ロボゲーSS・小説投稿スレ 2

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1それも名無しだ
・萌えスレにSS(ショートストーリー)を投下したいがレス数や容量が心配。
・俺スパロボ、俺AC等々を書きたいが自分でサイト作るの('A`)マンドクセ。
・とにかく妄想を吐き出したい!
そんな時のためのロボゲーSS、小説投稿スレ。

書き手の人へ
・叩かれても泣かない。
・なるべく投げ出さないこと。
・きつくてもぬるくても感想は肥やし。
読み手の方へ
・親の敵のように叩くくらいならきっぱり無視。

関連スレ
スパロボ二次創作小説を語るスレ
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/gamerobo/1133277308/l50

前スレ
ロボゲーSS・小説投稿スレ
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/gamerobo/1135677747/l50

まとめサイト
http://www7.atwiki.jp/srw-if/
2それも名無しだ:2006/03/09(木) 15:14:48 ID:M83+uUf1
ちんこ
3312:2006/03/09(木) 15:16:14 ID:Ir0WZJ2C
前スレ312です。

前スレ途中で要領オーバーしたらしいので勝手ながら新スレ立てました。
テンプレ等不都合ありましたら補足願います。

以下前スレの続き。
4前312:2006/03/09(木) 15:19:56 ID:Ir0WZJ2C

「あ、あ」

ハイネの頭の中はさながらキャリーオーバーといった状態にあった。
ショック状態といってもいい。
確かにハイネはオールズモビルの攻撃を受けたミデアの機銃座で負傷した人間、
そしてその後死に至ったその姿を目にしてはいた。
しかし人がこうも見事に挽肉状態にされている様は、ハイネというまだ駆け出しにも至らない
パイロットの精神には耐えかねるものがあったのだ。

その時機体のセンサーが激しい警告を発する。
先ほどの戦闘で登録されたバグのデータが周囲を捉えた情報と一致したのだ。

バグが迫っていた。今度は二機である。
一機は正面、もう片方は真横から、それぞれ縦と横の体勢を取りながらジムへと猛然と突撃を始めていた。
ハイネはその無機質な姿に激高した。

「お、お前らぁーっ!」

ハイネの怒りを代弁するかの如く、ジムのバルカンは猛烈な火線を正面のバグに向けて放った。
その攻撃は苛烈といってよかった。
周囲から見れば、その動きにある種の感情を読み取ることもできただろう。
もちろん未熟さそのものの動きではあるが、一直線の攻撃は瞬く間に一機のバグを粉砕していた。

しかしもう一機のバグは仲間の撃墜に何ら感じるものなく、そのまま当初の予定通りジムに突撃するのである。
この攻撃にジムのコクピットは揺れた。
胸の装甲付近に攻撃を受けたようだった。
バグは攻撃の瞬間、高速回転する刃だけでなく微量なビームの粒子も発するらしく、
ジムのコンソールには装甲が軽くではあるが溶解したという報告が入った。
しかし今のハイネはそんなものには目もくれていなかった。

「くそお!」

装甲に弾かれて後退したバグをターゲットカーソルが捕捉し、
ハイネはその車輪に向けてジムの手持ち武器であるビームスプレーガンを放った。
一筋の威力は弱いものの、広範囲に重金属粒子の矢を放つその武器は確かにこの状況と
ハイネというパイロットの技量を考えた時有効であった。

迂闊にも側面を向けていたバグの車輪に、その高熱の矢が幾筋も突き刺さる。
破片がいくつか飛び散ったと思う間もなく、バグは盛大に爆発した。
瞬間閃光がコクピット内に広がり、モニターは自動的に光量を調節した。
それでもジムを包み込んだ光は十分に眩しく、ハイネは思わず目を瞑らざるを得なかった。

「セッターは。セッターは大丈夫なのか」

次にハイネが考えたのはそのことだった。
咄嗟に通信スイッチに手を伸ばす。
ミノフスキー粒子の濃度は薄くはなかったが、電波はセッターをキャッチしたようだった。
近くにいるらしい。シグナルを受信して、セッターから声が返ってきた。

「ハイネか。位置を掴んだ。そこを動くな、今から行く!」

セッターが無事であることにハイネはひとまず安堵する。
セッター本体にも各種の武装は備えられているのだから、バグの一機や二機が来たところで問題はないと思えた。
現に自分は三機落としているのだ。
しかし人間はそうはいかない。生身はそうはいかないようだった。
そのことは未だにセンサーが捉え続ける死骸の数が証明している。
ハイネはもうウィンドウを直視できないでいた。
あの親子は大丈夫なのだろうか。不安が脳裏をかすめる。
5前312:2006/03/09(木) 15:22:23 ID:Ir0WZJ2C

「ハイネ、無事だったか」

セッターがジムの真横に降り立った。特に目立った傷はないようだ。
そう思ったが、いくつかの傷は深くなり始めていることにハイネは慄然とした。

「スミス。大丈夫なのか」
「分かっている。一発は怖くないが、回数を重ねられるとまずいな。
数はどれぐらいいるんだろう。俺は二機やった。お前はどうだ」
「俺は三機。こいつら、本当に人間だけを襲ってるのか」
「そうみたいだな。
くそっ、胸糞悪い兵器だぜ。こんなもの放っておいていいわけがないじゃねぇか。
おいハイネ、今俺たちは街の端にいることは分かっているな。
地図は入力してあるだろう。
狙われるから上空には飛べなかったが、少なくともベースらしきものは二つかそれ以上あるらしい」
「二つ。街の両端にか」
「多分な。バグもこのサイズなら、そう長時間の稼動は無理なんだろう。
それで一度中心まで進んで、そして戻ってくる。この繰り返しなんじゃないか」
「そうか。じゃあどうする。二手に分かれるのか」
「そりゃまずい。できれば一緒に行動してベースを一つずつ潰していく方がいい。数が分からない以上な」

ハイネは焦っていた。その焦りが言葉を続けさせる。

「あの親子は。あの人たちは無事なんだろうか」
「分からん。俺も何とかしたい。
お互いコンピューターに情報は入れてあるな。
反応すれば、生きていればだが、反応すれば顔やその他を認識してセンサーが捉えてくれるはずだ。
見つかったら保護する。
ただし、バグの破壊が優先だ。分かってるな」
「分かってる。分かってるけどな」
「殺されかかっているのはあの親子だけじゃないんだぞ。そのこと忘れんなよ。
いいか、保護したら一度接触しろ。モビルスーツの中にいるのはまずい。
保護しても怪我する可能性が高い。
セッターの方がスペースがある。安全だ。いいな」
「了解。あのさ」
「何だ」

次の言葉を言うべきかどうか、ハイネは迷った。
しかし考えた末に口を開く。
自分自身、こんな言葉がすらすらと出てくるのが不思議であった。

「死ぬなよ」
「お前もな」

ジムのコンソールに進行方向が示された。
ハイネはシールドを前面に構えて、バーニアを吹かしていく。
自動的に姿勢を制御したジムはゆっくりと前に進み始めた。

ハイネは速度を上げたくはなかった。
親子を発見した時に即座に対応したかったからだ。
そんなジムにワイヤーが射出され、接触回線の声が届いた。

6前312:2006/03/09(木) 15:25:15 ID:Ir0WZJ2C

「ハイネ、気持ちは分かるが速度を上げるぞ!」
「でも」
「シェルターに入っている可能性もある。
もしそうなら、時間が経てば経つほど危険なんだ。分かるだろうが!」

流石にハイネは逡巡している場合では無いと思う。
理屈が通じるならば、ハイネはその指示に従うことに今は抵抗はなかった。

街の各部にはシェルターがある。
ハイネも地球上に住んでいた以上、そのことは十分知っている。
頑丈だ。心配ない。ハイネはバーニアの出力を上げた。

「街の中心を突っ切る。数が多いぞ!」
「分かった!」

ビルの合間をすり抜けるようにしてジムとセッターは高速で前進した。
機体のセンサーは後方から接近する無数のバグを捉えた。
コクピット内に警告が走った。

最初は十字路に差し掛かる度に横からバグが出現していたが、その内に何機かはビルを飛び越えるようにして、
真上からジムとセッターを襲い始めた。
上方のバグにはスプレーガンを掃射して、後方から接近するものにはセッターがミサイルとチャフを放った。
一瞬混乱した動きを取ったバグは相互に激突してビルに衝突した。
しかし迫り来るバグは数を増やす一方だ。

攻撃を続ける間にハイネはバグの種類が二つあることに気がついていた。
一つは今彼らの機体を襲う大型のもの。
もう一つは小型の、数メートル、ともすれば一メートルかそこらの大きさのものであった。

小型のバグは完全に対人専用であるとハイネには分かった。
ハイネはそれも破壊したかったが、モビルスーツのバーニアの衝撃だけで
動きを乱してしまうほど小さいバグを一つ一つ破壊できるような武装はジムにはついていなかった。

やり切れなさを抱えたままハイネはバグの破壊を続ける。
その間にも機体の各部にバグの突進が加えられた。

センサーが一際甲高い反応を示したのはその時であった。
ハイネはその音に跳ねるようにして反応する。
それは彼が待ち望んでいた音であった。

生存反応である。
ハイネはヘルメットに備えられたマイクに向けて怒鳴った。

「スミス! 生存反応だ、生きてたんだ!」
「ああ、こっちも捉えた。次のブロック、そこだ!」

そんなスミスの声が聞こえると同時に、数機のバグがセッターに突撃した。
その攻撃にセッターの後部が地面を擦った。
バランスを崩したセッターは道路を横滑りする形で不時着する。
しかしバーニアはまだ生きているようで、吹き上がるホバーの風圧が迫るバグの攻撃の勢いを削いでいた。
ハイネもセッターの窮状を目の端に捉える。

7前312:2006/03/09(木) 15:27:47 ID:Ir0WZJ2C

「スミス!」
「いいから行け、早くしないとバグに襲われるぞ! 早く回収しろ!」

ハイネは答える代わりにジムを加速させた。
センサーが指示したのはビルの片隅。
地図と照合した結果、そこはシェルターの入り口であるらしかった。
カメラアイが捉えた映像は拡大され、その中には幾人かの動く人間の姿が確認できた。

あの中に親子もいるのだ。
しかし気になることは、反応が一つしかないということだった。
きっと三人固まっているからだ。
ハイネはそう判断した。

ハイネはジムを回りこませるようにしてその地点の前に到着した。
モニターの下部でジムを見上げる人々が湧いたように見えた。
シールドで壁を作るようにして、ハイネはジムを屈ませた。
ジムの上半身が下を向くと同時にコクピットハッチを開き、ハイネは待つのももどかしくそこから飛び出した。
乗降用のケーブルを掴んで地面へと降り立つ。
ハイネは人垣の中に親子の姿を探した。

「救援なのか!」
「モビルスーツが来たぞ!」

シェルターに入ろうとする人々は口々に叫んだ。
ハイネはその言葉が全て自分に向けられたものだとは気がついていなかった。
ただ親子の姿だけを探している。

「ヴェステンフルスさん!」

ハイネに気がついた母親が駆け寄ってきた。
腕に幼児を抱えている。二人の内、年下の男の子だった。
ハイネは無意識の内にもう一人の幼児の姿を探す。

「無事で良かった。助けに来たんです。もう一人はどうしたんですか」

ハイネは親子が無事だったことに胸が明るくなるのを感じながら言った。
母親はそんなハイネとは逆に、沈んだ表情を返した。

「いないの。あの子がいないの。途中ではぐれて。
ねえ、この子をお願いします。私、まだ探さなくちゃ」

そう言うや否や、母親はハイネの腕に幼児を預けて、人が詰め掛けたシェルターの中に呼びかけた。
必死に子供の名前を叫んでいる。
ハイネはようやくその事実に気がついた。
光が差した胸中は一気に暗くなった。
しかし今はこの二人だけでも助けなければならない。

「お母さん、駄目です! 早くモビルスーツに!」
「車輪が来たぞぉ!」

群集の中から悲痛な叫びが上がった。
それに反応して人々は我先にシェルターの中へと殺到する。
そんな流れの中に母親の姿は消えてしまった。
ハイネがあっと思う間もなく、小型のバグが一機、高速で回転しながらシェルターの中へと入っていった。
引きちぎられた手足、頭部が宙に舞った。
その直後である。

8前312:2006/03/09(木) 15:32:12 ID:Ir0WZJ2C

シェルターの狭い入り口から爆炎が吹き上がった。
ハイネは衝撃に煽られて幼児を抱えたまま地面に叩きつけられた。
身体は自然に受身を取っていたが、そのことをハイネが意識できるわけがなかった。
ハイネは必死に幼児の身体を抱え、自身の身体でそのか弱い存在を守ろうとしていた。

「爆発、したのか」

そう呟きながらゆっくりと目を開ける。
目の前は地獄であった。
一瞬前まで人であったはずのものがそこら中に散乱していた。
鮮血。肉片。内臓。灰色の物体は脳であろうか。
鼻をつく匂いはいつしか爆発が巻き上げる煙の刺激臭に変わった。

ハイネは呆然とその光景を眺めた。
頭は当に白紙状態である。
彼の目の前に一本の腕が落ちていた。
付け根から抉られたその中心に白いものが覗いている。骨だろう。

ハイネの胃の腑はその内容物を口元まで押し上げた。
ハイネは猛烈に胃の中のものを逆流させながら、シェルターの中からかすかに響く人間のうめき声を聞いた。

まだ生きている人間がいるのだ。
その思いがハイネの足にかろうじて力を蘇らせた。
生きているなら。誰か生きているのなら。

飛来したバグが、そんなハイネを嘲笑うかのようにしてシェルターの中に
突き進んでいったのはその一瞬後のことだった。

丸太を切るノコギリが木片を巻き上げるかのようにして、
シェルターの入り口周辺には焦げかけた肉片が飛び散った。
湿った何かを踏み潰すような音が一面に響いた。
それをかき消したのは人々の悲鳴。
かろうじて最初の爆発を逃れた人々も、その追撃によって一度は拾いかけた生命を再び奪われてしまうのだった。

もう一機のバグも、殺戮を満足したかのようにして爆発した。
今度は悲鳴は上がらなかった。

「死んだ。死んだ」

ハイネは呆けたように両膝をついたままの姿勢で固まっていた。
その目は何も見ていなかった。
ただ腕の中の気を失った幼児だけはしっかりと抱きしめている。
彼の頭はこれ以上ないほどに混乱していた。

9前312:2006/03/09(木) 15:33:41 ID:Ir0WZJ2C

死んだ。みんな死んだ。
母親も死んだ。多分この子の兄も。
死んだ。シェルターに入ろうとしていた人たち。
この街の人たち。みんな死んでいく。
こいつは一体何なんだ。
バグ。何なんだこの機械は。
どうしてこんなに。人を、簡単に、殺していく。
狂ってる。どうかしている。
誰もがこうも簡単に殺される。誰もが。関係なく。
男も女も子供も老人も。軍人だろうが民間人だろうが。
あの母親も死んだ。
コーディネーターもナチュラルも、みんなバグは殺してしまうんだ。
バグにはそんなものは関係無い。バグは殺すだけだ。人間を殺すだけなんだ。

殺す、殺す、畜生、畜生、バグめ、バグめ、バグめ!



「ハイネぇっ、助けてくれぇ!」

ヘルメット内にスミスの切迫した叫びが響いた。
ハイネは我に帰る。

ビルに背を向けていたジムの前を、各部から炎を上げたセッターが滑るようにして流れていった。
機体の至るところに大小様々なバグが取り付いて、攻撃を加えている。

「スミス! 逃げろ!」
「こいつら、うわっ!」


10前312:2006/03/09(木) 15:36:00 ID:Ir0WZJ2C

そこでスミスの声は途切れた。
道路の先でセッターの操縦席下部、予備コクピットがある部分が爆発を起こした。
セッターはそのまま全ての行動を停止して、沈黙した。
ハイネのヘルメットにスミスの声が響くことはもうなかった。

「スミス、嘘だ」

刃が擦れる音がした。
ハイネは反射的に身を竦めた。
それまで頭があった場所目掛けて小型のバグが飛んできた。
ハイネがその一撃をかわしたのは奇跡としか言い様がない。

彼は弾かれたようにジムのコクピットに戻った。
二重のハッチの内側が閉じられた瞬間、バグがもう一撃をそこに加えた。
ハイネは急いで外側の堅固なハッチを閉じる。
予想通り、次の攻撃はバグの自爆であった。コクピットが揺れる。
大したダメージではなかったが、シートにようやく座ったハイネはもう動けるとは思えなかった。

幼児がいなければ両膝を抱え込んでいたかもしれない。それほどまでにハイネは打ちのめされていた。
何か掴むものが欲しかった。今は腕に幼児を抱えている。
だからそれを守るようにして抱きしめる。
その行為は実は彼自身を守るものでもあった。

「スミスが死んだ」

それは事実であった。
光が灯ったコンソールはセッターのシグナルが消失したことを冷徹に伝えていた。
スミスはもういない。

彼が初めて名前を呼んだナチュラルの男。
俺たちという表現を使っても違和感がなかった男。
その男が見るも無残に死んだのだった。
もう彼を助けてくれる存在はここにはいなかった。

ハイネは絶望した。


「助けてくれ。誰か、お願いだ、助けてくれ!」


その叫びが真実無駄であることを最もよく知る人間は、他ならぬハイネ自身である。


11前312:2006/03/09(木) 15:40:16 ID:Ir0WZJ2C
5話中篇終了。

次回からは短縮を心がけます。


>>前453
乙です。続き期待してます。
12それも名無しだ:2006/03/09(木) 20:27:37 ID:FPUqYHRK
乙&ヘブン

短縮なんてとんでもない。
こんな密度の高いSSならいくらでも歓迎ですよ>前312氏
バグが素晴らしいぐらい胸糞悪いですな(褒め言葉)
ただ、要望をつけるならなぜオールズモビルがバグによる無差別殺戮を行ったのか
(テロ・ゲリラ戦では地域住民を味方につけることが必須)という背景を明かして
もらえると作品の世界観が深まると思う。
あと、ビームスプレーガンの特性とかちゃんと踏まえてあるのも心憎いが、ジムU
の標準武装ってビームライフルじゃないっけ?
接近戦用に装備を変更していたというなら納得いくが。
13それも名無しだ:2006/03/09(木) 21:54:57 ID:dBZ//8IV
面白い!一気に読んでしまいました
14それも名無しだ:2006/03/10(金) 20:08:35 ID:oNYfgMNY
ガングリフォンのSSはOK?
15それも名無しだ:2006/03/10(金) 20:13:35 ID:ts3Hbyef
>>14
俺はガングリフォンって知らんけどロボ物ならとりあえずなんでもおkじゃね?
16それも名無しだ:2006/03/11(土) 10:18:42 ID:QpFgWieS
おっ今日もリリーちゃんは元気だねぇ、懐かしいですな
17それも名無しだ:2006/03/12(日) 23:02:32 ID:FDvKodr5
職人様たちガンガレ超ガンガレ
18Eの残滓 第参話−3:2006/03/12(日) 23:53:07 ID:iHIlXeMB
 現地へ降り立った忍達を迎えたのは、渉外役とおぼしき准陸尉の肩章を付けた
中年男と、その取り巻きの下士官数名だけだった。
 通常、立場的に“お上”である連邦軍からの戦力支援派遣ともなれば、現地の
統括役たる佐官クラスの人間を始め、隊員がほぼ総出でこれを迎えるのが通例
である。
 非常事態下とはいえ、度を超してお粗末な出迎えと言えた。

 そもそも准尉といえば忍より下の階級である。常識的に考えて、来賓の出迎え
に寄越すような男ではない。
…もっとも、その事は他でもない本人が一番理解しているらしく、男はガチガチ
に緊張した面もちで彼等に敬礼を交わした。
 非常時にかこつけた、幕僚監部によるささやかな嫌がらせであった。

 男は、途中幾度かセリフを噛みながらも略式の迎賓挨拶を済ませ、すぐさま
忍達の機体の搬入作業に取りかかる旨を伝えると、自身は任務完了とばかりに
その場を足早に立ち去っていった。
 上官からの命には逆らえず、訳も分からぬまま渉外を押し付けられたであろう
事は想像に難くなく、彼個人に対してはいささかの同情を禁じ得なかったものの、
この礼を失する戦自の対応は忍の苛立ちを倍加させるのに十分だった。

 只でさえ不愉快極まりない日本行き。その矢先、陸を踏んだ途端にこれである。
 隊員達の胸に填められた(敬意表示のための)連邦軍章、庁舎のあちこちに
掲げられた連邦軍旗、その全てが忍の目に白々しく映った。

「…気にするなシノブ、俺達が歓迎されないのはいつもの事だろ?」
 隣から立ち上るドス黒い怒気のオーラを察したのか、仲間の一人が声を掛ける。

 返答はなかった。

 ―――こりゃあ“末期”だな。
 何かにつけて悪態と軽口と皮肉の尽きないこの男が、口を一切利かなくなる。
それの意味するところを忍の仲間達は良く知っていた。
 ラテン系の浅黒い肌が特徴的なその同僚は、戦友が爆発寸前である……いや、
一両日中の爆発がもはや八割方確定済みである事を悟ると、心の中で十字を
切った。
19Eの残滓 第参話−4:2006/03/12(日) 23:55:46 ID:iHIlXeMB


 巨大輸送機の後部デッキから、彼等の愛機であるMS・エアリーズが
庁舎の一角に設けられた特設整備格納庫へ搬入されてゆく。その様子を、忍は
遠目から何を見るともなしに眺めていた。
 幾多の死線を共に潜ってきた相棒の姿を確認すると、荒れた心が少しだけ
和らぐ。

 エアリーズは新西暦0002年、ビッグファイア戦争の真っ直中にリーオー、
トラゴスに次いでロールアウトされた最初期のMSの一つである。ロートルと
いえども、大気圏飛行能力を単独で有する唯一のMSとして戦闘航空機では賄い
きれない空戦エリアを文字通り地表から高度数千mまで幅広くカバーするこの
機体は、連邦正規軍はもとより各国の自衛軍でも長く愛され、現在も戦略的に
重要な位置を占め続けている。
 近年になって、ギガノス軍の人型機動兵器「メタルアーマー(MA)」という
これを上回る空戦能力を持った天敵が現れはしたものの、現時点において他に
有効な対抗手段がない以上、連邦も相変わらずエアリーズに頼り続けるしかない
のが実情で、それだけに熟達した操縦技術を有するパイロットなどは値千金と
言わんばかりに引く手あまたの状態であった。

 戦自も例に漏れず、各地の方面軍にかなりの数のエアリーズを有してはいる。
……が、本格的にそれらが配備されたのはビッグファイア戦争終結後、それも
かなりの月日が経ってからのことであり、ロームフェラ財団のお膝元たる欧州
先進諸国の軍などに比べ、その導入は大幅に遅れたものとなっていた。
 古くから戦自は国産兵器産業との癒着が強く、彼等の生産する昔ながらの
戦闘ヘリやVTOLをその航空戦力の主軸としてきたのである。また、先の
戦争において日本が本格的な戦火を免れた事も、導入を遅らせる一因といえた
(なお純国産のMSメーカーというものは、新西暦0015現在、まだ存在しない)。

 とにかく日本は、MS後進国であった。
 何より、優秀なパイロットが圧倒的に不足していた。
 ビッグファイア戦争で得られたデータを基に模擬訓練は行われているものの、
実際にBF団の怪ロボット群と対峙し生き残ってきた欧米のベテラン兵士達の
経験と勘には到底敵うはずもなく、戦自は人材育成という面でまず連邦に大きく
水をあけられていた。
 大枚を積み、連邦に頭を下げては優秀な教官を招き入れるも効果は薄く、また
そうした動きが連邦の態度をより増長させる結果にも繋がった。

 状況を打開すべく戦自の下した結論―――それは「操縦者の腕を機体の量と
質でカバーする」事。
 これだけは他国に誇れる豊富な財力にものを言わせてMSを買い漁り、訓練は
おろか有用性の検証すらそこそこに各方面軍へ配備、ついには新進気鋭のMS
メーカー数社と提携、伝統的なリーオー系列とは異なる新機軸のMS(「ドート
レス系列」と呼ばれる)を世界に先駆けて採用するまでに至った。
 MS保有数だけを見るならば、戦自は今や地上の軍隊でも五指に入る。
20常緑:2006/03/13(月) 00:12:04 ID:FRW6nsk2
すみません、またえらく中途半端な切り方で申し訳ないのですが
今夜はここまでにさせて頂こうと思います。
……つーか、まだここまでしか書き終わってない_| ̄|○

312氏… 半端無く上手いなぁ…
いや、上手いだけじゃない、想像力も、ロボアニメに対する知識も愛も、絶え間なく書き続けられる情熱も
とにかく全てが半端無い。
同じスレに居る自分が恥ずかしいです。今はただ精進あるのみ……
21前312:2006/03/13(月) 13:01:16 ID:2CqAx57W

「隊長。出撃準備完了しました」
「おう。すぐ出るぞ。俺が殿で行くからな」

ミデアとそんな会話を交わしたビルギットは今Gキャノンのコクピットに座っている。
部下にいらぬ期待を持たせないためにもセッターの操縦席に上がっていた方が
いいのだろうかとは思う。
しかしそうした気にもならず、どちらともつかない心持で彼はコンソールに表示される
いくつかの情報に目を通していた。
そこには街に関する情報は一切映し出されていない。

それでもビルギットには今現在の街の様子が手に取るように想像できる。
この瞬間にも街で跳梁跋扈する奇怪な兵器、バグが引き起こす惨劇というものは
ビルギットの脳だけでなく全身の細胞一つ一つに拒否反応として刻み込まれてしまっているようだった。

やはりセッターに上がっておこうとビルギットは思った。
誰かと顔を合わせていたい気分ではないにせよ、そこの操縦席にいるということは
それだけで部下に任務の方向性を促すことになるはずだ。
ビルギットには任務変更、つまりは街に救援に向かうことに関して誰かと論議する
気分には到底なれそうになかった。
黙って座っているだけで全員がそのことを理解してくれるというのなら、セッターの
操縦席に入っていた方がいいはずだと思う。

彼はコクピットのシートからゆっくりと身体を起こす。
パイロットスーツの背中は汗でしとどに濡れてしまっていた。
しかし着替えようという気にはならない。

多分、オエンベリに着くまではこのままなのだろう。



先発のセッターがゆっくりと垂直上昇を始めた。
搭載されているヘビーガンはそれなりに周囲を警戒しているようだったが、
周辺一帯に敵機がいないだろうことは分かりきっていることだった。

それでも機体並びにパイロット自身が警戒態勢を取るというのは、
それが正確かつ確実な発進シークエンスの一部であり、
下手にその一部を抜いてしまえばかえって失敗を招きかねないからである。
ある程度の緊張感を有していられる限りは、慣れに従って動くことは小隊の行動速度を速めた。

「ミデアは」
「今出ますよ。重いんで、まあゆっくり行きましょう」

上がってくるのではなかったとビルギットは心中後悔する。
セッターの操縦席に座っていたのは今彼が最も顔を合わせたくはない人物の一人であった。
キャノピーを隔てた外の光景に目をやりながら、その飄々とした肩が揺れる。

22前312:2006/03/13(月) 13:04:07 ID:2CqAx57W

「指示した配置と違うんじゃないのか。曹長」

小隊の最先任下士官であり、小隊内で唯一ビルギットよりも豊富な実戦経験を持った
バムロ曹長は、操縦席に入ってきたビルギットに振り向く事もせずに言った。

「向こうは問題ありません。若いのはよくやってます」

ビルギットは嘆息した。
問題があるのは隊長本人だってか。
言ってくれるぜ。畜生。



ミデアがその巨体を徐々に空中へと持ち上げていくと、周囲の砂塵や枯れ草などが
盛大に地表に巻き上がった。
砂の粒がセッターのキャノピーにこすり付けられ、その度にワイパーが作動して視界を
確保しようとする。
セッター内にはそんなワイパーが動く音の他には、低速で回転するエンジンの蠢きが
床の底から伝わってくるだけだった。

床の表面には煙草の吸殻が靴で踏みつけられたまま、何本か転がっていた。
灰皿を置いておくべきかとそれを見る度にビルギットは思うが、そもそも電子機器の
塊の中で煙草を吸っていいものなのかどうかという疑問はあった。
しかしその程度でどうかしてしまう兵器などお役御免にしてしまえばいいのだという
ある種の信念が彼にはある。
だから彼の小隊ではこれからも操縦席の床が灰皿代わりに使われ続けるのであろう。

「次。出ます」
「任せるよ」

そんな会話に合わせるようにしてエンジンの回転数が徐々に上がっていった。
これ以上は上がらないというエンジンの悲鳴めいた脈動に呼応して、セッターの胴体が地表から離れ始めていく。
操縦席に座るバムロの後ろ姿は頭一つ動かしてはいなかったが、顔の正面では目が
忙しく動いているのだろうとビルギットは思った。

彼は今、どこかに視線を動かすことすら面倒だった。
しかし外から見ればそうでもなく、ビルギットの姿はいつもと変わりなく小隊指揮官を
勤め上げているように人の目には映ることだろう。

思考が足を引きずったままだとしても、身体とせめて口だけは通常のように動かし続けなければならない。
それは士官が、士官だけでなく戦場に立つ人間が当然有していなければならない能力である。
ただそれだけのことであった。


「少尉殿はセント・アンジェという地名をご存知ですか」

だからこういう話題を振られた時、足を引きずったままの思考を前に進ませなければならない。
それは身体をそれなりに動かしてくれる、染み付いた慣れだけではどうにも対応しきれないものであった。
23前312:2006/03/13(月) 13:07:47 ID:2CqAx57W

「あんたの口から聞いたことはあるよ。
それがどんなところかは知らん。観光地か何かかい」

「まあ観光地といえばそうかもしれませんな。
見所はあれです。連邦とジオンによる難民の無差別殺戮」

セッターが高度を上げていくにつれて、外とは完全に遮断されているはずの
操縦席内にも外部の冷気が吹き込んでくるような気がした。
もちろんその空気は今しがたバムロがどこか疲れた声で述べた事柄が生み出したものである。
周囲の冷たさは、空中に上がっていくのではなく地中に潜っていくような感覚をビルギットに思わせた。

「木馬、ホワイトベースに関しては少尉殿の方がお詳しいでしょうな。
あれが当初結構な数の難民を乗せていたことについてはどうですか。
ああ知ってましたか。
ええ、私が木馬を初めて見たのは北米大陸の、グレートキャニオン付近の山岳地帯でした。
あの辺は大体ジオンの勢力圏だったんですが、まああちこちで連邦とせめぎ合っておりまして。
はは。懐かしいもんですな。もう昔話になってしまいました」

曹長の口調は昔を懐かしむようなものだった。
こういうのはどこかで見たことがあるなとビルギットは思った。

記憶の中に思い当たるものがある。
年老いたハイスクールの歴史教師がこんな喋り方をしていたはずだ。
喋り方以外何も覚えちゃいないんだが。

ハイスクールか。
そういえばあの野郎と最初に会った時、あいつはまだハイスクールの学生だったんだな。
ええい畜生。何で今こんなことを思い出すんだ。

「その近くに開戦当初、ジオンがコロニーを一つばかり落としましてね。
山ばかりの土地に結構な広さの穴が開いてしまったもんです。
セント・アンジェというのはそこにあった街の名前だったそうですよ。
ええそうなんです。完全に無くなっちまいました。
近くの湖から水が流れ込んできて、新しい池になってしまってました。

当時私はその地域の陸戦部隊に所属していたんですが、木馬との交戦中に原隊からはぐれてしまいまして。
部下が一人ついてきてたんですが、そいつ共々怪我までしてしまって。
しばらく脱出カプセルの近くで休んでいたんですな。
そこに若い親子がやってきまして。
ええそうです。木馬が降ろした難民です。
母親とまだ小さな子供でした。
何でも旦那の実家がセント・アンジェにあるとかどうとかで。

もちろん、セント・アンジェは湖になってしまってますから。
その奥さんに包帯巻いてもらったりなんかしたもんで、
お礼に食料を渡したりして、まあ我々はそこで別れました。
幸い私と部下は原隊と合流できまして。
多分その親子は、ええ、一緒に降りた難民達のところに行ったんじゃないでしょうかね。
そんな湖にいつまでもいたところでどうなるわけでもなし」

24前312:2006/03/13(月) 13:11:40 ID:2CqAx57W

バムロの手が服の内側から小さな箱を取り出した。
彼の愛用する所々がへこんだ安物のシガレットケースだった。
そこから同じく安物の、連邦軍正式支給の煙草を一本取り出し、
まずはビルギットに一本勧めた。
ビルギットが煙草を一本掴み取ると、バムロはケースをさっと引いて煙草を抜き取らせた。
バムロが自分の分を一本取る間に、ビルギットは懐から取り出したライターで
火をつけた煙草をくわえ、続けて火をバムロに差し出した。

「ああ、こりゃどうも」

ほんの少し顔を傾けて会釈した後、バムロは再び正面を向いた。
その後ろ姿から紫煙が昇る。
ビルギットは支給された煙草特有のきつい煙を吸い込んだ。
鼻の奥にツンとした刺激を感じる。

任務中に、しかも操縦席で煙草というのは自分でもどうかと思ったが、
どうも今この場は軍務から少しばかり逸脱し始めているのかもしれない。

「続けてよろしいですか。いやはや。煙草でもないと間がもちませんもので。
後で減俸でも何でも受けますんで。

ええ。どこまで話しましたか。ああ、親子と別れたところまででしたか。
そうです、それで我々は原隊に復帰しました。
怪我していたとはいえ、特に重いものでもなかったものですぐに次の作戦に加わりました。
ええ、進撃する連邦軍の地上部隊を夜間に急襲すると。
歩兵、ワッパ、後はバイクあたりで接近して、一気に叩いて離脱すると。いい作戦ですね。
モビルスーツなんてものはあの頃はまだ貴重品だったものですから。
特に山の中なんて、使わせてもらえるのはドップぐらいのものでした。
ああ、ドップってのは妙な形をした飛行機です。性能も最悪でして。
玩具の棺桶の方がまだましって代物でした。まあそれはいいんですが。

私もその部下も作戦に参加しました。元々歩兵としての従軍期間が長かったものですから。
ジオンはあれです。
モビルスーツの開発が軌道に乗るまでは連邦の監視の目に付かないように
機動兵器の類はほとんど増強しておらんかったのです。
地上戦力といえば時代遅れの戦車と後は歩兵ぐらいのものでした。
私もその頃に入隊した口で。その分訓練はしっかりしたものでした。
いやきつかった。思い出すだけで疲れが出てきます。

話が逸れてばかりですな。
ええ、そんな戦力なもので作戦は電撃戦です。
確認もそこそこに移動する集団に銃弾砲撃を景気良く叩き込みました。
何だかんだで先手を取らなければ離脱させてもらえませんから。
そうはいっても連邦も地上部隊はなかなかのものでして。
すぐに撃ち返してきたものです。
電撃戦のはずだったのが我々も退路を断たれて、決死の総力戦となりました。
弾という弾を撃ち尽くしました。

そりゃもう大勢死にました。部下ともはぐれてしまいました。
運の悪い男です。せっかく原隊と合流できたと思ったら。
何度か離れて、また出くわして、結局朝までかかりました。
朝になって日が昇った瞬間、戦いはぱったり止みました。
どうしてだか分かりますか」

25前312:2006/03/13(月) 13:16:19 ID:2CqAx57W

バムロは吸い終わった煙草を床に擦りつけた。
その時既にビルギットは煙草の先端を靴で踏み潰していた。
火の粉が二三飛び散ったが、それもすぐに消えた。

「我々が盛大に銃弾を飲み交わしている丁度真ん中に、連邦軍と接触しようとしていた難民がいたんですな。
いやあ万歳。焦った偵察兵が完全に見逃していたようです。
どうもね。一斉射したはずなのに連邦からの反撃が弱くならないなとは思っていたんですよ。

連邦もね、あれです。難民が近くにいたことは分かってたんでしょう。
でも彼らも焦った。収容を完了した後では完全に叩かれてしまうかもしれない。
これは恐怖ですな。
だから前にいるのは分かっていながら、まあいないものだと思って反撃して
しまったのかもしれません。

どちらも張り詰めてました。あの頃は。
まだ連邦がモビルスーツを導入する前でした。
モビルスーツ。もう少し早く出てきていれば良かったんですが。
そうすればもう少しね、分かり易い戦争になったと思うんです。 

我々は戦闘を停止しました。難民のことはみんな無かったことになりました。
連邦もそうでしよう。その辺、軍隊というものは似たようなものですから。
木馬から降りたことが分かっていたとはいえ、あの時期の北米の状況下では
突然消息が途絶えたところで何の不思議もありません。しかも山の中ですから。
世間の目なんてものは、そういうところの戦場にはついてません」

そう語るバムロの口調はいつもと変わらなかったが、声には多少硬いものが混じっていた。
バムロはそのことに気がついたように、そして声の硬さを隠すようにして笑った。


「戦争が終わるまでどうやって過ごしていたか自分でも覚えていないのです。
気がついたら戦争が終わって、自分は磨り減った地上部隊に取り残されておりました。
鼻の利く奴は上手く部隊から逃げ出していきました。
自分もその中の一人に連れられて、終戦直後に抜け出しました。
残りはどうしたんですかねぇ。
徹底抗戦した奴らもいたとかいないとかですが、それも余り聞きません。
アフリカに移った部隊もいたそうですが、アフリカ基地もこの前の戦争で潰されましたね。

あれから八年経ちました。
自分が連邦に編入されたのは宇宙人が攻めてきた後ですので、二年ほど前のことですか。
六年間、何とか娑婆で生きていこうとやってみました。
あまり上手くはいきませんでしたな。
やっぱり、思い出しちまうんですかね。

まあ自分はいいですよ。もう歳ですから。
でも小隊の若い奴にはそういう経験はさせたくないものですな。
まだ若いんだから。軍隊以外にも生きる方法はいくらでもあるでしょう。
そういう時にね、必要以上の負い目を持ってるとこりゃやりにくいです。
本当にやりにくいですよ。

アルファナンバーズはどうです。そういうこと、ありましたか」


セッターは雲を抜け、遥か上空へと飛翔していた。
今はきっと、真下にあの街があるのだろうとビルギットは思った。
セッターが前へ進むのではなく、ぐるぐると高度を上げていっているだけのことに彼は当然気が付いていた。

それとはまた別に、頭の中は絵の具を乱雑に混ぜ合わせたかのような極彩色の混乱を見せていた。
その中には過去の半ば封印した記憶も含まれている。
26前312:2006/03/13(月) 13:19:52 ID:2CqAx57W


「ビルギットさん! こいつらは本当に人間だけを狙っている!」

突然モビルスーツに攻撃を加えてきた円盤状の物体を跳ね飛ばしてから、
F91の機体がビルギットのヘビーガンに接触した。
機体から直接伝わるシーブックの声が増幅されてヘルメットのスピーカーから響いてくる。
彼は目の前の兵器とも思えない兵器に戸惑いを隠せない様子だった。
それはビルギットにしても同じことである。

「人間だけを襲う兵器かよ!」
フロンティアTの内部には既に無数の円盤がそれぞれのターゲットを定めて
無情な攻撃を繰り返していた。
人間そのものはもちろん、走行中の車や建物など、円盤には人間を感知する
機能があると考えてよかった。
そのことを確認してからビルギットはF91の動きに目をやった。

F91は手首を高速回転させて、手持ちのビームサーベルをシールドのように使用する。
その動きには対応できないのか、円盤は引き寄せられるようにしてサーベルに接触し、
その機体を砕け散らせた。
あれは使えるとビルギットは直感した。さすがはニュータイプだ。

シールドでカバーし切れない部分をサーベルを回転させることで補いながら、
ヘビーガンとF91はその後の行動を決めかねていた。
後退するべきなのか、それともこの奇怪な兵器を破壊するべきなのか。
後退するのはともかくとして、破壊するためには各個撃墜していくのは余りに
円盤の数が多すぎるように思えた。
それをヘビーガンとF91の二機で行うのは危険すぎた。

SDFの誰かがいればと後悔する。
スペースアークだけで偵察に来たのが間違いだった。
そのお陰かどうかは知らないが、クロスボーンのロナ家の人間がこちらに寝返っていた。
何でもシーブックの同級生だったらしい。よく分からない話だった。

しかしそんなことはビルギットには関係が無い話なのだ。
今はこの事態を打開しなければならない。
後退するにしても、事態の全容が掴めない以上は迂闊に動くことすら危険である。

「見て、シェルターが!」

再びシーブックの声が届いた。今度はワイヤーを伸ばしている。
ビルギットも彼が示したシェルターを見つけた。
その入り口からは煙が噴出していた。中で火事か爆発があったらしい。

見れば無数のシェルターから煙や炎が上がっていた。
明らかに円盤の攻撃によるものだったが、シェルターの扉はこの円盤が
体当たりする程度では破ることはできないはずであった。
それが何故こうした事態になるのだろうと疑問が頭をよぎる。

コンソールのウィンドウがシェルターの一つを拡大した。
ビルギットはそこで何が起きたのかを理解した。

小型の円盤である。
大型のそれから射出された小型の円盤が、シェルター内、もしくは扉の前で自爆するのである。
一機で駄目ならば何機でも自爆する。
そうして開いた扉からシェルター内に入り込み、狭い空間に満ちた人間を一撃で殺戮する。
そんな効率がいいのか悪いのか分からない兵器のやり口にビルギットは眩暈がする思いだった。

27前312:2006/03/13(月) 13:24:00 ID:2CqAx57W

「冗談じゃねぇぞ!」

怒りが込み上げてくるのが分かる。
クロスボーンはこのコロニーに住んでいる人間を何だと思っているのか。
ここは実験場か何かだというのか。

奴らはフロンティアWを占領して、そこを本拠地にしてしまった。
それでは、Wに住む人間とここの人間では何かが違うというのか。
こんな方法で殺されなければならない理由がどこにあるのだ。
ビルギットは目の前に飛来した円盤に怒りの矛先を向けた。

「手前等!」

回転したサーベルを前に突き出せば、そこに向かってくる円盤はあっさりと爆散した。
しかしその間にも何機かの円盤がヘビーガンの各部に攻撃を加えていた。
一度の攻撃ではほとんど反応を示さなかったコンソールがここに来て初めて警告を出した。
思ったよりダメージが深くなっている。
ビルギットは冷たいものを飲み込んだような不快感を覚えた。

ライフルの銃身はとうに切断され、使い物にならなくなっていた。
センサーの反応も鈍くなっている。頭部のアンテナが潰されたらしい。
次々と機体のダメージが判明していく。
一枚一枚皮を剥ぎ取られていくようなその攻撃に、恐怖が少しずつ自分を
捉え始めているということが分かった。

F91は。
咄嗟にその姿を探すも、モニターが捉えたF91は離れた場所で円盤と交戦していた。
足止めを食っているようだった。

そう思った瞬間、ヘビーガンのバランスが崩れる。左足が切断されたらしい。
そこまでダメージを受けてしまったのかとビルギットはわが目を疑った。
しかし現実としてヘビーガンは崩れ落ち始めている。
回転させていたサーベルも、手首そのものが潰されてはもう使うことができない。
ヘビーガンは機体各部から小さい爆発を起こしながら、ゆっくりと地表に降下していくのだった。

このままではまずい。焦りと恐怖が思考を満たす。
落下してしまえば後はいいだけ攻撃を受けてしまうだけだし、脱出するのは論外だ。
何とかここを離脱するしかない。一気にバーニアを吹かせば。
そう思ったが、既にバーニアはその半分が潰されてしまっていた。
残りは懸命に落下速度を落とそうともがいている有様だ。

正面で火花が散った。円盤がコクピット周辺への攻撃を開始したのだ。
徐々に徐々に抵抗力を奪っていって、いよいよ中の人間に狙いを定めるのか。
ビルギットは感心するようでいて、その実極めて混乱していた。

成す術がない。遂にヘビーガンが地表に落下した。
その衝撃は大したものではなかったが、それを行うために力を使い果たした
バーニアはもう反応してはくれないだろう。
鉄クズ同然となったシールドも、半分地面に突き刺さってコクピットを守ることすらできないでいる。


28前312:2006/03/13(月) 13:27:00 ID:2CqAx57W

ヘビーガンは森の中に落下していた。
横からは木々をなぎ倒すようにして円盤が接近している。
まだ生き残っていた何人かの人間がその軌道に飲み込まれ、身体の各所を
引きちぎられながら吹き飛ばされた。
下手にセンサーが円盤を感知してその映像を拡大するものだから、
ビルギットは嫌でもその光景を見ることになってしまった。
飛び散ったのは血と肉だろうと頭のどこかがぼんやりと考えていた。
実際にはビルギットは恐怖の余りに絶叫している。

「止めろ、止めろぉーっ!」

コクピット周辺で爆発が起きた。
それが円盤の自爆によるものなのか、それともヘビーガンのもの
なのか分からなかった。
自分はまだ生きているらしいので、恐らく円盤によるものなのだろう。

しかし周囲が暗くなったことで自分の生死もあやふやになった。
モニターがブラックアウトしたのだ。
全天球モニターがただの球状の物体と化して、後は非常電源のライトが
赤く灯っているだけである。

ビルギットは何事か叫びながら、必死にコントロールスティックを動かしていた。
その行動が何ら意味を持っていないように、ヘビーガンの機体はそれに
一切の反応を返さない。

「止めろ、来るな、来ないでくれぇ!」

ガリガリと鋼鉄同士が削りあう音が聞こえる。
それは円盤がヘビーガンの装甲に食い込む音だが、
恐ろしいのはその音が次第に自分に近づいているということだ。
ビルギットの口元は既に引きつけを起こしたように痙攣していた。
呆けた様に音のする方向を見ている。

目の前で火花が散った。
それはモニターが映したものではない。
コクピットの装甲が直に切られているのだ。

ビルギットは我に帰った。帰ってしまったというべきかもしれない。
そのことによって恐怖が再び思考の中に押し寄せてきたからだった。
ビルギットは何度目になるか分からない、心底といっていいほどの、
そしてこれが最後になるかもしれない絶叫を上げた。

「うあーっ!」

最後に覚えているのは狭い隙間から光が差し込んだことだった。
ビルギットのかろうじて残っていた意識の一部がそれを捉えていた。
彼の脳は光を死への誘いと認識したのかもしれなかったが、
まだそれよりは錯乱し切っていなかった意識の部分は、
その隙間から姿を見せたF91をはっきりと捉えていたのだった。

しかしF91の姿は一瞬確認できただけで、すぐに掠れたようにして消えてしまった。
まるで分身したみたいだなとビルギットの最後の意識はそんな馬鹿なことを考えていた。

29前312:2006/03/13(月) 13:30:47 ID:2CqAx57W

「各機、絶対にバグをロンデニオンに入れるな!」

広範囲に展開したバグが漆黒の闇の中を滑るようにして前進する。
直後に猛烈な火線がバグの群れに向かって伸びていく。
直撃を受けて砕け散るバグは激しく爆発を起こしたが、
その間にも攻撃を逃れた残りのバグが餌場を求めるようにして猛前と突き進む。
目標はロンド・ベル隊の拠点コロニー、ロンデニオンである。

まさかバグが出てくるとは思わなかった。
ビルギットの口の中はからからに干上がっていた。
唾の一滴も出てくることはない。
唇もささくれ立ってしまっているのかもしれなかった。
舌で唇を舐めようとしても、水分を失った舌は唇の表面に張り付いて
はがれようとはしなかった。
そのことが余計に苛立ちを誘う。

「こいつら、一体何機出てくるんだ!」

緊張した声がヘルメットのスピーカーから聞こえる。
誰の声だろう。
こういう情けないことを言うのはさしずめチャック・キースあたりだろうか。

「弱口を叩くな! 
俺たちがバグを阻止できなければロンデニオンの市民は皆殺しにされるんだぞ。
キース、気合をいれんか!」

例によってキースの尻を叩くのはバニング大尉だった。
そんなやり取りを聞きながら、弱音を吐けるだけキースあたりは
まだいいのだとビルギットは思っていた。
俺はどうだ。こうして一言も発することができないでいるではないか。

幸いにしてビルギットのポジションは後衛であった。
指示された最終防衛ラインの近くにヘビーガンは待機している。
前衛を勤めるロンド・ベルのエースたちが勇敢に撃破したバグ。
その撃ち漏らしを自分のような三流パイロットが始末するのである。
数は二つか三つといったところだろう。
その程度であれば、本来ビルギットはさほど困難を感じることもなく撃破できるはずであった。

しかし今、彼の身体はシートに縛り付けられたかのように身動きが取れないでいた。
彼自身の意思が、身体を縛り付けてしまっているのである。
つまりは恐怖だ。

そして遂に恐れていたものがやってきた。
苛烈極まりない攻撃を何とか掻い潜ってきた一機のバグが
ビルギット目掛けて急速に接近してきたのである。
前衛の戦闘を見る限り、バグは進攻を最優先にプログラムされているらしく、
敵機にはすれ違い様に一撃を加えていくだけだった。

バグは他の機体がそうするのと全く同じようにして、
ヘビーガンに軽い牽制程度の攻撃を加えた後、
体勢を整えて再びロンデニオン目掛けて加速を開始した。
ヘビーガンの背後には最終防衛ラインが迫っている。
ここを突破されれば。たとえ一機のバグであっても被害は計り知れない。

「動け、動けぇ! 俺よ、動いてくれ!」
「ビルギット、どうした! 早くバグを撃て!」
「動かねぇ、動かねぇんだよ、畜生ぉ!」
30前312:2006/03/13(月) 13:33:45 ID:2CqAx57W

歯で唇を強くかみ締める。
粘った液体の感触と共に鉄の味が口内に広がる。
血の味。それはビルギットにあの時感じた恐怖を呼び起こさせる。

駄目だ。やっぱり動かない。くそ。バグが近づいてくる。
このままじゃラインを。でも駄目だ。身体が動かない。
死ぬ。死んじまう。
いや、俺じゃなくて、俺の後ろにいる何万人もの民間人が。
畜生。狙うなら俺を狙いやがれ。そうすれば少しは時間が稼げる。
その間に誰か他の奴が。

俺が死ぬのは、俺が死ぬのは、そりゃ御免に決まっているが、
それでも、何もせずに他の人間が殺されていくのを黙って見ているのか。
どうなんだ。おい、ビルギット・ピリヨ。その辺、どうなんだよ。


「人間だけを殺す機械、鉄仮面の怨念を残すわけにはいかない!」


その声と同時にバグは真っ二つに切り裂かれた。
声を聞いた瞬間、手が動いた気がした。
それが声のする前のことだったのかそれとも後のことだったのか。
答は分からなかった。

俺は、俺は果たして動けたのだろうか。
答を出す前にバグは落とされた。
それはいいことなのだが、ビルギットはまた一つ、
何か重いものを自分は抱え込んでしまったのだと思う。

バグを切り裂いたモビルスーツはそのままの勢いで敵の本隊に切り込んでいった。
俊敏な動きだった。声と合わせて、どこか懐かしい感じがする。

似ているなと思った。
勝手にF91に乗り込んで、勝手に鉄仮面とやらを倒して、
そして何も言わずに消えていった、一人の戦友。

もうバグは接近してはこなかった。
こういう言い方はどうかとは思うが、とビルギットは考える。

俺はチャンスを失ったのかもしれない。
どんなチャンスなんだ。分からない。
それでも、あいつがそう宣言したのだから、もうバグは出てくるわけがないのだ。

それでも。それでももし、次にこういうことがあったのなら。
その時俺は動くことができるのだろうか。




31前312:2006/03/13(月) 13:36:51 ID:2CqAx57W

彼を嘲笑うようにして周囲を飛び回る無数のバグに取り囲まれて、
ハイネ・ヴェステンフルスは絶望の極みにあった。
彼と共にこの街へ突入したセッターとそのパイロット、スミスは既にバグの犠牲になっていた。

今ジムUのコクピットに座るハイネの腕には気を失って眠る幼児が抱かれていた。
ハイネが街中で救出した子供である。
母親は小型バグの自爆によって吹き飛ばされ、兄はハイネが親子を見つける前に
はぐれてしまったらしかった。
現在の街の状況にあって、子供一人が生き残っていられるとは到底思えない。
ということはこの幼児も一人になってしまったのだ。

似たもの同士といった具合にハイネは幼児の身体を必死に掴んでいた。
まるで手を離した瞬間にその身体が消え去ってしまうとでもいうかのような強さだった。

時折コクピット内に衝撃が走る。バグがジムに攻撃を加えている。
ハイネはその衝撃が身体に伝わる度に身をすくませた。
口は明確な言葉を生み出してはくれなかった。

「うわぁ、うああ」
「んん?」

ハイネが絞り出した悲鳴に幼児が目を覚ました。
まだ眠気が残っているとでもいうような仕草を見て、ハイネはほんの少し胸を撫で下ろした。
もうこのまま起き上がることはないかもしれなかったのだ。

「ここ、どこ? おかあさんとおにいちゃんは? どこなの」

ハイネの胸に新たな痛みと苦悩が湧き上がった。
何てことだ。この子供は分かってないのだ。
母親と兄が既に生きてはいないことを。
気を失う前に、彼の目の前で何が起こったのか。
何も分かってはいないのだ。
そして自分はそのことを説明しなければならない。
しかしどうやって。

君のお母さんは、お兄ちゃんもだけど、もう死んでしまったんだ。
ほらあそこに円盤が飛んでいるだろう。あれが殺したんだ。
ほら、今こっちにぶつかってきただろう。こんな風に。

馬鹿な。そんなことが言えるわけがない。
しかし遅かれ速かれ自分たちも死ぬのだ。バグによって。
切り刻まれるのか、爆発で吹き飛ばされるのかどちらかの違いしかない。
これだけ多くのバグがいて、相手は自分一人しかいない。

どうして俺は自分だけでバグが始末できるなんて考えてしまったのだろうか。
こんな状況で俺に何ができるというんだ。できやしない。

32前312:2006/03/13(月) 13:40:32 ID:2CqAx57W

ハイネが何も言わないことと、周囲に母親も兄もいないことで幼児はぐずり始めていた。
泣き出すまでに時間がかかるのは、この十日間余りで過酷な体験を
何度も味わってきていたからだろうか。
それとも隠れコーディネーターとして生きてきた彼の人生が、
この幼時自身にそうした術を覚えさせてきていたのだろうか。

それでも彼の強さは幼児のものでしかないのだから、いつか耐えかねて泣き出してしまうのである。
一度泣き始めると後は関係無い。身体一杯に動き回り、ハイネの腕から逃れようとする。

「危ない、落ちるぞ!」

リニアシートの床部までは結構な高さがあって、幼児ならば落ちてしまえば怪我をしかねなかった。
しかしいくら言って聞かせても幼児は一向に泣き止まない。
泣きたいのは俺の方だと心底ハイネは思う。

「おかあさん、おかあさん!」

幼児は泣き叫び、そして喚いた。それはハイネが最も取りたかった行動である。
しかしその行為を他の誰かが行ってしまうことで、
ハイネはその感情との間にある種のクッションを置くことができていた。
思考は多少冷静さを取り戻す。

動かなくてはならない。今自分が動いて、生き残ったこの子だけでも守らなくてはならない。
その思いは、ハイネの腕をコントロール・スティックへと伸ばさせた。
しかしそうすると幼児の身体がシートから滑り落ちてしまう。ハイネは行動を躊躇した。

バグが連続してジムに襲い掛かったのはその時だった。
ほぼオートで動いていたジムは単調な動きにつけこまれるようにして、
バグの攻撃全てをまともに受けてしまった。
姿勢制御もままならない内に、ジムは横のビルに倒れ込む姿勢になる。

「うわっ!」
「わあああん!」

今度はコクピットに衝撃が走る度に二人分の悲鳴が響き渡る。
それは絶望感を更に煽るものだった。
ハイネの身体に少しではあるが蘇った力は空しく消えていくのみである。

「くそおっ、駄目なのかよ」
「やだあ、やあだあ!」

何が嫌なのかとハイネは怒鳴ってしまおうかと思う。
嫌なのは俺の方なのだ。
こうして、こいつがいるから思うように操縦できない。
いっそ外に放り出してしまう……。
33前312:2006/03/13(月) 13:42:32 ID:2CqAx57W

ハイネは激しく首を振る。
そうすることによって、動くことによって思考を振り払おうとしたのだった。
弱気な考えばかりが占めている頭の中を動かすには、
もう意思の力だけではどうにもならないと思えて仕方なかった。

何を、何を考えているんだ俺は。
何のためにここに来たんだ。助けるために。
でも駄目だ。助けられない。助けられなかった。
死んでしまう。俺もこの子も。

一度は助けられた。
でもそれは死ぬまでの時間をほんの少し延ばしただけだった。
それも母親から引き離して。
この子がこんなに怖がっているのなら、どうせなら母親と一緒にいた方が幸せだったのかもしれない。

「やだあ、おかあさん!」
「嫌だ、俺は、嫌だ……」

そんな力無い声は誰に対して言ったものではない。
しかしハイネは今自分を取り囲むこの状況全てを拒んでしまいたかった。
無力な自分。幼児一人助けられないのが今の自分である。
モビルスーツが一機あってさえである。

こんな自分がつい十日ほど前までは自信満々でモビルスーツに乗り込んだなんて信じられない。
どれだけ馬鹿なことをしたんだろう。

あの時。あの時、自分はコーディネーターとしての誇りに満ち溢れていた。
コーディネーターだから全てが実現可能だと思っていた。
オーブからプラントに上がり、そこで自分の遺伝子が約束する
栄光に満ちた人生を進んでいくのだと本気で信じていた。
だが現実はこうである。
幼児を腕に抱え、その子の涙を止める言葉一つ見つけられないのだ。

確かこの子はナチュラルだったな。
現実から目を離しながらハイネはそう考えていた。
この子がナチュラルで、それであいつらが騒いで、そしてあの母親は子供を連れて出て行った。
ナチュラルの子供。今の自分はこの子と何も変わらない。
何もできない。無力なのだ。

幼児の身体は微かに甘い匂いがした。
その香りはハイネの無力感を激しく誘った。

「俺は、俺は……駄目だ。助けてくれ。誰か助けてくれ。
俺はできない、何もできないんだ」


34前312:2006/03/13(月) 13:45:36 ID:2CqAx57W


「できるできないじゃねぇ、やれ! 動け、ヴェステンフルス!」


怒声である。これ以上無いというぐらいの怒声がコクピット内に響き渡った。
それは通信が拾った声である。
声には聞き覚えがあり、何より声はハイネを呼んでいる。
ハイネは呆けたようにその声を聞いた。直後に彼の目には光が戻っていた。

「少尉、少尉なんですか!」
「聞こえたか、ヴェステンフルス! 泣く暇があったらやれ、とにかくやれ!」

ハイネは突然舞い降りた救いの声にすがるようにして言った。

「無理です。俺だけじゃどうにもなりません、
早く助けて下さい、あの子がいるんです。操縦もできません!」
「五分だ、五分生き残れ。それで救援に向かう」

五分。ハイネは耳を疑った。
バグがまだ周囲を飛び回っている。
腕の中には幼児がぐずり続けている。
この状態でどうして五分が耐えられるというのだろう。

「できません、できませんよ! 
無理ですよ、俺じゃ駄目です。もっと早く、早くしてください!」

「何言ってやがるヴェステン坊主! 
帰ったら受身五百本追加だ、覚悟しておけ!」

次に聞こえたのはハイネが最も恐れる人間の一人である曹長のバムロのものである。
その怒声はいつもと変わらない。
ハイネの身体は思わずおこりのように震えた。

いくつかの光景がフラッシュバックする。
嘔吐物まみれのコクピット。
土と汗の匂いが染み付いたブルーのマット。
その横には常にこの怒声がセットになってついていた。
声の調子は全く変わることがない。

ということは。ということはだ。
俺はひょっとしたら常にバグの集団に囲まれているようなものなのだろうか。
受身五百本なんて。
本当に死んじまうじゃないか。
何考えてやがるあの野郎。

「五百本じゃ甘いな。曹長。後三百本ほど入れとけ」

加えてこれだ。これもいつもと変わらない。
止めるどころか悪乗りするように数だけ上乗せするこの悪徳少尉だ。
こいつが諸悪の根源。そうなんじゃないだろうか。
畜生め。馬鹿も休み休み言え。
この上三百本なんて。明日起きられないじゃないか。
どうかしてるぞ。
やれやれ言うだけで人間何でもできると思ってんじゃねぇ。
あのニキビ少尉め。人が下手に出ればつけ上がりやがって!


35前312:2006/03/13(月) 13:51:05 ID:2CqAx57W

「お前ら、好き勝手言いやがって、とっとと来いよこの野郎! こののろまが!」
「上官には敬語を使え。受身二百本追加だ」

「うるせーっ!」

正面に何かいる。
回転する円盤。見ていて腹が立つ円盤。
何故こんなに腹が立つのだろう。
それはいい。とにかく腹が立つのなら、今はこいつをぶち壊してしまえ。

叫べ。叫んでしまえ。
俺の怒り。
さっきまで湿った薄暗い何かで満たされていた俺の頭の中に突然燃え上がった何か。
もっとだ。もっと燃え上がってしまえ。

それが怒りなら。
それが怒りなら、この怒りは俺の叫びの理由になる。
だから叫べ、思い切り、叫べ!

「バルカァン!」

腹の底から望むものの名を叫ぶ。
その意思と言葉に呼応するようにして両脇から火線が伸びる。
その向かう先は空中で回転する忌々しい円盤、バグだ。
一機が火を噴いた。
いける。もう一機。
そこで火線が消えた。どうしてだ。

慌ててコンソールを覗き込むと、メーターで表示された弾丸が空になっている。
弾切れである。
手に持たせていたスプレーガンは既にバグの攻撃で潰されてしまっていた。
バックパックに装備されているサーベルも同様である。

「武器が、武器が無い!」

声に焦りと恐怖が蘇ってきた。
思わずヘルメット内のスピーカーに意識を集中させる。
何か言ってくれ。誰かの声が聞きたい。
助けに来てくれる声が。

しかしハイネの期待が報われることはなかった。
既に通信は切られてしまっている。
ハイネが何度コールしても答は返ってこない。

ハイネは叫んだ。
しかし絶望だけではない。
怒り、それも腹が立ったような感情が大分混ざっていた。

この野郎。武器が無いんなら。
それでもやれと言うんだったら。
何でも使えってことかよ。


36前312:2006/03/13(月) 13:52:03 ID:2CqAx57W

ハイネの視界に丁度モビルスーツが掴めるぐらいのビルの残骸が映った。
ハイネはそこに目を向けたまま、再びジムに向かって叫ぶ。
どうやら音声認識が働いているらしいということは頭の隅で分かった。

「それだ! それを掴め!」

ジムはスプレーガンの残骸を捨てて、そのコンクリートの塊を確かに掴んだ。
本来ならばそれの一言だけで指示するものを決定することはできないのだが、
音声認識モードにはハイネの眼球の動きを捉えるアイボールセンサーも
搭載されるのが常であり、このジムも例外ではなかった。

今ジムはハイネの目の動きに同調している。
細かい動きはコンピューターが計算して行う以上、
通常よりも動きは遅めになるのだが、
それに関しては相手がバグであることが幸いしていたのである。

動き回るジムを追尾するバグが一機、正面から攻撃態勢に入った。
ハイネは唯一自由になるフットペダルの片方を腕のコントロールに回し、
それを思い切り踏み込んだ。

コンクリートの塊を掴んだまま、ジムはその右腕を正面に突き出す。
突進したバグはそのまま突き出された塊に衝突した。
バグの回転する刃は当然のようにコンクリートを砕いていく。

「まだぁーっ!」

ハイネは間をおかずにもう片方のペダルも踏んだ。
これにはバーニアのコントロールを残してあり、全力で踏み込まれたペダルは
バーニアと連動してジムの機体を猛烈な勢いで前進させる。
腕を突き出したまま、ジムは正面のビルに向かって突撃する体勢を取ったのだった。

コクピットに衝撃が走る。それはバグの攻撃によるものではなく、ジムの腕が、
正確にはジムが掴んだコンクリートの塊が、もっと言うならば
そこに食い込んだままのバグが猛スピードでビルの壁に叩きつけれられて発生したものだった。

ジムの重量がそのまま加算された衝撃に、バグはひとたまりもなく砕け散った。


ハイネは身体に熱いものが流れてくるのを感じていた。
やれというなら。あの野郎が言っても言わなくても。
俺はやる。
できるできないじゃなくて、俺は、
他の誰でも無くハイネ・ヴェステンフルスは、やってやるのだ。

今その腕に抱えた幼児。
たとえ自分が無力な存在であったとしても。

五分。そう、後五分である。

37前312:2006/03/13(月) 14:07:38 ID:2CqAx57W
5話第3回終了。

本来後編1回で終わらせるはずが、書いている内にこんな長さに。
バグ編は全体のターニングポイントにしようと考えていたので、後編は2回に分けました。


>>12
ツッコミ感謝です。6話にその辺の説明を入れておこうと思います。いいネタになります。
スプレーガンに関してはそんな感じの使い方だとイメージしています。

>>常緑氏
外郭・体面ばかり取り繕う連邦軍の描写が何ともいいですな。続き期待しております。
自分の文章などへたれもいいところです。常緑氏の硬質感のある文章が羨ましい。

38前312:2006/03/13(月) 14:12:32 ID:2CqAx57W
連邦軍じゃなくて戦自でした。訂正。
39それも名無しだ:2006/03/13(月) 20:32:32 ID:jFNF5L03
>>20
忍がいつ獣戦機隊に参入するか楽しみです。
あと、ドートレスが出てきたということはあの少年少女と兄弟も登場するのだろうか。

>>37
ちょうどオリジンを読み返してた後だったのでニヤニヤしながら読ませていただきいますた>セント・アンジェ
そして叫ぶハイネに逆襲のビルギット・渋いバロム、みないい味だしてますな。
頑張れハイネ!!ガンダムファイターも夢ではないぞ(嘘)
40それも名無しだ:2006/03/15(水) 15:04:06 ID:Vs3DTLxQ
職人ガンガレ
超ガンガレ
適度にガンガレ
41OG3妄想:2006/03/15(水) 15:39:45 ID:V/tIDTPq
バルトール事件から数ヶ月がたった頃。
デススターでの被害から立ち直ったハガネは軍のイメージ回復の為にアピール活動を行っていた。

「・・・上は何を考えているんだか。」
テツヤが艦長席で一人ため息をつく。

今回の企画、『みんなの平和を守ってくれるロボットと触れ合おう!』イベントの詳細が送られてきたのだ。

「いくら最近戦闘が無いからと言って何故ハガネがこんなことを・・・」
「・・・まぁ、ヒュッケバインMk-Uじゃあんまり人気ないですし。」
エイタが子供の意見をまとめたテキストを読みながら返答する。

ハガネはアルトアイゼン・リーゼ、ヴァイスリッター、アンジュルグ、ビルトビルガー・ファルケン等、
特に子供人気が高い機体を回収し、日本地区に向かっていた。
ちなみに何故機体が有名なのかと言うと、軍がプラモデル等を販売していたりするからだ。

「流石にボスは来てないみたいねん♪」
ブリッジの入り口が開き、エクセレンとキョウスケが入ってくる。
「・・・あの後また雲隠れしたからな。」
「あ、エクセレン少尉、ナンブ中尉、ご苦労様です。」
ブリッジにはアラドとゼオラが既に居た。
「リュウセイ達・・・SRXチームは?」
「いや・・・・今回の企画の機体には含まれてないんでな。」
遠方からやってきたキョウスケ達にテツヤが答える。

「リュウセイ少尉が嘆いていたっすよ。『今の子供はわかってねえ』って。」
ランキング3位、ビルガーのパイロットアラドが代弁した。
42OG3妄想:2006/03/15(水) 15:48:37 ID:V/tIDTPq
同じ頃、都内高校。

「・・・で、当校でも社会見学の一環として見学に行きます。」
担任が何か言っている。
特に興味が無い、今度の社会見学。「ハガネと機体を見に行こう!」
ぼーっと窓から青空を見る。
軍の戦闘機が飛行訓練をしている。
「あいてっ!」
チョークが飛んできた。
「・・紫雲君、PTより戦闘機のが好きかしら?」
「・・・いえ。別に。」

PT好きの担任の話に合わせる。
クラスのみんなはえらく乗り気だ。

休み時間。
「なんだ、統夜は興味無いのか?PTに。」
友人が話しかけてくる。こいつもまたPTが大好きらしい。
なんでもプラモを全部持ってるとか。
「いや、興味無いって言うか・・・どうでもいい。」
「かーーっ!たく。これでも男子高校生かねぇ!」
いや、ロボット好きな高校生がマイノリティなんだと思う。

一週間後に控えた社会見学。
これが俺の運命を大きく変える事になると俺はまだ知らなかった。
43OG3妄想:2006/03/15(水) 15:58:38 ID:V/tIDTPq
ドン、ドンドドン!

色つきの煙が打ち上げられる。

ハガネは巨大な公園に着陸していた。
PT各機は実弾は抜いて、豪勢に飾られていた。

「・・・アルトには似合わんな。」
「あらん、そんなことないわよん♪なんてったってランク1位なのよん?」
「・・・解せん。」

確かにアルトにピンクのリボンやら黄色のテープやらで飾ってあるのは似合わない。
せいぜい鉄くずや釘が似合うだろう。
対してヴァイスの似合い方はすごかった。
元々美しい流線型のフォルムなのだ。当然だろう。
ちなみに、女子からの投票では第一位だった。

「艦長、開始時間です。」
「・・・わかった。」

イベントの前座、開会宣言をテツヤが行う事になっていた。
テツヤがそれを知った時、苦虫を噛み潰したような顔をしたという。
もっとも、士官学校時代はアガり性だったようだが艦長の貫禄が付いた今では克服されていた。

『ハガネ艦長のテツヤ・オノデラであります。
本日は我が軍の企画に参加いただき、感謝いたします。
これを機に皆様の軍に対する理解が深まることを望むばかりであります。
では、楽しんでいってください。』
拍手がおこる。
花火が打ち上げられ、BGMが流れ出し、イベントが始まった・・・。
44OG3妄想:2006/03/15(水) 16:08:40 ID:V/tIDTPq
「ねーねー、あれがリボルビング・バンカー?」
「わー、すっげー、ホンモノのプラズマホーンだぜ!」
「すっげーかっこいー!」

アルトの周りは子供達がたかっていた。
各パイロットはコックピットからいろいろと観客に解説せねばならなかった。
「ああ、肩のがアヴァランチ・クレイモア、左腕のが5連チェーンガンだ。」
「うおー!キョウスケさんだー!」
「すっげーホンモノだー!」
「カタログよりかっこいいー!」
珍獣扱いである。

「(まったく、こんな柄じゃないんだがな。)」
とか思いつつ悪い気はしないキョウスケだった。

一方、ヴァイスリッター。
『はいは〜い、みんな押さないでね〜ん。ヴァイスちゃんは逃げないからね〜』
エクセレンは慣れたもので的確に子供達の相手をする。
ペイント弾が装填されたオクスタン・ランチャーを的に撃ってみたりする。
かなり火薬の量を抑えてあるので音もそんなにたいした事にはなっていない。
来ているのは大体女の子だった。
45OG3妄想:2006/03/15(水) 16:20:42 ID:V/tIDTPq
バスに揺られ数十分。
統夜のクラスが会場に着いた。
すでにイベントは始まっているようで、歓声が聞こえる。
「うっひょー!あれ、ハガネじゃん!おい、見ろよ統夜!」
「・・・いや、俺はほっておいてくれていい。」

昨夜見た夢のせいか気分が優れなかった。

小さい頃から何度も見る、少女が祈っている夢。
見た朝はいつも体調が悪い。
もっとも、午前中には治るのだが。

会場は予想より混雑していた。
軍に悪い感情を抱いている人もいっぱい居る世の中によくここまで集まったものだ、と思った。

「まぁ、せっかく来たんだし。見ていくか・・・。」
友人に引っ張られながらそう思った。

「はいはい、PTのラジオ体操だぜー!」
「ちょっと、何やってんのよアラド!そんなのプログラムに無いわよ!?」
「いいじゃねーかよ、ちょっとぐらいサービスしても♪」

ビルガーとファルケンは最早夫婦漫才垂れ流しと化していた。
観客そっちのけである。
まぁそれでもそこそこ面白いらしく、結構人が集まっていた。
「・・・で、このPTの何処がいいんだ?」
「二体一組ってのがいいんだよ。うん。」
人ごみに揉まれながら統夜が疑問を投げかけ、よくわからない返答を返される。

「・・・休憩所にいる。」
人ごみから離れ、人影もまばらな休憩所へ避難した。
46OG3妄想:2006/03/15(水) 16:33:28 ID:V/tIDTPq
「盛況してますね。」
「・・・意外にな。」

ブリッジでも予想外の盛況に大忙しだった。
迷子処理、インフォメーション、イベントの確認など普段とは違う仕事にオペレーターも困惑していた。
それに加えて周辺のレーダー索敵だ。
整備士のリョウトまでもが(リオに)駆り出されている。

「ん・・・なんだこれ・・・?」
オペレーターが索敵レーダーに映った影を見つけた。
警報が鳴る。
「っ!?艦長、上空より高速で落下してくる物体があります!」
「何ぃ!?特定急げ!砲撃班、迎撃準備!」
「距離12000・・・9000・・・このままでは10分後に地表にぶつかります!」
この大勢の人間の中に大気圏外からの物体が飛来なぞしたら・・・。
考えるだけでもおぞましかった。
「ただちに民間人の避難を!・・・ハガネへだ!」
「了解!PT各機に通達、上空より飛来する物体があります!民間人をハガネへ避難させてください!」

「ちっ・・・!こんな時にか!」
「ちょっちタイミング悪すぎない?もう!」
47OG3妄想:2006/03/15(水) 16:42:59 ID:V/tIDTPq
外が騒がしい。
いや、さっきまでも騒がしかったのだが。
イベントでもやってるのだろうか。

興味ないのでまだ休憩所から出ない。


「少し気になる。」
むくっと起き上がった。
外に出てみると誰も居なかった。
「?」
さっきまであんなに騒がしかったのに、一体どうしたことか。

PT各機も居なくなっていて、ハガネが上空に向けて何か撃っていた。
「・・・なんなんだ、一体!」
いやな予感がして走り出す。
上から何か音が聞こえる。
これは・・何かの・・・落下音?
ルルルルルル・・・・ドォン!
大きな音がして地面が揺れた。
「っ!?な・・・何だ!?」
振り返る。
さっきまで自分が棒立ちしていた場所には・・・・

ロボットが落ちていた。
48OG3妄想:2006/03/15(水) 16:53:35 ID:V/tIDTPq
呆然としていると、ロボットの装甲の一部が開いた。
「・・・、もう、乱暴なんですから・・・。」
「しゃーないでしょ!被害を最小にするにはこうするしかなかったんだから!」
「・・・まだ動けるわね、よし。」

女の子?の話し声が三人分聞こえる。
一人誰か出てきた。
茶色っぽい色の髪の毛の女の子だ。
「・・・あ!居た!やっぱりここでよかったんだよ、うん!」
「ほら、言った通りでした。」
あっけにとられる。
「ちょっと、あんた!珍獣を見るような目で見ないの!」
茶色娘がしゃべった。
「いや・・・空からロボットが降ってきて中から女の子が出てきたら驚く。」
「あ・・そうか。まぁいいわ、それは後で説明するから!今はこれに乗って!」


まったく話が理解できない。
俺寝てる>出てくると誰も居ない>ロボット降ってくる>中から女の子
まではいい。
>ロボットに俺が乗らされる
意味がわからない。
「・・・なんでだよ!」
「もう!男だったらぐちぐち言わない!」
機体から駆け下りてきた女の子が俺をひっぱっていく。
「うわっ!ちょっ!」
なんだか今日引きずられてばっかだ。
「メルア、カティア、ちょっとその辺に降りてて!」
「えっ・・・じゃあテニアちゃん・・・その人に?」
「・・・仕方ないわね、任せるわ!」

なんだか訳の判らないうちに話がまとまり、残りの声、黄色い髪の子と黒髪の子が降りていく。
いつのまにかコックピットに乗せられている俺はあっけに取られるしかなかった。
「すごい・・・数値がこんなに!いけるよ!えーっと・・・あんた名前は?」
「・・・統夜。紫雲統夜だ。」
訳が判らないが名ぐらいは名乗れる。
「あたしはフェステニア。テニアでいいよ!統夜、来るわよ!」
「・・・はぁ?」
49それも名無しだ:2006/03/16(木) 05:49:06 ID:1/NKvMOu
>>41-48
突っ込み所は満載だが面白れぇwww
かなり期待してます。

アルトが一番人気とは渋いガキ共だな・・
普通は龍虎王やサイバスターに行きそうだがw
50それも名無しだ:2006/03/17(金) 04:52:03 ID:jIF5WuxH
OGキタコレ!頑張って下さい!
51それも名無しだ:2006/03/19(日) 09:02:05 ID:59FfYFVp
今だ保守。
52それも名無しだ:2006/03/21(火) 05:44:25 ID:YBUEa/fk
今日もまた保守
53それも名無しだ:2006/03/23(木) 01:19:09 ID:ITPUKBhH
職人様達頑張って
54自治スレにてローカルルール検討中:2006/03/25(土) 21:29:13 ID:Ygj/IIbp
どうしたどうした
55前312:2006/03/26(日) 18:00:12 ID:iIetL6QC

今までのことがまるで嘘か冗談に感じられるような静寂がその空間には満ちていた。
そして静寂というものが大抵そうであるように、この空間には静寂のみが存在を許される。
ただ一つの例外は空間の中心に虚ろな目をしたまま横たわる肉体が
低く発する呼吸の弱弱しい鳴動だけであった。

そんな肉体の持ち主であるハイネ・ヴェステンフルスは彼がこうした状況に置かれてから
何日が経過したものか一瞬考えを巡らせたが、すぐに馬鹿らしくなって止めた。
やけに高い天井は暗い灰色のコンクリートが剥き出しになっていて、
彼が横たわっているお世辞にも質がよいとはいえない粗末なマットの他は、
床も壁も全てが堅牢なコンクリートの障壁で包まれてしまっている。

それは一般的には牢屋と称される空間であるはずだった。
その証拠に壁の一面だけは壁ではなく鉄格子がはめられていて、
その隙間から向かいの牢屋が薄暗い光の下で照らされている。
その暗さで唯一光を反射させるのは牢屋の隅に備え付けられた便器のみであることが、
一層ハイネの気を滅入らせた。
当然その匂いが漂ってくるものだから、ハイネはできるだけ便器から頭を離すようにして眠った。
それは必然的に鉄格子に頭を近づけるような体勢を強いらせて、
時折通路の奥から冷たく響く靴音で目が覚めると、ハイネの身体は激しく震えた。

彼に近づいてくる靴音が意味するところは、大体がハイネに対する尋問の時間が来たということであった。
尋問を担当する軍人は警備を引き連れてハイネの牢屋へと歩を進める。
靴とコンクリートの床がぶつかり合って起こる、奇妙に響き渡る高音はこの数日、
おそらく数日だろう、ハイネの耳から離れたことがない。

それは言葉だけのことではなくて、実際尋問は全くの不定期に行われていた。
そのことが余計にハイネの日数の感覚を失わせた。
数時間おきに行われることがあれば、時に半日ほどの時間が経ったような頃合に靴音が鳴るときもある。
最初こそ身構えていたハイネだったが、その内に何かを考えることを止めていた。
彼は横たわったまま、尋問担当の軍人がゆっくりと近づいてくるのを感じていた。
身を起こそうとも思わなかった。
56前312:2006/03/26(日) 18:02:14 ID:iIetL6QC

それにしても。
ハイネはこんな状況でも思考を紡ぎ上げる頭のどこかの部分を意識することもなく、
ただその部分が無造作に並べる言葉を呆然と頭の隅で眺めていた。
それにしても。これ以上俺を尋問してどうなるというんだろうか。

ハイネがこうも投げやりな態度を取るのはその思いも一因となっていた。
彼は三回目の尋問において、彼が知るところの全てを吐いてしまっていた。
ハイネは彼を尋問した男のことを思い出す。
初回、そして二回目の尋問を行った男、肩を怒らせた軍人はいわば繋ぎでしかなかった。
三回目の尋問にやって来たそれとは別の男を見た瞬間にハイネにはそれが分かった。
その理解は本能的といってもいいかもしれなかった。
きっと、モビルスーツに乗ることがなければそんなことは思いもしなかっただろう。
ハイネはこの時そんなことを考えていた。

角張った顔に縁の厚い眼鏡をかけ、季節外れの灰褐色のコートを着たまま取調室に入ってきた男。
取調室は一切の自然光が遮断されていたが、外から入ってきたはずのその男には
およそ外の明るい光や匂いというものが感じ取れなかった。
ともすれば男の方が牢屋から出てきたばかりのような、
そんな薄暗い雰囲気を纏って男はハイネの前に現れた。

驚いたことに男は尋問を始める前に名刺を差し出した。
突き返すわけにもいかず、ハイネはそれをひとしきり眺めた。
名刺には名前と、男の所属先らしきものだけが記されていた。
連絡先は一切記されていない。

そんなことを確認してからハイネは再び顔を上げた。
その時男と目が合った。
男は上目遣いでハイネに不気味な視線を向けていた。
ハイネはその視線に自分の内臓やら何やらを透けて見られたような、
そんな生理的な不快感を抱いた。
その感触に呼応したかのように、胃の辺りに鳥肌が立ったような気がする。

ハイネに名刺を渡した、名刺の内容が正しければ地球連邦軍極東支部戦幕調査部別室に所属する、
荒川茂樹と名乗る男は一呼吸置いた後にこう言った。

「荒川です。時間は取らせないんで」


57前312:2006/03/26(日) 18:03:30 ID:iIetL6QC

それを聞いた時、ハイネは改めて自らの無力さに思い至っていた。
目の前の男に抵抗する術はなく、彼と自分の間には明確な壁がある。
乗り越えることの出来ないものが。
それは立場が生むものでも、尋問の内容から推測されるナチュラルとコーディネーターという問題でもなく、
ただ単に荒川には力があり、それに対してハイネは限りなく無力であるという、二人の問題でしかないのだった。

三十分後、ハイネが全てを吐いたことを確認するまでもなく荒川は取調室を後にした。
残されたハイネは今まで自分が築き上げてきた何かを真っ二つに折られてしまったかのような、
そんな屈辱と失望感を噛み締めていた。
机の上に置いたままの両の拳に力がこもる。
しかしハイネはこの拳を荒川に向けることすらできなかった。

身体中を駆け巡った屈辱はその内に恐怖に変わった。
もし。もし俺が全てを吐いたことを知ったら。
彼らはどんな顔をするだろう。
いや違う。
俺を今の状況に追い込んだのはあの男、ビルギット・ピリヨじゃないか。
俺を売ったのだ。

容疑は。容疑は何だった。
軍務違反。ヒュッケバインの無断使用。
無断使用だと。
それならジブリールも同じじゃないか。
あいつがヒュッケバインに乗ったから俺たちはこうして今生きている。
あいつがもう一つのバグのベースを破壊したから。
どうして俺だけが。
どうして俺だけが罪に問われる。牢屋に入れられる。


58前312:2006/03/26(日) 18:04:40 ID:iIetL6QC

結果。
結果なのだろうか。
結果だけ見ればあいつは成功して、俺は失敗した。

どうしてなんだろう。
どうしてあいつはああも見事にヒュッケバインを操縦できるのか。
そう、さっきの男がジブリールについて訊いてきたが、俺は何も答えられなかった。
答えられるわけがない。何も知らないのだ。

そうだ、俺はジブリールのことを何も知らなかったんだ。
色々聞いておけばよかった。
どうやったらモビルスーツを上手く操縦できるのか。
そういえばあいつ、ヒュッケバインしか乗ってなかったな。
何か違うんだろうか。ジムと、ヒュッケバインと。
ああそうだ、あのヒュッケバインはコーディネーター専用機だったんだ。

ならどうして俺は駄目なんだろう。
俺、もしかしてコーディネーターじゃないのかもしれない。
いやそんなことはない。
きっと、ジブリールが特別なのだろう。
さしずめスーパーコーディネーターといったところなのだろうか。

俺は、俺はどうなるんだろう。このまま牢屋に入れられて。
考えることができない。初めて見るものばかりだ。
初めての牢屋。初めての尋問。そして全てを吐いた。
俺はもう用無しなのだろうか。


俺はこれから、どうなるんだ?



59前312:2006/03/26(日) 18:13:57 ID:iIetL6QC
6話予告編終了。

色々考え直して5話の後半は6話に混ぜてしまうことにしました。
というわけで前回の投稿で5話は終了です。
構成だけじゃなく、中身もごちゃごちゃになってしまっている気がします。

7話まで何とかこぎつければ……。
60前312:2006/03/28(火) 02:22:39 ID:5Z5OPIj6

「つまり、俺たちは捨てられたというわけだ」

軽く首を振りながら格納庫の中央へと歩を進めていた男は、既に集まっていた
十人ほどの兵士たちに軽く手を上げて答えた。
男の第一声に兵士たちは先刻承知といった具合に各々頷いてみせた。

「コムさんよ、連中とっとと店じまいしやがったぜ。これからどうするんだ」

年配の兵士にそう尋ねられた男、コムは苦笑した。
連中とは当然のことながら、バグの使用を強行したオールズモビルの
スポンサー筋の人間たちである。
同志同志と連呼するだけが取り得の使えない連中だったことは間違いが無い。

「主義者ってのはこれだから困るな。後始末のことを何も考えてやがらない。
残ったのはこれだけか」
「全員、要領の悪い奴らでさ」

その言葉に兵士たちはあれこれ文句をつけたものだが、声の調子は穏やかだった。
要領が悪いなんてことはない。コムはそう思う。
逃げ遅れたわけではない。元々逃げるつもりもないのだ。

「ふん。結構じゃないか。どうせ他にやることもなさそうだからな。
どうだ、後一戦ぐらい俺につきあってみないか」
「そりゃいいが、何かいいネタでもあるのかい」

コムは上着のポケットから大きめのキーを取り出した。
それを数回軽く振り回した後、兵士たちに示してみせた。
兵士の一人が焦れたように言う。

「コムよ、勿体つけるな。それ、何の鍵なんだ。
宇宙戦艦か何かの鍵なら、とっとと逃げちまうんだがな」
「戦艦か。まあ考え様によっちゃそうかもしれんな。
だが一つ謝らなければならんのは、悪いが空は飛べない」
「飛べない戦艦? 何だそりゃ。
今更水上戦艦なんて俺は御免だぜ」
「全くだ。なあこの中にソロモンで戦った奴はいるか」

61前312:2006/03/28(火) 02:24:30 ID:5Z5OPIj6

その問いに年配の兵士が顔を上げた。
数回顔を合わせただけで、今まで話したことのない男だった。
なるほど。こいつもジオン出身者だったというわけか。

しかしこの期に及んでまだこんな戦場に顔を突き出しているあたり、
どういう人間かは想像がつくってものだ。
まあそれは俺にしても同じことか。
要は同類だ。

「あそこにな、馬鹿でかいモビルアーマーが投入されてたのは知ってるか」
「ビグザムか? ああ、覚えてるよ」

コムは驚いた顔をしてみせた。それは半分本音ではある。
あの時、ソロモンでビグザムが出撃したのは戦局がかなり不利になった後のことであるから、
その状況から生き残っていた兵士の数はそう多くはないはずであったからだ。

この男はビグザムの出撃を確認し、その上でこうして生き残っている。
それ以上に、ソロモンでのあの消耗戦を切り抜けた後でもまだ戦場に足を突っ込んで
生きようとしているこの男は、確かに頼れる人間であるだろうと思う。

「なら話が早いな。あんたにこいつを任せていいかい。
四人乗りだ。メンバーはあんたが決めてくれていい」

そう言ってコムは手に持ったキーを男に放り投げた。
男は空中でバランスを崩したキーを事もなく掴み取って、
値踏みでもするかのようにして手の中のものを見つめた。
信じられないという顔をしている。

「ビグザムがあるってのか。まさか、嘘だろ」

62前312:2006/03/28(火) 02:25:56 ID:5Z5OPIj6

「そういうことはな、店を畳んじまったスポンサー諸氏に言ってもらいたかった。
俺も小耳に挟んだ程度だったがね、何でもビグザムってのは
元々地上進攻用に作られたらしいんだな。
嘘だと思うだろう。な、悪い冗談さ。
足はどうするかだと。そんなものキャタピラでも何でもつければいいさ。

まあとにかくそういう計画があったのさ。
それで、我らがスポンサー諸氏がな、その計画だけをどっかから掠め取ってきた。
連中が金に糸目をつけない奴らだってことはもう分かってるだろ。
金さえあれば、そりゃ作っちまうさ。
どこで作ったのかは、知らんがね」

大方オーブの端にある島辺りだろう。そうコムは当たりをつけていた。
あの地域は島が多すぎてそうそう監視の目も届かないはずだ。
そして中規模の工場地帯もいくつか存在している。
となればこのオールズモビル紛争はあれだ、前座も前座、露払いもいいところなのだろう。

「なるほど。まああるものは何でも使わなければ損ではあるよなぁ」
「あんたもそう思うかい。
さすがジオン出身者はって、いやはや、未だにこんなところに残ってる
あんたらにはそんなこと関係なかったよな」

兵士の一人が喉を低く鳴らして笑った。こいつはクロスボーンの出身だったか。
水が合わなくて止めたらしいが、まあこのごつい顔じゃあそこの雰囲気には馴染まないだろう。
隣の男はOZの傭兵部隊で慣らしていたらしいが、司令官の貴族趣味を見た瞬間に出て行ったらしい。

他にも色々いる。ネオ・ジオンにザンスカール。
どいつもこいつもろくな人生を送ってこなかった連中だ。
戦争戦争、また戦争。それしかないのかこいつらには。

そう、それしかないんだろうな。
かく言う俺だって戦争以外に食い扶持を稼ぐ方法なんて何も知らないときたもんだ。
今更娑婆で生きるわけにもいかんよな。

63前312:2006/03/28(火) 02:28:15 ID:5Z5OPIj6

そういうことが。コムは思う。
そういうことが。あのスポンサーと称する連中には分かっていなかったのだ。
だからあんな気色の悪い兵器を使う。

まあ利用し合っていたという意味ではお互い様だ。
本来ならばオールズモビル紛争はこんな長続きできるものではなかったのだ。
シャルル・ロウチェスターを中心とする本気でジオン再興なんて言い出していた
あの連中が宇宙で壊滅してしまった以上、既にオールズモビルは組織としての体を成してはいなかったのだ。
中途半端に地上に展開した部隊は援護も受けられない。
半ば自滅するのを待つだけだった。
そこに現れたのが例のスポンサーだったわけだ。

つまり、奴らには戦場が必要だったのだ。
絶好の実戦テストの場としての戦場が。
それをオールズモビル紛争を隠れ蓑にすることで実現した。
そんな申し出にロウチェスター派の残党はまんまと乗ってしまったわけだ。
逃げ出すタイミングを狙っていたのかもしれない。
あの連中はもうオールズモビルには残ってはいないだろう。

残ったのはこうして戦争しか能が無い、ただの兵士たちというわけだ。
銃を与えてやれば喜々として突っ込んでいく。
そんな連中だと思っていやがる。
まあ当たっている部分はある。
俺もあのデカブツを見た瞬間には、久々に身体が震えるのを感じたぐらいだ。

そうして俺たちのような人種を散々戦わせた後で残るのは、
新型の開発におあつらえ向きの実戦データということになる。
俺が乗るグフにしても、ザクにしても。
ドムの開発はまだらしい。新型になった気配が無い。
それにバグ。あんなものまで使う気とは、一体どれだけでかい戦争を起こすつもりなのか見当もつかない。

多分宇宙にいるそんな連中とのパイプは、連邦の中でも腫れ物的に扱われているらしいオーブということになる。
あそこにはモルゲンレーテとかいうでかいメーカーがあって、
俺たちもその恩恵の一部を受け取っているわけだが、どうも考えてみればオーブは戦後の産業、
特にモビルスーツ産業を完全に手中にしてしまいたいということか。

そうだ、今アナハイム・エレクトロニクスがそうしているように。
両軍に兵器を提供する、まあ戦争商人というやつか。

64前312:2006/03/28(火) 02:30:20 ID:5Z5OPIj6

やはり現場に出なければ分からないことがあるのだ。コムはその思いを新たにする。
一介の兵士でしかない自分にこうまで裏の事情を推測させるとは。

しかしそれも当然なのだとコムは思う。
現場の人間は自分が生き残るために、その種の陰謀めいたことへの嗅覚を
常に研ぎ澄ましているものだからだ。
そのことを空調の利いた洒落た部屋であれこれ考えている連中は分かっていないのだ。

その格差が実際に使う兵器に現れたりもする。あのバグがいい例だ。
現場の人間の意識を何一つ考えていない。
ブルトーザーで進むかのように死骸の山を作っておいて、
それで本当に前線の兵士たちが喜ぶとでも思っているのだろうか。
厄介事が減ったなどと。

馬鹿げた話だ。
第一バグを使ったことで、この大陸におけるオールズモビルの威信は、
今の段階でそんなものが残っているのかどうかは微妙だが、完全に失墜したとみていい。

後先を考えないならばバグを使うのも、俺自身は納得できないにせよ一手ではある。
しかし後先を考えていないのはあのスポンサー連中だけだ。
俺たちは戦った後のこと、次の作戦のことまで考えなければならない。
エゥーゴに代表される反地球連邦政府運動が盛んになったからといって、
やはりこの土地に住んでいる民間人たちは自分たちのモビルスーツを見ていい顔はしてくれないのだから。

畜生。返す返すもいまいましい連中だ。
奴らはバグを使った後で、その惨状を知った民間人たちと直接顔を合わせるのが
誰かということを何も分かってはいない。
分かっているのかもしれないが、そんなことには無関心なのだ。
連中が興味があるのはバグの稼動データだけ。そういうことだろう。

ということなら最後に好きにやらせてもらおう。そうコムは考えるのである。
彼の元にはまだグフがあり、こうして彼と意思を、大したものではないかもしれないが
それでもある種の共感を抱く兵士たちが残っている。

皆一度ならず所属した軍や組織が敗北した者ばかりだ。
それはコムにしても同じことである。

65前312:2006/03/28(火) 02:32:08 ID:5Z5OPIj6

俺は戦争が嫌いではないんだろう。結局そうなのだとコムは思ってしまう。

当事者以外は死なないのであれば、モビルスーツや各種機動兵器に
乗って戦うということは決して悪い気がするものではない。
そのためにまともな職につくこともできず、こうして壊滅寸前の組織に
身を置いているのが自分である。

しかしコムにとっては今のオールズモビルのような隙間風が入り込むほど
風通しのよい組織というものは悪いものではなかった。
ここには組織に特有のしがらみが存在しない。
例えば連邦軍はその塊であるといっていい。

自分は到底そんな組織ではやっていけないだろう。それがコムの実感である。
そうでなければ今ごろ自分は連邦軍で戦争をやっているはずだ。
今この瞬間、ここに教義や思想で戦っている奴は誰もいない。

「さて、そういうわけなんでな。
夜が明け次第、景気良くオエンベリ辺りまで遠征としゃれ込みたいんだが、
それともどこか別の場所がご希望だったりしたら言ってくれ」

反論は無かった。
集まった兵士たちは一様に愉快そうな顔をしている。
コムが持ってきた兵器によって、久しぶりに歯ごたえのある作戦が展開できるとあって、
根が戦争屋の男たちはしばらく味わっていなかった充実感を覚えているのだろう。
撤退戦を喜んで行う兵士がどこにいるというのだろうか。

攻撃。
そうなのだ。とどのつまり戦争とは攻撃である。
今の今まで俺たちは、オールズモビル蜂起当時は別として、
そういった思い切りのいい攻撃を加えることが出来ないでいたのだから。

花火。最後の最後にでかい花火を打ち上げてもいいだろう。
そうして皆で花火を見物して、後は各々思うところにいけばいいのさ。
どのみち、俺たちは組織勤めなどできる人間じゃないんだから。

「それじゃあ今日は盛大にやろうじゃないか、
オールズモビルの壊滅を祝って前倒しの宴会といこうぜ、なあ同志諸君よ!」

66前312:2006/03/28(火) 02:33:52 ID:5Z5OPIj6

コムはここで初めて同志という言葉を使った。
きっと今この場にふさわしい言葉だろう。皮肉が利いている。
あのスポンサー連中が繰り返すこの言葉には聞く度に虫唾が走ったものだが、
今使わないでいつ使うというのか。

誰もがその思いを理解していた。彼らも辟易していたに違いない。
お互いがお互いを同志と呼び合い、どこに隠してあったのか酒の瓶を
次から次へと引っ張り出してくる。
驚くような上物もあった。

どうしたんだと聞いてみれば、逃げ支度をしていたスポンサー筋の上官の部屋から掠め取ってきたらしい。
なかなか目利きの聞く男だと思った。
一口飲んでみれば香り高い、それでいてどこか抑制された芳香が口の中に広がる。
品がいい。
こんな酒があの下品な文句を垂れ流すことしか能が無い、
気高き同志たちの口に流し込まれるなどという悲劇を回避できたことは
今のコムにとって大きな喜びであった。


「素晴らしい。素晴らしいぜこりゃ。
まさにオールズモビルの精神が具現化したようじゃないか。ええ?
なあいいかい、僭越ながら音頭を取らせてもらうことにしよう。
みんな準備いいかい。 

それじゃ、我らがオールズモビルの輝かしい未来に乾杯だ、同志よ!」


67前312:2006/03/28(火) 02:38:42 ID:5Z5OPIj6
6話その1終了。

これ以降は1回の投稿を短め、小出しにしていこうかと。
4月からは時間が思うように取れそうに無いので。
68前312:2006/03/28(火) 02:49:35 ID:5Z5OPIj6
>>12
今回の話は12氏のアドバイスを元に書かせてもらいました。感謝です。
かなり言い訳めいた話になってしまっている気もしますが。
6912:2006/03/29(水) 16:49:27 ID:Pwnn4vSr
乙。
見事に整合をつけましたな>バグ
それに、グフ男たちはオールズモビル版デザートロンメルですか。
なんというか、心情描写がたくみですね。

そして遂にあの赤い最終兵器が出撃ですか。
楽しみにまってますよ〜


>司令官の貴族趣味を見た瞬間に出て行ったらしい。
トレーズ閣下w
70自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/02(日) 02:35:16 ID:B3IsZMEp
保守
71前312:2006/04/07(金) 05:07:50 ID:uaScOQiY

オエンベリ基地に到着したビルギット・ピリヨがまず目にしたものは
天に届いてしまうのではないかと思われるほどに真っ直ぐ突き立てられた、円筒状の物体であった。

その異様な姿に自身の目を疑ったビルギットは、
思わず操縦席の隣に座っていた小隊最先任下士官のバムロに問い掛けた。

「曹長、ありゃ一体何だ」
「煙突に見えますが、煙突じゃないでしょうな」
「前に来た時はあんなもの無かったぞ」
「手前もそう記憶しております。 おい、もう少し近づけるか」

バムロの指示に操縦士は素早く反応して、滑走路への進入コースを変更した。
ミデアは円筒の周囲を一周するようにして次第に高度を下げていく。

そこでようやく、操縦席からは円筒の全容が掴めるようになっていた。
その様子を眺めていたビルギットはこの円筒が何を意味するものなのかということに思い至った。
それは馬鹿げた考えであったが、彼にはそうとしか考え付かなかった。

「これは、大砲なのか?」
「ですな。ええ、確かにこれは大砲ですよ」

ビルギットの問いにバムロは肯定を返した。
自分の辿り着いた馬鹿げた結論がおそらく正しいものであるという確証を得たものの、
かえってそのことが目の前の円筒、それはどうやら大砲の砲身であるらしい、
この物体の異常さを際立たせているようにビルギットには思えてならなかった。

円筒の全長は五十メートルを超えるといったところだった。
この長さ、この大きさの砲身で、その口径がどれほどのものになるのかは想像がつかなかった。
そしてどこからこんな代物が基地に運び込まれたのかについても、
ビルギットには皆目見当がつかないでいた。

「データは無いよな?」
「無いです。該当するもの、ありません」

72前312:2006/04/07(金) 05:09:45 ID:uaScOQiY

尋ねられた操縦士は正面のサブモニターを確認してからそう答えた。
コンピューターに該当するデータは入っていない。
ということは現在連邦軍が採用している兵器ではないということだ。

かといってオールズモビルから摂取したものとも思えないし、
新型兵器であるというならビルギットはこの後すぐにでも軍に辞表を提出しようと思う。
彼にそんなことを思わせるほど、基地の隅に放置されたようにして、
それでいて基地に存在する他のどんなものよりも自らを主張する
この物体は非常識で、非効率なものであった。

「あれ、昔の兵器か何かじゃないですか」
「昔って、いつだよ」
「そうですね、例えば旧西暦とか」
「そんな昔の兵器がどうして基地に置いてあるんだ。ここはリサイクルセンターじゃないんだぞ」

操縦士が何気なく言った言葉にビルギットは呆れて答える。
それを聞いていたバムロは低い声で笑った。

全くその通りだと、自分で言ったことながらビルギットはその内容の妥当性を確信していた。
モビルスーツという比較的歴史の浅い兵器ですら既に旧型はお役御免になり始めているというのに、
そんな状況でこともあろうに旧西暦の兵器のどこに出番があるというのであろうか。

確かにアルファナンバーズ、その前身であるSDFではある種の古代兵器が用いられていた。
しかしそれは現在の文明と関わりが無いという意味においての古代でしかない。
ただ古ければいいというものではないのだ。
しかも旧西暦とは、古さがどうにも中途半端なのである。

「仮にこれが旧西暦の代物だとしてだな、旧西暦時代には
いちいちこんなものを使いでもしなけりゃ砲撃もできなかったのかね」
「まさか。時代にもよりますが、旧西暦はそこまで未発達じゃあないですよ。少尉殿」
「そうか。あんたは学があるんだよな。なら曹長、あの煙突をどう説明するんだい」

「簡単なことです少尉殿。
馬鹿が作って、馬鹿が使うんですよ。それしかありえません。
実に悲嘆すべき事柄ですが、軍隊という空間には常にそんな類の馬鹿が存在するのです。
ええ、いつの時代にもです」


73前312:2006/04/07(金) 05:11:29 ID:uaScOQiY

ビルギットは幾分多めに皮肉を含ませた笑い方をした。
それから、バムロが言った内容があたかも彼の責任であるかのように、意地悪くこう言った。

「そりゃ、あれかい。これからそんな馬鹿の話に付き合わされなきゃならない
俺に対する同情の言葉と受け取っていいのかい」
「ご心労の程、お察し致しますよ。 
おい馬鹿野郎、向こうを先に降ろしてやるんだよ。
命の恩人にそれぐらい気を遣わんでどうする」

バムロが厳しい声で操縦士を叱責する。
操縦士は跳ねたようにして操縦桿を動かし、ミデアは再び高度をゆっくりと上げ始めた。
それと入れ替わるようにして、ミデア全体を軽く覆い隠してしまえるほどの
巨大な物体が基地の滑走路に滑り込んでいく。

滑走路に着陸といっても、飛行機のように車輪でもって着陸、
長距離を滑走して停止するのではなく、その巨体を支え、
尚且つ降下速度を打ち消してしまうほどの逆噴射を行って、
その場に垂直に足を下ろしていくのである。

ミデアに先行したその巨体の着陸シークエンスが終了したことを確認して、
操縦士は再び着陸コースへとミデアの機首を向けさせた。
彼は後ろに座るビルギットとバムロに律儀にそのことを報告した。


「スペースアークの着陸を確認しました。これより当機も着陸開始します」




74前312:2006/04/07(金) 05:13:41 ID:uaScOQiY

「戦争博物館、でありますか」

ビルギットは心底呆れて言ったのだが、声と表情にはそんな感情の一切を含ませることは無かった。

重厚かつ華美な机の向こうに座った人物は、ビルギットの内面の苦労など
まるで気がついていないように、機嫌の良い視線を彼に返した。
必要以上に大きなその机が生み出す二人の距離が、今のビルギットには確かに救いではあった。

「素晴らしいことですわ。
フロンティア・サイドにも大層立派な戦争博物館があったのですけれど、
バルマー戦役の最中に戦火に巻き込まれて。
こんな時代ですから。人類の英知の歴史をさかのぼって確認するためにも、
この仕事は大変に価値のあるものと考えます」

これが十日も前のことだったら俺はどうしていたか分からなかっただろうな。
ビルギットは内心そう自嘲してみせた。
一瞬だけ視線を隣に立つ女性士官に向ける。

レアリィ・エドベリ少佐。
彼女の綺麗な卵型の頭は微動だにすることはなかったが、
ビルギットが彼女に視線を向けたことには当然気がついているはずであった。

「フロンティア・サイドといえば、あのユング将軍が館長を務めておられたところかな。エドベリ少佐。
いやそれは奇遇だな。この基地にはユング将軍のご子息がいるものだから。
そうかそうか、そのことをすっかり忘れていた。
そうだな、彼にもこの栄誉ある職務の一翼を担ってもらうことにしよう」

机の向こうにどっしりと腰掛けている小太りの男、オエンベリ基地の司令官がそう言うのを聞いて、
ビルギットはすっかり頭から消え去っていたガンタンクのパイロットのことを思い出していた。
彼の名はロイ・ユング・ジュニアといったはずだ。
父親の階級は話に聞いていたものと違っていたが、恐らくは司令が言った人物と同一であるはずだった。

ビルギットは一度ではあるが共に戦ったその戦車兵の姿を思い返し、
彼が司令官から戦争博物館の設立に尽力せよなどという命令を告げられたなら、
一体どんな反応を示すことかと思わず同情した。

75前312:2006/04/07(金) 05:15:38 ID:uaScOQiY

あの生粋の戦車兵。
ガンタンクという旧式に乗り続けて五機のモビルスーツを撃墜したエース。

そんな人間が、親父が戦争博物館の館長であったからといってそんな仕事を任されるとは。
退役後の仕事というなら喜んで引き受けるかもしれないが(連邦軍の定年は意外に早いのだ)、
三十の半ばといった年齢の彼は戦車兵として脂が乗っている時期であるはずだったから、
とてもデスクワークに耐えられるはずがないというのは自分に照らし合わせて考えてみてもよく分かった。

連邦軍という組織はこうしたしがらみが多すぎる。
つくづくそうなのだとビルギットは嘆息する。
組織で生きていくということはそんなに楽な話ではない。

そうした面倒が一まとめにして襲い掛かってきたのがこの一連の逃避行であり、
彼が今こうして腹に少々大目の脂肪を蓄えた汗っかきの司令官と顔をつき合わせて喋っているという
不愉快な現状は、まさにその集大成であるといえるのだった。

「さて」

ビルギットの意識がそんな思考にしばらく埋没している間に、
目の前の司令官の顔は自らが推進する計画の甘い将来像に浸っていたものとは
完全に異なる代物へと変貌していた。
伊達に司令官の椅子に自分の尻型を刻んでいるわけでもなさそうだと、ビルギットも自身の甘さを痛感する。

「この十日間余りにおける、君の小隊が従事した任務に関しての詳しい報告を、
私はここで希望したいと思う。ピリヨ少尉、構わんかね?」
「自分に異存はありません、閣下。まずはこちらの報告書を御覧下さい」

姿勢を再び正したビルギットは手に持っていた報告書の束を慇懃に机の上に差し出した。
手の甲に一瞬触れた机の表面は艶のある木であることは当然だが、
肌に伝わった感触がその机に対しては手入れの抜かりは無いことを教えていた。

ビルギットは小隊のミデアのことを思い出す。灰皿代わりの床。
まあ元々操縦席に灰皿を置くつもりもないのだが。


76前312:2006/04/07(金) 05:17:28 ID:uaScOQiY

「ふむ。ふむふむ。ああなるほど」

内容に相槌を打っているようでいて、司令官がその実何も読んでいないことは
ビルギットには一目で分かっていた。
そして前もって予想できていたことでもあった。

大方の事情、コーディネーターとヒュッケバインに関しては当に承知済み、
それどころか向こうの方が一連の事情には明るいに違いない。
報告書には容易に突かれるような穴は無いはずだが、かといって部下に一晩で作らせた書類の束は、
言ってしまえばこの場での建前の意味しか持っていないのである。

「大変な苦労をしたようだな、ピリヨ少尉」
「恐縮であります」

「報告書によればこのモビルスーツ(この部分で司令官は少し鼻で笑ってみせた)、
ヒュッケバイン起動に関わったものはハイネ・ヴェステンフルス一名ということになっているが、
私にはどうもそうとは思えないね」
「協力者、内通者に関しては、現在避難民を小隊にて取り調べ中であります」

視線をゆっくりと上げながら、司令官はビルギットの端整とは言い難い顔を眺めた。
声音がほんの少し変わる。

「君の小隊はようやく基地に辿り着いたわけだろう。
そんな面倒な仕事は後方のものに任せたらどうなのかね。
オールズモビルの大方の戦力は失われたとはいえ、
君たちのような経験豊富な部隊にはこれからも大いに活躍してもらわねばならないのだから。
私としてはね、君たちには十分に英気を養ってもらいたいと思っているのだよ。

それが私の考えるところだが、君たちには余計なお世話だったかね?」

これに対してビルギットは大げさに敬礼を返し、
尚且つ視線をわざとらしく上方に上げるようにして答えるのである。


77前312:2006/04/07(金) 05:19:20 ID:uaScOQiY

「閣下のお心遣いにおかれましては小官感激の極みであります。
ではありますが、敵性因子を完全に否定し切れないこの状況下におきまして、
避難民を基地内に解放してしまうことは無用の危険を冒すことになると自分は考えるのであります。

万が一にも敵性因子が存在し、基地に対して攻撃を仕掛けるなどということがあれば、
それは損害の大小に関わらず自分と小隊の責任問題であることは当然でありますから、
小隊を預かる身としましては、部下の立場並びに将来を考えた結果、
小隊内にて厳重な取調べを行った後に、晴れて避難民、正規の民間人としての承認を行った後、
その立場においての聴取が行われることを期待するものであります」

ビルギットが幾重にも張り巡らせた伏線に司令官は大きくため息をついてみせた。
革張りのソファに深く身を沈めて、厚いクッションと緩い反発力を返すのに身を任せる。

そうして力の抜けた司令官の服の下では脂肪が垂れて揺れてしまっているのだろうなと、
余り愉快ではない想像をしてしまう。

「ご高説ありがとう少尉」
「失礼しました」

「いや、構わん。部下を思う君の気持ちはよく分かる。
私とてこの基地に勤務する優秀な軍人たち、
つまりは私の部下たちにいらぬ責任を負わせてしまうことは忍びないからな。
よかろう。避難民の取調べに関しては、その第一段階は君たちの小隊に一任しようじゃないか」

「ありがとうございます。
閣下のお心遣いに背くことの無いよう、小隊員一同任務に邁進する所存であります」
「それは結構。ただし……」

司令官が言い添える前にビルギットは遮るようにして先手を打った。

「ではありますが、ハイネ・ヴェステンフルスにおきましてはその危険性を考慮して、
厳重な監視体制を行える設備と人員が必要と考えます。
遺憾ながら当小隊ではそうした体制を維持することは困難であると
言わざるを得ないというのが現実であります」

ビルギットの早口に一瞬虚を突かれた格好になった司令官は、
すぐさま表情を司令官らしい尊大かつ横柄なものに戻した後でこう言った。

「なるほど。ではハイネ・ヴェステンフルスに関しては身柄の引渡しを受け入れるということだな。
結構。すぐに担当のものを小隊に派遣しよう」
「お手を煩わせてしまうようで、申し訳ございません」
「気にすることはない。
この件に関しては、このヴェステンフルスなる輩が最重要人物ということになる。現段階ではな。
そうした人間の尋問に関しては専門の人間が行うのが最も適しているだろう。
心配するな。すぐに吐かせてみせよう」


78前312:2006/04/07(金) 05:20:44 ID:uaScOQiY

「そのことに関してなのですが」

それまで黙っていたレアリィが突然口を開いたものだから、
司令官はおろか彼から目を離すことのなかったビルギットでさえも思わず彼女の方へ顔を向けた。

レアリィの横顔は先ほどのべたつくにも限度があるといった具合の世辞を言った時と何も変わらない、
穏やかかつにこやかなものだった。

「何かね。エドベリ少佐」

ビルギットがこの二人の会話に割り込むことは階級上許されぬことであったから、
内心でどうなることかと冷や汗をかきながらレアリィの一語一語を漏らすまいと
耳に意識を集中させるのが今のビルギットであった。

「ハイネ・ヴェステンフルスの尋問に関しては、
スペースアークと致しましても独自の尋問を希望しているのですが、よろしいでしょうか?」

それは意外な言葉であった。

スペースアークがハイネを尋問する理由は当然なく、
その裏側の理由としてのブルーコスモスという背景を考えたところで、
レアリィとこの司令官は背景を同一にしているわけなのだから、
それぞれの尋問というのは分からない話なのである。

「君が。また何故」

司令官にとってもこれは意外な申し出だったらしく、彼もその意図を掴みきれていない様子だった。
声には慎重さが色濃く出ている。
必要以上に絵画の並ぶ司令官室には今まで以上の張り詰めた空気が満ち始めていた。
レアリィはそんな空気を意にも介さないといった様に、軽く微笑んで言った。

「正確に申しますと、この申し出は私からではないのです。
現在当艦に特別に搭乗中であるシゲキ・アラカワ三等戦佐からの希望なのです」


79前312:2006/04/07(金) 05:21:45 ID:uaScOQiY

三等戦佐という聞きなれない階級についてビルギットはひとしきり頭の中をかき回してみたが、
該当する情報は何も見つからなかった。
代わりに司令官の顔に意識を向けると、彼の片方の眉が面白そうに上がったところだった。
知っているらしい。

「三佐。なるほど、極東支部か。何といったかな、あの奇妙な軍の名前は」
「自衛隊、ですわ」
「自衛隊?」

ビルギットは思わず口に出してしまっていた。
そんな馬鹿げた名前の軍隊が存在するという事実に彼の肉体が意識を介在せずに、
鸚鵡返しの反応をしてしまったのだった。
自分の口がそんな反応を示してしまったことに慌てて謝罪を述べる。

「失礼しました」
「構わんよピリヨ少尉。君の驚きも無理はない。
そして君がその名前を知らないこともな。
ここ最近の動きなのだよ。確かに根強い動きは以前からあったのだがね。
自衛隊か。オーブもそんなことを言っているな、確か」

やはりというべきか、オーブという名を口にする時にはその口調が苦々しげなものに変わった。

「極東支部の、それも戦略部、情報関係の人間がこんなところに何の用があるのかな」
「それは本人の口から聞いて頂くのが適当であるかと。私は上層部の命令に従ったまでですから」

「君も苦労が絶えないな、少佐。
よろしい。その荒川とかいう男の尋問を許可しよう。
もちろんその前に本人に事情は聞かせてもらうがね。
それぐらいは向こうも承知済みのはずだろう。

以上だ。ご苦労だったな、少佐、それにピリヨ少尉。
補給ならびに整備はすぐに用意させよう。君たちは十分に休んでくれたまえよ。
まだ戦争は終わってはいないのだからな。
常に心構えと準備だけは、怠らんようにな」

80前312:2006/04/07(金) 05:23:11 ID:uaScOQiY

ビルギットとレアリィは同時に敬礼を返した。
踵と床に敷かれた厚めの絨毯は軽くこすれただけで、物音一つ立てることはなかった。

その中途半端な感覚が、どこか基地に漂う温度差を象徴しているようにビルギットには思われる。
そのことを証明するかのように、司令官の顔は再び頬の力を抜いた柔らかいものへと戻っていた。

しかしそんな笑顔の底には何かを見透かしているような、そういった意図が感じられるのだった。

補給と整備。つまりは監視は万全ということか。ビルギットはそう理解する。
彼の思いを知ってか知らずか、司令官は最後にこんなことを言った。

「まあ休むとはいっても、君たちもさすがに博物館の完成まではここにいるわけにもいかないだろうからね。
建物はもう完成しているし、公開される兵器も徐々に集まってきている。
よかったら見ていきたまえ。
見事なものだよ。まさに人類の英知の結晶というわけだ。
ピリヨ少尉、君も見ただろうが、目玉はあれだよ、余りに素晴らしくてね、基地内に入れてしまった。
ここからも見えるよ。さあ見たまえ」

司令官が机に置かれていたリモコンを操作すると、
それまで壁だと思っていた部分が大きくスライドし始めて、
壁一面が巨大な窓でもあったことが明らかになった。

そのことは壁の厚さが結構なものであるということもビルギットに示していた。
特殊シェルター並の設備である。

この司令官は心配性なのだろうと思う。
核攻撃でも大丈夫とでも言いたいのだろうか。
そして核攻撃の当てがあるということなのだろうか。


81前312:2006/04/07(金) 05:24:14 ID:uaScOQiY

ソファに深々と腰を沈めていた司令官が重い身体を持ち上げるようにして起こした。
これが前線なら瞬く間にミンチと化しているだろうと、
ビルギットのみならず誰もがそう感じてしまう、そうした神経に障るような動きであった。

一歩歩くことが耐え難い大仕事であるかのようにして、ようやく司令官は姿を現した窓の前に辿り着いた。
額に汗をかいてしまっていることが何とも情けなさを誘った。


「さあ、見えるだろう。
あれこそが旧西暦時代に世界の平定を目指した大ドイツ帝国が開発した秘密兵器、八十センチ列車砲」

「グスタフだ」



それだけの口径があれば弾が無くなった時には目の前のこの肉塊を詰めて発射すれば事足りるだろうなと、
今にも踵を返しそうな身体を必死で引きとめながらただそんなことだけをビルギットは思い浮かべていた。




82前312:2006/04/07(金) 05:32:17 ID:uaScOQiY
6話その2終了。

展開が地味すぎる、もうスパロボじゃなくなっているという気がしているのですがどうでしょうか。
そんなわけで正統派のスパロボ小説が投稿されないものかと無責任に期待しております。
83自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/08(土) 01:11:20 ID:+5KDO0QH


この司令、ドーラをわざわざ欧州から運び込んだのかw
84前312:2006/04/09(日) 02:58:06 ID:CmHfwe7F

憂鬱さと腹立ちが極限まで押し寄せてきた、先刻までの司令官への報告を終えて、
ビルギットは軍服の襟元を心なしか緩めるようにして司令部の建物から出てきたところであった。

彼の隣には一片の隙も見せずにまさしく模範とも言うべき几帳面さで
新調されたばかりの制服を着こなしているレアリィ・エドベリが立っていた。
司令官室から軍令部の玄関を出るまで、ビルギットもレアリィも一言も発することはなかった。

日はまだ高く、日差しを遮るものは何も無いはずの軍令部のゲート前に立つ
ビルギット達は突然一面の日陰に飲み込まれた。
突然とは言いつつも、ゲートを出る少し前から徐々にこちらへと近づいてくる、
鋼鉄の板が地面を連続して叩く騒音はしっかりと彼らの耳に届いていたわけだから、
こうして視界が遮られたところで驚きはしない。

「よう少尉さん。よかったら送っていこうか」

ビルギットとレアリィの目の前にそびえる遮蔽物は、戦車にしては全高があり過ぎて、
尚且つモビルスーツとするならば低すぎる、文字通りその二つを両断して接着したもの、
そうして説明するよりは只一言、ザクタンクと表現した方が早い代物であった。

大型の戦車の車体の上にザクの上半身を乗せたそのザクタンクのコクピット部から
ビルギット達の方へ顔を覗かせていたパイロットは、先ほどの司令官との会話の中でも話題に上った、
元はガンタンクのパイロットであるはずのロイ・ユング・ジュニアであった。



85前312:2006/04/09(日) 02:59:52 ID:CmHfwe7F

「今度はザクに鞍替えしたんですか」
「言ってくれるじゃないか。君の指示通りにした結果がこれなんだぜ。
分かってるのかい、ビルギット・ピリヨ君よ」

ビルギットはその言葉にユングの顔から目を逸らしながら苦笑した。
今ビルギットとレアリィはコクピットの前に添えられるようにされたザクの掌の上に立っている。
ビルギットは難なく立ち上がっていられるが、
レアリィは腰を落としてザクの巨大な指で身体を支えているという状態だった。
モビルスーツのパイロットと戦艦のクルーという違いがさせることである。

キャタピラで走行するザクタンクの掌の上には下が舗装地であっても結構な振動が伝わってきていたが、
これでもユングは丁寧に操縦しているということがビルギットにはよく分かっていた。
例えばバケツに水を入れてこの掌の上に置いたところで、
水はこぼれはするだろうがバケツが倒れてしまうことはないだろうと思う。
それぐらいの操縦技術であった。

ビルギットは完全に軍服の襟をゆるめてしまっていた。
ユングのラフな服装を見れば、軍令部の中はともかく、
この基地の雰囲気とも言うべきものが伝わってくるからである。
その中で格式ばった格好をしていれば却って受け入れられ難くなるというのは自然な認識であった。
郷に入れば郷に従うべきというのは真理である。

それでもレアリィはボタン一つ外そうともしないのだが、
それはそれで宇宙戦艦の艦長として認められる資質ではあったから、
それを見てどうこう思うということは無い。

艦長というものは率先してガス抜きを行うべき立場であり、
それと同時に一人規律を守り続けなければならない立場でもあるからだった。
このバランスを保てない艦長が指揮する戦艦は大抵沈むとは言わないまでも、
余計な苦労を背負い込んでしまうというのが慣例ともいえるのであった。

レアリィに関して言うならば、自身と艦の処世術とでもいうべきものに関して、
そのバランスの取り方が秀でているのではないかとビルギットは思っていた。

「少佐殿はいかがですか。よろしければもう少し速度を下げますが」
「気遣ってくれてありがとう。でも快適だわ。こういうタクシーも悪くはないと思えてね?」
「それは光栄です。
何だったら新型のガンタンクが回ってくるまで少佐殿の運転手でも勤めさせて頂きたいものですよ。
なあ少尉、こんな美人の艦長さんと旧知とは聞いてないぜ」
「お上手ね」
86前312:2006/04/09(日) 03:01:08 ID:CmHfwe7F

そんなやり取りにため息をついてビルギットは言ったものである。

「新型ですか。こいつだって十分いけるんじゃないですか。
ほら、ザクの代わりにガンダムの上半身でも乗っけりゃいいんですよ」
「君も嫌味だな。まあいいか。
こいつもな、便利なことは便利なんだが、戦車としては欠陥品もいいところだよ。
ガンタンクと比べれば、全然だな」

「ガンタンクの新型なら、あの変形型があるんじゃなかったかしら」
「ああ、小型にしたあれですか。あれは駄目です。さっぱりですよ。
使い物にならないです。あんなものはどこかの好事家のコレクションにしかなりませんな。
とてもじゃないけど、実戦には」
「戦車にはお詳しいのね?」
「入隊してからこちら、戦車暮らしだったものですから。
車に乗ったりすると、余りに静かなので腰が落ち着かなくなるものです」

短く刈った髪が風に揺れるのを感じながら、ビルギットは幾分暗い声で言った。
ユングが言ったことは彼にも思い当たるものであったからだった。

「悲しい職業病というやつですか。労災も下りないでしょうからね」
「この程度で済んでいるのなら、まあ俺は幸運なんだろうな。
そういう君だって、さっきからあの煙突に目が釘付けになってるじゃないか。
そういうのも、立派な職業病、いや職業意識と言うべきなのかな」

その言葉通り、彼らの前方には例の煙突状の物体、つまりはグスタフなる列車砲がそびえ立っている。
ユングの指摘を受けてもなおビルギットはそこから目を離さずに言った。

「中尉はあれ、どう思います。戦車、砲手としての意見は」
「有効射程距離が数百キロ以上だったか? 
馬鹿な話だよ。そんな遠くの目標に当てられるものか。
弾道ミサイルの時代だってとっくに終わってるんだ。
戦闘濃度のミノフスキー粒子の中で、弾着修正なんてどうやってできる。
あれはな、何かに当てるためのものじゃないんだよ」

「そうね。あれは、ある程度の領域内に砲弾を投げ込む、ただそれだけの機械ということね」
「まあそういうことになりますか。
要するに普通の砲撃が射的だとするなら、あれは砲丸投げということになります。
目標ではなく、飛距離です。
標的は点ではなく、面ですよ。例えば都市全体であるとか。
都市のどこそこではなく、ただ都市のどこかに砲弾を投げ込めればそれでいいんです」

87前312:2006/04/09(日) 03:02:10 ID:CmHfwe7F

指先で鼻を掻きながらビルギットは言う。

「何とも暗い兵器じゃないですか。
それにしても、よくここまで運んでこれましたね。分解したんですか」

ユングはその言葉ににやりとしながら答えた。

「いい質問だよビルギット君。
その点に関しては俺も感心しているんだ。技術の進歩ってやつでね」
「どういうことかしら」
「少佐殿も気になりますか」
「あれは旧西暦時代の兵器でしょう? 
となれば機械化の程度によってはどれだけの人員が必要になるのかと思ったのね。
砲弾の装填にしても、照準調整や例えば整備とかは、一体何人必要になるのか想像もつかないわ」

「広報がよこした資料によれば、あれは普通の使用だけでも数百人の人員を必要としたそうです。
数百人ですよ。省力化が進んでいる現在の戦艦はどうでしたか。
ああ、モビルスーツ関連を別にすれば百人もいらないと。
そういうことだよビルギット君。
そんな代物を分解して運ぶとなれば、これは方面部隊を揺るがす大騒ぎになってしまうのさ」
「で、実際揺るがしたんですか。
前線で缶詰三昧の日々を送っている身としては余りそういうことは感じませんでしたが」

それを聞いてユングは一瞬すまなそうな顔をした。
そんな表情の変化の理由に思い至る前に、彼自身がその答を述べた。


88前312:2006/04/09(日) 03:03:10 ID:CmHfwe7F

「避難民だったか。五十人近くの。
君はよくやったよ。食料のやりくりも大変だっただろう。
今晩にでも君の部下を連れて来い。大したものではないが、腹が膨れる程度にはご馳走するよ。
もちろん、士官は自腹ということになるわけだが」
「ありがたく受けさせてもらいましょう。
全員にハンカチを支給しておきますよ。感激するに違いないですから。
そんなわけで、塩味は薄めにしておいてくれませんか。自分の分を別にして」

「了解だ。
それで話を戻すけどな。確かにオエンベリだけでそんな数の人員は回せない。
しかしこの仕事、特にグスタフはあの司令官の肝入りだからな。
万全の体制で臨みたいと向こうも考えた。
さあここで技術の進歩の登場だ。
見えないか。煙突の足元で動いている、あれが」

そう言われてビルギットは目をこらしてみる。
確かに巨大な煙突の下部では、それどころか砲身の近くですら何かが動いている。
しかしこの距離で確認できる以上、動いている物体が人間であるとは思えない。
ならばプチ・モビルスーツだろうか。いや……。


「レイバーね」

「ご明察です。少佐殿」
「レイバー? プチ・モビじゃないのか」
「あれはどうにも荒っぽいし、アナハイムは宇宙用をメインに作っていて地上用は評判が悪い」
「地上用のプチ・モビなのか」
「簡単に言ってしまえばな。だが各種のアーキテクチャがまるで違ってる。
一度動かしてみたが、モビルスーツとは全くの別物だ。繊細で、脆弱だな」
89前312:2006/04/09(日) 03:04:41 ID:CmHfwe7F

「そんなものが使えるんですか」
「だからさ、シェアが全く違うのさ。モビルスーツとはな。
レイバーが最も多く配備されているのは主に大開発の建設事業が進んでいる都市部ということになるんだな。
プチ・モビはさっき言った通りで、モビルスーツを建設現場で使うというのは、まああれだよ。
最近だとGアイランドシティ開発に関して、大分需要が増えたらしいな」
「ああ、あそこですか」

GGGの、とは言わなかった。
GGGの存在自体は現在それほどの機密扱いでは無くなっているにせよ、
未だにその全容は一般公開されているものではない。
それに、GGG自体はこの会話の流れで必要な要素ではなかった。

「どこが作ってるんだ。そんな、モビルスーツは全然違うって代物を」
「極東地区がメインになっているわね。
しばらく前は北米地区のシャフトなんて企業も入っていたけど、数年前に突然手を引いたのよ。
今はシェアの八十パーセント以上を極東地区の企業が独占しているわ。
四菱とか、後は篠原とか」

「大体少佐殿が言った通りだよ。
そんなレイバー、文字通り作業用のロボットが多数配備されてな、
それで大幅な省力化が可能になったわけだ。
まあ、豪州地区はレイバーに関しては素人集団というわけで、
大分極東地区の民間登用ということになるんだが」

「民間登用。どちらにしても金はかかるということですか」
「何をするにしても、だな」
「でもこの時期に民間登用、それも基地敷地内というのは問題が多いのではなくて」
「そういえばそうだな。艦長代行」

いつのまにかビルギットはレアリィに対して昔ながらの呼び方を用いてしまっていた。
レアリィはそのことに気がついていたが、当の本人はまるで意識していない。

90前312:2006/04/09(日) 03:06:16 ID:CmHfwe7F

「トリントンでのガンダム強奪事件。
あれもアナハイムの内通者を通して行われたと聞いているけど」
「そうでしたか。まあそれに関しては上も敏感になっているようで、
レイバーにはレイバーをということで、極東地区から警察関係の部隊がやって来ています。
もちろんレイバーを使って暴れたところでモビルスーツがあれば話は済むんですが、
何しろモビルスーツを使うと周囲への被害が大きくなるばかりで」

「それで警察ってか。同時にレイバー運用のノウハウも見ておきたいってところかな」
「鋭いなビルギット君。まあそんなところだろう。
しかしあの連中、その警察の部隊だが。あれで使い物になるのかな。
やはり軍隊とは違うよ。どうも打っても響いてこない連中ばかりでな」

「まあ、言ってしまえば戦争するわけじゃないですから。民間人ですよ」
「そういうことでも、なくてな。まあ一人例外がいて、それも困っているといえばそうなんだが」
「例外?」

ユングは困った様な、しかしどこか可笑しがっている様にして言った。

「そう。例外だな。ほら、見えてきたぞ。
奴さん、基地に着いてからというもの張り切りっぱなしだ。あれじゃ脳の血管が何本あっても足りないぞ。
どうも何かを勘違いしているとしか思えないんだが、ビルギット君、君なら分かっているだろうが、
何かがあった時に行動を共にできるのは往々にしてそういう人間だったりするわけだ」
「耳が痛いんじゃなくて? ビルギット」

レアリィのどこか優しげな言葉が終わるか終わらないかの内に、
グスタフの周辺で行われている動きがザクタンクの掌に立つビルギットにも伺えてきていた。
作業をするロボット、レイバーの他にも何か別のロボットが
他のレイバーが行う動きとは全く別の行動を取っているのが分かった。


91前312:2006/04/09(日) 03:08:01 ID:CmHfwe7F

それ以上に目に付いたのは、作業に従事するレイバーがどこかプチ・モビ的な
コクピット・ブロックに手足をつけただけの無骨なものであるのに対して、
別の動きをするレイバーは全体のフォルムが完全に人間型のそれであるということであった。

それはまさにプチ・モビに対するモビルスーツといってもよかった。
モビルスーツと異なっているのは、そのレイバーの動きがどこまでも人間的であり、
同時に洗練されたものではないということだろうか。

洗練、いや画一化だろうとビルギットは思った。
そうした動きの統一はコンピュータが介して行うものだ。
OSが根本から異なっているのだろう。

そんな観点からレイバーの動きを眺めていれば、
作業を行うレイバーの方が動きはスムーズ、言うなればコンピュータの介する部分が多そうに思えた。
動作全体は別のレイバーにも共通するものが多くあったが、
そうした枠を捻じ曲げてしまうようなパイロットの癖、
もっと言えば人間の性格がというものがそのレイバーには感じられた。

「あれは……模擬戦中なのかしら?」
「そうみたいだな。うわぁ、無茶しやがるぜ。蹴りだぞ蹴り。二本足のロボットがすることじゃないぜ」
「あっ、今度はドロップキック。ねぇあれって模擬戦なんでしょう。あそこまでする必要あるのかしら」
「それにしちゃ効果はないみたいだな。いやはや参ったな。まさにどつきまわしてるよ」
「見て、ヘッドバットよ。あれ、自分の方が壊れてるんじゃない?」
「それでも相手の動きが止まったぞ。
やれやれ。あんなことやってみろよ。始末書が束になってもまだ足りないぜ」

レイバーのパイロットと思われる人間の怒声が基地内に響き渡ったのは、
それまで模擬戦を行っていたいた機体が完全に停止した次の瞬間のことであった。
パイロットは馬鹿ではあるが、馬鹿というよりは大馬鹿ではあるが、少なくとも無能ではないらしい。
相手の動きが完全に止まったことをしっかりと、そして迅速に確認できていた。

92前312:2006/04/09(日) 03:09:36 ID:CmHfwe7F

「この野郎何やってやがるコラ! そのザマは何だと言っとるんだコラ!
とっとと機体を降りろと言うのがわかんねぇのか!
貴様はグランド十周、さっさとせんか北山!降りたらダッシュ、ダッシュダッシュダッシュだろうが!
こらあ小倉、汚ねぇ反吐を吐くんじゃねぇ!
腐った性根叩きなおしてやる、さっさと乗らんか、模擬戦五本!
一本も取れなかったら飯抜きだぞ、覚悟しておけぇ!」

「きょうかーん、質問がありまーす」
「何だ!」
「あのですね、教官の機体はもう行動不能であると判断してもよろしいのでは……」

薮蛇だな、と会話を横で聞いていたビルギットは嘆息した。


「何コラタココラーッ!」

その叫びを拾って増幅したスピーカーの音声は完全に割れてしまっていた。
スピーカーに頼らずとも彼の声は十分に基地内に響いている。
そして彼の怒りも十分に伝わっていることだろう。

「見て、コクピットが上がってきたわ」
「有視界戦闘対応ってか。ありゃ、本当に地上専用というわけだな」
「あのパイロットなら、ノーマルスーツを着ただけで宇宙戦ができるんじゃないかしら」
「違いないな」

倒れていたもう一機のレイバーがゆっくりと起き上がる。
やはりというべきか、教官らしき人物が乗っている機体よりはこちらの方がダメージが少ない様だった。
訓練生が無謀にも言った言葉はあながち外れてはいないというわけである。

93前312:2006/04/09(日) 03:11:02 ID:CmHfwe7F

しかしそんな状況であっても、教官とおぼしきパイロットの闘志は僅かにも衰えることはない。
却って火に油を注いでしまうようなものだ。
ビルギットにはこの模擬戦の結果が既に見えていた。横に座るレアリィに言う。

「さて撤収といこうか。俺たちも俺たちなりに忙しいわけだからな」
「見なくてもいいの?」
「見なくても、分かるさ」

そう言ってザクタンクのコクピット内を覗き込み、ユングにタンクを出すように告げるビルギットの背中に、
レイバーの教官が発した乾坤一擲の叫びが覆い被さった。

「吐いた言葉ぁ飲み込むんじゃねぇぞコラァ!」

ビルギットはその様子を見もしなかったが、後にレアリィに聞いたところによれば、
教官の乗ったレイバーは走る勢いそのままに相手に向かってラリアットを敢行したそうだった。
相手の首筋にクリーンヒットしたそのラリアットは、レイバー自体の重量と相まって、
相手レイバーの頭部だけではなく、自身の右腕ももぎ取ってしまい、
教官のレイバーはそれだけでは納まらず、
吹き飛んだ右腕を掴んだかと思えば激しくその腕を相手レイバーに叩きつけ続けたのだという。

まあ確かにどんな状況でも頼りになりそうな男ではあるな。ビルギットはそう思う。
そして部下にすればどれだけ上官の胃の状態を悪化させるだろうかということも。

あの男が警察官でよかったと心底思う。
軍人だったら。軍人だったならと思えば、思わずぞっとする。
ああいう一直線な男は、警察官のような分かり易い正義の味方がよく似合っている。
まあ、それを理解する人間は少ないのかもしれないが。


それにしても。ビルギットはこう考えずにはいられない。
あの男を指揮していた部隊の指揮官は、ありゃ相当の人格者か、
そうでなければ悪党であるに違いない。

94前312:2006/04/09(日) 03:21:23 ID:CmHfwe7F
6話その3終了。

確実に拡げた風呂敷が畳めなくなってきています。
レイバーに関しては、『ビギン・ビルギット・ビギニング』の次のエピソードで詳しく。
もし書けるなら、P1とエヴァ(WXV風味?)を絡めたP2ができないかと考えているのですが。

太田さんに関しては、まあアレですか、正直スマンカッタと。

>>83
そこまで考えてなかった。うん、やっぱり馬鹿司令官だった。
95自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/09(日) 23:15:39 ID:9E6/+vMJ
パトレイバーキタ━━━(゜∀゜)━━━!!
うわぁ太田さんだ懐かしいなぁ………
96自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/09(日) 23:22:01 ID:7sT2zQkE
ここでパトレイパーが来るとは思わなかった。
まあ、確かにレイパーのほうがMSよりも小回りが効きますし、戦乱続きのスパロボ世界なら
需要も大きいだろう。にしてもバビロンプロジェクトがGアイランドシティですかw
レイパーとMSの違いの説明とかは良いと思います、両作の世界観の違いを上手く表せてる。

この調子でアームスレイブでのテロとか木星蜥蜴の襲撃とか起きんかな〜、なんて期待してみる。
いや、MS相手だとさすがに太田さん瞬殺されそうだし(泉と違って小細工が嫌いな人だからなぁ)
97自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/09(日) 23:35:40 ID:7sT2zQkE
レイバーだったよ、つかレイパーだとやばいよorz
98前312:2006/04/11(火) 00:11:59 ID:B7zWmJm0

大きく伸びをしながらビルギットがスペースアークのブリッジに上がってきた時、
そこは一面の闇の中であった。
夜も半ばを過ぎたかという時刻である。

ビルギットの身体が完全にその空間に入った途端、
天井付近に備え付けられていたセンサーが反応し、ブリッジ内の照明に火を点した。
首を二三度回すようにして、ビルギットは彼の背後に立っている人間との間を取った。
無人のブリッジを眺めてビルギットはようやく口を開く。

「誰もいないんだな。周辺の監視はどうしてるんだ。戦闘ブリッジか」
「そうよ。何か問題が起きたなら、最初から戦闘ブリッジに下りていた方が早いものね」
「道理だね。それにしても、つい二週間ほど前にも来たばかりだが、それでも懐かしいもんだな。
別にここで話すのは構わないが、どうして艦長室じゃいけないんだ」

ビルギットの背後に立っていた、この艦を預かる人間である、
レアリィ・エドベリは静かに微笑みながらこう答えた。

「こんな懐かしさの中なら、あなたからいい返事を貰えると思ったのよ」
「いい返事、ね」
「そう。もう一度聞くわ。
ビルギット、スペースアークに戻って来て欲しいの。
モビルスーツ部隊の隊長として。どうかしら」

ビルギットの返答はそっけないものだった。

「悪くはないがね」
「つまり、お断りってことね」

レアリィは大きくため息をついてみせた。
彼女が何歩か近づいてきたことを肌で感じた。
最低限の照明だけが灯ったブリッジで、ビルギットとレアリィは
肩が触れ合うかというぐらいの距離にありながら、
それ以上歩み寄る様子はお互いに決して見せなかった。

99前312:2006/04/11(火) 00:14:00 ID:B7zWmJm0

「それは、私がブルーコスモスだから?」
「無いとは言わんが、それだけじゃない。
俺には部隊がある。それを見捨てることはできんのさ」
「あなたの部下も可能な限り引き上げると前回言ったはずよね。それでもいけないの」
「一度面倒を見た部下は、まあ全員放ってはおけないわけだ」
「全員。ねえ、ハイネ・ヴェステンフルスの事を気にしてるの」
「まさか。あの生意気なガキにはいい機会だ。牢屋でしばらく頭を冷やしてもらうさ」

肩をすくめたビルギットに、レアリィはどこか決然とした言葉を投げかける。

「それで、あなたはそのしばらくの間を待ち続けるのね。彼が出てくるまで」
「一応、上司なんでね」
「彼に対して責任を取ろうと思ってる。そういうことでしょう。
だから司令官とあんな駆け引きを」

ビルギットはそれには言葉を返さなかった。
二人が黙ってしまえば、ブリッジの中に響く物音は何も存在しなかった。
その内に空調装置が動き始めて、静かなモーター音が響き始める。
空調装置が送り出す風が何度かビルギットの短い髪を揺らしたところで、彼はようやく次の言葉を発した。

「そのことについては三人で仕切り直しということになるのかな。なあ後ろの方」

レアリィが驚いて背後を振り向くと、そこには灰色のコートを着込んだ角張った顔の男が無言で立っていた。

「あんた荒川さんでしたっけ。
三佐、連邦でいえば少佐ってことになるんでしょうが、
まあお聞きの通り、大分プライベートな話になってましてね。
余り階級には拘りたくはないんですが、その辺どうです」
「無論です。せっかくのプライベートに割って入ったのはこちらですから。
まあ便宜上ピリヨ少尉と呼ばせてはもらうわけですが、エドベリ少佐はこれから少し結構ですか」

100前312:2006/04/11(火) 00:15:06 ID:B7zWmJm0

「荒川三佐。確かにあなたをスペースアークに乗船させるというのは
上層部の指示ですけれども、こうした立ち聞きというのは感心できませんわ」
「それは失礼。しかし、お二人には是非とも聞いて頂きたい話がある。
私も明日にはここを発たねばならないものですから。タイミングは今しか」

ビルギットは手近なシートに腰を下ろした。
そしてレアリィにはキャプテンシートに座るように視線で促す。
少しの間を置いた後で、諦めた様にしてレアリィもシートに腰掛けた。

荒川は二人に向き合う位置に立った。
ひっそりとでもいった表現が似合いそうな立ち方だった。
人ごみの中だったら、とてもじゃないが見分けがつかないだろうとビルギットはその姿を見て思う。

「改めまして。地球連邦軍極東支部、戦幕調査部別室所属の荒川です」
「ご丁重な自己紹介ですな。で、どういうお話ですか」
「本題に入る前に見ていただきたいものがあるんですがね。これなんですが」

荒川はコートの内側から一枚のディスクを取り出した。
確認するようにレアリィに視線を向ける。

「お願いできますか」

レアリィは大きく息をついてビルギットに言った。

「そこのコンソールで見られるから。ビルギット、それぐらいは忘れてなくてね?」
「今日はお願いばかりじゃないか。 これ、大丈夫なのかい」
「ウィルスに関しては全てチェックしてあります。それに、ウィルスに関しては後ほどまた」
「そういうの、本職に頼んだ方がいいぜ」
「ピリヨ少尉にも関係しているといえば、どうです。再生、お願いします」

ビルギットは確かめるようにディスクの表裏を何度か眺めた後、
仕方ないといった表情でコンソールのドライブにディスクを挿入した。
ブリッジ正面の大型モニターが起動し、ディスクのチェックを行う画面が表示される。
一通りのチェックが終了し、モニターに砂嵐が映り出す。
耳障りな雑音がブリッジ内を満たした。レアリィが眉間に皺を寄せる。
101前312:2006/04/11(火) 00:16:02 ID:B7zWmJm0

ようやく砂嵐が終わると、まずモニターに映し出されたのは巨大な都市の遠景であった。
それはビルギットには見覚えがある、Gアイランドシティのものであった。

「Gアイランドシティ?」
「ま、見ていて下さい。これはコマーシャル用の映像でしてね。まずは完成形からどうぞ」

荒川の言葉に被せるようにして、Gアイランドシティの全景の映像に音楽が被り始める。
それはこの場の雰囲気には似つかわしくない、どこか間の抜けた歌謡曲であった。

『きゅーんきゅーん きゅーんきゅーん 私の彼は……』

「あの、本当にこのディスクでよかったのかしら」
「いいんですこれで」
「艦長代行、あんたこの曲好きだったんじゃなかったか」
「止めてよ。こんな時に」
「お話は後にして頂くとして、ちょっと見ていただきたい。特にピリヨ少尉には」

荒川がビルギットに注意を促すと、画面には一機のレイバーが登場した。
場所は建設現場である。
ねじり鉢巻をしながら必死にレイバーを動かす男。
それを見守る売れないアイドル風の女。
どことなくリン・ミンメイに似ていないこともないが、
どこが似ているかと問われれば答に窮してしまうことだろう。

私の彼はパイロット、レイバーの。
コンセプトはそんなところで、CMとしては実にお粗末なものであった。
そしてそんな感想が覆されることは無いままに、CMは終わり、再び画面は砂嵐へと戻る。

「今の映像、どう思います」
「どうって、下らないCMにしか見えなかったけどな。
それにあの下手な歌、リン・ミンメイのカバーなんだろうが、ありゃ売れないだろう。
で、あのレイバーの動きがどうかしたかい」

102前312:2006/04/11(火) 00:16:55 ID:B7zWmJm0

「あの動きって、どういうことなの」
「そりゃ俺に見てくれって言うんだから、軍関係のものか、
もしくはモビルスーツ関係のものになるのは当然だろう。
確かに俺はレイバーに関しちゃ素人もいいところだが、
それでも二線級の歌手に関しての知識よりは、まだ誰かにコメントの仕様もあるってことだ」
「そういうことですな。ではそれを踏まえた上で次の映像を」

レアリィが手渡したリモコンで荒川は次の映像を呼び出した。
同じく工事現場に立つレイバーの映像。
先のCM映像と異なるのは、それが音も付けられていない、
編集もされていない、いわば素材の映像であるということだった。

「編集されてないみたいだけど」
「その通り。破棄寸前だったものを何とか入手したものです。どうです、分かりますか」
「さっきのレイバーとは若干異なるみたいだけど、特にはな」
「まあまだ動いていませんから」

「随分念入りにチェックされているみたいね。撮影開始時の映像なのかしら」
「テイク1です。レイバーの操縦者はメーカーのテストパイロット。
四菱が大々的に売り出そうとしている新型レイバーです。
社運の懸かった、というやつですな」
「その割には、脱力気味の映像だけどな」
「組織のトップのセンスというのはどこも変わらない。違いますか」
「全くだ」

ビルギットは可笑しそうに笑った。
映像ではパイロットがレイバーに乗り込み、スタッフがカメラのフレーム外へと一人また一人と消えていく。

そして撮影開始の号令が鳴った。
レイバーがゆっくりと鉄柱を持ち上げる。
鉄柱が本物であるとすれば、もちろん本物なのだろうが、だとすれば大したパワーだなとビルギットは思う。
その上機体コストはモビルスーツの十分の一以下に納まっている。
これはひょっとするとひょっとするのかと考えている内に、画面の中に異変が起きた。

103前312:2006/04/11(火) 00:17:36 ID:B7zWmJm0

「暴走、か?」

それまで実直な労働者の如く鉄柱を持ち上げていたレイバーが、
次の瞬間にはその手にした鉄柱を上に下に、右に左に振り回し始めたのだった。
スタッフが何事か叫びながらフレーム内に姿を現す。
レイバーに近寄り事態を収めようとするものの、成す術もなく逃げ始める。

レイバーは周囲のセットをことごとく破壊した後、猛烈なスピードでカメラに向かって突進し始めた。
当然のことだが、カメラマンは既にその場を離れている。
何か物が飛んできてカメラに衝突し、カメラが倒れた瞬間、映像は終わった。
画面は再び砂嵐へと戻る。

「どうですか」
「どうですかって言われても、これだけじゃ何とも」
「さっき暴走と言いましたが、それは何故です」

「何故ってそりゃ、あんたが言った情報から判断すりゃそうとしか思えないさ。
パイロットはテス・パイ。パイロットの種別で言えば、ベテラン中のベテランだ。
そして企業に食わせてもらってる。万に一つ、泥をぶっ掛けるようなことはしないさ。
それに何か仕掛けるならもっと大舞台でやるはずだ。そうだろう。
こんなCMの撮影現場でやったところで何になる。
加えてレイバー自体もメーカーが社運を懸けて送り出す機体なんだ。
チェックもチェック、何度やったって足りないはずだ。
それでこんな不祥事、映像、よくその場で破棄されなかったな」
「スタッフが一人、まあ保身のためにというところか」
「現場ははしっこいな。そりゃお互い様だが。
で、採点の結果を知りたいんだが、教えてもらえるかい」

荒川は静かに語り始めた。

「つい一年前のことだ。
レイバーメーカーの大手、篠原重工が画期的な新型オペレーション・システムを発表した。
現状のレイバーに乗せ代えるだけで性能が六割向上するOS、まさに業界に激震が走った」
「それ、聞いたことがあるわ。確か、ホスとかって」

104前312:2006/04/11(火) 00:19:13 ID:B7zWmJm0

「ハイパー・オペレーション・システム。HOS。通称ホス。
当然のことながら、そんなOSの登場はレイバー業界の勢力図を一気に塗り変えた。
グリフォン事件、まあこの件には関係ないが、
そういった一連の不祥事で大きく後退した北米地区のシャフト・エンタープライズの
シェアを巡って大手メーカーが次の一手を模索していた折のこのHOSだ。
篠原の勢いは凄まじかった。
現在、極東地区で稼動中のレイバーの九十パーセント以上がこのHOSを搭載している」

「で、そのHOSが何だってんだい」
「Gアイランドシティの建設が一段落した今、
そこに投入されていたレイバーの大半は第三次バビロン・プロジェクトに回されることになった。
Gアイランド以上の大事業だ。当然各メーカーが篠原の勢いを静観しているわけがない。
現在、メーカーの生産ラインは悲鳴を上げながら、HOS搭載のレイバーを連日連夜世に送り出している」
「そんな話を持ち出すってことは、つまり、さっきの暴走はHOSが原因だと、そういうことなのね」

モニターには消音にされたCMと暴走の映像が交互に流れ続けていた。
ビルギットは横目でそれを眺めている。

「我々はそう見ている。
もう一つ付け加えるならば、さっきの暴走事故が発生したのはつい二週間前のことだ。
我々の調べによれば、同様の事故が発生したのはどんなに遡ったところで十七日前」
「HOSの登場から一年経ったところでってことか。最悪だな。
で、本当にHOSが原因なのか。そして、どうしてそんな話を俺たちに持ちかける」

「まずは初めの質問に答えよう。
HOSが原因なのか。確かに大方の見方はそうだ。
しかし誰もそのことを立証できていない。
果たしてHOSにウィルスが仕込まれていたのかどうか、
そうであったとして暴走の原因は何だったのかはな」

105前312:2006/04/11(火) 00:20:31 ID:B7zWmJm0

「そんなこと。HOSの開発者を確保すれば済む話でしょう。まさか逃亡しているの」
「逃亡か、そうかもしれんな。奴は逃げたよ。誰も手の届かない場所へ」
「死んだのか」
「恐らく。死体は確認されていないがね。このファイルを見てもらいたい」

荒川はビルギットにファイルを差し出した。
ビルギットは自分ではなくレアリィに渡せと目で合図する。
荒川は黙ってファイルをレアリィに渡した。


「帆場瑛一。この男が?」

「そう。HOSを単独で開発した正真正銘の天才だ。
その高度な技術故、HOSは未だに解析不能の部分を多く残している。
現在、GGGを始めとして、大空魔龍戦隊、光子力研究所や早乙女研究所、
アナハイム・エレクトロニクス、特脳研、テスラ・ライヒ研、
ノヴィス・ノア並びにオルファン研究チームなど、
地球圏のありとあらゆる研究施設にHOSの解析が依頼されている。
実際に解析を始めているかは別としてな」

「ちょっと待った。その中でオルファンってのはどういうことだ。
それに、ここまできたら隠し事はなしにしようぜ荒川さんよ。
そんな大層な名前を並べたところで、
あの胡散臭い特務機関ネルフが絡んでないのはどう考えてもおかしいぜ」

荒川はどこか満足気に頷いた。その眼鏡にモニターの光が反射する。

「ピリヨ少尉、あんたはモビルスーツ・パイロットとしては三流も三流、
ヘボもいいところだが、小隊指揮官としては大したものだ。
そうでなければ基地司令官相手に避難民の引渡しに関しての大立ち周りなどできやしない」

106前312:2006/04/11(火) 00:22:23 ID:B7zWmJm0

「お世辞はどうでもいいんだが、説明お願いできるよな」
「あんたの予測通り、さっき並べた組織リストにオルファンが入っているのは
確かにおかしいといえばおかしい。
元リクレイマーには伊佐未夫妻を始めとする優秀な科学者が
雁首揃えているのは事実ではあるがね。
畑違いなことは否めない。
オルファンとアンチボディは遺伝子情報の塊だからな」
「おい、遺伝子って、まさか」
「ファイルの次のページ」

そう言われてレアリィはファイルのページを捲る。そして彼女の顔は一瞬強張った。

「ブルーコスモスの一派に属しているあんたなら知っているかもしれんな。エドベリ少佐」

「ヒビキ博士ね」
「ヒビキ博士?」

「ここからの話は一応口外無用ということになっている。
まあ数年後にはどうなっているかは分からないんだがな。
十数年前のことだ。ある優秀な科学者チームがとあるコロニーサイドへと向かった」

「はっきり言えよ、プラントなんだろう」
「そうだ。独自の理論を持った彼らはプラントが脈々と発達させてきた
遺伝子改造のノウハウを学び、自分たちのそれと融合、
更なる発展を目指して技術交流に赴いたというわけだ」
「技術交流ね、まあ聞こえはいいけどな」

「あんたの思っている通りさ。
技術の発展といえば通りはいいのかもしれんが、やっていることは人体実験もいいところだからな。
連中、コーディネーターを更に超える存在であるところの
スーパー・コーディネーターを生み出そうと躍起になっていたというわけさ」

107前312:2006/04/11(火) 00:23:19 ID:B7zWmJm0

「そのリーダーがヒビキ博士。でも研究は失敗したって」
「ブルーコスモスの妨害工作、要はテロによって。
プラント側もあまり公にしたくない研究だったらしいからな、
最低限のデータだけを回収して研究用コロニー・メンデルごと廃棄を決め込んだ。
まあこの話はそういう顛末だ」
「それで、そのヒビキ博士とやらと帆場って男の間にどういう関係があるんだ」

相変わらず薄笑いを浮かべたまま荒川は続けた。


「帆場がヒビキ博士の右腕だったとしたら、どうする」

「つまり帆場はコーディネーター、遺伝子に関するスペシャリストだったと。そういうわけか。
俺はその辺、まるで分からんのだが、
遺伝子とコンピューター・プログラムの間には何か関連性があるのかね」
「言ってしまえば遺伝子もプログラムに過ぎない。そうだろう。
人間の設計図みたいなものだからな。それが同じならば、たとえ姿形が違ったところで」

「ちょっと待て。誘導尋問は無しにしようぜ荒川さんよ。
それって確かネルフがやっていること、そのままじゃなかったか。
あいにくそういうことが嫌でも耳に入ってくる部隊にいたもんでね。
エヴァンゲリオンと使徒、そしてプロトカルチャー、
確かその辺りが人間と遺伝子的には一並びってところだったはずだぜ。
そして気色の悪い補完計画だか何だか。人類を一まとめにしてしまうんだったか?」

「ま、こちらとしても分かっているのはそれぐらいなものでしてね。
ネルフは壊滅状態にあるもののそのガードは異様に固い。
何しろ本部が物理的に土の下に埋もれている現状だからな。
それを掘り返すとなれば、どれだけの労働力が必要になるのやら」


108前312:2006/04/11(火) 00:24:33 ID:B7zWmJm0

「おいまさか、第三次バビロン・プロジェクトってのは」

「そう、ネルフ本部、ジオフロントの発掘事業、その建前さ。
ネルフの職員がスコップで掘り起こすわけにもいかないからな。
地球連邦本部から直々の命令だ。
どうも何としてでもジオフロントを使用可能にしておきたい連中がいるようだな。
遡ってしまえばな、Gアイランドの度々続く拡大事業もその一環に過ぎないのさ。
そうでもしなければ予算が下りないのが浮世の辛さというわけだからな」
「もうあんたの話を聞きたくなくなってきたよ」

「聞いてもらうさ。そして意見を聞きたい。これからが本題だ。
ヒビキ博士と帆場が行っていたスーパー・コーディネーターの開発とネルフが進める人類補完計画。
この二つには大きな共通点があり、そしてある一点において完全に異なっている。
それが何か分かるか」
「わざわざ聞くなよ。分かっているなら自分で話してくれ」

「スーパー・コーディネーターがその過程において、
あらゆる面で人間と異なる遺伝子構造を有するようになっていたとしたら、どうするってことさ」
「あらゆる面って、それって人間なの」

「中途段階ではまだ人間の形をしていたらしいがね。
最終的にどうなったかは分からない。
データは消失し、残っていたかもしれないサンプルは跡形も無く消えていた。
仮に成功していたなら遺伝子的に唯一絶対の存在。
さてもしそういうことになれば、
これはネルフの推し進める補完計画と相反するものになる、そうは思わないか」

109前312:2006/04/11(火) 00:26:00 ID:B7zWmJm0

「つまりあれか、帆場はスーパー・コーディネーターを模したOSを搭載した
レイバーの大群を今にもジオフロントに向かわせ、そこで大暴れさせようとしている。
そういうわけなのか」
「結論としてはそんなところだ。分かったのか」

ビルギットは相変わらず映像を流し続けているモニターを指し、そしてモニターを切った。

「これだけ散々見ればな。嫌でも分かる。
動きに癖がある。CMと素材のレイバー、両方な。
何か、どこかが違うんだが、説明できない。
幸いにして俺は見たことがあるんで分かった。
あれはコーディネーター用のモビルスーツの動きに似ているのさ。

しかしな、帆場って男、本当にそれが狙いだとするなら馬鹿もいいところだ。
レイバーがいくらあったところで、例えばエヴァンゲリオン一機がいればそれで全滅だ。
それでも帆場は、そんな狙いでHOSを作ったのか」

「それに関しては我々もあんたと同じだ。
ここで終点。袋小路に突き当たっているのが現状というわけさ。
奴が何を企てていたのか、誰にも分かってはいない。
だが何としても帆場の狙いは阻止せねばならん。何としてもな。


110前312:2006/04/11(火) 00:27:43 ID:B7zWmJm0

事実一度HOSに接触したコンピュータは例えOSを書き換えたところで
HOSの影響下にあることはこの映像でも明らかだ。
完成したCMのレイバー、念には念を押してとばかりにHOSを書き換えた機体だが、
それでもあんたが言った通り、動作のあちこちにHOSの癖が残っている。

だがメーカーはこのレイバーを売り出さないわけにはいかなかった。
目の前にぶら下がっている御馳走、第三次バビロン・プロジェクトを目の前にして
それに食いつかないというのは企業として自殺行為もいいところだからな。

そんな得体の知れないプログラムを内蔵したまま、
極東地区のレイバー並びに各種コンピュータは活動を続けているというわけだ。
一部政治家、幕僚たちによってHOSに問題なしの声明、
モビルスーツへの搭載すら検討されている。
誰もが分かっていながら目を瞑っているのさ。そんなことはありえないってな。
懐にいくらかの金を忍ばせ、都合の悪いニュースは黙って聞き流す。
泥を被るのはいつも現場だ。
こんな事態の中で、俺たちは未だに帆場の狙い、つまりはその全容が掴めないでいるのさ。
そのために協力を頼みたい。まずは……」

ビルギットは荒川に最後まで言わせなかった。
主導権の、せめて尻尾だけであっても掴んでおく必要があるからだった。


「まずはヒュッケバインの解析と、ジョージ・ジブリールの引渡しか。
面白い話だったがね、生憎だがお断りだよ、荒川三佐」

111前312:2006/04/11(火) 00:40:28 ID:B7zWmJm0
6話その4終了。

致命的に風呂敷を拡げてしまった。
HOSと一連の事件に関しては、次のエピソードにてカミソリ後藤に何とかしてもらいます。
正直自分でも、ビルギット如きがこんな大事に対処できるわけがないと思うので。

>>96
ナデシコは予定に無いんだが、ASは雰囲気的に出しやすいかもしれない。TAとかも。
リリーナを殺しに来たヒイロが曹介の仕掛けた無数のブービートラップを
すんでのところでことごとく掻い潜りながら……というネタを思いついたが、
考えてみればニルファ後のヒイロはもうテロリストじゃなくなっているのでこりゃ駄目だと。
112自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/11(火) 21:51:28 ID:i5/fn+Y0
・・・
まさかパトレイバーとエヴァや種がクロスするとは思わなかった・・・
確かに直径6kmを越す地下空洞を再び掘り返すのは東京湾塞き止め並みの大事業。
あと、スーパーコーディネーターは群体としてのヒトを外れたヒト(ある意味使徒)
ということなの?それとも補完に抵抗する人類ということかな。
HOS絡みで見れば後者っぽい気もするが、

まあ拙い考察はここまでにして、昼行灯の登場を期待して待ってますよ。
113自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/12(水) 17:37:29 ID:nUYyJhHr
いつもの人は相変わらずスゴイ……。
876さんはどうしたんだろう。
114自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/13(木) 10:10:59 ID:QY6W5Z24
第12次IDでお前らのユニット決定
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/gamerobo/1144489592/

で出た機体などを考慮してSS書いてみよう。
115自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/13(木) 10:12:20 ID:QY6W5Z24
機体:ゲシュペンストMkU
性格:普通
精神:脱力 友情 期待 熱血 ひらめき 幸運 
技能:切り払いL5 気力+(命中) ガード サイズ差補正無視 援護攻撃L2 底力L5 
強化パーツ:三次元レーダー
小隊長能力:クリティカル率+30%

ゲシュペンストは書きやすい部類だろうし、何より量産型ってのが俺好み。よし、やってみるか
116OG2 insertion 導入:2006/04/13(木) 11:06:59 ID:QY6W5Z24
「最悪だ…」
俺は目の前の命令書に目を通すなり呟いた。
かかれているものは簡潔。まさに三行半って感じだ。
さらにそれを要約すると、
「スペースノア級壱番艦シロガネでラグーン基地まで行って、ATXチームのアサルト4になれ」
…とのことらしい。何故そうなったかの説明によると、DC戦争の時アサルト1が離脱後、アサルト4が
アサルト1となって人員の補充もなしに戦っていたため。
で、戦後のゴタゴタが終結した今きっちりチームの補充をしろというわけで…
別に他のチームなら何の文句も無い。軍の命令でまぁしぶしぶではあるが従うだけだ。
だがよりによってATXチーム…
前戦役で、ホワイトスターに特攻を仕掛けた部隊の1つである。
その戦闘力、突破力は地球圏1といわれるほどだ。
しかし、人員はお色気おねー様とか鉄面皮のゴ○ゴ13のように無口な男とか暑っ苦しいガキとかな上、
部隊の雰囲気は軍とは思えないもんなんだとか。どっかいった奴も突然刀を振り回す奴だったらしいし。
なんでそんなうわさや憶測が飛び交う変態集団に俺は突っ込まされることになるんだよ!?
乗ってるものも実験機やらなにやらというわけでもないゲシュペンストMkU。
そりゃレーダーに関しちゃ裏から流してもらった三次元レーダーつけてるし、
ちょっと使い込みして機体をグレートにいじったりしたよ?けどそれだけじゃないか。
お咎めなしと思ったら、なんでこんな地獄の片道切符つかまされなならんのだ?
頭をかきむしる俺に、無常の鐘が鳴り響く。
「シロガネ発進準備、各員搭乗してください。繰り返します。シロガネ…」
ああ…地獄の列車の出発だ…
117OG2 insertion 導入:2006/04/13(木) 11:07:45 ID:QY6W5Z24
ラグーン基地について、いきなり俺は館長に呼び出された。
「補充人員か。艦長のリー・リジュンだ。これから司令室に向かう。ついて来い。いらん口は利くな。」
わぁ、つなぐ言葉もなしなら、つながせる気もないご様子。艦長、俺何か嫌われることしましたか?
そんなわけでまったく会話の無い重ッ苦しい空気のまま司令室まで連行同然の行進。
「生意気な口を利くな!貴様に言われずとも報告書には目を通しているわ!」
ああ、空気が悪そうだ。怒鳴り声が飛び散ってるよ。こんな中に俺は突っ込ないといけないのか…?
「失礼します。シロガネ艦長リー・リジュン中佐であります。」
俺がほうけてる間に艦長突入。あんた、もう少し空気呼んでよ。
中に足を踏み入れる。赤い服を着た男と、写真で見たことのあるちょび髭のおっさんがケネスだな。
あの赤い服着た男が、さっきの会話から察するにATXチームの一員か?
「ご苦労、中佐。ここにいる男が…」
俺も入ったわけだが、完全に俺はスルーの雰囲気。まぁ、楽だしいいか。聞いてりゃいいだけだ。
「それまでにシロガネに機体搬入を済ませておけ。いいな?キョウスケ・ナンブ。」
「了解しました。」
「それからATXチームヘの補充人員だ。軍曹、前に出。」
やれやれ、やっと俺の番か。キョウスケ・ナンブ…こいつが…噂のゴ○ゴ13か?
同じ日系人っぽいからまぁ、なんかどうにかなるだろ。
「今日からATXチームに配属されるヨシカワ・ユートです」
118OG2 insertion 導入:2006/04/13(木) 14:36:06 ID:0v2vPtYn
「とりあえず、話は終わりだ。ゲシュペンストはもうシロガネに搬入している。先に整備に戻れ」
は?艦長、いまからチームリーダーとの会話が…
「聞こえんのか?戻れといったんだ。」
ああ、コミュニケーションについて欠落しすぎ。なんで上司までこんなのに…
「分かりました。では失礼します」
しかし文句はいえるはずもなし。俺は戦艦に戻る。
ほんとに自己紹介のためだけだったのね俺の役目って…
「スラスターよし…OSもOK。間接とかのパーツの磨り減りもまだ十分にいける数値だな。」
愚痴りながらシロガネ船内の格納庫で自分の機体のチェックを行う。
ついたと思ったら艦長さんがメキシコに行ってDC残党狩りとか言い出したせいで、
また基地からはなれる羽目に。まぁATXチームも乗ってるらしいし、これが終わったら挨拶に行かないとな…
こっちがどう思おうが、戦場でお互い背中預けて戦うんだ。
そういうのは社交儀礼の意味も含めて重要なこと。ただ、多分残りが色気おねー様と暑っ苦しいガキ…
ため息をつき、うなだれる俺。そうだよなー、嫌でも今日から俺もイロモノ集団の仲間入りなんだよなーとか
思うとテンションも丸下がりというものだ。
「よし、オールOK。じゃ、降りてATXチームの皆さんとお話と行きますか」
ゲシュペンストMkUC(カスタムね。ちょっとゲシュペンスト離れしてるけど)から降りて、
軽く伸びをする。結構コクピットって狭いから肩こるためだ。すると、
「はぁいこんちには。あなたが今日からあたしたちとチームの人?」
視線をそちらに向けると、金髪のアメリカンな女性が立っていた。軍服だから露出は少ないが、
それでも色気というものが伝わってくる。…俗に言うとてもいい女性だ。
「あたしはエクセレ・ブロウニング。よろしくね☆」
「ああ、今日からお世話になるヨシカワ・ユート軍曹だ。」
なるほど、この女性がお色気おねー様ということか。階級ぐらい言って欲しかったが、まぁいいか。
「あんたらの話はいろいろ(良くも悪くも)聞いてるよ。改造したゲシュペンストでどこまでついていけるかどう
 か分からないがよろしく頼む。」
「そんなに謙遜しなくてもいいわよ。前の戦役から活躍してたエースなんでしょ?」
「う〜ん、エース、ねぇ…
 別に格闘戦が下手だから反撃食らわないよう急所を狙って狙撃してただけなんだが…
 そっちこそ、あのヴァイスリッターのパイロットなんだろ?射撃の腕は相当のもんだって聞いたよ。」
119OG2 insertion 導入:2006/04/13(木) 14:36:46 ID:0v2vPtYn
「別におねーさんを誉めても何もでないわよぉ?それともなにかあるのかしら?」
そう言ってずいっと一歩前にでてきて、下から覗き込むようにこっちを見てきた。
「っと、とととんでも無い、そんなつもりは一切無い!それにおねーさんって…俺はもう21だ!!」
高速で後ろにすり足移動。ううっ、顔が赤くなってるのがすぐに分かる。
やっぱりATX部隊って変人ばっかりだ。
「それならそんなに驚くことないでしょ?」
あちらさんはクスクスと笑っている。…からかわれてるんだろうなぁとは分かるが、
それでもそういうのを華麗にスルーなんて俺はできん!
「エクセレン少尉!もうヴァイスリッターの整備終わったんですか?」
今度は物陰から金髪のこれまたアメリカンなの―まぁ野郎だが―が現れた。
「あ、ブリットくん。もう全部オッケー。玉の肌よ。」
軽く会釈をした後、こちらにきて挨拶してきた。
「今度配属される人ですね?ブルックリン・ラックフィールド少尉です。ブリットと呼んでください。」
「ああ、こっちこそ頼むよ。俺はヨシカワ・ユート軍曹だ。」
そう言って軽く握手をする。なんだ、暑苦しいガキと聞いたがいい青年じゃないか。
「では軍曹。あと15分で戦闘配備らしいので、また。」
「じゃ、またあいましょ」
「ああ、戦場でな」
後ろで手を振るエクセレン。硬く敬礼してから去るブリット。2人が去るとまた静かになった。
「やれやれ…ま、うまくやれそうではあるかな?と、
 15分で戦闘配備って言ってたな。俺もモタモタできないな」
そう言って俺はゲシュペンストに乗り込んだ。
最終チェックもしながら時間をつぶす。火器管制までチャックしたとき、ブリットが通信をよこした。
「は?アンノウン機がいる?」
乗り込んで状況待ちとなったら、突然そんな情報が飛び込む。
「らしいです、軍曹。こんなところになんでいるかは不明ですが、一切信号が符合するものが無いとか…」
やれやれ…編入されていきなりこれか。さすがやることも妙なのが多い、ということか?
「そろそろ降下だ。行くぞ、ブリット、ユート」
「わかりました」
「OKだ」
ハッチが開き、青い空が目の前に広がる。
「ゲシュペンストMkU、ヨシカワ・ユート。発進する!」
120自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/13(木) 14:38:01 ID:0v2vPtYn
ためしにやってみた。どこまで俺がもつか分からんし、致命的に文が下手だが、、まぁいけるところまでやってみよう
121自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/13(木) 16:05:31 ID:gOvv+T+v
なにかものたりない気がしたが、乙。面白かった。しかし、一つ言いたいことが。
焼き直しは、セリフとかシナリオ野間もが膨大に必要だし、しかもOGは一番キツいとこだよ?
ゲシュペンストなのはいいけど、全部設定組み直してオリジナル舞台や設定のほうが再現が無いから楽だし、
そこからスタートしていけば?
122自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/13(木) 16:44:51 ID:VQMYavLN
俺も今その問題に直面してました。やっぱり勢いとかで書くもんじゃないですね。
しっかり練ってから色々決めてオリで投下しますので、>>116->>119を破棄します。
123自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/15(土) 11:34:44 ID:dSI36mGE
age
124自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/17(月) 17:40:29 ID:QxuO4D53
ここは落ち着いて保守
125前312:2006/04/22(土) 22:44:56 ID:Qvk76gGG

「俺に銃を撃たせ……」

景気良く六発の銃声が轟いた後、そのトリガーを引いた張本人の叫びは
最後まで発せられることなく途切れた。
対峙する機体の痛烈な一撃によって、主武装である三十八ミリリボルバーカノンを構えたまま、
そのレイバーは頭部を吹き飛ばされた後、ゆっくりと崩れ落ちていった。
対峙していた機体、ヒュッケバインには目立った傷一つ無い。

一連の状況を黙って眺めていたビルギットは大きくため息をついてから、
傍らのバムロに終了の指示を伝えた。
バムロが手持ちのリモコンを操作すると、彼らの正面に置かれていたモニターの電源が落ちた。
つい一瞬前まで周囲に鳴り響いていたはずの銃声も、
レイバーの撃墜と同時に巻き起こった爆発音も、全てスイッチ一つで綺麗に消え去ってしまう。
それはスペースアークの格納庫内に置かれたモニターの中、そこだけで行われた模擬戦であった。

「十連敗、いや十連勝ですか」
「まあ、こんなものだろうな。どうです、満足頂けましたかね。荒川三佐」

ビルギットとバムロから数歩下がったところに灰色のコートに身を包んだ、
それ以上に薄ら寒さを身に纏った男が立っている。
先ほどビルギットとレアリィ・ラドベリと会談を行った、荒川茂樹である。

「ピリヨ少尉の仰る通り、まあこんなものでしょう」
「レイバーとパーソナル・トルーパーじゃ何回やったところで同じでしょう。秒殺ってところですか。
まあレイバーの中のお巡りさんはまだ元気一杯みたいですが」

「どうしたどうしたぁ! こんなものかぁ! 俺はまだいけるぞぉ!」

機体との回線は既に切られているため、響いてくる叫びはつまり生の音声である。
いくら人気が無く、物音もしない格納庫の片隅だからといって、
モビルスーツが鎮座するほどのスペースを誇るこの空間一杯に叫びを轟かす
レイバーの搭乗者の神経を、ビルギットは疑わざるを得なかった。

「奴さん、まだやるつもりですよ」
「そうみたいだな。その辺はあんた次第ってことになるんだが、荒川さん。まだやりますか」
「勿論。気力に体力の限界。そこからのデータも当然頂きたい」

126前312:2006/04/22(土) 22:46:29 ID:Qvk76gGG

モニターの中の模擬戦でどれだけ疲れるものかと内心毒づくビルギットではあるが、
それは彼が現実のモビルスーツパイロットであるがための感想でしかない。
慣れない人間が行ったならば、もちろん程度の差はあれど、
モニター内の仮想模擬戦であったとしても相当に消耗するものである。
事実、ヒュッケバインを駆るジブリールからの返答、その声には明らかに疲労が目立ち始めていた。

「ジブリール。用意しろ」
「り、了解です」

まだやるのか。ジブリールの逡巡はそう伝えていた。
この模擬戦の意味を掴めかねているのだろうとビルギットは思う。

何せ相手はレイバーである。
頭部バルカン砲が掠っただけで大破するFRP装甲。
それに加えてヒュッケバインの装甲に傷一つつけられない、貧弱極まりないリボルバーカノン。
武装の違いもさることながら、機体自体のスペックが違いすぎている。
例えるならば戦車と乗用車。いやまだその方が差は少ないのかもしれない。

とにかく、双方には圧倒的な戦力差がある。その結果がジブリールの十連勝。
そのどれもがものの一分もかかっていない。
ジブリールが不満を抱えるのは当然だと思えた。

加えて、ジブリールにはヒュッケバインに搭載されていた新型の念動力システムという負荷がかかっている。
荒川が欲したのはそのデータであり、ビルギットは彼との取引に今こうして応じていた。

「太田巡査長、聞こえますか」
「何でありますかぁ!」

どうしてこいつはいちいち大声をあげるのだろうと思いながら、
ビルギットはモニター横のスピーカーと同時に機体の装甲を通してでも周囲に響くその声に伝えた。

「太田巡査長、申し訳ないのですが、そちらの武装を多少変更したいのですが、よろしいですか」
「武装の変更とは、どういうことでありますか!」
「せっかくですので多種多様なデータを取れればと思うものですから、
警備用レイバーとしては異例ですが、もう少し強力な武装データをですね」
「強力」

127前312:2006/04/22(土) 22:47:42 ID:Qvk76gGG

途端、レイバーに搭乗している太田の雰囲気が変わった。
声だけでビルギットにはそのことが分かった。
いや、今までの模擬戦を見ている中でそれは既に理解していることだった。

「ええ強力です。実際には使えないものでしょうが、その辺はまあシミュレーターですから」
「き、強力ですか!」

声が震えている。こういうのを何と言うんだったか。
極東の言葉で、そうだ、武者震いとか言うんだったかな。

「まあ大型ガトリングガンであるとか、バズーカランチャーであるとか。
さすがにビームライフルというわけにはいきませんがね。
データは送りますんで、お好きなものを使って頂いて結構です。
太田巡査長は訓練教官を勤められているとお聞きしましたので、
まあうちの小僧も一つ鍛えてやってもらえれば。
ああ、この際なんで弾数は無制限でお願いします」
「ガ、ガトリング、バズーカァ?!」

上ずった声を最後まで聞くことなく、スピーカーを切ったところで生で響いてくるその声を
少しでもかき消してしまえればいいとばかりに、ビルギットは再びシミュレーターの電源を入れた。
光が入ったモニターに多少荒い画像で作られた市街地が映し出される。
そして適度な位置に配置されたレイバーとヒュッケバイン。

「ジブリール。武装の使用は禁止する。それでやってみせろ。いいな」
「りょう、了解、です」

息遣いが荒くなっていた。
念動力システムを常時入れておくことは、
これほどまでにパイロットに負担を強いるものなのかと改めて驚く。
ビルギットは背後の荒川に不信気な顔を向けた。

「なあ荒川さんよ。良かったらこのデータ、何に使うのか教えてもらえないかね」

128前312:2006/04/22(土) 22:48:43 ID:Qvk76gGG

荒川はビルギットを見てはいなかった。
ただモニターに映し出されたヒュッケバインの、模擬戦が始まると同時にレイバーが放った
猛烈な攻撃を易々とかわす、その姿と実際の機体を交互に見比べていた。

その口元には常に浮かべている笑みが、ここでも例外なく刻まれている。
荒川は笑った形をどこかに残したまま、ビルギットに向かって口を開いた。
その態度は倣岸極まりない。

「データはデータさ。どんなものであっても、いつどんな状況で役に立つかは分からない。
あらゆるデータを集めておく必要があるのは、俺たちの業界じゃ常識でね」
「答になってないぜ」

荒川はそれきり口を閉ざしてしまった。これ以上の情報提供はしてくれないということである。
ビルギットは諦めて、最後に一つだけ念を押しておくことにした。

「さっき頼んだ件だけはしっかりやってもらうからな」
「それは勿論。信じちゃもらえないかもしれんが、
これでもそれなりの仁義を守るってのがこれも常識の一つだったりするのさ。
それにしても考えたもんだな、ピリヨ少尉。
ブルーコスモスの懐、このオエンベリ基地で避難民、コーディネーター達のお墨付きをもらおうとはな」
「都合よくあんたが出てきてくれたんでね。お互い持ちつ持たれつといったところさ」

モニターの中では、未だハリネズミの如き防御火線を展開するレイバーに向かって、
ヒュッケバインが突進していた。
大質量の機体が高速でぶつかってこられては、レイバーはひとたまりも無い。
その時点で太田の十一連敗、ジブリールの十一連勝が決定していた。

今までと違った点があるとすれば、ヒュッケバインの装甲に蓄積したダメージが
それまでとは比較にならないものになっていることだった。
とはいっても、それが深刻なものであるかといえばそういうわけでもないのだった。
ただビルギットは、レイバーの攻撃の命中率だけは大したものだと考えていた。
照準装置、FCSがいいのだろうか。

129前312:2006/04/22(土) 22:50:24 ID:Qvk76gGG

「特例市民認定、オーブへの保護を建前にする引渡し要求は明日にでも出るだろう」
「明日か。早いな。随分強く出たんじゃないのか」
「蛇の道は蛇というわけさ。
しかし何故、最初にスペースアークと接触した際に避難民たちを引き渡してしまわなかった。
結局彼らもオーブへ向かうはずだったと聞いているがな」

ビルギットはいい加減、荒川の回りくどい言い方に辟易していた。
どうせ荒川の視線はモニターに注がれている。
そうして自らの興味を逸らしていると見せながら、その実話だけはしっかりと聞いている。
それが荒川のやり方だろうと思う。気に食わないやり口だった。

しかし取引の内容に関しては、その意図の大方の部分を話してしまわねばならなかった。
下手に隠してしまえば、この計画に何らかの危険を感じた荒川が
取引から手を引く可能性があるからだった。
つまり、こちらも馬鹿ではないということを示さねばならない。

「あの時点で引き渡したところで、オーブにしてもスペースアークの連中にしても、
避難民をどう扱うかは知れたものじゃない。
何も確証は無かったんだ。仮にオーブに着いたところで、体よく追い出される可能性は十分にあった。
だからあんた達、極東支部の後ろ盾が必要なんだろうが。
それがあればオーブ内の反コーディネーター派だって下手は打てない。
その辺、面倒見てくれるんだろうな」

「あくまで避難民の身柄を考えるか。さすがはアルファナンバーズといったところだな。
それで、牢屋に入っているハイネ・ヴェステンフルスはどうするつもりだね。
こちらとしても、そこまでは引き受けきれないのが現実だ」

それが今現在、ビルギットが直面している最大の問題であった。
避難民の身柄を小隊に置いておくために必要だった犠牲、
それが拘束され投獄されているハイネであることは荒川も承知しているということだろう。

その建前が通用する間に、避難民がオーブへ亡命できるように
手配するというのがビルギットの狙いであり、
それを今こうして荒川と取引することでとりあえずの見通しが立ったというわけである。
しかしハイネに関しては、まだ何の解決策も思い至ってはいなかった。

130前312:2006/04/22(土) 22:52:15 ID:Qvk76gGG

「何とかするさ」
「何とか、ね。まあこちらには関係ないことだがな。
余計な忠告かもしれんがね、あんた自分で貧乏くじ引いているんだと、そう思ったことは無いのか。
縁もゆかりも無いコーディネーターたちを引き受けて、
更に彼らの亡命の手配までしてやって、一人ぐらい箱舟に乗り遅れたとしても、
それは仕方の無いことだと、そうは思わないのか」

そんな言葉にビルギットは正直驚いていた。
今まで一切を冷笑の中で語ってきた荒川が、
ここにきてほんの一片ではあるが感情の一部を見せていた。
その手にはいつの間にかバムロが渡していたコーヒーカップが、
顔に似合わない丁寧さで握られていた。

そうした諸々が、この男のどこかに隙を生み出したのかもしれなかった。
確かに、コーヒーを啜る荒川の表情には心なしか喜色が混ざっているとも見える。

「決めたのさ」
「何をだ」
「自分にゃ嘘はつくまいってな。だから俺はあんたを信用はしてないんだ、荒川三佐」

それが本当の意味で自分の中で決まったのはほんの数日前のことだったが、
そんな余計なことまでは言う必要はないのだった。
決まったものは決まったのだ。それがいつのことなのかは問題ではない。
バグに襲われる街にモビルスーツ一機で飛び込むことを決めた時、
それはもう自分の中では揺るぐことはない。そう思えたのだった。

だから自分はハイネを見捨てることはできない。
彼が一日でも早く出獄できるために、あらゆる手を打たなければならない。
それは自分の進退に関わる問題になるはずだが、
それでもビルギットはそうしなければならないのだった。

その決意は、アルファナンバーズと自分という、
どこかで考えるのを避けてきた関係を自分の中で受け入れる、そういうことでもあるのだった。

131前312:2006/04/22(土) 22:53:32 ID:Qvk76gGG

「多分、もうあんたと会うこともないだろうから言っちまうけどな。
あんた、確かにこんな仕事をするにはうってつけの人間だとは思うよ。
でもな、何となく、あんたのいる場所はここじゃないような気がするよ。
あんたみたいな人間は、肝心な時、いるべき場所にいないんじゃないかってな」

さすがに荒川が怒り出すかと思ったが、
意外にも荒川は低く、あくまで低い笑い声を挙げたのだった。

「面白い話だったよ。
いや悪いな。そういう意味じゃない。
久しぶりだったからな。そんな言葉を向けられるのは。
ああ、本当に、久しぶりだ」

もうビルギットはその言葉に答えようとはしなかった。
だからモニターを無言で見つめている。
後ろで荒川が静かにコーヒーを啜る音が聞こえた。

頭の片隅で、荒川に最後にその種の言葉を投げかけたのは誰だったのだろうと思った。
ふと、同志という言葉が思い浮かんだ。
友人というのも違う気がしたし、荒川が妻帯者であるとは考えたくなかった。

形はどうあれ、荒川は職務に忠実な人間ではあるのだから、
仕事仲間というよりは、そうした信念を共にする人間が最も適当なのではないか。
そう思ったのだった。
加えて、それはきっと随分前の出来事だったのだろうということも。

132前312:2006/04/22(土) 22:55:12 ID:Qvk76gGG

「往生せいやぁぁ!」

モニターの中では太田のレイバーが文字通り奮戦していた。
バズーカを打ちながらも、果敢に前進する。その動きは意外にも敏捷であった。

とはいってもパーソナルトルーパーの機動性に敵うものでもない。
当然簡単に補足され、右ストレートの一撃で勝負が決まるものと思われた。しかしである。

「死なば、もろともぉーっ!」

レイバーはバズーカランチャーを投げつけ、
それを弾くために動いたヒュッケバインの右腕を器用にすり抜けたかと思えば、
右足にセットされていたリボルバーカノンを取り出し、
ヒュッケバインのコクピットに向けて零距離射撃を敢行したのだった。

だがその勇猛さは、リボルバーカノンが所詮は豆鉄砲に過ぎないという現実と、
機動兵器である以上はコクピットの装甲が最も厚いはずであるという壁の前に脆くも崩れ去った。
崩れ去る、はずだった。

モニターに映し出されたヒュッケバインの機体状況を知らせる全身図が
異常を知らせる赤に染まったのは、太田のレイバーがリボルバーカノンを
全弾撃ち尽くしたその瞬間であった。

異常といっても、システムエラーではない。
データ上の機体への深刻なダメージを伝えるものだ。ビルギットは目を疑った。

たかだか三十八ミリ口径の豆鉄砲が、コクピット周りの装甲に深刻なダメージを与える。
ジブリールの腕前などは問題ではなく、それは構造的にあってはならないはずの事態であった。

そんな考えが一通り頭を巡った後で、ビルギットは答に辿り着いた。
傍らのバムロも同時にその答を得たようで、確認するように口を開いた。

133前312:2006/04/22(土) 22:56:47 ID:Qvk76gGG

「手動ハッチを撃ち抜いたみたいですな」

緊急時に手動でコクピットハッチを開くために備えられた手動スイッチとそのハッチ。
どのモビルスーツにも当然あるものだが、
人間の手のサイズに合わせて作られたそれはモビルスーツ同士の戦闘において
ウィークポイントと成り得るものとは言い難い代物であった。
そんなものを狙うぐらいなら、コクピットの真ん中を撃ち抜いた方がよっぽど話が早いはずだからだ。

にも関わらず太田はそんな行動を起こしたのだった。そして成功させた。
射撃の腕前もさることながら、何よりもそれを行うのだという意思が、
この結果に繋がったのだとビルギットは思わずにはいられない。

後一発弾が残っていれば完璧だったんだがと思うが、
それはまあご愛嬌と言ってしまってもいいほどの快挙であった。
そうした状況の全てが導き出した結論を、彼はジブリールに伝えた。

「ジブリール。お前の負けだ」

ビルギットは後ろの荒川が何を言ったところでこの模擬戦をこれで終わらせるつもりでいた。
確かに太田の戦法は見事だったが、ヒュッケバインの動きに荒が目立っていたのも事実だった。

ジブリールは早めに終わらせてしまいたかったのだろう。
体力の限界が近づいているはずだった。
この辺が潮時ということである。
だからジブリールが返した答は全くの予想外であった。


「まだです」
「何?」

「まだやります。まだやります。まだ……やらせろ!」


134前312:2006/04/22(土) 22:57:59 ID:Qvk76gGG

「よぉく言ったぁ! 坊主、俺が鍛えてやるぞ。いくらでもこぉい!」

太田だけがその言葉に反応を返した。
ビルギットとバムロは普段の態度とはまるで違うジブルールに一瞬虚を突かれた形になっていた。
今まで、一度足りとも命令に逆らったことなどなかったのだ。

そんな当惑を他所に、後ろの荒川がどこか満足げな笑いを浮かべていることには
二人は気付いてはいなかった。


「があああっ!」

ジブリールの叫びは、普段の大人しい彼とは全く違う、獣の如きそれである。
まるで激しくプライドを傷つけられた野獣。
何故かそんな感想をビルギットは抱いていた。

模擬戦はリセットされておらず、一度動きを停止していた二機は再び動き出した。
動き出したはずだった。

レイバーも動いたはずだったが、何かの動きを見せる前に、
その機体は縦に両断されてしまっていた。そこで模擬戦は終了した。
あっけないと言えば、あっけなさ過ぎる幕切れだった。
ただ誰もその時何が起こったのかを理解できていなかった。

135前312:2006/04/22(土) 22:59:30 ID:Qvk76gGG

「お、お花畑が……。眩しい、お花が一杯」

モニターが光で満たされたのだろう。
太田のそんな声がスピーカーから弱弱しく響いた。

ヒュッケバインの手には、いつの間にかもぎ取っていたらしいレイバーの腕が握られていた。
そしてレイバーの背後にそびえていたビルには、
まるでビームサーベルで叩き切ったかのようなダメージが加えられている。
モニターはそう報告していた。

加えて計測不能とも。しかしレイバーは確かに両断されていた。
モニターの中で、である。

「荒川さんよ」
「話すのは最後じゃなかったのか」
「事情が変わったさ。
あんたが欲しかったデータはこれなのか。HOSに対抗するための」

荒川はどこまでも倣岸だった。

「データはデータさ。それ以上のものじゃあない」

136前312:2006/04/22(土) 23:00:13 ID:Qvk76gGG

少し間を置いて、荒川はだがなと付け加えた。

「確かに一つの手段としてはある。それは事実だ。
一つの手段でしかないがな。俺はそう考えている。
さっきの言葉の御礼としては不十分かもしれんが、今現在は俺もこうとしか言えないのさ。
まあ勘弁しろ。
ところでジョージ・ジブリールの聴取は予定通りやらせてもらおう。いいな」

ビルギットは黙って頷いた。そうするしか他に仕様がないのだった。


「真っ白な、凄く綺麗なお花畑が」

スピーカーからは太田のあちら側へ渡ったかのような声が流れ続けていたが、
それに隠れるようにしてジブリールの、
満足そうな声が混じっていたことに気がついた人間はやはり誰もいなかった。



「これで、十四勝零敗。零敗。零敗。零敗……」


137前312:2006/04/22(土) 23:10:23 ID:Qvk76gGG
6話その5終了。

>>112
とりあえず後者だけど、抵抗するには遺伝子だけじゃ駄目らしいというのを
一応全体のテーマとして書ければいいなと。

>>115
今更ながら乙。機体から話を作ってみるというのは今まで無かったから面白いと思う。
再投稿期待してます。
138自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/22(土) 23:47:35 ID:4GAIC4ZZ
GJ!!
太田さんが実に“らしい”ですな。
そして止まっていたビルギットの時間も動き出したようで。

>>137
抵抗者か。
139自治スレにてローカルルール検討中
ホシャゲ