エロゲーブランド最萌トーナメント予選Round1!!
大阪某所。ここに、かつて栄光の時代を作り上げた一つのエロゲーブランドがあった。
名はLeaf。その社長である下川は、今日もインターネットで業界の情報を集めていた。
一通りの巡回が終わった後に、一つの掲示板にアクセスする。
『葉鍵板』
そこには、ユーザーの生の声がこれ以上ないほど溢れていた。
「誰彼最悪、金返せ!」
「盗作ライター、逝ってよし!」
「うたわれはLeafの最後の一葉」
「アビスボートと一緒に沈め!」
ふぅ、と溜息をつく。芸のない煽りはもう見飽きていたが、それでも一つ一つ目に焼きつける。
かつての栄光も今やこの有り様。自分のやってきたことは間違ってはいなかったはずなのに。
その時、一つのスレッドが目に入る。
『エロゲーブランド最萌トーナメントッッ!!葉鍵支部』
流行りのトーナメントスレがどうやらネギ板まで飛び火したようだった。
(ユーザーに見放されたブランドや、結果を見るまでもないやろ)
ブラウザを閉じる。後には寂寥感が残ったがいつものことだ。
大丈夫、もう慣れた。いつものことだ。
数日後、社長室に一人の社員が飛び込んできた。
「社長! 下川社長!」
「なんや竹林、そんな血相変えて。高橋が新会社でも立てたんか?」
竹林は一枚の紙切れをスッと差し出す。アドレスが書いてあった。
「2ちゃんねるのネギ板やないか」
「今すぐ、そこを見てくださいますか?」
「まさか、また内部暴露文でも流出したんちゃうやろな……」
しぶしぶアドレスを打ち込み、表示されたスレッドを読む。
想像もしなかったことが起きていた。
『エロゲーブランド最萌トーナメント予選Round1!!』
「本当に好きだったから、Leafに一票」
「在りし日のLeafに一票」
「今は枯れてしまっても、過去の実績は光を失っていない。Leafに一票」
「何だかんだ言っても信者ですから」
「枯葉かもしれないが、最後の一葉まで付いて行きたい」
「良い思い出が多過ぎます」
「今がどんなにひどい会社でも痕を作ったのはここなのだから」
「いまはあんなになってしまったが、彼らはすばらしいものを与えてくれた。
懐古主義ではない。あの時彼らに出会っていなければ今の折れはない。
最大級の感謝と最上級の賞賛を込めて。」
「なんや。なんなんや……これは……」
声が掠れているのが自身でもよくわかった。
見捨てられていたと思っていた。相手にされないと思っていた。
だけどユーザーは、今は落ちぶれたこのメーカーの想い出を、
大切に守っていると知った。
過去を思い出す。高橋がいて、水無月がいて、折戸がいて。
資金繰りに苦労しながらも、毎日が辛くても、それでも一つの目標に向けて皆で笑いながら走っていた。
あの頃の仲間も、今はもういない。
自分は一体、どこで間違えたのだろう。
ユーザーすらも切り捨てて、自分は何をしていたのだろう。
「社長……大丈夫ですか?」
「……何がや。どうということもあらへんやないか」
「ですが……」
その時、頬に一筋の雫が走った。もう何年も流したことのない、涙だった。
「悪い。一人にしてくれ」
竹林は無言でその場を後にする。
誰もいなくなった社長室。自分はどこまでも孤独だった。
情など捨てて、仲間も捨てて、利益だけを求めてきた数年間。
後に残ったLeafはあまりにも広くて、自分には空虚だと気付かされた。
空を見上げる。
留まることなく白い雲が流れて行く。
過ぎて行った日は戻ることなく。
後戻りの許されない今日を、生きる他なかった。