2
いまだ! 3ゲットォー・・・
と。
【いろいろ】
○書き手さん、絵師さん、新規参加募集中!
○ただ、新規参加の方は過去ログには目を通すように願います。
○SSを投稿する際には、どこのパートからのリレーなのかリンク
を張っておくとわかりやすいでしょう。
○後書き、後レスなど、文章中以外での補足説明は避けましょう。
本文中で曖昧な部分に関しては、後続する書き手さんの意志を配慮
尊重すること。SS書きはSSで物事を表現することが肝要です。
○新キャラを登場させる際は、強さのインフレも念頭に置きましょう。
○設定のまとめ誰かよろしく(ぉぃ
新スレおめー。
設定のまとめサイト誰か作ってくれないかな
6 :
竹紫:02/01/06 16:37 ID:VlBRc11S
∧_∧
< `∀´> 新規参入が増えるかもしれないので今のうちに言っておくが
_φ___⊂)_ 作品の最後に書く補足説明は、作品内の纏め程度に考えておいてくれたまえ
/旦/三/ /| 補足説明とは、けして作品内で書いていない設定を述べる場所ではないぞ
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| |
|阿鼻様沈没|/
あ、前スレにあぷしようとして失敗w
8 :
未熟なる青。:02/01/06 16:43 ID:yISGjxNB
山道に差し掛かろうとした時に、陽は多分、その道中を往くには危険な程度まで落ちてしまった。
今日はここらで野宿である。幸いな事に今日は割と暖かい。寝袋と暖だけで一夜を過ごせるだろう、多分。
――よくよく考えたならば、一人で結構な距離の道中を往くのは危険なのである。
山を一つ越えなければいけないし、しかもそこは時期柄、山賊やら獣やらも現れる可能性が高いわけである。
聖先生に軽く習ったメスの技術で、そこそこの獣なら狩れると思うのだが、山賊だとかそう云うのに遭遇したらどうしようもない。
基本属性が貧弱なのである。メス投げでは何処まで闘っていけるか。ああ。
七瀬彰は小さく溜息を吐く。レフキーは、魔法都市よりも遙かに東にある。確か深山雪見はそこに向かうとか云っていた訳で……。
そう、よくよく考えれば、彼女と共に移動すれば、彼女に護られて安心して魔法都市――ホワールへ往く事が出来たのである。
「まずった……」
ミスった。道中で怪我するくらいならともかく、身包み剥がされたりとかしたらどうしよう。貴重品など持ってないけど。
そんな事を心配しながら暖に当たる。ぱちぱちと音を立てて燃える火を見ながら、彰は様々な事を思う。
聖に聞きたいと思っていた事は、沢山ある。しかし、多分対面した時にすべてを聞く勇気は僕にはあるのだろうか。
火は素晴らしいと思う。どんな事を考えていてもそれをみつめるだけで穏やかな心地が訪れる。人が最初に生み出した文化である。
火を自在に操れる人間は、闇も、光さえも恐れずに、巨大な何かと戦い続けてきたのである。
「結構冷えるな……」
*
9 :
未熟なる青。:02/01/06 16:44 ID:yISGjxNB
どれだけの時間、その火の前で過ごしていただろう。時間も忘れ、ゆらゆらと揺れる火の様を、見詰め続けている。
誰かが近付く跫にも気付かぬまま、彰はぼうとしていた。眠い。
「彰、やっぱり来たね」
誰かが近付く音が聞こえる。山賊か誰かだろうかと思ったが、山賊が彰の名前を知る訳がない。
火の対岸に、何やら綺麗な足をした女が座る。――その火の対岸に、見知った顔がある。
幻想か何かかと思ったのだが、声にはリアリティがあるし、着ているものも見覚えがある。
幼馴染みの貌である。穏やかそうでいて、何処か怖い感じのする貌。極悪人、というか。
「誰が極悪人よッ!」
「あれ?」
やっぱり幻覚ではないようだ。目を擦って目の前の幼馴染みを見る。
「――絶対すぐ来るだろうと思って待ってたのよ。案の定、ほら」
深山雪見が自分の目の前で微笑っていた。
おお、まさしく地獄の仏。彰は南無阿弥陀仏、と手を合わせて念じる。
「地獄の仏って何よッ! 地獄『に』仏でしょうが」
「途中まで一緒だからね。貧弱な彰じゃ、この山道も登れるか怪しいし、手助けしてあげようかと思って」
「――ったく。そういう強がりを云わなくても良い。待ってたんじゃなくて、待たざるを得なかったんだろ?」
う、と雪見は気まずそうな貌をする。何年付き合ってると思ってんだ。
「まったく。右足そんなに真っ赤に腫らして」
「あはは……お見通しか。足、ちょっと挫いちゃってね」
ちょっとドジなところは、川名みさきともそっくりである。そう思い、彰はくすくすと笑った。
包帯を足に巻きながら、栞と同じように、見ぬ間に女の体付きになっている彼女をみながら、少しドキドキする。
幸い暗がりである。自分の表情は見えないだろう。
*
うら若い女の子と7歳の少女が二人きりで越えられる程道中は甘くない。そんな事は判っている。
「用心棒を雇うんです」
という美坂栞の提案に、しのさいかは同意せざるを得なかった。当然である。
白魔法が少し使える程度の自分と、てんで役立たずの栞。二人でもし行けたら奇跡である。
「かんたんにおこらないからきせきっていうんだよ」
誰に云うでもなく、さいかは呟いた。
しかし、なかなかに話は難しい。酒場で寝転がっている自称冒険者のおじさん達は、歯牙にもかけてくれない。
「彰ちゃんのところに行きたいのは判るがな、一週間くらい我慢せ、栞ちゃん」
我慢できないから困ってるんです……栞は今日44度目の溜息を吐いて主張するが。
「彰ちゃんに抱いて貰わないと寝れないのか、さいかちゃんよ」
そうだよお……さいかは頬を膨らませて主張するけれども。
「金はあるのか、金は」
まったくない。少なくとも用心棒を雇えるだけのお金は。
「ほら、ガキは家に帰って麻雀でもしてなさい」
――ふたりじゃまーじゃんはできないよ。さいかは俯いて云う。それはまあ、どうでも良い事である。
*
「うう……やっぱり無理でしょうか……」
はぁ、と溜息を吐く栞をよそに、さいかは酒場の中に一つ、見覚えのある影を見つけた。
7歳児の直感である。自分が数日前に出会った彼は、きっと自分を助けてくれる。
とことこと丸テーブルに座って酒を呑んでいる若い剣士のところに駆けていき、さいかは彼の名前を呼んだ。
「すみいー」
少年といって差し支えがない歳だろう――立派な剣を抱えた少年、住井護は自分の名前を呼んだ幼女の顔を見て、怪訝な貌をした。
話を聞いた住井は、うんうんと頷きながら何やら納得してくれたかのように腕を組んでいる。
「そうか、彰先生がホワールに……」
俺も追っかけようかな、そんな言葉が聞こえた。よし、いける! とばかりにさいかは捲し立てる。
「それでね、さいかたちをおくっていってほしいの」
「イヤだ」
即答。
「なんでー」
「ガキ二人を連れて旅が出来る程俺は強くない。まだ未熟な俺じゃ護りきれるかも判らん」
住井ははん、と鼻で嗤いながら、親指と人差し指で円を作り、
「それに、金無いんだろ? 金」
そう云った。住井はテーブルの上の酒をまた一杯注ぐと、ごくごくとそれを飲み干した。
「かぁー、たまらんねっ」
そんな親父くさい台詞と共に。
*
「ふふふ」
そんな笑い声が、下から聞こえた。
住井は怪訝に思い、少女を見る。
「おかねはあるよ。ここにあるよ」
さいかは自分を指さしながら、そんな事を云う。
「何処に?」
興味深げに尋ねた住井が耳にしたのは……痛い言葉だった。
「あきらがすみいのけが、なおしたでしょ? そのちりょうだい、ください」
――なぬ!?
提示された額は、住井のその背中の立派な剣を仮に10本売ったとした時に得られる金と、ほぼ等しい。
「……ば、ばかな」
「いやならおくりとどけてねー」
――なんて餓鬼だ……住井はぞくぞくと冷えた肝と目の前の少女の圧倒的将来性を前に、愕然とするしかなかったのである。
【七瀬彰 深山雪見 取り敢えず道中を共にし、東へ】
【しのさいか 美坂栞 住井護を強引に雇い、彰を追う事に決める】
【住井君 冒険者見習い/剣士】
「あ、有り金全部置いていくんだな」
日はとうに落ちて、こうこうと輝く月が街道を照らし出していた。
縦と横、奇妙なシルエットの二人組に囲まれて、杜若きよみは小さく肩をすくめた。
(やれやれ、ちょっと地図読み違えたかしら。日没までにはこのへんの村に着いてるはずだったんだけど)
夜道の一人歩きは危険なので止めましょう――きよみは口の中で小さく呟いた。
今、きよみの正面には全身にぜい肉のフリルをたっぷりと飾りつけた、少々体重オーバー気味の男が、
そして背後にはその男とは対照的にひょろっとした眼鏡の男が、それぞれ行く手を阻んでいた。
「おとなしくしていれば命までは取らないでござるよ。早く出すものを出した方がお互いのためでござる」
「そ、そうなんだな。ボク達は、親切だから、こ、殺したりなんかしないんだな」
「…………」
きよみはその言葉を無視して、羽織ったマントの内側から一枚の羊皮紙を取り出した。
「この男。見覚えない?」
それは似絵だった。髪の毛に白いものが混じり始めている中年で、大きなサングラスをかけた男だ。
二人の言うことをまるで意に介していないようなきよみの態度に、太った男の方がやや興奮して言った。
「お、お前は、自分の立場がわかってないみたいなんだな」
「まぁいい、答えてやるでござるよ。我々はそんな男など見たことないでござる」
「そう。お手数かけたわね」
きよみは似絵を大事そうにまた仕舞い込むと、太った男の脇を抜けて立ち去ろうとした。
その肩を、眼鏡の男が乱暴に掴んで引き寄せた。無理矢理に顔を自分の方に向ける。
「話はまだ済んでいないでござるよ。……女、なかなか綺麗な顔立ちをしているでござるな」
クツクツと下卑た笑いを浮かべると、男は腰に提げた大振りのナイフを抜き放った。
「や、犯っちゃうんだな?」
「ふふん。女、その綺麗な顔をズタズタにされたいでござるか?」
光を反射するように、ナイフをわざとらしくちらつかせながら男は言った。
ふ、と小さく息をついて、きよみは背負っていた袋を降ろし、マントの留め金に手をかけた。
「そうね。まだそれほど歳ってわけでもないし、もうちょっとは綺麗なままでいたいかしらね」
「だったら、することはわかっているでござるな」
「残念ながらね」
留め金を外し、マントを脱ぎ捨てる。パサッと音を立てて落ち、足元の砂が少し舞い上がった。
きよみは身体を震わせた。下には薄手のワンピース一枚しか着ていなかったので、この時間ともなるとさすがに寒い。
服越しの、あまり起伏に富んでいるとは言い難い、しかし均整のとれたボディラインを舐め回すように見ながら、男はさらに続けた。
「まだ終わりじゃないでござるよ。ぐずぐずしていると……」
ナイフの刀身がギラリと光った。
「せっかちな人ね。急かしてもいいことないわよ」
「だ、黙って脱ぐんだな。この期に及んで、く、口の減らない女なんだな」
太った男に一瞥をくれると、きよみはゆっくりとワンピースを脱いだ。
男たちがゴクリと生唾を飲み込む音がやけに大きく響いた。
「これは……思った以上の上玉でござったな」
雪のように白い、透明感のある肌が柔らかな月明かりの下に晒されている。きよみは胸を覆う下着を着けていなかった。
暗い夜にそこだけ浮かび上がったような裸体が、今や二人の男性を完全に魅了していた。
「あら、何もしないの? ……寒いんだけど」
どれくらいの時間見惚れていたのだろうか、一瞬なのかも、もしかしたら数分間のことなのかもしれないが、
眉を寄せて呟いたきよみの一言が二人の時間を再び動かした。
はっと我に返り、眼鏡の男が、無意識に一歩退いた。
(これは……人間とも思われない美しさでござる……物の怪の類か、あるいは女神――月の女神などではござらんか……)
が、太った男の方にはそういう感受性はなかったのか、男の理性はきよみのセミヌードの前に完膚なきまでに砕け散っていた。
「し、辛抱たまらないんだな! は、ハァハァしちゃうんだな!」
「きゃん!」
きよみの身体を乱暴に組み伏せると、男はなだらかに盛り上がった双丘にむしゃぶりついた。
眼鏡の男はとっさに制止しようとしたが、声が出せなかった。
それが自分にのしかかる男を見るきよみの視線があまりに冷たく、美しかったからなのか、
それとも恐れだとか気後れ、あるいは単なる好奇心のせいだったのかは男にはわからなかった。
異変はすぐに起こった。
つい今まできよみの身体に無我夢中で舌を這わせていた男が、気がつけばピクリとも動かなくなっていた。
「なっ……横蔵院、どうしたでござるか!?」
「さてと」
きよみは男の身体を――さすがに女の力では重いのか、かなり苦労して――跳ね除けると、
脱ぎ捨てたワンピースを拾い上げ、胸元を隠して立ち上がった。
「お、女っ……何を……!」
「私、なんかおかしいのよね――」
口許に小さく笑みを浮かべて、きよみは言った。
「私を抱こうとした男は、みんな死んじゃうのよ。なんでなのかしらね? 前世の呪いか何かかしら?」
「ひ、ひぃっ……」
「なんか魔性の女って感じでカッコいいじゃない? どう? あなたも試してみる?」
男の方に一歩近づく。
月をバックに妖しく微笑むきよみの姿が、男には幼いころ絵本の中で見た女神の姿と完全にダブって見えていた。
「ひっ、ひぇっ……い、命ばかりはお助けをーっ!」
既に冷静な思考を失っていた男は、恐怖に我を失って一目散に逃げていった。
きよみは大きく息を吐くと、ワンピースに袖を通し、マントを拾い上げながら倒れている男に声をかけた。
「あなたのパートナーがマヌケで助かったわ。もちろん、あなたがマヌケだって言ってないわけじゃないけど」
手の中に隠し持っていた小さな針を、寝息に合わせて上下する男の背中に放り投げる。
先端に即効性睡眠薬が塗ってあるというだけのもので、以前立ち寄った街の薬屋で手に入れたものだ。
「人間、その気になれば結構なんとかなるものねぇ……」
「そうだね、違いない。名演技だったよ」
「っ!?」
マントを羽織った時、不意に近くでパチパチパチ、と拍手の音がした。
慌てて音の方を振り向くと、道端の木にもたれかかるようにして一人の少年がこちらを見ていた。
「よくよく無茶するお姉さんだねぇ。もっとマトモな野盗だったら犯されて殺されて捨てられてたよ」
「……あなた、ずっと見てたわけ?」
「助けに出てた方がよかったかな? でもほら、あんな展開になったものだからつい見惚れちゃってさ」
「ふん……」
きよみは荷物の袋を背負いなおした。
「で、今さら私に何か用なの? あなたも私の身ぐるみ剥ごうってクチ?」
「まさか。ところで僕にはアレやってくれないの? 『この男を知らないか』っての」
「…………」
黙って羊皮紙を取り出すと、少年に向かって投げやりに突きつける。
「ご存知? ……これで満足?」
「犬飼俊伐。盲目の学者。今はどこかの海賊に拾われてるんじゃなかったっけ」
早くも似絵を仕舞い込んでしまっていたきよみの動きがピタリと止まる。
「あなた、今のそれ本当?」
「嘘なんかついてもなぁ」
「詳しく教えなさい」
ツカツカと少年に歩み寄り、その両襟を掴む。
「っとと、乱暴だねぇ、お姉さん」
「いいから!」
「こんな所で談笑するってのもどうかと思うよ。この先もうちょっとで村があるんだからそこまで行かない?」
少年は悪戯っぽくウインクして見せた。
「わかったわ……私は杜若きよみ。あなたは?」
「トロ井上」
「ちょっと」
「ボンバイエ猪木」
「あの」
「冗談だよ。名前は無い」
少年はこともなげにそう言った。
「名前は無い……って……」
「好きに呼んでくれればいいよ。さ、行こうか」
まるで他人事のような口調で言うと、少年はまだ何か言いたそうなきよみを置いて歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「野盗に遭うたびにあんなことしてたら風邪ひくよ。急がないとね」
「……生意気なガキだこと」
そんなことを言いながら、きよみはなんとなくこの少年を憎めないでいる自分に気づいていた。
【杜若きよみ(黒) 一般人】
【少年 次の方詳細よろしく】
【縦 野盗 逃走中】
【横 野盗 昏睡中】
前スレ
>>641の「自警団の作戦」に対する柳川使用の整合性だけど。
>>642は「海の町の火花」作者のせいだと言うが違うんじゃない?
最後にリレーした人が整合性を合わせるビジョンを持って書いているのが当たり前。
観鈴は往人と敬介のセリフに登場。
晴子は敬介のセリフに登場。
柳川はマルチを連れて行く仕事がある。
月島とマルチは柳川を待つのか。
俺が覚えてるだけでも四つある。
海の話を続ける人はこれ以降慎重にね。
>>15-19 記念カキコ
キャラ被ってたり矛盾してたりしたらショボーン
盲目な人が操縦士な海賊って結構スリリング。
薄暗い塔の中を、七瀬を先頭に、志保、健太郎の順に、並んで歩く。
壁一面に描かれている、不気味な赤いウサギも、神経の太い七瀬や志保は、ほとんど気にしていない。
約一名、健太郎だけが、気味悪そうに、きょろきょろ辺りを見回しているが。
「な、なあ志保……」
「何よ?」
恐怖を紛らわせる為か、健太郎が前を行く志保に声をかける。
「志保って、実は凄く強かったんだな」
「はぁ?」
志保の顔に、呆れたような色が浮かぶ。
「どこをどうしたら、そんな結論が出てくるわけ?」
「だってさ、さっきの村で、『歌』を使って、村中の人を操ってたじゃないか」
「ああ……あれね」
納得がいった顔で、志保は溜息をついた。
「まぁ、『歌使い』なんてめったにいるもんじゃないから、勘違いするのも無理はないと思うけど…
じゃあ訊くけど、あたしと七瀬、今ここで勝負したら、どっちが勝つと思う?」
いきなりの志保の問いに、健太郎は面食らったように、口篭もる。
「えっ……そ、そりゃあ、歌を使える志保の方が………」
「ブブー、ハズレ。99%、七瀬の勝ちよ」
志保は意地悪げにそう言って、前を行く七瀬に目を戻した。
それきり黙ってしまう志保に、健太郎はなおも食い下がる。
「でもさ、村一つを、精神支配できるんだから……」
「……そうねー……健太郎、それじゃあ訊くけど、『強い』ってどんな事だよ思う?」
案外、真面目に志保が訊くので、健太郎は答えに詰まった。
「はっきり言って、あたしの『歌』は、こと戦闘においては、大して使える能力じゃないのよ」
「えっ…でも、聞いた人全てを精神支配できるんだから……」
「違うって」
志保はちっちっち、と健太郎の前で、指を振った。
「いい、健太郎。相手を操ろうと思ったら、魔法でも使ったほうが、よっぽど確実なのよ?」
「けどさ、村一つ丸ごと操れるウィザードなんて、まずいないぜ?」
健太郎の反論に、志保はしばし唇に指を当て、どのように説明するべきか、考え込む。
「……あのさ、あたしの『歌』と、魔法の、最大の違いが、何かわかる?」
「さぁ……」
「魔法は、効果が一瞬で現れるけど、あたしの『歌』は、最低でも10秒以上は聴いてもらわないと、効果が出ないのよ」
「そ、そうなのか?」
驚いた顔をする健太郎に、志保はぺろっと舌を見せる。
「そういえば、健太郎もあたしの『歌』に引っかかってたわね」
「う……」
志保の『歌』に操られて、村人と一緒に帰りそうになって、七瀬の説得(鉄拳によるツッコミ)で
正気に返った事を思い出し、健太郎は思わず、頭のタンコブを撫でた。
「魔法よりずっと時間が掛かる分、確かに効果範囲はかなり広くなるわ。とはいえ、耳を塞いじゃえば、
それも意味がなくなるし、強い意思を持ってる人間なら、そうすぐに操られたりしないわよ。
せいぜい、根性のない一般人を操れる程度。それに実際、『歌』には、攻撃的なものはあんまり無いし」
志保はそう言って、前を行く七瀬の方を見た。
「効果が現れるまでの、10秒。それだけあれば、魔法を使うなり、剣で斬るなり、好きな事ができるわよねー。
だから、あたしじゃ七瀬には勝てないってわけ。理解できた?
あたしは直接戦闘能力は、ほとんどないし、あたしの能力知ってれば、いくらでも対応の仕方はあるのよ。
世の中そうそう、うまい話ばっかりじゃないってわけ、健太郎。それにね………」
そこまで志保が言ったとたん、壁から、ゆっくりと赤いウサギが、実体化していく。
志保は、ぽん、と健太郎の肩を叩いた。
「こういうのにも、あたしの『歌』は効きにくいのよ。じゃ、あたしは後ろで見てるから、頑張ってちょーだいね」
「……はい」
なんか騙されてるような、と健太郎は呟きつつ、腰に差している剣を抜き放った。
「喰らえ、乙女の一撃っ!!」
旋回する大斧が、軽々と赤いウサギ達を薙ぎ払う。
砕け散ったウサギは、赤いチョークの粉となって、当たり一面に飛び散った。
幾重にも突き刺される爪をかわし、七瀬は確実に1頭、また1頭と、仕留めていく。
「七瀬、すげぇ……」
「いつまでボーっと見てんのよ、ほら、あんたもとっとと行って、手伝いなさい!」
げしっ、と志保に尻を蹴られて、健太郎は、七瀬の背後から迫っていたウサギに、まともにぶつかった。
「いてて……うわああああっ!?」
攻撃を邪魔され、激怒したウサギの一撃を、悲鳴を上げながら、健太郎は床に転がって避ける。
一見、次々に振り下ろされる爪を、健太郎は全てかわしているように見えるが、実は何発も身体に命中していた。
だが、その度に、鎧が淡く輝き、攻撃を跳ね返している。
「……ううん、あの鎧、かなりの値打ち物ねぇ」
のほほんと志保が観戦する中、なんとか健太郎は身体を起こし、剣で殴りかかった。
「とりゃあっ!」
七瀬と比べると、いまいち迫力に欠けるが、それでも剣はウサギの頭を両断する。
ぱっと飛び散るチョークの粉を振り払い、健太郎は威勢良く叫ぶ。
「よし、次っ!」
「次は後ろ」
「そりゃあっ!」
「ほら、右から」
「え、えいっ!」
「前、前前!」
「うわわわっ、くそっ!」
乱戦に慣れていないのが、丸わかりの健太郎に、志保は肩を竦め、応援を諦めた。
「……ま、あの鎧があるんだから、死にはしないでしょ」
悲鳴と共に、また転んだ健太郎を尻目に、志保は背後を振りかえった。
「……で……ひょっとして、後ろから来てるこいつらは、あたしが何とかしなきゃいけない訳…」
背後から一斉に跳びかかって来たウサギに、志保は引き攣った顔で、悲鳴を上げた。
【七瀬、志保、健太郎 塔の中で、赤いウサギと交戦中】
新スレおめでとうございます。
前スレでちょっと言われていた、志保の『歌』についてでした。
>>22 こうして絵で改めて見ると、やっぱりいいですねぇ(w
後、こういう事書くのは、ルール違反だということはわかっていますが、
誤解が生じているので、どうしても一言。
『歌』に操られた後で、健太郎が頭痛を訴えたのは、精神支配の後遺症ではありません。
あれは、健太郎を正気に戻す為に、七瀬が健太郎の頭をどついたからです(w
>一緒になって帰ろうとする健太郎を、七瀬はその岩をも砕く鉄拳で[説得]した。
ここだったのですけど。
実際には、後遺症なんか、考えて無かったです(苦笑
わかりにくかったようで、誤解させてすみませんでした。
それなりの場数を踏んだ人間が、異常事態にあたった場合。
普通の人間とは逆に、むしろ落ち着いてしまうことがある。
いま現在における弥生の精神状態が、まさにそれであった。
(あれは……何者だったのでしょう?)
彼女は”一喝”と呼ばれる店で、高槻をようやく発見するも逃げられてしまっていた。
そののち偶然とは言え、通りの片隅を走る高槻の姿をふたたび発見できたのだ。
しかし追いかけようと走り出した瞬間に、いつの間にやら現れた二人組によって手早く箱詰めされてしまった。
あきらかに、その手の荒事に慣れた-----”玄人の仕業”であった。
弥生はしばらく尾行を続けようとしたのだが、明らかに警戒しているため、断念せざるを得なかった。
しかも力任せでどうにかできるとは思えないような、そんな相手がふたり居ては手を出せるはずがない。
----考えてから、行動する。
ときおり踏み外してしまうとは言え、弥生はそういうタイプの人間なのだ。
結局、諦めるしかなかった。
(どこから恨みを買っても、おかしくない男……)
かつて独自に調査した高槻の経歴をまとめるにあたって、弥生自身が下した評価だ。
(……それが、こういう形で現れるとは……皮肉なものね)
空を見上げ、無念に立ち尽くす弥生であった。
* * *
偽装の酒場から"謁見の間"に通じる通路は、基本的に一本道である。
途中、一回だけ枝分かれする通路があるのだが、こちらへ好んで進むものはいない。
分岐した地下通路は湿気を抱き込んで、苔と汚水を溜め、深く深く潜っていく。
”謁見の間”から分かれて数十分、更に暗いところにあるのは-----地下牢なのだ。
牢となれば誰もが忌避するものだが、まして盗賊ギルドの牢である。
汚いくせによく整備の行き届いた牢の中で、たいていの入牢者は覇気なく救いを待つに止まるのみだ。
しかし-----この新参者は、違っていた。
「ここはどこだっ! それに暗いっ! 暗いぞおおおぉぉぉぉ!!」
塩漬け魚の濃厚な臭いを漂わせ、ロード・高槻はひさびさに木箱から脱出できたのだ。
(こいつは……何故ここまで大声を張り上げねば、情況認識できんのだ……)
傍らの闇の中、呆れる岩切が居る。しかし彼女に気付かぬまま、高槻は叫び続ける。
「……はっ! まさかっ!? この暗闇はっ!?」
顔色を変えて辺りを見回すと、彼はまたもや声の限りを尽くして叫ぶ。
「まいったっ! 俺はまいったああああぁぁぁぁ!!」
とうとう耳を塞ぎながら聞くことにした岩切をよそに、高槻の絶叫は続く。
「なんということだあああぁぁぁぁっ! 俺が寝ている間に、全ての店が閉店してしまったのかああぁぁぁ!?」
(-----ばっ……馬鹿だっ!)
岩切は、心の中でひとり断言した。
気の毒なことに少々高槻の影響を受けているのは、無意識である。
(これは噂以上の、馬鹿だっ! 馬鹿すぎるっ!!)
彼女は貧血にも似た眩暈を覚えながら、高槻が独力で現状を認識する可能性を諦めた。
大きく一回ため息をついて、壁面にこびり付いた苔を毟り、軽く丸めて高槻にぶつける。
それと同時に、岩切は自身の存在を明かした。
「……少しは静かにしろ。貴様ほど喧しく無様で頭の悪いやつは、珍しいぞ」
声のするほうへ振り向くと、高槻は叫んだ。
「誰だあっ!?」
「……誰だと聞かれて、答えるものか。 強いて言えば、ちかごろ帝国の締め付けが厳しいせいで、懐の寂しい者だ」
岩切は平然と嘘をつく。慣れたものである。
そんな岩切のほうへ、高槻は怒りを顕わに突進する。
「女ぁっ!! 舐めた事を言うなああぁぁぁ!!」
(……何故武装が銃だというのに、接近せねばならんのだ?)
もちろん身体検査済みなので、銃は岩切が没収しているのだが、あまりの意外な行動に彼女は驚いた-----
どがしゃっ!!
-----とは言え、間には鉄格子がある。
「ぐおおおおぉぉぉぉっ!!」
全速力で激突してしまった高槻は痛みに地面を転がり回っていたが、しばらくすると立ち上がり、手を叩くと言った。
「ぐああぁぁっ格子!? これは鉄格子なのか!? -----判ったっ! 俺は判ってしまったああああああぁぁぁ!!」
「……何がだ」
「これは、監禁プレイだっ!! 俺はこれが好きだっ! 大好きなんだあああぁぁぁぁっ!!」
げしっ!!
呆れを通り越し、もはや怒りへ到達した岩切は格子越しに蹴りを入れ、叫び返した。
「馬鹿者! 貴様の好みなど知ったことかっ! 監禁されているのは、貴様のほうだっ!!」
「なにっ!?」
「だから、これで一筆書けっ! 執事に金を出すよう説得するんだっ!!
成功すれば、自由の身-----失敗すれば、貴様はここの……苔になる!!」
ようやっと、お決まりの台詞を言えた岩切は、山のように大きな荷物が降りた気がした。
しかし、高槻相手の過酷な運命は-----そう簡単には、彼女を放しはしなかった。
【篠塚弥生:耕一と岩切を発見していましたが、危険を察知して追跡を諦めていました】
【岩切花枝:地下牢にて高槻相手に苦戦中】
【高槻:まだ過酷な現実が解っていません】
毎度、挽歌でございます。
「逃したものと捕らえた者」を、お送りいたします。
この話は「なんでも屋」(>>前スレ512-514)から続く岩切パートです。
「来なさい。言っておくけど、狙ってみたって無駄よ」
麗子の冷ややかな言葉が耳を離れない。
圧倒的な力……麗子は背を向けているのにもかかわらず、全くスキを見せていない。
(怖い……でも…やらなきゃ……この女を……石原麗子を―――――)
クナイを握る手に力がこもる…
覚悟を決め、全神経を研ぎ澄ます。
麗子とマナ…二人を結ぶ直線上から行き交う人ごみが途切れる。
ザッ!
マナは一気に麗子の懐に―――――
「今まで私に送り込まれた刺客、一体何人いると思う?」
「!?」
「9人よ。みんな死んだわ……私が殺したんだけどね」
完璧だった……踏み込むタイミングも、狙った急所も。
だが止められた。
マナの繰り出した斬撃は麗子のか細い二本の指で止められていた。
「これであなたも立派な抜け忍よ。明日になれば宗純の忍びリストからあなたは消されるんですもの」
トンッ!
そこでマナの記憶は途切れた。
「フフフフフ〜ン♪フンフフフ〜ン♪」
その日、九品仏大志はツイていた。
宿屋の廊下をふらついていたら宿屋のおかみさん(けっこう美人)の着替えシーンが覗けたり、
近所のおばあさんが無くした指輪を偶然見つけてお駄賃(飴玉3コ)をもらったり、
道端で金貨を拾ったりと立て続けにラッキーな出来事が起こったのだ。
「ふむ、今日はやろうと思えば何でもできる気分だ。こんなに清々しい気分は久しぶりだ」
少しツイてるからといって、神にでもなったかのような気分で問屋街を闊歩する大志。
田舎者の大志だが、何故か人ごみの中を歩くのには慣れている。
人と人の間を縫ってスイスイと前進する。
何を買うわけでもなく気ままに歩く市場…
魔術師姿ではしゃぐ大志の姿は、かなり異様なものであった。
「おい、アイツ…」
「魔術師が鼻歌歌いながらスキップとかするなよ…」
「怖いよママー」
すれ違う人々はそんな大志に余すとこなく熱視線を浴びせかける。
しかし、大志本人は一向に気にしない。何故なら、彼にとっては自分と同志以外は全て愚民なのだから。
「おや?あれは…」
ふと、大志の目に止まったもの…それは、まだ年端もいかない少女が路上に横たわっている姿であった。
「なるほど……レフキーでは行き倒れがいても気にも止めないのか。これだから衆愚共は……」
大志はつかつかと少女のもとへ歩み寄り、何のためらいもなく抱き上げる。
ぐったりとした少女……まだ息はある。
カラン…と、少女の手から黒光りする刃物がこぼれ落ちる。
が、大志は気付かない。
「クククッ…しかも極上の美少女ではないか。これなら、将来は我が妻として迎えてやってもいいぞ」
大志は少女の顔を覗き込むと、不気味な独り言を口走りながら宿へ帰っていった……
その後、少女は丸三日間眠り続けた。
それから前スレのまとめについてですが。
「人生の曲がりかど」のあと「過去と現在」が上がったのですが、入り口に居るみさき達の存在が
無視されており、また捕まった直後の高槻の情報が流れているため時制に余裕があると考え
間の話を入れさせて頂いております。
「人生の曲がりかど」&「盗賊の王国」>「ふたりの荷物」>「なんでも屋」
>「みさきの奇癖」&「魔族の剣」&「逃がした者と捕らえた者」>「過去と現在」になります。
……分岐が激しく申し訳ありません(´Д`)ノ
【観月マナ 負傷】
【九品仏大志 マナを宿屋へ】
こんにちは、1です。
1の仕事を全くやっていないヘタレっぷり…誠に申し訳ありません…
そしてもみおせるさん…編集サイトの立ち上げお疲れ様&ありがとうございます。
さて、今回のお話は、前スレ
>>584-585の「密命」に続く話として書かせていただきました。
この後のマナの動向や、大志の動きは次の書き手さんに任せます。あと麗子も…
また挟まってしまいましたスンマソン……しかも
>>1さんじゃないですか……。
吊るしかないか……。
いや、ここは八頭身化して追いかけるしか(藁
>>37 いえいえ、自分がモタモタしてたのが悪いんです…
それに、今は前スレの1なもんで(恥
このUスレの
>>1さん、すいません…
>>28 お疲れ。
次の更新を期待しているよ。
Story Jumpが便利だなぁ。
>>35 読み返した。
進行は遅いようだが気にせず整合性を高めてくれ。
編集HPのStory Jumpで続けて読んだ時に違うわ。
ばさり、闇色の外套を翻して。
村を囲む森の入り口、一騎の騎兵が華麗な装飾の刻みこまれたサーベルを、高々と夜空に向けて振りかざす。
天の最も高いところに上り詰めた月は見事な満月。
すでに村人は寝入っているのだろう、魔物避けの柵と空濠に囲まれた村落に人の動きはまったくない。それはすでに斥候を放って確かめている。
「…………」
鬱蒼と覆い茂る樹木が生み出す闇の中、馬を寝そべらせて指示を待ちわびる兵の一人が、サーベルを一向に振り下ろそうとしない指揮官に問うような視線を送った。
指揮官、吉井はその視線を受け、迷いもあらわに村落と兵とを交互に見交わす。
松本を捜しに行った岡田隊が、一昼夜を過ぎてまだ戻らない。
彼女としては、松本を拾い、橋を落とした岡田隊と合流して兵を結集させ、万全を期して秘宝の奪取に動きたいのだ。
吉井はあまり積極的なタイプではない。常に攻撃的でアクティブな思考の岡田、いつもあーぱーですかたんな松本に対し、慎重で理知的な吉井はストッパーの役に立っている。それで上手くこの三人組は機能しているのだが、それだけにばらばらとなると途端拙くなる。
「……と言っても……」
待つにも限度がある。うーん、と吉井は小さく唸って首を傾げた。
いつ岡田たちが戻るかわからない。朝が来て村人が起き出せば、ことは運びにくくなるだろう。
いや、帰らない彼女らを待ちわびて、王国の特務部隊が任務を遂げて何時の間にか離脱していた、などということになったらお話にならない。
橋を落として回る計画は、そんな事態が起きた時足止めを食らわせる目的もあったのだが、この分ではそれも期待できそうにない。
……しばらくの沈思の後に。
「……やるしかないのかなぁ」
やや気弱げに呟いて、再三吉井は背後を振り返った。
自分の隊と、預かった松本の隊併せて四十騎ばかりの兵。
……特務部隊のたかだか二人と冒険者の数人を片付けるには、十分過ぎる兵の数だ。
同時に、朝が来て村の近くに身を潜めつつ、その存在を秘匿するには難しい兵の数でもある。
サーベルを振り上げてたっぷり一分。
「……やるしかないのかな、やっぱり」
逡巡に逡巡を重ねて吉井はようやく決断を下した。
ことは計画通りに運んでないし、ついでにこの手の後ろ暗い任務は好きではないのだけど、任務だから仕方がない。
最後にもう一度自分自身に言い聞かせて、彼女は指揮状替わりのサーベルを、勢い良く振り下ろす。
その切っ先が指し示すのは、平和な眠りに包まれる秘宝塔を臨む村。
「……全騎突撃、村落を占拠せよ! 盗み殺しは厳禁、背いた者は斬刑に処す!」
叫んで馬の腹を蹴り、駆け出す愛馬の背から続けざまに今回の作戦の肝となる指示を下した。
「村の有力者の妻子は人質に使う。捉え次第私の下に連れて来い!」
やがて、秘宝塔から帰ってくる王国兵や冒険者たちは、ベースキャンプであるこの村に帰ってくるだろう。
その安息の地が、わずかな間に敵地と変じているとは流石に歴戦の(と、吉井たちは信じていた)特務部隊員でも気付くまい。
今より、村落は帝国軍が定めた獲物を捉えるため、幾重にも張り巡らされた蜘蛛の巣の一部へと組みこまれるのだ。
四十騎の騎兵が駆け去った、その後の森の中。
がさり、音がして茂みの一つからひょっこりと青年の首が生えた。
「……無茶するなぁ。敵国の領域内だっていうのに」
"だいたんなの"
「大胆って言うより、無謀なのでは……」
続いてスケッチブックを掲げた腕、白フードに包まれた女性の頭がにょきにょきと茂みから突き出して来る。
「どうしましょう……? ここまでやる以上、見つかれば部外者だからってただで帰してもらえるとは思えません」
ことが漏れたら外交問題どころか即座にドンパチに突入しかねない。冒険者、魔術アカデミーの構成員、今の彼らにそんな区別はないだろう。
茜の危惧に頷いて、明義は茂みから上半身を乗り出して村落の様子を窺った。
何事も無かったかのように静まり返る村落――おそらく、寝込みを襲われパニックに陥る暇すら無いままに制圧されたか。
「なんにしても、動向を探るってのは正解だったな。これで幾らか打つ手は増える」
"どうするの?"
どこかしら自信ありげに呟く明義に澪がスケッチブックに問いを書きつけ、茜とともに期待を込めた視線を送る。
南はどっしりと構え、さっきよりも自信たっぷりに。
「それを今から考えるんだ。ま、考えるのは二人に任せるけどな」
……もちろん、直後に二人からの手厳しいツッコミが入ったのは言うまでもない。
【吉井】秘宝塔の村を占領。
【茜・澪・明義】村の側で作戦会議。さてどうするか。
44 :
月島拓也:02/01/07 03:17 ID:uawmkAXV
「全く、柳川さんにも困ったもんだ」
拓也が朝食をとりながらぼやく。普通の宿の普通の食事。悪くもないし、良くもない料理。
相棒の柳川が友人の頼みとやらで仕事を投げだして海賊退治に行ってしまったので仕方なく宿で待っているのだ
「月島さん、仕方ないですよ。大事な友達さんらしいじゃないですか」
マルチが拓也のぼやきに対して答える
「友達ねえ」
拓也は驚いていた。柳川が仕事より重要な友人を持ってるとは思えなかったからだ。
輸送の仕事で道草を食うのは賢くない。すでに追っ手が差し向けれていることがわかっている時は
「月島さんにはそんな友達はいないんですか?」
「え?」
拓也は少し驚いた。自分の友人関係が恐ろしく希薄な事に気づいたからだ。
拓也は柳川のように人を避けている(勝手な推測だが)わけじゃない。むしろ、どんな人間ともそれなりに関係を築いている。
「…友達と胸を張っていえる知り合いはいないかも知れない」
ただ、そのそれなりの関係が友人といえるほど、深いところまでいかないのだ
「月島さん、すいません」
マルチが謝る。
「いや、いいんだよ。マルチちゃん」
「で、でもわたし、失礼なこと聞いちゃって」
「だから、いいって気にすることないよ」
「あの、でもすいません」
「ふふ」
拓也がちょっと嬉しそうに笑った。
「?」
マルチは訳がわからないといった顔をする
「すまない。ちょっと、妹のことを思い出したんだよ」
「妹さんですか?」
「ああ、瑠璃子って言ってね。よく失敗をして今のマルチちゃんみたいに何度も謝ったものさ」
心の中でさすがに君ほどドジじゃなかったけどと付け加える
45 :
月島拓也:02/01/07 03:18 ID:uawmkAXV
「へ〜、そうなんですかぁ」
「うん、まあもっと瑠璃子が小さい時だけどね」
「瑠璃子さんは今どうしてるんですか?」
「………」
拓也が押し黙る
「ごめんなさい。またわたし、失礼なことを」
「いや、気にしないでくれ。ただ、瑠璃子は音信不通で今何をやってるかわからないんだ
「え…」
「傭兵になって家を出てからしばらくして連絡がつかなくなったんだ。家に帰ってももぬけの殻だった」
「そんな…」
拓也が傭兵になったのは瑠璃子のためだった。ある日、拓也は唐突に妹を女としてみている自分に気づいたのだ。
拓也はこのまま自分を放っておけば、いずれ自分は自分を止められなくなり瑠璃子を不幸にしてしまうと考えたのだ
それで引き止める妹を置いて傭兵として旅に出たのだ。
瑠璃子が平凡な幸せを手に入れればいいと思っていた。
しかし、自分が見ていないところで妹になにかが起きてしまった
46 :
月島拓也:02/01/07 03:18 ID:uawmkAXV
「妹の危機に妹のそばにいられないなんて、僕は兄失格だ」
「月島さん、そんなことないです。月島さんはこうやって瑠璃子さんの心配をしてるじゃないですか。それだけで立派なお兄さんですよ。瑠璃子さんとはきっとどこかで会えると思います。だから、そんな風に哀しそうにしないでください」
マルチはまくしたてるとぜえぜえと息をついた。
「マルチちゃん…」
拓也は驚いていた。いつもドジばっかり踏んで謝ってばっかりのマルチに励まされるとは思ってなかったからだ。また瑠璃子の話をした自分にも驚いていた。
妹と連絡がつかなくなってから妹のことを考えると狂いそうになりとてもまともじゃいられないのに今日は普通に話を出来ている
「月島さん、お節介かもしれないですけど」
マルチが立ち上がる。そして手がテーブルの上のコップにあたり
バシャ
拓也にコップの水がかかった。
「はわわ、すいませーん」
「ははは」
思わず拓也は笑っていた。マルチはまだ謝り続けてる。拓也はこの時マルチに高い輸送代金が賭けられてる理由がわかった気がした。
そして同時に考える。このまま仕事をして成功したとしてマルチはどうなるのだろうか、と。そして失敗したらどうなってしまうのか、と
「とりあえず柳川さんが帰ってくるまで何もなければいいが…」
拓也はつぶやいた
【月島、マルチと談笑】
ってことで前スレの621にしてUスレの1でふ(w
上記忘れましたが、前スレ
>>595-597"大変が変態さんなの"より引っ張らせて
もらった。時間軸の流れが微妙だけど……塔の中と外の時間はどう相関してい
るのだろう?
きちんと併せるべきだったか……後より後悔、いろいろスマソ(汗)
>>39 前スレの1氏、お構いなく。
漏れ、スレ立て見てもわかるように、面倒ごと全部ほっぽり投げてるから(爆)
最初期の設定相談の時も、コテハンやトリップつけるの面倒で最後まで名無しで通したしね(w
とことん無責任体質の人間なので、気にせずとも構わんですよ。面倒ごとはお任せしますから(爆
前スレ>635〜639の自警団の作戦の時の拓也とマルチです
たぶん、今までの話と矛盾してないと思うんですけど
危うく分断するトコだった……(汗
ニアミススマソ(汗
いや、漏れがもうちょい待てばよかったんだけどね…
まあ、それはともかくお休みー
昔から、この街にはある種の「祭」が存在した。
冒険者が集う宿や酒場が取り仕切るその「祭」は「お披露目」「テスト」「品評会」など、さまざまな呼び名を持っていた。
無名で実績もなく仲間もいない冒険者のために、彼(あるいは彼女)の腕前を披露できる場を用意する。
そしてそこには、腕前を見て仲間に誘おうとする者、仕事の依頼人、単なる見物客が集まり、
さらには彼らを当て込んだ屋台や出店が軒を連ね、大道芸人や占い師などが芸を披露する。
腕試しに挑戦する冒険者の質が高ければ、結果として「祭」を開いた宿や酒場の評価も高くなった。
冒険者が多く集まるその性質上、荒れたり暴れたりすることも昔は多かったのだが、
大庭詠美女王の命令で軍も積極的に祭の治安維持を行うようになり、近年「祭」としての質はより高まってきていた。
そしてこの日は、いつもレベルの高い冒険者を出すと評判の店が「祭」を開催していた。
国崎往人はその日の芸の収入を前に、魂が抜けそうな表情で佇んでいた。
「ぱぎゅ?往人さん、どうなさいましたの?」
そこへ、屋台で焼き鳥を買ってきたすばるが戻ってきた。往人の目の前に手をかざしたりしても、反応がない。
見物料入れの帽子の中を覗いてみると、ほんのコイン数枚だけ。小一時間やってこれは確かに少ない。
「えっと……往人さん、人形芸をなさいましたのよね?」
「……あ、ああ……」
「この街は冒険者が多いですから、普通に踊らせた程度ではウケは取れませんのよ?
もう少し工夫をなさった方がよろしいと思いますの」
「……ああ……今後はそうする……」
完全に放心状態の往人。そこに突然すばるが、何かを思いだしたように立ち上がった。
「ぱぎゅう!そうでしたの!往人さん、そろそろ今日の『お披露目』の時間ですの!」
「……俺はいい……1人で見てきてくれ……」
「そんなんじゃダメですの!あたしたちお仲間を捜しに来ましたのよ!一緒に見に行きますの!」
帽子と、隣りに倒れ込んでいる人形を拾い上げ、座り込んでいる往人の腕をひっぱるすばる。
引きずられるように立ち上がり、往人もしぶしぶ『お披露目』の会場に向かった。
「で、今日の『お披露目』は一体どんなヤツなんだ?」
「聞いた話では『銃使い』さんらしいですの☆」
「そら珍しいな」
会話を交わしながら、2人は見物の列に潜り込んだ。
「丁度始まるところらしいな。よ、っと……」
「うんせ、っと……ぱ、ぱぎゅう!?的までの距離が遠すぎますの!」
銃は、物によっては、誰が使っても相手を行動不能に出来るほどの威力がある。
その代わりに品そのものが珍しく、手入れも大変で、何より扱いが難しい。
粗悪な銃なら5m離れればもう当たらず、良品でも100m先を狙うのは至難の業とされていた。それが……
「350……いや、もう少しはあるか。あんな距離で当た」
その瞬間、時が凍りついた。
クセのある金髪の銃使いの男が、何の気配も見せずに引き金を引く。
赤く塗られた的が砕け散る。
時が戻った世界。一瞬場は静まり返り、やがて大歓声が巻き起こって男を称えた。
「…………す、すげぇ……」
ようやく一言つぶやいた往人。ボーっとして何も言えないすばる。
「あれが、銃使いですか……」「是非とも、仲間に誘いたい……」
周りでは冒険者らしい者達の声も聞こえた。
「ぱ、ぱぎゅう!すごいですの、すごすぎますの!!」
「ああ、すごい……けど、違うな」
「え?何が違いますの?あの方をお仲間に誘いには行きませんの?」
「そうだな。あいつの技術は凄いとは思うが、なにぶん相性が悪い」
「??どういうことですの?」
未だ鳴りやまぬ歓声の中、指を折りつつ理由を並べる往人。
「1つ、格闘系と銃は相性が悪い。銃の暴発の可能性を考えると、せめて長剣、できれば槍と組むのが理想だ。
1つ、俺は一応剣も使えるが、どちらかというと投擲が得意だ。飛び道具2人というのはバランスが悪い。
1つ、どうやらあいつも冒険の経験はないらしい。出来ればしばらくは経験を積んだベテランと組みたい。
俺は旅は長いが冒険を始めたのは最近だ。確かすばるもそう言ってたよな?」
うなずくすばる。
「はい、そうですの。あたしは旅を始めたのも最近ですの」
「つまりそういうことだ。まあ、ここには冒険者が結構集まってる。他の人を捜してみよう」
「はい、わかりましたの。経験を積まれた方で、近接戦闘か魔法を使われる方ですのね?」
「ああ。そんなに簡単に見つかるとは思えない……け…ど……」
「ぱぎゅ?どうしましたの?」
その時往人は1人の人影をとらえていた。
白髪で髭を蓄えた老人、いや壮年の男。歳不相応に鍛え上げられた身体に、鋭い眼光。
品のある黒のライトアーマーに、腰にはレイピア。物腰の端々に見える、隙のない動き。
往人の頭に直感が閃いた。あの男に仲間になってもらうべきだ、いや、そうしなければならない。
瞬間、往人は走り出していた。
「ぱ、ぱぎゅう!待って下さいの〜!」
「なあ、あんた冒険者か?仲間はいないのか?」
いきなり背後から降りかかった往人の無礼な質問に、しかし男は落ち着いて答えた。
「いかにも……単独で行動している冒険者だが?」
往人も背丈はある方だが、振り向いた男はさらに頭1つ分背が高かった。
「それで、ここに来ているって事は、あんたも仲間を捜しているってことか?」
「そうではない。探し人をしておる。ここには冒険者が集まるからな」
「そうか、あんたも人捜しか、それは都合がいい。あんた、俺たちの仲間になってくれないか?」
男は質問に答えず、逆に質問を返してきた。
「都合がいい、とはどういうことかな?」
「俺も人捜しをしているからな。旅の目的は同じか、相反しない方が、パーティとして行動が取りやすい」
そこに、人混みにのまれて遅れていたすばるがようやく追い付いてきた。
「ぱぎゅう、置いていくなんて往人さんひどいですの……」
だがすばるには目もくれずに、往人は男と話を続けた。
「まあ訳あって秘宝も狙っているんだが。で、仲間になってはもらえないか?」
「何故儂が1人で行動しているか。足手まといは不要だからだ。わかるな?」
「つまり……俺たちの腕を見せろ、と?」
「いや、お主だけだ。そっちの娘は見ればわかる。格闘家、それもなかなかの腕のようだ。
比べてお主は、見ただけでは普通の人間だ。何が出来るか見せてもらおうか。話はそれからだ」
「そうだな……じゃあ……」
往人はしゃがみこみ、足下から石ころを3つ、拾い上げた。
「こいつでどうだ?」
少し拍子抜けしたような表情で、男は聞いた。
「……どういうことだ?」
「あんたは、そうだな……100m先から俺に殴りかかってきてくれ。本気で来て構わない。
俺はあんたに3つ石を投げる。あんたが俺を殴れればあんたの勝ち、それまでに石を3つ当てられれば俺の勝ち。
こんなところでどうだ?」
「……面白い。3つ全て当てるというのか。まさか避けるなとは言うまいな?」
「好きにしてくれ。どうせ当たるんだ」
「ふははははは!!気に入った!その勝負、乗ってやろう。本気で行くぞ、小僧!」
さっきの銃使いの周りとはまた別に、新しく小さな人垣が出来た。
レイピアをすばるに預け、100m程先で身体をほぐしている男。
「ほ、本当に大丈夫ですの?心配ですの〜」
「大丈夫だ……そろそろ始めるか。ちょっと離れていてくれ」
「ぱぎゅう……それじゃあせめて応援いたしますの。頑張って下さいの〜☆」
黙って親指を立てる往人。そして男に開始の合図を送った。
猛然と走り来る男。すぐさま投げる体制に入りつつ、往人は呪を唱えた。
「(我願う!『敵』を『的』と為し、必中せしめよ!)」
距離はあと30m程。すかさず往人は石を投げた。
それも、3つ同時に。
(ぬぅっ!)
男の顔に一瞬驚愕の表情が浮かんだ。だがスピードを落とさず左に避け、石の進路から身を外した。
しかし石は進路を変え、男に向かってきた。
(読まれていたか?だがっ!)
今度は高く跳躍した。しかしさらに曲がり、執拗に男を目指す石。ここに至って男は理解した。
(必中の術か、変わった術を使う。ならばっ!)
目前に迫った石。男は手を大きく振り回し、その石の1つを「つかみ取った」。
「ぱ、ぱぎゅう!普通あんな事できませんの!」
「な、なんだと!そんなの……ありかよ?」
残る2つの石が鎧に当たり、甲高い音を立てた。しかし往人の耳にその音は入ってこなかった。
悠然と迫り来る男を、ただ呆然と見ているだけだった。
「面白い技を見せてもらった。だが、ここまでだ」
男は拳を振り上げた。往人はせめてもの抵抗と、相手の目を睨み返した。
「噴ッッ!!」
「ぱぎゅうっっ!!」
惨状を予想し、目をふさぐすばる。静まる観衆。だが、打撃音は聞こえてこなかった。
「……えっ?」
おそるおそる手をどけたすばるの目に映ったのは、往人の目の前で拳を寸止めした男の姿だった。
「……なんで拳を止めた?」
「……ふっ、お主を気に入ったからだ。特に目が、な」
言いつつ拳を解き、往人に握手を求める男。
「よかろう、しばしの間はお主らと共に行動するとしよう」
「ほ、本当か!ありがてぇ、感謝する!」
手を握り返す往人。すばるも駆け寄ってきて手を重ねた。観衆から何故か大拍手が巻き起こる。
「やりましたのね、往人さん!それと、よろしくお願いしますの!ええっと……」
「そう言えば自己紹介が遅れたな。儂は……そうだな、セバスチャンと呼んでもらおうか」
「はい、セバスチャンさん、よろしくですの!わたしは、御影すばると申しますの!」
「で、俺は国崎往人。よろしく頼む」
往人の名を聞いた途端、セバスチャンの顔に怪訝なものが浮かぶ。
「国崎……だと?」
「ん?あんた知っているのか?」
「いや、大したことはないが……まあ後で良かろう。とりあえず酒場にでも行かぬか?
せっかく組むことになったのだ、祝杯でもあげるとしようではないか。それに聞きたいこともある」
「あんたのおごりか?」
「ふはははは!太いヤツだな、小僧。いいだろう、ただし1杯だけだぞ」
そして酒場に向かう3人。
だが、観衆の1人が後からついてきているのに、3人は気付いていなかった。
【国崎往人・御影すばる・セバスチャン、パーティ結成】
【セバスチャン(長瀬源四郎) 剣士 目的:人捜し 長瀬能力(笑)は不明】
【??? 3人を尾行 目的:不明】
書くほどになんか長くなっていくー……ふみゅ〜ん……
というわけで、ここらへんで一旦区切ります。もちょっと書きたかったけど(w
てなわけで「もう1つのテスト」でした。
話としては006「Come With Me」の続きで、032「集中力」の舞台を使わせてもらってます。
ていうか誰か北川を連れてってやってください(w
>>40 どもどもですー。アレは、ハカロワ読んでるときに「あったらいいなぁ」って思ってたんですよー。
今週中に#1の分までは完成させたいと思ってますが、さてどうなるやら(w
59 :
凶夢:02/01/07 17:33 ID:aV/xafpZ
「きゃうっ!」
ズダンッ!
「佐祐理さん!」
「なんだっ!?」
「子供?」
隠れていた机が佐祐理ごと吹き飛び、その姿を完全に現した小さな子供は明かりが眩しそうに目を腕で庇いながらゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫か!?佐祐理さん!」
「つ…だ、大丈夫です。それより浩之さん、あれ…」
自分の事は構わないと言う様に立ち上がった佐祐理は少女が首から下げている宝石を指差した。
「あれは…秘宝ですね。」
「なるほど…秘宝塔のご主人様のご登場というわけだな。」
そう言って彩と蝉丸はそれぞれ身構える。
「んな事言ったって…ただの子供じゃないか!?」
「見た目に惑わされてはいけません、浩之さん。"アレ"は私達とは異質の者です。」
戸惑う浩之にセリオが冷静に言い放つ。
「くっ…!」
対峙する浩之達の前で少女は突然苦しそうに胸を押さえた。その理由は地上でルミラや志保達が自分の力の分身である兎を次々と倒しているからなのだがそんな事を浩之達が知る術は無い。
「ハァ…ハァ………せっかく…またお母さんに会えたのに…あなた達はいつも…いつもっ!」
憎しみを抑え切れないといった感じで叫ぶ少女の目はどこか虚ろで焦点が定まっていないようにも見える。
「お母さん?」
「許さないから…!絶対に許さないからっ!」
・・・ざわ・・・ざわ・・・
「気をつけてください。子供の周りにあと二体、"正体不明"が出現しました。」
「見えるのか、セリオ?俺には何も見えない。」
「私も……魔力感知で気配なら…わかります…」
彩はそう言って自然術詠唱の準備に入った。
「待ってください!佐祐理にはこの子が…」
「来たぞっ!」
蝉丸は剣の腹で第一撃を受け流した。
>>59 【川澄舞×1 魔物×2 があらわれた!】
マターリがちっとも入ってない…(^^;
みおせる氏、まとめ役ご苦労様&感謝ですヽ(´ー`)ノ
61 :
社長室にて:02/01/07 22:40 ID:E8j75jXY
貿易港フィルムーンにある『宮内貿易公司』本社……
早朝の『競り』も既に終わっており、時刻は8時半を指していたが、社長室で何やら
話し合いが行われていた―――
中では、『キモノ』を着た女性が髭面の中年男性と話し合っており、その傍らで秘書らしき青年が
書類をまとめている。
「今日の競りで第四倉庫は空っぽになりましたわ、どうしましょう」
「なら、明日は第三倉庫の品じゃないか。それに夕方にはウチの船が着く、心配するなよあやめ」
「あらあら、そうでしたわね。」
『宮内あやめ』―――ジョージの妻にて『宮内貿易公司』の副社長を務める―――は
笑顔を絶やさずに相づちを打つ。
「とにかくだ、あやめよ、明日はスゴイ物を競りに出す」
「ええ、先程拝見しましたわ。でも―――先程、お客様からこういう噂を聞きました。ご存知ですか?」
「何をかな?」
「なんでも海賊が襲って来るという噂が……怖いですわねぇ」
「海賊?……まさかな……」
二人とも笑顔で話しているために緊張感が解り難いが、気楽にとっている訳ではない。
暫くして重々しく口を開くジョージ……
「だが……事実だとしても、どうしようも無い。自警団の方々に期待するしか……」
「やはり……そうなりますか?あなた」
「残念ながら、な」
そう、市に許可を貰い、警備員を雇ってはいるものの、完全武装した集団に対しては余りに無力。
巡回人数と回数の増加ぐらいしか打つ手が無い……
「でも、やらなくてはいけませんわ」
「あやめよ、そのとうりだ……よし……おい、君」
神妙な面持ちで紙にペンを走らせ、青年秘書を呼び寄せるジョージ―――
「はい、社長。何か?」
「申し訳ないが、この手紙を『警備員詰め所』まで届けてくれ。……大至急だ」
「分かりました」
秘書は手紙を受け取るや否や、一礼をすると足早に部屋を後にした。
「あやめよ、今日は長くなりそうだ……」
「ええ……」
二人の不安をよそに、フィルムーンの海と空は綺麗な青だった……
まるで、結末を知っているかのように……
【貿易公司、海賊襲撃の噂に対し、警備を増強化】
【『自警団本部』と『警備員詰め所』は完全に別です】
【警備員の人数は次の書き手さんに任せます。】
>>61-62『社長室にて』をお送りしました。
時間的には前スレ>635-639『自警団の作戦』からの続きです。
みおせる氏、ログ編集本当に感謝です。
こんこん……と、控えめにドアをノックする。
レフキーの中央の通りを脇にそれ、酒場や武器屋が立ち並ぶ一角に、その家はあった。
「……すいません……いらっしゃいますか? 久瀬ですけど……」
幾度かノックを繰り返すが、一向に主が出てくる気配がないので、仕方なく、久瀬はドアを開いた。
無用心なことに、鍵さえ掛かっていない。
「……団長…?」
「どなたですか?」
ひょい、と裏口から顔を見せたのは、久瀬もよく知っている、ここで雇われている家政婦だった。
体格のいい中年のおばちゃんなので、間違ってもメイドとは呼べない。
「あ、すいません。団長は今、どちらに?」
「あぁ、長瀬さんに御用があったの。残念ね、長瀬さんは今、ちょっと出かけてるわよ」
「ひょっとして……また、あそこですか?」
久瀬の言葉に、彼女はふっくらとした顔に、苦笑を浮かべた。
「中年の恋……いえ、恋したときは、まだ若かったらしいけど」
「はは……若いころ真面目だった人ほど、歳を取ってから入れ込むらしいですから」
本人が聞いていないと思って、好き勝手な事を言い合う二人だった。
かつて知ったる家なので、彼女に進められるまま、久瀬も遠慮なく椅子に座る。
久瀬は、おばちゃんが入れてくれたお茶を飲みながら、ふと顔を上げて、部屋に飾ってある絵に目を留めた。
それは、不思議な絵だった。
どこかの農村を描いたものなのだろうが、驚くほど詳細に描かれている。
「懐かしい?」
「……はは、まぁ、そうですね」
過去を振り返るように、久瀬はその絵を、飽きることなく見続けていた。
そこに描かれる、幼い日の彼の姿。団長。幾人もの子供たち。そして………
中央に佇む、やさしい笑顔を浮かべた女性の姿を。
「久しぶりです……三年ぶりくらいでしたか」
「ええ……もう、そんなになるのですね…あの子達の結婚式から」
白い法衣を着て、どこか遠い瞳で丘を見下ろすその女性は、三十路を超えた今でも、十分美しかった。
長瀬源一郎は、柄にもなく厳しい顔をしながら、彼女と同じものを見ている。
「ロードは今、どうしているのですか?」
「……どうやら、レフキーにお忍びの旅に出ているらしいです」
ぴくり、と源一郎の眉が動く。
「レフキーに…そうですか。この村の人間は、自分の言いなりにならないとわかったのでしょう」
彼が、時代錯誤の『初夜権』なるものをでっち上げたときには、村人の誰もが反対した。
だが、ロードの抱えるゴロツキ達に恐れをなし、誰もが手出しできないでいた。
それを変えたのが、ここにいる一人の女性である事を、誰が信じるだろう。
だが、ゴロツキにも屈せず、ロードに直談判し、愚かな法を止めさせたのは、紛れも無い彼女なのだ。
「浩平は今、どうしていますか……?」
源一郎は一瞬、本当の事を言うべきか否か、迷った。だが、結局彼女に嘘は付けないのだ。
「……今は、レフキーで盗賊達の総元締めをしています」
「…………そうですか」
少しだけ、彼女の表情が翳ったのを見て、源一郎は即座に後悔した。
「由起子さん……」
源一郎が何かを言いかけた時、そこに現れたのは、大勢の子供たちだった。
「シスター! たつやが怪我しちゃったよ」
「川で遊んでて、足を切っちゃったの」
「はいはい、すぐ行くから、ちょっと待っててね」
その場に立ち尽くす源一郎に、会釈をし、彼女は子供達に連れられて、小走りに去っていった。
ほんの、数年前の話だった。
ある村で、幸せな結婚式が行われるはずだった。
幸せな表情を浮かべた少女と、顔を赤くし、それでも幼馴染の少女をエスコートする少年と。
何人もの人々が、彼と彼女を祝福した。
その中に、彼、源一郎もいた。
そして、教会で、由起子が永遠の約束を誓わせる。
口付けを交わす二人を、歓声と拍手で迎えた、あの日。
美しい花嫁衣裳。祝福の言葉。零れ落ちる笑み。
ある者は歌を歌い、ある者は贈り物をし、誰もが二人の門出を祝福していた。
そしてまた、彼らを幼い時から知っている源一郎にとっても、これがひとつの節目になるはずだった。
元々、旅芸人の一座を率いていた彼は、各地を転々としていた。由起子と知り合ったのは、そんな旅先でだった。
親のいない子供たち、親が遠くに行ってしまった子供たち、そんな孤児を集め、
教会で世話をしている、若干17才の少女に、源一郎は、一目で恋に落ちた。
あれから、幾年が過ぎたのだろう。
その場で婚約を申し込んだ源一郎の申し出を、由起子は即座に突っぱねた。
まだ自分には、やらなければならないことが、沢山あるから、と。
そして、こうも言った。
あなたに、私と同じ道を、歩けるはずが無い、と。
それでも源一郎は、諦め切れず、何度も彼女の元に通い続けた。
彼女と同じように、捨てられた孤児たちを世話し、一座に加えながら。少しでも近付けるように。
そしてあの晩、彼女はとうとう、源一郎の熱意に根負けした。
『浩平と瑞佳の結婚が、間近に控えています。それが無事終われば、あなたの申し出を受けましょう』
そう、彼に約束をしたのだ。
源一郎に、異存は無かった。
即座に、率いていた自分の一座を、後継の久瀬に任せていた。
その頃には、『伝説の旅芸人一座』とまで言われていたが、名声など惜しくは無かった。
確かに、そのとき、誰もが幸せの中にいた。
……あの事件が起きるまでは。
(えいえんはあるよ……ここに、あるよ…)
「永遠など、まやかしに過ぎない」
源一郎は低い声で、聞こえてきた幻聴を遮った。
結局、あのような事になってしまって、由起子が結婚を承諾するはずが無かった。
…それでも、今も源一郎は、彼女を愛していた。
ここでこうして孤児たちを引き取り、暮らす彼女のそばに、何度寄り添いたいと思った事だろう。
だが、それは出来なかった。
…今、久瀬はどうしているのだろう。
彼なら、一座を任せられる。
何人もの人間の、入れ替えもあったようだが、彼なら上手くやっていけるだろう。
丘の上で、広い田園を見下ろしながら、源一郎はため息を吐き出した。
「せめて……僕にもう少し、強い意志があれば…な」
過去はやり直せず、未来は霧に閉ざされている。
だがそれでも、先に進まなければならない。例え先に、奈落が待ち受けていようとも。
源一郎は村に背を向け、レフキーに向けて歩き出していた。
まず最初に。
由起子さんファンの皆様、ごめんなさい(苦笑
ちょっぴり切なく、由起子さんを出してしまいました。
【長瀬源一郎 元団長で、伝説の一座を率いていた人物。 能力は不明】
【小坂由起子 高槻の治める村で、孤児院を開いている。源一郎に求婚されていた】
「蝉丸さん、後です!」
「何っ!?このっ!」
ガキィィィン!
「佐祐理さん、俺達は下がった方がいい!巻き込まれないよう援護するんだ!」
「…わかりましたっ!」
乱戦である。魔物は二体、後の少女は戦闘に参加していない。魔物の内一体を蝉丸、彩が相手をし、浩之、佐祐理は後方で怪我人の手当て、セリオがもう一体の魔物の相手をするという陣形だ。
陣形と言えば聞こえはいいが実際その形は半ば崩れかかっていた。魔物は思ったよりずっと素早く力もあり、何より姿が見えない。
彩が魔力感知で目の代わりをし、蝉丸が防御、攻撃を担当するが完全に魔物の姿が見えているわけではなく押され気味。
一方、空気の歪みなどを算出し、映像に変換する事で完全に見えているセリオでさえ攻撃を防ぐので手一杯であった。
ドカッ!
「きゃあ!」
「彩っ!」
「佐祐理さん、薬草出して!」
「はいっ!」
「大丈夫かっ!?」
「だ、大丈夫です。それより…前です!」
「くっ!」
セリオも手間取っていた。
(なんです!?これは…)
映像化された魔物の姿は一様ではない。時に球体でそこから腕の様なものを伸ばして攻撃してきたり、時に人型、時に獣、時に液体という様に姿を変えて攻撃してくる。
(本体はあの子供だとわかってはいるのですが…これでは!)
攻撃が激しすぎて本体まで到達するのは難しい。
少女は戦いが見えていないのか見ていないのか、微動だにしないまま遠い目をしている。
(姉さん…)
乱戦の中、少女の静かな目を見てセリオは思い出す。
あの日の事――
HMXシリーズ…クルス商会最大にして最高の傑作品。完全自立型人型ゴーレム。今まで自我を持ち、自分で判断、行動するゴーレムを作るのは不可能とされてきた。
だが生体素子の中に霊力機関を組み込む事で人間以上の思考能力、情報分析能力を備えたゴーレムの製造にクルス商会は成功した。
霊力機関は高度な技術と魔術知識を必要とし、かつ多大なコストと偶発的な幸運条件が揃わないと完成しないのだが、クルス商会のゴーレム研究所は概ね良好な結果を出していた。
先の運転試験をパスし、HMX−12が無事ロールアウトを済まし、HMX−13の開発が開始された。
HMX−12がより人間に近くをコンセプトに開発されたのに対し、HMX−13は主に兵器としての特徴を強化される事となった。
そして同じHMX−13を基盤とした2タイプの先行試作型ゴーレムが完成した。
HMX−13S セリオ・ソーサラー 生体素子の霊力機関の他に、高出力の魔力ジェネレーター、大規模な魔法陣などを組み合わせた魔法攻撃、魔法支援を重視に開発されたHMX−13。
…私の姉さん。
HMX−13F セリオ・ファイター 基本となる霊力機関以外には魔力を使用するものはオプションだけに止め、実装装備を追加する事により汎用性を重視に開発されたHMX−13。
それが私…
同じ素体同士にも関わらず、姉さんは私とは対照的にとても外向的で明るくおおざっぱな性格をしていた。
ソーサリーとファイターの特徴を考えるとお互い思考パターンは逆の方がお似合いだったのだが運命のいたずらがそうしたに違いない。
初めて姉さんに出逢ったのはラボの廊下でだった。私が射撃テストに失敗して落ち込んでソファーに座っていた所を励ましてくれたのだ。
「ハイ♪随分と落ち込んでるじゃないの?元気出して。」
突然声を掛けられてビックリした。驚いて顔を上げたらそこにあったのは私と同じ顔。
「あなたは…?」
「そっか、実際会うのは初めてだったわね。あたしはセリオ、って言ってもあなたと同じだったわね。」
そう言って大っぴらに笑った笑顔がとても印象的だった――
私も自分と同時に開発されている素体の存在は私の開発チームのチーフである長瀬源五郎主任から聞いて知っており、同じ境遇を持った二人はすぐに打ち解ける事ができた。
「射撃テストに失敗したぁ!?そんな事で落ち込んでたワケ?」
「私に取ってはかなり重要な事なんです。」
「ま、そりゃそうかもしんないけどさ…」
「………」
「いい?良く聞いて。射撃テストに失敗したとかうまくいかなかったとかそんな事で一々落ち込んでちゃダメ。大事なのは次、うまくやる事。あたし達は栄光あるHMX−13の先行試作型なの。あたし達は前だけを見てればいいのよ。」
「……そうですね、前だけを、か…」
「えへへっ、実はあたしもさっき呪文の詠唱実験に失敗しちゃってさ。テストブロック火の海にしちゃって、大目玉喰らってきたトコなの。」
「プッ。」
「あっ、笑ったなー?このー。」
何故だろう?この人を居ると凄く優しい感情を持つ事ができる、そんな気がした。
「ははは、は…あの…」
「ん?」
「…どうして私を励ましたりしてくれたのですか?あなたと私はどちらが量産型の基本になるかを競う、言わばライバル同士なのに。」
「んー、なんでって聞かれたら困るんだけど…そういうギスギスした空気って好きじゃないのよねー。ま、強いて言えばあたしがあなたの事気に入ったからなんだけど、そういうのじゃダメ?難しい事は頭でっかちの研究員に任せてあたし達は仲良くしましょうよ。」
「ふっ…そうですね。その方がお互い良い結果を出せるかもしれませんね。」
「そういう事っ♪じゃ、お近づきの握手。」
ブーッ!
そう言って姉さんが手を差し出したのとほぼ同時に休憩時間終了を知らせるブザーが廊下に鳴り響いた。
「頑張りましょう!」
「うん、ガンバロー!」
私達は笑顔で握手をしてお互いまた反対側のドアへ歩き出した。
「あっ!でも…」
テストブロックのドアを開ける前に、廊下の反対側から姉さんが私を呼び止めた。
「?」
「負けないからねっ!」
「…はいっ!」
>>69-71 【セリオ:秘宝塔にいるセリオはHMX−13F。クルス商会の先行試作型ゴーレム】
【HMX−13S:過去にセリオが出逢っている同型機】
えーと、お話的には
>>59の続きです。本当はもうちょい続くんですが自分でもNGくらいそうな予感なので一旦止めときます。
・HMXシリーズの設定について
・HMX−13Sという微妙なキャラについて
この二つについて皆様の審判をいただきたいのですが・・・
萎えるようでしたら即刻NGにしてください。良かったら続けます。
「昔、ここは帝国の一部だったわ。古代世紀のころだけどね。
でも、ほら、この街はもともと独立思考が強いじゃない?
だから、帝国と共和国の間で戦争が起こったときも、真っ先に帝国に反抗したの。
まあ、そのあとで共和国に王が現れて、そことも対立することになっちゃったけどね。
で、そのとき、この街を率いて戦った人が、この人なわけ。なんかぱっとしない感じでしょ?見た目だけじゃなくて、実際そうだったみたい。
でも、彼はこの街のために戦ったのよ。この像は、そのことを忘れないために、ここに立てられているの」
僕はとりあえず、意識を詩子さんのほうに向けた。
「あの、詩子さん…」
「この人は不思議な力を持っていて、音を奏でて人を慰めたり、癒したり、逆に攻撃することも出来たんだって。
音階魔法は最近じゃ『呪歌』を使える人もさえほとんどいないぐらい難しい魔法だって話だから、そりゃ相当すごかったんでしょうね。
まあ、伝説の人だから誇張は多少あるでしょうけど」
僕は、溜息を吐いた。何時彼女の話は何時まで続くのだろう。
…考えるまでもない、すぐに止めない限りずっとだ。
「この像は笛を持っているけど、実際には気分と場合を考えて無数の楽器を使い分けたみたいね。
彼の作ったとされる曲は今でも結構残っているわ。そうね、私が好きなのは…」
「柚木さん」
僕は、幾分強めに言った。その効果があってか、ぴたりと詩子さんの口が止まる。
「あのさ…僕たちは何やっているのさ?」
「市内観光」
…そう来たか。断言されると反論の余地がない。
僕たちは今、街を見下ろせる丘に来ていた。街の外観を見ておいた方がいいという詩子さんの言葉に従ったからだが…
詩子さんの言葉を素直に受け取った僕がバカだった。
「まあ、そうかもね」
…独り言を呟いていたらしい。というか、お世辞でも言いから否定してよ。
「お世辞でもいいなら、やってもいいけど?」
「………」
「あはは、暗い顔っ。そんな風にしてるとせっかく気にかけてくれる女の子が逃げちゃうぞ?」
「僕は昔からこんな風だよ。…今更変えようない」
「変える気もないくせに」
胸が鈍く痛んだ。詩子さんの一言は、率直ゆえに僕の心を…弱さを突く。
そんな僕の内心を知ってか知らずか。詩子さんはにこりと微笑んだ。
「…なんてね。どう?ちょっとは素敵な大人っぽく見えたでしょ?」
「そうだね…」
「やっぱり?いや、本当のこととはいえ、少し照れるわねー」
…僕は、また余計なことを言ってしまったらしい。
ひとしきり笑った後、詩子さんは軽く背伸びをした後、さらっと言った。
「さてと、心機一転、お仕事に励みましょーか」
「………それで、どうするの?」
「祐介君は宮内貿易公司って知ってる?」
知るわけがない。僕はそれほど時事に詳しいわけじゃない。
そう言うと、詩子さんは「結構有名な会社なんだけどね」と前置きしてから、その宮内貿易公司の事を教えてくれた。
何でも、このフィルムーンで一二を争う貿易業を営む会社で、つい最近会社の船が航海から戻ったらしい。
大量の物資を積んで。
「まあ、あそこも荒稼ぎしているし、狙われるのも無理もないかも」
うんうんとうなずく詩子さん。…これが仮にも市民の安全を守る者の態度なのだろうか。
まあ、こういう人だというのは出会った頃からわかっていたことだが。
「つまり、そこに海賊がやってくるかもしれない、ってこと?」
「うん。宮内貿易公司の倉庫があるのは、あの辺りね」
指をさした方向には、確かに倉庫が建ち並んでいる。ここから確認できるほど大きな倉庫だ。
勿論、全てが宮内貿易公司のものではないだろうが、なるほど、お金持ちだということはわかる。
ともあれ、僕たちは宮内貿易公司の倉庫がある埠頭へと向かうことにした。
一方その頃…
月島拓也とマルチは街に出ていた。
ただ柳川の仕事が終わるのを待っているだけというのも退屈である。
それで、二人して近くを冷やかしに出たというわけだ。
「わあ、綺麗な花ですねー」
「南方種の花だね。確かにこのあたりでは珍しいな」
「はわわ、あっちでネコさんがいますよっ」
「さすがは貿易港だけあって、色々なものがあるな…」
素直に笑い、驚き、また笑う。
こんなのも、悪くないかもしれないな…ほのぼのとした雰囲気の中、月島拓也はなんとなく、そう思った。
そんな時。
「……?」
不意に立ち止まったマルチに、ぶつかりそうになる。なんだ、と思ってみると、
「まさか、マルチか?」
馬面の、冴えない中年男がいて、
「…お父さん?」
マルチはそう呟いた。
【祐介&詩子 宮内貿易公司のある埠頭へ】
【月島拓也&マルチ 長瀬源五郎(TH)と出会う】
というわけで、『走り回る出会い』をお送りします。
月島兄&マルチを長瀬(TH)とあわせてみました。
宿で待っているとのことですし、同じ町にいるということでいいですよね?
二人の関係とか、そういうことは次の人にお任せです。
>73
セリオが先行試作型ゴーレムというのは問題なし。
HMX-13Sは、正直やりすぎじゃないかなと思う。
というか、オリジナルキャラを出すのやめようよ。
オレ設定の塊で作るリレー小説でこういうこと言うのもなんだけどさ。
78 :
名無しさんだよもん:02/01/08 23:26 ID:z+90ecYy
>>72 人に萎えと言われりゃ即撤回ってんなら最初っからやる意味無いな。
綾香モドキHMX-13Sも確かに萎えたがあんたのその姿勢こそ萎え、だ。
煽りスマソ。
>>73-77 HMX−13Sはすぐ消す予定だったのでちょっとぐらいイイかなと思ったんですが綾香モドキって言われたら確かにそうですね、反省。
今回は
>>69-71は無しという事でお願いします。
>>78 萎えって書き方が悪かったなら謝ります。ただ意見が聞きたかっただけです。
クルス商会が超魔法テクノロジーを持つのはどうかな。
SとかFは明らかに軍事産業だから国家が弱い世界だと脅威だ。
発掘した未知の何かを使っているとかの制限があると少しは安心できる。
それじゃあ、
>>69-71は無しってことで。
また別の話でも、思いついたら書いてくださいませ。
ログ保管ページは#042まで収納、インデックスは最新作#083「走り回る出会い」までまとめてます。
どのキャラがどの話に出たかを確かめる程度には役立つと思いますので、ご活用下さい。
>81
編集お疲れ。
思ったんだけど、HTML化する際には、
文末の【 】で括って書いてあるキャラの情報は、全て断定形でそっけない方がいいのでは?
一つの物語として読んだ時に、「〜らしい」「未定」「〜です」とか(笑)とか
書かれてるのを見るとちょっとなぁ。
84 :
御堂の憂鬱:02/01/09 21:57 ID:qhmkNtYB
「ふぅ、やっと一息つけるぜ」
荷物を宿屋に運んできた御堂はあてがわれた部屋で肩を回しながらそう呟く。
「広瀬の姐さんは人使い荒いですからね」
同室の矢島も苦笑しながら答える。
「全くだな。大体よぉ」
コンコン。
御堂が何かを言おうとしたとき部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「ハイハイ。どちらさんですか?」
「入るわよ」
矢島がドアを開けようと近づいた瞬間外からドアが開けられた。
「ぐあっ!!!」
ガツン!と小気味の良い音が部屋に響きわたる。
「何やってんのよ」
真希は床の転がって悶えている矢島を呆れた目で見つめた。
「みゅ〜、だいじょうぶ?」
みゅーを肩に乗せた繭が矢島を心配そうに声をかける。
「何か用か?」
御堂がそんな騒ぎを無視するかのように真希に話しかける。
「あ、そうそう。ちょっとアンタ達お使いに行ってきてよ」
「あ〜?今着いたばっかりだぜ。ちっとは休ませてくれよ」
「大丈夫よ。すぐに済むから。それに文句があるなら」
「あ〜、分かった分かった。行ってくりゃいいんだろ」
真希の言葉を御堂が遮る。
「そう言うこと。あ、そうそう。私と美汐もちょっと他の用があるから繭の相手も一緒にしといてね」
「お、おい!ちょっと待てよ!」
御堂が慌てて声をかけるが真希はさっさと部屋を出ていった。
部屋には御堂と未だ床で悶えている矢島と繭だけが残された。
85 :
御堂の憂鬱:02/01/09 22:00 ID:qhmkNtYB
* * * * * * * *
「ハァ〜。面倒だな、全くよぉ」
御堂はブツクサと文句を言いながら歩いていた。
「まぁ、仕方有りませんよ。早くすませて帰りましょう」
「そうだな。それにしても……」
御堂は自分の腕にまとわりついている繭を見下ろした。
「みゅ〜?」
「この御堂様がガキに懐かれるとはな」
「ハハハ、御堂さんも繭には弱いみたい――」
「ん?どうした?」
突然立ち止まった矢島に話しかける。
「う、美しい………」
「ハァ?」
御堂は矢島の目線を追いかける。
そこでは一人の女性が買い物をしているようだった。
「おい、どうしたんだ?」
御堂が話しかけるが御堂の言葉が聞こえていないようだった。
そうしている間にその女性は買い物をすませたようで御堂達と逆の方へ歩いていった。
「おい!矢島!」
「御堂さん!」
すると突然魂が抜けていたかのようだった矢島が大声で話しかけた。
「うお!な、何だ?」
「御堂さん!スミマセンけど後は頼みます!」
矢島はそう言うと女性が消えていった方へ一目散に走っていった。
86 :
御堂の憂鬱:02/01/09 22:01 ID:qhmkNtYB
「………何なんだ?」
「みゅ〜、いつものことだもぅん」
「いつものこと?」
「うん。よく分からないけど真希おねえちゃんがそういってた」
「………まぁ、いいか。ほれ、さっさと行くぞ」
御堂は繭を促した。
「おじさん」
しかし繭はそこから動かずに御堂を呼び止めた。
「あん?何なんだよ」
「あれ、食べたい」
繭が露店の一つを指さす。
「あ〜?もうすぐメシなんだし我慢しとけ」
御堂は繭の方を見ないままそう答えた。
「うくー、いま食べたい」
「ったく、仕方ねぇな。ほれ、これで買ってこい」
御堂は懐の財布から繭にお金を渡すとそう言った。
「みゅ〜♪ありがとう、おじさん!」
繭はそれを受け取ると露店の方に走っていった。
「参ったな、この俺様がガキのお守りをしてるとはよぉ」
御堂は空を見上げながら一人呟いた。
【矢島 謎の女性を追跡中】
【御堂・繭 お使いの途中】
※矢島が追いかけてるのは誰かは次の書き手にお任せします
「ぽかぽかぽかぽか、いい天気〜♪」
ぱたぱたぱた、ぱたぱたぱた。
道ばた、野原の立木の枝の上。
青い、青い、いっそ馬鹿馬鹿しいくらい青い空を見上げ、足をぱたつかせて調子外れの歌を歌う少女が一人。
「ほんと、いい天気だね」
その立木に背を預け、頭上の少女と同じ青空を見上げて。
野原に腰を下ろした少女が、張りのない声で相づちを打つ。
レフキー街道。大陸の大動脈。
数多の旅人、商隊、冒険者が行き交う道。
そこかしこで旅人が昼の休息を取る中、武装した二人の女性が思い思いの場所に座り込んで空を見上げている様は、取り立てて珍しい光景とは言えない。
でも、どこかしら旅人の足を止めさせる雰囲気がそこにあるのは、そこに流れるあんまりにものんびりとした空気のせいだろう。
二人の会話はいつも散文的。
そして突発的。しかも普通の人にはすっかり噛み合ってないようにも見える。
この街道、この場所からほとんど離れていない場所で出会ってからもう丸一日立つが、これで最初から意志疎通には不自由してない風なのが不思議だったりする。
いつものようにまた会話が途切れ、しばらくの沈黙……やがて、不意に枝の上の少女が問う。
「ねー、はるかはなにか、行くとことか目的とかないの?」
「ん? うん、今日はいい天気だから」
帰ってきた答えは、ちっとも答えになってない。
だが、枝の上の少女はそれで納得したようだった。
「うんうん、いいお天気だもんね〜。いつまでものんびりしてられるって感じぃ」
……お互いあっさり打ち解けられたのは、ちょっとベクトルが違うけど多分同類項でまとめられる人だからかもしれない。
そもそも、丸一日経った後でようやくこの質問がくるあたりがアレだが。
「松本は?」
今度は根元の少女の問い。
「えーとねー……」
むぅ。
枝の上の少女は答えようとして、詰まって、腕組みをして、眉を寄せて首を傾げた。
首を傾げて、それでもわからないのでひょいと枝から地上へ飛び降りる。
「……お仕事でね、みんなとどこかに行く途中だったんだけど……きちんとお話聞いてなかったからわかんなくなっちゃった」
……もちろん飛び降りたからと言ってなにかわかるわけでもなく。えへへと笑う少女の顔に、仲間とはぐれた焦りのなんて気配は欠片も感じられなかった。
「そうなんだ。大変だね」
「うんうん、大変って感じぃ」
もちろん根元の少女にも緊張感なんて欠片もないので、結構深刻な話のはずなのだけど、なんでもない話題の一つとして片づけられてしまう。
――もっともそれ以前、すでに自己紹介の際にお互いの身分を明かしてしまっている二人に今更焦りだの緊張感だの求める方が無理と言うものだろう。
「……良い天気だね〜」
ぺたん、はるかの隣に腰を下ろして足をぱたぱた。
「ん。良い天気だね」
だらしなく幹にもたれ、ぼんやりと空を見上げて、いつものように気の抜けた微笑み。
共和国特務部隊と帝国軍将校、不倶戴天のはずの二人の関係は、
「……良いお天気だと眠いね〜」
「絶好の昼寝日和だね」
…………どこまで行ってもぼけぼけだった。
【はるか・松本】青空の下で出会ってなんとなくぼけぼけぼけぼけ。
【河島はるか】王立騎士団特務部隊員。詳細不明のまま。
>87
おおっ!格好いい!流石ですね。
書き手として参加してみるかぁ…。
誰か余ってるキャラは、と…
そういや浩之のクラスって結局どうなってるんだっけ?
いきなり上級職にクラスチェンジしかもマスタークラス
という展開を迎えるもクレーム。
でもNGが出るでもなくしっかり認定された感も無く灰色
判定で進んでる様だけど…。
>>93 その後の展開を読めば何となくわかるけど、一応あの場限りの一発能力で、
設定自体は、元の白紙に戻ったと考えていいんじゃない?
>浩之のクラス
あれも、結局浩之を描きたい書き手に任せるしかないんじゃないの?
取り込んだ以上は、白紙はちと言い過ぎの気がする。
まあ、幼少の頃に受けた戦闘訓練が危機において目覚めてってのも、まるで某月姫のしゅじんこ(略
>>92 リレーなんだから、別に新たなキャラにこだわらなくてもいいと思われ。
新たに描きたいキャラがいるならそれも良しだけど。
なんにしても、新たな書き手いらっしゃい(w
しかし、この二日は話が進まないな。
なんか議論が起きるととたんに動きが鈍るっつうのは避けられないものなのか(藁
97 :
第一歩!:02/01/11 16:15 ID:OS0BKSMs
かちゃかちゃ、と皿を洗う音が、台所に響く。
「北川さん、これもお願いね」
追加される、汚れた皿。
北川は、無意識の内にハミングなどしながら、皿を洗い続ける。
ふんがふんがふっふっふ〜ん……
かちゃかちゃかちゃ……
「北川君、お皿洗うの、上手になったね」
「はっはっは、そりゃあ、随分長い事ここで仕事してるから」
朗らかに名雪に答え……ふと、北川は沈黙した。
「あれ……俺、冒険者になるんじゃなかったっけ?」
思わず濡れた手で、頭を抱えてしまう北川だった。
「い、いかん、すっかり順応してしまっていた…」
「順応性が高いのは、いいことだよ〜」
寝ぼけた声の名雪を無視すると、北川は、自分の荷物のある二階に、
駆け上がろうとしたのだがが。
「北川さん、これもお願いね」
「く…ううううううううう……」
笑顔の秋子さんに、皿を十枚ほど追加され、泣きながら、再び皿を洗い続けた。
98 :
第一歩!:02/01/11 16:15 ID:OS0BKSMs
「おう、北川、お前まだここでした働きしてんのか?」
「経験が無いとはいえ、あれだけの銃の腕してんだ、どこのパーティでも潜り込めるだろう」
以外に似合っているエプロンなどして、料理を運ぶ北川に、冒険者達が野次を送る。
「それはそうなんだが……」
正直、北川は迷っていた。
確かに彼らの言う通り、北川の実力は認められ、実際いくつか誘いを受けた。
だが北川は、なんとなく彼らに付いて行く事が、躊躇われたのだ。
理由はわからない。
ただ、今はまだ、ここを離れるべきではないと、そう思ったからだ。
「ほい、ジャガイモとウインナー炒め……ん?」
皿を置いた瞬間、どたん、という音が響き、宿の中に人間が転がり込んで来た。
「なっ、なんだぁ!?」
思わず駆け寄ろうとする北川を押しのけ、宿中の冒険者が、彼の元に殺到する。
「おい、どうした!?」
「怪我が酷いな…誰か治療出来る奴!」
「誰にやられた?」
尻餅を付き、ぽかんと彼らを見る北川の横に、秋子が現れた。
「冒険者は、いつも職に飢えてるんです。何か厄介ごとがあれば、真っ先に飛び込みますよ。
北川さんも、もう少し積極性と厚かましさを学んだほうがいいですよ?」
「はぁ……」
口々に、彼の話を聞こうとする冒険者たちを、北川は間抜けな顔をして見ているしかなかった。
99 :
第一歩!:02/01/11 16:16 ID:OS0BKSMs
北川は尻の埃を払い、よっこいしょ、と立ち上がった。
「……彼の話を聞かないのですか?」
「もう遅いですよ、秋子さん。あれは俺の仕事にはなりそうも無い……」
そこまで言った時だった。
突然、今まで皆に介抱されていた男が、弾かれるように立ち上がった。
そして次の瞬間、彼の顔、腹、胸といわず、すべての所が内側から破裂する。
黒い本流が、皮膚を尽き破り、冒険者たちに襲い掛かった。
誰もが意表を突かれ、硬直する中、北川は離れていた事もあって、その正体に気づいた。
「……鼠!!」
何百という鼠が、男の死体を食い破りながら出現したのだ。
「くそっ、こいつら!?」
「だめだ、魔法が……ぐああああぁ!!」
掌ほどもある鼠に、剣も魔法も通じず、冒険者達は悲鳴をあげて、床を転げまわる。
かくいう北川と秋子の所にも、鼠の大群は押し寄せてきた。
「うわーーーっ!?」
思わず、手にしていた料理の入った皿を落とした北川だが、それが北川の命を救った。
鼠たちは、目の前に落ちてきた美味そうな料理に、我先に飛びついたのだ。
すかさず、北川はその辺の料理をみんな床に落としながら、秋子に叫んだ。
「あ、秋子さん、小麦の袋を持って来てくれ!!」
「……名雪!」
すかさず、名雪が20キロはありそうな袋を二つ、軽々と持って来る。
「それを外に撒いて、こいつらを引き寄せるんだ!」
「わかったよ!」
100 :
第一歩!:02/01/11 16:21 ID:OS0BKSMs
さすがの名雪も、緊張の色を見せながら、手にした袋をドアめがけて投げ付ける。
凄まじい音と共に、通りに小麦の袋が転がり出た。
宿の中を伺っていた野次馬たちが、悲鳴をあげて逃げ出す。
「待ってろよ、お前ら……てりゃ!!」
北川が投げたナイフが、正確に小麦の袋を突き破り、その中身を通りに撒き散らした。
その効果は、絶大だった。
それに気づいた鼠たちは、我先に小麦の袋に跳びついていく。
開放された男たちは、全身傷だらけだったが、うめき声を上げている所を見ると、まだ生きているようだ。
「さて、これからどうしようか……」
「北川さん、これを」
「え?」
秋子が手渡してきたのは、油ビンと、北川の銃だった。
秋子が頷く。北川は、それに背中を押されるように、鼠たちに向き直った。
北川が、油ビンを鼠たちに放り投げた。
その視界が、ゆっくりと色を失っていく。
弧を描き、鼠の群に落ちていくビン。
それが、鼠の群に触れた瞬間、北川は引き金を引いた。
撃ち抜かれたビンから、こぼれた油に引火し、鼠たちは瞬く間に炎に包まれる。
凄まじい絶叫のような声が、群の奥から響いてきた。
炎は、まるで生き物のように、群に合わせて揺ら揺らと蠢く。
北川は、それが動かなくなるまで、見詰め続けていた。
101 :
第一歩!:02/01/11 16:23 ID:OS0BKSMs
「……見事だったぜ、兄ちゃん」
「ああ。借りを作っちまったな…」
ようやくやって来た、神殿の治療部隊の看護を受けながら、冒険者達は北川を労う。
「ああ……うん」
生返事をし、北川は、黒く炭になった、鼠の塊に近寄った。
「……北川君……」
名雪の声を無視し、北川は炭の塊を蹴った。口の中に、苦いものが浮かぶ。
今までモンスターを狩った事は何度もあるが、こんな残酷な殺し方をしたことは無かった。
「しかし、こいつら何で逃げなかったんだ…?」
事態が終わったと思ったのか、今まで遠巻きにしていた野次馬たちも、近寄ってくる。
もう一度、北川がそれを蹴った瞬間、炭が割れ、中から銀色の鼠が襲い掛かった。
「!?」
目を食いちぎられる、とそう思った。鼠も、自分の動きも、全てがスローに見える。
こんな時は、自分の集中力が疎ましい。
大きく開かれた、鼠のあぎとが、北川の目をめがけ、突き進む。
その首に、プラチナの首輪がしてある事を、いぶかしく思う暇も無く、鼠は吹き飛ばされていた。
「…………!」
時間にして1秒も無かっただろう。
その鼠を吹き飛ばしたのは、一条の電撃だった。
「……大丈夫かね、我が同志、北川」
緑色の髪をした、魔術師風の男。この男が、あの一瞬に、雷撃を放ったのだ。
同士、という言葉が気になったが、取り合えず礼だけは言っておく事にする。
「ああ…ありがとう……えっと」
「九品仏大志。魔術師の端くれにして、偉大なる野望を持つ男さ」
102 :
第一歩!:02/01/11 16:25 ID:OS0BKSMs
「二人とも、まだ生きてるよっ!」
名雪の言葉に、大志も北川も、弾かれたように振り返る。
「なんと……同志北川の炎と、我輩の雷撃を受けて、まだ生きているとは…」
名雪の言葉どおり、その鼠は焼け焦げながら、まだ生きていた。
ぎぎぃ、と耳障りな声を出し、鼠は北川と大志を睨み付ける。
だが次の瞬間、ぱっと身を翻し、物陰に消えていった。
「………」
「これは……」
二の句が告げない二人に、秋子がゆっくりと後ろから声をかける。
「…北川さん、これを」
彼女が差し出したのは、一枚の羊皮紙だった。
『……下水道に、鼠のモンスター目撃される…退治したものには、金一封』
「先ほどの鼠が関係していると見て、間違いないな…」
大志が、ぽん、と北川の肩を叩く。
「どうだ、同志。我輩とパーティを組んでみては。そして、鼠退治を洒落込もうではないか」
「けど、俺もあんたも後衛だし…前を守れるメンバーが……」
「私がいるよっ!」
ぴょこ、と顔を出す名雪。大志は、にやりと笑って、北川を見やる。
「……秋子さん、本当にいいんですか?」
「了承。……北川さんの思うようにしなさい」
力強い言葉に、北川はゆっくりと、大志と名雪の顔を見つめる。
「ああ……わかった。それじゃあ、やるか!!」
『おうっ!!』
【北川、名雪、大志、パーティ結成】
【三人は、前スレ>410鼠退治に出かける】
長くてすいません。
後、誤字修正……鬱だ。
>>97 >駆け上がろうとしたのだがが。
○駆け上がろうとしたのだが。
>>102 >そして、鼠退治を洒落込もうではないか」
○そして、鼠退治と洒落込もうではないか」
ツッコミ担当只今参上〜(笑
>>33-36との間がちょっと気になります。
マナ放置してクエストに出かける理由がほしい気が。次の話ででもいいけど。
間が開きすぎるとリレー感が無くなるからなぁ。
思いついた事やキャラにやらせたい事を書く前に繋ぎを書くのがリレー小説の基本なのかもね。
>>104 が―――――(゚Д゚;)―――――ん
ま、まぁ、大志はこの時、たまたま通りすがっただけで、その後に二人をマナに紹介しに行くとか…
いえいえ、後の書き手さんにお任せいたしますです。
>浩之のクラス
どちらかというとARMSかも。
親父忍者だし(藁
しかしいろんな書き手がいろんなシナリオを発動しちゃ
ってるからリレーというよりアンソロジー色が強くなっ
てますな。
いつか、物語は一つの結末に向かっていくような気がする…
いや、塔に全員は無理っぽい気がするし…
塔ははやく見つかりすぎちゃってるから一つ目のダンジョンみたいな扱いかと思ったけど
>塔=一つ目のダンジョン
禿同。
いくつか同時進行で話しが進んでても、いずれはそれぞれの関連性が見出されていけばそれでよいかと。
そゆ話って結構あるしね。
ってことで、彰周りと祐一一家周りの動きの続きをキボンヌ(w
かきてーけど、だるい…
他の人ガムバレ
漏れは夜中に来るかもw
どうでもいいが祐一一家の『ミラクルカノン』号ってよくも
ここまで頭の悪い名前をつけられたものだなー。
っていや、誉めてるんですよw
>111
あぅ、ゴメンナサイ・・・。
自分でも「ダサイなー」と突っ込みながら書いてました。
そんなわけなんで名前変えてもらっても結構です。
>>112 そういうの、正直言ってやめてほしいな、と。まあ本気で言ってるわけじゃないと思うけど。
「書いてしまったことは後付けでひっくり返せない(ただしNG除く)」っていうのもリレー小説の基本だと思うけど。
自分だって、あいつのあの能力のあの規制を消してしまいたいとずっと思ってるし(w
まあ要するに、書くときにはしっかり考えて書け、と。
ひっくり返したければ、そういう内容の本編を、読み手が納得いくように書け、と。
とりあえず「ミラクルカノン」号は、クーデターでも起こせば名前変えられると思うけど?(w
「観鈴ちんがおがお」号とか(w
>>113 いや、半分ネタ半分本気です。
要するに今後話の中で変えられるなら
変えてもらっても全然構いませんよと言う意味です。
それこそ113さんが言ったようにクーデターでもいいし
晴子辺りが「こんなダサイのやってられるかー!」とか言って
変えてもいいんじゃないですかね。
正直、十レス以上感想雑談レス続きはどうかと思うぞ、漏れもだけどさ(w
個人的にはミラクルカノン号ってセンス嫌いじゃないけどね〜、奇跡のカノン砲ってさ(違
明日はホームランだ(激違
自分が書き手だと誇示するなら自分の書いた作品を隠すような真似はしないようにして欲しいなぁ。
立派な事言って自分の作品は内緒じゃ・・・・煽り?
子鬼の森
過去いく度か森の権益をめぐり争いが続いていた、
木材は両国において貴重な資源であり、森林地帯は軍事的においても重要な拠点となる為である
そんな人間たちの醜い争いを利用してしたたかに生きてきたのが子鬼達である
彼らは人間よりも上背が小さく、知能も人間に及ぶべくもない種族であり、訓練された戦士の一団に
とって敵ではないはずであった。
だが、ここ数年のうちに強力な指導者がでたのか、【1つの指導のもとに統率のとれた動き】をみせている
そうなると、繁殖力が旺盛で、数がとにかく多いためうかつに手を出すことができない。
総力を挙げて攻め込もうにも、その隙に他国が攻め込む危険もある。
結局、両国とも国境を固めるにとどめ、こちらに攻めてこない限りは手出しをしないままにまかせていた
互いの複雑な国家事情で【中立地域】となっている地帯でもあり、軍を進めることは違法になっている。
そのためこの森は治外法権となり、罪人がこの森に逃げ込んでは盗賊の仲間になっていく、
なんの備えも無しに森に入ることは自殺行為であった。
「・・・いよいよ、子鬼の森の入り口ですね・・・すごく不安になってきました」
めずらしく美凪は表情が不安という名のものに変化をみせている
「美凪ぃ〜そんなに恐いの?ここの森は」
みちるも、いつもとは違う美凪の表情が伝染したかのように声に力が無かった
(・・・いけない!みちるを不安にさせちゃ駄目)
「・・・ううん、わたしたちには敬介さんがいるから・・・それにみちるはわたしが守るから・・・」
「ああ、まかせてもらって大丈夫だよ、この僕が必ず守る」
敬介は鞄の中から、鈴と霊札をそれぞれ1つずつ、美凪とみちるにわたす
霊札は墨でかかれており、そのまわりを和紙でくるみ包みこんでいた
「わあっ〜〜かわいい鈴〜、いいのもらって?、そしてこの札はなに?」
「鈴は、悪いことを払いのける力があるから、これを身につけていれば恐い目に合わずにすむよ
そしてこの札はわたしが記した御守りです、【鎮宅霊符】というものです
大抵の厄災はこれで大丈夫だから、どーーんと大船にのったつもりでおきなさい」
「・・・わたし船にのったことが無いのでわかりません」
「いや、ものの例えなんだけどね・・・まあいいや」
2人の少女を元気づけるために明るくふるまってはいたが敬介には不安であった
今朝の易占の結果によると森の方格は凶と出ている。
本来ならば、【方忌み】もしくは【方違え】をしていくべきだろうが、金銭的にそれほど余裕が
あるわけでもなく、運を天にまかせ森にいくことになった
万が一、子鬼に出くわしたときには【式神】をよびだす必要がでてくるだろう、だがおいそれと使用できるものではない、
すべての事象は天より定められており、それを森羅万象とよぶ、その天の術を扱う際には
それなりの代償が必要となる、作用には反作用がつきものなのである。
その【反作用が術者の生命−寿命】である
特に、敬介の資質は天に認められにくく、術を使うとなると反作用が大きい
こればかりは、知識・鍛練でどうにかなるものでなく、資質がすべてなのである
敬介は己の天命を呪ったこともあるが、今はそれを乗り越え【自分の陰陽の知識】を託せるものを探している
(それにしても不思議な子だ、この美凪という少女は、今朝の易で占ってみたがどうも不明瞭な結果が出るばかり、わたしも10年間占いの学んできたが、こういうのは始めてだ。
最近ようやく手についてきたと思ったところなのに自信を無くすなあ・・・
いかん!弱気になっては、この子たちはわたしが守らねば、しっかりしろ!敬介)
荷馬車は3人を載せ森の奥へと進んでいく
前スレの643-656の続きです
【敬介・美凪・みちる:子鬼の森へと進んでいく】
【一行は鎮宅霊符により、厄災から護られている】
121 :
子鬼の森:02/01/12 14:29 ID:Fjzula0D
毎度!天神海士です
作者名書き忘れたので、一応名乗っておきます
載せてから気づく文章のつたなさ・・・
122 :
観月:02/01/12 17:53 ID:67Fq0Fxm
過去ログさらってた時もちょっと気になってたんだけど、
文末に読点つけたりつけなかったりするのはこだわりなのかな?>天神さん
123 :
天神海士:02/01/12 18:10 ID:Fjzula0D
うわっ恥ずかしい(-_-;)
途中の文節の予定だったのですが
読みやすくしようと改行をつけたときに
点を消すのを忘れてしまった
何度も読み返して投稿するようにします・・・
「んん……うっ……」
「あら……気づいたのね。おはようございます」
まず目に飛び込んできたのは、女性――優しい表情で自分の顔を覗き込んでいる、長い髪の女性だった。
マナはゆっくりと身体を起こした。そして、自分がこざっぱりとした、掃除の行き届いた部屋のベッドに寝ていたことに気づく。
なんだか頭に靄がかかったようにはっきりとしない。半ば朦朧とした意識でマナは女性に尋ねた。
「あなたは……誰?」
「水瀬秋子よ。ここレフキーで『青の錫杖』って言う宿屋を経営してるの。ここはその一室よ」
「宿屋……どうして……私……」
「行き倒れてるところを大志さん、ええっと、通りすがりの魔術師の人がここまで運んできたのよ。三日間も起きないから心配しちゃったわ」
「私、行き倒れて……」
記憶の糸を辿る。秋子と名乗る女性。宿屋。小綺麗な部屋。ベッドの上。目覚める。
そこで終わりだった。
「そんな……えっ!?」
散らばっていた思考が急速にひとつにまとまる。焦りと不安が全身の肌を一瞬、総毛立たせた。
半分寝ていた状態からは完全に復帰していたが、同時に自分の意識が踏みしめるべき足場がないことに気づく。
すぐに辿り着いたある結論が、逆にマナを冷静な思考に引き戻した。
「思い出せない……記憶喪失みたいね、私」
「まぁ」
秋子が眉を寄せて、自分の頬をそっと掌で撫でた。
「みんな忘れちゃったのかしら? 自分のことはわかる?」
「名前は観月マナ。歳は十七。……性別は女。それだけ」
「そう、マナちゃんって言うのね。これに見覚えは?」
言うなり、秋子はエプロンのポケットから一振りの短刀を取り出した。
ランプの灯りを受けて鈍く黒い光を放つそれは、普通のナイフなどとは形状を異にし、
秋子はそれが東洋の忍者の使うクナイという武器だということを知っていた。
マナはしばらくそれを眺めていたが、やがてかぶりを振った。
「知らないわ。ただのナイフとは違うのね、変な形」
「マナちゃん、ちょっと持ってみて」
それが運び込まれてきたマナの服の内側に留めてあったものだと言うことを秋子は黙っていた。
おずおずとクナイを受け取り、掌の上で弄ぶマナに、入り口の扉にかかったダーツの的を指差して言う。
「ちょっと、あそこの的に向かって投げてみてくれないかしら?」
「そんな、こんなもの投げて当たらなかったらドアに穴空いちゃうじゃない!」
「いいのよ、それは気にしなくても大丈夫だからお願いできる?」
「え、えぇ、いいけど……」
ベッドから扉まではちょうど部屋の端から端の距離があり、それほど広い部屋ではないとは言え、半分寝ている状態で狙うにはやや離れていた。
マナは気づいていなかったが、ぶつぶつ言いながら狙いを定めている彼女を見る秋子の目にはいつの間にか先ほどとは違う鋭さがあった。
「投げようとすると結構重いわね、これ……えいっ」
ドッ、と低い音がして、マナの手から離れたクナイは的のかなり下に突き刺さった。
秋子は扉に近づいてクナイを引き抜くと、振り向いてくすくすと笑った。
「変なことさせてごめんなさいね。お客さんの忘れ物なんだけど、あなたはもしかして忍者だったのかなって思ったものだから」
「私が忍者? うふふ、凄い想像ね。手裏剣とか投げちゃったりするの、私。カッコよくない?」
「そうね、意外と似合うんじゃないかしら?」
「ふふっ……よいしょ」
マナはベッドから降りて、脇に揃えてあったスリッパに足を通した。
「あら、まだ寝てなくちゃダメよ」
心配そうに近寄ってくる秋子をマナは笑って制した。
「平気よ、別にどこが痛いわけでもないもの。それより、私をここまで運んできてくれた人にお礼しないと」
「まぁ、タイミングの悪いこと。ついさっきお仕事に出かけちゃったわ」
秋子は何気なく窓の外、通りを行き交う人々を見下ろした。
何かを思い出したのか、小さく微笑む彼女を見てマナは怪訝そうな表情を浮かべたが、やがて溜め息をついて言った。
「ホントに間が悪かったみたいね……確か魔術師だとか言ってたっけ」
「えぇ、九品仏大志さんっていうの。可愛い子を拾ってラッキーだとか言ってあなたが目を覚ますのをずっと待ってたんだけど、
目が覚めた時には冒険に出てるなんてうまく行かないものね。冒険家の方はいつでも仕事があるわけじゃないから仕方ないんでしょうけど」
「そうね……じゃ、戻って来るまで待ちましょうか。と、その前に」
マナは秋子の方に向き直った。
「今までお世話してくれてありがと。お礼っちゃなんだけど、私をここで雇ってくれないかしら?」
マナは白いパジャマを着ていた。街で行き倒れていた時からこの格好だったということは考えにくいので、恐らく着替えさせてもらったのだろう。
それに、三日も寝ていたら普通は相当汗臭くなっていそうなものだったが、マナの身体は特に汗臭いというわけでは全くなかった。誰かが身体を拭いてくれていたに違いない。
「お世話だなんて、大したことしたわけじゃないのに……病み上がりなんだもの、当分ここにいてくれてもいいのよ?」
「いきなり転がり込んでずっとタダ飯食らってるなんてのも寝覚めが悪いわ。迷惑じゃなければでいいんだけど……」
秋子はしばらく考えるようにしていたが、真剣なマナの視線に負けたのか、やがて言った。
「……了承、でも無理しちゃダメよ。辛くなったら絶対に言うのよ」
「ありがとっ! わかったわ、お店で倒れたりしたらお客さんに迷惑だものね。気をつける」
「えぇ。じゃあちょっと来てもらおうかしら、制服のサイズを合わせなくっちゃね」
「はーい」
秋子は扉を開けて廊下に出ると、マナがついてくるのを確かめて歩き始めた。
(あのクナイの紋、高倉の忍者か……石原麗子を始末しに来て返り討ちにあったって所かしら。
相手が悪すぎたのね、この子はもう忍者としてはやっていけないわ……)
上機嫌に鼻歌を唄っているマナには、秋子が考えていることなどわかるはずもなかった。
127 :
観月:02/01/12 19:50 ID:67Fq0Fxm
【観月マナ 忍者としての能力を含めた記憶を失う】
【水瀬秋子 いつも通り】
【九品仏大志 ネズミ狩り中】
>>97-102の続きです
色々と勝手に補完しときました
ファンタジーでも秋子さんはトンデモ化するのかなぁ
港に泊まっている船の一つ、ミラクルカノン号の甲板
そこで海賊たちが会議をしていた
「真琴、よくやった」
「へへーん、真琴にかかればちょろいものよ」
祐一にほめられた真琴は自慢げに言う
「で、どうするんだい?」
冬弥が銃を見ながら祐一に聞く
「もちろん派手にやるぜ!!」
「そうか、腕が鳴るな」
好恵がこぶしを打ち鳴らす
「銃も手に入ったんだし、これ以上危ないことする必要ないと思うんだけどなあ」
観鈴がぼそりと呟く
「甘い、甘すぎるぞ。観鈴」
祐一が大げさなジェスチャーをとっていう
「銃は他にもあるかもしれないし、他にもお宝はあるだろう。こんなこそ泥みたいな真似しただけでお宝をおいてくなんて海賊の風上にも置けない。それに真琴に銃を盗まれるようなおいしいかもを逃す手はない」
「なんですってえ」
「まあまあ、真琴ちゃん。ほんとなんだから仕方ないって」
「冬弥までそんなことをいうなんて」
「冬弥さん、それに真琴、あんまり騒ぐな」
「すまない。好恵ちゃん」
「う〜でも〜」
真琴も冬弥もおとなしくなる。むろん、好恵を怒らせるのが怖いからだ
「でも、やっぱり危ないよお」
「観鈴、危なければ危ないほど燃える。それが男ってもんだろ」
「よういった、祐一。それでこそうちらの船長や」
「なんつっても俺は海賊王になる男だからな。はははは」
祐一が高笑いをあげる。
「で、作戦はどうするんだい?」
「倉庫まで行って強奪、そのあと邪魔する奴らをぶっとばなしながらここまで戻ってくる。それだけだ」
「うわ、単純」
「祐一君、それはさすがに…」
「いや、これで大丈夫だ。絶対成功する。俺が保証する」
「んなわけないやろ」
「祐一君、陽動作戦にしよう。祐一君や俺や好恵さん達で騒ぎを起こしてその隙に真琴ちゃん、観鈴ちゃん、晴子さん達で宝を船に運び込む」
「陽動か…」
好恵は一人目を瞑る。敵を想像しているのだ
「宝を運び終わったら敵を適当に撒いてすぐに出航。撒くのには町に火をかけるなり、なんなりすれば大丈夫だろう」
「まあ、俺が敵なんかみんなはったおすから大丈夫だけどな」
「真琴ちゃんの話に寄れば警備は手薄だからたぶんこんなザルな作戦でもうまくいくだろう」
「宮内も御上にいえないもん、仰山持ってるからなあ。普段は自警団も近づけられへんからなあ」
「じゃあ、作戦決行は昼だ。奴らが油断しきってる隙を突く」
「オー!!」
一同の声が重なる
この時、ミラクルカノン号の乗組員は誰一人として自分たちに待つ散々な運命に気づいていなかった
そう誰も自分たちのことが密告されてるとは考えていなかったのだ
【相沢一家、昼に作戦決行】
ちょっと短すぎたかなあと思う…
乗組員も追加したかったけど…これ以上人数を増やせなかった
うーん、しくじったかなあ
失敗だ…
すっとぼけてた…
こういう時はどうするべきか
一部、差し替え?
全面否定?
どうすればいいんだ?
実際の所かなりヤバイ状況だ。
「隙がありませんね」
今んトコかなり頼りにしてるセリオですら魔物相手にカツカツだ。
「くっ!こいつぁ手強い」
蝉丸とか言うオッサンも相当てこずってる。
「……きゅ〜」
彩さんって凄い術を使うらしい女の子は呪文を唱えてる間に後からガツンとやられて早々にギブアップ。
佐祐理さんは佐祐理さんで彩さんの手当てをしながらなんか考え込んじまってるし…
「少年!そっちに行ったぞ!」
おまけにこれだ。俺はセリオの様にこの魔物が見えねぇし、オッサンの様に気配を感じるなんて事はできないんだ?
なのに魔物はえこ贔屓しないで平等に襲ってきやがる。
「まぁ当然って言やぁ当然だけど!」
ビュオオォ!
風が起きる。魔物がすぐ近くまで飛んできた証拠だ。
右か?左か?
ヒント無し一発勝負、外したら死ぬかもしれない。なんて理不尽な選択肢だ!
「こうなりゃヤマカンだっ!」
手に持っていたナイフを振る。
ザシュッ!
「!当たった…」
「まだです!前っ!」
セリオが叫んだ。
ドカッ!
ちっぽけなナイフでは魔物を止めるには役不足だったか、俺はわき腹を思いっきり殴られた。
「ぐはっ!げほっ!ごほっ…!シャレになんねぇ…」
魔物の目の前(のはずだが)で体をくの字に折ってしまった。当然追撃が…
「………?」
来ない?
「痛っ!」
顔を上げて見ると魔物の向こう側に居た小さなガキんちょが腕を押さえていた。
ははーん、なるほど。ピンと来た俺はまた魔物とチャンバラを始めた蝉丸のオッサンを呼んだ。
「おい、オッサン!」
「誰がオッサンか!?」
「いいから!俺の見立てによるとあっちのガキんちょが本体だ!アイツを押さえちまえば…」
「ん?今頃気づいたのか?」
「それはすでに試しましたが魔物に阻まれて失敗しました。」
ぽつーん…オッサンとセリオに同時に突っ込まれて一人ぼっちな俺。
「だったら俺がっ!」
ダッシュ!バコン!
「いってぇ…」
今度は頭を殴られて吹っ飛ばされた。頭がクラクラする。
なんとか、なんとかこいつらの動きを止める方法はないもんか…
ガキんちょの方を見る。余裕なのか積み上げた本の上に座っている。
「ん?」
さっきからガキんちょは右手で目を庇っている。一体どうして…
「!そうか!」
俺は前線で俺のために(?)頑張ってくれている勇敢なる戦士二人をほっぽって佐祐理さんの下へ走った。
「佐祐理さん!鏡持ってる?化粧に使う様な小さい奴でもいいんだ!」
「えっ?あ、はい。コンパクトなら持ってますけど…?」
「サンキュ!」
佐祐理さんからピンクのコンパクトを受け取った俺は…
部屋に入った時に灯りをつけた蜀台を手に取った。
「くらえっ!浩之ビィーム!」
そのまま炎の光を鏡で反射させ、ガキんちょの顔に照射。
ずっと目を庇っていたのは灯りが眩しかったから、きっと地下に居てしばらく日の光を拝んでなかったからと読んだのだがこれがドンピシャ。
光に慣れてない上にロウソクの光の直射はキツかろう。
「あっ!」
ガキんちょは顔を押さえそのまま本の塔からドサドサッと落下。
「魔物の動きが…!」
「止まった…?」
「今だっ!」
俺はあっけに取られる戦士諸君の横を駆け抜け、ガキんちょの元に一直線にダッシュした。
「…!!」
ガキんちょは慌ててガバッと起き上がり魔物も活動を再開するが時すでに遅し。
「つっかまーえたっとぉ!」
「あうっ!」
魔物が俺を捕まえるより早く、俺はガキんちょにチョークスリーパーをかまして押さえつけた。
【藤田浩之:川澄舞の捕獲に成功】
他の話が進んで来たのでこっちも。
ちょっとわかり辛いかもしれないけど浩之視点。
浩之が魔物にナイフを当てられたのは例の設定(忍者)のおかげッス(w
138 :
塔の伝説:02/01/13 00:07 ID:5a/vU+nQ
背後から振り下ろされる鋭い爪を、七瀬は身体を捻って避ける。
振り向きざま、手にした戦斧で、ウサギの腹を薙いだ。
ぱっ、と紅いチョークの粉が飛び散り、ウサギはその実体を失う。
具現化したウサギを、あらかた退治し、一息ついた七瀬の耳に、甲高い声が聞こえてくる。
「七瀬〜、後ろからも来ちゃったわよ!」
顔を引きつらせながら、志保が七瀬の後ろに滑り込んだ。
「げっ……まだこんなに…」
志保の後ろから追いかけて来た、ウサギの大群に、さすがの七瀬も蒼ざめる。
とっさに、このまま戦うべきか否か、頭の中で考える。
答えはすぐに出た。
「健太郎!! 退却するわよ」
「わかったっ」
剣を杖代わりに、肩で息をしていた健太郎も、後ろから押し寄せるウサギに、一も二も無く頷く。
志保を先頭に、三人は一目散で逃げ出していた。
「志保、逃げるのはいいけど、アテはあるの!?」
「うー……考えてないっ!!」
「ど、どうするんだよ、すぐ後ろまで……うわああぁぁっ!!」
目の前をウサギの爪が掠め、健太郎は悲鳴を上げる。
「げっ!!」
思っていたより、ウサギの足が速い。
慌ててスピードアップする志保と七瀬だが、次の瞬間、足元が抜けた。
『へっ?』
ばこん、と中空に開いた穴に、志保と七瀬は思わず顔を見合わせ…………
『落とし穴ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!?』
139 :
塔の伝説:02/01/13 00:09 ID:5a/vU+nQ
「し、志保っ、七瀬っ!?」
志保と七瀬は、一瞬手足をばたばたさせ……落ちた。
慌てて穴に駆け寄った健太郎だが、暗闇の穴の中に、フェードアウトしていく志保と七瀬を、呆然と見送るしかなかった。
「お、おーーい……じょ、冗談だよな………?」
穴の縁を掴み、恐る恐る中を覗き込んで見るが、そこには影も形も見えない。
相当に深い穴なのか、底は暗黒に包まれ、二人の運命を伺う事さえ出来なかった。
ぐるぐる、と険悪な唸り声に、健太郎が振り向けば、そこにはウサギの大群が待ち受けている。
「ぜ、前門の穴、後門のウサギ……」
落とし穴、と言えば、まず槍衾だろう。落ちてきた人間をぐさり、と刺し殺す。
あるいは、硫酸が溜まった落とし穴というのも、残酷で怖い。
しかし、一番恐ろしいのは、登れないただの穴で、底には餓死した人間の骨がごろごろと……
冒険者の仲間から聞いた恐ろしげな話が、次から次へと、健太郎の脳裏に甦る。
「うううう……どうすればいいんだ」
じりじりと迫ってくるウサギたち。健太郎は絶望的な表情で、それらを見回し……
「ああ……親父、お袋……先立つ不幸を許してくれ………」
両足を揃え、健太郎は落とし穴に跳び込んでいった。
まず感じたのは、浮遊感だった。
絶望的な浮遊感に包まれ、健太郎は意味も無く手足をばたつかせる。
「や、やっぱり止めよきゃよかったあああぁぁぁぁぁぁぁ………」
瞬く間に小さくなる、四角く区切られた穴を見上げながら、健太郎の意識は、遠退いていった。
140 :
塔の伝説:02/01/13 00:11 ID:5a/vU+nQ
「…たろ」
だれだ…
「……けんたろ」
誰だ、俺を呼ぶのは…
「………健太郎!」
眠い……あと五分眠らせてくれ…
「起きんかいこのボケっ!!」
がつん、と脳天に衝撃が走り、健太郎は文字通り、目から火花が出た。
「いでででで……」
七瀬にどつかれた脳天を押さえ、健太郎はうめき声をあげる。
「くぅ、七瀬、お前馬鹿力なんだから、もう少し手加減してくれよ……」
タンコブになっていた所を再度殴られ、本気で涙目になりながら、健太郎が懇願した。
「悪かったわね。それよりほら、見てみなさいよ」
七瀬が指し示したのは、暗い地下室だった。
「そ、そう言えば、俺たち穴に落ちたんじゃ……?」
「落ちたわよ……ほら、あそこ」
七瀬が指差す先には、無数の茸の山と、人の形にへこんだ三つの穴がある。
よくよく見れば、今健太郎が寝かされているのも、巨大な茸の上だった。
「……そうか、茸がクッションになって助かったのか……そう言えば、志保は…」
言いかけたその時、手にカンテラを持った志保が、奥から戻ってきた。
「どう、何か見つかった?」
「……自分の目で見てみるといいわよ。志保ちゃんニュースのトップを飾りそうな、すっごいものが見れるから」
141 :
塔の伝説:02/01/13 00:13 ID:5a/vU+nQ
起き上がれるようになった健太郎を連れ、志保の案内で入った部屋を見た七瀬と健太郎は、言葉を失った。
「なに……これ……」
「嘘だろ……これみんな……」
「ええ、間違いないわ」
あっけに取られる七瀬と健太郎を尻目に、志保は落ちている宝石を手に取った。
壁の本棚には、無数の古代書があり、中央のテーブルには、書きかけの日記とペン、そして。
床には、十数個もの“秘宝”……白く輝く、美しい宝石が落ちていた。
「説明してよ、志保……あなた、何か知ってるんでしょ?」
七瀬の言葉に、志保はしばし迷ってから、溜め息と共に言葉を吐き出した。
「ここは、お墓。ある一族の、古い古いお墓だって……そう、ルミラが言ってたわ」
奇蹟を起こす力を持った一族が、昔、この辺りに居たそうだ。
彼らはその力ゆえに、恐れられ、敬われてきた。その不思議な力と、死後残す、宝石によって。
だが、欲の張った人間が、彼らの宝石を狙い、次々と彼らを狩っていった。
その一族を殺せば、自然と宝石に変わる。これほどいい商売は無い。
彼らは力を持っていたが、それでも数の暴力には太刀打ち出来なかった。
やがて数を減らしていった一族は、ひとりの預言者の言葉に従い、森の奥に、塔を築き上げる。
人間から隠れ住み、その“秘宝”を守る為に。
当時の国王も、『魔物狩り』の名目でその一族が狩られる事を疎み、今後一切、その塔に手を出す事を禁じた。
こうして、その一族は、人の歴史の中から消え去った。
いつしか人々は、その塔の存在を忘れ、『魔物を封じた塔』として言い伝えだけを残すのみとなる。
「………それが、100年だか150年だかの昔の話」
「それじゃあ、この秘宝って、みんなその一族の………」
「ええ。裏の世界じゃ、大きいのになれば、国家予算並の値がつくわよ。これだけあれば、一生困らないわね」
142 :
塔の伝説:02/01/13 00:16 ID:5a/vU+nQ
志保の言葉に、思わず唾を飲み込む健太郎。
だが、七瀬の反応は、大きな溜め息をひとつついただけだった。
「……いくらなんでも、そんな宝石、持って帰れないわよ。それこそ、乙女失格だわ」
「ま、あたしも、それ程お金に困ってるわけじゃないし」
志保と七瀬の言葉に、健太郎も、後ろ髪を引かれる思いをしながら、何とか目を背ける。
「そ、それで……どうして今頃になって、秘宝の噂が立つようになったんだろうな」
「それがね、十年少しぐらい前、あの村で不思議な力を持った母娘が、目撃されてるのよ」
志保の言葉に、七瀬は眉を寄せる。
「隔世遺伝ってやつかしら……迫害されて、この塔に逃げ込んだって事?」
「あるいは、閉じ込められたか……どちらにしろ、この塔で見かけられる女の子ってのは……」
(永遠はあるよ……ここに、あるよ……)
少女の、声。
思わず振り返った志保達の前に、幼い少女の影が、佇んでいた。
「……お、折原……!?」
その影を見て、志保と七瀬が、絶句する。
やがて、少女の影が消え去り、そこにはぽっかりと通路が開いていた。その向こうから、微かな戦いの音が響いてくる。
「あれが、塔の少女……?」
「いいえ、別口よ…健太郎」
きっぱりと断言する七瀬。その横顔を見た健太郎は、思わず声を上げそうになった。
志保も、七瀬も、まるで幽霊でも見たかのように、顔色が真っ青になっている。
その表情に、問い掛ける事も出来ず、健太郎は言葉を飲み込んだ。
「……この先に、その女の子がいる」
噛み締めるような志保の声と共に、三人は駆け出していた。
塔の設定を出してみました。
この隠し部屋は、探せばまだ色々あるかも知れません。
【志保、七瀬、健太郎、隠し部屋発見】
【折原みさお出現。三人に道を教える】
【塔は、元々、人間から逃れる為の、舞の一族の隠れ家だった】
「…柳川さんも月島さんも凄いんですよー。そこであっっっっと言う間に、みんなやっつけちゃったんですよ」
「そうかー」
道どおりの、カフェに三人の男女がいる。
一人は忙しそうに表情をくるくる変えて身振り手振り話している少女。
一人はそんな少女にニコニコと対応する馬面の中年。
そして、そんな二人にいまいちついていけない青年。
(マルチはお父さん…と言っていたけど)
彼、月島拓也は思う。
彼の仕事…マルチの護送は、かなりの高額だった。そして、それを裏付けるかのように度々襲撃を受けた。
辺境の村で老夫婦と暮らしていた彼女のどこに、そんな価値があるというのか。あるいは、貴族の令嬢なのか、と思ったりもしたが――――
彼女が「父」と呼ぶ男は、どこからどう見てもただの中年である。とても貴族には見えない。
彼、長瀬源五郎は、マルチの話を一通り聞いたあと、青年に向き直った。
「いや、うちのマルチが本当に世話になったね。例を言うよ」
ぺこり、と頭を下げる。気安い人だな…そんな事を思いながら、月島拓也は言った。
「いえ…仕事ですから、お気になさらず」
「勿論だよ。私が礼を言ったのは、君が仕事以外でマルチにしてくれた事に対してだ」
飄々と言い放つ。仕事以外のことで?月島は一瞬首を傾げたが、とりあえず「いえ…」と返した。
「それで、お父さんはここで何をしているんですか?」
「それはこっちの台詞なんだけどね。時間的にもうレフキーについているかと思っていたが…」
「…まあ、色々ありまして」
連れの柳川が突然別の仕事に出てしまった事もあるが、やっぱり一番大きな理由はマルチが道に迷った事だ。
それがわかっているのか、マルチは頬を赤らめて、少し項垂れる。
「…ううッ。すみません…」
「いやいや、いい経験が出来て、よかったじゃないか」
そんなマルチに、中年の男は朗らかに笑う。
なるほど、父親なんだな…月島拓也は納得した。
「さてと、これからの事だが…」
月島(話したのはマルチだが)から一通りの事情を聞いた長瀬源五郎は、そう切り出した。
「…はい」
「早々にレフキーに行かなくてはいけない。学会もあるし、マルチの調整もしなくちゃいけないし」
(調整?)
何の事だ、と思う月島。
「セリオさんは元気でしょうか」
「うーん、大丈夫なんじゃないかな?」
「ですよねー。セリオさんは優秀ですから」
(セリオ?)
誰だ、と思う月島。
「じゃあ、柳川さんは…」
「残念だけど、長引くようならここで別れるしかないな。まあ、祐介もいる事だし、また会えるよ」
「そうですかー。そうですよね」
(祐介?)
遂に、月島は手を上げた。
「あの、さっぱりわからないんですが」
「つまりね、僕とマルチと君で、一足先にレフキーに向かおうってことさ。柳川君は、祐介…僕の甥っ子と一緒に後から来ればいい。祐介の奴も柳川君と同じ事件に関っているみたいだし、調度いい」
「でも…大丈夫なんでしょうか?」
ここに来るまで、さんざん殺し屋などに襲われたのだ。柳川抜きでは、正直危険だろう。
だが、長瀬源五郎は平然と言ってのける。
「なに、僕がいるから襲ってきやしないよ」
それはどういうことなのか。何故、そんなふうに断言できるのか。
これまで襲ってきた連中の正体を知っているかのような口ぶりに、月島は不信感を感じた。
が、それを問い質せる立場ではなかった。
「わかりました。では、明日早朝にでも出立しましょう」
【長瀬源五郎(TH)、マルチ、月島拓也 合流。翌日レフキーへ出発】
『少女と青年と中年』をお送りします。
なんだか、伏線を増やしただけのような気もしますが…
一応、矛盾がないように気をつけたつもりです。
リレー総合スレでファンタジー用に感想スレを立てるという話が出たんですけど、
どうしましょう?
148 :
花。:02/01/13 11:21 ID:m/scAkEs
「雪。――僕に剣を教えてくれないか?」
と、真剣な顔で云う七瀬彰の貌を見た深山雪見は、一瞬、彼が正気かどうかを疑ってしまった。
旅もほぼ半ばに至り、あと一日ほど歩けば目的地のホワールに到着するだろうところまで来ていた。
山道でも山賊やなんやに遭遇する事もなく、安全に平和に進む事が出来た。
山を降り始めたところで陽は沈み、そこで夜営を張る事にした二人は、火の前で向かい合いながら色々世間話をしていたのだが、そんな中、ふと彰がそんな事を云い出したのである。
「何云ってるのよ」
「いやさ……矢ッ張り少しくらい剣術も使えなくちゃ、一人で旅する事もままならないじゃない」
「向いてない」
即答される。彰は口を尖らせながら不満げに溜息を吐く。
「別にさ、云う程貧弱じゃないし、多分剣くらい振れると思うんだけど」
どうも雪見は、数年前の貧弱な子供の見本みたいだった自分の印象が強いようだ、と感じているようだ。
だが身体が大きくなるにつれて、脆弱だった腕力も結構強くなり、剣くらいは振れる筈だと思う。
――だが、どうもそう云う意味で云っていたのではないようである。
「別に彰が剣を覚える必要はない。彰は傷ついているものを治す人。彰が人を傷つける姿なんて私は見たくない」
小さく溜息を吐いて、雪見はそのまま黙ってしまった。
――そう云うものだろうか。
確かに、自分が人を傷つける姿など、想像も付かないけれど。
*
149 :
花。:02/01/13 11:21 ID:m/scAkEs
「――ん、そろそろ着きそうだね」
視界が開けて、其処に見えたのが――魔法都市、ホワールである筈である。方向を間違ってさえいなければ。
広大に広がる草原の真ん中に、古風の建物が建ち並ぶ集落がぽつんと存在している。
古くさく見えるからだろうか、その集落は、自分が住んできた街、もっと云うならば、この世界のすべての街と、
何処か一線を画しているようにも感じられた。
「長い旅だったね」
息を吐いて彰が云うと、
「そう? 矢ッ張りこんな程度で長いと感じるんじゃ、彰は冒険者に向いてないよ」
そう云って雪見はけらけらと笑う。
「そんな事――」
反論しようとした、その瞬間だった。
何か、別のものの気配を感じたのは多分錯覚ではない。
自分の背後で聞こえる唸り声、雪見の背中の向こうに見える、その姿。
「雪ッ……」
何時の間にだったのだろう。十数匹の狼が、自分たちを取り囲んでいた。
「あちゃ」
*
150 :
花。:02/01/13 11:22 ID:m/scAkEs
「ちょっと油断したわね」
そんな事を云いながら、雪見は苦笑いしながら頬をぽりぽりと掻く。
「何だかんだ云って私も疲れていたみたいね」
「ど、どうするの、雪」
図鑑でしか見た事がなかったが、狼という種類の獣は肉食性の野蛮な動物で、その牙には軽い毒性を持ったものも多いという。
それが、……14匹、自分たちの周りで唸り声をあげているのだ。その初体験に、正直彰の足はすくんでいた。
「もう、情けない声を上げないの。大丈夫、なんとかするわよ」
怯えている自分とは対照的に、雪見は真っ直ぐ獣達を見詰め、その動向を伺っている。
完全に落ち着き払っている彼女は、肩を竦めると、
「あんまし剣、使いたくないんだけどな」
そう云って小さく溜息を吐き、背中に構えた剣に手をかける。
――そこで彰は大きく息を吐く。そう、彼女は剣聖と噂される天才だったのだ。
彼女の剣技がここで、初めて自分の目の前で振るわれるのだ。
恐怖で覆われていた自分の心が、気付くと興奮のようなもので覆われている。
彰は彼女を凝視する。その美しく長い髪と、真っ直ぐに見据えた、強い視線とを。
想像する、獣の血を浴びて、真っ赤になる深山雪見の姿を。それは、あまりに甘美に思えた。
「おイタは、なしよ」
女が振るうには、少し大きい剣に見えたが。
*
151 :
花。:02/01/13 11:22 ID:m/scAkEs
「――こんなものかな」
多分、時間にして数十秒。――けれど、殆ど永遠に続くようなダンスにしか思えなかったのは、どういう事だ。
それだけ彼女の剣捌きが見事だったという事か。
「食べられる訳にはいかなかったからね」
何で。彰は、心底から、疑問に思わざるを得なかった。
「何で、殺さないの」
彼女は、剣を鞘に収めたままそれを振るい、14匹の獣をのしてしまったのである。
獣からは血の一滴も流れなかった。それどころか――打撲と云った怪我をしているものもいないだろう。
ただ、気絶させたのである。相手の肉体に、なんら大きな傷を与えずに。
自分と彼女が立つ半径2mにも、獣は入り込めなかった。
「無駄な殺生は嫌いなのよ」
涼しい顔をして雪見は云う。
「――殺さないで済むなら、殺さない方がいいに決まってるじゃない」
極悪人の云う台詞ではない。
「誰が極悪人よッ」
「ここで殺さなくちゃ、ここを通る人たちがまたこの狼に」
不安に思った事を、彰はそのまま口にする。だが、返答は意外なものだった。
「その時は、その時よ」
「――え」
「彼らだって生きる為に戦っている。今日は偶々私の方が強かったから、彼らは食事に有り付けなかった」
明日になれば彼らはまた人を襲うでしょう、生きる為に。彼らだって生きなくちゃいけない。
「命は平等なのよ。人が一番偉いのじゃない」
強くなくちゃ生きていけないし、弱かったら殺されるだけなのよ。
「私は彼らに、猶予期間を与えただけなの」
*
152 :
花。:02/01/13 11:22 ID:m/scAkEs
黙ったまま、彰と雪見は目の前に広がる草原を、ぽつぽつと歩いていた。
理屈は判るのだけど、彰は、それでも何故か納得が出来なかった。
「傷つけるのは簡単なのよ」
沈黙を破ったのは、雪見の方からだった。
「この剣を鞘から抜いて、無闇にそれを振るい、獣達を殺す事は簡単なの。だけどね、私はこう考えてる」
生きる為でない時以外、殺すべきじゃない。雪見は、淡々と云った。
「彼らを殺さなくても私達は生きていける。そうでしょう」
「――うん」
そうだ。すべての命は平等で、皆、生きる為に生きている。
彼女の言葉は、すべて、正しい。
「明日になれば誰かがあの平原を通り、獣に襲われるかも知れない。けれど、ただ生きようとしている彼らを私達に止める権利はない」
自分より2つ年下の娘が、生きとし生けるものの間の礼儀を既に自分よりも遙かに上手く理解している事に、
ただ素直に、感嘆せざるを得なかった。
医者をやっている人間が、そんな重要な事を上手く心得ていなかった事に、少しショックを受けてしまう。
「だから、私は彰の事すごく尊敬してるのよ。傷ついた人を治して、苦しんでいる人たちを救う」
雪見は笑って云う。落ち込んでいる自分に比して、明るく、優しい笑顔だった。
「弱くて、生きていけないから傷ついたり病気になる。だけど、彰はその弱い人たちを強くする為に働いているんだから」
真っ直ぐ自分を見て云う雪見に、少し照れくさいものを覚える。
「剣を覚えようとか考えちゃダメ」
そう云う事か。
*
153 :
花。:02/01/13 11:23 ID:m/scAkEs
「――それじゃあ、私はここより更に東のレフキーに行くわ。聖先生に逢ったらよろしく云っておいてね」
魔法都市ホワールの正面の門の前、市に参加した人で溢れかえっている入り口を前にして、雪見はそう云って手を振る。
一つウインクする。ううむ、その仕草がやけに可愛らしく感じられ、彰は少し貌を赤くするが。
「うん。雪見も怪我するなよ」
彰も目を細めて笑い、大きく手を振って、そして互いに背を向けて、真っ直ぐと歩き出した。
不思議と、また近い内に彼女と再会するような予感を抱いた。何故だろう。
さあ、聖先生を捜そう――
街の一番奥にある、大きな大きな古城を前に、彰は大きく息を吐いた。
【七瀬彰 魔法都市に到着、聖先生を捜す事を目的に行動】
【深山雪見 レフキーに向かって一人旅】
>>8-12の続きです。
あんまし時間が無くて、あんまし書けません……スマソ。
あと、感想スレですが、立てた方が良いような気もします。
やっぱり感想欲しいものですしねw
矢狭間に嵌め込んだ厚手の曇り硝子から放たれる、柔らかな光を背に受けながら、ソファに深く
腰掛けた少年が、暗い通路の先を見据えたまま問い掛ける。
「問題ないと思うけど-----もう一手、打った方がいいかな?」
「高槻が転がり込んできた今、これ以上の機会はない。
打てる手は打つに越したことはないが、適任者はあまり居ないと思うよ」
眼鏡をかけた男は、少年の方を向くことなく答え、付け加える。
「まあ……相手が良くないが、まだ若い。彼女たちなら、なんとかするさ」
「まだ冷気が”寒気”で済んでいるからいいとは言え、幼生のうちに何とかしないとな……」
「ああ。あの巳間とかいう男、上手く飼いならしているようだが-----」
互いに憂鬱そうな顔で、語尾を窄める。
折原浩平と、緒方英二。
ふたりは”殺す権力”を所有している人間であり、かつそれを振るうことに微塵の恐怖も感じぬほどに
使い慣れた人間ではあるが-----そうした人間の中にあって、最も殺しを好まない部類に入る。
「-----白龍は、人とは住めないよ」
それは、相手が人であってもなくても、変わりはない。
* * *
ばたんと大きな音を立てて倉庫の扉が開いたかと思うと、ふたりの少女が揃いも揃って
しかめっ面をして出てきたところであった。
最初に彼女たちがこの酒場に入ってきたとき、あれほど敵対心を漲らせていた”衛兵”たちは、
今や関心の欠片も示すことなく酔いどれたふりをしている。
ひょっとしたら、中には本当に酔っている者も居ないでも無い気がするほど迫真の演技なのだが、
彼女たちの目には入っていないようであった。
先に口を開いたのは、眼鏡をかけた神官である。
「あんな、みさきさん?」
「どうしたの、智子ちゃん?」
みさきと呼ばれた少女は、すかさず声の方へ向きなおると、問いを返した。
彼女の目の中に映る全てのものは、彼女の脳にまで届くことはない。
あれが”双剣のみさき”か、と酔いどれたちの中には好奇心を刺激されたものも居たのだろうが、
訓練の賜物であろう、誰も声をかけることはしなかった。
「どぉ考えてもやな。うちら、騙されとぉよ」
智子はそう言うと、比較的ましなカウンターを見つけて腰をおろしワインを注文した。
「うーん。やっぱり、そうなのかな?」
智子と同時に注文したエールのジョッキを傾けて、泡のちょびひげを生やしながら、みさきは答える。
食べっぷりも見事なのだが、飲みっぷりも見事な彼女に、智子は畳み掛けるように力説した。
「いくら評判の悪い領主言うても、犯罪やんか!!」
ふたりが浩平や英二から聞かされたのは、東方の冷害についてである。
これは北方からの寒気が、通常よりも長い間にわたって南下することで起こる”天災”なのだが、
どうも今回は勝手が違うようなのだ。
英二は「ちょうど、高槻の領地が中心でね」と言い、浩平は「だから、主人や取り巻きの居ない今こそ、
調べて欲しいんだよ」と頼みこんだ。
”秘宝”と呼ばれる宝珠のようなものを、高槻も所有しているらしいと聞いて、みさきは思わず了解して
しまったのだが-----
-----ようするに、領主の城へ空き巣をすることに他ならないのだ。
鼻息荒い智子に押されつつ、みさきは質問する。
「その-----高槻? 卿、だっけ? そんなに、評判悪いの?」
「そらもぉ、ばり汚い奴っちゃで」
怯みを見せたみさきに、智子は悪行の数々を知る限り披露する。
中にはもちろん、当の被害者と先ほど顔あわせしたとは知らぬ事件も入っていた。
大人しく演説に耳を傾けていたみさきだったが、最後にひとこと呟く。
「-----だったら、お邪魔してもいいと思うよ?」
「……お邪魔って、なぁ……」
延々と高槻の悪評を口にしているうちに、智子の強固な法律遵守の気概も崩れてしまったのだろう。
切れのいい返答もできずに、彼女は沈黙する。
「変、かな?」
そんな智子の心変わりを感じてか感じてないのか、みさきの押しが入った。
「……いや-----変やない、かも……」
智子は、曖昧に返事をする。
彼女は自らが、無法者の階段をあがっていると-----正確には、転がり落ちているのだが-----
そんな気が、していた。
【川名みさき&保科智子:盗賊ギルドの汚い酒場で相談中。東方にある高槻の領地へ潜入するつもりの様子】
【折原浩平&緒方英二:いつも通り。他の集団を送り込むかどうか検討中】
【巳間良祐:高槻の領地にて白龍を飼育?】
毎度、挽歌でございます。
「東方の冷害」をお送りいたします。
そろそろ本文3レスは、きついような気もしますが……何となく。
「みさきの奇癖」(前スレ551-553)の続きで、浩平編としては次が「過去と未来」(前スレ426-429)といった感じで。
相談中の二人の後ろを、志保が通り抜けて行ってるのでしょう。翌日かもしれませんが。
●都市
【レフキー共和国】
レフキー:王都。商業都市。共和国最大の港湾都市?
王城/王立図書館/酒場/武具屋兼宿屋/コスプレ酒場「一喝」/鍛冶屋/牧村邸
トゥエア:自由都市。
キスカノン:旧都。
オネシズ:城塞都市。
フィルムーン:レフキー最大の港町。貿易港。自警団が組織されている。
宮内貿易公司本社/第三倉庫
秘宝塔の村:辺境にある。
棄てられた秘宝塔/宿屋
高槻の治める領地:リフキーの東方にある農村。
由起子の教会・孤児院
レフキー街道
妖狐の里
【帝国】
ニノディー:共和国との国境近くにある城郭都市。
異国の街=帝国領内?:みさき・雪見・聖・彰・さいか・栞の出身地。
霧島診療所/酒場
ホワール=帝国領内?:魔法都市。異国の街の東にある。聖がそこにいるらしい。
【キィ国】
農村地帯/戦士ギルド(個人的には傭兵ギルドの方がいいような)
●組織
【レフキー共和国】
王国騎士団特務部隊/王国議会/クルス商会/FARGO宗団/盗賊ギルド/魔術アカデミー
自警団/巡察隊
【帝国】
帝国情報局/帝国特務機関/山賊/巡察隊
【無所属】
情報屋/伝説の旅芸人一座/傭兵/海賊集団相沢一家・ミラクルカノン号
【一族】
魔族・魔界貴族/シェイプシフター・柏木一族/長瀬一族
【所属不明】
忍者組織
以上、とりあえず今まで出てきた都市とか組織をまとめてみました。疲れた(w
漏れ・ミスがあったらツッコミよろしく。
しかし俺、初期に1本書いたきりだなぁ。
続けたい話はあるけど時間が……
ところで、帝国の国名はアクアプラス+タクティクスで、「アクアティクス」なんてどう?
それと、盗賊ギルドと魔術アカデミーは帝国にも支部があってもいいかも。
ああちなみに、高槻ってフルネームは高槻涼だった気が。
あ、みさきとか雪見とかの出身地だけど、
>川名みさき 盲目の剣士(異邦人、服のイメージ的には中近東)
を見て、異邦人で中近東っぽい服→異国出身という推測しただけだから違うかも。
秘法塔については
【020「アウトローとクルスガワと」#1(296-301)】で
> 佐祐理の話によると秘宝塔のある村はリフキーから
> 一山越えた所にあるという、しかしこの山が思っていたより
> 険しかった。
ってあるみたい。 案外レフキーから近いのかな?
レフキー街道は
【066「ヴァルキューレの奇行」#1(590-593)】で
>共和国最大の港湾都市の名を冠した海岸沿いのその街道は、
>大陸の東西交易の陸の大動脈であり、同時に大河を一つ挟んで対峙する共和国と帝国を結ぶ、
>軍事上の要衝でもある。
とありますね。東西に伸びていて帝国と共和国を結んでいるのか。
あと宗団本部の場所はどこだかよくわからん気もします(本文読んでみても)。
今気が付いた。
>> 佐祐理の話によると秘宝塔のある村はリフキーから
もしかしてリフキーってレフキーとは別の街?
美凪たち一行が森にはいり2日目が経過し、森の中心地帯まで入り込んでいた
「・・・異様な気配を感じます、こちらをみつめられているような・・・」
「だっ大丈夫だよ美凪ぃ〜〜、みちるのねっ、このちるちるチョップで魔物なんか一刀両断!とりゃあっ」
「・・・」
「・・・あっそこに子鬼が・・・」
「 にょわーーーーーー!美凪ぃ−−−−−−−−(;゚Д゚)ガクガク ブルブル」
「・・・なんちって・・・びっくりした?」
「ううううっひどいよ〜〜美凪ぃぃぃぃ」
「ははっ大丈夫、この札さえもっていれば魔物はこちらに気づきもしないさ、なんといっても
この御札を貼った建物は150年間3度の大厄災をも退けているからね」
「・・・すごい御札ですね、ぱちぱちぱち・・・わたしも持っていますよ御札・・・・・・はい進呈」
敬介の手にお米券が手渡される
「う〜ん、これはみたこともない札だが・・・どのような効力があるのかな?」
「・・・とりあえずお米には困らないとおもいます、お礼に進呈です」
「ありがとう・・・」(本当に不思議な子だ・・・)
「・・・それで150年過ぎた後、その建物はどうなったのでしょうか?」
「ううんと・・・、確か最終的にはその自宅の住人が御札をはがしてしまったために、焼け落ちたと聞くけど」
「・・・おかしいですね、御札はきちんともっているのに、まわりに子鬼が近づいてきます」
「そんなばかな!鎮宅霊符のご加護が効かないというのか」
(霊符が効かないということは、その加護を上回る厄災か、・・・もしくは神のご意志、
神はこの俺に犠牲になれとおっしゃっているのかもしれん)
「美凪ぃぃぃぃ恐いよお」
「・・・とにかく馬車のスピードをあげて・・・おねがいユッキー!ハーリーアップ」
馬車のスピードはあがっていく・・・・が
すでにその前方に子鬼の集団が道を封鎖していた
茂みの中に潜んでいた子鬼が背後から現れる、前後から挟まれ進むことも退くことも
もはやかなう状況ではなかった。子鬼の集団は獲物を捕らえるべく、徐々に距離をつめてくる
やがて、その集団のリーダーらしき子鬼が、敬介達に向かい脅迫をかけてきた
「おいっおまえ等、有り金と女をすべておいていきな!、そうすりゃ男は逃がしてやる
男は肉が固くてまずいし食えたもんじゃねえしな、雌はその点やらわかくて上手い
だから雌は我々が美味しくいただいておくぜ
「うほっひさしぶりの人間の雌が食える!」
「やっぱり肉はレアにかぎるよなあ」
「ううっかみ締めるほどにあふれだす肉汁がたまらねええ」
「おいっ黒胡椒は用意してあるだろうな」
「ううっうわああああああああああああん、にょわああ〜みちる食べられちゃうのかああ?いやだ!いやだ!うううっぐすうううう・・・美凪ぃぃぃ」
「・・・随分と一方的な交渉ですね、お腹が空いたのならお米券を進呈するのに・・・」
「やつらにとっては、おかずの善し悪しが問題だろうし、その交換条件は無駄でしょう」
(この数の多さでは1人の精神をあやつったところで意味はないか・・・!となるといよ
いよ禁じられていた術をつかうしかないか・・・)
(敬介よ術を扱う際に、必ず作用と反作用があるのは前にも教えたとおりじゃ
術とは、本来の自然の予定調和を崩す事じゃからの、その代償を天より払わされる
中でも式神を呼び出すというのは、森羅万象の理に大きく影響を与えることなのじゃ
それだけ術者には負担が大きい・・・
さらに、使役するためにはその鬼神の意識を自分の意識の中にとりこみ、従わせる必要がある
精神の器が大きければ問題ないが、器が小さかったときには・・・・・その心は鬼にくわれ
逆に支配されてしまう、使用の際にはくれぐれも気をつけることじゃ・・・)
(いまの自分に果たしてできるのだろうか・・・下手をしたら・・・・だがもう逃げるわけにはいかない!
老法師様!観鈴、ごめん・・・僕は術をつかう!)
敬介は精神を集中し印を結んでいく
大いなる天を統治する鬼神の十二神・・・
其の内の乱れを司るものよ・・・
我は汝の使役者に足るものなり
故にそなたの手足は、我が手足・・・
五感はことごとく我に同化すべし・・・
我が呼びかけに応え、急々に疾風のごとく来たりて
我に従え!
その名も鬼神<騰蛇>よ!
敬介の前に光で描かれた五亡星が出現し、その中から閃光とともに式神が現れた!
騰蛇は現れると同時に辺り一面に霧を発生させる、そしてその霧の中から黄金色に
輝く龍が現われる。
「なっなんだーーーどこからこんな化け物っ・・・・・・」
その巨大な龍は大きく息を吸い込むと子鬼の集団にむかって、炎の息を吐き出す
瞬時に子鬼5体があっというまに炎につつまれていた。
「うわあああ!なんでいきなり、こんな化け物があらわれるんだ!」
「ひいいいいっ熱ちいいい、体が燃えちまう、たすけてくれええええええ」
「だめだあああ!どうしようもねえ!どうしたらいいんだあ」
「とにかく逃げるんだあああああ、引けえええええええええ」
美凪たちの目の前の光景には、一面の濃い霧が広がるだけであった。
その霧の奥から子鬼の阿鼻叫喚の叫び声があたり一面に響きわる
「突然子鬼たちが苦しみはじめたのですが、どうしたのでしょう?・・・」
「・・・・わたしが式神を呼び出し・・・惑わしの術をかけたのです、この術は
そんなに・・長くつづきません・・・はっはやく・・・・この場から逃げるのです・・・・」
「はいっわかりました・・・ユッキー・・猛急ぎでごーー」
ユッキー手綱を打ち付けると、荷馬車はその場から素早く駆け出していく・・・
「ふふふ・・・どうなるかと・・・おもったけど・・・上手くいき・・・ました、ほんとうに
よか・・・た」
「けいすけ?どうしたのねむいの?・・・けいすけぇーーー!しっかりするにょーーーー」
「敬介さん!・・・けいすけさん!・・・しっかりして・・・・けいす・・・さん・・・・」
敬介の魂の灯火は、鬼神の突風の様な意識力の前に、その火が今消えようとしていた・・・
天神海士です
【敬介:精神の中で鬼神の支配にのみこまれつつある状況】
【美凪・みちる・敬介:子鬼の集団から逃れる】
【レフキー共和国】
共和制を唱えながら王家を有する特異な国家形態を採っており、国家を構成する機関として共和国議会、魔術アカデミー、大神殿、商工ギルドなどの存在が確認されている。
軍事組織としては王立騎士団、騎士団の精鋭から選抜される王立特務部隊、衛兵隊などがあるが、このうち騎士団の魔術部隊はメンバーの不足により事実上解隊されている。
また、特務部隊は詠美と梓が外を自由に出歩けない詠美女王のストレス発散のため極秘裏に創設した部隊であり、非公然の存在……であるはずなのだが、主要な敵対組織には総じてその動向を把握されてしまっているようだ。
この国の王家は昔から子孫が絶える傾向があり、現女王は長い空位期間を経て外部から招聘された大庭詠美。芸術に、政治に非常な才人として知られ、その容姿も相まって国民の支持は非常に篤い。
女王を支える摂政兼衛兵隊長に柏木梓、執政官に牧村南、特務部隊のリーダーとして坂神蝉丸などの名がある。
◆首都レフキー
『人々の夢を奪いつつ、また同時に与え続ける都市。
夢を抱いた若者なら、必ず一度は訪れる都市。
この街を、昔から住んでる人々はこう表現する。
「全てが有り、そして全てが無い街」(ALL AND NOTHING)』
……その都市の名を、レフキーという。
<概観>
都市規模の拡大に応じ、次々と新たに築かれたいくつもの市壁により市街が分断された、典型的な発展過程にある大都市。
最外郭城壁の内外には広大なスラム街が続き、そこから都市中央に向かうに従って居住する人々の生活レベルも向上していくものと思われる。
共和国最大の港湾都市で大陸を東西に貫く海岸沿いの大動脈、レフキー街道上にあるとする描写もあり、このことから察するに港湾都市フィルムーンと同じく海に面した港町でもあるようだ。
陸運と海運、両方の重要な拠点である商業都市だと推測される。
<施設>
@王城
言わずと知れた共和国の心臓部。
内部には特務部隊の詰め所、個室、会議室などがあるが、特筆すべきは女王の寝室兼私室だろう。
この部屋は完全な防音と、完全な魔力封印がされている。この室内では魔法は決して発動しない。これは強大な空想具現化の魔力を持ち、描いたものすべてを実体化させてしまう詠美女王の力を抑えるための措置であり、女王は
この中でだけ絵を描くことを許されている。
@王立図書館
館長は、元王立特務部隊にその名を馳せた『鬼魔術師』、長瀬源之助。
その規模はあまりにも広大で、館長自身いったいどれだけのスペースにどれだけの蔵書が収められているのか知る由もない。
現在、地下30階まではその存在が確認されているが、それより下階は源之助が飽きてしまったため探検がなされていない。蔵書の中には悪魔憑きの書物などもあり、館内の散策はそれなりの危険が伴うようだ。
源之助の就任当初は荒れ放題だったが、この四年間弟子である長谷部彩が自発的に整理を続けてきたため、上層階はかなり整頓された状態になっている。
@たいやき屋
文字通りのたいやき屋台。初出では酒場だった。
良く食い逃げされるのは原作に同じ。
@武具屋兼宿屋
水瀬秋子女史の経営する、冒険者の集う宿屋。店名は未詳。
歓楽街からは多少離れた場所に店舗を構えており、冒険者向けとは思えない落ち着いたたたずまいを見せる。
そのためか、極めて品質の良い武具のオーダーメイドまで行える店でありながら、ここが冒険者の宿であると知るものはそれほど多くはないという、ベテラン御用達の宿となっている。
ちなみに酒類持ち込み禁止。
@酒場
名前はやはりエコーズか?
志保がよく訪れる、スラムの北側の酒場。店主はフランク長瀬。
@コスプレ喫茶「一喝」
裏通りの一角、娼館やストリップ小屋の類が立ち並ぶ通りにある酒場。
ピンクの照明に彩られた店内では、さまざまなコスプレをしたウェイターが客を接待する、通好みの風俗店。当然お触りもあり。
店長は芳賀玲子。
@盗賊ギルド
『闇の王国』と呼ばれる、表の法に保護されない人々を統括するギルド。
一説に、その構成員は王国の実人口の四割に達するとも言う。
最外郭城壁の外に広がるスラムの中に位置するギルドの外見は、非常に大きく不潔な酒場を装っており、中には王国の『衛兵』たる多数の手練れの盗賊、アサシンのたぐいが屯している。
『謁見の間』は酒場の最深部、新城壁の内部をごっそりと大きくくりぬいた、隠し部屋として存在しているが、ほとんどのものは存在は知っていてもその位置を知らない。
(注:くりぬいた城壁は原文では旧城壁跡だが、もっとも後に築城された最外郭城壁の外にあるからには旧城壁ではなく新城壁とした方が良いものと思われ)
@「祭」
お祭り好きで知られるレフキー市民が楽しむ祭りの一つ。
簡単に言ってしまえば、仲間や仕事を募る冒険者の腕自慢である。
そこには、腕前を見て仲間に誘おうとする者、仕事の依頼人、単なる見物客が集まり、さらには彼らを当て込んだ屋台や出店が軒を連ね、大道芸人や占い師などが芸を披露する。
腕試しに挑戦する冒険者の質が高ければ、結果として「祭」を開いた宿や酒場の評価も高くなった。
冒険者が多く集まるその性質上、荒れたり暴れたりすることも昔は多かったのだが、大庭詠美女王の命令で軍も積極的に祭の治安維持を行うようになり、近年「祭」としての質はより高まってきている。
@クルス商会
共和国でも有数の大商人。セリオやマルチを生み出した技術力を誇る。
詳細は未詳。
@他に、鍛冶屋として柏木耕一、宿屋の調理師柏木初音、町医者として石原麗子など。
◆旧都キスカノン
共和国五大都市の一つ。
旧都、という名から察するに、共和国の昔の首都なのだろう。
詳細不明。
◆港湾都市フィルムーン
共和国五大都市の一つ。レフキー最大の港町。旧帝国領。異文化の混じり合う街。
伝統的に独立志向が強く、古代に帝国への反抗と共和国への帰属、さらに王政復古した共和国との戦争という歴史を歩んでいる。
今も、市を見下ろす丘には当時抵抗の指揮を執った英雄の像が佇んでいるが、ある意味共和国への反逆の象徴とも言える彼の像が祀られていることこそ、市民の反骨心がいささかも失われていない証拠なのだろう。
「共和国最大の港町」というフレーズは首都レフキーも冠しており、競い合うような両者の関係にはこのような歴史的背景もあるのかもしれない。
なお、異文化の交わるこの都市では衝突も絶えず、そのためにあらかじめ武装を禁じることで、刃傷沙汰に発展することを避ける試みがなされている。
また、容易に海賊の襲撃を許すなど、重要港湾ながら共和国の海軍力が駐留している様子は(現在のところ)ない。
@市立自警団
市内の治安を守る自警団。
阿部貴之が隊長を務める。
@宮内貿易公司
ジョージ宮内が経営する海運会社。数多の貿易会社の存在するフィルムーンでも、一、二を争う規模を誇る。
登場時、帝国の港を出港した記述があることから帝国と共和国の間の海運も行っているようだ。
フィルムーン港湾に警備員詰め所を持ち、同市の無数の倉庫群のうち、第三倉庫はこの会社が借り切って(所有して)いる模様。
@相沢一家
相沢祐一キャプテン率いる、海の真ん中に浮かぶ島を根拠地とする海賊。構成艦艇はミラクルカノン号のみの模様。
史実の海賊主流の私掠船ではなく、特定の国家と契約を結ばない本当の意味での海賊である。
◆城塞都市オネシズ
共和国五大都市の一つ。
その名前から前線の軍事都市であると推測される。
詳細不明。
◆自由都市トゥエア
共和国五大都市の一つ。
詳細不明。
◆秘宝塔の村
『棄てられた秘宝塔』のある、共和国領内の辺境の村。
秘宝塔をのぞけば、街道に面しているのか旅人があるらしく、宿屋があるのが特徴のただの農村である。
@秘宝塔
数百年前、山奥に忽然と姿を現したと言う美しい化粧石に包まれた塔。
「塔には住民がいた。不思議な力を操りこの世に害を成す悪魔の住民である。
村は幾度となく悪魔たちから被害を受けた。困り果てた村人のところに、魔法使いが訪れる。
村人が困っていることを知った魔法使いは、悪魔たちが外に出れないよう結界を張る。
こうして、村に平和が訪れた…」
と伝わる。その内部には数多の『秘宝』が眠るとされるが、それを実際に手にしたものは今までのところ誰もいない。
十数年前、塔の住民の血を引く母子が塔に追われて以来災いが復活し、伝説を聞きつけた冒険者に静かな生活を破られるなど、村人にとっては災厄以外の何者でもない。
姿の見えぬ魔物が襲ってくるとされるその内部は、壁面を赤いウサギの絵で埋め尽くされた異様な光景が広がっている。
◆妖狐の里
首都レフキーの郊外にある「ものみの丘」と呼ばれる小高い丘、そのどこかにあるという尾の狐の隠里。
その里には人間界には見られない不思議なアイテムがごろごろしているというが、真偽不明。シェイプチェンジャーたちの隠里だという説も。
◆子鬼の森
共和国と帝国の国境地帯にあるらしい森林帯。
良質の材木が採れ、過去両国の争奪の対象となった。レフキー街道からは少々はずれた地域にある模様。
もともと子鬼種族の生息帯であったが、乱立する部族が近年統一傾向にあり、急速に勢力を拡大している模様。そのため対立する両国の勢威が及ばない空白帯となりつつあり、犯罪者の安息の地と化している。
【帝国】
軍事力では共和国を凌ぐ大国。
大河を挟んでレフキーと東西に相対するその国は、レフキー街道で結ばれた経済圏の一角でもある。
共和国には極めて敵対的で、幾度も戦火を交えたこともあり、現在も秘宝を巡って共和国領内に部隊を派遣するなど活発な軍事活動を展開しているようだ。
詳細は依然不明である。
◆城郭都市ニノディー
帝国貴族たる橋本辺境伯の治める国境の街。レフキー街道を牽制する軍事上の要衝。
帝国軍部隊が駐留しており、その指揮を執るのは吉井、松本、岡田の三銃士。
【レフキー街道】
共和国最大の港湾都市の名を冠した海岸沿いのこの街道は、大陸の東西交易の陸の大動脈であり、同時に大河を一つ挟んで対峙する共和国と帝国を結ぶ、軍事上の要路でもある。
古来、数多の旅人、冒険者、商人、そして軍隊が行き来したこの街道は、そんな東西対立もあって必ずしも安全な街道とは言えない。
平野部では街道上の都市から出る軍により治安が行き届いているが、山岳部や国境は亜人や賊の跳梁する危険地帯であり、夜間の強行軍は危険度が跳ね上がっている。
【キイ国】
遠野姉妹の出身国。
姉妹と橘慎介一行が、レフキー行きに際して帝国領を通過してレフキーへ向かうというコースを取っていることから、同国は共和国と直接国境を接していないことが推察される。
詳細は不明。
【詳細不明の土地】
◆FARGO宗団の本部のある街
信者たちは『全ての始まる街』と呼ぶ街。
その名の通り、FARGO宗団の本部が存在する。詳細不明。
◆魔法都市ホワール
魔術師たちの街と目されるが、詳細不明。
聖が現在いると目されている都市。
◆異国の街
みさき・雪見・聖・彰・しの姉妹・美坂姉妹の出身地。
中近東風というみさきの装束から考えて、帝国、共和国いずれにも属さない文化圏なのかもしれない。そのあたりに関しては、作中では現在のところ触れられていない。
東方に山一つ超えて、魔法都市ホワールが存在する。
@霧島診療院
街の規模には過ぎたほどの名医の診療院。
が、現在医師が先代今代ともに旅路についているため休業中。
◆高槻の治める地方
浩平と瑞佳の故郷。小坂由紀子が孤児院を経営する村。
高槻の領主就任から後、初夜権復活をはじめ暴政が敷かれているが、小坂女史の勇気ある抵抗、そして傭兵ギルドから篠塚弥生という才女が送られてきて以降さすがの高槻も気ままなまねができず、その治世も落ち着いているようだ。
共和国とも帝国とも取れる描写が混在し、位置不明。
>170-177
お疲れ。纏め方が上手いね。
共和国最大の港湾都市のあたりとか(w
ちなみに、大河の西側がレフキー共和国、東側が帝国であってる?
あ、そうそう、
>>124-127「カムバック」で
秋子の経営する武器屋兼宿屋は「青の錫杖」という名前になったようです。
俺も見落としてました(w
ちなみに、たい焼き屋のおやじがマスターの酒場って、どの話でたいやき屋台に変わったの?
毎度、挽歌でございます。
気合いの入った纏め、お疲れ様です。
>>171 城壁についてですが……。
浩平たちは破壊され放棄された城壁の跡を、くり抜いて使っております。
「旧城壁跡」というのは「かつて城壁として使っていたものの跡」ということで、特に建設年を示した
つもりはございませんでした。
旧城壁の跡ではなく、旧い城壁跡なのです。
……それだけでは寂しいので、他の可能性に関していくつか。
攻城戦において、「城門破り」ではなく最外郭城壁が「崩された」ということは、大型カタパルトや
破城槌ような攻城兵器を長期間に渡り潰せなかったということであり、内郭城壁をも崩されている
可能性は少なくないと思うのです。
そんなわけで放棄された最外郭城壁よりも、修復された内郭城壁の方が新しい、と。
他にありそうなのは、最外郭のあとにもキープや防御塔を囲う内郭城壁が増設された、とかでしょうか。
要するに実戦に晒されているために、外郭ほど新しいとは限らないということです。
色々可能性はあると思いますので、特に問題なければ原文のままでお願い致します。
あまり修正を加えるのも、なんですしね。
むぎゅ。
修正を減らす話に修正とは、いやはやなんとも。
>>179は
>>171宛ではなく、
>>172ですね。
それと挽歌作でリフキーとなっているものは、全てレフキーの誤りです。
リーフ+キーだったよな、と日本語で考えたためであり、修正せざるを得ません。
181 :
天神海士:02/01/13 23:04 ID:vEnbo5ml
毎度!天神です
Uスレの1さん、
纏めの方ご苦労様です。
キィ国の地図上の位置について、説明したいところなのですが
わたしの脳内の地図では説明のしようがないので
やはりみなさんのイメージの統一の為には、世界地図がほしい所です。
敬介たちが、いつの間にか帝国領を通過してしまった事になっていますし・・・
キィ国の位置関係に関しては、特に指定はしません
全面的にお任せします
1さんには本当に苦労をかけて申し訳ございません
ゴメソ、夜勤中に投稿したら見事に上司に見つかり、最後のツッコミ募集とか書くまでも無く狩られてました。
哀号、チョパーリに謝罪と補償を(略)
>>178 >帝国と共和国の東西関係
俺が読んでる中では気付かなかった。
どこか触れられてる部分ってあったっけ? 見落としてたらゴメソ。
>あ、そうそう、
>>124-127「カムバック」で
>秋子の経営する武器屋兼宿屋は「青の錫杖」という名前になったようです。
>俺も見落としてました(w
完全に見落としてた(w
みおせるさん、サイトに収録される際にはよろしく修正願います。
>たいやき屋
これは自分で読み間違いに気付いたのに修正漏れ(汗)
こちらも修正よろ〜(修正版ここに上げるのもスレ汚しなので……或いは、部分的に修正したものを上げたほうがいいのだろうか?)
>>180 なるほど、了解。
しかし、それだと共和国って結構首都まで攻めこまれてるのね。
オスマン=トルコのウィーン攻囲のような攻防戦がかつてあったと……ああ、それはそれで浪漫だ(w
>>181 >敬介たちが、いつの間にか帝国領を通過してしまった事になっていますし・・・
これは前スレ528 :父の情報を求め首都レフキーに(1)より判断。
>・・・そうね、地図によるとそこの森を越えれば、国境都市ニノディーが見えてくるはず
>・・・森の中を通りぬけるのに丸4日かかる難攻軍です、少し先の宿場町で一休みを
>しましょう。たっぷり身体を休めておきませんとね」
ニノディーは【帝国側の】国境都市なので、森を抜けた先が帝国都市ならば帝国領内を横断してきたのだろうと。
それともニノディーは大河の向こうに見えるだけだったんだろうか?それならスマソ。
地図とか作らないで敬介が帝国を通過したとかなんとかはリレーなんだから書き手さんにおまかせした方が良いような気もしますが。
個人的にはその方が気軽にダンジョンとか考えられる感じです。
>>184 うぃ、それもそだね。
まぁ地図描くか描かないかも描き手さんにお任せだけど(笑)
書(描)いたことが後に影響する、って点じゃ書き手さんも描き手さんも同じってことで……
>>184 誰かが描いてくれるものなら地図は欲しいかな。
ダンジョン書いたら「このへんです」って適当に印でもつけておけば
後で位置関係なんかで揉めたりすることがなくなって(・∀・)イイ! …かも?
>>182 >帝国と共和国の東西関係
改めて確認してみたら、どうやら俺の勘違いだったみたいだスマソ。
何を見てそう思ったんだろう。我ながら謎だ。
ハカロワのときも脳内地図はあった(途中崩れましたがw)ので、描いてみようかとも思いましたけれど、
少し考え直し中。
>>184 確かに地図があると設定が密になるため、時間あたりの移動距離とかも考えなければならないという
諸刃の剣……いっそ、無いほうがいいかもしれませんね。
>>182 夜勤特攻での玉砕、しめやかにお悔やみを申し上げまするw
ところで……なかなか、通ですね?w
でも第二次ウィーン攻囲のころの、複数稜堡による近代要塞にはファンタジーな浪漫に欠ける気が
しないでもなく。
塹壕攻城戦や巨砲も好きですけれど、やはり攻城塔や投石器でごりごりやるのが浪漫です(ぉぃ。
そしてレフキーは陸運海運の主要都市にして首都。
第一次攻囲の頃のウィーンよりも、コンスタンティノープルに近いのではないかと思いまする。
いかがなものでしょう。
……しかし実際には旧都キスカノンもありますので、攻められた時は王都ではなかったやも知れず。
ども、前スレ1です…
いやはや参った参った。作業進まないですいやホント。
現在の進行状況を報告いたします…
第13話までの人間関係やミニプロフの作成に成功しましたぁ!!
……………ええ、遅いです、遅筆です(w
しかし、やってると小さな発見がありますねぇ…
あかりがすでに本編に出ていたってご存知でしたか?
自分知らなかったです…1なのに…
まぁ、このペースでいけば来週にも完成するはず(ぉ
190 :
184:02/01/14 00:32 ID:n6jw6c9c
>>185 確かに描き手さん次第ですね(w
>>186 位置関係で揉めるってのはありえそう…
すいません、やっぱり概略地図キボン(w
191 :
天神海士:02/01/14 00:41 ID:AG82uhal
>>183 はっ!そうか【ニノディー】は帝国領
しまったああああ!それでは帝国に入ってしまう・・・
すんません帝国領を通過したということにしておいてください(藁
てっきりレフキーの国境都市と勘違い!
ううう申し訳ございません、こんなんばっかで
>>184 書き手にとっての自由度を尊重するという意見はもっともなのですが
わかりやすく整理をする為にもバトルロワイヤルのような地図で
【現在地A−1の美凪・みちるがB−3に移動しました】とパーティの動きが
一目でわかるようにしたほうがいいかと
書き手にとっても、移動の行程の日数、関所の位置、国の重要な要害等
話のイメージを膨らますのに使えますしね
纏め役の方に、負担を増やしてしまうのは心苦しいので
無理にとはいいません
すまん。俺は地図作らんほうがええと思ってる。
理由は単純。施設(村・ダンジョン・洞窟)が増やしにくくなる、と思ったから。
折角、「魔法・銃・都市・国」等の設定を、そんなに縛らないで始めたのだから、
こっちも「余り」縛らん方がええと思う。
僕たちは埠頭に足を運んだ。
「結構、人が多いわね。それに、武装しているし」
「…この町って、武装は禁止なんじゃないの?」
「自警団の許可を受けていればある程度は認められるわよ。それでも刃物は駄目だけど」
ぽん、と腰を叩く。そこには、彼女の武器『警棒』がある。
なるほど、確かに周囲にいる警備員たちの武器は、どれも鈍器だ。
「でも、それでよく大丈夫だね…海賊たちは、市の条例なんてお構い無しだろう?」
「それがそうでもないのよ。条例を破るってことは、この町の商工会を敵に回すことになるの。
海賊って言っても、大半は武装商船でしょ。せっかくのお宝も売り捌けないんじゃ意味がない。
だから、海賊でもこの町で騒動を起こす事は殆どないわ…一部の例外を除いてね」
…その例外が、今回の捕り物の相手なのか。なんだか無茶苦茶な相手のようだが、大丈夫なんだろうか。
「大丈夫よ。私たちだっていつまでも遊んでいるわけじゃないんだから」
僕の心を読んだかのように言う詩子さん。それとも、また口に出してしまったのだろうか。
ともかく、そんな話をしながら、第三倉庫へ向かう。前回の航海で仕入れた品々はそこに納められているらしい。
詩子さんは警備員のリーダーから鍵を借り受けると、管理人用の入り口から中へと入っていった。
「凄いわねー。さっすが大会社は違うわ」
倉庫内は所狭しと木箱が積み上げられている。整理はされているが、崩れたりしたらただじゃすまないだろうな。
「あれ?なにかしら」
倉庫の隅に、一つだけ、奇妙な木箱があった。他の木箱は僕の胸ほどもある正方形のものなのにその木箱は長方形だった。
大きさも脇に抱えられるほどで、小さくはないが、持ち運べないほど大きくない。
そして何より一際目立つのは、その箱に赤い布が巻かれている事だ。
「何だろ…祐介君、わかる?」
「…え?」
「『スキャニング』だったっけ。それで、わからない?」
流石に、箱を開けて確かめるのはまずいと思う程度の良識はあるらしい。
「何か、今何気に馬鹿にされたような気がする」
むぅ、と口を尖らせる詩子さん。なかなか聡い…と言うか、勘が良すぎだ。
しかし、どうしよう。力を使おうか…それとも、誤魔化そうか。
少し考えた、その時。
どーーーん…
遠くで、何か大きな音が鳴った。
「なんだろう…?」
「まさか…こんな白昼堂々仕掛けてくるとはね。…上等!」
詩子さんは音がしたほうを睨みつけながら、不適に笑った。
やっぱり、何かおかしいよ…観鈴は、路地裏を駆け抜けながら思う。
元々、船のみんなは物事を深く考えない。うだうだ考える前に即決突撃する性質だからだ。
そしてそれで成功するだけの実力と実績もある。だから、考える必要性がないのである。
そんな中で、唯一とも言える慎重派が、観鈴だった。良心とも言う。
「ちょ、ちょっと、はやすぎだよぅ!」
よたよた走りながら、真琴が晴子に呼びかける。
「ナニゆーとるんや、お宝がウチをまっとるんやで!?これ以上待たせられるかい!」
全力疾走だというのに、晴子はまったく息を切らした様子もない。どこからこんな力が出るのか、観鈴には不思議だった。
「そんな…いそがなくても、お宝さんはきっと待ってくれるよ。多分」
「あかん!レディは待たせたらそっぽむかれるで!」
「女の子なんだ…お宝さんって」
「そーや!気まぐれで飛びっきりの美人や!ウチがそーやないか!」
ハァ…観鈴はほんの少し、溜息を吐いた。お宝を前にすると、途端にテンションがあがるのはもう慣れたが…
それでも、周りが見えなくなるのは、少しどうにかしたほうがいい気もする。
例えば、何故か自警団の姿をよく見るとか、普段通る道が何故か塞がっているとか。
帰り道、大丈夫かな…何となく、そんな事を感じてしまう。
が。
「ほらほら、真琴!次はどっちやねん!」
「あ、あぅーっ…右…」
「よっしゃ!」
今の母にそれを言っても無駄だろう。だから、ちょっぴり虚しさを感じてしまう観鈴だった。
【祐介、詩子 第三倉庫に到着】
【神尾晴子、神尾観鈴、沢渡真琴 第三倉庫へ驀進中】
【他の海賊メンバー 街中で騒動を起こす】
『すれ違う策謀』をお送りします。
自警団の海賊たちを誘い出す作戦は、いきなり海賊たちが暴れだした事で滅茶苦茶に。
海賊の陽動作戦は、きっちり待ち伏せされていてぜんぜん陽動になっていない。
どっちも裏目に出まくっています(笑)。まあ、現実の作戦もそういうものかもしれませんね。
どっちか一方の思い通りにゃならんという事です。
地図の事ですが…
書き手的には、詳しいのはいらぬが、
レフキーを中心に、各都市がどの方向にあるのかぐらいは欲しいな。
個人的に、フィルムーンはレフキーの南東かなぁ、と何となく思っているんだけど。
その程度の事は統一しときたい…というか、しておくれ。って感じかな。
大都市とか主要な地形とか、確定事項になったものだけ抑えた地図ぐらいならどう?
そもそも地図に載ってないからって扱っちゃいけないなんてことは何もないんだし、SSを書いていくことで未完の地図を埋めていくくらいのつもりでいればいいんじゃないかなぁ?
などと言いつつ、俺もしばらく書いてないね(w
明日の最萌え戦が終わったら書きますか……
共和国首都へと続く街道の一つから少し外れた森の中、少女は必死に走っていた。
既に息が上がり、いつ足が止まってもおかしくない状況。それでも彼女は走るのをやめなかった、
なぜなら後ろから三人の屈強な男が追いかけてきているからだ。
男達はこの街道に最近出没する野盗の一味だった。
捕まれば結果は見えている。さんざん嬲り者にされた挙句、殺されるかどこかの人買いに売られるだろう。
だから逃げている、どれくらい走っているのかわからなかった、三十分か一時間か、もしかしたら五分にも満たないかもしれない、
それでも男達は追いかけるのをやめない。
少女の体は既に限界を超えていた、それでも彼女は逃げつづける。
だがそれは唐突に終わりを告げた。
なにかにつまづいたのか前のめりに転倒する。必死に起き上がろうとするが一度止まった体は思うように動かない。
そうこうしているうちに男達が追いついて来た。
「ったく、手間かけさせやがって。まあいいか、これだけの上玉だ、さぞかし高く売れるだろうよ」
「そうだな、だけどその前に存分に楽しませてもらうぜ」
男達の下卑た笑いが響く、この後自分がどうなるのかは容易に想像がつく。
「い、いや・・・」
震える声で必死に抵抗しようとするがそれが余計に男達の欲望に火をつける。
「お? 言い声だねェ。それじゃあんまり怖がらせるのも悪いからとっとと始めようか」
仰向けに押し倒され男が馬乗りになる。
「やめて・・・」
届くはずもない懇願。男の腕が少女の服の胸元にかかる、そのとき――
「ちょっといいか?」
声の方向にいるのは帯剣した一人の青年。
「なんだよ、俺達ゃこれからお楽しみなんだから邪魔すんな。それともお前も楽しむか?
俺達の後でよけりゃ犯らせてやるよ」
「そりゃどうも、でも俺はお前ら三人に用があるんだよ」
そう言って青年は数枚の紙を男に見せる、そこにあるのは男達の似顔絵と金額。
「賞金稼ぎかてめぇ?」
「いいや、ただの旅の剣士さ」
「だったらなんで俺達を狙う」
「知らないのか? まあ野盗じゃ無理もないか。最近は賞金稼ぎの免許持ってなくても賞金もらえるんだよ、六割だけどな」
青年はそこまで言って、腰の剣を抜く。
「そういうわけで捕まえさせてもらう、悪く思うな」
「ふざけやがって、こっちは三人だぜ」
「三人だろうが十人だろうがお前らのような雑魚相手なら関係ないさ」
「なっ・・・」
男達の顔が真っ赤に染まる。それが開戦の合図だった。
少女を押さえ込んでいる男以外の二人が斧を手に襲いかかる、
青年は一人目が振り下ろす斧を体を逸らして避け、体制が崩れた男の首筋に手刀を叩きこむ。
間髪入れずに二人目が襲いかかるも青年は冷静に攻撃をかわし、刃の柄を鳩尾に撃ちこんだ。
瞬く間に二人が倒される。残された男は近づいてくる青年に向かい何やらつぶやいた後、叫ぶ。
『動くな!』
それを聞いた青年の動きが止まった、必死に動こうとしているがまるで石像になったかのように身動き一つ出来ない。
「残念だったな、こう見えても昔ちょっと魔法を習ったことがあってな。
これしか覚えられなかったワケだがこういう場面でよく役に立つんだ、コレが」
笑いながら男が青年に近づく。
「いくら抵抗しようが動けねェよ、バーカ」
斧を振り上げる。
その時、少女の声が響いた。
『解除(キャンセル)!』
間一髪、振り下ろされる斧をかわす青年。一方男は状況がまったく飲みこめない。
そして男が魔法を解除させられたことに気づいたとき、彼の腹には横薙ぎの一撃が叩きこまれていた。
捕まえた男達を近くの街で引き渡した後、ようやく少女が話し掛けて来た。
「あ、あの・・・ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちの方さ、君がいなかったら死んでたからな。あ、そうそう、これ君の取り分」
そういって青年は皮袋を少女に渡す。
「これは?」
「賞金さ、君に助けてもらったんだから山分けするのが筋ってもんだろ」
「そんな、悪いです」
「いや、当然の権利だと思うよ。それは君の物だからね、返すって言ったって受け取らないから」
そう言った青年を見て少女は一瞬困った顔をしたあと、少し考えて皮袋を青年に突き出した。
「いや、だから・・・」
「違います、私にあなたを雇わせてください」
「へ?」
「私は今、とある事情があってレフキーに向かってるんです。
ですからそれまでの間、このお金であなたを雇わせてください」
「なるほど、そういうことね。オッケーわかった。その仕事受けるよ」
青年の反応に少女は目を丸くして驚く。
「え? いいんですか?」
「いいんですかって何が?」
「いえ、普通こういう場合って事情を聞いたり怪しんだりするんじゃないんですか?」
「確かにね。でも俺もレフキー目指して旅してるから丁度いいし、それにどこから見ても君は悪人には見えないからね」
いまいち理由になっていない理由を言って青年は笑い、少女もつられて笑う。
「では契約成立ですね」
「そうだね。そういえば自己紹介がまだだったね、俺は千堂和樹。見ての通り剣士だ」
「私はリアン、半人前の魔法使いです。ところで千堂さん、この人を知りませんか?」
そう言ってリアンは一枚の紙を和樹に渡す、そこにあるのは一人の女性。
「和樹でいいよ。で、この人は?」
「私の姉です、名前はスフィー。三ヶ月ほど前レフキーから帰って来る予定でしたが戻って来なくて」
「それで心配になってレフキーに向かってるってわけだ」
「はい」
「残念だけど見たことないな。ま、そう落ちこむこともないさ、レフキーに行けばきっと見つかるって」
「そうですか・・・そうですね」
「そうと決まれば善は急げ、出発しよう」
「はい!」
【千堂和樹、リアン、レフキーへ向かう】
【リアン、魔法使い(半人前)】
>>203 寝て起きたらツッコミが・・・
では
>>198の「共和国首都へと続く街道」を「共和国首都近くの街道」に
>>202の
「確かにね。でも俺もレフキー目指して旅してるから丁度いいし、それにどこから見ても君は悪人には見えないからね」
を
「確かにね。でも君は悪人には見えないから」
に修正してください
これで一応つじつまは合う・・・はずです
>>205 ううん、こうして地図を見ると、ぐっと本格的な感じがしますね。
しかも、いい感じにファンタジー風の地図(w
自分の中だと、レフキーってSWのオランのイメージが…関係ないですが。
こういう雑談は、やっぱり感想スレでやるべきなんでしょうね…
ども、Uスレの1ッス。
議論感想スレですが、そろそろリレー総合スレなどでも議論も出尽くし、葉鍵板での立ち上げに支持が多いようなんで、そろそろ立ちあげてもいいんではないでしょうか?
とりあえず、01:00まで待って特にストップがなければスレ立てしたいと思います。
まだ議論は熟してない、葉鍵板に立てるべきで無いなどと想われるかたは、それまでにカキコ願います。
208 :
名無しさんだよもん:02/01/15 23:20 ID:nnmj0I+Q
派手な議論も起きてない状態で感想スレ立てるのはどうかと思う
盛りあがりの規模から判断するに、総合スレがあれば充分だろう
総合スレすら雑談も起こらないほどさびれてるし
この青い空の下で、一人の少女と一匹のネコが道をトボトボと歩いていた。
その道は共和国、レフキーへと導く道。
背には寝袋等の旅道具。簡素にまとめられているものの、その女の子には少々荷が重過ぎる感じだ。
更に照りつく日差しが確実に彼女の体力を奪っているのは明白だった。
しかし、長年村々を転々としながら旅をしている彼女には慣れた環境であった。もっとも最近は目的地が近いせいかちょっとペースが早くなっているのも、事実なのだが。
彼女の故郷に伝わる、『麦藁帽子』という名の帽子をかぶり、長袖の上からマントを羽織っていた。腰には大小、幾つかのポーチが付いてた。
見える位置に一振りのナイフが鞘に納まっているのが見えた。特にこれといった重装備という訳ではない様子だ。
――少女は旅の人。
だが、彼女は好き好んで旅をしているのではない。”それなりの”事情が、彼女―――牧部なつみ――には、あった。
「ふぅ・・見えてきた・・・」
彼女は一度足を止め。呟き、また歩を進めた。
共和国、レフキー。
その城壁がうっすらと視界に入って来た。
「長かったな・・やっぱり入国審査とか厳しいのかな・・・」
今夜、野宿をしたら明日には着くだろう。私の夢見た。場所へ。もっとも、それは同時に私のもう一つの夢を消してくれるはずだ。――悪夢という名のそれを。
私と歩を並べている足元のネコに視線を送った。私に遅れる事なくついてくる。名前はピロという・・らしい。
普段は無口だが、なんとこのネコは”喋れる”のだ。それも化け猫とか、魔族の眷属だとか人間に姿を変えられる種族(そんな種族がいるらしいという事を遥か昔に聞いた事があった)でもなく、はたまた宇宙人とか、私の著しいい妄想でも無く。
喋るネコ。なのだ。
本人(猫?)曰く、
『・・・ふん。やれやれだぜ? 異端なのは認めるが、お前ら人間にも変な能力、端的に言えば超能力を持ってる奴がいるだろ? それと同じ。同じなんだよ』
とかなんとか。
立ち寄った村で怪我をしてるのを私が助けたのが出会いだった。
もちろん最初は喋れる事を隠していたのだがある時を堺に・・っと、これ以上は長くなるので次の機会に。
なんにせよ目的地はすぐそこ。アト一日くらいで、久しぶりにふかふかのベットで寝むれるだろう。
やがて日が傾き、夕焼けとなった。
――彼女の道連れは一匹と、ひとつ。
当然の如く喋る、ネコ。ピロと。
彼女の両親の形見――リヴォルバータイプの拳銃だ。
かなり街道から離れた場所を寝床に決めた。
街道からは見えにくい場所を選んだつもりだ。野宿にはもちろん慣れている。最初は慣れないせいで不眠症に陥ったこともあった。
ピロは出掛けている。大方その辺で食料(小動物、とか)を調達しているのだろう。なつみは夜が深くなる前に、火を起こす準備をしてから、携帯食料――変な粘土みたいな、歯触りがとても嫌なモノ――を口に含んだ。
これでも栄養バランスが抜群らしいのだが、意図せず、眉を潜めてしばらくの間、その感触に耐えた。
二人・・なつみとピロは、普段からあまり会話をしない。
主に両者とも好き勝手に行動している。しかし、別にお互いが嫌いあってる訳ではない。ハズだ。
・・さて――。
これから長い夜がやってくる。用心しなければならい。
獣に襲われたり、魔物に襲われたり、賊に襲われたりするからだ。
丁度、先刻からこっちの様子を窺っているあの男みたいに、ね。
【牧部なつみ/少女は旅の人w/目的不明、能力不明】
【ピロ/喋るネコw/目的不明、能力無し】
【謎の男は未定、気付かれて無いと思っている】
初投稿ですが、変な所があったら指摘してください。
ピロが喋ってるのは・・ふぁんたぢーってことで許してくださいw
>>208 ただ単に気安く感想言い合う場ができるだけでも意義があると思いますが。
「さあ、とっ捕まえたぞっ!神妙にお縄につけぃっ!」
少女を取り押さえると、先程まで縦横無尽に動き回っていた魔物の動きがぴたりと止まった。
蝉丸は刀を納め、セリオも構えを解き、佐祐理も浩之の元へ駆け寄ってきた。
形勢逆転である。
「嫌っ!はなしてっ!!」
必死に足をばたつかせ、腕を振り回して抵抗を試みる少女。
だが、浩之の腕力の前には儚く、無意味な抵抗であった。
「こらっ!おとなしくしろっ!」
ぎりっ!
「はうぅ…」
浩之が腕の締め付けを強めると、少女の頭を鈍い痛みが襲う。少女はそれに怯み、五体の力を抜く。
「浩之さんっ!女の子に乱暴しちゃダメですよっ!」
「少年、その少女には用はない。サッサと秘宝の回収を済ませたらどうだ?」
何とも感情的な佐祐理の声と、何とも業務的な蝉丸声が耳に届く。
浩之も荒事は面倒なので手早く用事を済ませようと、少女の持つ宝玉に手を伸ばす。
「ヘイヘイ、分かりましたよ〜。えーと、秘宝ってのはこの玉っころか?」
「あっ―――――」
宝玉に浩之の手が触れたその時、少女の中で"なにか"が目覚めた。
「………さんを…らないで…」
「あ?何だって?」
「……お母さんを……私のお母さんを…取り上げないでっ!!」
カッ!
力の解放…少女は悲しみを"力"に換え、一気に解き放ったのだ。
ズダンッ!
浩之は少女の力をもろに受け、弾き飛ばれ、石床に体を打ちつけられる。
「ぐっ!……痛ってぇ…」
だがすぐに起き上がり、尻についた土埃を手早く払い落とす。
ビクンビクンっ!
続いて何かかが痙攣するような嫌な音…
活動を停止していた2匹の魔物が、少女の悲しみを糧にして再び動き出したのだ。
「くそっ!」
ガキィン!
手負いの一匹の動きをかろうじて牽制する蝉丸。
「………っ!」
セリオも慌ててもう一匹の魔物を迎撃に向かうが時すでに遅し。魔物は一直線に浩之の元へ。
「浩之さん、避けてください…!」
「避けろったって見えねえんだよっ!」
そう、浩之には魔力を感知する力も無ければ、"気"を読む力も無いのだ。
もちろん動体視力も人並みなので、魔物の動きを目で補足することなど不可能である。
「1時の方向、3メートルです…!」
しかし、セリオは僅かな望みに賭けた。
大まかな距離と位置さえ知らせれば、回避するくらいなら可能だろうと読んだのだ。
「1時?今は4時だぞ?」
セリオの読みは外れた。……かのように思えた。
(改行無し)
「…石よ…時を語るものよ………全てを貫く槍となれ…!」
浩之が絶妙なボケをかましたと同時に、術士の声が響き渡った
ザムッ!
石床から突き出た槍は、容赦なく魔物を串刺しにする。
急所を貫かれた魔物は緑色の体液をぶちまけピクピクと痙攣し、絶命した。
石槍から滴る胃液の臭いを嗅ぐだけで、嫌なものがこみ上げ、胸がムカムカしてくる。
「うわあっ!キモっ!」
不幸なことに浩之は至近距離でその惨状を見てしまった。
…いや、脳髄をかち割られるよりはマシだろう。
「……ふう、助かったぜ。サンキュー、彩さん」
そう。術を発動させたのは、早々に戦闘不能に陥ったひよっ子自然術士であった。
「…それより……佐祐理さんが…」
「はい?」
彩の指さした方向に視線を送る浩之…
「おいおい、こりゃ一体どういうことだよっ!?」
その光景を目の当たりにした浩之は血相を変え、佐祐理の元へ駆け出した。
「きゃあっ!」
佐祐理は少女の放った力…衝撃波に怯みながらも、必死に自分の成すべきことを考えていた。
そう…彩が気絶したときからずっと考えていたのだ。
傷つき、倒れていく仲間達ために自分ができること…自分は何をすれば…
自分は浩之のような臨機応変な判断ができない。
自分はセリオのように敵の前に立つことができない。
自分は蝉丸のように勇敢に剣を振るえない。
自分は彩のように自然を味方にできない。
何もできない…非力な小娘…それは彼女にとって避けることのできない現実…
(6年前……)
「お父様、佐祐理はお父様のお手伝いがしたいです、何か佐祐理がお手伝いできることはありますか?」
「はははっ、佐祐理は何もしなくていいんだよ」
「はぇ?何も?」
「そう、おとなしくお家にいるだけでいいんだよ、それがお父さんにとって唯一の喜びだからね」
「あははーっ、そうなんですかー。それじゃあ佐祐理はずっとずっとずーっとお家にいますね」
「おぉよしよし、佐祐理はいい子だな」
(3行空けでお願いします…)
(4日前……)
「佐祐理!佐祐理っ!そんな大荷物を持って一体どこへ行くんだ!?」
「お父様……佐祐理は今から旅に出るんです」
「旅?そうか旅か。目的は何だい?観光かい?ショッピングかい?それなら馬車を手配しよう」
「そんなの必要ないです、佐祐理は自分で歩いて旅をします。だって、佐祐理は冒険者になるんですから」
「冒険者?いいか佐祐理、冒険なんていうものは富も名声もないならず者がすることだぞ。
どうせまた三流物書きの冒険小説でも読んだんだろう、半端な考えで行動するのはお前の悪い癖だ」
「違いますっ!佐祐理は…自分で冒険者になりたいって決めたんですっ!」
「はははっ、何を寝ぼけたことを言ってるんだ?
佐祐理、おまえは何も考えなくていいんだ、何も決めなくていいんだ」
「どうしてですか?何で佐祐理が佐祐理のことを自分で決めちゃダメなんですか?
佐祐理は、お父様のいいなりになっているよりよっぽどマシだって思ったから―――――」
パァン!
「…っ!」
「……私が…いつおまえに指図した?いつおまえを束縛した?
お前はただ、おとなしく家にいるだけで良かったんだ。
それだけで良かったのに…お前はそれまでも窮屈だというのか!」
「…………さようならお父様。もう二度と……この家には戻りません」
「好きにするがいい…だがな、おまえのような何もできない非力な小娘などに何ができる!
もうおまえなど私の娘ではない!どこへでも行ってしまえ!!」
何もできない…非力な小娘…
その言葉を思い出すたびに左の頬に痺れるような痛みをおぼえる。
父親の束縛から逃れるために、自分のことを自分で決めた…
ただそれだけのことをしただけなのに…こんなにもつらいことだとは思わなかった。
冒険小説の中の愉快で爽快な冒険活劇と、現実の冒険との落差…
強大な敵、無力な自分、恐怖、痛み…
安全で居心地がいいお屋敷で、溺愛されて育った佐祐理にとって、過酷でつらい現実だった。
しかし彼女は、現実だからこそ前を見た。
現実だからこそ考えた。今、自分にできる精一杯のことを。
「(今、佐祐理にできること…今、佐祐理にできること…)」
目の前には魔物を操る女の子…そして魔物と戦っているみんな。
女の子は佐祐理には気がついていない…背を向け、蝉丸や浩之達のほうに気を取られている。
「(あの女の子を押さえれば…)」
ふいに、弾き飛ばされた浩之の姿を思い出す。
痛そうだった…
「(そんなこと言ってられません…みんな、頑張ってるんです…佐祐理だって―――――)」
一歩、少女の元へ歩み寄る…
二歩、三歩…少女はまだ気付かない。
「すぅーーっ、はぁーーっ……えいっ!」
ぽふっ!
意を決して少女を後ろから抱きかかえる。
……しかし、少女は抵抗しない。いや、むしろ―――――
「笑ってる…?」
少女は妖しい笑みを浮かべながら佐祐理の目を見てこう言った。
「お姉ちゃん、私のお母さんに……会ってみたい?」
「はぇ?」
「会わせてあげる……クスクス…」
グラッ
視界が揺れ、ぐにゃりと曲がる…それは空間の歪み、異世界への入り口…
「あ、あああっ!こ、これって……」
「お姉ちゃんも遊ぼう?私と、お母さんと、ウサギさんと…永遠に」
少女の体はみるみるうちに歪みの中へ埋没していく。
そして、佐祐理も引きずり込まれるかように歪みに飲み込まれていく…
必死に手を伸ばし、歪みから逃れようともがく。
しかし、歪みはそれさえも許さず、底無し沼のように佐祐理を取り込む。
「はぇ〜…だ、誰か…」
「佐祐理さんっ!」
パシッ!
伸ばした手に温もりを感じる…
「ひ、浩之さんっ!」
「ったく、一体何やってるんだよ、こんなところで」
「そんなことより、はやくここから出ないと女の子と永遠のお母さんのウサギさんが遊んで…」
「あ?何だそりゃ」
「とにかくっ!ここから出ないと大変なんですっ!!」
「そら無理だ。だってもう…出口が…ホラ」
すかっ、すかっ…
二人を引きずり込んだ歪み……出口は完全に無くなっていた。
「……あははーっ」
佐祐理はもう笑うしかなかった。
【佐祐理&浩之 舞と共に永遠の世界へ】
【セリオ&蝉丸&彩 現実世界に留まっている模様】
【魔物一匹 撃破】
ども、1です。
またまた好き勝手にやらせてもらいました…
今回はみおせるさんに(改行無し)だとか(3行空け)だとか細かい注文までつけてしまいました…
みおせるさん、誠に申し訳ございません…
さて、これから蝉丸&彩&セリオが消えた三人についてどう対応するか、
七瀬&けんたろ&志保組といつ鉢合わせになるのか、茜&南&澪も近くにいるよね、
あとルミラはどうしよ…てか三銃士もいるじゃん…そもそも浩之&佐祐理はどうなるんだ…
次の書き手さん、全てあなたにお任せします(w
あと、感想スレに関しては異論ありません。皆さんの決定に従いますので…
……コンコン。
「どうぞ」
待ち構えていたように――事実待っていたのだが――きよみはノックの音に応えた。
ガチャリ、とすぐにドアノブが回り、ニコニコと何やら上機嫌そうに少年が入って来る。
「お待たせ。……どうしたの、怖い顔して」
「いいから早く話してちょうだい」
街道沿いの小さな村の宿屋の一室。薄暗いランプの灯かりがゆらゆらと室内に光を投げかけている。
少年は室内をキョロキョロと見回すと、ベッドに腰掛けたきよみと向かい合うように長椅子に座った。
「えっと、何から話せばいいのかな」
「俊伐はどこにいるの? 海賊って言ったわよね、拾われたってどういうこと? 今あの人は何をやってるの?」
きよみはもどかしそうに言葉を詰まらせながらまくし立てた。
「そんなに焦らなくても僕は逃げないよ」
少年はおかしそうに笑うと、ポケットからハーブのような薬草を取り出し、噛むと落ち着くよ、と勧めた。
きよみが苛立たしげに手を振ると、残念、と少年はそれを丸めて口の中に放り込み、もしゃもしゃやり始めた。
「『相沢一家』……あるいは彼らの船名を取って『ミラクルカノン』。そう呼ばれてる、多少名の知れてる海賊がいるんだ。
その船を操る操縦士が、何かの事故なのかな、少し前に船を降りて、代わりに雇われたのが犬飼俊伐、って話だよ」
「俊伐が? 操縦士?」
きよみは細めていた目を大きく見張った。
「そんな、俊伐は目が見えないのよ? どうしたって船の操縦なんてできるわけないじゃない!」
「僕に言われたって仕方ないよ、全部聞いた話だもの」
「ふん……そうね、話の腰を折って悪かったわ。それで?」
自分の膝に肘をつくかたちで、きよみはより一層身を乗り出す。
自然と目に飛び込んでくるワンピースの胸元からパッと視線を離すと、少年は疲れたように首をぐるりと回し、再びきよみの瞳を見据えた。
「そこから先は困るね、今どこにいるかまではわからない。海賊だからね。ただ、僕の推測でよければ聞いてもらっても構わないけど」
「お願い」
「彼らの活躍の噂はここしばらく耳に入ってきてないんだ。
まぁ、相沢一家は危ないヤマは踏まないのがスタンスみたいだから、もともとそれほどよく話を聞くってわけじゃないんだけどね。
でも彼らにも生活がある以上、ずっと海でのらくらしてるわけにもいかない。で、そろそろ動かなきゃいけないかなって時に」
少年は得意そうに笑った。
「『危なくないヤマ』が、多分、ある。賭けてもいいけど、次に相沢一家が現れるのはフィルムーンだと思うよ」
「フィルムーン……」
きよみは足元に転がしておいた荷物の袋に手を突っ込むと、筒状に丸めてある地図を取り出して広げた。
「フィルムーン、フィルムーン、と……ここからだと街道を北西に行けばいいのね。結構近いじゃない」
「そういうこと」
「ありがと、参考になったわ……ところで、あなたはどうしてそう色々と知ってるの? 情報屋だとかそういうの?」
「違うよ」
愉快そうに首を振って、少年は言った。
「情報屋だったら知ってることをタダでペラペラ喋ったりしないさ。僕はただの親切な旅人」
「だったらなんで……」
「旅人ってのはね、街から街へ歩いてるだけでも勝手に色んなことが耳に入ってくるものなんだよ。歩き方さえ知っていればね」
「……それは私に対する嫌味かしら?」
「まさか、滅相もない……危なっかしい人だとは思うけどね。護身術とか、そういうのは何か使えるの?」
「何も」
きよみは小さく肩をすくめる。
さらっとした物言いに少年は少し困ったような表情を見せた。
「剣も振れなきゃ、魔法が使えるわけでもなし……これで何とかなってるんだから不思議なものよね」
「そうだね、僕もそう思うよ」
呆れたように言うと、ずっと口の中でもぐもぐやっていたものを飲み下す。
二人はそのまましばらくの間黙っていたが、不意に少年が目を輝かせて言った。
「そうだ、お姉さん、僕を雇わない?」
「はぁ?」
突然の申し出に驚きを隠せない様子できよみは応えた。
「旅の護衛に年下の少年はいかがですか? 道中の暇潰しにも最適だよ」
「……こう言っちゃ失礼だけど、あなたって強いの? ごめんね、見た目だけで判断すると強そうには見えないんだけど」
「うーん、それほど強いってわけでもないんだけどね。あ、ダイコンを放り投げて、すごく運がいいと地面に落ちるまでに三回斬れるよ」
「それって凄いことなのかどうか私にはよくわからないんだけど……残念ね、護衛雇えるほどお金ないのよ」
「じゃ、一晩お姉さんを自由にさせてもらうってのはどうだろう」
少年は無邪気に笑って言った。きよみの表情が幾瞬、固まった。
しかしそれはほんのわずかの間のことで、やがてきよみは顔から感情を消して、言った。
「いいわ。……好きにして」
「冗談だけどね」
能天気な声に、緊張していた室内の空気が一気に弛緩した。
ニコニコと楽しそうな少年に向かって、きよみは大きく溜め息をついた。
「あのね……あんまり愉快なジョークじゃないわね、違う?」
「ごめんごめん、許して欲しいな。僕はついてきたいからお姉さんについてくだけだよ、止められなきゃね」
「……勝手にしたら」
ばつが悪そうに視線を逸らすと、きよみはそのまま壁にかかった時計に目をやった。
「もうこんな時間……寝るわ」
「そうだね、僕も眠いよ」
それきり会話は止まり、カチカチと時計の針の音だけがやけに大きく部屋に響いた。
すぐにきよみが口を開く。
「えぇと、つまり私はあなたに、自分の部屋に戻ったらどう? と言ってるんだけど」
「ところが僕の部屋はここなんだ。意外なことにね」
こともなげに言う少年の言葉に、きよみの目が丸くなる。
「ほら、先に部屋行ってもらって宿帳は僕が書いたじゃない。二人分部屋取るはずが、たまたま今日に限って団体さんがいるらしくって。
と言うわけで、杜若きよみ御一行はめでたく相部屋となりましたとさ。仲良く一緒に寝ようか」
「ちょっ……!」
咄嗟に立ち上がり、頬を紅潮させて叫びかけたきよみは、自分を見上げる少年のくすくす笑いに気づき、はっとして唇を噛んだ。
少年は不器用にウインクすると、勢いよく長椅子に寝転がって言った。
「おやすみなさい、僕はここで寝るよ……無理ばっかりしてるとホント疲れちゃうよ、お姉さん」
きよみは寝た姿勢のままチラリと自分の方をうかがってくる少年から顔を背けると、熱くなった頬を隠すように右手で口許を押さえた。
完敗だった。
226 :
観月:02/01/16 00:34 ID:0AHR4aOI
【杜若きよみ(黒) フィルムーンへ】
【少年 得物は剣 きよみの護衛】
書き込んだ瞬間少年が強すぎたような気がしてくる罠
空間認識能力がまるでないので挽歌さんマップ凄い重宝してます、どもー
普段はそれほど人の出入りが激しいわけもない、偽装した食料庫の扉が、ふたたび大きな音を立てて開いた。
そしていつもは音もなく歩みを進めるはずの岩切が、これ以上ないくらい大きな足音を響かせ、酒場へと入ってくる。
彼女はつかつかと、いやずかずかとカウンターへ向ったかと思うと、その酒場にしては珍しい、女性ふたり組の後ろに
ぴたりと付いて呼びかけた。
「-----川名みさきと、その一党」
騒々しい足音を聞いて、既に振り向いていたふたり組は、しばしの沈黙を挟んで返事をする。
「えーと……私たちは盗賊じゃないんだから、その呼び方は、良くないと思うよ?」
「せや。 -----って、ちょー待ってや、一党ぉて、うちのことなん!?」
口々に不満をもらしたのは----”一党”というほどの人数はいないのだが----川名みさきと保科智子である。
しかし岩切はさして気にする風でもなく、付いて来いと言わんばかりに顎をしゃくると、店外へ出て行ってしまった。
「……なんやの、あれ?」
「うーん、そうとう頭にきてるみたいだね?」
ちかごろ”謁見の間”から出てくる女性は、全員不機嫌な顔をしているのだが、当の本人たちに自覚は無いのかもしれない。
勘定を置いてのろのろと立ち上がると、ふたりは揃って店をあとにした。
* * *
「うぐぅ?!」
店を出るなり彼女たちの耳に飛び込んだのは、奇妙な悲鳴であった。
みさき達に出会って以来、災難続きの憐れな盗賊、月宮あゆが発したものに他ならない。
店に入るとき身代わりのように気絶させられたまま、放置されていたのだろう。
それはそれで不憫なのだが、今また岩切に蹴飛ばされるに至っては、目も当てられない。
「痛、痛いよ岩切さんっ!!」
あゆの抗議に足をとめた岩切は、一回だけ振り向いてみさき達の接近を確認すると、高らかに宣言した。
「はやく起きろ! せっかくだから、お前にも働いてもらうぞ」
「……”も”、なの?」
「つまり、うちらもかい」
もはや並の変事ごときに驚かなくなったのだろう、みさきと智子は不満そうなことを言いつつも、岩切の言葉を待っている。
一方の岩切も、不満を聞き流して事務的に説明した。
「探さねばならん人間が、二人居る。傭兵ギルドの槍兵、篠塚弥生とクルス商会の商隊長だ」
「ふうん、クルス商会のキャラバンが来るんだ」
「荷馬車だけでも、ぎょうさん来るんやろ? 危ないなぁ」
探す相手はみさきと智子の知るはずもない面々のはずだが、クルス商会の商隊そのものを知らないものは居ない。
下手な軍の補給隊よりも、規模が大きいのだ。
人ごみの中を通過するような事態になれば、大混乱になるだろう。
しかし彼女たちにとって、そうした心配は単なる話の種でしかなく、岩切は気にせず説明を続ける。
「貴様らも東へ向うなら、商隊と同行した方が都合が良かろう。乗り竜付きの、大商隊が数日中に到着するらしいぞ」
「乗り竜やて!?」
「すごい! ボクも見に行かなくちゃ!」
智子とあゆは見た事がないのだろう、乗り竜の存在を聞いて目を輝かせる。
-----しかし、ついてない時は、とことんついていないものである。
「馬鹿者。月宮は私と一緒に篠塚弥生を探すのだ。遊んでいる暇はないぞ」
「うぐぅ……」
「そういうわけだから、貴様らは我々を商隊に同行してもらえるよう交渉してくれ。ギルドのほうでも一筆書いてある」
それだけ言うと、岩切は手紙をみさきに渡し、非情にも落ち込むあゆを引き摺るように拉致していった。
* * *
「ほんなら-----その手紙出したら、話通じる言うことなん?」
「うーん……そういうこと、みたいだね?」
職業柄だろうか、岩切の説明は”やるべきこと”を教えてくれても、”なぜ、どのようにやるのか”はほとんど含まれない。
そのため釈然としないまま、ふたりは商隊を待ち受けることになったのだった。
ページ更新〜。観月さん100話目おめでとうです〜(w
今後はもう更新告知しませんです。1週間以内に収録できるように致しますので。
>>221 その程度でしたらいくらでも。
えっと、一応。収録の際には、レスの切れ目で3行の改行を取っています。
3行以外を指定したい場合は、その旨書いて下されば対処いたしますです。
>>207 自分は立ててしまっていいと思いますが。
話が進むほどに細かい話をすることもあるでしょうし、
それに、できればこっちのスレは本文のみの方が美しいと思いますし(w
>>208 雑談が起こらないようにしてる、というよりは、雑談を起こさないようにしてる、と思うんですけど。
>>205 ええですねぇ。絵が描けるってうらやましいです。しくしく。
しばらくは並んでぽかん、と立っていたが、やがてみさきが気を取りなおし提案した。
「えーと……とりあえず、泊まるところを決めようよ」
「せやね、いまは”祭”も賑わっとぉし。早いこと決めとかんと-----」
快く同意しかけた智子だったが、視線が手紙の宛名に流れたのと同時に硬直する。
「智子ちゃん? どうしたの?」
あまりに様子がおかしいので、みさきが心配して声をかけた。
「その宛名……」
「宛名? ごめん、読めないんだよ。智子ちゃんの、知り合いなの?」
「いや……名前の方、解らへんし……たぶん、同姓なだけやわ」
(そうや、別人や。なんも、あらへんねん……)
とうとう頭痛でも起こしたのだろうか。 こめかみに手を当ててながら、智子は自分に言い聞かせた。
ついてない時は、とことんついてないものだが。
何もないと思ったときは-----たいてい、何かあるものである。
”猪名川商隊長殿”-----手紙には、そう書かれていた。
【岩切花枝、月宮あゆ:篠塚弥生を捜索】
【川名みさき、保科智子:クルス商会の商隊長を捜索】
【猪名川:クルス商会のキャラバン隊長。智子の知り合い?】
毎度、挽歌でございます。
「不幸と不安」をお送りいたします。
そしていきなり修正、
>>228の題ですが。
(12ではなく、(2)にしてくださいまし。
内容は……由宇スレ建立記念?(違うだろ
地図に関しては、どうあっても矛盾が残りますので、諸説ある地図のうちのひとつとでも思ってくださいまし。
>>231 割り込んじまいました、すみませんです。
ちゃんとリロードしてから書き込まなきゃ……
やっぱ感想スレほしいなぁ……(←強引な引っ張り)
>>231に追加でございます。
話としては「東方の冷害」(
>>156-158)の、みさき&智子編続きであり、
同時に「逃した者と捕らえた者」(
>>29-31)の岩切編の続きです。
また、あゆ編としては「ふたりの荷物」(前スレ468-469、471)の続きとなります。
>>232 ノープロブレム
>>233 グッドジョブ
「はえ〜……ここは一体、どこなんでしょう…」
「さぁな…さっきの塔でない事は、確かみたいだが」
そこは、普通の村だった。
異次元に放り込まれたはずが、普通の村に、思わず拍子抜けしてしまう。
季節は春なのか、あたりに花がいくつも咲き乱れ、じめじめした塔の中の雰囲気は、微塵もない。
何気なくあたりを見回していた浩之は、何かに気づいて、小さく声をあげた。
「浩之さん、どうしたんですか?」
「ここって、俺達が通った村だよ……ほら、塔に入る前の…雰囲気が全然違ってるから、わかなかったぜ」
そう言われて見れば、確かにあの村である。
見覚えのある家々に、田畑。しかし、まるで騙し絵のように、少しずつ違っていた。
「あそこは、確か家が建っていたと思ったんですが……」
「ああ…鳥小屋になってるな」
言いながら、浩之は何気なく、ひとつの家の中を、覗き込んで見る。
「うっ……!」
「どうしまし……あっ」
そこにいたのは、あの塔の中で見た、大きな赤いウサギだった。
一瞬緊張する二人だったが、そのウサギは浩之たちに、ちらり、と目をやっただけで、再び、鍋をかき回し始めた。
「……って、鍋?」
「シチューみたいですけど…ウサギさんが、料理をしてるんでしょうか?」
シュールな光景に面食らい、二人は呆然と、二本足で料理をするそのウサギを見続けた。
その時、外から楽しげな子供たちの声が、聞こえてくる。
「…この声…」
「俺はもう、何を見てもおどろかねーぞ…」
振り返った二人が見たものは、やはり予想した光景だった。
あの、塔の中で見た女の子が、赤い、これは小さなウサギ達と、戯れている。
「あら、お客様…?」
いきなり声を掛けられて、少女の方に意識をやっていた佐祐理は、びくん、と身体を振るわせた。
そこには、優しげな……どこか、あの少女に似た顔立ちの女性が、佇んでいた。
「ピッケル、シチューを見ててくれてありがとう」
その赤いウサギは、無言で彼女に頷き返すと、のそのそと外に出て行った。
「みんなー、ご飯ですよ!」
「はーーーいっ!」
ひたすら、ただひたすら呆然と見守る中、彼女はそのシチューを皿に取り、家の前にあるテーブルに並べていく。
さらに、焼きたてのパンにチーズケーキ、カボチャのパイ、デザートに木苺を乗せたプリンまであった。
ぐぅぅ、と思わず浩之のお腹が鳴る。
「うっ、いけねぇ……そういえば、塔の中からこっち、何も食べてなかった…」
「あなたたちもいらっしゃい。シチューは沢山作ったから」
浩之と佐祐理は顔を見合わせ、導かれるまま、そのテーブルについた。
「いただきまーすっ!」
少女の元気のいい声と共に、いっせいに(ウサギまでも!)スプーンを手に、食べ始める。
「あ……美味しい…」
恐る恐る、シチューを口に運んだ佐祐理は、驚きの声をあげた。浩之はというと、すでにがつがつと食べている。
「当たり前だよっ……お母さんの料理は、世界一なんだから!」
「うふふ……ありがとう、舞」
そんな、仲のいい二人の光景に、佐祐理は胸の中に、疼きにも似た、鋭い痛みが走るのを感じた。
この光景は、塔の少女が望んだ、幸せの世界なのだ……遥か昔に、失われてしまった……
「正面、5メートル!」
「せやっ!!」
セリオの声に、蝉丸は素早く踏み込んで、刀を振り下ろした。だが、その切っ先は、宙を裂いただけだ。
同時に、首筋に感じた殺気に、飛び込むように転がって、その爪を避ける。
「こいつっ……動きが速くなってる!?」
手負いのはずが、今まで以上の速度と動きで、蝉丸たちを翻弄する。
こうなってしまうと、発動にタイムラグのある術では攻撃できないし、蝉丸にしても、防ぐのが精一杯だった。
「どうするっ……浩之と佐祐理は、どこに行っちまったんだ?」
「恐らくは、亜空間に閉じ込められたと思われますが……まさか、それ程の力が…」
セリオの目には微かに、空間に空けられた、穴の残滓が見て取れたが、それももはや消えかけている。
魔物の爪が、蝉丸の腕を掠めた。三本の爪痕から、ぱっと血が飛び散る。
「くっ……万事休す…か?」
その時、どこからともなく、歌が聞こえてきた。古代語の言葉で綴られた、不可思議な旋律。
思わず、蝉丸も、彩も、セリオも顔を上げる。
だが……
「これは……姿が見えるっ!?」
歌が聞こえてくると同時に、蝉丸の目に、ぼんやりとだが魔物の影が浮かんで来た。
「乙女希望・七瀬留美、助太刀するわよ!!」
突如、飛び込んできた七瀬が、蝉丸の目の前に迫ってきた影に、戦斧を叩き込む。
横からの不意打ちに、魔物は慌てて、大きく天井まで飛び上がった。
「あ、あんた達は……?」
「だから、あたしは七瀬留美。あっちのプレートアーマーは、宮田健太郎。で、そこで歌ってるのが、長岡志保よ」
巨大な戦斧を両手で軽々と構え、七瀬が、蝉丸にウインクをしてみせた。
「…冒険者か?」
「うーん…あたしはただの傭兵よ。健太郎は冒険者したいみたいだけど」
斧を振り回して、天井近くの魔物を牽制しながら、七瀬は舌打ちした。
「あれが、この塔の見えない魔物なの?」
「ああ……そういえば、何で見えるようになったんだ?」
七瀬の横に並びながら、蝉丸が訝しげに問い掛ける。
「志保の『歌』の効果よ。体内のマナの動きを活性化させ、一時的に魔力を上げるとかなんとか……
魔力の観応能力が上昇したから、一時的に、見えるようになるらしいわ…よくわかんないけど」
「ふふん、魔道系呪歌の、『覚醒の歌』よ! 敵の魔力も活性化しちゃうから、
人間同士だとあんまり使えないけど、こういう見えない魔物相手だったら……」
志保がぺらぺらと『歌』の効果を話し出したとたん、魔物の姿が、すぅっ、と消える。
「志保!! しゃべってないで歌続けてよ!! 見えなくなっちゃったじゃない!」
「頼むから、おしゃべりは戦いが終わってからにしてくれ…」
「ううっ……そ、そんなに怒らなくてもいいじゃないの…」
しょぼんとしながら、再び志保が歌い始める。
話したがり屋で、自慢したい志保にとっては、こういう場面で話せないのは、かなり辛いらしい。
「とにかく、見えるんだったら、いくらでもやりようがあるな!」
蝉丸がぱっと飛び出し、刀を振りかざす。
とっさに逃げようとした魔物だったが、回り込んできた七瀬によって、遮られてしまう。
蝉丸と七瀬、両方から追い詰められ、魔物は再び、天井近くまで飛び上がった。
それが、罠だとは知らずに。
「彩!!」
「はいっ!!」
再び唱えられた、彩の呪文により、天井から突き出した石槍は、背後から魔物を串刺しにしていた。
「……石槍は、天井からでも出せるんです……チェックメイト、です」
>>220の続きです。
【浩之・佐祐理 舞の記憶の中の、過去の村】
【志保、七瀬、健太郎、蝉丸グループと合流】
【残っていた魔物、撃破】
>>233 感想スレご苦労様です。
港に泊まっている船の一つ、ミラクルカノン号の甲板
そこで海賊たちが会議をしていた
「真琴、よくやった」
「へへーん、真琴にかかればちょろいものよ」
祐一にほめられた真琴は自慢げに言う
「で、どうするんだい?」
冬弥が祐一に聞く
「もちろん派手にやるぜ!!」
「そうか、腕が鳴るな」
好恵がこぶしを打ち鳴らす
「倉庫の警備が甘いことがわかったんだから、こっそりやればいいと思うんだけどなあ」
観鈴がぼそりと呟く
「甘い、甘すぎるぞ。観鈴」
祐一が大げさなジェスチャーをとっていう
「宝は他にもあるだろう。そんなこそ泥みたいな真似しただけでお宝をおいてくなんて海賊の風上にも置けない。それに真琴が調べた情報がまちがってるかもしれないぞ」
「なんですってえ」
「まあまあ、真琴ちゃん。ほんとなんだから仕方ないって」
「冬弥までそんなことをいうなんて」
「冬弥さん、それに真琴、あんまり騒ぐな」
「すまない。好恵ちゃん」
「う〜でも〜」
真琴も冬弥もおとなしくなる。むろん、好恵を怒らせるのが怖いからだ
「でも、やっぱり危ないよお」
「観鈴、危なければ危ないほど燃える。それが男ってもんだろ」
「よういった、祐一。それでこそうちらの船長や」
「なんつっても俺は海賊王になる男だからな。はははは」
祐一が高笑いをあげる。
「で、作戦はどうするんだい?」
「倉庫まで行って強奪、そのあと邪魔する奴らをぶっとばなしながらここまで戻ってくる。それだけだ」
「うわ、単純」
「祐一君、それはさすがに…」
「いや、これで大丈夫だ。絶対成功する。俺が保証する」
「んなわけないやろ」
「祐一君、陽動作戦にしよう。祐一君や俺や好恵さん達で騒ぎを起こしてその隙に真琴ちゃん、観鈴ちゃん、晴子さん達で宝を船に運び込む」
「陽動か…」
好恵は一人目を瞑る。敵を想像しているのだ
「宝を運び終わったら敵を適当に撒いてすぐに出航。撒くのには町に火をかけるなり、なんなりすれば大丈夫だろう」
「まあ、俺が敵なんかみんなはったおすから大丈夫だけどな」
「真琴ちゃんの話に寄れば警備は手薄だからたぶんこんなザルな作戦でもうまくいくだろう」
「宮内も御上にいえないもん、仰山持ってるからなあ。普段は自警団も近づけられへんからなあ」
「じゃあ、作戦決行は昼だ。奴らが油断しきってる隙を突く」
「オー!!」
一同の声が重なる
この時、ミラクルカノン号の乗組員は誰一人として自分たちに待つ散々な運命に気づいていなかった
そう誰も自分たちのことが密告されてるとは考えていなかったのだ
【相沢一家、昼に作戦決行】
>128、129の修正です
遅くなってすいません
たぶん、これで大丈夫だと思います
243 :
戦闘開始:02/01/16 20:14 ID:R87FYNQZ
「さてと、柳川さん。頼みましたよ」
「ああ、任せとけ」
柳川と貴之が囮作戦の最終打ち合わせを終えた。
少し早めに最初の検挙をすることにしたのだ
「詩子と祐介君が戻ってきたら作戦開始だな」
「全く奴らは何をしてるんだか」
「そう言ってやらないでくださいよ。詩子は奔放に動くことが多いですけど案外それが役に立つんですよ。なんていうか勘がいいっていうか」
「そうか、貴之がそういうならそうなんだろ…」
ドーンと爆発音が響く
「…!?」
「爆弾か?」
二人は音のした方をみやった
「まさか…奴らなのか?」
「テロリストがいるというなら話は別だろうが」
「陽動のつもりなのか?」
「ふ、こうも自警団がうろうろしてる中で陽動とはよっぽど頭が悪いか。よっぽど腕に自信があるんだろう」
柳川の目が妖しく輝く
「とにかく、奴等を抑えてしまわないと」
「貴之、作戦変更だ。お前は自警団の精鋭を率いて船を沈めにいけ。暴れてる奴らは傭兵で始末する」
「柳川さん」
「それと倉庫の方にも人数を割くのを忘れるなよ」
貴之が呆然とする。相沢一家は慎重派の海賊で名が通ってたからだ。
今回のやり方は強引すぎる
「貴之、俺の傭兵としての経験を信じてくれ」
「わかりました。集合!!」
貴之が叫ぶと自警団と傭兵が集まってくる
「じゃあ、俺は行くぞ」
柳川は言い残し走り出した。
244 :
戦闘開始:02/01/16 20:15 ID:R87FYNQZ
「へへ、どっかーんってか」
祐一が言う
「犬飼さんが共和国の学者だったとか言う話は本当だったみたいだね。こんなもの作れるなんて」
「まさか、これほどつかえるものだったとは」
古代の遺跡から発掘される爆弾、銃弾と同じく製造技術は一応確立されているが高価なもので裕福な冒険者、もしくは戦争ぐらいでしか出番のないものだ
そして、今回作戦を実行するに当たって犬飼が祐一達の渡したものは簡易型の爆弾で轟音を巻き起こすものと砂煙を起こすものの二つだった。無論、陽動用と逃走用だ。
「うわはははは、相沢一家、ここに見参。どっからでもかかってきやがれ」
「祐一君、あくまで陽動だからね。退路の確保だけは怠るなよ」
「わかってるさ」
「さて、自警団の奴らはどれくらいでくるかな?」
「まあ、いくら来ようとこの俺がぎちょんぎちょんに」
「…む」
「うわ」
坂下が祐一を突き飛ばす。
びゅっと音がすると祐一の首があったところを黒い刃が通り過ぎていく
「ほう、今の攻撃をかわすとは…」
煙が立ち込める中、男の姿がうっすらと見える
「お前は…自警団じゃなさそうだな」
祐一はシミターを構え言った
「その通りだ。いわゆる傭兵って奴だ」
柳川は嬉しそうに言う
「傭兵…祐一君、やばい!!」
冬弥が叫ぶ
「やばいって?」
「俺たちが来るのがばれてたんだ。このままじゃ真琴ちゃんたちが…」
「大丈夫だ。安心しろ。殺しては貴之に迷惑がかかる。お前らは全員、牢屋で再会できるさ」
柳川の右手の黒い剣が踊る。キィンと音が響く
245 :
戦闘開始:02/01/16 20:15 ID:R87FYNQZ
冬弥が一撃をシミターで受けたのだ
「く、祐一君。真琴ちゃん達のほうにいくんだ」
「と、冬弥さん」
「祐一、この男は強い…恐らく3人がかりでも勝てないだろう。お前はみんなを連れて逃げろ」
「坂下…」
「無駄だな。どうあがこうとお前らの運命は変わらんさ」
「はやく行くんだ」
「はやく、いけっ」
「二人ともすまない」
祐一は言い残すと走り出した
「さて、とっととお前らを狩って奴を追いかけないとな」
柳川は言うと黒い剣を構える
「とりあえず、祐一君さえ逃がせば先代への面目は立つ」
「そういうことだ」
「くくく、奴が逃げ切れるとでも思ってるのか?」
「思ってるさ」
「とっととかかってきな」
【祐一、倉庫に向かう】
【柳川、冬弥・坂下と交戦】
【自警団、ミラクルカノン号を探しにいく】
続きを書きました…
今度こそ突込みが入らないことを祈るばかりです
柳川の武器は悩みましたがスタンダートに剣にしました
247 :
絆と決別:02/01/16 21:36 ID:M7TTIqfW
「ごちそうさまでしたーっ」
「ごちそっさん」
「ふふっ、よろしゅうおあがりで」
シチューを平らげた佐祐理と浩之。
「いやぁホント奥さんのシチューは最高ッスよ!もう腹ペコペコだったんで大助かりッス」
言いながら浩之は満腹になった腹をポンポンッと叩いた。ここがどこなのか、さっきまで戦っていた事などはすっかり忘れてしまっているようだ。
「まぁ、お上手ね…それじゃぁ、行きましょうか」
そう言って立ち上がる舞の母。
「行くって…どこへですか?」
尋ねながら佐祐理は母親の足の陰から舞が恥ずかしそうに上目遣いにジッとこちらを見つめているのに気づいた。
「え?ああ、舞がお二人と遊びたいんですって」
「お、お母さん!あたしそんな事言ってない!」
舞が顔を真っ赤にしてポクポクと足を叩く。
「ふふっ…この子恥ずかしがり屋なもので」
「むー…」
「クスッ、じゃぁ行こっか?舞ちゃん」
「……うんっ」
「浩之さん、行きますよ?」
「えー?これから昼寝…」
「…浩之さん?」
「イ、イエッサー!」
「じゃあお母さん、行ってきまーすっ」
「行ってらっしゃい」
そう言って舞の母は手を振って見送った。
248 :
絆と決別:02/01/16 21:37 ID:M7TTIqfW
「ぜぇ、ぜぇ……つ、疲れたー!」
「あははーっ、浩之さんったら嫌そうにしてたくせに随分と熱心に遊んでましたね?」
浩之はグッタリと佐祐理が腰掛けている丸太の横に座った。
「ガ、ガキの体力にはついて行けん…」
「なんだかんだ言っても浩之さんは子供好きなんですねー」
「そ、そんなんじゃねぇよ」
そう浩之はバツが悪そうにゴロンと横になった。
「…しっかし。あのガキ運動神経が並みじゃねぇな。鬼ごっこでマジになるものシャクだけど全然追いつけなかったぜ。やっぱアイツ人間じゃ…げはっ!」
言い終わる前に浩之の鳩尾に佐祐理の笑顔で肘打ちが入った。
のたうち回る浩之を尻目に佐祐理は向こうでウサギ達と楽しそうに鬼ごっこを続ける舞を眺めた。
(凄く楽しそう…きっとこんな風に目一杯人と遊んだのは久しぶりなんだろうね…)
目を細める佐祐理。同時に一人の人物を思い出さずにはいられなかった。
(一弥も…こういう世界を心の中に持ってたのかな?)
きっとその中に自分は居なんだろうなと自嘲し、佐祐理は舞を呼んだ。
「舞ーっ!」
「?何ーっ?」
怪訝な顔で走り寄って来た舞に対し、佐祐理は自分のももをポンポンッと叩いて、
「ほらっ、ここ座って」
「え?でも…」
「クスッ、恥ずかしがらないでいいから!」
恥ずかしそうにちょこんっと佐祐理の上に腰掛ける舞。そんな舞の髪の毛を纏めながら佐祐理はポケットから紫色の大きなリボンを取り出した。
「なぁに?」
「舞にプレゼント」
リボンを結んでもらう間、舞は困ったような嬉しいようなくすぐったい顔をしていた。
「…ありがとう、お姉ちゃん」
「佐祐理、だよ。倉田佐祐理」
「さゆり…?」
「そっ」
「…ありがとう、佐祐理」
249 :
絆と決別:02/01/16 21:41 ID:M7TTIqfW
「何を隠そう俺の名は藤田浩之だ」
「…浩之の名前なんか聞いてない」
さっと佐祐理の陰に隠れる舞。
「あははーっ、浩之さんは嫌われましたねー?」
「ちぇっ、可愛げのねぇガキだぜ…」
浩之はぶちぶちとふてくされ、雑草を抜き始めた。
「…そのリボンはね、一弥の物なの」
「かずや…?」
「そう、佐祐理の弟。一弥ったら男の子のくせにどうしてかそれを凄く大事にしててね…」
そう落ち込む佐祐理を見て舞は何かを感じ取ったのか、
「佐祐理」
「…ん?」
「私、これ大事にする。とってもとっても大事にするから…だから…」
「そうだね」
「あはっ」
また笑顔に戻った佐祐理を見て舞は嬉しそうに笑った。
「舞はお母さんの事好き?」
「うん!大好きっ」
「ずっとお母さんと居たい?」
「うんっ!ずっとずっと一緒に…」
そう言いかけた瞬間、舞の動きが凍りついた。
「…舞?」
不意に周りの風景が歪みだし、地面に亀裂が走り始める。
「なんだ!?どうした!?」
「舞が!舞が動かなくなっちゃったの!!」
「うわっ!」
そして激しい地震が起こり佐祐理達が居る世界そのものが激しく光り始めた。
250 :
絆と決別:02/01/16 21:50 ID:M7TTIqfW
「まぶし…」
「!?」
世界が光に包まれてゆく中、佐祐理は倒れている舞の顔を優しく撫でている会った事のない少女を見た。
「あなたは…?」
少女はそれには答えず、キッとこちらを一瞥して一言だけつぶやいた。
「馬鹿」
「えっ?」
そして全てが光に飲み込まれた。
「ヒロッ!?」
「志保!?お前どうしてここに…?」
志保は驚いた。彩の自然術が最後の一体の魔物を貫いた直後、目の前の空間が突然開いて浩之達が飛び出してきたのだ。
「戻ったか!?少年」
「舞!舞っ!?」
部屋にいたメンバーが口々に再会を喜び合う中、佐祐理は必死に舞の体を揺さぶった。しかし舞はもはやピクリとも動こうとはしない。
「い、一体なんだって言うの?」
「さぁ…」
わけがわからないと言う様に尋ねる七瀬に健太郎もそう答えるしかなかった。
ピシッ…パラパラ…
「ん?」
不意に健太郎の頭に小石が当たり、健太郎が天井を仰ぎ見たその瞬間、
バリバリバリ!ドゴーン!!
「のわっ!?」
健太郎の真上の天井の一部が突然砕け散り、瓦礫が健太郎を押し潰した。
「何っ!?」
「健太郎っ!?」
瓦礫が落ちた場所には大きく砂煙が上がり、しばらくは何が起きたのか確認できなかった。そして煙が収まる頃、出てきたのは…
「これは…魔族!?」
「ったく!人間風情がよくもやってくれた事ねっ!」
「ルミラっ!?」
251 :
絆と決別:02/01/16 21:51 ID:M7TTIqfW
「志保…あなたまでがこんな事に加担するとは思わなかったわよ」
「何の事…?」
「いけしゃあしゃあと…!たった一人の子供をよってたかって殺そうとしといて良く言ったもんね」
「子供?殺す?」
「とにかく!その子は今すぐ連れて行くわよっ!」
呆然としている全員を横目にずんずんと舞の下へ歩いていくルミラ。そんなルミラの前に浩之が立ちふさがった。
「待てよアンタ、いきなり何を…」
「どけっ!」
そうルミラが片手を薙いだだけで大きく吹っ飛される浩之。
「浩之さん!」
ルミラが佐祐理と舞の前に立つ。佐祐理は恐る恐るルミラに尋ねてみた。
「あの…舞は…!舞は死んじゃったんですかっ!?」
ルミラが舞を抱え上げる。
「倉田佐祐理か…あなたには期待していたんだけど…」
「舞はどうしてっ!?」
「まだわからないの!?あなた達が倒した見えない魔物はこの子自身だったのよ!それを倒せばこの子だって!」
「そんな…」
「ふぅ…今ならまだ間に合うの。魔族の事は魔族に任せるのが一番だってわかるでしょ?さぁどいて!」
皆が道を開ける中、蝉丸が通さない。
「蝉丸さん!」
「その娘に用は無いのだが…」
「レフキー王立特務部隊、だったっけ?アンタが欲しいのはこれでしょ」
そう言ってルミラは舞が首に掛けていた秘宝の紐を引きちぎり、蝉丸に投げてよこした。
「いいのか?」
「興味無いわね。もっとも、この子にとっては大切な物なんでしょうから後が怖いかもね」
252 :
絆と決別:02/01/16 21:54 ID:M7TTIqfW
「ま、待ちなさいよ!あたし達も行く…」
「来るなっ!」
立ち去ろうとするルミラを志保が呼び止めようとするが、ルミラの一喝が部屋中に響く。
「…ごめん、今すごく気が立ってるの。これ以上ここにいると何するかわからないわ。志保、たとえあなただろうと…」
「ルミラ…?」
そしてルミラはその場から消えた。しばらくの間は誰も口をきこうとしなかった。
七瀬は志保の肩が震えているのに気づいた。
「志保…」
「……〜い、お〜い、出してくださいよ〜」
そんな時、瓦礫の下から情けない声が聞こえてきた。健太郎である。
「はぁ…酷い目にあったぁ」
体中の埃を払いながら瓦礫の下から助け出された健太郎は大きくため息をつく横で七瀬もため息をついた。
「まったく、アンタは鈍臭いんだから」
「しょうがないだろ。いきなり崩れてくるんだから…」
「…ところで、あなた達はあの魔族と知り合いなのですか?」
セリオが尋ねる。
「え、ええまぁ。腐れ縁という奴で…」
「そうですか…」
それきり黙り込む。まだ全員がショック状態から抜け出していない様だ。
「ところで…長岡さん?」
健太郎が志保にのんきに声を掛ける。
「………」
「長岡さん?お〜い、長岡さ〜ん?」
そう言って志保の顔の前で手をブンブン振る健太郎の頭を七瀬がパカッと小突いた。
「痛っ!何すんだよ!」
「アンタって奴は…最低っ!傷ついた乙女心ってもんがわかんないの!?」
「そんな事言ったって…さっきのがルミラって人なんだろ?あの人に会って長岡さんのネコミミをなんとかするためにここに来たんじゃなかったのか?」
それを聞いた志保はさっきまでの落胆が嘘の様に飛び上がった。
「あ〜〜〜〜〜〜〜!!忘れてたっ!!!」
254 :
梓の受難:02/01/16 22:20 ID:3r5oXzzG
時刻は夜。
酒場が一日の疲れを癒すレフキー市民で賑わう時間だ。
そしてそれは、酒場なのに何故かメニューにたい焼きがある、ここ“甘辛亭”でも同じだった。
「それでな、親切な人があのクソガキを捕まえてくれて、遂に今まで食い逃げされた分の金を払わせ
ることができる、と思ったのも束の間、誰かに後ろから殴られて気絶しちまってよぉ、まったく踏
んだり蹴ったりだったぜ」
「へえ、それは大変でしたね」
おやじの愚痴に、カウンターで酒を飲んでいる柏木耕一は相槌を打った。
「でも、兄ちゃんも薄情だよな。おいらが帰ってくるまで店番しててくれって頼んだのに」
「いやあ、二時間くらいは店番してたんですけど、俺も用事があったから帰らせてもらいました」
「そうか、なら仕方ねえな。まあ、ちゃんと勘定を置いといてくれたしな」
「まあ、食い逃げはしちゃ駄目ですしね」
「兄ちゃん良い人だねえ。あの食い逃げ娘に爪の垢でも煎じて飲ませてやりてえよ」
「はは、大袈裟ですよ」
バン!
と、その時、入口の扉が勢いよく開かれた。
「ん?」
「何だぁ?」
「どうしたんだ? 嬢ちゃん」
「汗びっしょりだぜ」
「誰かに追われてんのか?」
客達が口々に騒ぐ。
そこに立っていたのは、共和国摂政兼衛兵隊長の柏木梓だった。
牧村邸を出て以来、全力でかおりから逃げ回っていたのか、髪が乱れて汗だくの状態なので、もし
も身分を明かしても誰も信じてくれなさそうだったが。
255 :
梓の受難:02/01/16 22:21 ID:3r5oXzzG
「! 梓じゃないか。どうしたんだ? そんなに慌てて」
まさかこんなところで会うとは思わなかったので、少々驚きつつ耕一は尋ねた。
「久しぶりだな、耕一。ホントならのんびり話をしてたいんだけど、今追われてるからまた今度な。
なあ、おやじ、この店、裏口はないか?」
「裏口? ああ、向こうにあるが……」
面食らいつつもおやじがそう答えると、梓はすぐに走り出していた。
「よしっ、じゃあ悪いけど裏口通らせてもらうよ。耕一またなっ」
「え! お、おい。追われてるって誰にだよ?」
「かおりだよ、かおり! あ、この店には来なかったって言っといてよ」
言うが早いが、梓は裏口へと姿を消していた。
「今の嬢ちゃん誰なんだい?」
「兄ちゃんの知り合いなのか?」
「かおりとかいうのに追われてるらしいが」
「兄ちゃんとあの嬢ちゃんはどんな関係なんだ?」
梓が去った後、耕一は好奇心に駆られたおやじや客に取り囲まれ質問攻めにされた。
「み、皆さん、落ち着いてください。そんな一度に質問されても答えられないですよ」
耕一がそう言って、皆を落ち着かせようとしたその瞬間。
バン!
再び、入口の扉が勢いよく開かれた。
256 :
梓の受難:02/01/16 22:23 ID:3r5oXzzG
「梓せんぱーい。逃げないでくださいよう」
声と共に酒場に入ってきたのは、先程の梓よりは少し年下の少女―日吉かおり―だった。
「やあ、かおりちゃん。久しぶり」
耕一は彼女に挨拶した。
「耕一さん? どうしてあなたがここにいるんですか!」
「どうしてって、酒を飲みにだけど」
「そうですか。まあ、そんなことはどうでもいいです。それより、梓先輩を見ませんでしたか?」
「梓? いや、見てないけど」
耕一はしらばっくれた。さりげなく、おやじや他の客に『話を合わせて』と目で合図する。
「ああ、おいらも見てねえなあ」
「俺達も見てないな。この店は嬢ちゃんみたいな若い娘が来るところじゃねえし」
「あれ? おっかしいなぁ。確かこの店に入ったと思ったのに。
あ、もしかして隣の店に入ったのかも」
そう言うと、かおりは酒場からダッシュで出て行った。
「ふう。何とか誤魔化せたな」
耕一はほっと息をついた。
「さて、兄ちゃん。協力してやったんだから説明してくれるよなぁ」
「そうそう。最初に来た嬢ちゃんと次に来た嬢ちゃんはどんな関係なんだ?」
「えーと……」
再び質問攻めにされ、耕一はどう答えようか迷った。
257 :
梓の受難:02/01/16 22:26 ID:3r5oXzzG
(やっぱり、本当の事を言うのはマズいよな)
「最初に店に来た子は俺の従妹の梓、次に来た子は日吉かおりちゃんです。
で、かおりちゃんは梓に一目惚れしていて、いつも追いかけてるんです」
「ほお、つまり女同士の恋って訳か」
「まあ、そういうことです」
「ふうん、その梓って子も大変だねえ。あの子はその気はないんだろ?」
「ええ、だから梓はああやってかおりちゃんから逃げ回ってるんです」
「おう、そうだ! そのかおりちゃんとやらの恋が成就するかどうか賭けねえか」
「お、いいねえ。勝った方が負けた方におごるという事で」
「じゃあ俺は成就する方に賭けるか」
「いや、梓だっけ? 相手の娘は嫌がっているようだし無理だろ」
「あの情熱があれば、嫌がっててもいつか根負けするって」
客達は人の不幸をネタに盛り上がりだした。
(実は梓が共和国摂政兼衛兵隊長の“あの”柏木梓で、かおりちゃんはその直属の部下だって言った
ら驚くだろうな。いや、言っても冗談だと思われるのが関の山かな)
彼らから解放された耕一はそう思い、一人苦笑した。
【柏木梓 依然としてかおりから逃亡中】
【日吉かおり 衛兵隊所属で梓の直属の部下。今回も梓ハンティング失敗】
ども。というわけで久しぶりに書いてみました。
梓逃亡編の続きです。本筋と全く関係ないですが。
ちなみに、
たい焼き屋のおやじ:011 剣士と盗賊
梓:049 剣と盾と
耕一:065 魔族の剣
に続く話になります。
259 :
忘レナイ:02/01/17 22:21 ID:kgEhvztZ
「はぁ、困ったなぁ・・・」
と、目前の少女を見つめながら、俺は溜め息をついた。
それもこれも全てアイツ――裏葉――のせいじゃないか・・・
それは数時間前の出来事――帰路への道を歩いていると見知った顔を見つけた、とか思った次の瞬間、
「ああっ!! なんて事でしょうか!! この不甲斐無き私のせいで、このままでは神奈様が身売られてしまいますうぅ。それを回避させる為には明日までに大金があぁ!! こうなってはもはや自害して詫びねばなりませぬかぁ!?」
「おい、ちょっとマテ」
手を組みながら哀願する様に、目に涙を浮かべながら大声で叫ぶ、この女が裏葉である。
「取り敢えず、いきなり街中で会うなり大声で喚くな」
周りの視線が痛い。なにやらヒソヒソと遠巻きに話していたり、指差している子供をその親が強引に引きずっていったりしていた。
「うぅ・・すみせん、柳也様。取り乱してしまいました」
「それで、神奈がどうしたって? 身売りとか言ってたが・・ってえぇ!?」
ちなみに神奈と俺は許婚の仲であり、この裏葉とは幼馴染みの仲である。
「えぇ、私がミスを犯したせいで神奈様に迷惑を掛けてしまいして。本来なら私が責任を取る所を神奈様が『余に任せておけ、裏葉』と仰って、私の代わりに・・うぅ、なんて優しい方なのでしょうか?」
でしょうか? なんて言われてもなぁ・・
「で?具体的に何をしたんだ、お前は」
「そしてっ! 明日までに大金を用意すれば神奈様を返してやると言って、そいつは去っていきました・・・」
人の質問に答えろよ・・それに金額を指定してなかったりするところがいかにも怪しい。
「なぁ・・それホントか? この前みたいに狂言じゃないだろうな?」
程度は劣るが前にも似た様な事を言って無理難題を押し付けてきたのだ。しかも段々エスカレートしていってる。
「ああっ!! 柳也様っ!! はやくしなければ手遅れなりますっ!!」
「判ったから大声で人の名前を叫ぶな! それで結局俺は何すりゃいいんだ・・・」
こうなった裏葉は俺には止められない。大人しく計略にはまってやるしかないのだ。
「流石、柳也様、物分りがいいですねぇ。そうですねぇ・・じゃぁ・・・」
260 :
忘レナイ:02/01/17 22:23 ID:kgEhvztZ
そして俺は大人しく、レフキー街道へと導かれ(抵抗すると泣き叫ぶので)『手段は問わないから道行く人から金をもらってこい』と言われた。要は追剥ぎの真似事だ。最悪だ。しかも別れ際に
『私もお金を集めておきますから明日までには帰ってきてくださいね』なんて事いって街中に消えていった。つまり明日には万事解決って事だ。死んでくれ。
まぁ、気は進まないがここでボケッとしてる訳にもいかない。道沿いからかなり離れた場所を歩く事にする。人に会わなきゃいいのだ。
夜が深くなりそろそろ理由付けて帰ろうした矢先に運悪く、人を見つけてしまった。しかも女の子だ。
思わず物陰に隠れて様子を窺う。なにやってんだろ、俺は。
・・・一人のようだ。しかも何故か変な顔をしながら口をモゴモゴしている。
「はぁ・・出会っちまったからにはやるだけやってみるか・・・」
そう結論付けて俺は彼女に歩み寄って行った。ダメならダメで、そのまま帰れば一応面目は立つハズだ。
「こんばんは。いきなりで悪いけどさ。ちょっとお金貸してくれないかな?」
彼女は今気付いたかのように顔を上げると、もたれかかっていた木の幹から立ち上がっって、
「悪いですけど、お断りします」
少女の面影が残る顔立ち、はっきりと断った。当然だ。不意に彼女の視線が腰の辺りにチラッっと移動した。その瞬間思い出した。裏葉が貸してくれた剣のことを。
裏葉が持たせた意図を今更ながら理解した。これで脅せってのかよ?畜生。それともこんなモノ持たせるだなんてあの話はホントだったのだろうか・・・?
にわかに使命感が生れたが、俺が今やってる事は最低のことだ。しかし、やるだけやってみる。それが俺の結論。迷いを振り切る様に右手を剣に手を掛けて、
「これでも、だしてくれないのかな?」
なんて言って鞘から刀身を抜き放つ前に、
「それ以上は止めた方が身の為ですよ?」
流れる動作で――右手を腰の後に持っていた次の瞬間には――抜き放った銃を俺の頭に向けたアトに、言った。
銃である。そう、あの最新兵器。話には聞いていたが・・実際見るのは初めてだ。感激である。まぁ、次の瞬間には俺の頭が破裂してる可能性もあるしな。そのおかげで感激具合も二割増しだ。
「俺の負けだ。降参する」
261 :
忘レナイ:02/01/17 22:24 ID:kgEhvztZ
「なんで見詰め合ってるの? この人、誰?」
ちょっと悪戯っ子っぽい男の子の様な声が聞こえたがその方角には誰もいなかった。が、その代わり猫が闇夜から姿を出した。
「さぁ? 今質問しようと思った所。ちなみに私の名前はなつみっていうの。貴方の名前は?」
顔は動かさずに視線だけを猫に向けた彼女がその声に応えた。――銃を向けたまま。
「ああ。すまん。俺は柳也だ。それと、誰と喋ってるんだ? ああ、ちなみに俺の登場シーンは全部冗談だったからな、そろそろ下ろしてくれないか? その銃ってやつ」
一瞬、彼女は珍妙な――そう、丁度さっき口をモゴモゴしていた時の様な――顔をしたアトに、クスリと笑い。銃をゆっくりとしまった。
「紹介しますから取りあえず座りませんか?」
「――ってことは、喋れる猫だってのかっ!?」
炎に照らされて映る、猫、ピロはなんでも人語を理解していて、喋れるそうなのだ。
ちなみに焚き火に火を点けたのはなつみのナイフであった。なんとナイフがいきなり炎をまとったのである。
なつみは己の魔力を物質化できるらしい。でも、消したり出したりは出来ないそうだ。
さらに一度固定化した魔力は二度と形を変えられず、なつみの魔力は無きに等しくなってしまった。なんでも初めて具現化した時はナイフ+炎と思い浮かべたら、炎のでるナイフが出来上がった、と。教えてくれた。ちなみに、炎は本人の意思によって操れるらしい。
「だから、そう言ってんだろ?」
ふん。とピロは鼻息ならして丸まった。
「へぇ・・すげぇんだなピロは」
ピロは返事をしなかった。その代わりになつみが、
「口は悪いけど根はいい奴ですよ」
と、フォローをいれた。
会話の途切れた俺はなつみがどうして旅をしているのか?を興味本位で、聞いた。何故か和んでいるな俺。
「住んでた町が化け狐――おそらくは妖狐の里の連中に――襲われたんですよ。私を除いて全滅でしたね」
顔色一つ変えずになつみは、言った。
「それから村々を転々としながら、賞金首を狩ったり、賞金のかかったモンスターを狩りながら帝国領土を経由して、レフキーを目指していました」
262 :
忘レナイ:02/01/17 22:27 ID:kgEhvztZ
ちなみに私の故郷の村は、首都レフキーと妖狐の里を線で結んだ延長線上にありますよ。と付け加えた。
「・・・そうっか。賞金首を倒したりするなんて結構強いんだな。なつみは。なんか通り名とか無いの? 有名な所で・・『双剣のみさき』とか『剣聖・雪ちゃん』とかカッコいい奴」
・・・俺は彼女の深い部分に踏み込む事ができなかった
「ああ。その二人の事は風の噂で聞いた事あります。でも残念ながら私はそこまで強くないですから」
アハハと渇いた笑いを浮かべると、丸まっていたピロが口を開いた。
「でもまぁ、一番の問題はなつみが地味なせいだと思うんだけどね」
更に渇いた笑い声が響き渡ったアトに、
「・・・それはともかく、なんで柳也さんは、お金を要求したりなんかしたんですか?」
「あぁ・・それはな、話すと長くなるんだが、ちょっと聞いてくれよ。さっきの話と関係無いけどさ」
俺は今回の事の経緯を説明した。話し終えたアトにピロが、
「ねぇ・・その裏葉って髪の長い人なのかな? もしかして?」
「ん? 何故知ってる?」
「さっき、俺が食後の散歩してたら、こっそりなつみの方を見てる奴がいたからさ。かなりの穏形だったよあれは」
さらに、魚を咥えたネコみたいな顔して、ニヤニヤしてたからアブナイ人かと思っちゃったよと、付け加えた。
――一体何を期待してるんだアイツは・・それともやっぱり、まだ神奈の事を・・・!?
「くっ! やっぱり狂言だったか・・そうと判ったら早速帰って神奈に今回の事をいいつけてやらないとな」
そして彼――柳也さんは世話になったな、とか言い残して去った。
私は焚き火に土をバフッ、っとかけて火を消した。
「・・私はその、裏葉って人全然気が付かなかったよ。まぁそれはおいといて、そろそろ寝るよ、ピロ」
「夜行性なんだけどね、俺は」
言って丸くなる、私はすぐに眠りについた。
263 :
忘レナイ:02/01/17 22:29 ID:kgEhvztZ
――怒声が聞こえるのと、悲鳴が聞こえるのはどちらが先だったか。
燃える民家。真っ暗なハズの夜空が真っ赤に灯った夜。
化け物に両親を殺され、獣を裂く事ができるモノと、遠巻きに燃え盛る、炎に心奪われた夜。
――『お前らが我らの里の秘宝を』
何時の間にか私の手にはナイフが握られていて、傍らにはウゴカナクなった獣が。
――そして、最後には肉の焦げる臭いが。
「っつ!! うぅ!? っはぁぁ・・・」
・・また、夢を見た。何度目だ。
「最近見なくなったのになぁ・・・」
汗ばむ額をぬぐいながら私は目覚めた。昨日誰かに話したせいだろうか?
夜明けだった。
私は軽く運動してから、整備をする為に拳銃を取り出した。
――父さんが私の10の誕生日に贈ってくれた物。『お守りだよ』って言ってた。
そして、拳銃――単手動作式、弾倉は五つ――の抜き打ちの練習した。
次に左手で腰のナイフを抜き、左手で振り回した。例の携帯食料――今日で最後だ――を食べて、麦藁帽子を被った。
――母さんが私の10の誕生日に贈ってくれた物『何時までも元気に』って言ってた。
――その数日後に二人は一つの村と共に死んだ。私の唯一無二の”居場所”が理不尽に唐突に奪われた。
狐火とかいう能力で私の村を滅ぼした彼等。しかし、私は知ってしまったのだ。『秘宝』を妖狐の里から持ち出し、私の村に濡れ衣をきせたのが――帝国だという事に。その真実を知ったのが・・ピロとの出会いだった。
264 :
忘レナイ:02/01/17 22:33 ID:kgEhvztZ
残している荷物が無いか確認して、私は背中にいつもの様に背負ってから、
「ほら、さっさと起きなさい」
と、まだ寝ているピロの首根っこを掴むとそのまま持ち上げた。――これでも起きない。低血圧なのだろう・・・
片方の手で鼻をつまむ。
「・・・っん!? くぷぅ・・はぁはぁはぁ・・・」
「おはよう、ピロ」
「おはよう、じゃないよ、なつみ。もう少しで逝っちまうところだったぞ。そもそも俺は夜行性で朝には・・・」
「悪かったって。それじゃ本調子になるまでいつもの場所にくる?」
「ああ・・よろしく」
朝はやる気がでないのか、首根っこ掴んだ手を離してやると、器用に着地して、そのまま肩、背の荷物、そして麦藁帽子の上にこれまた爪も立てず、器用にジャンプした。
もう、目の前にある王都、レフキー。
『人々の夢を奪いつつ、また同時に与え続ける』と称される都市。 ならば私の帝国を潰すという途方も無い夢を叶え、私の悪夢を同時に奪っていってくれるのだろうか?
帝国がどんな意図で『秘宝』を奪ったのかは知らない。まさか戦争でも起こす気なのだろうか?どちらにせよ、私は帝国を滅ぼすという夢の礎になる覚悟も出来ている。
もうすぐ長かった旅が終わる。しかし、それは今から私が行うべき夢の通過点に過ぎないのだ。
265 :
忘レナイ:02/01/17 22:34 ID:kgEhvztZ
「おーーい!!」
唐突にレフキーの方から声が聞こえた。よく見ると昨日の、柳也とかいう男の人だった。しかも走りながら大声で近寄ってくる。
「・・・元気だネェ」
尊敬が1%、残り99%は呆れが混じった口調だった。
「いや、昨日あれから帰ってから三人で話したらさ、迷惑掛けたお詫びに俺の家に連れてきたらどうだ、って事になってな。それで見失う前に呼びにきたんだ」
「・・・いいんですか?」
「ああ! 大歓迎だよ! それにこの街は初めてだろ? 案内してやるよ」
返事も待たずに先立って行ってしまう。
「やったな、なつみ。これでメシ代どころか、宿代までういたね」
ピロが私だけに聞こえる声で言った。
「こういうのを俗に・・ひょっとこのツラ、っていうんだよな?」
「・・・? もしかして、ひょうたんからコマってやつ?」
「そ。そんな感じ」
そしてピロは永眠するかの様に丸まった。
【牧部なつみ/王都レフキー到着/故郷を滅ぼされたのは事実だが、帝国云々については確証無し】
【ピロ/王都レフキー到着/目的不明/帝国云々についての情報が正しいかどうかは謎(しかしなつみは信じている)】
【柳也/街の人・詳細未定/神奈という許婚がいる】
【裏葉/詳細未定】
【神奈/詳細未定】
話的には#2(209-211)の続きです。っていうか長文スマソ(汗)
アト「それは通過点」の【】の中の(w)を削ってくだせう。<みおせる氏お願いします(アト編集ページ、もの凄く使い勝手がいいです)
読み返してみると確かに浮いてるw 指摘と感想サンクス〜です。<感想スレの18さん
放置が長いので自分で繋げましたが・・・変な所があったら指摘、お願いします。
とある宿屋の前で、ふたりの少女が立ち尽くしていた。
戸口の上に立てられた看板には”青の錫杖”と書かれている。
「智子ちゃん?」
呼ばれた少女は、背景に溶け込むほどに固まっていいた。
目の前にある、山と詰まれた鼠の死骸のためであろう。
「-----お腹、すいたね?」
まだ暖かさを残し、ぷすぷすと音を立てているそれは、ほとんどは焼け焦げて、特有の臭いを発している。
もしも鼠が食えるのならば、垂涎ものの光景である。
「んなわけ-----あるかいっ!!」
智子はみさきのグロテスクな感想に反応し、叫ぶと同時にバックハンドの平手を唸らせて、ビシッと鋭い音を響かせた。
俗に言う、ツッコミだ。
「わ、智子ちゃん?! 痛いよ!?」
みさきの抗議を聞き流して、智子は畳み掛ける。
「なんやのこれ!? みさきさんが言う”美味い店”て、これのことやのん!?」
この死骸の山にはそれなりのエピソードがあるのだが、彼女にとってはただの生ゴミ、いや焼けゴミである。
処理する余裕がなかったのだろうが、いくら纏めてあるとは言え料理を出す店としてイメージの悪いこと甚だしい。
「これ、鼠やで!? あかんわこんなん!! 他行こ、他!!」
「おいしそうなのに……」
未練を残すみさきを引き摺って、智子は路地の奥へと消えていった。
* * *
「なあ……やっぱり、お客さん怒ってるんじゃないか?」
「ふむ。同志北川よ。済まんが我輩は目が悪いから、よく見えんのだ」
通りの反対側から、ふたりの男が本場のツッコミを眺めている。
「ずるいぞ! だいたい声で解るじゃないか!!」
「何を言うか。我輩の野望を邪魔するものは、全て排除するのだ。 塵芥でさえ、逃しはせぬ」
抗議する北川と、全く根拠のない威厳を見せびらかせて胸を張る大志である。
見事鼠の群れを退治した彼らだが、当然のように死骸の始末も任されてしまっていたのだ。
「-----しかし、九品仏大志の偉大な計画のために、同志北川は掃除も半端に店を飛び出したのだよ」
「あんた……何を口走ってるんだ。だいたい誰に言ってるんだ。そもそも計画ってなんだ」
事実としては、北川は真面目に裏庭に穴を掘って死体を埋めていたのだ。
しかしとにかく数が多く、余っていた死体を-----しびれをきらした大志が、片っ端から通りに投げ捨てていたのだ。
「どうすんだよ、あれ。帰ったら絶対怒られるぞ!?」
北川が訴えるのと同時に、少女の声がした。
「おーい、こっちだよーーー!」
北川たちが掃除をしている間に、名雪は人が入れるような広めの下水口を探しに行っていた。
その彼女が戻ってきたということは、冒険の始まりに他ならない。
名雪の声を聞くや、大志はがっちりと北川を捕らえ、魔術師とは思えぬ力で担ぎあげると走り出した。
「さあ、行くぞ同志北川! 怒られるのは、どうせ貴様だ!!」
「なんだよそれ!? 俺戻るよ!!」
「もう遅い、おかみがたった今、鼠の死体に気付いた! 走るぞ! 逃げるぞ!」
「助けてくれええええ! ちくしょおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
* * *
「……月宮。来るなり帰ろうとは、妙な言い草だな」
北川の悲鳴が木霊する街並みを抜けて、”青の錫杖”へ訪れていたのは岩切花枝と、月宮あゆである。
(-----だってだって、秋子さん青筋立ってるよ!? 機嫌悪そうだよ!? 怖いよ、危ないよっ!?)
(”人探しならギルドの次にここがいい”と言ったのは、貴様だろうが。任務を遂行しろ!!)
「あらあら-----あゆちゃん、何を喧嘩しているの? おとなりの方は、こちら初めてかしら?」
ひそひそ声で口論する二人を、にこやかにまとめたのは水瀬秋子である。
(おかしい……おかしいよっ。秋子さん、絶対怒ってるのにっ)
怒っている人間が穏やかな反応をすることほど----もちろん、その逆鱗に触れたことのある人間でなければ、理解し得ぬ
ことなのだが-----恐ろしいことは、無い。
恐怖に泳ぐ、あゆの大きな目が、挨拶をする岩切と秋子を通り過ぎ、信じられないものを発見してしまった。
秋子の後ろに垣間見える、鼠の死骸の山である。
(うぐぅ!?)
彼女は、数分前に智子がここでそうしたように、背景のように固まった。
ショックで気絶しなかっただけでも、彼女にしては優秀だったのかもしれない。
「……月宮、ここに篠塚弥生は来なかったようだぞ。次の店に-----何を、ぼんやりしているのだ?」
「うぐぅ……」
「その奇妙な悲鳴はやめろというのに。おかしな奴め。さあ、行くぞ」
失礼する、と秋子にひと声かけて、あゆを引き摺りながら岩切は去ろうとした。
遠のく意識の中で、あゆは確かに聞いた。
「……肝臓を磨り潰して檸檬で臭みを抜けば、ジャムになるかしら……」
(ならないよっ! ならないからっ! やめてっ! 秋子さん、やめてーーーーーー!!)
声にならない彼女の叫びは、誰にも聞こえることはなかった。
【川名みさき、保科智子:他の店へ】
【北川潤、九品仏大志、水瀬名雪:下水への侵入口を発見した模様。あとは野となれ山となれ】
【岩切花枝、月宮あゆ:篠塚弥生の捜索を続行】
【水瀬秋子:よからぬ調理法を検討中】
毎度、挽歌でございます。
「青の錫杖」をお送りいたします……各グループのニアミス話ですけれども。
みさき智子編、岩切あゆ編としては「不幸と不安」(
>>227-228>>230)の続きでございます。
直接の北川大志名雪編としては「第一歩!」(
>>97-102)の続きです。
マナが目覚めたあとならば「カムバック」(
>>124-126)の続きとなりますが、どちらでも構わないと思います。
神尾晴子、神尾観鈴、沢渡真琴の三人は、倉庫のある埠頭まで来ていた。
遠くから爆音が聞こえてくる。陽動は、上手く言っているようだ…と彼女たちは思った。
実際のところはどうであれ。
「結構、警備員の数が多いね…」
「あう…こんなにいたら、こっそり忍び込むなんて無理だよぅ…」
影から倉庫の方を伺いながら、そういう二人に。
年長者(一応)の晴子は、朗らかに笑って見せた。
「アホやなぁ。ほれ、よく見てみ。あそこに折るのは、みんな私営の警備員や。自警団はおらへん」
「それは、そうだけど…」
「オマケに、祐一達の陽動で動揺しとる」
「あんな派手なの、陽動でもなんでもないよぅ」
「とにかく!今がチャーンスなんや!」
「ハァ…たまには力押し以外でいこうよ…」
「残念やな〜今ウチの辞書にはそれしかないんや」
今じゃなくて何時もの間違いだと思う…が、口には出さない。観鈴ちんはよい子だから。多分。
晴子は、背中の得物…巨大な鉄扇を降ろすと、不適に笑う。
「と、言う事や。ウチが派手に暴れるから、そのうちに二人でお宝ちょろまかしてきぃ」
「あぅ…わかった」
「お母さん、無理しないでね」
「それなら大丈夫や。ウチは無理無茶無謀だいッきらい人間やからなぁ」
やってる事は無理無茶無謀なのに…と思ったが、口には出さない。観鈴ちんはよい子(以下略)。
とにかく、別口から行こうと晴子に背を向けたその時。
「観鈴」
「え?…何?」
「手加減、するんやないで」
「………」
ふっ、と微笑む晴子。
「あんたは優しい子やからな。その力で誰かを傷つけとうないことは、わかる。
でもな、結局自分を守れるのは自分だけなんや。
…力を出し惜しんだせいで怪我したら、阿呆やで」
「…お母さん」
「観鈴の力は何かの為にあるって、ウチは信じとる。だから、出し惜しみするんやない。わかるか?」
「……うん。わかった」
観鈴は肯くと、角の向こうに走っていった。
晴子は思う。
ウチの言ったこと、わかったけど、まもらないやろうな。
あれは傍から見ていて痛々しいほど、優しい子だから。
そんな子だから、ウチは……
「さてと。一発暴れたるかぁ!」
晴子は鉄扇を担ぐと、表に飛び出した。
突然の登場に唖然、呆然の警備員たち。晴子は、その一人に鉄扇を振るう。
ぱぃーーーん。
とてもいい音が鳴って、警備員は吹っ飛んだ。
「おらおら、そこどきぃ!ウチの鉄扇は本場仕込みやで!」
だからかどうかは知らないが、晴子の鉄扇が唸る度に警備員は宙を舞う。
ただでさえ動揺していた警備員たちは、混乱状態に陥る。
ざっとこんなもんや。晴子は唇を舐めながら、ほうほうの態で逃げようとする警備員の合間を駆け抜ける…
刹那!
「…!」
ガキィン!!
鉄と鉄がぶつかり激しい音が立つ。
「こんな日の高いうちから涌いてでるなんて、いい度胸ね!」
「人をボーフラみたいに…言うなっ!」
力任せに鉄扇を振り抜く。ひらりとその人影は宙を舞い、少し離れた場所に着地した。
細身の体、長い髪、特徴的な制服。
柚木詩子は、くるりと警棒と回すと、晴子を指した。
「お縄に付くなら今のうちよ。痛い目にあいたくないならね」
「ほぉ、でかい口叩くやないか。出来んこというと、恥かくで?」
「平気よ、まだ若いから。若さゆえの過ちってやつ?」
にこり、と微笑む詩子。にやり、と口元を歪める晴子。
「ちいと、お灸据えたらなあかんなぁ…」
「あ、あぅ…」
まさか、こんな子供たちが、海賊だなんてね…
内心溜息をつきながら、銃…模造のほうの銃口を、二人に向けている。
詩子さんは、突然暴れだした海賊を押えに行った。
僕は、倉庫の裏口のあたりに残った。あの女の人の動きがおかしいと、詩子さんが言ったからだ。
その言葉は見事当っていたわけで。
「なるべく、手荒な真似はしたくないんだ。素直に、投降してくれると嬉しいんだけど」
おずおずと、手を上げる二人。…よかった、聞き分けがよくて。
ほっと安堵した、その時。
「真琴ちゃんッ!」
はっと我に帰ったとき、僕は女の子の一人に突き飛ばされていた。
いや、正確にはタックルされた…と言うか。その女の子は、僕にしがみつき、動きを封じ込めようとしている。
その間に、もう一人の女の子が裏口の方へと走っていく。
しまった…油断した!
僕は、銃を走っていく女の子の方に向けようとした…が、しがみ付いている女の子が邪魔で、上手くいかない。
そうこうしているうちに、もう一人が倉庫の中へと入っていってしまう。
何とか、しないと…僕は、しがみつく女の子を引き剥がそうとした。が、ぴったり張り付かれて、一筋縄では行かない。
海賊とはいえ、女の子だ。あまり、乱暴なことは、したくないけど…!
「離れろっ!」
「駄目!」
即答だった。乱暴に引き剥がそうとしても、まったく離れない。
いい加減、苛立ってきた。もう一人の子は、既に倉庫に入っているのだ。
「離れろって!いい加減にしろよ!」
「駄目ぇ!絶対駄目!」
くそぅ、こうなったら…!
と、その時だった。
「あぅ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」
「…何?今の獣の鳴き声みたいなのは?」
「真琴?…観鈴!」
「あ、コラ!逃がさないわよ!」
一瞬の隙をついて駆け抜けていく晴子の後を追う詩子。
「観鈴!返事せぇ、観鈴ッ…!?」
角を曲がった晴子の体が固まる。
「ッと、いきなり止まんないでよ…ぉぉぉぉ!?」
晴子が見ていたものを見て、詩子も固まった。
二人の男女がいた。
乱れた服。
上気した顔。
男の子は仰向けで半身を起こしていて。
女の子はその上に馬乗り。
触れ合うほど顔を近づけた格好で。
ぼんやりと、突然の乱入者たちを見ていた。
…港町の湿った風が、妙に冷たく、周囲に満ちた。
【祐介・観鈴 接近中】
【晴子・詩子 勘違い中】
【真琴 あぅ〜〜〜な目にあっている最中】
というわけで、『似た者二人』をお送りします。
>243〜>245の続きになります。
似たものは言うまでもなく晴子と詩子、祐介と観鈴。
観鈴は何か力を持っているようですが、祐介同様、使わない傾向にあります。
具体的な内容は次にお任せです。
277 :
276:02/01/18 02:17 ID:UuV6IQiq
うぁ…
『似た者二人』は間違い。
題名の『ふたりふたつ』が正解です。
スマソ
ルミラは苛立っていた。他でもない、自分自身に。
「また……ダメだった…」
不可抗力とはいえ、その実ルミラは、志保に魔物がこの塔の主…つまり、
この娘と一心同体である事を、言わなかった事を、悔いていた。
もし話していたら、さすがの志保も、魔物を殺そうなんて思わなかったに違いない。
腕の中で、力を失った少女の重さが、ずっしりと圧し掛かってくる。
「……早く……早く手当てをしないと」
「ルミラ〜〜〜〜っ!」
いきなり後ろから、志保の声が追いかけてくる。
「ルミラ、ちょっと待ちなさいよ!」
思わず早足で逃げるか、志保を張り倒して先に行きたくなったが、ルミラは何とか堪えた。
「……志保、二度は言わないわ……私の邪魔を」
「あんたね、怒りに任せて行動するなんて、らしくないわよ!」
振り向いたルミラの目の前に、志保が白い宝石を突きつけた。
走ってきた勢いか、鼻に当たりそうになって、ルミラは思わず仰け反る。
見ると、志保の後ろから、他の人間たちもぞろぞろとついて来ていた。
「何のようなの、志保……早くこの子の手当てをしないと」
「だから! あたしに考えがあるんだって!」
「……考え?」
志保の言葉に、ルミラは沈黙する。
志保の情報はガセネタも多いとはいえ、本人が意図して嘘をつくことは、実はめったにない。
「あたしだって、そんな女の子を殺したなんて言われて、ぐっすり眠れますかっての」
「…………」
志保の真剣な顔に、ルミラはじっと目を見詰め……
「……わかった、聞かせて頂戴」
小さく頷き返した。
「大体、ルミラは魔族の事となると、とたんにムキになるんだから……」
志保に案内されて、ルミラ達は、あの隠し部屋へと向かった。
「こんな所があったとは……」
「凄い、古代の魔法書が沢山ありますよ」
思わず足を止める蝉丸と彩だが、志保たちが先に行ってしまうので、慌てて後を追う。
「なぁ、志保……」
「ヒロは黙ってて」
ぴしゃり、と言われ、浩之は沈黙する。普段なら反論する所だが、今はそんな雰囲気ではなかった。
志保はルミラから、舞を預かると、奥に群生する、キノコのベッドの上に横たえた。
「ルミラ、あんた確か、あの魔物が、この子の分身だって言ってたけど……」
「そうよ…この子のイメージが造り出した、この子の影。その影を殺めた時、この子の命も尽きる」
志保はそれを聞いて、ふう、と溜め息をついた。
「だったら、大丈夫……この子は死なないわよ」
「どうしてそんな事が言えるわけ?」
ルミラの声に、自然ときついものが混じるが、付き合いの長い志保は、さらりと受け流した。
「だって、伝承によれば、この塔の魔物は5体……あたし達が倒したのは、2体だけだから」
その事実に、ルミラは思わず蝉丸や、七瀬の方を振り向く。
「ほ、本当!?」
「ああ……最初に出てきたのは、2体だけだったから……」
ぱっとルミラの表情に光が差す。だが、すぐに暗い表情に変わった。
「それじゃあ……何で2体しか倒されてないのに、この子は意識を失ったのかしら……」
「それは……まさか」
はっと、七瀬が顔を上げた。志保は、七瀬に小さく頷き返す。
「多分……“あの子”のせい……今だ囚われてるのよ、『永遠の世界』に」
「えい……えん?」
「何で、五体いる筈の魔物が、2体しか出てこなかったのか……
何で、2体の魔物を倒しただけで、この子は意識を失ったのか……全部、説明できると思うわ」
そう言って、志保は舞の胸元に、白い宝石を置くと、ゆっくりと歌い始めた。
だが、その歌は今までの歌のような、高揚感や、心地よさを伴った歌ではない。
どこか身体の芯が疼くような、奇妙な旋律を湛える歌である。
「………この歌は……アンチ・レクイエム!?」
「アンチ・レクイエム……?」
頭を押さえ、顔をしかめながら蝉丸がルミラに問う。
他の面々も、どこか不快感を味わっているのか、一様に嫌な顔をしていた。
「レクイエムって歌があるのよ……死者の魂に安らぎを与える、鎮魂歌が。
それは、アンデッドなんかの、彷徨える死者を、成仏させる歌なんだけど、この歌は、その逆。
負の生命力を活性化させ、死者を召喚したり、アンデッドを強化する呪歌なんだけど……」
「捻くれものの志保らしい、嫌な歌だ……」
こんな時でも、悪態は忘れない浩之だった。
「けど、この歌で何を………っ!?」
その時、誰もがぎょっと舞の胸元の、白い宝石に目をやった。
鈍い輝きと共に、その宝石から、陽炎のように、ぼんやりとひとりの女性が姿を現す。
「この人は……舞の、お母さん………」
呆然とした佐祐理の呟きに、誰もがはっとした表情を向ける。
「ビンゴ……この宝石、死者の魂から出来てるって聞いたからね!」
志保は歌を止め、ルミラに、にやりっ、と笑って見せた。
「佐祐理さん……浩之さん……」
彼女の悲しそうな瞳を見て、佐祐理も浩之も、すぐに気がついた。
「あんた……さっき、異空間で会った人と、同じ人か……」
「はい……『永遠の使徒』の力により、舞の心の中で、貴方達と会いました」
「おしえて下さい、舞は、舞はどうなっちゃったんですか!?」
佐祐理の必死の呼びかけに、彼女は一瞬、辛そうな表情を見せた。
「舞は……舞の心は、永遠の楽園に囚われています」
「ど……どういうことなの!?」
ルミラの声に答えたのは、七瀬だった。
「大体判ってきたわ……つまり、“あの子”が舞の魂を、永遠に引き釣り込もうとしていたのね。
そして、その魂ってのは、同時に魔物の事……」
「『永遠の使徒』とやらは、すでに舞の魂の一部……5体の魔物の内、3体まで飲み込んでいたのか」
舞の母親は、蝉丸の言葉に、悲しげに頷く。
「今、この世に残っていた、2体の影……それも、ほとんど消えかけていたけど……それが無くなった事で、
舞は完全に、この世との繋がりを断ち切り、永遠の世界へと旅立ってしまったのです……」
「なっ……そ、それじゃあ、もうこの子は助けられないって言うの!?」
「方法は、あるわ」
今まで静観していた志保が、つまらなさそうに、ルミラを遮った。
「薄々、こうなるんじゃないかって、思ってたけどね…永遠まで出向いて、こっちに連れ戻すのよ。それしかないわ」
「勝算は、あるのか?」
蝉丸の言葉に、志保と七瀬は顔を見合わせ、思わずにやりとした。
「ひとり……3年ぐらい前に、大馬鹿を永遠から連れ戻した事があるわ」
「……決まり、ね」
ルミラは、決意の表情で頷き、志保や七瀬、それに浩之達を見回す。
「ついて来たければ、ついて来なさい……ただし、迷っても置いていくわ」
「……入り方知らないくせに」
志保の鋭い突っ込みに、ルミラは思わず沈黙した。
「しかしまぁ、志保、お前もちょっと見ない間に、便利な奴になったな……志保とハサミは使いようって奴か」
「だ〜れ〜が〜ハサミと使いようだってぇぇぇぇ!!」
ぐにょ、と志保の指が、浩之のほっぺたを限界まで引き伸ばす。
「おみゃえりゃよ、おみゃえ〜〜〜〜!!」
負けじと、浩之も志保のほっぺたを、びろん、と左右に引っ張り、さらに捻りまで加える。
「何やってるんだ、あのふたりは……」
「あー気にしない気にしない、あれはスキンシップみたいなもんだから」
とうとう、掴み合いの喧嘩になったふたりを、七瀬は涼しい顔で受け流す。
「永遠への進入方法は、あたしも知ってるから、心配要らないわよ……あ、そこの魔方陣、もうちょっと右」
てきぱきと指示を与える七瀬に、彩は複雑な表情を向けた。
「あの二人って、いつもああなんですか? …その、顔を合わせたら、すぐ喧嘩とか…」
「素直じゃないんでしょ……志保も、浩之がいないと、もう少しマシなんだけどねぇ」
「はぁ……あ、ここ、この形であってますか?」
「んーっと、うん、大丈夫」
しばらくして、ようやく舞の周りに、巨大な魔方陣を描き終わった。
「後は、どうするんですか?」
「それは、私に任せてください……舞のところまで、案内いたします」
舞の母親が、大きく頷いた。
「っし、じゃあ迷子を探しにいくか!」
気合を入れようと、手を振り上げる浩之だが、その頬にはくっきり志保の引っ掻き傷が出来ていた。
「……ふふふ、佐祐理には、そんな風に喧嘩が出来る友達がいなかったから、羨ましいです」
「……志保でよければ、いつでも進呈するぜ、佐祐理さん」
二人が無駄口を叩いている間にも、ルミラと彩、二人の呪文が、永遠への通路を開けていく。
そして、彼らは開いた扉をくぐり、再び『永遠』へと足を踏み入れていった。
眠いっす……
誤字脱字あったら、指摘お願いいたします…
【ルミラを加えた一行は、舞の永遠の世界に入り込み、舞の心を探しに行く】
あ……しまったあああぁぁぁぁあ!!
ルミラは『霧化』ですり抜けてきたんだから、今素っ裸じゃねーーーか!!
……ショボーン…
284 :
黒い鳥:02/01/18 16:40 ID:FZmaLe7G
一羽の鳥が空を舞っていた。
シルエットを見ることができたなら、人はそれを烏だと考えただろう――赤い瞳と漆黒の翼持つ鳩など、いるはずもないのだから。
くるり、くるり。鳥は地上にあるはずの何かを探すように、大きく旋回しつつ位置を移す。
何度も何度も旋回を繰り返し、やがて地平に見間違いようもない妖しい塔が見えてきたその時。
「――ヨウヤク、ミツカッタカ」
人などいないはずの空に、邪悪で貪欲な、しかしどこかしらほっとしたような声が響き――――鳥はまっしぐらに塔の方角へと飛び去っていった。
「テイコクメ、ヒトヅカイノアライ。ワレラハ、ツカイマデハ ナイノダゾ」
そんな呟きを遺して。
ただまっすぐ、秘宝塔の村へと。
285 :
黒い鳥:02/01/18 16:42 ID:FZmaLe7G
「見張りがいるな。村人の格好してるが、身のこなしは手練れの兵士の動きだ」
『いっぱいいるの』
「十人はいたな」
木陰から秘宝塔の周囲を伺っていた南と澪が、音を立てないよう慎重に戻ってきてそう告げた。
「お疲れさま。危ない目には、あいませんでした?」
「ああ。あいつら、後ろから逆に監視されてるとはさすがに思ってないみたいだから」
背後を振り返り、送り狼が尾けてきていないかどうかを確認して南が言う。
『今度は変態さんはいなかったの』
一方、澪は健太郎が見たら泣きそうなことをスケッチブックに書き付けた。
彼女にとって、帝国と変態さんは同じレベルの脅威らしい。
澪も年頃の娘だから当然だろう。くすっと笑って、茜は「お疲れさま」と澪の頭を軽く撫でてやる。
286 :
黒い鳥:02/01/18 16:43 ID:FZmaLe7G
(危ない目、か……)
そして、今後のことに思いを馳せた。
魔術アカデミーからの依頼は、王立特務部隊の監視であって協力ではない。
だが、このまま彼らの危地を看過しても良いものだろうか。
村落を占拠するという暴挙に出た帝国軍のことだ、無関係な人々の巻き添えを出すことも厭わないだろう。
……とはいえ、秘密にしている自分の任務の関係で、澪を危険に晒すことは絶対に避けたい……
ぞわり。逡巡する茜の背筋に不意の悪寒。
はっとして周囲を見渡し、その周囲に何もいないことを確認して頭上を見上げる。
――その視線の先に、黒い鳥。
何の変哲もないように見える黒い鳥。
先ほどの悪寒はすでにどこにもない。ただ、どこでも同じ青空だけが、頭上に広がっている。
(……気のせい……?)
『茜さん、なにか怖いの』
呆然と見上げるくい、くいっと袖を引く感覚。
我に帰り、傍ら見れば澪も青ざめた様子で同じ鳥を見上げていた。
魔術の素養のない南だけが、不審げに二人の様子と上空とを見交わしている。
287 :
黒い鳥:02/01/18 16:46 ID:FZmaLe7G
(やっぱり、気のせいじゃない……)
考えて見れば、あの破壊神を軍神として信奉している帝国軍が展開しているのだ。
その従僕たる存在が付近にいても、不思議ではない。
もし仮に『彼ら』が帝国軍と共にやって来ているのだとしたら、この場所の危険度はさらに跳ね上がるだろう――――
滅多に見せない緊迫した面もちで、茜は二人に向き直る。
「澪、南さん。良く聞いて――」
「ただ今帝都より書状を受け取った。大帝陛下は非常に気を揉んでおられる」
村の一角、村長所有の大きな納屋の中。
三十人ほどの村人の前で、村娘が訓辞を行っているというのは何かの冗談の構図でしかない。
「この作戦は、確かに帝国の興廃に直結するようなものではない。しかし、間違いなく帝国の威信は掛かってるわ。
秘宝という名の付くもの、何一つ共和国の手に委ねるようなことはあってはならない!」
ピンと跳ねた髪型が特徴の村娘、その肩に先ほどの黒い鳩。
鳥の赤い瞳は居並ぶ村人を睥睨し、その瞳を見返す村人の視線は畏怖と尊崇の念に満ちている。
まるで、神の御使いを前にしたかのように。
288 :
黒い鳥:02/01/18 16:47 ID:FZmaLe7G
「橋を焼き落とした岡田隊も、間もなくこちらに合流するとの伝令があった」
松本は見つからなかったけどね、と心の中で付け加える。
今頃どうしてるんだろう、無事だと良いけど……あの娘、腕はともかくお馬鹿だから、ちょっと心配だな……ああ、今はそんなことよりきちんと集中しなくちゃ。
「……敵に支援はなく、我々の優位は確定されたと言っていい。
正しき秘宝は正しき帝国の元にあってこそはじめて、正しき活用がなされる。これは正義の執行なのだ!
敵地での活動ではあるが、我らには軍神のご加護がある。勝利を信じよ、敗北と死を恐れるな!
レザミア帝国に栄えあれ! ダリエリ陛下に栄えあれ!」
同僚の身への不安と慣れないことへの緊張もあって、全般的にやや棒読み気味ではあったが。
村娘、否、帝国軍銃士吉井は訓辞を締めくくる。
『レザミア帝国に栄えあれ! ダリエリ陛下に栄えあれ!』
兵たちの唱和。
拳を胸に打ち付ける低い音。
それらを見やる鳥、ランタンの炎に照らし出されたそのシルエットは、まるで悪魔のようなかたちをしていた――――
【茜、澪、明義:秘宝塔の近くに潜伏中】
【岡田隊:レフキーから辺境に通じる橋を焼き落としてもうすぐ合流?】
【吉井隊:村人に成り済ましてます】
【黒い鳩:一応正体不明】
「前門の塔、後門の狼」(
>>41-43)からの続きになります。
帝国の名前と宗教、勝手に決めちゃいました(w
レザミアはおわかりかと思いますが、レザムの変形です。
茜が二人に話す内容はお任せです〜
「下がってなさい!」
現れた女性は――自分と歳はそう変わらないな、と夕霧は思った――そう叫ぶと、ほとんど突き飛ばすようにして夕霧を背中に庇う。
その勢いでゴブリンの群れの中心に飛び込み、手にした長い得物を横に薙いだ。
「ギキャッ!」
「ケーッ!」
汚らしい液体を撒き散らして、先頭のゴブリンの頭とその後ろの一匹の腕が砕けて飛んだ。
(……鎌?)
女性が振り回しているのは自分の背丈ほどもある大きな鎌、武器としてはあまり広く使われているものではない。
夕霧自身、それを実戦で使っているところを見たのは初めてだった。
(この女の人、言うだけのことはある……)
そのシルエットだけを追っていると、まるで踊っているようにさえ見える。
しなやかな身のこなしで四方からうなりを上げて迫るゴブリンの棍棒を紙一重で避け、
振るった鎌が綺麗な弧を描けば次の瞬間には側にいた一匹が、あるいは複数匹が確実に絶命していた。
態勢を崩したように見える時でもまるで危なげなく、それは次のアクションへのワンステップとして繋がっていた。
「キキッ!」
「っと」
飛びかかってきたゴブリンの身体を鎌の柄の部分で勢いよく弾き飛ばすと、着地した場所はちょうど鎌の射程だった。
間髪を入れずその胴体を両断する。
もちろん、たとえ群れだろうとゴブリンごときの相手を軽くあしらえる程度の使い手はいくらでもいるし、
夕霧も普段なら数秒とかからず丸焦げにしてしまうくらいのことはできる。
しかし魔導師ならともかく、接近戦を常とする者では逆にゴブリンだろうとかすり傷の一つや二つは食らうのが普通だ。
(見た限り、全く触らせてなかった……丁寧に戦う人)
この程度の戦闘で実力の全てを計ることは当然できないが、少なくとも武器に合わせた戦闘法の基礎は申し分ない。
基本的な訓練は日々欠かさないタイプの人かな、と夕霧がなんとなく思ったその時、
「頭下げて!」
(わぶっ!)
鋭い叫び声とほぼ同時に、夕霧の後頭部に回し蹴りが叩き込まれた。不意をつかれ、たまらず地面に突っ伏す。
いきなり何を、と非難の声を、もとい、声は出ないので視線を送ろうとした夕霧だったが、その瞬間頭上をもの凄い速度で銀光が一閃した。
ややあって、ドスッと何か重い音が――振り向いて確かめるまでもない、ゴブリンの恐らく首が転がる音がした。
「これで全部ね。ダメよ、仮にも襲われてる最中にボケボケしてたら」
(……それにしたって、もうちょっと他にしようがなかったのかなぁ……)
まだ痛む頭を押さえながら起き上がると、恨めしそうな夕霧の視線をまるで意に介した様子もなく、女性は前髪を払った。
「あなた、自分の身が守れないようならこんな森の中まで来るなんて感心しないわよ。命がいくつあっても足りないわ」
夕霧は色々と反論したい気持ちをぐっと堪え、またそれ以前に反論したくてもできないことに気づき、とても情けなくなった。
そんな内心の感情の推移が彼女にわかるはずもなく、女性は一人で顔色をくるくる変えている夕霧をなにか不思議な生き物を見る目で見て、言った。
「まぁいいわ、そのへんはあなたの勝手だものね。私はもう行くから、うろうろしてないでさっさと街に戻りなさい」
(…………!)
冗談ではなかった。至近距離で戦いを眺めていたせいで、夕霧もゴブリンの血をいくらか浴びてしまっている。
これでは街に着く前に匂いを嗅ぎつけた仲間が襲って来る可能性が非常に高い。
この人、冒険者としてのキャリアは大したことないな、と夕霧は思ったが、まさにそれどころではない。
「それじゃ。気をつけてね」
(――待って!)
カッ!
手を振ってその場を去ろうとした女性に向かって夕霧が声にならない声を張り上げた瞬間、夕霧の額が凄まじい閃光を放った。
「きゃっ!? ま、眩しいっ……!」
女性が咄嗟に目を手で覆った時には、既にあれほど烈しかった光は嘘のように収まっていた。
「な、なんなのよ……? あの時、遠くから見えた光は、やっぱり、その、えっ……!?」
(なんでこんなことになっちゃったんだろう……)
どうやら、額の光は自分の感情が昂ぶったときに――そんな言葉を使わなければいけないことが堪らなく嫌だったが――発動するらしい。
目の前で展開した、神々しいまでに人間離れした光景に激しく動揺している女性を見ながら、
夕霧は取り合えず足を止めてもらったことを喜ぶべきなのかどうか、半ばやけ気味に考えていた。
292 :
観月:02/01/18 23:41 ID:P/9OfnWH
【美坂香里 デスサイズ】
【砧夕霧 シャイニング凸】
凸がシリアスできるようになるのは何スレ目くらいかなぁ…
――一面に咲く花に目眩を覚えた。
「これが、えいえんの世界?」
呟きにも似た声をルミラがもらした。
「あれ? 舞のお母さんは?」
宝石を拾いあげていた佐祐理はちょっと心配そうに志保に尋ねる。
「歌の効果が切れただけよ。それより早くあの子を捜すわよ」
「捜すって……どうやって?」
呆けていたルミラが聞き返す。
「さっきは確か”あの”うさぎが鍋を……」
浩之が言い掛けたところで
「あちらにうさぎと戯れているのが舞さんなのでは?」
と、言ってセリオが指を指した方を全員が注目する。小さいうさぎとじゃれあっている姿が愛らしかった。
(っていうかセリオいたんだな……)
それを確認した佐祐理が走り出した。皆もそれに続いた。
「みんなも、あそぼうよ」
変な集団が走りながら自分に近寄ってきたのに、意にも介さず舞は言い放った。
「お母さんも一緒にあそぶんだよねー」
と言って、舞は何もない空間に語りかけた。
「お母さん……? 何を言ってるのだ、この少女は」
蝉丸が訝しげに浩之に耳打ちした。
「あれ? さっき来た時はいたんだけどなぁ」
女の子、うさぎ、鍋をかき混ぜるでかいうさぎ(いたのかよ)しかし、見渡すも舞の母親は何処にもいない。
「舞ちゃん。早く現実にかえりましょうよ」
佐祐理が膝を曲げて――目線を舞と同じにして――言った。
「えへへー。鬼ごっこ、しようよ!」
止める間も無く小さいうさぎを引き連れて舞は奥へと走っていった。それを追い掛けようとする、佐祐理の前に、
「クスクス……」
あの「少女」が突然、現われた。全員に緊張が走った。
咄嗟に動いたのは浩之だった。佐祐理をかばうように前へと出た。――佐祐理は震えていた。もっとも浩之にはそれが怒りと悲しみ。どちらのせいで震えているかは判らなかったが。
「警告するわ。誰だが知らないけど。これ以上私の邪魔をするなら――殺す」
簡潔にルミラが言い放った。しかし少女は怯んだ様子もみせず、
「クスクス……私はなんにもしないよ。するのは……この子達だよ」
その瞬間。強烈なプレッシャーが生れた。
「魔物が現われました。三体です」
セリオが事務的に言った。だがそんな事言われなくても、例え姿が見えなくても、「理解」できていた。その場の全員は。
「搭にいた子達とは比べ物にならないくらい強いからね。クスクス……しかもあの女の子の意思とは無関係に襲ってくるからね」
「何かしたの?」
佐祐理がおずおずと聞いた。
「クスクス……あの子の母親の事? 今はあの子の幻想の中にしかいないよ。確かにあの子の目には映っているけど、端から見れば滑稽だよねぇ?」
その台詞を聞いた瞬間に殺気を放った者が数人いた。
「クスクス……こわ〜い。それじゃ私はそろそろ退散するね〜」
クスクスという笑い声を残して、少女は消えた。舞の姿も小さくなっていた。
「くそっ! 追いつけるのかよ!」
浩之が弱音を吐く。
「チッ。……道化が。こうなったら二手に別れましょ。魔物を抑える人と、あの子を追いかける人に」
言いながらルミラは戦前に立った。
「戦える者は魔物を止めるんだ!」
叫ぶ様に蝉丸が号令を出す。
「それと彩。自然術は使えるか?」
「……すいません。ここは精神世界の様でして、多分。無理です」
申し訳なさそうに彩は言った。
「判った。それじゃ、浩之、彩、佐祐理の三人はあの少女を追いかけるんだ! 残りの者は全員時間稼ぎに専念しろっ!!」
テキパキと指示を出す蝉丸。しかし志保が、
「私も戦うの〜? ……じょ、冗談よ。魔物が見える様に歌ってればいいんでしょ!」
台詞の途中でジト目で蝉丸に睨まれた志保が言い直してから、早速歌いだした。……こうしてる間にもルミラとセリオは戦っているのだが。
三人が舞の消えた方角に走りきるまで援護する為に、七瀬と健太郎と志保(戦場から少し離れる為に)が付いて行った。
その間に永遠の世界からの脱出方を佐祐理達に伝授した。
「敵も逃がしてくれる程甘くない様ね。一匹こちらに突っ込んでくるわよ!」
強烈な存在感が襲ってくる。七瀬の言葉に佐祐理は宝石を強く、一度握り締めると振り返らずに走った。
「オッラァッ!!」
丁度、姿が見える頃に、突っ込んできた魔物に力任せに戦斧を叩きつけた。……魔物が吹っ飛んだ。
(ッ痛!? なんて堅いの? 手がジンジンする)
「目的はあの女の子を助ける事! 殺そうなんて思わないでね!!」
ルミラの声が聞こえたが――冗談。(こんなの本気でやっても勝てないわよ。……これが幾多の冒険者達を葬った、秘宝塔に棲む魔物。か。)
七瀬は知らず笑みをつくると、志保には聞こえない声で
「健太郎。あれでも一応、私の親友なんだからちゃんと守ってよ。傷でもつけたら、承知しないからね」
と言った。健太郎は頷く。それを確認した七瀬は魔物に突っ込んでいった。
振り返って後を見ると三人の姿は小さくなっていた。健太郎は一人呟く。
「友の為なら自身に傷を負う事すら気にしない、ってのか。七瀬」
やっぱり君は……乙女だよ。
【ルミラ・蝉丸・セリオ・志保・健太郎・七瀬/魔物を引き付ける為に交戦中】
【浩之・彩・佐祐理/舞を追いかける/秘宝は佐祐理が持っている】
【舞/何処かに走っていく/魔物は三体。舞の意思とは関係無く、オートで襲ってくる】
えいえんの世界から連れ戻す方法が具体的に判らなかったので、ぼかして書いてます。
その辺は次の方に一任します(ぉ
変なところがあったら、指摘お願いします。
298 :
確保:02/01/19 09:29 ID:HvP27ZoQ
「なにやっとるんや?」
いきなり現れた人は、一つ深呼吸をした後、静かに言った。
何を?そんな事決まっている。海賊の女の子が…
と、女の子の方を見ると、驚くほど近くにその子の顔があって驚いた。
よく見ると、結構、まつげが長い。かなり、整った顔立ちだ。
「…なにやっとんねん…」
少し俯くと、ぽつりと言う。
えーっと…とりあえず、もう一度女の子の方を見てみると、
女の子も僕の方を見ていた。呆然と。
「な、なにやっとんやぁ〜!やっとんじゃぁ〜ッ!!」
ものすごい力で、いきなり突き飛ばされた。
ごろごろ転がった後、壁にぶつかって止まる。頭の中に火花が飛んだ。
その後、胸倉を掴まれ、強引に立たされる。
「よくも…この糞ガキャ、ウチの観鈴をキズモノにしてくれたなぁ?ああ!?」
激しく、縦横上下にシェイクされる。う…気持ち悪い。
「まあ、まあ、落ち着いて」
「うっさいわ!これが落ち着いていられるか!」
「まあ、別にいいけどね。とりあえず、逮捕っと」
かしゃん。
安っぽい音と同時に、シェイクが止まる。
「なんじゃ、こりゃ」
呆然と、自分の手首を見る女の人。
「手錠だけど」
いけしゃあしゃあと言う詩子さん。
「なんじゃこりゃあぁぁぁぁ〜!!」
女の人の絶叫が、周囲に響き渡る。
「にはは、捕まっちった」
女の人が観鈴、と呼んでいた女の子が、苦笑した。
「さてと、次は倉庫の中の子ね」
「そうだけど…あの、詩子さん。何で僕まで手錠されているの?」
女の人は不貞腐れた表情でそっぽ向いている。観鈴という女の子は、よくわからない笑みを浮かべている。
「あのね、祐介君。この町では18歳未満の不純異性交遊は禁止なの」
「だから!違うってさっきから説明してるじゃないか!」
「大丈夫だって。初犯だから一晩臭い飯食べれば娑婆に戻れるわ」
「何が大丈夫なのさ!?」
けれど、詩子さんはニコニコ、イヤぁな笑みを浮かべたままで、僕の言う事に取り合わない。
ああ…なんだかとんでもない事になってしまった…
とりあえず、そんな状態で倉庫の中に入る。
逃げられないよう、手錠に紐を繋げているので、海賊二人も一緒だ。
倉庫の中は、荒らされた様子はない。まあ、あんな小柄な子じゃ、一日使ったとしてもたかが知れているだろうけど。
「…この子ね?」
で、倉庫の中央に、目をまわしてぶっ倒れている女の子の姿がある。
その側には、例の、一つだけ他と違う箱があった。
「ふぅん…この箱を持ち運ぼうとしたら、何か酷い目にあった、そんなところかな」
あの時の叫びは悲鳴だったのか。にしても、一体…
と。詩子さんは僕の元に歩み寄ると、手錠を外す。
「……?」
「と言う訳で。一体何が起こったのか調べてくれる?」
「え?僕が?」
「まさか、断わらないよねぇ?」
指先でクルクル手錠を回しながら、子悪魔的な笑みを浮かべる詩子さん。
僕は、詩子さんにとんでもない弱みを握られたらしい。…何もしてないのに。
僕は指先を箱の方に向けた。僕の力は呪文も儀式も要らないが、気分の問題だ。
世界が色を失っていく。チリチリと頭の中を電気の粒が弾け、膨大な情報が流れ込んでくる。
その中から、必要なものだけを、取り出す…
「どう?」
「…罠が仕掛けられているみたいだ。乱暴に動かすと、電気が流れるみたいだね」
「スタントラップね。いやいや、なかなか準備周到じゃないの」
倒れている女の子の手首に手錠をかける詩子さん。
「これでよし、っと」
「…これから、どうするの?この人たちは?」
詩子さんは立ち上がると、ちらりと箱の方を見た。
「海賊の目的はこれみたいね。ここにおいておくのは危ないから、回収しておきましょ。
一旦、本部に戻るわよ」
「いいの?ここをほったらかしにして」
「よくはないけど、海賊たちの動きも気になるし、この人たちの監視までしていたら、とても満足に動けないわ」
「なるほど。それもそうだね」
「と言うわけで、その箱、よろしくね」
「……わかったよ」
こうして、僕達は自警団の本部まで戻る事にしたのだった。
【祐介 『箱』を回収】
【詩子 三人が逃げられないよう繋いだ紐を握る】
【晴子、観鈴、真琴 タイーホ】
【赤い布の箱 乱暴に動かすと電気が発生】
というわけで『確保』をお送りします。
>271〜>275の続きになります。
箱のトラップを設定してみました。
どの程度の乱暴かはお任せします。
志保の『歌』によって浮かび上がって来たのは、驚くべき事に、舞と瓜二つの女の子達だった。
とはいえ、その頭にウサギの耳らしきものが付いているので、区別は容易だったが。
「これは……これが、魔物の本当の姿だって言うの!?」
その姿に動揺しながら、七瀬は舌打ちした。これでは、姿が見えないほうが、まだ戦いやすい。
だが、七瀬がそうしている間にも、魔物はいっせいに飛び掛ってくる。
とっさに、直接戦闘力の無い志保を庇い、5人で円陣を組む。
少女の細い手が伸び、七瀬は戸惑いと共に、斧で受け止めた。
ぎいぃぃぃぃぃん……!
「重いっ!?」
痩せこけた少女の腕ながら、その力の強さに、七瀬は驚愕に目を見開いた。
「気を付けろ、七瀬とやら! 見た目に騙されると、命を落とすぞ!」
「わかってる、わよっ!」
気合と共に少女の手を跳ね返し、七瀬は横殴りに戦斧を振りかぶった。
だが、魔物は軽々と宙に浮かび上がり、それをかわす。
「蝉丸とセリオ、七瀬と健太郎で、二人一組で相手をするのよ! 残りは私が引き受けるから!!」
ルミラの指示が飛び、七瀬はさらに魔物に追いすがった。
その後ろから、何とか健太郎も七瀬のバックアップに向かう。
「必殺、大上段乙女斬り!!」
真正面から、その速度と力に任せて、七瀬は一息で戦斧を振り下ろす。
だが、その少女の訴えかけるような瞳に、七瀬に動揺が走った。
「七瀬っ!!」
叫んだのは、誰だったか。
潤んだ瞳で、七瀬を見上げていた少女の口元が、一転吊り上がる。
速度が鈍った斧を身体を捻って避けると、魔物は七瀬に片手をかざした。
「くっ!」
その手が魔力の輝きを帯び、衝撃波が放たれた。
衝撃波を食らい、とっさに体の前に盾にした斧ごと、七瀬は勢いよく吹き飛ばされる。
「七……ぐえ」
吹き飛んだ七瀬の直撃を受け、健太郎は七瀬と一緒に、地面を転がった。
苦戦は、蝉丸も同じだった。
七瀬のように、隙を見せるほどではないものの、少女の姿をしたものに、刀を振り下ろすのに、
躊躇いが全く無いわけではない。
むしろ、実直な彼にとっては、自分の正義に反する行為であるのには違いない。
魔物が片腕を振り上げ……間合いの外から、蝉丸に向けて薙ぎ払う。
「ぐううっ!」
どんっ、と全身に衝撃が走り、たまらず蝉丸は膝をつく。
そこにすかさずセリオが走り込み、蝉丸をフォローする。
右、左、そして上段回し蹴り。だが、そのコンビネーションも、大して効果を上げていない。
(……手が触れる瞬間、魔物との間に、エネルギーによる障壁が生じている……)
幼い姿ながら、異常な怪力と防御力は、その障壁によるものだろう。衝撃波も同じだ。
「何か……なにか、方法があるはずですが……」
答えが出ないまま、セリオは決定打の無い攻撃を繰り返す。
跳びかかってくる魔物にも、ルミラは冷静に対処していた。
倒すわけにはいかない。だが、足止めもしなければいけない。ならばどうするか。
「自然術が使えないとしても……これなら、どう!?」
ルミラは自分の髪を一本引き抜き、力を込めて投げ付ける。
次の瞬間、ルミラの髪は、紫色のロープとなって少女に巻きついた。身動きができず、少女は地面に落ちる。
「よし、この手なら……えっ!?」
だが、そこに走ってきたウサギが、すかさずその戒めを切り裂いた。
本人には解けない呪縛も、外部からの攻撃に、あっさりと引き千切れてしまう。
再び自由となり、魔物はルミラに向けてその手を振るう。
飛んで来た衝撃波を何とか避け、ルミラは舌打ちした。
「ちっ……この程度じゃ、縛りきれないか」
ウサギの方も、この世界ではより舞本人とシンクロしているらしく、うかつに攻撃できない。
だが、その時。
「七瀬っ!!」
志保が叫び、はっと振り向いたルミラが見たものは、魔物の目の前で、無防備に倒れる七瀬の姿だった。
フォローしたいが、この位置では遠すぎる。だが、魔物は七瀬を無視し、その上を飛び越えた。
「!?」
魔物が目指す先には……志保。
「しまった、あいつ、知能を持ってる!!」
目の前に迫る魔物に、志保が立ち竦んだ。
今志保を潰されたら、ルミラとセリオしか見える者が居なくなってしまう。
「おねえちゃん……あそぼ?」
無垢な笑顔を見せながら、少女は志保の心臓目掛け、爪を走らせた。
ぎいぃぃん、と耳障りな音と共に、とっさに志保が抜いた剣が、魔物の手とぶつかった。
その衝撃に耐えかね、志保がたたらを踏む。
「くうっ……な、なめないでよ、あたし長岡なのよ!」
どこかで聞いたようなセリフを吐きつつ、志保は剣を振り回す。
「…そう言えば、剣も少しは使えるんだっけ」
とルミラが呟いたのもつかの間、志保はあっさり剣を弾き飛ばされた。
「へ……へたくそっ!!」
「あたしが下手なんじゃなくて、こいつが強すぎんのよぉっ!!」
確かに、せいぜい新兵に毛が生えた程度の腕では、この魔物の相手は無理があった。
だが、志保の手を離れた剣は、なんと空中にぴたりと留まると、再び手元に戻っていく。
「ふっふっふ、どうよ、あたしのコレクション、『飛翔の剣』は!」
「いい剣だけど、腕がついていってないじゃない!!」
志保の自慢に、何とか起き上がり、走ってきた七瀬が割り込んだ。
歌が途切れたせいで、姿の見えない魔物に、勘だけで斧をぶち当てる。
「いいから、志保は歌だけ歌ってて。……それから、その剣ちょうだい!」
「えー……わかったわよ、でも、貸すだけだからねー」
衝撃波を受けたせいで、刃が欠けた斧を見て、志保はしぶしぶ『飛翔の剣』を七瀬に渡す。
七瀬はその剣を数回振ってみて、にんまりと笑った。
「……乙女の武器、みーつけた♪」
「あたしのなのにぃ……」
思わず涙しながら、志保は歌を再開した。
銀色の刀身に、その名の通り、美しい翼を模した彫刻の入った剣、『飛翔の剣』を手に、七瀬は笑顔を見せる。
「この剣ならやれるっ……反撃、開始よっ!!」
【七瀬、志保の持っていた『飛翔の剣』をゲット】
『飛翔の剣』
持ち主の手を離れても、本人の意思で自由に動く。持ち主とは、最後に握った人間である。
美しい彫刻が施され、柄やグリップも、シンプルながら機能美を持った造りになっている。
これ以外の能力については、後の人にお任せしますです。
・・・あれ?、
ここはどこだ・・・周りが真白
白い、僕はどうしてしまったのだろう
みすず・・・そこにいるのは?
みすずなのか・・・やっとみつけた!・・・
敬介の前に幼い少女が徐々に現れてくる
「ねえ?なぜわたしをおいていなくなったの?、みすずさびしかった・・・」
「観鈴・・・ごめん、でもこうするしかなかったんだよ・・・
いっしょにいるわけにはいかなかっんだ・・・」
「うそ!おとうさんは、わたしがこわくなったからにげたんだ!」
「そう・・・なのかもしれない、でも僕は頑張ったんだ十年も修行をしたんだよ
さがしたんだよ、一緒にいられる方法を!信じてくれ!観鈴」
その脇に少女を両腕で包み込むように、もう1人の女性が現れる
「敬介!、おまえ今までどこいってたんや!観鈴をほったらかしにして
お前観鈴の父親だろ、観鈴泣いていたで!
「なぜ?、わたしを置いてお父さんはいってしまったの?」
という風にな!、お前は本当に親か!それが親の取る行動なのか!
お前に観鈴の父親の資格等あらへん!帰れ敬介!帰れや−−−−!」
「違うんだよ!僕は探していた!、10年間も同僚には馬鹿にされながら、
いくら努力しても資質の無い、お前には無駄だといわれながら
本当に毎日、毎日、いつも観鈴のことを考えて・・・・一日たりともおまえの事を
忘れた事など無かった、信じてくれ!お願いだ・・・僕はは本当に・・・・・・・」
違うね!
突如、観鈴と晴子の声のトーンが低くなり
その目には怪しい光が宿っていた
おまえは結局耐えられなかっただけだ、観鈴と一緒にいる苦しみに・・・
探しにいったのではない
・・・おまえはそれを口実として逃げたんだよ
逃げたのさ・・・・おまえは・・・
だからおまえは・・・
(やっやめてくれ・・・その先をいうな・・・・)
もう観鈴の・・・
(言うなーーーーーーーーーーーー!)
・
・
・
ちちおや・・・・・・ではない
ああああああああっ・・・・・もう僕は観鈴のちちおやではない・・・・
観鈴、みすず、ミスズ、観鈴、みすず、ミスズ、
ううううううっうううううううううううううっあああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ちちおや・・・ちちおや、ちちおや、ちちおや、ちちおや、ちちおや、ちちおや、
、ちちおや、ちちおや、ちちおや、ちちおや、ちちおや、ちちおや、ちちおや
ではない、ない、ない、ない、ないないないないないないないないない
ないないないないないないないないないないないないないない
ちちおやでない・・・じゃあおれはどうする・・・おれにはみすずだけ・・・それしかいないのに
それがいなくなったら・・・おれはもう・・・いない、消える、さびしい、からっぽ
空虚、うつろ、生ける屍、死、死、し・・・・・・・死ぬ
そう・・・おまえはもう死んだ、みすずのいないおまえは空っぽなのだから
それはもう死んだも同じ・・・・・・だからおまえは死ぬ
そうか死・・・空っぽだから、もう何も無いから、だから無の世界へ、
なにも無い世界へ・・・・・・・・
(・・・駄目!)
(いかないで!)
(お父さん!)
1人の父親を引き止めようとする悲痛な声が聞こえてくる
お父さん!いっちゃ駄目!)
(いかないで!お父さん!)
おとうさん・・・僕ははおとうさん?・・・
(そう、あなたはわたしのお父さんだから、はなれちゃいや!)
(会いたかった・・・さびしかったんだよ!おとうさん・・・・)
(わたし!探したんだよ・・・おとうさん!・・・・もういかないで・・・)
僕はおとうさん?・・・父・・
みすずの親、観鈴の父
・・・ぼくは、ぼくは、僕が、僕が、僕が!、僕が!、私が!、私が!
私が観鈴の父親!、だからまだ死なない!、死ねない!
私が観鈴の父親なんだ!
毎度!天神海士です
165-169の続きです
【敬介:精神の中で鬼神の支配にのみこまれつつある状況】
【美凪・みちる・敬介:子鬼の集団から逃れる】
から変更なし
「ハァ…ハァ…ったく、なんて足が速いんだ!」
薄い霧がかった中、走りながら浩之は思わずそう漏らした。さっきから前方を走る舞を全力で追いかけているのだが、その差は縮まる事はなく、むしろどんどんと広がっている。
今ではもうその背中のほとんどが見えなくなってしまった。
「浩之さ〜ん!浩之さん!ちょっと待ってくださいよ〜!」
「…ちぇっ!」
後方から自分を呼び止める声を聞き、浩之は悔しそうに振り返った。
振り返った先には、立って待っている佐祐理と、走り疲れてヘたれこんでしまった彩がいた。
浩之はため息をつき、もう一度舞の方を振り返ると、もうその背中は霧の中のどこにも見えなくなっていた。
浩之は彩に言った。
「あんた、体力ねぇなぁ」
「ゼェ…ゼェ……ゴ…ゴメンなさい……こ…こういうのは…ちょっと…」
息も絶え絶えに、彩が謝罪しる。
「ま、女の子だからしょうがないけど、もうちょっと頑張って欲しかったな」
「は…早く、追わない…と…」
「無理すんなって。それに、そんな事言ったって、もうアイツはどこにも見えね…」
そう言いながら振り返った浩之は、言いかけた途中で絶句した。
さっき振り返った時には、そこには何も存在しなかったはずなのに、今、浩之の目の前に、まるで絵本に出てくるような、なんともコミカルな小さな家が建っている。
「…なんでもありかよ、ここは」
「浩之さん、とりあえず入りましょう」
佐祐理が彩の手を引きながらそう言った。
「罠かもしれないぜ?」
「ふふっ、舞が考えた罠なら、きっと可愛い物ですよ」
事もなげに笑う佐祐理。
「ちょっと遊んだだけなのに、随分と庇うんだな?」
「…まだ、ほんの小さな子供なんですよ。佐祐理達が守ってあげないと」
「そんな感じはしなかったけどな」
浩之がドアを開けた先には、家の中のはずだったのに、ただただ延々と広く、真っ白な空間が広がっていた。
その白い空間の真ん中に、青白く光る大きな魔方陣があり、その上に舞は立っていた。
すうっ――と舞の姿が空間に溶け込んでゆく。
「舞!待って!待ってよ!」
慌てて飛び出した佐祐理が魔方陣を踏んだ瞬間、佐祐理の姿は舞と同じ様に、空間に溶け込んで消えてなくなってしまった。
「き…消えましたよ?」
「あ、ああ」
「……どうします?」
「どうするったって、俺達も行くしかないだろ!」
浩之が魔方陣に飛び込み、消えた。
「………」
彩もしばらくためらっていたが、やがて恐る恐る魔方陣をつま先で踏み、消えた。
――舞が三つのドアの前に立っている。一つは緑の扉、一つは青の扉、一つは黒の扉。
そして青の扉の前に立ち、
「藤田浩之」
そうつぶやいてドアを開けた。
「ここは…どこだっけ?」
気がついたら浩之は、心地よい風がたなびく、草原の上に立っていた。
「俺…何してたんだっけ?」
不意に背後に気配を感じ、浩之は振り向いた。
「誰だ?」
「浩之ちゃん、みーつけたっ」
そこに立っていたのは浩之の幼馴染みである少女、
「あかり?か…どうしてここに?」
「どうしてって、浩之ちゃんがピクニックに行こうって言うからついて来たんだよ?」
「ピクニック?そうだっけ」
――言われてみれば、そんな気がしてくる。
「ふふふっ、変な浩之ちゃん」
「今日はね、浩之ちゃんのために腕によりをかけてお弁当、作ってきたんだよっ」
「お、いいねぇ。腹ペッコペコだったんだよ」
「たっくさん食べてね」
どんっ、とうすらデカイ重箱が浩之の目の前に置かれる。
「お、おお…こりゃまたすげぇ量だな」
「はいっ、あ〜ん♪」
あかりがにこにこ顔で卵焼きを持ってくる。
「い、いいって!恥ずかしいだろ…」
「大丈夫だよ。誰も見てないんだから」
「…」
「はいっ、あ〜ん♪」
浩之はキョロキョロと前後左右上空を確認してから、口を開けた。
「…あ〜ん」
卵焼きを頬張ると、甘くて、香ばしい、なんとも言えない美味が口いっぱいに広がる。浩之は幸せだった。
「んぐんぐ…うまいな」
「はいっ」
次の唐揚げが目の前に差し出される。
「モグモグ…」
「はいっ」
急にあかりがスピードアップを始め、まだ唐揚げを飲み込む前にトマトが来た。
「ひょ、ひょっとまっへ…」
「はいっ」
「んぐっ!?」
きんぴらごぼう、あかりは止まらない。
「はいっ、はいっ、はいっ」
「も、もお…やめへふれ〜〜〜〜〜〜…」
口がいっぱいになってもなお、食物を詰め込まれ続けた浩之は、やがてそのままバッタリと倒れてしまい、ピクリとも動かなくなってしまった。
バタン、とあかりが青の扉から出てきた。そしてあかりの姿は霧が散る様に消え、あかりが立っていた場所には舞が立っていた。
「まず、一人…」
【倉田佐祐理、藤田浩之、長谷部彩:それぞれ別の場所へ飛ばされる】
【川澄舞:藤田浩之を撃退】
浩之とあかりのやりとりをだらだら続けたら5レスを越え、これはいかんと思い、削ったら何故か3レスになっちゃいました(w
「……ううううううっうううううううううううううっあああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああ……!」
絶叫。
何処へともなく放たれる声。
苦痛。悔恨。憤怒。絶望。
あらゆる負の感情が口腔から迸り、無遠慮に空気を震わせる。
「……ではない、ない、ない、ない、ないないないないないないないないない
ないないないないないないないないないないないないないない……!!」
自分が自分であるために。
心を、奪われてしまわないように。
無意識の叫び。
口をついて出る、途切れ途切れの、だが存在を賭けた、懸命の音。
「……ぼくは、ぼくは、僕が、僕が、僕が! 僕が! 私が! 私が!」
周囲に、自分というものを散らしてしまわぬように。
その代わりに、声というものを放っているように。
馬車の中、彼は叫んでいた。
絶叫していた。
「……まだ死なない! 死ねない!」
彼は必死だった。だから気づかない。
自分と、彼の娘のために。全てを集中させていたから。
それ以外の全てに、割く余裕などなかったから。
そして周囲も、その行為を止める事など出来なかったから。
「んー、うるさい。昼寝の邪魔」
「叫べばいいってものじゃないし、耳障りだし、単なる行稼ぎとしか見られないよー」
特務部隊と、特務機関のツープラトングーパンチをまともに食らって、
鬼神の意識もろともに、敬介はその場に昏倒した。
敬介の叫び声のあまりのうるささに、耳を塞いで目を閉じていた美凪とみちるが、
それを止めることなど出来なかったのは言うまでもない。
【はるか&松本 昼寝の邪魔をされておかんむり】
【敬介 ノックアウト】
【美凪&みちる 何が起きたか気づいてない】
青の扉から出てきた舞は、視線を黒の扉へと向ける。
やがて、この扉の向こうにいる少女の末路を思いクスリと微笑む……
「長谷部彩」
子供とは思えないほど、残酷で妖しい笑顔だった。
「…ここは……?」
彩はこの場所に見覚えがあった。
古い紙のはなつ独特の匂い…当たり一面を覆う本の壁…
「……図書…館?」
そう…そこは彩が育った場所…王立図書館であった。
「………罠…?」
しかし、彩は直感で理解した。
これが敵の心理攻撃であることを…
「…もしここが…敵の創り出した世界なら……ここの本は―――――」
すべてデタラメであるはず…彼女はそう考えたのだ。
彩は手近にあった本を手に取り、ページをめくる。
彼女にとって図書館は庭のようなもの…もちろん全ての蔵書を読破し、暗記もしている。
「…この本は……『アトック砦の老猿』………内容も…ちゃんと合ってます…」
その本は、3回も読んだお気に入りの本だった。
扉絵につけてしまったコーヒーのシミ…胸を躍らされた突撃シーンの挿し絵…
全てが王立図書館にある思い出の本『アトック砦の老猿』と酷似していた…
「……じゃあ…ここは…本物の―――――」
自分の中の図書館の記憶とこの空間を見比べた結果、
彩はここが本物の王立図書館だと結論付けた。
無理もない…
何故ならここは、"彼女の記憶をもとに作られた"空間なのだから……
「彩、元気だったか?」
「えっ?」
ふいに背後からかかった懐かしい声…だが、絶対にありえない声…
「お…父さん?」
声のほうへ、ゆっくりと振り向く彩。
その視線の先には…子供の頃に失った人が立っていた。
「どうした?お父さんの顔を忘れちゃったのか?」
「(ふるふるふる…)」
「よかった。お仕事が忙しくて、ずっと源之助さんに預けっぱなしだったからなぁ…
すっかり彩に忘れらちゃったかと思ってたよ」
「……そんな…忘れるなんて……でも、どうして?
…お父さんとお母さんは……ずっと前に魔術炉の暴走で―――――」
「やれやれ…源之助さんにも困ったものだ。あんまり変な作り話を聞かせないで欲しいなぁ」
「……作り…話?」
「そう作り話。お父さんは元気だし、お母さんだって同じ仕事場で毎日会っているぞ」
作り話? なんだ 作り話 だったんだ…
お父さんも お母さんも 元気で… みんな元気で…
「それじゃあ、お父さんはまだお仕事が残ってるから、
源之助さんに迷惑かけないでおとなしくしてるんだぞ」
「…はやく…帰ってきてくださいね。……ずっと…ずっと待ってますから…」
彩は完全にこの世界の虜になっていた。
男は彩の虚ろな瞳の色を確認すると黒の扉を開け、図書館をあとにした。
「二人目…」
【川澄舞 長谷部彩を撃破】
初スレ1でございます。
いちおー
>>313-315の「エイエソ【藤田浩之の場合】の続きです…
またまた好き勝手にやってしまいました…陳謝。
あとはいつも通り、次の書き手さんにお任せ〜
>>323 どうでもいいが323ゲットおめー。
これを機にちゃんさま描いてくれ(w
325 :
象牙の塔:02/01/22 13:00 ID:XbTFCgSl
「…なつき様」
低くしわがれた声に思考を遮られ、漆黒のローブをまとっていた彼女は、振り返った。
「なんですか?」
「お知らせしたいことがあります」
大きく曲がった腰、皺だらけの鷲鼻、禿げ上がった頭と、特徴は紛れもない老人だ。
だが、人間との最大の違いは、その額に三つ目の目があった、という事だ。
なつきは、今まで見ていた千眼鏡の光を落とすと、ため息と共に振り向く。
「執事、わかっています。ルミラ殿が、『えいえん』と接触したようですね」
「ご存知でしたか……はい、それに、『使途』の存在も確認いたしました」
ここ象牙の塔は、レフキーの北、山脈に連なる峰に建っていた。
その存在は極秘。
協力者か、王家に連なる一部の者にしか存在を明かされず、その活動は一切が闇に包まれていた。
「ルミラ殿なら、十分対処できるでしょう……問題は、侵食の具合です」
「+20を超えることは無いと思われます…あくまで、予想ですが」
なつき……『カオスロード』清水なつきは、苦笑して、首を振った。
「観測班がそう言うなら、間違いはないでしょう。私はもう下がるとします」
「お送り致します……ナイトロード」
「不要です……そう、また異常があれば、呼んでください。世界の防衛が、私の使命なのですから」
326 :
象牙の塔:02/01/22 13:00 ID:XbTFCgSl
「なつき様、後もう一つ……」
「なんですか?」
「おしるこを、ご用意致しておりますが」
なつきの目が、きゅぴーん、と光った。
「おしるこですか」
「おしるこです」
「ご禁制の品ですね」
「ご禁制の品でございます」
なつきはひとつ深呼吸すると、
「贈収賄と取引禁止物違反により、懲役200年」
「なつきさまーーーーーーーーーーーーー!?」
「お代わりが出来るなら、免除致します」
「はっ、はい、それはもう……」
執事は慌てて、何度も首を振る。
時々、なつきのしょうもない言動に悩まされるのが、執事の頭痛の種だった。
「それでは……行きましょう」
「はい、わかりました」
眼鏡をキラリと光らせるなつきの後を、執事は汗を拭きつつ、ついて行った。
327 :
象牙の塔:02/01/22 13:05 ID:XbTFCgSl
【清水なつき 傍観者 ナイトロード】
居なかったので、清水なつk(略)を。
実物がおしるこが好きかどうかは、知りません(ぉ
328 :
狩猟者:02/01/22 22:25 ID:cCeU8A0P
「くくく、なかなか楽しませてくれるじゃないか」
海賊どもに言ってやる。
「く、ふざけるな」
「でやあ」
海賊どもがまた攻撃を仕掛けてくる。完璧な連携だ。
しかし…
「ふ…」
俺には当たらない。
「はっ」
カウンターで男の方に一撃を加えてやる。
「ぐう」
浅く一撃がはいる。吸血の魔剣が俺に力を送るのがわかる。
海賊どもは再び俺と間合いを取る。剣の間合いを完璧に把握している。
「藤井さん…」
「大丈夫だ。好恵ちゃん…」
強がりに過ぎない。もうすでに両方にかなりのダメージを与えている。
「奴だって無傷というわけじゃない。きっと勝ち目は…」
「…本当に無傷じゃないのか?」
ほう、中々勘が鋭いじゃないか。
「なんだって?」
「奴の動きが全く鈍っちゃいない。とてもダメージを食らってるとは…思えない」
この状況で冷静な分析だ。笑いたくなってきた。
「くくく、よく見てるな。そう、俺はほとんど無傷だ」
「手応えはあったのに…」
「…くそっ」
男の魂の炎が翳っていくのがわかる。
圧倒的な実力の差を思い知った時の絶望…ぞくぞくしてきた。
329 :
狩猟者:02/01/22 22:26 ID:cCeU8A0P
「この剣は切った相手の血を吸い、持ち主の傷を癒す魔剣だ」
「…そんな」
「……」
男の戦意が薄れていく。女はまだまだ諦めていないようだが…
しかし、これで奴らの連携はきれた。
「これで終わりだ」
一気に間を詰めてやる。
「むっ…」
女が近づいてきた俺に攻撃を仕掛けようとする。
俺は女の手前の空間を薙いでやる。
女は後ろにさがる。
「でやあ」
男は剣を振りかざすが…
「遅い!」
すねを蹴っ飛ばしてやる。
「ぐぅう」
男が無様に転がる。
「藤井さん…」
女が叫んだ。しかし、近寄ってこない。近づけば俺にあっさり刻まれるのがわかってるらしい。
「ふんっ…」
男を踏みつけてやる。ぐぎゃっと悲鳴が上がる。
「く、くそ」
「さてと、お前もとっとと狩ってしまわないとな」
「…くっ」
女が構える。それでこそ狩りがいがあるというものだ。
狩りはもうすぐ終る。
殺せないのは残念だが雑魚風情にしては楽しめたか。
剣を構える。一撃で終らす。
「好恵ちゃん逃げるんだ!!」
330 :
狩猟者:02/01/22 22:27 ID:cCeU8A0P
「…!?」
倒れている男が叫んだ。
ぼふっと間抜けが音がしたかと思うとまわりに砂煙が立ち込めている。
「ふ、藤井さん…」
「ちっ、逃がすか!」
すぐに攻撃を仕掛けようとするが…
「む…」
殺気!
ブンッ、俺がいたところを刃の風切り音が通過していく。
「ち、やり損ねたか」
「まあ、いい。人数差は明確だ。この機会に殺さない手はねえ」
傭兵の声か…
「藤井さん、すまない。傭兵、貴様はいつかこの手で倒す」
女が叫んだ。どうやら逃げ出したらしい。
「いつかだってよ。この柳川さんはここで死ぬのによお」
面白くなってきた。
「死ぬのは貴様たちだ」
貴之が集めてきた傭兵は8人、その中に俺を狙う刺客がまぎれてたらしい。
増援が来ないと思ったら俺を殺すために集合してたというわけか。
敵は最大で8人…まだまだ狩りは楽しめそうだ。
「おらぁ」
殺気で剣筋が見え見えだ。かわしざまに一撃を加えてやる。
「うぎゃあ」
砂煙が晴れてきた。
「さあ、かかってこい。お前らに真の絶望という奴を刻んでやろう」
【柳川、刺客と戦闘続行】
【坂下、逃走】
【冬弥、ノックダウン】
読んでる限り、柳川トップクラスの強さだと思ったけど…
いくらなんでも強くしすぎたかもしれない(爆)
332 :
ためらい:02/01/23 00:07 ID:PmFXzFHj
ザシャア!
魔物の手が地面に叩きつけられる。それを避け、大きく後方へ跳ぶセリオ、
「くっ…相手のパワーが大き過ぎます」
「力を押さえながら…!戦うってのも…!楽じゃないわね!まして場所が相手の頭ん中だとっ!」
続けざまに追撃をし掛ける魔物の攻撃を捌きながらルミラが叫ぶ。
「どうかな?」
同じく別の魔物の攻撃を捌いていた蝉丸が、一瞬の隙を見て、持っていた剣を七瀬と健太郎を相手にしていたもう一体の方の魔物に投げつけた。
「!」
一瞬の殺気を感知して、魔物がそれを叩き落す。逆上した魔物はそのまま向きを変え、蝉丸に向かって突進していった。
「流石に…やるっ!」
蝉丸も剣を投げた直後、投げた方へ走り出す。それを初めから蝉丸の相手をしていた魔物が追う。
「危ないっ!」
「馬鹿っ!剣を投げちゃって…!」
健太郎と七瀬が同時に叫ぶ。実際、蝉丸は武器も持っていない状態で、両側から魔物の挟撃を受ける形になり、窮地に立たされている様に見えた。
魔物と蝉丸と魔物の影が重なった瞬間、蝉丸は右から繰り出された魔物の腕を取り、
「相手のパワーが大きい時は…」
左から来た魔物の攻撃を避わし、その髪の毛を引っ掴む。
「こういう戦い方もある!」
そして両手を交差させた。
ゴチン!
「うわっ…」
「痛そー」
今度は健太郎と七瀬が同時に目を覆った。蝉丸により無理矢理、正面衝突させられた二体の魔物は、そのままあおむけに倒れて動かなくなった。
「凄い……あっという間に二匹を気絶させちゃった」
「…人間もなかなかやるわね」
呆気にとられた全員(魔物も含む)を見て、蝉丸は少し得意そうに鼻を鳴らした。
「どうだ?これぞ相手の力を利用して攻撃する、名付けて『カウンター』だ」
「そのまんまですね」
「う……スマン…こういうのは、訓練では習わなかったものでな…」
セリオの鋭い突っ込みに、少しはしゃぎ過ぎたかなと、赤面して俯く蝉丸であった。
333 :
ためらい:02/01/23 00:08 ID:PmFXzFHj
「さーて、残ったのはアンタだけよ!おとなしくこの志保ちゃんのお縄に付きなさい!」
「あーた何もしてないでしょうが…」
囲まれて、追い詰められてタジタジの魔物は突然、手を組んで祈り始めた。
「な、何?命乞いでもしてるの?」
キィィィィン!
魔物の体が光に包まれる。そして倒れていた二体の魔物も同じ様に光を放ち始めた。
「なんだ?」
光が一箇所に集まる。一つの大きな光になったそこから、先程のうさ耳をつけた幼女より少し大きくなった魔物が一体、その姿を現した。
年の頃で言ったら13、14ぐらいか。その魔物が飛び掛ってくる。
「見た目が変わったからなんだって言うんだよ!?」
迎え撃つ健太郎、しかし魔物の攻撃は防御したものの、その予想以上に大きな力で後に飛ばされる。
「なっ!」
「こいつ…違うぞ!今までとはスピードも、パワーも!」
「ようするに、三体分ってわけねっ」
魔物が、今まで以上の威圧感を放ち、こちらに向き直った。
「痛っ…!」
突然瞬間的な頭痛が走り、舞は頭を押さえた。限界が近づいている。
「そう…もうもたないの…」
舞が緑の扉の前に立つ、
「倉田佐祐理…」
ドアノブに手を掛けようとして、ためらい、手を引っ込める。
さっきから何度もそれを繰り返し、舞は迷っていた。
「行くんだよ」
突然、背後から声を掛けられる。驚いて振り向いたら、いつの間に立っていたのか、居たのは自分に永遠を与えてくれた少女。
334 :
ためらい:02/01/23 00:22 ID:PmFXzFHj
「でも…」
自分が何をしているのか、もう舞も理解し始めていた。
藤田浩之、長谷部彩、それぞれ内容は違えどその心の中に土足で上がり込み、クレヨンでめちゃくちゃにラクガキをして汚す様なやり方。
リボンをいじくる。佐祐理が自分に与えてくれた紫色の大きなリボン。確か弟の物だったと言っていた。
大事にする。そう約束したリボン。これからその佐祐理の心の中を汚しに行くのだ。
「どうしたの?」
ふっ…と、目の前の少女が消え、次の瞬間には舞の背後に立ち、その黒髪を弄んでいた。
「お母さんを手に入れるんじゃなかったの?今度こそ永遠に…お母さんを自分のものにするんでしょう?」
「お母さん…」
母の姿を思い浮かべる。病弱でいつも寝たきりだった母。自分を産んだせいだと聞いた事もある。
それでもいつも笑っていた母。死ぬ時も、泣いている自分に向かって、ずっと微笑んでいた母。
「行くんだよ」
少女が、そっと舞の背中を押す。
舞は何かを決意した様に大きく頷いて、髪を結んでいた紫のリボンを解き、丁寧に畳んで、ポケットにしまい込んだ。
そして佐祐理の心のドアノブを回す。
【魔物:一体に合体】
【川澄舞:倉田佐祐理の精神世界へ】
蝉丸たん愛護週間(嘘
戦闘に動きが出せてれば良いなと。
鯖落ち中で辛い(汗
335 :
心の痕:02/01/23 01:37 ID:ocX3A/KS
静かな庭園に、佐祐理は見覚えがあった。
「ここは……佐祐理の家…」
呟く声には、微かに恐怖と期待が入り混じっていた。
見覚えのある植木も、彫刻も、垣根も、噴水も。
すべて、数年前の……一弥が生きていた頃と同じ、過去の自分の屋敷であった。
あははっ……ふふふ…
その笑い声を聞いた瞬間、佐祐理は無我夢中で駆け出していた。
忘れるはずも無い。
大人しい子だった。いつも内気で、はにかむような笑顔が、佐祐理は好きだった。
戦いを好む性格では無かった。だが、剣の才能は、確かに突出していた。
だから、佐祐理は厳しく育て上げたのだ。
いつか、立派な騎士として……最強の剣士として、名をあげられるように。
「一弥っ………!!」
確かに愛していた…だが、同時にどこかで嫉妬していたのではないか?
一弥は男で…剣の才能があって…家の外に出る事が出来る。
佐祐理のあこがれていた、冒険者になる事だって……
336 :
心の痕:02/01/23 01:37 ID:ocX3A/KS
(自分の叶えられない願いを、弟に託したかったのね)
冒険者になること。冒険をする事。剣を振るう事。
羨ましかった。妬ましかった。
自分には出来ない事を出来る一弥が。
自分には出来ない事を出来るのに、内気で本を読むことが好きな一弥が。
(だから……死に追いやった)
「違う!!」
佐祐理の叫びは、何処からともなく聞こえてくる声には、届かない。
「佐祐理は……佐祐理は、一弥にもっと頑張って欲しくて……!」
どうして、こんなに遠いのだろう。声は、すぐそこから聞こえてくるのに。
足は震え、息は上がり、汗が額を伝い、頬を横切る。
心臓が早鐘のように打つのは、疲労からか、それとも恐怖からか。
「だから佐祐理は一弥に佐祐理に出来ない事をして欲しくて夢を叶えて欲しくて」
曲がった角の向こうに、ウサギと戯れる、幼い少女と少年の姿があった。
失ったものを取り返せる……そう、もう一度やり直せるなら。罪を償えるなら。
佐祐理の瞳から、一雫の涙が零れ落ちていた。
【佐祐理 精神攻撃を受けている】
佐祐理さんと一弥の過去については、どうなんでしょ。
取り合えず、いない事は確かみたいですが。
「まったく、なんてガキだ……」
「それじゃあしたのよあけにまちのいりぐちでね〜」
そう言い残しさいかが去った後、一人酒場へ取り残された住井は酒が入ったジョッキ片手にやさぐれていた。
そりゃあ確かにあんな大怪我、普通直してもらうには大金が必要だ。運良く治療して
くれたのが無欲な街医者――七瀬彰――だったおかげで治療費は只同然で、
こいつはいよいよ俺にもツキが回ってきたぜと思っていたところだったのに
こんなことになってしまうとは。
さいか達からの依頼――彼女達をここの東の方にある魔法都市ホワールへ送り届ける事――
それは仕事の部類としては比較的容易なものではある。ホワールへと続く道には狼等も出るが、
その程度のことを恐れていてはこの世界で隣の都市へと行くことなんて出来やしない。通常、
そのような旅をしようとする者は、街の酒場で暇そうにしている戦士を2〜3人ほど雇う。それで十分
事足りるのである。
「だけどガキが二人もか……それにあいつら俺以外の奴を雇うつもりないみたいだしなぁ」
万全を期すなら3人は欲しいこの行程、それも足でまといにしかなりそうにない人間を二人も
抱えてである。さらには下手すると誘拐魔になりかねない状況ではないか。頭が痛い。
「いっそのこと、今からこの街をでるか? ……いやしかしそれではこの俺様があんな
クソガキに恐れをなして逃げ出したみたいだし……。どうすればいいんだ……」
「お悩みのようね」
突如、背後から女の声がした。
(3行空けでお願いします)
「合席してよろしいかしら」
「ああ……」
気の強そうな美人だった。歳は自分と同じくらいだろうか。
(同業者か? 魔術師じゃなさそうだが……)
「はじめまして。巳間晴香よ。晴香でいいわ。そしてこれはお近付きのしるし」
彼女はそう言い両手に持っていたグラスの片方を俺によこす。もちろん断る理由はない。
俺はありがたく頂戴することにした。
「ああ悪いな。俺は住井護だ」
「それでさっそくなんだけど、あんたさっきのあの子の依頼を受けるつもり?」
「いやそれは……」
口ごもる。受けるべきではない。そんなことは分かっている。だが……
「悩んでるんだ。……あんたも律義な人ねえ。そんなんじゃ長生き出来やしないわよ」
痛い所をついてくる。
「まっ、私はそういう人間を探してたから丁度いいんだけどね」
そう言い彼女は懐からなにやら取り出した。宝石だ。
「なんだ、これは?」
「依頼料。あの子達のね。それとおまけにこれもつけてあげるわ」
彼女はそう言い袋を取り出した。中には青いビー玉みたいなものが5、6個入っている。
「どうしろと……?」
「野犬とかに襲われたら使いなさい。余ったらあげるわ。それじゃあね」
晴香はそう一方的に言って席から立ち上がり、店を後にしようとする。
「お、おい。あんた一体なんなんだ? それに俺は依頼を受けるとは一言も言ってないぞ」
「最初の質問の答えは……そうね、私はあの子達のお姉ちゃんみたいなものといったところかしら。そして…」
彼女は立ち止まり答える。そして、振り返って意味ありげな微笑みを浮かべて続けた。
「あなたはこの依頼を必ず受けるわ」
(3行空けでお願いします)
(彼に盛った薬は不要だったかもね……)
深夜。一つの影が魔法都市ホワールの方向へと向かっていた。他には人影は全くない。
当然だろう。こんな時間帯に、それも一人旅なんてよほど腕に自信があるのか馬鹿なのかのどちらかだ。
(それにしても……)
その人影、巳間晴香は考える。数日前に彼女の属する組織、FARGO宗団から受けた指令のことだ。
(「秘宝」を奪取するために秘宝塔の方へ向かう――だれもがそう考えるように、さらには
ギルド等に気付かれるように動けってどういう事かしら? それに時間も十分にかけろ?
川澄舞の保護は余裕があるなら行えば良いって一体……っ!?)
すこし思考に意識をとられすぎていたようだ。いつのまにやら周囲を狼の群れに囲まれていた。
危険な状態。だが、晴香は微塵も動揺せず、ふところから何かを取り出す。
「邪魔よ……」
そう言い叩きつけたのは青いビー玉。それが衝撃でパリンと乾いた音をさえた瞬間、
辺りに甘い香りが立ち込めた。
――ギャッ……
狼達は音にならない悲鳴をあげて、てんでばらばらに逃げ出していく。
(まあいいわ。葉子さんにもなにか考えがあってのことだろうしね。今は葉子さんの言う
通りに動いとくとしますか)
彼女は何事もなかったかのように足を進める。後には青いビー玉の直撃を受け
未だ倒れて痙攣している狼が一匹、残されているだけだった。
【巳間晴香 ホワール方面へ移動開始】
341 :
Kyaz:02/01/23 02:15 ID:+o2n9INV
>>8-12 「未熟なる青。」の続きを書かせて頂きました。
遅筆でまったくもってすみませんです。
「ぇらっしゃいぃ!」
店主の声が響く酒場に、3人の男女が入ってくる。
白い髭を蓄えた、黒いライトアーマーの壮年の男。
目つきの悪い銀髪の男。
動きやすい服装の、長髪の女。
「エールを3杯、あと適当につまむものを頼む」
銀髪の男が言って、3人はテーブルにつく。
「酒は1杯おごると言ったが、ツマミはワリカンだぞ」
「ケチくさいな、セバスチャン……って、呼びづらいな。セバスでいいか?」
「別に構わん。こっちも『往人』に『すばる』と呼び捨てで呼ばせてもらうが」
「はい、結構ですの、セバスさん」
しゃべっている間に、3人の卓にエールと乾きものが運ばれてくる。
「それでは出会いを祝して乾杯といくか」
「ああ」
「はいですの☆」
3人がカップを持とうとしたその時、
「その乾杯、ちょっと待ってもらえない?」
往人の後ろから声がかかった。
振り向くとそこにいたのは、長槍を持った軽戦士風の、もみあげが印象的な、茶色い長髪の女。
また前を向きなおして、往人は続ける。
「それではオレたちの出会いを祝して、かんぱー…」
ぽかっ
「こら。無視しないでくれる?」
往人は頭を押さえつつ、渋々後ろを向いて応対する。
「じゃあとっとと用件を済ませてくれ。一体何の用なんだ?」
「じゃあ用件だけ。あたしも仲間に入れてほしいんだけど」
「はぁ?」
「広場でのやりとり見てたの。3人の会話も聞こえてたし。目的が一致してる方がパーティとしていいんだよね?」
「そういえばそんなことも言ったな」
「あたしも人捜しと秘宝狙いなの。だから、仲間に入れてもらえたら……って思ったんだけど」
セバスチャンが口をはさんでくる。
「娘、そこまで聞こえていたのか?周囲には気をつけていたのだが」
「うん。あたし耳いい方だから」
「そら良かったな。で、あんたを仲間にして、オレたちにどういうメリットがある?」
往人の問いにも、平然とした顔で即答する。
「幅広い知識…薬学とか…と最低限の戦闘能力。そっちの2人よりは弱いけど、あなたよりは強いわよ」
「幅広い知識?」
「うん。元々魔術師を志してたんだ。結局『魔力』1つ身に付いただけで『魔術』は得られなかったけどね」
往人は2人の方を振り向いて尋ねる。
「ってことだが、2人から見てどうだ?実力的には」
「うりゅう……あたしにはわかんないですの。セバスさんはどうですの?」
「……そうだな。王国騎士団の標準程度といったところか。冒険者の戦士としてはギリギリと見える」
「あはは、でもあたしはそうそうやられないよ。『魔力』があるし」
再び振り返る往人。
「さっきから気になるな。『魔力』って一体なんなんだ?」
「え?見たい?見たいの?本当は見せたくないんだけど、仕方ないかなあ?」
いかにも「見せたかったです!」な表情をしながら女は答える。
「それじゃ、とりあえず握手してくれる?」
「はぁ?」
「握手。そしたらあたしの『魔力』見せたげるからさ」
そう言って手を差し出してくる。その手を握る往人。
「これでいいのか?」
「うん。手を離しちゃダメだよ」
「ああ、わかった。で、ここからどんな芸をしてくれるんだ?」
3人が女を注目している。何が起こるのか、一挙手一投足見逃さないような視線。
そんな中、すばるの肩が叩かれる。
とんとん
「すみませんの、今忙しいですの」
とんとん
「後にしていただけませんの?」
とんとん
「しつこいですの!いったいなんで……ぱぎゅうううぅぅぅぅ!!!!」
我慢できず振り向いたすばるが叫び声をあげる。思わずそっちを振り向く往人とセバス。
そこに立っていたのは、往人が握手をしていたはずの女。
「まあ、こういうことなんだけど」
慌てて往人は振り返るが、そこには誰もいない。握り続けていたはずの手の中にも何もなくなっている。
「ど、どういうことだ?確かに振り返った瞬間までは手を握り続けていたはずだが……」
「だから、これがあたしの『魔力』。名付けて『二重身』。わかった?」
呆然と女の方を見ている3人。セバスチャンが口を開く。
「……残像を伴った短距離転移といったところか?」
「厳密には違うけど、簡単に言えばそんなとこかな。疲れるからそう何度も使えないしね。
で、これでどう?そうそう足手まといにはならないと思うけど、仲間に入れてもらえないかな?」
「はぁ」
魂のこもってない声が往人の口からもれる。
「ってことはOKってこと?よかった、1人で旅するのって不安だったんだ」
「待て。そういう意味じゃねえ」
そう言って往人は仲間の2人の方を振り返る。
「2人の意見はどうだ?」
「儂は……構わんが。今さら3人でも4人でも変わらぬし、薬学などの知識が増えるのは悪くない」
「あ、あたしもよろしいですの。お仲間が増えるのは嬉しいですの」
「……ならいいか」
「いいの?ありがと!じゃあ、ちょっと待ってて。あたしもエールもらってくるから」
カウンターの店主の方に走っていく女。すぐにカップを持って戻ってくる。
「お待たせ〜。あ、そういえば自己紹介してなかったね。あたしは新城沙織。沙織でいいわよ」
「オレは国崎往人。しがない旅芸人だ」
「あたしは御影すばるですの。すばる、って呼んでほしいですの☆」
「儂はセバスチャン。セバスで結構だ」
改めてカップを掲げる3人。隣のテーブルから椅子を持ってきて、同じくカップを掲げる沙織。
「それじゃあ、オレたちの出会いを祝して、乾杯」
「「「乾杯」」」
唱和してカップを高く掲げる。
ごきゅごきゅごきゅごきゅ……だだん!だん!だん!ばたっ。
セバスチャン、往人、沙織の順で、飲み干してカップをテーブルに置く。遅れてすばるも置き、そのままテーブルに突っ伏す。
「ぱぁぎゅぅうぅ〜〜〜〜」
「…………酒を飲み慣れておらんかったのか?」
「……早かったな」
「はぁ?」
「はい、申し訳ありませんが……」
話を交わしつつしばらく飲んだ後、この酒場が2階でやっている宿に泊まることにした。
だが部屋はあいにく個室しか空いていないということで、4人別々の部屋に泊まることになった。
すばるを寝かせて、それぞれの部屋に別れる3人。
新城沙織は、特務部隊に下された命令を思い出していた。
「魔力を封じる秘宝、あるいはそれを求める冒険箪……だっけ」
本来蝉丸と一緒に行動すべきだったのだが、部隊の控室に行く際に、蝉丸が若い女と2人連れだったのを見て、
(蝉丸さんも結構いい歳だし、二人きりの方がいいかな。面白いこともあるかも知れないし♥)
と考えて別行動を取ることにした。そして自分も独自に仲間を作って、秘宝探索を行う道を選んだ。
「それに……探し人ってのも嘘じゃないしね……」
同じ故郷の友、村を飛び出した幼なじみの顔をうっすらと思い出しながら、沙織は眠りについた。
セバスチャンは2枚の肖像画を見ていた。それは胸ポケットに入るほどの小さい肖像画。
「芹香様……綾香様……今どちらに……」
彼が仕えていたのはクルス商会長。その孫娘2人は家を飛び出し、今では冒険者になったと聞く。
止めることができなかった自分の罪。セバスチャンは2人を探す旅に出ることにした。
「済まんな、一族の皆よ。儂には、『長瀬』より重要なものがあるのだ……」
呟いて、セバスチャンはずっと肖像画を見つめていた。
御影すばるは眠っている。
国崎往人はベッドに横になって、古来より伝わる家伝をつぶやいていた。
「……彼女はいつもひとりきりで…大人になれずに消えてゆく……か……」
行き倒れになりかけた自分を助けてくれた少女。その母親。共に過ごした、楽しかった日々。
目の前で起こった事件。彼女が得た力。力の暴発。不意の別れ。
そして、自分の母の家に代々伝わる知識と力。自分だけが知る、彼女の力と同時に存在する呪い。
「あの時出会ったのは、偶然じゃなく運命だ……今度はオレが助ける番だ」
求めるのは呪いを解くための秘宝。そして、観鈴。祝福と呪いを受けた少女。
昔見たその笑顔を脳裏に浮かべつつ、往人はまどろみの中に落ちていった。
【国崎往人:目的は呪いを解く秘宝と、神尾観鈴の探索。ただし秘宝が優先】
【セバスチャン:目的は来栖川芹香と来栖川綾香の探索】
【新城沙織:実は王立特務部隊員。武器は槍。『二重身』能力と自称『薬学とか幅広い知識』を持つ。
目的は蝉丸と同じ、加えて幼なじみの探索。それが誰なのかは不明】
【御影すばる:酒に弱い】
久しぶりに作品書いたです。#79「もう1つのテスト」の続きになります。
何故かまだ出てなかった沙織たんを使わせてもらいました。
ていうか、メインヒロインなのに名前もでてない娘がまだいたりしてびっくり(w
やっぱり長くなっちゃいました。5レスの予定が、改行制限引っかかって6レスに。
もちょっと短くまとめる努力もしたいなと思ってますが。
>>341 もっと遅筆がここにいます(w
あと、編集サイトにまとめる際には、基本的にレス間には3行の空白を置いています。
なので、3行以外(例えば隙間無しとか1行だけとか)の際に指定いただくと有り難いです。
「とりあえず、俺の家に来ないかい?」なんて言葉と共に、私、牧部なつみは念願の王都レフキーへと到着したのだ。
入国してから、歩いて数十分の所で「まぁ、ちっちゃい家だけど入ってくれよ」そんな彼の言葉に頷き、私はお邪魔した。見た目通りに小さい家だったが、割と整理整頓されていた。
「適当にその辺に座ってて。今、飲み物持ってくるからさ。……っと、安心しろよ? 『どろり濃厚』シリーズなんか持ってこないからな」
軽く笑いながら奥へと消えていった、彼、柳也さんの言葉に従い、私は荷物を置いてからテーブルの周りにあるイスに腰掛け、その上に帽子を置いた。しばらくしてから、
「粗茶だけど我慢してくれよ。それとピロはミルクでよかったかな?」と言いつつ私の前にカップを置き、テーブルの上に鎮座していたピロの前に皿を置いた。
「気が利くね」なんて言いつつ、ピロは早速ミルクに舌を伸ばしていた。
私はお茶を啜りつつ(初めて飲むタイプだった)「あのぉ……『どろり濃厚シリーズ』ってなんなんですか?」と、質問した。
彼は一瞬、驚いた顔をしたアトに、
「そうか…まぁ、世の中には知らない方がいい事も、あるさ」
なんて渋い顔で言ったアト、さらに「飲めないジュースに意味はあるのでしょうか?」と付け加えた。
「よく、分かりませんが、……一度、試しに飲んでみたいものですね」
「止めとけって。……いや、実はさ。俺の許婚の神奈って奴が好きな飲み物なんだけどさ。それを飲む時の顔と言ったらっ!! リスみたいに頬を膨らまして飲んでんだよ!」
目に涙を溜めて大爆笑しながら、柳也さんはバンバンとテーブルを叩いた。
――それのせいだろうか? 玄関が開かれたのに気付かなかったのは。
「もしかして、神奈さんっていう方は」
っという感じで私は今現われた――丁度私の正面、柳也さんの背後に立つ――女の人の特徴を言った。
「お? よく知ってる……な?」と言って、柳也さんは笑いを止めた。ちょっと顔が引きつっていた。
「それは余の事かのぉ? 柳也殿」 ――それは、とても低い声だった。
その声にビクッっと、一瞬、身体を震わせてから、ぎこちなく柳也さんは振り返った。
「それは余の事かのぉ? 柳也殿」 ――もう一度、言った。女の人はにこやかな顔をしていたが、目は笑っていなかった。
「待て。神奈。お前がいま感じている感情は精神的疾患の一種だ。鎮める方法は俺が知っている。俺に、任せろ」
「……それには及ばぬよ。柳也殿。何故ならその『方法』なら既に知っておるからのぉ!!」
そして二人は奥へと消えていった。ピロが「ゴシュ―ショーサマ」と呟いていた。
それから少し経ったアトに(ちなみに私はその間、茶を啜っていた)奥から一人で女の人が現われた。
「余が神奈である」と何事も無かったかのように切り出し、おざなりの自己紹介を済ませた後に「余の屋敷に日を改めてくるがよいぞ」と言い残して去っていった。
――ってな感じで、奥から柳也さんが出てくるのを待ってる間に、朝の出来事を回想していた。丁度今、柳也さんが満身創痍の姿で現われたところだ。
「仲がいいんですね」
「ん? ああ、あのくらいですぐ怒る、可愛いやつだろ?」
微笑みながら柳也さんが言ったアトに、今度は深刻そうな顔して、言った。
「それとさ。街の案内の件だけど。すまないけど今日は無理みたいだ。神奈の奴、あれで結構、内心傷ついてるんだ。俺が慰めてやらないと。今頃泣いてるかも知れない」
「ええ。別に私は構いませんよ。その代わりに武器屋の場所を教えてくれませんか?」
「それなら……近い所で、”青の錫杖”って店かな。確か、得体の知れない女主人が経営している、宿屋まで完備されている武具屋だったかな」
と言って、簡単な道順と目印になる様な物を教えてくれた。
「すまないな、神奈に悲しい思いをさせたくないんだ……」
という言葉に「なら初めから言わなきゃいいのに」とピロが突っ込んだ。すると柳也さんは。
「判ってないナァ。困った顔と怒った顔と泣くのを我慢している顔。これが女の子の一番、可愛い顔じゃないか!」
その力説に、私は思わずお茶を吹き出しそうになった。
「ぢゃ! 俺はもしかしたら今日は帰ってこないかも知れないから、勝手にこの家使っていいぞぉ」
と、言い残して柳也さんは去っていった。整理した荷物を抱えて。
「ねぇ、なつみ。これからどうするのさ?」
イスに座ったままの私にピロが尋ねた。
「この街の様子だと、帝国の脅威は無いみたいだね。これなら取りあえず何も起こらないと思うから、まずは弾丸補給にいこう」
「ん、賢明だね。例え帝国が秘宝を奪ったのが事実だとしても、それは一部の権力者達が独断で起こした出来事かも、知れないしね」
と、ピロが言った。急ぐ事は無い、と言いたいらしい……。
「ああ。そうだね。まずは、情報がないとね……っと、そういえば帝国で思い出したけど、『黒の歌姫』って覚えてるかい?」
私は思い出す。三年くらい情報収集の為に帝国で暮らしていた時に出会い、知り合った、友達の事を。
「……忘れるはず無いよ、オガタリーナさん、だっけ?」
「ああ。彼女、緒方理奈さんが、見送ってくれた時の言葉を思い出したよ。『私のライバルと兄貴によろしくね☆』って言ってたね……」
共和国の何処かに二人はいると言っていた。ライバル――『白の歌姫』由綺さんと、お兄さん、緒方英二さん。
「そういえばオガタリーナさんは酷く、兄を嫌っていたね。絶交中だ、って言ってた」
なんでも理奈さんは元々共和国に住んでいたらしいのだが、英二さんとの絶縁と共に帝国へと移り、そこで歌姫として成功したらしい。詳しい事は聞いてないが、地下組織を結成するとかで意見が対立したらしい。
彼女曰く、『今頃”闇の声”とか名乗ってギルドの頂点の補佐でもやってんじゃないの』だそうだ。
「私見で言わせてもらえば、彼女は極度のプラコンで、しかも親友の彼氏を(寝)取ったりする事も出来る行動派だと、思ったよ」
「ピロ……根も葉も無い事言わない方がいいよ。それに彼女のファンを知ってるだろ? ……殺されるよ」
「すまん、冗談だ」と言って、ピロは黙った。……おそらく私が本気で言ってるのが判ったのだろう。
「……さて、それじゃぁ私たちもそろそろ行くよ? ピロ」
「了解」
荷はそのままにして、帽子を被ると私たちは家をでた。
活気溢れる街の喧騒。そして目の前を凄いスピードで駆け抜ける女性。その数瞬後に、
「あ〜ず〜さ〜せ〜ん〜ぱ〜いー♪」と黄色い声で叫びながら又、別の女の子が猛スピードで駆けて行った。
風圧で帽子が飛ばない様に私は手で押さえた。――とても戦争が起こりそうとは思えなかった。
「お店行ったアトの予定は? 兄と歌姫探し? それともいつもみたいに賞金のかかった魔物でも狩るの?」
ピロの問いに、私は「どうだろ…・・正直わからないよ。秘宝の情報も集めておきたいし…」と、答えた。
「まぁ、でもこの間にも何処かで秘宝の争奪戦でもしてたりしてね」
アハハ、とピロが笑いながら歩き出した。
ちょっと迷いながら、それでもなんとか目印を頼りに歩いていると、ピロが突然、
「なっ、なつみ!? 今の、聞こえたかっ!?」
と、顔面蒼白にして(私にはそう見えた)言った。その声は驚愕に震えていた。
「何か……あったの?」
あまりのピロの驚愕っぷりに加え、私には特別な音は聞こえなかったので、ちょっとびくびくしながら尋ねた。
「今。遠く離れた所で本場の『突っ込み』が炸裂した……。間違いない。はっきりと聞き取れたよ。完璧だった。……くそっ、これ以上言葉にすると陳腐な表現になっちまう!」
最後は声を荒げていた。おそらく巧く表現できない自分に腹がたったのだろう……。
「……流石、レフキーだな」なんて呟いてピロは止めていた歩を進めた。
私は黙っていた。
それから暫く歩くと、前から女の子――子供みたいな幼い少女――を引き摺りながら歩く女性が現われた。
姉妹には…ちょっと見えない。
「そろそろ自分で歩けんのか?」
「うぐぅ」
――そして遠ざかっていった。
「なぁ? なつみ。聞こえたか?」
「今度は流石に、私にも聞こえたよ。『うぐぅ』って単語でしょ? あんなの生れて初めて聞いたよ」
と、ちょっと感慨深げに言った。
「この地方特有の言語なのかな? それも子供限定でのみ使う事を許されてる、ある種、神聖な単語だったりして……」
と、ピロが興味深そうに呟く。
「う〜ん。どうだろ? あの状況も考慮しないと……。でも『うぐぅ』か。どんな意味なんだろうね……」
「なぁ? なつみも『うぐぅ』って言ってみたら? 少しは意味が理解出来るかも知れない」
「えぇ〜? それはちょっと、なんか、とても、恥ずかしいな……」
「もう何回も言ってるだろ? 一言でいいからさ」
しつこく言ってくるので、観念して私は口を開いた。
「うぐぅ」
「……なんか判った?」
「……なんにも」
私の顔はきっと、恥ずかしさで真っ赤になっている事だろう……。
「あれが青の錫杖かな?」
それから少し歩くと、柳也さんが言っていた様な特徴の店が見えた。
さらに近づくと、私は妙な物体が店の前の通りにあるのに気付く。よく見ると、山盛りになった鼠の死骸が圧倒的な存在感を発揮していた。
「ねぇ、もしも鼠が食えるのならば、垂涎ものの光景であるって思わない? ピロ」
「ハッ――笑止! 俺ぐらいの高貴なネコになるとこんな鼠は喰わねぇんだよ!」
「あれも……この街特有の商品、なのかな?」
ちょっと混乱している私はそんな事を口走った。
「まぁ……なんにせよ流石、レフキー。想像を遥かに越えた都市みたいだぜ……」
【牧部なつみ/青の錫杖に到着/緒方理奈とは友達】
【柳也/神奈の所へ/神奈とは同棲はまだしていない】
【神奈/己の屋敷へ/必ずしも『屋敷』であるとは限らない(神奈が自分でそう呼んでるだけかも)】
【緒方理奈/帝国領地内/歌姫として頑張っている】
なんか無駄に長くなっちまったよ……
変なところがあったら、指摘お願いします
レフキー広しと言えども、ずらりと並ぶ酒とその肴のメニューの中に、堂々とたいやきを掲載する豪気な店は此処しかない。
店の名は”甘辛亭”。
腕自慢の荒くれどもが表向きひた隠しにしている、甘党というどこか気恥ずかしい嗜好を炸裂させるためなのか、たいやき
の売上は悪くない。
もちろん……店主が居れば、だが。
「それじゃ親父さん、また来るよ」
お決まりの台詞を口にしながら、青年が小脇に包みを抱えて店から出てくる。
酒気をほのかに漂わせ、ご機嫌満開に鼻歌など唄いながら、たいやきの暖かさを確認したのは柏木耕一である。
(千鶴さん、先月ダイエットとか言ってたけど……平気だよ、な?)
どう見たって肥っちゃいない、むしろスレンダーだろ、などと酔いに任せて幸せな想像に浸りながら歩く。
そんな耕一の後ろから、大声で晩飯の内容を検討をする騒々しい声が接近してきた。
『たいやきは却下や!! さっき、拾い食いしてたやんか! 同じもんばっか食うとると、アホになってまうで!!』
『そう言うけど智子ちゃん、たいやきはきっと、さっきの鼠の丸焼きより美味しいよ?』
誰かが聞いたら「うぐぅ」と言いそうな説をぶちまけながら、ふたりが物凄い速さで耕一を追い抜いていく。
聞き覚えのある方言と、見覚えのある異国の装束である。
(あれは……浩平くんのところで、ひと騒動起こしていた娘たちだな)
職業柄、耕一は出会った相手の装備に目がいく。それは彼の人間評価の、一基準でもあるのだ。
板金鎧を着込んだ眼鏡の神官が、二本の曲刀を携えた少女を引き摺っていくのを眺めながら、耕一は鑑定にふける。
(神官さんのプレートメイルと……あのシャムシール。ふたりとも年齢に似合わず、渋いもん使っているなあ)
……などと感心しているうちに、視線に気付いた彼女たちに声をかけられていた。
覚えていたのは、耕一だけではなかったということだ。
* * *
「はーい、お泊りのお客様おふたり、お待たせしましたー」
初音がにこにこと笑みをふりまきながら、耕一と共に大皿を並べはじめる。
注文は野菜炒めと豚肉の包み焼き、そしてキノコとチーズのリゾットに赤ワインを二本である。
(初音ちゃん……このリゾットだけど……?)
一抹の不安を抱きながら、耕一は初音にそれとなく尋ねた。
(ふふ、だいじょうぶ。千鶴お姉ちゃんは二階で商談中だよ)
初音もそうだろうが、耕一も自分が連れてきた客人に、危険な物は食べさせたくはない。
……まして、客はこのふたり。どうなってしまうのか想像するだけで恐ろしい。
ちん、と軽く杯を交わして一杯ぐいっと飲みほすと、みさきは湯気のたつ料理に視力のない目を輝かせた。
そのみさきと再会して以来、食べ物は切る物だったり拾う物だったり、しまいには焼け焦げていたりで不運続きであった
智子が安堵のためいきをつく。
「普通の食べもん見るの、久しぶりやわ……・」
「……智ふぉひゃん? 早ふ食べないふぉ全部頂いひゃうよ〜」
「うわ、もう食べとる! しかも、一瞬でこんなに!?」
ここはレフキー街道沿いの都市部末端に位置する宿屋、鶴来亭。
その昔レフキーの外にあったはずのこの店も、今では都市の膨張に飲み込まれつつあり、結果として西部地方から王都を
訪れる旅人が、最初に目にする宿屋となった。
堀の水量を確保するための水路が傍を流れ、耕一の鍛冶場も同じ並びに位置している。
客室は全て二階にあり、一階が酒場となっている構造は、共和国における宿屋の基本形と言っていい。
他の宿屋と違うのは、その一階に多くの張り紙がされていることだ。
「耕一さん。……この壁の貼り紙、なんやの?」
智子が食後のワインを啜りながら、満腹感に胸を張って尋ねた。
壁一面にずらりと並ぶのは、似顔絵と書きつけである。
「ああ?」
どうしても皆の仕事中になるため鶴来亭では飲まない耕一だが、手伝いをしながら口を湿らすくらいはする。
鍛冶用の革物ではなく、布の前掛けをつけたまま、智子に注がれたワインをちびちびやりつつ答えようとした。
「初めて見るかい? それはね-----」
しかし、先ほどまで竜巻のように食べていたみさきが、一転して優雅に貴族のような面持ちで杯を傾けながら口を挟んだ。
「-----賞金首、だね。この店がそうだとは、知らなかったよ」
もともと鶴来亭は、いわゆる冒険者相手よりも更に血生臭い、賞金稼ぎや傭兵を相手に仕事を斡旋する仲介屋であった。
傭兵の斡旋は共和国との繋がりを深め、賞金の仲介は盗賊ギルドとの繋がりを深め、今の奇妙な中立状態に至っている。
もちろん智子の知らないことなのだが、流れの犯罪者を狩ることは、国家の敵とならないように犯罪を行うギルドにとって
財源のひとつであり、縄張りを保持するために必要な行動でもあるため、賞金稼ぎの多くはギルドの息がかかっている。
「賞金稼ぎ、かあ……」
智子が気の抜けた様子で言った。
盗賊の親玉を見てきたばかりなので、あまり黒いイメージはない。むしろ真面目な仕事のようにさえ思える。
「みさきさんは賞金首で稼いだこと、あるん?」
「うん、あるよ。そのころは資格も厳しかったけれど、今は荒事をこなす人間も減ってきているから、資格がなくても賞金は出るよ?」
光も故郷もあとにして、ふた振りの刀と共に今日まで生きてきただけあって、みさきは経験豊富である。
「ふうむ……」
「どうしたんだい?」
酒気を帯びながらも、真面目な表情で何事かを考える智子に、耕一が尋ねた。
「今までしばいてきた連中に、賞金首おったら幾ら損したんかなあって」
「それは……ちょっと、違うと思うよ?」
「ていうか神官だろ、君は」
珍しくツッコまれる、智子であった。
【川名みさき、保科智子:鶴来亭にてお泊り】
【柏木初音:仕事中】
【柏木耕一:お手伝い】
【柏木千鶴:二階で商談中】
毎度、挽歌でございます。
「鶴来亭」をお送りいたします。
青の錫杖>甘辛亭>鶴来亭とレフキー酒場めぐりというかタウンガイドみたいになっていますが、まあそれはそれで。
話としては、みさ智編「青の錫杖」(
>>267-269)、耕一編「梓の受難」(
>>254-257)の続きとなります。
初音は「異能の一族」(前スレ280-282)以来の登場となりますね。
僕達は、自警団の事務所へと向かった。
手錠をかけられた三人を引き連れる詩子さん、
肩を落として、あるいはてくてくと、あるいは引き摺られて連行されている三人の女性、
さらにその後ろをおっかなびっくり歩いている僕…
それは、かなり怪しい一行だった。
実際、町の人は奇異な目で僕たちを見ている。
そんな時、ふと…僕は、向こうの影に隠れてから僕たちを見ている人影に気づいた。
僕は、割とそういうことには敏感だ。
加えて、隠れている奴もそれほど上手くはない。
さて…どうしようか?
冬弥さんたちと別れて倉庫に向かった俺だったが、
途中、やけに周りが騒がしいな、と思って見にいったら、
晴子たちが捕まっていた。
くそっ、こんな事になるなんて。
影に隠れて、様子を窺う。俺に気付いている様子はない。
街中を走り抜けるには目立つから、シミターは捨てたし…
武器は、犬飼さんから貰った爆弾、残り二つだけ。
…さて、どうしようか
海賊襲撃の連絡を受けて、私は第三倉庫へと向かった。
やはり警備員では分が悪かったようで、殆どの警備員は怪我を負っているようだ。
近くにいる警備員を捕まえて問う。
「大丈夫?…被害状況は」
「あ、シンディさん。ええ、特に酷い奴は…いませんが」
「そう…よかったわ。海賊たちは?」
「自警団の人が捕まえましたよ」
自警団が。私はほっとした。やはり、困った時は頼りになる。
「ただ」
「ただ?」
「積荷の一つを、これが狙われているんじゃないかって、一時徴収すると…」
積荷の一つ?…これ?
…!!
私は倉庫の中へ駆け込んだ。赤い布を探す…
…ない。あの箱を、よりにもよって自警団に持っていかれるなんて。
中を確かめられた日には、言い逃れは出来ない。
さて、どうしよう。
【祐一 連行される三人を発見、様子を窺う】
【祐介 影から様子を窺う祐一に気づく】
【シンディ 箱(ガーラント)が持ち出されている事を知る】
というわけで、『三人の選択』をお送りします。
本当はフィルムーン周辺にいるキャラ全員のターニングポイントを書こうと思ったのですが…
時間がなくて。すみません。
どう繋げるかはお任せします。
362 :
名無しさんだよもん:02/01/25 11:17 ID:Pn8oDEAE
あげ
うむ、と七瀬彰は唸る。人混みの中で腕を組んで息を吐く姿は、少しおかしい。
魔術師が集まる街、と銘打たれたその街に、しかし魔術を使いそうな人間はそれ程に多くないと思う。
皆が皆背中に大袈裟に立派な武器を背負っているし、自分のようにローブを纏った、見るからに魔法使い、という人間は少ない。
――魔法都市ホワール。自分が住んでいた街(街の名前はあるのだろうか、彰は幼い頃からあの街を出た事がなかったので、
かの街がなんという風に呼ばれているかは知らなかったし、知りたいと思った事もなかった)
から一つ山を越えた、距離にして徒歩で二日半かかる距離にある、古めかしい建物の多い町である。
ちなみに自分の住んでいた街は、帝国領とレフキー共和国内の境に位置する街であるらしい事は、道中に雪見から聞いた。
「私も街から出るまでは知らなかったんだけどね」
苦笑する雪見の顔が、少しまだ、記憶の片隅に残っている。
しかし、自分もそんな事も知らないで生きてきたのか。いやあ、忙しさにかまけて社会勉強をサボってしまった。わはは。
てっきり自分の住んでいた街は、レフキー共和国領内だと思っていたのだが、どちらに属していた訳でもないらしい。
どちらかというとレフキーに近かった、と云うだけで、なんとなくレフキーに所属しているらしい。
まあしかし、どうせ何も無い街だから、どっち側に付いていようが差はないだろうが。
*
さて、魔術の盛んな街というのが、どういう事を意味しているのか。その事を悟るのは街に入ってから数分後の事であった。
自分の薄汚れたローブとは違う、清潔感の漂う赤い色のローブを着た子供が何人もいる。
ちょうど、それは「制服」であるかのように映る。――赤いローブの集団は楽しげに街の中を歩いている。
彼女達が歩いてきた方角をふと見ると、そこにはこの街を離れたところから見た時、間違いなく街を特徴づける大きな建物がそびえ立っている。
そうか、彰は漸く合点がいく。
「学校なんだ」
――そう。このホワールを魔法都市として呼ばせたのは。――多分、この国で最も栄えた魔法学院がある事からなのだろう。
この街自体はただの商業都市であり、内陸の中継貿易などで栄えている街なのだろう――街の入り口の市を見れば判るように。
その商業都市のもう一つの顔が、魔法学園なのだ。
国中の魔法使い志望者がここで勉強する為に集まっているのだ――それが、魔法都市の所以だ。
だが、だとしたら、――この街で聖は何をしているのだろう。
「なんとなく想像は付くけどね」
ぼんやりとしたまま街の中を歩いていた彰は、自分が人混みから離れた、静かなところに向かっている自分に気付いた。
自分はあまり人混みが好きではない方なので、自然といえば自然な流れである。
ちろちろという、水の流れる音がする方に、何も考えることなく彰は進んでいった。
そして、小さな公園のような所を抜けたところに――細い川、というよりは少し大きな用水路が見えた。――彰は小さく息を吐くと、そこに座った。
ちろちろと流れる川を見ながら、ぼう、としていると、心も何もかも埋め尽くされていくような気持ちになる。
今日は一日疲れた。宿屋をとって今日はゆっくり休み、明日から本格的に捜す事にしよう。
少し薄暗くなってきた空に気付き、彰はふとそう思った。
*
彰には確信があった。聖先生は、この街に住み着いている。旅人として放浪の旅をしていた訳ではない。
多分、魔法学校の先生として、7年間ここで生活していたのだ。
「そういう人だもん、あの人」
そうであるならば捜すのは簡単だ。教師が住まう宿舎へ彼女を迎えに行けば良いだけだから。
しかし、彼女に再会したとして、自分は何から話せばいいのだろう。
本当に話したい事や自慢したい事、問い詰めたい事。たくさんあるのだ。
取り敢えず今日は考えることなく、のんびりしていよう。
次第に水の流れが緩やかになっていくように感じる。
多分、それは錯覚なのだろうけど、ゆっくりと、氷が溶けるように、水の流れは柔らかになっていく。
水の流れに気を取られていたからだろうか(どうも最近こういう事が多い)、
彰は誰かが自分の背後に現れた事に気付かなかった。とん、という軽い音を聞いて、初めて横に誰かが座った事に、気付く。
ぼんやりとしていた彰は、はっとして自分の横に座った男の顔を見る。
綺麗な顔立ちの、――自分より幾つか年下であろう、少年だった。
身長は多分自分くらいの大きさである。体格は自分よりしっかりしているが、それでも何処か繊細なものを感じさせる。
「こんにちは」
自分と同じような真っ白なローブを纏い、その背中にはかなり大きな、弓を持っていた。
*
――いや、ともかく。
この少年は、何なのだろう。目を逸らそうにも逸らせない。彼が真っ直ぐ彰の顔を見詰めているからだ。
しかし、ただ見据えて笑っているだけで、彼は何も言葉を発しない。
取り敢えず、沈黙を破らなくちゃいけない。
「あの」
あんた、何なんですか。そう続けようと思ったのだが。
「僕、佐藤雅史と云います。東のレフキーからやって来ました」
先を越された。自分の言葉を遮って、彼は突然自己紹介を始めたのである。
「見たところ、白魔導士の方とお見受けしますが」
礼儀正しい口調で喋る彼は、少し首を傾げてそう云った。
「そう――ですけど」
「けれど、魔法学園の制服を着ていない事から、貴方は魔法学園関係者ではない」
彼は肩を竦めてそう云う。
「ええ、まあ」
彰が曖昧に返事をすると、雅史はぽん、と手を叩いて、大きなえくぼを作って楽しげに笑った。
「やっぱりそうだった。良かったああ」
……何が良かったのか。
「――それで、更に推理しますよ。魔法の知識がある程度身に付いた貴方は、更に白魔法を極める為に、ここの学校に入学しようとやってきた、そうですね」
*
ああ、そうか、と彰は思う。自分の風体は、まさしく彼が云っているような状況にぴったりなのだ。
白魔導士の格好。うだつの上がらない顔。運動が出来無そうな体格。しかし頭は悪そうではない。
まさしく魔法学園に入学する為にやって来た学生のような状況ではないか。
「いや、実は僕もなんです。僕は魔法を極めると云うよりは、魔法の応用術の勉強の為に来たんですけど」
それで、ここに入学しようと思ったんですが、ほら、時期柄「編入生」扱いじゃないですか。雅史は言葉を続ける。
矢っ張り何処でも編入生というのは惨い仕打ちを受けるものです。そんな事を笑顔で云う。
「それで、他にここに入ろうとする人を見つけて、一緒に入学しようかなあ、って」
嬉しそうに、というか、少し安心した感じの表情で云う雅史に、
いや、僕は魔法学園に入学するつもりはないんだよ、と真っ向から云うつもりであったのだが。
どうせすぐに帰るつもりな訳だし、まあ、聖先生が本来の役職に戻った後、ここで勉強するというのも楽しいかも知れないが、
取り敢えずは学園の中で先生をしているだろう、聖先生をとっ捕まえて帰るのが先だ。
なのに――彰は何故か、その瞬間不思議な悪巧みを思い付いた。思い付いてしまった、と云うか。
(こっそり魔法学園の生徒として入学する)
(その魔法学園の中では、聖先生が白魔法の先生として教鞭をとっている)
(それで、廊下で歩いていると偶々すれ違う)
(聖先生、もうびっくり。大仰天)
(ああ彰ごめん、そんなに寂しがっていたなんて)
(いやっほう!)
*
「うん――実は僕も、魔法学園に入ろうと思ってたんだけどね」
彰は笑顔で、そんな嘘を吐いた。
「あ、やっぱりそうでしたか。あはは、今日の僕の勘は何処か冴えてたみたいです」
屈託無く笑う雅史を騙した事に少し罪悪感は感じたが。
「僕は七瀬彰。東の町で医者の助手をしているんだ。よろしくね、雅史君」
取り敢えず、笑顔で自己紹介をした。
「佐藤雅史です。魔法使い見習い兼、アーチャーです」
そう云って雅史も笑った。そして、手を、さ、と差し出す。
「握手しましょう」
僕は少し戸惑ったが、すぐに笑顔を作ると、彼の手をしっかと握り、云った。
「うん。よろしくね」
どうせここで勉強したかったのは事実である。魔法使いたるもの、ここで魔法を極めたいと思うのは当然だ。
うん、そうだ。嘘から出た真、という諺もあるわけだし、聖先生をちゃんと街の医者に戻した後、ここで本格的に勉強しよう。
――彰はそんな事を考えていた。さいかは寂しがるだろうが、まああいつも大丈夫だろう。多分。
――このくだらない悪巧みが、後々大変な事になるのだけれど。
そんな事、今の彰が知る筈はない。基本的に彼は暢気なのんびり屋なのだ。
【七瀬彰 佐藤雅史 魔法学園に入学する事にする】
【佐藤雅史 アーチャー/学生】
リレーしてなくてすいません、
というか、一人だけ違う世界書いてるみたいですいません。
370 :
戸惑い:02/01/26 00:09 ID:wz44kzBt
――誰かが、この冒険で死ぬなんて、想像すらしなかった。
その場の誰もが終わりの見えない攻防に疲弊していた。
力も、速さも桁違いに違う相手に、太刀打ち出来るはずがないのだ。
さらにここまで来るまでの数々の戦闘。まともな休息すらせず戦い続けた彼等は、体力の限界にきていた。
「……はぁ、はぁ。あの三人はなにやってるのよ……っ!」
刃の欠けた斧で攻撃を受け流し、類い稀なセンスで飛翔の剣を空中で操りながら、七瀬は愚痴った。
――それでも、触れる事さえ出来ぬ刀身を操る事で精神は疲労し、受け流す事の出来ない突き抜ける様な衝撃波に心身共にボロボロであった。
「……大体、勝算がある、なんて言っておきながらどうやって救うつもりだったのよ」
この中でおそらく一番強い、ルミラが吐き捨てる様に言った。彼女だけはまだ余裕があるようだった。
「簡単よ。『こんなお菓子のおまけみたいなえいえんなんていらない』って本人、つまり舞って子が認識すれば、この世界は無価値なモノになって自動的に存在意義が失われるのよっ!」
――事実。三年ぐらい前に、ひとり、連れ戻した事はあった。
が、その時はこんな魔物は、出なかったし、何よりそいつには支えてくれる友も、やらなければなければならないこともあったのだ。
――だから、そんな子供騙しのえいえんに捕らわれる事なく連れ戻せた。
だけど、今回は違う。彼女はこの塔以外に楽しい思い出など無いのかもしれない。外に出れば迫害を受けながら生きていくのか? それを強制させるのか?
それに、あの少女は『子供』なのだ。ならば『お菓子のおまけ』が欲しくて、駄々をこねる事もあるだろう。
『待っていてくれる人がいなかったらえいえんの世界もわるくないのかもな』
……それは誰の言葉だったろうか…?
七瀬は、迷っていた。
371 :
戸惑い:02/01/26 00:12 ID:wz44kzBt
――任務。
無意識に蝉丸は剣を振るっている。熊の自然獣相手に辞世の句を思い浮かべる程、彼は何の能力も持っていなかった。
その数倍は強い相手に、剣を、振るっている。普通なら既に蝉丸が戦闘不能になっているハズだが、相手の力と速度に合わせて体が反応しているのだ。
「何千何万と振るった剣……」
紙一重で振り落とされる腕を――その先の衝撃波をも――かわして、少女の胴に剣を打ち込む。しかし、それは見えない障壁の前に意味をなさない。
「何千何万と振ったのは……何の為だ……?」
やはり、無意識の内に剣を振るいながら呟く。
――今回の任務は、秘宝の奪取。そう、あの少女の母親『そのもの』。形見。または、同族の生きた証。
それを? 万事、全てが上手くいって。秘宝を手にした時。この場に居る者達はその俺の行動をどうみるだろうか?
『ここの全ての秘宝は女王に献上するのだ!』と、宣言した俺にどんな視線を送るのだろうか?
……しかし、その小さな少女は、その守るべき小さな宝石から目を逸らし、幻想の中に母親を求めている。
「俺は王立騎士団特務部隊のリーダーだ……」
けれども、目の前の無機質な――見下す様な――瞳を見詰めていると……。己が矮小な人間に、感じられた。
蝉丸は、葛藤していた。
372 :
戸惑い:02/01/26 00:13 ID:wz44kzBt
「どっわぁぁあ〜〜っ!?」
衝撃波に吹き飛ばされ転がる健太郎。
「いくら鎧がいいからって、中身があれじゃぁ使い物にならないわよっ!!」
その醜態を見て苛立つ、ルミラ。自然に口調もキツクなる。……元々彼女は人間など信用してない。――例外もいるが。
その例外の方を見る。その女は懸命に歌っている。額に汗を浮かばせ、もう何十分も、歌っている。
彼女の歌は心に響く。心を込めて歌わなければ――いくら素質があろうとも――『歌姫』にはなれない。だから、上手くは言えないけれど、そう。『いいやつ』なのだ。――志保は。
なのに、私は。未だに全力を出さず、戦っている。彼女は一生懸命に歌ってるというのにも関わらず、だ。
私の爪をいなしながら、空中に舞う剣を気にも留めず、振るわれる剣を受け止め、放たれる拳を避けて、その合間に衝撃波を浴びせている。
不意に、空中に浮くその少女の瞳を見た。
『あなたたちにはどうせなにもできないんだ』
――その瞳がそう語っている気がして。
私は――切れた。
魔力を込めた拳で殴りつける。障壁なんてそれを超える力を叩きつければ、意味なんて無い。少女は避ける事も出来ずに吹っ飛んだ。
「……もう、いいわ……」
皆が呆然として私を見ている。
「ここは私一人に任せて。アトの全員はあの少女の所に行ってちょうだい」
「ちょっ!? ちょっと! 一人でなんて無理よっ!」
「今の見たでしょ!? 貴方達がいくら挑んでも傷一つつけられなかったくせに大口叩かないでよ!!」
三体から、一体に合体したのも都合がよかった。
「逃げろ、って言ってるのよ! でないと誰かがホントに死ぬわよ……」
【ルミラ/一人で戦う事を決意/力勝負は魔物とほぼ互角】
【蝉丸・七瀬・健太郎・セリオ・志保/ルミラの言う事に従うか、反発するか、共に戦うか】
【魔物/今の所ほぼ無傷/戦い方が未熟っぽい】
【必ずしも七瀬の言った方法のみが唯一の連れ戻す方法とは限りません(一例に過ぎ無い)】
話としては魔物が合体したアトの話ですね〜。
蝉丸はこんなことで悩むのか?と思いつつ、セリオの目的がイマイチ不透明なので今回はセリフ無しです(ぉ
楓と晴香は何時頃秘宝塔に到着するのだろうか……? つうか二人とも秘宝塔目指してんのか?(汗) イマイチ自身無いな……
変なところがあったら、指摘お願いします。
「…まったく、こんないい天気に、陰気くさいったらありゃしない」
ぽんぽん、と手をはたきながら、一人の女性が言います。
もう一人は馬車の中に入ると、耳を塞いでじっとしている二人の肩を、ぽんぽん、と叩きました。
「……?」
怪訝そうな表情で見上げる少女、美凪。
「あの、あなたあの男の関係者?」
「あの男?」
首をかしげる美凪に、その女の人、はるかは言います。
「ワーワーわめいてヒキガエルみたいにのたうち回っていた、男性のことだけど」
「…カエル…そうかもしれません」
「ふーん…やっぱりそうなのね」
「カエルかぁ〜。あたし、カエルは駄目なんだよねぇ」
ひょい、と馬車に入ってくるのは松本です。遠慮のかけらもありません。
「私も…カエルは苦手です」
「そう?意外とイイよ〜?こりっとしていて。酒漬けがベスト」
「お酒に漬けるならむしろ蛇のほうがよくないかしら?」
「…蛇は苦手です…足が無いから」
「そういえば、わたしもミミズは苦手ね」
なんとなく盛り上がっているような…でも、脈絡の欠片も無い話です。
「うう…なんかおかしいよぅ…」
呟いてみるみちるでしたが、もちろん、誰にも理解してもらえません。
というか、この面子に筋の通った言動を期待するのが間違いのような気がしてきました。
今度は恋愛運の話に移行している年上三人を残して、みちるは馬車の外に出ました。
「…森を抜けたんだ」
目を閉じて、耳を塞いで…それは半分敬介の喚き声のせいもありましたが…じっとしていて。
目を開いたら、見渡す限りの草原。
夢のような感覚でした。目を閉じる前に広がっていたのは、鬱蒼とした森だったのに。
ささぁ…
吹き付けた風に、乱されないよう髪の毛を抑える。
キィの国は、素朴で平和で…でも、山と森に囲まれていて、こじんまりとしていて。
何も無かった。穏やかな空気。それはそれで悪くないけれど。
ささぁ…
草原の草を揺らす風。吹き流れる涼やかな風。
それは爽やかであり、そして冷たくもある。
それは漠然とした予感でした。けれど、みちるは確かに感じたのです。
この先に、何かがあるのだろうと…
そして風に混じって聞こえてきたのは。
ぅぐぁ…
「うにゅう…雰囲気台無し…」
みちるは、溜息をつくと、とりあえず、敬介の足首をつかみました。
割と、力には自信があるのです。
「みちる、おいで」
馬車に戻ると、美凪が手招きをしています。
何?と首を傾げてみると。
「うぁ〜かわいい〜っ」
「この子が、あなたの妹さん?」
「はい…自慢の妹です」
なんだか、玩具のように見られている気もしましたが、美凪の言葉が嬉しかったので気にしないことにします。
いつものように、みちるは特等席…美凪の膝の上…に座りました。
「いいなぁ。ぷにぷに〜」
「少しの間だけど、よろしくね、みちるちゃん」
ぺたぺたと自分を触る年上二人に、いやあな予感を感じながら、みちるは美凪を見あげました。
「美凪…えっと」
「はるかさんと松本さんです。…ご挨拶は?」
「えっ?…えとうんと。みちるは、みちるだよ」
促されてなんとなく挨拶してみると。
また二人はきゃあっと騒いで、ぺたぺた触ってきます。少し痛いです。
「美凪ぃ…」
「実は、お二人にレフキーまで同行していただくことになりました」
「にょわ!?なんで!?」
「お話が盛り上がりまして…」
「うにゅ…」
あの内容でどう盛り上がったのかはなはだ疑問でしたが…ある意味興味深いかもしれませんが。
残念ながら、みちるにはその感情を表現できるほど語彙が豊富ではありません。
こうして、二人の旅にまた同行者が増えたのでした。
【美凪 一路レフキーへ】
【はるか・松本 何故か美凪たちに同行。豪快に任務放棄】
【みちる とりあえずはるか・松本の玩具】
【敬介 一応みちるが回収】
というわけで、『みちるの受難』をお届けします。
ごたごたあったけど、敬介はともかく、美凪とみちるまで放置モードはなんですし、
…何とか軌道に乗せられたらなぁ、と思います。自信ないですけどね…
>369
久しぶりの続編、ずっと待ってましたぜ。
引き続きよろしく!
>>378 激しく同感だが、けじめとして感想は感想スレでよろ〜(w
僕は、たった一人で、そこに佇んでいた。
隣りには女の子がいる。よく知った人。僕の愛した人。
ずっと、一緒にいたいと…言ってくれた人。
隣りにいた。でも、僕は一人で佇んでいた。
会う事も出来ない…
抱きしめる事も出来ない…
声をかけることも出来ない…
彼女のいる場所は、とても高くて。
皆が彼女を褒め称えて。
それに応えるだけの実力を持っていて。
一人の人間として愛するには、彼女は眩しすぎた。
そして、何時しか、彼女の側にいる事を辛く感じるようになった。
自分が、どれほどつまらない人間なのか、思い知らされるから。
僕は、一体彼女にとってどんな存在なんだろう。
そんなことを考える日々が続いた…
そして、ついに。
僕は、逃げた。
あの場所から。
…彼女から。
「ふん…終わりか」
つまらなさそうに、呟く柳川。周囲には累々と屍が重なっている。
そして、当然の如く、柳川自身は無傷だった。
戦いは、快感だった。燃え上がる命の炎は世界を鮮やかにするからだ。
だが、命の駆け引きが好きなのであって、殺す事が好きなのではない。
殺すな、といわれれば、殺さない程度に手加減する事も出来る。
柳川は剣を鞘に収めると、一人の男の服の襟首を無造作に掴む。
そして、後方に振り向いた。
「何をしている。さっさと出てこい」
「ひッ…」
びくり、と体を震わせたのは、自警団員。
おそらくは、貴之が人員を割いてよこしたのだろう。
「別にとって喰いはせん。早くしろ、作戦中だぞ」
おどおどと、数名の自警団員が影から出てくる。
皆、何かしらの戦闘訓練を受けているようだが、柳川の凄まじい強さに腰が引いている。
ふん…柳川は一度鼻を鳴らすと、掴んでいた男を自警団員の前に転がした。
「海賊の一人を捕らえた。牢にぶち込んでおけ。気を失っているだけだから、油断するな」
「は、はい!」
「散らばっているのは傭兵どもだ。民間人はいない。適当に処理しろ」
「はい!」
「俺は他の連中の援護に行く。後は適当にやれ。意味はわかるな?」
「はっ!」
当然のように命令する柳川、何の抵抗もなく承諾する自警団員たち。
それは、柳川が認められたことを示していた。
【柳川 戦闘終了。他の場所へ移動開始】
【冬弥 捕縛。牢へ輸送】
あれ、題名抜けてる…すみません。
『男の強さ』をお送りします。
冬弥も捕まり、相沢一家ボロボロです。
下手したら、このまま、解散、消滅もありえるかも…
まあ、次の書き手次第ですけど。
「馬鹿、言わないで」
志保の声は、度重なる『歌』の使用によって掠れ、疲労と痛みから、苦しげに言葉を紡ぐ。
「手段を問わないなら、始めからやってるわよ……げほ、それが出来ないから、こうやって…!」
いきなり、志保の目の前に迫った手を、ルミラが受け止める。
鈍い閃光が迸り、反発作用によってルミラは跳ね飛ばされた。
その身体を、志保が受け止める。
「……大体、あんただって殺せないでしょうが……ここであの魔物を消せば、あの子の精神を破壊する事に…げほ」
魔物の方は、ルミラ以上に跳ね飛ばされ、地面を転がっていた。
その姿が、志保の『歌』が途切れた事により、徐々に背景に溶け込んでいく。
だが、魔力を感知できるルミラにとっては、元々『歌』のサポートは不要のものなのだ。
すでに使い物にならなくなった斧を捨て、七瀬は宙を舞っていた剣に手を伸ばした。
「そういう事…ね。あたし達の目的は、足止めよ……殺す事じゃないわ」
セリオもまた、満身創痍ながら、しっかりとした動作で、再び構えを取る。
「信じましょう、彩さんを、浩之さんを、そして佐祐理さんを」
「どう? 人間は、信じるって事が出来るのよ……あの馬鹿ヒロなら、きっとやってくれるって、ね」
志保はウィンクをすると、再び『歌』を歌い始めた。
「あんた達………馬鹿よ」
ルミラは顔を背け、ゆっくりと立ち上がる魔物と対峙する。
その横に、蝉丸も、七瀬も、セリオも並ぶ。
そして、健太郎も慌ててその列に加わった。
「あんたはどっちかというと、いない方が楽なんだけど」
「ガ――――――――――ン!!」
健太郎は思わず、剣を取り落とした。
「まあまあ……枯れ木も山の賑わい、攻撃の的が増えたと思えばいいじゃない」
「ううう……」
七瀬の容赦ない言葉に涙しながら、健太郎は剣を構えた。
「そ、そうだ、この剣って確か、炎が出るんじゃないか!」
健太郎の脳裏を、志保の言葉がよぎる。
『ま、武器無しのままって訳にもいかないだろうから、これ貸してあげるわ……
一応炎の魔剣なんだけど、耐熱の魔法が甘いらしくて、グリップも燃えるのよ。
だからよっぽどじゃない限り、炎は出さない方がいいわよ……でも高いから、後でちゃんと返しなさいよね』
「え、えっと、確かキーワードは……」
健太郎がもたもたしている間にも、ルミラを先頭に、七瀬、蝉丸を両脇に、セリオをサポートに、
見事なフォーメーションで、四人は魔物に立ち向かっていく。
「あああ、待ってくれって……た、確か……『灼熱の竜の吐息よ、この剣に宿れ!』…だったかな」
健太郎が言葉を唱えたとたん、持っていた剣が、瞬く間に赤い炎に包み込まれた。
しかし、それに終わらず、なんと剣のグリップまでもが燃え始めた。
「うわっ……あちちちっ!」
思わず取り落としそうになりながら、健太郎は何とか剣を握りなおした。
魔力の篭った鎧のおかげで、炎に包まれているにも関わらず、せいぜい熱湯に浸けている程度の熱さだ。
耐えられないほどではない……まだ、今は。
「うおおおおおおおおおおおっ!!!!」
「あ、あの馬鹿っ!!」
背後から聞こえて来た健太郎の声に、ルミラは舌打ちした、
役に立たないならせめて、じっとしていればいいものを……まぁ、あの鎧だ、本人は死なないだろうが、
下手をすれば、回りを巻き込む可能性もある。
だが、健太郎の手に、燃える魔剣が握られているのを見て、ルミラは少しだけ目を見開いた。
『い……いやあああああああああああっ!!!!!』
その絶叫を上げたのが誰か、七瀬にはわからなかった。
聞き覚えのあるような、無いような声だったのだから。
だが………その悲鳴を上げているのが、当の魔物だと気付いた時、誰もが言葉を失っていた。
『火っ……火いやぁ、怖い、怖いよおおおおおおっ!!!』
平穏な村を追い出されたのは、小さなきっかけだった。
元々、一人で遊ぶのが好きだった舞は、森の中で動物たちと戯れる事が、よくあった。
完全に打ち解けているとは言えないが、母娘は、それなりに村に溶け込んでいた。
……猟師の一人が、舞の『力』を目撃するまでは。
傷付いた獣を追って入った猟師は、森の奥で、その動物の傷を癒す、舞の『力』を見てしまったのだ。
……闇の中、村人達が持つ松明が、何十個となく揺れていた。
村人達は、炎を手に、舞と母を追い立てたのだ。呪われた魔族を、塔に封印する為に。
舞は、炎から必死で逃げた。
今まで住んでいた家が、真っ赤な炎に包まれるのを、母に手を引かれながら、呆然と見送った。
「魔物を追い出せ……」
「村に災いをもたらす、魔物を狩れ……」
炎が、口々に舞と母に、呪いの言葉を吐きかける。
幼い自分は、ただ震えるしかなかった。
自分を追いかけてくる炎。炎。炎。炎。炎。
逃げなきゃ、逃げなきゃ、にげなきゃ、ニゲナキャ……………焼き殺される!!
舞は、絶叫した。
世界が、ぐにゃりと歪む。
「ど、どうなってるのよ、これは!!」
狼狽したルミラが叫んだとたん、今までのどかな原っぱだったのが一転、夜の森に変わった。
その中に、無数の炎が浮かんでいるのを、誰もが身動きひとつ出来ず、凝視していた。
「この子の………記憶の断片!!」
七瀬が叫び……次の瞬間、全員が、巨大な炎の塊に呑み込まれていた。
セリオは、一人佇んでいた。
「――綾香様」
セリオの声に、彼女は振り返る。
「あたし、旅に出る……冒険者に、なるの」
揺ぎ無い自信と意思に支えられたその台詞に、セリオは返す言葉が無かった。
「それじゃ、後の事よろしくね」
――――――行ってしまう、綾香様が。
『でも……もし、彼女が帰ってきてくれるなら?』
『なーんて、冗談よ、セリオ。あたしは何処にも行かない。あんたのそばにいるわ』
気が付くと、彼女は自分の横にいた。
彼女が出て行ったと思ったのは、単なるデータバグだったのだろう。
セリオは安堵すると共に、彼女がずっといてくれる事を望んだ。
……そう、『えいえん』に。
誰かの笑い声が聞こえてきて……すぐにセリオは、どうでもよくなった。
「えいえんはあるよ……ここに、あるよ」
七瀬は一人、夜の教会の裏にいた。
両親共に傭兵だった留美は、孤児院を開く由起子の所にも、よく遊びに来ていた。
親が留守にしがちで、由起子がよく留美の面倒を見てくれていたのだ。
だが、留美が教会へ通う理由は、もう一つあった。
「……折原、どこ?」
剣の練習を終えた頃には、夜のとばりが、幾重にも重なって留美を包み込んでいた。
その月明かりの中、留美は夜中に出かける、折原の後姿を目撃していた。
好きだったのだ……彼の事が。当時はわからなかったが、今なら、わかる。
だが、七瀬は満月の下で、「それ」を見てしまった。
互いに服を脱ぎ捨て、たどたどしく唇を、肌を重ねる、折原と長森の姿を。
『えいえんはあるよ……全てを望めば、世界はその通りになるんだよ……』
次の瞬間、絡み合う二人の姿は、折原と……七瀬自身になっていた。
折原の手が、七瀬の肌の上をすべり、優しく愛撫を繰り返す。
「違う…」
胸の先端を口に含まれ、七瀬は吐息を漏らす。
かつて感じた感触をなぞるように、折原の手は七瀬の、滑らかな肌をさすり、下に降りていく。
「……違わない。これが、現実さ」
折原の優しげな瞳に、七瀬は血が滲むほど、唇を噛み締めていた。
「………違う………違うのよ!!」
七瀬の絶叫が、幻影の折原を、打ち払っていた。
「あたしには、効かないっ……!! えいえんの幻影に負けるほど、あたしは弱くないっ」
零れ落ちる涙はそのままに、七瀬は片手を振り払った。
「なめないで……七瀬なのよ、あたし!!」
【ルミラ、七瀬、セリオ、蝉丸、健太郎、志保、折原みさおの精神攻撃に呑まれる】
長瀬です…
すいません、全員分フォローなんて大それた事、出来ませんでした。
なので、二人だけ。しかも長くなってしまいました。
「ごちそうさまなのだよ」
――唖然。
保科智子は目の前に平らげられている皿の山を見て、口を間抜けに広げて、呼吸とも溜息とも吐かぬ息を吐くしか出来なかった。
人間なのか?
まず、そう思う訳でありました。いや、結構付き合いも長いので、彼女が大飯ぐらいだと云う事くらいは知っていたけれど。
「お腹減ってたから、今日はたくさん食べちゃったよ」
……太らない、のか? いつもこれだけ、自分の10倍(大袈裟……か?)は食っていて、それでこの体型か!
「お姉ちゃんすごく美味しそうに食べてくれたから、作った甲斐があるよー」
「本当、こっちまでお腹一杯になるくらいの食べっぷりだったね」
柏木初音の可愛らしい笑顔。柏木耕一の爽やかな笑顔。
――突っ込まないのか? なあ、あんたら突っ込まんのか! そう云いたくなる。
「すごく美味しかったから、もう食が進んじゃって」
川名みさきも笑顔で返事をする。呆然としていた智子は、世の中の不条理に涙を零しそうになった。
……神様はなんて不平等に人を作るのだろう。自分は、こう、目方を増やさない為に、毎日毎日苦労していると云うのに。くそう、もう神様なんて信じへんっ。
神官にあるまじき発言である。
*
お腹も一杯になった二人は、取り敢えず休む事を考える。
「今日も結構歩き回ったもんなあ。取り敢えずのんびり休みたいわ」
苦笑いしながら云うと、みさきも笑って同意する。
「お腹一杯になったら眠くなるものだしね」
よし、成立。まだ陽は沈んでいないが、今日は取り敢えずお休みなさいだ。
智子が初音を見て目配せをすると、初音は笑顔で頷き、とことことカウンターの裏へと駆けていった。
そして、少し薄汚れた帳面を手に戻ってくると、
「宿帳にお名前書いてください」
そう云って、帳面と羽根ペンを差し出してきた。
帳面に自分の名前を書きながら、智子はふと気が付く。
目の前の、小一時間程前に仲良くなったばかりの友達に、まだ名前すら告げていない。
「せや、まだ自己紹介してなかったような気がするわ。うちは保科智子。神官ちゅーか、まあ、神官をやっとる。んで、こっちが」
――ぶる、と震えたのは。
振り返ったみさきの顔に、何処か鬼気迫るものを感じたからである。
「――来たッ」
小声でだが、みさきは確かにそう云った。
「な、何云うとる――」
*
「ごめん、智子ちゃん、ちょっと先に書かせて」
そう云って帳面を智子から奪い取ると、そこにみさきは名前をさらさらと書く。
「川南早紀」と、書かれてある。
あれ? なんか、字が違う……智子は眉を顰める。何でみさきは偽名を使っているのだろう。
そして、字も、昔見せて貰った時と全く違う形である。とても同一人物が書いたとは思えない、字であった。
「ちょっと外に出てくるね。少ししたら帰ってくるから」
「もうすぐここに、わたしを捜している人が来ると思うんだけど――もし何か聞かれても、知らない振りしてね」
そう云った。そして、初音の方を見て笑むと、
「わたしは川名みさきって云うんだ。ちゃんとした自己紹介は、二時間ほど後、帰ってきた後にするよ」
それだけ言い残すと、みさきは立ち上がり走り出し酒場を飛び出し、人でごった返している街の中へ駆けだしていった。
――呆然と、取り残された三人は状況が掴めないまま、そこに座ってみさきが駆けていった先を見詰めていた。
会話が長く止まるのを嫌ったのだろうか。
「……えと、俺は柏木耕一。この街で鍛冶屋みたいな事をやってる。よろしく、智子ちゃん」
それに続くように、初音も口を開く。
「あ、わたしは柏木初音です。この宿屋で働いています。よろしく、智子お姉ちゃん」
そして智子も、呆然とした顔をなんとか立て直して、
「よろしゅう」
そう云った。
*
その時――――――ばたん、と音がした。
先程のみさきの言葉によって神経過敏になっていたからだろうか。智子も、耕一も、初音も、扉を開けた存在に注意を向ける。
――そこに現れたのは、ちょうど智子と同じくらいの背格好をした、綺麗な女の子であった。
美しい真っ直ぐな剣を背負い、真っ黒なローブを華麗に纏っている。
少しきつい印象を与える目はしているが、穏やかな物腰で、とんとんと跫を立て、カウンターに近付いていく。
「宿屋、取れるかしら」
そう、綺麗な声で云う。別段変わった様子はない。初音は普通通りに応対を始める。
「あ、はい。お一人ですか?」
「ええ。取り敢えず一泊したいんだけど」
「判りました。宿帳に名前書いてください」
「保科智子」・「川南早紀」と書かれた帳面と羽根ペンを渡すと、その少女は慣れた手つきで名前を書く。
初音は書かれた名前を見ると、
「深山さんですね。それじゃあすぐにお部屋に案内しますか?」
笑顔でそう云う。深山と呼ばれた少女は
「ええ、お願いするわ。長旅で疲れたみたいだから」
小さく息を吐くと、苦笑い、と云った体で笑うとそう云った。
「――川南早紀、ねえ」
彼女は、そう呟いた。前もこの偽名だったじゃない――そんな呟きが、聞こえたような気がした。
「ねえ、貴方」
深山と呼ばれた少女は、やけに穏やかな声で、智子を呼ぶ。
「なんや?」
平静を装って、智子は返事をする。
「川名みさき、って娘を捜しているの。知らない?」
心の波がざわめくような。穏やかな潮が引いていくような、そんな感覚。
まあ、知らないとは云わせないけどね。雪見は少し笑ってそう云った。
【深山雪見 レフキー到着。みさきを捜す為にやって来た】
【川名みさき 雪見の到来を察知し、逃げ出す。ほとぼりが冷めるまで街の中を逃げ回る予定】
【保科智子 柏木耕一 柏木初音 呆然】
「澪、南さん。よく聞いて……。
……秘宝塔の秘宝は諦めましょう」
茜は厳かに言った。
表情には多少、焦りの色が浮かんでいる。
「帝国が本気な以上、私たちのような冒険者が関われるレベルではないです……。
組織を直接敵に回す危険を冒してまで秘宝を求めることにメリットがあるとは
思えませんし、それに……」
――脳裏に浮かぶ黒い鳥。
奴は危険だ。
「それに?」
「……いえ、なんでもありません。
ともかく、これ以上秘宝塔に関わらないほうがいいと思います」
きっぱりと言った茜に、澪もうなずく。
『そうするの』
よく見るとスケッチブックを持つ手が震えていた。
黒い鳥の放つ、魔力のプレッシャー。
経験未熟ながらも秘めたる魔力の素養のある澪はそれを察知し、
怖がっているのだ。――たぶん、本人も無意識のうちに。
「じゃあ、まあ秘宝はやめとくか。
数十人の兵士を相手にするわけにもいかんしな……」
明義はあまりわかってない感じであったが、秘宝塔攻略を諦めることに依存は無いようだ。
秘宝村の住人のことは心配だけど、
こちらが明らかに戦力不足な以上はどうしようもない。
「では、ここを去りましょう。
……大丈夫です。宝物というものは、他にもいっぱいありますから」
茜は、微笑んでみせた。
別に目標を失ってもそれはかまわない。
また新しい目標を見つければいい。
大切なのは仲間が側にいることなのだ。
しかし、三人が立ち去ろうとした、まさにその時。
「そこにいるのは誰!?」
女性の張り詰めた声。さっき、訓辞を行っていた人物の同一のものだ。
おそらくは、帝国軍の将軍格。
(……気づかれた!)
女将軍の他にも数名の気配がする。
ここで戦闘を起こすわけにはいかない。
もしこの場の敵を倒したとしても、援軍を呼ばれてそれで終わりだ。
「走ってください!」
茜は二人に聞き取れる最小限の声を発し、澪の手を取って走りだす。
すぐ後ろに明義も続く。
そのまま全力で、見通しの悪い林の奥へと突っ切った。
「……はぁ……はぁ」
茜は息が切れて、苦しさのあまりに前かがみになる。
……最近、運動不足だったかもしれない。
明義はさすがに戦士らしく、板金鎧をつけながらもわりと平気そうだったが。
ともあれ、追っ手の気配もなくうまく逃げのびることができたようだ。
「なぁ里村。……何か足りない気がするんだが。気のせいかな?」
「……え?」
息を整えながら、明義の言葉の意味を考えてみる。
……確かに、何かが無いような気がする。
何だろう。
…………。
……。
「み、澪が!」
「澪が!」
澪がどこにも見当たらない。
茜はしっかり手をつないだつもりだったのだが、どこかでほどけてしまったらしい。
情けない失態だった。
「……探しましょう」
「ああ」
引き返すのは危険に違いない。
でも、澪を見捨てようという気持ちはこれっぽっちも無かった。
帝国軍を警戒しながら、二人はもと来た方向へ走る。
「発見しました!」
斜め前方で、部下の声。
生い茂る草葉のせいで視界が悪くて見えないが、
吉井は声のしたほうへ向かった。
――木二つ分を越えた先。
そこには部下と、へたり込んでおびえる少女の姿があった。
「……女の子じゃない」
あまりにも怖がっていたので駆け寄って肩を抱いてやる。
「怖がらないで、大丈夫よ」
少女は恐怖から開放されたように吉井にしがみつく。
「よ、吉井様!」
兵士が何やら止めようとしているが、
「心配ない」
と断っておいた。
あらためて少女を見る。
服装からして魔術師のようだ。ということは、冒険者なのだろうか。
「えっと、お嬢ちゃん。ひとつ聞きたいんだけど?」
……うん、と少女はうなずく。
「秘宝、持ってるかな?」
ぶんぶんっ、と首を横に振った。
所持していた道具袋にもそれらしきものはない。
大方、この村に到着したはいいが入れなかったのだろう。
だとすれば村人になりすます作戦がバレている。
最優先任務は秘宝の奪回。
それ以外の無益な武力行使は避けるべきだ。
だが、この少女をみすみす放してやるわけにもいかないだろう。
一番妥当な処置は捕獲というか、手元に置いておくべきだと思う。
他にも仲間が居るのは明白(この少女一人では冒険できそうにない)であり、
そうした奴らへの牽制力になる。
情報漏洩や、体裁のことも考えるとやはり最善の処置だと思われる。
……それに何となく、この少女を一人でほっぽり出すのはかわいそうな気がした。
「では、この女の子を連れ帰ろう」
「了解」
兵士の一人が、少女の両手を後ろ手に縛る。
……ものすごく不安げな顔をしている少女。
「怖いことは何もしないから。ただ居てもらうだけよ。
三食ベッドつきだから安心してね」
(……澪!)
やっと見つけた。
しかし、残念ながらすでに彼女は帝国軍に囲まれていた。
「くっ!」
明義が剣を抜き、飛び出す体勢に入る。
「待って下さい。ここで出ていってしまっては全員殺されます。
7対2ではさすがに勝ち目はありません……。
……帝国軍も、何も澪をすぐ殺そうというわけでもない様子です。
恐らくは、捕虜にするつもりでしょう……」
声が震えているのが自分でもわかる。
しかし、それとは裏腹に紡ぎ出す言葉は至極冷静なものだった。
「そうか……」
「……だから、捕虜とされている間に澪を救出するしか、今のところは手がありません」
もちろんそれも多分に危険なのだが、今のこのこ出て行くよりはマシだ。
やがて澪の両手が縛られ、兵士たちに連れて行かれた。
将軍格の女性も引き上げたようだ。
……後に残されたものは、重苦しい空気。
それと――
「……これは…」
澪のスケッチブック。
茜はそれを拾い上げ、自分の胸元で抱きしめる。
伝達手段を失った彼女は落ち込んでいないだろうか。
言葉をしゃべれないのに尋問を受けて泣きはしないだろうか。
そんなことが気がかりだった。
「……必ず、助けてあげますから」
茜は目を閉じ、声に出してつぶやいた。
突然現れたその巨大な廃墟は、行き交う旅人で賑わうレフキー街道には全く相応しくなかった。
その規模からして、在りし日には二千人ほどの人口を有しただろう。今は使われなくなった旧街道(と言っても、新街道から南に数百メートルも離れていないのだが)上のその都市の廃墟を目にして、リアンの足が自然と止まる。
「あれは……」
「ああ、あれか? 前の戦役で滅ぼされた街だって聞いたよ」
その問いを受けることは予期していた。傍らを歩む和樹も足をとめ、厳しい眼差しをその廃墟へと向ける。
「住民のほとんどが亡くなってしまって、再建される目処もないらしい。今はアンデッドの巣窟になってるそうだけど……ひどい話だよな」
「前の戦役……」
その単語を鸚鵡返しに呟いて、リアンの表情が曇った。
前の戦役。
大庭詠美がレフキー女王に即位するわずか前、大空位時代と呼ばれる十数年間の純共和制への回帰が見られた時期の終わりにやって来た破局。
それまで、ダリエリ大帝の即位以後十年間以上にわたり行動を控えてきた帝国軍が、突如として"軍神"ガディムの神下ろしを宣言して始まった大戦。
破壊神の降臨を防ぐために帝国領内に攻め込んだ共和国軍は、ニノディー城の決戦でガディム復活の中心だった帝国の宮廷魔術師ドーバンを討って神殿を破壊。
反撃を受けてニノディーを保持できず、大将軍柏木賢治をはじめ多大な犠牲を払いながらも、見事その企みを阻止した――はずだった。
しかし、それは帝国のダリエリ大帝が仕掛けた非情な策略だったのだ。
狂信的なガディム信者からなる捨て駒の兵団(彼らは軍神としてガディムを奉じる帝国にとっても、厄介者の集団だった)が南部で共和国軍を一手に引き受ける間に、北部から侵攻した帝国軍の本隊は瞬く間に共和国の友邦グエンディーナやキィ国の国土を席捲した。
両国は国土の半分を帝国に奪われ、キィ国の独立以来数十年ぶりに帝国と共和国は北部でも国境が直結。
国境の帝国貴族を調略し彼らを離反させることによって保たれてきた共和国の安全保障政策は崩壊したのだ――
(五行空けて)
「まだ、あちこちに傷跡が残ってるんだ。戦争から二年しか経ってないから、当然かもしれないけどな」
前の戦役では、一時は首都レフキー近郊まで帝国軍が進出した。この破壊し尽くされた街も、その時に狂信者の手で滅ぼされた街なのだろう。
帝国軍の攻撃を受けた都市の中には、未だ攻防戦による破壊の痕を生々しく残すものもある。
たとえ表面上はその傷が癒えていたとしても――
「……傷跡は、ずっと残ります。もし目に見える形としては癒えたとしても、人の心の中にはずっと……」
「……リアン? ひょっとして……」
小さく、か細く。風の中に消え入るような声で呟いて。
哀しげに俯く彼女の様子に、和樹が案じるように言葉をかけた。
あるいは彼女も戦争で被害を受けた一人なのかもしれない。そう察し、なんと言葉を続けて良いかわからず、ただ俯いたままの彼女に寄り添うようにして佇む。
ちょうど他に街道をゆく者の姿もない。廃墟の向こう、海から吹きつけてくる強い潮風が唯一の音の源。
時間にして一分にも満たないその無言の間が、和樹にはとてつもなく長い時間に感じられた。
目の前で哀しげな様子を見せる女の子一人、慰めてやれない自分が苛立たしい。かと言って、無神経な言葉をかけてさらに傷つけてしまうのは論外だ。
わずかの間にさんざん思い悩んだ末に、ともかく会話を再開するのが先決だ、そう腹を括る。
「……あのさ、リアン――」
ようやくそんな腹を決め、言葉をかけようとしたところに、
「すみません、和樹さん。おかしなところ、見せてしまいました」
リアンが一転笑顔で顔をあげ、そしてぺこりと頭を下げた。
「あ……」
「そろそろ行きましょう。のんびりしていたら、次の宿場街に着くまでに日が暮れちゃいますよ?」
よほど鈍い者でもなければ、一見して無理をしての笑顔と知れる。歩き始めたリアンの浮かべた笑みは、まさしくそんな笑みだった。
だからこそ、和樹はそれ以上この話題に触れることを躊躇った。諦めた。
触らないほうが良い傷口というものがある。リアンのこの傷口は、きっとそんな類の傷口なのだろう。これ以上、触れるべきではない。
レフキーまでの道中の契約だけの契約に過ぎない、自分の立場を思えばなおさらだ。
「ああ、そうだな。少し急ごうか?」
だから和樹は先ほどのリアンの様子を忘れることにした。
魔剣『阿修羅』を背負いなおし、滅びた街を一瞥して和樹もまた歩き出す。
……目的地レフキーまで、あとわずかである。
【千堂和樹】レフキーまであとわずか。
【リアン】 過去に帝国と因縁?
グエンディーナの名前そのまんまはチョンボかな?
>>198-202からのリレーでした。
>>402に注釈つけるの忘れてた……。
【上月澪 捕虜になる。スケブ失う】
【里村茜、南明義 澪の救出へ。スケブ所持】
【吉井 澪を捕まえる】
どうもすみませんでした(汗
帝国からも共和国からも支配されない自治領アレストタルトは牧畜を中心とした供給都市の所以をもっていた。
長閑でありフェアリーテールにも謳われるノームの森は、悪戯好きな妖精が彷徨いこんだ冒険者を迷子にもさせるが、
森を抜けた高原ユリスは約束の大地とも呼ばれていて、たどり着いた冒険者に幸運の祝福を与えるとしても有名だった。
ただ、首都パーレムは最近よくない動きを見せて、街の治安が著しく悪化している。
両国に支払う謙譲金が年々増加の一方をたどるせいだ。これに不満をもたないアレストタルト国民はいない。
人々は囁く。武力放棄のしわ寄せがこれでは割に合わないではないか。
この国では安全は高価だった。
だが、この主張を影で嘲笑うものもいる。
もちろん常人ではなく、裏で仕事を請け負うものたちである。
彼らの理論はいたってシンプル、弱肉強食は世の常であって力を持たないものが悪なのだ。
そして、そんな裏で生きるもののひとりが、首都から離れたこの町にもいた。
『暗殺請け負います』
気の利いたフレーズの看板を玄関に恥ずかしげもなく貼り付けたこの店を『幻想館』という。
今は昼下がりであり、館の主は、紅茶を口に入れて、読書に励んでいた。
容姿に特徴はない。体格も中肉中背。
主の名を、斉藤、と言った。名前はない。当の昔に捨てたからだ。
彼を、プッシュ、と呼ぶものもいる。
大概、仕事相手は彼のことをそう呼んでいた。
読書の相棒は、『Filsnown』。この大陸の戦記であり、神話であった。
『ただ、問題はあった』
プッシュ斉藤は、興味をもった一文を丁寧に読み返している。
『やつらは、復活する恐れがあるのだ』
『わたしは、これを防ぐために二百十三の呪法を試したがすべては徒労に終わった』
『こいつに比べたら、伝説の暗黒龍も裸足で逃げ出すだろう』
『しかし、まだ手はある』
『二百十四番目の呪法をわたしは試みることにする』
『これは、危険な賭けになるだろう』
『ただ、わたしが力不足だった時のために、この術の詳細をここに書き記そうと思う』
『それは――』
プッシュ斉藤は、ここで眉をひそめた。
これ以上先は、読めなかった。
知識のせいだ。自分では不足していることは否めない。
「ロスト」
溜息を付くように呪文を唱えると、彼の手元から本は消えた。
プッシュ斉藤に仕える唯一の魔術だった。この呪文の効力は本自体に初めから魔術文字として描かれている。
ただ、この書物は自分のものではない。意図なく乱暴に与えられたものだった。
押し付けられたとも言う。
『これは、わたしには必要ない』
プッシュ斉藤は胸中で老人の言葉を思い出した。
もう、随分前のことになる。
「ブック!」
何気なく唱えて再び本が彼の手元に現れる。
本の題名は――真実の意味で、『ETERNAL』と表示されてあった。
大きくて、分厚い赤い本。
「秘宝塔……秘法、とも言われるそれは本来、世界図塔と呼ばれていて、世界の核となるはずだった」
一言一言、文字を追って口に出す。
「どうして、世界に疑問を持たないのか。この世界の原初はどこにあるかを疑問に持たないのか。
存在は希薄に陥っていく。忘れていくのだ、誰も……」
わざと一拍置いて、口に滑らす。
「誰も……本当の世界を思い出せない、か」
プッシュ斉藤は、机から立ち上がって誇りの篭った部屋の窓を開けた。
暗い部屋に眩しい光が入り、ほこりの舞い上がる様をさらす。
「やはり、必要なのか……」
この本を読破したいといつしかプッシュ斉藤は考えるようになった。
ここには真実がある。そう思える。
その為に必要なのは、秘宝塔にあったという『賢者の石』。
そう、今は過去。もう持ち出されている。
「…………」
プッシュ斉藤は唇を噛みしめた。
見つけたかったものは、自分の存在理由だったから。
プッシュと仇名が付く前の話だ。
斉藤は暗殺者としての訓練を受けていた。
過酷、という言葉すら生ぬるい。
地獄だった。
幼いころに両親を失った彼を拾ったのは盗賊だった。
そして、子供が盗賊団の中で生きていくのは並大抵のことではない。
窃盗に放火、拉致……殺人以外のことは何でもやった。
斉藤には、殺人だけがどうしても出来なかった。
理由は分からない。
ただ、人を殺そうとすると吐き気を催した。
それだけのことだ。良心の呵責などすでになかった。
しかし、どこの国にも警護団はある。
当時七歳。斉藤はここから本当の人生の苦肉を味わうことになる。
盗賊団は鎮圧された。だが、しかし斉藤にとっては地獄の一丁目が終わったに過ぎなかった。
頭を筆頭に、他の仲間だったものたちは極刑に処された。
斉藤は年齢を考慮されて、再考の余地ありとし、極刑だけは免れた。
表向きは、ということだが。
体のいい奴隷、斉藤はそうして更に5年間を過ごすことになる。
暗殺の訓練を受けたのは、領主の命であった。
邪魔なものを排除するのは、すでに死んだとされる斉藤には打って付けだった。
ただ、斉藤には人が殺せない。
蔑まれてプッシュと呼ばれるようになったのはその頃だった。
そこに弱虫≠フ意味が付随することを知ったのは、領主を暗殺する時だった。
つまり、プッシュ斉藤、生涯二度目の殺人の時である。
用なしと判断された斉藤は、逆に自分が始末されることになった。
簡単なものだった。
ナイフを腹に突き刺された。
そして、思い出す。
プッシュ斉藤は、これと同じように、両親を殺していたのだ。
斉藤は、親殺し、だった。
気が付いたら自分を見張っていた看守ともども皆殺しにしていた。
斉藤の暗殺者としての技能は、アレストタルトの歴史を紐解いても類を見ないほどに卓抜したものだった。
「プッシュ……妖精の名前だよ。この地方に伝わる弱虫妖精さ……」
斉藤をプッシュと最初に蔑んだ看守は、にやっと言い残して事切れた。
暗殺技術を斉藤に教授したものでもあった。
彼はすでに気づいていて、そして恐れていたのだろう。
斉藤の暗殺者としての才能を。
召抱えていた領主に斉藤の処分を示唆したのも彼だった。
すべては皮肉、で終わった……ということか。
これからは自由ということさえ斉藤には実感できなかった。
名前はこの時に捨てた。
彼の名前を呼んだのは後にも先にも自分の両親だけだったから。
そっと胸をなでおろす。
手には自分の胸に刺さっていたナイフが握られて、そこには幾人もの血が錆となっている。
何の感情も湧いてこない。
両親は、確かに自分が殺したが、今と同じように斉藤自身も殺され掛けたのだ。
結局のところ、邪魔だったのだろう。
両親にしても、盗賊団にしても、ここの領主にしても……。
では、自分の生きる意味は、そこにしかない。
生臭い血の匂い。ナイフを突き刺す時の何とも言えない感触だけが斉藤に生きていることを実感させた。
いつまでも、弱虫。親に殺されかけて、親を殺して、誰を信じられる?
斉藤は、こうしてプッシュの名前を受け入れた。
どうして、自分以外のものは笑えるのか。
どうして、自分以外のもには家族がいるのか。
プッシュ斉藤の命題は、そこから始まる。
世界に疑問を持つということなら生まれの格差ほど浮き彫りされるものはない。
しかし、何を思ってみても、彼に出来たのは、暗殺だけだった。
これが、『幻想館』創立のいきさつである。
そんな斉藤も本を読むことだけは好きだった。
本の中の物語りに感動さえ胸に抱く。
理由は至って簡単、現実ではない出来事であるからだ。
現実の中は悲哀で溢れている。
プッシュ斉藤は、思う。
この世界の中で、自分の邪魔になるものは排除してしまえばいい。
何も難しいことではない。それを知らしめよう。
この館を訪れるがいい。
国王も、大臣も、領主も、髭を剃り残したことで一日が憂鬱になる役場の人間も、
夫の帰りが遅くていらいらする民間人も、旅をするうえで秘宝を横取りされた冒険者も、
何だって殺してやるし、誰だって自分に頼めばいい。
怖いことではない。これは取引(ビジネス)だ。
邪魔だから殺す。目障りだから殺す。それの何がいけないのか?
斉藤はそうやって今日も客の訪れを待つ。
それまでは本を読む。
今は待つしか出来ないのだから。
世界を飛び回る情報屋の風見鈴鹿に『賢者の石』のことは依頼してある。
時間の問題だろう。
「……ガディム」
プッシュ斉藤は今まで笑ったことがない。だが、本当に嬉しそうに今は微笑んでいる。
復活するといわれた軍神・闇の支配者ガディム。
この本にある『Filsnown』戦記に描かれた術とやらが理解できたなら、
また、これを解く方法も見つかるだろう。
そして、『賢者の石』。
これは、復讐だった。
自分を見てくれなかった世界すべてに対してのリベンジだった。
この本をプッシュ斉藤に渡したものは、自分には必要がない、と零したらしいが、
なるほど、彼には必要だった。
適材適所――だとしたら、今『賢者の石』は誰の手にあるのだろうか。
世界は、いつしか神々の黄昏≠迎えることになる。
【プッシュ斉藤 暗殺技能者(スタッパー) 自治領アレストタルトの暗殺請負所『幻想館』に在住】
【風見鈴鹿 運送屋兼情報屋 世界中を飛び回って『賢者の石』を探索】
昨日、葉鍵ファンタジーを拝見して、すぐの投稿です。言うところの新規参加者です。
主要男性キャラクターが、全員使われているようなのでプッシュ斉藤に白羽の矢を立てました。
NGかどうかは分からないけど、まあ、今回で人格設定してみました。
上記のガディムについては復活はしていないとの解釈です。戦争に利用された軍神だと思えました。
では、失礼いたします。
都市名の変更です。
>自治領アレストタルト→自治領クラナド
>首都パーレム→首都ムーンパレス
と、なりました。ご迷惑をお掛けしました申し訳ありません。
過去ログを保管の際には、お手数ですがそのようにしていただけると嬉しいです。
では、マウスケーブルで首を吊って逝ってきます。
別に、楽しい事は無かった。
健太郎は、骨董品を扱う店の一人息子だった。
来る日も来る日も、骨董品ばかりを眺めて過ごしていた。
いつしか、自分自身までも、骨董品になったような気さえしていた。
冒険に憬れを持つようになったのは、何時の頃からだっただろう。
この世界に住まう青年や少年達の誰もが、一度は夢見るように……
健太郎も、冒険者として旅をする事を、漠然と望んでいた。
きっかけは、いつの世も小さな事だ。
ある日、行き倒れの魔術師を拾った。ピンク色の髪の、幼い少女。
彼女の一言が、健太郎の心の中の、細い鎖を断ち切ったのだ。
「けんたろも、冒険者になったら? 楽しいわよ、すごく」
山のように積まれたホットケーキを、口の周りを蜂蜜だらけにして食べながら、偉大なる魔女はそう言った。
彼女が去った後、健太郎は奥の倉庫から、ひとつの鎧を引っ張り出した。
『ディバインアーマー・無明』
残念ながら武器は見つからなかったが、この魔法の鎧があれば、百人力な気がした。
もっとも、冒険者がそんなに甘くないものだという事は、旅の途中で、嫌と言うほど味わったが。
「……あ、あれ?」
闇の中にふわふわ浮きながら、健太郎は素っ頓狂な声を出した。
自分の周りには、ぷかぷかと景色の写る球体が浮かび、幻想的な雰囲気を見せていた。
今まで見ていたのは、ただの幻だったのだろうか?
『……へぇ、お兄ちゃんには効かないね……その鎧のおかげかな?』
幼い少女の声に振り向けば、そこには、舞を永遠に連れ込んだ、あの女の子がいた。
彼女の言う通り、健太郎の鎧は淡い光を発し、健太郎を守っているようだ。
『でも、守るだけでは何もできないよ……みんな、私のお友達になっちゃったんだし』
「な、なんだって!?」
『ぷかぷか浮いてる球体は、魂の理想郷なの……みんなそこで、楽しく暮らしてるよ』
健太郎はぎょっとして、周囲を見回した。
「あ……ああっ、蝉丸さん!? それにセリオさんに……あっ、浩之や彩さんまで!!」
泡を食った健太郎は、ばたばたと球体を掴もうとするが、無重力の中では無意味に回転するだけだった。
『お兄ちゃんは、私が直接楽しませてあげる……ね、いいでしょ?』
「よっ、良くない〜〜〜!!!」
少女の手が、今しも健太郎の頭に伸びそうになった時……
「薙ぎ払え! 『漆黒のソウルイーター』!!」
巨大な黒いアギトが、少女をまともに飲み込んでいた。
「危ない所だったわね……」
紫色の髪をかきあげ、妙齢の美女が気だるげに言い放つ。健太郎の顔が、ぱっと輝いた。
「あなたは……ルミラさん!!」
「よくここが判りましたね!!」
「ま、魔族の私には、元々こういった精神攻撃は効きにくいのよ……とはいえ」
ルミラはそう言って、自分がやってきた、背後の方に目をやった。
「『えいえん』を渡って、ここまで来れたのは、偶然なんだけど」
「偶然なんですか!? 助けに来てくれたんじゃなくて?」
「あ、いや、私は偶然だと思うんだけど、志保がこっちに行けって言うもんだから……」
「はぁ……まあ、助かったからいいですけど」
『今のはちょっと、驚いちゃったよ』
ぞくり、と悪寒が二人の背中を走り抜けた。
慌てて振り向いたルミラは、今だ燃え盛る漆黒の炎が、真っ二つになるのを見た。
「……対精神生命体用の、人工魔族ソウルイーターが……」
呆然と呟くルミラの元に、ぽん、と小さな宝石が投げて寄越される。
ルミラが受け取った瞬間、ブラックダイヤは、真っ二つに割れた。
『返すね……もう、使えないと思うけど』
ルミラは、ソウルイーターの核だったブラックダイヤを握り締め、少女を睨み付けた。
「一筋縄じゃいかないってわけね……ふふ、楽しめそうじゃない」
そういうルミラの頬に、一筋、汗が流れるのを、健太郎は気付いていた。
「健太郎、とか言ったわね、あんたは後ろに下がってて。邪魔よ」
「あ、は、はいっ!」
じたばたとクロールしながら、健太郎が後ろに下がる。
「あんたの目的が何かは知らないけど……」
ルミラの瞳が紅く輝き、長い髪が大きく揺らめく。
「このルミラ・ディ・デュラルを敵に回した事、後悔させてあげるわ!!」
ルミラを送り出し、志保は安堵のため息をついた。
取り合えず、ルミラに任せておけば大丈夫だろう。
問題は……
志保は、ちら、と足元で寝ている浩之の、だらしない寝顔に目をやった。
ううんむにゃむにゃ、もう食べられねぇ、と寝言まで聞こえてくる。
「あ、ん、た、は、いつまで呪縛にかかってんのよ!!」
がす、と志保の靴の裏が、まともに浩之の鳩尾に突き刺さる。
さすがにこれは効いたのか、ごべ、と蛙がつぶれたような声を発し、浩之は飛び起きた。
「ぐえぇぇ……あ、あれ、あかりは? 弁当は?」
「やっぱり……あかりの夢見てたのね」
志保は浩之から目をそらして溜息をつくと、忌々しそうに再び浩之の背中を蹴った。
「いてっ、てめぇ志保!! また蹴りやがったな! もうタダじゃおかねぇ!!」
キレた浩之が志保に飛び掛るが、志保は何の抵抗も見せず、あっさり浩之に押し倒された。
「な、なんだよ、抵抗しないのか?」
「何よヒロ〜、あんた抵抗する女の子を押し倒すのが趣味なわけ?」
今度は一転、悪戯っぽい表情で言われ、浩之は慌てて志保から飛び離れた。
「ばっ、馬鹿言うな! 大体、お前を女だと思った事は、生涯一度も無いっ!」
「あっそ……それより、あたし達はあたし達で、やる事があるのよ」
浩之をあっさりいなし、志保は体を起こすと、草原に建つ不自然な青い扉を指差した。
「たぶんこの先に……舞と佐祐理さんがいると思う。多分、えいえんに囚われてるわ」
「なにっ、そうなのか!?」
佐祐理が囚われてると聞いたとたん、浩之は後も見ずに扉に突撃していた。
「志保、先に行ってるから、お前も早く来いよな!」
志保は、浩之が扉の向こうに消えていくのをぼんやり眺めてから、はぁ〜と特大級の溜息を吐きした。
「……さっきはあかりで、今度は佐祐理……ホント、女の気持ちを考えない奴……」
【ルミラ 健太郎、折原みさお発見 みさおと交戦中】
【志保 浩之と合流。佐祐理と舞を助けるべく、行動開始】
どうも。何だか、ルミラとみさおが別世界作っちゃいましたね……
あ、修正。
最後のタイトルが抜けてました……(汗
佐祐理は、ふわふわとした光に包まれて、丸くなって眠っていた。
その寝顔を見つめて舞は思う。
(佐祐理は……どんな夢を見ているの?)
浩之の寝顔は愉快だった。自分をいじめた憎たらしい顔がうんうんうなされるのを見て、胸がすく思いがした。
――だけどすぐに怖くなって逃げ出した。
彩の寝顔は安らかだった。両親の夢を見て眠る彩の寝顔は、舞にとっても心温まるものであった。
――だけどすぐに怖くなって逃げ出した。
そういえば…自分は父親の顔を知らない。物心ついた時にはすでに居なかった。
一度だけお母さんに聞いた事があったが、お母さんは何も答えてくれなかった。
結局その時は、自分には父親など最初から居なかったのだと子供ながらに自己解決をした。
それでも今まで考えた事が無いわけではない。一人の時は何度だって幻想の中のお父さんを追いかけた事もある。
――だけどすぐに怖くなって逃げ出した。
この怖さはなんだろう?どこから来るのだろう?
一度立ち止まってそう考えたが、やはり怖くなって考えるのをやめた。
そして佐祐理の寝顔はどうだろう?笑っている様にも見えるし、泣いている様にも見える。
(こけしさんみたいだ…)
こけしは、くちべらしのために生まれてこなかった子供を現していて、笑顔にも泣き顔にも見える様に作られているとお母さんから聞いた事がある。
その時ポロリ…と、佐祐理の目から涙が一粒こぼれ落ちた。
(泣いて…いるの…?)
舞はそっと指で涙を拭き取った。すると佐祐理は眠りながらもその指を握った。
「……か…ず……や………」
――またその名前。ここに立っている間に幾度も、幾度も聞いたその名前。不意に舞はひどい嫉妬にかられる。
「…居ないのに…!一弥なんてもう居ないのに!」
そして最後に、枯れた声でつぶやいた。
「……………お母さん………もう………………居ない……」
(一行空けでお願いします。)
眠っている佐祐理の胸に耳を当ててみる。
トクン……トクン……
この音が好きだ。大好きだ。この音を聞いている時、自分以外の誰かが生きている事を感じる事ができる。
良くお母さんの胸に抱かれてこの音を聞いた。お母さんの音と佐祐理の音はまた少し違うけど、この音が大好きだ。
急に不安にかられて自分の胸に手を当ててみる。
…………………………
何も聞こえない。何も感じない。自分は生きているのだろうか?それさえもわからない。
(…疲れた。)
また大きな疲労感に包まれた舞は、佐祐理の胸の中ですやすやと寝息を立て始めた。
…………………………
……………
…
目を覚ましたら、そこにあったのは見知らぬ天井。
体を起こしておもむろに周りを見渡す。随分と広く綺麗な部屋。自分が寝ていたのは豪華な装飾の施されたふかふかのベッド。
遠くで誰かが自分を呼んでいる声が聞こえる。耳を澄ましていると、それはだんだん近づいてきた。
「…………うさまー!……りお嬢様ー!佐祐理お嬢様ー!」
(…佐祐理?)
寝ぼけた頭を動かして、ベッドの向こうにある大きな姿見を覗き込む。
――映ったのは子供。子供の佐祐理の姿。
そこで初めて舞は、自分がまだ夢の続きを見ている事を悟った。
トクン……トクン……
トクン……
…
不意に一弥の姿が消え、辺り一面真っ暗な闇に包まれた。
「一弥?」
返事は無い。もう一度呼ぶ。
「一弥!」
返事の代わりに広がったのは光。暗闇の中で突然広がった光に思わず佐祐理は目をつぶった。
ガッ!
いきなりの衝撃――痛み。
何かがぶつかった。目を開けると握りこぶし大の石が転がるのが一瞬見えた。
(…ぶつけられた?)
どろりと、視界の左半分が赤色に染まる。そして被せられるひやかし声。
「やーい、悪魔の子どもー。」
「悪魔の子どもー。」
「この村から出て行けー!」
背中をドンッと突き飛ばされ、佐祐理は濁った水溜りに顔から突っ込んだ。佐祐理はゆっくりと顔を上げ、水溜りに映った自分を見つめた。
――映ったのは子供。血と泥にまみれた舞の顔だった。
【舞と佐祐理、夢の中で入れ替わり立ち替わり】
かしこ。
そのお姉ちゃんは、怪我をした小鳥を見つめる飢えた大蛇のような、恐ろしく冷たい眼で、こう言いました。
「川名みさき、って娘を捜しているの。知らない?」
-----大変です。
こういうお客さん同士が、こういう空気を纏って対決すると-----ただでは、済みません。
頭に血が昇ったが最後、ひと暴れしてお店を滅茶苦茶にするまで収まらないのです。ぐすん。
(耕一お兄ちゃん、わたし椅子運ぶから、机お願いできるかな?)
(……は?)
(ふたりとも強そうだもん。早く避難しないと、お店がばらばらになっちゃうよ)
(いや……それは構わないけど……)
「うちも構わへんけど-----全部、聞こえとぉよ?」
「飢えた大蛇ぁ!?」
互いの占有する空間に、異様な圧力を込めて対峙していた二人が、矛先を変えて怒鳴る。
(もうあと二年もしたら、初音ちゃんも立派な偽善者の仲間入りかな……)
などと寂しい感想を心に秘めて、耕一は殺気を漂わせる二人に言った。
「ま-----まあまあ。とりあえず暴れるのは、無しで頼むよ。鍛冶屋を休業して大工になるのは、勘弁なんだ」
そうね、と軽く相槌を打ち、雪見は左手で乱れた髪を整えながら言う。
「ケチがついたけど-----もう一度聞くわ。みさきのこと、知ってるんでしょう?」
「……川南早紀なら、知っとるで」
憮然とした表情のまま声を交わす二人の間に、再び険悪な空気が漂いはじめる。
背後で初音がわたわたと椅子や机をどかしているのは、ご愛嬌だ。
「ふぅん-----そう。なら、その川南だかアオムラだかって娘について、教えて頂戴」
「うちや」
不満の色を隠さず尋ねた雪見に、智子は即答した。
「は?」
「うちが、川南早紀や」
「-----!!」
雪見が、すさまじい怒気を発する。
しかし思い直したのだろう、あわやのところで憤りを抑えると、質問を変えた。
「じゃあ……ボーーーーーーっとして能天気そうな、大食いの破天荒な娘を知らないかしら?」
「(ひどい言われようやな……合っとるけど)……知らん」
「……何よ、今の不自然な間は。いい加減隠すのやめなさいよ、合ってるって思ったんでしょう?」
バレバレである。
智子はさすがに観念したのか、肩をすくめて首を振りながら言った。
「あんた、鋭いな」
「あの娘と付き合ってれば、鋭くなくても解るでしょう?」
「そらそうや。みさきさんは……あの扉から、出て行ったで」
どこかで似た物同士なのか。
二人は苦笑をたたえて、その扉を見つめた。
* * *
どかーん、と魔法の爆発音にも似た音がして、扉が粉々に吹き飛びました。
中から、鬼のような形相をしたお姉ちゃんが出てきます。千鶴お姉ちゃんと、いい勝負です。
「なによ! ここ、トイレじゃないっ!!」
-----大変です。
「こういうお客さ-----」
「-----初音ちゃん。それはもういいから」
「あれれ?」
そんな店員たちの会話をよそに、雪見が智子に詰め寄っていた。
「ここのどこから、出て行くって言うのよ!?」
「決まっとるやないか、そこや、そこ」
智子が指差したのは、もちろん便器の穴である。
「く……臭いじゃない!! ていうか、細くて通らないわよ!!」
「そうやなあ、あんたじゃ厳しいかもなあ。みさきさんは大食いやのに、羨ましいほどスリムやからなあ」
「-----っ!!」
思い当たるフシがあるのだろう(智子自身も思い当たりまくりなのだが)。
雪見はムキになって剣を背負いなおすと、腕まくりをして肥溜めに突入しようとした。
「……冗談やけどな」
今にも片足突っ込みそうな雪見に、智子がそう言ったのは-----武士の情けなのかもしれない。
「ちょっとそこ、鬼って誰のことよ!?」
「えへへ……」
初音が立派な偽善者になるのは-----まだ遠い日のこと-----かもしれない。
毎度。「虚々実々」をお送りいたします。
なんだか、話があまり進んでおりませんけれども。
せっかくの初期から予想された遭遇話なので、じっくりまったりと。
話としては「かげろう。」(
>>390-394)の続きです。
忘れてました。
あまり動いてないので、不要と言えば不要ですが一応。
【深山雪見&保科智子:探り合い騙し合い馬鹿し合い】
【柏木耕一:便所扉の修理決定】
【柏木初音:見かけによらず黒っぽい】
「やっぱりここ、みたいだね……」
幾分冷静さを取り戻した私は、溜め息交じりに呟いた。鼠の死骸に目を奪われつつも看板を確認するとしっかりと”青の錫杖”と書かれていた。
――厭なニオイが記憶を霞める。
「最悪だなぁ……こんな店入りたくないなぁ……」
「とにかく、なつみ。早く入ろうぜ? 何時までもこんな所にいると……」
と、言って、ピロが言葉を濁す。――食べたくなるの? と思いながら私は店に入った。
路上に死骸を放置する店(そもそも何故あんなに死骸が?)だからどんな内装かと思っていら、ごくごく普通の宿屋兼お食事処、といった感じだ。
綺麗に並べれられたテーブル。ゴミ一つ落ちてない床。……が、見える範囲には誰もいなかった。
「すいませーん。誰かいないんですかー」
「……ひっとして潰れる寸前なのかなぁ?」
私の声と共にピロがテーブルの上にひょい、っと乗った。
「あらあら、お客様ですか? ……二人分の声が聞こえましたけど、もしかしてそちらの猫、シェイプシフタ―ですか?」
青いおさげの、若い女性がカウンターの奥から声と共に姿を表した。
「あ、すいません。私の名前は牧部なつみ。それでこっちがピロっていいます。それとシェイプシフタ―ってなんですか?」
と帽子を取ってから挨拶してカウンターへと近づく。ピロも仕方無さそうについてきた。
「私は、秋子です。よろしくね」
にこやかに微笑ながら言った。私が座ると同時に、秋子さんが水を出してから、シェイプシフタ―という名の変身できる種族の事を説明してもらった。
――ああ。つまり、昔、人間に変身出来る種族がいると聞いた事があったけど、それがシェイプシフタ―な訳か。
説明が終わるまで、ピロは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。――元々そんな顔だったかもしれないが。
そして、私が「どうなの?」とピロに視線を送ると、
「残念だけど。俺はそんな種族じゃないんだ……変身も出来ないしな」
自嘲気味に言った。
「そういえば。あの外にあった鼠の死骸は一体どうしたんですか?」
ピロが久しぶりに変なオーラを出しているので話題を変える為に言ったのだが……その瞬間に秋子さんの顔に青筋が立った。正直、怖い。
けれどもそれは一瞬で――感覚的には永遠、だったけど――すぐに元の笑顔に戻って、事の些末を教えてくれた。
旅人が倒れる様に入ってくるところから、ある男の子が料理の皿を落とした事、その男の子が店の小麦粉の袋を破った事や、その男の子がボケ―っと突っ立てるところを助けられた事などを、特に強調して教えてくれた。秋子さんは始終にこやかな笑顔だった。
ちなみにその男の子の名前は? と聞いたら、
「あら? ごめんなさいねぇ……名前、忘れちゃったわ」
頬に手を当て言った。また青筋が浮き出た。
それから怪我をした人達を一度、全員返してから、店内の清掃をし終わって外を確認したらあの有り様、だったそうだ。
「あれはね。その男の子の為にジャムにして保存しておくのよ」
と、付け加えて怪しい笑みを浮かべる秋子さん。――私はその見ず知らずの男の子に同情しておいた。
「おいしかったらこの店の名物料理になるんだね……」
と、私が同情を捧げると同時に空恐ろしい事をピロが言った。
もはや何を話してもマトモな話になりそうにないので、私は当初の用件を切り出した。
「これの銃弾が欲しいのですが……」といいつつ、腰の後にグリップを上にして吊ってる銃を手に取り、見せた。
秋子さんは一瞬、驚いた顔をしたアト、その銃をもっと詳しくみせてくれないかしら? と尋ねたきた。
「ええ。構いませんよ」
私はその銃を手渡した。それをまじまじと見詰る秋子さん。そして、有難う、と言って私に返してくれた。
「……初めて見るタイプですね。この銃は」
頬に手を当て、呟く。予想通りの言葉だった。
「それで、これの銃弾なんですけど用意出来ますか?」
「……ちょっとまっててね」
と言って、秋子さんは奥へと消えていった。
私の銃をその筋に詳しい人に見せても、きっと『初めて見た』というだろう。
まぁ、両親の出会い方自体がなんていうか出来過ぎで……
記憶喪失になっていたお母さんが森で倒れてるのをお父さん発見したのが出会いで、その時、お母さんが異国の服装をしていて、唯一持っていたのがこの拳銃だった……とかいうある種の黄金パターンであった。
……もちろんこれはお父さんが酒に酔っていた時に話してくれた事だなんだけど。
とにかく、この銃が珍しいモノっていうのは確からしい。それに実弾は所持してなかったけど、銃の分解の仕方や整備のやり方はお母さんが教えてくれたのだ。
それから、幾つかの四季が巡って、私にお守りとして所持する事を許したのが、お父さんだった。
それから……は。どうしたんだっけ? ああ。空が、明るくてオマツリみたいに皆が大声だしてて……
「お……な…みッ」
その時、私は中心から少し離れたトコロから見てて、それから……それから? ――そう。丁度サッキ嗅いだ、鼠の焼けたシガイが放つような、ニクの焦げるニオイが漂ってキテ……っ!
「おいっ! なつみッ!?」
「え?」
大声に気付く。見るとピロが私のボディにネコパンチを放っていた。
「はぁ……なつみ。少し落ち着け。炎が少しだけど、漏れてたぞ」
「え? ……あぁ。ごめん、ちょっと昔の事思い出してて…そ…れで……それで……」
「判ったから、もうなにも言うな、なつみ」
そう言って、ピロが離れた。感情が高まると私の意思に関わらず炎が出る時があるのだ。
その私のナイフ――私が創った私の魔力の結晶――を抜いて、見た。
刃渡り20cmちょっとぐらいの大きさ――まるでイキモノを殺す為だけに存在するかのようなシンプルな形状。機能美に優れた極薄の刃――いつ握っても手に馴染む。私が成長している様にこのナイフも成長しているのだろうか?
「ごめんなさいね。今切らしてるみたいなの。用意するにしても数日掛かるけどいい?」
なんて声と共に秋子さんが戻ってきた。私はナイフをしまってから「そうですか」と答えた。
……じゃあ。これからどうしよっか……なんて思ってると、秋子さんが。
「そういえば……近日中にクルス商会のキャラバンが来るらしいですよ? 乗り竜も来るらしいですから見学ついでに銃弾も融通してもらったらどうかしら……」
秋子さんは頬に手を当てにっこりと笑う。
「クルス商会、ですか……でも、そんな大規模な商隊が民間人に武器を売ってくれますかね……?」
その前に近寄る事すら出来そうに無い。厳重な警戒態勢で移動しているハズだ。
「あらあら。そんな事気にする必要ないですよ?」
と言って、さらさらっと、何処からか出した紙に一筆書くと。
「これを偉い人に渡せば大丈夫ですよ。それでは私はちょっと病人の様子を見てきますね」
私に手紙を渡し、ゆっくりしていっていいですよ、と言い残して秋子さんは行ってしまった。
いろんなところに顔が利くらしい。
「なんか……アヤシイね」
秋子さんが姿を消してからピロが口を開いた。多少声を抑えていた。
「やっぱり、…ピロもそう思う? こんな旅人にクルス商会の商隊長を紹介すると思うかい?」
ご丁寧に手紙の宛名には『猪名川商隊長殿』と書かれていた。
手紙から視線を外してピロの方を向くと、何処から見つけてきた一枚の羊皮紙を見ていた。おそらく賞金の掛かった魔物の事が書かれているのだろう。
「それに首輪をした鼠だってさ。誰かの使い魔かな? でも、多分下水道じゃ勝負にならない。この都市に鼠が何匹いるか知らないけど、数百匹はいる。それを統率して襲ってこられたら勝ち目は無い。正に”梟の餌”ってやつだね」
「……? それって”袋の鼠”の事? それはともかく。一秒未満で呪文詠唱出来る魔術師、20キロもある袋を片手で投げれる少女、……アトは、誰だっけ? まぁいいや。そんな人達がいるんだ。簡単には負けないさ」
ピロは少し黙っていたアト。
「それで、結局どうするのさ? なつみ」
私は「わからないよ……けれども」と前置きしてから、言った。
「どの選択肢を選んでも、結局行き着く先は一緒、って気がするんだ。……それが、運命ってやつかも知れない」
――それは予感だった。
【牧部なつみ・ピロ/青の錫杖店内/なつみの”魔力を具現化する”能力によって創ったナイフ所持、意思により炎が出せる/これからどうするか思案中】
【秋子/マナの様子を見に行く】
秋子さん掃除するのはやいなぁw
なつみの能力については『忘レナイ』(
>>259-265)にて少し言及しましたが、ここで一応纏めときます。細かな事はまだ書いてないですがw
話の流れとしては、『青の錫杖』(
>>267-269)の直後で、この話のアトに秋子さんとマナの『カムバック』(
>>124-126)と続けば矛盾が無いと思います。
ってゆーかどうしても長くなるな……スマソ。
変なところがあったら、指摘お願いします。
433 :
修正:02/01/29 05:31 ID:k6ZXOmAi
こっちにも。
>380の一人称は
僕→俺
に変換して下さい。
では、イッテキマス…
自治領クラナドは八つの自治都市から成っておりそれぞれの領主によって治められている。
首都を治める領主は、四年に一度、国民投票によって選別される。
この国は、こうして民主主義を貫き通していた。
もちろん、これには理由がある。
(……月の都……)
風見鈴香は、栗毛の馬を引いて高台の向こうにある宮殿を見つめた。
首都ムーンパレス。月ノ宮は、陽光に光り輝いている。
「……ここに帰って来るのは久し振りです」
「はい、そうですね、郁美さん」
鈴香の引く馬上では、幼い女の子が故郷を懐かしむように目を細めて月ノ宮を見ていた。
女の子の名前は立川郁美、緑色のロープは召喚術士の証である。
体の弱さのために今まで人には踏み込めないエルフの隠れ里≠ナ養生していたのだ。
そして、郁美はもともと自治領クラナドの領主の家系である。
今回の帰還は、兄を探してのものらしいのだが。
「でも、わたしは……正直に言いますと、あの人には会わない方がいいと思います」
人通りの多い街道には、いくつもの露店が立ち並んでいた。
首都だけあって活気があるし、当然そうでなくては、首都である必要もないのだろう。
「あの人は、周りの人をも不幸にしかねません」
鈴香は気を配って馬を引いていた。
郁美の体の具合を心配してのことだったし、馬の機嫌を損なわないようにする為でもあった。
実は、この栗毛の馬、エルフの里から付いて来た一角獣で、名をエアエリルと言う。
街中では角を隠しているし、肌の色も誤魔化しているが例外なくプライドが高いのがユニコーンでもある。
いつ人間に怒りを覚えても不思議ではなかった。
「……構いませんよ。覚悟の上です」
「そうですか……」
鈴香は一拍置いて誰にも知られず溜息を吐き出した。
「そこまで郁美さんが仰るなら、わたしからはこれ以上のことは申し上げられません」
「ありがとうございます」
エアエリルに揺られながら郁美はにこっと微笑んで見せた。
これが儚い笑顔であることを鈴香は知っている。
(病んでいるのは心臓か……)
エルフの里で少なからず癒されたとは言え、病気の進行を防げたわけではない。
こうしている間にも、病魔は郁美を苦しめ続けている。
もう長くはないことを鈴香は知っていたし、郁美自身も知っていた。
この女の子が一体何をしたんだろうか。
神はあまりにも無常だった。
(もし、わたしが……)
果てしなく青い空を見上げて鈴香は思う。
もしも、自分が同じ立場だとしたら、どうするのだろうか、と。
(エルフの里で、長く生き長らえるよりも……外の世界を望むだろうな……)
蒼が眩しい。雲が出てくれば良いのに、と鈴香は思った。
少しでも陽射しは穏やかな方が良かったから。
「では、わたしは……あの人のもとに情報を届けてきます」
「……賢者の石、ですか?」
「…………」
鈴香は軽く首を振った。
ここからは守秘義務があるから、例え郁美だとしても、おいそれと話せることではない。
どうして、賢者の石という言葉が出てきたのかは、疑問だったが。
「郁美さんは、月ノ宮ですか?」
話を変えたことに少しだけ郁美は苦笑をした。
この少女にしては珍しい。
「……兄のいない今、わたしが行くのは当然ですし、ね」
「この時期に、緊急召集ですか……確かに、ヘンです……気をつけてください」
鈴香は目を凝らす。この国の先に何があるのか。
二百年前に途絶えた王族の血筋。クラナド王国が自治領に変わらざるを得なかった理由。
王族の女性だけが扱えたという神クラスの魔法奇蹟=B
月の巫女はもうこの世には残っていない。自立したクラナドの領主たち。
ただ、名目上は月の末裔を探し出すまで、この国を預かっているということになっているが。
「また、会いましょう……鈴香さん」
エアエリルは嘶いて、少女を月ノ宮に優しく運んでいった。
【風見鈴香 運送屋兼情報屋 プッシュ斎藤に『賢者の石』の情報を届けに行く】
【立川郁美 召喚術士 首都ムーンパレスの『月ノ宮』にて領主会談】
>>407-411の続きです。
密かに勝手に自治領の設定に励んでしまいました。
クラナドは両大国の南側にありそうだな、とか思ってみたり。
>長文は、所々行を空けると、もっと読みやすいと思います。
感想スレよりですけど、こっちの方が私的には慣れているし、行間空ける具合って苦手なんで許してください。
では。失礼。
437 :
長瀬:02/01/29 22:38 ID:V1vIY+5H
>>436 いえいえ、こちらこそ差し出がましい事言ってすいません。
この辺りは人の好みにもよりますですし。
「……………遅い」
吉井はぼそっ、と呟いた。
村を占拠してから、すでに半日が経とうとしていた。
肩に乗っかっている鴉も、不満そうにカァーッと鳴く。
「…あんた、重いからそろそろ退いてくれない?」
吉井は嫌そうに鴉に向けてそう言うが、鴉はつい、と嘴を背けた。
あくまで、吉井の肩の上に居座るつもりらしい。
周りの兵士たちも、吉井の不満というか、不安が伝染したのか、皆浮かない顔をしていた。
(うっ……いけない、司令官たるこの私がこんなんじゃ……でも)
わざわざ辺境から遠征してきて。
兵士も首そろえて。
村を占拠して。橋落として。
おまけに自分は村娘の変装までして。
「なんだって岡田と松本は、まだ帰って来ないのよおおおおっっっ!!!」
いきなりの絶叫に、吉井の周りの村人と兵士は、全員びくっ、と身体を振るわせた。
ついでに、その横にいた澪も、怯えた表情で、目に涙を浮かべる。
「あ、ご、ごめん、別に貴方の事を怒ったわけじゃないのよ」
澪が泣きそうな顔になったのを見て、慌てて吉井は取り繕う。
とはいえ、吉井の苦難は終わっていない。
しかも、冒険者も、まだ塔から出てこようとしない。いや、今の状況を考えれば、むしろ助かるが。
「………うう………どうすればいいんだ……」
吉井が頭を抱えていると、そこに軽快な馬の足音が聞こえてきた。
天の助け、とばかりに、吉井は岡田の元まで猛ダッシュする。
「岡田!? あんた、いつまでかかって………あれ、松本は?」
岡田に詰め寄ろうとした吉井は、そこにいるはずの、もう一人の顔が見えないのに気付いて、
引きつった顔を馬上に向ける……とそこには、心底疲れきった岡田が、やはり引きつった笑みを浮かべていた。
「ま、まさか?」
「………なんか、旅商人たちの話を聞くと……レフキーに向かったらしいわ」
とたん、吉井が真っ青な顔になって、自分の腹を押さえた。
「ちょ、ちょっと吉井!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫……い、胃に来ただけで……はは」
そう言って健気に笑う吉井だが、岡田は吉井が、松本が何かしら失敗をする度に、大量の胃薬を飲んでいることを知っていた。
松本の失敗を、黙々とフォローしている内に、神経性胃炎を発症したらしい。
それでも誰にも言わず、一人胃薬を飲み続ける吉井。立派な奴だ。
思わず岡田は涙を浮かべる。
「吉井……大丈夫、大丈夫よ。いつかあたし達にも、いい目を見れる日が来るって」
「岡田ぁ……」
吉井はすかさず兵士が用意した胃薬を噛み砕きながら、互いにしっかり抱き合う。
美しい光景がそこにあった。
「ええ話や……」
「ううっ、涙無しには語れませんなぁ」
「ええもん見させてもろたわ〜」
兵士だけでなく、周りで見ていた村人達まで、目に涙を浮かべ、感動の面持ちで二人を見守る。
中には、男泣きに泣いている兵士までいた。
「………オマエラ、漫才シテイルバアイカヨ………」
一羽、取り残された鴉が、ちょっと寂しそうに羽の手入れをしていた。
【吉井・岡田、合流】
久しぶりの三銃士(−1)登場です。
この三人、何かいいなぁ………目指せ、ポスト・ハカロワの御堂!(w
441 :
鍵:02/01/31 00:23 ID:/NZtwD+S
そこは絵本の中のおとぎの国だった。
大きな大きな家。真っ赤な絨毯の敷き詰められた長い長い廊下。お花がたくさん咲いているお庭。怖い顔したライオンさんの噴水。
その全てが舞の想像力を遥かに凌駕しており、どれも見た事が無いほど立派で、舞は自分がどこかの国のお姫様になったのではないかという錯覚にすらおちいった。
佐祐理の記憶を見れば見るほど新しい発見があり、舞は期待に胸を躍らした。
しかし、流れ込んでくる佐祐理の感情は舞のそれとは明らかな温度差があった。
諦めにも似た、淡々と、凍りつくような冷たい感情。
(どうして…?)
こんなにも恵まれているのに――。その時は舞は佐祐理に対する嫉妬しか感じなかった。
場面が変わる。屋敷全体に響き渡る赤ん坊の泣き声。胸がいっぱいになるほどの希望。
(一弥が生まれたんだ…)
「お前には一弥の教育係として、一弥を立派な男子にしてもらわねばならん。」
厳格そうな男がそう佐祐理に告げる。おそらく佐祐理の父親だろう。
「はいっ。」
しっかりと答える佐祐理。一点の曇りも無い、絶対的な信頼を父親に寄せているのが伝わってきた。
(お父さん…か……)
「ほらっ!しっかり!」
「一弥!立ちなさい!」
「こらっ!一弥!そんな所に登ってはいけません!」
佐祐理の怒声。怖い――。そう舞に感じさせるほど、その声は鬼気迫るものがある。
一弥がこける。瞬間、佐祐理は手を差し伸べたい気持ちでいっぱいになるが、ぐっとこらえる。増幅する苛立ち。疑問。
「立ちなさいっ!一弥っ!!」
一弥が口を開く。
「………」
何も聞こえない。何かを言っているはずなのに、何も聞こえない。佐祐理にも聞こえていない。
舞は全神経を傾けて、一弥の声に耳を澄ました。
”助けて――!”
聞こえたのは佐祐理の声だった。
442 :
鍵:02/01/31 00:26 ID:/NZtwD+S
また場面が変わる。あまりのめまぐるしさに舞は眩暈を覚えた。
佐祐理がベッドの脇で泣いている。ベッドで眠っているのは、一弥だ。
舞は一弥がもう息をしていないのに気づいた。
(どうして…?)
肝心な所が抜けていてわけがわからない。しかし、流れ込んでくる佐祐理の感情は一様だ。
悲しみ――後悔――自責――自己嫌悪――不信。そして――憎悪。
「違いますっ!佐祐理は…自分で冒険者になりたいって決めたんですっ!」
佐祐理と佐祐理の父親が何か言い争っている。父親が何か喋るが、その声も聞こえなかった。
(ああ……そう…)
「どうしてですか?何で佐祐理が佐祐理のことを自分で決めちゃダメなんですか?
佐祐理は、お父様のいいなりになっているよりよっぽどマシだって思ったから―――――」
パァン!父親が佐祐理を平手で殴る。同時に舞の左頬に走る鋭い痛み。
(佐祐理は……たくさん物を持ってたけど……一番大切なものを………なくしたんだね…)
「…………さようならお父様。もう二度と……この家には戻りません」
夢が終わる…長い長い夢が…
443 :
鍵:02/01/31 00:28 ID:/NZtwD+S
石を投げつけられ、殴られ、蹴られ、踏みつけられる。踏まれているのは舞だ。しかし、その痛み、悲しみが、直接佐祐理の中に流れ込んでくる。
(やめてっ!もう…やめてください……)
あまりの理不尽な暴力に佐祐理の心はパンクしそうになる。
今までこんな暴力を受けた経験は佐祐理には無かった。父親にぶたれた事も一度しかない。
佐祐理は、耐えられず泣き出してしまう。しかし、舞は違った。涙一つ流さず、表情一つ変えずにじっと子供達が暴力に飽きるのを待っていた。
(どうして…我慢するの?どうしてやめてって言わないの!?)
たった一言…たった一言でいいのに――。そう思った反面、佐祐理は、そのたった一言がどれだけ難しいものなのか、痛いほど理解していた。
次に見えたのは石壁だった。見た事がある壁。秘宝塔の壁。
ガッ…ガッ…ガッ…
(なんの音?)
石を何かに打ちつけるような音が一定のリズムで響いている。
(痛っ――!?)
突如、左手首に走る激痛。音は、舞が自分の手首に石壁の破片を打ちつけている音だった。
ガッ…ガッ…ガッ…
皮が破れ、肉が裂け、手首からおびただしい量の血が流れているにもかかわらず、舞は石を打ち続けた。
(…っ!…っ!…っ!)
あまり激痛に、佐祐理は気が狂いそうになる。
その時、見た事のある女の人が舞の元に慌てて駆けつけて来た。舞の母親だ。舞の母は、舞から石を取り上げた。
パァン!母親が舞に平手打ちをする。そして舞を抱き締めた。
「うっ………ううっ…………うわぁぁぁぁぁぁ…」
そこで初めて舞の泣き声を聞いた。母も泣いていた。
次に見えたのは暗闇だった。暗闇の中に座っている舞。首には秘宝がぶらさがっていた。
どこでどうしてその秘宝を手に入れたのか佐祐理にはわからなかったが、舞の母親の姿はもうどこにも無かった。
もう舞は笑わない。その冷たい、仮面の様な表情には見覚えがある。
(一弥…)
カッ…カッ…カッ…
不意に足音が塔に響く。塔に閉じ込められて十数年、初めての異訪者の音に舞は顔を上げた。
444 :
鍵:02/01/31 00:31 ID:/NZtwD+S
「やめてっ!やめてよっ!お母さんを取らないでっ!」
必死に秘宝を持った男の足にしがみつく舞。男がもう片方の足で舞を蹴飛ばした。壁に叩きつけられる舞。
(酷い…)
佐祐理は目を覆った。結局、異訪者が舞に与えたのは暴力だったのだ。
舞はもう一度足にしがみついた。しかしもう一度壁に叩きつけられるだけだった。
意識が飛んだのか、舞がおとなしくなる。すると突然、男が舞の上に覆い被さった。
「…!?嫌っ!嫌だぁ!!」
何をされるのか理解できない恐怖と、首筋を這い回る男の舌の嫌な感触から逃れようと、身をよじって逃げ出そうとする。
男は舞の腹に拳を打ち込んだ。
「きゃうっ!?」
潰れた悲鳴を上げ、男の下で、舞は再びおとなしくなる。あとはただ震えているだけだった。
(もう…見てられない!)
これから舞に起こる出来事が想像できてしまった佐祐理はただ、目をつぶってこの悪夢が今すぐ終わるよう願った。
しかし、目をつぶっても、男の手の感触を必死に耐えている舞の思考が、佐祐理にとめどなく流れてくる。
”どうして……どうして……?”
そして舞の思考が爆発した。
”殺して…やる――!!”
次に見えたのは紅。辺り一面の血の紅。紅の中に立つ舞。
あまりの凄惨な光景に、夢でなかったら佐祐理は間違いなく胃の中の物を吐いていただろう。
舞が秘宝を拾う。秘宝に付いた血を一生懸命に拭いながら、闇に消えゆく。
「さあ、とっ捕まえたぞっ!神妙にお縄につけぃっ!」
また、誰かが舞を押さえつけている。浩之だ。そしてそれを取り囲む人間の中に、佐祐理は自分の姿も確認した。
「こらっ!おとなしくしろっ!」
"アレ"以来、舞に再び触れたのは浩之が初めてだった。再び舞の中で増幅する激情。
(ダメ!舞っ!)
”…嫌っ!!”
――そこで、夢はぷっつりと途切れた。
445 :
鍵:02/01/31 00:33 ID:/NZtwD+S
二人は同時に目を覚ました。しばし呆然と見つめ合う舞と佐祐理。
「あ……」
謝らなくちゃ――。
佐祐理に大きな迷惑をかけた事。佐祐理の事を何も知らないくせに攻撃した自分。可哀想なのは自分一人だと思っていた。
しかし声の代わりに出てくるのは涙だけだった。
舞が謝罪をする前に、佐祐理はもう舞を強く抱き締めて離さなかった。そして言う、
「ごめんね…!ごめんね……怖かったんだよね…ただ…怖かったんだよね………佐祐理も怖かった…怖かったんだよ……」
舞は、自分の倍くらいある大人が、目の前で泣きじゃくるのを見て、自分が泣いていた事も忘れて、目をぱちくりさせた。
そしてただ、ひざまづいて胸の中で泣いている佐祐理の頭を、愛しそうに撫でた。
はたから見れば、それは異様な光景でもあったが、今はそれがいいと思った。
『三行空けでお願いします。』
「…佐祐理?」
「何?」
「冒険って……楽しい?」
「………楽しいよ。外はもっと……楽しいよ。」
「そう……じゃあ私も………」
扉が――開いた。
「私も冒険したい。」
『三行空けでお願いします。』
「あ!出てきた!」
「なんだよ、これから助けに行こうと思ったのに。」
「ん。どうやら、二人共無事みたいね。」
人がいる。たくさんの人が。舞はまた少し、ドアの陰に隠れてためらった。そんな舞に佐祐理は耳うちしてあげた。
「大丈夫。佐祐理が守るから。私が…私が守ってあげるから。ねっ?」
【川澄舞、倉田佐祐理、長岡志保、藤田浩之、ルミラ、合流】
>>419-422の続きです。続けて読まないと意味不明かも…(続けて読んでも意味不明?)
舞のわがまま、もうすぐ終わります。
この件でいろいろ迷惑をかけてしまった書き手さんに深くお詫びを申し上げます。
ありがとうございました。
…ああ、まだみさおが残ってたなぁ(苦藁
扉を叩く音がうす暗い誇りに塗れた部屋の空気を振動させた。
プッシュ斉藤は本を閉じて頷く。
「……入れ」
部屋の外まで聞こえたかどうかは知らないが幻想館に訪れた以上は、覚悟のほどは知れていた。
ここで引き下がるものも居ない。
「……失礼します」
見知った顔にプッシュ斉藤は僅かに苦笑した。
「君か、いや……歓迎している」
訪問者は風見鈴香だった。
言葉通りプッシュ斉藤は歓迎している。
彼女は有能な情報屋だ。
例のものの手掛かりを掴んだとプッシュ斉藤は認識していた。
「では、用件を述べてくれ」
「……はい」
鈴香もまたプロだった。作成していたレポートを手短に読み上げる。
「『賢者の石』……使えば全知を得られるという知恵の原石、魔道士の中ではエデンの林檎と呼ぶものさえいます」
「ああ、知っている。知識のところは飛ばしていい」
鈴香は頷いた。
「で、詳細ですが……すでに、使われた形跡があります」
「…………」
さすがにプッシュ斉藤も破顔した。
「……続けてくれ」
「エデンの林檎と呼ばれた所以は、賢者の石の形が林檎に酷似していたからだと推測されて、まあ……金色の林檎なので、
本来なら食べるものも居ないでしょうが、結果としては……そういうことです」
「……そいつは全知を得たのか?」
当然の疑問をプッシュ斉藤は口にしたし、予想された疑問に鈴香も答えた。
「いいえ。賢者の石は、魔術によって力を呼び出します。賢者の石の正体は、万能の辞書なんです。
すべての疑問に答えてくれるそうです……もちろん、伝承ですが」
伝承……つまりは、確信ではないということか。
だが、鈴香の言うことだ。根拠がない訳でもないとプッシュ斉藤は判断を下した。
「じゃあ、本題に入ろうか……」
プッシュ斉藤は言う。瞳に迷いの色は見られなかった。
「誰が、賢者の石を得たんだ?」
「…………」
鈴香は無言で懐から数枚の写真を出した。
全部で六枚。そこに共通しているのは全員が女性ということだった。
「まずは、女王の大庭詠美。そして、沈黙の上月澪。旅一座に椎名繭、盲目の食いしん坊、川名みさき……あとは、
今まで失踪していた立川郁美で、最後に……ミラクルカノン号、海賊の殺村凶子……この六人の中に居るとまでは分かりました」
「……殺村凶子?」
プッシュ斉藤は、あごに手をやって少し悩んでから、
「……海賊か、なるほど。これは、偽名だ。あやうく騙されるところだった」
と、額の汗を拭いながら言う。
鈴香は敢えてツッコミを入れようとはしないようだった。
「さすがです」
いや……さすがなのだろうか? この空間にはこの二人の他には誰も居ない。
悔やまれることにすべては自然と流されていった。
「本名を沢渡真琴と言います。で、こちらに用意した……」
写真のほかにいくつかの資料をプッシュ斉藤に手渡す。
「これらにそれぞれの所在地が記しています。今、現在……ということですが」
「十分だ。……ほう、ほとんどがレフキー近郊か」
プッシュ斉藤は、感慨なく笑う。
「明日にでもカフェに向かうのですか?」
カフェとはクラナド八都市の領主がひとり桜井が治める港町だった。
レフキーやニノディーに向かうには海路しかない。
「だとしたら、七日は掛かりますね」
鈴香はそれとなく訊いてみた。
プッシュ斉藤に渡した資料の作成は、鈴香が郁美に再会する前のことだった。
もちろん仕事として問題はある……が、鈴香は思う。
郁美のことは後回しにして、レフキーに旅立って欲しかった。
すべてを知っている鈴香には、プッシュ斉藤と郁美を対面させることはとても出来ない。
「まあ、それしかないな……」
鈴香が思うほど深刻な事態にはならなかったのかプッシュ斉藤は至極簡単に同意した。
しかし、世の中は飴のように甘くないことを鈴香は知ることになる。
「ついでの仕事もあるしな……」
「……ついで?」
聞き返したのは間違いだった。
プッシュ斉藤はは暗殺を生業としているのだから内容は想像に難くなく気分を害するものだろう。
郁美のことに気を取られたとはいえニアミスだった。
「ああ、そうだ。前金で金貨五千枚を貰ってある。さあ、オレは誰を殺しに行くと思う?」
「ご、五千!?」
「まあ、破格だと思うかどうかは、難しいところだけどな」
プッシュ斉藤は珍しく饒舌だった。語るのは、鈴香が絶対に口外しないことを知っているからだ。
それが鈴香の重荷になることも知っている。プッシュ斉藤はそういう男だった。
「オレは思うよ。つくづくね。どの国も秘宝に御執心のようじゃないか」
彼の手が一枚の写真に伸びていく。
「レフキー……特に、ここが。さて、彼女は自分の立場を分かっているのかな?
騎士団のリーダーも不在なんだろう? 平和だね、これは……頭の中までも、だろうね」
「ま、まさか!?」
「そう、一国の女王相手に金貨五千じゃ安いだろう? もっとふっかけてやろうと思っていたんだけど、まあいいさ。
こちらの都合も出来たことだし……ひさびさの大仕事だな」
プッシュ斉藤は、残酷に唇を歪めた。
「……大庭詠美をスタップする」
「出来るわけありません!」
「そう……誰も出来るわけがない。でも、いつの世もそれを覆してきたのが、暗殺という稼業だとは思わないか?」
「そ、そんなことをしたら……」
「戦争になるな、間違いなく。しかし、クラナドにとってはまさしく海岸先の火事になるだろうよ。
オレのところに依頼してきたの……誰だと思う?」
プッシュ斉藤は笑った。鈴香は絶望した。
大庭詠美を暗殺して誰が一番得をするのかなんて分かりきっている。
鈴香は耐えられなくなって幻想館から飛び出した。
【プッシュ斉藤 暗殺依頼を受けてレフキーに向かう】
【風見鈴香 首都ムーンパレスに戻る?】
まあ、感想スレでいろいろ討論しましたが誤魔化しの誤魔化しです。
クラナドの位置は前にも言った通り南側です。
暗殺は絶対に成功するなんて言いません。ただ危機感は持っていて欲しいです。
他の書き手さんと温度差が違うのは分っててのことです。カンフル剤になりたいとは言い訳でしょう。
もう少し長い目で見てほしいよいうのも甘えでしょうから。
では。失礼いたします。
>>446 訂正。
志保達とルミラが同時に同じ場所に居るのは変です。明らかに(鬱死
しかも本文中に誰とは一切書いてないから、
↓に訂正してください。
【川澄舞、倉田佐祐理、誰かさんと合流】
SCENE-T プッシュ斎藤
――この世界を壊したい。
プッシュ斎藤の願いはそれだった。
誰も見てくれない。自分は誰からも必要とされていない。
暗殺だけが呪われた彼を癒してくれた。
いつしか思うようになる。
この世界を壊せばどれほど自分は癒されるのだろうか。
もう構わない。気に留めてくれとは言わない。
「ブック!」
空白から本が現れて鈴香から預かった資料のページが描き出される。
賢者の石をもつ可能性のあるものたちだった。
世界を崩壊させたい。自分を拒否したすべてを道連れに。
すなわち破壊神<Kディム。
「……ん?」
と、立ち止まる。道行く先に栗毛の馬が見えた。
ここは<カフェ>に向かう森の中で野生の馬を見ても何ら不思議はないのだが、明らかに気配が違っていた。
足をとめたのはそのせいだった。
「……普通の馬ではない?」
栗毛の馬は、こちらに付いて来い、というように首を振っていた。
プッシュ斎藤は一瞬、躊躇してからそれに従う。
(この感覚は……なんだ?)
ひどく懐かしい。もっと幼い頃にこれと同じ感覚を抱いたことがある。
あの馬に逆らえなかったのにはプライドが傷ついた。
だが、それ以上に心が落ち着いた。
「……どうしたんだ、俺は」
プッシュ斎藤には、最後までその感情が理解できなかった。
人と触れ合ったものなら分かる――この、温もり、を。
この温かさ、を――
SCENE-U 立川郁美
郁美は胸を押さえて道端に倒れていた。
大きく肩で呼吸をして苦しそうに時より辛く息を吐き出している。
(……こんな時に……)
予想外に早い。エルフの森とここではこうも勝手が違うのか。
薬はすべて落としてしまった。このところ発作は出なかったので油断していたのだ。
終わる。終わるのか。こんなところで終わってしまうのか。
まだ物語りは始まったばかりなのに。
(お兄ちゃん……!)
「……ふん、病人か」
朦朧として行く意識の中で誰かが囁く。
「いや、こいつ……リストの、いくみ……立川郁美か?」
どうして、私の名前を知ってるんだろう。
「付いてるな、小娘よ。確か、万能薬をいくつか持って来ていたな……あとは、癒しの水も、か」
上体が起こされて喉が冷たいもの潤っていく。
そして、額に手が当てられた。これも、また冷たい。
「ブック」
もう一方の手には本が開いてあった。
「アクセス。プログラム実行。リンク確認。データロード。保存」
無機質に並べられた単語。
今まで冷えていたはずの額が熱くなって、記憶がフラッシュバックされていく。
たくさんの記憶。思い出のかけら。そこにもある兄の影。
「このデータ……立川雄蔵? この娘、立川……そうか、雄蔵の妹なのか……」
(……このひと、お兄ちゃんのことを知っているの)
いつしか郁美は、夢の中に落ちていった。
SCENE-V 酒場@カフェ
「おうっ、凄いって言ったら無かったぜ!」
酔っ払いがひとり大げさな動作を交えながら語りだしていた。
「ほう、どういう話だい?」
もう一方――こちらは、聞き手だろう。
話を促していた。
「DNだよ。ドラゴンナイト! 世界でも数人しか乗り手が居ないってアレだぜ?」
「まあ、確かに龍を乗りこなすなんて常人じゃあ無理だ」
聞き手は酔っても居ないのか冷静に言う。
その隣では女の子が詰まらなそうにジュースを飲んでいた。
酒場にしては珍しいカップリングである。
「この貿易都市も、得意先だったフィルムーンでよ。相沢一家なんて海賊が出てきて、商売上がったりだぜ」
「言い過ぎだろう? フィルムーンにだって自警団はある。いつかは捕まるさ」
「でよー! ここの領主のお嬢様も魔術アカデミーに行ったきりだしよー!」
男は酔っているのかハナから聞き手は、聞き手のようだった。
「オレの聞いた話では、ケルベロスを飼おうとしたのが反対されて家出したんだとさ」
と、言ったところで服の袖を掴まれた。
(もうすぐ就航の時間ですよ?)
(それがどうした? オレは勝手に行くし、お前も勝手に行けばいい)
(あのですね。付いてきて欲しくなかったら、お兄ちゃんのこと教えてください)
(知らねーな……お前の兄貴のことなんて)
「おい、どうしたんだよ! 話を聞けよ! んでさ、オレ様は落ち込んじゃった時にさ、見たわけよ!
ほら、何ていったけ? どっかの国で王女を護っているとか言う、あいつ……」
「済まない。そろそろ船が出る時間でな。話はこれまでだ」
しかし、男は聞いていないようでずっと唸っていた。聞き手だった男はふっと笑う。
「光岡悟……そういう名前じゃなかったかい?」
SCENE-W 神尾観鈴
「……あれ?」
観鈴はふとした予感に顔を上げた。
変わらない空。この空はいつだって青い色を広げていた。
「……どうして?」
しかし、いつの間にか空は曇っていて今にも雨が降り出しそうな天気である。
「お母さん……」
「うん? どないしたんや、観鈴?」
自警団に連行されて見慣れた街を歩く。
母親の側が彼女の居場所。
「大丈夫やで、まだあいつが居るやないか」
晴子はにかっと笑う。
「うん、でもね……」
観鈴の見上げた母親は今は悔しそうに自警団に悪態をついていた。
「とても嫌な予感がするの……」
ひとり言のように呟く。
その声は、誰に届くのだろう。
どこに届くのだろう。
「どうして、こんなにも不安なのかな?」
空が曇っていく。
どこまでも広がる空は今では暗い様相を見せていた。
今は、まだ羽ばたけない。
SCENE-X 相沢祐一
はあ、はあ、と長く切れていく。
まずは呼吸を整えることから祐一は始めた。
「……よし」
感触を楽しむように犬飼から貰った爆弾を手の中で転がしてみる。
チャンスは一度だけだろう。見極めなければならない。
三人が遠のいて、祐一はその分だけ間合いを詰めた。
もう、倉庫に行くのは諦めた。
仲間を救出することにだけ神経を集中させた。
――近づく。
もう一歩、踏み出す。
が、路地から出る最後の一歩がどうしても踏み出せずにいた。
(なんでだ!?)
ひとりの優男――確か長瀬祐介だった――のために、祐一は抑制されていた。
(怖い? 違う! 仲間を助ける……俺はミラクルカノン号のキャプテンだ!)
刹那の覚悟。祐一の心に迷いはない。
「……あの、気づかれてますよ?」
「――――!」
ぐわっと叫びそうになったところで口を押さえられる。
(自警団!?)
祐一は素早く判断を下して、抜け出そうとするが、完璧に関節が極められている。
「騒ぐな。あいつらを助けたいんだろう? 協力してやる。今から離す、大声は出すなよ」
「……プハ! だ、誰だ――お前ら?」
「もちろん――通りすがりの正義の味方ですっ」
「オレは違うけどな。まあ、協力が要るかどうかは……お前が判断しろ」
緑色のローブを来た少女と、黒尽くめの男を見て、祐一はしばし唖然となった。
【プッシュ斎藤 フィルムーンに到着 真琴の持っている情報のために祐一に協力を持ちかける】
【立川郁美 上記に同じく 今はプッシュ斎藤の持っている兄の情報を求めている】
【光岡悟 どこぞの国のドラゴンナイト?】
【神尾観鈴 三人と一緒に連行中】
【相沢祐一 協力を受けるかどうかを判断中】
うー、やっとフィルムーンまで来れた。
長い道のりだった。
七瀬は、闇の中を歩いていた。
「えいえん」の呪縛を破る事は、実はそれ程難しい事ではない。
何故なら「えいえん」は、それを望む者、あるいは適格者の元へしか現れないからだ。
もっとはっきり言えば、素質の無い人間には、「えいえん」はただの夢でしかない。
だがもし、素質と、それを望む意思があれば、話は変わってくる。
例えば、舞。
「えいえん」は舞を核として展開され、みさおはその端っこを使い、七瀬達を包み込んだ。
だが所詮、舞の為に用意された「えいえん」は、余所者でしかない七瀬達を束縛し得ない。
だからこそ、七瀬は簡単に「えいえん」の呪縛から抜け出せたのだ。
他の人間も、外部からの刺激で簡単に目覚めるはずだ。
だが、舞はそうはいかない。
舞本人が「えいえん」を否定し、現実への帰還を望まない限り、「えいえん」は文字通り、永遠に舞をその中に取り込んだままだ。
あいつと同じく、舞に「えいえん」の素質があった事は驚くべき事だが、今は他の事を先に片付けなければいけない。
「………さて、他の奴らはどこに行ったのかしらね」
七瀬はきょろきょろと辺りを見回す。
今七瀬がいるのは、言わば「えいえん」と現実世界の狭間のような所なのだ。
その時、遥か彼方に、きらきらと光るものが見えた。そして、微かに聞こえる戦いの音も。
「あっちね」
七瀬は何も無い地面を蹴ると、猛スピードで走り出した。
不本意ながら、ルミラは苦戦を強いられていた。
みさおが精神だけの存在である事はわかっていたが、それに対処する方法が見当たらないのだ。
本体でも近くにあれば、すぐさまそれを破壊すれば済むのだが、「えいえん」の中ではそれも無理な話だ。
切り札のひとつ、虎の子のソウルイーターも、通じなければただの宝石である。
「月の雫を束ね、我が敵を射抜け……月霊弓!」
ルミラの手に重なるように、巨大な弓のビジョンが現れ、そこから光の矢が放たれる。
だが、霊体を破壊する光の矢も、すべてみさおの身体をすり抜け、傷1つ与える事はできない。
「くっ……やっぱ、この程度の術じゃ効かないか……」
ルミラは舌打ちし、再び間隔を置いて、みさおと対峙する。
一方のみさおは、ひとりにこにことしているだけで、何か攻撃を仕掛けてくる様子も無い。
「ったく、やりにくいったらありゃしないわ……んっ?」
不意に、この場に訪れる者の気配を感じ取り、ルミラは視線を向けた。
闇の彼方から、見覚えのあるツインテールが見えてくる。
『七瀬!!』
健太郎とルミラ、二人の声が重なった。
「あ、なーんだ、出てきちゃったんだ、詰まらないの」
七瀬を見て、みさおは口を尖らせ、初めて不満そうな顔になる。
「健太郎、ルミラ、大丈夫? ……それから、何やってるの?」
「何って、こいつを倒そうと……」
七瀬の呆れたような声に、ルミラが反発するが、当の彼女は首を振るだけだ。
「あのみさおは、ただの影。本体を攻撃しない限り、無限に再生する情報端末でしかないわ。相手にするだけ時間の無駄よ」
「あははは、バレちゃった。じゃ、もういいね……最後の遊びを、始めようっと」
みさおは悪びれもせずそう言って、けらけらと笑った。
ずうん、と突き上げるような衝撃が、舞達を襲った。
「なっ、何、どうしたの!?」
「じ、地震か?」
慌てる志保と浩之を尻目に、舞はがたがたと震えながら、佐祐理の身体にしがみ付いた。
「怖い……怖いよ…」
「大丈夫、佐祐理が守ってあげるから」
『ねぇ舞、出て行っちゃうなんて嘘だよね? えいえんに私と一緒にいるんだよね?』
地響きのようなみさおの声が、空から降って来る。その声に、舞はびくん、と身体を振るわせた。
『返さないよ……舞は、私だけのお友達なんだから!!』
次の瞬間、巨大な手が舞を地面に引きずり込んでいた。
「あ………ま、舞っ!!」
「佐祐理さん、危ないっ!!」
地割れに飛び込もうとする佐祐理を、慌てて浩之が抱き止める。
「放してぇっ、舞が、舞があああぁぁぁっ!!」
「ちょっ、佐祐理さん、暴れないでっ……」
半狂乱になる佐祐理に、つかつかと志保が歩み寄る。
「お、おい志保……」
「落ち着きなさいよっ」
パンっ………と、志保の平手が、佐祐理の頬を打った。
打たれた頬を押さえ、佐祐理は呆然と志保を見返す。
「いーい、『えいえん』の中では、強い意志を持つ事が、何より大切なの。舞は大丈夫、助ける方法はあるわ」
凛とした声に、佐祐理は暴れるのを止め……こくん、と頷いた。
「何て事を……!!」
ルミラは、凄まじい目つきでみさおを睨みつけた。
みさおの手には、たった今捕まえた舞が、小さな球体となって収まっている。
この空間に浮かぶ球体は、ひとつの世界。
その中のひとつ、舞が居た球体に手を突っ込み、みさおは強引に彼女を引っ張り出したのだ。
「七瀬、あれは……」
「間違いない、舞の魂よ……実力行使に出るなんて、随分とらしくないわね」
舌打ちでもしたそうな口調で、七瀬が吐き捨てた。
そんな二人の視線を余裕で受け流し、みさおは満面の笑みで、舞の入っている小さな球体に、頬擦りする。
『舞が泣いてる……一人ぼっちで泣いてるよ……でも、大丈夫、すぐにみさおが、お友達になってあげるからね』
暗闇の中、舞は独りで震えていた。周りには誰もいない。
せっかく友達になれた佐祐理も、いなくなってしまった。
また、あの塔の中と同じ。一人ぼっちで膝を抱え、舞は静かに泣き始めた。
「寂しい……独りは嫌…………」
頬を伝う涙が、舞の膝を濡らしていく。
「佐祐理……佐祐理に会いたい」
震える身体に重なり、もう一人の「まい」……あの魔物……が、そっと後ろから抱きしめた。
『会いたいなら、呼んでみよう』
「……でも」
その時、遥か遠くから、微かな歌が舞の耳に届く。
それは、佐祐理の声だった。
『ほら……みんなも、舞を呼んでるよ』
そう言って、「まい」は静かに微笑んだ。
志保の歌声に合わせ、佐祐理は必死で舞に呼びかけていた。
志保のように呪歌を奏でるでもなく、ただ、ひたすらに自分の想いをさらけ出す歌。
舞を大切に思う気持ちを、ただそれだけを歌に込め、佐祐理は声を張り上げていた。
その歌に志保の歌が重なり、美しい音色となって何処までも響いていく。
そしていつしか低音のハミングが、その歌に混じる。浩之だ。
(舞……舞……あなたは独りじゃない……独りにはさせない!!)
「………この歌は!?」
ルミラがハッと顔を上げ、続いて七瀬が、健太郎が驚きの表情に変わる。
「志保の……ううん、それだけじゃない、佐祐理や浩之の声も一緒よ!」
七瀬は喜びの声をあげ、すぐさま、同じように歌い始めた。
一瞬、ルミラは躊躇うが、すぐにソプラノが旋律に加わる。そして、健太郎も。
ただ一人、みさおだけが、憎悪に歪んだ表情で、球体の中の佐祐理を睨みつける。
「……歌が、聞こえる」
闇の中、舞はぽつりと呟いた。
『行こう、舞……佐祐理の元へ。冒険に、行くんでしょう?』
「まい」が、そっと舞の背中を押した。
「そっか……私は、独りじゃなかった……いつも、あなたがいた」
「まい」はバイバイ、と手を振る。笑顔を浮かべ、ウサギの耳を揺らしながら。
そして、舞は大きく身体を伸ばし……全ての呪縛を断ち切っていた。
『ダメ……行かせない』
自分の手の中から抜け出そうとする舞を、みさおが掴もうとする。
だが、その腕を押さえる者がいた。
『………!』
ウサギの耳を付けた「まい」が、みさおを羽交い絞めにしていた。
「まい」だけではない。紅い色をしたウサギたち全員が何処からともなく現れ、みさおの邪魔をしていた。
「これは……!」
今まで敵対していた、「まい」……魔物と、ウサギ達が、みさおを攻撃している。
その光景に、ルミラも七瀬も、呆然としていた。
『えいえんが……えいえんが消えちゃうよ……!』
みさおが悲しげに絶叫し、身を捩る。
その腕を押さえながら、「まい」はルミラの、そして七瀬の方に、目を向けた。
『舞を………お願いね』
「……そう……あなたが、舞の母親の…………」
眩いばかりの光が、全てを覆い尽くす。
「舞!!」
「佐祐理!!」
佐祐理の胸元に、舞が飛び込んでいく。
舞の身体は、もう幼い少女ではなくなっていた。
佐祐理と同じくらいに成長した少女が、佐祐理の胸の中で、子供のように泣きじゃくる。
その光景を、嬉しそうに見やり……「まい」は、光の中に消えていった。
最後に………頑張ってね、という言葉を残して。
【舞、えいえんを克服。大人バージョンへ】
【えいえん、消滅】
勝手に整合を取らせて頂きました。
これで一応、複線らしい複線はフォローできたと思います。
ひょっとしたら、まだ残っているものがあるかもしれませんが……
その後の展開は、他の書き手の皆様にお任せしますです、はい。
僕は、空を見上げた。誰かが、僕に何かを言った気がしたからだ。
でも…多分、空耳だったのだろう。空は、やっぱり何時もの空だった。
視線を降ろすと、後ろに意識を向ける。
…まだ、いる…何を、企んでいるのだろう。
「祐介君、どうしたの?さっきから、ぼうっとして」
「え…いや。なんでもないよ」
咄嗟に、詩子さんに返事をする。でも、すぐ後にこう思った。
話してしまった方がいいかもしれない。
少なくても、詩子さんは僕などよりよっぽど荒事に向いている。
どうしたものか、と、思っていると。
後方の、気配が消えた。
「……?」
さりげなく、後ろを見てみる。姿は…見当たらない。
あきらめた?…いや、決め付けるのは、危険だろう。
仕方ない…僕は力を使う事にした。仕方ないと、力を使ってしまう自分に嫌悪しながら。
パチ、パチッ。
電気の粒が弾け、世界に拡散していく。
膨大な世界の情報が、僕の中に飛び込んでくる。
そのうち必要のないものを極力切り捨てながら、僕は彼を探した。
「おい、あんた、どうしたんだ?」
突然手を離され、棒立ちになった男…斎藤の姿に、祐一は怪訝そうにする。
「斎藤さん?」
だが、斎藤は応えない。否、応えられなかった。
――――まさか、これは…精神支配か!?
瞬時に意識をニュートラルに保ち、支配から逃れようとする。
だが、それは、斎藤の抵抗を嘲笑うかのように、易々と体中を犯していく。
皮膚を、体の内側からなぞられるかのような感覚に吐き気を覚えながら、意識の片隅で思う。
――――こんな事を出来る人間が…いるわけがない。
だが、これは現実だ。
「おいおい、何の冗談だよ。悪いが、俺は取り込み中なんだぜ」
「あ、ちょっと!…斎藤さん、どうしたんですか?」
――――どうしたもこうしたもねぇだろ…
内心で悪態付く。
こいつらは、世界を犯されていることに気付いていない。
あの、みすぼらしい、優男に、
住んでいる世界のあらゆる法則を支配されている事に気付いていない――――
斎藤の額から脂汗が滲んだ。
それは虚しい行為でしかないのかもしれない。
それでも、斎藤は意味のない精神制御を続けた。
…いた。でも、一人じゃない。
三人いた。男が二人に女性が一人。その誰もが、僕などより余程強い。
と、そこで。僕はふと違和感を感じた。
余程注意していなければ気付かなかっただろう、ほんの僅かな濁り。
何だろう…今まで、こんな事なかったのに。
なにか、あるのだろうか?
僕は、もう少し詳しく調べてみようと思った。
チリ、チリチリチリ…
「ううッ…」
突然、観鈴という女の子が、表情を歪める。
「観鈴、どうしたんや?さっきから、様子がヘンやで?」
「わからない…でも、何だろう…気持ち悪い」
………。もしかして、この子…
僕は、力を抑えた。すると、女の子の表情は和らぐ。
「?…あれ?」
「なんや!?どっか具合悪いんか!?」
「うん…悪かったんだけど、急に治っちった。にはは」
にぱッ、と笑う。やっぱり…僕の力に反応しているんだ。
僕の力に反応する事が出来る人、か…そういった存在も、いるんだな。
そんな事を考えながら、僕は市外を歩いていく。
自警団の本部まで、後少し。
【祐介 無意識の内に三人を牽制】
と、言うわけで『祐介の世界』をお送りします。
祐介の力をまたほんの少し、出してみました。
まあ、それだけといえばそれだけの話です。
時は、夕暮れ。
所は寂れた旧道の、細い切通し。
目も眩む高みを誇る、左右の崖から、何かが降って来る。
地面を紅く染めているのは、僅かに射し込む夕陽の光だけではない。
「……なめくさりおって、ボケが」
騎影は切り立つ絶壁の上で、最後の死体を崖下へ蹴り出すと-----女の声で、そう言った。
彼女、すなわち由宇の指揮する商隊は、時間の都合で裏街道を選択したために、山賊に襲撃された。
しかし地形から危険は予測済みであり、山賊たちが囮の馬車に岩を落とした頃には、すでに由宇たちが
背後に回っていたのである。
……あとは、文字通り突き落とすように、一方的な虐殺を繰り広げたのみだ。
彼女は汗の染みた長髪をほどくと、風がそれを弄ぶのに任せたまま、眼鏡を軽く叩いて遠くを眺めた。
足下の細道を南へ辿ると、大街道----レフキー街道----だ。
更に、そのまま東へ頭を巡らすと、王都レフキーが見える。
(ふむ……あと一日か、二日ってとこやな)
そう呟きながら、再び眼鏡を軽く叩くと、降って沸いたかのように木々が視界を埋め尽くし、王都は視線の
彼方に消えてしまった。
* * *
崖の下。ある者は壊れた馬車を修復し、ある者は火を消すために土をかけている。
襲撃を受けた商隊で、ほぼ必ず目にすることのできる光景だ。
しかし、このクルス商隊においては、それ以上に恐ろしいものを見ることができる。
ばきん ぼきん
ぶち、ぶちん ずる、じゅるるる……
なにかの、硬い音。
それは、骨の砕ける音。
続く軟らかい音は、筋肉や、内臓の裂ける音。
そして何かを-----血を、啜る音。
-----竜が、人や馬を喰らう音だ。
「賞金首は喰わすなよー。 此処からなら腐らんから、満額貰えるでえ」
先ほどの騎影が、周囲に呼びかける。
もちろん由宇の竜も、鞍の下で残酷な食事にいそしんでいる。
「解ってますよ隊長、”馬の尻も駄目やでー”、でしょう?」
「レフキー街道に出たら、馬肉で酒盛りといきますか」
わははと笑いながら、周囲の男たちが応える。
彼らにとっては、とくに珍しいことでもないのだろう、乗り竜たちの不気味な宴に怯むこともない。
「当たり前やないか、生で食うても美味いようなとこ、がつがつ喰わせてたまるかい」
「えげつないですなあ」
「猪名川隊長も黙ってたら可愛いのに、だいなしですぜ」
竜は、全部で六匹。走竜と言われるが、馬より少し大きいだけの爬虫類にすぎない。
しかし、馬とは比べ物にならない瞬発力と凶暴性から、一部の戦闘組織で採用されている。
「やかましわ!アンタら、そこへなおり。今日の働きに免じて、特別にウチの竜のエサにしたるわ」
「ええー!? ちっとも免じてないじゃないですか!!」
走竜は、食餌の量と種類の問題から、個人レベルで飼うことは不可能に近い。
しかし、何しろ騎手同士が争っている最中に、相手の戦馬を喰い殺してしまうほどの戦力があるため、
クルス商会のような資金の潤沢な大商隊にのみ許された、特別な兵種であると言えるだろう。
* * *
ふたたび動き始めた商隊を警護するため、走竜が荷馬車の脇を前後に駆け抜けていく。
「ところで隊長。レフキーまで、あとどれくらいですかい? さっき、見てたんでしょう?」
「ああ、天気が保てば、明日の午後にはレフキー街道に出る。そしたら街まで一日かからんで」
そんな会話をしながら、商隊の先頭からうしろへ巡回する。
長蛇の列を横目で見ながら、彼女たちが最後尾へ到達したとき、横から声をかけられた。
「-----晴れるよ」
いかにも魔術師然とした、華奢で茫洋とした雰囲気の少女が馬に乗っていた。
安全を求め、金を払って商隊に同行する、客人である。
当然の話だが、列の先頭近くでしていた会話を、最後尾で聞けるはずがない。
そうした特殊技能を、他人は”魔法”と考える。
「ああ、瑠璃子さんか。得意の、”風の声”か?」
風の精霊とは、違うのだけれど。
そう何度か説明したが-----常人に解ってもらえるものでもない。
「晴れた日は、よく届くから……」
どこかに虚ろさを残したまま、小さく笑って、瑠璃子と呼ばれた少女は答えた。
”風読み”として受け入れられるのならば。
理解できぬ力の持ち主として忌み嫌われるより、余程いい……。
【猪名川由宇:クルス商隊隊長。遠見の眼鏡所持】
【月島瑠璃子:商隊に身をよせる魔法使い? 電波の力は、表向き隠しています】
【クルス商隊:レフキーまで、あと二日程度】
毎度、挽歌でございます。
「クルス商隊」をお送りいたします。
電波の力、どうやら本編とほぼ同じオゾム電気パルスのようですね。
瑠璃子さんの天気予報も、新種の特殊能力ではなく、単に誰かが「いい天気だなあ」と思って
いるのを、多数受信した結果です。
本編の瑠璃子さんって、そうして無作為に情報を得るのが、好きだったんでしょうかね……?
473 :
名無しさんだよもん:02/02/02 21:16 ID:Rt8uh675
メンテage
状況の説明を受けたとき、最初に岡田が見せた反応は大きくため息をもらすことだった。
その次に、無言のまま納屋の壁にもたれかかり、しばらく黙って吉井を見つめる。
冷たい眼差しは、そのまま吉井の傍らの少女へと移る。そしてわざとらしい咳払い。
……無言のまま行われたそれら一連の仕草は、自分に対する批判の意思表明として考えるべきなのだろう。
長いつきあいのことだ、吉井にとってはわかりきっていた反応ではある。だから続いてようやく岡田の口から出た問いも、やはり予想の範疇の言葉だ。
「……で? どうして生かしてるの?」
(うぅ、これだ。やっぱりだ。この娘からどんな反応が帰ってくるかはわかってたけど、やっぱり実際そんな反応返されると胃にくるなぁ)
……判りきっているからと言って、ダメージを受けないかというとそうでもないわけで。
岡田の冷たい視線の先にいるのは、先ほど捕らえた物言わぬ少女。
毒蛇に睨まれた蛙のように、その視線に射すくめられて震える彼女を背中に庇い、吉井はため息混じりに胃のあたりを抑えた。
「それは……」
予想していた質問だから、当然回答も準備しているが、多少のためらいが吉井を少し口篭もらせる。一人で放っておくのも可哀想だったから、とはさすがに言えないから、口にするのは(軍人として)まっとうな理由のほうだ。
「他にも仲間がいるみたいだから、牽制になればと思って」
「ふぅん。でも、捕虜にするだけの価値があったわけ? 見たところ、魔術師じゃない。捕らえたときに、隠れて首を刎ねておいたほうが後腐れがなくて良かったと思うけど……」
多少後ろめたいところがあるものだから、吉井の説明はどうにも歯切れが悪くなる。もちろんそれで岡田が納得するわけもなく、彼女の不信の態度は変わらない。
「聞いた話じゃ、なにも喋らないんでしょ? なら、情報源としても生かしてる価値はないんじゃないの?」
冷然と言い放つ岡田はひとつ、根本的な勘違いをしている。
澪は喋らないのではなく、喋ることができないのだ
……最も、たとえ澪に言葉を話すことができたとしても、彼女が茜たちのことを帝国軍に告げることはなかっただろうが。
そして仮にそれを知ったとしても、岡田にとって澪の価値が極めて低いものであることに変わりない。
殺気を隠そうともせずつかつかと歩み寄る岡田に不安を感じ、吉井は衣服の下に隠したダガーの感触を確かめる。
そして、次の瞬間その不安が正しかったことを知った。
「――まぁ、そうね。今からでも、遅くないんだけど」
「岡田!?」
澪の傍らまで近づいた岡田が死の宣告を行うのと、サーベルの鞘走る音、そして金属の撃ち合う甲高い音が続けざまに響く。
澪の喉笛目掛けて閃いたサーベルは、毛髪を幾本か散らしたところで辛うじて吉井のダガーに食いとめられた。
ぐいと力を込めてサーベルを押し返し、澪を抱いたまま間合いを広げる。
「岡田! いったい何を考えて……!!」
「あんたこそ何を考えてるのよ、吉井」
気を失ってしまったのかだらりと脱力した少女の体を抱きかかえ、吉井は抜き放ったサーベルを収めもせず怒鳴る。
岡田はそれにひるみもしない。まだ警戒をゆるめない吉井に、平然として空いた間合い分を歩み寄る。
そして耳元に囁いたその声に、多少の怒気が篭っていた。
(わかってるでしょ? あたしたちは今回敵地で極秘の作戦行動なのよ?)
(それは、わかってるよ。でも……)
(わかってるなら、わざわざ厄介ごと抱えこんでどうするのよ!? この娘は魔術師よ? どんな連絡手段を持ってるかわからない。イレギュラーは取り除くのが常識じゃない)
(それは……その)
(村人にしたってそうよ。始末しておけば、監視の兵を割く必要もないのに……)
(……それは、死体の始末に困るから……隠さないといけないじゃない、ほら)
続けざまの岡田の追求に、守る吉井の弁明は極めて歯切れが悪い。
いつものことだ。どうもこの娘は、この種の任務になると『良識』というヤツが働いて非情になりきれないのだ。
長年の付き合いで、彼女のその性格はよく把握しているつもりだったのだが。
(それがわかってて、村の占拠を任せたあたしの判断ミスみたいね……)
彼女にこの種の行動を納得させるには、とにかく先に行動して事後承諾させるしかないのだ。
多少、自嘲気味の笑みを浮かべて、今度は岡田がため息をつく番だった。
(あのね。あたしは少なくとも、あんたや松本、それに兵達と生きて国に帰りたいと思ってるのよ。任務の達成ももちろんだけど)
(……うん)
(通報を受けた共和国軍に捕捉されて全滅、なんてまっぴら。だから、そのへんをさ、吉井も察してよ……)
(……うん、わかってるんだけどね……)
わかってはいても、変えられないのだろう。三銃士と称される自分たちの中で、吉井は一番穏健で、良識的……ということは、悪く言ってしまえば度胸がない。
すっかり首をうなだれた彼女に、岡田は苦笑して「もう良いわよ」と軽く肩を叩く。
こうなってはもはや、捕虜の処分は無理だ。吉井はあくまで同意しないだろうし、時間的にも何時秘宝塔から連中が出てくるか判らない。
今更、仕掛けを考え直すというのは無理な話だ。
となると、捕虜の有効な使い方を考えるというのが一番建設的なのだが。
(……うーん。と言ってもねえ? さて、実際どうしようか?)
二度目のため息が、岡田の口から漏れる。
顎に手を当てて、視線を宙にさ迷わせ……不意ににんまりと笑みを浮かべる。
――その視線の先、納屋の軒先に聳える大きな杉の枝の一歩運から、いつの間にかあの黒い鳥がこちらを見下ろしていた。
「吉井。その娘をそこに寝かせて」
「え?」
「良いから、早く」
「う、うん……」
岡田の指示を受け、なんだかわからないままに吉井は澪の体を地に横たえた。
その間に岡田は鳥の直下まで進み出ると、恭しく、しかしどこか茶化したように腰を折る。
「御使いよ。ひとつ、お力を貸していただけますか?」
「……ツマラヌコトデナケレバ、イイダロウ……」
「きっとお気に召すと思いますよ」
あからさまに気乗りしない様子の鳥に、岡田は澪に気取られないよう小さくその願いの内容を囁いた。
「……フム」
岡田の提案に、鳥は即答せず少し返答までに間を空ける。
自分を見つめる真紅の硝子玉のように無機質な鳥の瞳から、その感情を窺い知ることはできない。
だが岡田は必ず、この御使いが自分の提案を良しとすることを確信していた。
この邪悪な存在が、この類の願いを拒むわけがない。
やがて返ってきた黒鳥の答えは、果たして岡田の期待を裏切らない。
「……イイダロウ。ナカナカユカイナテイアンダ」
そう告げるや否や大きく翼をはためかせ、黒い鳥が止まり木から岡田の右腕へと飛び移った。
彼女は薄く冷たい笑みを漏らし、腕に止まった鳥を抱きかかえるようにして胸元へと寄せる。
「ありがとうございます。では、早速に……」
抱きかかえた鳥を、丁重に横たわる澪の胸の上に乗せる。
意識を失いながら、危険の存在を感知したのか。澪のに顔は苦しげな表情が浮かんでいた。
それを目にして、岡田は唇の端を笑う形にゆがめる。
「あんたは幸運なのよ。意識のあるまま、体を乗っ取られる感覚を体験しなくて済むんだから」
嘲るように呟いて、岡田は後方へとすっと身を引いた。
この時には、吉井もその意図に気付いている。気付いたところで反対もできず、ただ憐憫を篭めて澪を見下ろすばかりだったが。
そして二人がある程度後ろへ下がった時、澪の小さな胸の上に乗った鳥が、突如として"弾けた"
弾け、広がり、たちまちの内に黒い霧と化す。瞬時に澪の体を包み込む。
いや。変異し、包み込むだけに止まらない。
目から、鼻から、耳から、口から。身体のありとあらゆる開口部から、黒い霧は澪の体内へと入り込んでいく。
すべては瞬く間に起きたこと。
……怪鳥変じた黒い靄が、すべて澪の体内に入り込むまでわずか五秒と掛からない。
ぐったりとしていた彼女が、何事もなかったかのように身を起こすまでにそれからさらに十秒。
おのれの体の感覚を確かめるように、腕を伸ばし、右の手に握り拳を何度か作り、一通り四肢を動かしてから岡田たちへと向き直る。
その顔に浮かんだ笑みは、元の彼女が決して浮かべようはずもない邪なもの。
その口から流れ出たのは、元の彼女がとうの昔に失ってしまった声。
「……さて。これから我はなにをすれば良いのかな……?」
【岡田・吉井】坂神様ご一行歓迎準備中
【澪】 黒い鳥に体を乗っ取られる
>>438-440よりのリレーです。
……長すぎるなぁ、我ながら。
三人しか出てない、っていうか事実上二人しか出てないのに(汗
文章力をもっと向上させたひ……
岡田は岡田で、ハカサバのポスト御堂化計画から逆走モードだったり……(ぉ
まず最初に感じたのは、石造りの床の、ざらざらとした冷たい感触だった。
「うっ……く」
僅かに声をあげ、七瀬は身体を起こす。
瞬時に状況を判断する能力も、冒険をするものにとっては、必要不可欠なものだ。
「ここは、さっきの塔の中……そうか、えいえんから脱出できたんだ」
七瀬はあぐらを組み、大きく溜め息をついた。
周りを見ると、志保や蝉丸、ルミラ達も気付いたようだ。
「はぁ……何とかなったわね」
志保は肩をすくめ、こちらに目をやった。その視線の意味に、七瀬も苦笑を返す。
「っつつ……なんだ、塔の中じゃねーか」
「そーよヒロ。何とか舞を連れ戻せたみたいね」
そう言って、視線を舞の方に向けた志保は、目を見開いた。
「う……ここは?」
「塔の中…」
目を覚ました佐祐理に、ぽそ、と彼女が答える。
佐祐理は一瞬、呆然と彼女を見やり………掠れた声で囁いた。
「まさか、舞……?」
「そう、みたい」
そこには、16,7ほどに成長した、舞の姿があった。
来ていた服は破れてしまい、全裸のまま不思議そうに立ち上がって、自分の身体を見下ろす。
「………はっ!」
生まれたままの姿の舞を、穴の開くほど眺めていた浩之を、志保はものも言わずに張り倒した。
「いでで……」
「男ども、全員回れ右っ!! 七瀬!」
志保の言葉よりも早く、七瀬は自分のマントで舞の身体を包んでやっていた。
「いってーっ、くそ、思いっきり殴りやがって……」
殴られた所を押さえ、浩之はぶつくさ言いながら舞に背を向ける。
そして、蝉丸と健太郎がそれに倣った。
「佐祐理、私……」
「……舞、何も言わないで……」
そっと舞の体温を感じながら、佐祐理は安堵の涙を零していた。
ルミラは苦笑しながら、埃を叩いて立ち上がる。
「これからどうするの、二人とも」
「……冒険者に、なろうと思っています」
「私は、佐祐理についていく」
そんな二人の返答を聞いて、ルミラは呆れたように肩をすくめた。
「箱入りのお嬢さんと、塔に篭っていた半人前で冒険? 笑わせないでよ」
辛らつなルミラの台詞に、佐祐理は口をつぐんだ。
確かに彼女の言う通り、今回の事件で、自分の無力さは嫌というほど味わっていた。
自分だけでも足手まといでしかないのに、世間知らずの舞を連れて行けば、それはなおさらだろう。
かといって、今更自分の家には帰りたくなかった。
「……冒険者になるにしても、準備ってものが必要でしょ。取り合えず、レフキーに戻るしかないわ」
暗い顔をする佐祐理に、舞も心配そうに寄りそう。
「佐祐理、大丈夫?」
「うん……平気ですよ、舞」
身体は大人になっても、舞の心は子供のままだ。自分がしっかりしなければいけないのに……
「差し当たっては、志保の家にでも匿ってもらうといいんじゃない?」
「……って、何であたしの家!?」
いきなりルミラに名前を出され、志保は素っ頓狂な声を出した。
「だって、宿ならすぐこの子の父親に、嗅ぎ付けられちゃうでしょ……とくれば、貴女の家しか残ってないじゃない」
「………マジで?」
志保は思わず、自分の指で問題を数え始めた。
「……ルミラ、あんたは」
「私は宿住まいだし、本拠はこっちには無いもの。あなただって知ってるでしょ」
「……蝉丸、彩」
「彼女たちを、王宮で保護するというのであれば……」
「……七瀬、健太郎」
「あたし達は、決まった家なんか持ってないって」
「……ヒロは当然ダメ、と」
「おい、なんで駄目なんだよ」
いきなり否定され、むっとした浩之が志保に突っかかるが、逆に冷たい視線を浴びせられただけだった。
「独身の野郎の家に、世間知らずの女の子二人を、泊まらせられるわけないでしょ……常識無いわね」
「くっ……志保に諭されるとは……俺一生の屈辱」
悔しがる浩之を置いて、志保は溜め息混じりに佐祐理と舞に手を伸ばした。
「そーいう事みたいだから、しばらく一緒に暮らす事になるわねー」
「……ごめんなさい、長岡さん。佐祐理のために……」
「いいっていいって……このむっつりスケベの野獣のトコに置いておくより、あたしが面倒見てた方が、気が楽だしね」
「むしろ、掃除に洗濯、料理と、佐祐理さんに面倒見てもらう方じゃ……ぐっ!」
志保につま先を踏まれ、浩之は言葉を飲み込んだ。
「取り合えず、舞の服をどうにかしなきゃねー」
「佐祐理の荷物の中に、替えの服がありますけど、サイズが合うかどうか…」
思わず話し込む二人を、ルミラが遮った。
「貴女達、とにかく地上に上がらない? ここ、かび臭くて……お肌が荒れちゃうわ」
ルミラの意見は、全員一致で承諾された。
出口に向かう帰り道の中で、ふと浩之は、最後尾を歩く志保に尋ねた。
「……ところで志保、お前、えいえんの中で、何を見たんだ?」
「な、何よ、藪から棒に……」
舞の成長と共に、壁一面のウサギ達も姿を消していた。ただ、陰鬱な灰色の石壁が広がっているだけだ。
「……別に、大した事じゃないって」
「大した事無いわけないだろ、大体お前、俺のえいえんを覗いてて、自分だけ言わないってのはなぁ……」
「学校よ」
「……え?」
志保は溜め息と共に、苦い笑みを浮かべて見せた。
「どこかの知らない、モンスターも戦いも無い平和な世界。そこではあたしは、ただの普通の高校生で。
あんたとは中学以来の喧嘩友達。学校行って、馬鹿やって、普通の暮らしをしてた、ただの夢よ」
まるで、遠い過去を懐かしむような、手に入らないものを羨望するような、そんな見た事も無い志保の表情に、
浩之は言葉を失っていた。
「……そうだ、ルミラ、あんたから貰った宝石、呪いつきだったわよ! 何とかしてよねー」
少しわざとらしく、志保が話を変える。
「そう言えば志保、お前頭に面白いものがついてるな……気付いてたんだが、言いそびれてたんだ」
「ごめんなさいね、志保。急いでたから、呪い除去が上手くいって無かったみたい」
その時、突然蝉丸が叫んでいた。
「外に出たぞ!!」
思わず全員が顔を見合わせ、我先にと外に飛び出していく。
「太陽よーーっ、生きて見られるとは思わなかったわ!」
「…まったくだ。日の傾きからすると、今ちょうど昼を少し回ったぐらいか……」
そうして、最後に舞と佐祐理が外に出てくる。その瞬間、僅かに舞が躊躇った。
「大丈夫、舞……」
佐祐理の言葉に、舞は意を決して、光の当たる世界へ、塔の外へ、第一歩を踏み出していた。
「……おめでとう、舞……!」
「いやー、そう言えばお腹減ったわね。よく考えたら、昨日の夜から何も食べて無かったわ」
「そう言えば、俺も腹減った……」
申し合わせたように、志保と浩之の腹が、同時に鳴った。
そのあまりのタイミングのよさに、思わず全員が笑ってしまった。
「どうする? 村で何か食事を取るか、ここでキャンプをするか」
「暖かいのがいいから、<<村>>に一票」
「俺も浩之に賛成だ。せっかく村が近くにあるんだしな」
彼らの談笑を、ぼんやり見ていた佐祐理は、ふと横にいる舞が震えているのがわかった。
「舞?」
「……佐祐理、私は怖い……佐祐理のおかげで、初めて私は外に出れた」
そう言いながら、舞は目を細め、太陽を、緑の木々を、そして爽やかな空に目をやった。
子供の頃に失い、そして今、再び目にする事が出来た、塔の外の世界。
「でも、また同じ事を繰り返して、佐祐理に迷惑を掛けてしまうかもしれない……
道ばたで泣いてしまうかもしれない……ご飯を食べてたら、不意に泣き出してしまうかもしれない」
舞の手が震えているのを感じ、佐祐理はしっかりと握り返した。
「また、炎に追われる事になるかもしれない…誰かに石をぶつけられるかもしれない……それでも」
それでも、私の横に居てくれる………?
囁くような舞の声に、佐祐理は静かに吐息をついていた。
「……舞、私、わかったんです」
舞の手に、そっとあの白い宝石……『秘宝』を握らせ、佐祐理はにっこりと微笑む。
「大事な人と一緒に居たいと思う気持ちは、頭じゃなく、心で感じるものだって……」
いまだ、人の心に怯える舞を見て、佐祐理は強く心に誓っていた
決して舞を独りにしないと……一弥の二の舞は、決してさせない事を。
相変わらず長いです…。
【塔から脱出】
【舞、佐祐理は、この後志保の家に居候の予定】
【舞に『秘宝』は返される】
【一同、何も知らずに村へ】
精進精進。
塔から村へと続くけもの道。
新鮮な風が頬をすりぬけ、足もとの野花がゆらゆらと会釈する。
薄暗く息苦しい塔から出られたことで、一向の誰もが爽快な笑みを浮かべていた。
……ただひとりを除いては。
「彩、顔色が悪いぞ。傷が痛むのか?」
「……いえ…ケガは…たいしたこと…ないです……少し考え事を…」
「考え事?」
「…はい……向こうの世界で見た……えいえんのことを…」
「ああ、あれか…」
蝉丸と彩には"えいえんの世界"というものがどんなものか理解できなかった。
見たことも聞いたこともない現象……
背の高い草を木の棒でたたきながら一行の先頭を歩いている志保が言うには、
『あれはその人が望む世界を創りだし、その世界に引きずり込んでしまう精神攻撃のようなものらしいのよね。
よく"神隠し"なんてのがあるじゃない? 子供が突然消えちゃうっていうアレ。アレも一種のえいえんなのかもね〜』
人が望む世界を創る術…みんなそれぞれ、自分が望んでいる世界を見たことだろう…
蝉丸は、他の者が望むものがどんなものかなど、知りたくもなかった。
…しかし、隣をちょこちょこと歩いている少女が見た幻影のことが…少しだけ気になっていた。
「彩は何を見たんだ?」
「……お父さん…」
「父親?」
意外だった。
年頃の娘が望むもの…
それが父親というありきたりな存在だったことが、蝉丸には不思議でならなかった。
「彩にはいないのか?」
「……お父さんと…お母さんは…わたしが…小さい頃…ガレーティアに…務めていたそうです…」
「…ガレーティア? …そうか、あそこか」
ガレーティア…知らないものはいないと言われるほど有名な名前。
そして…地図からも抹消された血塗られた歴史のひとつ。
かつて、共和国が魔術から魔術を生み出す永久機関の開発のために創設した魔術研究所・ガレーティア。
国中から著名な魔術師が集まり、"魔術炉"と呼ばれる機関を開発した。
それは、魔力を燃焼させ、さらに大きな魔力を生成するという技術だったが…
ガレーティア近郊は今となっては魔力汚染によって様々な魔物やモンスター、悪魔の住まう呪われた地となっている。
当時、研究員として従事していた魔術師は述べ50人…生存者などいるわけがなかった。
「辛かったか?」
「………いえ……昔のことだったから…」
「そうか…お前は強いな。それでこそ誇り高き特務部隊員だ」
こみ上げる感情を振り払うかのように、蝉丸は彩の頭をぐりぐりと撫でた。
「……そういえば…蝉丸さんは…どんな世界を見たんですか?」
「なっ!?」
蝉丸が見た幻影…
それは蝉丸自身にとって最も理解し難く、決して人には言えないものであった。
「見ていない! 俺は何も見ていないぞ!」
「……でも―――――」
「こ、こっちを見るなっ!」
「……はい…」
一行から離れた間を詰めるため、蝉丸は駆け出す。
彩はがっくりと肩を落とし、ちょこちょこと蝉丸の背中を追った。
(3行空けでお願いします…)
「そういえば蝉丸さんは、舞の秘宝を狙ってたんですよね?」
「くっ…」
佐祐理の空気の読めない問いに舞がピクリと反応する。
秘宝をぎゅっと抱きかかえ、蝉丸を睨みつける。
「舞、睨んじゃダメですよ?」
「わかった。睨まない」
「…ごめんなさい……お仕事…だったから…」
「任務でしょ? んで、まだ狙ってるワケ?」
志保がいぶかしげな顔をして蝉丸と彩…両人の顔を見つめる。
「その娘の母親の声しか聞こえん宝玉など、秘宝とは言えん。俺達は、もっと強大な力を秘めた秘宝を求めている」
腕を組み、志保の問いを真っ向から否定する蝉丸。
「……わたしは…もうたくさん…もらいましたから…」
リュックから古ぼけた本を取り出してそう告げる彩。
「さすがはお役人さん、気前がいいねぇ…王立…えーと…なんだったっけ?」
「王立騎士団特務部隊…よ? ま、ヒロみたいな一般人が知らないのも無理ないけど」
「…るせーな、講釈はいいから詳しく教えろよ」
「共和国の軍事機関・王立騎士団の中でもエリートクラスのみが入隊を許される女王直属の特殊部隊よ。
昔は暗殺部隊としてそのテの要人に恐れられていたみたいだけど、平和になった今じゃ護衛任務や秘宝探索が主任務らしいわ」
「へぇ…すげーんだなぁ」
志保の説明を聞いて健太郎が感嘆の声をあげる。
「ふん、まぁな」「……いえ…そんなこと…」
「でも、全然統率が取れてないわね」
七瀬が意地悪そうな笑みを浮かべて蝉丸と彩を見比べる。
「むっ…こら彩、俺に合わせろ」
「……ごめんなさい…」
どこか抜けてる二人のやりとりを見て、皆の顔から笑みがこぼれた。
(またまた3行空けでお願いします…)
「おお! 村だぞみんなぁ! サッサと飯食いに行こうぜぇ!」
「ちょっと待ちなさいよっ!」
ぐいっ!
七瀬は浮かれて丘を駆け下りる健太郎の襟首を引っ掴んだ。
「ぐえっ! な、何するんだよ…」
ゲホゲホと咽ながら健太郎は七瀬を見上げる。
「アンタ…本っっっっっ当にバカね。帝国軍が来ていることをもう忘れたの!?」
「え? そうだっけ」
「何っ! そんなバカな…ここは共和国領だぞ!?」
「どうやら、帝国はそんなことも分からないバカみたいね」
「目的は秘宝かしら?向こうは完璧な偽装だと思ってるみたいだけど、
こうもツッコミどころ満載だと逆にどこからツッコんでいいか悩むわね」
「……志保さんもルミラさんも……辛口ですね…」
ルミラの言う通り、偽装とはいってもお粗末なもので、演技のほうはまるでなっていない。
この世のどこに剣を携え、意味もなく外をうろつく村人がいるだろうか…
しかも、村人同士が鉢合わせするたびにバカ正直に敬礼までしている。
誰がどう見てもバレバレである。
「長岡」
「志保でいいわよ、"ちゃん"付けで呼べばさらにチャーミングよ?」
「…志保、先程…特務部隊のことを話していたが、補足してもいいか?」
「ええ、どーぞ」
「平和になった今でも、我々は時として命懸けで戦うことがある」
「…ちょっとアンタ、それってもしかして―――――」
「女王陛下の民を愛する御心に則り、村を奪還するっ! 彩っ! 俺に続けっ!!」
「…は、はいっ!」
「だから待ちなさいって!」
ぐいっ! ぐいっ!
ゲホゲホと咽る蝉丸と彩。
「村を救いたい気持ちは分かるけど、まずは作戦を立てるのが先でしょ?」
七瀬は子供を叱るような口調で二人に言い聞かせた。
【 秘宝塔組 村奪還に向け、作戦会議 】
【 帝国軍 バレバレ 】
話もろくに書かず、人間関係のまとめも遅いアフォな1です。
ええと…なんかダラダラしてシマリのない文になってしまいました…
いつも通り、今後の展開は次の書き手さんにお任せです。
煮るなり焼くなりご自由に(w
――そこは、闇が質量をもっているかの様な、世界。
そこに、一人の女の子が膝を抱えて座っていた。
そこは、暗く、何も無く、”孤独”という意味を体現したかの様な世界――
「やぁ、みさおちゃん」
そこに一人の男の子が現われた。人懐っこい笑顔で。
「…………ひのかみくん」
女の子――折原みさお――は顔を上げて、その声に応えた。
――それは、やるせない気持ちを抑えた、笑顔だった。
「……その呼び方は止してくれよ。僕はシュンで……いいよ」
と言って、男の子――氷上シュン――は立ち止まった。
「……失敗、しちゃったよ。どうして、みんな、えいえんを拒むんだろうね……?」
そう言って、折原みさおは顔を膝に沈めた。氷上シュンはそれを見ていた。
――否。見ていることしか出来なかった。
氷上シュンは思い返す。この、目の前で、孤独の世界に一人で居た、少女との出会いを。
彼――氷上シュン――の家にはある一つの『秘宝』が伝わっていた。
共和国成立に欠かせぬ役割を果たしたにも関わらず、後の王家に呪われた『秘宝』と噂され、最初の王家の血筋が途絶える直前に、王家の独断で外部には気付かれないように氷上家に保管、管理を一任された品。
当時、唯の田舎の名家だった氷上家に極秘に伝わったこの話を断る理由もなく、その『秘宝』は、現代――氷上シュン――が当主となるまで氷上家に保管、管理されていた。
しかし、それが災いしてかどうかは判らないが、その後に共和国に即位した者も子孫が栄える事は無かった。
その頃から、氷上の血筋は有能な者を輩出させる代わりに、短命になっていった。もちろん、氷上の名が世界に知れ渡る前に。
ある者は病魔に。またある者は精神を壊し、天寿を果たす事無く、死に絶えた。
それが遺伝的なモノか、又は氷上の家に共和国成立後に託された『秘宝』のせいかは判らない。
そして、氷上シュンは幼い頃に、父親から――狂い、自らの喉笛を掻き切り絶命した男の――当主の座を貰い受けた。
それから、シュンは気ままに暮らした。幼い時から原因不明の病魔に侵されていて、何時、死ぬか判らないと医者に宣告されても、ただ起きて、眠って時を過ごす。そんな生活を続けていた。
――氷上シュンにはその世界だけで充分だった。木の葉が擦れる音や日が沈む光景を見るだけで充分だった。
彼――氷上シュン――の生活に終わりを告げたのが、戦役――大庭詠美が女王に即位する直前に起きた、大戦――だった。
戦争で一番酷い目にあうのは何時だって弱者だ。この時の戦で彼の家は――すっかり衰退していたが――名目共に消失した。
そして、彼は己の魔力に目覚めた。
――切っ掛けは笑えるくらい定番で。そして彼は、『秘宝』を手に入れ、自分だけの世界の想像に成功した。
こうして……絶える直前の王家から極秘裏に氷上家に託された、呪いの秘宝。持つ者に力の狂気を与え、手にする者に神念の槍を与え、振るう度に軌跡を熾す『秘宝』――緋槍ゲイボルク――は誰にも知られる事無く、氷上シュンの手に渡った。
それでも、レフキーの歴史では、王家の断絶の危機の中で突如消えた、幻の秘宝。持つ者に悲しみの運命を与え、手にする者に信念の槍を与え、振るう度に奇跡を興す『秘宝』――悲愴ゲイボルク――として伝わり、主に悲恋の逸話が多く残っている。
この秘宝が氷上家の運命を狂わせたのかは判らない。唯、火を冠するこの槍が、”ヒカミ”という名だけで氷上の家に保管される事になったのは、事実だった。
そして、それから少しの時が流れ、シュンは自分と似たような世界を持つ者に出会う。――それが折原みさお。目の前の少女であった。
次に、氷上シュンは折原みさおの事を想った。
折原みさおに出来る事は、対象の意識、記憶から世界を創造でき、任意の範囲でその世界へと対象者以外の人間を連れて行く事が出来る。しかし、自分の創った世界以外の空間干渉は出来ないらしい。そして、再構築も出来ない。
氷上シュンに出来る事は、自己の世界の創造のみ。自分以外の人間を創造した世界へと連れて行く事は出来ない。そのかわり、自分以外の世界に干渉でき、自己の世界に溶け込む時に、任意に指定した人間以外の全ての人はシュンとの出会いを忘れてしまう。
……もちろん、これは氷上シュン自身の推論でしかないのだけれど。
折原みさおは最初”この世界”の事を”えいえんの世界”と呼んでいた。
それは何なのかな? というシュンの質問にみさおは嬉しそうに答えた。
――『盟約』に結ばれた、男女がえいえんに楽しい記憶を旅出来る、そんな夢の様な世界。
折原みさおの住んでいた地方に伝わるお伽話。そして、自分に出来る事がそれに似ているからそう呼んでいる、とみさおは言った。
その顔は……夢見る少女だった。その時シュンはこう思っていた。
『待ってる人がいないなら、そんな世界も悪く無いかな』
そして、みさおが最初に創造した世界がこの……暗闇、孤独の世界だった。
それは折原みさお自身の意識、記憶から創造した世界。
……シュンとみさおは自分達の世界の違いを確認したアト、自らの生い立ちを話し合った。お互いにそれを一心に聞いていた。
それは、絆を求める行為だったのかも、知れない。
彼女――折原みさお――は生れた時から原因不明の病魔に侵されていた。物心がついた時からベッドで寝たきり、家から出た事など数回しかなかった。
彼女には兄がいた。その兄が、彼女にその”お伽話”を教えてくた。その、彼女の記憶している兄の顔は何時も、悲しみにくれ、泣いている顔だった。
それから、数年後、尤も時間の感覚も狂っていて、正確には判らないが、病状が一気に悪化、そして、気付いてしまったのだ。彼女自身の器に合わぬ強力な魔力を持って生れ、それが外に漏れない様に無意識に、己の体内に溜め込んでいた事を。――その結果が、原因不明の病。
そして、生きる為には魔力を開放するしか無かった。そして、折原みさおはお伽話のような世界を創造する。しかし、彼女には楽しい思い出など皆無。故にその世界には”己が楽しい思い出の一つも持てなかった”という孤独だけが残った。
一方、現実では、残ったのは突然患者が消えたベッドのみ。医者は家族になんて言ったのだろうか? 大体想像はつくが。そして兄は妹の死に目にも会えず時を過ごす事になる。
それから、彼女はその孤独の世界で、独りで時を過ごす。後に彼女と似た世界を持つ男の子と出会うまで。
――これがシュンとみさおとの邂逅だった。
「この世の中がえいえんに満たされればいいのにね……」
シュンの回想はみさおの声に中断された。シュンが知る限りみさおがえいえんを発動させたのは今回で三回目だ。一回目は彼女自身。二回目はみさおの兄が傷心中に、幼い時に交した盟約が発動する寸前。……みさおはお伽話を信じているらしい。
そして、今回……塔で一人ぼっちで暮らしていた少女の為に。
「僕の世界を共有できたら……みさおちゃんには悲しい想いをさせなくてすむんだけどね……」
「いいんだよ。シュンくんに会えただけで私は嬉しかったから」
――その言葉に報えない自分が、情けない。まだ、彼女に何もしてやれてない自分は、慰めの言葉すらかける資格が無い。もう既に、シュンのせかいは出来ている。その上に氷上シュンの記憶からみさおの魔力で世界を創造する事はできない。
それはシュンの魔力によって創造した世界の方が格上だからかも知れない。――さすが、何処かの団体さんに”Sランク”なんて位置付けされているだけのことはある。と、シュンは自嘲気味に笑った。
「これからどうするのさ? みさおちゃんは」
「えいえんを発動させちゃったから少し、疲れちゃったよ。ちょっと眠るね」
そう言って、みさおは孤独の世界で眠りに付いた。常に溢れる魔力を消費する為に、この世界に居つづけなければならない。この、世界に。そしてこの世界には時の経過が無い。つまりは彼女は成長すら出来ないのだ。
「みさおちゃん……お休み」
そして、シュンは自分の創造した世界に移動した――やる事があるからだ――その世界は、草原が何処までも広がっていて、いつも風が草を撫でている。しかし、そこにはシュン以外のイキモノは存在しなかった。
(初めて、絆を求めた存在、か……)
シュンは思う。くだらない戦争で自分の生活が狂ったのは別にどうてもいい。しかし、それで苦しんだのはおよそ関係無い、民なのだと。
そして、シュンは自分の出来る事を思い浮かべる。それは可能性を増やす事。シュンには時間がない。
どうか、……みさおには幸せな記憶を。 それには、秘めた力を持つ『秘宝』が必要かも知れない。
その為に、自分に近い世界と異質の力を持つ者と出会い、自分の記録を残す事でシュン自身にも判らない可能性を引き出せる組織と接触した。そして、不思議な――自分と似た雰囲気を持つ――少年。
しかし、シュンには不安があった。緋槍の呪い。けれども、シュンはこの緋愴を手放そうとはしなかった。
こんな、”呪い”とかいう不確実なものに自分の想いが負ける訳が無い、と思うし、それに、力も、いるからだ。
――シュンは待ち続ける。彼が託した可能性という名の、時の流れを。
(僕の想いは……まだ…………届かないのかな?)
しかし、彼は気付かない。抱きしめてあげるだけで、彼女は充分だという事に――。
【折原みさお/自分のせかいにひきこもり】
【氷上シュン/何かを待ってる/歴史に消えた秘宝を所持。秘宝自体の能力不明】
最後の一文何気にヤヴァイな……
そして氷上くんがホ○からロリ○ンに(;´Д`)
冗談はさておき、微妙なお話でしたね……
氷上くんの神秘性が死んでしまった……しかし彼も人間だしねぇ……
それと、あのままみさお放置では何時えいえんに連れて行かれるか判ったものではなかったので。
それにえいえんを語るなら彼も必要だろうし……。ってゆーか、ドラクエみたいに『悪は問答無用でぶっ潰す』的な話のほうが似合うのかな?
アト、秘宝の名前ですがやっぱり葉鍵に関係してる方がいいですかね? ちょっと思いつかなかったです(汗)
魔力というより、超能力に近いかな? とか思いつつ、ドラクエみたいに『悪は問答無用でぶっ潰す』的な話のほうが似合うのかな? とか疑問に思ったり。
変なところがあったら、指摘お願いします。
>497
アホさらしてスマソ。
499 :
貧乏くじ:02/02/05 00:01 ID:Xm7NPswe
「さてと、どうしましょっか?」
取り合えず、村から少し離れた森の中で車座になりながら、一同は対策を練っていた。
「帝国が動いたとなると、下手をすれば国際問題になりかねん」
顔をしかめ、そう言ったのは蝉丸だ。
「特に、特務部隊である俺たちの素性がばれたり、捕らえられでもすれば、事は戦争にまでなりかねん」
「さっき、独りで突っ込もうとした人間の台詞じゃないわね」
ルミラの冷たい突っ込みに、蝉丸の頬に一筋の汗が流れる。
「と、とにかく、ここは慎重に事を運ぶしかないが……彩、圧倒的に戦力差が有る場合、取るべき作戦はなんだとおもう?」
これは、意見を求められているというより、彩の知識をテストされているといった感が強かった。
「はい……最も有効な作戦は、退却、もしくは援軍を呼ぶ事ではないでしょうか」
「んな消極的な……」
「いや、それが正しい」
呆れたような声をあげた浩之に、蝉丸は逆に生真面目に首を振った。
「これは、すでに一個人の問題ではない。我々に求められているのは、勝利ではないんだ。
奴らの目的が何かわからない以上、下手に動くわけにもいかん。何より、民間人の避難が先決だ」
「けどさ、こっちには魔族のルミラとか、歌の使える志保とか、戦闘力には事欠かないじゃねーか」
あくまで積極策を唱えようとする浩之に、志保は大きく溜め息をついた。
「どうせあんたの事だから、あたしに精神操作系の『歌』でも使わせる気なんでしょ」
「何か問題でもあるのか?」
あっけらかんと言う浩之に、志保は今度こそ深刻な溜め息をついた。
黙ってしまった志保に代わり、彩が浩之に説明にはいる。
「あの、浩之さん、確かに『歌姫』によるバックアップは、多人数同士の戦闘において、非常に強力な支援になります。
……ですが、『歌姫』は、決してどこか特定の陣営に、属してはならないと決まっているんです」
「はっきり言えばね、『歌姫』は中立なの。国家に有利不利な行動は、しちゃ駄目なのよ。
だから、建前上、あたし達は暗殺もされないし、帝国に監禁されて、無理やり歌わされもしないって事」
500 :
貧乏くじ:02/02/05 00:01 ID:Xm7NPswe
「……じゃあ、ルミラは?」
「私が何で、人間なんかの争いに荷担しなきゃいけないの? 魔族が関わっているでなし」
「…問題は、奴らの目的だ」
再び話の主導権を握り、蝉丸が声を潜める。
「軍事的に何のメリットも無いこの村を占拠するからには、それなりの理由があってしかるべきだろう」
「それなんだけど、多分秘宝じゃないの?」
ここで志保が、ようやく「塔」に来る道中で、帝国軍を見た事を話して聞かせた。
「秘宝……か。しかし、帝国と共和国の関係は、良くはないが悪くもない……言ってみれば小康状態だ」
「そこをあえて突付くからには、それなりの理由があると?」
彩と蝉丸は、そろって腕を組み、うーんと唸ってしまった。
「そんなに深く考える必要、ないんじゃねーの?」
「……どういう意味だ、浩之?」
気楽そうな浩之の言葉に、蝉丸は眉をぴくっと上げる。
「ようは、蝉丸さん達と同じ……貧乏くじを引かされたって事じゃないか?」
「……………貧乏くじ」
その意味を理解してか、蝉丸の顔がずーんと暗くなった。
特務機関といえば聞こえはいいが、その正体は『女王様のわがまま処理係』である。
今回の任務も、秘宝探査の名目ではあるが、実体は女王のアイディアを呼び覚ます為のものなのだ。
もちろん、詠美の魔力を押さえ込める秘宝があれば、当然それを持ち帰る事が先決とされる。
蝉丸が、あえて舞から秘宝を奪おうとしなかったのも、ここが原因であった。
はっきり言えば、舞の秘宝が魔力を封じるたぐいのものでない以上、何が何でも持ち帰る必要はないのである。
もちろん、この内情は中枢しか知らない極秘事項なのだが、さすがに特務部隊だけあって、蝉丸は知っていた。
「なるほど、秘宝は欲しいし、面子もある。だが、場所は共和国で、いざこざを起こしたくない……」
「だから、切り捨てやすい辺境の兵を、極秘裏に配置するつもりだったんでしょ……」
ルミラの言葉は、確かに理に適っていた。
501 :
貧乏くじ:02/02/05 00:03 ID:Xm7NPswe
「それがなんだって、あんな軍隊率いてるんだ?」
「それがわかれば、苦労しないわよ……」
突然志保が、ふにゃりと地面に倒れ伏した。
「ヒローあたしお腹減ったー」
「……そう言えば、俺も腹減ったな……」
「……あたしも」
「俺も…」
一同のやる気がすっかり抜けてるのを見て、蝉丸は渋い顔をする。
「しかもなんか、お尻がむずむずする……うにゃっ?」
「そ、それよりも志保、お前ヒゲ生えてるぞ……」
志保に、尻尾とヒゲが生えた。
「…………」
ひょこり、とスカートを持ち上げ、ゆらゆらと揺れる尻尾に、思わず男性陣の目が釘付けになる。
「……そう言えば、すっかり忘れてたけど、志保ってば呪われてたんだっけ」
だが、当の志保は、ぽかんとした顔のまま、ふんふんと樹に顔を擦りつけ始めた。
「って志保!?」
さらに、いきなりその辺の樹で爪を研ぎ始めた志保に、誰もがびびる。
「えいえんの中にいた事で、志保の呪いに悪影響を及ぼしたと……そう考えるのが自然ね」
「って、冷静に分析している場合か!? 行動まで猫化してるぞ!?」
かりかり、と樹を引っ掻いていた志保は、唐突に我に帰った。
「…………あれ、あたし今なにしてた?」
「深く考えない方が、お前の為だぞ」
何やら腑に落ちない顔をしながらも、志保は再び座り込む。どうやら、ヒゲと尻尾には気付いていないらしい。
「………どうやら、マジで悠長な事言ってられないみたいね……志保のためにも」
厳かなルミラの声に、誰もが(志保除く)重々しく頷いていた。
【一同、森の中で作戦会議】
【志保、呪い進行……人間的尊厳の崩壊まで、あとわずか】
相変わらず駆け足な進行ですいません。
誤字脱字抜け伏線ミス、指摘よろしくお願いします。
503 :
故郷よ:02/02/05 12:20 ID:a/5MzLnV
「あの村へ…行くの?」
蝉丸達が作戦会議を行っている中で、突然舞が口を開いた。
作戦会議の内容は、半分以上理解していない舞だったが、ニュアンスだけは伝わっていた。
「いや。それを今、話あっているんだが。」
「………。」
「舞は、行きたくないの?」
佐祐理が控えめに舞に尋ねる。
「………。」
「そっか。そうだよね…。」
考えてみれば当然だ。
舞にとって見れば、あの村は自分を迫害し続け、10年以上も塔の中に閉じ込め、間接的にしろ最愛の母を奪った村なのだ。
しばしの間、一同は黙り込んでしまった。
「…よし!ではこうしよう。」
蝉丸が沈黙を破り、舞と佐祐理を指してこう言った。
「俺達はもう少しここに残って、相手の数や魔導師がいるかどうかなどを把握してから、帝国と相対するかどうかを検討する。
君達二人にはこれから女王陛下へ応援要請の文書を書くから、モアでそれをレフキーまで届けてもらおう。」
「おっ、ナイスアイデア。」
「蝉丸さん…。」
佐祐理は蝉丸の暖かい心遣いに感謝した。
504 :
故郷よ:02/02/05 12:21 ID:a/5MzLnV
「そうと決まれば文書を……おい、誰か書くもの持ってないか?」
「書くもの…書くもの…。」
全員が自分のポケットやら荷物やらを漁る中、
「私、持ってますよ。」
と、セリオが懐からペンを取り出した。
「お、ありがたい。」
「これは塗れている紙にも文字がかけるという、クルス商会の新製品なんですよ。先っぽに極小の金属のボールが付いていて…」
「ほぅ、そいつは便利だな。便利なのはわかったから、とりあえず早く貸してくれ。」
「銀貨一枚です。」
「…金を取るのか。しかし、高いな?」
「新製品ですから。」
「……いいだろう。」
蝉丸は鎧の中から、がまぐちを取り出した。
「あっ…金貨が一枚も入ってない。」
「うるさい。」
がまぐちを覗き込んだ彩を小突きながら、セリオに銀貨一枚を支払う。
「よし、と……今度は紙が無いな。」
「私、持ってますよ。」
そう言ってセリオが、今度は紙の束を取り出した。
「お、ありがたい。」
「これは水を弾いて強度も高い、クルス商会の新製品なんですよ。全面に特殊なコーティングを施しており…」
「…いくらだ?」
「銀貨一枚です。」
「高いな!?」
「新製品ですから。」
「……いいだろう。」
蝉丸は、また渋々がまぐちを開いた。
「あっ…変な商品券がたくさん入ってる。」
「うるさい。」
今度は彩を蹴飛ばして、セリオに銀貨一枚を支払った。
505 :
故郷よ:02/02/05 12:23 ID:a/5MzLnV
「舞……。」
そんなやり取りの中、佐祐理は一人考え込んでいる舞を心配そうに見つめた。
今、彼女は葛藤しているのだろう。自分を拒絶した村を恨む気持ちと、心配する気持ちがせめぎあっているに違いない。
「よしっ、書けたぞ!あとはこれをこうして…と。」
蝉丸ができあがった文書に、リフキーの紋章入りのシールを貼り付けた。
「これで完璧だ。では、君達はこれを女王陛下に届けてくれ。」
「………。」
手のひらの手紙をじっと見つめたまま、舞は動けなかった。
「どうした?」
「村の人は………殺されるの?」
「そんな事は…いや、軍隊だから何をするかわからないが…」
言葉を濁す蝉丸に、胸がずきりと痛んだ。
「では、頼んだぞ。本作戦の命運は君達の肩にかかっている。」
「あっ…そのセリフ、かっこいいですね。」
「はっはっは、早い者勝ちだ。」
「あんた達って…」
さっきから漫才を繰り広げる蝉丸と彩に、七瀬が呆れ声を上げた。
「ではーっ」
そう言ってモアで出発した佐祐理と舞の背中を見送りながら、浩之が今気がついたかの様に叫んだ。
「お、おい!俺は!?」
「モアは三羽だけだ。一羽は何かあった時のために、ここに残しておく。」
「そんなぁ。」
「あーら、ヒロ。大の男が、か弱い乙女達を残して、一人だけとんずらしようって言うの?」
「誰がか弱い乙女だよ!お前等皆、化け物みてぇなもんじゃねぇか。」
「すみやかに同意。」
うんうんと頷きあう浩之と健太郎が、か弱い乙女達にのされるのに数秒とかからなかった。
506 :
故郷よ:02/02/05 12:27 ID:a/5MzLnV
チャッチャッチャッというモアの足音に揺られながら、舞はまだ迷っていた。
自分と母を迫害した村、それでも自分の故郷である村、その村が自分のせいで、もしかしたら炎に包まれるかもしれない。
(あれから何年経ってのだろう…)
村の人達はまだ元気だろうか?石を投げてきたあの子は、もう村を出て街に行ったのだろうか?
一人で良く、回る歯車を眺めていたあの水車小屋はまだ残っているのだろうか?不意に郷愁の感にとらわれる。
その村全体が、いわば人質状態――。
しかし自分が行った所で何ができるだろう?
村を取り囲んでいるのは、怖い軍隊だという。
自分の中にあったちからも、塔を出てからはうまく働かなくなってしまった。
「舞……ほんとにこれでいいの?」
「………。」
佐祐理の問いに、舞は答える事ができなかった。
【川澄舞&倉田佐祐理:蝉丸の応援要請の文書を詠美に届けるためモアで出発】
【小道具:ボールペン、あぶら紙、レフキーシール】
蝉丸と彩と十話近く名前すら出てこなかったセリオがパーになってるけど、次から何事も無かったかの様にどうぞ(^^;
あとイジケ舞…(´・ω・`)ショボーン