前スレが落ちていたので作りました
3 :
うみうしがあらわれた!:2009/11/14(土) 11:03:16 ID:u35yajOpO
──うみうしはようすをみている──
(・ ))(( ・)
ヽ,l |,ノ
|| ||
\,イ  ̄`ヘ/
 ̄| _ _ | ̄
__ノ ノ|!,||`l |
/ ̄ 0 |_,v-、l`ヽ、
,イo O o | | |´ 0l、
/ ヽ,ノ ノ
` ̄ー─、_,ー-||-─ー
4 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/11/14(土) 11:27:34 ID:ODEFst4QO
3つながりでX箱かプレステンション3で出せよ どっちももってないけど
1おつ
大規模規制のせいで保守もできなかったぜ・・・
いちおつ!
くそう、規制のせいで〜
10 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/11/15(日) 19:26:38 ID:FPDMRbGAP
職人さんも規制中だろうか
>>1 乙です!!
す、すみません、ちょっと仕事しながら引越しとかしてたので、
まるっきり余裕がありませんでした(汗
次回が書き上がったら、恥ずかしながら自分でスレ立てするしかないか〜
とか思ってたので助かりました。
頼りのYANAさんの投下も一段落してしまったので、
私もなんとか頑張ります(汗
書き込みの無い前スレを落とすまいとした時に規制にかかってた悔しさと言ったら…えぇい、Vipperめ!
CC氏も復帰という事で期待しておりますですよー。
>>1ありがとう。
みんなも規制で書けなかったんだなー。
保守もスレ立てもできなくてマジで焦ったよ。
このスレでは新作何本読めるかな。
楽しみにしてます。
15 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/11/20(金) 19:25:11 ID:GnEZU/s7P
ほしゅ
したらばとかに避難所あったほうがいいんかね
ほしゅ
hohoho
syusyusyu
サンディはツンデレに入るのだろうか
h
21 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/03(木) 23:58:03 ID:V7UhdPoJO
age-hs
ほす
ほす
ほすって何日おきにやればいいんだろな、この板
保守保守だけじゃなくて、自分でも何か書きたい所だが諸氏のように纏め上げる自信が無い…絵心も無い…。
27 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/16(水) 01:21:47 ID:O4YXwLrP0
FF13発売でほす
>>26 書いて書いて。
書いてる内にアイデアが浮かんできますよ。きっと。
最後まで自信の持てなかった自分は結局完成してからの投下となりましたがw
ho
捕手
リィナのおっぱい
32 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/12/27(日) 11:12:08 ID:Ci1DdvMxO
水沼
まったりと待っていよう、と思いつつ日に何度も更新をしてしまう
あけおめほす
ほしゅ
ほ
shu
ほしゅ
ho
ほ
ほ
ヒッフッハ
そういえば新スレになってから保守のみだな…
ここはとある平和な国。そこには後に統一王イデーンと呼ばれることになる、幼い王子様がいました。
王子様には少し歳の離れたお姉さんと、お兄さん、そして同い年の妹姫がおりました。
その国では代々、王様の子供達は小さな頃から厳しい戦いの修行に励み、普通では考えられないような強さを身につけるのが慣わしでした。
王子様を含めた四人の兄弟も、物心ついた時から学び、鍛え、剣を打ち鳴らす日々を送っていました。けれど、普通の子供達と違うのはそれだけ。彼らは互いを大切に思いやり、すくすくと育ってきました。
ただ、王子様は他の三人とは少し様子が違いました。
毎日決まった時間に目を覚ましては、早々に朝食を摂り、鍛練に励み、昼は摘む程度の少量の質素な食事を口にし、午後の少ない休息時間の全てをお城の書庫で過ごし、日が沈めば今度はパンすら口にせず闇深い野山に乗り出してゆく。
そうして夜も更ける頃には、外で倒してきた沢山の魔物の血を浴びて、平然と帰ってくるのです。
それが王子様の日常でした。来る日も来る日も顔色一つ変えず、黙々とそれを繰り返しました。
お姉さんたちが鍛練の合間にも朗らかに微笑みあって過ごす中、その王子様だけはひたすら鍛練漬けの毎日。お城の人達は皆肩を竦めながらも、一生懸命なのは感心だけれど体を壊さないといいなぁ、などと王子様の直向きな横顔を見て苦笑いするのでした。
お姉さん達も勿論そうでした。まるで毎日を楽しんでいないようにみえる王子様の心を何とか解そうと、色々と気を遣いました。
王子様が五歳の年のある日のこと、いつものように昼食を済ませ、書庫で魔法について書かれた本を広げている王子様のもとにお姉さんはやってきて、いいました。
「そんなにかぶりついて。目、痛くならない?」
王子様は何もいわず、小さく首を横に振りました。お姉さんはにこやかに笑って、王子様の脇に座りました。
「駄目よ。目は戦士の命なんだから、もっと大事にしないと。貴方、倒した魔物の返り血だって拭いてないでしょ?」
王子様は少しだけ考えて、今度は頷きました。王子様にとって顔に浴びる魔物の返り血は、大して気にならないものでした。王子様は、お姉さんに言われて初めて自分の癖に気づいたのです。
にこりともしない王子様に気を悪くした風もなく、お姉さんは優しくも力強い笑顔で、懐から一着のゴーグルを取り出しました。
「これ、作ってみたからあげるわね。ないよりは視界をマシに保ってくれるはずよ」
そういって、お姉さんは王子様の頭にゴーグルを巻いてあげました。王子様は嫌がる様子もなく、お姉さんの忠告とゴーグルを受け取りました。
お姉さんはまだ十二歳とはいえ兄弟で一番年上で、いつもこんな風に下の三人の面倒をよく見ているしっかり者。更に優れた才能を鼻にかけず、文武とも鍛練に良く励み、皆の期待を一身に受けていました。
「あはは、ちょっとサイズが大きかったかしら。でも貴方は男の子だから、もう何年も育てばすぐに丁度よくなるわ」
少しずり落ち気味のゴーグルを見て、お姉さんは決まり悪そうに苦笑いを浮かべました。王子様はそんなお姉さんに一言だけお礼を言って、また視線を本に戻します。
「…その時が、楽しみだわ。私も追い抜かれないように頑張らないとね」
最後にそういって、お姉さんは立ち上がりました。
…王子様たちの国では、次の王様になる子供を決めるのに、年齢の序列は関係ありません。戦いの力を最も尊ぶ風習のある王様の一族は、代々兄弟の中から一番強い子供を後継者として選び出すのが掟でした。
その慣習が今尚息づく環境にありながら、将来は国を背負う戦姫となるのは間違いないと頻りに囁かれるお姉さんは、王子様の目標でした。後継者を決めるその日までにお姉さんを超えること。それが王子様の当面の課題です。
王子様と同じく自分の練磨に心血を注ぐお姉さんは、そんな向上心豊かな弟の思いを内心で嬉しく思っていました。お姉さんは一心不乱に本を読みふける王子様を尻目に美しい長髪を翻すと、優しい笑顔のまま書庫を後にしました。
お姉さんの背中が見えなくなるまで、王子様は何もいわずに本に目を落としたまま動きません。けれど王子様の脳裏には、幾度となく自分を打ち倒したお姉さんの太刀筋が、鮮明に蘇っていました。
王子様がお姉さんと顔を合わせるたびに思い出すのは、いつもそのことです。
…お姉さんが両手に剣を持った時に繰り出す二刀流。それはお兄さんと王子様を同時に相手にしてもまるで乱れない、磨きぬかれた芸術品のような美しさでした。
それに切り伏せられるたび、王子様はその剣技の隙のなさに、どうこれを破ったものかと頭を捻るのでした。あのやり方は駄目。このやり方も駄目、と考え付く可能性を一つ一つ試しながら。
それから暫くしたある日、今度はお兄さんがやってきました。
百年前、竜の王様の軍団を打ち倒したというご先祖様の手記を読みふける王子様を見下ろすような形で、お兄さんは書庫の梯子のてっぺんに腰を下ろしました。
「毎日毎日飽きねぇよなー、ホント。ちっとは変わったことしてみたくねーのかよー?」
退屈そうに足をぶらぶらさせながら、不安定な足場なのに平然と雑談を始めようとするお兄さん。王子様は視線一つ向けないまま、本のページをめくりました。
「無視すんなよ、もう。ったく、シア姉の言いつけだからメンドイけど仕方なく来たのに、こっちが腐っちまうぜちくしょう」
口を尖らせて、王子様の態度に対する不満を漏らすお兄さんでしたが、部屋を出て行く素振りは見せません。きっと、本心では弟のことを心配しているのでしょう。
何か王子様の興味を引ける話題はないものかとお兄さんは書庫の本棚を何とはなしに見渡します。すると、部屋の一角に転がる、古ぼけた辞書がその目に留まりました。
「…なあ。おまえ、まだ名前決まってなかったよな?」
にっと悪戯小僧のような笑みを浮かべて、少年は分厚い辞書に目を向けたまま王子様に問いました。王子様はこくん、と小さく頷いてそれを肯定します。
王子様たちの一族は、ある古い口伝が原因で、一人一人の名前を余り重くは扱っていませんでした。特別優れた子供に王様自ら願いを込めて名前を贈ることは稀にありますが、王様の子供達は殆ど代々、物心ついた頃に自分で名前を銘銘に名乗りだすのです。
王子様ももう名前を名乗ってもいい年頃でしたが、何しろ鍛練と勉強ばかりに熱を入れて生活してきたものですから、そんなことは今の今まで忘れていました。
お兄さんは王子様の返答を受けると、梯子を飛び降り埃塗れの辞書を拾い上げます。それは古今東西の、様々な文字の読み方が記された本でした。ずっしりとした重みも、何かよからぬ思い付きを抱くお兄さんにとっては何でもないのか、軽々と取り回します。
「俺がこいつで決めてやるよ。…いいか、いくぞっ」
王子様の返事を待たずに、お兄さんは手に持った辞書を天井近くまで放り投げます。そして目にも留まらぬ速さで懐に手を入れると、宙でばさりと開いた辞書目掛けて何かを投げつけました。
「いちにっさんしっ、とぉっ!」
すここここん、と小気味のよい音を立てて、何かは壁に突き刺さりました。それは、四本の小さなナイフでした。
王子様がそれを確認するのと、お兄さんが落ちてきた辞書を受け止めるのはほぼ同時でした。更にお兄さんは、少し遅れてひらひらと舞い落ちてきた紙の切れ端を、一つずつ順番に、正確に摘んで集めます。紙は全部で、四枚ありました。
「くくくっ、さーてどんなんなったかなっと」
お兄さんは意地の悪そうな笑い声を噛み殺しながら王子様の対面に座り込むと、集めた紙きれを床に並べてゆきます。黄ばみきったその紙はどうやら辞書のページの一部で、お兄さんがナイフで切り裂いて出来たもののようでした。
王子様は、兄上はまた姉上に怒られるな、などと静かに後のことを考えながらも、成り行きを見守るためそれを黙っていることにしました。
「あ゛ー暗くてよく見えねーや。何々…『も』…『ょ』『も』…『と』………“もょもと”ぉ?」
渋い顔で床に顔を寄せ、並べられた紙面に記された文字を読み上げると、お兄さんはお腹を抱えて笑い出しました。
「ははははコイツはいいや!けどまーあんまりっていやあんまりだっ…もょもと!もょもとって!舌噛みそうだくくくっ!」
楽しそうに笑い転げるお兄さんと対照的に、王子様はもう興味をなくしたように視線を手元の本に戻してしまいました。暫くして、お兄さんが呼吸を整えて王子様に向き直り、いいました。
「あ゛ー笑った笑った。しかしいくらなんでもこの決め方は駄目だよな。ちっとは真剣に…?」
並べた紙を丸めて部屋の隅に擲つお兄さんに、王子様は短く告げました。それでいい、と。
「おいおい本気かよー?だってもょもとだぜ?
ローレシアから名前もらったシア姉と、俺のアベルに続く名前がそれでいーのか、ホントにさ」
お兄さんは珍しく真剣な顔で王子様を説得に掛かります。ですがそもそも皆に輪をかけて名前に関心のない王子様は、そんなおかしな名前でもまるで不服を唱えません。逆に勝手の分からない『名乗り』という行為に手早く決着をつけてくれたことを、嬉しく思いました。
「…まーお前がそれでいンならいっか。んじゃ俺は夜までどっかにフケるわ。シア姉が来たらテキトーにいっといてくれや」
一言二言押し問答をすると、元々不真面目な性分のお兄さんはあっさりと説得を諦め、欠伸混じりに書庫を出て行きました。
王子様―――もょもと王子は、その背中を見送りこそしませんでしたが、目を閉じてお兄さんの鮮やかなナイフ投げを思い返します。
お兄さんはいつも今日のように、のらりくらりと怠けた生活を送っています。ですが王様達が鍛練を監督している時は、いらぬ文句を言われないようにと、必ず周りを納得させるだけの結果を出すのです。
もょもと王子の考えでは、王様からじきじきに国に因んだ名前をつけられ、後継者として期待されるお姉さんよりも、あの軽薄なお兄さんの方が持って生まれた才能は優れていました。
ですが双方の性格…人にも自分にも厳しく鍛練を怠らないお姉さんと、努力を嫌って類稀な才気を伸ばすことも、王様になることも億劫に思っているお兄さんの性質が、二人の間に差を生んだのです。
それでも、お兄さんの持って生まれたセンスはただそれだけで、もょもと王子の探究心を刺激してやみません。
もょもと王子は静かに、あの精密な投擲技を自分も身につけられないか考えるのでした。
また別の日のことです。
もょもと王子がこの前読んだ手記よりも、更にずっとずっと昔。世界が闇に包まれていた時代に現れたという、最も古いご先祖様について書かれた記録を、分厚い辞典とにらめっこしながら読んでいると、書庫のドアが遠慮がちにノックされました。
もょもと王子は一度だけ視線をドアに向けましたが、すぐに目を所々が掠れた古文書に戻します。その沈黙が、いつももょもと王子がノックの主に返す許可の証でした。
数拍ほど置いて、音も立てずにゆっくりとドアが開いて、もょもと王子の妹姫がひょっこりと不安げな顔を覗かせます。
書庫は特に入室の制限がされている訳でもないので気兼ねする必要などないのですが、妹姫はいつも決まって中にいるだろうもょもと王子に確認をとるのです。
「………?」
妹姫は、この前もょもと王子が読み終わった魔法の本をそっと顔の前に持ってくると、口元を隠すように視線で訴えます。もょもと王子は妹姫の意思を察して、いつものように小さく頷いて返しました。
「…っ♪」
静かに、けれどはっきり見て取れるほど表情を華やがせて、妹姫はとことこと軽やかな足取りでもょもと王子の脇に腰を下ろします。そうして嬉々として持ってきた本を広げると、並んで読書を始めました。
もょもと王子はそれを全く意に介さないように、無言で古文書のページを捲ります。
…妹姫は、生まれつき言葉を話せませんでした。加えて、戦士としての資質が最も重要とされる王様の一族に生まれながら、体の方も然程強くありません。
そんなですからめきめきと各々の力を伸ばしてゆくお姉さんやお兄さん達に負い目を感じ、妹姫はいつもおどおどと遠慮がちに振舞うのです。
ですが、妹姫にも心の安らぐ時間はありました。歳の近いお兄さんであるもょもと王子と、こうして書庫で本を読む間は、妹姫は誰の目にも明らかなほど、目の色を和らげるのです。
「………っ?」
もょもと王子が、眉間に皺を寄せながら妹姫に問います。無邪気に振り返る妹姫に、もょもと王子は古文書の一部を指し示しました。どうやらいくら辞典を探しても読み方のわからない、古い文字があったようです。
身を乗り出して古文書を覗き込み、妹姫はふんふんと鼻を鳴らすと、すぐにもょもと王子の持ってきていたペン一式と便箋を手にとり、さらさらと何かを書き込んでいきます。
やがてペンが置かれ、差し出された便箋の内容に目を通すと、もょもと王子は一言礼を述べ、また古文書に視線を走らせ始めました。妹姫はそんなもょもと王子を見て、はにかむようににっこりと笑います。
…妹姫は口に出す言葉と強い体を持たない代わりに、とても優れた知力を持っていたのです。書庫にある殆どの書物の言語は既に習得済みで、これには王様やお姉さんたちも舌を巻くほどでした。
幼い妹姫がこの書庫、このもょもと王子の傍を自分の居場所に選んでいるのはこのためでした。年長者としての責任感溢れるお姉さんは勿論、怠け者のお兄さんも、学問でいくら分からないことがあっても、情けないからと妹姫を頼りません。
ですがもょもと王子だけは違いました。書物を読み漁る過程で、自力では解に辿り着けない難題にぶち当たると、躊躇なく妹姫を頼ってきたのです。それが自分の存在に不安を抱いていた妹姫に、安息をもたらしました。
それからというもの、もょもと王子が知識を蓄える時間には、妹姫は少しでももょもと王子の力になればと、しばしばこうして書庫を訪ねてくるようになりました。健気にも、そうと悟られないように、自分用の本まで持参して。
「―――もょもと〜、いる〜?」
先ほどのようなやり取りを定期的に繰り返していると、突然、お姉さんが書庫に踏み込んできました。その足取りはどこか怒気を孕んだもので、妹姫はそれを敏感に悟ったのか、身じろぎ一つしないもょもと王子の背後にさっと隠れてしまいます。
「ごめんね、お邪魔するわ。あ、貴方も来てたんだ」
朗らかな笑みで二人に語りかけるお姉さんの声には、少しの乱れもありません。怯えるように振舞う妹姫に気遣う余裕すら見せます。何事かと恐る恐る顔を覗かせる妹姫と、大体の察しがついており動じないもょもと王子は、それぞれにお姉さんの顔を見上げます。
「そんなに怖がらなくていいわ。大丈夫、すぐ済ませるから。…ほらアベル!さっさと来なさいっ!」
「あいあい…あ゛ー痛って…何も二発もぶん殴らなくてもさー」
にっこりとした笑顔が一転、覇気すら湛えた一喝とともに目を吊り上げて、お姉さんはドアの外に振り返ります。気のない返事とともに、頭に大きなタンコブをふた山も作ったお兄さんがのろのろと歩み出てきました。
「もう一回殴られたいのかしら?反省の色が見えないようだけど」
「あ゛ーしてますしてますー、ごめんなさいって」
「全く。…はいはい、それで貴方がずたずたにした辞書はどこにあるの?」
「ずたずたじゃありませんー、そんなムダに壊すほどヘタクソじゃねーって。ちょっと4ページほど切り離しただけででででっ!」
口を尖らせて抗議するお兄さんの耳を、お姉さんは指で思い切り引っ張ります。普段は優しいお姉さんも、鍛練や躾の時はとことん厳しいのです。
微塵も取り乱さず本を読み続けるもょもと王子と、おろおろする妹姫を他所に、二人はこの間の辞書を間に挟んであーでもないこーでもないと口論をします。
しっかり者のお姉さんがどやしつけ、怠け者のお兄さんが生意気な態度をとるせいで喧嘩になり、妹姫がそれをどう収めたものかと慌てふためき、もょもと王子は一人我関せずと鍛練や読書を続ける。…これが、この四人の兄弟が織り成すいつもの風景でした。
ですがその日は、少しだけ成り行きが違いました。
「―――そうそう。話はアベルから聞いたわよ、もょもと。災難だったわね、この子のせいで。
道理でおかしな名前だと思ったわ、まったく…問い詰めたらさっきやっと白状したのよ」
喧嘩の最後にお兄さんの頭をしこたま強く殴りつけて、お姉さんは呆れながら頭を抱えます。どうやら、この前の名前の一件がお姉さんの耳に入ったようでした。
「だぁら俺は別の決め方でやり直そうとしたんだって。そしたらこいつ別にいいとか言うんだもん、しょーがないじゃんか。
…ったく何が問い詰めただよほとんどゴーモンだったじゃ――――げぶっ!」
コブを押さえながら、それでもしぶとくお姉さんに言い返すお兄さん。再び容赦なく降り注いだお姉さんの拳骨で、顔を床に沈めてしまいます。…何度殴られても自分を曲げない姿勢はある意味、兄弟で一番の根性なのかもしれません。
「まあ、父上にはいっちゃったことだし今更引っ込められないか。諦めて慣れることにしましょう。それよりも―――」
肩を竦めて溜息をつくお姉さんは、妹姫に視線を移しました。
「っ?」
「貴方も名前、まだでしょう?同い年のもょもとが決まったことだし、貴方もそろそろ決めといた方がいいと思うわ。
…ぐずくずしてたらまたアベルにへんてこな名前付けられちゃいそうだしね」
妹姫の不安を拭おうとにっこりと微笑んで、お姉さんはそう提案しました。
ですが、妹姫は一層戸惑います。元々自己主張の少ない妹姫には、いくら重要視されていないとはいえ、自分で自分の名前を決めることがとても大それたことのように思えたのです。
しかしそれを見越していたのか、お姉さんは妹姫の傍まで寄って、目線の高さを合わせるように屈んでからいいました。
「…実は、いいアイデアがあるの。貴方、もょもとと一緒にいるの、好きよね?」
お姉さんは、もょもとと妹姫を交互に見比べてから、優しく微笑みます。すると妹姫は、頬を朱色に染めて、おたおたと俯いてしまいました。…もょもと王子は相変わらず、読書にご執心のまま何の反応もしませんでしたが。
「同じ年に生まれたのも何かの縁でしょ。この子の名前からちょっともらって女の子っぽく…そうね、“トモ”なんてどうかしら?」
口に指を当てて少し考える素振りをしてから、お姉さんは妹姫に告げました。
「っ!………っっ♪」
妹姫はその響きがとても気に入ったのか、満面の笑みでこくこくと頷いて見せました。お姉さんもつられる様に破顔し、今にも踊りだしそうな妹姫と一緒に笑いあいます。
「気に入ってもらえたみたいね、よかった。もょもとも、それで構わない?」
もょもと王子はお姉さんに訊ねられ、一度だけ視線を向けてから、小さく頷きました。
「よし、決まり!これで晴れて、皆名無し卒業ってわけねっ」
「…俺の意見は聞かねーのかよー、シア姉よー」
お姉さんが立ち上がって二人に微笑みかけると、いつの間にか息を吹き返したお兄さんが呻くようににじり寄ってきました。
「…だ・れ・の・せ・い・で、こんな慌てて決めることになったと思ってるのかしら〜…!!」
一転して鬼のような形相になったお姉さんに関節を極められて、お兄さんは悲鳴とともに体を震わせます。
再び始まった二人の喧嘩に、妹姫は再び慌しく右往左往し始め、いつもの四人の光景が書庫に戻ってきました。…そんな毎日が、長く続いてゆくのでした。
―――――――――あの日。当主決定の儀が行われるまでは。
………Interlude-1 END.
お久しぶりです。ちょっとの間余裕が出来たので、少しだけ帰ってきましたw
このお話は、本編でしばしばもょもとが引き合いに出す“彼ら”のエピソード。本編に盛り込むとただでさえ冗長な設定語りが更にややこ
しいことになりそうなので、思い切って独立させての投下にしました。
…前々から「ローレシアは何でたった一人しかいない跡継ぎを躊躇なくハーゴン討伐に送り出すのか?」という疑問が自分の中にありまし
た。多分、同じことを考えていた方も少なくないと思います。
これはゴー勇でなくあくまで原作の話ですが。
サマルトリアは王子に妹が一人いますから、最悪そっちに跡を継がせればいいので、長男を送り出すのもまあ分かります。
ムーンブルクはそもそも送り出すもクソも一族郎党皆殺しなので、選択の余地なし。生き残った王女が仇討ちしなけりゃ道理が引っ込むっ
てなもんで。
加えて冒頭で城が陥落しているためにうやむやになっているものの、もしかしたらムーンブルクにも他に兄弟姉妹がいたのかもしれません
。
が、ローレシアは明確に王子一人。何故か?
最も最前線で命を削り、最も命を落としやすい戦い方をするのに。最も跡継ぎが帰らないことに備えなければならない一族なのに。何故?
(勿論、ローレシアが一族単位で肉体派であることが前提の疑問ではありますが)
これはゴー勇における、その疑問の解答です。
…因みに本編の方は、とある仕込みに手間取ってちと時間が掛かりそうです…申し訳ないことに。
ですが完成の暁には必ず読者様方の度肝を抜く、そういう自信と説得力を兼ね備えたモノをお見せできるはずですので、今しばらくお待ち
いただけると幸いです。
それでは今日はこの辺でノシ
YANA氏来てたー。乙です。
本編の続き楽しみにしています。
YANA氏乙。
スパッとこんな話が出てくるあたり、本編も色々な奥深い設定がありそうで楽しみです。
test
規制解けてた!
うーん、ローレシアに波乱の予感?
アベル兄さんが貫いた辞書はファミコン神拳かジャンプ放送局か。
hyo
59 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/02/21(日) 04:03:36 ID:Wih6jQq8P
おつ
ほおほ
YANA氏乙です
久しぶりにきたら更新されてて嬉しかったですw
それでは、度肝抜く続きを期待してますよーw
62 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/03/04(木) 12:33:48 ID:73a5p0EFO
63 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/03/09(火) 17:18:43 ID:k+NaFD0u0
hosyu
ほs
へんじが ない
ほほ
ほすっとくか・・・
ほほほも
そろそろ
てす
そろそろ
楮書生さんはもう書かないのでしょうか?
続き待ってます
ほおおおす
ほしゅ
ほい
ほしゅ
週一保守
CCもはやくおいで
ほす
80 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/05/28(金) 18:08:09 ID:WUgE6Cwj0
ほ
し
ホス
83 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2010/06/08(火) 14:04:20 ID:wD3ZYHg2O
規制が解除されてるうちにほしゅ
はやくリィナのおっぱいに会いたいです
金髪の女の名前を忘れちゃった
ほっほほ
―――『持っていたものを失うことと、初めから持っていないこととでは、その意味合いは全く違うものになる。
例えば、持ちうる者が失う時が来たのなら、それは単に、一個人の破滅の時に過ぎない。
だがもし持たざる者に与えられる時が来たのなら、それはその人間にとって、世界の崩壊の時である。』
………L.S.ライナー『偽神のノート』第八章 第七節より。
森を抜け、開けた丘の上に出たところで見たこともない魔物に遭遇した。
泥の塊で人を模して作られたような体に、顔には無機質な笑みを張り付かせ、目口と思しき三つの穴は暗く底が見えない。
それらは徒党を組んで俺たちを囲いこみ、仮面のような同じ顔が四つ、ぐるぐると俺とランドの周囲を駆け回る。泥の人形たちはそのまま、まるでこちらを襲う気配を見せず、手足を揺らしながら奇妙な動きをとり続ける。
一歩、前方に踏み出す。すると奴らはそれと同じだけの距離を退いて、付かず離れず、円陣の幅を拡げてくる。そしてまた、周りを踊るように巡る。何のつもりか、奴らはこの位置関係を保ちたいらしい。
…敵意らしいものは感じられる。だが、殺意となるとまるで微弱で、実行するつもりがないのではないかと邪推してしまいたくなるほどだ。奴らに俺たちを仕留める意思はないとでもいうのか。
まあいい。いつまでもこうしていても仕方がない。幸い、連中の速度自体はまるで大したことがない。こちらの軽率な行動を誘う罠だとしても、見てから反応することは十分可能だ。
そう結論して、背中の剣に手をかける。背後でランドが俺の服の裾をくい、と引いたのはその時だった。
「…?」
僅かに視線と意識を後ろにやる。服を一度引くのは「一緒に戦います」の合図だ。ランドの場合、どんな攻撃手段を持っているかわからない初見の敵との乱戦は分が悪い。下手に見に回るよりは俺の後に続いて動いた方が確かに無難だろう。
…だが、俺が視界の隅に捉えた彼の姿は、決してそんな合理的な判断を下せるような有様ではなかった。
「はあ…ハァ…っ!」
背後に構えていたはずのランドは、まだ一合すら打ち合っていないというのに、既に疲弊しきっていた。肩を大きく上下させ、構えた槍を今にも杖代わりに地につきそうなほど呼吸を乱し、彼は辛そうに泥の人形たちを睨みつけている。
俺は僅かだけ逡巡し、結論に追記を加えた。
…成る程、何をどうしているのか知らないが、どうもこの連中は俺たちを弱らせることが目的らしい。何故ランドばかりが標的になっているのかは知らないが…とんだ見当外れだ。
集団を殺すならまず弱者から。確かにセオリーどおりだ。―――だが、それは相手の攻撃をある程度凌ぐ算段があればの話だ。
「ランド。大人しくしていろ。すぐ終わる」
姿勢を下げる彼に短く告げる。そして盾を足元に落し、腰に携えたもう一本の剣に空いた手をかける。右手は銅の剣、左手は鋼鉄の剣を握り、体を前に倒す。
俺の体勢の変化に、泥の人形たちは一斉に首をかたかたと震わせ始めた。全員で意思疎通でも図っているのだろうか、連中は震えを収束させると、俺たちを囲む円陣をまた一回り拡げてきた。
「―――」
右の大腿筋に全力を込める。そして膝から踵、爪先まで順に筋肉を引き絞り、刹那で充填した瞬発力を一気に解放してやる。
加速とともに振り抜いた二本の剣は、瞬く間に正面の二体の胴を両断する。削れるほどに足元の土を蹴飛ばして体を反転させ、返す刃で残りの二体の首も跳ね飛ばす。…殲滅は、一呼吸の間に完了した。
「…ふむ」
全ての人形が機能を失い、土くれとなって崩れ去ったのを確認してから、息を一つつく。そして、また暫く黙考してから、背負った暗い森のほうに視線を向ける。
「プリン。手間をかけた」
そうして、手短に木陰から支援をくれたプリンに声をかける。その殆ど直後に、暗がりから彼女が歩み出てきた。僅かばかり足早に歩み寄ってくるその表情は、どこか覇気に欠けていた。
「申し訳ありません。ランドさんの消耗が激しかったようでしたのでつい。いらぬ助けでしたね」
「いや。俺のほうこそ判断が遅れてすまなかった」
プリンの謝罪に、俺も自身の非を詫びて返す。…俺の剣が最初の人形に届く寸前、俺はこの目で連中の体ががくんと沈むのを確かに見た。奴らからの敵意が完全に途絶え無防備になる様を認め、彼女が催眠の呪文で援護してくれたことが分かった。
俺が行動に移ることを決断するのとほぼ同時に下されただろう彼女の迅速な判断は、褒めこそすれ、責める理由はない。
「ランドさん、大丈夫ですか?」
「ハァ…は、い。なんとか」
「どうしたんだ、ランド。君の身に、何が起きた」
俺たちが駆け寄ると、額にじっとりと浮かんだ汗を拭い、ランドは息も絶え絶えに返事をした。
「わかりません…あの魔物たちがボクとにーさまの周りを回りだしたら、突然、体から力が抜けて苦しくなってきて…」
「もょもと様は、なんともなかったのですか?」
「ああ」
「そうですか………ん」
俺が短く答えると、プリンは暫く考え込んでから、口を開いた。
「ランドさん。いつぞや、風の塔でもょもと様から頂いた指輪をお持ちですか?」
「え?は、はい」
「あれを指に嵌めて、念じてみてください。…そうですね、指輪から力を吸うのをイメージしながら」
ランドはプリンに言われるまま、懐に大事そうに仕舞っていた指輪を取り出し、指を通す。そして目を閉じ、一所懸命に唸った。
…直後、指輪はぼんやりと淡い光を放ち、やがて静かに収束していった。
「いかがでしょう。少しは楽になったと思うのですが」
「…ふ、う。はいっ、何だか体が軽くなったみたいに…!」
自身でそういうとおり、ランドの顔色は見違えるようによくなった。それを見て、プリンは満足そうに笑った。
「プリン。これは?」
「はい。あの魔物たちは、もょもと様を標的にしていなかったわけではないのです。
恐らくは、魔力を持つ者からその力を奪う何らかの術式が、彼らのあの奇妙な動きに組み込まれていて…」
「魔力をそもそも持たない俺には効果が現れなかった、か。…だが、魔力を奪われるというのは、体力まで消耗するものなのか」
「普通に呪文を行使するのに消費する分には、余程のことがなければあそこまでの疲労は被りません。
ですが呪文を使う者にとって魔力は生態の一部、血液に等しいものですから、それを急激に失えば疲弊もします」
「あの…じゃあ、この指輪は…?」
ランドがおずおずと、右手の指輪を眼前に掲げた。
「祈りの指輪といいます。魔力が装飾の宝石に蓄積してありまして、指に嵌めて祈ることで使用者の魔力を補充できる道具なのです。
携帯できる魔力の貯蔵庫のようなものと考えていただいて結構です。私の推測が正しければ、これでランドさんの消耗は解消できると考えたもので」
「そうだったんですか…ありがとうございます!」
「ただ、祈りの指輪は出来栄えに作り手の腕が非常に反映されやすい道具です。
モノによってはニ、三回使った程度で備蓄の魔力が底をつき、砕けてしまうこともありますので、あまり乱用はされませんよう」
「難儀な代物だ。性能にムラが多い道具は好ましくないんだが」
「ふふっ。もしものときの保険、という程度にお考えいただければ宜しいかと…」
俺の嘆息に微笑んで返すと、プリンは一転して黙り、また何事かを考え始めた。
「どうかしたんですか?」
「いえ。他者の魔力にあれほど容易に介入できる術式があるとは、聞いたことがありませんでしたので。
あの泥の魔物のことが少し気になってしまって…」
「成る程。次は君も標的にならないとも限らんし、その危惧は尤もだ。
邪教の内輪事情は俺には分からんが―――そうだな。そこの曲者に直接訊いてみるか」
俺は言葉を締めくくるのと同時に、遠方の岩陰に視線を走らせる。泥の人形たちが全滅して尚、未練がましい敵意をこちらに向け続ける気配があったことには気づいていた。
いつまでも攻撃するでも逃げ出すでもなくこの場に居座り続けるその気配は人のもので、俺が聞こえよがしに疑問の矛先を向けるとソレは驚いたように息を呑んだ。
プリンは俺が立ち上がり体の向きを変えるのを見て、静かに呼吸を搾る。ランドも続くように身を引き、歩み出た俺の背後に二人、体を隠した。
「―――ほ、ほほほ。流石、流石ですよ、もょもと王子。こうもあっさり嗅ぎ付けられるとは…全く獣じみた嗅覚です!」
上ずった声に不相応な尊大な台詞を吐きながら、気配の主が姿を現す。表情の見えない厚い仮面と、蝙蝠の意匠が施された法衣。それはハーゴンの邪教の神官たちの正装だ。
野山が魔物たちの勢力下である以上、邪教の信徒がここにいること自体は、あまり驚くべきことではない。それよりも俺はある引っかかりに眉を顰めた。
「おまえ。あの時の…」
「ほ―――光栄ですねぇ!憶えていて下さいましたか?私のことを!」
俺が短く疑念を口にすると、信徒は見覚えのある大仰な身振りとともに俺の問いを肯定した。
「…!?あなたは…もしかしてっ?」
「その通りですよランド王子。いつぞやはこちらの野蛮な王子様から庇って下さって有難うございます。
おかげでこうして生きながらえることができています。是非に御礼をと思って、この貴方がた縁の地にてお待ちしていた次第です…!」
ランドも気づいたらしく、目を見開いて絶句している。そう、この信徒は、かつてラーの鏡を求めて踏み入ったムーンブルクの森で遭遇した、あの男である。
「見たところ、王女様の呪いも解けたようですね。これはますます、お礼のし甲斐があるというもの!嬉しい限りですねぇ…ほほっ」
信徒が僅かに首を振り、プリンのほうを向いて告げる。その丁寧で慇懃な口調とは裏腹に、俺たちに対する怨恨が奴の内心で燃え盛っているのだろう。次々と発せられる言葉の端々には、狂気じみた憎悪が見て取れた。
一方で彼と面識がない当のプリンは俺たちと信徒を交互に見比べて、首を傾げている。…まぁ、彼女なら説明を後回しにしても下手なことはしないだろう。
「お待ちしていた、か。…それがあの泥細工どものことなら、随分雑な出迎えだな」
「はっ。お黙りなさい。貴方の様な原始的な野蛮人相手には、確かに分が悪いようですがね。
そちらのランド王子の疲弊振りはご覧になったでしょう?我らが泥人形に付与した新たな力、魔の円舞!他者の魔力を吸い上げる秘術!
我らの偉大な神の御力なしでは到底なしえない奇跡でしょう!?」
「ああ、確かに厄介な技術だ。だが種は割れた。次は踊る間もなく破壊する」
「ほほほ。そうやって、せいぜい粋がっているといい。
見ていなさい、今回の泥人形はただの試験運用…研究が進めばもっと強力に、もっと洗練された形で貴方がたを苦しめることでしょう!
尤も―――その前に、ここで私に倒されてしまうかもしれませんがね!」
反論を終えるのと同時に、信徒はお決まりの大仰な身振りでいつかのように左手を掲げた。
奇しくも、俺と信徒の間合いはあの日の森と同じくらいの距離開いていた。俺の剣も、ここからでは奴に届かない。
背後でランドとプリンが息を呑んだ。俺は二人に片手を挙げて『心配するな』と制し、半身に構える。俺と信徒の間に、膠着が訪れる。
「あの時は不用意に近づいて痛い目に遭いましたからね…!
成る程、仰るとおり!丸腰だろうと、貴方ほどの手練の間合いに非力な私が入っては勝ちの目などあるはずもなし!!
ご忠告どおり、今回はここから攻撃させて頂きますよ!」
「…甘く見られたな。教訓を次に活かす姿勢だけは立派だが、それだけでもう勝ったつもりか」
「ほ、強がりもそこまでになさい!呪文を使えない貴方にそこから私を倒す手段がないのはわかっているのですよっ。
焼け焦げなさい、ギ―――!?」
奴が左手を俺に向け、呪文を唱え終えるより先に、奴の体は炎の波に飲み込まれた。俺が背中に仕込んでいた魔道士の杖を素早く抜き、奴目掛けて炎を放ったのだ。
呪文を念じた上で口に出さねばならない奴に対し、俺は杖の先を向けて念じるだけでいい。まして俺と奴では戦いに対する心構えや練度が比べ物にならない。奇襲であることも手伝い、その速度の差は歴然だった。
「あつ、あづづづっ―――ぎぇぇっ!!」
法衣に燃え移った炎にもがき苦しむ信徒との間合いを一息で詰め、横っ腹を思い切り蹴飛ばす。奴は吹っ飛ばされるまま、急勾配になっている坂の方を転がっていき、やがて下を流れる川に落ちて見えなくなってしまった。
「………理解できん男だ。なぜ隠すべき組織の内情を自らべらべらと…こちらとしては有難いが」
「お疲れ様です。お知り合いだったのですか?」
「ああ。君の呪いを解く前に少しな………ランド。どうかしたのか」
「…にーさま。それ、持って来ちゃったんですか…?」
あまりの信徒の間抜けぶりに呆れ半分の感想をぼやきながら戻る。労うプリンの問いに短く応えたところで、ランドが目を白黒させて俺を見ているのに気づいた。
「む…この杖か」
彼の視線の先にあるもの―――右手の魔道士の杖を見せながら問い返す。
「ルプガナで君を助ける時に、あの空き地で拾ったものだが」
「に、にーさま、それはですね…」
ランドが呆れ半分に、俺の右手の品の出自について説明した。昔本で知ってから一度扱ってみたいと思っていた魔道の武器を拾えて幸運だと思っていたのだが、どうやらそれはまるで見当違いな過ちだったらしい。
「そうか…では彼女には悪いことをしてしまったな。だが、今更返しに戻るのは時間が惜しい。暫くは有効利用させてもらうとしよう」
「あの、本当に返してあげてくださいね?すっごく喜んでたんですから………ところで、にーさま?」
弛緩しきっていた空気が、僅かに淀む。ランドは酷く切り出しづらそうに、伏せがちな目で俺を見上げた。…その態度で、彼が何を問おうとしているのかを悟る。
「安心していい。命を絶つような蹴り方はしていない。派手に吹っ飛んだだけで、大したダメージにはなっていない筈だ。
川に落ちたあとのことは知らんが…奴は存外悪運が強そうだし、あのくらいでは死なんだろう」
「…っそう、ですか。有難うございます!」
簡潔に、先ほどの信徒への攻撃の説明を終えると、沈んでいたランドの表情がぱっと華やいだ。だが、またすぐにその明るさは失われてしまった。
「ランドさん?」
「…ごめんなさい、にーさま。ボク、やっぱり甘いですよね。
ボクがあの時、あの人を…その…殺す、決断をしなかったせいで…にーさまやプリンさんを今日、危険な目に」
ランドは申し訳なさそうに、自身の未熟さを詫びた。プリンはそんな彼を前に珍しく、どう答えるべきか決めあぐねるように黙り込んでしまっている。
「…やはり、迷いは捨てきれないか」
少し考えた末に、俺はランドに短く訊ねた。彼もまた、少し逡巡するように俯き、やがてゆっくりと頷いて返した。
「そうか。―――なら、君はそのままでいい」
「え―――?」
俺は立ち上がり、丘の上へと足を進める。いくらか遅れて、ランドは慌てるように、プリンは楚々として後をについてくる。
「…見えたぞ。あれが俺たちの師父が救ったこの国の―――アレフガルドの首都。ラダトームだ」
「わあ…」
丘の頂上から、遥か山々の向こうに見える都市に臨む。聳える立派な城と、海に面した荘厳な景色に、ランドは感嘆を漏らす。もう丸一日も歩けば、辿り着ける距離だ。
「百年の歳月の末の里帰り…感慨深いものですね」
「はい…!あ、そ、それよりにーさま、さっきのはどういう…?」
「言葉どおりだ」
我に返って質問を重ねるランドの言葉を遮り、ラダトームの町並みを眺めながら答える。
「にーさま…?」
「君のその甘さも、弱さも、総て背負おう。無理に変わろうとする必要はない。ありのまま、君が在りたいと思う君でいればいい。
…君一人背負えずに、世界なぞ背負えるはずもないのだからな。これは俺が、俺自身に課した新たな試練だ」
向き直り、俺が真っ直ぐそう告げると、ランドは顔を真っ赤にして、はい、と小さく返事をして、そのまま俯いてしまった。プリンはその様子を、穏やかに微笑んで見つめていた。
俺は一つ息をつき、再び始まりの地に視線を向ける。
…そうとも。最初から、そう決めていたではないか。何があろうと、俺は自分の役目を、使命を全うすると。
彼が甘かろうと。弱かろうと。邪教の人間を殺すことを禁じられようと。そして、俺自身に理解しがたい衝動が沸きあがろうとも。
どんな枷も物ともせず、余計なことを考えず、俺が最終的にハーゴンを征伐しさえすれば済む話なのだ。
枷が理不尽だと甘えていたのは俺のほうだ。俺はそんなものを理由に使命から逃げ出すような鍛え方をしてきたか?…否。断じて否だ。
枷が要るというのなら好きなだけ持ってこい。俺はそれを背負って戦い、そして必ず勝利する…!
俺は彼の地を前に静かに誓いを立てて、二人に先立って丘を下り始めた。
――――――その決意が、まるで的外れな思い上がりであったことなど、知る由もなく。
〜第二章『この道、我が旅、死を賭して』〜
●第14話 『始まりの地』
『×月○日 港町ルプガナで船を借り受けることに成功し、俺たちは一路、東を目指した。
ルプガナの東に広がるのは、アレフガルド。
かつて夜が国々を支配したという大魔王の時代を経て四百年。今より百年前に再び魔物たちの脅威に晒された折、俺たちのロト御三家の師父に当たる人物が救った国である。
初めて船を動かすにあたり、事前の知識と実際の感触の齟齬を修正しつつ、俺たちは無事その大陸にこぎつけた。そして出航から数えて一週間後の今日、首都ラダトームに辿り着いた。
俺たちの噂は既に国中に知れ渡っていたようで、町の門をくぐるや人々に囲まれ、多くの歓声に迎えられることになった。
このままでは野山を歩き続けてきたランドやプリンが一息つくことも出来ない―――正直、俺もああいった喧騒に晒されるのはあまり心地よくない―――と判断し、逃げ込むように手近な商店の扉をくぐったのだった』
「―――っ!」
『俺は店主に手渡された、上半身ほどはあろうかという巨大な鉄の塊が括られた大槌を頭上まで振り上げた。そして、剣の素振りの要領でぴたりと眼前まで打ち下ろして止めると、周囲の空気が水を打ったように静まった』
〔………オオオオオッ!!〕
『だが、すぐに店の入り口に出来ていた人だかりが、囃し立てるような歓声をあげ、静寂は彼方に押しやられてしまった』
「………ん。やはり少し重いな。堅牢な魔物相手なら効果は高いだろうが、持ち運びに余計な体力を使いそうだ。
俺はあまり好きではないな」
「い、いやいやいや。そんだけ軽々と振っておいて、何いってんですかい旦那…!」
『中年の店主に、俺たちを匿う交換条件として差し出された大金槌を返却すると、彼は呆れたように右手を顔の前で振った。
何でも、武器屋の組合で次に打ち出す武装の参考にしたいので、現場の人間の視点からいくらか試作品の品評をしてほしかったのだそうだ。それがロトの子孫の手によるものであればより箔がつく、とも。
色々な新しい武器に触れることが出来るのは、こちらとしてもありがたい体験である。俺は考えた末その条件を承諾し、人だかりがはけるまで、ここに三人で厄介になることにした』
「びっっっくりしたなーもう…かなりの屈強な戦士だって、こいつを初めて持てば多少なりとも顔色が変わるんですがね。
それをああも自在に取り回すとは…流石はロトの末裔ってとこですな」
「後先を考えなければこれくらいはな。だが旅先での恒常使用を考慮すると、とても実戦向きとはいえん。
何十回、何百回も振うとなれば疲労も出る。
これの理念とは矛盾するが、闘技場や何かでの、瞬間的な爆発力を狙った試合にでも使うのが一番適しているだろう」
「ふーむ…わかりやした。となると、やっぱ剣かなー…剣、剣。今度は逆に思いっきり軽くしてみるのも…」
「重量調整か。一般的な剣の形状を保ったまま施す、物理的な軽量化には限界がある。
柄の部分を取り払ってジャマダハルのようにするか、可能であれば魔道の力で何らかの処置を施すかするのが妥当だ」
「成る程、参考になりやす!…そうかそういう手もあったか…」
『店主は髭面に渋い顔を浮かべながらも、俺の意見を真摯に受け止め、何事かをぶつぶつと呟きはじめた。
既に四つの武器の品評をこなした俺はそこで一息つくと、壁際に身を寄せているランドのほうに目を向けた』
「…ランド。そろそろ慣れたらどうだ」
「うう…にーさま。でもボク…あんな沢山の人に見られるの、やっぱり恥ずかしいですよぅ…」
『彼はラダトームに入るや、ずっとこんな感じだった。何でもロトの子孫が自分のようなひ弱な身なりで、アレフガルド国民を失望させやしないか不安なのだそうだ。
この店に逃げ込んでからも、安物の剣などが突っ込んである樽の陰に隠れるように座り込んでしまっていた。
…たまに喧騒の中から聞こえてくる、耳が痛くなる音程の「かわいー!」という歓声を聞く限り、彼の不安は無用のものだと思うのだが。それが喜ぶべきものなのかどうかは別にして』
「ふむ。…店主殿、改めて疑問なのだが。
いくら俺たちがロトの系譜の末裔とはいえ、ここまで歓迎されるほど、アレフガルドの国民は彼に心酔しているのか」
「うーん?ははっ、そりゃあ旦那、ロトの一族にゃ二度も国を救ってもらってんだ。
この国の人間はみーんなロトの武勇伝を聞かされて育ってる。憧れも一入でさぁ」
「そうか。あとは…そうだな。ルプガナで情報収集をしている時、ラダトーム王が行方不明になったと聞いたが。本当だろうか」
「っ!へ、へぇ。よくご存知でっ。まあ…そういうことンなってます」
「臣下が有能なのだろう。幸い、政治の方は平穏に機能しているようだが、自国の主が不在となっては市井の動揺も小さくないはずだ。
邪教の勢力が各地を囲い込みつつある今の時勢、国民の不安も手伝っていると見るが…」
「…あー、あー成る程なー。それもあるかもしれませんなー。はは、は」
「…?」
『俺が国民達の沸きようの根拠を探って話題をラダトーム王に移すと、店主の口調が途端に空々しい、不自然なものに変わった。何か、この件に関して思い当たる節があるのだろうかと、俺は少し詮索をすることにした』
「店主殿」
「それより旦那!これは商売人としての勘なんですがね!?」
『だが、口を開こうとした矢先、慌しい切り返しとともに店主に身を乗り出され、言葉を遮られてしまった』
「旦那方は邪教征伐が目的で旅してるんでがしょ?和やかに里帰りなんざぁしてる場合じゃありやせん。
だってのにわざわざこのラダトームに寄り道してるってのは、何か探し物かないしは…その手ががりを求めてきた。違いますかい?」
「…鋭いな。尤も、コレという明確なモノではないし、ないならないで構わんとも思っているが。
奴らに対抗するための戦力増強を図れるものが、この伝説の始まりの地に眠っているのではと思って立ち寄らせてもらった」
「ほうほう。なるほど、事情は分かりやした。そんなら二つほど有力な情報がありやすぜ」
「………聞こう」
『店主はそう言いながらにひひ、と前歯を見せて笑い、更に身を乗り出してきた。
俺としてもいなくなったラダトーム王のことよりも、そちらのほうが有益な話題なので、吐き出しかけた疑問は飲み込んでしまうことにした』
「旦那は竜王のことは、ご存知ですよね?」
「ああ。百年前に魔物たちを引き連れこの国に宣戦布告し、後の師父殿の妻であるローラ姫を勾引かしたという竜だろう」
「へぇ!その竜王の居城…今は朽ち果てて見る影もねぇってこってすが…俺ら商人仲間の間じゃ、ずっと噂になってんですよ」
「噂?」
「崩れた廃墟の下には、竜王が貯めこんでた金銀財宝がまだ眠ってるんじゃないかってね…!」
『顔をぐいぐい寄せる店主の声は、いつしかひそひそと囁くような声量にまで絞られていた。だが、口調そのものは大層面白そうに弾んでいた』
「竜王の城の跡地、か」
「へぇ。まー廃城つっても、あそこはかの勇者ロトご本人の時代の大魔王も居を構えたっていう曰くつきの場所でしてね?
地下にはふかー…い迷宮が張り巡らされてる上、魔物たちの巣窟になってるって話で、だーれも近づきやしません。
だから下を見てきた奴なんか一人もいない、裏づけなんか全くない噂でさぁ。
わっしら商人はそういう根拠のない話は集めはしても、実際には動かないのが鉄則なんで、この話は旦那達に預けますぜ」
「………成る程。確かに、充分な戦力を持たない人間が命を賭けてまで行くには、弱い話だ。
尤も―――俺は、行ってみる価値があると思うが。財宝はともかく、魔道が全盛を極めたという時代の品が残っているかもしれんしな」
『暫く判断材料の整理をした後、そう結論を告げると、店主はそうこなくっちゃ!などと寄せていた顔と体を引いて嬉しそうに笑った』
「では、もう一つの情報というのは」
「おおっと、そうだった!」
『俺が話の先を促すと、店主は慌てたように真顔に戻り、再び顔を寄せてきた。…これは、こういう話をするときの彼の癖なのだろうか』
「アレフガルドの話じゃありやせんがね…こっちは竜王の城と違って、裏づけアリ!確実性ばりばりの儲け話ですぜ。
…まーちーっと探すのに難儀するかもですがね」
「…どういうことだろうか」
「旦那方はルプガナから船で来たんでげしょ?ンなら聞いちゃいませんかね…財宝を積んだ船の話!
あそこの名のある富豪が昔北の海を航海中、嵐に遭って船を一隻沈めちまったんですよ。
沢山の財宝を積んだまま…中にはロトの使っていた品だという家宝も混じってたって、当の富豪の証言です」
「ほう。ロトの遺品、か」
「へぇ。ただ、今の海は嵐のほかに魔物との遭遇も考えられるんでリスクは竜王の城と同じくらい高いんですが…何しろこっちはモノがあるのが確実なんで、結構一攫千金狙って探してる奴は多いんでさぁ。
大海原がキラリと光れば宝アリ!なーんて与太話もありやすが、それでみつかりゃ苦労しねえってね!」
『一通りの話が終わったのか、店主はがははと豪快に笑い、カウンターに尻を乗せて座った。
…竜王の城と、沈んだロトの遺品。両方とも、気になる話だった。さて、どちらから挑んでみるものか』
「―――あ、プリンさん」
「む…」
『俺が二つの情報を吟味していると、背後からランドの声が聞こえた。振り返り、座ったままの彼の視線を追うと、店に入るやいつの間にかいなくなっていたプリンが二階から下りてきているところだった』
「プリン。姿が見えないようだったが、上で何かしていたのか」
「はあ………それが、その」
「プリンさん?」
『ゆっくりと階段を踏みしめて戻ってきたプリンに訊ねると、彼女としては考えられないほど歯切れの悪い返答がされた。その顔は、何故かほんのりと赤く染まり、少し俯いてしまっていた。
名詞も動詞も、意図を推測できる単語が全く含まれない台詞を彼女が口にするのを見るのは、それが初めてだった。俺とランドは、思わず顔を見合わせて首を傾げてしまった。と、そこでカウンターの店主が「あ゛ー…」と唸り声を上げ、俺たちの意識を自分に向けた』
「旦那方ー…その、申し訳ないんですが、お嬢さんにゃ何にも訊かないでやっちゃあくれませんかい?
多分、言いたかない目に遭ってきたと思いやすんで。ああっ、つってもやましいことじゃ勿論ありやせん。実に取るに足らない、しょーもないことでさぁ!」
「…そうなのか?プリン」
「…はぁ。そうですね。特別、損害を被るようなことは、起こっていないと思います。ですが、話せと仰るのなら…努力致します」
「いや…やめておこう」
『振り返ってもう一度プリンに問うと、漸く言葉らしい言葉を口にして、店主の主張を肯定した。…まあ、少し疑問は残るが、彼女がそういうのならそうなのだろうと、俺は気にしないでおくことにした。
…後ろで店主が「またあの人は…」と頭を抱えてぶつぶつ何かを呟いていたことだけが気になったが』
「それより二人とも、実のある情報が手に入った。竜王の廃城と、北の海で沈んだ財宝なんだが―――」
「あああ、旦那、駄目ですってそんな大声でっ!」
『俺が二人に仕入れた情報のことを切り出そうとすると、店主が慌てて言葉を遮ってきた。…別に聞かれたところで、こんなハイリスクな情報では、俺たちを出し抜こうとする者がそういるとも思えなかったのだが』
「話は宿に部屋とって、そこでやったほうがいいですって、絶対!」
「…まあ、一理あるな。俺としても武器屋のカウンター前で会議をするよりも、しっかりとした部屋でまず二人を休ませたい。だが店主殿」
「へぇ?」
「…彼らはいつになったら引いてくれるのだろうか」
『言いながら、俺が視線を店の外に投げかけると、そこには一向に減る気配のない人だかりが今尚扉に群がり続けていた。
俺に釣られて振り向いた他の三人は、それをみて萎縮し、苦笑し、呆れ、三者三様の反応をした。
これでは扉を開けられませんね、と頬を染めたままプリンが呟くのを受け、俺はここを宿代わりにしてしまう選択肢を脳裏に加えたのだった。 〆』
というわけで、実にブランク半年強を経て、帰ってきました。お久しぶりです。
ただ今回は第一章のときのように1クール分休まず投下、なんて甲斐性のある真似は出来ませんがー。まだ5話くらいしかストックらしいストックがないっていう。
それでもいつまでもスレを留守にするよか、今どういう方向で話が進んでるかとかの話題くらいはあっていいだろうという思いで、また少しばかり厄介になりにきた次第です。
一ヶ月少々の短い滞在になるかと思いますが、暫くお付き合いくださると幸いです。
よっ!待ってました!!
プリンのあれは…、あれか?あれなのか??
乙です!
プリンwww
これでCC氏と楮書生氏も戻って来てくれれば
●第15話 『“ちゃん”』
船を降り、陸に上がって半日。丘陵に吹く乾いた風に目を細めながら、砂塗れのタイルを踏みしめる。
見渡せば、遮るもののない、全方向の地平線と水平線。遠くに見える山々だけが、勾配皆無の風景に僅かばかりの変化を加えていた。
鼻で一つ息をつき、後ろの二人に振り向く。
「ここで間違いない…のだが」
ラダトームの店主の情報や、記憶の中の文献などから導き出した“竜王の城”の位置を反芻しながら、俺は確認のために呟いた。
「…そうですね。そのはず、ですけれど」
「でも、にーさま…ここ」
俺と同様に足を止める二人―――歯切れの悪い返答をするプリンとランドは、辺りに視線を巡らせながら、疑念を俺に投げかける。
無理もない。俺たちが今いるこの場所には、城跡などありはしない。あるのは崩れかかった柱と、無造作に積み上げられているようにしか見えない石の塊など、申し訳程度の人工物の名残だけ。
雨風を凌ぐ屋根も、風を遮る見上げるような壁もない。これではここにかつて城があったなどとは、想像できない。ここは既に、ただの荒れ果てた砂地だった。
「城の探索も何も、城そのものがないのでは探しようが無いな」
切り揃えられたいくつもの石で出来た、城壁だったかもしれないモノを右手で撫でると、それは何の手応えも無くぼろりと崩れ落ちた。雨風に晒され続けて、既に寿命は尽きかけていたのだろうが…果たして百年やそこらの年月で、石製の人工物がこうも朽ちるだろうか?
俺は竜王の城の存在や、幼いころ読んだ文献に疑問を抱き始めた。だが、プリンの意見は少し違ったらしい。
「いえ…まだ分かりません。店主さんのお話では、竜王の宝は地下の迷宮に眠っているとのことですし。
…師父様の遺した手記でも、竜王の城には地の底に続く隠された道があったとありました」
静かに考えるような仕草をとりながら、彼女は進言した。…確かに、そんなものがあったとすれば、地上のコレがただの飾りで、地下が本当の竜王の根城だということも有り得る。
「…そうだな。船で一週間かけて湾内に回りこんで無駄足だった…では堪らん。
手分けして、下に続く通路…階段でも穴でもいい、探してみるとしよう」
三人で互いに頷きあってから、俺たちは辺りに散開する。ただ、俺はこの辺りも魔物の息づく地域であることを思い出し、再び振り返った。
「そうだ二人とも。くれぐれも俺から離れすぎないように気をつけ―――」
「うわあっ!?」
俺が注意を言い終わるより早く、何かが崩れ落ちる凄まじい音と、間の抜けたランドの悲鳴が辺りに響き渡った。
…辺りに魔物の気配はない。だが、まだ十数秒程度しか経っていないのに、彼の姿は影も形もなくなっていた。悲鳴を聞きつけたのだろう、プリンもすぐさま元の場所に駆け戻ってきた。
「もょもと様」
「ああ。…見てくれプリン」
分かれる直前にランドが向いていた方向と彼の歩幅などから、彼が消えた位置を割り出し、俺はそこに屈みこむ。プリンが俺の脇にまで寄ってくるころには、悲鳴の原因は見つかっていた。
そこには、崩れ落ちた石の塊に塞がれていた、小さな穴が口を開けていた。
「階段、ですね」
底の見えない暗闇を覗き込みながら、プリンは淵から下へと伸びる石の段を見つめて呟いた。
「瓦礫が邪魔して見えなくなっていたようだ。脆くなっていたのに気づかずに、ランドが乗ってしまったのだろう。
…下に降りるぞ。彼が心配だ」
静かに首肯するプリンを視界の隅に捉えながら、返事を待たずに階段の周りの邪魔な残骸を砕き散らす。そうして、どうにかまともに人が体を通せるくらいの間口を確保する。
俺は迷うことなく階段に体を滑り込ませ、プリンもその後に続いた。
一段降りるごとに視界が悪くなってゆく中、壁に手をつきながらなんとか足を踏み外さずに下っていく。やがて軽く二十段以上は踏みしめた頃、足元の感触が石から土に変わった。地下フロアに到着したのだ。
「ランド、居るか」
「…はい〜…にーさま」
真っ暗闇の中でランドの名を呼べば、丁度足元から弱々しい返事が聞こえてきた。階段を転がり落ちたままの格好で倒れているのだろうが、こう視界が悪くては診てやることも出来ない。俺はプリンに松明の用意をするように告げ、気配を頼りにその場に屈む。
「怪我はないか」
「はい…ちょっと頭を打ってがんがんしますけど…多分、大丈夫です…はぅ」
ランドはそういうが、上からここまでは結構な高さがあるように見受けられた。地上の明かりが満足に届いていないのがいい証拠だ。それだけの高さを階段伝いとはいえ転がり落ちて、無傷とは考えにくい。念のため、確認せねばならない。
「プリン。明かりはつきそうか」
「申し訳ありません。手元がよく見えませんので…と、点きました」
背後でプリンが視界の悪さに難儀している気配を認め、訊ねる。そうして返事とともに鳴ったかち、かちという火打石の音の直後、松明に火が灯った。
「…洞窟…のようですね」
「…迷宮、などどいう大それたものには思えないな。自然物にしか見えないが」
ぼんやりと俺たちの周囲だけを照らす灯火から、辺りを見回して感想を漏らす。
剥き出しの岩肌に、まるで整備されていない土の床。壁には燭台の類も見当たらない。人工物の名残は、全くないといっていい。…地上と違って雨風の侵食がない地下に迷宮とやらがあったのなら、こちらのほうがまだ建築物としての形跡が残っていそうなものだが。
「…よし。深刻な傷はなさそうだ。かすり傷はいくつかついているが…」
「平気です!このくらいなら、へっちゃらですからっ」
一通りランドの体の具合を診て、目立った異状がないことを確認してから、俺たちは立ち上がる。そうして、改めて地下フロアの先―――松明の明かりの届かない、暗がりへと続く道に視線を向ける。
「にーさま。この先に、進むんですよね?」
「無論だ。だが…どうやら魔物の気配も遠からずあるようだ。暗がりからの奇襲に備えた隊列を組もう。
…俺がいつものように先行するから、君たちは少し下がって、脇を固めるようについて来てくれ」
「いつもみたいに一列じゃ、駄目なんですか?」
「こう視界が悪くては、背後からの敵の接近に気づかなかった場合のことも、考えなければならない。音の反響も酷い、足音で位置を特定するのも難しいしな。
…その場合、もし俺の察知が遅れたら真っ先に標的になるのはプリンだ。一列に並んでいたら、この狭さだ、いくら俺でも対応は後手後手にならざるを得ん。
だが、二人で脇に広がれば敵を分散できる。俺との距離も縮まるから、対応も早くなる」
「…つまり、にーさまを挟んでプリンさんと横並びになれば…ボクが、プリンさんを危険から遠ざけられる…ってことですか…?」
新たな隊列の理由を説明してやると、ランドは真剣な面持ちで聞き届けた末、そう口にした。
「…成る程。確かに、そういう見方も出来るな」
「…っわかりました!頑張りますっ!」
「よろしくお願いしますね、ランドさん」
「はいっ!」
俺が少しばかりその解釈について考えた末肯定すると、ランドはとても張り切って元気のよい返事をした。プリンもそんな彼に穏やかな笑顔を向け、確認を終える。
そうしてやっと、俺たちは全ての準備を終えて地下迷宮を進み始めたのだが…結果として、当初危惧していたようなことは何も起こらなかった。
元々静謐な環境ということもあり、俺の直感は普段より冴え渡り、ほぼ全ての敵襲を事前に看破できた。何より、この地下フロアは迷宮と呼ぶには程遠いくらい構造が単純―――ほぼ一本道といっていいほどに―――だったため、挟撃や奇襲を仕掛けられることもなかったのだ。
道中の魔物たちとの戦いの内容自体も、過去類を見ないほど順調だった。プリンはもとより、ランドも今日は調子がいいようで、その動きは普段よりいくらも洗練されていた。…時折ヘマをするのは相変わらずだが。
「好調なようだな、ランド」
「はいっ!ありがとうございますっ」
「上から落ちたときの傷の浅さといい…体捌きも、だいぶ上達してきているんじゃないか」
「え?…そ、そう、ですか?…えへへ」
俺が感想を述べると、彼は照れくさそうに頭を掻いた。…一応、釘もさしておくか。
「だが、血気に逸って無茶をする癖は相変わらずだ。自分を抑えることも、忘れないことだ」
戒めの言葉を続ければ、今度は決まりが悪そうにはい、と小さく返事をする。…彼はこうして、いつでも素直に俺の言葉を受け止め、一喜一憂する。素直に教えを受けるのはいいが、感情に関してはもう少し安定したモノが戦士としては好ましいのだが。
そんなことをおぼろげに考えつつ、もういくつめかの階段に足をかける。
「随分深いところまで続いてるんですね…」
「俺の数え間違いでなければ、この下はもう地下六階だ。…本当に、何かが眠っているのかもしれん」
不安そうに、俺の後から階段を下りるランドに、俺のここまで来ての見解を告げる。…尤も、その何かが俺たちにとって有益か無益かは分からない。
或いは待っているのは地獄の釜…ということも有り得るが、それは徒に二人の不安を煽るだけなので口にしないでおくか―――。
「―――待て」
僅かばかり弛緩した思考をしながら階段を降りきった直後。そのフロアを包むただならぬ空気を感じ、後ろの二人を制する。
きょとんとするランドと、すぐに俺の意図を察して息を殺すプリンにそれ以上は言葉を告げず、五感を研ぎ澄ます。
…フロアの形はこれまでと違う。空気の流れからいって、おそらく一つの大部屋のような構造だ。プリンの持つ松明では、フロアの面積の二割も照らせていないだろう。自然洞窟そのものの外観は相変わらずらしいが。
フロア自体の情報はこんなところか…だが、それより気になるのは。
「…にーさま?」
「…魔物の気配だ。一匹や二匹じゃない。軽く見積もって…二十はいる」
「え、ええっ!?大変じゃないですかっ松明を消さないと…っ!」
「いや、いい。それより、下手に動くな」
慌てるランドの口に手を当ててながら、俺は意識を暗がりに向け続ける。…そう、おそらくは、魔物の群れが蠢いている暗闇にだ。
だが、連中は俺たちのほうに見向きもしない。こんな分かりやすい絶好の“的”まで掲げているというのに、気づく気配さえない。何か別のモノに意識がいっているのか、それとも―――。
「―――動いた」
仮説を立て終わるのと殆ど同時に、暗闇の中の気配に変化が訪れた。この位置では、ぐしゃ、とか、みしっ、とかいう、鈍い音が間断なく聴こえてくるばかりで何も見えないが、魔物の呼吸の数だけが凄まじい勢いで減っていくのが読み取れる。
「…もょもと様」
「誰かが―――いや。“何か”が魔物たちと戦っている………とんでもない強さだ」
そう。魔物たちは、俺たちがここに来るよりずっと前から、敵と対峙していたのだ。凄まじい勢いで魔物たちを蹴散らしているその敵の力量からいって、魔物たちが俺たちに気づこうが気づくまいが、背後になど振り返っている余裕はなかったはずだ。
俺たちがここに降りてきたのがきっかけになったのか、魔物と“何か”のどちらが先に動いたのか。何もかも定かではないが…いずれにせよ、決着はすぐにつきそうだった。
気配が減った今ならはっきりと分かる。魔物たちが戦っている相手は、単騎だ。たった一体のソレは、あの暗がりで今まさに、瞬く間に戦力差十倍以上もの数の魔物を相手取り、壊滅させているのだ。
「ひっ―――!?」
瞬間、暗闇から何かが弾け飛んでくる。ランドに激突する寸前、俺は腰の銅の剣を抜き放ち、それを刺し貫いて止めた。
短い悲鳴を上げて固まってしまった彼を尻目に、俺は視線だけを右手の剣の先に向ける。いくつもの蛇の頭の張り付いた、緑色の鱗が彩る肉塊―――ゴーゴンヘッドが無残な遺骸となって、串刺しになっていた。ぽたぽたと地面に滴る、紫色の体液が生々しい。
「…終わったようだ」
…いつの間にか、ずっと聴こえていた鈍い音は鳴り止み、辺りには静寂が戻っていた。俺は再び視線を暗闇に向け、二人に事の終焉を告げる。
だが、それは新たな緊迫の始まりでもあった。固まっていたランドは更に身を硬くし、プリンもいつもは穏やかな呼吸を、僅かに詰まらせる。
暗闇の中から、足音が聴こえてきたのだ。おそらくは、このゴーゴンヘッドだった肉塊を作り上げた張本人の足音が―――ざっ、ざっ、と俺たちのほうへと近づいてくるように。
剣から肉塊を落とし、二人を背後に匿う様にして構える。足音は、すぐそこまで来ている。等間隔に聴こえて来るそれはやがて松明の光が照らす範囲にまで近づいて―――。
「―――――――――何じゃ。もうここまで来ておったのか」
姿を現したのは、一人の少女だった。
松明の光がぎりぎり届く位置で立ち止まったため隅々までは見て取れないが、混じりけのない黒色の髪の端が、肩口で静かに揺れていた。
年の頃は、十を数えるかどうかというくらい幼い風貌。紫を基調とした暗色のローブを小さな体に纏い、妙に短く裁断された裾からは素肌がむき出しの四肢がすらりと伸びている。彼女は俺たちと対峙するや不思議そうに小首を傾げて、何やら年寄りじみた言葉を吐いた。
「………」
俺も、ランドも、プリンも、呆然とする他なかった。当然だ。…あれほど圧倒的な制圧を、ものの数十秒でやってのけたのがどんな怪物かと思って待ち受けていたら、現れたのはただの幼い女児。悪い冗談としか、思えない。
「ふむ。まあよいわ、立ち話も何だしのう。ついてまいれ」
俺たちの反応などまるで気にしていない風に、少女はくるりと踵を返した。全てを悟っているようなその立ち振る舞いと、有無を言わせず随行を命ずる言葉に、俺はどうすべきか様々な考えを巡らせる。…だが、その結論を待つより早く、ランドが叫んだ。
「待って!」
こちらを意に介さない態度から、彼女がランドの言葉にどんな反応をするか予測できずに、俺は反射的に背中の剣にも手を伸ばした。…だが、彼女は意外にも素直に歩みを止め、くるりと振り向いた。
「何じゃ?ここに用があって来たのじゃろ?…我が家に招いてやるといっておるんじゃ。続くがよい」
少女は呆れたように溜息を一つついて、またすたすたと暗闇へと歩き始めた。…どうやら、彼女には俺たちに対する敵意はないらしい。
「にーさま…どう…しましょう?」
「…ん。プリン。どう思う」
魔物巣食うこんな地の底で我が家、などといわれても怪しさしかない。俺も考えを決めかねて、首を捻ってしまう。
俺はランドに訊ねられた疑問を、そのままプリンに丸投げする。だが、彼女もまた困ったように黙りこみ、首を傾げてしまった。
「…仕方ない。ここまで来て引き返すわけにもいかん。ついて行ってみるか」
俺が提案すると、ランドは意見を求めた手前異議を唱えるわけにもいかず、怖がりながらも承諾し。プリンもまた、複雑な面持ちで静かに頷いたのだった。
見合わせていた顔を、三人揃って少女が消えた暗闇へと向け、足を踏み出す。そして、一歩進むごとに松明が照らしてゆく、魔物の肉片・亡骸の山が形作る殺戮の嵐の跡をみて、ランドは息を呑んだ。
「…凄いな。遮蔽物のない暗所でこの数を相手に…これは真似できん」
胴から上が捻じ切られたようなサーベルウルフ。四肢を千切られたグレムリン。羽を毟られて地面でぐったりしているドラゴンフライ。
技や呪文で為したのではない―――恐らくは純粋な力でやってのけたのだろう荒業の数々に、俺は一人感嘆を漏らした。
加えて、あの少女には外傷らしきものが何一つ見当たらなかった。つまり、ここで繰り広げられたのは彼女による完膚なきまでの蹂躙だったということだ。…世の中には底知れぬ戦い方があるのだと、己が未熟を痛感する。
戒めを胸に歩いていると、やがて魔物の死体が彩る道は終わりを告げ、更に下へと続く階段へと辿り着く。…俺たちは、覚悟を決めてそこに足をかけた。
その先に広がっていたのは、紛れもない“城”だった。
階段を下るや無骨な自然洞窟は嘘のように鳴りを潜め、代わりに姿を現したのは重厚な内壁。そそり立つ何本もの大理石の柱。丁寧な装飾が施された燭台には火が灯り、長い回廊を挟む壁に等間隔で配置されている。
天井は見えないほど高く、ここが人間の住まう領域ではないことを静かに誇示していた。
「………すごい」
ぽつりと感嘆を漏らし、それらに見とれたのはランドだった。だが、先を行く俺が少女の気配を見失うまいと急いでいるのを思い出したのか、慌てて開いた距離を縮めてくる。
プリンはというと、そんな彼につかず離れずの距離を自然に保ちつつ、それでも注意深く城の景観を観察しているようだった。
「…さ、着いたぞ」
半刻も歩いた頃、先行している少女の声が響いた。相変わらず姿は見えなかったが、気配の歩みは既に止まっている。俺たちは急いで広い回廊を抜け、大部屋へと躍り出た。
「………玉座」
自然、目の前にした光景に対する印象が口をついて出た。
回廊が開けて、まず目に飛び込んできたのは、部屋の中央に据えられた玉座だった。そして、そこにはそれ以外、何もなかった。まるで闘技場のように円を描くその雄大な景観に、ただ玉座だけが鎮座していたのだ。
「うむ。あまりモノを近くに置くのは好きではなくてのう。さっぱりしていていいじゃろう?」
幼いながら、不思議な存在感のある声が再び響いた。声の主の姿を探せば、何故見落としていたのだろう、当の玉座の正面に得意げな笑顔で少女は仁王立ちしていた。
まだ状況を掴みきれず目を白黒させる俺たちなどまるで意に介さず、彼女はくるりと回ると、軽いステップでローブを翻す。
「―――さて。では改めて歓迎しよう。ようこそ我が城へ!ランド!プリン!…そして、もょもと!」
少女は背後の玉座に軽やかに腰を下ろすと、大仰にふんぞり返って俺たちの名を呼びつけた。
俺は警戒に眉を顰め、少女に問い掛ける。
「…おまえは何者だ。何故、俺たちの名前を知っている」
すると少女は、一拍ほど間を置き、尊大な態度のまま頬杖をついて、笑った。―――そうして紡がれた答えは、俺たちを驚愕させるに十分なものだった。
「そなたに知恵があらば、今一度、この城の名を説くがよい。…わしがここの主、王の中の王、竜王のひ孫じゃ!」
そう高らかに宣言した少女の背中から、一対の翼が伸びてぱたぱたと小さく羽ばたいたのだった。
ttp://rainbow2.sakuratan.com/img/rainbow2nd62603.jpg
◇ ◇ ◇
竜王のひ孫―――を名乗った少女が、どこからか持ってきた酒や果物の数々を、玉座の前にずらりと並べる。大き目の絨毯は少女と食料の全てを載せても余るほどの面積で、俺たちに間口を広げていた。
「さ、堅苦しいのはなしじゃ。腹が減っておるじゃろう?遠慮せずにかけるがよい」
少女はにっと八重歯を見せて屈託なく笑うと、絨毯の上にあぐらをかいて座る。その足にはやはり何も履かないまま、ぺたぺたと素足のまま絨毯を踏みしめた。
俺もランドたちも、まだ今ひとつ目の前で起きている状況を頭の中で整理しきれず、少女を見下ろす形で固まってしまっている。
そんな俺たちの心中を察しているのか、彼女は別段気を悪くした風もなく微笑む。
「ふふっ。警戒することはないわ。皆、人里から調達したものじゃ。おかしなものは混ざっておらんよ」
そういって、彼女は青々とした林檎を一つ手にとってがぶりと齧って見せた。その姿は、翼が生えているのと頭のヒレ―――さっきは暗がりで気づかなかったが―――以外はどこから見ても人間の子供そのものだった。
俺は、意を決して口を開く。
「おまえは、本当に、」
「信じられぬか?」
穏やかで、それでいて途方もなく強い意志の篭った、少女の短い問い。だが、俺はそれに阻まれて先を続けるのを憚ってしまった。
少女は不敵に微笑み、傍らの酒瓶のコルクを素手で引っこ抜くと、そのまま煽った。
「曽祖父殿は百年前に確かに滅んだよ。そなたらの先祖の手によってな。間違いない。
…だが竜の一族とて神の落とし子じゃ。血筋も残せば家族も作る。わしは偶さか、その摂理に便乗して生きておる。それだけの話じゃ」
淡々といい終えて、少女は一気に酒瓶のブランデーを空にし、静かに脇に置く。その振る舞いには、欠片の戦意も、敵意もない。だが、それでも俺の不信は消えない。
「いいだろう。それに関しては信じよう。…だが、それならばおまえは俺たちロトの血筋を憎み、復讐しようとするのが自然ではないのか。俺たちを酔わせて、隙をついて襲うつもりかも―――」
「どうでもいいのう。アレは曽祖父殿が仕掛けた喧嘩で、その結果がたまたま敗北だった。
…身内の者であろうが、自ら売った喧嘩の結末に関して外様が因縁をつけるなぞ、無粋じゃろうが?」
言って、少女はまた新たな酒瓶―――今度はラム酒―――に手をかけた。
…そうだろうか。俺もランドもプリンも、祖国が受け継ぐ師父の意志を現実のものとするために、今旅をしている。先祖のために子孫が戦うのは当たり前のことではないのか。
俺が少女の言い分に関して黙考していると、彼女は酒瓶から口を離して尚も続ける。
「曽祖父殿が挑んだ。ロトに敗れた。…百年前の戦いは、それで仕舞いじゃ。わしはケリのついた喧嘩になぞ縛られとうない。
祖父殿と父上には随分反感を買っていがみあったがのう。復讐、支配、破壊…いずれもわしにとっては詮無き事よ。…わしはそれより、そなたら人間を見るのが堪らなく面白い」
「…面白い、ですか?」
少女の言葉尻に、プリンが不思議そうな声を上げて反応した。少女は静かに笑いを漏らして、俺の背後に立つ彼女に視線を向ける。
「面白かろう?…そなたたちが打倒しようとしている邪教じゃよ。
アレに入信している人間がどういう願いを持って集まっているか知っておるか?」
「…世界の、破滅…でしょうか」
プリンが、真剣な面持ちで応える。
…ハーゴン率いる邪教は、魔物の軍勢であると同時に一つの宗教なのだ。なればこそ、人心を集める何らかの思想や、目的がなければならない。彼らの掲げる最終目標。それが、この世界の破壊だ。
「そうじゃ。加担すれば自分達の築いた世界が滅亡しかねん組織だというのに、連中の仲間になろうという輩は後を絶たん。
…彼らは何も、狂人や自暴自棄の集まりではない。それなりの考えがあってそうしている。何故だか分かるかの?」
問い返されて、プリンは押し黙る。答えに窮しているのか、はたまた分かっていても口に出したくないのか、その沈痛な面持ちからは推し量ることは出来ない。やがて少女はまたくくっと短く笑って、後を続ける。
「既存の秩序の崩壊。…それが彼らの願いじゃ。そなた達の信仰する教会の絶対的な圧力。排他的な王権の支配。
それらに対して鬱憤を溜めている連中が少なからずいるのじゃよ。じゃから彼らは、一度全てを破壊して、真っさらな世界にしたいのじゃろう。…金も、権威も、意味を成さない。何もない、力と策略だけが蔓延る世界。
待っているのがそんな混沌でも、今よりはマシだといって、それまで恐怖の対象だった魔物の軍勢と手を結ぶのも厭わない。…こんなことをするのは、神も竜もおいて、そなたら人間くらいのものじゃ」
「そんな…でも、世界が壊れちゃったら困る人も、沢山います!ボクらだって、それを止めるために…!」
「無論よ。それ故に面白い」
静かに語りながら、少女は用意した三つのグラスに葡萄酒を注いでいく。淡々としてまるで身じろがない少女の受け答えに、激昂したランドは逆に押し黙ってしまった。
「魔族の中にもまあ、派閥争いくらいはあるが…世界規模でやらかす内ゲバとなれば、そなたら人間の独擅場じゃろ。
世界の存続をかけて真っ向から人間と人間がぶつかり合う。果てに待つのはいずれか。…どちらに転んでもその過程はわしを楽しませてくれそうじゃよ」
ランドもプリンも、既に反論する気概を失ってしまったらしく、語りながら酒を注いでゆく少女をただただ見つめている。そんな重苦しい空気を悟ったのか、彼女はついと顔を上げて朗らかに微笑んだ。
「そう難しい顔をするでない。わしは別に、人間を蔑んでいっているのではないぞ。寧ろある種の、尊敬の念すら抱いている。
いくら現状の体制が不服だとて、世界の命運を引き換えにするほど強い願いや行動力など、我らは持ち合わせんからの。いや、興味深いことよ!」
グラスになみなみと赤い液体を注ぎ終えると、少女はからからと笑って残りを飲み干した。直後。
「…プリン」
突然、プリンが無言でつかつかと俺の前に歩み出る。そして、手早く靴を脱ぎ去ると、絨毯の上―――少女の前に陣取るように、腰を下ろしてしまった。
「よく来たの、ムーンブルクの。わしの話は退屈せずに聞いてもらえたかの?
…何分、人に講釈を垂れるのなぞ初めてでな。不手際があったのなら許せ」
「いえ。大変実のあるお話でした。…宜しければ、もっと色々な意見を伺いたく思います」
それは何より!と可笑しそうに笑いながら、少女はグラスをプリンに勧める。俺があまりにも突飛な、彼女らしからぬ行動に驚いていると、プリンは振り返って微笑を浮かべる。
「もょもと様。どうやらこの方は、嘘言や騙まし討ちを使うような性分をお持ちではないようです。
…少なくとも、こちらから戦意を向けない限りは大丈夫かと」
「あの、にーさま。ボクも、この子の話を、ちゃんと聞いてみたいです。
…何だか、ボクらじゃ知らないような大事なこと…沢山知っているような、そんな気がして…」
理路整然と意見を述べるプリンと、それに倣う様に沈黙から脱するランド。
…俺は二人に決定を求められて暫く考えた末、どうしても捨てきれない問いを以って、決断することにした。
「一つだけ答えろ。竜王の末裔であるはずのお前が、何故そんな…人の、子供のような姿をしている」
そう、俺はずっと、それが気になっていた。
伝え聞く竜王の姿は、雄大な竜とも、禍々しい魔道士のものだったともいわれている。だが、この少女の外見はそんな邪悪なものとは程遠い、か弱いものだ。…その実態がどうであるかは別にして。
縦しんば魔道の業による化生だったとしても、竜王の眷属というのが本当ならば、彼女がそんな姿である理由がない。こればかりは、いくら可能性を模索しても答えらしい答えに至れなかった。
彼女の意図を理解できる、納得のいく説明がされなければ、同じ卓につくことなど出来ない。
押し黙って返答を待つ。だが、少女はぽかんと呆気に取られたような顔をして、首を傾げてしまった。そして―――。
「―――何故って。だって、こっちの方が可愛いじゃろ?」
そんなことを、呆れたような口調で言った。
………俺は、三拍ほども彼女の言葉を意味も分からず反芻した。だがやがて、こんなことをまるで息をするように口にしてしまう相手の思惑を勘ぐっている自分がとても滑稽に思えてしまい、思考を中断する。
「…わかった。同席する。おまえのことを、信用しよう」
一語一語区切りながら、俺はやっとのことで少女を受け入れる旨を伝え終える。…ここまで考えを読めない相手は、生まれて初めてだった。
俺の返答を待ち侘びていたのだろう、少女は同席の承諾を聞き入れるや、また特徴的な八重歯を覗かせて、嬉しそうに笑った。だが、俺がランドを連れ立って絨毯に上がる素振りを見せるや、手を掲げて制した。
「何だろうか」
「いや何。これから杯を交わそうというのに、呼び方が“おまえ”や“そなた”ばかりでは余所余所しかろう?
わしはそなたの要求に応えたし、そなたもわしの要求を呑んでくれんかの?」
「…努力しよう。いってくれ」
「うむ!わしのことは、今から“リュウちゃん”と呼んでくれ!」
瞬間―――両脇のランドとプリンが固まるのが、俺にははっきりと見て取れた。それぞれ、プリンはいつもの朗らかな笑顔を張り付かせたまま動かなくなり、ランドは目を丸くして大口を開け、冷や汗まで浮かべている。
「…まあ、構わんが。―――リュウちゃん」
更に、二人の姿勢が強張るのが手に取るように伝わった。…呼び名の指定くらいなら、何でもないと思うのだが。この要求は、ランドたちにとってそれほど面食らうものだったのだろうか。
少女―――リュウちゃんは満足そうにけたけたと笑うと、掲げていた手で膝を叩いて喜んだ。
「わははっ!堅物かと思ったが、存外にノリがよいではないか。よし、わしもそなたのことを“もょもとちゃん”と呼ぶことにしよう!」
そなたらも遠慮なくリュウちゃんと呼ぶがよいぞランドちゃんプリンちゃん!と、リュウちゃんは二人にも笑顔を振りまいた。
何故か凍りついたまま動かない二人を置き去りに、豪放に笑う彼女と俺だけが、その場でかちんとグラスと酒瓶を打ち鳴らしたのだった。
●リュウちゃん
http://rainbow2.sakuratan.com/img/rainbow2nd62602.jpg 竜王の一族の末裔。百年前、アレフガルドを舞台にロトの血を引く若者と死闘を繰り広げたドラゴンのひ孫。
個人的な趣味で人間の少女の姿をとっているが、その実態は豪放にして破天荒な、好奇心の塊。そして一たび火がつけば悪鬼羅刹の如き力と苛烈さで立ち塞がるものを殲滅する血の気も併せ持つ。
とある事情から、自分の城を訪れたもょもとたちにハーゴン打倒を持ちかけるが、甚く彼らを気に入った彼女は互いを“ちゃん”付けで呼び合うことを提案する。…リュウちゃん、というのもそのとき自分から言い出した愛称で、本名は謎に包まれている。
◇ ◇ ◇
…というわけで十五話をお届けしました。いつぞやいってた仕込みのお披露目回でした。
まさか絵描きの友人達を総出で駆りだして、この子の完成のために半年を費やしていたなんて誰が予想したろうか…!
何かもう、色々いわれるの覚悟で釈明めいた駄文も書いてみましたが、史上最悪にイタイ長文になってしまったので、この件についての反論あるまでソイツは仕舞っておきますw
あとまたPixivのほうにもいくつか上げておきますね。なんだって竜王のひ孫ちゃんがこんなことになったかの概略は、そっちを見ていただけると、俺はあくまで原作準拠に拘る姿勢を崩していないことをご理解いただけるかと思います。
ついさっき投下されたばかり・・・だと・・・
取り敢えずお疲れです 個人的にはリュウちゃんより参考画像のもょもとの顔が気になった
お疲れ様です!
今回も面白かった
リュウちゃんと結婚したいです
キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!ウレシスギル!!!!!
リュウちゃんは期待通りというか期待以上ですよw
味方側のキャラになるなら、かわいいほうが正義!
最後の方、言っても詮無きこととわかりつつも、もょもとに「空気嫁www」と突っ込まずにはいられないw
あとランドの悲鳴は「ひゃあああん!」でお願いしますw
>だって、こっちの方が可愛いじゃろ?
竜王の眷族といえど、やっぱり女の子は女の子なんですな
>121
ひとことも自分が雌だとは言っていな(ry
>>123 期待しているところ無粋かも知れんが一言。
>>117の紹介文ですでに「彼女」と書かれてる……。
きてない・・・
ギリw
●第16話 『その剣、贋物につき』
地の底深い古城の玉座。改めて、俺たち四人はグラスを鳴らして食料を囲む。ランドはおっかなびっくりに、プリンは水でも飲むかのようにするすると葡萄酒を口に流し込み、俺は尚目と意識をリュウちゃんに向けたままグラスを傾ける。
「さて。先ほどは、見苦しいものを見せてしまって悪かったのう」
にっと白い歯を見せて苦笑いするように、今度はリキュールのボトルに手をかけるリュウちゃん。俺はアルコールが体温を徐々に高めていくのを自覚しながら眉を顰めた。
「見苦しいもの…」
「さっきの魔物たちじゃよ。…上にそなたらの気配を感じたので出迎えに行くつもりだったのじゃが、ゴミ掃除が先になってしまったわ。
そもそもここは魔族の根城だった場所じゃからの、邪気が特別濃い。一度連中に忍び込まれると、気配が完全に混じってわしにもわからんようになってしまう。
…まあ、結果的には客人の手を煩わせずに済んでよかったと喜ぶところじゃろうが」
ボトルの三分の一ほどを煽った辺りで、リュウちゃんは手元の果物の山から桜ん坊を一つ摘む。何でもないことのように彼女はいうが、その言葉にはいくつも腑に落ちない部分があった。
「リュウちゃんは、魔物と戦っているのか」
「別に戦いたくて戦ってるわけではないんじゃがな。あんな連中、屠ったところで弱いもの苛めにしかならん。
じゃが、定期的にここや、わしのことを傘下につけようと刺客を差し向けて来るんじゃよ」
「………ハーゴンか」
傘下に、刺客。無秩序な魔物の群れではない、確かな組織の存在を匂わせる言い回しに、俺はリュウちゃんが敵対している者の名を口にする。
「うむ。何しろ大魔王や、曽祖父殿が根を張った土地じゃ。竜王の末裔も一緒に支配下に置いたとあらば、箔もつくじゃろうしのう。
尤も、そんなつもりはさらさらない。ここはわしの家で、わしはわしじゃ。誰の指図も受けん。侵そうとするのなら、叩き潰すまでよ」
いって、リュウちゃんは果肉ごと口に入れた桜ん坊の蔕を手の上に吐き出して上出来じゃ、などと微笑んだ。吐き出された蔕は、小さくきゅっと結ばれていた。…本当に、口さえ開かなければ人間の子供と全く変わらない振る舞いだった。
俺がじっと観察しているのに気づき、リュウちゃんは顔を上げるとまたにっと笑って問いかける。
「何か訊きたそうじゃな。遠慮せずに申してみよ」
「いや………そうだな。いくつかあるが、一番の疑問は」
少しだけ疑問の優先順位を整理してから、やはり直接自分たちに関わることを訊ねることにした。
「さっきの口ぶり。まるで、俺たちがここに来るのを知っていたように聞こえたが。どういうことだ」
「うん?どういうことも何も…そなたら先日、ラダトームに来たじゃろう?―――わしはあの町で、それを人伝に聞いただけじゃ」
…俺は暫し、リュウちゃんの言葉の意味を理解するのに適した解釈を模索した。だが、どう考えてもそれは言葉どおりの意味で受け入れるほかなさそうだった。
「それは、君がラダトームに来ていたということか」
「だからそういっておろうに。…一足違いで、姿を見ることは出来なんだがの。
ロトの末裔がアレフガルドに来たのなら、おそらくこの城にも足を運ぶじゃろうと思ってここで待つことにしたのじゃ」
「…そうか。ラダトームには、頻繁に訪れるのか」
「んーまあ、週に一度くらいかのう。食料を調達しなければならんし。酒がないのもつまらん。何より世情の動きを聞けんのは退屈じゃ。
…ああそうそう、気が向いたら、遠出をしてルプガナやデルコンダルにも行くぞ」
指折り数えて語るリュウちゃんを見ながら、俺は町々の警戒の杜撰さを懸念していた。…いくら敵意も悪意もないとはいえ、あの竜王の子孫が街中を闊歩しても誰も気づかないとは、弛み過ぎではないのか。
「…まあ、いい。しかし、俺たちを待つといったが…竜王のひ孫が今更、復讐でもなしに俺たちに何の用があって待っていたというんだ」
詮無い思考を打ち切って、次の疑問を口にする。まさかただの戯れや退屈しのぎで、なとどということは…リュウちゃんなら、ないとは言い切れないか。
そんな風に推理の方向を改め始めた俺だったが、リュウちゃんは新たな酒瓶に伸ばしかけていた手をぴたりと止める。そして、刃物のような鋭い眼光を俺に向けた。
「―――うむ。それが本題じゃ」
く、と僅かに口元を上げて、止まっていた手で酒瓶を掴むリュウちゃん。そして彼女は、ばきん、と鈍い音を立てて、素手で瓶の注ぎ口をへし折り、開封した。
「単刀直入に言おう。わしの代わりに、ハーゴンを倒してくれ」
その瞳には、人も魔物も竜も、分け隔てなく共有するモノ―――憎悪の感情が宿っていた。
「…それをいうために、俺たちを待っていたのか」
「その通りじゃ。おかしいかの?無論、助言や支援は惜しまん。必要なら、この城に保管してある宝も全て持っていってよいぞ」
問いかけるリュウちゃんの表情は、冷笑こそ湛えているが至って真剣だった。…俺は彼女の補足を無視して、かぶりを振った。
「辻褄が合わないな。君は人の世の乱れを見るのが楽しいといった。
なのにその根源であるハーゴンを倒しては、楽しみが減ってしまうことになる。
…第一、君の性分なら俺たちなど頼らず、自分の手でやりそうなものだ。あれほどの力があるのだからな」
腑に落ちない部分を全て吐き出し、リュウちゃんが酒瓶の注ぎ口を砕いた光景や、上のフロアに築かれた屍の山を思い返す。
…確かに、ああいった魔物が頻繁に隠居生活を脅かすというのなら、いくら楽しみの素とはいえその根本を絶ちたいとは思うかもしれない。だが、ならば何故彼女は自らしないのか。自分の領域を侵そうとするものは叩き潰すとまでいった彼女が、だ。
有り得る線は…恐らく、共倒れ狙い。支配に興味がないという彼女の言はやはり偽りで、二心を持って俺たちに接触。ハーゴンと俺たち三人が思惑通り刺し違えれば、彼女を阻むものは最早存在しない。世界は竜王の一族の手に…。
そんな筋書きに思い至り、俺は再び彼女に対する疑念を強める。だが、そんな俺の心のうちを見透かしたように、ふっと鼻で笑ってリュウちゃんは瞳から憎悪の色を消す。
「もょもとちゃん。表の有様を、みてきたじゃろう?」
突然、リュウちゃんはよく分からない質問を口にした。俺の返答など待たずに、彼女は続ける。
「魔族の城はの、主の魔力で以って補強されて、その形を保つ。
魔力が満ちている間は堅牢じゃが、主が失われるか…或いは、主に城を維持する意思がなくなれば、朽ちるのは早い。
ここの場合は…後者じゃ」
そこで一度自嘲するように笑って、リュウちゃんは高い天井を仰いだ。
「わしにとっては、広大な居城なぞ持っていてもただ不自由なだけじゃ。
それに、ただ立派な城を構えているだけでも蛮勇に駆られた者どもが、この身の静かな生をも許さんと挑みに来る。
…だから、わしはこの城の大部分を果てさせた。
身の回りに日々を暮らすに困らぬだけのモノさえあれば、わしはもう満足よ。使わぬ城の管理なぞ、面倒極まりない」
虚しそうな調子で独白を終え、リュウちゃんは顔を下ろして再び俺に微笑みかける。
「のう、もょもとちゃん。こんな自分の城の支配すら投げ出す者が、世界の支配なぞ望むと思うかの?」
問われて、返す言葉を模索する。だが、俺には首を横に振ることしか出来なかった。
「…そうだな」
ここに来て初めて見せる、リュウちゃんの力ない笑い。その姿は全く、人間の少女のそれだった。
…俺はそれでも疑念を捨てきることはできなかったが、一先ず、話の続きを聞く気にはなった。だからただ、先を促すことにした。
「すまなかった。続けてくれ」
「よい。…ああ、質問の答えがまだじゃったな。ハーゴン打倒―――自分でならもう、少し前にやってみたぞ」
さも何でもないことを付け加えるような言い方で、リュウちゃんはかなり重大なことを口にした。
「まあ…そうなのですか?」
と、それに顕著な反応を示したのは脇で黙っていたプリンだった。ふわふわと浮くような口調で驚きを返す彼女の方を振り返ると、その顔は大分真っ赤に染まっていた。まさか、今までずっと酒を飲んでいたのだろうか。
「宜しければ、そのときのお話をお聞かせ願えますか?今後の参考になるかもしれませんし」
「構わぬぞ。元々、そのつもりじゃったしな。何より、これはそなたらに奴の成敗を頼む理由に直結するしのう」
リュウちゃんは愉快そうに笑うと、割れて注ぎ口が尖ったウィスキーを顔の真上に持っていき、中身をどぼどぼと喉へと流し込んだ。
…どうでもいいが、彼女のアルコールの許容量はどうなっているのだろうか。既に二桁に届きそうな空瓶が転がっているが。
「もょもとちゃん。連中の本拠地がロンダルキア台地にあると判ったのは、三年前じゃったかな?」
「………ん。確か、そうだ」
空になった酒瓶を転がして問うリュウちゃんの言葉に、俺は三年前の記憶を手繰り寄せた。間違いない、無人島での修行を終えて帰った時、城付きの神父たちがそのことで慌しく騒いでいたのを憶えている。
「わしもその頃に、人里で噂を聞いてな。前々からハーゴンのことが気に入らなかったからの、早速ロンダルキアに乗り込んだわ」
「まあ。どうやって…?」
プリンがやけにゆったりとした口調で訊ねる。いくらなんでも飲みすぎたのだろう、そこには微塵の覇気も感じられない。…彼女が何の考えもなしにこんな失態を晒すとも思えないのだが。認識を改めねばならないか。
…しかし、彼女の言う疑問に関しては同意見だ。断崖絶壁の山々と、極寒の吹雪に守られた天然の要塞であるロンダルキア台地。目的のものがあるからといって、そう易々とは上り詰められないはずなのだ。
そんな俺たちの疑問に対し、リュウちゃんは得意げにふふんと笑い、背中の羽を羽ばたかせた。
「わしは竜じゃぞ?あの程度の山脈、空を飛んで越えるのなぞ訳ないわ。…じゃが、問題はその後じゃ」
途端、リュウちゃんの表情が苦々しく歪んだ。何か、思い出したくないことでもあるのだろうか。
「問題…もしかして、ハーゴンの根城が見つからなかったのでしょうか?」
「いや、それは確かに見つけた。神殿に無駄に馬鹿高い塔を二つも建てておってな。随分判りやすかった」
「では?」
「幻影じゃ」
即答だった。あまりの返答の早さに、俺は眉を顰めた。
「幻影…」
「うむ。神殿周辺の手勢を全て片付けて門をくぐったまではよかった。
…じゃが、そこで待っていたのは邪教の兵でも、ましてやハーゴン本人でもなかった。
そこにいたのは―――死んだはずの曽祖父殿じゃった」
口惜しげに俯き、リュウちゃんは躊躇うようにそう続けた。
「それだけではない。祖父殿も。父上も。それに、その場所はどう見ても在りし日のこの城―――“竜王の城”じゃった」
いつしか酒を煽るのをやめ、空の酒瓶をいじりながらリュウちゃんは訥々と語る。俺は彼女の不可思議な供述に、暫し黙り込む。
「…それが、幻影だと」
「当たり前じゃ」
「ハーゴンが竜王の一族を真似て作った魔物や、構造を再現した城という可能性は」
「ない。全員縊り殺したが、何の手応えもなかった。…あんな軟弱なモンがわしらの一族の複製であってたまるか」
いくらなんでもそこまで姑息ではないはずじゃろ?などとリュウちゃんは悔しそうに同意を求める。…成る程、確かに姿形を似せただけで中身の伴わない複製など、本物を止めるのには使うまい。そんなもの、一時凌ぎにすらならない。
俺は一人納得したが、プリンは何故か真剣な面持ちのまま、リュウちゃんを見据えていた。
「…では。その、目の前に現れたお父様やお爺様を…?」
「うん?ああ、殺したが。何しろ三人が三人、皆既にこの世におるはずがない者達じゃからな。
それに開口一番、わしに何といったと思う?『ハーゴン様は気持ちのよい人柄だから逆らうな』じゃぞ?
わしの知る彼らは、間違ってもそんな情けのない台詞を吐く者達ではない。複製にせよ幻影にせよ、偽者なのは間違いない。何を殺すのを躊躇う必要がある」
プリンはリュウちゃんの淀みない切り返しに、やや顔色を悪くしたように俯いた。何か、彼女の気分を悪くする言葉でもあったのだろうか。
「続けるぞ。…立ち塞がるものどもを駆逐してから、城中を探し回ったが…どこにもハーゴンの姿はなかった。
頭に来てそこらじゅうを破壊して回って燻り出そうとまでしてやったが…」
「が…どうした」
「気がつくと、わしは神殿の門の前で倒れておった」
ちん、とリュウちゃんは空になったグラスを指で弾いた。
「それで」
「諦めて帰った。勇み足で乗り込んでおいて情けない話じゃがの。
何度踏み込んでも同じことの繰り返しじゃったからな、いくらわしでもほとほとやる気を削がれたわ。
…もしロンダルキアがあんな不毛の土地でなければ、奥の手も使えたのじゃがのう…ふん」
心底うんざりした口ぶりで、リュウちゃんは肩を竦めた。
「何度踏み込んでも…か。確かに、幻術か何かの線が濃いな」
「じゃろ?どうやらハーゴンは、敵意を持って神殿を訪れた者にまやかしを見せて惑わすらしい…というのがわしの推測じゃ。
全く、回りくどいことしおって…真っ向からの喧嘩なら、絶対負けんのじゃがな…腹立たしい」
ぶつぶつと怨嗟の言葉を漏らすリュウちゃんの姿は、まるで管を巻く酔っ払いだった。そんな彼女を置き去りに、俺は頭の中で結論をまとめにかかる。
「…つまり、自分の代わりに、俺たちにその幻術を破れということか」
「ん?お、うむ。理解が早くて助かる。そういうことじゃ」
リュウちゃんはまたにっと八重歯を見せて笑うと、嬉しそうに頷いた。とはいえ…。
「話は分かった。だが、まだ腑に落ちない点がある」
「うん?」
「まだ、肝心な部分―――何故君が、自分の楽しみを減らしてまで邪教を打倒したがるのかを、聞いていない」
先ほど口にした“辻褄が合わないこと”の一つにまだ回答が為されていないことを、俺ははっきりと主張する。するとリュウちゃんは渋面を作りながら唸り、首を上に下にと大きく振った。だが、やがて決まり悪そうに苦笑して、口を開いた。
「奴らの手先に周りをうろちょろされるのがいい加減鬱陶しくなった…では納得できんか?」
「それで納得しろというのなら、それでもいい。当然といえば当然の―――」
「よせ。…やはり気分が悪い。洗いざらい白状しよう」
ぶんぶんとかぶりを振って、リュウちゃんは言葉を遮った。
「正直、あまり格好のいい理由ではないからいいたくないのじゃがのう…待て待て、そんなに真面目な顔で考えるでない。
おかしな先入観を持たれると余計言いづらくなるわ」
再び推測を巡らそうとした矢先、リュウちゃんが慌ててそれを制する。そして頬をぽりぽりと掻いて咳払いをすると、覚悟を決めたように真剣な面持ちになる。
「一度しかいわんからよく聞くのじゃぞ」
「分かった」
そう前置きをしてから、リュウちゃんは大きく息を吸った。俺はどんな事情があるのだろうかと固唾を呑んで見守る。だが、
「………部下を、とられた」
蚊の鳴くような声で囁かれた言葉は、まるで要領を得ないものだった。
「………リュウちゃん」
「じゃから真面目な顔をするでないというに!これ以外の言いようがないのじゃ!」
吐き捨てるように叫び、ぷいとそっぽを向いてしまうリュウちゃん。…容姿も相俟って、その有様はまるで駄々をこねる子供のようだった。
明後日の方を向いたまま、それでも彼女はこちらの理解を促そうと、また静かに言葉を重ね始める。
「…本当はな、十年位前にはまだ祖父殿や父上の頃から我らの一族に仕えていた配下の魔物たちが、この城にもいくらもいたんじゃ。
じゃが彼奴らめ、父上が亡くなってわしが跡を継ぐとあっさり邪教のほうに鞍替えしおった。
世に仇為す気のない主に傅くのは御免だとか何とか抜かしおって…なら祖父殿や父上の存命時にいえばいいものを、わざわざわしの代になってから…あの屈辱、忘れはせん!
そもそもハーゴンさえ台頭しなければあんなこともなく、今も沢山の部下がわしにも―――」
理解を促そう、として始まったのだろう独白は、やがて単なる愚痴に変わっていった。
俺はどう言葉を返していいやらわからず、ただへそを曲げるリュウちゃんの姿を見つめることしか出来なかった。…しかし、言葉はすぐにかけられた。
「―――成る程。要するに、リュウちゃんはお友達が去られて、寂しいのですね」
脇から、プリンの弾むような声が響いた。
振り向くと、未だほんのりと赤みがかった顔のまま、穏やかな笑みでリュウちゃんを見据える彼女の姿があった。
「な―――」
リュウちゃんは、ぶつぶつと続けていた恨み言をプリンの一言で両断され、絶句する。おそらくは、彼女が初めて俺たちに見せる狼狽の表情だった。
彼女の頬はみるみるうちに真っ赤に染まり、激昂するようにプリンに叫んだ。
「ば、馬鹿をいうでないっ!わしが、あんな恩知らずどもがいないくらいで…!」
「そうでしょうか。では邪教でなく、その配下の方々を恨まれないのは何故でしょう?」
だが、プリンの嬉しそうな切り返しに、すぐに言葉を詰まらせてしまった。とはいえリュウちゃんも決して狭量ではないらしく、このままでは無駄な口論になりそうだと読んだのだろう、乗り出しかけた体をゆっくりと引っ込めた。
「…ふん。よい。とにかく、ハーゴンが憎いのはそういうわけじゃ。で、どうなのだ?この話、受けてくれるかの?」
拗ねた様な口調で最後になるだろう確認をするリュウちゃん。
…まあ、今更考えるまでもない。ここまで繰り返した問答は、殆どリュウちゃんが隠しているかもしれない企みを燻り出すことが目的の揺さぶりだ。俺は、その内容自体にはあまり意味を見出していない。
俺たちの使命は彼女に頼まれるまでもなく、そもそもハーゴンの討伐だ。ならば素直に受けて、彼女の言う支援や助言、当初の目的であるこの城の宝を授かった方がいいに決まっている。
「いいだろう。この話、受けよう」
「そうか!やってくれるか!」
俺の承諾を得て、リュウちゃんはぱしんと膝を叩いた。すると、すぐさま立ち上がって、部屋の入り口へ向かって歩き出した。
「どちらへ?」
「善は急げよ。宝物庫に案内しよう!面白いものがあってのう、アレを見たそなたらの反応が今から楽しみじゃ!」
「そうか。………だが、もう暫くは無理そうだ」
嬉々として足踏みするリュウちゃんは、俺の言葉に首を傾げた。だが、俺とプリンが視線を傍らに下げると、彼女の目にもソレが映ったのだろう、やがて肩を竦めて苦笑した。
俺の右手が丁度届く位置、頬を桜色に染めて気持ちよさそうな寝息を立てるランドが、静かに横たわっていた。
◇ ◇ ◇
酔いつぶれたランドからアルコールが抜けるまで、玉座の間で半日ほども休んでから宝物庫へと向かう。
すまなそうに何度も頭を下げて謝罪する彼に対し、リュウちゃんは酒も自由に楽しめないとは損な体じゃのう、とだけぼやいたきり、その件に関して語ろうとはしなくなった。
リュウちゃんはそれよりも早く俺たちを宝物庫につれていきたかったらしく、とてとてと軽い足取りで玉座まで歩いてきた廊下を戻る。先導する彼女から三歩ほど遅れて俺が、そのすぐ後ろに未だ少し体がふらつくらしいランドと、それを支えるプリンが続く形だった。
そろそろ俺たちが城に降りてきた階段が見えるのではないかというくらいまで戻った時分で、リュウちゃんが分かれ道を折れて立ち止まった。同調するように足を止める俺たちに、彼女はくるりと振り返る。
「着いたぞ。ここじゃ」
得意げに笑うリュウちゃんの示す方向には、ともすれば暗がりに見落としてしまいそうな路地裏のような袋小路。その奥には、古ぼけた扉が一枚、静かに待っている。
「こんなところに…来る時は全然気づきませんでした」
漸くプリンの支えを必要としなくなったのか、ランドが感嘆の声を漏らした。
「宝物庫にしては、随分粗末だな」
「わはは、そういうな。別に誰に見せるわけでもないしのう。
第一下手に取り繕ったところで、盗人が闖入した時に『ここに宝がある』と教えるようなもんじゃろう?宝の隠し場所なぞ、これくらいの見栄えで丁度いいのじゃ」
「…成る程。そうかもしれん」
俺はリュウちゃんの弁に感心して相槌を打ちつつ、ローレシアの宝物庫にも工夫を進言するべきかと思案した。
「では、早速入ろうかの」
その結論が出るのを待たず、リュウちゃんはまたぺたぺたと裸足で音を立てながら扉へと近づいていく。俺は思考を打ち切って彼女の後に続こうと足を踏み出そうとして―――その場に踏みとどまった。
「にーさま?どうかしたんですか」
「もょもとちゃん?」
背後からランドが俺の顔を覗き込んできた。リュウちゃんも空気の変化を読み取ったのか、扉と俺の丁度中間くらいの位置で立ち止まり、振り返る。
…何故そうしたのかは、瞬間的には分からなかった。進む先には何も脅威となるものはない。リュウちゃんも、平然とああして歩いていっている。だが、長年培った俺の危機を察知する勘が、その“臭い”を嗅ぎ取った。
朧げだった記憶が徐々に鮮明さを取り戻してくる。いくら感覚を研ぎ澄ましたところで、おかしなものは何も感じられない。それでも尚、俺の第六感は危険を訴える。…となると、考えられる可能性はやはり。
「もょもと様?―――っ!」
確かめるために、左手を前方の空間に掲げる。…その瞬間、青白い火花が破裂音とともに弾け飛んだ。
腕全体に、骨まで届くような熱と衝撃が殺到する。焼けるような激痛を一呼吸ほど味わってから、差し出した手を引っ込める。まだ鈍く残る痛みに眉を顰めながら手袋を外せば、下からは派手にささくれ立って血が滲んだ皮膚が姿を現した。
「にーさま、大丈夫ですか…!?」
「もょもと様、これは…」
「っ…魔術障壁。所謂、バリアだ」
…魔術障壁。古くは大魔王の時代からあるという、防衛用のトラップだ。基本的には侵入者の妨害を目的とした仕掛けだが、最近では監獄から囚人を出さないために使われることも多くなった。
ローレシアの地下にも同様のものが仕掛けられていて、俺は何度かこの目でその性能のほどを見たことがあった。バリアに晒された囚人の皮膚は派手に焼かれ、焦げた肉の臭いは檻の外まで届いてきたものだ。
確認のためとはいえ自身で味わったのは初めての経験だった。成る程、かなり堪える威力だ。
「おそらく俺なら、一往復程度ならかろうじて絶命には至るまい。だが、君たち二人では片道も持たないだろう」
俺は何年かぶりの骨身に響く損傷に顔を顰めたまま、リュウちゃんに視線を移した。彼女が一部始終を見届けてから『あ』と間の抜けた声を上げたのは、丁度その時だった。
「すまん。ここ、父上が昔曲者避けの罠を仕掛けてたのを忘れておった」
慌てて謝罪しながら、リュウちゃんはバリアの真っ只中を軽やかな足取りで戻ってきた。
「解除はできないのか。おそらく、術式の成立を簡単に切り替える何らかの仕組みが近くにあると思うのだが」
「聞いておらんな。…何しろ父上はここに人間を招き入れることなど想定しておらんかったじゃろうからの。
城を利用するのがわしらや配下の魔物たちだけである以上、バリアを解く機会なぞなかったのじゃ」
「…リュウちゃんは、何ともないのですか?」
「うむ。そもそもバリアという奴は人間を対象とした術式で出来ておるから、わしら魔族には効き目が殆どないんじゃよ」
いそいそと回復呪文を俺の右腕に付与するランドを横目に、リュウちゃんは仕掛けられたバリアについての問いに答えていく。
「どうしましょう、もょもと様。少し時間はかかりますが、リュウちゃんに中の宝を持ち出してきて頂いた方が…」
「…確かにな。仮に俺一人で行ったところで、魔道の道具があったら鑑定に窮するのが目に見えている。リュウちゃん、すまないが」
「待て」
プリンとの相談での結論を述べようというところで、リュウちゃんが先を遮った。押し黙る俺たちをそのままに、何やらもごもごと俯いて考える彼女だったが、やがて顔を上げて叫んだ。
「――――――トラマナっ」
途端、俺たちの体は白く輝く光のようなものに包まれた。
「おー、どうやら正解だったようじゃな。…何、障壁避けの呪文じゃよ。最近では珍しいようじゃがな。
人間たちは聖なる守りがうんたらいっておるが、祖父殿によると居る場所そのものと一時的に同期する事で本来受けるはずの干渉を掻い潜っているだけらしい。尤も、わしにはその辺の細かいことはよくわからん!」
わははとこれまた豪放に笑うリュウちゃん。正直俺にも今ひとつ実感は沸かなかったが、ランドとプリンは興味津々のようだった。
「まぁ、とにかくこれで三人とも無事に通れるはずじゃ。試しにほれ、もょもとちゃん、さっきみたいにしてみるがよい」
いわれるまま、俺はランドに治してもらったばかりの左腕を再びバリアの空間に晒す。きゅっと目を瞑るランドを他所に、先ほどのような火花は起こらない。白い光の衣に包まれた左腕は、すんなりと宝物庫へと伸びた。
「にーさま?」
「…問題はなさそうだ」
ダメージがないことを確認してから、バリアの中に全身を入り込ませる。俺に言われて、ランドとプリンも廊下の暗がりに踏み入ってくる。やはり、三人とも無傷だ。
「凄い…!」
「よしよし、久しぶりだったが、どうやら大丈夫そうじゃな。そうそう、さっきも言ったが場所と同期して干渉を逃れておるらしいから、理屈の上では毒の沼も無力化できると思うぞ。試したことはないがのう。
…気に入ったなら、覚えてみるかの、ランドちゃん?」
「えっ。…ボクが、ですか?でもリュウ…さん」
「リュウちゃん、じゃ」
一瞬、口ごもって自身の名を呼ぶランドにぴっと指を突きつけ、リュウちゃんは即座にその言葉を遮る。面食らう彼を見上げる形で、口をへの字に曲げたリュウちゃんはふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らした。
…どうやら、彼女はこの呼称にそれなりの拘りがあるらしい。俺にはよく分からないが。
「…え、と。じゃあ、リュウちゃん」
おずおずと遠慮がちに目を伏せ、俺やプリンと同じ呼び方をするランド。そうして漸く、リュウちゃんはにっと表情を一転させて微笑んだ。
「こんな呪文、きっと難しいんじゃ」
「わはは、心配いらん!仕組みそのものは他の呪文と比べても割と単純じゃ、コツさえ掴めば大した魔力も使わず自在になるはずじゃよ。
何、わしの不注意でもょもとちゃんにいらぬ手傷を負わせてしまった侘びよ、後でやり方を教えよう。…これで二人を守ってやるといい」
「…っはい!分かりました」
上機嫌のリュウちゃんはランドとそんな約束を交わしてから、宝物庫の扉に手をかけた。
結果だけを言うと、俺たちの繰り広げた議論は全くの徒労であったことが分かった。
扉の向こうには噂でいわれているような金銀財宝など影も形もなかった。宝物庫その物は、ちょっとした民家くらいならすっぽり入りそうなほど広かった。しかしその中身はというと、埃を被った人間台の木箱が乱雑に散在しているだけだった。
「…どうじゃ?見るべきものはありそうか、プリンちゃん」
「!…いえ。特には、ないようです」
宝物庫に入るなり、誰より注意深く景観に視線を走らせるプリンの様子に気づいたのか、リュウちゃんは目もくれずに尋ねる。
プリンは僅かに体を強張らせたが、一拍ほどで本音であろう返答をする。それに、やはり楽しげにくくっと笑って、リュウちゃんは肩越しに振り返った。
「何じゃ。そなたも竜は皆、秘宝を寝床にしなければ生きてゆけない、などという風説を信じていたくちか?」
「そのようなことは」
「そうじゃろうな。そんな話を鵜呑みにするようなうつけには見えぬ。
じゃがまあ、見ての通り。わしの持ち物で財と呼べるものは、これで全てよ」
リュウちゃんは明け透けにそう言い切ると、小さく唸りながらがらんとした宝物庫を見渡し始めた。
「さーて…暫し待て。何分、不精な性分でな。物の整理が行き届いておらん。ちと時間をもらうぞ」
言って、リュウちゃんは埃が舞うのも気にせずそこらじゅうの木箱の中に、小さな体を手当たり次第に突っ込み始めた。勝手の分からない俺たちは、ただ黙って成り行きを見守るばかりだった。
「リュウちゃん。さっき言っていた面白いもの、というのを探しているのか」
「んー?…んむそうなんじゃがー…やれやれ長いこと掃除をサボりすぎたのう、使ってないものの場所は殆ど忘れておるわ。
…アレはどこにやったか…まあよいわ。さし当たってこれからじゃ。ほれっ」
半身を木箱の中に突っ込んで中身を弄りながら、こちらの様子も見ずにリュウちゃんは何か巻物のように丸まった紙を投げつけてきた。
驚くべきコントロールで顔面目掛けて飛んできたそれを反射的に受け止め、括りを解いてみる。大層年季の入った様子のそれは、広げると丁度書斎机の一面くらいの面積になった。その表面には、何やらぎざぎざとした図形のようなモノが描かれている。
「…世界地図、でしょうか?」
背伸びをして紙面を覗き込んでいたランドがぽつりと呟く。成る程、確かに言われてみれば、これは地図のように見える。
意識して注意深く観察すると、大半を占める青く塗られた面―――海面にあたるだろう部分を埋めている陸の様な図形の輪郭は、ローレシアやサマルトリアのそれに酷似する箇所も見受けられる。
「リュウちゃん、これは」
「わしがここ数十年ほど世界を飛び回って描き上げたもんじゃ。
空から見下ろして作ったからの、それなりにいい出来じゃと自負しておる。そなたらで使うがよい」
「そうなのか。…プリン、どう思う」
ランドよりも更に興味深そうに地図を覗き込んでいる、プリンの横顔に訊ねてみる。じっと微動だにしないで紙面を見つめる彼女はだが、やがて俺を見上げてはっきりと告げる。
「素晴らしい精度かと思われます。恐らく各地に支部持つ教会でも、これほど正確な世界地図は保有していないはずです」
「そんなに、ですか?」
「はい。国々や限定された規模での地図ならばある程度世間にも流布してはいますが、それでもこれほど細部の地形まで描画されているものはないでしょう。内陸部の森や山岳の範囲と境目まで、かなり詳細に描き込まれていますし…。
それに大陸の形状も、私が記憶している地域の分と照らし合わせただけでもかなりの一致が見られます。他の大陸の形も正確に描画されているとみて、まず間違いないかと」
つらつらとリュウちゃんの寄越した地図の精密さを述べるプリンは、一頻り喋り終えると、また興味深そうに地図に視線を落としてしまった。俺はランドと顔を見合わせた後、リュウちゃんの背中に返答する。
「成る程。よく分かった。…リュウちゃん、有難く拝借させてもらおう」
「うむー、そうしてくれ―――っと、見つけたぞっ!」
俺の言葉に、やはり木箱を漁り続けながら手をひらひらさせて応えるのと殆ど同時。リュウちゃんは景気良くそう叫んで、半身を箱から引っこ抜いた。
にこにこと上機嫌な様子で俺たちのほうに戻ってくる彼女の手には、身長ほどの丈の布に包まった物体が抱えられていた。埃だけでなく土や泥、更にはかなりの経年劣化すらも見て取れる汚れた生地の上からは、中身が何なのかはまるで窺えない。
「まあ解いてみよ。―――“それは、そなたらに返すぞ”」
注意深く観察する俺の心中を察してか否か、リュウちゃんは有無を言わせず布の塊を押し付ける。何やら、意味深な言葉を添えて。
言われるまま、地図を一先ず元通り丸めてランドに預け、ソレを受け取る。リュウちゃんの手が完全に離れ、己の手に収まった瞬間、重さや感触から俺はソレが剣の類であることを悟る。
確認のためもう一度リュウちゃんの顔を見るが、彼女はもう何も言わず、にっと不敵な笑みを浮かべるばかりだ。
俺は意を決して、剣を包む古ぼけた布きれを一気に取り払う。
「―――これは」
鞘もなく、抜き身のまま。ソレは自身を包んでいた布とは不釣合いなほど流麗に煌く刀身を、誇らしげに晒す。完璧なシンメトリーの両刃はすらりと俺の半身ほども伸び、鳥を連想させる装飾の柄は黄金に輝き、埋め込まれた赤い宝石は小さいが太陽のような存在感。
剣の姿を目の当たりにし、俺たち三人は一様に言葉を忘れた。
俺は初めて手にするはずなのに、何故か不思議なほど手に馴染むその剣の感触に興味を引かれ。
ランドは剣の姿に見惚れるようにほう、と感嘆を漏らし。
プリンは明らかにそれとわかるほどの驚きを瞳に湛えて息を呑み―――やがてぽつりと、沈黙を破る言葉を告げた。
「――――――ロトの…剣」
「え…ええっ!?」
額に一筋の汗を浮かべて、プリンは真剣な面持ちでそう漏らした。それに、ランドが驚嘆で以って応える。
…ロトの剣。遥か昔、天より舞い降りて時の大魔王を打ち倒した、俺たちの始祖たる人物が携えたという、伝説の聖剣。
プリンの言葉をきっかけに、俺にも幼少の頃に書庫で読み漁った文献の記憶が蘇ってきた。そう、確かにこの手の剣の意匠は、ローレシアに遺された手記にある、かの剣に酷似しているのだった。
「確か、か。プリン」
だが、それは辻褄が合わない。なぜなら手記には同時に、かの剣は百年前の竜王との戦いの果てに砕け、失われたとも記されていたのだ。他ならぬ、竜王と戦った俺たちの師父本人の手によって、だ。
それがそのままの形で現代に残っているというのは、俄かに信じられない。俺はよりこの類の物品に明るいであろうプリンに真偽を訊ねた。
「…装飾や形状も、全て伝承と合致します。いえ、それより、この刀身は純正のオリハルコン…っ?
私も実物を見るのは、初めて、ですけれど…それでは…」
現れた剣をまじまじと見つめ、戦慄とすら表現していいほどの狼狽を見せるプリン。彼女がこれほど取り乱すのは、初めてだろう。
…オリハルコン、というのは歴史上、ロトの剣にのみ素材として使用されたという神の金属のことだ。彼女が言うには、この剣はそれで出来ているらしい。
その大層な肩書きに違わず、オリハルコンは途方もない希少性と、仮に採取できたとしても現代の技術では加工すら不可能と伝えられる扱いにくさを併せ持つ。となれば、古の時代に打たれた聖剣がこうして何かの間違いで現代に残っていたとみるのが妥当なのだろうが。
「納得できんか?プリンちゃん」
不敵な笑みを浮かべて問うリュウちゃんに、プリンは何も答えない。リュウちゃんはそんな彼女を前に肩を竦めて、言った。
「戯れが過ぎたな。種明かしをしようか。…議論の余地はない。ソレは、ロトの剣の贋作じゃよ」
その言葉にいち早く反応したのもやはりプリンだった。思索に耽り沈んでいた顔をついとあげて、宣言の主を見やる。
「ですが、このオリハルコンは」
「詳しいことはわしにも分からん。何しろソレを曽祖父殿が見つけてきたのはまだわしが乳飲み子同然の頃の話じゃからの」
何やら聞き捨てならないことを例によって何でもないことのように告げるリュウちゃん。俺は知らず、眉を顰めていた。
「どういうことだ」
「百年以上前のことじゃ。曽祖父殿が町々を滅ぼし奪った宝の中に、ソレは混じっておった。
…わしにはあまり昔のことを話してくれなんだが、この剣を見つけてきた日に少しだけ、話してくれたのを覚えておる」
「昔のこと…ですか?」
ランドがリュウちゃんの意味深な言葉に、不思議そうに首を傾げた。
「曽祖父殿は、どういうわけか始祖たるロトの剣のことを知っているようじゃった。その上で、この剣のことを嘲笑っておった。
…“良く出来た紛い物だ”…とな」
「…竜王の出自には謎が多い。その言が信じるに足るものかどうか」
そう。竜王という怪物がどこから現れ、何故アレフガルドに執着したのかは、未だ明らかになっていない。彼は初代ロトがこの国に伝えた光の玉なる秘宝に甚く固執しラダトームから奪い去ったとされているが、その理由も結局分からずじまいだ。
そんな竜王の言葉を素直に信じるには、少々判断材料が足りなさ過ぎるのではないか―――という考えを口にした矢先、リュウちゃんはふむと軽く頷いた。
「尤もな疑問じゃ。何しろわし自身も、この身が如何なる星の巡りで生まれたのかよく分かっておらん始末じゃからの。
…じゃがなもょもとちゃん。曽祖父殿は現に、そなたらの先祖の携えた別の"ロトの剣"に敗れているのじゃぞ?」
わしらの出自なぞ分からずとも、その事実が何よりソレが贋作であることの証左ではないか―――そう、リュウちゃんは言っている。
成る程、言われてみれば、その通りだ。
俺たちの師父がロトの剣を携えたという記録は確かに残っている。実際に竜王を倒した勇者の剣が、よもや紛い物だったなどということはまさかないだろう。そちらが本物なれば、竜王が見つけた方のこの剣は贋作…と考えるが自明だ。
「もょもと様」
俺とリュウちゃんが問答を始めた辺りからじっと剣を凝視していたプリンが口を開く。その顔には未だ晴れない困惑が満ちていたが、どうやら今回のそれは少し毛色が違うらしい。
「リュウちゃんの言うことは、その…恐らく、事実です」
「何故そう思う」
「はい。この剣は、確かにオリハルコンによって作られたものです。その点は文献と一致します。ですが…」
そこで一度、プリンは口篭った。だが、やがて意を決して先を続ける。
「伝え聞くロトの剣は、念じて振るえば嵐を巻き起こすほどの力を秘めていたといいます。
しかし、この剣にはそうした神器と呼ぶに相応しい強大な力は、欠片も宿っていません。これほどの精度でオリハルコンが加工されていながら、その実態は殆ど抜け殻同然といっていいものかと」
「俺の目には、良く鍛えられた上質な剣に見えるが」
「勿論、その点は否定しません。ですがロトの剣には、比喩でも誇張でもなく、それに加えて絶大な魔力が備わっているはずなのです。ですからこの剣が本物でないのは確かでしょう。
けれども、だとしてもどういった経緯で、どなたが、如何なる手段でオリハルコンをここまで見事に鍛えたのか、またこれほどの出来なのにどうして肝心な中身が伴っていないのか。…申し訳ありませんが、私には、何一つ見当がつきません」
そういって、プリンは沈痛な面持ちで押し黙ってしまった。…どうやら彼女は今は、剣が贋作であることよりも、きちんとロトの剣としての体裁を再現された一振りに宿るべき力がない事実に、納得できていないようだった。
「…俺も、ロトの剣の持つ恐るべき力については文献で読んだことがある。
それがないということはつまり、これはオリハルコン製の巧く作られた剣ではあるが、それ以上でも以下でもない代物ということか」
ここまでの情報をまとめた俺の言葉に、プリンは無言でこくんと頷いて見せた。
「いいだろう。それだけ分かれば十分だ」
元々、あるかどうかも怪しい前時代の遺産を探して訪れて、それがないと分かっただけのことだ。寧ろ少しでも収穫があったことは喜ぶべきことだろう。
絶大な魔力などなかろうと、紛い物であろうと、この剣が業物であることには違いない。ましてやこの剣に伝説のような力がない理由なぞ、論じたところで詮のない話だ。俺は思考にケリをつけ布を広げ、元あったように“ロトの剣”を包みなおした。
「どうやら、議論は纏まったようじゃな」
「ああ。贋作だろうが、これは俺から見れば十分良く出来た剣だ。有難く、使わせてもらう」
そう応えて返すと、リュウちゃんは嬉しそうに八重歯を見せて笑った。
「さて、わしの方から特別そなたらに渡したいものはこれだけじゃ。
あとはその辺に転がってる箱を漁って、使えそうなものがあれば好きに持って行くがよい」
「わかった。協力、感謝する」
「うむ。わしはその間、久方ぶりにここの掃除でもしておるからな。荷積みが片付いたら声をかけるがよいぞ。
ハーゴン打倒へ向けて具体的な策を、助言しよう」
腕まくりして散乱する木箱に目配せするリュウちゃんの言葉に、俺とプリンはそれぞれに頷く。手分けして作業に掛かろうとする俺たち三人だったが、直後にランドがおずおずと手を上げた。
「あの…リュウちゃん。一つ、訊きたい事があるんですが、いいですか?」
「む?何じゃ、申してみよ」
「リュウちゃんは…その、ボクたちと一緒に行くことは、できないのかな、と、思ったのですけれど」
遠慮がちな、ランドの問い。それに対して、リュウちゃんは顎に指を当てて小さく唸った。
「いえ、あの、さっきの上での戦いを見て、リュウちゃんはすごく強いんだと思って。
…それで、出来たらついて来てくれれば、この先とても心強いんです、けど…駄目、でしょうか?」
「…んーむ。駄目とはいわんが―――」
「それは駄目だ、ランド」
思案顔で返答しかけるリュウちゃんを遮り、俺はきっぱりとランドの要求を却下する。
「にー、さま…?」
「俺たちが何故、こうして三人ハーゴン討伐に旅立ったのか。それを今一度よく思い出せ」
「………ぁ」
俺の言葉で、ランドは我々ロト御三家の為さんとする志に思い至ったのか、しまったという顔をして黙る。
「リュウちゃんが戦力として加われば、確かにハーゴン打倒はより磐石になる。それは事実だ。
…だが、それは俺たちの祖国に背く行為だ」
「…はい」
「本来ならこうして、あの竜王の子孫である彼女と対話の席についているのもあってはならないことだ。
今日のこのことは、俺も城に提出する報告書に正直に記録するわけにはいかない。どうにか説得力のある、別の筋書きを用意しなければならない。
だというのにこの上、彼女と世界各地を闊歩するのを人々に見られるなどという事態は何としても避けたい。判るな」
俺の説得に、ランドは萎縮して一言、ごめんなさい、と口にしてそれきり何もいわなくなってしまった。プリンは既に俺の意図を承知しているのだろう、何もいわず控えてくれている。だが当のリュウちゃんは、顔を顰めて一部始終を見届けると、怪訝そうに訊ねた。
「何じゃ。わしが一緒じゃと迷惑なのか?」
「すまない。俺個人は、ランドと同じようにリュウちゃんが戦列に加わってくれるならば心強いと思っている。
…だが、俺たちをハーゴン討伐に差し向けたローレシアとサマルトリア、そしてムーンブルクには、ある思惑がある。その実現のためには、リュウちゃんと俺たちの蜜月は露呈してはならない。だから、俺は君の同行を認めるわけにはいかない」
俺の返答を受けて更に眉間に皺を寄せ、リュウちゃんは品定めするように迫り、俺の顔をまじまじと見つめる。
…世間の常識から見て、俺の物言いが失礼であろう事は判る。事によっては、彼女が今ここで俺たちに牙を剥くことも覚悟しなければならない。だがせめてそうならないよう、持てる限りの誠意を込めて彼女の目を見つめ返す。
そうしているとやがて、リュウちゃんは気が済んだように溜息を一つついて身を引いた。
「嘘をついてるようには見えんのう。…よかろう、人間の政治に複雑な事情があるのは、わしもある程度承知しておる。
そなたらの国が何を企んでいるのかには興味があるが…その口ぶりじゃと、訊いたところで話してくれるとも思えん。ハーゴンを倒したときの楽しみにでも、とっておくとしよう」
「寛大な配慮、感謝する」
「但し」
ぴっ、とリュウちゃんは真剣な面持ちで俺の前に指を突きつける。一瞬にして空気を張り詰めさせ、呼吸を忘れさせる。
「…このわしに対してそこまではっきりと云い切った以上、言を覆すことは許さん。
もし今後、今の言葉に背くような振る舞いがあらば、相応の代価を支払ってもらう。よいな」
「…肝に銘じよう」
鋭く俺の目を見据えるリュウちゃんの眼光は、正しく竜のものだった。俺はそれに負けぬよう、しっかりと誓いを立てる。
するとそれに満足したのか、リュウちゃんは一転して纏う空気を弛緩させた。
「―――とはいってものう。さっきも言いかけたが、縦しんばわしが一緒に行ったとしても、計画が頓挫する確率が高い。
どっちにせよ、ランドちゃんの願いは聞き難いものなんじゃ」
「そう…なんですか?」
「うむ。…精霊ルビス。この名前を聞いたことがあるじゃろ?」
「アレフガルドを初めとする、この世界を創世したと伝えられている精霊ですね。
初代の勇者ロトと共闘し、大魔王を倒したとも聞いています」
プリンがつらつらと、ルビスの概略を語る。俺も少しくらいなら、聞いた覚えがある。
彼女の説明を受け、リュウちゃんはうむ、と頷いて続ける。
「詳しくはあとで説明するが、わしのハーゴンの幻術破りの策はルビスの力を当てにしたものなんじゃ。
知っての通り、アレはロトに与するものじゃからの。ロトの末裔たるそなたらになら、多分彼奴もいい顔するじゃろ?
じゃがもしそこに魔族であるわしが混じっておっては、彼奴が力を貸し渋らんとも限らん」
「ああ。そういう算段ですから、ご自分ではハーゴン打倒を続行なさらないのですね」
「そういうことじゃ。…さ、もういいじゃろ?そろそろ仕事に掛かるとしよう」
四人で頷きあい、今度こそ俺たちは手分けして木箱を検める作業に取り掛かった。
…一通りの物資の整理を終え、リュウちゃんから今後の指針の説明などを受けて城を後にしたのは、それから更に半日後のことだった。
暗い穴の底から、荒涼とした砂地の上まで見送りに出て、酒を酌み交わした俺たちとの別れを名残惜しむリュウちゃん。
その誠意に対して申し訳ないとは思ったが、彼女に背を向け丘陵を下る俺の脳裏には、ローレシアへの報告に関する山ほどの辻褄合わせの心配ばかりが渦巻いていたのだった。
規制解除されテター!
一週間ちょい遅刻しましたが、第16話をお送りしました。書き込み規制の巻き添え食ってて先週はこれませんでした。むぅ。
覚えてる方は覚えてるでしょうが、今回登場した「ロトの剣」は五百年ほど前に造られた、ある商人の遺作です。
このことを頭の隅っこに留めておくと、すっげー後の方で事態の飲み込みが早くなるかもです。
>>120 「ひゃあああん!」だな!よしきた、任せとけ!
>>121-123 君ら仲いいな!そういうの、嫌いじゃないですよ。
規制でしたか。乙ぅ
りゅうちゃんええ子や。そしてちょっぴりツンデレw
一緒に来るかもって展開にwktkしたけど、超人が2人になっちゃったら戦闘バランスがw
次回も楽しみにしています
●第17話 『述懐 〜灯台の兵士の場合〜』
―――今日も、変わり映えのない一日が始まる。
そんな、疾うに悲観さえ色褪せた皮肉の言葉とともに、その日も始まった。
教会からココに配属されて三年。私に与えられた仕事は、この小さな島に不似合いなほど高く聳え立つ巨大な灯台の頂上から、“ソレ”を監視することだった。
ソレは遥か大海原の彼方、この灯台ですらちっぽけに見えるほどの雄大な山脈の上にあった。その堅牢な佇まいに相応しく、ソレに変化など、この三年間一度たりともありはしなかった。
日がな一日変わらない監視対象を眺め続けるのは、まだ若かった私には酷く退屈で。時折、この広すぎる塔に棲みついた魔物たちが襲撃してくるのでさえ、仮にも戦いを志す者である私には“歓迎すべき災難”だった。
これは、そんな不謹慎な考えが私に芽吹いてから、暫くした頃の話だ。
私はいつものように灯台の縁に陣取り、南東に向かった。年季の入ったタイルの床に無造作に腰を下ろし、降り注ぐ陽光の眩しさに顔を顰めた。
「敵わんな。ただでさえ、ここは太陽に近いというのに」
それに、背後の壁の裏には、やたらにでかい篝火も絶えず燃え盛っていた。私のいるフロアそのものが、この灯台のどの場所よりも暑いのは明白だった。
「…あそこは相変わらず涼しそうだな」
ここの現状とは正反対。広大な海を挟んだ彼方、真っ白な雪が被った山々の姿を見て、愚痴を垂れた。…無論、そこが碌な準備もなしに身を置こうものなら、人間などたちまち凍え死にする魔境であることなど百も承知だったが。
「………?」
私が、僅かな空気の変化に気づいたのはその時だった。
灯台が、震えている。そんな表現が、多分、一番的確だ。いつもはどんと荘厳に聳えているだけのこの灯台全体に、未知の緊迫が広がり始めていた。…尤も、三年余りも休まずここに根を張り続けた私だから気づいたのかもしれないが。
とにかく、その日・その時の妙な“揺らぎ”のようなものを感じ取った私は、傍らの壁に立てかけてあった愛剣を掴み立ち上がった。いつもの魔物の襲撃…にしては、余りにも彼らの淀んだ殺意が薄すぎた。
私の知らない空気だった。私はそこで、この灯台に“異物”が入り込んでいるのだということを悟った。この揺らぎは、それらの介入によって引き起こされたものだ、と。
「近い」
張り詰めた空気が、すぐそこまで来ていた。異物は確実に、上―――即ちこの場所に向かい駆け上がってきていた。
私は鋼鉄製の長剣を両手持ちに構え、壁に背をつけた。そして篝火を横目に捉え、下に続く階段へと折れる曲がり角、その影に身を潜め、異物の乱入に備えた。
一つ。二つ。三つ。呼吸を数えるごとに、最早勘でも経験則でもなく、五感ではっきりと認められるほどの喧騒がすぐ下まで迫っていた。
時折聞こえてくる甲高い魔物の奇声や、内装に何かが接触して砕ける鈍い破壊音。それらの規則性から、私は仮定を設けた。
何かが何かに、追われている。そう私は考えた。逃げ惑っているのは、魔物のほう。下のフロアまでで読み取れた数は二体だが、すぐに一つの呼吸が止まった。追っ手が仕留めたのだ。
残った一体が、ここへと上がってきた。床の振動がないことと羽の音から、私はそれがグレムリンかドラゴンフライだと予想をつけた。
果たして、現れたのはグレムリンだった。数は想定どおり一体きり。だが、そこには彼らがいつも餌たる人間を前にした時に振りまいている血気や殺意は見る影もなく。代わりに、死に物狂いで前に這い進まんとでもせんばかりの焦燥が満ち満ちていた。
「ふんっ!」
私の存在に気づいているのかどうか。眼前に迫るグレムリンを、私は一太刀で沈めた。
袈裟の太刀筋で喉笛を裂かれたそれは、ぐぎゃーという悲鳴すら上げずに宙を飛んだまま天を仰ぎ―――直後に、背後から飛来した何かに首を刎ね飛ばされた。
「………何事だ」
残ったグレムリンの胴体は、まるで地面に吸い寄せられるように床に叩きつけられ動かなくなる。それからやや遅れるように、ぼてんと鈍い音を立てて首の方が傍らに転がった。
私は血振りをし、再度剣を構えながら背後の壁に視線だけ向けた。
何しろ、私がグレムリンを切り捨てるのと殆ど同時に、追っ手のものだろう攻撃も飛んできたのだ。仮にも凶暴な魔物がここまで逃げ惑う相手が間近まで来ているとあっては、すぐには気を緩められない。敵の敵は味方、とは限らないのだから。
背後にやった視線は、グレムリンの首を刎ねて尚勢いを失わず、篝火を飛び越えて石の壁に突き刺さった剣を捉えた。赤がね色の、やや小ぶりな一振りだった。
階段から、ゆらりと人の頭が現れた。額に除けるようにかけられた古ぼけたゴーグルがまず視界に飛び込み、それから全身を包む紺色の装束が姿を見せた。肩越しに背中に覗く長剣の、金色の柄も印象的だった。
それは年若い青年だった。体つきも、特筆するほど威圧的ではない。だが、戦士としてまだまだ未熟であった私にも、その青年のあまりにも修羅場慣れしすぎた立ち振る舞いは感嘆に値した。
近くに敵の気配は既になかった。だがそれでも、フロアに踏み込んだ青年は、まるで爬虫類のように感情を読ませない目で素早く周囲を睥睨した。その隙のない一連の仕草のあまりの自然さに、私は一瞬我を忘れた。
…恐らく、この青年には。敵を倒したから気を緩める、という人として当然あるべき所作がそもそも存在しないのだ、と。私は一人の戦士として本能的に理解した。
彼にとっては、きっと日常と戦いの境界などとても曖昧だったことだろう。
「―――っ」
時間にすれば、ほんの一呼吸にも満たない間だったはずだ。青年は視線を一巡させると、最後に私を視界の中心に捉えた。
彼の視線に射抜かれて、私は僅かに緩んでしまっていた緊張感を取り戻す。対する青年の方は、まるで気負いなく、呼吸をするのと同じであるとでもいわんばかりの静けさのまま、私と対峙していた。
正直言って、力の差は歴然だった。
剣を交えずとも解った。このまま打ち合いになれば、二合も待たずに私は鮮血の海に沈む。そんな覚悟を私がした頃―――。
「…人か。騒がせてしまって、すまなかった」
青年は目を伏せ、軽い会釈とともに私に謝罪した。そうして、いとも容易く緊迫の空気は霧散して消えた。
「なに?」
「先ほどそこな魔物に謀られたばかりだった。貴方が連中の応援かどうか、少し念入りに探らせてもらった。…手間をかけた」
つらつらと抑揚に欠ける調子で話す青年は、やはり思ったとおり謝罪のあとも隙のない振る舞いを崩さなかった。では何を以って緊迫が霧散したかというと、何のことはない、単に私が、己に向けられかけた矛が収まったことに安堵しただけなのだった。
私は剣を鞘に収めると、情けなさの照れ隠しに鼻息を一つ力いっぱい吹き散らし、頭をばりばりと掻いた。
その間に、青年は振り返り、眼下の階段の下へと何事かを叫んでいた。
それはどうやら、まだ階下にいる仲間を呼んでいるらしかった。…これほどの手練が連れる仲間とあっては、さぞや屈強なツワモノの顔ぶれなのだろう。
そう、一人薄ぼんやりと想像していた私は、軽く意表を突かれた。暫くして現れたのは、まだ幼さの残る少年と少女だったのだ。
「っはぁ…!…ぜぇ…っっ…っ!」
少年は息も絶え絶えに階段をよろよろと上りきると、何かよく解らない訴えらしきものを口にした。…どうやら、青年が自分を置いてけぼりにしたことに抗議しているらしかった。
青年の無骨なソレと対照的に日常的な手入れを感じさせるゴーグルと、ヘッドギアの隙間からつんつんと飛び出る金髪が、頭の上下に合わせてゆらゆらと揺れていた。
長く観察するまでもなく明らかにひ弱な出で立ちの少年の後からは、それに負けず劣らず華奢な体つきの少女が続いた。
背丈こそ少年より少しばかり高かったが、頼りなげな印象は否めない。だがそれでも少女は、少年と違い息一つ乱さずにフロアに降り立つと、まじまじと自分たちを観察する私に楚々とした辞儀をする余裕すら見せたのだった。
「これは、また。おまえさんの仲間か?随分と可愛らしいじゃないか」
「…おかしいだろうか」
「それはまあ、な。青年。おまえさんくらいの手練の連れとなれば、それなりの強面を覚悟するだろうよ」
青年は苦笑する私にそんなものか、と真顔のまま呟いて返すと、徐に首のないグレムリンの死体に近づいていった。そして音もなくしゃがみ込むと、懐から取り出したナイフを何の躊躇もなくその腹目掛けて突き立てた。
「おいおい。何をしてるんだ?」
「探し物だ。このグレムリンが飲み込んで逃げたから、ここまで追いかけてきた」
「さがしもの?この、灯台にか?…おまえさんがた一体何者だ?」
青年と、背後にいる二人の仲間を交互に見やり、私は漸く根本的な疑問を口にした。それを受けて、青年は淡々と魔物の肉と臓物を発いていた手を止め振り返ると、私を真っ直ぐに見上げ、答えた。
「ローレシアの王子。もょもと」
名乗るその声は、強く、そしてやはりどこまでも冷たかった気がした。
◇ ◇ ◇
「ランドです。えっと…ボクはサマルトリアの、王子です」
「ムーンブルクより参りました。王女の、プリンと申します」
偶の口慰み程度のつもりで用意していた茶葉に湯を注いでいる私に、二人は行儀よい辞儀とともに自己紹介をした。
一呼吸をついたところで、私は三人の来訪者を私の居住スペース(というにはあまりに質素だったが)へ招き入れた。
見張りに陣取る縁よりもやや内壁寄り、テントや保存食・書物などが一緒くたに積み上げられているのを適当に押しのけ、四人でことこと熱に揺れるポットを囲んだ。
「…あの、にーさま。よかったんですか?ボクたちの正体、喋ってしまって」
「構わないだろう。別段、隠す理由もない。寧ろ俺たちの目的を考えると、より多くの民草に知ってもらったほうがいいくらいだ」
四人分のカップなどあろうはずもなく、彼らの自前の水筒を借り受けて紅茶を淹れる私の目を憚るように、ランド少年が何事か囁いた。
一方で、もょもと青年は特に何の気兼ねをするでもない風に平然とした口調で―――彼に視線すら向けぬまま―――応えたのだった。
「成る程。では、ルプガナで私達が出自をはぐらかす必要はなかったわけですね、ランドさん」
「はぅ…悪いことしちゃったな」
「何の相談だ、王子様がた?…あ、猫舌だったら気をつけなよ」
三つの水筒を配りながら、特に関心がないなりに会話の糸口を探さんと言葉を挟む私に、ランド少年とプリン嬢は礼とともに苦笑した。
「こちらの話ですわ。でも、驚きました。こんなところに人がいたなんて」
「ん。まあ、そうだろうな。当の私も辟易しているよ、実際。…尤も、別に悔恨はないがね」
今度は私が苦笑して、視線を灯台の外へ向けた。つられて、ランド少年とプリン嬢もその後を追った。
焦点は、水平線の遥か彼方、山脈の更に向こう側。天を衝くように聳え立つ、魔窟の象徴。どれほど巨大であればこれほどの遠方から肉眼で視認出来るというのか、立ち込める暗雲に霞みながらも僅かに影を見せる神殿が、確かにそこにあった。
「あれは」
「ハーゴンの神殿だよ。山の向こうはロンダルキア台地。まごう事なき、邪教の総本山だ。
私は教会の命を受けて、騎士団からアレの監視のためにここに駆りだされている」
距離も離れている上、靄が掛かってろくに全体像が把握できない巨大な像の影を三人で見つめ、息を呑む。それに加えて、私は自分の薄汚れたカップの紅茶を啜る。
「まあ、体のいい左遷だがね。彼らはとっくの昔に互いの膠着状態を“安定”と称して、静観を決め込んでいる。
私がここに差向けられたのは打倒を目的としたものではなく、あくまで監視と世間体のためだろうよ。
そう考えると…なるほど、私は都合のいい厄介払いとしても丁度いい」
「厄介払い…ですか?」
ランド少年が、遠慮がちに水筒から顔をあげて訊ねた。どうやら、彼の口にはまだ少し紅茶が熱かったらしい。
「私はこう見えても、信心深いほうなのだよ。昔から、主のことは敬ってやまないし、この世界の森羅万象を愛してもいる。
だが、それをさも我が意を得たりとばかりに教義とする人間の事は、毛ほども信じていない」
「神様は信じても、人間は信じない…と?」
「その通り。とはいっても、全ての人間に不信を抱いているわけではない。人間も他ならぬ主の産み落とした子には違いないのだからね。
私が鼻持ちならないのは、敬愛する主の威光を笠に権威を振りかざす教会の愚昧どもだ。主の寵愛への応え方なぞ人の数だけあろうに、それを定義したがるなぞ不愉快極まるよ」
自嘲気味な私の論調に、ランド少年は困り顔で首を捻った。
「じゃあ何で私が教会になぞいるのか、という顔だな」
「えっ。…う、はっ、はい」
図星を突かれたのだろう、ランド少年はしどろもどろと私の言葉を肯定した。
「なに、確かに教会のことは気に食わないが…三年前に、ハーゴンの邪教の本拠地が判明したのがきっかけだった。
私としては教会よりも破壊神の信仰なんぞを布教する連中のほうが実害という意味では度し難かった。何しろ放っておけば本当に世界を滅ぼしかねない。
主の創造物たるこの世界を連中の勝手で滅ぼされるのは業腹だったのでね、討伐に参加したくてついな。…そうしたら、まあ大して時を待たずにこの有様さ。笑い話だろう?」
教会の連中にしてみれば、自分たちの教義に従順でない私なんぞすぐにも破門してやりたかったろう。だが下手を打って邪教の勢力を増すようなリスクを、日和見主義の彼らは犯したくなかった。
結果的に、私は既に打倒を諦めていた邪教の本拠地の監視などという、益体もない任務を授けられたというわけだった。
そんな経緯を仔細に説明されるまでもなく察したのか、二人は沈痛な面持ちで視線を落とした。
「ははっ。そう同情してくれるな、お二方。本当に我慢できなくなったら、私のほうからさっさととんずらする腹積もりだったからね。不義理なのはお互い様なんだよ。
…それも、今しがた事情が変わり始めた」
噛み殺すような笑い方に、二人は顔を見合わせた。
私は構わず続けた。
「教会の伝令から、話には聞いてたよ。ロトの末裔達が、邪教征伐のために旅立ったってね。…お三方が、そうなんだろう?」
「…っ」
「はい。その通りです」
私の詰問に、ランド少年は体を強張らせ、プリン嬢は殆ど間髪いれずにそれを肯定して見せた。私は二人の対比が面白くてまたくつくつと笑いを噛み殺して、カップに二杯目の紅茶を注いだ。
「思い切ったことをするねぇ、あの三国も。まさか揃いも揃って跡取りを送り出すとは。よっぽどの勝算がお有りかな」
「それは」
そこで、プリン嬢が一度言葉を詰まらせた。だが、私は直感的にその先は彼らの都合の核心にあたるのだと察し、制した。
「まあ、そちらの事情は訊くまいよ。そもそも私にはどうでもいいことだ。あの、忌々しい邪教どもを打ち滅ぼしてくれるのならね。
…うん、やはりもう暫くはここを動かないことにしよう。お三方以外では、世界で誰よりも早くあの神殿が崩れ去るのを目撃できるかもしれないのだからな」
今度は噛み殺すことなく、我ながら含みのある笑いを浮かべて、先ほどからまるで会話に加わろうとしないもょもと青年を見遣った。その腰には、先ほどグレムリンの首を一撃の下に刎ね飛ばした“ただの銅の剣”が納まっていた。
「さっきの投擲。見事だったよ。並みの鍛練じゃ、銅製の剣にあそこまでの鋭さは持たせられない」
「………そうでもない。アレは元々、俺の戦闘スタイルにはなかったものだ。俺が本当に頼りとする戦い方は、別にある」
恐らく、それは紛れもない事実だったことだろう、もょもと青年は憚ることなく自分の全力はあの程度ではないと言外に主張した。それに僅かばかり肝を冷やし、私はついぞ一度も抜かれなかった彼の背負う黄金の剣を見遣り、感嘆の息をついた。
「それであのキレか。…大したタマだな、少年、君の兄様は」
ランド少年に苦笑を振ると、彼は誇らしげにはにかんだ。
…そしてそれきり会話を続けようとしない彼を眺め、私は肩を竦めて訊ねた。
「彼は、いつもこうなのか?」
「いえ。普段であれば、寧ろ今までのようなやり取りは全てもょもと様が率先して行うのですが」
柔和に微笑みながら、プリン嬢はもょもと青年の手元を言外に示す。その両手は、先ほどグレムリンの腹から引き摺り出した珠のようなものにこびり付いた体液を拭い去ろうと、引っ切り無しに動き続けていた。
「探し物がなんとかいっていたな。そいつが…?」
「そのはず…だと、思うんですけど」
半信半疑で訊ねる私の言葉に、ランド少年が苦笑交じりに、これまた半信半疑の肯定を返した。
もょもと青年が頑固にこびり付いた汚物を、懸命にボロ布で拭き取っている様を眺めながら、彼らの灯台に入ってからの話に耳を傾けた。
広大な内部を上へ下へ駆け回ったこと。
その道程で、老人の姿を目撃したこと。
それを追ううちに小部屋に辿り着くも、老人が魔物の正体を現し、伏兵を嗾けたこと。
果たして小部屋に目当てのものはあったが、もょもと青年の凄まじい立ち回りに恐れをなしたグレムリンの一体が、それを体内に隠して逃亡を図ったこと。
…そしてその最後に、この最上階の篝火へと至ったこと。
「なるほどねぇ。それは災難だった。何しろこの灯台はこの通り、無闇にでかい。捕り物をするには骨が折れる作りだったろう」
「ふふっ。はい、少々、堪えました」
「でも、にーさまは全然平気だったみたいです。…やっぱり、凄いです、にーさま」
羨望の眼差しを、尚も一心不乱に除去作業に勤しむもょもと青年に向けて、ランド少年は微笑んだ。
決して恵まれた体躯ではない彼も、やはり一人の男子として彼の力には感銘するところがあったのだろう。とりわけ相応の期間彼の立ち回りを傍で見てきたのなら、無理もない。
―――と、その時。突然、これまで眉一つ動かさずに黙々と手を動かしていたもょもと青年が、渋面を作った。気がつけば、その手の珠は見違えるほどにつるつると光り輝く、宝玉のような姿を露にしていた。
拳大のそれは透明に向こう側を見通せるほどで、内部にはどう作ったらそうなるのか、星を思わせる抽象的な紋様が埋め込まれていた。
「宝石みたいだな。一体それは何なんだい?」
不可解な物体に、私は身を乗り出してもょもと青年の手元を覗き込んだ。しかし、当の彼は作業の甲斐あって漸く元あったろう美しい佇まいが珠に戻ったというのに、いぶかしむ様な目でソレを見つめていた。
「にーさま?」
流石にランド少年とプリン嬢もおかしく思ったのか、立ち上がってもょもと青年に身を寄せた。すると彼は、右手に珠を握ったまま、口で左手の皮手袋を咥え、脱ぎ去った。
「………まあ」
最初に声を上げたのは、プリン嬢だった。感嘆とも驚愕ともとれる彼女の声色では何が起きたのか判断つかず、私も釣られるように彼の元に回り込んだ。その間に、ランド少年も何かを目にしたらしく視線を彼の左手に釘付けにしていた。
「一体なん―――」
ランド少年の視線を追って、もょもと青年の左手を覗いた。いや、正確には、その手の甲にだ。
…彼の手の甲、小指の付け根の辺りに、小さく、しかしはっきりと星の意匠の紋章が、焼き鏝でも当てられたように、痣となって浮かんでいたのだ。
「にーさま、これは」
「どうも、これが話に聞く紋章で間違いないらしいな。…魔物の血が力の伝達を阻害していたのか。拭い切った瞬間に、現れた」
「まあ…では、もょもと様。私達も触っておいた方が宜しいですね」
「ああ。念のため、その方がいいだろう…が。気をつけてくれ」
「何を、でしょうか?」
話が見えず置き去りの私を他所に、彼らは渦中の珠を巡って相談を始めた。どうも、その珠を三人とも触った方がいいだろう共通認識が彼らにあるらしいのは判った。がしかし、もょもと青年はそれにやや難色を示した。
だがやがて説明を諦めたように、彼はひょい、と傍らのランド少年に珠を手渡した。
「少々、熱い」
「え?何が―――つぅっッ!?」
もょもと青年の短い警告は少し遅かったようで。両手で珠を受けたランド少年は呆けたような顔を一瞬で苦痛に染めて、珠を取り落とした。
やがて呼吸を整えて、ランド少年も自身の左手の手袋を、目を白黒しながら脱ぎ去った。すると、やはりもょもと青年と同様の場所に星が焼きついていた。
「だから気をつけろといったろう」
「うう…遅いです、にーさま」
恨めしそうに縋るランド少年の抗議の視線に、もょもと青年は気持ちばつが悪そうに目を伏せた。彼が初めてみせる人間臭い振る舞いは、それだけなのになんだかとても微笑ましく思えた。
そんな私たちの横で、ん、と何かに耐えるような声が漏れた。プリン嬢が、いつのまにか床に転がった珠を拾い上げていたのだ。そもそもから素手である彼女の手の甲に、当然のように星が刻まれているのは、すぐに確認できた。
「大丈夫か」
「はい。お二人の反応で、ある程度覚悟を整えられましたから。有難うございます」
にっこりと微笑み、プリンは二人に礼を述べた。ランドは照れくさそうにして頭を掻いたが、やがて慌てて彼女の手を掴んだ。
「で、でも、プリンさん。その、にーさまとボクは男だし、いいですけど。
プリンさんは女の子ですから、こんな風に肌に跡が残っちゃうのは…!」
血相を変えて心配を口にするランド少年。確かに…こんな面妖な紋様を素肌に刻むのは、生粋の魔道の人間か娼婦くらいのものだろう。それが王女の身に刻まれたのでは、彼女の人生に害を及ぼさないとは限らない。彼の懸念は尤もだ。
だがそんな彼の動揺を、まるで意に介さないようにプリン嬢はそっと左手を掲げる。
そして数拍と待たず、星の意匠はすぅと決め細やかな白い皮膚に消えて、見えなくなった。
おさるさんってまだいるのか知らんけど回避支援
「有難うございます、ランドさん。ですが、ご心配には及びません。
伺ったお話では、紋章は“強さ”に刻まれるものだったでしょう。恐らく現出の自在も、私達の意志一つで決められると思いまして…この通りです」
「はぁ…よかった」
「ふむ」
プリン嬢の言を受けて、ランド少年は安堵の息を漏らし、もょもと青年は興味深げに自身の左手を見つめている。そこでは先ほど刻まれた紋章が、浮かんでは消えてを繰り返していた。…どうやら、彼女の言葉の真偽を自分でも確かめているようだった。
「…魂消たな。紋章っていってたな、どういうものなんだ、こいつは」
「精霊ルビスへと至る道。…そう聞いている」
プリン嬢に訊ねたつもりの私だったが、いつの間にか元通り手袋を嵌めなおしていたもょもと青年が脇から応えて返した。
…成る程、普段は彼が一行の顔として言葉をやり取りするというのは、本当らしかった。集中していた仕事を終えたとなったら、すかさず整然とした口調で応答を始めた。
「ハーゴンのまやかしの術を破るために、精霊ルビスの力を借りたい。そのために、この“紋章”と呼ばれるモノを集めなければならない。
俺たちは今、それを当面の目的として各地を巡っている」
「精霊ルビス、か。大昔、勇者ロトとともに大魔王を滅ぼしたっていう、アレフガルドの創造主だな?
しかしそれとその紋章が、どう関係してるんだい」
「詳しいことは俺たちもよく知らないが。ルビスが後の世のロトの一族が、自分へと辿り着くための道標として作った宝玉らしい。
紋章は全部で五つ。それが、この世界のどこかに散らばっている。それらを探し、集め、全てをこうして自身に刻み込んで初めて、ルビスへと至れるという」
「成る程な。しかし、それが何でまたこの灯台にあるって判ったんだ?」
ルビスと紋章のことはそれで判った。しかしそんな突拍子もない伝説じみた話は、どう考えてもこの灯台には結びつかないだろう。
もょもと青年は私のこの問いに少しだけ黙考した。が、殆どそれと判らないほど短い間隔で、やはり静かに答えた。
「何百年も昔。大魔王が倒されたあと、ルビスを祀るための神殿や祠、その加護にあやかろうという呪(まじな)いが敷かれた町などがいくつか作られたという。それが今も、世界中に残っているらしい。
…紋章はルビスに作られた後、そういった場所に奉納されている」
そこまでいって、もょもと青年はプリンから件の珠―――紋章を受け取って、じっと見つめた。
説明を締めくくる最後の言葉だけは、伝聞調ではなく断定的だった。ここまでいわれれば、外様の私とて察しがついた。
「…合点がいった。そんなルビス縁の施設の一つがこの大灯台で。果たして紋章はこうしてお三方を待っていたってわけか」
もょもと青年は無言で頷いて、紋章を私に投げて寄越した。反射的に受け取ろうと手の平で皿を作りながら、手が焼ける痛みを覚悟した私だったが、珠を受け止めていくら待てども何の痛みも訪れなかった。
「紋章は、ロトの血以外には反応しない。…どうやら、これも本当だったらしいな」
「おいおい、私で試してくれるなよ」
口では抗議する私だったが、その心は底から奮えていた。
教会の愚図どもが匙を投げていた邪教征伐。その日目にしたいくつもの非日常。私は様々な思いを巡らしながら、彼らがただならぬ偉業を成し遂げることを、既に予期していた。
「しかしなぁ…まさかこのうすらでかい塔がそんなに大層な出自だったとはね」
「そんなにおかしいだろうか」
「ん。何しろ邪教の本拠地が判明して、教会が体よく見張り台として接収するまでは、ここは行きかう船に道を示す、でかい以外は何の変哲もない灯台だったんだ。
よもや名のある精霊様を祀る施設だったなんて、誰が考えようかね」
「まあ。一体いつの間に」
「さてな。どうせルプガナ辺りの不信心者が、商業目的に転用でも始めたんだろうよ。
やっこさんたち、実利のないものにはてんで興味がないからな」
私はありったけの皮肉を込めて苦笑してから、元いた場所に座りカップの中身を飲み干した。
尚も私が持ったままになっている紋章に熱い視線を注ぎ続ける彼らににやりと、我ながら胡散臭く微笑み返して、珠を掲げた。
「話から察するに、既にお三方ともその手に紋章を刻んだ時点で目的は達せられてるんだろう?
これはあとで、私が暇を見て件の部屋に返しておくよ。…何、心配しなくていい、私は神や精霊関係の仕事では雑はしないからね」
もょもと青年はふむ、と視線を虚空に投げていくらか呼吸を挟んでから、やがて静かに首肯した。
「頼もう。元よりソレは、ロトの一族以外には何の役にも立たないものだ。
貴方が仮に何か企んでいたとしても、どんな実害も発生し得ない」
「おいおい、信用ないな」
もょもと青年は、何ら気負いなくそんな答えを返した。ランド少年は慌てたように彼と私を交互に見比べ、プリン嬢は少し申し訳なさそうに深々と頭を垂れた。
そんな彼らに抗議の言葉を投げ返しながら、それでも私は彼らを見送り、いつもの見張り場に腰掛て日が沈んでも、愉快な気持ちを押し殺しきれなかった。
戦士として未熟な私にも、一つだけ頼みとする自負があった。
虫の報せ。天啓。第六感に任せた、勘。淀みない信心から来る思い切りの良さがそれを招くのか、私はこれと信じた直感で以って、負け戦に至ったことがなかった。
その私の感性が、彼らがただの徒労でその旅路を終わらせはしないと、狂おしいほどに告げていたのだ。
――――――ああ、そうとも。だからそれから何ヶ月も経ったある日、あの辛気臭い神殿が突然山の向こうで崩れ落ちた時も、驚きはなかったねぇ。
ただ、『ああ、やっぱりやってくれた』と思って笑っただけさ。何あろう、私が信じる私の勘が当時もうそういってくれてたんだ、的中に喜びこそすれ、驚くわけがなかろうよ。
で、そのあと当然、私はお役御免で破門を言い渡され、晴れて後腐れなく自由の身になったわけなんだけれども―――どうにもこの場所が尻に馴染んでしまってね。ご覧の通り、ただの灯台に戻ったここで、灯台守なぞして日がな一日海往く船を眺めているよ。
―――ん。件の彼?ああ、統一王イデーンの話だったな。勿論覚えてるとも。あの勇姿を見違えるものかね。
とはいっても、暫くぶりに見た彼は随分様変わりしていたっけな―――いや、昔見たときよりもまた幾回りも強くなってたのは間違いないんだがね。
なんていうのかな、前見たときの印象は―――まあ、失礼な言い方になるが『化け物だ』っていうのが端的な感想だったんだが。
イデーンと名を変えて私の元を訪れた彼はその…これまた妙な言い方になるんだがー…人間としての強さを究極した―――とでもいえばいいのかな。そういう感じだった。
―――ん。私も自分で言っててよくわからなくなってきたよ、ははっ。どっちにしても、例え私が当時のまま戦士として鍛練を続けていたとしても、より絶望的な隔絶が出来てただけだろうっていうくらい強くなってたのは確かだね。
―――そうそう、彼のもう一つの二つ名、知ってるかい?統一王じゃないほう。
―――うん、それだ。“ゴーグル王”!
余程物持ちがいいのか、でなけりゃ大層思い入れのある出自なんだろう、当時真っ先に私の目に入った頭のゴーグル、十年経ってもまだ着けてたんだ。彼ほどのモノノフをしてもなお邪教との戦いは死地だったんだろうね、レンズも跡形もなく割れちゃっててまあ。
威風堂々たる王の佇まいに、歴戦の勇者であることを物語る傷だらけのゴーグル!百戦錬磨の彼以外なら、あんな装いは滑稽なだけだろうよ全く。
あれは強烈だった、うん。前衛的ですらあるね―――って、おいおい、まだ話は続くんだけど。帰るのかな。…いや、いいんだけどもさ。そんな怖い顔しなさんな、可愛い顔が台無しだ。―――ん。なんのなんの。それじゃあ。
以上、第17話でした。支援ありがとうございます、ええ、おさるさんはほぼ毎回言われて困ってますよw
さて、たぶんDQ2の二次創作をやるにあたって誰もがどう描写するか頭を悩ますであろう“紋章”の登場です。
本作ではひとまず、ご覧の通りの感じ。ただ、今は話せない細かいギミックとか小ネタとか盛り込んでますのでそれはおいおいにでも。
>>147 実は作画の可愛さに血迷って、リュウちゃんが同行するプロットを組もうとした時期があったりしましたw
でも俺の中で絶対に書くと決めた、ある「画」のために結局断念。
余談ながら製作中、彼女の性感帯が頭のヒレか羽の付け根かという最悪な議論で小一時間揉めたましたが今も結論は出ずじまいという。嗚呼、馬鹿よバカばか。