エロゲーブランド最萌トーナメント予選Round1!!

このエントリーをはてなブックマークに追加
735名無しさん@初回限定
 大阪某所。ここに、かつて栄光の時代を作り上げた一つのエロゲーブランドがあった。
 名はLeaf。その社長である下川は、今日もインターネットで業界の情報を集めていた。
 一通りの巡回が終わった後に、一つの掲示板にアクセスする。
『葉鍵板』
 そこには、ユーザーの生の声がこれ以上ないほど溢れていた。
「誰彼最悪、金返せ!」
「盗作ライター、逝ってよし!」
「うたわれはLeafの最後の一葉」
「アビスボートと一緒に沈め!」
 ふぅ、と溜息をつく。芸のない煽りはもう見飽きていたが、それでも一つ一つ目に焼きつける。
 かつての栄光も今やこの有り様。自分のやってきたことは間違ってはいなかったはずなのに。

 その時、一つのスレッドが目に入る。
『エロゲーブランド最萌トーナメントッッ!!葉鍵支部』
 流行りのトーナメントスレがどうやらネギ板まで飛び火したようだった。
(ユーザーに見放されたブランドや、結果を見るまでもないやろ)
 ブラウザを閉じる。後には寂寥感が残ったがいつものことだ。
 大丈夫、もう慣れた。いつものことだ。


 数日後、社長室に一人の社員が飛び込んできた。
「社長! 下川社長!」
「なんや竹林、そんな血相変えて。高橋が新会社でも立てたんか?」
 竹林は一枚の紙切れをスッと差し出す。アドレスが書いてあった。
「2ちゃんねるのネギ板やないか」
「今すぐ、そこを見てくださいますか?」
「まさか、また内部暴露文でも流出したんちゃうやろな……」
 しぶしぶアドレスを打ち込み、表示されたスレッドを読む。
 想像もしなかったことが起きていた。
736名無しさん@初回限定:02/01/25 02:42 ID:52+yy9RD
『エロゲーブランド最萌トーナメント予選Round1!!』
 「本当に好きだったから、Leafに一票」
 「在りし日のLeafに一票」
 「今は枯れてしまっても、過去の実績は光を失っていない。Leafに一票」
 「何だかんだ言っても信者ですから」
 「枯葉かもしれないが、最後の一葉まで付いて行きたい」
 「良い思い出が多過ぎます」
 「今がどんなにひどい会社でも痕を作ったのはここなのだから」
 「いまはあんなになってしまったが、彼らはすばらしいものを与えてくれた。
懐古主義ではない。あの時彼らに出会っていなければ今の折れはない。
最大級の感謝と最上級の賞賛を込めて。」

「なんや。なんなんや……これは……」
 声が掠れているのが自身でもよくわかった。
 見捨てられていたと思っていた。相手にされないと思っていた。
 だけどユーザーは、今は落ちぶれたこのメーカーの想い出を、
 大切に守っていると知った。
 過去を思い出す。高橋がいて、水無月がいて、折戸がいて。
 資金繰りに苦労しながらも、毎日が辛くても、それでも一つの目標に向けて皆で笑いながら走っていた。
 あの頃の仲間も、今はもういない。
 自分は一体、どこで間違えたのだろう。
 ユーザーすらも切り捨てて、自分は何をしていたのだろう。
「社長……大丈夫ですか?」
「……何がや。どうということもあらへんやないか」
「ですが……」
 その時、頬に一筋の雫が走った。もう何年も流したことのない、涙だった。
「悪い。一人にしてくれ」
 竹林は無言でその場を後にする。
 誰もいなくなった社長室。自分はどこまでも孤独だった。
 情など捨てて、仲間も捨てて、利益だけを求めてきた数年間。
 後に残ったLeafはあまりにも広くて、自分には空虚だと気付かされた。
 空を見上げる。
 留まることなく白い雲が流れて行く。
 過ぎて行った日は戻ることなく。
 後戻りの許されない今日を、生きる他なかった。