前スレ ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level11
2ゲット!スレタテ乙
スレ建て乙!&新作期待保守
前スレ建て乙!
っと、遅れました。3話投下したいと思います。
後、酉とハンドルつけました。以後、コレでお願いします。
後、先日のレスでageてしまいすいませんでしたorz
虚救旅団
序章の三人目「診断結果:人生が破綻しても尚のんきもの 妥当な職種:あそびにんでもやらせとけ」
「ふぅ、貴女とも長かったけど」
「ええ、ざっと……5年以上は」
「ま、色々助かったよ。で、どーするの?」
「国に帰ろうと思います」
此処は世界でも名高いアリアハンのルイーダの酒場。老若男女の男女問わず、戦える者達が集う冒険の出発点。
魔物が勇者オルテガを葬ってからと言うモノ、世界中に大侵攻をかけていったのは数年前。
人間と言う種が全力で魔物たちから祖国や村、町を守り何とか守りきったと同時に国々は情報の分断をされていった。
もはやどこか一つの国が倒れれば、ドミノ倒しの様に世界が飲み込まれてしまうギリギリの拮抗状態が続く中
魔物の脅威から世界を救い、後一歩でバラモスの前に存在した魔王を倒す所まで追い詰めたとされる
勇者オルテガの伝説の再来を信じたり、自ら成し遂げようとする若者達がこの街の酒場に冒険者達が集っていた。
皆が自分達の力で世界を救い、故郷を救おうとする気概溢れる者達の活気で満ちていた。
しかし、集う者が居れば、其処から去る者も多く現れる。それは希望と夢の為に
命を散らす覚悟のあるパーティだけではない。それすらも実らぬ種のまま消える人間も当然出てくるのだ。
「そーねぇ。ま、今の時勢人手はどの街に行っても足りない位だし」
「はい、……ルイーダさん。今まで面倒見てくれてありがとうございました」
「気にしない気にしない。貴女も自分なりの幸せを探しなさいな?」
彼女の名はチクハ。フルネームすら、まして彼女の精神が正常だったか
どの様に気が触れてたり狂っていたかなど記述する必要は全くない人物だ。
何故なら彼女はルイーダの酒場で長い時間を過ごしていたが、結果実らず此処から去る者だからである。
大きな荷物をまとめ、質素な布の服に身を包んだ彼女が去る理由は多数ある。
たが、そんな理由になど誰も触れる人などおらず、気に留める事も無いだろう。
それだけ多くの人間が此処を訪れ、ここを去っているのだ。全てが全て伝説になれる訳ではない。
死してなお伝説となっているオルテガの様なものは一握りだ。
「あら、見ない顔だね。ボk……いや、御嬢ちゃんか」
「言われ慣れてますので御気に為さらず」
「あははは。まぁーどっちにしろ、まだ此処に来るのはちょっと早いわ。
時間も年齢もね。それともお使いか何かかしら?」
「いえ、お酒を飲みに着たのではありません。ここにくれば、冒険の仲間が集うと聞いたので」
「あーあー、なるほど。貴女もオルテガの息子さん目当て? 名簿に登録しておきましょうか?」
彼女と入れ替わる様にカウンターへと入ってきて、きつい一言目に眉をぴくりっと上げている一人の背の低い少女。
目つきの悪さと年齢に不相応な落ち着いた雰囲気を漂わせていたが
夢や野心、様々な想いを抱いた老若男女が集まる場所の女主人ルイーダにとっては所詮小娘の一人。
ここ数日、勇者オルテガの息子が旅を出る年になったと聞いて、それに加わろうとする若者はあとを絶たない。
更に一つの船団が先日岸に乗りつけたらしく、入れ替わり立ち代り人が訪れていた。
そして、それを悪用する大人達も多くいる。それらを見定めるのも女主人の大切な仕事の一つだった。
具体的な業務を記述するとやくざ者に引き摺られて若者が道を誤らぬ様にする事
見込みの無い人間を危険な旅に出させない様にする事などだ。
女主人ルイーダにとって誰であろうとここに冒険者を募ったりパーティへと加わろうとするのはつーかーで言わなくても解る。
だが、敢えて新入りの少年少女達には必ず今の様な態度を取り、自らの意思を持って冒険に赴く事を発言させ、自覚させている。
「いえ、パーティを募りに来たんです。此方にもイシスへの兵士募集の話は来ていますね?」
「あら? そっち? まぁーそれは良いけど、時期が時期だけに大変よ?」
「ええ、それは聞いてます。誰か他に志願している者や興味がある者が居れば、旅に出たいのですが」
「ふむ。んー、今のところは期待のルーキー次第って人ばかりね。ま、一朝一夕で集まるもんじゃないわ」
「おーぅっ、ルイーダさん? このボーズもオルテガさんとこのパーティ志願か?」
「いいえ」
「おー? そかそかー」
突然口を挟んできたのは酒臭い息を吐き散らしながらもいかにも顔に傷があり
がたいは良いが決して太ったマッチョという訳でもない細身の筋肉質な男だった。
いかにも腕が立ちそうな雰囲気を出しているが、絵に描いたチンピラの様に見た目は汚らしい。
腰に下げた鋼鉄ののこぎりがたなやボロボロで血痕をぬぐった跡が残る靴がその男の経歴の演出をしている。
テーブルの方では食事をしながらも動向を伺っている視線がちらほら。
男を見知っている人間達がその様子を眺めている。
その視線に応える様にわざとらしく大きな声で女主人ルイーダへと話しかけている。
このいかにもかませ犬的な登場をした男マフィー・アンピヤラはわざとらしくその汚い手を
はるばる船に乗ってこの地を訪れた少女ムスチナの胸へと伸ばし鷲?みをする。
ムスチナは苦悶の表情と共に眉をしかめながらもその鋭い視線を相手へと向ける。
やはり、彼女も人並みの女であった為、最初は口をパクパクとさせて事態が飲み込めなかったが
すぐにその無礼な行為を認識してこれは怒るべき事態だと気付くのに時間は掛からなかった。
「んぅ? レディーだったのかー、こりゃー失礼」
「手を離してください」
「つんつんしてんねぇ。嬢ちゃん処女か?」
「貴方に言う必要はありません」
「お、やっぱそーか。まったく、この手の奴にありがちだ。ちょっと位腕が立つからって
いかにもそこいらの男なんかには負けないと勘違いしてるおのぼりさんって所か」
「ありがちですね。いかにも腕が立つ事を見せびらかして、アウトローを気取って
粗暴な扱いも目を瞑らせようとするゲスな感じなんて」
「いぅねぇーなんだとごらぁ!? とでも言うと思ったかい?
そんな典型的なゲス野郎は早死にするもんだぜ?」
女主人ルイーダは二人のやり取りに特に口を出す事は無かったがあまり良い顔もしていなかった。
マフィーは一月前からこの酒場へと来て、勇者オルテガの息子へのパーティ参加を希望していた。
評価として決して誠実や潔さはないが常に適正な答えを動物的勘で判断する男。
腕が立つ事からルイーダも彼が店に居座っている事を黙認している。
それに対するは、まるで修道院から出てきたばかりの僧侶と
山篭りで世俗と離れて修行した武道家を足して2で割った様なぽっと出の少女。
簡潔に評するにおぼこで乳臭い汚れを知らない生娘と薄汚れた大人がどう対応するかを見ている。
少なくとも技量的な面で自分はまだ選択肢に入っていることに確信していた
マフィーにとってもこれはルイーダに自分をアピールする良いチャンスだった。
女子供が旅をするというのは所謂この手の男に更に知性の無さを付随した
どうしようもない連中にも絡まれる危険性がある。街中に限らず旅の道中でもだ。
無論、目の前でその様などうしようもない連中がしそうな騒ぎを起こせばそれを止めるつもりだが
この男はそんな見た目ほど短絡的な目的を定めていないのはルイーダにはわかっていた。
抱きつく事もせずマフィーの指先は胸から腹、わき腹、背中、そして尻へと緩やかに移動する。
ムスチナは女らしく声を上げたくないのは本人の表情でその場に居た誰にでも察せる程解り易く
一瞬、助けを求める視線をルイーダに送ろうとしたが、ルイーダが止めさないのはなんらかの意図があると
とっさに感じ取っていた。その点で、マフィーもルイーダもこの娘がそこそこ賢い事には気付いた。
「やめてください」
「んー、何か悪い事をしてるんか? 餓鬼を撫でるのが悪いなんて訳ないだろう?」
「餓鬼の体を撫で回して興奮する大人は注意されて然るべきです」
「そうかもしれねぇな。で、そいつは何処に居る? 俺は興奮してねぇぜ?」
「なっ!」
「それに猫可愛がりされる内は女の華ってもんさ。で、嬢ちゃんに行き先は何処だい?」
「貴方に話したくはありません」
「んー、下は未貫通だが目玉は男のナニを突っ込まれてみれなくなってるのか?
そんなヒデー趣味の野郎は世界で数人しか見たことはねぇが」
「人を見る眼が無いと言いたいんですか?」
「見てくれだけで判断するのは悪いことだぜ、嬢ちゃん。何せ、冒険つーのは
見たことも無い面や聞いた事も無い言葉で動いている世界を一歩一歩確かめるもんだからな。
オレみたいな見てくれの奴が安心と信頼を得ている国もあるんだぜ?」
ムスチナの正論と指摘は何処吹く風といわんばかりに耳をかっぽじりながら適当に答えていく。
無論、一方的な愛撫の手は止まらない。女性にとっては嫌悪する行動だ。
男性にとってもまた勇気のある行動でもある。ただ、ここにおいてその蛮勇と無礼の度合いを論ずる事は
重要ではない。マフィーにとって眼中にあるのはこの小娘でも、あららっと困り果てている中古女のチクハでもない。
目に映るのはルイーダの女主人のみだ。
一人旅をして、死んだと噂される勇者オルテガ。
その息子と旅する事は多くのメリットを生む。王との謁見や重要な仕事と報酬、支給される物資etc。
過度の期待をされている16の小僧相手へ売り込む為、彼はルイーダに対してのアピールを続ける。
彼の推理は至って単純であった。おそらく、アリアハン王としても親子揃って死なれては流石にばつが悪い。
王の人材登用や人を見る目や国としての勇者輩出や支援能力諸々が疑われてしまう。
なので優秀な人材を将来性のある人材を見繕って欲しいとは既に申し入れられており
おそらくルイーダはこの入れ替わり立ち代り尋ねてくる老若男女を見定めている筈である。
ならば、彼にとってアピールすべき点はこの”汚さ”である。自分ののびしろはここに来る
少年少女に比べるとどうしても短いだろう。ならば、汚れ潰して伸ばした部分を見せるしかない。
「おしゃべりなんですね。軽く見られますよ?」
「ガードを下げてくれる方が殺り易いからな。それに嬢ちゃん?
若い内は大人(プロ)から見聞きと見よう見まねで学ぶもんだぜ?」
「……くぅっ、説教を聞かせたいならもっとまともな態度を取ったらどうですか?」
「俺みたいな面と格好の奴を黙って聞くか? それに”上”の人間が何故へりくだらなきゃなんねんだ?
てめぇの親が勇者だろうが王様だろうが殻のついたひよっこにはかわんねぇだろ?」
じろりっと睨みつける視線にマフィーには全く応えない。高をくくっているとか見くびっている訳ではない。
ムスチナの全力を出した反抗も片手で捻り潰せるという事実を経験上会得しているのだ。
それに対しムスチナは男が何をしたいかを解っている。声を上げさせたいのだ。そして、助けを求めさせたいのだ。
逃げて敗北させたいのだ。殴りかかってくる所を腕をひねり上げて床に叩き伏せたいのだ。
そして、マフィーがわざとこの冒険に駆け出そうとしている小娘への教育を見せている事をルイーダは理解している。
清濁併せ持ってこそ人という者。ルイーダはマフィーの行動を女性としては嫌悪しているが言論は評価はしていた。
大陸を殆ど出た事も無いオルテガの息子を預けるにはこういう大人も必要なのだと考えていたからだ。
あまり、行き過ぎてもダメなのだろうが巡礼中の僧侶の様な振る舞いや子供だけの冒険ごっこでもダメだ。
程よく壁になり、程よく汚れており、程よく打算的で強い大人もいなければいけない。
一方ムスチナも葛藤の中、自己嫌悪に苛付いていた。素直に悲鳴も助けも呼べない様では駄目だ。
だが、こんな相手に挑発されて声を上げて小娘を演じたくはない。打算的にも自分の自尊心的にもだ。
「冒険ってのはなぁ。中々上手くいかねぇもんだ。人間ってのはバカだからよ。
魔物の脅威があっても平気で同族殺しをしちまう。魔物に協力するバカも居る。
だから、抜け目があっちゃいけねぇーんだぜ? 嬢ちゃんはどーやら賢い。
だが、賢いだけ、腕だけじゃやってけねぇー時もあるからなぁー、ほら嬢ちゃんこんなときはどーするよ?」
「離しなさい」
「悪党っぽい俺がそー言われただけで離すと思うか?」
「……意思はきちんと表明しておきたいだけです」
「そうだな。何もいわねぇと感じてるのかと勘違いしちまう」
「くっ」
重苦しい声でのやり取りは続いていく。ぎすぎすした雰囲気はテーブルで食事を楽しむほかの連中とは雲泥の差だった。
ムスチナは男に一番効果的な打撃を与えるには何かを考えており、それも決まった。
目標は指だ。的は小さいがわずかな力でも一本位ならへし折れると思う。
腕一本犠牲にしても倒す事もあると思うが目の前の男が自分に其処まで価値を感じているとは思わない。
早く治療をしないと戦士と予想される相手の商売に差し支える。
幸い相手は自分ではなく目の前のルイーダに対しての行動なのはわかる。
一矢報わなければと羞恥を殺してタイミングを狙う。呼吸の継ぎ目。
会話と意識を本命(ルイーダ)へと向ける瞬間をひたすら待つ。そして、イメージする。
男が指を庇う様にしながらも絶叫し、殴りかかる所を目の前の女主人に止められて敗走する姿を。
勿論そんな事はマフィーには見透かされていた。そこで彼の第二幕が上がる予定だ。
しかし、その夢想は一人の行動で水泡と化してしまう。
「……なんだ、チクハ?」
「んー。いえ、何と言うかほら。寂しいじゃないですか?
私だってまだまだイケると思ってるんですがこんな小さい子ばっかり目の前で触られてると」
「んー、まだまだイケるって……そろそろ厳しいというか下り坂だよなぁ?」
「ルイーダさんにも言われましたねぇ。けど、私はまだ生きてるんですよぉ?
そりゃ、おっぱいも垂れ始める時期ですし、若い子ほど肌の張りもないですけど」
「まぁ、それはそう……ってだな。俺はそういう事が言いたい訳じゃなく」
「じゃ、胸にしますか?」
「んー、あーー俺が空気読めなかったな。確かにこの場で触るべきはこの小娘ではなくお前だった」
「そうですよ? 私は女はまだ辞めてません。失礼です」
明日、齢32歳を迎える事になっているチクハはマフィーの腕を掴むと自分の尻へと当てさせていた。
ぽかーんっとする場を気にする事も無い行動に遅れて男性的な本能と共に指を動かすマフィー。
大きな尻をぐにぐにと揉まれながら、まるでそれが日常の所作であるかの様に会話を続けていく。
マフィーはチクハの事を酒場女位の意識で接し、認識していた。”そういえば、こいつも冒険者だったのか?”
とかどーでも良いことが一瞬思い返した後、ルイーダにはアピールできただろうと思ってそのまま手を引く事を決定した。
すっと肉の弾力に沈んでいた指を離し、チクハの名誉の為にその豊満な胸を一握りした後
そのまま何事もなかったかの様に奥のテーブルへと戻っていく。
ムスチナは何故力の弱そうなチクハがあの汚らしい男に撃退が出来たのか解らなかった。
身は貧弱だが魔法使いで高度な呪文が使えるのか。それとも気配を察せられないだけで高い技術を持った盗賊なのか。
何か特別な武術を会得している武道家なのか?僧侶は……それは無い。流石に無い。そう思いたかった。
しかし、そんな考えとは別に今になってようやく体と心が先ほど男から受けた羞恥や辱めを実感させてくる。
涙目で今にも震えて泣きそうな顔になりながらも、膝が笑ってその場にへたり込む前にするべきことをしようと口が勝手に動く。
「ありがとうございました。……あ、あのお名前は?」
「あ、ルイーダさん!ルイーダさん! こういう時こそ、名を名乗るほどの者ではありませんって言って良いんですよね?
やったー、まさか私、生きてる間にこの言葉が言えるとは思いませんでした♪」
「チクハ・ヴィーチアヘン。今日登録をやめて国に帰る予定の子だよ」
「チクハさんですか。本当にありがとうございます」
「え? あ、そんなぁ〜」
「私はムスチナと言います。……あ、あのその…ま、また明日来てお会いしたいです。……お騒がせしました」
「あ、え? ちょっと」
ムスチナはその性格ゆえにここは一旦宿へ帰ることを決断する。顔を赤くしたのを悟られない様に
そのまま、足早に酒場を後にする。途中、マフィーの方へときっと睨みを利かせる。
睨み付けられた当人は敵意の視線に感付いた様だがこれ以上相手にする気はさらさら無かった。
ふんっと僅かにムスチナが息を漏らした後、ドアが閉められて客の出入りを知らせるベルがからんからんと鳴る。
ルイーダはムスチナが去るのを見つめた後、カウンターを乗り出してばっとチクハのスカートをめくる。
店に居た客もその行動に驚くが、それを気にする事は無くルイーダの視線はじーーっと一部分を凝視した後、ぱっと手を離した。
ふぁさっとめくり上げられたスカートがそのまま重力にしたがって裾が元の位置へと戻っていく。
チクハ本人は恥ずかしがるという感情が欠落しているのか、そのまま手で抑える事も無くドアを見つめていた。
「もうちょっと登録削除は伸ばしておくわね。ま、最悪あの子に送って貰いなさい。
筋はよさそーだしイシス行くなら方角は間違ってないし」
「そ、そーですね。じゃ、後ちょっとだけ」
遅ればせながら冒険者としての人生のリタイアを取りやめて
この物語に深く関わる事になる女チクハ・ヴィーチアヘン(以下チクハ)について記述する。
彼女は稀代のダメ女である。32歳まで生きている事が奇跡の様な存在であった。
しかし、その奇跡を起こし続ける程度の幸運を持ち合わせていたのか
人生の殆どの運をその奇跡に費やしてきたのかも知れない。
其処にめぐってきたこの不幸か不運かは解らない人生の岐路に
彼女は何の根拠も無い淡い夢想を描き、感じ入っていた。
その頃、話の種であったムスチナは店の外で一人の伝説の勇者(予定)を盛大に投げ飛ばしたり
運命的かつ絶対適わない恋をしたりと色々あるのだがそれは次回詳しく記述する。
つづく?
以上です。ちょっと今回そのマフィーの部分を書くのに手間取ってしまい
一日遅れ+深夜投下というオチにorzでは、次は月末辺りを予定に
早ければ2週間後位に投下したいと思います。投下失礼しました。
これは続きに期待!
作者さんの思惑には外れるだろうけどチクハに萌えてしまうw
新作うぽつ!
チクハさんエロイよwww
乙
俺もチクハ大好きww
こっからどうなっていくのかwktkがとまらない
ニヤニヤ保守
そろそろ?CC氏期待保守
しっかし、雑談中も続かんなー。
新しい職人も来たのに
忘れてたがパレンタイン単発とか投下されんかな
ということで、大分日にちは遅れましたが、思いついたので無理矢理バレンタインネタ単発作ってみました。
地の文が無いシナリオみたいな感じですがまぁキャラを掴む感じになれば良いかと。
では、投下します
虚救旅団
思いつきの単発モノ「診断結果:思いつきのでんこうせっか 思いついたネタ:成立しないヴァレンタインネタ」
「俺はヴァレンタインネタを要求する」
「は?」
「あらあら」
「……何の意味があるんですか?」
「……っ!」
此処はルイーダの酒場、旅人が(ryな所である。
夜の酒場、テーブルとカウンターにはチクハ、ムスチナ、ヤターユ、そしてマフィーが飲んだくれている。
勿論、カウンターには此処の主であるルイーダが居る。それぞれのリアクションは
ヤターユは口を開けてぽかんとし、チクハはとりあえず困った顔に手を当てて決めポーズをとっている。
ムスチナは何か裏の意味があるのかと色々考えを巡らせている中、女主人ルイーダはずるっとずっこけそうになっていた。
「いや、折角2月14日過ぎてるんだぜ? それは甘酸っぱいもんが欲しいだろ、ああん?
此処はサービスサービスぅ(CV三石)してこそってもんだろ?」
「あはは、旦那、そんな酒臭い息でガンつけられても。後、そげな古いネタを」
「いや、多分SFCのDQVの年代的に被ってるに間違いねぇ!」
「えぇー、けどもう日にち過ぎてるのに何を今更って感じですよぅ?」
「……ちょっと、待ちなさい、あなたたち。まず大事な事があるでしょう」
「そうです」
「ん? なんだ、メスガキ」
「……そもそも、ヴァレンタインとはなんですか?」
「ググレ」
「あ、えーとですねぇ。好きな人にチョコレートを贈って告白する日なんですよぉー?」
「……何故?」
「へ?」
「何故、2月14日なんですか?」
「いえ、何故と言われても」
「別に想いを告げるのにその日にする必然性が見出せません。思い立ったが吉日ではないのですか?」
「え、えーと、ほらクリスマスに子作りしたくなるのと一緒でそんなに深い意味は」
「(じーーーっ )そんな不合理を大人の癖に受け入れてるんですか? 恥ずかしくないんですか?
そもそも、チョコレートを付随しなきゃならない理由すら解らない。明らかに得するのは御菓子屋さんだけじゃないですか。
お菓子とは別に何か告白を手伝うものではなく、午後3時や食後の楽しみであり、あの甘いひと時のために存在するモノです。
……あああっ! それをそんな抱き合わせで流行を作るなんて! 不純です! 不潔です! 無粋です!」
「……うぇーん、ルイーダさーーん! ムスチナちゃんが正論で苛めるぅーー!
むしろ、言ってる本人が無粋なのにぃーー! お祭りは楽しんでこそでしょー!」
「ああっもうっ! 32のおばさんが泣きつくな!」
「えぇー、告白やなんてぇ……う、うちはそんなぁ、いややわぁーほんまに」
「……だー、あなたたち待ちなさい!」
「そうだそうだ、俺を放置するな。つか、俺の扱いが本編でもこれでも三下過ぎてちょっと泣けてくるぞ」
ルイーダの一喝で場が静寂に包まれる訳でもないが、とにかくその場に居るメンツは一斉に彼女の方を見た。
「そもそも、あなたたちはまだ顔見せが終わったばかりでキャラもふわふわしてるし、出てないキャラ半分以上居るし
まだ、告白も何も無いでしょう……第一ね! あんたらバレンタインデーをなんだと思っているの!」
「……えぇ? 女の子がチョコに想いを込めて告白するドキドキイベントの日じゃないんですか?」
「女の子って年ちゃうやろ、おばはん(ぼそっ)」
「……うっ、まだ本編では顔をあわせてないあなたまで苛めるんですかぁ!?」
「ま、そういうハズい認識がこの国では多いけど、まぁ世の中風習なんてそれぞれだからね。
とりあえず、起源はね。バレンタインさんが処刑された日」
「命日なんですか!? まだ、宗教の開祖の聖誕祭とかなら解りますが、人の死んだ日に祝い事とは不謹慎な」
「敵対宗教だったら祝日にはすると思うがな」
「違うわよ! えーとね、そのバレンタインさんが所属していた宗教がまだメジャーじゃなかったのよ。
で、要するに昔ね。女の人があんまし男の人と喋れなかったり、隔離された時代があったの。
その中で、2月14日はくじびきで男女がいちゃつける祭日があったのよ」
「くじびきてあんた。そな大雑把な」
「ふん。今の恋愛形態が出来たのは色々世相が変化してからだからな。昔はそんなもんだ。家同士とか跡継ぎとかな」
「で、まぁそれらで結婚するケースが多かったんだけど、その時の兵隊さんは色恋は士気が落ちるってその時の王様が
男女交遊を禁止にされんだけど、このバレンタインさんは影で結婚させてたのね」
「で、それがばれてわざわざその祭日にあてつけで処刑されたと」
「国の方針に逆らったと言うのはあまり褒められる事ではありませんね。
まぁ、そんなの禁止してどうにかなると思ってる王様もおろかですが、兵隊は国と王様の命令を遂行するのが仕事ですし」
「えー、うちはロマンチックな人やと思うけどなぁ。恋を応援するおっちゃんってええ人やん?」
「そうですねぇ。それが今のこの習慣へと繋がった感じなんでしょうしぃ」
「ま、その王様もそのバレンタインも死んだ人間だし、とやかく言うもんじゃねーさ。
今更ウダウダ言ってもその死んだ奴が何かしてくれる訳じゃねぇし」
「……ふむ。で、結局私達にバレンタインをやれといっても出来ないと思いますが」
「適当にチョコ作ってキャッキャウフフやってりゃ良いだろ。むしろ、それが需要だろ?」
「いえ、何かそれは……いっそ、バレンタイン氏に哀悼の意を捧げれば良いのでは?」
「うーん、宗教の活動方針に乗っ取った自業自得だし、私達はその宗教を信仰してる訳じゃないしねぇ」
「チョコを渡す渡さない、告白だなんだと言うよりはよっぽど健全です」
「いや、その発想はとても不健全やと思うで? 知らん人を勝手に弔うとかもどーかと思うし」
「しかも陰気だな。パッとしねぇ」
「けどぉ、それをいったら知らない人の誕生日で大々的にクリスマスとかやっちゃってますし
神様や開祖の生誕を祝ったり、死を悼んだりするのはお祭りの基本ですよぅ?」
「……ええい、もう良いです! どっちにしろ私はバレンタインなんて知りません!」
「あぁーあ、ムスチナちゃんが拗ねちゃいましたよぅ? どーしましょヤターユさん?」
「う、うちの所為やの!? むしろ、この兄さんが言い出した事やし、チクハの姐さんかて」
「責任転嫁して自分に非がないと思い込んでりゃ楽だぜ人間は。俺は開き直るけどな」
「私は誰の責任とかよりもムスチナちゃんのご機嫌を直したいですねぇ。やり方は解りませんけど」
「うぅー、ひどいやん。うちは、うちはぁ」
「ま、土台無理な話だったわね。このメンツでこんな話をするなんて。まだまだ、熟成が足りないのよ、お酒と一緒でね」
「来年は良いお話になると良いですねぇ」
「続いてればの話やけどねぇ」
「……ふむ。来年になれば、考えや見方も色々変わるかもしれませんね」
「では、お後が宜しいという事にして呑み直しだ」
「はーい……って、なんであんたが仕切ってるのよ!」
はーい……って、なんであなたが仕切ってるんですか!」
はーい……って、なんであんさんが仕切ってるんや!」
「ちゃんど御代を払えば、何したって、誰が仕切ったってかまわないわよ」
「ちゃんちゃんっと。ま、そんな感じでぇバレンタインでしたねぇッという事で一つ。おしまいですよぉー」
ほんとにバレンタインネタ来てるよwワロタ
ニヤニヤ
突発でお疲れ様でした
おお!リクエストしたもんだがGJ!単発お疲れさま
本編に掌編と、投下お疲れ様です。
お名前決まったんですね。
す、すみません、話題が遅くて。
ジツはあの後、すぐに新スレ立ってたんですね。
とゆうか、最後に書き込んだの先週くらいの感覚なのに、
2月のはじめだったのか。。。仕事してた記憶しかない。。。
今のところ、4月くらいから一気にヒマになる予定です。
たつきはピンチですが、投下には吉といきたいものです。
こっちは4月まで工場が止まって週休4日だぜ・・・
冬眠しながら気長に待ってるよ><!
ほ、保守せねば
(・3・)アルェー
保守 ←微妙に体っぽいw
どうも、えーと早ければ5日。遅くて6日には4話投下できそうです。
後、前回次回予告がまだ未定気味だったので入れられなかったので今予告を。
次回は
虚救旅団
序章の四人目「診断結果:不幸な運命のしあわせもの 運命付けられていた職業:不幸にもゆうしゃ」
の予定です。ではでは、失礼しました。
ひな祭りが終わってしまった!
次は3/14のホワイトデー、その次はいよいよ4/4のおかまの節句か・・・
時間が空いたので投下失礼します。こんな朝方ですいませんorz
虚救旅団
序章の四人目「診断結果:不幸な運命のしあわせもの 運命付けられていた職業:不幸にもゆうしゃ」
アリアハン。勇者オルテガを輩出した国。理由は良く解らないが昔からの慣習として
ここが旅立ちの街とされていた。周囲の魔物が弱い事と素人でも扱い易い武器防具が売られており
何より旅人が集まるルイーダの酒場は常に旅人が訪れてパーティを募っている。
それは地政学的にアリアハンは他の国を攻める必要が無い島国なので人が偏っても問題ないだの
各国はそれぞれ別の人材ルートで兵士などを募っていたなど様々な推察が出来るが詳しい事はわからない。
ただただ、揺るがない事実としてアリアハンは旅立ちの街であり、世界中の殆どの人がそう認識していた。
ここでルクスが登場する。彼のフルネームは記述してはいけない。なぜなら、彼への枕詞は
”勇者オルテガの息子”で決まっているからだ。下手な苗字など教えたら皆混乱する。
彼の父オルテガはあまりにも有名になりすぎた為、彼の母親も勇者オルテガの妻、彼の祖父も
勇者オルテガの父親と認識されている。彼は残念ながら気が狂っていた。
常にあはあはと笑っている。時たま、えへえへとも笑っている。大抵笑っている。
だが、誰も彼もこの異常な少年の気が狂っているとは思わなかった。
なぜなら彼は勇者オルテガの息子なのだ。誰が勇者オルテガの息子が狂っていると思うだろう。
道具屋の親父の言う。彼はきっとこれから旅に出られるという事が楽しくて楽しくて仕方ないのだと。
防具屋の女将は言う。きっと、父親が死んだ事で気を使わせない様に必死に取り繕っているのだろうと。
宿屋の一人娘は言う。旅が怖いし不安なんだわ。けど、それを少しでも紛らわそうと無理に笑っているのよと。
ルクスの母親は言う。旅に出て私が寂しい時に笑った顔が思い出せる様に常に笑っているのよと。
本人に何故笑っているか聞いた者はアリアハンの住人では一人も居ない。
前に近所の子供が聞こうとしたが親に止められていた。
彼ほど不幸な人物が世の中にどれだけいるだろうか? 彼は勇者オルテガの息子だから勇者になって
世界を救わなければいけないのだ。16歳の誕生日に必ず旅に出て行かなければいけないのだ。
誰も彼の意思など気にせずに断行される。母親は当然周りからの期待に応えてそういう風に育ててきたし
本人にもそう告げている。武芸の稽古もさせていた。時折アリアハンの兵士や旅の戦士に剣の腕を見てもらった。
おおむね良い返事を聞いていたので恐らく才能があるのかもしれない。
だが、ルクス本人はそう思っていなかった。もしかしたら、自分は全く才能が無いのかもしれない。
もしかしたら、自分は世界を救えないのかもしれない。もしかしたら、自分は道半ばで死ぬのかもしれない。
誰も彼も期待しているけど一体何の根拠があるのだろう。父が有名な勇者だからか? おかしな話だ。
ならば、人々に慕われた王の息子は人々に慕われる王子で将来必ず人々に慕われる王になるのか?
ルクスの自我と自信は一瞬たりとも持つ事が無く、ゲシュタルト崩壊を起こして跡形も無く霧散する。
だから、彼は常に笑っているのだ。むしろ笑う事しか出来ないのだ。時折ふと正気に戻る事もあるが
すさまじい絶望とプレッシャーに泣き崩れそうになる。だが、そんなものを見せてはいけないと判断し、また正気を失う。
恐らく生死を窮する貧困、病気、状況という特例を除けばこのルクスの件はかなりの不幸な部類だと推測させる。
しかし、彼は勇者の父親であり、これから名声を手にいられる可能性があり
各国の王からも手厚い援助も約束されているのでとてもしあわせものだというのが不幸な事に周りの一致した認識である。
そして、彼は不幸にも出会ってしまう。勇者になるかもしれない少女ムスチナと。
それは彼が剣の稽古を追えて、家へと帰る途中。彼の進行方向の先の右手にはルイーダの酒場があった。
彼の進行方向の左手には自宅があった。 ルイーダの酒場への扉が開く。一人の少女が出てくる。顔が真っ赤だ。
ムスチナはルクスの来た方向の宿屋へと向かっていた。ルクスは自分の顔を見てより一層顔を赤くする少女を見て不思議に思う。
彼が自意識過剰であり、自惚れており、ナルシストだった場合、自分に一目惚れしたのかと勘違いしただろう。
だが、彼にはどんな好条件のシチュエーションでも常に懸念が残る。自分は勇者オルテガの息子なのだ。その噂は広大に広がっている。
もしかしたら何らかの情報か伝を経て(例えば、アリアハンの人に聞いたりして)自分が勇者オルテガの息子だと相手は知っている
という可能性を考慮すると絶望して正気を失ってあはあはとえへえへと笑っている。
ルクスのここ数ヶ月の周囲は異常だ。16歳の誕生日を明後日に控えているのをかなりの人数に知れ渡っている。
阿呆らしい。何故、人様の息子の誕生日など知らなければいけないのだ。
理由は解っている。自分が16歳の誕生日の時に旅に出るからだ。自分とパーティを組みたくて尋ねてきたり
また、母親に金銭や贈り物として武器防具を渡す物も後を絶えない。何より悲しいのがそういった恵みで
一部生活をしている節のある自分の家がとてつもなく情けないと感じていた。
それに対してムスチナは前話、マフィー相手に受けた陵辱と色々な感情が逆巻いてしまっていて一刻も早く独りになりたかった。
それが不幸にも常に笑顔を絶やさないルクスと出会ってしまう。彼女は伝説の勇者オルテガの息子など最初から興味は無かったし
目の前の薄ら笑いを浮かべている男がその当人だという意識や疑念はさっぱり無かった。
だが、それ故に目の前の男が非常に不愉快だった。ムスチナは考える。
何でこの男は笑っているんだ? 私を見て笑っているのか? この男は別にさっきの酒場でのやり取りを知らない筈だ。
窓から覗いていたのか? いや、来る方向からしてそれはない。じゃあ、何故笑っているんだ。私の顔が赤いからか?
女が顔が赤い事がそんなにこの男にとって面白いのか。私が顔が赤いという事実を肴にこの男は一体何を妄想しているんだ?
段々彼女は男に対しての不快感を募らせて、遂には傍から見ればそれは殺意に等しい気迫を放っていた。
それに対してルクスは目の前の少女が今にも殺さんとせんばかりの形相でじっと自分の顔を見ている事に正気を取り戻して戸惑う。
そういった、疑念や探る様な視線を受けた事が無い訳ではない。旅人が勇者オルテガの息子がどの程度のものかと
探る様に視線を向けられた事はある。えへえへとあはあはとその頃から笑っており
それが言い知れぬ恐怖を相手に与えていた事を当人は全く知る事もないが
それらの経験を経ている彼ですらこの邂逅はあまりにも異常だ。
それに対処する為に脳みそがゲシュタルト崩壊を起こす事を許さない。生命的な危機に陥っている可能性もある為だ。
そして、また彼はあまりにも強く貫かれる視線にドキドキと胸を高鳴らせていた。好意を含む視線を受けた事がない訳ではない。
何せ、勇者オルテガの息子だというだけで将来結婚してくれだの、パーティを組んでくれだの、付き合ってくれだの
子供が欲しいだの、息子にならないかなどと訳の解らん事を言い出す老若男女を何人も見ている。無論、嫉妬やらやっかみもあった。
だが、これは彼にとっての初体験だ。何が悲しくて顔を赤面しながら殺意を向けなければならないのか。
さっぱり想像が付かない。それゆえの興味、自分が何故こんな感情を向けられているか知る為の探究心。
男が女に興味を持つ事には性的だったり、性別による性格の違いの探求だったりと色々あるが恋愛経験が無いルクスにとって
これは初恋に等しかった。それほどまでに自我を維持しつつ他者を観察する事など物心ついてから今までなかったのだ。
「あ、あのお嬢さん? ああ、そう君、そうそう君であってる。時間はある?」
「……なんですか?」
「あ、えーとね。その……あー、こういう経験がないからその……あー何を話して良いのか」
「……失礼します。急ぎますので」
ルクスは勇気を振り絞ってムスチナへと声を掛ける。所謂ナンパだ。ただ、彼は何を言って良いか解らない。
今までは自分から最後まで何かを言ったのは恐らく食事のリクエストと買い物くらいだったかもしれない。
大抵は相手にあれやこれやといわれて自分の言葉を最後まで完遂した経験が極端に少なかった。
行き成り声を掛けられたムスチナも、男からこんな風に声を掛けられたことは無かった。
何せ、遠目から見てムスチナは少年の様にも見えたし、彼女を相手にしようとしう少年は生まれ育った街には居なかった。
聖域だと言わんばかりの潔癖さを誇った彼女に気安く話しかけられる男など地元の神父くらいなものだった。
ムスチナは男が声を掛けてくることが不快だった。その不快に感じる面を下げて、更に会話までしようというのかこの男に驚愕した。
もはや疑念から殺意への変化を更に飛躍させ、視界からシャットアウトしたくて仕方なくて適当に言葉を繕い宿へと急ぐ。
それに対してルクスは必死だ。この邂逅を逃す事は、こんな運命は二度とないのではと思った。
知らない顔だ。旅人なのかも、商人の連れなのかも、何かを伝令を受けた他国の兵士なのかも。
様々な意味の無い推測が浮かぶがそれを確かめる間もなく目の前の少女は去ろうとする。
困った、非常に困った。ルクスがここまで真剣に何かを考えて困るのは生まれて二度目だ。
一回目は確か物心付いて自分が16歳の誕生日に旅に出て世界を救う事を知った時以来だ。
取り合えず時間が欲しかった。だから、彼は引き止めようとした。すれ違おうとする相手の袖を掴もうと手を出す。
「あ、あのちょっと待って」
「……黙れ、触るな、去れ」
支援
失礼。連投規制にかかってしまいました。
少ししたら続きはなんとかします
41 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/03/06(金) 10:46:28 ID:m+iANebs0
陵辱w
支援?
次の瞬間、ルクスの視界は宙を舞う。手を伸ばして服を掴んだ瞬間にムスチナは手を取らえて足を引っ掛けて
そのまま、勇者オルテガの息子だと後に知る事になる男をぶん投げた。3つの端的な命令もおまけに叩きつけた。
武道家からの修練の一環で男に絡まれたときに簡単に投げ飛ばす方法を習っていたのだが
まさか、こんなすぐに使うとはムスチナ本人も思っていなかった。華麗に宙を舞うルクスの肉体はどさりっと
石畳の地面へと叩きつけられる。それは結構な音がして、なんだなんだと大人達がぞろぞろと少し興味の視線を向け始める。
ムスチナは取り合えず立ち去ろうとするがルクスはそれを許さなかった。地面へと叩き伏せられたまま
手を伸ばして去ろうとするムスチナの足を掴む。無我夢中で掴んでいのだが、これが更なる不幸を呼ぶ。
最早とっとと部屋に篭りたいムスチナの足早に進む予定だった足を突然とられた結果、彼女はそのまま板の様に
びたーーんっと地面へとずっこけて顔面を強打する。丁度、周囲の大人たちの視線が合わさった時だったので
どっと笑いが起きる。無関係な他者からの端的な感想は良く解らんが物音をして振り返れば少女が奇跡的なずっこけ方をした。
これは喜劇なのかと周囲は目を疑った。これが更なる不幸を産む。
さて、笑われたのはムスチナだ。もはや彼女は憎悪と憤怒と殺意の塊と化していた。
恐らく、魔王が今の彼女を見たらスカウトを考えるかも知れない位の形相と気迫。ムスチナはゆらりと立ち上がる。
自分の足を掴んでいたルクスの手を振り払う。彼も丁度起き上がろうとした時、彼女の顔を見る。
さぁーーーっと血の気が引いて、ルクスの表情は再び正気を失ってあはあはえへえへと笑う顔に戻っていた。
もはや、ムスチナを止める理性など一欠片も残っていなかった。大きく振りかぶり、その笑う男の顔面に拳を叩き込む。
一瞬にして周囲の大人達の空気が凍る。敏感な子供はムスチナの殺意だけで泣きそうになっていた。
そんな空気など視界に入らないムスチナはそのまま相手の首根っこを掴む様に右手を突き出してそのままルクスを押し倒す。
「お……お、おおおぅっお前に!」
「あははははははっ」
「笑われる為に!」
「あははははははっ」
「私は!」
「あははははははっ」
「赤面してた!」
「あははははははっ」
「訳じゃ!」
「あははははははっ」
「ないんだからぁああああああああああーーーーー!!!」
訳 が 解 ら な い 。
ムスチナはマウントポジションを取った後、数ヶ月の船旅で鍛えられた両腕をフル稼働して、ルクスの顔面を殴り続ける。
本能的に両腕でガードするルクスを尻目にその乱打は止まらない。
みしみしと骨がきしみそうになる程の一撃を絶え間なく言葉と共に続けている。
ルクスが正気だった場合、なんてひどい事を相手にしてしまったのかと詫びていただろう。
ルクスが正気だった場合、女とはこんな重い打撃を繰り出せるものなのかと驚愕するだろう。
ルクスが正気だった場合、暴力はいけない。そして、こんな痛いことは止めてくれと声を上げただろう。
ルクスが正気だった場合、何で自分がこんな目に合わなければと不幸を嘆いていただろう。
だが、残念ながら彼は気が狂っていたのであはあはえへえへと笑い続けており
ムスチナはその笑顔を燃料に休むことなく、両腕を稼動させていた。
それを見ていた大人達がようやくその異常な事態を止めなければいけないと理解した。
既にそれを見ていた子供は大泣きして母親に泣きついている。
大人の男達が数人束になってようやくムスチナの豪腕を抑え込む事が出来た。
宿屋の一人娘は先ほどまで花にやっていた桶の水をそのままムスチナへとぶっ掛ける。
それでもムスチナは止まろうとしない。丁度その場に居た彼女と同じ船でアリアハンに来ており
尚且つ自分が彼女と同じ年頃の時に使っていた稽古着をプレゼントした
女の武道家が彼女の首筋を手刀で打ち込み気絶させる。これにより事態は一旦落ち着いた。
ルクスとムスチナ。二人の出会いは最悪だったが当然ながら物語の関係上
二人はこれから何度も逢うことが運命付けられている。ああ、彼はやはり不幸なしあわせものだったのだ。
次回 序章の五人目と六人目「診断結果:人生経験豊富詐欺なせけんしらず と 鬼畜でバイオレンスで妹系なおおぐらい
詐称された職業:魔女過程のまほうつかい と 全てを破壊する程度のぶとうか」
以上です。途中規制で空いてしまってすいませんでしたorz
後2〜3話前後で序章が終われば冒険が始められる予定です。
では、投下失礼しましたー
新作おつかれさま。
楽しませて頂きました。
話ずれるけど
5人目と6人目の診断結果と職業のところ見て
某東方の図書館引きこもりと地下室閉じこもりを想像してしまった
相当毒されているようだ
あと勇者君南無。
おおっと、いつのまに投下されてたんだ?乙乙。
勇者のキャラ設定にわろたw
オツウ!妹系キタコレ
保守しとこう
このスレは素晴らしい。
まとめサイトで初代1氏の作品に激しく萌えて、
ホントは好きだけど素直になれない、ちょっと勝気な女の子萌え〜
がツンデレだと知り、自分がツンデレスキーであることを知った。
そして初代1氏から、YANA氏、CC氏へと続く作品を読むうち、なんか自分も書きたいという思いが
湧き起こってきた。
…ということでツンデレホイミン女人化SS書いたのだが、投下してよろしいか?
明日の夜から行きたいと思うのですが…
ちなみにホイミン女人化と書いていますが、自分はゲームやったとき人間になったホイミンは
女だと素で勘違いしておりました…orz
>>49 別に誰も止めないし歓迎だと思うが
最近始めた人は眼中に無しか。世知辛い世の中だぜ
>>49だけど投下します。
実はもう完成しています。容量・レス数とも100をちょっと超えるくらい。
一気投下は無理なので、適当に千切っていきたいと思います。
>>50 書き始めたのはもう一年くらい前なんだよ〜orz
楮書生氏には失礼かと思ったけど、書き始めた動機に絡めると嘘になちゃうから・・・
もちろん楮書生氏の作品を楽しみにしています。
俺のと違って長編になりそうだから、この先の展開にwktk!
あたしの名前はホイミン。
気が付いたときには、すでにこの森にいた。
ここに住み着いてからどれくらいの時間が経ったんだろう。
今日も森の小道を歩く。
透き通るような、長いあたしの青い髪を、さわやかな風が撫でる。
白地に青とピンクのラインの入った薄手のローブが、あたしの歩調に合わせて、
日の光を、いろんな表情に変える。
ただ歩いているだけなのに、なぜこんなに楽しいのだろう。
なぜこんなにウキウキするのだろう。
自分でも理由はわからない。
木漏れ日が描く地面の斑模様は、何処まで見ていても飽きない。
いつも通りなれた道でも、歩く度に小さな発見がある。
しかしこの日あたしは生まれて初めての大発見をしてしまった!
「かたじけない・・・」
ピンクの悪趣味な鎧を着た男が、慇懃に頭を下げる。
派手な鎧に反して、表情は朴訥な印象を与える。
森の中で行き倒れになっていたのを、あたしが家まで連れてきたのだ。
「べ、別に当然の事をしただけよ!」
どう答えるのが正しいのかわからず、ついこんな物言いになってしまった。
そう。あたしはずっと一人で過ごしてきたので、人と触れ合うのに慣れていない。
2人っきりで誰かと話すなんて、あたしにとっては大事件だ。
「う・・・うむ、まことにかたじけない」
男はなおさら恐縮して小さくなる。そして自分の荷物をまとめ始めた。
「いや世話になった、御礼は改めてさせて頂く。今日のところはここで。」
あたしは慌てた。初めて家に来た人。いろいろ話をしたいと思ったのに、あたしのつたない
言葉のせいで、居心地を悪くさせてしまった。何とか引き留めようと捲くし立てる。
「ちょっと待ちなさいよ!あなたボロボロじゃない!あたしホイミ使える
からちゃんと直してあげるわよ!お腹も空いているんでしょ!
ご飯作ってあげるから、食べていきなさいよ!」
「いや、しかし・・・」
「・・・・・・いいから休んでいきなさーい!!」
有無を言わせぬ態度に、男は呆然とあたしを見上げるだけだった。
男はライアンと名乗った。
ここら一帯を治めるバトランド王国の戦士をしているらしい。
口髭を生やしているのでおっさんかと思ったら、まだ20代中盤だそうだ。
ここ最近、子供が行方不明になる事件が多発しているので、その調査を行っているらしい。
その途中この森で迷い、体力を失った所で、魔物に不覚をとり倒れていたという話だった。
鈍くさっ。 あたしでもこの辺の魔物は簡単に逃げ切れるのに。
「でも一人でそんな危険な調査を行わせるなんて王様も酷よねぇ
大体あんたみたいなタイプは、調査とか推理とか向かないと思うけど・・・」
言ってしまってからハッと口を押える。
軽口のつもりがライアン本人とその御主君様を馬鹿にしたような言葉になって
しまった。
やっちゃったと思ってライアンの顔を見てみると、特に気にした様子も無く
「たとえ困難な試練であれ、王命をまっとうするのは戦士の務めだからな。」
と誇らしげに言った。
ほっとすると同時にこう思った。(やっぱりこの人鈍いのかな?)
その他にもいろいろ聞いた。
家族がいないこと。小さな頃から王宮で戦士として育てられたこと。
奥さんか彼女は?と聞いた時は少し動揺しながら、でも平静を装って
「いない」と答えたのが印象的だった。
こりゃ女性経験少ないか皆無なんだろなーと思うと同時に、
心の奥底でなぜかくすぐったいような気持ちが湧き上がった。
ライアンの身の上を大体聞き終わると、次はあたしの番になった。
とはいってもライアンから聞いてきた訳ではない。普通、うら若き乙女がこんな森で一人暮らし
をしてたら、興味わかないのかなと多少憤慨しつつ、自分から話し始めたのだ。
気付いたらこの森で暮らしていたこと。それ以前の記憶が無いこと。
ここから西にあるイムルの村にはたまに行くこと。
買い物の時商店のおばさんとかと話したり、無邪気に遊ぶ子供たちを
遠くから眺めるのがとても楽しいということ。
ライアンはうんうん相槌を打つだけで、特に言葉を挟んでくる事はなかったが、これが聞き上手
というのだろうか、あたしの言葉は次から次へと出てくる。
人にじっくり話を聞いてもらえるのが、こんなに嬉しい事だとは思わなかった。
食事も終わり、すっかり話し込んだせいで随分夜も更けてしまった。
「じゃあそろそろ寝ましょうか」
と聞くとライアンは何か動揺した様に周囲を見わたし始めた。
「どうしたの?」
「いや私はどこで寝ればいいのかと・・・」
「ベッドで寝ればいいじゃない」
「いやしかし、それではホイミン殿の寝る場所が無くなるではないか」
「え?あたしもベッドで寝るわよ?」
「な・・・!しかしここにベッドは一つしか・・・」
ここでライアンの顔が少し赤くなっているのに気付いた。
その顔を眺めていると突然、なぜライアンがこのような反応をするのかに思い至って、
あたしの顔が破裂するかと思うくらい熱くなる。
全然意識していなかったけど・・・
あたしも・・・本などの知識だけしか知らないけど・・・
愛し合う男と女が夜にベッドに入ると、裸になって・・・その・・・ニョモニョモするらしい・・・
「べっ・・・別に愛し合ってないしっ!」
「はぁ・・・?」
「とにかく早く寝なさいよ!」
そう言ってライアンをベッドに突き飛ばす。
何言ってんだあたし、何やってんだあたし。まるであたしが襲うみたいな・・・
でも混乱したあたしの暴走は止まらない。
思いっきりベッドから毛布を引っぺがす。
当然、上に乗っていたライアンはひっくりかえる。
「はい!早く隅っこに寄る!」
ライアンはあわててベッドの隅に体を寄せる。
あたしはランプを消してから勢い良くベッドに飛び込み、毛布をかぶった。
「それじゃお休みなさい!」
「う・・・うむ。お休みホイミン殿」
そして夜が明け・・・・・・って眠れるわけなーい!
あたしのすぐ後ろでは男が、いや野獣が牙を研いで狙っているのよ!
ちょっとでも変な動きをしたら、ぶっ飛ばしてやるんだから!
あたしは身を固めて、背後に全神経を集中していた。
しばらくすると、ガサリと後ろで身じろぐ音がした。
キタッ!あたしは拳を構えて後ろを振り向く。
・・・そこには、無防備な顔をさらして寝息を立てているライアンがいた。
こ、こいつ、あたしがこんだけ意識しているのに。
あんただってさっきは少し意識していた様子だったのに・・・
あたしは毒気を抜かれたように、呆然とライアンの寝顔を眺める。
このまぬけな寝顔・・・でも見ているとなんだか安心するような気がする。
じっとライアンの顔を見つめていると、あたしにも眠気が襲ってきた。
「今日はいい夢見れそう」
小さくつぶやくと、あたしは静かに目を閉じた。
いつもの森を歩く。
でも今日は2人。他愛のない話をしながら歩くのは楽しい。
ライアンは送らなくていいと言ったのだが、あたしが無理を言って付いてきたのだ。
だってこいつ、また迷って野垂れ死にしそうだし。
それに、どうしても言っておきたいことがあった。
(また、遊びにきてね)
簡単な言葉だ。でも言うタイミングが掴めない。
どうでもいい話は出来るのに、軽口は叩けるのに、一番言いたいことが言えない。
木々の隙間からのぞく空は突き抜けるように青いのに、あたしの心はだんだん
霧が濃くなっていくようだった。
そうこうしている内に、森の出口まで来てしまった。
「本当に世話になった。御礼は改めてさせて頂く。」
御礼をするということは、またあたしを訪ねて来るということだ。
でもあたしは御礼なんか要らないし、それにその物言いが形式的でイヤだった。
だからちゃんと言わないと・・・
「あ・・・あの・・・」
「?」
「そ、その・・・また・・・・・・また行き倒れないように気をつけなさいよね!」
ライアンは一瞬あっけに取られた顔をしたが、すぐにいたずらっぽい笑みを浮かべて、
「うむ。ホイミン殿に迷惑をかけたら、また怒られてしまうからな。
気を付けよう。それでは失礼する。」
そう答えてから、振り向いて歩き出そうとする。
ああああそうじゃなくて、言わないとちゃんと言わないと・・・
「ちょっと待ってよ!」
ライアンがもう一度こちらを振り向く。
「だから・・・!また・・・ま・・・」
どうしても面と向かって言えない。頭から湯気が出そうだ。
その時ライアンの背後でガサリと黒い影が動くのが見えた。
「どうしたのだ?ホイミン殿。」
「ま・・・ま・・・まっ魔物よ〜!!」
現れたのは、きりかぶおばけとバブルスライムだった。
きりかぶおばけは、力が強いが動きはそんなにすばやくない。
バブルスライムはちょこまか動き回るのは得意だが、直線的な動きは苦手だ。
簡単に逃げ切れる!一瞬で判断しライアンに声を掛けようとそちらを見ると。
「ぬおおおおおおおお!!」
すでにライアンは剣を振りかざし、魔物たちに突っ込んでいた。
「ちょっとなにやってんのよライアン!早く逃げない・・・と・・・!」
最後まで言葉をかけることが出来ずに、あたしはその動きに息を飲んだ。
魔物たちに突っ込んだライアンが目にも見えない速さで剣を一閃させると、
バブルスライムは一瞬で真っ二つにされていた。
しかし剣を振り下ろした時に出来た隙に、きりかぶおばけが攻撃を仕掛ける。
明らかに攻撃は当たっていたのだが、ライアンは気にした様子も無く
返す刃で、きりかぶおばけを一撃で仕留めてしまった。
この人滅茶苦茶強い・・・
さるくらった自己支援
この人滅茶苦茶強い・・・
あたしが魅入られたようにボーッとしているとライアンが声を掛けてきた。
「大丈夫か?」
あたしはハッと我に返る。
「え?別にあたし何もしてないし、見てただけだし・・・」
「そうか、それは何よりだ。」
そう言ってライアンはあたしの肩を軽く叩く。
その時ライアンの右の二の腕に痣が出来ているのが見えた。
さきほど、きりかぶおばけに攻撃を受けたところだ。
「ちょっと!怪我してるじゃない!治してあげるから見せてっ!」
「なに、こんなもの怪我の内には入らない」
「いいから早く見せなさい!」
ライアンは苦笑いを浮かべながらも、腕をあたしに向かって差し出した。
あたしはすぐにホイミを唱えた。
呪文をかけ終え、腕の様子を確認しながらつい愚痴のように呟く。
「なんで逃げないのよ。魔物をいちいち相手にしてたら身が持たないでしょ」
「戦士が敵に後ろを見せるわけにはいかぬ」
ライアンはさも当然という様にこう言った。
だがいくら強くたって、戦い続ければ少しずつダメージは蓄積してくる。
今の戦いがいい証拠だ。そして必ずいつかは体力が尽きる。
あたしは何故だか、だんだんイライラしてきた。
(なにそれ、プライド?命のほうが大切に決まってるじゃないの!)
怒鳴り散らしてやりたかったが、それをするとライアンの今まで生き方を
否定することになってしまいかねないので、何とか堪え、別の質問をした。
「薬草たくさん持ってるの?」
「いや、切れた」
こいつこの先どうするつもりだったんだろう・・・
「毒消し草は持ってるの?」
「いや、無い」
ここらの森やその周辺では、毒をもった魔物が生息している。
いくら強い戦士でも町から遠く離れた所で毒に冒された時、それを消し去る
手段が無ければ、死を待つのみである。
しかしライアンはそれがどうしたと言わんばかりの間抜けヅラをさらしている。
・・・あたしの訳の分からない怒りは頂点に達した!
「・・・あたしも付いて行く」
「へ?」
言葉の意味が伝わらなかったのか、ライアンは呆けた返事をする。
「・・・だからあたしも一緒に付いて行ってあげるって言ってんのよ!!」
今度は意味を理解しライアンは慌てて否定した。
「いや、この危険な調査にホイミン殿を連れて行くことは出来ぬ」
だがあたしは止まらない。お構いなしに捲くし立てた。
「あんたなんかほっといたら、すぐ野たれ死んじゃうんだから!
大雑把すぎるのよ!どうせ何も考えてないんでしょ!
あんたなんかに一人旅は無理なの!今まで生きていたのが奇跡よ!
あんたはあたしが見てないと駄目なの!死んじゃうのっ!」
言いたい事をぶちまけて、ハッと冷静になると場の空気が凍り付いてるのに
気付いた。
ライアンは困ったような、悲しそうな顔をして無言であたしを見つめている。
そして興奮しすぎたせいか、自分の頬に涙が流れているのを意識した。
「ねえ、付いていったら駄目?あたしだって回復役くらい出来るし」
ライアンはなおも無言だ。断る言葉を探しているのだろうか。
「あたしだって、子供が行方不明になってるなんて事件聞いたら黙ってられない。
助けてあげたいと思うし、子供を攫っている奴がいるならそいつらは許せない。
ねえ、一緒に連れてって!二人で事件を解決しましょう?」
あたしは真剣な目で、ライアンを見つめる。
ライアンはあたしの目を見返しながら、しばらく考え込んだ後に、やっと口を開いた。
「ホイミン殿の気持ちはわかった。しかし、私には報酬を払うあてがない・・・」
ここで報酬の話が出てくるとは、あたしも虚を突かれた。
ライアンは、よほど生真面目な性格なんだろう。少し可笑しくなる。
「別に報酬なんていらないし・・・あっそうだ!今回の調査が無事終わったら
ライアンの故郷、バトランドを案内して。報酬はそれでいいわよ。」
いまだライアンは迷っているようだったが、一応決心したらしい。
「・・・あいわかった、それでは協力をお願いする。共に参ろう。」
そう言って、右手を差し出す。
あたしはその手を握り返し、最高の笑顔で答えた。
「うん、一緒に行こう。これからよろしくね♪」
というわけで、いきなり初夜(笑)編と旅立ち編でした。
エアエッジだから回線切れば、さるさんも怖くないぜ!
ではお休みなさいませ〜
乙でした!
王道なのにこのスレでは毛色の違うツンデレがイイ!
しかし、ホイミンw
投下乙〜!
初夜編ってwww続きが楽しみだwww
レスありがとうございます!
スルーされなくて良かった・・・
では続き行きます。
でも今日は電波の調子が悪いので、うまく投下出来るか・・・
もうこんな田舎イヤじゃ!
あたし達は、まず西にあるイムルの村に向かった。
この村で子供消失事件が頻発しているらしい。
あたしもたまに買い物に来る村だ。前に来たときはそんな事件は起きていなかった。
「イムルの村へようこそ!」
いつもと同じお兄さんが迎えてくれる。
そういえばこのお兄さんは、いつもここにいるけど何の仕事をしているのだろう。
もしかして村の入口で、訪れる人を案内するのが仕事なのだろうか。
特に観光の目玉もないし、訪れる人もそれほど多くないこの村で?
うーん。だとしたら羨ましいかぎりの税金ドロボーだ。
もしあたしがこの村に住むことになったら、ぜひ替わりにやらせてほしい。
男の人よりも、あたしみたいな可愛い女の子のほうが良いでしょ?
そんな愚にもつかぬ事を考えている間に、ライアンとお兄さんの話が
終わったようだ。
「学校の校長先生に事情を伺う」
どうやら学校の校長先生が、事件について一番詳しいらしい。
まず、校長先生の話を聞きに行くことにした。
学校に入ると、走り回る子供とそれを追い掛け回す女の先生が目に入った。
どう見ても子供の方が足が速そうだ。しかし着かず離れずで二人の距離は変わらない。
先生の方がからかわれている様に見える。
その光景を眺めて微笑ましく思いつつ、もし自分が先生の方だったら
頭にくるだろうなぁと思った。
・・・どうもさっきから「もし自分が〜だったら」って考えることが多い。
いつかはこの村や、もっと大きな街にも住みたいと思っていた。
でも実際に住んでからの事を考えると、何故か言われようのない不安が襲ってくるのだ。
今こんなふうに村の人と自分を重ねて考えられるのは、やはりライアンと一緒に
居るからだろうか。ライアンと一緒に住むならあたしでも大丈夫かな・・・
などと考えている内に、だんだん頬が上気してくるのがわかる。
自分の想像に自分で照れるとかありえない。どうしてしまったんだろう。
ライアンと一緒に居られるのは楽しいが、その反面あたしがあたしじゃ無くなっていく
ような気がする。変だ。何かの病気だろうか・・・
教室を覗くとまだ授業中だったようだ。
あたし達に気付いた初老の先生が、授業を中断してこちらにやってくる。
「おお、あなた方が王宮から派遣されてきた戦士殿ですな。
私はこの学校で校長を務めております、ボルムと申します。
事件のことについて分かる限りお教えしましょう。さあこちらへ」
そういって、あたし達を違う部屋へ案内しようとする。
しかしライアンが、いつもの生真面目な口調で言った。
「行方不明の子供も大事ですが、今居る子供達も大事。授業をやめさせる
訳にはいきませぬ。」
校長先生は立ち止まり、顎に手をかけ眉をしかめる。
「ふむ、一理ありますな。しかし攫われた子供達は今も怖い思いをしているやも
知れませぬ。出来るだけ早く救出してやりたいのですが・・・」
あたしもそう思うのだが、ここはライアンの味方をしてやろう。
王宮戦士が、自分の出した言葉を引っ込めるのは格好がつかないだろうから。
「あたし達、別の場所でも調査しなきゃならないし、話は後でいいです。
どうぞ先生は授業を続けてください。」
「うむ、そうですか。それでは授業に戻らせて頂きます。学校が終わるのは夕方
なので、その頃にもう一度お訪ね下さい。」
そう言うと校長先生は教室に戻っていった。
「きゃ〜コレかわいい〜。見て見て似合う?」
「う・・・む。似合わんことは無いが、今はそれどころじゃないだろう」
「なによ〜、ちょっとくらいいいじゃなぁい」
今あたし達は、商店街に来ている。情報収集するのに人の多い所の方が
良いだろうと判断してのことだ。
調査という目的があるのは分かっているが、二人で来ているという事実に
どうしても、あたしの方がはしゃいでしまう。
情報収集の方法として、先ずお店に入って買い物をする振りをしながら
店主と世間話をしつつ情報を引き出そうという作戦だった・・・のだが。
一方、ライアンの方は買い物をする振りだけだというのに、店主との話が終わると
毎回お礼と言わんばかりに、律儀に何か買おうとする。
大してお金を持っていない事を知ってるあたしは、全力で店主を誤魔化し
買うのを止めさせる事になる。お互いに非常に疲れることになってしまった。
そんなこんなで、世間知らず二人の情報収集は大した成果を上げられなかった。
変わった情報といえば子供みたいなしゃべり方をする男が、パンを盗んで
牢屋に捕まっているということくらい。
商店街をあらかた探索し終わったころ、ちょうど日も暮れてきたので
再度、学校に向かうことにした。
その途中、物陰から数人の子供達が飛び出してきた。
「ねえ戦士様!アレクスをバトランドに連れて行って罰を与えるの?」
いきなりの問いかけに、あたし達は意味が分からず固まってしまう。
「アレクスはいい奴だよ!一緒に遊んだもん!」
「とても優しいやつなんだ!」
「パンを盗んだのはお腹が空いてただけだよ!」
「本当に子供だから良い事と悪いことの区別がつかないだ!」
「たくさんご飯を分けてあげられなかった、僕達が悪いんだもん!」
「連れてかないで!許してあげて!」
次々と子供達が懇願するように訴え続ける。
どうやら先ほどの情報収集で知った、変わった男のことらしい。
子供達はライアンのことを、王宮から派遣されて来た罪人を罰する執行人だとでも
勘違いしているようだ。
ライアンは完全に混乱しているようで、事態が飲み込めていない。
ここは、あたしが子供達をなだめてあげなくちゃ。
「大丈夫よ。アレクスを連れて行ったりしないから。
ひどいことされないようにように、偉い人にお願いしてあげる。
それにあたし達は、行方不明になってる子供達を捜しに来たの。」
子供達の喧騒が止む。
「本当?」
「ええ本当よ。」
「じゃあ、ポポロやクルーク達も帰ってくるんだ!」
ポポロやクルークというのは行方不明になっている子供のことだろう。
絶対助けるとは約束できない。すでに最悪の事態になっている可能性もある。
それでもあたしは子供達を安心させるために断言した。
「ええ必ず連れて帰るわ。だからみんな大人しく待っているのよ。」
子供達に喜色の面が広がる。素直でかわいい子達だなあと、一番前の子の
頭を撫でようとした時、
「ありがとう!僕達待ってるよ。約束だからね、おばさん!」
ピキッっとあたしの笑顔が固まる。
お ば さ ん ・ ・ ・ ?
確かに子供達からすれば、背の大きい人はみんなおじさんおばさんに見えてしまう
かもしれない。でもピチピチの乙女を捕まえておばさん?ちゃんと顔を見なさいよ!
あ、もう夕方で薄暗くて顔が良く見えないのかな。だとしたらそうよ!暗いのが
いけないのよ!沈んだ太陽のせいよ!太陽のバカー!!
表情を凍らせたままグルグル思考を巡らせていると、やっと話の流れに追いついた
ライアンが子供達に言う。
「うむ、約束だ。もう遅いからみんな家に帰りなさい」
「うん!がんばってね!」
子供達は元気に返事をしてそれぞれに散らばって行く。
そして怪しげにブツブツ呟く女と、それを見つめる男だけが取り残された。
「さて、と」
ライアンがあたしに向かってニヤリと言う。
「では学校に向かうとしようか。お ば さ ん 」
ビキッと音がした。今度は表情が固まった音ではない。
感情を収めておく器が破壊された音だ。
「な・ん・で・すってええぇぇぇ!!」
あたしは背後からライアンに襲いかかり、羽交い絞めにする。
「この口か!そんな事を言うのはこの口か!!」
そう言いながら、思いっきりライアンの唇を引っ張る。
「ふふぁん、ふふぁん、いひゃい!」
ライアンは予想以上にあたしがキレたことに驚いたのか、すぐ謝罪の意を表したようだ。
だが、そう簡単に許すわけにはいかない。
「誰がおばさんよ!」
グイ!
「あたしは記憶が無いから本当の年齢は分からないけれど!」
グイ!
「どう見ても二十歳前でしょ!」
グイイ!
「でも本当の所は分からないから不安なのよ!!」
ギュウゥ!
腕の力が入らなくなるまで抓りあげて、ハアハア息をつきながら手を離す。
ライアンの唇は真っ赤に腫上がっていた。
口元をさすりながら、ライアンが改めて謝罪する。
「いやすまん。そんなに年齢の事を気にしているとは思わなかった。
そういえば、記憶が無いんだったな。冗談が過ぎた。」
あたしは恨めしそうにライアンを見上げながら言った。
「まったく、乙女心がわかってないんだから!だからモテナイのよ!」
「いやはや、抗弁の余地もない」
ライアンは苦笑いを浮かべながら、頭を掻く。
あたしはフン!とそっぽを向きながら、
「まあいいわ。許してあげる。ホラッ学校に向かうわよ!」
と勝手に歩き出した。
ライアンは慌ててあたしの後をドタドタと付いてくる。
そんな様子を見ていると、先ほどまでの怒りが嘘のように消え、可笑しさが込み上げて
来る。つい噴出しそうになったけど何とか堪えた。だってもっと反省させてやらないと。
でも、真面目一本槍だと思っていたライアンが冗談を言うなんて。
結構あたしに気を許してくれている証拠かな?あたし達仲良くなってるのかな?
密かに頬を染めながら、あたしは学校へ向かう道を無言で歩いた。
79 :
ホイミンの人:2009/03/17(火) 00:28:05 ID:oc6t+3W/O
今日はここまでにしておきます
うぽつ〜!
ホイミンとの会話でニヤニヤしてしまったw
投下量も丁度いい感じだし、当分楽しめそうだwww
活気が出てきたね。良いことだ
乙!
堅物のライアンに駄洒落ではないジョークを言わせるのがイイ!
ホイミソGJ!まさかホイミン擬人化でくるとは思わんかった。
しかしなんか青髪+ホイミンと聞くと3の僧侶の生まれ変わりかなんかと妄想しちまう。
昨日も投下しようとしたけど、全然電波が立たなかったんだぜ…orz
今日も危うい。
>>80ニヤニヤして頂けて幸いです。今後も「この作者キメェwww」って感じでニヤニヤして下さいw
>>81俺なんか居なくても、CC氏、楮書生氏はもちろん、前スレの
>>772氏も控えてるんだぜ!
もしかしたらYANA氏も・・・シコシコSSの準備しながら、「このスレ書き手がイパーイ」と一人ニヨニヨしてましたw
>>82ありがとうございます。一応ライアンもキャラがぶれない範囲で、はっちゃけてもらうつもりですw
>>83エッジじゃ動画関係は見れないの・・・orz
一応毎日投下するつもりではいますが、時間的・電波的に出来ない日もあるかも。
>>84今回のコンセプトは「俺が萌えるツンデレ」なので、好きに脳内補完してくださいww
…うむ、全レスはやめた方がいいな。ついつい長くなってしまう。
では行きまーす。
校長先生に案内されたのは、棚に本がたくさん並び、立派な机の置いてある部屋だった。
おそらく、校長先生の執務室なのだろう。
「さて、事件の話でしたな。」
校長先生が、事件のあらましについて教えてくれた。
事件が起こったのはここ1ヶ月の間であること。
居なくなった子供達は6人で、特に家出とか家庭に問題を抱えていた訳ではないこと。
行方不明になるのは共通して、子供達だけで遊んでいる時だという。
子供達の話では、本当に消えるように居なくなったということだ。
中にはどこかに飛んで行ったという噂まであるらしい。
また、怪しい人間が居ないか村の内部、周辺に警戒を払っているが特に異変を見つける
ことは出来なかったと話してくれた。
「うーん、結局犯人の影すら見えないわねぇ」
ライアンも隣で頷く。結局分かったのは誘拐事件が起きていること。
そしてその原因が分からないということだけで、最初の情報から進展がない。
唯一手がかりになりそうなものは、子供達だけの時に事件が起きるということか。
「とにかく子供達だけで遊ばせるのはやめさせたほうが良いんじゃないでしょうか」
あたしがそう提案すると、校長先生は、
「ええ、子供達だけで遊ばせないように、なるべく大人の目の届くところに置くように
しているのですが、やはり子供もそれでは満足出来ないようで・・・
私達の目を盗んで、どこかでこっそり遊んでいるらしいのです。」
と困ったようにため息をついた。
「子供達に場所を問い詰めてみたのですが、誰一人話してくれなくて・・・
ただ、秘密の場所としか言わないのです。」
ライアンは大きく頷いて
「子供同士ではありがちですな。私も小さい頃はよく秘密基地を作ったものです」
と言って、ハハッと笑いを浮かべた。
どうせあたしはそんな思い出が無いわよ。記憶が無いんだもん。
ちょっと拗ねそうになりながら、話を本題に戻す。
「でも、子供達自身に危険が迫っているのにやめさせることは出来ないんですか?
ちゃんと言い聞かせれば・・・」
「はい。出来るだけ言い聞かせてはおるのですが、子供達にとって遊びの楽しみと
誘拐される怖さは、別物のようでして・・・なかなか言うことを聞いてくれません。
もうちょっと大人の考えを分かってくれれば・・・」
ここで一旦区切って、校長先生が自嘲気味に笑う。
「いや、子供なのに大人になりなさいとはおかしな話ですな」
子供なのに大人かあ。どうしたもんかと悩んでいると、まだ会ったことも無い
ある人物のことが浮かんだ。
「校長先生!アレクスって男のこと知ってますか?」
校長先生は突然その名が出てきたことに驚きながら
「ええ、この村で十数年ぶりに出た犯罪者ですな。といってもお腹を空かせての
パン泥棒ですが。可哀想な男で、これまでの記憶を失って、子供のように
なっております。」と答えた。
あたしは頭の中で繋がったある考えを、校長先生に話す。
「そのアレクスと子供達は一緒に遊んでたらしいの。食事の面倒も子供達が
見てたそうよ。アレクスなら子供達の秘密を知ってるんじゃないかしら?」
校長先生はふむと顎に手をかけながら頷く。
「それは初耳ですな。よろしい、明日衛視にアレクスの尋問を行ってもらいましょう」
「待って!尋問なんてそんな事駄目です。子供達の事情をある程度知っているあたし達
に話をさせてもらえませんか?アレクスという男が子供みたいになっているのなら
尋問なんかしたら、意固地になって余計話さなくなるかも知れません」
あたしの話を聞いて、校長先生は目尻に柔和な笑みを浮かべた。
「確かにそうですな。では明日面会できるように衛視に連絡を入れておきましょう。
ほほっあなたは子供の心がよく分かっていらっしゃる。どうですかな?わが校の
先生になられては?」
「そんな先生だなんて・・・」
あたしは赤面してうつむく。ふとライアンを見るとニコニコしてあたしを眺めている。
てかあんた、今の話の中でなんか役に立つこと言った?
嬉しいんだか恥ずかしいんだか分からない複雑な気持ちを、あたしはライアンの足を
踏みにじることで晴らした。
「それではアレクスの件、いや誘拐事件の件よろしく頼みましたぞ」
校長先生に見送られて、あたし達は宿に向かう。
アレクスとの面会は明日なので、今日はもう休むことにしたのだ。
「やっと事件解決への糸口が見つかったようだな」
歩きながらライアンが話しかけてくる。
「何言ってんのよ。まだ解決するかどうか全然分からないでしょ」
「いや、ホイミンが居ればきっと大丈夫だ。先ほどの話っぷりはなかなかだったぞ。
私一人ではこうはいくまい。ホイミンが居てくれて良かった」
そう言ってライアンは手を差し出した。
「先ほど商店街を回った時に買ったのだ。ホイミンにと思ってな」
手のひらに乗っていたのは、青いイヤリングだった。
スライムを思わせる意匠をこらしていて、とても可愛らしい。
あたしの顔がカッと熱を帯びる。
「い、いきなり何言ってんのよ!一緒に行くって言い出したのはあたしだし!
別に、何か欲しかったからじゃないし!」
「まあそう言うな。感謝の気持ちだ。受け取ってくれい」
ライアンは、笑みを浮かべて手を差し出している。
誰かからプレゼントを貰うなんてもちろん、初めての事だ。
あたしは、恐る恐るイヤリングを受け取った。
手にしたイヤリングを眺めていると、素直に嬉しいと思う気持ちが湧き上がった。
心が暖かさに包まれる気がする。いや熱すぎて焼けてしまいそうだ。
「ねぇ。着けてみてもいい?」
ライアンは当然というように頷いた。
あたしは緊張で震える手で、両方の耳にイヤリングを着けた。
「ど・・・どうかな・・・?」
恥ずかしさで顔を伏せがちにしながらも、ライアンを見上げて感想を聞く。
「うむ。よく似合っておるぞホイミン」
あたり前のように恥ずかしい事を言うライアンに、もう目を合わせて居られなくなった。
「べ、別に褒めたって何も出ないんだからねっ!」
そう言ってあたしはうつむきながら後ろを振り返り、ドスドスと早足で歩き始める。
が、大事な事を言っていないのに気付いて、その場で振り向いて口を開いた。
「・・・あ・・・ありがと!」
そしてまた早足で歩き出す。
後ろでライアンが笑顔でゆっくりと、何度も頷いた。
無理にあたしに追い付こうとは思っていないみたいだ。
二人の距離が結構開いたところで、あたしはふと気付いた。
(そういえば、いつの間にかあたしの名前が呼び捨てになってる。
・・・ちょっと嬉しいかも)
今日の宿に到着し、すぐにチェックインを済ませ部屋に案内される。
うん。ちゃんとベッドは2つある。安心した。
それ以前に若い男女が同じ部屋に泊まるということ自体、間違ってるような気が
しないでもないが、気にしないことにした。
「うーん。今日は昼間っから歩き通しだったから、汗かいちゃった。
あたし先にお風呂入ってくるね」
「うむ。ゆっくりしてくるといい」
ライアンがベッドに突っ伏しながら答える。いくら屈強の戦士といってもやはり
疲れているのだろう。
ちょっといたずら心が湧き起こった。
「そういえばここのお風呂、絶好の覗きポイントがあるんだって。
結構覗きが出るらしいわよ〜?」
と、まるっきりの嘘を教える。
「あんたも覗きに来ないでよね!」
「うむ。気を付けよう」
ライアンが突っ伏したまま答える。
なんだもっと慌てるかと思ったのに普通の反応だった。つまんないの。
でも「気を付けよう」ってなにかしら?
若干違和感を感じつつ、あたしは風呂場に向かった。
女湯の着替え場に入ると、まだ誰も居なかった。部屋も薄暗い。
あたしは気兼ねなく一糸纏わぬ姿になると、姿見に自分の全身を映した。
改めて自分を観察してみる。
パッチリとしたブルーの瞳とお揃いの長くしなやかな髪。
小さいがよく筋の通った鼻の下には、蕾のように可愛らしい唇が咲いている。
胸は大き過ぎず小さ過ぎず、形よく上向いている。
腰からお尻にかけては、無駄な肉が付いておらず滑らかな曲線を描いている。
そしてそこから、バランス良くスラリとした足が伸びている。
肌の色は透き通る様に白い。薄闇に浮かぶ姿は陽炎のようで、後ろの壁が透けて
見えてしまいそうな錯覚すら覚える。
この村で見た何人もの女性と自分を、頭の中で比べてみる。
出来るだけ客観的に考えてみても、あたしはかなりの上位に入る、と思う。
その気になれば、大抵の男は落とせるんじゃないかな?多分あいつだって・・・
顔が真っ赤になっているのに気付く。なっなに考えてるんだ!はしたない!
あたしは頭を左右にブンブン振って、浴室に向かった。
「わあ・・・」
お風呂場は明るく綺麗な檜造りだった。広くはないが、清潔感がある。
湯船にはリラックス効果を高める為だろうか、香草が浮かんでいる。
どちらかといえば田舎のこの村では、上出来の部類だ。
打ち湯をして、早速湯船に浸かってみる。
「はあ〜気持ちいい〜、それにいい香り〜」
深く息を吐き出すように、つい間延びした言い方になってしまう。
本当に気持ちが良い。もう一生このままでいたいと半ば本気で思った。
口までブクブクと浸かったままどのくらい時間が経っただろうか。
さすがにのぼせてきたので、体でも洗おうと湯船を出ようとした時、
「ガサリ」「ドカッ!」
と窓の外で大きな音がした。恐る恐る窓から外を覗いてみると、
見覚えのあるピンクの鎧がちらりと見えた。
・・・あいつマジで・・・あたしの嘘を真に受けて来やがった。
程よく温まっていた頭が一気に沸騰した。
これは痛い目にあわせてやらなければ気が済まない。
服を着るのももどかしく、あたしはタオルを体に巻いて裏口からこっそり出た。
足音を忍ばして音のしたほうに近づいていくと、茂みの影にピンクの鎧が見えた。
あたしに背中を向ける形で座って、何事かをやっている。
「くっ」とか「うっ」という呻き声が漏れ、体がゆさゆさと揺れている。
・・・コレッテオトコノヒトガコウフンシタトキニジブンヲナグサメルコウイジャ?
あまりの光景に一瞬意識が遠くに飛んでいってしまった。
ハッと我に帰ると更に怒りが込み上げて来た。こんな最低な奴だったとは。
正直に頼めば見せてやる・・・訳はないが、とにかくコッソリというのが許せない。
ライアンらしくない!
足元にちょうど手頃な大きさの薪が落ちていたのでそれを拾い上げ、そっと背後から
忍び寄る。間合いに入ったところで、薪を大きく振りかぶった。
「この変態!!」
横殴りに振りぬいた薪は、完璧にライアンの兜を捕らえ砕け散る。
頭に激しい衝撃を受けた犯罪者は、横に吹っ飛んで倒れる。
「あんた自分のした事分かってんの!?反省したって許されないわよ!
憲兵に突き出してやるんだから!!」
蹲るライアンに激しく言葉をぶつけると、
「ひい!すいません!もうしません!すいません!」
と先ほどまでライアンが座っていた所から声がした。
よく見てみると、知らない男がうつ伏せになって頭を抱えて震えている。
誰だこの人?予想外の展開に頭が付いていかない。
「ううむ・・・」
頭をさすりながらライアンが起き上がってきた。
「ホイミンが自分で退治したい気持ちは分かるが、私をどかす為に殴るのは
非道いだろう」
ライアンが仏頂面をしながら言ってくる。ライアンの怒った顔は初めて見たかも。
あたしに視線を合わせてくれない。
「え?それってどういう・・・」
「ホイミンが自分で言ったのではないか。覗きが出ると。不届き者が居るなら
捕まえようと、周囲を警戒していたのだ。」
え?あたしの嘘を真に受けて見回っていたら、ほんとに覗きが居たと?
「つまりこの人が覗きってこと?」
うつ伏せの男を指差すと、その黒い塊はビクリと大きく震えた。
「うむ。風呂場に近づこうとしていた怪しい男が居たので捕まえた。
ちょっと締めたら、常習犯だと自供したよ。今回は覗く前に捕まえたから
ホイミンは安心するといい」
つまりあたしの大きな勘違い。ライアンは覗くどころか、覗きからあたしを守ろう
としてくれていたのだ。
「あ、ありがとう・・・あと、つい興奮して殴っちゃってごめんなさい・・・」
フッと肩から力が抜け、あたしにしては珍しく素直に謝れた。
「う、うむ。気にするな。女子の気持ちは分からぬが、知らぬ男に自分の裸体を盗み
見られるのは、気持ち良いものでは無かろう。未然に防げて良かった。」
ライアンはちょっと照れながら、許しの言葉らしき事を言う。
でも言葉とは裏腹に、こちらに目線を合わせてはくれない。
やっぱり怒っているんだろうか。あたしは視線を落とし黙り込んでしまう。
そんなあたしの様子に、ライアンは優しく言ってくれた。
「こちらの後始末は私に任せておくが良い。ホイミンは風呂に戻って入り直せ。
随分体が冷えてしまったろう」
だが、やはりこちらを見てくれない。ついに我慢出来ず問いかけた。
「ねえ、何でこっちを見てくれないの?やっぱりまだ怒ってるんでしょ!」
ライアンは慌てて手をブンブンと左右に振った。しかしまだこちらを見ない。
「ねえ、ちゃんとお詫びするから許して?何でもするから。こんなことで
ギクシャクするのは嫌なの。」
あたしが懇願するように言うと、ライアンがなおも視線を逸らしながら観念したよう
につぶやいた。
「うむ。それでは・・・今度からそんな格好で激しい動きはしない方が良いな」
そんな格好?あたしは自分の体を見下ろした。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
バチーン!
ライアンの顔を引っ叩いてその場から逃げ出す。
体に巻いていたタオルがずれて、胸が丸出しになっていたのだ。
「なんで早く言ってくれないのよバカーーーーーー!!」
走りながら叫ぶと背後から
「こうなると思っていたから黙っていたのに理不尽な・・・」
とライアンの呟きが聞こえたような気がした。
風呂場に戻り、ドボンと勢い良く飛び込む。
ああ見られた見られたどうしよう見られちゃった。
頭まで完全に湯に浸かりながら身悶える。
どんな顔して会えばいいのか見当も付かない。
むしろこのままお風呂で溺れ死んでしまいたいいいいぃぃぃぃ!
その夜、イムルの村のとある宿の一室では、
ギクシャクと腹話術の人形のような笑いを浮かべながら話す女と、
まともに目をあわすことが出来ずに、顔を赤くして見当はずれな事を言う男の寸劇が、
延々と繰り広げられたという・・・
というわけで、お色気?とお約束でした。
ではお休みなさいませ〜
なんとなくスレみよっかなと思ったら続きが!GJ!
なんかあの村といえば覗きイベントこんかなーと思ってたけど、ほんとにくるとわ!ニヤニヤ
もう書き上がってるとはいえ、連日の投下乙
おおっ、新しい方が!!素晴らしいヽ(´∀`)ノ
投下お疲れ様です。連投規制あるから、レス数多いと大変ですよね。
最近のウチに足りなさ過ぎる軽快さが素晴らしいです。
今、ちょうど半分くらいでしょうか?
残りの投下も、頑張ってください。
横から失礼しました。
う〜。。。ウチも早く進めたい。。。。
レスありがとうございます。
自分以外の誰かに読んで頂けてると思うと、書いて良かったなと思います。
>>101 >軽快さ
ぶっちゃけCC氏の3〜4話分の量を書くだけで、一年近くかかっております…
途中3カ月以上空いたり。
正直完成する確率の方が低かったので、出来るまでコソコソしていましたw
次の日の朝、あたし達は早速アレクスに会いに牢屋に向かった。
校長先生から話を通されていた衛視は、アレクスのいる地下牢へと案内しながら、
「強情な奴でしてね。いくら絞めても自分の罪を認めようとしませんわ」
と薄笑いを浮かべながら言った。
あたしはその顔に嫌悪感を感じるのを禁じえなかった。
「おじちゃんたち、誰?」
年の頃は25歳前後だろうか、体格のいい男が本当の子供のように問いかける。
「あたし達はあなたとお友達になりに来たのよ」
安心させるように牢屋越しに話しかける。
だが、アレクスは更に警戒を深めるように言った。
「やだ!大人の人は僕をいじめるんだもん!だから嫌いだよ!」
アレクスの体をよく見てみると、鞭で打たれたような痣がたくさんある。
あたしがジト目で衛視を睨むと、衛視は気まずそうに目を逸らした。
どうしたものかとライアンを見てみると、なにやら真剣な面持ちでこちらに
詰め寄ってきた。
「アレクス!お主アレクスではないか!」
「ひぃ!」
強い口調でライアンがアレクスに問いかける。アレクスは小さな悲鳴を上げた。
「覚えておらんのか。バトランドのライアンだ!フレア殿がずっと心配しておった
のだぞ。今まで何をしていた!」
「う・・・う・・・」
「とにかく早く帰るのだ。フレア殿が待っている。」
「うわあああん!おじさん怖いよ〜、いじめないでよお〜!」
ついにアレクスは泣き出してしまった。
「ちょっとライアン!なにやってるのよ」
慌ててライアンを取り押さえる。
「相手は今子供なのよ、落ち着かせないとどんどん意固地になっちゃうわ!」
「う、うむすまない。顔見知りだったのでついな・・・」
「ええ!顔見知りだったの?だったら、何で名前聞いて思い出さないのよ」
「すまぬ。間違っても牢屋に捕まるような事をする奴ではなかったのでな。
まさかこのアレクスだとは思わなかった」
ライアンの話によると、バトランドから旅立つ際、フレアという女性から行方不明に
なっている夫、つまりアレクスを探してくださいとお願いされていたそうだ。
アレクス・フレア夫婦は、ライアンが警備を管轄していた地域の住人だという。
「うーんどうしようか・・・」
アレクスは完全におびえてしまい、牢屋の隅で小さくなって動こうとしない。
ライアンは衛視にアレクスを連れ出せないかと交渉しているが、実際に盗みを
働いているので、牢屋から出すことは出来ないと衛視は頑として譲らない。
おそらくアレクスは、どこかで強く頭を打ったか、何か途轍もなく恐ろしい目に
会ったのだろう。それで記憶を失った。
記憶を取り戻させるには、もう一度頭に強いショックを与えるか、心に刻まれた
傷を癒してやるかのどちらかが必要だ。
どちらの方法から試すのかと考えれば、人道的にもまず後者だろう。
そして心の傷を癒すのに一番効果的な人は・・・
「ライアン!」
いまだ衛視と交渉中のライアンに声をかける。
「フレアさんを連れて来るわよ!」
「む?」
ライアンがこちらを振り向いて訝しげに首をかしげる。
「とにかく、アレクスに記憶を取り戻させないと駄目よ。犯した罪を認めることも
償うことも出来ないわ。それじゃいつまでも牢屋から出ることは出来ない。
フレアさんを連れてきましょう。きっと記憶を取り戻すきっかけになると思うの。」
ライアンはなるほどといったように頷く。
「うむ、それも一つの手だな」
「じゃあ早速フレアさんを迎えに行きましょう。」
「うむ。そうだな・・・・・・おい!」
ライアンはあたしに同意すると共に、衛視に向かって大声で怒鳴った。
「アレクスは記憶を失って子供返りをしておる!いくら拷問しても何も吐かない
からな!これ以上体の傷が増えていた場合は、お主達が王国から罰せられると
覚えておくがよい!!」
あたしすら戦慄してしまうほどのすごい迫力だった。
衛視はビクリと「了解であります!」といって直立不動になる。
「ではさっそく参ろうか、ホイミン」
一転して穏やかな口調でライアンが言い、歩き出した。
衛視と一緒に固まってしまったあたしは、ギクシャクした動きでライアンについて行く。
(ラ・・・ライアンを本気で怒らせたらやばいかも・・・)
そんな事を思いながら、地上へ出る階段をライアンの背中についていった。
外に出ると、太陽は中天に差し掛かりギラつく光を放っていた。
先ほどまで暗いところに居たので、つい目を細めてしまう。
この明るさの中で見るライアンは・・・いつものライアンだ。
先ほどの魔人のような迫力は微塵も感じられない。
少し安心して、ライアンに声をかける。
「衛視もひどいわよねぇ。子供になってるアレクスに拷問するなんて」
「うむ。王国の法では不当な取調べや、私刑は禁止されている。それに見た目は大人
とは言え、子供返りしているアレクスに拷問は無かろう。いずれ上役に厳重な注意
をするよう言っておく。」
ライアンがあたしと同じ憤りを感じていたことに、そしてそれを晴らしてくれた
ことに喜びを感じつつ、あたし達はバトランドに向かった。
「へえ、ここがバトランドなの?すごーい!」
ここは王都バトランド。イムルの村とは比べ物にならないくらい大きな建物が、
目の届く範囲を遥かに越えて続く。
大通りには人がごった返し、軒を連ねる商店からは活気のある掛け声が響いていた。
だが今は、買い物を楽しんでいる場合ではない。一刻も早くフレアさんをアレクス
の所に案内しなくてはならない。
あたしは、商店に並ぶ品物に後ろ髪を引かれながら、黙々と歩くライアンの背中に
声をかけた。
「ねえ。一応断っておくけど、今回は例の報酬の『バトランド案内』には
入らないから、勘違いしないでよね」
あたし達が森を出る時に約束した、今回の事件が解決した後の報酬の話を確認する。
ライアンはこちらを振り返りニヤリと笑みを浮かべたあと、また前を向いて言った。
「安心しろ。事件が解決した後、ホイミンが満足するまで何日でも案内してやろう」
「ふーん。ならいいけど」
あえて気の無いそぶりで返事をする。
(もし一生あたしが満足しないと言ったらどうする気なのかしら)
ありえない仮定に想像を膨らませてみる。
だって、絶対あたしは面と向かってそんな事言えないし、下手したら逆プロポーズ
するようなものだ。大体自分で本当にそうしたいのかどうかも分からない。
この気持ちが、初めて親しくなった人に対する想いなのか、それともライアンだからこそ
そう思うのか、自分の気持ちが未だ掴めないからだ。
でもライアンなら、困った顔をしながらでも言う事を聞いてくれそうな気がする。
自分の思考に澱んでいると、ライアンの足が止まった。
「ここがアレクスとフレア殿の家だ」
知らぬ間に繁華街を抜け、住宅街に入っていたようだ。前を見ると妙齢の女性が
すがるような表情で、丁度こちらに駆けて来るところだった。
「ライアン様!アレク・・・きゃ!」
慌てていたのだろう、こちらに駆けて来た女性・・・フレアさんはあたし達の目の前で
派手につまづき、そしてライアンに抱きついた。
「あ。申し訳ありません!わたしったらなんて粗相を!」
「いや、気にするでない。」
「ああっ申し訳ありません!申し訳ありません!」
そんなやり取りを、二人で抱き合ったまま続けている。
フレアさんの顔は羞恥からか赤く染まっている。その羞恥は目の前でコケタせいか、
それともライアンに抱きついているせいなのかはわからない。
あたしはモヤモヤしたイラつきを感じ、多少強引に二人を引き離した。
「えっと、あなたがフレアさんね?」
あたしの不機嫌そうな様子に、フレアさんはおびえたような目でこちらを見る。
思いのほか低く出た自分の声に戸惑ったが、急に変える訳にもいかないのでそのままの
トーンで続ける。
「あなたの『旦那さん』が見つかったわよ」
つい『旦那さん』を強調してしまった。無意識に言ったことだが、言ってしまってから
「あなたには別に大事な人が居るでしょ」という牽制の意味が込められていることに
気付く。あたしってこんないやな性格だったっけ・・・
おびえていたようなフレアさんの顔が、パッと喜色に輝く。
「本当ですか!?いったいどこに?一緒に連れてきて下さらなかったのですか!?」
今度は、あたしに抱きつかんばかりの勢いでこちらに向かってくる。
「は!一緒に来れないということは何か大怪我でも・・・まさか死・・・!」
「ちょ・・・ちょっと落ち着いて!」
喜んだり勝手に自分で落ち込んだり忙しい人だ。こういう人を天然というのだろうか。
先ほどのライアンに抱きついた件も他意は無さそうで安心した。
「アレクスは盗みを働いて、いまイムルの村で牢屋に入れられているのよ」
「ええ!あの人が盗みなんて!ああどうしましょう!夫の罪はわたしの罪。
あの人の罪を一緒に償わないと!わたしも牢屋に入らないと!」
「だからちょっと落ち着きなさいってば!!」
だんだん訳のわからないことを言い出したので、大声を出してフレアさんの言葉を
さえぎった。
「アレクスはどこかで、強いショックを受けて記憶を失っているのよ。
そのせいで心が子供のようになっているの。盗みを働いたのもお腹が空いたと
いう単純な理由だわ。善悪の判断が付かなかっただけよ。」
「今は記憶を取り戻させるのが先決よ。フレアさんに会えば記憶を取り戻すきっかけ
になると思うの。そうすれば罪を認め償うことが出来るし、犯した罪自体は軽い
ものだから、すぐに出てこられるわ」
取り乱したフレアさんに丁寧に説明する。その甲斐あって話を理解してくれたようだ。
「つまりわたしがアレクスに会って、記憶を取り戻すお手伝いをすればよいと?」
「そ。思いっきり頭をぶん殴るよりは良いでしょ?」
あたしはいたずらっぽい笑みを浮かべて、フレアさんにウィンクした。
それでフレアさんの緊張が解けたのか、輝くような笑みを浮かべてこう言った。
「ええもちろん。それにアレクスに会えるんですもの。すぐにでも参りますわ」
改めてフレアさんを見ると、太陽の輝きのような赤い髪に、同じく輝くような笑顔。
同性のあたしから見ても綺麗だなと思う。もともとそうなのか、それとも想い人
がいるからそうなのか・・・
言葉通りにフレアさんの仕度はすぐに済んだ。
「道中の安全はこのライアンが守るから安心してね。ねっライアン?」
ライアンの背中を叩きながら言う。突然振られたライアンは少し慌てた様子だ。
「う。うむ。もちろんだ。安心するがよい。フレア殿」
「ええ。お願いしますわ。お二人方。」
フレアさんはにっこりと微笑んでそう答えた。
道中何回か魔物の襲撃を受けたが、ライアンの敵ではなくフレアさんに危険が及ぶ
ことは無かった。
旅慣れていないはずのフレアさんも、泣き言一つ言わずあたし達に付いてきてくれた。
それとなくフレアさんとライアンの様子を確認していたが、特に何も無さそうだ。
フレアさんの頭にはアレクスのことしかない様子だった。
つい疑ってしまった自分に、激しく自己嫌悪してしまう。
そんなこんなであたし達は特に問題なくイムルの村に戻ってくることが出来た。
早速アレクスが拘置されている牢屋へと向かう。
アレクスは前に見たときと特に変わった様子もなく、不安そうにキョロキョロしている。
「アレクス!」
フレアさんが止める間もなく牢屋へと駆け出す。
「おばちゃんだ〜れ?」
アレクスは無邪気に問い返す。フレアさんにとっては残酷な言葉だ。
ずっと想い、待ち続けていた大事な人に、他人扱いされるのだから。
「ああアレクス。本当に覚えてないの?わたしよ。フレアよ!」
フレアさんは必死に呼びかけるが、アレクスは困ったように首をかしげるだけだ。
さすがに会わせただけで記憶が戻るというのは、考えが甘すぎるか。
でも時間をかけて何度もフレアさんと話せば、きっと記憶を取り戻すはずだ。
なんだかあたしも切ない気持ちになって、目頭が熱くなるのを感じた。
「ライアン・・・」
何かにすがりたくなって、ライアンの腕に手を添える。
「行きましょう。アレクスが記憶を取り戻すには時間がかかりそうだわ。
あたし達は、別に調査を進めなきゃ。
ここは二人にしておいてあげましょう・・・」
ライアンの手を引き、ここを去ろうと最後にフレアさんたちを一瞥する。
するとフレアさんはブラウスのボタンを外し始めたではないか。
「な・・・な・・・こんなところで何する気?」
いきなりの大胆な行動に、顎が外れんばかりに驚く。
フレアさんはあたしの声が聞こえていないようで、動きを止めようとしない。
豊満な胸をあらわにして、アレクスに向かって両腕を開く。
「ダッ・・・見ちゃダメー!」
あたしは慌ててライアンの両目をふさぐ。
だがやはりフレアさんはこちらの様子を気にした様子もなく、
「さあ、アレクスおいで。あなたの大好きなぱふぱふよ・・・」
そう言って、戸惑うアレクスの頭を抱え込んだ。
「はいぱふぱふ・・・ぱふぱふ・・・もひとつぱふぱふ・・・」
牢屋越しにアレクスの頭を抱え込んで胸にうずめ、胸で顔をマッサージするように
揉みほぐすフレアさんを、あたしは呆然と眺めていた。
ぱふぱふって言葉だけは聞いたことあるけど、こういうことするのね・・・
はじめて見た光景に動きが固まる。かろうじてライアンの目を塞ぐ手を離すこと
だけはこらえた。ライアンも状況を察してか、あたしから逃れようとはしない。
しばらくそうしているとアレクスの表情が変わった。戸惑いの表情から幸せそうな
表情・・・いや、恍惚としただらしない笑みを浮かべている。
「どうアレクス?」
様子の変化に気付いたのかフレアさんがアレクスに問いかける。
「うへへ・・・やっぱりフレアのぱふぱふは最高だ〜ね〜」
だらしない男の声が響いた。明らかに先ほどまでとは別人だ。
「ああアレクス!思い出したのね!」
「やや!フレア!どうしてこんなところに!」
アレクスは慌ただしく周囲を見わたして、状況を確認している。
「なぜ俺は牢屋に入っているんだ!ここはどこだ!」
状況を確認したところで、更に混乱してしまったようだ。
あたしはフレアさんが服を着直したのを確認して、ライアンから手を離した。
ライアンは混乱するアレクスに歩み寄り声をかける。
「アレクスよ。お前は記憶を失い、そして盗みを働いたのだ。」
「ああ!ライアンさん。俺が盗みを働いたって?」
更に顔見知りを見つけて安心したのか、アレクスは幾分落ちついた様子で問い返した。
ライアンが、これまでの経緯を知っている限り説明する。
話を聞き終えたアレクスは神妙な顔つきで、こう言った。
「ああ、全て思い出しました。俺はイムルに妻へのプレゼントを買いに来たんだ。
その途中で魔物に襲われてしまって・・・」
あたしは意気消沈した様子のアレクスに恐る恐る質問する。
「ねえアレクス。記憶を失っている間の事も覚えてる?」
「ええ覚えています。食べ物にも困った俺の面倒を子供達が見てくれました。」
やった!これで事件の手がかりが得られる。思い通りの展開に、アレクスに
勢い込んで尋ねる。
「じゃあ子供達の秘密の遊び場って知ってる?」
「ええ知っていま・・・え、ああいや、それは・・・」
アレクスは答えかけて、ごまかすように取り繕う。子供達の世話になっていたのだ。
恩義を感じその秘密を漏らす事に抵抗があるのだろう。
だが今はそんなことを言っている場合ではない。
「子供達が誘拐されている事件を知ってる?どうやら事件は子供達だけの時に
しか起こらないらしいの。きっと秘密の場所に何かあるんだわ。子供達の
安全がかかってるの。お願い、教えて!」
「なんとそんな事件が!一緒に遊べなくなった子がいるなとは思っていましたが・・・」
アレクスは心底驚いたように言って、そして納得したとばかりに話し始めた。
「わかりました、お話ししましょう。
子供達はそこに俺の住処を作ってくれました。そして、毎日俺の為に食い物を
持ってきてくれました。そこには洞窟があり魔物が住んでいますが、なぜか子供達
には手を出さないのです。安心した子供達は洞窟の奥へと探検していました。
洞窟の奥で宝物を見つけたと自慢している子供もいました。」
アレクスの話には合点のいかない点があった。魔物が子供に手を出さないというのが
信じられない。実際は安心させて、子供が一人になったところで捕まえているのでは
ないだろうか?そうすることで餌が向こうからやってくるのだ。それくらいの知恵を
魔物が持っていても不思議ではない。だがそうだとすると行方不明の子供の安否は
絶望的になる・・・
いやな想像を振り払ってアレクスに再度尋ねる。
「で、その場所はどこなのよ。」
「場所は森の入口にある看板から、南東に向かったところです。良く調べれば下生えの
草に子供が通れるくらいトンネルが見つかるでしょう。トンネルといっても門の代わり
の様な物で簡単に廻り込むことが出来ます。その先に何度も子供達が通ったせいで
できた獣道のようなものが見つかるはずです。その道をたどって行けばすぐに秘密の
遊び場にたどり着くでしょう。」
あたしは話を最後まで聞くのももどかしく、すぐにライアンを振り向く。
「聞いたわねライアン。すぐに出発するわよ!」
こうしている間にも新たな犠牲者が出るかもしれないのだ。ライアンも状況が分かって
いるのか「うむ」と頷いて、牢屋出口の階段に向かって歩き出す。
あたしはアレクス達の方を振り向いて声をかける。
「教えてくれてありがとうアレクス。記憶喪失だとはっきり分かればきっと罪も軽くな
ってすぐ牢屋から出られるわよ。後でライアンから衛視に口を利いてもらうように
言っておくわ。フレアさんもアレクスに付いていてあげられる様に言っておく。」
そう言って手を振りながら、その場を後にしようとする。
「「ありがとうございました」」
夫婦は二人仲良く声をそろえてお礼を言った。二人とも幸せそうな笑顔だ。
また会うことが出来たといっても、まだ二人の間を鉄格子が阻んでいる。
それでも、会えたというだけでこんな幸せなそうな笑顔ができるなんて。
そんな二人の様子を羨ましく感じながら、先に行ったライアンの背を追った。
あたしにもそんな人が出来るのだろうかと思いながら・・・
ぱふぱふってこれでいいんだよね・・・?違ってたらめっちゃ恥ずかしいわぁ・・・
なんとか半分くらいまで、投下出来ました。
前半はホイミンとライアンがイチャイチャ?してただけのような気もしますが、
やっと本筋の話が動き出した感じです。
ではお休みなさいませ〜
素晴らしいテンポだぜ!乙!
パフパフだヒャッホオオオオイ
こうなったらホイミンのパフパフも期待せざるを得ない
毎日投下と豪語していたのに、日にちがあいてすみません。
ホイミンのパフパフは…まあいつかw
では始めます。
アレクスの言った通り、森の看板から南東に行った所に、繁みの中にトンネルのようなものが
すぐに見つかった。トンネル自体は小さくてあたし達が通れる様なものではなかったが、
その背後に踏み均して出来た道のようなものが続いている。
「ここみたいね。行くわよライアン」
ライアンに声をかけて繁みを廻りこみ、子供たちによって出来た獣道(子供道?)を進む。
森の中にうっすらと踏み慣らされた道は、木々の合間を縫う用に続いていた。
周囲は薄暗く、いつ魔物が出てきてもおかしくない雰囲気が漂っている。
よく子供達だけで歩いていたものだ。あたし達は周囲に気を配りながら、無言で進む。
15分ほど歩くと、不意に森が開けた。
強い日差しに手をかざし周囲を確認してみると、そこだけ森がくり抜かれたような
広場になっていた。
その中心に古びてぼろぼろになった小屋と井戸が見える。
今は子供達は居ないようだ。
「まさに秘密基地と言った佇まいだな」
ライアンが呟く。
「そうね」と相槌をうち、まず小屋の中から調べることにした。
「うわ〜、ボロボロね〜」
小屋の中は荒れ果てており、子供たちのオモチャが散乱していた。
何か無いかと探索すると、すぐに地下室へと続く階段を見つけた。
「ここがアレクスの言っていた洞窟の入口かしら?」
「うむ。慎重に行こう」
ライアンと声を掛け合い、慎重に階段を降りた。
だが地下室に降り立ってみると、ただっ広い部屋があるだけで何も無い。
天井に裂け目があるが、暗くてその先は見えない。
二人で地下室の隅々まで調べてみたが、隠し扉などは見つからなかった。
まあ、あたし達にはこういう風に探索するなどした経験がないため、
完全に何も無いとは言い切れないけど・・・
小屋の探索を諦め、今度は井戸の方を調べてみる。
井戸の周りは踏み慣らされて地面が露出している。そして井戸の中には縄梯子が掛かっていた。
子供たちが頻繁に出入りしていた証拠だ。
井戸の中を覗いてみると、水は無く、底にどこかへ続く横穴が見えた。
「どうやらこっちみたいね」
「そのようだな。早速行こうか」
そう答えるとライアンはすぐに縄梯子に手をかけた。
まず慎重にライアンが降りていく。重い鎧を着ているので、縄梯子が切れやしないかと
気になったが、どうやら心配ないようだ。
ライアンが下に降りきった事を確認して、次はあたしが縄梯子に手をかける。
「結構不安定だから気をつけるのだぞ」
「う、うん」
最初はふらついて体が左右に振られたが、落ち着いてゆっくり行けば真っ直ぐ降りられる様に
なった。そして、慣れてきてもうすぐ地面に付くかというところで気付いた。
今のあたしを下から覗けば、下着が丸見えであることに・・・
ハッと下を見てみると、ライアンが心配そうな顔であたしを見上げていた。
「ちょ、ちょっと!見ちゃダメー!」
急に恥ずかしくなり、足でライアンの視界を隠そうとした。でも慌てていたので手元が
おろそかになってしまう。
「きゃああぁぁ!」
ギュム。
梯子から落ちて、思いっきりライアンの顔を踏みつけてしまった。
でもライアンは顔を踏まれながらも、あたしが倒れないように足を支えてくれた。
あたしはなんとかもう一度梯子に手をかけて元の体勢に戻ると、残りを一気に降りた。
「大丈夫か?」
ライアンが顔をさすりながら、心配げにあたしに声をかけてくる。
その声と表情に胸が高鳴る。それに今の恥ずかしさがごちゃ混ぜになって、一気に
頭が熱くなる。
「な、何よ!レディの下着を覗こうとするのが悪いんでしょ!大丈夫なわけないじゃない!
この変態!!」
ライアンはポカーンとした顔であたしを見つめる。
「別に覗こうとしていたわけでは無いが……とにかくすまん」
訳が分からないと言った顔をしながらも、ライアンはとりあえず謝罪の言葉を口にする。
その様子をみて、あたしは(またやってしまった)と気分が沈んだ。
なぜ素直になれないのだろう。その理由は自分ではほとんど気が付いている。
だが、今それを認めることは出来ない。認めてしまったら、頭の中がそればっかりに
なってしまうから。
今は子供たちの誘拐事件を一番に考えなければならない。それがライアンの一番の目的だし、
あたしがライアンと一緒にいる理由だからだ。
その後のことは事件が解決してからゆっくり考えれば良い。
あたしは雑念を振り払って、ライアンに言う。
「まあいいわ。それと一応、助けてくれてありがとう」
「ま、まあ当然の事をしたまでだ」
あたしの態度が急変したことに戸惑ったのか、ライアンが多少どもりながら答える。
心の中でライアンに謝りつつ、あたしは松明に火をつけ横穴の先を見つめた。
洞窟の中は、ゴツゴツとした岩肌が露出し自然の洞窟のように見えるが、ところどころに
石壁やタイルの床が残っており、人の手が加わっていたことが窺われる。かなり古い洞窟
なのだと思われる。何かの理由で壁が崩れて、井戸とつながってしまったのだろう。
何かの遺跡なのだろうか。アレクスは、子供たちが洞窟の中で宝物を見つけたと
言っていたが、あながち本物のお宝なのかも知れない。
洞窟を慎重に進むとすぐに分かれ道になっていた。
「とりあえず右から行ってみましょうか?」
根拠無く言ってみたが、ライアンも異論はないようなので、右側の道を進むことにした。
(そっちじゃ帰っちゃうよ・・・・・・)
「きゃああぁ!」
頭の中でいきなり声が響き、恐怖で思わずライアンにしがみついた。
「・・・今のはなんだ」
ライアンにも聞こえたのか、幾分動揺した様子で周囲に警戒の目を向けている。
「わっかんないわよ!やっぱり何かいるんだわこの洞窟!」
しばらくライアンは周囲を警戒していたが、
「どうやら、何か意思をもった奴が洞窟を支配しているようだな。
罠かもしれん。慎重に進もう」
そう言って、あたしの手を優しく振りほどいた。
手を振りほどかれて初めて、ライアンに抱きついていたことに気付いた。
また顔が熱くなる。
「ちょ、ちょっとびっくりしただけなんだからね!」
ライアンは「わかったわかった」と肩をすくめる。
その顔はどこか楽しげだった。
そのまま進んでいくと、行き止まりで少し開けた場所になっていた。
地面には裂け目があり、のぞいてみると下に部屋が見える。
「あれってさっきの小屋の地下室よね」
「そのようだな。先ほどの声の言っていることは合っているようだ」
来た道を戻り、今度は声が聞こえた分かれ道を左側を進んでみる。
そうすると、またもや分かれ道が現れた。
「今度は左側に行ってみましょうか?」
ライアンが目で返事を返してきたので、慎重に左側の道を進もうとすると、
(そっちじゃないよ・・・・・・)
また声が聞こえた。先ほどはびっくりして気付かなかったが、子供の声のようだ。
やはりライアンにも聞こえていたらしい。
「どう思う?」
「何者かが、我々を誘っているようだな。我々は調査に来たのだ。あえて誘いに乗って
見るのもよかろう」
「そ、そうね。じゃあ声の通り進みましょう。」
さすが歴戦の戦士だ。あたしには罠とわかって自分から飛び込もうなどという発想は
思いつかない。出来れば危険なことはしてほしくないが、ライアンの強さならあたしさえ
しっかりサポート出来れば大丈夫だろう。
気を引き締め、反対側の道を進もうとしたその時、
巨大なねずみが2匹と人ほどの大きさのある蜂が行く手をさえぎった!
「大ねずみとキラービーだ!ホイミンは下がっておれ!」
そう言ってすぐにライアンは魔物の群れに飛び込んで行った。
まるで熊のような大きさのねずみは、鎌のように発達した前歯をきらめかせ、ライアンに
噛み付こうとする。周囲を飛び回りライアンの動きを牽制する蜂は巨大な針を突き刺そうと
狙っている。針のついた尻尾の先のふくらみにはどれほどの毒が詰まっているのだろうか。
森の中では見たことの無い、凶悪そうな魔物だった。
先手を打ったのは魔物たちの方だ。大ねずみの歯がライアンの体を捕らえる。
歯は突き刺さらずに鎧で止められたが、かなりの衝撃が加わったみたいだ。
だがライアンはひるむことなく、至近距離からの剣戟を大ねずみの腹に叩き込んだ。
剣は大ねずみに深く突き刺さったが、大ねずみはなお激しく暴れる。
「ぬおおおおおお!!」
ライアンはすかさず、刺さったままの剣を心臓の辺りまでねじり上げた。
さすがにそれで大ねずみはビクンとなって硬直した。
だがライアンが剣を引抜く前に、もう一匹の大ねずみが背後から襲い掛かる。
「ライアン後ろー!!」
今まさに首筋を狙って噛み付こうとしていたが、あたしの声で気付いたライアンが
一瞬早く体をずらした。
大ねずみの歯がカーンと甲高い音を響かせ、鎧にはじかれる。
ほっと息を漏らすと、近くに何者かの気配を感じた。
ライアン相手では分が悪いと思ったのかどうかは知らないが、キラービーがあたしを狙って
きたのだ。
あんな巨大な針を刺されたらたまったものではない。あたしは護身用の短剣を振り回し
キラービーを牽制する。
「ちょっとライアン!こっち来ちゃったわよ!逃がしてんじゃないわよ〜!」
「すまぬ!少し持ちこたえてくれ!」
ライアンの声とともに、後ろでガチンと音がした。剣と歯が当たった音だろうか。
すぐに大ねずみを仕留めてこちらの助けに来ることは出来なそうだ。
傷を負っても自分のホイミで治せるし、毒消し草の準備もしている。
かと言って、傷を負う痛み対する恐怖が和らぐ訳ではない。
「あたしを刺して何が楽しいのよ〜!あっち行きなさいよ〜!!」
言葉が通じないのをわかっていながらも、つい呼びかけてしまう。
滅茶苦茶に短剣を振り回して、キラービーが近づけないように牽制した。
キラービーはタイミングを測っているのか、あたしに近づけずに周囲を飛び回っている。
とりあえず時間稼ぎにはなっているみたいだ。でもこの戦法には欠点がある。
物凄く体力を消耗してしまうのだ。あたしの体力じゃほんの1分も持たないだろう。
早くも体力が無くなってきた。
このまま完全に体力が無くなるまで短剣を振り回し続けるか、
体力の残っているうちに何とか逃げてライアンのほうに誘導するか、
それとも・・・
あたしの脳裏に、ライアンと共に森を出た時のことが浮かんだ。
あたしが無理を言って、自分から付いていくと言い出したのだ。
それに誘拐されている子供たちはどれほどの恐怖に晒されているか。
最悪殺されてしまった子供も居るかも知れない。その時どれほどの絶望を味わったの
だろうか。それに比べれはこれくらい!
「このくらい何よ!いちいちライアンに迷惑かけてらんないわよー!!」
あたしは短剣を振り回しながらキラービーに近づいていった。
キラービーは勢いに怯んだのか、あたしとの距離を取ろうと離れる。
「今だ!くらえっ!!」
あたしは短剣を腰に構え、一気に距離を詰め体当たりを食らわせた。
一人と一匹はもんどり打って転げる。
手には短剣が無かったが、キラービーに突き刺さした感触は残っている。
(やったか!)
すぐに体を起こし、キラービーを見てみると・・・
確かに短剣は刺さっている。だが、巨大な蜂はあたしのすぐそばで宙に羽ばたいていた。
致命傷にはほど遠かった。キラービーの尻尾がゆっくりと振り上げられる。
あたしは自分の判断を呪った。戦いとは、戦う勇気を持つのは当然のことで、
その上で相手との力量を考えて、的確に判断しなければならないのだ。
あたしには全然戦う準備が出来ていなかったのだと思い知らされる。
勇気を振り絞ったという勘違いから、無謀な攻撃を仕掛けてしまったのだ。
あたしに向かって振り下ろされる尻尾を呆然と眺める。
その尻尾が首筋に突き刺さろうとしているのが、スローモーションのように見える。
もはやその様子を他人事のように見ていることしか出来なかった。
突然あたしに突き刺さろうとしていた巨大な針が真っ二つに割れた。
その時視界の隅に映った煌きが、またたく間にキラービーの体を両断した。
「すまない、遅くなったな!」
見上げると、息を切らしながらも笑顔を浮かべたライアンがあたしを見ていた。
「よくがんばったな。ほれ」
そう言って、手を差し出す。
だがあたしは、その手を取ることが出来ない。顔を見続けることも出来ずに目を伏せてしまう。
「どうしたのだ?」
ライアンが不思議そうに声をかけてくる。
「・・・・・・ごめんなさい」
あたしの口から自然と言葉が出てきた。
悔しさと情けなさと恥ずかしさが入り混ざって、頭の中はぐちゃぐちゃだ。
かすかに残った理性が、熱くなる目頭を必死で押えている。
「・・・足を引っ張ってごめんなさい」
「何を言っておる。ホイミンの支援があればこそ私は目一杯戦うことが出来るのだ。
足など引っ張っておらんぞ?」
ライアンは慰めの言葉をかけてくれたが、あたしはただうなだれることしか出来ない。
しばらく重苦しい静寂が辺りを包んだ。
その空気を破ったのはライアンだった。
「森を出た時の事を覚えているか?」
随分前のことに感じるが、森を出てからまだ十日も経っていない。
あたしはコクンと首をかしげる。
「おぬしが一緒に行きたいと言い出した時、危険な旅にか弱い女子を連れて行くなどという
ことは考えられなかった。
だがおぬしの真っ直ぐで力強い瞳を見て決心したのだ。必ず力になってくれると。
そしてその通りホイミンは私の期待に・・・いやそれ以上によくやってくれた。
ホイミンがいなければ、この洞窟に辿り着くことすら出来なかったろう。
あの時の決断が間違いでなかったことに、私は誇りすら感じておる。」
ここでライアンは一呼吸おき、さらに言葉を続けた。
「私は連れて行くと決めた時に誓ったのだ。おぬしをどんな危険からでも守り抜くと。
謝るのはこちらの方だ。怖い思いをさせてすまなかったな。」
そして深々と頭を下げた。
そんなライアンの様子にあたしは戸惑う。もはや涙をこらえることは忘れていた。
旅立つ時にあたしは誓っていた。ライアンに迷惑はかけないと。せめて自分の身くらいは
自分で守ろうと。でもライアンはその必要は無いと言っている。
守ってやると言ってくれている。
(ほんとに頼ってもいいの?甘えててもいいの?)
ライアンを見上げると本当に心配そうな顔であたしを見ていた。
その黒い瞳の奥は、大きな優しさに満ちているのが感じられる。
その優しさが、あたしを暖かく包み込んでくれているようだった。
あたしは馬鹿だ。迷惑かけないと誓っていたのに、今まさにこうしてライアンに心配を
かけているではないか。
抱き付いて大泣きしたい衝動を押えて、涙を拭って立ち上がった。
「わかったわ。そこまで言うならあんたに守られてあげる。
もう危ない目に遭わないように、しっかり守りなさいよね!」
ライアンは一瞬あっけに取られた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべて言った。
「うむ、約束しよう。やはりホイミンはこうではなくてはな」
その笑みをみて、先ほどまで冷えて凝り固まっていたあたしの心が、ポッと暖かくなる。
「いい?今度あたしを危ない目に遭わせたら・・・」
言いかけて慌てて口をつぐむ。いったいあたしはなんて事を言おうとしたんだろう。
「ん?今度はどうするというのだ?」
「な、なんでもない!ホラ!先に進むわよ!」
ごまかす様にそう言って、あたしはライアンの手を引いて歩き出した。
……だって言えるわけないじゃない、こんな台詞。
(今度あたしを危ない目に遭わせたら・・・キスしてやるんだから!)
というわけで今日はここまで。
なんだか尻ASS…
この洞窟に出てくる敵は、なんかネズミと空飛ぶ奴という記憶からこうなりましたが、
あとでゲームやりなおしてみたら、キラースコップとひとつめピエロでした…orz
ワカチコワカチコでお願いします。
おお、乙!イイヨイイヨー!
最近寝る前にこのスレを見るのが
習慣になってきたなぁ。ということでおやすみ
投下しようとして、電波が立たずにうなだれるのが習慣になってます…
でははじめます。
謎の声の導かれるままに進むと、地下に降りる階段があった。
あたし達は、ためらいなく先に進む。
地下2階は明らかに人の手が入っている様子だった。
中央に通路があり、その左右に等間隔で部屋がいくつか並んでいる。
部屋を一つずつ調べていくが、部屋同士が別の通路で繋がっていたりするだけで、
特に何も見つからない。例の「声」も語り掛けて来なくなった。
「何も無いわねぇ。やっぱり一番奥かしら?」
「そうかも知れんな。行ってみよう」
途中何度か魔物の襲撃を受けながら、何とか倒し探索を続けた。
そういえばアレクスは「魔物は子供たちを襲わない」と言っていたが、あたし達には
容赦なく襲ってくる。先ほどの「声」といい、この洞窟に子供たちを引き込んで何かをしようと
している奴が居るのは確かだ。
一番奥の部屋を調べると、まさに子供騙しの隠し通路がすぐに見つかった。
もはや子供たちに冒険気分を味わってもらう為の、演出にすら見える。
隠し通路を奥に進むと、更に地下に降りる階段が続いていた。
階段を下りると、そこは小さな神殿のような造りになっており、中央に奇妙な装飾を施した
台座が設置されている。
その台座の上に、宝箱が置かれていた。
台座の上を調べると、ホコリが薄いところと厚く積もっている所があるのがわかる。
何回か宝箱を動かした痕跡なのは明らかだ。
「アレクスは、宝物を見つけた子供がいるって言ってたわよね?」
「うむ。宝箱を取られた後に、また誰かが置いたようだな」
「いよいよもって怪しいわね。子供たちに宝物を取らせてどうするつもりなのかしら?」
「わからんな。とにかく中身を確認してみよう」
そう言ってライアンは宝箱を開ける。
中には靴が入っていた。豪勢な装飾を施した靴だ。全体から淡い光を放っている。
まさに宝物といった品だった。
「靴・・・ね」
「靴・・・だな」
怪しい洞窟の最奥まで来て見つけたものは靴。結局何かを企んでいる奴の影を見つけることも
出来なかった。
まさか本当に子供を楽しませる為だけに、こんな洞窟を作った奴がいるとでもいうのだろうか?
何か怪しいという状況証拠はあるのだが、それが子供たちの誘拐事件に関係するという
はっきりした証拠が見つからない。
靴はかろうじてあたしの足で履けるかといったサイズだった。当然ライアンでは無理だ。
「とりあえず・・・履いてみる?」
もはや唯一の物的証拠である、この靴を調べてみるしか手は無さそうだ。
靴全体から淡い光を放っているので、何か魔法がかかっているのかもしれない。
「試してみるか・・・だが、何が起こるかわからんので気を付けるのだぞ」
「うん」
まず右足から靴を履いてみる。あたしの足にはキツイかと思ったがすんなり履けた。
しかもぴったり足にフィットしている。サイズが足に合わせて変わったようだ。
本当に魔法の品なのだということがわかる。
だが何も起こらない。今度は左足にも履いてみる。やはりサイズはぴったりになった。
その途端、体の重さを感じなくなり浮遊感に包まれる。
「な、何っ!」
まるで急に身長が伸びたように、ライアンを見下ろす形になり混乱してしまう。
体が浮き上がっているのだ!
浮き上がった体はそのまま洞窟の天井に貼りつくように止まった。
「空飛ぶ靴か・・・」
ライアンは天井に張り付いたあたしを眺め、腕組みをして考え込んでいる。
「ちょっと!なにしてんのよ!先にあたしを助けなさいよぉ!」
「おお、すまんすまん。ほれ」
ライアンがあたしの真下に来て両手を広げるとじっとあたしを見上げる。
「何してんのよ!踏み台とか梯子の変わりになるような物ないの!?」
ライアンの動きが止まったので、助ける気が無いのかと腹立しくなってきた。
だがライアンは悠然としたまま、こう言った。
「何を言っておる。靴を脱げばよいではないか」
「あ・・・」
混乱のあまり一番単純な方法が頭から抜け落ちていた。ちょっと恥ずかしくなる。
「さ・・・最初っからそうしようと思ってたんだからね!」
さすがに自分でも苦しい言い訳だと思いながらも、ついこんな事を言ってしまった。
ライアンはニヤニヤしながら両手を広げて待っている。
あたしは顔を真っ赤にしながら、靴を脱いだ。
するといつも通りの体の重さが感じられ、張り付いていた天井から離れる。
「きゃっ」
落下したあたしをライアンがしっかり受け止めてくれる。
女の子の憧れ、いわゆる「お姫様ダッコ」の状態だ。
でもこんなシチュエーションで、してほしくなかったなぁ・・・
ライアンはゆっくりあたしを地面に降ろすと、先ほど考えていた事を喋り出した。
「どうやらこの靴を履くと、どこかに飛んでいってしまうようだな。
行方不明の子供たちも、きっとどこかに飛ばされたのかもしれん」
幾分冷静さを取り戻したあたしも、ライアンの考えに同調する。
「そうね。そういえば子供たちがどこかに飛んでいったという噂もあると校長先生も
話していたわね。」
まるで子供達を誘い込むように作られた洞窟。その最奥に置かれた宝物は空飛ぶ靴。
そして宝物は何度も置き直した痕跡がある。このことから考えられるのは・・・
「とりあえず、誘拐の手口はわかったみたいね。こんな大がかりな仕掛けを考えつくなんて
よっぽどバレたくないんだわ。それに犯人は結構大きなグループだと思う。
だって、少人数じゃこんな仕掛け出来ないもの」
あたしの推理にライアンが頷く。
「そうだな。だが犯人達の目的がわからない。子供たちをさらってどうしようというのか」
その後二人とも無言で、しばらく考え込んでいたが、ライアンが意を決した様に呟く。
「・・・行くしかないか」
あたしも同じ事を考えていた。だが危険すぎると躊躇していた言葉だ。
「・・・行くしかないみたいね」
ライアンの言葉であたしも意を決した。
帰りも何とか魔物の襲撃をくぐり抜けながら、洞窟の外に出た。
地面に置いた不思議な靴を眺めながら、二人で今後の方針を確認し合う。
「実際子供たちが捕まっている所に飛ばされるかどうかはわからん。
下手をしたら、海の真ん中に放り出されて終わりなんてこともありえる」
ライアンは確認するようにあたしに問いかける。
「ええ、わかってるわ」
だが、実際その可能性は低いだろう。子供たち自ら靴を取るように仕向けておいて、
どこに飛ぶのかわからない様にしていたならば、ただ行方不明になるだけだ。
それではただの愉快犯だ。そんな無意味なことに、これほどの大仕掛けを作る馬鹿は
いないだろう。子供たちを誘拐して、何かをしようとしている奴が居るのは間違いないだろう。
となると、靴を履いて飛んでいく場所は、同じ場所だと考えるのが自然であり、
そしてその場所に必ず犯人達がいるはずだ。
ふと気が付くとライアンが難しい顔をして、あたしを見つめていた。
「・・・なあホイミン。わたしはこれから一人で向かおうと思うのだが・・・」
「え・・・?」
「おそらく飛んでいった先には、犯人達が居るだろう。交渉の余地などなく
戦いになると思う。ホイミンはここで帰れ。」
いきなりのライアンの提案に、一瞬頭が白くなったあと急激に怒りが湧き上がってきた。
「何勝手言ってんの!あたしも行くわよ!」
「・・・」
「危険だからって何よ!あんたさっきあたしを守ってくれるって約束したじゃない!」
「それにあんたなんて、あたしが居ないとすぐ死んじゃうんだから!駄目なんだから!」
自分でもだんだん、何言っているのかわからなくなるくらい必死に叫ぶ。
「約束を忘れた訳ではない!!」
あたしの言葉は、ライアンにしては珍しく強い口調で、さえぎられてしまった。
ライアンは自分の声に驚いたようにひとつ咳ばらいをし、少し間を置いて続ける。
「・・・約束を守ろうとすればこそだ。相手はこの洞窟の魔物たちを手懐けるほどの相手、
ホイミンを守りながら戦える相手ではない。命の保障は無いのだ。
だからホイミンは帰れ。後は私の仕事だ」
そう言ってライアンは背を向ける。
「・・・今までの協力に感謝する。ありがとう」
ライアンの気持ちはわかる気がする。元々は部外者のあたしに命を懸けろと言えようはずがない。
でもあたしの気持ちをわかってなさ過ぎる。
まだちょっとの間だったけど、一緒に居て少しは心が通じ合えたと思っていたのに・・・
「・・・ふざけんじゃないわよ・・・」
あたしは湧きあがった不安を打ち消そうとする様に、いつもの口調で問いかける。
「ここまで一緒に来て、いまさら『はいそうですか後よろしく』なんてあたしが言うとでも
本気で思ってんの?」
だがライアンは無言で背を向けたままだ。今までとは明らかに様子が違う。
絶対に決定は覆さないという意志表示だと感じられた。その態度があたしの不安を加速させる。
(このままお別れなの?本当に?)
愛しさ、寂しさ、焦りなどいろんな感情がグチャグチャになって、ついに自分の感情を抑える
ことが出来なくなった。
「イヤよ!あたしはライアンと一緒に居たいの!死んだって構わない!
ここでお別れになるくらいなら死んだほうがマシよ!!」
もはやプライドも恥も無い。あたしは必死でライアンの背にしがみ付く。
「一緒に連れて行ってくれなきゃいやぁ!いやなのぉ!」
「・・・」
「いやぁ・・・」
ライアンは辛そうな顔で振り向いて、あたしを見下ろす。
「ホイミン・・・そこまで子供たちの事を思っておるのか・・・」
この期に及んで、勘違いをしているライアン。
もう、あたしも本音をぶつけるしかない。
「違うよぉ。あたしがライアンと一緒に居たいだけなの。もう一人はいやなのぉ・・・」
涙で顔はグシャグシャ。最低のシチュエーションでの告白だ。でも言うなら今しかない
と意を決した。
「あたしはライアンが好き。ずっと一緒に居たい!生きるのも死ぬのも一緒がいい!」
ライアンの顔が赤くなる。さすがにここまで言われれば、わかるだろう。
「・・・な、何を言っておるのだホイミン?」
ライアンはなんとか誤魔化してここを乗り切ろうとしてるのかも知れないが、あたしは
それを許さない。
「だからあたしはライアンが好きだと言ってるの!ずっと一緒に居たいの!」
分かっているくせに聞き直すライアンに、はっきりともう一度言ってやった。
「・・・そ、そうか・・・」
しばらく考え込んでいたが、観念したのかライアンは顔を赤くしながら喋り出した。
「ホイミンの気持ちはわかった。わたしは・・・わたしはホイミンの事を、良き相棒を得た
と思っていた。さらに女性としての魅力を感じていなかったのかと問われれば・・・
答えは否だと言える。憎からず思っていたのは確かだ・・・」
まわりくどい言い方だ。不器用なライアンらしいが、ここはハッキリしてほしい。
あたしは期待を込めて、ライアンの言葉の続きを待った。
「・・・すまぬ。突然の事で頭がうまく回らぬ。とにかくホイミンの覚悟はわかった。
もはや一人で行くなどとは言うまい。わたしも本音を言えばホイミンの助けがあったほうが
助かる。一緒に行こうではないか。そして共に生きて帰るのだ。」
ライアンは一緒に行く事を許してくれた。それだけで嬉しさが胸を一杯にする。
あたしはライアンに正面から抱きつき、胸に顔を埋めた。
ライアンは緊張で背筋が棒のように真っ直ぐ硬直している。あたしは安心したからか、
ライアンのそんな様子を、なんだかと可笑しく思えた。
「うん。一緒に行こう。もう一人で行くなんて言わないでね?」
「うむ、もう言わん。それと・・・告白の答えは、事件が全て解決してからでよいか?」
「うん、それでいい・・・」
あたしの心をこんなにも不安にさせて、こんなにも安らぎを与えてくれるひと。
もう絶対離したくないと思った。そして同じように想われる事を願った。
あたしは鎧の冷たさを頬に感じながら、その奥にある暖かさを全身で感じていた・・・
きょうはここまでです。
ついにホイミンがデレました。
まあホイミン視点で書いてるから、最初からわかってるんですけどねw
ではでは。
投下乙。よく考えたらそろそろ終わりだよな?ちょっとカナシス
ニヤニヤ!じゃなかったGJ!
いやあこのホイミンやべえぜ・ニヤニヤが止まらねえ。
そろそろ終わり?
なあにきっとホイミソ氏ならスコットやロレンスさらにオーリン、果てはスタンシアラ王辺りまでツンデレにしてくれるさ!
なんという良いデレ!
すばらしく乙!
これは期待するしかない!!
楽しんで頂けているようで良かったです。
自分も嬉しくてニヤニヤしてしまいますw
クライマックスまでもう少し。
ではたまには昼間に投下開始。
「しっかり捕まっているのだぞ」
「うん」
あたしはライアンの背におぶさった。
ライアンが魔法の靴を履く。ライアンの足には明らかに小さく見えた靴が、大きさを
変えてフィットする。両足に履いたその瞬間、二人の体は浮きがった。
「行くぞ、ホイミン!」
「うん、行こう!」
上昇を始めた二人の体はグングン加速していく。このまま上昇を続けたら、雲を突き破って
星の世界まで飛んで行きそうな不安に駆られたが、やがて放物線を描くように平行飛行となった。
「わあー、キレイー!」
視界いっぱいに、水平線が広がっている。陽の光をキラキラと反射して、宝石を散りばめた
ようだ。眼下には、小さなオモチャのようなイムルの村が見える。遠くにはかすかにバトランド
の城らしきものも見える。あたしはしばし、この先にある危険も忘れて、美しい景色を
堪能していた。
そのまま飛行を続けていると、あたし達の目に湖に囲まれた塔が見えてきた。
「あの塔に向かっておるのかな?」
「そうみたいね。あの塔はいつ建てられたかわからない遺跡らしいわよ。今は誰も居ない
廃墟になっているはず。船が無いと行けないし、確かに犯人達の隠れ家としては最適だわ」
話している間にもどんどん塔が近づいてくる。近づくと分かるが、塔の最上階は屋根が無く
広いバルコニーのようになっている。
その時身体が、下降しはじめたのを感じた。
「どうやら、目的地はあそこで間違いないみたいね」
「うむ。だが、このスピードで突っ込んだら、ただでは済まんな」
「た、確かに・・・」
飛び立ったのはいいが、着地する時の事を考えてなかった。うまく受身をとれても怪我は
免れないだろう。
だが、その心配も杞憂に終わった。塔が近づくにつれて、減速してきたのだ。
考えてみればそうだ。あれだけ手の込んだ仕掛けを作って、子供たちを誘拐した挙句、
塔にぶつけて殺してしまうようでは意味が無い。
塔の真上数メートルのところまで来ると、後は綿毛のようにゆっくりと下降を始めた。
あたし達は、フワリと塔の最上階に降り立つ。
その時、上からでは見えなかったバルコニーの奥に2人の人影が見えた。
よくみると、一人は子供だ。無理やり腕を引っ張られて引きずられている。
そして腕を引っ張っているのは・・・・・・魔物!
子供も魔物もまだあたし達には気付いていないようだ。
「ライアン!早く行かないと!」
「うむ、行くぞ!」
すぐに子供を助けようとダッシュしたライアンだったが、前のめりにつんのめって転んで
しまった。あたしも床に体を叩きつけられる。こうなってやっと、おぶさったままだった事
を思い出した。
「ホ・・・ホイミン、早く降りるのだ・・・」
床に突っ伏したまま、ライアンが言う。
「ご・・・ごめんなさい。つい慌てて・・・」
気を取り直して立ち上がり周囲を見わたすと、すでに子供と魔物の姿は無かった。
そして、先ほどまで居た方向に階下へと続く階段があった。
「すぐに追いかけるぞ!」
そう言ってライアンは階段に向かう。あたしもすぐにそれを追いかけた。
階段を下りた瞬間、前を走っていたライアンの体が突然あたしの視界から消えた。
横に吹っ飛ばされたのだ。恐る恐るライアンが吹っ飛ばされた方と逆を見ると、
見たことのない魔物がいた。大きなクチバシと黄色の毛むくじゃらの巨体。先ほど子供の手
を引っ張っていた奴とは違う魔物だ。
あたしは慌てて魔物との距離をとり、ライアンが吹っ飛ばされた方に向かった。
吹き飛ばされたライアンは取り合えず立ち上がろうとしている。だが不意打ちで結構な
ダメージを受けているようだ。あたしはすぐにホイミを唱え、ライアンの傷を癒す。
「あんな魔物見たこと無いわ。物凄い力が強そうだし、どうする?」
そう言っている間にも魔物はあたし達ににじり寄ってくる。
「もちろんやる。ホイミン、サポートは頼んだぞ!」
そう言ってライアンは、自分の身長の2倍はあろうかという巨大な魔物に突っ込んでいった。
魔物は力任せに、鋭い爪のついた巨大な腕を振り回す。あんなのを食らったら、あたしなど
ひとたまりも無い。さすがに先ほどの不意打ちとは違い、ライアンは魔物の攻撃をうまく
捌いている。そして隙を見つけては剣を身体に叩き込んでゆく。
だが魔物は小さな傷など関係ないと言ったかのように、暴れ続けている。
ライアンも魔物の一撃をくらえば、ただでは済まないと少し慎重になっているようだ。
あたしは、いつでも回復が出来るように後方でライアンの戦いを見つめていた。
戦いは何時までも続くかと思われたが、魔物の黄色い毛皮に赤い染みが増えていくに従って
動きが鈍くなっていくのが目にみえて分かるようになってきた。
そして魔物の腕が大きな空振りをした瞬間に、ライアンが一気に懐に飛び込む。
「ぬおおおおおおおお!」
剣を身体ごとぶつけるように、魔物の胸に突き立てた。
魔物は聞いた事の無いような断末魔の叫びを上げて、動きを止める。
そして硬直したまま、ゆっくりと倒れた。
ライアンは肩で息をしている。あたしは労うように声をかけた。
「やったわね、ライアン」
「ああ、しかし子供を見失ってしまった。」
「しょうがないわよ、今までに無いくらい強い敵だったし。でもこれで子供達がここに集め
られているのは間違いなくなったんだから。子供達の居場所を探しましょ」
「そうだな。だが本拠地だけあって敵が強い。慎重に行こう」
それからあたし達は慎重に塔の探索を続けた。さすがのライアンも、敵のボス達との戦いを
考えて体力を温存するためか、なるべく魔物に見つからないように行動している。
幾度かの戦闘は避けられなかったが、なんとか大きな怪我もなく、どんどん下の階へと下りていく
ことが出来た。。
そしてついに、窓から見える地面が同じ高さに来た。つまり1階まで辿り着いたのだ。
「とうとう1階みたいね。でも子供達が捕らえられていそうな場所が見つからないわね。」
「そうだな。もしかしたら、地下があるのかもしれん。」
「ええ〜・・・」
上から降りてきたのだから1階がゴールだと勝手に思い込んでいたが、もし地下があると
すれば、今度はゴールが分からなくなる。もし地下10階とかあったら、とても身体が
持ちそうにない。
「仕方なかろう。探索を続けるしか手はない。」
「まあそうだけどさぁ・・・・・・・・・あっあれ!」
ちらりと視界の端に人間の足らしきものが映った。
二人で駆け寄ると、そこには青に白いラインの入った鎧を着た男が倒れていた。
一目で虫の息だとわかる。生きているのが不思議なくらいの有様だった。もはやあたしの
ホイミくらいでは、助けることは出来ないだろう。
その時、ライアンがいきなり叫び出した。
「クリス!クリスではないか!!」
「え、何?知り合いなの?」
「同じ王宮戦士だ。ホイミン早く回復を!」
「・・・ええ、分かったわ」
あたしは一瞬逡巡した後に、クリスと呼ばれた男にホイミをかけた。だが、傷が治ったような様子は見られない。
やはり手遅れだったのだ。もはや魂が肉体を離れようとしている。
「クリス!しっかりしろクリスー!!」
ライアンの声が届いたのか、クリスと呼ばれた男は薄っすらと目を開ける。
「クリス!しっかりしろ!今助けてやるからな!」
クリスはわずかに口を開いてかすれた声で喋りだした。
「・・・ライアンか・・・俺はもう駄目だ・・・」
口調は穏やかだった。もはや痛みすら感じていないのだろう。
「・・・いま魔物たちの王が目覚めようとしている。魔物の侵略が始まろうとしているのだ。
だが、それと同時に魔王の脅威となる勇者も、この世界のどこかで育ちつつあるらしい。
魔物たちは、王の為に勇者が目覚める前に抹殺しようと世界中の子供を調べているらしいのだ。
この事を世界中に知らせてくれ。このままでは、人間は滅ぼされてしまう。
頼む。俺の最後の願いだ」
クリスは途中なんども言葉を詰まらせながら、ライアンへ最後の言葉を絞り出している。
「あともう一つ。この下の階にイムルの子供たちが捕まっている。どうか助け出して
やってほしい。・・・すまんな・・・最後に・・・お願いばかりで・・・」
とうとうクリスは喋り続けるのも限界になってきたようだ。声も聞き取れなくなってきた。
「願いは聞き届けた。だが死ぬんじゃない!お前には家族が居るだろう!!」
ライアンは必死にクリスに呼びかける。だがもはや、かすかに唇が動いているのが分かるが、
もう何を言っているのか聞き取れない。
やがて唇の動きは完全に止まり、そして事切れた・・・
ライアンはしばらく黙って蹲ったままだったが、半開きだったクリスの目をそっと閉じると
立ち上がってこちらに振り返った。
「クリスは私の先輩だった。剣技・頭脳・人柄ともに素晴らしく、将来戦士団の団長を嘱望
されていたほどの男だったのだ。そのクリスが死ぬとは・・・」
ライアンはこれまで見たことの無いくらい蒼白な顔をしていた。
尊敬する先輩を失ったショックなのか、敵はその先輩を倒してしまうほどの相手だからなのか。
ライアンの顔から完全に自信が失われている。
それに魔王が目覚めようとしているなんて途方もない話、普通なら信じられない所だが、
死を前にした人間がそんな嘘を付くとも思えない。そして、目覚めようとしている勇者の話は
子供達の誘拐事件と辻褄が合う。
ライアンは呆然と立ち尽くしている。そんなライアンを見ていると、あたしはポロポロと涙が
溢れて止まらなくなった。
ライアンの悲しみに同情したからではない。こんな弱々しい姿のライアンを見たくなかった
あたしの悲しみだ。落ち込むライアンなんて見たくない。あたしのライアンは強くなくては
ならない。そう何者よりも強く!
バチーン!!
乾いた音が響き渡った。あたしがライアンを思いっきり引っ叩いたのだ。
「落ち込んでる暇なんてあるの!?子供達を助けるんでしょ!そして生きて帰って、
世界の危機をみんなに知らせなきゃならないのよ!クリスさんと約束したじゃない!」
ライアンは呆然と頬を押さえ、あたしを眺めている。
「それにね!あたしは落ち込んでるライアンなんて見たくないの!いつもの自信に溢れた
ライアンが見たいの!強いライアンが好きなの!!」
一度告白してしまえば、怖いものは無い。あたしの本音がドンドン出てくる。
でも「好き」と言った後の気恥ずかしさには、慣れそうにもないなぁ・・・
あたしは顔を真っ赤にして、涙をボロボロ流している。でもライアンから視線を外すことなく
挑むように正面から見つめた。
やがて呆然としていたライアンの瞳に精気が宿ってきた。
「そうだったな。私にはまだまだやらねばならぬことがある。クリスのためにも、子供達の
ためにも。落ち込んでいる場合ではなかったな。」
「そうよ。それに・・・」
そう言ってあたしはライアンに背後から抱きつく。そして小声で囁いた。
「あたし達は二人で来たんだから大丈夫よ。二人で生きて帰るんでしょう?それにライアンには
バトランドの町を案内してもらう約束があるんだから。途中で死んじゃうなんて許さないん
だからね。」
ライアンは硬直したように直立したままだったが、やがてあたしを振りほどいて正面を向かせる。
「そうだったな。約束は守らなければならない。クリスはここに一人で来たが、私たちは二人
で来た。きっと大丈夫だ。必ず子供達を救い出し、二人で生きて帰るのだ。」
その時にはもういつものライアンの顔に戻っていた。目の前の試練を乗り越えてみせるという強い
自信に満ちた顔だ。やっぱりこうでなくちゃ。
クリスさんの倒れていた部屋の奥にはもう一部屋続いていた。そこには下に降りる階段が
あった。
「クリスの話では、この下に子供達と、それをさらった魔物たちが居るという。
準備は良いか?」
「ええ、あなたと一緒なら何時でも」
「う、うむ。では行くぞ!」
あたし達は一気に階段を駆け下りた。
ここまでです。
名のないキャラに名前を付けるのが、なぜかえらく恥ずかしい…
ラスボスの名前はなんだったかなと、ゲームやり直したら「ピサロのてさき」
……使えるかっ!!
はじゃのつるぎの存在を知らずに力押ししたあのころ・・・
そらとぶくつを知らず、ぐるぐる塔の周りを回って入り口探してたらレベルヌユになってたあのころ!
すごいアホな思い出しか出てこないのはなんでだぜ!?
プギャー
ということで続きます。
地下1階は、大きな広間になっていた。意匠の凝らした柱が等間隔に並び、そのそれぞれに
篝火が焚かれている。壁には何かの神話を描いたものだろうか、壁画が続いている。
まさに神殿といった雰囲気だ。
「いやだよ!お家に帰してよぉ!」
その時、奥から子供の叫び声が聞こえてきた。
「ホイミン!」
「うん!」
あたし達は声のした方に駆け寄る。そこには目玉の化け物に腕を捕まれて必死にもがいている
子供の姿があった。
「その手を離しなさい!」
あたしは化け物に呼びかける。ライアンはいつでも飛び込めるように隙を伺っている。
化け物はこちらに気付き、少し驚いたような素振りを見せたが、子供をガッチリと抱え、
こちらとの間合いをはかっている。
目玉の化け物と睨み合っていると、奥からコツコツと足音が近づいてきた。
「ホホ、性懲りも無くまた来おったのか?王宮戦士よ」
篝火のもと姿があらわになった足音の主は、杖を持ち、ローブを纏っていて一見老人のように
見える。だが顔を良く見ると口は耳まで裂け、目は赤黒く輝いている。皮膚は岩石のように
ゴツゴツしており、およそ人間には見えない。その魔物がどこか楽しげに口を開いた。
「先ほどの戦士もなかなかやりおったし、こう次から次と人間がやってくるようでは仕事
がやりにくい。この隠れ家も潮時かのう・・・」
「先ほどの戦士とは、・・・クリスのことか」
低く怒気のはらんだ声でライアンが尋ねる。
「さてのう、名前など知らぬ。お主も名乗らなくてよいぞ。どうせここで死ぬのだからな」
ライアンの身体が少し低く沈んだ。魔物に飛び掛ろうとしているのだ。あたしは慌ててライアン
の胴に横から抱きつき動きを止めた。
「待ってライアン!まだ近くに子供がいるわ!戦いに巻き込んで怪我させちゃう!」
ライアンはかろうじて突撃をやめ、厳しい目で魔物を睨んだ。
あたしは魔物たちの隙を探るため、取り合えず間を繋ごうと考えた。
「あなた達、子供をさらってどうするつもりなの?」
「ふん、死に行くお主らが知っても、せんなき事だが、冥土の土産に教えてやろう。
ワシはバドス、魔王様の邪魔になりうる勇者を抹殺する使命を帯びておる。偉大なる予言者が、
今はまだ目覚めぬ勇者が、将来必ず我々に害を為す存在になると予言した。ワシらはその勇者
を探し出し、力なき子供のうちに殺すのじゃ。」
あたしは憤りを隠せなかった。
「なんて酷いこと。たった一人の勇者の為に、関係ない子供達をたくさん・・・!」
「ふん、安心するがよい」
バドスは手に持つ杖を振りかざした。すると部屋の一角が明るくなり、そこには牢屋に閉じ込めら
れた子供達がたくさん居た。皆力なくうつむいている。
「勇者でない子供はじきに返してやる。我々の恐ろしさをたっぷり教え込んだ後でな。
いずれ我々魔物が世界を征服した後に、支配される人間がいなければ困るであろう?」
「ふざけんじゃないわよ!あんた達なんかに支配されるもんですか!」
「ふふ、気の強いお嬢さんじゃ。・・・む?」
バドスが急に何かに気付いたように、あたしをじっと見つめる。
「ほう・・・」
あたしを見ていた魔物が、驚いたように赤い目を見開く。
「お主、なぜここにいる?」
突然あたしに向けられた質問に少し戸惑ったが、はっきりと答えてやる。
「子供達を助けるために決まってんでしょ!ついでにあんた達もやっつけてやるんだから!」
「ふぁっふぁっふぁ!これは面白い!」
あたしの言葉を聞いて、バドスは手を叩いて喜んでいる。
「笑い事じゃないわよ!あんた達覚悟しなさいよね!」
「いやはや、こんなことがあるとはのう・・・、まあよい。おぬしの事は後回しだ」
そう言ってバドスはライアンの方を向き、神経を逆撫でするようにわざとらしく丁寧に言った。
「さて戦士殿、お相手致しましょうか」
ライアンの表情に険しさが増すが、まだ動かずにじっと我慢している。
「おおすまんすまん、そうであったな。おおめだま!子供を離してやりなさい。」
バドスが後ろを振り向いてそう言うと、おおめだまと呼ばれた目玉の化け物があっさりと
子供を離した。
その瞬間ライアンが飛び出していた。
稲妻のような速さで振りぬかれた刃が、おおめだまを襲った。
目玉から生えている触手の様な物が、数本宙に舞う。と同時にライアンは子供と魔物の間に割り込んだ。
「その余裕、後悔することになるぞ!」
ライアンは溜まりに溜まった怒りを爆発させるように、激しくおおめだまを攻め立てる。
あたしはその隙をついて、子供を保護した。
「ここはあたし達に任せて下がってなさい。いい?」
子供はガクガク震えながらも小さく頷き、友達がいるであろう牢屋の方へ走っていった。
子供が安全なところまで退避したのを確認して、戦いのほうへ目を向ける。
ライアンは一方的におおめだまを攻めている。雑兵を先に倒しボスに集中するつもり
だろう。その作戦はうまくいくかと思われた。
だが、右のほうがオレンジ色に明るくなったと思った瞬間、ライアンは紅蓮の炎に包まれていた。
バドスが炎を吐いたのだ。
「ぐおおおおおお!!」
ライアンは地面を転がり、身体にまとわり付いた炎を消そうとしている。
慌ててライアンに駆け寄ると、ライアンはすぐに立ち上がった。だが酷い火傷だ。
あたしはすぐにホイミでライアンの傷を回復させる。
「大丈夫?」
「ああ、助かった。まさか炎を吐くとはな。だが次からはまともに食らうまい!」
ライアンは自分に言い聞かせるように叫んで、敵のほうを鋭く睨む。
バドスとおおめだまは並んで立って、こちらを見ている
「さて何を後悔するというのかな?」
口元をニヤリと引きつらせ、バドス嫌味ったらしく笑う。あくまで余裕の態度を崩さない。
「それは今からわかる!」
そう怒鳴ると、ライアンは敵に突っ込んでいった。今度はバドスを狙っているようだ。
ライアンは上段から袈裟切りを仕掛ける。しかしいつもと比べて大振りだ。
怒りが、剣を狂わせているのかと心配になった。
バドスは杖を掲げて剣を受け止めようとしている。
「そんな鈍い剣がワシに当たると思うておるのか!」
だが思い切り振り下ろされた剣は空振りした。その瞬間ライアンは身体を大きくねじって
ジャンプする。
空中で回転し、空振りの勢いをさらに加速させたライアンの剣が、隣に居たおおめだまに
向かった。
おおめだまは虚を付かれたのか、まったく反応できずにいる。
「うおおおおおおおおおおお!!」
空を切るような音を残して、おおめだまは真っ二つに切り裂かれた。まさに会心の一撃だ。
地面に着地したライアンはすぐに剣を構え、バドスのほうを向く。
「さあ、次はお前の番だ。」
「ほほう、ワシをたばかるとはなかなかやるのう。よろしい。本気で殺してやろうかの」
倒された部下であるおおめだまには目もくれず、バドスはどこか楽しそうに言った。
カッとバドスが口を開く。炎はライアンに向かって一直線に広がった。
ライアンは炎の放射線上から身体をずらし、バドスとの距離を詰め、剣を叩き込む。
剣は杖で受け止められたが、ライアンはかまわず押込む。ギリギリときしむ音がして刃が
バドスの身体に食い込んだ。力ではライアンが上回っている!
「ぬぅ、小癪な!」
二人の間に輝きが沸き起こった。次の瞬間にはライアンは吹き飛ばされていた。
「人間にしてはやりおる。もはや手加減はせぬぞ!」
ついにバドスが怒った。口から炎を吐き出すと同時に、上に掲げた両手の先にはいくつもの
火の玉が、湧き起こった。
ライアンは素早く立ち上がり炎から身をかわしたが、そのかわした先を狙った様にバドスの
放った火の玉が降りそそがれた。またもやライアンは炎に包まれる。
「ライアン!」
あたしはライアンに駆け寄ろうとする。だがバドスの吐いた炎があたしの行く手をさえぎった。
「大人しくしておれホイミン。おぬしにいちいち回復されたらキリがないからのう」
「・・・なぜあたしの名前を・・・?」
ライアンの状態も気になるが、魔物に自分の名前を呼ばれた違和感が大きい。とてつもなく
いやな予感がした。
「なぜ?それはお前がワシの部下だったからじゃよ」
「あたしが・・・あなたの・・・部下?」
「そうじゃ。だから手を出すでない」
バドスの突拍子も無い言葉に、一瞬頭が真っ白になってしまう。
ふとライアンの方を見ると、ふらつきながらも立ち上がろうとしていた。
「さすがにしぶといのう。すぐに楽にしてやろう」
バドスの頭上に先ほどよりも数多くの火の玉が浮かんでいる。バドスが手を振り降ろすと
同時に、全ての火の玉がライアンに直撃した。ライアンはなす術も無く吹き飛ばされる。
あたしはその光景を見て目が覚めた。とにかくライアンを助けないと!
もはやライアンはピクリとも動かない。あたしは我を忘れて駆け寄ろうとした。
「きゃあああああ!!」
一瞬目の前が真っ赤に染まったかと思うと、全身を耐え難い熱さが襲う。
バドスの吐いた炎が直撃したのだ。
だがあたしは片膝をつきそうになりながらも、かろうじてこらえライアンの元に行こうとした。
「・・・しつこいのうホイミン。もはや助ける気など起こらぬ様にしてやろう」
そう言うとバドスは不思議な手振りを交えながら呪文を唱え始めた。
「ピサロ様から与えられたこの力、とくと見るが良い!」
激しい身振りから一転して、両腕を突き出した状態で止まる。するとあたしの身体を凍てつく
ような冷気が包みこんだ。冷気は体の芯まで染込んで、そして消えた。
特にダメージを受けた感じはしない。
「い、今のなに?」
「自分の体を見てみるがよい。ホイミンよ」
そう言われて自分の身体を見下ろし、絶句した。
手が無い。身体が無い。足が無い。
見えたのはウネウネと動く、土色の触手。
まるで理解出来ない。いったい何が起こったのだろうか。
「ホイミスライムこそが、おぬしの本当の姿じゃ」
「あたしの・・・」
「おぬしはワシの命令で人間に化け、人間達の動向を調査する任務についた内の一人だった
のじゃ。だが、すぐに行方不明になった。人間達にばれて殺されたと思っていたのだが、
まさか記憶を失って、自分を人間だと思い込んでいたとはのう・・・
それがノコノコまたワシの前に現れるとは・・・面白いこともあるものじゃ」
あたしがホイミスライム?人間に化けていた?
そんなのわからない、いやわかりたくない!
必死に否定しようとしたが、姿が元に戻ったからだろうか、バドスの話を聞いたからだろうか、
暗闇の底から昔の記憶が甦ってきた…
――――――あたしは自分の生まれを呪っていた。
魔物の世界では力が全てだ。力なきものは強きものに服従するしかない。
ホイミスライムとして生まれたあたしにとって、生きる事とは服従する事だった。
そんな鬱々とした生活のなか、人間達の動向を監視しろという命令を受けた。
初めて見る人間達の世界は素晴らしかった。強きものが弱きものを支配するのは変わらない。
だが魔物の世界とは違い、支配する者は、支配される者を守る責任があった。
そして守る者と守られる者の間には、優しさ、思いやりが溢れていた。
親子に、隣人に、友達に、恋人に対する思いやり、それを見ているだけで、心が暖かく
満たされた。
もし自分がその輪の中に入れたらどれだけ幸せだろうかと、有りえぬ夢想もした。
そんな時、新たな命令が下った。
人間の姿に化け、人間社会に紛れ込み、より踏み込んだ調査をしろというものだ。
チャンスだった。たとえ仮初の姿でも人間として過ごせる!
魔物の世界から逃げ出せる!
あたしはバドスの魔法で人間に姿を変えられた後、身を隠しながらなんとか記憶を無くす
魔法薬を手に入れた。それによって、完全に過去に決別するためだ。
そしてあたしの、人間としての生活が始まった。
人間として過ごし始めたあたしは、身を隠すように森の中で一人で生活していた。
記憶を消したといっても、潜在意識の奥に、もしバドスに見つかったら、または人間に正体が
ばれたら殺されるという恐怖感があったのかもしれない。
でも人間としての生活は楽しかった。見るもの全てが新鮮に映り、いつもウキウキしていた。
たまに村に行き、人々と触れ合うのが本当に楽しかった。幸せだった。
そんな生活を続けていた時に現れたのがライアンだった・・・
「またワシの為に働くと誓うのならば命は助けてやるぞ」
バドスの声で、現実に引き戻された。
あたしが身動き出来ずに固まっているのを了解と受け取ったのか、バドスは倒れているライアン
に向かい呪文を唱え始めた。頭上には、これまでとは比べ物にならない、巨大な火球が膨らんでいく。
あたしの人間としての生はまやかしだった。心を形作っていたものが、ガラガラと音を立てて
崩れ去っていく。
だが、一つだけ崩れなかった確かな想いがあった。
それは、ライアンを愛しているという想いだ。
この想いだけは、暗黒となった心の中で爛々と輝き続けていた。
「ワシを楽しませてくれた褒美じゃ!我が最大の魔力、受け取るがよい!!」
バドスの腕が、倒れたままのライアンに向かって振り下ろされる。
あたしの身体は自然に動き出していた。ライアンと火球の間に身を滑り込ませる。
「邪魔をするなと言ったはずじゃ、ホイミン!」
遠くでバドスの声が聞こえたような気がした。
あたしの体に触れた火球は激しく燃え上がり、全身を包む。
「あ、ダメダ・・・」
身を焦がす炎のあまりの激しさに、自分の命がすぐに奪われるであろう事を悟った。
不思議と痛みは無い。
目の前には虫の息のライアンがいる。
どうせ無くなる命なら、愛するライアンに捧げよう。
そうすれば、ライアンの心の中で生き続けることが出来るかな?
あたしは、残された魔力と生命力全てを集中して、回復呪文を唱え始めた。
(ライアンに・・・あたしの・・・全てを・・・あげる!)
「ベホマ!!」
ライアンの体が淡い光に包まれ、みるみる全身の火傷が回復していく。
あまり成功した事のない上級の呪文だったけど、うまくかかったようだ。
急激に意識が薄れていくのを感じる。
(ああ死んじゃうんだ…)
でもあたしは満足感に包まれていた。
ライアンと出会えた人生は幸せだったと心から言える。
(・・・あ・・・最後にライアンに・・・キス・・・したかった・・・な・・・
でも・・・こんな・・・体じゃ・・・ね・・・・・・)
小さな後悔を残したのを最後に、あたしの意識は途絶えた…
BAD END
なんてことはなく、
もうちょっとだけ続くんじゃ。
うおおおおGJ!!
あああ続きが気になるとこで終わりやがってえ
続き投下します。
ライアンは、全身が何か暖かいもので包まれている感覚で目を覚ました。
まるで母親に抱かれているようだった。
このまま幸せなまどろみに浸っていたいと考えたが、今の状況を思い出してすぐに立ち上がる。
誘拐事件の首謀者であり、勇者の抹殺を企む魔物のボスと戦っていたのだ。
「ホイミンめ、余計な事をしおって・・・」
少し離れた所でライアンを睨む魔物―――バドスが呟いた。
ホイミンの名を聞いて、ライアンは辺りを見回す。そういえば姿が見えない。
嫌な予感を感じ、バドスに問いかける。
「ホイミンはどうした」
魔物はフンと鼻を鳴らし、ライアンの足元を指差した。
「そこで消し炭になっておるわ」
バドスの指を差す方向を視線で追ってみると、焼け焦げた魔物の死体がある。
酷い損傷ではっきりとは判らないが、ホイミスライムのようだ。
「どういうことだ!」
ライアンは魔物の訳のわからない説明に怒気をはらんで聞き返した。
「そのホイミスライムがホイミンじゃ。貴様をかばって死におったわ!」
「何をばかなことを・・・」
ライアンはもう一度周囲を見わたす。するとホイミンの服が落ちていた。
まるで、着ていた人がすっぽりと抜けたように。
「貴様ホイミンに何をした!」
「裏切り者を粛清しただけだじゃ。お主と順番が逆になってしまったがのう」
ライアンには俄かに信じられないことだった。だが状況がバドスの言うことを真実だと
示している。
「貴様ぁ!」
ライアンは一気に距離を詰め切りかかろうとした。
バドスは、後ろに下がって距離を保つ。
「まあ待て。」
「何を待つと言うのだ!」
ここでライアンはバドスの異変に気付いた。だらだらと汗を流し、肩で息をしている。
「貴様、魔力が尽き始めておるな?」
「何を馬鹿な事を・・・」
バドスは一笑に伏す。だが事実、魔力は尽き始めていた。ライアンに止めを刺そうと最大の魔力を
使ってしまったのだ。なんとか相手の心を乱し、時間をかせごうとしていた。
歴戦の戦士であるライアンがその好機を逃そうはずがない。
さらに距離を縮めようと、踏み込む。
「なめるなよ、人間風情が!」
バドスは素早く火球を作り出し、ライアンに向かって指を振り下ろす。
しかしライアンは火球を剣で切り裂き、そのままの勢いで切りかかった。
バドスは杖で、剣を受け止める。
ライアンはかまわず押込み、剣を身体にめり込ませようと力を込めた。
「おのれぇ!」
バドスがそう叫ぶと同時に、先ほどと同じように、二人の間に輝きが起こった。
ライアンは軽く吹き飛ばされたが、すぐに踏ん張って体勢を立て直した。
「どうした、先ほどより弱くなっているぞ!」
そう叫んで再びバドスとの間合いを詰めようとする。
バドスの頭上には既に、幾つかの火球が浮かんでいた。そしてカッと口を開く。
その瞬間には、すでにライアンは横にステップしていた。
直前までライアンがいた場所を、バドスの吐いた火線がむなしく通り過ぎる。
「その攻撃パターンはさっき見た!」
ライアンは鋭く踏み込み、バドスとの距離を一気に詰めた。
バドスが振り降ろした火球は、ライアンの背後で地面にぶつかり爆ぜただけだった。
ライアンは勢いのままに鋭い突きを繰り出す。バドスはかろうじて体をよじってかわした。
だが、突きは囮だった。一直線に繰り出された剣は急激に角度を変えて上に跳ね上げられる。
ゴトリ…
腕が地面に落ちた。バドスの左腕が切り落とされたのだ。
「馬鹿な…このワシが人間ごときに…」
バドスは信じられぬといった表情で、なおも自分に迫ってくる戦士を見つめた。
「終わりだ」
ライアンは渾身の力で、剣を振り下ろす。
バドスはかろうじて、杖で剣を受け止めた。だが、傷を負い、すでに魔力の尽きた体では
支えられようはずかない。
ライアンの剣がじりじりとバドスの身体に近づく。
「ま、待て!ワシを倒せばピサロ様が黙っておらんぞ!」
「ピサロとは何者だ?」
ついに剣がバドスの身体に触れた。あと一押しで、傷を負わせられる状態だ。
「我ら魔族のリーダーだ!魔王様復活の指揮をとっておられる方だ!」
ライアンは更に力を込め、剣を魔物にめり込ませた。
「ならば、そのピサロという輩も倒すのみだ!」
「や、やめろおおおおぉぉぉぉ!!」
「ぬおおおおおおおおおおお!!」
剣は肩口からめり込み、バドスの力が抜けると同時に一気に脇腹まで切り裂いた。
完全な致命傷だ。バドスは崩れるように倒れこんだ。
返り血を浴びたライアンは、しばらく凄惨な姿で立ち尽くしていた。
やがてふらついた足取りで、ホイミスライムの死体の方に歩いていった。
「これがホイミンだというのか・・・」
焼けただれたホイミスライムをよく観察する。
すると、ホイミスライムの身体に青く輝く何かがついていた。
「これは・・・ホイミンにやったイヤリング・・・」
ライアンはその場に崩れ落ちるように、地面に両手をついた。
「・・・やはりホイミンなのか・・・」
ライアンにとって、ホイミンは初めて心を開いて接することの出来る女性であった。
そして、なによりかけがえのない仲間、相棒であった。
不器用で、素直じゃなくて、でも誰よりも人間を愛していた、最も人間らしい女性であった。
そのホイミンが、自分の正体を知らされたとき、どれほどの絶望を感じたのだろうか。
そして、正体を知らされてもなお、命を懸けてライアンを救う為に、どれほど大きな愛と勇気
を必要としたのだろうか。
失ってみて初めて、ライアンはハッキリと認識していた。自分はホイミンを愛していたのだと。
正体が何者でも関係ない。ホイミンはホイミンなのだ。それが答えなのだと思った。
だが、もうホイミンは帰ってこない。その事実に、ライアンは押し潰されそうになった。
「ホイミン救われた命、無駄には出来ない・・・」
だからライアンは叫んだ。黒い圧力を跳ね返すかのように。
「ホイミィィィィィィン!!!!」
ライアンの叫び声は、薄暗い地下神殿にしばらく鳴り響き、そして吸い込まれるように消えた…
短いけど、今日はここまで。
次回投下でラストの予定です。
ああ…、切ない…。
乙です。
エピローグ期待してますね
最後の最後にアク禁・・・orz
186 :
ホイミンの人:2009/04/05(日) 22:33:39 ID:+AuYPxNmO
トリ間違えた。
携帯で慣れない事するもんじゃないね・・・
ドンマイ
解除キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
ということで最終話、投下致します。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
バトランドの王城では、式典が催されようとしていた。
王の玉座の左右には国の要職に就く大臣達が並び、玉座へと続く赤絨毯を挟むように、
王国の戦士達が二列に並んでいる。皆、誰かの登場を待っているようだ。
しばらくすると、盛大なファンファーレが鳴り響き一人のピンクの鎧を着た男が入場してきた。
ライアンである。
子供の誘拐事件が実は魔物たちの企みで、勇者を抹殺するために行われていたこと。
魔王が復活するかも知れないという、世界の危機が迫っていると突き止めたこと。
その見事な働きを評価されて、王から直接表彰されようとしているのだ。
ライアンは表情を変えずに王の前まで進み出ると、恭しく片膝をついた。
「おおライアン、此度の活躍見事であった!何でも申してみるが良い。褒章は思いのままぞ!」
王は上機嫌で声をかける。それもそのはずだ。これから世界を巻き込んで行われるあろう
魔物たちとの大戦に、世界のどの国よりも早く気付いたのだ。今後の戦いにおいて、そして
戦いに勝利した後の混乱収拾において、政治的なイニシアチブが取れる。バトランドに大きな
利益をもたらすことも可能なのだ。
ライアンはゆっくりと顔を上げると、静かに語り出した。
「ならば王国戦士としての私の任を解いてください。」
「なに?」
戦士の言葉に、王は首をかしげた。周囲の人間達も怪訝な表情をする。
「私は、勇者を探して保護したいと考えております。他の魔物が勇者を探し出すために、
また誘拐事件を起こすことは明白です。最悪の場合、誘拐などせず子供を皆殺しにする
という強行手段に出ないとも限りません。倒した魔物の話によれば、魔王を倒せるのは
勇者だけらしいのです。魔物たちが諦めるとは思えません。私は子供達を守りたいのです。
(それがあいつに報いるために私が出来る精一杯のことだ)」
一瞬の静寂の後、周囲から、おお!という歓声が起きた。恩賞を賜るどころか、あえて世界の
為に戦いたいと、自分の任を解く事を願い出たのだ。ライアンの決意に感動したのだろう。
王も例外ではなかった。気を落ち着かせる為だろうか、大きな深呼吸をする。
「お前ほどの戦士を失うのは、わが国にとって大きな痛手だ。だがライアンの決意を無下に
することは出来ん。」
そう言って王は、パンパンと二度手を鳴らした。壁際に控えていた侍従が箱を持ってくる。
「これはせめてものわしの気持ちじゃ、旅には路銀も必要であろう」
そう言って箱を開いて見せる。中にはたくさんの金貨が入っていた。
ライアンは深く頭を下げ、箱を受け取る。
「ありがたき幸せ。頂戴致しまする」
「だが、一つ約束してほしい」
王の声にライアンは顔をあげる。王は穏やかな笑みを浮かべてこう言った。
「全てが終わったら、必ずこの国に帰ってくるのじゃぞ?」
主君の暖かい言葉に、ライアンは喉を詰まらせた。
「はい。必ずや・・・」
ライアンは立ち上がると振りむいて、出口に向かって歩き出した。
「がんばれよ!ライアン!」
「おまえなら出来るぞ!」
「この国のことは俺たちに任せておけ!」
「絶対帰ってこいよ〜!」
同僚の戦士達の声が、背中に優しく触れる。
ライアンは込み上げてくるものを押えることが出来なかった。
旅立ちの時にこんな顔は見せられないと思ったライアンは、振り返る事なく、拳を突き上げた
だけでその声援に応えたのだった。
(世界のどこにいるかも判らない勇者を探し出す。そして勇者と共に魔王を倒す。
途方もない話だ。だが、勇者を保護し共に戦うことで、魔物たちの攻撃が自分に集まれば
その他の子供達に害が及ぶことは無くなろう。
今はこれしか方法は考えられない。あいつが居ればもっといい方法を考えたかも知れないが…)
そう考えてライアンは自嘲気味に笑った。まだ心のどこかでホイミンの事を頼っている自分に
気付いたからだ。
ライアンは両手で自分の頬をバチンと叩いた。
「ホイミンの愛したこの世界と人間の為に、私はやらねばならん!」
自分に気合を入れるように大声を出すと、ライアンはしっかりと踏み出した。広大なる世界へと。
―― エピローグ ――
あたしが最初に認識したのは、体がふわふわ浮いているような感覚だった。
ゆっくり目を開いてみると、上下左右、どこまでも真っ白な空間に一人浮かんでいた。
自分が落下しているのか、上昇しているのかすらわからない。
恐る恐る自分の体を確認してみると、手足も不気味な触手もなかった。何もないのだ。
魂だけの存在になったのだろうか。
ただ、周囲は暖かくてとても心地いい。もしかして、ここが天国って所なのかな?
少なくとも地獄とは思えない。
魔物だったあたしが天国に来れるなんて、考えもしなかった。
ずっとここで、ライアンを見守ってようかな……
…見えないけど。
どうしたものかと考えていると、突然声が聞こえた。それは耳からではなく頭の中に直接
響いてくるような感覚だった。
「ホイミンよ、心優しきホイミスライムよ」
「だ、誰!?」
辺りを見回すが声の主の姿が見えない。だが、聞く者に安らぎを与える女性的な声だった。
「私は竜の神です。あなたのことはずっと見ていました」
「見てたって、何で?」
「魔物の中に、善の心を持った者が現れるのは珍しいからです。私はあなたを見ていました。
あなたが死ぬところも見ていました。あなたの優しさを見ていました」
見ていた見ていた言われて、少し薄気味悪くなった。もしかして神様って変態の覗き魔?
「私は変態ではありません」
「え?じょ、冗談ですわよ!」
考えていたことを見透かされて滑稽なまでに驚いてしまう。変な口調で返してしまった。
どうやら隠し事は出来ないみたいだ。
「私はあなたの心の優しさに心を打たれました。もしあなたのような心を持った魔物が増えたら
いつか人間と共存出来るかもしれません」
人間と魔物の共存…あたしには無理なことのように思えた。魔物たちは人間の世界を滅ぼして
自分たちの王国を作ることしか考えていない。人間を卑小な生き物と決めつけ、奴隷にするくらい
にしか考えていないだろう。人間を好きになったあたしが異端なのだ。
「あなたに役割を与えましょう。人間と魔物が理解しあえる世界の為に」
理解しあうための役割?一瞬意味がわからなかったが、もしかして神の使いみたいものにされるのだろうか?
あたしには分不相応の姿を想像し、慌てて拒否する。
「ちょっと待ってください!いきなりそんな事言われても困ります!
あたしにはそんな大それたこと出来そうにありません!」
所詮、魔物と人間は別の生き物。理解し合える存在ではないのだ。
「世界中の人間と魔物を説得するなんて、あたしには無理です!それにあたしだって自分を
人間だと思い込んでいた時には、魔物を敵だと思っていました」
しかし、竜の神はあたしの言葉をあっさりと受け流し、話を続ける。
「そうですね。しかしあなたは、自分が魔物だと知っても、人間を愛することを
やめませんでした。」
「そ、それは…急なことで頭が付いていかなかったというか…理解したくなかったというか…」
「では、あなたはもうライアンを愛していないのですか?」
先ほどから、神様の言葉はどうにも難しく、真意を図るのが難しい。
でもこの質問にだけは、はっきりと答える事が出来る。
「ええ、愛しています。今でも。いつまでも」
姿は見えないけれども、神様が頷いたように感じた。
「そうです。その心が大事なのです。役割といっても何も世界中の魔物と人間を導けという訳
ではありません。あなたの愛する人と幸せに過ごせば良いのです」
ライアンと幸せに過ごす…あたしが夢見ていたことだが、もう叶わぬことだ。気持ちが重く
沈む。しかし神様はあたしの気持ちもおかまいなしに、言葉を続ける。
「不幸も幸福も伝染します。あなたが幸せに過ごすことによって幸福が広がれば、それで
良いのです。魔物であり人間であるあなたならば、両方に伝染するかもしれません」
神様の言うことは、本当なのだろうか?いや、神様なんだから嘘はつかないだろうけど。
でも、今更こんなこと言われても、もう…
「神様の言う通りになればいいなとは思います。でもあたしはもう…死んでしまいました」
言葉の最後に、自嘲を付け足す。もう終わったのだ。
「ですから、あなたに新しい命を授けましょう」
「……え?」
「あなたはこれから生き返り、愛する人とともに幸せに過ごすのです。それが私があなたに
与える役割です」
「…生き返る…ライアンと一緒にいられるんですか!」
そう言った瞬間に、真白だった空間を塗りつぶすように景色が広がった。
森が見える。草原が見える。遠くに町が、その向こうに海と遥かなる水平線が見える。
空飛ぶ靴でライアンと一緒に見た、上空からの景色と同じだった。
「あなたの愛する人…ライアンは勇者とともに、地獄の帝王を倒そうとしています。
地獄の帝王はこの世の存在ではありません。邪悪なだけの存在です。魔物たちを支配し、
人間を滅ぼそうとしています。」
そう言えば、誘拐事件の主犯バドスが、魔王がどうだとか言っていた。
ライアンなら、その話を聞いて魔王を倒そうとするのは十分考えられる。
あいつ無茶ばっかりするから…
「さあ、あなたはこれから生き返ります。ライアンを助け、世界に平和を取り戻しなさい。
そして平和になった世界で、幸せに暮らすのです」
神様の言葉が終ると同時に、墜落感があたしを襲う。事実、地面が近づいてきていた。
そしてだんだんと神様の存在感が離れて行くような感じがする。
「神様!ありがとうございます!あたし頑張りますから!!」
あたしのお礼の言葉に、姿の見えない竜の神様が微笑んだような気がした。
――――――――――――――――――
中天まで上った日の光があたしの白い肌を焦がそうと必死に輝いている。でも、涼しい風が
あたしの肌と青い髪を撫で、照りつける暑さを中和してくれる。気持のいい、初夏の日だ。
あたしはキングレオという町に来ていた。あいつの足取りを追って一ヶ月。ようやく追いついた。
勇者を探して旅立ったはずなのに、行く先々で小さな世直しをしているらしい。
実にあいつらしいな。全然変わってない。なんだか安心した。
このキングレオでも、王様の性格が豹変し民に圧政を敷いてると聞きつけて、調査に向かった
という情報を2日前に聞いた。まだこの街にいるのは間違いないだろう。
門をくぐって街へと入る。いよいよあいつに会える。会ったらなんて言ってやろうか。
きっと驚くだろうな。どうせ驚かすなら…
町に入ってすぐに人だかりが出来ているのが見えた。なんだろうと思い、近くの人を捕まえて
何があったのかを訪ねた。
「旅の戦士が、城の兵士たちをいざこざを起こしているらしいよ。なんでも王に会わせろとの
一点張りだとか」
それを聞いて騒ぎの中心に目を向ける。確かに城の兵士らしき数人が、一人の戦士を取り囲んで
押し問答をしている。旅の戦士の顔は見えないが、隙間からピンクの鎧がチラリと覗いた。
「相変わらず不器用ね」
思わずクスリとしてしまう。会った時と何も変わっていない。
ホント、あたしが居ないと力押ししか出来ないんだから。
あたしは昂る気持ちを抑えながら、人垣を掻き分けて騒ぎの中心へと向かう。
だんだんとあいつの姿が見えてくる。
あたしを見たら、どんな顔するのかな?
きっと驚くだろうな。
この前、最後に出来なかったし
どうせ驚かすのなら…
……いきなりキスしてやるんだから!
―― fin ――
終わりです。
という訳で、ホイミンも”導かれし者”になりましたとさ。
ゲームで人間になったホイミンに再会したとき、なぜ仲間に出来ないんだと
理不尽に感じたのが思い出されます。
レスを下さった方々。ツマンネと思っても叩かずに見守って下さった方々。
ありがとうございました!
乙!!面白かったぜ!!
で、次は何書k(ry
ホイミン可愛いよホイミン
次はゲレゲr(ry
乙です
ホイミンかわいいよホイミン
しかし回復役が入ったということは代わりに抜けるのはクリ(ry
そしてより一層出番が遠のくミネ(ry
そうして、天空の武具をたずさえひっそりと馬車を去る武器屋
面白かった!乙!!
続編が期待させられる良いエンディングでした
今日初めて来たんだが初めの1のSSいい。絶妙に短くまとめてあるのにめちゃ萌え。
女のセリフだけで書くのって案外難しいよな。
他のもこれから読ませてもらうわ。
>>205そしてインスパイアされてSSを投下するのですね。わかります。
>>201-203その3人も大事なんだぜ?なぜなら↓
>>199-200,204
次はツンデレ王女と従者、ツンデレ商人、ツンデレ姉妹の物語。そしてツンデレ勇者の元に集う導かれしツンデレ達…
なんてことを考えていますが、完成する目処は全然立ってませんw
王女の話はすでに40kbほど書いていますが、ここで最大の障害が。それは…
「なんで俺の嫁が緑神官ごときといい感じにならにゃいかんのじゃ!」
まあ、もし完成したら投下したいなと思います。
それまで名無しに戻って、他作者様にwktkさせて頂きます!
>>206 作品完結乙でした。次回作も期待してます。
完成して一気に投下と言うよりは暇を見つけてぽちぽちって形のが嬉しいかも。
常に作品が投下している流れの方がスレも賑わいますしよければ御一考を
ツンデレマヒャドジイサンもお願いします
ほしゅ
ちょっと書き溜めが底を突きつつあって遅れてますorz
どうしても4人目の登場が別キャラに食われてしまうのですが修正が難しい。
食ってしまうというのはいいキャラという証拠では?
この際そのキャラを前面に押し出して4人目は空気キャラとしての地位を確立させるのも一興。
などと無責任な事を言ってみるテストwww
久々に来てみたら俺好みのSSが
ホイミンの人大変乙でした、次回も期待していますw
ほ
いやああぁぁ見ないでええぇぇぇ!
書き手が保守したっていいじゃない ツンデレだもの
ほしゅ
CC氏期待保守
217 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/05/01(金) 19:21:19 ID:daN/o7XDi
保守
GW更新に期待
もう少しで、ようやく書くの再開できそうです保守
ちなみに、GWは存在しませんでしたw
うぅ。。。もうちょっとでトンネルを抜ける筈。。。
いまのところ、今年の後半はこっちにかなり時間を使えるつもりでいます。
後半つまり来月から期待してよいとな!?
6月はまだ前半のような気がする的保守
ほっほい
わしが いるかぎり このスレは ほしゅに つつまれるで あろう
お久しぶりです。ちと、進行状況報告というかぶち当たった数々の問題点をネタにでも。
・やろうとしてたネタがエロゲで先にやられていた件
・チクハさんの絵を描いてるのですがババァ臭が出せない件
・チクハさんの年齢的にバニーはダメだ!→けど、露出を上げたい!→ミニスカもNG→せめてへそだけでも→おなかが冷えます!→なんてこった!!
・ムスチナさんの衣装が忍者になりそうな件。ドラクエ臭が消えていく。
・勇者男を描いたら本気で顔が殴りたくなる面だからどうしよう&見た目がぱっと見賢者になってしまったorz
けど、五月中には何とか次の話を上げる予定です。
・俺はエロゲなどやらんから、ネタかぶりなど気にならん。
・ババアの方がおっぱいがフニッっと柔らかいんだぬ。
・年齢的にむしろおk
・素肌にくさりかたびらハアハア
・前述の勇者の描写だと、殴りたくなる顔が自然だwww
ってことで楽しみにしています
年増による露出しないエロスって素晴らしいと思う
ほ
り
い
ゆ
う
し
''
ゲーム制作期間がとってもながい
と
り
や
ま
あ
き
ら
最近の絵柄もそれなりに好きです
す
ぎ
や
ま
こ
ぅ
い
馬鹿野郎!
ふっかつのじゅもんがちがいます
ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ
ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ
,, ,, ,,
DQの場合濁点は横しゃなくて上につくんたけとね
なんという見事な保守w
とゆうことで、今週なにごとも無く無事に過ぎれば、
ようやくそろそろ書くの再開できそうです。
ブランクもあるのですぐに全開とはいかないと思いますが、
気楽に待つともなくお待ちいただければと思いますです。
全力で期待せざるを得ない
とはいうものの、こんな時間になるまでお疲れさまです
読み手(多分)一同、のんびり待ってますので、体調など崩さぬようお気をつけて
わあい
CC氏復活かぁ!
いや、待ってたよホントに!!
ほあげ
266 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/06/16(火) 00:49:29 ID:U3DpiQeqO
上げ忘れた
267 :
自治スレにてローカルルール変更審議中:2009/06/18(木) 03:05:38 ID:DG9lOCjk0
久々に着た。書き手変わった?そして何故「前スレ」?
ほしゅ
268 :
自治スレにてローカルルール変更審議中:2009/06/20(土) 16:41:54 ID:G6qnIwsnO
保守
☆
そ
すいません、次回、なにやらスゴい長くなっちゃうかも知れません(汗
内容的にはそんな大した話じゃないのに、困ったな。。。
もしかしたら、2、3日に分けて投下するかもです。
いちおう6月中を目指して進めてますが、なんだかんだ用事が多くて、
いまのところ微妙な感じです、申し訳ないです。
ジツは、再開にあたって心機一転ガラッと仕切り直そうか迷ったんですが、
やっぱり、何事も無かったように前回の続きから書いてます(笑)
CC氏なら下手なラノベの続編より全然待てるよ!
無理せずじっくり書き進めてください!
わあい
274 :
自治スレにてローカルルール変更審議中:2009/06/24(水) 20:29:08 ID:OS4olD4bO
楽しみに待ってるよ〜
心機一転とか重大なことをサラっと言ってますなw
まあ続きを書いてくださるようでよかった
楽しみにしてますよ〜
待てば海路の〜
日和無
7月だよ!
全員集合!(書き手さん的な意味で)
えんやーこーらさ
なんで、此処だけ昭和の
……ドラクエ3発売って最初昭和でよかったっけ?
意味がわかりません
ファミコン版のドラクエ3が発売されたのは
昭和時代だっけ?
と解釈したけど合ってるかな
>>283 すまん、それであってる。なんか、書いてる内にアレ?って思って。
調べたら昭和63年で後1〜2年で平成になる時期だったわ。
285 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/07/08(水) 17:43:03 ID:3gn+S8NNO
前歯が折れたからほあげ
保守するのだ・・・
ほ
288 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/07/13(月) 21:07:10 ID:1MTRW2Fi0
し
ぞ
ら
の
ま
も
り
び
(´・ω・`)
ドラクエ9で仲間をマグナ、リィナ、シェラにしてる俺
どうせなら主人公をヴァイスにすればよかったと後悔してる
あえて困難な道を選んだ
>>288とそれに応えようとした
>>289-295に乾杯
>>296 お前には失望した
>>297 じゃあ今から始める俺はゴドー、アリス、エデン、ライナーで。
装備を再現しつつゾーマ様をボコるまで頑張るぜ。
…ア、アレ?巨乳体型が無い…?
>>296っていうか、スクエニに失望した俺参上・・・
ガングロ妖精って何ガングロ要請って・・・
>>299 「くれいちろう」か「たべ・こーじ」で検索すると幸せになれるかも知れないぞ
ガングロ妖精はあちこちで言われてるからどれ程かと期待したのに普通すぎて逆につまらん。
しかも終盤デレやがるし。俺を萌えさせようとかマジありえないんですケド?
何故あんなガングロが段々可愛く見えてくるのか
もう俺は駄目なのかもしれんね
やぁ、皆さんお久しぶりです。
…なんかもう、本当、ごめんなさい。どの面下げて、って感じになってますが。
随分ブランクを作ってしまいましたね。そろそろ俺のことなんか知らない住人の方もいっぱい出てきてるんじゃないでしょうかw
どうしてこんなことになったか言い訳すると
@ウチのプロバイダが物凄い長い間書き込み規制食らってた。
Aお仕事を探していた。というか今も探している。
B新しいマシンの動作が不安定。二日に一回リカバリ。
そんな実情です。実に面白みのない理由で恐縮。@さえなけりゃもそっと早く来られたはずなのにっ。
しかし、流石に手ぶらで帰ってきたわけじゃありませんよ。
予てから構想を練りまくっていたドラクエ2SSに関して、今後を考えて「あの方」に協力を申し出たところ快諾を得られました。
それで空いた時間を見つけて、ちょくちょく書き進めては打ち合わせをしています。
…どの程度進行しているかはまだいえませんが、そんなに遠くないうちに連載開始できるはず。再規制されない限りは。
アリワ外伝とどっちを優先すっかさんざ悩みましたが、一刻も早く彼とのコンビがどの程度機能するかを試したいという誘惑に抗えませんでした。
その代わり、アリワ外伝を後回しにした価値があったと思ってもらえるものを作っているつもりです。
何度も話が前後してごめんですが、どちらも必ず完結させますので、可哀想な子を見る目ででも見守ってやってください。
それではこちら、次回作・ドラクエ2『ゴーグルをかけた勇者』のキャラ決定稿。
…現在主力のCCさんがあーいうやり方でやってるんで、のっけからキャラクターデザイン突きつけるのは賛否あると思います。
俺もCCさんのスタンスは一物書きとして世辞抜きで立派なものだと思います。しかし、俺があの人の真似したって勝ち目ねぇw
だからってわけじゃありませんが、俺は俺が自分の物語を最高に魅せられると思うやり方を選びました。
●もょもと
http://rainbow.sakuratan.com/data/img/rainbow100988.jpg ローレシアの次期当主。感情の起伏に乏しく、与えられた役目を盲目的にこなす、戦闘のスペシャリスト。
幼い頃から血生臭い教育ばかり受けており、彼自身も、自分の鍛えてきた技と肉体には絶対の自信を持っている。又それだけでなく、自分が経験少なく未熟な分野に関しては、常に改善を心がけるなど、強い向上心も持ち合わせている。
反面、人間味に著しく欠けるものの、一般常識も知識として備えている為、街中で大きな騒ぎを起こしたりはしない。
身体能力・知識・洞察力など戦闘に関するあらゆる面に秀で、他の二人を引っ張るリーダー役。
●ランド
http://rainbow.sakuratan.com/data/img/rainbow100989.jpg サマルトリアの次期当主。年齢はもょもとと同じだが、童顔と小柄な体格のせいでとてもそうは見えない。
人懐こい性格で、強く逞しいもょもとのことをにーさまと呼び慕う。戦士として余りに心許ない外見だが、芯のほうは強く、どんな時でも困難から逃げない。
今は徐々に世界から失われつつある呪文の素養を持つものの、それ以外の面では常人を遥かに下回る貧弱さを惜しみなく発揮する。更に呪文の扱いにしても、プリンに一歩も二歩も先んじられているため、基本的にお荷物。
それでももょもとの役に立ちたいという気持ちは誰より強く、彼と旅をするにつれて、自分の貧弱な力を鍛えようと努力してゆく。
●プリン
http://rainbow.sakuratan.com/data/img/rainbow100990.jpg ムーンブルクの現当主。滅ぼされたロト御三家の一の、唯一の生存者。もょもとたちよりも一つ年齢が上の少女。
普段は口数少なくどこかを見つめているような雰囲気を纏っているが、話しかけると流暢に喋りだし、「もょもとの許婚であり所有物」を主張する。但し、当のもょもとは男女の関係というものの何たるかの実感が沸かない様子。
暢気そうな見た目に反し、その優れた呪文の扱いで的確な援護を行う。自分の力のみを真に頼りとするもょもとも、彼女の戦いぶりには一目を置いている。
なんとなく・・・ホントになんとなく久しぶりにスレを開いたら、、、、
お帰りYANAさん!!!!!!!!!!!!!!!!
プリンかわい過ぎワロタ
YANA氏キタ━━(゚∀゚)━━!!
毎日スレをチェックしてたかいがあった
ランドが女の子にしか見えないぜ!
YANAさんキタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!!!
YANA氏おかえりー!
まさかのおにんにんランド開演ですかwwww
YANA氏復活キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!
もょもとがイケメンすぎるぜww
おお!YANA氏復活とわ!
正直諦めていただけに、嬉しさもひとしおですぞ!
それにしてもサマルの設定が面白いなw腰のラインはどう見ても女www
超期待して待ってますぜ!
e?ランドって男の娘だろ?
いやあの体系は実はおにゃのこだったというオチなのではないのかと
× あの男の子 (That boy. )
○ あの男の娘 (The girl who is tha man's daughter. )
こうですか、わかりまsry
皆、こんな俺のことを待っててくれて本当にありがとう!
正直、「帰っていい」という声も覚悟していましたw
>>309 誰がうまいこといえとw
>>313 馬鹿だなぁ、あんな可愛い子が女の子のわけないでしょう?
大昔俺がCCさんの作品を読んでキャラ被りを嘆いていたのはつまり、こういうことなわけだったりw
あちらさまと違って別に女装はしちゃいませんが!
俺のやかましい注文を忠実に形にしてくれた絵師様には感謝が尽きません。
それではこれより、『ゴーグルをかけた勇者』投下を開始したいと思います。
―――――――――それでは一つ、ある勇者の話を始めよう。
とても強くて。誰からも愛され。けれど自分を偽ることしか出来ず。
やがてこの世を去った時、その存在を知る者に多くの涙を流させた、誇り高い勇者の話だ―――。
『ゴーグルをかけた勇者』
〜序章 『Not Successor』〜
それは昔々、平和な国のお城でのこと。
その日は城中が大忙し。日々大きくなってゆくお妃様のお腹の中の子供が、遂に生まれようとしていたのです。
王様はお妃様の部屋の前で、あっちに行ったりこっちに行ったりと、落ち着かない様子。そしてとうとう、部屋で赤ん坊を取り上げている家来の一人が叫びました。
「王様!お生まれになりました!元気な男の子です!」
王様はすぐに部屋に駆け込み、おぎゃあおぎゃあと泣きじゃくる赤ん坊を抱き上げ、よくやった、よくやったと、息も絶え絶えのお后様を労います。
赤ん坊を取り上げた産婆さんや、お城の家来の人たちも大喜び、ほっと胸を撫で下ろします。
もちろん、王様もその中の一人でした。ですが、王様の胸中には、皆にはない、ほんの一欠けらの心配事がありました。
ああ、願わくば、この子もこの国の後継者が背負う運命から、お目溢し頂けるように―――。
王様は、自分がまだ王子様だった頃に、前の王様だったお父さんから「この国の秘密」を聞いた時のことを思い出して、静かに祈るのでした。
――――――その手に抱く王子様が、時代の覇者『統一王イデーン』の歴史、その始まりにいる人だとは、今は知らずに。
―――『何かを恐怖し、逃げ惑うのが普通の人間だ。
だが時に、恐怖を踏み越えてでも、立ち向かい、前へ進もうとする者がいる。そうした人間のことを、きっと勇者と呼ぶのだ。
そしてもし、恐怖することを知らず猛然と歩を進める者がいたとしたら、それはどうしようもない愚か者だろう』
………L.S.ライナー著『偽神のノート』第三章 第三節より。
〜第一章『遥かなる旅路、果てしなき世界』〜
●第1話 『50Gと剣一本』
『○月×日。本日より旅の記録をつけ始める。適宜表現の向上に努めるので、分かりづらい部分があれば、その都度指摘があれば幸いだ。
それでは、これより今日の記録に移る。
よく晴れた日の午後だった。俺が食後の鍛錬を終えて自室に戻ろうと門をくぐると、城の兵たちが何やら浮き足立っていた。会話の様子や侍従の不思議そうな顔から、どうやら事を表沙汰にしたくない風だったので、そのまま玉座の間に向かった。
ローレシアの組織的性質上、何か異常事態が起きてローレシア王に隠し立て、というのは有り得ないからだ。どんな情報も必ず最後にはローレシア王のところに集まる。
俺が玉座につき暫くすると、一人の重傷の兵士が、兵たちに連れられて現れた』
「――――――どうか、ご対策を…! ぐふっ!」
『兵士は、ムーンブルクが大神官ハーゴンを名乗る者の手勢に攻め落とされたこと。
そして、ハーゴンが邪悪な神を呼び出して世界を破滅させようとしているに違いないことを話し終えると、そのまま事切れた。
それは、俺の力がとうとう使われる日が来たことを意味していた』
「とうとう、この日が来たか。…話は聞いたな、もょもと。お前は一刻も早く旅立たねばならん。用意ができたら下に来なさい」
「………」
「おお、もょもと王子。じいはさびしゅうございます!」
「…無謀すぎる」
「は…?」
「ムーンブルクからここに来たのなら、ローラの門を通ったはずだ。関所の見張りもいただろうし、縦しんばいなくても道中リリザの町を絶対に通ることになる。
この傷なら伝令は人に頼んでおいて、体力の回復に努めるのが最良の選択だったはず。自身の危機のときこそ冷静な判断力が求められるというのに…そんなだから落とす必要のない命を落とす」
「は…はぁ」
「…だが、結果論とはいえ、彼は自身の役目を全うした。それは評価に値する」
「もょもとッ!!」
『兵士の道中を自分なりに分析し、見解を述べたところ、ローレシア王に怒鳴られた。
ローレシア当主の目から見れば、俺なりの最善の仮定にも何か穴があったのだろう。今後の課題としたい。
ローレシア王は彼の遺体を手厚く葬るよう兵たちに伝えると、俺を階下に引っ張っていった』
「さて…自分の役目をわかっているな、もょもと」
「はい。ローレシアの名を汚さぬよう、全力で挑みます」
「うむ。全ては…この時のためにあった。我らローレシアの存在意義…邪教の台頭…ムーンブルクという犠牲は大きかったが。
期は、熟したのだ。世界は再び、一つになる。そのために、必ず生きて帰るのだぞ」
「承知しています」
「そこの箱の中に、旅の支度を整えてある。持って行くがよい」
『云われるままに、俺はローレシア王の指差す方向に鎮座していた宝箱を開けた。
中には、金貨が50G分と、銅の剣が一振り、入っていた。…それを見た俺は、怪訝な顔をしていたと思う』
「これは、何の冗談です」
「ふむ。何か不服があるのか」
「…不服、というよりも、疑問が一つ。どういった風の吹き回しです?――――――俺に、武器を持たせて差し向けるなど。
装備も武具も自力で調達、がローレシア流として、俺は教育されてきた筈ですが」
「…うむ。確かに、そういう戦い方が出来て一人前、という掟はあるがな」
『思いつくままに意見を述べると、ローレシア王は何故か少々呆れた風な顔で頷き、説明を始めた』
「今回の戦いは、漸く訪れた機会。手落ちは許されず、必ずものにせねばならん。
打倒ハーゴンを果たしたのは確かにロトの子孫であった、という証左が必要だ」
「成る程。それで、この剣の柄にロトの紋章が彫ってある、と」
『剣を反して見れば、石突の部分に小さくロトの紋章が刻まれていた。安物の銅に似つかわしくない、丁寧な装飾だ』
「うむ。ハーゴンを倒した後、奴の亡骸の傍らにその剣を残して帰ってくることが、おまえの役目だ。
それと、分かっていると思うがこの戦いは『ロトの子孫が力を合わせて勝利した』という事実も、後々のために必要不可欠だ。
まずは北西に足を伸ばし、サマルトリアの王子と合流するのだ。
そして、もょもと。凱旋の暁には、晴れてお前は『イデーン』の名を背負うことになる。
…世界を統べるには、民を納得させる『奇跡』と『運命』が必要なのだ。それを自覚した、節度ある行動をするのだぞ」
「はい。万事、承知しました。それでは、行って参ります」
『…以上が、旅立ちの経緯と、俺に与えられた役目である。
色々と枷は多いが、問題ない。そういう風に、俺は俺を鍛えてきたのだから。 〆』
今回投下分は以上です。次の投下はまた日曜に。
毎週、このくらいの時間に投下に来たいと思います。
乙!
最近のスレの流れから普通にふた月くらい待つつもりだったけど、
早くもハジマタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!
これから毎週読めると思うと、楽しみで仕方がありません!
うおっ、もう来てたのか
乙
続きも楽しみにしてる
YANA氏キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
首を洗って待ってたかいがあったってもんだぜ!
そ、そんな汚い首、べつに欲しくもなんともないんだからね!
保守
CC氏に続きYANA氏まで来た!ってかもょもとwww
DQ9のメッセージを「ゆうて いry」にしたかいがあったぜ。
この流れで楮書生さんも来てくれんかねえ
久しぶりに来たらYANA氏キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !
wktkしながら読ませていただきます
●第2話 『外の世界』
『○月△日 ローレシアを発って一週間。困ったことになった。
リリザの町を経由し、最初の目的地であるところのサマルトリアの城には順調に辿り着いた。
だが、この一週間という期間が、サマルトリアに思わぬ「猶予」を与えてしまったらしい。
つい先日、ムーンブルクの領土にある町、ムーンペタの行商人がサマルトリアにやってきてスリに遭い一悶着した際、偶然ムーンブルク陥落の情報をもたらしたのだそうだ。
事態を重く見たサマルトリア王は、「ローレシアの王子と合流するように」と言い含めて、ローレシア同様、早急に自国の王子を旅立たせたらしい。
率直に云うと、行き違いになった。迂闊だった。別口の情報が有り得るのだということを考慮していなかった。今後の反省の材料としたい。
一先ず、一刻も早く当面の目的である「サマルトリアの王子との合流」を果たすべく、彼の人相や行動の特徴、行きそうな場所などの情報を集めるため、』
「お兄ちゃんはねー、のんきものなところがあるの。結構、寄り道なんかしてるんじゃないかな?」
『俺は今、彼の妹君から話を伺っている』
「成る程。参考になる」
「姫様、御身に障ります。あまり外部の者と接触されますと、お父上が…」
「えー、いいでしょ、別に怪しい人じゃないんだし。
それに、いくらお父様の言いつけだからって、ローレシアの王子様に外部の者だなんて失礼でしょ」
「いえ…ですが…」
「すまない。貴方の守衛としての危惧は尤もだ。
談話中の同伴だけで不安なら、情報の記録に支障がない範囲で俺を拘束してくれて構わない」
「あ、いや…流石にそれは…」
「だよねー。私も久しぶりに外のお話聞くのに、そんな堅苦しい雰囲気じゃ楽しくないもん」
『サマルトリアの姫君は、城の人間に聞き込みをする俺を見つけると、「城の外のこと」を話すのを交換条件に、王子の情報を提供してくれると提案し、部屋に招いてくれた。
願ってもない、その程度でいいのなら安いものだと、俺は快諾した』
「妹君は、それほど外の見聞に飢えているのか」
「うん。お父様もお兄ちゃんも、私のこと子ども扱いして、危ないからって外に出してくれないんだもん。
お兄ちゃんだってあんまり外のこと知らないのは同じなのに、いっつも年上ぶるし」
「…サマルトリアでは、変わった教育方針を採っているんだな。
俺たちは、生まれて初めて与えられる玩具がナイフだったり、部屋で過ごす時間より野山に放り出されている時間のほうが長かったりしたものだが」
『俺がサマルトリアでの王子や妹君の扱いにメリットを見出しかねて呟くと、妹君は「なにそれ、おもしろーい!」などと可笑しそうに笑った。…よく分からないが、こんな話で彼女は満足なのだろうか』
「それでそれで!今度はもょもとさんの番だよ。今、外はどうなってるの?」
「ああ。大神官ハーゴンを名乗る者の率いる邪教が、世界中を賑わせている。
俺がまだ小さい頃は噂レベルの話だったが、今では社会的な影響力も無視できなくなっている」
「へぇ。何で、そんなになるまでほっといたの?」
「勿論、教会や国も彼らを潰そうとした。一時は隠れ信者を燻り出して弾圧もしたみたいだが。
彼らの総本山はロンダルキア台地だということが暫くして分かった。
あの土地自体が殆ど天然の要塞みたいなものだから大規模な軍隊なんかを派遣もできない。少数精鋭の猛者も送り込んだみたいだが、誰一人帰ってこなかった。
そのうち、労力と兵力の無駄と思ったのか、教会も国々も、根本的な解決を諦めた。
…尤も、そんなことが世の中に知れたら教会の権威の失墜に繋がるから、彼らとしては『私達は日々、邪教根絶のために戦っています』というポーズのために、目立つ杭だけは叩き続けてるようだ」
「ふぅ〜ん。難しくてよくわかんないけど。要するに、邪教を倒すことは出来ない、ってことになったのね。
でもさ、それじゃあ何で今、もょもとさんやお兄ちゃんがハーゴン討伐に旅立つことになったの?」
『当然の疑問だ。…だが、それは「次期当主」ではない彼女は知らされていないはずである。
その理由は最重要秘匿事項だ。例えサマルトリア王子の妹君であろうと、知られてはならない』
「ムーンブルク陥落、が契機であるのは間違いないだろう。教会に面子があれば、俺達の国にもある。
同じロトの血を分けた国が襲撃されたとあれば、我々も黙ってはいられない」
「うーん…確かにムーンブルクのことは悔しいけど…でも、教会と同じってことは、終わりの見えない旅ってことになるのかな?
あ、ううん、ハーゴンを倒しに行くってお兄ちゃんは言ってたから…ロンダルキアに行くってことで…じゃあ、お兄ちゃんたちは、帰ってこれないかもってこと!?」
『その一点に関しては、憚る必要はないだろう。国の掟や与えられた役目を放棄することは出来ない。
だが、俺自身の見解を述べるくらいなら問題ない。そう判断し、俺は首を傾げる妹君にはっきりと告げた』
「それはない。俺達がどういう意図で遣わされたのかに関係なく―――俺達は、必ずハーゴンを倒す。
少なくとも、俺はそれだけの鍛錬は積んできた」
「本当?…でも、それだとお兄ちゃん、もょもとさんの足手まといになったりしないといいけど。
お兄ちゃん、結構どんくさいからなぁ」
「関係ない。俺は、自分で出来ると判断したことは、一つの例外もなく成し遂げてきた。何の問題もない」
『そう。何より俺は―――俺達は、それを成すために育てられたのだから』
「そっかぁ。じゃあ、もょもとさん、お兄ちゃんのことお願いね」
『笑顔で見送る妹君と、職務に忠実な守衛に背を向けて、俺はサマルトリアの城を後にした。
ローレシアとサマルトリアの慣わしでは、国の外へ旅立つ戦士は勇者の泉で身を清めることになっている。俺は王子と合流した後に行くつもりでいたが、順序を狂わせつつも彼が向かったというそこに足を向けた。上手く間に合ってくれればいいが…。 〆』
第二話は以上となります。
…うん、やっぱりメインキャラ同士の掛け合いがないと尺が短いですね。
もう一話だけ解説回じみたお話を挟むとランド君が登場するので、それまでどうか辛抱をw
2話キター
もょもと君は真面目すぎて天然な感じがw
身を清める・・・だと・・・?
ほっしゅ
●第3話 『述懐 〜泉の老人の場合〜』
それは、サマルトリアの王子を送り出した翌日のことだった。
「―――失礼。ここに、金髪で緑の法衣を纏った、俺と同じくらいの年齢の少年が来なかっただろうか」
洞窟の奥深くに沸く勇者の泉で、いつものように洗礼を受けに来る戦士を待っていた私の元に、一人の青年が尋ねてきた。
青年は暗所によく融ける紺色の皮鎧を纏い、腰には銅製の剣を携え、魔物も少なからず蔓延るこの洞窟にあって、まるで我が家にいるような落ち着きぶりで、開口一番そういった。
彼に対する私の第一印象は、また凄い若者が来たものだなぁ、という、凡庸ながら、とても純粋な感嘆だったと思う。
一目見て、真っ当な鍛え方をした人間ではないことはわかった。自慢ではないが、この国から何人もの腕っこきを送り出してきた身だ、洗礼に来た戦士の力量が非凡であれば、長年培った経験則が、出会った瞬間にそのことを告げる。
その経験が、悟るようにこういった。『ああ、この青年は、人として大事な何かが欠けている』と。倫理的・道徳的な意味ではなく、もっと根源的な何かが。
「さて。金髪に緑の法衣。来たような、来なかったような。
…何はともあれ、私の役目はここに訪れた戦士に泉の洗礼を施すことでね。何か別件の話があるのならその後にしたいのだが、宜しいかな」
「わかった」
青年は私の遠まわしな言い方にも眉一つ乱さず、抑揚のない、けれど確かな力を感じる返事で答えた。
「では、ここより泉に入り、滝に打たれるがよい。…衣類と荷物を預かろう」
彼はまた無言で頷き、脇に提げた道具袋を外し始めた。
頭に巻いたゴーグル、防具、履物と、次々にてきぱきと、手際よくその鍛え抜かれた体を露にしてゆく。…想像通り、というべきなのだろうか、彼の体は一面が傷だらけだった。対人戦の修羅場も相応にくぐって来たのだろう、刀剣による刃創もいくらか混じっていた。
だが、その殆どが既に古傷となっているものばかりだった。つまり、この青年は、戦士として高みを目指すなら誰もが経験すべき負傷、敗北の数々を幼少の頃に体験し終え―――その年齢にして、戦士としてほぼ完成しつつあったのだ。
私がそうはお目にかかれない、若さと練度を併せ持つその肉体美に感心していると、彼は最後にズボンのベルトを緩めようと腰に手をかけていた。
そして私がそれに気づいたのとほぼ同時。ざくん、という小気味のよい音が、彼の遥か後方の暗闇から聴こえた。
…私は、確かにソレを見た。だが、私の頭がすぐにその光景を反芻し、理解するには、彼の動きはあまりにも自然で。無駄がなく。そして、美しすぎた。
「…失礼。貴方の職務を中断してすまないが、先に少しばかり食事の時間を頂きたい」
彼は―――ズボンのベルトの金具に伸ばした手で以ってそのまま抜き放ち、背後に忍び寄っていた毒蛇に投げつけた銅の剣を、暗闇の中から持って帰って来た。剣の先には、一撃で頭部を貫かれて絶命し、ずるずると彼の倍近い長さの体を引きずらせるキングコブラの亡骸。
私はただ呆然として、彼の申し出に無言で頷くことしかできなかった。彼はそれを確認すると、何の躊躇いもなく、そのまま『蛇食い』の名を持つ蛇の王の屍に噛り付いた。
…私はこの時点で、私の認識が大きな誤りであったことに気づいた。彼の一連の振る舞いは、既に戦士の域ですらなかった。
戦士は一人前になると、戦いに臨む際、本能的に精神を『戦うための精神』に切り替える。そしてその一人前の戦士の中から更に一握りの猛者は、己が精神を『戦うための精神』に、瞬時にして『作り変える』に至るという。
だが、この青年はそもそも根本から違った。切り替える?作り変える?…その何れでもない。
人間として日常を過ごすための精神を前提に、戦うための精神を備えるのでなく。
始めから、戦うこと・殺すことこそ自分が住まう日常であるのだと断じ、凡そ『人間らしさ』と呼ばれる全てのものを置き去りにして今に至る、純潔の―――いうなれば、戦闘人形。
でなければ、一欠けらの殺気も放たず、呼吸一つする間に剣に手をかけて見えもしない敵を射抜くことなど、説明がつかない。
…人として何かが欠けている、どころの話ではなかった。彼は始めから、人として生きて来てなど、いなかったのだ。
「お待たせした。では、洗礼に入らせて頂く」
彼は事も無げに、毒蛇のめぼしい所を平らげつくして、私に軽く一礼すると残ったズボンと剣も他の衣類と一緒くたに纏め、泉に入っていった。
その、一見して礼儀正しく武人然とした態度も、彼という人間の本質が見えると、全く別の趣旨による振る舞いであることが理解できてきた。
それに至り、私はこの年齢まであらゆる戦士たちを見続けてきて初めて―――生物として、その青年に空恐ろしさを覚えたのだ。
「…サマルトリアの王子をお探しなのだろう。
彼は、ローレシアに向かうといっていたよ。急げば、追いつけるかもしれん」
洗礼を終えた彼に、私は余分な会話も挟まずに、彼が必要としているだろう情報だけを伝えた。それがきっと、お互いのためだと思ったからだ。
彼はそんな私の胸中を知ってか知らずか―――いや、恐らくは後者なのだろう。やはり表情一つ崩さず、有難うとだけ口にして、泉を後にした。
「大変な男を育てたな。…ローレシアの」
緊張の糸が切れて、私は脇の岩に腰掛けながら、ため息と共に呟いた。…彼のベルトの金具に確かに刻まれていた、ロトの紋章を思い返しながら。
そうして、私はふと、彼の最初の言葉を思い出し、小さな違和感を覚えた。それから、これは言及しておけばよかったかと少しばかりの後悔をするが、もう遅かった。
…さて、確かに二人は同年代であると聞いてはいるが。
彼は自分がどれほど年齢不相応に熟練して見えるのか自覚がないのか。
はたまた、サマルトリアの王子もまた『全く別の意味』で年齢不相応に見えるのだという事実を知らないのか。…或いは、その両方か。
色々と可能性を並べてはみたものの、私には彼のその認識の誤りが、二人の合流の障害にならない事を祈ることしか出来なかった。
―――ああ、お察しの通りだよ。次に私があの青年のことを見たのは、あの彼が―――イデーン王が、世界統一を成し遂げた時なのだがね。あの時は、あの純粋な戦闘人形に為政など出来るのかと訝しんだものだ。
けれどなかなかどうして、男児三日あわざれば、とは云ったものだ。確かに以前のような冷徹な強さは薄れていたがね。立派な人間の顔になっていたよ。
あの旅が余程いい経験になったのだろう――――――おや、もういいのかい。いや構わんよ、私ももう隠居が長くてね、話し相手に飢えているんだ。またいつでも―――。
第三話終了。ああ、最初ってこんなに尺が短かったのかと、推敲作業中に苦笑する日々ですw
そろそろ皆さん、もょもとのキャラを掴めてきたと思いますが、次回はいよいよランド君と合流です。
2話ktkr!
考えてみれば、もょもとってのは旅立つ時点でいきなりレベル48な超人なんですよね。
最後の一文を見るにもょもと=イデーン王なのかな?
次回も期待しております!
キャラについては人物紹介の時点でw
ランドやプリンが、どのように人形の心に火を灯すのか楽しみです。
なぜならそこには燃え(萌え)があるはずだから。
ハーゴンさんはともかく、シドーさんはツンデレ足りえるのか
シドーさんはただの破壊神なので除外の方向で
ハーゴンさんはDQMJでもDQ9でも(?)ハブられて可哀想です。
その代わりバトルロードでやたらイケメンになってるけどw
●第4話 『Waver』
可愛らしい、という言葉がある。
小さいものや幼いものに、美意識や深い愛情を見出した際に、人間が胸に抱いたり、口にしたりする想いを示すものである。
それを自覚したことがない人間など、そういまい。道端の子猫や子犬であったり、野原に咲く花であったり、幼子をあやすために象られた人形であったり。
とにかく、価値観や感性の違いこそあれど、人ならば誰しも、まだ物心もつかない幼少の頃にそういったものを通じ、本能でそういった感情のなんたるかを知るのが当たり前といえるだろう。
だから人は、自分の感性に合致したモノに出会ったとき、他者に悟られまいとする者も中にはいるものの、少なくとも内心では何の抵抗も躊躇もなく、素直に『可愛らしい』と思えるのだ。
理屈ではなく、幼き日の感性のみを根拠に。他者に伝えることも教えることも出来ないけれど、何より確かな経験を以って。
自分の心を震わす感情が『そう』なのだと。
そして『だからこそ』―――もょもとには、ソレが理解できなかった。
「――――――初めまして、もょもとさん。ボクがサマルトリアの次期当主、ランドです」
今、彼の目の前にいる少年は、彼にとって、人の形をした未知の生物だった。
「失礼。この辺りで、金髪に緑の法衣を纏った、俺と同じくらいの年齢の少年を見かけなかっただろうか」
「何かしら?男の子?…うーん、貴方と同い年には見えなかったけど、そういう格好をした子なら、朝方武器屋のほうで見たけれど。
え、胸にロトの紋章が入ってる?あはは、それじゃローレシアとサマルトリアの王子様みたいじゃない。…ああでも、いわれてみれば描いてあったような気もするわ。でもあんな小さい子がそんなわけないわよね」
「失礼。この辺りで、金髪に緑の法衣を纏った、俺と同じくらいの年齢の少年を見かけなかっただろうか」
「なんだ、君は。…ああ、もしかしてあの子の保護者か何かか?無用心だな、あんな子供を一人でうろうろさせるなんて。
近頃では嘘か真か、ムーンブルクが滅ぼされたなんて噂もあるくらいだ。いくらこのリリザの町に、まだ邪教が本格的に布教の手を広げてきていないとはいえ、万が一ということもある。
彼らの中には人間も少なくない、人込みを隠れ蓑に連れ去られでもしたら―――ああそうだった、あの子の行き先だったな。教会に用があるようなことをいっていたよ、急いで探してやりなさい」
「失礼。この辺りで、金髪に緑の法衣を纏った、俺と同じくらいの年齢の少年を見かけなかっただろうか」
「ホーイ?なにそれ。…えっと、金髪のお兄ちゃんだったらね、さっきまでそこに座ってたよ?
なんだかじっとボクらのこと見てたんだ。ねー?」
「うん。お腹痛いの?って訊いたら、大丈夫っていって、あっちの宿屋に入っていっちゃった。
…ううん、あたしたちずっとここでデートしてたけど、出てくるのは見てないわ」
『○月□日 記録の提出が滞ってしまって申し訳ない。何分にも想定外の進捗の停滞に陥ってしまい、突貫で事を進めることになった。
こちらとしても未経験の類の出来事に、対応の不慣れを自覚せざるを得ない。旅をする、ということはこういうことなのだろう、よい勉強になったと思う。
兎にも角にも、三週間にもわたる捜索によって、漸くサマルトリアの王子の居場所を突き止めることができた。
彼の妹君のもたらした「彼は寄り道をする可能性が高い」という情報は貴重な手助けとなってくれた。
勇者の泉からローレシアに戻るも三度目の行き違いを味わい、ローレシア王から彼が一度サマルトリアに戻るといっていたことを聞いた俺は、再びサマルトリアに向かう際、その途中にあるリリザの町で聞き込みをすることにした。
それは、極めて有力な結果を示してくれた。俺は彼の足取りを追って、彼が宿泊していると思われる安宿に辿り着いた』
「ここか。…失礼」
「いらっしゃい。お泊りかい?」
「いや。少し伺いたいのだが、こちらに金髪に緑の法衣を纏った、俺と同じくらいの年齢の少年が泊まってはいないだろうか」
「はぁ?…あんたと同じくらい、ねぇ。あんた、その子とは知り合いかい?」
「いや。顔は見たことがない」
「だろうねぇ。…金髪に緑の法衣の男の子なら、ちょっと前からあそこでぼーっとしてるよ。
お金はもらってるから部屋でくつろげばいいのに、何が楽しいんだか、ずっとテーブルで上の空さ」
『宿屋の女将の向ける視線を追って、食堂もかねているのだろう、今もいくらかの客がたむろしているいくつかのテーブルの一つを見ると、俺が持つサマルトリアの王子の情報に符合する容貌の人物が、静かに座っていた。
背中を向けているため、こちらから顔は見えない。俺は女将に礼を述べ、彼のテーブルに向かった』
「失礼。少し伺いたいのだが、君はもしかして―――」
『俺は、少年の肩越しに声をかけた。すると彼は、僅かにぴくっと何かに怯えた様に体を跳ねさせ、恐る恐る振り返った。
………記録を滞らせておいて申し訳ないが、俺はここから先のことを、上手く言語化できていないと思われる。
事実として起こったことはそのまま記すが、俺の抱いた心象や感想については、あまり参考にならないものと考えてほしい。…正直、これを書いている現在も、俺はその時の俺の身に何が起きたのか理解し切れていないのだ』
「―――?」
『少年が、一瞬だけ怯えた顔を俺に見せる。だが、見上げた先にある俺の顔を確認するや、それは何か不思議なモノにでも遭ったような、小さな驚きの色を湛えたものに変わった。
…驚いたのは、俺も同じだった。彼の顔を見た途端、俺の全身が警鐘を鳴らした。目の前にいる少年は、野獣のような爪も牙も持っていない、剣も槍も構えていない、呪文を唱える気配も見せない。
だというのに、俺は、俺自身に備わっている「喋るという生存において余分な機能」を、刹那の判断で放棄した』
「…もしかして、もょもとにーさま?」
『怯えて淀んでいた彼の透き通るような青い瞳に、僅かな高揚の色が点る。邪魔にならないよう、ゴーグル付きの少し大きめの兜でよくまとめられた金髪が、立ち上がるのにつられて揺れる。
無様なことに、俺はその場から動けないでいた。これ以上ないというほど無害を全身で主張する彼という全存在を前に、俺は何も考えられずにいたのだ』
「…確かに、俺の名はもょもとだ。だが、俺のことを兄と呼ぶことが適当な関係の人間は、現在いない。すまないが、人違いのようだ」
「あ、待って!」
『やっとのことで言語を発することを思い出し、俺は錯乱していただろう頭のまま、わけのわからない事を言い出した。これについては、いい訳の次第もない。彼ですら比較的平静な態度を示していたというのに、大変な醜態を晒してしまった。
漸く見つけた探し人に背を向けて去ろうとする俺を、彼が慌てて呼び止めた』
「ごめんなさい、つい、変な呼び方しちゃいました。ボク、小さい頃からずっと、もょもとさんの事、ボクが将来旅に出ることになったら一緒に戦うことになる人だって教えられてて。
でもボク、ずっとお城の中で生活してたから、もょもとさんはボクとそんなに変わらない年なのに、物凄い修行をしてるって聞いてたから、憧れて、にーさま、って心の中で呼んでて…ああ、もう、ボク、何いってるんだろっ」
『つらつらと弁明のようなものを並べ始めた彼を放っておいたら、次第に彼まで錯乱し始めた。
俺より軽く二つ分は下にある頭が、ぶんぶんと横に揺れる。彼は一度、二度、と自分を落ち着けるためと思われる深呼吸をし、呆然と立ち尽くす俺を見上げて、はきはきと、俺の錯乱を無意味なものとする「現実」を告げた』
ttp://rainbow.sakuratan.com/data/img/rainbow101917.jpg 「初めまして、もょもとさん。ボクがサマルトリアの次期当主、ランドです」
『サマルトリアの王子。俺がずっと捜し、あちこちを駆け回り、やっと見つけた人物。
ローレシアの片翼を担う役目を背負った、戦士。これから俺とともに、邪教を討ち滅ぼす、男。
…男?――――――こんなにも小さくて。か弱くて。無邪気で。そして、よく、分からないが、俺の精神を掻き乱すモノが?
俺が知る男という生き物は、程度の差こそあれど、もっと筋肉質で、力強く、大きな存在だ。なのに、この少年は―――』
「もょもとさん?」
『人懐こい犬のように首を傾げ、物言わぬ俺のことを不安げに見上げる、ランド王子。
…全く、理解の範疇を超えている。彼は一体、どんな技を習得しているというのだ。徒手空拳、その上構え一つ取らず、俺をここまで揺さぶることができるなど、余程の手練でも出来る事ではない。
そういえば、サマルトリアの一族は代々魔法を操ることが出来ると聞いた。これはその片鱗なのだろうか』
「…兄様と」
「はい…?」
「さっき俺を、兄様と呼んだな。呼びたいように呼んでくれて構わない。俺は気にしない」
『などということを考えていたら、俺の口は、俺の思考を無視して勝手に意図していないことを喋りだした。
気づいたときには、俺は全てを言い尽くしていた。俺の言葉を聞き届けると、彼は「・・・」と三呼吸ほど呆然とした表情を浮かべていたが、やがて満面の笑みで、答えた』
「はいっ、にーさま!…あの、でも、にーさま」
『だが、彼の笑顔はすぐに何やら複雑そうに揺らいだ。もじもじと居心地悪そうに、発する声も聞き取りづらいものになっていった』
「どうした。何か問題があるのなら、遠慮せずにいうといい」
「はい。じゃあ、あの―――にーさま、何で、ボクの頭、撫でてるんですか?」
『彼に言われて、初めて気づいた。俺の思考を無視していたのは、口だけではなかった。
いつの間にか、俺の左手は彼の右頬に添えられ、右手は彼の頭頂部を摩るように動いていたのだ』
「あの…ボクは、にーさまに撫でられるの、気持ちよくて、嫌じゃないんですけど。
皆さん、見てますし、ちょっとだけ、恥ずかしいです―――ひゃっ!?」
『俺はすぐさま、一足飛びで彼から間合いを取った。壁際に並べられていた椅子を一頻り薙ぎ倒し、俺は本能的に構えていた。
彼が恥ずかしいといった、俺たちに集まっていた視線が数を増す。だが、その時の俺はそんなことを気にしている余裕はなく、俺の身に起きたかつてない体験に、警戒をせずにいられなかったのだ。だが…』
「…にー、さま?」
『その時、俺は余程険しい顔でもしていたのだろう。ランド王子は、俺に振り返ったときのような、怯えたような目で、俺を見つめていた。
…理由は、分からない。分からないが、彼にその目を向けられるのは、大層居心地が悪かった』
「すまない。君の髪に埃が付いているように見えたので払おうとしたのだが、蜂の一種だったので少々動転した。
もうどこかへ飛んでいったようだ。問題ない」
『この先長いこと寝食を共にするだろう少年と、関係を悪化させるのは得策ではない。
俺はすぐさま謝罪し、当たり障りのない言い訳で取り繕う。努めて表情を和らげようとしながら、彼に歩み寄る。「大丈夫?」と恐る恐る俺に問いかける彼の視線もまた、剣で斬られたわけでもないのにとても痛々しかった』
「失礼。彼のとっている部屋に、俺も泊まれるだろうか。無論、代金は支払う」
『一先ず、何の話をするにも場所を変えたほうがいいと判断し、俺は再び女将のところに手続きに戻った』
「別にいいけどねぇ。一人部屋だから、ベッドは一つしかないよ?」
「問題ない。同じ部屋であれば文句はない」
「え、でも、にーさまはどこで寝るんですか?」
「俺は床でもいい。横になれさえすれば体力の回復には十分な環境だ」
「駄目ですよそんなの!あの、もしお嫌でなければ、ボクのベッドを半分使ってくださいっ」
『何やら必死な顔で抗議を受けた。俺は本当にそれで大丈夫なのだが。周囲への警戒を最小限にして睡眠を取れるなど、それだけで贅沢この上ない環境だ。睡眠時の物理的な環境を選り好みしない俺が、人の寝具を横取りするメリットは一つもない。
…だが、俺はその時理屈でそう思考しながらも、それでも彼と今後も良好な関係を築いてゆくには、彼の申し出を受けておくのも悪くない選択なのではないか、と結論した。
何故だか、穏やかな寝息を立てる彼を抱いて寝ている自分の姿を想像して脈が早まるのを感じたが、それもどうせ一時の錯乱で、明日になれば落ち着くだろうと無視することにした』
「わかった。君の申し出を受け入れる」
「本当ですかっ?…えへへ、やったぁ。にーさまと、お泊り♪」
『何が嬉しいのか、彼は俺の返事に声を弾ませて小さく喜んで見せた。…結局、その日は彼がベッドに入ってすぐに眠りについてしまってろくな話は出来なかったのだが。
そうして俺が「成る程、確かに、彼と俺とでは、同じ年齢には見えまい」と気づいたのは、間抜けにも夜が明けてからのことだった。〆』
第四話、投下完了です。
今回は遂に、開始初の挿絵が導入されました!
何とこちらの絵、ほんの数十分前に完成されたばかりという。
わざわざ俺の投下ペースに合わせて完成させて下さったようで、絵師様には感謝の極み。
本日はちと早めの就寝をしなければならないので、簡単ですが今回はこれで失礼致します。
甘寧一番乗り〜♪
GJ!
予想していた展開の斜め上が来たw
乙〜!
確かに予想もしなかった展開だw
乙!
ランドかわい過ぎクソワロタw
ところでcc氏は生きてるのだろうか
前は生存報告あったのに
別に急かしてるとかではなく、ふと気になった
あい、生きとります〜。
スレ開いちゃうと、絶対言い訳書いちゃうので、
投下の目処が立つまで開かないようにしてました、すみません(汗
久し振りに開いたら、なんとYANAさんが!?
おかえりなさい。しかも挿絵つきとは、素晴らし過ぎるw
いあ、最初っからイメージを提供するのは全然アリだと思いますよ。
私の場合は、誰にも描いてもらえないだけでして(笑)
しめしめ、YANAさんがいれば、心置きなく留守にできるな、ウシシ。
いや、まぁ、その。
閑話休題。
個人的な事情で忙しかったのと、話の大筋は変わらないのに
ニュアンスの違いで延々書き直してたせいで、阿呆みたいに遅くなってしまいました。
ようやく目処が立ったので、お邪魔でなければ近いうちに投下させていただこうかと思います。
それにしても、やっぱり私の一回の投下量って頭おかしいですね。
もはやSSと呼べない、と自分でいちゃもんつけながら書いてる訳ですが、
まぁ、いまさらだし、確信犯だからいいよね(ォィ
最新話&cc氏ktkr!
……もょもと、犬の出番はもっと先だ。ランドは違うぞ。多分犬より可愛いけどw
で、これはアレか。『ゆうべはおたのしみでしたね』フラグですかそうで(ry
けしからん。もっとやれw
cc氏も元気そうで何より。
大量投下でも小出しでもバッチコーイ!!なので、気にせず執筆して下さいな。
CC氏なら大量投下であればあるほど嬉しいZE!
ちょttっとランドと宿屋泊まってくりゅ!!!
YANA氏おつ!
しかし
>>350のうpろだのアドレスを削ってもエロいのしか出てこないのは一体どういうわなにをするやめr
ランドwww
どストレートにアッー!
もょもとにも資質有りwww
乙!しかしこの分だと王女のキャラがどうなるかきになるべ
もょもと、なんというツンデレ。
王女は・・・正統派?
こんばんは。
途中で眠くなって中断するかもですが、
いちおう、もうちょいしたら投下する予定です。
投下にすごい時間かかると思うので、全部が終わってから読むのをお薦めしますです。
話としては、完全に前回からの続きで、ヤマタノオロチを倒した後、
マグナ達とちゃんと話してないけど、どーすんのヴァイスくんって
感じのところからはじまります。
再開をきっかけに、場面をもうガラッと変えちゃおうかな〜とか、
いっそのこと三人称で仕切り直すか?とか思ったんですが、
やっぱしそのままの続きになりました。
そいでは、また後ほど〜。
37. THERE I GO AGAIN
1
「やっぱり、ここが一番落ち着くわ」
前を歩くエフィが、くるっとこちらを振り返りながら、そんなことを言った。
スカートの裾がふわりと舞ったが、丈が長いのでふくらはぎくらいしか拝めない。
「ああ、違うのよ。もちろん、貴方との――貴方達との旅は楽しかったけれど……ここは私が生まれ育った場所ですものね。だから、やっぱり落ち着くなって、そういう意味ですからね?」
俺達がジパングからエフィの故郷に戻って、早や二日ほど経つ。
日が暮れたら会いにくるように言われていた俺は、長旅の疲れですっかり夜が早くなった姫さんを起こさないように部屋を抜け出して、お嬢のもとに馳せ参じたのだった。
どういう風の吹き回しか、部屋を訪ねた俺を、エフィは散歩に誘った。
そんな訳で、俺達はよく手入れの行き届いた屋敷の庭を、連れ立って歩いている。
「座りましょ」
中庭の噴水をぐるっと半周して、お嬢は脇に設えられたベンチに腰をおろした。
俺は、大人しくエフィの指示に従った。
今夜は、雲ひとつない快晴だ。夜空では星々を従えた月が、淡い光で地上を照らしている。
中庭に設置された屋外灯のお蔭もあって、隣りに座るエフィの顔ははっきりと見えた。
俺が、そちらを向けばのハナシだが。
「いい風――」
不意に通り過ぎた夜風が庭木を揺らし、エフィはなびいた金髪を手で押さえた。
この辺りは、そろそろ汗ばむ季節に差し掛かっていたから、確かに夜風が気持ちいい。
「ねぇ」
エフィの声に単なる呼びかけ以上のものを感じて、俺は心の中で身構える。
考え過ぎかね。
「ここは、いい処でしょう?」
「――ああ」
俺が頷くと、エフィは嬉しそうな顔をした。
「こんな風にしみじみと、ここがいい処だなんて感じたことは無かったのに、おかしな話よね。きっと、生まれて初めて町の外に出て、貴方と旅をした後だからなんだと思うわ。離れてみて、改めて故郷の大切さが分かるっていう話は、よく聞くものね」
「そうだな」
我ながら、相槌には気持ちが篭っていなかった。
なにしろ、実家をおん出てからこっち、せいせい思いこそすれ、故郷を懐かしんだ試しなんて無ぇもんよ。
「もちろん、今でもエジンベアのことは自分のルーツだと思っているし、きっととても素敵な処なんだと思うわ。けれど、一歩も足を踏み入れたことのない『そこ』を故郷と呼ぶだなんて、なんだか白々しいものね。私のふるさとは、やっぱりここなんだわ」
そりゃそうだな、と思ったが、そんな身も蓋もない返事は、エフィも期待していないだろう。
俺には言わなくちゃいけないことがあって、それをどう切り出そうかということばかりに気をとられていたこともあって、何も言わずにエフィの言葉に耳を傾ける。
「お父様のご威徳もあって、町の中ならば平和で安全だし……あ、もちろん、貴方のお蔭でもあるのは、よく分かってるわ。これでも、本当に感謝してるんだから」
ふふっと含み笑いを漏らしたのは、先日の人攫いと魔物の件についてだろう。
実際のトコロ、俺は大したことしてないんだけどね。
「……ここは、いい処でしょう?」
エフィは、同じ台詞をもう一度繰り返した。
言葉は同じでも、微妙にニュアンスが違う気がした。
「でも、貴方はやっぱり、ひとつ処に留まるのは苦手なのかしら。わざわざ冒険者なんて生業を選んだくらいですものね」
いや、まぁ、どうかな。あんまりそういう観点からモノを考えたことねぇな。
別に旅から旅をしたくて冒険者になった訳じゃねぇし、そもそもアリアハンで冒険者を続けてれば、王都に腰を据えたままだったろうしさ。
とはいえ、これは話を切り出すいいきっかけに思えた――が、どうにも踏ん切りがつかない。
「そういえば――ねぇ、知ってる?」
声の調子をがらりと変えて、エフィは明るく言った。
「なにが?」
つい、うかうかと新しい話題に乗ってしまう。
言うべきことも言わねぇで、何をまごついてんだか。
「ファング様とアメリアさんのこと」
「へ?」
あの二人が、どうかしたのか?
「あら、その顔は知らないのね」
エフィはちょっと得意げに、ふふんと笑った。
そんな仕草は、割りと可愛い。
「あの二人はねぇ……」
「うん」
エフィは、思わせぶりに一拍溜めた。
「ジツは――駆け落ちなんですって」
エフィの言葉を理解するまでに、瞬き五回分くらいかかった。
「はぁっ!?」
マジで?
駆け落ちって、アレか。
結婚を反対された腹いせに、女を攫って逃げちまうっていう――
「本当よ。アメリアさんが、こっそり教えてくれたんだから。内緒って言われてたんだけど、貴方にならいいわよね」
へぇ、お前がそんなことするヤツだったとはねぇ、ファング。
ちょっと見直したぜ。
大胆なヤツではあるが、そういう方面で大それたことをするとは思ってなかった――いや、ちょっと待て、お嬢。
なんだって今、急にそんな話題を切り出したんだ。
「あまり立ち入ったことまでは聞けなかったけれど……でも、駆け落ちだなんて、ちょっと素敵だと思わない?」
エフィはそう言って、覗き込むように俺を見た。
何かを問い掛ける眼差しと微笑み。
それって、つまり――
ファングの野郎を見習って、俺にもそうしろと仰ってるんですか、お嬢様。
攫って逃げて、と。
そりゃまぁ、駆け落ちでもしない限り、俺とお嬢が一緒になるなんてあり得ないもんな。
いまのところはまだ、俺はアリアハン貴族のご子息で通ってるが、そいつは単なる大ボラだし。
って、いやいや、違うだろ。
そういう問題じゃねぇよ。
そもそも、エフィが本気で言ってる筈ねぇだろうが。
阿呆か、俺は。
だが、妄想というにも馬鹿馬鹿しい懸念に囚われて、俺はうかうかと返事ができないのだった。
話は、ジパングでヤマタノオロチを斃した直後に遡る。
どうにかオロチを退治したはいいものの、案の定、村は大騒ぎになっていた。
まぁ、そりゃそうだ。
いくら真夜中とはいえ、あんだけ派手にやらかせば、騒ぎに気づいて起き出すヤツが出るのは当然だ。
すわ何事かと表に出てみれば、この島国の支配者たるヒミコ様のお屋敷が、物凄い勢いで燃え崩れていたりするのだ。
その上、炎上の中心では、村人達を恐怖で震え上がらせていたヤマタノオロチの八本首が、うねうねと炎を吐きまくってる姿なんぞを目撃した日にゃ、その場で腰を抜かすか、さもなければ慌てて周りの連中を叩き起しもするだろう。
俺達にとって幸いだったのは、火勢とオロチを畏れて、村人達がなかなか近寄って来ないことだった。
なにしろ、こっちはクタクタだったからな。
いちいち連中に説明なんかしてらんねー。
それに、余所者の俺達がヘタに事情を説明しても、状況的にヒミコサマを巻き込んで殺した極悪人にされかねない。
なので、村人連中に事情を伝えるのはタタラ辺りに任せたい――そんなことを俺が考えていると、同じくへたり込んでいたリィナとファングが、急に腰をあげて身構えた。
二人の視線を追うと、そこには肩を押さえたチョンマゲ頭の剣士と、その背後に幽鬼のように佇むいくつもの黒装束が並んでいた。
ああ、お前らも生きてたのか。
お互い、命冥加なことだな。
だが、そんな軽口を叩けるような友好的な雰囲気は、向こうには微塵も無かった。
「何故、己は生きている……不覚」
たどたどしいが、『お役目を果たせず、おめおめと生き長らえるとは、なんたる不覚』みたいなことを言いたかったんだろう。
剣士は切れ長の目で、ぎらりとリィナを見据えた。
「この無念……晴らす。必ず」
相変わらず奇妙な抑揚で言い置いて、剣士は燃え盛る巨大な篝火の届かぬ背後の闇へと消えた。
黒装束共も、音も無くそれを追う。
やがて、完全に気配が消えたのか、リィナは構えを解いて肩を竦めた。
てっきり、この場で切りかかってくるかと思ったが、奴らの行動原理がよく分かんねぇな。
こっちは全員疲労困憊だから、行ってくれて助かったけどさ。
そういえば、奴らはもともと余所者って話だ。ヒミコの配下になっていたのは、何か事情があったのかね。
タタラとサノオ、そしてクシナが、おっかなびっくり様子を見に来たのは、それからすぐ後だった。
聞けば、オロチが炎の中に沈んだのが見えたので、俺達が勝ったのだと見当をつけて、無事を確かめに来てくれたそうだ。
正直、助かったぜ。
これで村人への説明を、タタラに丸投げできる。
なにしろ、こんなド田舎だ。タタラが妙な連中を連れてきたことは、既に村中の噂になっているだろうが、ここの連中にしてみれば、俺達は胡散臭い余所者に他ならない。
そんな俺達が説明するよりゃ、タタラ達に伝えてもらった方が、村人連中もまだ納得――は出来ねぇかな。
ある程度の事情を承知してるタタラですら、ヒミコの正体がヤマタノオロチだと告げられて、こうして目を白黒させてるくらいだ。
「そったらこと言われても、まんず信じられねぇだ……けんど、お前ぇさん達が、オラ達に嘘を吐く筈がねぇ。だから、信じるだよ」
俺達と一緒に謁見した時に、こいつもヒミコの異様な雰囲気に触れたからな。
なんとなく予感はあったんだろう。思ったよりは、すんなりと話を呑み込んでくれた。
サノオは混乱しきりだったが、さらに事情を把握してない筈のクシナが、タタラに倣って頭を下げたので、表面上はどうにか平静を取り繕おうと苦労していた。
そんじゃ、悪いけど後は頼んだぜ、タタラ。
いままで国を挙げて崇拝していた女王様の正体が、ジツは自分達を恐怖のドン底に陥れてた化け物だったといきなり告げられて、しかもそれを他の連中に説明してくれなんて言われても困るだろうけどさ。
元はと言えばお前の依頼でやったことだし、まぁ、よろしく頼むよ。
これからは生贄なんていう野蛮な風習も無くなる訳だし、めでたしめでたしみたいな方向に、頑張って話を持っていってくれ。
とにかく、今夜はもうこれ以上、なんもする気が起きねぇ。
姫さんなんか、とっくにアメリアの背中で寝ちまってるしさ。
なにをするにしても、一旦休んでからだ。
ちなみに、マグナ達は途中で別れて、世話になっているという教会に戻っていった。
どの道、狭いタタラの家で全員寝るのは無理だしな。
別れる時にお互いほとんど口を利かなかったのは、もちろん疲れていたからだ。
明日の俺の為にも、そう願いたいね。
そして、翌日。
まだ朝靄がかかっている時間に目を覚ました俺は、他の連中を起こさないようにこっそりとタタラの家を抜け出した。
ひとつ伸びをして、マグナ達が世話になっている教会を目指す。
疲れが抜け切ってないから、正直ダルい。
我ながら、よくこんなに早く起きれたモンだぜ。
欠伸を噛み殺しつつ歩くと、相変わらず、どう見ても普通の民家にしか思えない教会が遠目に見えた。
ん?
玄関の前で掃き掃除をしている人影がある。
一瞬、シェラかと思ったが、そうではなかった。
教会でよく見かける神父の格好をしている。
近くまで寄ると、三十そこそこと思しい意外と若い神父が、軽く会釈をしてニヤリと笑った。
「やぁ、おはようございます――というか、本当にお早いですね。皆さん、まだ眠ってらっしゃいますよ」
口振りからして、多少の事情は把握してそうだった。
問い質すと、神父は頷いた。
「ええ、貴方のことも伺っていますから、すぐに分かりましたよ。この国の人とは、服装や顔立ちが違いますからね。なんでも、アリアハンの本国からいらしたとか。懐かしいですな――いや、何を隠そう、私も本国の出身でしてね」
そう言って、どこか自重気味に笑う。
「昨夜は、どうやら大変なご活躍だったようですな。大したものです。この国に派遣されて以来、さっぱり信仰を集められない私とはエラい違いだ」
神父は箒を壁に立てかけて、両手を上に向けて肩を竦めてみせた。
「いやぁ、まったく貧乏くじを引いたものです。この国の人々ときたら、女王とはいえ只の人間でしかないヒミコ様を、あろうことか神の如くに崇めてましたからね。お陰で誰も主の教えに耳を傾けてくれず、大層難儀しています」
神父は、ちらりと背後の民家を振り返った。
「お恥ずかしいことに、いまだに教会すら建てられない有様でして。ま、追い出されなかっただけマシですがね」
「ホントにな。ヒミコサマはエラく余所者を嫌ってたみたいだけど、よく追い出されなかったな。なんか取り入る秘訣でもあんのかい」
「そこは、まぁ、なんと言いますか……我が教会にも、多少の政治力というヤツはありますからね」
ニヤリ、と神に仕える聖職者らしくない笑みを浮かべる。
ははぁ、なるほど。
神父がこの地に留まることを断ったら、例えば軍事力を背景にしたような、もっと強引で強力な干渉を行うぞと脅したってなトコだろう。
それにしても、この神父、俺の知っているソレよりも、喋り方といい仕草といい、ずいぶんと軽薄な感じがした。
「ま、そのヒミコサマも居なくなったことだし、これから頑張って主の教えとやらを広めればいいんじゃねぇの」
「もちろん、そのつもりではいますがね。しかし、難しいでしょうな」
は?なんでだ?
「この国の人々には、神の概念が我々とは大きく異なるのです。ごく簡単に申し上げれば――ここでは、人が神になれるのですよ。ヒミコサマが、そうであったようにね」
神父は苦笑して、手で印を切った。
「そして、彼等はひどく朴訥――言葉悪く言えば単純です。ヒミコサマ亡き今、今度は彼等をヤマタノオロチから救ってくれた勇者様を、神の如くに崇めるでしょうな。ヒミコサマの代わりにね」
神父はまた、皮肉らしく唇の端を吊り上げた。
なんだか、気に入らねぇ笑い方だ。
「もっとも、それは私にとっても悪いことばかりじゃありませんが。なにしろ、彼等をさんざん悩ませていたヤマタノオロチの恐怖から解放したのは、『我らが主の遣わしたる聖なる勇者様』なんですから」
なんだと?
「彼女を聖なる代理人としてこの地に遣わした『我らが主』を信ずるように村人達を導くのは、ま、さして難しいことではありますまいよ。なにしろ、ここの人々は素晴らしく純朴だ――」
「おい。あんた、いま、なんつった?」
「ああ、いえいえ、もちろん、貴方達の功績も、ちゃんと伝え残すつもりですよ」
違う、誰の手柄かなんてのはどうでもいいんだ。
俺が眉間に皺を寄せてる理由は、そんなことじゃねぇんだよ。
「神の遣わした聖なる勇者ってのは、誰のことだ?」
すると神父は、なんだそのことか、みたいな顔をした。
「ご存知ありませんでしたか。いやまぁ、なんと言いますかね……どうやら、上の方ではそういう話になったらしいですよ」
そういう話って、どういう話だ。
「いえね、しばらく前に、各々の担当地域に勇者殿が訪れた際には協力を惜しまぬようにと、本国から通達がありまして。マグナ殿を神の使徒だと、我が教会は正式に認知したみたいですな。だからこそ、私もこうして、彼女らに寝床を提供してる訳でして」
なんだ、そりゃ?
裏ではどうだか知らねぇが、教会は表向き、魔王の存在を認めてなかった筈だ。
一般的には、口さがない連中が吹聴する噂に過ぎないバラモスの存在を、教会が積極的に肯定するだけのメリットが無いからだろう。
教会の信者達を世界中で苦しめている魔物共の元締めである魔王の存在を認めちまえば、『全能である筈の神様は、一体何をやってるんだ。何故、早く魔王を滅ぼして自分達を救ってくれないんだ』と突っ込まれるに違いねぇからな。
神が人に課した試練だなんだと屁理屈は捏ねられるだろうが、教会としちゃ触れずに済ませられるなら、それに越したことは無い筈だ。
それが、なんで今さら。
「これはあくまで私見ですが……身も蓋も無いことを言ってしまえば、まぁ、保険の一種でしょうな」
そんなことを、神父は言うのだった。
「正直なところ、彼女が旅を始めた当初は、本国のお偉方は彼女のことなど眼中になかったようですよ。魔王を倒すと意気込んで出かけたはいいものの、すぐに行方知れずになった冒険者の類いは、野にいくらでもいましたからな」
軽薄な調子で、神父は続ける。
「ところが、彼女は道半ばで魔物に殺されることもなく、いまだに旅を続けている。しかも、いくつかの国の支配者や、それに魔法使い達も、どうやら彼女を支持していることは、教会の方にも当然伝わっています。さらに――」
「なんといっても、彼女は『かの』オルテガ殿の実子ですからな。もしかしたら、彼女は本当に魔王を斃してしまうかも知れない。その万が一に備えて、自分達も一枚噛んでおこうと本国のお偉方がそろそろ考えはじめてところで、特におかしいとは思いませんよ」
「……都合のいいことばっか言ってんなよ?」
くだらねぇ。
あいつはいま、そんなつまんねぇ思惑に囲まれてやがんのか。
あいつは……このことを知ってるのか?
「っと、そんな睨まないでくださいよ。いま言ったことは本国の考え方で、私個人の考えとはまた別なんですから――都合がいいですか。実際、私もそう思いますね」
「キナ臭ぇ話に、あいつを巻き込むんじゃねぇよ。くだらねぇ権力闘争とやらは、手前ぇらだけで勝手にやってりゃいいだろうが」
「ご尤もですけどね。そうするには、彼女の存在は少々大きくなり過ぎました――ああ、いや、もちろん、私個人としては貴方と同じ気持ちですよ。ですが、しがない一神父にできることなど、本当にタカが知れてましてね。
せいぜいが、彼女達に請われて寝床を提供する程度のことしかできないのです。本国の意向には逆らえません――逆らうつもりもありませんが、ともあれ彼女らに協力すること自体は、別に悪い話ではないでしょう?」
そりゃそうかも知れねぇけどさ。
勝手なことを言いやがる。
そうムカついてはいたが、ここで神父をこれ以上問い詰める気にはなれなかった。
軽薄そうな表情と語り口で、ウマく怒気を逸らされたというか。
ひと目見た時から思ってたんだが、なんだか、こいつ――
「あんた、あんまり神父っぽくねぇな」
「よく言われます」
そう言って、神父は笑った。
「笑いごっちゃねぇだろ」
「いや、分かりませんか?」
なにがだよ?
「だからこそ、こんな僻地に派遣されてるんですよ。本国出身の上に、家柄は結構いい方なんですけどね。まぁ、体のいい厄介払いというヤツで」
ああ、なるほど。教会内の出世競争から脱落した変わり者って訳か。
つまり、なおさら、こいつに何を言っても無駄ってことだな。
もういいや。
元々、こいつに用はねぇし、これ以上、ここに居られても邪魔なだけだ。
初のリアルタイムktkr!
私怨!私怨!
「あいつら、まだ寝てるんだよな?」
「ええ、その筈ですが」
「悪いけど、誰か起こしてきてくれねぇかな」
「ええ、構いませんよ」
「頼むよ。俺がいきなり上がり込んで、叩き起す訳にもいかねぇしさ――そうだな、とりあえずシェラでいいや」
「分かりました、少々お待ちください」
それにしても、仮にも神父とはいえ男が独りで暮らしてる家に寝泊まりして、あいつら大丈夫なのか――いや、そこらの男が力づくでどうにか出来る訳ないから、大丈夫に決まってるんだが。
後ろ手に玄関の戸を閉めた神父を見送りつつ、頭の中で呼びかける。
『来たぜ。どうせとっくに気付いてるんだろ。さっさと入れてくれよ』
すると、すぐにぶっきらぼうないらえがあった。
『さっきから開いてるよ。勝手に入んな』
昨夜、さんざん俺に偉そうな指示をたれていた、姿なき女の声だ。
勝手に入れって、普通に玄関から入れってことか?
昨日のウチに、会いたければここに来いと聞いてはいたが、まさか、この家の一室を間借りしてるんじゃねぇだろうな、貧乏臭ぇ。
首を傾げながら引き戸を開けて、ぎょっとする。
さっき神父が中に入った時にちらっと見えた、木造りの廊下はどこへやら、重々しい石造りの通路が、明らかに家の奥行きよりも長く続いているのだった。
この奇妙な現象があからさまに示している通り、昨夜の姿なき声の主は、ヴァイエルのご同輩――つまり魔法使いに間違いなかった。
まぁ、いきなり頭の中に話し掛けてきた時から、丸分かりだったけどな。
「ずいぶんとまぁ、せっかちじゃないか。まるで年寄りのように朝が早いんだねぇ、ヴァイス坊や」
廊下を進んだ突き当たりの扉を開けるなり、もはや聞き慣れた初めて耳にする女の肉声が、俺を出迎えた。
「いや、俺だって、こんな早起きしたかなかったんだけどね」
浅い眠りを利用して、俺がわざわざ早起きしたのは、ファングや姫さんには悪いが、ちょっと独りで行動したかったのと――それから、村人達となるべく顔を会わせたくなかったからだ。
この国に来てから、マトモに接触を持ったのはヤヨイの家族くらいなので、俺の顔はほとんど知られてない筈だが、こんな田舎じゃ村人は全員顔見知りと思った方がいい。
つまり、見知らぬ誰かがそこらを歩いてたら、ここの連中にとって、それはすなわち余所者なのだ。
そして、いま現在、この国にいる余所者はといえば、俺達かマグナ達だけだ。そのことにも、すぐに思い至る筈だ。
ある程度はタタラから話が通っていると願いたいが、昨夜の乱痴気騒ぎの当事者である俺を、村人達がすんなりと見過ごすとは思えない。
誰かしらに会う度にいちいち呼び止められて長々と話し込まれたり、なんだかんだと面倒に巻き込まれたんじゃ敵わないので、連中が起き出す前に行動しているのだった。
「悪かったな。早過ぎたか?」
「いいや、そんなことはないさ。いつでも来いって言ったのは、アタシだからね」
奇妙な形をした機材やら古びた羊皮紙の古書やらが積まれた棚に囲まれて、デカい皮製の椅子に深々と腰を埋めた女が、肘掛についた右手に顎を乗せて、悠然と俺を眺めている。
そうなのだ。
こいつら――魔法使い共は、多分あんまり睡眠というものをとらない。
ヴァイエルの家で厄介になっていた時も、俺がどんなに不規則な生活を送っていても、いつでもあいつは起きていた。昼夜逆転していようがなんだろうが、あいつが寝ているところを、俺は目撃したことがない。
この女も、似たようなモンだろう。
つか、やっぱり魔法使いってのは、性格悪ぃな。
よりにもよって、神父が仮の教会としている家に、わざわざ奇妙な仕掛けを作ってまで同居するこたねぇだろうによ。
お前ら魔法使いは、教会と仲が悪いんだろうが。
このことを、家主の神父は知ってんのか?
「もちろん、内緒で間借りしてんのさ」
頭の中で思ったことに、当たり前みたいに答えるんじゃねぇよ。
「そんな風にキョロキョロとそこいら中を見回してれば、アンタが何を考えてるかなんてお見通しだよ」
ああ、そうですか。
まったく、相手にするにはやり難い連中だよ。
俺は、改めて魔法使いの女を見た。
髪の毛が異常に長い。無造作に束ねられた、どこか紫がかった色をしたソレは、立ち上がると膝の辺りまで届きそうだ。
ゆったりとした黒いドレスに絹の羽織物を肩にかけ、右の眼窩に片眼鏡を嵌めた彫りの深い顔立ちは、三十路半ばてなトコロかね。
まぁ、こいつらの見た目なんて、さっぱりアテにならねぇけどな。
「失礼な坊やだね。アンタを躾けた師匠の半分くらいにゃ性悪だ。いいかい、このアタシを、他の連中と一緒にするんじゃないよ。アタシは、これこの通り、見たままの歳しか重ねちゃいないんだからね」
いや、俺はアレの弟子じゃねぇぞ。性格も、あそこまで悪くねぇし。
つか、言ってもいないことに反論されても困るんですが。
「だから、わざわざ口を開かなくても、アンタの考えてることくらい簡単に察しがつくって言ってるだろうに。まぁ、中でもアンタは特に筒抜けだからね」
馬鹿言うな。俺はこれでも、感情をあんまり表に出さない男で通ってんだよ。
「とにかく、初対面の女の顔を、ジロジロと値踏みするんじゃないよ」
はぁ、すみません。
それにしても――
「女の魔法使いが、そんなに珍しいかい?」
俺の思考とほぼ並行してそう言い、女はフフンと笑った。
「いや、まぁ……そうだな。言われてみりゃ、実際に会ったのは初めてだ」
魔法協会では、そういや男の魔法使いにしか会ったことがない。旅の途中で出くわしたのも、男の魔法使いばっかりだ。
考えてみれば、妙な話だな。おとぎ噺に出てくる魔法使いは、大概は女と相場が決まってるのによ。
「そりゃ魔女のことだろう。アレはまた、まるきり別の話さ」
そう言って、魔女とは違うらしい魔法使いの女は、対面の椅子に座るよう俺を促した。
ヴァイエルの阿呆よりは、少しは気が利くらしい。
「まぁ、女の魔法使いの数が少ないってのも事実だけどね。そもそも魔法使いになろうなんて素っ頓狂なこた、馬鹿な男しか考えないモンさ。本来、女ってのは、もっと地に足がついたモンだからね」
じゃあ、あんたはなんなんだ。
「アタシだって、別になろうと思ってなった訳じゃないんだよ。言ってみりゃ、不幸な成り行きでね。何が悪かったって、アタシの無二の才能だろうねぇ。天才過ぎたのがいけなかったのさ」
当たり前みたいな口調で自慢すんな。
「ま、そんなこたどうでもいいさ――アタシのことは、マリエと呼びな。アンタらに教える名前に、大した意味なんかありゃしないけどね」
俺が椅子に腰を落ち着けるのを待って、マリエはおもむろに指をパチンと鳴らした。
「それで、アタシに何を聞きたいんだって、ヴァイス坊や」
「いや、あのさ――」
坊やは止めて欲しいんですが。
「坊やは坊やさ。そんなつまんないことより、それを飲んで口を湿らせて、アンタがアタシに聞きたいことってのをうたってごらんな。その為に来たんだろう、ヴァイス坊や」
マリエの長い指が示す先には、湯気の立ち上るティーカップがサイドテーブルに乗せられていた。
いや、まぁ……魔法使いのやることだから、いちいち驚きゃしないけどさ。
いまの今まで、こんなの此処に無かっただろ!?
「いいや、最初からソコにあったのさ。いいから、さっさとお話しよ、ヴァイス坊や。それとも、問いも答えも全部アタシから言ってやるかい?」
俺がこれから尋ねることも、全てお見通しって訳ですか。
誰が魔女じゃないんだって?
つか、言わなくても分かってるなら、わざわざ俺が話す必要ないじゃねぇか。
「アタシは別にそれでいいさ。アンタの為に言ってやってんだよ。自分の口でしっかり話せってね」
まぁ、こいつら相手に反論したところで、詮が無いのは身に染みている。
「それじゃ、聞くけどさ」
修辞や駆け引きが無駄なこともよく分かっていたので、俺は単刀直入に聞くことにした。
「聞きたいことってのは、その――ヒミコのことなんだ」
「ほぅ」
「アレは……ホントに、魔物だったのか?」
実際に目の前でデカいトカゲの化け物に変態したんだ、まっとうな人間じゃないことは確かだけどさ。
「フン。案外と目端が利くじゃないか」
マリエはデカい椅子の背もたれに深々と背を預け、ふんぞり返って腹の上で両手を組んだ。
「後味が悪かったかい?」
マリエは片眼鏡の奥から、さほど興味の無さそうな目を俺に向ける。
ホントに、こっちの内心を見透かしてやがるな。
「……まぁな」
ヒミコは、魔物にしては妙に人間臭過ぎた。
俺が知ってる魔物ってのは、表現はおかしいが『あんなに人間じゃない』んだ。
どんなに外面を取り繕ってみたところで、根本的に人間とは相容れない。
だから、俺の目にはヒドく人間っぽく映ったヒミコを、魔物と断ずるには違和感がある。
その違和感を解く答えを、俺はひとつだけ思いついていた。
だが、いくらなんでも――
「いいから、それを口に出して言ってごらんな」
口ごもった俺を、マリエが促した。
「アタシら相手に要らない心配をするんじゃないよ。『常識的に考えて、そんなバカなことはあり得ない』そう否定される心配なんてね。アレの処でしばらく厄介になってた割りは、つまんないことを気にするんだね。えぇ、ヴァイス坊や?」
そうだな。存在そのものが非常識なあんたらに、常識を云々される謂れはねぇしな。
違う意味では馬鹿にされっぱなしだけどさ。
正直、これから自分が何を言わんとしているのか分かってる相手に、わざわざ説明するのは馬鹿馬鹿しくもあったが、ことさらに順序立てて喋ったのは、マリエの為じゃなく俺自身が考えをまとめる為だ。
アリアハンで冒険者をやってた頃は夢想だにしなかったが、魔物が人間と関わりを持っていることを、カンダタ共との最初の邂逅で知った。
その後、なんと魔物と心を通わせているように見える人間――ルシエラの存在を知った。
イシスの王宮では魔物が人間社会のあちこちにちょっかいをかけている確信を深め、そしてエフィの故郷では人間の皮を被ったようなニュズという奇妙な魔物に出くわした。
それらを踏まえた上で、俺の思考は飛躍する。
素直に考えれば、俺がこの目で見たヒミコは、ヤマタノオロチという魔物が化けていたのだ――ニュズが、召使いのファムに化けていたように。
本物のヒミコは、既にいなかった。とっくに殺されて、魔物に成り代わられていたのだ。
そう考えるのが、最も単純で分かりやすい。
だが、さっきも言ったように、それだと俺の違和感は拭えない。
だったら、こう考えればいい。
本物のヒミコは、ジツは亡き者になんて、なっていなかったのだ。
要するに、あれは魔物がヒミコに化けていたんじゃなくて、ヒミコ本人でもあったんじゃないか。
どんな言葉が適切かは分からないが、例えば同化――ヒミコは、魔物に取り込まれたような状態だったとは考えられないか。
実際にお目にかかったことはねぇけど、説法やら御伽噺やらで、悪魔に憑かれた人間の話ってのを耳にしたことがある。
そんな感じで、ヒミコは悪魔憑きならぬ魔物憑きとでも言うべき状態で、あれはヤマタノオロチでもあり、ヒミコでもあったんじゃねぇのか。
人の姿をしていた時は、ヒミコとしての自我もちゃんとあって――だから、あれほど人がましかったんじゃないのか。
そして、もしそうだとしたら。
ヒミコには、まだ人間に戻れる可能性があったんじゃないのか。
俺はそれに薄々気づいていながら、結果としてヒミコを見殺しに――
「ああ、それはどうでもいいよ」
薄情なことに、マリエは心底どうでもよさそうに、俺の話を遮ったのだった。
「なんだい、そんな恨みがましい目つきをされる覚えはないね。こっちは別に、アンタの後味の悪さを拭ってやろうなんてつもりはないんだ。そんな目をするんじゃないよ」
「……別に俺だって、あんたにンなこた期待してねぇけどさ」
「やれやれ、困った坊やだね。こう言ってやれば安心するかい?ヒミコはもう、元の人間に戻れる見込みは全く無かったよ」
「……本当に、そうなのか?」
俺が聞き返すと、マリエは急に目を見開いて身を乗り出した。
「本当?本当に、だって!?そりゃひょっとして、真実とやらを聞かせろって言ってるのかい?坊や、まったく大層なものをご所望だね!!こんなに気安く?確かめる術もありゃしないのに?」
まくしたててから、鼻で笑って再び椅子に身を預ける。
「アタシが言ってるのは、単なる気休めさ。それでも、アンタには十分な筈だけどね、ヴァイス坊や」
いつだったか、ヴァイエルにも同じことを言われた気がする。
分からないことは、いつでも誰かが教えてくれると思っている――つもりはないんだけどな。
けどさ、昨日の夜は、どこの誰とも知れない怪しい魔女の唐突な命令を聞いてやったんだぜ。なんか知ってんなら、礼の代わりに教えてくれたっていいじゃねぇか、とは思う。
「だから、そんな目つきで見るんじゃないよ。アタシは他の魔法使い共と違って、まだまだ人の心をたっぷりと持ち合わせてるんだからね。打たれて捨てられた惨めでみすぼらしい野良犬みたいな目をされるのは苦手なのさ」
嘘吐けよ。
「やれやれ、仕方ないね。もう少し気休めを言ってやるとするか――アンタの目には、アタシはどう映ってる?」
「は?」
いきなり話が明後日の方へ飛んだ。
言うことに脈絡が無いところも、あの野郎とよく似てやがる。
「普通の人間と、何か変わったところがアタシにあるかい?」
「いや――」
外見的には、こいつら魔法使いに他の人間と変わったところは特に無い。
せいぜい顔色が不健康そうに見える程度だ。
いかにも魔法使い然とした特徴的な服飾さえ替えれば、見た目だけで魔法使いと判断するのは難しいだろう。
「そう。見かけの上では、アタシらとアンタらは何も変わらない。けど、上っ面は同じように見えても、アタシらの存在は、もうほとんど人間とは呼べないのさ」
ここで、マリエは幾分困ったように眉根を寄せた。
「フン、なんて言ってやったらいいのかね――アンタの目に見えているアタシは、人間と大して変わりゃしないが、もっと別の見方が出来る者からすれば、その違いは歴然なんだが……えぇい、まどろっこしいね」
それは、俺の台詞だ。
回りくどい上に、意図がよく分かんねぇよ。
「あんたがさっき思った通り、アタシらはアンタらみたいに睡眠をとる必要が無い」
やっぱり、俺の頭の中を覗いてやがるじゃねぇか。
「それに知っての通り、アンタらとは寿命も異なる。というより、アンタらと同じ意味での寿命という概念自体が、既に存在しない。つまり、もうニンゲンという理とは別の場所にいるのさ。その意味で、アタシらは人間じゃない」
分かったような分からないようなことを言う。
支援
「要するにだ、ヒミコってのは、そういうアタシらに近い存在だったのさ。あんな風になっちまう前から、元々ね。言ってみりゃ、ある種の天才だったんだよ、アタシと同じようにね」
恥ずかしげもなく言い切りやがった。
「独力で魔法使いの域に達するなんてのは、代々神事を司る家系に生まれ、鬼道とかいう原始的な魔法理論を会得していた特殊性を考慮してすら、ほとんどあり得ないことなんだよ。
その辺りも、アタシによく似てるのかね。だからこそ、アタシもここを根城にするのを承知したんだけどさ」
マリエにも色々あったことを匂わせる口振りだったが、その表情からは一切の感慨は見て取れず、まるきり他人事のような顔をしていた。
「そんなヒミコが魔物に目をつけられたのは、まぁ必然と言っていいね。あのコは自らの特殊性に無自覚だったから、それを隠そうともしなかったしね。
つまり、ヒミコは元からアンタなんかとは比べモノにならない、この世界で際立った存在で――だから、アンタ如きがあのコに出来ることなんて、ハナから全然これっぽっちも無かったんだよ。だのに気に病むだなんて、滑稽この上ないハナシさ」
思わず、すっこけそうになった。
これって、気休めになってるのか?
「ま、自惚れは別に悪いことじゃないが、ほどほどにしておくんだね。アンタ如きが何をしようと、ヒミコは同じような最期を迎えただろうさ。アンタがいまさら何を思い悩んだところで、何も変わりゃしないよ。
それに、一般的な道徳観とやらに照らし合わせりゃ、責任を感じなきゃいけないのはアンタじゃなくて、ずっと傍でヒミコを見てきて、事情も弁えてたのに何もしなかったアタシの方だろうね」
ああ、全くだな。
それについては同感だ。
俺如きにはどうしようもなかったってのも、癪に障るがそうなんだろう。
ただ、まだひとつ引っかかる。
そもそも魔物が、ヒミコに成り代わる意味なんて、どこにあったんだ?
ヒミコの姿を借りた方が、この国を支配するのが楽だったから――いやいや、待て待て。違うだろ。支配だと?
支配なんて言葉は、俺が魔物に抱いている印象からは、およそかけ離れている。魔物は魔物らしく、この国の連中を勝手気ままに貪り食ってりゃいいじゃねぇか。
魔物共は、なんだってこんな回りくどい真似をしてるんだ?
なんだ、この砂を噛むような――ずっと覚えつつも、手を伸ばすとするりと逃げていく、はっきりとしない違和感は。
魔物が人の真似をすることに――何か意味があるのか?
「さぁて、それだ!」
パァン!!
いきなりマリエが手を打ち合わせたので、俺はビクッと椅子の上で飛び上がった。
「いま考えたソレを、アンタはよっくと肝に銘じておかなくちゃならないよ」
「は――?」
どういうことだよ?
「それも、アンタが考えることさ」
何言ってんだ。もったいぶりやがって――こいつらは、肝心なトコロで話をはぐらかすばっかりで、ロクに役に立ちゃしねぇ。
「教えてくれたっていいじゃないか、って顔つきだねぇ」
マリエはニヤニヤと含み笑いを漏らす。
「もちろん、アタシはアンタの疑問に対する答えを持っている。アンタが納得しそうな解答から、全く理解できない解釈まで、それこそ選り取りみどりさ」
能書きはいいから、さっさとそれを教えろよ。
「けど、ダメだね。アタシから何かを教えたりしたら、それこそ台無しなのさ。アンタは自分で考えて、自分で答えを見つけなくちゃならないよ」
「って言われてもな……」
答えを見つける取っ掛かりすら見えねぇから、苦労してるんだが。
ここはひとつ、愚鈍なワタクシメに手掛かりのひとつもご教授いただけませんかね。
「そう卑下したモンでもないさ。アンタには、自分がどれだけ莫迦で阿呆で間抜けで無知で愚かで能無しに思えて、アタシが全知全能の神の如き存在に思えたとしてもだ――」
いや、そこまでは思ってねぇよ。
「それでも、アンタにしか識り得ないことってのは存在する。アタシらには見ることのできない、アンタだけに可能なモノの見方ってのは、いつでも確かに存在するのさ。この世で一番の愚者と賢者の間にあってすら、それは『そう』なんだよ」
はぁ、そうですか。
何が言いたのか、よく分かりませんが。
「簡単に言や、アンタのモノの見方を誘導しちまうような真似は、アタシらは避けたいのさ。ただでさえ、アンタに大した価値なんてありゃしないのに、そんなことをしたら全くの無価値になっちまう」
ひでぇ言い草だ。
要するに、自分達の都合で何も教えないって言ってんだろ、これ?
「だから、アンタは全部自分で気付いて、自分で考えて、自分で答えを出さなきゃならないよ。他の大勢の人間達と、同じようにね」
俺がつまらなそうな顔をしたからか、マリエは念を押すように言葉を継ぐ。
「言っておくが、これは説教の類いじゃないからね。もうちょっとしっかりしろだとか、心構えを云々してる訳じゃないんだ。そのつもりでお聞きよ。大体、そんなどうでもいい話を、このアタシがする筈がないだろう」
あれ、そうなのか。
てっきり説教されてるのかと思ったぜ。
「……やれやれ、納得のいかない顔つきだね。これだから、アンタらに物を言うのは疲れるんだよ。なんだってそう、自分に分からないことを手軽に知りたがるのかねぇ」
いや待て、あんたの話のどこに納得できる点があったんだ。
実質、なんにも教えてもらってねぇぞ、俺。
「別にアンタに意地悪をしてる訳じゃないんだが……ま、でも、そうだね。アンタも、少しは覚えておくのも悪くはないか」
ぶつくさとひとりごちると、マリエは傍らの書斎机から紐で縛った巻物を取り上げた。
「どうだい、ヴァイス坊や。この娘にゃ、もうずっと知りたいことがあるんだけどね、ひとつアンタが教えてやっちゃくれないかい」
巻物を俺に手渡しながら、そんなことを言う。
この娘って、誰のことだよ。
「もちろん、何も難しいことじゃない。アンタにとっては、至極当たり前のことさ」
巻物を紐解くと、そこにはなんの変哲もない部屋と、その中に佇む少女の絵が、恐ろしく精密に描かれていた。
「よかったねぇ、アニー。アンタの長年の疑問に、そのお兄さんが答えてくれるそうだよ」
なんの茶番だ、これは。
この絵を相手に、俺に独り芝居でもしろってのか?
ところが――
「本当ですか、マリエ様!」
手にした巻物から嬉しそうな声が聞こえて、危うく放り出しそうになった。
「ああ、ヴァイスお兄さんは物知りだからねぇ。きっと教えてくれるさ」
あからさまな皮肉にも反応できないほど、動揺しちまってる。
「マリエ様に物知りって言われるなんて、スゴいですね!よろしくお願いします、えと……ヴァイスさん?」
巻物に描かれた少女は、にこっと笑って小首を傾げた。
……はぁっ!?
いや、おい、ちょっと待て。
この絵、動いたぞ、今!?
巻物を裏っ返して見ても、これといっておかしなところはない。
え、なんだこれ。どうなってんだ?
「やだな、そんなにジロジロ見ないでくださいよ〜」
アニーと呼ばれた少女は、ちょっと恥ずかしそうに視線を逸らす。
まるで絵の中で生きているようにしか見えない。
説明を求めてマリエを見ると、しっしっと犬を追い払うような手振りをされた。
「いいから、アンタは質問に答えてやりゃいいんだよ。ほら、アニー。アンタには、ずっと知りたかったことがあるんじゃなかったのかい?」
「あ、はい、そうですそうです。えぇとですね――ひゃっ!?ちょっ……ヘンなトコ触らないでくださいっ!!」
ああ、ごめん。
つか、俺が触ったのは分かるのか。
ホントにこれ、どうなってんだ?
「も〜、なんなんですかぁ……ホントにちゃんと、私の質問に答えてくれるんですか!?」
「あ、ああ、はい、頑張ります」
「……マリエ様のご紹介ですから、まぁ許してあげますけどぉ〜……一度だけですからね!?」
一本立てた人差し指を、俺に向かって突きつける。
「では、お尋ねします。えぇと、あのですね……私の知りたいことってゆうのは、その、『奥行き』なんです」
は?
「『奥行き』というものが存在するとマリエ様はおっしゃるんですけど、私にはそれがどういうモノか、どうしても理解できないんです。あなたには、分かりますか?」
「へ?ああ、うん、まぁね」
そりゃ、分かるよ。
「ホントですか!?スゴいですね!!」
それまで胡乱げな眼差しで俺を見ていたアニーは、急に絵の中で目を輝かせた。
悪い気はしないが、そんなに感心されてもなぁ。
「それを、私にも分かるように説明して欲しいんです。マリエ様は頭がよすぎて、私などには仰っていることの半分も理解できないんですよ〜」
魔法使い共の言うことが、無駄に回りくどくて分かり難いってのは同感だ。
はいはい、分かったよ。妙な仲間意識を感じちまったし、答えてやるか。
えぇと、奥行きね――
説明しようと口を開きかけたところで、言葉を失う。
あれ?
なんて説明したらいいんだ?
絵という平面に生きているアニーの世界に、そもそも『奥行き』なんてあるのか?
無いとしたら……いったい、どうやってそれを説明する?
試演
「どうしたんですか?早く教えてくださいよ〜」
さっぱり考えがまとまらなかったが、こんなに期待の篭った目を向けられちゃ、黙ってる訳にもいかねぇな。
「いや……そうだ。遠いとか近いっていうのは分かるのか?」
苦し紛れに、逆に聞いてみた。
アニーの目にモノがどう映ってるのか分からないと、答えようがねぇからな。
「もちろん分かりますよ。私、そこまで馬鹿じゃないですよぅ」
当たり前じゃないか、と言わんばかりの顔をされた。
ホントに分かってんのかね。
なんか、通じてねぇ気がするぞ。
「じゃあさ、例えば……あんたのすぐ後ろのテーブルに、ティーカップが置いてあるだろ?それを、そうだな……部屋の一番端っこ方に置いて、今いる場所からそれを眺めたら、どう見える?」
「どう見えるって……ティーカップに見えると思いますけど?」
「いや、そうじゃなくて。大きく見えるとか、小さく見えるとか」
「そんなの、小さく見えるに決まってるじゃないですか。遠くにあるものは、小さく見えるに決まってます」
自信満々に答えるアニー。
そうなんだけどさ、言葉は同じでも、俺の理解とお前の理解は、なんかちょっと違ってる気がするぞ。
まず、そこから分からせないといけねぇのか。けど、どう言や通じんだ。
あ、そうだ。
「そいじゃ、そこから一歩も動かないで、手を伸ばして窓に触れるか?」
見た感じでは、絵の中のアニーと窓は三、四歩ほど離れている。
「そんなの無理に決まってるじゃないですか。あんなに遠いところに、手なんて届きませんよ〜」
遠いって、お前、平面だろうが。
なんで無理なんだよ。
無理だと思い込んでるだけで、ホントは触れるだろ!?
「いいから、試しに手を伸ばしてみろよ」
「え〜……ほらぁ、届きませんよぅ」
アニーの伸ばした手は、すかすかと空を掻く。
お前、わざとやってんじゃねぇだろうな。
奥行きが無いくせに、どうして触れねぇんだよ。
くそっ、もどかしいな。
ほれ、こうやって触りゃいいんだよ。
「えっ!?スゴい、今どうやって触ったんですか!?」
巻物に描かれた窓を指先で突っついてみせると、アニーは仰天して俺と窓を見比べた。
いやいや、俺の方がびっくりするわ。
果たしてこいつには、俺がどうやって窓に触れたように見えたんだろう。
「あ、分かりました。ヴァイスさんも、魔法使いの人なんですね」
いや、魔法使いには違いねぇけどさ。
マリエやヴァイエルみたいな変人と違って、俺はごく普通の一般人だからな。
当たり前のことをしてみせただけなんだが、俺にとっては当たり前のことが、アニーにとっては当たり前じゃない――まるで魔法みたいに見えたってことか?
ん、待てよ?
それって、つまり、マリエやヴァイエルに対する俺と同じ――
「どうだい。少しは分かったかい」
マリエはちょっと身を乗り出して巻物の端っこをつまむと、ひょいと俺から取り上げた。
「あぁん。私、まだ教えてもらってません、マリエ様。もうちょっとヴァイスさんとお話させてくださいよぅ」
「残念だが、ヴァイス坊やもあんたの疑問にゃ答えてやれないようだ。期待外れってヤツだね。いい子だから、大人しくしといで」
マリエが巻物の表面を軽くなでると、動く絵はすぅと消え失せた。
「で、アンタの方は、ちったぁ分かっただろうね?」
「……まぁな」
いまの茶番でマリエが俺に思い知らせたかったのは、おおよそこんなトコだろう。
とある概念を全く持たない相手に、その概念を説明することの難しさ――というより、そんなこと、ほとんど不可能じゃねぇのか?
人は、自分が既に理解している何かと比較して、新しく物事を理解しようとする。
だが、比較対象として選んだモノは、単に自分が近しいと思っただけで、これから理解しようとしているソレそのものではない。
つまり、自分では理解したつもりでも、本来の意味からはかけ離れてしまう可能性がある。
請われて教えた相手に、全く意図しない理解をされたら、それはもどかしいだろう。
しかも、そいつは得意げな顔で理解したと思い込んでいたりするのだ。
そりゃ、次第に教える気が萎えちまっても無理はない。
だから俺にも、分からないことは聞くなって言いたい訳か。
どうせお前には理解できないんだからと、そう言いてぇんだな?
「あえて言ってやれば、『それも違う』けどね」
マリエは、つけつけとヴァイエルのようなことを言った。
「まぁ、とりあえずはそれでいいさ。アンタが無思慮に、どーでもいいことをこれ以上アタシに聞かないならね」
こいつの目論見通りなのが癪に障るが、確かにこれ以上、何かを聞く気は失せた。
なんか、馬鹿らしくなっちまったよ。
前から思ってたが、やっぱりこいつら、単に俺に説明すんのが面倒臭ぇだけなんじゃねぇのか?
「分かったよ。けど、最後にこれだけは聞かせてくれ」
すっかり気分は萎えちまったけど、これだけは聞いておかねぇとな。
わざわざマリエの元を訪れたのは、ジツはこっちを聞くのが最大の目的だ。
「今度は、別にそんなややこしい話じゃねぇからさ。単に情報が欲しいだけなんだ」
「だったら、アリアハンの魔法協会にでも行けばいいだろうに」
「いや、もちろんそれも考えてるけどさ……ちょっと事情があってね。今ここで、ある程度のことを知っておきたいんだ」
「……やれやれ、あんたは蛇よりしつこいらしいからね。延々と押し問答をするのも面倒だ。仕方ない、言ってみな」
「そんじゃ聞くけど、あのさ、『オーブ』ってのは、一体なんなんだ――?」
マリエの部屋を後にして、外に出る。
すると、俺が閉じた玄関の引き戸が、すぐに開いた。
「わっ――と。あれ!?ヴァイスさん、いるじゃないですか!?」
びっくりした顔のシェラが、玄関でニ、三歩たたらを踏む。
シェラの脇から覗く民家の内部は、直前に通った石造りの廊下ではなく、外見通りの木造りに戻っていた。
魔法使い特有のワケ分からん空間から、どうやら無事に生還できたらしい。
「どこに行ってたんですか。神父さまが心配して探してましたよ?」
「ああ、うん、ちょっとな……なんつーか、踏ん切りがつかなくてさ」
曖昧に言葉を濁すと、シェラは俺の言葉を都合良く解釈してくれて、表情を曇らせた。
心の中を読まれないのって、やっぱりいいよな。
「そうですか……でも、よかった、すぐ見つかって。ここに居るっていうことは、ちゃんとお話をする決心がついたってことですよね?」
元から決心はついてる……と思う。
どっちかと言えば、マリエに会うのがついでだったしな。
「まぁな。リィナは?」
リィナの名前を先に出す辺り、実際は踏ん切りがついてないのかも知れない。
「あ、それが……」
シェラは申し訳無さそうに、少し口篭もった。
「神父さまからヴァイスさんが来たって聞かされた途端、裏口の方から、その……」
「逃げられちまったか」
「すみません……」
いや、お前が謝ることじゃねぇだろ。
「嫌われたかな」
俺が苦笑を漏らすと、シェラは慌てて首を横に振った。
「そんな筈ないです!!あの、私、探してきますから、先にマグナさんと……」
「……分かった。あいつは?」
「さっき起きて、いまは出かける準備をしてます。逃がさないでくださいね」
出かけるって、こんな朝早くから、どこに行くつもりだ。
「じゃあ、私はリィナさんを探してきますから」
「あ、待った――」
慌ただしく走り出そうとしたシェラを呼び止める。
「はい、なんですか?」
「いや、その――あんま、無理すんなよ?」
もうちょっと気の利いたことを言いたかったんだが、他に言葉が思い浮かばなかった。
焦燥していたシェラの顔が、少し緩んで苦笑を浮かべる。
「も〜、誰のせいだと思ってるんですか」
「ごめん。ホント、悪かったと思ってるよ。でも、なんつーか……お前のことも心配してるんだってこと、覚えてといてくれよ」
「……それは、ヴァイスさんもですよ?」
「へ?」
一瞬、意味が分からずに、俺は間抜けな声を出した。
「私も、ヴァイスさんのこと心配してますから。ちゃんと覚えておいてくださいね」
「え、ああ……うん。分かったよ」
「お互い自分のことになると途端に分からなくなるのは、変わってないですね」
シェラは、くすくすと笑った。
全くな。
「ありがとな」
「お互い様ですってば。それじゃ、リィナさんを見つけたら、すぐ戻りますから!」
小走りに家の裏手へと駆けていく。
ホント、あいつがマグナやリィナと一緒にいてくれてよかったよ。
一番年下だってのに、俺達はシェラに一番頼っちまってるのかも知れねぇな。
廊下を進むと、中からドタバタと忙しない音が聞こえたので、マグナがいる部屋はすぐに分かった。
迂闊に足を踏み入れたら、マグナが着替えの最中で、悲鳴と共に張り倒されて、話も聞いてもらえずに立ち去られる情景が目に浮かぶ。
そんな間抜けなオチはご免こうむりたかったので、俺は廊下を抜けて裏口から外に出ると、脇の壁に背中を預けた。
ほどなく、家の中が静かになったと思ったら、音も無く裏口が開き、そろりとマグナが顔を出した。
「よう」
周囲を窺う顔が、まだこちらを向かない内に声をかけると、マグナはびくんと震えて動きを止めた。
だが、慌てた素振りも一瞬のこと、マグナはすぐに表情を取り繕う。
「あ、ああ。なんだいたの。昨日はお疲れ様」
澄ました顔で、白々しいことを言った。
「こっちこそ、昨日は手伝ってもらってありがとな。ところで、こんな朝早くから、どこに行くつもりだ?」
「あんたには関係無いでしょ……って言いたいトコだけど、まぁ、教えてあげるわ。この国を出るのよ。必要な物は見つけたし、もう用は無いもの」
もう用はありませんか。
「下手に居残ってたら、今度はヒミコの代わりにあたし達が神様みたいに祭り上げられちゃうって、神父様にも忠告されたしね。そんな面倒はご免だし、ここの人達が起き出す前に、さっさと出て行くわよ」
マグナは一瞬顔を伏せてから、にっこりと俺に微笑みかけた。
「じゃあね、ヴァイス。久し振りに元気な顔が見れて、嬉しかった」
何故か俺は、どきりとした。
思いがけないほど優しい言葉なのに、まるで嬉しくない。
こういう時にはこう言うものだと、ことさらに強調するような、極めて常識的なお決まりの文句。
咄嗟に返事ができない俺を置いて、マグナはすたすたと林の方へ歩き出した。
「――待ってくれ」
慌てて後を追いながら、マグナの背中に語りかける。
「待てってば」
「なに?もう別れの挨拶は済ませたんだけど」
本気で、あれで終わりにするつもりだったのかよ。
「だから、待てって。ホントに、もう何も用は無いのか?」
「ないけど?」
あっさり答えやがったな、くそ。
「ひでぇな。俺が来たことは、神父から聞いてたんだろ?顔も会わせずに行っちまうつもりだったのかよ」
「知らないわよ、あんたが来てたことなんて。聞いてないわ」
「じゃあ、なんでわざわざ裏口から出てきたんだよ」
マグナは、一瞬言葉を詰まらせた。
「言ったでしょ?ここの人達に見つからずに出て行きたいのよ。だから、わざわざ裏口から出て、こんな人気の無い林を通って船に向かってるんじゃない。あんたのことは、関係無いわ」
あ、くそ、もっともらしい言い訳を思いつきやがったな。
「……つか、リィナがどっか行っちまったらしいぞ。放っといていいのかよ?」
「あのコは心配無いわ。その内、勝手に船に戻ってくるわよ」
「シェラは?あいつも、リィナを探して、どっか行っちまったんだけど」
「神父様に言伝を頼んであるから、大丈夫よ。ってゆうか、あんたに心配してもらう筋合い無いんだけど」
マグナは、俺に背を向けたまま歩き続ける。
「悪いけど、ついて来ないでくれる?お互い、もう用は無いでしょ?」
「いやだ、ついてく。俺の用事は、まだ終わってねぇからな」
「なに勝手なこと言ってんのよ。あんたの都合なんて知らないわよ。なんの用事か知らないけど、あたしには関係無いでしょ!?」
「関係あるに決まってんだろ。俺は、お前に用があるんだ」
マグナが返事をするまで、少しだけ間が空いた。
「……なれなれしく、『お前』とか呼ばないでくれる?」
なんだか、懐かしい響きだった。
出会ったばっかりの頃に、似たようなことを言われた気がする。
「なに?今さらあたしに、なんの用があるって言うのよ」
「いや、だから……この前、アルスの野郎に邪魔された話の続きがしたい……んだ」
「なんか話してたっけ?もう忘れたわ」
「そうか。じゃあ、改めて言うよ」
「やめて。もういいから。今さらあたしを追いかけるとか、本気で言ってんの?」
「なんだよ、ちゃんと覚えてるじゃん」
「いま思い出したのよ」
拗ねた口振りで言った。
そのまま無言で数歩進んでから、マグナは立ち止まって背中を向けたまま溜息を吐く。
「……無理よ」
「へ?」
「そんなことされても、無理なの。あたしが」
いや、無理ってなんだ。
「だって、そうでしょう?ついて来られても、あんたはまた、肝心な時に居なくなるわ」
ひゅっ、とかいう空気混じりの音が、俺の喉から漏れた。
充分に予期していた筈の言葉は、実際に口にされると予想以上の衝撃だった。
「もう嫌なのよ、そういうの。だったら、最初から居ない方がいいわ。その方が、気楽だもの」
「……」
「大体ね、もう新しい仲間も見つけて、それなりに幸せに暮らしてるみたいじゃない。なのに、なんで今さらあんたがそんなこと言うのか、あたしにはよく分かんないわ」
あ――そうか。
マグナの目には、ファング達やお嬢が、俺の新しい仲間だと映ってるのか。
まるで、俺の方こそマグナ達を見限って、新しい仲間とよろしくやってるみたいに。
違うんだ。
いや、確かに仲間には違いないが、お前が考えてるのとは違う――
sien
「ひょっとして、あたしを見捨てたみたいな罪の意識を感じてるのかも知れないけど、もういいから。あたしは別に何も気にしてないし、あんただって、ホントは無理矢理あたしに付き合わされて迷惑だったでしょ?ああ、そっか――」
背を向けたまま、マグナが苦笑した気配があった。
「そういえば、あんたは知らないんだもんね。知らないから、そんな呑気なこと言ってられるんだわ」
「……知らないって、何を?」
「いい?あたしはね、いまは魔王バラモスを退治する為に旅をしてるのよ。今度はウソじゃなくて、ホントにね」
そうじゃないかとは思っていたが。
この国に来た理由を考えてみても、そうだもんな。
だが、ここまではっきりと口にしたのは意外だった。
「でも、あんたには魔王を退治するつもりなんてないでしょ?だから、そういう意味でも無理なのよ。あんたと今のあたし達が、行動を共にするのはね」
背中を向けられたままなので、マグナがどんな表情をしているかは分からなかった。
声音は、至って冷静に聞こえる。
けど、きっと――
「……無理してないか」
「なにが?」
「だって、あんなに嫌がってたじゃねぇか」
なのに、それでいいのかよ?
周りに押し切られて、無理やり自分を納得させてるんじゃねぇのか?
お前――ちゃんと笑えてんのかよ?
「別に、無理なんてしてないわよ。逆に楽なくらいだわ。魔王退治に行くって決めた時から、誰も文句を言わないどころか、みんな進んで協力してくれるしね」
マグナの返事に、ある種の諦観を感じ取ってしまうのは、俺の思い込みなんだろうか。
だが、魔王を退治なんてしない、そう言って憚らなかった俺の知っているマグナなら、本心から言っているとは思えなかった。
だって、あの神父の言葉が正しいとすれば、お前、お偉いさん連中に利用されてんだぞ?
それに気付いてないのかよ?
気付いてない訳ねぇよな。
そういうのを一番嫌ってた、お前がさ。
「らしくねぇよ」
「は?」
「マグナが、そんなこと言うなんて……なんか、らしくねぇよ」
「……なに言ってんの?」
マグナはここで、ようやく振り向いた。
瞳に怒気を宿らせて。
「あんたが、それを言うの?」
「……え?」
「冗談じゃないわ。あんた、別れ際にあたしになんて言ったか覚えてないの!?」
どの……ことを言ってるんだ?
「呆れた。やっぱりあんたは、その場凌ぎの適当なことしか言わないのね――ホントに覚えてないの?だったら、思い出させてあげる」
マグナは大きく息を吸って、一気にまくしたてた。
「『お前は魔王を退治するべきだ。でも、俺にはそのつもりはないから、ここでお別れだ』これが、あんたの捨て台詞よ」
そうだった。
俺は、何を言ってるんだ。
いや、忘れてた訳じゃない。
忘れる筈はないんだが――
「分かった?つまり、あんたがあたしを追いかけるなんて無理なのよ。だって、あたしは今、魔王退治の旅をしてるんだから。今さら、そのつもりもないあんたに押しかけられても困るわ。迷惑なの」
マズい。
ぐぅの音も出ない。
マグナの怒気が、急に冷めていくのが分かった。
まるで、俺に愛想が尽きたみたいに。
「まぁ、そういうことだから。あんたがあんまり勝手なこと言うから、ちょっと頭に血が上っちゃったけど、あたしはもう別に気にしてないから。あんたはあんたで幸せに暮らしてるみたいだし、そっちこそ無理しないでいいのよ」
マグナは、再び俺に背中を向けた。
「じゃあ……元気でね」
そのまま、林の下生えを踏みしだいて立ち去ろうとする。
違うんだ。
マグナには、俺の気持ちが正確に伝わってない。
当たり前だ。
ひとりひとり、物の見方が違うんだ。完全に自分を理解してくれる人間なんて、いる訳がない。
「無理してねぇよ」
だからこそ、俺はこの先、何度でも言わなきゃいけない。
「お前が魔王退治の旅をしてようが関係ねぇ。俺は、お前を追いかけるって、そう決めたんだ」
俺は『あいつ』みたいに、自分の中に一本シンの通った人間じゃない。
だから、すぐに流されるし、言動は信念じゃなくて周囲の状況に基づく。
そんな俺には、黙ってマグナを見送るしか術が無い筈だった。
けど、ここまで折れちまったら――俺は、もうダメだ。
だから、ここだけは、もう絶対に折れる訳にはいかねぇんだ。
「決めたって……」
だが、今までの言動が言動なだけに、決意が相手に伝わるとは限らない。
マグナの漏らした笑いは、失笑に近かった。
「それは、あんたが勝手に決めただけでしょ。あたしには関係無いわ」
「そうだよ、俺が勝手に決心してるだけだ。だから、マグナはいままで通りに旅を続けてくれれば、それでいいよ」
「は?」
「俺が、勝手に追いつくから」
マグナは怪訝な顔だけ、こちらに向けた。
「意味が分からないわ。いますぐついてくるつもりは無いってこと?」
「ああ。この場で連れてけなんて都合のいいこと、最初っから思ってねぇよ。そもそも、ここで会ったのは偶然だしさ。偶然なんかに頼ってちゃ、いくら言葉で本気なんだって言ったところで、説得力ねぇだろ」
「……あたしは、あんたを船に乗せるつもりなんて、最初から無かったけど」
「それでいいよ。俺が本気だってのを分かってもらう為に……今度は、もう逃げたりしないって証明する為に、ちゃんと自分の意思で追いかけて、お前に追いついてみせるから」
「……勝手なこと言ってるけど、追いついたからって、どうだって言うの?それで、あたしがあんたを受け入れる義務なんてないんだからね?」
「ああ、分かってる。当然だ。俺が、勝手にすることなんだから」
「ふざけないでよ……」
唸るように、マグナは言った。
「今さらそんなこと言うくらいなら、なんであの時行っちゃったのよ!?」
全く、その通りだ。
自分が過去にしたことを考えれば、ムシが良すぎるよな、俺の言ってることは。
でも、だからこそ、ここで折れる訳にはいかねぇんだ。
マグナは、大きな溜息を吐いた。
「馬鹿みたい。結局、自分の気の済むようにしたいだけじゃない。ほんっと、相変わらず自分だけで勝手に決めちゃってさ、しかも回りくどいのよ。それに、ズルいわよね。あたしが断ってもどうしようもない言い方をするんだから」
ああ、そうか。意識はしてなかったけど、ズルい言い方だったかもな。
「ホントに嫌いよ、あんたのそういうトコ」
お前……ヒドいこと言うなよ。そろそろ泣くぞ。
「大体ね、さっき言ったでしょ?あたしは今、魔王を退治する為に世界中を旅して回ってるの。なのに、どうやって追いかけるつもりなのよ。あたしがどこに居るのかなんて、あんたには分からないでしょ?」
俺の次の台詞は、後から考えると恥ずかしさで地面をのたうち回らずにはいられないほど、芝居がかっていた。
「必ず、見つけ出してみせる」
でも、この時は本気だったんだ。
「お前が、世界のどこにいても」
「っ……馬鹿じゃないの」
マグナは、ぷいと顔を背けた。
「……勝手にすれば。どうせ、あたしが何言っても聞かないんだし。くれぐれも言っとくけど、追いついたからって、それであたしがどうするかは、全然別のハナシだからね!?」
「ああ、分かってる」
「ホントに分かってるんだか……どうせ二度と会うこともないだろうから、いまのウチに言っとくけど、あたしはあんたなんか、ホントに嫌いなんだから。絶対、許さないわ。分かってるの!?」
「……分かってる」
「っ……ああ、そう。だったら、もう勝手にすればいいじゃない。あたしは知らない。それじゃあね、さ・よ・う・な・ら!!」
「ああ、『また』な」
マグナは振り向いて俺を睨みつけたが、それ以上は何も言わずに、そのまますたすたと立ち去った。
後ろ姿が見えなくなるまで見送って、足取り重くタタラの家に戻ろうとした俺は、それまで木の裏に隠れて気付かなかった人影を見つけて、心臓がびくんと跳ねるのを感じた。
体の一部しか見えないが、あれはリィナだ。
「おまっ……いたのかよ」
「いたよ」
「いつからだ!?もしかして……今の聞いてたか?」
だとすると、ものすごい恥ずかしいんですが。
だが、リィナはぶっきら棒に言うのだった。
「なんのこと?」
「いや……聞いてねぇならいいけどさ。そうだ、シェラが探してたぞ」
「知ってる」
「知ってんのかよ……じゃあ、早く行ってやれよ」
「分かってるよ」
そう言いつつ、リィナが動こうとしなかったので、しばらく気まずい沈黙が続いた。
「……じゃあ、行く。ヴァイスくんは、ボクには用事無いみたいだし」
「へ?ああ、いや――あるよ。うん、ある」
「なに?」
「ティミが、お前のこと心配してたぞ」
「なんだ……会ったの?どこで?」
「いや、まぁ、なんかそこら辺で……」
エフィの故郷で、とは何故か言い難かった。
「お前がどっかヘンだって、心配してたぞ」
「ふぅん」
「なんか難しく考え過ぎてるんじゃないかってさ」
「別に。そんなことないけど」
あれ?
なんか、おかしいな。
マグナより、よっぽど取り付く島が無い感じがするぞ。
「ヴァイスくんは?」
「へ?」
「だから、ヴァイスくんは?」
「あ、ああ……いや、もちろん、俺も心配してるよ」
「嘘吐き」
「いや、嘘じゃねぇよ。ここで会った時から、正直ティミの言ってた通りだって――」
「別にいいよ。ヴァイスくんなんかに心配してもらわなくても」
「いや、そうもいかねぇよ。俺は、ティミにお前のことよろしく言われたし――」
「なにそれ?」
ヒドく突き放した言い方だった。
「つまり、誰かにお願いされなければ、ヴァイスくんはボクの心配なんてしてないってことでしょ?」
「あ、いや、違う。そういう意味じゃ――」
「だから、もういいってば」
リィナは、木の幹から背中を離した。
「どうでもいいよ、そんなこと」
「いや、待てって」
「何も難しく考えてないよ。ボクはマグナを――勇者様を助けて魔王を討伐する。それだけ考えてればいいんだから」
俺は内心、臍を噛んでいた。
リィナがどっかおかしいことは分かってたのに、マグナとの会話を終えて気が抜けていたのか、考えなしに喋り過ぎた。
「マグナの従者として、ボクも今のヴァイスくんなんて認めないから。ついて来られても、足手纏いだよ」
「……どうかな。その内、お前の方こそ足手纏いになるかも知れないぜ」
口にしてから、言った自分にびっくりした。
いや、待て。こんなこと言うつもりはなかったんだ。
リィナは、鼻で笑った。
「なにそれ?よくそんなこと言えるね。ボクより、全然弱っちいクセしてさ」
「昔はな。いつだって、お前を頼りにしてた。お前に任せとけば安心だって、そう思えた。けど、今はとてもそうは思えねぇな」
「……ボクが、弱くなったって言いたいの?笑わせるよ、ボクがあれからどれだけ強くなったかも知らないクセに」
「腕っ節は、そうかもな。けど、そうだな……今はティミの方が、お前より強いかも知れねぇぞ」
ドゴンッ、と鈍い音がして、大人が三人くらいでようやく抱えられそうな太い樹が大きく揺れた。
リィナが殴ったのだ。
「そんな訳ないじゃん!!」
内心ビビってたので、すぐに返事ができなかった。
「なんだよ、もぅ……なんでボクには、そんなヤなことばっか言うの?」
「え、いや、違くて――」
「やっぱり、ヴァイスくんなんて嫌いだよ。もぅ、大っ嫌い!!」
叫んだかと思うと、止める暇もあらばこそ、リィナは素早く跳躍すると、林の木々をつたってあっという間に姿を消した。
俺は、溜息を堪えられなかった。
言っちまってから後悔する。こんなことをあと何回続ければ、俺は後悔しなくなるんだろう。
きっと、一生無理なのかもな。
いや、俺のことはどうでもいい。
次、いつ会えるかも分からないのに、あんなことを軽率に言うべきじゃなかった。
けど、なんか知らんけど、言わずにはいられなかったんだ。
ごめんな、シェラ。
また、お前の負担を増やしちまったかも知れねぇよ、俺。
マグナ達と前後して、俺達もすぐにジパングを後にすることになった。
ヒミコの代わりに祭り上げられるのは、俺達としてもご免だからな。
見送りは、タタラとクシナだけだった。
二人が抜け出してきたので、残されたサノオやヤヨイの家族は、村人達の相手でてんやわんやの筈だ。
「ほんに有難うごぜぇました。なんてお礼を言ったらいいだか……ロクな持て成しもできんで、こったら慌ただしいことになっちまって、申し訳ねぇです」
そう言って、タタラは頭を下げた。
いや、まぁ、コソコソ出発するのは、こっちの都合だけどな。
ヤマタノオロチからこの国を解放した英雄扱いされるにしても、女王ヒミコを殺害した極悪人扱いされるにしても、どっちも面倒なことになりそうだ。
この国で延々と足止め喰らうつもりはねぇから、さっさと出ていく訳だし、気にすんなよ。
てゆうか、国を治めていた女王様が、いきなりいなくなっちまったんだ。
お前らこそ大変だと思うけど、頑張れよな。
「これからは、誰かひとりに頼るんでなくて、みんなで一緒に頑張っていきますだ」
そう言ったのは、クシナだった。
頼もしいね。
こりゃ、旦那もしっかりしねぇとな、タタラ。
「何かあったら、いつでも俺を呼ぶがいい」
ファングは、そんな呑気なことを言っていた。
まぁ、お前は周りで囃し立てられるのに慣れてるから、たとえ神様扱いされても当たり前みたいな顔して気にしねぇかもな。
そういえば、さっきリィナと別れてとぼとぼタタラの家に戻ると、ちょうどシェラが行きがけに姫さんに会いに来てくれていた。
俺がすぐには一緒に行かないことを知ったシェラは、「そうだと思ってました」と言いつつも、心細そうな恨みがましい目で俺を見上げた。
頼むから、お前まで俺を嫌わないでくれ。
マグナとリィナに立て続けに嫌い嫌い言われて、心が折れそうなんだ。
「案ずるでない。シェラとは、またすぐに会えるのじゃ。のぅ、ヴァイス」
姫さんが自信満々に言い切ったので、俺は責任の重さにややぎこちなく頷く。
ああ、すぐに追いついてみせるから、もうちょっとだけ待ってくれ。
お前にゃ面倒ばっかり押しつけちまって、ごめんな、シェラ。
おっと支援
そんな場面が直前にあったこともあって、タタラ達との別れ際については、ジツはあんまりよく覚えていない。
お嬢やアメリアも何か喋っていた筈だし、もう少し感傷的な場面があったような気もするんだが、この国での出来事は、俺の中ではほとんどマグナ達で塗り潰されちまって、他のことがあんまり思いだせないのだった。
薄情な話だが、やっぱり俺は、あっちもこっちも等しく気をかけられるほど心の広い人間じゃないらしい。
そしてそれは、エフィの故郷に戻ってからも同じだった――
「なんて顔してるのよ」
よく手入れのいき届いた中庭のベンチで隣り合って座りながら、俺の顔を下から覗き込んで、お嬢は苦笑した。
さりげなくエフィから視線を逸らして、顔を撫でる。
「そんなヘンな顔してたか?」
「ええ、それはもう。まぁ、そういう顔をしている時は、何を考えているのかは、大体察しがつきますけど」
そうか、察しがついてるのか。そいつは好都合だな。
なら、さっきから言おうとしてたことを、言わせてもらうとするか。
今なら、話の流れ的に自然な筈だ。
だが、どうもウマい具合に最初のひと言が出てこない。
だってさ――あ、ちょっと待て、いま言うから。
まだ口を開くな、お嬢。
「ねぇ、ヴァイス」
俺の願いも虚しく、エフィは問いかけるように、俺の名前を呼ぶのだった。
「その……あなたは、いつまでここに居るつもりなの?」
うん、それだ。
さっきから、俺もそれを言おうとしてたんだよ。
「あ、違うのよ?長居されたら迷惑だって意味じゃなくて……その、もし貴方がそうしたいのなら、別にずっとここに居てもいいのだし……」
やっぱり、ちゃんと言わねぇとダメだ。
「ほら、お父様も、貴方のこと気に入ってるみたいだし――」
俺はおもむろに、隣りに座るエフィに体を向けて、正面から顔を見据えた。
「エフィ、聞いてくれ」
「は、はい?」
エフィはびくっとして、心なし身を引く。
「俺……お前に言わなきゃいけねぇことがあるんだ」
「えっ……な、なによ、突然改まって」
「えっと、その……さ」
やっぱり、最初のひと言が出てこない。
「だから……あのさ」
だって、なんて言やいいんだよ。
「その……なるべく早く、出ていくよ」
どうしても歯切れが悪くなっちまうのは、俺とエフィは別に付き合ってる訳でもなんでもないからだ。
だから、こんな真面目な顔して別れを告げたりするのはおかしい、という気持ちがどこかで働いちまう。
けど、曖昧にしたままじゃなくて、はっきり言わないとダメだと思ったんだ。
なんでかよく分かんねぇけど、そうしないとエフィに失礼というか――それに、あいつの為にもさ。
「それは、あのマグナって人を追いかけるということ?」
伏し目がちに、エフィは言った。
あれ、知ってたのか。
「……ああ」
「一刻も早くあの人を追いかけたいから、いつまでもこんな処で時間を潰している暇は無いっていうこと?」
「そう言っちまうと、身も蓋もねぇけどさ」
「でも、そういうことなんでしょう?」
ここは、誤魔化しちゃ駄目なトコだよな。
「ああ」
俺は、きっぱりと頷いた。
すると、エフィはくすっとおかしそうに笑った。
「ようやく言ったわね。私が、エミリーちゃんやアメリアさんから、何も話を聞いてないとでも思ってたの?なのに、貴方がなかなか言い出さないものだから、歯がゆいったらなかったわ」
なんだよ、そうだったのか?
そりゃ恥ずかしいな。俺が独りで空回ってただけなのか。
エフィは、はぁ〜あ、と大きな溜息を吐いた。
「大体ねぇ」
はい?
「貴方、何か勘違いをしていない?」
なんのことか分かんねぇけど、多分そうなんだと思います。
紫煙
「まさかとは思うけど……」
エフィは、俺からちょっと身を離すように座り直した。
「ファング様とアメリアさんと同じように、駆け落ちして欲しいだなんて、私が思っていると勘違いしていない?」
いや、その……
すいません。口に出しては言えませんが、さっきちらっと思いました。
「嫌だわ。本当に、そんなことを考えていたの?」
エフィは、俺の沈黙を肯定と受け取ったようだった。
少なくとも、表向きは。
「それじゃ聞くけど、ファング様にはアメリアさんを、なにがあっても必ず守り抜くっていう覚悟があるわ。傍から見ているだけでも、それは伝わってくるもの」
そうだな。無駄なくらい伝わってくるな。
エフィは、急に真面目な目をして俺を見た。
「貴方に、その覚悟はあるの?」
「え……」
「なにがあっても、必ず守り抜くっていう覚悟が」
「……あるよ」
「それは、私のことではないわね?」
「うん」
エフィは苦笑した。
「はっきり言うのね。失礼だわ」
「ごめん」
エフィは脱力したようにベンチの背もたれに身を預け、夜空を見上げた。
「別に謝る必要はないけれど。私だってご免だもの。これまでだって、貴方と一緒にいて、私がどれだけ危ない目に遭ったと思っているの?正直に言って、もうこりごり。ここで大人しく暮らしていた方が、ずっと幸せだわ」
そうだと思います。すみません。
「……いま思えば、私が感じていたのはすごく贅沢な悩みだったわね。しばらく貴方達と旅をして、それまで会うことの無かった人々の生活を目の当たりにして、私は今の時代にしては恵まれ過ぎた、なに不自由のない暮らしをしているんだってよく分かったし」
両手を組み合わせて、軽く伸びをする。
「私の感じていた不満なんて、不満と言えるものじゃなかったのね」
「いや、まぁ……それは、人それぞれだからな。どんな立場にいたって、不満ってのはあるモンだろ」
俺は、反射的にある言葉を思い出していた。
『その人にとって、何がどれだけ重いのかなんて、人それぞれだと思うけど。その人の悩みはその人だけのものだし、他人と比べて重い軽いなんて言えないんじゃない』
そう言ったのは……マグナだったな。
「いいのよ、気を遣わなくて。私が言いたいのはね、そんな恵まれた生活を捨ててまで、どうしてこの私が、貴方なんかと駆け落ちしなければならないの?っていうことよ」
そうですね。
全く、その通りだと思います。
「それに、言ったわよね。私は、結婚する相手はエジンベアの人だって決めているの」
ああ、そういや、そんなような事を言ってたな。
「だから、申し訳ないけれど、貴方なんて最初っから眼中になかったわ。だって、貴方の髪は金髪じゃないし、貴方の目も碧眼ではないもの」
エフィは夜空を見上げたまま続ける。
「恋人を演じてくれって頼んだ私が悪かったのかしら。本当に単なるお芝居でしかなかったのに、きっと貴方に勘違いをさせてしまったのね。それは、本当に申し訳なかったと思っているわ」
エフィの見事な金髪は、おぼろげな月明かりの下でも、きらきらと輝いて見えた。
「けれど、考えてみて。そもそも、私と貴方では身分が違い過ぎるでしょう?高貴な私に憧れる貴方の気持ちは分からないではないけれど、勝手な妄想を膨らませないでもらえるかしら……迷惑だわ」
どうやら俺は、色んなヤツから迷惑な人間だと思われてるらしい。
「そっか……」
「そうよ。大体、貴方なんて出会った時から、本当に失礼な人だったし……」
少し鼻にかかった声。
「だから、嫌いよ。貴方なんて」
そしてどうやら、色んなヤツから嫌われてもいるらしい。
泣いていいか。
「そいつは残念だな」
「……嘘ばっかり」
そうだな。
俺は、その場凌ぎのいい加減なことしか言わない人間だからな。
「まぁ、そういうこと。貴方が居なくなっても、私は何も感じない。ううん、むしろせいせいするわ。頼んでいた仕事も終わったことだし、さっさとどこへでも勝手に行ったらいいじゃない」
「ああ……ありがとな」
ほとんど無意識に、口から出た言葉だった。
夜風に乱れた前髪の隙間から、エフィは俺を睨みつけた。
「なんで、貴方がお礼を言うのよ!?やっぱり、何か勘違いしているでしょう!?」
「いや、その……ジパングに行く前も合わせると、かなり長いこと泊めてもらって世話になったからさ、その礼を言ったんだけど」
「え!?あ……そう。だったら、別にいいけど……そうよ、放っておくと無遠慮に長く泊まり過ぎなのよ貴方達は。これ以上、居座るようなら、宿代を払ってもらいますからね!?」
エフィは、大金持ちの娘らしくないことを言った。
「そりゃ困るな。ここの宿賃は高そうだ。なるべく早く出ていくよ」
「なるべくじゃないわ。明日にでも出て行ってちょうだい。それを言いたくて、わざわざ今日、呼んだんだから」
あれ、さっきと言ってることが違いますが、お嬢様。
エラい急な話になってきた。
「分かったよ。ファング達にも、そう伝えとくわ」
「なによ、そんな、あっさり……いいえ、そうよ。そうしてちょうだい。早く出ていって」
エフィは、俺の腿を拳で叩いた。
痛いというより、くすぐったい。
「明日になったら、全員さっさと出て行ってちょうだい!?」
立ち上がって、しかめっ面で見下ろすエフィに、俺は言う。
「ジパングでの報酬を、まだもらってねぇんだけど」
「そんなの、明日にでもお父様からいただけばいいでしょ!?私は知らないわよ!!」
いや、あなたが依頼主なんですが。
「それじゃ、お休みなさい!!私、旅の疲れが出て明日は見送りできないと思うけど、どうぞお達者で!!」
「ああ、お休み。エフィも元気でな」
「なによ……貴方に心配してもらいたくないわよ、馬鹿!」
ばちん。
平手打ちを置き土産に、エフィは小走りに屋敷に戻っていった。
残された俺は、痛む頬を押さえたまま、しばらくベンチに座っていた。
ほっぺた痛ぇ。
お嬢には何度もひっ叩かれたけど、いまのが一番効いたな。
自分では気付かなかったが、かなり長い時間、俺はぼーっとしていたらしい。
ふと気付くと、さっき見た時よりも、月がかなり高く昇っていた。
ぶるっと頭を振って、ベンチから腰をあげる。
うわっ、膝の関節が固まってんじゃねぇか。
くそ、腰と尻も痛ぇな。
よろめきながら、心の中で悪態を吐く。
あ〜あ。俺も馬鹿だね。
ウマくすりゃ、少なくとも客分として何不自由ない暮らしを、ここでずっと送れただろうによ。
まぁ、仕方ねぇか。
俺は、近い将来魔王を退治して世界を救う、勇者様御一行の一員だからな。
CC氏、GJ!!
久々にリアルタイムで堪能させて頂きました。
長時間乙です!
うおー続き気になる。リィナ大丈夫なのか?
ということで、大変長らくお待たせしましたが、第37話をようやくお届けすることができました。
いや〜、再開一発目だっていうのに、すんごい地味〜なハナシで申し訳ないです(汗
むぅ、久し振りなのに、書くことがないw
正確には、何を書いても繰り言になりそうなので、
少しでも楽しんでいただけることを祈りつつ、
ヘンなことを書かないウチに、早々に引っ込んでおきますね。
もう眠いしw
それでは、また〜ノシ
毎度毎度、おつ!
読み始めは「まーたCC氏は長いなー」とか思うのだが、いざ読み終えるともっと!もっと!となるのは、CC氏中毒なのかね?w
エフィとはお別れかーエフィもヴァイスの旅についてってダーマで僧侶or魔法使いに転職〜とか勝手に妄想してた
投下されたばっかりなのにもう続きが気になって仕方ないw
久々の投下大変乙でした
乙なんだぜ!
久々にCC氏の作品が読めて大満足なんだぜ!
エフィのこれは…ツンデレの予感…!
CC氏相変わらずのクオリティでGJです。
ん〜、リィナもマグナも続きが本当に気になりますな。
ちょっとほのぼの展開時を読み直して来ます。
CC氏乙!
相変わらず面白い!
タイトルが正にヴァイスの決意そのものですな
今回はタイトルの元ネタ分かりませんでした
乙!
つンで礼の王道が堪能できて満足満足。
乙!!
ヴァイス………
きっとエフィは陰で泣いてるんだぜ………?
CC氏久々乙!!
ヴァイスかっこいいよヴァイス
CC氏復活! CC氏復活ッ! CC氏復活ッッ!
とても大事な事なので三回言いました。お帰りなさいませ。
相変わらず格好良いヴァイスと可愛いヒロインsですね。
レスありがとうございました!!
正直、誰も待ってないかと思っていたので、とても嬉しいです。
毎度、長くてすみません(汗
次回は、まだ最初の方しか考えてませんが、
続きを楽しみにしてもらって俄然やる気も出てきたので、
なんとか頑張ります。
あと10話くらいで、クライマックス辺りまで持っていきたいけど、
マグナとリィナ、ホントにどうすんだろうなぁ<他人事
エフィは、もうちょっと扱いを良くしてあげたかった。。。
いや、話の流れで登場する場面が、まだあるかも分からないですが。
それにしても、ヴァイスくんをカッコいいと言ってもらえるとは、
ちょっと意外でしたw
よかったな、と後でからかっておきます。
ちなみに、副題は George Clinton のアルバム
The Cinderella Theory の中の一曲でした。
いつものことながら、それらしい曲名をとってるだけなので、
曲の内容と話の内容は、全然関係無いですw
なげぇえええええ乙!こりゃ次回は除夜の鐘を聞きながらよむことになりそうだ
おお、そんなとこにつながりが!
いつか纏めてタイトルのネタばらしをやって欲しいw
今回エフィは綺麗にまとまってるというかむしろおいしいようなw
あとファングとアメリアの過去エピソードに俄然興味がわいてきた。
多少は本編でも語られるのかな。
ああでもやっぱ勇者パーティが一番気になる。
特にリィナが心配だ…ヴァイスがんばれ。超がんばれ。
久々に来たら何か進んでるー!!
CC氏のは知ってるけど、YANA氏のはどこかに纏まってませんか?
まとめwikiにも途中までしか載ってない…。
>>426 い、いや、さすがに次はそんな遅くならないですよ!!
。。。多分w
>>427 エフィは、そう言っていただけるとほっとします。
ファング達やリィナは。。。言わない方がいいですよねw
次回以降にご期待ください。
と言ったからには、期待を裏切らないようにしないと(汗
副題の元ネタは、そうですね、需要があるか分かりませんが、
書き終えた時にどこかにまとめて書こうと思います。
>>428 YANAさんのは、当時別の方がまとめてらっしゃったので、
私の方ではまとめてないんです。すみません。
(私がまとめるのも、なんだかちょっとヘンな感じですし)
ウチのまとめページにLevel 5以降のログは置いてありますので、
いちおうそちらから、まとめサイトの続きをご覧いただけると思います。
>>428 同感。
YANA氏の挿絵が見れなかったんで
ショボーン
>>429 おぉ、そういえば過去ログも纏めてらっしゃてるんでした!
またCC氏のと合わせて読ませていただきます!
●第5話 『Apple』
『△月○日 先日は見苦しい報告書を提出して、大変気分を害されたことと思う。
…結局、その後の会話で、あの時ランド(王子と付けると彼は大層照れながら、気恥ずかしいのでやめてほしい、と主張するため、以後
はこう表記する)は俺に特別な魔法や術をかけたわけではなかったらしいことが分かった。
そうなると俺があそこまでの錯乱をした理由に思い当たる節がなくなるのだが、あれ以降、特に目立った損害や弊害は発生していないの
で、いつまでも拘泥するより、旅を続けることに専念する。
さて、彼と合流し行動を共にすることになって、既に五日が経とうとしている。俺達はこれからの連携のために、お互いの実力を把握し
ておく必要があると判断し、とある腕試しに挑んでいる。のだが―――』
「にーさま…終わりました?」
「ああ。一先ず、今の群れは片付いた」
『俺が丁度、洞窟に入って十個目の魔物の群れを全滅させると、ランドは岩陰からひょっこりと顔を覗かせた。
そう、彼は、そのか弱い外見に違わず、戦闘に関して持ち合わせる能力が殆ど皆無に等しかったのだ』
「ごめんなさい…ボク、まさか実戦がこんなに激しいものだなんて、思ってませんでしたから…」
『俺が鎧ムカデの目玉に突き刺さった鎌を引っこ抜いて回収すると、それをちらちらと見やりながら、ランドは申し訳なさそうにここ数日
間で繰り返された、何度目からの謝罪を口にする。
…俺と合流した際も、一応、棍棒を一振り携えてはいたものの、聞けば彼はそれまで、戦闘らしい戦闘は一切こなさず、出会う魔物出会
う魔物、全て「捨て身の逃げ足」一つでやり過ごしてきたのだという。
…凄まじく矛盾した表現だが、それを裏打ちする根拠が、彼にはある』
「あ、にーさま。足首、怪我してます」
「ん。…しまった。こいつの顎が掠めたらしい」
『ランドの指摘を受け、俺は右足のふくらはぎに薄く血が滲んでいるのを確認する。
傷の大きさはナイフで指を切った程度のものなので無視してもいいのだが、彼はそれを許すまい』
「見せてください。…ホイミっ」
『彼は俺に駆け寄ってくると、その場に屈み込んで俺の足の傷口を両手で覆い、言葉を紡ぐ。
すると、淡い光が放たれ、みるみるうちに傷が塞がってしまった。
これが、彼の能力。今や扱う者は希少とされ、現在も世界から日々失われ続けている、魔力による奇跡。呪文。
かつて百年前、勇者ロトの子孫たる男が作ったという、ローレシアらの三国。我がローレシアは彼から恵まれた身体能力を受け継いでい
る代わりに、呪文の力を失っている。
そしてサマルトリアとムーンブルクには、その力の片鱗が残されたとは聞いていたが、実際に彼の「呪文」をこの目で見た時は、俺も驚
いた。
…そう、戦闘を避けるための逃走とはいえ、敵に背を向けての無防備な疾走だ。少なからず追撃も受けるだろうし、全くの無傷はありえ
ない。蓄積される傷は、確実に本人の命を死へと近づけるだろう。とてもいつまでも続けられるものではない。
だが、彼にはそれが可能なのだ。今のように、薬草も縫合器具も、物資を一切必要とせずに、しかも瞬時にして傷の治癒が出来るという
のは、大変なメリットといえる。
逐一、襲い掛かる魔物を駆逐していた俺では、逃げることに全力を注いでいた彼に追いつけなかったのも、道理というわけだ。
彼と合流してからの初戦闘の際、魔物に遭遇するや彼が一目散に逃げ出したときはアイアンアントの頭を潰しながら「さて、どうしたも
のか」と今後の労苦を嘆いたものだが、彼とてロトの末裔、全くの無能というわけではないらしい。
だが、彼が俺の闘いについて来られないことには変わりない。普段の戦いであれば足手まといは即座に切り捨てるのが定石であり、摂理
だ。
だが、今回はそうもいかない。どうあっても、彼を引き連れてゆかねばならない。…何しろ、この戦いは「ロトの子孫が力をあわせて勝
利した」ものでなければならないからだ』
「痛み、ありませんか?」
「ああ。問題ない」
「すいません…にーさまにばかり危ないことさせて。あの、ボクも、これから頑張って、戦えるようになりますから」
『…とはいっても現実問題、俺と彼の力量の差を考えると、彼の力は大海に水を注ぐという程度のものだ。
彼が死傷するリスクと、彼が戦闘に参加することによるメリットを秤にかければ、どちらに皿が傾くかは明白だ』
「君が気にすることではない。それよりも、君が戦闘で負傷することのほうが俺としては心配だ。
戦闘は俺に任せて、大人しくしていればいい」
『俺が見解を述べると、ランドは一瞬だけ呆気にとられたような顔をし、頬を染めて俯いてしまった。なぜだろう』
「はい。嬉しいです、にーさま。でも、それだとボクも申し訳ないですから、ちょっとずつ、本当にちょっとずつですから、慣れていきます。にーさまに迷惑は、かけませんから」
「…好きにするといい」
『今戦っている程度の魔物相手なら、俺の援護も十分に行き届くだろう。今は戦力にならずとも、戦場の空気に徐々に慣れることで、臆病な彼とて万が一にもいっぱしの戦士となるかもしれない。
そう考え、俺は返事をしながら先に進む』
「にーさま、もう結構歩いたと思うんですけど、本当にこの洞窟に鍵なんてあるんですか?」
『歩き出した俺の後に続きながら、ランドは不安げに訊いて来る。
…勇者の泉から彼の足取りを辿る際、俺はローレシアの前に、俺が幼い頃に学を授かった老人が隠居している、南の祠に立ち寄った。もしかしたら、寄り道癖のあるらしい彼がそこを訪れているかもしれないと睨んだからだ。
結局、彼はそこを見つけてはいなかったようだったが、老人は俺がハーゴン征伐のために旅立っていることを既に聞いており、ある情報をもたらしてくれた。
それが、このサマルトリア西の湖の洞窟に、「銀の鍵」なる宝が眠っているらしいということ。何でも銀製の縁取りの錠前であれば、それ一つで開錠出来るという優れものだとか。
俺はランドとの合流をサマルトリア王に報告するついでに、彼との連携の具合を確かめるのも兼ねて、ここに訪れたというわけだ。…連携に関しては、「彼はあまり戦力にならない」ということで落ち着いたが』
「分からん。だが、情報源の老人は俺の師でもあった人だ。俺が知る彼は出鱈目を吹聴する人間ではない。
眉唾ではあるが、根拠としては弱くない。例え鍵はなくとも、君が戦場に慣れたいというなら、まずまずの場所だと思っている」
「あ…は、はい!頑張りましゅっ!…あっ―――」
『俺が見解と述べると、彼は精一杯の気合を込めたのだろうが、それでもたどたどしい口調で返事をした。
が、その直後、彼は何かに中てられたようにその場に崩れ落ちた』
「―――!」
『魔物の気配だった。遠く、がちがちと耳障りな金属音にも似た歯鳴りが聴こえる。
ラリホーアントの催眠攻撃だった。遠距離からの発動だが、俺は耐性があるからともかくとして、戦い慣れていない彼には効果的だったらしい。
俺は即座に鎖付きの鎌を金属音のする方向へ投擲し、手応えを確認してから引き戻す』
〔ギッ―――〕
『どしゃん、と無闇に肥大化した蟻の体躯が歪な悲鳴をあげて足元に飛来する。頭から落ちたが、昆虫に脳震盪はない。俺はラリホーアントが体勢を立て直す前に、すぐさま奴の頭を、全体重を乗せた蹴りで踏み砕いた。
他に魔物の気配はなかった。どうやら群れではなかったらしい。蟻属にしては珍しい例だ』
「む」
『と、俺は横たわるランドが、今だ意識を取り戻していないことに気づく。
通常、魔物どもの催眠攻撃は、放った魔物自身を、群れを成している場合はその一団を潰せば、周囲の邪気が晴れて即座に目覚めるはずなのだが、どうやら彼の魔物に対する耐性は相当に弱いらしい』
「すぅ…すぅ…」
「………」
『未だ魔物の巣窟にいるというのに、何とも安らかな寝顔だ。俺は無駄な時間を減らすために彼を早急に起こそうとして―――何故かやめてしまった。
まただ。彼と初めて遭った時のような、心臓が締め付けられるような感覚。この感覚の正体だけが、俺は腑に落ちないでいる。
彼と何度か寝床を共にして、この感覚は薄れてきたので安心していたが、ここにきて再びそれが俺を襲った。
実害はないが、とても気分がいいとはいえないものだ。出来れば原因を突き止めたいところだがさて―――』
「はぁ…」
『結局俺は、ラリホーアントの頭を踏んづけたまま、彼が勝手に起きるまで、その寝顔をずっと眺めていた。間抜けにも、敵の勢力圏内の只中にあって、だ。我ながら、どうかしている。
とりあえず、気づいたことが一つある。彼の寝顔を見るのは確かに何度か経験していた。だが、この時は今までと一つだけ違う点があった。
俺は彼が寝巻きでない、法衣と兜を纏っている時の寝顔を見るのは、これが初めてだったのだ。 〆』
以上、第五話をお届けしました。今夜は少し投下が遅れてしまい、お待ちの方がおりましたらすみませんでした。
ちと諸々のセッティングに手間取りまして(後述)。
あと途中まで改行がおかしなことになってるのは、まだ俺がXPのノートパッドの仕様に慣れてないせいです…気を抜くと右で折り返したまま貼り付けてしまうorz
今回はちょっとした転換期なので、たまにはまじめに頂いたコメントにいくらか返信とか致します。
いやコメント大変有難いのですが、気の利いた反応を返すのが苦手なもので…ほんと、いつもほったらかしですいません。
>>予想外の展開
俺が思うに、世間の人たちはサマル君をやれ役立たずだ、やれ貧弱だとネタにしすぎなんです。
逆に考えるんだ。貧弱で役立たずだからこそ萌えるんだ、と考えるんだ。
ネタと萌えで二度美味しい。ドラクエ2屈指の立役者、それがサマル君。
あともょもとのこの時の心境は、生まれたての子犬を初めて抱いたときの山のフドウの心境と同義です、多分。何だこの例えw
>>ゆうべはお楽しみでしたね
もょもとは根本的に恋愛とか友情ってものの経験がないので、行く所まで行ったら男相手だろうが何の葛藤もなく行っちゃうかもしれません。
いや、あくまでもかもしれないだけですよ、そんな展開は保証できない(ぇー
>>CCさん
いやお久しぶりでございます。一先ずアニメ1クール分くらいはこのペースで投下できると思うので、少しくらいなら留守を任せてもらっても大丈夫ですw
あとは俺の求職の状況次第というw 流石にそろそろ新しいお仕事見つけないとやばいかなー、というとこまで来てますのでー。
まとめに関しては、ほんといつもお世話になってます。自分で作ろうにも、今一からまとめのノウハウ学んでブログ開いたりを覚えてる時間がないもので…。
その代わり、今回折衷案を引っさげてきた次第。
>>王女は正統派?
俺の友人の模型職人で動画職人で絵描きの奴に、初期のランドきゅんのキャラ原案見せたところ「これ王女空気になるだろwww」という感想が返ってきましてね!?
俺もそうなったらそうなったで!と覚悟してたんですが、流石「あの方」は格が違った、すげーかわいい原画がw
尤も中身に関しては…あれ正統派か???という感じですが。ある意味彼女が一番曲者かもですw
>>挿絵が見れん。どうにかしろ。
うむ、これに関しては常々、どうにかしないといかんと思ってました。寿命せいぜい一ヶ月ですし。
ちゅうわけで、この度の連載にあたり、今までロム専で使っていたPixivのマイページを、小説挿絵関連の保管庫代わりにすることに致しました。
作者様からの許可は頂きまして、今夜うpしたので、これでいつでも見られます。ID必要なので登録必要ですががが。
その、他にもいっぱい凄い絵見られますからね?登録するだけしておいて、損はありませんよ?Pixiv。そんな言い訳。
で、こちら該当のページ。勿論、評価とかコメントとかくだされば俺のほうから作者様に伝えますので、変な遠慮はいりません。
ttp://www.pixiv.net/member.php?id=57710 故あってご本人様はPixivで活動してませんので、挿絵関連のみ俺が借り受けて代理公開、って感じです。
ランドカワユスw
これもう王女犬のままでいいだろwww
YANA氏乙!
フドウの例えクソ吹いたww分かり易すぐるwww
ほしゅー
●第6話 『もょもとの初体験』
『△月×日 ローレシア・サマルトリアとムーンブルクの領土を繋ぐ地下通路、ローラの門を経ること数日、俺たちは今日、ムーンブルクにある町・ムーンペタに到着した。
無事あの洞窟で銀の鍵を発見した俺とランドは、探し人を求めて、いよいよ自国の領土を後にしたわけだ。その探し人とは、』
「…手がかり、ありませんね」
「無理もない。一国の城を滅ぼしておいて、その次期当主を取り逃がすような手落ちなど、俺なら絶対に許さん。
ムーンブルクの王女は、既にこの世にいないものと覚悟しておいた方が良いだろうな」
『そう、残る御三家の一、今は滅ぼされたはずのムーンブルクの王女、その人である。
この戦いの大前提を成すにあたり、参戦するロトの子孫の数は多いほどその価値が高まる。彼女が逃げ延びていれば、是非同行願いたいところだ。
無論、俺が魔物なら万に一つも敵の重要人物を仕留めそこなうようなことはしないが、彼女の遺体が発見されていない以上は、極めて僅かだが生存の望みはある。万策尽きるまで、捜索はしてみることにする』
「あの、にーさま。気になってたんですけど」
『と、俺の見解を聞きながら、ランドは横に並び、おずおずと口を挟んできた』
「にーさま、もしかして王女様の名前、ご存知ないんですか?」
「知らないな。どうしてわかった」
「だってにーさま、彼女の名前、今まで一度も呼んでませんから」
「成る程。道理だ。それで、わざわざそれを言うということは、君は王女の名前を知っているのか」
「はい。プリンさん、っていいます」
『プリン。それが、「今の彼女の名前」らしい』
「ローレシアのお父上から、聞いていなかったんですか?」
「聞いていない。俺たちの一族は、個人の名前をあまり重要視していないからな」
『そう。俺たちが今使っている名前など、所詮雌伏の時を過ごす為の識別手段でしかない。
「識別の必要が生じればその時に知れば良い」というほど、御三家の血族の名前など、軽いものなのだ。極端な話、識別に不自由がなければ、偽名やただの数字で構わないとすら、俺は思っている』
「君のそのランドという名前も、いずれ捨てる時が来ると教わっているはずだが。確かサマルトリアが受け継ぐ名は―――」
「サラマ。『サラマクセンシス』です」
『珍しく、神妙な顔つきで、次代を担う己が名を紡ぐランド。
だが、それも一瞬で、すぐに苦笑するように破顔し、俺を見上げた』
「わかってはいるんですけどね。でも、ボクは人の名前っていうのが、何となく好きなんです。
その人のご両親が、願いや思いを込めてその人を生んだんだな、って、温かさが伝わってきますから」
『さっぱり分からない。だが、彼なりの感性に不審を告げたところで彼の士気を落とすだけだ。そう判断し、俺は黙って彼の言を聞いておくことにした』
「それに、名前が分かってるだけでも、聞き込みで有力な手がかりを得られる可能性は上がると思うんです」
「…成る程。それは一理あるな。覚えておこう」
『俺が初めて見出した彼の意見への同意を口にすると、彼は嬉しそうにはにかんで、数歩、俺より前に出た。
気づくと、俺たちは町の郊外の大きな池に辿り着いていた。…半日ほど聞き込みをしても、結局、有力な情報は得られなかった。装備を整えたら、明日にもムーンブルクの城に向かうとしよう』
「わんっわんっ」
「あ、にーさま、犬ですよっ」
『休息を提案し、彼と池のほとりに腰を下ろすと、どこからか、小柄な犬が俺たちに寄って来た。ランドがはしゃぐように犬を抱き上げると、犬はぺろぺろと彼の顔を舐め始めた』
「あはは、くすぐったいよ。この子、人に慣れてますね。首輪がないみたいですけど、前に飼われてたんでしょうか?」
「わからん。だが、野犬特有の泥臭さはないな。その可能性が高いだろう」
『俺の返答が聞こえているのか聞こえていないのか、彼は無邪気にその犬と戯れ始めた。のんきなものだ。尤も、それで彼が士気を落とさずに済むというのなら、俺としては全く不服はないが』
「あ、女の子ですね。…ふふ、可愛いなぁ。よしよし」
「…可愛い。よく聞く言葉だが、それはどういうものなんだ」
『彼が犬を撫でてじゃれあいながら呟いた言葉に、俺も何とはなしに尋ねてみた。
俺も、世間の人々がその「可愛い」だの「可愛らしい」だのという言葉を使うのは知っているし、どういった時に使うものなのかも凡そ把握しているつもりだ。
だが俺にはその感情が今ひとつ、どういったものなのか実感が沸かない。いうなれば、知識でしかその概念を持ち合せていない状態だ。
話を聞く限り、とても気分がよく、高揚感すら覚えるものなのだそうだが、彼らが「可愛い」と思うという対象―――こういった犬であったり、乳飲み子であったりを見たところで、俺にはそういった感覚が発生しない。
別段それがわからないところで戦闘には支障がないので放っておいたが、今は特にすることもないので、彼との意思疎通の向上の一環として、訊いてみることにした。
すると、ランドは一瞬きょとんとした顔をして、やがて困ったように唸り始めた』
「どういうもの、ですか。にーさまは、何かを可愛いって思ったことがないんですか?」
「そうだな。世間一般でいわれているような作用を自覚したことはない」
「そんな…それ、すごく可哀想ですっ」
『むぅ、と唸って、本気で同情の色を浮かべて哀れまれてしまった。いや、俺は不都合を感じていないので別にいいのだが。
などと俺が下手なことを訊いたかも、と思案していると、彼はずい、と抱き上げた子犬を俺の顔に近づけてきた』
「何のつもりだ」
「この子を見てください。ドキドキしたりしませんか。胸がきゅって締め付けられたりしませんか。顔が熱くなったりしませんかっ」
『といわれても、眼前にははっはっと息を荒げて彼の手の中に大人しく納まっている犬が一匹。俺にとってはその事実があるだけだった。
俺が首を横に振ると、彼は更に強く犬を俺の顔に押し付けてきた。「それ以上近づけると鼻がぶつかるのだが」…そう、俺が静止しようとしたその時だった』
「にーさま、本当に、何も感じませんかっ?」
「…っ」
『視界一杯に広がる犬の顔が横にずれ、代わりにその後ろからランドの顔が俺の眼前に現れた。
彼には珍しい、必死の目だった。何故かはわからないが、俺が「可愛い」という感情を知らないのが彼には余程都合が悪いのだろう。これ以上ないというほど、彼と俺の顔が接近した。
まさかの不意打ちに、俺は一瞬、鼓動の高鳴りを覚えた。それは、彼と出会ってから何度となく訪れた感覚だった。
盲点だった。考えもしなかった。そうか、まさか、これが―――』
「成る程。よくわかった」
「本当ですかっ!?よかった」
「ああ。君はとても可愛い」
『そう返した時のランドの顔を、俺は生涯忘れまい。
可愛らしい。愛らしい。愛くるしい。そういった、「可愛い」という言葉に類する言葉の実感が、その時、急速に俺の中に流れ込んできた。何故だか、とても満たされた。
彼はそこで、漸く自分がどれほど俺に肉薄していたかを自覚したように、ぱっと身を離した。そしてみるみる顔を真っ赤にして、そのまま俯き、黙ってしまった。
…迂闊だった。「覚えたての知識や技術をひけらかすな、碌な目に遭わないぞ」という幼い頃に教わった教訓を忘れていた。きっとこれは、何かよくないことが起きる前触れだ。そうに違いない』
「今のは、こんな無駄なことに必死になる、君の無邪気さが可愛かった、という意味だ。妙な勘違いはするな」
『そのフォローは、ある種の賭けだった。殆ど本能的にそう弁解したに過ぎない。正解の保障も根拠もどこにもない。
一般的に、人が情操教育を受けるという幼少期を血生臭い殺し合いで過ごしてきた俺の今持つ常識は、その大半が他者の真似事だ。見てきた人々の行動の中から、可能な限り目立たぬよう、より普遍的で無個性であると判断した振る舞いをしているに過ぎない。
そして俺は、俺ぐらいの男が同年代の男に可愛いという言葉を伝えている例を、見たことはない。よって今の「可愛い」が世間的にどういった意味を持ち、彼にどういった印象を与えたかなど、知る由もない。
何しろ俺は「可愛い」という感情を自分も抱くのだということを、今しがた自覚したばかりなのだから』
「あ…あはは。そっか、そうですよね。ごめんなさい、取り乱しちゃいました」
『俺が告げると、彼は笑って今の出来事を水に流してくれた。とりあえず、不正解の弁解ではなかったらしいので、何よりだ。
宿を探しに街に戻る時の彼の足取りが、少々重かったように感じたのが、気がかりではあったが。 〆』
以上、第六話をお届けしました。
…突っ込まれそうなので繰り返しますが「そういった展開」は全く保証できないので悪しからず(ぇー
あと半年ほど求職活動を続けて漸く新しい食い扶持が見つかったので、どうにかこのお話をお墓に持っていくことにならずにすみそうですw
乙っす!
ランドといいシェラといい、何度俺の中の新しい扉を開けば気がすむのか…
ランド可愛すぎてやべえwwww
乙!
これは新たなファンが掘り起こされる予感w
GJ!
こんな可愛い子が男の子の訳ねえ!
乙
前も思ったんだが男の子の訳がない、で合ってるのか?
>可能な限り目立たぬよう、より普遍的で無個性であると判断した振る舞い
が典型的なツンデレとはwww
最初の一行を見て全裸待機していたというのに!(挨拶)
そういや2の名前は冒険再開時にあっさり変更可能でしたね。ローレシア以外は。
…という事はもょもとは以後ももょもとのままなのか。
●第7話 『Actualities』
『△月□日 ムーンペタを発って三日後。俺たちは、王女の捜索の手がかりを探しに、ムーンブルクの城までやってきた。
…とはいっても、邪教の襲撃を受けたムーンブルク城は、最早城としての体すらなさず、完全な廃墟と化していた』
「…酷い」
『今や城の周囲には溢れ返る魔物の邪気が染み込み、腐りきった土から毒沼が広がっていた。それを踏み越え、辿りついた血族の城の亡骸を前に、ランドは苦渋の表情で簡潔な感想を漏らした。
俺はというと、感傷に浸る意味も特に見出せなかったので、早々に崩れた城壁の穴から中に進入することにした。ランドもそれきり喋らなくなり、大人しく俺の後に続いた。
そうして、俺たちは目にした。
今や護る者のない荒れ放題の城内を闊歩する蛇蝎と。
城中を埋め尽くす、魔物たちの手にかかり命を落とした兵や侍従たち、そしてムーンブルク王らの、無数の魂。
…邪教の魔物どもに殺された者の魂は天に昇ることも出来ず、現世を彷徨う。噂には聞いていたが、実際の現場を見るのは俺も初めてのことだった』
「………!」
『城に入って何度目か。崩れて行き止まりになっている廊下を引き返そうとして、俺は背後に迫っていた気配に気づき、背負っていた槍に手を伸ばした。
怯えるランドを手で制して後ろに隠しながら、振り返る。廃墟の壁に映るシルエットは人そのもの。だがその皮膚は、手足から顔に至るまで醜く爛れ、腐り落ちかけていた。
リビングデッド。これも実物を見るのは今日が初めてだった。通常、魔物に殺された人間は、魂が肉体から離れた状態で成仏できずに現世を彷徨う。だがその中でも、特に身体能力に優れ、且つ、意志力に優れた者は魔物に魅入られ、傀儡として使役されると聞く。
この城のリビングデッドは、恐らくムーンブルク城の兵士らのいくらかがそうして魔物化したものなのだろう』
「離れるな」
『ランドに短く指示し、俺は敵に向き直った。
現れたリビングデッドは四体。仮に生前が手練の兵士だった肉体でも、今は筋肉も腐敗し鈍重な動き・判断力しか持ち合わせていない、動く肉塊に過ぎない。
そんなものは、俺にとって物の数ではない。鉄製の槍に踏み込みの十分な加速を載せて突き出し、のろくさと迫る先頭の生き死人の首を「ぶっちぎ」り、言葉どおり槍玉に挙げた。
そのまま槍を払い、横に逃れた二体目に向かって振りぬく。槍の先端から、一体目の首が砲弾のごとき速度で分離し、目標に激突した。一息で間合いを詰めて、よたつく二体目の腹に石突で風穴を開けてやった。これで半分。その時、』
「…!」
『俺は、離れるなと言い含めたはずのランドが近くにいないことに気づいた。
反射的に背後を振り返れば、彼はさっきの場所に直立不動で佇んでいた。俺が二体を屠る間に目標を変えた三体目が、今まさに、彼へと掴みかかろうとしていたところだった。
―――ぬかった。俺が伏せろ、と叫び、彼が指示通りに行動するまでの時間。どう甘く見積もっても、リビングデッドが彼を手にかけるのを避けるには間に合わない。そう、俺の勘が告げていた。だが、』
「――――――ギラ」
『瞬間、三体目が、彼の掲げた右手から放たれた炎に包まれた。
それが、彼の唱えた言葉と対になる呪文の発現だと、俺はすぐに理解し、敵めがけて槍を投擲した。彼の呪文だけでは、リビングデッドにとどめを刺すまでには至らないと判断したからだ。
放たれた槍は、炎を受けて後退りする三体目の首をふっとばし、壁に突き刺さった。胴体のほうはそのまま、彼に指一本触れることなくくずおれた』
「にーさま、後ろっ!」
『ランドが俺に向かって叫んだ。だが、彼に言われるまでもなく、俺は四体目の接近には気づいていた。
俺は懐から小さな硝子瓶を取り出し、振り向きざま、敵の顔面めがけて投げつけた。ぱりん、と小気味のいい音をたて、瓶の中身の液体が飛散した。同時に、それを頭から引っ被ったリビングデッドは声にならないうめきを上げ、もがき苦しんだ。
聖水入りの小瓶だ。教会の洗礼を受けた水は、普通なら弱い魔物避け程度の効果しか発揮しないところだが、生き死人や悪霊相手に直接ぶつけてやれば、ちょっとした凶器として機能する。
実戦で使ったのは初めてだったが、中々上手くいったと思う。俺はそのまま、顔を覆って苦しむ四体目の背後に回りこみ、抜き放った銅の剣で首筋を掻き切った。腐った血をどくどくと垂れ流し、やがて最後の一体も崩れ落ち、動かなくなった』
「…ランド。今のはなんだ」
『俺は近くの魔物の気配が確かに消えたことを確認し、ランドに歩み寄りながら彼に訊ねた』
「はい。その…最近、魔物と戦ってるうちに、自分の魔力の流れが少しずつ掴めてきたので。
もしかしたら、傷の治癒だけじゃなくて、攻撃にも応用できるんじゃないかと思って、イメージしてみたんです」
「俺も知識として学んだことがある。ギラ、魔力を炎に変換して放射する呪文だったか」
『魔力の流れ、とやらは呪文を扱えない俺には実感が沸かないが、古い文献をいくらか読んだことがある。
人の魔力というものは、組み上げた術式次第で様々な神秘を可能にする。そして注ぎ込む魔力が膨大なほど、複雑な術式・大規模な神秘を実現出来るのだという。
俺は暫くその場で埃を被った記憶を掘り起こしていたが、やがてランドが黙りこくって俯いているのに気づいた』
「どうかしたか、ランド」
「…あの。さっきは、ごめんなさい。ボク、にーさまの指示、無視して…。
このお城で殺された人達のこと、考えてたら、ボクも、ずっとこのままじゃ駄目だって思って…それで、強く、強くならなきゃって思ったら、あれを試さずにいられなくなって…!」
「…?何を言っている。あれは、俺のミスだろう。謝るのは、寧ろ俺のほうだ」
「え…にーさま、怒ってないんです、か…?」
『俺が当然のことを言うと、ランドはさも不可解と言う風に、おずおずと訊ねた』
「君は人間だ。そして、俺は人間という生き物がときに理屈にあわない、不条理な行動をするものだと教わってきたし、実際そう認識もしている。
君が今口にした―――殺されたここの人間のことが云々、という理由がそれだ。俺は死んだここの連中のことを思うことで事態がどう変わるなどとも思わん。だが事実として、君は俺の指示に従わなかった。
君の行動は理屈には合わないが、俺はそういったモノも視野に入れて行動をするよう、心がけてきた。だが、先ほど俺はそれを怠り、君が従う保証のない指示を出し、慢心した。
…結果として君は無傷だが、あの時対応すべきは俺だった。間に合わずに、すまなかった」
『俺は出来うる限り詳細に、俺が幼い頃から肝に銘じてきた教訓の一つをランドに説明し、謝罪した。
彼は一度だけ唖然とした表情をしたが、やがて俯き、長く黙り込んでしまった。
…自分のした説明が、ちゃんと彼に理解できるものだっただろうかと、俺が反芻を始めた辺りで、彼はいつもより随分力のない笑いを浮かべて』
「………はい。でも、ごめんなさい。やっぱり、ボクはボクが悪いと思います。だから、ボクにも謝らせて下さい」
『ゆっくりと、頭を下げて謝罪を口にした。
それでランドの気が済むというのなら、敢えて否定する意味も俺には見出せなかったので、それを率直に受け止めることにした。
…その後、その日の数回にわたる戦闘にあたって、彼は何故か、自分を追い立てるように魔物たちに立ち向かっていった。殆どが空回りに等しいものだったが、それでも俺は先の反省を活かし、彼の援護を滞りなくこなせたと思っている。
ただ、彼は戦闘が終わる度、歩くのもままならないほど消耗しきっているのに、俺の手を借りようとはしなかったのが気にかかった。今までは、俺が差し出した手を拒むことなどなかったのに、その日の彼は「大丈夫です」の一点張りだったのだ。
彼の中で如何なる心境の変化があったのか。尤も、それを俺が理解できなくとも、俺は今までどおり、自分の役割を果たすだけだ。大事には至っていない。
…さて、肝心のムーンブルク城探索の結果だが、驚くべきことにこの廃墟で、プリン王女の手がかりらしき情報がいくつか手に入った。
具体的な情報や、その真偽の程は結果が出てから報告することにするが、現状、何の指針もない探索や聞き込みを続けるよりは建設的な内容だと思われる。
以後暫くは、その情報を辿った行動をするものとしたい。 〆』
以上で、第七話は投下完了です。
ランドきゅん、男の子の意地を見せるの巻。
あと聖水爆弾、一部の作品ではメタル狩りに利用できますが、アンデッドにしか効果がない(しかもバイオハザードで例えたらナイフで切りつけた程度のダメージ)2での実践的な活用方法を誰か教えて下さいw
乙です!
ランド君成長物語にもなってるんですね
もょもとはどこまでパーフェクト人間やねん。
・・・大事な物が欠けてるけどw
もょもとは人間じゃなくて兵器なんだよ!
目から怪光線、ロケットパンチ、ドリルアームはもちろんのこと
ミサイル、火炎放射機、そしてカ○シュ博士の三大理論まで組み込んだ最凶兵器
だかり人間としてパーフェクトじゃなくても乱世の王としてはddなんだよ!
という妄想を抱きつつ、YANA氏おつ!を合言葉にランドをいただいていきますね
乙
聖水と聞くとイケナイ想像しちまう
カマエルにもょもとの聖水を注ぎ込んで
まで読んだ
リィナかわいいよリィナ保守
●第8話 『Preparation』
『△月△日 ムーンペタに戻り装備の補充を済ませた俺たちは、一路、ムーンブルク城の真東を目指した。
先日のムーンブルク城での探索中、俺たちは城の中庭に地下室へ続く階段を発見した。地下にはなんと、絶望的と見ていた生存者がいた。とはいえ、見つけた兵士は既に虫の息で、俺たちに情報を伝えるとそのまま事切れてしまった。
だが落城から既に一ヶ月以上が経過していることを考えると、凄まじい執念だと感嘆すべきだろう。
彼曰く、「ムーンブルクの東、橋が四つ見える場所にラーの鏡が隠してある。呪いで犬に変えられた王女はそれで元に戻る」とのことだった。
…そういえば、ムーンブルクでは初代ロトが残したという文献を基に、彼が当時使っていたという、摩訶不思議な秘宝を復元しようという研究がされていたと聞いたことがある。
文献どおりだとすれば、ラーの鏡とやらは映したものの真の姿を暴き出すといわれている。ムーンブルクの研究が成功したという話は聞いていないし、そもそもそんな鏡が実在したという確かな情報も残っていない。
信憑性としては穴だらけだが、今はそれに賭けてみようと思う。
…それにしても、まさか王女を殺さずに、犬に変えているとは。かつてアレフガルドを闇に陥れたという大魔王は、人々を敢えて滅ぼさず苦しめて、絶望や悲しみを己の力の源にしていたらしいが、邪教の連中もそういったものを信仰しているのだろうか。
それにそもそも、人を犬に変えるなどという訳の分からない力を持っているというのも、驚かざるを得まい。邪悪とはいえ、彼らの崇めるものもまた神だということだろうか。
どうあれ、俺たちにしてみれば彼女を助ける千載一遇の機会に変わりはない。兵士の情報を頼りに獣道を進むこと、四日が経過した』
「…ほほほ。ローレシアと、サマルトリアの次期当主ですか。
ハーゴン様を征伐するために送り出されたとは聞いていましたが。こんな辺鄙な森に、何の用です?」
『森に入って数刻。俺たちの前に、邪教の信徒が現れた。
厚い仮面に蝙蝠の意匠の法衣。実際に目にするのは初めてだった。ランドが後ろで息を呑むのが分かった。
…奴はその表情を仮面で隠し、大仰に振る舞い、さも余裕である風に両手を広げた。だが、言葉の端々に滲む僅かな声の震えを、俺は見逃さなかった。
俺の中の予感が確信に変わった。間違いない。奴は、焦っている。何に対して?決まっている。俺とランドが、わざわざこんな何もないはずの場所に来ていることにだ。
奴は知らない。俺たちがこの森を進みながら、奴以外の何人もの信徒と遭遇してきたことを。
そして奴らの気配を察知した俺が、敢えて姿を隠してやり過ごして泳がせ、その動向を観察してきたことも。
そこから仮説を立てた。…奴らも、探していたのだ。恐らくは、あの兵士以外の誰かから何らかの形でラーの鏡の情報を手に入れて。
考えてみれば、当然だ。せっかく呪いで王女の自由を奪ったのだ、俺が彼らの立場なら元に戻す方法の有無を探る。そしてあったと判明したら、その芽を摘み取りにかかる。
俺はそう内心で結論付け、一つカマをかけてやろうと目の前の信徒と対峙する』
「さて。ムーンペタで『人懐こい犬』に遭ってな。
必死に引っ張っられるまま歩いたら、成り行きで来てしまった。…だが森に着くやはぐれてしまってな。『こんな辺鄙で何もない森』で見捨てていくのも忍びないので、丁度、探していたところだ」
「―――ほ。それはそれは。慈悲深いお話です。我らが神に、その哀れな迷い犬の無事をお祈りしましょう」
『俺の挑発に、信徒は先ほどに輪をかけて白々しい態度で祈りを捧げるポーズをとった。口ぶりこそ穏やかだが、その内心では黒い殺意が沸き立っているのが伝わってきた。
ランドが後ろから、丁度奴からは死角になるようにくいくい、と服の裾を引っ張った。これは最近決めた、彼のそこからの自分の大まかな動きを俺に伝える合図だ。二回引いた時は「大人しくしています」を示す。
彼もそれなりに戦闘経験を積んで、少しずつだが戦いの開始の空気というものを掴みつつあるようだった。俺たちと信徒の距離はまだ全開の踏み込みでも詰めるのに三回は要るほど開いているが、辺りを包む空気は徐々にぴりぴりと張り詰めだしていた。
俺は殺意を膨らませながらも、未だ武器を取り出す様子も見せない信徒の出方を伺う。…奴らと切り結ぶのは初めてだが、さてどの程度のものか―――』
「では、祈りの言葉を――――――ギラ」
「…!」
『奴の左手が頭上に掲げられ、突然、炎が三歩分の間合いを駆け抜けた。俺の目の前には、灼熱の波。
俺は咄嗟に構えた鉄の槍と盾でそれを何とか遮ったが、二つの武装を取り落とし、その場に蹲った』
「ほほほほほ。いけませんね、神の使徒を前に居眠りですかな?」
「…驚いたな。お前たち、呪文を使えるのか」
「左様。見事なものでしょう、この神のご加護。まさに神秘。私のような平凡な人間にも、我らが神は等しく力をお与えになるのです。
しかし中々どうして。初見でギラを防いだのは貴方が初めてですよ。誇って宜しいかと存じます」
「なに。その呪文を見るのは、初めてではないからな…ちっ」
「おっと、いけません。そのまま、そのままです。今度は外しませんからね。
貴方には洗いざらい、知っていることを喋っていただかなくては。そちらの王子様も、彼の無事を願うなら…宜しいですね?」
『俺が摺り足で槍と盾を拾いに踏み出そうとすると、再び信徒が左手を掲げた。
俺と後退して固唾を呑んで見守るランドの両方に睨みを利かせながら、奴は俺のほうに近づいてきた』
「みたところ、貴方のほうは随分腕が立つようだ。これは念入りな拘束が必要ですね」
『奴はランドが動かないとみるや、懐から鎖を取り出し、端に付いた枷を俺の手首にはめようと、近づいてきた。
…そこを俺は、芝居の止め時と判断した』
「――――――がっ…!?」
『俺は殆ど密着に等しい距離まで身を寄せていた信徒の手首を捻り上げ、文字通り、地面に捻じ伏せた。
奴は何が起きたのか分からないという風に首を振りながらもがいたが、完全に関節の動きを束縛したこの状態からでは、例え手練の戦士でも抜け出せない。勝負あり、だ』
「貴方…!謀りましたねッ!」
「生憎だが、おまえのような素人に毛が生えた程度の人間に拘束される謂れはない。
やるのなら、お前はあの位置から俺の四肢を焼き尽くしてから近づくべきだった。
尤も、俺とお前の実力差なら、それでも対等とはいかないが。…そうだな、せいぜい八分と二分といったところか。
………さて、周りに他の仲間はいないようだな。お前が知っていることを吐いてもらうぞ」
「ふ、ふふ。誰が俗神の狗になど…っっっづ!?」
「にー…さま!?」
「答えろ。お前たちはどこまで掴んでいる。ラーの鏡は見つけたのか?犬に変えた王女はどこにいる?」
『信徒は組み敷いても屈服する様子を見せなかった。こういう相手には、自分の立場を手早く理解させねばならない。
俺はまず、奴の右小指を関節の向きと逆方向に勢いよく曲げてやった。びしり、という確かな手応え。奴程度の人間なら、肉体面は勿論、精神にも相当堪える激痛だったはずだ』
「さあ、指はあと九本あるぞ。ペン一つ持てない体にしてやっても良いんだぞ」
「く…おお…何て事を…私の、私の指が!俗神の狗め、それで我らを邪教だ悪魔だと罵るか!邪悪なのは貴様の方だ―――ぐっ!!」
「あと八本だ」
「畜生…!わかった、話すっ。話すから、やめてくれ…!」
『続いて右薬指を折ってやると、漸く心も折れてくれた。どうやら、この信徒は邪教の中でも比較的信心の浅い者だったらしい。
宗教というものは敵に回すと厄介で、信仰の度合いによっては、神のためにと自分の命を散らせることすら喜びとする人間をも作ってしまう。そういった確信犯を屈服させるのは、ほぼ不可能に近い。
余り期待はしていなかったのだが、それは予想外の収穫になった』
「わ、私たちもラーの鏡を探しにこの森に来たっ。そうだ、ムーンブルクから鹵獲した物資の中から、ラーの鏡の研究資料が見つかったのだ。
隠し場所に関する暗号を見つけて解読するのに一ヶ月以上もかかったが、漸くこの森にあるらしいことが判明した。だが、まだ発見には至っていない…!」
「王女の身柄は?」
「…し、知らない。ムーンブルクを襲ったとき、呪いをかけた部隊が確保はしたらしいが…頭の悪いグレムリンたちに見張りを任せたら、隙を突かれて逃がしてしまって、犬になったまま行方知れずだそうだ…」
「…成る程。指はおろか、一つしかない命もいらないのか。敬虔なことだな」
『役に立ちそうもない情報ばかりを漏らす信徒を煽るため、首筋にナイフの刃を突きつけてやる。
法衣越しに奴の身震いが伝わり、直後にじたばたと出鱈目に体をバタつかせ始めた』
「ほほほ本当だっ!本当にそれ以上のことは知らないんだ!!たすけ、たす、たすけてくれぇっ!!」
『必死の訴えで、声を上ずらせて命乞いをする信徒。…どうやら、本当にそれ以外は知らなかったらしい。
余り有益な情報ではなかったが、逆にそれで、俺たちのほうが具体的な手がかりを持っており、邪教を出し抜ける可能性が高いとわかった』
「わかった。おまえの言葉を信じよう」
「ほ、本当、か?じゃあ…」
『俺はナイフを逆手に持ち替え、用済みになった信徒の首筋に切っ先を向けた。
信徒がヒ、と短く声とも呼吸とも付かない悲鳴を漏らし、全身の血の気を引かせた。その瞬間、』
「――――――にーさまっ、ダメッッ!!!!」
『ずっと黙って事の成り行きを見守っていたランドが、声を張り上げた』
「ランド。何故止める」
「ダメ…にーさま、ダメです。その人、人間なんですよ…?ボクたち、世界中の人の平和のために戦ってるのに…なのに、人殺しなんて…それに、その人、ちゃんとにーさまの言うとおりに知っていること、話してくれました。だったら…!」
「彼は俺たちの敵だ。殺しておく必要がある。思想を違えた人間と和解をする手段はない。割り切ることだ」
「でも…それでも…!その人にもきっと、お父様やお母様がいますっ、もしかしたら兄弟や、子供も!
その人が死んだら、その人の大切な人が、罪もない人達が、悲しむかもしれませんっ」
『ランドは俺とうつ伏せの信徒を交互に見て、怯えた顔で、けれども吠えるように意見を口にした。
その間も、俺が油断なく信徒の首にナイフを突きつけ続けているのを認め、彼はキッと、彼なりの精一杯の鋭い目つきで、俺を睨んだ。同時に、右手を広げ、俺に向けて掲げた』
「もしその人を殺したら、その時はボクがにーさまを討ちます」
「…それは困ったな。この男を今ここで殺しておかないと、仲間を呼ばれて面倒なことになるんだが。
拘束して隠しておくという手もあるにはあるが、それでもあらゆる面で殺すよりメリットが少ない」
『この信徒を生かすことで発生するリスクを簡潔に述べるが、ランドの目は揺るがない。
…彼とて、自分の力で本気で俺を倒せるなどと奢るほど頭が悪いはずはないのだが。何より、俺たちが争っても何の利益もないことは分かりきっているだろう。
俺がほとほと困り果てて立ち往生していると―――やがて、ランドは目に涙を浮かべ始めた』
「お願いです…にーさま。ボク…はっ。にーさまに、人殺しなんて、してほしく、ないんです…っ!!」
『―――俺の額に、脂汗が浮かんだ。
…不味い。何か非常に不味い事態が起きている。ある意味、この信徒に仲間を呼ばれるよりも、何倍も取り返しの付かない危機が、俺の身に降りかかろうとしている。
ランドの真っ赤に染まった泣き顔を見て、俺は暫し黙考し、出来うる限りの譲歩案を捻り出した』
「………立て」
「は…?」
「いいから立て」
『俺は信徒の背中から体を除け、されどナイフは構えたまま、奴をうつ伏せ状態から立ち上がらせた。
そしてそのまま、奴の腕を取り空中で半回転させ、地面目掛けてその体を叩きつけた。…信徒は悲鳴すらあげず、そのまま気を失った』
「にー、さま…?」
「丸一日だ」
「え…」
「…今、奴の脳には、奴の体重とほぼ同等の重さの打撃が叩き込まれた。頭蓋骨の中で、しこたま跳ね回ることでな。
丸一日は目を覚まさないだろう。…一応、後遺症の残らない落とし方をしたつもりだが、脳の構造という奴は極めて複雑だ。こればかりは保障は出来ん」
「…にーさま…!」
『俺の意図を理解したのか、ランドは泣き顔から一転、ぱっと顔を綻ばせ、俺に抱きついてきた。
よかった、何とか彼は、俺の譲歩に満足してくれたようだ。…何だかそれ以上の感情があった気もするが、それは一先ず置いておくことにする』
「だが、裏を返せば猶予は丸一日しかないことになる。
それ以上この森に留まれば、目を覚ました彼が俺たちの情報を仲間にもたらし、包囲される虞がある」
「はいっ」
「君が望んだ道だ。死にたくなければ、是が非でもラーの鏡を今日中に見つけることだ」
「はいっ!」
『士気を上げるために発した、俺の軽い脅しにも、ランドは臆することなく小気味のよい返事で応えた。
それから彼は、のびた信徒の指に添え木をし、一生懸命茂みの中にその自分より大きな体を埋め込み(見るに見かねて俺も手伝った)、満足げに頷いた。
…彼の未熟さは徐々にとれ始めているが、それでも根本的な甘さだけは拭い切れない。いずれ進退窮まる事態が訪れる前に、彼のためにも、根気よく言い含める必要があるだろう。
そんな事を考えながら、俺たちは足を速めた。幸運なことに、日が暮れて視界が奪われる前には、ソコに辿り付く事が出来た。
森は徐々に斜面の様相を現し始め、木々を抜けて、小川を眼下に臨む丘に出る。そこから確かに、遠く夕日に照らされ、入り組んだ川に架かる四つの橋が見えた。そして丘のまん中には小さな沼。
全て、あの兵士のくれた情報どおりだった。二人手分けをして沼を浚い、無事目的のものと思しき装飾付きの鏡を回収し、俺たちは急いで森を後にした。 〆』
というわけで第八話をお送りしました。
ちと編集が遅れてしまい、申し訳ない。しかもあんだけ見直してまだ誤字が見つかるとかもうねっ。
さて今回初の対人戦だったわけですが、あんまりもの字の戦闘スキルを厨スペックにしたもんだからスリルも何もあったもんじゃないね!別に対人戦に限ったこっちゃないけども。
もょもと使うとバトルに張り合いがなくなるのは原作再現と思って、どうか目を瞑って下さいw
余談ですがこいつのそもそものモデルは現役時代の某ビッグボスで、新しい魔物に遭遇するたび「リビングデッドは美味いのか?」みたいなことを呟くような割とフランクな奴になる予定でした。
それが長いことプロット捏ね繰り回してたらこんなことに。蛇食ったりCQCもどき使ったりしてるのはその名残なわけですね。
以上、製作与太話でした。
何となしに更新したら来てただと・・・!?
このくらいのチート具合のも良いと思うんだぜ?
いろんな意味で多すぎたら残念だけどな
新作乙です
楽しませてもらいました
あたしゃゴルゴかと思っていましたよ
477 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/09/13(日) 13:55:54 ID:lZYLIJwfO
乙です
続きお願いします
乙!
いつか、逆に言い含められるもょもとを楽しみにしてますw
ふぇぇ、ローレシアの青いのは化け物ですか!
某スレのせいでもょもとがスライムで脳内再生されるんだが、俺だけだろうか…
乙です。
人間系は人間として扱われるのですね…やっぱり2は2作目にして結構異質ですな。
もょもとは強くて良いんです。もょもとだもの。
3以降だっているよ。あんまりいないけど。
普通の人間種っぽい奴。
ビビンバーとかようじゅつしとかシャーマンとか?
●第9話 『俺たちの戦いはこれからだ』
『△月◎日 街での「王女」の捜索を開始してから半日のこと。
俺は鋭く威嚇する九匹目の野良犬を追い返した辺りで、ぬかった、と静かに猛省した。
…あの森で「ラーの鏡」と思しき鏡を発見し、賢い犬であれば人の住処に近い場所に身を寄せるだろうと睨み、数日をかけてムーンペタに戻ったまではよかった。
だが、考えてみれば俺もランドも、「王女が犬に変えられた」という情報は得ていたものの、「どんな犬に変えられたのか」ということまでは知らなかったのであった。
あの日拘束した信徒の口ぶりでは、彼も直接犬となった王女を見たわけではなさそうだったが、それでも一応は尋問しておくべきだった。
とにかく結果として、俺たちは二人、町中の飼い・野良問わず、犬という犬を次々に鏡に映して試す作業をする羽目になったというわけだ』
「ちょっと待ってっ。…あ、男の子だったんだ。ごめんね」
『ランドは自分が追いかけていた十二匹目が片足を揚げてマーキングするのを見て、苦笑しながら手を振った』
「…だが、考えてみれば、王女が犬に変えられた後も同じ性別である保証などないのだがな」
『犬種、体格、気性、そして雌雄。そのいずれの情報も掴んでいない俺たちなのだ。
やはり、手当たり次第に映して回るべきかと口にすると、ランドはやや頬を紅潮させながら、そうかもしれませんね、と躊躇いがちに答えた。…彼は俺の言葉に、何を想像したのだろうか』
「…そういえば、この前のあの子は、今どうしてるんでしょうね」
『街の半分を越え、郊外へと足が向き始めた頃、ランドはポツリと漏らした。
彼のいうあの子というのは、恐らく、俺たちが初めてここを訪れた時に彼に随分懐き、とうとう宿屋までついて来てしまった犬のことだろう。
結局、犬を不憫に思ったランドはその愛らしい懇願で宿屋の主人を説き伏せ、しぶしぶと同衾を承諾させた。流石に街を出る際には、「危ないからこれ以上ついて来ちゃダメだよ?」とこれまた丁寧に説いて聞かせて、名残惜しそうに引き剥がしたが』
「そうですね。プリンさんとは、ボクは小さい頃に、何度か会ってます。最後に会ったのは、もう2年も前ですけど。
…にーさまは、ご存じないんですか?」
「接触の記憶はない。ただ、事実としての情報はいくらか持っている。…確か、年齢は俺や君より上だったはずだが」
『いくらか和らいだ表情で、ランドは俺の問いに首肯して答えた。
順序良く返された問いに俺も肯定を示すと、ランドは僅かに微笑み、はいと頷いた』
「プリンさんは…強い人です。ボクなんかより、ずっと。きっと、にーさまの力になってくれますよ」
「生きていれば、の話だがな」
「………」
「何故黙る」
「…だって、にーさま」
「可能性の話だ。そう悲観することはない。君の知るプリン王女は強いのだろう。…見ろ」
「え?…あ…!」
『恨めしそうに俺を見上げるランドの背後、俺が視線を彼方に向ける。彼が俺の言葉に振り返ると、向こうからあの時の犬が駆け寄ってきたのだった。
ランドは満面の笑みで犬を迎えると、愛しそうにその体を抱き上げた』
「わんっわんっ」
「あはは、元気そうだね、よかったよっ」
「この犬ですらこうして五体満足で生きているんだ。仮にもロトの末裔である者が、そう易々とは死にはしないだろう…ランド、その犬を下ろしたほうがいい」
『荷物袋を漁りながら指示すると、ランドは一瞬きょとんとしたが、俺の意図を察して、すぐに言うとおりにしてくれた。
そう、彼の抱えあげたものは、他の何者でもない「犬」なのだ。つまり、プリン王女その人である可能性を孕んでいる。鏡に映してみる価値は十分にあるはずだ。
尤も、この小さくて人懐こい犬が、彼がいう強い人の変化した姿であったとしたら、悪い冗談としか思えないが。
…その時は、俺もそんな軽い気持ちで鏡を取り出したのだが――――――果たしてそれは、悪い冗談以上の結果を示した。
ランドの捜索の時に思い知ったはずなのだが、俺はまだまだ自覚が足りないようだ。俺は、戦闘以外の行動に関しては、素人も甚だしい。その心構えの未熟がいつか致命的なミスにならないとも限らない。早々に改善する努力をしたい』
「…っ!」
『それは、目も眩むような閃光だった。
ランドの小さな半身に届こうかというほどのサイズの鏡を、はっはっと息を荒くする犬に向けたその瞬間、俺とランドは突然の現象に顔を背けた。
俺の手に納まっていたラーの鏡は光と共に砕け散り―――いや、閃光に視力を奪われてその瞬間を見ていない以上、この表現は適切ではない。何よりあの空気に溶け込んでゆくような喪失感は、霧散、といったほうが正確だろう。
とにかく、発光が止み、気がつくとラーの鏡は消えていた。幼い頃からの訓練の賜物だろうか、ランドよりいくらか早く視力を取り戻した俺は、犬の座していた場所に目を向ける』
「………」
『そこには既に犬はおらず。
ただ、ランドの性別を逆にしたらそんな風になるのだろう、頭をすっぽりと覆う紫のフードと、全身を包む白い法衣を纏った、幼い風貌の少女が一人、ちょこんと鎮座していた』
「………」
「………」
『どのくらいの時間そうしていただろうか。俺が突然現れた見知らぬ少女の出方を伺いじっと見つめていると、彼女もまた、その何を見ているともしれない静かな視線で、俺を見つめ返した。
このまま睨み合いを続けても事態が進まないと見て、俺は彼女に先んじて口火を切ることにした』
「失礼。つかぬ事を訊くが。君は、ムーンブルクのプリン王女で間違いないか」
「はい。如何にも、ご明察のとおりです。わたくし、ムーンブルクの次期当主、王女のプリンと申します」
『俺が問いかけると、プリン王女は状況に戸惑う様子もなく、つらつらと丁寧に、自分の身分を復唱するように告げた。
だが、彼女は少しの間だけふと目線を下に向けて、やや考えるような素振りを見せたあと、訂正を加えた』
「失礼しました。今はもう、ムーンブルクの血を引くのは私だけになってしまったので、私が当代の当主と名乗らなければなりません。
改めまして、以後お見知りおきを、もょもと様。…この度は、邪教の呪いから解放してくださったこと、謹んでお礼申し上げます」
ttp://rainbow2.sakuratan.com/img/rainbow2nd54913.jpg 『姿勢を正し、三つ指を突いて俺に深々と頭を下げるプリン王女。それと一緒に、彼女のフードの穴から伸びる長いブロンドの髪がふわりと弾んだ。
…その落ち着き払った態度に、いくらかの感心を覚えつつ、俺は自分の疑問を告げた』
「俺が何者か、何故分かった。君と俺は、面識などないはずだが」
『そう。プリン王女は確かに、俺の名を呼んだ。初対面であるにもかかわらず、だ。
ランドもあの宿屋で俺の名を呼びはしたが、それでも確固たる自信がある風ではなかった。恐らく彼は、あの場で自分に声をかける若い男、という条件に符合する人物の候補としてローレシアの王子を選出し、俺の名を口にしたのだろう。
それに対して、彼女の呼び方は、明らかな確信に満ちた調子だったのだ。
俺が率直な疑念をぶつけると、彼女はほんの一瞬だけ―――俺以外なら見逃すほど僅かな驚きを浮かべ、やはり僅かだけ微笑んで、』
「――――――分かるに決まっているじゃありませんか。もょもと様は将来、私の伴侶になられる方ですもの」
『静かに、そう答えて返した』
「…そうなのか」
「そうなのです」
『…人は運命の相手に出会うと、全身に稲妻が駆け抜けたような感覚に襲われ、それを確信できる―――そんな風説を、確か聞いたことがある。
俺は世間で言われている恋愛というものを知識でしか知り得ない。
だからそれがどういう感覚なのか、そもそもどの程度一般的なのかすらも分からない。
そのため、俺は彼女はそうした感覚を抱いたのかもしれない可能性を考慮しながら、ただ短く応えることしか出来なかった。
そんな態度から、俺が腑に落ちないものを感じているととったのか、プリン王女は説明を重ねた』
「ローレシアとムーンブルクの古い盟約があります。
『然るべき時』が来て、ロトの血が世界を束ねんとする時、ムーンブルクの女はローレシアの当主と添い遂げ、支えよと。
同じ血筋を分けた許婚ですから、私には一目で分かりました。もょもと様は、お父様からお聞きになっていないのですか?」
「…初耳だ。生憎、俺もまだ半人前なのだ。全ての口伝を受けているわけではない。
ローレシアでは戦に関わらない口伝に関しては、当主以外は知る機会が著しく少なくてな」
「…冗談です。ごめんなさい、いってみたかっただけです。あ、でも、古い盟約の話は本当です」
『俺はローレシアで受けた教育の数々を反芻し、思い当たる情報がないことを告げた。すると彼女はおかしそうに、それでいて微塵も下品さを感じさせない笑みを浮かべて謝罪を述べ、傍らのランドへと視線を移した』
「簡単な推測です。ハーゴンの軍勢に呪いをかけられて犬にされ、人間に戻ったら、目の前には彼がいた。
その状況から、彼と一緒にいる逞しい殿方を、彼と共に私を探しに来て下さった、ローレシアのもょもと様だと判断した。たったそれだけのお話です」
『成る程。そういえば、ランドはプリン王女と面識があるといっていた。俺はその時点で得心がいっていたが、彼女は自分の証がまだ不十分であると思ったのか、そのままランドへと問いかけた』
「ランドさん。もょもと様に、私を紹介していただけませんか」
「ん…んん…?」
『閃光に視力を奪われ、俺とプリン王女が話している間も蹲って唸り続けていたランド。
まるで計ったかのようなタイミングで、彼女の呼びかけとともに、彼は顔を覆っていた手をどけ、目を瞬かせた。漸く彼の視力も回復したようだった』
「あ…プリンさんっ…!じゃあ、あの子が、プリンさんだったってこと…!?」
「はい。お蔭様で、この通り、人の姿に戻ることが出来ました。貴方も懸命に頑張ってくれたのでしょう。有難うございます」
「………ホントに、生きてた。よかった。…よかったよぅ…」
『プリン王女の礼が聞こえているのかいないのか、ランドはそのまま泣き笑いのような表情を浮かべて、安堵の声を漏らした。
そんな彼の様子を、口元を緩めて穏やかに見つめ、プリン王女はやがて俺の方に向き直った』
「もょもと様。納得、頂けましたでしょうか」
『問いかけるプリン王女の声には、得意げな自信も、否定される事に対する恐れもなかった。それは、ただの純粋な質問だった。
きっと俺が不服を唱えたところで、彼女は俺の信用を得るため、次の手立てを講じるのだろう。
…いや、そもそも俺は彼女を疑ってなどいないし、時間を無駄にするような戯れをする気も毛頭なかったのだが。第一、俺を謀っているような気配や素振りが見えていたら、間近でいつまでもお喋りなどせず、とっくの昔に彼女を斬って捨てている。
俺は黙って、一度だけ首を縦に振った』
「よかった。では、お二方とも、これから宜しくお願いしますね」
「はいっ。宜しくお願いしますっ」
「宜しく頼む」
『ランドは威勢良く、俺は簡潔に、それぞれに首肯すると、彼女は恭しく頭を下げた。…その落ち着きぶりは、彼女が確かにロトの血を引く者だと確信するに余りある貫禄だった』
「ランドとも、積もる話もあるだろう。まずは宿に戻って状況の整理をしよう。
…だが、その前に大前提を確かめておきたいのだが、構わないか」
「何なりと」
「…俺たちは、ハーゴン討伐のために旅をしている。
プリン王女、君を探していたのは、安否を確認し、その生存の可能性があれば無事を確保し、旅への同行を願うためだ。
改めて確認するが、俺たちに同行してくれるな」
「勿論です」
『俺の問いに、簡潔な返事をして応えてくれたプリン王女。その口ぶりに、余分なものは含まれなかった。
どうやら彼女は、ランドよりも寧ろ俺寄りの人間であるらしい。無駄な要素を極力省きたい俺としては、話が円滑に進んで嬉しい限りだ』
「――――――でも、一つだけ、お願いがあります。これだけは、今のうちにはっきりさせておきたい事ですので。宜しいでしょうか」
「わかった。いってくれ」
「はい。もょもと様、私のことは、プリン、と呼び捨てて下さい。
私はもょもと様の『所有物』ですので、王女などと飾られては示しがつきません」
『………と納得した直後、前言を撤回しなければならなくなった。どうやら彼女は、ある意味最も俺の理解の及ばない所にいるらしい。
さて、紆余曲折あったが、本日をもって俺とランド、そして「プリン」という三人のロトの末裔が揃った。だが俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ。二人を失わぬよう、これから先はより一層気を引き締めてかからなければならない。 〆』
おお!遂に3人揃った!
ゲームでも王女がいると行動半径が拡がるんだよね〜
これからの展開に期待してます
それにしても、挿絵スゲーwww
プリンキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
でも・・・
な ぜ 裸 じ ゃ な い ?
んテテテテテテテ んテテテテテテテ
テレレレテレレテレレレテレレレレーンレーン♪
プリンさん…まさかキモウト系?
●第10話 『それぞれの食生活』
『□月○日 プリンと合流してから二週間が経った。
順風満帆、とはいわずとも、特に失敗らしい失敗もなく、俺はここまで、確実に旅に必要な材料を揃えて来た。
だが油断をするわけにはいかない。いくら順調な旅路とはいえ、予想外の出来事というものはそういう時にこそ起きるものだ。
それを完全に防ぐことは出来ないが、対処の精度を上げることは、日々の鍛錬を怠らなければ難しい話ではない。
今の俺の場合は、一刻も早く、三人で行動する際の、他の二人の呼吸を把握することがそれに当たる。
…俺は戦闘における連携の経験など皆無に等しい。全ての標的を単独で撃破することが、絶対不変の試練として育てられてきたからだ。
そんな俺だからこそ、自分の変化はよく分かる。ランドと二人で旅を始めてからの戦闘、僅か、ほんの僅かだが、彼が一人増えたことで、俺の呼吸は変わった。
俺は彼の力を戦術に組み込んではいないが、彼の身を護るつもりではいた。それだけでも、呼吸は乱れたのだ。
戦列を共にする人間が一人増えるだけで、こうまで空気が変わるものかと、俺は内心で驚いた。
今はもう慣れたが、戦闘の専門家である俺ですら自分の呼吸に戸惑ったのだ。ひ弱なランドや女性であるプリンに、不慣れな三人連携を旅先でいきなり成功させようという試みは、あまりにもリスクが大きい。
そう判断し、彼らにこの顔ぶれで行動する際の各々の呼吸に慣れさせ、且つ、俺も二人の行動の癖を覚えて援護に役立てる目的で、ランドと合流したときのように再び、腕試しを提案したのだ』
「―――それなら、丁度良い場所があります」
『魔物の強さは今とそれほど変わらず、それでいて旅と呼べる程度の期間、拠点を離れて行動することになる出先はないだろうかと、この土地の人間であるプリンに訊ねたところ、彼女は殆ど考える素振りすらみせず、即答した。
彼女はムーンブルクの城から東の山奥に、風のマントなる宝が隠してあることを教えてくれた。マントは高い塔のどこかに眠っており、又塔そのものも、山や森、海岸など様々な入り組んだ地形を、決まった道順で進まなければ辿り着けない場所にある、とも。
元々その塔はムーンブルク王家が作った魔法の道具を保管するために建てられたのだそうだ。
だが、作った場所があまりに遠く且つ複雑な道を辿らなければならなくて不便すぎるということで、保管されたのはその風のマント唯一つなのだということだ。
俺はそのマントを回収しておけば何かの役に立つかもしれず、同時に彼女の話を聞く限りそれなりの難所ではあるようだとも思い、次の目的地をその「風の塔」に決め、ムーンペタを出発したのだった。…かくして今日、無事、俺たちは風の塔に到着した』
「や、ああああああっ!!」
『ランドの手にする鉄の槍が、掛け声と共に、大きな半円を描いた。
薙ぎ払う先端が空中のタホドラキーの羽にぶち当たる。その衝撃で、奴は錐揉みしながら明後日の方向にへろへろと落下していった。
俺は奴が地面に落ちる前に、追い討ちに止めの一撃をくれてやった。抜刀と同時に投げつけた銅の剣は、その烏兎を正確に貫き、塔の床に突き刺さった』
「…大分慣れたようだな。空中の敵に当てたのは初めてだろう。いい傾向だ」
「はぁ、はぁ。はいっ…ありがとうございます、にーさま!」
『自分の身長よりも高い丈の、長柄の武器を握りなおしながら、ランドは額の汗を拭う。
…三人で行動するようになって、三日もした頃だろうか。野営をし、今から床に着こうというその時、彼は火の番をしている俺に問いかけてきた。
自分が扱うのに最も適した武器は何か。それを自分に使わせて欲しい―――と。俺はその質問に、槍だ、と短く答えた。一ヶ月、彼の戦いを見てきた上での結論だ。
棍棒。銅の剣。鎖鎌。いずれも扱いに、強い腕力や高い技量が要求される武器だ。貧弱な体躯と、埋めがたい経験不足を抱えるランドが使うものとしては、不向きな代物だといえる。
だが、彼にもまともに扱えるだろう武器はある。それが槍だ。
種類も少なく、魔剣や聖剣のような派手さもないが、世界で最も製造され、様々な国の兵士に慣れ親しまれている武器である。それはそのまま、槍という武器の扱いやすさ・堅実さ、信頼性の表れであるといえる。
武器市場だけ見れば、最も種類が充実しているのは剣だろう。だがそれは、それだけ使い手の選り好みが多岐にわたる不安定さを表している。そして、剣という武器は一般の認知度の高さに反し、とても扱いが難しい。
取っ組み合いの超近距離戦ではナイフ類の小回りに敵わないし、かといって間合いの離れた状態での牽制範囲も槍には及ばない。悪く言えば中途半端な武器だ。
だが、それは裏を返せば、使い手の技量さえ伴えばあらゆる局面でその性能を発揮できる汎用性を示している。
人間だけを相手にするのならいざ知らず、俺たちの敵には体の硬い魔物も沢山いる。そういう相手にナイフで挑むのは、決定打にかける。
更に槍も、決して万能な武器ではなく、例えば屋内戦や洞窟などの狭い場所では、その長身のせいで取り回しに制限が課される。
だが、剣であれば、腕次第でそのいずれのケースにも対応することが出来る。俺はその自信があるから、好んで剣という武器を使う(勿論、必要に応じて他の武器も使うが)。俺は旅先で起こりうる、あらゆる種類の戦闘を想定しなければならないので尚更である。
しかしランドは別だ。彼の力では、剣をまともに扱うのですら至難といえる。
だから俺は、彼の非力と経験不足というハンディキャップをかなりの所まで突きかえせる扱いやすい武器として、槍、という答えを導き出した。
以来、俺は新しく町で調達した鋼の剣を使うようになったため仕舞っていた鉄の槍をランドに譲り、彼のやりたいようにさせている。
実際、これはよい采配だったと思う。彼は一戦を交えるたびに、槍の扱いに関する疑問を俺にぶつけ、俺の返す助言どおりの鍛錬を積んできた。結果、ムーンブルクの魔物程度が相手なら、戦いと呼べるくらいの動きをするようになってきている。例えば、そう』
「払い千本まで、あと五百回ですっ」
「もう半分か。焦って体を壊すことがないよう気をつけろ」
「はいっ」
『彼は嬉々として、俺の言いつけた数字までの道のりを、こうして報告するようになった。
俺は彼に、とりあえず槍による「払い」だけを千回こなしてみろ、と助言した。
槍の攻撃は、「突き」と「払い」に大別される。
このうち「突き」は、破壊力に優れるものの、その威力は使い手の腕力・瞬発力に大きく依存する。更に狙った場所に命中させるのも、あらゆる武器の中でもかなり難しい部類に入る。いずれをとっても、今のままのランドが使うには不向きだ。
よって俺はもう一方、「払い」を、攻撃が当たらないと漏らした彼に推奨したのだ。
俺が槍の扱いやすさを認めるのは、この「払い」の存在があるためである。
これは槍に限らず、長柄の武器―――ポールウェポン全てに共通することだが、これらの武器の最大の強みは「角運動量による破壊力の増大」だ。
取り回すために掴んだ手の位置から、重心のある先端が離れていればいるほど、振り回し衝突させる際上乗せされる威力は跳ね上がる。
これにより、最低でもその武器が重くて持てない、などということがない限り(つまり振り回せさえすれば)は、どんなに非力な使い手でもある程度の威力が保証されるというわけだ。
加えて「点」でなく「線」の攻撃のため、狙いもそれほど緻密さを要求されない。
勿論然るべき加速を載せて放つ「突き」にはその威力は及ばないが、それはランドには望むべくもない。だから彼には、一先ず「払い」だけを修練させているわけだ』
「今の群れは、あれで最後みたいですね」
「あ、プリンさん」
「お疲れ様です。痛いところ、ありませんか、ランドさん」
「ありがとうございます。ボクはまだ、大丈夫です」
『乱戦が終わったと見て、最前線から離れたところにいたプリンが俺たちのところに戻ってきた。
ランドに対する手当ての打診に無事を主張され、彼女はそうですか、とだけ答えて微笑んだ。その佇まいは極めて落ち着いたものであり、一戦を終えた後だというのに息一つ乱れていない。
いくら彼女が後方支援に徹していたとはいえ、これほど多くの戦闘に遭遇し続けて平静でいられる者はそうはいない。
―――ムーンブルクの王女、プリン。俺は彼女の戦闘を数回も観察したところで、すぐにその並外れた精神力に気付かされた。
華奢な体つきに反し、彼女の心は戦士のそれだった。
彼女はムーンペタの宿で、呪文の専門職だと自己紹介をして語った。確かに、彼女の呪文の腕はランドよりも上だった。だが、それは俺にいわせれば、付属物に過ぎない。
俺が彼女を最も評価しているのは、彼女がどこまでも自分の戦い方を理解していることだ。
三人で街を出て、マンドリルの群れに遭遇した直後のことだ。彼女は事前に戦闘に関する詳しい相談も打ち合わせもしていなかったのに、俺が最前線を確保するよりも素早く―――瞬時に、とすら表現していい速度で―――後退し、呪文による援護を始めたのだ。
敵を見てからの、彼女の反応。それまで空をゆったりと旋回していた鷹が、獲物を見つけて突如として加速したような変貌。同じ安定した精神状態でも、その呼吸の切り替えは、一流の戦士を引き合いに出しても劣らないものだった。
彼女は、一瞬たりとも敵から目を離さなかった。恐怖や動揺から、反射的に体が動いたのでないことは明らかだった。
彼女は知っているのだ。自分の身体能力では、乱戦に巻き込まれては一たまりもない、それどころか俺の邪魔になってしまうことを。その現実を受け入れていればこそ、何の迷いもなく身を引き、自分が得意とする呪文を最大限に行使できる状況を作るのだ。
実際、彼女の扱う呪文は大勢の敵を相手取ることを主眼としたものばかりだ。一度により多くの敵を効果範囲に捉えるという意味でも、彼女が自分の力を活かすのなら、集団から離れた位置を確保するのは正しい判断といえる。
単純な身体能力そのものは確実に俺の方が上だが、恐らくは他者との連携・他者への援護を前提として練磨してきただろう彼女の戦闘速度は、このパーティにおいて俺を凌駕する結果となっている。
俺は一朝一夕で身に付くものではない、確かな鍛錬に裏打ちされたプリンの動きに、一人の戦士として素直な賛辞を述べた。だが、彼女は静かに微笑んで、光栄です、と返すだけだった。
彼女とて、今の自分のまま止まるつもりはないのだろう。簡潔な返答は、より自分の力を磨く努力を心がけている表れに違いない』
「………」
「何か気になることでもあるのか?」
「もょもと様。…はい、少々。個人的な些事で恐縮なのですが、彼の変化に驚いていました」
『そんなプリンが、未だ先程の感覚を忘れまいと槍をいじり続けるランドに、何故だか熱心な視線を注いでいた。
俺は彼女が彼に対して不信でも抱いているのかと思って訊ねると、当の本人はその口ぶりとは裏腹に全く驚いた風には見えない素振りで静かに、そう答えた』
「私の知るランドさんは、確かに一途な努力家ではありましたが、このような命のやり取りに関しては及び腰な方でした。
それが、今では精力的にああして魔物と切り結ぶ経験を積んでいます。私と暫く会わない間に、どういった心境の変化があったのかと、この二週間ずっと考えておりまして…」
「俺は君の知るランドとやらを見たことがないから、それに関しては何もいえん。
だが少なくとも、俺が出会ったばかりの頃の彼はまだ、積極的に魔物どもとの戦闘をするような性格ではなかった」
「そうなのですか。では、きっともょもと様から何らかの刺激を与えられてのことなのでしょうね」
「俺からの刺激か。彼に俺の技術から感銘を受けるだけの素養があるようには思えないが」
「ランドさんも男の子、ということですよ、もょもと様」
『相手の強さの本質を読み取るには、本人も相応に、武芸に精通している必要がある。
その摂理からいって、ランドが俺の戦闘技術から得るものがあったとは考えがたいのだが。
それを口にしたら、プリンは何が可笑しかったのか、くすりと笑って、よく分からない結論を告げた』
「ランド、そろそろ先に進むぞ」
「はいっ、にーさま」
『槍を握りなおして頷くランドに声をかけ、俺たちは塔を上り始めて六つめの階段に足をかけた。後に続く二人の足取りは、流石に鈍り始めている。内部に巣食う魔物との連戦をこなしながらなのだから、無理もないが。
…一応塔の持ち主であるはずのプリンは、実際にこの塔に訪れるのはこれが初めてで、風のマントがこの塔のどこにあるのか詳細な情報は知らなかったようだ。
だが大雑把な見取り図だけは昔見たことがあったらしく、中の階段は偽装で、塔の中枢に入り込むには外壁を囲むように作られた目立たない階段を上らなければならないという話を聞かされた。
そうしないと複雑に入り組んだ構造の部屋と階段を縦横無尽に回り続ける羽目になるのだとか。…そのおかげか、俺たちは塔の外周を上り進むのに、殆ど一本道といっていい道筋を辿り、ここまで上る事が出来た。
もし彼女がこの情報をもたらさなければ、彼らはもっと消耗していただろう。この程度で済んでいるのだと、喜ぶべきところか』
「わぁ…すっごく高い」
「もう七階だからな。頂上も近い。ここまで来て、足を踏み外さないよう気をつけろ」
「はい。でも、いい眺めです。海が、あんなに広く見えます」
『階段と階段を繋ぐ回廊の途中、左手には視界一杯に広がる森、山々。その向こうには水平線まで見える大海原。
それが余程気に入ったのか、ランドは暫し足を止めて、感慨深げに景色を目に焼き付けていた。
…俺は、この進入経路が限定された空間なら、魔物の襲撃の心配も少ないと判断し、疲労が溜まっているだろう二人に提案した』
「丁度いい。この辺りで食事にしよう」
「え?」
「景観のいい場所でとる食事は通常より優れた効用を発揮すると聞いている。
君がこの景色を気に入ったのなら、ここでの食事が最適だと思ったのだが」
『あくまで一般論としての知識だが。俺には景色で食事の優劣が左右されるなどという話は実感が沸かないことに、変わりない。
だが、ランドは俺の言葉にぱぁ、と表情を明るくし、嬉しそうに答えた』
「…は、はい!ありがとうございます、にーさまっ」
「プリンもそれでいいか」
「いいも何も。私はもょもと様の御意思に従います」
『恭しく首肯し、荷を解き手持ちの食料を取り出し始めるプリン。ランドも殆ど同時に、腰を下ろす敷物を広げ、綺麗な正方形で石の床の一部を覆った。
そうして二人は出来上がった即席の食卓に座り、水筒の水をそれぞれに口にした。俺はというと、彼らから少しだけ離れて、手持ちの麻袋を漁る作業に入った』
「にーさま?こっちに来て、一緒に座らないんですか」
「俺はいい。気にせず、ゆっくり休むといい」
『長丁場に備え、ムーンペタで大量に用意した燻製肉をもくもくと齧りながら、ランドは俺のほうに同伴を勧めた。
俺は袋の中身を漁りながら答えるが、ランドはそれでも気になるのか、立ち上がって俺の方に寄って来た』
「何してるんですか?」
「座っていた方がいいぞ。…驚いて下に落ちられたらお互い、困る」
「え。どういう…わ、うわわわぁっ!!」
『俺が手を突っ込んでいる袋の中身を覗こうと身を乗り出したランドが悲鳴を上げて飛びずさった。俺の右手に首を掴まれたキングコブラが、彼に向かって威嚇したのだ』
「にーさま、なんですかそれっ!?」
「俺の食事だ。殺すと鮮度が落ちるからな、生け捕って持ち歩いていたんだ」
『怯える彼に説明しながら、俺はまだうねうねとのたうつ蛇の首筋に歯を立て、食いちぎる。一瞬だけばたばたと暴れたが、それでキングコブラは動かなくなった』
「…下のフロアの戦いで、倒した魔物の数が足りないと思ってたらそんなことしてたんですか…」
「気付いていたのか。成長が伺えるな。…ぷっ」
『ランドは半ば呆れるような顔で俺の食事を見つめていたが、俺は構わず咀嚼を続け、小骨を塔の縁から下に吐き捨てた。
一方でプリンのほうは、水筒を両手で包み、暢気そうに景色を眺めながら中身を啜っている。こういう彼女の姿を見ていると、戦闘時にあれほど鋭敏な動きをする少女だとはとても思えない』
「あの、にーさま。そういうのじゃなくて、ちゃんとした食事はとらないんですか?その、まだ食料には余裕があると思うのですけど」
「そうかもしれん。だが、万が一ということもあるからな。節約はするに越したことはない。
俺は野外生活の経験も多分に積んでいるからこうした食事も出来るが、君やプリンに食料が尽きたからと、同じことをさせるわけにはいかないだろう」
『俺が説明すると、ランドは言葉を詰まらせ、押し黙った。彼は暫く視線を床に落としていたが、やがて右手に持っていた燻製と俺の手の蛇を交互に見比べて、ずいと身を乗り出し、いった』
「これ、どうぞっ」
「む。…むぐっ」
『同時に、俺は口に彼の食べかけの燻製を押し込まれた。ほどよい塩分が、俺の口内を満たした。
突然のことに少し戸惑ったが、貴重な食料を吐き出すわけにもいかず、俺はそのままそれを嚥下した』
「…何をする」
「にーさま、それ、ボクにも食べさせてくれませんかっ?」
『有無を言わせぬ調子でいいながら、ランドは俺の手の中でぐったりしている蛇の亡骸を指差した』
「構わんが。どういうつもりだ」
「…だって。だって、にーさまにだけそんな苦労をさせて。プリンさんは女の子だけど、ボクも男なのに、にーさまに助けてもらってばっかりで。少しくらい、にーさまの苦労をボクにも背負わせて下さい…!」
『何故だかとても悔しそうに、ランドはいった。…ときどき、彼はこうして必死によくわからない主張をする。
俺は別に、こんなものを苦労だなどと思ったことはないのだが。慣れれば蛇の味も乙なものだ。
だが、キングコブラの肉は臭みはともかく、骨と繊維の方はランドには辛かろう。彼の燻製を頂いてしまった以上、確かにこれを彼に譲るのが道理なのだろうが―――などと思考を巡らせた』
「分かった。暫し待て………」
「にーさま?」
『暫く考えた末、俺はキングコブラの肉をいくらか食い千切り、自分の口の中で磨り潰した。そうして、』
ttp://rainbow.sakuratan.com/data/img/rainbow103365.jpg 「―――んっ!んうぅっ!?」
『俺はランドの口に自分の口を重ね、骨を取り除き、繊維を引き裂いた蛇の肉を口移しで押し込んでやった』
「ん、んく、う、ん…けほっ…何するんですかっ!!?」
「どうだ。いけそうか」
『目を丸くして、それでも口の中身はしっかりと飲み下してから、叫ぶランド。俺も口内に溜めておいた小骨を吐き捨ててから、彼に問い返す』
「〜〜〜…もう、知りませんっ」
505 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/09/26(土) 19:55:04 ID:8PzcQ4N40
支援
『何が気に障ったのだろうか、ランドは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった』
「…プリン。俺は何か、不味いことをしてしまったのか」
「そうですね。断りなく人の唇に自分の唇を重ねる行為は、余り好ましいものではありませんから」
『道中の森で集めたリンゴを丁寧にナイフで切り分け頬張っているプリンに問うと、彼女は苦笑しながらそう返した。そういうものなのか。
…確かに、後で彼の唇に触れた時の感覚を意識して思い出してみると、何ともいえない、酷く後ろめたい何かが滲み出てくるような気がした。俺は本能で、これがよくないものだと判断し、今後は同じミスをしないことを心に誓った。
その後、俺は機嫌を悪くしてしまったランドに、最上階で見つけた指輪を与えてやった。
それでも彼はまだ少し拗ねていたようだったが、俺が二度とあんなことはしないと誓い謝罪すると、「ボクの方こそ、突然あんな我侭いってごめんなさい」と萎縮したように頭を下げた。この一件はそれきりだ。
そして風のマントも、その後暫くの探索で無事発見することができ、俺たちは用意しておいたキメラの翼でムーンペタへと生還を果たしたのだった。 〆』
以上、第十話でした。今週は今週で古い職場の送別会に出るのでまた早い投下です。
糞長い解説回で退屈なこととお思いかもですが、それを帳消しにするくらいの一品を絵師様から賜りました。多謝!
そして「もっと他に言及することあるだろう」という声が聞こえてきそうなのを全力でスルーし、今作でのプリンさんの位置づけについて少し補足。
何気に三人の中では一番素早さが高いプリンさん。
あれは彼女の単純な身体能力でなく、脳へ入力された情報に対応する頭と体の反応・判断などの情報処理能力がやたらに迅速なこと。
そして後方に下がるから戦況がよく見える上、敵の妨害がないから、意図した行動をスムースにとれることに起因するんじゃねぇかなぁ、というのが今作での解釈です。
それといつもの期限切れ対策。この一週間で格納作品の様相が変わってますが、基本的には今までどおりの感覚でご覧になれるかと。
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=6352795 思い出したようにいくつかのコメントにお返事。毎度励みになっとります、ありがとうございます。
>人間種の敵について
原作グラみると、鳥山氏の描く魔族の暗黙の了解である「指四本の法則」が2の彼らには適用されてるんですね。
だから彼らはやはり魔族が人間じみた格好をしていると見るのが正しいのでしょうが、同時にローレシア地下のマップではどう見ても人間グラなアイツや、SFCペルポイの牢屋に居るじーさんなど、純然たる人間の邪教とってのも少なからず確認できます。
だから全員が全員とはいわないまでも、ハーゴンの軍勢には(社会を裏から侵食する意味でも)何割かは確実に人間勢が混じってると俺はみてます。
>>492 ホントにねぇw Pixivに投下してものの一分で60点がついたときは噴出しましたw
流石、DQFF最萌の覇者、食いつきが違うっ。
>>493 大人の事情と、あと俺がロト印のローブの調達先として納得いくエピソードを思いつかなかったってのが最大の要因です。
すっげー後の方でサービス回があるからそれで許してくだしあw 裸よりも半裸やチラ見せのがエロイ。そう思いませんか?
>>495 プリンさんは出来る子ですよ? 度胸も能力も伸びしろも一級品、空気も読める、それとおっぱい。おっぱい。
強いて足りないもんがあるとすりゃ実戦経験くらいですが流石にもょもとと比べんのは可哀想ですw
>>504 「衝撃」のシーンの後ろでのほほんとゴクゴクやってるプリンさんかわいいw
ほのぼのし過ぎワロスwww
もょもとさんとランド君、薄々予感がしたと思ったら早々にやっちゃったー!!??(///)
ランド君の武器が槍って事はFC版準拠でしょうか?確か彼の最強装備でしたよねアレ。
でも挿絵のプリンさんはSFC準拠だぬ
指輪が伏線になりそうですね
●第11話『未知への一歩』
『□月×日 この記録が提出され、目を通されているということは、俺たちは無事、ルプガナへと辿り着いたということだろう。
三人での戦いの具合を粗方試し終えた俺たちは、いよいよムーンブルクの地を後にし、ハーゴン征伐への旅路に戻ることにした。
ムーンブルク城の西、ロト御三家の治める土地と他の国とを陸路で繋ぐただ一つの祠を抜けると、そこには巨大な砂漠が広がっていた。
話には聞いていたので十分な量の食料と水を用意してきたつもりだが、ランドやプリンの体力が砂漠越えにどの程度耐えることが出来るか。
見渡す限りの砂の大地を前にそんな危惧を抱いた俺だったのだが、ランドの表情は何故か明るいものだったし、プリンのほうも普段とまるで変わらぬ落ち着きを保っていた。
俺は二人が砂漠の旅を甘く見ているのではないかと一応の忠告をすると、それぞれランドは慌てて謝り(尤もすぐに元の表情に戻ったが)、プリンは微笑み「ご心配には及びません。女は辛抱強い生き物ですから」などとよく分からない言い分を述べた。
二人が慢心しているにせよ、本当に覚悟を据えているにせよ、判断するには言葉を重ねるより体験させた方が早いと見て、俺は星の出る夜を待ち、砂漠へと足を踏み出したのだったが―――』
「…ランドは寝付いたか」
『その心配は、どうやら杞憂だったらしい。
その夜、俺はランドがテントの中で寝袋に包まって横になっているのを確認してから、覗き込んでいた首を引っ込めた。
…砂漠に足を踏み入れて四日、俺たちは無事、さしたるアクシデントも起こさず砂漠の中間地点のオアシスに辿り着くことが出来た。
砂漠の環境は苛酷だ。日中は激しい日差しが照りつけ体力を奪われる灼熱の世界。日が沈めば昼間の熱砂が嘘のように冷たく変わる極寒の世界。その落差は、想像以上に人間の生命力を削ってゆく。
だというのに、二人は泣き言一つ吐かずに俺についてきていた。
何が起ころうと泰然自若としているプリンが膝をつき弱音を吐いている所を想像できないのはまだしも、驚くべきことにランドもまた、彼女同様、へこたれずに魔物と戦いつつ、一度も倒れることなく食らい付いて来たのだ。これは嬉しい誤算だ。
とはいえ流石に、野外生活に慣れていないランドと純粋な肉体の強さには難があるプリンでは、消耗は少なくない。落差の激しい気温や呼吸の阻害、視界の混濁に大きな影響を及ぼす砂のおかげでろくに休まらない日々が続き、二人の動きは鈍ってきていた。
そうしてきたところで丁度オアシスに通りかかったのは、僥倖だったといわざるを得まい。水も木陰もあるここなら、ある程度の水準の休息が約束されるだろうと、半日足を止めることにしたのだ。
俺はテントを離れ、オアシスの池へと足を向けた。薄く緑が見える土に腰を下ろす、彼女の姿を見つけたからだ』
「プリン。眠らないのか」
『脇に立ち、彼女の名を呼ぶ。だが、彼女はそれに返事をせず、ただ池に向かい、空を仰いでいた』
「プリン」
「月を」
『もう一度名を呼ぶと、今度は殆ど同時といっていいタイミングでプリンが呟いた。
視線は未だ空を見上げたまま、ただ静かな声だけが聞こえた』
「月を、見ていました」
「…月か」
「はい。安らぐんです。こうして、静かな夜に月を見ていると」
『そう語る彼女の視線を追って夜空を見上げる。曇りのない新月が、鮮やかな弦を描いていた』
「…君の血のせいかもしれん。確か、ムーンブルクは月に連なる者だったはずだが」
「仰るとおりです。ロト御三家の一。ムーンブルク。受け継ぐ真名は、ラル―――『ラルバタス』
…月と女性を象徴する古い言葉です。ですが、それも今は私一人を残すだけになってしまいましたね」
『そういいながら、プリンは空を仰いだまま、僅かだけ口元を緩めて、力なく笑った。彼女のそうした弱々しい笑顔を見たのは、それが初めてだった。
思えば、彼女は親族や家臣、拠り所となる住まいすらを一度に失い、自身も性質の悪い呪いをかけられ路頭に迷っていたのだ。ロトの末裔とはいえ、その境遇は俺から見ても決して哀れの一言で片付けていいものではない、悲惨なものだ。
だというのに、彼女は元の姿に戻ってからというもの、己の境遇や邪教に対して怨嗟も愚痴もこぼさない。彼女の中でどういった思いが渦巻いているのかは俺には分からなかった』
「…案ずる事はない。俺が一緒にいる限り、君が死ぬことはない」
「はい?」
「俺が君を守るからだ。ムーンブルクの血が絶えることはない」
「………」
『分からなかったので、ただ俺の意思を率直に伝えることにした。
プリンが自身に流れる一族の血が断絶されることを危惧しているというのなら、俺は俺がいればその心配は要らない事実を告げるまでだった。
だが、彼女はこれもまた今日初めて見せるものだろう、素っ頓狂な声をあげ、傍らの俺に視線を移した。そして何が可笑しかったのか、』
「…ふふっ」
『やがて、静かに破顔した』
「どうかしたのか」
「いえ、申し訳ありません。もょもと様のお気持ちに、失礼ですね。大変嬉しく思います。
ただ、少しだけ驚きました。もょもと様、ランドさんとは頻繁に意見交換をしますのに、私とはあまりお話をして下さらないので。てっきり私に女性としての魅力がないのだと自信をなくしかけていました」
『微笑を浮かべたまま、プリンはまたよく分からない言説を語り始めた。
ただ、よく分からないながらも、彼女の言葉が凡そ俺の意図とは別の解釈の元に紡がれているらしい事は、本能的に理解できた』
「待て。プリン、君は何か誤解をしている。
君がどういった意味で俺の言葉を受け取ったかは知らないが…とりあえず、俺は君の性別に重きを置いて今の発言をしたわけではない」
「まあ、そうなのですか。残念です」
「…どうやらさっきの物言いは、誤解を招く言い方だったらしいな。申し訳ない。今後は改善する。
だが、一つだけ言っておく。君は、俺が君に魅力を感じていないから意思疎通を図ろうとしないと思っているようだが…その。それは、前提が成立していない」
「はい…どういうことでしょうか?」
「俺は、女性に対して…いや、それ以前に男女全てを含めてすら、魅力の有無で接し方を変えるような真似はしない。
そしてそもそも、俺は君のいう『女性としての魅力』という奴がどういったものなのか、よく分からない。
ついでにいえば、君は俺が自分の伴侶になるといっていたが…俺は君に、世間で言われているような夫としての愛情を与えてやれる自信もない」
『そう。巷を、町を、世間を、いつ如何なる時も席巻する、どこの男とどこの女がどうなったという、恋愛沙汰。
それに必ずといっていいほどついて回る、各々の性別の魅力の話。
俗世の常識というものを学ぶ過程で山というほど聞かされたが、ついぞ俺がその恋愛というものに興味を示す事例はなかった。
会話の礼節や賃金のやり取りなどならいざ知らず、それが俺の役目に影響を及ぼすとは、到底思えなかったからだ。
俺が包み隠さずその事実を告げると、プリンは暫くきょとんとしていたが、やがてまたくすりと微笑み、言った』
「そんなことを心配なさっているのですか。それなら問題などありません。
大丈夫です、いずれもょもと様を、私と生涯添い遂げる心積もりにさせる自信はありますから」
「…そうなのか」
「そうなのです。そちらのほうは、お任せを。もょもと様はお気になさらず、ありのまま振舞っていて下さい」
『豪く強気に、プリンは断言した。…恋愛に関して素人の俺には分からない高度な算段が、彼女にはあるのかもしれない』
「それよりも、私は気になることが少しあるのですが…宜しいでしょうか」
「なんだろうか」
「もょもと様は性別や魅力で、接し方を変えたりはしないのですよね」
「そうだが」
「では、もょもと様は何故あれほど、ランドさんと密に言葉を交わすのでしょうか」
『唇に指を当て、考える仕草をとるプリン。何故だかとても、人聞きの悪い物言いだった気がした』
「性別や魅力ではない要素でなら、接し方が変わる。それだけの話だ」
「ああ、成る程。その考えには至りませんでした」
「彼は頻繁に俺に話しかけるからな。君も意見さえくれれば、誠意ある対応をするつもりだ」
「そうなのですか。有難うございます。…けれど、当分は遠慮しておきますわ。
大事な『にーさま』をとってしまっては、ランドさんに恨めしがられてしまいますから。
…それに、もょもと様自身も、彼を気にかける理由は他にあるのではと思いますし」
「………まぁ。手のかかる男ではある。力もないのに、俺と肩を並べて戦いたがる。
俺が面倒を見なければ、いつ命を落としてもおかしくない。彼に死なれては、俺も困るしな。やらざるを得んというだけだ」
「けれど、見違えるように逞しくなりました。私の記憶にある彼では、考えられないほどに。そして今も尚、変わり続けています。
一番近くで見ているもょもと様なら、私などよりもっと、彼の成長を見て取れているのではないでしょうか」
「そうかもしれん。…だが、力以前に、彼の甘さは戦士として致命的だ。俺と並んで戦える時が来るとすれば、まだまだずっと先の話だ」
『プリンの彼への総評に、俺は何かもやもやとした引っ掛かりを覚えていた。理由は解らない。彼女との会話は、解らない事だらけだ。
口を突いて出るのは、ランドへの批判ばかり。それらは全て事実だが、同時に俺らしくもない物言いだったことも、薄々気付いていた。
そんな俺の内心を見て取ったのか、プリンは徐にまた、空の月へと視線を戻した』
「…そうでしょうね。まだまだずっと先…の話ですね」
「プリン」
「少し、喋りすぎましたね。私はもう少しだけここで月と一緒にいます。
…ご心配には及びません、私にとっては、これも休息の一種なのです」
『それきり、彼女は口を開かなくなった。
プリンは体調管理や生死に関わることでつまらない遠慮はしたことがない。その彼女が自分でそういうのなら、きっとそうなのだろう。
そう結論して、俺はテントへ向けて踵を返した』
「………」
「…ランド。すまない、起こしてしまったか」
「………やっぱり、分かっちゃいましたか?」
『テントに入り、寝袋に包まって横たわったままのランドの脇に腰を下ろし、俺は彼に謝罪した。少しだけ彼の呼吸が止まる気配を感じたが、やがて寝返りを打ってこちらを向き、ばつの悪そうな返事で応えた』
「不自然に息を殺しすぎだ。狸寝入りを決め込むのなら、もう少し気持ちを落ち着けろ。
…俺でなくとも、勘のいい者にならすぐ気取られるぞ」
「ふふっ。はい、気をつけます」
『先ほどのプリンとの会話の調子が抜けきっていなかったのか、その時の俺の口調はまだ少し辛辣だった。だが、ランドは横たわったまま、少し嬉しそうにはにかんだ。
これだ。祠を抜けてからというもの、ランドはずっとこの調子だった。
今のところ実害はないが、原因如何によっては今後足元を掬われる事になるとも知れない。俺は万一を考え、せっかく久しぶりに二人きりで会話をする機会が巡ってきたのだからと、理由を訊いてみることにした』
「ランド。君は、砂漠の旅がそんなに楽しいのか。このところ、随分機嫌がよさそうだが」
「あ…やっぱり、そう見えてしまいますか?」
「これだけ頻繁に笑顔を見せられれば、な。よければ、理由を訊かせて貰えないか」
『ランプの淡い光に照らされるランドの顔は、少しだけ申し訳なさそうに沈んだ。彼は俺の問いかけにややどう答えたものかと迷っていた風だったが、やがて、意を決したように顔を上げた』
「ごめんなさい。危険な旅なのに、浮ついているように見えてしまったのなら、謝ります。
にーさまは、ボクらのことをいつも心配してくれているのに。
ただ、その。ボクは別に、砂漠を歩くのが楽しいわけじゃ…あ、ううん。違うとも、いいきれない、かも…」
『だが、彼はすぐにまたごにょごにょと歯切れの悪い言葉を残し、俯いてしまった。…何だか要領を得なかった』
「何だ。やはり、話しづらいことなのか」
「いえ、そういうわけじゃ。…そうですね、単刀直入にいいます」
「そうしてくれると、助かる」
「はい。ボク、外の世界に行くのが、楽しみなんです」
『そういって、ランドは満面の笑みを見せた』
「ボク、小さいころからずっとお城の中で生活してて、たまに外に用があるときでもお父様たちと一緒で、御三家の領土の中でしか出かけたことなんか、なかったんです。
だから、これから他の国や、知らない町に行ったりするかと思うと、とってもわくわくして…」
「…成る程。では、この砂漠もその一環というわけか」
「はい。ですから、さっきのにーさまの、砂漠の旅が楽しいかーっていうのも、否定し切れなくて。
本当言うと、今夜もまだ興奮して、ゆっくり寝付けなかったんです」
『子供みたいですよね、などとばつが悪そうに苦笑しながら、ランドはいった。俺はそれに、知らず安堵していた。先ほどのプリンとの会話を、万が一にも彼に聞かれていたのではないかと、心の片隅で危惧していたのだ。
…全く、最近の俺はどうかしている。ランドに聞かれて困る会話など、どこにあったというのか。彼と話していると、時々、酷く調子が狂う。俺はかぶりを振って、彼との会話に意識を戻すことにした』
「にーさま?頭、痛いんですか?」
「なんでもない、気にするな。…しかし、俺にはよくわからないな。未知の土地というのは、そんなに面白いものなのか」
「あはは、にーさまなら、そういうと思いました。…やっぱりにーさまは、色んな所に行かれた経験があるんですか?」
「俺も君と大差はない。人生の殆どは、ローレシアの領土で過ごしている。
だが、そうだな。…もう三年も前の話だ。明確な地名は知らないが、一度外の世界に出たことはある。
…ローレシアには、古い『旅の扉』がある。海の真ん中の断崖の孤島に繋がる扉だ。そこに放り込まれて、島で一人で一週間生き延びて来い、といわれたことがある」
「うわぁ。それで、どうだったんですか?」
「どうもこうも。穴を掘って蚯蚓を捕まえて食べたり、自分の小便を水分補給のために細工して再利用したり、叩き込まれた生存技能を尽くして生き残ったまでだ。
蚯蚓は存外に栄養価が高いから、野外生活ではそれなりに有用だぞ、憶えておくといい。…そんな顔をするな、何も無理に食えといっているわけじゃない」
『話を聞くにつれて見る間に顔を青ざめさせてゆくランドに、一応の注意をしておく。彼やプリンにそんなことをさせても生兵法でしかない。…なんとなくプリンなら平然とやってのけそうな予感が頭を過ぎったが』
「すごいんですね…ローレシアの方って。若いときからそんな過酷な訓練をするなんて」
「俺たちには呪文の力がないからな。純粋な身体能力しか頼るものがない以上、それを極限まで高め、活かすのがローレシアの流儀だ」
「それでも、やっぱり島に置き去りにされたときは、心細かったですか?」
「いや。当時の俺の技量なら、決して不可能ではないと思ったからな」
「…強いんですね。にーさまは。ボクには、無理です。…たった一人で、命を危険に…なんて」
『何か思いに耽るように、ランドは語尾を濁らせた。俺はそれに、知らず、眉を顰めていた』
「一人が、怖いのか」
「え?あ、いえごめんなさい、声に出てましたか?」
『俺が頷くと、ランドは後半を口に出すつもりはなかったらしく、はっとして顔を上げた。そして、やがて観念したように力なく語りだした』
「本当いうとですね…見たこともない土地が楽しみっていうのは、嘘じゃないんですけど。
それ以上に、新しい土地で、友達が出来たらいいなって、そう思ってたんです」
「とも、だち?」
「はい。ボク、さっきいったみたいな生活だったから、友達も満足に出来なくて。
だから友達を作って、一緒に遊んだりするのが、ちょっと夢なんです」
「………」
「ふふっ。にーさま、今、『さっぱり解らない』って、考えてますね」
「…何故分かった」
『ランドは俺の顔を見上げ、可笑しそうに微笑んだ。彼の言に間違いはなかった。
だが、俺はそんなに渋い顔をしていたのだろうか。表情から思考を相手に読まれるようではいかん。まだまだ精進が足りんということなのだろうと、俺は猛省した』
「まぁ、その、なんだ」
『だが、彼がそういう希望を叶えることで憂いなく戦えるというのなら、俺も出来る限り協力をしてやりたい。そう思い、俺は口を開いた』
「はい?」
「俺では、君の友人になり得ないだろうか」
『俺の提案に、ランドは十秒ほども呆気に取られていただろうか。
だが、その表情はやがて見る見るうちに明るいものに変わり、彼は寝袋から飛び出し、俺に抱きついた』
「ランドっ」
「有難うございます、にーさま!ボク、すっごく嬉しいです!」
「…俺の申し出は、そんなに意外だったか」
「だって、にーさまから見ればボクなんて全然弱くて、足手まといで、対等な立場になんて、見られるはずないって思ってたから…!」
『堰を切ったようにまくし立てながら、彼は俺の胸にぐりぐりと顔を埋める。…何故だろう、とても気持ちが落ち着いた』
「…そんなことを気にしていたのか」
「にーさま?」
「君の言う友人という奴は、戦闘能力の優劣で関係が決まるものなのか」
「………いえ。違う、と、思います」
「ならば問題はないだろう。確かに君は弱い。俺が背中を任せられるほど強くなるのは、何十年後のことかもわからん。
だが、俺と君に差異があるとすればその部分だけだ。そして友人というのは、そんなものとは無関係なのではないか?」
『俺が自分の見解を述べると、ランドは俺の顔を見つめて、静かにはい、と首肯した』
「…そう。そうですよね、にーさま。友達って、そういうものじゃないですよね。やっぱりにーさまは、すごいです」
「俺が世間を見てきた上での事実を、客観的に述べたまでだ。兵と市井の民との間に友人関係が築かれている例は、少なくないからな」
「なんだ。じゃあ、にーさまも、友達出来た事ないんですか?」
「………そうだな。友人。友人か…そういう関係の人間は、いたことがない気がする」
『気がする、などと歯切れの悪いらしくもない言い回しになってしまったのは、少しだけ「彼」や「彼ら」が俺の友人に当たる存在だったかを考えたからだ。だが、いずれの経緯をとっても、そんなことは有り得なかった』
「なら、ボクもにーさまも、初めての友達同士ですね」
「そうだな」
『歌うように華やかに確認し、ランドは笑った。そうして漸く、彼は思い出したように俺から体を離した』
「ごめんなさい、突然。嬉しくて、つい」
「いや。構わない。ところでランド。友人、というのは、具体的にどうすればいいんだ」
「どう…ですか。そうですね…」
『友人関係という奴に実感がない俺がランドに問うと、彼は俺の疑問を反芻するように唸った。…いや考えてみれば、彼も俺と同じ友人関係など初めての人間なので、明確な答えなぞ期待できなかったのかもしれないが。
だが、彼は一生懸命考えた末、思いついたようにそれを口にした』
「そうだ、にーさま。ボクがにーさまの不都合になるような失敗をしたら、これからは遠慮なく叱って下さい」
「叱る?…何故だ。君は戦闘の専門家としての教育を受けてきたわけではない。
君が力及ばないのは恥じることではない。それをカバーするのが、俺の役目だ」
「そうかもしれません。ボクがにーさまより弱いのは、本当のことです。―――でも、友達って、そういうのとは無関係なんですよね?」
「………ん。確かに、そうだ」
「だから、友達だったら、相手の悪いところ、直すべき所を遠慮なく怒るのも、自然な関係なんじゃないかと思うんですけど………駄目、ですか?」
『なんだか、イマイチ釈然としないような気もしたが、何しろ友人というものに対して造詣のない俺では満足な反論も出来なかった。
正直、叱れといわれても、俺はどういうことが叱るべき行為なのかがよく分からない。そういう衝動を抱いたことが、ないからだ。彼に言われるまでもなく、俺はそもそも遠慮などしていない。
だが、それをいっても結局、彼の要求に対する不義理にしかなりえない。こうなれば、俺も模索しながら努力する以外ない』
「分かった。出来る限り、心掛けることにする」
「〜、ありがとうございます、にーさまっ!」
『そう言葉を交わし、俺たちは揃って互いの寝袋に包まった。
そして夜が明け、丁寧に畳まれた三つ目の寝袋が荷物の横に増えていたのを見て、俺はプリンがいつ帰ってきたのか気づかなかったことを知り、最近の自分の鈍り具合に少し頭を抱えた。
砂漠を抜け、海峡を跨ぐ双子の塔に着いたのはそれから更に四日が過ぎた頃だった。〆
※訂正…双子の塔にて予定外の事態発生。以下にこの記録の追記部分を加える』
以上で、第十一話の投下は終了です。
そういえばあのオアシスのとこホントは町が出来るはずだったんだっけ、とか思いながらまるっとフラグ回。
但し今回に限らず、ガチ伏線の中に、ただ原作の再現をしただけのわりとハッタリの伏線も混じってるので先の展開を推理する場合注意が必要そうです。
あと今回、どの媒体準拠かの話がちらほら出てますね。
ですが実はこのゴー勇、FC・SFC・GBC・MSX・携帯アプリのいずれの媒体とも厳密な意味でのシンクロはしてません。
それでも敢えて見解を述べるなら「全部混ぜこぜのごった煮世界」ってのが正解です。
自分は割りと平行世界ネタ好きなので、厳格な「FC版世界」「SFC版世界」とかのほかに、こういうカオスな世界があるのも面白いかもしれんね!という実験のつもりで今回書いてます。
今のところランドのフラグが立ってるねwww
ランドエンド、プリンエンド、ハーレムエンド、それとも・・・
とにもかくにも絶対最後まで読みたい!
YANA氏おつ!
ランドが呪いで動けなくなった時、もょもとがどうするか・・・すごい楽しみ!
プリンの心づもりが気になるw
つかもょもと、こんな手記を残して大丈夫なのか?w
YANA氏乙です。
だが、挿絵のうぷなくてちょっとショボーン。
もょもとは素で落とすタイプか…。
MSX版も混ぜこぜならあぶない水着イベントもか!!
Uの三角関係はサマルトリアが失恋するのが定番なのが切ない
サマルトリアが妹と
ムーンブルクがデルコンダルのオリの中のサーベルタイガーと
結ばれてローレシアがorzするっていう連載web小説が昔あってだな・・・
>>オリの中のサーベルタイガー
わろたw
週の真ん中ですが、どえらい編集ミスに気づいたので急遽補足に来ました。
>>483 と
>>484 の間に入るはずの一節が丸ごと抜け落ちてました。まことに申し訳ありません。以下に該当箇所を補填致します。
投下ミスそのものもアレですが、それより何が一番間抜けかって、二週間以上もこのことに気づかなかったことですorz
あと琴線に触れるレスをいくつも頂いてるので、それへのレスも合わせて。
>>525 ありがとうございます。実は割りと行き当たりばったりの部分も多かったアリワと違い、ゴー勇は充分な熟成期間を得てシナリオ作られてるので、手詰まりで停滞ってことはないはずです。休載するのは他のもっと生々しい台所事情からだと思いますw
>>526 良き目の付け所かと思います。そのイベントを念頭において読み進めていくと、或いは一味違うものが見えるかもしれません。
>>527 もょもとは 天然ですからw この男の場合、日常の振る舞いは人真似に過ぎないので、こういう普通の人なら恥ずかしくて人に見せらんないよーな出来事も、それと気づかず書いてしまう危うさを孕んでいます。
>>530 慌てるな兄弟、今描いてもらってる。あと多分、その想像は外れる。 無論、いい意味でだ。
>>531 もしこれが恋だったら、どんなにかいいことでしょうね。 誰の、誰への思いに、どんな意味を込めた言葉かは今は伏せときますw
>>532 なん…だと…まさかアレを知ってる方がいるとは!
ということは、5話の展開やサブタイがあのお方へのオマージュであったこともバレバレですか!?(ぇー
自分が「可愛らしいサマル」という境地を開拓したのはあの作品の影響なので、興味がある方は「おさえ りんご」でレッツ検索。
「わからん。今日見た限りでは、この街は野良犬の縄張り争いもほどほどにあるようだ。
あの戦闘向きでない体格の犬が今もこの街で生き残れているか、望みは薄いだろう。………少し、休むか」
『俺はランドの問いに対する自分の意見を率直に述べた。直後に、彼の表情が目に見えて曇った。
…どうやら俺の言葉は彼の士気を下げる類のものだったらしい。俺はすぐさま損害を評価し、彼に気分転換を提案した。
そこは先日丁度、その、例の犬と出会った池のほとりだった。郊外に向かって歩き続けて、行き着いてしまったらしかった。
俺が彼の返事も聞かずに腰を下ろすと、彼もゆっくりと、俺の隣に座った』
「………」
「………」
『長い沈黙だった。俺はそのままでも構わなかったが、それでは態々休息の時間を割いた意味がない。
何とか彼の関心を別に移させ、士気を回復せねばならない。そう思い立ち、俺は彼に問いかけた』
「君は………プリン王女と、面識があるのか」
『君は、まで口に出してから、俺なりに最も彼が高く関心を示しそうな議題を模索し、投げかけた。
すると、彼は傍らの俺を見上げ、目を丸くしてぽかんとした顔をした』
「どうかしたか」
「あ、いえ。…にーさまの方から、そういうこと訊いて来るなんて、思ってませんでしたから。ごめんなさい」
『そういうこと、というのがランドにとってどういうことなのかは俺には知る由もなかった。
だが疑問を重ねた俺に、彼は静かに自分の態度を謝罪した。別に気にはしていないのだが』
サマルが結婚したの、妹じゃなくてムエタイ選手だったわ、失礼しましたw
>YANA氏
あ、やっぱり?w
サマルがかわいい男の娘って時点で「おや〜?」とw
まさか本当にアレでしたか・・・w
537 :
名無しさん。いざ新世界へ!!:2009/10/07(水) 21:39:13 ID:BTbRaUoE0
ちょっとそこの君・・・・
>>534 乙です。すごい勢いでアンカー狂ってますがww
もょもとはサバイバルでコンドームを水筒がわりに使ったりしてそうだ。
YANA氏キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
某女勇者+遊び人3人の攻略日記のサイトがさりげなく混ざってるのが気になる・・・w
●第12話『風の中に光るもの』
『広大な砂漠を抜け、森や平原の緑が見える土地に足を踏み入れ北上すると、海峡がある。
荒れ狂うその海峡は「竜」の異名を持ち、旅人の行く手を阻むことで知られている。だがいつしか海峡を挟む双方の岬にはドラゴンの角と呼ばれる双子の塔が建てられ、頂上を結ぶ吊橋で海峡の往来を可能にした。
俺たちは海峡を跨ぐその吊橋を渡り、海を渡る手段として船を確保するため、港町ルプガナに向かう手はずだった。
だが、塔の頂上に登りつめ、俺たちは突きつけられた現状を目の当たりにし、途方に暮れていた』
「………どうしましょう、にーさま。橋が…」
「………ん。わかっている」
『不安そうに振り返るランドに応えて、俺は携帯していた花の魔物・マンイーターの切り口に口をつけ、水分を摂取した。
水や食料の保障のない出先で、植物を刈って水分を確保する手段の応用だ。牙の生えた花弁部分は切り落としてあるので危険はない。安全を確保した上で、中に溜まっていた水を吸い出してしまう』
「…流石の俺も、アレを確実に泳ぎきる自信はないな」
「高さも、かなりあります。飛び込んだりしたら、それだけで死んじゃいますよ」
『塔の七階、反対側の岬に立つ塔に向かう縁に二人並び立ち、眼下に広がる「えらく見晴らしのいい」海峡の荒れ模様を見下ろし、俺たちは各々の感想を漏らした。その内容は、どちらも歓迎すべきものではなかった。
そう、俺たちがここに辿り着いたとき、その荒れ狂う海峡を跨いでいるはずの吊橋は、無残に崩れ落ちていたのだった。
吊橋が使えないとあって、海峡を泳いで渡ることが出来るかも検討したが、それもほぼ不可能。
塔の上からなど勿論、下の崖から飛び込むのですら、ここから地上へ飛び降りるのと同じくらいの高さがあった。まして落下地点は断崖に打ち付ける大波の坩堝だ。生き残る望みは極めて薄かった』
「綱の劣化が激しい。邪教が俺たちの妨害をするために昨日今日切り落とした、というわけじゃなさそうだが。
…いずれにせよ、向こう側へ行く手段がないことに変わりはないか」
『ルプガナへの唯一つの陸路が閉ざされた事実を確認し、俺は潤いを完全に失ったマンイーターの死骸を海峡に放り捨てた。俺は一つ息をつき、彼女のほうへと振り返った』
「………ところで、プリン。君はさっきから、何を熱心に見ているんだ」
『俺はそういってランドとともに、縁から一歩下がった位置に佇み微動だにせず、ただただ向こう側の塔へと揺るがない視線を送っているプリンへと意識の矛先を替えた。
彼女はこのフロアに辿り着いてからというもの、風に遊ばれる綱の残骸、眼下で荒れる海峡になど一切目もくれず、何か不思議なものでも観察するように反対側の塔を注視していた』
「プリン。プリンっ」
「プリンさん?」
「…え?はい。申し訳ありません。何でしょうか」
『普段の調子で呼びかけても全く反応がなかったので、少し強く叫ぶくらいの声量で再び呼びかけた。ランドも心配そうに、プリンの顔を覗き込んだ。
そうして漸く、彼女は俺たちのほうに気の抜けた返事をしたのだった。何とも、心此処に在らず、という風であった』
「どうかしたのか。君らしくもない、上の空だが。何か気になることでもあるのか」
「…いえ。大したことではないのですが」
『プリンは口元に手を当て、珍しく歯切れの悪い返答をした。彼女は自分から積極的に話をするほうではないが、こちらからの質問に答えを濁すようなことをする人物ではない。余程不確かなものなのだろうと、俺は思案した』
「が、なんだ。…何か見えるのか」
『俺はプリンの傍らに歩み寄り、彼女と同じ方角、向かいの塔の方を見た。だが、俺には塔に変わったものを見つけることは出来なかった』
「あちらの塔か。おかしなところはない様に見えるが」
「いえ。私が見ていたのは、塔ではなくて…」
「!にーさま、何か光りました」
「む」
『尚も煮え切らない返答をするプリンの言葉を遮る様に、ランドが叫んだ。振り返ると、彼の指差す先は、向かいの塔の中腹を示していた』
「光った?どういうことだ、何が光ったんだ」
「あ、いえ、何が、っていわれると、その、分からないんですけれど」
「そうなんです。さっきから、あの塔の…三、四階辺りでしょうか。そのくらいの高さの空間が、何か、線が走るように光っているんです」
『線が走るように?光る?…空間が?…何なんだ、それは。俺はあれこれと黙考しつつ再度二人が注視する方向を見るが、そこにはただ塔の外壁があるばかりで、何かが光っているようには見えなかった。
俺が不可解な顔でもしていたのだろう、光っているのが見えたという彼らは顔を見合わせて相談を始めた』
「ランドさん、私はここに来てから、視界を横切るあの光がとても気になっていたのですが、貴方は気になりませんでしたか」
「…ううん。ボクはプリンさんがいってくれるまで、気づきませんでした。それでも、いわれた方角を注意して探して、漸く見つけられました」
『二人の面持ちは、幻を見たという風ではなかった。実態は掴めないが、何かが彼らの目には映っていたのだ。
気になったのは、俺には視認できず、又見ることが出来るとしても、その鮮明さには個人差があるという点だった。俺と、ランドと、プリン。この三人で明確に優劣の差がある要素といえば…』
「…どうやら、魔力のない者には見えないらしいな」
「にーさま、それは」
「はい。おそらく、仰るとおりでしょう」
『俺が現状からの推測を口にすると、ランドは気遣いを口にしようとするが、プリンのほうは殆ど間を置かず俺の言葉を肯定した。おそらく彼女も、同じ結論に至っていたのだろう。
見えない以上、それが何なのか俺の見解を述べることは出来なかった。だが、不確定要素は出来うる限り明らかなものとしておきたかった』
「調べてみる価値があるか…」
「はい。私もそう思います。ただ、危険な印象は受けません。あの光そのものは、警戒すべきものではないでしょう」
「成る程、心に留めておく。…だが、ここからではどうにもならん。何とかあちら側に渡る手段を見つけなければな」
「………はい?向こうの塔に渡る手段をお探しなのですか?」
「………プリン」
「あの、プリンさん。ボクらさっきから、そういう話をしてたんですけど」
「まぁ。これは失礼致しました。少々お待ちくださいね」
『どうやら謎の光が気になって俺たちの話などまるで耳に入っていなかったらしく、プリンは意外そうに謝罪を口にした。その態度には、危機感も焦燥もまるで感じられなかった。
そう、まるで橋が落ちていたことなど何の問題であろうかという風な口ぶりで、彼女は荷物を漁り始めた。やがて彼女が取り出したのは、鳥の羽のように裾が分かれた一枚の外套だった』
「それは…風のマントか」
「はい。風のマントは、空気の流れ、揚力を受けて、極めて限定的ではありますが空中を飛ぶことが可能になる道具なのです。
あのくらいの距離なら、これだけの高さが確保できていれば向こう側へ飛べるでしょう」
「ええっ!?ここを、飛ぶ…んですか…?」
「…嘘ではありませんよ?私も使うのは初めてですが、ムーンブルクの学者の方々は優秀でしたから。回収しておいてよかったです」
『すまし顔に誇らしげな微笑を浮かべるプリンと、彼女の想定外の提案に声を裏返らせるランド。まぁ、突然この高さから飛べ、といわれれば、それが正常な反応なのだろう』
「わかった。貸してくれ。まず、俺が飛んでみる」
「にーさま!?」
「ランド、現状を見ろ。実行できそうな打開策が、他にあるか」
「それは…そうですけどっ」
「…もょもと様、勿論、そのつもりで出したのですけれど…試すようなことをせずとも、信用してくださって結構ですよ?」
『俺の提案に、むぅ、と小さく唸り、珍しく僅かばかり不服そうにプリンは唇をへの字に曲げた』
「ランドの危惧も尤もだ。いきなりそんな聞いたこともない手段でこの高さを飛べといわれても、素直には頷けまい。
生憎マントも一枚だ、彼を無理に抱えて飛んで、最中暴れられて下に落ちられるほうが困る。
ならばまずは俺が飛んで、効果をはっきりさせてからのほうが確実だろう」
「う…にーさま」
「俺一人なら、万が一落ちても生き延びる可能性はゼロではない。だが三人で絡まりあって落ちた場合は、無理だ。これが最善策だ」
「…私は暴れませんから、一緒に飛んでも構いませんよ?」
「………この塔にも魔物は巣食っている。
無事向こうへ飛んで、俺がもう一度ここに戻ってくるまで、ランドを一人にしておくわけにはいかないだろう」
「〜、飛びます!にーさま、ボクも一緒に飛びますっ!!」
『プリンの申し出に僅かばかり逡巡して答えると、ランドが叫んだ。…彼の今までの行動から予想した通りの反応を確認しながら、俺は今何故その返答を口に出すことを躊躇ったのかと、内心少し戸惑っていた』
「…いいのか、ランド。無理をしているなら、その必要は」
「いいんです!大丈夫ですから、ボク、暴れませんからっ。三人一緒に、飛びましょうっ」
「…もょもと様。案外、策士ですのね」
『自身を鼓舞するように宣言するランドを横目に、プリンが目を細めて笑いながら、少し心外な台詞を呟いた。それは彼女なりに、俺を褒めていたのだろうか、それとも…。
とにかく、一番体躯に恵まれた俺が風のマントを纏い、他の二人が両脇から俺に抱きつく形となって、跳躍の準備は完了した』
「さ、さあにーさま、いつでも、どどどうぞ!」
「…まぁ、強く掴まってくれる分には、落ちる心配がなくて結構だが…ランド、下を見ないように目を閉じるにはまだ早いだろう。
それでは足が縺れて上手く跳べないぞ」
「…もょもと様って、筋肉質ですけれど、細身に引き締まってますのね。こんな風に密着するのは初めてですから、少し驚きました」
「…すまない、プリン。君にはどういう反応を返していいのか分からない」
『それぞれ全く違う一言を口にして、二人は俺の脇腹に腕を回した。そうして俺はマントの裾を両手に握り、彼らを覆うように広げた。プリンがいうには、風の力を受けて飛ぶにはこうしなければならないらしかった』
「では往くぞ」
「はい―――!?」
「どうぞ」
『宣言とほぼ同時に、塔の縁を蹴った。僅かに予期していた、地面へと引き込まれる重力の枷の感覚はほんの一瞬。
…構え、広げたマントは高所を吹く強風を孕み、まるで命を吹き込まれたかのように更なる拡張を遂げた。猛禽類を思わせる雄大な広がりを見せた風のマントは三人分の体重など物ともしないとばかりに、垂直落下の力を撥ね退けた。
代わりに俺たちは風に煽られるように、海峡を眼下に捉えたまま、岬の向こうへと滑空していった。
…風になったようだ、という比喩表現は、まさにこういう時のためにあるのだろうと、俺は頬を撫で付ける潮風に目を細めながら思った』
「きゃん―――っ!」
「っと」
「………」
『数十秒も空中にいただろうか。このマントでもなければ人の身では一生体験し得ないだろう滞空時間を経て、やがて俺たちは対岸へと舞い降りた。
滑空のためにマントが受けた風の力は完全には殺しきれず、自力で後始末をするしかなかった。俺は近づいてくる地面と滑空の速度、着地の角度などから衝撃を予想し、無言で一歩、二歩、三歩…と土を蹴った。
その振動が掴まっている二人に伝わり、彼らの体が俺から離れた。
それぞれ、ランドは目を閉じていたせいで着地のタイミングがとれず、可愛らしい悲鳴とともにどべちゃ、と地面に倒れこみ。
プリンは当初の宣言どおり風のマントの性能を信頼しきっていたのか、少しも慌てる様子を見せず、冷静にステップを踏んで体勢を整えたのだった』
「うう。痛い…」
「あらあら。もう、ランドさん、おでこを擦り剥いてますわ。可愛いお顔が台無しです」
「…すまない。着地の準備をするように注意するのを忘れていた」
『額を押さえて蹲るランドの傍に、プリンは静かにしゃがみ込み、治癒の呪文を唱えた。彼女の呪文の技術は、ランドのそれより遥かに高等なものだ。あの程度の傷なら、すぐに治してしまうだろう。
そう考えて、その光景を安心して見届けてから、俺は脇に聳えるもう一つの「角」を見上げた』
「ありがとうございます、プリンさん。…でも、本当に飛んじゃいましたね!」
「ふふ。だからいったじゃありませんか。心配は要りません、って」
「もしまた飛ぶ時が来たら、今度はボクも目を開けておかないとっ」
「二人とも、お喋りはそこまでだ。…塔の中を調べに行くぞ」
「あ…はい、にーさま!」
「仰せのままに」
『俺は風を切って飛んだ余韻に浸っていた二人に声をかけてから、北の塔に足を踏み入れた。
螺旋階段に近い景観の、各フロアの中央部分が殆ど空洞の構造となっていた南の塔とは対照的な、上下のフロアをただ階段で繋いだだけの極めてシンプルな造りの塔だった。
俺たちはフロアにちらほらと屯していた魔物たちが襲い掛かってくるのを蹴散らしながら、やがてランドとプリンが光が走っていたと証言した高さのフロア、三階へと辿り着いた』
「…特に変わった様子は見られないが」
『階段を上りきるや、俺はぐるりとフロアの構造を見渡した。だが、その三階も、他のフロアと変わらない、階層丸ごとを一つの部屋にしたような造りだった。
尤も彼らはあくまで塔の外側で光が走るのを見たのであって、この塔の内部で何らかの発見が出来る根拠は弱かったのだが』
「…いえ。そうでもないようです、もょもと様」
『と、いつの間にか、階段を離れて、壁際の辺りにしゃがみ込んでいたプリンが俺とランドを呼び寄せた。心なしか少し興奮気味に見えた彼女の手には、透明で細長い、何か不思議な物体が一筋、摘まれていた』
「にーさま、これ、何でしょう」
「………氷。違う、これは…水か…?」
『プリンが俺のほうに差し出したそれを、俺は慎重に手の平に載せてランドと顔を寄せ合い観察した。
空から降り注ぐ雨をそのままの形で留めることができたのならこうなるのだろう、という毒にも薬にもなりそうにない感想を抱きながら、俺は静かにその物体を摘み上げた。
感触は弾力を持った糸、としか表現できないものだった。人差し指と親指でそっと圧力を加えると、物体はそれに応えるように極細な形を僅かに括れさせた。その折、俺はその透明な物体の中に、無数の気泡が弾けるのを見逃さなかった』
「本当だ。薄い膜…でしょうか。その中に、水が入ってるように見えます」
「ご明察です、ランドさん。…私も実物を見るのは初めてですが。これは恐らく、雨露の糸です」
「アマツユのイト?…詳しく聞かせてくれ」
「はい。ここ数十年、世界各地で発見され始めた不思議な繊維です。
ランドさんの仰るとおり、内部に水を孕んだ糸でして、熱や冷気、外部からの衝撃を極めて高い精度で吸収してくれる素材として、一部の魔道の研究をする方々の間で珍重されています。
ただ、ご覧のとおりそのままではただの糸ですし、今の段階では加工して使用するのも極めて高い技術が要求されるので、世間ではあまり存在が知られていないものです」
「世界各地で発見されているのに、あまり知られていないのか。
いくら実用性が低いとはいえ、コレの特異性を考えると、もう少し噂くらいにはなっていてもいいと思うが」
「はい。確かに仰るとおりですが、それは雨露の糸の採取例が、極めて限定的なせいなのです」
「…どういうことですか?プリンさん」
「言葉通り、としか申し上げられません。雨露の糸は、採取される場所の数自体は、十指に満たないほど少ないのです。
…そもそも、この不可思議な糸はどこから来ているのか、どうやって出来ているのか、まだ誰も解明できていません。…いえ。できていなかった、というべきなのでしょうか」
『説明を中断し、考え込むように呟いたプリンの顔は、普段の柔和で落ち着いた空気を完全に捨て去っていた。
どこか焦っているようにも見えた、その沈み込むような表情はだが、ほんの一瞬で消えてしまった』
「プリン」
「雨露の糸が採取される場所には、ある共通点があります」
『俺のその先の言葉を遮るかのように、彼女は再び、理路整然とした口調で説明を始めた』
「一つは、強い風の吹くところ。もう一つが、ある種の特別な霊脈の役割を持つ水の流れが、近くにあるところ。
これら二つの条件を満たす場所で、採取されるようなのです。…雨露の糸が、『天の恵み』と称される所以です」
「…波を荒らす強風。『竜』と呼ばれる海峡。成る程、それが確かな共通項なら、ここは取れて然るべきだな」
「はい。…そして恐らく、私とランドさんが向こう側の塔から目撃したのは」
「雨露の糸が生まれる瞬間…ですか?」
「…仮説の域を出ませんけれど。まだまだ分からないことだらけですし。
大気中に霧散した、特殊な魔力を孕んだ水を強風が結晶化しているのではないか、というのが有力な説ではありました。ですが、観測例がなかったものですから。
…こうして形になってしまえば誰の目にも映るようですけど、まだ形が一定しない―――概念としてしか存在しない段階では、魔力のない方には視認できない。
…ということは、生成のプロセスには何らかの術式が介在しているということですし…純然たる自然現象でそんな奇跡みたいなことが………」
『プリンはまたも考え込むように俯き、説明の声はみるみる小さく、聞き取れないものになっていった。
俺はランドと顔を見合わせ、首を捻ってみた』
「ランド、分かるか」
「ごめんなさい、ボクにはさっぱり…」
「…あ。申し訳ありません、凄く退屈なお話になってしまいましたね」
『所在なげに謝罪するランドと共にかぶりを振っていると、その様子に気づいたのか、プリンが漸く自問自答から帰ってきた』
「いや、構わない。実のある話なのだろうが、俺が不勉強なせいで理解できないだけだ」
「ボクも、ごめんなさい。ボクは一応、呪文を使えるのに…」
「いえいえ、とんでもない。今の私の独り言は忘れてください。ただの学術的興味ですから。
今は、そんなことより邪教を倒すことが先決です」
『いつも通りの静かな笑みを浮かべて、プリンは立ち上がった。俺とランドも、それに倣って腰を上げた』
「それで、これはどうするんだ」
「そうですね…加工が難しいとはいえ、雨露の糸が貴重な素材であることには変わりません。
何かの役に立つ時が来るかもしれませんし、もう少しまとまった量になるまで、ここを探したいのですが…宜しいでしょうか」
「…あまり自分から意見を言わない君が主張するのなら、相応の価値がある代物なのだろう。わかった、集めよう」
「ボクも、手伝います!」
「有難うございます、お二人とも」
『恭しく、いつかのようにプリンは深々と頭を下げて礼を述べた。
結局、その日の夕暮れまで俺たちはそのフロアの床を這い回って、目に付く限りの雨露の糸を掻き集めることになった。
最終的にはその量は、俺の両の手袋を一杯にするくらいの束になっていた。…俺はこのくらいの量で一体どの程度のものが作れるのか皆目見当もつかなかったが、大分時間を食ってしまったこともあり、あまり深くは考えず先を急ぐことにしたのだった。
…以上のようなことがあり、ルプガナへの到着が少々遅れた。だが大勢に影響がある問題はなく、それどころかプリンの弁を信じるなら貴重な繊維素材を得ることが出来たようなので、よしとしておこう。〆』
以上、第十二話でした。実はここまで殆ど実のある会話がなかったランド君とプリン嬢、別に仲が悪いわけではありません。
後に世界的な技術革新をもたらす新素材でも、本格的な実用化・量産化に至るまでに、様々な勢力や学者なんかが気が遠くなるような研究
を重ねなければなりません。
本作における雨露の糸は、そういう立ち位置のアイテムです。人間の戦争ってのは、こういった新技術を如何に早く他の勢力より発展させ
るかっていう競争が結構なウェイトを占めてるんですよね。文化レベルが拮抗した勢力同士の睨み合いなら尚のこと。
まだ暫く先の話ですが、そーいう趣旨の展開が盛り込まれる予定です。いやあんまり深いお話にはなりませんがw
あと某ウルズ7は…やっぱりそう思われちゃいますよねぇw
連載前にダチに相談して「何か性質の悪いソースケみたいなキャラが出来ちまった」と苦笑いしてたのを覚えてます。けれども、今のもょ
もとのモチーフはもっと全然別の作品のキャラだったりします。分かった人は俺と友達になれると思いますw
ミスを正すレスで更にアンカミスとか死ねばいいのにorz
YANA氏キター!
アンカーミスはないけど今度は改行がおかしいよ!
イキロ
プリンがサイエンスオタだとはw
まだ性格が掴めないキャラだが、どうやら濃ゆい趣味が多そうなw
それにしてもランド君、男のくせに「きゃん!」とか…
ほれてまうやろー!!!!
YANA氏
投下乙です!
日記モノローグの中に可愛らしい悲鳴とか混じっててニヤニヤします
とうとうカワイイを理解したのかw
向かいの塔のキラキラの行で「あれ?紋章集めって竜王のひ孫が出てきた後では?」と思った俺。
大分忘れてるなぁ…そろそろDS辺りでリメイクしないものか。
●第13話 『述懐 〜港町の少女の場合〜』
今でもよく覚えている。あの日は爽やかな潮風が町中に行き渡るいい日和だった。
私はその日朝一番で家を抜け出し向かった福引機を前に、緊張の汗を一粒、地面に落とした。
順番待ちのおっちゃんたちが後ろでぶーぶーと文句を言っていたけれど、私はそれを意識の彼方に追いやった。
そしてボタンにそっと指を添え、意を決して押し込んだ。
三つ目のドラムがずるずると図柄をスベらせてゆく。大丈夫、この日のためにこの機械のクセと動体視力を鍛えてきたんだから、絶対に上手くいく…!
そう信じて、呼吸と共に一度目を閉じ、再び目を開けた。目の前の回転体は、見事に、三つの月を示していた。
「おめでとうございます!三等、魔道士の杖が当たりました!!」
「いよ………んぐ」
いよっしゃあっ!!と、思うさま勝利の雄たけびを上げたかった。けれど、衆人環視でそれは不味いと、極度の興奮状態にあった私に残っていたなけなしの理性が待ったをかけた。
厄介なことに、私はこの町では勝手気ままに振舞うにはちょいと顔と名前が知れすぎていたのだ。街中とはいえ、流石に不必要に目立てば監視の目を呼ぶことになる。お爺様の名誉のためにも、ここは自重すべきだと判断した。
私は呼吸を落ち着け、尚も後ろで騒ぎ続けていたおっちゃんたちに楚々とした余所行きの愛想笑いを向けて頭を下げた。そうしてから福引所のヒゲミドルから景品を受け取り、踵を返した。
がやがやと列を進める人ごみから抜け出て、雑踏へ戻った。そうして、自分の手に納まっている杖を感慨深く見つめた。杖の先端には、鮮烈な真紅で陽光を受け止めている、神秘的な珠が一つ、埋め込まれていた。
「やった…!これで私も、憧れの呪文を使えるのね!」
行きかう人々に聞こえない程度の声で呟き、私はささやかな喜びを噛み締めた。
…彼が私の前に姿を見せたのは、その時だった。
「………」
「………あ」
ふと気づくと、小さくガッツポーズをとる私のことを、いつの間にか一人の男の子が見つめていた。
出自のよさそうな上品な金髪と、決して大女ではない私よりも低い身長、無垢な瞳。大事に使っているのだろう、頭には年季が入っているもののよく磨かれたゴーグルをかけた、ふわふわの子犬みたいな可愛い男の子だった。
あんまり物珍しそうに見られていたので、私はその時、自分が余程滑稽に見えたのかと少しだけ焦った。いくらまだ子供とはいえ、口外されておかしな噂が立ったら困るからだ。
けれども日々の経験とは大したもので、私は即座に気持ちを切り替え、咳払いを一つし、『良家のお嬢様』としての振る舞いを取り戻すことができた。
「あらいやですわ、私ったら。『たまたま』福引でちょっといいものを頂いたからといって、はしゃぎすぎましたわね。
ねえ貴方、今見たことは、他の方には黙っていてくださいな」
「え?あ、は、はい…?」
「有難う」
もし福引で魔道士の杖を引き当てて小躍りしていたなどとお爺様の耳に入ったら大目玉だと思い、私は一方的にまくし立てて男の子に約束をとりつけた。
と、私はそこで、その男の子の顔に見覚えがないことに気づいた。
荒くれや変人の集まるこの港町ルプガナにおいて、その子の漂わせる気品は異質だった。仮にそういう子がこの町にいたとしたら力のある船主の家の子なのだろうが、それならばお爺様の付き添いで度々会合に出ている私が知らないわけがない。
そう思って、私は改めてその子に訊ねた。
「あの、つかぬ事をお伺いしますが、貴方は、もしかして旅の方ですか?」
はい、とこれまた幼い子供みたいな素振りで、男の子は頷いた。
私はその時、今度こそ心の中でガッツポーズをしていた。まさか一人で外出中に、運良く憧れの『町の外の人』と巡り合えるなんて思っていなかったからだ。
このルプガナは港町であるせいで、必然、外からの来訪者は多くいる。けれど、そういった人間は殆どが船乗りで、港周りの施設を中心にしか滞在しない。どうあってもお爺様や他の船主、その手先なんかの目を免れて接触なんて、出来るはずがなかった。
ならば監視の目の少ない町の内陸側はどうかというと、これまたハーゴンが勢力を増していた当時は魔物の動きも活発で、わざわざ陸路を使ってルプガナを訪ねてくる物好きな旅人は殆どいなかった。
…ルプガナの船主たちの元締めを務める家に生まれたおかげで、私はつい数年前までずっと箱入り生活だった。だから当時の私は、ずっと外の世界に生きる、旅人という人種に憧れを抱いていた。魔道師の杖がほしかったのも、少しでも彼らの真似事をしたかったためだ。
その旅人が、実際に目の前に立っているのだと思うと、心が沸いた。
「あの…?」
「失礼しました。実は少し、貴方のことを見込んでお話がありまして。…ここでは人の目に付きます、あちらに」
「?…はい」
私は逸る気持ちを抑えながら、それでも静かに男の子の手をとって雑踏の死角、教会の裏手へと導いていった。
「こちらでなら、気兼ねなくお話できますわ」
「あの、何かいけないお話なんですか…?ボクは、そういうのは、あんまり、その…」
流石にいきなり物陰に引っ張られたとあって、男の子はどこか不安そうだった。おかしな誤解をされても面倒だったので、私はもう、余所行きの猫を被るのはそこでやめにした。
「…ふぅ。いやごめんごめん。そーいうわけじゃないよ。こっちに来たのは私の事情。
君とお話したかったんだけど、私にゃここじゃ、あんまり自由がないんだ。だから気軽に話すためには、ここのが都合が言い訳よ」
「え、あの…お姉さん?」
「あはは、びっくりした?こっちがホントの私。
人目のあるところじゃあーいう話し方しておかねーと、私ゃ何かと不都合を被っちゃうの。旅人の君からすれば、笑っちゃうでしょ」
いきなり剥き出しになった地の私に、男の子は目を白黒させて動揺した。ちょっと苛めてあげたくなるような、初々しい反応だったのを憶えている。
だがその時はそれよりも、聞きたいことが沢山あった。
「そんなことよりさ、君、どっから来たの?町のこっち側にいるってことは、陸路で来たんでしょ?
今時珍しいよ、酔狂っていうのあっけど、それ以上に徒歩でルプガナに辿り着ける実力、大したもんよ。一人で来れたわけ?それとも同伴者アリ?」
「え?えっと、えと」
「…あーっと、待った待った。こんな一気に訊いてもどっから答えたらいいか、わかんねーわよね。一問一答といきましょ」
つい興奮してしまい、質問攻めになって男の子が狼狽しているのが目に見えて分かったので、一歩引いて頭を冷やした。男の子が先ほど福引所の前にいたことを鑑みて、私は彼と私、双方にそれなりのメリットがあるだろう方法を提案した。
「まずは君から。何か気になること、あるんじゃない?私、この町のことなら大体知ってっからさ、何でも訊いていいわよ」
「え。…どうして分かったんですか?」
男の子は心底驚いているようだった。…そりゃ福引所の列に並ぶでもなく、福引機の近くで挑戦を見物するでもなく、あんな中途半端な所で突っ立ってたら気づきもしようってもんだったけれども。
「んー、女の勘って奴かしら?さっきの猫被りもそうだけどね、女って生き物は刃物みたいに鋭い部分をいくらか持ってるもんだから、もし知り合いに女の子がいたら気をつけたほうがいいわよ、君も」
「………はい。そう、かも、しれません」
少し考えるような素振りを見せながら、男の子は弱々しく答えて、俯いた。どうも、何か思い当たる節があるらしかった。けれど、それは自分にはよくない考えだと判断したのか、彼はやがてかぶりを振って私を見上げ、云った。
「あの、じゃあ、訊きたいんですけど」
「うん、なになに?」
「あちらの列は、福引…なんですか?」
云って、彼は目配せで雑踏の向こう、さっきの福引機の列を示した。
「そう、福引。いろんな町の商会が組合でやってるから、君もどこそこの町で見たことあるんじゃないかしら」
「あの…もしかして、この町の福引の景品に、その………船、なんて、あったりしませんか?」
やや逡巡するように間をおいて、男の子は僅かな期待を込めた疑問を、私に投げかけた。
「船?やー、福引の景品は組合の取り決めで一律どこの町も同じってことになってっから、いくらこのルプガナでもそーいう独断専行はできねーわよ」
「やっぱり、そうなんですか…あ、いえ、僕の故郷の町の福引所と違って、皆さんとっても、盛り上がってるみたいだったので、もしかしたら何か、特別な景品でもあるのかな、って思って…」
「あー、そりゃこの町が単にでかくて、博打好きがいっぱい住んでるからってだけの話だと思うわよ。何、船、ほしいの?」
「はい。ムーンペタからこの先の旅を続けるのに、どうしても必要なんです。でも、どこの船主さんに掛け合っても、余所者に船は貸せないって断られて、困ってるんです。それで…」
期待が外れて心底残念がるように、男の子は力なく笑った。
そう、確かに彼の言うとおりルプガナでは外部の者に自前の船をみだりに貸し出したりはしないのが慣わしだった。
相応の金を積んで造船を依頼するのなら歓迎もしようが、旅人がちょいと尋ねてきて『船貸してくれ』といったところで、誰も首を縦に振らなかっただろうことは、想像に難くなかった。
だが、私はそんな当然のことよりも、彼の言葉の中に驚くべき単語を見つけて身を乗り出した。
「ムーンペタ…ムーンペタっ?!え、じゃあ何、君、大砂漠を越えてきたわけっ?」
「は、はい、そうですけど」
「あらら。こーりゃまた、とんだ物好きもいたもんだわ」
私は呆れ半分の苦笑を浮かべて、頭を掻いた。
…目的が何であれ、確かにムーンブルクから船を求めて、というのならこのルプガナを目指すのが最適だったろう。
砂漠の向こう側はロト御三家の治める土地ではあったものの、彼の王家は皆、何故か外交や商業に対して消極的であったため、造船技術が発達していなかったのだ。ならば自ずと、良い船を得るためにルプガナへ、という選択肢には辿り着く。
でもそれは、他に考えうるあらゆる方策よりも『マシ』というだけの話で、決して楽な手段ではなかったはずなのだ。風の噂でドラゴンの角の吊橋が千切れ落ちたとかも囁かれていたし、実際、当時の砂漠越えからのルプガナ行きはかなり困難だったろう。
それでも彼は実行し、現にそこに立っていた。それは紛れもない事実だった。
男の子の足元から髪の先まで、私は彼に気づかれないよう素早く目を走らせた。…この小さな体のどこにそれだけのパワーがあるというのだろうか。
私は自分の沸き立つ好奇心を満足させるための、体のいい口実を即興で考え、口にした。
「…ね、君。もしよかったらさ。私がお爺様に、君に船を貸すようにかけあってあげよっか」
「え?」
「私普段はこんなだけどね、このルプガナじゃちっとは名の知れた船主の家の人間なのよ。
身内の人間からの口添えがあれば、少しは状況も変わると思うの、実際」
嘘はなかった。実際、ルプガナの船主連中は妙に昔気質というか、こう、身内同士の頼みごとを無碍には断らない風習があった。それこそ私がお爺様に頼んだりすれば、かなりの確率で許可が下りるだろう。口実など、いくらでもでっち上げられる。
そう計算しての提案だった。男の子はそんな私の言葉にぱっと表情を華やがせた。
「本当ですか!?是非…」
「ただーし」
詰め寄る男の子の目の前に、私はぴっと人差し指を突きたて、制止した。
「あの…?」
「私ゃあの大砂漠を越えてきたっていう君に俄然、興味が沸いちゃいました。
…っつーことで、一つ君の力がどれほどのもんか、見せちゃくれないかしら?私と一勝負して、君が勝てたら口添えするってことで」
「勝負…ですか?それって、どうすれば?」
「そだねぇ。…うし。こうしましょ」
私は三つほど数えるうちに考えを巡らせ、ぱちんと指を打ち鳴らした。そして持っていた杖を口に銜えて両手を空けると、サイドテールに結んでいた自分の髪を解き、動きやすいポニーテールに括り直した。スカートも裾の部分を縛り、脚の稼動範囲を拡げてやった。
「ルールはこう。私がこれから、町の郊外まで走るから、君はそれを追いかけて。
私が郊外に着く前に君に捕まったら、君の勝ち。郊外まで私が逃げ切ったら私の勝ちってことで」
「え…そんな、でも」
「私ゃ走るのが好きなんだけどねぇ。最近はなかなかウチの人たちの監視を振り切れなくて、鬱憤が溜まっててさ。
丁度いいから、久しぶりに思いっきり走っときたいんだ。で、どーする?やってみる?」
今度は逆に、態と有無を言わせぬ調子でまくし立てて、私は男の子の返答を封殺した。こんないい機会に恵まれて、それを逃がすつもりなど私にはなかった。
ここまで一方的に事情を聞かされては、彼のような人のよさそうな性格では断れまいとしての算段だった。…果たして、彼は狙い通り、可愛らしい顔を精一杯引き締めて、私のことを見上げ、いった。
「わかりました。貴方を追いかけて、捕まえればいいんですね!」
「そそ。んじゃ、いくわよー。スタートダッシュの瞬間を狙ってもかまわないわよ、思いっきりやって頂戴な!」
いって、私は教会の影から半身を乗り出し、行き交う人々の流れに視線を移した。
踵を二、三踏んで調子を確かめた。…魔道士の杖がその時だけ少し邪魔だったが、彼と私の土地勘の差を考えれば丁度いいハンデだろうと、片手に握ったまま走ることに決めた。
「…よーい」
「………っ」
…悪くない調子だった。私はそれを認め、一時的にこの町における色々な『柵』を忘却した。留意する必要が、ないからだ。
「―――スタートっ!」
掛け声とともに、前傾姿勢から全力で石の地面を蹴っ飛ばし、私は風になった。
見る見るうちに近づいてゆく人ごみの中に確かに在る、僅かな縫い目を刹那刻みで目に焼き付けて駆け抜けていった。ぶつかる寸前で体を掠めた人々が、何事かと目を丸くしたが、誰も『私』が『私』であることには気づかなかった。
…走り始めた私を捉えられる人間は、ルプガナにはいなかった。走っている間は、私は誰の目も気にすることなく、この町にいながら『船主の孫娘』を演じなくていいのだと気づいたのはいつのことだったろうか。
とにかくそのことを悟ってからは、私は隠れて走る練習ばかりしていた。気づいたときには、走りながら自分の走行ルートを完璧に構築することすら出来るようになっていた。
溜まっていた欲求不満が秒毎に吹き飛んでゆくのを、私は確かに心地よく、実感していた。
そうして、快感のあまり忘れていた男の子との勝負のことを、商店街の入り口が見えてきた辺りで思い出した。
「―――なにそれ」
私は前傾姿勢を維持し、地面を蹴りながら一瞬だけ振り返って短い感想を漏らした。確認した彼は、遥か彼方、人ごみの中で無様にも前のめりに倒れ伏していたのだ。
支援支援
紫煙
殆ど勝利が確定して尚、私は手を抜かず、そのまま全力で疾走した。武器屋・道具屋の看板を尻目にそのまま郊外に辿り着くまでには、然程時間はかからなかった。
「とう、ちゃ〜っく」
しっかりと整備された石の地面が終わりを告げ、商店街の裏手に躍り出た。私はそこらに転がる大小の石ころをステップで飛び越え、漸くリズムを落ち着けた。
郊外ということでところどころ整備が雑で崩れかかってはいるものの、一応町の一部ということで、町のどん詰まりのそこは、高い塀に囲まれていた。
建物の死角ということもあり、やたらに日当たりの悪い場所だった。けれどその時は運動後ということで、それが涼しくて気持ちよかった。
「さて、あの子はどうなったかにゃー、っと」
久しぶりの運動で体が異状をきたしていないか、手首足首をぷらぷらと振りながらもと来た道に向き直ると。
「―――ハァ…ハァ…っ!おい、つき、ました〜…!!」
「おおうっ!?これまた、酷い有様だぁね」
盛大にすっ転んだ姿を見て、てっきり振り切ってしまったと思っていた男の子が、私より大分遅れて未整備の地面によろよろと歩み出てきた。尤も、肩をぜえぜえと上下させ、両手で膝を押さえて俯く姿は、殆ど死に体だった。
「おねえ、さん、はやいん、です、ね…。ぼくなん、かじゃ…ぜんぜん、しょうぶに、なりませんでした…!」
苦しそうに息をしながらそれでも健気に笑顔を浮かべて、男の子は余裕綽々の私を見上げた。
「まぁーね。けど、かなり本気でぶっ飛ばしたんだけど、あの状態でよく私を見失わずについてきたわね。
郊外までの勝負とはいったけど、君は正確なゴールの位置を知らなかったわけだし、ここにちゃんと辿り着けたってことは、私をちゃんと追ってきたってことでしょ?」
「はい、でも、それが、精一杯でした…」
「いやいや、その根性は大したもんよ。でも、勝負は勝負。今回は私の勝ちね!」
私が高らかに勝ちを宣言すると、男の子は弱々しくはい、と短く、残念そうに返した。その呼吸は、まだまだ整いそうになかった。
「ああもう、これじゃ私が君を苛めたみたいじゃないのさ。ほら、こっち来て座って。よくそれでこの町まで辿り着けたわね、君」
「はい…その、お恥ずかしい話なんですけど。ボクは、ここまでにーさまに守られっぱなしでしたから」
どっかと崩れた煉瓦に腰を下ろした私に招かれるまま対面の煉瓦に座って、男の子は力なく笑った。
「あー、やっぱ同伴者アリだったんだ。…こういっちゃなんだけど、君のお兄さん、物凄く強いんじゃない?」
港を訪れた船乗りから聞いたことがあった。旅というのは、一団の中に足手まといが一人混じるだけで、相当のリスクになるのだということ。
お世辞にも要領がよさそうには見えない彼を守りつつ無事ルプガナに到着できたところを見ると、彼の兄はかなりのツワモノと見ていいだろう、と思ったのだ。
「はい!…とっても。とっても、凄い人です!」
男の子はそんな私の胸中を知ってか知らずか、誇らしげに胸を張って、満面の笑みで私の問いを肯定した。
「なーるほど。…ね。その人ならさ、私といい勝負できるかな?」
「えっ…それは、えー…と。ううん」
私の期待を込めた問いに、今度はどう答えたものかと男の子は言葉を濁らせた。
「あー、いい、いい、皆まで言わずともよろしい。…きっと君は、お兄さんなら私なんか相手にならないと思ってるのよね?」
そんな彼の態度をけたけたと笑い飛ばしながら返すと、彼はやはり答えに窮してばつの悪そうな顔をした。それが肯定の証であるのは明白だった。
見るからに優しそうな彼が、兄の品格と私のプライドどちらを優先すべきかを悩んでいたのは、私には手に取るように分かった。
「それくらいでいーの。勝負事の筋は通したいから約束を反故には出来ないけど、私としちゃこうして縁があって出会った君の力になってあげたいんだからさ。
全力対決で私を負かせる人がいるって言うなら、遠慮なく連れて来ていーわよ」
「え、本当…ですか?」
「モチのロンよ。元々、私ゃこんな遠くまで足使って旅してきたって言う人の実力を味わいたいだけだしね。
もっと凄い人がいるっていうなら、その人と勝負してみたいの」
私が提案すると、男の子は少しだけ考える素振りを見せながら、やがて意を決したように言った。
「わかりました、そういって頂けるのでしたら。
にーさまも船が貸してもらえるという条件なら、きっと承諾してくださるはずです。でも…」
「でも?」
「すぐには、無理だと思います。
ボクとにーさま達は、何とか船を手に入れる方法を探すために、今朝から手分けして町に聞き込みに出たんです。
今、にーさまがどこにいるかわかりませんから、夕方落ち合う予定の宿屋に戻るまでは…」
「なんだ、そんなこと。なら、今から探しに行きましょ」
すくっと立ち上がった私を、男の子はきょとんとして見上げた。
「探しに…ですかっ?」
「そ。こんなでもこの町の暮らしは長いからね、船をほしがっての聞き込みで、他所の人がどんなルートを辿るか位は見当つくわ。
それにお兄さん、多分頭のほうもいいんでしょ?なら、余計な手心を加えないで、最短ルートを追っかければ割りとすぐ見つかるはずだわよ」
戸惑う男の子に先立ち、私は商店街へ向けて踵を返し、歩き出した。その時だった。
「―――お姉さんっ、伏せてっっ!」
ただならぬ、息を呑む気配。同時に男の子が、私の背中に向かって叫んだ。
…色々粋がってはいたものの、結局、当時の私はただの小娘でしかなかったのだろう。私は間抜けにも、彼の訴えの真意をその一瞬で汲むことが出来ず、ただ漫然と、反射的に、彼のほうへと振り返ってしまった。
途端、私の胸に屈強な男の拳骨ほどはあろうかという強烈な衝撃が走った。激しい揺さぶりに、持っていた魔道士の杖を取り落とした。
何か大きなものが私に向かってぶつかったのだということだけは、揺さぶられる思考の中でかろうじて認めることが出来た。けれども私はそれに為す術もなく、積み上げられた煉瓦の残骸の山へと吹き飛ばされてしまった。
「ごほっ…いつつっ…!ひっ…!?」
「お姉さんっ!」
内臓を強く揺らされたことで呼吸が妨げられ、反射的に咳きごんだ。心配してくれたのだろう、男の子が私を大声で呼んでくれた。
私は呻きながらものろのろと体を起こし、何が自分にぶつかってきたのか確かめるために、苦痛に閉じた瞼を開いた。未だ霞がかかった視界に、それでもソレは、はっきりと『宙に浮いていた』。
シェーン
〔キキキキッ!アニキアニキ、久しぶりの人間だヨ!〕
〔そうだナ弟者!三日三晩、この場所に張っていて正解だったようダ!〕
耳が痛くなるくらいの、異常な高音の発声だった。とても人間が出せるとは思えない声質でありながら、ソレらは明らかな人間の言葉で、意思の疎通を図っていた。
次第に正常に戻っていく視界に、やがてはっきりと私を吹き飛ばしたらしいモノの姿が現れてきた。
ソレは、人間の子供ぐらいの体をもっていた。毒々しい紫色の、皮膚とも鱗ともとれない表皮。頭部には鬼を思わせる二本の角。歪な口から覗くのは異様に真っ赤な舌べら。
そんな異様な姿の怪物が、背中から生えた不気味な翼を羽ばたかせ、太い尾をゆらゆらと振り子のようにぶらさげて、空中を飛んでいたのだ。
まるで神話や御伽噺の語る、悪魔そのもの。それが、私にとって初めて見た魔物だった。
冒険者に憧れ、お爺様や船乗りたちからいくらかそういう話を伝え聞いていた私だったけれど、それを目にしたときの反応は、あまりにも情けないものだった。
全身の筋肉という筋肉が弛緩し、腰はぺたんと地面に張り付き、足は自分の体重を支えることすら出来ないと、石の様に固まったまま動かない。
声も同じだった。悲鳴を上げなかったのは、こんな寂れた郊外では助けを求めたところで誰も来はしないと諦めていたからではない。
そんな理屈を考えるまでもなく、私は目の前の魔物に対する恐怖に屈し、ただぱくぱくとみっともなく唇を震わすことしか出来なかった。
…こんな郊外に来てしまったことを、私は今更のように後悔した。
魔物が街中にいないのは、集まって住んでいる人間たちを警戒していたからだ。ならばこの郊外のように、人目がなく、しかも塀が壊れて町の外に直結しているような場所ならば、魔物が侵入し潜んでいても何の不思議もなかったのだ。
〔アニキ、オレもう腹ペコで死にそうだヨ!さっさと食っちまおうヨ!〕
〔キキッ、同感ダ弟者!ガキと女が一人ずツ。どっちも美味そうダ!〕
〔アニキアニキ、オレは女が先に食べたいヨ!あの引き締まった脚なんカ、たまんないヨ!〕
〔気が合うナ弟者!オレもそう思っていたところダ!仲良く半分といこうじゃないカ!〕
「あ…あ…や…!」
二匹のバケモノはぎょろりとした四つの瞳を私へと注ぎ、不規則な軌道を宙に描きながら私へと迫ってきた。
あまりにも不穏なその相談が、私を食べる算段を立てるものなのだと理解し、私は震える四肢に鞭打って魔物から遠ざかろうとした。けれども私の手足は、かくかくとあらぬ方向にのたうつばかりで、まるでいうことを聞いてはくれなかった。
彼の咆哮が聞こえたのは、その時だった。
「―――ギラっ!!」
〔っ!?〕
〔アニキィっ?〕
私の視界を塞がんばかりに迫ってきていた魔物の背中に、小火が灯った。無事なほうの魔物が、仰天してメチャクチャに翼を羽ばたかせる悪魔を見て、狼狽して叫んだ。
何が起きたのかと、遠く声のした方向に目を向ければ、あの男の子が左手を掲げて佇んでいた。小火はどうやら、彼の手によって起こされたものだったらしい。
「お姉さん、今のうちに!逃げてっ!」
「…っ…ぁ…!」
彼が声を限りに、呆ける私に向けて叫んだ。男の子は、世にも珍しい、紛い物でない正真正銘の呪文の使い手だった。ついほんの少し前までだったら、私は間近で見る本物の呪文に、我を忘れるほどに狂喜乱舞してはしゃいでいた事だろう。
でも、その時の私は喜びではなく恐怖に我を忘れ、体さえまともに動かせずにいた。男の子は目にした通り、なりは小さいけれど、少なくとも魔物と戦うだけの力は持っていた。ならば戦えない私は邪魔なだけで、遠くへ逃れるのが最善。
冷静に考えれば当然のこと。けれどその時の私は正常な判断も出来ず、足も空しく震えるばかりだった。
〔キキィ…このガキめ、よくもォッ!!〕
背中の小火を掻き消し、ただでさえ爛々とした目を更に血走らせて、アニキと呼ばれた魔物は男の子へと殺到した。もはや私など眼中にないとばかりに憎悪に駆り立てられ、殆ど逆上に近い悪態を絶叫し、羽を大きく撓らせる。
「来い!ボクが相手だっ!」
男の子も負けじと叫び、両手を掲げる。再び呪文を放とうと、迫る魔物に狙いを定めているようだった。だが、魔物は空中を自在に飛び回り、彼の開いた掌が向けられる都度、横へ上へと軸をずらしていった。
「っ!」
頭上へ達した魔物が、眼下の男の子目掛けて、口から火の吐息を浴びせかけた。彼は反射的に横っ飛びした。だが、慣れない動きだったのか満足に受身もとれず、彼は火を避けきった後、むき出しの土の地面に痛々しく全身を擦らせた。
「っ…ギラっ!」
〔おっとオッ!〕
体のどこかを擦り剥いたのだろう、彼は痛みを噛み殺すような顔のまま起き上がり、呪文を唱えた。掲げた右手から迸った炎の波は、しかし空中で旋回して間合いを取った魔物を捉えることなく、霧散してしまった。
「くっ…お姉さん、早くっ!!」
痛々しく、三度私に叫ぶ男の子。私はその辺りでやっと、這って動ける程度に体が機能を取り戻していることに気づいた。
私は恐怖に駆り立てられ、無我夢中で商店街に向かって動き出した。スカートや靴がどろどろに汚れるのも構わず、みっともない四つん這いで、少しでも早くこの場から離れようとした。
〔アニキばっかり見てちゃいけないヨ〜!オレもいるんだからヨッ!〕
直後、背を向けた方向―――男の子のいた場所から、鈍い打撃音が聴こえ、振り返った。もう一体の魔物が、私に気をとられていた男の子に体当たりをし、彼の体を塀へと叩きつけたのだ。
「く…っ!」
〔キキキッ、アニキアニキ!コイツ、てんでよわっちいヨ!相手にならないヨ!〕
〔そうだナ弟者!呪文など使うから余程の手練かと思ったガ、どうやらとんだ未熟者のようダ!〕
お腹を押さえて蹲る男の子を見下ろし、嘲笑う魔物たち。
…私は男の子を救いたかった。勇敢にも、その小さな体で私を逃がそうと戦ってくれている彼が、下品な物笑いの種になっていいはずが無いと、私は怒りを覚えた。
けれど、私は結局、自分の命惜しさに町へ、町へと逃げることしか出来なかった。自分の酷い偽善と勝手に這い進む体に強く歯噛みしながら、私は涙に目を滲ませながら彼に背を向けた。私は彼を、見殺しにした。
〔おいおい、どこへ行こうってんだヨ?〕
必死に生還への道に至ろうと縋る私の視界に、魔物の片方が覆いかぶさるように飛来した。おまえたちはどうせ両方ここで食われるのだから、おまえの葛藤など無意味なものだと。その姿の通り、悪魔が囁くように、魔物は私の希望を摘み取りにきた。
〔困るんだヨ、おまえらはオレたちの三日ぶりのメシなんだから。大人しく齧られなヨ!キキッ!〕
〔やれやれ、食事中にうろちょろされるのも面倒ダ!
弟者、もういイ、その女はおまえにやるかラ、逃がさないよう気をつけて食ってしまエ!〕
〔エエ!?アニキ、いいノ、いいノ?オレが独り占めしちゃっテ!こんな美味そうな女なのニ!〕
〔構わんサ弟者!呪文の使い手は珍味だからナ…オレは久しぶりにアレを味わいたいんダ!〕
〔キキキッ!アニキも好きだヨネェ!じゃ、遠慮なく頂くヨ!!〕
蹲る男の子と、犬のように這いつくばった私。それぞれの眼前に陣取ったまま、魔物たちは食事の算段をつけた。献立は他ならぬ、私たち。
弟と呼ばれた魔物が、舌なめずりをしながら私を見下ろしてきた。…私はそこで、もう現実を直視することなんて出来なくなって、きつく瞼を閉じてしまった。これから最初にどこを齧られるのかなんて、考えたくもなかったのに考えてしまう。
遠く、男の子が何事かを叫んだ。それがどんなモノだったのか、今でも思い出すことは出来ない。私の耳は彼の声を聴いていたけれど、私の頭は、彼の言葉など聞いてはいなかったのだと思う。
ただ、覚悟を決めることも出来ず、目の前の恐怖から逃避した私の耳と頭にも、『ソレ』は確かに届いた。
――――――ドスン、という物凄い音だった。まるで大砲でも撃ったのかというほどの轟音はけれど、割とすぐ近くから聴こえた。
…私は、こんな商店街の裏手に何で大砲が?なんて、的外れな疑問をまず抱き。
次に、この一帯の空気が、目を閉じていても判るほどに、痛々しく凍り付いていることに気づいた。
私は恐る恐る、瞼を開けた。見上げると、私が最後に見たままの姿―――大口を開け、不気味な舌をぶら下げたまま、どこか彼方を見つめるように固まっている魔物が、ふわふわと浮いていた。
〔キ…キ…おま、え…なんだヨ…ッ?どこかラ…アニキを…どうしタッ?!〕
魔物が、意味不明なうわ言のような叫びで沈黙を破った。私はその視線を追って、ゆっくりと振り返った。
「………な、に?」
続いて発した私の言葉も、うわ言と大して変わらないものだった。目の前に広がっている光景を、頭で処理しきれなかったのだと思う。私は目を見開いて、全ての疑問を包括する問いを呟いた。
影に溶けてしまうような黒髪と、海みたいに深い青の瞳。
巨漢というには些か及ばない体つきだけれど、その実何故か、どんな巨漢とも打ち負けないだろうと確信させる堂々とした佇まい。
頭には古ぼけたゴーグルをつけて、その青年は突如として、薄暗い郊外の空き地に姿を現した。
町の外へと通じる崩れかかった塀には、どろどろに腐った巨大トマトでも投げつけたのかというほど、夥しい粘液のようなものが飛び散っていた。
赤とも紫ともつかない毒々しい色で塀に描かれた、歪な地図の下に目を向ければ、そこには魔物の亡骸が転がっていた。
恐らくアニキと呼ばれたほうの魔物のものなのだろうが―――吹き飛ばされた、としか表現できないほど頭部が凄惨に破壊されており、首から下の胴体を見て判断するより他なかった。
「に…さま…っ!」
移り変わった事態を喜ぶべきか嘆くべきか。私がそんな思考をすることも出来ずに呆然としていると、男の子は苦しそうに、けれど目には確かな信頼を湛えて、その青年を呼んだ。
囁くような声だったのにも拘らず、私が遠くからでも彼が『兄様』と口にしたことを確信できた。きっとその彼の声が、今までとは比べ物にならないほど、詠う様な好意に満ち溢れていたからだと思う。
私はそこで、漸く理解した。
彼があれほど誇らしげに語っていた兄様という人物がその青年であろうこと。
そして彼の語った賛美が決して嘘偽りではないのだと証明するかのように、青年が魔物を打ち倒し、私たちの危機を救ってくれたこと。
それらを何度も頭の中で確認し、自分の危機が遠ざけられたのだと私が結論したところで、私の体はその場に力尽きたようにへたり込んでしまった。
〔キ…ッ!?〕
青年は、ぼろぼろの男の子を一瞥し、視線をこちらに移した。いや、もっと正確に言うのなら、残ったもう一体の魔物に標的を替えた。
魔物が短く、上ずった声を上げた。対する青年は、眉一つ動かさなかった。体はただの肉塊に成り果てた魔物の方へ向けたまま、それでも欠片の隙も感じさせない振る舞い。こちらには横顔を見せたまま、その青い瞳だけをじろり、と鋭く魔物へ向けた。
…私はその時点で、少しだけ違和感を覚えていた。けれど、青年の力の凄まじさは素人の私にもひしひしと伝わってきたし、彼が敗れることなど万に一つも有り得ないと確信していた私は、その心配を振り払った。
青年が半身に構え、右腕を引いた。調子を確かめるように何度か手の指を動かし、獣の爪のような構えが形作られた。みしみしという音が聴こえそうなほど引き絞られた上腕筋が袖の上からでも見て取れ、そこに恐ろしい力が漲っていることが解った。
…左足が一歩、こちらに向けて踏み出された。その瞳はやはり、標的である魔物を真っ直ぐに見据えたまま揺らがなかった。
〔よ…寄るナッ!こっちニ、来るなヨォッ!〕
「ひっ…!?」
成り行きを見守っていた私に、魔物が掴みかかった。恐慌に駆られ耳元で喚き散らす魔物に、私は再び全身を竦み上がらせ、固まってしまった。
〔動くなヨ…それ以上動くト…ヘヘッ、解るよナっ?〕
「や…や、だ。助けて…っ!」
〔オレとこの女がソコから町の外に出て見えなくなるまで、おまえ、動くんじゃないゾっ?そのまま、少しもだゾっ!!〕
魔物は、私の喉笛などすぐに噛み千切れることを知らせるために、口を私の首に寄せた。紡がれる言葉は、恐怖と愉悦が入り混じった何だかもうよく解らない色に染まっていた。
私は再度降りかかってきた命の危機に、涙声で青年に助けを求めることしか出来なかった。
魔物のいうとおりにすれば、私は町を出た途端頭から食べられてしまう。
けれど私を助けようと近づけば、今度は喉を噛み切られて死んでしまう。
そんな八方塞の状況で、それでも私は青年に縋って、救いを請わずにいられなかった。けれど。
「―――」
「にい…さま…っ?」
〔…っ?!…お…おイ…っ?〕
「う、そ…ちょっと、何で…!?」
青年は構えたまま、全身の筋を引き絞った。その瞳は戸惑う魔物を捉えたまま、僅かも淀まなかった。
男の子と、魔物と、私、それぞれが口々に驚愕の声を漏らした。青年は、魔物の要求の声などまるで聞こえていないように、攻撃態勢をとったのだった。
〔オイ、聞こえなかったのかヨ…っ?人間、同じ人間を殺すゾっ?動けば殺すゾ、それでもいいのかヨッ!?〕
激しく狼狽し、取り乱す魔物。…青年はやはり、その静かな視線で魔物を射抜き続けた。
…私はそうして、遅すぎる確信を得た。少し前に感じた違和感の正体。
気づいて、私の頭を埋める驚愕が、そのまま絶望に変わった。
私は青年がこの場に現れたことで、彼が私たちを助けてくれるものだと思っていたけれど、それは大きな誤り、勘違いだった。
男の子は言った。兄様は船を手に入れる方法を探すために、町で聞き込みをしている、と。
そして町からこの空き地へ来るためには、必然的に、私が逃げようと目指した、商店街に通じる道から入るしかない。
空き地から逃げようとしていた私と、私をかばって塀のほうに追いやられていた男の子。それぞれの目の前には魔物がいた。
…私たちを助けるために、彼が町の方からここに来たのなら、位置関係からいってどちらについていた魔物をまず倒すのが自然であり、効率的か。それは火を見るより明らかだった。
けれど、青年はそうしなかった。敢えて遠いほう、男の子に張り付いていた魔物を先に倒したのだ。
―――つまり青年は、男の子を助けに来たのであって。私を助けるつもりは、毛ほどもなかったということだ。
それを裏付けるように、青年はここに来てから―――まるで居ようが居まいが関係ないという風に。ただの一度として私に、視線を向けようとは、しなかった。
「そん…な。やだ、お願い、止まって、殺さないで…っ!」
既に、私の恐怖の対象は魔物よりも青年に向いていた。けれど、やはり青年は構えを解こうとはしなかった。
私の首を掴む魔物の腕に力が篭った。引きつり、追い詰められたような顔つきで、魔物は私の首に牙をつき立てようと口を開いた。
私はもう、その日何度目かも分からない悲嘆に暮れ、目を瞑った。
いくらあの青年が速く動けたとしても、これだけ距離が開いていて、これだけ近くで牙を突きつけられて、私が事切れるより素早く魔物を屠ることなんて出来るわけがない、と。全てを諦め、あらゆる希望的観測を捨て去った。
――――――魔物が私を突き飛ばしたのは、まさにその瞬間だった。
「きゃっ…!?」
突然、強い力で地面に体を転がされる。私は何事かと、目を白黒させて魔物のほうを見た。
〔キ…キ…!?何だヨ、おまえ…ッ、その顔はッ。おまえハ、人間だろうがヨ…!?どうしテ…ッ!!〕
「え…なに?何言って…?」
〔ウルサイ黙れッ!!人間のくせニ…おかしな変身しやがってッ!…クソ、クソクソッ、なんだってんだヨ、どいつモこいつモッ!〕
魔物は焦点の合わない目で、狂ったように意味不明な暴言を喚き散らした。顔こそ私のほうを向いていても、その視線は浮つき、真っ直ぐに私を捉えることが出来ていない。
私は、男の子か青年が何か変わった攻撃でも仕掛けたのかと思い二人のほうを向いた。けれども、男の子は私と同じように魔物の奇行に目を奪われ呆然としており、青年のほうも筋肉を引き絞ったまま、微動だにしていなかった。
やがて、青年は構えを解いた。そして素早く右膝を振り、地面から何か長い棒状のものを蹴り上げた。青年は目の前でくるくると何周か回転したそれを左手で的確に掴み取ると、端を魔物へと向けた。
それは、私が魔物に体当たりされた時に取り落とした、魔道士の杖だった。
「―――」
青年の口から呪文が紡がれることはなく、杖の先端の赤い宝玉から、突如として炎の波が噴き出した。
尚も錯乱したように慌てふためく魔物は、自分目掛けて放たれた炎に横殴りに飲み込まれ、声にならない悲鳴を上げた。
炎自体の殺傷力は大したことがないはずだけれど、恐慌状態の魔物にしてみれば予想だにしない方向からの攻撃だったらしく、仰天して空中を飛び回った。その直後。
〔ギ―――〕
炎が浴びせられたのと同じ方向から、今度は青い砲弾が魔物へと叩き込まれた。
それは、他ならない青年自身だった。恐らくは、先ほどまでとっていた構えから、改めて放たれただろう一撃。
私と同等かそれ以上の凄まじい速度に、途轍もない腕力が載せられた凄まじい攻撃だった。
前傾姿勢から極端に突き出された右腕の先端―――掌が、標的の喉元に的確に打ち込まれ、魔物の身体は首を軸に、曲がってはいけない角度までひん曲がった。魔物の口からは、蛙が潰れたような歪な悲鳴が漏れた。
私が横顔から見た青年の目は、やはり少しも揺らいでいなかった。…私は自身の動体視力で、一瞬のはずのその光景を目に焼きつけて、純粋にこう思った。
この人は本当に、私と同じ人間なのか、と。
青年の槍のような一撃を食らい、恐らくは首のあらゆる機能を粉砕されて既に絶命していただろう魔物は、それでも容赦なく吹っ飛ばされて一回、二回…と土の上を跳ねた。
やがてその体は煉瓦の山に突っ込んで、魔物は首から上を煉瓦に埋めたまま、ぴくりとも動かなくなった。
「………っ」
長い長い緊張の時は去り、空き地に静寂が戻った。
私は青年に対して抱いた畏怖の念をそのままに、息を呑んだ。青年が普通でないことを悟っていた私は、或いは、万が一にも、その矛先が次の標的として自分に向けられるのでは、と考えたからだ。
けれども、そんな心配は杞憂に終わった。
「………プリン」
青年はやはり、眉一つ動かさないまま、その場の静寂を破った。私が初めて耳にした青年の呟くような声は、強い力に満ち溢れたものだった。
「はい」
前触れもなく紡がれた青年の言葉に、人の名前だろうかと私は推測を巡らせた。けれどその答えを導くより早く、空き地から少し出た辺りの路地裏から、女の子が返事とともに静かに歩み出た。
幼い顔立ちに透き通るような青い瞳と、フードから伸びる美しい金髪は、あの男の子を連想させた。
柔らかな微笑を湛えて薄暗い空き地の面々に加わった女の子は、私がまじまじと視線を注いでいる事に気づくと、軽い会釈と朗らかな笑顔で返してくれた。彼女は私と、自分を呼んでおきながら一瞥もしない青年の脇をそのまま通り過ぎて、蹲る男の子の方へ向かった。
「…ベホイミ」
女の子が男の子の脇に屈んで、何事かを呟いた。それが回復の呪文であろうことは、女の子がかざした輝く手が、男の子の傷をなぞって塞いでゆくのを見てすぐに理解できた。
「ありがとうございます、プリンさん!助かりました、ボクはもう大丈夫ですから…あっちのお姉さんを…」
やがて体の痛みが全て消えたのだろう、男の子は元気に立ち上がり女の子―――プリンに礼を述べると、私のほうに目配せした。彼女は彼の何事か提案しようとする言葉を手で制して首を振り、再び口を開いた。
「分かっています。傷の治療は私に任せて、ランドさんはもょもと様に、早く無事をお報せ下さい」
「…はいっ!」
ランド。それが男の子の名前だった。プリンはにこりと微笑んで、彼に青年のもとに急ぐよう促した。
…もょもと、というのが青年の名前であろうことには、ランドとプリンの名前を当人たちに一致させるより、私は随分時間を使った。何しろ発音が難しい、聞き取りづらいときて、何より普通そんな訳の分からない言葉を人名に使うだろうか等など、色々勘繰ってしまった。
そうこうしている内に、ランドは未だ直立不動で、魔物を倒した位置に静かに佇んでいるもょもとへと駆け寄っていった。その嬉しげな表情から彼がどれほど兄を慕っているかが見て取れて、私はその和やかな空気にやっと肩の力を抜くことが出来た。
…やれやれ一安心、と胸を撫で下ろし、気持ちを落ち着けるために大きく息を吐き出した。私が穏やかな気分で二人の接近を見守っていると――――――もょもとは、目の前に来たランドにいきなり平手打ちを食らわせた。
「…っ!?」
私は目を疑った。体は金縛りにあったみたいに固まって、呆然とするしかなかった。
ぱん、という切れ味鋭い音を立てて頬を突っ張られたランドは、そのまま防御も受身も為さず、無抵抗で地面に倒れ伏してしまった。
ランドを打ち据えたもょもとは無表情のまま、じっと横たわった彼を見下ろしていた。けれど、やがてその視線は彼を殴った自分の右手に向かい、そして見つめたまま動かなくなった。
ランドは土に顔を伏したまま、立とうともしなかった。…先ほどのもょもとの魔物への攻撃と比べて、ランドの吹っ飛び方は随分大人しいものだった。もょもとが、彼に致命的な傷をつけないようかなりの手加減をしただろうことは、容易に想像できた。
けれどもきっと、それはランドにとって立ち上がることが出来ないほどの痛みだったのだと思う。…まだ人間的に青かった私には、それが朧げにしか理解できなかったけれど。
「…つ…っ!?」
私は思わず、引きつった悲鳴のような声を上げてしまった。突然、自分の手の平を見つめていたもょもとの視線が、じろりと動いたのだ。
視線の先にいたのは、他ならぬ私。それが、彼が初めて向けた私への視線だった。
とても静かな視線だった。まるで感情の篭らない、人のものとも思えない瞳。例えるなら、爬虫類のそれだ。
獲物の品定めでもしているのではないかと錯覚したくなるほど冷たい目に捉えられ、私は微動だに出来なくなった。
呼吸も忘れて身を硬くする私と、何を考えているかのか分からない無表情で見つめ続けるもょもと。互いの間に、膠着の時間が訪れた。 けれど、暫くすると彼はあっさりと、興味をなくしたように私から視線を逸らしてしまった。
「…ふむ。プリン」
「はい」
彼は目を伏せて、一つ息をついた。そして、いつの間にか私の脇にまで歩み寄っていたプリンに呼びかけると、商店街のほうへと歩き出してしまった。
「彼女の手当てを済ませたら、安全な場所に移動して事情の整理を頼む」
「もょもと様が直接なさらなくて、宜しいのですか?」
「そうしたいが、それだと効率が悪そうだ。俺が同席しては、彼女が怖がって会話に苦労しそうだからな。先に聞き込みに戻っている」
理路整然と紡がれる、もょもとの言葉。プリンは少し意外そうに、それでも朗らかな笑顔は崩さずに、彼の言葉を受け止めては、その背中へと返した。
…彼も人間らしい会話を出来るのか、と私は当たり前のようなことを薄ぼんやりと考えながら、二人のやりとりを見届けていた。
「…仰せの通りに。後のことは、お任せ下さい」
恭しく提案を承諾したプリンに、彼は背中越しに頷いて返し、そのまま空き地から去っていった。
「………はぁぁぁぁ…」
それで今度こそ、本当に今度こそ全ての緊張の要因がなくなったのだと、私はこれでもかというほど脱力した。けれどはたと、視界の隅に横たわったランドの存在を思い出した。
「ちょっと、君!ランド君…でいいのかな、大丈夫!?―――って、いたたた…!」
「ご心配なさらずに。あまり動くと、呪文で治せない後遺症を作らないとも限りませんから。どうか大人しくなさって下さい」
腰痛を抱えた老人のように、ランドに駆け寄ろうと立ち上がった直後に私は座り込んでしまった。プリンはそんな私の傍に屈み、気遣う言葉をかけてくれた。
支援
「痛むところ、教えてください。順番に治していきますから」
「え、あ、うん。ありがとう…お腹と、肩と…って、本当にいーのっ?」
「ベホイミ」
プリンは呪文を唱え、ランドにしたように私の示した箇所を優しく、輝く手でなぞった。彼女の手はとても温かく、辿った部分から次々と、酷かった痛みが嘘のように消え失せていった。
彼女は私の負傷を癒しながら、静かに続けた。
「…私も、心配でない、といえば嘘になりますけれど。
でも、もょもと様はランドさんに手酷い傷をつけないように手加減して殴ったように見受けましたし…それに―――」
「…あー…そこ、いい。すごく楽。…それに?」
プリンは一度、そこで言葉を区切り、苦笑とともに視線をランドへと向けた。私もつられて目を動かすと、丁度、彼が地面に手をついて、半身を起こし始めたところだった。
「…いえ。これを私の口から言うのは、無粋です。どうかお忘れ下さいませ」
目を伏せ、穏やかな笑みを浮かべて、プリンは言おうとした言葉を飲み込んだ。彼女が私の体をなぞり終え、痛みが完全に消えたのはそれとほぼ同時だった。
私は少しそれが引っかかったけれど、その時はまず、私のためにいの一番で体を張ってくれた男の子のもとに駆け寄りたかった。
「ありがと、プリンちゃん。えーっと、色々言いたいこととか訊きたいことあんだけど、今はこれでゴメン!」
早口でプリンに礼と謝罪を述べて、私はすぐにランドの脇へと身を寄せた。
「ランド君、起きられるっ?肩、貸そうか?」
「…はい。ボクは、平気です。心配かけて、すいません」
顔を上げ、力なく笑うランドの左頬は、真っ赤に腫れていた。もょもとの平手に、相当の力が込められていた証拠だ。
私は居た堪れなくなって、思わず彼の小さな体を抱きしめた。
「んぐ…お、お姉さん…?」
「ごめん…ごめんね、ランド君。私がドジで、愚図だったせいで、君があんな目に…護ってくれて、本当にありがとう…!」
私は力いっぱい抱擁し、言葉にしきれない感謝と謝罪を、それでも込められるだけの誠意を込めて、彼に伝えた。
「お姉さん、苦しいです…っ」
「あ…ごご、ゴメンゴメンっ」
力が入りすぎたのだろう、ランドは申し訳なさそうに苦痛を訴えた。私が慌てて身を離すと、彼は複雑な面持ちで苦笑した。
「本当に、大丈夫?頬っぺた、痛くない?跡になってるよ」
「あはは…実は、まだちょっとひりひりします」
「やっぱり。ね、君も、傷治す呪文とか、使えたりしないの?」
「そういう呪文も使えますけど…でも、治すのはやめておきます。
この痛みは、きっと辛いからって消しちゃいけないものだと思いますから」
「…?どーいうこと?」
「あの、お取り込み中申し訳ありませんが」
どこか誇らしげに語るランドの弁が今ひとつ理解できず、私は首を捻った。そこで、プリンが間に割って入って、私たちの会話は中断された。
「お互い、色々と知りたいこと、知らせなければいけないことがあると思います。けれどまずは、場所を移しましょう。
ここにいては、またいつ別の魔物が襲ってくるかもしれませんし」
「あ、そ、そーだわねっ。んじゃ一先ず、私の家に行きましょ。
君達は私の命の恩人様だもん、しっかり持て成さないとルプガナの船主の家の名折れってやつよ!」
「まぁ。貴女は船主様の家の方なのですか」
「うん。ランド君から、そっちの事情は大体聞いてるわ。その辺りのことも含めて、じっくり腰を据えて話しましょうか」
そういって、私たちは三人揃って空き地を後にした。
そこからは、詳しく話すほど大きなことは起こらなかった。
家へ向かう道すがら、私達はお互いの遅すぎる自己紹介をかわした。プリン達二人が、人ごみの中を一生懸命走るランドの姿を偶然見つけて、何事かと追跡してくれたおかげで私達が九死に一生を得たことを説明され、色々な他愛もない世間話も楽しんだ。
私は家に着くまでに、プリンという女の子がとても聞き上手で、且つ気配りの出来る人であることを充分すぎるほど理解した。
お世辞にもおしとやかとはいえない私の喋りにも全く嫌な顔をしないで、逐一驚いたり感心したり、弾みのある反応を返してくれた。
かと思うと、家のある港が近づくにつれて、私が何の説明もなく喋り方をがらりと余所行きの態度に切り替えても、その事について少しも言及せず、送った視線だけで事情を汲み、自然に合わせてもくれた。同じ女として、本当によく出来た女の子だと舌を巻いた。
そうして、家に着いてからの話はとても早く進んだ。お爺様は事情を聞くと泣いて二人に礼を言って、二の句も告げずに船を貸すことを約束してしまった。
お爺様が、準備があるから船を出せるのは翌日になる旨を告げると、二人は宿へと帰っていった。勿論、そのまま我が家に泊まっていけばいいと私とお爺様は提案したのだけれど。
「すみません…にーさまが、宿で待ってますから」
「お気持ちだけ、有難く頂きます。また明日、こちらに伺いますね」
彼らはやんわりと、そういって返した。
…私はその日一日で、ランドとプリン、二人のことを甚く気に入ってしまった。出来ることなら友人として、長く付き合いたいと思ったくらいだ。
けれど、あのもょもとという青年―――ランドが兄と呼び、プリンも様付けで付き従う彼のことだけは、思い返すだけで寒気が起きた。正直、あれほど出来た人間の二人が彼を慕う理由が、私には見当たらなかった。
「あ…あの、にーさまがボクを殴ったことなら、いいんですっ。悪いのは、ボクなんです。
手分けをして町に出る時に、人気のない場所に行かないようにって注意されたのに…なのに、あんなところに行っちゃって、魔物に襲われて。
…にーさまが怒るのも、当たり前なんです。だから、ボクが叱られるのは仕方なくてっ」
私が包み隠さず、ランドが言うところの兄様に対する不信を口にすると、彼は慌てて弁護した。…成る程、ランドが殴られたことは、それで納得も出来た。
けれど、その前。もょもとは間違いなく、私を見殺しにしようとした。もっというなら、眼中にすら入れなかった。その事実が、私は堪らなく恐ろしかった。
後の会話で分かったことだけれど、あの時私を人質に取った魔物が錯乱したのは、プリンが幻惑の呪文を唱えたせいだったらしい。ランドはその時きっと、もょもとがプリンが援護してくれるのを計算に入れてああしたのだと信じていただろう。
だから、私はその事については言及しなかった。真実は本人に問い質さないと分からないことだし、私はそんなことのために再びもょもとという青年と対峙しなければならないのは、御免だった。またあの冷たい瞳に飲まれるような思いを味わうと思うと、怖気が走った。
そんなだから私は、翌日彼らが三人で船出をしようという時にも、見送りに出て行くことが出来なかった。二人への好意よりも、彼への恐怖の方が、私の中ではずっとずっと大きかった。
それきり、私は彼らの姿を見ることはなかった。後で全てが終わったことを知り、彼らが船を返しに来た時も、私のランドとプリンに会いたい気持ちはもょもとへの畏怖に押しつぶされてしまい、私はただベッドに潜ってやり過ごすことになった。
結局、私と彼らが顔をあわせ、言葉を交わしたのは、私達が出会った日、その日一日限りになってしまったというわけだ。
――――――そう。だから、あの時は驚いたわ。や、邪教が滅ぼされてから、実はあの三人はロトの血を引く王族だって聞いた時も大概だったけど。
それよりも、十年以上も経ってあの冷血人間が、統一王イデーンなんていう大層な名前引っさげて私なんかを訪ねてきたんだもの。そりゃびっくりしたわよ。
そりゃね、その頃にはもう、私も家の跡継いで、ルプガナの船主の元締めとしてぶいぶい言わせてたけどね、だからって世界を束ねる王様がわざわざ個人的に挨拶に来るほどの大人物だなんて思わないでしょ、普通。
――――――それがね、開口一番、何言ったと思う?
『あの時はすまなかった。君の大切な命に、大変な非礼を働いてしまったことを許してほしい』…だって。
やっぱりあの時私を見殺しにするつもりだったのかー、って怒るよりも、私ゃもう世界で一番偉い王様に頭下げられて大慌てだったわよ。―――そう、そんな大昔のこと、謝る為に来たっていうの。
………本当。何ていったらいいのかな、無骨で愛想がないのは相変わらずだったんだけど。あの時の冷たい瞳が、信じられないくらい暖かくて、生き生きとした色になってて。だから私も、その時の彼は全然怖くなんてなくてね。
…何があったのか、思わず訊いちゃった。詳しいことは話してくれなかったけど。でも、大事なことだけは教えてくれたわ―――秘密にするって約束したから、これだけは言えないの。ごめんね。でも、私はそれで彼が変わったこと、納得出来た。
―――うん。私からしてあげられる話は、これで全部。遠路はるばる、ご苦労様。こんなん思い出話で、何かの足しになったかしら?―――そう。よかった。さて、じゃあ私も、職人連中に喝を入れに行くとしますかね。見送り出来なくてごめんね―――。
***
―――決して、俺抜きで人気のない場所には行かない事。どんな脅威が潜んでいるか分からないぞ。
空が茜色に染まる頃、俺は宿の二階にとった部屋に帰り、窓際から外の景色を眺めていた。
町並みの向こうに沈もうとしている夕日に右手をかざす。西日が強いせいで、顔に出来る陰りはいつもよりも随分深かった。
「…俺は、何故あんなことを」
部屋には俺一人、誰にともなく呟く。帰ってきてからもう何度目になるだろうか、午前中の出来事を脳裏で思い返す。
…初めに手分けして聞き込みをしようと言い出したのは、ランドだった。俺は、御三家の統治の及ばないこの未知の町で彼を単独で行動させることに渋ったが、しつこく食い下がる彼に、一つの条件をつけて提案を承諾した。
それはいい。だが、その後は何だ。
何故、俺は彼を殴った。
俺にとって、彼は護るべき対象だ。いくら約束を反故にしたからといって、危害を加える必要がどこにある。冷静に考えれば、彼が提案を承諾したことで気を緩め、不測の事態を想定しなかった俺のミスなのは明白だ。なのに、何故。
…いくら考えても、答えが出ない。いや、それ以前に、答えを出すための材料があまりにも不十分だ。
俺はあの時、ランドが自分に駆け寄ってきた時、何を考えていた。…答えは、『分からない』だ。
どれだけ必死に記憶を辿ろうが、思い出せない。今まで磨き、鍛え、蓄積してきた、知識・教訓・理論・経験。そのいずれも、あの時の俺の頭にはなかった。気がついたら、俺の体は彼を張り倒すために右腕を振るっていたのだ。
…こんなことは、初めてだ。俺は俺の体を、全てをおいて最も信頼する武装とするために練磨してきた。武装である以上、俺の肉体も『武器は使い手が望んだ時に、想定されるだけの性能を発揮できなければならない』という義務を満たすべく、鍛えてきたつもりだ。
だというのに―――俺の利き腕は、俺の意思を無視してランドを殴り飛ばした。原因が分からない以上、再び同じようなことが起きないとも限らない。
無意識だったせいだろう、今回は幸いランドに重傷を負わせるような威力はなかった。だが今後もそうである保証はどこにもない。何としても原因を突き止めなければならない。ならないが―――。
「………さっぱり分からん」
やはり、どう必死に考えたところで、辿り着く答えは『分からない』だった。
俺は一体、どうしてしまったのだろうか。思えば彼―――ランドと出会ってからというもの、俺はしばしば内に理解しがたい…世間の言葉の中に相応しい表現を探すなら、衝動とでもいうようなものを燻らせることが多くなった。未だかつてこんな経験はなかった。
それでも今までは、大した問題を起こすようなことはなかったから目を瞑ってきたのだ。だが、今回の一件は無視できない。この問題を放置すれば、俺はいずれ彼に取り返しのつかない危害を加え――最悪、死に至らしめてしまう虞すら考えられる。
「どうしてしまったというんだ。俺は…」
目を伏せ、呟いてみても答えは返ってこない。
…不意に、部屋の扉がノックされた。こん、こんという遠慮がちな音。
「…開いている」
俺はその癖のあるノックで、扉の向こうに居るのがランドだと悟り、反射的に眉間に皺を寄せた。彼のほかに、知っている気配がもう一つあった。どうやら、一緒にプリンも帰ってきたらしい。
俺はまだ考えが纏まらないうちに彼と対面するのは少々気が引けた。だが、聞き込みで疲れているだろう二人を、俺の勝手でいつまでも待たせるのは得策ではない。
頭の中で簡潔に利害を纏めて、俺は少しの沈黙の末、返事をした。
「…にーさま」
扉の向こうで、息を呑む気配。一拍ほど間をおいて扉が開かれ、所在なさげな顔のランドが入ってくる。そして、そのまま扉が閉められた。
「…?」
プリンは、後に続かなかった。扉の前から立ち去る気配もない。…何のつもりか、部屋の外で待機している。
「にーさまっ。あの…!」
俺が廊下の方にやっていた意識を、ランドの呼びかけに引き戻される。彼はキッと表情を引き締め、胸を張って俺に正面から向かう。そして、何かの覚悟を決めたように語気を強めてから、呼吸を溜めた。
「…昼間は、言いつけ破って、ごめんなさいっ!それと、助けてくれて、ありがとうございましたっ!!」
深々と頭を下げて、ランドは一息に、謝罪と礼を言い切った。
…対する俺は、窓際の椅子に腰掛けたままの格好で、固まっていた。僅か、ほんの僅かだったが、間抜けに口を開けて、彼の振る舞いを見つめることしかできなかった。
俺は本能的に理解した。俺が考えを巡らし、ランドが頭を下げる、今日の一件。それが如何なるものなのか、やはり俺は答えは見つけられないが、それでも―――彼が、自分の考えに迷いを持っていないことだけは、伝わった。
真っ直ぐに胸を張るランドと、自分の行為の真意を求めて外に浮ついた視線を向ける俺。それはそのまま、彼と俺のこの件に対する現状そのものだった。
「――――――それと、もう一つ、ありがとうを」
呆ける俺を置き去りに、ランドは更に言葉を重ねる。
少しの間を置いてから再び発せられたその声からは、先ほどの言葉に込められていたような力みや覚悟は、ごっそりと抜け落ちていた。そして代わりに彼は、満面の笑みを浮かべ、弾むような調子で続けた。
「約束。守ってくれたんですね。…ボクが失敗したら、友達として、ちゃんと叱ってくれるって」
「―――っ」
俺は、途端に全身がむず痒くなるような感覚に襲われた。同時に、自分に対する情けなさに、居ても立ってもいられなくなった。
…彼ですら、もう今日のことに折り合いをつけ堂々と振舞っているというのに、何だ、俺の有様は。これが次代のローレシアの当主―――『古く尊き根源なる世界』、イデーンの名を背負う者の姿か…っ!
「…あっ、にーさまっ」
修行が、足りない。まるで足りていない。俺は自分の不甲斐なさに苛立ちを覚え、席を立った。そしてそのまま扉の方へと歩いてゆく。途中、部屋の中ほどに立っているランドを見ることは出来なかった。
ランドは焦るように取り乱して俺に縋ろうとする。だが、彼やプリンに今の腐った俺の目を見せては、不安を煽るだけだ。ロトの血を導く者は、後に続く者が安心して追従出来るよう、常に強く在らねばならない。俺は今、彼と目を合わせることは出来ない。
「………少し、出てくる。今日は疲れただろう。ゆっくり休め」
「に―――」
扉の前で一度だけ立ち止まり、それだけ言い残す。そして、返事は待たずに部屋を出る。背中に投げられたランドの呼びかけが、扉を閉める音で掻き消された。
…呼吸を整え、すぐ左脇に意識をやる。無言のプリンが壁に背中を預け、彫像のように佇んでいた。
俺はやはり何も言わず、階下を目指して歩き出す。プリンは動かず、俺の後を追おうとはしなかったが、俺は背中越しに、彼女が一つ呼吸をする気配を感じた。
「…今日、もょもと様がランドさんにしたことには、何も恥ずべきところはないと思いますよ」
前置きの言葉もなく、プリンは静かにそう言った。
「申し訳ありません。差し出がましいとは思うのですが。…何か、思いつめていらっしゃるようでしたので」
無言で、それでも立ち止まって言葉を受け止める俺に、プリンはいつもの穏やかな声で謝罪した。
紫煙〜
「もょもと様が悩まれていることは、ご自身で考えられているほど深刻な問題ではない…と、私は考えています。
ご心配なさらずとも、ありのまま、これまで通り過ごされても、危惧されるようなことにはきっとなりません。
…ランドさんも、もう気に病んではいませんから。あまり悪い方へ考えませんよう…」
「―――朝までには、本調子にして戻ってくる。ランドにも、そう伝えてくれ」
心の内を見透かすような助言を告げるプリンに、俺は俺の都合だけを一方的に伝える。彼女はそんな俺に機嫌を損ねた気配も感じさせず、短くはい、と答えて返した。
そうして再び歩き出そうとしたが、俺はもう一つだけ彼女に伝えるべきことを思い出し、それを一息に口にする。
「…昼間は、手間をかけた」
「いえ」
やりとりは、もうそれだけだった。プリンは俺の言葉の真意など説明されるまでもないとばかりに、間髪居れずに静かな返事をした。
俺は今度こそ、立ち止まることなく階下へと降りていった。そのまま宿を出て外に顔を晒すと、冷たくなり始めた潮風が頬を撫でた。分からない事だらけで茹だりかけた頭が、急速に冷えてゆく。
―――さて、プリンにはああ言われたが。果たしてそれを、素直に受け入れていいものか。
まぁいずれにせよ、約束して出てきてしまった以上、腑抜けた顔のまま宿に帰るわけには行かない。どうにかして、心を落ち着けなければ。
「―――ハァ」
俺は一つ深呼吸をし、昔の自分を思い返す。ランドやプリンと出会うよりも、ローレシアを旅立つよりも、ずっと前だ。
武器も防具も身につけず、衣服と体だけで山を、森を、草原を駆け巡った、幼い頃の俺。
どう隠れ、どう襲い、どう壊せば標的を巧く仕留められるのかという命題に、貪るように挑み続けた俺。
囀り、無駄なことに戯れあう『彼ら』を尻目に、生物の体の構造について綴られた様々な書物を読み漁った俺。
―――思考の冷却が極限に達する。もう、問題ない。さあ、夜明けまでの暫しの間、久しぶりに探求に没頭することにしよう。
あらゆる雑念を静まった思考の彼方に忘却し、俺は町の門をくぐって夕闇に身を躍らせた。
〜第一章『遥かなる旅路、果てしなき世界』〜 了
乙でした!
とうとうもょもとにツンデレの萌芽がw
戦闘シーンも良かったです!
初リアルタイム遭遇でラッキー!!
以上、第十三話をお届けしました。章の終わりを飾る話ということもあり、メタクソ長くなってしまい予想通り規制の嵐。
支援くださった方、ありがとうございました!
そして今回で丁度1クール分、当初の宣言どおり、また暫く雲隠れして書き溜めてから来ます。家賃の決め事とかも色々ありまして…w
そんなこんなで多くの謎っぽいものを残しつつ、第二期に続く。容量的にも現行スレではこれ以上の投下も出来そうにありませんし、キリもいいかと。
あと余談ですが、絵師さまから「CG集作るから、構成とかやってみない?(意訳)」というお誘いを有難くも賜り、後学のために挑戦してみる次第。
それでもスレは定期的に覗きに来ますので、もしなんかあればネタバレとか以外のことならお答えします。その時は遠慮なくどうぞです。ほいではーノシ
>>594 改めて乙でした!
気長に待ってますよ〜ノシ
力作ktkr!
ちょっとずつ成長していくもょもと君とランド君にニヤニヤするプリンさんにニヤニヤ。
V編もそうでしたが、章タイトルが毎度毎度ツボです。
YANA氏乙です。
相変わらず可憐なランド君と、不条理にとまどう
もょもとにwktkが止まらない。プリンも頼りになるなあ
ゆうて いみや おうきむ
こうほ りいゆ うじとり
やまあ きらぺ ぺぺぺぺ
ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ
ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ ぺぺ
長編乙。
どんどんフラグ立てしていく、もょもととランド。
知らぬ間に執事的ポジションに収まったプリンは、逆転の秘策を持っているのだろうかw
>当初の宣言通り
すっかり忘れて、週刊連載を楽しみにしてましたよ・・・
まあ急かすつもりはないので、気長に待たせてもらいます〜
YANA氏のもょもと見てるとジェ○デッカーとか神○長平作品とかの
子供や人との触れあいで心を会得する機械モノの話思い出すのら
キミ達が何故泣くのか、ようやく分かったよ
ほっほい