1 :
名無しさんだよもん:
温暖な大阪にも、冬はそれなりの厳しさでやって来る。
空は寒さに張り詰め、 力を無くした太陽は灰色の雲に押し潰され、薄くぼやけた陽光を
届けることしかできない。
暗く沈んだ空気を振り払うかのように、人は皆努めて精力的に働きまわる。
天満橋に籍を置く株式会社ビジュアルアーツのビルの一角、ソフトハウスkeyの開発室も
その例に漏れず、冬の乏しい熱量を補って余りある活気で日々の業務をこなしているように見えた。
PCの故障を防ぐために禁煙の徹底された開発室の空気は常に変わらぬ清潔さを保ち、かき乱す
騒音も全く無い。キーボードを叩く音だけが響き、無機質なリズムを刻む。滞りなく滑らかに
業務を進めているかに見える開発室の中、麻枝准は独り頭を抱え机に突っ伏していた。
「お約束のように仕事が進まん……どうして俺はいつもこうなんだ……」
心の鼓動にも似た規則正しさで部屋に響くキーボードの打鍵音が、焦燥と苛立ちを増幅させる。
湧き出てこない言葉、飛び立てないイマジネーション。萎えた翼を懸命に羽ばたかせても、想像力
は空を舞ってはくれなかった。
「気分転換だ、ここは」
今日何度目の気分転換だろうか、麻枝は席を立ち、大きく背伸びをした。開発室を見渡すと、皆
黙々と己の作業をこなしているように見える。普段はふざけた振る舞いが目立つが、いざという時
には実に頼りになる奴らだ。いつもふざけっ放しの自分を除いては。
自分の席を離れ、開発室を横断する。作業に行詰まった麻枝が気分転換と称して開発室をうろつく
のはいつもの事だ。突如ギターを弾きながら叫び出したりしない限り、麻枝に目を向ける者はいない。
近づいた開発室の片隅の机で、二人の男が議論を交わしていた。
「……ここで伊吹パートと藤林パートとを交差させて、分岐入れましょうか」
「分岐だけではなく、視点の変更もやってみませんか?」
「それだとイベントレベルでなく、文章レベルで合わせないと噛み合いませんね」
「魁さんはもう、プロットは完成しておられますよね? 私に見せて頂ければ文章合わせはやりますよ」
「あのー」
膝を突き合わせての論議に、割り込むように声をかける。議論中の二人、涼元悠一と魁はその声の主の
元へ振り返ると訝しげな視線を向けた。
「あ、どうされました、麻枝さん? 何か打ち合わせしなければならない事ができましたか?」
悪意は全く無いとは言え、ディスカッションには程遠い仕事振りの麻枝には酷な質問だった。
量も質も優れたシナリオを安定したペースで書き上げる能力を備えた涼元と魁がkeyに参加するように
なってから、同じシナリオ班の麻枝の仕事の遅さがとりわけ目立つようになってしまった。
麻枝とてその状況を克服しようとしなかった訳ではなく、今までの人生の読書量を一年で上回る勢いで
書物を読み漁り、朝は誰よりも早く仕事を始め、誰よりも遅くまで開発室に残り、懸命にシナリオを
書き上げようと努めた。
だが、文章の技術において職人の域に達している涼元と魁に伍する事は一朝一夕に達成できる目標
ではなかった。
「い、いや。特に話し合わなきゃならない事は無いんですけどね。ちょっと気分転換なんてどうかなー、
と思って……」
提案はあっさりと却下される。
「すいません。今は魁さんと打ち合わせをしているので、気分転換は一人でして頂けないでしょうか?」
そう言いながら、涼元は壁に立てかけてあったギターを手に取り、麻枝に手渡した。
「ギターを弾いていればいいアイデアも浮かんできますよ、きっと」
それだけを伝えると再び魁の元へ向き直り、議論の続きに没頭し始めた。
(……全く何だ、あの態度はっ! 俺が邪魔者みたいじゃないか。いくらシナリオが上手だからって、
あれじゃまるで……)
涼元に手渡されたギターのネックを握り締め、胸中で毒を吐きながら足音荒く廊下を歩く。
「AIR」のシナリオ執筆作業での涼元の働きはそれまでのkeyのシナリオライターの常識を覆すものだった。
完成度よりも勢いを。論理よりも情熱を。荒削りで、ともすれば青臭い少年の自分語り、と罵られかね
ないkeyのシナリオを精緻な知性の光で照らしたのは確かに涼元だった。麻枝自身の中でさえ茫漠として
つかみどころのないイメージを言葉で編み直し、堅固な物語世界を構築する。「AIR」の企画は確かに麻枝
の手によるものだ。だが「AIR」を育み、ユーザーの元へ送り出した本当の養父は涼元だった。
まだ入社して日が浅い、と言う事もあって麻枝の補佐に徹してはいる。だがその気になればいとも
容易く麻枝抜きで企画を立て、シナリオを書き上げ、見事な作品を作り上げるだろう。
その時自分の居場所は、果たしてkeyにあるのだろうか。
(……まぁ俺の仕事はシナリオだけじゃないしな。俺には音楽がある。エロゲー界のポール・マッカートニー
と呼ばれるこの麻枝准を甘く見るなよ)
勿論、誰もそんな風に麻枝を呼びはしない。独りで勝手に思っているだけだ。
開発室の隣には音楽作業に使う様々な機材の置かれた専用の部屋がある。keyの音楽班はここに篭り、
より美しい音楽をユーザーの耳に届けるために日々鍵盤に向い、シンセサイザーと格闘する。
防音材を使用したドアを開けると、予想通り折戸伸治が作業を行なっていた。
高性能ヘッドホンの伝える音の動きに耳を済ませながら、繊細な手付きで鍵盤に触れる。驚くべき
感度で立ち上がるパルス波高を壊れ物を扱うようにそっと変化させていく。
keyの魅力の半分を担う、と言われる音楽の世界。その創造主がここにいる。
麻枝は雑音を立てないように部屋に踏み入り、ドアをゆっくりと閉めた。
「誰だ?」
折戸の常人離れした聴覚は、ドアの閉まるかすかな音も聞き逃さなかった。ヘッドホンから耳を離し、
椅子を回転させ、音のした方角へ視線を向ける。
「何だ、麻枝か。どうした? 何か用でもあるのか?」
集中を妨げられた不快感を少しだけ表に見せながら、麻枝に問う。
「いやー、特に用事があるって訳でもないんですけど。折戸さんの調子はどうかな、と思って」
「ふん、他人の事を心配する前に自分の心配をしろ。どうせシナリオが進んでないんだろう? お前
がここに来る時はいつもそうだ」
「曲作っているといい話が浮かんでくるんですよ、俺は。折戸さんも知ってるでしょう?」
「まぁ涼元さんがいるから大丈夫だとは思うけど、あまり迷惑掛けるなよ」
また涼元さん、か。ちくりと胸に刺さった棘に気付かない振りをして、会話を続ける。
「それより、また曲考えたんですよ。今から聴いてくれませんか?」
そう言ってギターを構えて弾き語りを始めようとする麻枝を、折戸は遮った。
「悪いな、今は自分の曲作りで忙しいんだ。後にしてくれ」
さらに付け加える。
「それからな、その曲を『CLANNAD』に使うんだったら、麻枝がちゃんと編曲もしろよ。俺はもう
手は入れないからな」
予期せぬ発言に、麻枝は驚きを隠せなかった。慌てた口調で、折戸を問いただす。
「ど、どうしてですか? 折戸さんが編曲してくれないと外には出せませんよ」
「お前なぁ……」
ため息を交え、折戸は応えた。
「そりゃ『Kanon』の頃はお前もまだ機材の使い方も良く分かっていなかったし、時間も無かったから
手伝ったけどな。もう大丈夫だろ、独りでも」
「そんな無茶な……」
「無茶もヘチマもない。どうしてもできないんだったら、戸越に頼め。俺も忙しいんだよ。色々とな」
それだけ言うと、麻枝に背を向け再び作曲作業に没頭し始めた。
悄然とした面持ちで、廊下を歩く。最近折戸さんは特に自分に冷たい気がする。他人に疎まれる事
を怖れていてはこの仕事はやっていけない、と覚悟は決めてはいる。だが苦楽を共にした同僚に冷
淡な仕打ちを受けるのは、さすがに堪えた。とりわけ作曲者としての麻枝をここまで育ててくれた
師匠でもある折戸には。
それに折戸は最近keyの枠に留まらず、精力的に音楽活動をこなしている。もしかするとkeyを離れ、
独り立ちをしようと考えているのかもしれない。
折戸のいないkeyなど想像する事もできない。麻枝は自分の不安をくだらない杞憂だ、と一笑に
付してくれる人を求めた。
腕時計を見ると丁度三時だった。気分転換と称したサボタージュもそろそろ限界だろう。開発室
に戻りドアを半分開けると、室内から楽しそうな声が漏れてきた。
「ケーキ作ってみたんですけど、涼元さんも一つどうですか?」
「いたるちゃんの手作りケーキでしゅ。味の保証は出来ませんが、話のタネに食べてみるぞなもし」
「体の保証もできないわね」
「ちょっとしのり〜、人聞きの悪い事言わないでよ」
「あら、『自分一人で食べるのは怖いから、他の人も道連れに』って言ってたのはあなた本人よ」
「そんなこと言ってないでしょっ。一人で食べきれないから、皆にも食べてもらおう、とは言ったけど」
(あいつ、そんな器用な事出来たっけ?)
少しだけ開いた扉の隙間から、その光景を見詰める。
「ちょ、ちょっと。お二人とも落ち着いてください」
今にも口喧嘩を始めそうな二人を、涼元は慌てて制していた。
「勿論、私は頂きます。樋上さん、どうもありがとうございます」
「あ、食べてくれますか? 良かった……」
「しのり〜さん達も一緒に食べられますよね?」
「……涼元さんがそう仰るのなら、頂きますけど」
「挑戦なくして進歩はないもじゃ」
(食う食う、俺も食う!)
扉を開け、中に入ろうとした瞬間だった。
「あら、丁度人数分しかないわね」
ずざざーっ!
「何か音がしなかった?」
「いや、何も聞こえなかったけど」
廊下に突っ伏したまま、しばらく麻枝は立ち上がれなかった。やがてよろよろと体を起こし、再び
ドアの隙間から中の様子をのぞき見る。涼元の席を中心に、いたる達も椅子で輪を作り談笑していた。
「上手に出来ていると思いますよ、樋上さん。とてもおいしいです」
「そうですか? ありがとうございます、あまり自信無かったんですけど」
「確かに食べられない味ではないわね」
「しのり〜、あなたねぇ」
「冗談よ。あなたにしては上出来だと思うわ」
穏やかな空間が、緩やかな時の流れにたゆたう。そこにいるはずの人がいなくとも、成立する暖かな
世界。そんな世界の一員のつもりでいる事は、愚かな妄想だったのだろうか。
「涼元さんはもうkeyには慣れましたか?」
誰よりも長く一緒にいたはずの人が、楽しそうに口を開く。自分には決して見せた事のない表情で。
「えぇ。皆さんも良くしてくれますし、シナリオを書くのはやっぱり面白いですし」
「涼元さんみたいな方がいて下さると、私達も安心して仕事ができるんですよ」
彼女が涼元に向ける憧憬のまなざしが、理由も無く苛立たしい。飛び出したくなる衝動を懸命に堪え、
ドアのノブを汗の滲んだ手で握り締める。
「そうね、涼元さんみたいな人は今までうちにはいなかったしね」
「社会不適合者ばかりでしゅ」
「特にシナリオ班は揃いも揃って問題児だったから、大変だったわね」
「ちょ、ちょっとしのり〜。それは言い過ぎだよ」
(そうだ! いいぞ樋上いたる!)
部屋の外側から誰にも届かない喝采を送る。そんな麻枝の存在を知るよしも無いいたるが言葉を続ける。
「でも、シナリオを書く人が皆麻枝君みたいな人ばっかりだと思ってたのは、誤解だったね」
「……純度の高い才能に、奇行はつきものですから」
何とかフォローをしようとする涼元に、しのり〜は反駁する。
「涼元さんはまだ麻枝君の本性を知らないから、そんな事が言えるんですよ。毎日毎日ウンコフォルダを
貼り付けられる身になって下さい。二十代も半ばを過ぎて、ウンコですよ」
「おまけにそんな事ばかり繰り返して、仕事がちっとも進まないでしゅ」
「うん……それに気分でコロコロ発注も変えちゃうし。やっぱり困るよね」
既に欠席裁判の様相を呈し始めた午後のお茶会に、唯一の弁護人も責務を放棄したらしい。
「その辺は私が出来る限り手伝えば何とかなるんでしょうけど……」
「ダメですよ。涼元さんがそうやって甘やかしている間は、ずっと麻枝君はあの調子です。一度ガツン
と突き放しちゃった方がいいですよ、絶対」
「麻枝君、仕事ばかりで最近疲れてるみたいだし、涼元さんに全部任せてしばらく休んだ方がいいかも
しれないね」
「そうしてくれれば、あたし達の仕事は楽にはなるわね」
ドアを叩き付ける音が開発室に響き渡る。
「誰っ?」
しのり〜は素早く立ち上がり、ドアへと駆け寄る。ドアを開け、廊下に飛び出し周囲を見回すが、
そこに人の姿はなかった。
「何、これ?」
足元に紙切れが落ちてある。くしゃくしゃになってはいたが、ぴんとした折り目は、その紙が
持ち主の手を離れてからまだ間もない事を伝えていた。
拾い上げ、紙を開く。そこに書かれている文字に、しのり〜は微かに眉を曇らせた。
「どうしたの? しのり〜?」
「誰かいたんでしゅか?」
同僚が駆けつけてくる。
「うぅん、誰もいないわ。あたしの勘違いだったみたいね」
彼女らに無用の心配をかけまい、とその場で嘘をつく。誰にも見つからないように、手の中の紙切れ
をジーンズのポケットにしまいこんだ。
『うんこ』と一言だけ書かれた、その小さな紙切れを。
マジ面白い&仮想戦記復活おめ。
久々に名作の予感・・・
とりあえず続ききぼーん。
おお、復活してる。
今回のもなかなか面白いです。麻枝の悲哀がなんとも。
今度こそdat落ちさせないよう頑張ります。
鍋が湯気を立ててことことと踊っている。こたつに足を突っ込んだまま、目の前の鍋に
箸を差し入れる。気泡が生じては消えていく鍋の水面から豆腐を取り出し、器の中に移
した。
「自炊するのも久し振りだな……」
湯気を立てる豆腐にふぅふぅと息を吹きかけ、麻枝准は独りごちた。
カーペットの生地が見えないほどに散らかった床、洗濯していない服が無造作に脱衣所
に放り出され、パソコンの置かれた机の上は本もCDもギターも一緒くたになって無秩序な
様相を呈している。無精な独身男性のサンプルケースのような部屋だった。
管理人が見れば卒倒しそうな部屋の中、麻枝は鍋に向かう。
「鍋を食っても一人。麻枝ちん友達いないから、にはは」
「……って、二十を過ぎた大の男が『にはは』って何じゃーっ!」
叫びは暖房の効かない部屋に吸い込まれ、何も返ってはこない。
「アホか、俺は……」
行為の空しさを自覚した麻枝は、帰りにコンビニで買ってきた缶ビールの蓋を開け、
一気に飲み干した。麦芽の発酵した味が味覚を刺激し、炭酸が喉を焼く。アルコールを
摂取するのは久し振りだった。元々酒に強い方ではないし、酒を飲んだ翌日、仕事に
影響が出る事を怖れたからだ。
「何だってんだ、ったく」
誰に向かう訳でもない愚痴をこぼしながら、豆腐を口に放り込む。まだ熱い口の中の
内容物をビールで流し込んだ。熱した豆腐と炭酸交じりのアルコールとが、同時に胃を
刺激する。慣れない刺激に鳩尾を抱え込みたくなると、それがトリガーとなって今日の
出来事をフラッシュバックさせた。
「涼元さんも、折戸さんも、いたるも一体何だ。まるで人をkeyのお荷物みたいに」
確かに自分は奇を好む所があり、それに周囲の人間が巻き込まれ、迷惑している事
は否定しない。だが仕方が無いではないか。人見知りの激しい麻枝は、過剰な奇行で
相手を半ば呆れさせる事でしか人と親しくなれないのだから。
「仕事はちゃんとやってるじゃないか、俺だって……」
そう言いながらも不安になる。keyは今では18禁ゲーム業界でトップレベルのセールス
を記録する、最大手の製作チームである。keyをそこまで大きく成長させていく過程で、
麻枝の存在は非常に大きかったはずだ。誰にも真似できない、と自負のできる発想力は
空を舞うkeyの翼であり、日々研鑚を怠らず養ってきた構想力はkeyを支える大樹の幹
だ。それは砂上の楼閣のような傲慢な思い込みではなく、堅牢な土台の上に築き上げた
自信だったはずだ。
だが、それも今は脆くなり始めている。keyは規模を大きくしていく過程でその開発力
を飛躍的に向上させてきた。多士済済な人材、潤沢な開発予算、理想的な製作環境。
それらは例え中心スタッフの一人や二人を欠いてもなお優れた作品を作り得るだけの
底力を持っているのかもしれない。麻枝がおらずとも、何ら支障をきたさないほどに。
駄目だ、飲めもしない酒なんかに手を出すからだ。弱気になっている。
麻枝はこたつに足を突っ込んだまま、カーペットに仰向けに転がった。ほこりを被った
蛍光灯が飽きもせず営々と光を放ち続けている。壁に引っ掛けた円盤型の時計が規則
正しく音を立て、時間を秒単位で切り取っていた。
血中アルコール濃度が上がってきているのが分かる。天井がぐるぐると回り、思考
の輪郭が曖昧になっていく。
まぁ、いい。まだまだ俺がいなけりゃkeyはやっていけないさ。「CLANNAD」でも皆を
あっと言わせてやる。エロの書けないへっぽこライターとも言わせない。あれは企画に
合わせていたからだ。本気の俺を甘く見るなよ。鍵っ子のティッシュ消費量を二桁アップ
させてやるぜ。
頭の中に一枚、また一枚と薄い皮膜を貼り付けられていく錯覚の中、ぼんやりとした
楽観に身を任せる。急速に襲い掛かってくる睡魔に意識は刈り取られ、眠りの世界に
引きずり込まれていった。
目覚めは、最悪だった。こたつで眠ってしまったため、喉はからからに渇いている。
風邪の予兆のような気だるさと重苦しい頭痛に、目覚めてからしばらくは起き上がる事
もできなかった。
「げほっ……」
悪い空気を吐き出すように、乾いた咳をする。のろのろとした動作でこたつから
這い出し、洗面所に向かった。一晩でもう目立ち始める髭を剃り、ぼさぼさに乱れた
髪に櫛を通す。苦味のきつい歯磨き粉で歯を磨き、冷水で顔を洗うと、ようやく目が
冴えてきた。
顔を拭き、部屋に戻ると時計は出社時間に殆んど間の無い時刻を示していた。
手早い所作で身支度を整えると、床にひしめく障害物を飛越えて玄関口へ向かう。
「よし、今日も一日頑張るぞ」
自分を奮い立たせるために、敢えて激励の言葉をつぶやく。アルコールの抜けきって
いない体に違和感を覚えつつ、麻枝は外に飛び出した。
「どう言う事ですか、それはっ!」
激昂した麻枝の叫び声が、key開発室に響き渡った。聞く者をたじろがせる強い口調の
麻枝に対して、彼の雇用主である馬場社長はその立場の優位を再確認するかのように
鷹揚に応える。
「言うた通りや。keyの新作は初めから全年齢対象で発売や。18禁からは撤退してもええ。
もう書けもせんエロ書かんでもええんや。麻枝、お前は俺に感謝してもええんちゃうか?」
「誰が書けないと言った! そもそもそんな大事な事を俺達の意見も聞かずに一方的に
決める事が許されるとでも思っているのか、あんたは!」
麻枝の追及に、馬場社長は僅かの動揺も示さない。笑みさえ浮かべ、麻枝に言う。
「意見はちゃんと聞かせてもろたんやけどな。その上での結論や。これからお前らは
18禁でゲームを作らんでええ、ってのはな」
「馬鹿馬鹿しい、こいつらがそんな事に賛成する訳ないだろうが。でたらめも大概にしてくれ」
「ならお前が直接聞いてみたらええんちゃうか、『俺達は18禁から手を引くべきなのか』ってな」
開発室にはkeyのメンバーが全員、そして馬場社長が在室していた。麻枝は周囲を見回し、
仲間達に視線を向ける。彼らは皆一様に沈黙し、中には麻枝と目を合わせようとしない者
さえいた。苛立たしげに、麻枝は詰問する。
「お前ら、本当にそれでいいのか? 相手が社長だからって、遠慮する事なんか何もない
んだぞ。俺達は俺達の本当にやりたい事をやればいいんだ。言いたい事を言えばいいんだ」
麻枝の言葉に、誰も応えようとはしない。なおも何か言おうとする麻枝を、馬場社長は
制する。
「お前、まだ分かっとらんみたいやな。俺が強制したんやない。こいつらが自分でそう
したい、言うたんや。もう18禁ではやりたない、ってな」
「嘘をつくなっ! そんな事をこいつらが言う訳ない!」
「……麻枝さん」
涼元が閉ざしていた口を開く。訥々と、だが強い口調で麻枝に反論する。
「keyのファンの殆んどはもう、そんなものは求めてはいないんです。『18禁にしないと
売れない』んじゃないんです。『18禁では売れない』んです。今のkeyは」
涼元の言う事は真実だ。18禁のフォーマットでありながら、極限にまで18禁描写に
力を注がずkeyはここまでやってきた。麻枝もその状況は不自然だとは思っている。
だから、今こそ自分達は証明すべきなのではないのか。
keyは18禁ゲームの製作集団であり、その事は負い目ではなく、誇りである事を。
「まぁ、そういう事や。涼元君はその辺よぉ分かっとるさかい、一番に了承してくれたで。
折戸君らはどっちでも構へんしな」
「……音屋は18禁だろうが、そうでなかろうがやる事は変わらないんだよ、麻枝も分かる
だろ?」
すまなさそうに、折戸は麻枝に言う。
孤立無援の戦況で麻枝が最後に頼ったのは、やはり一番長く同じ時間を重ねてきたはず
の人間だった。
「でもグラフィックは別だ。全年齢にして一番割を食うのはグラフィックだ。そうだろ、
いたる?」
「……うん」
麻枝の視線を逃れるように俯き、下を向いたまま樋上いたるは応える。
「だったらっ」
「お前も本当に分からん奴やな、麻枝。樋上君が18禁描写ようやらんのは、お前が一番
分かっとるんちゃうんかったんか?」
鋭さをやや増した馬場社長の言葉が、麻枝から発言権を奪い取った。足元が根底から
崩れ去っていくような感覚に襲われながらも、麻枝は懸命に言葉を探す。
「いたる……お前、本当に」
「……ごめんね」
力が抜けた。自分が何も分かってはいなかった事実を突きつけられ、その場にへたり
込みたい衝動を抑えるのが精一杯だった。
「分かったか、麻枝。keyの面子で18禁に固執してるのは、お前一人や。お前が矛を収め
たら、皆丸ぅ収まるんや」
駄々っ子をなだめるような馬場社長の言葉が麻枝に掛けられる。
「あくまで反対すれば、どうなりますか……俺は」
「そやな。集団の和を乱した廉でしばらくは自宅謹慎やな。代わりは涼元君にやって貰う
わ。頭が冷えるまで麻枝は休んどれ」
「集団の和。民主主義の基本は多数決、か」
そう自嘲すると麻枝は自分の机に向かう。椅子に掛けてあったコートに袖を通し、
それまでの仲間達に乾いた口調で言葉を伝える。
「民主主義は柄じゃない。俺は降りる。あんたらの好きなようにやってくれ」
一同の輪に動揺が走る。麻枝は無言でその輪に近づき、涼元のそばに立つ。
「麻枝さん……」
「涼元さん、keyをよろしく頼みます」
そう言って、頭を深く下げる。それから一言も喋らずに、ドアのノブを回し部屋を出た。
廊下を早足で歩く。
もう二度とここを歩く事はないのかもしれない。何の感慨も湧いてはこなかった。
「麻枝君っ!」
背中に聞き慣れた声が掛けられる。振り返った。
「麻枝君……」
駆け寄ってきたいたるは、息を切らせて、しばらくは何も言えない。言葉を待った。
「麻枝君……短気を起こさないで。麻枝君までいなくなったら、もう……」
「いたる、涼元さんについて行け。あの人のする事に間違いはない。あの人ならkeyを
もっと高くへ運んでいける。俺がいなくてもな」
何か言おうとするいたるに背を向け、再び歩き出す。後ろで何か叫んでいる声が聞こえる。
聞こえないふりをして、ビルを出た。
>>1 去年からずっと読んでました。あなたの書く鍵スタッフが本当好きでした。
つーか、惚れ直す勢いで。スレッド、また立ててくれて有り難う。嬉しい。
また書いてくれることが嬉しい。
……微妙に宣伝で申し訳ないのですが、今年の冬コミ、ONEスペースですが
仮想戦記&スタッフロワイアルのほん出します。ツ-01bです。
「ハカギマニアックス」つーコピー本で、その、絵とかないですけど。
内容は人物解説とか、スターフネタ二次創作とか。そんなかんじで。
がんばります。このスレも、がんばってください。
孤立無援の麻枝萌え。
今度は麻枝がマグロ漁船行きか?次回に期待。
あと書いた後はさげまわしてageた方がいいかも。
最近DAT落ちが早いから。
25 :
7つさんだよもん ◆ffU3G94s :01/12/20 13:29 ID:QRCqZ0u+
やっぱり、思う。
ハカロワでスタッフからキャラからずっと書いてきた背景には、
やっぱり何処かあなたへの憧れがあったのだなあ、と。
麻枝萌える。この孤立無援ぶりが最高。
まったく及ばない、くそぅ……。
素敵すぎるぜ、まんせー。
27 :
名無しさんだよもん:01/12/21 01:09 ID:onH1pT1k
新作あげ。麻枝がカコ(・∀・)イイ!
でも、仮に本当に麻枝が鍵を辞めちゃったら、
たとえ他のスタッフが全員残っていたとしても、
鍵の作品を買うことはないだろうなあ。
28 :
名無しさんだよもん:01/12/21 10:46 ID:jNZtSOhA
早く続きが読みたいage
本物のKeyスタッフがこれ読んだら、どんな反応するだろ(w
30 :
名無しさんだよもん:01/12/21 12:29 ID:hiZhNVVV
お、おもしれー。最高だよー。ageとこう。
>>29 みんなが言っているのと別の意味で面白かった(YET11談)
消極的無神論者が最大多数を占めるすこの国でも、大きな変質を受けたとは言え、その日
が祝いの日である事に変わりはない。
冬もようやく深まり、張り詰めた空気が緊張感を増して皮膚を刺すようになった十二月
二十四日。祝祭の雰囲気とは程遠い荒れた空気が、マンションの一室を支配していた。
部屋の電気はことごとく消され、ケーキの生地を土台にしたろうそくが、か細くゆらめ
いている。こたつの上の灰皿は煙草の吸い殻で溢れ、カーペットにはアルコールの空き瓶
が散乱していた。
「クリスマスも一人。麻枝ちん無職引きこもりだから。が、がお」
「だからそのパターンは寒いから止めろっつーとんのじゃーっ!!」
叫んで、ちゃぶ台返しをする。ケーキが空を舞い、ぐしゃりと床に叩きつけられた。
ろうそくの灯りは消え、部屋を暗闇が支配する。
「アホにターボがかかってきているな、俺も……」
呆れ果てたように呟きながら立ち上がり、蛍光灯のスイッチを手探りで探す。壁の
スイッチを押し、瞬間的に部屋に広がる光に一瞬目が眩むと、乱雑を極める部屋の惨状が
光の下に明らかにされた。
反転したこたつを元に戻し、潰れたケーキを拾い上げ、その上に置く。歪に崩れた
ケーキが自分にはお似合いな気がして、奇妙におかしかった。胸ポケットから取り出した
煙草に火をつけ、口にくわえる。ニコチンの味が肺を満たし、血管が収縮されると少し
だけ気分が和らいだような気がした。
会社を休んでから、もう三日になる。退職願を出した訳ではないので、おそらく
は入社以来一度も使ってこなかった有給休暇扱いなのかもしれない。勿論、会社側が既に
麻枝を解雇処分していれば有給休暇も何もあったものではないのだが。
「いつまでも変わらずにはいられない、か……」
目の前でたなびく白煙を眺めながら、独り呟く。大学を卒業してすぐにこの世界に飛び
込み、休む事なく走り続けてきたような気がする。手当のつかない残業を気の遠くなる
ほど繰り返し、プライベートも全て犠牲にしてきた。好きでやっている仕事だったし、
今時そんな我がままが許される事自体がとんでもない幸運だ、と思う。だが仕事以外の
人間関係も殆んど無く、独り部屋で鬱屈する立場に陥ってしまえば、その幸福もただ
の妄想だったのか、と疑問を抱かざるを得ない。
(18禁がどうとか、全年齢がどうとか、そんな事はどうでもよかったんだ。ただ……)
ただ、誰も自分に相談して来なかった事が、それが辛かった。keyの作風を方向付ける
重大な決定が自分抜きで行なわれる。それに衝撃を受けた。ちゃんと麻枝にも相談して
くれれば、あそこまで頑なな態度に走らなくとも、自分を納得させる事ができたはずだった。
煙草の火が根元近くにまで及んでいる。灰皿に押し付け、もみ消すと二本目に火をつけた。
(逆に言えばその程度の存在でしかなかった、という事か。俺も……)
客観を気取った冷笑的な自虐に過ぎなかったが、真実のように思えた。
keyのために麻枝は作品を作るのであって、麻枝のエゴイズムの体現のためにkey
がある訳ではない。麻枝のベクトルがkeyのそれとは異なる方向を向き始めれば、keyに
とって麻枝は不要であるばかりか、その過去の実績による発言力の大きさが害にさえ
なる事は、麻枝にも想像が付いた。
直感から理論へ。センスからシステムへ。
個人の能力に全てを託すスタイルは、その個人の能力の枯渇とともに容易く崩壊する。
雷鳴のような直感の閃きに全てを賭ける麻枝のスタイルは、当然不安定でむら気に左右
される。それが他のメンバーにとって大きな負担となっている事を麻枝も理解してはいた
が、だからといってCDを入れ換えるように作風を切り換える事ができるほど器用ではなかった。
安定した創作能力を持つ涼元が参加した時点で、keyのメンバーが涼元のスタイルに
同調していく事は決まっていた事なのかもしれない。
ピンポーン。
インターホンの呼び音が、思考の海から麻枝を引き揚げた。億劫そうに玄関口を見る。
(……ったく、宗教勧誘か? この年の瀬に、わざわざご苦労なこった)
こたつを這い出てまで勧誘員の相手をするにはこの部屋は寒すぎる。麻枝は居留守を
決め込む事にした。
ピンポーン。
音は止まない。執拗にドアを開ける事を要求する。
どんっ!
音質が変わった。インターホンの無機質な信号音とはうって変わり、物理的な衝突音だ。
ドアの向こうから大きな声が届いてくる。
「麻枝くーん、いるのは分かってるんだから出てきなさーいっ」
どかっ!
音が大きくなった。ドアの向こうの声の主が何者かは知らないが、あまり気の長い方
ではないらしい。
「さっさと開けないと本当に踏み破るわよーっ」
「やめんかぁっ!」
慌てて玄関口へ飛び出し、ドアを開けると、そこにはしのり〜が立っていた。
「それにしても汚い部屋ね。管理人さんに見つかったら、即効叩き出されるわよ」
コートを脱ぎながら、しのり〜が呆れ果てる。
「やかましいっ。俺の部屋が綺麗だろうが汚かろうが、しのり〜には関係の無い話
だろ。それにこんな日に一体何の用だ? 金ならないぞ」
「誰が麻枝君からお金を借りようと思うのよ……」
手にきちんと畳んだコートを抱えたまま、しのり〜はため息交じりで言い返す。
「ま、まさか体か? 聖なる恋人達の夜、独り身の寂しさに耐えかねた悪女が毒牙を
研ぎ……いやぁぁぁっ! 誰か助けてーっ!」
「やかましいっ! 誰が悪女じゃ、誰がっ!」
ばきぃっ!
左フックが麻枝の顎を捕らえた。
「ぐわっ、グーはやめろ、グーは」
「本当に、もう……」
人一人やっと座れるくらいのスペースを開け、そこにしのり〜は腰を下ろした。正座
した膝元にはコートとマフラーが置かれている。
(本当に、一体何の用だ?)
状況が飲み込めない。彼女が麻枝の部屋を訪れる事など、ついぞなかったからだ。
「麻枝君、風邪でもひいたの? 皆心配してるんだよ。三日も無断で休んで」
本当に心配そうに、そう質問する。麻枝は脱ぎ捨てられた服の散乱するベッドに腰掛け、
煙草を口元でくゆらせた。
成る程、残留工作か。涼元さんでも、いたるでもなく、ほとんど中立の立場だった
しのり〜がその役に任じられるのは分かる気がする。
「風邪をひいてようが、ひいていまいが違いはないだろう。自宅謹慎の身だ。会社に
出られない事に変わりはない。もっとも、もう二度と出ないかもしれないがな」
捨て鉢気味の麻枝の言葉に、しのり〜は色をなす。
「馬鹿な事言わないでよ。社長のあんな冗談を間に受けるなんて、どうかしてるわ」
「ふん、どうだかな。案外本気かもしれないぜ。『AIR』では相当無茶をやらかしたからな、
俺も。これ以上こんな問題児にkeyを任せてはおれない、と思ってたんじゃないか」
「そんな訳ないじゃない。麻枝君なしでkeyがやっていける訳ないでしょ?」
「本当にそう思ってんのかよっ! お前は!」
怒鳴りつける声に、しのり〜は体をびくりと強張らせる。まだ煙を上げている煙草を
手で握りつぶすと、麻枝は立ち上がった。
「お前だけじゃない。いたるも、折戸さんも、皆そうだ。もう俺なんかいなくったって、
涼元さんがいるから大丈夫だ、と思っているんじゃないのか? 涼元さんに任せる方が
keyは良くなるって、そう思っているんじゃないのかよ?」
「麻枝君、あなた……」
「ろくに集団作業もできない出来そこないのシナリオライターなんかより、そりゃ
プロの物書き様の方がいいに決まってるだろうな。お前らは正しいよ。俺よりも
涼元さんを選んだ、お前らの判断はな!」
息を継がず、一気に捲し立てた。しのり〜は悲しそうな目で麻枝をしばらく見詰めて
いたが、やがて静かに言葉を発した。
「麻枝君が本気でそう思っているんだったら、あたしは麻枝君を軽蔑する。あたしが
一番見たくなかった姿を見せないで」
「……何だと」
「涼元さんに敵わないんだったら、敵うようになるまで諦めなければいいじゃない。
勝てないんだったら勝つまでやればいいじゃない。どうして逃げるの?」
「お前に何が分かる!」
「分からないわ。分かりたくもないわよ、負け犬の気持なんて」
「……もう一度言ってみろ」
しのり〜の肩を掴む。きつい視線を麻枝にぶつけたまま、しのり〜は言う。
「何度でも言うわ。今の麻枝君は負け犬よ。涼元さんから、皆から逃げ出した」
「うるせぇっ!」
そのまま肩を掴んだ手に力を込め、目の前の彼女を押し倒した。
三日間摂取し続けたアルコールが市街地に投下された焼夷弾のように、正常な思考能力
を跡形もなく焼き尽くしていたのかもしれない。いや、アルコールに責任を転嫁するのは
卑怯者のする事だ。
(今の俺が卑怯者じゃなくて、一体何なんだ?)
愚かさと卑しさを極める所業に及ぼうとしている自分を、距離をおいて眺めるとそんな
自嘲が湧いて出てきた。組み敷かれ、俺の体の下で自由を奪われている彼女は欠片の動揺
も表情に出さず、黙したままきつい視線をぶつける。
だが、押さえ込んだその肩から俺の腕にはっきりと伝わる震えが、それが虚勢である事
を伝えていた。予想外に華奢な体はとても毎日俺の頭を引っ叩いていた人間の体とは
思えず、手の平に感じる体温は暖かかった。その事に気が付くと、抑えがたい加虐衝動が
鎌首をもたげた。息が肌に触れそうな近さまで、彼女の顔に自分の顔を近づける。
声が聞こえ、俺は硬直した。
「……どうしたのよ? やりたいんだったらやりなさいよ。麻枝君がしたいんだったら、
すればいいでしょっ」
瞳に涙を浮かべ、それでも視線を反らさない。
「好きでもない女を押し倒して、キスして、抱いて。それで麻枝君の気が済むんだったら、
やりなさいよっ。それで麻枝君がkeyに戻ってくるんだったら、何だって構わないわよっ!」
涙は溢れ、頬を濡らしていた。俺は心の中心の核の部分から粉々に打ち砕かれたような
気がして、彼女から手を離し、ふらふらと立ち上がった。
彼女もゆっくりと体を起こし、指で涙を拭った。
しのり〜は立ち上がり、乱れた衣服を整えている。麻枝はそんな彼女を見ようともせず、
ただ俯いていた。コートとマフラーを左腕に抱え、しのり〜は麻枝のそばに近づく。
「麻枝君」
赤い瞳で麻枝を見据え、言う。はっとしたように麻枝も彼女を、見た。
ぱんっ。
乾いた音が室内に響き、すぐに消えた。
しのり〜の右の手の平と、麻枝の左頬が、同じ痛みを共有する。
「あなたを」
手の平にひりひりと痛みを感じながら、言葉を絞り出す。
「あなたを好きにならなければよかった」
振り返り、玄関口へ向かう。靴を履き、ドアを開ける。
雲ひとつない空を、温もりのない月が照らす。
冷たい風が吹き付け、頬の涙を凍らせた。
41 :
名無しさんだよもん:01/12/22 09:46 ID:s/UO4//S
おお、新作があがっている。
普段は何となく地味なしのり〜が重要な役どころになってきそうですな。
てか、徹夜明けのテンションで読むには今回の話は少々こっぱずかしい(;´Д`)
今後の展開が楽しみなので、頑張ってください。
燃えだ。ダメ人間は好きだ。もっと叫びたいのだが恥ずかしいのでやめる。
43 :
名無しさんだよもん:01/12/22 13:07 ID:B9oRPQhJ
実に良い
ダーマエの今後の動向に大チューモクである
44 :
名無しさんだよもん:01/12/22 15:30 ID:6EdOG7PW
続きとか勝手に書いて良いのかな……
非常に書きたくてたまらねえあげ。
>>44 もともとリレー小説だしいいんじゃないかな?
これまでには分岐することもあったと思うんで、元の執筆者の思惑と違っても構わんだろうし。
これがあがってたら間違いなくハラダVS麻枝戦は勝てたろうに…
惜しまれる。
しかし過ぎたこと言ってもどうにもならん。
何より熱い。マンセー。
47 :
R:01/12/22 23:12 ID:6DefUydt
久しぶりですね。同時に復活おめでとうございます!
ここ近頃書いていないのは社会人としての生活が忙しいのと+多少の手詰まりを
感じてしまったので・・・
(やはり葉以外は情報がないので表現に限界を・・・)
とりあえず、孤軍奮闘的な10月を超えてまた活性したことは喜ばしい限りです。
また、暇ができたら書きますね。
44さんへ>
誰がかいてもいいと思います。俺も最初からって訳じゃないですし・・・
大いに盛り上げてくださいませ。
最後刺されて終わりですか?(w
>49
刺す役はもちろん超先生で(w
今ようやく誰彼の葉鍵編を読み終わったところ
にしても、永遠の遁走曲篇がdat落ちしていることが心底悔やまれる
…鬱だ
52 :
ん? :01/12/23 22:41 ID:BLLzlvox
53 :
名無しさんだよもん:01/12/23 23:05 ID:I+XyNEVC
>>52 おぉ、神よ
マジで感謝
今から読みまくりますage
54 :
44:01/12/25 01:23 ID:FIEO1cYe
やっぱ無理だ……書けないっす(;´Д`)
もう少し精進する事にします。
がんばれ
「あ、それも包んでください」
クリスマスも終わり、ようやく歳末の雰囲気も色濃さを増した街で、吉沢務はケーキ屋
の店員に注文を付けていた。クリスマスにケーキを食べるのは馬鹿馬鹿しいが、値段の
安くなった売れ残りのケーキを買うのは経済的だ、というのが吉沢の合理性だ。
紙製の箱に色とりどりのケーキを詰めてもらい、吉沢は店を出た。冬の空気は刺すよう
な冷たさを増しているが、歳末独特の慌しい熱気がそれを吹き飛ばしている。世間一般
のタイムスケジュールからはいささか逸脱した身ではあったが、年の瀬ともなればある種
の感慨に浸る自分がいることに、吉沢は気が付いた。
多くの人間と出会い、そして同じだけ多くの別れを体験してきた。悲嘆に暮れる時も
あったし、憤怒に打ち震える日もあった。だが悲しみも怒りも過ぎてしまえば思い出の
アルバムを飾る、貴重な写真だ。荒波のように起伏に満ちた日々が、吉沢に年不相応な
達観を与えていた。
木の葉を巻いて、風が舞う。冷たさに肩をすくめると、人々の間を縫って足早に帰路
を急いだ。男達の怒鳴り声が人ごみの中から響いてきた。気ぜわしい年末にありがちな
若者達の他愛も無い衝突だろう。野次馬根性で見物する気もなかったが、声のした方角
が丁度帰路と同じ方角だったため、吉沢は自然と近づくことになった。
想像を超えた大喧嘩だった。十人はいる。道端に転がり、悶絶している男達も既に
数人いた。とばっちりを食うことを怖れた群集が輪を作ってその有様を傍観している。
吉沢は輪の中に入り、観客の一員になると、驚いた。
喧嘩に参加している男達は優に十人を超えていたが、相手は一人だったからだ。男達
は十人がかりでたった一人を相手にしていることになる。地面に寝転んでいる若い男達
もその仲間だとすれば、押されているのは十人の側なのだろう。事実こうしている
今でも、また一人叩き飛ばされ、地面を這っている。
内心舌を巻きつつその光景を眺めていた吉沢だったが、たった一人で大立ち回りを
演じている人間の顔を見ると顔色を変えた。遠巻きに輪を作る人ごみをかき分け、騒動
の中心に駆け寄った。
義侠心などではなかった。正義感や公徳心などでも勿論ない。そうしたものから最も
かけ離れた人間が今の自分だ。鏡に映った自分を殴っているのと変わらない。
そう思いながら、麻枝准は懲りずに掴みかかってくる若者の鼻っ柱を力いっぱい殴り
つけた。潰れたような悲鳴をあげ、若者が地面に転がる。麻枝を取り囲んでいる男達
は予想外の展開に色を失った。
この日も、麻枝は当てもなく夜の街をさまよっていた。外出しても行く先などあり
はしなかったが、家の中でどうしょうもない自己嫌悪に苛まれるよりはましだった。
道に溢れる人に半ば辟易しながらも、ふらふらと歩き回る麻枝の目の前で若い男達
が一人の女に絡んでいた。よくある光景だ。怖い物知らずの若者達は、自分達に手に
入らない物などないと自信満々なものだ。かっての自分がそうだったように。
麻枝は関わり合いを持つまいとその場を離れようとしたが、絡まれた女の悲鳴が
聞こえると怒りがこみ上げてきた。力ずくで女を手込めにしようとする男は許しがたい
卑劣漢だ。自分にそれを怒る資格などないことは分かっていたが、それだけに尚更
怒りを抑えることができなかった。
遠巻きに眺める群集をすり抜け、麻枝は若者達に近づく。数人程度であればハッタリ
の一つでもかませばどうにでもなる。そう考えていたのだが、若者達の交友関係は
思ったより広かった。いつのまにか麻枝は十人を超す男達に取り囲まれていた。
群れをなさないと啖呵も満足に切れない街のチンピラと麻枝とでは勝負にならない。
仲間の半数を倒され、若者達は恐慌を呈し始めていた。正義漢ぶった勘違い野郎を
袋叩きにするはずだったのに、逆にこちらが叩きのめされそうになっている。若者
の一人がズボンの後ろポケットからナイフを取り出した。震える手で柄を握り、刃を
麻枝に向ける。安っぽい加工の施された刃の表面がネオンの光を反射してきらめいた。
刃を向けたまま麻枝に突進しようとした若者は、何者かに背中から蹴りを入れられた。
勢い良く吹き飛ばされ、麻枝の足元まで転がり失神する。
「こんな所で何遊んでいるんだ、麻枝!」
自分の名を呼ぶ声に反応し、振り向くと吉沢が片手にケーキ屋の紙箱を抱えながら
若者に蹴りを入れていた。思わず叫び返す。
「吉沢さんこそ何でこんな所にいるんですか!?」
「俺の家が近くにあるからだ。それより、このガキどもといつまで遊んでいるつもり
だ? そろそろ警察が来てもおかしくないぞ」
ケーキの箱を大事に抱えながら、吉沢は殴りかかる若者達を足であしらっている。
吉沢の言葉の通りに、パトカーのサイレン音が近づいてくるのが麻枝の耳にも聞こえた。
「逃げるぞっ、麻枝!」
吉沢に腕を掴まれ、麻枝は引きずられるようにして喧騒の中心から逃走した。
「……ったく、何あんなガキ相手に本気になっているんだ。大人気ない」
部屋の丁度中心に置かれたこたつの上にケーキの紙箱を置きながら、吉沢は呆れ
果てる。それには応えず、麻枝は所在なげに吉沢の部屋に立ち尽くしていた。
ほこり一つなく整理整頓された部屋は、無機質な冷たささえ感じさせたが、一角に
置かれたピアノが吉沢の人となりを主張しているように見えた。
「そんな所に突っ立ってないで、座れ。でかい図体が目障りだ」
麻枝は黙って腰を下ろす。吉沢は食器棚から二つ湯のみを取り出す。ポットから常時
沸かしてある熱湯を湯のみに注ぎ、茶を点てた。
「ケーキしか食うものはないんだが、まぁ食いたければ食え」
湯気を立てている湯のみをこたつの上に置きながら、吉沢も腰を下ろす。
麻枝は何も語らず、沈黙を貫いている。吉沢も自ら話し掛けようとはしなかった。
こたつの上で二つの湯のみが白い水蒸気の煙を吐き出している。言葉で埋めることの
できない空間が、麻枝と吉沢の間にかって存在した軋轢を物語っていた。
「……Tacticsは辞めたんですか、もう」
ぽつりと麻枝が口を開く。湯のみを片手にケーキを食べていた吉沢は、事も無げに答えた。
「あぁ、色々とやってはみたが、どうにもならなかったな。最後は依頼退職だ。クビだよ」
平然と答えてはいたが、数え切れない程の辛酸を舐めつくしたはずだった。麻枝達主要
メンバーを一度に失い、そこからなおTacticsを回復させようとあらゆる努力を試みながら、
結局は徒労に終わったのだ。そして石で追われるように追放された。
その原因を作ったのは他ならぬ麻枝である。吉沢の現在の苦境は麻枝の離反が発端で
あった。
「出入りの激しい世界だ。クビになったからといってどうということもない。商売になる
ネタさえあれば、またいくらでも出直せるさ」
吉沢はどこまでも気楽な調子で言う。
「吉沢さんなら……どこに行っても通用しますよ」
力無い麻枝の言葉に、吉沢はからからと笑ってやり返す。
「それならkeyに音楽屋としてでも拾ってもらうか。お前のコネで馬場社長にねじ込めないか?
こう、ぐいっと」
吉沢は拳を握り、ねじるようにして麻枝の胸元に突き出す。麻枝は何も答えない。
吉沢の軽口にも何の反応も示さず、俯いたままの麻枝を見て、頭を掻いた。
「お前なぁ、色々あるんだろうが、お前がそんな辛気臭いことでどうする。それでも
keyのチームリーダーか?」
「……もう、違いますよ」
そう、自嘲した。吉沢はその様子にただごとではない何かを感じ、麻枝の言葉を待つ。
お互いに違う道を歩んだ空白の時間を埋めるように、麻枝は訥々と言葉を繋いでいく。
樋上いたるを切ろうとした上層部に反発し、Tacticsを飛び出した日の決意。『Kanon』
で勝ち取った名声、失った同僚。新たな同士を得、身を削るようにして創り上げた『AIR』。
時には帷幕から指令を送る指揮官のように、時には前線で泥にまみれて銃弾の雨の中
を這いずり回る二等兵のようにkeyを守り、戦い、育ててきた一人の男の歴史が語られて
いく。
そして最後に、keyに居場所を失い、こうして独り彷徨っている今を伝えた。
「俺は一体今までなにをやってきたんですか」
最後の言葉は、殆んど泣かんばかりにして言った。
吉沢は何も言わない。何も言わず立ち上がり、部屋の片隅に置かれたピアノへ近づく。
鍵盤の前の椅子に座ると、静かにピアノを弾き始めた。吉沢の指が鍵盤に触れると、
手入れの行き届いたハンマーが弦を叩き、音色を発する。吉沢の指の動きに応えて、
弦は音を奏で、曲を紡いだ。
奏でられる音楽は、麻枝のよく知っているものだった。いや、よく知っているという
だけでは不十分だった。今、吉沢の弾いている曲はかって麻枝自身が生み出した曲だったからだ。
輝いたあの季節を懐かしみ、最後まで笑っていたあの子供達を慈しみ、届かないあの
飛行機雲を追いかけた、過ぎ去りし夏の面影を麻枝は伝えようと願ったのだ。五線譜
に書き写した三分足らずの音の世界に全てを託して。
「『夏影』か。いい曲だ」
ピアノを弾きながら、吉沢は短く呟く。指が静かに鍵盤に触れると、音色は部屋を満たした。
その音色が乾いた心に沁み込むようで、麻枝は胸が潰れそうになった。麻枝を憎んでいる
はずの吉沢が自分の楽曲を奏でていることが、道を分かったはずの吉沢が今なお麻枝の
想いを汲もうとしてくれていることが痛みを伴って麻枝の心を締め付けた。
麻枝は両手で顔を覆った。泣いた。声を洩らさず、こみ上げる嗚咽を懸命に押し殺して、
それでも涙はとめどもなく頬を濡らした。そんな麻枝に、吉沢はただピアノを弾き続ける。
同僚への不満、周囲への憤懣、そして自分への嫌悪が今、涙とともに洗い流されていく
のを麻枝は感じていた。
63 :
名無しさんだよもん:01/12/25 09:46 ID:mTLBntbC
キタ━━(゚Д゚;)━━!!!!!!!!!!!!!!!!!
……泣いていいですか?
なんかスゲェ、涙腺直撃っす。
ボス、かっこよすぎイイ!(・∀・)
YETボスサイコー。
ボス……本物はエレクトーン11級なのに(w
か、かっこええ……。
>67
激しくワラタ
71 :
名無しさんだよもん:01/12/25 21:08 ID:Q9KI19xe
感涙号泣age
ホンキでナケタ…
この辺の事情を読んだことある者は尚のこと泣ける。
マジでイイ!(・∀・)
>>69 詳しい話は忘れたけど、ボスがエレクトーン11級ってのは実話だったはず。
>>69 とった級がネタかどうかは知らないけど
「Y」AMAHA 「E」LEC「T」ONE 11級
略してYET11なのはホントの話。
大昔の話らしいけどね。
ついでにボスは今でも楽器はひけないらしいです。
うう……やっぱ及ばない……ここまで差があるのか……
なんで涙が溢れてくるんだよ……吉沢さんウワァァァァン!!
76 :
:01/12/26 14:59 ID:KVr+7MlW
クリスマスが終っても、麻枝は吉沢に部屋に入り浸っていた。
「おい、会社のほうはいいのか?新作の制作が佳境に入っているころじゃないの
か?みんなも心配しているぞ」
「いいんですよ、会社なんて。僕がいなくても他のメンバーで十分やっていけま
すよ。今頃、ぼくの心配なんかより、コミケのことで頭がいっぱいですよ…」
クリスマスの晩、不満憤懣そして自分への嫌悪が吉沢の演奏によって洗い流さ
れたとはいえ、いったん飛び出した麻枝は引っ込みがつかなくなっていた。吉沢
はそんな煮え切らない麻枝を怒鳴りとばしたい気持ちだったが、ここで強圧的な
態度をとっても意固地になるだけだろう。そこでPCを起動し、あるところにメール
を出し、翌日、電話でコンタクトをとった。と、またも麻枝が部屋に入ってきた。
「ん、なにしていたんですか、吉沢さん」
「うん、まあ再就職活動といったところだ。フリーではさすがに限界を感じてき
たからな」
「ふーん。ぼくはフリーのほうがいいと思うけどなあ。で、どうなんですか」
「急な話だが、年明け早々にも来て欲しいそうだ」
「どこなんですか?」
「KEYだよ」
「なんですか、それ非道いじゃないですか!ぼくの気持ちを知ってるくせに…!」
「麻枝、人間は自分を必要としてくれるところに行くものだ。KEYはオレの力を必
要としてくれている。それだけだ」
麻枝は、吉沢のその言葉が終わるか終わらないうちに部屋を飛び出しいった。
77 :
:01/12/26 15:00 ID:KVr+7MlW
年が明けて、KEYの開発室。仕事始めの日である。麻枝が抜けたことで新作の制
作は停滞していた。年末ということもあってか、今まで制作状況の確認と来年のス
ケジュールの調整、コミケなどのイベントで麻枝が抜けたことを忘れようとしたが、
今までリーダーだった麻枝がいないことによる停滞は隠しようがなかった。
と、開発室に社長が入ってきた。年始の挨拶かと思ったが、社長は一人、男を伴っ
ていた。ほとんどのメンバーには旧知の顔だった。
「あー、今年もよろしく。ところで、新しい仲間を紹介しよう。知っている人もい
るだろうが、吉沢務君だ。彼にはいままでの経験を生かして、プロジェクト全体を
見てもらうつもりだ」
「社長、リーダーは麻枝君のハズでしょう。どういうつもりなんですか!」
しのり〜が声をあげる。
「いや、しかし麻枝君にはメール、電話をしても連絡がつかんのだよ。とりあえず、
有給扱いにしているが、それもいずれ無くなる。雑誌、インターネットで発表した
からにはこれ以上の停滞は許されん」
その日から、吉沢は精力的に動いた。涼元らの初顔合わせのメンバーともすぐに
うち解け、旧知のメンバーとはわだかまりを残しつつも、制作はいままでの停滞を
取り戻すかのように、いやそれ以上のペースで順調に進んだ。麻枝が担当するはず
だったシナリオ以外は。
「渚シナリオなんですが、私か魁さんが書くんでしょうか。それとも吉沢さんが?」
「うん、まあ、その部分は考えていることがあるんだ」
「それでも他ルートのシナリオを重なる部分がありますし…」
「そこのところは適当に、というか、ちょっと待っていてくれよ」
涼元は少し不満だったが、そこで引いた。受賞歴もあり、単行本も出したことも
ある作家とはいえ、ゲームの制作に参加したのはAIRしかない涼元には、数多くの
作品を制作した吉沢に教えられることが多かった。しかし、制作が進み、ゲームの
全体像が見え始めた今になっても麻枝が担当するはずだった部分の担当を割り振ら
ない吉沢の態度は不自然だった。
78 :
:01/12/26 15:01 ID:KVr+7MlW
そして、発売日が決まり、マスターアップの期限も決まった。が、その時を境
に吉沢が豹変する。突然の仕様変更、決定稿のはずの原画へのダメ出し、折戸
が作曲した曲は原型を無くしてしまうほどに編曲した。そして相変わらずメイン
となる渚シナリオには手もつけていない状態であった。制作が大混乱に陥り、休
日出勤の連続であった。スタッフの怒りが爆発しようとしていた日曜、休日出勤
で朝一番で出勤したみきぽんがPCを立ち上げると、大量のウンコフォルダが!他
のスタッフのPCも同様だった。そしてメールサーバには吉沢からのメッセージが
残されていた
「ハッハッハッ、誰がテメーらの青臭ぇゲーム作りなんか協力するかよ。最初っか
らこうして、混乱に陥れるのが目的だったんだよ。思い知ったか。これであのとき
の復讐がようやく果たせて清々したぜ。俺はこれからバハマでバカンスを楽しむ
とするか。じゃあな、ハッハッハッ」
79 :
:01/12/26 15:03 ID:KVr+7MlW
一方、時を同じくして麻枝は吉沢の部屋を訪ねていた。麻枝は吉沢の部屋を飛
び出して以来、荒んだ生活を送っていたが、さすがに吉沢にだけは謝っておこうと
思った。しかし、部屋はもぬけの殻だった。
正確には部屋の中に古いPC98がポツンとあった。起動するとガチャンガチャン
とフロッピーディスクにアクセスする音が部屋に響いた。MS-DOSが立ち上がると、
AUTOEXEC.BATで自動的に演奏ソフトが起動し、今では携帯電話の着メロにも劣る
FM音源で曲を奏でた。これは、青空!?…そして麻枝はフロッピーディスクの挿入
口に挟まれていた手紙を発見する。
「麻枝、なにも言わずにKEYの開発室へ行け。そこにはお前を必要としてくれる人
たちがいる。人間は自分を必要としてくれる人のために生きるんだ。俺はしばらく
旅に出るよ。ゲームの制作を大混乱に陥れた張本人とお前が仲良くしているんじゃ
あ、お前まで疑われるからな。長い旅になるだろう。けれどお前のことは忘れない。
いつかどこかで出会うかも知れないけどな。体に気を付けろ。じゃあな 吉沢」
吉沢さん、オレのために憎まれ役を…麻枝は静かに手紙を読んだ。二度も三度も
繰り返し読んだ。手紙が涙でぐしゃぐしゃになり、文字が判読できないほど滲んで
いた、それでも麻枝は手紙を読み続けた。
なんつーか・・・えらく展開がはやいな・・・
まぁリレー形式だからしょうがないけど。
…つか、コレって泣いた赤お(以下略)
…つか、クラナド発売まで時間飛ばしたらあかんやろ…
このスレ、リレー縛りきつくないよね?同時並列世界だよね?
前もそんな感じだったし
>82
ええ、また別の展開を書かれるのならそれも大歓迎です。
「ぐぁ……なんちゅう人の数だ」
立錐の余地もないほどに密集した人ごみに巻き込まれながら、麻枝准は呻き声をあげた。
ここ有明の地は一年に二度だけ、日本で最も多くの人が集まる祭りの場と化す。
コミック・マーケットと呼ばれるその祭典の会場に、麻枝は生まれて初めて足を運んで
いた。会場は人々の雑然とした熱気に満ちて、季節が冬であることを忘れさせた。
人ごみに当てられ、乗り物酔いのような不快感が胃の奥からこみ上げてくるのを感じ
ながら、麻枝は自分にこの場に足を運ぶことを勧めた男を少しだけ恨めしく思った。
「まだこの業界でやっていく気があるんだったら、コミケにでも行ってみろ。会社の中
からだけでは見えないものが見えてくるぞ。今の麻枝に必要な人がいるかもしれない」
吉沢の言葉だった。あれだけのことをしてしまった以上、今更keyに戻る訳にはいかない。
だがあの日、自分でも驚くほどの涙を流した後、一つの真実が残ったのだ。
「まだ、何かを創りたい」
灰燼と化した未来の残骸の中に、崩落した過去の廃墟の底に見出した、たった一つの夢
の絵姿。心の奥の炎は今なお消えずに、麻枝の背を押している。その火が消えるまでは、
まだ終われない。
(だからと言ってこれではたまらんぞ。そもそもコミケなんか……)
立ち止まることを許さない人々の濁流に飲み込まれつつ、麻枝は内心愚痴った。
大学を卒業してすぐにプロとしてキャリアを積んできた麻枝は、同人活動というものを
今までに一切行なった事がない。18禁ゲームの業界では同人活動をステップにプロとして
活躍する者も少なくないし、プロとして活動する傍ら同人活動を行なう者も多い。
だが麻枝のプロ意識はそうした余暇としての創作を許さなかった。同人創作を商業創作
の下に置く意識が麻枝にはある。ここに自分の必要とするものがあるとはとても思えなかった。
人ごみに押し出され、弾き出され、ふらふらになりながら麻枝はようやく人気の少ない
ところで一息をついた。深呼吸をして、新鮮な空気を肺に送り込む。あくびをして大きく
背伸びをした麻枝のコートの裾を何かがくいくい、と引っ張った。
「んが?」
口を大きく開いたまま、麻枝は疑問の意を発する。引っ張られたコートの裾に目をやる
と、少女が涙目でこちらを見上げていた。
小さな少女だった。幼女と言ったほうがいいかもしれない。麻枝の腰のあたりの高さ
から麻枝の顔を見上げている。黄みがかったブラウンのダッフル・コートに身を包み、
ミトンをはめた小さな手で麻枝のコートの裾を離さない。肩にかかる程度に切り揃え
られた髪につけた赤いカチューシャが一層幼い印象を与えた。
「どうした? ガキの頃からこんな所に出入りしてたら、ロクな大人になれないぞ」
少女はぷるぷるとかぶりを振る。
「……おかあ……さん」
大きな瞳から涙がこぼれる。麻枝は体を屈め、少女の目線と同じ位置で話し掛けた。
「もしかして迷子になったのか?」
カチューシャが縦に揺れる。麻枝は呆れ果てたように深々とため息をついた。
「……ったく、こんな所に子供を連れてくる親も親だな。何か間違いでも起こったら
どうするつもりなんだ」
しゃがんだ体勢のまま、少女に背中を向ける。
「ほら、乗れ」
麻枝の言葉に少女はどう応えていいか分からず、立ちすくむ。麻枝は業を煮やしたよう
に続ける。
「お母さんを探すんだろ。俺が肩車してやるから自分で探せ」
長蛇の列をなしていた客のピークも一段落を迎え、久弥直樹はようやく人心地をついた。
今回初めて出展した自作の小説の売上は上々だった。key時代に得た支持層が主な客層
だったとはいえ、第二の人生の門出としては悪くない。この調子で地道に活動を続けて
いくことができれば、それに過ぎるものはないように思えた。
二年前keyを離れて以来、久弥は潜伏を余儀なくされていた。モチベーションの低下
もさることながら、離れてなお巻き込まれるkey絡みのトラブルに振り回され続けた。
だが波乱と動揺を繰り返したkeyも今ではすっかり安定を取り戻したようで、新作の発表
も行なわれている。麻枝達の前途は洋々に見え、久弥は安堵した。
次は自分の番だ。key時代の過去を捨て、これからの人生を自分の力で切り拓いて行く
んだ。そんな決意に心を引き締めた。
販売スペースには客の姿はもうない。知り合いのサークルに顔を見せに行こうと、
売り子用の椅子から立ち上がった久弥に、見知らぬ女性が声を掛けてきた。
「あ、あの。すいません」
女は頬を赤らめ、上気した様子で久弥に話し掛けてくる。どもった話しぶりから、
彼女が相当に動転していることが伝わってきた。
「ここに女の子が来なかったですか? 私の娘なんです。背はこのくらいで」
そう言いながら自分の胸の少し下の高さに手の平をかざす。
「いえ……そんな娘さんは来てはいませんけど」
「そうですか……こんな人の多い所で迷子になって、一体どうしたら……」
女は半ばパニックに陥っていた。
「落ち着いてください。ちゃんと探せばすぐ見つかりますよ、僕も手伝います」
久弥の言葉に、女は辛うじて平静を取り戻す。言い聞かせるように久弥は続けた。
「それで、その娘さんはどんな格好をしておられるんですか? 目立つ特徴とかが
あれば教えてください」
女は顔を上げ、少しだけ嬉しそうに口を開く。
「あゆちゃんの格好をしています」
「あゆちゃん?」
おうむ返しに返事する久弥に、女は説明する。
「はい、『Kanon』のあゆちゃんです。とても可愛いんで、久弥さんにも見てもらおうか
と思ってたんですけど……」
寂寥感が小さな棘のように、久弥の心を刺す。二年以上も昔に自分の創った物語の
キャラは未だに愛されている。その事を嬉しく思う反面、もうあの時は帰ってこない
のだ、ということを思い出させられた。
遠目には人の海の上を少女がサーフィンしているように見えるかもしれない。
麻枝の肩車に乗った少女は人ごみから体一つ分だけ浮いていた。
「おーい、見つかったかー」
頭上の少女のバランスを崩さないように慎重に歩きながら、麻枝は問う。
「ううん……いない……」
頭の上から声がする。麻枝はため息をついて子供連れの女性のいそうな所を歩き回った。
くいくい、と髪の毛が引っ張られた。
「お、見つかったか?」
ようやくこの苦役から解放されると思い、声を弾ませる。だが、頭の上からは期待
した言葉は降ってこなかった。
「トイレ……」
消え入りそうな声が頭の上から聞こえる。その言葉の意味を考えた麻枝は、自分が今、
絶体絶命の死地にいることをすぐに悟った。
「トイレって、しょんべんか? 大きい方か? いやどっちでもいい。っていうかよくないっ」
肩車に乗った少女の体が震えている。
「ぐぁっ、首を締めるなっ」
足を閉じ、下半身に力を入れて懸命にこらえようとしているようだった。足を閉じよう
とすれば必然的に麻枝の首を締めることになる。便意をこらえるには不向きな姿勢だ。
「もうちょっと我慢しろ。すぐトイレに連れて行ってやるから、な?」
だがコミケ会場を初めて訪れた麻枝が会場の地理に詳しい訳がない。しかもこの人ごみ
では周りの状況もよく見渡せない。
「うぐっ……」
頭の上で呻き声が聞こえる。少女の震えは大きくなり、麻枝の髪の毛にぽたりと涙が
一滴落ちた。涙ならまだしも、あんなものを頭にぶっかけられてはたまったものではない。
「おわーっ! トイレはどこじゃーっ。トイレトイレトイレーっ!」
麻枝の悲痛な叫びが、会場に響き渡った。
「おわーっ! トイレはどこじゃーっ。トイレトイレトイレーっ!」
男の叫び声が久弥の鼓膜を震わせる。目の前の女もその叫びに反応し、声の聞こえた
方角を向いた。久弥と女が顔を向けたその先には、何故か人々の頭の上の高さに少女が
いた。
「あ、あそこです。あそこにいるのが私の娘です!」
女が叫び、走り出す。久弥もそれを追い、販売スペースを飛び出した。
人ごみをかき分け、少女のいた場所へ駆け寄る。
偶然か、それとも必然か。
久弥はそこで、もう出会うはずのなかった男と再開した。
そしてそれは激動の新時代の、ほんの序幕にすぎなかったことを後に久弥は知る。
>>76-80 ゴメン、分岐させて。最終的にはその結末になると思うんだけど、そこに
辿り着くまでの過程が書きたいんです。
俺も気になる!特にょぅι゙ょの放尿シーンがっっ!!(w
(;´Д`)ハァハァ
94 :
7つ ◆ffU3G94s :01/12/28 10:35 ID:/8rnyzXI
年末age アイモカワラズモエマス。
「本当に、どうもありがとうございました」
母親が深々と頭を下げる。肩車の上で尿意を催し、麻枝を狼狽させた少女も
再会した母親に連れられてトイレに行き、どうにか最悪の事態は免れていた。
「その手を離すんじゃないぞ、二度とな」
母親の着ているコートの裾を握り締めている少女に、麻枝はそう言う。
「うんっ」
安堵に満ちた笑顔で、少女は応えた。その笑顔につられて、麻枝も表情を緩める。
「何とお礼を言ったらいいのか、本当に……」
母親は感謝に絶えない様子で麻枝にぺこぺこと頭を下げる。年端も行かない子供を
こんな場所に連れて来る親の非常識には腹が立ったが、心底反省している様子の母親
を詰問する気も失せていた。それよりもこの場はどうにも面映ゆすぎる。
「そんなことより、娘さんからもう二度と目を離すなよ。じゃあな」
親子に背を向け、早足で立ち去ろうとする麻枝の腕を、誰かが強く掴んだ。
「麻枝……何故君がここにいる?」
久弥直樹は疑念を隠せない。keyは今新作の開発の最中にあり、余暇が許される状況
にはないはずだ。例え余暇があったとしても、人ごみに酔う麻枝がわざわざ日本で最も
人口密度の高い空間の一つであるコミケ会場に足を運ぶとは考えにくい。樋上いたる
の手伝いに徴用された、というケースが頭に浮かんだが、いたる本人が今回は参加していない。
「い、いや何だ。食わず嫌いはよくないと思ってな。吉沢さんの勧めもあったし」
「吉沢さん?」
聞くはずのない名前が麻枝の口から発され、腕を握る手に力が入る。麻枝は自分の
失言に気づき、自分の口を手で押さえた。
突如場に生じた緊迫した雰囲気に、母親と娘は呆然と二人を眺めている。
「keyを飛び出した!?」
久弥の叫びがコーヒー・カップの水面を揺らした。
「そんな大声出すな。周りに聞こえるだろ」
対面に座った麻枝は周囲の視線に晒されまいと体を縮め、久弥を抑える。コミケの
会場から少し離れた所にある喫茶店は主に学校帰りの学生と仕事を終えた会社員で席が
埋められ、コミケの混沌とした雰囲気とは想像もつかない静かな空気が漂っていた。
「一体それってどういうことだよ? ちゃんと説明してくれよっ」
掴み掛からんばかりの勢いで問い詰める久弥に麻枝は半ば辟易する。
「だからさっき言った通りだよ。俺と馬場社長の意見が食い違って、keyの皆が馬場社長
の意見に従ったんだよ。俺は製作の意思一致を損ない、社長に反抗した廉で自宅謹慎。
謹慎で済むとは思えないけどな」
「皆が従ったって……」
「俺も散々皆に迷惑を掛けていたからな。涼元さんの方がずっと作業を円滑に進めること
ができるだろうし、もう俺がいなくてもいいと思ったのかもな」
「そんな訳ないだろうがっ!」
冷静に自分の境遇を眺める麻枝とは対照的に、久弥は激昂して机を叩く。テーブルが
揺れて、コップから水が飛び散った。
「麻枝がいなくなったkeyなんて何の意味もないのに、皆どうかしてるよ……」
頭を抱える久弥に、麻枝はうんざりする。一体こいつはどうしてそんなに他人の事に
本気になれるんだ?
「それで麻枝は一体どうするつもりなんだ? まさかこのままkeyを辞めたりはしない
だろうな?」
その問いに、麻枝は答えを返せなかった。
「……辞める気なのか?」
沈黙したままの麻枝に、久弥は恐る恐るそう尋ねる。満席に近かった店内も今では
閑散としており、二人の話し声はよく響いた。
「今更戻れないのは本当の事だ」
麻枝はそう言うと、左の頬に手をあてる。痛むはずもないのに、ひりひりと痛みを覚えた。
「麻枝がいなくなったら、keyはすぐに潰れるぞ。それでいいのか?」
「そんなにkeyのことが心配なら、お前が戻ればいいだろうが」
「それができればとっくにやってるよ!」
ひときわ大きな声に、数えるほどしかいない客が一斉に振り向く。久弥は立ち上がる
とコートを羽織り、伝票を掴んだ。
「お、おい。もう出るのか」
一口も口をつけていないコーヒーはまだ湯気を立てている。麻枝の言葉に久弥は苛立た
しげに答える。
「麻枝じゃ話にならない。直接いたるに話をつけてくる。いたるが本気で麻枝と離れよう
と思うわけがないんだ」
早足でカウンターに向かい、財布から出した千円札を叩き付ける。
「ちょっと待てよ、久弥!」
追いかけようと立ち上がる麻枝に目もくれず、久弥はドアを開けて外に飛び出した。
腹立たしかった。これほどに腹の立つ思いをしたことは、ここ二年の間にはない。
有明と新橋を結ぶゆりかもめ号の車内で、久弥はまだ怒りに心をかき乱されていた。
(何を考えているんだ? 麻枝も、いたるも!)
一体何のためにkeyを作ったのだ。一体何のためにTacticsを離反したのだ。
それはメンバーの結束を維持するためではなかったのか。麻枝といたるを分かとうと
する力に屈服しないためではなかったのか。
理想を目指し、どんな過酷な障害も乗り越えていく鋼の力強さ。疲れ果て、傷付いた心
を穏やかに満たしてくれる春の日だまりの暖かさ。
強さに憧れ、優しさに救われ、久弥はkeyを愛した。もう二度とkeyの中に生きることは
できなくとも、思いは変わりはしない。そしてkeyはこれまでも、そしてこれからも
まっすぐに上を目指していくはずだった。それは久弥の願いだったのだ。
レインボーブリッジを列車は疾走する。臨海副都心に立ち並ぶ巨大なビルディング
は後ろに流れ、目の前に夜を徹して輝き続ける都心の光が広がった。人の知恵と力は
互いを隔てる海にも屈せず、ついに陸と陸とを結びつけた。繋がるはずのない二点を
結び、重力に逆らい風雨を耐える橋梁は自然を乗り越えようとする人の意志の象徴
だ。
僕は橋にはなれないのか? 隔てられ、切り離されようとしている二人の居場所を
もう一度繋ぐことはできないのか?
久弥の不安を乗せ、列車はひたすらにレールの上を突き進む。
99 :
名無しさんだよもん:01/12/29 12:41 ID:LojAkk8q
100 :
名無しさんだよもん:01/12/29 12:55 ID:gT8yP4Ca
連続ドラマの第2話、っていう感じですね。
メンテのみでスマソ。
でも、ここは沈んじゃ、メ!ですの☆
「おい、アレ麻枝さんと久弥さんじゃないか?」
「……さあ」
「違ったっけ? 俺、顔覚えるの自信ないからなー」
「そんなことどうでもいいだろ! さっさとブースに戻るぞ!!」
「ちょ、ちょっと待てよ、有島!」
(あの人達は相変わらず好き勝手にやっているな……)
この年のコミケ。Tacticsは同ネクストンブランドのRasenと共に企業ブースを開いていた。
Rasenとは夕焼けのシナリオと原画である有島裕也と桐沢しんじを基盤として作られた新ブランドだ。しかし、その軌跡は苦難の連続であった。
一作目のC´は現実感を前面に出しすぎてしまい、この業界の売れ線から外れてしまった。
二作目に出した傷モノの学園は男性器にモザイクをかけ忘れ発売日に即刻回収、一ヶ月発売停止という不名誉な記録を作ってしまった。
だが、そんな中でもRasenスタッフから目立った離脱者は出なかった。それはRasenトップである有島の意地でもあった。
後輩を見捨てていった先輩に対する意地だ。
結局のところ、ゲームを作る能力と人間性は別物だ。
俺がONEに憧れて入社した時、現Keyスタッフはいたるさんを守るために独立の準備をしていた。
俺や娘太丸、鉄の助にるざりんのことなどシカトして。
でもそんな中、吉沢さんは俺達のことを見ていてくれた。
麻枝さん達が抜けたあとも残り、ゲーム作りの基礎を教えてくれた。
すずがうたう日がKanonに大敗したときも励ましてくれた。
俺にとっては確かに充実していた。
自分のためより、この仲間達のためにいいシナリオを書きたかった。
そんな時代だった。
蜜月は続かなかった。
ある日突然吉沢さんはやめた。
鈴木社長との反発ということだった。
残された者のことなど考えずに。
どうしてみんなすぐにやめるんだ?
吉沢さん、あんたもまた俺たちを捨てるのか?
今、Tacticsで残ったメンバーは苦労している。
どんなに頑張ってもKeyの影から逃げられない。
掲示板では新作をだしても必ずOneとの比較の話題がでる。
もう誰も当時のスタッフがいないゲームと比較されても困る。
もう自由にさせてやってくれ。
俺達が新作出してもCLANNADの新キャラ一人紹介にかなわない。
俺の麻枝さん達に対する感情は憧れから憎悪に変わりつつあった。
あ、ありりん萌え…続き…つづきキボン…
今年最後そして保存age
確か有島って、吉沢に何の相談も無しにRasenブランド立ち上げたって話を、
どっかで見た記憶が・・・。吉沢が隠しHPで言ってたんだっけ?
それに、吉沢が辞めるよりも、Rasen設立のほうが先だったハズ。
話の腰を折ってスマソ
>>107 んー、正式には社長が新ブランドに引き抜いたみたい<有島氏
で、それに関して相談とかが(鍵メンバーの時と同じく)なくて、
吉沢氏凹んでた様子。でも仲が悪いとかではないっぽい。
そういえば、コミケでよしざわさん見たな。委託先にいた。カコヨカッタ。
>>107 あっちゃあー。申し訳ありません。
その話まったく知りませんでした。
ついでに有島ちんと久弥んはライター同士の飲み会で顔を合わせるぐらいには仲がいいです(微妙)
退社後も接点はあるのよねん。
>>110 それではかなり事実と違いますね……
今度その事実を元にした作品だしたいですね。
冬空は灰黒色の雨雲に覆われ、今にも泣き出しそうだった。朝になっても
姿を見せない太陽が陰鬱さを助長させる。乾燥しがちな大阪の冬らしくない
湿った風が久弥直樹の顔に吹き寄せた。
(ここに来るのは何カ月ぶりだろう?)
東天満の街並みを眺めつつ、そう感慨にふける。もう、この地を踏むこと
はないと思っていた。ここには思い出が多すぎる。
首を振り、目指す場所へ歩き始める。失われた過去は最早久弥の心に触れ
はしない。今自分がしなければならないことは未来を繋ぐことだ。
麻枝の、そしてkeyの。
木枯らしに身をすくめながら、早足でビジュアルアーツが籍を置くビル
へと向かう。温暖な大阪にしては冷たい空気がちくちくと顔に刺さった。
記憶に従い道を選び、角を曲がって行くとすぐに目的地に辿り着いた。
もう年末だが、keyのメンバーは皆今日も仕事に出社しているはずだ。
新作「CLANNAD」の開発が佳境に入っているのであれば、年末だからといって
休みが許されるはずもない。
自動ドアの前で久弥は思わず立ちすくんだ。無骨なコンクリートの
建造物が、昔そのドアを毎日くぐっていた時には感じなかった威圧感で
久弥に迫ってきた。
曇り一つ無く綺麗に磨き上げられたガラスのドアを目の前にしばらくの間
逡巡していた久弥だが、やがて意を決したように顔を上げ、自動ドアの
センサーが認識する領域に足を踏み入れようとした。
「おーい、ちょっと待てーっ」
背中に大きな声が掛けられる。人違いだろう、そう思った。今の久弥に
声を掛けようとする人間はここにはいない。
黙殺し、自動ドアを開こうと足を進める久弥の背に、再び声が掛けられる。
「だからちょっと待てーっ。短気を起こすな、久弥っ」
反射的に振り向いた。
「吉沢さん?」
白い息を吐きながら、吉沢務は久弥の元へ走り寄る。わずかに乱れた息を
整えて、久弥に言った。肩に茶色の鞄を掛け、よれよれのコートに身を包んだ
風貌は何とも冴えないものだったが、鋭い眼光はかって久弥の知る吉沢のまま
だった。
「短絡しやがって。麻枝から電話があったんだぞ。『止めてくれ』ってな」
「『止めてくれ』ですって?」
腹立たしげに吐き捨てる。
「あぁ、麻枝はkeyに戻る気は無いんだよ。今はまだ、な」
吉沢の口調は穏やかで、聞き分けの無い子供を諭す父親のようである。
そんな吉沢の言葉も、久弥の態度を和らげはしない。きつい口調で言い返した。
「いい加減なことを言わないでください。麻枝のことがどうしてあなたに分る
んだ」
「お前は分るというのか? 麻枝が何故keyを離れたのか、そして今何をやろう
としているのか」
再びドアへと向き直る。言葉を背中で拒絶し、前へ進もうとした。
吉沢はなおも続ける。
「keyに怒鳴り込むのはお前の勝手だ。樋上君の横っ面引っぱたいて、麻枝の
所へ無理やり引きずり出すのもお前の自由だ。だが、それは俺の話を聞いて
からではいけないか? 麻枝は俺に色々と話してくれた。お前の知らないこと
もな」
最後の言葉に久弥は屈服した。振り返り、吉沢の目を見据える。
吉沢は突き刺すような久弥の視線にいささかも動じることなく、言う。
「話をするにしても、ここはまずいな。昔お世話になった会社に近況報告
に来ました、で通用する相手でもない。警察呼ばれる前に、どこかへ逃げよう」
冗談めかして言うと、久弥の腕を掴んで歩き出した。久弥は唐突な吉沢の
行動に戸惑い、否も応も無く引きずられ、ビジュアルアーツのビルから
遠ざかって行った。
冷たい風の吹きつける河原に吉沢と久弥以外の人の姿はなく、雲に遮られた
陽光は水面を照らさない。暗く淀んだ川の流れに向かって、久弥は足元の石ころ
を蹴り飛ばした。空を舞った石ころは水面に触れると小さな水しぶきをあげて、
そのまま川底へ沈む。後にはコンパスで引いたような綺麗な同心円の波紋だけ
が残った。
「仕事が嫌になるとよくここで日向ぼっこをしたもんだが、この天気ではそれ
もできないな」
吉沢はコートのポケットに手を突っ込み、体を震わせている。
「それで、吉沢さんの伝えたい話って何ですか。昔話でもしたいんですか、
こんな所で」
久弥の言葉はどこまでも素っ気無い。
「それでもいいんだが、今はそれどころじゃなさそうだな。本題に入ろうか」
吉沢は顔色を改め、真剣な表情に変わる。
「お前は麻枝にkeyに戻ってもらいたいんだろうが、今はまだ無理だ。麻枝本人
がそれを望んではいない。麻枝は今、迷っている。自分が本当にこれからも
やっていけるのかどうか。keyにとって自分の存在が必要なのかどうか」
「馬鹿なことを言わないで下さい。麻枝がいないkeyなんて、keyじゃない」
遠くに見える鉄橋の上を電車が走る。振動音が響き、二人の耳にまで届いた。
「お前の抜けたkeyは、もうkeyじゃないんじゃないのか? そんな形だけの
物に、麻枝を縛り付けるつもりか?」
「僕と麻枝とは違う。僕がkeyに戻っても麻枝の代わりにはならない」
「麻枝は人に愛され信頼される。それはお前にはできないことだからか?」
普段の久弥なら、こんなことを最後まで言わせはしない。だが、目の前の
男はかっての上司であり、気性の勝る久弥が従う気になれた数少ない人間の
一人だった。
「……そうです。麻枝は皆の信頼に応える義務がある」
「それが麻枝を苦しめ、才能を縛り付ける足枷でもか?」
反論しようとした。だが吉沢の言葉は遠回しに久弥を批判しているように
思えた。久弥も解放されたかったからだ。期待と信頼に応えなければならない
という、義務の名を借りた足枷から。
「麻枝はkeyにまだ戻る気はない。もう二度と戻らないかもしれない。だが、
ゲーム作りを止めた訳ではない。まだ終わる気はないんだよ、あいつは」
吉沢は力強く言い切る。久弥は沈黙し、吉沢の言葉の続きを待った。
「勿論、他の会社に行くつもりはないらしい。そんなことをすれはkeyを
離れたことがすぐに暴露されてしまうからな。『CLANNAD』の発売前に
そんなことになれば、それこそkeyの破滅だ」
「それじゃぁ、もしかして……」
「お前の考えている通りだ。商業ベースを離れればkeyに迷惑を掛ける
こともなく、過去の仕事に縛られることもない。『売れなくても構わない。
一度だけでいい、作りたいままにゲームを作りたい』と言っていたよ」
麻枝は商業ベースの制限下でずっと活動を続けてきた。どうすればより
多くの売上を出せるか、今の受け手が求めるものは何か、を丁寧に分析し、
需要に応える。利益の追求を第一目的に置きながら、自分の作風は曲げない
姿勢を麻枝は常に貫いてきた。だが商業ベースである以上、麻枝も完全に
意思を通せるわけではない。ブランドイメージが強く定着したkeyでは
尚更である。
一切の束縛から解放された麻枝がどんな作品を作るのか、久弥にも全く
見当がつかなかった。
「麻枝はいつかはロールプレイングゲームを作りたいと考えていたらしい。
『AIR』の次こそ実現させようと上に働きかけたが、却下されたそうだ」
麻枝がRPGを愛することは久弥も知っていた。久弥がまだkeyにいた頃、
『Kanon』製作が佳境に入った開発室で、麻枝はこう語ったことがある。
「俺がガキの頃はまだ国産PCゲームが今みたいなエロゲーばかりじゃなかった。
雑誌の見開きに広告を載せるような大手の会社も、ほんの数人で作ったような
小さなチームも、皆自分達の作りたいゲームを自由に作っていたんだ。あの時代
には技術も金もなかったが、熱気があった。俺がゲーム業界に入ったのも、
その熱気を今度は自分が生み出したかったからなんだ。少ない小遣いをせっせと
貯めて、やっと手に入れたゲームを親父のパソコンで初めて起動させた時の
高揚を、眠い目をこすりながら徹夜した果てにエンディング画面に辿り着いた
時の感動を、今度は俺が送りたいんだ。それが、あの時俺にゲームの喜びを
教えてくれた人達への最高の恩返しだと思うんだ」
徹夜の連続でハイになっていたのだろう。その時開発室に残っていたのが
シナリオ担当の二人だけだったからかもしれない。普段なら絶対にしない
ような話を麻枝は熱っぽく語った。創作活動ができれば、それがゲーム製作
だろうが何だろうが意に介さない久弥は、麻枝のゲームに対する情熱に完全に
共感することはなかったが、それでも麻枝がゲーム製作に強い信念を抱いている
ことは理解できた。
吉沢は肩に掛けた茶色の鞄を開け、中から分厚い封筒を取り出す。
「keyでは無理だったが、麻枝はずっと企画を暖めていたんだ。これがその企画書だ」
そう言って、久弥に封筒を手渡す。封筒には細かく文字の書きこまれた
A4紙がぎっしりと詰まっていた。
『長編新機軸RPG:さゆりん☆サーガ(仮題)』
一枚目にはそう書かれていた。二枚目以降は細かな文字でびっしりと企画
の全貌が説明されていた。プレゼンテーションに使用するにしては内容が微に入り
細をうがちすぎている。システム・世界観は勿論、ストーリーのプロットや様々な
シーンの描写まで既に書きこまれていた。この企画書を読んでいるだけで、まるで
自分が今実際にゲームをプレイしているような錯覚さえ覚える、そんな企画書だった。
「ですが、これは……」
充実した企画書の内容に、確かに久弥も魅了された。だが、keyの作品として
これが求められるとは思えなかった。『Kanon』、『AIR』を経てシナリオを最大の
売りとする作風を定着させたkeyは、あくまでシナリオを表現するためにゲームを
製作する。プレイヤーはゲームをプレイするというより、むしろ絵と音のついた
小説を読む感覚でkeyの作品に接し、ストーリーを楽しんだ。
RPGには高度なゲームシステムと緻密なプレイアビリティが要求される。
それはプレイヤーを楽しませるために必要不可欠な要素だが、同時にプレイヤー
にシステムを理解し、作者の用意する課題を解決する能力をも要求する。
麻枝の『さゆりん☆サーガ』は斬新で奥の深いシステムを用意している。
完成すれば素晴らしいゲームになるかもしれない。だが、ストーリーをただ
読ませるにはプレイヤーに掛ける負担が大きすぎると久弥は思った。
「あぁ、keyでは無理だ。いや、今のエロゲー業界のどこに行ってもこんな
企画は通らないだろう。もう時代遅れなんだよ」
少しだけ寂しそうに吉沢は言う。吉沢は既に気づいていたのだ。麻枝の
情熱がそのままの形で世に受け入れられることはないことを。
「だが、俺は麻枝の『さゆりん☆サーガ』を見たい。麻枝に本当の意味で
自由にゲームを作らせてみたい。そのためにできることがあれば、俺は
何だってやってやるさ」
「吉沢さん……」
「俺と麻枝は同人ベースで製作に入るつもりだ。さっき言ったように麻枝は
他の会社に行くつもりはないからな。だが、人間が足りない。プログラムは
俺のコネでどうにかなるだろう。音楽は麻枝と俺がやればいい。だがシナリオ
と原画がいない。麻枝独りでシナリオを書き切るには、力が足りない」
吉沢の言葉に吸い込まれたように、久弥は沈黙を保っている。右手に握り締めた
A4紙の束が手の平の汗で湿り気を帯びた。
「今日一日だけでいい。その企画書を隅から隅まで読んでくれ。それから
決めてくれ。お前は麻枝にどうしてほしいのか、お前自身が何をしたいのかを」
その言葉を残して、吉沢は久弥の元を立ち去った。静寂に包まれた河川敷に
久弥は独り立ち尽くす。吹きっ放しの風が久弥の体に容赦無く叩きつけられたが、
まるで寒さを感じなかった。雑草の一本にいたるまで枯れ果てた河原に立つ久弥
の頭上の遥かな高みを、群れからはぐれた渡り鳥がただ一羽舞っている。
雲に覆われ一筋の陽光も射さない冬空の中、鳥は風に逆らいながら翼をはばたかせ、
北の大地を目指し飛び去った。
「で、久弥は思いなおしてくれたんですね?」
翌日、吉沢の家で麻枝准は心配そうに吉沢に質問していた。
「うーん、俺は寒いのが嫌だったんで、さっさと帰っちまったからな。
その後はどうなったかは知らない」
「んな、無責任な……」
「『さゆりん☆サーガ』の企画書は渡しておいたから、昨日一日はそれを
読むので潰れたと思うんだが」
「吉沢さんは久弥を引き入れるつもりなんでしょうけど、無理だと思いますよ。
今更俺の企画でシナリオ書こうなんて思っちゃいないはずだ。やっと軌道に
乗り始めた自分の仕事を捨ててまで俺と組むほど、あいつは馬鹿じゃない」
「馬鹿だよ、久弥は。それもお前並みにとんでもない」
吉沢には強い確信があった。久弥は麻枝の企画に心を惹かれ、自らもその
企画に参加することを切望するはずだと。
麻枝のkey復帰を望む友人としての思いも、安定した収入と将来を計算する
冷静な判断も、麻枝と共に作品を作り上げることへの欲望に蹴散らされるはずだ。
久弥もまた、創作の悪魔に魂を掴まれた男の一人だからだ。
そして、吉沢も。
「あいつは来るよ。俺達が何と言ってもな」
吉沢はテーブルの上に置かれた『さゆりん☆サーガ』の企画書を手に取る。
その瞬間、部屋の中にインターホンの呼び音が鳴り響いた。
「もう来たか。さすがに決断した時の動きは速いな」
ドアの向こうに立つ人間が誰なのかは判り切っている、と言わんばかりの
口調で吉沢は言う。
「麻枝、お前が出ろ。俺達三人の最後の挑戦は、お前の宣言で始められなければ
ならない」
麻枝はその言葉に従い立ち上がり、玄関口へ向かう。ドアのノブに手をかけ、
一瞬躊躇した。だが、すぐに意を決したようにあごを引き、ノブを回す。
それが始まりだった。
過去に消え去った男の最後の宴の。
未来を手放した男達の最後の夢の。
奇跡か、破滅か。
終着点は誰にもまだ見えてはいない。
佳境age
124 :
名無しさんだよもん:02/01/03 02:18 ID:WDHRUXZa
125 :
名無しさんだよもん:02/01/03 02:22 ID:vA4HNnOM
やばい、オチがかっこよすぎる。正直すごい…
つーか燃えだよね。
この人の影響で俺は鍵スタッフ本人がなんか好きになった。
かっけーよ。惚れるよ。むしろ抱け(やめい)
確かにカッコよすぎるとしか言いようがないが(・∀・)イイ
さゆりん☆サーガかよ!w
つーかこの作者さんに抱いて欲しい。前も書いたなこんな事w。
お前ら、かっこ良過ぎ。
葉の方もアビスボートやちゃん様同人誌でネタがあると思うので頑張って欲しい。
130 :
京大繭:02/01/03 06:32 ID:5N+hCKAB
いいもの読ませて頂きました。
スタッフ最高、でも作者氏はもっと最高ー!
2001 12・30
有明・ビッグサイト
コミックマーケット61の二日目
様々な思いを込め、Leaf・Keyそして二つの会社から去っていた者達が…
そこにいた。
中でも一人、異才を放っていた男…
ア25b サークル名『ハラダウダル』
原田宇陀児…丸い眼鏡をかけた金髪の異端児がそこに立っていた。
情熱と悲劇と偽善と現実と虚構との関係になぞらえて
売り子をしながら、原田は今年一年を振り返る。
(決して良いとは思えなかった2001
むしろ悪い事の方が記憶に残る2001
そして、知人から『他人』へ変貌した2001
何も悪い事は無い。悪いとすればそれは僕がまだ未熟だと言う事だ。
もう漫画・アニメ・ゲームあらゆるオタクメディアから離れつつある。
離れる?
ふっ
『その世界から僕を離したのはどこのどいつだ!!』
あいつもあいつもあいつもあいつも僕の前では筋肉で造った笑顔だけ振り向けて
陰では僕を嘲笑する。
んふん。君たちが552文書と呼ぶテキストで世に出て全ては変わった。
正直ムカツイタと言う感情と共に清々しい気分が同居しているよ。
あれで僕の奥底にあった小さな復讐は代理出産のように子を為してくれたからね。
必要以上のダメージを与えたような気もするがね。
こうして僕の本を手にとって金を出すのも君らは僕からの情報が得体だけが故の行為に過ぎないのだろう?せめてそれが好意に変われば少しは教えてあげるよ。
ああ精々、君が望んだ永遠を掴む為に自分の快楽欲求を満たす為を僕を利用したまえ。
但し僕もカモフラージュして君たちを利用するからさ…
意味も分からず僕の本を手にとって金を吐き出す動物のように這いつくばりな。
んふん。
ちょっとやさぐれてしまったかな?でも少しぐらい僕だってこういう気分になってもかまわないだろ?君らは僕に必要以上の苦痛を与えたのだから。
ハムラビ時空が通用するオタク世界なら僕の行動も『目には目を』方式が許されるはずさ。かつていた会社が僕にそうしたように…
だから僕もそうする。それがオタク世界のルールだからだ。法律だからだ。規則だからだ。
文句は言わせない。もしあるのならその法律形式を変えるべきだ、そうすれば僕もそれに従おう。
そうそう、話はかわるけどさ、僕の頭…白髪になってしまったんだ。
おかしいな。毎日顔見ている筈なのに気付かないなんてね。
だから頭を金髪にしてみたんだ。なんだか今の若者に混じったような気がしてこれも悪くないなって思えてきたよ。
でも残念ながら僕は混じらない。混じれない。混合することはないのだ。
一匹狼のアウトロウ、永遠のならず者。
男の条件は、アドレス帳の空白を埋めたくらいじゃ満たされない。
わかるかい?友達も親友も知人も他人も全てを同じアドレスに書いたからってそれが
空白を埋めてくれるかい。答えは否だよね?
そして今年は僕は自分が傷つく以上に他の人間が傷つき、そして消えていった。
友達が消えていった。
親友が消えていった。
知人が消えていった。
他人も消えていった。
それも、リズムが刻まれたように。
アドレス帳から友達の名前を消していく気分はネットでのほほんとしている連中にはわからないだろうけどね…
2001年、ぼくはこの年を忘れない。
この世の中で、いちばん多く、大切なものを失い続けた時代だ。
アラモのように。 パールハーバーのように。
この、血まみれの2001年を忘れるな。
そして死ぬな!僕が思う事はそんな事なのだ。)
そして気が付く。
本はあらかた売れており、そして視界を広く見える。
時刻は4時を告げており思考が消える。
「よう。」
原田に声をかけられる。そこには帽子を被っ丸いサングラスかけた男がいた。
陣内ちから サークル名『YELLOW HOUSE』その人だ。
「やあ、陣内。いつからいたんだ?」
「ん?まあそれなりの時間からずっと…でもお前がずっと売り子してから声かけるのやめた。」
「それはすまなかったね。」
「気にするな。所で閂の奴は」
「閂くんはいろいろなしがらみでまだ来れないだろうね。きっと。」
「何で俺だけが中でお前とあいつが壁なんだ」
「そんなことはどうでもいいじゃないか。陣内」
「あん?」
「あと一日で今年も終るね。」
「ああ、終るな。」
「色々あったね。」
「ああ、嫌な事が有り過ぎるぐらいで良い事が記憶されないぐらいにな。」
「そうだね」
「まあ、俺も閂もあれだがお前の方がその痛みは激しいだろうけどな。」
「……………………………」
「すまんな。もう忘れろ。そして忘れるな」
「意味が破綻してるよ。それ」
「気にするな。ある程度の意味が通じればそれでいい。」
「うん。……なぁ陣内、僕達は来年は良い事があるかな?」
「わからんな。だが、今年ほど酷い事はないと信じよう。」
「ああ。」
「んじゃ閂の所にけしかけるか?」
「そうだね。」
そして原田は最後に思う。
(僕は人生が無為に感じる。しかし、最後には踏み台以上の価値がある筈だ。そして
まだその程度では不満がある。火種はまだ消えていない。)
「忘れない・・・2001」
137 :
R:02/01/04 00:42 ID:wd29viO/
一言
「お久しぶりでございます。7つさん、コミケではありがとうございました。」
以上!
やっぱり俺はヘタレっすかね?文章
R最高ー!!
今までのR氏ものだといちばん好きだ。
ヘタレじゃねーよこれ。燃え
R氏の話は好きなんだが、現実のウダルちん本人は
ただの痛い人だからなんだかなぁとか思ってしまった
141 :
名無しさんだよもん:02/01/06 00:16 ID:NOJenTUz
>>140 それを言ったら、いたるとみつみは…
どうなるよ?
>>141 ちゃん様もいたるちんも「愛嬌がある」レベルですんでるじゃん。
大体ただの日記とリアル行動&2chでの出張活動じゃ……ねぇ
>>142 心の代弁どうも(^^
>>141 いたるちんもちゃんさまも本人の容姿はともかく(笑
日記とかほのぼの雰囲気が可愛いからイイ!(^^
でもウダルちんのファンの人には悪いこと言ったかもなんで
この訴えは大急ぎで撤回します
サーモンピンクの空。そこに加わるコバルトブルーのアクセント。
今年最後の太陽が顔を隠そうとしていた。
開発室の脇にある喫煙所の窓から見える商店街では正月大安売りセールの準備で、人々が忙しそうに駆け回っていた。
Leafの社員達はコミケや帰省やらでとっくに休みに入っている中、中上と下川は会社の最後の後始末に来ていた。
その作業は単純で簡単なもので、昼から出勤だったのが今できる部分の作業はもう終了したので、中上は一服しようと喫煙所へと入り、それに続いて下川も喫煙所へと入った。2人の最後の作業は警備員がくる8時に鍵を渡すだけのものだった。
「なぁ中上? 今年一年、どうやったやろか?」
窓から外を眺めていた中上に下川は訊いた。
「どうなんでしょうかね。僕自身はそう悪い年でもなかったんですけどね」
言って、中上は苦笑する。
「会社にとっては、そういい年でも無かった、って訳か?」
「まぁそういうことになりますかね」
下川は煙草を1本取り出し口へとくわえ、内ポケットへと手を伸ばした。
そこを何度もまさぐる。しかしあるはずのライターはそこには無かった。
(しまった、どこかで落としたか?)
その様子を見ていた中上はすかさずライターを取り出し、下川のそれに火をつけた。
「すまんな」下川が言った。
「いえ、なんてことないです。それでは私も一服」
ポケットから煙草を取り出し、中上はそれをくわえる。
「中上、お前何すってるんやっけ?」
「ヴァージニア・スリムですよ」
「女みたいなの吸ってるんやな」
「そうですか?」
「あぁ。そんな女が吸うような煙草吸ってたらインポなるで?」
言って、下川はゲラゲラと笑った。
中上は眉ひとつ動かすことなく、そのまま話を切り返す。
「専務はずっと赤マルですよね? 体に悪いですよ、そんな重いの吸っていたら」
「そうか?」
「そうです。ゲーム作りは体が資本なんですから」
「まぁそう言われても、これ以外は吸う気にならんわ」
「そうですか」
煙草を吸いながら、二人はずっと沈みゆく太陽を眺めていた。
吸い終わった煙草を灰皿へと落とし専務は言った。
「どうやろ、来年はいい年になるやろうか?」
「どうですかね?」
「まぁファンクラブのユーザーにお年玉は配ったしな」
「……アビス・ボートですか」
「あぁ、そうや」
中上はLeafから商品として発売されようとしていた「アビス・ボート」の販売に反対をした1人だった。 優秀なモデラーが1人抜け、また1人と抜けていった。
開発人員も足りず、完成はのびていくところからこの作品に対して中上の中では「駄作」の二文字がつきまとっていた。
シナリオの青村がにやにやしながら「これおもしろいんですよ!」と持ってきたα版をプレイした時、その不安は確信へと中上の中では変わったのだった。これは駄目だ、と。
幾らPS2やDCに及ばない、ゲームとして制限のあるPCの3Dゲームとしてもクオリティが低すぎる。
それに、新鮮みも無いし、斬新でもない。僕には面白いと全然感じることも出来なかった。どう考えてみても三流のゲームだった。
ディスプレイには『どうすればいいんだ。』カクカクのキャラクターの横にそう文字が出ていた。それを見ながら僕は、どうすればいいんだ。そう思っていた。
「アビス・ボート」を商品として世に出すにはLeafの名前に傷がつく。それ以上に来年発売を予定している「うたわれるもの」にまでそれは影響するかもしれない。
こちらはアビスと正反対にいい出来なのに。中上が出した結論はこうだった。この作品を絶対商品として世に出してはいけない。
中上は嘆願した。何度も下川にかけあった。下川にアビスボートをプレイさせた。そして、実費で購入した他の3DゲームのPCソフトを何度もプレイさせた。そうしてなんとか下川を説得させたのだった。しかし、「アビス・ボート」は開発中止には至らなかった。
専務、下川が出した結論はこうだ。
「この作品をファンクラブにはいっているユーザへのお年玉として配布する」
お気に入りのロレックスを振りかざしながら、下川はそう言った。
中上はそれに反対することは出来なかった。商品として世の中に出ないのだったらそれでいい。そう思うしかなかったのだった。
それだけに、アビスの事を振られると中上は何も言うことが出来なかった。
なんと言えばいいのかわからなかったし、言葉も見つからなかった。
専務はそれを察したのか、話を変えた。
「あのな、中上」
「はい」
「すべての作品があたるとは俺も思ってないんや」
「いきなりなんですか?」
「いいから聞け」
「はい」
「すべての作品はあたるとは思ってない。やけどな、うちは当てなきゃならんのや。
一応うちの親父にはまだ相当な資本もあるけど、俺自身そう親父にも頼りたくないし、俺自身でやっていきたい。
それにコンシューマーと違って、こっちといえば1個失敗したらそれだけで会社が傾くような業界や。
それだけに絶対当てないといかんねん。元々俺はうちのLeafというブランドがあればなんでも売れるとそう思ってたしそう言ってた。
やけど、そうでも無いってことがもう見えてきた。もう俺も年なんかな。たくさんの優秀な人材を失ってやっと気づいたわ。大事なのはユーザー、そして次に社員なんやな。って」
「専務……」
「わかっとんのや、だけどな、わしはロレックスが好きなんや、車が好きなんや。金が大好きなんや、どうすればいいんやろか?」
「……専務、とりあえず蕎麦でも食いましょう」
なにも顔には出さず、心の中とは裏腹に、中上はそう言った。
「もちろんお前のおごりな。経費では落ちひんで」
しったことか、このクソボケが。一瞬感動して損したわ。
ジェラ太りしやがって、このケチ専務が。
そう思っても勿論中上は言葉に出すことは無かった。
なんやかんや言っても僕はLeafが好きだし、Leafという会社がいるから僕はここにいる。だけど、専務はやっぱ好きになれない。けど、専務はこのLeaf会社を作った男だ。
僕の大好きなLeafを。だから専務の事を少しでも好きになりたい。
来年こそは少しは専務の良いところを見つけられるのだろうか?
そう思いながら中上は2001年を終えた。毎年そうおもってるんだけどなぁ。と思いながら、2002年へと中上の時間は突入して行くのだった。
来年こそは、来年こそは。
だんだん書き手さんが増えてきたね……ほっと一息。
マイペースでこちらも続きます。
大阪府天満橋に籍を置く株式会社ビジュアルアーツのビルは年明けの僅かな休みに
閑散としている。だが業務活動を取り仕切る責任者である馬場社長は、正月休みも
取らず自らの仕事部屋で莫大な量の事務書類に目を通し、決裁を下していた。
抱える多数の製作チームからの進行報告に対して、時には厳しく檄を飛ばし、時には
冷静に現場の暴走を制止する。新鋭企業のトップとして、激しく転変する状況に的確な
判断を下す青年実業家の姿がそこにあった。
安手のプラスチックのドアがノックされる音がして、馬場は書類から目を離した。
「おぅ、入ってええで」
よく通る声で馬場が言うと、ドアがゆっくりと開き、涼元悠一が室内に入ってきた。
「涼元君、調子はどうや? 今回は納期を遅らさんで済みそうか?」
「皆さんはとても頑張っておられます。このペースを維持できれば、今月中にデモの配布
も行なえるでしょう」
「そうかそうか、そら結構や。麻枝君がおらんようなってどうなるか思ったけど、却って
ええ塩梅で進んどるようやな」
「定期報告ならわざわざここでやる必要がないでしょう。一体何の用ですか?」
乾いた無表情を崩さない涼元に、馬場は苦笑いを浮かべる。
「麻枝君や樋上君ならいざ知らず、君に駆引き仕掛けても無駄やな」
笑いはすぐに消え、そこに厳しい表情が現れた。
「麻枝君と久弥君が手を組んだらしい。何やっとるんかまではよぅ調べ切らんかったけど、
どうも同人でゲームを作ろうとしてるみたいや。涼元君はこの事、知っとったか?」
眉をひそめ、沈黙を保つ涼元の表情が語らずとも何より雄弁に、その質問に答えていた。
「流石に知っとるやろうな、君なら。で、そのことを樋上君達には言うたんか?」
「……言える訳がないでしょう」
苦々しげに涼元は答える。かってkeyを離れた久弥と今keyを離れている麻枝とが再び手を
組んだことを知れば、keyのメンバーは酷くショックを受けるだろう。『CLANNAD』の製作に
大きく支障をきたすだけではない。今まで築き上げてきた名声も地位も全て捨てて、麻枝と
久弥の組む側へ身を投じるかもしれない。
それではkeyは終わりだ。麻枝は涼元にkeyの将来を託したのだ。守るべきkeyを潰しては
何もならない。
涼元は残酷なまでの重荷を独りで背負うことを義務付けられていた。
「よぅ分かっとるやないか。樋上君がこの事知ったら、すぐに辞表叩きつけてきそうやしな。
そないな事になったら、keyもお終いや」
馬場は両手を広げ、おどけたポーズを取る。
「幸いな事に、麻枝君も久弥君も表立った行動は今の所は取っとらん。二人が手を組んだ
事を大々的に宣伝されたら、こちらも打つ手が無かったんやけどな。keyに遠慮しとるんかな、
あの二人は」
感謝と嘲笑の入り混じった口調で言う馬場を、涼元は毅然と睨みつけた。射るような涼元
の視線に何の反応も見せず、馬場は続ける。
「しかし、麻枝君にも久弥君も金に不自由はさせてへんつもりやったんやけどな」
馬場は極めてシビアな経済原理に基づいて行動する。彼を罵倒するに最も便利な言葉は
「金の亡者」だろうが、必ずしもこれは適切ではない。馬場の持つ合理性は利益の分配
の場においても容赦無く裁断の刃を振るい、私腹を肥やす余地を残さない。
得られた利益は功績の大なるものには大きく、小なるものには小さく分け与えられる。
『Kanon』、『AIR』で得られた利益は麻枝達にも公正に分配され、不公平感を抱かせる
ことは決してなかった。
「それに樋上君を押さえとる限り、二人とも妙な気は起こさんやろと思っとったんやけどな。
金も要らん、女もあかん。一体二人は何が欲しくてあんな割に合わんことをするんや?」
心底理解できない、といった様子で首を傾げる馬場に、涼元は冷ややかに応える。
「あなたには分かりませんよ」
凍りつくような冷たい言葉に、馬場は肩をすくめる。
「そやな、クリエイター様のお考えになることは俺にはさっぱりや」
涼元はその言葉を聞き終わる前に踵を返し、部屋から立ち去ろうとする。
「もういいでしょう。私も仕事が忙しいんです。世間話に興じている暇はないはずです、
お互いに」
背中を向けたまま、首だけ振り返り馬場に言う。
「あぁ、もう話は済んだ。すまんかったな、仕事の邪魔して。期待しとるで、君には」
言葉を拒絶するかのように涼元は無言でドアを開き、叩き付けるようにして部屋を出た。
「涼元君ではあかんやろな、なんぼ頑張っても」
独り残された社長室で、馬場は呟く。椅子から立ち上がり、窓に向かった。
「今まで随分稼がせてもろたけど、keyもええ加減潮時やな。問題はいつ切るか、か」
窓越しに下を見下ろすと、新年の仕事始めを済ませ帰路を急ぐ人々が蟻のように見えた。
足音を廊下に反響させ、涼元は開発室へと向かう。いつもなら耳に入ることもない自分
の足音が今日はやけに耳障りだった。
(人がいないからだ)
自分の中に渦を巻いている感情を否定するために涼元は論理的な理由を探す。だが、軽い
嘔吐感を伴うその感情の存在は次第に大きくなり、胸の内側から執拗にがなり立ててきた。
「くっ……!」
拳を握り締め、手近な壁に叩きつけようとする。
「涼元さんっ」
背中に掛けられた声が、涼元を押し留めた。体全体で振り返り、声の主に返事をする。
「あ、樋上さんも今日は出勤だったんですね。ご苦労様です」
明るい口調で頭を下げる涼元に、樋上いたるは心配そうに問う。
「涼元さん……社長に呼ばれていたみたいですけど、何かあったんですか?」
「いえ、何もありませんよ。進行状況を報告して、ちょっと世間話をして、それだけです」
「そうですか……それならいいんですけど」
涼元から目を反らし、不安げに俯くいたるに、涼元は優しく言う。
「大丈夫ですよ。『CLANNAD』は絶対に完成します。そうすれば麻枝さんも戻って来ますよ」
「でも、麻枝君の家に行っても誰も出ないし、どこでどうしているのかも全然……」
「私も麻枝さんが今どうしておられるかは分かりません。でも、あの人のことです。どこ
にいても、あの調子で周りの人を巻き込みながらお祭り騒ぎですよ。それは樋上さんが
一番良くご存知でしょう?」
「そう……ですね。麻枝君は『俺は例えマグロ漁船の中でも関西のスピリットを忘れない』
って豪語していましたから……」
微かに愁眉を開いた様子のいたるを元気付けるべく、涼元はさらに言葉を続ける。
「そうですよ。麻枝さんは今充電中なんです。私達は、いつ麻枝さんが戻って来てもいいように
ちゃんと場所を用意しておけばいいんです」
自分に言い聞かせるように、涼元はそう言った。
夜がふけ、いたる達正月出勤組も既に帰宅した開発室に残っているのは涼元独りだった。
しわぶき一つしない開発室に響くのは24時間電源の落ちることのないPCの無機質な機械音だけだ。
椅子に座った目線の高さにまで達する莫大な資料を傍らに、涼元はディスプレイに向かい、
キーボードを叩く。規則正しい打鍵のリズムが次第に崩れ、やがて停止すると涼元は椅子に
座ったまま大きく背伸びをし、天井を仰いだ。両目を閉じ、まぶたを指で押さえる。
眼球は凝り固まり、指で押さえると痛みさえ覚えた。
『CLANNAD』の製作は確かに順調に進行してはいたが、それでスタッフの負担が軽減されること
はない。企画の規模が大きくなれば、より多くの人材が必要となるのは必然である。
シナリオ担当として全体の統括を行なう立場の涼元に掛かる負担は想像を絶するものだった。
(覚悟していたことだ、これくらいは)
ぼんやりとした頭の中で、そう思う。要領良く金を稼ぎたいのであれば、初めからこんな仕事
には手を出さない。義務感に駆られて苦役を引き受けた訳でもない。
涼元が今『CLANNAD』の責任者として身を削る日々を送っている理由は金でもなく、義務でも
なく、自己実現でさえなかった。
ただ一緒に行きたかったのだ、あの二人と。
『Kanon』をプレイした時の衝撃を涼元は生涯忘れはしない。きらめく才能の星々が織り成す
夢の世界に涼元は魅了された。
そして麻枝准と久弥直樹。
背反しながら共有し、憎み合いながら惹かれ合う二つの才能が生み出す奇跡の競演。
そこに涼元は眩しくて目を開けてはいられない程の輝きを見つけたのだ。
だからkeyに身を投じ、二人を知ろうとした。そしてあの競演の一員になりたかった。
だが涼元がkeyの一員になった時、既に久弥の姿はそこにはなかった。涼元はその事実に
落胆を隠せなかったが、麻枝は難航する『AIR』の製作の助けとして涼元を強く求めた。
涼元もそれに応え、現役の小説家として培ってきた実力をいかんなく発揮した。
半身を失い、それでも宝石は輝きを失わなかったからだ。
麻枝は涼元を信頼し、涼元もそれに応えた。『CLANNAD』でも麻枝と涼元は緊密な関係を保ち、
お互いの力を駆使して優れた作品を創り上げていくはずだったのだ。
「なのに、どうして?」
言葉を抑え切れなくなり、天を仰いだまま呟いた。
「どうして、私を置いていくんですか?」
声は震え、語尾はかすれた。人気の無い開発室で、涼元は独り肩を震わせる。
「あなた達が帰ってくるまで、私はkeyを守ります。誰の手にも潰させはしません。
でも、もう……」
涼元は独立独歩の小説家として名を上げ、今keyを代表するシナリオライターとして確固たる
地位を築き上げた男である。その経歴からしたたかで、処世術に長けた知識人といった印象を
他人に与えるが、実際はそうではない。涼元は本来繊細な感受性と優しすぎる情緒の男であり、
したたかな交渉上手、といった外面はkeyでそうした能力を持つ人間が涼元以外に誰もいなかった
ためだった。ただ世渡りが上手なだけの文章巧者が麻枝の心に触れるはずがない。
涼元は傷付き易い内面を知識と論理の鎧で包んでいたのだ。誰の目にも触れず、誰の手も
届かないように。
そんな涼元にとって、今の状況は過酷に過ぎた。ゲーム製作者としての経験の乏しさも苦境
に拍車を掛けた。涼元はようやく自分が疲弊しつつあることに気づかされ始めていた。
「麻枝さん……久弥さん……早く、早く帰ってきて下さい」
夜の開発室で、涼元は独り震えた。
その乾いた涙は誰の目にも触れず、その声無き叫びは誰の耳にも届かない。
やばいよ面白いよ…
涼元かっこいいよ…
続き読みたいよ…
155 :
名無しさんだよもん:02/01/06 12:54 ID:G3ev484J
カコイイage
作者氏、マジで抱いてください(w
156 :
京大繭:02/01/06 13:20 ID:i3hb3NIa
涼元ガンバレ、作者氏ガンバレ。
私はあなたたちが大好きです。age
格好良過ぎる・・・
158 :
名無しさんだよもん:02/01/07 00:13 ID:HdcPrJ7B
新作期待age
159 :
R:02/01/07 00:44 ID:IBEuESV5
139さん.140さん・141さん>
こういう人がいてくれるとやっぱ書いた甲斐があったというものです。
(実際にコミケで人物見に行ったりして・・・本当は誰が誰かあまりわからなかったけど)
とりあえず軽い戯言なので一言
「やっぱ一人称の方が文章的にしっくりしてますかね・・・」
しゃりしゃりと自分のこと書いてすいません。
また、作品載せた時に現れます。
以上。
うわぁ・・・俺はこのスレをプリントアウトして本にしちまったよ
職人さん頑張れー!
新作期待です。
>鍵編
誰もが他の人を思いやっているのに傷つけあう・・・・・
萌える展開です!!
全て自分の中に抑えてしまう涼元たん萌え〜
吉沢務の住むワンルームマンションで、麻枝准と久弥直樹は密談を行なっていた。凡庸さが格好
の煙幕となり、そのマンションに調査の手が入るのはまだ先のことになりそうだった。
きちんと整頓された吉沢の部屋のこたつに足を突っ込み、麻枝はみかんの皮を剥く。
「新機軸大長編スペクタクルRPG『さゆりん☆サーガ(仮題)』を作るのはいいんだが、人手が全く
足りない。どんなゲームになるか、は俺の頭の中にもう大体出来上がっているし、シナリオはお前
がいるから大丈夫だ。音楽は俺と吉沢さんがやればいいだろう。折戸さんがいないのは苦しいが、
あの人には『CLANNAD』があるからな」
「プログラムは吉沢さんのコネを使えば集まるだろうし、いざとなれば吉沢さん本人にやってもらえ
ばいいんだけど……」
こたつに肩まで潜りながら、久弥も考え込む。
「問題はグラフィック。そういう事だろ? それよりお前ら、人の家に入り浸っているんだったら、
掃除くらい手伝え。お前らが来るようになってから、部屋のエントロピーが加速度的に増大している
ような気がするぞ」
台所から水洗いの音と一緒に、吉沢の言葉が返ってきた。麻枝と久弥は聞こえないふりをして、
話を続ける。
「そう、グラフィックが最大の問題だ。久弥、お前は絵が描けたか?」
「……美術の成績はずっと『3』だった」
「自慢じゃないが俺は音楽と体育以外の授業にマジメに出た記憶がない。吉沢さんも似たような
ものだ。つまり、ここの三人がいくら力を合わせてもハナクソのような絵しか描けないということ
なんだ」
こたつの中で足をもぞもぞ動かしながら、麻枝は嘆息した。
「いくらギャルゲーの枠に囚われずにゲームを作りたいからといって、グラフィックをおろそかに
しては何にもならないよ。ゲームなんだから見た目の要素が一番大事だ」
「分かってるよ、俺にだってそれくらい。だからこうして頭を絞っているんだ。今まではいたる
がいたからな……俺達」
「うん……彼女の原画無しで僕達はどこまで勝負できるのかな……」
「原画は探すしかないだろう。同人誌即売会にでも行けば、腕を持て余している原画屋が
いるはずだ」
洗い物を済ませた吉沢が手をタオルで拭きながら、台所から出てきた。
「ですが吉沢さん、いたるレベルの原画屋となると、同人どころかコンシューマー業界探しても
見つかるもんじゃないですよ。いたとしても会社のエースだ、手放すはずがない」
「麻枝、いたるを基準に置くからいけないんだよ。彼女のレベルを求めたら、誰も絵が描けないよ」
「あぁ……それは分かっているんだが、絵を見る目が肥えすぎているのかもな、俺達は」
(お前らの目は一体どうなっているんだ)
吉沢はツッコミを胸の内にしまっておいた。その言葉を口にすると二人が本気で怒り出しそう
な気がしたからだ。
「やっぱり同人をやっているアマチュアの人から探すしかないだろうね。いたるレベルは無理
だけど、同人でいい原画を描いている人は僕も何人か心当たりがある」
久弥の言葉に、吉沢も賛同する。
「久弥の言うとおりだ。もうすぐこの近くで即売会が開かれるらしい。手始めにそこに行って
みよう」
麻枝も頷いた。
その市民会館は駅からのアクセスがよく、一日借り切ってもそれほど多額の使用料を要求されない
こともあって、のみの市やインディーズ・バンドのライブが毎日のように開かれている。
市民達による文化振興の場として長年親しまれてきたその会館に、今日は一種独特の熱気が満ちていた。
受け付けに入場料を支払い、屋内に一歩足を踏み入れると、南半球の冬に迷い込んだような
錯覚さえ覚える。ラフな私服に身を包んだ一般客や、この日のために縫い上げたお手製の衣装で
着飾った売り子達は、皆それぞれにこのささやかな祭りを楽しんでいた。
真っ直ぐ歩くことさえ困難なほどに混雑した会場の入口で、全身黒ずくめの三人の男が
立ち尽くしていた。かっちりとした黒の上下を身に纏い、これまた黒のネクタイを締め、視線
の見えないサングラスを掛けている。即売会の乱雑な賑わいの中、彼らの周りの空間だけが
異観を呈していた。
「なぁ久弥……俺達って逆に目立ってないか」
「麻枝が『面が割れないように変装して行こう』って言ったんだろっ。目立つだけだから止めろって
、あれだけ反対したのに……」
今にも口論を始めそうな二人を吉沢は抑える。サングラスのフレームを指で押し上げながら、
二人に指示を送った。
「まぁ俺達の正体に気づく奴はここにはいないだろう。ここにいつまでも突っ立っていても目立つ
だけだ。いい人材がいるかどうか、早く探しに行くぞ」
吉沢の言葉が全く聞こえていないかのように、麻枝が叫んだ。
「うぉっ、コスプレだ! あんな綺麗なお姉さんが舞のコスプレをしているぞっ!」
「指を差すな、指をっ」
「あんな丈の短いスカートを履いていて、腹が冷えないんですかね、吉沢さん?」
「知るか、直接聞いてくればいいだろ」
うんざりした口調で吉沢は力無く言葉を返す。
「うぅむ、あれだと何も履いていないのと変わらんぞ……犯罪だ」
ぶつぶつと呟きながら、麻枝は歩き出す。さっき指差した女性に近づくと、何やら会話を交わし
始めた。
「何話しているんでしょうね、あいつ」
「さぁな、どうせセクハラ紛いのことだろ」
「あ、殴られた」
「何を言ったか聞こえなくても分かるな」
「あ、蹴られた」
「見事なハイキックだ。ギャラリーも大興奮だな」
「あ、踏まれた」
「あんなお姉さんになら俺も踏まれてみたいな」
「……吉沢さん」
「冗談だ」
麻枝の周りに早くも見物人が集まり始めている。麻枝を中心にした人の輪を遠巻きに見詰めながら、
久弥は首を傾げた。
「しかし……あんな風にはしゃぐタイプでしたっけ、麻枝って?」
「嬉しいんだろ、きっと」
「この手のイベントは初めてらしいから、物珍しいのは分かりますよ。でも、あんなに楽しそうな
のはちょっと……」
理解に苦しむ様子の久弥に、吉沢は何も答えなかった。
それから吉沢と久弥は同人誌が出展されているスペースを回り、目ぼしい作品がないか探して
回った。麻枝はどこに消えたか、二人の目の届く範囲には影も形も見せなかった。
「どうも収穫はなさそうだな」
出展スペースをあらかた回り尽くした吉沢が、残念そうに呟いた。
「やっぱり厳しいんですかね。同人からいい人を探すのは」
久弥も力無く応える。意気が沈むのを隠せない二人の元に、麻枝が人ごみをかき分け、駆け寄って
来た。
「おい久弥、見ろっ!」
乱れた息を整えもせず、麻枝は久弥に両手に抱えた本の一冊を広げ、目の前に見せる。
それは18禁同人誌のクライマックスの一ページだった。
「お前の大事なあゆあゆがこんな所にたい焼きを突っ込まれているぞっ! いいのかっ!
手塩に掛けて育て上げた娘のようなキャラクターがこんな目に遭わされているんだぞっ!
お前はそれでいいのかっ!」
「いいに決まってるだろっ! 同人誌の内容にいちいち文句を言ってどうするんだよっ!」
怒鳴り返す久弥に目もくれず、麻枝は同人誌を広げ、読みふける。
「うぅむ……たかだか素人の暇潰しと高を括っていたが、どうやら俺が間違っていたようだ。
ここは俺の知らなかった世界だ。行くぞ久弥、きっと俺達の想像もつかない凄い本がある
に違いない」
そう言うと麻枝は久弥の腕を掴んで、そのままずるずる引っ張り、人ごみの中へと消えていく。
後には吉沢独りが残された。
(まぁ……嬉しいんだろうな)
人ごみの中に独り取り残され、立ち尽くしながら吉沢はそう思った。昨年吉沢が麻枝と再会
した時、麻枝は意気消沈しており、かっての面影はどこにもなかった。立ち直る決意をさせる
までは吉沢にもできたが、それからも麻枝は捨て鉢な雰囲気を漂わせ続けていた。
麻枝が今の調子を取り戻したのは、久弥が麻枝の元に帰って来てからだった。
(あんな風に馬鹿をやれる相手がいないだろうからな、今のkeyには)
keyは業界最大手のブランドとして劇的な躍進を遂げた。設立時から常に中心にあり、舵取り
を努めてきた麻枝が背負っていた責任の重さは吉沢にも容易に想像がつく。
例えどんなに明るく振舞ってはいても、逃れられることのない重圧が麻枝に影を落として
いたことは明白だった。業界を代表するクリエイターとしてこれほどに名を馳せてしまっては、
対等の立場で麻枝に接することのできる人間もいないのだろう。
今、麻枝はkeyを離れ、頼みにすべき拠り所を失っている。だが、得た物もある。
『自由』だ。自由を得た麻枝は過去の軋轢からも、現在の束縛からも解き放たれ、才能の翼は
思いのままに空を舞うだろう。どこまで高みに達するのか、どこまで遠くに行けるのか。
それを吉沢は見届けたかった。
吉沢には野望があった。それは金銭や地位を求める類のものではなかったが、それだけにより
一層激しく吉沢の胸の炎を燃え上がらせた。
麻枝准と久弥直樹という二人の天才を使いこなし、18禁ゲーム業界の歴史に残る傑作を創り上げる
という野望である。
『ONE』のマスター・アップの日、野望の階段の第一歩を踏み出したことに吉沢は気付き、心躍らせ
た。だが、その階段は不幸にして第一歩で崩れ去り、吉沢は野心を捨てざるを得なかった。
その後残された者達でTacticsを盛り上げようと奮闘するも、功は認められず解雇の憂き目を見た。
その時にはもう、吉沢の野心も燃え尽き、燻りもしなかった。
夕凪のように穏やかな余生を送るつもりだった吉沢だが、行き場を無くした麻枝と再会し、
孤立を余儀なくされていた久弥を引き込むことに成功すると、消えたはずの野望の炎が再び燃え
盛り始めた。
(馬場では二人は使いこなせまい。所詮算盤勘定でしか物事を計れない男だ)
経営者として見れば吉沢は馬場の遥か足元にも及ばないだろう。時代を見抜く鋭い洞察力と
怜悧な判断力に優れた馬場は極めて優秀な経営者である。だが、その優秀さは常識内の優秀さ
でしかない。常識を外れ、社会の枠に適合不能な破綻を取り繕いもせず突っ走る麻枝と久弥を
操縦するには、常識では足りない。
吉沢は音楽の活動を除けば、プロデュースや製作管理といった調整作業に能力を発揮してきた
男である。人と人との間に不可避的に生じる軋轢やトラブルを巧みに収拾してきた経歴から
穏やかで人当たりのよい善人の印象を与えるが、決してそれだけの男ではない。ただのお人好し
が独立気質の強いクリエイター達を操縦していけるはずがない。吉沢は柔和の仮面の下に鋭利で
強靭な刃を潜めている。その刃を向けられた相手は戦慄のうちに喉を切り裂かれるだろう。
麻枝と久弥を使いこなし、吉沢は自分を捨てた世界に痛烈な反撃を仕掛けるつもりだった。
その情景を想像するだけで、体中の血液が心地好く沸騰するのを感じるのだった。
「おわーっ、観鈴ちんが晴子さんにこんな折檻をされているっ! エロいっ、エロすぎるーっ!」
だが、その想像も即売会の会場の隅から隅まで響き渡る麻枝の叫びによって中断された。
「うるさいっ! 何のために変装してきたと思っているんだよっ!」
久弥の怒鳴り声が麻枝と同じ大きさで場内の空気を震わせる。
(『変装してきた』って自分で言ってどうするんだ、久弥も……)
吉沢は頭を抱えた。自分なら暴走する麻枝達の手綱を握ることができると自負していたが、
もしかすると自分は今、とんでもない暴れ馬二匹を相手にしているのかもしれなかった。
ええなぁ、だーまえ。格好悪すぎて(w
絵師をどうするか楽しみですー。わくわく。
172 :
京大繭:02/01/10 12:41 ID:m4bt1FU4
麻枝も久弥も馬鹿すぎる‥‥けど楽しそう。
原画家はいたるちんが(CLANNADと同時並行で)
参入するに違いないとか言ってみるテスト
(そのうち過労で倒れそうだが)
何はともあれ新作age〜
けっこんしてえ。このバカと。
当方、イチモツついて生まれてきたことを本日激しく後悔。
174 :
名無しさんだよもん:02/01/10 13:18 ID:29JmwcMV
うーん、無茶苦茶楽しそう。
現実でもこの3人がこんな雰囲気でゲーム作ったら
凄いのが出来そうだな。
麻枝最高。萌えました。
続きに期待。
激しく萌え〜。
麻枝の言い回しが何気に高槻チックなのに
めちゃ笑えた。
もう最高。
野望に燃えるYETボス萌え〜。
暴走する麻枝を止めつつも、自分も似たような事をしてしまう久弥にワラタ。
今回ツボにハマったなあ。
特にいたる絵のくだりが(w
本当にこんなこと思ってたりして(w
(´-`).。oO(ホントにクラナドは出るんだろうか・・・)
>「お前の大事なあゆあゆがこんな所にたい焼きを突っ込まれているぞっ!
ハゲシク ワラタ
原画家候補はいたるが大本命だろうけど、
葉にも現在消息不明の水無月お父さんや、辞めたと噂される
河田氏なども考えられるね。
あと・・・・・・超先生も絵が描けたよね・・・確か(w
それ言うなら、高橋の方が……(w
本当にこれやスタロワのような人間だったら萌えるんだけどな。
職人さんレベル高いですね。楽しみにしてます。
張先生の絵キボンヌ
久弥って麻枝に対してため口なの?
インタビューでは麻枝のことを「麻枝君」と呼んでたよ。
これがインタビュー向けの他人行儀なのかどうか分からないけど。
まあ、麻枝と久弥は1つ違いなんだから、
別に呼び捨てで話を進めていってもいいんじゃない?
けたたましく鳴り響く目覚し時計の電子音が、眠りの海底からしのり〜を引き揚げようとする。
頭まで布団の中に潜り込んだまま、手探りで目覚し時計を探す。記憶に馴染んだプラスチック製の
器械の感触に辿り着くと、そのまま上部の突起を手の平で叩く。あれほど騒がしく自己主張して
いた目覚し時計はぴたりと押し黙り、部屋は静寂を取り戻した。
丸まった固まりにしか見えない布団がもぞもぞと蠢いている。二重に閉められたカーテン越し
に朝の光が射し込み、部屋に色の薄い影を落としていた。緩慢な動作で布団から顔を出し、
ともすれば再び閉じてしまいそうな瞼を手の甲でこすると、まどろみの沼地から思考が半歩だけ
抜け出した。
低血圧の彼女に冬の寒さは一層こたえる。鉛を背負ったようにけだるい身体は、いつまでも
暖かい布団の中から出たがらないし、濃霧の森に迷い込んだような意識はただ『寒い』という
言葉で埋め尽くされる。
二度寝の誘惑を辛くも振り切り、しのり〜は起き上がる。纏いつく眠気を振り払おうと重い
頭を振り、窓のカーテンを勢い良く開けると、熱を帯びた光が顔に触れた。
大きく背伸びをすると、洗面所へと素足のまま歩く。冷たい水で顔を洗い、大雑把に肌の具合
を鏡で確認する。元々着飾る性質ではないし、およそ身だしなみなど意に介さない職場なのだが、
最低限のラインだけは守っていたかった。
タオルで顔を拭き、洗面所から出る。タンスを開け、服を取り出して手早く着替える。
肌に張り付く布地の冷たさが自分の中のスイッチを切り換え、いつもの状態にまで心身を緊張
させてくれる。姿見の前でさっと髪を梳くと、普段と何ら変わる所のない自分がそこに現れた。
朝食を済ませ、外へ出ると空は珍しく晴れ渡っていた。寒さは相変わらずだが、陽光のせいか
どことなく暖かさを帯びた空気の下、しのり〜は歩き慣れた道を歩く。
(やっぱり寒いのは嫌だな。早く暖かくなればいいのに)
行進のように規則正しい歩幅とリズムで歩みを進めながら、しのり〜はそう思った。
(その頃には『CLANNAD』の発売日の目処も立っているだろうし、そうすれば……)
楽観的に過ぎると警告する自分もいたが、それでも希望にすがらざるを得なかった。
やがて視界の先に見慣れたビルが見えてくる。まだ出社時間にはかなり時間があったが、
昨日から泊り込みで仕事をしている人がいるかもしれない。
(朝の掃除のついでに、コーヒーでも淹れてあげようかな)
だが、彼女の淹れる苦いコーヒーを飲む者はもういない。
その日のkey開発室もいつもの光景を保ち、メンバーはそれぞれに己の作業を行なっていた。
言葉の交わされることの少ない室内に、キーボードの打鍵音とPCの稼動音だけが響く。
新作『CLANNAD』の開発は順調に進み、近日中にも発売日を発表する予定だった。
黙々と作業が進められていく開発室に、内線の呼び出し音が突如鳴り響いた。机が電話機に
一番近いしのり〜が受話器を取る。
「はい、key開発室ですけど」
『あ、しのり〜君か。丁度良かったわ』
受話器の向こう側から馬場社長の声が聞こえてきた。
『ちょっと君にやってもらいたい仕事があるんや。今すぐ俺の部屋に来てくれ』
「は、はい。分かりました」
しのり〜が返事を言い終わる前に電話は切られた。
「しのり〜、誰からの電話だったの?」
隣の机で作業を行なっていた樋上いたるが聞く。
「社長から。あたしに用事があるんだって」
「珍しいね、しのり〜が呼び出されるのなんて」
「本当ね、一体何の用かしら」
しのり〜も訝しげに首を傾げた。
「もう『CLANNAD』の作業に君は参加せんでええ。君の分担している部分はみきぽん君らに
引き継がせるから、keyにはもう来てもらわんで結構や」
社長室に入ったしのり〜に開口一番、馬場はそう言った。しのり〜は馬場の言葉の意味する所
が理解できず、呆然と立ち尽くしている。
「まぁ、いきなりこないな事言われても困るんは分かるけどな。とにかく、君が今のkeyにいても
しゃぁない。君にはもっとええ仕事場があるから、そこで頑張ってくれ」
「それは……クビという事ですか」
もっと衝撃を受けていいはずだと自分でも思った。冷静に応対している自分がいることに気が
付いて、そのことが驚きだった。
「いや、クビっちゅう訳やないんや。早合点せんと、これを見てくれ」
そう言うと、馬場はしのり〜に茶色の封筒を手渡した。封筒の封は既に切られていて、中に
写真が何枚か入っていた。
取り出した一枚の写真には、変わったデザインの制服に身を包んだ背の高い女性が黒服の男を
踏みつけている光景が写されていた。黒服の男はサングラスをして人相を隠してはいたが、しのり〜
にはその男が誰かすぐに分かった。
「麻枝君……一体何やってるの?」
思わず呟いたしのり〜に、馬場は満足そうに頷く。
「流石やな。そう、麻枝君が女の人に踏まれとる。次の写真も見てみ?」
二枚目の写真では、薄い本が平積みにされたカウンターの前で、麻枝と全く同じ服装の黒服の男
とが何やら言い争っているようだった。
「これ……久弥君?」
「お、大したもんやな。麻枝君だけやなくて久弥君も分かるんか」
感心した様子で、馬場はしのり〜に言う。
「何なんですか……これ? 一体どうして麻枝君と久弥君が……」
「見ての通りや。麻枝君と久弥君が一緒に行動しとるんや。俺が集めた情報によれば、昔麻枝君
がkeyで企画して没になったRPGを同人で作ろうとしているらしい、二人で組んでな」
「二人が一緒に……」
自分の顔がほころんでいることにも気付かず、しのり〜は呟いた。しのり〜とは対照的に馬場
は苛立たしげに吐き捨てる。
「keyにいた時とはえらい違いやろ? ほんまにこいつらの考えることはさっぱり分からん。
そもそも二人が自分から手を組もうとするとは思えん。誰かが二人を引き合わせる画を描いた
んや。吉沢務って名前、知っとるな?」
「吉沢さんですか?」
「そうや、君等がTacticsにいた頃の直接の上司や。こいつが後ろで糸引いとるんや。君等に
逃げられた挙句、自分もTacticsをクビになった男が、未練がましくこの業界にしがみつこう
としとる。麻枝君と久弥君にゲーム作らせて、自分も返り咲こうっちゅう魂胆やな」
顔を見たこともない吉沢を口汚く罵る馬場を、しのり〜は冷ややかに見詰めている。
馬場はその視線を意に介さず、言葉を続けた。
「麻枝君と久弥君が手を組んでゲーム作るんはええんやが、人手が足りへんみたいや。特に
原画屋がおらんらしい。同人誌即売会に顔出して掘り出し物を探しとるみたいやけど、無理
やろうな。あの二人の審美眼を満足させる絵描きなんざ、そうそうおるもんやない」
「じゃあ、麻枝君が久弥君と一緒にやっているその企画はどうなるんですか? 原画もいない
のに、どうやって……」
「同人やから金も足りてへんやろう。人手も足りん、金も無い。これではどうにもならんな。
いくら麻枝君がええ企画立てても、宝の持ち腐れや。多分すぐに企画は御破算。潰れた麻枝君達
は二度とこの業界に顔見せられへんやろうな」
「そんな……そんなのって酷すぎます。何とかならないんですか?」
懇願するようなしのり〜を見て、馬場はにやりと笑う。全て、馬場の思惑通りの反応だった。
「keyを離れているとはいえ、麻枝君はまだ辞めた訳やない。今は休職扱いやからな。自分の
部下が立てた企画をきちんと形にしてやるんは、上司の努めや。麻枝君の企画は責任持って、
俺が引き取らせてもらう」
馬場の言葉にしのり〜はぱっと喜色を浮かべる。
「それじゃあ麻枝君も、久弥君も、吉沢さんも、皆一緒にkeyで……」
「勘違いすんな」
ぞっとするような冷たい声だった。喜色満面の様子から一転、表情を凍りつかせたしのり〜
に、馬場は低い声で言い放つ。
「俺が欲しいんは麻枝准という企画屋と、そいつの立てた企画だけや。久弥はとっくに用済み
や。吉沢なんか初めっから相手にする気も無い。時代遅れの粗大ゴミみたいな連中を何で俺が
引き取らなあかんのや?」
「そんな……」
「麻枝の企画が形になるように手助けはしてやるけどな、keyに戻ってええんは麻枝だけや。
他の連中は麻枝の踏み台になってもらう。今までそうしてきたようにな」
口元にうっすらと笑みさえ浮かべる馬場に、しのり〜は我慢できなくなり反論する。
「そんな酷い話、本気で言っているんですか!? 麻枝君がその話を聞いたら、あなたの
援助なんか絶対に撥ね付けます。そんな援助に何の意味があるんですかっ!」
「そこで君の出番や」
「え?」
馬場は謳うように続ける。
「俺が援助してやらんと麻枝達の企画は潰れる。かといって俺の考えが麻枝に知られれば、
麻枝は援助を拒絶して企画の潰れる方を選ぶやろう。それやったら今すぐ麻枝だけ呼び戻した
方がなんぼかマシや。麻枝と企画だけを俺が手に入れる唯一の方法が、君や」
「私に何ができるって言うんですっ!? 麻枝君達の企画の原画を私にやれ、とでも
言うんですかっ。麻枝君達と一緒に仕事をするふりをしながら、あなたに情報を流して、
最後には完成した企画と麻枝君だけをあなたが手に入れられるように、私にスパイ役を
やれとでも言うんですかっ!」
「えぇ勘しとるやないか。それくらい回転早くないと吉沢に嗅ぎ付けられるやろうからな。
やっぱり君が適任やな、俺の見込んだ通りや」
「私にそんな事ができる訳がないでしょう。冗談もいい加減にしてください」
胃のむかつきを懸命に堪えながら、しのり〜は言う。予想通りの反応に馬場は内心ほくそ
笑んだ。
「君が嫌や言うんやったらしゃぁない。麻枝の企画は俺が潰す事になるな」
「え?」
馬場は顔に冷たい笑みを浮かべ、しのり〜に言う。
「原画屋が見つからんかったら、遅かれ早かれ企画は潰れるやろう。同人にもえぇ人材が
おるかもしれんが、麻枝も久弥も樋上君の絵がしっかり頭に刷り込まれとる。彼女の絵柄
以外は受け付けへんやろう。麻枝はまだ俺の部下や。潰れる企画に無駄な時間を費やす
くらいなら、さっさと企画そのものを潰してやるんが、上司のせめてもの情けや」
馬場の口調には一片の冗談も混じってはいなかった。馬場が本気であることを思い知り、
しのり〜は恐怖した。
自分の思い通りにならなければ、この人は本当に麻枝君達を潰すつもりだ。
「そんな……そんな事したら、麻枝君は二度とkeyに帰ってこない……」
しのり〜の震える声に、馬場は満足げな表情を浮かべる。肩を震わせ俯くしのり〜に近づく
と、その肩をぽんと叩き、猫撫で声で語り掛けた。
「君しかおらんのや。麻枝君を立てつつ、俺も満足させる結果を出せるんは。悪いようには
せぇへん。君の席はちゃんとkeyに残しといたる。この仕事が終わったら、今までよりずっと
えぇ待遇にしたるし、原画屋のポストも用意しとくわ」
肩に置かれた馬場の手を振りほどくかのように、しのり〜は頭を振る。
「あたしには……あたしには無理です……原画なんてやりたくない。いたるの代わりなんて、
できるわけがない……」
「そないな事あらへん。君が適任やと俺が思ったんは、俺の考える三つの条件を満たすんが
君だけやったからや」
「三つの……条件?」
しのり〜はただ、馬場の言葉を反復することしかできなかった。
「そうや、第一に麻枝達の求める原画が描ける事。これは樋上君とずっと一緒に仕事してきた
君なら簡単な事や。君はずっと裏方やったから誰も気付いてへんけど、俺には分かる。
君は樋上君より上や」
もう、一言の言葉も耳に入れたくないかのように首を振るしのり〜に、馬場は言葉を続ける。
「そして第二に麻枝達の所に行っても、絶対にkeyを裏切らない事。樋上君を向こうにやるんは
論外や。そのまま樋上君達で新しくブランドを作ってまうやろ。みきぽん君は案外気の弱い所が
あるから、吉沢に逆に篭絡されてまうかもしれん。麻枝達と調子合わせつつ、俺の命令に従い
続けられるんは君しかおらん」
「もう……もういいです。これ以上何も言わないでください。どんな条件であれ、あたしには
あなたに従う以外の選択肢は無いんですから。そうでしょう?」
力無く呟くしのり〜を、馬場は満足そうに眺める。スーツの胸ポケットから携帯電話を
取り出し、しのり〜に手渡した。
「そうと決まったら話は早い。今すぐ吉沢に電話してくれ。『keyをクビになったんで、再就職先
を吉沢さんに紹介してほしいんです』って言うたら、奴はすぐに喰いついて来るはずや」
そう言って、馬場は切れ長の目を蛇のように細めた。
やべ……面白すぎ
三つ目の条件とは何だったんだろね……愛か
し、しのり〜……も、萌えー(;´Д`)
おもしれー、おもしれーよ(涙
むぅ、しのり〜にも萌えてしまったが馬場社長のヒールっぷりにもしびれてしまうな…。
もう駄目だぁ〜最高だよこれ。
低血圧なしのり〜(・∀・)イイ!!
おお・・・最近しのり〜がヒロイン化しとりますな。
愛と仕事の板ばさみ状態・・・萌えっ。
でも、しのり〜が絶対にKeyを裏切れないと断言できる理由がよくわからんのだが。
vava社長になんか弱みでも握られてんの?
展開予想
バビーに従ったフリして、3人に真実を伝え、表面上は作戦通り行いながらも反撃のアイディアを練るしのりーと3人。
いざ作戦決行の時に、「3つ目の理由」を盾に作品強奪に成功するバビー。
4人の運命やいかに!?
うは〜。相変わらずここはアツイなぁ。
常々楽しませてもらってます。
今後も期待してます。
ところで。
展開予想は、ここの書き手さんにとってはどうなんだろう?
ネタになるので歓迎? 或いは、ネタバレになるから避けて欲しい?
昔読んだいたるとだーまえの雰囲気溢れるSSも同じ作者の方なのかな?
なんか多角関係やね、彼らって・・・。
しかしゲームよりキャラ立ってる人たちって凄いな(w
では、続けて頑張ってください、期待してます
その日も、麻枝准は吉沢務の住むマンションの一室に入り浸っていた。部屋の中央に置かれた
こたつに足を突っ込み、何やら思案顔で考え込んでいる。こたつのテーブルに肘をつき、顔の前
で両手を組んだまましばらくの間思い悩んでいた麻枝だったが、意を決したかのように顔を上げ、
対面に座る久弥直樹に話し掛けた。
「なぁ久弥、新機軸大長編鬼畜純愛ロマンティックRPG『さゆりん☆サーガ(仮題)』なんだが、
タイトルを改題しようかと思う」
「え? 佐祐理さんが主人公のRPGを作りたいんじゃなかったのか、麻枝は?」
企画書を傍らにノートパソコンに向かい、プロットの打ち出しを行ないながら久弥は返事をする。
「お前もシナリオを書くんだから、お前のキャラの名前も出さないと不公平だと思ってな」
「そんな気を遣わなくても、全然構わないんだけど……それで、どんなタイトルにするんだ?」
満更でもない様子で尋ねる久弥に、麻枝は自信たっぷりに答える。
「『さゆりん☆かおりんのふたりでできるもん♪〜黒いニーソックスは年上の魅惑〜』だ。俺達の
誇る二大お姉さんキャラでエロゲー界に新たなキャラ萌えムーブメントを生み出すんだ」
「……さて、プロットを早く書き上げないと」
久弥は何も聞かなかったかのようにノートパソコンに視線を戻し、キーボードを再び叩き始める。
「あーお前、俺の事馬鹿にしてるだろ。甘いぞ久弥、十二人の妹が群れをなしてやってくるような
ゲームが冗談抜きで売れるんだ。姉もいけるはずだ、絶対」
「そういう問題じゃないだろ。大体何でそんなふざけたタイトルばっかりなんだよ」
「ふざけたタイトルとは何だ。まるで俺がイロモノ企画屋みたいじゃないか」
「だってそうじゃないか。『職業は全員メイドにしよう』とか『キーボードのHボタンを連打すると
攻撃力が強くなる裏技を入れるべきだ』とか馬鹿な事ばっかり言って。keyでもそんな事ばっかり
言ってたんだろ、どうせ? だから皆にも呆れられるんだ。自覚が無いんだよ、keyのリーダーの自覚が……」
「さっさとkeyを飛び出したお前にそういう説教はされたくないぞっ。俺がイロモノ企画屋だったら、
お前は名も知らぬ遠き島より流れ寄るヤシの実ライターだっ」
「どういう意味だよ、それ」
「一つ所に落ち着かず、ふらふらしてばかりのヤシの実みたいなライターって意味だっ」
「何だとっ!」
「やるかっ!」
「うーっ!」
「げしゃーっ!」
「お前ら、いい加減に仕事しろぉっ!」
吉沢務の怒鳴り声が部屋中に響き渡った。麻枝と久弥は雷に打たれたように体をすくめ、静まり返る。
「ったく……原画もまだ見つかっていないってのに、お前らは本当に……」
自分の机に向かっていた吉沢は、腰掛けていた椅子をくるりと半回転させて麻枝達の方へ向き直る。
知り合いの連絡先をまとめた名簿を片手に、ため息をついた。
吉沢はあらゆるツテを頼って原画の描ける人間を探してはいたが、未だ麻枝達の要求を満たす
人間は見つからなかった。
麻枝達と行動を共にすることのできる人間はさらに稀だろう。二つのハードルを同時に飛越える
ことのできる人間がそう簡単に見つかるとは吉沢にも思えなかった。仮に見つかったとしても、この
リスクの大きい企画に参加してくれるかどうかは疑わしかった。
「いいか、スタッフ集めは俺が全部やるから、お前らはちゃんとシナリオを書け。いくらいい人材
を集めても、お前らがしっかりしなかったら何にもならないんだからな」
そう言って、椅子から立ち上がる。壁に立て掛けてあったコートを羽織り、原画に心当たりが
ありそうな知人に会いに行くために、玄関のドアを開けて部屋から出た。
外に出て階段を下りている途中でポケットの中の携帯電話が着信音を発した。ポケットから携帯
を取り出し、通話ボタンを押す。受話器を顔に近づけて返事をした。
「はい、吉沢です」
『もしもし……吉沢さんですか?』
どこかで聞いたことのある声だったが、とっさには思い出せなかった。ばらばらの断片が混在した
まま散らばっている記憶をふるいに掛け、受話器の向こう側の人の名を探す。意外な答えが吉沢の頭
の中に浮かび上がった。
「もしかして、しのり〜君か?」
受話器の向こう側で一瞬の沈黙が生じたが、すぐに言葉が返ってきた。
『……はい。今まで何の連絡もなしに突然こんな電話をして、本当にすみません』
「いや、それは構わないんだが、一体どうしたんだ? 俺に電話なんかして」
緊張が受話器の向こう側から伝わってくるような、そんな口調だった。
階段の中途で立ち止まったまま、吉沢は受話器に耳をそばだてる。
受話器の向こう側からは何の言葉も聞こえてこない。電話を取ってから、ほんの数十秒しか経って
いないはずだが、もう何時間も受話器を握り締めているような気がした。
『……私、今度keyを辞める事になったんです。それで、新しい就職先を探したんですけど、見つ
からなくって、吉沢さんに相談したいと思ったんです』
「何だって? それは本当か?」
『はい……』
受話器の向こう側から沈痛な様子が伝わってくるようだった。目立つことを極端に嫌い、華やか
な表舞台はいたる達に譲りながらも、しっかりと裏方として現場を支え続ける彼女の仕事振りを
思い出し、吉沢は心を痛めた。
「俺にできる事があるんだったら、何だってするぞ。もう無職の身だからどこまで役に立てるか
怪しいが、まだまだ知り合いは多いつもりだからな」
吉沢は努めて明るい口調で言葉を送る。長年勤めた会社を突如解雇される苦しみは吉沢も
知っている。そんな時は例え嘘であっても明るい言葉が欲しいことも知っていた。
『……すみません』
「気にする事なんてないぞ。しのり〜の実力ならどこにだって再就職できるし、やり直そうと思えば
いくらでもやり直せる」
吉沢は受話器を握り締め、なおも言葉を続ける。
「そうだ、俺達は今同人でゲームを作ろうと思っているんだ。良かったらしのり〜も一緒にやら
ないか? 丁度原画描ける奴がいないんだよ」
しのり〜なら麻枝達も喜んで受け入れるはずだ。しのり〜にしても知り合いのただ一人もいない
新天地より、かって知ったる仲間達との方が精神的にもずっと楽なはずだ。何よりしのり〜には
原画を任せることができる。それは今の吉沢が最も切望する人材だった。
『……』
沈黙する受話器の向こうから言葉が戻ってくるのを吉沢はじっと待った。
『ごめん……なさい』
ノイズに混じり、消え入りそうな声だった。
「謝らなくていい。困っている時に助け合うのは当然の事だろう? 今は違ってはいても、俺達は昔、
一緒に仕事をしてきた仲間だったんだから」
『本当に……ごめん……なさい……』
「……泣いてるのか?」
『そんな事……ありません』
「……そうか」
受話器から押し殺した嗚咽が聞こえてくる。解雇されたショックを考えれば泣きたくなるのも
無理はないと吉沢は思った。やがて嗚咽が止み、小さいがはっきりとした声が聞こえてきた。
『吉沢さん……どうか、よろしくお願いします』
「あぁ、俺に任せろ」
吉沢は力強く受話器に語り掛けた。
「はい……それではまた電話します。どうもありがとうございました」
そう言うと、しのり〜は解除ボタンを押して電話を切った。左手に携帯電話を握り、右手の甲で
濡れた瞳をこするしのり〜の耳に、手を叩く音が聞こえてきた。
「大したもんや。迫真の演技やったで。見てるこっちの胸まで痛くなってもうた」
机の上に座りながら、馬場はしのり〜に賞賛の拍手を送る。涙の跡を頬に残したまま、しのり〜
は顔をきっと上げ、馬場を睨みつけた。
「これで、満足ですか?」
机の上に携帯を叩きつけるように置く。
「あぁ、あれなら吉沢も君の事を信用するやろ。明日にでも吉沢に会いに行ってくれや」
「……馬場さん」
「ん? 何や?」
「私がkeyを裏切って吉沢さんについていくとは考えないんですか?」
馬場は両手を広げ、おどけたようなポーズをとった。
「その時は遠慮無く吉沢達を潰させてもらうわ。君と麻枝も一緒にな。俺を敵に回して無事で
済むと思うほど、君は物知らずな女やないやろ? それに君は麻枝にkeyに戻ってもらいたいん
やろ? keyは株式会社ビジュアルアーツの一開発ブランドや。keyをどうするかは社長の俺の
胸三寸次第やで。スタッフの人事も含めてな」
しのり〜は反論しなかった。自分が馬場に逆らえば確実に馬場は麻枝達を叩き潰すであろう
ことは分かっていたからだ。そして麻枝は二度とkeyには戻らない。
「週に一回、あなたの携帯に連絡を入れます。私がkeyを辞める事を皆にはあなたが伝えておいて
ください」
馬場に背を向け、早足でドアに向かう。真っ直ぐなしのり〜の背中に、馬場の声が掛けられた。
「しのり〜君、俺の事を酷い男や思うとるやろう。でもな、俺は鬼みたいな所ばかりでもない
んやで。君にチャンスを与えてやったんや。麻枝の目を君に向かせるには今は絶好の機会やで。
樋上君のおらん今こそな」
「なっ……」
慌てて振り返るしのり〜を見て、馬場はにやにやと笑う。
「何や? 気付かれてへんとでも思っとたんか? 気付いてへんのは麻枝くらいのもんや。
君が麻枝に対して仕事仲間以上の感情を抱いとる事はkeyの人間なら誰でも知っとる。樋上君
も含めてな」
「そんなんじゃないですっ! あたしは、そんな……」
「そんな否定せんでもええ。麻枝は男の俺から見てもええ男や。君は男見る目あるで」
「違いますっ! それに麻枝君には、いたるが……」
しのり〜は頬を紅潮させ、必死に反論する。馬場は薄笑いを貼り付けたまま、言った。
「確かにkeyにおる限りは麻枝の眼中に樋上君以外の女は入らんやろう。大人しい顔して大した
タマやわ、彼女も。操縦法を是非ともご教示してもらいたいわ」
しのり〜は血が滲みそうなほど強く拳を握り締め、馬場を睨みつける。非難と怒りが篭められた
刺すような視線を平然と受け止めながら、馬場は続けた。
「樋上君がおる限り、麻枝の目が君の方を向く事は絶対にあらへん。でも樋上君と別の場所にいる
今はどうや? 長年の本懐を遂げる絶好の機会やと思わんか? 俺が君を選んだ理由はそこにも
あったんやで。麻枝と樋上君が離れ離れになってる今の状況を心のどこかで喜んでいた君こそ、
この仕事に最も適任や。何もかもを手に入れる樋上君に密かに嫉妬していた、君こそな」
顔を真っ赤に染め、握り締めた拳をわななかせながら、しのり〜は馬場を睨んだ。
瞳に溢れた涙を零さないように懸命にまばたきを堪える。怒りと屈辱からでも人は涙を流せる
ことをしのり〜はその時初めて思い知った。
振り返り、今度こそ部屋を出るため足を進める。これ以上馬場の顔を見ることには耐えられ
なかったし、馬場に自分の顔を見られることにも耐えられなかった。
ドアのノブを握り、半回転させた瞬間、堤防が決壊するように涙が零れた。
涙は大きな水滴となって落下し、床に落ちて粉々に砕けた。
これからは週一ペースで書いていこうと思います。このペースはそろそろ限界……
>>204 俺個人としては大歓迎です。読んでくださっている人達がどのように話を捉えて
いるか、は是非とも知っておきたいです。
214 :
名無しさんだよもん:02/01/16 14:48 ID:M57rYa3/
おっ新展開。しのり〜萌え〜ヽ(´ー`)ノ
いたるがどう動くか気になるな・・・
やっぱトライアングルなんだね(w
限りなくいろんな意味でこいつらトライアングルだと思われ。
馬場社長とその秘書Y崎さん、しのり〜のトライアングルとかな(w
いやっほーう! かけざんマンセー!(違
>>181 あとははぎや氏、陣内氏、閂氏なんかもいるな。
にしてもしのり〜……。
ちゃんと3つ目の条件も出してる。すばらしい。
2002年になった。気が付いたら…
陣内の言うとおり、忘れようとした。
でも忘れなれなかった。
でも、それでいいと思う。
コミケは終り、僕の手元には少なからずの金が手に入った。これでまた生活が出来る。
家路に就く。
気がつけば正月だった。もうあの忌まわしき2001は終ったのだと…
そして2002年が始まった。
そんな、国分寺での日常 超現実時空における連続性の消失点から
つい最近の事だ。
閂くんが家に遊びに来て『ラズベリー』と書かれていたオタク雑誌を持ってきてくれたのは…
こいつは色々な意味で有り難いと思った。
『見たくない顔がいると思いますけど見てみるといいですよ。何か感じる筈ですから』と
閂くんはかなり無責任な事を言って僕にそれを渡した。
そして僕は懐かしくも悲しいオタク雑誌のページを開く。
見出しはこうだった。
『リーフの胎動』
僕の目にふざけた文章が見えた。
その本からは僕を追いつめた諸悪の根元がいた。
下川直哉。
写真付きでコメントしていた。
「次のレースもまた、我々がいただくよ。何故って我々は、地球の物理法則を超えたチームなんだからね」
そんな…………奴の文章から聞こえるような虚勢が見え隠れした。
そう、
かつてこんなチームがあった。
チームの名は『Leaf』
そのチームには天才と呼べる人間が何人もいた。
そして、【ゲーム】と呼べるレースを楽しませるに十分なポテンシャルを維持していた。
そして、原画・シナリオ・音楽・プログラム・営業・広報等
全ての歯車が『完璧』という単語へのベクトルに噛み合っていた。
そのチームは数回のタイトルを獲得した。
必然、チームは巨大になった。
次の勝利の為にファクトリーは巨大化し、スポンサーも増え、金と人間は経済を
動かすまでになった。
悲劇−−というか異変は起こった。
それは、その世界では当然、予測できてしかるべき出来事であった。
しかし、そのチームは自らのカリスマ性に酔いしれ、ファクトリーやコマーシャリズム
に一切心を砕かなかった。
ある日、プログラマーの一人が脱退した。
それは業界の中では油にまみれてキーボードを叩く一員に過ぎなかった。
しかし、そのためにやらなければならない作業が十分になされなくなった。
そのために、今度はチームの方向性を変えざるを得ず、シナリオライターに大きな
負担がかかった。
しかし、いかんせん担当原画はそれに見合った絵を支給できなかった。
以前のままの、強く、早く、そして萌えるエンジンを…
レースが始まろうとしていた。
予選中、それは起こった。
ゲームというマシンが『自殺』してしまったのだ。
無茶な創造に光熱がこもり、まず、プログラム関係を破壊しその余波は原画にも
飛び火し、プログラマーを…原画を、シナリオライターを焼き尽くした。
それは一つのありふれた事故に過ぎなかった。
しかし、オーナーはそう見なかった。
奴は激怒した。
「あれだけのファクトリーとマネーを与えておいて、あのザマは何やねん!?」
なるほど、もっともだ。
原画師はシナリオライターを責めた。
プログラマーは営業を責めた。
広報は無茶なスケジュールを責めた。
ユーザーはお互いの肌の色、髪の色、瞳の色、血液の源、神、そして技術を
責めた。
ある、スポンサーが手を引いた。
そしてそれを前提にして広告を培っていた営業マンが消えた。
そしてその営業や広報を前提に図面を引いていたプログラマーも後を追った。
しかしそれらは、ジャーナリズムには何の話題を提供しなかった。
よくある話だからだ。
しかし「チーム」とはただの他人の集まりではない。
それを証明するように今度はカリスマ脚本家やプログラマーや音楽マンが
後を追って、チームを去っていったのだ。
そして彼らのチームについた会社のカラーあふれるロゴも、必然的に消えた。
さすがにこれは、イエロージャーナリズムを喜ばせた。
後には大きなファクトリーと、オーナーと、フカフカの椅子の上でレースデザインを
していた、奴だけが残されていた。
誰もがしっている。
オーナーが、重役連が、やかましく油臭く焦げ臭く汗臭い、暑苦しい現場に
一歩でも足を踏み入れれば解決できた問題だったのだ。
それだけだったのだ、と。
本当に、ただそれだけのことだったんだ…
そしてもう一度雑誌を見る。
まるでエンジンが載っていないはずのマシンから、ヴンヴン派手な音が聞こえるように。
いるはずのないレーサーが、にこやかに手を振るように。
そんな、虚構と見栄と暗躍と希望を賭けた……哀れな姿を僕は感じ取った。
誤解しないで欲しい。
決して今僕が思った事が個人名で
高橋龍也や水無月徹や折戸伸治や生波夢や陣内ちからや閂夜明やはぎやまさかげ
や椎原旬やDOZAや鳥の等々を指しているとは言っていない。
ああ、言ってはいないさ…
そう思わせるようにはしてるけどね…んふん。
そんな事を考えていると目の前に陣内が勝手に部屋に上がっていた。
『ラズベリー』を持っている僕を見て言う
「そんなに、面白い事が載っているのか?それ」
陣内は中々とぼけた事を言った。僕は精一杯の皮肉を込めて…
「昔の事を思い出すにはかなりに楽しい復習教材だったよ。でも僕は復讐の方がもっと
楽しいんだけどね…それよりもいつの間に勝手に入っていたんだ?」
「俺はお前の携帯を鳴らしたり玄関のインターホンも押した。気が付かなかった
お前が悪い。」
悪びれる事もなく陣内は言い切る。
なるほど、つまりそれは僕が凄い勢いでこの『ラズベリー』と呼ばれる雑誌に
意識を奪われいた訳か…
雑誌を閉じ、陣内の顔を見る
「??どうした、俺のハンサムな顔に惚れでもしたか?」
あいかわらず馬鹿だ。だがそれでいい。
殺伐としたあの環境よりはまだ陣内や閂くんや上田さんの顔を見ていた方が僕は癒える。
少なくとも、手当ての付かない残業をしていた頃よりはね。
もうあと数週間で2月14日となる。
この日をもうヴァレンタインデーなどと思う奴は少ないのだろう。
少なくとも、あの2・14事件と呼ばれるLeafの事をしっている奴らには…
そしてその日を、あの掲示板に書き込んでいた僕や陣内、閂くんや上田さん。
ホクトや中尾さんはその日をどう受け止めて行くのだろうか?
まあ何がいいたいのやらで…
とりあえず
「あけまして…………2002、二度とあんな年は迎えないぞ!」
僕はそう呟くと夜通しで陣内とだべっていた。
そんな、石の下の記録から…
原田 宇陀児
231 :
R:02/01/19 22:25 ID:EFF+yZiI
一言
「こんなんどうですか?少し書き方変えました。」
以上
久しぶりのLeaf陣営ですね。
VA編もそうですが、みんな魅力的に書かれていて感嘆させられます。
良い出来でございました。んふん。
うだるちんマンセー。
うだるもいいが個人的には、高橋・水無月コンビにも仮想戦記に
参戦してほしいなぁと思ったり。ネタはないけど(w
その日のkey開発室は動揺で始まった。
「しのり〜君は『CLANNAD』の開発から離れて、別の部署に行ってもらう事になった。大変やろうと
思うけど、彼女の仕事はみきぽん君達グラフィック班で分担して引き継いでいってくれ」
馬場社長が自らの口で伝えた連絡事項にkeyのスタッフ達は動揺を隠せない。顔色を変えた樋上い
たるが馬場を問い詰めた。
「そんな事を突然言われても困ります! それに、しのり〜はどこに異動になるんですか?」
「外注の仕事に行ってもらう事になった。新規のブランドで、これからデビューしようっちゅう所や
から詳しい事はまだはっきりとは言えん」
「私達に何の相談も無しに、そんなの勝手すぎます! 将棋の駒を動かすみたいに私達の人事を決め
る権利は社長にだってないはずです! そもそも、しのり〜はその異動に納得したんですか?」
掴み掛からんばかりにして問い詰めてくるいたるを、馬場は苦笑しつつなだめる。
「そうカリカリせんといてくれや。別に退職を強制した訳でもないし、仕事が済めばkeyに戻るんや。
この程度の人事異動、雇用主の当然の権利の中や。しのり〜君も納得してくれたで。塗りだけで終わ
るには、彼女は勿体無い人材や」
「そんな……」
いたるは馬場に反論することができず、唇を噛む。
「『CLANNAD』が完成する頃には外注の仕事も一段落つくやろう。詳しい事情はそれから説明させて
もらうわ。新天地で頑張ってるしのり〜君に馬鹿にされんよう、君らも頑張りや」
それだけ言うと馬場は開発室から出て行った。
馬場が出て行った後もkeyのスタッフ達は呆然としたまま、とても日常の業務を再開できる状態
ではなかった。初めに気詰まりな沈黙を破ったのは折戸伸治だった。
「外注なら俺もよくやっているしな……しのり〜が外注に出されてもおかしくはない。外注を任せら
れるだけの実力は充分にあるしな、しのり〜にも」
呟く折戸に、いたるは反論する。
「でも折戸さん、こんな突然の人事、やっぱりおかしいです。最近の社長は何か私達に隠し事をして
いるような気がするんです。麻枝君の事だって何も言わないし……」
「社長には社長なりの考えがあるんだろう。組織の末端の俺達に知らせない事があっても、特におか
しくはない」
「でも……」
なおも食い下がろうとするいたるを、折戸は申し訳無さそうに手で制する。
「今から曲の収録に行かなきゃいけないんだ。すまないが話は後にしてくれ。行くぞ、戸越」
それだけ言うと、折戸は開発室のドアを開け外に出て行った。戸越まごめも慌てて折戸を追い、開
発室を飛び出す。ドアがばたんと閉められると開発室に再び沈黙が訪れた。
「麻枝君だけじゃなく、しのり〜ちゃんまで……何だかkeyがkeyじゃなくなっていくみたいでしゅ」
みらくる☆みきぽんが沈黙に耐えかねたように呟く。
「ちょっとみきぽん、変な事言わないで!」
いたるは思わずきつい調子で怒鳴り声をあげる。怒鳴りつけられたみきぽんは体を縮め、視線を床
に落とした。
「……ごめん、怒鳴って」
俯いたままのみきぽんに、いたるは申し訳無さそうに呟いた。
その日は一日落ち着かない雰囲気のまま、作業もかんばしくは進まなかった。隣の机から本といわ
ずCDといわず、あらゆる物が雪崩のように崩れ落ちてくることのないことが、煮詰まる作業からの現
実逃避がギターの音色とともに高らかに歌い上げられることのないことが、歯の抜けた櫛のような奇
妙な空虚を皆に与える。所々抜け落ちた机の並びも、違和感のある光景となってスタッフ達の目に映
った。
やがて終業時刻が訪れ、一日の仕事を終えたスタッフ達は一人、また一人とタイムカードを機械に
通して部屋を出て行った。
「それじゃわたしも帰りましゅね。皆さんお疲れさまでしゅ」
みきぽんもタイムカードを通し、帰り支度を整え開発室を出ようとする。いたるは椅子から立ち上
がり、みきぽんに声を掛けた。
「あ、ちょっと待っててよ。私もすぐ仕事上がるから。一緒に夜ご飯食べに行かない? いいお店見
つけたんだ」
「……今日はそんな気分じゃないでしゅ。また、別の日に行きたいでしゅ」
みきぽんは申し訳無さそうに俯く。
「そうなんだ……じゃぁ、またいつか行こうね」
「ごめんなさい、いたるちゃん……」
背中を向けドアを開けるみきぽんに、いたるはそれ以上言葉を掛けることができなかった。
冬の短い太陽が完全に沈み、寒さに張り詰めた街に夜の帳が下りていた。肌を刺すような冷たい空
気に体をすくめ、いたるは帰路を急いでいた。ロングコートを身に纏い、マフラーを首に巻いて早足
で歩く。吐いた息が白くたなびいて後ろに流れていった。
マンションの階段を昇り、赤いドアの前に立つ。ポケットを探り鍵を取り出すとドアの錠に差し込む。
半回転だけ鍵を回すとかちゃりと音がして、ドアが開いた。
「ふぅ……」
部屋の電気を点けると、コートだけを脱ぎ捨てて、ベッドに倒れこんだ。うつぶせに寝転がり、枕
に顔を埋める。ぐったりと身を投げ出し、目を閉じているとそのまま眠りの世界に引きずり込まれて
しまいそうで、慌てて顔を振って眠気を振り払った。こんな格好で眠ってしまっては明日酷い事にな
る。せめて風呂に入って、パジャマに着替えてから。そう思っても体は言う事を聞かず、ベッドにし
がみついたまま起き上がってくれない。いつになく自分が疲れ果てていることにいたるは気が付いた。
しのり〜の不在は、当然のことながらいたる達グラフィック班に最も大きな負担となってのしかか
ってきた。特にいたるは自分の原画がいかにしのり〜の塗りに助けられていたかを今日一日で思い知
らされた。自分が塗りまで担当した絵よりも、しのり〜の塗りで仕上げられた絵の方が遥かに完成度
が高い。分かり切っていたことだが、それでも少し悔しかった。
顔を埋めた枕の口をつけた部分が自分の息で暖かくなっている。いたるは枕から顔を上げ、仰向け
に寝返った。天井で明滅する蛍光灯を眺めていると、今までのことがスライドショーのように脳裡に
浮かび、消えていった。
いたるが初めて麻枝に出会った時、麻枝はまだ大学を卒業して一年も経たない新人で、いたるは二
束三文扱いの原画家だった。前の職場で社長と衝突し、会社を飛び出した鼻っ柱の高い男だというこ
とだけを知らされていたので、いたるは初め麻枝を敬遠していた。上司の吉沢が直々に抜擢するくら
いだから能力は確かなものなのだろうが、とても自分と波長の合う人間だとは思えなかった。
極力距離を取りながら麻枝と一緒に仕事をしていたいたるだったが、麻枝が初めて企画を担当した
『Moon.』の製作の時に考えを改めさせられることになった。麻枝は昼夜の別無く開発室に篭り、身
を削るようにして製作を進めていった。いくら体が丈夫だといえ、そんな過酷な生活がいつまでも
続けられるはずがないといたるは心配になった。
深夜の開発室で麻枝はその日もPCに向かい、シナリオを書いていた。ディスプレイの前で腕を組み、
唸り声を上げる。
「うーむ、むーん。シナリオって書いても書いてもキリがないなぁ」
椅子に座ったままくるくると回る。
「腹も減ったし、コンビニに牛カルビ弁当スペシャルでも買いに行くかぁ……」
立ち上がり、開発室のドアをがちゃりと開ける。一歩前に進んだ瞬間、何か硬い物が麻枝の顎に
クリーンヒットした。
「のごわっ。何だ何だ一体っ!」
小さな火花が頭でちかちか弾けるのを感じながら、麻枝は叫んでいた。顎を抑え目の前を見るとい
たるが額を押さえてうずくまっていた。
「うわっ、樋上さんじゃないですか。何でこんな所にいるんですか……って、それより大丈夫ですか
っ!」
「う、うん……私は大丈夫だけど……それより麻枝君こそ大丈夫?」
立ち上がり、心配そうに見詰める。
「は、はい。俺は大丈夫ですけど……本当にすいませんっ!」
頭を深々と下げ、慌てて外に出ようとする麻枝の腕をいたるは掴んだ。
「樋上さん?」
麻枝の不思議そうな声にいたるは我に返り、掴んでいた腕を慌てて離した。
「ご、ごめんなさい。突然変な事して」
「いえ、俺は全然構わないんですけど……樋上さんこそこんな時間に、何か忘れ物でもしたんですか
?」
麻枝は怪訝な様子で首を傾げる。いたるは一瞬俯いて口ごもったが、すぐに意を決したように顔を
上げた。
「お弁当買ってきたんだけど……食べない?」
いたるが給湯室で沸かしてきた二人分のお茶が白い湯気を立てて開発室に流れている。麻枝は椅子
に腰を下ろし、いたるの買ってきた牛カルビ弁当スペシャルを掻き込んでいた。
「そんなに急いで食べると喉に詰まるよ」
「大丈夫っす。『早食いの鉄人麻枝』と呼ばれてましたから、昔」
「それならいいけど……」
あっという間に弁当を食べ終わった麻枝は湯のみに注がれたお茶を飲み、一息ついた。机の上には
空になった弁当箱が転がっている。
「どうもごちそうさまでした」
麻枝の対面に運んできた椅子に腰を下ろし、湯のみを口につけているいたるに麻枝は深々と頭を下
げる。
「あ、いいよいいよ。そんな気にしなくて」
「でもすごいですよ。俺もさっきコンビニに牛カルビ弁当スペシャルを買いに行こうと思ってたんで
す。まさか樋上さんが買ってきてくれるなんて……」
「麻枝君がいつもそのお弁当食べているの、見てたから」
「そ、そうだったんですか。そりゃ光栄です」
麻枝は顔を赤らめ、ぽりぽりと鼻を掻いた。
「麻枝君って、いつもこんな時間まで残業してるの?」
「いつもはもう一仕事してから帰ります。今日はシナリオのバグが見つかったんで、徹夜かな」
「本当に? そんな生活で体調崩したりしないの?」
「体だけは丈夫ですから、俺。それに企画やってる人間が一番仕事するのは当然の事です」
照れくさそうに頭を掻く麻枝を見て、いたるは思わず顔をほころばせた。
「麻枝君とこうして話をするのって、初めてかもね」
「そ、そうっすか。そうかもしれないっすね」
「ねえ麻枝君、その敬語はやめようよ。何だか落ち着かないよ」
「す、すいませんっ。でも樋上さんは俺よりずっとキャリアも長いベテランですし……」
「その『樋上さん』ってのもやめて。『いたる』って呼び捨てにしていいよ」
(あれから五年……)
五年間という月日はいたるの世界を大きく変えた。押し流されるように容赦無く変容していく日々
は常に麻枝達と共にあった。Tacticsを離れ、keyを設立し、今では業界屈指の有力ブランドに成長し
た今でもそれは変わらない。同じ道を進み、同じ目標を目指す。過去は途切れず現在を紡ぎ、未来へ
繋がっていく。絆は強く、そして固く、永遠に壊れることがないと思っていた。
だが、それも今では空しい。別離は繰り返され、失われたものはもう二度と手の中には戻らない。
いたるは大切なものが失われていく様を、ブラウン管の向こうの景色のようにただ呆然と眺めること
しかできなかった。身を焼くような後悔もただの自己満足でしかない。そして今、自分は同じ過ちを
繰り返そうとしている。麻枝は去り、しのり〜は消え、keyがkeyである意味を失っていくのをただ手
をこまねいて傍観している。
(そんなのは嫌だ。もう、何もできないままの自分は嫌だ)
ベッドに横たわったまま、拳を握り締める。
(本当の事を知りたい。今、何が起こっているのかを。自分の目で確認したい)
睡魔が襲い掛かってきたのだろうか、急速に意識がまどろんでいく。強制的な睡眠の沼に足元から
引きずりこまれながらも、決意の言葉を頭の中で繰り返し続けた。
243 :
名無しさんだよもん:02/01/21 11:38 ID:KW8XPmpo
新作あげ。しのり〜も(・∀・)イイ!!が、いたるも(・∀・)イイ!!
いたると麻枝、かつてこんなやりとりが本当にあったかも
と思わせる回想シーンですな。元祖ヒロインいたる萌っ。
なんかそのうち、いたる派とかしのり〜派とかできそうだな(w
245 :
京大繭:02/01/21 14:35 ID:pn0vXDhD
>51
1.「人」じゃないから人権もクソもない
2.論争にはなるが決着がつかず、結局人権は認められないまま
3.面倒なことになるのを恐れた各国政府が「人工知能制限条約」を締結
順に80:15:5ぐらい?
>54-55
分かりませんよ、あと20年後には1家に1台普及してるかもしれないし
246 :
京大繭:02/01/21 14:38 ID:pn0vXDhD
うわ、こっちに誤爆してたのか。ごめんなさい。
>>244 既にしのり〜派ですが、何か?(w
しかし、今回のは本当にありそうな話だね。
作者氏の想像力(妄想力かw)仁乾杯。
いたるちんはここではやっぱりピュアな美少女で・・・
みきぽんは道化役なんだね・・・やっぱり・・・
keyを揺るがせようとしている問題の真実に迫る決意を新たにした樋上いたると時を同じくして、
吉沢務も自らの計画の実現に向け、その橋頭堡を築き始めた。
ゲームの製作現場には手狭すぎるマンションの自室に代わり、知人に頼み込んで安値で貸し出して
もらった雑居ビルの一室を事務所に使うことにした。
「いくら家賃を安くしてもらったとは言え、ビルの一室を借り切って事務所代わりに使うなんて、と
ても同人とは思えませんね」
埃の積もった床をほうきで掃きながら、麻枝准は吉沢に言う。バブルの崩壊とともに利用する人も
なくなっていたその部屋は、床は埃で埋もれ、天井にはクモの巣が張っていた。吉沢達が初めにしな
ければならない仕事は、部屋の大掃除だった。
「やっぱりゲームを作るんだったら、それなりの環境は欲しいからな。いつまでも俺の部屋に入り浸
られては困る。こういう所で金をケチる奴は結局損をするんだよ」
窓を雑巾で拭きながら、吉沢は応える。
「でもこれから人手を集めて、機材を買って……出費がかさみますね」
麻枝がほうきで掃いた埃をちり取りで集めていた久弥直樹が心配そうに呟く。
「当分は貯金を切り崩していけばいいだろう。金の問題は俺が何とかするから、お前らは余計な心配
はするな」
努めて楽観的な口調で吉沢は言う。
吉沢が言い終わるか終わらないかのうちに、部屋の扉が突然開いた。扉の先には弁当屋の袋を持っ
たしのり〜が立っていた。
「もうお昼ですし、ちょっと休憩しませんか? お弁当を買ってきたんですけど……」
「俺は味噌ダレ豚カツ弁当大盛りしか食べないぞ、しのり〜」
ほうきを持ったまま言う麻枝に、しのり〜も言い返す。
「分かってるわよ、あんたが今凝ってるメニューなんて。これでしょう?」
袋から弁当箱を一つ取り出し、麻枝の目の前で見せる。
「おお、まさにこれだ。素晴らしい。素晴らしいパシリっぷりだ。是非ともしのり〜を俺専用永世
パシリ委員に任命したい。引き受けてくれるよな?」
「引き受けるとお思いかしら、麻枝君?」
にこやかに微笑みながら指をぽきぽきと鳴らすしのり〜に、麻枝は恐怖した。
吉沢が原画家候補としてしのり〜を連れて来た時、麻枝達は余りの驚きに呆然とした。keyを離れ
ることになった事情を伝えられはしたものの、麻枝は納得できなかった。keyに怒鳴り込みに行こう
とする麻枝をしのり〜本人が懸命に止めることで辛うじてその場は収まり、しのり〜は仮の原画家と
して、しばらくの間行動を共にすることになった。
吉沢は原画家としても充分に通用する、としのり〜の実力を高く評価し、久弥も面識の無い人間
よりも気心の知れているしのり〜の方がいいと主張し、麻枝はそれに押し切られる形になった。
紆余曲折はあったものの、原画家を得たことにより麻枝の『さゆりん☆サーガ』の企画はようやく
ようやく波止場より出航し、未知の大海へと乗り出し始めた。
その日は結局、事務室の大掃除で日が暮れた。
「明日から本格的に仕事を始めるか」
腰を拳でぽんぽんと叩きながら、吉沢が言う。きれいに埃が払われ、机の運び込まれた部屋は見た
目だけはもう立派な開発室だった。
「じゃあ今日はどこかに飲みに行きませんか? やっと企画が進み始めたお祝いもしたいし、吉沢
さんと飲むのも久し振りですし」
麻枝の誘いに、吉沢も賛同する。
「お、それはいい考えだな。久弥としのり〜もたまにはいいだろう?」
「はい、僕は大賛成です」
嬉しそうに頷く久弥とは対照的に、しのり〜は申し訳無さそうに言う。
「すいません、私はちょっと……まだ麻枝君の企画書も流し読みした程度ですし、明日から皆と
ちゃんと仕事ができるかどうか不安なんで、今日は詳しい資料を読ませてもらいたいんです」
「そうか……なら俺達も今日飲みに行くのは止めて、残業するか」
麻枝の言葉をしのり〜は慌てて否定する。
「あ、麻枝君達は飲みに行ってちょうだい。残業は私一人でできるから。無理して麻枝君まで居残る
事はないよ」
「いいのか、本当に? 企画書で分からない所があったら俺がいないと困るだろ?」
「ううん、いいよ。私は大丈夫。気持ちだけありがたく受け取っておくわ」
しのり〜がそこまで言うのなら大丈夫なのだろう。麻枝は言葉に従うことにした。
「じゃ、もう行きましょうか。しのり〜も残業が終わったらお店に来てよ」
久弥はもう帰り支度を整え、ドアを開けたまま外から吉沢達を呼んでいる。吉沢もそれに従い、
外に出た。冷たい風が部屋に流れ込み、机の上に置かれた企画書が吹き散らされそうになる。
「ほら、久弥君が呼んでいるわよ。早く行きなさい」
風に舞う企画書を手で押さえながら言うしのり〜を、麻枝は心配そうに見詰める。
「本当に大丈夫か?」
「だから大丈夫だって。そんなに心配してくれなくってもいいから」
どこまでもしのり〜の口調は明るく、心配事とは無縁に思える。だが、それが却って麻枝を不安
にさせた。
「なあ、しのり〜」
「え?」
深刻な様子の麻枝に、しのり〜は訝しげに首を傾げる。
「あの時はごめんな、本当に」
神父の前で懺悔をするような麻枝を前に、しのり〜はきょとんとしている。
「こんな事が言い訳にならないのは分かってるけど、あの時はどうかしていたんだ、俺。本当に、
ごめん」
麻枝は直角に体を折り曲げて、深く頭を下げる。目線を床に落としたままじっとその姿勢を維持
していた麻枝だったが、突然頭を叩かれて、顔を上げた。
「もう、何深刻ぶってるのよ。あれくらいの事で」
顔を上げた先で、しのり〜が本当におかしそうに笑っていた。口元を右手で隠し、くすくすと笑い
ながら、麻枝の肩を左手で叩く。
「あんなの、酒の上の出来心でしょ。実際に何かした訳でもないし、あの程度の事をいつまでも気
にするなんて、麻枝君って案外純情なのかな?」
「なっ……」
絶句する麻枝に、しのり〜はなおも言う。
「私はちっとも気にしてないから、あの夜の事は麻枝君も忘れていいよ。でも、もう一度やったら……」
麻枝の胸倉を掴む。声のトーンが変わった。
「殺すわよ」
麻枝はコメツキバッタのように、ただ頷いた。
さっきまで地平線にしがみついていた太陽も姿を隠し、僅かに残った夕焼けの赤色も、侵食するよ
うな夜の帳に押し潰されていった。電気の消えた部屋の窓から月の光が射しこみ、窓枠の形の影を床
に落としている。物音もなく、外から時折自動車のクラクションが聞こえるだけの部屋の中で、しの
り〜は携帯電話を握り締めていた。
「……はい、吉沢さんも、久弥君も私を信用しているみたいです。麻枝君は私が原画をやる事にまだ
納得しきってはいないみたいですけど……」
受話器の向こう側から機嫌の良さそうな声が聞こえてくる。
『まあ麻枝もすぐに納得するやろ。他に原画描ける奴はおらんのやし、君の本当の実力を知れば麻枝
も君の事を認めざるを得んはずや』
「それで、私はこれからどうすればいいんですか?」
『普通に仕事してくれたらええ。俺も麻枝の作品を完成させてやりたいっちゅう点では吉沢と同じや。
ただし、同人なんかで発表させはせんけどな。麻枝の作品はあくまでビジュアルアーツの所有物や』
「創るのは吉沢さん達にやらせて、利益だけを独占するつもりですか?」
『人聞きの悪い事言うなや。人手も資金も足りない企画に日の目を見せてやりたくて、俺は色々と骨
を折ってやってるんや。利益を頂くんは、言うたらスポンサー料みたいなもんやで』
「……私は、普通に仕事をしていればいいんですね? それであなたは満足なんですね?」
受話器から聞こえてくる声の調子は変わらない。
『ああ、その通りや。君は麻枝達と一緒に実力を存分に発揮してくれたらええ。君が頑張れば頑張る
だけ、麻枝の企画もええ出来になるんやからな。応援しとるで』
一方的に言うと、馬場は電話を切った。声の聞こえなくなった受話器を手に、しのり〜は立ちつくす。
「ふぅ……」
ため息は闇に溶け、そのまま消えていく。
通話ボタンを切った瞬間、ドアの開く音がした。しのり〜はびくりとし、ドアの方へと振り返る。
「ここのビルはバブル時代にありがちな手抜き工事でな。ドアも安物なんだよ。話し声が外からでも
聞こえるくらいにな」
振り返るしのり〜の視線の先には、吉沢が立っていた。壁のスイッチを押すと、部屋の蛍光灯が
一斉に点き、眩しい光が一面を満たした。吉沢は無言のまましのり〜に近づき、携帯電話を持つ右手
を捻りあげる。
「……っ!」
掴まれた細い手首がきしみ、手から携帯が落ちる。そのまま床に落ち、乾いた音を立てて転がった。
「君の実力に気が付かず、戦力外通告を出すような馬鹿がビジュアルアーツの社長になれるはずがな
い。俺も甘く見られたもんだな。目の前に美味しい餌を見せ付けてやれば、ホイホイと飛び付いて来
るとでも思っているのか?」
「何の事ですか? 私は何も……っ!」
言い終わる前に左の頬を張られた。衝撃に倒れそうになったが、右手首を掴まれたままでは倒れる
こともできない。
「安い演技はもう止めにしろ。俺は麻枝ほど甘くはないし、久弥ほど世間知らずでもない。あいつら
は騙せても、俺は騙せない。汚れ仕事は俺の役目だ」
左頬に焼けるような痛みを覚えながら、しのり〜は吉沢を睨みつける。
吉沢は感情の欠片も見出せない仮面のような表情を貼り付けていた。
「答えろ。馬場は何を君に命令したんだ。言わなければ、もっと辛い目に遭う事になる」
手首が強く握られた。
うぉ〜!!急展開っすね!!
吉沢さん、萌え〜
ギャ−ス、ギャ−ス!
真昼間から悶えることになるとは・・・
あんた、最高だよ。続きが激しく楽しみだ。
もっと辛い目?
ドキドキ期待しちゃうYO!
(;´Д`)ハァハァ
つ、続ききぼん…
いいぞ! エレクトン11級(;´Д`)ハァハァ
麻枝を脅すしのり〜萌え〜。
クールなエレクトーン11級萌え〜。
予想通りの流れだったけど、かなり面白い。
YET萌え。本人読んだら笑うだろうな、これ(w
YETお兄さま(;´Д`)ハァハァ
もっと辛い目に(;´Д`)ハァハァ
汚れ役(;´Д`)ハァハァ
YETボスにこれを読ませたくなってきたよ(w
きっと苦笑いするだろうなぁ。
>268
R氏だったりしてね(w
270 :
名無しさんだよもん:02/01/25 11:14 ID:Pn8oDEAE
保全あげ。
>>268 違います。
ヘタレなんでこんなレベルの高いスレにはとてもじゃないけど参加できない。
ちなみにそれ、二番煎じにすらなってないので鬱。
ちょっとSな雰囲気が漂うヒールYET萌え。
というか次回からYETお兄さまによる調教編突入ですか?(;´Д`)ハァハァ
久弥がコミックマーケット61の準備をしている頃の話
「さて、今回もまた楽しみだな…」
僕(久弥直樹)は新刊を再チェックし、納得した時で。
Trrrrr
携帯電話を見る。
070―×××―××××
一一(にのまえはじめ)
ついに遅い事実を久弥が知る電話が僕にかかってきた。
やはりと言うか予想できた事であった。
『やはり直哉は納得をしてくれなかった。済まぬ。そしてもっとはやく報告できな
かったワシを許してくれ。』
「いえ、一さんが謝る事じゃないです。僕が勝手に頼んだ事ですから…」
『申し訳ない。』
一さんの言葉は丁寧でなによりも情がこもっていた。
だから、僕としても結果への不満よりも一さんの暖かい対応が嬉しかった。
何よりも、僕がLeafへ行く事を麻枝やいたるが快く思うとは思えないし…。
中尾さんをつてに言ってはみたものの、この結果で良いと思った。
それよりも僕は一さんが言った『LeafとKey』の話を振る事にした。
「一さん。前に言っておられたLeafとKeyの話ですが…」
『おお、そうじゃ。何か進展でも?』
「進展と言う訳では無いですが、折戸さんにコンタクトは取っておきました。」
『うむ、それだけでも十分じゃ。感謝します。』
「いえ、大した事はしてませんよ。」
そう、僕は特に対した事はしていない。
手が空いた日、何気に折戸さんに電話をして『一さんが会いたいと言っていた』と
言付けしたにすぎなかった。
返事は聞いていないけど…
『所で、久弥さんは今後はどうなされるおつもりですか?Keyは既に離脱しておられ
、噂ではマジキュー絡みでエンターブレインとも少し揉めたそうで…』
どうも、この業界は狭い。一さんのような技術系の人ですらこうも簡単に情報を掴んで
しまう。(まあ、僕がネットで少し不満を言ったのあるけど)
「心配いりません。当分は同人などで食いつなげるし、なによりもこの世界は狭いです
し、なによりも暖かい人達がいっぱいいますからね。」
僕はそう言う。まだ2度程しか一さんとは話をしてないがこの人は珍しい人情家だ。
ここまで、他人の事を心配してくれる人は、アボガドパワーズの浦和雄と一一さん
ぐらいしかいないと思う。
プログラマーと言う人種は原画や脚本家と違っていいな。
ふと、そう思った。
『もし、何かありましたらワシに電話でも下され。少しは役に立ちますぞ。』
「ご好意、感謝します。ではまた何か縁があったその時に」
『うむ。では失礼する』
一さんはそう言って携帯を切った。
しかし、どうだろうか?
LeafとKeyが手を組むという話についてだ。
正直、今の所コナミと言う会社はLeafにもKeyにも直接的な接触はないと聞く。
一さんが描く構図はこうだろう。
Leaf&Key VS コナミ
仮にLeafとKeyが手を組んだとしても根本の資本力からしてコナミに太刀打ち
できるほどの力があるとはおもえない。
そもそも、一さんはどういう戦いを想定しているのだろうか?
残念ながらそれは僕にも判別できない。
情報戦や裁判というのなら合理的かつ企業と企業が争う姿としては妥当だ。
だが、コナミにはきな臭い噂は腐るほどある。
そう…例えば本当にメタルギア・ソリッドのような部隊があるとか…
実は少し僕は耳にした事がある。
小島秀夫…メタルギア・ソリッド2総監督
この男が実際に【FOX HOUND】を率いていて、スネークや雷電のような
人材を確保しコナミに立ちはだかる障害はすべて消し去って行くという…
この噂、勿論僕は目にした事がある訳じゃないから真偽のほどは定かではない。
しかし逆にいうなら本当は存在しているが、その姿を見たものは既にこの世に存在
しない……
とかなら有り得るのだが。
と、なったら一さんはどうやってそんな化け物みたいな人間と戦うのだろうか?
仮にもただのゲーム開発者でその社員だ。
きな臭い白兵戦でも展開するのか?
殴り合いで勝敗が決するのか?
もしそれだとまだ、こちらも分がある。
まあ、推測だけど。
想像でしかものは言えないが…とにかく僕はしばらくは同人でもしながら一さん
やLeafとKeyの動向を静観するしかなさそうだ。
今はね。
278 :
R:02/01/26 20:42 ID:nQ3EVa2X
一言
「268は俺じゃないです。」
>278
おお、羊達の聖戦篇の続きですか。
しかし、コナミのFOX HOUND部隊って(w
本当に戦記になるのだろうか?
これからしばらく現在編と過去編が同時進行の形で進むのかな?
個人的にはあまり他社メーカーに出張って欲しくないんだけど・・・
コナミとかが出てくると、つられてアリス、メビウス、ニトロとかが
わらわらと湧いてきて収集がつかなくなるから。
281 :
名無しさんだよもん:02/01/27 22:42 ID:vMw6KwQI
馬場社長つながりで、ZEROが関わってくると、なんか別の路線に進みそうだから…
ZEROは出しちゃイヤソ(藁
>280-281
俺はネクストンあたりを出して欲しいかな。
個人的にはしぇんむーとサッキーの浪花節な話のが一番好きかな
七夕のやつとか感動したよ
只の名無しの作品なのに、未だに覚えてくれてる人が居るなんてなんか嬉しいな。
まぁ、七夕っていう地形効果? の賜物か(w
>286
内容はともかく、絵はいたるより上手いかもと思った俺はRRに汚染されているのか?(w
それは酷い! …と思ってしまった私はIRに汚染されているのか?(w
289 :
けもの道:02/01/30 00:50 ID:IbnE3DPx
「馬場は何を君に命令したんだ。答えろ、しのり〜」
吉沢務の乾いた声が部屋の空気を震わせる。右手首を吉沢に掴まれたまま、しのり〜は毅然とした
表情を崩さず、沈黙を保った。吉沢は悲しそうに少しだけ顔を歪めると、掴んだ手に力をこめた。
「……っ!」
骨がきしみ、手首から先の感覚が無くなっていくのが分かる。まだ育ち切らないひまわりの細い茎
を手折るように無慈悲に手首を締め上げ続ける吉沢に、それでもしのり〜は沈黙を保った。
再び、頬を打たれた。さっきよりずっと大きな音が響き渡る。頬を打つ衝撃にしのり〜は目が眩ん
だ。崩れ落ちそうになる体を強引に引っ張りあげられる。滲んだ視界の先で、吉沢は変わらず無表情
だった。
「二度言わせるな。答えろ。さもなくば、俺は君の体を本当に傷つける事になる。傷つける方法なん
ていくらでもあるんだ」
「……私の体なんて、どうだっていいんです」
「君に肉体的苦痛は無意味かもしれないな。それでも、俺は君から真実を聞き出さなければならない。
麻枝のためにもな」
最後の言葉に、しのり〜は微かに反応した。
「麻枝は君を心から信頼している。ただの仕事仲間としてではなく、一人の人間として。麻枝の気持
ちを踏みにじり、裏切ろうとする君を、俺は許す事はできない」
しのり〜は俯いたまま唇を噛み、必死に何かを堪えている。体の震えが握り締めた右手首から吉沢
にも伝わってくる。自己嫌悪と怒りに吉沢は胸がむかついた。踏みにじろうとしているのは自分も同
じだ。伏した想いを心に秘め、叶わぬ願いに身を焦がした彼女を。
俯いたままの顎に人差し指を引っ掛け、顔を上げさせた。一直線上に視線が重なり合う。
「馬場の考えている事は俺にだって大体予想はつく。俺達が作った作品をビジュアルアーツの商品と
して市場に送り出したいんだろう。そのために送り込まれた埋伏の毒が、君だ。原画家として麻枝達
と一緒に作品を作りながら、馬場に進行状況を報告し、土壇場で俺達を裏切る。たった一人の原画家
に逃げられ、完成の目が無くなった企画を馬場が引き取る。そんな画を描いたんだろう、馬場は」
290 :
けもの道:02/01/30 00:51 ID:IbnE3DPx
不自由な体勢を強要され、しのり〜は吉沢から視線を反らすことも許されない。吉沢の詰問が進む
につれ、しのり〜の瞳に浮かぶ怯えと動揺は色濃さを増した。
「馬場が君に与える報酬は何だ。金か。原画家としての地位か」
しのり〜は何も答えない。
「そんな物が欲しかったのか。好きな人を裏切ってまで、手に入れる価値がある物か」
「……もう、止めてください」
耐えかねたように言葉を絞り出す。
「君が馬場に内通し、麻枝を売ろうとしている事は遅かれ早かれ、必ず露見する。時間が経てば経つ
ほど、真実を知った時の衝撃は大きいだろう。俺は君に騙されている麻枝も、麻枝を騙す君も見たく
はない。今すぐ麻枝達に真実を伝えるつもりだ。俺の知っている、全ての真実をな」
「……」
「麻枝も久弥も君を信用している。keyを離れざるを得なくなった君の身を本気で心配し、助けにな
ろうとしているんだ。そんなあいつらが本当の事を知ったら、どうなると思う?」
「……怒るでしょうね。私の顔なんかもう二度と見たくないって、そう思うでしょうね」
自虐的に呟くしのり〜に、吉沢は静かに反論する。
「怒りはしないさ」
「え……?」
訳が分からないと言った表情を浮かべ、吉沢の顔を見上げる。
赤く充血した瞳。赤く腫れた頬。蛍光灯の光に照らされたその表情は、余りにも痛々しい。
そんなしのり〜に、吉沢は言った。
「悲しむだけだ」
「……っ!」
その瞬間、しのり〜は激昂し、唯一自由な左手で吉沢の頬を力いっぱい叩いた。痛みはほとん
ど感じなかったが、吉沢は余りに突然のことに呆然とする。一瞬力が緩んだ隙に、しのり〜は掴
まれた右腕を強引に払い、吉沢の手を振り切った。
「だったら、だったらどうすればよかったんですかっ」
赤い痕がくっきりと環を刻んだ手首をかばいもせず、叫ぶ。
291 :
けもの道:02/01/30 00:51 ID:IbnE3DPx
「吉沢さんは馬場社長の事を知らないから、そんな事が言えるんですっ。あの人は自分の思い通りに
ならない人を絶対に許さないんです。どんな手段に訴えてでも、必ず叩き潰すんです。そうやって、
自分の会社を大きくしてきたんですから」
体を震わせ、血が滲むほどに拳を握り締め、叫ぶ。
「麻枝君だって例外じゃない。馬場社長に逆らえば、必ず潰されます。keyに戻る事も許さないし、
二度とゲームを作れないように完全に居場所を奪い取る。社長は私に本当にそう言ったんですよっ。
私が命令に従っている間は、社長は麻枝君達に手を出しません。社長は麻枝君の作るゲームには
魅力を感じているんですから。麻枝君を騙す事で、社長の手から麻枝君を守る事ができるんだった
ら、私はいくらでも彼に嘘を吐き続けます」
振り絞るような叫びを、吉沢はただ黙って受け止める。
「私だって麻枝君を騙したくなんかない。嫌われたくなんかない。私だって、私だって、麻枝君の
事が……」
「もういい、もうこれ以上何も言わなくていい」
吉沢はしのり〜の肩を掴み、自傷の叫びを押し止めた。しのり〜は肩を震わせ、乱れた息を漏らす。
俯いた顔から数滴涙が零れ、床に落ちた。
「すまなかった。辛い事を言わせて」
吉沢は心から謝罪する。
「いえ……悪いのは私です。吉沢さんは麻枝君達のためを思って行動しただけです。麻枝君達に嘘を
吐いていた私が責められるのは、当たり前です」
「……君も、麻枝のためにこの役目を引き受けたんだろう?」
「……もう、いいんです。私には無理だったんです。馬場社長は私にしかできない役目だって言った
けど、そんなのでたらめです。いたるの代わりになる事なんて、私には無理だったんです」
「いや、そうでもないさ」
「え?」
しのり〜はその言葉に驚いて、顔を上げた。
292 :
けもの道:02/01/30 00:52 ID:IbnE3DPx
吉沢は穏やかに微笑んで、言う。
「君は俺達に必要な人間だ。君がいなくなったら、また原画家がいなくなってしまう。君ほどの実力
を持つ原画家は、そうそう見つかるもんじゃない。君無しでは麻枝の作品は完成しないんだよ」
「でも、私は……」
「馬場に命令されてスパイ役を引き受けていても、君は君だ。今の麻枝には君が必要だし、君だって
本当は麻枝と一緒にいたいんだろう?」
丁度吉沢の肩の高さにあるしのり〜の頭に、ぽんと手を置く。滑らかな感触の髪をそっと撫でた。
「馬場の命令には従ってくれていて構わない。馬場が求めるのであれば、いくらでも情報を流してや
ってくれ。作品を作らせるだけ作らせておいて、土壇場で奪い取ろうと考えているのであれば、完成
間際までは馬場は手を出せないはずだからな。その間に俺は反撃の計画を練る」
「吉沢さん……」
「もう、君はこれ以上抱え込むな。君達はそんな薄汚い策略に惑わされずに、やりたいように作品
を作ってくれればいいんだ。好きなように生きてくれればいいんだ」
吉沢を見詰めるしのり〜に、笑顔で応える。
「言っただろう? 汚れ仕事は俺の役目だって」
はっきりと言い切った。
293 :
けもの道:02/01/30 00:53 ID:IbnE3DPx
「麻枝と久弥が居酒屋で待ってるぞ。俺達も早く行こう。祝い事は皆でやらないと楽しくないからな」
そう言って、しのり〜の肩を優しく叩く。しのり〜は突然調子の変わった吉沢の言葉に慌てた。
「い、いいんですか? 私なんかが行っても」
「何言ってるんだ。君の歓迎会でもあるんだ。君が行かなくてどうする」
「でも……」
「ほら、早くしないと君が来るまで酒を飲むのを我慢しているあいつらのフラストレーションが限界
に達するぞ」
しのり〜の手を取り、そのまま部屋の外に連れ出す。蛍光灯の電源を切り、部屋の鍵を閉めた。
しのり〜を連れ、吉沢は麻枝達の待つ居酒屋へと急いだ。人気の無い道を早足で歩く二人を、月明
かりが照らしている。しのり〜は相変わらず押し黙ったままだったが、さっきまでの苦しみを押し殺
した雰囲気からは大分解放されているように見えた。隣を歩くしのり〜の体に厳しさを増した冬の寒
風が少しでも当たらないように、風の吹く方向に自分の立つ場所を合わせながら、吉沢はある決意を
固めていた。
(馬場……俺達は確かにまっとうな道を歩いてはいない人間だ。お天道様の当たる場所では生きて
はいない。今更いい人ぶろうなんて思ってはいないはずだ、お互いにな)
一際冷たい風が吹き、吉沢の体に突き刺さった。風を全身で受け止めながら、吉沢は隣に立つしの
り〜の横顔を見遣る。さっき吉沢の手に打たれた頬はまだ赤く、白い肌とのコントラストが痛々しい。
(汚れ役をやる事で夢が叶うんだったら、いくらでも引き受けてやるさ。そのために皆に憎まれても
構わない。悪党と呼びたければいくらでも呼ぶがいい。お前だってそうだろう?)
(だがな、お前は踏み外してはいけない最後の一線を踏み外した。人の想いだけは踏みにじっては
いけないんだ。何があってもな)
(馬場、俺はお前を絶対に許さない。お前の野望のために麻枝達を犠牲にはさせない)
闇の中、月明かりだけが照らす道を吉沢は歩む。暗闇を引き受けるようにして。
かっこええ…燃えた。
叩いたしのり〜がなんかカコイイ。
ボス、かっこええなあ
萌えと燃えのバランスが実にイイ!
あと、今回からサブタイトルが採用されとりますな。
(コテハン名じゃないよね?)
YETボス最高だ。カッコよすぎる。
しかし、しのり〜は久弥の事はどうでもいいのか(w
299 :
名無しさんだよもん:02/01/30 23:03 ID:4d/75gUf
カコイイage
YET、これ読んだら大爆笑するぞ(w
最高。萌え燃え。
「…は、はは」
とか寂しげに微笑んでナーバスになっちまう可能性もあるが(w
そんなYETお兄さまに(*´Д`)ハァハァ…
呆れる可能性が一番高いと思うがな。
このYETは萌える。
「ニヤリとして実行に移す」に1票(w
>300-303
パルスノーツのFAQでこれについてどう思うか聞いてみたい……けどマズイよね、やっぱり?(w
前に無かったっけ?<仮想戦記感想
307 :
名無しさんだよもん:02/02/01 20:50 ID:T/O7PUgJ
>>306 でも、以前はボスの出番少なかったからな…
何だっけ?タクティクスはダイアモンドの原石だとか言って、そのままだったじゃん。
>307
そうそう。
YETボスが麻枝を励ましたり、しのり〜を問い詰めたりしてる
今の仮想戦記についてどう思うか聞きたいよ。
……まあ、ちょっと悪趣味な気もするけど(w
多分適当に誤魔化されて終わるとは思うが。
つか、最近パルスノーツのFAQって更新されないじゃん。
実際はしのり〜って原画出来るのか?
カーテン越しに射し込む陽光の暖かさが顔をくすぐり、樋上いたるは目を覚ました。スイッチの切
られた目覚し時計の針は、丁度正午の位置を指している。一直線に上を向いた針が自分の怠惰さを詰
っているようで、いたるは少しだけ恥ずかしく思った。いくら休日だからといって、日が高くなるま
で惰眠を貪るような行為に胸を張ることはできない。追い立てられるように布団から出て、カーテン
を勢い良く開ける。陽光がさっと射し込み、部屋の床に立ち姿の影を描く。冬の太陽は既に中天に差
し掛り、柔らかな光を放っていた。
自堕落の効果は確実にあったのだろう。目覚めの時に常に彼女を苛む鉛のような体の重さと、鉄錆
のような頭の気だるさは今日はどこにも無く、背中に羽根が生えたのではないかと錯覚するほどだっ
た。軽やかにステップするように部屋を横断し、洗面所で顔を洗う。手早く歯を磨き、髪を梳いて体
裁を整える。洗面所を離れ、タンスの中から適当に服を見繕い、パジャマから着替えた。
再び窓際に近づき、窓を開けて、外の景色に目を遣る。相変わらず寒さは厳しく、むき出しの枝を
晒した木々は立っているのも辛そうに見えたが、空の真ん中から降り注ぐ陽光が僅かな温もりを与え
ていた。光の通い路を埃が舞い、ちらちらと消えては現れる。木の枝に止まっていた鳥が羽根を広げ、
蒼の天井目指して飛び立っていった。
休日とはいえ、家でごろごろとしているには勿体無いほどのいい天気だ。朝昼兼用の食事を済ませ
たら、散歩に出かけようと思った。少し遠出をして、大きな本屋にも行きたい。仕事の参考になりそ
うな写真集をいたるは探しており、近場の書店を巡っていたが見つからなかった。週刊誌から洋書ま
で取り扱う書店なら見つかるかもしれない。折角の休日だし、たまには街中に遊びに行くのもいいだ
ろう。
大きく背伸びをして、陽光を全身で受け止める。窓を閉め、食事の支度をするため台所に向かった。
街中の雑居ビルの一角。バブルの崩壊とともに人の姿も無くなり、命の灯火の消えたように寂れて
いた一室が、今日はまるで違う空間だった。ビルの一階から階段を上ってPCを部屋に運び込む力仕事
を終え、麻枝准は冬だというのに額に浮かんだ汗を拭う。こうした肉体労働を好む性質ではないが、
ようやく停滞から抜け出し、前に進み始めることのできた喜びが労働の不満を吹き飛ばした。
「お、もう運び終わったのか。お疲れさん」
ドアが開き、吉沢達が部屋に入ってきた。皆それぞれに書類や事務用品の入ったダンボール箱を両
手に抱えている。
「これでやっと開発が進められますね」
ダンボール箱を机の上に置きながら、久弥は言う。
「あぁ、ここからが正念場だな。麻枝もいつまでも馬鹿ばっかりやってるんじゃないぞ。お前がし
っかりしないと、久弥がいくら頑張っても意味無いんだからな」
「分かってますよ。任せてください」
吉沢の言葉に、麻枝は胸を張って応える。その表情には曇りは無く、自らの夢を無心に追い続ける
少年のようである。吉沢はそんな麻枝を眩しく思った。
(やはり物を創っていてこそ輝く男なんだな、こいつは)
そう思った。
「早速仕事始めましょうか。皆揃っている事だし、企画会議をやりましょうよ」
皆揃っていると言ってもそこには吉沢と麻枝を除けば、久弥としのり〜しかいない。だがそれでも
今の麻枝には充分すぎるほど心強い仲間だった。
「お、おい。ちょっと待て。いきなり会議と言われても困るぞ。機材は運び込んだだけで、まだ整理
も何もしていないんだ。機材をきちんと整理するのが先だろう」
吉沢は勇み足の過ぎる麻枝を苦笑混じりに抑える。壁に備え付けた時計を見ながら、言葉を続けた。
「それに、もう昼だ。今日は朝から力仕事でお前も疲れているだろう。昼飯を食ってから、仕事の話
はしないか?」
「吉沢さんがそう言うんだったら、それで構いませんけど……」
「あ、それなら私がお弁当を買ってきましょうか?」
二人に割り込むようにしのり〜が提案する。
「いや、しのり〜は荷物運びで疲れているだろ。それに昨日も弁当を買い出しに行ってきてくれたん
だ。しのり〜にばかりパシリをやらせるのは不公平だ」
「じゃあ、誰が行くの? 重い荷物を運んだのは麻枝君と久弥君よ。あなた達のどちらかが買い出し
に行くのなんて、それこそ不公平よ」
「ジャンケンで決めればいいんじゃないかな。それだと不公平にはならないと思うよ」
久弥も二人のやり取りに口を挟んだ。麻枝は久弥の言葉に頷く。
「それもそうだな。よし、ジャンケンで決めるか。吉沢さんもやりますよね?」
「あ、あぁ。別に構わないが……」
「じゃあ、やるぞ。皆準備はいいか」
麻枝は両手を背中の後ろに回し、手を見られないように隠す。吉沢達も麻枝につられて後ろ手を組んだ。
「せーの……じゃんけん……」
麻枝の掛け声に、一同息を凝らす。皆の間の空気に緊張が圧し掛かった。
「ほいっ!」
その瞬間、一斉に四人は手を開いた。
春の訪れを予感させる穏やかな陽光が空の中心から降り注ぐ。アスファルトの歩道に色の薄い影を
落としながら、いたるはゆっくりと歩みを進めていた。一歩足を進めるごとに身体が温まり、日を直
接に浴びている頬が赤く上気し始めているのが感じられる。久し振りの遠出はいたるに年甲斐も無い
冒険心を呼び起こしていた。ほんの数駅、電車に乗るだけで自分の知らなかった世界が目の前に広がる。
探していた本は結局どこにも見つからず、通販で購入せざるを得ないことが分かった。それでもこの
気持ちのいい空の下、見知らぬ土地を自分の足で踏みしめて歩くことが楽しかった。
どこを目指すでもなく歩き回るいたるの目の前に、長い坂道が現れた。坂道はだらだらとした勾配
で真っ直ぐに延び、どこまで続くのか、いたるの目で窺い知ることはできない。等間隔に立ち並ぶ電
信柱が視界の先までずっと連なり、奇妙な威圧感を与えている。
いたるは一瞬戸惑ったが、すぐに再び足を進め、長い坂道を登り始めた。
坂の中途に自動販売機が設置されているのがいたるの目に入った。いくら緩やかな勾配だとはいえ、
結構な距離を登ってきた。心臓の動悸も速くなり、喉も渇いている。ジュースを買って、少し休憩し
よう。そう思い、自動販売機に近づいたいたるだったが、先客がいることに気付いた。
「結局負けるのは俺なんだよなぁ……俺って本当、ジャンケン弱いよな。学級委員もジャンケンに
負けてやらされたし、給食の残りのプリン争奪戦に勝った記憶無いし」
男は自販機の前で己の非力を呪っている。足元には弁当を重箱式に積み重ねて包んだ弁当屋の
袋が置かれていた。昼食の買い出しにでも行かされたのだろう。愚痴の内容から察するにジャン
ケンで買い出しに行く人を決め、彼が負けたらしい。いたるは男の不運に思わず苦笑してしまった。
いたるは少し離れた場所に立ち、男が買い物を済ませるのを待った。男はいたるに気付く様子も
なく、自販機と睨めっこをしている。
「しのり〜はウーロン茶で、久弥はコーラか……何で飯食いながらコーラ飲めるかな、あいつ」
(え? 今何て言ったの?)
いたるは男の呟きに鋭く反応する。動揺するいたるとは裏腹に、男は淡々と硬貨を自販機に投入
し、ボタンを押す。ごとん、と音がして自販機の取り出し口に缶が落とされた。取り出した缶を
両手に抱え、また呟く。
「吉沢さんはマックスコーヒー……って大阪でそんなジュース売ってるわけないだろうがーっ!」
聞き慣れた独りボケ独りツッコミ。でも、どうして彼がこんな所に。
家に電話してもずっと留守番電話で、実家に問い合わせても、ご両親も何も知らされていなかっ
たのに。
疑念に揺れるいたるの瞳は、ただ男の背中だけを映し出している。
「仕方がない……ここはしるこジュース(あたたか〜い)で我慢してもらうか。甘さだけなら同レベル
だしな……」
再び硬貨を投入し、ボタンを押す。取り出し口からジュースを取り出そうと身を屈めた拍子に、両手
に抱えた二本の缶がこぼれ落ちた。地面に落ちた缶は坂道を加速しながら転がっていく。
「うおっ。待て待て待てーっ」
男は慌てて転がり落ちる缶を拾い上げようとする。素早い動作でコーラの缶は拾ったが、もう一本
の缶は逃げるように坂道を転がっていく。缶は坂道を加速し、呆然と光景を眺めるいたるの足元に
転がっていった。靴にぶつかり、停止した缶をいたるはほとんど機械的な動作で拾い上げる。
「あ、どうもありがとうございます」
男--麻枝准--は缶を拾い上げてくれた女性--樋上いたる--に礼を言い、ぺこりと頭を下げる。
再び頭を上げ、目の前の女性の顔を確認した途端、麻枝の表情は驚きに歪んだ。
また前後編です。短くまとめられませんでした……
ぐわあ、続きが気になって眠れねえage。
またいいとこで…
うわ、また凄いところで話を分けるね(w
続き楽しみに待ってます。
果たして麻枝は誤魔化しきれるのだろうか?
何だか今回の作品は雰囲気が軽くて読んでいて楽しい。(いつも楽しいが、特に)
こんな寒い日なのにちょっとあったかくなった気分。
それにしてもなんちゅうひきや(w
マックスコーヒーってのが笑える(w
ほのぼのしつつ緊迫してる今までの話がとても気に入ってる。
はやく続き〜
結構二人の遭遇早かったね。まぁどうなるかわからないけど。
あぁ続きが気になる。
駄目だ駄目だ駄目だ!皆急かしてばっかり(真っ先に急かしたの俺だが)
で少しは作者様を労わなくては。
つーわけで期待してますんで頑張ってくださいね。
・・・でも正直キン肉マン顔負けの引きっぷりだよなあ(w
今日初めて見つけて一気に読んじゃいました。スタッフに詳しくない
俺でも十分楽しめたっす。タクティクスからの移籍の事情よくしらないの
だけど、YETボスがかなりいい男としてインプリンティングされました。
信者になってしまう〜(w
手前味噌みたいだけどメンテ。
あれぞクラナドスレが落ちるご時世なので……
>キン肉マン顔負けの引き
一回の投稿分は8〜10kb程度にしたいので、あんな切り方になっちゃいました。
ゴメン。文章が追いつかなかったってのが一番大きいんですけど、とほほ。
>>326 謝らなくていいですよw 自分の(*´Д`)気持ちが、
こう、昴ぶったまま、生活していけるのはあなたのお陰だw。
頑張ってください。死ぬ気で応援します。絶対落とさせませんw
だらだら坂の上でジュースの缶を落とし、危うくもう一本買う羽目に陥るところだった麻枝准は、
坂を転がり落ちる缶を拾い上げてくれた女性にお礼を言おうとして凍りついた。
その女性が麻枝のよく知る人間、樋上いたるだったからである。
「麻枝君……だよね?」
手の平に伝わってくるウーロン茶の熱さも忘れ、いたるは呆然と呟く。麻枝は何かを言いたそう
に口をぱくぱくと開いたが、すぐにいたるの手から缶をひったくると、足元の弁当屋の袋を手にとり、
いたるに背を向けて走り出した。
「麻枝君! 待ってっ!」
叫ぶが、背中は振り返らない。言葉無き背中は坂を駆け上がり、どんどん小さくなっていく。
いたるは坂道を蹴り、背中を追い掛けた。
緩やかな勾配だとはいえ、いきなりの全力疾走は足の筋肉に加重な負荷だった。早くも乳酸がたま
り始め、太股が悲鳴をあげる。
(何でこんな所にいたるがいるんだよっ! あいつの家はここから三駅は離れているだろうが!)
予期せぬ出来事に、麻枝は心中で疑惑の言葉を吐いた。休日だとはいえ、忙しい彼女が何の用も
なしにこんな所に来るとは考えにくい。
(まさか……俺を連れ戻しに来たのか?)
その想像に、麻枝は恐怖した。馬場に逆らい、『CLANNAD』の製作を放り出してkeyを飛び出した
自分をいたるが快く思っているはずがない。それはkeyの他のスタッフも同様だ。散々好き勝手やっ
たきた自分がどれほどkeyの皆に憎まれているか、麻枝は考えるのも恐ろしかった。
(捕まったらどうなる? 俺は?)
必死に足を動かしながら、麻枝の頭脳は猛スピードで回転を始める。
「麻枝君をやっと捕獲することに成功したよ」
そう言って、いたるは後高手小手に縛られた麻枝の腰を蹴り飛ばした。満足に身動きもままならない
麻枝は、無様にkey開発室の床に顔を打ち付ける。苦痛にうめく麻枝の頭を踏みつけながら、いたる
は麻枝を嘲笑う。
「本当に大変だったんだよ。麻枝君が飛び出した後始末をするのは」
靴のかかとがぐりぐりと麻枝の頭を踏みにじる。
「おまけに吉沢さんと久弥さんまで巻き込んで、keyに反抗しようとするなんて……一体どんな甘言
を弄して、二人を篭絡したんですか?」
涼元が心底幻滅したように麻枝を見下す。
「しのり〜まで無理やり引き込んで。ほんっと、最低だよね」
いたるはしのり〜に視線を向ける。しのり〜は申し訳無さそうに俯く。
「ごめんなさい……私は嫌だって言ったのに、麻枝君が『keyを辞めて俺の手伝いをしないと、酷い
目に遭わせるぞ』って……」
「ちょ、ちょっと待て。俺はそんなこと一言も言ってないぞっ!」
「酷いよ麻枝君……あの夜を忘れたの? あんなことをしておいて……」
「ひでぇ。俺を売って、自分だけ生き残るつもりだ、この女」
「現実は非情なのよ、麻枝君……」
「三次元の女に手を出すような根性はないと思っていたが、よりによって仕事仲間に手を出すとは
な。見損なったぞ、麻枝」
折戸は悲しげにため息をつく。なおも反論しようとする麻枝を、いたるは麻枝の頭を踏みつけた足
に体重を掛けることで抑えつけた。
「社長と喧嘩して仕事を放棄して、フリーで静かに活動している吉沢さん達を巻き込んでkeyに反抗
しようとした挙句、しのり〜に対して不埒を働く。完全に有罪だね。情状酌量の余地は、ないよ」
麻枝の頭から足を離し、そのままその足の甲を麻枝の顎に引っ掛けて強引に顔を上げさせる。
恐怖と不安に怯える麻枝に、にっこりと微笑んだ。
「どんな罰を与えようかな〜 社長にも麻枝君の扱いは一任されているんだよね〜」
「地下室に監禁して、米粒に毛筆でシナリオを書かせるというのはどうでしょうか。毎日千粒の米粒
にシナリオを書き続ければ、麻枝さんの邪心も取り除かれると思いますが」
涼元は懐中から硯と米袋を取り出す。
「いや、涼元さんは文章の世界に生きている人だから音の力というものを知らない。ここは俺達音楽
班に任せてくれ。この音洩れしないヘッドフォンを耳に接着して、俺と戸越の作曲したハードコアテクノ
を最大音量で三日三晩聴かせ続ければ、不埒なことを考える脳細胞も綺麗に消毒されるはずだ」
折戸がめくばせをすると、戸越がどこからともなくものものしい音楽機材と高性能なヘッドフォンを
持って現れた。
「涼元さんも折戸さんもなってないでしゅ。そんなことをしても麻枝君が壊れるだけで、わたし達に
何の得にもなりません。麻枝君はむくつけき十二人の男根兄弟の夜伽の相手をしてもらいましゅ。
それなら『CLANNAD』の次回作の参考資料にもなりましゅ」
みらくる☆みきぽんが指をぱちんと鳴らすと、ドアから十二人の筋肉質な男が一斉に押し入ってくる。
「麻枝君ではいい絵がとれないかもしれませんが、それも麻枝君の頑張り次第でしゅ。精々いい声で
泣いて、わたしにインスピレーションを与えるんでしゅよ」
懐から取り出したビデオカメラを手に、みきぽんは嬉しそうに言った。赤、青、緑……色とりどり
のビキニで申し訳程度に股間を隠した男達は獣の目で麻枝を舐めまわす。そのまま身動きの取れない
麻枝の肢体に殺到し、やがて……
「そんなん、嫌じゃーーーーっ!!」
殆んど泣くようにして、叫んだ。
「麻枝君、待ってってばっ!」
いたるがいくら叫んでも、麻枝は決して振り返ってはくれない。こちらを向くことのない背中は
猛スピードで遠ざかり、小さくなっていく。いたるも懸命に走り、背中を追いかけたが麻枝の逃げ足
はやけに速く、二人の距離は時間と共に開く一方だった。
「麻枝君……っ!」
胸が詰まり、視界が滲む。だが、ここで立ち止まっては何にもならない。今、遠ざかる彼の背中
を捕まえなければ、二度と彼の姿を見ることはできないだろう。いたるは唇を噛み、きっと目の前
の背中を見詰めた。
「麻枝君」
右足の踵を上げ、靴を脱ぐ。
「待ちな……」
両足を開き、下半身を安定させる。軸足に体重を掛け、脱いだ靴を右手で持ったまま、大きく右腕
を振りかぶった。
「さいっ!」
全身の力をこめ、手首のスナップを充分に効かせて、右腕を振り抜いた。
投擲された靴は空気を切り裂いて直進し……
すぱこーん!
「ぎゃぱっ!?」
麻枝の後頭部にクリーン・ヒットした。そのまま坂道に倒れ伏し、身動き一つしない麻枝の元に
いたるは片足でけんけんをしながら近寄る。靴を履き直すと、突っ伏したままの麻枝の首を引っ掴み、
自分の方へと顔を向かせた。
「頭蓋骨が変形するかと思ったぞっ! 頭がクルクルパーになったら、どう責任取ってくれるんだっ!」
「麻枝君が逃げるから悪いんでしょっ! 何でいきなり逃げようとするのよっ!」
いたるの怒鳴り声に思わず身体が竦む。麻枝は視線を反らし、口笛を吹くようにはぐらかそうとする。
「は、はて。麻枝とは一体誰のことかな。俺の名はJ.マエダ。大阪のナウなヤングのハートを夜な夜
なエキサイトさせる、パンクでロックなシンガーソングライターだ。俺に触れると火傷するぜ」
「あなたは麻枝君じゃないって言うのねっ! じゃあシルバー王女の十二の欠点を言ってみなさいっ!」
「ちらかしぐせ、おねぼう、うそつき、ほしがりぐせ、へんしょく、いじっぱり、げらげらわらいの
すぐおこり、けちんぼ、人のせいにする、うたがいぐせ、おしゃれ三時間」
「やっぱり麻枝君じゃないっ! パンクでロックなシンガーソングライターがそんなの即答できる
わけないでしょっ!」
「しまったっ! 誘導尋問かっ!」
「そんな馬鹿なことばっかり言って。人がどれだけ心配したと思っ……てっ……」
語尾を詰まらせるいたるに、麻枝は身を焼かれるような罪悪感を覚えた。だが罪悪感を振り切るよ
うに、麻枝は首を振った。ここで引いてしまったら、自分は全てを白状してしまうだろう。吉沢と
久弥に迷惑が掛かるし、自分はみきぽんの邪悪な欲望の餌食にされてしまう。麻枝は懸命に反論の
材料を探し、いたるに反撃を試みた。
「俺のことなんか関係ないだろ、今のお前には。俺はもうkeyにはいないんだから」
「何てこと言うのよっ! 麻枝君は今でもkeyの人間でしょっ。私がkeyのメンバーの心配をして、何
が悪いって言うのよっ!」
憤懣やる方ない様子で怒鳴り続けるいたるに、麻枝も中っ腹になった。keyのメンバーの心配を
しているなんてよく言えるものだ。
「ふん、しのり〜がkeyを辞めさせられた時には何もしなかったのにか?」
しのり〜がkeyを辞めさせられたと信じている麻枝にとっては、ほんの罵り言葉の一つにすぎない。
だが、いたるはその言葉に驚きを隠せなかった。
「何よ、それ? しのり〜がkeyを辞めさせられたって、どういうこと!?」
「しらばっくれたって無駄だ。酷い奴だな、お前も。あんないい奴をむざむざクビにさせるなんて」
「だからクビってどう言うことよっ! あの子は外注の仕事でkeyを離れているだけよっ」
「何だって? じゃあ吉沢さんは馬場社長と密かに繋がっていたとでもいうのか?」
「どうしてそこで吉沢さんの名前が出てくるのっ!」
「しまったっ、吉沢さんの名前までバレてしまったっ」
相手が悪かったようだ。いたるに対して麻枝が秘密を保ち続けられる可能性は、太陽が西から
昇る可能性くらい低い。
「一体あなたは何をやろうとしているの。答えて、麻枝君っ!」
掴み掛からんばかりの勢いで問い詰めるいたるから目を背け、麻枝は口を閉ざす。
いたるの腕が伸び、麻枝の胸倉を掴んだ。そのまま強引に引っ張り上げる。
鼻と鼻がくっつきそうなほどに顔を近づけると、いたるは思い切り怒鳴った。
「答えなさいっ!」
「遅いですね、麻枝」
今日運び込んだばかりの椅子に座ってくるくると回転しながら、久弥は言う。
「やはりマックスコーヒーはあいつには過酷だったか」
窓際に立ち、外の景色を眺めながら吉沢は淡々と呟く。
「やっぱり私、見てきます」
しのり〜が椅子から腰を上げようとした瞬間、部屋の外から声が聞こえてきた。
『だからしのり〜はkeyにいられなくなって、吉沢さんが彼女を助けたんだってば!』
安物のドアでは外の会話は部屋に筒抜けになる。
『あの子がkeyにいられなくなるわけないでしょっ! 何かの間違いよ、それってっ!』
麻枝とは違う声が聞こえてくると、部屋の中の三人は一斉にドアの方向を向いた。
『間違いって何だよっ。彼女がクビになったのが、何かの間違いだっていうのかよっ』
『だからそれを確かめるんでしょっ。早く案内しなさいっ!』
ぽかっ!
「ぐわっ。だから叩くなってば、もう……」
ドアが開き、頭を押さえた麻枝が部屋に入ってくる。息子の兵役の徴集を待つ家族のように緊張
しながら、ドアが開くのを見詰めていた吉沢達だったが、麻枝の後にもう一人の人間が立っている
のを確認すると、三人が三人ともその姿に驚愕した。
「いたる……どうしてあなたがここに……」
しのり〜は目の前の事態が把握できていないように呆然と呟く。いたるも予想の範囲を遥かに越え
た状況に、何も言葉を発することができなかった。吉沢は不愉快そうに眉をひそめ、久弥は何がなん
だか分かっていない様子だった。麻枝はため息をついて、しのり〜に問う。
「しのり〜、俺もいたるも分からないことだらけなんだ。教えてくれよ。君が何をしようとしているのか」
「馬鹿野郎!」
吉沢の怒鳴り声が部屋の空気を振動させた。麻枝は何故怒鳴られたのかまるで理解できない様子で、
立ち尽くす。
がたん、と音がした。音の先で、しのり〜は顔を蒼白にして、立ち尽くしていた。足元にはさっきまで
座っていた椅子が転がっている。
しのり〜は突如走り出し、ドアの側に立つ麻枝といたるの前で立ち止まった。苦しそうな表情で二人を
見たかと思うと、二人の間を割り込むようにして体を進め、部屋を飛び出した。
「お、おい。待てよ、しのり〜」
追いかけようとする麻枝の肩を吉沢が掴む。
「お前の出る幕じゃない。気持ちは分かるがな」
呆然としのり〜の走り去った跡を眺めているいたるに、吉沢は言う。
「樋上、君が行くんだ」
「え?」
「麻枝でもない、勿論俺でもない。君しかいないんだ。本当の意味で彼女を救ってやれるのは」
いたるは少しの間吉沢の顔を見詰めていたが、やがてはっきりと頷いた。
そのまま踵を返し、部屋を飛び出す。後には三人の男達が残された。
「一体何がどうなっているんですか? 俺にはさっぱり……」
「僕もです。教えてください、彼女達に何があったのか」
疑念を露にする麻枝と久弥に、吉沢は首を振る。
「後でちゃんと話す。今は待っていろ。お前らの力で切り開いていける場面じゃないんだよ、今はな」
「君達次第だ、全ては。頑張れよ、二人とも」
今はもうそこにはいない二人を励ますように、吉沢は呟いた。
good job……と。
相変わらず上手いなあ。
麻枝の想像にワラタ。
YETボスも渋いし。
しかし、カウントダウンって何のだろう?
完成? 破局?
>「ちらかしぐせ、おねぼう、うそつき、ほしがりぐせ、へんしょく、いじっぱり、げらげらわらいの
>すぐおこり、けちんぼ、人のせいにする、うたがいぐせ、おしゃれ三時間」
死ぬ程ワラタ、と。
あなたみたいな方が葉にいたら、葉も枯葉にはならなかっただろうに……。
マンセーです。マジ。
麻枝の妄想最高〜。どんどん話に引き込まれてゆきます〜。
ところで旧葉社員の陣内ちからが
よりにもよってビジュアルアーツ系のブランド「裸足少女」の
新作シナリオ担当するみたいですね。OHP参照。
現実も仮想戦記並に面白ぃ……。
事実は小説より奇なり。と
今年に入っての葉鍵関連の動きはマジでそう思えなくも無い
>>326 引き合いに出されて、なにげに嬉しかったぞ、と。
お邪魔します、偽クラナド書き手です。
仮想戦記、毎回楽しみに読ませて頂いています。
自分もこれくらい書けたらなぁ…と、ため息が出ることもしばしばです。
とにかく、キャラが立ちまくりで素晴らしい。格好いい。面白い(w
一方的にライバル視させてもらってます。(←身の程知らず)これからも頑張って下さい。
ではでは、めんてsage。
どちらも俺のような雑魚からすれば、限りなく神に近い位置にいる気がするけど(w
まったく。あんたらは自分の目標だw
2・14
この日が来た。とは言っても実際は違うのだが…
だが、そんな事はどうでもいいのだ。
用は2月14日が重要なファクターであって、真実が覆い隠されようとしても。
そんな…
2001/02/15(木) 04:36のBeatが刻まれたあの日から
国分寺・自室
陣内から電話があった。
『今日はと言う日は忘れられないから一緒にどうだ?』と言う簡単な内容であった。
しかし僕は誰とも会いたくないと事付けると陣内は黙って了解してくれた。
同じ様に閂君とホクちょん(ワタナベホクト)と上田さんからも電話があった。
丁重にお断りした。
こうして見ると、僕も結構、愛情注がれていたと思うと少し嬉しいものだ。
でも、出来る事なら今日は誰とも会いたくはないのだ。
あの時、陣内にしろ閂君にしろ僕にしろ必死だった。
高橋さんに誘われて入社した当時は僕も初々しさとオタク偶像崇拝禁止を打ち立てた
Leafに感動を覚えたものだ。
しかし僕が手がけたホワイトアルバム以降のLeafはかつてほどの勢いがなく、
下川の暴虐ぶりにみんな恐怖したもんだ。
まじかる☆アンティーク以降になるとその破滅ぶりはさしたるもので、Leaf内部
も破綻していたのだから当然の帰結ともいえるのだが…
ともかく、僕が辞表を出す以前にそれが解る筈である。
多分、みんな折戸さんと下川が例の彼女疑惑で辞める時に気がつけばよかったのだ。
下川の変貌に…
下川が現場に顔を出さない事が全ての始まりだったと果たして何人の人が気が付いただろうか?
そんな、まだ数少ない下川の良き人間性をもっていた頃が思い出される。
『記憶の固執』1998年・Leaf伊丹
『原田君。どないよ?状況は』
「はあ、なんとかいい感じで進んでますけど。」
『そうか、本当はToHeartの続編みたいなので一気こう…グイっとやりたかっ
てんけどな、まあ高橋が浮気ゲー作るっていう企画持ってきたからなー』
「まあ、今更そう愚痴っても仕方ないですよ。僕にしろ高橋さんにしろToHeart
みたいな方が疲れますしね。」
『何や?原田君、そうなんかい』
「やっぱドロドロした人間関係の方がシナリオ的には書きやすいですからね。」
『まあ、俺はシナリオ出来んから何とも言えんけど、あれやな。ToHeartに
対するアンチみたいなもんやから売れ線とは違うけど…まあ期待しとるで』
「ありがとうございます。それよりも専務、何か今回おまけ音楽作るとかなんとかって
聞いたんですけど…」
『ああ、そやそや。今回おまけ要素無いんはつまらんなーって思とったんよ。だから
せめてこういう音楽の部分では楽しくやろうかって思うてな、中上(兄)と言うたんよ』
「その辺は専務にお任せします。」
『そうかそうか、んじゃ原田君もちょっと手伝ったてや』
「え、………どこに連れて行くんです?」
『俺の部屋や。』
「ハァ?」
『まあ、ええから来いって…』
「いや、そんな手ぇひっぱらないでくださいよ…」
・
・
・
・
専務自室
『つーわけで、んじゃ原田君にはまず志保を15枚目の所から……』
「いや、ちょっと待ってください専務!全然意味がわかりませんが…」
『だからとりあえず志保15枚目に対するコメントを…』
「意図が僕にはわかりません。」
『まあ、俺等が適当に「ウダルは?」って言うから…なんかリアクションくれたらええねん』
「まあ、とりあえずやってみます。」
『適当でええぞ…適当で…んじゃ本番!!』
「ぐぅぜーんがぁー、いーくつも…」
『オーイ待て待てー!!原田君!』
「ん?」
『自分、こっち来て結構関西式のノリわかってきたなー。』
「なんとなく。」
『俺の前フリをそう使うか?んじゃもう一回するぞ。』
「はい。」
『んじゃ本番…!!いくで!』
【よっしゃーあかりゲット!】
[俺マルチのスペシャル…]
ウダルは?
「えっ、志保15枚」
ヒョォォォォォォォォォォ…
『OKやで!!すまんのー原田君、こんなんに手伝ってもろうて…』
「いや、結構楽しかったからいいですよ。」
『ワッハッハ、そやろそやろ。』
・
・
・
ああ、そういえば楽しかったな。
あの時は下川も現場でノリノリやったし中上さんにしろKY(ラーYOU)にしろ
Leafイズムが全開だったからな。
何がどういう理由で歯車が狂いだしたのか?
Leafが迷走する理由はまるで大東亜戦争が起きた理由を探す様なものだと僕は推測
する。
Leaf東京開発室の誕生
同人誌・アンソロジーなどの禁止令
まじかる☆アンティークの失敗
高橋・水無月コンビの前線撤退
下川の現場離脱によるその部署その部署の分業化
コミケ・リアルこみぱ等によるイベント対立
そして、僕らが愚痴を載せていた掲示板の暴露……
何にしろ、もはやあの歯車の狂っていたLeafを咎める事など……そして
【原初の罪】を問う事など誰も出来ないのだ。
それが出来ると言う奴はよほど悶絶タマラン連中なのだろう。
そんな奴は相手にする必要などないのだ。
ただ、これだけは弁明しなければならない。
高橋さんも水無月さんも決してクリエイト出来なくなってしまった訳ではない。
リーフが二人でしか支えれないようなワントップ状態を潰す為に
僕とKY(アオムラ氏も含む)
はぎやま先生と椎原君
の成長を見込んでの前線撤退だった。
しかし、二人の憶測よりも下川やその他のWeb批評家にも満たない上司共は
結果の出ない人間を処分していった。
部下の成長を見通すほど穏やかな奴等ではなかったということだ。
無論、僕もそんな横暴に耐え切れる訳もなく辞表を出した。
そして、高橋さんも水無月さんもそんなリーフに絶望して去っていった。
誰もが知っている。
人を大切にしない会社は………いずれ淘汰されると言う事を
2001・2・14
この日リーフは間接的打撃を受けた。
僕らの掲示板が公開されたからだ。
中尾さんは陣内に「自分がやった」と言い残して以降、姿を現していない。
でも、僕にはどうしても中尾さんがリークしたとは思えない。
まず、中尾さんがわざわざ掲示板を公開したとして、その真意が見えない。
それに見せる目的も不明だ。
間違っても【いたるとH】発言を見てこの狭い業界、彼女の耳にこれが伝わったとして
中尾さんに彼女が好意を抱くとも思えない。
それに、中尾さんもあんなもんは冗談で書いている筈であるし、(まあ実際萌えなの
かもしれないが……)あれと誇張したのは2chの奴等なのだから…
彼らはそんなに単純に考えちゃイケナイ部分を恐ろしく単純に考え、ストレートに
考えるべき部分をオーバーアクションで邪推する。
そして彼らには真実が提供される事は無く、大衆が望む下衆な欲望の形となって提供
されるのだ。
あの掲示板に関わった人間なら知っている。
一握りの人だけが知っているその真実は墓場まで持って行かなくてはならないと言う事だ。
僕の目の前に飾られてある、あの『色紙』と一緒にね。
2002・2・14
あれから一年が過ぎた。
結局、何が変わったのだろうか?
とりあえず、事実としては結局独立する筈だった東京開発室はあの文書で計画が露見し
未遂となった。(そもそもCHARM君がそんなタマとも思えないがね)
そして、リーフも本当に少しながらだが、過去の精算を図る為に多方面から必死の
展開をしている。(少なくとも僕の目からはね…)
しかし、覆水盆に帰らずである。
一度辞めた人間が戻る事などなく、最早進むしかないということだ。
僕も伊丹の住居から国分寺へと帰った。
そして、今では趣味の探偵モノを書きながらコミケに顔を出すという、何とも風情の
ある生活を送っている。
コミケに行けばあの頃の人間に会える。
あえなくとも陣内や閂君がちょくちょくウチに遊びに来る。
高橋さんも水無月さんも、時が来るのを待って隠遁生活を楽しんでいる。
辞めた奴等もそれぞれの道を歩み始めている。
そして、もう戻れない日常を思い出す事もなく毎日の生活に追われるのだ。
そんな色々あった2・14がバレンタインデーだと言う事すれも忘れていた。
誰もくれる人などいないのだが…
僕は体を寝そべらせ、自室の天井を眺める。
古い家だ。本当に僕の家は貴族なのか?と思うくらい古ぼけている。
ピンポーン
インターホンが鳴る。
(誰だろう?)
僕は体を起こし、気だるい気持ちで玄関へ行く。
「どちら様ですか?」
声を出す。相手は答えない。
残念ながら僕のドアに覗き見するアレは無い。
不用心だが仕方がないので、ドアを開ける。
ガラガラガラ
そして、そこに彼は立っていた。
彼はあの時と変わりの無い微笑みで僕の目の前に立っていた。
僕は「本当に?」と呟いた。
彼は「うん」と短く頷いた。
「マジで?」
「マジ」
「そっか…」
「ああ」
そう、良かった。
失いつづけた2001年、そして2002年も同じ様に繰り返すと思い込んでいた。
でも、違った。
どうやら、失い続ける事は少なくとも今年はなさそうだ。
だから、今は感謝しよう。この喜びを彼に伝えよう。
今はこの言葉だけで十分だ。
「お帰りなさい、中尾さん。」
迂闊にも感動した…
というかこれ書いてるのだーはら本人じゃないの?と思ってしまった私は逝きます。
砂場で遊ぶ子供達の姿も絶えた公園はひっそりと静まり、休日の昼間の光景とはとても思えない。
静寂に包まれた公園の一角で、しのり〜は何をするでもなくブランコに座っていた。ぶら下げられた
鎖を握り、地面を軽く蹴る。錆びつき混じりの摩擦音とともに、木製の椅子が前後に揺れる。ゆっく
りと上下する視点の先で、裸の枝を晒した木々がじっと春を待っていた。
「はぁ……」
白い息とともに、呟きが口から洩れ出る。
「何やってるんだろう、私……」
ブランコは往復運動を繰り返し、決して前には進めない。前進したと思ったら、その時には既に
後退を始めている。自分も同じだ。終わりの無い過ちと後悔の揺りかごに乗り、進める場所なんて
どこにも見つからない。
あの時、いたると麻枝の間を割り込むようにして開発室を飛び出した時、しのり〜は二人の顔を
見ることができなかった。一番知られてはいけない人と一番知られたくない人。稚拙な虚構の崩壊
は想像よりずっと早かった。
北の方向から乾いた風が吹き寄せた。しのり〜は自分で自分を抱き締めるように両腕を胸の前で
組み、寒さを凌ぐ。とてもそんな余裕はなかったとはいえ、コートを着ずに出てきたことを後悔し
た。暖かな陽光は今はもう初春かと錯覚するほどだったが、風はまだ冷たい冬のままだ。
セーターの生地にすがりつくようにして身体を丸め、しのり〜はじっと風が通り過ぎるのを待った。
顔に風が触れないように俯き、首を縮めて椅子に座っているしのり〜の視線の先にすっと影が差す。
しのり〜はゆっくりと顔を上げ、目の前に立つ樋上いたるを見た。
「こんな所にいたんだ、探したんだよ」
さっきまで全力疾走していたのだろう、いたるは動悸の治まらない胸に手を当て、白い息を吐き出
している。しのり〜は返事をせず、ただブランコが揺れるのに身を任せていた。
「……教えられないことなの、私には?」
いたるの言葉には紛れも無い悲しみの響きがあり、しのり〜は肺をわしづかみにされたような息苦
しさを覚えた。自分はいたるが好きなのだ。keyの皆がそうであるように。馬場の言うとおり嫉妬し
ているのかもしれない、取って代わってやろうという野心があったのかもしれない。それでもしのり〜
はいたるのことが好きで、笑顔でいてほしかったのだ。
しのり〜は意を決したように立ち上がり、目の前に立ついたるを見詰めた。いたるもいつになく
毅然とした表情で、しのり〜の鋭い視線から目を背けない。
「あなたに知られることを馬場社長は一番恐れていたんだけど、何を言っても今更ね」
寒さに白くなった唇から淡々と言葉が放たれる。
「いいわ。教えてあげる、私が知っていることの全てを」
それからしのり〜はkeyを離れた麻枝が吉沢の元に身を寄せ、孤立を強いられていた久弥と再び
協力し、独自に作品を創ろうと動いていることを説明した。さらに馬場が麻枝の作品を奪い取り、
利益を独占しようと画策していることを伝え、そしてしのり〜がスパイ役として吉沢の元に送り込ま
れたことを説明した。
いたるは一言も口を挟まず、しのり〜の言葉に耳を傾けていた。しかし、しのり〜の説明が進む
につれ顔色が変わり、馬場がしのり〜をスパイ役に利用しようとした件に説明が及ぶと色をなして
しのり〜に詰め寄った。
「それって、どういうこと? 馬場社長は麻枝君と久弥君を利用するだけ利用して、使い捨てにする
つもりなの?」
「違うわ。社長は麻枝君だけはまだ利用価値があると考えているわ。でも吉沢さんと久弥君は要らな
い。二人を捨て石にして、麻枝君と作品だけを手に入れようと考えているのよ」
「そんな酷い話ないよっ! 麻枝君だって、吉沢さんと久弥君を切り捨てて、自分だけ生き残ろうな
んて考えるはずがないよっ!」
「その通りよ。だから私を原画家として麻枝君の企画に参加させたのよ。原画家がいなかったら、作品
は絶対に完成しないからね。私を通じて作品作りに介入しようとしたのよ、馬場社長は」
「どうして、どうしてしのり〜がそんなことをしなくちゃいけないの? 麻枝君達を裏切ることに
なるんだよ?」
いたるはしのり〜の肩を両手で掴んだ。
「仕方ないじゃない。私が引き受けなかったら、馬場社長は吉沢さん達ごと企画を潰すつもりなのよ。
自分の意に従わない人間は、例え麻枝君だって容赦しないわ」
一際冷たい風が吹き、二人の身体から熱を奪い去っていった。中天から降り注ぐ暖かな陽光も、
もう二人に温もりを与えはしない。
「……どうして私に相談してくれなかったの?」
いたるの問いに、しのり〜は自嘲交じりに答える。
「あなただけは巻き込みたくなかったのよ。私一人で解決できる問題なら、私一人だけが抱えていれ
ば済むことでしょう?」
「そんなに……そんなに信用できなかったの? 私のことが」
肩を掴む腕に力が込められる。決して強くはない力だが、しのり〜はまるで肩に重石を乗せられた
ように感じた。しのり〜はただ沈黙し、いたるから視線を反らすことしかできなかった。
「私はしのり〜のことをずっと友達だと思ってた。一緒に絵を描いて、グラフィックの仕事をして。
辛いことや泣きたいこともあったけど、しのり〜と一緒なら大丈夫だって、そう思ってた」
(やめて)
耳を塞ぎ、叫び出したくなる衝動をしのり〜は懸命に堪えた。いたるは震える声でなおも互いを
傷つける言葉を重ねる。
「麻枝君と久弥君だってきっとそうだよ。言葉には出さないけど、しのり〜のことを本当に信頼し、
大切に思ってる。そうじゃなかったら原画家として受け入れようとするはずがないよ」
「……うるさい」
「どんな理由があったって、しのり〜は麻枝君と久弥君の信頼を裏切ろうとしていることには変わり
がないんだよ。やり直そうとしている二人を。もう一度、一緒に力を合わせて頑張ろうとしている
二人を」
「うるさいっ! あんたにそんな事言われたくないわよっ」
しのり〜の叫び声が人気の無い公園に響き渡った。肩を掴む手を振り払い、いたるを睨む。
「麻枝君と久弥君の信頼を裏切っていることなんて、私にだって分かってるわよっ。じゃあ、あんた
はどうなのよっ。二年前、keyで孤立した久弥君を、どうしてかばってあげなかったのよっ。二ヶ月
前、社長と対立してkeyにいられなくなった麻枝君を、どうして助けてあげなかったのよっ。二人は
あんたのことを本当に想っているのよ。あんたのためだったらどんな辛い事だって平気な顔をして
引き受けるわ。そんな二人に、あんたは何をしてあげたのよっ。自分からは何もせず、ただ守られて
いるだけだったじゃない。そんなあんたの代わりに、二人の気持ちに応えようとしなかったあんたの
代わりに、例えそれが偽りのものだとしても、私が二人のそばにいようとして何が悪いのよっ!」
一気にまくし立てると、口を押さえて喉からこみ上げる嗚咽を堪えた。
いたるがすっとしのり〜に近づいた。しのり〜は思わず一歩退いたが、いたるはそれにも構わず
近づき、腕を伸ばす。
「ごめんなさい」
そのまましのり〜の背中に両手を回し、強く抱き締めた。
女性としては長身のいたるに抱き寄せられ、しのり〜はいたるの丁度胸元の位置に顔を埋める。
鼓動が直接耳に届き、コートの生地越しに体温が伝わってきた。
「何で……何であんたが謝るのよ。酷い事を言ったのは私でしょっ。私はあんたを侮辱したのよ。
汚い言葉であんたを罵って、傷つけようとしたのよ。どうしてあんたが謝るのよ?」
胸元に顔を埋めたまま、しのり〜はくぐもった声を漏らす。
「だって、泣いてるんだよ」
「え?」
驚いて顔を上げる。視線の先でいたるが目に涙の粒を浮かべていた。
「ずっと泣いてるんだよ、しのり〜は。一人でブランコに座っていた時から、ずっと」
はっとして、頬に手をやる。暖かい液体の感触が手の平にあった。
「ごめんね。しのり〜にだけ悲しい思いをさせて、本当にごめんね」
もう一度、強く抱き寄せられた。さっきより確かにいたるの体温を感じる。
温もりが寒さに凍えた身体に沁み込むようで、優しさが渇いた心に触れるようで。
しのり〜は泣いた。
「もう落ち着いたわ。ありがと」
ひとしきり泣いた後、しのり〜は顔を上げ、いたるの身体を押し返した。頬が熱を帯び、赤く染ま
っているのをが自分でもわかる。
「ごめんなさい。服、汚しちゃったね」
腫れた目を擦り、鼻をすすりながらいたるに謝る。
「いいよ、そんなの」
いたるは微笑んで返答する。しのり〜もつられて顔をほころばせた。張り詰めた空も表情を緩めた
ような、そんな気がした。
「しのり〜」
テレビのチャンネルを切り換えるように、口調が真剣なものに変わる。しのり〜は表情を引き締め、
いたるの言葉を待った。
「潰させないよ。麻枝君も、久弥君も。馬場社長がどんな手を使うのかは分からないけど、絶対に二人
を潰させはしない」
「あなたがそう言うのは分かっていたわ。でも、どうやって? 馬場社長の計画を阻止したければ、
スパイ役の私が任務を放棄すればいいわ。でも、それだと原画家がいなくなっちゃうのよ。誰か
原画家になれる人がいないと、麻枝君達の企画はやっぱり潰れてしまう」
「私がやるよ」
「あんたねぇ……」
しのり〜は頭を抱える。やはり彼女は馬鹿なのだろうか。
「あんたが麻枝君の所に行ったら、keyはどうなるのよ。『CLANNAD』はもう発表しちゃってるのよ。
今更『原画家が辞めたので、製作中止です』なんて言える訳ないでしょ」
「両方やるから大丈夫だよ」
「え?」
彼女はしのり〜の想像を遥かに越える馬鹿だった。
「『CLANNAD』は絶対に完成させるよ。納期も守るし、バグも残さない。誰も文句の言えない、完璧
な作品にして送り出すよ」
いたるの表情は毅然としてまっすぐで、その瞳には一片の曇りもない。
「でも、麻枝君達の作る作品にも参加する。私だって麻枝君や久弥君と一緒に作品を作りたいから。
もちろん、しのり〜も一緒だよ。社長のスパイなんかじゃなくって、自分の意思で麻枝君達と一緒
にゲームを作ろうよ。それで社長がしのり〜に何かしようとしても、私が絶対にやらせない。これ
以上、しのり〜に辛い役目は背負わせないよ」
空の中心から少しだけ西に傾いた太陽が雲間から顔を出し、光の道しるべを地面に指し示す。
「しのり〜の言う通りだよ。私は皆にずっと守られてきた。でもこれからは違う。これからは私が皆
を守りたい」
そう言って、しのり〜の手をぎゅっと握る。
陽光をその身に浴び、いたるの姿が柔らかな光の衣に包まれているように見えた。
「だから、あなたを守らせて」
しのり〜は眩しいものでも見るかのように目を細め、ただいたるを見詰めていたが、やがてため息
を交えて微笑んだ。
「あなたには本当に敵わないわね。負け戦なのは初めから分かっていたけど、やっぱり悔しいな」
「ふふ。そうでもないよ。しのり〜の塗りがないと私の原画はだめなのは、しのり〜がいなくなって
すぐに思い知らされたよ。スパイ役に社長が抜擢するほどだもん。油断していたら原画家としても
追い抜かれちゃうよ。負けないからね」
ぐっとガッツポーズを作るいたるに、しのり〜は苦笑した。
翌日、しのり〜が吉沢達の開発室に顔を出したのは夕刻になってからだった。
しのり〜が開発室を飛び出した後、残された吉沢は麻枝と久弥に真相を告げただろう。あの状況
を説明するには、真相を全て伝える他ない。覚悟していたこととはいえ、裏切り行為が明るみに出た
翌日の朝に堂々と顔を出す勇気はなかった。
雑居ビルの狭い階段を上がり、開発室の扉の前に立つ。ドアノブを握る手が震えたが、やがて
意を決してドアを開いた。
目の前の光景に、しのり〜は唖然として驚きを隠せなかった。
「しのり〜ちゃん、遅刻は駄目でしゅよ。もう『さゆりん☆サーガ』の開発は始まってましゅ。
そんないい加減な態度では困りましゅ」
机の上のダンボール箱から荷物を引っ張り出しながら、みらくる☆みきぽんはしのり〜の遅刻を非
難する。二の句が継げず、呆然としていたしのり〜だったが、すぐに我に返った。
「何で、何でみきぽんがここにいるのよ!?」
「変な事を言いましゅね、しのり〜ちゃんも。わたしたち三人が一緒にいるのは当たり前でしゅよ。
しのり〜ちゃんといたるちゃんだけこんな楽しそうな事に参加して、わたしを除け者にするなんて
許さないでしゅ」
「ごめん、しのり〜……バレないようにしようと思ってたんだけど、みきぽんに見つかっちゃって……」
いたるは申し訳無さそうに頭を下げたが、見え見えの嘘だった。いたるはみきぽんも誘ったのだ。
もう一度、皆が同じ空間を共有するために。同じ苦しみを背負い、同じ喜びを分かち合い、同じ夢
を追うために。
それが、ここにいる全ての人の願いだと信じたから。どんな障害があろうとも、皆でなら乗り越え
ていけることを信じたから。
「あなた達、本当にばかね」
しのり〜は俯き、目頭を指で押さえる。
「ひどいでしゅ。わたし達がばかなら、しのり〜ちゃんは大ばかでしゅ」
みきぽんが頬を膨らませる。
「そうね、皆ばかよ。大ばかよ」
しのり〜は顔を上げ、目をこすりながら、微笑む。
「でも、私はそんなばかな、あなた達が大好きよ」
いたるがエロゲーのメインヒロインみたいだ…………………今更か。
ていうか、しのり萌え。タイトルがCoccoの歌なのも萌え。
うだるにも萌え(w
あ、しまった。まだ続きがあったのか(汗
>>366 文章がヘタクソなので分かりにくいですが、一応これで終わりです。
推敲不足スマソ。
どうにか折り返しまで来ることができました。読んでくれている人がいることが励みになります。
職人サンガンバレ〜
残された涼元以下の方も気になる…
ちょっとしたことから涼元が麻枝たちの動きを知って蚊帳の外にいた事を思い知り、
妬みなどから暗黒面を発動させたりする展開をきぼん(w
>>367 あ、いえいえ。365を送信した時点で363までしか表示してなかったので(w
思わず366書いてしまいましたが、あのしのりの締め読めば一区切りってわかります。
というか、あなたがヘタクソだったら自分はどうするって話。
応援してます。
ところで、この同人グループ、折戸はいるのだろうか(w
YET、麻枝、久弥、しのり、いたる、みきぽんで折戸がいなかったら、それこそ蚊屋の外なのだけど。
と、ちょっと軽い疑問を口にしてみる。
うわあい、作者さんこっこさん萌えっぽいです。
自分もファンなので、なんか無駄にめっちゃ嬉しいww
ああ、折戸たん……今君は何をしているのだろうw
そうそう、折戸もTactics時代からいるよね。
俺はあえて彼は協力せず見守って欲しいかな。
YETボスと折戸の会談なんて渋そうで見たいなぁ(w
373 :
名無しさんだよもん:02/02/13 15:04 ID:GQosD2V6
新作あげ
&折戸参戦希望あげ
やはり葉との絡みは無いのかなあ・・・
ここまで来るとリンクし難いか。
昔は「俺の手でリーフを倒す」とかだったのになぁ(w
自滅したような感があるからな・・・
それより鍵の人間関係の方がドラマだね。
本人達これ見てどう思ってるのかが知りたいところ。
涼元サイトで日記更新。スタッフの動向が詳細に出てる。
そいとなんかKey内部が、リアルハカロワ化してるっぽい(w。
378 :
名無しさんだよもん:02/02/15 17:29 ID:DccGyyS3
>うっかり床に倒れたりすると、エロゲー雑誌とティッシュペーパーを周囲に配置された挙げ句、恥ずかしい写真を捏造されがちなので。(実話)
麻枝うpして━━(゚∀゚)━━━!!!!!
涼元ちんER買ったノカ・・・
音量はZじゃなくて効率の問題・・・
380 :
名無しさんだよもん:02/02/16 07:16 ID:4bPMXEJq
ガ━━(゚Д゚;)━━ンage
66 名前: 仮想戦記の1 投稿日: 2002/02/14(木) 12:36
PROXY規制に引っ掛かり、仮想戦記の続きを投稿できなくなる。
規制が解けるのを待つか、こちら側で解決するかしなければならない。
どれくらいの人が読んでくれているのかわからないが、自分でわざわざ
立てたスレッドだ。ラストまでのプロットも稚拙ながらできあがっている
ので、なんとか続きを書いていきたい。
http://green.jbbs.net/movie/568/jigen.html
381 :
ラルク〜アナル〜オナニー〜シェルター:02/02/16 07:24 ID:B0QWsP8p
串はずせば?
いや、生IPで書き込んでも何故か規制くらうときあるよ。
数日放っておいたら直ったけど。
せめて地道に早期復帰を望んでみるテスト。
某ビル地下
足音の一つ一つが耳に響く部屋に男達がいた。
メタルギアソリッド2監督・小島秀夫
「中尾との件以降、我々は何も手が出せてはいない。ときめき12人衆は空中分解の
様子を呈しているし、皆川英臣の北日本義勇軍は動く気配すらない。 上月閣下は
大変お怒りである!」
粘土もこね上げたことのない手を振り上げ、堂々と主張する。
小島は手を下ろし二人の男を見つめる。
一人は、頭にバンダナを締めていた。少し顎鬚(あごひげ)があり年を経ていると
思われるが、歴戦の修羅場を潜り抜けた引き締まった顔だ。
男は小島に『スネーク』と呼ばれた。
もう一人は白髪のややロング、全身が鎖帷子(くさりかたびら)のような服を装着して
いる。やや固い表情であった。
腰には業物の日本刀がある。
男は小島に『雷電』と呼ばれた。
この三人こそが、『FOX HOUND』と呼ばれる部隊の人間であった。
スネークと呼ばれた男は小島を『大佐』と呼んだ。
「お言葉ですが大佐、今LeafにもKeyにも戦いを仕掛ける意味がありません。
確かに、上月閣下の焦りは重々承知です。」
「スネークの意見に同意です。」
雷電が静かに言葉を後にする。
小島は二人の話を耳に傾けると…
「お前達の意見はもっともだが、2・14事件と呼ばれる件以降のLeafの失墜には
成功しているものの、次が無い。このままではいずれあの会社は復活してしまうのだ。
それを閣下は恐れていらっしゃる。」
「では、何か攻撃するような個所があるのですか?」
言葉少なく雷電が尋ねる。
「前々からのビジュアルノベルの版権だ!あそこでLeafに難癖をつければ良い。」
「………」
二人は押し黙って小島の意見を聞く
「かなり据え置きにされているが、Leafにはこの件をメールで送信すれば良い。
従えば我が社としては良し。断れば…お前達の出番と言う訳だ。クックック」
小島は自分の無精髭を触って不気味に笑う。
お前達の出番=Leaf社員に対する武力行使であった。
「勿論、我々コナミとしては、どちらに転がっても良いと思っている。無益な争いは
避けたい所だ。かつてアメリカが日本にたいして戦争を仕向けるように…戦争せざる
状態に身を置かせれば良いのだ。」
「…………」
二人はまた押し黙る。
「それまでの間、体を鈍らせないように訓練を怠るな!」
小島がそういうとスネークは
「大佐、質問が…」
「ん?何だ」
「武器の使用ですが…奴等(ときめき12人衆)は銃器の使用をしていた模様ですが…
我々は…」
「ふむ、それはつまり殺すか嬲るかという事だな、…確かに生かすと殺すでは大きく差
があるからな…そこは臨機応変と行こう。もし相手が銃を持ち出した場合は殺しても
構わん。」
「了解!」
二人が短く返事すると小島は闇の中に消えていった。
小島が消えた後、スネークは腰に据えていた煙草を取り出し火を付けてふかす。
「スネーク、大佐突然呼び出していきなりLeafを攻めるって…一体何があった
んだ?」
雷電の問いかけにスネークは煙草の煙で輪っかを作るとこう静かに言った。
「焦ってるんだろ。閣下がな」
「でも、何か納得がいかない…」
「わからんでもないがな。まだ訓練だけのお前さんにゃ実践は恐いかもしれんが…」
「違う!そうじゃない。」
「なら、何だ?」
「今のコナミにだ。確かにメタルギアソリッド2は確かにいい出来だ。結果も出ている。
しかしだ、それ以外はほとんどただマイナーチェンジを繰り返すだけの作品と版権で
ものを言わせるだけの企業に成り下がっている現状を……」
「…………………」
スネークは煙草を床に落とし足でかき消す。
「俺達は傭兵だ、上に従えばいい…ただそれだけだ」
スネークの声が重く雷電に響いた。
「余計な事を考えるのも今はいいかもしれん。だが任務を遂行するときは雑念を払え。
でなくば命を落とすぞ。」
「油断はするつもりはないが、相手はたかだかエロゲー会社の社員じゃないか。」
雷電のもっともな発言にスネークは目線を遠くにやり呟く
「確かに………ただのエロゲー社員ならな。」
スネークは思う
(ただの一般社員ならたしかに楽勝だ。だがな雷電、この世界には世を忍ぶ仮の姿を
した奴だっているのだ……)
ふと声に出してポツリと洩らす
「DOUBLE FIRST」
「ん?」
「気にするな。今回の任務が降りたとしてもまだ、出番は先だろう…」
「そうだな。」
雷電は思う。
(Leafも確かに腐っているがそれは結局ココも同じだ、切磋琢磨する事を忘れ
惰眠と欺瞞に満ちたここも…)
「もう、ラグランジュポイントの頃のような夢工房はここには存在しない」
悲しみに満ちた声は薄暗い部屋に響き渡る。
彼らの出番は…まだ遠い。
389 :
R:02/02/16 23:37 ID:HUE8F/3I
どうもです。
とりあえず、今回のみ、長々と言葉垂れさせてください。
『誰彼の葉鍵編』でコナミ話はあったのですが、中尾編で終ったのが個人的に不満だったのでタラタラとこんなん書いてしまってます。
如何せんLeafとKeyがメインなのであまり他社が入るのは受けが宜しくなか
ったのは重々承知です。
前に書かれた人がいましたが、あくまでも話のエッセンス程度と思っていただけると
嬉しい次第です。
まあ、「コナミなんか出すなゴラァ!」とおっしゃる方。
それでしたら、脳内補完ということでこの話は無かった事にしてくれると有り難いです。
その場合、風のながれるまま誰かに任せていちROMラーにでもなります。
一応、かなり前からコナミなり北海道なりでネタふってるんで…出来る事なら長く見守っていただけるとこれ幸いです。(まあ、興味なかったらそれはそれで…)
とりあえず、感想があると嬉しい次第です。
「Rなんかいらないよ」
「いらないらない。」
「帰ってKey話みよーぜー」(某CM風)
っていう人が民主主義的に多かったら素直に消えますんで…
新展開だ〜期待します。
ただ個人的にスネークのキャラに違和感を感じてみたり。
あくまで「傭兵」スネークであり、「メタルギア」のスネークとは別なのだとは思いますが。
いきなしテイストが変わった(w
Romantist taste
「何やて。もう一遍言ってみぃ」
馬場社長の口から吐き出される低音が社長室の空気を震わせる。
「はい。私は麻枝君達が同人でやろうとしている企画に、原画家として参加します。keyの名前は
一切出さない、一個人としての参加です」
鋭利な刃物を思わせる馬場の鋭い視線を真正面で受け止めて、樋上いたるは質問に答えた。
椅子に腰を下ろしたまま、馬場は目の前に立ついたるを睨みつける。
「君が同人やろうが、何やろうが、それは君の勝手や。せやけど、keyはどうするつもりや。『CLANNAD』はもう開発の真っ最中や。麻枝だけでなく、君までkeyを飛び出したら、間違いなく『CLANNAD』は潰れるで。それはkeyが潰れるっちゅうことと同じ意味や」
普段の軽妙な口調からは想像もつかない、どすの利いた声を吐き出す。聞く者を窒息させるような
重苦しい言葉にも動じず、いたるは独り、直立を保った。
「『CLANNAD』の作業は当然続けます。私が麻枝君達の企画に参加することで、keyに迷惑を掛ける
ようなことは絶対にありません。今までと同じように『CLANNAD』の開発を進行させれば、何の問題
もない。そうでしょう?」
「一度に二つの開発ラインの原画ができるようなタマか、君が。両方潰すんがオチや」
いたるは何も答えない。視線は動かさず、真っ直ぐに馬場を見据えたまま、固く口を結ぶ。
沈黙が重石となって肩に圧し掛かってくるようで、馬場は内心舌打ちした。keyにおいて馬場との
折衝は、主に麻枝の役目だった。麻枝は鼻っ柱が強く狷介で、容易に馬場の意向に従わない男だが、
直情的で一本気でもある。独立心旺盛なクリエイターを巧みに操縦し、熾烈なシェア争いを勝ち抜いて
きた馬場には、麻枝のような手合いは腹中が容易に読め、却って扱いやすかった。
麻枝がkeyを離れている今、馬場とkeyの現場を繋ぐホットラインは折戸と涼元が握っている。
二人とも麻枝に比べれば表裏を使い分けることはできるが、それだけに直線的な押しの強さがない。
馬場にとって、keyをコントロールすることは実に容易なことのはずだった。
「答えられへんのか。そらそうやろ。身の程を知っとったら『できます』とは言えんわな」
苛立ちを気取られないように、意識して嘲笑う。
馬場は確かに動揺していた。麻枝達の背中に守られ、自分は矢面に立つことのなかったいたるが
過酷な状況に自らを置こうとしていることに。最も御しやすいスタッフだったはずの彼女が今、
馬場に反抗をしようとしていることに。
「君に二つの開発ラインをこなす器量があるとはとても思えん。どっちつかずになって、両方の企画
を台無しにするのが目に見えとるわ。麻枝がそれを受け入れると思うとんのか?」
動揺を振り払い、さっきと同じ言葉を繰り返す。馬場の言葉に反論せず、沈黙を保ち続けていた
いたるだったが、馬場が言い終わるとようやく口を開いた。
「私では力不足だとおっしゃるんですね。私独りではどちらも守れないと」
「そうや。君では無理や。君は『CLANNAD』に専念せなあかん。麻枝達の原画は他の人がやるべきや」
「だから、あの子を使ったんですか? keyから追い出してまで」
視線が険を増した。馬場は平然とその視線を受け流す。
「そうや。麻枝は俺の部下や。同人とはいえ、部下の仕事の管理は上司として当然の責任や」
「あの子にスパイ役をやらせてまで、そんなに企画を手に入れたいんですか?」
「当たり前やろ。俺は麻枝を高く買ってるんや。ええ企画を立てている間は、俺は麻枝を手離しは
せぇへんで」
「あなたが何を考えていようが、何をやろうがあなたの勝手です。私にはどうすることもできません。
私だって、あなたに雇われている身ですから」
そこで言葉を区切り、目をつむる。一呼吸を入れると再び目を見開いた。
「でも、これ以上しのり〜にスパイ役をやらせはしません。あの子を、これ以上の辛い目に遭わせ
はしません。あの子を再び傷つけようとすれば、私はあなたを許さない。そして、麻枝君と久弥君
もあなたの思いのままにはさせない」
気圧された馬場は呆然といたるを眺める。銃弾を装填されたリボルバーは安全装置を解除され、
引き金の引かれる、その瞬間を待っていた。緊張が臨界を突破し、まさに暴発しようとするその
瞬間、いたるが再び口を開いた。
「私はkeyのリーダーです。keyのスタッフを守るのは、リーダーとして当然のことです」
それだけ言うと、身を翻して歩き出す。
そのままドアを開き、社長室を出た。
「男侍らせてにこにこ笑ってるだけのお姫様かと思っとったが、見くびりすぎやったかも知れんな」
いたるの去った社長室で、馬場は独り呟く。椅子に背中を預け、天井を眺めた。
「keyのリーダー、か……お手並み拝見と行かせてもらおか」
天井に備え付けられた蛍光灯が白く光を放ち、柱時計が規則正しく音を刻んでいた。
「ふう……」
社長室の扉を閉め、廊下に出たいたるは力が抜けたようにため息を吐いた。膝がまだ震えていて、
自分の身体の一部でないみたいだった。左胸にあてた手の平に早鐘のような心臓の鼓動を感じる。
社長に面と向かってあんな事を言ったのは初めてだった。社長室にいる間中、氷の刃を喉元に
突きつけられているようだった。馬場から目を反らさず、真正面を向いたままでいられたことさえ
奇跡に思える。
「麻枝君はいつもあんな風にして、社長と議論を交わしていたんだ……」
たった一回のやり取りで、いたるは神経を消耗し尽くした。角を突き合せ、互いの身を削るような
遠慮の無い意見のぶつけ合い。あんな神経戦が日常だなんて、考えるだけで恐ろしい。
「……でも、これからは私がやらなきゃいけないんだよね」
そう、自分に言い聞かせる。心に剃刀をあて、緊張を常に維持する。そうしなければ馬場と対峙する
ことなど出来る訳がない。そして、それが出来なければ、結局自分はただのお飾りのままだ。
いたるは表情を引き締め、震えの止まない脚を拳で叩いた。まだ笑っている膝に力を込め、廊下
の床を踏み締める。顔を上げ、開発室へ戻るべく背筋を伸ばして歩き出した。
真っ直ぐに歩き始めたその背中に醒めた視線を送る、涼元の姿には気付かずに。
規制はどうにか抜け道を発見しました。
また規制を食らうかもしれませんが、その時はその時で対策を考えます。
むぅ……な、何とも言えん。
これを読んだ漏れに出来ることは、ただ呟くのみ。
「おのれ、馬場。」
むしろ馬場よりも
涼ちんがどう動くのか期待。
涼元ちんが…がkeyは空中分解していってしまうのか?
漏れとしては折戸、まごめちんもどう動くのか期待。
いつからいたるがkeyのリーダーに……
醒めた視線の涼元の行動が楽しみだ(w
ところでリアルスタッフの動向はどこで知ればいいのだろう。
>>402 各スタッフの日記、スタッフの知り合いの日記&掲示板その他
馬場シャチョー悪いなあ(w
人格的にはシェンムーと互角か?
現実の馬場社長も悪人ですか?
406 :
名無しさんだよもん:02/02/19 14:44 ID:YnI92KKH
次回、ついに感情を爆発させる涼元ちんが見られるのかな?
すげー楽しみ。
408 :
名無しさんだよもん:02/02/20 21:58 ID:iBNLyL3v
>>404 しぇんむ〜は悪人というより、お馬鹿なイメージが強いな。
暮れかけた冬の陽が、空を赤く染める。ブラインド越しに射しこむ西日が、開発室の床に背の高い
影を落としていた。時計の針は丁度五時の位置を指差している。
「それじゃ、お先に失礼します」
タイムカードを機械に通し、樋上いたるはまだ仕事を続けているスタッフ達にぺこりと頭を下げた。
丈の長いコートを羽織り、ドアのノブを開けて寒風の吹く外へ出ようとするいたるを、みらくる☆
みきぽんが呼び止める。
「ちょ、ちょっと。すぐに仕事上がりましゅから、少し待っていてください。わたしもいたるちゃん
と一緒に行きましゅ」
「もう……早くしてよ」
苛立たしげに床をつま先で叩く。みきぽんは慌ててディスプレイに向かい、キーボードを叩く。
作業中のファイルを保存し、共有フォルダに送った。
「涼元さん、画像のファイルを送っておいたんで、見ておいてください」
丁度対角線上の位置にある机に向かい、声を掛ける。
「はい、どうもありがとうございます」
PCに隠れて顔は見えなかったが、声だけが返ってきた。みきぽんは椅子から立ち上がり、身支度
を整えると、いたるがさっきそうしたようにタイムカードを機械に読み込ませた。
「じゃあ行くよ。時間無いんだから、私たちは」
みきぽんがタイムカードを通したのを確認すると、いたるはすぐに背中を向け、部屋から出て行く。
「わっ、待ってください〜」
いたるの背中を追って、みきぽんもすぐに部屋を飛び出していく。
業務用のヘッドホンを耳にあて、聴覚は音楽の製作作業に集中させたまま、折戸伸治はそんな
二人を無言で見送った。
冬の夕焼けは短い。空を包んだ赤の帳はあっという間に暗闇に塗り潰され、月と星が今日も夜を
彩っていた。だが今の涼元は星月に思いを馳せることはない。空を見上げる心のゆとりなど、今の
涼元には贅沢が過ぎた。
涼元は今日も開発室に篭り、キーボードを叩き続ける。窓から微かに聞こえてくる街の喧騒も、
涼元の興味を惹くことはなかった。
ディスプレイを凝視する瞳は赤く充血し、眉間には皺が深く刻まれている。瞬きする間も惜しい
ように目を見開き、キーボードを叩き続ける涼元の手が突如止まった。
「……っ!」
胃の奥からこみ上げてくる嘔吐感に、思わず口を押さえる。口を押さえたまま立ち上がり、トイレ
へと走った。
「……」
ヘッドホンを耳から離さず、音の世界に心を浸したまま、折戸は視覚だけで涼元の姿を捉える。
「げほっ……」
洋式便器に涼元は反吐をぶちまけた。饐えた臭いが口中に充満し、より一層吐き気を募らせる。
便器の縁に手を掛けて身体を支えながら、咳き込むようにして何度も胃液を吐き出した。
「はぁ……はぁ……」
吐き出す物を全て吐き出し、ようやく嘔吐が収まった。口元にこびり付いた飛沫を袖で拭う。
「体力が無いな……私は」
自分のひ弱さを呪うように呟いた。麻枝のように連日連夜、徹夜で作業をこなすタフネスは自分
にはない。元々会社勤めに耐えられるほど身体が頑強にはできていないのだ。涼元が自分のペース
で仕事を進めることができる小説家という職業を生業とした理由は、そこにもあった。
「麻枝さんは私にkeyを任せてくださったというのに……情けない」
『CLANNAD』のシナリオ作業は現在涼元がほぼ全てを取り仕切っている。涼元の作業の遅れは、その
まま『CLANNAD』全体の作業の遅れとなる。
涼元は連日開発室に泊り込み、膨大な量のシナリオを執筆していた。それは独りで石を積み上げ、
巨大なピラミッドを作ろうとする行為と同じだった。いくら積み上げても完成は遠く、苦役の果てに
背中は軋み、腕は折れる。
こみ上げる絶望と疲労に、涼元はもう一度嘔吐した。
洗面所で顔を洗い、ようやく気分を落ち着かせると涼元は開発室に戻った。自分の机に向かい、
再びシナリオ執筆に入ろうとする涼元の背中に、声が掛けられる。
「涼元さん。少し休憩しないか? 俺にはシナリオの事は全く分からないが、そんな風に気を張るば
かりでは書ける物も書けないだろう」
コーヒーカップを両手に持ちながら、折戸は言う。
「はい……ですが、私はコーヒーはちょっと……」
白い湯気を立てるコーヒーカップから目を反らす。
「あ、これは違いますよ。牛乳を温めてみたんだ。胃が荒れている時はこういったものの方がいい
と思ってな……」
そう言って、コーヒーカップを机の上に置く。カップの表面に白い膜が張っていた。
涼元は一瞬自失したように、折戸を見詰める。
「あ、もしかして涼元さんは牛乳が嫌いだったか?」
視線を受け、折戸は慌てて言う。
「いえ、そんなことはありませんが……」
涼元の言葉に、折戸はほっと胸を撫で下ろす。
「なら良かった。じゃあちょっと休憩にしましょうか。俺もいい加減うんざりしていた所なんだよ。
この残業地獄は」
椅子に腰を下ろす折戸に従うようにして、涼元も席につく。
白い湯気の立つコーヒーカップから、牛乳の匂いが漂ってきた。
「涼元さん……あんた身体は大丈夫なのか? 最近はまともに家に帰ってもいないだろう?」
コーヒーカップに口をつけたまま、折戸は問う。
「開発が修羅場に入ればこうなることは初めから分かっていましたから」
カップを両手で包み込むようにしながら、涼元は答えた。
「……あんたばかりキツイ仕事をやらせることになって、本当にすまないと思っている。俺にも
シナリオが書ければいいんだが、土台無理な話だからな」
「折戸さんには音楽を作るという大事な仕事があります。私はシナリオしか出来ないんですから、
シナリオを書くのに全力を尽くすのは当然のことです」
淡々と言葉を続ける涼元に、折戸は頭を下げた。
「すまない。あいつがkeyを飛び出すのを止めていれば、あんたがこんな苦労を背負い込むことは
なかったんだ。あの時、ぶん殴ってでもあいつを止めていれば……」
「あの時の麻枝さんを止めることは折戸さんでも無理だったでしょう。製作方針の対立は根本的
な問題です。社長か麻枝さんのどちらかが折れる事以外に、あの事態を治める方法はなかった」
「ったく、あいつは本当に要領悪いんだからな……」
ぼりぼりと頭を掻く折戸を見て、涼元は堪えられなくなったように、一つの問いを発した。
「麻枝さんは……戻ってくるでしょうか」
絞り出された問いの言葉に、折戸はすぐに答えを返すことができない。しばしの逡巡の後、ようやく
言った。
「ああ。あいつは社会不適合者だが、keyに関してだけは責任感を持っている。自分が作ってきた
keyという場所を自分から放り出すような真似は、絶対にしない」
「今のkeyは本当に麻枝さんが大切に思うkeyなんでしょうか? keyを創り、育て上げてきた人達は
今はもうここにはいないんです。麻枝さんと久弥さんとが一緒に作品を作る場所が他にあるのなら、
その場所こそkeyと呼ぶべきなのではないでしょうか」
「あんた、知っていたのか……あいつらが今行動を共にしていることを」
「はい」
折戸も涼元も麻枝と久弥が行動を共にしていることはかなり早くから知っていた。それを誰にも
打ち明けなかったのはひとえにkeyスタッフの動揺を恐れてのことである。二人が特に恐れたのは
樋上いたるがその事実を知ることであった。事実を知ってしまえば、彼女がkeyを飛び出し麻枝達
の元に身を投じることは明らかだった。
秘密が洩れることを恐れた結果、折戸と涼元は互いに相談できる相手を失っていたことになる。
「私は樋上さんがこの事を知れば、きっとkeyを飛び出して麻枝さんと久弥さんの元へ行ってしまわ
れるだろうと考えました。だから誰にも知らせず、秘密にしておいたんです。でも、樋上さんはもう
この事を知ってしまった」
「ああ。あいつが今朝馬場社長の所へ直談判に行ったのは、その事についてだろう」
「麻枝さんもいない。久弥さんもいない。樋上さんまであちら側へ行ってしまわれた。本当のkeyは
もうここにはないんです」
涼元の手が震え、握り締めたコーヒーカップの水面がさざなみに揺れた。こんな風に感情を露に
する涼元を、折戸は知らない。一本気で直情な麻枝を後見する、冷静無比な補佐役としての涼元しか
知らなかった。
折戸は思わず立ち上がり、涼元の肩を掴んだ。驚いて顔を上げる涼元に、折戸は言った。
「いや、それは違うぞ。麻枝がいなくなろうが、樋上が飛び出そうがここはkeyだ。あいつらが血の
滲むような思いでここまで大きくしてきた、家みたいなもんだ。親父と喧嘩したガキが勢いに任せて
家を飛び出したからって、そいつはもう二度と家には帰ってこない訳じゃないだろう? 日が沈んで、
腹が減ったら、ばつの悪そうな顔して玄関前をうろうろするんだ。それと同じだ。麻枝は必ず帰って
くる。あのデカイ態度は相変わらずで、でも少しだけ申し訳無さそうに頭を掻きながら、この部屋の
ドアを開けるんだ」
そう、一気にまくしたてた。涼元は何も答えず、ただ呆然と折戸の顔を見ている。
はっと我に返り、涼元の肩から手を離した。涼元は再び頭を垂れ、コーヒーカップの水面に視線を
落とす。不意に訪れた沈黙の隙間を、時計の音だけが埋めていた。
折戸は椅子から離れ、窓に向かって歩き出す。ブラインドの羽根に指を引っ掛け、外の景色に目を
遣った。
「麻枝も久弥も必ず戻ってくる。樋上はきっとそのために二つの開発ラインに参加する決意をしたんだ。
keyを捨て、あいつらで新しいブランドを作るためじゃない。麻枝と久弥を助け、二人がもう一度
一緒に仕事ができるように、力を貸そうとしたんだ。必ず、皆帰ってくる。信じてやってくれ」
涼元に背を向け、外を向いたまま折戸は言う。窓ガラスに反射して映る涼元の姿が、いやに小さく
見えた。
「どうして……信じられるんですか。久弥さんと私とを計りに掛ければ、麻枝さんはきっと久弥さん
を選ぶでしょう。樋上さんもそうです。現実に今、そうなってるじゃないですか」
途切れ途切れの言葉を背中で受け止め、折戸は答えた。
「俺はあんたより少しだけ長くあいつらの事を知っている。あんたの知らない麻枝を、俺は知っている
んだ。だから、信じてくれ」
ブラインドから指を離し、目を伏せる。例え窓ガラスの映し絵でも、今の涼元を見るのは辛かった。
背中の向こうから押し殺した声が聞こえてくる。折戸は自分の鋭敏な聴覚をやり切れなく思いながら、
ブラインドの羽根を手で握り締めた。羽根と羽根の隙間から雲ひとつない夜空が広がる。
「麻枝、久弥……お前らを待っている人が、ここにいるんだ」
折戸は星に語りかけるように、呟いた。
「だから早く帰って来い。馬鹿野郎」
言葉は夜に飲み込まれ、聞く者もなく溶けていく。
折戸カチョイイ
…これ読んで思ったこと。
職人さん、無理しないでマタリと物語を進めてくれ。
(余計なお世話かもしれんが)
なんか涼元ちんと職人さんがかぶった。
むぅ……折戸と涼元は見ですか……
アクティブに動いて欲しいとも思ったけど、キャラが増えすぎるのもなんだし。
終局近くでこの2人がどう動くか期待。
久々に初めの方を読み直してみた。
・・・麻枝ちんが皆から思いっきり邪魔者扱いされてるよ。
特に折戸がなんかすげえ自分勝手に見えるぞ(w
あれは発破をかける為にわざと冷淡な対応をしたんだな、と自分を納得させてみる。
>「俺はあんたより少しだけ長くあいつらの事を知っている。あんたの知らない麻枝を、俺は知っている
>んだ。だから、信じてくれ」
折戸さんめちゃめちゃカコイイよ……
兄貴って呼んでいいですか?(w
「いや、それは違うぞ。麻枝がいなくなろうが、樋上が飛び出そうがここはkeyだ。あいつらが血の
滲むような思いでここまで大きくしてきた、家みたいなもんだ。親父と喧嘩したガキが勢いに任せて
家を飛び出したからって、そいつはもう二度と家には帰ってこない訳じゃないだろう? 日が沈んで、
腹が減ったら、ばつの悪そうな顔して玄関前をうろうろするんだ。それと同じだ。麻枝は必ず帰って
くる。あのデカイ態度は相変わらずで、でも少しだけ申し訳無さそうに頭を掻きながら、この部屋の
ドアを開けるんだ」
葱板の名台詞スレに書き込んできていいですか?
くぁあぁぁぁぁ……
423 :
baka:02/02/21 14:01 ID:r1NNqdo8
手紙呉。
見守る折戸がカコイイね。
>421
冗談だとは思うが、もし本当に向こうに書き込んだら叩くよ(w
正直前に出てた、涼元のけもので暗黒面発揮というのを期待だったな。
今は折戸がいるからそこまで行かないだろうが、折戸に対しても
猜疑にとらわれて暗黒面発揮キボーン。
戸越まごめとNa-Gaが完膚無きまでに忘れられていて哀愁を誘う。
中尾さんが家にやって来た。
「上がっていい?」
仕方がないので、僕はあのモノマネで言ってやった。
「ムカツクムカツク腸むかつく〜ん☆」
彼はニンマリに笑い、言った。
「似てねぇ〜」
そんな、喜怒哀楽が交じり合う人間の日常から…
原田宇陀児
>425-426
あまり作者に負担かけるのは止めとこうよ。
まあ俺もやって欲しいと思うけどさ(w
PM 17:12
中尾さんは家に上がり込むなりいきなり睡眠を要求した。
「ここん所寝れなくて…」
彼がそういうので、僕は狭い自室に布団をひいてやることにした。
(っていうかまだ夕方だぞ。)
中尾さんは、来ているスーツを脱ぎ、トランクスと白いTシャツだけになり僕が
ひいた布団に潜り込む。
とりあえずゆっくりしたいと言った。
【どうする、陣内たち呼ぶ?】
本来ならこれが優先事項だと思うが、なんか僕的にそれだとプライドが許さないので
普通に対応してやることにした。
「まあ、ゆっくりしていきなよ。久しぶりなんだから…」
「んじゃあお言葉に甘えて。」
そういうと約20秒後にはのび太君を微妙に彷彿させるぐらいの速度で眠りの快楽へと
誘われていた。
なんか、こういうのも悪くないと思った。
PM 20:13
中尾さんはぐっすり寝ている。
僕はその傍らで執筆に取り掛かる事にした。
そう、コミックマーケット62に向けての原稿を書こう。
タイトルは何にしようか…
また原田美猫シリーズでも書こうか…
それとも、冬コミの2・14とリーフをモチーフにした話のヒントでも書こうか…
色々と考えながら葉巻をふかす。
そんな事を考えていた時だった。
《見えない物を見よーとしてー》
僕の携帯からBUMP OF CHICKENの『天体観測』がかかる。
実は着信音だ。
090―1×××―××××
高橋龍也
なんとも懐かしい響きの字体だった。
PM 20:15
通話のボタンを押す。
「もしもし?」
『……声からすると、それなりに元気のようだな』
「ええ、それなりにね…」
相変わらずだった。この人は
「そっちはどうです、隠遁生活は楽しいですか?」
『まぁな』
「どれくらい?」
『そうだなぁ〜。一言で言うなら、もうあの業界には戻りたくないくらいだな』
「んふん?イヤイヤ、高橋さんらしいウィットに飛んだジョークですね」
『いや、まあ実際引退に近い状態だし、このまま一般生活するのも悪くないかとな』
ああ、この人らしい発言だな。
でもそれは僕が言いたい所だ。所詮非難と罵詈雑言しか浴びせられない世界で苦しむ
よりは、フェードアウトしてそういう人生を送るのも悪くはない。
『で、今日は何の日か覚えているな?』
「ええ、勿論ですよ。忘れられませんからね…」
そういうと僕は言ってやった。
「平 将門が戦死した日ですね。」
『…………………………』
高橋さんは笑ってくれなかった。
PM 20:19
『お前らしいボケだな』
「ええ、関西で鍛えられましたから」
『聞くまでのない質問をした俺の方が悪かったようだ』
「いえ、いいですよ。もうあれから一年ですね」
『………あの時はすまなかったな。俺と水無月の力が弱いばかりに…』
「もう昔の話です、忘れましょう。僕も高橋さんも過去に縛られる必要はないのですか
ら。もっと前を見据えていきましょう」
『お前にそう言われるとは思ってなかったよ。』
「そうですか?」
『ああ、所でだ』
「何です?」
『あの【紙】は大切にしているか?』
「ええ、勿論ですよ。」
高橋さんが言うと僕はパソコンの横に飾ってあるA4の紙を取り出す。
はぎやまさかげ本人スフィー(醤油のシミ入り)に
アオムラ先生が絵を付け足し
水無月さんが、ら〜YOU絵を書いて高橋さんが僕のテキストにネームを入れた
輝かしい…退職土産が僕の手にあった。
(墓場土産とも言う)
PM 20:23
「醤油のシミだけがなんともいえませんね。これ」
『あるのならそれでいい。』
「いやぁ、こんなこの世に出してはならない貴重な土産は、持たせてほしくなかった
ですよ〜。でも嬉しいですけどね、あの頃に帰れそうで…」
『そうだな………』
「…………………」
『…………………』
僕達は電話ごしで言葉をつまらせる。
戻れないとわかっていても、それを期待していしまう自分達に…
『そ、それはそうとだな』
高橋さんが無言の空間を振り切るように言葉を放つ。
『原田君、今年になってからHP更新してないねー』
ああ、そのことか。
「僕は、すこし休む事にしたんです。アノ世界から…」
PM 20:30
そう、僕は元日のBBSに書き込んで以降何も書いていない。
少しだけネットの世界を閉ざし、悶絶タマラン野郎達の相手を遮断することにしたのだ。
意味?んふん、まあそうだね。一言で言うなら情報量のキャパシティが少々限界に達し
たんでね。脳の小休止さ。
『それも悪くないな』
短く高橋さんはそう言った。
そう、この人に対して意味を覆い隠すような言葉はいらないのだ。
端的で、直線のような言葉だけで十分なのだ。
『しばらくは、原田君もこの世界は離れた方がいいと俺も思うよ。』
「はぁ」
気の無い返事をする僕
『とりあえず、自殺してなくて良かった。』
「人を勝手に殺さないで下さいよ」
『一つの冗談さ』
イヤ、僕には冗談な話ではないのだが…
『声が聞けて良かったよ。しばらく連絡とってなかったからな』
「僕もです。」
『じゃ、また縁があったら』
「はい。」
そうして、電話は途切れた。
PM 20:34
携帯を元の場所に置く。
すると、中尾さんが布団から起き上がって僕をみる。
「相手は高橋さんか…」
「起きたんだね」
「ああ」
「そうだよ、高橋さんだよ。」
「そっか。」
「言わなくて良かったよね?」
「言う必要もないだろ。別に」
「そうだね。」
淡々と会話する、僕と中尾さん。
「なんか食べるものでもだそうか?」
「原田さん、家になにか食う物あるの?」
「カップ麺(某ヌードル)」
すると中尾さんは駄々をこねるように言った。
「えぇぇぇ!数の子が欲しいようー。うぐぅ〜」
(うぐぅは余計だよ。)
PM 20:40
隣の台所に行く。
中尾さんが数の子を欲しいのと言ったので、家にあった数の子とカップ麺
を提供することにした。
「えっと、冷蔵庫にたしかあったかな…おお、あったあった。」
奥の方にあった数の子(推定賞味期限OVER)を皿に入れる。
湯が沸いたのでカップ麺に注ぐ。
「ほら。ありがたく頂戴し給え」
「さすが原田さん。恩に着る。」
そういうと、いきなり数の子を頬張る中尾さん。
さすが、人がケーキ食っている前で数の子を食べれる男は違う。
そして、僕は中尾さんが食している間に再びコミケのネームを考える。
本当に何にしようか?
思いきってフェイクオタク共を満足させるようなモノ
『誰彼…原田宇陀児バージョン』
どうだろう?
アオムラ君には悪いが「あの落としはないだろう」と内心思っている。
あれじゃKYの持ち味も発揮できていないしアオムラ君自信も2chに叩かれる原因
を作ってしまったというものだ。
まあ、僕企画をそのまま彼に移行させただけだし、モチベーションもあったもんじゃ
ないのは事実だが…
ともかく、もし誰彼を真の完成に至らしめるのは僕だけと思うのは…不遜かい?んふん
PM 20:50
「ゴチ!」
中尾さんがカップ麺と数の子を平らげる。
僕は机で走り書きしていた手を止め、後片付けをする。
そして、それが終る。
すると中尾さんは真剣な面持ちで僕を見て…
「原田さん、優しいですね。突然来た人間にここまでしてくれるなんて…」
「僕は元々優しい日本男児だ」
「そうですね、だから心が潰れたんですよ…リーフで」
「…………………」
中尾さんはストレートに物事をいってくれるので少し顔が歪む。
「なんか自分、変なこと言いました?」
「いや別に」
当たりというのがプライド的に許さないので強がる僕
「相変わらずで、嬉しいですよ。」
「中尾さんこそ…」
「さて、ここまでして貰ったからには、原田さんには正直に話さないといけませんね」
中尾さんの顔がより真剣になっていく
「自分がどういう人間だったかということを……」
こうして、中尾さんは語り始めた。
PM 20:49
「例の文書が流出したのはいうまでもないですよね」
「うん。少し聞いていいかい?」
「なんです?」
「僕はどうしてもあれは中尾さんが暴露したとはおもえないんだ、だってあんなものを
公開しても中尾さんにメリットはないじゃないか。それに中尾さんあそこに
『いたるとHしてぇ…うぐぅ』なんて書いていたるが中尾さんに振り向く訳ないと思う
し…。それに、別に中尾さんはいたるが本当に好きって訳じゃないと思うんだけど…」
少し熱っぽく僕が言うと中尾さんはこう答えた。
「原田さんの着眼点は相変わらず鋭いですね。」
肯定を意味する発言
「たしかに、自分は本当にいたるが好きな訳じゃないですよ、勿論冗談です。」
まあ、予想していた返事だ。
「でも、萌えですけどね。」
「どの辺が?」
「存在が!」
力強く言い放つ中尾さん。
これ以上いたる話をすると中尾さんは熱くなりそうだったので話を本来の方向へと僕は
持っていく。
「で、すこし外れたけど、あれってやっぱり中尾さんが公開したんじゃないですよね?」
「そういうと陣内さんに言った言葉は嘘になってしまうんですよねぇ」
そう。あの時中尾さんは苦しそうに陣内に電話で言った。
(誰彼の葉鍵編Death of an/the outsiderより)
陣内「中尾、何故、あの掲示板を公開したんだ?」
中尾「それはきっと…」
中尾「俺が弱かったからでしょう…」
と。
PM 20:51
そう、陣内の側で話の一部を聞いていた僕としては、中尾さんが全ての実行犯だとは
思えなかった。
そして中尾さんがこう口を開いた。
「原田さんは、前に自分がコナミに居た事は知ってますよね?」
「うん、知ってる」
「実はあそこでプログラム以外の仕事もしていたんですよ。」
「え、それは営業とか?」
「いや、そういうんじゃなくて…」
「そしたら販売とか?」
「ううん。もっとこう闇の…」
意味がわからなかった。中尾さんが僕に何を伝えたいのかを…
「本当は原田さんや陣内さんには黙っておきたかった。でも、もうこれ以上は嘘はつ
けないからね。許されないのはわかってる。でも、真実は伝えておかなくてはならな
いんだ。」
そういうと
中尾さんは
ゆっくりとした口調で
僕に言った。
「自分はコナミの産業スパイなんです」
ある程度予測はしていたが本当だと思った瞬間頭が白くなるのを体験した。
PM 20:58
中尾さんの話はそれこそ唐突だった。
「でも、原田達とはそういうので付き合いをしていたわけじゃない!今更だと思われ
てもそれだけはわかって欲しいんです。」
ああなんだ。ソンナコトか…
「うん。だってリーフに僕達と一緒にいた時の中尾さん、とてもじゃないけど楽しそう
だったじゃないか。仕事はイヤイヤでも遊んでいる時と萌えている時の中尾さんを見て
る僕が言うんだ。信じるよ」
そう、信じているのだ。すくなくともあの時の忌まわしい上司共よりは今の中尾さんは
100%信じられる。
そして何を思ったか僕は中尾さんを…
「は、原田さん?」
中尾さんの体を……僕の胸に寄せる。
「………………………………………………」
「………………………………………………」
中尾さんは言葉を閉ざす。
僕も同じ様に。
時計の針が9時丁度を知らせていた。
PM 21:00
ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!
古い柱時計が九回鳴り響く。
僕は中尾さんを抱いたままで…
中尾さんは僕に抱かれて…
何も言わない空間でも、今はこのままで良かった。
コナミがどうだの、スパイがこうだのは今の僕にとってはどうでも良い事なのだ。
ただ、こうして中尾さんが存在して
僕が信じれる友人を受け止めて
それでよかった。
でも、中尾さんは僕から体を離し…言葉を放つ
「ありがとう、原田さん。」
「それはこっちの言う台詞だ」
「うん、それでもいいよ。だから原田さん、自分はそろそろあの会社と決別しなくては
ならないんだ。」
「??」
意味が判らない
「じつはね原田さん。コナミってのはゲームだけじゃなくそれ以外でも利益を出して
いるんですよ」
「うん、それは知っている。版権の事だよね?」
「それもそうなんだけど、それを手にするまでの過程でどうするか知ってます?」
「特許申請とかじゃないのかい?」
「違う。邪魔する人間を闇の世界へ叩き込むのさ…」
「…………………」
少し、背筋に悪寒が走った。
PM 21:12
中尾さんはこう付け加える
「自分はただのスパイだからあんまり戦闘技術みたいなのはないけど、コナミと言う
会社はゲームにちなんだ戦闘チームがあるんですよ。」
「ほう。」
きな臭い話は好きなので興味を持つ僕
「自分がしっている限りでは『ときめきメモリアル』『Ring Of Red』
『メタルギア・ソリッド』の3つぐらいですかね。まあ、キャラにちなんだコード
ネームで傭兵チームみたいなのがいるんですよ。まあ自分は違うけど…」
「ふむふむ」
「まあ、そういう奴が他社に忍び込んで…弱みを見つけて脅しかけるんです。まあ
なんでもいいんですけど、例えば「音楽が○○と似ているじゃないか!」とか
言って難癖つけて…そして陰で戦いを挑む。コナミが版権に強いのはそういう所なん
ですよ」
「なるほど。」
中尾さんの言っている事はかなり説得力がある。
しかし少し疑問がある。
「中尾さんは『シモン』ってコードネームなんだよね?」
「ええ」
「『悪魔城ドラキュラ』から取ってるんだよね?」
「そうです。」
「『悪魔城ドラキュラ』ってチームは無いの?」
「無いですよ。」
さらりと言う中尾さん。
「いや、正式にはあったんですけど、みんないなくなったので…」
僕は答えが見えたので、そこを深くつっこむのはやめた。
PM 21:09
「まあともかく、自分は過去と決別しなくてはならない。だからせめて、奴等に
一撃を加えなければならないんです。そして、リーフを裏切り、Keyを裏切った
自分は、自らの手で精算しなければならない…」
嫌な予感がした。
「まて!何をする気なんだ?」
僕は立ち上がって中尾さんのしようとする行動を制止する。
「自分の手はもう汚れているんです。だから、もう原田達さんと一緒に…」
「言うな!!」
叫ぶ
心から…
「そんなのは関係ない!これから陣内や僕と一緒に楽しくやっていけるだろ?」
「…………………」
「居場所がないなら僕の家で住めばいい。なーに、これでもコミケじゃ壁サークル
なんだ。中尾さんくらい増えてもなんら僕に生活は影響無い。それに知っているかい?
僕の家は貴族なんだ。今はどこからと知れぬ親族が死に遺産が入って来るんだ。
金の心配ならしなくていい。だから、ここにいればいいじゃないか?できるだろ?」
「…………………」
中尾さんは首を縦に振らなかった。
PM 21:14
「陣内も閂君も中尾さんが生きていたと知ったら大喜びさ!彼らなら何かと手助けして
くれる。まだ知らせていないけど僕達が力をあわせればなんとかなる。」
テンションを上げ、魂の底から叫ぶように伝える。
(ハナレルナ)
「この一年、ずっと音沙汰すらなかったんだ。少し位…いやずっといたっていいじゃないか…」
(ハナレルナ)
「昔の事なんか忘れればいい。リーフだって何もしてくれなかったじゃないか!
過去を振り返っても仕方が無いんだ。今を見つめようじゃないか!
ほら!10分以内のメロディとリリックでウルフルが代弁してくれてるじゃないか!
だから……」
(ハナレナイデ)
ガシッ!
気が付けば
僕は
中尾さんに
抱きしめられていた。
PM 21:19
「やっぱり原田さんはいい人だ。」
(チガウ)
「原田さんがそういう風に思っていてくれているから…」
(チガウ)
「貴方達が平穏に暮らせる為に犠牲になれる…」
(ヤメロ)
「ありがとう、原田さん。そして……」
中尾さんが一瞬変な動きをする。
言葉に出来ない。
意識が…
途切れる。
そして倒れる。
ただ、一言
「…また生きてたら逢いましょうね…」
と、耳に響いた。
??:??
チュチュン…チュチュン
鳥の泣き声が聞こえる。
ハッと気が付き時計を見る。
時間は…10時を指している。しかし外は明るい…
あれから一日が経ったのか?
(そうだ!中尾さんだ!中尾さんは…)
僕は辺りを見回す。
しかし、中尾さんはいない。
布団もきちんと畳まれている。
部屋も何故か整理整頓されている。
そんなことはいい。中尾さんは……
いや、わかっている。彼はもうここにはいない。
ふとパソコンが載っている机を目をやる。
そこに白い紙があった。
汚い字でこう記していた。
2・15 AM10:12
【原田さんへ
昨日は突然来て何も言わず世話してくれてありがとうございます。そして何もお礼も
せず出て行く僕を許して下さい。
僕は今から過去の贖罪を償う為に戦いを仕掛けに行きます。
勝てるかどうか解りません。
でも、やらなくてはなりません。
原田さんは手記でこう記していました。
『ひとりの人間には、命を懸けて戦う戦友と仇敵しかいない、という状況になれば
それはきっと、幸福だろう』
まさにそれです。
だから、どうか原田さん達には光りある明日を…
そして、自分には過酷な日々を…
ありがとう。
中尾】
AM 10:20
んふん。いいカッコの付け方じゃないか…
多少Airの文章がある所なんてらしいね。ウン!中尾さんらしいよ
彼は、僕や陣内達に迷惑をかけない為に戦いに出たのだろう。
そして彼一人が罪を着る。
だが、残念だがそうはいかない。いかにカッコつけて一人で頑張ろうとしてもこの僕に
トンデモナイ話を聞かせた以上、僕も参加する。その《陰の戦争》に。
僕はそう思い立つと国分寺の家を出る準備をする。
いつものジーパンに青のジャケット
そして財布に少量の銭とコミケの残高があるカード
うん、十分だ。これだけで十分だ。
そして僕は呟く
「銃をよこせ!僕も行く」
行く先は…わかってる。
449 :
R:02/02/23 22:49 ID:oOSsaAg5
どうもです。
今回はかなり悩みました。
そっちょくな感想おねがいします。
ついでにあげておきます。
んふん。
燃え
中尾×だーはら萌え〜……なのか?
Key(馬場)VS 麻枝
Leaf(退社組) VS コナミ
なのかな?
んー色々思うとこがあるけど・・・
とりあえず途中、「801!?」とビクーリした(w
こんな直球、同人女でも書かないと思われ。誉め言葉だ。
そういえば…、手を結ばせようとしていた一一はどーなんったんだろう?
EDはやはり皆殺しか?(w
__________________
___ /
/´∀`;::::\< Leaf編とKey編がうまく絡んだら最高だね。
/ メ /::::::::::| \__________________
| ./| /:::::|::::::|
| ||/::::::::|::::::|
今って書き手2人しかいないの?
少しずつ暖かさを増す陽光が、春の気配を感じさせる。小春日和の空の下、穏やかに時は流れ始め
ているように見えた。
「俺は今から音楽の収録に出かけるから、後は任せたぞ」
机に向かい、独りシナリオを書く久弥に麻枝は言った。
「ああ。分かってるよ」
視線はディスプレイに集中させたまま、久弥は応える。麻枝はその言葉を聞くと久弥に背中を向け、
そのまま開発室のドアを開けた。温もりを帯びた風が部屋の中に吹き込む。麻枝が外に出て、扉を
閉めると春の匂いを漂わせ始めた風だけが開発室に残り、久弥の顔をくすぐった。
「もう春が来たみたいだね」
麻枝の去った後のドアを眺めながら、いたるは久弥に言う。
「ああ。もう春だな」
久弥もそう応えた。
久弥にとって、こうして皆と一緒に仕事をするのは実に二年ぶりのことだった。この場所が出来上
がるまでには幾多の紆余曲折があり、それだけに久弥の感慨も深かった。
しのり〜が馬場の命令を受け、スパイ役として吉沢の元に潜り込んだ真実を知った麻枝の驚きは一
通りのものではなかったが、しのり〜を責めることはしなかった。さすがにスパイ役を続けることは
認めなかったが、麻枝は彼女に引き続き原画家として、企画に参加してくれることを希望した。だが、
しのり〜はメイン原画家としての誘いを強く辞退し、あくまでグラフィッカーとしていたるのサポー
トに徹することを望んだ。
しのり〜は身を引き、再びいたるが原画家として麻枝達の作品に参加することになったのである。
いたると一言二言会話を交わすと、久弥は再びシナリオの執筆作業に没頭し始めた。一度作業に集
中すると、他の事にはまるで気が回らなくなる。久弥は仕事中に無駄話をする事を好まないし、いた
るもあまり口数の多い方ではないので、必然的に沈黙が空間を支配することになる。響くのはキー
ボードの打鍵音だけだった。
一つのシーンのシナリオを書き上げると、久弥はようやく集中を解き、ディスプレイから目を離した。
椅子に座ったまま大きく背伸びをし、窓の向こうに目を遣ると、もう日は落ちかかっていた。窓から
射し込む西日が開発室を赤く染めている。
「今日の仕事はもう終わり?」
いたるの声に、久弥は窓から視線を外し、声の方へと向き直った。
「ああ。今日は結構いい感じでシナリオが書けたよ。いつもは終電ギリギリまで帰れないんだけどな」
「遅筆だもんね。久弥君は」
「威張れることじゃない」
ぶっきらぼうに答える久弥を、いたるは微笑みながら見ていた。
「久弥君は、どうしてこの企画に参加したの?」
「え?」
問い返す久弥に、いたるは言う。
「あのね……どうして久弥君は、麻枝君と一緒にやろうって思ったのかなって。それが気になって。
私には二人の事はよく分からないけど、色々あったみたいだから」
久弥の顔色を伺いながら、慎重に言葉を選ぶいたるを、久弥は黙って見詰めている。しばらくそう
していたかと思うと、すっと椅子から立ち上がった。不愉快な話題を振ってしまったかと、不安な表
情を浮かべるいたるに、久弥は言う。
「少し……外に出ないか。気分転換をしよう」
逆光に照らされた空に、バスケットボールのシルエットがきれいな放物線を描く。ボールはそのまま
ゴールネットに吸い込まれ、地面にバウンドした。
久弥に連れられ、いたるは近所の路上バスケットのコートに来ていた。長方形の空間を囲む金網が
地面に格子状の影を落としている。夕陽の赤に溶けたリングボードが輪郭を滲ませ、視線の先に浮か
んでいた。
リングの真下に落ちたボールを久弥は手に取ると、器用な手付きでドリブルを始める。そのまま
リングから離れ、さっきより遠い位置、地面に引かれた白の半円の外側まで距離を置いた。ボールを
両手で持つと、さっきと全く同じ、精密機械を連想させるフォームでシュートを放つ。夕焼けの空に
再び完璧な放物線が描かれ、ネットに吸い込まれた。
目の前の職人芸に、思わずいたるは拍手を送った。
「すごいね。昔やってたの?」
「高校の時だけだけどね。ちょっと齧った程度だよ」
ネットの真下でボールを拾い上げながら、久弥は答える。想像もしなかった久弥の一面に、いたる
は驚きを隠せなかった。
「でも、こんな遠い所からシュートが入るなんて、やっぱりすごいよ」
足元の白線とゴールリングを交互に見ながら、いたるは感嘆する。
「ちゃんと練習すれば、誰にだってできるようになる。いたるもやってみないか?」
「む、無理だよ。こんなに遠いのに、ボールも届かないよ」
「いきなり3Pはそりゃ無理だろうけど、もっと近くからなら入るぞ」
そう言って、久弥はいたるの腕を取り、ゴールリングの近くまで引っ張る。
「ここからなら入るだろう」
ボールをいたるに手渡した。
頼りなげに放たれたボールは、リングに触れることもなく失速し、地面に空しく転がっていた。
「はあ……やっぱり駄目だよ。全然関係無いところにボールが飛んでいくよ」
ゴール際の白線の上に立ちながら、いたるはため息を吐く。
「初めは誰だってそんなものさ。コツさえ掴めば、すぐに入るようになる」
久弥はボールを拾い上げ、再びいたるに手渡す。
「手投げだと入らないよ。ちゃんと膝を使って、体全体でボールを運ぶことを意識するんだ」
そう言って、いたるの膝をぽんと叩く。その言葉に従い、膝を少し曲げて下半身に力を込める
いたるに、久弥は続ける。
「うん。そうやって腰から下をちゃんと意識して、肘はもっと上げるんだ」
いたるの肘を取り、額の辺りまで上げさせる。
「こう?」
「ああ。後はしっかりとゴールを見て、そのままボールを放るんだ」
いたるは顔を上げ、視線の先にあるゴールリングを凝視する。
「えいっ」
掛け声とともに、ボールが放たれる。ボールはリングの枠に当たり、リングの上をぐるぐると
回っていたが、やがてネットに吸い込まれた。
「あっ。入った、入ったよっ」
嬉しそうにリングを指さすいたるに、久弥も表情を緩ませる。
「中々スジがいいぞ。教えられてすぐに実行に移せる奴は、センスがある証拠だ」
「教え方がいいからだよ、きっと」
「んなわけあるか」
夕陽に顔を向け、久弥は言い捨てる。地面を転がっているボールを拾い上げると、両手でくるくる
と回し始めた。
「でも……初めてだな。こうして人に教えるのなんて」
「そうなの? せっかく上手に教えられるのに」
「ああ……僕はいつも独りで練習していたからな。誰かに教えられたこともないし、誰かを教えたこと
もない。人に頼るのが嫌だったんだ、僕は」
太陽は地平線すれすれに張り付き、地面には二人の背の高い影が落ちている。
「僕は自分の技術を磨きさえすれば、それでいいと思っていた。チームメイトと一緒に練習すること
さえ意味がないように思えて、自分独りでメニューを組んで、自分勝手にやっていたんだ」
手の中でボールを転がしながら、久弥は言う。
「確かにチームで一番上手だったのは僕だった。試合で一番点を取ったのも僕だった。でも、僕は
チームにとってプラスになる存在ではなかった」
淡々と言葉を続ける久弥を、いたるはただ見詰めている。
「ある公式戦の日、僕はレギュラーを外された。代わりに入ったのは、僕よりずっと下手な後輩だ
った。ベンチに座りながら、思ったよ。『僕なしで勝てるものなら勝ってみろ』ってね。結果は、
圧勝だった。僕が試合に出るより、ずっといいゲームをしたんだ。後輩は僕より技術は拙かった
けど、他のチームメイトを信頼し、皆もそれに応えてお互いがお互いを助け合って得た勝利だった。
」
沈めた過去が今そこに映し出されているかのように、久弥は空の一点を見詰めている。
「それから僕は、二度と試合に出る事はなかった。誰とも」
「そんな……」
「いいんだ。本当の事だったんだから。それから僕は何をするでもなく高校を卒業し、この業界に
就職した。シナリオライターは独りでもできる仕事だと思ったから」
空から目を外し、久弥は地面に視線を落とした。長く延びた自分の影を眺めながら、言葉を続ける。
「それからはいたるも知っている通りだ。僕は『Kanon』を最後にkeyを離れ、独りでやっていこう
とした。同じシナリオライターとして、麻枝の存在が怖かった。僕がいなくても麻枝がいればkeyは
やっていける。そう、皆に言われるのが怖くって、自分から逃げ出したんだ。僕は変わっていないん
だよ、バスケを辞めたあの日から」
「久弥君……」
「僕は人と一緒に何かを成し遂げることができない。僕は独りでいることしかできないんだ」
辺りは次第に暗くなり、地面の影も色が薄らいでいく。
「自分から背を向けておいて、虫のいい話だとは思う。でも、もう一度だけチャンスが欲しいんだ、
僕は。プライドが高すぎて、自分以外の誰も認める事ができなかった僕だけど、麻枝だけは違う。
あいつを信頼することはできるし、あいつの言葉には従える。麻枝と一緒なら、僕は変われるのか
もしれない」
薄墨のカーテンに覆われ始めたゴールリングを見詰め、久弥はボールを構える。
「バスケをやってた頃、誰も僕にパスをくれなかった。でも、それは僕が誰にもパスを送ろうとしな
かったからだ」
ぐっと膝を曲げ、地面を踏み締める。
「僕は変わりたいんだ。人を信頼できるように。シュートを打つだけでなく、パスを送れるように」
シュートモーションから一転、素早く手首を返し、いたるの元へボールを投げた。
鋭いスナップで放たれたボールは空気を切り裂き……
べし。
「ぐあ……」
いたるの顔面にめり込んだ。そのままボールはいたるの足元に落ち、ころころと転がっていく。
「なにすんのよっ!」
真っ赤になった顔を手で覆いながら、いたるは叫んだ。
「それはこっちの台詞だっ! 僕のパスをガッチリキャッチして、『ナイスパース!』の声とともに
起死回生の逆転シュートをゴールに叩き込まないと、僕がパスを送った意味がないだろっ!」
「いきなりボールを投げてこられたのに、そんなのできる訳ないでしょっ! 投げるんだったら、投
げるって言ってからにしてよっ」
「ばかっ、投げるって言ったらパスにならないじゃないか。敵にカットされてしまうだろ」
「どこに敵がいるのよっ」
「練習は常に敵がいることをイメージするもんだ」
「何でいきなり練習を始めるのよっ」
夜に包まれ始めたバスケットコートで、二人は互いに文句を言い始める。
空に浮かぶ月だけが、そんな二人を見下ろしていた。
466 :
名無しさんだよもん:02/02/28 11:30 ID:zEwUxAy3
新作あげ。久弥燃え&いたる萌え。
うわあああん久弥萌えぇぇぇぇぇっ
うお、カッコいいぜ久弥。最高だ。
バスケから話をそう持ってくるとは相変わらず凄いなぁ。
オチにワラタ。
469 :
名無しさんだよもん :02/02/28 16:08 ID:Uo57TuAi
・・・Pia3思い出したの俺だけですか(;´Д`)
久弥カコイイ
>いきなり3Pはそりゃ無理だろうけど
ここにドキッとしたのは私だけですか?(w
漏れも漏れも!
(;´Д`)ハァハァ
だーま×いた×ひさ!?>3P(;´Д`)
(;´Д`)
(;´Д`)
(;;;´Д`)
久弥×しのり〜派って俺の他にいないかな?
……いないよな。
477 :
:02/03/02 18:28 ID:d1sJNaE3
>「ぐあ……」
> いたるの顔面にめり込んだ。そのままボールはいたるの足元に落ち、ころころと転がっていく。
激しく萌えた
おりと×みきぽんは基本なんですよね?(どういう基本だ)
みきぽん女王様に虐げられ続ける折戸たん?(藁
もし、麻枝×いたる、久弥×しのり〜、折戸×みきぽんと3組カップルができたら、
涼元が余るね。
……まごめちんとヤオイ? それともいたるから麻枝を奪うのか?(藁
ここで有島の略奪愛が発動して(以下略
馬場社長の体から離れられなくなってその走狗となる涼元ってのはどうよ(藁
どうよって言われても……(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
「それじゃ、僕はもう帰るよ」
開発室のドアノブに手を掛けながら、久弥は机に向かって難しい顔をしている麻枝に声を掛けた。
「ああ。ご苦労さん」
ディスプレイから目を離さずに、麻枝は応える。久弥はそんな麻枝の様子を確認すると、それ以上
は何も言わずにドアを開けた。開かれたドアの隙間から、暖かい風が流れ込んでくる。春の匂いを帯
び始めた風も、外に出た久弥がドアを閉めた音も意識の外に置いたまま、麻枝はディスプレイを睨み
つけていた。
日が沈み、街を夜の帳が包んでも麻枝は席を立とうとはしなかった。椅子に座って足を組み、キー
ボードを少し叩いたかと思えば、すぐに削除する。納得の行く文章を書けない自分に苛立ちを感じ、
眉間に寄せた皺を人差し指で押さえた。
「ちょっと休憩したら? あまり根を詰めるのはよくないわよ」
麻枝の背中に、しのり〜の声が掛けられる。振り返った麻枝の視線の先で、しのり〜が両手にコー
ヒーカップを持っていた。
「麻枝君は何も入れない派だったよね? 粗茶ですが、どうぞ」
白い湯気の立ちこめるカップを麻枝の机の上に置く。
「コーヒーなのに粗茶、って言うのもおかしな気がするけどね」
そう言って、しのり〜は麻枝の隣の椅子に腰を下ろした。
「本当に粗茶だな」
コーヒーカップに満たされた黒色の液体を一口飲んで、麻枝は呟く。
「それがコーヒーを入れてくれた同僚に対する言葉なのかな?」
「申し訳ありませんでした。大変美味しゅうございます」
微笑みは絶やさず拳を握るしのり〜に、麻枝は深々と頭を下げた。
「それにしても、来ないわね」
空になったコーヒーカップを手の平の上に乗せたまま、しのり〜は訝る。
「しのり〜のお通じか?」
すぱりーん!
コーヒーカップが麻枝の頭にヒットする。カップは砕け、散乱する破片が蛍光灯の光に乱反射した。
「のごぁっ!」
麻枝は悶絶し、床に崩れ落ちた。
「何でそこで私の便秘の話になるんじゃっ!」
「あ、頭が。カップの破片が頭に刺さって」
頭を抱え、床を転げ回る麻枝には一瞥もくれず、しのり〜は両腕を胸の前で組み、思案する。
「もういたるがここに来なくなって三日になるのよ。『CLANNAD』の仕事が忙しいのは分かるけど、
今までは一日おきにはどんなに忙しくっても来ていたのに」
「目がかすんできた……破片が脳細胞に届いていたんだ。俺はもう駄目だ。享年二十七歳。短いが、
充実した人生だったぜ……」
「『両方ともやる』ってあの子は言ったけど、大丈夫なのかな……いくらあの子が頑張っても、
独りで二つの企画の原画をやるのは、やっぱり……」
「なあ、しのり〜……俺はもう、ゴールしてもいいよな……」
足元にすがりつく麻枝の腕を蹴り払い、しのり〜は呟いた。
「みきぽんがいるから大丈夫だとは思うけど、やっぱり心配だな……馬場社長さえ許してくれれば、
私も手伝えるのに」
「人の話を聞けっ!」
「それはこっちの台詞よっ!」
「はぁ……」
しのり〜はため息を吐くと、椅子からすっと立ち上がった。麻枝は床に這いつくばった姿勢のまま、
しのり〜を見上げる。すたすたとドアの方へ歩き出したしのり〜に、麻枝は言った。
「来たのか?」
「手を洗いに行くだけよっ」
きっと振り返り、怒鳴るしのり〜に、麻枝は怪訝な表情を浮かべる。
「いや、いたるが来たのかって聞いたんだが」
「なっ……」
顔を赤く染めたしのり〜に、麻枝は続ける。
「便所に行きたいんだったら、早く行けよ。我慢は体に良くないぞ」
ぶんっ!
「おわーっ! 消火器を投げるな、消火器をっ!」
麻枝の叫びを拒絶するようにドアを叩きつけ、部屋を出た。
「もう……人を一体何だと思ってるのよっ」
苦々しげな言葉が、水を流す音にかき消される。
「いたるにもあんな調子なのかな、あいつ……」
水道水で洗った両手をハンカチで拭くしのり〜のズボンのポケットが、突如振動に震えた。
「はい、もしもし」
ポケットから携帯電話を取り出し、通話ボタンを押すと、切羽詰った声が聞こえてきた。
「しのり〜ちゃんでしゅか!? いたるちゃんが、いたるちゃんが大変なんでしゅ。もう三日も
家に帰してもらえてないんでしゅ!」
「な、何言ってるのよ。ちゃんと説明してよ。何が何だか分からないわよ」
「涼元さんが、涼元さんが原画を全部描き直すように言ってきて、いたるちゃんも嫌だって言え
ばいいのに、涼元さんの言う通りに描き直してるんでしゅ。わたしも手伝ってましゅけど、全然
追いつかないんでしゅ。このままだと、いたるちゃんが体を壊してしまいましゅ!」
「と、とにかく落ち着いて! とにかく今すぐそっちに行くから、詳しい事情はそこで話して!」
二ヶ月ぶりにKey開発室の扉を開けたしのり〜は、目の前の光景に思わず息を呑んだ。夜も更け、
静寂に包まれた開発室。その一角、いたるの机の上にうずたかく原稿が積み上げられている。椅子
に座っているいたるの姿も隠した原稿の柱は、今にも自重で崩れ落ちそうだった。
「ちょっとあんた、何よこれ?」
机の側に駆け寄ったしのり〜の声に、いたるは焦点の定まらない視線で振り返る。
「あれ? どうしてしのり〜がここにいるの?」
「どうしてって……」
「わたしが頼んだんでしゅよっ!」
二人の背中に、みきぽんが叫ぶ。しのり〜は振り返り、みきぽんに問う。
「説明してちょうだい。これは何? どうして今になって原画の描き直しなの?」
「作品の質を上げるため、では納得できませんか?」
みきぽんに代わって答えるその声の先に、涼元が立っていた。
しのり〜は一瞬躊躇したが、すぐに涼元を追及する。
「納得できませんね。いたるは今まで良くやってきています。彼女の仕事は充分に『CLANNAD』の
企画の求める水準をクリアしていますし、決して描き直しの必要があるとは思えません」
しのり〜の言葉を、涼元は冷笑で返す。
「あなたがそう考えるのは勝手ですが、現在の企画責任者は私です。私の求める水準をクリアしない
限り、樋上さんには原画の描き直しをやってもらいます」
「ですけど、今になって全部描き直しなんて無茶苦茶です! ここまで描くのだってすごく大変だっ
たのに、これ以上質を上げるなんて……」
「二つの開発ラインの原画を、独りでやろうとすることの方が無茶苦茶だとは思いませんか?」
「なっ……」
絶句するしのり〜に、涼元は言葉を続ける。
「樋上さんが麻枝さんと久弥さんの作る作品に参加されるのは樋上さんの自由です。ですが、そのた
めに『CLANNAD』の作業を疎かにするのは許しません。樋上さんがKeyにいる限り、Keyの作品の質を
上げるためにはどんな事でもやってもらいます。それが辛いのであれば、今すぐKeyを捨て、麻枝さ
んの元へ行けばいい」
「いい加減にしなさいよっ! Keyと麻枝君とを計りにかけるような事、いたるに出来る訳ないでし
ょっ! あなたはそれを承知の上で、いたるを苦しめようとしているだけじゃないの!」
しのり〜の怒鳴り声が、夜も更けた開発室に響いた。
「二人ともやめてっ!」
そう叫んで、いたるは立ち上がる。驚いたような表情を浮かべるしのり〜の腕を掴み、そのまま
廊下に出た。みきぽんも慌てて二人の背中を追う。涼元はそんな三人に冷ややかな視線を送っていた
かと思うと、いたるの机の上の原稿の一枚を手に取った。
しばらくの間原稿を眺めていたが、やがて興味を無くしたように放り出す。原稿は音も無くひらひ
らと床に舞い落ちた。
「涼元さんも酷いけど、あなたもあなたよ! あんな無茶な注文、撥ね付ければいいじゃないの。
どうして素直に従っちゃうのよ!」
廊下に引っ張り出されても、しのり〜の憤りは収まらない。
「……両方やる、って言ったのは私だから」
「あのねぇ……それとこれとは話が別でしょ。原画の全差し替えなんて、それ一本でやっていても
無茶な話よ。二つの企画に同時参加している人間なら尚更よ。そんな当たり前のこと、涼元さんだっ
て分かっているはずなのに……」
「私が麻枝君達の企画に参加するのは、Keyとは関係の無い一個人としてだから、涼元さんは悪く
ないよ」
夜の廊下は歩く者もなく、聞こえるのは二人の言葉だけだ。
「どうしても涼元さんがあなたを解放しないようだったら、私は麻枝君にその事を伝えるわよ。
麻枝君の言う事だったら、涼元さんも耳を傾けるはずよ。このまま涼元さんの言いなりになって
たら、オーバーワークで潰れるわよ、あなた」
「麻枝君にだけは言わないで。これは私が自分で決めた事だから、麻枝君に余計な心配をさせた
くない」
危惧していた通りの答えだった。しのり〜はため息を吐いて、前髪をかきあげる。
「……分かったわ。私もできる限りあなたをサポートするけど、あまり表立っては行動できない
のよ。馬場社長に睨まれているから」
そう言って、みきぽんの方を向く。
「みきぽん、あなたがいたるを助けてあげて。でも、これ以上は独りではどうにもならない、って
思ったら、すぐに私に教えて。何があってもあなた達を助けに行くから」
「修羅場をくぐり抜けてきた同僚達の友情ですか。なかなか麗しい光景ですね」
いつのまにか廊下に立っていた涼元の声に、三人ははっと顔を向ける。
「あなたが何を考えているかは知りませんが、そう簡単にいたるは音を上げませんよ。私達がついて
いますから」
しのり〜の言葉に、涼元は冷たく微笑む。
「期待していますよ、あなた方の頑張りには。Keyの今後の更なる発展のために」
不敵に言い放つと、そのまま廊下を歩いていく。乾いた足音を響かせ、小さくなっていく背中を
しのり〜はただ睨み付けていた。
まだ寒さを残した夜の廊下を、涼元は早足で歩いていく。鼓膜を震わせる自分の足音が耳障り
だったが、努めて認識の埒外に押し出すことによって不快感を取り除いた。
「分かってくれないのか、あんたは」
折戸は涼元の視線の先で両腕を胸の前で組み、廊下の壁に背を預けて立っていた。
「樋上さんに何かあれば、麻枝さんも久弥さんもこれ以上同人活動を行いはしません。Keyに帰って
くる以外に、あの人達の取る選択肢はないでしょう。樋上さんが苦しむことが、あの人達にとって
一番辛いことなのですから」
悲しげに眉をひそめ、折戸は涼元を見詰める。
「真実を知れば、麻枝も久弥もあんたを憎むぞ。あいつらは樋上を傷つける人間を絶対に許さない。
みきぽんとしのり〜も全力で樋上を守る。あんたは孤立無援だ。潰されるのは、あんたの方だ」
「……歴史がないんです、私には」
折戸から視線を反らし、涼元は俯く。苦い物を吐き出すような口調で、折戸は反論した。
「歴史が何だっていうんだ。そんなものはこれから作ればいい。一緒に仕事をしてきた時間の長短で、
信頼の深さは決まるのか?」
「……折戸さんには分かりませんよ」
それだけ言うと、涼元は再び歩みを進め、折戸の元から去っていく。
涼元の姿は明滅する非常灯に赤く照らされ、まるで血に塗れているように見えた。
490 :
名無しさんだよもん:02/03/04 17:30 ID:sd+p0nzK
だ〜まえ&しのり〜が、イイ! ダーク・サディストな涼元ちんも、イイ!
491 :
京大繭:02/03/04 17:41 ID:oVWpA5/n
涼元ぶち切れモード。どうなることやら…
涼元ちん涼元ちん……ハァハァ
やあん……
涼元ちんがむっちゃ(アニメ版の)久瀬に被ってみえる(;´Д`)ハァハァ
うわぁ……
涼元がキレたなぁ。
涼元モエモエ。
このまま暗黒道に…(;´Д`)ハァハァ
愛憎渦巻く鍵の明日はどっちだ!?
めっちゃイイ、いいひとぶるよりよっぽどリアルで共感できる
涼元あげ
498 :
名無しさんだよもん:02/03/05 17:47 ID:5TAoBDSI
2.5次元ってどうなった?
logだれか残してないかね
涼元いいなぁ、おい。いいキャラだよ。
500!!!
職人さんガンバレーー!
だ〜まえ達もガンバレ!
俺はこのスレッド墓まで持ってくぞ!
501 :
名無しさんだよもん:02/03/06 12:29 ID:rhOtkZ9S
鍵もいいけど葉もそろそろほしいかな!
と、思う今日この頃
メンテ
>「あ、頭が。カップの破片が頭に刺さって」
ここの言い回しが +激しくお気に入り+
YETボスのF&Qでまたこのスレが取りあえげられてるねぇ。
本人の反応の想像するといとおかし。
鍵の面々はこのスレ読んでるのかなぁ?
>>505 その上半部は、たぶん俺の質問だ。
実は密かに回答を期待していたので、結構嬉しい。
灰色に塗り潰された空から、雨滴が流星群のように地面に降り注ぐ。雨のカーテンが辺り一面を覆う
様を喫茶店の店内から眺めながら、吉沢は大きく欠伸をついた。最近はまとまった睡眠を取っていない。
麻枝の企画する『さゆりん☆サーガ』はシナリオと音楽だけは順調に進んでいたが、グラフィック
と、そして何より肝心なプログラムが進行していなかった。いたる達グラフィック班はKeyの作業と
並行になるため、どうしても進行が遅れる。プログラムに至っては、ほとんど進んでいなかった。
極言すれば、紙と鉛筆さえあればシナリオは書ける。音楽の製作には機材が必要だが、それでも
ギター一本さえあれば旋律を生み出すことはできる。
だが、グラフィックとプログラムの開発にはそれなりの開発環境が必要となる。吉沢は東奔西走し、
少しでも麻枝達が満足できる開発環境を用意しようとしたが、同人レベルでできることには限界があった。
目の前のテーブルに置かれたグラスを吉沢は手に取った。氷の粒を浮かべたグラスの表面から伝
わる水の冷たさが、僅かに眠気を覚ましてくれる。水滴を浮かべたグラスの表面を眺めていると、
グラス越しに男の立つ姿が見えた。
「すいません。抜けられない仕事がありまして」
折戸は吉沢の前に立ち、頭を下げる。
「やっぱり忙しいのか? Keyの仕事は」
そう言って、吉沢はグラスをテーブルに戻す。
「……吉沢さんの考えている通りですよ」
折戸は吉沢の対面に座ると、肩についた雨滴を手で払った。外の雨足は一層強まり、時折空を切り
裂く稲光が、店内にフラッシュを焚く。
「そっちも大変なのか?」
吉沢の言葉に、節分の豆のように空からばら撒かれた雨粒の音が混ざる。
「……ええ。俺にシナリオを書くことができればって、本気で思いますよ」
呟く折戸の姿を、また稲光が照らした。
「麻枝は……そっちではどうですか? 吉沢さんとは上手くやれていますか?」
湯気を立てたコーヒーカップに砂糖を入れながら、折戸は吉沢に問う。
「ああ、俺も初めはどうなることかと心配だったんだがな。片や業界第一の売上を誇る、新進気鋭の
ブランドの立役者、片やスタッフに愛想尽かされ、上から退職勧告通知を喰らったプータローだ。
まともに俺の言う事なんか聞きはしないだろうと覚悟はしていたよ」
コーヒーを一口すすると、吉沢は続ける。
「俺の予想していた通り、麻枝は俺の言う事を聞きはしなかったな。聞く必要がなかったと言った方
が正しいな。Keyでどれだけの経験を積んできたのかは知らないが、大したもんだ。シナリオから企画
まで、全部自分でこなしている。俺が逐一指示を出していた、Tacticsの頃とは大違いだ」
「麻枝は吉沢さんを尊敬していましたから。吉沢さんの仕事を目で見て覚えていたんです。
吉沢さんのいないKeyで、自分が代わりになれるように」
吉沢は思わず苦笑した。
「とっくに追い抜かれているよ。俺にできるのはもう、音楽くらいのものだ。それだって、あいつ
に任せた方がいいかもしれない」
「音楽作りは、俺が相当しごきましたから」
折戸の口調はどこか誇らしげで、我が子を誇る父親のようだ。
「何せ『折戸伸治生涯唯一の弟子』だからな、あいつは」
吉沢が笑うと、つられて折戸も相好を崩す。向かい合って笑いあう二人を、周囲の客が怪訝そうに
眺めていた。
空は雨雲に覆われ、雨滴は途切れなく地面を打つ。いつの間にか店内は雨宿りをする人で一杯にな
っていた。コーヒーカップに満たされた黒色の液体をティースプーンでくるくるとかき混ぜながら、
意を決したように折戸は口を開いた。
「吉沢さん……麻枝をKeyに帰してやってはくれませんか」
吉沢も表情を引き締め、目の前の折戸に鋭い視線を送る。
「それは……馬場社長の命令か?」
折戸は首を振る。
「いえ、俺の独断です。吉沢さんが言うように、麻枝は今ではKeyの中心だ。あいつがいなければ、
Keyは立ち行かない。涼元悠一さんはご存知ですか? 『AIR』の開発からKeyに参加した、新人
なんですが、麻枝が社長と対立してKeyを飛び出した後、企画はその涼元さんが引き継いでいます」
「涼元悠一か……」
折戸の言葉を反芻するように、呟く。小説家として活動していながら、突如Keyに身を投じ、
麻枝と共に『AIR』を作った男。オフィシャルに公表された以上の知識を、吉沢は持ってはいなかった。
「麻枝のいない後、涼元さんは本当に良く頑張っています。でも、あの人はまだこの業界では新人
だ。独りで麻枝の代わりをやるのは、絶対に無理です。このままだと涼元さんは潰れる。いや、
自分が潰れることで、麻枝をKeyに戻させようと考えているのかもしれない」
耐えがたい結末が目の前にあるかのように、折戸は唇を噛み、拳を握り締める。
「麻枝の気持ちは俺にだって分かる。今のKeyは失う物が大きすぎて、やりたい事がやれなくなって
いるのも分かる。だが、今麻枝が戻らなければ、涼元さんはどんな手段に訴えるか分からない。
俺にはもう、あの人を止める事はできないんです」
テーブルに押し付けた拳を震わせる折戸を、吉沢はただ見詰めている。
「お願いします。麻枝を説得してください。Keyに戻ってくるように。吉沢さんの言う事なら、あいつ
は耳を傾けるはずです」
そう言って、折戸は吉沢に頭を下げた。
「お前が俺を呼んだのは、そのためか」
頭を下げる折戸に、吉沢は言った。折戸は顔を上げ、頷く。吉沢はふっと息を吐くと、静かな口調
で話し始めた。
「俺もお前と同じ意見だ。麻枝はKeyに戻るべきだ。あいつは同人ベースでゲームを作ろうとしてい
るが、あいつの企画を実現させるだけの環境は、もう同人では用意できない。麻枝が本当にやりたい
事を追求できる場所は、やはりKeyにしかないんだ」
冷めたコーヒーを一気に飲み干し、吉沢は続ける。
「麻枝の立つ舞台は、大きければ大きい方がいい。あいつの才能が飛ぶ空は、高ければ高い方がいい」
「だったら……」
喜色を浮かべる折戸を、吉沢の言葉が制した。
「だが、もう一人空を飛ばせてやりたい奴がいるんだ。俺には」
折戸ははっとしたように、表情を変える。
「吉沢さん、あんた……」
「俺はKeyの人間じゃないから、久弥がどんな事情でKeyを離れたかは知らない。久弥だってそんな事
を聞かれても困るだけだろう。だから俺は何も聞かなかった」
アスファルトを打つ雨の音は、ますます激しさを増し、窓ガラスを隔ててなお執拗に折戸の鼓膜
を震わせる。雨音に負けないようにはっきりと言葉の一つ一つを区切って、吉沢は続ける。
「久弥はいつだって独りだった。誰とも交わらず、ただ自分に課せられた役割を果たす。それはKey
に行ってからも変わらなかったんだろう。久弥は自分しか信じる事ができない。それはあいつの強さ
であり、弱さだ」
折戸はKeyに籍を置いていた頃の久弥を思い出していた。麻枝やいたるはそこにいるだけ人が集ま
るような、そんな雰囲気を持っている。彼らの周りには常に誰かがいたし、それが自然だった。
彼らを中心とした談笑の輪の中に折戸自身も在りながら、折戸は輪を遠巻きに眺めている久弥の姿を
常に意識していた。楽しげに笑う麻枝といたるを、久弥はただ距離を置いて眺め、自らは黙々とシナ
リオを書き続けた。
誰とも馴れ合わず、何にも交わらず。孤独を友とした久弥の生き方を、折戸は久弥本人が選んだも
のだと思っていた。
(だが、それは本当だったのだろうか)
久弥がKeyを離れてから、ようやくその疑問に行き着いた。遠くから送られるあの視線には、憧憬
が込められてはいなかっただろうか。黙々とディスプレイに向かうあの背中は、絶望を背負ってはい
なかっただろうか。
「二年間だ」
吉沢の言葉が、折戸の思考を遮る。
「久弥は二年間、立ち止まっていた。その間、あいつが何を思っていたかは分からない。だが、今
あいつがもう一度麻枝達とやり直したいと思っているのであれば、俺はそれを助けてやりたい。
独りで何もかもを背負い込まず、人を信頼できるように変わりたいと願っているのであれば、俺は
それを叶えてやりたいんだ」
一際強く、稲光が空を切り裂いた。一瞬の間をおいて、遠くから雷の落ちる音が聞こえる。
「久弥には麻枝が必要だ。そして、麻枝にとっても久弥はなくてはならない人間だ。一人では届かな
い場所でも、二人なら辿り着ける。お願いだ、久弥も一緒にKeyに戻れるように取り計らってくれ」
そう言うと、吉沢は両手を机に突き、折戸に向かって深々と頭を下げた。
「頭を上げてください、吉沢さん。約束します。久弥を必ずKeyに復帰させることを。もう二度と、
あいつを独りにはしません」
折戸の言葉を受けても、吉沢は額をテーブルに擦り付けた姿勢を崩さない。
「すまない、迷惑ばかり掛けて」
「何が迷惑なもんですか、俺に任せて下さい。でも……」
折戸は言葉を濁した。吉沢は顔を上げ、そんな折戸を怪訝そうに見る。
「何だ?」
「でも……吉沢さんはどうするんですか? 麻枝と久弥をKeyに復帰させ、企画を譲り渡した後、
吉沢さんはどうするつもりなんですか?」
馬場社長が吉沢を受け入れるとは、折戸には思えなかった。
「どうもしないさ。もう一度無職に戻るだけだ。風の吹くまま、気の向くままにこの業界でやってい
くさ。そして、消えるべき時が来ればそのまま消える」
平然と言い放つ。
「俺は物を創ることはできない。そんな俺がこの業界でずっとやってきたのは、才能のある奴らを
見たかったからだ。才能を持った奴らが力を合わせて、何か一つの物を創り上げていくのを見ている
だけで楽しかった」
首を曲げ、窓の外を見る。
「長い業界人生だったが、俺はお前らと一緒にいる時が一番楽しかった。短い間だったが、お前らと
一緒に仕事をしていたことを、誇りに思うよ」
窓の外の景色は未だ雨に覆われ、一筋の光も射し込みはしない。
だが、止まない雨は無いことを、吉沢は知っていた。
ちょいとペースアップしていきます。
色々と思うところがあるのですが、三月中にひとまずケリをつけたいです。
良すぎてもう鼻血が出そうですヽ(´ー`)ノ
516 :
名無しさんだよもん:02/03/07 23:44 ID:JMXmJNF5
YETボス、カコイイ。カコイイ。格好いいよぉぉぉぉーー!
YETボス萌え
実際のYETボスもこんな人なんだと思いこんでしまう今日この頃
本気で今から久弥とYETボス二人ともKeyに行ってくれないかな?
>>517 いやどうせなら久弥+YETボスで新ブランド結成を(w
YETボスサイコー。
>518
同意(w
この物語の裏の主役はYETボスだな。
カッコ良すぎ(w
うぁぁぁぁぁぁぁああああボス萌えボス萌え萌えぇぇっ
葉鍵で一番(;´Д`)ハァハァできるスレですね。あぁもぅっ
YETボスマンセーが多いな。
俺はYETボスもマンセーだが折戸マンセー!!
……っていうか、3月終了っ?
……あう〜……それはかなり鬱かも。
同人とかやらんのですか? 今まで書いたのまとめて文庫本にするとか。
ボスがここ読んでるのはわかった。
久弥読んでねぇかなぁ(w
むしろボス実行しねえかなぁ(w
>>527 ボスのサイトのFAQで、このスレが出てるからマジだろうよ。
てか、あそこで仮想戦記が取り上げられるのは確か3回目なんだが。
529 :
名無しさんだよもん:02/03/10 10:45 ID:z4syWlmK
>>528 いやいや、今回はまた別物だろう。
出番、多いし。
ええと、Bonbee!は社長子飼いのブランドらしいんで、
もし馬場しゃちょサイトで登場人物増やそうと思ったら、
魁が適任かも…(w
こらこら
昨日の間ずっと降り続いた雨も今日は止んでいた。風に流れ始めた雲の隙間から太陽が姿を見せ、
射し込む陽光は水たまりに反射し、きらめいている。雨に濡れ、人気の絶えた路上のコートで、久弥
直樹は独り立っていた。片手にバスケットボールを抱え、リングボードを見詰めている。
久弥は両手でボールを添えるように持ち、頭の上に高く掲げた。ゴールリングを見据え、シュート
を放とうとした瞬間だった。
「隙ありっ!」
背後で叫び声がしたかと思うと、両手からボールがはじき落とされた。久弥の手を離れ、地面に
落下していくボールを声の主は素早く拾うと、そのままドリブルしていく。ゴールリングのすぐ真下
までボールを持ち込み、走る勢いを維持したまま地面を蹴る。ゴールリングに手が届きそうな高さまで
跳躍したかと思うと、手から転がすようにボールをネットに放り込んだ。
「ふっふっふっ、まずは先制だな」
地面に降り立った声の主、麻枝准は振り返り、久弥を挑発する。地面に落ちたボールを拾い上げ、
久弥の元へ投げ渡す。ボールは丁度久弥の胸の高さに飛んできて、両手にすっぽりと収まった。
「不意を討っておいて、何が先制だよ……」
ため息を吐く久弥を、麻枝はなおも挑発する。
「油断しているお前が悪い。『コートはいつだって戦場だ』と言ったのは、お前だろう?」
「そんなの言った覚えはないよ……全く……」
呟きながら、素早いモーションでシュートを放つ。ボールは正確な放物線を描き、ネットに吸い込
まれた。
「はい。3点シュートだから、3対2で僕の勝ちだね」
「くっ、小技を使いやがって。この卑怯者がっ」
「勝ちは勝ちだよ」
「くそっ、もう一勝負だっ」
麻枝の声が、初春の空に響き渡った。
夕刻を迎えても、二人の勝負は終わらなかった。地平線すれすれにまで沈んだ太陽が空を赤く染
め、コートに落ちた二人の背の高い影が忙しく動き回る。
「もらったっ!」
隙あらばボールを奪い取ろうとする久弥をかわし、麻枝はゴール下に切り込んだ。そのまま高く跳
躍し、シュートを決めようとする。
その瞬間、久弥も飛び、麻枝の手から放たれたボールを叩き落とした。ボールは地面に叩きつけら
れ、大きくバウンドする。
麻枝は舌打ちし、地面に落ちたボールを拾い上げ、再びシュートしようとする。だが、その前に
久弥の手が伸び、ボールを奪い取った。
「くそっ!」
チャンスを奪われ、守勢に立たされた麻枝は腰を落として久弥のカットインに備える。
だが、久弥はボールを両手に抱えたまま、動こうとはしなかった。
「もうゴールが見えないよ。今日はここまでにしよう」
久弥の言葉に麻枝は不満げに頬を膨らませたが、急速に暗くなり始めた空を見上げ、仕方なさそ
うに頷いた。
「でも、こうやってお前と一対一で勝負したのも久々だな」
昔を懐かしむような麻枝の言葉だった。
「『Kanon』を作っていた頃は、毎日のようにやっていたんだけどね」
「ああ。俺も最近はボールに触れてもいなかったよ」
薄闇に覆われ始めたゴールボードを眺めながら、麻枝は淡々と言う。太陽はもう姿を隠し、残照だけ
が空に広がっていた。流れる雲が二人の頭上を通り過ぎていく。ゆっくりと動く風を肌で感じながら、
久弥はボールを手元でころころと転がしていた。
「久弥……」
ゴールボードに視線を向けたまま、麻枝はゆっくりと言葉を口にした。
「ありがとう。俺の企画にもう一度参加してくれて」
「え?」
驚いた久弥は思わず麻枝の方へ顔を向けた。麻枝の表情は宵闇の中、穏やかに見える。
「Keyを飛び出した時、俺はもう二度とゲーム作りの現場には戻れないと諦めていたんだ。吉沢さん
は俺を何とかして助けようとしてくれたけど、俺独りの力でできることなんて、どこにもなかった」
静かに微笑み、言葉を続ける。
「お前が来てくれたから、俺はやり直す事ができた。お前がいてくれてよかったよ」
そこまで言うと、照れ臭そうに前髪をかきあげた。
「いつか言わなきゃいけないと思っていたんだ。お前はいつだって俺を助けてくれていたのにな。
Keyが大きくなれたのは、お前のおかげだったのにな」
「……」
久弥は何も言わない。口を閉ざしたまま、麻枝をじっと見詰めている。
「俺はお前の存在が妬ましかった。お前の実力を認めたくなくて、お前よりも俺の方が優れている
ことを周りに認めさせたくて、いつも必死だった。そんな事をしても何にもならないのに」
過去の自分を回想し、麻枝は苦笑した。
「いなくなって、初めて分かったんだ。お前の代わりなんてどこにもいない。お前のシナリオが
あってこそのKeyだったんだ」
空は刻一刻と暗さを増し、残光が僅かに西の空を赤く染めていた。電気のついた街灯がまたたき、
太陽の代わりに辺りを照らしている。
「いたるも久し振りにお前のシナリオの絵を描けて、楽しそうだしな。多分、あいつはお前のシナリオ
の方が性格に合っているんだと思う」
悔しそうに頭を掻く麻枝から、久弥は目を反らした。
「なあ久弥。この仕事が一段落したら、涼元さんに会ってみてくれないか」
「涼元……さん?」
地面に視線を落としたまま、久弥は応える。
「ああ。あの人がKeyに来た時、お前はもういなかったからな。あの人は俺を持ち上げてくれたけど、
本当はお前と一緒に仕事がしたくてKeyに来たんだと思う」
麻枝は少しだけ寂しそうだった。
「口には決して出さないけど、涼元さんは残念がっていたはずだ。だから、一度会ってみて欲しい
んだ。涼元さんはすごいぞ。『AIR』が完成したのはあの人のおかげだ。あの人に出会って、俺は
自分がどんなに未熟だったかを思い知ったよ」
憧憬を込めた眼差しが、遠くを見詰めている。
「涼元さんと一緒にいれば、お前も勉強になるはずだ。今よりもっとすごいシナリオが書けるよう
になる。そうすれば向かう所敵無しだ。俺達三人が力を合わせれば、どんなゲームだって作れる。
どこまででも進んでいける。そう、思わないか?」
夢見るように、麻枝の目は輝いていた。
「麻枝……」
悲しげな言葉が、久弥の口から洩れ出た。
「どうした? やっぱり、俺と一緒にいるのは嫌なのか?」
不安げな表情を浮かべる麻枝に、久弥は言う。
「麻枝は……人を見る目がないよ」
「分かってるよっ。お前をずっとないがしろにしていた、俺の見る目の無さは。だからこうして謝っ
てるんだろっ」
むっとした様子で反論する麻枝を直視せず、久弥は呟く。
「そういう意味じゃないよ」
「じゃあ一体……」
「おーいっ」
問い詰めようとする麻枝の背中に、遠くから声が掛けられた。
「おーいっ。麻枝くーんっ」
声を上げながら、樋上いたるが二人の元に駆け寄ってくる。コートに立つ麻枝達のそばにまで走り
寄ると、深呼吸して乱れた息を整えた。
「あ、久弥君もいたんだ。またバスケやってたの?」
「ああ……いたるこそ、どうしたんだ? 麻枝に用があったんじゃないのか?」
はっと思い出したようにいたるは麻枝の方を向く。
「ねえ麻枝君、原画の指定でよく分からない所があるんだけど……」
「何だって? どこが分からないんだ?」
「口だと説明しにくい場所だから、実際に原画を見てよ」
「ああ、分かったよ」
そのまま麻枝といたるは開発室へ帰ろうと、並んで歩き始める。
「久弥、お前は戻らないのか?」
久弥はボールを片手に抱え、コートの白線の上に立ったままだった。
「いや……もうちょっと気分転換をしてから、戻るよ」
「……そうか」
久弥の言葉を聞くと、麻枝は再び歩き始めた。
「わっ」
「うおっ、突然寄りかかってくるなっ。びっくりするだろ」
「ご、ごめん」
「ったく、何ふらふらしてるんだよ。体調でも悪いのか?」
「そ、そんなことないと思うけど」
「お前はそういう事を絶対に口に出さないからな。いきなり倒れられて困るのは俺達なんだぞ」
「だ、大丈夫だよ」
「仕事が辛いようだったら、すぐに言えよ。無理だけは絶対にするなよ」
「うん、ありがとう」
遠ざかる二人の声を背中で聞きながら、久弥は独り立っていた。街灯に照らされ、ぼぅっと輪郭を
浮かび上がらせるゴールボードに体を向け、ボールを高く掲げる。手首の返しを充分に効かせて、
ボールを放つ。
ボールはリングの中心を外れ、縁の金属環に当たった。乾いた衝突音とともに、ボールが空しく地
上に落ちる。ころころと地上を転がるボールを拾おうともせず、久弥は立ち尽くしていた。
『お前がいてくれてよかったよ』
一番欲しかった言葉だったはずだ。ずっと、切望してやまなかった言葉。
だが、その言葉が悲しかった。目をつぶっていても入るような簡単なシュートを外してしまうほど
に、視界が滲んでいる。その理由が分かっていたから、悲しかった。
久弥は気付いていたのだ。
麻枝がもう、久弥を必要としていないことに。
『AIR』をプレイした時、久弥は衝撃に打ちのめされた。『AIR』は『Kanon』とは違う方向性を模索し、
越えていこうとする麻枝の挑戦だった。その挑戦は多くのファンの戸惑いを生み、厳しい批判も浴びた。
だが、同じシナリオライターとして麻枝の一番近い場所にいた久弥は、『AIR』に込められた麻枝の意志
を痛いほどに感じていた。
(麻枝は変わろうとしている。同じ所に麻枝は立ち止まってはいない)
久弥はそれでも麻枝と共にやり直そうとした。Keyを離れ、苦境に立たされた麻枝を助けてやれる
のは久弥しかいなかったし、久弥も麻枝ともう一度、作品を作りたかったからだ。
だが、それは久弥の想像を遥かに越える変化を思い知らされることでもあった。
麻枝は成長していた。傲慢と独善を隠そうともせず、荒削りの才能を剥き出しに暴走を繰り返した、
かっての麻枝はもうどこにもいない。他人を深く信頼し、自分を抑えることのできる度量の大きさを
身に付けている。久弥の知る麻枝は、決して久弥を認めようとはしなかったのだから。
久弥が立ち止まっていた二年間で、麻枝は多くの経験を積み、成長していた。
久弥が背中を支えることも、追うこともできないほどに。
「どうして、どうして僕はあんな無駄な時間を……」
血が滲むほどに拳を握り締めても、失われた時は帰ってこない。前に進めなかった二年間は、麻枝
との溝を絶望的なまでに広げてしまっていた。
月はいつまでも空に輝いてはいない。
風はいつまでも岬に繋がれてはいない。
迎える新しい朝が月を殺し、訪れる新しい季節が風を放つ。
麻枝は気付いているのだろうか。
麻枝の目の前に広がる、新しい世界の存在を。
その世界に、久弥はいないことを。
残り五話(予定)で「さゆりん☆サーガ編」は終了です。
稚拙な文章ですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
>>524 「さゆりん☆サーガ編」を三月までに終了させたいと思っています。
仮想戦記スレッドはそれからも続いていきます。
久弥=三井
3点シュートのとこと、最後の台詞が被った。どうでもいいや、んなことは。
変わり続ける麻枝と、変わらない久弥かぁ……よく表してますよね。
残り5話、楽しみにしてます。
キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
変わらないことと、変わること。
最終回あたりには、鳥の詩がオーバーラップしてきそうですね。
>>514 そういやそうだ。すると、必然的に
麻枝 = ゴリ ってことになるのか。
ソンナバカナ
結局、みんなひとりぼっちだったんだなぁ…
それでも、一人でも必死に前に進もうとしてる。
全く、どいつもこいつもかっこよすぎ。
544 :
543:02/03/12 04:10 ID:EsLfByu9
相変わらず素晴らしい・・・
何か凄すぎて2chの書き込みもろくにかけない自分に鬱・・・
546 :
名無しさんだよもん:02/03/12 18:29 ID:5D/7atOm
カコイイ age
このSSを読むことが最近の一番の楽しみかもしれない。
残り5話、頑張ってください。
548 :
@:02/03/12 19:36 ID:6LGeTHmM
>>540 いやいや、それなら良かったです。つか、さゆりん☆サーガ編って……w
久弥たんハァハァハァハァ萌え萌え萌えっっ!
そして麻枝が知らないところではダークな涼元ちんが暗躍しているのですな。
……いやあもう、このスレ見るの本当に楽しいですわ。
小説というかSSというのかよくわからないけど、
物語なのに実在の人物が動くからどうしてもその「人」を想像しちゃう。
どんな顔してるんだろう。
「スレンダーで足も長くそれでいて童顔」
「メイクなしでビジュアル系バンドのボーカルをやっても、
プロに見劣りしないほどのルックスと美声の持ち主」
というのをもとに想像するものの、想像と現実とは随分と違いそう。
そんなことにこだわってもしゃぁないのは分かってるんだけどね。
551 :
名無しさんだよもん:02/03/12 21:08 ID:uoMD4bIV
552 :
名無しさんだよもん:02/03/12 23:21 ID:qwkyneiW
>>551 密かな常駐者だがサンクス。
ところで、女性の方が誰が誰だかわからないんだが…
553 :
名無しさんだよもん:02/03/12 23:26 ID:dYd8kN77
一番上が折戸、久弥、麻枝
中、下段が折戸、久弥、みきぽん、しのり〜、麻枝、いたる
だよ。
2番目の写真の赤い記事に書いてあると思うけど、
3番目の写真でいうと、手前から折戸、久弥、みきぽん、しのり〜、麻枝、いたる。
麻枝をはさんでしのり〜といたるが座っているところがポイント(w
555 :
552:02/03/13 01:18 ID:wXgqv4kQ
>>553-554 そっか、サンクス。
前も思ったけど、だーまえカコイイ!
みきぽんが思ったより普通で驚いたよ(w
>月はいつまでも空に輝いてはいない。
>風はいつまでも岬に繋がれてはいない。
>迎える新しい朝が月を殺し、訪れる新しい季節が風を放つ。
この表現かっこいいなぁ…
>>555 コンタクトを煮沸してからもう一度よく観察するんだ(w
557 :
名無しさんだよもん:02/03/13 02:52 ID:htKTS+C2
タクティクス時代の写真では
みきぽん、アゴの骨ズレてなかったか?
あれはキモかった。
558 :
551:02/03/13 03:05 ID:iQREXcxd
>>558 YETたんはこうやってバカ面で写真撮るからアレなだけで
実際ナマで見たらマジ燃えだったよ……(レヴォで目撃)
売り子が吉沢さんって呼んでたから間違いない。
ここは好みの問題になるが、麻枝よりカコイイと思った。
560 :
名無しさんだよもん:02/03/13 03:33 ID:htKTS+C2
イベントの目撃情報によると
久弥、頭はげてるらしくて
「苦労してんだな…」と思ったけど別人なんかな?
562 :
名無しさんだよもん:02/03/13 12:29 ID:XuLwQjIm
だめだ!
圧倒的な実力差を見せ付けられて思考できねぇ・・・
>>559 同意。
爽やか感でYETボスは、麻枝氏の上を行くような気が。
ところで生麻枝ってみた人いるんかな?
イベントに参加しないから麻枝を直接みた人って少ないと思うんだが。
松屋に逝けば…
メンテ
「なあ久弥。お前は今の環境をどう思う?」
いつものようにディスプレイに向かい、シナリオを執筆している久弥に吉沢は尋ねた。
「それは、どういう意味ですか?」
「お前が自分の納得のできるようなシナリオを作る上で、ここは満足の行く環境か?」
久弥は答えにくそうに口ごもる。そんな久弥に吉沢は苦笑した。
「気を遣わなくてもいい。Keyという業界の第一線に立つブランドで働いてきたお前が、同人の環境
に満足できるはずがないんだ。麻枝も同じ思いだろう。お前達の能力を活かす環境を用意することは、
俺にはもう無理だ」
反論しようとする久弥を尻目に、吉沢は窓に向かって歩き出す。がらりと窓を開けると生温い風が
春の匂いを届け、吉沢の鼻腔をくすぐった。
「先日、折戸に会ってきたよ。向こうも主力メンバーがいなくなって、開発が難航しているそうだ。
そろそろKeyに戻ろうとは思わないか? 本当にこの企画を実現させたいと思うんだったら尚更、
優れた開発環境のあるKeyに戻った方がいい」
「麻枝はKeyに戻るべきかもしれません。あいつが本当に自分のやりたいことができる場所は、Keyに
しかないと僕も思っていました」
久弥の言葉に、吉沢はわずかな違和感を抱いた。
「馬場社長の態度が問題だが、企画の権利を委譲することを条件にすればいいだろう。個人の感情より
企業の利益を取る人だ、良くも悪くもな」
窓から振り返り、久弥を見る。久弥は俯き、机の上に視線を落としていた。
「麻枝にこの話はまだしていないんだが、きっと受け入れてくれると思う。あいつだってKeyにいたい
んだ、本当は。音楽の収録作業で今はいないから、帰ってきてから伝えるつもりだ」
「喜びますよ、きっと」
言葉とは裏腹に、久弥は視線を落としたまま、吉沢の顔を見ようとはしなかった。
事実、吉沢にKeyに復帰する話を伝えられた時の麻枝の喜びようはひとかたならぬものだった。
「本当に、本当に俺達はKeyに戻れるんですか?」
まだ信じられない様子の麻枝に、吉沢は言う。
「ああ。折戸に相談してきたんだ。向こうも人手不足で困っているらしい。馬場社長も折戸の説得に
なら耳を傾けるだろう」
吉沢が言い終わるか終わらないかの内に、麻枝は久弥の元に駆け寄り、その手を掴む。
「聞いたか久弥。俺達は戻れるんだぞ。Keyに戻れるんだ」
そう言って、掴んだ手をぶんぶんと上下に振り回す。
「良かった。本当に良かった。お前と一緒にKeyでゲームを作ることのできる日がもう一度やってく
るとは思ってもいなかった。これからはずっと一緒だ。エロゲー業界の連中が驚いて腰を抜かすよう
な作品を作り続けていこう」
感極まったように喋り続ける麻枝を、久弥はただじっと見詰めていた。
「『さゆりん☆サーガ』のシナリオは久弥がほとんど完成させているし、これを持ち込めばKeyで開
発を続けることもできるだろう。その辺りの交渉は俺がやる。お前らに任せると、折角育てた企画を
自分で食い潰しかねないからな」
そう言うと、吉沢は久弥の机の上に置かれたシナリオの原稿集を手に取った。
「ひでぇなあ、人を社会不適合者みたいに。でも、吉沢さんにお任せしますよ。吉沢さんになら全て
を任せても安心ですから」
「ああ、任せておけ。だから今日はもう帰れ。そんな浮ついた気分じゃ仕事にならないだろう」
吉沢の言葉に麻枝は何度も首を縦に振る。
「お言葉に甘えさせてもらいます。おい久弥、今から飲みにいくぞ。今夜は祝宴だ」
「ああ。麻枝がKeyに戻れることになっためでたい日だ。楽しんできなよ」
「馬鹿、何言ってんだ。お前も行くんだよ」
久弥の腕を掴み、強引に引っ張り出す。
「独りで飲んでも楽しくも何ともないだろ。お前にとっても今日はめでたい日なんだ」
そのまま久弥を引きずるようにして、麻枝は部屋を出て行った。
「何とか……何とか助けてやりたい。あいつらが一緒にいられるように」
窓から外を眺めながら、吉沢は呟いた。太陽の輪郭が地平線に触れ、淡い光が開発室に射し込んでいる。
「あいつらをもう一度送り出してやること。それが俺の最後の仕事になるのかもな」
それでいいと思った。
「い、嫌だ。こんなの嫌だよ」
顔に近づけられたモノから目を反らし、久弥は哀願した。
「なあに、辛いのは初めのうちだけだ。すぐにお前の方から欲しがるようになる」
にやにやと笑いながら、麻枝は右手に握り締めたモノを久弥の頬に押し付ける。口を無理やり開け
させると、ねじ込むようにして挿入した。
「うぐっ……」
くぐもった声が、乱雑を極めた麻枝の部屋に響く。
「俺の部屋はいつでもギターが弾けるように、防音がしっかりしていてな……いくら騒いでも、隣の
住人は気付きもしない。だから、邪魔者無しでゆっくりと楽しめるぞ」
「や、やめ……」
久弥は麻枝の体を押し返し、懸命に抵抗しようとする。口にねじ込まれたモノがすぽんと外れ、唇
から液体がだらしなく零れた。
「おっと。一滴も零すんじゃないぞ。全部飲み干すんだ」
蛍光灯の光に反射し、不気味にきらめくモノを再び久弥の口に押し込む。
「お前はいつもお高くとまっていたからなぁ。たまには羽目を外して楽しもうぜ」
麻枝の瞳は血走り、凶暴な野獣のそれを彷彿とさせる。
助けを求めるように、久弥の手が床の上を這いまわる。手探りでビールの空き瓶を掴むと、思いっ
きり麻枝の頭に叩きつけた。
「がおぼばっ!!」
悲鳴と共に、麻枝は崩れ落ちた。麻枝から解放された久弥は、口に突っ込まれたウイスキーの瓶を
吐き出し、激しく咳き込む。口元から垂れる茶褐色の液体を手の平で拭うと、もう一度麻枝の頭めが
けて瓶を振り下ろした。
「殺す気かぁっ!!」
振り下ろされた瓶を両手で受け止めながら、麻枝は叫ぶ。
「それはこっちの台詞だっ! 急性アルコール中毒で死んだらどうする気なんだっ!」
「お前がさっきからちっとも飲もうとしないからだろうがっ!」
「僕はお酒が飲めないってずっと言ってるだろっ!」
流し込まれたアルコールが喉を焼く感触がまだ残っている。咥内に充満したアルコール臭だけで、
久弥は頭が痛くなりそうだった。
「ちゃんと飲んだことがないから、そう思い込んでいるだけだ。前の飲み会でもお前独りだけ烏龍茶
だっただろ?」
「ちゃんと飲んでみたくもないよ。こんなおいしくない飲み物」
「そういう所がお高くとまっていると言うんだ。酒もたしなめないようでは、まだまだお前はお子様だ」
「お子様でいいよ。別に」
そう言って、久弥はそっぽを向く。
「そうつれないことを言うな。初めはまずくても、だんだん旨さが分かってくるものなんだ」
麻枝はウイスキーの瓶を手に取り、グラスに注ぎこむ。人差し指の第一関節の高さまで注ぐと、
久弥の前に差し出した。
「ほら。これくらいならお前でも大丈夫だろう。騙されたと思って飲んでみろ」
そう言って、強引に久弥の手に握らせる。グラスの中で揺れる茶褐色の液体をしばらく不安そうに
眺めていたが、執拗に絡みつく麻枝の視線に耐えかねたように一気に飲み干した。
「……まずい」
苦味しか感じなかった。
「まずいか、ならもう一杯だな」
「健康飲料のコマーシャルかっ!」
「そうノリの悪いことを言うな。ほら、飲め」
麻枝は再びグラスにウイスキーを注ぎ、久弥の手に押し付けようとする。
「もういらないよ。麻枝が独りで飲んでいいよ」
「馬鹿、独りで飲んでも楽しくないだろ。こういうのは気心の知れた友達と一緒に飲むから、楽しい
し、おいしいんだ」
麻枝は既に酔い始めているようだ。顔が赤く染まり、喋る言葉も時折もつれる。
「だから、お前も、飲めっ!」
叫び声を上げ、久弥に襲い掛かる。
「わっ。やめろっ!」
久弥は立ち上がり、麻枝から逃げ出そうとするが、足首を掴まれて床に転んだ。起き上がろうとする
久弥の体の上に、素早く麻枝は伸し掛かる。
「ふっふっふっ。夜はまだまだこれからだぞ、久弥」
麻枝の表情は既に理性を備えた人間のそれではない。麻枝の手に握られたグラスは濃度40%を越える
高濃度アルコールで満たされ、蛍光灯の光を怪しく照り返している。麻枝を狂わせた悪魔の水を湛える
グラスを口元に近づけられると久弥は絶望したように目を閉じ、体を強張らせた。
突如、電子音が部屋に鳴り響いた。テーブルの上に置かれた麻枝の携帯電話を音源に、電子音は
執拗に持ち主の反応を要求する。
「ちっ。いい所だったのに」
舌打ちをしながら、麻枝は携帯電話を取った。受信ボタンを押し、不愉快そうに受話器に向けて
返事をする。
「はい。もしもし……」
その瞬間、しのり〜の声が受話器越しに麻枝の鼓膜を震わせた。
長くなりすぎたのでまた前後編です。
残り五話で終了というプランはあっさりと崩壊しました。
おそらく3月中にケリがつくこともないと思います。
適当なことばかり言ってすんません。
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
何気に表現がエロいですな……。
801キタ━━━━━━(゚∀゚;)━━━━━━
(*´Д`)ハァハァ
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
だまえ×ひさやん……たまんねえっ!!!! やおぃ好きにはたまんねぇ!!!!
後編では涼元×折戸もしくは
ボスだまえひさの3Pをキボン(;´Д`)ハァハァ
一読者としては有難いかな(w →プラン崩壊
もー、たまんないところでヒキますなあ。
無理せずがんばってください。
久弥って下戸なんかな〜
段々、現実と仮想の区別がつかなくなってきた今日この頃
でもそれが面白とも思う今日この頃。
禿しくハァハァ(;´Д`)
581 :
名無しさんだよもん:02/03/16 21:25 ID:rQUuYb21
だーまえ萌え〜
age
犯せ!
久弥を犯せ!だーまえ!
そして、久弥、涼元、だーまえの3Pへ・・・
583 :
エス:02/03/16 22:04 ID:1mo1HIR8
あれから幾日が経過しただろうか…
結局自分勝手な人間なんだとつい自覚する。
2月14日、一人じゃどうしようもない心を抑えるようにして原田さんの家に向かった。
あの人は俺を丁重にもてなしてくれた。
優しさが身に染みた。
そして、その親切に自分が溺れそうになるのを恐れて…原田さんを気絶させ出ていった。
多分あの人の事だ、納得してくれる筈だ。
そう思う。そうでなくてはカッコつけて出ていった意味が無い。
もし無理だったら…その時は素直に謝ろう。
きな臭い戦いに、大切な友人を巻き込みたくないからね〜
そんな事を思う暖かい風が吹く春の季節から…
中尾圭祐
584 :
エス:02/03/16 22:05 ID:1mo1HIR8
原田さんの家を出た後、すぐに新幹線の手続きを取って一路新大阪の自宅へ帰還した。
しがないアパートだが一人暮らしするには不自由な点などない。
それに地理的にも良い。近くには伊丹から引っ越したLEAFがあるし少し電車に電車
に乗ればKeyだってある。
立地条件は最高だ…しかし、もうどちらの会社にも俺の居場所は無い。
LEAFにも、Keyにも迷惑をかけましたからね…
そして、親元のKONAMIからは命狙われる立場になっているようですし。
まったく、一人は辛いと言うか…
(やっぱり原田さんを頼るべきだったかな?)
オイオイ、それが嫌だから無理して振り切ったんじゃないか中尾圭祐。今更何を…
まあでも、あの人と最後に会えて良かった。陣内さんや閂君にあえないのは残念だっ
たが、生きていれば会える筈さ。
生きていればの話だけどね。
585 :
エス:02/03/16 22:06 ID:1mo1HIR8
さて、そうと決まればあとはどうやってコナミと戦うかだ。人は殺したくないからね〜。
部屋の奥隅にある古ぼけた金庫を鍵で開け中を見る。
コナミから命じられて奪ったLEAF取り引き文書
一度使った自動小銃
皮のムチ
そして…1999年当時のLeafの顔ぶれが笑っている写真。
「ああ、懐かしいな…」
ふと重要な事を忘れその写真をみやる。
真ん中に下川がいて、両サイドに高橋水無月コンビがいる。
おやびん(一一)・俺・そして原田さん・陣内・閂くんもいる。
ユウジナカジマ30なんぼやカワタヒサシ(ら〜YOU)もいる。
みんな、にこやかだった。無理した愛想笑い何かじゃなく結構自然体での笑顔だ…
確か撮ってくれたのは中上(弟)だったかな。
くいるように見る。
まだ、輝いていた頃だ。堕ちる前だ。あとの悲劇を知らない頃だ。
でも、もう戻れないんだ。
一定の懐かしさを感じ取った後、そっと元の金庫に戻す。
自動小銃も…いやこれをつかえば又俺の思考と行動に制限がかかるだろう。
と、なるとどうやら無謀だろうが、『コレ』だけで戦うのも悪くないかもしれん。
拳ONLY…
「くっ、ハッハッハッハ」
腹の底から俺は笑う。
(何でそんな自殺行為しなくちゃいけないんだ?)
相手はトキメモ12人衆・それに姿は見た事はないが本物傭兵『FOX HOUND』
がいる。
(いや、アリかもな?)
と思わせる自分がいる。
586 :
エス:02/03/16 22:08 ID:1mo1HIR8
(もう、お前は昔の頃のとは違うんだ、気にする事はない)
頭の中そとう問い掛ける自分がいる。
「冗談でしょ?」
(殺した後に何が残る?殺して殺して殺して殺して殺して…殺戮の後に残るもの
なんて所詮憎しみと遺恨だ。もうそんなものに苦しみたくはないだろう?)
たしかにそうだ、憎しみは何も生まないのは知っている。
(なら、昔名乗ってみたようにアレを使えうのもいいかもしれん)
そして、金庫に眠る鞭を手に取る。
かつて『シモン』と名乗ったあの頃のように…
ヒュンヒュン
軽く振り回す、腕は衰えていないようだ。
「これでピシピシ叩きますか?」
(………………………………………)
何も返事がない。
まあ、これぐらいの武器ならいいだろう。
決定だった。
587 :
エス:02/03/16 22:08 ID:1mo1HIR8
さて、後はいつコナミに乗り込むか…が問題だ。
東京の方は全然きな臭いアレじゃないしと、なるとやはり……
「神戸だな」
と、口にした時であった。
ドンドン
ドアを叩く音。
「ん?誰ですか?」
…………………
返事が無い。
鞭を置いて木製の古ぼけたドアを開ける。
「やあ!」
「………………………」
いつもと変わらぬ素振り見せた彼を見て自分は声を上げる事を一瞬忘れる。
「どうしたんだい?僕と言う友人を忘れたのかい?」
金髪の丸眼鏡を掛けた男は憎たらしいぐらい普通に問い掛ける
「いえ…………でもよくここが解りましたね?」
「住所録で調べただけだ。以外に簡単だったよ」
「それは迂闊でしたね。新しく新居でも構えるべきでした。」
「残念だがそうはいかない。もう君は僕から逃れる事はできない。」
「たった今、貴方を気絶させてどことも知れる場所へ逃亡したら…もう探しようは
無いんじゃありませんかね〜?」
と、少し戯れた発言をすると彼も対抗するように言った
「実は柔術を心得てまして…」
彼=原田さんは不適にニヤリと笑った。
588 :
エス:02/03/16 22:09 ID:1mo1HIR8
とりあえず原田さんを部屋へ入れる。
「ふぅ」
ため息を吐いてしまう自分
「中尾さん。一人でカッコつけようとしたって僕は許さないよ!」
原田さんは家へ上がるなり怒りを露にする。
「陣内や閂君をのけ者にするのは構わないが」
「かなり差別は発言ですね」
「気にしない。もう、中尾さんは僕にアンナ悶絶タマラン話を僕に話してしまった。
だから中尾さんがしようとする事には僕も参加する権利はある筈だ。違うかい?」
「まあ、そうですけど…」
と、あまり乗り気でない自分
まあ、もしかしたらこっちの命がないかもしれないというのに……
「僕は中尾さんほど傭兵じみてはいないが、これでも僕は強いんだ。力になれると思う
けどね?」
得意げに語る原田さん。
こう言い出すと原田さんは自分の我を曲げない。
「解りました。言っておきますけどもう後戻りはできませんよ。相手はドラキュラより
凶悪ですからね。アッチは自分たちを殺そうとしても僕らも同じフィールドに立つ訳
には行かないですからね。」
とさり気に「殺すなよ」と言い聞かせると原田さんは憤慨する
「それじゃハムラビ時空に違反するじゃないか!!殺されるから殺す!なんら問題は
ないと思うがね、んふん?」
589 :
エス:02/03/16 22:10 ID:1mo1HIR8
「確かにそうですけど、今回はこっちから仕掛けるんですから…そういう訳には…」
「そんな事いってその奥にある小銃は何かね?」
「あっ!!」
しまった。っていうか金庫開けっ放しだし…
すると原田さんはヘッドスライディングさながらの格好で飛びついて小銃を掴む。
「コレヲツカワセロ!」
かなり狂気じみたように原田さんは言う。(勿論意識してだと思うが…)
「ダメですよ。だーめ!子供が持つもんじゃありません。」
パシッ
「あっ!」
小銃を付かんている右手の甲にチョップして銃を落とし自分が掴む。
「ジュ、ジュウヲヨコセ!ジュウヲヨコセ!」
トーンを落として原田さんは迫る。
「こ、恐いですよ。マジ」
そう言うと原田さんは今度はさっき置いた鞭を取りにかかる。
「んじゃそれで妥協しよう。」
普通のトーンに戻して言うと今度は鞭を取る。
「だぁぁぁぁぁぁ、やめて下さい!」
しかし遅かった。
590 :
エス:02/03/16 22:11 ID:1mo1HIR8
原田さんはピシィと音をたてて自分を見つめる。
「小銃が駄目なんだ。ムチぐらいいいよね。んふん?」
「ぐっ」
原田さんの目が座ってる。本気だ!変な解答したら持っている鞭が飛んできそうだ。
咄嗟に頭に三択ほど浮かぶ
1 鞭をうばいにかかり取り上げる
2 秋子さんばりに了承する
3 うぐぅ
自分はこう答えた。
「うぐぅ…ひどいよウダルくん。」
ビシィ!!!!!
原田さんは速射で自分の体をめがけて鞭を撃った。
591 :
エス:02/03/16 22:12 ID:1mo1HIR8
「痛ぇ!!今サイヤ人もびっくりするぐらいの戦闘力で叩きましたね?うわ…いた!」
大声で僕がいうと
「中尾さんがうぐぅなんて言うからだよ…で、コレ使っていいの?」
「うーん。」
本気で悩む
(まあ、いいんじゃねぇの?)
頭の中の自分がそう言う
まあ、別に素手でも十分引けはとらないけどまあ、仕方ないか…
「いいですよ。原田さんには参りました。どうぞ使ってください!」
かなり投げやりに言う。
「何か僕が催促したみたいで悪いねぇ」
「しらじらしぃですよ…」
「んふん?」
原田さんは2撃目をスタンバイするので…
「冗談ですよ!はい。冗談!」
「わかればよろしい…」
少し原田さんの性格が判ったような気がした日だと思った。
現在同時進行中のもう一方が、
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
素直に楽しませて貰ったが、一つばかり妄想してしまった。
>「実は柔術を心得てまして…」
>彼=原田さんは不適にニヤリと笑った。
の部分で。
シャーロックホームズばりに、「バリツを心得て」るとか言ったら、
更に惚れたのに、とかw
……戯言ですんで。聞き逃して下さい。
集合写真に青村が入ってないあたり、流石だと思いました(w
ワラタ
写真ってえらい昔にもでてこなかったけ?
あの時の写真には誰が写ってたけかな〜
落とさせはしない
久しぶりにあげようと思う。
メンテしようと思う。
感想を書こうと思う。
かきたまえよ。
601 :
名無しさんだよもん:02/03/21 01:12 ID:jIVlqIxh
米倉高広氏解雇の模様。
これをネタに何か求む。
時は三時間前に遡る。
非常灯の灯りだけが闇を照らしていた。おぼつかない足元を気にしつつ、しのり〜は誰もいない
廊下を歩いている。静寂に満たされた空間に自分の足音だけが響く。通い慣れたはずのビジュアル
アーツのビルが、今のしのり〜には異界のように感じられた。
突如態度を豹変させ、過重な労働を要求した涼元悠一に、樋上いたるはただ従った。涼元の要求
にいたるが潰されるのを黙って見ている訳にはいかなかった。Keyを離れている麻枝達を助け、同時
に『CLANNAD』を進行させようとする、いたるの試みが無茶なのはしのり〜にも分かっていた。だが、
麻枝と久弥を助けてやりたいという、いたるの思いも痛いほど理解できた。
彼女を支えていこう。水泡に帰すだけの儚い夢だとしても、最後まで彼女の思いを遂げさせてやろう。
それが一度はいたるの元からいなくなった、しのり〜なりの責任の取り方だった。
薄暗い廊下の先に、ぼんやりとした光が浮かび上がる。いたる達がまだ、Key開発室で残業をして
いる証拠だ。しのり〜は少しだけ歩みを速め、光を目指した。
「どうしてこんな事をするんでしゅか!」
ドアノブに手を掛けた瞬間、室内から声が聞こえてきた。
「何度も言わせないでください。私の求める基準に達しない原画を通す訳にはいきません」
続いて冷たい声。
「でも酷すぎましゅ! いくら涼元さんでも、やっていい事と悪い事がありましゅ!」
みらくる☆みきぽんが憤りを隠そうともせず叫んだのと、しのり〜がドアを開けたのは全くの同時
だった。
異様な光景だった。
みきぽんは憤りに顔を赤く染め、涼元を睨みつけている。長い付き合いのしのり〜でさえ見た事が
ない、怒りに満ちた姿だった。そんなみきぽんの背中に隠れるように、いたるは立ちつくしている。
手の甲で擦ったのだろうか、まぶたが赤く腫れていた。
「あなたが何を言おうと、私の考えは変わりませんよ。この程度の質では、とても私の考えるシナリ
オの原画は務まりません。私の求める基準をクリアするまで、樋上さんには原画を描き直してもらい
ます」
射るようなみきぽんの視線を平然と受け止め、涼元は言い放つ。足元には真っ二つに引き裂かれた
原稿が散らばっている。無惨に引き裂かれたその原稿が、いたるの描いた原画であることに気が付い
た瞬間、しのり〜の心も怒りに赤く塗り潰された。
「いいかげんにしなさいよっ!」
みきぽんに割り込むようにして涼元に詰め寄り、胸倉を掴む。
「何の権利があって、涼元さんは原画を破り捨てられるのよっ! これはただの嫌がらせじゃない。
いたるを傷つけるためだけの、無意味な嫌がらせよ!」
「これは『CLANNAD』をよりよい作品にするための、当然の措置です。業界を代表するKeyの新作は、
今までにない高い質の作品であることが求められますから」
「……今のあなたを見れば、麻枝君はきっと悲しみます。それで、いいんですか?」
卑怯な言葉だと思った。だが、今の涼元は明らかに心の平衡を失っている。そんな涼元を説得する
には、麻枝の名を出すより他ないとしのり〜は思った。
顔つきを見ても明らかだった。風雨にえぐられた岩のようにこけた頬、網の目のように眼球に浮か
び上がった毛細血管。
今の涼元を見れば、麻枝はきっと悲しむだろう。それが涼元の目的なのかもしれないと思った。
いたるを苦しめ、自らも傷付くことによって、麻枝の目を自分の方に向かせる。
しのり〜にはその気持ちが分かる気がした。
「私がどうなろうが、麻枝さんの心は動かない。所詮私はよそ者だ。仲間じゃない」
「なっ……」
反論しようとするしのり〜に構わず、涼元は言葉を続ける。
「あなた達も私のような新参者に企画を仕切られるのは気に入らないでしょう。今すぐここを飛び出
し、麻枝さんの所に行けばいい。麻枝さんと久弥さんがいる所こそが、本当のKeyなのだから」
「この分からず屋っ!」
しのり〜はそう叫んで、右手を振り上げた。そのまま涼元の頬めがけて、平手を打とうとした
瞬間だった。
「二人ともやめてっ!」
頬を打とうとするしのり〜と、それを平然と受けようとする涼元の間に、いたるが飛び込んだ。
振り上げられたしのり〜の右手が、凍りついたように動きを止める。
「お願いだから……もう、こんなのはやめて……」
しのり〜の方を向き、いたるは震える声で言う。
「いたる……」
行き場を失った右手をゆっくりと下ろしながら、しのり〜は呟いた。いたるは涼元の方へ振り返り、
じっと涼元の顔を見る。
氷のように冷たい雰囲気を漂わせたまま、涼元は沈黙を保っていた。
「私は涼元さんの言う事に従います。原画も描き直しますし、Keyを飛び出したりもしません。だから、
麻枝君の事を悪く言うのだけはやめてください……麻枝君はやり直そうとしているんです。久弥君と
一緒に、やり直そうとしているんです」
一瞬、涼元の周囲の温度が上がったような気がした。いたるは言葉を続ける。
「あの二人はまだ、迷っているんです。これからどうすればいいのか。自分にできることは何なのか。
でも、絶対に二人はKeyに戻って来ます。信じてください」
「あなたに何が分かると言うんだっ!」
涼元の叫びが、夜の開発室に爆発した。
「私が何故、Keyに入ろうと思ったのかをあなたは知らないはずがないだろう! 麻枝さんと久弥さん
と一緒に作品を作りたかったんだ、私は! なのに何故、あの二人は私を置いていくのだ。それほど
に私は不甲斐ない人間だったのか。麻枝さんと共に歩いていくことを許されない人間だったのか、
私は!」
いたるの二の腕を掴み、なおも叫ぶ。
「樋上さん、あなたも分かっているだろう。私ではKeyを引っ張っていくことはできないことを。Key
の両翼は麻枝准と久弥直樹だ。あの二人がいないkeyに、何の意味がある!」
叩きつけられる言葉の激しさに、いたるは目を反らすことさえできない。
「樋上さんの仰る通りだ。麻枝さんと久弥さんはいずれKeyに戻ってくるでしょう。だが、その時私
は用済みになる。麻枝さんのパートナーになれる人間は、久弥さんだけだ。私は久弥さんにはなれな
い。お互いに高めあい、支えあいながら作品を作っていくような、あんなパートナーには決してなれ
ないんだ!」
いたるの腕を掴んだ涼元の力は強く、いたるは自分の腕に痣がついてしまったのではないかと心
配になった。だが、苦痛は感じなかった。
振り絞るような涼元の叫びに呆然自失し、痛みを伝える回路が一時的に遮断されたからかもしれな
い。それほどに涼元の叫びは激しく、そして悲しみに満ちていた。
「樋上さんや折戸さんには分からない。長年苦楽を共にしてきた人間同士の間にしか、本当の信頼は
生まれないことを。私は麻枝さんの、本当の信頼を、ついに得ることができなかったんだ!」
涼元の顔が苦悶に歪んだ。そのま糸の切れた人形のように力無く、床に膝をつく。
「私は……何のために……」
崩れ落ちる涼元から最後の叫びが、か細く洩れ出た。
今度こそ残り五話です。何とかケリはつけます。
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
こんな時間まで起きててよかったよ…
残り5話ですか…
楽しみなようで、寂しいような。
頑張ってください。
燃えですな。
どうなるんだろう?全く先が読めんわ・・・
とにかく楽しみにしてます。
あー…………涼元……涼元ちん……ハァハァ(;´Д`)
自分の方が遙かに年下なのに、なんつーか……
この人、抱きしめたい衝動を催させるキャラだよっw
熱い、熱すぎる。
∩_∩ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
( ´Д⊂ヽ < 残り5話なんて嫌だYO!
⊂ ノ \__________
人 Y
し (_)
ヽ(`Д´)ノ
続きが気になってしかたねぇYO!
今までずっと読ませてもらってて、友達にも勧めたけど
このスレで書きこんだことなかったな・・・。
いや、ホント素晴らしいです。面白いです。
職人さん、ありがとう。
今までの僕がそうであったように、あなたの仮想戦記を楽しみにしつつ
読んでいる人でROMはたくさんいるでしょう。
こんなものタダで読ませてもらえるなんて、なんという幸運でしょうか。
613 :
名無しさんだよもん:02/03/23 04:40 ID:/phfsFgp
age
メンテ
615 :
R:02/03/24 15:45 ID:oH7wobKJ
あと、5話でおわりですか・・・(Keyサイド)
なんだか寂しいですね。
こっちは話の収拾がつかずなんだかんだ言いながらすごくタラタラしてますです。はい
あと、今戯れにLeaf社員のイメージ肖像画みたいなのを描こうかなと
思ってます。(主に一一氏と中尾氏)
また、書いたら何も言わず載せます。
ではその日まで。
涼元ちん……
現実はこんないい話じゃないんだろうなあ(w
そんなこと言われても
「涼元さんが倒れたって、一体どういうことなんだ!」
深夜の病院の待合室で、麻枝は掴み掛かるようにして、いたるを問い詰めていた。
「さっきKeyの開発室で突然倒れて、すごい熱だったから、救急車を呼んだの」
「それはもう、しのり〜が電話で俺達に伝えてくれた。だから俺達はここに来てるんだ。俺が聞きたい
のは、どうして涼元さんが倒れるまで俺に何も伝えなかったのかって事だ!」
いたるは俯いて、何も答えようとはしない。見かねた久弥が、麻枝を諌めた。
「おい、そんなにいたるを責めても仕方ないだろう。いたるにはいたるなりの事情があったんだろう?
麻枝にも伝えることのできない事情が」
「お前は黙っていてくれ。これは俺達の問題だ」
麻枝は苛立たしげに胸ポケットから煙草を取り出した。ライターで火を点け、口に運ぶ。吐き出さ
れた煙は白くたなびき、待合室の空気に揺れては消えた。
「分かってるよ。Keyを飛び出した俺に、いたるを責める権利が無いことは」
白煙と共に、言葉が洩れる。
「くそっ……俺のせいだ。俺のせいで、こんな……」
すり潰すようにして、備え付けの灰皿に煙草を押しつけた。
「身体的にも肉体的にもかなり疲労されています。元々身体が丈夫でないのでしょう。今は落ち着いて
いますが、楽観視できる状況ではありません」
それから三十分後、靴音を響かせ、病室に通じる廊下からやってきた当直医の言葉だった。
「とにかく安静が必要です。どんな重大な仕事をされているかは存じませんが、これ以上の労働の強要は
医師として絶対に認められません」
当直医の言葉には、どこか批難めいたものが込められていた。
「あなた達は今日はもうお帰りください。もう夜も遅いですし、明日の仕事に差し障りが出るといけ
ません。涼元さんのお身体は我々が責任を持って預からせて頂きます。どうか心配なさらないでくだ
さい」
翌日、雑居ビルの一室を借りて作った開発室に麻枝は朝一番に顔を出していた。床に掃除機をか
け、机を雑巾で拭く。いつもは面倒臭いだけの単調な作業だが、今日の麻枝にはその単調さがあり
がたかった。無心に机を拭いていれば、余計な思考に囚われなくてもすむ。
やがて、全ての机を染み一つなく綺麗に拭き終わると、椅子に腰を下ろした。背もたれに体重を
預け、何をするでもなく天井を見上げる。天井は朝の光に照らされ、所々に灰色の染みを浮かび上が
らせていた。
突然、外から爆音が聞こえてきた。耳をつんざく爆音に麻枝は思わず立ち上がり、窓へ駆け寄る。
車に疎い麻枝にも一目で分かる高級なスポーツカーだった。公道を走るにはもはや不釣合いとも言え
る深紅の流線型が驚くべきスピードで近づいてくる。麻枝のいるビルの側にまで近づいてきたかと
思うと、急制動を掛けたのだろう、タイヤが悲鳴をあげた。早朝の静けさをかき乱した騒音源は
急速に勢いを弱めると、やがて路肩にぴたりと停車した。獰猛な獣の唸り声のようなエンジン音も
すぐに止み、辺りは再び静寂に満たされる。呆然とその光景を眺めていた麻枝の目に、一人の男
が車内から出てくるのが見えた。男は車のドアを閉め、鍵を掛けると麻枝のいるビルに入ってきた。
「お前が来るまで外で待たせてもらおうと思ってたんやけどな。朝一に仕事場に来るとは、随分と
熱心やな」
ドアを開けると開口一番、馬場社長はそう言った。
「あんたこそ朝っぱらからご苦労なことだな。わざわざ車を走らせて、こんな所に何の用だ」
睨みつける麻枝を、馬場は鼻で笑う。
「Keyを飛び出して少しは鼻っ柱が折れたかと期待しとったが、相変わらずやな。吉沢が面倒見切れ
なくなるんも、よう分かるわ」
「吉沢さんは俺に本当によくしてくれた。あんたに吉沢さんを悪く言う権利などない」
「お前も半端に義理堅い奴やな。一度は吉沢を捨てていったことがそんなに心苦しいんか?」
麻枝は唇を噛み、拳を握り締める。空気の張り詰めた開発室に聞こえるのは、無機質なPCの稼動音
だけだった。
「涼元君は過労で倒れた。医者の見立てが正しければ、当分は仕事どころやない。うちはエロゲー業
界には勿体無いくらい労働環境の整備された会社で知られとるんや。社員が過労で入院したっちゅう
だけでも随分なイメージダウンやのに、下手に仕事させて過労死でもされたら洒落にならんからな」
麻枝は何も言わず、ただ馬場を睨みつける。矢を射るような麻枝の視線をまるで意に介さず、馬場
は続けた。
「涼元君が仕事できんようになったら、『CLANNAD』の企画は進行せえへん。このままやと『CLANNAD』
は日の目を見ることなく、潰れるやろうな。Keyも共倒れや。企画を潰したブランドに金を出すほど、
俺は粋狂やない」
「Keyを潰すことだけはやめてくれ。俺のせいでこんな事になったんだ。全ての責任は俺が負う。
だから、Keyを潰すのだけはやめてくれ」
苦しみを押し殺したように言うと、麻枝は馬場に頭を下げた。馬場は嘲笑を隠そうともせず、両手
を広げておどけたポーズをとる。
「えらくしおらしい態度やないか。三ヶ月前、俺に真っ向から喧嘩を売ってKeyを飛び出した麻枝准
の態度か、それが?」
「くっ……」
歯噛みする麻枝に、馬場は冷たい口調で言う。
「俺にKeyを潰させない方法は、たった一つや。お前がKeyに戻るんや。吉沢や久弥と一緒に作ろう
としていた、『さゆりん☆サーガ』の企画を手土産にな」
馬場は麻枝に近づくと、にやりと笑った。
「反抗する奴らは全て叩き潰すんが俺の信条だが、麻枝准だけは別や。俺はお前の才能を高く買って
るんやで。お前の望む物は、何だって俺が与えてやる。地位も、名誉も、金も、欲しい物は何だって
与えてやる。お前がエロゲー業界のトップに君臨する姿を見たいんや、俺は」
「あんたが見たいのは、業界のトップに立ったビジュアルアーツだ。俺はそのための駒にすぎない」
「どう思おうがお前の勝手や。俺に何の得も損もない。お前に残された道はただ一つ、俺の下に戻る
ことだけなんやからな」
馬場の言葉は氷柱のように冷たく、そして堅固だった。
「分かったよ。あんたの下に戻って、俺はあんたのために働き続ける。それでKeyが守れるんだったら、
いくらでも働いてやるさ。それこそ過労死するまでな」
吐き捨てるような麻枝の言葉に、馬場は満足そうに頷く。
「ただ、こちらからも一つだけ条件を提示させてくれ」
馬場は不思議そうな表情を浮かべた。麻枝は馬場に顔を向け、懇願するように言う。
「吉沢さんと久弥も一緒にKeyに復帰させてくれ。Keyを飛び出し、行き場の無かった俺がここまで立
ち直れたのはあの二人のおかげなんだ。あの二人を置いて、俺だけKeyに戻るわけにはいかない」
「吉沢と久弥を踏みつけにして、自分だけ光の当たる場所に駆け登りたくはない。そう言うんやな?」
麻枝は頷いた。
「いつまで甘いこと言うとるんや。お前は」
馬場の声には、僅かな苛立ちが混じっていた。
「Tacticsを飛び出し、Keyを作った時、お前は何をした? 吉沢を切り捨てたんちゃうんか。久弥も
同じや。久弥から『Kanon』で勝ち取った名声と人気を奪い取ったんはお前ちゃうんか? 一度踏み台
にしておいて、今度は罪悪感が許さないから何とかしてくれやと? 世迷い言も大概にせえ」
麻枝は血が滲むほどに唇を噛み、怒りを堪えた。麻枝を、そして吉沢と久弥をせせら笑うように、
馬場は言葉を続ける。
「お前の才能に目をつけた吉沢の眼力は認めたろう。Keyを育てた久弥の功績も大したもんや。せや
けどな、こいつらはもう過去の人間や。今のお前には要らん、用済みの人間や」
「あんたにそんな事を言われたくはない! 確かに俺は吉沢さんを切り捨て、久弥の名声を奪い取って
きた。それでも、あの二人は俺を受け入れてくれたんだ。もう一度、俺にやり直すチャンスを与えてく
れたんだ。そんな二人が用済みだと言うのならば、一番不要な人間はこの俺だ!」
麻枝の叫びも、馬場には届かない。麻枝に向けられた目は冷たく、言葉はもっと冷たかった。
「お前が何と言おうと、俺の考えは変わらんで。俺が欲しいのはお前独りや。文句があるんやったら、
樋上や折戸を誘って、ビジュアルアーツから出て行けばいい。お前がいなくなった後、涼元が必死に
支えてきた『CLANNAD』の企画を放り出してな」
馬場は開発室の周囲を見回し、呆れたようにため息をついた。
「同人の環境で、どれほどのことができると言うんや。プログラムさえ満足に作られへんやろ。
お前がここでやろうとしていたことは、ガキのままごとや。吉沢や久弥とやり直そうっちゅうお前の
願いも、所詮は青臭いガキの夢物語や」
「俺が……俺が、夢を見ていたというのか?」
足元が崩れ落ちていきそうな錯覚を懸命に振り払いながら、麻枝は呟く。
馬場はそんな麻枝に一瞥をくれると、興味を無くしたように背を向けた。
「ええか。もう時間が無い。『CLANNAD』の開発は佳境に入っとるんや。『CLANNAD』が無事に世に出る
か否か、Keyが存続するか否かはお前次第や」
そのまま歩き出し、ドアノブに手を掛ける。
「後三日だけ待ったる。それまでに俺の所に来なければ、『CLANNAD』の開発を中止させ、Keyを解体
する」
麻枝は何も答えない。馬場がドアを開くと、冷気を残した朝の空気が流れ込んできた。
「ええ返事を期待しとるで」
言葉が終わると、ドアが閉じられた。
うひょう……悪役や……悪役や、VAVAちゃん……
頑張れだーまえ……頑張れ……
あと4回で、どんな結末が迎えられるというのだろうか……
625 :
名無しさんだよもん:02/03/26 12:06 ID:zgofroNl
が、がお…
麻枝ちんピンチ。
うっひょぉぉーーーい!BABA.DOS最高ーーー!!
ごめん、せっかく盛り上がってるとこ悪いけど
ボスのサイトのURL誰か知らない?
>627
スタッフすらに行くといい。
他のスタッフも纏まってるから。
ヴァヴァ社長の関西弁が違和感無くて良いですわ。
関西在住ですか?>書き手さん。
あとしょーもないツッコミ申し訳ないんですが、
>619の
>「身体的にも肉体的にもかなり疲労されています。
RR?ってこれで合ってるのかな・・・?
何だか自信無くなってきた・・・(;´Д`)
>>630 ふぉぉぉぉぉぉぉ、やっちまった……
×身体的にも肉体的にも→〇精神的にも肉体的にも
です。
そういや、
陣内が変名でVA系列に入ったみたいだけど、
これネタに出来んかなぁ。
>632
それ、リアルワールドの話?
え?、ここで書いちゃまずいの?
ていうか、むしろ馬場好きだ。
気づけばいつの間にか書き手さんが2人になっちゃったんだな、このスレも。
今はいいけどお2人のお話が完結した時はどうなるんだろうと、今から少し心配してみたり。
馬場は麻枝をどう思っているのか
太陽が昇るにつれ、朝の冷気はすぐに和らいだ。射し込む春の陽光は暖かく、開かれた窓から心地
の良い風が吹き込んでくる。エアー・コンディショナーの電源を落とした社長室で、馬場はいつもの
ように山積みの書類に向かっていた。馬場が社長を務める株式会社ビジュアルアーツは春の商戦に向
け、多くの作品をリリースする予定である。熾烈を極めるであろうこの商戦に勝利を収め、馬場は業
界の頂点にのし上がることを目論んでいた。去りゆく冬も、訪れる春も、馬場には何の感慨も与えな
い。馬場の心を動かすのはただ、燎原の火のような野望だけだ。
「『デバッグが間に合わんから納期を延ばしてくれ』やと? 寝言も大概にせえ! 限られた条件、
定められた期間でどれだけ仕事の質を上げるか、を考えるんがプロっちゅうもんや。人手がもっと
あったら、時間がもう少しあれば、みたいな発想しかできん人間はうちの会社には要らん。とっと
と辞表出して、田舎に帰れ! 退職金代わりに切符代くらいは出したるわ!」
受話器に向かい、思い切り怒鳴りつける。受話器を叩き付けると、苛立たしげに額の皺を指で押さえた。
「ったく、どいつもこいつも使えんわ。遊び半分で仕事やっとる」
独り呟いて、机に堆積する書類の山から一枚を取り出す。
「『CLANNAD』は緊急事態のため現在凍結中、か。このままやと今年の商戦はまずいな」
柱に掛けられたカレンダーに視線を向けると、もう三月も終わりだった。
「期限まで後二日。あれはただの脅しなんかやないぞ。お前が戻らんかったらKeyは解散や、麻枝」
馬場以外誰もいない部屋に、言葉が消えていった。
突如、電話機から内線の呼び出し音が鳴り響いた。馬場はすぐに受話器を取り、通話ボタンを押
す。受話器の向こうから、よく通る若い女性の声が聞こえてきた。
「吉沢務さんと名乗る方が社長に面会を求めておられますが、どうなされますか?」
受付が伝えるその名に馬場は一瞬厳しい表情を浮かべたが、すぐに返事をする。
「今すぐ俺の部屋に来るように言ってくれ」
言い終わると、受話器を置いた。
「一度、君とは直接話をしてみたかったんや。吉沢務君」
目の前に立つ男に、馬場は言った。
「俺もですよ。三年前にこの場を用意してくだされば、もっと良かったのですが」
馬場は苦笑して肩を竦める。
「殴り合いの喧嘩になるんは目に見えとったからな。お互いに頭が冷えてから、話し合いの機会を作
ろうと思っとったんや」
「うちの社長はまだ根に持っている様子でしたけどね」
「君はあんな阿呆とは違う。過ぎた事をいつまでも引きずるような人間やない。恨み言を吐き出しに、
俺に会いに来たんやないやろ」
言い終わると、馬場は口を閉ざして吉沢の言葉を待った。だが、吉沢も沈黙して言葉を返さない。
鋭い視線が絡み合い、互いを隔てる空気が冷たく張り詰める。彫像のように動かず、呼吸さえも止めて
しまったような二人の間を、ただ時計の音が刻んでいた。
永遠とも思える沈黙を破ったのは、吉沢だった。ふっと息を吐き、一歩だけ前に進む。
「麻枝から話は聞いた。涼元さんが倒れ、『CLANNAD』の開発が頓挫しかかっていることも。
あんたが強権を発動し、麻枝を取り戻そうとしていることも、全てだ」
「それがどうした。君では麻枝の才能を使うには力不足や。俺は麻枝を然るべき場所に導くために
必要なことをしているだけや」
「あんたが麻枝に執着する気持ちは分かる。馬場社長、あんたがいくら経営術に長けていても、
あんた自身が売れる商品を作れるわけではない。ビジュアルアーツに利益をもたらす商品を作るのは
クリエイターだ。生き残り争いに勝利し、業界のトップに立つために、あんたは麻枝を必要としてい
るんだ」
「よう分かっとるやないか。君の言う通りや。麻枝に売れる作品を作らせ、俺は業界のトップにのし
上がる。他の人間は皆、その捨て石や。君も、そして久弥もな」
表情一つ変えず、馬場は平然と言い放つ。
そんな馬場に吉沢は射るような視線を送っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「あんたにとっては捨て石でも、麻枝には違うんだ。俺は捨て石で構わない。でも、久弥は違う。
麻枝には久弥が必要だ。そして麻枝がいれば、久弥も変わることができる。そうやって二人は今、
もう一度やり直そうとしているんだ」
そう言うと、吉沢は膝を屈し、床に正座する。
「お願いします。二人を引き離さないでやってください」
吉沢は額を床に擦り付けた。
土下座して懇願する吉沢を馬場は呆然と眺めていたが、すぐに顔を歪めた。
「吉沢務ともあろう男が、なんちゅう姿や。プライドがないんか、貴様には!」
椅子から立ち上がり、怒鳴り声を上げる。
「何と言われようが構わない。でも、久弥だけは助けてやってくれ。あいつはまだ飛び方を知らない
んだ。今独りで放り出されたら、どこにも行けない」
足元に這いつくばり、頭を床にこすり付ける吉沢を、馬場は虫けらのように見下ろしている。
「そういう浪花節が一番嫌いなんや、俺は」
鈍い音が社長室に響く。馬場が吉沢の顎を蹴り上げていた。衝撃に思わずのけぞった吉沢の髪を
掴み、顔を上げさせる。
「久弥はビジュアルアーツを飛び出した男や。俺に逆らった男を、何で俺が救ってやらなあかんのや」
「久弥は本当はKeyに残りたかったんだ。久弥がKeyで作る作品は、あんたにとっても利益になるはずだ」
吉沢の唇の端から、赤い液体が垂れていた。
「確かに久弥はよう働いてくれたわ。だがそれは過去の話や。今更Keyに復帰させても、麻枝の邪魔
になるだけや。久弥本人もそう思っとるんちゃうんか?」
吉沢は反論しようとしたが、できなかった。麻枝のパートナーであることを望みながら、自分に
はもうその資格がないのではないか、と久弥が苦悩していることを吉沢は敏感にも気付いていたからだ。
沈黙する吉沢を見て、馬場は唇の片端を歪めた。
「そんなに久弥を復帰させたいんやったら、考えてやらんでもないで」
耳の方向に釣りあがった唇の隙間から洩れ出る言葉に、吉沢は喜色を浮かべる。
だが、それは一瞬だった。
「潰れかかってるブランドが一つあるんや。納期も近いっちゅうのに、満足にデバッグもできてへん。
どうしょうもないクズの集まりや。明日にでも全員叩き出したいわ」
「まさか、久弥をそこに……」
「察しがええな。スタッフの能力も、開発環境もどうしょうもないブランドや。まともな物が作れる
はずあらへん。せやけど久弥の名前があれば、鍵っ子のお客様方が内容の吟味もせんと飛びついてく
れるやろ」
「馬鹿な! そんな所で久弥がやって行ける訳がないだろう!」
吉沢は立ち上がり、馬場を睨みつける。
「やって行ける訳がない。そりゃそうや。俺は久弥にやって行ける場所を与えるつもりはさらさらない
んやからな。壊れるまで働かせて、動かなくなったら退職勧告や」
「久弥を……使い捨てにするつもりか、もう一度」
「お前も拾ってやらんでもないで。二人揃って俺の犬になるんやったら、潰れるまでは面倒見たるわ」
「馬場ぁ!」
胸倉を掴み、殴りかかろうとした瞬間だった。
「吉沢さんっ!」
折戸伸治がドアを開け、駆け寄る。馬場に向けて振り上げられた吉沢の腕を掴んだ。
「折戸……」
呟く吉沢に、折戸は言う。
「社長を殴ったって何にもなりません。俺に任せてください」
折戸の言葉を馬場は鼻で笑う。
「お前に何ができるというんや。たかが音屋風情が」
折戸は馬場を睨みつける。
「俺はKeyを辞める。Keyを辞め、久弥と一緒に行く。二度と、あいつを独りにはさせない」
「何やて?」
予想だにしなかった折戸の言葉に、馬場は驚きを隠せない。
「社長……今のKeyが一番必要としている人間は、確かに麻枝だ。でも、Keyは麻枝だけじゃない。
今のKeyがあるのは、久弥がいたからなんだ。久弥を捨ててまで、俺はKeyに残りたくはない」
折戸の声には微かな哀しみが混じっていた。
「『CLANNAD』の作業を戸越に引継ぎ終え次第、辞表を出します。麻枝達をよろしくお願いします」
そう言って、深く頭を下げる。踵を返すと、そのまま部屋から退出した。
夜も更け、人のあらかたが吐き出された鉄筋の建造物はひっそりと闇に溶けていた。屋上に引っか
かるように月が輝き、冷たい影を道路に落としている。昼間の喧騒が嘘のように静まり返った社屋の
一角だけが、まだ光を放っていた。
折戸はKey開発室に独り残り、黙々とディスプレイに向かっていた。涼元が倒れたことにより、
『CLANNAD』の開発作業は中断された。今のKey開発室は閉山を迎えた炭鉱のように寂れ、熱気
の残り火だけが微かに漂っている。
無機質な駆動音が響き、折戸のPCに備え付けられたCDドライブからディスクが吐き出された。
折戸はディスクを取り出すと丁寧な手付きでラベルを張り、プラスチックのケースに収納する。
そのディスクには折戸が密かに書き上げていた楽曲のデータが保存されていた。『CLANNAD』には
使用せず、麻枝や戸越にも決して聴かせることのなかった、秘蔵の楽曲。いつか久弥と共に作品を
作る時、折戸はそれを提供しようと心に決めていたのだ。
「よし、行くか」
ディスクケースを手に取り、立ち上がる。大きく背伸びをすると、がらんとした開発室が隅から隅
まで見渡せた。綺麗に整理整頓された、涼元の机も。
「涼元さん……満足か。自分で自分を傷付けることで、あんたは麻枝を手に入れた。もう二度と麻枝
はあんたを置いて行かないだろう。立派なKeyの一員だよ、あんたは」
涼元の机は月の光に照らされ、うっすらと輝いていた。
「あんたならKeyをもっと高くに運んでいける。麻枝と一緒なら、あんたはどこにだって行ける」
そこに涼元がいるかのように、折戸は無人の机に語り掛ける。
「だが、俺は違う道を行かせてもらう。もう一つのKeyを、俺は飛び立たせる。あんたは麻枝を手に入れ、
俺は久弥を手に入れる」
そして折戸は、Keyを出た。
来たか。
折戸、いいねぇ。かっこいい。こういう台詞吐けるくらいに、誰かを信じてみたいもんだ。
折戸、久弥、吉沢のこれからも気懸かりだが、CLANNADがどうなるかがもっと気懸かりだ(w
吉沢……さんっ……
折戸……さんっ……
がんばって……がんばってぇ……
CLANNADは、どうなるんだ……
BABA.DOSはもうちょい悪人に書いても問題無いような。
ボンびい時代はやんなくてもいいちょっかい出しまくって開発混乱させてたらしいし。
折戸ぉぉぉーーーーっっっ!
桜咲く季節に移り変わり、Leaf社内の空気も穏やかなものとなっていった。
はずだった。
ただ、一人の男を除いては…
一一(にのまえはじめ)
PEACE販売以降、一身にサポートやその他雑務を追われ、コナミやKey云々と
言えるような日々を送る事が出来ず歯がゆい時を過していた。
そんな時、再びLeafを去ろうとする男と一は会う。
米倉高広(通称ケムさん)ToHeart以来の古参音楽マンであった。
米倉は言う
「ちまちまとですけど、俺も社長やDOZAさんみたいにユーザーの心に残る音楽って
のを作りたかったんですけどね…でも、まあ自分でいうのもなんですけどやっぱ、
LEAFにおいては活躍がないんですよ…」
「何を言っておる!おまえさんの陰の支えがあるからこそワシのようにここまでやって
いけたのじゃないのか?そもそも何故お前ほどの人間が……」
「だから言ったじゃないですか?ユーザーにもそして社内でも一定の評価が自分に無い
んですよ…だからです。」
「……………」
押し黙る一
「おやびんはプログラマーですから地味でもなんら文句は言われません。むしろ
でしゃばる職種じゃないですから。でも音楽は違います。その時のテキスト・
原画にぴったりのサウンドを提供出来なければ結果をもらえないんです。
雫は今はいない折戸さんが・痕ではDOZAさんと社長が…
ToHeartは社長と中上君の方が評価ありましたし…
誰彼は、新人の松岡君が…」
「……………」
「と、まあ結局自分の活躍する場所と結果が出せなかったんですよ。あと…」
「あと?」
「こっちの方が責任的には重大みたいんですけど、」
「ふむ」
「俺…コナミとの対応で本当は辞めるんですよ…」
「なっ!!」
一の目が大きく見開いた。
「ま、まさか」
「俺、前々からコナミ関連で版権とか担当してたじゃないですか…中上君と」
「それは知っておるが」
「で、台湾に行く前にメールが俺の元に届いたんですよ…」
「なんて言う風にじゃ?」
「まあ簡単に言うなら『VNに関する版権』のいざこざですね。特許が欲しいから、
ウチ(コナミ)につっかかるのをやめろ…って」
「で、俺は前々から会社として一貫しているように『VNはコナミが特許を出す
理由がないから…そもそもLEAFが言ったのを勝手にそっちが盗人のようになんでも
かんでも特許だして版権で稼ぐのはいかがなものか?』って言う感じのメールを返信
したんですよ…」
「んで」
「まあ、それがコナミの逆鱗に触れたんかしらないですけど…向こうがかなり感情的
な言葉投げつけるメール返してきて…『LEAFと一戦交える!』うんたらかんたら
って…」
「ちょ、ちょっと待て!」
一は再び血相を変える
「どうしました?おやびん」
「そうか………そうきたのか…」
米倉は一の呟きが理解できなかった。
「ま、まさか」
「俺、前々からコナミ関連で版権とか担当してたじゃないですか…中上君と」
「それは知っておるが」
「で、台湾に行く前にメールが俺の元に届いたんですよ…」
「なんて言う風にじゃ?」
「まあ簡単に言うなら『VNに関する版権』のいざこざですね。特許が欲しいから、
ウチ(コナミ)につっかかるのをやめろ…って」
「で、俺は前々から会社として一貫しているように『VNはコナミが特許を出す
理由がないから…そもそもLEAFが言ったのを勝手にそっちが盗人のようになんでも
かんでも特許だして版権で稼ぐのはいかがなものか?』って言う感じのメールを返信
したんですよ…」
「んで」
「まあ、それがコナミの逆鱗に触れたんかしらないですけど…向こうがかなり感情的
な言葉投げつけるメール返してきて…『LEAFと一戦交える!』うんたらかんたら
って…」
「ちょ、ちょっと待て!」
一は再び血相を変える
「どうしました?おやびん」
「そうか………そうきたのか…」
米倉は一の呟きが理解できなかった。
「いや、気にするな。で、そのコナミ対応が原因で辞めると……」
「そういう事ですね。」
「…………………………」
顔をしかめる一
「おやびん」
「ワシは…あとどれだけの人間を失えばいいのじゃ!」
「お、おやびん……」
「折戸・生波夢・鳥の・DOZA………みんないい奴じゃった。なのに…何故じゃ!
何故LEAFを去る!何が悪い!何がいかんのじゃ!なあケムよ!なあ、言ってくれ
ワシか…ワシがいかんのか?ワシがみんなの心をわかってやれなかったからか?
なあ?なあて……」
「…………」
矢次に問い掛けて来る一に…米倉は何も言葉を返す事が出来なかった。いや正確には
言えなかった。
「ワシは…どうすればいい?」
「おやびんは悪くないですよ。これだけは言えます。」
米倉は静かに、低い声で一に言う。
「……世話になりました。」
頭を深々と下げる米倉
「例えLEAFを離れても、みんなの事は忘れません。」
「ケム!」
「でも、この話だけはしておかないと…俺もされないですね。」
米倉は一つの大学ノートを見せる。
「そっ、それは…」
ノートの題名にはこう書かれていた。
『Leaf&Key共闘フローチャート』
と。
米倉はパラパラとめくりながら関心して言う。
「凄いですねこれは。コナミに対しての対策がまずKeyと手を結ぶ…そこから
フローチャートのように様々な派生を思いついては書いていたんでしょうね…」
「…何故お前がそれを?」
米倉は一の質問を流し
「何々…高橋・水無月コンビの外注化・2.14事件組の取込・久弥直樹との
コンタクト・馬場と下川の直接交渉・VN特許に関する甲案・乙案の提唱・
東京開発室独立認知案etc……しかしその中でも、おやびんがそれより重要として
赤ペンで○を入れているこれ!」
「…………………………………」
米倉がノートに指差す部分に強い筆圧で赤丸が記されている。
「『折戸伸治×下川直哉』…これは俺には意味が分からないのですが……ま、まさか!」
「ん?」
「おやびん…そんな内輪にしか受けないホモ小説家デビューですか?」
米倉は真面目が顔でそういうので一は…
ガンッ!
「いたっ!頭のてっぺんを殴らないで下さい。痛いじゃないですか…」
「バカモン、そんな事してなんになると言うのじゃ…」
「ま、確かにそれはそうですけど…」
一はふぅとため息をついた。
「しかしケム、本当に意味が判らないか?」
「いや、俺が入った時には折戸さんはいませんでしたから、あんまりあの人の事は…」
「そうじゃったな。」
ウンウンと納得する一
「お前さんも、この業界にいると色々な噂やゴシップを聞くと思うが…」
「ああ、社長が折戸さんの当時の彼女にちょっかいだしたっていう話ですね。それで
折戸さんがココ辞めたって言う…」
「違うのじゃ!」
「ヘッ?」
「あれは……違うのじゃ……」
一は顔を下に俯かせ両拳をブルブルと震わせる。
米倉はいつもとは違う一を感じ取っていた。
「もう、お前さんがそれを見てしまったのなら何ら隠すような事でもない。まあその話
は結果としては事実なのじゃが…」
「んじゃあ、社長がやっぱり…」
「しかしそれは真実ではないのじゃ!」
「へっ?」
素っ頓狂な声をあげる米倉
一は簡単に米倉に説明する。
折戸の彼女は金目当てで付き合っていた事。
そして下川と出会い、誘惑したこと。
女の企みを察知した下川がその女を殴った事。
その瞬間を運悪く折戸がみてしまい、誤解が生じた事。
そして二人の間に亀裂が生じ…折戸がLeafを去った事。
一は記憶するその当時の現状を米倉は話した。
全てを聞いた米倉は…
「それじゃ…別に社長はその女をちょっかいだしたとかそういうんじゃないんですね?」
「そういう事じゃ。」
「でも、どうしておやびんはそれを折戸さんに話す事が出来なかったんですか?
おやびんが言えば…折戸さんだってLeafを出て行く事も無かった筈です。」
「………」
押し黙る一
「どうして…そんな大切な事を折戸さんに伝えなかったのです?どうしてその時に
おやびんは真実を知っていて誤解を取り除こうとしなかったのですか?」
「わかってる!!」
突然怒鳴る一
「お、おやびん…」
一は早口に
「ああ、そうだとも!そうだとも!ワシがその時に折戸にすぐにでも言えば良かった
のじゃ。だが、ワシは言えなかった。そういえなかったんじゃ!だから後悔している。
いまでも心に引っかかっている!その場に居会わせていて…真実を伝えなかったワシ
がいかんのじゃ……」
「……」
「だから、今からでもせめて直哉と折戸の仲だけでも…修復させたいとワシは思って
いる。そう、ワシにはコナミだのVNの版権などどうでもよかった。
何かをきっかけに折戸と直哉が…あのころの様に笑いあえる時がくればどうでも
よいのじゃ…」
「おやびん…………………」
「ケム、ワシは自分勝手な男と言われようとも、何としてでもそこだけは…伝え
なくてはならんのじゃ折戸に」
「…………」
米倉は一にどう声を掛ければいいのか判らず、ただ黙って悲壮な一の姿を見る事だけ
しかできなかった。
「ケム、つまらん話をしてしまったな。」
「いえ」
「で、話は戻すが…お前さんはそのノートをどこで?…最近ワシはPEACE関係で
そっちに関われなかったんでな…」
一は『Leaf&Key共闘フローチャート』ノートの事を聞くと…
「これですか?」
「うむ」
「前におやびんの机みたらこのノートが置いてあって…んでつい興味本位で持って
帰ってしまいました。すいません。」
ペコリと頭を下げる米倉
「いや、ワシも仕事とサポートに追われて気が付かなかったワシの責任でもある。
それに、お前さんなら別に構わんさ」
「どうしてです?」
「では誰かにワシがこの事を勧めているのを密告する気があるのか?」
「いえ、そんなことはしませんよ。おやびんが社長と折戸さんの為に動いているんです。
俺がどうこうすることはありません。後これ、返しておきます。」
一はノートを受け取る。
「こんな事言えた義理じゃありませんが…」
「うむ」
「おやびんは社長と折戸さん関係修復に集中しててください。俺はコナミの方で何か
わかったら知らせます。」
「いいのか?おまえさん、次の仕事先とか…」
「勝手にノートぱくっていったんですから…これぐらいはさせて下さい。」
米倉がそう言うと…
「恩に着る。」
「そんなもん着なくてもいいですよ。フッ」
米倉は笑っていた。
「それじゃあ、もうそろそろ俺は……」
「ああ、すまんな。」
「色々と世話になりました。」
「いや、ワシはお前さんには対したことはしておらんがな。」
「何か、最後におやびんと色々話ができてよかったです。」
そう言う米倉の顔はどこか清々しく一は感じ取った。
しばしの静寂
二人はお互いの顔を見詰め合う。
何も言わない。ただ、LEAFで過した日々が走馬灯のように二人の脳裏をかすめる。
「じゃ!お元気で」
「ああ、絶対にまた会おう!」
「ええ」
そういうと米倉は荷物をまとめて、ドアの前で深々を頭を下げて部屋を立ち去った。
こうして、また一人Leafから人が去っていった。
key、leaf編を連続して読めるとは思わなかった。
折戸がああゆう決断をするとは、予想外。
どうなっちゃうんだろ…
>けむ
新天地が早く見つかるといいね。
米倉じゃなくて、米村だね。
V.G.の曲好きだったよ……(超板違い)
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
>662氏
す、すいません。激しくすいません。
名前間違ってしまいました・・・本当に申し訳ございません。
・・・・・・
鬱だ・・・本気で・・・
次から気をつけます。
という展開を予想してみる。
2つの物語がもしリンクしてたりしてたら、もう俺は笑うしかないね。
666 :
666:02/03/31 10:10 ID:t5esSH25
666
どうも、Leafサイドの作品は所々、出来にムラがあるような気がするのは
俺だけかね?(良い時と悪い時)
いや、批判とかじゃないんだけど時々そう思う所為があるんでね。
基本的にだーはら話は大好きです。
これからも書き手さんは頑張って下さいませ。