ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level14

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1名前が無い@ただの名無しのようだ
DQツンデレスレへようこそ。
ここは職人方が書いてくれるDQ関連のツンデレなSSに萌えるスレです。
新しい職人さん大歓迎です。SS題材はDQであれば3以外でもおKです。
DQ3の攻略等に関する質問は専用スレでどうぞ。

前スレ ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level13
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/ff/1280818864/

過去スレ
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜
ttp://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1132915685/
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜 Part2
ttp://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1138064814/
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜 Level3
ttp://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1142515071/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level4
ttp://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1144425198/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜  Level5
ttp://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1157354640/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level 6
ttp://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1162828557/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level 7
ttp://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1167743633/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level8
ttp://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1174664837/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level9
ttp://game13.2ch.net/test/read.cgi/ff/1185024927/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level10
ttp://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1199098241/
前スレ ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level11
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1233834123/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level12
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1258160608/


まとめサイト (Level 4 までのログはこちら)
ttp://www.geocities.jp/game_trivia/dq3/
CC氏まとめサイト (Level 5 からのログはこちら)
ttp://www.geocities.jp/tunderedq3cc/
2名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/01/16(日) 15:30:12 ID:hPBublOn0
立てました。職人さんが戻ってくる&新たに育つことを願って……
3名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/01/16(日) 19:23:58 ID:8MZRlJGk0
>>1乙です
4名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/01/16(日) 20:09:36 ID:HZBsrxtt0
>>1乙!!
新スレ立って良かったわ
5名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/01/16(日) 20:46:03 ID:etxyFC4N0
>>1乙!
何回か立てようとしたけどホスト規制で無理だったから
やきもきだったw
6名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/01/17(月) 00:09:27 ID:XF4V35m+0
>>1 乙〜!
こんなスレ初めて知った

7名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/01/17(月) 22:11:36 ID:Ng7WU7Cb0
>>1
いつの間にか落ちててびっくりした
8名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/01/18(火) 22:40:58 ID:E7pA/u0Q0
一日一保守
9名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/01/19(水) 19:14:39 ID:HcP/UsPj0
10名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/01/20(木) 21:36:31 ID:y7A9rEwF0
10
11名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/01/23(日) 10:31:22 ID:qLTjwbMy0
12名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/01/25(火) 21:33:20 ID:8aFiWvhb0
faaaaa
13名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/01/29(土) 21:54:56 ID:RXLe1l+q0
風邪引いた保守
14名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/02/02(水) 00:36:19 ID:oE4qS6oO0
デボラは5だけど?
15名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/02/05(土) 08:31:15 ID:GbeG6oiE0
16名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/02/10(木) 21:49:22 ID:xi7vH1pT0
foi
17名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/02/14(月) 20:36:28 ID:foqYek3O0
18名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/02/20(日) 15:52:26.74 ID:ut7ETh800
ほしゅ
19名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/02/21(月) 04:12:40.44 ID:0FTa9c5Y0
20名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/02/23(水) 22:07:43.38 ID:/sSVev850
ツンデレ
21名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/02/28(月) 21:23:56.48 ID:FOqO5LOq0
22名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/03/06(日) 02:31:27.24 ID:1zb2M2bo0
jo
23名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/03/13(日) 01:35:04.09 ID:m1/gc6pl0
ほしゅ
24名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/03/16(水) 18:32:54.79 ID:53lDj1820
いのちをだいじに 保守
25名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/03/22(火) 14:11:13.99 ID:ziIDrcEK0
保守
26名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/03/23(水) 20:32:04.54 ID:bRdUKws/O
スレも閑散としてるし、自分でも萌えるために設定は色々考えるのだがそれだけで満足してしまうという保守
27名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/03/28(月) 16:54:52.15 ID:VyA7qoKq0
5のデボラ関連でツンデレ話が書けないかな 保守
28名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/03(日) 11:54:07.45 ID:wZwARwo90
保守
29名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/10(日) 00:42:25.53 ID:9qS6FZmk0
誰か書き手さんが書き込まないかな 保守
30名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/11(月) 00:22:41.96 ID:BoCVOS/v0
保守しかできずにゴメンよ・・・

感想はまた後日にでも。
楽しく読ませてもらってますよ!
31名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/12(火) 01:36:24.98 ID:cc2Gv/qeO
誰かCC氏と連絡とれないんかね
ヴァイスがこの先どうなるのか気になってしょうがない……
32名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/12(火) 12:06:59.11 ID:PXhq2SDl0
時間空きすぎた&リィナにまで及んで話がこじれ過ぎた
プロの物書きでもない限り復帰は難しいんじゃなかろうか
33名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/12(火) 15:50:11.58 ID:e6wu1jGc0
規制掛かってないかテスト
34名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/13(水) 01:53:11.70 ID:5OHa9rfsO
>>31
とりあえずまとめサイトのゲストブックになにか書いてみるか、記載されているメアドにメール送るくらいしかできないか
35名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/13(水) 13:57:49.18 ID:1oHWzuHk0
誰か本スレ立ててください
お願いします
36名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/14(木) 08:58:54.36 ID:Sjmr2OgfO
>>35
何の本スレだよ
37名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/19(火) 00:55:42.29 ID:cnZ+OUhl0
CC氏のをまた読み始めたぜ保守
38名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/21(木) 18:38:02.87 ID:jska0kTgO
>>32
昔CC氏が話を途中で投げ出す奴はダメって批判して、自分はそんな事しないって言ってたし、俺は今でも待ってるよ
39 忍法帖【Lv=1,xxxP】 :2011/04/25(月) 13:06:50.37 ID:mD6e8xEcP
保守
40楮書生:2011/04/26(火) 17:34:13.13 ID:komrfuLC0
出先なので酉無しで失礼。遅ればせながら現状報告を
年末規制→!suitonのコンボで現在出来てる分の投下できません
最初はすぐ規制が解けると思って書き溜めに専念していたのですがもう長文投下が無理っぽいです。
普通にレス打つと規制か規制解除されても別板のスレにLv40の強烈なアンチがおり、自分含むスレの参加者を
片っぱしから!suitonしているのですぐにLv0維持
p2pでもやられるっぽいのでどうしたらいいのやらって感じです
41名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/26(火) 23:45:01.83 ID:hM0FmwVD0
訴えればいいんじゃないか?どこに?ってのはよくわからんけど
水遁は正当な理由が無い限りペナルティもあったはず
42楮書生:2011/04/27(水) 17:26:42.05 ID:lapVuvt90
訴えられるんですかね?
なんか●持ちのLv40が荒らしに対して水遁合戦してるんで
お互いペナルティ起きててもすぐ復活してるみたいなんですが

とりあえず、書きためはためておきます。三話分程、溜まってて
そろそろ主人公パーティがアリアハンから旅立てそうです
43名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/27(水) 22:30:47.32 ID:5vrLCH0F0
楮書生さん待ってました!

規制のシステムはよくわかりませんが現状の2chのシステムが改良されないと
長文投稿は難しそうですね


もしかしてCC氏も規制にひっかかってるのかも
44名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/30(土) 03:21:04.89 ID:gWYqA8/pO
未だに忍法帖の仕組みがよくわかってない俺が保守
45 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2011/05/03(火) 20:00:37.60 ID:dXikFUvoO
てす
46名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/05/04(水) 08:51:36.88 ID:+Mphxh2W0
ちょっと本音を言ってみる

あのとき周りの反応でちょっと感じたかもしれないけど
CC氏のオロチを倒すとこの話は正直いまいちだった
でも次の奥行きの例え話や全員再スタートする話は面白かった
もちろん他の話も面白いところはたくさんあるし
ドラクエ3にマグナ達の名前をつけてオロチを倒したところでセーブのまま
終わってるほどCC氏の話にのめりこんだ


なにが言いたいかというと続きが楽しみでずっと待っています
自分のせいでとも思えてきて怖いし何でもいいからレスがあるとうれしい
47 忍法帖【Lv=9,xxxP】 :2011/05/08(日) 07:44:53.95 ID:6BcdlJlB0
ほしゅ
48名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/05/13(金) 03:55:39.30 ID:Ddaa7jX80
保守
49名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/05/18(水) 22:41:55.06 ID:diONsMdL0
ほす
50名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/05/21(土) 14:10:30.33 ID:QlQ45Jpn0
あげ
51名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/05/22(日) 18:37:34.10 ID:9xX9lXNW0
52名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/05/23(月) 14:24:16.90 ID:25ShPRSM0
>>46
俺も名前マグナとか付けてプレイしたなw
iPodにもテキスト入れてあって、どこでも読める様になってる
本当に面白かった
まあつまりはCC氏をいつまでも待ち続けるぜてっこった

せめて書き手の生存報告だけでもあれば嬉しい
YANA氏とCC氏は生きているんだろうか

投下についてもどうにかしないと、楮書生氏の話を読みたいのに読めない
さてどうしたもんか
53名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/05/28(土) 01:23:58.59 ID:zIvgIMaK0
俺もCC氏のキャラの名前でやろうっと。

秋が楽しみだ
54名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/05/28(土) 16:22:13.55 ID:8/8dLdpVO
>>53
秋?
55名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/05/31(火) 01:43:39.27 ID:8V1IY4uM0
56名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/06/06(月) 12:45:24.66 ID:DZqRuuqI0
保守
57名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/06/12(日) 00:30:11.20 ID:hOqKFsTO0
ほしゅ
58名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/06/18(土) 17:25:22.75 ID:0WIgQ+VK0
保守
59名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/06/19(日) 20:40:30.24 ID:dMaH06E60
待ってるで!
60 忍法帖【Lv=1,xxxP】 :2011/06/20(月) 01:04:37.86 ID:ztvCQUhbO
何か書きたいと思ったけど忍法貼のレベルあげてなかた
61名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/06/27(月) 00:25:35.53 ID:3in/sqmE0
保守
62名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/07/04(月) 14:58:32.53 ID:xtSRGJG80
保守
63名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/07/11(月) 00:18:17.94 ID:BChQzbNgO
ほす
64名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/07/14(木) 16:41:50.94 ID:yylUUwDZO
ツンデレ女勇者に合うタイプはなにかね?
ショタ魔法使い
クーデレ賢者
ヒート戦士
色々な組み合わせが考えられるな
65名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/07/14(木) 19:13:34.83 ID:1JH5Ss3V0
魔法使いから転職した両刀使い(バイ)の武闘家
66名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/07/18(月) 21:32:59.38 ID:pmhTtsVi0
ほす
67名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/07/22(金) 02:13:03.25 ID:iqarswd/0
やっと規制とけた最近なかなか書き込めない保守
68素直な気持ち 1/4:2011/07/23(土) 10:49:47.08 ID:TBEbEF3Z0
「はあ」

その日、グランバニア王女タバサは憂鬱な気分だった。
明日は両親、双子の兄レックスとラインハットへ遊びに行く予定なのだが
ラインハット王子のコリンズに会うと思うとため息が出てくる。

いきなり子分になれと言ったり、断るとすねて帰れと言ったり。
言われたとおり帰ろうとすると今度は泣くぞと言ったり、
わけのわからない行動にタバサは困惑していた。

「どうしたのタバサ?浮かない顔して」
と母親のデボラが話しかけた。

「あ、お母さん。あの・・明日わたし留守番じゃだめ?」

「どうして?何か嫌な事でもあるの?」

「えっと、コリンズ君のことで・・・」
タバサはコリンズのことをデボラに話した。

「ふふ、それはねコリンズ君がタバサにもっと一緒にいてほしいって言ってるのよ」

「え、でも帰れって言われたのも一緒にいたいってことになるの?」

「きっと素直になるのが恥ずかしいのよ。昔ヘンリー王子もそんな感じだったらしいわ。
後でお母さんがそういう場合の話し方を教えてあげる」

「うん、じゃ後でお願いね、お母さん」

後ろにいたリュカがニコニコ笑っているのにデボラが気づいた。
「ちょっと、何にやにやしてるの?」

「いや別に」
69素直な気持ち 2/4:2011/07/23(土) 10:50:25.36 ID:TBEbEF3Z0
次の日、ラインハット城

「よう、レックスにタバサ。また遊びに来たのか。
俺の子分になるんだったら遊んでやってもいいぞ」

「もう、コリンズ君てばそんなこと言わずに普通に遊ぼうよ」
とレックスはいつもの調子で話すコリンズに少し困ったように返事をした。

「あなたの子分になるくらいなら遊んでもらわなくても結構だわ」

「え?」
コリンズはタバサに強く拒否されたことに驚いた。
横にいたレックスもいつもと違うタバサの態度に首をかしげていた。

「あら、聞こえなかった?わたしはあなたの子分にはならないって言ったのよ」

王子という立場上、他人に強く否定されたことのないコリンズはどうしたらよいのかわからなかった。
わがままを言っても許してもらえ、注意をされてもすこしすねてみるとそれ以上は何も言われなかったためである。
そこでつい

「それならもうお前とは遊んでやらん!今すぐ帰れ!」
といつもの調子ですねてしまった。いつもならここでタバサが困って何も言えなくなるが・・・

「そう、それじゃあ帰る。もうここへは遊びに来ないかもしれないわ。行こ、レックス」

「う、うん」
タバサの態度に驚きながらもレックスは返事をした。
一方コリンズはレックス以上に驚いていた。

「お、おい、俺と遊べなくなるんだぞ。それでもいいのか?」

「いいわ。じゃあね。」
タバサが帰ろうとドアに手をかけるとコリンズが涙声で話しかけてきた
70素直な気持ち 3/4:2011/07/23(土) 10:50:56.71 ID:TBEbEF3Z0
「ちょ、ちょっと待てよ」

タバサが少し振り向いて話しかけた
「どうしたの?やっぱり帰って欲しくないの?」

「ふぇ?」
コリンズの顔が少し明るくなった。
タバサがコリンズの近くによって話しかける

「遊んで欲しくて泣いちゃうなんて、そんなにわたしと一緒にいたいの?」

「えっと、それは・・・」

「ちゃんとはっきり言いなさい!一緒にいたいの?いたくないの?」

「・・一緒にいたい」
とコリンズは小さな声で話した。

「聞こえないわ。もっと大きな声で言いなさい」

「一緒に、いたいです」

「はい、よくできました。そうやって素直になればいつでも遊んであげるわ」

(タバサすごい)
レックスは母に似た雰囲気のタバサに感心していた。
71素直な気持ち 4/4:2011/07/23(土) 10:51:20.15 ID:TBEbEF3Z0
「お母さーん」
タバサはうれしそうにデボラに話しかけた

「お母さんの言ったとおりだったの。コリンズ君が素直に一緒にいたいって言ったのよ」

「ふふ、よかったわね」

「でもどうしてコリンズ君の考えてることわかったの?」

「まあなんとなく、ね。
今日はまだここにいるしコリンズ君と遊んでらっしゃい」

「うん。じゃあまた後でね、お母さん」


デボラの近くにいたリュカがまたニコニコ笑っている。
「ちょっと、昨日から何にやにやしてるのよ。気持ち悪いわね」

「いやさすがによくわかってるなって」

「それどういう意味よ?」

「ひねくれた愛情表現について詳しいなってこと。君と同じだと思って」

「なっ、・・アンタしもべのくせにそんな口きいてるとただじゃおかないわよ」

「おお怖、わかってますよ、デボラ様」
72名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/07/23(土) 10:54:45.59 ID:TBEbEF3Z0
DS版ドラクエ5で書いてみました。
リュカは小説版DQ5の主人公名です。
コリンズメインにしようと思っていたのですが、
デボラのほうがメインになってしまったかもしれません
73名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/07/23(土) 12:23:32.60 ID:uEiWRw/I0
これは良いねw
乙でした!
74名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/07/24(日) 00:58:33.88 ID:ykfSTm2W0
乙!

ほっこりしたよ(*´д`*)
7568:2011/07/25(月) 00:29:05.10 ID:lh3XvT9p0
コメントありがとうございます。
他の方々のように長編とかは無理ですが、
また何かネタが浮かんだら書いてみたいです。

>楮書生さん
規制などで投稿できない場合ですが外部アップローダを
利用するというのはいかがでしょうか?
創作発表板アップローダというのがありました。

txtだけでなくjpgなどの画像ファイルもアップできるので使えると思います。
http://loda.jp/mitemite/
76名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/07/25(月) 23:29:34.14 ID:j/EWnZAW0
うわぁまだこのスレあんの。
VIP時代から読んでてここに移った頃もよく来てました。
何年たったっけなぁ。
77名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/07/27(水) 13:54:17.42 ID:DV/WqR++O
>>68-72
コンパクトにまとめてあってgj!
78名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/08/01(月) 14:34:31.34 ID:nGEx8YTE0
保守
79名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/08/08(月) 11:49:52.82 ID:4yFbGzed0
ほしゅ
80名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/08/11(木) 11:54:34.79 ID:KlDi1Hw30
保守
81名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/08/16(火) 14:57:14.82 ID:aOqcVRNO0
ほしゅ
82名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/08/20(土) 23:25:05.13 ID:f0LpFVeO0
落ちたかと思ったわ
83名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/08/26(金) 13:39:25.45 ID:zMRlbBjm0
保守
84名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/09/02(金) 15:16:18.67 ID:A3uMvXiE0
保守
85名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/09/09(金) 11:58:03.41 ID:sJN0oE6Z0
hoshu
86名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/09/17(土) 12:43:00.65 ID:3SLz5U8d0
職人さん来ないかな 保守
87名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/09/22(木) 18:41:48.40 ID:g+YjGxVx0
規制がきついんだろうか
88名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/09/24(土) 15:26:48.18 ID:RHG6zKysI
クラリス「しようと思何たったっ」
89名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/09/30(金) 23:21:40.61 ID:8gxxidxR0
hoshu
90名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/06(木) 18:06:22.28 ID:dgR/OJPD0
91名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/12(水) 18:04:47.08 ID:/doZWTBC0
YANA氏や楮書生氏は規制されているのかな
92名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/19(水) 10:01:23.37 ID:ocSotV+VO
全盛期の勢いが嘘のよう
しかし俺は待ちます
93名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/19(水) 12:09:10.41 ID:2R1+pu0x0
職人さんが来るまで私も待つぞ
94名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/20(木) 09:55:53.03 ID:oRKefBwjO
保守だけじゃああれだから何か雑談でもしようぜ


マーニャ姉さんはツンデレだと個人的には嬉しい
95名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/20(木) 22:45:31.01 ID:kHNmZYKF0
なんとなく男の扱いには慣れてる気がするけど
いざ好きな人の前に出ると素直になれない感じかな?
96名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/26(水) 23:53:54.04 ID:nR3lFG5G0
ほしゅ
97名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/31(月) 10:07:07.89 ID:oqNxvpb40
ほすほす
98名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/31(月) 23:48:18.13 ID:/n8E7yiy0
このスレの人にとってデボラはどんな評価?
99名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/01(火) 00:48:05.71 ID:HSZTQqSmO
はい!
はいヽ(*゚∀゚)ノ”ポイポイ(*。_。))o,,ポイポヽ(*゚∀゚)ノ”ポイポイポ(*゚ρ゚)>-ピー♪
ヽ(*σ∀σ)ノ”ポイポイ(*,_,))o,,ポイポヽ(*σ∀σ)ノ”ポイポイポ(*σρσ)v-ピー♪
ヽ▼・∀・▼ノ”ポイポイ▼._.▼o,,ポイポヽ▼・∀・▼ノ”ポイポイポ▼・ρ・▼v-ピー♪
はいヽ(*゚∀゚)ノ”ポイポイ(*。_。))o,,ポイポヽ(*゚∀゚)ノ”ポイポイポ(*゚ρ゚)>-ピー♪
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100名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/07(月) 14:49:56.74 ID:PPth7GJX0
ほしゅ
101名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/13(日) 03:02:06.87 ID:5mRxj8Bx0
tesu
102名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/18(金) 00:01:33.11 ID:d2NR/EumO
久しぶりにCC氏の話を読み返してみた
続きが気になって仕方かない
書き手さん達は生きているのだろうか

続きが早く読みたいです
103名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/19(土) 00:10:26.25 ID:nEXiSaKQ0
楮書生さんはまだ書き込めないのかな?続きが気になってます。

自分でも何か書ければいいんですけど、ネタが出てこないです
前に書いたコリンズの話の続編とかできそうなんですが


104名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/25(金) 02:11:08.85 ID:jTmARXd10
ほしゅ
105名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/02(金) 23:33:44.82 ID:rlaz0ZzU0
保守。
106名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/03(土) 00:11:18.92 ID:4mH6FSgv0
>>105
保守なのに上がってないぞw
107名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/08(木) 13:09:55.21 ID:kQ5z8T8/0
hoshu
108名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/15(木) 07:49:13.52 ID:FcXHL7vv0
ho
109名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/16(金) 01:13:19.09 ID:nLOOwRG00
マグナと冒険する夢を見た。。。
110名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/22(木) 15:17:43.84 ID:kosirGRy0
CC氏やYANA氏や楮書生氏はこのスレは見てるんだろうか
111楮書生 ◆n2MzhXtooQ :2011/12/25(日) 15:17:14.53 ID:BCdbr2ts0
 虚救旅団
  序章の番外編「診断結果:疑いや否定を忘れたロマンチスト
        彼女が信愛したRoman(職業):勇者の妻であり母親」

 アリアハンの朝で場面は宿屋の一室。ムスチナは困っていた。
 諸々の事情により今日返さなければいけない服が返せないことに悩んでいた。
 何故、返せないかと言うとよくよく考えたら着たきりの服をそのまま返すなど失礼な事だと考えていた。
 他に類推される乙女の本音に関してはこのまま割愛する。洗濯をしてからと考えていたのだが
 それを伝えれば、相手に別に良いですよと服を譲渡される可能性がある。
 逆にそれを告げず一日洗濯してから返せば約束を反故にしていることになる。
 ああ、どうしよう……どうしよう? どうしよう!?と心のなかで声が大きくなる。
 取り合えず、服を午後まで干して乾かす判断を下すのに半刻程掛かった。
 午前中は習慣づいているストレッチに汗を流している。
 船旅で習慣づいたのトレーニングでもあるがルイーダの酒場に
 午前中から行くのは遠慮すべきだと考えていた。彼女の実家ともいえる場所は酒場なので
 開店準備や従業員の睡眠などがいかに重要なのかは良く解っていたからだ。

 午前中の運動を終えて食事を取りにルイーダの酒場へと行く用事と服を返しに出かける事にした。
 宿屋を出て勇者オルテガの家へと向かう途中後ろから声を掛けられる。
 ルクスは先日と同じ様に宿屋の方向から彼の家へと向かっている所であった。
 ムスチナは適当に挨拶を返しながらも特に相手と歩調をあわせる事もなく歩んでいく。
 ルクスが何故あの時、笑みを浮かべていたのか彼女は理由を聞いていなかった。
 無論、本人ですらその事情を説明できるか怪しい境遇なのだがこうやって
 彼が正気を保っている時は至って普通なのが余計に不信感を煽っていた。
 沈黙に耐えかねてなのか、奇跡的にもルクスの方から声を掛けてくる。

「また御飯食べてく?」
「いえ、流石に毎回お邪魔する訳には。今日はルイーダの酒場で頂こうと思っています」
「そ、そう」
「すいません。こんな時間に押し掛けては誤解させましたね。迂闊でした」
「気にしないで」

 ルクスはイマイチ押しが弱かった。そもそも押した事も引いた事も今までなかったのだから当然だ。
 ただ、ムスチナにとってこの男が人並みに対応が出来ることへの驚きが感情の大半を占めていた。
 好意的解釈として『彼は緊張していたのか?』と昨日の騒動と昨晩の食事の時の対応を分析してみた。
 だが、そんな思考もすぐに泡と消えた。
 彼女にとってルクスの心境など取るに足らない事象へと既に落ち着いている。
 ルクスの母親は珍しく笑顔を作らずに女性と並んで歩いている息子が家に来るのを驚いている。
112楮書生 ◆n2MzhXtooQ :2011/12/25(日) 15:19:11.66 ID:BCdbr2ts0
 そして、ここでトルカ・ラヴクラフト(以下トルカ)が登場する。
 彼女は玄関先で何度もルクスの母親に頭を下げていた。
 何事かとムスチナにも解らない彼女の解説を付け加える。トルカは既に内定を貰っていた一人だった。
 ルクスは狂気に飲まれていた時、パーティの面子候補としてトルカが居た事を思い起こす。
 女主人ルイーダの見立ての中の一人なのだが
 いかんせん男女の割合がイマイチ合わないのが彼女を調整している懸念であった。
 男一人に女三人というのは一見、男の役得に見える様だが問題は宿屋だ。
 当然、男部屋と女部屋に分かれる。行き成り男女同室と言うのは問題があるだろう。
 まして、ルクスの精神の不安定さを見るに一人で寝かせると言う事態は出来るだけ避けたい。
 そして、女一人と言う状況も避けたい。男3人で女を取り合いというのも問題だからだ。
 男4人だと行く街行く街で女漁りに精を出していては困る。
 無難かつ効率的に男女2:2がやはり理想だ。

「という事で此方の我侭で」
「いえいえ」
「こんにちは」
「ただいま」
「あら、おかえりなさい」
「お、丁度良かった。一石二鳥。あ、オルテガの息子さーん。
 ボクちょっと今回のパーティ候補抜けるね。ごめんごめん土壇場で」
「わざわざご挨拶に来てくれたのよ」
「そうだったんですか」
「あ、昨晩はどうも服の洗濯の方は出来てますよ。
 夜から干していたのでもう大丈夫なはず。今持ってきますね」
「すいません。何もかもお手を煩わせてしまって」

 トルカが先ほど頭を下げていたのはこの案件からであった。
 女主人ルイーダには既に午前中の段階でそれを告げており
 直接オルテガの妻であり、ルクスの母親である彼女にそれ報告し謝りに来たのだ。
 後、数日でルクスは旅に出なければいけない。
 無論、ルイーダにて旅のメンバーはまだ調整中なので彼女の代わりの候補は数名いる。
 むしろ、有力候補が女性3人と偏っていたのでこれで男性が一人入るのは好都合であった。
 ルクスに直接候補から2名を選んでもらう形を取ろうとしたが選択肢が減るという事は迷う事が
 減り、精神的負担も軽減されるということだ。
 そして、世界を救うために旅立つ勇者の供であることを辞めたトルカは
 丁度ルクスの母が家へと戻ったのを見計らって、ムスチナへと駆け寄ってくる。
 ムスチナは彼女を見知っていた訳でも、船団の中に居た訳ではないので
 本人はきょとっとした顔をしているつもりだったが相変わらずの無表情であった。
113楮書生 ◆n2MzhXtooQ :2011/12/25(日) 15:20:46.64 ID:BCdbr2ts0
「キミがムスチナさん?」
「そ、そうだけど」
「あ、良かった良かった。ちょっと昨日遠くで見ていたんだけどほら、あの時ずぶ濡れだったから」
「み……見ていたのですか」
「キミけっこー有名人なっちゃったよ?」
「やめて下さい。は、恥ずかしかったのですから」
「わ! かーいーねぇ。その反応」
「からかわないでください」
「あ、ちょっと失礼―。この人、借りますね」

 髪の極端に短いトルカはまるで少年の様な無邪気さをにじませる微笑を向け
 楽しげにムスチナと会話をする。無論、ムスチナは無表情である。
 一人取り残されてしまったルクスにこのまま会話に参加するかとっとと家に入るべきか迷っていた。
 彼の本心としてはムスチナをパーティへと誘いたかった。
 ただ、昨日彼女には別の目的があるのを知っている。
 昨日の一件で決して良い心象を得ているとは思えない相手だが
 こうやって横で恥じらい頬を染めている(様にルクスには見える)彼女を美しいのだと
 正気の意識に語りかけてくる。むしろ、こうやって正気が働いていてくれている事が
 彼にとっては奇跡であり、ムスチナはそれだけ貴重な存在であった。
 そのムスチナへと注がれる視線にトルカは気付いていた。
 彼女は一般的な人としての優しさを持っていたら罪悪感を感じていたり
 彼を立てる為の気立てのよさなのがあったのかもしれないが、彼女もやはり気が狂っていたので
 ルクスを尻目にきゃっきゃと乙女同士の会話を続けていた(ようにルクスには見えている)。
 ある程度警戒心を薄めさせたところでトルカはぐいっとムスチナの腕を掴んで少し距離をとる。

「えーと、ルイーダさんから聞いたんだけど、イシスに行くんでしょ。兵士募集の奴」
「は、はい」
「ならさ、ボクも連れてってよ。こー見えても優秀なんだよ?
 それに僧侶がパーティに一人いれば大抵なんとかなるからね。
 ボクの名前はトルカ・ラヴクラフト。きっと役に立つよ?」
「本当ですか? それはありがたい話です。こちらから申し出たい位でしたから」
114楮書生 ◆n2MzhXtooQ :2011/12/25(日) 15:23:24.00 ID:BCdbr2ts0
 こそこそ話程度の音量であった。最初はムスチナも驚き声を上げようとしたが
 それがルクス親子の配慮ということに気づき、音声のボリュームを下げる。
 こくこくと頷きながらも彼女の自己紹介を受けて、天恵に等しい申し出にむすちなは感謝した。
 僧侶がいるという事はパーティの生存率を飛躍的に上げられるのだ。
 回復呪文を使える事で生存率も上がりすばやさを上げる呪文で逃走をするのに役立ったりと
 本人が言う様によっぽど無茶な構成をしない限り、大抵は何とか成る場合が多い。
 故に僧侶はどのパーティでも引っ張りだこだ。ムスチナにとってパーティを募るにあたり
 ヤターユを誘う事に躊躇したのも先日の場でチクハを誘わなかったのも
 出来れば僧侶、もしくはせめて優秀な魔法使いが入らなければ
 旅は厳しいと考えていたので願ったり叶ったりだ。その場で快諾。
 これで彼女の中でパーティのメンツはほぼ完成した。後は当人同士の了承による。
 そして、それを横でずっと見ていたルクスは再び正気を失い
 あはあはともえへえへともつかぬ笑いでまるで二人のパーティ決定を祝福するかの様に笑っていた。
 ムスチナの服を取りに戻ったルクスの母は少女二人が楽しげに会話をしているのを見て
 なんとなく場の空気を察せる程の理性を持っていた。

「やっぱり女の子同士は仲良くなるのが早いわね。
うちの子ももう少しこういうところに融通が利けばいいんだけど」
「あ、失礼を。人様の玄関先で」
「じゃ、細かい事は後で」
「解りました。では、えーと」
「御飯まだならさ、ルイーダの酒場で一緒に食べようよ」
「あ、丁度私もそうする所でしたので。では其方で」
「うん、じゃボクは先に行って席を取っておくね」

 勇者の母親であるオルテガの妻であり、ルクスの母でもある女はその空気にそっと水を差し入れる。
 二人の少女は再会の約束を契るとトルカの方はぺこりっと再び
 皆に頭を下げて足早にその場を去っていく。少女はやはり、気が狂っていたが
 息子の価値を否定する小娘が和気藹々と目の前で会話をするのを
 快く見つめる事が出来ない女の存在の懸念を感じ取る程度の理性を保持していた。

 オルテガの妻であり、ルクスの母である女の狂気は一般的だからこそ誰にも感知出来なかった。
 彼女は夫であるオルテガは世界を救う冒険者であると狂信しており
 将来的には勇者と称えられる男だと妄信しており
 また、自分自身もその勇者オルテガにふさわしい妻だと確信しており
 息子であるルクスが父の仇を取り、この世界を救ってくれるだろうと狂信し、幻視していた。
 彼女は既に悲劇の舞台じみたこの世界において全て上手くいっていると思っている。
 何と言う健気な自分、(一方的に)愛する(つもりでいる)息子を旅に送り出し、夕暮れ前に
 家事は全てを済ませて、日が暮れてからは帰らぬ夫を待ち続ける自分に泥酔している。
 ちなみにルクスが旅に出てからは旅に出た息子の安否を心配すると言うボーナスも加わり
 更に酔いが回る事を確信していた。酒も薬もなしに脳内麻薬を分泌出来ている彼女にとって
 目の前の小娘達の気まぐれや戯言など最早、眼中になかった。
 そんな些細な事で彼女が幻視している救われた世界は揺るがないのだ。
 さて、小娘(名前すらもう忘れている)が一人消えたところで本題へと話を戻していく。
115楮書生 ◆n2MzhXtooQ :2011/12/25(日) 15:25:27.79 ID:BCdbr2ts0
「はい。洗っておきました。後、何箇所か穴が空いていたので勝手ながら縫っておきましたよ」
「あ、あぁ、その。ありがとうございます、えーと、ではこれは昨晩の」
「いえ、そのまま使って下さい。女が旅をするのに服は何枚あっても無駄ではありませんよ?
 私が昔、主人と旅をした時はやはり困りましたから」
「あ、いえでも……そ、そうなのですか。あ、ではそのお言葉に甘えて」

 そういって、重ねられた手。優しく慈愛に満ちた所作と供に人の温かみがグローブ越しでも伝わってくる。
 そんな幻覚を感じているムスチナを尻目に理想的な母親像を演じ続けているルクスの母の言葉も提案に
 購う動機も心理も露とも思いつかずそのまま受け取る事にした。そのやり取りを見つめながらも
 ルクスはゆっくりと狂気からわずかに現実へと歩み寄ろうとした。
 彼自身もムスチナをきっかけに変化の必要性を感じ取っていた。
 故に彼は、そのわずかな正気を振り絞って彼女に別れを告げようとする。

「じゃ、じゃあ。また、その……どこかで出会う事があったら。僕も頑張るから」
「あ、はい。貴方もおたっしゃで」

 先ほどの母親とのやり取りや去ってしまった僧侶との対応の落差に
 再び狂気に取り込まれてしまうルクスだった。
 しかして、彼の中ではそれでも重要な一歩だったのだろう。母親もなんとなくそれは感じ取れていた。
 否、それが事実であろうと空想であろうとルクスの母親はそれで満足しているのだから
 それ以上の意味はない。こうして、すぐ再会するであろう二人は一旦別れる事になる。

―ほぼ同時刻。ルイーダの酒場にて

 ルイーダの酒場に激震が走る。各々が殺気立たせながらも注視する先には一人の男。
 げらげらと大声で笑いながらも女主人ルイーダが読み上げる書類を聞き入っていた。
 内定が決まったのだ。この男、先日少女にセクハラをし、その後勇者が旅立ち前日に
 その少女にノックアウトされるという事件を生み出した張本人マフィー・ヤンピアラである。
 彼は文盲に近い状態だと自称しているので城から届いた書類を女主人に
 代わりに読み上げてもらっている。耳もすでにいく度の戦いで千切れている部分もあるので
 大声でという注文付きだ。無論、聴覚は正常なのだがそれを打ち明ける事はなかった。
 当然、これらの注文と文章の内容は、聞き耳を立てている周りの人間たち。
 勇者とパーティを組みたいと熱望していた老若男女のプライドを根こそぎへし折っていた。
 実力はともかく人間性においてはかなり問題のある人物であり
 快く「彼ならば」と思える人間は皆無に等しい。侮蔑や殺意を文字通り鼻で笑い転げている。
116楮書生 ◆n2MzhXtooQ :2011/12/25(日) 15:28:37.25 ID:BCdbr2ts0
「ってことでおめでとう。まったく、手間かけさないで」
「わりぃわりぃ、学がねぇからむずかしー言い回しはわかんなくてよぉ」
「これで決まった訳だからもめ事は……ま、外でやってね。
後、勇者の旅立ちの前に怪我して出られないなんてことはない様に」
「おめーは俺のおふくろかぁ? こんな美人だった記憶はねーし
 だったら、押し倒してらぁな」
「この国じゃルイーダの女将ってだけで冒険者全員の母親みたいなもんなのよ」
「そーかい。口先だけの馬鹿ガキばっかりでおふくろは大変だなぁ」

 げらげらとあげた笑い声と共に書類を無作法に受け取るとそのまま
 ビールジョッキを煽っていく。女主人ルイーダは続く言葉を途中で切る。
 おそらく揉め事の回避など不可能だ。そのことは城には既に報告してある。
故に女主人ルイーダは表でやれという飲食店経営者としてのべたな一言を残して
 推移を見捨てることにした。口先や注意でどうこうなるレベルではないのだ。
 勇者の旅に同行するということの意義と重みというのはそれほどまでに重い。
 天の啓示、一世一代の誉れを賜る機会であり、使命感に燃えるのは勿論のこと。
 これを機に過去の罪の恩赦を受ける事だってできるし
 城や貴族への仕官やパトロンの獲得、頭を使えば巨万の富すら掴めるだろう。
 千載一遇のチャンスを期待し、奪われた人間の悪意が酒場の中で渦巻いていた。

「おぅ、何か言いたい面してんな。今日は機嫌が良いから聞いてやるぜ?」
「では、言わせて頂こう。実力は別として君はあまり勇者殿と旅をするには言動が不適格に思える」
「負け犬の遠吠え未満の雑音だな。選んだのは王様だぜ?」
「それでもじゃ。大体、先日も要らぬ騒動を起こしたばかりだったしの。
 あんな子供に悪さばかりを仕込まれるのはよく思えん」
「ぁ? 別にガキなんざ良いも悪いも勝手に覚えるもんだ。
 がっこのせんせーじゃねんだから誰がいちいち仕込むか。あほらしー」 

 年老いた男の魔法使いといかにも説教臭そうな身支度の整った男の僧侶が前に出てそう告げる。
 来やがったといわんばかりににやにやとしながらもカウンターに腰かけたまま
 それを視線で一蹴する。はっと吐き捨てつつも下らない丁寧な言葉で語られる
 罵詈雑言を聞き流していた。彼が求めていたのは小奇麗な体裁ではない。
 その先にあるものだった。それに釣られぬと我慢していた者たちが多い中
 一部の血の気の多い者がわらわらと詰め寄ってきている。
 その様子を見かねて、移動船団で少年少女の師事をしていた女武闘家があきれた様子で口を開く。

「やめておきな。大の大人が揃いも揃って見苦しい」
「他の奴なら兎も角、こんな素行不良を選ばれたなんて納得いかねぇ!」
「ビビってんならすっ込んでろよ、おばさん」
「……はぁ。一応言ったからね。まぁ、好きにしなさい」
117楮書生 ◆n2MzhXtooQ :2011/12/25(日) 15:33:23.58 ID:BCdbr2ts0
 眉間にしわを寄せながらも素行に関しては対して違いがみられない連中の言葉に
 あきれ返る女武闘家。怒る気にもならない。
 食ってかかる十把一絡げの無能達と自分も含め、此処で押し問答をして得られる物は
 あるとすれば、最悪の結果しか見えないからだ。きっと、思い通りになってしまう。
 女武道家はマフィーの狡猾さを見抜いている。故に彼女は投げやりな慈悲を見せたのだが
 当然ソレが吐き捨てられる運命にある事すら解っていた。
 あくまで良心が痛まなぬための最後通告だったことを目の前の無能の群れは気づいていない。
 それらを見かねていたのかいかにも(悪い意味で)真面目そうな男の賢者がまぁまぁと間に入っていく。
 女武闘家にとって大体、この男が言わんとする最低最悪の結果を招く提案は想像にた易い。
 だが、それを避けるべく発言をしようにももはや彼女にとって義理立ても仁義も出す気は失せていた。

「まぁまぁ。各々がた。それならば、勝負をなさってはいかが?」
「ぁ?」
「結局、選んだ王には悪いが異議申し立てが明らかに出る人物に相違はない。
ならば、後は実力を持ってして彼より秀でている事を証明すればよろしい」
「同意の上での決闘という訳じゃな」
「ちょ、あんた……はぁ」

 老若男女の揃いもそろっての馬鹿共達がこの提案に乗ってきた。
 女武闘家はむしろ、これが王の狙いだったのではないかと思うくらいに勘繰りが入るほど
 あさましい結果に辟易していた。呆れ過ぎて言葉が出ない。
 力による権利の奪取。それが起きぬ為の事前の人選。それの意味が解っていない。
 この魔物が跋扈する時代に人間同士で争う事。それで勝った人間が認められる事。
 全てが全て“マフィーとって圧倒的有利な条件”を自ら飲んでいる。
 これから大変な事になってきっとそれの尻拭いをするのはこの提案に乗らない賢い者だ。
 何時の世も、バカの蛮勇と賢者の怖気付きによる自体の悪化を纏めるのは
 バカでも賢しくもない普通の人間だ。

「それ以外収まりそうもなし、何より当人が望んでいるのなら仕方ないだろう?」
「ん〜? 何の事だかぁ〜? ま、ここでぴーちくぱーちく言われるのはうぜぇからな。
 まとめて畳んでやるよ」
「馬鹿が馬鹿につられて馬鹿をやるのが気に入らないけど、首を突っ込むのも馬鹿馬鹿しい」
「ええ。馬鹿と関わり合うのは馬鹿だけで結構」
「同意したいけどあんたとはしたくないわ。黒いわね。責任も取るつもりもないみたいだし」
「後は野となれ山となれば良いのです。茶番はさっさと済ませてしまえばいい。
 私がゆっくり食事を取った後に仕事が大量に舞い込むでしょうし」
118楮書生 ◆n2MzhXtooQ :2011/12/25(日) 15:37:22.32 ID:BCdbr2ts0
 最大限つける悪態を女武闘家は吐き出しながらもジト目で提案した賢者をにらむ。
 もう終わったも同然だ。これで認められてしまうのだ。品行下劣で態度も悪く
 圧倒的に強いであろうこの無法者が馬鹿の馬鹿騒ぎですべてを収め、認可されてしまう。
 女武道闘家は自分が選ばれなかったことよりもそれが屈辱だった。
 武の道を志す者として、外道はいくら強かろうが外道で割り切らなければいけない。
 残念ながら彼女は既に大人になってしまったのだ。
 仕方ないので目の前の男に八つ当たりをして少しの間子供に戻る。
 白い歯を見せているいかにも悪い意味で真面目そうな賢者の笑い声に蹴りの一発を
 入れようとするが男賢者にするりとかわされる。言いだしっぺの癖に既に人だかりからは
 一歩引いていたことが女武闘家には気に入らなかった。

「ったく。まぁーしゃーねぇな。んじゃ、ちょっくらヤッてくるわ。
おぅ! にーちゃん!」
「へ!? はい?」
「俺の預けてた装備一式持ってきてくれ。例の奴だ」
「は、はい」
「後、そうだな。僧侶と神父集めとけ。手加減出来ねーから」

 二人の険悪そうな会話を尻目に嬉しそうにマフィーは
 不満を持つものをハーメルンの笛吹き宜しく、大きな荷物袋を抱えたまま酒場を後にする。
 ぞろぞろと殺意の行列を引連れて、店を出てから十数分後、遠くからわずかに阿鼻叫喚の悲鳴が届く。
 現場に駆け付けた僧侶と神父の視界に広がる光景は凄惨を極めており
 肋骨が折れて動けぬ者、刺し傷を何十か所もある者
 大小構わず漏らしてしまう者、泣き崩れて前を見ることも出来ぬ者
 腕や足の骨をへし折られた者や中には絶命し掛けた者も数多い。
 賢者が予言した通り、蘇生と回復魔術に長けた彼はその無残な成れの果て達を助け
 多額の報酬と信頼を得ていった。そして、女武道家はバカではないが
 その無関心を決め込むほど賢くも無かったのでそれを手伝うことになる。
 この事件は一部の目撃者と噂と多数の犠牲者という犠牲を積み上げ
 実力というマフィー唯一の利点の為の踏み台になり、終結と相成った。
 その日を境にマフィーに何かをモノをいう連中は一人もいなくなり
 旅立ち当日まで滞りなく、準備が進められていた。

次回
 虚救旅団
「診断結果:理系的信仰を導いたきれもの 証明された最善の職業:演算的選択によるそうりょ」
119楮書生 ◆n2MzhXtooQ :2011/12/25(日) 15:45:49.01 ID:BCdbr2ts0
お久しぶりです。忙しいとかまぁ言い訳もアレなのでまぁこんな様ですorz
どうにもアリアハンを抜けるの苦戦しつつ、こう煩わしいんで
いっそ、AA会話と地の文でやる夫スレにした方が早いんじゃね?と思う昨今
120名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/25(日) 23:03:01.47 ID:MKZuSGJ30
続き待ってました!

たくさんのキャラが出てきたので旅立ちのメンバーがどうなるのか予想がつかないですね。
各キャラの紹介文があるとわかりやすいと思いますがいかがでしょうか?
121名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/31(土) 00:27:33.63 ID:eXNntOo70
保守
122名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/31(土) 00:27:47.59 ID:389WJz1x0
おつ!
123名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/01/05(木) 00:09:23.63 ID:CxHWUUA+0
あけました
124名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/01/11(水) 16:23:24.82 ID:V7ECV3VH0
ほしゅ
125名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/01/17(火) 17:42:53.21 ID:cK7gUaBI0
保守
126名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/01/23(月) 13:03:32.66 ID:xuSCTWZl0
保守しとこう
127名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/01/30(月) 21:07:35.32 ID:9v1BNSq00
ほしゅ
128名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/03(金) 11:48:50.76 ID:2JSiv+420
節分保守
129名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/10(金) 21:01:49.12 ID:O6risM4L0
1週間目の保守
130名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/17(金) 15:00:03.76 ID:9YZnmkX10
hoshu
131名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/24(金) 01:14:48.48 ID:753MX8XC0
敢えて金曜日の保守。
132名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/02(金) 21:55:26.71 ID:DmHBvjsv0
職人さんを待って保守
133名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/06(火) 22:59:45.72 ID:GhJONIPY0
ほしゅ
134堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 17:30:10.15 ID:RzIxtv8A0
夜の帳が下りる。

それは言葉の通り人々の舞台の休幕を意味し、魔物の世界の訪れを告げていた。

そんな時刻、闇を更に濃く塗り込める鬱蒼とした森のなかで、多少なりと開けた場所に用意した魔物避けの焚き火を瞳に映しながら、少年は座っていた
幼さと逞しさが入り混じる年頃にあって、顔付きは年相応と見える。
しかしながら彼を只の家出少年と見なす者は恐らくいないだろう。
そういった解釈をするには、少年の体躯はあまりにも現実的に鍛えられていたし、
この闇にも呑まれることなく浮かび上がった灰白の頭髪が、否が応にも彼の歩んできた過去を想像させたからだ。

小気味良く燃える火のおかげで暖はとれるものの、元が湿った森の地面である。
常人には決して居心地が良いとはいえないが、少年は気にしなかった。
町や村の外では腰を落ち着けられるというだけで充分であり、それ以外の機能を比較する考えを少年は持たなかったからである。
その態度は、少年がそれだけこの生活に慣れていることの証でもあった。

辺りには枝が燃え弾ける音と、地虫の鳴き声以外に音はない。幸いにして今夜は月もある。これなら魔物の接近を許し過ぎることもないだろう。

少年は積んであった太めの枝を火に放ると、眼を閉じた。
135堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 17:35:44.36 ID:RzIxtv8A0
次に彼が目を覚ましたのは、まだ太陽が姿を見せない未明のことだった。

少年は随分と火勢の弱まった焚き火に素早く枝を追加すると、
薄い眠りのなかで微かに聞こえた音の正体を探るべく、自身の呼吸をも小さくした。
全神経を集中させ、耳を澄ませる。勘違いでは、ない。

彼のいる場所から西に幾分か分け入ったあたりで、魔物の唸り声と草木を薙ぐ音がする。
彼は地面に置いてあった剣を拾い上げると、背に回し、皮のベルトで締めた。

通常の魔物は獲物を狩るときに音を立てない。
だが、その魔物はすでに明らかな興奮状態にある。
つまり状況は、単なる狩りでなく、すでに戦いへと変化しているのだ。
彼は小さく舌を打つと、置いてあった荷物を腰帯に括り付けた。
戦いの行方がどうであれ、興奮状態の魔物は相手にしたくない。
冷静な判断を失った相手を撃退するには大体が力任せにならざるを得ないし、その攻防はこの森では目立ち過ぎるのだ。まず不毛な戦いの連続になるだろう。
彼が再び燃え盛り始めた焚き火を処理し、早くこの場を離れようとした直後だった。

魔物とは違う声が耳に届いた。

苦々しく呟き、彼は声のした方角へと駆け出す。

それは休幕した世界の声であり、夜の世界に相応しくない声であった――。
―。
136堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 17:41:11.08 ID:RzIxtv8A0

いわゆる野生の獣が放つ威嚇音というのは、その響きからして、大地を震わせるが如く、大気を突き刺すが如くに発せられる。
互いの生命の危険を可能な限り排除するために、互いに利益の少ないことを語ろうとする。
無論交渉が決裂することは珍しくない、しかしそれでも獣達は、其処に確かな生への敬意を感じ、その牙と爪で血が流れる前に語り合う。

それは、生者としての取り決めでもあるのだ。

だからこそ、その手の交渉は、彼等にとって全く通用しないだろうと少女は思った。
世界の終わりの体現者、この骸の魔物達には生への嫉妬はあっても敬意はない。
ときに頭蓋を砕かれ、ときに手足を失って、この森に打ち捨てられた者達。
そういった葬られ方をした死者は魔の力に染まりやすい、そして、人を襲う。
少女は腰元の麻袋から聖水の小瓶を取り出すと、自分を囲むようにしてぐるりと地面へ振りまいた。
穏やかな弱光を放つ聖水の結界により、骸骨達の歩みが少女の数歩手前で止まる。

「ォおおおおオオ……」

通風音に、そのまま怨念を纏わせたように重い呻きが、骸骨達の身体から響く。
これでしばらくは近付けないはずだ、少女は空瓶をしまいながら考える。
聖水の残りはそれほどない、このままでは時間とともに更に追い込まれてしまうだろう。
かといって、この森の中を太陽が昇るまで逃げるのも良策ではない、と少女は思った。
いくら月があるとはいえ、少女にとっては不慣れな森である。単純な逃走劇など現実的ではない。
とにかく考えろ、考えるのだ。
此の場を切り抜ける方法を。
137堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 17:44:10.04 ID:RzIxtv8A0
結界に阻まれた骸骨達が、焦れるように足元の雑草を少女に向かって投げつける。
これといって武器を持たない彼等は、接近を防ぎさえすればほぼ無力化するのだ。

「無駄よ。少なくとも四半刻は聖水の効力は消えはしない」

少女は飛来する草や土を煩そうに払いつつも、内心で安堵した。
周辺に石や果実といった投擲物が見当たらなかったからである。
もしそれを武器に使われていたら対応出来なかったかもしれない、まだまだ判断能力が不十分だ。
自戒しつつ、少女が改めて方策に考えを巡らせようとしたときだった。
突如、骸骨達が進行を始めた。

「どうしてッ……!」

少女が驚愕の声を上げている隙に、骸骨達が距離を縮める。新たな聖水を取り出す時間がない。
正面の骸骨が振り下ろす腕を咄嗟に交わしたものの、少女はバランスを崩して地面に倒れ込んだ。
結界が突破された衝撃に惑わされたまま、頭上で振り上げられた白骨の拳を少女は見つめる。

こんなところで自分は終わるのか――。

少女が眼を閉じる。
頭部へ拳が振り下ろされる。
一撃のもとに気絶した少女の身体に骸骨達が貪りつく。
肉が裂ける。
そうして志半ばにして倒れた少女もまた――。
138堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 17:46:46.80 ID:RzIxtv8A0
しかし、いくら経っても、再び拳が振り下ろされることはなかった。
少女が異変に眼を開いたとき、其処にいたのは一人の少年だった。
夜空に浮かぶ黄金の月、その影のような灰白の髪を持つ少年が、少女と拳を振り下ろそうとした骸骨の間に、立っていた。

「俺はシイナ。傭兵だ」

シイナは少女に振り向かず、短く言った。呆気にとられたまま少女はその後姿を眺める。青藍の厚衣、なめし皮の靴、極一般的な旅装だ。

「おいあんた、どうする?」

その問い掛けで、やっと目醒めたかのように少女は声をあげた。

「ど、どうするって……」

「だから、助けたほうがいいのかって、聞いてんだっ」

少年は銅の剣を水平にして骸骨に轡を噛ませていたが、語気を荒げると同時に骸骨の腰骨を思い切り蹴り付けた。
対峙していた骸骨がよろめきながら後退し、取り巻きの骸骨達が苛つくように骨をがしゃがしゃと打ち鳴らす。

「おい、早く答えろよ。助けなくてもいいなら俺は行くぞ」

少年の口調に、少女は半ば気圧されるように答えた。

「……た、助けて」

「了解、契約成立だ」

少年は剣を構え直す。月が少年の白髪と、骨の白とを照らす。
少女はその入り乱れる様を、ただぼんやりと、後ろから眺めていた――。
139堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 17:49:32.23 ID:RzIxtv8A0
広場に戻ると、幸運にも火種と薪がまだ残っていたので、シイナはそれを新たな焚き火にして腰を下ろした。
小型だが問題ない、今に空が白む時刻だとシイナは思った。
朝になれば骸骨共に気を払わずに済む、奴等はあくまでも夜の住人だからだ。

「さて、と」

シイナは焚き火を挟んで向かいに少女を座らせた。
泥で汚れた淡黄のローブに身を包み、長い睫毛を地面へ落としている。
シイナの位置から表情までは伺えなかったが、揺らめく火を見て落ち着いたのだろう、先程と比べれば幾分血の気が戻って見えた。

「まず仕事の話をしようか」

シイナは労わりなど不要といった口調で、簡潔に述べた。
少女が、大きな瞳をシイナに向ける。

「初めにも言ったが、俺は傭兵だ。んで依頼の通りにあの骸骨共からあんたを……」

其処まで喋って初めて、シイナはまだ少女の名前を知らないことに気付いた。
紹介と戦いが、通常とは逆の順序で訪れたため、頭から抜け落ちてしまっていたのだ。

「そういや、名前は?」

少女は逡巡するように視線を逸らしたあと、向き直って答えた。

「名前は、カナリア」

カナリアの声は、名前とは裏腹に抑制が効いていて、辺りに凛と響いた。
140堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 17:52:35.96 ID:RzIxtv8A0
「カナリア?」

シイナは思わず復唱した。
大きな理由はない、少女の髪色が金糸雀というより寧ろスライムベスの橙に近いことが、何となく可笑しかったのだ。
声質も外見も、金糸雀には随分と当てはまらない。
カナリアが訝しむ顔をしたので、彼は慌てて言葉を続けた。

「いや何でもねぇ。じゃあカナリア、早速だが報酬を頂く」

「……報酬?」

言葉を解読するように、今度はカナリアが繰り返して呟く。

「そうだ、何度もいうが俺は傭兵なんだ。無料での人助けなんて絶対しねぇ。必ず対価を頂く」

シイナは当然のように右手を広げてカナリアに突き出した。

「だから礼も要らねぇ、あれは傭兵としての仕事だからな。俺が要るのは働きに応じた金だけだ」

カナリアは息を詰まらせて、シイナの顔を眺めた。とても冗談を言っているようには見えない。

「まぁ200Gってとこだな。状況が状況だったから事後設定になっちまって悪いが、良心的だろ?」

「……200G」

200Gといえば、一般的な夫婦が七日は贅沢に飲み食いしても足りるくらいの金額だ。
傭兵の契約金の基準がどれくらいなのかカナリアには分からなかったが、少なくとも普通の人間が町の外に持ち歩くような額でないのは確かである。
141堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 17:55:07.58 ID:RzIxtv8A0
「ああ、怪我があるなら報告してくれよな。契約後のものなら保障対象として割引くぜ。単純な値段の交渉は一切受け付けねぇが」

そしてカナリアは、シイナの何処までも直接的な態度から、実際には今も安全な状況ではないのだということを理解した。
傭兵は、金の為なら誇りをも捨てて仕事をすると聞いたことがある。
彼等の行動には第一に金儲けがある、いや、正確にはそれ以外にないのだ。
多くの人間が判断の基軸とする道徳や倫理、そして正義に、彼等は価値を見出さない。
彼等はそれが金儲けに繋がらないことを知っているし、ならば自分達には不必要なものだと決めつけている。
ときに正義漢のような振る舞いをすることがあっても、その背後には必ず金がある。
彼等はそれほどまでに金を信奉する人種なのだ。
だから、金銭が絡んだときの彼等は、異常なほど冷酷な行動を取ることがあるとカナリアは聞いていた。
契約内容の履行に対して、自分に報酬を支払う能力がないと知れば、どんな手段を取るのだろうかと想像しただけで、カナリアの背筋は冷たくなった。

「もしも」

カナリアはシイナを注視しつつ、ゆっくりと尋ねた。

「もしもお金がなかったら?」

そして言葉を発しながら、この位置取りは役に立つと思った。
咄嗟には腕を伸ばせないし、焚き火を蹴り上げてやれば逃げ出すだけの隙もつくれる。
142堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 17:57:15.98 ID:RzIxtv8A0

「金がなかったら、だと?」

シイナが事務的に繰り返す。
その口調に、驚きは窺えない。
やはり元より普通なら支払い不能だと分かっているのだ。
分かっていて自分に吹っかけているのだ。
カナリアはシイナから見えないよう慎重に右手に土を握り込んだ。

「文無しかよ。だったら――」

シイナがその腰を浮かせたので、咄嗟にカナリアが右手を振り上げたときだった。
動作を予知していたようにシイナが一足飛びでカナリアの眼前に着地し、彼女を横に引き倒した。
完全な先手に全く対応出来ず、カナリアは悲鳴を上げて地面へと転がる。
その動きはカナリアの想像よりも遥かに素早く、躊躇いがなかった。
やはり未だ安心出来る状況ではなかったのだ。

彼女の心を、敗北感が包む。

土から漂う仄かな腐臭に、カナリアが己の運命を重ねたとき、耳を劈く金属音が夜空に打ち上げられた。
143堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 20:49:26.73 ID:RzIxtv8A0

「やかましい日だな、ったく」

シイナが何時の間にか背中から剣を抜いている。
そして音の出処は、カナリアの直ぐ隣、長剣の斬撃をシイナが受け止めたことによるものだった。
強襲の主は先刻の骸骨と、外見上では目立った違いはない。
あるとすればその体配りと、得物の有無。

「死霊の騎士……!?」

カナリアは身体を起こすと、構えながら相手を見据えた。
唐突な場面展開に、必死に頭を働かせる。

「さっきの騒ぎで、この辺りの頭を起こしちまったみてーだ」

シイナは騎士との競り合いを乱暴に押し返すと、カナリアを庇うように対峙する位置を変えた。
死霊の騎士はその名の通り、生前に騎士だった者が魔力に狂わされることで動き出した存在だ。
その誕生には大量の魔力蓄積が必要なため、絶対数は少ないものの、実力を換算すれば只の骸骨に囲まれるよりも遥かに質が悪い。
シイナは当初の予想が的中してしまったことを苦く思いながらも、構えは乱さずに相手を睨みつけた。
死霊の騎士も生前の流派だろうか、柳が如くゆらりと腕を降り、剣を構える。
144堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 20:55:22.36 ID:RzIxtv8A0

「これでも、喰らいなさい!」

両者の睨み合いの空気を中断するように、カナリアはシイナの背後から躍り出ると、取り出した聖水を瓶ごと死霊の騎士に投げつけた。
瓶が砕けて、加護を受けた浄水が騎士の身体を濡らす。
聖水は結界を生めるほどに清められた液体だ。
魔の力を帯びる者がそれを身体に受ければ人間で云う火傷のような怪我を負う。
骸骨との戦いでは、敵の数に対して聖水が不足していたため使えなかったが、単体相手なら効果的である。
だがカナリアの予想に反して、死霊の騎士は微動だにしなかった。

「無駄だ。こいつに聖水は効かねーよ。大人しく離れてろ」

「なぜ、効かないの……」

困惑したカナリアが後退りをする間も、両者は視線をずらさない。
騎士の亡者も、注意すべきはシイナだと理解しているのだ。

「ここの植物は、沼の毒素を溜め込んで成長してる。それこそ聖水の効力を打ち消すほどな。死霊の騎士くらいの知能があれば、人間への対策に、予め植物のエキスを身体や武器に纏っていても変じゃねぇ」

シイナはさも自明の事柄のように説明すると、ふっと息をついた。

「だから、こいつを倒すなら」

シイナは真っ直ぐに騎士との距離を詰めると、再び金属音を響かせて鍔迫り合いの格好を取った。

「力ずくしかねーんだ」
145堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 21:00:03.61 ID:RzIxtv8A0

無茶だ、とカナリアは思った。

確かに骸骨を相手にしたとき、シイナは大胆な立ち回りで押し切ってしまった。
しかし、それは相手が素手だったからだ。
死霊の騎士が持っている長剣は、刃こぼれこそしているものの、恐らくは鋼だろう。
何度も銅の剣で受けられるものでは到底ない、単純に金属としての硬度が劣る。

シイナの武器が破壊されるのは時間の問題だと、カナリアが考えた矢先だった。

鈍い音がして、死霊の騎士の長剣が折れた。

その光景にカナリアが驚く暇もなく、シイナは相手を蹴倒すと、馬乗りに飛びかかった。
迷いなく剣をその髑髏の眉間に突き立て、全身の力を込めて一気に貫く。
すると、もがいていた死霊の騎士から、溶けるように力が抜けた。

「……倒した、の?」

何故、鋼に打ち勝てたのかという疑問を抱きつつも、カナリアが声を掛ける。

「いや、正確には魔力を抜いただけだ。只の亡骸には戻ったが、時間が経てば復活しちまうだろーな。僧侶がいなけりゃ供養は出来ねー」

口調は余裕そのものといった感じだったが、息を整えているところを見ると相当緊迫した対峙だったのだろう。

シイナが剣を納める姿を、カナリアは所在無げに眺めた。
146堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 21:04:29.96 ID:RzIxtv8A0
そうしてみると、襲撃によって一時取り除かれていた傭兵への警戒心が、時間とともに再び頭を擡げてきた。
彼は戦闘で疲労している、逃げるのは容易い。
いや、彼の所作を見る限り、今しか逃げる機会がないという方が正しいだろうか。
こうして佇んでいる間も、彼は私の始末をつける腹づもりかもしれないのだ。
――だが、何故だろう。足が動こうとしないのは――そんなことをカナリアが思っていると、シイナの身体が不自然な方向へ泳いだ。

「……ッ!」

シイナが呻き声を上げる。
カナリアが思わず駆け寄ると、脇腹の辺りが裂け、血が流れていた。

「一矢報いる、ってか。やるじゃねーか……!」

シイナが視線をやると、地面に倒れたまま腕だけを上げていた死霊の騎士が、笑うようにかたかたと顎を鳴らした。
抜け出る魔力を振り絞って、折れた剣先を投げつけたのだろう。
亡者は糸がきれるように腕を降ろすと、完全に沈黙した。

「畜生……油断した」

「ちょっと、大丈夫!?」

カナリアが慌てて肩を貸そうとする。
出血から見て傷は深くなさそうだが、毒素を纏っていた剣だ。問題がないとは言い切れない。
147堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 21:08:22.34 ID:RzIxtv8A0
「……大丈夫だ。この程度、じっとしてりゃ勝手に治る」

シイナはカナリアの肩を断って、樹木に背中を預けた。
飲料水の貯められた皮袋から、傷口に向かって水をかける。
血を流しながら観察すると、皮膚の一部が濁ったように変色している。

典型的な毒の反応だ。

一向に血が止まらないところを見ると治癒力障害を引き起こす種類のものだろう。
シイナが傷の手当について考え込んでいると、カナリアが道具袋から草束を差し出した。
それは、解毒作用のある薬草だった。

「……なんだ? もしかして、それで支払いを誤魔化すつもりじゃねーだろーな」

「別に誤魔化すつもりなんてないわよ」

「なら要らねー。これは俺が自衛の結果、ミスったんだ。だから報酬も発生しねぇ」

「そういうのじゃなくて、これは単なるお礼よ」

カナリアは草束をシイナの横に放ると、少し離れた木に同じように背中を預けた。

「お礼? 何を訳の分からねーことを」

「……今の私に支払能力はない。だから、お金が返せるまでは貴方と一緒にいるわ」

シイナの言葉を無視するように、カナリアは口早に話す。

「はッ、随分と律儀じゃねーか。自分でもなんだが、逃げるチャンスだと思うぜ?」

流石のシイナも怪我を押してまで追いかけて、取り立てようとは思わない。
それはあまりに利益の少ない行動だ。
そしてカナリア自身も、仮にいま逃げ出せば確実に逃げ切れるだろうと思う。
148堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 21:11:41.28 ID:RzIxtv8A0
しかし、そうしようとはしない――カナリアは自分のなかにあった暗い考えが晴れていくような気持ちだった。
そして、もしかしたら心の何処かで、最初から自分は気付いていたのかもしれないと思った。
そう、もしも此処がシイナのベースキャンプなら、自分が骸骨に襲われたときに何故彼は近くに来ていたのだろう。
例えそれが偶然だったとしても、金銭を持っているかも分からない女を、まだ契約も結んでいない無関係の女を、見捨てることは容易かったはずだ。
少なくとも彼女が知っている傭兵はそんな見込みのない行動には出ない。
そしてまた、彼が本当に金の為だけにあらゆる手段を用いる人種ならば、どうして初めから私を拘束しなかったのだろう。
どうして死霊の騎士からの襲撃を、防いでくれたのだろう。
彼は自衛の為だといった、しかしそれは真実ではないとカナリアは思った。

事実ではあるにしても、真実ではない。

何故なら、カナリアには見えていたからだ。

死霊の騎士が最後に放った攻撃が自分を狙っていたものだったことを――シイナはそれを、すんでのところで身を挺して防いでくれた。
149堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 21:14:50.98 ID:RzIxtv8A0

「おい、逃げねーのかよ」

シイナが喚くように繰り返す。カナリアはそれを横目でちらりと見る。

「……いいのよ」

そう小さく答えて、膝の間に顔をうずめた。そして、それっきり黙った。

一方のシイナも、カナリアがもう喋る気がないのだということを知ると「勝手にしろ」と吐き捨て、傍らの薬草を手に取った。
薬草を両手で潰すように揉むと、独特の鼻を突きぬける匂いが湧き上がった。
葉が細かくなるまで揉み潰し、それを傷口一帯に擦り付ける。
これで解毒は問題ないだろう、血が止まれば、直に傷も塞がる。
シイナは眠ったように沈黙しているカナリアを眺めた。
膝を抱える腕が、ローブの裾から覗いている。
焚火に照らされて杏子色に染まった肌は、色こそ健康的なものの、何か予感めいたものをシイナに覚えさせた。
年齢は自分とそう変わらないだろう少女が、どうしてこんな森の中に一人だったのか。
決して豪華でない服装を見る限り、馬車での移動中に襲われて落ちたということもなさそうだが、かといって旅慣れているようにも思えない。
初めに彼女が襲われていた場所には火はなかった、一端の旅人なら真夜中に火も起こさず動くことなど有り得ない。

そこまで考えてシイナは、答えが出るものではないかと溜め息をついた。

何時の間にか空が白んでいる。

そういえば久しぶりに他人と会話した夜だったな、とシイナは心の中で呟いた。

そして、夜が明けた。
150堕壱 ◆stOzyk04Oc :2012/03/09(金) 21:21:37.43 ID:RzIxtv8A0
はい。ということで僭越ながらプロローグを投稿させていただきました。
ちなみに今回はキーワードが全く出てきませんでしたが、一応DQ1を下地にしています。

よろしくおねがいします。
151名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/10(土) 23:28:32.82 ID:dkkgSuhA0
職人キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!

DQ1良いねー!
本編とどう絡んでくるかも見物ですな。
ワケアリな二人の過去も楽しみ。
待つのには慣れてるので、マイペースで完結させて下さいな。

152名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/10(土) 23:49:06.49 ID:TTAc9iEQ0
おお新たな職人さんが!
この先を楽しみにしています。

状況の書き方が風景を想像できるようになっていて読んでいて面白いです
153名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/16(金) 17:53:32.95 ID:JGZiexsG0
保守
154名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/24(土) 07:42:20.66 ID:3iRUwiz30
ほしゅ
155名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/31(土) 16:12:59.73 ID:EOjoowhk0
職人さん待ちで保守
156名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/07(土) 19:19:49.09 ID:bsTaYzhG0
DQ1の人の続きはまだかな
157名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/16(月) 08:37:01.82 ID:r9I8hCdx0
保守
158名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/21(土) 13:26:32.11 ID:EhxC3MQj0
DQのSSスレって今ここだけ?
159名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/22(日) 00:56:59.91 ID:xUYsY0xV0
クリフト、アリーナのスレとかホイミンスレとかあるよ
160名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/23(月) 08:22:05.03 ID:pS62JhCwO
シイナとカナリアの続き待ってるよー。wktk
161名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/02(水) 23:08:37.57 ID:h31ApcpB0
ほしゅ
162名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/08(火) 21:20:24.40 ID:PqKUGtA60
続きを待ちつつ保守
163楮書生 ◆n2MzhXtooQ :2012/05/13(日) 02:23:19.29 ID:O2RwUy7J0
こっちは規制抜けてるかなテスト?
164名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/13(日) 16:52:53.20 ID:Q4KcDBsY0
楮書生さん規制されていたんですか。
規制時の書き込み手段として運用情報臨時板にあるスレッドで
書き込み代行をお願いするというのがありますが長文は難しいかもしれませんね
こちらも規制されて代行で書き込みです
165名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/19(土) 19:36:57.45 ID:bjPzqIR60
保守
166名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/26(土) 22:46:14.43 ID:3gdWTKxU0
ほしゅ
167名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/03(日) 09:01:29.98 ID:ui/nav5F0
ほす
168名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/10(日) 10:37:24.92 ID:uJLX9qLX0
保守
169名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/17(日) 02:22:25.96 ID:DB5MArtf0
職人さんも規制かな?保守
170名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/23(土) 00:58:28.81 ID:vLlysS5S0
ほしゅ
171名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/30(土) 18:52:40.14 ID:8eBgq9AE0
172名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/05(木) 15:36:48.09 ID:3wVMjXUYO
革新
173名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/11(水) 22:56:35.49 ID:hqV4TMMB0
保守
174名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/19(木) 22:45:52.46 ID:yQsuJ2H70
職人さん待ち
175YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/23(月) 23:58:42.65 ID:lgLgwILZ0
Interlude. side dragon. 『Fallen Daemon』

 天空の父たる日輪が彼方に沈む。
 赤みがかった昼の空は、やがて星の瞬きに満たされて夜が始まる。
 星たちの先陣を切るのは、地平の彼方に煌く一番星。

 ――――――宵の明星、ルシファー。

 神々の教えに、サタンとか、悪魔の王とか呼ばれる魔星はけれど、その光で人々を魅了してやまない。
 それはかの星が、元は神々の側に仕えるモノであったがゆえか。
 そして、その謂れはこの空の決闘を如何に皮肉ったものか。

 ――――――今宵、アレフガルドの民は二つの明星を見る。

 天翔ける竜に、悪魔が追い縋る。
 魔性すら湛えた金色の皮膚は見る影もなく傷つき、毒々しい血を滲ませる。
 人に倍する体躯を空へと踊らす翼は所々破けて、暴風のようだった突進は嘘のように衰えている。
 雄雄しかった三又の槍は、竜との百近い激突で欠け、軋み、最早棒切れに等しい。
 研鑽した魔道の術も悉くを破られ―――それでも、黄金の悪魔は竜に迫る。
176YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 00:03:17.26 ID:xR6R6NPw0
 悪魔は竜の命を欲するか。
 はたまた、何かに強いられてそうするのか。
 今となっては、他の誰も知ることは出来ない。
 
〔――――――届ケ―――〕

 黄金の悪魔は、一途な願いを胸に夜空を翔ける。ただそれだけで、消えかかった体の熱は何度でも燃え盛った。
 竜は―――かつて竜の王を名乗ったモノの末裔は、少女のかんばせの冷たい目で悪魔を見下ろす。
177YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 01:06:44.36 ID:xR6R6NPw0
 苦々しく、小さな歯噛みを吐き捨てて。
 竜は迫り来る悪魔を置き去りに、天を覆わんばかりの翼を一振り、背負った月の彼方に消える。

 竜は、流星となって舞い戻る。
 新たにその手に現れたのは、巨人の背丈ほども長大な、黒く禍々しい■■―――。
 天から降る星に等しい力を載せたまま、切っ先が突き出される。
178YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 01:10:48.86 ID:xR6R6NPw0
 満身創痍の悪魔を打ち倒して余りあろう、無慈悲なとどめの一撃を、それでも三又の槍は臆することなく迎え撃つ。

 ――――――否、そもそも。悪魔がこの一戦で臆する理由などはなく―――。

〔――――――届ケ…ッ!!〕

 槍が砕ける。
 翼が千切れ飛ぶ。
 一夜限りの二つ目の明星は、呑まれるように大地へと―――。
179YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 01:12:54.48 ID:xR6R6NPw0
 
 ――――――“堕ちた悪魔”が、求めてやまなかったモノは、たった一つ。

 ………竜の慟哭が、死に絶えた夜に木霊する。
 
 ◇ ◇ ◇
180YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 18:57:49.39 ID:xR6R6NPw0
 
 〜起〜 『10 years ago.』

 深い地の底の城。
 かつて竜の王が遺した根城の玉座の前で、今日もそのひ孫は惰眠を貪る。
 ただその姿は、何がどう行き違ったのか、凶悪な竜ではなく年端もいかない人間の少女のものだった。
 その有様は、少女の愛らしさを無残なほど台無しにする惨状である。
181YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 18:58:51.49 ID:xR6R6NPw0
 絨毯が敷かれただけの硬い床に、四肢と申し訳程度に竜の面影を残す尻尾。
 そしてついでに、かけられていた大きめの毛布を、諸共豪快に投げ出して高いびきをかく姿は、もはや単なる酔っ払いの中年だった。
 …否、真実として、少女は桁はずれた大酒飲みであり。
 それは周囲に散乱する酒の空き瓶からも推して知るべし、であるのだがその話は今はよそう。
 少女の寝息だけが響く玉座に、酒瓶のぶつかる音が響く。
 ―――しまった、と空瓶を蹴ってしまった主は慌てた。
 しかしそんな程度で、痛快なほど熟睡する少女が目覚めるはずがない。そんなことは“彼”も解りきっているのだが…。
 寝返りですら応えない少女の体が、遠慮がちに揺すぶられる。
「―――んぅ?………なんじゃ、ベビーサたん」
 触れれば意外なほどあっけなく、少女はいらえを返した。
182YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 19:05:57.98 ID:xR6R6NPw0
 気だるげに眼を擦り、くあ、と大きな欠伸をする彼女の目に映ったのは、見慣れた幼い悪魔であった。
 人の子供より小さな体に、紫色の皮膚。控えめに悪魔であることを主張する、ちょんと飛び出た翼と耳。
 ぺろりと垂れた舌べらと大きなフォークじみた得物などは愛嬌すら湛え、人を震え上がらせる悪鬼の姿とは程遠い。
183YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 19:09:09.39 ID:xR6R6NPw0
 ベビーサ、と呼ばれた小悪魔は、身振り手振りでまだ寝ぼけ眼の少女に何事かを訴える。
「………飯?ンなもんわしを起こさんでも勝手に食えばよかろう。
 一週間は起こすなと―――なに、今日がその一週間後?もう日が暮れる…っ?馬鹿っ、なぜそれを早く言わんっ!」
 不承不承な対応から一転、があーっと理不尽にがなり立てる少女を前に、ベビーサは小さな体を更に小さくして項垂れる。
184YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 19:11:47.16 ID:xR6R6NPw0
 少女はそんな彼などお構いなしに、素早く寝癖や一張羅を整えると、さっさと玉座を後にする。
 ベビーサは、慌てて数十年の付き合いになる主人の後を追って、回廊に出る。
 ―――長く、暗い回廊。
 沢山の仲間が去り、今や少女と二人きりになってしまった城は、彼にはどれだけ経っても慣れない広さだった。
185YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 19:15:59.99 ID:xR6R6NPw0
 暗い台所。山盛りの胡桃を一掴みし、剥きもしないでばりばりと咀嚼し、少女は呆れた溜息をついた。
「…そなたのう。本当に、それで人界に紛れられると思うのか?」
 テーブルの向こうでしょげている(ように見える)のは、大きな猫―――の皮。いやさ、着ぐるみだった。
186YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 20:24:36.24 ID:xR6R6NPw0
 人間社会の見物を趣味とする、この変わり者の竜の遠征に付き添うためにと一週間、ベビーサなりに知恵を絞った結果がこれである。
 モノは悪くなかった。だがベビーサの矮躯は、逆立ちしたってソレを纏うには不足だった。
 これでは猫の干物が這いずっているようにしか見えない。人混みは騒然であろう。
187YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 20:32:32.29 ID:xR6R6NPw0
「よい。わしの予備のマントを被れ。で、表に出てくるな。往来に姿を晒さねば、ま、バレぬであろうよ」
 世話が焼ける、という風に溜息を重ね、少女は手招きする。
 猫の干物を脱ぎ、ベビーサは言われるままに食事に加わった。
「しかしなんじゃな。この献立では、まるで朝飯のようじゃのう」
188YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 20:39:16.98 ID:xR6R6NPw0
 小鉢たっぷりの蜂蜜に巨大なビスケット菓子をどぷっ、と突っ込んで齧りながら、少女は苦笑いする。
 最近、人間風―――少なくとも食材に限っていえば―――の食事に凝りだした主のために、寝起きならばこういうものがいいのではと自分なりに厳選したことも告げられず、ベビーサはまた小さくなってしまう。
 そのまま、食卓は無言に包まれる。
189YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 20:42:54.81 ID:xR6R6NPw0
 やがて少女の沈黙に耐えかねて、ベビーサはかねてからの疑問を口にする。
「なに?なぜいつも日没に起こさせるのか?
 …そんなもん、明るいうちに発ったら、飛んでる姿を見られるからに決まっておろうが」
 口を尖らせて牛乳を啜りながら、少女は愚痴っぽく答える。
 この城は周辺含め、表向きはただの廃墟で、何も棲んでいないことになっている。
190YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 20:55:40.37 ID:xR6R6NPw0
 そこから竜やら翼の生えた少女やらの異物が飛び立つ様を万一誰かに見られでもしたら、人間たちは大挙して押し寄せてくる。
 そうならないための配慮を、主たる少女はきちんとしているのだ。
 ―――ああなるほど。酒飲みで、力任せで、変わり者でも、この方はバカなオイラなんかじゃ及ばないようなことまで考えているんだ―――。
「てい」
191YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 21:01:33.79 ID:xR6R6NPw0
 得心するベビーサの額を、少女の指が弾いた。
「今、何か失礼なことを考えておったろう?」
 まったく、と不機嫌そうに口をへの字に曲げて、椅子から転げ落ちたベビーサを見下ろす少女。
 しゅんとして、一緒に落ちたイモリの串焼き―――これは自分用だ―――を探してテーブルに戻ると、入れ替わりに少女が立ち上がっていた。
192YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 21:04:15.24 ID:xR6R6NPw0
 背を向けて台所を出ようとする少女に、ベビーサは本気で彼女の不興を買ってしまったのかと、おろおろし始めた。
「―――丁度良い所に来た。ちと、準備運動してくる」
 そんな彼を他所に、少女はごきごきと拳を鳴らしながら嗤った。
193YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 21:07:08.08 ID:xR6R6NPw0

 遠征の支度を終えてベビーサが地上に出る頃には、全ては終わっていた。
 辺り一面に散らばる夥しい魔物の、骸。残骸。肉片。
「ふーむ。今回のはもそっと骨がありそうに思えたのじゃが。こんなものかのう?」
 廃城を染め上げる色とりどりの鮮血の放つ臭気の真ん中で、少女はうん、と伸びをする。
194YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 21:09:47.27 ID:xR6R6NPw0
 魔物たちは、最近勢力を増してきている邪教の手勢だった。
 ときどきこうして、少女の根城を奪おうと刺客を送ってくる。
 だがその度に、彼女はその有り余る竜の暴力によって全てを薙ぎ払っている。―――例え、留守中に占拠されようとも、である。
「さーて飯も食ったし肩慣らしもぼちぼち。そろそろ往くか、ベビーサたん」
195YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 21:14:33.66 ID:xR6R6NPw0
 少女は振り返り、包みを抱えたベビーサの手を引く。
 今日の遠征は、彼にとって初めての人界への進出だった。
 内心少し怯えながら、行き先と目的を訊ねる。だが、その不安もすぐに消えた。
196YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 21:17:02.33 ID:xR6R6NPw0
「―――うむ!南の海に、でかい格闘場をこしらえた国があってな?
 そこの王が、人間の中でも大層精強であると聞く!
 年に一度、大々的に挑戦者との決闘を披露する大会を開いておるようじゃから、ちっと手合わせ願おうと思うのじゃ―――」
 少女は、それは嬉しそうに見知らぬ王のことを語って聞かせる。
 …ベビーサには、彼女の話はあまり理解できなかった。
197YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 21:19:54.61 ID:xR6R6NPw0
 だが、彼は少女が強者を語る時、また矛を交えた時に見せる屈託のない笑顔が好きで堪らなかった。
 多くの同僚の魔物たちが、人に害意なきこの竜の少女の元を離れても、ベビーサだけは留まり続ける理由はそれだった。
「―――こらっ聞いておるのか?ベビーサたんっ!」
 ぺちん、とまた、少女の指が呆けたベビーサの額を弾く。
198YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 21:24:09.33 ID:xR6R6NPw0

〔―――ごめんなさい………“リュウちゃん”―――〕

 ベビーサは、主君に対するものとしては馴れ馴れしすぎる愛称に、むず痒さを禁じえない。
 けれどこう呼ばないと、少女は甚くへそを曲げてしまうのだ。…それでなくとも、今は醜態を晒したばかりだというのに。
「まったく。ほれ、もたもたしてると大会に間に合わぬぞっ」
199名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/24(火) 21:47:49.20 ID:D84+Lc2S0
半年ぶりに来たらYANA氏だと…
まだ読んでないけど
どんな話してたか忘れてしまったし
200YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 22:12:28.92 ID:xR6R6NPw0
 ぷいとそっぽを向いて、南の海岸へと歩き出す少女―――リュウちゃん。
 一転して、これである。彼女がベビーサに対して向ける顔といえば、呆れか不機嫌か、せいぜい安らかな寝顔くらいのもの。
 彼の大好きな無邪気な笑みは、その実、彼自身に向けたものではない。
201YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 22:19:59.69 ID:xR6R6NPw0
 それは彼女が認めたツワモノに対する賞賛に他ならず―――ベビーサは、リュウちゃんの笑顔を見る都度、胸にこみ上げる温かさと別に、小さな空しさを抱く。

〔―――いいなあ。オイラももっと、強かったらなあ。リュウちゃんに、笑いかけてもらえるのになあ〕

 ◇ ◇ ◇
202YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/24(火) 22:25:29.19 ID:xR6R6NPw0
↑※今日はここまで※↑

ぐぬぬ…暫くいない間に忍法帖なるシステムが実装されてて文字数制限がが。
行間の台無し感ハンパネエ。
色々仰りたいこと・投げたい石などありますでしょうが、一先ずは当短編完結まで弁明はお待ち下さい。

>>199
誠、ごもっとも。面目次第もありません。
203名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/25(水) 12:47:03.82 ID:xb4wBTdO0
YANA氏キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!

乙乙!超乙!!
みんな待ってたよー つД`)・゚・。・゚゚・*:.。..。.:*・゚
204YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/25(水) 22:34:42.24 ID:RmWZ81OR0

 〜承〜 『dragon's day』

 明朝、南の海の国。
 二人は、大会前に借金を抱えた青年と出会う。
 飯時に賑わう酒場で談笑するリュウちゃんと青年を、ベビーサはマントに包まったまま、窓の外から見つめる。
「―――ははあ、それで博打を繰り返して袋小路か。馬鹿じゃのう、そなたは」
「うるせえなあ。子供がいっちょ前の口叩くなよ。人生ってのはスリルとロマンをなくしたらおしまいなんだよ」
 酒場にありながら水のみ百姓と化している青年よりも、明らかに上等なパンケーキをもしゃもしゃと頬張りながらリュウちゃんはけたけたと笑い転げる。
「スリルにロマンか、まあそれもよかろう。―――そなた一人が勝手に破滅するのであればな」
「…何が言いたいんだ、このマセガキ」
「背負うべきものを見誤るなといっておるのじゃ。…どうもそなたからはメスの匂いがする。ツガイと見受けるがどうじゃ?
 連れ合いを巻き込んで地獄行きとは、主として恥辱と思うが―――おい大丈夫かサヤカちゃん」
 リュウちゃんの言及に、青年は冷や水を噴き出して咽た。
「………けほっ。冗談じゃねえ、確かについて回ってるちっこいのなら一人いるけどな、俺はロリコンじゃねーの。
 つーかアレの面倒を人生単位で見ようなんて物好きな男、どこにもいるもんかい」
「ほう。となれば、もしやそなたが“背負われる”側か。―――知っておるぞ、そういうの“ヒモ”というのじゃろう?」
「テメ…!」
 顔を真っ赤にする青年。どっと笑いに包まれるウェイター、ウェイトレス、客の面々。
 その中心で、可笑しそうに青年を宥めすかすリュウちゃん。
205YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/25(水) 22:39:04.17 ID:RmWZ81OR0
 外からぽつんと見守るベビーサは、人間と問答するだけでも彼女はあんな風に笑うのかと、小さな希望を得る―――が、それもすぐに立ち消えた。
 リュウちゃんが馬鹿だと評した人間の青年ですら、あれほど流暢に意思を主張できる。
 だというのに自分の言動の鈍さときたら、とてもリュウちゃんに問答を挑むなどおこがましい度し難さ。
 ベビーサは、近いのに遥か遠い世界を眺めながら、叶わぬ望みを抱く。

〔―――いいなあ。オイラが人間だったらなあ。もっと賢かったらなあ。リュウちゃんに、喜んでもらえるのになあ〕

 ………国中を奮わせた激動の大会は終わり、二人は夕暮れの草原を歩く。
「いやあ負けた負けたぁ!あんなに力を使ったのは久方ぶりじゃ!
 聞きしに勝る人間の最高峰、わざわざ出向いた甲斐があったわっ!」
 満面の笑みで、異国の王の激闘を称えるリュウちゃんの横顔を、既にマントを脱ぎ去っているベビーサはぼんやりと眺める。
 彼には未だ信じられなかった。
 この、とても一個の生き物の枠に収まらない、嵐のような力の持ち主を相手に―――いくら真の姿を晒さなかったとはいえ。
 たかだか人間が、互角の戦いを演じたのだ。
「はっはっはっ。そなたには、理解が難しいかのう?あれが人間の誇る“鍛錬”という御業よ!」
 たんれん。人はか弱いがゆえに技術を模索し、力を鍛え、高みを目指せるのだ―――とリュウちゃんは楽しげに語った。
206YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/25(水) 22:42:50.95 ID:RmWZ81OR0

〔―――オイラも、タンレンすれば強くなれるかな〕

 ぽつりと漏らしたベビーサの問いに、リュウちゃんは大仰に渋面を作って思案する。
「…ううむ。どうじゃろう?人の理が魔物に通用するなど、聞いたこたぁないわい」
 旗色悪い見解だったが、ベビーサにとってはようやく掴んだ希望だった。更に食い下がる。
「鍛錬の方法?さあて…そういうのは、興味本位で訊くことではないからのう」
 自らの全存在を賭して挑む練磨の業、単なる好奇心で根掘り葉掘りするのは無粋である―――とリュウちゃんは唸った。
 無論のこと、誕生の瞬間からの強者である主自身に鍛錬の経験があるはずもない。
 ベビーサはしょんぼりと肩を落とした。
「なんじゃ。ベビーサたんは強くなりたいのか?」
 心中を見透かすようなリュウちゃんの目に覗き込まれ、ベビーサは決まり悪そうに俯く。
 彼女は溜息とともに肩を竦め、乱暴に彼の頭を撫でる。
「よせよせ。目的もないのに、不相応な強さなんぞ得るものではないぞ。身を滅ぼすだけじゃ」
 ………目的なら、ある。
 喉から出掛かった反論を、ベビーサはぐっと飲み込む。
 主と自身の身の丈に比べて、身の程知らず極まる願いは、口にするのも憚られた。
「………?」
 不思議そうに首を傾げるリュウちゃんの顔を、夕焼けが照らす。
 ベビーサは、何だか居た堪れなくなって沈黙を深めることしか出来なかった。
 しかし、芽生えた小さな野心だけは、確かに彼の胸に根付いたのだった。

 ―――主に微笑みを向けて欲しいと、ささやかな我侭の実現を夢見て。

 彼が拙い書置きを残して旅に出るのに、それほどの時間はかからなかった。

 ◇ ◇ ◇
207YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/25(水) 22:45:34.45 ID:RmWZ81OR0
↑※今日はここまで※↑

用語集・番外その一
:ベビーサタン:
紫色の皮膚の、小さな悪魔。ザラキ、イオナズンといった強力な呪文を操れるが、魔力不足で術を成立させられない半端もの。
…エニックスの書籍・モンスター物語においては、とあるベビーサタンが数々の修行の末に、邪教が誇る最強の悪魔へと成り上がる過程が描かれている。
余談だが、ドラクエ2では見かけることができないモンスターの一つである。
208YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/26(木) 23:08:42.57 ID:l5wYODJn0

 〜転〜 『Project “Gods of daemons”』

 ―――旅をした。
 主の元を離れたベビーサは、とにかく人の真似事から始めた。
 手頃な街道に身を潜め、いかにも弱そうな商人などを襲って、経験を積むのだ。

〔―――イオナじゅン!〕

 岩陰から、舌足らずな呪文の詠唱が肉付きのよい商人の耳を打つ。
 商人はびくんと体を跳ねさせたが、後に続いたのはぷすん、という気の抜けた音だけだった。
「わわっ何だ!?…って、ベビーサタン?今時珍しい…一匹だけ、か。よぉし、コイツで退治して箔をつけてやろう!」
 商人は敵がひ弱な小悪魔一匹と見るや、棍棒を構えて襲い掛かってきた。

〔―――ピッ!?〕

 ガッシ!ボカッ!ベビーサは死んだ!

 ――――――旅をした。
 命からがら逃げ延びたベビーサは、まだ腫れが引かないたんこぶを押さえながら夜を往く。
 半人前の自分が一人きりで敵に挑むのがいけないのだと学び、今度は共に戦う仲間を探す。

〔………キキキッ!ダメダメ!今時呪文ノ一つモ使えない悪魔なんてダセーってのヨ!帰レ帰レ!〕

 森に棲むグレムリンたちは、口々に嘲笑し、ベビーサを追い返した。

〔………ソレ、ムリ。溜メ込ンダ魔力。ボクラニトッテモ大切。分ケルヨユー、ナイ〕

 洞窟に集ったホイミスライムは、足りない魔力を求めるベビーサに無機質な難色を示した。

〔………オレサマ、オマエ、マルカジリ〕

 川辺を狩場とする首狩り族は、ベビーサを活きの良いエサ程度にしか思わなかった。
 ………結局彼は、どこに行っても一人ぼっちだった。
209YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/26(木) 23:11:47.72 ID:l5wYODJn0

 ―――――――――旅をした。
 仲間を得られなかったベビーサは、一人“タンレン”に精を出す。
 山奥で、荒野で、戦士や僧が仙人めいた荒行をするのを盗み見て、自らも滝に打たれ、薪を割り、舞い散る木の葉を相手にフォークを突き出す。

〔―――こんなので、本当に強くなれるのかな〕

 人間って、よく分からない。
 そんな半信半疑のまま、ベビーサは修行僧たちを真似た寺院の掃除に励むのだった。
 結論を述べると、まるで成長していなかった彼は大目玉食らった僧侶の軍団にぼこぼこにされた。

 ――――――――――――旅をした。
 ある日のこと。廃城で寝こけるベビーサの前に、ソレは突然現れた。

「―――やあ。力を求める魔物。流浪のベビーサタンとは、その身で間違いないかね」

 仰々しい法衣と、魔族特有の青い肌。
 人間と大差ない体を猫背気味に曲げているために輪をかけて小さく見えたが、ベビーサにも、ソレが世界の枠を超えた異物であることはすぐに理解できた。
 ――――――ソレは、大神官ハーゴンと名乗った。
 主の根城を付け狙う邪教の首領である。眠気が一気に吹っ飛んだベビーサは、腰を抜かして動けなくなった。
 ハーゴンは、そんな彼の目の前にしゃがみ、目線を合わせながら優しく微笑む。
「怖がる必要はない。この身は、その身の願いを叶える為に来たのだよ」
 いくらかの手下から、修行の旅をする小悪魔の噂を聞いてやってきた、とハーゴンは言う。
 ―――でも、何のために?
「難しい話ではないさ。この身の研究に、その身が抱くような強い向上心が必要不可欠なのだ。
 内々で片付けたいのは山々なのだが、生憎と殆どの魔物はそういうことに疎くてな。この身の配下には、適者がおらぬ」
210YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/26(木) 23:16:04.13 ID:l5wYODJn0

 ―――“悪霊の神々”計画。

 ハーゴンは、自身の組み上げた三つの理論を以って神の創造に挑むという、恐るべき計画を語った。
 一つは、複数の魔物たちの融合を以って。
 一つは、既存の個体に魔道の改造を施して。
 そしてもう一つは、厳しい修行を課して。
 ―――だが最後の理論を授けるに足る魔物がついぞ見つからなかったために、こうして自分のような半端者に縋りに来たのだという。
 曰く、修行というものはその気のない者に無理強いしても何の意味もない―――らしい。
「力を望む理由は問うまい。得られた力を何に使おうと構わない。―――だが約束しよう。
 その身を、必ず魔物たちの頂点に立たせよう。その強い願いを、是非ともこの身に貸しておくれ」
 差し伸べられた手は、疑うまでもなく魔王の誘惑。
 けれどベビーサにとってそれは、ようやく見つけた道標だった。
 魔物の頂点―――それほどの力をものにすれば、リュウちゃんはきっと最高の笑顔で応えてくれるに違いない。
 ハーゴンのいう修行とやらが如何ほどの苦行であるかなど、最早どうでもよいことだった。

〔―――こんなよわっちいオイラで、いいのかな〕

「勿論だとも。きっと誰よりも、この身よりも―――強くしてあげようさ」
 ハーゴンが猫のように目を細めて嗤う。
 ベビーサは、力強く頷いて握手を交わした。
211YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/26(木) 23:18:21.42 ID:l5wYODJn0

 ―――そうして、地獄のような修行の日々は始まった。
 ロンダルキアに築かれた巨大な神殿に招かれたベビーサは、ハーゴンの命ずるまま難行に身を晒す。
 最初は、あらゆる魔道書を読破するために、様々な言葉を、神代のものに至るまで夜通し勉強させられた。
 剣山のようなお化け蟻食たちの背中で一ヶ月も座禅を組み、万を超える膨大なネクロノミコンを断食しながら書き写す。
 季節が巡っても、休まる時はない。
 目隠しをしたまま、神殿と下界を繋ぐロンダルキア洞窟に篭っての修練も課された。
 ………鋼の船をも溶かす、強酸の滝壺に身を晒すことすらあった。
 幾度となく骨と皮だけになり、死を垣間見たことも珍しくない。
 だがベビーサは、脳裏に焼きついた主を想う度、それらを乗り越えていった。
 ハーゴンの理論は―――ついに滞りなく、完遂された。

 ―――旅立ちの日から十年ほどが経った頃。
 神殿に集った邪教の精鋭たちは、一体の黄金の悪魔に跪いていた。
 ハーゴンが作り上げた、三体の“悪霊の神々”の更に頂点に君臨するそれこそが、成長したベビーサの姿だった。
 見違えるような巨躯と覇気を得た黄金の悪魔を、皆はハーゴンの授けた称号に倣って、ベリアルと呼んだ。

〔………どうしよう。オレたち、昔ベリアル様ニとんでもないこといっちまったヨ…!〕
212YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/26(木) 23:20:03.59 ID:l5wYODJn0

 かつて小さかったベビーサを嘲笑った魔物たちは、彼からの仕返しを恐れてひそひそと相談をする。
 何しろ、今やベリアルの力はハーゴンすら上回るのではという専らの噂なのだ。
 けれど、当のベビーサにはそんな瑣末な記憶は欠片も残っていなかった。
 彼が思いを馳せるのは、ただ主との再会の日だけである。
 成り行き上、邪教の最高幹部という地位を得てしまったものの、本来ならすぐにも古巣に舞い戻りたい気分だった。
 そうしないのは、偏に約束どおり自分を強くしてくれたハーゴンへの、彼なりの義理立てであった。

 座礁していたロンダルキア洞窟拡張開発の指針変更に一区切りをつけ、ベビーサはとうとうハーゴンへの上申を決意する。
 僅かの間暇をもらい、主への挑戦に出かける許可をもらうのだ。
 意気揚々と神殿の廊下を突き進む彼だったが、そこにハーゴンの騎士が駆け寄ってきた。
 丁度、ハーゴン直々に、悪霊の神々たちへの召集がかかったところだという。
 ベビーサは何事かと、急いで祭壇への階段を駆け上がる。

「―――本日をもって、その身らの神殿詰めの任を解く。何なりと、好きにするがよい」
213YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/26(木) 23:21:04.09 ID:l5wYODJn0

 雁首揃えた、自身の研究成果たちを前に、ハーゴンは何の前置きもなくそう切り出した。
〔…ハーゴンの御方。そいつはつまり“クビ”ってことですかい?〕
 邪教の改造技術の結晶、翼の魔猿バズズは、顎に手を当て訊ねた。
 するとハーゴンはいつものように、妖しいほどの優しさを湛えた笑みでかぶりを振る。
「そうではない。今より身の振り方を自由にせよ、といっているのだ。
 この身に代わり、魔物たちの指揮を執ってくれれば助かる。だが下界に降り、一個の魔物に還っても構わない。
 何となれば、どこか誰の目にも触れない場所へ出奔するのもよかろう」
〔………わかんねえなぁ。今更になって。んじゃ何だって、俺らみたいなのを作ったんです?〕
 大して驚いた風もなく、ただ純粋に疑問だという落ち着いた思案の末に、バズズは問いを重ねる。
「―――“確証”がね。欲しかったからだよ」
 ハーゴンは、かつてない狂気を滲ませた恍惚の顔で、天を仰いだ。
「実際にその身らを目にして解った。やはりこの身の仮説は正しかった。…技術では!知恵では!努力ではっ!
 ―――“神を造る”ことは叶わないのだよ!そうとも、そんな独り善がりで目指そうなどと、てんで的外れだ!
 ………本当に有難う、その身らへの感謝は幾たび重ねても尽きぬ。
 これで計画は、真なる神に―――“死の導き”に集束される…っ!!」
 ―――今回の処遇は、それに対する心ばかりの礼なのだ。
 最後にそう付け加えて、ハーゴンは祭壇の扉を閉ざしたのだった。
 扉の外に出された悪霊の神々は、それぞれに現状を受け入れる。
〔………成る程なぁ。何だか知らんけど、用済みってワケね、要するに〕
 熱弁振るう彼の目が、もう疾うに自分たちへの関心など失っていたのを察したバズズは、うんうんと頷き納得した。
〔―――行くのか?ベリアルの大将〕
 思惑がどうであれ、ハーゴンの言いつけがベビーサにとって渡りに船だったのはいうまでもない。
 事が済んだと見るや即座に踵を返す彼の背に、バズズが問いかける。
214YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/26(木) 23:23:04.36 ID:l5wYODJn0

〔―――止メテミルカ。バズズ〕

 肩越しに、ベビーサは同胞を睨み返す。その視線は、眼力だけで百の魔物が泡を噴きかねない。
 それを受けながら、バズズは裂けんばかりに口を歪めて笑った。
〔カッ、よしてくれよ。あんたがいなくなりゃ、こちとら文句なしで軍団長なんだ。
 第一、こんなとこで俺が死んで誰が得すんだい?〕
 俺の命は、ハーゴンの御方のためにあんのよ―――と、バズズは何の躊躇いもなく言い切った。
 飄々としているように見えて、この魔猿のハーゴンへの忠誠心は病的なまでに揺ぎ無い。
〔俺はこれから、神官どもと下に降りる。御方の幻術はカンペキさぁ、ここの警備なんざアークデーモンたちで十分だろうよ。
 教の方針を変えるお達しもねぇみてえだからな、一つ面白可笑しく賑やかにしてくるさ〕

〔―――別ニ、訊イテイナイ〕

〔つれないねぇ。仕事の引継ぎくらい、けじめとして果たそうや。あんたの管轄の連中にも同行してもらうつもりなんだからよ。
 …それと、改式メタルハンターだ。実戦テストまだだろ?せっかくだから、ウチでやらせてもらうぜ〕

〔―――勝手ニ持ッテイケ。換装ハ終ワッテイル。…ダガ左腕部ノ不具合ガ棚上ゲダ〕
215YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/26(木) 23:24:31.07 ID:l5wYODJn0

〔上等、上等!開発の頭でっかちどもの尻拭いくらい、お安い御用だ。
 …ったく、後から無理にボウガンなんざ付けっからジャム癖なんて出るんだ、欲かきゃあがって。
 でもまぁ、俺に任せてくれりゃすっかり使い物になるように仕上げてやんよ、ククッ!〕
 素気無いベビーサの忠告に、バズズは機嫌よく鼻を鳴らす。
〔…アトラス、てめーも俺と来い。ご機嫌な喧嘩をさせてやらぁ〕
〔ヴー…〕
 ついと背後を見上げるバズズの呼びかけに、今まで黙って佇んでいたアトラスが低い唸りと共に頷く。
 毒々しいほど鮮やかな、橙色の皮膚で両者に倍する巨体を彩る最強の巨人には、しかし恵まれた知恵はない。
 元より、ハーゴンやバズズたちのような指揮者なしにまともな活動は望めない彼にとって、断る選択は有り得なかった。
〔―――れ。…ったく、せっかちだねえ〕
 あんたほどの怪物が、そんなに急いで何するつもりなんだか。
 振り向くと、既に影も形もなかった同胞の慌しさに、バズズは肩を竦めて呆れた。

 ◇ ◇ ◇
216YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/27(金) 00:10:31.72 ID:glYIFeRM0
↑※今日はここまで※↑

用語集・番外その二
:改式メタルハンター:
本作オリジナルの造語。
機械仕掛けの狩人モンスター・メタルハンターの左腕部を、丸ごとボウガンに換装したものを本作ではこう呼称する。

登場作品ごとに武装のマイナーチェンジが頻繁に行われるメタルハンターだが、
ドラクエ2におけるそれといえば今では、キラーマシーンなどでお馴染みの四脚マシンボディの左腕に、
ボウガンを取り付けたのみの姿が主流だろう。

しかし意外に知られていない(というか他で記述されているのを見たことがない)が、
FC版当時発行のモンスター物語において、最低でも発掘直後〜改修の期間、彼らの左腕はクローアームとして描かれている。

ttp://dlsite.blogimg.jp/RG10625/imgs/f/5/f5d47957.jpg
ttp://dlsite.blogimg.jp/RG10625/imgs/7/6/76c9db11.jpg

モンスター物語でのメタルハンターは、ゾーマの部下がロンダルキアの洞窟に埋設したものを、
ハーゴン配下たちが偶然に発掘・のちに改修して完成させたものであるとされている。

このため、本作ではこれら設定も原作ゲームと併せて尊重し、
・武装無改修のクローアーム型…「メタルハンター」(モンスター物語タイプ)
・クローアームの代わりにボウガンを装着したボウガン型…「改式メタルハンター」(原作ゲームタイプ)
としている。
217YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/28(土) 00:13:54.87 ID:gNR2OuXG0

 〜訣〜 『celestial battle. inferior end.』

 十年ぶりに帰った古巣は、何もかも昔のままだった。
 朽ち果て、荒野との区別もつかないほどの死に体である地上部分。
 そして“此処は我が物”と主張せんばかりの、見る者が見れば確かな地の底に満ちる存在感。
 ―――ああ、よかった、とベビーサは主の今も変わらぬ在り方に安堵する。
 邪教に身を置いてからこれまでも、末端の雑兵が竜王の城を奪おうという試みを繰り返していたのは知っていた。
 だがその悉くがやはり失敗していたため、彼女が今もここに棲んでいることは分かっていたが、それでも実際に目にした感動は別物だった。
 …あの方は、あれで結構、楽しんでいたな。
 ベビーサは、主がかつて襲来する魔物たちに愚痴を漏らす一方、体を動かせることには喜んでいた節があったのを思い出す。
 主に平穏をと、彼が幹部の権限で邪教の襲撃行動を制止しなかったのはそのためだった。
 …懐かしさについ綻びかける口元を、ベビーサは首を一振り、引き締める。
 浮ついてはいられない。これから自分が挑むのは、最強の竜の末裔なのだ。
 ここであの方を失望させては、この十年が無意味になってしまう―――。

〔―――■■■■■―――ッッ!〕

 日輪が、地平線と口付けを交わす。
 昏い世界を、地獄の悪鬼の咆哮が蹂躙する。
 ―――直後、周囲の山林の空気が豹変した。
 穴倉で眠る獣どもは例外なく叩き起こされ、半分は這い出し、もう半分は総毛立った体を底の底で震わせる。
 今日の寝床を決めた鳥たちも夜目が利かないのも構わず、まるで嵐がやってきたというようにどこかへ飛び立ってゆく。
 風流な虫たちの演奏会も、今夜限りは舞台を突然のゲストに明け渡す。
 竜の寝床が鎮座する丘陵は、瞬く間に呼吸すら許さぬ悪鬼の世界となった。

「―――無闇な巻き添えを厭う計らい。魔物だてらに騎士道かよ。小童」
218YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/28(土) 00:16:08.34 ID:gNR2OuXG0

 ―――来た、とベビーサの全身が、心までも打ち震えた。
 廃城に開いた穴から、魔物の気配を嗅ぎ付けて、小さな巨竜が這い出てくる。
 埃を払うように凛と面を上げたその表情は、口ぶりと裏腹に愉しげだった。
 竜王のひ孫。人の少女の姿を好む、風変わりなドラゴン。
 ベビーサの主・リュウちゃんは、今を以って当然に健在であった。

〔――――――ッ〕

 ………ここに来て、ベビーサは言葉を失う。
 否、そもそも掛けるべき言葉など何も考えずに帰ってきてしまったことを思い出す。
 リュウちゃんとの手合わせに逸ったばっかりに―――!
 それでなくとも、今の自分はかつてのベビーサタンの姿とは似ても似つかない姿だというのに。
「…しかも一騎だけとはな。なかなかどうして、そういう気概は嫌いではないぞ、金ぴか―――フン?」
 反応は、リュウちゃんの方が早かった。
 ぴこんと頭のヒレを跳ね上げ、口元から冷笑が消える。
「―――そなた、ベビーサたんかっ?」
 風に乗った黄金の悪魔の匂いに懐かしいモノを嗅ぎ取ったのか。
 リュウちゃんは、一息で目の前の悪鬼が見違えるように成長した配下であることを看破した。
 完全に出鼻を挫かれたベビーサは、羞恥と動揺からまたいつかのように押し黙ってしまう。
「〜〜〜ったく!今までどこほっつき歩いてたのじゃそなたは!
 あんな…『タンレンのたびにでます』などと…わしの忠告も聞かずに飛び出していきおって!
 そなたがおらなんだせいで、飯の用意も酒の後始末も、あれから全部わしがせにゃならなくなったじゃろうが!―――」
 パア、とリュウちゃんの目が華やいで見えたのも一瞬。彼女はすぐに不機嫌な顔で、昔のようにどやしつけて来た。
 ベビーサは、ただただ甘んじて、罵詈雑言を受ける。
 …無理もない。十年間も主の世話を、有無も言わさず放り出して留守にしてしまったのだから。…配下失格にも、程がある。
219YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/28(土) 00:18:34.25 ID:gNR2OuXG0

〔―――シカシ、主。コノ身ノ“鍛錬”ノ成果、必ズヤ御身ヲ満足サセマショウ―――!〕

 尚も捲くし立て続けるリュウちゃんの慌しい愚痴。
 だがおかげで、ベビーサもようやくそんな、当初の目的を思い出すことが出来た。
 そう、雑用に煩わされた主の十年分の不服は至当。なればこそ、その労苦に報いる喜びを捧げねばならない―――!
(―――強くなったのう、ベビーサタン!)
 修行の間、何度思い描いたかも知れない敬愛する主からの笑顔と誉れを、もう一度胸に秘め。

 ―――――――――黄金の悪魔は、手にした槍を、眼前の竜に突きつけた。

「―――――――――」

 ………ひと薙ぎ。荒涼とした丘に、乾いた風が吹き抜けた。
 揺れた黒髪に一瞬隠れた仄暗いかんばせが、今も地平線と口付けを深める日輪に照らされ、顕わになる。
 ―――――――――リュウちゃんの目から、親しげな光が消えた。
 彼女の双眸に、自分が今何者として映っているのか。
 …その闘争の姿勢を阿吽の境地と誤り、高揚したベビーサが思い至ることは出来るはずもなく。

「〔■■■■■■■―――――――――――――――ッッッ!!〕」

 世界の頂に座する竜と、それに次ぐ悪魔の王が音にもならない雷鳴を落とす。
 最初の悪魔の咆哮で逃げなかった鳥獣どもは、今度こそこの世ならざる激震に卒倒した。

 ―――竜と悪魔は、人の手の届かぬ大空に舞い上がり。
 人知の及ばぬ、誰も望まぬ死闘の幕はこうして上がった。
220YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/28(土) 00:20:29.95 ID:gNR2OuXG0

 ………そして舞台は、再び始まりに移る。
 流星に翼を奪われ、黄金の悪魔ベビーサが手もなくその身を落としたのは、見渡す限りの白い花畑だった。
 軋みをあげる四肢は、痛ましくもまだ胴に繋がっている。
 であれば―――こんな無様を晒している場合ではない。
 ―――自分はまだ、何をも為せていないのだから。
 文字通り血を吐く思いで、ベビーサはベッドのような純白から身を起こす。
 …空から、竜が舞い降りる。
 雪原のように潔白な花畑は、ベビーサにとっては病床のようで。
 けれど彼の主にとっては、貴族の絨毯のように見えた。

〔―――南ノ高原、カ。派手ニ、飛ンダナ〕

 跪くように、片膝をついて立ち上がろうとする彼と、雄大な翼を誇るように広げて見下ろす彼女。
 皮肉にも、その光景は傍目からはこの上なく美しい主従にしか見えないものだった。
 だがそれも束の間。彼女が翼を小さく畳むと、この純白の世界を侵略するモノが、否が応にも主役に躍り出る。
 竜の手には、雄々しく黒い、あの■■が握られている。
 そしてその担い手の目に光はなく、暗く沈んだ瞳には、未だベビーサの望む喜色など皆無である。
 ………そうだ、そういえば、と。彼は思い至る。
 十年前のあの日、南国の王は、如何にしてこの主をして尽きない賛辞を述べさせたか。
 かの人間の最高峰は、その矮小をして主のあの得物と渡り合い―――ついに屈服せしめたのではなかったか。

〔ソウダ―――ソウ、ナノダ…!〕

 アレを破り、かの王を超えぬ限り、主の自分への賞賛などどうして有り得ようか…!
 徒手空拳で自分を圧倒してみせた主が、とうとうソレを持ち出した。
 この身は漸く、あの日の王と同じ場所に立ったに過ぎない。
 戦いは、ここからが始まりなのだ―――!
221YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/28(土) 00:22:44.05 ID:gNR2OuXG0

〔主…ヨ!今コソッ!〕

 もう一度。もう一度だけ、消えかかった命の炎に鞴を叩き込む。
 まだ二本の足には体を支える力が残っている。翼と槍はなくなっても、両手はついている。
 ならば、十分―――!
 裂帛の気迫を再び、眼前に見えた一筋の光明と対峙するベビーサ。
「――――――」
 だが見下ろす竜は、得物を構えることもせず、だらんと両手を下げたまま。
 光が消えた、底冷えするような瞳に彼を映すだけ。
 長く、永く、ただそれだけの時間が続いたが、しかし―――
「………餞じゃ。受け取れ」
 やがて、竜は冷たい声で、そう呟いた。
 手にした■■が誇示するように挙げられる。
 突き出すために引くのでなく。打ち据えるために振り上げるのでもない。
 そういった一切の、武術めいた意図は存在せず。何故なら本来、ソレは―――、


「―――――――――“起きよ。ドラゴンクエスト”――――――――――」


 ―――呼び掛けに応え、逆巻く風が終焉を謳う。
 歪みに歪んだ理想は、英雄の象徴の影。
 “世界を滅ぼせ”と鍛造された、死を希う幻想のカタチ。
 ………ばさり、竜の掌で暗黒の神鳥が羽ばたいた―――。
222YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/28(土) 00:24:29.77 ID:gNR2OuXG0

 ―――――――――御伽の話である。
 百年前、このアレフガルドの国に襲来した竜王。
 それを討った勇者ロトの子孫たる若者をしてすら、そんなモノはいなかったと首を振るだろう。
 だが、かつてそんな話が実しやかに囁かれた。
 ―――――――――竜王は、大地を食らう魔物を飼う。
 魔物は一夜にして野山の生気を飲み干し、生き物の住めない死の大地に変える。
 そしてその力で、万の兵を屠り去るのだ―――と。
 竜王とその軍勢が、国の各地で戦を起こし、土を腐らせるたびにそんな噂が駆け抜けたが。
 ある日を境にぱたりと、どうしたことか腐った土地が生まれなくなってからは風化してしまった、今や古いふるい御伽噺。
 ―――だが、最初の生贄。
 “最初の死の大地”たる要塞都市メルキドの南に広がる高原が、死した時と同じように、一夜にして一面の花畑として蘇った光景を、諸人はこう持て囃した。
 ―――――――――“大地を食らう魔物が滅んだのだ”と。
 それは間違いであり、また正しい。
 なぜならその日、確かに魔物の主たる竜の王は打倒され。
 けれどかの魔物は、既に彼の手を離れていたのだから。
 ―――――――――御伽の話である。
223YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/28(土) 00:27:23.95 ID:gNR2OuXG0

 ………御伽に語られた最初の死の大地は、一度は蘇りながらも、今再び死に絶えた。
 神鳥を写した凶鳥は高原を見るも無残に食いつくし、一帯は遍く、腐り淀んだ毒の沼へと朽ち果てた。
 空と諸共切り裂かれた山々には、凶鳥の爪痕―――と呼ぶのもおぞましい破滅だけが…否。
 もう、二つ。
 破滅をもたらした竜と、沼に浸かった黄金の悪魔の首。
 ベビーサは、この有様で尚生きていた。
 竜が手心を加えたわけではない。純粋に、彼の鍛えた身体がそれだけの力を持つに至っていたのだ。

〔―――マ、ダ。マダ、届イテ、ハ、〕

 首一つになりながら、それでもベビーサの願いは変わらない。
 何か、いわなくては。
 このままでは、主は勝利を確信し去ってしまう。
 それでは望みを果たせない。彼女に笑って、誉めてもらえない。
 …竜はびちゃり、びちゃりと澱みを散らしながら、確かな足取りで踏み出す。
 そうして歩み寄って、“彼”を両手で抱え上げる。

〔嗚呼、ソウ。コレデイイ、ホラ、エエト、ナニ、カ〕

 自分は、貴方を満足させられただろうか。
 あの得物の本当の姿を晒させたのは、或いは自分が初めてだったのではないか。
 それを受けて尚生きている自分は、貴方にとってどれだけの存在だろう。
 ああ、いや―――それよりも、そもそも生きていることを伝えなくてはどうしようも。
 喉が潰れて、息も吐けない。声が出るわけもない。
 ―――そうだ、ならば目を。目を開いて、彼女を見て。この身の健在を伝え、なくては。
224YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/28(土) 00:29:28.93 ID:gNR2OuXG0

〔―――――――――ァ、〕

 重い瞼を上げる。ぼやける目に、彼女の顔が飛び込む。
 ―――――――――ソレは、ベビーサの知らない、主の顔だった。
 
〔―――違ウ。チガウ、チガウチガウチガウ―――コンナノ、知ラ、ナイ―――コンナノハ、イケナイ―――!〕

 ちがう、ちがうと、ベビーサは無言でがなり立てる。
 鈍重な配下に不満げな、呆れがあった。 
 喧嘩に興じる、愉快げな冷笑があった。
 ツワモノを讃え、社交を嗜む、屈託のない笑顔があった。
 けれど、コンナモノは―――誰より強く、誰にも依らない竜たる彼女がこんな表情を見せることなど、あってはならない…!

〔―――――――アア。ソウ、カ〕

 そうして、ベビーサは思い出す。
 そも、彼女にそんなあってはならない顔をさせているのが、何者であったのかを。
 ………彼の命を支えていた一途な灯火は、それきり、嘘のように霧散した。
 ―――――――――そう、結局のところ。
 彼の十年間は、始まりが全て、間違っていたのだ。
 けれどそのことを悔やむ事も、恨む事もせず。
 それどころか気づくことも出来ず。
 孤独な彼女に唯一寄り添った小さな悪魔は、俯き震えるその寄る辺ない姿こそが、この世に二つとない、尊くも残酷な誉れだと知ることもなく―――、

〔―――――――――ゴメンナサイ………リュウチャン―――〕

 涙を嫌い、笑顔を求める“堕ちた悪魔”は、最後まで己が破綻を嘆くことなく。
 ただ主への想いだけを抱いて消えていった。
 懐かしい声で呼ばれる親愛の名を、竜がもう一度聴くことは、ついになかった。

 〜了〜
225YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/29(日) 00:32:01.61 ID:Tu7UX5c90
用語集・番外その三
:最初の死の大地:
本作オリジナルの造語。
ドラクエ1及び2にて、メルキドの町(2には未登場)の南に位置する毒の沼地のこと。
1においては作中ワールドマップ最大規模の面積を誇るダメージエリアであり、中にはロトの印がなぜか沈んでいたりする。
本作時間軸の100年ほど前、アレフガルドの軍勢との開戦時、
竜王が“大地を食らう魔物”によって初めて死をもたらした土地がそこであることに由来し、こんな俗称がついた。

…1におけるワールドマップの毒の沼地は、竜王を倒すと、その全てが美しい花畑へと姿を変える(SFC版以降)。
ラスボスを倒したあとにこうした変化があるのはドラクエ1のみであり、
リュウちゃんの操る黒い得物にまつわる云々は、その理由をYANAなりに補完した結果。
その姿は一見すると桁外れに長大な槍のようであるが、実は…。

余談だが本文中の「■■」は文字化けではなく、下にちゃんと隠された文字がある。
226※YANA  ◆H.lqZohyAo :2012/07/29(日) 00:34:40.28 ID:Tu7UX5c90
はい、というわけで 恥ずかしながら帰ってまいりました。
いつだったか、言い訳になるから内情話したくない〜とかいってましたが、
もうそういうわけにもいかない放置っぷりなので、あらいざらい吐くことにしますw

リアル仕事と、同人サークルの活動に追われまくって、こっちに回す時間がなかなか取れませんでしたっ!

というか、現在進行形…絵師さんが商業デビューされて修行中につき、
サークル活動が実質的に凍結中のため、今はそっちの時間を充てて書いてます。
只今、シナリオ的に中盤の山場であるデルコンダルの辺り。本筋としては、折り返し地点。

また、YANAの力不足が最大の原因であるのは確固たる事実ですが、
加えて絵師さんにかかる負担が尋常でない現状も、ここまでの投下遅滞の一因でもあります。
今この上、ゴー勇のほうの発注まで催促したら、確実に倒れてしまわれる…。

仕事辞めて筆一つで生きていけりゃ少しはマシになるのでしょうが、
生憎とそこまでの腕があるでもなし…生活するってのぁ大変だなぁという状況ですw

とはいえ、とにかく死なない程度に頑張りつつ筆を握っている日々なので、
本当に死なない限り、このお話が未完で終わることはありません。
やっぱいくつになっても、ドラクエのこの「原作の描写の帳尻を合わせていく」余地の絶妙さ、大好きですし!
ですので失踪・いわゆる「エターナる」などの心配は、ひとまず不要です。
そういやあんなやついたなw くらいの気長さでお待ちいただければ恐悦至極です。

それでは、ひとまずはこれで失礼します。
また来る時は突然、降って沸いたみたいにいると思いますのでそれまでノシ
227名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/30(月) 21:57:17.96 ID:+OE2X2gw0
ベビーサタンの悲しいお話でした。
強くなりたいと思わずにリュウちゃんと一緒にいてたらと思うと・・
リュウちゃんもベビーサたんに一緒にいてとはっきり言ってたらよかったのに
228名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/07(火) 07:37:20.96 ID:ram6nvXK0
ほしゅ
229名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/13(月) 07:36:26.26 ID:/e4wgc+o0
保守
230名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/19(日) 23:06:30.91 ID:q3U/826w0
ho
231名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/26(日) 22:58:27.09 ID:i9w36RJb0
232名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/29(水) 01:24:06.40 ID:wk2Co8a40
落ちてる?
233名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/03(月) 17:07:56.56 ID:e2QWUasL0
234名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/10(月) 19:53:19.12 ID:5Ste4A610
ほしゅ
235名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/16(日) 11:45:34.70 ID:Eiea4O6R0
236名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/20(木) 23:29:26.89 ID:ob7oyucq0
ほしゅう
237名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/26(水) 22:52:57.17 ID:bZXjqOjg0
ほっしんぐ
238名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/28(金) 18:59:28.48 ID:Ae1ycilU0
保守
239名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/01(月) 20:42:50.89 ID:DOAuHtj70
ほしゅ
240名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/07(日) 00:37:18.95 ID:+ovZgFUe0
ほしゅ
241名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/13(土) 11:00:33.65 ID:5+HMLUfc0
保守
242名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/20(土) 23:06:10.90 ID:Tdk04GWt0
保守
243名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/25(木) 23:09:39.67 ID:71XqKSzm0
ほしゅ
244名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/02(金) 08:28:38.29 ID:R7DSIQma0
ほしゅ
245名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/08(木) 22:45:38.75 ID:8ou8T6Ps0
246名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/16(金) 12:38:40.51 ID:Q3niFJln0
247名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/23(金) 09:11:22.44 ID:iyAmP8NS0
ho
248名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/01(土) 11:21:08.87 ID:SCfKoFy30
249名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/05(水) 12:41:03.54 ID:j+ca+5yy0
ho
250名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/15(土) 10:36:25.40 ID:Jmm91WXF0
ほしゅ
251名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/22(土) 00:43:40.74 ID:ERcRRRT+0
252名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/30(日) 14:48:30.32 ID:G8Ov2Oeq0
253名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/08(火) 22:03:45.55 ID:qVFfYU820
hoshu
254名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/14(月) 07:52:17.71 ID:/NFaAUdxO
書き手の皆様、お元気ですか。
遅ればせながら今年もよろしく。
255名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/26(土) 20:36:25.23 ID:L0oyiKgm0
保守
256名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/01(金) 19:58:09.02 ID:+Ip5C+KBO
…べつに、これは保守じゃないんだからね!
257名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/10(日) 00:08:53.17 ID:a3na820L0
hoshu
258名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/17(日) 19:11:13.64 ID:bWN8rK/F0
259名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/24(日) 00:12:45.07 ID:OOyTPDaF0
保守
260名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/03(日) 20:57:12.52 ID:+t2VaJZl0
ほしゅ
261名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/10(日) 19:36:15.26 ID:I3pM9sKh0
ほしゅ
262名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/12(火) 12:00:19.43 ID:8IgtykmE0
てすと
263名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/17(日) 00:08:57.76 ID:BG4QNQ7r0
 
264名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/19(火) 04:46:12.62 ID:8o8kqmMd0
まだ残ってたんだこれ
265名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/22(金) 12:25:29.10 ID:4LG7ZNtl0
266名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/23(土) 11:51:09.91 ID:0cxM5vK40
保守
267名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/26(火) 05:42:19.03 ID:GkexUoYF0
age
268名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/30(土) 21:52:32.82 ID:AXScSRYM0
ss
269名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/04(木) 12:06:00.29 ID:7VY5jqB+0
ツンデレ
270名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/12(金) 09:01:27.03 ID:9434R4Du0
保守
271名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/17(水) 11:35:00.70 ID:QTpqGwvz0
age
272名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/24(水) 13:06:38.07 ID:KI/epgWF0
DQV
273名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/02(木) 17:22:45.71 ID:e9aFkpcb0
age
274名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/10(金) 22:12:00.99 ID:qQ06SBSJ0
保守
275楮書生:2013/05/17(金) 05:40:50.99 ID:5G3WHxz20
規制解けてるかテスト
解けてれば近日中に投下します
276名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/17(金) 23:31:04.36 ID:I8Jw7BCj0
おお待ってました!
久しぶりですのでまた読み返します
277楮書生:2013/05/18(土) 03:23:59.25 ID:sUeOJN1C0
ということで久しぶりの序章八人目、投下します。
酉は忘れてしまいましたのでこのままで。
278楮書生:2013/05/18(土) 03:25:37.51 ID:sUeOJN1C0
「あら、ムスチナさんいらっしゃい。お昼のラッシュが終わったらすぐ行きますね」
「あ、ムスチナーこっちこっちー!」
「ムスチナはんご飯一緒にどーやろ?」

 少女が店内に入ると同時、女性3人から声がかかる。
 声をかけられた少女はムスチナ・ファシトスーナ。みえっぱりで寡黙な兵士志望の少女である。
 声をかけた一人はヤターユ・イスラハム。タフガイで丈夫さと頑丈さが取り柄の商人である。
 もう一人はトルカ・ラヴクラフ。きれものの僧侶であり、勇者一行に選抜された実力者である。
 業務的に声を掛けた給仕はチクハ・ヴィーチアヘン。
 取るに足らないのんきものの遊び人崩れである。女3人はすぐに事情を察知した。
 一人は少しでも多くの状況を知ろうと無い頭をフル稼働させ
 一人は鉄火場への期待に無い胸を膨らませ、血をたぎらせ
 一人は目の前のお仕事に追われながらも静観の構えの振りをしつつ、内心オロオロしている。

虚救旅団 序章の七人目
「診断結果:理系的信仰を導いたきれもの 証明された最善の職業:演算的選択によるそうりょ」

「と言う事です。まぁ、それぞれ別々に声が掛かっていたのでそれぞれ紹介するつもりだったのですが」
「……へぇ。君は船旅でねぇ」
「ええ、ウチは数週間一緒の部屋で過ごしていましたえ。寝食供に」
「ま、そんなの旅に何にも関係ないよね。実際、野宿や実戦、ダンジョンハックをやらないと」
「とりあえず、何にしますかぁ?」
「ん、そうですね」
「優秀な僧侶さんやそーやけど、お約束を破ってまでと言うお方にあまり信頼がおけませんけど?」
「これとこれがオススメですよ。商船から活きの良いお魚が入ったそうなので」
「商売人の損得と同次元で語ってほしくないねぇ?」
「其方さんもあまり僧侶って感じはしませんけどぉ? ほんまに修行してはったん?」
「そういう、君も今まで何を売ってたんだかぁ?」
「では、それにしましょう。ありがとうございます」
「はーい。今持ってきますね。其方はどうします?」
「「同じのでいいよ!」」」」
「……は、はぁ。ではでは」
279楮書生:2013/05/18(土) 03:28:58.47 ID:sUeOJN1C0
 喧騒たるランチタイムを迎えているルイーダの酒場。昼間から酒を煽るモノ。
 パンを齧りながらも地図を広げて作戦会議を開いているパーティ。
 グラス片手にパーティを募る声を掛けている男や女。
 何度も通っているトルカにとっては何時もより人が少ないこと
 そんな人の縁が錯綜する中、僧侶の人数がほとんど駆り出されている違和感に気付いたが
 それでもここはルイーダの酒場。冒険者たちの始まりの店として機能していた。
 これまたひょんなつながりで一つのテーブルを共にすることになった4名。
 ムスチナにとっては良く解らないが何故かそれぞれあまり印象が良くない。
 簡潔に言えば、人間関係がムスチナとの接点のみで結集されているからであり
 そのほかについては折り合いが一切無かった所以もある。
 と言っても、トルカに関してはつい先刻逢ったばかりだったのか当然と言えば当然なのだが。

「おまけに4人目があのおばさんとはね」
「ああ、ウチも最初は驚きました。ルイーダで給仕してたねーちゃんが
 まさか、冒険者やったなんてねぇ。何の因果で?」
「個人的な恩もありますが何より彼女が力を必要としていましたから」
「恩ねぇ……まぁ、そりゃ今からあの人を同行人とかって扱いにするのは面倒だけど」

 この世界には冒険に関してはそれぞれ4名パーティが絶対であるというルールがある。
 それ以上の人数は旅団や賊と見なされて、国として認められたり
 援助を受けるには細かい手続きが要る。
 何でこんなことになっているかというと起源は各国王の古いしきたりによるものであった。
 昔は傭兵団の様に何十人と言う戦闘集団が居たり、また中規模人数の旅団も居たのだが
 それらは国を揺るがす組織に発展し、国を乗っ取ることなどが乱世では度々あった。
 国取りなどとたやすく言われるが残念ながらモンスターと魔王が地上を跋扈する時代。
 国の体制や後継者が変わることは忌み嫌われ、暴力集団に自治を奪われると民は逃げ
 すぐに廃れ魔物に飲み込まれてしまう事例が多かった。
 それでも大人の事情を解らない連中が我先にと付け入り
 貴族も民も苦しむだけの政治の混乱を招きに招いた暗黒時代があった。
 それらの事情によって、特定人数以上の冒険者がパーティを組むには
 それぞれの統治する国からの許可を得ねばならず
 発見され次第軍に取り締まられる対象になっている。
280楮書生:2013/05/18(土) 03:30:47.96 ID:sUeOJN1C0
 トルカとヤターユが危惧しているのは一見、何の戦力にもならなそうな一般人に等しいチクハが
 冒険者であり枠が一つ埋まってしまう事への懸念だ。もし、戦力的により確実な方策を練るなら
 冒険者としての登録を取り消して、同行人という形にするのがベターなのだが
 女だけの集まりの上、お荷物一人が着いて来ると言うのではよりパーティが集まり辛いのは明白だった。
 ムスチナは無論、取り決めの事は事前に聞いてはいたが、それぞれの当人との信頼度によるところだ。
 このパーティにおいて、それぞれの接点と信頼度にかなりの差が出ていつ事が関係性を歪にしていた。
 チクハはもう何年も此処で酒場娘をしているのでアリアハンに事前に来ていたトルカにとっては
 ただの小奇麗なおばさんだし、ヤターユにとっても船旅で汗を流していたムスチナとは違い
 何処の馬の骨かも解らない僧侶と酒場の給仕にしか見えない遊び人とでは印象も違う。
 ムスチナはヤターユに関しては見知っているがチクハに対しての個人的な信頼と
 トルカの戦力的な重要さを認識している。トルカはなぜかムスチナを執拗に気に入っている。
 どれも譲れず、どれも信頼しているが各々がつながっていない。
 また、のっぴきならない事情により、互いへの警戒を解けないでいた。

「お待たせしましたぁ〜」
「あい、ありがと、チクハはん」
「ども」
「……では、頂きましょうか。空腹では気が立ちやすいですしね」

 そして、肝心のチクハに関しては本人がそれほど問題意識を持つ事が無い性格だったのと
 それぞれに対してもそれなりの対応が出来ているという年の功が幸いしていた。
 一番の問題点である人物が一番問題視しておらず
 トルカやヤターユにとっても楽観視しているというのも歯痒いのだろう。
 威圧感に圧迫されているので眉は下がりつつもそれでも笑顔を取り繕っているチクハは
 それぞれの前に料理の皿を置いていく。塩漬けされた魚と香草。
 そして、昼に出す事を前提に事前に大量に作られている少しさめたパンを並べられるのを眺めつつ
 お互いにどう妥協をするか、終着点を持っていくかをトルカとヤターユは探り合っていた。
 そんな中、抑揚のない声でトルカは目の前に並べられた料理の前にぶつぶつと呪文を口走り始める。

「イアイアハスタァクトルグクナノフ」
「……方言?」
「ああ。ボクの所の宗派のお祈りなんだよ」
「へぇ、あんま聞いたことないなぁ、そういうのは」
「私も初めて聞きました」
「めずらしーわねぇ」
「ま、密教っぽい感じだからね。門外不出って奴? まぁそういう教義があるって程度で」
281楮書生:2013/05/18(土) 03:32:42.36 ID:sUeOJN1C0
 これは嘘である。が、それが嘘だと見破り、断定出来る人物はこの世に存在はしなかった。
 トルカ・ラヴクラフト。彼女は狂人である。そして、もっとも性質の悪い狂い方をしている一人である。
 彼女の出生、両親それぞれの教育と環境は何一つ変わった事は無かった。
 ただ、大工の長男と商人の三女がお互い惹かれあって結婚した夫婦の娘だったというだけである。
 彼女は幼少からとても賢かった。小さい頃から図面をお絵かき代わりに引いたり
 計算、簿記と数学的要素の習得は非常に早かった。だが、彼女はその高過ぎる知能が災いした。
 ある一点において、彼女はどうしても超えられない壁にぶつかってしまう。
 それは例え、この地上に居る全ての賢者の知恵を集結しても超えられないモノであった。
 いや、”地上の賢者たちだからこそ”越えられないのかもしれない。計算が合わないのだ。
 その計算の帳尻を合わせるには健常であると言う選択肢を棄てなければいけなかった。
 打算と自己の利益の為に彼女は僧侶になり
 彼女は自らの自覚と意思を持って狂気を受け入れている。
 正確に言うと狂気を作り上げていた。このお祈りもその一旦に過ぎないのだが
 これもまた誰も気付く事無く、むしろそれが円滑的に処理、運用されていた。

 時間の進行の結果、先ほどささくれていた空気だったが、このささやかな無駄話を経由した事で
 食事は思いのほか、滞り無く進んでいた。女三人寄らば、姦しいとはよく言ったもので
 各々それなりの礼儀と作法をわきまえていた結果
 食事中にナイフやフォークが乱れ飛ぶと言う事態は避けられていた。
 と言うのも本来、皮肉のいびりに近い発言がちらりちらりとあったのだが
 それが向けられていた当のチクハ及びムスチナへの対処、フォローの要求に
 ふたりとも全く気付かないという事態に陥った為である。
 おかげで不毛だと賢い二人は悟ったのか、それなりに波風の立たない食事風景と相成っていた。
 多少、魚を切るナイフに力が入って皿を傷つけたり
 パンを引き千切るのに力が入ったりするのはもはや愛嬌だと思われている。

「で、チクハさんだっけ? あなたは何処に帰る予定だったの?」
「え? ああ、えーと、ハバラタかポルトガ辺り、要するにイシスの近くですね。
 ちょっと私も色々あったもので」
「また、アバウトな。ぅーん? 訳ありそうやねぇ」
「この歳になるとスネに傷の一つや二つ出来るものなんですよぅ?」
「昔、大怪我をしたんですか?」
「え、えぇ。まぁ少しね」
282楮書生:2013/05/18(土) 03:35:33.19 ID:sUeOJN1C0
 ヤターユは純粋に今までのんびりおっとりと受け流していたチクハの動揺する顔を
 見てニヤニヤしているが、ちょっと自分の底意地の悪さに顔を横に振る。
 トルカだけはムスチナとチクハの会話の齟齬に気付いていた。
 チクハの頬が赤く染まっている意味に対しても受け取り方も違うのだろう。
 そこで彼女はおおよそムスチナがチクハに対する評価の根拠みたいなモノを推測出来る。
 愚者の遇と賢者の理が重なる事など、そこそこにあることであり
 恐らく二人はそれが絶妙にかみ合っている故の奇形な信頼関係であるのだろうと。
 しかし、愚者の遇が上手い事転がっていても長続きしない。
 そう悟ったのかトルカは席から立ち上がる。所詮ラッキーはラッキーだ。
 何時かは失敗する。99%の確率でも100回あれば、1回は外れる。
 ならば、トルカは考え、結論付ける。100回ぶち当てればその内壊れるのだと。
 つまりは証明する為にはその実証機会を増やせば良いのだ。
 足の引っ張り合いでもなく、純粋な実力による評価で自分が選ばれる自信が彼女にはあり
 あくまですぐの離別ではなく、長期検証による離脱及び彼女の目的達成を優先すれば良いのだと。

「あ、そーそー。ねぇ。女将さん、例の勇者様の事前確認の依頼まだ残ってたよね?」
「ぁー、ナジミの塔の奴ね。今月分はまだやられて無いわね。――っと、はい。これ」
「なんですか? それは」
「勇者第一の試練! ナジミの塔 最上階に居る老人に逢う!……為に
 まずその老人の生存確認と身支度を整える依頼ね」

 立ち上がり女将へと声を掛けるとそれに応え、にごそごそとカウンターの中から
 書類を一枚取り出して、トルカへと渡す。ぴらっと見せられる依頼書。
 ちゃんと国王からのサインもあり正式な書面で書かれたものであった。
 内容は言われた通り、海を挟んだ向こうの島にある塔の最上階に居る老人にあって
 生存確認のサインを受け取ってくると言う仕事であった。
 あまりの内容にヤターユとムスチナは眉間にしわを寄せてもう一度その書類を覗き込む。
 ふたりとも顔には信じられないといったセリフが刻まれている様であった。

「……なぁ、それって試練なん? なんちゅー、予定調和な」
「勇者ってこんなお膳立てがあるんですか?」
「あなた、勇者の初仕事にご老人の遺体漁ったり、汚い塔の一室を家探しさせたい訳?」
「それは流石に」
「まぁ、いろいろあるんですよ」
「第一歩位はきれいにしておいて良いんじゃない?
 子供一人を世界の救済に駆り出す訳なんだし、何より仕事が出来るのは僕達には助かるじゃん」

 唖然としたムスチナとヤターユを尻目にやや、冷めた表情のルイーダの女主人の顔が
 二人の頭のイメージにおどろおどろしい光景を刷り込んでくる。
 言われてみれば、という感じで納得するムスチナに対して
 ヤターユはいややーっと左右に首を振ってそのイメージを振り払おうとする。
 トルカは椅子の背もたれに体重を乗せて音をたてながらもバランスをとって
 改めて依頼書を見つめていた。かりかりと指先で頭を掻きつつもじとっとした
 視線で何かを考えた後、それをムスチナへと渡す。
 冗談の様な依頼だったが現実として実在するその仕事に目を凝らし
 やはり、それが本物であるとわずかな経験と知識で判断する。
283楮書生:2013/05/18(土) 03:37:33.00 ID:sUeOJN1C0
「ま、内容の詳細については深く突っ込まないで。難易度的に見れば
 貴女達みたいな出来立てパーティがちゃんとやれるかみたいなお試しも兼ねたお仕事ね。
 ざっと、一週間とちょっとあれば達成できるし、キメラの翼があればもっと早く終われるわ」
「ええ、やっぱり初顔合わせで何かと上手く行かないこともあるので
 結構人気のあるお仕事なんですよ? 
 ただ、今月はまぁ勇者さんの関係でぇ色々とありましたからね」
「ふむ。まぁ、そうですね。行き成り長旅をして失敗では目も当てられませんし
 これ引き受けたいと思います。皆さん宜しいですか?」
「うちはえーよ」
「あい、ボクは勿論OK」
「はぁい。大丈夫ですよ」
「では、どーぞっと。そろそろ誰か行ってくれないと困る所だったのよね。
みんな経験者ばっかりだからわざわざこの程度の依頼は受けてくれなくて」
「皆、勇者君目当てだもんねぇ、今来てる人って」
「そーいうこと。此処にサインしてねぇ」

 こうして、彼女達の初めての冒険の目的が決まった。
 現代的解釈で言えば、訪問の介護ヘルパー、デイケアサービスの様な仕事であったが
 それでも道中魔物がでる事には変わりはない。
 トルカから依頼書を渡されて其処に名前を書く。
 ペンを走らすムスチナには若干の緊張を残していた。
 派遣期間はおよそ一週間、勇者の旅立ちに合わせての出立
 もしくは見送った後の身支度の整理をするのが副報酬の条件として書かれている。

「っと、では予定は一週間ですね」
「請求書書いてくれれば、塔地下一階の宿代も後から出るからねぇ」
「それは助かります」
「薬草とかは仕入れとくよー。こういうのは準備が大切やさかい」
「一週間分ねぇ。ちゃんとご飯の準備はしておくからぁ」

 少女は何かと手厚い初めての冒険に鉄面皮ながらも無い胸を踊らせていていた。
 これが長き長き旅路の一歩であり、これから永い時を経て完結するロトの物語の礎になる。
 余談だが、このパーティの貧乳絶壁率は5割以上である。
284楮書生:2013/05/18(土) 03:42:40.56 ID:sUeOJN1C0
 一週間後 ルイーダの酒場にて若い一人の少年が現れる。
 決意を背負い、運命を刻まれ、それでも常に笑っていた少年は
 酒場の女主人の元へとまっすぐに歩いて行く。
 大人達の視線を一身に受けて少年は旅立つのであった。

「いらっしゃい、ルイーダの酒場にようこそ」
「どうも、お世話になります」
「ふふ、相変わらず素敵な笑顔ね。さて、何の御用かしら?」
「冒険の仲間を探しに来ました。良い人は居ますか?」
「ええ、とびっきりのおすすめが3人居るわ」

次回    序章の八人目
「診断結果:体に刻む恨みから為るらんぼうもの 遺された生き方:朽ちるまで戦士」
285楮書生:2013/05/18(土) 04:11:40.60 ID:sUeOJN1C0
以上です。ちょっと回線不安定で投下が乱れました。
次は一応完成していますのでだいたい一週間程度で投下予定です。
次で序章は終了で他は大体1エピソード及び地域を2〜3話で回す予定です
286名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/19(日) 18:08:13.01 ID:p7mlGNCI0
次は洞窟からナジミの塔ですね。
人数が8人いますが、パーティを2つに分けるということでしょうか
287楮書生:2013/05/21(火) 02:14:05.07 ID:PhVfr4dM0
ちょっと修正と相談がてらレスさせて頂きます。

トルカ・ラヴクラフ→トルカ・ラヴクラフト

いきなり名前ミスってましたねorz

>パーティを2つに分けるということでしょうか
はい。ルクスパーティとムスチナパーティの同時進行で
主人公のムスチナパーティがメインになると思います。

で、此処からが相談なのですが
ロマリア編以降で登場する予定のカンダタこぶんの一人の
性別でちょっと迷っています。どちらにしても物語上は
問題なく、面白いので此処は此処の住人の方のご意見に沿おうと思っております。

A:凛とした王子様系宝塚少女(百合嫌悪)
B:こんな可愛い子が女の子の筈がない系女顔少年(女装はしていない)

見た目は褐色、青い猫目、黒髪ロングストレートの前髪パッツンの予定です。
良ければ、ご意見頂ければ幸いです。
288名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/21(火) 23:13:54.31 ID:V6HUaJ7Z0
最近はBがよくあるイメージですので個人的にはAのキャラが出てほしいです
289名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 11:24:14.49 ID:bsh7n+sE0
age
290名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/05(水) 20:10:19.48 ID:ki33aMbp0
age
291名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/09(日) 18:17:07.64 ID:3HcbQ/V50
ツンデレ
292名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/09(日) 19:01:53.66 ID:+PUKsaaS0
魔法使い女「あんたのことが好きなわけじゃないの。
呪文を全部覚えたらもう別れてやるんだからねっ!」
293名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/11(火) 09:16:47.33 ID:A/J/mDld0
ルビス様がツンデレだったらな
294名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/16(日) 21:42:21.09 ID:vgewVGtZ0
ほしゅ
295名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/18(火) 09:06:17.04 ID:Pxf6TPa20
ルビス「違うの。別に勇者に興奮しているわけじゃないのよ?
ただちょっと顔が赤くなって心拍数が上がっているだけなの。

これは魔法医学的に言うとね、恋ではないの、なぜなら…」
296楮書生:2013/06/20(木) 16:47:42.90 ID:73AbXihb0
なんで、一話投下する度に規制が発生するんだテストorz
297楮書生:2013/06/20(木) 17:43:14.24 ID:73AbXihb0
虚救旅団  序章の最後の一人
「診断結果:体に刻む恨みから為るらんぼうもの 遺された生き方:朽ちるまで戦士」

 王への謁見――それは茶番だ。
 王もこの日のために何度も自分に投げかける言葉を推敲し
 あるいは家臣達が作り、それを何度も手直しし、影で練習していたのだろう。
 王の口からまるで詩の様に紡がれる言葉は酷く薄情に聞こえた。
 予め、私も「はい」と言う返事しか出来ない事は聞かされていた。

「勇者ルクスよ、約束の時はついに来てしまった」
「はい」

―待ち望んでいたのに?

「わしとて君の様な小さな少年に世界を救うなどと言う大任を任せると言うのは
 正直な話どうかと思う。が、君はその使命に逃げる事もなく今日と言う日を迎えてくれた」
「はい」

―逃げたってどうせ、探し出すか代わりを作る癖に

「この様な島で君の様な逸材を、可能性を、奇跡を世界を見せまた君にも世界を見知って欲しい」
「はい」

―ま、その可能性っていうのも父が凄かったってだけですけどね

「我々大人が手助けできることはほんの僅かな事だが。
 何せこうやって各国の協力を仰げたのはほぼ、奇跡といってよい。
 皆、この魔王の支配に憂いており、人が人を信じる事すら出来ない」
「はい」

―だからって、どうかと思いますけどね。こんな子供を信じるっていうのも

「少しでも多くの人の困難を救い希望を照らして、笑顔を作って欲しい」
「はい」

―私はランプかなんかなんでしょうか? 笑わせるなら遊び人の方が専門でしょう

「お、王!?」

 玉座から立ち上がり、歩いていく。煌びやかな衣装、はめられた指輪
 宝石の大きさと金の装飾で重そうで王冠で塗り固められた権威の色が近づいてくる
近くで見るからこそわかるのだが、王冠の下の方は肌色が見える事から
禿げ上がっている居るのだろう。目は近くで見ると充血した目にやや黄色がかった白目
 手を取られて握られた指は骨ばっており、少し染みが出来ている。
 近くの家臣達ざわめいている。どうやら、予定外の行動らしい。
 緊張する近衛兵達は今にも飛び出しそうな勢いだ。
 ただ、王がわずかに目配せをすると石像の様に近くの者達はその場に立ち尽くしている。
 ルクスはびくっと背筋をわずかに震わせながらもまっすぐに立ち尽くし、微笑を湛えていた。
 王のその気配とプレッシャーは奇跡的にもルクスの狂気を抑えつけている。
 故にこの微小はルクス自らが選択した表情であり、仮面でもあった。
298楮書生:2013/06/20(木) 17:47:00.92 ID:73AbXihb0
 老人の震えた指で手袋を外し、自らの手で直接王がルクスの手を取れば、ぎゅっと握り締める。
 シワの刻まれた顔や威厳ある王という事前情報のギャップから、酷く力が弱く感じられる。
 離さない。王はその手を握ったまま、まっすぐに目を見つめ離さない。
 頑張れとか、救ってくれとか魔王を倒してくれとか
 色々言わなければならない事も多いのは承知していた。
 予定では式典として一時間は掛かると聞いていた。しかし、王は何も喋らない。
 歯を食いしばり、ただただ自らの生気を注ぎ込むかの様に手を握っていた。

「………………はい」 
「では、君の旅の無事を祈っておる。叶うならば生きてこの国へと帰り
 勇者オルテガと共に、再びわしに顔を見せて欲しい」
「はい」

 思わず何も聞かれていないのに返事が出た。良く解らない。
 ただ、率直な感想は王とはやはり王になるべき人が王になっているのだろう。
 僅かに王が言葉を残した後、式典は滞り無く続けられ、ルクスも僅かな資金と装備を手渡される。
 こうして、私の勇者としての旅は始まった。

―ルイーダの酒場にて

 ルイーダの酒場。既に名簿は三名しか居なかった。
 欲しい人材の登録所というのが上にはあるのだが
 とてもじゃないがそんな空気ではなかった。誰も彼もが他人ぶりながらも一挙手一動を見ていた。
 ルイーダの女将さんも好きな人を選んでねとは建前で、予め決められた三名が居た。
 あくまで建前の公平性。選ばれなかった事で苦々しい顔をするもの。
 何があったか知らないが大けがをしている者が数名いる。特にそれらの者の視線が強い。
 見る目がないと明らかに侮蔑を向けていた。
 そんな視線を笑顔で乗り切ったつもりで カウンターへと足を運ぶ。

「……では、この三人で」
「はい。じゃ、此処に登録を書いてね。これで、貴方達は正式に国が認められたパーティよ。
 この書類を持ってれば、例え、道中倒れても誰かが、それぞれの国の範囲内で助けてくれるわ」
「はい」
「ま、持ちつ持たれつって奴ね。あなたも勇者だの以前に
道中困ったパーティがあったら助けてあげるのよ?」
「解ってますよ」
299楮書生:2013/06/20(木) 17:49:59.44 ID:73AbXihb0
 書類の手続きをする。えらく事務的なのは此処がそれだけ人材の流出入のシステムとして
 求められ、洗練されているのだろう。サインをしている間に、待機していた3人が呼ばれた。
 一人は背の低い女の子。髪は二つ縛りでおでこを露出している。
 もう一人のいかにも冒険者といった感じの野性味と生傷と汚れた武装を見に包む
 体躯が一回り以上大きい大男で、女の子はその大男の腕にぶら下がっていた。
 それをうっとうしそうにしている中呼ばれれば、手を振り払う様にして近づいてくる。
 大男はルクスより身長が1,5倍はあった。
 
「おぅ、終わったか? じゃ、まぁ勇者殿これから宜しく。俺はマフィー。
 マフィー・ヤンピアラ。あの僧侶の小娘の代わりだ」
「はい。聞いてます」
「あいにく回復呪文つーのは使えんが見ての通り腕っ節はある。
要は傷作る前に倒しちまえば良いって理屈だわな」

 そういって、マフィーから振り下ろされた小さい背の女の子はしゅたっと両手を地面についた後
 軽業師の様に前方宙返りをして、ルクスと目の鼻の先まで来る。
目は爛々と輝き全てを見透かしていそうな濁りの無い瞳。
先ほどの男よりも血のにおいが鼻先を掠める。
 そして、最初から違和感に気付いた。まるで指先を隠すかの様に全ての指に指サックの様な
 付け爪が付けられていた。”普段からそうなのか?”と直感させられるのは
 付属の革の痛みと血のりにより錆びた金具の匂いが雄弁に物語っていたからだ。

「システアはシステアだよ! おにぃ……あ、ゆーしゃさま。よろしくおねがいします。
 あ、えーとおにいちゃんってよんでいーですか?」

 小さい女の子はそんな違和感など気にする事もなく、あらかじめ考えいた台詞を
 すらすらと述べている。ニコニコとした笑顔だったが先ほどの王の謁見より白々しい感じがした。
 獲物を捉えた猛禽類の様な鋭さと猫のような愛らしさの交じる瞳で
 まじまじと見つめられてしまえば、当然断るなんて選択肢は無い訳で
ええっと小さく微笑みを返しながら了承する。
 今、思えば恐らく断っても絶対受け入れない感じだったと思う。
 システアはそれを聞くとわーいっと手を上げながらも抱きついてくる。
 羽毛のような軽やかな動きとは裏腹にどっとと体にのしかかるときは鉛のようであった。
 私は困惑する事無く、にこやかに笑顔を向けながら暫くされるがままにされている。
 すると先ほどまで全く無かった気配。ぼんやりと霧霞が集まってその場に漂うような人影が現れる。
 システアの髪を撫でながら諭す様な声が聞こえてくる。

「ほらほら、システアちゃん。勇者様が困っていますよ? おばあちゃんにもご挨拶させておくれ?」
「はーい」
「ヴァーラ・ブレアセイレム。わたくしの名前です。好きに御呼びください。
 見てくれはこうですがもう大分長いことを生きてきました。
 最期の時がお役に立てるかと思い志願させて貰った次第。以後宜しくお願いします」
「はい。宜しく」
「良い顔をしておりますの、勇者殿。笑いとは余裕であり、好意の証であり、安心を誘います。
 その笑顔が続けられる様にわたくしも粉骨砕身の奉仕を」
「あ、あははっ。ありがとうございます」
300楮書生:2013/06/20(木) 17:51:28.91 ID:73AbXihb0
 後ろから現れた女性は偉く堅苦しかった。恭しく頭を下げて、決して自分より頭を上げようとせず
 スカートのすそをつまみ上げ、右手は胸を触り、へっぴり腰の様になる古風な礼儀作法。
 言葉もまるで古典の登場人物の様で演劇を見せられているかの様なやり取りをされたが
 それでも自分が困惑した表情を出せる事出来ない事を改めて痛感する。
 見た目は美しい女性であった。切りそろえられたボブカットに
 肌の露出も少ないながらに20代後半の女性の様な肉付きの良い肢体。
 帽子もまるで頭を覆い隠すほどの大きさで、いかにも魔女と言った風貌であった。
 そう、彼ら3人ははっきり言えば経験者であり、実力者である事は容易に想像できた。
 恐らく、その筋ではそれなりに名が知れていそうな人たちばかりだ。
 これがアリアハンの大人の最大限の努力なのだろう。
 それぞれ見たことも無い武器を所持していた。
 王から宛てられた建前上の金貨と一部の武装などは彼らの得物と比べれば、どれも玩具の様だ。
 と言うか、それらの武装も事前に売却というか譲渡済みだった。
 此処で武装を揃えることになる冒険者初心者の少しでも足しになる様に
 自分が使う物以外は通してある。

「さ、挨拶も終わったなら、勇者殿。早速御用命よ?」
「あ、はい。ロマリアですか?」
「今、ちょっと騒ぎが起きてるみたいでね。”出来るだけ早く”着く様に。
 一応、2週間後には此処から船が出る予定だけど、まぁそれだと時間が掛かるから」

 ぴくっと眉が一瞬動かすのに感づかれた。大体推測出来る。恐らく、何らかの手段で
 早く着く事が出来るのだろう。それでも出来ない場合はそれで送れという事だ。
 当然考えの行き着く先は簡単で、要するにこれは最初の試金石なのだろう。
 この島に等しい大陸からいち早く脱出できる力を持っているか。
 もし、なければそれなりのフォローなり色々とプランも練られているのが透けて見える。

「保険……ですか?」
「ま、そーいう事ね。ま、あまりに気にしないで。
 この船は定期便の一種だから。ま、席は最優先で取れるってだけよ。
 王様からの特命だもの」

 奥歯で砂をかむ様な感触が脳裏をよぎる。
 これからどれだけこういうところが待っているのだろうか。
 何処の国の人もしたり顔で品定めをする様な視線をするに決まっている。
 アリアハンの総力、人材を集めに集め、厳選した中の一級の強者。
 僕はそれに悔しがる事もなく、感慨を抱くこともなく、事実だけを受け止めて
 微笑を湛えていた。
301楮書生:2013/06/20(木) 18:10:25.87 ID:73AbXihb0
 そして僕達”世界を救う勇者ご一行様”はアリアハンを出る。
 当然その前にはいろいろと下準備があった。食料の確保、薬草などの確保もそうだが
 概ね2名がほぼ旅慣れている所為もあり、滞りなく終わる。
 システアはよくわからないけど、ひたすら僕にひっついていた。
 町を一歩出れば広大な平原に遠くには森林が群生する地帯もあるが
 何よりも目立つのは海の向こうにある孤島に佇む古ぼけた塔だ。
 何度も見たことある風景でも僕にとって冒険への序盤という事を考えれば
 感慨深いものがあると思ったが、相変わらずの顔なので度胸と覚悟を誤解されていた。

「さて、勇者殿」
「はい。ヴァーラさんなんでしょう?」
「わたくし共は今は勇者殿よりも実力は上でしょう。
 しかし、ある日逆転される。それは勇者という血筋が成せる運命です」
「ま、よーするにそのうち、勇者殿が俺らより強くなってもらわねーと困る訳だ」
「そうですね。努力は怠らないです。予定でもつもりでもなくね」

 前髪で目を隠しながらもヴァーラは人差し指で空中に弧を描きながらもあるいていく。
 隊列はマフィー、システア、僕、ヴァーラの順なので自然と後ろに視線へと求められる。
 立ち止まる隊列。ちょうど開けた草原の中、ヴァーラの頷きとともにマフィーも荷物を一旦下ろす。
 その様子を直感と勘だけで察知したのかシステアはごきげんな様子で
 ぴったりとくっついてたルクスに離れる。

「じぶんひとりがつよいだけじゃめーなのよってじーじがいってた」
「システアはえらいねぇ? ま、そういうことでございます」
「つー訳でだ」

 変わらぬ笑顔で自慢気に語るその言葉。理解はしているかは解らない。r
 ただ、言葉としてそれを僕に教えた事が良いことであり、ヴァーラにほめられた事が
 更にシステアの機嫌を良くしていた。荷物を置いて、軽く肩慣らしを始めるマフィーを見て
 事の事象が大体と解る。街から離れ、人気もない塔への道中。
 相当の変わり者ではなければ、あるいはわざわざ自分たちを追いかけて居なければ
 とてもではないが見つける気にもならない魔物の気配漂う草原のど真ん中だ。

「取り敢えず、俺と軽く立ち会って貰う。ま、俺が勝つ。
 此処で重要なんはあれだ、えーと」
「力量の差というか今、勇者殿がどれだけ脆いかという事を知り
 そして、それでも尚、わたくし共が倒す魔王とはそれを上回るモノだと理解して頂きたい」
「おーおー、それだそれ。つー訳で、得物を取ってくれ。本気で構わん」
「分かりました」
302楮書生:2013/06/20(木) 18:23:03.85 ID:73AbXihb0
 荷物を地面に置き、銅の剣を構える。幼い日から父が遺してくれた血汗の滲みついた得物。
 物心ついた時から毎日コレを振るい、剣術の腕を磨いてきた。
 もっと良い物が買えたかもしれないが武器の出来に頼る事を避けてきた事と
 此処周辺の魔物はコレで十分という判断だった。
 同じく遺してくれた青銅の盾を構えつつもじりっと間合いを取る。
 僕に対して、マフィーの武装はけいそうだった。皮の腰巻と胸当てに
 片手に持つのは巨大な骨。なんでもデッドペッカー種の超大物の太腿の骨。
 それに骨髄の中に鉄を注ぎ込んだ素振り用の得物らしい。
 
「では、参りま――っ」
「終いだ」

 一瞬だった。きちんと構えて声を掛けた瞬間その巨大な骨の塊が僕に向かってぶっ飛んできた。
 当然、盾と剣で防ごうとするがそれはまるで陶器の様に割れ砕けて四散する。
 体は宙に舞い、折れた剣の柄はどこかに飛び、真っ二つに割れた青銅の盾はもう後ろの
 持ち手となる革紐部分だけになっていた。そして、確かに感じた。
 
 ”コレは手加減をされての結果なのだと”

 吹っ飛んだ僕を待ち構えていた、システアに僕はダイビングキャッチされる。
 意識はなんとか保っていた中、ヴァーラはすでに薬草の調合をし始めていた。
 大骨を担ぎながらもマフィーは僕の顔を覗き込む。それは欺瞞でも上下関係を決めるだの
 そういった俗物的な顔色ではない。まして、申し訳ないという気配など微塵も感じさせなかった。
 気だるそうな空気もこの散々たる結果も全てのこの場に居る人間がわかっていた事だ。

「つー訳だ。話になんねぇ。ただ、これから話になんねぇお前には
 英雄譚を作ってもらわねぇといけねーわけだ。魔王ぶっ倒してな?」
「……はい」
「ま、落ち込むな。ただのガキが一朝一夕で俺より強くなる訳がねぇ。
 いくら英雄の息子だからってな」
「ははは、そうですね」
「ねーねー、おきゃくさんがいっぱーいきたよー」

 今の騒ぎという訳ではないが、周囲には魔物気配がおびき寄せられる。
 勿論、実力者3人を狙っている訳ではない。
 今、なぎ倒されて昏倒寸前であるルクスを狙っているのだ。
 人間の込み入った事情など解る程の知能も無い下級魔物達は単純に
 肉食獣のお残しの死肉を狙うハゲワシの如く
 ただただ、その場でうようよとたむろっているに過ぎなかった。
 ひょっとしたら仲間割れをしているのか、ひょっとしたらあの弱い人間はこのまま捨てられるのか。
 そんな、甘く見通しのない打算と本能だけでその哀れな生き物たちは屯っているのである。
303楮書生:2013/06/20(木) 18:25:14.25 ID:73AbXihb0
「では勇者殿。私の微力な力、覚えておいて下さいませ。後、3人ともそこから一歩も動かぬ様に」
「はーい」
「あいよぉ」
「大地に眠る力強き精霊たちよ、いまこそ我が声に耳を傾け、敵を傅かす力を与え給え! 

              "ベタン"                                       」

 ヴァーラが呪文を唱えた。見たことも聞いたこともない魔術だ。
 それは不思議な術だった。一瞬、地面が大きく揺れたかと思うと
 周囲の草が全て何か巨大な鍋のふた押し付けられたかの様にべったりと押し付けられて
 地面も少し低くなった様な錯覚すらおぼえる。同時に魔物たちの僅かな悲鳴と共に
 気配があった箇所には血だまりと肉と骨のひき肉と血に汚れた毛皮があった。
 おそらく、つい先程までそこに生きていたのだろう。
 
「私の魔術は基本的にこの術が一日一回でございます。
 今は私の判断で撃ちますが将来的にはきちんと勇者殿の判断でご指示下さいませ」
「……解りました」

 ヴァーラの言葉に頷く僕。世界が変わった。そう、僕が今まで後生大事に抱えていたモノを折られ
 蠢いていた未知の魔物達を押し潰す術を知った。
 己の小ささは理解していたが、手にしたそれは自身の手に余るもので
 それすらも成長を見越しての前払いという事になる。
 へし折られ、押し潰されたという目の前の現実が今は重要なのだ。

「あはは、おにいちゃんわらってる〜」

 僕は笑っていた。それはナニか、きっと自由になったのかそれとも壊してくれたのか?
 実際そんなことはないのだけど、そんな何かが僕は治ったのか壊れたのか解らずに
 正気とも狂気とも取れぬ笑いをその場でただただ、笑うしか無かったのだ。

序章完結 一章アリアハン大陸編へ続く
304楮書生:2013/06/20(木) 18:35:08.12 ID:73AbXihb0
以上です。合間が空いて申し訳ありませんでした。
次は少し時間がかかるというかアリアハンの大陸での騒動が
少し追加されるかもしれないので今調節中です。
では、投下失礼しました。
305名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/22(土) 22:12:40.43 ID:/1YU2SMd0
男勇者のほうは仲間がかなり強いですね。
これからルクスはどう強くなるのか楽しみです。
306名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/29(土) 12:11:40.44 ID:6KC3m47i0
ほしゅ
307名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/09(火) 12:58:49.12 ID:B9OK5zJV0
ho
308名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/15(月) 11:25:22.70 ID:34nOhHvQ0
保守
309名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/21(日) 21:27:18.07 ID:tOuNIYg80
保守
310名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/28(日) 12:08:48.02 ID:HLcvnZee0
ほしゅ
311名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/05(月) 18:29:28.41 ID:HbGKDIoh0
ほしゅ
312名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/10(土) 00:53:44.94 ID:do5qqEVF0
保守
313名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/18(日) 00:35:53.55 ID:iT7mgUW90
保守
314名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/21(水) 01:02:00.86 ID:D1gpQczg0
315名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 08:41:31.53 ID:Sd8oHOTL0
316名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/26(月) 23:51:15.65 ID:UAWSzK2r0
317名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/01(日) 20:29:39.50 ID:VT3bC96m0
乙です
318名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/08(日) 18:56:40.23 ID:+7BG6P7t0
保守
319名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/15(日) 00:31:15.26 ID:MFnScwlh0
320名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/21(土) 22:43:36.16 ID:TWm5foca0
保守
321名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/09/28(土) 23:24:07.95 ID:8gnjNn6U0
ほしゅ
322名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/10/05(土) 22:53:59.82 ID:E/UoKbP10
ho
323名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/10/14(月) 00:00:25.40 ID:TkbOPFtA0
324名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/10/21(月) 20:43:15.23 ID:dZWSxwZ30
保守
325名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/10/29(火) 01:00:51.96 ID:dsBNivZu0
ほす
326名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/11/04(月) 22:37:50.25 ID:QrU/JA350
保守
327名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/11/06(水) 20:49:42.04 ID:ZCXXAcvy0
6月以降、一言保守書込み以外無いけど、このスレ要るの? 素直に沈めたが良くね?
328名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/11/06(水) 21:06:39.39 ID:19sTcE670
作者の出現ペースが大体半年に一回だから、12月には来るんじゃね?
329名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/11/15(金) 05:20:52.02 ID:GdoGCXSK0
気まぐれでダメダメな自称・新職人な俺が来た

マリベル「別にこの書き込みしてる人はニートじゃないんだからねっ!」
330名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/11/15(金) 08:01:44.74 ID:GdoGCXSK0
主人公「それで、君たちはどんなツンデレヒロインが好みなんだい?」
331名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/11/16(土) 13:09:44.27 ID:CqcrYjjA0
女の子「ツンデレに種類なんてあるわけないでしょ!」
男の子「いや、マニアックなところでは そうでもないらしい」
332名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/11/24(日) 10:24:58.64 ID:+gwUj3kW0
新職人さんに期待
333名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/11/28(木) 16:32:27.28 ID:7VX1gjuP0
このスレ、生きてたんだ…
334名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/12/04(水) 20:01:27.20 ID:cPlgbYy00
ほしゅ
335名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/12/11(水) 16:55:04.39 ID:gywlzSGz0
336名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/12/19(木) 00:14:58.21 ID:9HMDqF3U0
ho
337名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/12/25(水) 04:07:13.80 ID:49ZGHR7W0
ツンデレ
338名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/01/05(日) 00:30:30.84 ID:eML249WA0
339名前が無い@ただの名無しのようだ