ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level8

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1名前が無い@ただのツンデレのようだ
DQツンデレスレへようこそ。
ここは職人方が書いてくれるDQ関連のツンデレなSSに萌えるスレです。
新しい職人さん大歓迎です。SS題材はDQであれば3以外でもおKです。
DQ3の攻略等に関する質問は専用スレでどうぞ。

前スレ Level7
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1167743633/

過去スレ
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1132915685/
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜 Part2
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1138064814/
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜 Level3
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1142515071/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level4
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1144425198/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜  Level5
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1157354640/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level 6
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1162828557/

まとめサイト
http://www.geocities.jp/game_trivia/dq3/
CC氏まとめサイト
http://www.geocities.jp/tunderedq3cc/
2名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/24(土) 00:47:55 ID:7VZyiMcr0
自分で2げっと
3CC ◆GxR634B49A :2007/03/24(土) 00:58:37 ID:wK6lVnFA0
そして3ゲット
4名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/24(土) 01:21:22 ID:/eCvk9qSO
乙!!
5名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/24(土) 01:41:32 ID:Ti30NwMaO
スレ立て人要素は>>1乙する
ツンデレはそう判断した
6名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/24(土) 01:52:52 ID:yh1fAFKVO
1乙!
7名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/24(土) 14:24:39 ID:09HR09Kn0
 
8名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/24(土) 15:09:02 ID:KSSgpZUlO
スレ立てほめてあげないこともなくてよ?
9名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/25(日) 03:14:53 ID:/LN5KM1OO
保守
10名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/25(日) 13:21:07 ID:yFLVfsDV0
>>1糞スレ乙
11名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/25(日) 18:58:11 ID:Ovq3en4+0
新スレ祝いのひとときに少し驚かせたようだな・・・
我が名は大魔王ゾーマ。ツンの世界を支配するもの。
わしがいる限り この世界もまたツンに閉ざされるであろう。
さあ 苦しみ悩むがよい。そなたらの苦しみはわしの喜び。
命あるものすべてを我が生け贄とし 絶望で世界を覆い尽くしてやろう。
我こそはすべてを滅ぼす者。
そなたらがわしの前に現れる日を楽しみに待っているぞ・・・
わはははははは・・・・・・っ!!

>>1乙なんてデレ成分は持ってないんだからねっ!
12CC ◆GxR634B49A :2007/03/26(月) 03:03:27 ID:XwhlUFd00
3ゲットに夢中で、こっちで乙言うの忘れてました><
>>1 乙です
ほしゅ
13CC ◆GxR634B49A :2007/03/27(火) 03:40:23 ID:XIOlOcYp0
う〜時間が〜保守><
14名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/28(水) 02:00:26 ID:8RSPr/FCO
保守
15名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/28(水) 14:45:21 ID:LET+WTDdO
ドラクエ3・・・もう小学生の頃から何回クリアしたか覚えてないや。
もうファミコン潰れてできないけど。
16CC ◆GxR634B49A :2007/03/28(水) 21:01:33 ID:ekc+rw/Z0
とりあえず今週中くらいを目標に保守
17見切 米:2007/03/29(木) 00:11:36 ID:v0cGoKrV0
また詰まった。全然進まねー。ちゃぶ台返ししたいくらい進まねー。

そうそう、遅くなりましたが>>1乙。
然も安価指定したのわたしだしねー。見事なスレ立てを見させて貰ったぜ。
な、なんて、おおおお思ったりなんかしてないんだからんねっ!!!
18名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/29(木) 03:10:31 ID:Ypg7BUfuO
書けないなら気分転換に小ネタでも書いてみたらどう?
今ならちょうど前スレがあるし
19見切 米:2007/03/30(金) 01:01:56 ID:HBBzm4mN0
>>18
小ネタ考えてみましたが、出てきませんでした。シチュエーションが出てこないのがもう致命的orz
最近渋いものばっかり書いてるから、萌え萌えしたいんですけどね。萌え萌え。
おっぱいとかおしりとかせなかとかうなじとかあしくびとかふとももとかにのうでとかくびれとかおくれげとかそんなのいいよね。いいよね。

なんとか本編も亀の歩み程度には書けるようになりました。
○○○○○○○○はどれだけ続くんだろう。。。
20CC ◆GxR634B49A :2007/03/30(金) 02:31:14 ID:tBdRopa60
わたしゃ、ここ何日かお金をもらえる方のお仕事しかできてないのでw
そいでは見切りさんが投下してからってことで保守
21見切合格:2007/03/30(金) 22:36:44 ID:S4SF7T/i0
其処は既に死地だった。

周囲との連携は断たれ、小隊の仲間も自分以外は全員絶命している。
いや、今までもう一人だけ生きていたが、丁度目の前でゴールドオークの槍に貫かれたところだ。槍が抜けない
ようで、力任せに振り回される仲間の躯。
命の火などとうに消えているが、それ以上痛めつけられるのは見ていられなかった。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
裂帛の気合いと共に放たれた一撃は、ゴールドオークの右手を切り飛ばす。槍を握りしめていた握力が足りなく
なったせいで、その手から槍がすっぽ抜ける。そしてそのまま少し離れたところに落下する武器と躯。
その間に切り上げられた剣は、肋骨により止められる。
「糞ッ」
思わず悪態を吐くが其れだけでは終わらない。左手に身に付けた盾で頭を殴りつける。砕ける頭蓋、飛び散る脳
漿。仰向けに倒れる魔物を、肩で息をしながら目にする。
然し、今此処で気を抜くわけにはいかない。周囲に頼れる仲間は無く、居るのは敵対する魔物共のみ。生きて帰
る事は既に諦めたが、やるべきことは心得ている。今は一匹でも多くの魔物を道連れにすること。
次の相手を探すために首を振って―――振ろうとしたところで自分が影に覆われていることに気が付く。
ふと上を見上げると、単眼が自分を見つけている。
「嘘だろ……………?」
その声を聞き届けたのか、魔物の口の端が吊り上がったような気がした。
次の瞬間。剣を構える間すら与えず、サイクロプスの鉄拳が男の全てを叩き潰した。
22名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/30(金) 22:37:08 ID:YyER3og70
保守
23見切合格:2007/03/30(金) 22:39:11 ID:S4SF7T/i0
「戦況は?」
銀色のプレートアーマーの上に蒼のサーコートを羽織り、王家伝来の剣を手にしてローレシア王は天幕に姿を現
した。居並ぶ幕僚達は一斉に敬礼をする。其れに対し軽い返礼をすると、同じ質問を繰り返す。
押し黙る一同の中で、参謀長のイヴァンが発言する。
「悪いですが、最悪の状況は免れています。初日ですから、兵達もまだまだ堪えていますし。然し戦線は縮小し
ないと駄目です。流石に損耗率の高さは楽観できませんから」
その声には全くもって深刻さは感じられない。
「ハーゴン側が戦術というものを理解して無くて、助かりました。今のところは、最初の被害予想と大きく変わ
ることはありませんよ」
「ふむ……。民の避難状況はどうなっている?」
腕組みをして戦況図に見入る王が再び問う。
「戦略の関係上、ハーゴン軍の攻撃が始まってからの避難になりましたが、あと丸一日もすれば退避は完了する
ものと思われます」
「全く……どうしてこんなギリギリな戦を行う羽目になったんだろうな?」
「恐れながら、ご子息の立てた作戦の為かと」
眉を顰めて、苦笑する。
「わざわざ愚痴にまで答える必要はないぞ?」
「愚痴だとは思いませんでした」
シレッと答える其の声に思わず口元が緩むが、他の幕僚が其れを見咎め嗜める。
「陛下っ、多くの兵が今もその命を散らしておるのですぞっ」
直ぐに表情を消して、再び口を開く。
「判っておる。で、サマルトリアからの援軍はいつ頃着くのだ?」
24見切合格:2007/03/30(金) 22:40:07 ID:S4SF7T/i0
「此も戦略の関係上、我が国が軍勢に襲われてから使いを出しました。事前の遣り取りではほぼ全軍を動かして
くれるとのこと。後五日はかかるものと思われます」
「例えサマルトリア軍が到着しても、ハーゴン軍の方が数で上回ります。最終的には、数で押し負けるのではあ
りませぬか?」
「通常の魔物討伐時のような殲滅戦になるのならばな。だが、今回は王子らがハーゴンを討ち取るまでの辛抱だ。
魔物の軍勢というものは、頭の魔力を断てば戦力を維持できなくなる」
その後をイヴァンが引き取る。
「……ただいま陛下が仰ったとおりです。攻勢に出るには些かむつかしい状況ですが、守りに徹するなら其れも
可能でしょう。国民の避難が終われば、籠城すれば良いことですし。なに、そんなに日数もかかりませんよ」
「今頃王子らはロンダルキアの大地に足を踏み入れておる。ハーゴンと相見えるまで数日だろうよ。其処でハー
ゴンを打倒できれば我々も助かる。もしも討ちもらすようなことになれば、破壊神により世界は滅ぶだろう。
死ぬのが早いか遅いかの問題でしかなくなる」
「詰まる処、殿下達の活躍に我々の命運が握られているというわけです。我々に出来ることは、そう多くありま
せん」
一つ咳払いをすると、胸を張り居並ぶ幕僚達の顔を一つ一つ見渡していく。
「我々がすべき事は、目の前の畜生共を討ち滅ぼすことではない。最小限の犠牲で奴等を此処に釘付けにしてお
くことだ。王子らは必ず任務を遂行する。諸君らは兵達と共に全力で生き残れ」
低いが良く通る声が天幕内に響く。そしてローレシア王に向けられる敬礼。
25見切合格:2007/03/30(金) 22:41:48 ID:S4SF7T/i0
話は二週間前に遡る。

ローレシア王は一つの手紙に悩まされていた。
手紙はアレンがローラの門に常駐している兵を使って送ったものだ。要約するとこうなる。
『ロンダルキアへ通じる道を発見した。国を挙げてハーゴン討伐の為に軍を派遣して欲しい。自分たちは先に乗
り込んで露払いをしておく』
ロトの血を分けた国の一つであるムーンブルクが滅ぼされているのだ。面子から考えても当然の行動になろう。
然し、王は深く溜息を吐いた。
英雄の血族として生を受けた以上、戦事は恐れるものではない。
王として生を受けた以上、明確な標的が居る限り軍を派遣することも厭うことにはならない。
……ただ、其れにより国の民の全てを犠牲にする可能性が在るなら話は変わってくる。

軍事的にかつての英雄譚を研究すると、一つ通常の戦とは異なる事実が見つかっている。
戦とは数こそが全てである。正面から二つの軍がぶつかった場合、数の多い方が勝つのは自明の理だ。此を覆す
ため軍首脳部は頭を捻り作戦を練ることになる。
だが、高位の魔物が相手の場合は話が変わってくる。
アレフガルドがかつて魔によって支配されたとき、ラダトームは大軍を率いて攻め込んだとする記録があるが、
然しその全てにおいて、人側は敗北を喫している。その殆どは圧倒的な兵力差によるものとされているのだが、
竜王による侵攻の時は、竜王自らが戦場で猛威を振るったことがあった。そして其れは一方的な殺戮に他ならな
かったという。その身体を覆う鱗を貫けた兵は一人としておらず、吐かれる炎は一度に多くの人間を焼き尽くし
たとある。
この顛末は周知の通り、極限まで鍛え上げた勇者アレフが一人で竜王打倒を為している。
即ち、一定のレベルを越えた者を用意しなければ、高位の魔物には傷すら負わせることが出来ないということだ。
有象無象の兵では数だけ集めたとしても悪戯に犠牲を払うだけでしかない。
26見切合格:2007/03/30(金) 22:44:41 ID:S4SF7T/i0
勿論この事実はアレンも知っている。
となれば、この手紙は文面通りのことを語っているわけではない。
王子は国王に、ローレシア一国を陽動に使うことを期待しているのだ。国を挙げて侵攻し、其れを大軍をもって
迎撃させ、その隙に手透きな本拠地を叩く。戦術としては悪くないが、あまりに釣り餌が大きすぎる。
深く溜息を吐くと、私室にイヴァンを呼んだ。

「わたしは賛成ですね」
幼き頃から共に過ごしてきた王の片腕は、手紙を読んだあと開口一番そう云った。
「ハーゴン打倒が必要条件ならば、そのくらいの犠牲は払うべきです」
「その為に無辜なる民を犠牲にしろと?」
「判っている筈です。破壊神が喚び出されれば、その民も全て滅ぼされます。ご子息が首魁の元に辿り着く確率
を上げるためにも、やるべきです」
優秀な参謀は、主の目を真っ直ぐ見ながら続ける。
「第一、陛下も背中を押して貰いたくてわたしを呼んだのでしょう。ご自分一人で国民を犠牲にするかもしれな
い命令を出すのは不安だから、と。然し、陛下は陛下です。お決めになるのも命令を下すのも陛下以外にはおり
ませぬ」
全くその通りに違いない。然し、こう平然と自分の弱い部分を抉られるのは心地良いものではない。
「容赦ないな、お前は」
「ええ、其れが陛下が即位するときにした約束でしたから」
その約束は、王位を継承してから数十年、果たされなかったことはない。思わず苦笑してしまう。
「判った判った、ローレシアを囮に使う。其れは決定事項だ。で、どうすればいい?」
「そうですね……城内にいるスパイに報告させるのも手ですが、此処は大々的にいきましょう。ロンダルキアへ
の侵攻をご子息が道を見つけたというのと同時に世界に発表するのです。そうすれば十割ハーゴン軍は我が軍を
迎撃してくるでしょう」
ローレシア周辺の地図を机の上に広げる。
「確かベラヌールからしか通じていない旅の扉の先に、その洞窟はあるのでしたね。………ローラの門から向か
いましょう。サマルトリア軍と挟撃できる可能性が出て来ます。というより、恐らく我が軍よりも数で上回って
きますから、援軍はどのみち必要になりますね」
27見切合格:2007/03/30(金) 22:49:23 ID:S4SF7T/i0
「何処でかち合うと思う?」
今まで滑らかに動いていた口が、パタと止まる。何事かと目をイヴァンに向けると、微動だにせず地図に見入っ
ている。どうやら、考え込んでいるようだ。

どれだけそうしていたことか。不意に口を開く。
「……人間が攻めてくるのならば、補給線が伸びきったところを叩いてくるのが定跡ですが。但し、今回相手に
するのは魔物です………恐らく進軍する前に奇襲してくるものと思われます。それならば、我が軍を打ち破れば、
そのまま我が国を堕とすことにも繋がりますから。数で圧倒しているハーゴン側は、小細工を労してくることは
ないだろうとの推測からになりますが。まぁ、所詮魔物ですから複雑なことを考える頭は無いとも見ています」
「なるほどな」
「然も今回は、攻めさせることが目的です。万が一にも目的を察知されないために、敵軍が侵攻する前にサマル
トリアに動いて貰うことはなりません。同様の理由から、国民の避難も侵攻が始まってからになります」
「すると、もしもハーゴンが此方を包囲してきたら、一般国民の避難もままならぬということか?」
「そうですね……そうなります。然も、その時は我が軍の壊滅も早くなるでしょう。此の国と運命を共にして貰
うことになりますね。其れが考えられ得る最悪の状況でしょう」
次に地図の一点を指さし、そのまま線を引く。
「この様に進軍方向を塞ぐように展開してくれること、此が我等にとって最良の状況です。10万の壁とぶつかる
ことにはなりますが、此方も戦力を一極集中できます。それに開いた南方から市民達を逃がすことも可能になり
ます。其れに先程も申したように、サマルトリア軍との挟撃も可能になります。但し、彼の軍が到着するまで
我々が生き残っていないと意味がありませんが」
28見切合格:2007/03/30(金) 22:51:16 ID:S4SF7T/i0
「何処でかち合うと思う?」
今まで滑らかに動いていた口が、パタと止まる。何事かと目をイヴァンに向けると、微動だにせず地図に見入っ
ている。どうやら、考え込んでいるようだ。

どれだけそうしていたことか。不意に口を開く。
「……人間が攻めてくるのならば、補給線が伸びきったところを叩いてくるのが定跡ですが。但し、今回相手に
するのは魔物です………恐らく進軍する前に奇襲してくるものと思われます。それならば、我が軍を打ち破れば、
そのまま我が国を堕とすことにも繋がりますから。数で圧倒しているハーゴン側は、小細工を労してくることは
ないだろうとの推測からになりますが。まぁ、所詮魔物ですから複雑なことを考える頭は無いとも見ています」
「なるほどな」
「然も今回は、攻めさせることが目的です。万が一にも目的を察知されないために、敵軍が侵攻する前にサマル
トリアに動いて貰うことはなりません。同様の理由から、国民の避難も侵攻が始まってからになります」
「すると、もしもハーゴンが此方を包囲してきたら、一般国民の避難もままならぬということか?」
「そうですね……そうなります。然も、その時は我が軍の壊滅も早くなるでしょう。此の国と運命を共にして貰
うことになりますね。其れが考えられ得る最悪の状況でしょう」
次に地図の一点を指さし、そのまま線を引く。
「この様に進軍方向を塞ぐように展開してくれること、此が我等にとって最良の状況です。10万の壁とぶつかる
ことにはなりますが、此方も戦力を一極集中できます。それに開いた南方から市民達を逃がすことも可能になり
ます。其れに先程も申したように、サマルトリア軍との挟撃も可能になります。但し、彼の軍が到着するまで
我々が生き残っていないと意味がありませんが」
29見切合格:2007/03/30(金) 22:52:02 ID:S4SF7T/i0
「運任せとしか思えないな」
「仕方在りません、実際そうですから」
その答えを聞いて一つ溜息を吐く。それからふと気になったことを訊いてみることにした。
「そういえば、さっきスパイがどうのとかいってたな」
「崇める神が違うとはいえ宗教ですから、信者がいます。其れをスパイに仕立て上げたようです。ローレシア国
内のスパイは全員把握しています。偶に狩り出していたりはしていましたが………。内部から崩されるのは面白
くないので、明日にも全員始末します。但し一人だけワザと逃がしましょう。旅の扉を使って向かうことのみを
其奴を使って漏洩させます」
「前もって考えておくべき事はそのくらいか?」
イヴァンは頷く。
「そうですね、後は幕僚らを招集して会議を開いてください。侵攻することを決定しておかないと、逃がすスパ
イが報告する情報がありませんから」

数日後、ローレシアが全軍を挙げてハーゴンの本拠地に侵攻することを世界に向けて発表した。
30名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/30(金) 23:09:49 ID:YyER3og70
定期保守してたら、見切さんキテタ―!!
取りあえず支援
31見切合格 米:2007/03/30(金) 23:11:39 ID:S4SF7T/i0
試験に合格したよっ!(挨拶)

まぁそんなことはおいといて。
上手く投稿できないなぁ、とか思ってたら>>28って二重投稿になっちゃったじゃんな。申し訳ありません。
そんなわけで、舞台はロンダルキアからローレシアに移って、ローレシア防衛戦の始まりです。
勇者というのは所謂遊撃部隊になるわけで。最大限有効に扱うためには、他で大部隊が動いている必要があるんですね。
何時もドラクエやってると、どっかで戦争やってくれてるからこうして手薄な本陣に侵入できるんだ、とか思いながらラスダン攻略してます。
で、今回はローレシアにハーゴン全軍を向けてみました。こんな展開考えてなければ、今頃アトラスとアレンが力比べやってるんですがね。

今編はオヤジ大活躍っ!そんな話になる予定です。
嗚呼、早くローレシア王大暴れを書きたいなぁ。
32名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/31(土) 00:43:50 ID:IQwTHCAc0
見切氏乙!&合格おめでと!!
今度はオヤジか、どんどん燃えになってるなwww
33CC ◆GxR634B49A :2007/03/31(土) 21:04:57 ID:nY7XdhlM0
見切りさん乙&おめでとです。
あわわ、思ったより早く投下されてしまったw
じ、、時間が。。。
34見切無職:2007/04/01(日) 00:07:42 ID:QrWPhqi40
進軍開始、前日の夜。
その成功を願って、国を挙げての宴が開かれていた。
此からロンダルキアへと向かうと信じ込んでいる兵達は、浮かれ騒いでいる。今日が近しい人達との今生の別れ
になるかも知れないとなれば、其れも当然であろう。
「我が民を謀っているというのは、あまり心地良いものではないな」
自室のテラスから町の様子を眺めて王は独り言つ。もしイヴァンが此処にいたなら―――世界の命運をかけた戦
いだというのは同じ事です。親しい人と二度と会えないかも知れないというのも変わるところはありません――
―とでも云ってるところだろう。
彼が自らの右腕と恃んでいる男は、数時間後に始まると見られている侵攻に備え、今も忙しく走り回っている。

今頃、ロンダルキアの地で死闘を繰り広げているだろうアレンのことを思う。
ムーンブルク陥落の報を聞いて、彼らの故事に習いまだ未熟な息子を送り出した。だが、もし許されるのならば、
自分が征きたかったというのが本音だ。ロトの血を継ぐものとして、幼い頃から先祖の英雄譚を子守歌代わりに
し、物心付いた頃には剣を振るっていたような育ち方をしていれば、そう思うのも自然だろう。だが、その思い
は全て柵によって断ち切られる。
だから、悪の権化を退治に向かえる息子が羨ましかった。其れと同時に、英雄となることを望むということは、
人に不幸を撒き散らす悪の存在が必要だということを改めて思い知り、自分の歪み方に愕然としたものだ。
出立前、息子は英雄になることなんて望んでいないと云った。そう思えることのなんと健全なことか。だが、あ
れは決して拒むことなく出立した。英雄の血族であり、同じ血を継ぐ国が滅ぼされたのだ。対外的に見てもロー
レシアから王族が出る必要があると考えたからだろう。冷徹な判断力はイヴァンに叩き込まれただけのことはあ
る。きっとあれなら、自分より良い王になるだろう。もしもこの後に此の国が残っていたならば、だが。
35見切無職:2007/04/01(日) 00:08:31 ID:QrWPhqi40
ローレシア王に代々伝わる剣を取る。例え、英雄の座に座れなくとも、此から起こるソレは命を賭けるだけの価
値のある戦だ。人に害為す悪を敵とした、正義の戦だ。御伽噺で語られるような戦だ。
多くの人が犠牲になることが判っていながら、心が浮き立つのが押さえられない。其処で、自分の顔が笑ってい
たことに気が付く。つくづく自分には上に立つ資格がない。


「正しく、雲霞の如く、だな」
魔物が確認出来たとの報を聞いて、城壁の上に王が姿を現した。
「ええ。その数ざっと10万との報告を受けてます。まさか数まで予想通りになるとは思いませんでした。個人的
にはもう少し少なめの方が嬉しかったのですが」
イヴァンは何時もと変わらない。
「士官未満の、今回の作戦を把握していなかった兵への招集はもう終わっています」
「弓兵と工兵の配置は完了済であります。投石機の設置も完了されています」
投石機の使用を発案したのは、王その人である。王独りでやるならばそんなものは使わなかっただろう。刀一つ
で死体の山を築くのが彼の望むことだ。身分不相応の王の身分と、其れの背負った物が形振りかまわない戦術を
とらせていた。
「夜の闇に紛れての奇襲だからでしょう、魔物の方は身を隠すと云うことは考えてないようです。斥候も出さな
いのは怠慢としか云えなさそうですが。此なら城壁の外に配置していても上手くいったかもしれません」
半ば呆れた口調になっている。
「良し。魔物共を引き付けた後に、弓兵と投石機による一斉射撃。その後に中央に騎兵突撃を敢行。奇襲は成功
するか?」
「其れだけが我々のアドバンテージです。成功させます」
その時、一人の兵士が息を切らして駆け込んできた。
「ハーゴンの軍勢、予定位置まで来ましたっ!」
ローレシア王は、頷くと所定の位置に立ち、大きく息を吸う。
「魔に魂を売った畜生共にローレシアを蹂躙させてはならんっ!!」
スラリと抜かれる王家伝来の朱い刃を、闇の中、敵の軍勢が迫る方角に突き付ける。
「全軍、攻撃開始ッ!!!」
36見切無職 米:2007/04/01(日) 00:25:15 ID:QrWPhqi40
今日から無職です。国家資格手に入れても仕事先がないってどうよ?就職活動メンドクセー(挨拶)

まぁ、そんなことはおいといて。
ホントはこのくらいまで昨日投下する予定だったんだけど、昨日はあれが限度で。次はまたどっさり行く予定です。
こっから本格的に戦らしくなっていきます。の筈なんだけど……集団戦なんて書けるのか?(今更なに云ってんの)

さて、此処で一つネタばらしをした方が良いことに気がついたので、逝きます。
今回この2のネタって、DQM+を読んで思い付いたところがいっぱいなんですが。
で、この世界の行き着く先って、実はキャラバンハートの世界になります。いやほんとに、マジで。
アレフガルドの封印とかロトの装具のオーブ化とか、そんなわけ判らないのは知らないけど、行き着くところは其処。
………DQM+の連載再開しないかな。
37見切無職 米:2007/04/01(日) 00:27:27 ID:QrWPhqi40
>CC氏
未だ少し時間的に余裕がありそうだったので、ちょっとだけだけど二日連続で投下してみました。
焦らずにやって貰って大丈夫だと思いますよ。
38名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/01(日) 02:36:28 ID:eR9KXMqq0
うほおおお 熱い戦い開幕の予感 GJGJGJGJ
39名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/01(日) 19:02:42 ID:pVZg1HA/O
ワ〜イ俺の大好きな数のぶつかりあいた〜。見切り氏就活頑張って。
40名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/03(火) 00:35:08 ID:+st2vgaUO
見切り氏GJ!
これからも楽しみにしてますよ
41CC ◆GxR634B49A :2007/04/03(火) 10:41:41 ID:MEAKc4oc0
よっしゃー。ひと眠りして気が変わらなければ、そろそろいくでー。
。。。ヘンなこと書いてすみません><
寝不足なので、許してください><
42名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/03(火) 11:27:47 ID:pj+1RrBH0
wktk
43名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/03(火) 22:54:51 ID:C0RD1GhTO
wktk
44名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/04(水) 02:17:30 ID:h/y5U2CyO
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45名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/04(水) 03:35:43 ID:dyFF68+h0
そろそろかな?wktk
46CC ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 03:43:07 ID:eSe32PbL0
そろそろです〜
47CC 22-1/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 03:46:26 ID:eSe32PbL0
22. Dirty Mind

 悪夢を見た。
 マグナが、死んじまう夢だ。
 場所も、相手もはっきりしない。
 俺は、何も出来なかった。
 ただ見ているだけで、何も出来なかった。
 あいつも、俺に助けを求めなかった。
 夢の中で抱く、奇妙な確信。
 リィナやシェラは、そこにいて。
 あいつと一緒に、側にいて。
 俺だけが、空気みたいに――
 居ても居なくても同じだった。
 俺だけが、何も出来ずに。
 何をする力も無く。
 何をする覚悟も無く。
 あいつが死んじまうのを。
 ただ、眺めていた。
 景色を透かしてゆらめく。
 二つの炎。
 ゆらゆらと。
48CC 22-2/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 03:51:09 ID:eSe32PbL0
 窓から差し込む陽光は、橙色を帯びている。
 もう夕方だ。
 俺はベッドの上で、じっとりと汗ばんだ身を起こした。
 二度寝――というより、昼寝をし過ぎたせいか、体がダルい。それとも、フテ寝に近い精神状態が、体調にまで影響しているのか。
 ピラミッドで、どうにかこうにか『魔法の鍵』を手に入れた俺達は、既にアッサラームに戻っていた。
 アイシャの仲間が例の秘密の通路に張り込んで、盗賊がそこを通るのを見張っている。今は、その報告を待っているところだ。
 過酷な砂漠の旅を終えたばかりの俺達は、丁度いい骨休めとばかりに、報告が入るまでは思い思いにのんびりさせてもらっている。
 まぁ、日がな一日ベッドでゴロゴロしてんのは、俺だけだろうけどな。
 なんか――なんもする気が起きねぇ。
 飯を食う以外は起きる気力も無く、景気の悪いツラをあいつらに見せるのも気が引けて、だらしなくベッドに寝そべりながら、鬱々とした気分を持て余しているのだ。
 なんでここまで塞ぎ込んじまってるのか、自分でもよく分からない。
 ビラミッドに入る前にマグナに指摘された図星は、確かに堪えちゃいるが――この先、あいつとどう接していけばいいのか、さっぱり答えが見つからないのも、この閉塞感に拍車をかけているのは間違いないけどさ。
 それだけじゃない。
 マグナのことだけじゃねぇんだ。
 なんか、その時は大して気にも留めないまま過ぎていったあれやこれやまでが、今さら急に憂鬱な意味を帯びて、少しづつ俺の気分を蝕んでいる。
 嫌な感じだ。
 面倒臭ぇ――と頭の中で考えて、今の気分を上手いこと表現する言葉に思い当たる。
 つまり――これは、「人間関係の悩み」って訳だ。
 だから、敬遠してたんだよな。
 他人に深入りすんのはさ。
 こうなる事が分かってたから――
 そう考えちまった自分に対して、落胆の溜息を吐く。
 そんなじゃない筈だったんだけどな。
 いい加減な気持ちじゃなく。
 これまでに無いくらい、本気で付き合ってるつもりだったんだ。あいつらとは。
49CC 22-3/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 03:55:50 ID:eSe32PbL0
 けど――やっぱり、何も変わっちゃいなかったのかも知れない。
 だからこそ、俺が口にしてきたのは、その場しのぎの適当な言葉でしかなくて。
 思い返してみれば、俺はあいつらに対しても、本心なんてほとんど口にしてこなかった気がする。
 いや、ちょっと違うな。
 追い詰められて余裕が無い時ほど、俺は何も言えなくなっていたんじゃないか。
 つまりは。
 本心ってのを、どうやって口に出せばいいのか、それが分からない人間なんじゃないのか、俺は。
 こいつは今、俺にどうして欲しいのか。何を言って欲しいのか。そう考えて、相手を気遣う言葉を口にすることはできる。
 けど、それは果たして、「俺の言いたい言葉」だったろうか。
『誰かに相談する時って、もう自分の中に答えがあるモンなんだよ』
 俺は偉そうに、シェラに諭したことがある。
 要するに俺は、相手の裡に既に存在する答え――言わば正解を探すことばかりに汲々として、自分の本心なんて、ほとんど伝えてこなかったんじゃねぇのか。
 その癖、求められた態度や言葉を与えることが出来たのか不安で、あいつらの本心は確かめようとする。
 我ながら、小賢しいね。
 相手の裡から拾った言葉は、俺の言葉じゃない。それを口にするだけなら、ここに居るのは「俺じゃなくても構わない」。
 結局、そういう取り替えが利く程度の付き合いしか、出来てなかったって事じゃねぇのか。
 下手に頼られて面倒を背負い込まないように、他人と深く関わらない。
 それが身に染み付いちまってる俺は――
 あいつらと本気で向かい合ってるつもりで、無意識の内に、以前と同じような接し方しかしてこなかったんだろうか。
 あ、いかん。
 なんか――また、落ち込んできた。
 実際、別に俺じゃなくても良かった筈だ。
 戦闘に関しちゃ、俺と同レベルの魔法使いなら同程度には役に立ったろうし、戦闘以外では、他のヤツの方がよっぽど上手くやったかも知れない。
 むしろ、あの時あいつと――マグナと出会ったのは、俺じゃなかった方が良かったんじゃねぇのか?
 なんかさ――これまでの人生に無く気張ってるつもりなのに、俺ってロクに役に立ってねぇっつーか。
 頼りにならねぇっつーか。
 ついこの前の、ピラミッドの時だって、そうだった。
50CC 22-4/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 03:59:40 ID:eSe32PbL0
 アルス野郎の忠告の甲斐も無く、結局一度、地下に落ちちまったんだが、魔法が使えないそこでは、俺は本当の役立たずだった。
 シェラはさ、まだいいんだ。元々戦闘要員って訳じゃないからな。
 だが、俺は――
 魔法を唱えられない魔法使いなんて、冒険においては普通の人間以下もいいトコだぜ。役に立たねぇどころか、足手まといにしかなりゃしねぇ。
 亡者を相手に、次第に傷ついていくあいつらを眺めながら、俺はそのケツに隠れて歯噛みすることしか出来なかった。
 ピラミッドの最深部、宝物庫へと続く扉に行く手を阻まれた時も、俺は何の役にも立ちゃしなかった。
 押しても引いても開かない扉の謎が解けたのは、イシスの王宮で小耳に挟んだだけの、ガキが唄っていたわらべ歌を、マグナが丸暗記していたお陰だった。
 まったく、あいつの記憶力にゃ恐れ入るよ。俺がこれまで口にした、その場しのぎの台詞も全部、ちゃっかり覚えてやがんのかね。
 そもそも、武闘大会だって参加したのはリィナとマグナで、俺は端から呑気に見物していただけだ。
 その間に、シェラはちゃんと自分の問題と向き合ってたってのによ。
 俺は、ホントに何もしちゃいない。
 オアシスであいつらを助けたのだって、あのクソオヤジで――あいつにも、頼りにならねぇとか言われるし。
 砂漠に入ってからこっち、俺のやった事と言えば、性懲りも無く適当なことをほざいて、マグナを怒らせちまったくらいのモンだ。
 まいったね。
 なんてこったよ。
 ホントに頼り甲斐ねぇんだな、俺って。
 マグナがどっかに落ち着いて、普通の暮らしを送れるようになるまで、ちゃんと面倒見てやるだとか、どのツラ下げてほざいたんだかな。
 リィナにしても、何度聞いたって、悩みを俺に打ち明けようとはしねぇしさ。
 それとも、おっさん。あいつはあんたには見せたのかよ。どもり君――ブルブスに見せたみたいな、俺には見せねぇ顔をよ。だからあんたは、あんな分かった風な口を利きやがったのか?
 シェラだって――あいつだって、自分で自分の問題を乗り越えようとしている。
 結局、俺はあいつに何もしてやれてない。
 リィナと違って、あいつには相談されたのに――そうだよな。
 思わず、自嘲が漏れた。
 こんな体たらくじゃ、リィナだって、俺なんかに相談する気にゃなれねぇよな。
51CC 22-5/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:02:29 ID:eSe32PbL0
 そもそも俺は、マグナにだって、何も応えてやれなかったんだ――
 最悪だ。
 もちろん、あいつらが、じゃない。
 俺だ。
 深入りする覚悟も無いままに、ズルズルと流され続けているだけの俺が、最悪なんだ。
 このままじゃ、いつか――
 さっき見た悪夢が、現実になりそうで――
 胸が苦しくて、吐きそうになる。
 俺が頼り無い所為で、あいつが死ぬなんてこと――耐えられねぇよ。
 どうすりゃいいんだろう。
 これでも俺は、覚悟を決めて本気であいつらと付き合ってるつもりだったんだ。
 けど、それが単なる錯覚でしかなかったら――
 俺は、あいつらと一緒に居ない方がいいんじゃないか。そう考えちまうのを、止められない。
 俺は――自分が信用できなくなっちまった。
 いや――そんなの、元からか。
 こんな俺が、あいつと――マグナと一緒に居て、いいのかよ?
 あいつの隣りに、居ていいのかよ?
 俺が、嫌だよ。
 俺みたいなのが、こんな頼りねぇのが、あいつの側に居るなんて、俺が許せねぇよ。
 それとも――こんな風に考えてる事自体、ただの自惚れなのかね。
 だってよ、頼りにされてるって前提さえなけりゃ、別に頼りにならなくてもいい訳で。
 魔法使いとしての役割だけ無難にこなして、後は適当にあいつらに合わせてヘラヘラしてりゃ、それで充分なのかも知れねぇな。
 そうだよな。
 あいつらだって、別に俺なんか、大して頼りにしちゃいねぇだろ。それなのに、こんな事で悩んでる俺が、滑稽なだけなんじゃねぇのか?
 そう考えても、気が楽になるどころか――
 一層落ち込んじまった。
 元々、柄じゃなかったんだよな。勇者様ご一行なんてさ。
 適当に日銭を稼いで、その金で適当に遊んで、ヘラヘラしながらなんとな〜く生きてんのが、家をおん出たしがねぇ農家の次男坊にゃ、お似合いの暮らしってモンだろ。
 今からでも、そうすべきなんじゃねぇのか――
 俺が卑屈なことを考えていると、ふいにノックの音が聞こえた。
 なんだ?アイシャの仲間から、報告が入ったのか?
 大声で返事をする方が億劫で、俺はのろくさと身を起こした。
52CC 22-6/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:04:42 ID:eSe32PbL0
「や、ヴァイスくん。元気〜?」
 扉の外にいたのは、リィナだった。
「――じゃないみたいだねぇ。ひっどい顔してるよ?」
 そうだろうな。
「悪ぃ」
「なんで謝るかな。もしかして、ずっと寝てたの?」
「まぁな……アイシャから報告が入ったのか?」
「ううん。まだみたい」
「じゃあ、なんで……なんかあったのか?」
「ん〜?特に用事は無いけど」
 言いながら、リィナは俺の脇をするりと抜けて、部屋に入った。
「よし、ちょっと運動しよう!」
 振り向いて、そんなことを言ってくる。
――なんの運動に付き合ってくれるってんだよ。
 喉まで出かかった台詞の呑み込み、ベッドに向いた視線を急いで引き剥がす。
 どこまで卑屈になりゃ気が済むんだ、俺は。
「いきなりだな」
「だって、いつでも運動に付き合うって、前に約束したしね。体を動かせば、ちょっとは気分も晴れるよ」
 ああ、そんな約束覚えててくれたのか。
 でも、悪ぃけど、そんな気分にゃ――
「はい、後ろ向いて。両手上げて」
 肩を掴んでくるっと後ろを向かされて、両手を無理矢理上げさせられる。
 されるがままだ。
 リィナは背中合わせにぴったりと身を寄せると、頭の上で俺の手首を掴んだ。
 二人とも薄着だから、布越しにすぐに体温が伝わる。
 ああ、くそ、こんな時ですら、俺は――
「ほい」
――ぐがっ!!
 背中合わせに俺の手首を掴んだまま、リィナは前に腰を折った。
 思いっ切り仰け反った俺の背骨が、ゴキゴキゴキと物凄い音を立てる。
 やましい気分なんて、一遍に吹っ飛んじまった――つか、痛ぇいてぇっ!!
53CC 22-7/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:10:13 ID:eSe32PbL0
「うわっ、すご」
 言いながら、リィナは腰の上に俺を乗っけたまま、ゆさゆさと体を揺する。
 バカ、止めろ、吐くばっかで息吸えねぇ。
 ジタバタ暴れて、なんとか床にボトリと落ちて逃れる。
「ちょっとヒドいね、ヴァイスくん。これは、まず体ほぐさないと」
 いいよ。止せ。遠慮しておきますから。
 なんて言葉にリィナは聞く耳を持たず、そっから先は地獄の責め苦だった。
 床に座らされたと思ったら、後ろ手を掴まれたままぐいぐい膝で背中を押されたり、無理矢理力づくで脇を伸ばされたり、あり得ないくらい股を裂かれたり、足を伸ばしたまま上体を押し潰されたり、途中から何をされてるのかよく分かんなくなってきた。
 ずっと痛ぇ痛ぇ言ってんのに、全然取り合いやしねぇんだ、これが。
「まぁ、こんなトコかなぁ」
 ようやくリィナが身を離した頃には、俺はほとんど瀕死だった。
「どう?気持ち良かったでしょ?」
 ふざけんな。と言い返すのもかったるい。
「そいじゃ、ちゃんとした準備運動は外でするとして……そろそろ体動かしに行こっか?」
 いやいや、待てまて。じゃあ、今のはなんだったんだ。
「もう……勘弁してください」
「へ?まだ全然、体動かしてないよ?」
 床にぐったり寝そべってるこの姿を見て、お察しください。
「前にも言っただろ……お前の稽古に、俺が付き合える訳ねぇっての」
 よろよろと身を起こす。情け無かろうがなんだろうが、無理なものは無理なんだ。
「そう?体動かすと、頭の中のモヤモヤとか抜けてく感じで、気持ちいいんだけどなぁ」
 そうかも知んねぇけどさ。
「ヴァイスくんだって、しょっちゅう長い距離歩いてる訳だし、そんな体力無い訳でもないでしょ」
「毎日とんだり跳ねたりしてるお前とは違うっての――お前がふらっと居なくなる時って、やっぱ大抵は稽古してる訳だろ?」
「うん、まぁ。軽くだけどね」
 絶対、軽くじゃない筈だ。
「よくやるよな」
 お前は、偉いよ。
「そんだけ強ぇのに、まだ足んねぇのか?」
「いや〜?ボクなんて、まだまだ全然だよ」
 どうやら本気っぽい口調で、そんなことを言うのだった。
54CC 22-8/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:14:19 ID:eSe32PbL0
「お前より強ぇヤツなんて、そうそう居るとは思えねぇけどな」
「そんなことないよ〜。ボクが知ってるだけでも、たっくさんいるよ」
 ホントかよ。うんざりするね。
「それに、ボクはまだ技に頼り過ぎだし、手数かけ過ぎだしね。ホントに強い人って、もう技とか手数とか要らないんだよ」
「要らない?」
「うん。あのね、どんな相手でも一撃で倒しちゃうの」
 はぁ?
「技とか覚えるのは、要するにその絶対なる一を得る為の過程でしかなくて――」
 いや、ちょっと待て。
「どんな相手でも?」
「どんな相手でも」
「一撃で?」
「一撃で」
 なんか、ピンと来ねぇな。
 そんな都合のいいこと、あるのかよ。
 ふと、腕白坊主の顔が脳裏を過ぎった。
「それってつまり、フゥマの必殺技みたいなことか?」
 そう問うと、リィナは苦笑してみせた。
「う〜ん、どうだろ。フゥマくんは、一撃に賭けるって考えに自分で辿り着いたみたいだから、それはそれで凄いとは思うけどね。ああいうのとは、ちょっと違うかな」
 よく分かんねぇな。
「もっと何気ない感じっていうか、気負いが無いっていうか……ボクも実際出来ないから、上手く説明できないけどね」
 なんにしろ、俺には縁の無い話だな。
「元気、出てないみたいだねぇ。ごめんね、余計なことしちゃったかな?」
 リィナが、俺の顔を覗き込んできた。
「いや、ンなことねぇよ」
 気を遣われると、余計に情け無くなるね。
 俺は、上手く笑えなかった。
 まったく、こいつは偉いよ。あんだけ強くても、慢心もせず己を高めようとしてる訳だろ、言わば。
 内心の悩みを見せようともしねぇでさ――
 俺とは、全然違う。
55CC 22-9/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:17:13 ID:eSe32PbL0
「――そうだ。体をほぐしてくれたお礼に、お前が知らない運動を教えてやるよ」
 リィナは、首を傾げた。
「ん?ヴァイスくんが、教えてくれるの?」
「ああ」
 ぐるっと部屋を見回してから、ベッドを手で示す。
「そうだな……そこのベッドに寝そべってみてくれ」
「こう?」
 リィナは、素直にベッドに乗った。
「いや、うつ伏せじゃなくて、仰向けに――そう。もうちょい端に寄ってくれ」
「これでいい?」
「ああ。それでいい」
 俺も、ベッドに上がる。
 リィナの隣りに、体を横に立てて寝そべった。
「こっから、どうするの?」
 俺は何も答えずに、仰向けになってもあまり形が崩れない、リィナの胸に手を伸ばす――サラシは巻いてない。
「ちょっ――!?」
 慌てて身を起こしかけて、やっぱり止めて、リィナは胸を揉ませたまま、首だけこっちに向けて俺を見た。
「そんなに――好きなの?これ?」
「ああ」
「触ってると、元気出るかな?」
「ああ」
「……そっか」
 リィナは、俺の首に腕を回すと、突然がばっとかき抱いた。
 俺の顔が、リィナの胸に埋まる。
 そのまま、小さく俺の頭を撫でた。
 密着してるから、良く分かった。
 リィナの鼓動が早い。
 腕が、微かに震えている。
56CC 22-10/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:19:24 ID:eSe32PbL0
「……息できね」
「へ?あ、ああ、ごめんごめん」
 くぐもった俺の声を聞いて、リィナは急いで腕を解いた。
「こういうのって慣れてないから、加減が分かんなくてさ」
 照れた笑いを浮かべる。
「元気、出たかな?」
「ああ。すげぇ出た」
 俺の顔を見て、リィナは微笑んだ。
「よかった。えっと――それじゃ、ボク、ちょっと体動かしてくるね」
「ああ。ありがとな」
「ううん、大したこともできませんで」
 そそくさとベッドから下りて、扉に向かう。
「えと――じゃあ」
「ああ。俺も後で、ちょっと外に出掛けてみるわ。ありがとな」
「うん、それがいいよ。そいじゃね」
 扉を開いて部屋を出て行くリィナを、俺は出来る限りの笑顔で見送った。
57CC 22-11/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:21:52 ID:eSe32PbL0
 静かに、ゆっくりと扉が閉じられてしばらく。
 ベッドの縁に腰掛けた俺の口から、呻きともつかない溜息が漏れる。
 手が自然と、俯いた額に当てられた。
 こめかみを、力の限り締め付ける。
 最悪だ。
 俺は、最低だ。
 リィナが、俺を気遣って様子を見に来たのは明らかだった。
 自分がヘンに焚き付けたから、みたいな責任を感じているのかも知れない。
 いつもみたいに勝手に鍵を開けて入ってこなかったのも、マグナのことを一言も口にしようとしなかったのも。
 俺を、気遣ってくれてたからじゃねぇか。
 それが分かっていながら、俺はリィナに何をしたんだ。
 薄汚ぇ劣等感から生じた衝動に任せて、せめてあいつが不得手なことで上に立とうとした。
 そんなんで――対等になれるとでも思ってんのかよ。
 バカじゃねぇのか?
 飽きもせずしょぼくれたツラぶら下げて、心配させて、その上こんな――
 おっさんが叱咤したくなるのも、無理ねぇよ。
 そう思ってんなら、もっとしっかりしろよ。
 自分に言い聞かせても、まるで力が湧いてこない。
 リィナに、あんなことまでさせておいて――
 駄目だ。俺は――やっぱり俺なんかが、あいつらと一緒に居るべきじゃねぇよ。
 フクロから適当な服を引っ張り出して着替え、俺は部屋を後にした。
58CC 22-12/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:24:13 ID:eSe32PbL0
 一杯引っ掛けてから足を運んだ劇場では、マグナ曰く「やらしい格好」をした女達が、激しく腰をくねらせて踊っていた。
 周りの男共はギラついた目をしながら、口笛を吹いて囃し立てたり、お気に入りの踊り子に冷やかしの声を投げかけたりしている。
 死んだ魚みたいな目をしてる野郎は、きっとこの場で俺だけだ。
 おそらく軽い催淫効果があるんだろう、香の煙が充満している。
 だが、臭くて鼻を突くだけだった。
 見事な腰つき――弾む豊かな胸――なまめかしい素脚――何も感じない。
 情動どころか苛々ばかりが募って、俺は我慢できずに劇場を出た。
 何やってんだ、マジで。
 バカみてぇ。
 つか、俺は何を悩んでんだ?
 何を落ち込んでやがるんだ?
 そんなに塞ぎ込むようなことがあったかよ?
 別に何もありゃしねぇじゃねぇか。
 昔みたいにヘラヘラしながら、適当にあいつらに合わせて愛想振りまいてりゃいいんだよ。
 どうせ、いくらマジメぶったところで、その場しのぎのいい加減な事しかほざかねぇんだからよ、この口は。
 くそっ――
「ねぇ、そこのお兄さん」
 ふらふら夜道を歩いていると、劇場の女達よりは露出を抑えた女が声をかけてきた。
「ねぇったら」
「……なんか用かよ」
「あら、ずいぶんツレないじゃない」
 ほっとけよ。
「浮かない顔してるわ――そういう時は、遊んで憂さを晴らすのが一番よ」
 俺は横目で女を見た。だが、好みだとか好みじゃないとか、何も頭に浮かばない。
「ねぇ、あたしといい事しない?」
「別に構わねぇけど」
 なんかもう、どうでもいいや。
「そう、よかった。それじゃ、こっちよ――あたしについてきて」
 手を握られて、引かれるに任せる。
 歩き出して、すぐだった。
59CC 22-13/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:27:24 ID:eSe32PbL0
「ありゃりゃ、お兄さん。こんなトコで――ははぁ、お盛んだねぇ」
 気付かずにすれ違いかけて、後ろから声をかけられた。
 振り返ると、アイシャがにんまりしながら、俺と女を眺めていた。
「なんだい、あんた。この人は、あたしのお客だよ」
 俺の裡で、何かが引き戻される。
「別に横から取りゃしないってば――お兄さん、ここんトコずっと、くっら〜い顔してたしねぇ。ま、せいぜい愉しんできなよん」
「ほら、行きましょ」
 女が腕を引いても、俺の足は動かなかった。
「悪ぃ。やっぱ、止めとくわ」
 当たり前だが――
 女は鼻白んだ。
「なんだい、冷やかしなら、最初っからそう言っとくれ――覚えといでよ」
 キッとアイシャを睨みつけると、女はあっさりと俺の手を離し、別の客を求めて人ごみに紛れて消えた。
「あちゃあ。お兄さん、勘弁してよん。アタシが悪者になっちゃったじゃないさぁ」
 アイシャは苦笑いを浮かべる。
「悪いな」
「べっつにいいけどねぇ。それより、ホントによかったん?言ってくれれば、もっと上等なの用立てしてあげたのにぃ」
 ヘンな目をしながら、肘で脇を突付いてくる。
「もっと上等なのねぇ」
 ジロジロと全身を眺め回してやると、アイシャはにんまりと笑ってみせた。
「んん?アタシは、たっかいよ〜?」
 自分から振っといてなんだが、それ以上は付き合う気になれなかった。
「いや、いいんだ。どの道、そういう気分じゃなかったからさ――ウェナモンの方は、どうなんだ?」
「ん〜、まだ動きは無いねぇ。っていうか、お兄さん、こんな通りに居るってことは、ひょっとして他の皆には内緒なんじゃないの?困るなぁ。連絡行ったら、すぐ集まれるようにしといてもらわないと」
「ああ。もう宿に戻るよ」
「いやま、もうアタシが知ってるから、そんな急いで帰らなくてもいいけどさぁ」
「いや、いいんだ。そんじゃ、そっちの事は頼んだぜ」
 向けた背中を、声が追ってくる。
「なんだか分かんないけどさ、元気出しなって。しょぼくれてドジ踏まれたんじゃ、アタシも困っちゃうからさぁ」
 返事をする気になれず、俺は軽く手を上げて応えた。
60CC 22-14/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:29:38 ID:eSe32PbL0
 宿屋に戻った俺は、自分の部屋の前で蹲る影を認めて、廊下で一旦足を止めた。
 軽い既視感を覚える。
 足音で気付いてるだろうに、抱えた膝の間に顔を伏せたまま、こちらを向こうとしない。
 マグナだ。
 多分、リィナに――ひょっとしたらシェラにも――言われて、来たんだろう。
 そんな気がした。
 今は、顔を合わせたくなかったな。
 けど、引き返すのも躊躇われた。
 ギシギシと床を鳴らして正面まで歩み寄ると、マグナはのろくさと顔を上げた。
「……遅い」
 そう言った。
「どこ行ってたのよ」
 出会った頃と、同じように。
「なに?――お酒飲んでるの?」
「ちょっとだけな」
 マグナは、顔を顰めた。
「なによ、人をさんざん待たせといて……まさかとは思うけど、あの劇場とかに行ってたんじゃないでしょうね?」
「当たりだ」
 目を怒らせて立ち上がりかけたマグナの挙動が、途中でゆっくりになる。
「……素直じゃない」
「そうか?」
 訝しげに、俺の顔を覗き込む。
「気持ち悪いわね。なによ?どうしたの?」
「なんだよ。そんなヘンな顔してるか、俺?」
「だらしないのは元々だけど……」
「ヒデェな」
 マグナの顔に、不安の色が浮かんだ。
 そうか。マグナが怒るのを途中で止めちまうくらい、そんなにヒドい顔してんのか、俺。
 不景気なツラぶら下げて、年下の女の子に心配かけて、ホントに何やってんだろね、この馬鹿助は。
 でも――力が入らねぇんだよ。
61CC 22-15/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:32:51 ID:eSe32PbL0
「えっと、あのね――」
「立ち話もなんだ。とりあえず、入れよ」
「あ――うん」
 マグナを誘って部屋に入る。
「座れよ」
 備え付けの椅子を手で示して、自分はベッドの縁に腰を下ろす。
 眉根に皺を寄せて、視線を俺の顔面に固定したまま、マグナは椅子に座った。
「悪いな、こんなしょぼくれたツラばっか見せちまって。アイシャから連絡が入るまでには、もうちょいシャッキリしとくからさ」
「え?――うん」
 マグナは、ますます怪訝な顔つきになった。
「……ヘン」
「ん?」
「なんなの?――ヘンよ。なんか、おかしい」
「ああ、うん。ごめんな。俺、ここんトコ、ちょっとおかしいんだ。心配させるつもりじゃないんだけどさ」
 ホントにそうか?
 内心の声から目を背ける。
「そうじゃなくて――そうだけど……そんなに気にしてたの、この前のこと?」
 マグナは、少し視線を泳がせた。
「だったら……悪かったわよ。あたしも、ちょっと言い過ぎた」
 唇を尖らせる。可愛いよな、こいつ。
 ごめんな。お前に、そんなこと言わせちまって。
「いや、いいんだ。言われても仕方ねぇよ。確かに俺は、その場しのぎの適当なことばっか言ってるよ」
 マグナが、息を呑んだ気配があった。
 俺の視線は、いつの間にか床に落ちていた。
「ああ、いや、違うんだ。嫌味じゃない。ホント……ごめんな」
「なに?なんなのよ?ホントに、どうしちゃったの!?」
 おいおい、ずいぶんな言い草だな。
 それもこれも、俺が同情を引くような惨めったらしい顔つきしてんのが悪いのか。
 分かってんなら、笑え。笑えよ。
 くそ――最悪だ。
 だから、今は会いたくなかったんだ。
62CC 22-16/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:35:46 ID:eSe32PbL0
「それとも……」
 マグナが、言い辛そうに口を開く。
 いいよ、何も言わなくても。お前が悪いことなんて、何ひとつありゃしねぇんだ。
「あたしとアルスが会ったのが、そんなにイヤだった?」
「いや、そうじゃない」
 一瞬だけ目を向けると、マグナも床に視線を落としていた。
 ほらみろ――俺がいつまでも、しょぼくれたツラしてっから。
「ごめん。ごめんな」
 お前は、ちゃんとしてんのにな。
『マグナは強いよ――』
 今ごろになって、リィナがそう言ったのが良く分かる気がした。
 ホント、お前は強いんだろうな。
 俺なんて、何も背負ってねぇ癖に。
 背負おうとしたことすらなくて。
 この体たらくで。
「どう――どうしちゃったの?」
 また、そんな不安げな声出させちまって。
 なんて頼り甲斐がねぇんだ、俺ってヤツは。
 そもそも、誰かに頼りにされたことなんてあるだろうか。
 あるわけねぇよな。
 俺が、頼りにしてこなかった。
 実家に居た頃、俺は空気みたいな存在で。
 今思えば、そんなこたなかったんだろうけど。家の連中は、ひねくれ者の次男坊のことも、それなりに気にかけてたんだろうけど。
 当時の俺には、どうしてもそう思えなくて。
 ガキらしく、ここは自分の居場所じゃないだとか、そんなことばっか考えてた。
 そんな青臭い思いを募らせておん出た割りには、結局外でも実家と同じ立ち位置に拘って。
 誰も頼らねぇ代わりに、誰にも頼られない。余計な物は、背負い込まない。他人に深く関わらない。
 きっと、俺は――こうなることが、分かってたんだ。
 不相応な分を背負い込もうとして、見っとも無くあがきもがく。
 情け無い自分を、見たくなかった。
 すぐに押し潰されそうになる自分を、直視したくなかったんだ。
 つくづく――柄じゃねぇんだよな。
63CC 22-17/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:40:23 ID:eSe32PbL0
「悪ぃ――って謝られても、訳分かんねぇよな」
 自分より年下の、自分よりよっぽど重いモンを背負ってる女の子に、なに愚痴垂れようとしてやがんだよ。
「最悪だな、俺。あの時――」
 口にするつもりは無かったのに。
 言うな言うなって思ってんのに。
「――あの時、お前と会ったのが、俺じゃなきゃ良かったな」
 我慢できずに言っちまった。
 自分の薄弱な意思を痛感するね。
「ちょっと、何言ってんの?」
 悪夢のイメージが蘇る。
 俺が何も出来ないから、お前が死ぬなんてことになったら――
「駄目だ、俺なんかじゃ」
 俺なんかが、お前の側に居るべきじゃねぇよ。
「ホント――頼りにならなくて、ごめんな」
 勝手に自嘲が漏れる。
「いやさ、元から頼りにされてねぇのは、分かってんだけどさ」
 自惚れんな。
「悪ぃ。ハナから頼ってねぇのに、こんな謝られても、困っちまうよな――」
「いい加減にしてよっ!!」
 ようやく上を向いた俺の視線が、マグナの強い眼差しと出会う。
「なんなの!?なに勝手に独りで完結してんの!?」
「え――」
「勝手に決め付けないでよっ!!あたしのことでしょ!?あたしがどう思ってるかを、なんであんたが、勝手に決め付けんのよっ!?」
「そんなつもりじゃ……悪い」
「だからっ!!さっきから、すぐ謝んないでよっ!!なんなのよ――とりあえずみたいに謝られても、全然嬉しくないっ!!」
 マグナは、気持ちを落ち着かせるように、軽く息を整えて俺を見た。
64CC 22-18/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:44:03 ID:eSe32PbL0
「なにが気に食わないの?ちゃんと言ってくれなきゃ、分かんないじゃない」
「いや……俺の方には気に食わないことなんて、何も無いんだ。ただ、俺が――」
「俺が?」
「その……お前の側にいるのは、俺じゃねぇ方がいいのかなって……」
 月の浮かんだ夜空が脳裏に蘇る。
 その時、俺の隣りは、こいつじゃなくてシェラがいて――
 家出をしたシェラには、あんなエラそうな説教垂れといて、手前ぇも同じ愚痴をほざいてりゃ世話ねぇよ。
 けど、だって、俺は――
「あんたねぇ」
 マグナの口から、呆れたような苦笑が、少し零れた。
「どうしたのよ?なんでいきなり、そんなこと考えちゃってるの?」
「ごめ……あ、いや、悪ぃ――あ、すまん」
 マグナは、ぷっと吹き出した。
 お前が謝んなって言ったんじゃねぇかよ。
「それとも、いきなり、じゃないの?」
 急に表情を改めて、マグナは真面目な顔つきで俺を見据えた。
「もしかして、ずっとそんなこと考えてたの?そりゃ、あんたはあたしが無理矢理連れてきちゃったようなもんだけど……ずっと、嫌々だったの?」
「いや、違う。そうじゃない」
 そうじゃないんだ。
「嫌々なんかじゃない。だったら、最初からついてきてねぇよ。だけど――俺の所為で、俺が何も出来ない所為で、お前が死んじまうようなことがあったら……」
「なによ、それ?」
 拍子抜けした声だった。
「よく分かんない。なんで突然、そんなこと考えてるの?」
 その声音につられて、思わず俺の気も抜ける。
 言われてみれば、我ながら話が飛躍している気がした。
 マグナがきょとんとするのも、無理ねぇよ。
「助けられたことはあっても、ヴァイスの所為であたしが死にかけたことなんてあったっけ?」
 記憶を探る。
 無い……とは思うけどさ。
「いや、夢をさ――見たんだ。お前が死んじまうのに、俺は何も出来なくて……」
「はぁ?」
 いや、お前、そんな「バカじゃないの?」みたいな声出すなよ。俺、いちおう真剣なんだからさ。
65CC 22-19/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:50:02 ID:eSe32PbL0
「呆れた。夢見が悪かったくらいで、ずっとそんな暗い顔して落ち込んでたの?バカじゃないの?」
 実際に、口に出して言われた。
 そうね。俺、バカみたいだな。
「けどさ、俺が頼りにならねぇのは事実だし……」
 おっさんにも指摘されたし、スティアにも見抜かれたし、リィナには相談されねぇし、シェラの相談には満足に応えられねぇし――お前に踏み込む覚悟も持てねぇし。
「口先ばっかでさ……お前に言われた通りだよ。適当なことぼざくばっかで――」
 それどころか。
「……俺は、最悪なんだ」
 さっき、俺はリィナに何をした?
「俺なんかが、お前らと一緒にいるべきじゃねぇんだよ……」
 ふぅ、とマグナの唇から吐息が漏れた。
「やっぱり、そんなに気にしてたんだ。あたしが、この前言ったこと」
「いや、それは――」
「気にしてるじゃない。でも、なんでそれで、頼り無いとか最悪だとか、急に思いつめちゃってるのか、まだよく分かんないけど」
 そうだろうな。
「頼り無いとか思ってるんだったら、一緒にいるべきじゃないとか情け無いこと言ってないで、もっと頼りになるようにしっかりしてよ」
 ホントにな。
「……ごめんな」
「だから、そうじゃなくて!なんなのよ、もぅ……そんな、死にそうな顔しちゃってさ……」
 すみません。
「……あ〜、もぅっ!!言わなきゃ分かんないの!?」
「?――なにが?」
 自分は『ちゃんと言ってくれなきゃ、分かんないでしょ?』とか、さっき言ってたクセに。
 勝手なヤツだな。
 マグナは、何度がこちらを見ようとして、その度にそっぽを向いた。
66CC 22-20/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:53:12 ID:eSe32PbL0
「だから……」
 はい。
「あたしが、いつ言ったのよ」
「なにを?」
「だからぁ……」
 落ち着き無く、髪の毛をいじる。
「あんたを頼りにしてないって、いつ言ったのよ、あたしが?」
 いや、口に出しては言ってないかも知れないけどさ――言われた気もするが。
「……頼りにしてるわよ」
 すごい小さい声だった。
「……は?」
「何度も言わせないでよ――ちゃんと、頼りにしてるってば」
 俺が何も答えられずにいると、マグナはひとつ深呼吸をして、開き直ったみたいに真っ直ぐ俺を見据えた。
「だって、エルフの洞窟でも、あたしは気を失ってて覚えてないけど、体を張って守ってくれたんでしょ?なんで頼りにならないとか、そんな風に考えるのか、全然分かんない」
 よせ。
「それに、愚痴だって嫌な顔しないで付き合ってくれたし、あたしが落ち込んだ時には気を遣ってくれたし、あたしこそいっつも怒ってばっかりなのに、全然気にしないでくれてるし……」
 やめろよ。
「そう見えないのかも知れないけど、頼りにしてるんだから……一緒に居ない方がいいなんて、言わないでよ」
 俺は俯いて、片手で額を押さえるフリをして目元を隠した。
「いっつも言い過ぎちゃって、ごめんね。あたし、ヴァイスに甘え過ぎちゃってたのかもね」
「……ンなことねぇよ」
 声が震えた。
 もう勘弁してくれ。
 また、深呼吸が聞こえた。
 さっきより、もっと深い。
 一拍置いて、聞いたこともないような優しい声が言う。
「いつも、ありがとう」
 バカ、止めろ――泣いちまいそうだ。
「これでも、感謝してるんだからね?」
 くそ――普段は、文句ばっか言ってやがるクセに。
 なんでお前は、そんな風に言えるんだ。
 俺は、感謝されるようなことなんて、何もしてやれてねぇよ。
67CC 22-21/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 04:56:32 ID:eSe32PbL0
 俺がこんなに動揺しちまうのは――これが、マグナの言葉だからだ。
 マグナは、「あたしが言いたい言葉」しか口にしない。
 こいつは、嘘が嫌いだ。
 相手を気遣う嘘ですら、マグナはきっと、可能な限り口にしない。
 他にどうしようもなくて、仕方なく自分の吐いた嘘で、ずっと苦しみ続けているようなヤツなんだ。
 だから――こいつが言ってるのは、本心だって。
 そう思える。
 こみ上げる胸のつかえを、俺は懸命に堪えた。
 これ以上、見っとも無ぇ様、晒したくねぇよ。
「……そっちに、行っていい?」
 俺は微かに頷くことしか出来なかったが、マグナは椅子から立ち上がって、俺の隣りのベッドの縁に静かに腰を下ろした。
 そして、しばらくそのままでいた。
 俺は、気持ちを落ち着けるのに必死で――
 気の利いた台詞のひとつも言えやしなかった。
 やがて、マグナが口を開いた。
「ヴァイスが、そんな風に悩んでたなんて、全然知らなかった。ごめんね、気付かなくて――でも、ヴァイスって、そういう自分のこと、何も言ってくれないんだもん」
 そうだな。
 お前の言う通りだ。
 勝手に自己完結しないように、気をつけるよ。
「――そうそう。前に、ロマリアであたしの愚痴を聞いてもらった時に言ったでしょ?次は、ヴァイスの悩みを聞いてあげるって。もっと早く、言ってくれればよかったのに」
 頭を撫でられて、ビクッとかしちまった。
 マグナは苦笑する。
「なによぉ、そんな叩かれるみたいな反応しないでよ」
「……悪ぃ」
「やっと口利いたと思ったら、また謝るの?あたしって、そんなに怖い?……ちょっと傷ついちゃうな」
「い、いや、そんなことねぇよ」
 怖い時も多いですが。
「そう?よかった」
 そう言いながらも、マグナは俺の頭から手を下ろした。
 惜しいことしたかな。マグナに頭を撫でられるなんて、そう滅多にあることじゃねぇのに。
68CC 22-22/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 05:00:27 ID:eSe32PbL0
「あのね……ヴァイスがどう思ってるか分かんないけど……」
 腰の横に置いた俺の手に、マグナの手が重ねられた。
 またびくっと手を引きそうになるのを、辛うじて堪える。
 なんか……自分が、物凄い小僧になった気がした。
「ヴァイスは、最初に会った時からあたしが……その、隠してたこと、知ってたでしょ?」
「ああ」
「でも、何も言わなかったよね。勇者なんだから、魔王を倒しに行くべきだ、とかそういうこと」
「いや……それは、俺がいい加減なだけで……」
「そうなの?でも、シェラだって感謝してたわよ。ヴァイスは、最初から――なんていうの?色眼鏡で自分のこと見なかったって。普通に接してくれたって」
「いや、だから……こだわりっていうか――自分が無ぇだけだよ。俺に」
 含み笑いが聞こえた。
「なんかヴァイスって、いっつもそうやって自分を突き放した言い方するよね。謙遜って訳じゃないんだ?もしかして、ホントにそう思ってるの?」
「ああ、思ってるよ」
「なんで?ヴァイスって、ひょっとして――」
 マグナの視線が横顔に当たっているのを感じたが、俺はそちらを向けなかった。
「自分に、自信が無いの?」
 くそ、こいつはホントに、いっつもずけずけと――
「ああ、無ぇよっ!!ある訳ねぇだろ、こんな――」
 こだわりが無いのは、他人の考えを押し付けられるのが嫌いだからだ。だから、自分の考えを他人に押し付ける気にもなれない。
 俺は勝手にするから、お前らも勝手にしろ。ただ、それだけだ。
 そうやって、他人と深く関わるのを避けてきた俺を、誰も必要としなかったのは当然だ。
 そうなるようにしか人と接してこなかったんだから、目論見通りってなモンだ。
 俺だから。
 それが理由で頼ってきたヤツなんて、居やしなかった。
 それでいいと思ってた。
 でも、自信ってのはさ、他人から認められて、はじめて形作られていくモンだろ?
 だから、そんなのは、俺とは最も縁遠い言葉で、俺は、それでも構わなかったんだ。
 それなのに――
69CC 22-23/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 05:03:36 ID:eSe32PbL0
「なんで、そんなこと言うんだよ……」
「ヴァイス……?」
 心配そうなマグナの声を耳にして、我に立ち返る。
 どこまで見っとも無ぇ様を晒すつもりなんだ、俺は。
「いや、悪い――そうだな。要するに、俺は自分に自信が無いんだな」
 言われて、はっきり気付いたよ。
「だから、頼り無ぇだとかなんだとか、つまんねぇことでグダグダ悩んじまうんだな」
 情け無ぇ。穴があったら入りてぇよ。
「ごめんな……お前の抱えてるモンに比べたら、俺のなんて悩みとも言えねぇのにな」
「そんなこと無いんじゃない」
 それが、マグナの返事だった。
「その人にとって、何がどれだけ重いのかなんて、人それぞれだと思うけど。その人の悩みはその人だけのものだし、他人と比べて重い軽いなんて言えないんじゃない」
「そうは言ってもさ……」
「正直言って、ヴァイスが何を悩んでるのか、なんでそんなに自分に自信が無いのか、あたしにはよく分かんないけど――」
 だよな。
「……あのね、あの夜――まだアリアハンに居た頃に、あたしの悩みを聞いてくれた時もね、ヴァイスはやっぱり、何も言わなかったでしょ?」
『……このままでいいのかな?あたし、ホントにこのままでいいの?』
 マグナの切実な問いかけが、脳裏に蘇る。
 そう――俺は、何も答えてやれなかったんだ。
「あの時は、ごめんな……」
 マグナはまた、きょとんとした。
「なんで謝るの?」
「え、いや、だって――」
「あたし、あれでずいぶん楽になったんだよ。てっきり、『このままじゃ良くない』とか、そういうこと言われるもんだって覚悟してたから。でも、ヴァイスはあたしのこと、否定しなかったじゃない?」
 え?――あれ?
 例によって、俺があれこれ余計な事を考え過ぎてただけなのか?
 え?でも――
「こうするべきだ、ああするべきだって、押し付けがましく言わないのも、その……一緒に居て、楽だしね」
 マグナは冗談めかして、微かに笑った。
70名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/04(水) 05:07:29 ID:dyFF68+h0
ちょっと一息、支援です
71CC 22-24/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 05:17:09 ID:eSe32PbL0
「だからね。あたし……」
 重ねた手が、軽く握られた。
「あの時会ったのが、ヴァイスでよかったなって思ってる」
 横を向くと、マグナが俺を見上げていた。
「それじゃ、自信にならないかな?あたしがそう思ってるくらいじゃ、自信にならない?」
 ちょっと首を傾げる。
 見えない何かが、胸を突いた。
 息を吸うことも吐くこともできずに、俺は少し口篭った。
「そんな、不思議そうな顔しないでよ」
 くすりと笑う。
「俺で……良かったのか?」
 止まっていた呼吸と共に、思わず口をついた。
「うん。だから……」
 ああ、やっぱり俺って、馬鹿なんだな。
 つまんねーことばっか、独りでウジウジ考えやがって。
 おっさん、あんたの言う通りだ。
 男だったら、もっとでっかく腰を据えて、しっかり受け止めてやるべきだよな。
「だから、一緒に居てよ」
 こんなことまで、女の方から言わせちまって。
 いい加減、覚悟決めろよ、この唐変木が。
「ああ」
 俺は、マグナの肩に手を回した。
「一緒に居るよ」
 そっと、抱き寄せる。
「ずっと、一緒に居る」
 やっと、そう言えた。
 先のことなんて分かんねぇけど――そんなの、どうでもよくて。
 大事なのは、今の気持ちで。
 それをそのまま、口に出せばいいんだ。
 やっと、そう思えた。
 まだ何か言いたげな自分は、頭の片隅に追いやった。
72CC 22-25/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 05:19:10 ID:eSe32PbL0
「ん……」
 抱き返されたマグナの腕に、僅かに力が篭もる。
「そうよ……あんたは、あたしの目の届くところに居なきゃいけないんだから……最初に、そう言ったでしょ?」
「ああ。覚えてるよ」
 腕を解いて、少し身を離した。
 俺を見上げるマグナの瞳を、凝っと見詰め返す。
「だから、どこにも行かない。ずっと、一緒にいる」
 手を重ねた。
「うん……」
 少し顔を寄せると、マグナは瞳を閉じた。
 髪を除けて、頬に手を当てる。
 さらに顔を寄せようとした時に、遠慮がちなノックが聞こえた。
 続いて、シェラの声。
「すみませ〜ん。アイシャさんから連絡来たんですけど、いらっしゃいますか〜?」
 俺は構わず、唇を重ねた。
73CC 22-26/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 05:22:19 ID:eSe32PbL0
 着替えを済ませて、部屋を出る。
 アリアハン城に忍び込んだ時に身につけた、黒づくめの格好だ。まだ顔は隠してないけどな。
 さっき話し合って、もう真夜中近いし、どうせ忍び込むなら、この方が見つかり難くていいんじゃないかという話になったのだ。
 またこの姿になる時が来るとは思わなかったな。なんか、懐かしいぜ。
 マグナ達の部屋に赴くと、リィナだけが廊下に出ていた。
 扉の向こうからバタバタしてる音が聞こえるから、他の二人はまだ着替え中らしい。
「あれ、アイシャは?」
「ん?下で、仲間の人と話してるんじゃないかな」
 リィナは俺を見て、ちょっと微笑んだ。
「元気出たみたいだね」
 息を呑む――そうだ。
 俺は、こいつにヒドいことをしちまったんだ。
「さっきは……その、ごめんな」
「ううん。ボクこそ、ごめんね。大して元気づけてあげられなくて」
「ンなことねぇよ。ホントに悪かった。もう二度と、あんなことしねぇから」
 頭を下げると、含み笑いが降ってくる。
「ふぅん……もう二度としてくれないんだ?」
「へ?」
 顔を上げると、リィナはにやにや笑っていた。
「やっぱり、ボクじゃダメみたいだね」
「いや、ダメっていうか……」
「まーとにかく、ヴァイスくんが元気になってよかったよ」
 いつも通りの表情。
 この時の俺は、リィナの内心を全く読み取れていなかった。
 なんでリィナが、あんなことまでしたのか。
 負い目を感じていたのは、俺だけじゃなかったんだ。
「あ、ヴァイス――もう来てたの?」
 扉を開けて、黒づくめのマグナとシェラが姿を現した。
 さっきの気分の余韻が残っていた俺は、思わずマグナを身を寄せかけたが――既にマグナの振る舞いが、まるきり普段通りだったので、挙動不審気味に身を離す。
「お待たせ。それじゃ、行きましょ」
 女って、割り切りがすげぇよな。
 そんなしょーもない事を、俺は考えていたのだった。
74CC 22-27/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 05:27:23 ID:eSe32PbL0
 アイシャの話では、秘密の通路を使ってウェナモンの屋敷に入った連中には、どうやらリィナと戦ったあの奇妙な影が含まれているらしかった。出来ればあんなバケモンとやり合いたくないんだが、この際贅沢は言っていられない。
 全身黒づくめの怪しい格好をした俺達は、なるべく目立たないように、アイシャの先導で裏道を辿ってウェナモン邸に向かう。
「そいじゃ、よろしく頼んだよん」
 秘密の通路がある路地まで案内を終えると、アイシャはそう言い残してさっさと立ち去った。
 まぁ、この先は、あいつが居ても戦力にはならねぇからな。
 こそこそと路地を移動して、件の扉の前に辿り着く。
 マグナがフクロから取り出した『魔法の鍵』で、魔方陣の刻まれた鉄扉はあっさりと開いた。
 リィナが音を立てないように、拍手の仕草をする。
「行くわよ」
 声を潜めてマグナが促し、俺達はリィナを先頭にして、扉の向こうに足を踏み入れた。
 ゆっくり静かに扉を閉めると、窓ひとつない通路は真っ暗になった。
 ヤバい。何も見えねぇぞ。
 服の背中を引っ張ってるのは、シェラだよな?
 先に入った筈のマグナは、どこ行った?
 俺も、服の端でも掴んどけばよかったぜ。
 虚空を手探りしながら、慎重に歩を進めると、なんか柔らかいものに触れた。
 これがマグナか?
 確かめようとして、あちこちぺたぺた触っていると、思いっ切り手をはたかれた。
「ちょっと、どこ触ってんのよっ!!」
 小声で怒鳴られる。
 うん、確かにマグナだ。
「もぅ――ほら」
 手探りで、手を握り合う。
 いくらも行かない内に、前の方からリィナの囁く声が聞こえた。
「っと――足元気をつけて。この先、階段みたい」
 ほとんど這うようにして、苦労しいしい階段を上りきると、そこは行き止まりだった。
「ちょっと待って」
 リィナがそう言って、そこかしこを手探りで調べている気配があった。
「これかな?」
 ガチン、と音がして、壁の一部に隙間ができる。そこから、ぼんやりとした灯りが差し込んだ。
 俺達に向かって唇に指を当て、しばらく外の気配を窺ってからリィナが壁を押すと、それはくるりと回った。
 隠し扉かよ。念の入ったことで。
75CC 22-28/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 05:31:37 ID:eSe32PbL0
 秘密の通路は、どうやら屋敷の端っこに繋がっていたようだった。
 壁を抜けると、左手はどん詰まりで、右手に廊下が続いている。
 心配していた見張りは、特に見当たらなかった。
 リィナを先頭に、足音を忍ばせて廊下を進む。
 ひとつ目の扉に屈んで身を寄せたリィナは、やがて小さく二、三度頷いてみせた。
「うん、中に誰か居るよ」
 わざわざ秘密の通路を作ってるくらいだ。密談するとしたら、一番近くの部屋を使うのが、最もバレ難いのは道理だわな。
 俺も扉に耳をつけてみたが、時折物音がするばかりで、話し声は聞き取れなかった。
 肩をつつくと、リィナも首を横に振る。
 弱ったな。盗賊と密談してるトコを盗み聞いて、言い訳できない状況で押し入るつもりだったんだが。
「あ、ヤバ。誰か出てくるかも」
 足音でも聞きつけたのか、リィナが囁いた。
 マグナを見る。
「一旦、隠れるか?」
「め……いいわ、踏み込みましょ」
 お前、今、面倒臭いって言いかけただろ。
 まぁ、出たトコ勝負は、お前らしいけどさ。
「あ、開いてる」
 リィナは、既に扉に手をかけていた。
 どうか、中に盗賊が居ますように。じゃなかったら、俺達のやってることって、単なる不法侵入だぜ。
 リィナが、勢いよく扉を開いた。
「そこまでよっ!!」
 何がそこまでなんだかよく分からんが、リィナに続いてマグナが啖呵を切りつつ中に飛び込む。
 慌てて後を追うと、室内には例のいびつな影と、フードつきの黒マントを纏った小柄な人影があった。
 助かった。これでいちおう、悪巧みの現場を押さえたってな具合に持ってけそうだ。
 豪華な調度品で固められた部屋の奥には、もうひとつの人影が佇んでいた。身なりと恰幅のいいその中年が、多分ウェナモンだろう。
 ウェナモンの背後、奥側の壁面が硝子張りになっていて、その先に広いテラスが見えた。硝子越しに差し込む月明かりの他に照明はほとんど無く、二、三本蝋燭が灯されている程度だ。
76CC 22-29/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 05:35:54 ID:eSe32PbL0
「あんた達の悪事はバレてるわよっ!!裏で盗賊と手を結んで、取引相手の隊商を襲わせて、積荷を強奪するなんて言語道断!!大人しく、お縄につきなさいっ!!」
 打ち合わせておいたハッタリをかますマグナ。最後のは、アドリブだが。有無を言わさず相手を悪者と決め付けて優位に話を進めようって訳だが、犯罪を取り締まる側というよりは、今の俺達って犯罪者の方に近いんですが。
 だが――びっくりするほど反応は無かった。
 あの奇妙な影が、人がましい素振りを見せないのは分からんでもないが、隣りに居る小柄な黒マントも、奥にいるウェナモンも、なんら反応を示さない。
 威勢良く啖呵を切った手前、マグナは照れ隠しのように、ひとつ咳払いをして、再び口を開いた。
「えっと……黙ってないで、なんとか言ったらどうなの!?」
 無反応。
「なんなのよ……ちょっと、あんたがウェナモンさん?聞きたいことがあるんだけど。あんた達の悪事をバラされたくなかったら、大人しくあたし達の質問に答えなさい」
 どっちが悪者か分からないことを言うマグナ。
 だが、直接話しかけられても、ウェナモンはぼぅと突っ立ったままだった。
 なんか、様子がおかしいな。
 その時、じゃらりと音がした。
 小柄な黒マントが両手で下げている袋だ。
 今のは、金貨か何かが擦れ合う音に聞こえたぞ?
「どいて」
 一歩進み出た黒マントが、ぽつりと呟いた。
 この声は――
「あんた――」
 辺りが暗くて、フードに覆われた顔は確認できないが――
「邪魔」
 この声は、多分ルシエラだ。
「……どく訳ないでしょ」
 マグナが、腰の剣に手をかける。
「そう」
 おそらくルシエラと思われる黒マントは、あっさり踵を返すと、いびつな影を伴って、すたすたとテラスの方へ歩き去る。
「あっ……待って!!」
 最初に声をあげたのは、シェラだった。
「待ちなさいよ!!」
 後を追う俺達に一切取り合おうとせず、硝子戸を抜けてテラスの端まで辿り着いたところで、いびつな影がルシエラの腰を抱える。
 と、そのまま柵を越えて飛び降りた。
「ちょっ……!?」
 秘密の通路でのぼった階段の段数から考えて、ここは三階くらいの高さがある筈だ。飛び降りて無事に済む高さじゃない。
77CC 22-30/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 05:39:14 ID:eSe32PbL0
 慌ててテラスの柵に駆け寄る寸前で――
『シギャアアァァッ』
 神経を逆撫でする咆哮を追って、黒々とした影が下から浮かび上がってきた。
 ばさり、ばさり、と羽ばたく音。
 月明かりに浮かぶ、異形の姿。
 頭に生やした節くれだった角といい、背中から生えた蝙蝠のような羽といい、細く尖った尻尾といい――まるで人間が思い描く悪魔そのものの姿が、そこにはあった。
 これが、いびつな影の正体か。
『キさマラ こコデ コろス』
 たどたどしく、物騒なことをほざく悪魔。無理して人間の言葉を喋ってもらって、済まねぇな。
「ちょっと、どうなってんのよ……やるしかないってわけ?」
 急展開に、ぶつくさ言いながら剣を抜くマグナ。
「来るよっ!」
 リィナが注意を促した時には、今日は自前の爪を振りかざし、悪魔は滑空をはじめていた。
 後ろに退こうとした俺は、シェラがふらふら前に足を踏み出すのを目にしてぎょっとする。
「なにやってんだよっ!」
 手を掴んで引き寄せる。
「だって……あの人が……」
 ルシエラのことか?
「今から追いかけるのは無理だ。ウェナモンが残ってっから、あいつから話を聞きゃいいよ」
 肉を打つ音がして、俺のすぐ脇を黒い影が吹っ飛んでいく。
 屋敷の壁に当たる寸前で、悪魔は体勢を立て直し、羽を動かして上昇した。
 見てなかったが、リィナがぶっ飛ばしたらしい。
「下りてきなさいよっ!!」
 空に向かって剣を振り回すマグナ。
 その切っ先が僅かに届かない中空で、羽ばたきながら制止しつつ、悪魔はかぱりと口を開けた。
『コオオォォ』
 悪魔の吐いた息に触れた空気が、一瞬にして凍りつき、結晶となってぱらぱら落ちる。
 マグナは冷気の息から、辛うじて身を躱した。
「卑怯者!!これじゃ、こっちは攻撃できないじゃない!!」
 まったくだ。このまま空を飛ばれたら、マグナとリィナは何も出来ねぇぞ。
 ってことはだ。
 ここは、いよいよ――
78CC 22-31/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 05:41:40 ID:eSe32PbL0
「ヴァイスくん!!」
 リィナの声がした。
「おうっ!!」
 ここは、いよいよ、俺の出番か!?
「ごめんっ!!」
 言うより早く、俺の体を駆け上がる。
 俺の脳天で踏み切って、リィナは悪魔に跳び蹴りを放った。
 バカ、お前、痛ぇよ!!首がおかしくなったらどうすんだ!!
 リィナの蹴りが、悪魔の腹に突き刺さる。
 だが、僅かに体勢を崩したものの、悪魔は爪を振るって反撃した。
 器用に空中で身を捻ってそれを避け、リィナは身軽に着地する。
「ちぇっ、やっぱり一撃じゃ無理かぁ」
 いいから、お前は下がってろよ。
 とうとう、俺の見せ場が来ちまったようだぜ。
 よっく見てやがれよ、お前ら。
 俺もちったぁ頼りになるってトコを、拝ませてやるぜ。
『メラミ』
 俺が呪文を唱えると、メラとは比較にならないデカさの火球が、悪魔に襲い掛かる。
 遠距離攻撃なら、魔法使いに任せとけっての。
 だが――火球は、ひょいという感じで、あっさり悪魔に躱されて、遥か夜空に吸い込まれていった。
 あれ?
「なにやってんのよっ!!頼りになんないわねっ!!」
 マグナの叱咤が飛ぶ。
 ああ、違うんだ……こんな筈じゃなかったんだ。
「ヴァイスくん、あの人動き素早いから、そのままだと今の呪文は当たんないよ。もうちょっと、不意とか突くか、動きを止めるとかしないと。それか、イオみたいな範囲の広い呪文の方がいいと思うけど」
 リィナには、冷静に指摘された。
 うるせーうるせー。ンなこた分かってるよ!
 けど、イオの威力じゃ、あいつ相手にゃ牽制くらいにしかなんねーじゃんか!
 俺だって、タマにはいいトコ見せてぇんだよっ!!
 ん、待てよ?
 動きを止める?
79CC 22-32/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 06:10:23 ID:eSe32PbL0
「悪いけど、しばらくあいつを引きつけといてくれ」
「――分かった。任せるよ」
 リィナは、余計なことを聞き返さなかった。
 マグナの方に走り寄る。
 俺は、シェラを振り返った。
「シェラ――」
 なんか、ぼんやりしてるぞ。
 いまだに、ルシエラが去ったテラスの先を見詰めている。
「おい?」
「あ、は、はい!?なんですか?」
「いや、なんですかじゃなくてさ。どうした?大丈夫か?」
「あ、はい、大丈夫です――ごめんなさい」
「……ま、いいけどさ」
 俺は手短にシェラに作戦を伝えた。
 ひと言ふた言交わしたマグナとリィナの方は、お互いに距離を置いて、それぞれ冷気の息から身を躱し続けている。 
 あ、ヤベ。悪魔野郎が、こっちを向きやがった。
 俺はシェラの手を引いて、危うく冷気の息から身を避けて室内に戻った。
「ほら、あんたの相手はこっちよ!!」
 マグナが空に向かって剣を振り回してるのが見える。
 すまねぇな。結局、お前らばっか危険に晒しちまって。
 俺が呪文を唱えられるようになるまで、もうちょっとだけ待ってくれ。
「……さっきの、ルシエラって人でしたよね」
 下から、沈んだ声が聞こえた。
「フゥマさんと一緒にいた……」
 俯いたシェラに、すぐに返事が出来なかった。
「……い、いや、俺も顔は見てねぇから、さっきのがルシエラだったかどうかは、その、分かんねぇけど」
「フゥマさん……悪い人の仲間なんでしょうか」
「いや……そんなことないんじゃねぇの。あいつらの組織だかなんだかは、魔王退治が目的だって言ってただろ?」
 少なくとも、あの腕白坊主自身は悪党じゃない。それは、俺も信じてる。
 とは言うものの。
 フゥマが騙されて利用されてるって可能性は、俺にも否定できなかった。あいつ、騙し易そうだからなぁ。
80CC 22-33/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 06:15:25 ID:eSe32PbL0
 いや、待てよ。
 そういや、あいつはこうも言っていた。
『タマに今回みたいな召集がかかる程度で、普段はそれぞれ勝手に暮らしてんだ』
 つまりルシエラは、フゥマ達の組織だかなんだかとは無関係に、勝手に魔物とツルんで悪さを働いてる可能性だって、無い訳じゃない。
 俺がそう言って聞かせても、シェラの表情は晴れなかった。
 まぁなぁ。言ってる俺だって、気休めにしか思えないもんな。
「――とにかく、ここであれこれ想像してても、しょうがねぇよ。次に会った時に、確かめてみるしかないんじゃねぇかな。あいつが騙されてるんだったら、お前が言えば、ヘンな組織からも足を洗うだろうしさ」
「そう……でしょうか」
「それより今は、あの魔物をなんとかしねぇと」
「あ、はい――そうですよね。ごめんなさい、こんな時に」
 後回しにしちまったみたいで心が痛むが、状況が状況だ。
 そうこうしている内に、俺の準備も整っている。
「よし、じゃあ行くぞ」
「はい」
 俺はシェラを連れて、再びテラスに出た。
 さっき躱した冷気で床が凍りついていて、危うく足を滑らせかける。
 よく見ると、既に床は半分くらい、あちこち凍り付いていた。
「ヴァイス、早く!!なんかするなら――ぁっ!!」
 こちらに気を取られた所為か、マグナが足を滑らせて尻餅をついた。
 上空の悪魔が、そちらに顔を向ける。
 ヤベェ、急がねぇと。
「シェラ!」
『バギ』
 俺が肩を叩くと、シェラが呪文を発動させた。
 悪魔を中心に、大気が唸りを上げる。
 バギの威力じゃ大したダメージにはならねぇだろうが、渦巻く風に邪魔されて、ヤツも満足に羽ばたけない。動きを止めるにゃ充分だ。
『メラミ』
 今度こそ、俺の放った火球は悪魔に命中した。
81CC 22-34/34 ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 06:19:01 ID:eSe32PbL0
『シギャアアァァッ』
 あ、ちくしょう。くたばらねぇでやんの。
 メラミでも足りねぇってのかよ。
「マグナ!!」
 リィナの合図で、マグナが悪魔に向かって剣を放り投げた。
 見事に悪魔に突き刺さる。なんかあいつ、剣を投げるのが得意技になってねぇか?
 ぐらり、と空中で悪魔が姿勢を崩した。
「だめおしっ!!」
 こちらに駆け寄ってきたリィナが、再び俺を踏み台にして跳び上がる。
 痛ぇっ!!またかよっ!!
 リィナは悪魔の首を両足で挟み込むと、ぐるっと体を捻った。
 ごきん、と骨同士が擦れる嫌な音がして、あり得ない方向に首を曲げた悪魔が墜落する。
 リィナの足で固定されて、悪魔は脳天から床にぶち落ちた。
「よっと……とと」
 ひょいと身を離したリィナが、凍りついた床に足をとられる。
 びくん、と悪魔の腕が動いたのが見えた。
 まだくたばってねぇ。どういう生命力だよ。
 駆け寄りざまに、フクロから――危ねっ!!俺まで足を滑らせてどうすんだ。
 ほとんど転びながら、俺はソレを悪魔の眉間に突き立てる。
 ようやく、悪魔はぴくりとも動かなくなった。
「ありゃ、ありがと。助かったよ」
「らしくねぇな、油断なんてよ」
 ニヤリとか笑って格好をつけかったんだが、俺も転んでるから、まるで様になりゃしねぇ。
 自分の失態には素知らぬ顔をして、悪魔の眉間から『どくばり』を抜き取る。
 エルフの森から戻った後、ルーラでちょいとカザーブの道具屋の親父を訪ねてもらっといたんだが、初めて役に立ったな。
「もぉっ、いったぁ〜……もっと早く来なさいよ」
 マグナが尻をさすりながら、歩み寄ってきた。
「悪いな。さすってやろうか?」
 尻に手を伸ばすと、ばちんとはたかれて、ぎろりと睨みつけられた。
 すみません、調子に乗ってました。
「なんだ、これは!?誰だ、お前達はっ!?」
 聞き覚えの無い声に振り返ると、ウェナモンが目を丸くして、テラスの惨状と俺達を眺めていた。
82CC ◆GxR634B49A :2007/04/04(水) 06:28:27 ID:eSe32PbL0
なんか規制キビしー。

とゆうことで、第22話をお届けしました。
も〜、今回はスゴい言いたいことがたくさんありますが、
先の展開にかかわってきちゃうので、何を言えません><
うがー。
今回の話に納得いかない向きも、もうちょっと先まで
お付き合いいただければなぁ、と願ったりする次第です。

ところで、アッサラームのパフパフって、元がギャグなので、
そのままやってもつまんないし、正直使い難いです。
でも、まぁ、書いてる時はそんなつもりじゃなくて、
後から読み返して気付いたんですけど、
結果的にはゲーム内と似たような意味でも、
ぱふぱふ本来の意味でも、いちおうクリアできたような
気がしないでもないので、まぁいいか〜、みたいなw

それと、最後に出てきた悪魔は、ゲームだとベビーサタンなんですが、
それだとハッタリ利かないので、勝手にベビーをとってしまいました。

この後1話挟んで、中盤のクライマックスに入る予定です。
もうちょっと、お仕事が忙しくない時期だとよかったんですが。。。
4月を越えれば、もうちょいマシなペースで投下できると思いますので、
宜しければ今後ともお付き合いくださいませ。
最近、遅くてすみません(^^ゞ
83名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/04(水) 06:37:40 ID:dyFF68+h0
CC氏GJ!
大丈夫、俺は最後まで応援するお!
84名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/04(水) 11:04:31 ID:yHP6pceL0
GJ!!!!!!
や は り ヴ ァ イ ス は ツ ン デ レ

今回ちょっと感動した。
頑張れ若造ww

そしてCC氏、忙しい中お疲れ様です&ありがとう!
これで今日一日頑張れるよ。
85名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/04(水) 13:30:56 ID:fU1eQbiJO
GJ。
なんかヴァイスが自分と重なってすげー心にきたよ。マジでGJ。
そしてマグナの完璧なまでのツンデレに萌えた。
86名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/04(水) 16:27:10 ID:XuwOVmWOO
GJ!!!

両主人公のツンデレっぷりは勿論、リィナの仕打ち(踏み台)にも萌えさせて頂きましたw
スネヤガッテコノコノー( ´∀`)σ)Д`)
87名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/04(水) 16:54:37 ID:h/y5U2CyO
GJ!!
マグナはもちろん今回リィナもいい味だしてますなぁ
これからも期待してます!
88名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/04(水) 23:36:59 ID:uCq0vhsc0
リィナのぱふぱふハァハァ
89名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/05(木) 00:55:03 ID:myOLHc76O
CC氏乙
90名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/05(木) 02:35:51 ID:xigI/s9tO
ヴァイスくんはマグナと出来上がっちゃったみたいだから残されたリィナたんは俺がもらっていきますね。
91名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/05(木) 03:42:31 ID:0w0uz2K60
おもすれえええええええ

次回も期待!!
92名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/05(木) 04:04:31 ID:0f2C/8ln0
(*´Д`)ハァハァハァハァ 
おっぱい・・おっぱい・・
93名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/05(木) 09:43:40 ID:iurZO1dFO
絵師!>>55を描いてくれる絵師はおらんのか!
94名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/05(木) 22:13:39 ID:k2bpQT550
もう少し3人?のヒロインと、どっちつかずの展開が見たかったなあ
95CC ◆GxR634B49A :2007/04/06(金) 04:59:00 ID:/c/UBZR90
倒れるように寝る->用事を済ませる->また寝る、のコンボを発動してました(^^ゞ

皆さま、レスありがとうございます〜ヽ(´∀`)ノ
楽しんでいただけたみたいで、ほっとしました。
お陰様で、クライマックスも遠慮せずに書けそうです。

今まで全レスとか遠慮してたんですが、レスしてくださったのが
嬉しかったので、すみませんが今回はさせてください><

>>83 私もなんとか最後までがんばる所存ですので、今後ともよろしくです<(_ _)>
>>84 そうそうw 若造、がんばってますw こちらこそ、お読みいただきありがとうです
>>85 ありがたきお言葉。あとマグナにツンデレを感じていただけてほっとしますた(^^ゞ
>>86 踏み台は、ジツは私もちょっとお気に入りですw
>>87 もうちょいでリィナがいろんな意味で大活躍の予定なので、乞うご期待です〜
>>88 (*´Д`)ハァハァ
>>89 d

あり? >> が多すぎても、規制に引っかかっちゃうんだ?
すみません、2レスに分けさせてください><
96CC ◆GxR634B49A :2007/04/06(金) 04:59:35 ID:/c/UBZR90
>>90 もうちょっと待ってくださいねw
>>91 この先の展開にご期待ください。でも次回はまだ、あんま盛り上がんないかもw
>>92 リィナはいつの間にやらおっぱい係(*´Д`)ハァハァ
>>93 じゃあ、ワタクシメが。。。嘘です。そんな上手くないです><
>>94 まだまだ今後の展開を、お楽しみに!とか言ってみますw

こっから先、24〜28話辺りまで、私の中ではずいぶん盛り上がってるので、
「え、そうなるんだ?」みたいな意表をつけるといいなぁ、と願っております。
ホントにようやく、ここまで辿り着いたよ。。。
もーなんとか頑張って面白くする所存ですので、
今後とも、お付き合いのほど、どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
97名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/06(金) 23:05:05 ID:HaQf2zy40
勇者ゴドーはアリスで挟んだし、ぶちまけた

ヴァイスもリィナで、挟むし、ぶちまけるはずさ
98名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/07(土) 01:09:01 ID:geZbIjuHO
挟む…ぶちまける…ハァハァ
ぜひそのへんの話を
99CC ◆GxR634B49A :2007/04/07(土) 04:00:53 ID:7kBOkSU/0
はずなんだw
個人的に楽しみなシーンは予定してたり。挟まないけどw
いや、あんまえちぃくもないけど、私的にすげー萌えるシーンが
100名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/07(土) 13:00:41 ID:EJH2VPKkO
リィナとマグナのビンタに挟まれて鼻血をぶちまけると?
成程確かに萌えるな。
101CC ◆GxR634B49A :2007/04/07(土) 15:01:18 ID:7kBOkSU/0
あ、くそ、上手いこと言われたw
わたしゃ咄嗟に思いつかなかったので、なんかくやしいw
102見切無職 米:2007/04/07(土) 15:06:19 ID:XmgsHeci0
無職って結構暇なんだぜっ!?いや、仕事は毎日探してるッてっ!!(挨拶)

そんなわけで、今しかチャンスはないっ!の勢いでCC氏の作品をまとめのところで頭っから読んできましたが。

感想: 俺 イ ラ ネ ー

と、卑屈になりすぎてもしょうがないけど。まぁそんな言葉が幾度となく頭を過ぎりましたよ?
構成の巧さが目についちゃって、わたしの下手な伏線置きなんかより余程自然だし。
青春の一ページってこんな感じだよなぁ、っていう心理描写や成長過程を自然に書けるのが憧れつつ勉強しつつ。
戦闘描写もどっかのキリングマシーンが殺しまくるものより全然面白いし。
なんつーかあれだね、自分の至らなさに穴を掘って隠れたい気分てところですか。
因みに、自分が内省的で更に自分に自信のない人なので、ヴァイス君が被りすぎて色々痛い痛い痛いorz
あ、そうだ。リィナはちゃんとわたしが面倒見ておきますから。


一応報告。へこまされつつも、ボチボチ書き進めています。
こんな人ばっかりじゃローレシアが滅んだのも無理はないです、みたいな。そんな感じ。
103CC ◆GxR634B49A :2007/04/07(土) 16:15:45 ID:7kBOkSU/0
>>102
えと、就活がんばってくださいね(^^ゞ
うまく行くように応援しております。

そんな中、拙作をお読みいただきありがとうございますです。
色々とありがたきお言葉までいただきまして<(_ _)>
戦闘シーンは毎回変化をつけるようにしてるので、楽しんでいただけたら幸いです。
あと、読み手の方とヴァイスくんが被るのは、私的にはかなり嬉しかったりw

私の方では、とある理由から大軍同士の戦いは作中には登場しない予定ですので、
見切りさんの方では頑張ってくださいね〜。
とか、自分が書くんじゃないと思って、すごい気楽に言ってみたりw
104CC ◆GxR634B49A :2007/04/08(日) 14:24:08 ID:5fcm8mhH0
ぼちぼち進んでます〜。次回は、さくっと終わらせたいなぁ。
105名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/08(日) 17:20:13 ID:C5OCVgqA0
106名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/09(月) 14:30:42 ID:I6htvf72O
リアルで野郎のツンデレわな・・・
107見切無職 米:2007/04/09(月) 18:41:54 ID:vbehS9R00
詰まったープーなのに詰まったーorz
108名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/10(火) 11:27:52 ID:DvY6ua+AO
見切りさんの作品はルーシアあたりから読ませてもらってます。
アレン編は今までと変わった雰囲気でかなり楽しませていただいております。(´∀`)

ルーシアもドツボでしたがこのアレンもかなりお気に入りになっております。(´Д`*)ハァハァ


どの方のどの作品にも言えることは、、、
おっぱいはやはりネ申。いやそれすらも超越し、おっぱいは世界を救うということだと思います。ハァハァ
109CC ◆GxR634B49A :2007/04/10(火) 19:12:56 ID:M7HZvUbr0
ぼちぼちです。もうちょい進めたいところ。
110見切無職 米:2007/04/11(水) 00:04:17 ID:+dH1nqav0
本当はもうワンシーンくらい入れたかったんだけど、詰まりに詰まったのでキリの良いところで投下。
ああもう大軍のぶつかり合いなんて書くんじゃなかったorz

>108
ひっじょーに嬉しいというか寧ろよんつんばいになってカムヒアーとか叫ぶ勢いですが、一つだけ訊かせてください。
わたしってルーシアの萌えシーン書いたっけ?
111見切無職:2007/04/11(水) 00:05:11 ID:UvrmPU6S0
頭上を行き過ぎる弓と岩の雨。風切り音が耳を打つ。投石機なんていう名前の癖に飛んでくのは岩なんだな、な
どと、どうでも良いことが頭を過ぎった。
距離は未だだいぶあるのだが、如何せん敵は数が多い。悲鳴のような怒声のような、唸り声が此処まで響いてく
る。騎乗している愛馬が耳を欹てているのが判ったので、首を撫でてやる。そのまま目を凝らして敵の様子を見
ようとするが、闇が濃いため視認することは出来ない。
「あとどのくらいだ」
横に付けている副官に問う。
「もうそろそろかと」
副官は前方に顔を向けたまま答える。手が震えているせいか、カチャカチャという金属音が聞こえてくる。
「安心しろ。イヴァン殿の作戦で、ハーゴンの軍勢は統制を乱しておる。……いや、元々統制なんてあったもの
ではないと思うが。我等は一撃離脱すればよい。冷静な判断の下せない奴等相手なら何の問題もない仕事だよ。
ほら、深呼吸をしろ。身体が硬いままだと、其方の方が危ない」
「はい、将軍」
其れだけ応えて、云われたとおり律儀に深呼吸を始める副官に思わず苦笑が漏れる。だが、其れは直ぐに消えた。
誰も死なせたくないものだが、確実に死人は出る。戦争であれば、其れは避けえられないことだ。自分が命を散
らすことで他の者が救われるのならば、などと半ば本気で思ってしまう。
112見切無職:2007/04/11(水) 00:06:00 ID:UvrmPU6S0
程なくして、頭上を幾つもの光の軌跡が過ぎ去り始めたことに気が付く。放たれる無数の火矢。其れは、合図で
あり、罠を作動させるスイッチでもあった。
「突撃用意ッ!!!」
大きく息を吸い、左腕を空に掲げ、其れだけ叫ぶ。直ぐ隣で復唱の声が聞こえ、其れは更なる復唱となって騎士
団を覆っていく。前方に大きな明かりが灯り、影が揺らめく。唯一、イヴァンの命によって仕掛けられた罠がア
レだ。地面に敷いた枯れ草に染み込ませた臭水は、火矢により燃え上がり、闇夜の中でも、倒すべき敵の影をは
っきりと映し出しす。
我等が壊滅すべき敵は、彼処にいる。
「我等に仇為す畜生共を蹂躙せよ!!全騎士団、突撃開始ッ!!!!」
掲げられた手を前方に振り下ろし、有らん限りの声で命を下すとともに、自らの馬も駆る。

その時、世界が揺れた。

そう思ったのは自分だけか。兵達の雄叫びと、馬が地面を踏みならす音が世界を揺るがしているようだ。
一瞬だけ後ろを確認する。壮観だな、と思う。ローレシア全騎士団3000名を率いるなど、漢の誉れだ。将軍職に
就いたこと時よりも誇らしい。例え此処で死ぬことになろうとも、悔いはないだろう。

馬の疾走は早い。もう魔物の姿が視認できる距離まで来ている。
ハーゴン軍の行軍は止まっていた。放たれた無数の矢と石がイヴァンの作戦通り、完全に魔物らを混乱させたよ
うだ。同士討ちまでしている輩もいる。トドメとばかりに打ち込まれた火矢は、臭水を燃やし炎の壁を作り出し
て、魔物達を分断することに成功していた。
113見切無職:2007/04/11(水) 00:06:57 ID:+dH1nqav0
面頬を下ろし、4mはあるランスを脇に構え、鐙に体重を乗せる。
狙いを、未だ冷静を保っている様に見えるアークデーモンに定めた。まともに判断の出来ないような輩は、後ろ
から続く部下に任せれば良い。そうではない、理性的に対応してくる相手を潰すのが、熟練した腕を持つ者達の
仕事である。然し、相手は最高位と云っても良い魔物だ。例えランスチャージであろうとも、どれだけの効果を
及ぼせるかは全くの未知数である。持ってきたランスは、ミスリルで作り教会で聖別されたものだから、多少な
りとも破魔の効力はあるはずなのだが。
迷いは自らを殺す。多少の懸念は今問題にすべき事ではない。ただ目標のみを見定める。見定められた魔物は、
向かってくるグランドを迎撃しようと呪文を唱えようとしていた。自分の勘が未だ衰えていないことに満足する。
「遅いッ」
小さく吐き捨てると、そのままランスの槍先を打ち込む。呪文を唱え終わる前に、其の口ごとアークデーモンの
頭を文字通り削り取った。
「良しッ」
このランスによる騎兵突撃ならばどの魔物にも通じる……!
その結果に満足し、思わず声が出た。顔から不安な影が消える。ならば、と愛馬を走らせたまま次の獲物を探す。
一撃離脱が騎兵突撃の常だが、出来るものなら一匹でも多く数を減らしておきたかった。
馬を巡らせた先で、馬ごと兵士を叩き潰している魔物を見つける。距離は……十分。腹を蹴りスピードを再び上
げる。急所には魔物の頭頂高が高いために届かない。なれば狙うは――――
背後から左太腿を貫く。勢いが付いているため、そのまま突き抜けてあっという間にギガンテスを後ろに置き去
りにする。後ろから地響きのような音が耳に届いた。
114見切無職:2007/04/11(水) 00:07:51 ID:+dH1nqav0

奇襲は完全に成功した。
魔物のほうは相手の不意を付くことのみ考えており、逆に不意を付かれるとは思いもよらなかったに違いない。
最初の弓と岩による攻撃で混乱を起こし、間髪入れずに行った騎兵突撃によりハーゴン軍は完全に浮き足だった。
相手が人間ならば、此処での退却も有り得ただろう。然し、此の明け透けな作戦が見事に嵌ったのは敵が魔物で
あったからだし、此で止まらなかったのも魔物の軍勢だったからだ。
初撃による混乱からある程度立ち直った魔物達は、恐怖よりも怒りをその目に宿し、最も近くにいた騎士団に向
けられた。俊足のサーベルウルフやキラータイガーを先頭に、続々と人馬を追う魔物の群れ。
然し、退却する馬と兵を後追う魔物達を待ちかまえていたのは、重装歩兵による槍衾だった。次々と、無数の槍
による壁の餌食になる魔物達。其れが幾度も続くと、流石に学習したのか間合いを計り出すが、時既に遅し。前
に出すぎた魔物達は、重装歩兵の脇に配置されていた軽歩兵が各個撃破していく。
此が中央での戦況であった。

「策に嵌りすぎて、怖いぐらいです」
そう呟いたのはイヴァンだった。
「今ぐらい上手くいかないでどうする。大変なのは此からだ」
王は地図上に示された戦況図を見ながら答える。
「騎士団の損耗はどんなモノだ?」
「8%程度との報告が入ってます」
「完全に不意をつけたな。だが、両翼はやはり押され気味か………」
両翼に置かれている軽歩兵隊の駒を眺める。
「仕方ありません。敵は玉石混合ですが、レベルの高い魔物を投入されたとき、歩兵のみの戦力では押し負ける
のは火を見るより明らかでしたから。問題は統制を取り戻す前に、どれだけ削れるかどうかです」
「ふん……そろそろ炎も収まるはずだ。そうしたら敵の層は更に厚くなるぞ?」
「判ってます。弓兵がいつでも援護できるように準備しています。騎士団も引き返した後、味方の薄い箇所を援
護できるよう再編成を行わせています」
イヴァンは其処で一度口を閉じると、王の目をしっかりと見据えた。
「ので、陛下は今から仮眠を取ってください。まだまだ先は長いので、途中で陛下に倒れられても士気の低下に
繋がりますから」
115見切無職 米:2007/04/11(水) 00:29:34 ID:UvrmPU6S0
此で漸くローレシア攻防戦の冒頭部に繋がります。
奇襲によるアドバンテージは全て失い、圧倒的な数の暴力に晒されるローレシア。
其処に見える戦場は、地獄としか云いようがなかった。
………つーか一体どうなるんでしょうね?

音楽かけながら書いてるんだけど、某曲がかかるとラストバトルとか3のEDとかなんか違うものが脳裏を横切るぜ?
下手にBGMとか決めると此だから困る。
116名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/11(水) 15:11:03 ID:ScOBi2hhO
ああああ!!間違えたルーシアじゃなくシンシアだった!!1111
シンシアちゃんごめん!!おらはひんぬーも大好物なんだ111111

そして見切り氏GJ!!
ロマサガ3のマスコンが好きだった俺には魂が煮えくり返る内容でしたぜぇええ!!!!!!
117名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/11(水) 23:15:46 ID:nh64Rzbl0
貴様ァ!!どこがキリがいいんじゃあ!!!
メッチャ続きが気になるやんけ!!!!!!!!










べっ・・・別に期待してるわけじゃないんだからねっ!
118見切無職 米:2007/04/12(木) 01:01:18 ID:V959+JKu0
>116
わたしの作品を読み始めたのがシンシアからっていいますが、其れより前は存在しないぜ?
なぜならアレがわたしの処女作だからさっ!!!
ら、らめぇ……わたしの恥ずかしいところ、みちゃらめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
つーか、自分で読むには恥ずかしすぎます。

>117
カナブンよりごめんなさいorz
冒頭部に繋がるって事でキリが良いと。そういうことで許してくださいorz
大まかな流れしか決めて無くて、後は行き当たりばったりやってるから上手く接合できないような事態に陥って筆が止まるんだよっ!<自戒を込めて

読み手の方々の声はやっぱり原動力になりますね。今回反応して下さったお二方含め読んで下さっている皆様、有難う御座います。
119名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/12(木) 13:52:53 ID:AI1o2NOE0
無職氏頑張れ〜

楽しみにしてるよ
120CC ◆GxR634B49A :2007/04/12(木) 20:45:40 ID:d3C9nUDS0
とりあえず今週中目標で保守
121CC ◆GxR634B49A :2007/04/14(土) 00:30:55 ID:VkDCNywO0
若干キビしくなってまいりました保守
122名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/14(土) 02:51:47 ID:FrpNX+jz0
見切無職さん面白いです。
職探しとともに続きも頑張ってください。

CCさん、続き期待してます
でも無理はせずマイペースでどうぞ
123名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/14(土) 07:34:23 ID:n09XycTM0
保守
124CC ◆GxR634B49A :2007/04/14(土) 23:06:09 ID:VkDCNywO0
うぃ〜。なんとか休日前に投下したかったんですが、
今週末は用事もあるのでどうも無理みたい保守><
125名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/15(日) 02:03:26 ID:d2vE+qD60
ヘ〜イ
126見切無職 米:2007/04/15(日) 15:10:49 ID:Z08cmxMo0
ふっかーつ!

はっはー、OSが吹っ飛んで起動しなくなったときは焦ったぜ。
いろいろ悩んだ挙げ句、新しくPC一台組んじゃいました。働いてないのに。
でも、12万そこそこで結構素敵なスペックで組めることを知ってちょっと嬉しい。予算をだいぶ下回ったよ?
HDDが物理的に逝ってたわけじゃないので、データサルベージに問題なかったのが不幸中の幸い。
環境作り直さなきゃならないとかあるので、投下は少々遅れるとものと思われます。

……まー、週明けあたりには面接できるところ見つけないと、いろいろねぇ……嫁とかmうわなんだおまえやめrfじゃいえあqwsでfrgtyふじこlp
127CC ◆GxR634B49A :2007/04/16(月) 01:34:52 ID:V/mjt1mt0
なにしてんですかw
就活、うまくいくといいですね。他人事ながら心配です(^^ゞ
お嫁さんと仲良くしてくださいね。

今日は、帰ってからあわよくば投下を。。。と思ってたんですが、
くたくたでとても無理でした。ぎゃふん><
128CC 23-1/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 05:55:01 ID:PnTak0e70
23. Strollin'

 俺達は今、大山脈の地下を無事に抜けて、一路東を目指している。
 と、言葉にしちまうと簡単なんだが、ここまで来るには、随分あちこちたらい回しにされたのだ。
 ちなみに――俺とマグナの関係は、表面上はあんまり変わってない。
 マグナはやっぱり俺に文句ばっか言ってるし、俺もハイハイそれを聞き流すような間柄は相変わらずだ。
 だって、あれだろ。まさかリィナやシェラの目の前で、いちゃつく訳にもいかねぇしさ。
 その辺りの心境はマグナも同じようで、人目のある場所での態度は以前と大差無い。俺もそうだが、まだ距離感を計りかねている部分もあるんだと思う。
 ただ、ごくタマに――街で一緒に出かけたり、旅に出てからは夕暮れ時に薪を拾いに行く俺に、自然な風を装ってマグナがついて来たりして、二人きりになる程度のことはあった。
 まぁ、先は長いんだし――ずっと一緒に居るって決めたからな――俺も、あんまり焦ってない。
 普通の恋人同士みたいな関係には、どこか違和感を覚えるし――いや、違った。そうじゃなかった。なんていうか、つまりだな、マグナとそうなる前に、まだやるべきことが残ってるっていうか。
 とにかくだ。シェラの探してる神殿が見つかるまで、旅は続くのだ。
 とは言っても、あてども無い旅とは、もう呼べなかった。遥か東にあるという、不思議な神殿の噂を知っている人間に、とうとうポルトガで出会えたからだ。
 旅は、確実に終着点に近づいている。
 神殿に辿り着いた後、俺達はどうなるんだろう。
 シェラの願いは、本当に叶うんだろうか。
 出来ることなら、リィナの悩みも解決してやりてぇな。
 そして、そう遠くない将来。俺はマグナと二人で、どこか静かな――魔王なんかとかは、なるたけ無縁の土地に落ち着こうと考えている。
 マグナとの関係を進展させるのは――その、なんだ。いわゆる深い仲になるのはさ、それからで充分かな。そう思ってる。
 リィナやシェラと別れることを考えると、まだ想像でしかないのに早くも寂寥感を覚えちまうが――なんだかんだで、あいつらとも一緒に暮らすオチになる気もするんだよな。それはそれで楽しそうだ。
 まぁ、なんにしても、神殿を見つけた後の話だ。
 ここまでの苦労を考えても、そうすんなり見つかるとも思えない。
129CC 23-2/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 05:58:13 ID:PnTak0e70
「――なんだ、これは!?誰だ、お前達はっ!?」
 ウェナモンの屋敷で、魔物を斃した直後のことだ。
 盗賊やら魔物と手を組んで悪事を働いてやがった癖して、白々しいことをほざきやがる。と思ったんだが。ウェナモンのおっさんが目を丸くして喚いたのは、事情が分かってみれば無理のない話だった。
 興奮しきりのウェナモンと、噛み合わない言い争いをしばらく続けた結果、どうやらおっさんは、ここしばらくの記憶がはっきりしないらしい事が分かった。
 久し振りに正気に返ってみたら、テラスに不審な黒づくめ――俺達のことだ――がたむろしてるし、その傍らには悪魔みたいな魔物の死骸が転がってるしで、これで驚くなって方が難しい。
 まるきり何も覚えてない訳じゃなくて、ところどころぼんやりと夢で見た景色のような断片的な記憶はあるらしいんだが、まだ半分寝惚けてるみたいなウェナモンの話は、なかなか要領を得なかった。
 どうにかこうにか聞き出した話と、これまでに俺達が見聞きした事柄と総合するに、どうやら魔物に操られてたという辺りが正解のようだ。
 これはまだ、俺の想像でしかないんだが。
 思えば、ロマリアで『金の冠』の強奪をカンダタに依頼したあの魔物は、カネで野郎を雇っていやがったのだ。
 野山で好き勝手に暴れまくっている魔物が、金品目的で人間を襲ったという話は聞いたことがない。いみじくもカンダタの変態野郎がほざいたように、魔物が人間のカネを持っていても仕方ないし、そもそも興味が無いだろう。
 故に、魔物に襲われた人間が持ち運んでいたカネやら荷物やらは、そのままその場に捨て置かれるのが普通だ。
 アリアハンでも、いわゆる戦場荒らしよろしく、そうやって放置された金品を拾い歩く専門のハイエナみたいな連中が実際に居たから、それは確かだ。
 じゃあ、あの魔物はどうやって、カンダタを雇う資金を得ていたんだって話になる。
 俺の耳に届いてこないだけで、どこぞの街でも襲って掻っ攫ったのかも知れねぇけどさ――ここまでの経験と照らし合わせて考えるに、魔物連中はなんらかの資金源を有しているのだ。そう考えた方が、俺には腑に落ちる。
130CC 23-3/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 06:02:15 ID:PnTak0e70
 つまり、この街でも有数の商人だったウェナモンは、そういう資金源のひとつとして利用されていたんじゃないだろうか。
 もしそうなら、魔物なんぞに目ぇつけられる辺り、金持ちもいい事ばっかじゃないね。
 普段、道中で相手にしている野獣の延長みたいな魔物の印象からは、およそかけ離れているが――人間を襲って力づくで金品を強奪するんじゃなく、傀儡にした人間を前面に押し立てて自らは裏に潜み、人間社会に溶け込む形で事を荒立てずに悪巧みを働く。
 魔物の中には、そんな狡猾な、組織立って行動している連中が存在してるんじゃないだろうか――そして多分、そこには、あの黒マントの魔物も一枚噛んでやがるのだ。
 カンダタの時のやり口や、イシスでも密談を思い出しても、それは俺の考え過ぎとは思えなかった。
 悪い予想の的中率だけは、なかなかのモンだしな、俺。
 その辺りの考えを、都合の悪い部分を端折って噛んで砕いて説明すると、はじめは俺達を怪しい賊としか見なしていなかったウェナモンも、自分のおぼろげな記憶に思い当たる部分もあるのか、徐々に納得した様子だった。
 なにより実際に、魔物の死骸が傍らに転がってるのが決め手となって、知らない間に自分が魔物と接触していたことを、まだ多少は半信半疑ながらも、ウェナモンは次第に認めつつあった。
「――君らの話が本当ならば、儂はとんでもないことをしでかしてしまった訳だな。盗賊や――魔物と!なんということだ……失った信用も取り戻さねばならないし、これからの事を考えただけで、頭が痛むな」
 難しい顔をして、溜息を吐く。
「それにしても、いまだに信じられないが……魔物から開放してくれた君らには、お礼を言わねばならんのだろうな」
「お礼なんて、あたし達の質問に答えてくれれば、それでいいわ」
 遅々として進まなかったやり取りに、すっかりイライラきていたマグナにつけつけと言われて、ウェナモンはぴくりと眉を上げた。
「ほぅ。こんな儂に、何か君らに教えて差し上げられることがあるのかな?」
「ええ。聞きたいことがあったから、わざわざこんな事したんだもの。あのね、東に行く方法を教えて欲しいのよ」
「東へ……」
 ウェナモンは、どこか遠い目つきをしてみせた。
131CC 23-4/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 06:05:19 ID:PnTak0e70
「大山脈の地下を通って、東に抜ける方法があるんでしょ?それについて一番詳しいのは、ウェナモンさんだって聞いてるんだけど」
「そうだな……誰に聞いたのか知らんが、確かに儂は、何年も前に東へ渡ることを夢見て、イシスからこのアッサラームへと移り住んだのだ。ずいぶん色々と調べもしたのでな、それなりに詳しいと言えないこともない」
 さらに記憶を探るようにひとりごちる。
「思い返してみれば、その辺りのところを、魔物に付け込まれたようでもあるな……ノルドの頑迷さにほとほと困り果てていた儂に、東へ渡る方法があると持ちかけた、あの怪しい――そうか、あれが魔物の手先であったのか」
「ノルドって、大山脈の洞窟に住んでるとかいうホビットの事か?そいつが、秘密の抜け道を知ってるって聞いたんだが」
 俺が口を挟むと、ウェナモンはまた眉をはね上げた。
「よく知っておるな。そう――船が使えれば、話はもっと早いのだろうが……海上に出没する魔物に対抗できる規模の船団を、個人が仕立てるのは無理な話だからな。つまりは、君らの言った『バーンの抜け道』だけが、現実に取り得る唯一の東への道という訳だ」
 ゆるゆると頭を振る。
「だが、『バーンの抜け道』の在り処は、洞窟に棲むノルドというホビットしか知らぬ。こやつがまた、大層な頑固者でな。儂がいくら人をやって尋ねても、一向に捗々しい返事を得ることはできなかったのだ」
「じゃあ結局、ウェナモンさんも、その――『バーンの抜け道』については、何も知らないってこと?」
 マグナは、肩透かしをくらった声を出した。
 俺も、がっかりだ。こんなの、アイシャから聞いてた話と変わんねぇじゃねぇか。抜け道にご大層な名前がついてたのが知れたところで、何の役にも立ちゃしねぇよ。
132名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/17(火) 06:18:57 ID:YuDwagRf0
支援
133CC 23-5/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 06:22:54 ID:PnTak0e70
 だが、ウェナモンの話には続きがあった。
「いや、確かに『バーンの抜け道』の在り処は分からんが、ノルドからそれを聞き出す方策については、今では思い当たらんでもない」
「って言うと?」
「うむ。ノルドは、ポルトガ王と旧来の知己であることが分かってな。そのポルトガ王にお口添えいただければ、あるいはノルドも重い口を開くやも知れぬ」
 いやいや、おっさん。ホントかよ、それ。
 こんな遥かに離れた穴ぐらに棲んでるホビット風情が、なんでポルトガの王様なんかと知り合いなんだよ。
 そうは思ったものの、話の腰を折るのもなんなので、優しい俺は黙っておいた。
「残念ながら、儂のところではポルトガと商いをしておらんのでな。いつか、あわよくば商いを手がかりとしてポルトガ王と知遇を得た折に、お願い申し上げようと思っておったのだが……」
「ポルトガね……」
 マグナが、軽く指を噛んで考え込む。
 嫌な予感がした。
 俺達なんぞがポルトガの王様に目通りを望むとしたら、ぱっと頭に思い浮かぶツテはひとつしかない。
 けと、あいつら犬猿の仲らしいぞ。アレに相談しても、無駄じゃねぇのか。
「ウェナモンさんが知ってるのは、そのくらい?」
「そうだな。大した事は教えてやれんで、申し訳無いが」
「ううん、分かったわ。ありがとう。それじゃ、これからは魔物なんかに取り憑かれたりしないように、気をつけてね」
 聞きたいことだけ聞き出すと、マグナは俺達を促してさっさと部屋を後にしかけた。
「おや。もう行ってしまうつもりかね」
「ええ。聞きたい事は、もう聞いたから」
「いやはや、なんとも若者らしく、せっかちな事だな。できれば、お礼がてらに少々滞在してもらって、儂が正気を失っていた間の事情について、もう少し詳しく話を聞きたいのだが」
「だって、そんなの、あたし達も詳しく知らないし――」
「その件についてなんですがね」
 いけね、忘れるトコだった。
134CC 23-6/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 06:27:18 ID:PnTak0e70
 俺はあたふたと嘴を挟む。
「ウェナモンさんが、その……盗賊と手を組んでたとか、そういう事情を正確に把握してるのはですね、俺達の他には、下町に住んでるアイシャってヤツと、その仲間だけです。
 そいつらには、今回、色々と協力してもらったんでね。ま、多少は街でも、口さがない連中が噂してるみたいですが」
「ふむ、この街にあっては、それも仕方なかろうな。それで?」
「ですからね、そのアイシャってのを、後でこちらにやらせますから、細かい話はそいつから聞いてください。俺達はあちこち旅して回ってて、ここにもついこないだ来たばっかりで、詳しい事は何も知らないんですよ」
 なんか、こういう時の俺の喋り方って、相変わらず胡散臭い詐欺師みてぇだな、とか思いながら続ける。
「それでですね、話を聞いたら、出来ればそいつら――アイシャ達の今後の商いについて、多少の便宜をはかっていただければな〜、とか思ってる次第なんですが」
「ふむ……そういうことか」
 あんたはアイシャ達に弱みを握られましたよ、という俺の言外の含みは、なんとかウェナモンに通じたようだった。
「まぁ、それは考えんでもないが……君らには、何も礼をせんでよいのかな?」
 いえいえ、あっしらのことはいいんでさ。なぁに、ちょっとばっかしお心づけさえ包んでいただけたらね。それで、あんた様のことは、誰にも喋ったりしやしません。
 とかいう脅迫の文言が脳裏に浮かんで、俺は苦笑する。
 アリアハンに居た頃に、付き合ってた連中の柄が悪過ぎたな。
「……ウチのリーダーの言う通り、もう俺達は必要な話を聞かせてもらいましたからね」
「ほぅ、それは欲の無いことだな。そこの魔物を斃すだけでも、随分苦労しただろうに――」
 ウェナモンは、何かに思い当たった顔をした。
「魔王の支配に抵抗する人間――勇者と呼ばれる存在について聞いたことがあるが、ひょっとして君らがそうなのかね。なんでも、無償で人々を救うような、立派な人物だという話だが。東へ抜けるのも、その辺りの目的があって――」
「ち、違うわよっ!!」
 マグナが慌てて否定した。
135CC 23-7/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 06:30:22 ID:PnTak0e70
「その噂って、ファングとかいうサマンオサの勇者のことじゃないの?それは、あたし達とは違うから!」
「いや、残念ながら名前は覚えておらんが……そうなのかね。だが、いずれ魔王バラモスの元に向かうつもりなら、心しておくといい」
 マグナの否定を、ウェナモンは単なる謙遜と受け取ったようだった。
 まぁ、知り合いでもなんでもない、アカの他人に取り憑いてた魔物を、結果的には無償で退治してやった事になる訳だもんな。立派な人物だと勘違いされても、おかしくはないかも知れない。
 こんなことなら下手にお礼を辞退しないで、やっぱり金でも包んでもらえば良かったかね。
「だから、違うって言ってるでしょ!?」
 マグナの反論は、さらりと聞き流された。
「まだ、儂がイシスの王宮に上がっておった頃の話だが……バラモスを斃すのは不可能だという噂を耳にしたことがある」
「不可能――って?滅茶苦茶強いってことか?」
 俺の問いに、ウェナモンは首を捻った。
「然もあろうが、含みとしては多少異なった印象だな。文字通り不可能とでも言うような――イシス軍による討伐も、手酷い返り討ちに終わったほどだ、いずれそれほど強力だという事に間違いはなかろうが」
「だから、関係無いって――」
 俺は、マグナの口を手で塞いで目配せをする。
 もう構わねぇかも知れないけどさ、一応、お前が魔王退治に行くつもりがまるきり無いことは、リィナやシェラには伏せてたんじゃねぇのかよ。
 だが、俺の目配せはマグナに通じなかったらしく、ぎろりと睨みつけられた。
 幸いリィナやシェラも、別に何を気にした風でもない。
 余計な気を回しちまったかね。
「うん、まぁ、せいぜい気をつけることにするよ」
 ウェナモンに、適当な返事をかえす。
「うむ。恩人が不可能事に挑んで、あたら命を落とすような事があっては、儂としても心苦しいのでな。無謀は避けて欲しいものだ。もし儂で何か役立てることがあれば、いつでも相談に乗ろう」
「ああ、ありがとう。覚えておくよ」
 あの黒マントが関わってるかも知れねぇんだ。これ以上あんたに深入りするつもりは、毛頭ねぇけどな。
136CC 23-8/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 06:34:49 ID:PnTak0e70
「やぁ、お待たせして申し訳ない。ボクは一刻も早く馳せ参じたかったのだけれど、爺やがあれこれとうるさくてね――」
 ウェナモン邸での一件から、明けて翌日。
 アッサラームでアイシャと別れた俺達は――別に、感動的な別れでもなんでもなかった。その気になりゃルーラでいつでも会えるし、ウェナモンとのつなぎもつけてやったから、義理も果たしたしな――ロマリアに戻っていた。
 俺達がどこに居るのかというと、ロマリア城のとある一室だ。相変わらず、何度訪ねても馴染めない豪華さだな、ここは。
「ごめんね、忙しいのに突然来ちゃって」
「いやいや、とんでもない。こうしてキミが頼ってくれたことが、ボクにはこの上なく嬉しいのさ。感激の余り、今すぐこの場で踊り出したい気分だよ」
 入室と同時にべらべら喋りまくりながら、アホの王様はソファーから立ち上がったマグナに歩み寄って、手の甲にくちづけをした――ムカつく。
 これだから、ここには来たくなかったんだ。
「おや、これはどうしたことだろう」
 膝立ちの姿勢から腰を上げつつ、アホの王様――ロマリアの国王、ロランはマグナの顔を凝っと見詰めた。
「しばらくお目にかからない内に、素晴らしく魅力的になったみたいだ。ああ、いや、もちろん元から、それはとても魅力的だったけれどね。より一層にってことさ」
 ロランは、何かを確かめるような一瞥を、俺にくれた。
「まるで、つぼみのままでも充分に美しかった花が、艶やかに咲き誇っているみたいだ。キミをより輝かせるような経験が、何かあったのかな」
「えぇと――あのね、お願いがあるんだけど、聞いてもらえる?」
 マグナは、ロランの与太を聞き流すことにしたようだった。
「なんなりと、我が君よ。キミのお役に立てるのは、いつだってボクにとっては至上の誉れだよ」
「……ありがと。それじゃ、遠慮しないで言うけど――あのね、あたし達、ポルトガに渡りたいのよ。だから、その許可が欲しいんだけど。普段は、人の行き来が出来なくしてあるんでしょ?」
「ポルトガだって?それはまた、一体どういった用件で?」
 マグナがちらりとこちらを振り返ったので、俺は目で頷いてみせた。
137CC 23-9/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 06:39:44 ID:PnTak0e70
 これまでの経緯を、ごく掻い摘んでマグナが説明すると、ロランは片手で顎を押さえた。
「ふぅん……それはまたずいぶんと、不思議な話になっているね」
「……駄目?」
「ああ、いや、駄目じゃないさ。おっしゃる通り、あちらとこちらを繋ぐ唯一の道には関所を設けてあるんだけどね。もちろん、キミ達が通れるように取り計らっておくよ」
「それから、俺達がポルトガの王様に会えるように、親書とかもらえるとありがたいんだけど」
 横から俺が言うと、ロランは露骨に嫌な顔をした。
「お願いできる?」
「ああ、うん、もちろんさ」
 おねだり顔のマグナには、にっこりと笑いかける。
 最初っから、素直に頷いとけっての。
「あちらとは、良好な関係を築いているとは言い難いけれど、子供の喧嘩じゃないからね。そこは、お互い国同士の話だ。ボクの親書を携えれば、すげなくあしらわれることは無い筈だよ」
「ありがとう。ごめんね、無理言っちゃって」
「いや、とんでもない。キミの無理を叶えてあげることこそが、ボクにとっては生き甲斐だと言ってるじゃないか。キミがポルトガで無礼を働かれることがないように、くれぐれもしたためておくことにしよう」
 自分で自慢するだけあって、まぁ、便利な知り合いではあるな。
「ところで、今日はもちろん泊まっていってくれるんだろう?」
 ロランに問い掛けられたマグナは、ちらりと振り返って目で俺に尋ねてきた。
 ああ、いちおう気にしてくれてるんだな――なんだか、あいつがまず俺の気持ちを確かめてくれるなんて、あんまり考えたこともなかったから、ちょっと面映い気分になる。
 俺は、小さくかぶりを振った。
 野郎の根城なんぞに泊まろうモンなら、またアホが図々しく夜討ち朝駆けでマグナに迫るに決まってるからな。
 それは――やっぱり、イヤだ。
 自分が嫉妬深い性質だなんて、思ったことも無いんだが。
 以前の俺は、いい仲になった女が他所の男と昵懇になっても、「ああ、そういうことね」とか勝手に割り切って、自分から距離を置いてた気がする。
 だから俺は、自分が諦めのいい男だと信じてきたんだが――どうやら、人並み程度の独占欲は、持ち合わせてたみたいだ。
 マグナはロランに分からないように、微かに俺に頷いたように見えた。
138名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/17(火) 06:42:46 ID:YuDwagRf0
支援
139CC 23-10/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 06:44:03 ID:PnTak0e70
「ごめんね。今日は、遠慮しておくわ」
「……それほど、先を急いでるのかい?」
「マグナさん、私だったら――」
 途中まで言いかけて、シェラは俺達をきょろきょろ見比べて口をつぐむ。
「え〜。せっかく今日は、おいしいものが食べられると思ってたのに〜」
「リィナさん!」
 シェラがリィナの袖を引く。なんか、気を遣ってもらっちゃってすまねぇな。
「勝手なお願いをしに来ただけになっちゃって、申し訳ないんだけど……」
「分かったよ。親書の方は、後でキミの泊まっている宿屋に届けさせよう。それで、いいかい?」
 ロランは軽く肩を竦めて、そう言った。
 予想外にあっさり引き下がりやがったな、こいつ。
「うん、お願いするわ……ホント、ごめんね」
「謝罪の言葉を繰り返すだなんて、キミらしくないね。ボクは何も気にしていないよ。キミがボクにとって無慈悲な女王であることは、よく理解しているつもりだからね」
「ちょっ……だから、その女王っていうのは――」
「ああ、それだ。今のその表情の方が、よほどキミに似合っている。主人が従僕の気持ちなど忖度する必要はありませんよ、我が愛しの女王陛下」
 勝手なお願いをした手前だろう。マグナは、それ以上言い返そうとせずに、宿屋の場所を伝えてソファーから立ち上がった。
「会えて嬉しかったよ。またいつでも頼ってきておくれ。ボクは常に、キミの忠実な臣下なんだからね」
「だから、大袈裟だってば……忙しいのに、お邪魔しちゃってごめんね」
「とんでもないよ。キミの為なら、時間なんていくらだって作ってご覧にいれるさ――さぁ、お帰りはあちらだ。これ以上顔を合わせていると、無理にでも引き止めたくなってしまうからね」
 ロランは扉の方を手で示しながら、マグナの肩を抱いてそちらに促す。
 気安く触んじゃねぇよ。
 睨みつけていたら、アホの王様が急にこちらを振り返ったので、俺は少々慌てた。
「君は、少し残りたまえ」
 マグナに対するのとはまるきり異なる尊大な口調で、そんなことを言ってきた。
「え、なに?ヴァイスに、何か用なの?」
「少しだけね。お貸しいただけますか、我が君よ」
 にっこりと優男面に笑顔を浮かべる。
 つか、俺の意思は無視ですか。
 いつもは邪魔者扱いしやがる癖に、こいつが俺に一体なんの用だ?
140名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/17(火) 06:57:24 ID:I/9/5mfxO
支援
141CC 23-11/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 07:02:44 ID:PnTak0e70
「さ、ここからは、男同士の話だよ」
「ああ。先に行っててくれ」
 不安げに俺を見るマグナに頷き返す。
 心配すんなよ。ちょうどいい機会だ。このアホが、今後お前にちょっかいかけないように、ナシつけといてやっからさ。
「……分かった。じゃあ、先に戻ってるからね」
 まだ釈然としない様子ながらも、マグナはリィナとシェラを引き連れて部屋を後にした。
 廊下に通じる控えの間の扉が開閉した音が響いて、しばらく――
「――さて」
 切り出しかけたロランを手で制して、俺は足音を立てないように――アホみたいに毛足の長い高級絨毯ならではだ――室内の扉に近寄ると、一気にそれを引き開けた。
「うわっと」
「きゃっ」
「ちょっと――」
 扉の向こう側で、揃って聞き耳を立てていた三人が、折り重なって部屋に雪崩れ込む。
「お前らね……」
 腕を組んで、上から床の三人を見下ろす俺。
 特に、リィナを睨みつけてやった。どうせ、こいつが言い出しっぺだろ。
「ありゃ、バレたか。よく分かったね、ヴァイスくん」
「ちがっ――あたしは、帰ろうって言ったんだけど……」
「あの、すみません……」
 口々に言うマグナ達に、俺は小さく溜息を吐いてみせた。
「心配ねぇっての。いいから、先に戻ってろ」
「……なによ、偉そうに」
「そうだよ、マグナの気持ちも分かってあげなよ。自分を争って二人が喧嘩するんじゃないかって、心配してるんだから。ね〜?」
「なっ――違うわよっ!!どうしてあんたは、いっつもそういう――」
 俺はハイハイ言いながら、なんだかんだ口にする三人を廊下まで追い出した。
「無茶しないでよ?」
 閉めようとした扉を押さえて、マグナが心配そうな顔を向けてきた。
「あれでも、いちおう王様なんだからね?ぶったりしたら、タダじゃ済まないのよ?」
 お前に「無茶するな」なんて言われるのは、甚だ心外ですね。
142CC 23-12/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 07:07:04 ID:PnTak0e70
「ンなことしねぇって。信用しろよ」
「……分かった。早く帰ってきてね」
 上目遣いを向けられながらの、マグナのこの台詞には――なんか知らんが、ぐっと来た。
 一緒に暮らすようになって、出かける前に毎日そう言われる情景が、一瞬だけ脳裏に浮かぶ――うん、悪くない。
「ああ。すぐ戻るよ」
 頷いた俺は、多分にやけてたと思う。
 扉を閉めると、外の声が微かに届く。
「なによ、ヘンな目しないでよ!」
「え〜、別にしてないよ?」
「あのね、あんまり帰りが遅いと、あのバカがバカやって牢屋に入れられちゃったんじゃないかとか、要らない心配しなくちゃいけないでしょ?早く帰ってきてっていうのは、そういう意味なんだからね?分かった!?」
 マグナとリィナのやり取りが聞こえて、俺は笑いを堪えながら、ロランの待つ部屋へと戻った。
「悪い。待たせたな」
「構わないさ。結構なご身分だね、君は」
 おや、早速嫌味ですか。ええ、お陰様で、いいご身分ですともさ。
「さて――僕も、君如きと長々と話込んでいられるほど暇じゃない。早く返せとの、マグナのお達しもあることだしね」
 ムカつく前フリをしてから、ロランは俺を睨みつけた。
「単刀直入に言おう。やはり君は、マグナの側から離れたまえ」
 ロランの台詞は、辛うじて俺の予測の範疇だった。
 最初からここまで言われるとは、あんま思ってなかったけどな。
「いきなり、なに言ってんだ?」
「僕も鬼じゃない。今すぐにとは言わないが――」
「なんであんたに、ンなこと言われなきゃなんねぇんだよ」
「出来るだけ近い内がいいな。早ければ早いほどいい。なに、心配には及ばないさ。君如きがいなくなったところで、マグナはすぐに綺麗さっぱり忘れてしまうよ」
 人の話を聞けよ。
「だから、あんたにンなこと言われる筋合いはねぇよ!!」
 俺が大声を出すと、ロランはあからさまに顔を顰めた。
「うるさいな。君は、僕がつまらない嫉妬心から、こんなことを言っていると思ってるんじゃないだろうな?」
 それ以外に、何があるってんだよ。
143CC 23-13/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 07:11:42 ID:PnTak0e70
「まぁ、君にどう取られたところで、僕はまるで構わないが――」
 だったら、言うんじゃねぇよ。
「ただ、言えることは、僕は、彼女の為――それしか考えていないよ」
「まるで俺が、マグナの為にならねぇみたいな言い草だな」
 そう返すと、鼻で笑われた。
「そう言っているんだよ。そんなことも分からないから、僕は君に、彼女から離れろと忠告しているんだ」
 何ぬかしてやがんだ、この野郎。
 意味分かんねぇよ。
「納得がいかない顔つきだね」
「当然だろ」
「だが、その頭が飾りじゃないと言うのなら、よく考えてみるといい」
「何をだよ」
「君の知っているマグナは――男の顔色を窺うような女性だったのか?」
 今度の台詞は、完全に予想外で――
 俺は虚を突かれて、少し口篭もった。
 どこか腑に落ちている自分を、慌てて否定する。
「それは……俺達が決めつけることじゃねぇよ」
 あいつの事だ。あいつがどんなヤツかを決めるのは――
「ハッ、小賢しいことを言うね。君がマグナから、どんな言葉を聞かせてもらったのか、透けて見えるというものだ」
 小馬鹿にしたように、せせら笑う。これまで以上にムカつくな、今日のこの野郎は。
「あんまり知った風な口利いてんなよ。あんたに、俺達の何が分かるって――」
「目を逸らすなっ!!」
 突如、ロランは鋭い声を発した。
「君とて違和感を覚えている筈だ。そうじゃないとは言わせないぞ」
「……何を言われてんのか分かんねぇよ。違和感だと?知るかよ、ンなモン」
「そんな子供じみた、下らない意地張りを聞きたいんじゃない」
 ロランは、これみよがしに溜息を吐いた。
「だから、嫌だったんだ。君みたいな凡庸な男を傍らに置くのは。彼女がどれだけ貴重な存在か、彼女がどれだけ特別かなど、まるで理解しようともせずに、全て台無しにしてしまう」
「あいつは、台無しになんかなってねぇよっ!!」
 ふざけんな。
 何も知らねぇ癖に。
 俺が、あいつのお陰で、どれだけ――
144CC 23-14/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 07:14:57 ID:PnTak0e70
「そう。今ならまだ間に合う。然して君らが深い仲でない事は、少し見ただけでも分かったからね。だからこそ、出来るだけ早く、君はマグナの元から去るべきなんだ」
「『べき』ってなんだよ。なに勝手に決め付けてやがんだ」
 いい加減にしろよ、このアホが。
「マグナが特別だと?何回か会っただけのお前に、何が分かんだよ。あれか、自分も特別だから分かるとでも言うつもりか?」
「いや、彼女に比べれば、僕なんて平凡な存在に過ぎないさ。ただ、君より多少は付き合い方を心得ている。彼女のような存在に対する、ね」
 ロランは気障ったらしく前髪を掻き上げた。
「君は、僕に彼女の何が分かるのかと問うが――君こそ、彼女のことがまるで分かっていない」
 真面目ぶった顔つきで、真正面から俺を見据える。
 一拍置いて、口を開いた。
「君は、マグナを不幸にする」
 きっぱりと断言されて――不覚にも、息が詰まった。
 落ち着け。このアホが勝手にほざいてるだけだ。
 惜しかったな、ロラン。
 情けなく落ち込んでた昨日の俺だったら、もしかしたら納得しちまったかも知れねぇよ。
 けど、今は――
『それじゃ、自信にならないかな?あたしがそう思ってるくらいじゃ、自信にならない?』
 この程度の揺さぶりでぐらついてたら、あいつに申し訳が立たねぇんだよ。
145CC 23-15/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 07:21:17 ID:PnTak0e70
「言ってろよ。馬鹿くせぇ」
「頑張るね。だが、彼女は君などが、一時の気の迷いで軽々しく思いを寄せていいような存在じゃない」
「気の迷いなんかじゃ……ねぇよ」
 ロランは、俺の呟きなど全く耳に入らなかったように言い募る。
「君では、どう転んだところで彼女を不幸にするだけだ。だから、さっさと彼女の前から失せたまえ。それが、彼女にとって最善なんだ。君が彼女のことを本当に想っていると言うのなら、彼女の為を第一に考えてやるべきだよ」
「ほざけよ。言われなくたって、あいつの事は考えてるさ。あんたとは、結論が違うみたいだけどな」
「やれやれ。今はつまらない意地が邪魔をして、僕の言葉を受け入れられないのは止むを得まいが――その内、僕が正しかった事を、君はしみじみと思い知ることになるさ」
 なにやら据わった目をして、ロランは俺を睨みつけた。
「約束したまえ。僕の言葉を理解する時が訪れたなら――君が側に居ては彼女を不幸にすると理解したら、その時は必ずマグナの元から立ち去るんだ」
「来ねぇよ、そんな時は」
 俺は、ロランを強く睨み返してやった。
「俺は、絶対にあいつを不幸にしたりしない」
 買い言葉っぽくなっちまったが――俺にしては、珍しいくらいに断言できた。たとえ勢いであれ、そう言えたことで、決心がより固まった気がした。
「それでいいさ。いいか、絶対に彼女を不幸にするんじゃないぞ」
 ロランはふっと表情を緩めて、にやりと笑った。
 よく分かんねぇけど、今のやりとりは、俺の覚悟でも試したつもりなのか?
 だったら、余計なお世話だよ、このアホが。
「話は、それだけだ」
 ロランは、しっしっと手で追い払う仕草を俺に向けた。
「さっさと行きたまえ。僕には本来、君と話しているような時間は微塵も無い」
 この野郎。
「……俺も、あんたなんかと話すことは、ハナから何もねぇよ」
 こいつも大概、素直じゃねぇな。
 焼餅やいてんなら、最初っからそう言えってんだ。
 まぁ、どんな泣き言をほざいたところで、お前なんぞの出る幕は今後一切作ってやらねぇけどな。
 遠く離れたところから、俺とマグナのことを、せいぜい指を咥えて眺めてやがれ。
146名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/17(火) 07:24:20 ID:YuDwagRf0
支援
147CC 23-16/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 07:35:09 ID:PnTak0e70
 アホの王様のお陰ってのが癪に障るが、そんな訳で俺達は、さしたる問題も無くポルトガに渡ったのだった。
 親書の威力ってのがまた胸糞悪いんだが、無事にお目通りが叶ったポルトガの王様は、ノルドへの口利きの代償として、とある交換条件を提示してきた。
 東方で採れるという黒胡椒を持ち帰り、且つ彼の地で見聞したことを報告しろと言うのだ。
 まぁ、ついでだし、大して難しいことでもなさそうだし、ここまで来て断わる理由も見当たらなかったので、俺達はそれを承諾した。
 ポルトガでの出来事で、他に特筆すべきことが二つあった。
 ひとつは、城に出入りしていた商人から、神殿の話を聞けたことだ。
 これは俺達にとって、ちょっとした事件だった。
 なにしろ、アリアハンでシェラが出会ったという占い師を除いて、神殿の存在を知っている人間に、初めて遭遇したんだから。
 尤も、その商人も風聞以上のことは知らなかったが、全く無関係の第三者が噂を聞いていた事実は、怪しい占い師の婆さんが適当な事を述べただけ、という疑念を晴らす程度には、俺達を力づけた。どうやら神殿は実在すると信じてもよさそうだ。
 もうひとつは、魔王バラモスに呪われたという男女と出会ったことだった。
 魂消た話だが、男の方は昼間は馬の姿で夜中だけ人間に戻り、女の方は逆に昼は人間の姿で夜は猫に化けちまうのだ。
 つまり、お互いに人間の姿で恋人と顔を合わせる時間が無い訳で、会おうと思えばいつでも会える距離に居る分、余計にせつなさが増すと、事情を知ったシェラなんかは心を痛めていた。
 しかし、バラモスに呪われたってのは、ホントなのかね。街の連中が、憶測で噂してるだけなんじゃねぇの。
 だってよ、魔王ともあろうモン自らが、取り立てて変哲も無い普通の男と女に、こんな細かい呪いをかけたりしねぇと思うんだけど。
 それよりは――なんとなく、ふと思ったんだが。
 これは、魔物が人間を理解する為の、ある種の実験なんじゃないだろうか。
 男女の周囲で、時折黒い影が目撃されるという証言が、俺の中で思いつきを確信に近付ける。
 理解と言っても、仲良くなる為だとか、もちろんそんな理由じゃない。より人間を上手く利用する為だ――例の黒マントの魔物が脳裏を過ぎり、俺は怖気を振るってそれ以上考えるのを止めた。
148CC 23-17/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 07:39:59 ID:PnTak0e70
 ポルトガ王が持たせてくれた手紙は、ノルドに対して効果テキメンだった。
 最初はけんもほろろに洞窟から追い出されかけたんだが、渡した手紙を読んだ途端に、ノルドの態度が一変したのだ。ホントにどういう関係なんだかな。確かめるのを忘れちまったけどさ。
 ホビットってのを拝んだのは初めてだったが、その小ささにはびっくりした。背丈は俺の腰よりちょい高い程度しかなくて、人間で言えば子供もいいトコなのに、顔つきはどう見てもおっさんだ。
 俺には到底そうは思えなかったが、シェラやリィナは可愛い可愛いはしゃいでいた。リィナに抱きかかえられて、空中で足をジタバタしてる様は、確かにちょっと笑いを誘ったけどな。
 見てくれとは不釣合いに力が強くて、ノルドが振るうツルハシは硬い岩盤をあっさりと崩し、その奥に隠された抜け道を出現させた。
 ノルドに見送られて、その『バーンの抜け道』とやらを進み、大山脈の東に這い出したまではよかったが――そこから先が、大変だった。
 これまでより魔物が強くて、数が多いのにもまいったが――とにかく、勝手が分からない。
 辺りに人の気配は、まるで無し。
 どこに人間の集落が存在するかも分からない状態で、ひたすら東へ進むしかないという状況は、精神的になかなか堪えるものがあった。
 道行きもこれまた険しくて、大山脈より全然低いとは言うものの、山岳地帯が延々と続き、ようやく越えたと思ったら鬱蒼とした森林が行く手を阻み、それを抜けたと思ったらまた山だ。
 ひと月以上が過ぎて、いい加減うんざりした頃に、ようやく周辺に人間が住んでいることを示す街道を見つけた時は、心の底からほっとした。
 地面もずいぶんとなだらかになり、足取りもはかが行くようになってしばらく。
 その日も街道を東に向かって歩いていると、後ろから蹄や荷車の音が近付いてきた。
「こりゃ驚いたね」
 俺達に追いついて横に並んだ騎馬の上から、頬に傷のある男が身を乗り出してこちらを覗き込む。
 振り向いて確かめると、少し離れていくらかの人馬、さらに後方に荷車の列やそれを囲む護衛連中が目に入った。規模は大したことないが、隊商のようだった。
149CC 23-18/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 07:44:18 ID:PnTak0e70
「魔物がウヨウヨしてるこのご時世に、たった四人ばっかしで、しかも歩きで旅するなんて、どこのバカかと思ったら、こんな可愛らしいお嬢ちゃん方たぁねぇ」
 隣りに並んだ騎馬は、場慣れした雰囲気からして、おそらく先導を受け持つ護衛のひとりだろう。
「一体、どういう事情なんだか、さっぱり見当もつかねぇが――いやいや、俺っちの眼も、フシアナじゃあねぇんだ。可愛いお顔に似合わず、ずいぶん腕が立ちそうだってのは分かるけどよ」
 マグナが胡乱な目つきを投げかけると、男は愛想笑いを浮かべた。
「なんてな。四人ぽっちでこんなトコを歩いてんだ、腕が立つのは当たり前ってかい。けどよ、どこまで行くんだが知らねぇが、いかにも危なっかしいぜ。死にたい訳じゃあねぇんだろ?」
 どん、と胸を叩く。
「どうだい、よければウチで護衛として働けるように、俺っちがハナシを通してやってもいいんだぜ?」
「結構よ」
 隊商にいい思い出の無いマグナは、にべもなかった。
「おいおい、そうスゲ無くすんなって。ジツはよ、少し前に護衛が何人か魔物にやられちまってさ、ちっとばっかし数が足りねぇんだ。お互いの安全の為にも、どうだいひとつ、ここは俺っちのハナシの乗ってみちゃあ」
「そうは見えないけど」
 マグナがちらりと後ろを向いて呟くと、男はあっさり観念した。
「ああ、いや、まぁなぁ、数は足りてるっちゃあ足りてっかな。足りてねぇのは、潤いってヤツでね」
「そんなことだと思った」
「いやなに、別に不埒を働こうってんじゃあねぇんだ。そんなヤツぁ、ウチにゃあ居ねぇよ。それに、不埒の相手にゃ、お嬢ちゃん達はちと若過ぎらぁ。ただよ、なんてんだ。ウチにはとにかく、女っ気が少なくってね」
 ぽりぽりと指で頬の傷跡を掻く。
「旅は道連れ――ってぇ言うじゃあねぇか。今日この時、おんなじ道の上を歩いてるってぇのも、これも何かの縁だと思わねぇかい?そっちの都合のいいトコまでで構わねぇからさ、野郎共にちっとばっかし潤いってヤツを与えてくれりゃあ、それでいいんだけどな」
「お断り。あたし達は、そんなんじゃ――」
「マグナさん」
 シェラが、マグナに耳打ちをした。
150CC 23-19/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 07:50:26 ID:PnTak0e70
 ひそひそ声の内容が、辛うじて俺の耳にも届く。
 ここに来るまでに、俺達は持ってきた食料のほとんどを消費していた。それで最近では、山菜や木の実を集めたり、そこらの小動物を狩ったりして糊口を凌いでいたんだが、つまりシェラは、食べ物を分けてもらおうと提案したのだ。
 これにはリィナも賛成してみせると、マグナは渋々頷いた。
「護衛の話はお断りだけど、お願いならあるんだけど――」
 かなり自分勝手なマグナの要求は、すぐに本隊の方に諮られて、思ったより簡単に了承された。
 ただし、日暮れにキャンプを張った後でならという話で、その日は行動を共にするのが条件だったが。
 俺としちゃ、女日照りの野郎共に、ウチの娘共があれこれちょっかい出されるんじゃないかと危ぶまずにはいられなかったんだが、結局それは杞憂に過ぎなかった。
 小ぢんまりとした隊商は、どことなく家族のような雰囲気で、どいつも拍子抜けするくらい気のいい連中が揃っており、その晩は思いのほか楽しいひと時を過ごしたのだった。
 シェラは、食い物を分けてもらったお礼のつもりか――ちゃんと金は払ってんだから、そんなに気を回すこともないのにな――張り切って飯を作ってやったりして、大層な評判を得ていたり。
 リィナは、何人かの護衛と余興じみた手合わせをして、相手が油断していたことも手伝って、あっさり全員ぶち倒してしまい、やんややんやの歓声をもらったり。
 マグナは、騙されて飲まされた酒ですっかり酔っ払っちまって、隊商の連中にゴロ巻いて苦笑されたりしていた。
 これはさすがに放っておけなくて、監視と介抱を兼ねて隣りに座っていたら、いつしか俺の肩に頭をもたせかけて目を閉じていた。
 マグナの枕になりながら、周りの連中とバカ話に興じて飲む酒は、久し振りに美味い酒だった。
 連中からは、先の様子も聞くことが出来た。残念ながら、神殿の噂を知ってるヤツは誰もいなかったが、ずっと東のバハラタという街なら、黒胡椒が確実に、しかも大量に手に入るという話だ。
 これといった当ても無いまま、ひたすら東を目指すんじゃなくて、目的地がはっきりしたのはありがたかった。
151CC 23-20/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 07:54:06 ID:PnTak0e70
 やがて夜も更けて、気が付くとシェラは端っこの方で丸まって寝息を立てており、リィナがそのすぐ近くで、手合わせをした連中と身振りを交えながら話し込んでいる。
 何気なしにそちらを見ていた俺の耳に、少し離れた場所から、とある会話が届いた。
「――で聞いたんだけどよ、グルザリんトコは、やっぱり魔物にやられちまって全滅だったらしいぜ」
「おお、ヤダヤダ。イヤな話だねぇ」
「明日は我が身ってかい」
「まったくよ、いつまであのクソッタレの魔物連中とお付き合いしなきゃあならねぇんだかなぁ」
「アレだろ?要は魔王ってのがいなくなりゃ、それでいいんだろ?」
「ああ。嘘かホントか知らねぇが、そいつさえ倒しゃあ、魔物がすっかり出なくなるってぇ話だわなぁ」
「けどよ、魔王なんてのが、ホントに居るんかね」
「おい待てコラ、最初にそいつを聞きつけてきやがったのは、確かお前ぇさんだったじゃねぇのかよ。今さら、何をほざいてやがんだ」
「そうだぜ。言い出しっぺなんだからよ、ちょっと行ってちゃちゃっとヒネってこいや」
「バカこけ。とんでもなく強ぇって話だぞ」
「いや、お前ぇさんなら出来る!ほれ、さっさと行ってこい!」
「よせやい。冗談でも、ご免だね。俺ぁ命が惜しいんだ」
「ちっ、根性無しが」
「なんとでもほざけ」
「あ〜あ。誰でも構わねぇから、その魔王ってクソッタレをぶっちめてくんねぇかなぁ」
「お上は、何やってやがんだかなぁ」
「つっても、軍隊でも敵わなかったってんだろ?」
「やれやれ。そんじゃやっぱし、あの愉快な魔物連中と、今後とも末永くお付き合いしていかなきゃならねぇってぇ寸法かい。なんともご機嫌な話じゃあねぇかよ」
「いや、待てよ。ありゃどうなったんだ」
「アレってドレよ」
「いやさ、そのクソッタレ魔王をぶっ殺そうとなさってる、大層ご立派なお方がいなさるってな話だったじゃねぇか」
「ああ、勇者サマな」
152CC 23-21/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 08:02:56 ID:PnTak0e70
「その勇者サマってのも、一体なにやってやがんだかなぁ。倒すってんなら、もたくさしてねぇで、さっさとやっちまって欲しいぜ」
「なにバチ当たりなことぶっこいてやがんだよ、この野郎は」
「痛ぇな。なにも叩くこたねぇだろうが」
「うるせぇ。お偉ぇ方にゃ、お前ぇみたいボンクラにゃあ分かんねぇ、ふっか〜いお考えがおありなさるんだよ」
「つっても、魔物に襲われたってぇ話は増えるばっかだしよ。早いトコなんとかしてもらわねぇと、俺らみたいな庶民にとっちゃ、いい迷惑だわな」
「んでもよ、魔物が出なくなったらなったで、今みたいな護衛の仕事も無くなっちまって、俺らはおまんまの喰い上げじゃねぇのか」
「おっ、ボンクラが、賢しいことをほざくじゃねぇか」
「違ぇねぇや。俺らにとっちゃ、魔物サマサマって訳だ――」
 こいつら、他人事だと思って好き勝手言いやがって。という気持ちは、あまり沸かなかった。
 俺もきっと、マグナと出会ってなかったら、似たようなことを考えただろうから。
 ただ――マグナには、あんまり聞かせたくねぇ会話だな。
 俺は、ちょっとマグナの方を窺った。
 相変わらず俺の肩に頭をもたせかけて、会話が耳に入った様子はない。周り中でわいわい騒いでるし、俺もたまたま耳にして意識をそっちに向けたから聞き取れたようなモンだから、まぁ大丈夫そうかな。
 連中の会話が別の話題に移ったので、俺もまた近くの適当なバカ話の輪に戻った。
 そんな出来事があったのを、忘れかけた頃だった。
「……気持ち悪い」
 肩に動きを感じてそちらを見ると、マグナが手で口を押さえていた。
「大丈夫か?」
「……違うトコ行きたい」
 吐きそうなのか?
 こいつ、酒弱いのに、結構強いの飲まされてたからなぁ。
「じゃあ、もうちょい静かなトコ行って、風にでも当たるか?」
 俺が尋ねると、口を押さえたまま無言で頷く。
 肩を抱えて一緒に立ち上がると、周りの連中から冷やかされた。あのな、お前らが騙して酒なんか飲ませた所為なんだからな。
153CC 23-22/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 08:05:46 ID:PnTak0e70
 人気の無いところを探して、馬車の裏手に回る。
 ここのところ、夜中は特に肌寒くなっていた。多分、冬に近付いているんだと思う。常に移動してるし、俺が知ってるのは季節が逆らしいから、今がどうなってんだかいまいちよく分かんねぇけどさ。
 ともあれ、焚き火から離れると空気はすぐに冷たくなって、酔い醒ましにはもってこいだった。
「大丈夫か?」
 声をかけても返事をせずに、マグナは両手で俺の腕を掴んで下を向いた。
「座った方がよさそうか?辛かったら、無理しないで吐いちまえよ」
 そう言うと、マグナは小さく頭を横に振った。
「……絶対、イヤ」
「なんで?楽になるぞ」
「……ダメだったら」
 なにを頑なに拒否しとるんだ、こいつは。
 と思ってから、はたと気付く。
「あ、わり。俺、向こうに行ってた方がいいか?」
 吐くトコを見られたくはないわな。
「やだぁっ!」
 だが、マグナは俺の腕を離さずに、逆に強く握り締めて、少し甘えた声を出した。
「……一緒に居てよ」
「ああ……うん」
 こいつ、酔っ払うと、口調とか態度が微妙に甘えた感じになるよな。いや、普段はまずお目にかかれないから、大変結構な酔い方ではあるんだけどさ。
「大丈夫だ。どこにも行かねぇから」
 とりあえず、マグナをゆっくりと座らせて、俺もその後ろに腰を下ろす。膝に頭を押しつけて動かないマグナを、脚の間に挟んで後ろから軽く抱きかかえた。
 マグナの背中と接している、体の前面が暖かい。
「我慢できなくなったら、ちゃんと言えよ?」
 微かに頷く素振りを見せる。
154CC 23-23/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 08:10:09 ID:PnTak0e70
 これは、あれかな。
 酔って気持ちが悪かったのも、ホントなんだろうけどさ。
 さっきの会話が、聞こえちまってたのかな。
 なんとも言えない思いが胸を満たして――俺はそのまましばらく、マグナを抱え続けた。
 こいつはきっと、俺なんかよりずっと強いけど、どこもかしこも強い訳じゃなくて。だからせめて、支えが必要なところだけでも、支えてやれればな。
 その為にも――
 ずっと、一緒に居よう。
 なんて決心したところで、いずれは邪魔者扱いされて、追っ払われちまうかも知れねぇけどさ。
 少なくとも、自分からこいつの元を去ることだけはしないでおこう。
 とか照れ臭いことを考えている内に、今度は本当にマグナは眠っていた。
 向こうの連中の話し声に掻き消されそうな小さな寝息が、微かに聞こえる。
 ちょっとは安心ってヤツを与えてやれてんのかね、俺も。
 ふと、マグナの頬にキスしたくなって――体勢的に届きそうもないし、起こしちゃ悪いから、苦笑して諦める。
 やがて、焚き火の方でも床つく連中が増えてきたらしく、徐々に会話が減った頃合に、俺はマグナをお姫様だっこで抱えて眠りに戻った。
 そんな風にして世話になった隊商と別れて、三日後のことだった。
「――あれ?」
 最初に発見したのは、やはりリィナだった。
 目の上に片手で庇を作って、街道の先を眺め遣る。
「どうしたの?」
 マグナの問いかけに、珍しくリィナが口篭もった理由は、ほどなく知れた。
 そこから街道を少し行った先で、徒歩の俺達に先行していたあの隊商が壊滅していたのだ。
 魔物に喰い散らかされたと思しい人や馬がそこらにゴロゴロ転がっていて、荷馬車もどれも破壊され、見るも無残な有様だった。
 食い千切られたはらわたを晒した死体――頭は残っていて、頬についた傷跡から、最初に声をかけてきたあの護衛だと知れた――を目にして、ついにシェラが我慢しきれずに、少し吐いた。
 正直、俺もこみ上げるすっぱいものを呑み込むのに苦労した。
 しばらく、誰も口を利かなかった。
「埋めてあげましょ」
 やがて口を開いたのは、マグナだった。
「あたし達に出来るのは、そのくらいだわ」
 そう呟くマグナの顔や声からは、表情が抜け落ちていた。
155CC 23-24/24 ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 08:14:28 ID:PnTak0e70
 道端に穴を掘って、つい三日前に一緒に焚き火を囲んで笑い合っていた連中を埋めてやりながら――俺は心配で、マグナの方を何度も窺った。
 例えばさ。
 魔物なんてのが存在してなかった時代でも、野獣に襲われたり、野盗の標的になったりして、同じような目に遭う連中は居たと思うんだ。
 それにさ。
 こいつらだって、危険は承知の上で商売したり護衛に就いたりしてた訳で、ただちょっとだけ、他の生き延びてる連中より運が無かっただけなんだ。
 だからさ。
 気に病むなよな。
 魔物がやらかすことに、お前が責任を感じる必要なんてねぇんだ。
 こういう不幸を全部、お前が独りで背負い込まなきゃいけない不条理なんて、俺は認めねぇよ。
 少し離れた場所で、鞍を乗せた馬が三頭、のんびりと草を食んでいた。隊商の連中が逃がしたのか、綱が切れて勝手に逃げ出したのか。運良く災難から逃れた生き残りだった。
 俺達は相談して、その馬共を一緒に連れて行くことに決めた。
 人に慣れた馬が、こんなところで放されても、遠からず魔物の餌食になっちまうのがオチだろうしさ。せっかく生き延びたんだ、せめてこいつらだけでも助けてやりたい――多分、全員そんな風に思っていた。
 あんまり得意じゃないんだが、アリアハン時代に経験があるので、俺はなんとか馬に乗れる。マグナも、お袋さんに乗馬も仕込まれたらしい。
 意外なことに、シェラも乗れるそうなんだが、とりあえずリィナと同乗してもらうことにして、俺達は馬共のお陰で、それまでとは比べ物にならないくらい速度で、バハラタに向かったのだった。
 なんていうか、あの隊商の連中には、最期まで世話になっちまったな。
 
 
 
156CC ◆GxR634B49A :2007/04/17(火) 08:27:53 ID:PnTak0e70
支援して下さった方、ありがとうございました。
眠いのに、規制はカンベンしてください><

ということで、第23話をお届けしました。
これまで、暗いシメはなるべく避けてたんですけど、
これ以上書くと長くなっちゃうし、以下次回ということで。

長々書いてもしょーがない場面をまとめてお送りした感じなので、
今回は盛り上がりとかなかったですね(^^ゞ
微妙なノロけがあるくらいでw
そういえば、当初アホの出番は1行か2行くらいで済ませるつもり
だったんですが、何故かそれなりに長くなってしまいましたw
次回から徐々に盛り上がる予定でいますので、
よろしければこの先もお付き合いくださいませ<(_ _)>

お仕事の都合で、次回の書き出しは遅れるかも分かりませんが、
ようやく書きたかったトコに辿り着いたので、
調子が良く書けるといいなぁ、と思います。
あ、でも導入を全然考えてないやw
157名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/17(火) 08:30:43 ID:pGPfV3PVO
リアタイ乙!
マグナが可愛すぎるんですが
158名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/17(火) 09:42:48 ID:I/9/5mfxO
乙!

マグナのデレも良かったが、今回は気障王との会話〜隊商の悲劇の流れが秀逸。
ヴァイスが立ち直った時点で何となく予想はしてたけど、『進行ルートに沿った形でキャラの心理的な変化を控え目に描く』という無駄のない展開は読んでてホント楽しかったし、素直に『上手い』と感じた。

続きも期待してます。
159名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/17(火) 10:59:24 ID:e3vGJw6v0
また新たなツンデレ要素が!
面白くなってまいりました!
160名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/17(火) 17:40:41 ID:iQUpeb6P0
GJついでであれなんですけど、ずーっと前に聞いた…アレはどうなりました?
161名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/17(火) 20:25:30 ID:yjCVVne5O
アポもたまに出てくると面白い。
162名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/17(火) 20:59:02 ID:sUsetZLgO
CCさん乙!
ヤバい位マグナかわいい!
後半の隊商との話がすごく印象に残りました
163名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/17(火) 23:10:16 ID:GqeIlb8PO
CC氏超乙!
次回も本当楽しみにしてますぞ!
164名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/18(水) 02:46:18 ID:Avj/9/oj0
CC氏乙ですー。

途中で一ヶ月経ったのが気になりました。
無理にでも次の話に切り替えれば良かったと思いますがどうでしょうか。
マグナかわいいよかわいいよマグナ
あとリィナをだせリィナを(ぉ
165名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/18(水) 23:49:06 ID:hR5BO2dX0
はやくシェラを女に転職させろ!
166CC ◆GxR634B49A :2007/04/19(木) 01:17:01 ID:LBZ5Gxzm0
皆さま、レスありがとうございました〜ヽ(´▽`)ノ
続きを書く元気が湧いてきます。
今はまだ、絶賛お仕事中ですがw

>>157 マグナついては、もうちょっと先をお楽しみに〜。
>>158 ありがたきお言葉<(_ _)> こういう話でお楽しみいただけたのは、ホントに嬉しいです。
>>159 引き続き面白くなるようにがんばります!
>>160 アレ?。。。えっと、どれかしらw ソレのことだったら、もうちょいお待ちを(^^ゞ
>>161 私もそう思います。レギュラーだったら鬱陶しいだろうなぁw
>>162 印象に残ったとは嬉しい限りです。もうちょい先のマグナにもご期待くださいませ。
>>163 ありがとうございます!次回もがんばりますですよ。
>>164 あり、そでしたか。でもやっぱし距離的に。。。その間の細かい出来事は匂わせたつもりなのですが。次回のリィナの活躍で挽回できるように頑張ります><
>>165 どうなるでしょうねー。って、他人事か。いや、いちおう考えてはいますよ?w

よーし、お仕事さっさと終わらせて、続き書くぞー。
次回と次々回の間があんまり空かないように、書く時間が取れるといいなぁ。
167CC ◆GxR634B49A :2007/04/19(木) 21:32:49 ID:LBZ5Gxzm0
普通に保守
168名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/19(木) 23:02:48 ID:9mHKFhZU0
伝わったかな??アレですよアレ。。。
ほら、ずっと前のわかりやすい何とかかんとかゴニョゴニョ・・・
169CC ◆GxR634B49A :2007/04/20(金) 00:57:14 ID:Md0Clv4u0
あ、それがソレなので、申し訳ありませんが、いましばしお待ちくださいませ(^^ゞ
170名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/20(金) 21:19:48 ID:qcCj4pcoO
ドラクマ3〜そしてヤンデレへ〜
171CC ◆GxR634B49A :2007/04/21(土) 02:49:42 ID:W4kDLkwt0
ヤンデレなんて言葉があるんですね。初めて知りました。私、遅れてます><
172CC ◆GxR634B49A :2007/04/21(土) 19:52:19 ID:W4kDLkwt0
なんかもー、また急にバタバタしてきました><
早く落ち着いて書きたいです保守
173CC ◆GxR634B49A :2007/04/22(日) 22:56:39 ID:XxxlJvGV0
ままならぬままに保守
174CC ◆GxR634B49A :2007/04/23(月) 06:54:17 ID:fPiqtQl10
捻れないなぁ。。。う〜む〜
175名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/23(月) 15:17:02 ID:hGXXoBJnO
そううう時こそ気分転換にFF5とかどう?
176CC ◆GxR634B49A :2007/04/23(月) 16:54:47 ID:fPiqtQl10
FF5って、どんなんだったっけ、とすぐに思い出せませんでしたw
ファリスとか出てるやつですね。

今さらながらに、ちょっとひと言お断りを。。。
最初の頃にも書いたと思いますが、私の基本スタンスは、
ゲームをクリアした情報を頼りに書く、だったので、
特に宗教観とか公式設定をぶっちしてると思います><
(精霊ルビス伝説とか〜。書き始めるまで、存在すら知らなかったのでw)
なので、公式設定に思い入れの強い方には、
今後許し難い部分も出てくるかと思いますが、
あくまでゲームをやった上での私の解釈ということで、
大目に見ていただけると幸いです(^^ゞ
ホントすいません。
ゲームだけやってる分には、なるべく矛盾しないように書きますから〜><
177CC ◆GxR634B49A :2007/04/23(月) 17:15:17 ID:fPiqtQl10
だって、ゲームをやってる限りでは、教会はどう見てもキリスト教が
モデルだし、ルビス以外の神々なんてほとんど出てこないんだもん><
破綻しない範囲で、少しは取り込もうとは思ってますが〜。
178名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/23(月) 20:09:59 ID:JQ2nHgm7O
好きなように書いていいと思いますよ。
少なくとも俺はツンデレ>DQ3(勿論DQ3も好きです)でこのスレ見てるんであんま細かい事は気にしません。
179CC ◆GxR634B49A :2007/04/23(月) 21:27:03 ID:fPiqtQl10
本当にありがたきお言葉<(_ _)>
ゲームの内容を小説的にする為に、多少は頭をヒネったりもしてますので、
歴史の解釈のように、一次資(史)料を元にした
(ここではゲームの内容そのもの)独自の解釈を、
逆にお愉しみいただけたらちょー嬉しいです。
みたいな、都合の良いことを考えています(^^ゞ
どうぞ、広いお心でお付き合いくださいませ。
180名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/23(月) 22:59:39 ID:wF8qcxuo0
昔のDQ自体、プレイヤーの想像力である程度、設定を補完してたから
それを基にするSSも、作者の独自の解釈が入ってイイと思うよ

俺は、いろんな世界観があってOKだと思うしw
作者様方、これからも楽しみに待ってます


181CC ◆GxR634B49A :2007/04/24(火) 01:09:04 ID:PhcZ5wLc0
そうそう、ゲームをしながらした脳内補完みたいな感じで。
ダメ言われても、既にこのまま書き続けるしかないトコまで来てる訳ですがw
そう言っていただけると、お陰様で遠慮せずにこの先も書けそうです。
ありがとうございます<(_ _)>
182名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/24(火) 01:41:27 ID:m8mpy2Gd0
公式設定にとらわれない何でもありがこのスレの良いところだと思います。
CC様も思うままに書かれて良いのでは。

私も自分のプレイ経験以外に読む上での設定はありませんから。

これからもマイペースで頑張ってください!
183CC ◆GxR634B49A :2007/04/24(火) 06:15:43 ID:PhcZ5wLc0
ありがとうございます〜ヽ(´∀`)ノ
よーし、パパ、思うままに書いちゃうぞーw
気になる方もいらっしゃるかとは思いますが、今後ともお付き合いいただければ幸いです。

ちなみに、なかなか時間が取れない状態ですが、いちおう書き進めています。
うぅ。。。時間が経つのが早すぎるorz
184名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/24(火) 09:01:04 ID:DoDcYvL+0
ルビスとかアレフガルドでの信仰があるだけだし
表の世界は宗教観語られてないし
自由に書けばいいし
楽しみにしてるし
185CC ◆GxR634B49A :2007/04/24(火) 13:09:48 ID:PhcZ5wLc0
ありがとうございます〜。
引き続きお楽しみいただければと思います。
今日もんで用事はいっちゃってますけど、がんばります><
186CC ◆GxR634B49A :2007/04/25(水) 10:41:13 ID:Ap+9yIkr0
「今日もんで」ってなんだ、自分w
かなり進んだけど、このままでいいかが問題です保守
187名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/25(水) 13:49:20 ID:rs2EKrw50
俺のwktkが止まらないんだぜ
保守
188CC ◆GxR634B49A :2007/04/25(水) 21:07:50 ID:Ap+9yIkr0
よっしゃー、物凄い書き直す(゚∀゚)ヨカーン
がんばるぞぅ保守。。。orz
189名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/25(水) 22:56:59 ID:OwKNhtLS0
じゃあ俺はマスをかくか。
190名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/26(木) 01:24:37 ID:9KTPRhQo0
恥をかいた>>189
191CC ◆GxR634B49A :2007/04/26(木) 05:04:31 ID:3AEDjRvc0
>>190
誰がうまいことを言えと(ry

今日は、木曜日かー。ん〜。。。まだ予告はできないかなぁ
192CC ◆GxR634B49A :2007/04/27(金) 08:57:12 ID:nLH4Ju4/0
すみません、もう少々お待ちを保守
193名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/27(金) 22:17:29 ID:wkHnozoRO
保守ゾーマ
194CC ◆GxR634B49A :2007/04/28(土) 03:21:17 ID:xTJxthcv0
風邪でダルいです><
なにもこんな時に。。。すぐ治ると思いますが(^^ゞ
195CC ◆GxR634B49A :2007/04/28(土) 18:06:50 ID:xTJxthcv0
用事でやむを得ず出かけたら悪化しましたが、気合いですぐ治します><
196名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/28(土) 22:35:15 ID:GbsF4fwnO
つ【世界樹の雫】
197名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/28(土) 22:52:27 ID:IN8zm14m0
つ【スノキアの根っこ】
198名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/28(土) 23:21:59 ID:1JhIghkZ0
つ【パデキアの種】
199名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/29(日) 00:19:06 ID:HnypuIun0
>>198
パデキアは種のままじゃなんの役にも立たないぞ
200CC ◆GxR634B49A :2007/04/29(日) 07:39:44 ID:6P2B5huA0
これだけあれば、どんな病気も治りそうですw
なんとか今日中に治して、近日中には投下するぞーおー
201名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/29(日) 22:03:25 ID:Z815F5VhO
つ【邪神の面】
202名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/29(日) 22:32:14 ID:95U+S0lm0
つ【般若の面】
203名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/30(月) 00:21:54 ID:JJSIOWK60
つ【不幸の兜】
204名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/30(月) 01:04:26 ID:HSFLzG0ZO
つ【悪魔のしっぽ】
205CC ◆GxR634B49A :2007/04/30(月) 05:19:59 ID:M1cDkJl/0
悪化しますた
206名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/30(月) 06:26:08 ID:n3NjTZRm0
そういえば死んでる仲間を生き返らせる前に色々付けるネタが4コマにあったなwwww
207名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/04/30(月) 08:17:25 ID:m+p+oFlYO
>>201-204
ちょ、何やってんのw
208CC ◆GxR634B49A :2007/04/30(月) 12:15:44 ID:M1cDkJl/0
おおよそ治ったっぽかったので、調子に乗って書こうとしたら、なんかクラクラしてきました。
こ、これが呪いの力!?
というのは冗談ですが、すみませんがもう少々お待ちください><
209CC ◆GxR634B49A :2007/05/01(火) 06:16:23 ID:htmMUV2g0
むはー。再開しますた。なんとかいけそうです保守
210名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/02(水) 14:16:53 ID:bv+LGlUOO
投下そろそろかな?
わ、wktkしてなんていないんだからっ!
ただコテの書き込みが多いと投下しにくいかなって思っただけなん……
とっ、ともかく感謝しなさいよねっっ><//;
211CC ◆GxR634B49A :2007/05/03(木) 07:23:40 ID:+qNRQUSQ0
うむむ、風邪ですっかりリズムが狂っちゃいました><
どーにもならねー。
とりあえず、明日。。。は難しいかもなので、明後日の明け方くらいを目標に。
その前に投下できたら、万万歳とゆーことで(^^ゞ
212名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/04(金) 01:14:21 ID:VPWzPFPaO
期待保守
明日が待ち遠しいよ!
213名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/05(土) 00:26:11 ID:3ZcJfH/W0
今北保守
さて、徹夜するかな…
214CC ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 03:13:15 ID:vdN/naGs0
う〜む、微熱が続いてるお陰で、ちゃんと書けてるのかどうか、よく分かりませんw
もう2、3日そんな状態で、なんか埒があかないので、もう投下しちゃいます><
くそぅ、風邪め。。。よりにもよって、こんなタイミングで。。。
どうか、それなりにちゃんと書けてますように(‐人‐)

ちなみに、投下は三時間以上かかる予定ですので、夜が明けるまで
放置してからお読みいただいた方が、ストレスが無いかと思われます(^^ゞ
215CC 24-1/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 03:23:05 ID:vdN/naGs0
24. Jerk Out

「魔王は全てを滅ぼすもの……凍てついた暗闇と、死の世界の支配者じゃっ!!」
 老婆は水晶玉に両手をかざしながら、皺の間に埋もれていた目ン玉をくわっとひん剥いて、俺達に怒鳴ってみせた。
 つか、婆さん、怖い。顔がこわい。
「はぁ?」
 老婆の――主に顔面が醸し出す不気味な迫力に、やや押されながらもマグナが不愉快そうな顔をする。
「えっと……そんなこと、聞いてないんだけど?」
「このままではやがて……全ての人々が、その野望に怯えることになるであろう……」
 振り乱した白髪といい、やたらデカい鷲鼻といい、まるきり魔女そのものの外見をした占い師の老婆は、マグナの言うことなどおかまいなしに、マイペースで続けた。
 ここは、バハラタ。
 あの――隊商の連中から、黒胡椒が手に入ると教えられた街だ。
 昨日の日暮れに辿り着いた俺達は、とにもかくにも宿を求めて、その日は何をすることもなく、メシだけ済ませてそのまま床に倒れた。
 なにしろ、ここまで長い道程だったからな。途中からは慣れない馬に乗って来たモンで、股やらケツやら腰やら首筋やら痛くてかなわねぇよ。
 ひたすらクタクタだった俺は、今日もグータラ宿屋でゴロゴロしてたかったんだが、昼過ぎにマグナが部屋まで呼びに来て、扉をドンドン叩いて起こされた。
 優しくおはようのキスで起こしてくれりゃ、もっと寝覚めもいいのにな。試しに今度から、部屋の鍵を開けておいてみるか。まぁ、天地が引っ繰り返っても、あいつがそんな起こし方してくれる訳ねぇけどな。
 寝惚け眼を擦りながら扉を開けると、黒胡椒を買い付けに行こうとマグナがのたまった。買い物くらいならいいけどさ。何日か、ここでのんびりしていこうぜ。
216CC 24-2/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 03:29:48 ID:vdN/naGs0
 適当に着替えを済ませて食堂に下りると、女連中は既に三人揃って遅い昼食をパクついていた。俺も飯を頼んで待つ間に、離れたテーブルからこちらを窺っている様子の、やさぐれた風体の男が目にとまる。
 ウチの娘共は、どいつも割りと目立つ方だからな。街中では、こういった反応は、特に珍しくない。
 俺が睨み返してやると、気付かれたことを悟った男は、すぐに視線を逸らして知らん顔を決め込んだ。うん、身の程を知れ。手前ぇみたいなチンピラを、ウチの娘共に近寄らせると思うなよ。
 飯を済ませてから、黒胡椒を扱っている店の場所を聞くついでに、神殿について何か知らないか帳場で尋ねてみた。
 すると、おばさんは首を傾げるばかりだったが、奥にいた若い男が「ああ、グプタがそんな話をしてたような気がするなぁ」と呟いた。
 グプタってのは、その黒胡椒を取り扱っている店で働いている若者だそうで、こっちの用事が一度に済みそうなのはありがたい。
 そんな訳で、その店に向かう途中――
「あっ」
 道の脇に張られていた怪しげな天幕を目にしたシェラが、驚いた風な声をあげた。
 なんでも、シェラが旅に出るきっかけを作った、例のアリアハンで出会った占い師のテントに、よく似ていると言うのだ。
 まさか本人ってこたないだろうが、同類だったら神殿の話を聞けるかも知れない。ちょっと寄ってみようということになり、中に入って尋ねてみたんだが。
 天幕の魔女――もとい、占い師の老婆は、魔王がどうしたとか全然関係無いことを、いきなり喚き出したのだった。
「――さりとて、かの魔王を滅する術は無し……人々は怯えて暮らす他ないのじゃ……おぉ、おそろしやおそろしや……」
 今のあんたの顔も、相当おそろしいけどな、婆さん。
「それは、もういいから……それで、神殿の話は知ってるの?知らないの?」
 マグナが再度問い質しても、婆さんはくわばらくわばら繰り返すばかりで、まともに答えようとはしなかった。
「話になんない。もういいわ。出ましょ」
 苦虫を噛み潰したマグナに促されて外に出た俺達を、街の人間と思しい男が、にやにやと笑いながら出迎えた。
217CC 24-3/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 03:32:27 ID:vdN/naGs0
「なによ?」
 不機嫌丸出しにマグナが睨むと、男は愛想笑いのつもりか、一層ニヤついてみせる。
「いや、ね。そこの婆さん、まともに占いなんてしやしなかったろ?」
「……ええ」
「だろ?この街のヤツなら、もう皆とっくに知ってんだけどな。婆さんの話を聞こうなんて物好きは、占い屋と勘違いして入っちまった、哀れな他所モンばっかってヤツでさ――やっぱ、魔王がどうのとか言われたのかい?」
「……そうだけど」
「はは、やっぱりな。婆さん、それしか言わねぇんだ。オレも、魔王の話は聞いたことあるけどさ。もうすぐ世界はソイツに滅ぼされるとか、そんなのタダの噂に決まってんのにな」
「……そうね」
「ソイツが全ての元凶だとかさ、そんなのがホントにいやがったら、いくらなんでもお上が放っとかねぇだろって――」
「行くわよ」
 それ以上、男にいらえる気が失せたように、マグナはついと顔を逸らす。
「おい――なぁ、旅人さんよ。ホントに魔王なんて、タダの噂話だよなぁ?世界が滅ぼされるとか、単なるたわ言だって――なぁ、オイ?」
 あるいは。
 男は心のどこかで魔王に怯えていて、自分よりも見聞が広いであろう旅をしている俺達に、その存在を否定して欲しかったのかも知れない。実際に魔物の跋扈するこの世界で生きていれば、畏れの感情を抱いたところで不思議じゃないからな。
 けど、あいにくだったな。そいつは、俺達にとっちゃナーバスな話題なんだ。悪いけど、あんたの望むような答えは、くれてやれねぇよ。
 置き去りした男の声が届かない距離まで歩き、マグナは気を取り直すように軽く息を吐いた。
 思わぬトコで、ヘンな話を聞いちまったな。魔王のマの字も出ない土地に、早くこいつを落ち着かせてやりたいよ。
218CC 24-4/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 03:40:52 ID:vdN/naGs0
 宿屋で教えられた黒胡椒の店は、間の悪いことに休業しているようだった。
 周りに見える他の店は、営業してるんだけどな。定休日なのかね。
 だが、すぐ側まで寄ってみると、中には人が居るらしく、なにやら言い争う声が扉越しに響いてきた。
「どうする?出直すか?」
 問い掛けると、マグナは唇を尖らせた。
 どうせ、出直すのは面倒臭いとか思ってやがるんだろう。まぁ、いいじゃん。せっかく時間が出来たことだし、そこらをブラブラしてみるとかさ。その、なんだ。二人で出かけ直してもいいし。
「そうね――」
「うん、やっぱりつけられてるね」
 唐突に、リィナが呟いた。
「え?」
「振り向かないでね。お昼食べてる時に、ボク達の方を見てた人がいたでしょ。その人が、後ろの木の陰に隠れてるよ」
 あのチンピラ風の男か。ついさっき、初めて顔を合わせたばっかの筈だが、なんでまた俺達を尾行してやがるんだ?
 と、その時だった。
 バン、と勢いよく店の扉が開いて、若い男が飛び出した。
 皺枯れた声が、店の中から追いかける。
「よすんじゃ、グプタ!!」
「待っててください!!きっと僕が、タニアを助け出してきます!!」
 扉の内側にひと声かけて、俺達の姿も目に入らないように、若い男は一目散に傍らをすり抜けて走り去った。
 それを見送るフリをして、後ろを振り返る――ああ、ホントだ。確かにガラ悪ぃのが、木の陰からこっちを見てるわ。やっぱり、マグナと二人で出かけるのは、止めといた方がいいかな。リィナはともかく、シェラを独りにしない方がよさそうだ。
「なんだか、取り込んでるみたいですね」
「とりあえず、ハナシ聞いてみる?」
 首を傾げるシェラと、開け放たれた店の扉を指差すリィナ。
 マグナは少し指を噛んでから、気乗りのしない様子で漏らす。
「……そうね。入ってみましょ」
 出直す面倒臭さが勝ったようだ。
 でもな、その扉を越えたら、きっとまた厄介事が待ち受けてるんだぜ。
 お前だってそれは予感してるみたいだし、タマには引き返す道を選んでもいいんじゃねぇのか?
 けど、そいつはお前のやり方じゃねぇんだよな。はいはい、分かってますよ。
 内心で諦めの溜息を吐いて、俺は大人しくマグナの後につき従った。
219CC 24-5/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 03:46:28 ID:vdN/naGs0
「おお……この上、グプタまで攫われてしもうたら、儂は……わしは……」
 悲嘆に暮れて両手で顔を覆う老人を前に、俺達は困惑気味の顔を見合わせた。
 と言っても、シェラは同情しきりの顔つきだし、リィナはいつのものように判断をマグナに丸投げした他人事みたいな表情だったから、実際に困った顔をしているのは、俺とマグナだけなんだが。
 爺さんの話を、ざっとまとめると――
 昨日の夕方から、買い物へ出掛けた孫娘のタニアが、未だに戻らないのだそうだ。無断で外泊なんて考えられない真面目な娘だそうで、今日になっていつも通りに店を手伝いに来た恋人――グプタにそれを告げたところ、狼狽して飛び出してしまったのだという。
 俺達はちょうど、その場面に居合わせた訳だ。
 ここ最近、バハラタ周辺では人攫いの被害が続発しているらしく、タニアもその奇禍に見舞われたのだと信じ込んでの、グプタの行動だった。
 まことしやかな噂によれば、人攫い共は街のすぐ脇を流れる大河の上流に潜んでいるという。つまりグプタは恋人を取り返しに、単身そこへ向かったのだ。
 冒険者でもないクセに、独りで行ってどうしようってんだ。とは思うが、気持ちは分からないでもない。
 俺だって――ああ、いや、俺のことはどうでもいいや。
「グプタは真面目な若者じゃ……孫娘の婿として申し分無い。添い遂げた二人に店を任せて、あやつらの幸せな姿をのんびり眺めることだけが、老い先短いおいぼれに残された、たったひとつの楽しみじゃったと言うのに……おお神よ……おぅ……」
 とうとう泣き出してしまった爺さんを視界の端に捉えながら、俺とマグナはちらちらと目で相談した。
 日を置いて出直した方がいいと思うけどな、という俺の目配せに、店の奥に詰まれた香辛料と思しき袋の方に視線をくれて、マグナが肩を竦めてみせたので、俺も口をへの字にして、仕方なくそれに倣う。
 今ここで、それを切り出さない方がいいと思うんだが。
「えっとね……立て込んでるトコ悪いんだけど、あたし達、ここのお店で黒胡椒を扱ってるって聞いて来たのよ」
 爺さんは、おうおうと嗚咽を漏らすばかり。
「申し訳無いけど、売ってもらえる?」
 爺さんがまともな返事をかえすまで、しばらくかかった。
220CC 24-6/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 03:53:54 ID:vdN/naGs0
「……すまんが、日を改めてもらえんじゃろうか……いまはとても、そんな気分には――」
 途中まで言いかけた爺さんは、そこではじめて俺達の姿が目に映ったように、今さらながらにまじまじと見詰めてきた。
「お前さん方……見ん顔じゃな。ひょっとして、旅の人かね。どうやって、ここまで来なすった」
「どうって……馬で」
「どこぞの隊商について来なすったのかね。お前さん方と一緒にいらした、腕の立つお人はおらんのか」
「一緒に来た人なんて、居ないわ。あたし達は、この四人で来たの」
 俺が止める前に、マグナが馬鹿正直に答えちまった。
 爺さんは「ほぇ?」とか呟いて、首を捻ってみせた。
「こんな爺ぃめに、いったい何を用心しておるのか分からんが……嘘を吐かんでもええんじゃよ。爺ぃめは、腕の立つお人にお願いしたいことがあるだけなんじゃ」
「失礼ねっ!!嘘なんて吐かないわよっ!!」
 だから、そこは否定しないで、適当に話を合わせとけっての。
「しかしのぅ……お前さん方は、ずいぶんとお若いように見えるんじゃが。とても、お前さん方だけで旅をしてきたなどとは……ほれ、道中の魔物などは、なんとしていたのじゃな?」
「もちろん、自分達で退治してたけど?」
 勘違いさせときゃいいのに、リィナが余計な嘴を挟む。
「なんとまぁ!?本当かね?」
 嘘吐き呼ばわりされたのが気に食わないのか、きっぱり頷いてみせるマグナ。
「たった四人で……とてもそうは見えんが、それが本当ならば、お前さん方は大層腕の立つお方なのじゃな?」
 何気に失礼なこと言ってるぞ、爺さん。
 リィナも「まぁ、それほどでもあるけど」とか言わなくていいから。
「……どうじゃろう。いや、法外な願い事であるのは百も承知なんじゃが……黒胡椒を差し上げる代わりに、タニアとグプタを救い出してはもらえないじゃろか」
 やっぱりな。こう来ると思ったぜ。最初から、俺が交渉しときゃよかったな。
「いや、あのさ、普通に売ってもらえれば、俺達はそれでいいんだけど」
 儚い抵抗を試みる俺。
「そう言わんと、この通りじゃ。タニアとグプタは、このおいぼれのたったひとつの生き甲斐なんじゃ。どうか……どうか、これこの通り、助けてはもらえんじゃろうか」
 いや、そう拝まれてもなぁ。
221CC 24-7/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 04:01:18 ID:vdN/naGs0
「二人が無事に戻るまでは、とても商いなどする気になれん……お前さん方としても、黒胡椒が手に入らなくては困るのではないかな?」
 好々爺然とした顔で、脅迫してきやがったよ、この爺い。
「これまでに身内を攫われた者が、その度にお上にお伺いを立てておるんじゃが、一向にハカが行った様子もなくてな……お上に任せようにも、その間にどこぞに売られてしまうかも知れんのじゃ……そうなる前に、どうか一刻も早ぅ、二人を救い出してはもらえんじゃろうか」
 同情を誘うつもりか、やたら哀れっぽく爺さんは言い募る。
 諦めたようなマグナの溜息を耳にして、俺も観念した。
 まぁ、店に足を踏み入れた時から、ある程度は覚悟してたしな。
 それに――
「その前に、ちょっと聞きたいんだけど――そのグプタって人から、『生まれ変わりの神殿』の話を聞いたことはある?」
「……しんでん?はて……なんのことやら……いやいや、言われてみれば、あるような、ないような……」
 どうも、トボけてる臭い。
「無いの?」
 マグナが言葉少なに問い直すと、爺さんは慌てて言い繕う。
「おお、言われてみれば、いつかそんな話をしておったような……じゃが、儂もその折には聞き流しておったでな、詳しく知っておるのは、グプタだけじゃろう」
 だから、話が聞きたければ、とにかくグプタを助け出せってことね。歳食ってるだけあって、案外狸というか、爺さんもそれだけ必死なんだろうけどさ。
「……分かったわよ。聞いちゃったら、人攫いなんて話、ほっとけないしね」
 そうなんだよ。こいつ、人助けはするんだよな。
「おぉ、それでは!」
「その、グプタさんとタニアさん?いちおう、探してみるわよ。でも、確実に連れ戻せるとまでは、期待しないでね」
「おぉ、ありがたいありがたい……賊めらは、聖なるガンジスの上流に巣食っておるとの噂ですじゃ。近くの街や村からも、幾人もさらわれておりましてな、どうか悪党めらを懲らしめてやってくだされ……ありがたいありがたい」
 しきりと拝まれて、マグナは諦観の面持ちを俺達に向けた。
 やれやれ。結局、予想通りの展開になっちまったか。
 店から出ると、木陰にいた胡乱な男の姿は、既に無かった。
222CC 24-8/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 04:06:37 ID:vdN/naGs0
 漠然と上流とか言われても困るんだが、ともあれ俺達は街の脇を流れる大河に沿って、山の方へと向かった。
 あーあ、まったくよー。せっかく、少しはのんびりできるかと思ったのによー。あのさ、旅してる間ってのは、二人きりになる機会がなかなか無くてだな――いや、別にいいんだけどね。そんなに焦っちゃいねぇしさ。
 川沿いの森をさ迷った末に、人が踏みしだいたような獣道を発見したのはリィナだった。
 ところどころで途切れて見失いがちなそれを、リィナを先頭になんとか辿り続けて、さらに数日――
 切り立つ岩盤を刳り貫いて造られた廃墟が、俺達の眼前に出現した。
 生い茂る植物の蔓や苔に覆われて、深い森と一体化したように見えるそれは、遥か昔に打ち捨てられた――おそらく、石窟寺院というヤツだろう。
「へぇ……こんなトコに、こんなのあったんだ」
 リィナが、なにやら感慨深げに呟いた。
「これは……?なんの神様を祭ってたのかしら」
「ん?どれ?――ああ、ルビス様の聖印だね」
 マグナが眺めていた入り口の脇に刻まれた紋様を、横から覗き込んだリィナが答えた。
 旅の扉を渡ってロマリアに着いた時といい、こいつ、タマに妙なことを知ってるよな。
「ルビス……って、大昔の神様だっけか?」
「うん、まぁ、そうかな」
 俺が尋ねると、リィナは例によって曖昧な返事をした。どうせまた、突っ込んだ事を尋ねたところで「よく分かんない」んだろう。
 ともあれ、入り口付近はそこだけ踏み荒らされて苔が剥がれた跡があり、どうやら賊共の根城はここで間違いなさそうだった。
「それじゃ、行くわよ」
 マグナの号令一下、蜘蛛の巣を払ったりしつつ這入り込んだ俺達を待ち受けていたのは、細かく仕切られた無数の石室だった。縦にも横にもエラい先まで連なっていて、六角形と四角形という違いこそあるものの、まるで蜂の巣だ。
 どの部屋も造りが全く同じなので、入って間も無く、俺はあっさり自分の居場所を見失った。
 てっきり、カンを頼みに適当に歩き回ってるモンだと思っていたら。
「あとは、こっちね」
 マグナが自信ありげに指し示した方へ向かうと、果たして他の部屋には見当たらなかった扉の前に辿り着いた。
223CC 24-9/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 04:15:05 ID:vdN/naGs0
 どの部屋を通ったのか、マグナは全て記憶して、頭の中で地図を描いていたらしい。まったく、畏れ入った記憶力だね。
 扉の越えると、地下へと続く階段が左手に見えた。階段をおりた先は、それまでとは違って石壁に囲まれた普通の通路になっていた。
 少し行くと、左に折れる脇道があった。そちらの方から、下品な笑声やがなり声が微かに響いてくる。
 正面にも通路は続いているが、人攫いのロクデナシ共は、どうやら脇道の方でたむろしているらしかった。
 さて、と。
 ここまで先送りにしていた問題を、俺は改めて考えざるを得なかった。
「ちょっとタンマ」
 どうすっかな。
「なによ?」
 先頭のリィナが曲がり角の手前で足を止め、マグナが振り向いて俺を見る。
「え〜と、だな……」
 なんて説明したモンやら。いや、説明しない方がいいのか。
「とりあえず、俺が先に様子を見てくるからさ。ちょっとここで待っててくれ」
「なんでよ?独りじゃ危ないわよ」
「急にどうしたんですか?マグナさんの言う通りです。危ないですよ」
 シェラもマグナに同調する。
 うん、まぁ、俺もそう思うんだけどさ。
「なんか考えがあるのかな?」
 リィナが横から口を出した。こいつだったら、独りじゃ危ないとか言われないんだろうな。
「ああ、ちょっとな。え〜、つまりだな――」
 尤もらしい説明を、急いでその場で考えながら、三人に手筈を伝える。
 納得していない顔つきのマグナに、俺は出来るだけ頼り甲斐のありそうな笑顔を作ってみせた。
「大丈夫だって。これでも、アホ共のあしらいには慣れてんだぜ。捕まってる連中を人質に取られちゃ困るし、カチ込む前にある程度は中の様子が分かってた方がいいだろ?」
「でも……」
「心配すんなって。普段の戦闘では、いっつもお前らばっかし矢面に立たせちまってるからな。タマには、俺にも体張らせろよ」
「……気をつけてよ?」
 スネているような、俺が言うことを聞かないのが気に食わないような表情で、マグナは渋々頷いた。
 でも、こいつも聞き分け良くなったモンだよな。それだけ、俺を信頼してくれるようになったってことか――なんか、照れるね。
224CC 24-10/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 04:19:54 ID:vdN/naGs0
「ほんじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
 片手を上げて角を曲がり、通路の先に見える扉に向かって歩きながら考える。
 いま現在、人攫い共に何人とっ捕まってるのか知らねぇけどさ、少なくとも女が一人は居る訳だよ。タニアってのがさ。
 普通に考えると、この先で騒いでるアホ共は、売っ払おうってな腹積もりで、ここらの人間を攫ったりしてる訳だろ?
 そんな無法者共に、商品を疵物にするな、みたいな商売人としての最低限のモラルを期待する方が虚しいっていうか――つまり、アレだよ。
 アホ共が、力づくで女にいかがわしい事をしてる現場なんぞ、あいつらに見せたかねぇんだよ、俺は。
 ん――?なんか前にも、似た心配をしたような。
 ほどなく辿り着いた扉を、力まかせにどんどん叩いてやる。中に居るのはボンクラ共で、しかもどうやら酒盛りしてるみたいだからな。こんくらいしないと気付かねぇだろ。
 果たしてしばらく反応が無かったが、しつこく何度か叩いてやると、お前が行けだのなんだのひと悶着あってから、扉越しに呂律の怪しい怒声が誰何してくる。
「誰だぁ!?」
 中に聞こえるように、俺も大声で応じる。
「よぅ!親分さんに会わせて欲しいんだけどよ!」
「はぁ!?なに言ってんだぁ?ノックなんぞとお上品なマネしくさりやぁって……お前ぇ、俺達の仲間じゃあねぇなぁ!?」
 だから、そう言ってんだろ。この酔っ払いが。
「だからよ、仲間にして欲しくて、わざわざこんな山ン中まで来てやったんじゃねぇかよ!なぁ、親分さんに会わせてくれよ!」
 ややあって、扉が薄く開かれて、鼻の頭を赤くした小汚い男が顔だけ覗かせた。
 なんとなく、見覚えがあるような――いや、声に聞き覚えがあるのか?
 まぁ、こんなヤツら、どいつも大して変わりゃしねぇからな。思い出す労力がもったいねぇや。
「よぅ、兄弟」
 扉の隙間から、女の嬌声や悲鳴は聞こえない――やれやれ、とりあえず大丈夫そうだ。
 男の視界を遮るように、俺はさりげなく立ち位置を変えた。
225CC 24-11/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 04:26:49 ID:vdN/naGs0
「聞いたぜ。あんたら、ずいぶんと羽振りがいいそうじゃねぇか。俺も一枚噛ませてもらおうと思ってさ、わざわざこんな山奥くんだりまで来てやったぜ」
「あぁ?」
 こっちの話を飲み込んでいるのか、いないのか。ベロベロに酔っ払った男は、不細工なツラをさらに醜く歪ませて首を捻った。つか、酒臭ぇ。
「おいおい、この辺りで人を攫っちゃ売り飛ばしてんのは、あんたらなんだろ?」
「あぁ、そぉだけどよぉ……お前ぇが、俺達の仲間にだぁ?ヒョロっちいナリしやぁって、誰がンなハナシ信じんだ、このボケ。弱っちぃクセしやぁって、ノコノコこんなトコまで来るたぁ、殺されてぇのか!?」
 なんだと、この赤鼻野郎。手前ぇだって、エラく弱っちそうじゃねぇかよ。喧嘩したって、俺でも勝てそうだぜ、こんな酔っ払い。
「俺が弱っちいだと?おいおい、冗談はよしてくれよ、兄弟。俺ぁ、たった独りでここまで来たんだぜ?それがどういうことか、分かんねぇ兄弟じゃあねぇだろうよ」
「……あぁ?」
 どうにかしろよ、この酔っ払い。
「つまりよ、魔物がうじゃうじゃしてる森ン中を、独りで抜けてくるくれぇにゃ腕が立つって言ってんだよ」
「……あぁ」
 この野郎、うぷ、とか吐きかけやがった。汚ぇなぁ、もう。
 ずいぶん長いことかかって、男はようやく俺が言ったことを飲み込んだようだった。
「なんでぇ……てっきり俺ぁ、どこぞのボンクラが、また女を助けに来やがったのかと思っちまってよぉ」
 ボンクラはお前だ。
 とは言え、足りねぇ頭に、そんな警戒心があっただけでも誉めてやるべきか。それにしちゃ、なんで俺への警戒を急に解いたのか、よく分かんねぇけど。アホの考えるこた、理解に苦しむな。
 まぁ、なんでもいいや。ここは話を合わせて、中の様子を聞き出してやるとするか。
「また?ってこたぁ、そんな物好きがいたのかい」
「おぉ、ちょっと前になぁ……コイツがまた、ケッサクでよぉ」
 ぐひひ、と男は下品に笑った。
226CC 24-12/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 04:31:28 ID:vdN/naGs0
「女を掻っ攫って帰る途中でよぉ、追いついてきやがったんだよぉ。けどソイツ、飲まず食わずで、ロクに眠りもしてなかったみてぇでよぉ。出てきた時にゃ、もっフラフラよぉ。
 ちっと小突いただけでぶっ倒れやがって、必死コイて何しに来やがった、この抜け作ってよぉ、ありゃあ笑ったねぇ」
 ああ、なるほど。その出来事のお陰で、こいつの単純な頭の中では、女を助けに来る奴イコール弱っちい、って結び付けられちまった訳か。
 だから、単身で魔物を退けて森を抜けてきた強い男、みたいに自称した俺への疑いは晴れたって寸法だ。アホか。いや、アホで助かったけど。
「へぇ、そんな物好きがねぇ。それで、ソイツはどうしたんだ?」
「いやよぉ、オトナの男なんざぁ、売っ払ったぁトコで大したカネにゃあなんねぇだろぉ?だからよぉ、さっさと殺しちまうトコなんだけどよぉ、野郎でもオイボレでも、ガキや女と同じカネで買ってくださる、そりゃぁ太っ腹なお大尽がいなさるんでよぉ」
「そりゃあ豪気なハナシだな。じゃあ、ソイツも捕まえたのか。んで今、在庫は何人居るんだ?」
「ざい……はぁ?あぁ……この前、売っ払っちまったばっかだから……今はぁ、その野郎とぉ女しかいねぇ……のかぁ?」
 俺に聞くんじゃねぇよ、この腐れ頭。
 けど、人質が少ないのは好都合だ。
 背中に右手を隠して、後ろに合図を送る。
「おっ、じゃあ、いちおう女はいるんだな?」
 にたりと笑ってみせると、腐れ頭は好色そうな笑みを返してきた。
「ふへっ、お前ぇも好きだなぁ。お大尽にゃあよぉ、手ぇ出さねぇで連れて来いってぇ言われてんだけどよぉ、そこはお前ぇ、やっぱり、そりゃあなぁ?」
 急に渋い顔をする。
「けどよぉ、あの女はダメだぁ。なんか知んねぇけどよぉ、アニキが手ぇ出すなってんだよぉ」
「なんだよ、そうなのかい」
「あぁ。やってらんねぇよなぁ。あの抜け作の前で思いっ切り犯してやりゃあ、そりゃあおんもしれぇのによぉ」
 ふひっふひっ、と腐れ頭は汚らしく笑った。
 赤い鼻っ面をぶん殴りたくなる衝動を、辛うじて堪える。
227CC 24-13/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 04:40:34 ID:vdN/naGs0
「酒でもかっ喰らってなきゃあ、やってらんねぇよぉ。なぁ、そうだろぉ、オイ」
「ああ、そうかよ」
 俺がぶん殴るより、十倍ヒドい目に遭わせてやるよ。
 横に身を避けると同時に、すぐ後ろまで来ていたリィナが飛び出して、扉を開け放ち様に腐れ頭の腹に一発食らわせた。
「ぶげるっ」
 きょとんとした顔のまま、腐れ頭は派手に吹っ飛ばされる。気を失うまで、何が起こったのか理解しなかったに違いない。
「――おぁっ!?」
「なんだぁっ!?」
 いきなり宙を飛んで床に打ち付けられた腐れ頭に驚いて、中に居た連中が色めき立つ。
 扉の先には、意外なほど開けた空間が広がっていた。この場所が現役だった頃は、何かの祭事場として使われていたんだろうか。
 中に居たのは、五、六人の無頼共。ずっと向こうに見える石壁に囲まれた部屋はガランと殺風景で、広過ぎる為かテーブルやなんかは角っこにまとめられており、連中はその周辺だけ使って居住しているらしかった。
 無頼共が慌てふためいてる間に、あっという間に駆け寄ったリィナが、片っ端から打ち倒していく。マグナもそれに続いたが、追いついた時には、既にリィナがほとんど片付けていた。
 ふと目を向けると、床で伸びた腐れ頭の脇に、ゲロが撒き散らされている。
 このバカ、汚ねぇなぁ。
――あ。
 思い出した。
 こいつ、カンダタのアジトで見かけた、あの下呂助じゃねぇのか?
 いや、オイ、ちょっと待て。
 なんで、こいつがこんなトコにいやがるんだ?
 どうやって、あの大山脈を越えて、ここまで来やがった?
 脳裏を黒マントの魔物の姿が過ぎる。あいつの仕業か――いや、そんなことより。
 ここの悪党連中って、もしかしてカンダタ共だったのかよ。
 ってことはだ。
 とりあえず、この部屋には見当たらねぇけどさ。
 あの物騒な男も、この場所に――
 やべぇ。さっさとトンズラかまさねぇと。
 グプタとタニアは、どこにとっ捕まってんだ。
228CC 24-14/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 04:44:07 ID:vdN/naGs0
 奥の壁際に通路を見つけて、シェラの手を引いてそちらに走りながら、リィナとマグナに向かって叫ぶ。
「急げ!こっちだ!」
「え?なによ、急に――」
 細い通路を抜けると、左右に扉が並んでいた。近いトコから開けていくと、鍵のかかった扉に当たる。
「開けてくれ」
「はいよ〜」
 リィナに鍵を開けてもらって踏み込むと、ボロボロの男が床に倒れていた。
「他の部屋を調べてくれ」
「……分かった」
 マグナ達に声をかけて男に駆け寄り、頬をぺちぺち叩くと、うっすらと目を開く。
「おい、大丈夫か!?」
「う……うぅ……」
「あんた、グプタってんだろ?助けにきた。立てるか?」
「あ……あぁ……ほんとう……に?」
「ホントだよ!立てるなら、さっさと立ってくれ!」
 肩を貸して無理矢理立たせると、向こうからマグナの声が聞こえた。
「いたわ!」
「よし!いま捕まってんのは、この二人だけらしい!!さっさとズラかるぞ!!」
 グプタを引き摺るようにして部屋を出ると、マグナ達に支えられた見知らぬ女が目に入った。タニアの方は、どうやら歩ける状態ではあるようだ。
「グプタ!!」
「うぅ……タニア……」
 覚束ない足取りで歩み寄ったタニアが、瞳に涙を浮かべながらグプタにすがりつく。
「すまない……タニア……救い出してやれなくて……」
「ううん……ううん……なに言ってるの?あなたが追ってきてくれた時、私がどれだけ嬉しかったか……よく生きて……」
「死ぬかと思ったよ……けど、君を想うと……死ぬ訳には……いかなかった……僕には……やっぱり……君が必要だ……」
「うん、私もよ。私にも、あなたが必要だわ、グプタ」
「あり……がとう……無事に……戻れたら……結婚しよう……タニア……」
「おお、グプタ……もちろんよ。喜んで……」
 いや、感動の再会劇もいいんだけどさ。悪いけど、後にしてくんねぇかな。
「ああ、ありがとうございます……どこのどなたか存じませんが、よくグプタを助け出してくださいました。なんとお礼を言ったらいいか……」
「よかったですね」
 シェラも、うっすら瞳に涙を浮かべて微笑んだ。いや、呑気にそんなこと言ってる場合じゃないんだって。
229CC 24-15/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 04:48:03 ID:vdN/naGs0
「ああ、うん。礼は後で聞くとしてだ、とにかくここを出るぞ」
「ちょっと待って、ヴァイスくん」
 リレミトを唱えて脱出しようとした俺の機先を、リィナが制した。
「なんだよ?」
「どうしたの?」
 俺とマグナの返事がカブる。
「うん……あ、来た」
 広間の入り口の方から、どやどやと新手が駆けつける気配が届いた。
「ほら見ろ、のんびりしてっから。いいから、さっさとここを出るぞ!?」
 もたもたしてたら、あの物騒な男が来ちまうだろ。
「お願いだから、ちょっと待ってよ」
「だから、なんなんだよ!?」
 顔を顰めてそちらを向いた俺は、見たことの無いリィナの表情に出くわして息を呑む。
 こいつ、まさか――
「行こう」
 ふい、とリィナは広間の方に歩き出してしまう。
 残された俺達は顔を見合わせ、仕方なくグプタとタニアにここで待つように言い含めて、リィナの後を追った。
「おあっ、なんだぁ、こりゃあ!?――あぁ、誰だぁっ?」
 広間に戻ると、扉の近くでがなり声を上げているカンダタの姿が目に入った。局部を覆った布切れ以外に、身に着けているのはマントと目出帽だけという変態っぷりは相変わらずだ。全然、懐かしくねぇけどな。
 変態の背後には、三体の鎧姿。
 その内の一体――ひとりだけ兜を着けずに素顔を晒した男に、自然と視線が吸い寄せられる。
 短く刈られた髪に、浅黒い精悍な顔立ち。多少の皺が刻まれている。アランのおっさんより、もうちょい年上だと思うが、いまいち歳の見当が掴めない。
 フゥマをして、化け物と言わしめる剣士。
 ただ一人、リィナが完敗を喫した相手。
 できれば二度とまみえたくなかった、物騒な男――
 ニックが、そこに立っていた。
 くそ、やっぱりコイツも居やがったか。
230CC 24-16/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 04:53:45 ID:vdN/naGs0
「おっ、手前ぇら……覚えてんぞ。ロマリアんトキのヤマぁ邪魔しくさりやがった小娘共じゃあねぇか。ボンクラ共が、何を騒いでやがんだと思ったら、まぁたお前ぇらかい。よくもまぁ、はるばるこんなトコまで、性懲りもなく邪魔ぁしにきゃあがったかっ!?」
「また、会えたね」
 リィナが言った。
 ひどく、静かな声音だった。
 そっと囁くような声に、抑えようの無い悦びが滲んでいる。
 俺と違って、こいつはニックとの再会を悦んでいる――
 自分でもよく分からない不安に駆られて、リィナの横に並んで顔を覗き込んだ。
 視線の先に、ニックだけを見据えて――嗤っていた。
 背筋に寒気を覚える。
 こいつのこんな表情、見たことねぇぞ。
 やっぱりリィナも、ここに居るのはカンダタ共だと気付いてて――
 遺恨を晴らすつもりだったのか。
 負けず嫌いのお前のこった。
 ずっとこの機会を、待ち侘びてたんだろうな。
 けどよ――
「ホントに嬉しいよ。ここで会えて」
 リィナの唇の端が、きゅぅと吊り上る。
 多分、自分でも意識していない、強烈な笑み。
「もうちょっと先だったら、どうなるか分かんなかったからさ」
「あぁ?なんでぇ、嬢ちゃん。そんなに俺様に会いたかったのかい。それで、こんなトコまで追いかけてきやがったのか?そいつぁ、殊勝なこったなぁ。よぉし、俺様も鬼じゃあねぇんだ。前のことは水に流して、可愛がってやらねぇことも――」
「キミ、うるさい」
 全く興味が無さそうな口調で、ぽつりと吐き捨てるリィナ。
 変態カンダタは、まるでリィナの眼中に無かった。
「あぁっ!?ンだとぉっ!?下手に出てやりゃあ、調子ん乗りやぁって。また、ちっと痛ぇ目見せてやらねぇと、分かんねぇか!?」
 ほぼ無視されて、いきり立つカンダタ。
 リィナと――ニックの間に張り詰めてる、俺にでも分かる緊張感に気付いてねぇのか、こいつ?
 カンダタの下世話な言動は、ひどく場違いというか滑稽で、ほとんど道化じみて映った。いや、そもそも同じ舞台にのぼらせてもらってすらいないのか。
「おうっ、手前ぇらっ!!死なねぇ程度に痛めつけてやんな!!なぁに、穴さえ役に立ちゃ、それでいいんだからよ――」
「矢張り、貴様らだったか」
 微かに頬を歪めて、ニックが口を開いた。
231名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/05(土) 04:59:15 ID:JpsFwdMiO
支援
232CC 24-17/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 05:00:12 ID:vdN/naGs0
「バハラタに配しておいた手下から、妙な四人組が女を助けにくるらしいと報告が入った時は、まさかと思ったんだがな。どうやって、ここまで辿り着いた」
「お、おい、ニック――!?」
 前回を思い出しても、普段のニックはカンダタの前では、もっと下卑た喋り方をしている筈だ。はじめて耳にする口振りに、カンダタは困惑してニックを振り返った。
「聞こえねぇのか、ニック?やっちまえってんだよ!?」
「そうだな――いい潮時か」
 ニックは、鼻で笑った。
「悪いが、ここまでだ、お頭サン。あんたの御守を続けるのも、いい加減飽き飽きしてたんでね」
「あぁ?ナニほざきやがる、ニック?お前ぇ、どうしちまったって――」
「俺は、一味を抜けるよ。後は勝手にしてくれ」
「あ――?ふざけんじゃねぇぞっ!?手前ぇ、ンな勝手が許されるとでも――」
「あんたは、この舞台の役者じゃないみたいよ」
 そう言ったのは、マグナだった。
「あたし達もだけどね。裏方同士、相手してあげるから、ほら、かかって来なさい」
 カンダタは、マグナをぎろりとねめつける。
「あぁっ!?ンだと、この小娘がっ!?くそっ、ニック手前ぇ、後で覚えてやがれよ!?――オラ、手前ぇら、このカンダタ様にナメた口利くとどうなるか、あの小娘に教えてやれ!!」
 ニックの両脇に立つ二人の鎧姿は、カンダタの呼びかけにぴくりとも動こうとしなかった。
 何度命令しても、すっかり無視されて、カンダタは歯軋りをしながら、ぶるぶると全身を震わせる。
「手前ぇら、揃いも揃って、どこまでこのカンダタ様を馬鹿にしくさりやがって……」
「露払いはしてあげるわ――今度は、負けるんじゃないわよ」
「うん」
 マグナが声をかけると、リィナは小さく頷いた。
「ほら、さっさと来なさいよ、変態」
「手前ぇ、この小娘がぁっ!!」
 痺れを切らしたカンダタは、単身でマグナに向かって突っ込んできた。
『メラミ』
 いちおう、援護だ。今のマグナには、必要無いと思うけどな。
「うがぁっ――っあちぃっ――おがぁっ!!」
 火球の直撃を受けたカンダタが怯んだ隙を突いて、マグナが抜刀しつつ走り寄る。
 メラミをまともに喰らいながらも、カンダタは背中から出した斧を振り下ろして、マグナを迎え撃った。相変わらず、タフさだけは大したモンだな。
233CC 24-18/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 05:11:31 ID:vdN/naGs0
 横薙ぎに剣で打って斧の太刀筋を逸らせたマグナは、返す刀でカンダタの横っ面を思い切りぶっ叩く。
 剣の腹でしこたま打たれて、ぐらりとよろめきつつも、カンダタはなお斧を振りかぶろうとした。
「しつこいっ!!」
 今度は脳天に、剣の腹を振り下ろすマグナ。
 さしものタフな変態も、これで意識を飛ばして床に崩れ落ちた。
 ロクデナシのゴロツキが、わざわざ苦労して腕を磨いたりする訳ねぇからな。カンダタの強さは前回と変わらないが、道中で修羅場を潜り抜けたマグナは、あの時とは見違えるほど強くなっている。
 再戦したら、あっさり決着がつくのは、当然の帰結だった。
「ほら、舞台は整えてあげたわよ」
「ありがと。あのさ、悪いけど――」
「手を出すな、でしょ……分かってる」
 マグナとリィナのやり取りを聞いたシェラが、思わず声を上げる。
「そんな!?どうして――」
「いいから。こっちにいらっしゃい、シェラ」
 マグナに言われて、シェラは助けを求めるように俺を見上げた。
 だが――悪いな。俺も、あいつと同意見だ。
 俺は黙ってシェラの手を引いて、マグナの元に向かった。
 リィナとニックの中間辺りで、さらに何歩か後ろに退がる。
「なんでですか、マグナさん!?リィナさん独りでなんて……危な過ぎます!!だって、あの人、すごく強くて――前だって、リィナさん、殺されそうになったじゃないですか!!」
「黙って!!」
 悲鳴にも似たマグナの声に、シェラはびくっと身を震わせた。
「そんなの、分かってるわよ。あたしだって、完全に納得してる訳じゃないんだから……でも、あのコのあんな顔見ちゃったら――そういう事なんだって、思わなくちゃ仕方ないじゃない……」
「そんな……そんなの……」
 それでも言い募ろうとしたシェラは、マグナからリィナに視線を移して――結局、何も言えなくなってしまったように押し黙った。
 もう俺達のことすら頭に無いように、リィナはニックしか見ていない。
 その顔つきは、もちろんリィナのもので、劇的に変貌した訳じゃないんだが。
 浮かんだ表情は、言葉にすれば「微笑み」としか言えないんだが。
 リィナの全身から発散される、鬼気迫る、そう形容するしかない雰囲気に、俺達が口を挟む場面ではないのだと、納得させられてしまうのだ。
234名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/05(土) 05:15:38 ID:JpsFwdMiO
もいっちょ支援
235CC 24-19/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 05:26:47 ID:vdN/naGs0
 シェラの肩をぽんと叩いて、軽く抱き寄せたのは、あるいは俺自身の不安を紛らわす為だったかも知れない。
「大丈夫よ。リィナは、負けないわ」
 ぎゅっと握られたマグナの拳は、細かく震えていた。
 手を添えると、強く握り返してくる。
『リィナは、勝つわ』
 そう言わなかった――言えなかったマグナの気持ちは、よく理解できた。
 俺も不安だ。
 なにしろ、前回の対戦では、リィナは殺されかけたんだからな。
 しかも、あの時のニックは、まだまだ余力を残していたらしい。
 それを考えただけでも不安なのに――
 仇敵を前にして、リィナが入れ込み過ぎて見える。
 あいつがなんと言おうと、全員でかかるべきなんじゃないか。
 そうは思うが――あのリィナが本気の本気にならなきゃいけない相手に、足手まといにすらなれない予感。
「じゃあ、やろうか」
 裡に秘めた感情の昂ぶりを、無理矢理抑え込んだようなリィナの声だった。
「フン。去り際に、俺がくれてやった忠告を、もう忘れたか」
「覚えてるよ、もちろん。ボクの命日だって言うんでしょ。でも――あの時のままとは、思わない方がいいよ」
 リィナは、握り拳を掲げてみせた。
「ほとんど、戻った」
「それがどうした?」
 やり取りの意味はよく分からなかったが、リィナの殺気をニックが軽く受け流しているのは感じられた。
「だが、まぁ多少なりと愉しめた事は認めてやらんでもない――いいだろう。まずは、その自信の程を確かめてやる。また興醒めで終わっては、つまらんのでな」
「どうぞ。ご自由に」
 ニックが顎をしゃくると、傍らに立っていた甲冑姿の片方が、前に進み出た。
「この前よりは、いくらかマシな連中を用意しておいた」
 両脇の甲冑は、前回と違ってニックが連れて来た奴らしい。だから、カンダタの命令を聞かなかったのか。
「貴様の為に用意した物差しという訳だ。女を助けに来たのが貴様で、無駄にならずになによりだったな」
 多分、ニックは――口で言うよりも、リィナにある種の期待を抱いている。
 己に伍し得る存在として。
 己が身に付けた業を、存分に振るえる相手として。
 俺の想像でしかないけどさ。あんなバケモンみたいに強いヤツが、実際に何を考えているのかなんて、俺なんぞには分かりゃしないからな。
236CC 24-20/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 05:32:23 ID:vdN/naGs0
 リィナの前まで歩み寄った甲冑姿は、何故かおもむろに鎧を脱ぎ出した。
 その下から黒っぽい道着が現れて、最期に兜を両手で持ち上げる――
「えっ――!?」
 晒された素顔を目の当たりにして、シェラが叫んだ。
「なんで!?――フゥマさんっ!?」
 意外な再会――
 甲冑を脱ぎ捨てたフゥマは、シェラの視線を避けるように、少し顔を背けて俯いた。
「なんでですかっ!?なんで、この人達と――」
 シェラは、苦しそうに途中で息を吸い込んで、当惑をフゥマに叩きつける。
「やっぱり、悪い人達の仲間だったんですかっ!?」
 下を向いたまま、唇を噛み締めるフゥマ。
「答えてくださいっ!!フゥマさんっ!!」
「……シェラさん」
「あのさ。やる気無いなら、どいてなよ。フゥマくん」
 気の無い口調で――それでいて、目だけは爛々と輝かせて、リィナが言う。
「いや、オレは……」
 フゥマは、ニックを振り返った。
 だが、ニックは何も反応しない。
「……ッ」
 顔を顰めて、フゥマは甲冑を足で脇に蹴り飛ばすと、腰を落として身構えた。
「悪いけど、相手してもらうぜ」
「いいけど。ボク、今日は手加減とかする気分じゃないから、そのつもりでね」
 微かに、「らしい」笑みを浮かべるフゥマ。
「へっ、上等だよ」
「フゥマさんっ!!」
 フゥマは、もうシェラの叫びを聞こうとしなかった。耳を塞ぐ代わりに頭を振って、強く床を蹴る。
「おらぁっ!!」
 跳びかかり様に突き出されたフゥマの拳から、するりと身を躱したリィナは、内から無造作に回し蹴りを放った。
「うがっ」
 まともに喰らって弾き飛ばされたフゥマの躰が床を打ち、俺達の近くまで滑ってくる。
 多分こいつ、最初からワザとやられるつもりだったな。
 それが分かっているのか、リィナは蹴り飛ばしたフゥマの方を見ようともしなかった。
237CC 24-21/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 05:37:14 ID:vdN/naGs0
「フゥマさんっ!?」
「来るなッ!!」
 床に伏して咳き込みながら、フゥマはシェラを拒絶した。
「来ないで……ください」
「……」
 俺の手に押さえされたシェラの肩から、徐々に力が抜けていく。
 力無く預けられた背中は、いつも以上に細く感じられた。
 今になって思い返せば。
 ここんトコ、お前、浮かない顔つきだったよな。
 イシスで別れたきりのフゥマのこと、やっぱり気になってたよな。
 なんで、もっと早く気付いてやれなかったんだろう。
 いや、気付いてた。
 ただ――きっと、浮かれてたんだ。
 最近の俺は、マグナのことばっかり考えて――もっとお前のことも、気にかけてやらなきゃいけなかったのに。
 ウェナモン邸で出くわしたルシエラの件も、後回しにしちまって、それきりだ。
 あげくに、こんな形で再会させちまって――
 お前だって、悩んでたよな。
 ごめんな――
 俺はシェラから視線を上げて、リィナを見る。
 あいつは、どうだった?
 最近のあいつは、何か変わったところはなかったか。
 分からない。
 ひとりでふらりと居なくなることが、以前に増して多かった気はするが、はっきりと思い出せない。どうせまた、いつもの稽古だろうとか思い込んで、あんまり気にしてなかったんだ。
 多分、それはそうなんだろうけど、表情は?
 どこか塞ぎこんだ風じゃなかったか。
 そんな気もするし、別に普段と変わらなかった気もする。
 分からない。
 ちゃんと、見てなかったからだ。
 リィナだって、何か悩みを抱えてるのは知ってたのに。
238CC 24-22/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 05:44:23 ID:vdN/naGs0
『あんまり、独りでアレコレなんとかできると思わない方がいいわよ』
 もしかして、お前が言ってたのは、こういう意味だったのかよ、スティア。
 こいつら三人、全員を等しく気にかけるなんてのは――確かに、ハナから無理だったのかも知れねぇよ。
 俺は、それが出来ると自惚れてたのか。
 その結果が、この体たらくで――
 だけどよ。
 気付いちまったら、意識しちまったら、無理でも放っておけねぇよ。
 とは言っても。今この場で気付いたところで――何が出来る?
 シェラにしてやれるのは、細い背中を支えることくらいで。
 リィナに至っては――
 見守る以外に、何も出来やしない。
 こいつらの――リィナとニックの間に、今は割り込める気がしない。
「フン。役立たずにも程があるな」
 最初から期待してなかったみたいな、大して失望した風でもない、ニックの口振りだった。
「貴様は、少しは役に立ってみせろ」
「ケッ。あんな小僧と、一緒にするなよ」
 もう一人の甲冑が、聞き覚えのある声を発した。
 こいつは――
 持ち上げられた兜の下から、目つきの鋭い男が現れる。
 俺の手を握るマグナの力が、少し強くなった。
 脱ぎ捨てた甲冑から大振りのナイフを両手に拾い上げ、小柄な男――イシスの武闘大会で、マグナと対戦したナイフ使い――キリクは、ギロリとマグナを睨みつけた。
「あっちの小娘には、俺も少々そそられていた。切り刻んでやるにやぶさかじゃないが……その後はお前だ、小娘」
「なによ。あんたなんかが、リィナに勝てるとでも思ってんの?」
 勝気に言い返すマグナを弄うように、キリクは薄ら笑いを浮かべる。
「ハッ。相変わらず口だけは達者なようで、結構だ」
 ナイフを軽く振り回す。
「お前のような小娘に、仕事の邪魔をされた俺が、どうなったか分かるか?」
「知らないわよ、そんなの」
 クク、と唇を歪めるキリク。
「信用を失うどころか、口封じに殺されかけてな。お陰で、こんなヤツらに身を寄せて、いいように使われる有様だ。まったく、やり切れんよ――」
 一転して殺意の篭った視線を、マグナに向ける。
「この代償は、お前の体であがなってもらうぞ。切り刻んでやるから、せいぜいイイ声でないてくれ」
239名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/05(土) 05:47:36 ID:JpsFwdMiO
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240CC 24-23/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 05:51:43 ID:vdN/naGs0
「どうでもいいから、早く来なよ」
 本当にどうでもよさそうに、リィナが言った。
 キリクは、眉を跳ね上げる。
「調子に乗るなよ、小娘。あんな小僧っ子を倒したくらいで――」
「いいから。後がつかえてるんだから、さっさとしなよ」
 キリクは、凶悪な笑みを浮かべた。
「よかろう。まずは、貴様だ」
 やっぱり、どうもリィナのテンションがおかしい。
 勝つには勝ったが、そりゃ俺のズルがあったからで、キリクの実力はマグナより数段上なんだぞ。
 ホントにお前、こいつすら眼中にねぇのかよ。
 お前に限って、それはねぇとは思うけどさ、ニックを意識するあまり、相手の実力を読み違えてねぇか?
 ひと声注意を促すべきか、悩む暇とてあればこそ――
「ひゃぁっ!」
 キリクが地を蹴った。
 やっぱ、速ぇ。
 逆手に握られた左右のナイフは、俺の目にとまらない。
 ギィン、と耳障りな金属音が響いた。
 ナイフを振り切ったキリクの両腕は、交差している。
 リィナの腕もまた、交差されていた。両手の指が二本づつ、立てられている。
 全然見えなかったが、迎え撃ったのか。
 キン、キン、と金属片が石造りの床を跳ねる音が聞こえた。
 動きを止めたキリクの目は、驚愕に見開かれていて――
 両手に握られたナイフからは。
 根元だけを残して。
 刃が、消え失せていた。
 呆然とするキリクの鼻っ面に。
 ゆっくりと顔を寄せて。
 リィナは、そっと囁く。
「お呼びじゃないよ」
 その顔に浮かんでいるのは、あるいは先刻のキリクの凶悪な笑みよりも、よほど背筋を寒くする微笑み――
「ッはぁっ!!」
 怯えたように、キリクはリィナから跳び離れた。
241CC 24-24/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 05:57:47 ID:vdN/naGs0
 荒い呼吸を繰り返し、震える己の手に、柄だけ残されたナイフに目を落とす。
「バ、バカな……そんな……こっ、こんな……っぐ」
 小柄な躰が、俺達とは逆方向に宙を飛び、遥か向こうの床に打ちつけられて、糸の切れた操り人形みたいに脱力して転がった。
「邪魔だ」
 無造作に剣を振り回したニックが、ぽつりと呟く。
「寸指か――」
 キリクのナイフを、リィナが折りとばした技の名前のようだった。
「易筋の業といい、珍妙な芸が得意のようだな」
「ふぅん――思ったより、優しいんだね」
 リィナの視線が、鞘に仕舞われたままの剣に注がれているのに気付いたニックは、軽く苦笑した。
「ああ、コレか。いちおう、アレは借り物なんでな。勝手に殺す訳にもいくまいよ」
 いや、おい、ちょっと待て。全然優しくないし。下手したらあいつ、死んでると思うんですが。
 鞘つきとはいえ、剣で思いっ切りぶん殴っといて、なに言ってんだ、お前ら。
 やっぱり――こいつらの世界に、入っていけねぇ。
 このままじゃ、ホントに見守るくらいしか出来ねぇよ。
 お互いに口振りこそ気楽な調子だが、両者の間の空気が、濃い。
 もちろん、比喩だが――そう表現したくなる、濃密な殺気のやり取り。
 こうして見てるだけで、息が苦しい気がして呼吸が浅く早くなる。
 それはシェラも――マグナですらも、同じだった。
「それで、合格かな?」
「まぁ、よかろう。少し、相手をしてやる」
 それまで自然体で立っていたリィナが、僅かに腰を落として構えを見せた。
 すらりと剣を抜き、鞘をその場に捨てて歩み寄るニック。
「この前みたいに、がっかりはさせないから」
「安心しろ。そこまで期待していない」
 痛いくらいに、マグナが俺の手を握っている。
 シェラも背中を預けながら、俺の服をぎゅっと命綱みたいに握り締めている。
 張り詰めた緊張感に口を利けず、ただ固唾を飲んで見守る俺達の眼前で――
 死闘が開始された。
242CC 24-25/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 06:07:50 ID:vdN/naGs0
 ニックの剣は、何も無い空間を薙いだ。
 斬り返して、再び空気を裂く。
 リィナは、はじめの位置から一歩も動かずに、ただ微かに、全身をびくりびくりと震わせた。
「どうした。間合いに入らんことには、話にならんぞ」
 右手一本で剣を振るって、ニックは淡々と口にした。
 おそらく、だが。
 リィナの踏み込みを察知したニックが、それを迎え撃って剣を横薙ぎに払い、踏み止まって躱したリィナがその隙に前に出ようとしたところを、またしてもニックの斬り返しに押し留められたのだ。
「……それもそうだね」
 落としていた腰を上げて、リィナがつるりと前に出る。
 鋭いというにはあまりに速い斬撃を――今度は、前に出ながら躱した。
 危ねぇ。見てらんねぇよ。
 だが、目を逸らす訳にもいかず、瞬きすら許されない。
 瞬時に刃が通り過ぎてから、幾分経ってようやく己が断たれたことに空気が気付くような凄まじい斬撃を、リィナはいくつも躱してみせた。
 片手の袈裟斬りを、半身で避けてそのまま踏み込む。
 リィナが、はじめて攻撃に転じた。
 狙いは握り。
 掌打が、剣を握ったニックの手の甲を打つ。
「フン」
 右手をこぼれた剣は、左手に持ち替えられていた。
 両手の間を移動した剣の速さは、それまでの斬り返しと大して変わらない。
 だが、体当たりをするみたいに、リィナの肩口が先にニックの鎧胸を打った。
 後ろに弾かれながら振られたニックの剣は、辛うじて空を切っていた。
 両者の距離が空いたのを確認して、知らない内に詰めていた息を、盛大に吐き出す。
 マグナとシェラも、示し合わせたみたいに息を吐いたのが耳に届いて、こんな時だが、なんだか少しおかしくなった――と同時に、胸の辺りに黒いイヤなモヤが立ち込める。
 その正体には、もう気付いていた。
 リィナの闘い方に、いつものノリが無い。
 ニックが纏った物騒な空気に引き摺られてるみたいに、余裕が無いというか、どこか窮屈そうに見える。
 そりゃ、ニックを相手に大技なんて繰り出せねぇだろうけどさ――普段のあいつらしい躍動感が無いっていうか。
 やっぱり、入れ込み過ぎなんじゃねぇのか、お前。
243CC 24-26/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 06:12:45 ID:vdN/naGs0
「なるほど。先刻口にした自信も、あながち強がりばかりではないか」
 何歩か後ろに退がっただけで、ダメージを受けた様子もなく、ニックは剣を両手で握った。
「悪かったな。もう少し、真面目にやってもよさそうだ」
「望むところだよ」
 ここからだ、とでも言うように、リィナは短く何度か呼気を発する。
 やっぱりニックはまだ、全然本気じゃなかったんだな。そりゃそうだよな。片手で剣を振り回してたんだもんよ。
 お前に助言なんて、何も出来ないけどさ――ホントに、大丈夫なのかよ、リィナ。
 不安ばかりを募らせる俺の視線の先で、ニックが突っかけた。
 斬撃が、さらに鋭さを増す。もう、呆れるしかない。
 リィナは、それでも凌いでいる。凌いではいるが――躱し切れてない。
 ひと薙ぎ毎に、道着のいずこかが裂かれていく。そして、反撃に移れない。
 リィナの反応を、ニックの斬撃が上回った。
 刹那の未来の光景を、俺の脳みそが描き出す。
 リィナの胴体が、真っ二つに泣き別れる映像を。
 カラカラに渇いた口内に、飲み下せる唾は無かった。
「フ――ッ」
「つまらん」
 未来が変わる。
 巻き戻った現実の中で、胴を二つに断つかと思われた斬撃を途中で止めて、ニックはリィナの腹を無造作に蹴飛ばした。
 背中から床に叩き付けられたリィナは、くるっと後ろに回転して、素早く身を起こす。
 ダメージは――それほどでもなさそうだ。
「何度も同じことをするな。興醒めだ」
「ちぇっ……やっぱりダメか」
 軽く咳き込みながら、リィナはひとりごちる。
 また推測になるが。
 おそらくリィナは、ニックの剣を腹で受けて弾こうとしたのだ。前回、俺を助けてベホイミをかけた直後のように。
 それを察したニックが、タイミングを外して腹を蹴り上げたというところだろう。
「所詮、この程度か。そろそろ死ぬか」
 その気になれば、いつでも殺せる。それをたまたま、今に決めた。
 そんな、ニックの口振りだった。
244CC 24-27/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 06:18:05 ID:vdN/naGs0
 訪れなかった未来の映像が、脳裏に焼き付いて離れない。
 駄目だ。
 このままじゃ、リィナが殺されちまう。
 それが分かってるのに――何もしないで、ぼんやり眺めてるままで、いいのかよ?
 いい訳ねぇだろっ!?
 ホントに、俺には見守るしか出来ねぇのか?
 なんか――なんか、できねぇのか?
 違う。
 もう、考えんな。
 こういう時は――思ったことを、そのまま口に出すしかないって、分かった筈だろ!?
「待ったっ!!」
 なんの考えも無いままに、大声を出せた。
 息を詰めて固まっていたマグナとシェラが、呪縛から開放されたように俺を振り返る。
 無視されるかと思ったが、ニックもちらりとこちらに視線をくれた。
「なんだ。今更、今生の別れでも告げたくなったか」
「そうだ」
 俺の即答が虚を突いたのか、ニックは少し面白そうな顔をした。
 皮肉のつもりで言ったんだろうが、渡りに船だ。渡し賃が六文ってのはご免だが、気まぐれだろうがなんだろうが、これに縋らない手はねぇよ。
「だから、ちょっとだけ時間をくれよ」
「……好きにしろ」
 顔つきで予想できたが、ニックは短くそういらえた。
 どうするの?と期待と不安がない混ぜになった視線を、マグナとシェラが向けてくる。
 俺も、何も考えてねぇよ。
 考えてねぇけどさ――
「ヒドいな、ヴァイスくん。ボクが負けるって思ってるの?」
 冗談めかしたリィナの台詞は、無理をして聞こえた。
「ああ、思ってるよ」
 ぶっきらぼうな俺のいらえに、マグナとシェラが息を呑む。
「らしくねぇ……」
「え?」
「なんか、らしくねぇよ。今のお前はさ。なに窮屈そうに戦ってやがんだよ」
245CC 24-28/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 06:22:41 ID:vdN/naGs0
「そんな風に……見えるの?」
「ああ。お前、このままじゃ殺されるぞ。俺にすら分かるんだ、お前だって、分かってんだろ?」
「……」
「悪いけど、今の余裕ねぇお前にゃ任せらんねぇよ。お前がどう言おうと……」
 喋っている内に、腹が決まった。
「今のままなら、俺は横からちょっかい出すぜ」
「ダメ。手を出したら、先に殺されちゃうよ」
 固い声音が、拒否をする。
 くそ、勝手に独りで覚悟を決めてやがって。
 いっつもそうだ。
 俺達にはなんも相談しねぇで、お前はいっつも独りでなんでも勝手に呑み込んでやがるんだ。
 独りで、勝手に――そうか。
 なんの理由があるのか知らねぇが、勝手に自己完結して、飄々とした態度の裏に隠した本心を表に現さない。
 お前は――ある意味、俺に似てるんだ。
 だからこそ――させねぇよ。
 自己完結なんて、させてやるかよ。
 今の、この俺の目の前で。
「殺されたって、構わねぇよ。このままアホ面下げて、お前が殺されるトコを、指咥えて眺めてるよりゃ百倍マシだ」
 シェラも同意するように、決死の表情を浮かべて顎を引いた。
 マグナもだ。腰の剣に手をかける。
 リィナは――途方に暮れた顔をした。
「困ったな……ホントに、一瞬で殺されちゃうよ?」
「いいわ。リィナを見捨てるより、ずっとマシよ」
 こちらも腹を据えた口振りのマグナを、リィナはひどく複雑な表情で眺めた。
「ダメなんだよ……マグナを――キミ達を殺させる訳にはいかないんだよ」
 だから、なんでだよ!?
 なんで、この期に及んで、そんな奥歯にモノが詰まったみてぇな言い方なんだ。
 ホントは、お前も言っちまいたいんだろ?
 隠してること全部、俺達にぶちまけて、すっきりしちまいたいんだろ?
 だったら――
「なぁ――俺達は、そんなに頼りにならねぇのか?」
 リィナの表情は、困惑を深めたように見えた。
246CC 24-29/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 06:41:30 ID:vdN/naGs0
「お前が何を隠してようと、それを知って俺達の間柄が、今さらどうにかなると思ってんのか?」
 リィナは下唇を噛みかけて、やっぱり止めて、代わりに息を詰めた。
「言っちまえよ。言ってくれよ。それでお前が、少しでも軽くなれるんならさ――」
 リィナの動きが固いのは、一度は敗北したニックに対する気負いが過ぎるせいだろう。そうなんだろうが、それだけじゃない。それとは別に、俺達への負い目が重しになってるんじゃないか。
 急に浮かんだ想像は、瞬間的に俺の裡で確信に変わる。
 長々と話し込んでる場合じゃないのは、分かってる。
 けど、そんな重石を背負いながら、あいつとやり合うなんて、それこそ自殺行為じゃねぇのかよ?
「……」
 リィナの呟きは、聞き取れないほど小さかった。
「なんだって?」
「――いつか、ヴァイスくん、前にも聞いたよね?ボクに」
 リィナは直截答えずに、俺に聞き返した。
「え?なにを――」
「自分は頼りにならないのか、みたいなこと」
「え――あ、あぁ」
 ノアニールの宿屋の二階――
 オルテガが泊まっていたという部屋で――
 中から鍵をかけて――
 多分、隠れて泣いていた――
 あの時も、俺はこいつにヘンに感情移入しちまって――
 横にいるマグナが、少しだけ気になった。
「ヴァイスくんは、信じてなかったみたいだけど……ボクは、頼りにしてるって答えたよ?」
「ああ――そうだったな」
「ヴァイスくんは?」
「へ?」
「ヴァイスくんは、どうなの?」
 だから、なにが。
「ボクのこと……信じてくれないのかな」
 こいつ――
 そう来やがったか。
247CC 24-30/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 06:47:22 ID:vdN/naGs0
「他の事は、もういいよ……」
 いや、他の事ってなんだ。
「ただ……信じてくれれば、それだけで充分だから……」
 やけにしおらしく。
 俯き加減で、そんなことを言うのだった。
 多分、俺は慌てた表情を浮かべたに違いない。
 横目でそれを確認したリィナは、堪えきれなくなったみたいに相好を崩して――
「ね、信じてくれないの?」
 いつも俺をからかう時の、にへらとした笑みを浮かべた。
 あ――いつもの、表情。
 こいつ――
「ああ」
 呼吸が、楽になった。
「信じてるよ。もちろんだろ」
「ありがと」
 にっこり、惚れちまいそうないい笑顔。
 重く張り詰めていた空気が霧散する。
 いつものノリを、取り戻していた。
 分かったよ――信じてるからな。
「私も――私も信じてますから、リィナさん!」
 シェラの声にも、生気が蘇る。
「うん、ありがと、シェラちゃん。だいじょぶ。ボク、もう負けないから」
 力強く頷いてみせるリィナ。
「あたしは、最初から何も心配してないから」
 自分もここに居るのだと主張するみたいに、マグナが口を挟んだ。
「うん、ありがと。ボク、マグナに会えて良かったよ」
 唐突な言葉に、再び息が詰まりかける。
「えっ――ちょっと、こんな時に、ヘンなこと言わないでよ!!」
 ホントだぜ。
 まるで、そんな――これが最期みたいな。
 別れの言葉みたいな台詞。
 また不安になっちまうだろうが。
248CC 24-31/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 06:55:20 ID:vdN/naGs0
「あ、ごめん。別に、ヘンな意味じゃないんだけどな。なんか今、急に言いたくなったんだよ」
 あはは、と笑う。
 その仕草に、さっきまでみたいな入れ込んだ様子は窺えない。
 やれやれ。あんま心配させんなよな。
「……とにかく、さっさと片付けちゃいなさい。負けたりしたら、承知しないんだから」
「はいよ〜。うん。勝つから、まぁ見ててよ」
 ぐねぐねとあちこちの間接を回してほぐしながら、気楽に請け負う。
 うん、いつものあいつっぽい。
「ごめんね、待たせちゃって」
「構わん。退屈には違いないが、破落戸共の戯言を聞いているよりは、幾分マシだった」
 こちらも首に手を当てて、のんびりと揉みながら応じるニック。
「この俺とやるつもりなら、つまらん心残りは全て捨てて来い。妙な具合に入れ込まれても困るんでな、わざわざあの女に手を出させないでやったのが無駄になる」
 あの女――タニアのことか。そういや、下呂助がそんなこと言ってやがったな。
「へぇ。ずいぶん気を遣わせちゃったんだね」
「貴様の為じゃないがな。断わっておくが、貴様はギリギリだ。俺をほんの僅かでも愉しませる為に、貴様はその実力をひと欠けらでも減じることは許さん」
 物凄い手前勝手な言い草だが、こいつの場合は実力に裏付けられてのことだからな。
 信じてるけどよ――勝算はあるのかよ、リィナ?
「なに、心配するな。そいつらも、すぐに後から送ってやる。心置きなく来い」
「させないよ――」
 リィナは、腰の後ろに下げたフクロに手を伸ばした。
「出来れば使いたくなかったんだけど……ずいぶん、みんなを心配させちゃってるみたいだからね」
 取り出したのは、繊細な装飾の施された、不思議な輝きを放つ腕輪――『星降る腕輪』
「悪いけど、ズルさせてもらうよ」
 リィナはひょいと腕輪を放り上げると、ぱしっと受け止めて腕に嵌めた。
 そういや、そんなのがあったっけか――
 リィナの話では、身につけると本当に動きが倍くらい速くなるらしい。しかも、ピオリムの呪文とは違って、短時間で効果が切れることもない。
 普段の戦闘では、「いきなり動きだけ速くなっても、バランスが崩れちゃうし、もうちょっと慣れてからね」とか言って使ってなかったクセに、案の定、隠れて稽古してやがったな。
 だが、これなら――
249名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/05(土) 06:58:16 ID:JpsFwdMiO
もひとつ支援
250CC 24-32/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 07:02:15 ID:vdN/naGs0
「いける……いけますよね、リィナさん!?」
 シェラの声に、期待が滲む。
「ええ、大丈夫よ。最初から、そう言ってるじゃない」
 マグナの声にも、安堵が混じっていた。
 確かに、これなら、ニックの動きを上回れるかも知れない。勝算が出てきやがった。ホントに、あいつは、いつもよ――
「フン。なんの道具か知らんが、なんでも使うがいい。それで、多少なりともマシになると言うのならな」
「うん、ちょっとびっくりすると思うよ。まぁ、見てなよ」
 軽く飛び跳ねたり、素早く体を振って感触を確かめるリィナ。
 その動きから、気負いは失せている。
「お待たせ。そいじゃ、いくよ?」
「さっさと来い」
 だらり、と剣を下げたまま挑発するニック。
 そのニックの懐に、ふらり、と入り込むリィナ。
 そこから先が、強烈だった。
 さっきまでなら、確実に懐に入る前に押し留めていたニックの斬撃が、リィナに追いつかない。
 瞬間移動したような速さで、横に回り込む。
「なん――っ」
 体を入れ替えるも間に合わず、ニックは死角から襲い掛かったリィナの回し蹴りを、まともに側頭部に喰らった。
 ようにしか見えなかったが、寸前で体を捻って、微妙に外したらしい。
 足を踏ん張って堪える俯いた顔面に向かって、振り抜いた蹴り足が再び地を蹴って浮かび上がる。
「ちっ」
 剣を離した右腕でそれを受け止めたニックの後頭部に、一瞬遅れて逆の足が叩き込まれた。
 多分、ニックは何をされたか、理解できなかっただろう。離れて見てる俺でも、よく分からなかったくらいだ。
 ニックに防御させた返しの蹴りとほぼ同時に、逆の足でも踏み切ったリィナが、空中で横倒しの独楽みたいに回った勢いで、後頭部に蹴りを落としたのだ。
 リィナにとっても捨て身の攻撃だったらしく、両者はもつれ合って床に落ちる。
 先に立ち上がったリィナが頭を踏み抜くより早く、ニックも身を起こしていた。
「いいぞ――」
 下から斬り上げられた剣は、空を裂く。
 斬り返しが、これまでよりも、またさらに速くなる。
 だが、それすらも上回って――目が追いつかない。
 ニックの正面に居た筈のリィナは、背後に回り込んでいた。
 残像が見えてもおかしくない程のスピード――
251CC 24-33/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 07:08:19 ID:vdN/naGs0
「フンッ」
 ドン。
 という地響きと共に、ニックが背中合わせのリィナに弾き飛ばされる。
 前方に飛ばされながら、ニックは躰を捻って剣を振り回した。
 空を薙ぐ。
 身を低くして疾り寄り、リィナは追い討ちをかける。
 下から伸び上がるように突き出された拳は、剣を振り回した勢いを利用して、わざと体勢を崩したニックのわき腹を掠めて抜けた。
「ちっ」
 床に片手をついて、すぐに起き上がるニック。
 繰り出された恐るべき斬撃は、リィナに当たらない。
 これは――勝てる!?
 あっさりと懐に跳び込んだリィナの掌が、ニックの鳩尾の辺りに添えられた。
『フン――ッ!!』
『ハッ――!!』
 ズシン、という地鳴りと、二人の呼気が重なった。
 巨人の拳に殴り飛ばされたように、後方に弾け飛んだニックは、肩から落ちて力無く床を転がった。
 あいつがまともに倒れたところを見たのって、はじめてじゃねぇのか?
「……勝ったんじゃない?」
 マグナの呟きに頷きかけた俺は、二人が激突した位置に視線を戻して息を呑んだ。
 リィナが、居ねぇ。
 残っているのは、リィナが踏み抜いたと思しい、床に穿たれた足跡だけだ。
 さらに視線を横に滑らせて、ようやく束ね髪の道着姿を発見する。
 ニックより距離は短いが、リィナもまた弾き飛ばされていたのだ。
 既に立ち上がったリィナの表情は、緊張に強張っていた。
252CC 24-34/34 ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 07:15:48 ID:vdN/naGs0
「やっぱりなぁ……そうなんじゃないかなぁ、って思ってたんだよね」
 なに言ってんだ?
 何が、そうなんだ?
「起きなよ。大して、効いてないんでしょ?」
 リィナの言葉につられて、そちらを向くと――
 ニックが、むくりと上体を起こした。
 鎧が、べこりと陥没している。
 あれで、ホントに効いてねぇのかよ!?
「いい加減、本気でやって欲しいな」
 そんな事を、リィナが言いやがるのだ。
 ちょっと待てよ、オイ。
 まだ――本気じゃなかったって言うのかよ!?
「そうするか。あまり、気は進まんがな」
 立ち上がって、平気な顔をして鎧を外しながら、ニックがほざく。
「適当に剣を振り回しても捉えられんのでは、止むを得んか」
 鎧の下に着けられていたのは――
「あんた――剣士じゃなかったのかよっ!?」
 思わず、口をついた。
「いや。剣は、ほんの手慰みだ」
 何を言われているのか、意味がよく理解できなかった。
 俺の思考は、半分くらい停止する。
 なんだ、これ?
 え?
 なんなんだよ、その格好は――
 剣は手慰みって、あんた。
 どう考えても、そんなレベルじゃありませんでしたが。
「こっちでやると、相手がすぐに死ぬんでな。まぁ、普段は剣を振り回している方が、まだ多少は愉しめるといったところだ」
 鎧を脱ぎ捨てたニックが纏っていたのは――
 リィナのそれとよく似た、武闘家の道着だった。


253名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/05(土) 07:19:12 ID:GdoAMYfO0
しえん
254CC ◆GxR634B49A :2007/05/05(土) 07:34:05 ID:vdN/naGs0
支援ありがとですーノシ

ということで、第24話をお届けしました。
初の「意図的な」ヒキなので、なるべく早く次回をお届けしたいんですが。。。
とにかく、体調を戻さないと(^^ゞ
よりにもよって今回が、なんかずっと頭が重いような状態で悔しかったです。
もー訳分かんない状態でした><
次回は、もっとすっきりして書くぞー。

正直、最後の展開はほとんどの方に読まれてたと思いますが、
ええ、もちろんこうきますともw

あれ、なんかもっと書くことあった気がするけど、頭は重いし眠いしで、思い出せないや。
まぁいっかw
思い出したら、前スレの埋めにでも使います。

普段はなるべく短く、と思って書いてるんですが(これでも)、
この先数話は、すみませんが1話が長くなっても許してください><
最近、中盤から先も別の盛り上げ方ができそうな気がしてきました。
よろしければ、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。
255名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/05(土) 11:55:57 ID:OxRjtkG10
GWだからこそ引き篭もってた俺の勝ち
って思うくらいGJ!!
しーしー氏万歳!!
256名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/05(土) 20:05:37 ID:B+s00U1jO
つパテギアの根っこ


GJ!!殴り合いがあついなー。
ところで渡し賃は六文じゃなくて六銭だったような。
257名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/05(土) 23:00:57 ID:tJjf1XmgO
CCさん乙! リィナキタ――――――!
やっぱ戦闘シーンは燃えるわ
258CC ◆GxR634B49A :2007/05/07(月) 08:15:01 ID:5ydgZOux0
レスありがとうです〜ヽ(´∀`)ノ
お陰様で、体調も良くなりました。

って、あり?
なんだかここ最近では反応薄いとゆーことは。。。もしかして、不評でしたか><
うーん、まー引きで書いちゃってるので、次回もこのままいくしかない訳ですが。。。
それだけに、レスくださった方のありがたさが身に染みる訳でして、
楽しんでくださった方もいらっしゃるので、がんばりますよ!おー。
いまいち気勢が上がらないw
盛り上げるとか言っちゃったクセに、申し訳ないです><
う〜ん。。。これがダメだと、この先ちょっとキビしいなぁ。。。
う〜ん。。。

ちなみに渡し賃は六文銭(一文銭六つ)だと思うので、
まーいいかなー、と。
もちろん、小説内の世界に六文銭なんて無いんですがw
(似たような風習はあるかもですが)
表現を翻訳したということで、どうかひとつ(^^ゞ
259CC ◆GxR634B49A :2007/05/07(月) 08:28:21 ID:5ydgZOux0
あ、なんだかレスくださった方に失礼な書き方になっちゃいました><
>>255,256,257
改めましてありがとうございました<(_ _)>
戦闘シーンを楽しんでいただけるのは嬉しいです。
素早く体勢を立て直して、なるべく早く続きをお届けできるように頑張りますです。
260名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/07(月) 16:23:51 ID:x5sgRtqC0
CC氏、乙です!
カンダタを軽くあしらうマグナや、カンダタ子分の中の人、何より戦闘描写!
じっくり楽しませていただきましたよー。
wktkして見ながらも、連休挟んだりしたので、書き込めてない人も多いのかも。
次回の展開も激しく期待してますので、予定進路の進行で頑張ってください!
261名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/07(月) 21:44:58 ID:iq64fHFk0
CC氏乙です
リィナ派の俺にとって、すごく熱い話でした!
262名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/07(月) 21:45:56 ID:iq64fHFk0
sage忘れスマソ
263CC ◆GxR634B49A :2007/05/08(火) 09:08:39 ID:yg3sF5Yf0
レスありがとうございます〜ヽ(´∀`)ノ

>>260
そ、そうだよね!連休でみんな忙しかったんだよね!
と自分に言い聞かせて今日からまた頑張ります〜。
あれ、昨日は?w

>>261
次回はもっと熱くなるように頑張りますよ!

あ、前ズレ埋まったみたいですね。
よぅし、そいではいっちょやりますかー。
具合悪くなってる場合じゃないぞw>自分
264名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/08(火) 22:35:15 ID:pVYo/sWd0
アツい!!
バトル大好き!!
あとはもっとエロスを…番外でエロスをッ!!
265CC ◆GxR634B49A :2007/05/09(水) 00:34:20 ID:odVVqi1r0
もうちょい先で、エロス(?)も予定してますよ〜w
いや、エロスまで言っていいか分かりませんが、個人的にいい感じのシーンが。
あと、中盤から先は、エロス分がちょっと増えるかもなぁ、などと思ってみたり。
まだ分かんないけどw
266名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/09(水) 01:41:19 ID:YMJiDHgGO
俺の鷹の目はシェラのお色気シーンがあると読んだ。
267名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/09(水) 09:18:54 ID:N/+5heF/O
CC氏GJです!
毎度のことですが次の展開を期待させますなw


ところで見切り氏の次の更新はあるのだろうか……
それにYANA氏の神竜編もいまだに楽しみにしていたり……
268CC ◆GxR634B49A :2007/05/09(水) 10:14:57 ID:odVVqi1r0
確かに予定してないではありません。
いつとは言えないけど〜w
鷹の目をお持ちの方も、そうでない方も、ご期待ください。
って、ヘンな文章w
269名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/09(水) 15:11:24 ID:kI6ZwFlK0
いいか?ツンデレには二種類ある。良いツンデレと悪いツンデレだ。
以下で説明しよう。

良いツンデレ
最初は敵視に近くとも、打ち解けて、後々には二人の関係を周りに隠さないほどラブラブ。

悪いツンデレ
二人の関係がすでに強固なものになってるにも関わらず、二人きりでもつっけんどんで、
周りに人がいればさも敵対関係な様子を演じる。でも彼氏ラブ一筋。

∴ツンデレは、デレを表に出しましょう


ただし、悪いツンデレの続きに
一人になると主人公に素直になれないことを後悔して泣きじゃくる。
そんなシーンを主人公が目撃。
思い切って一度だけ素直になってみる。
翌日には元に戻ってるが、彼女には余裕が感じられる。
まで行けば良いツンデレ
270名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/09(水) 15:50:21 ID:Y4cZKlEF0
今日の15時過ぎからあちこちの板で貼られてるコピペだが、同一人物か?
271CC ◆GxR634B49A :2007/05/10(木) 01:23:29 ID:x2BppIo+0
うぃ〜、進んだ〜。ちかりたー限界じゃー
予告通り、そこそこ早く投下できるかも知れません
。。。できたらいいですねw
272名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/10(木) 04:58:06 ID:FJ6lVBhkO
つ【ファイトいっぱつ】
273名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/10(木) 13:33:21 ID:AvtjFgQT0
つ【うしろからいっぱつ】
274名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/10(木) 14:35:00 ID:uGf1Fu4n0
つ【くそみそでいっぱつ】
275名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/10(木) 16:15:51 ID:w/6FeZ5SO
エルフの飲み薬
276CC ◆GxR634B49A :2007/05/10(木) 19:32:24 ID:x2BppIo+0
なんかよく分かんないけど、気絶したり回復したりしますた。
現在、どちらかというと気絶中w
277CC ◆GxR634B49A :2007/05/11(金) 02:54:05 ID:vs/85luP0
いまんとこ来週頭くらいまでには投下できそうな感じかも分かんないけど保守
278名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/12(土) 11:12:55 ID:DFlQO1x60
CC氏乙です。

反応が薄い訳ではなくて
最近投下間隔が開いてきているので
チェックがおそくー(アッー
279CC ◆GxR634B49A :2007/05/12(土) 16:19:49 ID:T3+Ln9aL0
あー、そっかー。
本人的には、毎回一週間かかってない感じなんですが、
なんだかんだで間空いちゃってすみません><
次回は、いつもより少し早めに、あと2、3日で
投下できる予定なので、よろしくです〜ノシ
あー、でも一週間経っちゃってるのか。。。

なんか、ジオのまとめのIDで、ジオログとかいうのが利用できたので、
投下のお知らせにRSSが使えるなぁ、と試しに設定してみました。
RSS
ttp://geocities.yahoo.co.jp/gl/tunderedq3cc/rss
ジオログ本体
ttp://geocities.yahoo.co.jp/gl/tunderedq3cc
新しい話を投下したら、エントリ立ててお知らせする予定です。
需要があるか分かりませんが、スレチェックがままならない方は、
よろしければご利用くださいませ。
280CC ◆GxR634B49A :2007/05/13(日) 04:23:19 ID:Wdk3FnAd0
むぅ。。。なんかまた微熱が。。。ちゃんと教会で呪いを解くべきでした><
281名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/13(日) 16:20:02 ID:2TqjPWA4O
久々に来たアゲ。
やなちゃんは?完結しちゃった?
282CC ◆GxR634B49A :2007/05/14(月) 03:53:38 ID:C5mBw8ub0
>>281
年初に完結しましたよ〜。
続編で再臨予定?

ホントは、今くらいから投下予定だったんですが。。。無理でした。。。
なんかダルくて、ダメダメで、どうにもなりません。。。
ホントに、ダメダメだ。。。
すみませんが、もうちょっとお待ちください。。。
283名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/14(月) 06:44:21 ID:V4eEAuZAO
つ【くじけぬ心】
284名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/14(月) 17:23:16 ID:2MlSq3Dh0
つ【信じる心】
285名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/14(月) 17:35:29 ID:txopJTSnO
つ【諦めぬ心】
286CC ◆GxR634B49A :2007/05/14(月) 20:51:06 ID:C5mBw8ub0
うぅ。。。よりによってこのタイミングで、2回連続こんな調子とは。。。
そんな感じの心でなんとかしますよー。おー。
287YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/16(水) 00:06:44 ID:c62HAmm60
 序章『ADEPT』


 ――――――ヒュオン


 ――――――『奴』の放った双剣の挟撃が胴へと迫る。
 それは、これまでの打ち合いで見せた太刀筋とは明らかに違う、勝負を決め≠ノくる意思がありありと読み取れる一振りだった。
 …力と迅さを理想的なバランスで備えた体躯から繰り出される正確無比な斬撃は、
 その実俺の首や腸を断つことなど微塵も狙っていない。
 『奴』の剣は矢のように速くもなく、その膂力も俺よりやや強い程度。
 直撃をもらったところで、この光の鎧を砕くどころか傷一つつけるにすら至らない。
 だが。ソレが、俺の闘争本能に警告を発させた。

 あれを―――受けてはならない、と。

「…っ!」
 両腕の筋を撓らせ、剣と盾で迎撃に移る。
 この薄暗い回廊の冷たい大気を殊更に強調するかのように、青白い三日月を描き肉薄する切っ先目掛けて―――、
「――――――!?」
 寸前。俺の盾の先端が『奴』の右手の剣先に触れるか否かの刹那。
 『奴』の右腕が、俺の視界から消え失せた。
 …或いはそれは、目の錯覚だったのかもしれない。
 ほんの僅かの、ぶれ。起こったのはただそれだけで、見れば『奴』の右手は微塵も人としての形を損なってはいない。

 だが―――その、一瞬にも遠く及ばない逡巡は、『奴』が俺を仕留めるのに十分な時間だった。
288YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/16(水) 00:07:38 ID:c62HAmm60
「っっづ…!!」
 直後。剣での迎撃を掻い潜った『奴』の左手の剣が脇腹を襲う。
 信じられない衝撃に、言葉どおり、横殴りに吹き飛ばされる。
 ―――甲冑の上から、衝撃が内側の肉体…肋骨を軽く衝き抜け、肝臓、胃の向こう側まで劈く―――破壊力…!
「がはっ…!」
 飛びそうになる意識を、血反吐を撒き散らしながら繋ぎとめる。
 砂利地を転がりながら、そのままの勢いで立ち上がろうと反動をつけて体を起こし、



                  「――――――ゴドーッッ!!」



 視界の隅で叫ぶあいつの声が響き。




                   ――――――ドズンッ




 殆ど同時に、俺は『奴』に胸を蹴り倒され、地面に仰向けに叩き伏せられた。
289YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/16(水) 00:08:50 ID:c62HAmm60
「っライ―――!」
 かろうじて難を逃れた肺に鞭打ち、搾り出そうとした呪文を双剣で制される。
 刀身を大鋏の如く交差させ、切っ先は地に突き立て…あわや縫いとめられかけた俺の首は、宛ら断頭台にかけられた死罪人。
 許可なく口を動かせば、組まれた十文字は即座に真一文字に結ばれ、俺の首は鮮血で土を汚すだろう。

 ………完膚なきまでの、敗北。
 あいつの補助がないとはいえ、俺が一対一の、しかも白兵戦で負けるなんて。

「――――――意識。ありますよね?『ゴドーさん』」

 俺を踏みつけて見下ろす、年不相応に無邪気な野郎が笑顔で確認する。
「…おかげさんでな。手加減しやがったな、おまえ」
 俺が燻る敵意とともに応えてやると、『奴』はああ、と嬉しそうに眦を緩ませた。
「やっぱり、バレていました?―――ふふ、嬉しいなぁ…僕の想定通りだ」
 笑いながら、よくわからない独り言を漏らす。
 …纏う空気を弛緩させながらも、『奴』の双剣を握る手は一部の隙も見せない。
 さっきからアリスが俺を助ける機会を窺ってるが、こいつに限ってそんなヘマは絶対にないはずだ。
 直接打ち合えば嫌でも分かる。こいつの力量は―――桁違いだ。
290YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/16(水) 00:09:54 ID:c62HAmm60
「…答えろ」
「はい?」
「俺達をココに来させたのはおまえか。もしそうなら、何のためにこんなことをした?
 それに、何故俺たちのことを知っている?」
「ゴドーさん達を呼んだのは僕ではありませんし、誰かもお答えできません。
 そしてその方が何のために呼んだのかは、残念ですが知りません。
 三番目の質問は―――おそらく、今答えたとしても信じないでしょうね、お二方とも」
 圧倒的優位にありながら、俺が畳み掛ける質問に『奴』は一つ一つ丁寧に返答する。
 まぁ、その内容が全て黙秘の類であったことはこの際予想通りだが。
 その様には、敗者への情けも、弱者への蔑みもない。あるのは、そう―――。
「…なら。『おまえ』は、何故俺達と戦う」
 最後の問いに。『奴』はまるで生き別れた肉親を見つけたかのように嬉しそうに微笑み、答えた。



         「ゴドーさん。僕の望みは――――――貴方との、命を懸けた殺し合いです」



            …眼下の敗者に対し、この上もない敬意を込めて。

                      ・
                      ・
                      ・

              アリスワード 〜THE BOY HAD AMBITION〜
291※YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/16(水) 00:11:26 ID:c62HAmm60
そんな超不定期連載スタート。

久しぶりに来ました。久しぶりですので見切り氏とCC氏の続きにまだ手をつけてませんすいませんorz

うぃ、そんなこんなで色んな公言すっぽかして始まっちまいました神竜編。
2は早く書きたいけどっていうか2ネタも神竜編に盛り込みたかったよ畜生。
でもちょーっと思うとこあって筋を通すことにしました。

例のエロパロに関してはプロット組んでいざ執筆開始したら冒頭だけでも洒落にならないくらい長くなってしまい、
「ああ、こりゃ読んでる方もだるかろうなぁ」ということでリク主さんにはホンッッットに申し訳ないが、
この手元のプロットを上手く纏められるまで、とにかく書いて己を磨くことにしました。
…考えたキャラどもはかなり気に入ってるので、このプロットを活かしたいです、本音。

閑話休題。この神竜編『THE BOY HAD AMBITION』を読むにあたり、注意事項がいくつか。
@アリスワード本編を最後まで読んでから読み始めてください(解説含む)。
A作品のテーマは本編とは若干異なります。あと俺の趣味で厨二成分数割増し。
B変則進行にて、投下ペース・作風・人称・時間軸などがその都度変化するかもしれません。疑問が出たら支障ない範囲で答えます。
C続編じゃありません。ジャンプアニメの劇場版みたいな位置づけだと思ってくだせぇ。
D何が飛び出しても叩くのは俺だけにしてください。
Eっていうかこれドラクエの名を借りたカオス・クロニクルじゃね?

とにかくカオス(シナリオがって言うか形式が)なので、どうか脱落者が出ないことを願ってます。
292名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/16(水) 00:31:24 ID:y4BbzgK20
疲れて帰って覗いてみたら・・・
YANA氏キテルーーーーーー!!!!!
293CC ◆GxR634B49A :2007/05/16(水) 05:07:59 ID:Tz51smQG0
ありゃ、YANAさんキテター!
うん、よし、投下は間を空けて、明日か明後日くらいにしようw

>>291
お帰りなさいませ〜。
あのですね、最近投下間隔が空きがちなので、
>>279 みたいな感じで投下のお知らせとかしようかと思ってるんですが、
YANAさんの投下もお知らせしてよろしいでしょうか?
294名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/16(水) 06:50:05 ID:DHK/x4kI0
YANAさんキターーー!
295名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/16(水) 06:52:01 ID:aZpzKuiu0
YANAさん、待ってたよ〜!!!
CC氏、待ってるよ〜!!!
296名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/16(水) 19:56:55 ID:TEsX4cnu0
YANA氏とうとうキターーーーーーー!!
続きwktkしながらまってるよ
297CC ◆GxR634B49A :2007/05/17(木) 05:26:35 ID:VEAPt9Bk0
え〜と、どうしよう。。。
じゃあ、私は明日の明け方に投下しますね。
298名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 01:27:47 ID:GdWly+61O
神竜編キタ━━(゚∀゚)━━!!!!
不定期投下、楽しみにしております!

CC氏の投下も明日とかキタコレ!!
ラナルータ!ラナルータ!
299名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 02:25:08 ID:aomUcbo60
あああああ、待つべきか寝るべきか…、これが問題だ。
300CC ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 03:10:08 ID:Rk32z6vd0
そいじゃ、もうちょいしたら投下しますね〜。
例によって3時間はかかると思いますのでw
ぐっすり眠って起きてから読んだ方が楽だと思われ
301CC 25-1/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 03:46:47 ID:Rk32z6vd0
25. Extraordinary

「こっちでやるのは、久し振りだ」
 打ち捨てられた、いにしえの寺院の地下。
 石壁に囲まれた、ガランと殺風景な祭事場で。
 手を当てて首を鳴らしたり、左右の肩を揉みほぐしながら、ニックはのんびりと口にした。
 俺は、まだ。
 状況をよく呑み込めていなかった。
「ど……どういうことなんですか、これ?」
 俺の心情を代弁するかのような、か細く震えるシェラの声。
「……実は武闘家だったって事でしょ、あの男が」
 スネてるみたいな、マグナの口振り。
 まるで、認めたくないみたいに。
「やめとけ……姐さん、死ぬぞ」
 リィナは当然、まだやるつもりだ。心身の準備を整えるように、軽く跳びはねるその姿を眺めながら、フゥマが言った。
 俺達から少し離れた床の上で、座り込んで親指を噛んでいる。
「お前……知ってたのか?」
 ニックの正体が、剣士じゃなくて武闘家だってことを。
 俺の問い掛けに、フゥマは一瞬こちらを向いて、すぐに視線を逸らした。
「話だけな……オレは、あそこまで行けなかった」
 フゥマじゃ、あのバケモンの化けの皮を剥がせなかったってことか。そうだろうな。こいつに二回ほど勝ってるリィナですら、『星降る腕輪』の力を借りて、ようやく引っ剥がせたんだ。
「大丈夫ですよね……リィナさんの方が、動きが早かったですよね?」
 縋るような、シェラの言葉。
 俺が内心で、必死に自分に言い聞かせている事と同じだった。
 元々、鎧には手を入れて軽くしてあったって話だし――剣や鎧を捨てても、あのスピードの差は覆らない。その筈だ。
 背丈だって俺とどっこいだし、変態カンダタみたいに筋肉隆々って訳でもない。つまり単純な力にしても、リィナを圧倒できるとは思えない。
 なのに、なんで――
 こんなに不安になるんだ。
「……大丈夫よ。リィナは、負けないわ」
 マグナが、さっきと同じ台詞を繰り返した。
 こいつも、自分に言い聞かせてるんだ。
 握られた手が痛い。
302CC 25-2/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 03:51:41 ID:Rk32z6vd0
「さて――」
 ゆっくりと、ニックがリィナに歩み寄る。
「すぐに死んでくれるなよ」
 本気で、そう思っている口振りだった。
「キミこそね。少しは、マシになるんだろうね?」
 俺は、驚いた。
 リィナ――お前まだ、そんな軽口叩けるのかよ。
 そうだよな、大丈夫なんだよな?
 こっちが拍子抜けしちまうくらい、あっさりぶっ飛ばせるんだよな?
 いつもみたいに――
 数歩の間合いを置いて立ち止まり、ニックは苦笑いを浮かべた。
「先刻の有様では、言われても仕方あるまいな。せいぜい頑張らせてもらおう」
 いや、頑張らなくていいですから。
 ほどほどにして、とっとと倒されちゃってください。
「ヴァイス――痛い」
 マグナがそう言ったのに気付くまで、しばらくかかった。
 強く握られるに任せていた筈の俺の左手は、いつしかマグナの右手を力一杯握り締めていた。
「あ、悪ぃ――」
 慌てて力を緩める。
 気付くと、シェラの細い肩も力任せに掴んでいた。
「あ――ごめん。痛かったか?」
「いえ――」
 痛くなかった筈はないが、シェラは言葉みじかに答えて、小さく首を横に振った。
 目を戻すと、リィナは爪先立ちの体勢で、軽く体を揺すっていた。
 いつ、どんな仕掛けにも対応できるように、全身が強張るでなく、ほどよく緊張しているように見える。
 一方のニックは――なんというか、ひどく適当に、ぶらりとその場に立っていた。
 弛緩している――そう表現していいくらい、力みが抜けている。
「どうした。俺から仕掛けていいのか?」
 ニックの挑発に、リィナは動かなかった。
 あるいは――動けないのか。
 ここまでの戦闘で、リィナは手の内を知られちまってるが、正体を現したこの男の出方は、まだ分からない。いくらリィナでも、慎重になったところで無理はない――
303CC 25-3/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 03:57:48 ID:Rk32z6vd0
「フン。多少は、何か感じているか?」
 俺は、目をしばたたいた。
 ずっと、見てたのに。
 俺は、目を離しちゃいなかった。
 それなのに――
 ニックがいつ、リィナの懐に入ったのか。
 まったく分からなかった。
 スピードじゃない。
 動きが速くて見失った訳じゃない。
 むしろ、動き自体は緩慢だった。
 その証拠に、記憶の映像を頭の中で再生すれば、ニックがどう動いたのか、はっきりと思い出せる。
 だが、ニックの挙動が、あまりにも自然で何気なく――
 気付いた時には、リィナは慌てふためいて――ほとんど転げまろびつ、必死に距離を取っていた。
 リィナらしくない、その余裕の欠片も無い逃げ方を目の当たりにして、俺ははじめてニックの動きを認識できたのだ――バカな。
「はぁッ――はぁッ――」
 攻撃を喰らった訳でもないのに、リィナの息が異常に荒い。
 床についていた膝を、そろそろと用心深く上げる。
 クク、とニックの口元から、笑声が零れた。
「いや、すまん。よく反応してくれた」
 ニックが口にしたのは、感謝の言葉だった。
「直ぐに終わらせることもあるまいに、俺も少々気が昂ぶっていたようだ。なにしろ、久方振りなのでな」
「びっくりした……いきなりだよね」
 気を取り直すように頭を振って、リィナは肺の空気を残らず搾り出すように、長く息を吐いた。
「これは、感謝しないとなぁ……前に体験してなかったら、きっとボク死んでたよね、今の」
 ぽつぽつと物騒なことを口にしながら、ちらりとこちらを向いた視線の意図は、俺には汲み取れなかった。マグナを見たようにも思えたが。
「ほぅ?覚えがあるとでも――」
「……ぜったいなるいち」
 掠れたリィナの呟きは、半分うわ言のように耳に届いた。
 ニックの眉が、ぴくりと跳ね上がる。
「貴様――なるほど、ヤツか」
「あのさ、ヘンなこと聞いていい?」
 ようやくいつもの口調に戻って、リィナは言った。
304CC 25-4/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 04:02:50 ID:Rk32z6vd0
「ニックって、ホントの名前なの?」
「なんの話だ」
「うん、あのね、ホントの名前はさ……」
 リィナは、そろりと口にする。
「まさか、ニキルっていうんじゃないよね?」
 リィナが口にした名前は、どこかで聞き覚えたあったが、この時点では思い出せなかった。
「フン。貴様の素性には、見当がついている。俺の古い名を知っていても、おかしくはなかろうな」
 肯定と取れる返事を聞いて、目を見開くリィナ。
 なんだ?こいつら、知り合いなのか?
 いや、どっちかといえば、リィナが一方的に知ってるみたいだが。
「ホントにそうなの?――そりゃ知ってるよ。伝説だもん。生きてたんだ」
「そのようだな」
「他の人達は?」
「知らんな」
「戻らないの?」
「何処にだ?」
 よく分からないまま、進んでいくやり取り。
 何度か深呼吸をして、リィナは息を整えた。
「まぁ、いいや。どんな事情があって、こんな事してるのか知らないけどさ……伝説の二の打ち要らず――ニキルさんと闘えるなんて、光栄だよ」
 ニックは、薄く笑った。
「頼もしいな。俺と知って尚、闘えるつもりでいるのか」
「当然。ボクも、いつか――」
 リィナは小さく首を振って、ニックに微笑み返した。
「ううん、丁度いいや。今ここで――そこまで辿り付く」
 一瞬、呆気にとられたニックは、愉快そうに声に出して笑った。
「よかろう、少し付き合ってやる」
 それまでの自然体から、腰を落として構えを見せる。
「ほざいたからには、その兆しなりと見せてみろ」
 リィナは、ぺろりと親指を嘗めた。
 足を前後に開いて、ぐっと腰を落とす。
「余裕だね――」
 呟きだけその場に置いて、リィナはニックの懐に跳び込んでいた。
305CC 25-5/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 04:07:55 ID:Rk32z6vd0
 またしても、瞬間移動したようなスピード。
 リィナが放った拳を、ニックが腕を回しながら絡め取るようにして捌いたところまでは、辛うじて確認できた。
 その先は――目も意識も追いつかない。
 両者の攻防は、ひどく距離が近かった。
 リィナがくるくると、ニックの周りをへばりつくように回って――間断無く流れるその動きは、まるで躍っているようだ。
 圧倒的にリィナが攻め立てて、ニックはそれを受け流すだけでやっとに見えた。
 ほら見ろ。
 やっぱりスピードでは、リィナに軍配が上がるんじゃねぇか。
「信じらんねぇ……」
 呆然とした呟きは、フゥマのものだった。
「なんで……あんなに躱せんだ?」
「――?なにがだよ?」
 声をかけると、フゥマは攻防に目を向けたまま、口に手を当てて応じる。
「いや……姐さんが今やってんのは、すげぇ高度な攻め方なんだ。虚実はもちろん、なんてんだ――分かってても喰らっちまうっていうか、こう来られたら躰が勝手にこう反応しちまう、ってのを逆手に取った、見えてるからこそ喰らっちまう攻め方っていうか……」
 よく分かんねぇけど、反射運動を利用した攻撃ってことらしい。
「オレ様でも、初手から完璧に外す自信はねぇよ。それを、ああまで……くそっ、バケモンがっ」
 フゥマは、ぎりっと奥歯を噛み締めた。
 けど、そうは言っても、リィナの優勢にゃ変わりねぇだろ。
 今だって、ほら、惜しいのが立て続けにニ、三コ続いて――当たりそうだ――もうちょい――
 いきなり、リィナが吹っ飛んだ。
 リィナの攻撃は、俺には一瞬でも途切れたように見えなかった。
 仕掛けの動作が、次の動作に繋がっていて、そこに隙があるようには思えなかった。
 だが、攻防の流れの中で、ひょいと適当に突き出されたニックの拳は、リィナの胸元を叩いていた。
 それだけで、リィナは五、六歩ほども離れた床に、突き刺さるようにして叩き付けられた。
「当たり前過ぎて、退屈だな。十手先まで読める」
 つまらなそうに、ニックが言った。
 床に伏したリィナが、ごぼりと血を吐いた。
 一瞬――気が遠くなった。
306名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 04:09:13 ID:FcLyq5XxO
試演
307CC 25-6/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 04:13:05 ID:Rk32z6vd0
 さっきまでも、不安は不安だったが。
 それは、リィナがあいつ「らしく」なかったからで。
 だって、前回負けたのだって、俺がヘマして足手まといになっちまったせいで――
 いつものノリを取り戻せば、なんとかなるんじゃないか。
 そう思ってた。
 でも、違う。
 こいつは――ヤバい。
 圧倒的だ。
 ケタが、違う。
「残らんように打ってやった。貴様は、下らん呪文が使えた筈だ。それを唱えて、さっさと立て」
「い……いや、だ」
 ぶるぶると震える腕を床について、リィナは起き上がろうとしていた。
「リィナ!!」
「リィナさん!!」
 喉の奥に詰まっていた不安の塊を吐き出すような、マグナとシェラの叫び声。
『ベホ――』
「駄目っ」
 シェラの呪文を、くぐもったリィナの声が制止した。
「お願い……手……出さないで……」
 リィナの口から、ぼたぼたと血が垂れている。
 目が、焦点を合わせる事を拒否した。
 耳鳴りがする。
「なんで――なんでですか……」
 涙混じりのシェラの声が、遠くに聞こえた。
「下らん意地だけは一人前だな」
 淡々としたニックの声が、わんわんと頭の中で反響する。
308CC 25-7/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 04:18:23 ID:Rk32z6vd0
「先刻の大口は、ただの法螺か。その様で、何をする気だ」
「やだ、な……ここ、からだよ」
 よろよろと、リィナが立ち上がった。
 ひゅーひゅーという、耳を塞ぎたくなる喘鳴。
 吐いた血が、胸元を染めている。
 ぶるぶると覚束ない足元――
 ニックの言う通りだ。
 お前、回復もしねぇで、そのザマで、どうする気なんだよ!?
「つまらん意地に付き合うつもりはない」
 必死に構えようとするリィナを無視して、ニックは俺達の方に向き直った。
「どいつか、殺すか」
 あ――
 俺は、後退るのを、辛うじて堪えた。
 いや、堪えたんじゃない。
 動けなかったんだ。
 全身の自由が奪われる。
 喉が凍りついたように、呼吸も出来ない。
 意識だけが、後ろに弾き飛ばされて、体から抜けちまったような感覚。
 ニックの殺気が、はじめて俺達に向けられていた。
 すげぇ。
 リィナ、お前、すげぇよ。
 こんなのまともに真正面から受けながら、闘ってたのかよ。
 いや、俺達に向けられてるのなんて、ニックにしてみりゃ、きっと漏れカスみたいなモンで――
 おそらく、この何倍もの殺気を受けながら、リィナはやり合ってたんだ。
 俺は――勘違いしてた。
 どんな強い相手だろうと、頭を捻って工夫したり、それでも足りなきゃ、経験を積んで力をつけりゃ、倒せなくはねぇだろう。
 そう思ってた。
 だって、実際そうだった。
 駆け出しの頃にゃ、手も足も出なかった魔物でも、それなりに経験を積む内に、ラクに倒せるようになったんだ。
 けど、そんなの――
 なんの根拠にもなってなかった。
309名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 04:19:49 ID:FcLyq5XxO
夜勤中支援
310CC 25-8/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 04:24:19 ID:Rk32z6vd0
 思い違いもいいところだ。
 この世には、本当に強いヤツってのが存在して――
 そいつの前では、俺はまるきり無力だった。
 どれだけ頭を捻ろうが、この先いくら修羅場を潜り抜けようが、まるで及ぶ気がしない。
 勝負にならない。
 真っ暗な虚空に投げ出されたみたいな、この絶望感――
 ふたつ、覚えがある。
 ひとつはエルフの森で、にやけ面がイオナズンを唱えられると気付いた時の、あの動悸。
 もうひとつは、イシスの王宮で黒マントの魔物を前にして覚えた――あの感覚と、同じだ。
 いや、あの時より、もっとずっと直接的で分かり易い、皮膚に突き刺さるような、はっきりとした実感を伴った恐怖。
 怖ぇ。
 こいつ、おっかねぇよ――
「させ……ない……」
 たどたどしいリィナの声が、俺を現実に引き戻す。
 ニックの殺気が逸れて、やっとのことで息をつく。
「なら、止めてみせろ」
 ひと息つけたのも、一瞬だった。
 またすぐに、ニックの殺気に金縛りにされる。
「その様で、出来るのならな」
 よせ。
 こっち来んな。
 来るんじゃねぇよ――
『ベホイミ』
 リィナの呪文が聞こえた。
 俺達とニックの間に立ちはだかるその動きは、やられる前の素早さを取り戻していた。
「フン。はじめから、素直にそうしていろ」
 ニックの殺気を、再びリィナが引き受けてくれて――情けないことに、俺は心底ほっとしちまった。
 体の調子がおかしい。
 呼吸はうまく出来ないし、全身が熱っぽいのに妙に寒気がして、力が入らなくて、その場に崩れ落ちそうになる。
 それまで自分の呼吸音しか捉えなかった耳に、ようやくマグナとシェラの息遣いが届いた。
 二人とも、俺に劣らず荒くて早い。
311CC 25-9/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 04:36:44 ID:Rk32z6vd0
「小器用なだけでは、愚にもつかんな」
 素っ気無い、ニックの口振りだった。
「付き合ってやる気が失せる。せめて全力で来い」
「……そうするよ」
 背中を向けているので表情は窺えないが、リィナのいらえはひどく悔しそうだった。
 捻りながら沈んだリィナの躰が、発条仕掛けみたいな勢いで、きりもみしながら跳ね上がる。
 空中で放った後ろ蹴りは、ひょいと首を傾げてニックに躱されたが、体の中心線を軸にして、ぐるんと回転しつつ逆の脚が襲いかかる。
 それも避けられたが、リィナの回転も止まらない。
 後ろに逃げた頭を追って、螺旋に回転した勢いで振り回された、最初の蹴り足が吸い込まれる。
 カスった。
 まともに当たっちゃいないが、頬を掠めた。
 たたらを踏むニック目掛けて、着地するなり跳び込むリィナ。
「フッ――!!」
「とと」
 リィナの拳は、ニックの腕に絡め取られて流された。
 その後は――当たらない。
 さっきのへばりつくような攻防よりも大振りだが、その分勢いを増した颶風のようなリィナの攻撃は、ことごとくニックに捌かれた。
「フン――大して変わらんな」
 ニックの拳が、リィナの脇腹に突き刺さった。
 弾けるようにきりもみして、床に叩きつけられるリィナ。
 ごぼっと、また血を吐いた。
 手加減はしてるんだろうが、死んだら死んだでそれまで。多分、その程度だ。
 力無く床に伏して痙攣するリィナを、ニックはなんの感慨も無い目で見下した。
「いつまで寝ている。さっさと呪文を唱えろ」
 無茶言うなよ。
 あいつ、意識はあるのか?
 ひでぇよ、死んじまうよ。
『ベホイミ』
 唱えたのは、シェラだった。
 ぴくり、と上体を起こしたリィナは、ぺっと口の中の血を吐き出して、シェラを見た。
312CC 25-10/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 04:41:59 ID:Rk32z6vd0
「シェラちゃん……」
「だって……だって……」
 しゃくり上げながら、シェラは言う。
「もう、見てられませんっ……」
「あはは……」
 一旦、俯いて頭を掻いたリィナは、立ち上がりながらニックに視線を戻すと、あはははは、と大声で笑った。乾いた声だった。
「スゴいね。もーホントびっくり。さすが、伝説の武闘家だね」
「なんだ。この程度で、もう観念したか」
「冗談でしょ。まだまだ、これからだよ」
 俺の感情は、呆れや感心を通り越す。
 虚勢だとしても――いまだに、そう口に出来るのがすげぇよ。
「言ったでしょ。ボクも『そこ』まで辿り付くって――」
「今のところ、法螺にしか聞こえんな」
 だが、ニックの返答はすげなかった。
「さて、どうしたものか――俺は人に物を教えるのが苦手でな。どうすれば貴様がマシになるのか、よく分からん」
 奇妙なことに、ニックは少し戸惑っているように見えた。
「なまじ、そこそこやれるだけに、その辺の魔物を相手にしたところで、最早貴様には大した意味はなかろうしな――ああ、そうだ」
 ニックは、何か思いついた顔をした。
「覚えておくがいい。そこらの魔物など下らんばかりだが――そうでないのも、中には居る。彼奴は『突然変異』とか言っていたか。姿形は大して変わらんが、中身は別物だ。そいつらは、存外愉しめる。貴様では死に兼ねんから、相手取るにはもってこいだろう」
 こいつが「愉しめる」なんて言う魔物かよ。
 絶対、出くわしたくねぇよ。
「ご親切に、どうも」
 リィナは、皮肉を口にした。
「そんなの教えてくれるってことは、やっぱりボクは、ここでは死なないんだね」
 虚を突かれたニックの表情は、すぐに苦笑に取って代わった。
「尤もだ。俺も、どうかしている――ここで死ぬ貴様には、縁の無い話だったな」
 やっぱり――ニックは口で言うより、リィナを気に入っている。
 それをなんとか、突破口に出来ないモンか。
 だってよ、見逃してもらう以外に、ここから全員無事に逃げられる気がしねぇよ。
313CC 25-11/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 04:47:26 ID:Rk32z6vd0
「まだ……まだ、やるんですか……」
 シェラが両手で顔を覆う。
「もう……イヤです……見てられません……」
「ダメよ。ちゃんと、見てなさい」
 固い、マグナの声だった。
 俺の手を握ってない方の手が、剣の柄にかけられている。
 いざとなったら、割り込む気か。
 そうだよな。あいつ独りを、先に死なせる訳にはいかねぇよな。
 だから、どんなに目を背けたくても、そうする訳にゃいかねぇんだ。
「あるいは逆か?背水の陣など反吐が出るが……いつでも回復出来るというのも、締まらない話ではあるな」
 ニックは、ゆっくりとシェラに視線を向けた。
「僧侶には、魔法を封じる呪文があったな。それをあいつに唱えて、お前は死ね」
「ヒッ――」
 しゃっくりをするみたいに、シェラの息が止まる。
 後ろに倒れて俺に寄りかかった体は、棒みたいに固まっていた。
「ちょっと待ってよ!?相手はボク――」
「貴様は、少し黙っていろ」
「――っ!?」
 慌てて跳びかかったリィナの耳の辺りから顎にかけて、ニックの掌が撫でるように掠めた。
 くたり、とその場に崩れ落ちるリィナ。
「さて――さっさと呪文を唱えろ」
 ニックが、歩み寄ってくる。
 シェラは、空気を求めて口をぱくぱくと開閉するばかり。
 マグナも、剣に手をかけたまま動けない。
 いざとなったら、割って入る――固めかけた俺の覚悟は、霧散していた。
 何をしても無意味に思えて、何も出来ない。
 見逃してくれるかも――そんな甘い事を考えた自分が、無性におかしかった。
 そんな訳ねぇじゃねぇか。
 羽虫を潰すくらい気楽に、こいつは俺達を殺せるんだ。
 無理だ。
 さっきより、さらに深い絶望感。
 腰が抜けそうなのに、へたり込むことすら出来ない。
314名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 04:51:36 ID:wdwawcrVO
配達中支援
315CC 25-12/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 04:52:58 ID:Rk32z6vd0
「『スカラ』だ!!さっさとしろッ!!」
 俺達の前に立ちはだかった人影は――フゥマだった。
「シェラさんは『ピオリム』を!!早く、オレにかけて!!」
 絶叫に近い大声で、辛うじて体の自由を取り戻す。
「あ、ああ――」
「さっさとしろ!!死にてぇのかッ!!」
 焦りまくったその声に、急かされるように――
『スカラ』
『ピオリム』
 俺とシェラは、呪文を唱えていた。
「よし――ま、気休めだけどさ、ねぇよりゃマシだろ」
 呪文の効果でスピードと耐久力が上がったとはいえ、自ら漏らした通り、あのバケモンに届くとは到底思えない。
 フゥマは振り返ってシェラを見て――何か言いた気な視線を、俺に移した。
 なんだ?
 これ以上、俺に何が出来るってんだよ?
「おらあッ!!」
 数歩の距離を一足飛びに跳んで、フゥマは拳を突き出した。
 パン、とやたら軽い音が響いた。
 フゥマの拳は、ニックの左手一本で、あっさり受け止められていた。
「フン、手の甲が砕けたか」
「離しやがれっ!!」
 拳を握られたままフゥマが放った回し蹴りは、ニックの逆の手に打ち落とされた。
「うがっ」
 脚が、ヘンな方向に曲がってる。
「愚かしくはあるが――なるほど、死に物狂いも、案外侮れんな」
 続けて、鳩尾のあたりに拳を打ち下ろされて、フゥマはぐしゃりと潰れるように床に沈んだ。
 ヤベェ、死んだんじゃねぇのか、あいつ。シェラはまだ、ホイミを唱えらんねぇぞ。
『ベホイミ』
 リィナが頭を振りながら、起き上がっていた。
316CC 25-13/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 05:00:00 ID:Rk32z6vd0
「フン。もう目を覚ましたか」
 ニックがリィナに顔を向ける。
 その隙に、くたばる寸前から回復したフゥマは、跳ね起きて距離を取った。
 また、振り返って俺を見る。
 なんだよ?
 何が言いてぇんだ?
「お礼は言うけどさ――フゥマくん、引っ込んでなよ」
「ヤなこった。シェラさんは――オレが、守る」
 告白するように、宣誓するように、フゥマはきっぱりと言い切った。
 おお――ちくしょう、手前ぇ、この野郎。
 なんか、カッコいいじゃねぇかよ。
「やれやれ。興が殺がれたな」
 ちょっと感動しちまった俺とは対照的に、ニックはなんら感銘を受けなかったようで、むしろ面倒臭そうに漏らした。
「もういい。次から、即死させるぞ」
 即死はヤバい。ホイミの意味が無くなっちまう。
「上等だよ――」
 三度、俺を振り返り――フゥマは、ニックに突っかけた。
 ちょっ――お前、無茶すんな。死ぬぞ。
 そんな、まるで時間稼ぎみたいな――
 時間を稼がれたところで、俺に何が出来るってんだよ!?
「うらぁッ!!」
 フゥマの拳を、今度は受けずにニックは避けた。
 急停止したフゥマが、無理矢理そのまま蹴りを放つ。
 また打ち落とされるかに見えた蹴りを強引に途中で止めて、フゥマは踏み込みながら拳を突き出した。
 その躰が、いきなり横に弾き飛ばされる。
 迎え撃ったニックの拳は、虚空を貫いた。
 フゥマに飛び蹴りを喰らわせたリィナが、前に突き出されたニックの右腕を空中でぱしっと掴むと、着地と同時に引き込みながら肘を出す。
「フ――ッ」
 ズシン、という地響きがして、ニックの躰は立ったまま、後ろに数歩ほど滑った。
「ちっ」
 舌打ちをして、リィナの肘を受けた左手を、ぷらぷらと振る。ダメージは、それだけだった。
 あんた、そっちの手の甲、砕けたんじゃなかったのかよ。
317CC 25-14/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 05:05:10 ID:Rk32z6vd0
「いってぇ〜……」
 リィナに蹴り飛ばされたフゥマが、ぼやきながら立ち上がる。
「感謝しなよ、フゥマくん。ボクが蹴らなきゃ、相打ちじゃなくて死んでたよ、キミ」
「……ッかってるよ」
 フゥマは、口をへの字に曲げた。
 つか、マジかよ。
 リィナとフゥマの二人がかりでも、死なねぇようにするのがやっとなのかよ。
 そんな相手に、俺が何を出来るって――
 俺の手を離したマグナが、抜刀しかけたのを目にして、気が動転した。
「バッ――お前まで、なにしようってんだ!?」
「なによ。あたしだって、居ないよりはマシでしょ!?これ以上、黙って見てらんないわよ」
 バカ、よせ――
 絶対、お前は死なせねぇからな――
 あ――
 唐突に、俺はフゥマの目配せの意味を理解した。
 リレミトだ。
 あの二人が、ニックを抑えてる間にリレミトを唱えれば。
 少なくとも、シェラと――マグナは、助けられる。
 どうせ俺には、そんくらいしか出来やしねぇんだ。
 出来ることがあっただけでも、御の字じゃねぇか――
 そうだ――
 助かる――
――って、ふざけんなっ!!
 心底ほっとしちまった自分を、ぶっ殺したくなる。
 やっぱり俺は、この程度だ。
 分かってるよ。
 ホントに強ぇ敵が出てきたら、ビビるばっかで、なんの役にも立ちゃしねぇんだ。
 そもそもマグナが、魔王を斃しに行こうなんて真面目な勇者様だったら、ハナからついて来ちゃいねぇよ。
 でもな――そんな俺でも、命の恩人を見捨てて逃げられるかよ!?
 前回リィナは、命懸けで、俺を助けてくれたんだ。
 無駄だろうが、なんだろうが。
 今度は俺が、なんかしてやるべきだろ!?
318CC 25-15/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 05:10:18 ID:Rk32z6vd0
 自分を勢いづけるつもりで、二、三度地団太を踏んだ。
 くそ、やってやろうじゃねぇか――
「まぁ、もうなんでも構わん」
 ニックの言葉の響きが、微妙に変わっていた。
「せいぜい抵抗してみせろ」
 そもそも、リィナに付き合っていたのが気まぐれで。
 それも面倒臭くなったみたいに――どうやら、俺達全員を殺すことに決めたらしかった。
「お前ら、離れてろ」
 俺は、マグナとシェラの肩を掴んで後ろに引いた。
「なに言ってんの!?」
「イヤです――」
「いいからっ!!」
 背中に叩き付けられた拒否の声を、俺は怒声でさらに拒否する。
「頼むよ」
 お前らが死ぬトコ、見たくねぇんだよ。
 マグナが勝手なことしない内に、早くしねぇと――
「リィナ!!」
 呼びかけると、リィナはするりと前に出た。
 さすがだよ、お前。
『メラミ』
 ぎりぎりまで火球を背後に隠し、リィナはニックの直前で素早く身を躱した。
 左右どっちに避けても、リィナの追い討ちが当たる筈だった。
 だが、ニックはメラミを避けようともしなかった。
 直撃だ――
 寸前、ニックが大きく息を吸い込んだのが、ちらりと目に入った。
『フッハァッ!!』
 ドシン、と床が揺れた。
 ニックの全身を包んだ火炎が、渦を巻いて立ち昇り――
 上昇して、掻き消えた。
 そんな、バカな――
 なんなんだ。
 なんなんだ、こいつは。
319名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 05:15:00 ID:FcLyq5XxO
320CC 25-16/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 05:15:11 ID:Rk32z6vd0
「うがっ――」
 メラミが直撃した隙を突いて飛び掛った筈のフゥマが、逆に弾き飛ばされる。
『ベホイミ』
 シェラのベホイミは、フゥマが床に叩きつけられるより早かった。
「ぐっ……」
 床に伏したまま、フゥマが蠢いた。起き上がれそうにないが、なんとか生きてる。
「フン。浅いか」
 僅かに道着に燃え移った炎を手で払いながら、何事も無かったようにニックが言った。
 その目が、俺を向く。
「下らんことを。俺に仕掛けるつもりなら――メラゾーマ、だったか。とにかく、もう少しマシな呪文を唱えられるようになってからにしろ」
 ちょっと睨まれただけで、息が詰まった。
 蛇に睨まれた蛙ってのは、こういうのを言うんだろうな。
 カッコつけてみたけど――やっぱ、なんも出来ねぇや。
 笑っちまうくらい、俺は無力だ。
 おお、手が震えてる――こりゃ、死んだろ。
 ああ、望むところだよ。まずは、俺から殺しやがれ。
 余計なことしないで、大人しくしててくれよ、リィナ。
 マグナも、前に出るんじゃねぇぞ。
 頼むから、俺を一番先に死なせてくれ。
 否応無く死を確信させられている所為か。
 幸い、死ぬのはあんまし怖かねぇ。
 怖いのは、お前らが死んじまうことだ。
 怖いのは――目の前の、この男だ。
 怖ぇ。
 こいつ、怖ぇよ。
「その辺にしておいて下さいよ、ニックさん」
 いつから、そこに居たのか。
 フードを被ったにやけた男が、扉の脇に立っていた。
321CC 25-17/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 05:21:38 ID:Rk32z6vd0
「彼らは、有望な若者なんですから」
 なんで、こいつがここに――
 これは、助かったのか?
 それとも――このにやけ面も、所詮はバケモンの一人だ。
 イオナズン一発で、この場の人間を全滅できる。
 生き残れるのは、同じバケモンのニックだけだろう。
 俺達は、さらに追い詰められたのか?
「貴様か」
 ニックの口振りは、にやけ面の事を知っている風だった。
「貴様の戯言など、聞く耳持たんな」
「そう言わずに、ここは私の顔に免じて、見逃してあげてくださいませんか」
 にやけ面は、ニックに向かって拝む仕草をしてみせた。
 呑気らしい言動に、場の空気が緩む。
 なんか知らんが――いいぞ。
「阿呆が。貴様の締まりの無い面に、何か価値があるのか?」
 だがニックは、そんなツレない事を言うのだった。
 頑張れ、にやけ面。
 もっと一生懸命頼んでくれ。
 お願いしますから。
「相変わらず、口の悪い人ですね。そう言わずに、お願いしますよ。彼らの中には、少々気になる方も居ますのでね。今ここで殺されてしまっては、私としても困るんですよ」
 俺達を見回しながら言ったので、にやけ面の言葉が誰を指しているのかは分からなかった。
「知らんな。俺には関係無い」
「またまた、よく仰る。先程から拝見させていただきましたが、貴方にもお気に入りがいらっしゃるようじゃありませんか」
「覗き見か。貴様こそ、下劣な趣味は変わらんな」
 ニックは、舌打ちをした。
「だが、聞けんな。アレは、ヤツの弟子だ。俺が気にしているように見えたなら、それが理由だろう」
「ヤツ?ああ――」
「そいつが、よりにもよって俺に大口を叩いたんだ。吐いた唾は飲み込めんだろうよ」
「ボクも、このまま終わらせるつもりはないよ」
 リィナが、二人の会話に割って入った。
 バカ、どうしてお前はいっつも、そういう余計な――
322CC 25-18/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 05:26:41 ID:Rk32z6vd0
「もう、やめてくださいっ!!」
 シェラが叫んだ。
「なんでですか!?もういいじゃないですか!?何回も死にかけて……もうイヤです、私、こんな……これ以上……」
 リィナは、答えなかった。
『リィナ――』
 俺とマグナの声は、見事に重なった。
 重なって、立ち消えた。
 次の言葉を思いつく前に――
「ごめん。このまま終わらせるくらいなら、死んだ方がマシ」
 リィナは俺達の方を向いて、きっぱりと言い放った。
 そこまで――なのかよ。
 そこまで、覚悟を決めちまってるのか。
 なんで――
 俺は言葉を失ったが、マグナは違っていた。
「ダメよ。死ぬ気なら、許さないわ」
 こちらも断固としたマグナの声音に、リィナは苦笑する。
「あ、ううん、今のは言葉のアヤっていうか……だいじょぶ、死ぬつもりは無いから」
「ホントなんでしょうね?」
「うん……お願い、これで最後だから――えっと、つまり……こんなわがまま、これで最後にするからさ」
 眉を潜めて口を開きかけたマグナに、リィナは慌てて言い繕うように続ける。
「だって、ボク、あの人に一発も入れてないんだよ?このまま、終われないよ」
 いや、一発も入れてないこたねぇだろ――マトモに入ったのは、ニックが鎧を脱ぐ前か――けどさ――
 ぱんぱん、と手を打ち鳴らす音で、思考が途切れた。
「では、こうしましょうか。もう一度、リィナさんとニックさんが立ち会って、見事リィナさんが一撃を加えられたら、ニックさんは彼らを見逃してあげて下さい。もし駄目なら――まぁ、その時は、なるようになっちゃいますか」
 にやけ面の提案に、ニックは顔を顰めた。
「貴様が口を出すな」
「いいじゃありませんか。貴方も、彼女には期待してるんでしょう?――そういうことで、どうでしょう?」
 にやけ面に振られて、マグナが俺とシェラを振り返る。
 正直、考えがまとまらなかった。
 なんとか隙を見つけて、リレミトで脱出した方がいい。そうは思うんだが。
323CC 25-19/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 05:31:46 ID:Rk32z6vd0
 リィナを見る。
 ああ――そうだった。
 確かに、分の悪い賭けだけどさ――
 信じてるって、言ったんだもんな。
 そうだな。
 今さら、嫌はねぇだろ。
 一発入れるくらい、あいつならなんとかしてくれる。
 思いの他あっさりと、俺は頷いていた。
 シェラは何かを言いたげに幾度も口を開きかけたが、仕舞いにはぎこちなく無言で頷いた。
「分かった。それでいいわ」
「結構です。私としては、リィナさん以外の方は、無条件で見逃してあげて欲しいんですが……」
「気が向いたらな」
 どうでもよさそうな、ニックの口調だった。
 リィナは、なにやら不服そうな顔つきをしていた。
「見逃してあげるっていうのが、気に入らないなぁ……ま、一撃で倒せばいいんだけど」
 ニックから距離を取りながら、リィナは親指をぺろりと嘗める。
「最初から、そのつもりだったし」
「貴様には、無理だな」
「無理かどうか、すぐ分かるよ」
『ベホイミ』
 呪文が聞こえてそちらを向くと、シェラがフゥマを抱え起こしていた。
 フゥマはそれほど回復してなさそうな苦しげな表情で、バツが悪そうにシェラから顔を背ける。
「どんだけ全力出しても、受け止めてくれるんでしょ?」
 さらにニックから離れながら、リィナが挑戦的に言った。
「逃げないでよね」
 くるっと振り返って、握り拳を掲げてみせる。
「今のボクの全部で、一瞬だけでも『そこ』まで駆け上がる」
「フン。やってみせろ」
 ニックは深く腰を落として、開いた左手を前に突き出し、右拳を後ろに引いた。
 二人の間合いは、エラく離れていた。いくらリィナでも、一足飛びに詰められる距離じゃない。
 ひょっとして、助走する為なのか?
 まさかお前、真っ正面から突っ込むつもりじゃねぇだろうな?
324CC 25-20/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 05:37:25 ID:Rk32z6vd0
「マジかよ……オレを蹴っ飛ばしときながら、自分は相打ち狙いなのかよ」
 フゥマの呟き。
 やっぱり、そうなのか!?
 避けないようにニックを挑発したのは、その為か。
 マグナと目が合った。
 止めるべきか――だが、間に合わない。
 ぴょんと軽く真上に跳んで、着地した瞬間、リィナは既に駆け出していた。
 その姿が掻き消えて見えたほど、異常に速い。『星降る腕輪』の効果だ。
 あのバカ、ホントに真っ正面から突っ込みやがった――
「阿呆が」
 ニックに躱すつもりが無い以上、真っ向からぶつかり合うしかない。
 確かにこれなら、相打ちには持ってけるかも知んねぇけどさ。
 一発入ったところで――お前が死んだら、意味ねぇんだぞ!?
「フン――ッ」
 数歩手前で踏み切って跳び込んだリィナの胸元に、ニックの拳が吸い込まれる。
 拳が触れた刹那――
『ベホイミ』
 リィナが、呪文を唱えていた。
 打撃の相殺をベホイミに任せ切り、身を躱す力すら惜しんで――
「ああ――っ!!」
 破壊と同時の回復――無茶苦茶だ。
 だが、リィナの拳も届いてる。
「あああああぁっ!!」
 躰ごと突っ込んだリィナの全力の拳が、ニックの胸板を打ち抜いた。
「むぅっ」
 拳を突き出した姿勢のまま、ニックは壁際まで床を滑った。
 リィナの躰が弾かれたみたいに後ろに回転して、頭から床に落ちる。
 わずかに遅れて、ニックもガクリと膝をついた。
 胸のど真ん中に、リィナの拳の跡がくっきりと残っている。
 ごふっ、と吐血した。
 俺がニックの方を見ていたのは、そこまでだった。
325名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 05:37:46 ID:wdwawcrVO
犬の糞踏んだorz
でも支援(`;ω;´)
326CC 25-21/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 05:43:00 ID:Rk32z6vd0
「おみごとです」
 短い拍手は、にやけ面が立っていた辺りから聞こえた。
「まさしく、死中に活の体現ですね」
「馬鹿を言え。およそ考え付く限り、最も愚かしいやり方だ」
 吐血に濁った声で、ニックが吐き捨てた。
「つくづく、素直じゃありませんねぇ、貴方も。ま、そういう処が、可愛げがあって私は好きなんですけどね」
「黙れ。気色悪い」
「ええ、黙りますとも。貴方が、約束を守ってくださるのなら、喜んで」
 ニックの舌打ちが聞こえた。
「俺は貴様のそういう処が、昔から気に食わん」
「おやおや、それは残念です――さて、カンダタさんの御守も辞められたようですし、一緒に来ていただけるんでしょうね?」
「……好きにしろ」
「立てますか?回復して差し上げましょうか?」
「要らん」
「おや、そうですか?もらったのは、正に会心の一撃とお見受けしますが、意地を張ると、いくら貴方でも死んじゃいますよ」
「巫山戯るな」
「おお、怖い。そんな目で睨まないで下さいよ。はいはい、分かりました。貴方のお陰で、私にも大分事情が飲み込めてきましたしね――それでは、皆さん。またいずれ、お会いしましょう」
 にやけ面が、リレミトを唱えたのが聞こえた。多分、誰もそっちを見てなかったと思う。
 恐る恐る側まで歩み寄って――とりあえず、安堵する。
 リィナは、生きていた。
 ごろりと仰向けに寝転がって。曲げた両腕で顔を覆って。
「また……負けた……」
 泣いていた。
「腕輪も……呪文も……使えるズル……ぜんぶ使ったのに……」
 しゃくりあげる。
「全然……届かない……」
 かける言葉が見つからないまま、俺とマグナは顔を見合わせた。
「ここしか……ボクには……これしか……ないのに……」
 悲痛な声が、心臓を鷲掴む。
 そんな――淋しいこと、言うなよ。
 だが、俺はこの時、リィナの涙の真意を理解していなかった。
 押し殺されていたリィナの嗚咽が、やがて石壁に囲まれた室内に大きく響いた。
327CC 25-22/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 05:51:22 ID:Rk32z6vd0
 前回と同様に、ニックの打撃はホイミだけじゃ回復しないらしく、リィナとフゥマは自分じゃ動けないような有様だったが、バハラタまではリレミトとルーラですぐに戻れた。
 こんな時だけお役に立てて、まったく嬉しい限りだね。
 こちらはホイミですっかり傷の癒えたグプタに、宿屋までフゥマを背負わせた。空腹で倒れそうになってたが、こんくらいさせても罰は当たらねぇだろう。
 俺はもちろん、リィナを背負った。
 このバカ、ホントに無茶しやがって。まぁ、前回と違って意識があるだけマシだったが、眠りに落ちる前に宣言した通り、一旦寝入ったらその後は丸一日ベッドから起きなかった。
 どっちかと言えば、フゥマの方が状態は深刻だった。バハラタに着いた時は、既に気を失っていて、再び目を覚ますまで三日を要した。
「フゥマくんは、内功の練りが甘いんだよ。ボクは前回やり合ってから、ずっと練り上げてたから――まぁ、役に立たなかったけど」
 リィナによれば、そういうことらしかった。俺には、よく分かんねぇけど。
 リィナとフゥマが療養している間に、俺とマグナは例の店にタニアとグプタを訪ねた。ちなみにシェラは、看病でフゥマにつきっきりだ。
 爺さんと近い将来の孫娘夫婦は、うんざりするほど感謝の言葉を繰り返したが、俺はほとんど何もしちゃいなかったので、正直、尻の座りが悪いだけだった。
 やっとこさで黒胡椒を貰い受けて、グプタに神殿について尋ねると、カンダタがアジトにしていた石窟寺院より、もっと北の山奥にあるらしいと返された。
 あの占い師の老婆が、この街に居ついた頃に聞いた話だそうだ。その頃は、今よりゃもうちょっとはマトモだったらしい。
 店を後にして、俺はマグナと二人で、その辺をぶらぶらしてみたんだが、なんだか気が抜けちまったみたいに、お互いあまり口を利かなかった。
「あたし……なんにも出来なかった」
 広場のベンチに並んで腰をおろし、しばらく無言の時が過ぎてから、マグナがぽつりとそんなことを口にした。
「俺もだよ」
 全く同感だったので、前置きが無くても、なんの事かはすぐに分かった。
 リィナとニックがやり合ってるのを眺めてただけで――ホントに、なんにも出来なかったな。
328CC 25-23/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 05:56:29 ID:Rk32z6vd0
 マグナが舞台と表現したように、役者でなかった俺達は、ハナから蚊帳の外だったんだろうけどさ。
 特にニックが正体を現してからは、俺は何も出来ないどころか、考えることすらままならなかった。
 オロオロするばっかで、舞台の流れについていけず、裏方らしく陰から支えることも出来なかったし、かといって観客の拍手みたいに後押しすることすら出来なかった。
 ひたすら部外者だったので、まるで思い通りにならない悪夢みたいに、実のところ思い返しても現実感に乏しい。
「なんにも言えなかった……これでいいのか、自分でも分かんなくて……納得できてないのに、判断もできなくて……でも、目の前の状況は、どんどん進んでくの……すごい、気持ち悪い」
 お前の性格だと、そういう感想になるのかな。
 マグナも無力感を覚えていたのは、よく分かった。
「あたしは……止めるべきだったのかな?あのコがなんて言っても、止めるべきだったと思う?」
 マグナに不安げな目を向けられて、俺は返答に窮した。
「……悪ぃ。俺にも、分かんねぇよ」
「あのね……あたしは止めたかったんだ。何度も止めようと思って、ヴァイスの魔法で逃げればいいやって……でも、止めちゃダメなんだって思う、あたしも居たの。どっちの自分が正しいのか、分かんなくて……」
 それはきっと、マグナにとって、これまであまり無かった経験なんだろう。だから、「気持ち悪い」んだ。
「……シェラが、羨ましかった」
 マグナは、目を伏せた。
「でも、こんなこと、リィナが生きてたから言えるんだよね……あのコが死んでたら、あたし……」
 小さい溜息。
「すごい、後悔してたと思う」
 後悔しかねない選択を自分がしていたことに、しかも主体的でなく客体的にしていたことに、おそらくマグナは戸惑っている。
 でも、リィナが死んでたら、俺達もあっさり殺されてた筈だから、後悔なんてしたくても出来なかったと思うぜ。
329CC 25-24/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 06:00:12 ID:Rk32z6vd0
「まぁ、なんにしてもさ――全員、生き残ったんだ。とりあえず、それでよしとしようぜ」
 状況に流されるなんてこた、俺にはよくあるこったからな。
 こちとら戸惑いなんて、まるきりありゃしねぇよ。
 なんて割り切った風を装ってみても、自分の言葉が空しく耳に届いた。
「うん、そうだよね……でも……それにしても……」
 何故か、マグナは笑った。
「おっかしいよね……」
 ひどく自嘲的な笑い方だった。
「こんなあたしに、なんで……あたしなんて……」
 結局、その先をマグナは口にしなかった。
 なんとなく察しがついて、俺も何も言わなかった。
 大丈夫だ。もうじき、お前には普通の暮らしを送らせてやるよ。出来れば、もうちょい暖かい内に、どっかに落ち着けるとよかったんだけどな。
 もう、すっかり冬だ。
 手を重ねると、マグナの手はひんやりとしていた。
 どちらともなく、暖め合うように指を絡める。
 ふと俺を見上げたマグナの瞳には、頼りなげな色がゆらめいていた。
330CC 25-25/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 06:07:42 ID:Rk32z6vd0
 なんとか動けるくらいまで回復すると、フゥマはすぐに俺達の元から立ち去った。
「今のオレじゃ、シェラさんを守れなかった。きっともっと強くなって、戻ってきます」
 だから、もうしばらくシェラさんを頼む。そう言い残したフゥマだったが、お前、勘違いすんじゃねぇぞ。別にシェラは、お前から預かってる訳じゃねぇんだからな。
 まぁ、あんなバケモンに出くわさない限り、腕っ節は充分だと思うけどね。悔しそうな顔してやがったから、我慢できねぇんだろうなぁ。
 でもな、強さってのはさ、腕っ節のことだけじゃないんだぜ。と、貧弱な俺なんかは思う訳ですが。バケモンを前にしてビビってるだけだった俺が言っても、説得力ねぇわな。ま、頑張れよ、少年。
 にやけ面やニックとの関係について、結局シェラはフゥマに問い質さなかったらしい。言い辛そうな素振りに、それ以上聞けなかったそうだ。
「自分から話してくれた時は、聞きますけど」
 そう言ったのは信頼の現れか、それとも、どんな事情があるにしろ「悪い人の仲間」には違いないと諦めた末の見限りか。シェラの微笑みからは、どちらとも読み取れなかった。
 己の不甲斐なさを噛み締めるようにして姿を消したフゥマとは対照的に、リィナは体が回復し切らない内から、やたら明るかった。
 連敗をくらって、てっきり落ち込んでるモンだと思ってたので、これはちょっと意外だった。
 ただ、最後に泣いてた事に触れようとすると、全力で誤魔化して照れ隠しをしたが。
 何日かバハラタに留まって疲れを癒してから、神殿を求めて旅立った後も、リィナは空元気に思えるほど、不自然に明るかった。
 実家に遊びに来た親戚のガキが、もうじき帰る間際の数日、懐いてた兄貴にやたらハイになってまとわりついていた事を、俺は何故か思い出していた。
 今の俺達は馬に乗っているので、森を回り込んで街道を東へ進む間は早かった。
 だが、残念ながら北へ向かう道は無く、森に分け入ってからはエラい難儀した。
 足元が均されてる訳じゃないし、木が密集してる中であんまり速度も出せねぇし、鬱蒼とした繁みに出くわせば、馬を下りて道を拓きつつ手綱を引かなきゃならねぇし、俄然足取りは重くなった。
331CC 25-26/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 06:12:30 ID:Rk32z6vd0
 先へ進むほど、山は高く険しくなった。
 ホントに、この先に神殿なんてあるのかよ。こんな山奥にあったんじゃ、誰もその存在を、ロクに知らねぇ訳だよな、全く。
 なんてことを思いながら、多分誰も通ったことが無いような道なき道を、じりじりと進む。
 この頃から、リィナの口数が少なくなった。
 どこか悄然としたその横顔は、やはり帰る前日の親戚のガキを、俺に思い起こさせた。
 そして、やがて――
 目を疑うような光景が、俺達の眼下に現れた。
 切り立った崖に端の方が融合してるから、どっかから石を運んで積み重ねた訳じゃなく、おそらく削り出したんだと思うが――
 よくもまぁ、こんな山奥で、これほど馬鹿デカいモンを削り出しやがったな。
 入り口のトコだけ外に出ていた、カンダタ共がアジトにしてやがった、あの石窟寺院とは比較にならない。
 分かり易く言えば、城が丸々岩から削り出されていた。いや、もちろん造りは異なるが、大きさで言えば、俺がこれまでに目にしてきた城と遜色が無い。
 岩山を削って出来たアホみたいに広い窪地に、ドカンとデカい神殿が建っていて、その周りを小さい建物が囲んで集落を形成していた。呆れたことに、畑や用水路なんかも備わっていて、窪みの中で世界が完結している。
 眼下に広がるその威容は、まるで要塞のようにも見えた。
332名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 06:16:54 ID:FcLyq5XxO
しえん
333CC 25-27/27 ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 06:18:12 ID:Rk32z6vd0
「すごい……」
 シェラは呟いたきり、言葉を失った。
「なによ、コレ……」
 呆れたような、マグナの口振り。
 深い自然の中に、突如として出現した壮大な人工の風景に、俺達はしばし圧倒された。
 いつもなら真っ先に感想を述べそうなリィナは、特に何も口にしなかった。
 勾配を削ったらしく、最初に俺達が森を抜けた辺りでは、神殿の建つ地面は遥か下の方に見えていたんだが、端の方まで行くと、窪みはかなり浅くなっていた。それでも、俺の身長の倍くらいはありそうだったが。
 俺達から見て一番遠くて浅い縁の部分に、左右を崖に囲まれたみたいな、外に続く細い道が見えた。そこが、唯一の出入り口のようだ。
 馬首を巡らせて窪みに沿って山を下り、その細い道に辿り付く直前のことだった。
「シェラちゃん、ちょっとお願い」
「あ、はい――」
 シェラに手綱を任せて、リィナがひょいと馬からとび降りた。
「みんな、ちょっと、そこで止まってくれるかな」
 俺達に言い置いて、トコトコと神殿の方に歩いて行く。
「どうしたの?」
 馬を止めたマグナの問いには答えずに、十歩ほども遠ざかった辺りで、下を向いたままこちらを振り向いた。
「えっと――」
 こりこりと頭を掻く。
 やがて、意を決した表情で顔を上げ、にこっと微笑んで両手を広げた。
「ようこそ――ボクのふるさとへ」
 ずっと探し求めていた、あるかどうかも分からなかった筈の神殿を前にして――
 リィナの笑顔は泣き笑いに近く、俺の目に映った。
 
 
 
334CC ◆GxR634B49A :2007/05/18(金) 06:27:22 ID:Rk32z6vd0
支援の方々、お仕事お疲れ様です〜ノシ

ということで、第25話をお届けしました。
今回は、思ったより長くなりませんでしたが(充分なげーよw)、
次回はかなり長くなるかもー。
あんまり長いようなら、分割も考えないとなぁ。
ちなみに、作中で使われてるのは妄想の超人ケンポーなので、
細かいことはあんまり気にしないようにしましょうw

こっから、書くのが面倒臭くなりそうなんですが、
クライマックスなので頑張ります><
リィナが。。。ちゃんと書いてあげなきゃなぁ。。。
ここを過ぎたら、今よりけれん味多めの展開になる予定なので、
よろしければ、引き続きお付き合いくださいませ。
335名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 07:02:16 ID:EC9I4GCrO
乙でしたー

シェラールスキーなのでダーマは期待大
336名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 14:14:02 ID:nOFuZc1KO
まとめは完全じゃないのか…
読みたいよう…だれか…
337名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 17:23:24 ID:XH9TpK5sO
馬の糞カワイソス
338名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 19:16:41 ID:nsNpbSItO
今読んだ!CCさん乙!!
なんか、ヴァイスとすごいシンクロした気がするよ
それだけ今回は引込まれた!
339名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 20:24:43 ID:qZsR2x/D0
CC氏乙です!
ニックが強すぎる!でも個人的に好きなキャラだw
『どいつか、殺すか』にゾクッときた・・・
340名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 22:40:45 ID:aomUcbo60
読みました。
ある意味ドラクエっぽくない展開ですが(?)相変わらず面白いです!
やっぱり臨場感があってすごいです!
341名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/18(金) 22:44:30 ID:Rkm/wm6g0
いつも乙です!
クライマックス、てのが中盤の盛り上がり所だと信じたい。
こんな良い作品、しばらく続いて欲しいっす。
ホントに楽しみに待ってるので、どうかご自分のペースで投下していってください!
342名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/19(土) 00:36:48 ID:RoOehMg+0
久々に開いたらcccは3話分もあったしyanaさんも復活してるし
もう宝の山状態だったぜ・・・乙!
343名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/19(土) 06:31:16 ID:FkyHyQaC0
>>342
♪はぁ〜、そ〜し〜て〜、ツンデ〜レ〜は〜、たか〜ら〜ぁの〜、こりゃ、や〜ま〜よ〜♪
344名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/19(土) 21:19:28 ID:6O37WSK+0
おっぱい!いっぱい!
GJです
345CC ◆GxR634B49A :2007/05/20(日) 03:00:51 ID:xD6EpU/z0
フンは、ホントにお気の毒様でした(^^ゞ

ということで、レスありがとうでした〜ノシ
臨場感とかシンクロを感じていただけた方がいて嬉しいです。
あと、地味なオヤジが敵ってのはアレだったかしら、と思わなくもなかったので、
ニックを気に入っていただけた方がいてよかったですw
私も結構好きなんですの。
でも、次はもうちょいハッタリのきくエロい敵とか出そうw

さー、この先、ますますドラクエっぽくない展開になっちゃうかもですが、
「それはねーよ」とならないように頑張ります。
ちなみに、クライマックスとゆーのは中盤のクライマックスという意味なので、
まだまだもうちょっとだけ続くんじゃ。
ってことは、こっから倍?
いやいや、四十話台には収まる筈。。。たぶん
346YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/20(日) 13:46:01 ID:CSZGWGnH0
 第一章『In the sky, calls calls a true name.』


 ――――――空を飛べたらいいのに、なんて、誰もが一度ならずも考える夢だろう。


 青く高い空往く鳥を見上げては、『ああ、彼らはあんなにも自由なのだ』と溜息を漏らす。
 時には地に落ち、雨に打たれながらも羽を休める姿を見かけても、それでも鳥は、『高きを往く者』は人々の憧れなのだ。
 例えこの先、何かの拍子に人間が空を飛ぶ方法を見つけたとしても、それは『手段』であって『能力』では有り得ないだろう。

 生き物が持てる力は限られている。
 人間はこの大地に生きる他のどんな生物も及ばない、『英知』を以って繁栄し。
 既にそれなしでは生活は成立せず。
 そしてそれこそが個としては大した力も持たない人間が誇るべき、唯一絶対の能力なのである。

 が。それを自覚するにせよしないにせよ。
 人間というのは知恵がある分やっぱり欲張りで。
 アレがほしいコレがほしいとないもの強請りをするのである。

 かくいう私も、蘇った不死鳥の背に乗ってこの世界を席巻しながら、たまに地上から空を見上げては鳥達を羨んだ。
 しかし――――――。



         「もう――――――何なのよこれ〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」



 そのバチがこれ、というのは、ちょっとばっかりいきすぎじゃないかしら神様…!?
347YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/20(日) 13:47:16 ID:CSZGWGnH0
「はぁ…やめやめ!現実逃避な難しい語りおしまいっ!!」
 あたしが呆然と立ち尽くす一面の草原。
 そして、大体アリアハンのお城一個分位の面積のそれを取り囲む、
 見渡す限りの真っ青な空・そら・ソラ。

 端的に云おう。この島とも呼べない岩の塊は、どう見てもこのどことも分からない大空にぷかぷか浮かんでいる。
 下は一面の雲海、地上の様子を確認することも出来ない。
 悪い冗談か、でなきゃ単なる夢、いや夢であってほしいわ本当。でも…、

「…っちょっとゴドー!いい加減起きなさいっ!!」

 これがもし夢であるのなら。
 立ち往生するあたしの背後、足元で仰向けになって未だ起き上がる気配のない相棒は、
 夢の中で寝るという理不尽な芸を披露していることになるわけで。

「―――うるせぇな。叫ばなくても、聞こえてるよ」

 ゴドーはとりあえず、口調だけ乱暴な、力強い返事をしてくれた。
 …よかった。内心、少し不安だった。
 頑丈で不死身なことが取り得の彼に限ってそんなことはないと言い聞かせつつも。
 あたしはどこかで、彼がこのまま自分だけを未知の土地に残してずっと目覚めないのではないか、と考えていた。
 さっきの激昂も、寧ろ寂しがる自分自身への叱咤の意味合いが強かったと思う。
「っもう。目が覚めてるならさっさと起きてよね。あたしたち、大変なことになってるのよ!?」
 手の平で顔を覆ったまま、ゴドーは短く唸って返すと、また無言になる。
 起き上がる気配はなさそうだ。…もしかして、どこか痛くて、やせ我慢でもしているのだろうか?
348YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/20(日) 13:48:18 ID:CSZGWGnH0
「ゴドー」
「アリス。俺達、何でこんなとこに来たか分かるか?」
 あたしの呼びかけと殆ど同時。淡々と、けれど強い言葉で問うゴドー。
 …うん。どうやら無用な心配だったみたい。
「わっかんないわよ。だから困ってるんじゃない」
 溜息と一緒に、分かりきった答えを返す。

 …記憶の糸を、順に手繰り寄せる。
 あたしたちはゾーマの支配する闇の大地・アレフガルドに訪れ、紆余曲折の旅の末、精霊神のルビス様を助け出した。
 そしてルビス様に言われるまま、ゾーマとの決戦の前に地上に戻り、竜の女王様のお城に、


 ―――――――――ズキン。


「………えっと。それから、どうしたんだっけ?」
 軽い頭痛と、眩暈が視界を揺さぶる。
 …思い出せたのは、そこまで。
 いつの間にか、あたしとゴドーは気を失い。
 目を覚ましたら、空の草原で漂流中だったというわけだ…って、そうだ。
「そういうあんたは、どうなの?何か、覚えてないの?」
 未だ寝転んだまま微動だにしない眼下のゴドーに、問い返す。と。

「――――――ス」
349YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/20(日) 13:50:24 ID:CSZGWGnH0
「…え?」
 何事か、聞き取れないくらいの声量で、耳慣れない言葉を呟いた。
「何?よく、聞こえなかったわ」
 あたしが首を傾げると、ゴドーは漸く顔を覆っていた手を除ける。
 …仰向けに空を見つめるその顔は、不機嫌そうだったけれど、何故かとても透き通っていて―――、
「…モルドム・ディアルティス」
「…?なにそれ」
 もう一度、ゴドーは答えを口にする。しかし、あたしにとってそれは、初めて耳にする言葉だった。
「…俺の本名。モルドム・ディアルティス・ゴドー」
 視線を頭上のあたしに移して、ゴドーは少しだけ、すまなそうに語気を弱めた。
「嫌いな名だったからな。…おまえには、教える機会を逃しちまった。悪かったな」
「――――――」
 『本名』と『嫌いな名』…二つの言葉をあたしの脳が理解し、彼の生い立ちが呼び覚まされる。
 確かに…彼の境遇を考えれば、それは可能な限り表に出したくないものだったのだろう。
「ん…いいわよ。で、それがどうかしたの?」
「呼ばれてたんだよ。気を失ってる間中、ずっと、この名前を。
 …それが変でな。俺はこの名前にいい思い出がねぇはずなのに。
 さっきの呼ばれてる時といい、この草原で目を覚ました時といい、何だか、こう…すごく、懐かしかった」
「…どういうこと?」
 懐かしかった、というわりに面白くなさそうに嘆息し、さあてな、なんて歯切れの悪い返事をするゴドー。
「だが、ま。いつまでもこうしててもはじまらねぇだろ。
 地上やアレフガルドも心配だし、帰り道はなさそうだし…とりあえず動いてみるとしようぜ」
 逆立った黒髪をバリバリと掻きながら、ゴドーは半身を起こし、立ち上がる。
 …って、ちょっと待ちなさいってば。
350YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/20(日) 13:51:15 ID:CSZGWGnH0
「動くって、当てはあるの?」
「そうだな。…俺がこっちの名前で呼ばれるなんて、間違いじゃ有り得ない。
 どうやって俺達をここに来させたかしらねぇが、多分、誰かが意図的にやったんだろう。…そいつを探す」
 少しだけ恨めしげに、ゴドーはどこともない中空を見つめる。
 ああ、これは、本能はともかく、こいつの理性が本名を呼ばれたことに腹を立ててるんだろうな、きっと。
「はいはい、わかったわよ。あたしも付き合うわ。
 …お誂え向きに、あっちに人が入れそうな洞窟が口あけて待ってたわよ。
 この草原から出るには、あそこ以外の道はないみたいね」
 どうせ止めても聞かないだろうし、あたしもいい加減ここで燻ってるのも飽きてきた。
 むん、と気合を入れて深呼吸、気分一新でいつもどおりにやるとしましょうか!
「…って待ちなさいよ、ゴドーっ!」
 なんて、あたしの心の準備もお構いなしなのか、はたまた遅れずついてくると信頼してくれているのか、
 さっさと先を歩いていくゴドーに文句をつけながら駆け寄る。
「はいっ、捕まえたっと」
「む…」
 剣を握っていないため宙ぶらりんのゴドーの右手を、両の手で掴む。
 彼は一瞬戸惑ったようだが、困ったように眉間に皺を寄せて、結局洞窟に入るまでそのままでいてくれた。

 ―――――――――その時握った彼の『右手』は。
 何故だか、以前よりもずっと、ずっと、温かくて。尊くて。優しくて。


 そして…とても大切に感じられた――――――。


 〜to be continue〜
351YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/20(日) 13:52:39 ID:CSZGWGnH0
 ※進行するシナリオを選んでください。安価>>352

ニア:ゴドー&アリス:『ハジメマシテ』
  二人が目を覚ますと、そこは空中に浮かぶ草原だった。
  たった一つだけ口をあけた洞窟を進む二人を待つものは…?

 :アレイ:『つんでれ≠チて何かしら』
  見知らぬ土地、見知らぬ人々。
  知らないものだらけの世界で目覚めても、人がいてモノがある限り、商人のやることは変わらない…!?

 :エデン&ライナー:『Loony and Warrior』
  血染めの肉塊が埋め尽くす大地で武人と狂人は対峙する。
  二人にとってこの見知らぬ世界は天国か地獄か、それとも…。
352名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/20(日) 13:58:48 ID:GY40ZDUxO
これは…
まさに今はFF6のモグを動かしてる状況か!

じゃあ、ロッ…じゃなかった、アレイで!
353YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/20(日) 22:09:40 ID:CSZGWGnH0
>>352
把握。っていうか連載当時も思ってたけどアレイ人気あるなw

あ、因みに「神竜編書くおー」って表明した時のこと忘れてる方もいると思うのでもう一度断っておきますね。
アリスワードの世界観は精霊ルビス伝説が根底にあるので、「神竜=神」ではありません。
また天界も神々の住まう世界、というわけでなくアリスワードオリジナルの設定が適用されていますので、どうかご了承下さい。

>>CC氏
どうもお久しぶりですw
俺にはそういった技術も場所もないので、謹んでお受けいたします。お世話になりますZEw
354CC ◆GxR634B49A :2007/05/21(月) 01:34:16 ID:0oGbIeL+0
>>353
あ、よかった。華麗にスルーされたらどうしたものやらと思いますたw
ということで、のっけときましたー。次回から、粛々とのっけときますね。
選択肢いいなぁ。
ウチの本編だと難しいから、横ネタでやってみたかったんですが、
そんな余裕もなく、しかも少々息切れ気味みたいな。
い、いや、頑張りますけど!w
355CC ◆GxR634B49A :2007/05/22(火) 07:06:26 ID:7ZtTYszK0
ほす
356名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/22(火) 07:53:14 ID:iNrxEcdEO
あれ、昨日もチェックしたはずなのに謎に見逃してた…

YANA氏GJ!!
劇場版と言いつつも本編とのつなぎがうまいっっ!!
さすがッ俺たt(ry

エデンのフェイズはまだかなぁ〜。wktk
357名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/23(水) 17:24:37 ID:BIEhAv2r0
やなちゃんのまとめ続きが読みたい件
358名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/24(木) 21:52:53 ID:G6Ra1ptJ0
hosu
359名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/25(金) 19:28:03 ID:WdXB8MkLO
保守
360CC ◆GxR634B49A :2007/05/26(土) 09:35:46 ID:LiNbzEH00
すみません、ちょっと忙しくてなかなか手をつけられません><
申し訳ないですが、もう少々お待ちを。。。

あと、ちょっと心配なので、見たことをYANAさんに伝えて去るw
361名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/27(日) 23:11:36 ID:J6HkIYlM0
お疲れ保守
362CC ◆GxR634B49A :2007/05/28(月) 19:36:25 ID:7LI5LD1s0
明日くらいから再開できそうかも頑張ります保守
363見切新入社員 米:2007/05/28(月) 23:46:48 ID:QkOWW4/G0
ttp://www.sanspo.com/sokuho/0528sokuho019.html
本気でショックを受けたのでやってきました。
好きだとかそういうのよりも、丁度多感な十代にぶち当たった人だったからもう何というか、ねぇ?


あー、因みに本編はホントに少しずつ書き進めています。
仕事が決まってから一気に時間を削られてなー、なかなかまとまった時間が取れなくて。
うん、一日36時間とか48時間とかそのくらいあれば良いんだけどなっ!

本当はキリの良いところまで書いてから生存報告かねて投下する予定だったんですが。
まぁ、そんなわけで生存報告だけしに来ましたー。って、そんなの期待してる人なんていないとか云わないっ!

>YANA氏
お久しぶりです。神竜編待ってましたよー。また楽しませていただきますね。

>CC氏
リィナ下さい(え
364YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 03:13:14 ID:Dto+eKL20
 第三章『つんでれ≠チて何かしら?』

 ツンデレっているだろ?
 かの有名なベ○ータを筆頭に、あらゆる作品に無数にいると聞く、いわゆるひとつのあのツンデレ。
 彼らは、どうしてツンデレって呼ばれてるんだと思う?
 その呼称は、俗に冒険者なんて言われている連中の「性格」とかとは訳が違う。
 ルイーダの酒場に自分の性格を「ツンデレ」で登録してるヤツなんていないし、何らかの認定方法が存在するという話も聞いたことがないから、多分、自称したところでどこからも文句は来ないんだろう。
 だが、そこらのアバズレや三下がツンデレを演じたところで、そいつ以外は誰もそうは見ないに違いない。
 思うに、普通に日常送るくらいじゃ体験できないでかい事件や、最悪の出会いの後に最高の一面を見た、なんかのきっかけでツンからデレに移行した人間が、自然に周りから「ツンデレ」と呼ばれるのではないだろうか。
 例えば、敵側から寝返ったりとか。
 そう、英雄譚を紐解くまでも無く、ツンデレと言えば寝返り。寝返りと言えばツンデレってくらい、切っても切れない専売特許。
 何故裏切るのかと問われれば、そこに主役がいるからだと答え、
 東に瀕死の主役があれば、行って「勘違いするな、お前を倒すのはこの俺or私だ!」と叫んで助け、
 西に戦意喪失した主役があれば憎まれ役を演じて奮い立たせる。 
 そういうモノになりたがるのがツンデレという人種ではなかろうか。

                       ・
                       ・
                       ・
365YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 03:15:46 ID:Dto+eKL20

「――――――というようなことがあってね?」
「いや知りませんよ、んなことのために1レス消費したんですかあんたは」
 彼が間借りしている簡素な集合住宅の一室。
 昨日仕入れた耳寄りなオハナシを、私がソファに寝転びながら聞いたとおりに彼に教えてあげれば、即座に鋭いツッコミが返ってきた。
 うんうん、相変わらずキレのいい反応ですこと。
「あら、つまらなかったかしら?私は結構、興味深いお話だと思うのだけれど」
「どこがですか。そんな記号じみた人格分析、視野を狭めるだけです」
 むーん、と口をへの字に曲げて、彼は手を止めて如何にも堅物っぽい物言いで反論してくる。
「くすくす。だーかーらー、早計は愚者への一本道って教えたでしょ?話は最後まで聞きなさいって、マコト」
「…?」
 面白くなさそうに顔を顰め、彼は荷造りを再開する。
 これは、続けていい、という彼なりの意思表示と受け取ることにする。
「話をしてくれた彼がいうにはね。この、つんでれ≠ェ流行っている世界では、
 『つんでれの定義とは?』っていう議論が日々繰り広げられてるんだって」
「…定義?どういうことです?さっきの説明がつんでれではないんですか?」
 再び、作業を止めてこちらを向き、顰め面で質問を返すマコト。
 …ふむふむ。彼ってば、興味のない話でも人の話を聞き流すっていうことは出来ない性分なのね。それに『ながら作業』も苦手、っと。
「それが、そもそもそれまでも当たり前にあった性質に、後からそれを言い表す言葉としてこの単語は出来たらしくてね。
 最初つんつんしてて何かをきっかけにでれでれになるのを指すのがつんでれだとか、
 好意を素直に表せずにつんつんしちゃう性格をつんでれというんだとか、
 その『つんでれ』っていう言葉が具体的に『何』を指すのかは個人によって認識が全然違うんだって」
「………………」
 あ、マコトってば呆れ顔。ま、真面目な彼にしてみれば馬鹿らしい話よね、うん。
366YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 03:17:32 ID:Dto+eKL20
「馬鹿馬鹿しい。話はそれで終わりですか?」
「ええ、そうよ」
「それのどこが、面白いんです?ただの物好き談義じゃないですか」
「そうでもないわよ。…うふふ、マコト、もっと物事の本質を考えなさいな」
 マコトは怪訝な顔でこちらを睨み返す。
 もう、そんなに怒ってばかりじゃ可愛い顔が台無しよ?
「ねぇ、マコト。言葉の意義って何だと思う?」
「言葉の意義、ですか。…ん、『人との会話の道具』、でしょうか」
「惜しい、八割正解。マコト流の言い方をするなら、厳密には『人との意思疎通の道具』ってところかしら」
「意思疎通?」
「そ。人は人との意思疎通のために会話を行うし、意思の疎通さえ出来ればその『言葉』の形態なんて問う必要ないのよ」
 マコトはふむ、と唇に指を当てて真剣に考え込む。
 ああ、ほら、そうやって一生懸命になってる顔とか、すっごく可愛いのに。本人に言ったら物凄く怒られるんでしょうけど、きっと。
 まぁ、それはそれとして。
「よく分からないって顔ね。
 じゃあね、ほら、『つーかーの仲』って、あるじゃない?『アレ』とか『ソレ』とかで会話を成立させちゃう人達。
 他の人にとっては意味の分からない代名詞でしかないけれど、その人達にとってはそれは立派な『言葉』なの。
 …言葉っていうのは、使う人間によって、その意味するところが変わってくるわけね」
「…ちょっと待って下さい。それは『言葉の形態』の話でしょう。
 それがどうして、さっきの『言葉の中身』の議論と繋がるんです?」
 わお、思ったとおりのところにツッコミが。うんうん、いい反応があると教え甲斐があって先生嬉しいわ。
 どこかの『つんでれ』勇者君に指南してた時を思い出すなー。
「そう、重要なのはそこね。…うん、じゃあマコト、逆に聞くけれど。
 貴方、自分が今使っている言葉。その定義や原義を全て正確にいえるかしら?」
「!………」
 私が切り返すと、マコトは面食らったように目を丸くし、再び黙り込んだ。
367YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 03:18:31 ID:Dto+eKL20
「ね?出来ないでしょう。私だって出来ないわ。けど、私達は意志の疎通が出来ている。
 言葉は意思疎通の道具。そして逆に通じさえすれば∴モ思疎通のための言葉に決まった形も、定義も必要ないの。
 …いい?言葉の『形』も『中身』も、その在り方は殆ど同じ。
 言葉はね、長い年月、人々の想念によってその意味形を練磨、或いは磨耗されて自然に浸透する。
 言葉の定義づけに関する議論なんて、時代がそのうちケリをつけてくれるものなのよ。
 けれど、それじゃあ納得できない人っていうのも、やっぱりいるのね」
「…成る程。確かに、時代の変遷とともに言葉の意味が変異するのは道理。
 にも拘らず、人はその定義に関して拘泥する、と。…業の深い話ですね」
 得心がいった、というようにマコトは満足そうに思考の整理を完了した。
 愛想はないけれど、話には興味を持ってくれたようだ。うん、よきかなよきかな。
「まぁ勿論、例の議論はその時代を導くために多少は必要な論争なんだけどねー。
 それに状況の違いや学問的な観点から明確な定義がほしいこともあるっていうのもわかるわ」
「ん…よく分かりました。ヒカリが面白いと思うのも、頷けます」
「?ううん?私が面白いと思ったのは、そこじゃないわ」
「は?」
 ありゃ。変な反応。
 あー、もしかして勘違いされちゃってたかな?
「ふふ。私が面白かったのはね、その彼のいた世界の人達。
 だって、素敵じゃない?世界は魔物の脅威に晒されていて、議論が必要なことはもっと山ほどあるでしょうに。
 そんな不必要なことの議論に時間を割ける人達がいるなんて、私、興味津々よ。…あ、勿論いい意味でね」
「…じゃあ、何ですか。あんたは、それだけ達観していながら、興味を持ったのはそんなことだったと」
「ええ」
「…っ俺に『言葉の意義』について説明したのは、自分が面白かったからじゃなくて」
「マコトはこっちの話のほうが喜びそうだと思ったから」
 怒り出しそうなので、頭に『堅物の』とつけるのはやめておく。
 けれど、マコトはさっきまでの納得顔をみるみる不機嫌そうな顰め面に変えてゆき、ぷいとそっぽを向いてしまった。
368YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 03:19:46 ID:Dto+eKL20
「………不愉快です」
 最後に一言だけ抗議して、彼は荷造りを再開した。
 ボケたり、謝ったりしてみるものの、どうやら完全にへそを曲げてしまったみたいで目もくれない。
 …うーん、やりすぎちゃったかな。誰でも、会って間もない人間に自分の内心や性質を見透かされるのはいい気分しないものね。
 彼みたいに若い子なら、尚更か。反省、反省。
「ふぁ…んぅ」
 …窓の外に臨むお空の太陽は、そろそろ天頂。
 生来、朝があまり強くない私の体は、まだ少し寝たりないらしい。
 まぁ、これでも商人に転職してからは、大分マシに自己管理できるようになったのだけれど。

「………」

 …さて。おふざけはこの位にして。
 そろそろ、真剣に自分の置かれた状況を整理してみることにしよう。

 私がいつの間にやらこの見知らぬ町の入り口に立っていたのが、ほんの一昨日。
 ルーラを唱えどキメラの翼を投げど効果は発動せず、外に歩いてゆこうと不思議と町から離れられない謎空間。
 そんなわけのわからない世界で途方にくれていたところに現れたのが、

                 「………(ムスッ」

 この、何だか昔の私を髣髴とさせるような、堅物少年というわけなのだ。

 幸い、この町はそれなりの規模を持っており、施設も充実していた。
 差し当たって『ここはそもそもどこなのか』という情報を得るために、私は最も人が集うであろう市場に向かったのだが。
 幸か不幸か(少なくとも私にとっては幸運だったと思う)、辿り着いたそこで真っ先に私の目に入ったのがこの彼だった。
369YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 03:21:03 ID:Dto+eKL20

 彼は年若いながら、人々の賑わう市場でよろず屋を営んでいたのだけれど、遠目にも分かるほどの過疎っぷり。
 もう、なんという閑古鳥!一目見ただけで経営難とわかってしまった!という感じ。
 そりゃ、こうも愛想がなければ人は寄り付かない。
 かつての私がそのまま商人になったような態度だもの、無理からぬものというところだ。
 見過ごすのも歯痒かったし、何より情報が欲しかった私は渡りに船、とばかりに彼に交渉したのだ。


        『――――――手伝ってあげましょうか?…但し、真っ二つよ(取り分が』
        『………………黙らっしゃい。何ですか、あんた』


 至極平静に、切り返されたけど。
******
 それがツボに入った私は彼を酷く気に入ってしまった。
 そうして困惑する彼を押し切り、その日一日、彼の代わりに商売し、店の品物を完売してあげたというわけだ。
 彼は大層驚いたようで、僅かだけど私に敬意を示し、名を名乗ってくれた…のだけど。
 ここで、最初の問題が浮き彫りになった。

『マコト。…俺の名前です』
『ふぅん。変わった名前なのね。私はアレイ』
『…何です?もう一度、お願いします』
『?ん、私の名前。アレイっていうの』
『………すいません。二つ名の方でお願いできますか』
『…???』

 『二つ名ってなぁに?』と返したところ。
 彼は『…あぁ。新入りの方ですか』と平坦に、特に驚いた風もなく、寧ろ納得したように頷いた。
370YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 03:22:27 ID:Dto+eKL20

 そうして彼は、お礼のつもりか右も左も分からない私に『ここ』のことを教えてくれたのだ。
 …それは、あまりに突拍子もない話だったけれど、この状況を納得するにはそれくらいの超常話でなければ腑に落ちない。

 まず、新事実その一。ここは、私たちの世界ではない。
 ここは『天界』と呼ばれる異世界。私の住んでいた世界とは全くの別の次元にある場所なのだそうだ。
 私と同様、マコトや他の人たち―――それこそこの町に住む人間は皆、そもそもは『自分達のいた世界』からここに来たらしい。

 …ここで敢えて『自分達の』と付け加えたのには理由がある。
 呼ばれた人々の『元いた世界』の情報を総合すると、地名や何かの大まかな単語は共通するのだけれど。
 記録や歴史、文化なんかの細部に齟齬が生じることがままあるのだそうだ。

 例えば、ある世界では勇者オルテガは覆面にパンツ一丁の変態じみた出で立ちだったとか。
 またある世界では、オルテガの嫡子は『息子』ではなく『娘』だったとか。
 別の世界では、伝え聞く大国・アリアハンは、変り種の魔物によって経済的に乗っ取られてしまったとか―――。

 それらの原因はわからないが、そこから導き出される答えは一つ。
 ここの住人の方々のルーツは、一つではないということ。
 つまり、少々理由が穴だらけで納得するには材料不足だが、この天界の住人は『様々な世界からの迷い人』が入り混じっているというのだ。
 マコトもその一人で、彼も一月ほど前に見知らぬ森の中で目覚め、この町に辿り着いたという。
371YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 03:23:54 ID:Dto+eKL20

 そして、それらとともに事実その二が明らかになる。
 どうやら『ルーツとなる世界を異にする者同士は、互いの名前を認識できない』らしい。
 本当の名前を名乗っても相手はそれを聞き取ることは出来ないし。
 文字にして表しても、まるでその部分だけ靄がかかったみたいに見えて読み取ることは出来ないとかなんとか。
 試しにマコトに本当の名を名乗ってもらったのだけれど、彼の淡々とした口調の中から名前を言ったであろう部分だけがすっぽりと
 抜け落ちたようで、その時の彼はまるで、魚の真似でもしているようにぱくぱく口を動かしているだけに見えた。
 例によってこうなる原因は不明なのだが、このままでは不便極まりないのもまた事実。
 そこで必要になるのが二つ名というわけだ。
 ここに住む人々は皆、各々二つ目の名前を好きに名乗り、それによって日々の用を為しているのだとか。

        『―――ふぅん。事情は分かったわ。じゃあ、私のことはヒカリ≠チて呼んで頂戴な』

 帰るにせよここで暮らすにせよ、とりあえず必要だと思ったので即興で考えてみた。
 …しかし、我ながら安直で捻りのない名前だと思う。『ア・レイ』だから『ヒカリ』だなんて。
 ま、それなりに好きな名前なので、名残は残すということで。
 それからも、店を片付けながらマコトに色々な事を聞いたのだが、その最中、私は一つの提案をした。

 ちょっとした交換条件。
 私がマコトに商人のイロハを教える代わりに、私は彼にこの世界のルールや仕組みを解る範囲で教わる。
 マコトは暫く目を閉じて考え込んだようだけれど、結局。

        『―――いいですよ。食えない人ですけど、悪い人には見えませんし』

 なんて、やっぱり平坦に承諾してくれた。
 ついでといって、知り合ったばかりのマレビトに住居も提供してくれて、割と肝が据わっているのかもしれない。
372YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 03:24:59 ID:Dto+eKL20

 …因みに、部屋で二人っきりになってもマコトは終始無愛想で素っ気無くて、『私ってば女として見られてないのかしら?』と
 ちょっと不安になったりもしたので少しばかりちょっかいをかけたところ
『…勘弁して下さい。あんた、自分が女だってこと、もう少し自覚した方がいいです』
 と、仏頂面を朱に染めた彼に、逆にお説教をもらうことになったのでした。
 どうも、彼なりに緊張していたらしい。それを読み取れなかった私も、まだまだ未熟ということかしら?

「…あら。マコト、どこか行くの?」

 思考を一段落させ、気がつくとマコトは大きな皮袋を背負い、立ち上がっていた。
 さっきからせっせと荷造りをしていたのは、あれだったらしい。
「…昨日の夜、あんたが町ほっつき歩いてる間に、ちょっとしたタレコミがありました。
 それ絡みで、ちょっと稼ぎどころに行きます」
 まだちょっと機嫌悪そうに、彼は背を向けて説明をする。
 …けど、ほっつき歩いてたは人聞き悪いなぁ。せめて情報収集といってほしいわねー。
「タレコミ、ねぇ」
「はい。昨日の夜の間に出回った情報ですから、今頃は町中知れ渡って、現地は人でごった返しだと思います」
「ふぅん。…マコト、そういうの耳が早いのね」
「当然です。情報を軽んじるほど、俺は青くはないつもりです」
 いいながら、彼は足元の二つ目の皮袋を拾い上げる。
 …うん、正論正論。商売において情報とは価値の源泉…いや、価値そのもの、といってもいいかもしれない。
 それをわかってない商人は存外に多いのだけど…マコトってば、結構見込みがあるじゃない。
 手先も器用だし、部屋を見る限り物持ちよさそうだけどよく片付いてるし、几帳面な性格が滲み出ている。
 これで愛想がよければ、本当、いうことないんだけれど。うーん…。
373YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 03:26:16 ID:Dto+eKL20
「ヒカリ、何ぼさっとしてますか」
「んう?…わっと」
 ずい、と今しがた拾い上げられた皮袋を目の前に突き出される。
 ん〜?これはやっぱり、もしかして?
「あんたも来るんです。…大事なこと教えますから、しっかり稼いで下さい」
「あら、いいの?望むところよ」
 人が多いということは、飛び交う情報も多いということだ。
 そんな機会があるというなら、願ったり叶ったり。
 私は気だるさの残る体を起こし、差し出された袋を笑顔で受け取る。

 ………ただ、少しばかり親切心(わるぢえ)が働いたので。彼の目を盗んで、皮袋に『要らない物』を混ぜた。
374YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 04:10:24 ID:Dto+eKL20

「――――――トーナメント?」

 件の『稼ぎどころ』に向かいながら、彼からタレコミの説明を受ける。
 彼の口から語られたのは、『迷い人が元の世界に帰る手段』だった。
「そうです。…昨日のうちに、『城』の話はしましたよね?覚えてますか」
「勿論っ」
 彼の問いに、握り拳を作って答える。

 ――――――この世界を統治する王様。その名を、ゼニス。
 彼の住むゼニス城はこの町のどこにも見えないが、彼や住人の口ぶりでは確かに存在するらしい。
 ゼニス城は通称『城』と呼ばれ、この町が出来るずっと前からここにあるらしく。
 更に、敢えてそういった別称があることからも、その存在がこの世界では別格であることが覗える。
 ゼニス王本人を含め、そこに住まう者は皆正真正銘の『天界の住人』であり、私達のような迷い人とはワケが違うという。
 だから本来であれば一括りにせず、こっちとあっちで明確な区分をなした方がいいのだろうけど―――うん。
 じゃあ、あっちが『城』なら、こっち側は『町』。ついでにここが『天界』なら、私達の世界は差し詰め『下界』というところか。
 わかりやすいし、今後はそう整理しよう。

「『城』が数日から数週間間隔で開催する勝ち抜きトーナメントです。
 といっても、運営するのも参加するのも町の人間ですけど」
「へぇ…それはまた、わざわざ何で?」
 分かりきった質問を、確信を早く得るために敢えて投げる。
 決まっている。格上の存在が格下の存在に自由意志で何かを競わせられる理由なんて一つしかない。
「賞品が出るんです。…元の世界への片道切符、っていう」
「―――!」
 ピン、と私の勘が思考を促す。
 賞品が出ること自体はともかく。その内容には、少々興味をそそられた。
375YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 04:11:36 ID:Dto+eKL20

 …そう。一度この世界に迷い込んだが最後。
 自力では、絶対に元の世界に帰ることは出来ない。自分でも検証したから、間違いない。
 何人もの迷い人がここから出ようと試みたようだけど、結果はやっぱり私と同じ。
 努力や根性や才能なんかで出られる空間ではないようだ。
 そうしてそんな迷い人はどんどん溜まっていき、いつしか町が出来た、と。
 帰るに帰れない人々は、仕方なくこの町で職を持ち、商売し、生活を営む。マコトもそんな一人だ。
 だが、『城』側は、流石本家天界というべきか、『帰り道』を用意できるという。

 ―――――にも拘らず。全ての人間を帰す事をしないのは。敢えてトーナメントなんていう回りくどいことをするのは何故か?
 迷い人を帰したくない理由があるのか、或いは…。

「…ねぇ、マコト。今まで、自分の意思で天界に来たっていう人は、いるの?」
 引っ掛かりを覚えた点について、質問する。
 マコトは、暫くそっぽを向いて無言で記憶を探っていたようだが、やがて、
「いえ。そういう話は、聞いたことがありません」
 と、強く否定して言い切った。

 …私はあの町で投獄されていて、気がついたらこの町にいた。
 全てが全て私のようなケースである保障などどこにもないけど、それでも誰一人、
 来ようと思ってここに来た者がいない、というある程度の確証は得られた。つまり―――、
「ヒカリ?何か気になることでも?」
「え?あ、ううん、ごめんね、突然変なこと訊いて」
 不審そうに、こちらを窺うマコト。
 照れ隠しに笑いながら謝るが、彼は眉間に皺を寄せるばかりだ。
 しまった…迂闊だったわね。ちょっと脊髄反射で訊き過ぎたみたい。
 まだ、全て仮説の域を出ない。それに縛られるのは早すぎるし、最悪、平穏な生活を送る彼を危険な目に合わせるかもしれない。
376YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 04:12:51 ID:Dto+eKL20

 …いや。だけど、目標くらいは定めておこう。
 少なくとも私は、下界に戻りたい。やりかけた『勝負』から、逃げ出すわけにはいかないから。
 そのために、今は私のできることをしよう。

「ん、もう大丈夫。話、続けて」
「…はい。このトーナメントは形式こそいつも変わりませんが、種目は周期的に変わります。
 単純な闘技であったり、知恵比べであったり…恐らく、文武どちらかが苦手な人間にも優勝の機会を平等に与えるための配慮でしょう」
「へぇ」
 親切なシステムもあったものだ。
「今回は、二人一組での参加を旨とする決闘方式だそうですが…ここからが話の本題です」
 と。マコトの声のトーンが、僅か下がる。
 例のタレコミが、どういったものかが、いよいよ語られるのだろう。
「本来なら、このトーナメントは昨日一日で、一組の優勝者を出して終わるはずでした。
 ですが、その決勝の後に、急遽エキシビジョンマッチがねじ込まれたんです。今日はその試合が開催されます」
「ふぅん。…誰が仕組んだか知らないけど、無茶するわねー」
 まぁ、私はそういう無茶な趣向、割と好きな方なんだけど。
 やられた当人達は、なんといったやら。何しろ下界への帰り道がかかってるわけだし。
「いえ。誰がやったかは、十中八九間違いない見当がついています」
「ありゃ」
 意外な返答。
 生真面目なマコトがこういうのだ、相当信憑性のある話なのだろう。
「『城』側は賞品を提供するだけで、トーナメントの進行には不干渉。
 それでも名目上の主催は『城』ですから、その権限は絶対です。
 町の人間を黙らせられて、且つ、そんな理不尽を要求する者がいるとしたら、唯一人―――」

「――――――レジセーア=v

 一言だけ。マコトの語りに合いの手を入れる。
 彼はこくり、と頷いて、肯定した。
377YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 04:14:00 ID:Dto+eKL20

 ――――――レジセーア。
 『城』側が使役し、『城』と『町』との橋渡しをする、この町の監視役。
 決して町に姿を現さない『城』の人間の中で、唯一二つの間を行き来する、出自不明の誰か。
 その役目の担い手は数日置きに目まぐるしく入れ替わるという…この天界で、最も不可解な存在の一つだ。
 徹底して町に不干渉を貫く『城』に対し、レジセーアの性質は担い手によってまちまちらしい。
 出来る限り干渉したがらない臆病なのがいるかと思えば、せっせと見回りに来る働き者もいるとか。
 …因みに、昨日の今日でここに来た私は、まだお目にかかってない。一度見れば、何かをつかめるかもとも思うのだけど―――さて。

「見た人の話では、今回のレジセーアは、かなり食えない人らしいです。ヒカリも気をつけてください」
「んー、忠告ありがと。けど、私目的のためなら虎穴にもほいほい入っちゃうタイプ」
 笑って返すと、マコトははぁ、と深い溜息をついて頭を抱えた。
 ごめんねー、こればっかりは変えられそうにないや、あはは。
「話を戻しますよ。…件の優勝者組は、この試合を二つ返事で了承したらしいです。
 でも、問題はそこじゃありません。試合の相手が重要なんです」
「相手?」
「はい。『城』に招かれた『ゲスト』が戦うと、聞いています」
「!…」
 招かれた、という、ここに来て初めて耳にする言葉に激しく食指を動かされる。
 成る程―――『城』側が、自らの意思で人を呼ぶことがある、と。これは貴重な情報だ。
 この人物に一定の法則があれば、もしかしたら―――とと、いけない。慌てない慌てない。
「『城』は数日置きに自分達の側に客人を招くのですが、彼らの人物像は決して俺達には公開されません。
 それが件のトーナメントに姿を見せるとあって、今日の試合は大盛況が予想されます」
 ふむふむ。客人は『町』に公開されない、と。ますますもって怪しいわね。
 …それにしても、ちょーっと解せないかなー。
378YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 04:15:03 ID:Dto+eKL20
「オーケー、事態は飲み込めたわ。けど、一個訊いていいかしら?」
 マコトは『?』を頭に浮かべ、無表情で首を傾げる。
 私は、そろそろ目に見えて増え始めた人の流れに合流するのを確認しながら、それを口にする。
「貴方もそうだけれど。他の人たちは、トーナメントに参加する気はないの?」
 いくら種目の得手不得手があるとはいえ。
 仮にも帰りの切符がかかっているのだから、町はもう少し殺気立ってもよさそうに思えるけれど。
 昨日と今日とで、町を包む空気にそれほどの違いがあるとは思えない。
「…ああ」
 するとマコトは、そんなことか、とでも言いたげに間の抜けた声を上げた。


「ヒカリ。俺達は、誰もここに来たいと思って来た訳じゃありませんが。
 ――――――その誰もが、『帰りたい』と思っているわけじゃないんですよ」


「………?」
 普段どおり、平坦に言ってのける彼の言葉を、私は暫く理解できないでいた。
 それを知ってか知らずか、マコトは歩を止めもせず、淡々と続ける。
「あんたはさっき、自分でいったでしょう。世界は魔物の脅威に晒されている≠ニ。
 俺達の元いた世界は、日常的に死の危険と隣り合わせです。
 ですが、この世界を見てください。場所こそ限られますが、文化的で、魔物のいない生活があります。
 これを知って、全ての者が尚、あの世界に帰りたいと願うと、あんたはそう思いますか」
 真っ直ぐな瞳で、そう問い返された。
379YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 04:34:26 ID:Dto+eKL20

 ………言葉もない。成る程―――確かに、それは正論だ。
 親兄弟を殺され、一人身の者もいるだろう。力を持たぬ者も、当然にいるだろう。
 きっかけは偶然だったとしても、今この場に安らぎを得た者は、あの世界では願っても有り得ないモノを手に入れたのだ。
 それを敢えて手放そうなどという者が、果たしてそういるかどうか…。

「帰りたいと思うのは、あちら側でやり残したことがあって、それをどうあっても為したい人たちだけです」
「………」
 貴方はどうなの?、とは、訊けなかった。
 そんな空気を察したのか、マコトは視線を大きく、遠く、前方の彼方へと移した。

「ほら。見えました。あれが、闘技場です」
「わぁ…」
 近道の路地を抜け、大通りに出る。
 町の最奥、位置にして、入り口の丁度反対側だろう。
 そこに居を構える、大きな円形の建造物。高さも幅も、かのイシスの王宮ほどはあろうかという風情だ。
「あれがトーナメントの会場で、『城』へ繋がる唯一の施設です。…ヒカリ、準備はいいですか」
「当然。誰に言ってるのかしら?」
 背中の袋を、ぐっと背負いなおす。
 …大通りには、先ほどの軽く十倍以上の人ごみがざわざわと犇めいている。
 ここの生活に馴染んだ人々にとって、件のトーナメントは閉鎖された世界の数少ない娯楽…祭りのようなものなのだろう。
 思いがけない祭りの延長に、露店や駆け回る子供達も活気に溢れている。
 うんうん、人が集まると、こうなるから面白いのよねー。腕が鳴るわー。

 ―――空の太陽は傾いて。試合の開始を夜だと知らせていた。
380YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 04:35:23 ID:Dto+eKL20

                   ・
                   ・
                   ・

                 一時間後。


「………………………納得いきません」
「うん?…何がー?」
 満員御礼大入り袋な観客席。
 薄暗い闘技場の中、中心の競技場を見下ろすようにぐるりと囲む、人・人・人の群れ。
 観客へのとばっちりを防止するためか、競技場と最前列の席とでは、10メートル近い高低差が設けられている。
 …試合の開始は、あともう一時間というところか。
 人々の目には、まだ見ぬ未知の選手への期待がなみなみと湛えられている。
 そんな中、マコトは中身満載の皮袋を抱え、既にノルマを達成し観戦の準備に入っている私を前にして恨めしそうに愚痴を零す。
「同じものを売っているのに、どうしてこうも差が出ますか。…不可解です」
 むーん、という擬音が頭上に浮かびそうなほど首を捻って、マコトはお菓子が詰まった袋を見つめる。
 うぅん、この子ってば、情報には敏感だけど、まだ人間って言う生き物の何たるかを分かってないわねー。
「だ・か・ら。貴方はもう少し愛想っていうものを身に着けたなきゃ、商人としては致命的よー?
 そんなんじゃ、近づいてもお客さんの方が逃げちゃうってば。ほら、笑って笑って」
 にー、っと人差し指でスマイルを作る真似をしてみせるが、マコトはまだぴんと来ない様子だ。
「…何でもないのに笑うなんて、出来ません」
 というか、私は会ってから、マコトの笑顔など見た覚えがないのだけれど。
 この子は一体、何があれば笑うのかしら?
「………」
「?…何でしょう、ヒカリ」
 改めて、じっとマコトの容姿を観察してみる。
381YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 04:36:45 ID:Dto+eKL20

 飾り気がないけれど、丁寧に首上で切り揃えられた綺麗な黒髪。
 切れ長でも、笑えばきっと映えるだろうことが容易に想像できる、幼さの残る大きな瞳。
 やや痩せ気味で小柄な、中性的に見える体格。
 それを覆う、如何にもその辺から適当に引っ掴んできたような地味な長袖シャツと長ズボン。

 ………一言で言うと、『宝の持ち腐れ』という奴だ。
 彼はこんなに『綺麗』なのに、少しもそれを活かそうという気概がない。率直に言うと、無関心。
 だが本人が意識さえすれば、これは一気に裏返り、化けると見た…!
「…ふふふふふ」
「あ、あの…ヒカ、リ?」
 思わず漏らした笑い声に、マコトは警戒して後ずさる。
 だけど、私にはもう、彼を逃がすという選択肢は存在しない…!

 ―――『宝の持ち腐れ』―――ああ、何と活力を満たされる言葉かしら!?
 目の前に、誰の手もつけられていない宝石の原石がある。
 活かし方さえ成功させれば、それは千倍にも万倍にも光り輝く!
 それを商人たる私が、磨かずにおれますか!!
382YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 04:37:37 ID:Dto+eKL20
「マコト―――それ、全部売りたいのよね?」
「え?…はい、それは、勿論」
「私に劣るのが悔しい―――そうよね?」
「………」
 警戒しながらも。事実を問われ、マコトはこくり、と暗い表情で頷いた。

 ――――――それが、合図。
 私の商売魂は、炎となって燃え上がった。


             さあ――――――メーンイベントよりも一足先に。

             細やかなショータイムを開きましょう――――――。


 ※アレイ選択 選択肢安価>>

ニア・少年の魅力は、やっぱりSU☆HA☆DA
 ・女の子の服、似合いそう(はぁと 
383名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/29(火) 04:47:53 ID:IbMxnoDBO
ニア・少年の魅力は、やっぱりSU☆HA☆DA
だよね☆

…いいのか?
384※YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/05/29(火) 07:44:41 ID:Dto+eKL20
スペシャルサンクス・CC氏(挨拶

漸く規制解除。安価番号降るの忘れてたお…>>383で確定でつ。

アレイ編は彼女の性質上、完全に神竜編の特殊ルール解説シナリオになってしまうので、
退屈な人には非常に退屈なお話になってしまうかと思います。早くも脱落者が出そうな悪寒。
そんなことより何かが壊れてしまったアレイにどん引きという人もおろうかと思いますが、逃げ場はないんだぜ?
あと長々と書いてはいますが、俺は論理展開があまり得意じゃありません(ぇー

>>357
まとめさんが止まっちゃってますからねー。
こういうとアレですが、CC氏のところに過去ログが保管してあるので、それを使うのも一つの手かと思われます。

>>CC氏
こちらにてありがとうございますwお礼は作品で応えて代えさせて頂きます。
関係ありませんが、俺の中でCC氏の作品のテーマソングが「RISING FORCE」になっています。いや、地味に嵌りますって。

>>見切り氏
ただいまなんだZE。
俺もこれから本格的に不定期になるかと思いますが、お互い頑張りましょう。

…ああ、それにしても「勇者の代わりにバラモス〜」の動画面白れーなぁ、チクショウwwwww
385CC ◆GxR634B49A :2007/05/29(火) 14:14:23 ID:btMzmiBJ0
>>363
えぇと、次回すごい個人的にいい感じになる予定なので、
今はお断りさせていただきますw

>>384
お知らせ完了〜。あと、今回はレスさせてください。
どうクルかと思ってたら、ああ、なるほど、こうキタのか!!w
いえいえ、こちらこそありがとうございました。
『RISING FORCE』って知らなくてすみません><
どうでもいいけど、「おう、俺もP-Funk好きなんだよ!」という方がひとりも現れませんw
ところで、今回第三章じゃなくて第二章じゃね?w

私は今回、面白く読みましたよ〜。脱落者なんて出ないと思うです。
私の方こそ、次回は物凄い解説部分が含まれる
予定なので、脱落者が出ないかとても大変心配です(^^ゞ
でも、好きなキャラがようやく登場するので、頑張る。。。
っていうか、早く頑張りたいです><
うわー、時間とれねーよーーー!!量も多いよーーー!!むきーーー!!
投下が遅くてすみません。。。orz

トーナメントいいなー。うらあましー。
私も、出場者を個別にじっくり書き込んで、「こいつとこいつが
戦ったらどうなるんだろう」的なトーナメント書きたかったなぁ。
でも、まさか旅の途中でそんなに枚数を費やす訳にもいかなかったのでw
YANAさんの続きに期待。
386名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/29(火) 18:41:31 ID:PWBfwvsM0
YANAさん来てる!
387名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/30(水) 00:41:43 ID:h+rPQzzj0
YANA氏読んだよ〜
長いよ〜だがそれがいい!!よ〜

そしてアレイが変だよ〜・・・・・・www
388名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/30(水) 04:19:05 ID:mkK7AeGjO
何故ここでP-Funkの話が…ww
自分はFUNK好きであります。
けどスレ違いなんで自粛。
389CC ◆GxR634B49A :2007/05/30(水) 11:33:35 ID:9vyLcVUR0
>>388
うわ、いた!?マジですか!?
いや、ウチの各話の題名、Priceばっかりに見えますが、ジツは
George Clintonや Bootsy Collins 辺りからも持ってきてるんですよー。
でも、Parliament周りはあんまし使える曲名ないので、ついPriceばっかに。。。(^^ゞ
ホントに曲名持ってきてるだけだから、内容と曲調は合ってないんですけどw
そうか、確かにスレ違いですね(^^ゞ 失礼しました。
こんなこと言ってないで、早く続きを書き進めます><
390名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/30(水) 13:58:22 ID:mkK7AeGjO
>>CC氏
ブーツィーは気付きませんでしたわ…w
プリンスは最初の5話位まででなんとなく気付きました。 違ったら恥ずかしいので何もコメントしませんでしたがw
とりあえず頑張って下さい!
そしてスレ違いごめんなさい。
391名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/30(水) 14:20:22 ID:innThb1yO
YANA氏がニコニコ信者に。



ラリホー!ラリホー!ラリホー!・・・ずっと俺のターン!!
392※YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/01(金) 04:08:18 ID:aKnfbFeW0
>>385
>第二章じゃね?
やっべ、サブタイだけ書き殴った時に振ったナンバー直すの忘れてた!
選択肢の順序通りに第○章って仮につけておいたんですが…なんという大ポカ。
そりゃまとめのアレ書いてて何か違和感あったはずだよ!
うう、今更どうしようもないんで、このままナンバー固定で通しちゃいます、すいません…orz

お詫びって言うと変ですが、未読だった22〜25話をちょっと空いた時間に読んできた感想をば。

・22話
 あの、ヴァイスがこれでツンデレでないと俺の男ツンデレの基準を見直さないといけないんですが(何
 あと『どくばり』の件を忘れてるんじゃないかとこれまでドキドキしてました。ご無礼。
・23話
 アホめ、あれでとことん食えない奴であればお気に入りキャラなのに…!(笑)
 恋人の呪いの実験云々のクダリは、非常に食指を動かされました。
 人ならざるものが人を何かの目的で機械的に観察するというシチュエーションが大好きなので。
 以下、アリスワードにおける、上記呪いに関する俺の解釈。
 アリスワード終曲・第九節でゴドーが「ゾーマが絶望の力を得るために各地に施した策」について言及する際
 「俺が知らないだけで、それに準ずることが〜」といってますが、
 アリスワードでは、この恋人の呪いはその「それに準ずること」に当たります。
 バラモスは地上からアレフガルドのゾーマ様にその絶望パワーを送る中継点であり、
 アレフガルド国民が奮い立っただけでゾーマ様がああも弱ったのは地上からの絶望Pのバックアップがなくなったのも一端だったり。
393※YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/01(金) 04:27:10 ID:aKnfbFeW0
・24話
 『そういや上の世界にルビス信仰ってあったのかしら?』などと思い立ち、
 意味もなく個人的に資料を漁ってみました。あくまで個人的に。
 その結果や俺の解釈は、どう転んでもCC氏の作品に水を差すだけのものなので自粛。
 あと、どこの世界でも二度目のカンダタはえらいめにあうねー(棒読み)
・25話
 遥か雲の上のボスキャラ同士の会話って大好きなんだぜ!?
 それが、主人公一行を鼻であしらうほどの力量を見せつけたあとに差し込まれるのならもうね!ハァハァ
 しかし本家ドラクエではろくにない人間同士のガチの殺し合いをこうも魅力的に書ける力量には嫉妬せざるをえない。 


 あと雑記読んでいて引っかかった点について一つ。
 宗教観や世界観云々の話は、好きな解釈で書いていいと思いますよ?…よ?
 俺だって、このスレに関しては別に公式設定があるならそれに従うべき、なんていう義務感で書いてるわけじゃございません。
 H井氏も、『ガチガチの公式設定を作るより、ゲームをプレイしてのユーザーの想像力を尊重したい』という理由で、
 以後のエニックス公式設定系本を止めているくらいですし。

 アリワがルビ伝準拠なのは、単に俺がルビ伝やアイテム物語なんかの件を気に入ってて、
 『せっかく二十年近く積もった設定があるんだから、それそのものを伏線として利用してやれ!』という遊び心が働いただけですから。
 尤も、その『二十年越しの伏線』も読者さんが知らなきゃ何のカタルシスにもならんというのが欠点ですがーw
 まあとにかく、ゲームクリア後の自分の解釈があって、それでモノが書けるのならそれが一番だと思います。

 あー、何かCCさんの作品をここまで読んで、自分の作風について踏ん切りがつきました。
 卑屈になるのやめ!俺は俺の道を往きます。ありがとうございました。何だか、そういいたい気分になりました。 
 CCさんの極まったリアル路線は俺には到底真似できませんが、基本的にライトなノリで読める
 いい意味で頭の悪い暑苦しい展開とバカ話を織り交ぜていく燃えギャルゲテイストなSSを目指そうと思います。
 
 さーて、吐く物吐いたし、さっさと書き上げてきましょうかw
 っていうか神竜編、終盤殆どルビス伝説外伝になってる希ガスwwww 
394CC ◆GxR634B49A :2007/06/01(金) 08:25:30 ID:rdxfxTjR0
>>390
分かってくださってた方がいて、ちょっと感動w

>>392
あ、やっぱしそうだったんですか>三章
分岐があったから、その順に番号振ってあって、後からニ章がくるのかな〜、とは思ったんですが。

というか、ご丁寧な感想、ホントにありがとうございます。
えぇと。。。まだ詳しく言えませんが、ヴァイスとアホに関しては、
この先もお読みいただくと、また感想も変わってくるんじゃないかな〜と(^^ゞ
まー、ヴァイスは元々ツンデレというつもりではなかった訳ですがw
結果的にかなりのツンデレっぷりを発揮する。。。のかなぁ<自信無さげ
アホの方は、これがヴァイスの一人称だとゆうのがポイントかも。

ルビス信仰の辺りは、かなり独自解釈になってしまうと思いますので、そう仰っていただけると助かります。
どちらさまも、そのおつもりでお付き合いいただければ幸いです。
既存の設定をなるべく上手く活かした方がいいんだろうな〜とは思うんですが、
なにしろルビスの元ネタ良く知らないので、その辺りはYANAさんに任せた!
差別化にもなるしね!?という都合の良い方向で、どうかひとつ(^^ゞ

ウチは、今のところ魔物を非人間的に扱おうとしているので、掛け合いとかの
ハッタリを出す都合で、人間相手が多くなってしまっているのが反省どころです。
もうちょっと魔物と戦ってる感じを出さないとなぁ、と反省しつつ、
中盤以降は、いちおう魔物相手が増える予定でおります。
ていうか、ダーマまでボス戦ってカンダタくらいしかないんだもん。。。

こちらこそ、ありがとうございました。お陰様で、書く元気が沸いてきましたよ!よーし、書くぞー。って、おせーよw いや、書いてますけどね?(^^ゞ
それにしても、もう神竜編の終盤まで考えてあるのか。。。中盤以降、ほとんど何も決まってない、相変わらずの自転車操業のウチとはエラい違いだw

そいでは、なるべく近々投下でお会しましょー>皆さま
ちょっと根詰めて頑張りますから、どうかお見捨てにならずにお待ちくださいませ。
私のことなので、どうせ次回のレスは、保守代わりの進捗状況報告でしょうけどw
395名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/02(土) 09:44:28 ID:SSl4nw0k0
全然詳しくないけどプリンスはカコイイよね
スーパーボウルのハーフタイムショーの音と映像がズレてた時テレビぶっ壊そうかと思った
スレ違いを掘り返してごめんなさい
396CC ◆GxR634B49A :2007/06/02(土) 20:47:37 ID:hRMPKU5/0
うん、足短いけどカコイイですw
つか、Priceとか書いてますね、私w 値段かよw Princeです><
う〜。。。次回はちょっと苦労しておりますが、頑張ります><
397名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/03(日) 08:48:09 ID:hO/M64gD0
テレビの正月番組でかくし芸大会ってあるでしょう。
大昔あの番組で、プリンスのパープルレインをパクッた小劇を
やってたよ。
プリンス役はなんとアースシェイカーのマーシー。
ちょと笑ったwwww
398CC ◆GxR634B49A :2007/06/04(月) 02:14:12 ID:i/6eAxFo0
それはなんか、いろんな意味ですごいですねw

うぬぅ、話自体はできてるんだけど、なかなかこれが。。。
いちおう進んではいますので、すみませんがもう少々お待ちください(^^ゞ
399CC ◆GxR634B49A :2007/06/05(火) 04:02:58 ID:mPixSoQp0
うむむ。。。やっぱし長くなりそうな。。。でも、途中で切りたくないなぁ。。。
物凄い思うにならなさ加減に困惑しきりですが、
なんとか頑張りますので、もうちょいお時間をください><
400名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/05(火) 09:54:04 ID:ZwS8S0BD0
期待してます!マイペースで頑張って
401YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 20:21:39 ID:pwIzFE8I0


 ………その事件が起きた当時のことを、戦士ヨイヤミ・セツナ(二つ名)はこう語る。


「――――――我が目を疑いましたね。ビックリなんてレベルじゃあ、ありませんよ。
 …あの日がほら、例の試合だったってのは知ってるでしょう?
 闘技場ン中に来てたのは、建前やなんかは様々でしょうが、血を見るのが大好きな連中ばっかりですよ」

 ―――セツナさんも、そんな一人だと?

「誤解してもらっちゃ困ります。私ゃこれでも、エジンベアの騎士団出身でしてね。
 我が祖国は、他国とは比べ物にならん位強い魔物と、土地の条件柄、単独で対抗せにゃならん国なんで、
 兵士の質はそこらの田舎のとは比べもんになりません。
 そこの出の私が、純粋にトーナメントの優勝者の試合を見たいと思うのは当然でしょう」

 ―――成る程。では、戦術などの研究が目的で?

「まぁ、そんなとこです。
 …尤も、今にしてみればあんな異次元の喧嘩、とても真似したり対抗策練ったりする気は起きませんでしたがね。
 とにかく私も、異例のカードが組まれるとの噂を聞きつけて闘技場に足を運んだわけですよ」

 ―――時間は、どのくらいでしたか?

「試合開始前一刻弱…ってとこですかね。その日は町の自警団の仕事が、ちと長引いてしまいましてね。
 予定じゃもう少し早く来たかったんですが…ま、今にしてみれば、そのおかげで貴重なモノを拝めたわけです」
402YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 20:22:25 ID:pwIzFE8I0
 ―――話では、その時女性の方が集団を作っていたとか?

「そうです。
 ほら、あの闘技場、観客席の出入り口が四つあるでしょう?東西南北に。
 私が入ったのが北側からだったんですが…」

 ―――そこに、その集団が?

「ええ。私が来た時には、もう派手に十人くらい陣取ってましたね。
 近頃の女性は物好きというか、世も末というか。会話を聞く限り、優勝者側の一人を目当てに来ていたようです。
 …はい。まぁ正直、鬱陶しいな、とは思いましたが」

 ―――観戦の場所を替えようとは?

「しましたよ、当然。脇の彼女達から目を背けて、反対側を探そうと振り向きました。
 ………そうしたら、現れたんですよ。彼≠ェ…!」


   『………………っ…ち、ョコレート、ビスケット、キャラメルはいかがですか〜…っ?』
403YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 20:23:48 ID:pwIzFE8I0
「………私ゃ長いこと騎士団やってましたからね。
 衆道もそりゃ、それなりに経験ありますよ。…ええ。大きな声じゃいえませんが、どこの国でも大概そうでしょう。
 しかし、それでもあれほど上物の少年は初めて見ましたよ。
 手付かずでも十分に上質と分かるサラサラの黒髪。あどけなさを残した、恥らうような冷たげな瞳。
 死んだ先代団長が彼を見たら、墓の中から這い出てきて口説き倒すでしょうなっ。
 …はい。多分、その気のない男性でも彼だけは別格に見えたんじゃないでしょうかね。

 素材が素材なら、それを彩る衣装も衣装です。
 まず、彼が上に纏っていたのは一見何の変哲もない、前開きの純白シャツだったんですがね………足りないんですよ。明らかに。
 何がって?………ボタンですよ。
 普通、シャツのボタンってのは、下腹部から首元まで五つも六つもついてるもんでしょ。
 それがね、胸元に一つ、ぽつんとついてるだけなんです。
 おかげで、少し動くだけで真っ白な布地がひらひら揺れて、彼の華奢な胸板や可愛らしい臍が丸見えで…ハァ。

 それだけじゃありません。特筆すべきは何といっても下半身です。
 彼は年の頃、十四、五ってところでしょうに、履いているのはどうみても、もう七つは下の子供が使うような短パンだったんです。
 …そうです。あの、太腿の付け根辺りまでしか布地のない、殆ど長方形と表現しても差し支えない、あのアレです。
 そこから伸びる足がですね、またスラッとして綺麗なんですよ。磨いた刀身みたいに。
 体質なんでしょうな、肌も全体的に色白で、無駄毛の一本も見当たらない…まるで魅せるためにあるかのような脚線美。
 あれほどの妙は、男は愚か、女性ですらそう持ち合わせるもんじゃありませんよ。

 …とにかく、何かの儀礼服ってわけでもないでしょうに、そこらの男が着てたら正気を疑うような露出度の服装でした。
 でも、それは彼が纏うと、その…それだけで、完成された調度品のようで。
 そんな少年が、恥ずかしそうに菓子の売り歩きをしてるんですから、それを見せられるこっちの身にもなってほしいですよっ」
404YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 20:24:33 ID:pwIzFE8I0

 ―――ふむ。では、セツナさんはその少年を…?

「まさか!公衆の面前ですし、勿論自制しましたよ。…けどね、そんな私の努力は全く無意味だったんです」

 ―――と、いいますと?

「はい。彼は、その存在に気付き自身に奇異の目を向ける人ごみを横切りながら、
 あろうことかそのまま例の女性の集団まで近づいてしまったんです。
 …多感な年頃の、若い女性達でしたからね。
 初めのうちは黄色い声で、例の優勝者が今日はどんな戦いで自分達を魅せてくれるかで盛り上がっていたんですが…」

 ―――ですが?

「………」


      『――――――やっぱりあの長身よねーっ!憧れちゃうわ!』
      『おみ足も美しいわ…あの無駄な肉のないしなやかな肢体ったら…』
      『戦いの中にありながら、ただの一度も敵にその身を傷つけさせない流麗な動き…ああ、憧れますわ…!』

              『『『ああ、早く見たいわ、お・ね・え・さ・ま☆』』』
 
      『――――――あ…あのっ!!』

                       『『『?』』』
405YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 20:25:24 ID:pwIzFE8I0
「…最初に気付いたのは、中心にいた金髪の女性ですかね。
 少年が近づいて、彼女達に声をかけたんですよ。金髪の女性が振り向くと、皆一斉につられるように。ええ」

 ―――…では、その女性達が、あの?

「はい。お察しの通りです。…彼は、一身に彼女らの視線を受け止めるや否や、叫んだんです」



      『―――お―――っ!お姉さん、ボクのキャンディーバーは、いかがですかっ!!』



「…泣きそうでしたよ、彼。羞恥心が限界に来てたんでしょう、きっと。
 涙目で、頬を高潮させて、懇願するみたいに、身長は高くないほうでしたから、こう…上目遣いな感じで。
 しかも紛らわしい台詞のおまけつき。…いや、本人は多分気付いてなかったでしょうな、あの様子じゃ」


      ―――――――――ブバッッッッッ


「………ええ。いい音がしましたよ、花火か何かみたいな。…ああ、いい得て妙かもしれませんね、この喩え。
 丁度、花火みたいに、観客席から、真っ赤な液体が吹き上がったんです。
 それが、彼女達の集団が噴出した鼻血だと気付いたのは、数秒後だったんですけどね」

 ――――――バージン・ボルケーノ。

「ああ、世間じゃそんな風に呼ばれてるんでしたっけ?あれ。
 いや、彼女達にとっても不意打ちだったんでしょうな。
 男の私でも、彼女達の立場であんなメに遭ったら、平静を保つ自信はありませんよ。
 本当、男も女も魅了しちゃうなんて、人間冥利に尽きるって言うか…ある意味憧れちゃいますね、ははは」
406YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 20:26:05 ID:pwIzFE8I0


「………………だから、俺は嫌だって云ったんです」

 
 半べそを浮かべてジロリと私を睨みながら、マコトはぽつりと抗議した。
「あは、あはははは。ごめんね、やりすぎちゃったみたい…」
 今し方起きた、超常現象(といってもいいだろう、最早)を前に、いいコメントが浮かばずとりあえず謝罪する。
「こんな服を着せられて…言葉遣いまで変えさせられて…っ。俺がどれだけ恥ずかしかったか、わかってるんですかっ」
 涙目で、両手で露出している素肌を隠そうと頑張るマコト。
 けれど、そんな抵抗は殆ど意味を成さず、恥じらいと虚勢が混じる貌と余計に扇情的にちらつく白い肌は全く逆効果この上ない。
 むぅ…実際、熱が冷めてから冷静に見てみると、これ、わりと洒落になってないわ…うん。
 自分でコーディネートしておいてなんだけど、ここまでの威力とは。

 …闘技場の外へと担架で運ばれていく女性客の団体さんたちを、どうにか逃げ落ちた反対側の観客席の最上段から見送る。
 幸い、ここは他の観客からの死角も多く、人目につきにくい。が…。
 ここまで逃げる間に随分人ごみに揉まれ、その際に着替えや荷物の入った皮袋を二人とも紛失するという失態を演じてしまった。
 おかげでマコトは元の一張羅に着替えることも出来ず、このステキファッションで過ごさねばならなくなったというわけだ。
 …それにしても、改めてみると、本当、凄いデザインよね、コレ。
 どこの世界の変態さんが作ったか知らないけど、GJ!!…でなくて。
 あの市場も色んな世界発信の珍商品満載だから、飽きないわ…でもなくて!
 もう、一先ず、マコトの機嫌を直さなくちゃっ。
「売り上げはほら、御腹に巻き込んでおいたから無事よ、ね?」
 腰巻をあげ、御腹に巻いた帯から硬貨の袋を取り出し、アピールする。
「…知ってます。あんた、そういうところは抜け目ないですから。俺の着替えは失くしても、そっちは大丈夫だと思ってました」
 逆効果だった。わお、大失態。
 むぅ…これは、腹を括らないといけないか。どう見ても非は私にあるものね。
「…ん。マコt」
407YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 20:26:51 ID:pwIzFE8I0

「――――――責任」

「え?」
 突然。私の言葉を遮って、マコトが小さく、しかし強い語調で呟いた。
 彼はそのまま続けた。
「責任。取ってください」
「せき、にん?」
「はい。俺、今回はちょっと本気で怒りました。だから、誠意を見せてくれるまで許しません」
 視線の強さが、『ジロリ』から『ギロリ』に変わった。
 …彼が私に向ける、明確な憤怒が痛い。
「ぅ…」
 微かに震える体が。そんなつもりはなかったのに、後退りする。
 …まいったなぁ。人に恨まれるのは、それなりに慣れていたつもりだけれど。
 どうやら、私は自分で思っている以上に、彼のことを気に入っていたらしい。
 だって、慣れているはずの怒りなのに、それが彼からのものだというだけで、この身はこんなにも動揺している。

「――――――逃がしませんよ。今回という今回は」

 ―――――――――そんな状態だったからなのだろうか。
 彼が私の動揺を、ただ私がいつものようにはぐらかそうとしたのだと判断して。
 それをさせまいと、私の腕を反射的に掴んだのが、たったそれだけの何気ない行動だったとしても。

「――――――…っっ」

 それは私のあの記憶を、強く呼び覚ました。
408YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 20:44:06 ID:pwIzFE8I0

「そう何度も誤魔化されません。今日は絶対に―――ヒカリ?」

 …視界がぼやけて、石の床に膝をつく。立っていることが、侭ならない。
 身体に刻まれた『咎』が蘇る。それは、かつての私の過ちの証。
 『雄』の手が私の肢体にかけられる。
 何人もの男性の腕や足が、万力のように私を地べたに抑え付けてくる。
 私はそれを、なぜそんなことが我が身に降りかかっているのかもわからず、ただ呆然と受け止めている。
「…は、あ」
 …吐き気が、酷い。
 喉や腹部に、痛みが走るような錯覚。
 ドロドロのマグマが、身体の中を蝕んでゆく感触。
 マグマは『外』に通じるあらゆる口から駆け巡る。
 やがてそれは、私の思考まで溶かそうと這い上がって、

「――――――ぇ…?」

 寸前。す、とマグマの熱が掻き消える。
 …気がつくと。私は、マコトに半身を抱き締められていた。
 私は頭を彼の胸元に抱えられ、彼の鼓動を享受する。
「まこ、と?」
「…父さんがいってました。震えてる人は、身体か心、どちらかが寒いんだ。
 だから、平気な誰かが包み込んで、暖かくしてやらないといけないって」
 つい、と見上げると、すぐそこにはいつものマコトの顔があった。
 …頬に伝わる温かさを確かめる。華奢だと思っていた彼の胸板は、その時、とても頼り甲斐のあるものに感じられた。
「勘違いしないで下さい。ここであんたにどうかされたら、けじめをつけられないからです。
 …そりゃ、俺もいきなり捕まえて驚かせたのは、謝ります。すみません。
 ですが、あんたをまだ許せないのは変わりません。そこのところは、後で家に帰ったらはっきりさせますので、覚悟してください」
409YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 20:45:06 ID:pwIzFE8I0
 …淡々と弁明するマコトは、声も表情も平静を装っているけれど。
 私の目には、照れて高揚しているのが手に取るように分かった。
 おそらく、女性そのものにあまり免疫がないのだろう。そうであれば、さっきの一件の反応も頷ける。
 だというのに、彼は私が取り乱したのを見て、必死に安心させようとしてくれた。
「………」
「………何です?」
 彼は、私が倒れた原因を言及しようとはしない。
 彼の観察力であれば、あれがただ吃驚しただけのものでないことなど、疾うに悟られているはず。
 それでも、敢えてそれに触れないのは、彼なりの不器用な優しさか。
 ちょっと、ゴドーに似てるかも―――ううん。人の感情の機微を読むのなら、もしかしたらマコトは彼より上かもしれないわ。
「…うん。何でも。…本当、ごめんね。マコト」
「気が済んだら、さっさと自分で立って下さい。いつまでもこうしてるのは、疲れます」
 それは、裏を返せば『気が済むまでこのままでいていい』ということかしら?
 何て邪推したら、つい、笑いが零れてしまった。
「ありがと。貴方もとんだツンデレ≠ヒ」
「放り出しますよ」
 照れ隠しに訝るマコトの腕から、苦笑しながら解放される。
 彼は私に見えないように溜め込んだ息をはぁ、と深く吐き出し、そっぽを向いてしまった。
 それが何だか可笑しくて、やっぱり私も彼に隠れてくすくすと笑った。と―――。


『おっっっっっ待たせしました、紳士淑女アァァァンド哀れな子羊さん方あッッッ!!!』
410YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 21:18:50 ID:pwIzFE8I0

「?」
 突然、館内の照明が消えて、けたたましいアナウンスが反響する。
 それと同時に、先ほどまであれほどざわざわと騒々しかった観客達も押し黙る
「始まりましたね」
「へぇ…いよいよってわけね」
 マコトの一言で、時が満ちたことを悟る。
 私は知らず、口元がくいと吊り上るのを感じた。さて、現れるのは果たして鬼か死神か?

『今宵この場を埋め尽くすは、私含め、突然ここ天界に迷い込んでしまった不運な民草たち!!
 しかァし! ここにいる全ての戦いを愛するオロカモノ達は、今一時の幸運を噛み締めねば罰当たりでぇ、ありますっっ!!
 今夜繰り広げられますは、天界トーナメント史上初のエキシビジョンマッチ!!
 元の世界への切符を得ながら、尚もそれを突き返し更なる戦いへ挑む者達を、まずは紹介致しましょうッ!!』

 アナウンサーが口上を一区切りさせると、瞬間競技場へとスポットライトが当たる。
「随分とまぁ、はっちゃけたアナウンスね」
「………不愉快です」
 私がけらけらと面白がって笑うと、マコトはこういったノリが馴染めないのか、不機嫌そうに唸った。
 二本のスポットライトはぐりぐりと円形の競技場を嘗め回し、一頻り勿体つけると二つある門の片方に集束する。

『それではご覧下さいッ!!西の門・ラミアスからリングへ上がりますは、
 殲滅皇帝=Iデアボリックデスバーストッ!!そしてっ!
 閃光の刃姫<求Eラーダ=フォルオルだぁぁぁぁぁぁっ!!!!』
411YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 21:20:29 ID:pwIzFE8I0
「わーお…すっごいネーミングね。リングネームか何かかしら」
「そういうのは、認められてません。あれが優勝者達の二つ名のはずです」
「へぇ。…センスはともかく、もうちょっと短いのにすればいいのに、二人とも」
 会話が面倒にならないのかしら?
 などと勘繰っていたら、マコトが頭を振った。
「いえ。おそらく…受付の趣味でしょう」
「はい?」
「稀に新入りの方で、二つ名のルールを知らないまま闘技場に直行してエントリーしてしまう人がいるんです。
 更にそういった方の中に、二つ名を考えるのを面倒臭がって受け付け役に任せる人がいて、」
「その、受付の人のセンスがアレだ、ってこと?」
「はい。以前にも数度、同じような韻の名を持つ方の話を聞いたので、間違いないでs」
 と、わっと沸いた歓声に、マコトの言葉は尻切れ蜻蛉になる。
 つられて眼下の競技場に視線を戻すと、二つの人影が並んで、スポットライトを浴びながら入場してくる。

 一人はかなりの巨漢。
 2メートルはあろうかという体躯に、生々しい傷跡が埋め尽くす、全身これ筋肉の鎧。
 典型的な力馬鹿―――と思いきや、その立ち居振る舞いには、学者もかくやという理性が光る。
 武人、という言葉が最も適切だろう。成る程、トーナメントで優勝するというのも、あれなら頷ける。

 もう一人は、細身の女性だった。
 流れるような、よく梳かれた黒い長髪に…纏っている青と燈の衣服は僧衣だろうか。
 …けど、何だろう。この違和感は。私の勘が、『彼女が僧侶でなどあるはずがない』と訴える。
 その理由は、おそらく彼女の眼光。静かな流水のように光る彼女の視線には、塵ほどの信仰心も宿っていない。
 あるのはそう―――まるでこの世の全ての理を見通さんとするような、ある種の狂気すら感じる好奇心=c。
412YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 21:22:06 ID:pwIzFE8I0

『彼らこそが、昨日のトーナメント本選の勝者であります!
 突如として振って湧いたこのエキシビジョンマッチにも、まッッッッたく動じる様子なく承諾した強者たち!!
 しかも情報によりますと、なんと彼らは一昨日ここに来たばかりの新参者!!
 だがしかしッ!!昨日の彼らの獅子奮迅の活躍をご覧になられた方は、既にその実力に疑問は抱きますまいッ!!
 そうでない方もご安心をっ、すぐにもそのヴェールは暴かれることになりましょうッッ!!!』

「一昨日…」
「私と同じ、か」
 ふぅん。これは、ちょーっときな臭い展開になるかもしれないわね。
 恐らく、彼らも私と同じで自分の意思で来たのではないのでしょうけど。
 それにしたって、タイミングが合いすぎている。
 マコトもアナウンサーも、他の人たちも、皆口々に自分たちのことを『迷い人』と表現するけれど。

 ――――――私たちは、本当に誰もが迷い込んで来た≠フかしら―――?

 或いは、別の要因の副産物。例えば―――、

『それでは皆さんお待ちかねぇっ!!いよいよ、ゼニス城のお客人の登場ですッッッ!!』

 私の思考を遮るように、アナウンスがやかましく絶叫する。
 …うん。まぁ何にしても、問題の『城』のゲストを見ないことには、答えは下せない。

『今まで我々下々の民には面通りの叶わなかった『城』のお客人!
 数少ない目撃証言から様々な噂や憶測が飛び交いましたが、遂に!ついに!ツイニィィィィッ!!
 公の場に姿を現すことに、ありなりましたぁぁぁぁぁッッッ!!!
 圧倒的な力で優勝をもぎ取った彼らの相手を担うのは、果たしてどんな猛者なのでしょぉぉぉぉぉかァッ!?』
413YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 21:24:41 ID:pwIzFE8I0

 血管が切れんばかりに喚き散らすアナウンサー。
 どうでもいいけれど、この人最後までこの調子で大丈夫なのかしら?

『東の門・スフィーダにご注ぅぅぅぅ目っ下さいッ!!
 氷の魔女っ子<Gターナルフォースブリザード!!!
 そして待望の『城』の招かれ人――――――勇者<鴻g!!!』

 なんて思案している間に、スポットライトの数が増え、反対の門へと同じ動きで集束する。
 …氷の魔女っ子、はともかくとして。
 もう一人の方は、明らかに受付さんのネーミングじゃあないわね―――って。

「え―――ええええぇぇぇっ!?」
 スフィーダと呼ばれた門から入場してきた二人組みは―――どこからどう見ても私の友人達だった。
 遠目にだって分かる。私は、親しい人の纏う空気を忘れはしない。それは格好や髪型なんかで見間違ったりするものでは、ない。
「――――――勇者。やはり、あの噂は本当でしたか」
 と。脇のマコトが、険しい顔でぽつりと呟いた。
414YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 21:26:44 ID:pwIzFE8I0
「マコト、どういうことっ?噂って」
 私が慌しく振り向いて問うと、マコトは訥々と、競技場を見たまま語りだした。
「確証がなかったのでヒカリにはさっき話せませんでしたが―――これで殆ど、間違いなくなりました。
 いいですか?『城』に行くには、この闘技場を通らなければなりません。
 基本的にゲストが『城』へ入城するのは、人目を避けるためにトーナメントが開かれていない日が選ばれているようなんです。
 しかし、常に闘技場に詰めている者もいますので、『城』が人払いをしても、稀にその目撃者は発生します」
「…そっか。その、数少ない目撃者の証言が」
「はい。勿論、会話や接触に成功した人はいませんでしたが…それでも、連れ合いの方との会話を盗み聞きした人が、いくらか居ました。
 その会話の中から、呼ばれる客人全てに共通する事項が、一つ見つかったんです」

 ………勿体つけるマコトを余所に。
 私の頭の中を、カチカチとパズルのピースが飛び交って、一つの図が形成されていく。
 それが遂に、彼の示した結論で、完成を向かえる―――。



        「――――――『城』に呼ばれる客人は。皆、遍くアリアハンの勇者≠セというんです」


 
 to be continue… 
415YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 21:29:52 ID:pwIzFE8I0
 ※進行するシナリオを選んでください。安価>>416

ニア:ゴドー&アリス:『ハジメマシテ』

 :エデン&ライナー:『Loony and Warrior』
416名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/05(火) 21:30:47 ID:g7fox3YA0
 :ゴドー&アリス:『ハジメマシテ』

ニア:エデン&ライナー:『Loony and Warrior』

YANAさん乙!
マコト君かわいいよマコト君
そして、どこかで聞いた通り名がw
417名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/05(火) 22:08:11 ID:7xcAAeg90
>氷の魔女っ子<Gターナルフォースブリザード
エデンー、ライナー、逃げてーw
418※YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/05(火) 22:14:23 ID:pwIzFE8I0
いかんね。ギャグはやっぱり巧くない(挨拶

>>416 把握。

はい、そんなわけで据え置き・第三章をお送りしました。
アレイはシリアスなシーンや解説のシーンでは非常に筆が好調に進むのですが、コミカルなシーンでは逆にやりづらいw
多分、アレイの一人称のせいだと思うのですがー。
こいつは元々、その理解しがたい思考ルーチンから繰り出す言動で人様をおちょくってナンボのキャラなので、
その思考の筋道が明かされてしまうと種の明かされた手品をやるようで妙に書きづらくなっちまいましたw

>>394
はい、しかと任されましたw
というか、本編のルビス様のくだりといい、つくづく俺の作品ってゲームオンリーの人に優しくないなぁ、とw
実際、あのままVIPでやってたら、恐らくルビ伝周りの話は全面カットになってたでしょう。
FF・ドラクエだからこそ、ある程度分かる人も居るだろうと冒険できたわけで。
それでも第三部でディアルトの話が出た辺りで、脱落した人が何人か居るんじゃないかと思うのですが、はてさて。
そもそも、今ここにいる読者さんで、ルビ伝知ってる人がどれくらいいるのか非常に気になったり。
多分、神竜編は本格的に、ルビ伝を読んでるか読んでないかが作品の評価を二分するプロットかと思われます。
可能な限り、知らない人にも意図がわかるように書くつもりではありますが。
419名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/05(火) 23:12:52 ID:3udBGk7Q0
>ル・ラーダ=フォルオル
お前何てとこからネタ持ってきやがるんだw
420名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/06(水) 00:35:53 ID:FzlxBLVdO
マホカンタ!
421※YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/06(水) 04:39:43 ID:RoaQAXoU0
あ、言い忘れましたが、前回と今回をあわせて「第三章」ですので、
サブタイないのは別に間違いじゃありませんw
今回の選択肢はたまたまどっしょもない内容でしたが
以後も選択肢によって展開が分岐して、その都度分割投下になるかと思いますので宜しく。
422CC ◆GxR634B49A :2007/06/06(水) 05:21:44 ID:St2AFkRW0
>>421
失礼しました(^^ゞ
423名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/06(水) 16:09:12 ID:Kj7QC2Ma0
デアボリックデスバーストって何ヶ月か前に
黒歴史ノートのスレで見た覚えがある…
424名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/06(水) 18:45:54 ID:6990IVyu0
>ル・ラーダ=フォルオル
これすごい久々に聞いたわwwwwww
425名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/06(水) 20:02:59 ID:J7TCYeudO
保管庫見てきたんだがYANA氏の作品が最後まで収録されてない…
どなたかあれ以降の過去ログを提供してくれる勇者はいませぬか?
426名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/07(木) 01:05:13 ID:i8K8bZTC0
むしろ再燃してルビ伝読み返す始末
427CC ◆GxR634B49A :2007/06/09(土) 04:39:33 ID:LHJ2GZrP0
なんか知らんけど、書いても「あーこりゃボツだわ」っていう文章しか書けません><
筋は決まってるんですけど、どうにもこうにもピントがまるで合わなくて。。。
ホントすいませんが、のんびりお待ちいただけると幸いです(^^ゞ
分量から言って、どの道分割しなきゃだから、先に前半だけ投下するかもです。
428名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/10(日) 00:51:42 ID:gf3cHyIZO
>>427
焦らずに確実に完成させてくれ
それまで私は待ち続けるさ
429名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/10(日) 13:33:16 ID:sXm8UtmJ0
>>427
んもう!本当に焦らすのが旨いんだから〜.....

このテ・ク・ニ・シャ・ン
430CC ◆GxR634B49A :2007/06/11(月) 10:02:41 ID:zOPPFLEq0
よ〜し、自分から恥ずかしいこと口にするまで、パパ焦らしちゃうぞ〜。
って、ウソです。すみません><
ありがとうございます<(_ _)>
お言葉に甘え過ぎないように、頑張りますです。
次回の前半は目処がついてきたので、近々投下できるかな〜と思っております。
前半って言っても、いつもと同じくらい分量ありますけどw
431CC ◆GxR634B49A :2007/06/12(火) 05:52:41 ID:8OlydiNw0
今のところ、明後日辺りに投下の予定〜
つまんなかったら、もうごめんなさいって言うしかないZEw
432名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/12(火) 09:47:24 ID:AV+uCVNd0
昔に書いたSS(何処にも投稿してない)
ドラクエVの女主人公モノがあるんだが何かニコニコで触発されて今手直してるんだが此処のスレ投下して良いだろうか?
ツン分が非常に多いがデレが少なく話がややダークなんだが一応ツンデレではある。
百合モノで一寸ヤンデレ入ってるがorz

他にSSスレとか立ってないよな?ドラクエ3って
433名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/12(火) 11:10:41 ID:0d7ayFd2O
飢えてるんだ。
このスレははち切れんばかりのツン成分と
じゃじゃ馬が魅せる一瞬のデレ成分に。

この渇きを満たしてくれ君の愛あふるるSSで。
434CC ◆GxR634B49A :2007/06/13(水) 05:36:27 ID:2qXohJfp0
あ、じゃあお先にどぞー
435432:2007/06/13(水) 07:14:04 ID:dTs4HGTj0
>>434
ああ、いえいえ。
まだ、細かい手直しと此方向けに一寸改良してますんでお先に
此方はあくまで一寸確認取りたかっただけなのでorz
436CC ◆GxR634B49A :2007/06/13(水) 09:15:04 ID:2qXohJfp0
あ、もう完成してたんじゃなかったんですね。了解です。

できましたら、私が投下してから二、三日置いていただけると、
投下がいい具合の間隔になって助かるかな〜、みたいなw
いえ、もちろんタイミングはお任せなんですけど、
最近、ウチの投下間隔すごく長くなっちゃってるので、
間を埋め合うみたいにできたらな〜、とか(^^ゞ
437CC ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 06:19:00 ID:gSi8g6tv0
ちょっと休んだら投下の予定〜
体力的にキツいですが。。。(^^ゞ
438CC 26(1)-1/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 07:12:03 ID:gSi8g6tv0
26. Gett Off (前編)

 悪い夢の続きを見ているようだった。
 外界の光が遮断された暗がり。
 眼前に屹立する巨大な祭壇。
 その上でゆらめく、いくつかの炎。
 朧な灯りに浮かぶ、黒々とした人影。
 どこか現実離れした光景が、俺をより悪夢に近い感覚へと誘う。
『オルテガの娘、マグナよ』
 祭壇上の人影から発された声が、弧を描く天井や壁に反射して、いんいんとこだまする。
『汝、選ばれし勇者よ』
 どれだけ齢を重ねたのか判然としない、ひどく年老いた声。
『よくぞ、この地まで辿り着いた』
 マグナの手が、探るように俺の手を握った。
 祭壇を見上げる表情は、暗くてはっきりとは窺えない。
『ルビスに選ばれし汝をおいて、世の何人たりとも、魔王バラモスを滅すこと能わじ』
 握られた手に、きゅっと力が篭められる。
『ルビスの導きに従いて、汝、勇者たる務めを果たすがよい』
 俺は、マグナがどんな顔をしているのか、無性に気になった。
 多分、想像の通りだとは思うんだけどさ――
『オルテガとの盟約に因り、ダーマの民は汝に助力を惜しまぬであろう』
 繋いだ手を通して、びくんとマグナの震えを感じた。
 マグナを挟んで、反対側にはシェラが呆けたみたいに立っていて。
 ちらりと後ろを振り向くと、リィナは俯いて顔を背けていた。
 アリアハンからずっと探し求めて辿り着いた、ダーマの神殿の奥深く。
 灯りの乏しい、穴倉みたいな祭儀場で。
 大僧正とか呼ばれた爺さんは、マグナが一番聞きたくない言葉ばかりを次々と、ご神託めかして祭壇の上から浴びせたのだった。
439CC 26(1)-2/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 07:14:32 ID:gSi8g6tv0
 なんにしろ、とにかくいきなりだった。
 神殿の入り口で突然、リィナの告白を受けた、そのすぐ後。
 細い道を抜けて窪地の内側に足を踏み入れた俺達が、最初に出くわした男達は、リィナの顔を見知っていた。つまり、ここがリィナのふるさとだってのは、間違いないらしい。
 連中はひとしきり驚いてみせてから、俺達がまだ名乗ってすらいないのに、「じゃあ、その方が勇者様か」と、馬上のマグナを見上げて感慨深げに口にした。
 その後は、訳も分からないまま神殿の奥まで連れて行かれて、大僧正やらいう爺さんと、いきなり対面させられたのだ。
 正直言って、リィナ以外は話についていけてない。
 有無を言わさず俺達を引き回した橙色の貫頭衣を着た男達とも、道すがらの会話がまるで噛み合わず、したり顔でなんだかんだと話しかけられたが、内容はほとんど意味不明だった。
 なんというか、向こうは何故か状況を把握しており、当然のようにこちらも全て納得済みだと、勝手に思い込んでるらしいのだ。
 分かった事といえば――どうやら、ここの住民は、マグナが勇者だってことを、ハナから全員承知してるらしい。
 それだけじゃなく、マグナ――というか、勇者がこの地に辿り着くのを、首を長くして待っていたようなのだ。
 男達のひとりが先触れに出たらしく、途中で通り抜けた村――と言っていいのか分からないが、ともあれ居住区と思われる場所では、どこからともなく住民が集まって、遠巻きに俺達を眺めながら「勇者様がお着きになった」みたいなことを、ざわざわと口にした。
 よほど勇者の到着を待ち侘びていたらしく、ざわめきは次第に大きくなり、その内万歳三唱でもはじまるんじゃないかみたいな雰囲気に包まれたが、神殿に近づくにつれて住民の姿は減り、馬鹿デカい神殿の前で馬を預けた頃には、周囲は静けさを取り戻していた。
 その後は、もったいぶって神殿の奥まで通されて、まるきり訳も分からないまま大僧正の爺さんに引き合わされたという次第だ。
 面通しが目的だったらしく、対面自体はすぐに終わった。ロクでもない言葉ばっかを、一方的に投げつけられただけだった。
440CC 26(1)-3/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 07:19:47 ID:gSi8g6tv0
 途中で同じ格好を何人も見かけた事から、ここの標準的な服装と思しい橙色の貫頭衣を着た男達は、対面を終えた終えたマグナに詳しい説明を申し出た。
 だが、半ば言葉を失いつつも、マグナは頑なにそれを断わり、なんでもいいから自分達四人だけにならせてくれと要求した。
 そして、今。
 神殿のとある一室で、マグナはリィナを睨みつけている。
「なんなのよ……ホント訳分かんない」
 苛立ったマグナの呟きには、俺も全く同感だった。
 ここは、シェラの探してた神殿だった筈だろ?
 それが、なんでマグナ――勇者の到着が歓迎される、みたいな展開になってんだ?
「――ちゃんと説明してくれるんでしょうね、リィナ?」
 俺達に提供された部屋は、建物の一番外側にあるようで、石造りの壁には窓がしつらえられていた。
 硝子の向こうは、今にも雨の降り出しそうな曇り空。
 弱々しい光が室内に差し込んでいるが、他に灯りが無いので、却って薄暗く感じられた。
「うん……でも、ボクより他の人の方が、うまく説明できると思うけど……」
「ご免だわ。あたしは、リィナの口からしか聞きたくないの」
「……分かった。何から説明したらいいかな」
「全部よ。今まで隠してたこと、全部喋りなさい」
「うん。でも、ボク説明下手だから、時間かかっちゃうと思うけど……」
「構わないわ。時間なんていくらかかってもいいから、ちゃんと説明して」
 ともすれば刺々しくなりがちな声音を、マグナは必死に抑え込んでいる。
「うん。えっと……どこから喋ったらいいのかな……」
 俯き加減なリィナの立ち姿は、まるで悪さを働いて母親に問い詰められている子供みたいに悄然として見えた。
「そうだね……まず、ボクはそもそも、マグナをここに連れて来る為に、アリアハンまで迎えに行ったんだよ。ルーラとか使わないで、一緒に旅して途中で魔物と戦いながら、ある程度まで鍛えて連れて来るっていうのが、ボクの役目だったんだ」
「役目って……なによ、それ」
「……」
「ここの人達、みんなグルってこと?なんで。何が目的なの。なんであたしが、こんなトコに連れて来られなきゃならなかったの」
 嵐の前の静けさを思わせる、平坦な喋り方。
441CC 26(1)-4/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 07:24:14 ID:gSi8g6tv0
「あ、うん……どう言ったらいいんだろ……」
 リィナは、頭の中で文章を組み立てては崩しを繰り返すように、しばらく言葉を詰まらせた。
「……別に今さら、言葉を飾ろうとしなくていいわよ。要するに、あたし――勇者に魔王を斃させる為に、ここまで連れて来たんでしょ」
 痺れを切らしたように、マグナは自分で答えていた。
「……うん。そうだね」
「そんなに皆でよってたかって、あたしを勇者にしたいんだ?」
「……」
 半笑いを浮かべるマグナ。
「しかも、なに?お膳立てをしたのは、どうも『あの人』みたいじゃない?さっきのお爺さんが、盟約がどうのとか言ってたもんね?」
 あの人――マグナの父親。オルテガのことだ。
「びっくりだわ。アリアハンだけじゃなくて、こんな地の果てみたいなトコでも、コソコソこんなこと仕組んでたなんて。十六歳の誕生日に出発なんて分かり易い日取りにしたのも、これが理由だったのかしらね。あの人も、ホントご苦労サマだわ……いい迷惑」
「マグナ、違う――オルテガ様は、マグナの為を思って――」
「あたしの為じゃないでしょっ!?勇者の為でしょっ!?」
 ついに、マグナは抑えきれなくなった。
「なんなのよ――ロクに顔も合わせたことないクセして、どこまで追っかけてくれば気が済むの!?ホント、鬱陶しい。ウザいったら無いわ。あちこちフラフラして帰って来ないのはあの人の勝手だけどね、なんであたしまで巻き込むのよ!?一体なんなの、あの人は!?」
 以前、オルテガの名前を耳にしたノアニールでの一件を、俺は思い出していた。
『やっぱり、逃げらんないのかな……』
 こんなに遠くまで旅してきたのに、全てはオルテガの掌の上だった。マグナにしてみたら、そんな気分に襲われても無理はない。
 父親――オルテガを罵るマグナの言葉を聞いて、リィナは悲しげに目を伏せた。
「……リィナもよ。なんであの時、言ってくれなかったのよ!?あたしが魔王を退治しに行くつもりなんて無いってコト、とっくに知ってたよね!?」
 え――そうなのか?
 オロオロと成り行きを見守るシェラに、思わず目を向ける。
 俺の視線に気付いたシェラは小さく頷いて、声を潜めて囁いた。
442CC 26(1)-5/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 07:29:58 ID:gSi8g6tv0
「あの――私が家出した時あったじゃないですか。あの夜、マグナさんが打ち明けてくれたんです」
 シェラの家出って――カンダタ共と、最初に戦ったすぐ後だろ?
 おい待て、そんなに前のハナシなのかよ。
 マグナの秘密が、まだ二人にバレないようにとか、さんざっぱら気を遣ってた俺がアホみたいじゃねぇか。ったく、マグナも言えよな、そういうことは。
 とか思ったが、今はそれどころじゃねぇな。まぁ、俺の知らねぇトコで、こいつらの間でも色々あったってことだよな――ちょい淋しい。
「ごめん……」
「っ――ごめん、って……」
 消え入りそうな声で謝るリィナと、息を詰まらせるマグナ。
「なによ、それ……今さら、謝んないでよっ!?卑怯じゃない!!」
 マグナの悲鳴が、然程広くない部屋の石壁で反射する。
 リィナは、ただ視線を床に落とすばかりだった。その横顔が、ロマリアの修練場でブルブスに気遣われていた時の、それと重なる。
 あの時、既にリィナは知ってた訳だ。魔王退治に行くつもりなんて、マグナにはさらさら無いことを。
 つまり、リィナがずっと抱え込んでた悩みは、これだったんだな。魔王を討つ為に勇者をここまで連れて来るって自分の役目と、マグナにそのつもりが無いことを知ってしまった板挟み。
『あのね、二人のことは大好きなのよ!?すごい大切』
『今はシェラとリィナがすごい大切なの』
 悩んでいるリィナの姿を、はじめて目にしたあの日の夜――
 酔っ払ってクダ巻いて、マグナが俺にそう言ったのを憶えてる。
 マグナはきっと、物凄く不安を感じながら、自分の秘密を打ち明けたに違いない。二人がそれを受け入れてくれたのが嬉しくて、マグナはあんな風に言ったんじゃないだろうか。
 マグナにしてみれば、リィナの行為は裏切りに思えても、仕方ないかも知れない。
 いや、俺が見るところ、マグナは自分がそう思ってしまうのを、必死に否定しようとしているのだ。
 むしろ、リィナの方が、マグナにそう思われているに違いないと考えて、自分を責め立てているように見えた。
443CC 26(1)-6/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 07:33:55 ID:gSi8g6tv0
「――大体、なんであたしなのよ!?」
 マグナは、強く頭を左右に振った。
「魔王を退治したいなら、自分達で勝手にすればいいじゃない!!リィナがあれだけ強いんだから、ここには他にも強い人がいっぱいいるんでしょ!?」
「うん、まぁ……皆、ルビス様の『楽園』に行けるようにって修行してるから――ううん、今は魔王を斃す為だけど……でも、それは――」
「ほら、やっぱりそうなんじゃない!!じゃあ、なんでなのよ!?なんで、なんで、わざわざこんな回りくどい真似までして、あたしなんかを引っ張り込もうとするのよ!?あたしなんて――」
 マグナは、ちょっと言葉を詰まらせた。
「なんにも出来なかったじゃない!!あたしがあんたより全然弱いことなんて、よく分かってるでしょ!?なんで――」
「……違うんだよ」
 リィナの声は、溜息のようだった。
「どれだけ強くなっても、ボク達じゃ斃せないんだよ。大僧正様も、さっき仰ってたでしょ……マグナじゃなきゃ、ダメなんだ」
「――はぁっ!?」
 マグナはしばし、絶句した。
 なんて言ったらいいか分からないように、口をぱくぱくさせてから続ける。
「あたしじゃなきゃダメって……なんで!?なんでよ!?なんか理由でもあんの!?」
「うん。あのね……ルビス様が、そう仰ったんだよ」
「――はぁ?」
 気の抜けたような、マグナの返事。
 マグナの困惑は、よく分かる。
 俺も意味分かんねぇ。
 ルビスって、昔の神様のことだよな?
「えっとね、話には聞いてたけど、他の国ではホントにすっかり忘れられちゃってるみたいで、ボクも驚いたんだけど……ダーマでは、ずっとルビス様が信仰されてるのね。
 ルビス様は、すごい昔に『楽園』をお創りになって、心の清らかな人達だけを連れて、この世界からいなくなっちゃったんだけど――」
「ちょっと、いい加減なこと言わないでよ?話がおかしいじゃない!?この世界に居ないのに、どうやって――ううん、そうじゃなくて。あのね、神様がそう言ったからなんて、そんなおとぎ話みたいなハナシ、そもそも信じられるとでも思ってんの!?」
「大僧正様が、ルビス様の声を聞けるんだよ。それから――」
 リィナは続く言葉を口にするのを、少し躊躇った。
444CC 26(1)-7/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 07:41:39 ID:gSi8g6tv0
「オルテガ様も」
 びくん、とマグナが震える。
「細かいことは、ボクも分かんないけど、ルビス様を信仰するのが世界でダーマだけになっちゃったのは、その昔、アリアハンが世界を征服したからなんだって」
 アリアハンの世界制覇と共に勢力を拡大した教会は、神様といえば、いわゆる『神』しか認めない。他の土地神やなんかと一緒に、ルビス信仰も駆逐されたって話だろう。
「だから、ダーマではアリアハンってすっごい嫌われてるんだよ。アリアハン出身のオルテガ様を、それでもダーマが受け入れたのは、オルテガ様もルビス様の声を聞けるんだって認められたからでね――」
「だから、なんだっていうのよ」
 駄々っ子のように、マグナは唇を尖らせた。
「意味分かんない。それが、どうしたっていうの。何が言いたいのよ」
「マグナも、じゃないの?」
 リィナは視線だけあげて、上目づかいにマグナを見た。
「マグナも――ルビス様の声を、聞けるんじゃないの?」
「っ――なに言ってんの?知らないわよ、そんなのっ!!」
 明らかに思い当たるフシのあるマグナの動揺を目にして――それまですっかり忘れていた、とある一場面が脳裏に蘇る。
『お告げがの、あったんじゃよ』
『どんな!?その……誰が告げたの!?』
『……あれは、確か女の声じゃった』
 バコタの鍵を持っていた、ナジミの塔の天辺に住む酔狂な老人とマグナの会話。
 事ここに至って思い返すと、マグナは既にあの時、爺さんが口にした「お告げの女の声」に心当たりがあったんだ。つまり、ルビスにお告げを下された経験が。
 それはきっと、マグナにとってとても不本意な――おそらく、勇者絡みのご神託。
 無かったことにして忘れてしまいたかったのに、思いがけずに爺さんからお告げの話を聞かされて――だから、マグナはあの後、ひどく不機嫌になったんだ。
 多分、間違い無い。
「大体、なによ!?神様がそう言ったから、どうだっていうの!?あたしにしか斃せないって言われて、それだけで、ああそうですかって、あんた達はあっさり納得しちゃったわけ!?」
「うん……ルビス様の言葉は、ボク達にとって絶対だから……」
 これを聞いて、マグナの瞳に「怒り」の色が浮かんだ。
445CC 26(1)-8/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 07:45:16 ID:gSi8g6tv0
 でも、その怒りの矛先は、目の前のリィナじゃねぇんだ。俺には分かる。
「はぁ?何言ってんの?……あんた達、魔王を斃す為に修行してるんじゃなかったの!?あんた達に斃せないんなら、する意味なんて無いjじゃない!!なんでそんな言いなりなの!?ホント、訳分かんない……その神様が死ねって言ったら死ぬの!?あんた達は!?」
 自分の感情を上手く言葉に出来ないんだろう。少々子供じみたマグナの無茶な反駁に、しかしリィナは頷いていた。
「うん……ボク達が修行してるのは、元々ルビス様のお力になる為だから……」
 だから、ルビスの為に戦って死ねと言われたら、喜んでそうする。みたいな意味だと思われた。
 まさか、リィナが頷くとは思ってなかった筈だ。呆気に取られたマグナが、さらに何かを言い募ろうとする前に、リィナは慌てて付け加える。
「でもね、ダーマも何もしてなかった訳じゃないんだよ?魔王を斃そうとして、何回も人を送ったりはしたんだよ。けど、全部失敗しちゃったんだ……ほら、あのニックって人、いたでしょ?あの人も、そうやってダーマから送り出された一人だったんだけど……」
 だからか。リィナがあいつの事を知ってる風だったのは。
 実際に耳にしていた時は意味不明だったリィナとニックの会話も、今なら多少は理解できそうだ。
「その時のパーティは、すごい人ばっかりでね。この人達でダメなら、世界の誰にも魔王は斃せないだろうってくらい、四人が四人とも、みんな天才って呼ばれてたような人ばっかりで。でも、その人達も結局、ひとりも戻って来なかったんだよ……」
 あのバケモンと同レベルが四人いても、ダメだったのかよ。そりゃ確かに、誰にも斃せねぇかもな。
「それだけじゃなくて、世界中の国が何回も軍隊を送ったりしたんだけど、やっぱり魔王は斃せなかったんだよ」
 その話なら、知ってる。バラモスが、辿り着くことすら困難な現在の居城に引っ込む前に、幾度となく編成された討伐軍は、全て敗北に終わったのだ。
「……だから、なによ」
 マグナは、どういう顔をしていいか分からない表情だった。
446CC 26(1)-9/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 07:48:50 ID:gSi8g6tv0
「全然、意味分かんない。あんな冗談みたいに強い人とか、軍隊でも斃せなかった相手に、あたしが何を出来るっていうのよ」
「それは……だから、ルビス様が――」
「あたしにしか斃せないって言ったんでしょ!?それはもう聞いたわよ!!でも――なんで、あたしなのよ!?」
 全くだ。
 今、リィナが言った事は、魔王は誰にも斃せないって状況証拠にはなっても、マグナにしか斃せない理由にはならない。
 ルビスがマグナを選んだって話が本当だとしても――なんで、マグナが選ばれたんだ?
「イヤよ、絶対にイヤ。あたしは絶対、納得なんてしないんだから……」
 マグナは強く、自分の指を噛んだ。
「まさか、あの人の娘だからって理由で選ばれたんじゃないわよね?だったら、魔王を斃すのは、あの人でも構わない筈だもんね。じゃあ、なんでなのよ!?」
「それは……ボクにも、分かんないけど……ルビス様がそう仰ったとしか――」
「ああ、そう。予想通りのお返事、どうもありがとう。分かったわよ。ルビスサマに選ばれし勇者だから、とにかくあたしにしか斃せないってワケね。四の五の言わずに、ありがたくご神託に従いなさいって言うんだ」
「そんな……こと――」
「馬鹿にしないでよ……そもそも、あんた達は、なんで魔王を斃そうとしてるのよ?」
「え?」
「だから、こんな世界の端っこで、コソコソ妙な根回しして、あたしなんかを担ぎ出してまで、なんでここの人達は魔王を斃そうと思い立ったの?それも、ルビスサマがそう言ったから?」
 リィナは、歯切れ悪く答える。
「うん……あと、オルテガ様が――」
「もういい。聞きたくない」
 マグナは顔を顰めて、リィナから視線を逸らした。
「――っていうか、リィナ。あんた、シェラにも嘘吐いてたってことよね」
 再びマグナに睨まれて、リィナはびくっと首を竦めた。
「この神殿は、シェラが占い師のお婆さんから聞いたような場所じゃないって――シェラの望みは叶わないって、最初っから知ってたのよね?知ってて、ずっと黙ってたってことよね!?」
 リィナは、下を向いたまま答えられなかった。
447CC 26(1)-10/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 07:52:10 ID:gSi8g6tv0
「マグナさん……」
 却ってシェラが気遣わしげな声を出したが、マグナはそれも耳に入らない様子で詰問する。
「なんとか答えなさいよッ!?」
「ごめん……」
 ひゅっと喉を鳴らしたマグナの顔が、それまでよりさらに紅潮した。
「さっきから、なんなのよっ!?謝ってばっかりじゃない!!別に、謝ってなんて欲しくないわよ!!なんなの……なんなのよ、これは!?」
 何度か深く呼吸を繰り返しても、マグナの息は整わなかった。
 ブンブン振った頭を、両手で抱える。
「ダメ。訳分かんない――訳分かんない」
 虚ろに繰り返すマグナの表情は、本当にどうしたらいいか分からないように、途方に暮れていた。
「……もうイヤ。気持ち悪い。ここに居たくない。しばらく独りにならせて」
「あ、うん。じゃあ、すぐ部屋を用意してもらうから」
 ようやく顔を上げて、リィナは扉の方に向かった。
「早くして。今、これ以上、リィナと顔合わせてたくないの」
 一瞬、リィナの動きが止まる。
「ごめん……」
 リィナは俺達から顔を背けると、逃げるようにして扉を開けて外に出た。
 ちらりと見えた、泣きそうな横顔。
 違うぜ、リィナ。
 嫌われた。
 お前が、そう受け取っちまっても、仕方ねぇけどさ。
 押し殺したマグナの声。
 このまま顔を合わせてると、感情のままにリィナを罵ってしまいそうで――マグナはきっと、それがイヤなんだ。
 ほどなく、リィナは橙色の貫頭衣を着た男を連れて戻ってきた。
 案内を申し出た男の後について、部屋を出ようとするマグナに歩み寄る。
「マグナ……」
「ごめん……ちょっと、独りにさせて」
 こちらを見ようとせず、額の辺りに手を当てて部屋を後にしたマグナに、なんて声をかけていいか分からずに、俺はそのまま見送ってしまった。
 まいったな。
 こんな急展開は、さすがに全く予想出来なかった。
 俺自身、ちょっと考えをまとめないと、どうしていいか分かりそうにない。
448CC 26(1)-11/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 08:04:23 ID:gSi8g6tv0
「許してもらえるとは思ってないけど……ごめんね、シェラちゃん……」
 リィナが謝る相手は、今度はシェラに変わっていた。
「あ、いえ……」
 お互いに、俯いたまま口篭もる。
 シェラもまた、事態の推移が急過ぎて、うまく状況を呑み込めていない顔つきだった。
「ホント、マグナの言う通りだよね……今さら謝っても、怒らせちゃうだけかも知れないけど……ごめんて言う以外、思いつかなくて……」
「いえ……」
 ひとしきり沈黙が続いた後、リィナはひどく言い辛そうに口を開いた。
「あのね……シェラちゃん」
「はい?」
「えっと――その、どう言ったらいいんだろ……普通ね、冒険者は職業を決めたら、もうずっとそのままだよね?」
「はぁ……」
 シェラは、突然何を言い出すんだ、みたいな曖昧な返事をした。
「決めたらっていうか……基本的に、その人の資質に合った職業にしかなれないんだけど。そこは多分、アリアハンでも同じで、その人に合わない職業を選んでも、認められないようになってると思うんだよね」
「まぁな。その為に、試験とかしてる訳だし」
 嘴を挟めそうな内容だったので、つい横から口を出しちまった。
 だってさ。さっきから、空気が重苦しくて耐えらんねぇっつーか。
 リィナも、ちょっとほっとしたように、俺に小さく頷いてみせる。
「うん。つまりね、例えばボクが僧侶の呪文を使いたいと思って、僧侶になったとしてもね、武闘家の修行ばっかりに精を出しちゃって、僧侶としては全然成長できないと思うんだ」
「はぁ……」
 シェラの相槌は、まだ話がどこに向かっているのか、まるで呑み込めていない風だった。俺もだけど。
「でもね、このダーマでは、それが出来るんだよ。ボク達は『転職』って呼んでるんだけど……どう言うんだろ……えっと、ボクが僧侶になりたいとしたら、ボクを僧侶向きに、武闘家の修行なんかに精を出さないようにしてもらえるのね」
 つまり、リィナがベホイミを唱えられるのは、その『転職』ってのをしたからか。
 密かに納得しつつ、また口を挟む。
449CC 26(1)-12/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 08:10:39 ID:gSi8g6tv0
「要するに、暗示かなんかで性格を変えるってことか?」
「うん……ボクもよく分かんないんだけど、別に性格は変わんなかったかな……でも、武闘家としてより、僧侶としての成長を第一に考えるようになったのは確かだよ。考え方とか、意識が変わるっていうのかな?でね――」
 ちょっと逡巡してから、リィナは先を続けた。
「もしかしたら、なんだけど……それを応用すれば、シェラちゃんの意識を体に合わすことはできるかも、って思うんだよ」
 なるほどね。そういうことか。
 ここでシェラの体を女にするのは無理だけど、意識や考え方を男のソレに変えて、普通の男にすることは出来るかもって話だ。体と心がちぐはぐだって問題は、一応それで解決できる。
 そこが問題の焦点なら、だが。
 相変わらずきょとんとした顔つきで、ずいぶん長いこと時間をかけてから、シェラは小首を傾げた。
「えと……ちょっと、よく分からないです」
「そうだよね……ごめんね。シェラちゃんが望んでるのは、そういう事じゃないのは分かってるんだけど……いきなり、こんなこと言われても、困っちゃうよね……」
「あ、いえ、お話は分かったんですけど……あの、ちょっと、えっと……」
 シェラの顔に浮かぶ曖昧な笑みは、内心の困惑の顕れだろう。
「……すみませんけど、私も、しばらく独りにならせてもらっていいですか?」
「あ――うん、もちろん」
「リィナさんが言ったことも、考えてみますから……」
「うん……ホントに、ごめんね」
「いえ……」
 そうして、シェラも案内役に連れられて、部屋を後にしたのだった。
 またしても、なんて声をかけていいか分からずに、ただ見送っちまった俺とリィナの間に、気まずい沈黙が訪れる。
 いや、俺はそうでもないんだが、リィナはエラく気まずそうだった。
「ヴァイスくんも、ごめんね。ボク、ずっと嘘吐いてて」
「ああ、いや――」
 マグナやシェラと違って、隠し事をされていた張本人じゃないからだろうか。
 正直なところ、騙された!とか、裏切られた!といった類いの感情は、俺の裡にはほとんど見当たらなかった。
 そういう意味では、逆に奇妙な疎外感を覚えないでもない。なんか俺って独りだけ、部外者っていうか、自分で思ってた以上に、隠し事もされないくらいの第三者的な立場だったのね、みたいな。
450CC 26(1)-13/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 08:13:30 ID:gSi8g6tv0
『なんていうのかな……あなただけ、目的っていうか、意志が感じられないのよね。あなたが、あの子達と一緒に行く理由が見えないの。だから、不思議だったのよ』
 いつかのスティアの台詞が、脳裏でリフレインする。全く、あいつは鋭い女だよ。
 でもまぁ、俺のこんなチンケな疎外感なんぞ、この際どうでもいい訳で。
 もちろん、マグナのことも、シェラことも気がかりだが――リィナのことも心配だよ、俺は。
 本当は、こいつは俺達に隠し事なんてしたくなかった筈なんだ。それは、信じてる。少なくとも俺は、無条件にそう信じられる。
 そんなこいつが、ずっと隠し事を抱え込んでた心痛たるや――まぁ、よくここまで黙ってたよ。
「俺の方こそ――悪かったな」
 リィナの置かれた立場も知らずに、何度もこいつの悩みを能天気に聞き出そうと迫ってた。さぞかしリィナは、言うに言えずに困っただろうな。思えば、ずいぶん残酷な真似をしちまったモンだ。
「え?――ああ、うん」
 はじめはきょとんとされたが、やがて俺が何を謝っているのか察したらしく、リィナはやや自嘲気味にはにかんだ。
「ホントだよ。ヴァイスくんがしつこく聞いてくるから、ボク、ホントに困ったんだから。もう言っちゃおうかなって、何度も――」
 少しだけいつもの調子を取り戻した、冗談めかしたリィナの台詞は、扉をノックする音に遮られた。
 視線で問いかけると、リィナは首を捻った。
「誰か来ることになってたのか?」
「ううん。分かんないけど……」
 呟きながらリィナは扉に近寄って、開いた隙間から外を覗いた。
「あれ、ティミ……と、グエン?久し振り――」
「そんな挨拶はいいんだよ。勇者様は、どこ?ここに居るって聞いたんだけど?」
 聞き覚えの無い女の声。
「あ、うん。今は、別の部屋で休んでもらってるけど……」
「なに?居ないの?いいから、ちょっと入れなよ」
 リィナを押し退けるようにして、見知らぬ女が入ってきた。
451CC 26(1)-14/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 08:16:57 ID:gSi8g6tv0
 歳は、リィナと同じくらいだろうか。身に着けているのも、リィナのそれと同じ武闘家の道着だ。
 髪型は、違っている。リィナは頭頂部付近でひとつにまとめているが、この女はふたつに分けていた。両耳の上辺りで左右にまとめられた黒髪が、ぴょこんと垂れている。
 背丈は、リィナよりやや低い。マグナと同じくらいだろうか。すごいツリ目の、やたら気の強そうな女だった。
 その後ろから、男が顔を覗かせる。こっちは、俺と同年代か。背丈もひょろっとした体つきも俺と近いが、顔つきは優男風だ。
 多分、ティミってのが女の名前で、男の方がグエンだろう。
 部屋に入るなり、ティミはジロリと俺を睨みつけた。
「誰?」
 俺への第一声が、それかよ。こっちの台詞だっての。
「一緒に旅してきた、魔法使いのヴァイスくんだよ。あ、ヴァイスくん、この人達は――」
「ああ、現地調達の素人かい。別に、紹介なんていらないよ。アリアハンの人間なんかに、興味無いね」
 物凄いつっけんどんな口振りで、ティミは吐き捨てた。
「へぇ、君がねぇ。勇者様のお供の魔法使いねぇ」
 魔法使いの格好をしたグエンの方は、同業のよしみか、多少は俺に興味を持ったようだ。
 けど、揶揄するみたいな口調が気に入らねぇ。なんか、見下したような目つきも気に喰わねぇぞ、こいつ。
「勇者様がおいでじゃないのは残念だけど、まぁいいや。リィナ、ウチと勝負しな」
「へ?」
「ウチが勝ったら、この先、勇者様のお供は替わってもらうよ。いいね?」
 勝手に話を進めるティミ。
 つか、展開についてけないんで、そろそろ一旦落ち着かせてもらえませんかね。そんで、誰か俺に全部詳しく説明しろ。
「えっと……ボク、今はそういう気分じゃないって言うか……」
「黙りな。アンタに、拒否する権利なんかないんだよ。大体、勇者様のお迎えがアンタに選ばれたのだって、ウチは納得しちゃいなかったんだ。アンタなんかよりウチの方が、勇者様のお供にずっと相応しかった筈なんだよ」
「でも、そんなのボクが決めたんじゃないし……それに、心配しなくても、マグナはもうボクを連れてくつもりは無いんじゃないかな……」
 しょげたリィナの態度にも、ティミはまるでお構いなしだった。
452CC 26(1)-15/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 08:19:23 ID:gSi8g6tv0
「うっさいんだよ!!グダグダ言ってないで、いいからウチと勝負しな!!どっちが上か、今日こそハッキリ白黒つけてやるよ!!」
 何かの因縁があるらしく、憎々しげにティミはリィナを睨みつける。
「いっつも贔屓されやがって。ずっと、気に喰わなかったんだ……」
「キミ、前からそう言うけどさ……そんなことないと思うんだけど……」
「あるに決まってんだろ!!ちょっとオルテガ様にお目をかけられたからって、天才だとかもてはやされやがって……いい気になってんじゃないよ!!」
 ふむぅ。なんだかリィナは故郷でも、色々と複雑な事情に取り囲まれてるらしい。
 女二人の口論を聞きながら、知らない部分を想像で補う作業は、粘着質な声に中断された。
「君、魔法使いだそうだけどさぁ。どの辺りの呪文まで覚えてるのかなぁ」
 ニヤニヤ笑いながら、グエンが俺に尋ねてきた。
「あ?」
「いや、だからさぁ、君が唱えられる一番レベルの高い呪文だよぉ。聞こえてたでしょ?」
「……メラミだよ」
 よっぽど無視してやろうかと思ったが、何回でもしつこく尋ねてきそうだったので、渋々答えてやる。
 グエンは、わざとらしく目を見開いた。
「へぇ!?メラミねぇ……あぁ、そうなんだぁ」
 馬鹿にしきった口調。我知らず、右手が拳を握る。
 なにカラんでんだよ、この野郎。誰だか知らねぇ手前ぇの相手なんざ、してる気分じゃねぇんだよ、こちとらは。
「あれぇ?ゴメンごめん。怒らせちゃったかなぁ?」
 睨み付けてやると、グエンは一層締まりのない顔でにやついた。
「でも、最高でメラミって……勇者様のお供にしては、ちょっとレベル低いよねぇ」
 わざと無言で通していると、案の定、グエンは気にした風もなくぺらぺら喋り続ける。
「ボクはねぇ、イオラはとっくに覚えててねぇ、多分、もう少しでベギラゴンも唱えられるようになると思うんだよねぇ」
 ああ、そうですか。そりゃ良かったですねぇ。その調子で、せいぜい頑張ってくださいよ。
453CC 26(1)-16/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 08:25:38 ID:gSi8g6tv0
「あとさぁ、アリアハンの冒険者って、僕らみたいに子供の頃から訓練してる訳じゃないから、呪文を唱える間隔が長めに設定されてるって、ホントなのかなぁ?そうしないと、君らみたいな素人じゃ、気が狂っちゃうからって聞いたんだけどさぁ」
 長めかどうかは知らないが、間を置かないと呪文を唱えられないのは本当だ。
 自分の脳みそに本来は存在しない『すじみち』を、外部から儀式――イニシエーションによって無理矢理刻み込むので、呪文を唱えてその『すじみち』を辿る行為は、脳みそに過度な負担を強いるのだそうだ。
 呪文を唱えた後の、極度に集中して物事を考え続けた後みたいな倦怠感というか虚脱感で、それは実感出来る。
 そこで、脳みそが過負荷でぶっ壊れないように、呪文を唱えた後は『すじみち』を一定の時間遮断する仕組みが、同時に組み込まれているのだという説明は受けていた。
 いや、細かい理屈は、俺もよく分かんねぇんだけどさ。
 ともあれ、冒険者になる際に受けた講義で、あの陰気な講師はそう言っていた。「そういう物だと思っておけ。貴様等の貧困な知識では、その程度の理解で上出来だ」という嫌味を付け加えるのも、野郎は忘れなかったが。
「まぁ、そうだよねぇ。アリアハンの冒険者なんて、所詮はダーマの劣化版みたいなモノでしょ?」
 この粘着質の言葉を信じるとすれば、ダーマの魔法使いは俺より短い間隔で呪文を唱えられるし、そもそもアリアハンの冒険者はダーマを参考にして組織されたらしい。
 そういえば、ルイーダの酒場の成り立ちに、オルテガが関わってるって話があったな。両者の間を、オルテガが取り持ったってところか。
 そう考えると、まんざら嘘でもねぇんだろうが、いちいちイラッとくんな、この野郎の喋り方は。
「よくそんな低レベルで、ここまで頑張ったよねぇ。うん、エラいエラい。まぁ、ここから先は安心して、勇者様のお供は僕ら専門家に任せておくれよ」
 は?
 何を言い出しやがんだ、この粘着質は。
「君はさっさとアリアハンの田舎に帰って、のんびり暮らしてくれていいからさぁ。心配しなくても、僕らが勇者様と魔王を斃してあげるからねぇ」
 アホぬかせ。手前ぇなんぞに、マグナのお供が勤まるとでも思ってんのか。
454CC 26(1)-17/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 08:30:09 ID:gSi8g6tv0
「あれぇ?なんだい、その目は?君だって、自分が魔王を斃せるなんて思ってないでしょ?折角、分不相応な役割から開放してあげるって言ってるのに、もっと喜んで欲しいなぁ」
 常に唾液が舌にたっぷり絡み付いてるような、ねちっこいグエンの喋り声に、俺のイライラは頂点に達しかけていた。
「いいから、勝負しろってんだよ!!逃げんのか!?」
 横で大声が聞こえて、俺のイライラが爆発の機会を失ったのは、良かったのか悪かったのか。
「……分かったよ。じゃあ、ちょっと手合わせしようか」
 リィナは溜息混じりに、ティミに答えていた。
「君も僕と勝負してみるかい?納得いかないって顔つきだもんねぇ?あぁ、安心しなよぉ。魔法使い同士だからねぇ、蹴ったり殴ったりなんて野蛮なことはしないからさぁ。純粋に、呪文の威力を比べるだけだよ」
 グエンが俺を挑発する。
 うるせぇな。
 どうせ、こんな山奥で、ずっとシコシコ修行ばっかりしてやがったんだろ?
 誰かに、その成果をひけらかしたくてしょうがねぇんだな、このバカ。
 バカの自己顕示欲を満たしてやるつもりは、さらさら無かったが、俺はリィナが心配だったので、大人しく三人の後についていった。
455CC 26(1)-18/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 08:34:20 ID:gSi8g6tv0
 連れて行かれたのは、対人戦闘の訓練に使われるとかいう、窓の無い石造りの広間だった。壁際にいくらか武器が置いてあるくらいで、他には何も無い。広さは飛んだり跳ねたりするには充分で、高い天井は大僧正のいた祭儀場と同じように湾曲していた。
「じゃ、やろうか」
 広間の真ん中でティミと向き合ったリィナは、いかにも気が進まない様子だった。
 戦闘を前にして、こんなにやる気が無さそうなリィナを見たのは、はじめてだ。
「フン。シャクに触るねぇ、その態度。余裕あるフリしやがって。天才様にしてみりゃ、ウチなんて本気で相手してらんないってかい」
「そんなんじゃないけど……」
「あんまりナメるんじゃないよ。知ってんだよ。勇者様の修行の為かなんか知らないけど、魔物が弱っちい地方ばっか旅してやがったクセにさ。アンタがのんびり旅してる間に、ウチが何もしてなかったとでも思ってんのかい」
「……のんびりなんて、してないよ」
 ちょっとムッとしたリィナの反論を、ティミは鼻で笑った。
「ハン、どうだかね。腑抜けた今のアンタをブチのめすのなんか、十数える間で充分だよ」
「……どうでもいいから、早くしたら」
 とことん気の無い素振りに、ティミは顔を真っ赤にする。分かり易い性格してるのな、あの女。
「相変わらずだねぇ……その余裕っぷりが、気に喰わないんだよ!」
 五、六歩ほどの間合いを、ティミは一瞬にして詰めた。リィナに喧嘩を売るだけあって、その動きはかなり素早い。
 だが、ティミの振り下ろした手刀を、リィナは易々と躱す。
 その後の攻防には、見覚えがあった。
 カンダタ共が根城にしていた、石窟寺院の地下の広間。あそこで目にした攻防と、よく似ていた。
 ただし、配役が違う。リィナがニックの役で、あの時のリィナをティミが演じている。
 リィナにまとわりついて、流れるように繰り出されるティミの攻撃――フゥマの解説によれば、本来躱しようがない筈の攻撃は、あの時と同じように、見事に全て捌かれていた。
「ハン!思ったよりゃ、ナマっちゃいないようだね!!」
 勝気にそう言ったものの、顔が引きつってるから強がりだろう。
 ティミの動きが、少し速度を増して見えた。
 それでも、当たらない。
 苛立った舌打ちが聞こえた。
456CC 26(1)-19/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 08:38:13 ID:gSi8g6tv0
「なんで反撃しないのさ!?ほら、手を出しなよ!!」
 わざと隙を作って挑発されても、リィナはやる気の無い表情のまま、淡々と攻撃をいなし続けた。
「馬鹿にしやがって――ナメんじゃないよっ!!」
 ティミの動きが変わった。
 跳び上がっての大振りな後ろ回し蹴りは、身を屈めたリィナにあっさり躱されたが、そのまま空中で回転したティミは、振りかぶった拳を真下に向かって突き出した。
『メラ』
 なんだと――っ!?
 ティミの拳に先行して放たれた火球は、床と接触して小規模な爆発を起こす。
 リィナの姿は、既に爆心地には無かった。
 爆発に遅れて着地したティミは、熱そうに顔を顰め――自分の真下に向かって、メラなんか放つからだ――リィナに向かって得意げに笑ってみせる。
「フン、よく躱したじゃないか」
「ああ。ティミも、転職してたんだ」
 せっかく誇らしげに自慢してみせたのに、別にどーでもいいみたいな口調で返されて、ティミはまた顔を真っ赤にする。
「アンタが呑気に旅してる間に、必死に修行したんだよ!これで分かっただろ。呪文を使える武闘家は、もうアンタだけじゃないんだ!」
「どうりで、なんかキレが無くなってると思った」
 リィナに悪気が無いことは、俺には分かったが、ティミには馬鹿にされたとしか思えなかったようだ。
「ッ――負け惜しみ言うんじゃないよッ!!」
 リィナは、負けても惜しんでもいないと思うが。
 それはともかく、こいつらは二人とも、元々武闘家だろう。話を聞いてる限りでは、リィナは僧侶に、ティミは魔法使いに転職ってのをして、ある程度呪文を覚えてから、再び武闘家に転職し直したっぽい。
 一度覚えた呪文は、どうやら別の職業に転職しても使えるみたいだな。その代わり、僧侶や魔法使いになっている間は、武闘家としての修行に精を出さなくなるらしいので、その分、腕が鈍っちまうってことか。
 それにしても、リィナの魔法の使い方を見た時も面食らったモンだが、こいつら無茶苦茶しやがるぜ。呪文を唱えるには相応の精神集中が必要で、唱えた後は虚脱感に襲われるから、普通は殴りかかりながらとか、唱えられる訳ねぇんだけどな。
457CC 26(1)-20/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 08:41:25 ID:gSi8g6tv0
 多分こいつらは、武闘家としての動きは無意識にこなせる――体が勝手に動くってレベルなんだろう。動作は肉体に任せて、精神は呪文に集中するってなトコか。
 魔法使いしか経験のない俺には、ちょっと信じらんねぇけど、実際に目の前で見せられちまってるからなぁ。そんくらいしか説明がつけられない。誰にでも出来るって技術じゃなくて、努力と才能の賜物だとは思うけどね。
 尤も、わざわざメラを選んだ事からすると、ティミが攻撃と同時に唱えられるのは、ごく初歩的な呪文だけだと思われた。
「適当言いやがって……ウチは、前より強くなってるんだよ!!」
「そう?じゃあ、ボクがちょっとは強くなったのかな……でも、ちょっとじゃダメなんだけど」
「ホント、ムカつくねぇ、アンタ……この一年、ウチがどれだけ修行したと思ってんだい!?ウチはもう、とっくにアンタを超えた筈なんだ!!」
「……でも、ずっとここで修行してただけでしょ。外には、ボク達が思ってるより強い魔物も人も、沢山居るよ。だからキミも、一度外に出てみるといいんじゃないかな」
「ナメたことぬかしやがって……その為に、アンタと今、勝負してるんじゃないか!!」
 リィナに成り代わって、勇者様と一緒に魔王退治に行く為ってか。
「あ、そっか」
 今ごろ気付いたみたいなリィナの反応が、余計にティミの神経を逆撫でした。
「どこまでナメれば気が済むんだい……いいさ、手ぇ出さないってんなら、勝手にしなっ!!そのまま殺してやるよっ!!」
 物騒な事を喚きつつ、突っ込んだティミの拳を躱しざまに、リィナの掌が耳の辺りから顎にかけて撫でるように掠めた。
 かくん、と膝を落としたティミは、その場にくたりと倒れ込む。
「ごめんね。やっぱり今は、そういう気分になれないや」
 え?
 今ので終わりかよ?
 なんつーか、圧勝だな。ニックとの二度目の戦闘を経て、リィナはまた強くなったのかも知れない。
 やり取りからして、ティミは昔からリィナをライバル視してたらしいが、ちょっと哀れに感じるくらい、両者の実力差は開いてしまったようだった。
458名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/14(木) 08:50:45 ID:uPcAqFbb0
いらないとしても支援
459CC 26(1)-21/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 09:02:16 ID:gSi8g6tv0
「すぐ目を覚ますと思うから、介抱してあげてね」
 グエンに声をかけて、とぼとぼと広間を後にするリィナ。
「おいおい、どこに行くんだい?」
 追いかけようとした俺を、グエンが呼び止めた。
「まだ、僕と君の勝負が、残ってるじゃないか」
「悪ぃけど、付き合ってらんねぇよ」
 いちおう立ち止まって、顔だけ振り向けた。
「う……」
 リィナの言葉通り、すぐに目を覚ましたティミが呻き声をあげる。
「あれ……ウチ……」
 頭を振って、片手で顔を押さえる。
「くそっ、セコい真似しやがって……こんなの、白黒ついたなんて、ウチは認めないからな!」
「まぁ、あんたらにも色々あるんだろうけどさ――」
 俺は、溜息を堪えることが出来なかった。
「少しは、あいつ――リィナの気持ちも、考えてやったらどうだ」
 こいつらにとって、勇者様のお供って立場は、さぞかし羨ましいモンみたいだが――でも、あいつは逆に、そのことで苦しんでたんだぜ。
 こっちの事情を知らないにしてもさ、昔っからの知り合いなんだから、あいつが落ち込んでることくらい、顔見て察してやれねぇのかよ。
「それに、ちょっとはさ。マグナの気持ちも、考えてやってくれよ」
 お前にしか魔王は斃せない。まるで全人類の運命を背負わされたも同然な宣告をされた、ただの十六歳でしかない女の子の気持ちを、少しは想像してやれないモンかね。
「何が言いたいのか分からないなぁ。ルビス様に選ばれるなんて、この世で最も名誉なことじゃないか。その勇者様をお助けする共連れには、より強い人間がなるのがいいって考えるのは、ごく普通のことだと思うけどねぇ」
「そうだよ。だから、アタシは――」
「あんたらさ。強さってのは、腕っ節のことだけじゃねぇんだぜ」
 お前らに、マグナを守ってやれんのかよ。あいつの弱い部分を、ちゃんと支えてやれんのか?
「面白いこと言うねぇ。じゃあ、君の言う強さってのを見せておくれよ」
「また今度な」
 これ以上、相手をする気はなかった。どうせ、話が平行線を辿るだけだ。
「ああ、それとな。あいつを勇者って呼ぶな。あいつの名前は、マグナだ」
「なに言ってんのさ――」
 背中に投げかけられる声を無視して、俺はリィナを追って広間を後にした。
460CC 26(1)-22/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 09:05:40 ID:gSi8g6tv0
 通路に出て左右を見回しても、リィナの姿は見当たらなかった。
 さて、困ったな。あいつらの相手なんてしてないで、やっぱりすぐに後を追うべきだった。
 なんとなく予感が働いて、他に知っている場所がある訳でなし、やたら天井の高い通路を逆戻りして、さっきまで居た部屋に戻る。
 押した扉は、開かなかった。
 鍵がかかっている訳じゃない。少しだけ、隙間が出来ている。扉の向こうに何かが置かれていて、それに突っかかっているのだ。
 鼻をすする音が、微かに漏れ聞こえた。
 リィナだ。山勘が外れなくて良かったぜ。いや、この状況は良くねぇけど。
「リィナ――入っていいか?」
 いらえがあるまで、少しかかった。
「あ……うん」
 寄りかかっていた扉から、リィナが身を離した気配があった。
 扉を押し開けて中に入ると、リィナは泣いてはいなかったが、その目は充血していた。
「どしたの?あ、そっか、ヴァイスくんの部屋――待ってて。どの部屋使えばいいか、すぐ聞いてくるよ」
 俺から顔を背けて、通路に出ようとしたリィナの腕を掴んで引き止める。
「ああ、頼むよ。けど、もうちょっと後でな」
「へ?なんで?」
「いや、だってさ……ちょっと、話していいか?」
「ごめん、今、ボク……ううん、分かった。なんでも言ってよ」
 リィナの心理の働きは、手に取るように分かった。
 俺達を裏切った自分は、何を言われても仕方ない。どんな文句も、ちゃんと受け止めなくちゃいけない。そう考えてやがるんだ、こいつは。
「いや、あのな。はじめに言っとくけど、俺は別に怒ってねぇからな」
 だから俺の前では、そんな親に叱られてるガキみたいな顔しなくていいんだ。
「え?」
「だって、俺は別に、なんも嘘吐かれてねぇしさ」
「……そんなことないよ」
 すっかりしょげちまってるリィナは、普段のこいつからは想像もつかない程、ひどく頼りなく見えて――抱き締めて、よしよしと頭を撫でてやりたくなったが、辛うじてそれは堪える。
 今のこいつに、俺は何を言ってやれるんだろう。
 いや――俺は、なんて声をかけてやりたいんだろうか。
 かけたい言葉は、ぼんやりと頭に浮かんでいる。だが、それを口に出すのを躊躇っちまって、しばらく沈黙が続いた。
461CC 26(1)-23/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 09:09:16 ID:gSi8g6tv0
「……旅は、楽しかったよね」
 もたくさしてる間に、リィナがしみじみと、そんなことを口にした。
「ボク、他の国とか行くの、ほとんど初めてだったからさ。見る物みんな珍しくて、面白かったな……」
 新しい土地を訪れる度に、物見高くあちこち眺めて回っていたリィナの姿を思い出す。
「宿とかでもさ、マグナとシェラちゃんと一緒の部屋に泊まって、遅くまで色々話したりして、楽しかったなぁ……」
 俯きながら、目だけ俺に向ける。
「あ、もちろんヴァイスくんもだけど――ボク、ダーマの人達も別に嫌いじゃないし、仲良しが全然いなかった訳でもないんだけど……友達って、こういうのを言うのかなぁって、みんなと旅して、初めて分かった気がしたよ」
 リィナは力無い笑みを浮かべた。
「ほら、さっき見たでしょ?ボク、ここじゃ案外、嫌われてたりするからさ」
 嫌われてるってより、妬まれてるって言った方が正確っぽいけどな。
「でも……もうダメだよね。ボク、ずっとウソ吐いてたんだもん。あの旅も、友達だって思ったのも、全部ウソになっちゃったよね……」
 ますます俺は、なんて言ったらいいか分からなくなった。
 分からなくて、さっきぼんやりと頭に浮かんだ言葉が、思わず口をつく。
「……辛かったな」
 ずっと独りで、言うに言えない葛藤に苦しんでたんだもんな。
 と――
 リィナの両目から、大粒の涙がぽろぽろ零れたのを目にして、俺はぎょっとなった。
「ズルいよ、ヴァイスくん……今、そんなこと言うなんて……」
 そうだよな、やっぱり。
「ボクなんかに、優しくしないでよ……」
 くしゃっと歪んだ顔を見ていられなくて、脳裏の制止とは裏腹に、俺はリィナを抱き締めていた。
 頭をかき抱いて胸に押し付けながら、俺の裡の冷静な部分が、頭の片隅で突っ込みを入れる。
 これって、どうなのかね。ここ最近、マグナのことばっかり考えてた俺が、衝動的にこんな行動を取っちまってもいいのかよ。
 逆に、もっと傷つける結果になっちまうだけなんじゃねぇのか。
 こうなると思ったから、さっきは言うのを躊躇ったんだ。
 でも――
 とうとう、嗚咽が漏れ聴こえた。
 どうにも、放っておけねぇよな。
462CC 26(1)-24/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 09:14:30 ID:gSi8g6tv0
「全部、ウソになっちゃって……なんにも残らないのが……怖くて……めて……なんか……自分の中……残したくて……でも……負けちゃって……」
 しゃくりあげながら、切れ切れにリィナは言葉を続ける。
「ウソになんて……したくなかっ……すごい大切……ったのに……でも、ボク……弱くて……」
 堪え切れなくなったように、リィナは声に出して泣いた。
 俺はしばらく、リィナの頭を撫で続けた。
 お前が聞いたか知らねぇけどさ。マグナも、同じこと言ってたんだぜ。お前らのこと、すごく大切だって。
 シェラも、お前ら二人のことをお姉さんみたいに思ってるって言ってたしさ。
 もう一緒に行けない。許してもらえない。お前が、そう思っちまっても無理ねぇけどさ。マグナもシェラも、さっきはお前を嫌って出て行ったってよりは、お前を嫌いになりたくなくて、一旦距離を置いたんだと思うぜ。
「ごめんね……こんな……言う資格……無いのに……」
「そんなことねぇから。無理すんな。気が済むようにしろよ」
 うぅ、と呻いたリィナの両腕が、俺の背中に回された。
 力を篭められて息が詰まりかけたが、なんとか我慢する。
 ここでムセたりしたら、なんていうか、台無しだからな。
「ホント……ヤになる……ボク……弱くて……」
「前にも、そんなこと言ってたな」
「うん……ボク……マグナと会って……自分がどれだけ弱いのか、ホントに思い知らされたよ」
 少し落ち着いてきたのか、ひっきりなしに鼻をすすり上げながらも、リィナは多少まともに喋れるようになっていた。
「別に言うほど、お前は弱かねぇだろ。お前が弱かったら、俺なんてどうなっちまうんだよ」
 おどけてみせても、リィナは俺の鎖骨の辺りに額を押しつけたまま、ゆるゆると頭を横に振った。
「ううん。マグナに比べたら、全然弱い……マグナは、ホントすごいよ……」
 まぁ、俺もあいつは強いとは思うけどさ。でも、お前がそこまで言う程か?
「なにが、そんなにスゴいんだ?」
 そう尋ねると、リィナは俺を見上げた。瞳が、まだ潤んでいた。
463CC 26(1)-25/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 09:17:54 ID:gSi8g6tv0
「だって……あのね、聞いてくれる?」
「ああ」
「ボクね……生まれは、ここじゃないんだ」
「そうなのか?」
 話の流れがよく分からなかったが、息がかかりそうな距離にあるリィナの顔に相槌を打つ。
「うん……三歳とか四歳とか、そのくらいの頃に連れて来られたみたい。生まれた村は魔物に滅ぼされて、ボク以外はみんな死んじゃったんだって……たまたま、そこを通りかかったオルテガ様に拾われて、ここに預けられたんだ。すごい運が良かったんだよ」
「……そっか」
「でね、それからずっと、物心って言うの?つく前から、勇者様を助けて魔王を斃すんだって言われ続けて修行して……
 なんか、生まれつき運動神経が人より良かったみたいでね。それなりに期待もされてたし、生まれた村が魔物に滅ぼされたっていう話も聞いてたから、ボクもそれが当たり前なんだって思ってた……」
「うん」
「普通さ、そんな小さい頃から、お前は魔王と戦うんだ、それがお前の使命なんだって言い聞かされて育ったら、それ以外の考え方なんて出来なくなっちゃうよ。そう思わない?」
「そう……かもな」
「でもね――マグナは違ってた」
 なんとなく、リィナの言わんとしていることが分かってきた。
「ボクと同じように――ううん。きっと、ボクなんかよりずっと、いろんな人からいっつもいっつも、魔王を斃んだ、それがキミの使命なんだって言われ続けて育った筈なのに……」
「ああ」
「マグナは、それを鵜呑みにしなかった。周りに呑み込まれなかった。自分の意志を持ち続けて、それが押し潰されちゃわないように、ずっとずっと自分以外の全部と戦ってたんだよ」
「……そうだな」
「それって、スゴいよね?最初に会った頃から、なんかちょっとおかしいなって思ってはいたんだけど……魔王を退治しに行くつもりが無いって、実際にマグナから打ち明けられた時、ボク、ホントにびっくりした」
「うん」
「ボクは、ホントに単純にそれが当たり前だって思い込んでて、でも、マグナはそうじゃなくて――」
 改めて感じ入ったように、リィナはふぅーと息を吐いた。
464CC 26(1)-26/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 09:25:16 ID:gSi8g6tv0
「それって……なんて言うんだろ――マグナは、世界を相手に戦ってたようなモンだよね?」
「……そうだな」
「ちょっと、想像つかないよ。周りの誰にも、分かってもらえなくて……それってどれくらい、絶望的なんだろって思う。なんで、あんなに強いんだろ……それなのに、ボク……」
 伏せた睫毛が震えていた。
「ボクは――自分がどうしたいんだっていうのが、何も無かったんだよ。マグナと会って、すごい思い知らされた。ボクはヒトに言われたことを、ただやってただけなんだよ」
 リィナがマグナの事を強いって言ってたのは、そういう意味だったんだな。
「マグナはボクに、それを気付かせてくれたのに……あのね、ボクも、どうしたらいいのかなって、ずっと考えてはいたんだよ。どうすれば全部がいいようになるのかなって、ずっと考えたけど……全然分かんなくて……」
「うん」
「言われたことをするだけで、自分がどうしたいとか何も無かったから、いざ自分で考えようとしても、何も決められなかったんだよね……ホント、ヤになる。自分のことがこんなにヤになるなんて、びっくりだよ」
「うん」
「結局、言われた通り、マグナをここまで連れて来ちゃった……マグナが、そんなの望んでないって、よく分かってたのに……ヒドいよね。マグナは、あんなに強いのに、ボクはスゴく弱い。それまでの自分を、捨てる勇気も持てなかったんだよ……」
 また瞳に溢れた涙を隠すように、リィナの顔は下を向いた。
「こんな……ボク……大切だ、とか……友達……なんて……言えない、よね……」
 再び、嗚咽が漏れた。
 いっつも飄々として、弱みとかあんまり見せないヤツだから、そこまで思ってなかったけど――考えてた以上に、こいつと俺は近いのかも知れない。
「なんていうか……お前の気持ち、俺にはすごい良く分かるよ」
 元々の性格もあるんだろうが、飄々とした態度には、あえて俺達と一線を引く意味合いも含まれていたんじゃないか。俺達とダーマの間に挟まれた心理的な綱引き状態が、こいつをニュートラルな立ち位置に留めさせていたんじゃないか。
 そんな風にも思える。
 ホントはこいつ、すごい普通なんじゃねぇのか。やたら腕っ節が立つのを除けば、ごく普通の女の子で――
「……なんてな」
 よろめきかけた気持ちを誤魔化すように、俺はついおどけた台詞を補った。
465CC 26(1)-27/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 09:28:40 ID:gSi8g6tv0
「……ごめんね。こんな……言い訳みたいな事……ボク、言っちゃいけないのに……」
 リィナは縋りつくように、俺の背中に回した腕に力を篭めた。
「ズルいよ……分かってもらおうなんて、虫が良過ぎるのに……そんな風に、言わないでよ……」
 うん、ヤバい。
 自分が、雰囲気に流されそうになってるのが分かる。
 抱き締めて頭を撫でるくらいならアレだけど、このまま慰め続けたら、必要以上のことまでしちまいそうだ。
 だって――なんか、すげぇいじらしく思えちまってさ。
『ここで軽はずみなことして、手前ぇはその後、どう始末をつけるつもりなんだ?』
 そう喚き立てるもう一人の自分と、マグナの面影が脳裏になかったら、絶対とっくに流されてるな、俺。
 正直、リィナがサラシを巻いててくれて助かったよ。それでも、抱き締めた体は充分女らしくて、柔らかくて参っちまうんだけどさ。
「ごめんね……こんな……マグナには、悪いと思うんだけど……」
 なんか、声がすごい艶っぽい。リィナじゃねぇみたいだ。
 俺の背中に回した腕に、もう一度きゅっと力を篭めてから、リィナは顔を上げた。
 だから、その潤んだ瞳は勘弁してくれ。
 あと、落ち着け、俺の下半身。そんな場合じゃねぇだろ。バレたらどうすんだ。自分の若さが嫌になるぜ、全く。
「……離したくないよ」
――っ。
 危ねぇ。頭のどっかの線が、切れかけた。
「……ボクね、ヴァイスくんにも、謝らなきゃいけないことがあるんだ」
「何をだよ?」
 リィナの声音が普段に近くなって、俺は内心、物凄くほっとした。
「うん、あのね……最初はさ、パーティに魔法使いも欲しいなって思ってたから、ヴァイスくんが居てちょうど良かったくらいのつもりだったんだよね……でも、どう見ても、勇者様を助けて魔王を退治しに行く、みたいなタイプには思えなかったからさ」
 リィナは、ちょっと笑った。
 ええ、そうでしょうとも。
「シェラちゃんと違って目的がある訳でもないし、旅がキツくなったら途中で逃げちゃうんじゃないかな、とか疑ってたんだよね。なら、マグナとくっつけちゃえば、まぁダーマまでは逃げないでついてくるかな、とか思ってて」
466CC 26(1)-28/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 09:33:47 ID:gSi8g6tv0
「ヒデぇな――まぁ、分かるけどさ」
「ホント、ごめんね。でも、割りとすぐ、あ、これは見損なってたかな、って思い直したんだよ?」
「いやぁ、正しい見方だったんじゃねぇの」
「も〜、いじめないでよ」
 俺の背中をとんと叩いて、リィナははにかんだ。
 ちくしょう、可愛いなぁ。
「それでね、まぁ、マグナとヴァイスくんからかうの面白かったし、くっつけちゃえっていうのは、そのまま続けてたんだけど……」
 あ。また雲行きが怪しくなってきた。
「でも、それって、もしかしたら自分の気持ちを誤魔化してるだけなのかな、って思うようになって……」
 なにやら、またリィナの表情が女っぽく見えてきた。なまじ可愛い顔してやがるから、女っぽく見えはじめると始末に困るんだっての。
「ボク――」
 うわ、バカ。頬染めんな。よせ。ヤメロ。
「ヴァイスくんのこと、好きだよ」
 。
 。
 。
 いかん。
 頭ん中が、真っ白になりかけた。
「でも――きっと、好きってほど好きじゃないんだよね」
 無意識に止まってた呼吸が、気付かぬ内に再開する。
「いつかヴァイスくん、言ったでしょ。マグナくらいの年頃は、誰かしらにそういう感情抱かずにいられないって。近くにいる男が自分だけだから、錯覚してるだけだって」
 ああ――言ったかね。そんなことも。
「あれって、ボクのことなんだよね。ほら、ボクってそういうの慣れてないから、マグナよりもっと全然子供なんじゃないかな。ボク、すっごい純情なんだよ」
 リィナは、くすっと笑った。
「それにさ、ヴァイスくんに会うまでは、男の人に優しくされたこととか、ほとんど無かったし――」
 何気なく口にされたリィナの台詞は、俺のヘンな興奮に冷水をぶちまけた。
「なんて言うんだろ。ここではボク、それなりに期待されてる武闘家か、その卵でしかなくて……ボク自身の気持ち?とか、考えてくれた人なんて、ほとんどいなかったからさ」
 顔が蒼褪めてないといいんだが。
 俺は――優しくなんて、全然してやれてねぇよ。
 お前の気持ちだって、全然考えてやれてなかったんだ。特に、最近の俺は。
 無遠慮に悩み事を聞き出そうとした後悔こそあれ、優しく接してやれた場面なんて、少なくとも俺は思い出せない。
467CC 26(1)-29/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 09:38:41 ID:gSi8g6tv0
 それとも、俺自身が気付かないような、ホントにちょっとしたことでさえ、こいつにとっては優しく感じられたんだろうか。
「――ううん。そもそもボク自身が、自分の気持ち――自分がどうしたいかとか、全然考えてなかったんだよね。ボクもほら、結局ここの人だから。みんなと旅してて、それが、すごいよく分かった。外に出てみて、ここってヘンな場所なんだなって、ようやく分かったよ」
 確かに、こんな山奥で修行に明け暮れる生活なんて、普通じゃねぇわな。その上、付き合う人間といや――俺は、さっきの二人を思い出す。あんな連中ばっかりなんだろ?
 ふと、俺は思ってしまった。
 こいつを、今居る場所から連れ出してやりたいと。
 こいつが知らなかった景色を、もっと見せてやりたい。こいつが知らない楽しいことを、もっと経験させてやりたい。
 それは別に特別なことじゃなくて、そこらの連中なら皆思い出の中にあるような、ごく普通の生活――
「ってことで、ボクのは勘違い。それに、ボク、他にちゃんと好きな人いるもん」
「え――誰?」
 不意に胸中に沸き起こった思いから一気に引き戻されて、俺は思わず尋ねていた。
 内心の落胆が甚だしく予想以上で、表情を取り繕うのに苦労した。
「それは、ヒミツ」
 いたずらっぽく、リィナは言った。
「でも、ヴァイスくんも、名前は知ってる人だよ」
 この一言で――ピンときた。
 なるほど。こいつの生い立ちを考えれば、自然な感情かも知れない。
 けど、やっぱりそりゃマズいだろ。不倫じゃねぇかよ――そういや、アリアハンで奥さんに会いたがってたな、こいつ――でもさ、それこそ勘違いで、父親に憧れるみたいな感情なんじゃねぇのか――恋人ってんなら、俺の方が――いや、何考えてんだ、俺は。
「だから、ありがと。ボクはもう、充分優しくしてもらったから」
 リィナはゆっくりと、俺から身を離した。
「ヴァイスくんは、マグナのこと見ててあげて。きっと、すごく傷ついてるから」
 ああ、そうか。
 リィナの話の着地点は、ハナからここだったんだ。
 自分はいいから、マグナを――
 リィナはとっくに、気持ちの整理をつけていて。
 俺が勝手に気を回して心配してたアレコレは、まるで的外れだったって訳ね。恥ずかしくて、赤面しちまうよ。
468名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/14(木) 09:43:33 ID:1+mPLFTL0
一応支援
469CC 26(1)-30/30 ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 09:44:21 ID:gSi8g6tv0
「ボクとシェラちゃんに秘密を打ち明けてたのを、マグナがヴァイスくんに黙ってたコト、怒らないであげてね」
 そんなことを、リィナは言った。
「マグナが自分でそう言った訳じゃないんだけど……ボク達に口止めしてたのはね、ヴァイスくんにずっと、たった独りの相談相手でいて欲しかったからだよ。ボクは、そう思うな」
 吹っ切ったような、リィナの笑顔。
 俺は、少しばかりの寂しさを覚えた。
 
 
 
 旅の間の出来事なんかを、上に報告しないといけないという事で、その後リィナとはすぐに別れた。
「気持ちが落ち着くまでは、ちょっかい出さないように、ここの人達にはお願いしておくからさ。ヴァイスくんも、マグナのこと気にしてあげてね」
 そう口にしたリィナの表情が、やや淋しげに見えたのは、やっぱり俺の自惚れだろうか。
 リィナが呼んでくれた世話役に連れられて、石造りのエラい固そうな寝台と小さい机しか無い狭い部屋に案内された俺は、マグナとシェラの居場所を尋ねた。
 マグナの部屋は右隣り、シェラはさらにその隣りの部屋に居るという。
 まず先に、シェラの部屋を訪ねようと思ったのは、意図的ではなく無意識だった。
 マグナは最後の大トリ――つまり、一番大切に思っている。無自覚に、そんな序列じみた考え方をしちまってるんだろうか。そう思って、ちょっとした罪悪感に襲われる。
 シェラのこと、軽く見てるつもりは全然無いんだけどな。元々、ここにはあいつの為に来たんだし、本来なら今回の件では一番の当事者な訳だし、今頃はさぞかし落ち込んでるだろうし。
 通路に出て、さて、シェラにはなんて声をかけるべきだろう、と考えていると、こちらに向かって歩いてくる人影が目に入った。
 何度も見かけた世話役の橙色の貫頭衣じゃなく、灰色のやぼったいローブを羽織っている。
 ありゃ、魔法使い共がよくしてる格好じゃねぇか。
 フードをはだけた顔に覚えがある気がして、知らず知らずに目を細めた。
 あの、やたら気難しそうな顔は――間違いない。
 俺のことなど見えてないみたいに、完全に無視して通り過ぎ、マグナの部屋の扉に歩み寄ったのは――
 俺が冒険者になる時に受けた講義を担当していた、あの陰気で嫌味なクソ講師だった。
 
 
 
470CC ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 10:16:10 ID:gSi8g6tv0
支援どもです〜ノシ
うぅ。。。3時間は体力的にキツい。。。

ということで、第26話(前編)をお送りしました。
お待たせし過ぎてすみません><
あと、ホントは途中でぶったぎるつもりじゃなかったので、
長い割りに、なんか説明不足ですみません><

ダーマは、Lv.20前後で転職という新たなお楽しみが登場ということで、ゲーム的には
何も問題無いんですが、小説的には、ルイーダの酒場ってアリアハンにしかないのに、
なんで転職できる場所があんなに離れてるんだ、とかいう説明をでっちあげる都合で、
対バラモスの秘密の最前線基地みたいな位置づけになりました。

えぇと、なんでバラモスが誰にも倒せないのかとか、マグナが選ばれた訳とか、
「ルビスに選ばれたから」なんてナメた理由じゃなく、いちおう考えてはあります。
納得していただけるかどうかは別にしてw
全部が後編で明かされる訳じゃありませんが、そこそこ説明される予定です。
あと、シェラの件も、これで終わりじゃないです。

なるべく日を置かずに、後編も投下したかったんですが、
後編は全ボツにしちゃったのでw、ある程度かかちゃうかもです。
けど、いくらなんでも今回ほどはかからない筈。
なるべく早く投下できるようにしますので、またお付き合いいただければと思います。

例によってクラクラなので、ヘンなこと書いてたらすいません><
471CC ◆GxR634B49A :2007/06/14(木) 10:22:15 ID:gSi8g6tv0
あ、思い出した。
大僧正より大神官とかの方がよかったかも知れませんが、
単純に地理的な理由で、大僧正になりました。
なんか、作中の雰囲気には、そっちのが合ってる気がするし。
どうでもいいですかね(^^ゞ
472名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/14(木) 10:22:36 ID:1+mPLFTL0
超GJ!!
続きがすげぇ気になる・・・

今回もプリンスでしたねw
持ってるアルバム出ると、ちょっと嬉しいっす。
473名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/14(木) 15:34:18 ID:llFJw8KaO
超超超超GJ!!!!!


リィナ可愛いよリィナ
マグナ偉いよマグナ
シェラ健気だよシェラ


ヴァイス凄ぇよヴァイスw
あの状況で手ぇ出さないとは、余程の根性無……ゲフンゲフンもとい我慢強いのか、どうなのか。

後半、陰気な教官にちょっとwktk。
CC氏、期待してますぜ!
474名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/14(木) 23:51:23 ID:Ml2tLjqOO
CC氏乙!
毎回最高にGJな作品をありがとう
CC氏の書くヴァイス達の心理描写は毎回思うけどうまいですね
後半を楽しみにしてます!
475名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/15(金) 00:46:15 ID:8NxRlf0FO
この流れであえて言おう
CC氏、まとめミスってるよ


26話押しても25に繋がるよ。多分リンクミス
476名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/15(金) 01:33:06 ID:8aaFrCdPO
【アホスw】ザオラルと叫びながら人口呼吸をした男性厳重注意【せめてザオリク】

6月11日の未明、東京都の品川区の路上で乗用車とバイクが正面衝突する事故が起きた。
乗用車に乗用していた3人の男女に怪我はなかったが、バイクを運転していた19歳の大学生が心肺停止の重体となった。
乗用車に乗っていた3人の男女は気が動転していたため
近くにいた20代の男性が人口呼吸をした。
そのうち野次馬も集まってきて、多くの人の視線を集めテンションが上がって来たのか男性は
「ザオラル!ザオラル!(※)」と数回に渡り叫んだという。
そして野次馬の中から「せめてザオリク(※)にしろよ!」との声が上がっていたと目撃者の一人が話していた。
その後救急車が到着し、救急隊員に再度蘇生を行われた男性は、無事搬送先の病院で意識を戻した。
乗用車の3人も軽傷ですんだ。
この事故で人口呼吸をしバイクの運転手を救った男性ではあったが、
「緊急の場でふざけたのは不謹慎」として警察は男性に厳重注意をした。
男性は「前々からこういう場面でこういう事を言えばウケるのではないかと思っていた。実際に言うつもりはなかったが人が集まってきたので興奮していた。反省している。」と語った。

※ザオラル(ザオリク):人気ゲーム、ドラゴンクエストで倒れた者を回復させるいわゆる蘇生魔法。

http://news21.2ch.net/test/read.cgi/news7/1181772792/
477名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/15(金) 14:21:56 ID:zeik3Zi0O
GJ!しかし毎度毎度よくこんな量書けるね。
478CC ◆GxR634B49A :2007/06/15(金) 21:18:01 ID:CqgdDEc80
みなさま、レスありがとでした〜ノシ
今回もプリンスでした(^^ゞ
続きを期待していただけると、書く意欲が湧くので大変ありがたいです<(_ _)>

あ、ホントだ。リンク間違ってたや。ご指摘ありがとうございます。

嫌味な魔法使いは、どうやら私も好きなキャラみたいなので、上手く書きたいトコロです。
後編→次回で、「えーなんだよそれー」と見放されないか、ちょい心配だったり。
とか言いつつ、全然反応無かったら、もっとアレだけどw
そうならないように、がんばります><
479名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/16(土) 01:18:18 ID:+oX9XX/u0
やっと長〜〜〜〜い規制が解除された〜!
CCさん乙!
嫌味な魔法使いは良い助演男優ですね
ダーマ神殿篇の今後の展開がまた面白そう
マイペースで頑張って!
480※YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/06/16(土) 04:16:20 ID:ObtLqaJd0
なんというGJ。CCさん乙です。


いや、今回は本当凄かった。何が凄いって、リィナのマグナに対する弁と、
俺が夢想する、ゴドーがマグナのことを知ったとき抱くであろう評価が、殆ど同じであったということです。

ゴドーは父や、世界が自身に寄せる期待を超える偉業を成し遂げることで自我を押し通そうとしたわけですが、
マグナは逆に、それらに背くことで自我を通そうとした、と。
自身と同じ立場にありながら、自身と全く違う『強さ』を持ったマグナのことを知れば、あの男は大層興味を持つはずです。
その結果として、姫君を理解しようとする不器用な狼君は、勝つとか負けるとかはハナからほっぽって
凡そ考えうるあらゆるハンデを背負ってでもマグナとの戦いを望むことでしょう。
奴にとって重要なのは、単純な戦力勝負よりも、心の凌ぎ合いなので。
そんなわけで勝てば勿論ですが、別に負けても『あぁ、俺じゃ駄目か』とかマグナの心の『強さ』を再確認して満足げに笑います、あいつは。

まぁ万に一つも有り得ない取り合わせで詮無き話ではありますが、その万に一つが起こりうるのがアリワ神竜編の天界だったり。

そして、ルビス信仰と『楽園』云々のくだり。
CCさんがもし公言の通り独自の解釈でこれらを書かれたとしたら、割と公式と合致しているのが怖いw
あとCCさんの意図するところは別なのだろうけど、
性格診断のときの天の声をルビス様の声だと勘違いしている人が存外多いのが何故か妙に癪に障る俺は、きっと俗物なのだろう。

>もう神竜編の終盤まで考えてあるのか
前回見落としましたが、これは大きな買い被りw
よくある厨二小説のパターンのご多分に漏れず、俺もまず最初と最後を考えてから構想を練ります。
ただ俺の場合、その二つの間を埋める過程をどう描くかを考えるのが楽しいので続くというだけの話で。
アリワのエピローグのやり取りも、実はゴドーとアリスの二人が誕生する前から決めてあったラストだったりします。

と、気付いたら自分のことばかり書き連ねてる俺はそろそろてめぇの作業に戻れというお話。
次の投稿は、事前に申しあげた通りの不定期連載なので全くの未定です、すいません。今までが何かの間違いだったということでorz
481CC ◆GxR634B49A :2007/06/16(土) 07:55:24 ID:lm9Z0WOn0
>>479
ありがとうございます〜ノシ
面白くなるようにがんばりますよ!
嫌味な魔法使いは、「こいつ、その内登場しそうだな〜」と、最初にヴァイスが
言及した時から思ってたんですが、ようやく登場と相成りました。

>>480
じゃあ、いっそのこと合作とかしちゃいますかw
話の荒筋だけ決めて、ゴドー側とマグナ側の両方から対戦を書いてみるとか〜。
こっちでは裏でこんな風に思ってたけど、こっちではこう思ってた、みたいな。
いや、冗談ですけど(^^ゞ
お互いそんな余力はねーw

そいから、『楽園』のあたりは、そこそこ公式を意識してます。
ネットに書いてあったのをアレンジした、みたいな感じですけど(^^ゞ
あと、最初に語りかけてたのは、ルビスみたいなイメージにしちゃってます><
直接とは限りませんが。。。うぅ、誤解を広めるような書き方で申し訳ない。。。
。。。いやまぁ、ウチの話では、別に性格診断した訳じゃないですけどw

あー、先々の指針は、やっぱしある程度無いと書けないですよね。
私も、今書いてるトコは、プロローグの頃から一部は想定してましたし。
そんなこんなで、お互い、なんとか頑張っていきましょー。
482名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/17(日) 18:49:23 ID:wyOPbqXu0
CC氏GJ。
ダーマの修行僧は精神修養が足らんのではないか。
まぁ中学生か高校生くらいの年だとすれば・・・

ところでほんのつい先日
普通ここまで周囲の人間に持ち上げられてしまうといっちょやったるか!とか
世界を守ってやるぜ!というように『逃避』した方が楽で、
徹底的に拒否して己を貫く方がすごく大変で偉いことなんだぞ・・・
という見方もあるという話を小耳に挟んだのですが印象深いですねぇ。
483CC ◆GxR634B49A :2007/06/18(月) 00:35:04 ID:CEqqLshQ0
いわゆる仏法僧とは、またちょっと違いますしね。
本筋に大きく影響しないので、後編でも大した言及はないかもですが(^^ゞ
ティミやグエンは実戦部隊とゆうか、ある意味ちょいエリートで。
おまけに世間知らずで、世界が狭くて妙にプライドが高い、みたいなw

とゆうか、それはなんかタイミングよかったですねw>小耳
484CC ◆GxR634B49A :2007/06/19(火) 18:32:19 ID:8cr26A1V0
とりあえず保守
485名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/21(木) 00:35:09 ID:rFISlNCt0
2回目読んでるが更におもしろいぜ保守
486名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/21(木) 12:06:32 ID:0GDJ+e2mO
ドラクエ3欲しくなって買いに行ったが何処にも売ってない…orz
487CC ◆GxR634B49A :2007/06/22(金) 18:05:22 ID:GAEF6kcG0
うはw立て続けに用事がw
でも、いちおう進んでますです(^^ゞ
488名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/23(土) 09:11:29 ID:ScnqKa2Q0
巡回しながら待ってマ〜ス

捕手
489名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/24(日) 16:10:08 ID:CmFiuZBU0
帆朱
490CC ◆GxR634B49A :2007/06/25(月) 03:55:58 ID:G7vtnNPl0
ん〜。。。いまいちピンとこない保守
491名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/25(月) 21:33:06 ID:FSqs5z+O0
まとめサイトって更新停止中?
492CC ◆GxR634B49A :2007/06/26(火) 22:19:23 ID:UBBI9bN40
よし、決めた!悩んでた説明はざっくり削っちゃおう。おもしろくないしw
ということで、もう少々お待ちあれ(^^ゞ
493名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/26(火) 22:56:06 ID:PCITParP0
ナンダナンダどうした!
よく解らないが保守!
494名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/27(水) 00:58:10 ID:Dd6pJ/cr0
深夜にまとめ読みで数日遅れのGJ!
ところで例のアレはどうなったのかいccはん?
495CC ◆GxR634B49A :2007/06/28(木) 05:07:36 ID:QOJrE7RF0
いや、制作裏話的なアレで、全然大した話ではないんですけどね(^^ゞ
いちおう、ほぼ話が終わってから言った方がいいのかなぁ、と思ってまして。
なんだ、そんなことか、とがっかりすること請け合いですので、
あまりお気になさらずにいただけると幸いですw
後編、そこそこ進みましたが、微調整がめんどくさそうです><
496CC ◆GxR634B49A :2007/06/29(金) 02:16:45 ID:Ellx8x470
うぐぐ、今週中にはと思ってたんですが、用事が連続して無理っぽいです><
なんか、やたら忙しい。。。暇を見つけては、なんとか進めてはいるんですが。
お待たせしてばかりで、ホントに申し訳ないです。
来週中を目処に、どうにか頑張る所存ですので、よろしくお願いします(^^ゞ
497名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/30(土) 14:54:08 ID:jQkJVzTYO
期待して待ってる
無理せず頑張ってくれ
498名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/30(土) 16:57:08 ID:MulFa6Uw0
今更かもしれませんが、初めて>>1のまとめサイト見ました。
アリスワードのラストとかって●ないと見れないですかね・・・。
まとめサイト最後が切れてるんですよね(´・ω・`)
499名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/30(土) 19:03:17 ID:D38hGlMNO
だからCC氏のまとめにログがあると何度言えば…
次スレのテンプレに入れないとな
500CC ◆GxR634B49A :2007/07/01(日) 01:07:06 ID:sLG8cio30
うぃ〜、今日も用事でいち日つぶれた〜。すみません><
とりあえず、ウチのまとめもログの辺りをちょちょっと直しておきました。
つか、ウチのまとめって、あんまり見られてないのかしらw
501CC ◆GxR634B49A :2007/07/01(日) 01:15:03 ID:sLG8cio30
可能でしたら、ウチのまとめにリンクを張っていただくだけでも、
ログ探してる人には便利かも>まとめの中の人
もしいらっしゃいましたらですが。
502名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/01(日) 23:25:37 ID:2O6bKoa70
>>495
了解(´・ω・`)
果てしなく気になるけど終結するまで忘れておく…
503CC ◆GxR634B49A :2007/07/02(月) 01:51:21 ID:tAqin1pR0
>>502 すみませんが、よろしくお願いします(^^ゞ
そして、保守せざるを得ない
504名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/02(月) 11:04:25 ID:D+IIp7EE0
ほす
505名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/03(火) 02:56:40 ID:h0ZvH12qO
ほす
506名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/03(火) 20:37:41 ID:fleVUFYR0
ほす
507名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/04(水) 20:59:11 ID:fJ4m2/dS0
CCが次回作を投下するにはあと23の時がひつようじゃ。
ほす
508名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/04(水) 23:11:48 ID:cLIWFRpuO
つ【幸せの靴】
509名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/04(水) 23:21:32 ID:izCz5vex0
デンデンデンデンデンデンデンデンデンデン♪

冒険の書 マグナ は消えてしまった!
510CC ◆GxR634B49A :2007/07/05(木) 05:37:01 ID:122FXTGr0
ようやくちょっと時間とれた〜。
と思ったら、冒険の書がああぁ><
511名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/05(木) 19:05:01 ID:mtBj/mKk0
ニア 新しくつくる

   リィナ*
          ニアおわり
512名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/06(金) 00:43:28 ID:V/8BHBKN0
あなたは エッチですね。
私には わかります。

あなたは エッチです。
それも かなりです。
513CC ◆GxR634B49A :2007/07/06(金) 03:39:42 ID:eOye7Hve0
主人公は変わりませんけど、もうちょいです><
エッチな話じゃないけど、なんとか頑張りますw
514名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/06(金) 21:39:05 ID:ozXlxNKv0
期待を込めて捕手していくぞ
515CC ◆GxR634B49A :2007/07/07(土) 02:21:52 ID:3OQKud6r0
どうにか明後日までにはお届けしたい所存ほす
516名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/08(日) 00:00:12 ID:XFaELV7rO
ほす
517CC ◆GxR634B49A :2007/07/09(月) 03:47:30 ID:h3zFjx0H0
すみません、また用事でつぶれちゃって間に合いませんでした><
投下は明日ということで〜。今度こそ、大丈夫な筈(^^ゞ
518名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/09(月) 03:51:11 ID:/MFc0X/4O
おーけー
おやすみ
519名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 00:44:21 ID:wI8M15gc0
なるほど。
捕手!
520CC ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 02:40:03 ID:WaoWxA5E0
いちおう、明け方くらいの投下を予定しております。
また3時間くらいかかると思うので、ゆっくりお休みになってからご覧いただければと。
それから、今回は設定上かなり豪快な妄想が登場しますので、
あとがきという名の言い訳もご覧いただければ幸いです(^^ゞ
521名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 03:27:22 ID:48T+UOsy0
きたー!!!!
明日仕事だけれど待つよ!
522名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 04:38:06 ID:A5i/qQRIO
CC氏乙!
もうすぐ配達終わるんで
全力で支援するぜ!!
523CC 26(2)-1/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 05:32:13 ID:WaoWxA5E0
26. Gett Off (後編)

 なんであいつが、こんなトコにいやがるんだ?
 久し振りに目にする仏頂面を、記憶のそれと照らし合わせる。
 うん、やっぱ間違いねぇ。俺が、アリアハンで冒険者になる前に受けた、魔法使い向けの講義を担当していた、あの嫌味なクソ講師だ。
 相変わらず、意味もなく苦虫を噛み潰したような不景気なツラしやがって。
 つか、登場が唐突過ぎるだろ。
 まさか俺の度胆を抜く為に、皆して裏で示し合わせてやがるんじゃねぇだろうな。どんだけ俺を驚かせれば気が済むんだよ、このダーマってトコは。
 しばし呆気に取られて、クソ講師の行動をぼんやり見送っていた俺は、野郎がマグナの部屋の扉をノックしようとしたところで、危うく我に返って駆け寄った。
「いや、おい、ちょっと待て――待てって!」
 なるべく声を抑えて怒鳴りつけても、全く反応しやがらねぇ。
 腕を掴んで力づくで制止すると、さしもの野郎もやっとこちらを振り向いた。
 黒ずんだ隈に縁取られた目が、俺をやぶ睨みする。
「なんだ――離さんか。誰だ、貴様」
 頬のこけた、いかにも不健康そうな血色の悪い顔に浮かぶ、怪訝のカタマリみたいな表情――うわぁ。コイツ、俺のこと欠片も覚えてやがらねぇだろ、これ。
「どうも、久し振りです。分かんないですかね、俺のコト?ほら、アリアハンで冒険者になる時に、あんたの講義を受けたヴァイスってモンなんですけど」
「知らん」
 舌打ちみたいに、短く吐き捨てられた。
 この野郎。人が下手に出てやってるのに、ムカつく態度は昔とちっとも変わらねぇ。
「あの――いや、だから、待てっての」
 腕を離した途端に、また扉をノックしようとしやがったので、急いでまた掴んで止めさせると、恐ろしく不機嫌な目つきで睨まれた。
「なんなんだ、貴様は。私は、この部屋に居るオルテガ殿の娘、マグナ嬢に用事があって来た。話も通してある。貴様に邪魔立てされる謂われはない。馬の骨は骨らしく、大人しくそこいらに転がって、野良犬にでも噛み付かれているがいい」
 しばらく振りに耳にする野郎の悪態――見ず知らずと思ってる人間に、こんなこと言うかね、普通――に言葉を失いかけたが、あいにくと黙って見過ごしてやる訳にもいかねぇんだ。
524名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 05:33:59 ID:A5i/qQRIO
支援
525CC 26(2)-2/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 05:38:24 ID:WaoWxA5E0
「いやさ、あいつ――マグナは、今ちょっと落ち込んでて、話ができるような状態じゃねぇんだよ。ちょっかい出すのは勘弁してやってくれ。それより、ホントに俺のこと、覚えてねぇのか?」
 マグナの部屋の前で、あまり騒ぎたくない。
 俺は野郎の腕を掴んだまま、無理矢理引き摺って扉から離れた。
「貴様のような不埒で貧相な痴れ者など、知らんと言っている。いい加減に離さんか」
 邪魔くさそうに、俺の手を振り払う。
 貧相は手前ぇだろ。このやせぎすの顔面神経痛が。
「いや、あの、マジで覚えてねぇのかよ?結構、個人的に質問とかもしたんだけどな……つか、なんであんたが、こんなトコに居るんだよ?」
「貴様の知ったことか」
 取りつく島も無い偏屈な魔法使いは――そういや、こいつの名前なんてんだっけ――寄るな触るなの押し問答の末に、ようやくマグナの部屋に近付こうとするのを諦めた。
「一体なんだと言うんだ、貴様は――」
 人生にくたびれ果てた老人がするような、やたらと深い溜息を漏らす。
 それほど歳は喰ってないように見えるが、魔法使いのことだからな。外見上の年齢が、実際のそれと一致するかは分からない。
「口振りからして、マグナ嬢の関係者ではあるようだな――アリアハンで私の講義を受けたと言ったか――ああ、いたな。やたらと鬱陶しい馬鹿が。マグナ嬢のパーティの一員として、ルイーダの酒場に登録された大道芸人が、確かにヴァイスとかいう名前だったな」
 考えを巡らせ始めると、野郎の理解は早かった。
 そんなに直ぐ連想出来るなら、最初っから思い出す努力をしろっての。
「そう、そのヴァイスだよ」
 馬鹿じゃねぇし、鬱陶しくもねぇけどな。
「聞いているぞ。貴様等、『旅の扉』以外はルーラも使わずに、わざわざ陸路を辿ってここまで来たそうだな。全く、正気の沙汰とは思えんね。いつもながら、貴様等愚昧の取る行動は、理解に苦しむな」
 憎まれ口を叩いてないと、おっ死んじまう病気にでもかかってんのか、こいつは。
「フン、面倒だ。一先ず、貴様で我慢してやる。来い」
 横柄に命じて、せかせかと立ち去りかける。
526名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 05:42:12 ID:A5i/qQRIO
支援
527CC 26(2)-3/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 05:42:16 ID:WaoWxA5E0
「――は?」
「なにをしている、愚鈍が。わざわざ間の抜けた顔をせんでも、貴様がマヌケということくらい、既に充分承知している。己を卑下する自己主張はそこそこにして、さっさと来んか」
「いや、意味分かんねぇんだけど……」
「分からなくていい。貴様は、何も考えるな。暗愚に真っ当な思考なぞ期待しておらん。貴様は黙って、私に付き従えばいいんだ。マヌケな上にノロマときては、目もあてられんな、このタワケが」
 相変わらず、すげぇこと言うな。
「いや、あのな。なんであんたに、そんな命令されなきゃいけねぇんだよ」
 すると野郎は、またふぅ〜っと、この世の全てを嘆いているような仰々しい溜息を吐くのだった。
「いいか、私はマグナ嬢から話を聞く為に、ここを訪れた。それを、貴様が邪魔したんだ。仮令、穴の開いた水桶程の役にも立たなかろうが、せめて貴様がマグナ嬢の代わりを務めるのが当然だと思わんのか。
 分かったら、欠損だらけの脳味噌を無駄に働かせていないで、さっさとついてこい」
 ……。
 久し振りだと、こいつの喋り方についてくのは、かなりキビしいな、これ。
「分かったよ。マグナをそっとしといてくれるってんなら、俺が代わりでもなんでもやってやるよ――けど、その前に聞かせろよ。なんであんた、ここに居るんだ?」
「貴様の知ったことか――と何度言い聞かせても、薄汚い鴉よりもなお執念深く、下らん問いをオウムに増して繰り返す馬鹿だったな、貴様は」
 三度、物凄い面倒臭そうに、深々と溜息を吐く。
「私がダーマを訪れるのは、なんら珍しいことではない。貴様等蒙昧の輩と異なり、アリアハンが衰退して以降も、我々魔法使いはダーマとの関係を保っている。主に研究目的だが、我々も魔法技術を提供している、言わば持ちつ持たれつの間柄だ」
「へぇ、そうなのか」
「尤も、貴様等常識知らずと違って、私はルーラでここを訪れるがね」
 うるせぇよ。俺は手前ぇより、よっぽど常識ってヤツを弁えてるっての。
528名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 05:44:21 ID:A5i/qQRIO
支援
529CC 26(2)-4/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 05:48:01 ID:WaoWxA5E0
「ってことは、あんたはダーマの事情にも明るいのか?」
「当たり前だ。物を知らん貴様と同列に考えるな。不愉快だ」
「……マグナに話を聞きに来たって言ったな?俺で代わりが務まるってことは、旅の間の話をしてやればいいって事だよな?」
「馬鹿が、この世の秘密を言い当てたような、得意げな顔をするな。確認するまでもない」
 ……こいつの悪態は、聞き流すのが一番だな。
「ならさ、話を聞かしてやる見返りに、俺にもダーマについて色々教えてくれよ。ここに来るまで、なんも聞かされてなかったんでな。正直、分かんねぇ事だらけなんだ」
 そう持ちかけると、野郎は元々の渋面をさらに顰めた。
「すっかり思い出したぞ――貴様は、自分には理解出来ないという事すら理解出来ない程のタワケだったな。どうせ分かりもしない事を、延々と答えさせられて、私がどれほど徒労感を覚えたことか、タワケた貴様には想像もつくまい」
 そりゃ、どうもすいませんでしたね。
「面倒だが、醜怪な蛇よりも執拗な貴様と、ここで押し問答を続けるのは、さらに面倒だ。止むを得ん。無知に理解出来る範囲でなら答えてやるから、さっさとついてこい」
 そう吐き捨てると、俺が後に続いているかを確認もせずに、足早に歩み去る。
 まぁ、なんだかんだ言って、質問には割りと律儀に答えてくれるんだよな、こいつ。これで、要らない文句さえたれなきゃ便利な奴なんだが。
530名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 05:50:05 ID:A5i/qQRIO
支援

……もしかして、リアルタイムで見てんのって俺だけ?
531CC 26(2)-5/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 05:51:30 ID:WaoWxA5E0
 連れて行かれたのは、俺に提供されたソレよりも随分と広い、壁際に本棚がずらりと並んだ部屋だった。
「そんで、旅の間のどんな話が聞きたいんだ?」
 奥のデカい机に向かって、紙とペンを用意している野郎の背中に尋ねると、こちらを見もせずに答える。
「全部だ。マグナ嬢と出会ってからここまでの経緯を、細大漏らさず報告しろ」
「いや……だから、具体的にはどんなことをだよ。いつとか、どの辺りでの話とかさ――」
「私が全てと言ったら、全てだ」
 椅子の背もたれに肘をかけて振り返り、苛立ったように野郎は繰り返した。
「何が必要な情報で、どれが無用な情報か、貴様のウロに等しい脳味噌で判別出来るのか?判断は、全てこちらで行う。貴様は、思い出せる限りの全てを話せばいいんだ。
 何時、何処で、誰が何を何故どのようにして、そうするに至った経緯はもちろん、情景から思考の流れまで、包み隠さず、何から何までだ」
 いや、あのな。俺にも他人に知られたくない事くらいあるんですが。
 無駄だろうな、と思いつつ、試しにそう反論してやると、案の定、野郎はハンと鼻を鳴らしやがった。
「都合の悪い話を貴様が口にしない程度の事は、最初から折り込み済みだ。そこいらの洗濯女を前にしている訳でもあるまいに、私の耳を気にするなど無意味なことだがな。貴様の悪行やら特殊な性癖なぞに、下世話は興味は無い」
 いや、別にそういう意味じゃねぇよ――そりゃ、そういう事も、多少は含まれてっけど。
 つか、アホぬかせ。俺の性癖は、特殊じゃねぇよ。
「いいから、貴様は話せることを、とにかく洗い浚い話せばいいんだ」
「どんだけ時間かかんだよ……」
 せめてもの抵抗も、あっさり撥ね返される。
「どれだけ時間がかかっても構わん。喉が潰れても、強制的に治療してやる。馬鹿の考え休むに似たりという言葉すら知らんのか。いいから、無駄口を叩く暇があったら、さっさと報告しろ」
 無茶苦茶言いやがんな、しかし。
 まぁ、これ以上つっかかっても無意味なのは確実だったので、仕方なく、俺はマグナと出会った時の事から喋り始めた。
532名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 05:53:44 ID:A5i/qQRIO
支援

教授ツンデレ説ktkr
533CC 26(2)-6/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 05:55:26 ID:WaoWxA5E0
 基本的に野郎はメモを取るだけで、黙って俺の話を聞いていた。相槌すらしやがらないので、喋り難いことこの上ない。聞いてるんだか、いないんだか――まぁ、時折口を挟んできたので、いちおう耳を傾けてはいるようだ。
 尤も、野郎の横槍は、意味不明なことも多かったが。
 例えば、シェラの話を聞いて俺達がダーマを目指すことになったくだりでは、「よく分からん理由だな。変化の杖がダーマにあるとでも思ったのか?」とか呟いていた。
 よく分かんねぇのは、こっちの台詞だっての。聞き返しても、先を急かすばっかで、ウンともスンとも答えねぇしよ。
 またそんで、こっちが適当にボカしときたいハナシに限って、まるで物陰からその情景を覗いてやがったんじゃねぇかという的確さで、何か言い忘れてないかとか、これこれこういう事が無かったかとか、底意地悪くツッコんできやがるのだ。
 お陰で、半ば誘導されるようにして、出来れば隠しておきたい事まで、ほとんど全部喋っちまった。ホント、ヤな野郎だよ。
 そんなこんなで、ようやく喋り終えた頃には、もう日が沈みかけていた。
 声はしゃがれてるし、喋り疲れてぐったりだ。
 つか、こっちは頼まれて喋ってやってんのに、こいつ、俺に椅子すら勧めねぇんだぜ。部屋の中に手前ぇの分しか用意してなくても、普通は他所から持って来させるなりなんなりするだろ。
 お陰で俺は、ずっと突っ立ったまま喋り通しだ。信じらんねぇよ。
「……それで、なんか役に立ったかよ」
 喋り終えれば用は無いとばかりに、俺の存在など忘れちまったみたいに物思いに深け込む野郎に声をかける。
 一度ではなんの反応も返されずに、何度目かでやっと「五月蝿い。黙れ」みたいな視線がこちらに向けられた。
「今の段階では、なんとも言えんな。まぁ、それでもニ、三、気にかかる個所はあった」
 お前……あんだけ長々と喋らせといて、たったニ、三箇所かよ。
「もう行っていいぞ。ああ、それからマグナ嬢を呼んできてくれ」
 しっしっ、と虫でも払うような仕草をしつつ、そんなことをほざく。
「は?」
 約束が違うじゃねぇか、この野郎。
 睨みつけてやると、珍奇な動物でも見るような目を向けられた。
534名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 05:56:53 ID:A5i/qQRIO
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535CC 26(2)-7/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 05:59:22 ID:WaoWxA5E0
「何がだ?貴様の主観的な話だけで、なにをどう判断しろというんだ」
 こいつ……
「逐一記録を取っていた訳でもあるまいに、記憶のみに頼った口述など、せいぜい複数のそれを比較しなくては話にならん。貴様の当てにならない脳味噌とは違い、マグナ嬢の記憶力は人並み外れて優れていると聞いているから、丁度いい」
「いや、そういうコト言ってんじゃねぇよ。マグナは今、話なんて出来る状態じゃねぇっつったろうが。だから、わざわざ俺が代わりに来てやったんじゃねぇか。もう忘れたのかよ。あんたの記憶力こそ、どうかしてんじゃねぇのか?」
「タワケがタワケた事をぬかすのは仕方あるまいが、もちろん、そんな事は憶えている。しかし、あれからずいぶん時間が経っただろう。まだ邪魔をするつもりなのか?」
 駄目だ、こいつ。
 きっと妙な研究ばっかにかまけて、肝心な人の心ってのをどっかに置き忘れてきちまったんだな。
「あのな……マグナが大丈夫になったら知らせてやるから、しばらくそっとしておいてやってくれよ。大体あんた、まだ俺の質問にも答えてねぇだろ」
「ああ」
 そっちはすっかり忘れていたらしく、野郎はたった今、思い出したような顔をした。要するに、自分が興味あること以外は、どうでもいいんだな、こいつは。
「魔王バラモスの討伐が、全世界で何度試みられたか知っているか?」
 唐突に、野郎はそんなことをほざいた。
 いきなり、何言ってんだ。頭大丈夫か、マジで?
「は?いや、まだ俺、なんも聞いてねぇんだけど」
「つまらん話を、拷問の如く延々と聞かされたんだ。貴様が知りたい事など、余程の馬鹿でない限り察しがつく」
 手前ぇが喋らせた癖して、なんて言い草だ。
「私の問いに答える以外は、貴様は黙って話を聞いていればいいんだ。断わっておくが、貴様の無知から生じた疑問になど、いちいち答えてやるつもりはないぞ」
 ああ、そうですか。
「そもそも、我々が扱う諸々は、共通語ではほとんど言い表わせん。意識の共有も出来ん貴様等に、いくら噛み砕いて話してきかせたところで、本来とはかけ離れていくばかりで、無益この上無いんだがな。まぁ、約束は約束だ。仕方なく付き合ってやる」
 仕方なくかよ――この野郎は、正直にも程があるだろ。
536名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 06:01:29 ID:A5i/qQRIO
支援

……役に立ってんのかな?
537CC 26(2)-8/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 06:02:52 ID:WaoWxA5E0
 そりゃありがとうございます、とか口にしかけた皮肉をぐっと呑み込んで説明を待っても、野郎は一向に喋り出さないのだった。
 さっきの質問に対する、俺の返答を待ってるのか。そう気付くまで、しばらくかかった。
「――魔王討伐が試みられた回数か?そういう話は聞いたことあるけど、正確に何回かは知らねぇよ」
 すると、野郎は哀れ蔑む目つきを、俺に向けるのだった。
「半ば当事者と言えんこともなかろうに、自ら調べようとは思わなかったのか?」
「そんな暇――」
「無い訳がなかろう。何処の魔法協会の支部でも、その程度の情報は直ぐに調べがつく。フン、言っても無駄だったな――各国が個別に行った遠征が合計で十三回、それ以外に複数の国からなる連合軍が三度送られている」
 そんなに多いのかよ。
「軍隊による討伐が数度失敗に終わった時点で、少数精鋭の部隊を送り込み、首魁たるバラモスのみを討つ方向性も模索された。これは、バラモスこそが全ての元凶であるという、我々の仮説を各国が受け入れた格好だな。
 こちらは、ダーマから送られた部隊も含めて、これまでに二十七組失敗している。もちろん、訳の分からん在野のお調子者は省いた数だ」
 話がよく見えないので、半分流して聞いていたんだが――
「そして、彼等は全て、運悪く討伐に失敗したのだ」
 さすがに、この台詞は聞き逃せなかった。
「いや待て。運なのかよ」
「より正確に言うならば、『運悪く』としか表現出来ないという事だ」
 いや、そんな自信満々みたいに言われても。
「軍略的に負ける筈のない遠征は幾度かあった。また、魔王を斃すに充分な実力を備えた部隊も、何組か送り込まれた。彼らは、まさしく奇蹟としか表現できない不運に見舞われて、敗れ去ったのだ」
 俺は多分、半笑いを浮かべていたと思う。
 だって、そりゃそうだろ。なんだよ、それ。
 野郎はもちろん、そんな俺の困惑には、全く頓着しなかった。
「ひと度だけならまだしも、奇蹟も数度続けば、背景になにがしかの理由があると考えるのが当然だ。我々はかなり早期の段階で、とある仮説を提示したのだが、各国はしばらくそれを受け入れようとはしなかった」
538名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 06:04:12 ID:A5i/qQRIO
もうすぐ朝飯だけど支援
539CC 26(2)-9/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 06:07:41 ID:WaoWxA5E0
「我々の間でも議論が紛糾したほどの内容だからな。魔法使いでない人間には、なかなか納得出来んのも無理はないが、お陰でいたずらに犠牲が増した。まぁ、我々には関係の無い話だがね」
 犠牲の数など、本当にどうでもよさそうな口調だった。
「貴様がどう考えているのか知らんが――おそらく、法外に強力な魔物程度の認識だろうが――魔王バラモス。あれは、精霊崇拝、とここでは言っておくが、原始的な信仰にあっては、魔物というよりは神と称される存在により近しいのだ」
「神様なのかよ?邪神ってヤツか?」
「貴様が今、脳裏で思い描いた神とは異なる。わざわざ言葉を選んでやってもこれだから、貴様に話すのは無駄だと言うんだ――いや、どの道、理解は出来んか。そうだな、ソレで構わん。ルビスと似たような存在だとでも思っておけ」
 俺の思考を勝手に決め付けて、野郎はフンと鼻を鳴らした。
「要するに貴様は、自分が納得出来る答えを欲しているだけだからな。その方が話が早い――つまりだ。貴様に分かり易く言えば、我々はバラモスと呼ばれている存在を、運命を司る神と結論づけたのだ」
「そりゃ……随分、ご大層な神様だな」
「違う。貴様が今考えたような、遍く世界の運命を司るような神ではない。その能力の発露は形而下――それも、ごく限定された範囲に留まると考えられている」
 野郎は勝手に面倒臭がって溜息を吐いた。
「えぇい、部分的に正確を期したところで、全体として間違っていては、どうあれ無意味というものだ。貴様等無知共のよくする、なんとなくという理解で充分だろう――極めて正確でない平易な表現をするならば、バラモスと呼ばれる存在は、運命を選択できるのだ」
 いちいち余計な繰言を足さなくていいっての。
「……っていうと?」
 こいつ、とうとうはっきり舌打ちしやがったよ。
「例えばだ。極めて状況を限定して言うならば、相手方が軍隊であれ少数精鋭の部隊であれ、戦闘に際して最終的に自らが勝利する結末を選択できるという事だ」
「……は?」
 何言ってんだ、こいつ。自分が勝つ結末を選べるだと?
「じゃあ、勝てないじゃん」
「だから、先刻からそう言っている。魔王を斃すのは不可能だという話を、貴様も道中で耳にしたのだろうが」
540名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 06:09:09 ID:A5i/qQRIO
パン食いながら支援
541CC 26(2)-10/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 06:11:17 ID:WaoWxA5E0
 ウェナモンが言ってた話のことか――って、あれは、ホントに言葉そのままの意味だったのかよ!?
「彼奴を滅ぼすことが出来るのは、彼奴より高位の存在か、もしくはマグナ嬢だけだ」
「――はぁっ!?」
 エラくスケールのデカい話の中で、いきなりマグナの名前を出されて、俺はしばし絶句した。
「センセイ、意味が分かりません」
「死ぬまで分からなくていい」
 なんて即答をしやがる。
「いや、あのな。だからなんで、そこでマグナが出てくるんだよ!?」
 すると、野郎は唇を歪めて、陰気な笑みを浮かべた。
「つい先程、貴様が自分で口にした事だぞ。マグナ嬢は、ルビスに選ばれし勇者であるが故に、魔王を滅ぼせるのだ。ダーマでは、そう信じられていると教わったのだろう?貴様のような浅学の輩には、実に分かり易い明快な理由だろうに、なにが不満だ?」
「いや、だから――じゃあ、なんでマグナが選ばれたんだよ!?」
「神の御心とは、誠に計り知れんものだな」
 やかましい。嫌味ったらしくニヤニヤしやがって。そりゃ冗談のつもりかよ、もしかして。全然面白くねぇんだよ。
「その口振り……手前ぇ、なんか知ってやがるな?」
「当然だ。ダーマの大僧正が『楽園』にあるルビスと交信可能な能力を代々有しているのは、とうの昔に検証済みだが、だからと言って貴様等じゃあるまいし、『神様がそう仰ったから』等という胡乱な理由を鵜呑みにする魔法使いなど存在しない」
 黙れよ。俺だって鵜呑みにしてねぇから聞いてるんだろうが。
「だったら――」
「だが、マグナ嬢に関しては、未だに我々の間でも意見が分かれる。今ここで話すつもりはない」
 野郎は小賢しく、そんなことをほざくのだった。
「……じゃあ、あんたの個人的な考えで構わねぇから、聞かせてくれよ」
「くどい。『じゃあ』の意味が分からん。話すつもりは無いと言っている」
「……とか言って、ジツはなんも分かってねぇだけじゃねぇのか?」
 鼻で笑ってやっても、野郎は顔色ひとつ変えなかった。
542名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 06:25:23 ID:A5i/qQRIO
支援

規制に引っ掛かった……orz
543CC 26(2)-11/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 06:28:33 ID:WaoWxA5E0
「簡単に見透かされる挑発など、無意味どころか逆効果でしかないぞ。まぁ、馬鹿にも分かるように言っておいてやるが、もちろん個人的な仮説は立てている。遠からず、我々の見解は私の唱える仮説に収斂されるに違いないが、魔法使いの全てが聡明という訳でもないのでな」
 何をさりげなく自慢入れてやがんだ、この野郎。
「じゃあ、それでいいから教えてくれよ」
「だから、『じゃあ』の意味が分からんと言っている。なぜ、貴様等はそうまで傲慢になれるんだ?」
「は?」
 いや、そんな話してねぇだろ。
「分からないことがあれば、誰かが教えてくれると思っている。その割りに、聞いた話の妥当性を自ら検証しようともせずに、意に沿わなければ頭ごなしに否定する。
 つまり、貴様等にしてみれば、内容の正確性等どうでもよくて、自分が納得出来るか否かだけが重要なのだ。ならば、私から何かを聞き出す必要もあるまい。その貧弱な脳味噌で捻り出した、貴様にとって都合のいい事実とやらを信じていれば、それで充分だろう」
「いや、そんなこた――」
 聞いて納得出来たら、あんたの話も信じるっての――そう考えてから、気付く。
 ああ、ホントだわ。確かに、「自分が納得できるかどうかだけが重要」みたいに考えちまってるかも知れねぇ。
「……分かったよ。あんたの話を鵜呑みにしないし、頭ごなしに否定もしない。ちゃんと自分で材料揃えて判断するからさ、その個人的な仮説とやらを聞かせてくれよ――なんていうか、どう考えていいのか、とっかかりすらさっぱり見えねぇ状態なんだ」
 精一杯へりくだってやっても、野郎はにべも無いのだった。
「それは嘘だな。貴様は、マグナ嬢だけが魔王を滅ぼせるという見解を否定したいだけだ。否定する為に、それを肯定する意見を欲しているに過ぎん。貴様のそんな個人的な心情に、私が付き合ってやる義理はない。
 自らの与り知らん処で、勇者という呼称に象徴される責務を負わされたマグナ嬢が、それを厭う心理は理解出来なくもないが――」
 マグナは、勇者としての自分を嫌っている。
 そこだけは、さっきの話でも必死こいてボカした筈なんだが、見透かしてやがんの――なんてヤな野郎だよ。
544CC 26(2)-12/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 06:32:55 ID:WaoWxA5E0
「私の仮説を聞いて、魔王はマグナ嬢にしか斃せない。そう自分で納得してしまったら、貴様はどうするつもりだ?」
「へ――?」
「もしくは、都合のいい当て推量――とすら言えない戯言を積み重ねて、貴様の頭の中だけであれ否定に成功したとしてだ。
 貴様がマグナ嬢に望んでいるのは、人々が勇者にかける期待には一切耳を塞ぎ目を瞑り、無責任に使命を放擲して自らの手は汚さずに、他の誰かが魔王を斃してくれるのを、ただ座して待つ事か」
「それは――」
「――などという説教じみた事は、少なくとも私は言わんがね。何ぴとが魔王を斃すのか――それ自体は、本質的にはどうでもいい話だ。ただ、いわゆる世間が知れば、いま私が述べたように、貴様等を非難するだろうな」
「……そんな連中に、つべこべ言われる筋合いはねぇよ。連中だって、勇者が魔王を斃してくれるのを、ただアホみたいに口開けて待ってるだけじゃねぇか」
「貴様にしては珍しく、尤もな意見だな」
「つか、マグナが魔王退治に行く気が無いことを、わざわざ世間とやらに知らせてやるつもりはねぇよ。連中には、マグナが魔王退治に向かってると、勝手に思わせておくさ――あんたさえ、黙っててくれればな」
「もちろん頼まれたところで、私がわざわざそんな事を喧伝する筈も無い。魔王が滅びようが滅ぶまいが、それ自体は、私にとってはどうでもいい事だからな」
 おいおい。
 さっきから聞いてりゃ、極端な野郎だな。
「どうでもいいのかよ」
「どうでもいいな。我々が注目しているのは、そこではない」
「つってもよ――世界が魔王に滅ぼされたら、あんたらも無事じゃ済まねぇだろ」
「貴様等と同じ意味で、我々が滅びる事はない」
 ケッタイな魔法を使って、自分達だけ生き延びるって寸法かよ。
「我々魔法使いに、人類という種の保全を期待しているのなら、とんだお門違いだな。世界が滅ぼされるという表現も正しくない。人類が死滅したところで、世界が滅ぶ訳ではない。ただ、在り様が多少変化するだけの事だ」
「……ずいぶんとまた、他人事みてぇな言い草だな。自分達さえよけりゃ、それでいいのかよ」
「それこそ、貴様に言われる筋合いではないな」
 ああ、うん。まぁ、それは仰る通りですがね。
545名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 06:35:37 ID:48T+UOsy0
自分も支援。。
546CC 26(2)-13/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 06:38:01 ID:WaoWxA5E0
「それに、その表現も間違っている。我々の生き死に自体、どうでもいい事だ。ただ、この世界における観察者の不在については、多少残念に思わないでもない」
 ダメだ。こいつらの考え方は、俺にはよく分からねぇ。
「あんたにとっちゃ、この世はどうでもいい事だらけなんだな――マグナが特別かどうかってのも、ホントはどうでもいいハナシなんじゃねぇのか?」
「それも違う。貴様が思っているような意味で、彼女が特別なのではない」
 また「違う」のかよ。こいつ、ただ単に俺の発言を否定したいだけじゃねぇのか。
「彼女は肉体的にも精神的にも、いわゆる普通の人間となんら変わる処の無い存在だ。勇者や英雄と聞いて貴様等が連想する、『彼の者は他の人間とは異なる特別な存在だ』というイメージ――
 共通語で上手く表現する言葉が無いのでな。ここでは仮に存在力とでも言っておくが、存在それ自体が周囲に及ぼす影響力という観点からすれば、彼女の父親であるオルテガの方が余程稀有で強力だ。あれ程の人物は、歴史を見渡してもそうそう登場していない」
「だったら、なんでオルテガじゃなくて、あいつが選ばれたんだよ?あいつの何が特別なんだ?」
「だから、特別では無いと言っている――あえて言うならば、マグナ嬢の特殊性は、彼女に内在するのではなく、彼女の在り方そのものだ」
 は?
「さらに言えば、彼女の受胎に際して、何らかの神的な影響力があったことは、複数の魔法使いによって確認されている。教義に関わるので、教会は絶対に奇蹟認定などしないがね」
 皮肉らしい昏い笑みを浮かべたが、意図が掴めない。
「いや、意味分かんねぇんだけど」
「無知に分かるように話していないからな。余計なことを喋りすぎた。もうよかろう。これ以上、無駄な会話を続けるつもりは無い。さっさと出ていけ。邪魔だ」
 野郎はまた、虫を払うようにしっしっと手を振った。
 ホントに、なんてヤな野郎なんだ。
 言われるままに大人しく出て行くのもシャクなので、ダーマについてリィナの話で不鮮明だった個所を、しつこく食い下がって聞き出してやった。
 とうとう追い出された頃には、もう日はとっぷりと暮れていた。
547CC 26(2)-14/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 06:42:31 ID:WaoWxA5E0
 通路に灯された明かりは、ひどく間隔が離れていて心許なかった。
 どこを通って野郎の部屋まで連れていかれたのか記憶も曖昧なのに、こう暗くちゃ様子が分かりゃしねぇよ。
 かといって、野郎に尋ねに戻って、また馬鹿にされるのも業腹だ。
 誰か道を聞けるヤツがその辺にいないかと、周囲をきょろきょろ見回していたら、こちらに歩み寄る人影が通路の先にぼんやりと見えた。
 呼びかけようとして、口篭もる。
 ありゃ、グエンとかいうヤツじゃねぇか。あいつに聞くのも、なんか嫌だな。
「おや?そこにいるのは、ヴァイス君じゃないか」
 躊躇ってる間に、向こうから声をかけてきやがった。
 しょうがねぇな。背に腹はかえられねぇ。こいつで我慢してやるか。
「さっきは、どうも。上手く逃げられたけど、君の言ってた強さとやらを、またいつか見せて欲しいねぇ。ところで、なんで君がここに――まさかとは思うけど、ヴァイエル様の部屋に居たんじゃないだろうね?」
 いや、ヴァイエルって誰だよ。
 はじめは会話が噛み合わなかったが、どうやら例のクソ講師のことを言っているらしかった。あいつ、ヴァイエルって名前だっけか。そういや、講義のはじめに聞いたかもな。完全に忘れてたけど。
「信じられないなぁ……なんで君みたいな人が、ヴァイエル様に気に入られてるんだい?」
 いやいや。とても気に入られてるとは思えないんですが。
 そう返すと、グエンは何故だかちょっと拗ねたように続けるのだった。
「ヴァイエル様は、興味の無い人間とはひと言すら口を利いてくださらないよ。この僕でさえ、ほとんどお言葉をかけていただいたことが無いんだからねぇ。なのになんで、君みたいなヤツに……きっと、名前が少し似てるからだねぇ。うん、きっとそうに違いないよ」
 アイツは、ンなタマじゃねぇと思うけどな。
 ともあれ、俺達は仲良く立ち話をするような間柄じゃない。
 手短に部屋までの道順を聞き出し、背中に絡みつくグエンの視線を振り切るようにして、その場を立ち去った。やれやれ、俺も嫉妬の対象になっちまったかね。
548名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 06:46:49 ID:A5i/qQRIO
規制解けたんで支援

グエンカワイソスw
549CC 26(2)-15/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 06:47:06 ID:WaoWxA5E0
 ルビスやらいう神様も、ずいぶんと酷な真似をしなさるモンだ。どうせなら、魔王退治に行きたくてウズウズしてる、グエン達みたいなダーマの連中に白羽の矢を立ててやりゃいいのによ。
 まぁ、世の中ってのは、とかくかように上手くいかねぇのが常だけどな。
 自分の部屋へと戻りながら、あの野郎――ヴァイエルに聞いたダーマの話を、頭の中で整理する。
 神代が薄暮を、ヒトの世が黎明を迎えた頃の、ずっと昔の話。
 当時、隆盛を誇っていた大帝国には堕落と退廃が蔓延し、爛熟した文化は人々を神から遠ざけ、そして彼らはついに神々の怒りに触れた。
 帝国を大陸ごと海の底に沈めんとした神々の決定に、ひとり異を唱えたのがルビスだった。
 せめて心ある人間だけでも救おうと、ルビスは『楽園』を創り出し、彼等と共にこの世界から去ってしまった。
 ルビス信者とは、要するにその心の清らかな人々の住まいし素晴らしき『楽園』とやらに招かれることを夢見る連中であり、ルビスが去った後の世界にも、割りと数多く残されていたという。
 まぁ、分かり易い救済観だからな。庶民に人気が出るのは分からないでもない。
 だが、彼らはやがて、アリアハンの世界制覇と共に影響力を強めた、神と言えばいわゆる『神』しか認めない教会の弾圧に怯えることになる。
 教会の勢力圏を逃れて、とんでもない山奥――このダーマまで、『楽園』からのルビスの呼びかけを頼りに、信者達を導いた当時の指導者の子孫が、例の大僧正やらいう爺さんなんだそうだ。
 この世界に残されたルビス信者ってのは、ルビスのお眼鏡に適わなかった、いわばダメ出しをされた連中の子孫な訳だから、少しでもマシにならなくては『楽園』に招かれる筈がないと考えて、己を高める修行に余念が無かった。
 加えて、当時の教会勢力――つまりアリアハンから治安維持の名目で差し向けられる軍隊に備える為、という実際的な側面もあり、ダーマにおいて尚武の気風が形作られるまで、そう時間はかからなかった。
 その後、ダーマそのものは、アリアハンの衰退に伴って世界からその存在を忘れ去られたが、そんなこととは関係無く、いつか『楽園』に招かれることを信じて、信者達はせっせと研鑚を積み重ねた。
550名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 06:51:23 ID:A5i/qQRIO
支援

盛 り 上 が っ て ま い り ま す た
551CC 26(2)-16/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 07:00:50 ID:WaoWxA5E0
 ところが、ある日、ダーマの存在意義を根底から揺るがすご神託が告げられる。
 時の大僧正いわく、『楽園』が『闇』に包まれようとしているというのだ。
 抽象的過ぎてよく分かんねぇが、『楽園』と呼ばれる世界になんらかの危機的な状況が訪れたという意味らしい。
 ルビスの声がさらに遠くなったこの頃から、ダーマにおける尚武の意味合いが変質した。自らを高めて『楽園』に招かれた後、ルビスの戦士として『闇』を払うという目的が付け加えられたのだ。
 魔法使い共の協力もあり、冒険者の原形がこの地で作られたのも、この時期らしい。
 なんつーか、すでに『楽園』が楽園とか呼べる場所じゃなくなってる気がするんだが、そんな状況になっても、信者達の目的は、あくまで『楽園』に招かれることであり、魔王バラモスがこの世界に出現した後も、それは変わらなかった。
 自分達の戦うべき相手は『楽園』を蝕む『闇』であり、バラモスに対しては無関心を通していたのだ。
 バラモスを滅するのはルビスの意に適うことであり、『楽園』に通じる道でもあると大僧正が認めたのは、同じくルビスの声を聞くことが出来たというオルテガの説得によるものであるのは、大体リィナの語った通りだった。
 なんだかね。
 ダーマの連中はあいつらで、色々と重ねてきた労苦を伴う歴史もあれば、信じてる事やら目的もあるんだろうけどさ。
 それをマグナに押し付けて、あいつの意思を無視していいってことにはならねぇよ。
 俺の気持ちも変わらない。多少、事態はややこしくなっちまったが、どうにかしてあいつに、勇者なんかとは無縁の生活を――
 そんなことを考えていたからか、はたまた、ひと度はシェラの問題から先に片付けちまおうみたいに考えちまった罪悪感の所為か、ヴァイエルの野郎に拉致される前の予定とは異なり、俺は無意識にマグナの部屋の前で立ち止まっていた。
 今さらシェラの部屋に移動するのもなんだし、少し逡巡してから扉をノックする。
552CC 26(2)-17/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 07:05:14 ID:WaoWxA5E0
 反応は、何も無かった。
 どこかに出掛けてるとも思えないんだがな。
「マグナ、いるんだろ?」
 中に声をかけながら、扉と壁の合わせ目に耳を押し付ける。もちろん、周りに人が居ないことは確認した。
「俺だ。ヴァイスだけど――大丈夫か?」
 ベッドの中でもぞもぞ動いたような音が、微かに聴こえた気がした。
 だが、返事はない。やっぱり、まだダメか。
「あのさ、すぐ左隣りが、俺の部屋だから。なんかあったら、いつでも来いよな。鍵は開けとくし、もし寝てても、叩き起こしていいからな」
「……分かった」
 ほとんど聞き取れないくらいのか細い声を、辛うじて耳が捉える。
 ちょっとギクリとした。
 ひどく憔悴しているというか、全く張りが無くて全部なにもかもどうでもいいみたいな――こんなマグナの声、はじめて聞いた。あの焚き火の夜より、もっと全然ヒドい。
「きっとだぞ。なんかあったら、絶対言ってこいな?」
 声をかけても、それきりいらえはなかった。身じろぎも止めたのか、物音すら聞こえない。
 しばらく待って諦め、扉から身を離して考える。
 リィナの話が、頭の片隅に残っていたんだと思う。
 マグナは強いから――どこかで、そんな風に考えて、ある程度立ち直ってるんじゃないかみたいな楽観が、多分俺の中にあったんだ。だから、あいつのこの上なく落ち込んだ声を聞いて、ギクリとさせられた。
 強いばっかじゃないって、分かってた筈なのにな。
 夜が明けてもマグナが訪ねてこなかったら、無理にでも部屋に押し入って様子を確かめよう。
 後ろ髪を引かれつつ、俺はシェラの部屋の前に移動した。
553CC 26(2)-18/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 07:08:53 ID:WaoWxA5E0
 正直に言って、ちょっと参ったなという気分だった。
 きっと、シェラはひどく気落ちしてるだろうしさ。連続して落ち込んだ声を聞くのは、少しばかり気が重い。
 って、何を情けねぇことを考えてやがんだ。ダーマでのアレコレに、なんのダメージも受けてねぇ呑気な立場の俺が、元気づけてやらなくてどうすんだ。
 とはいえ、なんて声をかければいいんだろ。無責任に励ましても、余計に傷つけちまうかも知れねぇし――まぁ、いつまでも、扉の前で考えてても仕方ねぇよな。
 覚悟を決めて、扉をノックする。
「――あ、はーい」
 いらえは、すぐにあった。
 あれ?
 なんか――
「あ、俺、ヴァイスだけど。ちょっといいか?」
 ガチャリと開いた扉から覗いた顔は、予想と異なりまるきり普通だった。
「どうしたんですか?何かありましたか?」
「いや、その――シェラは、どうしてるかな、と思って」
「特に何も。日記をつけてただけですよ。あ――心配してくれたんですよね。ありがとうございます」
 そう言って微笑んだ顔は、いつもに増して可愛らしく見えた。
「でも、私なら平気ですよ?」
「ああ、うん、そっか。なら良かったけどさ……俺には気ぃ遣わなくていいんだぞ?」
 また、いつかみたいに無理させちまってるんじゃないかと危惧したんだが。
「そんな事ないですよ?ヴァイスさんこそ、どうしたんですか。声がすごいガラガラですけど」
「ああ、いや。ちょっとな」
 多少の旅疲れこそ窺えるものの、シェラの顔には見慣れた普通の表情が浮かんでいて、なんだか拍子抜けしてしまう。
「俺の事はいいよ。お前は、ホントに大丈夫か?また無理してないか?」
「そりゃ、全然ショックじゃなかったとは言えませんけど……」
「……だよな」
「あ、ううん、違うんです。ここが、私が思ってたような場所じゃなかったのは、すごくとっても残念ですけど、なんて言うか……ああ、やっぱりなって納得してる部分も、自分の中にあって……」
 強いて思い込もうとしている風でもない、率直な感想に聞こえた。
「元々、どうなるか分からなかったじゃないですか?私が、ホントに、その……女の子になれるかどうかなんて。そんなことって現実にあり得るのかなって、やっぱり半信半疑なところはありましたし……」
554名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 07:12:12 ID:A5i/qQRIO
再びっ、規制されるまでっ、俺は支援を止めないっっ!!
555CC 26(2)-19/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 07:14:26 ID:WaoWxA5E0
 そりゃそうだよな。とか思っちまう俺も、いい加減調子いいね。
「それに――」
 俺を見上げたシェラの表情は、通路の薄明かりが濃く落とす陰影にも関わらず、とても明るく見えた。
「皆と――マグナさん、リィナさん、それにヴァイスさんと旅してる内に、なんだか、そういうこだわりが、昔より無くなったっていうか……」
「うん?」
「はじめは、ですね。すっごい期待してました。占い師のお婆さんからお話を聞いた時は、ホントにもう、これしかない!みたいな……溺れる者はなんとやら、じゃないですけど、それこそもう、これが叶わなかったら生きてても仕方ないみたいな、祈るような気持ちだったんです」
 わざわざ、似合いもしない冒険者にまでなったくらいだ。相当、思い詰めていたであろうことは、想像に難くない。
「でも、さっき言ったみたいに、いくら信じ込もうとしても、どこかで自分でも疑ってたんだと思います。だから、余計に追い詰められたみたいな気分になっちゃって、全然気持ちに余裕が無くって」
「うん」
「でも、皆と旅して、色々あって……そういうの、少しづつ薄らいじゃったみたいです」
 シェラは照れたように視線を落として、恥ずかしそうに続ける。
「なんだか……私、このままでもいいのかなって」
 その仕草と声音に、なんか知らんが胸の奥がきゅっとなった。
「ううん。良くないのは分かってるんです。こんな私を認めてくれる人って、ほとんど居ないんだろうな、とは思うんですけど……このままでいいって、おかしくなんてないって言ってくれる人も、居ない訳じゃないって分かりましたし……」
「いいに決まってる。おかしいだなんて、俺は思わねぇよ」
 思わず、そんなことを口走っていた。
 いいさ、何回だって言ってやるよ。
 だが、今のはもしかして、俺だけじゃなくてマグナやリィナ、というかフゥマのヤツが念頭に置かれた発言だったんだろうか。口にしてからそう思い当たって、一気に顔に血が昇る。
 うわ、もしそうだったら恥ずかし過ぎる。
「ありがとうございます。ヴァイスさんがそう言ってくれたの、とっても嬉しかったです」
 必死に狼狽を押し隠す俺をなだめるような声音で、シェラは上目遣いに、いたずらっぽく微笑むのだった。
 何歳も年下の子に、内心を見透かされまくってんな、俺。
556CC 26(2)-20/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 07:20:21 ID:WaoWxA5E0
「あのですね……私、この一年くらい、背がほとんど伸びてないんです。だから、このままいけば、あんまり大きくならないと思うんですよね。それは、すごく良かったなぁって思ってるんです」
 確かにシェラは、俺より頭ひとつは背が低い。女にしても小柄な方で、体つきも華奢なことが、整った顔立ちと相俟って、小さな可愛い女の子という印象を助長している。
「それに――ほら、私って、今のままでも……その、充分、あの……えと……可愛いじゃないですか?」
 ひどく恥ずかしそうに照れながら、シェラが妙なシナを作ってみせたので、俺は思わず吹き出してしまった。
「あぅ……笑うなんて、ヒドいです」
「あ、いや、悪ぃ。そうじゃなくてさ」
 さんざん口篭もったことからも分かるように、シェラは別に自慢したかった訳じゃない。俺に余計な気を遣わせまいとして、冗談のつもりで無理をしている様が微笑ましくて、ついつい笑っちまったのだ。
 事実なんだから、そんなに恥ずかしそうにすること無いのにな。
「あ、もちろん、女の子になれるならなりたいですよ?それは今でも、すごく」
 自分の発言を打ち消そうとするみたいに、体の前でぱたぱたと両手を振って、シェラは強引に話題を切り替えた。
「ホントに私が女の子になっちゃったら、どうします?」
 仕返しのつもりか、なにやら挑発的な目つきを俺に向ける。
「うん?」
「ヴァイスさんを、誘惑しちゃうかも知れませんよ?」
「そりゃ――嬉しいね」
 咄嗟に、そんな返ししか出てこなかった。
 うろたえる俺の様子を目にして、ちょっと満足げにくすっと笑ったシェラが、なんというか――破壊的に可愛いくて。
「嘘です、冗談ですよ」
 ぺちぺちと俺の腕を叩く。
 ああ――なんか俺って、こいつのこと、ずっと見損なってたのかも知れねぇな。
 ホントは今みたいな感じが、こいつの素なんじゃないだろうか。
 普通に冗談とかも口にする、朗らかという表現がぴったりな――いくつかの場面が、脳裏に蘇る。
 メイドの格好をして、俺の部屋に世話を焼きにきた時のこと。ノアニールの宿屋で、元気に掃除を手伝っていた時のこと。マグナとアルスの逢引き現場を隠れて覗き見ていた時のはしゃいだ様子。隊商の洗濯やらを楽しそうにしていたこと。
557CC 26(2)-21/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 07:25:03 ID:WaoWxA5E0
 もちろん、俺達と旅をしている間の、毎日の飯の仕度とかでもそうだった。
 自分の性に合った場面では、シェラはいつも生き生きとしていた。
 最初に出会った頃の、終始オドオドとしていた印象が強すぎて、その弱々しいイメージを引き摺ったまま見てたけど――
 こいつは、俺が思っていたより、よっぽど強いのかも知れない。
 だってさ。
 周り中から自分の性質を否定されて、色々と傷つけられる言動をされてきた筈なのに。
 こいつは今でも、こんなに「いいヤツ」なんだ。
 良く考えたらさ。俺なら絶対、もっとヒネくれてるって。元々の性根がよっぽど健やかで強くなきゃ、こうはいかねぇだろ。
 充分に理解していたつもりで、俺は全然こいつの事を、分かってなかったのかも知れねぇな。
 いや、シェラだけじゃない。
 リィナの事もまるで分かってなかったし、一番理解してるつもりだったマグナにしても、さっきは思い違いをしていたし――
「――ヴァイスさん?」
 また、ぺちぺちと腕を叩かれて、俺は我に返った。
「えと、冗談ですよ?そんな固まっちゃうほど、ビックリさせちゃいましたか?」
 うん、別の意味でな。
「悪ぃ。いや、シェラがさ、あんまり可愛いモンだから」
 するりと口が滑る。こういうやり取りも大丈夫なんだわ、多分、こいつ。
「も〜……本気にしちゃいますよ?」
 肌が白いので、頬が赤らんだのが良く分かる。しかしまぁ、キメの細かい綺麗な肌をしてやがるよ。
「でも――だから私、皆に申し訳なくて」
「へ?なにが?」
 急に声のトーンを変えたシェラについていけず、俺は間抜けな返事をした。
「だって、ダーマまで来ちゃったのは、私の所為じゃないですか。私の願いを叶えてくれようとして……さっき言ったみたいに、そういう気持ちは少しづつ薄れてたから、私はホントに旅のついででよかったんですけど……」
 シェラは、ちらりと左に目を向けた。マグナの部屋の方だ。
「途中でマグナさんから話を聞いて、旅の目的は特に無いんだって分かって、だからついでじゃなくなっちゃって……でも、私がちゃんと、もういいですって言うべきだったんです。そうすれば、ここまで来ることも無かったかも知れないし……」
558名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 07:30:10 ID:A5i/qQRIO
シェラ萌え〜支援
559CC 26(2)-22/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 07:30:42 ID:WaoWxA5E0
「いや、そりゃどうかな」
 そうしていたら、リィナはどういう行動を取っていただろう。
 分からないが、今よりもさらに板挟みに苦しんだであろうことは間違いない。
「やっぱり私も、全然期待してなかった訳じゃないですし……それに、皆との旅が終わっちゃうって思ったら、もういいですって言えなかったんです……だから、マグナさんには、ホントに申し訳なくて……」
「別に、シェラが悪い訳じゃねぇよ。まさか、こんなコトになるなんて、ダーマに来るまで思ってなかったろ?」
「それは、そうですけど……」
「俺だって、まるきり予想外だったしさ。分かんなかったんだから、どうしようもねぇよ。シェラが気に病むことじゃねぇさ」
「だけど……マグナさん、すっごい落ち込んでます。落ち込んでるっていうか、どうしていいか分からなくなってると思うんです。だから――」
 シェラは、俺の腕を軽く握った。
「マグナさんのこと、お願いします。私もなんとかしたいと思ってますけど、きっと、ヴァイスさんが一番いいと思うから……」
 お前も、リィナと同じことを言うんだな。
 まったく参るよ、お前らには。自分達だって大変だろうによ。
「ああ。分かってる」
 不安げなシェラの顔に、出来るだけ力強く頷いてみせる。
 こいつのことも、なんとかしてやりてぇなぁ――はたと、思い出す。
『よく分からん理由だな。変化の杖がダーマにあるとでも思ったのか?』
 さっき聞いた、ヴァイエルの呟き。耳にした時は、聞き流していたが――
「シェラ」
 いきなり両手で肩を掴まれて、シェラは吃驚して俺を見上げた。
「は、はい?」
「お前の願い――なんとかなるかも知れねぇ」
「え?」
 いかん、言い過ぎたかな。
「あ、いや、まだ未確認なんだけどさ。もしかしたら、って話だから、あんま期待しない方がいいかも知れねぇけど……」
 アホか、俺は。
 期待させといて、またガッカリって結果になっちまったら、どうすんだよ。
「悪ぃ。ホント、思いつきみたいなモンだから……なんか分かったら、すぐ知らせるよ」
 曖昧なことを言われて訳が分からなかっただろうに、シェラはくすりと微笑んだ。
「はい。期待しないで待ってます」
 逆に気遣われて、ちくりと胸が痛む。
 早速、明日にでも、あの野郎を問い詰めてやらねぇとな。
560名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 07:32:35 ID:A5i/qQRIO
シェラ女体化フラグktkr支援
561CC 26(2)-23/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 07:37:20 ID:WaoWxA5E0
 自分の部屋に戻った俺は、夜中になっても、なかなか寝付けなかった。
 やたらと固い石造りのベッドに横になって、あれこれと考えるでもなく思考を弄んでいると、ギィと蝶番の軋る音が耳に届く。
 俺は、ビクリと身を起こした。
 背後から差し込む通路の薄明かりが、無言の人影を影絵のように切り取っている。
 つか、ノックするか、せめて声くらいかけろよ。ビビるっての。
「あ、閉めるのちょっと待ってくれ」
 人影が扉を閉じる前に、慌てて室内のランプに火を灯す。照明無しじゃ、顔も分かんねぇくらい真っ暗になっちまうからな。
 ゆらめくランプの灯りが、沈んだマグナの顔を照らし出した。
 後ろ手に扉を閉じたマグナは、旅装のまま着替えていなかった。
 黙したまま、扉の側を離れようとしない。
 凝っとその場に立ち尽くす。
「え〜……っと、どうだ?少しは落ち着いたか?」
 マグナは、何も答えなかった。
 こいつの顔を見りゃ、気持ちの整理がついてない事くらいは丸分かりだ。我ながら、間抜けな質問をしちまったもんだ。
 俯き加減のマグナに向かって、再び声をかける。
「そんなトコ立ってないで、こっち来て座れよ」
 だが、やはりマグナは動かなかった。
 後から思えば、マグナは迷っていたんだろう。この先、実際に口にされた言葉を、言うべきか言わざるべきか。
 そこまで分かってなかったが、ともあれ俺はベッドから下りてマグナに近寄った。
「マグ――」
 正面に歩み寄った俺が、何かをするよりも先に、マグナは体をあずけてきた。
 俺の胸に額を当てて、脇の辺りの服を掴む。
「ねぇ……ヴァイス……」
「ん?」
 また、しばらく間があった。
「どうした?」
 水を向けても、マグナはまだ迷っていた。
 喋り易いように何か言ってやるべきだと思ったが、かける言葉を見出せずにいる間に、やがてマグナが口を開いた。
「……一緒に――逃げよう?」
 か細く震える声。
 俺は、咄嗟に返事が出来なかった。
 何故なら――
562名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 07:39:58 ID:A5i/qQRIO
デレ化マグナ到来記念支援
563CC 26(2)-24/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 07:42:12 ID:WaoWxA5E0
「もう……ヤダよ……」
 予想外だったからだ。
 全くの。
 マグナらしくない――そう思っちまった。
 こいつが、ここまではっきりとした弱音を吐くなんて。
 そのことに、違和感を覚えていた。
 馬鹿だな――まだ、こいつは強いってイメージに囚われている。
 そうじゃない、そればっかりじゃないって、分かってた筈じゃねぇか。
「……もう、ここに居たくない」
 きっと――マグナが言う『ここ』ってのは、ダーマの事だけじゃなくて。
 こいつを取り囲んで、こいつをこいつでなくそうとする全て――マグナが勇者であることを知る世界の全てだ。
「ああ。そうしよう」
 俺は、頷いていた。
 考え無しだとは思わない。
 こいつに、勇者なんかとは無縁の、普通の生活を送らせてやるって誓ったんだ。
 ちょうど、リィナも連れ出そうと思ってたしな。シェラのことは、朝にでもあの野郎の部屋に押しかけて聞き出せばいいだろう。
「そうだな……早速、明日にでも――」
「違うの」
 胸に押し付けられた額から、マグナの震えが伝わる。
「え?」
「もう――イヤなの。一秒だって、ここに居たくないの……」
 それって――
「今すぐ逃げようってことか?」
 マグナは、無言で頷いた。
「いや、そりゃ――ああ、分かった」
 マグナの追い詰められた声を聞いて、俺は首を横に振れなかった。
 シェラの事は、後で俺だけあの野郎に会いに行って、話を聞くって手もあるしな。
「けど、シェラの部屋はすぐそこだけど、リィナはどこで寝てるんだか――」
「違うの」
 俺の台詞は、再び途中で遮られた。
 瞬間的に意図を把握出来ずに、少し返事が遅れた。
564CC 26(2)-25/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 07:47:05 ID:WaoWxA5E0
「……二人で、ってことか?」
 ようやく聞き返す。
「俺と、お前の」
 何も言わずに、ただ頷くマグナ。
「……やっぱり、許してやれねぇのか、リィナのこと」
「違うの。そうじゃない――」
 マグナは顔を上げて、部屋に入ってからはじめて俺を見た。
「リィナを嫌いになんて、なってない。今でも好きよ。でも――これ以上、一緒に行っても、余計にあのコを苦しめるだけじゃない……」
「そう……かもな」
 リィナの素性が判明した今となっては、あいつを連れて逃げることは、ダーマを裏切れ、これまでの自分を捨てろと強いるに等しい。それが出来なかったから、あいつはあんなに悩んでたんだ。
「シェラも――あのね、さっきヴァイスが来る前に、声をかけてくれたの。自分の事は、ここでなんとかしてもらえるかも知れないから、気に病まないでくれって」
 リィナが提案した、意識を体に合わせるとかいう例のアレか。
 そりゃ、嘘じゃねぇけど――マグナを少しでも安心させる為に、たとえその気が無くても、あいつならそう言うかもな。
「だから、今すぐあのコを連れてく訳にはいかないでしょ?」
 縋りつくようなマグナの瞳。
「でも……あたしはもう、ここに居たくないの……」
 俺は、何も言えなくなった。
 自分では分からなかったが、ずいぶん無言でいたらしい。
 気が付くと、マグナはまた顔を伏せていた。
「ごめん……あたし、どうかしてるね」
 自嘲するような、自棄になっているような口振り。
 肺の内側を、冷たい何かが撫で下ろす。
「そんな訳にいかないよね……分かった。もういい」
 俯いたまま身を離し、踵を返して扉に手をかけようとする。
 こいつ――独りでも、逃げ出す気だ。
「待てよ」
 後ろから抱き止めた。
「分かった――逃げよう、一緒に。今すぐ」
「……いいの?」
 即答しようと思ったのに、どうしても一瞬の間が空いた。
565名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 07:55:01 ID:A5i/qQRIO
最後の支援
566CC 26(2)-26/26 ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 08:00:09 ID:WaoWxA5E0
「――ああ。もちろんだ」
「……ありがと」
 がらんどうの世界のど真ん中でたった独り、ぽつんと立ち尽くしてるみたいな、頼りないマグナの様子。
 駄目だ。悪ぃ。やっぱり俺、こいつを放っておけねぇよ。
 都合のいい思い込みなんだろうが。
 脳裏に浮かんだリィナとシェラは、分かってると言うみたいに小さく頷いてくれたように思えた。
 
 
 
 手早く旅支度を整えて、薄暗い通路に滑り出る。
 神殿を抜け出すと、外は雨が降っていた。
 月も星も雨雲に隠れて、辺りは恐ろしく暗い。仕方なく、手持ちランプに火を灯す。
 ランプをマントで隠して、なるべく周りに気付かれないように、前方だけに光を逃がしながら、預けた馬が引かれていった方へと、ぬかるみを歩く。
 土砂降りとまではいかないが、かなり強い雨足も、ランプの灯りを遮るのを助けてくれている筈だ。見咎められる可能性は低いだろう。
 少し迷いつつ、なんとか馬屋に辿り着く。
 道すがらと同様に、馬屋にも人は見当たらなかった。
 ここは、文字通り閉じた世界だからな。住人は皆知り合いばっかで、泥棒に対する備えなんざ、考える必要すら無いんだろう。俺の実家もド田舎だったので、そういう感覚はよく分かる。
 馬屋の端に置かれていた鞍を、二人で黙々と取り付ける。
 マグナも俺も、部屋を出てからずっと、ひと言も口を利いていなかった。
 ザーザーと地面を叩く雨音に掻き消されがちな、ブルルという馬の低いいななきだけが、命ある音の全てだった。
 馬具の取り付けを終えた俺達は、目で頷き合う。
 手綱を握り、ゆっくりと馬を引く。ダーマから出るまでは、馬は引いていった方がいいだろう。
 一層激しくなった雨音が、俺達が残す全ての音と足跡を掻き消した。
 
 
 
567CC ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 08:08:54 ID:WaoWxA5E0
支援、おつかれさまでした〜ノシ
投下してて淋しくなかったので、大感謝ですw

ということで、マグナとヴァイスの駆け落ちで終わった第26話をお届けしました。
さんざんお待たせして、ホントに申し訳ないです(^^ゞ
少しでも楽しんでいただけたらいいんですが。。。

え〜とですね、バラモスについての言い訳をさせてください(^^ゞ
一般的にはゾーマ様の人気が高いみたいですが、私が3をプレイした
印象では、アリアハンっておまけみたいな感じなんですよね。
それでバラモスに対しては、個人的にかなりラスボス感を強く持ってまして。
加えて、こういうお話の場合、なんで主人公以外の誰かが魔王を倒せないのか、
という見方は逆で、魔王を倒した人間のお話なんだ、っていう書き方が普通だと
思うんですが、前者の書き方をしてみたいな〜、とか不遜にも思ってしまいまして。
それで、主人公以外にはバラモスを倒せない理由を考えなくちゃ
いけなくなってしまい、そんなこんなで本作におけるバラモスは、
かなり強力に設定されることと相成りました。
マグナにしか倒せない理由自体の説明は、まだ先になると思いますが、
納得とまではいかなくても、そういうお話なんだと広いお心で
ご笑覧いただければ幸いです<(_ _)>

他にも、なんか言い訳しなくちゃいけないことがあった気がするけど、忘れちゃったw
次のどなたか投下する前に、次スレ立てないといけない容量になっちゃいましたね。
私の次回はいつになるか分かりませんが(なるべく早くとは思ってます)、
投下の数日前には予告するようにします。
もし私の前に投下される方がいらっしゃいましたら、
同じように数日前に予告していただければと思います。
誰かが、スレ立てしてくれるでしょー。。。してくれるよね?w
568CC ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 09:36:00 ID:WaoWxA5E0
>>567
アリアハンじゃねー。
おまけみたいに感じてるのは、アレフガルドのことです。
すげー間違いだw
569CC ◆GxR634B49A :2007/07/10(火) 10:26:44 ID:WaoWxA5E0
あ、万が一新スレが立つ前にこのスレが埋まっちゃったら、ウチのまとめサイトで
新スレをお知らせするようにしますので、そちらから移動していただければと。
まだ20KBは余裕あると思うんですが、念のため。。。
570名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 10:26:48 ID:g/1nxYcT0
CC氏乙でした!!!
すげえ、リアルタイムで投下に立ち会えたよ!!!
投下中のカキコはよくないのかなと思い、カキコは
控えたんだけど、これからはバンバン支援するよ!

嫁が昨日から、スーファミを引っ張り出してきて、V
を始めてたwwwww
571名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 11:08:48 ID:25C26qGAO
GJ!!!!

こっからどうなるかwktk
572名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 16:28:17 ID:h4f52Pab0
GJで乙でしたー
ヴァイエルに萌えてる俺は、もう駄目かもわからないw
573名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 16:29:40 ID:/F2XTUWI0
ヴァイエルもある意味ツンデレですか?w
ともかくCC氏乙です
574名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 19:12:17 ID:wF7ZY61G0
CC氏乙です!!
また1人ツンデレをキャラを出すなんてwww
ヴァイエル先生が好きになってきたよw
575名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 19:31:45 ID:MhR+FqEFO
なんというGJ…
このツンデレ魔法使いは間違いなく人気がのびる(^o^)
576名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/10(火) 20:18:27 ID:JrGmpzRW0
嫌味キャラだったはずのヴァイエルの人気に嫉妬
577名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/12(木) 01:35:09 ID:CqOJz8+Y0
乙です!!
ヴァイエルってツンデレすぎないかw
578CC ◆GxR634B49A :2007/07/12(木) 01:45:21 ID:eUc27g6L0
レスありがとうございました〜ノシ
ヴァイエルが案外好意的に受け入れられてて、
なんとか最低限の書き方はしてやれたのかなぁ、とほっとしました(^^ゞ
名前の元ネタは忘れちゃいましたが、確かアグリッパの弟子かなんかからとったんじゃなかったかと。

駆け落ちで終了したのに、なんか今回の話は、
すっかりヴァイエルに喰われちゃったっぽいですねw
ある意味狙い通りですがw
私も作者じゃなければ、「こいつもツンデレ」ゆってたと思いますw

そうそう、いつもは誤字を発見したら直す、くらいしかしてないんですが、
今回はまとめの方で、少しだけ表現を変えたりしています。
合計しても数十文字で、話自体は全く変わってないので、
再読とかは全く必要ありませんが、後で引用する部分が含まれるかも
知れませんので、いちおうお断りしておきます。

さー、この先どうなるでしょうか。
次の話までしか考えてないので、作者にも分かりませんw
まーぼんやりとは考えてなくもないんですが。。。
また用事でバタバタしちゃいそうですけど、なるべく暇を見つけて
先を書くようにしますので、今後ともよろしくお付き合いいただければと思います<(_ _)>
579名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/12(木) 07:52:20 ID:Xj4Kr4J4O
そろそろ次スレの季節か?
580CC ◆GxR634B49A :2007/07/13(金) 10:50:11 ID:yPnCDbdv0
そですね、用意しといてもいいかもですね〜ほす
581CC ◆GxR634B49A :2007/07/13(金) 16:05:26 ID:yPnCDbdv0
次スレテンプレ案。簡単にこんなんでどうでしょ。
スレタイも単純に『ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level 9』とか。

----------------
DQツンデレスレへようこそ。
ここは職人方が書いてくれるDQ関連のツンデレなSSに萌えるスレです。
新しい職人さん大歓迎です。SS題材はDQであれば3以外でもおKです。
DQ3の攻略等に関する質問は専用スレでどうぞ。

前スレ Level8
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1174664837/

過去スレ
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1132915685/
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜 Part2
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1138064814/
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜 Level3
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1142515071/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level4
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1144425198/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜  Level5
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1157354640/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level 6
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1162828557/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level 7
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1167743633/

まとめサイト (Level 4 までのログはこちら)
http://www.geocities.jp/game_trivia/dq3/
CC氏まとめサイト (Level 5 からのログはこちら)
http://www.geocities.jp/tunderedq3cc/
582CC ◆GxR634B49A :2007/07/15(日) 00:11:52 ID:0q9z3Qnh0
ぴたりと止まったスレが相手なら、はお。。。保守せざるを得ないw
いちおう、まだ15KBくらいは残ってる予想。
連日用事でばてばてですが、明日はなんとか進めたい。
583名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/15(日) 02:00:25 ID:pMP2EGoQ0
あ、知らない間に新作が!

CCさん乙!これからの新展開にバンバン布石が打ってありますね
まるでハリポタのスネイプみたいなヴァイエルもやはりツンデレ属性
いけ好かない話っぷりもまたなんともいえない魅力が

これからの展開に期待!!!!!!
584CC ◆GxR634B49A :2007/07/16(月) 01:01:49 ID:UngWAK0M0
こんなの書いてるクセに、ジツはハリポタって読んだ(観た)ことないんですが(^^ゞ
あんなキャラが出てくるんですか。それは、ちょっと意外かも。
ということで、ご期待に応えられるよう頑張らなくてはほす。
585名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/17(火) 04:59:09 ID:g4WS9hL8O
昨日、地震あったけど、スレ住人は無事ですか?
取りあえず俺の所は遠いから大丈夫
586名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/17(火) 08:56:19 ID:WhdzeyTtO
北の大地何で問題はない
587CC ◆GxR634B49A :2007/07/18(水) 00:06:51 ID:vYULEkAx0
ウチも大丈夫でしたほす
588CC ◆GxR634B49A :2007/07/18(水) 22:04:55 ID:vYULEkAx0
また地震があったみたいですし、皆様、ご無事だといいんですが。。。
被災された方にお見舞い申し上げます。

明日を過ぎれば、少しは落ち着いて時間がとれそうですほしゅ
589名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/19(木) 20:31:03 ID:5zX1cJLC0
ほす
590CC ◆GxR634B49A :2007/07/20(金) 19:55:32 ID:mzm3qE+90
くたくたほす
591CC ◆GxR634B49A :2007/07/21(土) 21:29:45 ID:m9wyy/+w0
もいっちょほす
592名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/21(土) 22:38:02 ID:gTs4Eltq0
 |ω・) そ〜っ
 |⊃次スレ
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1185024927/l50
593名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 01:28:18 ID:Z4sUCph10
そろそろ、容量一杯だからこっちのスレ埋めないか?CC氏の一回の投下量を考えても
後、13kじゃ足らんだろーし
594名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 09:47:19 ID:qqKH7t0OO
>>592スレ立て乙!!
595名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 11:50:01 ID:Sdgzj9NF0
>>592
埋め
596名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 21:04:27 ID:iZYMx69g0
埋め
597名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 21:41:22 ID:6G/Z7VQw0
いや、容量で埋めようよ。
ツンデレ代行
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ゝ   |::::::::::::::://~‐--、_ v::::::| |::::::::! \:::::::::::::! !::::::|~~|::::::/ ̄ヽ:::|::::::::|\、/
/~/ ´|::::::::::::::!/     ~Y、::!、.!:::::::!   \:::::::! !::::/  |:::/  |::::|::::::::::|、 ヽ
::::ゝ、_.|:::::::::::::|  /´~ ̄`ヽ、! \::ヽ   \:| !/ ̄~|/ヽ  |::!:::::::::|ヽ/´ヽヽ
/ /、|::::::::::::| イ、 /〇。:::::::1\  \ヽ    イO。::::::::::! \ .|イ:::::::::|〃ヽ
 /:/ ∧::::::::::| \ !:::::::::::::::!           |::::::::::::::::/ |/ | |:::::::::| ヽ ヽ
./:::/ /::|\::::::|     ヽ:::::'!            ::::::::::´ !  |:::::::::|、  !  !
::::/ /::::||!::::\::|   ヽ~ ̄´      ,      ~ ̄~`    /!:::::::/ }
::/  !:::::ヽ|:::::::::\       ,--――――--、        /!::::::://
ヽ  !:::::::::::::!:::::从、      |/´:::::::::::::::::`\|       /-/::::/
::::ヽ!::::::::::::::::!、:::::::ヽ      |        |      ノ/::::::/
. |::::!:::::ヽ:::::::::\::::::::\     ヽ       /     / /::::/
 |:::ヽ::::::ヽ::::::::::\::::::::::\    \     /    ////::/
  |::::\::::::\:::::::::::\::::::::::"''‐    、_      -'"
埋め!
598名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 21:59:04 ID:tSO6E6E80
                _∧_∧_∧_∧_∧_∧_∧_∧_
     デケデケ      |
        ドコドコ   <  ドンドン埋めるよ━━━━━━━━ !!!!!
   ☆      ドムドム |_  _  _ _ _ _ _ _ _ _
        ☆   ダダダダ! ∨  ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨
  ドシャーン!  ヽ         オラオラッ!!    ♪
         =≡= ∧_∧     ☆
      ♪   / 〃(・∀・ #)    / シャンシャン
    ♪   〆  ┌\と\と.ヾ∈≡∋ゞ
         ||  γ ⌒ヽヽコ ノ  ||
         || ΣΣ  .|:::|∪〓  ||   ♪
        ./|\人 _.ノノ _||_. /|\
599名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 22:00:48 ID:tSO6E6E80
スコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココ
スコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココバシッスコバドト _∧_∧_∧_∧_∧_∧_
スコココバシッスコバドドト从 `ヾ/゛/'  "\' /".    |                    |
スコココバシッスコハ≡≪≡ゞシ彡 ∧_∧ 〃ミ≡从≡=< もっともっと埋めるよー!!  >
スットコドッコイスコココ'=巛≡从ミ.(・∀・# )彡/ノ≡》〉≡.|_ _  _ _ _ _ ___|
ドッコイショドスドスドス=!|l|》リnl⌒!I⌒I⌒I⌒Iツ从=≡|l≫,゙   ∨  ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨
スコココバシッスコバドト《l|!|!l!'~'⌒^⌒(⌒)⌒^~~~ヾ!|l!|l;"スコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココ
スコココバシッスコバドドl|l|(( (〇) ))(( (〇) ))|l|》;スコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココ
スコココバシッスコバドド`へヾ―-―    ―-― .へヾスコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココ
600名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 22:02:01 ID:tSO6E6E80
         =≡= ∧_∧    チソ
          /    ( ´・ω・) /
        〆   ┌  |    つ∈≡∋   疲レタ
         ||  γ ⌒ヽヽコノ     ||
         || .|   |:::|∪〓  ||
        ./|\人 _.ノノ _||_.  /|\
601名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 22:13:11 ID:6G/Z7VQw0
               _,...-─‐-─…─-....._
            ...:::´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`::...、
          ..::´:::::::::::::::::::_____::::::::::::::::::::::::::\
        /:::::/:::::::::::/´      `\::::\::ヽ::::::ヽ
.      /::::::::::l:::/:::/.-::::´ ̄ ̄ ̄ `::::-.ヽ:::::ヽ::';:::::::::',
.     ,.':;. -─ 、/::::::/::::::/:::::::::::::::::::::::::ヽ:::::::ヽ::::::V──┐
     /::::},.─ャ 7:::::://:::;イ::j:::::::';::::::::::::::::::::';:::::::|:::::::::.-、_」',
.    /::::::`ァ´ ':::::_j_j__/ |:::|';::::::ヽ:::::';::::::::::::'::_;:|_::::l  ヽ:::::!
   ,′::/>、_」:::::::l::|:::|`ヾ:!、ヽ:::::',\|ヽ;:イ::l::::|::|::::::ト._,.ベニ._‐、
    |://::::::/ ,|;::::::N∨-- 、 ` \:ヽ ヘヾ-fYノ!:::::j:|',ヽ::::::| ヽ\
   i´/:::::::; ' ./.|:';::::V/ヒワ‐ミT   ``  'イう-ミ:ハ:〉::/::トヽ \   ∨
   |イ:::!:::::/ ハ. |:::ヽ::'. マ-ツソ       vヾシ//::/::::|ノ::ヽ、ヽ
   |.||::|::/  i::::`:';:::::::ヾ、`¨´           `¨´,/:;::'::::::l:::|:::小∠._
   lハ:l::ー、.」::::::::::';:::::::',     、_’_,.  ∠イ:::::::::/::/:/リ´-┐ ,!
    |:||::::::|:::::::::::::::、:::::'\    「ヽ    _. イ:/:::::/::/:/ /`ヽ/ /
     ヾヾト:|::::::::::|/ 、:::',、::'.丶、_| | __.  '´l/イ::::://イ  /`ヽ'^ヽ、_
.         ヽ:::::::|   \ヽヾ!  .| |   ∠ィ´/::/l.イ |  ′   `l    `
       ,〈 \:!',    ヾ、l____」 |__ _| ,シ'    l. l. ′   /
.      / ', ', ',.      |_/ '´-‐-.',__|    / / ′  /
.      i′ ', ', ',.     |_,/   ー-|フ_!   / / /  .i^i'
      y'   ', ', ',  ,.rァ'    ,rz:ノ ./   ,.' ,.' /  /J
     ,/    ヽ,.ヽ..ゝ1 | |   ノ '’ ./  / / /.|匸´__     /
ほかに容量多いAA知らないのでハルヒで支援
602名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 22:15:42 ID:6G/Z7VQw0
     /:.:.____,<_:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.:.:.:.:.:.\   ヽ:.:.:.:.:',
    /:.:.:.:人__//:.:/:.:.:.:.:.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.\ |:.:.:.:.:.l
   //7´:.:/:.:.:.:.:./∠.-‐ァーく:.:.:.:.:.:.:.:/:.:/l:.:./:.:.∨:.:|:.:.:.|
    ,,.ィ┬/:./:.:/:.:.:.:.:.:/ィr=,、ヘ∠二 -‐' /:.〃:./:.:|:.:.|:.:.:.|
 _/   ! |:|:/l:.:.:/:.:.:.:.:./ 仆、r'ハ \    /ノ/:.:/:.:./:.:.|ヽ/
´    ||::| ∨:.:.:.:.:ィ!  ゙ー '     _,..二、レ'/:.:./:.:./| |
      | |::::!/:.:.:.:.//ハ  ""      ィト_r,ハ':.:./:.:.,イ レ'
     | |:::|!:.:/ !l lヘ   / ヽ、 '   ゞソ/:/:,ィ┬人\
、    | |:::|:/  l! ト、\丶__,フ    /‐'´:././/  ヽ ヽ
ト\__./| |:::|     |ヽ   ー┬─‐r‐ ':.:.:.:.:.:ノV!
`ー-、 ,|_|:::!    ハ \___/ /:.:.:_/く/\V'Y´l_
. / ̄7´ィ‐-'ヽ   |ヽ\_,../ /゙フ7´/ /。   ヽ\! ノ
/ /´,/ノ  /く.   /  `ーァ'  /, '//´  ◇/´\ ヘヽ
  l   / ノヽ 人_,./_,. ‐'´'´ィ´  ヾ\__/〉 /二\|
、 ヽ    / /トi<─=三__/  `ヽ、(\/ヽ// i/´ ̄ヽ/
  ̄\    ノ/:.:ヽ:\ ̄ |       \ ゝく、  |l    ノ|
603名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 22:59:52 ID:pI9u5FcY0
            _|_
          /_\
           ̄|U ̄  
   ∧_∧    /ミヽ、 
   ( ・ω・)  ノミシ三 `~゚
   (っ ≡つ=つ゚  ゚ 
   ./   ) ババババ
   ( / ̄∪

            _|_ 。_
           /_\)
            ̄|U ̄ ))
   ∧_∧    ゝ、 彡'
   ( ・ω・)      °
   (っ  つ
   ./   )
   ( / ̄∪


            _|_ 。_
           /_\)
           ̄U ̄∩
          ∧_∧ lll
          ( ・ω・)∩
          (っ   彡
  .        /   )
          ( / ̄∪
604名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 23:14:11 ID:pI9u5FcY0
埋めといてやんよ。別に誰の為でもねぇよ
その…ここを埋めないと、ツンデレを読めなくて困るだけだからよ
 ∧_∧
 ( ・ω・)=つθ≡つθ
 (っ ≡つθ=つθ
 ./   ) ババババ
 ( / ̄∪
605名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 23:19:08 ID:pI9u5FcY0
 月曜日?ボコボコにしてやんよ!
 ∧_∧               
 ( ・ω・)=つ≡つ      (月曜 )
 (っ ≡つ=つ      .ノ^ yヽ、
 /   ) ババババ    ヽ,,ノ==l ノ
 ( / ̄∪           /  l |

∧_∧
( ・ω・)                 愚かな・・・
・,' ,., '・,';,ズババ       ( 月曜)
 (U  U          .ノ^ yヽ、
 /   )          ヽ,,ノ==l ノ
 ( / ̄∪           /  l |
606名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 23:22:36 ID:eEHPcdjg0
ちょwせっかく埋め用にちょっと作ってたのにもうほとんど埋まってるww
607※YANA  ◆H.lqZohyAo :2007/07/22(日) 23:33:05 ID:WTmLosLC0
ドラクエ最新作の主人公考えたよ!
名前はアルト・ノイ・ロト。
数限りない魔王との戦いを重ねてきた世界で、今は伝説となった最も新しい魔王との戦いの折に
天空が地上に遣わしたという「竜神騎士団」、その欠番の七番隊の元隊長。
どこか冷たい印象を与える少年然とした風貌だが、その年齢は既に数百歳に達する。
しかし、普段は極力人との関わりを持たず、そのことを口外することはない。
精霊・ディアルトの一族の末裔であり、過去あらゆる世界で起きた「ブラックオーブの怪物」
…即ち魔王との戦いで先陣を切り「勇者」と呼ばれた者の全ての記憶を継承しており、
それが「魔王」との最後の戦いが近いためであり、更に自分の寿命が異常に長いことがそれに起因すると悟っている。
愛用する極黒の長剣は遥か古の昔に精霊の故郷で失われたはずの「大地の魔剣」であり、
ロトが全力でこの剣を振るえば世界が切り裂≠ゥれてしまうとまでいわれる。
尚、本来この剣には銘などないが、過去の記憶を継承しているがゆえか、彼はこの剣をディアルトの妻の名「ルビス」で呼ぶ。

\_____ ___________________________/
         ∨
           ___                _
       / ____ヽ           /  ̄   ̄ \
       |  | /, −、, -、l           /、          ヽ きみ頭だいじょうぶ?
       | _| -|○ | ○||         |・ |―-、       |
   , ―-、 (6  _ー っ-´、}         q -´ 二 ヽ      |
   | -⊂) \ ヽ_  ̄ ̄ノノ          ノ_ ー  |     |
    | ̄ ̄|/ (_ ∪ ̄ / 、 \        \. ̄`  |      /
    ヽ  ` ,.|     ̄  |  |         O===== |
      `− ´ |       | _|        /          |

夜も遅くに…ナニヤッテンダオレ…orz
608名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 23:41:10 ID:tSO6E6E80
>>607
ワロwwwwwww
609名前が無い@ただの名無しのようだ
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