOMATICに喰われたとしか考えられんな」
頭痛のするこめかみを押さえて、ダス・リーフ師団長は天を仰いだ。
「同志の言葉じゃないが、冗談じゃないぞ。対地対空に大暴れの新型兵器
――どうすればいいんだ?」
168 :
旅団長:02/07/03 20:51 ID:45BSWqTt
>>162-167「売国奴と武人と」投下完了です。
せっかくだから、清水なつきにも出番を作ってみたんですが……はぁ。
整備兵 − 今日は戦車のめんてなんす・・・とっても大きな戦車なので大変です −
170 :
旅団長:02/07/05 02:02 ID:0SgdAS03
整備兵 − 今日はバ鍵っ子のめんてなんす −
どかすかぼか・・・ぐぎぃ・・・
隊長、あいつらおれらの手におえないですよ( ´Д⊂
172 :
日雇い:02/07/05 22:50 ID:pZf/K7V6
お前の行った整備は構造的欠陥の一種だ
治し方は俺が知っている 俺に任せろ
「(゚∀゚)アーヒャヒャヒャヒャヒャヒャ…!!」
ONE2はどういう扱いになるのか考えてみる( ‥)/
174 :
旅団長:02/07/06 06:17 ID:9HeBPMWj
・ネクストン軍対鍵侵攻計画“ONE2”
エロゲ国ネクストン軍司令官・鈴木大将主導の下に計画された作戦案。亡命前の
鍵将校たちが遺したインフラを最大限に活用して新設師団“BaseSon”を編成、
これを主力として鍵自治州領へ侵攻し同州を完全に解体することを目論んでいた。
しかし、あまりに国力を無視した計画に兵団内部からも反論が続出、
結局“BaseSon”はタクティクス師団隷下の新設連隊として編成され、作戦規模も
自治州北部国境地帯への限定侵攻へと変更された。この作戦は、くつかの
防空サイトを破壊する等の一定の成果をあげている。
なお計画変更の過程で、あくまで強硬論を主張していた角田公子が粛清された。
>>173 こんなんどうでしょう?
175 :
名無しさんだよもん:02/07/06 14:51 ID:1UDtvgNr
age
め
HMX−14シリーズ出しても(・∀・)イインチョ?
バ鍵っ子と一部葉鍵板のコテハン出たからにゃ、フレアだのコードだのが出ようと今更じゃないか、と水を向けてみるテスト。
181 :
旅団長:02/07/07 23:36 ID:UhX8Zc/L
HMX-14P“ピース”は一応オフィシャルキャラらしいから、これだけなら特段問題はないかと。
“コード”、“マリア”、“フレア”、“カノン”は知らん(w
>>180 出てきて速攻で殺されたコテを出されてもな。
ま、煉獄系妄想キャラはすぐにあぼーんってな扱いならまだ許せるが(藁
ただでさえ手を広げすぎてる感があるのに、これ以上変なところに手を出したら
それこそ収集がつかなくなると思う。
今のバ鍵っ子たちも、州都攻防戦限定で、あとは有名どころだけに限定した方がいいんじゃないかな?
正直、鍵っ子スレ住人じゃなきゃ楽しめないと思う。
現時点で既に楽しめてな(以下略)
てか、空き地の町とかの頃の方が
まだ分かるキャラが多くて楽しめた。
更にもう初めの方の展開とか全然覚えてなくて
他のメーカー意味不明に参戦し過ぎで、何が何やら。
愚痴スマソー。
空き地の町戦役終結直後、正葉−鍵間で両者の勢力境界線に関する仮協定が
締結されていた。
この協定では、両者の「暫定境界線」を空き地の町と、同町の西7キロにある村落・
逢魔ヶ辻との間に設定し、その西側を鍵が、東側を正葉が管理することとなっている。
本土防衛に全力を傾注しなければならないこの時期に、何故鍵が遠く離れたこの地の
支配権を手放さなかったかと言えば――当然にして、葉鍵中央回廊の持つ巨大な戦略的価値が
原因だった。逢魔ヶ辻さえ抑えておけば、葉鍵中央回廊の両端を鍵が支配することとなり、
同回廊を軍事的に聖域化することができる。大陸の数少ない東西交通ルートを聖域として
抑えることの利点は、敢えて説明するまでもないだろう。
もっとも鍵の本音を言えば、回廊出口一帯の制高点である空き地の町の直接支配を
したいところだった。戦前の行政境界を尊重するなら、決して無体な注文ではない。
しかし、戦前から同町は軍事顧問団の実効支配下にあり鍵が行政権を放棄していたと
法解釈が可能だったこと、空き地の町戦役において最初に同町に到達したのが
正葉軍である乾戦車隊であったこと、そして同町防衛に最低限必要と思われる1個師団の
兵力捻出が本土決戦間近の現状では難しいことなどから、逢魔ヶ辻までの実効支配で
手を打たざるを得なかった。また実際、正葉との政治交渉のカードとして空き地の町の
支配権は放棄した方が得策と、中央情報局のしのり〜長官は進言していた。
鍵集成師団が引き上げた翌日、つまりハイエキ丘陵やロイハイト市で死闘が
展開されていた3月26日。逢魔ヶ辻に駐屯していた倉田連隊の残存――
空き地の町独立駐留連隊と仮称されていた部隊は、麻枝元帥から以下の指令を受けとった。
1 旧倉田連隊を本日付で「逢魔ヶ辻独立駐留連隊」へ改編する。
2 連隊駐屯地は、当面の間逢魔ヶ辻とする。
3 美坂香里少佐を中佐へ昇進の上、連隊長に任ずる。裏葉中佐は連隊長代理の任を解く。
4 裏葉中佐を大佐へ昇進の上、武官政務派遣令第7条に基づき渉外高等弁務官に任ずる。
5 裏葉高等弁務官は、正葉首脳部および空き地の町現地勢力と接触し、その動向を探れ。
6 更迭した倉田佐祐理中佐を査問会へ召喚する。輸送機を回すので、直ちに強制送還の手続きを取れ。
村落にある学校を接収した連隊本部、その中の校長室に設えた連隊長室。
「つまり、私は当分本土には帰れないのね……」
軽く肩をすくめて、中佐に昇進したばかりの美坂香里連隊長は苦笑した。
「まあ、わたくしも一緒ですから、そんなに落ち込まれない方がよろしいかと」
穏やかな口調と物腰で、裏葉高等弁務官は微笑んだ。
「ええ、とりあえずは前向きに考えます。戦力回復にはちょうどいい機会だし」
「連隊とは言っても実質1個大隊の戦力しかありませぬが、よろしくお願いします。
もっとも、当面は政治的な役割が強い部隊ですけども」
「それでも、気を抜くつもりはないですが――それはそうと、戦力回復用の物資はいつ?」
裏葉の表情が、微かに曇る。
「それが、今しばらくは待ってもらわなければならぬようです。回廊は現在、
集成師団本隊の移動を最優先する交通管制を敷いておりますれば、
こちらへの補給定期便も大幅に遅れております」
「ああ……それは仕方ない、というべきでしょうね」
予想されたことだったし、中央回廊の交通容量の限界は香里自身十分承知している。
だから大して失望はしなかった。
これで回廊に鉄道が敷設されていれば話は別だっただろうが、回廊内には急勾配で
越えなければならない場所が多数あり、勾配に弱い鉄道を簡単に敷設できる環境には
なかった。青函トンネル級の長大トンネルを複数掘る案は費用が膨大になりすぎるし、
アプト式鉄道敷設案では牽引定数が小さくなりすぎる。そのため、比較的緩勾配な
西側1/3にのみ鉄道が敷設されていた。
「こちらに急派される輸送機に、いくらか便乗させるよう手配はいたしました、
当面はそれでしのいでいただければ幸いかと」
「感謝します」
頭を下げる香里に微笑むと、裏葉は壁に掛けられた時計に目をやった。
「そろそろ刻限の様子――香里殿、参りましょうか」
連隊長室を出ると、二人は廊下を歩んで元音楽室の前へやってきた。警護の兵士に敬礼し、
ドアを開ける。その音に反応して、既に入室していた客人がこちらを振り向いた。
一見して強烈な印象を残す出っ歯、エラの張った顔――おそらく葉鍵国のあらゆる人々に
記憶されているだろう顔を持つ男が立ち上がった。
「時間を割いていただき、感謝しますぞ。裏葉高等弁務官殿、美坂連隊長殿」
「あらあら、話の早いことで」
まだ公表されていない人事をさりげに口にする男に、裏葉は表情を変えずに一礼した。
「お待たせいたしました。それでは、早速お話をお伺いいたしまする、青紫殿」
元RR親衛隊大佐にして空き地の町暫定自治政府暫定主席の肩書きを持つ男、
青紫超主席はニヤッと笑うと裏葉、次に香里と握手を交わした。
「我々暫定自治政府の基本要求については、まぁ昨日お話しましたから省きましょう」
青紫は落ち着き払って椅子に座り直すと、にこやかな顔を二人に向けた。
出っ歯ばかりが目立つにやけ顔だが、眼だけは真剣だということに香里は気づいた。
かつてこの男を評して「戦術六流、戦略三流、事務処理政略超一流」なる戯れ言が
流行ったことを、彼女は思い出した。気を引き締め直す。
「単刀直入に伺いましょう。鍵自治州として、暫定政府承認の労を正統リーフ政府に
対して取って頂けませんかな」
「それでは、こちらも率直に伺いまする」
おっとりした物腰は変えずに、裏葉は切り返した。
「麻枝殿からは、自治政府、特に青紫殿――あなたの思惑を徹底して探るべしとの
訓令が届いております。その点を明らかにしない限り、わたくしも約定を交わすことは
致しかねますが」
「……思惑、ですか」
にやけの度合いを大きくすると、青紫はおもむろに立ち上がった。そして、芝居がかった
動作でゆっくり窓際まで歩くと後ろ手を組んで窓の外に視線を固定させる。逢魔ヶ辻の
味わいのある古風な町並みは、早春の雨に煙っていた。
「裏葉高等弁務官殿――ああいや、美坂連隊長殿でもいいのだが、あなたたちは
『捨て犬の気持ち』を想像したことはありますかな?」
「捨て犬、ですか」
香里の口から、思わず言葉がついて出た。
「そう、捨て犬。かつては主人から期待され、主人のため良かれと思って尽くしてきたのに、
ちょっと世の中が変わると『いらない』と簡単に捨てられた番犬たち」
「あなたたちが、その捨て犬だと」
「そう言われると気恥ずかしいですな――しかし戦争で心の壊れてしまった顧問団残党、
原田准将に裏切られた誰彼中隊、月姫指導部から捨て石にされた空き地の町の住人、
そして下川国家元帥に捨てられたRR親衛隊。空き地の町に集った面々のことは、
捨て犬に例えるのが一番適当だと思いますな、個人的には」
「その捨て犬が群れて、何をしようというの?」
「いつか帰ってくる茜殿を待つ。そのために町を護り抜く。『飼われた』経験を
忘れられない捨て犬には、それしか縋るものがない、救いがたいですな。でも、悲しい現実だ
――あなた達にそれが理解できるかどうかは、自信をもって信じる術がないですが」
香里はいわゆる元勲恩顧組だった。そしていつの時代でも、特権階級が他人の気持ちを
忖度するのには限度が存在する。「捨て犬の気持ち」と言われて、頭では理解できても
心から理解できたかどうかは、難しいところがある。
「青紫殿は、その寄る辺ない捨て犬たちを率いる頭目、ということですか?」
裏葉の、なかなか真意の読めない口調に青紫は軽い笑い声を上げた。そして、
普段の口調が少し顔を覗かせる。
「よせやい。俺はそんな上等なもんじゃない。俺も、いつか帰ってくる本当のご主人様を
待ちわびる、人肌の恋しい犬に過ぎんよ。今この地位にいるのも、たまたま経験に
秀でていただけだ」
そこまで言うと、青紫はにやけ顔を消して二人の前へ戻った。あるいは、語りすぎたと
思ったのかもしれない。
「まぁ戯れ言はここまでとしまして――正直言って、鍵に損のある話ではないと思いますがね。
ここで我々を援助すると言うことは、我々にある程度の影響を及ぼせる影響力を持てると
いうことです。それはあなた方もよくわかっていると思いますが」
確かにその通りではあった。
暫定自治政府を承認し、正葉に仲介の労を取り、政治的に援助を行う。鍵にとって
決して悪い話ではない。鍵は軍事的な負担なしに戦略的要衝である空き地の町に影響力を
及ぼすことができるし、陸海空それなりに揃った軍事力に期待することもできる。
決して一心同体とは言えない正葉へのカード兼交渉窓口としても活用できる。
そして自治政府にとっても損な取引ではないはずと、香里は読んでいた。
鍵と正葉に顔を売り、両国のパワーバランスの間を泳いで存在感をアピールすれば、
空き地の町の自治権を強固に確立することができる。少なくとも正葉に完全に隷属することは
さけられる。どちらかに偏りすぎないバランス感覚を保てれば、だが。
だがしかし、最大のネックが青紫という存在だった。確かに「他に行くところがない」
という立場はそのとおりだろうが、果たして政府首班として信用のおける人物か
どうかが全くの未知数だ。RR親衛隊の悪行は、香里の脳裏にも鮮やかに焼き付いている。
またそれを抜きにしても、青紫超政権の「能力」自体がわからない。果たして、
戦略的要衝に位置する勢力に相応しいだけの、外交力や情報収集力を備えているかどうか。
これらがない場合、青紫超政権は地政学的に全く無力な存在と成り下がってしまう。
「……おお、そうだ。この情報を判断の一助にしていただくのは、どうですかな?」
あたかも今思いついた、という風に手を打つと、青紫は鞄から1枚の書類を取り出した。
テーブルに置いて二人の方に押しやる。
「つい先ほど、我々の同志が報告してきた報せです。なかなか興味深い内容ですので、
鍵の政治判断の参考になるのでは?」
香里は激しい衝撃を受けた。いや、書類の内容にではない。書類を受け取った
裏葉の目が大きく見開かれたことに対してだった。実際、柳也と神奈以外に裏葉が
これほど感情をあらわにするのを見た人間はいない。
「……青紫殿、失礼ながら、この報せはどこから?」
そう問う裏葉のこめかみに、うっすらと汗が浮かぶ。
「いやいや、それは企業秘密と言うものではないですかな?」
出っ歯剥き出しで笑う青紫だったが、ふっと真顔になって付け加えた。
「もっとも、裏葉殿ほどの聡明な方なら、お心当たりはあるかとは思いますが。あぁそうそう」
もう1枚書類を取り出す。
「念のため、原田海兵隊の通信を傍受してもいるんですな、こちらは。内容こそ
わかりませんが、なにやら実戦部隊には相応しくない、遠距離用の大出力通信が多いですなぁ」
「……」
「これらが何を意味しているか、おわかりですな裏葉殿」
その言葉に、香里はハッとなった。
そう、情報の内容そのものも衝撃だが、問題は超政権の情報収集能力だった。もちろん
これらが全て欺瞞情報である可能性は否定しきれないが、もし本当だった場合、超政権には
この程度の情報を短時間で収集分析できる能力がある、ということになる。
香里は脳裏に超政権の手駒を思い浮かべた。確か、海上兵力として2隻の軍艦が
あったはず(スプルーアンス級駆逐艦“里村茜”と、タラワ級強襲揚陸艦“空き地の町”)。
確かに水上艦は大規模な通信設備を艦内に設置できるから傍受能力を優れているけど、
ここまで詳しく収集できるかしら? あるいは潜水艦で沿岸に接近でもすれば……
「……!」
潜水艦、の単語が香里の精神にショックを与えた。青紫RR親衛隊大佐が、
RR海底艦隊所属原子力潜水艦“アビスボート”を自派の強い影響下に置いていたことに
思い当たったのだ。この状況で、青紫がアビスボートを召喚していないと考える方が
不自然だった。
そして問題なのは、“アビスボート”の詳しいスペックが皆目わからない、という点だった。
かつての青紫が“アビスボート”の政略的価値を高めるために、複数の欺瞞情報を
故意に流していたのだ。このため香里が聞いたことがある噂だけでも「SLBM搭載の戦略原潜」
「巡航ミサイル搭載の攻撃型原潜」「特殊部隊出撃拠点としての特務原潜」
「以上の要素を複数持った汎用原潜」などと、まるでバラバラの内容だった。そのため、
正葉国内の通信傍受くらい簡単にできる、と説明されてもそれを一概に否定できない。
裏葉もそれに思い当たったのだろう。何とかいつもの表情を取り繕うと、
スッと立ち上がった。
「申し訳ございませぬが、事はわたくしの一存では決めかねる一大事。麻枝殿の
ご判断を仰ぐ必要があると存じますので、しばらくお待ち願えますか?」
「ええ、それは構いませんよ。確かにそのとおりですからね。まぁ、色よい返事を
期待しております」
余裕のある笑みを浮かべて、青紫は頷いた。
確かに、裏葉の言うとおりだった。青紫超主席のもたらした情報は、とても一弁務官だけで
処理できる案件ではない。
そう、「正葉軍原田うだる准将に、エルフ軍下級生師団との内通の兆候あり」などという
情報は、彼女が専決すべき範囲を遙かにこえた事柄だった。
192 :
旅団長:02/07/08 19:08 ID:X3fq2gdB
>>185-191「逢魔ヶ辻のRR」投下完了です。
>>184 正直スマソ
ただこっちも、州都ばっかり書いてて少々飽きが来ていたので、
しばらくは他陣営をちょぼちょぼ書いてみるつもりなんで、勘弁のほどを……
193 :
旅団長:02/07/08 19:18 ID:X3fq2gdB
へへへへへ エロ │ →
へへへへへ 同人国│ 正葉 至
へへへへへ │ ロ
へへへへへ │ ┏━ デ
へへへへへ──┬─┘ ┃ ィ
へへへへへ θ│ ┃ マ
←へへへへへ │ ┏━┛ ス
至 葉鍵 ×│ † ┗┓
鍵 中央回廊 │ ┏┛
自へへへへへ ─┴──┨
治へへへへへ ┃
州へへへへへ ┃
へへへへへ 下葉 ┃
へへへへへ ┃
へへへへへ ┗━━━━
へへへへへ ↓至シモカワグラード
θ……旧補給基地(鍵自治州領)
†……空き地の町
×……鍵自治州領逢魔ヶ辻
「逢魔ヶ辻のRR」、地理関係の概略図です。
整備兵 − 今日はお船のめんてなんす −
・・・ぶくぶくぶく・・・なんでこのボート水の中に沈んでるの?
nebte
196 :
鮫牙:02/07/10 15:49 ID:6h/XeQzh
ぼちぼち書いてます。ヌワンギ視点に挑戦
197 :
短編:02/07/11 09:11 ID:lPdqfEh5
ハイエキ丘陵では化け物対策が、破壊された戦車を回収しきる頃になって
結論に達しようとしていた。なお対策会議には何時の間にかハクオロ大佐も
参加していたりする。
「策としてはこのまま力押しで行くのは下策でしょう。まだ鍵には多くの
精鋭師団が残っている。ここで戦力を磨耗する訳にはいかない」
ハクオロ大佐の言葉に二人の師団長が頷く。
「ふむならば、ここは少数精鋭を忍びこまして、あの化け物を破壊してから
攻め込むしか方法は無いようだな」
ダス・リーフ師団長が顎鬚を扱きながら言う。
「口で言うのは簡単だが至難だぞ、短時間それをやるのは。それに一体だれ
がそれを」LSN師団長が其処まで言った所でハクオロが口を開ける。
「私がやりましょう。兵を少しお貸しして下さい」
「観戦武官の貴公がか?そんな危険なマネをさせる訳には」
「いや、同士ここはハクオロ大佐に任してみようではないか」
198 :
鮫牙:02/07/11 09:13 ID:lPdqfEh5
ちょいと短編を書いてみました。
199 :
旅団長:02/07/11 21:24 ID:lsFiYoAM
なぁ……
常識的に言って、どんなに階級が高くても観戦武官に指揮権はない、っていうのは知ってる?
201 :
鮫牙:02/07/11 22:44 ID:JQ3U7UnS
いや、常識的に言って多分無いだろうな〜とは書きながら思ってましたけど。
萎えさして正直すいません。
202 :
鮫牙:02/07/11 22:51 ID:JQ3U7UnS
自分、基本的に軍事系の人間では無いからな〜。これ以上のボロ出さんうちに
手を引いた方がいいかなあ。という訳で上はNGで次回が俺の最後のSSにします。
その時俺は浮かれていた。緒戦に勝利を収め、連絡の為に一旦
基地外部隊を離れ懐かしの店に戻れたからだ。
一時とは言え、あの既知街部隊と離れられるのは涙が出るくらい
嬉しい。
店に入るとリーダは電話で口論をしていた。
「正義、正義か貴様のような、貴様等のような人間が過去幾度他民族
を蔑ろにし、幾度虐殺を行い幾度戦乱の火種を作ったのだろうな」
「そんな大儀等理解したくもないな唯言えるのは、貴様等は生かして
はおけないという事だ」
「貴様の言った事が鍵の正道だと言うのなら、俺の愛した鍵は死に絶
えたということだ」
「返り討ちにしてやる」
それを最後にリーダは電話を切る。どうやら我等が妖狐にケンカを
売った命知らずがいるらしい誰だよそんな命知らずはとその時、ヌルイ
ビールをラッパ飲みしながら思った。
そしてそのケンカ相手を一部始終聞いていた。仲間に聞いて俺は思わず
飲みかけのビールを鼻から吹き出した。
巫義治。気管で暴れまわるビールのお陰で酸欠状態の脳にその名が反芻
する。
おいおい冗談じゃねーぞ、バ鍵ッ子最強最悪集団にケンカ売ってどーす
んだよ!
折角あのイカレタ(あっちは最凶だな)死ね死ね団とオサラバ出来たっ
てのによお。
っとリーダがこっちを向く、なんだよ、何か用か?言っとくがあそこに
は戻らねーぜ。
昔は俺も結構な事をしでかしてたが、上には上がいることを実感したぜ。
「ヌワンギ、この店の地下に廃線になった地下鉄に通じる穴が掘ってある。
真琴を連れて逃げろ」
逃げろかいいね上策だ。そう勝ち目の無いケンカには全力逃走が一番。
とちょっと待てよ。
「リーダあんたは逃げないのかよ」
「俺には仕事がある。鍵の未来の為に奴等を生かしておくわけにはいかない」
あ、そうってちょっと待てよ。
「あんた、死ぬ気か?そんなことしたって表向きはあんたは反逆者だぜ、
なんでそこまで」
「俺は真琴の生まれ育った丘を守らなければならない」
はあ?なんだよそれ。
「お前は元々東葉出身だそこまで付き合う義理もないだろ…生きろ」
あんたも正規軍じゃなくて傭兵だろうが。
「リーダ俺達も一緒に」
っておい余計な事を言うなよ。
「駄目だ」
「お前等には俺の女を守るという仕事がある」
「ヌワンギ、お前にこいつ等を預ける」
おい。待てよコラ。
「リーダ!」
って遮るな。
「行け」
そして今俺は狗使いの女と妖孤の残党を引き連れ、誰にも忘れられた線路
の上で車を走らせている。ったくなんでこんな事に。
「うそつき」
俺の思考をそんな言葉が遮る。
「ずっと一緒って言った、もう一人にしないって」
「うそつき」「うそつき」「うそつき」
狗法使いの女が俺の横で、そう繰り返しながら喉の痛くなるような声で鳴く。
その姿が一人の女と被る。
『そんなの幸せじゃ無いよヌワンギ』
『そんなヌワンギの事、大好きだったのに』
『憎める訳ないよ』
ばあちゃんが死んだのは俺のせいだ。あいつの目の前でばあちゃんは。
痛ッ、残党狩りに受けた傷が酷く痛む。あの後俺は何度もあいつに再会
しようと思った。
だが出来なかった。俺は臆病だ。どうしようもなく。
手遅れになるまであいつの気持ちを解ることも、罪の償いも出来なかった。
あいつは許してくれるだろうが、俺はあいつの優しさに触れる度に自分の罪
に怯えることになる。
その事が怖かった。どうしようもなく。
だから逃げた。会いたいそして心の底からあいつに詫びたい。だがそれをる
勇気もない。
「へへ、俺は憎まれることより許されることに怯えてる訳だ」
自分の下らなさに相も変らぬ自嘲じみた笑いがこみ上げてくる。
「なあ真琴。約束を破った事は非難されても仕方ないけどな、だけど狗法使い
の気持ちだけは解ってやれよ。じゃなきゃ、俺みたいになるぜ」
真琴は俺の言葉に少し頷いて、そしてしばらくしたら泣きつかれたのか眠り
についた。
俺はそれを確認すると視線を正面に向ける。
地下鉄は薄暗く、行き先も何処に付くかも分からない。
死にぞこないの俺は一体何処にいくのだろうな。
206 :
鮫牙:02/07/12 00:46 ID:gdfxpuDv
以上、投稿おわりましたー。一応これで最後の投稿のつもりです。
くほちゃんと巫の口論の内容とか、ヌワンギの知らない所でどのような
事態が進展してたのかは、今後の書き手さんに委ねます。
今まで自分の稚拙な文章を読んでくださった方に心より感謝します。
至らない部分は本当に申し訳ございませんでした。
では、ロムは続けますんで。
鮫牙殿が軍事に詳しくなって復活してくれることを祈りつつメンテ
3月26日昼少し前、アクアプラスシティ郊外のシェンムーズガーデン。
重厚な装甲版で守護された区画にあるとある会議室で、数人の男が難しい顔をして
テーブルに着いていた。下川直哉国家元帥、中上和英参謀総長、久瀬内務尚書を
始めとする下川リーフの首脳陣が、部屋の中でただひとり起立している男に視線を
集中させている。一応、非公式の会議ということにはなっていたが、重要度という点では
公式なものと何ら変わりはなかった。
その男――リーフ軍大学校総長にして下葉首脳部の重鎮、一一(にのまえはじめ)中将は、
そんな視線を意に介することもなく口を開いた。
「変な意地張ってる時やない。手遅れにならんうちに柳川を引き返させぇ。
せやないと、この国はあと1ヶ月も保たんで」
当初――つまりロイハイト地方に敵の侵攻を受けた時、中上たち参謀本部スタッフは、
ロイハイト地方防衛と鍵自治州領侵攻を同時並列的に実行可能と考えていた。
その前提となっていたのが、「最大の障害地形であるドートンヴォリ河での阻止戦闘」
「首都圏―ロイハイト地方間の交通路をフル活用した後方支援態勢」の2つの判断である。
ところが、ドートンヴォリ河は予想を上回る大軍の侵攻を支えきれずに突破され、
交通路は大規模な空爆やゲリラの奇襲に晒され寸断されてしまった。その結果
何が起こったかと言えば――「鉄道輸送の破綻」だった。
参謀本部はテネレッツァ軍を増援として投入する一方、首都圏―ロイハイト地方間の
各所に防衛部隊として二線級のRR親衛隊5個師団を急派していた。そのため、
これらの部隊の移動と兵站線の確保のために交通需要が爆発的に増大したのだが、
その主力となるべき鉄道路線が麻痺していたのだ。
この時点で対ロイハイト地方輸送路線として使えた鉄道は2本のみ。1本は
アクアプラスシティから北西に進み、海岸線に出てから北上してボスニア港へと到る
国鉄ボスニア線。もう1本はRR装甲軍も兵站線として活用していた、
アクアプラスシティ―カンスースク間の国鉄カンスースク線。残り4本の幹線鉄道は
ことごとく寸断されて使用不能だった(内務省警察軍指揮下の鉄道連隊が復旧作業に
あたってはいたが)。
特に、カンスースク線の状況は深刻だった。鍵自治州方面の2個RR装甲師団+2個RR親衛隊の
兵站に加え、ここで2日でロイハイト防衛各部隊+テネレッツァ軍+3個RR親衛隊の
移動・兵站需要がのしかかったのだ。その上逆方向へとは言え避難民の疎開輸送まで
加わったのだから、いくらカンスースク線がCTC制御の複線電化路線といえども限界があった。
閉塞区間が長い一部でCTCを切って続行運転で対処するなどの応急措置がとられていたが、
とてもではないが間に合わない。
そしてこの日、RR装甲軍司令官・柳川祐也大将から「2日以内(3月28日まで)
に州都を陥とせなかった場合、全軍を南方先端部まで後退させたい」との意見具申が入ってきた。
表向きの理由は「州都の抵抗が予想以上に激しいため」だったが、本音ではこの逼迫した
輸送状況に危機感を覚えていたのだ。
にのまえの「鍵自治州領侵攻即時中止」の主張はこうした現実に基づいていた。
このまま両作戦を強行した場合、両方面で兵站の本格的崩壊を招き、結果として
首都圏に敵軍の直接侵攻を受けかねない。それを避けるためには、どちらかに
全力を傾注する必要がある。そして、国土防衛の観点から言えばロイハイト地方防衛の方が
より重要である――にのまえの主張を要約すれば、以上のようになる。
「しかし、おやび……いや、にのまえ中将。我々は先の戦闘で空き地の町攻略に失敗しました。
今また州都攻略に失敗した場合、我が軍の威信は地に墜ちてしまいます。
確かにこの状況ではものみの丘まで打通することは不可ですが、せめて州都近辺と
南方先端部の占領を確固としたものにしなければ、この先の作戦指導に責任が持てません」
中上が反論した。
「それで無茶をしても、結局虻蜂取らずになるんがオチや。それとも中上、お前、
ロイハイトをなくしてまでして鍵を取りたいんか?」
「そこまで言っていません。ただ、鍵への侵攻はわが国が生き残るために絶対必要な行動です」
「中上、少しは冷静になれ。確かにお前の焦りは、十分わかっている。だが無茶すぎるんや」
事実、中上は焦っていた。このまま内戦が長引いた場合どうなるかを、彼なりに
予測していたのだ。
現在、下葉の公称兵力は30万。東葉は8万。これに対し鍵の公称兵力は18万、
正葉は2万。正葉―鍵同盟は、兵力比において約1:2の劣勢に立たされていることになる。
これに動員態勢やインフラ整備率、資源埋蔵量を加えると、1:3〜1:4に比率は悪化する。
鍵に対するVAの巨額の財政支援がなければ1:10くらいになっていても不思議ではない。
正直、下葉―東葉陣営の足並みが揃っていないから、現状で危ういバランスを保っているような
状況だった。
この現実の前に、正葉―鍵同盟が勝利のために取りうる選択肢は3つしかない。
1 常に戦場で自軍に倍する敵を倒し続け、戦略の不利を戦術で挽回する
2 下葉、東葉の国内政治状況を混乱させ全力を発揮させない
3 諸外国の介入を積極的に受け入れ戦力比を逆転させる
このうち1はあまりに非現実的だったし、2も正葉―鍵同盟の諜報機関の力量から言って
まず不可能だった。だいたい、東葉の自陣営引き込み工作や下葉領内の反政府勢力扇動という
重要案件に失敗しているあたり、これらの組織の実力が透けて見える
(暗殺や破壊工作などの「濡れ仕事」だけが諜報機関の仕事ではない)。
となると、残る選択肢は3しかなくなる。確かに両国とも「愛国者」が多く、
外国勢力の介入を許した自国指導部を糾弾するだろう。しかしそれしか生き残る道が
ないとすると、国家指導部はあっさりその声を無視することは間違いない。「潔い敗北」
より「汚い勝利」の方がはるかに重要だからだ。いざとなれば、反対論者の粛清にも
乗り出すだろう。そして、戦局が長期化すればするほど、その危険性は急速に上昇する
そうなったら終わりだ――中上はそう確信していた。叛徒どもがその生存本能に従って
外国の傀儡と成り下がった瞬間、葉鍵国の未来はなくなる。この国はエロゲ国や
エロ同人国の草刈り場と化し、今まで営々と築き上げてきた「葉鍵の自存自立」は
砂上の楼閣として崩れ去るだろう。仮に正葉―鍵同盟が葉鍵国を「統一」しても、
その政府はエロゲ国各軍閥の言いなりになるのがオチだし、両者の勢力境界が
固定化する場合でも事情は大して変わらない。葉鍵国の自存自立にあくまでこだわるなら、
諸外国介入排除という選択肢が可能な下葉―東葉同盟による統一こそが望ましいのだ。
その統一政府の政体が独裁制である、という問題点はまた別の話だった。
その「亡国の危機」を防ぐためにも、速攻に継ぐ速攻で正葉―鍵同盟を
崩壊させねばならない。そのため、やや拙速のきらいのあった柳川の「鍵自治州領打通作戦」
に中上は積極的に賛成した。ものみの丘さえ抑えてしまえば、正葉―鍵同盟は地政学的に
崩壊するからだ。彼の見るところ、これが外国介入排除――祖国統一への
最も短い道のりだった。いわゆる「祖国緊急統一計画」である。
「なぁ中上、ワシにもお前の焦りはわかる。このまま行けば、確かにワシらが苦労して
造ったこの国が喰い物にされてまう。じゃがな、今は母屋の、それも居間のすぐそばの
廊下が小火なんじゃ。庭先の火事よりそっちを早く消さんと、母屋そのものが焼け落ちてまうで」
「それはわかります。しかし――」
「しかしもヘチマもあるか! ええ加減に目ぇ覚ませ中上!」
遂にキレたにのまえは、バンッとテーブルを叩いた。
「ろくな航空優勢も確保できん中で、二正面作戦やれる暇ぁあるかいっ! ワレ、
亡国の将軍として歴史に名ぁ遺したいんかっ!」
「そんなこと――」
視線を彷徨わせた中上は、末席に座っていた中尾圭佑大佐に目を留めた。思わず期待の
籠もった熱い視線を向けてしまう
「中尾大佐、現在の防空軍緊急動員計画を最大限前倒しした場合、この3日間で何機
そろえられる?」
ふたりの言い争いに突如巻き込まれた中尾は、露骨に嫌そうな顔をしながら答えた。
「こちらも精一杯努力しておりますが、何しろ輸送路の混乱がこちらでも続いておりますので
――元からの動員数とも合わせても、3日で20機強がせいぜいかと」
「……」
中上は何も言わずに、潜入工作員が決死の思いで入手した写真を懐から取り出すと、
中尾の前へと滑らせた。
「最大限努力いたしまして、50機の作戦機を確保いたします、中上閣下っ!」
いたるの湯上がりバスタオル姿を捉えた写真を目にもとまらぬ速さで懐にしまうと、
中尾はコロリと態度を変えて宣言した。だがその元気な口調も、にのまえの質問の前に
急速に萎む。
「……なぁ中尾、その作戦機の内訳、教えい」
「え……いや、それは……」
「正直に言えい。MiG-19とSu-17くらいしか、即応予備機で残ってなかったはずやないか。
MiG-29やSu-27の予備機動員はもうちょいかかるはずや」
「いや、AF師団にはその程度でも十分ではないかと……」
「巫山戯るんもたいがいにせいっ! そんな骨董品で頭だけ数そろえて、
しかも未熟練パイロットで出撃させて、それで戦果が上がる言うんか!?」
「……」
「……こんとおりや中上、諦めい。もう限界なんや。そらワシかて、
ここで諦めるんは正直惜しい。せやけどこの際、南方先端部の占領だけで手ぇ打とうやないか。
これだけでも、宣伝さえうまくやれば『勝利』や言える。傷口を広げたらあかん。
今は、辛抱の時や。ほんの少し、我慢すればいいんや」
「……」
しばしの間、会議室に沈黙が流れた。中上とにのまえは口を固く結んだまま、
互いに視線を固定させている。他の列席者は、発言のタイミングを掴みかねてこれも
沈黙していた。
「……なぁ、久瀬。なんか言いたいこと、あるんやないか?」
会議冒頭から一言も喋ることがなかった下川が、はじめて口を開いた。中上の対面に
座っている久瀬が、閉じていたまぶたをゆっくりと開けた。
「率直に言わせて頂きます。鍵自治州領侵攻は、やり方を変えるべきです。そうすれば
両作戦を並行して進めることも不可能ではありません」」
「どういう意味や」
興味を引いた、という表情でにのまえが尋ねてきた。
「叛徒同盟が抱える最大の爆弾――月姫勢力を最大限に活用すべきです」
久瀬は、「月厨」という侮蔑語を使わずに敵対勢力を表現した。そして、立ち上がると
ホワイトボードの前まで歩いていき、ペンで説明を書き始める。
「現在、月姫勢力は……」
1 ロディマスの月姫指導部
2 AF師団と協同中の“歌月十夜”
3 WINTERS師団・岩本幸子参謀長の私兵集団“PLUM”
4 鍵自治州領内の難民集団
「ご存じのようにここ数年、指導部の統制方針が混乱した影響で、大きく分けて
この4つの勢力に分裂した状態となっています。このうち、指導部と歌月十夜の関係は
険悪ですが、その他はそう対立しているわけではありません。ところが最近、
我々の手駒でこれに新しい要素……」
5 RR月姫義勇兵
「これが加わりました。そして、現在は南方先端部占領域で青村少佐の指揮下で活動を
始めています。これを利用しない手はありません」
「どう利用するんや?」
面白い、と表情を浮かべて下川は話を促した。会議開始から始めて、
唇が笑うように歪んでいる。
「まずRR月姫義勇兵の志願と、同地区でのゲットー解放を大々的に宣伝します。その際、
鍵自治州政府の弾圧政策がいかに非人道的なものであったかを強調します。必要なら証拠を
『作成』しなければならないでしょうが――その心配はないでしょう。
その宣伝が十分行き渡った段階で、次の手を打ちます。同占領域をわが国の
月姫民族自治区に指定し、国家元帥閣下の統制下において自治を認めると発表するのです」
「冗談じゃない! なんでむざむざと……」
「中上、今は久瀬の話を聞くんや」
下川の一喝で、中上は渋々沈黙した。久瀬が説明を再開する。
「同時に、鍵自治州領のゲットーに向けて宣言を発します。『この民族自治区は、
月姫の民ならば誰でも受け入れる。鍵自治州の虐げられし同志諸君、ともに解放闘争に参加し
ものみの丘の圧政者に、ファシスト麻枝に対して立ち上がろう!』とね」
「つまり、鍵に『民族対立』を燃料に放火を仕掛けろ、いうんやな」
にのまえが感情を消した声で確認する。ホワイトボードに5から4への矢印を引きながら、
久瀬が頷いた。
「そうです。ここで肝心なのは、必ずしもこちらの宣伝を100%信じさせる必要はない、
と言うことです。重要なのは、ゲットーに押し込められた月姫難民に
麻枝に対する敵愾心を持つきっかけを与えることです。一度そういう状況を造れば、
後はこちらが適宜工作するだけで鍵の治安を攪乱できます。あるいは、
本当に志願してくる難民が出てくるかもしれません。
そして、我々が『月姫民族に固有の土地を与えた』『鍵自治州の差別弾圧政策を
実力を持って排除している』という事実を、強く国際世論に訴えかけます。最終的には、
ここの1、2、3の各勢力が……」
と、ボードにそれぞれの番号から4へと矢印を引く。
「『同胞救済』をキーワードとして鍵を糾弾し、固有の土地を与えた我々を消極的にでも
支持する環境を作り上げます。その際、糾弾の中核にRR月姫義勇兵がいれば御の字ですが
――まぁそこまで望むのは贅沢かもしれません。ただ、こちらの国内政策も迅速に見直す等の
努力は必要ですが。
とにかく、こういう状況に到れば、自然と月姫指導部と結びついている
ロディマスの叛徒どもと鍵との関係は悪化します。ここまで来れば、叛徒同盟を
我々の工作で解体するのは簡単です。そうすれば、国内が混乱状態の鍵も、
有力な同盟相手を失った叛徒どもも、いかようにでも料理できます。
純軍事的に打倒するよりも、よっぽど簡単です」
「理屈は確かにそのとおりだが……」
憮然とした表情で中上が口を開いた。
「果たして、その工作にどれだけ時間がかかる? 可能ならば月単位でこの内戦を
終わらせる必要があるんだぞ、我々は」
「全ての宣伝工作を順調に進めた場合、1ヶ月もあれば対鍵包囲網を形成できます。
中上閣下、これでも遅いですかな?」
「いや、十分だが……」
「この場合でも、民族自治区防衛と近傍の『ゲットー解放』のために、ある程度の兵力が
必要ですが、それでもRR装甲師団が2個もあれば十分です。他の4個師団は不要です。
これならけろぴーシティ経由の単線鉄道を使った兵站線で活動を維持できます。
カンスースク線を完全にロイハイト地方向けの輸送へと切り替えられます」
「確かに久瀬はんの提案も一理あるわ。これやったら、そんなに大兵力もいらん」
にのまえが口を挟んだ。
「せやけど、できればもうちょい詳しい裏付けが欲しいわ。その辺、用意できるか?」
「今晩まで時間をいただければ、資料を作成させます」
そこまで聞き出すと、にのまえは下川に視線を向けた。彼の視線を受けて、下川が鷹揚に頷く。
この辺りの阿吽の呼吸は、さすがに独立戦争以前からの同志と言ったところだった。
「会議はこれまでや。正式な指導会議を20時から始める。各自それまで、
久瀬の提案をよう検討するんや。少なくとも今夜中に鍵に対する作戦をどうするか決定するで!」
217 :
旅団長:02/07/14 07:26 ID:lRs42jS2
>>209-216「祖国緊急統一計画」投下完了です。
一応補足説明。久瀬たちはまだ、
・岡田少佐の決断
・州都で難民が義勇兵に志願
・WINTERS師団が介入の意志
・原田うだるの変節
を知りません。
整備兵 − 今日は会議室のめんてなんす −
・・・これ、おれらの仕事なんか?
整備兵 − 会議室のめんてなんすは終わらない −
鮫牙氏去ったら書き手の少なさがよぉわかる(汗
りょだんちょに描かせっぱなしなんも悪いな。
こっちも書き掛けのを早くしあげやう……
こっちも書いてるけど…正直うpしていいもんだか禿しく悩む…
めんて?
224 :
鮫牙:02/07/16 23:07 ID:ExxgtIeD
浮上
書いてはみたいが文才がなひ(汗)
書いてはみたいが知識がなひ(泣
書いていいものか悩む……勝手にひっかきまわしそうで怖い。
決戦も迫ってるし。
228 :
旅団長:02/07/18 00:03 ID:i4lv88hc
やっと書き込めるかな……
つうかみなさん、どうか書いてください。
自分一人だと間が持たないってのもありますが、こっちも夏コミ本の追い込みでおいそれとは……
それと、後方支援連隊の方に相談スレッドを立ててみました。
軍事知識やら話の流れの把握やらで不安な方は、こちらの方へ……
続き書きたいんだけど、助成金申請とか仕事が圧してて時間が取れない(;´Д`)
ほっしゅ
どの組織でも、上層部から疎まれる部下と言うものはいる。
反抗的。
臆病。
あるいはその逆、猪突主義。
はたまたその他のさまざまな人格的問題。
―――そして無能。
疎まれる理由はさまざまだ。
当然だろうと誰もが頷く嫌われ者もいれば、周囲が同情を禁じえないような不条理な理由で憎まれる者もいる。
だが、どの場合においても、もっとも危険な事態に置いて生贄に選ばれるという点では変わらない。
ではこの日、市街突入の先陣を命じられた第14自動車化狙撃兵大隊長、四条つかさ少佐のケースはどうだったろう。
嫉妬心が強く、臆病で優柔不断。
家柄が良いから出世できただけ―――その風評は紛れもなく事実であった。
それを自ら証明するかのように、今回の進軍でも、多くの失態を晒しつづけている。
取り分け兵への統率が効かず、虐殺や略奪を兵に許すがままにして師団の進撃スピードに重大な悪影響を与えたことは師団上層の強い不興を買っていた。
しかし、それと今度の市街突入とは直接的な関係はない。
少なくとも四季の心中ではそうである。
かつて、四条少佐は遠野秋葉大佐と対立――というより、一方的な敵意を抱いていた。
その殺害を企んだことすらある。
『妹想い』の遠野四季にとって、それは唯一にして最大の理由であった。
「――最初から、どっかで殺す気だったんだろうけどね」
攻撃当日の早朝、『歌月十夜』師団前線。
攻勢発起に備えて待機する車輛群、その中心にはYW701指揮通信車。
もう数時間続く、総攻撃の準備砲撃。無差別に市中へと容赦なく放たれる無数の砲声を背中に聞きながら、月姫蒼香大佐は仏頂面を隠さない。
彼女が幾度となく四季に強く求めた決定の変更は、馬鹿にしきった薄笑いと共に放たれた、『部下を信じた方が良いぜ』の一言ですげなく却下された。
蒼香とて、四条つかさを好みはしない。良くて無関心、実際にはきわめて冷ややかな感情を彼女に対して抱いている。
短絡的な妄想とその結果としての殺人計画、事情を知る者なら誰しも同じ感情であろう。
だからといって、蒼香はその反感をそのまま実際の行動に移すことを良しとするほど、愚かな人間ではなかった。
ましてやその感情のままに下した命令の結果が四条一人ではなく、その将兵の命まで無為にするとなればなおさらのことだ。
「あいつに臨機の采配なんてできるはずがない。万が一のことがあったら……大隊は確実に全滅するね」
慌て、うろたえ、惑乱し、的確とは程遠い指示を下しているうちに、コンクリートに埋れて全滅する。
蒼香には、その光景が容易に想像できる。
「万一のことって?」
それが想像できない者も、当然にして存在していた。
少なくともこれまでのところ、一方的な勝ち軍である。
テネレッツァ軍に横腹を衝かれ、ロイハイトで躓き、当初の勢いを失っていても、実際に戦場に投入している兵力では此方が彼方を圧倒している。
それを思えば、舞士間祥子大尉の表情に浮んだ疑問の色もなんら不自然ではない。
「今更、下葉の連中になにかできるとも思えないけど……」
「あんたも油断してると、足許掬われるよ」
ひょいと地上から指揮車上面へとよじ登ってきた部下に、にこりともせず蒼香は答える。
「戦争には相手がいるんだ。相手もこっちを騙すためにいろいろ考えてる」
正面には、彼方の燃え盛る市街以外にわずかな灯りの一つもない。
この近辺で光源となるモノは、その全てが戦闘とそれ以外の破壊行為によって喪われた。
ただひたすらの闇が広がる、市街とこの連隊本部の間に横たわる湿地帯、いや戦車と人の残骸が散らばり、その地表の悉くを砲爆撃で掘り返されたそこはすでに荒野と呼ぶべきか。
そこには瀬尾晶中尉が率いる戦車中隊が、随伴歩兵とともに待機しているはずだった。
彼女の戦車中隊は、戦闘で損耗した62式軽戦車の補充として五両の69式が新たに供給されていた。
これで瀬尾戦車中隊の装備車輛は79式戦車3両、69式戦車7両、62式軽戦車6両の16両。定数をわずかに割りこんでいるが、戦闘力は開戦前よりむしろ向上している。
―――とは言っても、列強の主力装甲部隊に比すれば三流も良いところの練度、装備であることには変わりがないだが。
師団中かき集めてようやく一個中隊の85式U型や90式U型は、全て師団長たる四季大佐が直接支配する戦車連隊に配属されている。
瀬尾戦車中隊や蒼香の連隊、左翼に展開する羽居中佐の連隊も含めて、それらの兵力は全て最初の攻勢には投入されない。
市街戦には、戦車は向かない。
あたりまえの理屈ではあったが、それは歩兵の大半までをも温存させる理屈にはなるまい。
――結局、まず投入されるのは四条つかさ他三個大隊2000名弱の歩兵のみ。
強兵とは言えぬ歌月十夜の中でも、ならず者や老兵など取り分け弱兵ばかりの部隊。
それは、遠野四季の私情と狂気のために捧げられた贖罪羊。
「……巻き添えくらいは、減らさなきゃね」
そんな呟きが唇から漏れ出すと同時に、はるか前方で照明弾が天空目掛けて駆け上って行った――ー
<糸冬>
整備兵 − 今日は普通に兵器のめんてなんす −
236 :
名無しさんだよもん:02/07/22 22:11 ID:chmJjgqA
うぬぬぬ、現代ドイツ軍について調べたいのだが、ネットで検索しても出てくるのはナチスに関するHPばかりな罠。
ヤグアルとかレオポルトで検索してみたら?
ユーロコプターAS532クーガーのエンジンは今日も快調だった。
巨大な4枚のローターが空気を切り裂き、総重量6000sを超える機体は悠々と大空を舞っていた。
機体右側面のキャビンドアは開け放たれて、機体内部には外部のの冷たい空気が流れ込んできた。
硝煙の匂いが微かに混じっている。キャビンから僅かに身を乗り出してみれば、遠くの地平からは
何本もの黒煙が立ち昇っている様子がみてとれた。
もう間もなくだ。ヘリのローターが生み出す人工風に髪をはためかせながら、彼女はさも愉快そうに
その唇を大きく歪めた。
残忍さすら感じさせる鋭い瞳からは、強烈な意志の強さを感じさせる。肩まで伸ばした髪の毛が外へと
大きくはねているのは、なにも風のためだけではない。彼女が身にまとう野戦服は、鍵っ子義勇軍
標準的なそれとは、細部に違いがみられた。素人目には分からないが、ポケットの位置などが微妙に違う。
しかし、彼女の格好の前ではその様な差異など吹き飛んでしまう。野戦服上位は二の腕の部分まで捲し
上げらていた。そして、野戦服下衣は股の近くで無造作に破りとり、その健康的な太ももをあらわにしている。
軍規にてらせば、あまり褒められたこととは言えないが、彼女の軍歴はその程度の「個人的裁量」を
認めさせるに十二分なものがあった。
「川口少佐、目的地到着まであと15分です」
背後から彼女の副官がそう告げた。彼女――通天閣騎兵隊第一降下猟兵大隊隊長川口茂美少佐は
副官に顔を向けることもなく、ただ右手を軽く挙げることでそれに答えた。
茂美の視線はようやく視界に現れはじめた一つの街に注がれている。先ほどから見えている黒煙は
まだ街からは昇っていない。大気を汚染するかのような黒い柱は、あくまでその街の周囲からはえていた。
鍵自治区州都AIRシティ。今、葉鍵国でもっともホットな場所だった。
その熱は、まだまだ冷めることを知らない。それどころか、これからもっと大きく燃え上がっていくことだろう。
鉄を溶かし、肉を焼く劫火があの街を覆いつくすまでさして時間はかからない。わが身を焦がす戦場の炎、
退屈な月厨狩りとは比べ物にならない本物の戦火だ。独立戦争以来久しく味わっていなかった高揚感に
茂美は激しく胸躍らせた。
「川口少佐、入ります」
大きく2回ドアをノックした後、茂美はそう言って会議室のドアを開けた。
集成旅団司令部がおかれている中央貨物駅地下壕の一室を改造して会議室として使っている。中央に
AIRシティの巨大な地図が設置され、それを集成旅団の頭脳達が取り囲んでいた。
「おお、川口君か。存外に早かったじゃないか」
はじめに声をかえたのは、茂美の直属の上司でもある霧島聖中佐だった。茂美はそれに敬礼で答え、
聖は部屋にはいるよう手招きで指示を出した。
「紹介します。私の部下の川口君です」
「通天閣騎兵隊第一降下猟兵大隊隊長、川口茂美少佐です」
茂美は集成旅団の首脳達にそう自己紹介をした。その中から一人の男が前へ出て茂美に握手を求めた。
「この旅団を預かるJRレギオン少将です。貴女の噂はかねがね聞き及んでいます。我が国最高の
ファルシルムイェーガーが援軍に駆けつけてきてくれて大変心強く思います」
茂美とJRレギオン少将は堅く手を握った。JRレギオン少将の言葉は決してお世辞などではない。
独立戦争時、当時小隊を率いていた茂美は幾多の戦場で数々の輝かしい戦果をあげてきた。
夜襲で一個師団を混乱に叩き込んだこともある。圧倒的な火力と航空戦力を持ち、数に倍する敵を相手に
10日間持ちこたえたこともある。マーケットガーデン以来の失敗といわれた空挺作戦から一人生き延びた
こともある。鉈のようなカマーナイフを片手に、敵中に踊りこむその戦いぶりから「狂戦士」と呼ばれ恐れられる
存在だった。
「都市防衛という降下猟兵本来の仕事から逸脱した任務を押し付けるようで心苦しいのですが、この窮地を
脱するため、どうか尽力していただきたい」
JRレギオン少将は茂美の手を離し、心底すまなそうに言った。
降下猟兵とは、他の部隊に対して比較的軽装備の部隊である。その分展開能力が高く、迅速な行動を旨とする。
しかし、長時間の戦闘に不向きであり、「篭城戦」に投入すべき兵種ではない。ここに鍵軍の苦しい台所事情を
窺い知ることができた。鍵っ子義勇軍の主力は「空き地の町」からAIRシティへと到着するまで時間がかかる。
他の部隊も国境線の防衛にまわされ迂闊に投入できない。しかし、仮にも鍵自治州の州都でもあるAIRシティに
対して何の増援も送らないというわけにはいかない。そこで、現在唯一展開することのできる「遊兵」、降下猟兵大隊
の投入が決定されたのだった。
この決定には、麻枝元帥と戸越中将の思惑の違いも反映されている。JRレギオン少将と、その周辺を始めとする
一部の部隊を除き集成旅団の徹底的壊滅を望む戸越中将と、州都陥落を必然と諦めつつも、軍としての最低限の
義務――国民の生命・財産を守ること――の為にも出来うる限りのすべての手段を投じようとする麻枝元帥。
「政治家」であろうとする戸越中将と、どこまでも「軍人」としての義務を完遂しようとする麻枝元帥との違いであった。
事実、目の前のJRレギオン少将は茂美に対してにこやかに語り掛けつつも、その内心では「予定外の存在」の
登場によるシナリオ修正の為に頭を悩ませていた。
「閣下、我々ファルシルムイェーガーは死を、敵を恐れません。ただ、祖国が苦しみにあるとき、戦い、勝利し、
死に至ること、それだけを知っています。それこそがファルシルムイェーガーなのです」
茂美は超然として答えた。我々に気を使うことはない。どんな状況であれ、敵を打ち倒し、任務を完遂すること、
それこそが我々の存在理由なのだ。
実際、茂美はこの任務を嬉々として受け入れいていた。茂美にとって任務の適不適など問題ではない。むしろ
任務が過酷であれば過酷であればこそ燃え上がる。我に戦場を、これ以上にない戦場を! まさしく茂美は
「狂戦士」よ呼ばれるに相応しい人間であった。
「そうですか。それは頼もしい。わが旅団はまさしく最高の戦友を手に入れたというわけですね。まったくもって
頼もしい限りです」
JRレギオン少将は、内心で冷や汗をかきながらそう答えた。噂には聞いていたが、まさかこれほどの「狂戦士」
ぶりとは……。この女、馬鹿みたいにクソッタレな任務に対して目を爛々と輝かせてやがる。
しかし、これしきのことで感情を表に出すレギオンではない。そうでなくては、バ鍵っ子達を率いることなど出来る
わけがない。俺だって伊達に基地外供を率いてきたわけじゃないんだ。
「それでは、現在の戦況と、今後の作戦について説明しましょう。どうぞ、こちらへいらしてください」
そう言って茂美を作戦地図の前に招いた。茂美も素直にそれに従う。
茂美はJRレギオン少将の思惑など知らない。知っていたとしてもたいした問題としてはとらえないであろう。なにしろ、
求めるべき戦場は、もう目と鼻の先にあるのだ。これ以上のなにを求めろというのか。茂美はゆっくりとした足取りで
作戦地図の前に進み出た。
<続く>
243 :
鮫牙:02/07/23 09:35 ID:OJ6Eb9+c
第36武装擲弾兵師団ももうスグ増援に駆けつけるでしょうから、一気に戦力が
補充されますな。ちなみに上の師団は戦車を保有してません。
重MATを取りつけたランドクルーザーやパンツァーファルストを大量に保有して
いるます。小銃はAK47。
244 :
名無しさんだよもん:02/07/23 20:00 ID:Hj6WCmMI
武装擲弾兵師団ってなんのこと?
245 :
鮫牙:02/07/23 21:09 ID:MovmhcRu
<第36武装擲弾兵師団
154〜158を参照して下さいシクシク。
>>244 >>158見れ。
ところで、なんでバ鍵っ子達の装備は東側なの?
あと「武装擲弾兵」てーのは少しおかしくない?「装甲擲弾兵」ならわかるんだけど。
つーか武装擲弾兵ってRRだろ。
擲弾兵自体に武装の概念が含まれてんじゃないか。
RR師団だから問題なし!
と言ってみるテストw
でもま、ここらへん言い出すと巷の大新聞が堂々と使う、『武装兵士』って表現も妙な言葉だよねぇ。とか思ってしまう。
RR師団じゃなかった……(;´Д`)
鬱だ氏のう。
兵士だからって必ずしも武装しているとは限らないのではないかと思う今日この頃。
>>246-248 まあ擲弾兵(Grenadiere)って言い方自体が古風な兵科から取ったもんだからなぁ(w
(確か19世紀のヨーロッパの軍隊におけるエリート部隊を指す用語だったかと)
だけど、見てて思うんだが、擲弾兵とか降下猟兵とか、何故呼称がドイツ軍風なのか。
装備面では、下葉は露助、鍵はアメ公とかイタ公とかのごた混ぜなのに、呼称だけが
ドイツ軍というのはいかがなものかと(w
あと、私事だけど休み取ってドイツに行って、ミュンヘンのドイツ博物館でJu52とBf109
を見てきますわ。う〜ん、楽しみ(w
擲弾兵、猟兵という言葉は今でも使われているらしいよ。
擲弾兵:装甲化された歩兵。
猟兵:装甲化されていない軽歩兵。
あと、過去ログ見てもらえればわかるけど、各勢力の装備は
下葉:ロシア式
正葉:日本式
鍵:欧州式(特にドイツ)
鍵に東側の装備が使われているのは、旧東ドイツを意識したのと、
下葉から安価に購入できるからではないだろうか?
あと、米式の装備は世界中で使われてるんだから、どこの勢力が使っていても
不自然ではないんじゃないかな?
また、下葉に独式の呼称が使われているのは
「しぇんむ〜=ヒトラー+スターリン÷2」というイメージがある為じゃないか?
そんな簡潔明瞭に分かれるもんかな。正葉は列車砲持ってるし(w
下葉と東葉は全部ロシア軍で固めている感じだけど、下葉は部隊の
モデルがナチの武装親衛隊だしなぁ…
ま、ドイツみたいにファルクラム買ってる国もあるから、いいのか(w
ギチギチ言う気もないしね。気になっただけ。
多分、呼称の件は、多分このスレの書き手に第三帝国マニアが多い
というためなんでしょうね(w
>擲弾兵:装甲化された歩兵。
>猟兵:装甲化されていない軽歩兵。
これは何か違うような気がする…
特に軽歩兵(こういう兵科もあまり聞かないけど)が「猟兵」ってのが。
東葉は、新大陸南部の、巨大な半島の付け根に位置している。そのため、広大な国土とともに
それなりの長さの海岸線も有していた。このうち、北部の大リーフ湾に面する沿岸は
臨海工業地帯として発展しており、東葉の経済基盤および貴重な税収減として
年々その比重を増していた。
その北岸工業地帯の一角、シンキバ市にあるシンキバ海軍基地を鷲見努元帥と中村毅中将が
視察に訪れたのは、3月26日の、午前もまだ早い頃のことだった。
軍機指定のなされた岸壁まで乗り入れた車が停車すると、ふたりは無造作ともいっていい
動作で降り立った。東葉の幹部たちは、あまり形式張った行動を好まない。
「大リーフ湾の海風は久しぶりですよ」
中村は潮の匂いを吸い込みながら、鷲見に笑いかけた。
「ああ、私もだ。なかなかこっちに来る機会はないからな」
ロックブーケのある南岸地方の暖かな陽光に満ちた海辺とは違った、冬まだ明け切らぬ
海辺の風情に身を置いて、鷲見は目を細めた。彼自身はロックブーケ郊外の浜辺を
気に入っているが、この辺りの海も決してきらいではない。
「しかしまぁ……」
鷲見はそう呟くと、眼前に停泊している巨大な軍艦を見上げて、半ば呆れたように嘆息した。
「黒マルチ艦隊からのお下がりとは言え、我々が空母を保有することになろうとはな」
葉鍵国建国以来、東部方面総監部は「艦隊」と呼べるような兵力を保有してこなかった。
下川国家元帥が黒マルチ艦隊に対抗できるような水上打撃戦力を東葉が保有することを
恐れたせいもあるが、むしろ東葉の方に積極的意志がかけていたことが大きく影響している。
エロゲ国南方総督領を仮想敵とし、陸上・航空兵力へ予算を傾斜配分してきた東葉にとって、
大型水上艦艇など使い道のない金食い虫としか考えられなかったのだ。
これには、南方総督領に有力な艦隊を保有する軍閥が存在しないという事情も影響している。
もちろん北方総督領には、軽空母を中心とした小型機動部隊を保有する軍閥がいくつか
存在するし、エロゲ国旧大陸本領から正規空母を中心とした空母任務群が襲来する
可能性もある。しかしそれらに対しては、対応を黒マルチ艦隊に一任しておけばいいと
東葉の戦略方針は規定していた。いわゆる「黒マルチ艦隊ただ乗り論」である。
しかしこの状況を下川――というより黒マルチを始めとする艦隊首脳陣は快く思って
いなかった。何しろ葉鍵国のある新大陸は広い。黒マルチ艦隊母港であるボスニアから
正反対の空き地の町まで、巡航速度で1週間はかかるのだ。つまり、ボスニア港にいては
大リーフ湾海域での事態に緊急対処することは難しいし、その逆もまたしかり。
現に、黒マルチ艦隊が空き地の町戦役に参戦できたのは最終局面だけだったし、
ボスニアを留守にした隙にAF・歌月十夜合同軍はボスニア港近辺にまで侵入していたりする。
このため下川は国家元帥命令により、強制的に東葉に大型水上艦艇を保有させることを
決定した。東葉に有力な――だが黒マルチ艦隊には対抗できない程度の水上打撃戦力を
保有させ、これをもって大リーフ湾海域における抑止戦力とさせるとしたのである。
この決定に従い、“ピース”就役により退役状態となっていた
アドミラル・ゴルシコフ級航空重巡洋艦“下川直哉国家元帥”が東葉に譲渡された。
これが2年前のことで、以後シンキバで改装工事が続けられていた。それが今日、
ようやく完成したのである。
「最初に話を聞いたときには、随分無駄な話だと思ったものですが……」
舷側に下ろされたタラップを上がりながら、中村は頭上を振り仰ぐ。
「いざこんな状況になってみると、結構ありがたい持ち駒になりますね」
「ああ、まさか国家元帥殿もこんな状況を予測していたわけではないだろうがな」
2年前といえば、まだ2・14事件すら発生していない。当然そのころの大リーフ湾は
葉鍵国の制海権下にある安全な海で、鷲見も「やっかいなお荷物を押しつけられた」と
迷惑に感じていたものだった。大型艦艇というのは、それほどまでに金を喰う。
だが内戦となった現在では、このキエフ級空母を原型とする大型艦を保有しておいて
よかったと、つくづく思う鷲見だった。いまやこの海域には、シンキバの対岸フキフキ港に
強襲揚陸艦“ホワイトアルバム”が、西方の湾奥・空き地の町沖に
駆逐艦“里村茜”と強襲揚陸艦“空き地の町”が存在しており、東葉北岸を脅かす存在と
なっていた。ここで、ただ1隻とはいえ大型艦を保有していることは、計り知れないほどの
大きな意味を持つ。ここで大リーフ湾をシーレーンを敵の手にゆだねてしまうと、
北岸工業地帯の生産活動に大きな支障が出てしまう。
そうこうするうちにタラップを上がったふたりは、歩み出てきた長身の女性の敬礼を受けた。
「東部方面総監部所属・航空打撃巡洋艦“トゥスクル”艦長のソポク大佐です。
来艦を歓迎いたします、閣下」
「2年間の改装で、このフネもいくつか大きく兵装を変更した箇所があってね」
甲板上を先導しながら、ソポクは鷲見と中村に“トゥスクル”の解説を話し始めた。
鷲見がそう求めたため、口調は普段の「頼りになる姉御」調に戻っている。
「まず大きな変更点は、この艦首部分だね」
「ずいぶんとすっきりしたな」
以前のキエフ級・改キエフ級ならば、ここにはSS-N-12対艦ミサイル発射筒が
所狭しと並べられ、空母らしからぬ威圧感を辺りに振りまく場所だった。
しかし“トゥスクル”にはそのごつい代物はなく、代わりに正方形のハッチが
規則正しく並んでいるだけである。
「以前の発射筒を取り払って、代わりに“ピース”にも乗せているSS-N-19対艦ミサイル用の
VLSを12セルほど埋め込んでるよ。それと広さ的に余裕が出たので、“7月26日”用の
SA-N-6対空ミサイル用VLSを12セルほど追加してる」
「なんか、前の方が強そうに見えたがな」
中村のぼやきに、ソポクは苦笑で答えた。
「確かに、発射装置を所狭しと並べた方が、見た目は強そうだしね。砲艦外交なら
そっちの方がいいんだろうけど、でもこっちの方がいろいろ都合がいいんだよ」
ランチャー式よりもVLS式の方が運用効率に優れているし、何よりランチャーが剥き出しで
密集しているのはダメージコントロールの観点からいって非常に拙い実装方法だった。
1箇所でも被弾したら、たちまち全てが誘爆してしまう。
「それと、障害物が少なくなったから、飛行甲板の乱気流も随分治まったって話らしいよ。
その辺は対潜飛行隊あたりが詳しいんじゃないかな」
そう付け加えつつ、ソポクは足を艦中央部の方に向けた。指先を艦橋の方に向け解説を続ける。
「主砲は100mm砲2基を撤去して、代わりに203mm砲1基と76mm砲1基に付け替えてる。
どっちもボスニアからの提供品だけどね」
ボスニアRR海軍工廠で制作された新型速射砲である。203mm砲は対艦・対地用、
76mm砲は対空用を前提に採用されていた。。
「あとの搭載兵器は元のままだね。残る最大の変更箇所は……」
「あの艦橋、だな」
鷲見がそう言葉を引き取り、巨大な艦橋構造物を見上げた。
元々のアドミラル・ゴルシコフ級は旧ソ連製の位相差格子レーダーを搭載しており、
それなりのイージスシステム運用艦として建造されていた。黒マルチ艦隊でも
そのままで使用されていたのだが、運用結果はあまり好ましいものではなかった。
そのため改装に合わせて、イージスシステムの総入れ替えも同時に行われたのだ。
具体的には、位相差格子レーダーを“ピース”と同程度のものに換装し、
イージスシステムも最新式のシステム一式を輸入してこれを取り付けている
――これでも、黒マルチのAIを使った神業的な統合管制システムに比べればまだまだだが。
この新システム、特に新型位相差格子レーダーの能力を最大限に発揮させるため、
艦橋構造物はかなりその形を変えていた。もはや大元のキエフ級の面影は、
飛行甲板や船体部くらいにしか残っていない。
あの、イージス艦独特の平べったいレーダーを見ながら、鷲見は尋ねた。
「確か、日本製だったな」
「そう。富士通とかいうメーカーのJCN9000。元の名前は……なんか随分長ったらしかったけどね」
富士通統合管制ネットワークシステム・タイプ9000である。
「どんな手で輸入したかは知らないけど、アクアプラスシティから送られてきたものを
そのまま使ってる」
「性能的にはどうかな?」
「うぅん……日本製だから、まぁいいとは思うけど」
聞く人間が聞けば「富士通製」というあたりで激しく不安を感じたかもしれないが、
ソポクにはその辺の知識はなかった。
「率直に聞きたいんだが、このフネはまともな戦力になるかな?」
一通りの案内が終わり、艦長室でくつろぎつつ茶を啜りながら、鷲見はそう口を開いた。
「私たちは今まで、陸空主体の戦力作りしかしてこなかったからな。
はっきり言って、海のことは素人同然だ」
「それをいうなら、私だって素人だよ」
「でも、黒マルチ艦隊での研修は受けている。私たちよりは随分マシだよ」
そう切り返されてしばらく黙っていたソポクだが、ふっとため息をつくと
鷲見と中村を見つめて話し始めた。
「当分、戦力としてはたいして期待できないと思うよ」
「と、いうと?」
怒るでもなく穏やかな表情のまま、鷲見は話を促した。
「要は経験不足。確かに私をはじめ“トゥスクル”乗員はそれなりの研修を受けている。
でも、やっぱり付け焼き刃だよ。いざ実戦となったら、とてもじゃないけど冷静には
戦えないだろうね。ましてや、これは実質的な新造艦だよ?」
「しかしそれは、訓練すればいい話ではないかな?」
中村がもっともな疑問を口にするが、ソポクは首を振った。
「いや。これは向こうの講師の受け売りだけど、経験をそれなりに持つ海軍でも、
新型艦を戦力化するのに最低でも2〜3年の訓練は必要なんだってさ。もちろん戦時なら
期間は短縮できるけど、それでも半年は見る必要があるらしいね」
「となると、こちらのハンデも考えたら、どんなに頑張っても向こう1年は戦力外というわけか」
「シンキバから動かないと言うんなら、イージス要員だけを重点的に鍛えるってのもあるよ。
それなら数ヶ月で形になるんじゃないかねぇ」
「シンキバ港で浮き砲台か――ここしばらくは、それが現実的かもな」
苦笑しつつ茶を飲み干す鷲見。
「で、まぁこの先1年かそれくらいで戦力化できたとして、その先“トゥスクル”は
どう使うべきだと思う?」
「はっきり言って、飛行甲板はヘリポートくらいに思った方がいいよ。格納庫が
狭いからそんなに飛行機は乗せられないし、なによりろくな飛行機がないじゃないか」
事実だった。“トゥスクル”は――というより旧ソ連系の空母は固定武装に
凝りまくった結果、格納庫のスペースを小さく抑えざるを得ないという本末転倒な
姿になったイロモノ軍艦ばかりである。“トゥスクル”も、そんな欠点を
是正しない方向で改装が加えられていた。
もっとも、そうせざるを得なかった事情も存在する。まともな艦載機を
用意できそうもない現状では固定武装全廃や飛行甲板・格納庫拡大といった改装は無意味だし
(イロモノ艦載機Yak-38を使うという選択肢は存在しなかった)、何よりもそれで
“トゥスクル”を空母化しても、それを護衛する艦艇が東葉にはないのだ。
あるいは超音速VTOL戦闘機Yak-141でもあれば話は違ったかもしれないが、
東葉航空戦力の拡充はSu-35yaMiG-29をはじめとした固定翼機を中心に展開しており、
とてもではないがYak-141にまで手が回る状況にはなかった。無理をすれば
10機程度は集められるが、それでは予備機なしの飛行隊になってしまい
戦力としては期待できない(ただしデモンストレーション上必要との理由から、
配属自体は行われる予定だった)。
「つまり空母としてではなく、『対潜ヘリを多く積んだイージス巡洋艦』として
位置づけるべきだな」
腕組みをして頷いた鷲見はそう呟くと、壁に掛けられた大リーフ湾海域の海図に目をやった。
「しかしまぁ当面は、正葉に対する抑止戦力として防衛的に使うしかないな。
あるいは、国威象徴の政治的な切り札として。いかに当面は戦力外だろうが、
見せ金としては十分すぎる」
「……遂に完成したようだな」
空き地の町の旧軍事顧問団プレハブ司令部の中で、青紫超主席は楽しげな口調で呟いた。
執務机の上に、写真を放り出す。
逢魔ヶ辻の独立駐留連隊本部を一旦辞去した青紫は、情勢変化の有無を確認しに
司令部に戻っていた。ここで主立った情勢報告に目を通して、使えそうなネタを
仕入れなおして再び逢魔ヶ辻へ出向く予定だった。百戦錬磨の裏葉を相手にするには、
少しでもネタが多い方がいい。そのネタのひとつに、電波花畑連合国の偵察衛星が
捉えたシンキバ港の写真があったのだ。
「例のアドミラル・ゴルシコフ級がようやく改装完成――これで、大リーフ湾の
海上戦力バランスに変化が出るのは間違いないな」
「……見たところ、空母と言うよりもイージス巡洋艦ですな、こりゃ」
拡大鏡を使って電送写真を検討していた元特殊部隊大佐が、半ば呆れたように声を上げた。
「飛行甲板にはほとんど手は入ってませんが、例のゴテゴテ並んでたランチャーが
ほとんどVLSハッチに変わってる。位相差格子レーダーも、資料にあるのとは微妙に
違ってますな。どうやら東葉の連中、空母がなんたるかをまるで理解しておらんようで」
「そうとばかりも言えないぞ、大佐」
楽しげな口調は変えずに青紫が反論する。
「政治的なものだろうよ、おそらく多分な」
「といますと」
「空母はシーパワーの象徴と考えられている――私は潜水艦こそがそうだと思うのだがね、
まぁ世間一般ではそうだ。特に下川国家元帥はそう考えているはずだ。だからこそ
“ピース”を派手に使い倒しているのだよ。で、だ。ここで東葉がこのキエフ級の
出来損ない空母を大改装して本格正規空母に造り替えてしまった場合、
果たしてどうなるかな、大佐?」
「葉鍵国――ファシスト陣営の別々の勢力がそれぞれ正規空母を持つことになりますな」
「そのとおり。そうなれば、自らが絶対的な軍事力を掌握していると喧伝したい
国家元帥にとっては、非常に面白くないわけだ。だからこそ、アドミラル・ゴルシコフ級の
本格空母への改装を阻止したのだよ。そこそこ強力ではあるが、決して“ピース”より
格上にはならないように改装方針に横やりを入れたに違いない。イージス巡洋艦ならば
“ピース”ほど象徴的ではないし、実戦力ではまだまだ黒マルチ艦隊の方が上だ」
はっきり言って青紫の穿ちすぎな解釈なのだが、そう言った要素が全くなかったとは
言えない。少なくとも下川が、“トゥスクル”の改装内容の報告を受けて
「まぁ、それでええわ」と呟いたのは事実だ。
「さて、まぁそれはいいとしてだ……こいつをロディマスに『それとなく』流すとしようか」
「やはり、自由主義者たちに教えるんですね」
「当然じゃないか。こいつが再就役した今、正統リーフ単独でこれに対抗することは不可能だ」
正統リーフ海軍水上艦艇は、“ホワイトアルバム”を除けばミサイル艇ぐらいしか存在しない。
おまけに航空部隊には水上艦艇を叩ける装備がない。第一、高橋総帥のそもそもの
戦略では東葉を政略的に抱き込み、その上で“トゥスクル”を接収して海上兵力を
強化するつもりだったのだから、何をか況やである。
「となると、ロディマスにとって“里村茜”を擁している我々は貴重な存在になってくるじゃないか」
「いかに原田准将が喚こうが、我々と手を結ばざるを得なくなりますな、当然」
「そう、交渉ははるかに有利になるぞ。特に蝉丸たちを動かさなくても、
御堂を奪回するのも夢じゃない。うむ、そうの意味じゃ東葉様々じゃないか」
262 :
旅団長:02/07/24 02:02 ID:u23740k8
>>254-261「鉄の浮かべる城」投下完了です。
一応、“トゥスクル”の要目は以下の通り。
改アドミラル・ゴルシコフ級航空打撃巡洋艦“トゥスクル”
<艦載機>
VTOL機10機もしくはヘリ15機程度
<主砲>
・葉鍵海02号艦載速射砲 203mm砲×1
・葉鍵海03号艦載速射砲 76mm砲×1
<対空ミサイル>
・SA-N-6用VLS 12セル
・SA-N-9用VLS 24セル
<対艦ミサイル>
・SS-N-19用VLS 12セル
<対潜ロケット>
・RBU12000 10連装対潜ロケット発射機×2
<CIWS>
・葉鍵海13号レーダー連動機関砲 30mm×8
<イージスシステム>
富士通JCN9000
263 :
名無しさんだよもん:02/07/24 02:23 ID:oAcHH2Jm
旅団長age
Airシティを巡る情勢がかなり複雑化してきたので一旦整理。
現在、Airシティで起こっていること。
1、聖中佐率いる通天閣騎兵隊の到着。
2、ハイエキ丘陵の戦いの終結。葉側:LSN先遣大隊壊滅。鍵側:歩兵第3連隊、懲罰第999大隊壊滅。
3、第36武装擲弾兵師団の創設(OHP師団の一部、3つの懲罰大隊を糾合)
4、旅団長、WINTERS師団と内通。
5、紅茶スライム、ねこねこ師団と内通。
6、下葉LSN師団本隊、ハイエキ丘陵まで前進。
7、ヌワンギ、真琴をつれて逃亡。
8、下葉首脳部に於いて「月厨救済」計画提議。同日20時より同懸案に関する会議を開催。
9、川口少佐率いる通天閣騎兵隊第一降下猟兵大隊到着。
10、鍵軍集成師団到着まであと6日。
これらすべてが同日の内に起こったと考えていいのかな?
だとすると、時間的にかなりキツキツの状態だね。
それぞれの事件が起こった日時をしっかり設定した方がいいんじゃないかな?
とりあえず、日付をしっかり設定することを提案する。SS中に寒い暑いの記述はなかったので、秋か春がいいと思う。
265 :
旅団長:02/07/24 05:15 ID:d32jkMnK
一応、以前にあった季節描写から、現在を「3月26日」という風に考えています。
タイムスケジュールに関しては、以下が腹案です。
・3月20日頃
AF・歌月十夜合同軍、ロイハイト地方へ侵攻開始
・3月24日
OTOMATIC対空戦車、Airシティに到着
・3月24日夜
青紫超主席、空き地の町暫定自治政府立ち上げの意思を確認
・3月25日早朝
集成師団、空き地の町より撤収、葉鍵中央回廊経由で帰還開始。
・3月25日昼
鍵首脳部会議、通天閣騎兵隊積極出撃を許可
kagami督戦隊、Airシティ市民および暴徒に対し発砲(ゲットー門外の虐殺)
第1、第2両RR装甲師団、イナ河を渡河
・3月26日早朝〜朝
ハイエキ丘陵の戦い
・同時刻
青紫超主席、裏葉高等弁務官と接触
・3月26日午前
下葉首脳部非公式会議
・同時刻
東葉首脳部“トゥスクル”を視察
・3月26日正午頃
第1、第2両RR装甲師団長、ハイエキ丘陵を視察
ヌワンギ、地下に潜る
・3月30日(予定)
集成師団、ものみの丘に到着、第4師団と合流
・4月1日(予定)
集成師団、第4師団、州都近辺へ到着
266 :
旅団長:02/07/24 05:18 ID:d32jkMnK
>>265 あー、書き間違いが1ヶ所あり。スマソ
>・3月25日早朝
>集成師団、空き地の町より撤収、葉鍵中央回廊経由で帰還開始。
これを「3月24日早朝」に訂正
267 :
名無しさんだよもん:02/07/24 13:12 ID:Wcs03hUb
これからはSSの冒頭に
何月何日○○時○○分とか書かない。
どうしても時間設定をぼかしたい時以外はさ。
あ、理由書き忘れた。
今まで話が制限なく膨らんでいったのは、時間による制約がなかったからだと思うから。
空き地の町攻防戦の時なんて一日の内に何回事件があったことやら。
あと時間を多少前後させるのはありだと思う。
あまりきっかりやっても辛いしね。
270 :
名無しさんだよもん:02/07/24 20:02 ID:XjwrB/OB
age
271 :
旅団長:02/07/24 20:30 ID:pAsGiU7y
>>267-269 概ね同意。
あと時間が多少前後していいんなら「○月×日△時ごろ」とか「○月×日夕方」でもいいかと思ったり。
ほしゅほしゅ
過去ログを見ていて思ったんだが、空き地の町の一般市民は青紫のことを知っているのだろうか?
青紫たちは戦いが始まってから来て、すぐに敵に潜入して捕まって、
で、顧問団はそのまま帰っちゃったわけで。
青紫の悪名は半端じゃないから、このまま独立宣言でもした日には反乱が起きたりして(w
274 :
名無しさんだよもん:02/07/25 01:39 ID:lvK6Tq8V
WINTERSってどんなブランド?
そんなに有力なブランドなの?
>274
かなりマイナー。コアなエロゲマニアなら知っているクラス。
そんな弱小勢力に旅団長は援軍を頼んだの?
277 :
鮫牙:02/07/25 12:11 ID:DkoLQbSp
<第36武装擲弾兵師団
元ネタはオスカール・ディルレヴァンガー准将率いる、第36SS所属
武装擲弾兵師団です。
278 :
名無しさんだよもん:02/07/25 13:08 ID:jFnBPLue
猫殺し師団やな。
279 :
旅団長:02/07/25 19:29 ID:gzF8T6cV
>>273 陸軍スレの記述を見ると、青紫指揮下の武装RRは正葉樹立直前に、
空き地の町近辺の国境地帯で「活動」していたからある程度は知っているはず。
そのかわり相当恨みは買ってるだろうけど、その辺の一般住民の不満は元民間防衛隊長あたりが
抑えるしかないんじゃなかろうか?
あるいは、その辺を超政権のアキレス腱としてネタにするとか。
>>276 それ逆。以下
>>163より
>なつきの見るところ、最初はWINTERS師団から接触してきたらしい。かつて
>真冬戦車学校に在籍していた旅団長の伝手を、向こうがたぐり寄せてきたようだった。
つまり葉鍵内戦に介入して領土を奪還したいWINTERS師団がターゲットを選び、
その話に政治的に弱い立場の相手が乗った格好。
ちなみにリアルWINTERSは「千島列島の全てを日本の手に取り戻せ」と主張しています。
エロゲブランドが政治活動なんてしてんの?
281 :
鮫牙:02/07/25 20:31 ID:HTsxc+gF
作中で千島列島のことがちょくちょく出てくるらしい。戦車部隊に製作者の祖父
あたりがいたのかもね。関係無いけど、俺のじい様は元関東軍の義勇兵で露助の機甲
師団と戦ってシベリアに送られたぞ。生きて帰ってきたけどさ。
クタバレブタ野郎と声が聞こえそうですが・・・
>>273 例の顧問団撤退後も医療援助、食糧援助、武器援助は未だに続行中
一応大佐と特殊部隊が潜伏中だった筈。
青紫の悪名より鍵の方が空き地の街は信用していない設定?
>>279 鍵国の再占領を防ぐ為に超先生は逆に必要とされると思う・・・交渉で鍵を空き地の街に対して不干渉の方向に持っていければ対立は自然と消滅すると思う。
医療援助、食糧援助等市民レベルの生活が維持されている限りテロ・ゲリラ戦、暴動は余り発生しないようですし。
それか・・・米村将軍でまとまる?
人材不足を逆手にとって、米村高広を司令官とする統合型作戦部隊を建設すると・・・
軍事力の集中という弱点はあるものの、逆にエア・ランド・バトルのような統合型の作戦は可能だと思う。
283 :
名無しさんだよもん:02/07/26 19:06 ID:cS4R5gI2
クタバレブタヤロウ。
ネタ程度ですが…
家ゲ空軍最後のF4E飛行隊解散
家ゲ空軍は今月末の時点で680sqを解隊すると発表、
要撃部隊9飛行隊+2予備役飛行隊から10飛行隊体制へ移行すると発表した。
これはこの数カ月近隣諸国との小規模衝突が事と関係する模様で、
これにより要撃航空隊はEF2000、支援航空隊はトーネードIDSで統一された模様…
なお運搬と整備費用の全面負担で、退役したF4Eは購入を希望する国境紛争での中立を宣言もしく友好関係に有る国家へ売却との事。
過去ログからすると、黒マルチ艦隊のロシア艦艇はかなりのモンキーモデルのようだ。
いまどき太陽にごまかされるSAMって…
SA−N−5グレイルとすると射程6km…
そこまで見つからずに近づけるというのは逆に恐ろしいかもしれない。
286 :
名無しさんだよもん:02/07/28 03:09 ID:VuDD8Zag
空から白い粉撒いて、混乱させそこに攻撃を加えろ!
ってのはダメか・・・・(w
287 :
鮫牙:02/07/29 02:58 ID:uuvBQi4G
285あんまし細かく突っ込むまれると…。あそこで一度にAir航空隊を全滅
させたら話が続かないから、煮え湯を飲ませてリベンジって形にしたんだけど、
うーん。
288 :
名無しさんだよもん:02/07/29 09:02 ID:pM2rSht7
age
289 :
名無しさんだよもん:02/07/30 00:19 ID:ImPT+H0m
sae
ところで痕Rはこのスレにどのような影響を与えるのかのぅ。
>>255 そうか、今はまだ3月なのか〜
そうすると、4月26日前後に発生するであろう、エロゲ国(F&C等)vs東葉の戦闘
まではまだまだ時間がありそうですな(w
mesote
bururururururururururu
mennte
3月26日19時45分
フクロウの鳴き声が夜の森に響いた。
頭上では綺麗に欠けた半月が地上を照らしている。
月明かりの他に光源と呼べるものはない。鬱蒼とした暗い森の中、僅かな光だけが頼りだった。
前を歩く人間とは、常に2mの間隔をあけて歩く。それ以上近づいてもいけないし、離れてもいけないと
言われていた。
地上には落ち葉や枯れ木が散乱していて、足音をたてないようにして歩くのは非常に骨が折れる。
ちょっとでも気を抜こうものなら後ろを歩く人間から叱責の声が飛んだ。
爪先から踵へと慎重に足を地面につける。ふくらはぎのあたりの筋肉は余計な緊張を強いられた。
バックパックが肉に食い込み肩が痛い。まだ3月だというのに、額からは汗が流れ落ち、喉はカラカラに乾く。
腰にさげた水筒に手を伸ばして、すぐに止める。水筒の中身はもう四分の一しか残っていないことに気が
ついたからだ。
徒歩での行軍を開始してから約二時間、なつきの体力は既に限界へと達していた。
(なんで私がこんなことをしなきゃいけないの?)
荒い息を発しながらなつきは内心で愚痴を垂れた。本当は大声で当り散らしたかったのだが、後ろから
なつきの背中にぴたりと銃口を向けれた状態ではそれもできない。
――足手まといになるようなら殺すから。
Airシティを出発する際、なつきはこの部隊の指揮官からはっきりとそう言われた。
暗い森を行軍する部隊はなつきを含めて8人。皆、一言も言葉を発することなく黙々と歩みを進めている。
なつきは滴り落ちる汗を拭いつつ前を歩く仲間の背中だけを頼りに歩いた
前を歩くのは、なつきとさして変わらない年恰好の少女だったが、一向に疲れた様子を見せていない。
それどころか、なつきよりも遥かに重たい荷物を背負いながらも、手にしたG3の銃口を油断なく周囲に向けていた。
肩まで伸ばした髪の毛が大きく外に跳ねている。破りとられた野戦服のズボンから覗く健康的なふとももは、
同性のなつきでさえため息が出る。腰に差した大きな山刀がひときわ目を惹いた。刃渡り、肉厚ともに
通常のものよりも一回りは大きい。この山刀が今までにいくつの血を吸ってきたのかを想像すると、
思わずその身をすくめてしまう。
川口茂美少佐。第一降下猟兵大隊を率いるAIR航空隊のエリートだった。
この部隊の内、なつきを除く7人は全て第一降下猟兵大隊の所属である。それも、大隊本部直属の特殊部隊
であった。
部隊は6人一個小隊とし、4個小隊で一個中隊を編成し、川口少佐に直属していた。屈強な兵士達が揃う
降下猟兵の中でも最精鋭であり、多くの困難なミッションを成功に導いてきたエリート中のエリート部隊である。
その屈強なるエリート部隊の中にOHP師団所属であるなつきが混じっている現実は異例中の異例であった。
元来、「バ鍵っ子達の吹き溜まり」と言われたOHP師団は他の部隊から忌み嫌われており、嫌悪の対象では
あっても、友好の対象にはなりえない。鍵っ子義勇軍の中で最も共同作戦をとりたくない部隊とまでいわれている。
それとは対照的にAIR航空隊は鍵っ子義勇軍のエリート部隊である。麻枝元帥の肝いりで創設され、
いわゆる「元勲恩顧」を中心とした将校達で構成されている。また、一部の涼元派を除き、ほとんどが麻枝派将校
から成っている。口の悪い者は「鍵製シモカワ=シェンムー師団」と陰口を叩くが、その実力は数々の戦闘で
実証されており、決して名ばかり栄誉部隊ではない。名実ともにエリートと呼ばれるに相応しい部隊であった。
無論、それ相応のエリート意識も持ち合わせており、「掃き溜め部隊」であるOHP師団との共同作戦などは
考えられもしない。事実、EREL集成旅団には一人の前線統制官も派遣されていなかったし、急遽援軍として投入
された通天閣騎兵隊も、旅団長の指揮下に入ることなく、独自の判断で動いている。もっとも、これには戸越中将及び
JRレギオン少将に不信を抱く麻枝元帥が「監視役」として霧島中佐を派遣したという側面もあるが、
それがなくとも、OHP師団とAIR航空隊の共同作戦は現実性がなく、通天閣騎兵隊が集成旅団の指揮下に
入ることは決してないだろう。
なつきは、そんな自分の現状を再認識しつつ、今より数時間前に旅団司令部に呼び出された時のことを思い出した。
「突然の呼び出しですまない。君に重要な任務がある。ここにいる川口少佐と特殊任務について欲しい。
彼女は通天閣騎兵隊第一降下猟兵大隊の指揮官で、この度重要な作戦を実施することとなった。君も知っての
通り、現在、敵部隊はハイエキ丘陵まで前進し、ここに仮設司令部を設置している。川口少佐の率いる少数の
部隊でこの仮設司令部に夜襲をかける。君には連絡将校として少佐の部隊に同行してもらいたい」JRレギオン
少将は一気にそう説明した。
目的は夜襲による心理効果び、通信設備の破壊、集積物資の爆破。そして、あわよくば敵司令官を暗殺し、
指揮系統の混乱を誘発させる。また、この作戦には降下猟兵大隊の主力がごっそり陽動として投入される。
陽動部隊はヘリで戦線を飛び越え、敵兵站線の破壊を目指す。この部隊の目的はあくまで陽動にあるので
隠密性は考慮されない。敵との交戦は極力回避し無駄な消耗は避ける。しかし、仮目的が達成可能な場合は
柔軟に対応し敵に消耗を強いる。投入兵力は第一降下猟兵大隊と、護衛として通天閣騎兵隊の攻撃ヘリ部隊。
状況によってはAIR航空隊の戦闘爆撃機も作戦に参加する。集成旅団からは一兵も投入されない。完全に
AIR航空隊独自の作戦であった。
――ならば、なぜ私が連絡将校として出向しなければならないのだろう?
共同作戦でないのならば、連絡将校など必要ないではないか。後に観鍵りっ子中佐から聞いた話によると、
この作戦は川口少佐によって発案されたらしい。当初は旅団長への説明もなしに川口少佐と霧島中佐の
判断だけで実行されるはずであった。しかし、それを嗅ぎつけたJRレギオン少将が横槍をいれ、集成旅団
との共同作戦を持ちかけたようだ。曰く、これからともに戦っていくためには、お互い信頼が大切だ。隠れて
こそこそするのは褒められた行為とはいえない。もっと協力していきましょう。
無論、川口少佐は猛反対した。素人が何人いても足手まといにしかならない。閣下の兵隊は一人も必要としない。
ご心配せずとも我々だけで勝ってみせる。そんなに信頼が大切ならば、我々の実力を信頼してほしい。
完全に平行線だった。旅団長は幾つかの妥協案を提示したのだが、川口少佐は頑として受け入れようとはしなかった。
そんなに反発されては、今後の作戦に影響がでますぞ。旅団長はそんな脅しめいたことも言ったのだが、川口
少佐は一歩も引かない。結局、事態をみかねた霧島中佐の説得により、川口少佐の部隊に何人かの連絡将校
を派遣することで折り合いがついた。旅団長側にすれば、大幅過ぎる譲歩のようにみえるが、実際のところは
そうでもなかったようだ。
「連絡将校などと言えば聞こえはいいが、結局のところ君の任務は監視だよ。知ってのとおり、我が旅団の目的は
バ鍵っ子の駆除にある。下川軍にはAirシティまで侵攻してもらわなければならない。ここで川口少佐に勝たれ
過ぎては困るのだ。もし、この作戦が想定以上の成功を収めそうな場合は適度に『味方』の作戦を妨害して
くれたまえ」
観鍵りっ子中佐のそんな言葉を思い出した。
その後、なつきは降下猟兵の野戦服に着替えさせられ、さらわれるようにしてヘリに乗せられた。乗っていた
時間は僅かなもので、すぐにヘリから降ろされ、あとは徒歩での強行軍。重たい荷物を背負い、慣れない山道に
悪戦苦闘しながら、なんとか部隊についてきた。ごわごわした野戦服が肌にこすれて不快だった。靴は誰かが
履き慣らしたもので、靴擦れは起きないものの、後方勤務の主のなつきはタクティカルブーツに不慣れだった。
(適度に作戦を妨害してくれか……)
なつきは観鍵りっ子中佐の言葉を反芻した。
(冗談じゃない。そんなことしたら、私、この人達に殺されちゃうよ)
事実、行軍を開始してからこのかた、なつきの背中には常に銃口が向けられていた。もし、なつきが不穏な
行動をとれば、一瞬の躊躇もなく引き金をしぼるだろう。行動をともにしてから数時間程度だが、なつきは
この部隊の性格を肌で感じ取っていた。
――足手まといになるような殺すから。
ヘリに乗り込む直前に川口少佐からかけらえた言葉を思い出す。あの時、川口少佐の瞳にははっきりとした
殺意が表れていた。この人は私を憎んでいる。私は彼女にとって邪魔者以外のなにものでもない。自分の
作戦を失敗に導くかもしれない癌細胞なのだ。集成旅団への配慮など必要ない。敵との交戦により戦死。
司令部への報告はそれだけですむ。彼女にとって私を殺すことなど簡単なことなのだ。
(なんで旅団長はこんな任務を私に押し付けたんだろう)
こんな任務、私に死ねと言ってるようなものではないか。やっぱり私は使い捨ての道具なのか? 私が死んでも
困る人間など一人もいない。悲しむ人間など一人もいない。他の人には任せられないやっかいで危険な任務を
押し付けるだけの便利な一発アイテムなのだろうか?
(いいや、違う!)
なつきは不吉な思考を振り払うかのように大きく頭を振った。旅団長は私を救ってくれた恩人だ。全市民から
虐げられる私に、唯一救いの手を差し伸べてくれたのだ。この任務だって私を評価しているからこそ任せて
貰えたんだ。今までだってそうだ。私には無理じゃないかと思う任務も任せてくれた。そして、私はそれを
着実にこなしてきた。旅団長は私を信頼してくれているのだ。そうだ。そうに違いない。そうじゃないと私は……。
(もう、誰も信じられなくなってしまう)
森の出口は、もう目の前に迫っているように思えた。
< 続く >
WINTERS師団からの通信を口頭をJRレギオン少将に伝えた後、通常の任務に就いていたなつきは、
緊急の連絡により再び旅団司令室に呼び出された。
なつきは急いで司令室へと向かった。司令室の前で息を整えて、ゆっくりと2回ノックをしてから扉を開けた。
JRレギオン少将は、室内中央の司令机に難しい顔をして座り、その脇には旅団参謀である鍵っ子ストーカー
大佐と観鍵りっ子中佐が控えていた。そして、その他に二人、見覚えのない将校が立っていた。OHPの制服とは
明らかに違っている。カーキ色の野暮ったいOHP師団将校用のそれではなく、さっそうとした濃紺色の空軍用
将校服だった。胸には数々の略章が所狭しと飾り立てられ、その人物の経歴の一旦を垣間見ることができる。
肩にのった階級章は中佐と少佐だが、一見したところ、JRレギオン少将と同等の立場にいるようにも見えた。
「彼女達はAIR航空隊の霧島聖中佐と川口茂美少佐である」JRレギオン少将はそう紹介した。
――AIR航空隊! 元勲恩顧組! エリート中のエリート!
その言葉を聞いた瞬間、なつきは抑えがたい感情が沸き上げってくるのを感じた。本来の私があるべき姿、
なりたくてもなれなかったもの、体制の不条理、鍵っ子達の罵倒。目の前にいる人間は憎むべき特権階級
の最右翼に位置する存在だった。嫉妬、憎悪、怨恨。暗い感情が心臓を圧迫する。鼓動が早くなり、全身の
筋肉が緊張するのがわかった。これではいけない。なつきは大きく深呼吸をして自らの気を静めようとした。
こんなところで感情を昂ぶらせるわけにはいかない。そんなみっともない真似はできない。私は彼女達に嫉妬
しているのだ。それがバレるなんて、これ以上惨めなことはないじゃないか。
なつきは盗み見るようにして、AIR航空隊の二人の様子を伺った。幸い二人ともなつきの感情の変化に気づいた
様子はない。霧島中佐はなにやら苦笑いを浮かべ、川口少佐はあらかさまな不快の表情をあらわにしていた。
306 :
名無しさんだよもん:02/08/01 00:25 ID:4/72XA0w
めんてあげ
307 :
名無しさんだよもん:02/08/01 20:18 ID:0imyJ5+/
あげげ
3月26日19時50分
Airシティ・電電公社本部前交差点
「とりあえず、なんとか間に合ったか」
交差点に構築された陣地をざっと見回して、kagami中尉は小さく呟いた。
この、微妙にねじれた角度でそれぞれの街路が交わる交差点は、Airシティ北部地区の
幹線道路が交差する要衝で、集成旅団はここを市街戦闘における重大ポイントのひとつと
認定していた。このため、交差点周辺に車体部が逝って砲塔部だけは生きている
レオパルド1A5を2両配置、周囲に土嚢を分厚く積み上げて即席のトーチカを作り上げている。
周囲にも進撃路を考慮して土嚢が積み上げられており、戦車と連動した歩兵戦闘を十全に
行えるよう配慮されていた。そしてこの後方には戦車急行用にクリアされた街路が用意され、
中央貨物駅付近で待機している紅茶すらいむ率いる戦車連隊残存の支援も受けることが出来る
――ただし、支援要請が通ればの話だが。また、砲撃に備えた個人用の掩蔽壕、いわゆる
蛸壺も用意されていたが、こちらの方は過剰な期待を抱かない方が良さそうだった。
ハイエキ丘陵から柳葉勇樹大佐を送り届けたばかりのkagami督戦隊に
「OHP歩兵連隊消滅に伴う督戦任務の減少に鑑み、電電公社本部エリアの防衛戦闘を主導せよ」
との命令が下ったとき、kagamiは思わず頭を抱えてしまった。
確かに本部前交差点は要衝ではあるが、ここの陣地構築を実際に担当するはずだった
Airシティ郷土防衛大隊がいつの間にやら逃げ散っていて、作業が大幅に遅れていたのだ。
もっとも、その主要因はkagamiがやらかしたゲットー門外の虐殺にあるのだから、
ある意味自業自得ではある(郷土防衛大隊には、あの事件で家族を殺された兵士が多く所属していた)。
しかしその心配も、OHP部隊としては例外的に最低限の士気を保っていたOHP工兵連隊“SS職人”
の作業指揮と、そして今朝から工事人夫として作業に従事した月姫義勇隊の老若男女の
挺身によって奇跡的に解決されていた。特に夜明けと同時に作業に従事し始めた
月姫義勇隊の難民たちの努力は目を瞠るものがあり、こと士気に関しては“SS職人”の
工兵たちよりもはるかに高いほどだった。間違いなく、この陣地での殊勲賞は彼らのものである。
その事実に感謝しつつ、kagamiは月姫義勇隊の隊員たちに視線を走らせた。
こちらに気づいて会釈してくる者もいたが、彼が探し求めていた人物の姿は見あたらなかった。
「どこにいるんだろうな」
以前彼が助けた、花売りの少女。彼に義勇兵志願を必死で訴えかけた少女。その彼女の姿を、
ついつい探してしまう。始めて会ったときから身長130cmのロリロリな外見に
強く惹かれていたkagamiだったが、昨夜の決意を湛えた凛とした表情を見た瞬間から、
ある意味「堕ちて」いた。さすがにこのあたりは、はじるす教団信徒としての面目躍如と
いったところだろう。彼にとっては、例え異教徒であろうともロリ美少女は護るべき対象であり、
また性愛の対象だった――実際、彼自身が虐殺したバ鍵っ子や鍵系市民の中に
12歳以下の幼女はひとりとして含まれていないし、あやまって幼女を殺した督戦隊員を
容赦なく処刑したこともある。
「日雇い軍曹、ここで待て」
そう言い捨てて、kagamiは花売りの少女を捜すべく陣地の中に入っていった。
出来れば彼女には、危険な前線にいてほしくはない。いや、現状では州都に安全な場所など
ないのだが、司令部地下壕で後方任務に就いていれば、生き残る可能性は高くなる。
彼自身の旅団長への影響力を総動員してでも、彼女を司令部に置かせるつもりだった。
もっとも、この陣地での作業に彼女が従事していたかどうか、まではわからなかったが。
そう考えつつ探していたkagamiだったが、ふと今まさに作業が終わった一角で歌声が
上がっているのに気づいた。おそらく誰かが景気づけのために何か歌っているのだろう。
みると、月姫難民たちが集まって、肩を組んで歌詞を口にしていた。
「……ワルシャワ労働歌、か」
懐かしい旋律だった。かつて三大帝国に分割されたポーランドで歌われ出した革命歌。
そして時代が下がるに従って、多くの国で反体制の象徴として歌われた歌。そして独立戦争時には、
VN主義極左セクトも好んで合唱した歌。確かにに、月姫の民が歌うには相応しいと言える。
そんなことをぼんやりと考えていたkagamiの耳に、突然背後から新しい歌声が聞こえてきた。
――暴虐の雲 光を覆い 敵の嵐は吹きすさぶ
「!?」
kagamiはその歌声に思わず振り返った。いつのまにやら来ていたStrv103の上に立った男が、
朗々とした声でワルシャワ労働歌の一節を歌っている。その、少将の階級章をつけた男の顔は――
「旅団長……」
呆気にとられるkagami。それは月姫義勇隊も同様で、みなポカンとした顔でSタンク上の
旅団長を見つめていた。まぁ彼らにしてみれば、自らの最たる「敵」である鍵っ子義勇軍の将軍が
ワルシャワ労働歌を熱唱するなど、想像すらしていなかったのであるが。
今まで「月姫難民がワルシャワ労働歌を歌う」ということは即、鍵っ子義勇軍の鎮圧を招く行為だった。
そんな周囲の視線に答え、集成旅団の指揮官たる少将は、一旦歌うのをやめて周囲を見回した。
そして、月姫難民たちに視線を固定すると、大仰な身振りで彼らに話しかける。
「どうした難民諸君、続きは歌わないのか?」
その光景を見つつ、どうして旅団長がこんな歌を……と思いかけて、kagamiは思い出した。
自分の上官が、かつては極左過激派幹部活動家として独立戦争で暴れていたことを。
今でも当時を懐かしみ、“ヘルメットと火炎瓶”を部隊章に選ぶくらいだから、
この有名な革命歌を今も歌えて当然だった。
――怯まず進め我らが友よ 敵の鉄鎖を打ち砕け
率先して続きを歌い出す旅団長に、最初はとまどっていた難民たちも、やがてつられるように
歌い出した。彼らにとってワルシャワ労働歌は第二の国歌のようなものだし、
それをこういう場面で歌われて悪い気はしない。
――自由の火柱輝かしく 頭上高く燃え立ちぬ
――今や最後の戦いに 勝利の旗はひらめかん
いつの間にやら、合唱は交差点一帯に広がっていた。見物していたkagamiが驚いたことに、
“SS職人”の工兵たちにも、唱和するものが出始めている。確かに工兵の中には親月姫派が
比較的多いし、こういう状況でついつい合唱したくなる歌なのではあるが……
オーバーアクションに両手を広げ、義勇隊に語りかける旅団長。冷静に見れば陳腐すぎて
笑える演技だったが、革命歌合唱直後というハイな状態では不思議と様になっている。
「しかし、現実には私の力及ばずな面もある。その点は素直にわびたい。
特に、月姫難民の諸君には申し訳ない思いでいっぱいだ。我々は今まで、諸君らの守護者では
あり得なかった。いや、圧制者ですらあった。ものみの丘のファシストどもの走狗として、
鍵っ子義勇軍は圧政者の僕として、権力の暴力装置として諸君に暴虐を振るってきた!」
「……おいおい」
思わず額を押さえるkagami。旅団長、気分だけ独立戦争の頃に戻ってないか?
「しかし、私はここで諸君に約する! 例え職を賭してでも、私は諸君の護民官として、
守護者として振る舞う! そしてその理念の下に、RR装甲軍を迎え撃つ! そのつもりで私は、
ワルシャワ労働歌を歌った。この気持ちを理解してくれとはいわない。納得してくれともいわない。
ただ、ただ知っておいてほしい」
「……よういうわ、アンタ」
盛大な歓声が沸き起こる中、呆れを通り越して感心のレベルにまで到達しているkagamiだった。
彼は、旅団長の「月姫擁護」が政治的ポーズの意味合いが強いものであることを知っている。
バ鍵っ子囚人兵の月姫排斥に対する対抗措置であるということも、ものみの丘の元勲統治体制に
対抗するための政治基盤として月姫勢力を欲しているという野心も、WINTERS師団――
特に親月姫派の岩本幸子参謀長とのパイプを太くしたいという事情も知っている。
伊達に長いつきあいではないのだ。旅団長が親月姫の姿勢を打ち出しているにもかかわらず、
月姫の宗教教義に疎いこともお見通しだった。
とはいえ、その現実に嫌悪感を抱いているわけではない。何とかの一つ覚えとばかりに
月姫難民やいたぶるバ鍵っ子どもに比べれば数段マシだし、「一度口にしたスローガンは必ず実行する」
という妙に律儀なところがあることも知っている
(それが、過激派幹部として挫折した原因だとも思っていた)。
当面は、旅団長のアジテーションにつきあっても害はないと踏んでいた。
「なかなか見物な演技だったよ」
Sタンクの上から降りた旅団長に近づいて、kagamiは皮肉気な笑みを浮かべた。
「……渾身の演技だったのに、その言葉はないだろうよkagami」
肩をすくめつつ、旅団長は答えた。
「少し話すか?」
周囲を見回して、kagamiを促す。彼の意図を瞬時に悟ったkagamiは頷くと、
人気の少ないほうへと歩いていった。
「相も変わらずあざとい演技をするな、あんた」
周囲にこちらの会話に注目している兵士がいないことを確認して、kagamiは会話を再開した。
「ワルシャワ労働歌で難民を釣る、か。さすが元活動家」
「歌一つで士気が跳ね上がってくれるなら、いくらでも歌うさ。それに元々好きな歌だしな」
「そのうちゲバ棒で滅多打ちされるぞ」
そうツッコミを入れてから、kagamiはふと相手に対して違和感を覚えた。少しして
その原因に気づく。いつもなら付き従っているはずの副官がいない。同時に、
その副官がいない理由も思い出した。
「そう言えば、清水少尉を川口大隊へ連絡将校に出したってな」
「ああ、まぁ実際のところは監視任務だがね。川口少佐が出しゃばりすぎるようなら、
作戦を妨害するようにも言ってある」
まるで大根役者が台詞を読み上げるような口調で話す旅団長に、kagamiの冷たい視線が突き刺さる。
「……で、それを信じろとおっしゃる?」
その言葉に唇と頬を歪めて、旅団長はおどけたような態度でその疑問を肯定した。
「観鍵りっ子も言っていたな。
『俺自身でも信じていない理由で、相手を納得させる自信なんてないぞ、あんた』ってな」
「そりゃそうだ。本気で川口大隊の動きを押さえたいなら、清水少尉ではなくて私を派遣したはず
――いや、それすらも必要ないな。必要な範囲でRR装甲軍に情報を漏らすだけでよかったはずだ」
「俺がそんな外道なことする指揮官に見えるか?」
「ああ見える。バ鍵っ子の処分を敵にやらせるくらいの指揮官ならやりかねん」
「……」
「正直に言え。何が目的で清水少尉を派遣した? 戦歴に箔を付けさせるためかとも考えたが、
やつには既に十分な戦歴がある。『みずいろ事件』の時の功績を持ち出せば、
少なくとも説得力は十分だ。だからこそわからん」
kagamiの追求に、しかし旅団長はおどけた調子のままではぐらかす。
「さぁて、何のことだか俺にはさっぱり……」
「韜晦するな」
そう突っ込んだものの、このモードに入った旅団長が容易に口を割らないことくらいは、
経験からよくわかっている。だからkagamiは、これ以上の追求を諦めた。
「ま、あんたが清水少尉をどう考えてようが、こっちには直接関係はないがな。
確かに、使い捨てのコマにするにはちょうどいいポジションに入るとは思うよ」
「……kagami」
そう言い捨てて花売りの少女を捜そうと立ち去りかけた彼に、旅団長の声がかかった。
足を止めて振り向き、後ろ手を組んで夜空を見上げている旅団長を見据える。
「そうだな、一つだけ言っておこう。私は清水少尉を……なつきを駒だとは考えていない」
「……駒でないなら、何なんだ?」
「使い捨ての駒なら、その気になればいくらでも調達できる。それこそ柳葉のようにな。
だが俺が真に求める存在は、一朝一夕に出来るものではない。なつきはそれになれる資格を
十分すぎるほど持っている。だから、過酷だとは思ったが今回の任務を与えた。もちろん他にも
理由はあるが、これで生き残ってくれるなら俺的に言って合格だよ」
「その、真に求める存在とは一体なんだ?」
「“我らがクラブ”に参加する資格、そして貴様にもいずれなってもらいたい存在、そう……」
そう言って、旅団長はkagamiに向き直った。真っ正面から視線を投げかける。
「“同志”だよ、kagami中尉」
314 :
旅団長:02/08/02 19:09 ID:ckzAwp+v
――起て同胞(はらから)よ征け戦いに 聖なる血にまみれよ
――砦の上に我らが世界 築き固めよ勇ましく
歌い終わると同時に、歓声と拍手がわき起こった。熱に浮かされたように歓呼の声を上げる
難民たちと、それに大きく手を広げたまま答える旅団長。
上手いな、とkagamiは素直に思う。集成旅団上層部と月姫難民との間にあるのは当面の
共通利害「バ鍵っ子たちへの対策」だけで、真の共闘関係が成立しているとは言い難い。
どこかで、必ず決裂してしまう弱い関係しかないのだ。
だが、革命歌を共に歌うと情緒的な一体感が自然にわき起こってくる。例え実体がなくても
「旅団長は心理的に共闘してくれている」と錯覚させる。それが禁じられた歌であれば、
効果は絶大だ。少なくとも州都での戦闘が続く間は、難民たちにその幻想を見せてくれるだろう。
そしてそれは、必然的に難民たちの士気をさらに跳ね上げてくれる。この辺りのテクニックは、
さすがに元活動家しての才覚と言えるかもしれない。
しばらくそのままで歓呼の声に答えていた旅団長だったが、やがてゆっくりと手を下ろすと、
難民たちに向かって演説を始めた。マイクも使わずに声がよくとおるあたり、
かつてのアジテーションの経験が伺える。
「難民諸君、勇敢なる月姫義勇隊の諸君、そして彼らとともに尽力してくれた“SS職人”の諸君
――旅団長のJRレギオンだ」
新しく沸き起こる歓声。
「懐かしい歌が聞こえてきたので、ついつい昔取った杵柄で歌ってしまった。
無粋な歌声を聞かせてしまい、申し訳ない」
そう照れてみせると、表情と口調を引き締めて改めて義勇隊と工兵部隊を見回した。
「諸君も知ってのように、戦局は楽観できない。はっきり言えば苦しい。
新大陸最強を誇るRR装甲軍2個師団は、おそらく数時間のうちに攻撃を開始するだろう。
決して、楽な戦いにはならない。諸君にも苦しい戦いを強いることになる。
しかし、私は諦めない。諦めることなど出来ない! 諸君の献身を目の当たりにして、
諦めることなど出来ようはずがない!」
316 :
旅団長:02/08/02 19:13 ID:ckzAwp+v
317 :
名無しさんだよもん:02/08/02 19:22 ID:sxZX6LVZ
連続で投稿ミスかよ!(三村)
319 :
旅団長:02/08/02 22:09 ID:wwYCEdiW
>>318「みずいろ事件」
過去にそんな名称の小規模な紛争があった、という程度で認識してくだちぃ。
>>164で書いたなつきの「北部国境地帯での戦功」に含まれます。
ここで一気に詳しく書くと脱線しそうだったのと、後々伏線に出来そうだったんで省略しました。
>>318 すみません。間違えました。一個分隊6人です。
SASは一個分隊4人が4個分隊で16人一個小隊編成。
なにを勘違いしたのか、一個小隊4人だと思っていました。
ちなみに、この川口部隊が6人なのは、オーストラリアSASが6人一個小隊編成だからです。
321 :
名無しさんだよもん:02/08/03 01:13 ID:yziiLzO9
もっと読み手も参加しようぜ!
322 :
名無しさんだよもん:02/08/03 22:15 ID:NefX8Lkl
まだ登場していない葉鍵関係者
森嶋プチ:コミック版カノン著者
高山右京:コミック版東鳩著者 うだるの親友。
>322
そこまで広げると黒田の畜生まで出てくるぞ。
っつか、高山ではなくて高雄では>右京
>黒田の畜生
田沢さんが好きな漏れは、どうすればいいんだ。
>322
それを言い出すと清水マリコ(Kanon小説著者)や館山緑(One小説著者)
果てはきたうみつな(まじアン漫画著者)も出てくる罠。
…あ、雫・痕の小説は誰だったかな?
ともあれ、その辺りは際限が無いので余りお奨めは出来ない。
精々サブで顔出し程度に留めておくのが吉ではないか?
326 :
旅団長:02/08/03 22:44 ID:Ib10jpjx
327 :
名無しさんだよもん:02/08/03 23:13 ID:6SANZaJK
こみパコミックスの犬威は既に登場してなかった?
>322、325
そんなこと言ってたら青山拓也、片桐雛太以下のONE2スタッフがわさわさと・・・(w
>>328 もうすでにAF関係のスタッフまでガンガン出てます(w
そしてまったく出てこない葉鍵キャラ(藁)
そろそろ面手
整備
こんこん
馬鹿が現れたのでもう一度整備
めんて
3月26日20時00分 ハイエキの森
小休止が命じられた。なつきは崩れ落ちるようにしてその場に座り込んだ。ひんやりとした大地が
気持ちいい。できることなら忌々しいほど重たい装備を全て放り出してこの場に寝転びたい。吐く息が
荒い。流れ落ちる汗で眼鏡が汚れてしまったが、それを拭き取る気力すら起きなかった。
――もういい。もうこれ以上歩きたくない。そんなに私が邪魔ならこの場に置いていってよ。
なつきはそう叫びたかったが、結局それは言葉にはなかなかった。
旅団長への信頼もあった。あの人のことは裏切りたくない。たとえ、私は使い捨てだったとして、
それがはっきりとわかるまでは信じていたかった。しかし、それ以上になつきを思いとどまらせたのものは
降下猟兵達の視線だった。
彼等はなつきに対して敵意を抱いている。招かれざる客。いや、それ以下の存在か。彼等にとってなつきは
獅子身中の虫。部隊を死に至らしめるかもしれない病原菌のようなものなのだ。
小休止が命じられてから、彼らは迅速に行動した。部隊の半数は周囲の警戒に就き、残りの人間は川口少佐
の元に集まっていた。分隊長らしき曹長が川口少佐と何事かを話し、通信員の伍長は端末を操作し、
どこかと通信をとっている。そして、もう一人の伍長はなつきに対して常に警戒の視線を送っていた。銃口は
向けていない。恐らく敵地に近いのであろう。その右手にはG3の引き金の代わりとして、凶悪な山刀が握られていた。
もし、なつきがここで大声をあげたりすれば、彼の右腕は瞬時に動き、音もなくその首を刎ね飛ばすのであろう。
(のどが渇いた。お水が飲みたいよ)
前に水を飲んだのはどれくらい前だっただろう? 1時間以上前のような気もするし、つい10分前くらいだったような
気もする。いや、そんなことはどうでもいい。ただ、のどが渇いて渇いてどうしようもなかった。空気を吸い込むと
喉に痛みがはしる。まるで、気管の水分がすべて蒸発し、砂漠のように乾燥しているみたいだった。
腰に下げた水筒を手に取り、目の前で振ってみる。チャプチャプという情けない音がした。水筒の中身はもう少ない。
今後のことを考えると迂闊に手をつけることはできなかった。
「はあ」と大きくため息をつく。すると、とたんに喉に鋭い痛みが走り、思わず呻き声を漏らしてしまった。
「どうしたの、清水少尉?」
突然、頭上から声をかけられた。見上げると、いつの間にか川口少佐が立っていた。
「えっ、あっ」
なつきは慌てて立ち上がろうとした。しかし、疲れきった体はまったく言うことをきかず、なんとか中腰になるくらい
まで体を起こしたところでバックパックの重みに耐え切れず背中から倒れこんでしまう。バックパックがクッションに
なった為、とくに痛みはなかったが、川口少佐の前で失態を演じてしまったことは、、悔やんでも悔やみきれないほど
恥ずかしいことだった。
なつきは、恥ずかしさのあまり顔をあげることができなかった。今、自分の顔は真っ赤になっているこだろう。とてもじゃない
けど、目の前の川口少佐と視線をあわせることなんてできないよ。そうして顔を俯けていると、ふいに「くすっ」という
忍び笑いが漏れ聞こえてきた。
「まったく、なにやってんの。疲れているならそんな無理しなくてもいいのに」
そう言って、川口少佐「あははっ」と笑った。
なつきは思わず顔を上げて川口少佐を見た。意外だった。この人がこんな風に笑うなんて想像もできなかった。
今までずっと感じてきた殺意が不思議と薄らいでいるのを感じた。なつきは、これまでとまったく違う川口少佐の雰囲気
に驚き、思わずその顔をまじまじと見つめた。
「どうしたの? 私の顔になにかついてる?」
「あっ、いえ。別にそういうわけじゃ……」
「ふ〜ん、なにか言いたそうな表情だけど」
川口少佐はそう言ってなつきの顔を覗き込むようにして見つめたが、すぐにもとの態度に戻った。
「まっ、いいか。そんなことより伝えること伝えないとね。この小休止はあと10分で終了。あなたは見張りをやる必要は
ないから、十分に体力を回復しておくこと。小休止が終了したらすぐに行軍を再開するから準備はしっかりとしておいて。
もう目標に近いからこれまで以上に慎重な行動をお願いね。物音を立てることは厳禁。私達の指示には必ず従うこと。
そうしないと命の保障はできないから。それと、その水筒の中身は今の内に全部飲んでしまうように。さっきから
チャプチャプとうるさくて敵に居場所を教えているようなものだから」
「えっ、でも……」
もう、水はこれしかないんです。なつきがそう言いかけたとき、川口少佐がなにかをなつきの手元へと投げ渡した。
なつきは慌ててそれを受け取った。ずしりとした重みを感じ、一瞬、手から落としそうになった。
「あっ、これは」
水筒だった。それも、まだ少しも口につけた様子はなかった。
「それ、全部あげるから。余った水は全部飲んじゃいなさい」
「でも、それでは少佐の水が……」
「大丈夫。まだ予備が2つとも残ってるし、森で水を確保する方法も知っている。だから、それはあなたが持ってた方が
いい。それに、なにも善意だけであなたに水をあげるわけじゃないから。そうした方が部隊のサバイバリティが上昇
すると判断した結果。だから、これは命令。あなたは私の水を受け取らなきゃいけないの」
そして、川口少佐は「わかった?」と言い小首をかしげた。まるで子どもを諭すような表情だった。
「ヤ、ヤー。わかりました少佐殿」
「うん、よろしい。それじゃ、もうすぐ出発だから、それ飲んでしっかりと準備を整えておくように。ついてこれないようだったら
置き去りにするからね」
そう言って川口少佐は背を向けた。なつきは、しばらくの間、手の中の水筒と川口少佐の背中を交互に見つめ、それから
意を決したように声を出した。
「あ、ありがとうございました」
川口少佐は振り向くことなく、右手を軽く挙げて答えただけだった。
――はぁ。
茂美は大きくため息をつきながら自分の荷物を纏めていた。バックパックは水筒一個分軽くなっている。先程、清水少尉
に渡したばかりだった。
(やっぱりあの手のタイプには弱いなぁ、私)
ドジで、間抜けで、おっちょこちょいで、周囲からは常に疎んじられるけど、それでも一途に頑張る姿を見ていると放って
おけなくなる。いくら予備が余っているとはいえ、戦場で水は貴重品だ。そう簡単に手放していいものではない。本来の
茂美ならば間違えなく見殺しにしていただろう。
(似てるんだよなぁ、あの子に)
士官学校時代、いつも窓際の席に座り、遠くの空を眺めていた少女。周囲の輪に入ることができず、時折、教室内で
談笑に耽る同期生達を悲しそうな瞳で眺めてた。声をかけようとはした。それも一度や二度ではなかった。こっちへきて
一緒に話さない? それだけでいいはずだった。だけど、その一言を口にすることができなかった。茂美を含め、同期生
全員が彼女を恐れていた。あいつとつきあったらロクな目にはあわない。それが同期生達の共通認識だった。
事実、彼女と関わりを持った人間は、皆、不幸な事故にみまわれた。別段、彼女が悪いというわけではない。原因は
まったくの偶然であった。最初は、誰もがただ偶然だと考えていた。しかし、不可解な事故が重なるにつれ、皆、彼女を
敬遠しはじめた。あいつは呪われている。同期生達はそう結論づけた。
(せめてもの罪滅ぼしなのかな)
私にはあの子を助けることができなかった。救いを求める彼女の声を、私は無視しつづけてきたのだ。
――業。
茂美の脳裏にそんな言葉が浮かんだ。
一度背負い込んでしまった罪は、一生をかけて償わなければならないのかな? だとしたら、私は命を賭けてでも
清水少尉を救わなければならない。この戦争のど素人を生還させるのは並大抵のことじゃないけど、それでもやらなくては
ならないのだろう。それが私の背負った業ならば。
(あのバ鍵っ子の親玉、私の過去を調べた上で彼女を派遣したんだろうな)
茂美の脳裏に澄まし顔をしたJRレギオン少将の顔が浮かんできた。あの狸親父は私が清水少尉を殺せないことを
分かっているのだ。だから、安心して自分の副官を派遣できたのだ。いくら危険な任務とはいえ、降下猟兵の精鋭一個分隊
の護衛付き。生還の望みは極めて高いと踏んだのだろう。まったく気に入らない。人の心の中に土足でドカドカと
あがりこんでくる。これだからバ鍵っ子は嫌いだ。奴らにはデリカシーというものがない。いつも自分が中心なんだ。
あの変態性的倒錯者のkagamiでもやってきたのなら喜んで血祭りに上げてやったものを。くそっ、まったくもって気に入らない。
(まあ、いいさ)
奴らの思惑はどうあれ、私は私の成すべきことを成すだけだ。清水少尉を派遣してくれたのも、私にとっては幸運
だったのかもしれない。奴らは私に贖罪のチャンスを与えてくれたのだ。そういう考え方もあり得る。
「少佐」
そうひとりごちた後、茂美は部下から声をかけられた。曹長の階級章が目に入った。分隊長だった。
「なに?」
「司令部との通信が終わりました。お知らせすることは二つ。どちらともいいニュースです」
茂美は「続けて」と言って先を促した。曹長のいう司令部とはものみの丘にあるAIR航空隊司令部のことだ。
「まず一つは、友軍情報部の成果です。敵総司令官の居場所です。柳川大将は今夜、前線部隊の士気を鼓舞する
ためにハイエキ丘陵にやってきます。事前の打ち合わせ通り、目標のいる場所には目印が設置されます」
「そう、内応工作がうまくいったのね」
巨大な下川軍も一枚岩ではない。ここ数ヶ月で中佐から大将へと大抜擢された柳川大将には当然反発を持つものを
いるはずだ。しのり〜中将の情報部のそうした判断に基づいて進められてきた作戦だった。
「あと一つは航空支援の件です。攻撃機の出撃が可能になりました。厳しい台所事情の中から、なんとか2機の支援を
捻出してくれたようです。指揮官は国崎中佐だそうです」
「国崎中佐、か」
茂美は一瞬表情を曇らせたが、すぐに気を取り直して言った。
「まっ、考えられる範囲内での最高の状況が整ったわけね。あとは私達がベストな仕事をすればそれでよし。せいぜい
楽しんで殺りましょう」
そして茂美は分隊長の肩をポンポンと叩いた。彼はそのままの姿勢で敬礼をしたのち、部下達への指示を出すため
機敏な動作で回れ右をした。茂美はそんな部下の行動を満足げに見守っていた。
< 続く >
344 :
名無しさんだよもん:02/08/08 18:50 ID:4OHAG3BB
ようやくキャラ中心になってきたね。
>>345 諸事情は不明なるも、完全な独立国家として立ち上がる場面を作られては如何でしょう?
同盟関係は維持の方向なら不自然ではなくなるかも・・・
独立の第一段階としての正統リーフ、しぇんむーが受け入れない事が明らかになった時点で独立国家か、古き良き時代を取り戻すというのも筋かも。
それか、アクアプラスシティーに無差別の戦略爆撃を敢行してしぇんむーと決別宣言を出すとか。
『痕R』計画はこのためのものであった、ってねw
さて、漏れもそろそろ書かないと……(汗
349 :
名無しさんだよもん:02/08/11 23:54 ID:Rj0jkQFU
コミケ明けめんて。
SSの軍装本(着てるのは痕キャラw)買ってきますた。
大陸東部の地図をRandomLandGeneretorで作ってみたけど、貼ってもいいよね?(w
で、どっか(・∀・)イイ!アプロダありませんか?
351 :
350:02/08/12 01:07 ID:RS7c4uez
352 :
350:02/08/12 01:07 ID:RS7c4uez
それと一応注釈を。作成者特権で勝手に設定を追加しています(w
地図上の文字と線はそれぞれ以下のとおり。
・「正」…正統リーフ支配地域(正葉)
・「下」…葉鍵国シェンムー支配地域(下葉)
・「東」…葉鍵国東部方面軍支配地域(東葉)
・「南方総督」…エロゲ国新大陸南方総督領
・「F&C」…そのまんま(w
・「メ・プ」…メビウス・プルトップ支配地域(久弥・椎原支配地域)
・「千代連」…千代田連合支配地域(アージュ、Nitro+等支配地域)
・「他諸勢力」…今のところ軍閥を特定しない地域
・太赤線…国境を示す
・細赤線…軍閥の勢力圏を示す
地図上の記号はそれぞれ以下のとおり。
・★…東葉首都ロックブーケ
・●…東葉重要拠点シンキバ
・▲…未定(勢力圏策定の都合上設置。さしずめイーダ・ブリュッケン(橋)か)
・BP…ビックサイト平原
・†…空き地の町
・☆…南方総督領首都(個人的にはタカ・ダノ・バーハとかを希望(w )
(黒い台形は『ダム』です。一応念のため。)
他に既出の都市名があったらゴメンナサイ。
353 :
名無しさんだよもん:02/08/12 12:27 ID:yzRCYxyw
おお、すばらしい。
下葉勢力境界線はもうちょっと空き地の町に寄ったラインで引いた方がいいと思う。
空き地の町で鍵、正、下、エロ同人の各勢力が接するみたいな感じで。
それ以外はかなりいい感じだとじゃなかろうか。
で、その部分も含めてちょこちょこといじくってみた。
http://homepage2.n ifty.com/legion/img/map.gif
赤線部は大葉鍵嶺、黒実線は幹線鉄道、黒丸は鉄道主要分岐点。
仮に地名も入れてみたけど、どうだろ?
>>354 ×感じだとじゃ
○感じじゃ
だった……
タカダノババ空軍基地なら、随分以前にイタミ空軍基地を追われた『シモカワ・シェンムー』降下猟兵師団の退避先になってたような。
て言うか、漏れが書きますたw
文章進まなきゃそれ以外が進む、ここもコンスタントにイイですにゃ。
357 :
350:02/08/12 23:00 ID:lUcGBSsi
>>354 そちらの案でいいと思いますけど、幕張だけは海岸というイメージが離れないです(w
それから、原案の正葉と東葉の境界線が直線的になってますが、やはり河に沿って
引いた方がいいような気がしてきました。それとメ・プ領域の一部を他諸勢力にした方
が千代連の急速な拡大を地図で表現できて(・∀・)イイ!感じのような気もします。
今日、
>>351の地図の上に貼れそうなデータができましたので、それを改造して大陸
東部の広域地図に改良しようかと思ってます。しばらく時間がかかりますけど、その
際に境界線は直しておきます。
>>356 高田馬場はガイシュツですか。それは失礼。
それじゃ…『テイル』とかいうのはどう?
"Cock・tail"と"Fairy・tale"、両方とも後ろは"テイル"と発音するから(w
それとも素直に『カクテルシティ』とかにしておきます?
整備
361 :
名無しさんだよもん:02/08/14 10:13 ID:PmtqMjWe
めんて
363 :
不安 1:02/08/14 20:21 ID:keLEhGY+
3月26日19時55分
シェンムーズガーデン装甲防御区画・内務省執務フロア
「ロイハイトとは、まだ連絡は付かないか?」
久瀬内務尚書は、執務フロアの大部屋に掲げられた地図に目をやりながら、
専用回線でつながった内務省ビルの中央作戦管制センターのオペレーターに問いかけた。
受話器を握る手が、無意識のうちに汗でにじむ。
『在ロイハイト全部隊、定時の問いかけにも応じません』
「AFや歌月十夜の様子はどうだ? あれから新たに妙な動きはしてないか?」
『……先ほどから、おそらく後方との通信量が爆発的に増大しています。ただ……』
「ただ、何だ?」
『通信に、最高度の暗号がかけられています。パターンから見て、“ソドム”です』
「“ソドム”……」
AF師団が使用している最高クラスの暗号だった。内務省では以前から“ソドム”の解析に
躍起になっていたが、不規則に変更されるパターンに翻弄され、まだ1割も解読できていない。
その“ソドム”を惜しげもなく使用している現状は、確かに異常だった。
どんなに優れた暗号でも、使用頻度が高まればそれだけ解読される危険性が増す。
それを敢えて無視しているからには、導き出される結論は一つしかない。
「つまり……間違いなく、ロイハイトで非常事態が発生したということだな」
午前の非公式会議の後、久瀬は内務省に戻らずにシェンムーズガーデン内にある
内務省フロアに留まっていた。吉井少佐に手伝わせて、月姫離間計画の資料をまとめるためだった。
しかし夕刻に入った本省からの緊急連絡が、その作業を中断させていた。
在ロイハイト防衛司令部との連絡が途絶し、司令官の斉藤准将も呼び出しに応じない、
と主任管制官が泣きを入れてきたのだ。
364 :
不安 2:02/08/14 20:22 ID:keLEhGY+
久瀬も管制センターも、当初は防衛部隊壊滅の可能性を考えた。現地の情勢を考えるなら、
決して有り得ない話ではない。だが参謀本部経由で入ってきた、ロイハイト近辺で
攻撃任務に就いていた今や貴重な生き残りのSu-25搭乗のパイロットからの報告が、
それを打ち消した。
「ロイハイト後方の敵地上軍の動きに混乱が見られる。市内に突入した一部が
壊乱しているのではないか?」
また、警察軍が使用できる数少ない低軌道偵察衛星――使用料を支払っている
多国籍企業の多目的共用観測衛星は、ロイハイト市内で戦闘を行っている警察軍部隊を
撮影していた。専用衛星ではない故の悲しさでスポット撮影しかできなかったが
(電波花畑連合国の後方支援を受けられる青紫超政権を除いて、葉鍵国内各勢力には
偵察衛星の軌道投入能力が全く存在しない)、それでもまだ市内に警察軍残存部隊が
いることは間違いない。
残存しているにもかかわらず、本省からの応答に沈黙を守る警察軍――
そこから不測の事態発生を予測するのはさほど難しいことではなかった。
「とにかく、そっちは引き続き呼び出しを続けろ」
『近隣部隊に確認させましょうか? こちらの部隊はいませんが、ロイハイトの
南東25キロにテネレッツァ軍の先遣偵察部隊がいます』
「一応、要請だけはしておけ――無駄だとは思うがな」
大して期待もせず、久瀬は許可を出した。下葉の各軍事組織がこの手の融通を
きかせ合うような間柄なら、今頃偉大なる下川国家元帥閣下はロディマスで
凱旋パレードをやって、功労者への賞状を嬉々として丸めているはずだ。
ため息をつきたいのを何とかこらえて受話器を置くと、久瀬は厳しい視線を地図に向けた。
下葉北西部、ロイハイト地方。
365 :
不安 3:02/08/14 20:23 ID:keLEhGY+
(おそらく、『アレ』を使ったに違いないな)
彼は、以前から廃棄方法が問題となっていた『あの兵器』のことを思い出した。
よりによって、何で前任の内務尚書はあんな面倒な兵器をロイハイトに集積することに
同意したのだろう? 確かに、あの兵器の廃棄は内務省と参謀本部の共同事業と言うことで
予算が下りていたし、保管場所については内務省の権限で決めたことなのだが……
「まったく、こんなことになるならとっとと後方に搬送しておくべきだったな」
そう呟いたものの、久瀬の内面には「アレ」の使用を独断専行した指揮官
(おそらく岡田少佐だろうと見当を付けていた)を責める気はなかった。
前線で追いつめられた指揮官としてはやむを得ないと思っていたし、
何よりその危険性を見抜けずにロイハイトからの緊急搬出を指示しなかった自分にも
落ち度があるのだ。
そしてここで一番問題にすべきは責任問題ではなく、これの政治的影響についてだった。
『アレ』を使用すること自体については、久瀬も別に心は痛めない。それが必要な犠牲だと
認めるなら、戦略反応弾の使用すらためらわないのが久瀬という男だ。問題は『アレ』を
使用した場合の政治的なインパクトだった。そう、まず間違いなくこれによって
国際的な非難が下葉に集中するはずだ。そうなれば彼の月姫離間策も大きなダメージを
受けるだろうし、ただでさえ引き受け手に不足しがちな戦時国債の市場がどうなるか
知れたものではない。
「……ふぅ」
そこまで考えて、久瀬は頭を振った。現状ではこちらで打てる手はほとんどない。
今はこの事態を下川国家元帥に報告し、内務省の全力を挙げてこの先予想される
政治的暴風を押さえ込むことに傾注すべきだった。
366 :
不安 4:02/08/14 20:24 ID:keLEhGY+
「閣下、そろそろ会議の時間です」
久瀬の代わりに資料をまとめ上げた吉井少佐が、データの入ったディスクを
手渡しながら告げた。ふと時計に視線をやる。たしかに、もうそろそろ会議が始まる時刻だった。
「わかった。吉井少佐はここに残り、管制センターとの連絡を保て。情勢に変化があったら、
直ちに私に知らせろ」
「了解。管制センターとの連絡を保ち、情勢の変化があり次第報告します」
復唱する吉井に頷きかけて、久瀬はふと何かに思い当たったような表情になった。
数秒ほど思案してから、命令を付け加える。
「航空機動隊に命令を出す。大至急“バーバヤーガの眼”をロイハイトに派遣しろ」
隊員輸送用の大型ヘリが主力の警察軍航空機動隊にも、僅かだがジェット作戦機が存在する。
その中の1機、低空強行偵察機“バーバヤーガの眼”で直接ロイハイトの様子を探らせる
しかないと考えたのだ。なおこの偵察機は南アフリカ空軍が放出した
ブラックバーン“バッカニア”艦上攻撃機が原型となっている。
今からなら、少なくとも2時間後にはロイハイト上空に侵入できるはずだった。
367 :
不安 5:02/08/14 20:24 ID:keLEhGY+
3月26日20時05分
ハイエキ丘陵
「……」
仮面越しに見上げる早春の夜空は、星の光と点々と散る雲に彩られていた。少し冷たい、
大葉鍵嶺から吹き下ろしてくる風が微妙に心地よい。
「ハクオロさん」
背後からの声に、ハクオロは視線を後ろへと向けた。小柄な躰を軍服につつんだ郁美が
歩み寄ってくる。
「大丈夫か、立川しょ……ああいや、郁美」
一瞬険しくなりかけた郁美の視線にたじろぎ、慌てて言い直すハクオロ。
「まだ夜風は冷たいからな。体に悪いぞ」
以前心臓の疾患を抱えていた彼女をいたわっての発言だったが、郁美は少し頬をふくらませて
反論した。
「これくらいなら大丈夫です。それに、すぐに戻りますし」
「というと?」
「師団長から伝言です。『もうすぐ方針会議が始まるから、観戦武官各位におかれては
都合がよろしければ是非オブザーバーとして参加して頂きたい』とのことです」
「そうか。ならば戻らねばなるまいな」
軍隊における「頂きたい」はほとんど命令と同義である。それを無視するような愚かさを、
ハクオロは持ち合わせていない。
RR装甲軍司令部から「各師団将兵を激励したい」として柳川大将のハイエキ丘陵視察を
伝えてきたのは、約3時間前のことである。一応「予想外の損害を被った第1RR装甲師団の
士気を鼓舞する」という名目にはなっていたが、実際には柳川大将が意見具申した
「2日以内に州都を落とせない場合は撤退する」という方針を両師団長に説明するのが
主目的といってよかった。直接伝えることによって、この点で師団長間に判断の食い違いが
起こるのを防ぐことを意図していたのだ。柳川は、指揮官の間での意思疎通の有無が
戦局に及ぼす影響を、独立戦争や国境紛争での苦い経験から感覚的に熟知していた。
そして、もうそろそろその御大将がやってくる。
368 :
不安 6:02/08/14 20:25 ID:keLEhGY+
ハクオロはそれを聞いて、こちらから遠慮する形で司令部を離れていたのだが、
“ダス・リーフ”師団長はそれでも臨席せよと言っている。おそらく、柳川も同意見なのだろう。
「それにしても、ここまで余所者に見せてくれるのか。やはり大した自信なんだな」
苦笑しつつ、ハクオロは郁美と並んで歩き始めた。来ているのが軍服でさえなければ、
親子で通じるようなふたりの身長差だった。
「それと、柳川大将の性格なんでしょうね」
「性格?」
「ええ、狩猟者としての、自らの持つ力を効果的に見せて、相手を従わせたいという」
郁美の大人びた口調に、ハクオロは少し考え込んだ。狩猟者としての……
「しかし、こちらとてただ狩猟者に恐れるだけの存在ではない。こっちにだって牙くらいは……」
ぞくり、と悪寒が背中を走り抜けた。懐に忍ばせた鉄扇に手を伸ばしつつ、ハクオロは振り返る。
あたりを警戒している兵士たちと、その先に黒々と広がる森が彼の視界に飛び込んできた。
「どうしたんですか、ハクオロさん?」
「……いや、何でもない。気のせいだったようだ」
そう照れたように笑うと、ハクオロは鉄扇をしまいつつ再び郁美と歩き始めた。
だが、内心ではまだ悪寒の残滓がこびりついている。
そう――とハクオロは思った。今感じたのは、間違いなく明確な殺気だった。しかし、
それらしい怪しげな人間はいなかった。一体、誰があんな殺気を放ったのだろう?
>>363-368「不安」投下完了です。
ロイハイト方面の情報はなるべくぼかして書いたつもりですが……
そっち方面担当の方、これで支障ありませんか?
>>369 >電波花畑連合国の後方支援を受けられる青紫超政権を除いて、葉鍵国内各勢力には
偵察衛星の軌道投入能力が全く存在しない
旅団長殿!サテライトシステムを忘れてはおりませぬか?
いや、だから「運用能力」ではなくて「軌道投入能力」。
ぶっちゃけて言えば自前の宇宙ロケット打ち上げ施設です。
今まで来栖川のサテライトシステムは、運用の描写はあったけど衛星打ち上げの描写はなかった
……と思う。
で、内戦勃発までに至る経過から、葉鍵国内に高橋派の息のかかった宇宙基地があるのも
おかしいと思ったわけです。
で、考えられる設定としては
・国外のどこかの友好勢力範囲に来栖川の宇宙基地がある
・どこか外国に金を払ってサテライトシステム用衛星打ち上げを委託
自分は後者の設定を選んだんだけど……だめ?
372 :
名無しさんだよもん:02/08/14 22:18 ID:SlotaqQB
柳川軍団を構成する師団はなんだっけ?
払暁に乗じての総攻撃。
北郊戦線を担当する『歌月十夜』師団、その先頭に立つのは懲罰大隊もかくやの第14自動車化狙撃兵大隊。
敵がいなければ無敵、戦わぬが故に無敗。下葉ファシストの心強い同盟者。
散々な言われようだが、それが中傷ではなく純然たる事実の羅列であることは、これまでの戦績が証明している。
だから、いくら兵力装備とも不足し貧弱極まりないとは言え、攻勢開始後一時間を待たずに大隊が市外周防衛線を抜いた時には、多くの者がしばらくその報告を信じなかった。
誰が一番信じなかったかというと、防衛線を抜いた当の四条つかさ少佐だったというあたり、この部隊の末期的な状態を良く示しているといえよう。
どれほど当人と周囲が状況を信じなかったかというと、陣地帯を突破し市街に突入してからしばらくしてさえ、少佐が連隊本部に報告することを禁じていた(すぐに敵の反撃が始まり、自隊が撃退されるものと思っていたらしい)ほどである。
だが、実際には市街突入後も下川軍による積極的な逆襲はなく、抵抗は激しいながらもこれを排除し進撃が不可能であるというほどでもない。
将兵たちにとっては、はじめて得た戦功の好機。
市街突入の先陣として、その陥落に多大な功績を残せばこのくだらない指揮官のくだらない統制から抜け出して、一息に昇進も夢ではなかった。
果敢な戦闘ぶりは、まっとうな軍隊でも正当な評価の対象だ。ましてや、月姫陣営は民族主義を掲げるとは言え事実上の軍閥、私兵集団である。
こうなれば、烏合の衆はそのを負の真価を発揮する。
すでに四条少佐の統制も及ばない。
大隊の主要な『任務』であった略奪、強姦に新たな目的が加わった。
大隊本部、そして後続の各部隊を置き去るようにして、各中隊はしゃにむに都心へ向けて吶喊する。
それが死へと突き進む一本道であるとも知らずに。
「第三街区に進出した敵は、連隊規模の機械化歩兵です。YW531APCが主力、中隊規模の89式対戦車自走砲に支援されているとのことです」
「YW531って、確かNBC防護能力付きの中国製だっけ?」
部下から新たに戦線を突破してきた田所軍の装備を聞き、岡田メグミ警察少佐は大仰に肩を竦めて鼻を鳴らした。
露骨な嘲りの含ませた問いに言葉を詰まらせた部下の様子を気にするでもなく、岡田警察少佐は悪意の言葉を矢継ぎ早に放つ。
「59式に85式、殲撃7型に江滬級フリゲイト。あの乞食連中、使ってるものがどれもこれも中国製ね。
まぁ、パクりしか能のない盗っ人にはお似合いの……」
格好だけどさ、そう言い掛けたところでズズンと掩体壕が揺れ、大きく振りこのように揺れる裸電球が激しく明滅を繰り返す。
それを忌々しげに睨み付け、岡田は思いきり壁に拳を叩き付けて―――ふと、口許に笑みを刻んだ。
「……でも、それももうすぐお仕舞い」
二本の尾を為す髪はすっかりほつれ、両の眼は血の色に染まり、しかし刃のような冷ややかさを湛えた眼光だけは以前と少しも変わらない。
以前よりさらに疲労の度合いが濃い相貌に浮ぶのは、誰もが彼女を苦手とする所以の鋭角的な笑み。
掩体壕の薄暗い一角に移った視線の先に、数両の車輛群が鎮座せしましている。
2S4チュールバン240mm自走迫撃砲。
それは、下葉軍の装備の多くがそうであるように、旧ソヴィエトによって開発・製造、そして輸出が行なわれた世界最大の自走迫撃砲だった。
わずかに400両が生産され、イラク、チェコ=スロヴァキア、レバノンなどに輸出され実戦にも投入たが、現在のところ一度としてその本来の任務に投入されたことはない。
このあまり実用性が高いとは言えない巨大自走迫、それがはじめて本来の用途に投入されるのはこのほんのわずかに後のこと。
「頃合ね。害虫駆除には丁度いい頃合」
その呟きを聞きとめた司令部内の将兵が、思わず唾を呑みこみ彼らの指揮官を注視した。
もう、止まらない。止められない。
あの晩から、斉藤准将が朱に染まって倒れたあの晩から約束されていた悪意の日がついに来たのだ。
「松本に―――前線の各部隊に電文を」
『雨月山に霧満ちる』
―――霧が満ちる。
雨月山ではなく、ロイハイトに霧が満ちる。
肌に触れただけで人を死に導く、無色透明無味無臭の恐怖の霧。
それは、VXガスと言う名の霧だった―――
<糸冬>
というわけで、久々に投稿しますた。
時間軸的には旅団長殿の
>>363-368より若干まえのロイハイト市街になります。
一時間で書き上げたんで、なんか中途半端ですが……
時間ないって苦しい……
377 :
名無しさんだよもん:02/08/15 19:12 ID:o6ib2boL
終戦記念日age
整備兵 − 今日は不思議なもののめんてなんす −
なんかみょーに危険なかおりのする倉庫です。
おいてあるものにはやたら危険そうなマーク貼ってあるです。
今日の作業は特に慎重にとの指示が出ていたけどもしかして・・・
379 :
鮫牙:02/08/17 01:02 ID:yaNLyRHI
いかん、一瞬制服に銀英伝が被って見えた……
う〜ん、うまいね。
でも、ここの住人的には第二次大戦〜現代の軍服をベースにした方が萌えられる人間がおおそう。
次はそっちの方面できぼん。
383 :
名無しさんだよもん:02/08/18 01:13 ID:5s94pXCH
F−2支援戦闘機
384 :
350:02/08/18 13:57 ID:Rk2grktp
3月26日 21時00分 シンキバ市
一日が終わり鷲見と中村はシンキバ市にあるホテルの部屋でくつろいでいた。
視察とはいえ、朝から晩まででは、さすがに疲れがたまる。しかし、鷲見の
部屋には酒を携えた中村が訪れていた。
その日の午後、2人はシンキバ市の西にある要塞を視察していた。
この要塞は、元々エロゲ国がシンキバ市防衛のために構築したものであるが、
東部方面軍の侵攻により陥落し、以後そのまま放置されていた。しかし正葉
独立によりこの地域を防御するための拠点が必要であるとして、今般増築・
改修に至っている。もっとも、シンキバに侵攻してくるのが正葉であるとは
限らないのであるが…
要塞の指揮官は第6師団砲兵連隊長の桜井あさひ大佐である。
彼女は、総監部からの指示をほぼ100%に近い形で遂行していた。単なる
廃墟であった要塞は見違えるほどに整備されており、規律の整った兵達とも
相まって、鷲見達にとって要塞は相当強固なものと映ったくらいであった。
そして、この類の任務にあさひを従事させたことは間違いではなかったこと
を確信しつつ、彼らは一日を終えてホテルでくつろいでいたのである。
痩せこけていて見た目にもひ弱そうな鷲見は、どちらかというとこの明らか
に飲みに来た訪問者を歓迎するよりは、早く休みたいという雰囲気であった。
しかし、そんなことにはおかまいもなく、年の割には元気な中村がさも鷲見
も飲みたいんだろうと言わんばかりに酒の肴の雑談をはじめていた。
「思ったよりも作業は進んでいましたね」
「そうだな。これなら今すぐ戦闘があったとしてもそれなりに持ちこたえて
くれるだろうな。ま、あくまでそれなりにだが…」
「まあ今すぐというのはないでしょうが。何せ反乱軍の侵攻経路にこれまた
胡散臭い連中が陣取っていますから。連中も攻めづらいでしょう」
「竹林か… そういえばあそこには米村もいたな。竹林はどうでもいいが、
彼をこちらに引き込めるとありがたいが… できるか?」
「もう少し様子を見ないことには何とも…」
もちろん、彼らは米村が成り行きだけで空き地の街にいることは知らない。
「とにかく、優秀な指揮官はいくらいても足りないくらいだ。いくら兵隊を
増やしたって頭がいなきゃはじまらない」
「確かに。元々米村は我々と繋がりも深いし、情報の連中に頼んでみますよ」
「是非そうしてくれ。あいつは何としても味方になって欲しいからな」
「それにしても、守備隊が桜井達だけというのは、やはり不安だな」
鷲見はつい、溜息まじりに本音を漏らしてしまった。
シンキバ市を守るあさひの部隊は砲兵が中心であり、機甲部隊や歩兵部隊は
ほとんどなかった。榴弾砲やロケット砲、あとは周囲の沿岸防御砲がメイン
であり、肉薄する機甲師団に対処できるのは彼女が指揮する自走対戦車砲の
部隊くらいであった。それだけでは圧倒的に不利であることは間違いがない。
水際で侵攻をくい止められなければどうなるのか? 鷲見の不安はある意味
当たり前すぎるものであった。
「仕方ありません。エロゲ国を黙らせない限り、奴らに睨みを効かせる戦車
や歩兵らを減らすわけにはいきませんから。それに第6師団の機甲化連隊が
配備されているユウラクからは、何かあっても1日あれば駆けつけることが
できるようになっています。心配されるのは分かりますが、とにかく全ては
『ビッグサイト演習』までの辛抱ですよ」
もちろんこれは東葉が二正面作戦を展開するほどの兵力は有していなかった
ことが大きな原因である。だからこそ統合部隊であさひが指揮していた貴重
な戦車は、より好戦的でかつ戦術面に優れる詠美の麾下に置いたのである。
それと、東葉は北方の敵とは直接に対峙していないということもシンキバ市
の防衛体制に影響していた。北方から反乱軍が侵攻してきても、まずは下葉
の部隊が対処にあたるだろうという楽観的な予測もあったのである。
「『ビッグサイト演習』か… 作戦実行まであとどのくらいかかるんだ?」
「現在、第9師団の完熟訓練やエロゲ国内での工作にあたっています。準備
が完了するまでおそらく1月程度は必要でしょう。まあ派遣したハクオロ達
が戻ってくるのが前提ですが…」
「そうか… それまで何もないといいが…」
『ビッグサイト演習』とは複数の個別作戦からなるエロゲ国侵攻作戦である。
東葉の方針としてはエロゲ国と正葉・月姫との二正面戦闘を避けつつ可能な
限り速やかにエロゲ国、とりわけ東葉への敵愾心が強く軍備も増強しつつあ
るエフアンドシー軍閥の行動能力を奪うことが第一目標とされていた。それ
は下葉と反乱軍との間の局面が劇的に移行した際には東葉が後顧の憂いなく
事態に影響を及ぼすことができるオプション、つまり第9師団を介入させる
ことが可能だというオプションを持てる状況を作ることを目的としていた。
「ま、元帥にも作戦成功のためにいろいろとやってもらいますから。今日は
あまり気をもまないでゆっくり休んでください」
「それって、以前郁美が言っていたアレか? どうにも気が進まないな」
「あなたがそれじゃ始まりませんよ。ここにシンキバ名物のジンがあります
から、これでパッと景気つけて鋭気を養ってくださいよ。僭越ながら小官も
おつきあいしますから」
「結局ソレか。ま、いいけどな」
しばらくして、鷲見と中村のグラスが澄んだ音色を響かせていた。もっとも
片方は乗り気ではなかったが…
>>385-388 「ビッグサイト・ユーブンク(演習)」投稿終了です。
とりあえず前例に沿ってドイツ語混じりのタイトルつけてみました(w
>>382 ところで、下葉(東葉含む)の場合、ソ連系装備でドイツ系の部隊名
ですよね。そうなるとこの陣営は旧東ドイツの軍装をベースにすると
(・∀・)イイ!ような気がするんですけど、どうでしょう?(w
3月26日20時05分
Airシティ南部、APD(Airシティ市警中央署)
「はい、JRレギオンの旅団は以外と持ちこたえています」
「AFと月厨の乞食共をけしかけ葉の連中に多方面に戦力を分散させる。馬場総裁の思惑通りですね」
「はい。JRレギオンは予想外に持ちこたえていますが、そろそろ限界でしょう。それに北部も葉の
連中が盛り返しているようです。やはりフン族と乞食民族では荷が重過ぎたようですな」
「ええ、まだ内戦は終結してもらっては困る。泥沼の長期戦にしなければならない。その為の第36
武装擲弾兵師団ですよ、総裁。JRレギオンの旅団が壊滅ししだい、直ちに投入します」
巫義治准将は自らの主との密談を終わらせると、ここの警察署長、実質Airシティの警察権のトップ
に立つ人物を呼び寄せた。彼は金と女と巫義治准将の主の恐怖により巫の飼い狗となっていた。
「狗法使いを知っていますね。彼の逮捕を御願いします。悲しいことに、かつてものみの丘をファシスト
から解放せし英雄は国家に反旗を翻しました。抵抗するようだったら射殺してかまいません」
「はい」
警察署長は自らの悪徳をよく理解しているので、なんの罪悪感も示さない。
その警察署長の態度に満足すると、巫は最後に注意を促した
「狗法使いの店は乞食民族の豚小屋が近いようですが、これから15分後は決して近づいてはいけません
よ。懲罰歩兵連隊の戦闘訓練がありますので」
その言葉に警察署長は近所のホテルをまるまる一つ借りきっている。不気味な兵達を思い出した。
分厚いボディアーマとシールド、AK47を装備した薄気味悪い兵士達である。
ああいう連中なら、女子供でもパンを齧るように無関心に殺すに違いない。
「ああ、訓練終了後は豚小屋にナパームを投下して殺菌する予定ですので、豚の死骸からの疫病の発生の
心配はありませんよ」
警察署長には月姫難民に対する差別意識等無いので、これから訪れる彼等の運命に心底同情した。
これからでは、JRレギオン少将もどうする事も出来まい。
しかし、それを警察署長は止める気はない。彼にとって、同情はするがどうでもいい事であるからである。
3月26日20時30分
ハイエキ丘陵
MI―26かつてソヴィエト連邦が開発した85名もの兵員を輸送出来る世界最大の大型輸送ヘリである。
RR装甲軍総司令官柳川裕也大将はそれに乗り、Airシティ攻略の最前線へと舞い降りた。
そしてその足で、前線司令室に向かうと彼の隷下の指揮官達に今後の方針を説明した。
「これから48時間以内にAirシティを攻略する。もし、失敗した場合は戦線をけろぴーシティまで後退
させる」
「成る程、北部戦線はそれ程までに苦戦しているのですか」
ダス・リーフ師団長が柳川の言葉に然程驚きを見せず、口を開く。
「ああ、ルミラ中将によると、今までの骨董品と違って中国製とは言え、武装は一線級だそうだ。連中に
そんな金があったのは驚きだが、既知外に刃物というやつだ」
統合軍時代の上司であり、親衛隊の中では最も懇意な将軍からの情報提供である。現在彼女は自らの子飼
いの戦力、3個師団からなる、親衛隊陸軍第一軍を使い、けろぴーシティ防衛の任についている。
本来なら、今頃彼女は北部で侵略者を迎撃しているところである。
「まあ、ようするに二日以内に前方の都市を陥落させれば済むことだ。その為にこちらにフリーデンタール
戦隊を一個中隊程持ってきた」
かつて柳川が統合軍で指揮していた戦車猟兵大隊のメンバは現在、柳川直属のRR装甲軍特殊部隊フリ
ーデンタール戦隊として機能していた。その能力の高さは、けろぴーシティ攻略の際、同シティ内部に
潜入し、防空機能を麻痺させ、攻略戦に多大なる貢献をした事からも容易に予想がつく。
「二個師団の総攻撃と平行して、特殊部隊フリーデンタール戦隊を潜入させる。目的は敵の切り札の破壊。
それに指揮系統を混乱に陥れることだ」
「しかし、何処から潜入させます?」
「廃線になった地下鉄がある。それを使わせてもらう」
作戦会議も終わりに近づいた頃、前線司令室より、200メートル前方の林に強力な殺意が集束していた。
その正体はもう直ぐ明らかとなる。
続く
395 :
鮫牙:02/08/19 16:32 ID:1AzoYwV0
ども、投稿終了だす。
3月26日20時10分
Airシティ中央貨物駅
「包囲各部隊に連絡……そうだ、しばらく奴らには手を出すな。遠巻きに観察し、
撮影するだけでいい。攻撃の指示があるまで待機。あぁ、見つかったら反撃して構わない」
司令部の中枢と化している中央貨物駅集中列車制御指令室に、参謀の観鍵りっ子中佐の声が響いた。
旅団長が最後の前線視察に出ている現在、彼と参謀長の鍵スト大佐が司令部を切り盛りしている。
市街地南部に配置している対バ鍵っ子部隊に指示を与えると観鍵りっ子は肩をすくめつつ
通信を切った。
「まったく……莫迦か巫は? あれだけの部隊をこっちに気づかれずにこの街へ移動できると
本気で思ってたんだろうか」
編成命令が下ったその日に師団が動員可能になり、更に一部とはいえ50キロも離れた
街へ移動する――普通ならば絶対に有り得ない話ではある。専門家であればあるほど
「戦術の常識を無視している!」と叫んだことだろう。しかし、バ鍵っ子懲罰部隊特有の事情が、
その不可能を可能にしていた。
第36武装擲弾兵師団は確かに「師団」の名称が与えられ、隷下に3個連隊を従えると
紙の上ではなっている。しかし各連隊はあちこちで定数割れを起こしており、師団合計で
実質では増強旅団規模の兵力しか有していない。つまりそれだけ部隊把握が容易な規模であった。
また各部隊は、師団設立以前から巫の隠然たる影響下にあり、すでに実質的に「師団」
としての態を為していた。馬場総裁からの介入はこの現実を追認しただけに過ぎない。
そして現在、巫が「潜入」と称している部隊は、以前から彼が掌握していたOHP歩兵第1連隊の、
特に忠誠心の確かな(戦術的に優れた、ではない)兵士たちで構成されている。必然的に、
新設部隊特有の面倒からは解放されている。つまり、例外中の例外なのだ。
「そりゃ戦術のイロハを知らぬこと、ねこねこ師団に優るとも劣らぬバ鍵っ子たちではあるが、
もうちょっとそれらしく行動できなかったものかな」
観鍵りっ子の呆れた声に、鍵ストの含み笑いが答える。
巫が「隠密裡に移動できた」と自賛したこのAirシティの潜入も、すでに周囲にはモロバレだった。
当たり前といえば当たり前の話で、戸越中将、しのり〜中将、JRレギオン少将が
それぞれ別個に設けた州都監視網に引っかからないわけがない。彼自身の戦術的稚拙さも
相まって、26日20時の時点では、すでに三者ともが彼らの動きを掴んでいた
(もっとも、把握度合いに関しては差異があったが)。
「まぁいいじゃないか。どうせ“FOX”一帯は狗法使いが迎撃準備を完了している」
集成旅団司令部は、既に狗法使いから戦線離脱を知らされていた。同時に、ここで巫配下の
精鋭部隊を潰す覚悟であることも。その代わりとして、旅団長は巫部隊の動向を狗法使いに
流していた。
「こっちは奴らが潰し合う様を高みの見物と洒落込めばいい。バ鍵っ子どもが殺し合ってくれるんだ。
阻止する理由なんかどこにもない。旅団長にも通信で了承済みだ」
「ああ、巫の莫迦がこっちに牙を剥く時まで、こちらから動く必要はないな」
時代劇の「悪代官と悪徳商人」さながらにほくそ笑むふたりの参謀だった。
そう、旅団側の準備は完了している。月姫難民の中で歩兵戦闘の経験のある者を選抜して
編成した部隊を“FOX”を広く包囲するように配置している。もし狗法使いが勝利するようなら
彼らの援護を、仮に巫が勝利するようならば巫を背後から襲撃をかけるように命令してあった。
どちらに転んだとしても、バ鍵っ子に恨み骨髄の難民たちによる凄惨な戦闘は避けられそうに
なかった。JRレギオン少将の用意した「憎しみの坩堝」に赤く燃える鉄の剣が
振り下ろされようとしている。
3月26日20時06分(現地時間3月27日01時06分)
エロゲ国旧大陸本領沖合・VA財閥本部船“ビジュアルアーツ”
「はぁ、まったくもって気色わるい声やな」
巫との通信をせいせいしたと言った表情で切ったVA財閥・馬場総裁は、葉巻に火をつけると
ソファにドッと倒れ込むようにした座った。総裁室の豪奢な内装に見合った、いかにも
高級そうなソファ。
「しかしま、幸せなやっちゃ。わしの口からでまかせを簡単に信じおって」
クックックッと笑いながら、うまそうに煙をくゆらす。
あのガキ、こっちの「下葉の戦力を分散させるための策謀」なんてその場で思いついた理由を
簡単に信じこんどる。まったく、ちっとは人を疑うっちゅうことを知らんとそのうち寝首掻かれるで、
バ鍵っ子の親分さん。ああ、まぁその点は田所のアホも同じやけどな。
VA総裁たる馬場の言動には、ひとつの特徴があった。自分の本心を絶対に人に明かさないのだ。
VAの戦略方針は常に彼自身で決定し、決して参謀タイプの人間に頼ろうとしない。
そしてそれを徹底するため、「駒」の人間たちには本心とは似ても似つかぬ戦略方針しか語らない。
それも、ひとりひとりに全く別の理由を――そこまで極端ではなくても、バラバラな理由を
それぞれに話し、本心を徹底して隠してしまう。このため、馬場の言動からVAの動向を
探ろうとする敵対勢力の試みは、成功した試しがなかった。
現に、田所や巫に話した「葉鍵内戦介入の理由や目的」は馬場の本来のそれではない。
全く違う――とまではいかないが、彼の本心はかなりかけ離れたところにあった。
「ま、今はたっぷり誤解させとくに限るのぉ」
鍵ストたちとは比較にならないほどの悪辣な笑みを浮かべると、馬場は傍らの内戦電話を
取り上げた。この本部船にある巨大なSRIルーム(セキュリティ調査情報室)に直結した回線である。
「馬場や。電波花畑の連中、あれから妙な動きはしとらんか?」
『特に異常はありません、総裁。先ほど報告しましたとおり、偵察衛星を葉鍵国上空に
集中させている程度です』
「奴らのニミッツ級、大丈夫やろな?」
『戦闘艦艇に葉鍵国追派遣の動きはありません。大型商船に動きがある程度です』
「ならええ。監視を続行せい」
まったく、あいつらが本腰入れよったらこっちの思惑が全部パァや――そう思いつつ
回線を切った馬場だったが、ふとある考えが頭に浮かんだ。
「奴らの介入の口実――里村茜を殺しとくべきかのぉ」
そうつぶやくと、ふぅっ、と煙を吐き出した。まぁ今すぐやることはないやろ。
とりあえず、分析班に事前調査だけは命じとくか。
>>396-399「思惑の交差」投下完了です。
「フリーデンタール戦隊」の、新設命令が下っただったばかりの師団の一部が、師団長もろとも
その日のうちに戦闘ってのは個人的に「?」だったんで、自分なりにフォロー入れました。
ちなみにVA財閥本部船のアイデアはパトレイバーの「さんぐりあ号」から。
401 :
鮫牙:02/08/19 23:59 ID:KacJfNdj
旅団長殿<サンクス。巫が行おうとしてるのは戦闘ではなく、訓練と称した一方的な
虐殺です。この時、巫は情報筒抜けとは知らず、難民居住区に戦闘員はいないと思って
いるので。
あと、くほちゃんを逮捕しに行くのは、Air警察です。という訳でこののまま行け
ば、月姫難民に内乱罪適用の罠が。
3月26日 20時35分
ハイエキ丘陵 下川リーフ軍キャンプ
「ふぁ〜」
男は口からなにかを吐き出すかのように大きなあくびを漏らした。
手にしたカラシニコフを両手で掲げるようにして伸びをする。長時間同じ姿勢を強いられていた
背骨は今までの緊張をほぐすかのようにぱきぱきと小気味よい音を奏でた。
カラシニコフを元の位置に戻し、再び姿勢を正しながら遠くに見えるはずのAirシティを眺めた。
本来なら自治州都の名に恥じない壮麗な夜景が望めるはずなのだが、さすがに戦時下ということ
だろうか、灯火管制をひいているのであろうAirシティの全景は完全に夜の闇へと埋没していた。
男はため息をつきながら今度は首の骨をこきこきと鳴らす。
背骨が終わると首の骨、それが終わると肩の骨。一時間程前、柳川大将の前線視察に伴う警備強化の
ため、緊急に歩哨の任務を言い渡された男は、その不運を嘆くかのように体中の骨を定期的に鳴らしていた。
今日はまったく不運だ。昼間は臨時司令部の設営に駆り出され、夜は非常の歩哨に立たされる。
俺が立っているこの丘なんか楽に落して、俺達後続部隊は先遣隊の後をくっついていくだけの楽な仕事
だと思ったのに、こともあろうか先遣隊はバ鍵っ子ども相手に壊滅の憂き目にさらされた。そのお陰で
全部隊の前進は停止し、俺達後続部隊に面倒な仕事が回ってくる。本来なら今頃はバ鍵っ子相手に
金品の徴発任務に励んでいるはずだったのに……。畜生、まったくついていない。
肩の骨を鳴らし終わった男は、今度は指の骨をぱきぱきと鳴らしながら思った。
それにしても、鍵っ子の連中は随分と羽振りがいい。俺達葉っぱの庶民は下川国家元帥の指導の下に
重たい税金を背負いながら、なんとかその日その日を食いつないでいるというのに、鍵の奴らの生活は
まるで先進国のようだ。同じ葉鍵国民なのに、指導者が違うだけでこれほどまで国民の生活に違いが
でるものなのか? 葉鍵国はエロゲ国列強に囲まれ、常に強大な軍隊を備えなければならない。そうしなけらば
せっかく手に入れた独立は再びエロゲ国の連中に奪われてしまう。だから下川国家元帥は言う。
諸君らの血税こそが崇高なる独立を支える力となる。どんなに日々の生活が苦しくとも、自主独立の精神に
変えることはできない。諸君らの血が、肉が、それこそが葉鍵の精神を養う糧となるのだ、と。
男は国家元帥の言葉をすべて信じているわけではないが、この言葉だけは真実だと思っている。だから
下川政権下での重圧にも耐えることができた。どんなに辛くとも、エロゲ政権下での虐げられた日々よりは
幾分マシだ。それは下川政権に生きる人々の共通認識でもあった。
しかし鍵の連中はどうだ? 奴らは俺達に祖国防衛の重責を押し付けて、自分達だけプチブル的中流生活を
謳歌してやがる。奴らには金があり、自由があり、人生に夢を見ることできる。一体この差はなんだ? 指導者
が違うというだけのことなのか? いや、違う。連中は辛いことすべてを俺達に押し付け、自分達だけ楽をしてるんだ。
奴らには過酷な重税もなければ、強圧的な秘密警察もいない。そういったものはすべて俺達に押し付けているんだ。
果たしてこんな不公平が許されるのか? 否! 断じて否だ! こんなことが許されていいはずがない。だから
俺達は奴らから全てを奪い取る。民家に押し入り、金を奪い、男を殺し、女を犯す。奴らの幸福をすべて奪い取るんだ。
眼前のAirシティもけろぴーシティの時のように全てを蹂躙してやるんだ!
男はそう決意を新たにし拳を握り締めたかと思うと、急に股間に疼きを感じて今までの威勢が一気にしぼみ落ちた。
けろぴーシティに侵攻したとき、略奪と暴行の記憶を思い出したのであった。
へへへ、そうだ、男は殺し、女は犯すんだ。鍵の女は顔のデッサンが狂ってるというが、どうしてどうして、中々の
美人揃いじゃねえか。特に肌がいい。みきぽん中将の美肌法とやらで、連中の肌はとっても綺麗なんだ。へっ、
思い出しただけで勃してきやがった。
「いけねぇ、いけねぇ。任務中になにやってんだよ、俺は」
男は思わず口に出して股間に目をやった。すると、自分の影の上にもう一つ違う影が重なっていることに気がついた。
なんだ、やっと交代か? そう思って振り返ると見覚えのない女が立っていた。顔も服装もまったく見覚えがない。
ただ、ないやら黒い塊を大きく振りかざしていることが気になった。
「そう思うなら、さっさとその汚いものをどうにかしなさいよ」
女はそう言って黒い塊を振り下ろした。
なんだ、なにやってんだ、こいつ? そう思った瞬間、黒い塊は男の首の付け根に食い込みひんやりとした鉄の感触と
同時に焼けるよな鋭い痛みを一瞬だけ感じた。そして、それ以降はなにも感じることはなくなった。男の首と胴体は
本人の気づかない間に永遠の別れを告げていた。
なつきは思わず息を飲んだ。
目の前で歩哨の首が刎ね飛ばされるまで、なつきはなにが起こったのか完全に把握することができなかった。
『ちょっとここでまっててね』
川口少佐はまるで買い物にでも行くかのようなセリフを残してあっという間に闇の中に消えていた。気がついたとき
には歩哨の背後に回りこんでいた。そして音もなく首を刎ねる。一部始終を近くで見ていたはずなのに、なつきには
なにが起こったのかが分からなかった。それほどまでに川口少佐の手際は洗練されていた。
とんっ、と刎ね飛ばされた歩哨の首が小さな音を立てて地上に落ちる。それとは別に歩哨の胴体の方は川口少佐に
抱えられ静かに地上に下ろされた。その様子を見ていた降下猟兵の兵士達は一切の音を立てることなく一斉に動き出す。
なつきもそれに遅れないよう慌てて彼らの後を追った。
兵士の内ふたりは歩哨の体を森の中へ隠した。残りの兵士達はそれぞれ事前に与えられた目標を無力化していく。
分隊長らしき曹長だけが川口少佐の元へと駆け寄った。
「すべての準備は完了。作戦は滞りなく進行中です」
「退路の確保は完璧?」
「はっ、クレイモアもしっかり設置しました。すべて完璧です」
「航空隊の方は?」
「万事問題なしです」
国崎中佐のF−15Eは先程ものみの丘から発信した。そのまま真っ直ぐハイエキ丘陵に向かっている。なつき達の任務は
その爆撃を誘導することである。その為のレーザーポインタも準備してある。爆撃目標は本作戦の本命――柳川大将が
陣取る本営だった。
本当はサシ殺りあってみたかったんだけどね。ふと、作戦前に川口少佐が漏らした言葉を思い出した。なにを考えているんだ
この人は、と思うと同時に、ああ、この人らしいなと感じる自分になつきは戸惑いを感じた。顔をあわせてまだそれほど時間が
経っていないのに、なつきは川口少佐の性格をなんとなくだが把握していた。異常なほどの戦闘狂であると同時に、年頃の少女
らしい一面も兼ね備えているようだった。なつきはそんな彼女の二面性に少々の困惑を感じると同時に、ほのかな親しみ
を感じるようになっていた。小休止の時に覗かせた笑顔が印象的だったのかもしれない。自分ではそう分析している。
「清水少尉」
分隊長との会話を打ち切った川口少佐はなつきを呼んだ。なつきは慌てて応じる。
「これを持って私についてきて」
なつきは大きなカメラのような機械を渡された。真っ黒なボディに大きなレンズが二つ付いてる。武器ではないようだった。
「これは?」
「見ての通りレーザーポインタよ。これから敵の本営に殴りこみをかけるから気合をいれてよね」
そう言って笑顔で肩を叩かれくと、すぐに身を翻して川口少佐は駆けていた。なつきも遅れないよう慌てて走る。なつきは、
重たい機器を抱えながら、なぜ私にこんな重大な任務を任せるのだろうと思った。もしかして、少佐に気に入られたのだろうか?
いや、それはありえない。ヘリに乗り込む時に感じた殺意は紛れもなく本物だった。彼女は私のことをバ鍵っ子と同列に
扱っているのだ。好意など抱くはずもない。ならば、なぜ? 手近に置いた方が監視がし易いから? それにしては重大すぎる
仕事だ。やはり私は気に入られているのだろうか? どちらにせよ、私は彼女に従うしかないのだ。私の命は少佐次第。
できることなら気に入ってもらえたらいいな。やっぱり無理かな? はぁ、私はこれからどうなってしまうんだろう……。
敵陣の真っ只中を駆けながら、なつきは大きなため息を一つついた。
< 続く >
>>402-406 「夜襲」
以上です。
茂美となつきの話を書きたいという人がいたら続きを書いてもいいですよ。
いまのところ、続きを放棄するつもりはありませんが、縄張りをつくってしまうのも少々ナニかと思うので。
一度書き始めると途中で抜けられなくなるような雰囲気だと書きづらいとも思います。
書き始めたのなら、最後まで責任をもって書けという意見もあるでしょうけど。
>>401 >内乱罪適用の罠が
それ以前に、集成旅団が警察に利敵罪をふっかける罠。
一応、巫もろとも警察、州政府も叩きつぶそうというのが旅団の思惑ですが。
州都に残っている時点で、彼らも「まごめ計画」の対象になっているはずなので。
409 :
鮫牙:02/08/20 07:55 ID:b4S3xzRl
集成旅団VS警察、州政府で内乱状態に突入ですか。
死者は凄まじい数になるでしょうね。
まごめ恐るべし。
410 :
名無しさんだよもん:02/08/20 14:29 ID:2NJzAUS8
黒幕(馬場)の手の内は簡単に明かさない方が良さそうだね。
3月26日20時12分
Airシティ南部 FOX近辺
傭兵。娼婦と並び人類の歴史に古くから存在する専門職。
その傭兵の中でも鍵自治州で最も有名なのは、狗法使いとファントムレディである。
『相手は伝説の傭兵、狗法使いだ。決して逮捕しようとは思うな』
「は」
それにしても、機動隊長は警察署長との無線を終えた後思った。まさか、スラムがここまで入り組んで
いたとは。大型車両は入りこむ余裕がまるで無い。
装甲車と放水車の援護が無いのは辛いがまあいい。幾ら伝説の傭兵だろうとも、相手は一人だ。
機動隊長はもう一人の鍵自治州最強クラスの傭兵、ファントムレディがかつてアクアプラスシティで武装
警察の包囲網を殆ど一人で破ったという事実を知らない。
「中隊長、準備が完了しました」
機動隊員が報告をする。
「よし。やれ」
その号令から一秒後、FOX数カ所から一斉に火の手が上がる。そしてそれが店全体を覆い尽くすのに、
そう時間は掛からなかった。
「店から飛び出して来るものは全員即座に射殺しろ」
FOX周辺に展開した機動隊150名、一個中隊に命令を出す。
炎に包まれる店の中で、狗法使いはトウモロコシから作ったアルコール度の高い酒を飲みながら思った。
表の警察達は陽動、本命は居住区の殲滅か。巫の精鋭部隊を返り討ちにしようと思ってたが、やれやれ。
これは少し急ぐ必要があるか。
「遅い」
機動隊長は思わず呟いた。店の扉は完全に炎に包まれている。
逃げられたか?いやそんな筈はない。店の裏口にも機動隊が銃を構えて待ち伏せている。
突然大排気量のバイクの音が聞こえてきた。
バイクでこの包囲網を一気に斬りぬけるつもりか馬鹿が、そんな浅知恵。
怪物バイク、GSX1300RHAYABUSAが店から飛び出してきた。但し、それは正面の扉からでは
なく、店の二階の窓からであるが。
慌てて機動隊員達がMP5を空を舞うバイクに向けて乱射する。がそれは一向に当たらない。
逆にバイクから機動隊の包囲網にグレープフルーツ大のモノがばら撒かれる。
そしてバイクがパトカーの屋根に着地する。乾燥重量217kgの衝撃により、屋根は紙屑のように叩き潰
され、窓ガラスが粉々に弾け飛ぶ。と同時にばら撒いた手榴弾が爆発を繰り返し、機動隊員達を吹き飛ばして
地獄絵図へと投げ込んだ。
混乱の最中、機動隊員達もパトカーの屋根に居座るバイクに散発的に反撃の銃弾を浴びせるが、最高時速350`
の鋼鉄の猛禽はウサギが鮫の背を渡るように、パトカーの頭を叩き潰し、移動し避けていく。
そして、狗法使いは片腕でバイクを操りながら、もう一方の腕でスパスを構えて、機動隊員達にぶっ放した。
45口径のマグナムの有に3倍の威力がある、スラッグ弾は機動隊員の盾をぶち抜き、体を弾け飛ばす。
恐慌状態で乱射する銃弾は全く当たらず、逆にスラッグで次々に虐殺されていく。
機動隊長は予想外の出来事にパトカーの中で放心状態になっていた。部下の指示を求める声も彼の耳には届かない。
突如車に衝撃が走る。
狗法使いは機動隊員達の指揮者の車の鼻面に乗り上げ、片足を車に引っ掛けると、スパスを機動隊長に構えて、
ぶっ放した。スラッグは彼の頭を完全に吹き飛ばし、車の内装を赤一色で塗装した。
それが終わると狗法使いは、立ち去っていった。後には放心状態の幸運にも生き残った機動隊員達だけが残った。
僅か45秒の出来事だった。
3月26日20時15分
月姫難民居住区
数両の輸送トラックが月姫難民の居住区に到達した。
目的は難民の掃討作戦である。投入される戦力は、第36武装擲弾兵師団、懲罰第333大隊「凌辱」よりおよそ、
二個中隊。巫が現在即座に投入出来る戦力の最大数である。
SHION少佐には多くの鍵ッ子と同じように、月姫難民に疫病をばら撒く溝鼠程度の価値観しか持って無かったの
で、これから行おうとしている、一方的な虐殺に何の躊躇いも無かった。
突然、トラックから下車しようした兵士の頭が突然吹き飛ぶ。
HAYABUSAを駆る、狗法使いの構える二丁のデザートイーグルは一発ごとに確実に、兵士の頭を吹く飛
ばし、生命を奪っていった。
全弾打ち終わると、銃を投げ捨て、バイクを加速させ、居住区正面、懲罰歩兵達の前に立ちはだかるように踊
り出た。
「さて、少し遊ぼうぜ腐れ○○○」
続く
415 :
鮫牙:02/08/20 15:42 ID:U4Czm2D3
以上伝説の傭兵投稿完了です
暗闇のトンネルにヘッドランプの光が刺しこんだかと思うと、それはゆっくりと
停車した。
助手席の男が手持ちの地図と壁の標識を見比べながら呟く。
「予定ではそろそろ出口のはずだが」
「随分頼りないな…」
「仕方ねえだろ!いくらなんでもとっくの昔に地下道が塞がれてたなんて予想出来るか!!」
妖狐の分遣隊の先導役は、道に迷っていた。
彼らとて決してゲリラとして無能なわけではないし方向音痴というわけでもない。
ただ単に、彼らが目印としていた分岐ポイントが徹底した封鎖の影響で爆破され、塞がっていただけの話である。
彼らの見とおしの甘さのツケが回ったということだろう。軍の官僚体質を甘く見てはいけない。書類さえあればどんなことでもやるのだ。
「どうする、一度戻って前の分岐からやり直すか」
「ゲームじゃねえんだ、ここに爆破の跡があるってことはこのルートの存在がばれてるのは確実だぞ。さっさと上に出ねえとこっちがヤバい」
「でも、俺たち道迷ってるじゃねーか」
沈黙が重い。
「とにかくだ、一度戻って」
「さっき俺が」
そう言いかけた二人の会話は、そこで中断した。
二人の喉を掻き切ったナイフに付着した血を拭うと、鍵国の正式野戦服に身を固めた男が手を振り上げて後方に合図する。
闇の中からわらわらと同様の野戦服を着、暗視スコープを装着した男たちが壁際を身を低くしながらやってくる。
彼らは壁際を交互に支援する隊形で、そのまま先へと―ヌワンギ達の方向へ進んでいった。
「遅いじゃねえかよ」
イライラと落ちつかない様子でヌワンギが呟いた。
「誰もこのトンネルで脇に入ろうなんて奴はいないから当然っすよ」
後席に座ったゲリラの男が無責任に笑った。
未完成のこのトンネルは、Airシティ全体をカバーするのみならず、他の都市への幹線すら地下を通す極大規模のものだった。葉鍵の関係が蜜月を迎えていたころの名残とでもいうべきだろう。
しかし、あまりにも大規模すぎたためだろうか、工事の一部―Airシティの地下の大部分―を行ったところで、関係冷却化の煽りをもろに受けあっさりと凍結。それ以来立ち入るものも無い廃線と化したのである。
「水無しメシ無し寝床無し。三拍子そろったんな所で夜明かしなんざわたしゃごめんですけどね」
「俺だって冗談じゃねーよ………?」
ヌワンギは腹を押さえながら、何かが見えるとでもいうのだろうか闇の奥を凝視した。
つられて後席の男も車から降りると車体の陰から銃を突き出し、奥へ向け構える。
「撃つな!味方だ、kagami督戦隊だ!」
彼らの行動を見たのだろう、闇の中から声がした。
「なんでここにいるんだ!」
「お前らが道に迷ってる間に上がエラい事になってるんだ!とりあえず一個分隊、最新の地図付きで道案内を仰せつかって参上したところよ!」
上がエラい事に?
ヌワンギの脳裏には彼等を送り出すときの狗法使いの表情が浮かんだ。
…確かにな。あの真琴萌え一筋の奴がわざわざ別行動取ってまで逃がすなんざ、よっぽどの事がある。それにこのkagamiの既知外連中の出現、言動…
情報が要るな。
「OK、ゆっくりこっちに来てくれ。情報が欲しい」
前から歩いてきた5人程の男の中に、ヌワンギは良く知っている―厭でも覚えざるを得ない―男の顔を見つけ、蒼白になった。
「俺にだんまりで逃亡たあ、随分と出世してるもんじゃないですかぁ?ヌワンギクン」
「ひ、日雇い軍曹…あんたなぜここに」
(*゚∀゚)アヒャった表情を満面に浮かべた日雇いに、脂汗をたらしながらなんとかそれだけを搾り出したヌワンギ。
「いやまあ、俺がここにいるのは仕事な訳で物見遊山とかそういうご大層な事情じゃないけどね。それはともかく地下は落ちつく」
「し、仕事のほうを先にやってもらえると助かるぜ」
「ふむ、仕事!Work!Mission!今回俺が持ってきた仕事は3つ!A.B.Cの3択で、どれを先にやるかは君に決めてもらおう」
「え、A…」
「ふむ。道案内だな。ほれ鉄道事業団発行の工事地図。封鎖ポイントはこれこれ…」
日雇いは雑嚢から大版の地図を取り出し、ボンネットに広げた。
何処からともなくボールペンを手にとって地図上の数カ所に手早くマーキングする。
「予想される敵侵入路はこんなもんか。質問は?」
「敵って言ったな。相手は何なんだ?」
「例によってヴァ鍵っ子だ。巫のクソボンがまたぞろデムパ撒き散らしとる」
「…任務Bは?」
「お前等の護衛。出口までだ。あとは地下通って帰還」
「げっ…」
「不満か?」
おもわず毛を逆立てながら、必死で首を振る。
「フン。まあいい。次はCだが…」
「C?」
「若干今までとは矛盾するけどな…」
そう呟くと、日雇いは腰のホルスターからレイジング・ブルを引き抜き、ヌワンギの眉間に照準した。
「氏ね。」
ドン
全員を片付けるのには、20秒も必要無かった。
「残りはこいつだけだな」
ガクガクブルブルと震えるだけの真琴の前に立つ、日雇い。
隣にはビデオカメラを構えた兵が、真琴をファインダーに収めている。
「当然だが、俺の顔は撮るんじゃないぞ。」
「ヤー」
そう命じると、日雇いは真琴の体に前蹴りを一発叩きこむ。
「ギャン!」
「狗コロ風情が人間様みたいな面しやがってからに…」
壁際まで飛ばされ、蹲って呻くだけの真琴にズカズカと歩みより、襟首を掴み上げて
「オラ!」
「ブッ!」
壁と挟むように肘を顔に叩きこむ。
「んー。鼻が砕けたかな?まだまだ楽しいお仕置きタイムは始まったばっかりだぞー?」
日雇いの狂宴は一時間余り続いた。
「軍曹、この肉どうします?」
既に顔も体も人型であるだけで原型を留めぬまでに潰された真琴を取り囲む男たちの一人が尋ねる。真琴はもはや呻き声さえ立てない。
「仕上げはまあ、アレだな。テープ残ってるな?」
「アレっすか?まあいいですけど。残りは30分です」
「上等。」
日雇いが真琴の上に屈みこむ。手には銃剣を抜き出したレイジング・ブル。
真琴の髪を左手に巻きつけると、日雇いはそのまま顔を上に持ち上げ…銃剣が喉に食い込む。
喉から断末魔のゴブゴブという呻きが漏れる。
そのまま日雇いは銃剣を引き続けた。
殺してみましたがどうでしょう。
やりすぎか…
唐突過ぎ。
前にも言われた事だけど名有りのキャラ頃すなら
数話掛けてネタ振りして周囲に雰囲気見せつつやるべきでしょ。
バ鍵っ子程度ならともかくヌワンギや真琴はこうあっさりやられると
反発も激しいと思われるがどうか?
でも文章単体としては、かなり上手いな。
このままNGというのも正直惜しいと思ったり。
423 :
鮫牙:02/08/20 19:09 ID:g6HekQcD
でも、何で日雇いにまこぴー殺されなくちゃいけないの?
まぁ批判はあるだろうし、俺もここで2人が殺されなきゃならん必然性が
今ひとつ分からないけど、NGはそう簡単に出して良いものでもないし、
このままで進めた方がいいんじゃないかと思う。
NGはあからさまに矛盾する場合とかなら、出すのもやむを得ないとは
思うが、ポンポンNGが出るようだと何のためのリレー形式なのかという
ことにもなってくるんじゃないかな。
正直、萎えますた
前から歩いてきた5人程の男の中に、ヌワンギは良く知っている―厭でも覚えざるを得ない―男の顔を見つけ、蒼白になった。
「俺にだんまりで逃亡たあ、随分と出世してるもんじゃないですかぁ?ヌワンギクン」
「ひ、日雇い軍曹…あんたなぜここに」
(*゚∀゚)アヒャった表情を満面に浮かべた日雇いに、脂汗をたらしながらなんとかそれだけを搾り出したヌワンギ。
「いやまあ、俺がここにいるのは仕事な訳で物見遊山とかそういうご大層な事情じゃないけどね。それはともかく地下は落ちつく」
「し、仕事のほうを先にやってもらえると助かるぜ」
「ふむ、仕事!Work!Mission!今回俺が持ってきた仕事は3つ!A.B.Cの3択で、どれを先にやるかは君に決めてもらおう」
「え、A…」
「ふむ。道案内だな。ほれ鉄道事業団発行の工事地図。封鎖ポイントはこれこれ…」
日雇いは雑嚢から大版の地図を取り出し、ボンネットに広げた。
何処からともなくボールペンを手にとって地図上の数カ所に手早くマーキングする。
「予想される敵侵入路はこんなもんか。質問は?」
「敵って言ったな。相手は何なんだ?」
「例によってヴァ鍵っ子だ。巫のクソボンがまたぞろデムパ撒き散らしとる」
「…任務Bは?」
「お前等の護衛。出口までだ。あとは地下通って帰還」
「げっ…」
「不満か?」
おもわず毛を逆立てながら、必死で首を振る。
「フン。まあいい。次はCだが…」
「C?」
「俺としても不本意な展開なんだが…」
そう呟くと、日雇いは腰のホルスターからレイジング・ブルを引き抜き、ヌワンギの眉間に照準した。
「ヌワンギとワン公、お前等2匹はちょっと別行動になってもらうぞ」
日雇いの言葉に被さるように銃声が響いた。
427 :
名無しさんだよもん:02/08/20 21:50 ID:36DGypGu
護衛の兵士全員を片付けるのには、20秒も必要無かった。
「軍曹殿、ゲリラ共は全て片付きました」
「GoodGoodGood,VerrrryGood」
(*゚∀゚)アヒャな表情を崩さずに日雇いが答えた。
「さて正直ここからが問題なわけだが?質問はあるかね?畜生の諸君」
そんなこといわれても。
表情で訴える二人を前になぜかやたら上機嫌の日雇いがハイテンションにまくしたてる。
「ん。その表情は何がなんだかわからんといったところ?OKOKOK。正直言ってお前邪魔だから処分してもNo problem。助けてやったのはただの偶然。OK?理解したなら次いってみよう。
これからのお前等の扱い。OK?とりあえずくほちゃんに引き渡すのは無し。誰がお前等引き渡すかYO!」
「あうー、真琴たちをどうするつもりなのよぅ…」
真琴の呟きを、妙にハイテンションな日雇いは聞き逃す―わけはなかった。
踊るような足取りで真琴の前まで来ると、そのまま後ろに回りこみ、腰を抱えてブリッジの体勢に…
「ぐぇあ!」
「じゃ〜あまん♪」
周囲の誰もが呆れるような見事なジャーマンスープレックスを決めた。
そのまま真琴をほっぽり出すと(*゚∀゚)アヒャな表情を保ったまま立ち上がる。
「言葉に気を付けたまえ畜生?Bitch?メス犬ごときが人間様に舐めた口聞こうというのは変身無しで直立2足歩行できるまで進化してからにしろよポチ?」
そしてそのまま(・∀・)スンスンスーン♪( ゚д゚)ハッ!(・∀・)スンスンスーン♪(´Д` )イェァ スンスンスンスーンなどと歌いながら周囲を歩き始める日雇いを尻目に、分隊の兵士達が手早く二人に縄をかけた。
「OKボーイズ。ワン公二匹のデリバリーに行こうじゃないか?」
殺さない方向で書きなおしてみますた。
日雇いのイカレっぷり書いてて楽しいわ。
後方からの砲撃は、時折狙いすましたかのように前方ではなく後方に落ちた。
誤射、と言うことになっている。
それに伴う損害が出ているわけでもない。
だからと言って、つかさは安堵に心を委ねることなどできはしなかった。
将校としては不適格な―――具体的に言ってしまえば頭の悪い―――彼女にすらよくわかる。
一歩でも後退すれば、敗北主義と見なして殲滅する。
これは遠野大佐から明示された警告なのだ。
進んでいる間は良し。
一歩でも退けば、否、立ち止まることさえ許さない。
もし、足を止めたならば――――――
想像して、瘧のように手が震えた。
自ら待ち受ける運命を思えば思うほど、震えは腕から全身へと広がっていく。
がくりと脱力し、自身の体を抱きかかえるようにして通信機器に周囲を囲まれたシートに座りこむ。周囲の幕僚が向ける軽蔑の眼差しも気にならない。
今は攻撃は順調だ。
兵は誰一人自分の指揮に従わず、敬礼の代わりに嘲罵の呟きを返してくるのだとしても、攻撃は順調だ。
だが、その快進撃は何時まで順調に進むのだろう?
現実に、市街を進むにつれ、ビルの中、瓦礫の陰、地下道の闇、ありとあらゆる場所に隠れる敵の抵抗、そしてこちらの損害が増大しつつある。
『歌月十夜』師団先鋒を務める三個大隊、その内の一つはすでに20%に迫る死傷者を出して後退し、彼女の第14自動車化狙撃兵大隊とて死傷者70名を出している。
じきに、有力な敵防衛線に食いとめられるのではないか……
それを思えば、全身の震えは止まらない。
ああ、どうして私はこんなに不幸なんだろう。
あの娘に関わったばっかりに、そうでなければ、きっと、こんな。
ああそうだ。遠野秋葉、彼女が、彼女さえいなければ。
すべての元凶は、やっぱり彼女なんだ。
どうしてあの時、彼女と同じクラスになってしまったんだろう。
どうしてあの時、彼女に手を出してしまったんだろう。
どうしてあの時、彼女に警告を与えてしまったんだろう。
―――どうしてあの時、彼女を上手く殺せなかったんだろう―――
「大隊長。連隊本部より通信です」
指揮官が膝を抱えてうずくまり、果たすべき責任を放棄していても、まるで誰もそれを問題としない。
問題とする必要もない。彼女はそも最初から、責任を果たしたこと等ないのだから。
その着任の瞬間から、常に大隊は幕僚とそれぞれの中隊長がそれぞれの意思で動かしてきた。
ならば、大隊長たる四条つかさ少佐の任務はなにか。
敬意の欠片も無く突き出された無線機を、つかさは虚ろな瞳で眺める。
そう、彼女の存在は伝令に過ぎない。
あるいは、連隊本部と大隊とを結ぶ無線の自動交換装置のようなもの。
上層からの叱責を受け、指示を幕僚や下級指揮官達にに伝達し、そして彼らの意見をそのまま上層へと報告する。
ただ、それだけの存在。
そんな存在に、どうして彼女は責任の履行を求めるんだろう?
彼女は、月姫蒼香大佐は本気で自分にそれを求めているんだろうか?
部下から無線機を受け取ったつかさは、その先から聞こえてくる鋭さを備えた声音にそんな感慨を抱いた。
『アサガミ7、あまり突進するんじゃない! これじゃフォローのしようも無いじゃないか!』
「……攻撃は順調です。まだ行けるから、止めないで」
どうせ、止めたって止まらない。
運命への怖れは一時去り、そして自分の中には何も残らない。
そんな虚脱感が言葉に乗り、自分で聞いても驚くほど平板な声で応答を返す。
すぐさま珍しく怒りを露にした怒声が帰ってきた。
『何かあってからじゃ遅いんだよ!』
(何かあってから?)
もはや夜間の遭遇戦よりも混沌としきったつかさの思考の中で、わずかに冷静さを残した部分がせせら笑った。
何かあるも、なにも。
月姫大佐は何もわかってない。わかろうともしていない。
違う、違うんだ。
彼女も私のことはどうでもいいんだ。わかっていて、見捨てようとしてるんだ。
私一人を切り捨てたら、全部が全部上手くいくと思ってるんだ。
だって、師団の人間なら誰でもわかる。馬鹿でもわかるんだから、聡明な彼女だってわかってるはず。
私と私の大隊に何かが起こるとするなら、それは。
「まだ何も無いじゃない、何かが起こるのは私が部隊を止めた時の話でしょ!?」
追い詰められたつかさの悲痛な絶叫に、思わず蒼香は言葉を失した。
こればかりは、つかさの言い分が正当だ。
どんな形であれ、つかさの自動車化狙撃兵大隊がその矛先を鈍らせたが最後、あの狂気に染まった師団長どのは、嬉々として大隊本部中隊の存在する位置に重砲の一斉射撃による『督戦』を行なうだろう。
いや、あるいは野戦憲兵を彼女のもとに差し向け、敗北主義の咎で処断してしまうかもしれない。
『……あのバカはこっちがなんとかするっ! だからあんたは』
「大隊の攻撃は順調! アサガミ7は市街中心へ向け攻勢を継続する!」
レシーバーを耳から引離し、途絶する間際、なにやら月姫大佐の叫びが聞こえたが―――気にもならない。
気にするまでもない。
どうせ、自分が生き残るにはここで遮二無二突き進むしかないのだ。
立ち止まれば殺される。敵にではなく味方に殺される。
遠野四季という狂人は、月姫蒼香という常識人に止められるような存在ではない。
―――ならば。
「大隊系の通信を除いて、全ての通信は切ってしまえ!」
「はっ……!?」
ようやく腹を据えたか、そんな内心の嘲弄を押し隠してつかさに敬礼を返した幕僚は、ふと猛る彼女の瞳の奥底にあるものを確認して息を詰まらせた。
だめだ、これはだめだ。
慄きが幕僚の全身を貫き、無形の衝撃が、戦勝に昂揚していた精神を完膚なきまでに打ち砕く。
今までもだめだったが、これは最悪だ。このオンボロ師団でRR装甲軍に立ち向かえと言うのと同じ水準で最悪だ。
このままだと、間違いなく死ぬ。
いや、殺される、敵にではなく、このただひたすらに愚鈍で臆病だったはずの指揮官に。
「他の誰よりもはやく、市の中心に旗を掲げる!
少しでも立ちどまった者は―――私がじきじきに殺してやるから!!!」
……今や、彼女は恐怖に震えてはいない。
あまりに臆病な人間に与えられたあまりに大きな恐怖は、狂気をもってその恐怖を克服させた。
『狂気というものは、最も悪性の伝染病のようなものだ。
一度誰かに発生すると、その場の『空気』を通じてあまりにも素早く、巨大に感染する』
後の世に北葉戦線の経緯を調べた葉鍵国の戦史家解説者だよもんは、一通りの調査を終えた後でこう呟いたという。
その狂気の感染は、つかさの発狂をもってそのクライマックスを迎えた。
あとは、感染した狂気の発症―――ロイハイト攻防戦の最も凄惨な段階を待つだけである。
<糸冬>
以上、投稿しますた。
妙なところなどありましたら、ご指摘よろ〜
436 :
鮫牙:02/08/21 00:50 ID:bDi3sDzu
429<生きてるでしょヌワンギ。ただやっぱり日雇いが妖孤兵団のメンバ
を殺害して、真琴とヌワンギを拘束する必然性は謎ですけど。
俺的にはカナーリ作為的なものを感じるんだがな。
NGに一票。
>437
どれに対してだか書かないと正直今日の投稿多すぎて判らんぞ。
しかし、あまり騒ぎ立てると、ただでさえ少ない書き手がさらに減るかもしれない罠(w
ところで、このスレの書き手は何人くらいいるんだろうか?
最近の投稿でコテ使っているは旅団長、鮫牙、狗威の3氏だから、少なくとも3人以上
いるのは間違いないんだろうけど。
NG騒動があがってるのは
>>417-427だけやろ。
日時も入れてないし、
>>427ではわざわざageで書き込んでる。
荒れの誘発を狙ってるようにしか見えないんだけど。
とりあえず、前段の納得の行く理由付けのあたりがあれば別にいいかと思いますが。
そこいらを希望したいところ。
日雇いにどんな指令が出されたのとか。
勝手には動いてはいないでしょうから。
>441
逆に、その辺が今後の展開で明らかになって来るというのも面白そうではある。
要は他の書き手も動かせる共用人材を唐突に減らさなきゃある程度は良いんじゃない?
443 :
鮫牙:02/08/21 03:01 ID:sdb/VIMD
一応俺案ではヌワンギとまこぴー人質に、狗法使いに第36武装擲弾兵師団を殲滅
するよう依頼とか考えたんだけど、もうこの時点でくほちゃん第36武装擲弾兵師団
と交戦状態なので、くほちゃんを敵に回してまで妖孤兵団のメンバを殺害してヌワンギ
と真琴を拘束する必要もないし、巫達の仕業に仕向けるってのも、上の理由で無駄な
行為だし、うーん。
単純に愛玩動物として、kagamiが真琴を手段を問わず連れて来るよう日雇いに
命令を出したってのが、一番筋が通ってるかも。それだとヌワンギ生かしとく理由も無いけど。
444 :
書いた奴:02/08/21 03:15 ID:DrC0FUCs
いやまあ、腐っても一応ヒロイソなわけで放置ってのにもいかずまごめちん特命で誘拐って路線で行こうと思うけどどうよ?
kagamiをどう絡ませるかが問題だけど。
まごめちんが日雇いに特命ってのも何か妙な気もするが…
まあそこはそれ、リレーSSだから各人の奮闘に期待ってところか。
納得出来なきゃ周りより早く納得行くように書いて出しちまえば良いわけだし。
>>445に同意。
ま、とりあえず
>>426-427の方を収録で先に行くといのうで如何?
>>439 自分たち3人の他に、ロイハイト戦線の書き手がいますから常連は4人。
文章の特徴から見て、他の常連はいないかと。あとスポット書き手が何人か。
それと追加。
これ以前に日雇いが出演しているのが
>>309で、その時刻が26日19時50分だから、
フォローの際はそれとかち合わないようにするのがポイントかと。
>>446 なるほど、やはり少ないですね。
>スポット書き手
ワラタ。何かCMみたいだ。
449 :
鮫牙:02/08/21 13:54 ID:3C599KrN
ヌワンギと違って地下鉄内を把握してたとしても、26日19時50分より
最低、一時間は後でないとなりませんな。くわー苦しいかも。
3月26日211時00分
デジフェスタウン・OHP師団司令部
「失敗しただぁ!?」
思わず我を忘れて、戸越まごめ中将は受話器を握ったまま叫んだ。
そこに親の仇がいるかのように、受話器をすごい形相で睨みつける。
「失敗したで済むと思っているのか!」
『そんなこと言われても……』
通信波の向こう側で、州都に潜入していたまごめ配下の特殊戦小隊指揮官は
弱り切った声で答えた。
『とにかく、我々が現場に到着したときには妖狐兵団の傭兵どもは全員死んでいました。
状況から見て、奇襲を受けて射殺されたのは間違いありません。どうやら、あの極左に――』
旅団長のことを、彼はそう表現した。
『事前に察知されていたようです。対象の死体が見あたりませんから、
おそらく対象は連れ去られたものと考えられます』
舌打ちをしそうになるのを必死でこらえて、まごめは頭を掻きむしった。
元々は、日増しに政治的影響力を増しつつある集成旅団を牽制するための、ちょっとした
脅しのつもりだった。旅団とつながりの深い狗法使い、その彼の最大のウィークポイント
である沢渡真琴の身柄をこちらで押さえ、奴らの頭を押さえるカードにする。
「戦乱から民間人を保護する」という名目があるのだから、誰もこの身柄拘束を非難できない。
改めて見ると雑な、直接的な行動ではある。しかし「WINTERS師団航空隊に介入の兆候あり」
という情報と、何より巫のしでかした暴走にまごめ自身がかなり焦っていた。
そのため、よく詳細も検討せずにゴーサインを出してしまったのだ。
おそらく――とまごめはいらつきながら考えた。こちらの情報が漏れてしまったんだろう。
だから、あいつらは真琴がこちらの手に陥ちる前に実力行使に出たに違いない。
真琴が陥ちるということは、そのまま狗法使いが陥ちるということを意味する。
狗法使いを戦力の一部に組み込んでいる集成旅団――あの忌々しい旅団長にとって、
それは絶対に許容できない事態だったに違いない。ああクソッ、どこで情報が漏れたんだ畜生!
「とにかく、貴様はすぐにそこから引き上げろ。セーフハウスに待避して、情勢を見極めるんだ。
今後の指示は改めて伝える」
『了解』
やれやれといった口調で通信が切れたのを確認して、まごめは八つ当たり気味に
受話器を叩き付けた。
「……畜生!」
そう吐き捨てると、椅子に勢いよく座り込む。事務用の椅子のあちこちの部分で悲鳴が上がる。
事態は確実に悪化の一途をたどっている。このまま集成旅団を牽制できずに
WINTERS師団の介入を招いてしまったら、奴らを監督する立場にある自分が政治的に
危険な状態におかれてしまう。せっかくこれまで血のにじむ努力で築いてきた現在の地位を
(彼は元勲ではあるが、厳密に言えば独立戦争に直接関わったわけではない。それ故に
他の元勲たちに比べて立場が弱かった)、こんなことで失ってしまうのはあまりに馬鹿げている。
どうしてこうも、こっちの思惑どおりに事が運ばないのだ――そう叫びたくなったまごめだったが、
ふとある疑問が頭をもたげてきた。
そう言えば、なんで集成旅団の奴らは傭兵たちを皆殺しにしたんだろう?
別にこちらは妖狐兵団の傭兵たちに工作していたわけではないし、特殊戦小隊にも
真琴を攫ったあとは奴らを放置しておけと命じていただけなんだが。まさか、
極左過激派お得意の内ゲバでもあるまいに。
戦後かなり経ってから
ロックブーケ中央放送局第102スタジオ
「ドキュメント葉鍵内戦・第三回 鍵自治州本土決戦(1)」収録風景
「教授、つまりJRレギオン少将が分析を誤っていたのですね?」
「そうです。少将は沢渡真琴とともに脱出した妖狐兵団が、戸越中将の影響下にある
裏切り者ではないかと強く疑っていました。『戸越中将が妖狐兵団に内応者を潜ませている』
という情報が歪んだ形で伝わった結果なのですが、実はこの情報自体がしのり〜中将の流した
欺瞞情報だったのです。戸越中将は、あくまで特殊コマンド強襲による真琴強奪しか
計画していませんでした」
「鍵自治州の情報機関同士の確執が、こんなところで影響してしまったのですね?」
「そうです。そして、この欺瞞情報を元にした判断で、少将は
『真琴の身柄を確保するためには、妖狐兵団を処分するしかない』と決断してしまったわけです。
そして、当時市内に展開していた部隊のうち、紅茶すらいむ中佐とkagami中尉の部隊に
彼らとの接触を命じました。事態が切迫していると考えられたため、手近な部隊に命じたのです。
このとき、もし紅茶すらいむ中佐が接触に成功していたならば、この悲劇は起きなかったはずです。
彼ならば理性的に判断し、最悪でも兵団傭兵の拘束程度で済ましていたでしょう。
しかし彼らに接触したのはkagami督戦隊分遣隊、指揮官は狂人の呼び名高い日雇いSS軍曹でした」
「少将は、こんな強引な手段を執って狗法使いとの関係が悪化するとは思わなかったのでしょうか?」
「当然その点は考慮したと思います。しかしその関係悪化により被るデメリットよりも、
真琴が戸越中将の手に落ちて狗法使いが使い物にならなくなるデメリットの方が、
はるかに大きいと考えていたのです。実際、少将は後に
『腑抜けになられるよりも恨まれる方がなんぼかマシだ』と述べています」
「こうして、JRレギオン少将は誤った情勢判断の下に、かなり手荒い手段で沢渡真琴と
護衛のヌワンギの身柄を拘束したわけです。この強引な行動が、のちに両者の亀裂を深刻なものに
してしまいます。
さてそのころ、狗法使いはどうしていたのでしょうか? ではみなさん、VTRで続きをどうぞ」
ちょっと質問。
キャラの特殊能力はどこまでが許されるのでしょうか?
エルクゥや毒電波など、原作ほど強力でなくとも、ある程度は残しておいた方が
「葉鍵的」に面白いと思うのですが。
エルクゥは素手で戦車を破壊しないまでも、一人で一個小隊くらいは相手に出来たりとか
毒電波使いは人の精神を操ることはできなくとも、通信の傍受くらいは出来たりとか、
そのくらいは出来てもいいのではないかと思うのですが、どうでしょう?
>454
柳川たんのデモンストレーションを参考にしては?
あれはありって事だったから、それを基準に
各自出来そうな範囲を考えれば良いんでない?
あんまり超能力合戦になっても困るけど。
>>454 そうなると東葉は最強ですよ。
何せ神であるハクオロがついてますから。誰も勝てません(w
ま、これは冗談としても、東葉の編成でペンディングになっていたクーヤ達の装備
(要するに『アヴ・カムゥ』をどうするのか?)については、相当強力なものとしないと
いけないかもしれませんね。
ところで、
>>390で修正されたマップですが、線や字にアンチエイリアスがかかって
なかったので、ほぼ同じ内容で書き直してみたんですけど、毎度毎度『自分たちで
描こうよ』のアプロダに上げるのもどうかと思うんですけど、いかがでしょうか?
457 :
鮫牙:02/08/22 01:04 ID:+nKM7dB9
アヴ・カムゥという名前の新型戦車ってのはどうだろう?
スペックは90式やレオパルド2より数段上にすんの。
主砲をレーザにするとか。でも未だ配備数はごく僅かでクーヤの連隊に数両しか
配備されてないって設定で。
>>455 う〜ん、月島兄による通信傍受から話を始めようよ思ってたんですけど、これくらいなら大丈夫ですかね?
>>457 レーザーは流石に……。
2ちゃんの軍ヲタなら、せめてレールガンくらいで(w
459 :
鮫牙:02/08/22 02:06 ID:+nKM7dB9
458
いや、俺は軍ヲタじゃ無いですけどね。
レーザは120mの後続として研究されているらしいので、はい。
現在後続候補はと、140m砲/ETC(電熱科学)、ET(電熱)砲/EM(電磁レール)砲
だそうです。
唯、レーザはシステムを車両に積める程小型化には成功してないとか…。
レールガンも実現に程遠いとか…。
唯これやると、先進国でも研究段階のブツを葉鍵国の一軍閥が実用化できるのか?
という疑問が。
核搭載歩行戦車(w
461 :
鮫牙:02/08/22 02:56 ID:+nKM7dB9
↑そりゃコンシュマー国、コナミ軍メタルギア師団の決戦兵器でんがな
462 :
鮫牙:02/08/22 04:05 ID:+nKM7dB9
454<くほちゃんの鬼のような強さ(ファントムレディと並ぶ、鍵自治州最強の
傭兵)に誰もつっこまないから(ちょっと調子に乗りすぎた)、エルクゥはそれ
でいいのでは?
そもそも、主敵であるF&Cの主力戦車がどのレベルかから決めないと、
新型戦車のスペックなんて決まらない罠。
あと、無闇に兵装を強力にするんじゃなくて、もっと別の方に力を入れた戦車を考えた方がいいかも。
例えば「長距離自走が可能な新型戦車」。これが実現するだけでも、装甲戦力は飛躍的に増大する。
465 :
名無しさんだよもん:02/08/22 11:55 ID:Pj/c8umd
>>459 レールガンは矢張りの人の口癖みたいなもの。
466 :
2チャンねるで超有名サイト:02/08/22 11:59 ID:DpU3UQ9H
くらすたーくらすたーれーるがん♪
……最萌の時も思ったが、なんでかくも某研ネタは通じるのであろうか?
>>467 矢張りこの特徴的且つ目立ち易い文体が
比較的簡単に覚え易い為
広く2ch全体に知られていると言う事だろうか(笑
いや、2chのコテハンの中では一番好きだけどね、某研氏(w
荒らし呼ばわりされた某研も今じゃ2ちゃんを代表するコテの一人だな。
軍事板より来ました。
>>464 戦車の構造そのものが極めて壊れやすいシロモノなので、難しいかと。
(実際、戦車部隊には整備の段列が追随し、頻繁に整備をしているのは佐藤大輔
の著作にはあちこち書かれています)
しかも、タンク・トランスポーターなどによって輸送すれば、作戦上用が足りるので
わざわざ長距離自走能力をつけ、戦闘能力を下げるよりも、装甲や砲戦力に力
を入れる方が自然かと思います。
>戦車の構造そのものが極めて壊れやすいシロモノなので、難しいかと。
そのへんは、“アヴ・カムゥ”がある程度便利に設定できるダークマターのような存在に
なりうるので、矢張りのお人を召還しそうな兵器を乗っけるのでなければ、
程良いご都合主義な設定もまあなんとか。
各軍のタンク・トランスポーターの配備状況に関しては……今まで出てきたっけ?(w
それと、そういう長距離自走戦車を東葉が開発する必然性は、
独立戦争時まで遡って戦闘経過をちょこちょこいじくればリレー小説としてはいくらでも。
おお、歴史犯罪者っぽい(w
>>456のファイルの件は、半角系のあぷろだを無断借用することで解決しました(w
そういう事情のためPASSをかけてあります。ちなみにPASSは"leafkey"です。
ttp://kyoto.kittyguy.net/uploader/upload2/source/up0061.zip このファイルには
>>390の修正版とその白地図が入っています。白地図の方は
後から修正するときに便利だろうということで添付しました。
とりあえず地図作製はこの辺で一段落です。作った地図はできれば支援サイト
で見られるようにしてもらえるとログに流されないから便利でしょうし、私も
嬉しいのですが… ワガママかもしれませんけど、よろしくお願いします(w
それと、アヴ・カムゥはどうやら将来戦車の方向で固まりそうですね。個人的
には汎用人型決戦兵器みたいなのも一興かと思いましたが(w
それでポジトロン・ライフル装備なんかだと無敵かも。
474 :
鮫牙:02/08/23 01:54 ID:M3+Uajpc
っとぼちぼち新作書かないとね。何処からテヲツケレバイイノヤラ。
正統リーフと超政権どうなったのだろう。
正統リーフ周りは激動してるからなあ。
痕Rにプレイム、月も含めればメルブラに新作。
職人さんも書きにくいかも。
原田の新作もあったね。忘れてた。
しかし、久弥と椎原は今頃何してるんだろ。
477 :
鮫牙:02/08/23 16:15 ID:ivoOQFJg
実は鍵敗北、しぇんむー勝利後のシナリオも考えていたりする。
あまり先のことを書いてしまうのは関心しないな。
リレーを破綻させる行為だぞ。
3月26日20時10分
Airシティ南部、APD(Airシティ市警中央署)
警察署長が退出した後、巫は自分にあてがわれた豪勢な部屋の中で、椅子に身を預け伸びをしながら、
今後の事を考え心踊らせていた。
馬場総裁との契約。そう今回の仕事が終われば、自分は元帥様。鍵自治州の全軍の統帥権を手に入れる。
あの善人面した元帥を蹴落として、鍵だけの選ばれたものだけの国を作り、そして俺が支配者に収まる。
巫は鍵自治州の若き指導者の姿を思い浮かべる。端正なマスクに聡明な頭脳、強い正義感。
全てが巫の劣等感を刺激する。あの男の何処が凄いのだ。ただ、時流に乗って成りあがっただけじゃないか。
所詮運が良いだけの成りあがり者だろう。それなのに、鍵自治州の女共ときたら、自分の部屋に一枚以上はあの
男の写真を置いていやがる。出来ることならあの男と寝てみたい。そう顔に書いていやがる。
糞、クソッタレ。俺が元帥になった暁はあいつを三等兵まで降格してやる。
女共の手の平返す様、さぞ見物だ。
ドアをノックする音。それで、巫は妄想から現実へと引き戻される。
巫の了承も得ずに入ってきた女の姿に目を疑った。樋上いたる。麻枝准元帥の妻だ。元戦術派の元勲恩顧組
エリート中のエリート。だか独立戦争が終結すると退役して麻枝元帥の妻となった。
巫にはこの女が何を考えてるかさっぱり解らなかった。このまま軍に留まっていれば、麻枝元帥、折戸大将
に次ぐ、ナンバー3の地位を得られるというのに。
まあ、所詮幾ら頭が良かろうと所詮は女という事か。そう巫は自分を納得させた。女という奴は男の外見が
良くて、金があればホイホイ股を開きやがる。まあ所詮は男の性欲の捌け口であり、子供を作る為の道具だ。
その程度の価値観しか巫は女性に対して持っていない。
だから空き地の町戦で捕虜となった、RR装甲軍の女兵士が輪姦される様を当然のように見て、その中に加わ
った。彼自身はあの戦いに加わってないにしろ、女捕虜は貴重な戦利品だしかも、葉の連中は美人が多い。
大切に譲り受け今も師団の備品として、懲罰大隊が宿泊するホテルに置いてある。
「突然の来訪、失礼します。巫大佐…ああ失礼しました。今は准将でしたね」
いたるが口を開く
巫の目の前の女、樋上いたるを見る度に巫は思った。この女と寝てみたい。まだ幼さが残る美貌、スラリと
伸びた肢体、無駄な肉など全くついてない腰。この女を好きなだけ抱ける麻枝に激しい怒りが沸く。
巫は何度も心の中でいたるを陵辱してきた。この女の絹のような肌を嘗め回し、柔らかい果実のような乳房
を揉み砕いた。その度にいたるは甘い声を上げる。いたるは濡れた目で巫の硬くなった彼自身の先端に舌を付
け、上から下を舐めそして付け根に唇をつける。
それだけで痺れるような快楽が巫を襲う。しかし、いたるはそれだけでは満足出来ずに巫をその口の中で
包み込む。彼女の頭が上下する度に気の狂いそうな快感が巫の脳を貫く。
そして、いたるは巫の白濁したものを飲み干すと。未だ硬度を保つ巫のそれを自分の蜜で濡れた花弁に押し
当て、自ら自分の胎へと導き、動く。その度に卑猥な音が結合部から聞こえる。巫は何度もいたるの胎内に
精液を吐き出した。いや、中だけじゃない。
顔、乳房、腹全身のあらゆる所を白濁した自分の欲望で汚した。
その淫らな欲望はもうすぐ現実となる。あの善人ぶった麻枝を蹴落とした後は、いたるを犯しつくしてやる。
そうだ、どうせなら麻枝の見ている前でこの女を犯してやろう。
何もかも失ったあげく、俺の(表記不可能)を美味そうに咥えるいたるを見たら、あの男どんな反応をする
だろうな。
「准将、どうなさいました?」
「いや、失礼。今日は麻枝御婦人ともあろう方がどのような御用件でこの最前線へ?」
「ちょっと、まごめ君と旅団長それに貴方が何を企んでいるか気になってね。准や皆には内緒で来ちゃった」
「へ?」
そう言えば、巫の脳内に疑問が過る。どうしてこの女は俺の居場所を知っているのだ?秘密裏に行動している
筈なのに。
この時点で、巫の居場所はしのりー中将は突き止めていた。旅団長、まごめは未だ突き止めていないにしろ、
それも時間の問題であった。そして、いたるはこの三者に協力してもらうことなく、三者に気づかれることなく
Airシティに潜入し、巫の居場所を突き止めた。
巫が疑問の渦の中で思考を停止している間にも、いたるは巫に近寄り、そして肩に手を当てる。
部屋に木を折ったような音が響く。
「肩の関節を外したわ。さぞ痛いでしょうね」
激痛に巫は床を転げまわる。畜生この女。
「誰かッ」助けを呼ぼうとした所で靴の踵で口を塞がれる。
「助けを呼ぼうとしても、無駄よ。貴方以外の人は死ぬか逃げるかしたわ」
何なんだ、この女。痛みと疑問で巫の思考はパニックになる。
「私は、戦術派になる前、呼ばれてた名前があるの。准も知らない」
「ファントムレディ。聞いた事はあるでしょ?」
巫の恐怖が絶頂を迎える。戦場伝説のように語られる、スコープの伝説の女傭兵。実在したのも驚きだが、それが
目の前にいる。
「さて、貴方は何を考えてるの?身長をそうね、二十cm程伸ばしたくなかったら答えなさい」
そして、巫はいたるに自分のしでかした事、これからしでかそうとしてる事を洗いざらい喋った。
その後、ナイフで首を掻き切られた巫の死体を武装警官が発見するのは、それから1時間後である。
「准、貴方は私が護るわ」
いたるは戦場の町の暗闇の中で呟いた。
続く
482 :
鮫牙:02/08/23 21:06 ID:2nn91wdD
ファントムレディ、投稿完了だす。
478<すいませんです。
>鮫牙氏
正直人外大戦争は萎える。というか共倒れ以外でどうやって殺すんだ?
対抗できそうなあんた以外のキャラは強化兵や日雇いくらいしか思いつかんぞ。
>>473 地図、支援連隊の方にのっけます。もうちょっとお待ちください。今晩中には。
>>482 半包囲状態の、いつ下葉の虜囚になってもおかしくない状態の州都に、
自治州最高VIPと言ってもいいいたるが突然出現する展開に、こっちも( ゚д゚)ポカーン
常識的に言って「?」で、伏線が全然なくて、その上いたる側の状況説明が、
>そして、いたるはこの三者に協力してもらうことなく、三者に気づかれることなく
>Airシティに潜入し、巫の居場所を突き止めた。
だけなんで、いきなりな展開について逝きかねる面がある。
フォローはしたいんだが、いたるの考えや行動原理が掴みかねるんでどうにも書けない。
>鮫牙氏
その辺の状況説明は、ちゃんと後のSSでやってくれるんだろうな? な? な?
大丈夫、エルクゥも、人外も通常兵器で倒せます。
兵器の使い方・・・楽しく使えば兵器も生きるし、名無しの兵士でもエルクゥに勝つことは出来ます。
更にに、旧式兵器の方が有利な場合もある・・・
でも柳川のホーカムはそれでも難しそう・・・
鍵・・・折越がキーだと思う・・・反折越が発生した場合下手すると鍵は折越を粛清しない限りアウト。
馬鍵っ子ではなく月姫難民を優遇したことに一般国民まで『アレでも同胞』と思い出した時は完全にアウト。
……常連名無し、漏れ以外いなくなってますか(喀血
特定される名無しに意味はあるんでしょうか……w
どーでもいーが、誰かロイハイトとかも書いてください(自爆
正直、某スレとかけもちしてるのでスピードが……(汗
いや、漏れが好き勝手へたれに書いてるのでリレーしにくいってのはわかるんですけどね……あぅ。
>人外大戦争
自分も、あんまりハリウッドなノリはいかがなものかと。
ただでさえ人外多いし(特に月姫)、強さのインフレになるヨカーン
直前の人外能力論議の影響受けてるのはわかりますが、戦争ですからねー。
やっぱ智>個人の勇でいきませんと。
487 :
鮫牙:02/08/23 22:58 ID:sLbq1D2S
すまそ。調子にのりすぎた。NGにしてくれ。読みなおしたら確かに方向性から
外れる。
3月26日 20時38分
ハイエキ丘陵RR装甲軍キャンプ
大気には無数の波が存在する。
常人はその存在を知識として知ってはいても、実際にそれを感じることはできない。
短い波長と、長い波長。時には強く、時には弱く。それは常に留まることなく様々な姿を形作る。
RR装甲軍参謀長月島拓也中将は、それを感じ取ることのできる数少ない一人であった。
ただでさえ細い瞳をさらに細くし精神を集中させる。彼の周りには静電気のような小さな火花が
無数にスパークしていた。
大気に漂う数々の電波から自分の必要とするものだけを選び出し、そこに込められた意思を読み取る。
彼にかかればどんな暗号も意味をなさない。その電波に乗せられた「真意」をまごうことなく摘出することができた。
精神集中を終えたのか、彼の周囲の静電気は徐々に少なくなり、やがて完全に消えた。精神集中を終えた彼は
ゆっくりと目を開けた。すると眼鏡をかけた長身の男が視界に入ってきた。
「どうだ?」
眼鏡の男は言う。
「だめだ。連中、無意味な電波を大量に流して通信の撹乱をしている。意味のある電波を探すだけでも
一苦労だよ」
「そうか」
男は表情一つ変えることなく言った。
「でも、まったく駄目だったわけじゃない。いくつか意味のある電波も捕まえることができたよ」
「ほう」
「奴ら、どうやら内輪もめをしているらしい。傭兵と治安部隊の間でいざこざがあったようだ。それも
ただの傭兵じゃない。なんと言ったかな、犬使いだか、猫使いだとかいうバ鍵っ子の……」
「狗法使いか?」
「そう、それだ。そいつが上層部と揉め事を起こしたらしい。それもかなり上の方が動いてるようだ。
戸越中将自らが関係しているようだったからな」
「まあ、なんにせよ、こんな時に内輪もめとはお気楽な連中だな」
「だからバ鍵っ子というのでしょ」
月島がそう言うと、男は「フフン」と笑った。
「それよりも、上の方でぶんぶん飛び回っている連中はどうなっている? なにか掴めたか?」
「例のヘリ部隊か?」
「そうだ」
「大した情報は得られなかったよ。相変わらず僕達の背後に回り込もうとしてるようだ」
彼はやや大げさに肩をすくめてみせた。
今より30分ほどまえ、Key軍部隊に大きな動きがあった。通天閣騎兵隊と思われるヘリ部隊が一斉に
行動を開始したのだ。敵は戦線を大きく迂回し、友軍の後方へと回り込もうとしてる。情報によれば
輸送ヘリが多く含まれている。恐らくは空挺部隊が出撃したものと考えられた。
「この敵の動き、お前はどう思う?」
眼鏡の男が月島に聞いた。月島は腕をくみ、少し考える風をしてから答えた。
「やはり陽動と考えるのが妥当だろうな。本命にしては少々行動が派手すぎる。見つけてくださいと言っている
ようなものだ」
「しかし、看過することはできない」
「ああ、ここで後方に回られれば非常にやっかいなことになる。兵站へのダメージだけでなく、いざ転進しようと
するときの大きな障害になるだろう」
二日以内に州都を堕とせなければ転進する。既にこれは決定事項であった。彼等とて、敵州都を目前にして
わざわざ転進するつもりなど毛頭ないが、それでもいざという時のための準備はしておかなければならない。
常に不測の事態に備えるのが軍隊というものだ。
「陽動と分かりつつ注視しなければならないか。歯がゆいな」男は言った。
「相手は通天閣騎兵隊。バ鍵っ子を相手にするようにはいかないさ」
そう言うとふたりは声もなく笑った。このハイエキ丘陵を巡る戦いでRR部隊が手痛い打撃を受けたことは
記憶に新しい。この損害は通天閣騎兵隊単独によるである。部隊の一部ではそのような俗説が強く信じられていた。
栄誉あるRR部隊としてバ鍵っ子達に負けたとは思いたくないのだ。
「で、ヘリ部隊が陽動として、本命はなんだと思う?」男が聞いた。
「さあ、それがわからん。Airシティではこれといって大きな動きはない。通天閣騎兵隊以外に動いている部隊は
見当たらないよ」
男は口元に手をやった。そして、一拍おいてから言った。
「本命は俺の首かもしれんな」
「君の!?」
月島は思わず大きな声をあげて聞き返した。いくらなんでもそれは……。
男は月島が動揺する様を見て口元を歪めつつ言う。
「なにも不思議がることはない。大将首をあげたものが勝つ。これはどの時代でも同じだよ。いくら代役が存在する
としても、トップを失えば軍は動揺する。士気は落ちるし、敵に時間を与えることにもなる。軍事目標としては
十分すぎるくらいだろ」
そう言うと男――リーフ装甲軍総司令官柳川裕也大将はさも愉快そうに笑った。
「実行部隊は恐らく敵降下猟兵の特殊部隊。麻枝元帥の肝いりでつくられた精鋭だ。ここの指令官の川口茂美少佐
のことは色々と噂に聞いている。一度手合わせを願いたいと思っていたんだ」
柳川の瞳に怪しい光が宿るのを月島は見逃さなかった。狩猟者の本能か……。恐らくは好敵手の出現を前に
血が昂ぶっているのだろう。強き生命を! もっと強き生命を! 強き生命の燃え尽きるあの瞬間を!
月島は押さえることのできない冷や汗を拭いを手で拭った。
「しかし、指令官自らが乗り込んでくるものだろうか?」
柳川は笑い続ける。
「いや、来る。必ず来る。さっきから体が疼くのだ。なにか強い殺気を近くに感じる。こんな殺気を放つ人間はそうはいない。
案外、もうすぐ近くまで来ているのかもな」
柳川の狂気に月島は思わずあとづさった。そして、なにかを言いかけたとき、RR装甲軍のキャンプに警報音が鳴り響いた。
F−15Dはこれ以上ないという程の低空を飛んでいた。
時折、機体になにかが接触し、軽い振動がコクピットを襲った。
国崎往人中佐はその度に小さく舌打ちをしてやり過ごす。畜生、この邪魔な木がなければもう少し低く飛べるのに。
ものみの丘を飛び立ってからこれまで、高度計の針は限りなく0に近い数値を示している。時々、機体にぶつかる
ものは目標まで続く森林の木々だった。その先端部分が機体に接触し、軽度の振動をコクピットに伝えていた。
ここまで高度が低いと、文字通り地を這っているような感覚を覚える。こうなってしまっては計器類は役に立たない。
己の目と勘だけが頼りだった。
(目標はまだか!?)
国崎は焦燥を感じていた。いくらAIR航空隊のエースといえど、このような超低空飛行を長時間続けることは出来ない。
戦闘機の操縦には、ただでさえ体力と精神力を使う。このような曲芸ともいえる飛行では尚更だった。
目を細めるようにして前方を凝視する。やがて微かな光が前方に見えてきた。
(来た!)
目標の灯りだった。国崎中佐の機体は、一度その上空を低空のまま通過する。そして、操縦桿を一気に引いた。地虫の
ような不当な扱いを受けてきた機体は、それまでの鬱憤を晴らすかのように一気に空高く舞い上がった。迎撃はない。
対空ミサイルも、機関砲もいまだ沈黙を余儀なくされている。奇襲は完全に成功したようだった。頑張って低空飛行を
続けた甲斐があったというものだ。
国崎のF−15Dは十分な高度をとると、そのまま宙返りをして地面に鼻先を向けた。じっと地上を見つめたまま
トリガーに手をかけた。無数の灯りと、いくつもの天幕が見て取れる。戦車や装甲車の姿も見えた。あの中の
どれかが目標になっているはずだ。
しかし、国崎は特に狙いを定めるようなことはしなかった。地上では川口少佐がレーザーポインタで目標をロックしてくれて
いる。俺は目標上空でお届け物を落とすだけで良い。簡単な仕事だ。
「頼む、ちゃんと届いてくれよ」
そうつぶやいてトリガーを引いた。一瞬機体が軽くなる。精密誘導爆弾は国崎中佐の手元を離れ、真っ直ぐに地上へと
吸い込まれていった。
< 続く >
>>488-492以上です。
このくらいの特殊能力はありかな?
ある程度はキャラの特性を認めないと、葉鍵である必要性がなくなると思うのれす。
×F−15D
○F−15E
496 :
プライド:02/08/24 03:53 ID:ffv/2hN1
プライド
3月26日20時16分
月姫難民居住区
「さてどうしものか」
HAYABUSAの上で狗法使いの周りを取り囲む完全武装の歩兵、二個中隊を眺めながら思った。
銃弾は撃ち尽くした。白兵戦ともなれば、RR装甲軍のスペッナズ一個小隊とも戦える自身はあるが、
目の前に向けられる、無数のAK47の銃口から発射させる高速弾を全部避ける自信など無い。
先程蹴散らした機動隊共とは違う。あれは、こちらが奇襲した状態だから、包囲網を抜け出せた。
それに連中は所詮は警察だ。殺しには素人だ。俺や目の前の戦争が飯の種の連中とは違う。
だが、俺は居住区を襲おうとしている連中を見て、思わず飛び出して来ちまった。
クソッ。戦場では冷静さを失うことは死を意味するってのに。
俺は死ぬのか。
まあ、いいさ俺はあの時一度死んだ人間だ。
血塗られたおれの人生だが、こうやって最後は難民達を護って死ぬのなら、充実した最後だ。
むしろ俺には贅沢すぎる。
ここで、しかし狗法使いは気がついた。いまここで自分が殺されれば全く無駄死にだと言う事に。
まてよ、連中は、俺をミンチ肉に変えた後、虐殺を始める。俺は誰も救えない。そうなれば俺は何
の為に死ぬ?
自らの自己満足の為か?俺の自慰の為に難民達が死ぬのか?
それが、月姫難民を月厨と蔑み、奪い、犯し、殺す、この連中と何の違いがある?
狗法使いは刹那目を閉じ。そして目を薄く開くとバイクのエンジンを止め、下りた。
「なあ、俺は伝説の男狗法使いだぜ、殺すより俺を生かしたまま捕らえたほうが、大した手柄だぜ」
そう言うと、狗法使いは両手を上げる。
「ほうら、この通り抵抗もしない。な、助けてくれよ」
狗法使いを取り囲んでいた兵士達に1秒間の間の後、笑い声の大音響が響き渡る。あの狗法使いが、鍵
自治州の伝説の傭兵が命乞いをしているのだ。
この男も、いざとなったら、こうやった無様に命乞いをするのだ。
嘲笑者達の列の中から、一人の男が狗法使いに歩みよってきた。
SHION。この二個中隊の指揮官である。
497 :
プライド:02/08/24 03:56 ID:ffv/2hN1
「まったく私は悲しい、狗法使いともあろう方が、こんなに無様に情けなく命乞いをするなんて」
そう、舐めまわすような声質で言いながら、ワルサーPPKで狗法使いの太ももを撃ち抜く。
この程度の痛みはなれているが、思わず顔を歪ませる。
「ほう、流石は伝説の傭兵、足を撃たれたぐらいじゃ、悲鳴をあげませんか」
銃を片手で弄びながら、嬉しそうに呟く。そして何かを思いついたのか、口を開く。
「そうだ、貴方を生け捕りにするだけじゃ、つまらない。ここは一つゲームをしましょう」
「ゲームだと?」
「そうです、これから30分間貴方が声一つあげなかったら、我々はこのまま退散します。貴方にも、月厨
共にも、これ以上の危害は加えません。しかし、もし声を上げれば貴方の後ろにいる原始人共を皆殺しにし
て貴方も捕虜として、連れ帰ります」
「お前が俺に悲鳴をあげさせるか、笑わしてくれる。いいだろう安い賭博だ」
「では、ゲームの始まりですね」
ワルサーPPKが足の中で最も神経の集中している部分つま先を撃ちぬく。親指が吹き飛び、バランスを崩し
倒れこむ。狗法使いの顔に苦悶の表情が浮かぶ。追い討ちをかけるように、鉄板入りの軍靴が鳩尾にめり込
む思わず声を出さぬよう、口を押さえるが、爪が顔の皮膚に食い込み、血が流れ、胃から酸っぱいモノが食
道まで上り詰めてくるが、それを必死で押し戻し、飲み込む。
「ほう、今のに耐えるとは流石。流石」
にやけながら喝采をするSHIONに脂汗交じりで馬鹿にしたような笑みを浮かべて言う。
「何だ今のは愛撫か、お前オカマか?生憎俺にそんな趣味は無いぞ」
498 :
プライド:02/08/24 03:59 ID:ffv/2hN1
その挑発にSHIONが額に青筋を浮かべ、ワルサーPPKの弾を狗法使いの足に全弾撃ちこむ。
そして、護衛の兵士からバヨネットを取り上げると右目に突き刺す。ドロリとした透明の血とは異なる液体
が狗法使いのかつて、右目があった場所から流れる。
が、それでも狗法使いは怯まず、残った左目でSHIONを睨みつけた。それが、更にSHIONのサディスティック
な感情を刺激する。
「ふん、いいぞお前、実にいい」
そう言うと、バヨネットを引き抜き、右肩に突き刺し、軍靴で押し込む。
狗法使いが思わず体を仰け反らせる。
苦痛の中で狗法使いは思った。そうだ、もっとだもっと俺を痛めつけろ。そすれば難民達の生き延びれる可
能性は上がり、貴様等の死期は近くなる。
狗法使いは待っていた。旅団長の編成した迎撃部隊が駆け付けて来るのを。
連中は完全に俺達の不意を突いたと思っている。馬鹿が。だが、しかし、早く掛け付けてくれ、俺の意識が、
俺の心臓が動いている内に。
こいつがシビレを切らして、俺の脳に銃弾を撃ちこまない内に。じゃなきゃ、俺がカッコつけて死ぬのより、
情けなく命乞いする方を選んだ意味がない。なあ、そうだろレギオン。
続く
499 :
鮫牙:02/08/24 04:01 ID:ffv/2hN1
ども、プライド投稿完了っす。
500 :
473:02/08/24 12:21 ID:O4zo6Mxv
>>484 地図の方、載せていただいてありがとうございました。
>>487 別にNGにまでしなくてもよいのでは…
501 :
416:02/08/24 18:46 ID:nNwvOrt+
>500
いや、あそこまでフォローのしようが無い物はNGにしても問題無いと思う。
本人も書き直しUPしてるし。
つーか俺も416書き直して別の展開にしても面白そうだと今更ながら思ってたり。
もう後続いてるからどうにもらなんけど。
502 :
名無しさんだよもん:02/08/24 20:19 ID:RzYlARWC
浮上
3月26日 21時30分 東葉・ユウラク駐屯地
ユウラク。東葉支配地域のほぼ中央にあるこの街は、半島を貫く山地の南の
ふもとにあり、また、第6師団及び第6航空団の司令部が置かれていること
からロックブーケ、シンキバと並ぶ東葉の重要拠点の一つでもあった。
そして、その一角にある駐屯地の千堂大佐の部屋を九品仏少佐が訪れていた。
「お前なぁ…こんな所で油売ってないで早く帰れよ」
「まぁまぁ、そう言うなマイブラザー。今日は我らが久しぶりに再会できた
記念すべき日だ。心ゆくまで語り合おうではないか」
「この前会ったばかりじゃんかよ。だいたい、今日はそっちに元帥達が来て
たんだろ? 大志… お前居なくて良かったのか?」
「ノォ〜プロブレム! そこは我らがあさひちゃんをはじめとする我が連隊
の優秀なるスタッフ達が万全の体制で接待をしておることだろう。安心しろ、
何も問題はない」
「おい、いつからあそこはお前の連隊になったんだよ。そもそも上官相手に
ちゃん呼ばわりもどうかと思うぞ」
「何を言うか! 敬愛を込めて彼女を『あさひちゃん』と呼ぶことに、貴様
不満でもあるのかぁっ?!」
呆れ果てた和樹のツッコミも何処吹く風か大志のテンションは上がり続ける
一方だった。
「それにしてもお前、そんなに大量の地雷を一体どうするんだよ」
というのも、大志がユウラクで調達し持ち出そうとしている地雷の数が尋常
ではなかったからだ。それこそ地雷と名の付く物は全て持っていきかねない
勢いだ。そしてこれが大志がユウラクに来た目的でもあった。
「決まっておろう。埋めるのだよ。当たり前のことを聞くな。マイブラザー」
「へぇへぇ。悪うございましたね。じゃ、一体どこに埋めるんですか、先生」
「うむ、よくぞ聞いてくれた! これこそ吾輩の深慮遠謀が…」
「ハイハイ、いいからさっさと結論に入ってくれ」
「つれないな、マイブラザー。まぁ良かろう。では教えてやろう。
今改築中の要塞、ファントーム・クロイツのことはもちろん知っているな?」
「ああ、シンキバの西にあるあれだろ?」
「そのとおり。我々の拠点だ。しかも、三方を海や川に囲まれているから、
防御戦には最適だ。そしてさらに、要塞周辺の敵の通り道となりそうな場所
にこの地雷をばらまくわけだ。そうすれば足止めになるし、足を止めた敵を
我々はいくらでも狙い放題というわけだ」
「ちょっと待て。あの一体を地雷原にするつもりか? それに要塞の北には
川に架かった鉄橋があるはずだろ? そこから攻め込まれるんじゃないか?」
「安心したまえ。橋は当然爆破する。そうすれば敵は要塞の南を陸づたいに
侵攻するほかあるまい? そこに地雷を撒けばよい。単純明快! そして敵
は我々のマトとなるのだ! フハハハハハハ!」
何てはた迷惑な野郎だと思いつつも、話が長引きそうなので和樹はツッコミ
を入れるのをやめた。それに純軍事的に見れば、そう悪くもない作戦だった。
「ま、それはそれでいいとしても、ホントに反乱軍が侵攻してくるのか?」
「ん? どういうことだ?、マイブラザー」
「だってトゥスクルは就役したんだろ? なら、反乱軍は揚陸艦を使うこと
をためらうだろうし、陸路で侵攻するにしても半ば回廊の空き地の街や国家
元帥殿の直轄地を通過する必要がある。おまけにRR装甲軍は鍵勢を落とし
そうな勢いだと聞いている。反乱軍は鍵の援護も期待できないと思うけど」
「確かに今はそうだな。しかし、吾輩は『ビッグサイト・ユーブンク』発動
の際が最も危険だと思っているからな。我々の軍がエロゲ国への侵攻を開始
した時は、言い換えれば領土の防衛が最も手薄になるということだ。吾輩が
反乱軍を指揮するなら、そこをを狙わない手はないと思うぞ」
「それはそうだけど… でも、それって、お前は国家元帥殿が鍵に負けると
思っているってことか?」
「ん? 何を今さら。当然のことだろう。いくらあの柳川とかいう強姦魔が
卓越した指揮を発揮しようが、所詮は烏合の衆。鍵のキ○ガイ共が死にもの
ぐるいで反抗してくるのを押さえられるとは思えんがな。その可能性は鷲見
元帥殿も計算済みだと思うぞ」
「お、おい、大志、言葉には気をつけろよ! 誰が聞いているか…」
「問題あるまい。何しろ事実だ。それに吾輩は逃げも隠れもせん!」
「…あ、そう。なら別にいいけどな…」
もうつき合ってられんわ。和樹は大志が早く帰ることだけを願っていた…
しばらくして…
「うむ、それではこの辺で引き上げるとするか。吾輩も明日朝一でシンキバ
に戻らねばならんからな」
「そうか」
やっと帰ってくれるか。でも和樹は平静を装っていた。また話を蒸し返して
こられても迷惑だし。
「そうそう、一つ言い忘れていたことがあったぞ、マイブラザー」
えっ? まだ何かあるのか? 思わず口に出しそうなのをどうにか止めて、
和樹は何とか平静を保つことに成功した。
「もしも、もしもだ。反乱軍共がシンキバに襲いかかって来たときは、吾輩
が力の限りあさひちゃんを守る。だがな、我々だけでは限度がある。だから
何かあったら貴様が助けに来い。あの娘は連隊指揮官に昇進してから今まで
以上に頑張っているが、それはいざという時に貴様が助けてくれると信じて
いるからやっていられているんだ。悔しいがな…」
「大志…」
「だから、吾輩からも…」
参謀としては有能だとは思っていた大志であったが、まさか彼がこんなこと
を言うとは思っていなかった。だから…、
「分かっているよ。当たり前じゃないか。大丈夫、任せとけって」
自然と口にでた。偽らざる本心でもあった。もう憂いは何もない!
「すまん、恩に着る… では頼んだぞ。アディオス! マイブラザー!」
「ああ、おやすみ」
そして、ありがとな… 大志。
『ユウラクにて』投稿完了です。
要塞(ネタ元は一応ドイツ語読みで変えてるので勘弁(w )の位置は、
東葉の地図に沿って設定しています。
それにしても3月26日付けの投稿が多いですよね(w
508 :
名無しさんだよもん:02/08/25 01:47 ID:zV537rje
気にしたら負け
509 :
駆逐艦「楓」「梓」(松型駆逐艦):02/08/25 11:29 ID:HpWf57CG
艦種 一等駆逐艦
計画 昭和一九年度計画計画
基準排水量 1262トン(橘型は1350トン)
全長 100m
幅 9.4m
吃水 3.3m(橘型は3.4m)
主機 艦政本部式オール・ギヤードタービン2基 2軸
出力 19000hp
速力 27.8ノット
乗員 211人
搭載燃料 重油370トン
航続力 18ノット−3500浬
対水上見張電探 二号二型電探
対空見張電探 一号三型電探
砲戦指揮装置 94式方位盤照準装置
魚雷戦指揮装置 97式2型射角方位盤、1式3型発射指揮盤
火砲 12.7センチ連装高角砲 1基、12.7センチ単装高角砲 1基
機銃 96式25ミリ3連装機銃 4基、96式25ミリ単装機銃 8基
水雷兵装 92式四連装魚雷発射管 1基
対潜兵装 94式爆雷投射機 2基、爆雷投下軌道
めんて
整備兵 − 駆逐艦のめんてなんす −
とんてんかんてん
とり
513 :
名無しさんだよもん:02/08/27 03:56 ID:qRycOGHr
から
油断すると落ちそうなので保守
516 :
名無しさんだよもん:02/08/28 23:19 ID:pgqitM+6
うれん
517 :
名無しさんだよもん:02/08/29 21:04 ID:Q1FlDx7/
投稿ないね。
書いてはいる。筆が進まんだけだ。
それに月末だし。
しかし、この戦争の落としどころはどうなるんだろう。
(つーか、現実にこんな戦争やっとったらアメ(略あたりがボコボコ爆弾落として
プチ民族浄化やりかねん罠)
>>519 その認識は間違ってるな。
基本的に利益のない戦争はやらないよ、ヤンキーは。
521 :
519:02/08/30 01:48 ID:Jxnl8+0j
>>520 言われてみればそうだす。
油かなんかが絡めば出張ってくるだろうけど。
アフリカの紛争は思いっきり放置だしね。
「人道的」介入はソマリアで懲りてるでしょ。
マジレスすると、葉鍵国には萌えという莫大な天然資源があります。
526 :
名無しさんだよもん:02/08/30 19:26 ID:2qCx6v+Z
このスレの住民ならブラックホークダウンは当然の如く観ているのだろう。
1/2
3月26日20時32分
月姫ゲットー門外
狗法使いのある意味それすらも自慰の延長とすら言える行為を中断せしめたのは、ゲットー内から放たれた数発の銃弾だった。
放たれた銃弾のほとんどは空しく路面のアスファルトを削り、さらのその内の数発は跳弾で付近の商店のウィンドウを叩き割ったが、それでも1発がSHIONの横に立っていた兵士の喉を貫き、それを打ち倒した。
「けひっ!?」
得体の知れない悲鳴を上げてSHIONがのけぞる。
その場にいた誰もが事態を理解できないままゲットーの内側からさらに銃撃が放たれ、さらに正確さを増した射撃はバ鍵っ子どもを次々と貫いていく。
――暴虐の雲 光を覆い 敵の嵐は吹きすさぶ
ゲットーの中から歌が聞こえる。
このころになってようやく事態を理解した兵士達がゲットーに向け応射を始めた。とはいえ夜の闇だ。発射炎も建物内部からの発砲では目立とうはずもない。必然的にメクラ撃ちになる。
VK-98やモシン・ナガンといった雑多な銃から散発的に放たれる高い銃声とMPiKの断続的な連射音が路上を交差する。
――怯まず進め我らが友よ 敵の鉄鎖を打ち砕け
そして、路上を最も強く覆う、難民達の歌声。
2/2
「てっ、撤退!撤退だあっ!」
腰を抜かしてへたりこんだSHIONが狂ったように叫ぶ。
それを幸いと兵士たちが踵を返して逃げ出す…出来るはずも無い。
背を向けた兵士にはゲットー内からの銃弾が集中する。SHIONはあっという間もなく路上に倒れ付す兵士を見て狂ったようにPPKをゲットーに撃ちこむが、当然のごとく無意味だ。
――自由の火柱輝かしく 頭上高く燃え立ちぬ
そして、事態は、SHIONたちにとって最悪の状況をもたらした。
ゲットー内から、流れつづける歌を圧するような轟々たる喚声が沸き立つ。
「総員着剣!門を開けろ!」
――今や最後の戦いに 勝利の旗はひらめかん
そして彼等が見たものは。
「虫けらどもを捻り潰せ!突撃ぃぃぃぃぃぃぃ!!」
銃剣を振りかざした男たちを先陣とする、武装した老若男女―復讐に燃える月姫難民たちの姿だった。
狗法使いがその光景を記録に残すことは無かった。
ただ、手当てに当たった紅茶すらいむ部隊の衛生兵は、彼からこのような事を聞いている。
―結局あの時覚えている事といったら、俺は体のあちこちが痛くて、路上ではフクロにされてるバ鍵っ子どもがいて、SHIONはゲットーの門に吊るされてて、ワルシャワ労働歌が流れてたってことくらいだよ。
ENDE.
そういや、もうシェンムーガーデンで会議始まっている時間帯だよね。
整備兵 − 定期のめんてなんす −
今日はお月様を眺めながらの作業です。
・・・深夜残業?
>>530 君のおかげで当スレは圧縮から救われた。鉄十字章ものだ。
532 :
名無しさんだよもん:02/09/01 02:58 ID:vEuHBS3x
各勢力の勲章案
鍵→鍵十字章
葉→柏葉章
月→月桂章
>>532 一応下葉は葉+鍵だったから…
鍵…鍵十字章
正葉…柏葉章
葉鍵(下葉&東葉)…柏葉付鍵十字章
の方がハマっているかと。特に正葉は「柏」でしょう。
#にしても、鍵はジプシー(月難民)とかを迫害していたりと、
#やはりモデルはナチスドイツですかね(w
てってけて、てってけて♪
戦場音楽の鳴り響く中、そんな擬音が駆けて行く。
松本リカ警察少佐は駆けて行く。少し姿勢を低くして、てってけてってけ駆けて行く。
降り注ぐ砲弾もなんのその。至近弾でも気にしなーい、爆風で髪が乱れても気にしなーい♪
……いや、塹壕から見てる部下としては、少しは(むしろ多分に)気にしてくれと小一時間ばかりお願いしたいところである。
「わー、とうとうやられちゃったねーー」
前方の陣地から後退するついで、そこらで拾った負傷兵を引きずって、ひょいと土嚢と瓦礫で片付くられた急造の陣地に飛び込んだ。
大口径の機銃弾が砕いた瓦礫を撒き散らすのも気にせず、巨大なコンクリート片から上半身を乗り出して、撃破されたT55から脱出した乗員に大きく手を振った。
「早くおいでー……あひゃひゃっ!?」
とたん、当然のごとく殺到する銃弾に慌てて壕内に身を隠す。
というより、部下に引っ張り込まれただけだったり。
「危ないでしょうがっ! 」
「……あふぁうぁっ、襟が襟がっ!」
詰襟で襟首引っつかみは危険である。
ついでに胸元も苦しい。胸がデカイから引っ張られたら辛いのだ。
……なんでこんなのが士官をやってられるんだろ、と深く激しく疑問を覚えなくもない。
覚えるが、ついていく。愛すべきおろかな上官についていく。
意思力弱くて流され易く、勇敢でもなく人並み優れた統率力がある訳でもない。
松本指揮下の増強大隊、月姫難民は黙殺せよとの岡田防衛司令官代行の密命を無視し、化学兵器使用前の住民後送のため悪戦苦闘のまっ最中である。
今しもこちらのT55を撃破したWZ501ICV(BMP1の中国版だ)が、砲弾の炸裂音とはやや異なる爆音と共につんのめるようにして停止した。
どうやら、首尾良く対戦車地雷に引っかかったらしい。
狭い路上のこと、後続する戦車隊の足が鈍った。随伴する歩兵も奪取したばかりの建築物に入り込んで、こちらの布陣を見極めているようだ。
しかし前進が停止したからと言って、鉛弾の応酬までが止まる訳はない。
態勢を整えた侵攻軍の前進再開を阻害するため、前進を阻害するその火点を牽制し圧倒し破砕するため、銃火は激しくなっても収まることなどありえない。
機銃座の置かれていた交差点の角が、覆帯を破壊されたWZ501の76mm砲で吹き飛ばされたかと思うと、今度はそのWZ501がRPG7を叩き込まれて砕け散る。
たちまちそのRPGの火点であるビル高層階に12.7mmが叩き込まれ、壁面が発砲スチロールのように脆く激しく弾け飛ぶ。
しばらく激しい銃撃戦が続き、そしてすぐに再認識する。
彼我の火力が違い過ぎる。重火器だけの問題ではない、純粋に数が違うのだ。
もともとの兵力差に加え、松本は各組織の残兵を寄せ集めた手許の千名強の兵の半数を、担当地域の民間人退避に回していた。
手駒が足りないどころではない、あちこちに穴が空いている。
一旦遮蔽物に隠れた敵が、こちらの布陣と数を見越し、態勢を整えて突進を再開したら、先ほど同様貧弱な防衛線は三十分と保ちこたえられまい。
「民間人の退避はまだ終わらないのか? いや、それより司令部には気付かれてないな?」
至近に着弾した迫撃砲弾が跳ね上げる土砂を浴びながら、松本の指揮下に置かれた民間防衛隊の予備士官が呟いた。
「避難状況はあまり、良く無いな。みんな良くやってくれてるが、もともと回せる手駒も多くないんだ。これ以上は望めんだろ。
司令部に関しては大丈夫だ……ま、気付かれてもどうなるものでもないがな」
「というよりも、気にせんだろ岡田中佐は」
肩を竦めた国境警備旅団の少尉の言葉に、薄く、苦く笑って応じるのは警察軍の士官だ。
彼があの上官―――『野戦任官』で中佐となっていた―――の部下となって数年、その性格は嫌と言うほど知り尽くしている。
普段は決して悪い上官ではない。
むしろ、身内、部下への素っ気無い素振りながらもけして気配りを忘れないその人柄は、松本とは異なった意味合いで接し易い上官と言えた。
……ただし、そんな長所を補って余りあるほど彼女は短気で陰湿で傍若無人で、おまけにドライなことこの上なかった。
仮に前線で戦闘中の部隊が命令を無視し、化学戦への対応を拒否したとしたら。それが親友である松本の部隊であったとするなら。
―――いや、そうであってすら。
「……例えウチの大隊長の頼みだって、あの人は自分の計画実行に移すだけだろな……って、ところで大隊長は?」
「……ん?」
気がつくと何時の間にか、その場から松本の姿が消えていた。
この砲火の中、どこかに行ったはずはない。いや、敵情視察のため高層階にでも移動したのかも。
でも、あの人はそんなにまめな人だっけか?
「ああ、あそこに……」
慌ててその場の兵が周囲を見まわすと、松本の姿はすぐに見つかった。
建物に突っ込んでかく座した友軍のBMP1の背後に身を隠し、スピゴット発射機を設置しながら―――
「さりん〜♪ さりん〜♪ 魔法使……」
―――ろくでもない歌を歌っていた。
「大隊長、ストップです」
「誰だこの人に要らん知識教えたのは」
突っ込む部下たち、結構涙目である。
「えー、ぴったりの歌だと思うんだけどなぁ」
ぶーたれる松本、素のまんまだった。
ぴったりってなんだよ、そういうのはお前の脳内だけで勘弁。
「ぴったり過ぎてダメなんですって……」
さすがにそのまま口にはできず、
「それより、大隊長。そろそろ潮時です」
ふと、松本の顔からお気楽さが影を潜めた。
「……でもさぁ、退避、終ってないよね?」
「それは、そうですが」
「終るまで……待てないかな?」
「すでに司令部は、未だに指定街区からの退去を拒否する市民の保護義務を放棄する旨発表してます」
聞いた上官の呟きを、部下はそのまま空へと吹き消そうとするかのように殊更大きな声音で遮る。
「この街区に未だ残ってるのは、所詮ファシストどもを解放軍と待ち望む真性の月厨です。
なら、ファシストどもと一緒に天上の楽園へと送りこんでやりましょう」
口にして、自身ですら信じ切れない理屈。
彼自身、月姫難民は嫌いだ。虫唾が走る。この国から、残らず叩き出してやりたい。
だが、この地域に取り残された人々の中には、老人や傷病者など自己の意思とは関係なく退避が困難な者も多くいることを彼は知っていた。
狂信的な月姫主義者によって、その家族や集合住宅の同居人が避難を禁じられているケースもある。
彼の抱く月姫系市民への敵愾心は、そうした非武装の月姫系市民までも毒ガスで殺戮しても構わない、するべきだとの極論には結び付かないのだ。
そして、それは松本にも通じることだった。
「そう考えれたら、楽なのかなぁ……あたし馬鹿だから、わかんないや」
言い切る部下本人が納得しない説得を、その上官もまた納得した様子を見せなかった。
「岡田中佐は、我々の行動に関わらずラインへの敵到達を持って攻撃を決行なさるでしょう。大隊長も、ご友人なら誰よりも良くご存知のはずです。
少しでも命令が遅れたら……ことは兵の生死に関わります」
「そ、それは……」
兵の命と住民の命。二つの選択肢が、あるようで実はない。あったとしても、どちらかを選ぶことなどこの優柔不断な指揮官には不可能だ。
そしてそのあらかじめ決められた選択肢を否応なく突き付けているのは、目の前の部下ではない。
後方の地下壕に篭る、自分の一番の親友による強制だった。
どうして、岡田はあたしに前線を任せたりしたんだろう。多分彼女と知り合ってはじめて、松本は岡田を恨めしく思った。
十秒以上の沈黙。
そう、それは沈黙だ。この上無く騒がしく、物騒な沈黙だ。銃を、RPGを撃ちつづける手は止まらない。戦闘中の各部隊へ指示を飛ばす叫びも止まらない。
ただ、必要な一連の戦闘行為をこなしつつ、周囲の誰も、耳だけは指揮官達の会話に向けられている。
……やがて、こちらが小勢と見切った敵が、歩兵戦闘車の支援のもとにその前進を再開したらしい。
爆風が松本の髪を煽り、アスベストの粉塵を吹き付ける。
前線の方を見た。ちょうど、先頭を進むWZ501が、その主砲をこちらに向けて放ったところだった。
凝然と固まり、「わぁ」と呟き、砲弾が傍らを通りぬけ、後方の崩れたビルの瓦礫を吹き飛ばすまでが約三秒感の流れ。
背後を振り返った松本の視線の先。つい先ほどまで、坂道となっている街路を睨んで頼もしい咆哮をあげていた機銃座はすでにない。
動く者の姿も、一つとしてもはや無い。
もう一度、前方へと視線を向ける。
吹き飛んだDshKの一部と、それを握り締めた腕の切れ端を見つめていた時間は案外長かったらしい。
一目で見てわかるほど、WZ501の姿はこちらに向けて近づいている。
松本は、知らぬうちに止まっていた息を大きく深く吐き出した。
そこに浮ぶのは、諦めの表情。兵達の誰もが見たことの無い、憂鬱と後悔に沈んだ無力感。
「……防護服着用。化学戦準備、避難誘導中の部隊に所定の位置への展開を命令。
防衛ラインを一つ下げる、化学戦の準備を敵に気取られないようにね〜」
前線部隊に『雨月山に霧満ちる』が伝わったのは、このわずか後のことである。
<糸冬>
以上、投降しますた。
もとい投稿。
……ここは圧縮乗り切れましたね。うみ。
ここまで落ちてたら吊るとこですたよ(涙
3月26日22時00分
大リーフ湾・空き地の町沖合12海里
『スイセンFDよりヤクタイ01。着艦を許可する。ポイントは甲板の誘導灯に従ってくれ』
『ヤクタイ01よりスイセンFD。了解した。これより本機は貴艦にアプローチする。よろしく頼むぜ』
耳元のレシーバーから、航空無線の声が聞こえてくる。その内容に耳を傾けながら、
米村高広は海風が強く吹き付ける甲板の上で身を竦ませた。遮蔽物のほとんど無い――
つまりは航空機の発着艦に最適な甲板だから、余計に風を冷たく感じる。
タラワ級強襲揚陸艦“空き地の町”。満載排水量39000t、全長250m、全幅32.3m。
外見だけならば、第二次大戦期の正規空母かと見紛うほどの威風堂々とした艦容である。
実際、タラワ級は制海艦――簡易空母としての能力も併せ持っているから、その印象は
ある意味正しい。そしてこの“空き地の町”はスプルーアンス級駆逐艦“里村茜”とともに
大リーフ湾最強の海上戦力として現在この海域に君臨している。
正統リーフ海軍のイワンロゴフ級強襲揚陸艦“ホワイトアルバム”はある程度の
ヘリ運用能力こそ持っているものの制海艦能力は皆無だし(ただし艦自体の固定武装は
旧ソ連系艦艇の常で比較的重武装だが)、ライバルになりうるであろう
東葉海軍航空打撃巡洋艦“トゥスクル”は未だ就役したばかりで戦術的価値は低い。
その精鋭艦の甲板で、青紫超主席によって空き地の町暫定自治政府軍務委員長と
暫定自治政府防衛隊総司令官と少将の肩書きを押しつけられた米村はガタガタと震えていた。
「みっともないぞ米村少将。鍵自治州の全権大使を迎えようかというときに、
そんなに震えていては」
「甲板で使節を出迎えようって言ったのはあんたじゃないか!」
「当然だ。我々は鍵に対し常に威風堂々として交渉に当たらねばならんのだ。
わが超政権の安全を保障するのは、足元を見られない外交ではないかね?」
米村の隣に立っていた青紫超主席はしれっとした顔でそう答えると、にやついた視線を
暗闇の一角へと固定させた。その方角から、微かにヘリの爆音が聞こえてくる。
「さぁ、裏葉高等弁務官殿のお出ましだ!」
「原田うだる准将に内応の兆候あり」の情報が裏葉からもたらされたとき、ものみの丘は
ちょっとしたパニックに陥った。正葉―鍵同盟の根底を揺るがしかねない異変に麻枝元帥は
しばらくの間絶句したし、中央情報局を率いるしのり〜中将は自身が全く掴んでいなかった情報に
「そんな莫迦な!」と思わず叫んだほどだ。
もちろん情報の出所が胡散臭さ炸裂の青紫であったことから、欺瞞情報ではないかとの
疑いが当然持たれた。これの裏を取るためにしのり〜はその全組織力を動員して情報収集に
当たったのだが、夕方になってねこねこ師団から決定的な情報が入ってきた。
以前「みずいろ事件」で主力が戦わずして自滅するという戦史に残る大失態を演じてから、
北部国境で勢力圏を接するねこねこ師団はすっかりものみの丘の傀儡に成り下がってしまった
――元々傀儡みたいなものだったと皮肉る辛辣な史家もいるが。そしてこの状態に、
中央情報局はこれ幸いと積極的に工作員をねこねこ師団本拠地であるトコロザワに潜入させ、
鍵自治州の北方総督領における情報工作拠点にしてしまったのだ。トコロザワが
北方総督領における交通の要衝であったことからこの目論見は見事に成功し、
鍵自治州の北方総督領における情報収集能力は飛躍的に向上した。
この動きにねこねこ師団は抵抗するどころか積極的に協力していたのだから、何をか況や。
その裏切り者によって構築された情報網に、エルフ軍閥の動きが引っかかったのだ。
エルフ軍が進める「下級生計画」が。そして、その計画につながる正葉海兵隊司令官の存在が。
正葉国内の情勢が重大な局面を迎えつつあることは、誰の目にも明らかだった。
ロディマスは、未だ下葉の軍事的脅威が去っていないにもかかわらず『政治の季節』に
突入してしまったのだ。下手をしたら、正葉国内は高橋派と原田派に分裂しかねない。
緊急の会議で「正葉国内情勢に積極介入すべし」との結論が出たのはこうした事情による。
いかに公称兵力が2万しか無かろうと、正葉と高橋総帥の持つ政治的影響力は大きなものがある。
それが瓦解してしまったら、もう手が付けられない。最悪、鍵自治州だけで下葉―東葉同盟に
立ち向かわなければならなくなる。
こうして「交渉のため、裏葉高等弁務官をロディマスに急派すべし」との決定が為されたのだが、
ここで「青紫超政権の要請に応えるべきか否か」がちょっとした問題となった。
ろくなヒューミントを持っていないはずの超政権が原田准将の動きを掴んだということは、
彼らの実力がただならぬものであることを示しているのではないか? であるならば、
激変が予想される正葉情勢に対するためにも、超政権に恩を売って味方に引き込んでおいた方が
いいのではないか?
超政権から、シンキバにおける東葉海軍の新たな動きとある提案がもたらされたのは、
ちょうどその点を検討していた時である。
「空き地の町以北の交通路は、現在軍事輸送によりパンク寸前の状態にある。
もし貴国がロディマスに特使を派遣するなら、我々の強襲揚陸艦でフキフキ港まで
お送りする用意がある。ちなみにその暁には、我々の政権承認の件について、ひとつよろしく」
結局ものみの丘は、この提案に乗った。事実、正葉国内の交通事情は特使専用の
交通手段が割り込めるような状態にはなかったし、それに超政権に恩を売って影響力を
与えておくのは悪い選択ではない。青紫自身の胡散臭さが心配ではあるが、能力自体に関しては
疑いようがないと思われた。それに、タラワ級強襲揚陸艦に乗って正葉に乗り込むと言うことは、
海軍力が貧弱な正葉に対する砲艦外交としても魅力的なものだった。
こうして「貴政権の提案を受け入れる。承認についての労を取るので、ついては
移動手段の確保をお願いしたい」との回答が発せられ、裏葉に対して“空き地の町”
乗り込みが命じられたのである。同時に正葉に対し「今後の同盟堅持のための交渉を行いたい。
代表者として裏葉高等弁務官をロディマスに派遣する」との通告が高橋総帥に向けて為された。
「原田准将の動きに関しては、新しい動向はわかっておりませんな」
裏葉を飛行甲板で出迎えたあと、青紫は彼女をブリーフィングルームへと案内した。
そこで資料を手にして、直接彼女に簡単な状況説明を行う。
「依然としてエルフ軍閥との交信と思わしき通信は傍受しておりますが、
特段に新しい動きは見られませんな。海兵隊も、外見上は平常どおりです」
嘘である。電波花畑連合国の偵察衛星が、原田海兵隊の異常な――戦時であることを
考慮しても膨大すぎるほどの物資集積を確認している。だが青紫は、この段階で
手持ちのカードを切る気はなかった。
「ロディマスに混乱は見られぬのですか?」
裏葉が、いつものように内心を伺わせない表情で尋ねる。
「ロディマス市内、フキフキ港ともに今のところは何も。少なくとも、我々が
乗り込めないほどの混乱は起こっていないようです」
その言葉に頷くと、裏葉は封筒に入った書類を取り出した。
「これが、自治政府承認の件に関わる麻枝殿からの回答です、青紫殿。お目を通されてください」
「了解した」
鍵自治州章をあしらった封緘を破り、中の書類を取り出す青紫。にやついていた目元が、
スッと細くなった。しばらくの間、ブリーフィングルームには空調の音だけが低く響く。
「貴国の出された条件、拝見いたしました」
そう言いつつ、傍らの米村に書類を渡す青紫。
「基本的には了解しうる条件と考えております。もちろん、細部までというわけではありませんが」
その言葉を聞きつつ、米村は書類に視線を走らせた。内容を要約すると以下のようになる。
1 鍵自治州政府は正統リーフ政府に対し、空き地の町暫定自治政府の承認を強く働きかける。
2 正統リーフが承認し次第、鍵自治州も暫定自治政府を承認する。
3 鍵自治州は、暫定自治政府に対し以下の項目を要求する。これを1および2の履行条件とする。
1)正統リーフの独立自治領となること。
2)正葉−鍵同盟に参加し下川独裁体制打倒に協力すること。
3)三国集団安全保障体制を構築し、必要な役務を提供すること。
4)自治州高等弁務官事務所の設置を認めること。
5)鍵自治州総軍の領内自由通行を認めること。
6)関税の撤廃に応じること。
7)政治犯引き渡し協定を締結すること。
「特に政治犯引き渡しについてですが、いったい貴国はどのような者を『政治犯』と
考えていらっしゃるのかな?」
そんなこと百も承知の青紫がしれっと尋ねると、裏葉も負けじとばかりに口調を変えずに答えた。
「我が国において暴力を持って体制転覆を謀り、秩序の破壊を目論む輩。そしてそれを手助けする
不逞の流民――これが我らの見解にございます」
要は、月姫ゲリラと月姫民族のことを言っている。
「ふむ……しかし我が空き地の町には、その体制転覆を目論む輩と同じ民族が多数居住して
いるのですがね。ここで協定に明記することは、両国の良好な関係にひびを入れることに
なりませんかな?」
「我らが体制を破壊する輩を処断するのは当然のことですので。同盟勢力たる貴国も、
この点は協力して頂きたいと存じます」
本心からなのかどうかは全く不明だったが、裏葉は顔色も変えずに即答した。
「麻枝殿は、不逞の輩が貴国に逃げ込み、貴国を根城に良からぬ事を企むのではと、
恐れておいでです。われらはその不安を取り除くために仕事に精励しておりますれば」
「その見解には異を唱えたいところですが……まぁこの点については話を詰めていきましょう。
幸い時間はある程度――岩切司令、目的地到着はいつかな?」
傍らに立っていた水戦隊司令の岩切花枝大佐に問いかける青紫。
「フキフキ港到着は27日20時の予定だ。ただし、順調にいけばの話になる。
多少の余裕は見てもらいたい」
「了解――それでもほぼ1日の余裕はあるわけで、裏葉高等弁務官殿。
その間にじっくり話し合おうではないですか」
「……全くもって喰えん女だな、裏葉って奴は」
士官用の食堂で、米村はそう毒づくと椅子に腰を下ろした。自分で入れたコーヒーを一口含む。
「こっちが月姫民族に依存している内情を知ってて、ゲリラや難民の引き渡しを要求して来やがった。
それでこっちに揺さぶりをかけて、あわよくば俺たちを隷属させる腹づもりだろう」
そう言いつつ、天井の方に視線を向ける。今頃、応接室を兼ねた艦長室では、
超主席と裏葉が第1回目の本格協議を始めているころだろう。政治向きの話が
あまり得意でない米村は、ブリーフィングルームでの顔見せだけで退席していた。
「裏葉高等弁務官がどうこうと言うより、ものみの丘の意向だと思うますが」
こちらも自分で緑茶を入れてきた蝉丸が、米村の隣に腰を下ろした。
なお、誰彼中隊は暫定自治政府防衛隊第3大隊に改編され、大隊長の蝉丸も少佐に昇進している。
「全権大使とはいえ、彼女が個人的な思惑だけであんな事を口に出来るわけがありません。
麻枝元帥の意向を口にしているだけだと思いますが?」
「すまんが、もっと砕けた口調で話してくれんか? どうにも、まだ少将になったって
実感がないから、どうにもやりにくい」
「そう言う希望ならば、それで」
「どこまで話したかな――ああ、あの女狐のことだったな。確かに彼女は麻枝の意向を
口にしているだけだ。しかし顔色一つ変えずに淡々と交渉してのけるのは、大したタマだよ。
普通、もうちょっとそれらしい演技はして見せないか? こっちを油断させるためにも」
そう言いつつ、コーヒーを啜る。
「しかし、何で鍵の連中はこうまでして月姫民族を抹殺したがるかな?
その辺がどうも理解できん」
「それは、俺たちだって人のことは言えない。この内戦が始まるまで、葉鍵国の敵は
月姫ゲリラだったはずだ」
「そりゃそうだ。だがな、下川体制の軍人だった俺たちにとって、敵はあくまでも『ゲリラ』
だけだった。月姫系住民や難民は、そりゃあ互いに敵視してはいたが、
積極的に敵対はしてなかっただろう? 本心は別にして」
事実、内戦勃発以前の下川国家元帥直轄統治領についてはそのとおりだった。
これには、当時警察軍を掌握していた久瀬が『逆らわなければ危害を加えない』を
治安維持の基本に据えていたことも影響している
(ちなみに東葉領内においては、月姫ゲリラはほとんど浸透していない)。
「ところが鍵の連中は違う。やつら、月姫ゲリラだけじゃなくて月姫難民までをも
虫けらのように扱う。ゲットーなんて前時代の遺物までこしらえて、そこに難民を押し込めてる。
あまつさえ、鍵っ子義勇軍なんて事あるごとに難民をなぶり殺している――ああ、
『ゲリラ掃討』の名目でな。どう考えてもものみの丘の連中、月姫の民を民族ごと
抹殺したがっているとしか思えない」
「話には聞いていたが、そんなに酷いのか?」
「あぁ。あまりの蛮行に国会で問題になったこともある。俺はその時、
防空軍から調査委員に選出されて、倉田議長に同行して現地調査に当たったんだ」
「倉田議長といえば、確か先日処刑されていたな」
「ああ、鍵の人間にしては珍しく良心的な政治家だった。その倉田議長が泣いていたよ。
『自分の同胞が、これほどまでに恥知らずなことをしているとは思っても見なかった』ってね。
それで俺、柄にもなくもらい泣きしたね。
あの人、同胞の恥をなんとかしたいと思っていたんだろうな。その後超党派で色々動いて、
敵対派閥にも頭を下げて廻っていたんだが……それも今回の内戦と、そして内務省の粛清の嵐で
全てが無に帰してしまった」
しんみりと呟くと、米村は冷えかけたコーヒーを一気に飲み干した。
「だからかな。鍵の連中の『民族浄化』を見てると無性に腹が立つ――ああ、わかってる。
今まで散々月姫ゲリラを殺してきた俺が言っても、偽善にしかならないってことくらいはな」
「米村少将……」
蝉丸の視線に、米村はふっと照れたように笑った。
「ああっ、もうヤメヤメ! こんな政治向きな話、俺には似合わん!」
わざとらしく大声で言うと、彼はやや強引に話題を変えた。
「それはそうと、御堂奪回の手はずは整っているか?」
「……ああ、その点はぬかりない」
米村の心情を察して、蝉丸は敢えてこの話題の深追いをやめてそう答えた。
超政権が裏葉をフキフキ港まで送り届けるのは、もちろん今後の正葉との関係を有利に
進めるためである。だがそれと同時に、原田に身柄を拘束されたままの御堂を奪回することも、
大きな目的だった。このため青紫は、正葉との交渉において御堂の身柄返還を高橋に要求する
腹づもりだった。
だがしかし、実際に身柄を握っているのは、エルフに内通し始めた原田である。
交渉が決裂する可能性も十分に考えられる。その時に備え、青紫は“空き地の町”艦内に
旧誰彼中隊の選抜メンバーを十数名、密かに乗艦させていた。いよいよの時は、実力で
“ホワイトアルバム”に潜入して御堂を奪い返し、“里村茜”の援護の下脱出する計画だった。
だからこそ、“空き地の町”を“ホワイトアルバム”の至近にまで接近できる『特使の乗艦』を
鍵に提案したのだ。
もちろん実力行使に及んでしまえば、正葉―鍵同盟との関係は決定的にこじれかねない
――というより、その可能性が極めて高い。しかし御堂を握られたままで正葉との関係を
構築すれば、必然的にそれは従属的な関係になってしまう。それでは、暫定自治政府を
作ってまで空き地の町を護ろうとした彼らの思惑が無に帰してしまう。それだけは、
絶対に譲歩できない一線だった。
「しかし、原田海兵隊と一戦を交えてしまうと、もう三国同盟がどうとか言う話でも
無くなると思うが、その点は大丈夫なのか?」
蝉丸のもっともな疑問に、米村は肩をすくめた。
「『我が胸中には秘すべき秘策あり!』とか超主席閣下は言ってるけどね。
ま、今はそれに期待するしかないんじゃないか? 少なくとも、
成り行きでここまで来てしまった俺にはそれしか選択肢はないけどな」
>>541-548「交渉団、東へ」投下完了です。
これ以上多方面と情報が錯綜するのもなんだと思いましたので、思い切って1日ほど
超政権方面を隔離できるようにしてみました。
550 :
鮫牙:02/09/02 20:15 ID:2J52LL5P
・海兵大隊
司令官(原田うだる准将) 参謀長 (緒方英二大佐)
ベースキャンプ ホワイト・アルバム級強襲揚陸艦
艦長 (篠塚 弥生大佐)
副艦長 (澤倉 美咲中佐)
揚陸戦闘部隊(藤井冬弥中佐)
第一大隊(森川 由綺少佐)
第二大隊(緒方 理奈少佐)
ハリアーU小隊(河島 はるか少佐)
ヘリコプター小隊(観月 マナ少佐)
この編成表を見てみると、「ホワイトアルバム」はどちらかと言うと、アメリカ軍
の強襲揚陸「エセックス」と似たようなタイプだと思いますが。
551 :
鮫牙:02/09/02 20:23 ID:2J52LL5P
あと確か、正葉の武装はアメリカ軍+自衛隊でしたよね?
552 :
名無しさんだよもん:02/09/02 20:39 ID:5fBomTog
すてき元帥
554 :
鮫牙:02/09/02 21:31 ID:2J52LL5P
ちょいと探してみました。
強襲揚陸艦エセックス Essex LHA-2 満載排水量 40,532 tons
全長 257.3 m 幅42.8m 速度 37km/h
乗員 1,108名(将校104、下士官1,004)
揚陸部隊 1,894名
LCAC 3隻積載可
搭載機(任務による組み合わせの一例)
AV-8B ハリアー攻撃機×6,AH-1W スーパーコブラ攻撃ヘリ×4,
CH-46 シーナイトヘリ×12,CH-53 シーストーリオンヘリ×9,
UH-1N ヒューイヘリ×4
武器 Mk29 シースパロー×2,Mk15 20mm CIWS×3, Mk33 50口径機関銃×8
まあ、鬼のようなスペックですが、正葉には「ホワイトアルバム」以外にロクな
艦は無いですから、まあ問題はないでしょう。
555 :
鮫牙:02/09/02 21:37 ID:2J52LL5P
553<成る程、了解しました。
556 :
鮫牙:02/09/02 21:53 ID:2J52LL5P
鍵っ子義勇海軍、正当リーフ海兵隊は勿論、エロゲ国海軍もこれほどの空母は
保有していない。前記2軍に関しては空母すら保有していない。せいぜいVTOL
空母としての強襲揚陸艦程度である。
「原子力機動強襲空母「ピース」出撃!」より。
えーとイワンロゴフ級強襲揚陸艦を改造してハリアーUを搭載出来るようにして
あるというのはどうでしょう?ロシア製兵器を改造して運用するのは葉の伝統のよう
ですし。
557 :
名無しさんだよもん:02/09/02 21:58 ID:uJ+tso09
鍵には海がないぞ。
>>557 そりゃ、あれだ。河川舟艇隊を「海軍」って言ってるんだよ(w
559 :
名無しさんだよもん:02/09/02 23:07 ID:uJ+tso09
そこいらへんはスイスが入ってるわけだな。
/ニニ∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(´∀` ) < やったー!600getだよー!
>====< \__________
,-_-_-‐‐‐,‐ ,-―┬―┬‐┐
0ニニ)二l:| _|ロ(( | .| | |
____ゝ ̄__ヽ└―┴―┴‐┘__
_/0)|: @): : :{≡l}0)/  ̄.| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ |三l__
/__,<〃二二二二∠_/| | | | |レヾ"
/=〔| =冊冊冊= 〔{== ,{(()\__.|____|____|___|*》
ヘ =ヘ_____ヘ==ヘ_0_ノ/ l l l l l l ソ/
\=\――――‐\=\_ ゝノゝノゝノゝノゝノゝノ,,/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄^^^^^^^^^ ̄ ̄  ̄^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
間違えた・・・ 鬱だ・・・
562 :
鮫牙:02/09/02 23:23 ID:qeBAE71c
563 :
鮫牙:02/09/02 23:53 ID:RZ+mLDHN
<556
訂正。
イワンロゴフ級強襲揚陸艦って150m程度しか無かったんですね。
これじゃ、VTOL空母に改造なんて無理ですよねえ…。
詳しい人意見下さい。
いや、だから“イワンロゴフ”、やろうと思えば素でフォージャー搭載できるんですが……
ハリアーが1個小隊=4機しかないんならそれで十分では?
PLUMが月姫撤退らしいです、、、ソースは同人板ですが。。。
(TOP絵がROの魔法使い♀に)
この辺の話しは、
ど う す れ ば い い ん だ
(必要なら葉鍵やエロゲ意外の板で始末(亡命orあぼーん)ネタを書きますが…)
>>562 鮫牙氏は葉鍵スタッフの実際の顔は知ってる?
>>365 それはアンチ月帝国主義者の卑劣なる陰謀である(w
>>566 その辺のネタは、状況の推移を見ながら少しずつ織り込んでいけばいいんではと。
まだ全貌がわかってない状態ではっきり書いちゃうと、ねぇ?(w
570 :
名無しさんだよもん:02/09/03 23:05 ID:13w3sup7
アルベルト・シュペーア
571 :
568:02/09/03 23:29 ID:iPcOuKSx
3月26日 20時45分
ハイエキ丘陵 RR装甲軍キャンプ
月並みながら、目の前に広がる光景は地獄と呼ぶに相応しいものだと清水なつき少尉は思った。
あちらこちらで火の手があがり、それは弱まることなく燃え広がっていた。頑強な戦車すらもが横転し
その砲身を虚しく宙に向けている。紅蓮の炎が夜空を焦がす中、真っ赤な液体が大地をドス黒く染めていた。
奇妙な形をした肉塊があたりに散乱している。腹部からはらわたを飛び出させた将兵のうめき声がやけに
耳につく気がした。これらすべて、友軍機の投下した精密誘導爆弾によって現出した光景である。
敵陣に突入したなつきは、川口少佐の後に続き、RR装甲軍キャンプを駆けた。物資集積所や通信施設等
の目標は他の兵士達に任せ、まっすぐに敵本営を目指した。とは言ってもなつきは川口少佐の後ろを
追いかけただけで、テレビカメラのような形をした爆撃誘導用のレーザーポインタを抱えて走り続けるだけだった。
途中、何回か歩哨に出くわしたが、すべて川口少佐によって難なく排除された。大きな山刀で、音もなく敵兵の
首を刎ね落とす川口少佐の姿は、何度見ても背筋が凍るようだった。
敵本営はほどなくして見つかった。周囲の天幕よりも一回り大きく、近くには指揮通信車と数台の戦車が
停められていた。戦車に描かれたシャークマーキングが目印だった。
なつき達は目標から距離をとり、物陰に隠れるとすぐさまレーザーポインタのセッテイングをした。腕時計で
時間を確認すると、攻撃機の到着まではもうしばらくかかりそうだった。
「息を殺して、身動き一つしないで、そのままじっとしてて」
なつきは言われるままに息を殺し、身動き一つとることなく、じっと耐えた。川口少佐は常に周囲に視線を
走らせていた。なつきはそんな川口少佐の横顔を眺めつつ、これまでのことを思った。
Airシティを離れてから数時間、とんでもないところまでやってきてしまった。信頼していた旅団長に連絡
将校としての出向を命じられ、なつきのことを殺すとまで言った川口少佐についてここまでやってきた。
他の降下猟兵達がそれぞれ別の目標へと向かう中、なつきだけ川口少佐との同行を命じられた。やはり
気に入られたのか? 私のことを「殺す」とまで言った人が、今はぴったりと自分の横についてこいと言っている。
ここに来るまでの間、彼女の中でなに変化があったのだろうか?
川口少佐は相変わらず周囲の警戒を怠らない。なつきはその横顔からなにかを読み取ろうとしたが、案の定
なにも読み取ることはできなかった。
(そういえば……)
なつきはふとあることを思い出した。
(わたし、この人の邪魔をしなくちゃならないんだっけ)
観鍵りっ子中佐から命じられた任務は、川口少佐が立案した作戦の妨害だった。戸越中将、旅団長を始めとする
集成旅団の目的は、Airシティに巣食うバ鍵っ子を、戦争の名をかりて排除することである。もし、この作戦が成功を
おさめ、敵の侵攻が遅れるようなことがあれば、鍵軍主力が到着しバ鍵っ子殲滅という集成旅団の目的を果たすことが
できなくなる。そうならないよう『味方』の作戦を妨害しなければならないのだ。
今のところ作戦は順調に推移していた。順調過ぎるくらい順調なように思えた。このままいけば、この作戦は大成功を
おさめるだろう。そうならないためにも、なつきは与えられた任務を果たさなければならない。しかし、その機会をつかむ
ことができなかった。例えば、作戦を妨害するために、今この場でレーザーポインタを壊してみよう。そんなことをすれば、
たちまちなつきの胴と首は永遠の別れを告げることになるだろう。今まで見てきたように、腰の大きな山刀で音もなく
なつきの首を刎ね落とすのであろう。いくら旅団長達でも命と引き換えにしてまで任務を果たせとは言わないだろう。
彼等が冷酷なのはあくまでバ鍵っ子達に対してだけだ。『身内』である自分にはそこまでのことは言わないはずだ。そう、
信じたかった。
ふと肩を叩かれた。はっとして見回すと川口少佐が指で時計を指し示していた。確認するとまもなく予定の時間だった。
川口少佐はレーザーポインタで目標をロックした。なつきは目標の天幕を見た。とくに変わった様子は見られなかった。
このままなら、この作戦は必ず成功する。なつきは複雑な思いでそう確信した。
突如、警報音が響いた。それとほぼ同時に無数のサーチライトが夜空を照らし出した。光の柱は舐めるようにして
夜の闇を追い払おうとした。
(気づかれたの?)
ふいにそう思った。攻撃機がレーダーに捉まったのか? それとも計画そのものが露見してしまったのか? なつきは
心臓が縮まるような思いをした。
しかしそれは杞憂だった。そう思った瞬間、黒い影が物凄い勢いで上空を通過した。少しの間を空けて凄まじい音と
衝撃波がなつき達を襲った。それらは影が通り過ぎた後にきた。
なつき達は衝撃波に吹き飛ばされないよう、しっかりと大地に踏ん張った。乱れる髪を片手で抑え、物凄いスピードで
遠ざかっていく黒い影のあとを目で追った。黒い影、それは間違いなく友軍の攻撃機だった。攻撃機は超低空で一旦
キャンプを通り過ぎると、一気に急上昇し高度を上げた。そして、そのまま宙返りをして、今度は滝のような勢いで地上
に突進してきたかと思うと、なにかを切り離してそのまま飛び去っていった。それが目標を吹き飛ばすための精密誘導爆弾だった。
爆弾はレーザーポインタが示した目標に向かって吸い込まれるように落下していった。精密機械にありがちの、故障や
誤作動などは一切起こらなかった。爆弾は寸分違わず目標上空で爆発した。
1000ポンドの爆発は凄まじかった。地表5メートル付近で炸裂した爆弾は、半径100メートルにわたって破壊をもたらした。
炎と衝撃波と破片を撒き散らし、あらゆる物のあるべき形を奪い去った。天幕を吹き飛ばし、人間を肉片に変え、戦車すらも
横転させた。まさに地獄だった。
(これじゃ、誰も生き残ってないよ)
作戦は成功だろうとなつきは思った。いくら鬼の力を持つ柳川大将だとはいっても、この惨劇から生き残る術はないだろう。
作戦の妨害という任務は果たせなかったが、それはそれで仕方がないじゃないか。旅団長だって話せば分かってくれるはずだ。
なつきがそんなことを考えていたとき、ふいに川口少佐が立ち上がった。何事かと思って見上げてみると、厳しい表情を
したまま、じっと一点を睨みつけていた。
「やはり一筋縄じゃいなかいようね」
そう言って口元を歪めた。背筋の凍る笑みだった。
腰の山刀抜き放った。黒く塗られた刀身が、闇夜に踊る炎に照らし出され、禍々しいほどの姿を晒していた。
一体どしたのか? なつきがそう問いかけようとした時、彼女の体は既に大きな跳躍を果たし、炎の中へとその身を躍らせていた。
柳川裕也RR装甲軍指令は炎の中から身を起こした。いや、這い出したといった方が適当であろうか? 泥と埃で
薄汚れてしまった制服を手ではたきながら、柳川は戦車の下からその姿を現した。
あたりはまさしく凄惨の一言に尽きた。恐らくは1000ポンドだろう。あのヤーボが落とした爆弾は、先程まで柳川達が
陣取っていた天幕を綺麗に吹き飛ばし、近くにあったあらゆるモノ――人も機械も――の機能を永遠に停止させていた。
警報音が宿営地に鳴り響いたあの時、柳川達はとっさに天幕を飛び出していた。ちょうど国崎中佐のF−15Eが直上を
通過した瞬間だった。あっという間もなく、凄まじい音と風に襲われた。吹き飛ばされそうになる月島中将の体を
片腕で支えながら、見る見るうちに小さくなっていく敵機の姿を懸命に追っていた。敵機は一旦上昇したかと思うと、
今度は急に降下を始め、なにか丸い物体を落として飛び去っていった。それが爆弾であると柳川は瞬時に判断した。
爆弾が直撃するかどうか、見極める方法は一つ。地上から見上げて、爆弾が丸く見えるか否かだった。丸く見えなければ
セーフ。爆弾は上空を通過するか、前方に落ちるかだった。丸く見えればアウト。爆弾は間違いなく自分達の真上に落下
する。
柳川は落下する爆弾を凝視した。爆弾が自分達の上に落ちてるくるか否か。爆弾は丸いかどうか。その答えが出るのに
さほどの時間は必要としなかった。爆弾の形はきれい丸をしていた。疑いようのない直撃コースだった。
その瞬間柳川は吼えた。体内に眠る鬼の力を一気に覚醒させた。全身の筋肉が一気に膨張する。質量が増加し
体中に力がみなぎるのを実感した。
鬼の力を覚醒させるやいなや、柳川は隣で呆けたように突っ立ている月島中将の襟元を掴んだ。そして、スプリングの
ように腰のバネを収縮させ一気に解放する。跳躍。数メートルの距離を一足に跳び、柳川は手じかにあった戦車の下へと
潜り込む。上空で爆弾が炸裂したのはその直後だった。凄まじい衝撃が大気を伝って柳川達を襲った。あと柳川達に出来る
ことは、ただ戦車の下で耐え忍ぶことだけだった。
「ふぅ」
柳川は大きく息をついた。下半身を吹き飛ばされた兵士の呻き声が聞こえる。一歩間違えば柳川自身がああなっていた。
隣の戦車は横倒しになり、砲口を虚しく宙に向けている。この戦車の下に避難していたら命はなかった。いくら鬼の力を
覚醒させても、1000ポンド爆弾の破壊力には耐えらるはずもなかった。
「う、うぅ……」
足元で呻き声がした。ちょうど月島中将が戦車の下から這い出しているところだった。
「ふっ、随分と酷い目にあったな」
柳川は手をさしだしす。月島を戦車の下から引き起こした。
「ああ、まさか本当に君の命を狙ってくるとはね」
まだ爆撃のショックが残っているのか、月島中将はなんとか二本の足で立とうとするが、いまいち足取りがおぼつかなかった。
「それも航空機による爆撃。鍵の連中も随分派手にやるね。お蔭で僕までとばっちりを受けるところだったよ」
「俺が助けなければ死んでいたぞ」柳川は言った。
「君が近くにいなければ問題なかったさ」月島が返した。
「ふっ、違いない」柳川は笑った。「ならば、これからはあまり俺に近寄らないことだな」
「ああ、そうさせてもらうよ」月島は肩をすくめた。
「それにしても、さっきの戦闘機は凄かったね。あの低空を超音速を飛ぶなんて、よほどの天才か、じゃなければただの
馬鹿だ」
「恐らく前者だな。AIR航空隊は精鋭揃いだ。なにせ、黒マルチを相手に三分の一程度の損害で済んだのだからな」
「まったく厄介な敵だね。これからはもっと対空警戒を厳にしないといけないよ。あんな低空で飛ばれたらレーダーも
役に立たないからね。今頃、友軍の飛行場からは邀撃機があがっている時だろうけど、まったくの無駄足になるだろうね。
彼らがここに到着するころには、あの機体はとっくに自分の巣に帰ってるだろう」
「だろうな」柳川は肯いた。「しかし、それ以外に鼠が潜んでいるな」
「ねずみ?」
「そうだ。鼠だ。このキャンプに何匹か鼠が潜んでいる。怪しいとは思わんか? あの爆弾は恐ろしいほどの正確さで俺達の
天幕に命中した。どこかで誘導している奴がいるはずだ」
月島は合点した。どこかに特殊部隊が潜んでいるということか。
「わかった。ならばすぐに警戒態勢をとらせよう。鼠は一匹も生かして帰さないよ」
そう言って月島は命令を発するため通信のできそうな場所まで移動しようとした。しかし柳川はそれを制した。
「その必要はないさ」
月島は怪訝な表情を浮かべた。
「どういうことだ?」
「鼠は向こうからやってくるってことだ」
その時月島は気づいた。柳川は鬼の力を発動させたままであった。
「さがっていろ」
そう言って柳川はゆっくりと戦闘態勢をとった。
斬撃は唐突だった。少なくとも、月島にはそう見えた。
闇の中から突如女が現れ、巨大な山刀らしきもので柳川に襲いかかった。
柳川はとっさに身を翻し、すんでのところでそれを回避した。山刀が柳川の首筋をかすり、一筋の鮮血が
夜の闇に散った。女と視線が交差した。なにか強い意志を持った目だと月島は思った。
最初の一撃を交え、女は転がるようにして地面に降り立ち、そのまま2歩、3歩と跳躍しながら後方へ距離を
とった。女と柳川、ふたりの視線が交錯した。そのまま睨み合いが続く。ここで初めて、月島は女の姿をはっきりと
確認することができた。それは小柄な女だった。いや、一般の女としては普通なのかもしれないが、屈強な軍人達が
居並ぶ戦場では小柄と言っても差し支えはなかった。女は、その小柄な体には不釣合いとも言える巨大な山刀を
構え、柳川と睨み合っていた。その表情はやや苦しげに見えた。柳川を相手に攻めあぐねているようにも見える。
対して柳川は余裕すら感じさせる表情だった。月島の目からしても、女が劣勢であることは明らかだった。
睨み合いは永遠に続くかと思えた。だが、無論のことそのようなことはなかった。女は、一瞬の不敵な笑いを
浮かべたかともうと、僅かな隙をついて腰の黒い物体に手を伸ばした。それを三人の立つちょうど中央に投げる。
――手榴弾!?
月島はとっさに身を伏せた。手榴弾の爆発効果は上へと広がるため、伏せた状態ならば爆発地点の近くに居ても
無傷ですますことができる。
しかし、やってきたのは爆発の衝撃ではなく、それとは異質の音と光だった。鼓膜を破壊するような轟音と、網膜を
焼き切るような閃光が月島達を襲う。女が投げたものは手榴弾ではなくスタングレネードだった。気がついたときには
すでに遅かった。強力な音と光は、一時的に彼の目と耳を使い物にならなくしていた。
「くっ、逃げられたか」
視力と聴力が回復したとき、既に女の姿は見当たらなかった。女の消えた空間を柳川がじっと見つめていた。
「大丈夫か?」
月島は柳川の元に駆け寄った。首筋の傷を見て胸ポケットからハンカチを取り出し柳川に渡した。
「ああ、問題ない。ただのかすり傷だ」そう言ってハンカチを受け取った。「逃げられたか」
「そのようだね。すぐに追跡部隊を編成しよう」
「任せる」
それを聞いた月島はすぐに仕事にかかった。おっとり刀で駆けつけた兵士達を集めて命令を発する。司令官暗殺を
目論んだ輩は決して逃がすことはできない。必ずや血祭りにあげてやる。
「拓也」
柳川が彼を呼んだ。まっすぐに月島の目を見ながら言った。
「絶対に逃がすな」
< 続く >
>>572-580 以上です。
なんだか、自分のためにストーリーが停滞してる気がする。
戦術級の話を長々と書くと物語の流れを阻害しますね。
川口茂美というキャラがマニアックすぎるせいか、他の人も書きづらいでしょうし……。
次あたりで終わらせますので、勘弁してくだちぃ。
582 :
名無しさんだよもん:02/09/04 11:47 ID:dhfGDTVP
age
保守
……うが、過去ログ見返したらこないだ上げた奴、コピペする時に段落一つ抜け落ちてた(喀血
なんか最近いつもこうだ、鬱死。
修正分乗せたら、ログ編集してもらえますか?(汗)>旅団長どの
>>584 はい了解。挿入箇所を指示してもらえればいくらでも。
586 :
名無しさんだよもん:02/09/04 23:51 ID:ZdlzQUG1
ティーゲル
587 :
名無しさんだよもん:02/09/05 14:47 ID:CDRaJEnh
パンター
588 :
名無しさんだよもん:02/09/05 20:41 ID:UNJXbIuy
レーヴェ
589 :
名無しさんだよもん:02/09/05 21:03 ID:PdG3U7UT
ヤグアル
590 :
名無しさんだよもん:02/09/06 00:10 ID:lP4XlQdP
ナルスホン
三号突撃砲
592 :
名無しさんだよもん:02/09/06 00:56 ID:fJew3z6S
593 :
☆☆今すぐにできるよ☆☆:02/09/06 01:23 ID:wfBxdr+L
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
■■日本最大のわりきり出会いサイト■■
ただいま500万人突破キャンペーン中!!
ドスケベコギャル・淫乱人妻・セフレ達で
毎日超満員!!!\(◎o◎)/!!!!!
もちろんお小遣い欲しい子も大・大・大募集(*^^)v
日本最大のわりきりサイト
http://senden.minidns.net/code/ (わりきり学園)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
594 :
名無しさんだよもん:02/09/06 09:46 ID:cb7FQRt0
「ナルスホン」と表記している日本語文献も確かあった
元が外国語だからな。カナ表音表記にするとどうしてもこの手の問題が付きまとうのは宿命
まあ、大抵のマニアさんは「ナースホルン」、某ゲームからこの途に入った香具師は「ナスホルン」だけどな
看護婦角笛か茄子角笛の違いでんな(藁
保守。
しかし光栄の戦車辞典やグランドパワー誌でも、『ナスホルン』表記だった気がする罠。
PANZER誌は……いつものことか(藁
597 :
名無しさんだよもん:02/09/06 19:07 ID:I5TZAb63
「図解・ドイツ装甲師団」ではナルスホンとある。
598 :
鮫牙:02/09/06 20:54 ID:FyRFKYSM
高橋氏のの写真は見たことあります。まあイメージ図すから。
気にらない場合すいません謝ります。
3月26日21時05分
シェンムーズガーデン
「――はっきり申し上げるがね、内務尚書。確かに君の、月姫難民を『扇動』する計画は
成功すれば効果は大きいだろう。しかし、大事なポイントを見落としているのではないか?」
公式の国家方針決定会議――正葉あたりに言わせれば『御前会議』に使用される豪華絢爛な
大会議室で、中上和英参謀総長はそう声を張り上げた。
「大事なポイントとは?」
1時間以上にわたり、詳細な資料を駆使して反鍵包囲網形成計画『月の軛』を説明していた
久瀬が、冷徹な視線のまま中上を見つめた。延々と理路整然に持論を展開してきた疲労を、
全く見せていない。
「久瀬内務尚書。君の計画は、我々が仕掛ける『月姫擁護・鍵非難』のキャンペーンに、
他の親月姫勢力が連鎖して加わる――これを前提にしているな?」
「そのとおりですが」
「あまりにも甘い前提ではないか? 確かに今まで我々は、鍵の連中とは違ってむやみに
月姫系住民を迫害したりはしなかった。だが、『迫害しなかった』だけだ。奴らに差別感情を
持って対してきたのは紛れもない事実だし、それに刃向かってくる月姫ゲリラや
ゲリラの嫌疑がかかった住民に対してはまったく容赦していない。程度の差こそあれ、
我々も鍵の連中と同様、奴らの恨みを十分すぎるほど買っている。
それも、青紫のやらかしたことを除外して、だ」
ちなみに青紫率いる武装RR親衛隊のやってきた虐殺行為も、月姫ゲリラの蜂起という直接の原因が
なければ発動されることはなかったのだが――そんな事実を指摘しても、
それこそ言い訳にしかならない。
「そんな状態でキャンペーンを張っても、誰も乗ってはこないぞ」
水差しから水を注いで一気に呷ると、中上は言葉を継いだ。
「それと、反鍵感情を連鎖反応させるためには、月姫の指導層やWINTERSの連中の
理性的な判断だけでは足りない。奴らが支配する民衆の『鍵の連中は非人間的だ』
という感情的な反感をも煽る必要がある。大衆はこの種のことには、単純だがある意味聡い。
月姫勢力と敵対してきた我らが『月姫救済』を叫んでも、誰も信じはしないだろう」
「つまり、我らが仕掛ける反鍵キャンペーンは不発に終わる――そうおっしゃりたいわけですな」
「そうだ。そのような情緒的反応を呼び起こすには、我々は『やり過ぎて』いる。
いかに内務尚書の謀略の腕が長かろうが、そこまで工作することは出来ないだろう」
中上の反論は、もっともなものだった。ただそこには、参謀本部主導で『祖国緊急統一計画』
を達成したいという、内務省に対するセクショナリズムも働いている。また、ここまで大規模に
推進してきた鍵自治州打通作戦を撤回せねばならない久瀬の計画を認めることは、
組織としては非常に苦痛を伴う。
それに――やはり彼も、月姫民族に対する嫌悪感から自由ではなかった。
『月厨など、あの悪名高きバ鍵っ子囚人兵にも匹敵する狂信者集団』という思いこみが、
どうしても頭から離れない。もっともその思いこみは、事実の一端を衝いてもいたのだが。
しかし久瀬は、顔色一つ変えずに優雅とも思える仕草で反論を始めた。
「それについては考慮しています。何も、一から十まで我々が主役を演じる必要はありません。
つまり、過去に月姫の恨みを買っていない勢力に矢面に立ってもらい、
我々の意向を代弁させればいいのです」
「ちょっと待ってくれ。そんな都合のいい勢力が存在する訳がないだろう」
「あるではないですか。友好感情を持っているかどうかはわかりませんが、過去において
月姫勢力と本格的に対立したことのない勢力が。幸いにも彼らは、我らの同盟陣営にいます」
「……まさか」
久瀬の言わんとしていることに気づいて、中上は絶句した。
「東部方面総監部……」
「そうです。ロックブーケにいる友人たちに、この『月の軛』の名目的な推進者になってもらいます
過去において、ゲリラや難民といった月姫勢力は主に北方から葉鍵国へと浸透していた。
エロゲ国北方総督領からロイハイト地方や鍵自治州へ。そしてエロ同人国からロディマス地方
(現正葉)方面へ。特にロディマス地方に対してはエロ同人国の領土拡大といった形で
南下を続け、葉鍵中央回廊東側出口を窺う地点まで勢力範囲を広げていた。特にこの段階で
奪った土地――正葉と大葉鍵嶺に挟まれた突出部は、月姫民族の実質的な自治領となっている。
ただしエロ同人国内の主導権争いに敗れてからは、この『自治領』も非常に不安定な状態と
なっている。そしてこれが、月姫勢力が正葉と同盟を結び、葉鍵国内に『固有の領土』を
求める最大の動機となっていた。
ところが、エロゲ国南方総督領方面からは、月姫勢力は浸透していない。これは、
南方総督領においてはF&C軍閥が主導した月姫非合法化運動のために、月姫勢力が
成長しなかったことが大きく響いている。このため、東部方面軍の主敵は南方総督領の
各軍閥であって、決して月姫ゲリラではなかった。
もちろん、菅宗光を司令官とする緊急展開部隊が空き地の町近辺に展開し、
劣勢に立たされていた葉鍵統合軍やRR親衛隊の窮地を救ったことは何度かある。
しかしこれはあくまでも例外的な事例であり、東葉が自ら定めた『戦略地域』域外への
自軍展開を嫌っていたこともあって、本格的な対月姫戦闘は数えるほどしかない。
「まず、鍵自治州南方先端部における月姫自治区設立ですが、これについては
東部方面総監部からの『月姫難民に対する人道的救済を目的とする緊急特別措置を強く求める』
要請が我らに発せられるという形を取ります」
久瀬の浪々とした声が会議室に流れる。
「つまり、東部の連中に『月姫自治区を作れ』っちゅう勧告を出させる訳やな」
今まで黙って話を聞いていたにのまえはじめ中将が、面白そうに呟いた。
「そうです。我々はあくまで『月姫民族に対する人道援助に熱心な』東部方面総監部に協力する
という形を取るわけです。この名目を補完するため、RR月姫義勇兵を主力とする自治防衛軍に、
東部方面軍から部隊を派遣させます。ロックブーケが戦力派遣に負担を感じない程度
――陸軍1個中隊、空軍1個小隊程度の戦力で十分でしょう。
これと並行して、鷲見元帥の口から『東部方面総監部は月姫難民の亡命を積極的に認める』と
声明を発表させます。実際には東部の国境にたどり着ける月姫難民はそういないはずですが、
この場合は声明自体が重要です。そしてこれも、鷲見声明の要求に従い、
我々が難民受け入れ態勢を整えるという体裁を取るための方便です」
「しかし内務尚書、いかに実態を取り繕おうとも、東部が自発的に難民救済に
動いているなどとは、誰も思わないのではないか?」
中上の反論に、久瀬は予想どおりとでも言いたげな表情で切り返した。
「この欺瞞工作が目的とするのは、一般大衆――特に末端の月姫ゲリラや鍵に居住する難民の
情緒的な反応です。情緒的な反応――つまりそこで必要なのは『クリーンなイメージ』
『情に訴える浪花節』『分かり易い図式』です。ロックブーケを巻き込めば、
この要素を我々は比較的容易に手に出来るのです。
確かに100%信じる者はいないでしょう。しかし『ひょっとして……』とは思わせることは
可能です。そして大衆に対する情報工作のきっかけとしては、それで十分ではないですか?
国家指導部レベルに対する工作は、また別に行うのですから」
「久瀬はん、ちょっとええか?」
にのまえが挙手する。
「あんさんの構想はそれでええとして、あの東部の連中がそれに従うか? 『人は人、我は我』
の連中やし、そう簡単に従うとも思えんのだが」
「その点についてですが……」
そこで久瀬は、上座の下川に向き直った。
「国家元帥閣下、この点については東部首脳陣と私が直接会談し、彼らに納得させることが
必要と考えます。どうか私に、東部へ赴き鷲見元帥と会談するよう命令を与えて頂きたく思います」
どよめきが一斉に起こった。今まで儀礼的なものを除き、この種の政治交渉で
アクアプラスシティの側から閣僚級以上の人間が出向くなど、前例がない。
下川がその手のメンツにこだわっていた結果なのだが、久瀬はそれをあっさりと無視して見せた。
もちろん実利を重視した結果ののだが、「内務尚書はそれほどまでに本気なのだ」と思わせる
効果をも計算している。
話を振られた下川は、数秒間瞑目した後ギロリと久瀬を見据えた。そして、地の底から
響くような声を出す。
「そこまで言うからには、自信があるんやろな?」
「当然です。国家元帥閣下」
何でもないと言う風に即答する久瀬に、下川の唇が奇妙な形にゆがんだ。
「ふん、断言しおったか……ええやろ、手配はしてやる!」
その大声を皮切りに、下川は矢継ぎ早に列席者に指示を与えていった。その内容を要約すると、
以下のようになる。
1 国鉄カンスースク線の輸送は全て対ロイハイト方面物資輸送に切り替える。RR装甲軍は、
現有物資での戦闘継続を念頭に置け。現状では2日間程度の戦闘が行えるはずである。
2 RR装甲軍のAirシティ攻略は、3月28日24時までを期限とする。それまでに攻略できない
場合は、速やかに部隊を南方先端部占領域にまで交替させるべし。なお、攻略できた場合は
追って指示を出す。
3 久瀬内務尚書は、月姫難民問題に関する協議のため、速やかに東部方面総監部首脳と
直接協議を持て。東部首脳に対しては、協議に協力せよとの国家元帥命令を発する。
1と2については中上は大いに不満だったが、現状では引き下がらざるを得なかった。
それに、28日までに州都を陥としてしまえば、まだ希望をつなぐことは可能だ。
また、これに付帯する決定事項として、直接会談の場所はシモカワグラード南方の『友好の橋』に
設定された。これは下葉と東葉の融和の象徴として、両者勢力境界線であるエコダ河に
共同建設された鉄道道路併用橋で、現在ではアクアプラスシティ―シモカワグラード―
ロックブーケ間の幹線交通路が通る要衝となっていた。そして橋の袂には、大規模会談にも
使用できる管理施設が建設されている。両者間の協議を行うには、確かに相応しい場所だった。
「久瀬、貴様は直ちに友好の橋へ赴き、そこで鷲見と会談せぇ。期限は2日――28日一杯や。それまでに、東部の全面的な協力を取り付けぃ。それが出来へんかったら――わかっとるやろな」
凄みのある笑みを浮かべて、下川は言葉を続けた。
「ワシの配下に無能な奴はいらん。それは貴様とて例外ではないで!」
「承知しております」
並の人間なら顔色を失うであろう下川の胴間声にも動じず、久瀬は微かな笑みを浮かべて応じた。
「必ずや、国家元帥閣下のご意向に添う結果を持ち帰ってご覧に入れます」
会議室に伝令が駆け込んできたのはその時である。何事かと視線を向ける列席者に圧倒されつつも、
彼は自分の携えてきた情報を彼らの前へとぶちまける。
「報告します! RR装甲軍・柳川大将から緊急連絡! 2045時、Airシティ東方のRR装甲軍司令部が
叛徒同盟航空兵力の奇襲を受けました! 被害詳細は不明なれど、少なくとも第1RR装甲師団長が
戦死した模様! なお、柳川大将および月島中将は無事です!」
中上の手から、書類が音を立てて滑り落ちた。
606 :
脱出:02/09/07 02:46 ID:vxkkgjvN
3月26日 21時00分
ハイエキ丘陵 森林地帯
茂美達は夜の森を全力で走った。
身をかがめ、体勢を低くしながら、ときおり後ろを振り返り突撃銃の引き金をしぼる。
G−3の銃口から7.62mm完全被鋼弾が音速を超える速度で飛び出し、広葉樹の影から半身を覗かせていた
敵兵の頭、その半分を吹き飛ばした。
完全に消失した後頭部から噴水のような鮮血を撒き散らし、哀れな兵士は木にもたれ掛るようにしてその場に
崩れ落ちた。茂美はそれを確認することもなく、再び前を向き全力で疾走する。
RR装甲軍本営を襲撃してから四半刻。敵の追撃は激しさを増していた。
敵の陣中を駆け抜け、別行動をとっていた部下達と合流した茂美は、そのまま深い闇につつまれる夜の森へと
逃げ込んだ。柳川大将は既に茂美達の抹殺命令を出したのであろう。敵の追撃は熾烈を極めた。
逃走ルートはあらかじめ決められてきる。途中には無数のクレイモアも設置した。それを作動させること10回以上。
既に一個小隊くらいは壊滅させたのではないだろうか? それでも敵は怯むどころか、ますますその攻勢を強めていた。
脇腹のあたりがズキズキと痛む。大地を一歩蹴るごとに激しい痛みが茂美を襲っていた。
柳川大将を襲撃したときの傷であろう。柳川の首を狙い、斬撃を見舞ったその瞬間、柳川はその身をひねりながらも、
茂美の心臓に狙い、強烈な一撃を繰り出してきた。
柳川が茂美の斬撃を紙一重でかわしたように、茂美も柳川の一撃を紙一重のところで避けることができた。柳川への
斬撃をあきらめれば、もっと余裕をもって避けることができた。しかし、大きすぎる動きは不用意な“スキ”を敵に晒す
こととなる。また、一か八か、柳川の首を獲るチャンスを逃したくはなかった。この一撃が州都攻防戦の勝利をもたらす。
その誘惑に贖うことは難しかった。
607 :
脱出:02/09/07 02:46 ID:vxkkgjvN
結果から言えば、その判断は間違っていたことになる。柳川という男が秘めた鬼の力、それを完全に見誤っていた。
柳川の拳が茂美の脇をすり抜けたその瞬間、強烈な衝撃が茂美を襲った。柳川の拳が作り出した衝撃波だった。
肋骨の二、三本はいったかもしれない。体が上下するごとに走る激痛に耐えながら、茂美はその苦しみを欠片も表情に
出さぬよう必死の思いで平静を装った。
(まさか、これ程までとは思わなかった)
茂美は走りながら己の判断を後悔していた。
柳川の力量を見誤った。みくびっていたわけではない。奴の能力は十分警戒していた。ただ、その力が想像以上だった。
まさか“ただの人間”があれほどの力を秘めているとは思わなかった。
(……私の、失態だ)
自らの身を晒してまで柳川の首を狙ったせいで、部隊に余計な危険を与えることとなった。あんな無茶をしていなければ、
部隊はたいした追撃を受けることもなく、難なく脱出に成功していたことであろう。自分の誤った判断で部下を危険に晒して
いる。指揮官失格だ。
走っては撃ち、そしてまた走った。敵が追撃戦に投入した兵力は、一個分隊程度である茂美達に対するにしては、常識を
遥かに逸する規模だった。
「少佐! まもなくヘリとの合流地点です!」
隣を走っていた曹長がそう叫んだ。空になったマガジンを取り替えつつ、再び銃弾を放つ。また一人、胸から大量の血を
吹出しながら地に伏せる敵兵の姿が見えた。
あと少し、あと少しで森のひらけた場所にでる。ヘリが着陸するには少々心もとないが、地上の兵士をロープで引き上げる
ことは可能だ。出迎えは輸送ヘリ一機だけではない。万が一の為に護衛のヘリもついていはずだった。そこまで行けば
上空の援護が受けられる。助かる可能性は一気に高まる。
608 :
脱出:02/09/07 02:47 ID:vxkkgjvN
「全員、無事についてきているか!?」
茂美は部下達に呼びかけた。方々からそれに答える声が返ってきた。部下達の声を聞き分ける。1、2、3……、合計で
6人の声を聞き取ることができた。茂美は近くの木に身を隠しながらあたりを見回した。そこにいるはずの姿を捜し求める。
(1、2、3……、おかしい、やはり一人足りない)
茂美は部下達の数を確認しつつ、もう一度叫んだ。
「清水少尉は、清水なつき少尉はどうした!」
やはり声は返ってこない。その代わりに、手榴弾を投擲を終えた伍長が茂美の声に答えた。
「先程まで自分の隣を走っていたのですが、途中で見失いました!」
くぐもった音が森に響いた。伍長の投げた手榴弾が爆発する音だった。それまで人間だった肉片の一部が、弧を描くように
宙に舞う光景が茂美の目に映った。
「――チッ」
茂美は短く舌を打った。逃走に夢中で清水少尉にまで気が回らなかった。脇腹を抱え唸る。この傷も判断を鈍らせる一因
だったろう。私としたことがなんたる不覚。この程度のことで部隊の指揮に問題をきたすとは……。
(見捨ててしまうべきか?)
茂美は重大な判断を迫られていた。このままいけば部下全員を無事ヘリに乗せることができる。自分が手塩にかけて育てて
きた特殊部隊。バ鍵っ子一人と引き換えに危険に晒すにようなことはできない。順当に考えれば、ここは心を鬼にして見捨てる
べきだ。誰も自分のことを責めたりしない。むしろ当然の判断だったと賞賛されるくらいだろう。なにせ、清水少尉の死を悼む
人間などこの世には一人もいないのだから……。
(あの時と、一緒ね)
茂美の口からふいの笑いこぼれた。己の運命の巡り合わせに茂美は笑うしかなかった。
609 :
脱出:02/09/07 02:47 ID:vxkkgjvN
独立戦争の時のあの日、無線の向こうからしきりに響く救いを求める声、答えられない自分、やがて弱々しくなっていく無線
からの声、そして糸を切ったかのように無線からの声はプツリと途切れた。
しかたがなかった。あの時、茂美達の部隊も圧倒的な敵戦力の前に自らの身を守ることで精一杯だった。とても、撃墜された
パイロットの救出なんて出来る状況ではなかった。茂美が責められることはない。責められるべきは投入の判断を誤った司令部
なのだ。だが、茂美はそうと割り切ることができなかった。無線の向こうから援けを求めるのは、士官学校の同期生だった。
親しい仲だったわけではない。言葉を交えた回数も数えるほどでしかない。ただ、寂しそうに教室の窓から外を眺める背中を
ずっと見つめ続けていた。
「少佐」
自分を呼ぶ声で我に返った。見ると分隊を率いる曹長がじっと茂美の瞳を見つめていた。判断を迫れている。私はここで決断
しなければならない。そうしなければ、なにもかもが間に合わなくなってしまう。
茂美はざっと部下達を見渡した。皆、必死で戦っている。彼等は茂美のことを信頼していた。だからこそ、危険な任務でも
笑って茂美に身を託すことができた。私の失態によって、ただでさえ部下には余計な危険を負わせている。これ以上
彼等に危険な任を押し付けることはできない。それならば、私の成すべきことはただ一つだけのはず。
「曹長っ!」
茂美は決断した。傍らの曹長に命令を発する。
「私は清水少尉の探索に向かう。貴官は部下達を率いて、即刻ヘリとの合流地点まで後退。五分経っても戻らないようなら
そのまま脱出しなさい」
曹長はそのままの姿勢で茂美を見つめた。なにか言いたそうな視線だったが、彼はぐっとそれを飲み込んだ。茂美の部下に
なってから長い。己の上官がどういう人物かはよく知っていた。彼女の過去についてもある程度のことは把握しているつもり
だった。彼の上官は今、過去の清算をしようとしているのだ。
「少佐」彼は言った。「お気をつけて」
茂美は僅かに口元をほころばせただけだった。
敵味方の火線が飛び交う中、茂美は闇に溶け込むように夜の森を駆けていった。
< 続く >
>>606-609 「脱出」
すみません、今回で終わらせる予定でしたが、時間が足りませんでした。
次こそ終わらせますので、どうかご容赦くだちぃ。
611 :
鮫牙:02/09/07 02:58 ID:hRKrdalH
正葉もVA財団の傘下に入りそうですね。
>611
でも実際にそうするといまいちな展開になりそう。。
それは、リアルに高橋達の新ブランドがVA傘下にはいりそうってこと?
リアライズはVAから発売だそうだ。
615 :
名無しさんだよもん:02/09/07 14:28 ID:ssQxS0Ml
>>598 別に叩いてるわけじゃないよ。
よければ手持ちのスタッフ画像ウプしようと思っただけ。
616 :
鮫牙:02/09/08 03:04 ID:HtY0c32k
615<了解しました
プレイム<傘下(VAブランド)には入ってないので、同盟といった形かな。
それだと面白いことになりそうですね。
617 :
鮫牙:02/09/08 06:16 ID:azQpNUQE
いまさらロディマス地下要塞攻防戦時の光岡&琥珀を書いてたりする。
しかも月姫本編のイベントを一部パクってたり(汗
>>617 これみて改めて思うに、大戦記でのちゃん様は他と違うよな。
仮想戦記もハカロワも妖艶な女王様タイプなのに、大戦記じゃ詠美とキャラががぶってる。
620 :
名無しさんだよもん:02/09/09 15:38 ID:MxwuShCY
浮上
急速潜行
女王様はいたるだけでお腹一杯です(w
623 :
鮫牙:02/09/10 01:34 ID:8o6t/dRp
SS執筆したいが、原稿も書かず投稿してるのがバレたら殺されてしまう…。
625 :
名無しさんだよもん:02/09/10 15:08 ID:in+p6+V9
トリム一杯
保守
627 :
名無しさんだよもん:02/09/11 02:56 ID:Pkx1HUn6
保守age
保守
気付くともう四日も新作の投稿ないね。
漏れも書かないとな……もうすぐ暇になるかも知れんから、そうなったらこっちメインで書こう(笑
このスレに足らないものは一つ。
そう、感想だ
>>630 感想は支援サイトに書いた方がいいような感じが・・・
保守
ここに書いても問題ないじゃん<感想
むしろ、こっちの方がいいだろ。
常にあっちをチェックしてる人は少ないだろ。
>ALL
えっと、メインで扱ってる人のいらっしゃらない月姫旅団を使って参加してみたいと
思うんですが宜しいですかね?
余りゲーム業界の裏事情には詳しくないので、浮くかもしれませんので、一応、聞いて
置きたいなと思った訳で……如何ですか。
いいんじゃない?
月姫じゃんじゃん書こう。
>>634 もちろん歓迎します。
書き手が増えることは何にしても(・∀・)イイ!ことだよ。
それと、〜担当ってのもあまり気にしなくていいんじゃない?
この大戦記はリレー形式なんだから。
637 :
名無しさんだよもん:02/09/13 01:17 ID:xj1US6bg
メンテ&あげ
めんて
639 :
鮫牙:02/09/13 18:37 ID:pG+6pwKC
軍 人 の 格 好 で は な い な 。
>>640 マントのように見えるのはポンチョじゃないの?
歩兵部隊なら必需品でしょ。
>642
何処の世界に生足晒す軍人がおるんじゃ(w
3月26日20時50分
ハイエキ丘陵
つい数分前まで司令部があったその場所は、見るも無惨な廃墟に変わり果てていた。
屑鉄同然となってしまった装甲車両、細切れの肉片と化した兵士の遺体。
月島に追撃を命じたあと、柳川はそんな中をゆっくりと歩いていった。そんな彼の歩みが、
ふと止まる。奇妙な姿勢で地面にめり込み、腹部に何かの鉄材が突き刺さって磔にされている
第1RR装甲師団長の姿だった。当然の事ながら、絶命している。
「……運がなかったな、貴様」
そうポツリと呟くと、柳川は再び歩き始めた。
まずい事になった――徐々に、その認識が強くなっていく。確かに、この攻撃による
兵力の損失は少ない。第1、第2両RR装甲師団とも戦力の大半はそのままだ。
適切な命令があれば、何事もなかったかのように作戦を続行できる
――そう、適切な命令さえあれば。
その「適切な命令」を両師団に命じる立場の者が、ごっそりと吹き飛ばされてしまった。
あの場には、師団長の他にも師団参謀たちが大勢詰めていた。この状況では、彼らが助かっている
見込みはほとんど無いだろう。いや、助かっていても瀕死の重傷であることはまず確実だ。
つまり、2個師団は『頭』を丸ごと失ってしまったのだ。
この作戦を失ったのは間違いないな――自嘲気味に柳川は笑った。この統制を失った
両師団を掌握し直すのは不可能ではない。場合によっては“ヨーク”と指揮系統を統合する
という手段もとれる。だがそれは、時間をゆっくりかけられるという前提があればこそだ。
どんなに努力したとしても、2個師団の指揮系統を再編するのに1日か2日はすぐに過ぎてしまう。
つまり――28日のタイムリミットにはどうやっても間に合わない。
もちろん、“ヨーク”1個師団のみで州都を攻撃することは可能だ。条件さえ整えば、
1日で陥落させられる自身が柳川にはあった。だが、この状況をものみの丘が黙って
見過ごすわけがない。まず間違いなく後背を衝くために、兵力を掻き集め、
集成旅団との挟撃にかかるだろう。
つまり、どう考えても作戦が成功する見込みはない。いやそれどころか、
統制を失った2個師団には各個撃破の危機が、柳川自身が率いる“ヨーク”には
包囲殲滅の危機が、それぞれのしかかっている。
「……危機は俺の身にも、だな」
天幕があった辺りにたどり着くと、柳川の自嘲の笑みはますます大きくなった。
そうだ、ここには師団幕僚だけがいた訳じゃない。東葉の観戦武官3人もいたではないか。
その大事な『ゲスト』をむざむざ死なせたとあっては、ロックブーケとの関係が
ややこしくなるのはまず確実だ。どう考えても立派な政治問題に発展してしまう。
そして自分は、その責任を問われる立場にある――ふん、川口少佐。貴様は俺の生命を
絶つことは出来なかったが、政治生命を絶つことは出来たようだな。
彼の近くで、ゴトリと瓦礫が動いたのはその時だった。
「!」
一瞬目を見開き、そして思わず駆けよって瓦礫をかき分ける。まさか生存者がいるわけが
――そう思いつつ重い鉄塊を押しのける柳川の指先に、瓦礫とは異質の堅い感触が伝わってきた。
不思議な感じのするなめらかな質感――そう、仮面だった。その仮面をかぶった男が、
自ら瓦礫を押しのけつつ、柳川の前に這い出てくる。
「……」
思わず絶句する柳川に構わず、その仮面をかぶった人物は立ち上がった。
「ハクオロ大佐。貴様……無事だったのか……」
唖然とする柳川に、ハクオロは少し顔を歪めながら笑いかけた。
「いや、あちこち躰を打ちましたから、無傷じゃないですが……何とか生きてますよ、私たちは」
「私たち?」
思わず聞き返す柳川の前で、更に瓦礫が動いた。
「柳川大将、手伝ってください。まだ生存者がいます」
「あ……ああ、わかった!」
二人して瓦礫を押しのけていくと、その下から――擦り傷だらけの立川郁美少佐、
貴様なんで無傷なんだと言いたくなるくらいに無事な横蔵院蔕麿少佐、そして左腕を
丸ごと吹き飛ばされた第2RR装甲師団“ダス・リーフ”師団長の3人が出てきた。
いずれも放心状態にはあるが、命に別状はない。“ダス・リーフ”師団長も、
適切な治療を受ければ心配はなさそうだった。
「貴様ら、どうしてこの爆撃で無事だったんだ?」
思わず自分のことを棚に上げて、急き込んで柳川は尋ねた。事実、天幕にいた人物の内で
意識を明瞭に保って生き残ったのはこの5人と月島だけで、他は全員名誉の戦死を遂げるか、
まともに軍務を遂行できないほどに負傷している。
「いや、自分でもわからないんですがね。多分、上手い具合に瓦礫が楯に
なってくれたんじゃないでしょうか?」
あからさまにとぼけた表情で切り返すハクオロに、柳川の視線がスッと冷たくなった。
「ハクオロ大佐、貴様、俺と同じ『能力』の持ち主か?」
柳川がエルクゥだというのは、ある程度事情に詳しい人間ならば承知の事実だった。
そしてエルクゥ計画は、RR開発計画へと変化した際にその一部研究成果が東部方面総監部へ
譲渡されている。
「まさか。私がエルクゥではないことくらいは、柳川大将が一番よくご存じでしょう」
「……確かにな」
エルクゥの能力を持つ者は、同じエルクゥを知覚する能力も持っている。
ハクオロからはその種の気配を感じないのは、柳川自身が認識するところだった。
あからさまに不審な表情を向ける柳川に向けて韜晦しつつ、ハクオロは内心で苦笑していた。
まさか、爆風を喰らった瞬間にウィツァルネミテアの力を解放して、とっさに障壁を
張ったなんてことを言っても、この人は信じてはくれないだろうな。ああ、
それにしても自分たち以外では“ダス・リーフ”師団長しか助けられなかったのが心残りだ。
あれが自分の限界だったんだが……それでも、誰も助けられないよりはマシだったろうか?
「とにかく、自分は大丈夫です、閣下。この程度の傷、指揮を執るのに何の不都合もありません!」
衛生兵による応急措置を受けながら、“ダス・リーフ”師団長はそう言い募った。
「いや、私が口を挟むことではないかも知れませんが、閣下には後方での治療が
必要ではないでしょうか?」
止血措置がされている左肩を見つめながら、ハクオロは首を振った。
「お心遣い感謝する、ハクオロ大佐」
“ダス・リーフ”師団長は、そう言うと深々と頭を下げた。
「しかし、そう悠長なことを言ってもいられん。両師団の司令部でまともに生き残ったのは私だけだ。
私以外のいったい誰が、この部隊の指揮を執るというのだ?」
そう言うと、血の滲む包帯に覆われた左肩を突き出して、彼はニッと笑う。
「何、心配はいらん。今まで戦傷なんぞ飽きるほどに受けてきた。今更腕の1本や2本、
何でもないわい」
「……わかった」
傍らに立っていた柳川が頷いた。
「貴官はこのまま、第2RR装甲師団の指揮を執れ。なお今後の方針についてはこれから説明する
――ハクオロ大佐、貴官も残ってくれ」
衛生兵を視線だけで追い払うと、柳川は地面に棒きれで地図を描きながら説明を始めた。
「現状では、Airシティ攻略は不可能になったと判断せざるを得ない。時間をかければ
不可能ではないが、こうまで指揮系統が混乱してしまっては、28日までの攻略完了は
どう考えても無理だ。よって……」
そこで顔を上げ、一同を見回す。
「我が軍の方針を、『タイムリミットぎりぎりまで粘り、鍵軍に最大限の出血を強要する』
に変更する。
具体的には、指揮系統の再編に時間がかかる第1RR装甲師団は、ただちに南方先端部占領域まで
後退させる。州都攻撃は、きついだろうが第2RR装甲師団のみで当たってくれ。
その際、決して無理はするな」
「といいますと?」
“ダス・リーフ”師団長が聞き返す。
「敵も莫迦じゃない。こちらの指揮系統が混乱していることは十分承知しているはずだ。
おそらくこちらの前衛を混乱状態に落とし込み、一気に乱戦に持ち込もうとするだろう。
その誘いには絶対に乗るな。我々が現状で目指すべきは、鍵側に多大な出血を強いて、
RR装甲軍の武威を奴らに思い知らせること、ものみの丘の連中に『RR装甲軍侮り難し』と
教育を施すことだ。それが、これ以降の作戦――南方先端部を根城に鍵軍と中期的に
対決する際の大きな保険となる。その際、こちらがこれ以上大損害を受けては説得力がなくなる。
だから、奴らの手に乗って損害を増やすことは絶対に避けろ」
「明日のために、今日の屈辱に耐えろ、ですな」
「そんなところだ。まぁ本音を言えば今すぐ全軍退却を命じるのが上策なのだろうが、
さすがにそれでは下川国家元帥に対しても格好がつくまい。戦略・政略双方の今後を考えても、
ある程度の戦果は欲しい」
「了解しました。それで“ヨーク”はどうなさるのです?」
「“ヨーク”はこのまま州都東方に留まる。ものみの丘がこの機に乗じて反撃してくるようなら、
我々が楯となってこれを食い止める。だから貴官は、州都攻撃に専念してくれ」
「お心遣い、感謝します」
「なお、可能であるならば――」
柳川の持つ棒が、地面をひっかきつつデジフェスタウンの方へと動く。
「“ヨーク”はデジフェスタウンを急襲、ここに展開している1個師団を殲滅する。
どうやらここの師団の一部が、州都方面に進出しようとしているらしい。
貴官の後背を衝かせないためにも、こいつは始末しておきたい」
そこまで喋ってから、柳川はハクオロに視線を向けた。
「それとハクオロ大佐。本来なら貴官らの観戦武官任務は中止するのが適当なのだろうが、
残念ながら現在のところ、安全に貴官らを後送する手段がない」
「……はぁ」
怪訝な表情になりながら、ハクオロは頷いた。実のところ安全性をある程度度外視するなら
『後送する手段』がいくらでも存在することを、彼は知っていた。何を言い出すのだろうと
勘ぐるハクオロに構わず、柳川は言葉を続ける。
「そこで済まないが、貴官らは引き続き第2RR装甲師団に随行して観戦武官の任を果たしてくれ」
「了解しました」
「――なお」
柳川の表情が、皮肉げな笑みを浮かべた。“ダス・リーフ”師団長とハクオロたちとを
交互に見比べながら、わざとらしく咳払いする。
「“ダス・リーフ”師団長も参謀連中がいなくなって、軽口を叩く相手もいなくて寂しいだろう。
ハクオロ大佐、出来れば彼の『雑談相手』にでもなってやってくれないか?」
あっと、ハクオロは思わず呻いた。柳川の意図するところを瞬時に理解したのだ。
つまり、参謀が根こそぎ戦死した第2RR装甲師団司令部の事実上の『参謀代理』として、
師団長に適切な助言を与えろと言っているのだ。もちろん『雑談相手』とは、
RR装甲軍のライン・スタッフに属していないハクオロが“ダス・リーフ”師団長を
補佐するための『言い訳』だ
(どんなに階級が高くても、観戦武官には観戦している軍隊に対する指揮権などない)。
柳川の意図も、大体わかる――スタッフ組織が全滅した“ダス・リーフ”の応急措置的な
建て直し策としての観戦武官団の利用がまず第一。そして、ハクオロたちに越権行為を
させることで、『観戦武官団を危険に晒した』というロックブーケの抗議を相殺させる効果が第二。
このどちらも、柳川の責任問題を和らげる方向に働く。その意味で、柳川はハクオロを「共犯者」に
選んだのだ。
どうする――ハクオロは咄嗟に、自らのおかれた政治的状況を考察した。今ここで自分が
越権行為を行った場合、東部方面総監部の政治的立場が危うくなることがあるだろうか?
微妙なところだろう。それがハクオロの判断だった。「カルネアデスの一環であくまで
例外的行為だ」と言い張れば通りそうだし、東葉の独自戦略路線の大前提を否定する行為だと
問題にすることも出来る。東葉の独立傾向を苦々しく思っているだろう下川国家元帥に
格好の口実を与えかねない、とも考えられる。
ふと、傍らの郁美と蔕麿の視線を感じてそちらに目をやる。郁美は
「RR装甲軍の内情に迫れる絶好の好機だから」と視線で語って、ハクオロに承諾を迫っていた。
蔕麿は相も変わらの暑苦しい顔で「は、話を受けるんだな」とこれまた目で語っていた
――あまりこの男とはアイコンタクトを取りたくはなかったが。
「……わかりました」
しばしの沈黙の後、吹っ切るようにハクオロは答えた。まぁいい。ここは柳川大将の企み
に乗ろう。それにやはり東部方面軍のホープとして、RR装甲軍の作戦に携わりたいという欲求は
否定できない。政治レベルの問題は鷲見元帥に任せて、自分は共犯者になろう。
「“ダス・リーフ”師団長閣下の『雑談相手』でも努めながら、観戦させて頂きます」
「貴官らの観戦を引き続き許可する」
共犯者としての微笑みを浮かべて、柳川は棒を傍らへと放り出した。“ダス・リーフ”師団長、
ハクオロ、郁美、蔕麿を順に見渡し、昂然と胸を張って檄を飛ばす。
「RR装甲軍はこれより南方先端部へ撤退するまでの2日間、鍵軍を相手に優位に戦いを進め、
我々が侮りがたい相手であることをものみの丘の連中に教育する!」
>>646-652「共犯者ウィツァルネミテア」投下完了です。
ハクオロの能力についてですが、
・効果範囲を個人+αに限定
・防御に使うことは躊躇しないが攻撃に使うことは自ら禁じている
というふうに設定しています。
654 :
634:02/09/13 23:58 ID:8/s1prZU
>>635-636 了解です。
他に否定意見を仰られる方もいらっしゃいませんので精進して、「TYPE-MOON」サイド
を中心に行きたい思います。
只、当方はゲーム業界の裏側に余り詳しくないですので、そこら辺はご了承下さいm(_ _)m
3月26日 21時04分
ハイエキ丘陵 森林地帯
1.
絶望的だった。なにもかもが絶望的だと清水なつき少尉は思った。
川口少佐の分隊からはぐれ、なつきは当ても夜の森を彷徨っていた。
クレイモアの爆風に呷り倒され、起き上がってみると、既に仲間の姿はなかった。闇雲に歩き続ける
うちに、どんどんと見当違いの場所まで来てしまった気がする。
さほど遠くない場所から銃声が聞こえた。川口少佐達の分隊が戦っているのだろうか? そうであるなら、
銃声の響く方向に向かって歩けば川口少佐の分隊に合流できるのではないかと思うのだが、
闇に包まれた森は、なつきから完全に方向感覚を奪い去っていた。
右を向いても、左を向いても深く閉ざされた夜の森。頭上を照らす弱々しい月明かりが恨めしかった。
「……はぁ」
思わずため息が出た。銃声に混じり、時折くぐもった爆発音が聞こえる。恐らくは手榴弾なのだろう。
その度に大きく森が震え、なつきは怯えるように身をすくめた。
手にしたMP5を改めて握りなおす。ドイツが世界に誇る第一級の短機関銃も、この場面ではいささか
頼りなく見えた。慣れない動作で銃口を森の闇に向け、一歩一歩慎重に歩く。足を地につけるごとに緊張
を強いられながら、その歩みは、さながら牛歩のように遅かった。
(私はこれからどうなるんだろう)
もし、このまま友軍と合流できなかったらどうするべきか? 朝を待って自力で州都まで歩くのか?
それとも、即刻敵に降伏してしまうべきか? そうなった場合、私はどのような仕打ちを受けるのか?
リーフの対鍵感情はお世辞にもよくはない。むしろ最悪といっていいかもしれない。同じ国家を形成する
勢力であることが信じられないほどそれは酷い。捕虜になったらロクな扱いは受けないだろうな、となつきは
思った。いや、捕虜になれるだけマシかもしれない。その場で射殺されてもおかしくはないのだ。自力で
州都に戻る以外、なつきにとって喜ばしい結果にはならないようだった。
(……ん?)
ふと、なにか物音が聞こえた。耳鳴りかと思いよく耳を澄ます。確かに物音が聞こえた。時間が経つにつれ
だんだんと明瞭になってくる。それが人の足音であると気づくのに、さして時間はかからなかった。
足音は複数。落ち葉や枯れ木を踏み鳴らす音が離れた場所に居るなつきにもよく聞こえた。ガチャガチャと
装備が擦れ合う金属音が微かに耳に届いた。それに混じって、訛りのある葉鍵標準語が時折聞こえてくる。
(――伊丹訛り!?)
言わずと知れた葉っぱ訛りだった。葉鍵統合軍に派遣されていたころよく聞いたので、今でもはっきり耳に
残っている。あれは間違えなく、葉っぱ特有の伊丹訛りだった。
足音はどんどんとなつきの方へ近づいてくる。まだなつきには気づいていないようだが、それも時間の問題
だった。どうしよう、どうするべきか? なつきの足は知らず知らず震えていた。このままでは見つかる、ならば
逃げなければ。なつきは咄嗟に走り出した。なりふりかまわず大きく地を蹴り、全力で走った。なんとしてでも
その場から逃れたいがゆえだった。しかし、それは大きな失敗だった。なつきの駆ける音を聞きとめた葉っぱ
兵士がなつきの存在に気づいたのだった。
「いたぞ!」
そう声が響いた。敵の足音は急速に近づいてきた。掴まるか、掴まってなるものか。全ての力を振り絞って
全力で走るものの、なつきと葉っぱ兵士との脚力の差は歴然だった。川口少佐の降下猟兵達と比べれば
大きく劣るとはいえ、相手も野戦訓練を受けたいっぱしの兵士だ。これまでデスクワークが主だったなつきが
敵うはずもなかった。
(嫌だ。掴まるなんて絶対に嫌だ。私はまだ死にたくない)
ひゅん、となにかが耳元を掠める音がした。それは二個、三個と徐々に増えていった。前方の地面になにか
があたって土が宙に弾けとんだ。なつきはそこで敵が発砲していることに気がついた。
ひゅんひゅん、となつきの体を掠める銃弾は刻々と増えいていく。頬に、足に、腕に、命中こそはしないものの、
体のそこかしこを掠めてゆき、なつきの皮膚と野戦服の一部を切り裂いていった。その切り裂かれた頬から
一筋の血が流れる。それを自覚した瞬間、なつきは全身に鳥肌が立つ思いがした。
(殺される、殺される、殺される)
恐怖で足がすくんだ。腰からがくんと力が抜けるような気がした。うまく力がはいらない。なつきはそのまま
木の根っこにつまづき、前のめりになって倒れた。なんとか起き上がろうと上半身を起こしたとき、後頭部を
硬いもので小突かれた。
「へっ、手間取らせやがって」
恐る恐る振り返った。AK−74の銃口が目と鼻の先にあった。それを構える葉兵は、なつきの顔を確認
するとみるみるうちに表情を弛緩させた。
「こりゃいいぜ、相手は女や」
葉兵は「おい、見てみろ。鍵の女士官様だぜ」とようやく追いついた仲間の兵士に呼びかけた。
「なに? 階級は、階級はなんや?」追いついた兵士が言った。
「横線一本に、鍵星一つ。こりゃ少尉様やな」
「少尉ぃ? そりゃ、あまり上物とはいえへんな」
「まあそう言うな。将校を犯れるだけでもありがたいと思わなきゃいけねぇよ」
言って下品な笑い声をあげた。それを見たなつきは「またか」と思った。
戦場の常として、女性が犯される場面はそう珍しいことではなかった。規律を重んじ、兵士達の「性」に
理解のある軍隊ならば、慰安施設を誘致・設立することにより兵士達の性的暴走を抑えようとするのだが、
それを葉鍵軍に求めることはできなかった。一部の将官達の中には現状を憂い、慰安施設の存在を
必要悪と認める者もいるが、女性の発言権が強い葉鍵議会の一部「市民派」はそれに強行に反対した。
葉鍵軍最高司令官であった下川国家元帥にいたっては、施設には金がかかるという理由でこれら市民派
を擁護していた。女性兵士の多いエロゲ系軍隊のこと、捕虜にした彼女達を「戦利品」として扱えばよい
というのである。
特に女性将校は人気の的だった。女性将校はエリートが多い。彼女達は独立戦争で大きな活躍を修め、
鍵に於いては「元勲恩顧組」として特権階級を形成していた。そんな彼女達を犯れば箔つくとでも考えている
のであろう。バ鍵っ子部隊に長く配属されてきたなつきにはそのことがよくわかった。
「まっ、そりゃそうやな。将校様犯れるだけでも、ありがたいと思わなきゃな」
そう言うと兵士達は、早速とばかり野戦服のベルトをはずしにかかった。やがて自慢気に隆々とした己の
シンボルを露出させる。なつきはただぼんやりとそれを見ていた。先程まで感じていた恐怖は消えていた。
一種、諦観のようなものが今のなつきを支配していた。どうやら殺される心配はないようだった。そう思うと
恐怖はきれいさっぱりなつきの心から消えていた。こんなこといつもと同じ。バ鍵っ子達を相手にしていた
頃となにも変わらない。ちょっとの間我慢をすればいいだけ。ただ、それだけだ。
「あれぇ?」
突然、一人の葉兵がすっとんきょうな声をあげた。
「こいつ、清水な(以下略)やないか?」
その場にいた全員が、一瞬ぽかんという表情になった。
「清水な(以下略)って、あの清水な(以下略)か?」
「ああ、その清水な(以下略)や」
「鍵の欠陥ヒロインといわれた、あの清水な(以下略)か?」
「ああ、鍵の欠陥ヒロインといわれた、あの清水な(以下略)や」
「RR親衛隊の凸と並び称されるという、あの清水な(以下略)か?」
「ああ、RR親衛隊の凸と並び称されるという、あの清水な(以下略)や」
瞬間、葉兵達は一斉に笑い出した。それは、まさに爆発的という形容がしっくりくるくらいの笑い方だった。
「こりゃいいぜ! こんなところであの清水な(以下略)を拝めるなんてな!」
なつきは強く拳を握り締めた。こんなところでまで侮辱を受けなければならないのか。殺されることよりも、
犯されることよりも、それだけが悔しかった。
笑い続ける兵士を睨みつけた。それくらいのことしかできない自分が腹立たしくて、知らず涙目になった。
「おっ、清水な(以下略)の分際で一丁前にガンつけてやがる。まあ、マグロになられるよりその方が萌える
からええけどな」
にやにやと下劣な笑みを浮かべながら、葉兵はなつきに覆いかぶさろうとした。相手がなつきであることが
分かっても、犯ることは犯るつもりのようだった。悔しい、悔しい、悔しい。なにも出来ずに犯される自分が
悔しい。この男をはね飛ばすこともできない己の非力さが悔しい。それを悔しいと思う一方で、全てを諦めて
しまっている自分が、生き残ることだけはできそうだと、どこかで安堵している自分が堪らなく悔しかった。
今、まさに自分を犯そうとしてる葉兵を睨み続ける。睨み続けることしか出来ないのならば、せめて、全てが
終わるまで睨み続けてやろうと思った。
(……お兄ちゃん)
この世に生まれ出て、唯一なつきが心を許せた兄のことを思った。思えば、なつきの苦難が始まったのは、
実の兄がこの世を去ってからような気がする。バ鍵っ子達に蹂躙される日々、なつきは、日々いもしない兄の
ことだけを思って生きてきた。自分でもどこかで気づいていながら、なつきは兄の存在を信じるようになった。
いつか、この苦境からお兄ちゃんが助け出してくれる。そう信じていた。それは、直視することのできない
現実からの逃避行動だったのかもしれない。
なつきの瞳から涙が零れた。私の人生はなんだったのかと思う。生きていて辛いことしかなかった。
死にたくなるくらい苦しかった日々の中、なつきは兄による救済だけを信じて生き続けてきた。現れるはずの
ない救世主を待ち続けるだけの日々だった。
「へへっ、泣いてやがるよ、こいつ」
そんななつきの涙も、葉兵達には関係なかった。彼らは自分の順番を今か今かと待ちながら、にやにやと
笑いながらなつきを見下ろすだけだった。
(もう、いいや)
いくら待っても救世主は現れなかった。大好きなお兄ちゃんは私のことを見捨ててしまったのだ。どんなに
待っても救いが得られないのならば、このまま流されてしまえばいい。葉も、鍵も、戦争も、そして兄すらも、
すべてがどうでもいいと、そう思った時だった。突如、なつきに覆いかぶさり犯そうとしていた葉兵の頭が
吹き飛んだ。まるで、そこに仕掛けられた時限爆弾が爆発したみたいだった。頭の半分を吹き飛ばした
葉兵は、そのままなつきの上へと崩れ落ちた。ぽっかり空いた頭の穴から、夥しい量の血と、それ以外の
見たこともない液体が流れ出し、なつきの野戦服を汚した。他の兵士もなにが起こったか分からず、
ただその場に立ち尽くした。そうしている間にも一人、二人と頭を吹き飛ばされていく。残った兵士は
恐慌をきたしたかのように、森の暗闇へと闇雲に銃を乱射した。なつきにもなにが起こったのか
理解することはできなかった。自分を犯そうとした葉兵の頭が吹き飛び、その他の葉兵も次々に頭を
砕かれていく。ただ、自分が助かりそうだということだけは理解できた。
応戦も虚しく、葉兵達はまた一人また一人と倒れていく。そして、残る葉兵が最後の一人となった時、
闇から黒い影が飛び出してきた。影の跳躍はなにかの肉食獣を連想させた。ネコ科の猛獣がもつ、
柔軟な筋肉の躍動がそこにはあった。影は、最後に残った哀れな葉兵に体当たりをし、そのまま
近くにあった木に葉兵の体を叩きつきた。
「悪く思わないでね」
影はそう言った。そう言った瞬間、最後の葉兵の頭も砕け散った。
2.
「急いで。迎えのヘリがまもなく到着するわ。あまり時間は残されないの」
頭を砕かれたまま、なつきの上に覆いかぶさっている葉兵の死体を持ち上げて川口茂美少佐は言った。
「は、はい」
葉兵の血にまみれた野戦服をそのままに、なつきは力なく肯いた。正直、拍子抜けだった。一旦は
すべてを諦めようと思っていた。葉兵に犯されようとするその時、なつきはなにもかもがどうでもよく
なっていた。このまま汚らしい兵士達の慰み者になってしまえと、そう自暴自棄な考えすらも脳裏を
よぎった。そのような時に黒い影は現れた。影は瞬く間に葉兵の一個分隊を殲滅させ、なつきの窮地を
救った。最後の葉兵を片付けたのち、影はゆっくりとなつきの方へと振り返った。影の正体が川口少佐
であること分かった瞬間だった。
出来すぎているとさえ思った。広大な森の中、なぜ自分の場所がわかったのかも不思議だった。川口
少佐は、夜の森には不自然としか言いようのない笑い声を聞きなつきの居場所を掴んだのだが、それは
彼女の知るところではなかった。危機的状況の中、あまりにタイミングよく自分を助けてくれた存在に、
ある種の戸惑いを感じていた。絶体絶命の場面でさっそうと現れ、自分を助けてくれる存在。そう、それは
まさしく救世主と呼ぶに相応しい存在ではないか……。
「あの」なつきは口を開いた。「なぜ、私を助けてくれたのですか?」
聞かずにはいられなかった。自分を殺すとまで言った人間が、なぜ私を助けてくれるのか? 作戦中に
ある種の親しみを感じるようになったとはいえ、危険を冒してまで助けに来てくれるとは思わなかった。
川口少佐はなにも言わなかった。なにか曖昧な表情でなつきの顔を見つめたのち、近くに落ちていたMP5
を拾いなつきに手渡した。葉兵に追われ転倒した際に落としたものだった。
「来たわね」
森の隙間から見える夜空を指さし、そう言った。結局、川口少佐はなつきの問いには答えなかった。釈然と
しないものを感じつつ、なつきはその方向へと目を向けた。すると、黒い物体がふたつ、夜の闇にまぎれて
浮かんでいるのがわかった。
「迎えのヘリよ」
川口少佐は言った。
「タイムリミットはあと5分。それまでに合流しないと取り残されるわ。行くわよ」
そうして走り出そうとした時だった。目の前の川口少佐の姿がふっと消えた。なにが起きたのか分から
なかった。気がつくと川口少佐は地に伏して呻き声をあげていた。
「だ、大丈夫ですか!?」
なつきは駆け寄った。近くで川口少佐の顔色を確認すると、信じられないほど真っ青な顔をし、だらだらと
大粒の汗を流していた。滴り落ちる汗が地面を濡らしている。呼吸を必死で整えようと荒い息を吐く姿が
痛々しいほどだった。
柳川の一撃は、想像以上に茂美の体へダメージを与えていた。なんとか耐えしのぎはしたものの、今までの
激しい戦闘は茂美の体に大きな負担を強いていた。先程の戦闘で、既に茂美の体力は限界に達していた。
「くっ、こんな時に」
茂美は全身の力を振り絞って立ち上がろうとした。なつきには分からなかったが、茂美の耳は森の枯葉を
踏みしきる足音を複数捉えていた。恐らく先程の騒ぎを聞きつけやってきたのだろう。間の悪いことだ。
「清水少尉」
茂美は言った。銃で体を支えるようにしてなんとか立ち上がった。
「敵が私たちの存在に気づいたわ。私はここで敵の足止めをする。その間に友軍と合流し、AIRシティへと
帰還しなさい」
なつきは戸惑った。川口少佐の体が良くないことはなつきにも分かった。足元はおぼつかなく、相変わらず
息も荒い。こんな重傷者が足止めなんてなにを考えているのだ……。
「清水少尉」
戸惑うなつきに茂美は諭すような笑みを向けた。
「大丈夫。私は葉鍵最高の降下猟兵よ。必ずあなたを生還させてあげる。だから今は私の言うことを聞いて。
あのヘリを目印に真っ直ぐ歩けばいいだけ。これならあなたでも迷わない。簡単でしょ。大丈夫、あなたは
必ず帰れるから」
「でも……」
「清水少尉っ!」
一転して厳しい声。なつきは弾かれるように川口少佐の顔を見た。
「これは命令よ。生きて、州都に帰還しなさい」
3.
なつきは夜の森を駆けた。
背中から銃声が聞こえる。しかし、なつきは振り返らない。いや、振り返れなかった。
『生きて、州都に帰還しなさい』
そう言った時の川口少佐の目が、なつきの脳裏から離れなかった。
強い意志の力を感じた。どんな反論も許さない、なにものをも従わせる瞳だった。あの目の力に、なつきは
贖うことができなかった。なつきは川口少佐の瞳から逃げるように顔を逸らして走り出した。決して後ろを振り返る
ことはできなかった。
走りながら空を見上げた。木々の隙間から、2つの黒い影が浮かんでいる姿が確認できた。あのヘリのお蔭で
方向感覚を狂わす夜の森を、なんとか迷わずに走ることができた。夜空に浮かぶ二つの影、それは主人の帰り
を待つ2匹の忠犬のようにそこにたたずんでいた。
(……本当に)
なつきは思った。
(本当にこれで良かったのかな?)
川口少佐は明らかに戦える状態にはなかった。それなのに、彼女はなつきを逃がすための足止めになった。
私は彼女を犠牲にして逃げようとしてる。命令だから、あの目に逆らえなかったから、そんな言い訳を考えてみても
それは動かしようのない事実だった。
ふと、今まで配属されていたバ鍵っ子部隊のことを思い出した。傲慢で、自己中心的で、それでいて弱虫だった。
己の為なら平気で仲間を見捨てる、そんな連中だった。こんな人間にはなりたくない。なつきは強くそう思っていた。
(結局)
なつきの足が徐々にその速度を緩めていった。
(私もバ鍵っ子と一緒だったのかな?)
なつきの足が止まった。なにを見るとでもなく遠くを見つめた。
自分を守ってくれた存在を見捨てようとしてる。危険を冒してまで自分を助けてくれた人。それは今まで自分が
必死に求めてきたものではないのか? 「お兄ちゃん」という自分を守ってくれる存在をずっと待ち続けて生きてきた。
川口少佐は「お兄ちゃん」ではないが、自分を助けてくれた人という意味では同じではないのか? ずっと待ち続けた
存在がやっと現れたというのに、私はそれを見捨てようとしている。これがバ鍵っ子でなくてなんだというのだ?
なつきはふと両手に持ったMP5を握り締めた。この作戦が始まってから、一発も放つことのなかった銃だった。
(この銃、一体なんのためにあるんだろう)
そんなこと考えたこともなかった。戦争だから、命令だから。そうした他者から与えられた理由でなつきは銃を撃って
きた。自分の意思で引き金を引いたことなど一度もなかった。
(大切なものを守るため?)
陳腐な答えだった。陳腐であるが故に真実だった。今まで、なつきには守るべきものなど一つもなかった。唯一の
肉親であった兄を失い、地位も名誉も遠いところにあった。自分を虐げてきた国、そんなものに命を捧げるつもり
なども毛頭なかった。ならば、なぜ軍などにいたのか? 戦う理由などなにもなかったはずなのに、私は機械人形の
ように言われるがままに戦ってきた。それは、なんと虚しいことなのだろう。
(でも、今は違う)
なつきは決然と身を翻した。銃声の轟く夜の森をきっと見つめた。そして力強く大地を蹴る。これから戦いの場に
その身を躍らそうというのに、不思議と恐怖はなかった。両手に持った銃ぎゅっと持つ。今こそ自分の意思で引き金
を引く時だ。大切なものを守りため、始めて自分の意思で引き金を引こう。夜の森を駆けながら、なつきはそう決意した。
4.
茂美が引き金をしぼるたびに、一人の葉兵の命が露と消えた。その戦果を確認することなく、茂美は一撃ごとに
場所を移動する。闇に溶け込むように気配を消し、木から木へと駆け抜けた。一歩足を踏み出すごとに、茂美の
体を激痛が走りぬけるが、それを必死の形相で耐え抜いて次の一歩のために大地を蹴る。先程の葉兵で、一体
何人倒したことになるのだろうか? 3人? いや4人くらいの気もする。最初は一個分隊ほどだった敵も、今では
その数を倍化させていた。戦闘の音を聞いて、散らばっていた葉兵が集まり始めていたのだ。
(あとどれくらいもつかな? あまり長くは持ちそうにないけど、まあ、あの子が脱出できるくらいの時間は稼げるよね)
完全に夜の闇に溶け込みながら攻撃してくる茂美に、葉兵達はどう攻めていいかわからず、徒に兵力を消耗
させていた。しかし、それも時間の問題であろう。時が経つにつれ、その兵力を増大させる葉兵達は、徐々に
ではあるが、茂美に対する圧力を強めていた。
木の影から半身を乗り出しG3の引き金をしぼる。銃口から飛び出た7.62mm弾は葉兵の体に命中し、その中心
に大きな風穴を開けた。戦友を殺された葉兵の罵り声が、敵の銃声に混じって聞こえてくる。茂美は意識的にその
声を無視した。そして、次の場所へと移動を図ろうとした時だった。茂美の予想していなかった方向から敵の銃弾
が飛んできた。それは茂美の右肩に命中し、その部分の肉をごっそりと奪い取っていった。
(――しまった)
銃弾は横合いから飛んできた。敵は前方にいるだけだと思い油断していた。気づかない内に側面へと回りこんでいる
敵がいたのだ。
利き腕の方の肩をやられ、衝撃で銃を落としてしまった。急いで拾おうとするが、それより早く、敵の銃弾は
G3の銃身を粉々に砕いていた。
(狙撃手だったのか!?)
この暗闇でこれだけ正確な射撃ができるなんてそれしか考えられない。また、狙撃手は隠密行動の名手でもある。
気配を消しながら茂美の側面に回りこんだのだろう。普段の茂美なら、その存在を予知できるはずであったが、
柳川から受けた傷と、それがもたらし疲労が、茂美から注意力を奪っていた。
敵が狙撃手であるのなら、このまま側面に対して身を晒すのはまずい。茂美は瞬時の判断で木の影に逃れようと
したが、ここでも敵の行動の方が早かった。近くの木に飛び込もうとした瞬間、敵弾は茂美のふとももを貫いていた。
「――っ」
苦痛は声にならなかった。呻くようにして傷口を押さえながら、逃げ込んだ木に背中をあずけた。肩と腿。大きく
抉られた傷口から大量の血が流れ出て、みるみる内に茂美の野戦服を赤く染めていった。大量の出血で、少しずつ
意識が朦朧としてくる。それでも、歯を食いしばりながら状況を把握しようと努力した。
(おかしい、敵の攻撃が止んだ)
側面をとった今、敵にはとっては十字砲火をかける絶好の機会だ。それをしてこないということは、敵は私の
戦闘能力を完全に奪ったと考えているということか。
それを裏付けるように、いくつもの足音が茂美の方へと迫っていた。前面だった方向からは4〜5人。狙撃手が
いた方向からは一人。距離的には狙撃手の方が幾分近いか。茂美は迫る葉兵の足音を聞き分け、そう分析した。
まだ無傷である左腕を動かし、腰の山刀へと手を置いた。連中は私を捕虜にとるつもりか。上からの情報か、
それとも狙撃手の目によってか、私が女であるとわかっているのだろう。捕虜といえば聞こえはいいが、要は
ただの慰み者として戦利品扱いされるのだろう。捕らえられた女性兵士がどうなるか。そんなことはエロゲ三国
に生きる茂美自身よくわかっていた。
(そんな結末は御免蒙る)
私は潔く戦って死ぬ。辱めを受けてまで生きたくはない。「狂戦士」の意地にかけても連中と刺し違えよう。
私に対してスケベ心を出した代償がどれほどのものか、地獄でたっぷり後悔させてやる。
(あの子は、無事に逃げたかな?)
自らの死を目の前にして、それだけが心配だった。これだけ時間をかせいであげたんだから多分大丈夫だろう。
後のことは、あの曹長がうまくやってくれるはずだ。彼との付き合いも長い。私がなにを望んでいるのか、ちゃんと
わかっているはずだ。
敵の足音は徐々に迫っている。私の人生もあと僅か。案外あっけない結末だったような気もするけど、最期の
最期で長年の心のもやもやを晴らすことができて本当によかった。後は派手に暴れて死ぬだけね。
そう決意を固めた時だった。茂美は葉兵達の足音に混じって、遠くからなにかが駆けてくる音を聞きとめた。敵の
増援だろうか? いや、それにしては方向が違う。それはなつきが逃げていった方から聞こえていくる。やがて
葉兵達もそれに気づいたのか、歩みをとめて足音の方向に警戒を始めた。
(――あれは?)
茂美は目を疑った。こちらに駆けてくる者の正体は、彼女が命を賭けてまで逃した清水なつき少尉だった。
(馬鹿! こっちへ来たらだめ!)
敵には狙撃手がいる。恐らくは夜間照準器付き狙撃ライフルを装備したやっかいな奴だ。痛む体を抑えて
木の影から半身をのぞかすと、案の定、大きなスコープを備えたライフルを持った男が、片膝立ちでなつきに対して
照準を定めているところだった。
このままではいけない。茂美は傷を受けてない方の足に全身全霊の力を込めて跳躍した。なんとしてでも、あの
狙撃手を倒さなければ。幸い、敵狙撃手との距離は予想外に縮まっていた。片足だけでの跳躍でもなんとかなる。
慣れない左手で山刀を握り、全体重を預けて振り下ろす。狙撃手も途中で茂美の存在に気づきはしたが、その時には
遅かった。茂美の山刀は真っ直ぐに狙撃手の頭を叩き割っていた。
狙撃手が殺られたことを察したのか、残りの葉兵達は一斉に散開した。近くにあった遮蔽物に身を隠し、茂美達の
様子を窺っている。敵の増援が如何ほどのものなのか図りかねているのだろう。そんなことは露知らず、なつきは
短機関銃の弾丸をあたりに撒き散らし、真っ直ぐに茂美の元へと駆け込んできた。
「馬鹿!」
滑り込むようにして走ってきたなつきの頭を強引に下げさせ、近くの木影に飛び込こんだ茂美は、開口一番なつき
の耳元でそう怒鳴った。
「せっかく時間を稼いであげたのに、どうして戻ってき――」
「嫌なんです!」
なつきの反応は予想外だった。彼女はボロボロと涙をこぼし、茂美の言葉を遮るようにして、そう叫んだ。
「私、もう嫌なんです! 誰からの助けをただ待っているだけなんて嫌なんです! せっかく大切なものを見つけ
られたのに、それを見殺しにするようなことはしたくないんです!」
茂美は、まだ自由のきく左手でなつきの体に触れた。その体は怯えるように、ぶるぶると小刻みに震えていた。
「はは、変ですよね。走ってる最中はまったく怖くなかったのに、立ち止まった途端、体が震えだして、涙もこんなに
出てくるし、なんだか、死ぬかもしれないって考えが急に現実味を帯びてきて……。想像しちゃうんです。自分の
頭が粉々に砕けるところとか、自分のお腹から腸がはみ出ているところとか、そういうところを想像しちゃんです。
そうすると、私……」
茂美はなつきの言葉を遮るようにして、その頭を抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫だから」
暗示をかけるようにそう言った。戦場では決して悪い想像をしてはならない。それは、人間から冷静な判断力を
奪う。人を恐慌に駆り立てる。恐怖に駆られた人間は、その場から逃げることしか考えなくなる。それは、戦場の
鉄則だった。
葉兵達が動いた。茂美は気配からそれを察知した。窺うようにしながらじりじりと距離を詰めてくる。「増援」が
なつき一人だと分かり、行動を再開したのだ。
茂美はなつきのMP5を拾い上げた。残弾を確認し、初弾を装填する。金属と金属が擦れ合う音が茂美の耳に
響いた。
(さて、どうしてものか)
大丈夫とは言ったものの、状況は絶望的だった。敵はいまだ分隊規模の戦力を残していた。その戦力は時間が
経つにつれ増大する。茂美の傷は深く、まともに戦える状態にはない。なつきも戦力としてはあてにならなかった。
(チャンスは一撃か)
距離が縮まったのち、短機関銃の一連射ですべてを終わらすしかない。茂美に残された体力を考えれば、それが
限界だった。茂美はなつきの頭を撫でた。この子だけは必ず生きて帰さなければならない。改めてそう決意した。
なつきを自分の胸から離した。まだ、少しぐずっていたが、泣き止んではいるようだった。MP5のセレクターを
操作し、射撃モードをフルオートにセットした。葉兵の気配はすぐそこまで迫っていた。茂美はなつきに微笑みかけた。
「大丈夫だからね」
なにを言われたのか理解できなかったのか、なつきはきょとんとするだけだった。そんななつきに思わず苦笑した。
(さあ、いこうか)
茂美は最後の力を振り絞り、敵の正面へと躍りこんだ。
5.
すべてはなつきが理解する前に決していた。
自分の目の前から川口少佐の姿が消えたかと思うと、次の瞬間には複数の葉兵の断末魔が夜の森に木霊していた。
(一体、なにが?)
震える体を懸命に抑え、声の方向へ身を乗り出してみると、そこにあったのは、いくつもの葉兵達と川口少佐が
横たわっている光景だった。
「川口少佐っ!」
なつきは駆け出そうとした。しかし、その足は動かなかった。川口少佐達が横たわっている場所にただ一人、無傷の
ままそこに立つ葉兵がいた。
葉兵は、意味の分からない罵り声をあげると、そのまま川口少佐の腹部を蹴り飛ばした。僅かに川口少佐の
体が宙に浮き、仰向けの状態で大地に叩きつけられた。肺へのダメージがあったのだろう。川口少佐は、苦しそうな
呻き声を漏らしながら、激しくその場で咳き込んだ。
(生きてるっ!)
そう喜んだのも一瞬だった。状況が最悪であることには、なんら変わりはなかった。葉兵は、怒りにその身をまかせ、
何回も何回も川口少佐を蹴り上げた。その度に、川口少佐は激しく咳き込んだ。その吐き出すものの中に、時折、
赤いものが混じり始めていた。
(このままじゃ川口少佐が死んじゃう)
どうにかしなければならない。だが、なつきにはなんの武器もなかった。唯一の武器であった短機関銃は、川口少佐の
近くに転がっている。弾切れである可能性も高い。あそこまで走っていて、予備弾装と取り替えている暇はなかった。
(なにか武器、武器になるものは……)
その時、なつきの視界の片隅になにかが映った。刀身を真っ黒に塗りつぶされてるため、夜の闇の中でそれを見つけ
出せたことは僥倖といってよかった。それは川口少佐愛用の山刀だった。葉兵狙撃手の頭を砕いた際、そのまま
投げ捨てたものなのだが、それがなつきの現在位置から数歩とかからない場所に落ちていた。
(あれならば、川口少佐を助けられるかもしれない)
なつきの体はいまだに震えていた。それを必死に抑えようとする。それでも震えは治まらなかった。
(仕方がない)
なつきは意を決した。震える体をそのままに、川口少佐の山刀を手にとった。通常よりも一回りは大きいその山刀は、
信じられないほど重さがあった。体中の全ての力を使い山刀を振り上げると、なつきは奇声を発しながら葉兵めがけて
突進した。体の震えが治まったわけではないのに、不思議と足取りはしっかりしていた。なつきは一直線に葉兵の頭に
狙いを定め、渾身の力を込めて振り下ろした。怒りに我を忘れていた葉兵の反応は僅かに遅かった。頭への直撃は
避けられたものの、なつきの山刀は葉兵の肩口へと深く深く食い込んだ。肉を断ち、骨を砕く感触が山刀を通して
伝わってくる。そのまま全体重をかけて山刀を葉兵の体に捩じりこんだ。山刀の刀身がバキバキと骨を砕いていく
様子が生々しいほどによくわかった。葉兵はこの世のものとは思えない絶叫をあげ、なつきの顔を何発も殴りつけた。
または、腹を蹴り、頭突きをし、そして噛み付いた。なんとか振り払おうと、体を滅茶苦茶に振り回すが、それでも
なつきは山刀を離さなかった。銃を撃とうという発想は生まれなかった。よほど訓練した者でない限り、白兵戦闘に
おいて、人は原始の時代へと退化する。葉兵もその例に漏れず、AK−74を原始的な棍棒と同じように扱った。
銃床で何度も何度もなつきを殴る。何発目になるかわからないその打撃で、ようやくなつきは山刀から手を離した。
しばらくは、お互いに荒い息をしたまま睨みあった。アドレナリンが大量に分泌されたせいで痛みはまったく
感じなかった。恐らく、顔中はぼこぼこに腫れ上がっているのだろうが、今はそれがまったく気にならない。葉兵の
方も、肩に食い込んだ山刀を抜こうともせず、そのままの体勢でなつきと睨みあいを続けていた。
睨みあうこと暫く。やがて息が整ったのか、葉兵の目に殺意の色が浮かんできた。あくまで銃を鈍器として使用
したいのか、葉兵はAK−74の銃身を握り締め、なつきの脳天めがけて大きく振りかぶった。あれが振り下ろ
されれば死ぬんだろうな。なつきはそれを他人事のように眺めていた。諦めのようなものではない。本当の
自分がもっと他の場所にいて、ここにいる自分を遠くから眺めている。そんな感じがしていた。
どうせ死ぬなら、その瞬間くらいはっきりこの目で見てやろう。そう思い自分に殺意を向ける葉兵の姿を
じっと見つめる。しかし、葉兵がAK−74を振り下ろす時は訪れなかった。AK−74を振り下ろそうとした
瞬間、葉兵の背中から胸にかけて、白銀の鋭利な物体が突き刺さった。それは、寸分違わず葉兵の心臓を
貫いた。葉兵は信じられないといった表情で後ろを振り返った。そこにいたのは、さっきまで地面に寝転んできた
あの女だった。心臓から血液が逆流し、葉兵の口から溢れ出した。なんでお前が動けるんだ? 薄れいく
意識の中で最後の思考を行いながら、葉兵はその場に崩れ落ちた。
葉兵に止めを刺したのは川口少佐だった。彼女はうっすらと残る僅かな意識の中で、なつきの危機を
瞬間的に察知した。山刀とは別に装備していたサバイバルナイフを抜き放ち、体に残った僅かな体力を総動員
して葉兵の背後から襲いかかった。意識は朦朧としていても、体に叩き込まれた彼女の殺人技術が狂うことは
なかった。ナイフは寸分違わず葉兵の心臓を貫き、彼の命の炎を吹き消した。
「少佐っ!」
なつきは川口少佐のもとへ駆け寄った。川口少佐は、葉兵に止めの一撃を刺したのち、自らもそのまま倒れ
こんだいた。先程まで感じていた離人感は、きれいさっぱり掻き消えていた。
「少佐っ! しっかりしてください、少佐!」
なつきは川口少佐の体を抱き起こした。肩と腿を撃ち抜かれ、葉兵の蹴りを何発も食らっている。さらに、
なつきの知らないところでは、柳川から受けた傷もある。常人ならば命を落としていてもおかしくはない重傷だった。
ふと、なつきの瞳から涙が流れた。それは彼女の頬を辿り、川口少佐の額へとぽつりぽつりと落ちていった。
結局、私はなにもできなかったのか? あれだけ頑張ったのに、私にはなんの報いもないのか? 一体、
私がなにをしたというのだろうか? これで川口少佐が死ぬようなことがあったら、私はこの世の全てを
恨んでやる。神も仏も、なにもかもを恨んでやる……。
その時、なつきの頬に暖かいなにかが触れた。それは茂美の左手だった。荒れるなつきの心を宥めるように
優しくその頬を撫でていた。
「クスッ、酷い顔」
川口少佐はそう言った。思えば本当に酷かった。顔だけでなく、体全身酷い有様だった。
葉兵の血を浴びた野戦服はそのままだった。顔はぼこぼこに腫れ、眼鏡のレンズも片方が割れていた。
服の下は恐らく痣だらけだろう。今はまだ痛みを感じないが、明日になれば一気に疼きだすのはずだった。
「川口少佐こそ、人のことは、言えませんよ」
涙混じりの声でそう言った。川口少佐の傷は本当に酷い。早く州都に帰還して、しっかりとした治療を
受けさせなければならない。しかし、一体どうすれば……。
肝心の帰還方法にはまったく見当がつかなかったが、それには予期せぬところから救いの手が差し伸べられた。
「……イェーガ……リーダー……応答……」
川口少佐の通信機が反応を示していた。よく目をこらして夜空を見上げると、2機のヘリが危険を顧みず
森林地帯の上空を飛んでいた。川口少佐の忠犬は、タイムリミットを過ぎても主人の帰りを待ち続けていたのだった。
「こちら集成旅団所属清水なつき少尉。応答、応答願います」
なつきは救援のヘリに向けていつまでも手を振り続けた。
<降下猟兵編 了>
>>655-675 以上、長々と続けてきましたが、降下猟兵編はなんとか終わらせました。
今までスレの流れを阻害し続けてきて本当に申し訳ない。
一等自営業氏の「オメガ」を読んで漠然と特殊部隊ものでも書こうかと始めたのですが、
それに「茂美のトラウマ」と「なつきの成長」の二要素をいれたら予想以上に長くなってしまいました。
次回からはもっとあさっりしたものを書きますので、平にご容赦を。
お疲れさん。
ところで、茂美達は「降下猟兵」ってなってるけど、
これってヘリボン部隊じゃない?
前から気になっていたんだけど…
「降下猟兵」という部隊名を使ったのは、ただカコヨカタからです。
彼らは一般的な空挺部隊として考えてください。
空挺部隊は落下傘降下もやればヘリボーンもやるでしょう。
というか、ドイツでは今でも「降下猟兵」ではありませんでしたっけ?
なぜこのスレではてるぴ○つの部屋みたいなことをやっているんだ
もう閉鎖したみたいだけど、どんなサイトだったの?
681 :
鮫牙:02/09/14 03:07 ID:RVqk+i5Y
<644
SS見てください。
川口さんは基本的に太股丸出しなんですよ。
>川口さんの格好
他所のスレで偶然見かけたが漏れの感想も
「取り敢えずズボン穿こうよ」
であった(w
683 :
鮫牙:02/09/14 05:57 ID:GhyKFM8X
<682
俺の絵が下手なので、解り辛いすが、脚の部分をカットしたズボンを穿いてるの
デス。
で、そろそろ新スレ移行の準備しない?
512KBまで目前だし。
さて、次のタイトルはどの仮想戦記をパクろうか?
浩之君(17)の戦争、とか……ああそこ、石を投げるなw
あっ、間違い発見。
× 第2装甲RR師団
○ 第2RR装甲師団
すみませんでした。
とりあえずage
で、もう次スレはたてちゃうの?
691 :
名無しさんだよもん:02/09/16 00:46 ID:tPNg1N6R
あげ
で、このスレはどうしますか?
放置推奨
放置民