自分で2ゲット
未だ脱せぬ停滞期。せめてスレ立てだけでもと、規制解除を待つこと既に一週間。
よくやってくれた、
>>1乙!!
というわけで、スレも一区切りということで一先ず生存報告。
相変わらず執筆は凍結中ですがスレだけはちょくちょく覗いていました、これが。
そして前スレの終盤で過去ログ関係のごたごたがあったのを見ていて(何か地味に他所様で書いたSSも溜まって来たし)、
「あー、いつまでもCCさんにおんぶに抱っこってのもどーなのよ」とか色々考えましたが、
当面はリアルの目標を追うので精一杯になるため、何らかの行動をするにしてもその後になるかと思います。
つーてもネタにだけは特段困らず、単に書くだけの時間とテンションが得られないというだけで、
日一日と書きたいものが溜まっていくのが困りもの。
そうしてCCさんを筆頭に色んな方の作品を見ては、自分のSSがどれだけ勢いに任せたモノであるかを確認する日々。
アリワ外伝が完結したら、色々と自分の作風を試験的に変えたりしてみようかという所存。
…それにしても、CCさんという一級のスレ看板作持ちが現在進行形でいらっしゃるのに、
度々「アリスワードの続きネーノ?」と尋ねてくる方がおられること自体にびっくりですよ。…ばかぁ、有難う。俺頑張る。
前スレ埋め完了 本当はこれも貼りたかった…携帯の人わけわからなくてスマソ
ペイント開く→テキストボックス開いて下記数列をコピペ→黒色で背景塗りつぶし→?
531752537525371537152371375275317527535275315757257571257573127351725315237532535172523
575372515253712536575172753751253715273571525735172715253712537123757257152357125371557
522166653381522666899952185238527575517525371535123515237253727512253172352751725371572
727521783581252366689993283758357253715352753712537253517253712575312317537235175372572
251569989999937562139375273178535257315351351235715351235123725371523712735125525372577
723296695383732179997327136695735275372537237521753527352531572352753253725327352735275
537253751357275375752753725351525325371525725732735152553155327532515252557152725715252
535127537152317537537881887578833587585578853757125735172352537125375725173527351725371
573527531723751253153985897587385286281787285735725735172535712576666666572510022005372
575275317253715531735178513289982183985189983515357275371757275717317697571730015007152
737231773273713727327718351281285283583382187375717357127571757537269573175730053007527
773272717317723712731737127317371273173712732137137237173727525536975273822571527527572
572357152375123527537172537253712537523769996521569996525152515529666669925120015003257
727537257135253751257573517552537253725837571572825375715253552735125375371527532753717
537275317237515237152753575175752553512835175273853275371525753512753725372575175275371
517527575735175253125371527351725371277396669573296669537257351725735725172575371523275
ちょwwwちょっと留守にしてたら、前スレ埋まってたw
>>1 超乙!ありがとうございますです<(_ _)>
>>6 まとめてる訳じゃないですし、お気になさらずに〜。
あ、せめてお知らせのリンクのURLは、ログの方に直しておきますね。
スレ落ちしても辿れるようにしときます。
ホントは、まとめられるといいんでしょうけど(^^ゞ
>>7 すげぇ。前スレのも見ましたよ!がんばります!!
。。。えぇと、とりあえず前スレのログをアップするところからがんばるかなw
い、いや、やっと時間取れそうだから、たった今からすぐ頑張りますとも!
来週もそこそこ忙しそうだから、できそうな時にがんばらないと(`・ω・´)
ふむぅ〜。。。え〜と、ちょっとは進みました(^^ゞ
ついさっきまですっかり忘れてたんですが、そういえば私、今日誕生日でしたw
あー、なんとか今日投下できればよかったのになぁ。とても全然無理です><
そうだ、免許の更新も行かなくちゃいけないんだった。めんどくさい。。。orz
11 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/23(月) 09:10:31 ID:YKgwJUuK0
前スレの怒涛の埋立て凄すぎw
特に、
>>609 >>7 すげぇGJ!!
CCさん、誕生日おめでとー!!
YANAさんも久々でワロタw 、見切りさんが最近見えないけど・・・
これからも楽しませてくれぇwww
>>CC座の人
一日遅れだけど、おめでとり〜!
次回もwktkしてますよ。
前スレの埋めワロタw
YANA氏、ペイントの職人さん、ともに乙!
>>11,12
どうもありがとうございます。恐縮です(^^ゞ
次回、お話はほぼ固まったのに、テンションというかピント合わせで手こずってます。。。
今日も、もうちょっとあがいてみます〜ノシ
うぐぅ〜。。。時間とれない〜><
もう少々お待ちください。ホント最近すいません><
まあその分一回が長くなってるからね。
月イチ連載だと思って有り難く読ませて頂いてますm(_ _)m
16 :
見切った死体:2007/07/26(木) 23:42:42 ID:23s39zH+0
>1乙
久しぶりに覗いたら新スレ立ってて,なおかつ見切りといった単語が目に入ったので生存報告.
いちおー生きてます.いちおーね……
因みに筆は全くもって止まってます.一日にまとまった時間が取れないのがにんともかんとも.
30分だけでも捻り出してチマチマやってくしかないのかとか,そんな感じで.定時ってなに其れ?美味しいの?
使用制限のない精神と時の部屋とかかんづめかんとかコピーロボットとかどこで手に入りますか?
……再就職する前に締めておけばこんな事にはorz
一ヶ月前に,例の一周年記念に投下しようと画策していたときが遠く感じるわー.
筆も止まってるけど,完結は諦めてないよっ!!渋いおっさんたちを出したいよっ!!アトラス様は無双だよっ!!バズズは………
ベリアル様は強いんだよっ!!ハーゴン様はかっこよくするよっ!!シドー様は化け物だよっ!!ムーンのおっぱい(*´Д`)ハァハァ
見切りさんの生存を確認w
べ、別に心配なんてしてなかったんだから!
つか、うかうかしてると、いつの間にやら私も1年経ってしまいそうなので、がんばらないと(^^ゞ
この週末を越えれば、ようやく用事ラッシュも一息つく筈。免許も更新したし。
>>15 ありがとうございます<(_ _)>
ホント、これじゃ月1連載ですよね(^^ゞ
毎回、実質書いてるのは1週間くらい(の筈)なので、
時間さえとれるようになれば、週一。。。はムリか?w
でも、なんとか隔週連載くらいはこなしたいと思ってます(^^ゞ
最低、月2回は。。。できれば、3、4回。。。でも、先の話考えてねーからなぁw
保守
静かに保守
保守
ほす(^^ゞ
保守
保守がてらに少し雑談ネタを
このスレは女勇者はツンデレと言うことだが
ツンデレって大体ドン位の範囲を言うんだろうか?
つよきすとか言うゲームで全員ツンデレと言う設定だったらしいんだが
5パターン位あったみたいだし、別の女勇者スレではどんな性格の女勇者が良いかって話題もあったので
ちょっと此処に見てる人、書いてる人に聞いてみたい。
「どんなツンデレが良い?」
俺はあんましここでは無い勇者の血統に自負心が強いタイプとか
ヤンデレっぽいのも良いかなとおもってる。
ヤンデレな女勇者とか結構好物だったりする俺。
君が見た光(ツン)、僕が見た希望(デレ)
他人にはツンに見えるが、自分にはデレ。
他人が居ない場合は時は完璧なデレ。
>>23 vipの某スレのツンデレたち
あと言いたいことは
このスレは女勇者はツンデレということではない
>>26 mjd!? ずっとツンデレの女勇者限定のスレだと思ってたよorz
そして、某VIPのツンデレが解らん。
>>24 あら、意外と需要ありか?ダークファンタジー系でヤンデレならネタはあるが
色々とレスを考えたがどう考えても夏休みなので萎えた
とりあえずまとめぐらい読め
なんとか近日中に投下できるようにと、じったんばったんしてまふ。頑張りまふ
自分なりにご質問の件を考えてみたんですが、どちらかというと私は、
パターン化とは逆の方向性を好むタイプのようで、そういう視点に乏しいせいか、
上手く答えを見つけられませんでした。すみません(^^ゞ
そんなザマで、おまいはどの面下げてここで書かせてもらってるんだ、
と怒られてしまいそうですが。
いや、好きな登場人物にツンデレが多いのは確かなんですけどね。
>>27 あと、ドラクエ限定です。ドラクエ+ツンデレしばりですね。
勇者しばりではないので、ツンデレが勇者とは限らないです。
そんな、ひどい・・・。男ツンデレの書けないスレなんて!そりゃーねーぜ、旦那w
>>23 大別して二つのパターンが好きです。
口数は少ないのが好み。けど能動的で、行動力があると尚よし。
口数多い場合は逆に、受動的で日々をのんべんだらりと過ごすようなタイプが好き。初期のヴァイスみたいな?
前者は普段相方に素っ気無いけど、万一相方が危機に陥ったりするとブチギレ金剛だったり、
気を抜くとゾッコンオーラ垂れ流しだったり。好意を容認しつつ、普段自重するクチがこれ(自覚型)。
後者は薄々自分の相方への好意に気付いちゃいるけど、それを認めたくないから理論武装でぐだぐだと誤魔化しちゃったり、
けどここ一番ではちゃんと決めてくれたり。好意を否定しつつ、でもやっぱり相方をほっとけないクチがこれ(無自覚型)。
ええ、全部男ツンデレの話ですが、何かw
>勇者の血統に自負心が強いタイプとかヤンデレっぽいの
そ れ だ 。
貴方の好みはきっといつか遠い未来で、貴方の全く望まない形である一人の主人公を生むことになります…よw
うぐぅ。。。詰めが。。。
なんとかあと二、三日中に投下できるように頑張るつもりですが、
運が悪いともう少しかかるかも知れません。ご容赦のほどを。
マイペースでどうぞ
ゆっくりと待ってます
とりあえず、今のところ明日目標って感じです。
間に合うかな〜(^^ゞ
う〜ん、微妙に間に合わない感じ。
一回寝ないと投下は厳しいので、多分、明日になっちゃうと思います(^^ゞ
tndrしながら待ってます
えぇと、寝すぎたので、投下は6時からとか、それくらいになると思います(^^ゞ
例によって3時間はかかると思われますので、
投下が終わってからゆっくりお読みいただければと思います。
27. Soft and Wet
「……ィス?」
暖かなまどろみの中で。
「……ぇ、ヴァイスってば」
優しく、俺を呼ぶ声を聞いた。
「も〜、ホントに朝が弱いんだから」
瞼の裏が白い。
窓から朝日が差し込んでるんだ。
眩しい。
目なんて、開けらんねぇよ。
「ちょっと!」
布団に潜り込もうとしたら、勢い良くひっぺがされた。
「う〜……」
我ながら不機嫌な声をあげて、手探りで掛け布団を探っていると――
唇に、なにか柔らかいものが触れた。
その感触で――
自分の置かれた状況がまどろみの底から浮上し、今なにをされたのか思い当たって目を見開く。
「おはよ」
眩しくてすぐに細めた目の隙間から、照れ臭そうな微笑みが覗いた。
「ひっどい顔――ほら、そろそろ起きて。もうすぐ、朝ご飯の仕度ができるから」
ベッドに両手をついて、俺に覆い被さっていたマグナは、上体を起こしながらそう促した。
「ん、あぁ……うん」
「早くしないと、お昼ご飯になっちゃうでしょ」
「……もう、そんな時間か」
あまり意味の無いことを呟きつつ身を起こし、唇に指先を当てる。
すると、マグナの顔が面白いくらい、目に見えてぼっと赤くなった。
「ちっ……違うのよっ!?だって、ヴァイス、起こしても全然起きないから……だから、その……スしたら起きるかなって、ちょっと思いついただけで……」
なにが違うんだ。
「そしたら、やっぱりすぐ起きたじゃない……すけべ」
「自分からしたヤツの台詞かよ」
「うるっさいわねっ!!元はと言えば、すぐに起きないあんたが悪いんだからね!?……ちょっと、なに目、閉じてんのよ。気持ち悪い」
気持ち悪いって、お前。
「いや、さっきは寝惚けてたからさ」
「……なにそれ。まさか、もう一度しろって言ってんの?」
「今度は、はっきり覚えとくから」
「……もう起きてるでしょっ!?イヤよ……ずかしい」
「じゃあ、また寝ちまうぞ?」
「あのねぇ、子供じゃないんだから……ホント、しょうがないわね」
片目を薄く開けると、瞳を閉じた震える顔が近付いてくる。
軽く唇が触れ合い、離れようとした頭を抱えて逃がさない。
「――っ!?」
しばらく大人しくしていたマグナは、やがてじたばたしながら俺の胸を手で打った。
「ぁっ――いつまでしてんのよっ!?死んじゃうでしょっ!?」
「いや、別に息すりゃいいのに」
こいつ、キスしてる間中、ずっと息止めてやがんの。
ほとんど経験の無いマグナは、唇も固く結んだままだった。お陰で、舌を入れられなかったのが残念だ。
「――ばかっ!!」
あいた。
くそ、どうせ頭をはたかれるなら、唇くらい舐めてやりゃよかったぜ。
顔を真っ赤にしたマグナは、口の辺りを押さえながら、ぱたぱたと小走りに玄関脇の勝手に戻っていく。
でもまぁ、まんざらでもなさそうだ。
気が付くと、顔がニヤけていた。
支援
マグナと二人きりで、連れ立ってダーマを後にしたのが、なんだか遠い昔のように感じられる。実際は、そこまで日数は経ってないんだけどな。
ダーマを抜け出した俺とマグナは、まず東へと向かった。
目的地は決まってなかったが、目指す土地の条件はあった。第一に、誰もマグナを知らないことが望ましい。
なので、これまで通ってきたバハラタの方面――つまり南や西は対象外だ。そして北は、世界地図で確認する限りでは山岳地帯が続いているばかりで、定住できそうな集落があるとは、あまり思えなかった。
残された東の方面は、山脈さえ迂回すれば平地が広がっているらしく、馬首は自然とそちらを向いた。
それから、これは俺の考えだが――できれば、魔法協会の支部がある街は避けたかった。協会経由で噂が伝わらないとも限らないし、なによりルーラ一発で追いつかれちまうからだ。
そんな訳で俺達は、まず東へ進み、山脈を越えた辺りで集落を求めて進路を北へと変えた。
旅――というか逃避行の最中、マグナは塞ぎ込んでいることが多かった。
特に最初の内は、まるで魂が抜けちまったみたいな様子で、しばらくしてようやく少しは喋るようになったと思った頃合に、間の悪い事件に見舞われた。
肥満オヤジの腹みたいに余った肉を弛ませた、醜い魔物に道中で出くわしたんだが、そいつがメダパニのような効果を持つ魔法を使ってきやがったのだ。
その場はなんとか切り抜けられはしたものの、前後不覚に陥って俺を攻撃してきたマグナは、正気に戻ってから一層ひどく落ち込んじまった。
俺はあえておどけたり明るく振舞おうと努めたんだが、二人きりの道行きでは、どうしても打ち沈んだマグナの様子に引き摺られがちになっちまった。
正直に言って、リィナとシェラの存在は、思っていた以上に大きかったことを痛感せざるを得なかった。
魔物との戦闘の場面ではもちろんのこと、お互いに押し黙った状態が長く続くと、今ここにあいつらがいればな、とか気付くと考えちまってた。虫のいい話だとは思うけどさ。
そんな時は、やっぱりマグナもあいつらの事を思い出してしまうようで、タマに口を開けば、「シェラとリィナには、ヒドいことしちゃったよね……」とか、しおらしい声で呟くのだった。
そんな具合で、二人きりとはいえ、色気のある状況とはほとんど無縁だった。
そういう空気じゃねぇっつーかさ。なし崩し的に、そういう方向に持ってけないこともなかったんだろうけど、ここまで来てそれは、なんか俺としてもイヤだったっていうか。
それになにより、北に上るにつれて厳しさを増す寒さで、身を寄せ合って眠った時でさえ、それどころじゃなかったって話ですよ。
二人きりの道行きは、襲いくる魔物共を退けるだけでも骨が折れ、蓄積していく疲労はマグナの愁いをさらに深めていくようだった。
それでも――マグナは泣かなかった。
年端も行かない――マグナはまだ、そんな表現が許されてもいい少女でしかない。いろんなことがあり過ぎた。疲れて、弱音のひとつも吐いて、泣きじゃくってみせてもよさそうなモンなのに、マグナは結局、一度も涙を見せなかった。
改めて、こいつの強さを実感させられる――というよりも、ひと度その一線を越えてしまったら、もう二度と浮かび上がれないくらいに落ち込んでしまう事を畏れているのかも知れない。俺は、そんな風に想像した。
困ったことに、腰を落ち着けるのに具合のいい集落はなかなか見つからず、ますます調子づく冬将軍のご機嫌を伺いながら、俺達は北へ北へと進まざるを得なかった。
やがて、地面は残雪に白く覆われはじめ、さらに進むと空から新しい雪が降り出した。
はじめは然程の降りじゃなく、タマには雪景色ってのも気分が変わってオツなもんだ、とか軽く考えていたのがいけなかった。
防寒着代わりになりそうな服なら用意があったし、なによりアリアハンでは豪雪に見舞われた経験なんて無かったから、その猛威について理解が足りなかったのだ。
吹雪いてから、南に引き返そうと思った時には、もう遅かった。
視界はあっという間に白一色に遮られ、自分達がどちらに進んでいるのかも分からない。
これが普通の遭難なら、なるべくその場を動かずに救助を待つ手もあるんだろうが、俺達の場合はそうじゃない。俺とマグナがこんな処に居る事を、誰も知らないのだ。
助けが期待できる筈もなく、なんとか身を隠せそうな岩陰を見つけた俺達は、雪で壁を拵えて吹雪をやり過ごしながら、多少なりとも収まるのを待って、とにかく移動を続けることに決めた。
フクロに薪が残ってたのは、本当に幸いだった。
「ごめんね、あたしの所為で……」
焚火で暖をとり、ありったけの服や毛布にくるまって身を寄せ合いながら、マグナがぽつりとそんなことを口にした。
ただでさえ落ち込んでたところに、この状況じゃ無理ねぇけど、また随分としおらしくなっちまったモンだ。
そう言ってからかっても、さっぱり反応が捗々しくないのだった。
「だって……あたしの所為で……あたしの我侭のせいで、ヴァイスが死んじゃったら……そんなの、ヤダよ」
「気にすんなよ。だって俺は、お前の目の届くトコに居なきゃいけねぇんだろ?」
大して上手いことも言ってやれず、返事も無かったので、俺は言葉を重ねた。
「それにさ。俺だって、自分の知らねぇトコでお前が死んじまったら、そんなのイヤだからさ」
マグナはなんとも答えなかったが、一層身を寄せてきた。
吹雪が少し収まったのを確認して表に出ると、馬は動かなくなっていた。
マグナはそれを、短い時間ではあったが凝っと見下ろしていた。
申し訳無いが、供養してやる時間も体力も無く、俺達は徒歩でその場を後にした。
いくらもしない内に、また吹雪に見舞われた。
今度は、身を隠せそうな場所も見当たらないまま、日が落ちた。
笑っちまうくらい、どうしようもなかった。
右も左も分からないどころの騒ぎじゃないのだ。何も見えない状態で、吹き荒れる風雪にもみくちゃにされていると、世界の果てまでぎっしり雪に埋め尽くされていて、そのド真ん中に置き去りにされたみたいな心細さに襲われた。
繋いだ手が、厚手の手袋越しに辛うじてマグナの存在を伝えてなければ、もう一歩だって動けなかったに違いない。
いよいよ、ここまでかね。
魔法協会経由でダーマの連中に情報が伝わって、すぐに見つかっちまうかもしれないが、ルーラでどこかの街に戻るしかない。
マグナが死んじまうよりは、ずっとマシだからな。
そう思って、俺はほとんどルーラを唱えかけていたんだが――
「灯り――あれって?」
俺の手を握ったまま、マグナが遠くを指差して、そう言ったのだ。
断続的に吹雪に遮られて明滅して見える橙色の光が、俺にも見えた。
どれだけ頼りなくても、それはこの上なく俺達を勇気付けた。世界は全て雪に埋め尽くされた訳じゃなかったのだ。暖かそうな光を放つ何がが、確かにそこに存在していた。
荒れ狂う吹雪に掻き消されちまいそうな微かな灯りに向かって、俺達は必死に足を動かした。
だが、思ったより遠かったんだ、これが。
いくら雪を掻き分けても、一向に近付いたように感じられない。
この頃には、俺もマグナも疲労困憊もいいところで、ともすれば途切れそうになる意識を、お互いに声をかけ合ったり体を叩いてなんとか繋ぎとめているような状態だったので、自分で思った程には足が動いてなかったのかも知れない。
寒いってより痛かった全身は、それすらとっくに通り越して感覚を失っていた。意識が混濁をはじめ、なんかもう、逆に気持ち良くなってきた頃に、ようやく家屋の陰が窺えるところまで辿り着いた。
そこで、ほっとしちまったのがいけなかったんだろう。
俺は――多分、マグナもほぼ同時に――そこで、意識を失った。
次に目が覚めると、俺は暖かい部屋の中でベッドに横たわっていた。
自分がまだ生きている状況が上手く呑み込めずに、ぼんやりしていたのも一瞬で、慌ててマグナの姿を探す――といっても、ほとんど体が動かないような状態だったので、首を動かすのがやっとだったが。
隣りのベッドで寝息を立てているマグナを発見して、心の底から安堵する。
やれやれだ。お陰で、最後までルーラを唱えなかった自分を恨まずに済んだ。
介抱してくれたおばさんから聞いたところによれば、ここはムオルという村で、たまたま表に出ていた村の子供が、倒れていた俺達を見つけてくれたらしい。すぐに村長の家に運び込まれた俺達は、危うく九死に一生を得たという訳だった。
「あんた達を見つけたのは、ポポタってんだけどね。ポカパマズさんの時といい、なんだいあの子には、何かそういう妙な運でもあるのかねぇ」
と、おばさんはよく分からないことを言った。
この時は、なにしろ俺もヒドい有様だったので、前にも行き倒れたヤツがいたらしいな、と思うくらいで、聞き慣れない名前の主を、それ以上気にかけることもなかった。
何日か村長の家で養生させてもらった後、これからどうするのかと尋ねられた俺達は、出来ればここに住まわせて欲しいと持ちかけた。
どの道、冬の間は村から出ていけそうになかったし、ここの住人達は、どうやら魔法協会なんて聞いたことが無いってのも好都合だった。
ちょうど秋口に村を出ていった人間がいたそうで、空いている家が一軒あるから、よければそれを提供しようとまで言ってくれた。
どうにか体が動くようになってから、俺は早くマグナと二人きりになりたくて仕方が無かったので、一も二も無くその話に飛びついた。
マグナも、多少なりともそう思ってくれていたようで、空家の主は独り者だったから、二人で暮らすには手狭かも知れないけど、見たところ夫婦者だから問題ないだろう、と言われた時も、特に否定しなかった。
で、二人してこの家に移ってきたのが、つい昨日のことだ。
なんにせよ、今朝になってマグナが、何か吹っ切ったみたいに明るくなってて安心したよ。
村長さんトコで世話になってた間は、家人に気を遣っていたのか、それほど落ち込んだ様子は見せなかったんだが、二人きりになった昨夜は、ひどく塞ぎ込んでたからな。
前の家主が独り者だったんで、ベッドもひとつしかなかったから、ジツは一緒に寝たんだけどさ。
なんつーか、抱き締めてやるくらいがせいぜいで、手を出すとかそういう雰囲気じゃなくてな。
まぁ、最後にとことん落ち込んで、気持ちを切り替えられたなら、なによりだ。マグナのことを誰も知らないこの村に、当分の間は腰を落ち着けられそうだってのが、いい方向に働いたのかね。
それにしても、まさかキスで起こされるとは、夢にも思ってなかったけどな。
「どう?おいしい?」
ついこの前までのヒデェ状況を考えれば、想像もつかないくらいのどかな朝食の風景。
マグナは自分の皿には手をつけず、少し心配そうな、しかし期待の篭った眼差しを俺に向ける。
「ああ、うん。美味いよ」
照れが喉を塞ぎかけたが、俺はなるべく間を置かないように答えた。
「よかった。そうよね、ちゃんと味見したし――食材とか調味料とか、知らないのばっかりだからちょっと心配だったんだけど、煮ちゃえばなんとかなるもんよね」
にっこりと笑って、ようやくマグナも自分の匙に手を伸ばす。
シェラと一緒に、マグナが料理をすることも度々あったからな。意外と料理ができるってのは、俺は前からよく知ってるし、それはこいつにも分かってた筈なんだが。
柄にも無く不安げな顔つきをしてみせたのは、やっぱり自分が作った料理を、サシで向かい合って食べるって状況は、また気分が違うからかね。
このスープもそうだけど、味付けはシェラよりちょっと濃い目かな。いや、嫌いじゃないぜ。悪くない。
「食べ物まで用意してくれてたんだから、村長さん達にはホントに感謝しなきゃね」
まったくだ。いちおう、お礼は受け取ってもらったけどさ。
「でも、今日明日くらいしか賄えないから、後で買出しに行ってくるね」
暖炉で爆ぜる薪。
暖かい食事。
終始どこか嬉しそうに微笑んでいるマグナ。
「ほら――おべんと」
いつの間にやら俺の頬についていたパン屑を手を伸ばして抓み、マグナはそれを口に運んだ。
「前から思ってたけど、あんたって食べるの下手よね。すぐぽろぽろ零すし、ホントに子供みたい――って、なにニヤニヤしてんのよ」
いや、だって、お前。そりゃニヤつきもするだろ。
「――ねぇ?」
かいがいしく食後のお茶とか淹れて、再び俺の正面に腰を下ろしてから、マグナがなにやら少し甘えた声を出した。
「ん?」
緩みっぱなしになりそうな頬を、引き締めるのに一苦労だ。
「あのね……明日がなんの日だか、覚えてる?」
スプーンでティーカップの中身をかき混ぜながら、マグナは覗き込むように俺を見た。
「ああ、もちろん」
唐突な質問だったからな。ホントは分かっちゃいなかったが、女がこういう事を尋ねてくる時ってのは、大抵相場が決まってる。
俺は辛うじて、すぐに答えを連想できた。
「誕生日だろ――お前の」
当然、元から知ってましたよ、という表情で返してやると、マグナはちょっと目を見開いた。
「覚えててくれたんだ……」
いや、そんな嬉しそうな顔されると、若干胸が痛むんですが。
「でも、それだけ?」
へ?
まだなんか、他にあったっけ?
今度は、内心が思いっきり顔に出ちまったようだ。
マグナは苦笑を浮かべて、唇を尖らせた。
「も〜。あたしの誕生日なんだよ?」
「うん?」
だから、そう言ったじゃん。
「つまりね――」
「つまり?」
「……ホントに分かんないの?」
「……悪ぃ」
なんだっけ?
「謝ることないけど……だからぁ、あたしの誕生日ってことは、つまり、あたしとヴァイスがはじめて出会った記念日ってことじゃない」
ああ、そうか。
マグナが旅立ったのが、十六歳の誕生日だもんな――おめでとうくらい言ってやるべきだったかね、一年前の俺。
「あたしも昨日おばさんに、今が何日か確かめて驚いたんだけど……もう一年も経つんだね」
「そうだな……過ぎてみれば、早いモンだ」
色々あったから、ホントにあっという間だったよ。
生まれてからこっち、俺にとって最も密度の高い一年だったことは間違いない。
「ホントだよね。一年経ったら、こんなトコロでこんな風にしてるなんて、あの時は思えなかったな……」
両手を添えたティーカップに視線を落としながら、マグナはしみじみとこぼした。
「しかも、ヴァイスと二人きりで、なんてね」
くすりと笑う。
やべ、また頬が緩んじまうよ。いや、別にいいんだけどさ。
「俺もだよ」
こんな平凡な人間が、この一年で巻き込まれたみたいなご大層な経験をすることになるなんて、俺の方こそホントに思ってもいなかったよ。
自分でも不思議なんだが、つまんない事をごちゃごちゃ考える割りに、俺は結構考え無しの行動を取っちまうところがある。じゃなけりゃ、一年前のあの日、いくら脅されてもマグナにほいほいついて行ったりはしなかっただろう。
俺は多分――自分の将来とかそういうのに、あんまり興味が無かったんだ。というか、自分がどうなろうが、どうでもよかった。
凡人の自分が辿る道は、そこら辺のいわゆる普通の連中を見ていれば想像がついたし、きっとその通りに進んでいくに違いない。そんな風に諦観していた部分があったんだと思う。
でも、これからはもうちょっと、将来だとかそういう事を、まじめに考えねぇとな。
マグナの顔を眺めながら、そんな事を考える。
「えっと……だからね?」
「ん?」
「その――日が変わったら、プレゼント交換するんだからね?あんたも後で、ちゃんと買ってきなさいよ?」
ちょっと言葉を詰まらせてから、やたら早口でマグナはまくし立てた。
きょとんとした俺のツラが気に喰わなかったのか、ぷくっと頬を膨らませる。
「なによ。イヤなの?」
「いや、そうじゃねぇけど……」
「けど?」
そんな睨むなよ。
「もちろん、俺が物を贈るのは構わねぇけどさ……でも、明日はお前の誕生日だろ?俺がお前からなんか貰うのは、違くねぇか?」
「いいじゃない。出会った日なんだから、お互いの記念日でしょ!?」
拗ねつつも甘えてるみたいな表情が、なんていうか……いや、なんでもない。
「分かったよ。そうしよう」
「なによ、そんな渋々みたいに……その気がないなら、別にもういい!」
「いや、渋々じゃないって」
「……」
ジト目は止めろ。
「いや、ホント。俺も、マグナからなんか貰えたら、嬉しいしさ」
「……でしょ?何か残るモノがあった方が、いいよね」
コロっと表情を変えて、嬉しそうに笑ったマグナは……いや、なんでもない。
その後、朝食の後片付けを終えたマグナが、勝手の方から俺に声をかけた。
「じゃあ、ちょっと買出しに行ってくるね」
「ああ、分かった。今行くわ」
当然ついていくつもりで、というか、てっきり荷物持ちをさせられると思ったので、一緒に表に出ようとした俺は、玄関のところでマグナに押し止められた。
「違うでしょ?ヴァイスは、来なくていいの!」
「へ?なんで?」
聞き返すと、上目遣いに睨まれた。
「も〜。さっき言ったこと、もう忘れちゃったの?相変わらず、人の話をちゃんと聞かないんだから」
さっき言ったこと?
ああ、そうか。ついでにプレゼントも買ってくるのね。先に中身を知っちまったら、交換の楽しみが半減だと、まぁそういう訳か。
「分かったよ。じゃあ、俺はマグナが帰ってきてから行くわ」
「よろしい」
満足そうにトンと俺の胸を叩いたマグナは、だが、なかなか出て行こうとしなかった。
ぼけーっと突っ立っていた俺の服の裾を、くいくいっとマグナが引っ張る。
「ん?」
「行ってきます」
「うん?――行ってらっしゃい」
「だからぁ……もぅ、そうじゃないでしょ!?」
恥ずかしそうに頬を染め、マグナは瞳を閉じて顎を上げた。
「ん」
お前……キスのおねだりとか。
危ねぇ、なんか笑いそうになっちまった。慌てて口元を手で押さえる。
おはようのキスといい、記念日とか言い出したことといい。
なんていうか、こいつ、こういう普通の恋人同士みたいなやり取りに、多分子供の頃から、ずっと憧れてたんだろうな。そういう空気が伝わってくる。
今日になって、急に明るくなったからさ。ここまでは、いまいち調子を合わせきれてなかったけど、そっちがその気なら話は別だ。よろしい。ここらでちょっと、ペースを取り戻させてもらうとしますかね。
目を瞑って上を向いたままのマグナの額に、デコピンを喰らわせる。
「――いたっ!?」
びっくりして開かれた口が閉じない内に、俺は素早く唇を合わせて舌を滑り込ませた。
「――っ!?」
俺を突き飛ばして身を離し、マグナは両手で口を押さえながらこちらを睨みつける。
「いや、その、なんだ。口が開いてた方が、息がし易いだろ?」
「……ばか」
いてぇ。拳骨で肩を叩くな。
「もぅ……いきなり、なんてことすんのよ……」
くちびる――と囁きながら、またマグナが顔を寄せてきたので、今度は要求通り、素直に軽く唇を触れ合わせるだけにしておく。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん、気をつけてな」
小さく手を振ったマグナが、ぱたんと閉じられた扉の向こうに消えた途端、俺はせかせかと早足で奥の部屋に戻って、そのままベッドに身を投げた。
布団を抱き締めて、じたばた身悶える。
いやぁ、まいったね。
やっべぇなぁ、あいつ――
ああ、もういいや。認めちまおう。
あいつ――すっげぇ可愛いよ。
ああ、はいはい。そうですよ。ずっと前から、そう思ってましたよ。
あーもうマジ可愛い。すっげぇ可愛いの。超可愛い。
しっかしまぁ、まさかあいつの方から、ああいう素振りをしてくるとはなぁ。一年前からは想像もつかねぇ変化だよ、ホントにさ。
でも、あいつって多分、元から根っこのところはすげぇ女の子っぽいんだよな、俺の見たところ。
つか、あーヤバい。
とある予感に、顔がニヤけっぱなしだ。
アレですよ。
これはいよいよ、来ちゃいましたかね。
どう考えても、あいつもそういうつもりだと思うんだ。
つまり、その――俺とマグナが、そういう仲になっちまう日が、とうとう来ちまったみたいですよ?
しかも、明日はマグナの誕生日だってよ。
やっべぇなぁ。
ってことはだよ。
今夜、そういうことになっちゃうとするだろ?
んで、日が変わった頃合に誕生日のお祝いとかして、プレゼント交換なんかをしてる内に、また気分が盛り上がってくる訳ですよ。
そしたら、当然もう一回とかなる訳でして――要するにだな。
十六歳最後のマグナと、十七歳最初のマグナを、立て続けにいただけちゃうってな寸法ですよ。
うん、考えてることがおかしくなってきたけど、気にすんな。
だってよ、この時のことを、これまで俺が妄想してこなかったとでも思ってんのか。
何度も抱き締めてるし、下着姿も見てるし、あいつの体つきはよく分かってる。この一年で、胸もちょっと大きくなったみたいでさ――はいはい、そうですよ。細身でモロに俺の好みですよ。
あとさ、ジツはあいつ、尻の形がいいんだよ。薄過ぎず厚過ぎず、横から見た時の丸みも後ろから見た時の腰つきも、かなり俺の理想に近いんだわ、これが。
それをお前、今日はじっくり眺めたり、直に触ったりできるんだぜ。やっべぇよなぁ、オイ。
あ、そうだ。外は寒いから、さっきは穿き物着けて出てったけどさ、夜中は暖炉にガンガンに薪くべて、暖かくしてスカート穿いてもらおう。
そんで、下から覗き込んだり、手を差し入れちゃったりして――ああ、いかんいかん。
あいつ、はじめてなんだもんな。
こんな下品なことばっか考えてねぇで、優しくしてやらねぇと。
まぁ、自然と優しくなるけどね。
だって、こんなにあいつを可愛く思ってる。
今すぐ抱き締めたいくらいに。
だから、優しく、気持ち良くしてやらなきゃな。
気持ち良くしてやれば、あいつもまたしたくなるだろうし――いや、違うって。することばっか考えてる訳じゃねぇよ。
あいつの気持ちも、ちゃんと考えてる。もちろん、無理強いなんてしないけどさ――けど、まぁ、間違いなく、今夜はそういう事になるよな。
それにしても、なぁ?
まさか、俺とマグナが、こういう普通の恋人同士みたいな関係になる日が、ホントにくるとはねぇ。感慨深いっていうか、なんていうか。
でも、さっきも思ったけどさ。あいつ、こういう「いかにも」な間柄に、きっと憧れてたんだよな。
ふと、腹の底でくすぶった違和感は、すぐに浮かれた気分に塗り潰された。
誕生日のプレゼント、せいぜい奮発してやらねぇとな。
贈って喜んでくれるような、なんかいいモンが見つかるといいんだが。
この村、ド田舎の割りには小癪にも、そこそこデカい市場――というか商店街があったから、まぁ、なんかしら見つかるだろ。
ベッドで悶々としている間に時間が過ぎていき、やがてマグナの帰宅を知らせる扉の開閉音が耳に届いた。
跳ね起きるようにして迎えに出ると、マグナは食材やらの入った籠を両手で下げたまま、ぼんやりした様子で玄関口に立ち尽くしていた。
「おかえり。声くらいかけりゃいいのに」
「え――ああ、ううん――ヴァイス、寝てるかもって思って……」
すぐ脇の窓から差し込む光の加減か、一瞬だけこちらを向いた顔色が悪いように見えた。
「どうした?」
「え――?うん、ちょっと疲れちゃった……やっぱり、荷物持ちしてもらえばよかったかな」
俯いたまま籠を下ろし、俺を扉へと押しやる。
「ほら、今度はヴァイスの番よ。いってらっしゃい」
「ああ。なんか、買い忘れたモンとかあったら――」
「ううん、無い。ありがと。ほら、早く行ってきなさいよ」
「おい、ちょっと――」
締め出されるようにして、そのまま外に出されちまった。
なんだなんだ。
俺と同じように、今夜のことを想像しちまって、恥ずかしくて顔合わせらんないとか、そういうアレか。
この時は、そんなバカなことを考えていたのだった。
昨日までちらほらと舞っていた雪は、今日になって止んでいた。
商店街の通りには、雪避けの屋根がついてるから、降っても買い物にはあんまり困らないけどな。
さて、なにを買ってやろうかね。
身につける物にしようと思うんだが、首飾りは前にやったし、違う物がいいよな。
指輪は同じのを二人で一緒に選んだりしたいし、そもそも径が分からない。
服は好みがあるしな。ちょっとした装身具――耳飾りとか腕輪辺りが無難な線だろう。
とはいえ、こんなド田舎じゃ、そう大したモンは無いだろうけどさ。
そんなことをあれこれ考えながら、屋根つきの通りを流しつつ店先を物色する。
案の定、ピンとくる物はなかなか見当たらなかった。武器屋を覗いても仕方がないし、道具屋でもこれといった物は見つからない。
さすがに宝飾品を専門に扱うような店は無く、はてさてどうすっかと思っていたら、通りの一番奥に雑貨屋を発見した。あそこなら、なんかありそうだ。
模造品臭いが、腕輪やら耳飾りやらが多少は置いてあった。通りに向かって開けた店内を外からざっと見回した俺は、店のほぼ中央に、周囲の雑貨とはそれだけ趣きの異なる、とある一品を見つけて視線を止める。
それは、かなり使い込まれた風の、やけに立派な兜だった。
他には、武器や防具の類いは陳列されていない。なんでまた、ひとつだけ兜が飾られてるんだ?
「やっぱり、お兄さんも、その兜が気になりますか」
奥から出てきたオヤジが、声をかけてきた。
「ああ、うん。まぁな……」
こんだけ目立ってれば、誰でも目をとめると思うが。
「いえね、先程いらした娘さんも、いたくそのポカパマズさんの兜を気になさっていたのでね。お兄さんも、ここじゃ見かけない顔だ。あの娘さんの連れの方でしょう?」
マグナも、この店を覗いたみたいだな。
「行き倒れてたって次第がよく似てるからでしょうかねぇ……しかも、見つけたのがポポタってトコまでおんなじだ。あの娘さんを見てたら、なにやらあたしも、ポカパマズさんを思い出しちまってねぇ」
「……そのポカパマズさんって、誰なんだ?村長さんのトコでも、名前を聞いたけどさ」
「いえね、だから、以前にあんた方と同じように、この村で行き倒れなさったお方ですよ」
なんも情報が増えてねぇ。
「これがあんた、また大層立派な方でねぇ……あんな大丈夫は、世界中探したって見つかりゃしませんよ。
ああ、そうだ。ちょうど今、二階にポポタが来てるから、あんたもあの子に話を聞くといい。郷に残してきた子供を思い出す、なんて言ってねぇ、ずいぶんポカパマズさんに可愛がってもらってたからさ、あの子は」
ジツのところ、ポカパマズとやらに大した興味は無かったんだが、ポポタって子供の方には、村長の家で朦朧としてた時分に礼を言った記憶がぼんやりとあるだけだ。
なにしろ、文字通りに命の恩人だからな。特に、マグナを救ってくれたことには、いくら感謝してもしきれない。
改めて礼を言っておくべきかな、と思った俺は、マグナが気に入ってくれそうな小振りの耳飾りを買った後に、オヤジの言葉に甘えて二階に上がらせてもらうことにした。
「やぁ、今日はなんと得難い日なんだろう。またしても、アリアハンからのまれびとがいらっしゃったよ」
下に居る時から聞こえていた弦楽器の音色の主が、そう言って迎えると、室内にいた人間の視線が、階段を上って姿をみせた俺に集中した。
「ああ、いえ――先程、お連れの娘さんが、こちらに見えましてね。あなた方がアリアハンの出身であることを伺ったのです。娘さんのお加減はいかがですか?」
俺が怪訝な顔つきをしていたからだろう。髪の長い優男は、そんな説明をつけ加えた。
「ん?ああ――大丈夫だと思うけど」
「それは良かった。急に具合を悪くして帰られてしまったので、心配していたのですよ」
床に腰を下ろした、いかにも生意気そうな小僧が、小指を立てながら俺を見上げた。
「なぁ、あの姉ちゃん、あんたのコレだろ?さっきのは、やっぱツワリってヤツか?」
おいおい、このガキ、なんてこと言いやがる。
「これ、ポポタ!」
おそらく、店にいたオヤジの奥さんだろう。隣りに座っていたおばさんが、ぺしっと小僧の頭をはたいた。
「いってーな!」
「そういう不躾な事を、人様に言うんじゃありません――ごめんなさいねぇ。この子ったら、ホントにやんちゃで……尤もねぇ、そういうやんちゃな子だからこそ、あの日も親の言いつけを聞かないで表に出て、あなた達を見つけられたのかも知れませんけどねぇ」
「そうだぜ、オレ、こいつらの命の恩人ってヤツなんだからさ、別にどんな口利こうがいいじゃんか」
「これ!」
「そうだな。改めて、礼を言わないとな。俺達を見つけてくれて、ホントありがとな」
悪ガキでも命の恩人には違いない。俺は素直に礼を言った。
まぁ、大人の余裕ってヤツだ。
「え……べ、別に、大したこっちゃねぇけどさ……」
ポポタは、急に目を泳がせて照れてみせた。
こういう悪たれは、真正面から礼を言われたりするのに弱いんだよな。
「――なんだよ、あんたもコレが気になんのか?」
傍らに置かれた握りのついた木筒に、何気なく俺が視線を落としていた事に気付いて、ポポタは助かったみたいな顔をして話題を変えた。
「いや、別に……そうだな。なんなんだ、それ?」
どうやら自慢の一品らしいので、正直どうでもよかったが付き合ってやることにする。
「なに?分かんねーのかよ。さっきの姉ちゃんは、ひと目で分かったぜ?」
馬鹿にしたように、ヘッとせせら笑う。ホントに生意気だな、このガキは。おばさんとは反対隣りに座ってる、もう一人のガキは大人しそうなのによ。
「当ててみろよ。はい、さーん……にーい……いーち……」
勝手に秒読みをはじめたポポタに、俺は考えるフリだけしてみせた。
「う〜ん、分かんねぇや。教えて――」
「こういうモンだよ!」
素早く木筒を取り上げたポポタが、握りの部分を押し込むと、先端に空いていた穴から勢い良く水が飛び出して、俺の顔面を直撃した。
いきなりだったから、不覚にも鼻に入っちまった。むせ返る俺を見て腹を抱えたポポタが、またおばさんに叩かれる。いい気味だぜ。
「すげぇだろ。ポカパマズさんに作ってもらったんだぜ、これ」
叩かれた頭をさすりながら、ポポタは誇らしげに鼻を高くした。もう一人のガキは、ポポタが手にした木筒を羨ましそうに眺めている。
口振りから察するに、遊び道具それ自体よりも、ポカパマズとやらにもらったという点が重要なようだった。
つか、だからポカパマズって、誰だよ。
「お店での話し声は、少し聞こえていましたよ。なんでも、ポカパマズさんの事をお知りになりたいとか」
吟遊詩人の優男が、胡坐をかいて抱えた弦楽器を爪弾くと、ポロロンといい音色が鳴り響く。
「私でよろしければ、かの偉大な英雄から直接伝え聞いた、驚くべき冒険の数々を語って聞かせましょう――ポポタ達は、さっきも聴いたばかりだから、つまらないかも知れないけどね」
「ううん、また聴きたい」
と、もう一人のガキが目を輝かせる。
「ポカパマズさんの話に、オレが飽きるワケないじゃん」
悪ガキのポポタも、そんな可愛げのある口を利くのだった。
「……そんじゃ、ちょっとお願いしようかな」
いや、まぁ、そこまでしてもらわなくてもいいんですがね。
喉まで出かかった言葉を呑み込んで、俺は優男に頷いてみせる。
だって、ガキ共がすげぇ聴きたそうにしてるからさ。あんまり長くなるようだったら、途中でおいとますればいいか。
前奏の間にそこらの床に腰を下ろして、さしたる興味も無く聴くでもなしに聴いていた俺は、やがて優男の歌声に真剣に耳を傾けていた。
だって、お前、これ――
はじめて聴く旋律。節回しも、この吟遊詩人独自のものだろう。
だが、その内容は――アリアハンに生まれた人間であれば、誰でも一度は耳にしたことのある物語。この上なく馴染みの深い英雄譚。
こりゃ、お前――
「おや?どうされました?」
演奏は止めずに唄だけ中断して、優男が尋ねてきた。
「先程の娘さんも、途中から同じような顔をされてましたが……そういえば、ポカパマズさんはアリアハンの出身ですものね。もしや、アリアハンでは有名な物語で、退屈させてしまったかな」
有名も有名。だって、お前、そりゃ――
「……その、ポカパマズってヤツの、ホントの名前はなんて言うんだ?」
「おや、尋ねることまで娘さんと同じだ。本当の名前かどうかは存じませんが、そうですね。確かにアリアハンでは、ポカパマズという名前ではなく――」
マグナも、ここで同じ物語を聴かされたのか。だから、帰ってきた時、様子がおかしかったんだ。
なんで、こんな最果ての村まで逃げて来て――その名前を聞かされなくちゃならねぇんだ。
「オルテガ、と呼ばれていたそうです」
こいつは一体、なんの呪いだ。
俺は別れの挨拶もそこそこに雑貨屋を飛び出して、駆け足で家へと向かった。
くそっ、なんてこったよ――マグナが心配だ。
さっき、あいつの様子を、もっと注意して見てやるべきだった。
きっと、ひでぇショックを受けたに違いねぇのに――無理しやがって。
ようやく吹っ切れて、明るくなってきたトコだってのによ。
『やっぱり、逃げらんないのかな……』
記憶の中のマグナの台詞に、頷いちまいそうな自分を、必死に振り払う。
くそったれ、なんだってんだ、これは。ふざけんじゃねぇぞ。
オルテガさんよ、あんたも自分の娘が可愛くねぇ訳じゃねぇだろ。ちったぁ遠慮してくれよ、頼むから。
市場を抜け出し、足元の雪を撒き散らしながら、村外れにある俺達の家へと走る。
やっと見えた。
って、なんだ、ありゃ!?
「ヴァイ――ッ!!」
俺の名を呼びかけたマグナの口が、手で塞がれる。
俺達の家の扉は、力づくで破壊されていた。
きっと、マグナの腕を後ろ手に捻り上げている女の仕業だ。
「やぁ、お帰り、ヴァイス君。待ってたよぉ」
聞き覚えのある、ねちっこい口調。見るなりぶん殴りたくなるニヤニヤ笑いが、俺とマグナの間に立ちはだかる。
ダーマでやたらと俺にカラんできた魔法使い――グエンが、何故かそこにいた。
「アンタが何をこだわってんのか、理解できないね。放っときなよ、こんな素人のアリアハン人なんか」
マグナを捕まえている女――ティミが吐き捨てた。
マグナは身をよじってどうにかティミの手を振り払おうとしているが、まがりなりにもリィナとそこそこやり合えた女だ。自力で逃れるのは難しいだろう。
「まぁまぁ。そう言わないで、もう少しだけ付き合っておくれよ――良かったねぇ、間に合って。もうちょっとで、勇者様にお別れも言えないところだったよぉ。君が帰ってくるまで、僕が引き止めておいてあげたんだから、感謝して欲しいなぁ」
「……なんで手前ぇらが、ここに居る。どうしてバレた?」
「いや、バレたって言うかねぇ……そりゃ、勇者様が突然いなくなったら探すでしょ、普通。ダーマの皆が総出で探して、見つけたのが僕達だったってだけの話だよぉ」
総出って……なんだ、こいつら。
そこまですんのか。
そこまでして――どうしてもマグナじゃなきゃ、いけねぇのかよ。
「いやぁ、僕って運がいいよねぇ。正直なところ、一番可能性の低い方面に回されちゃったと思ったし、途中で挫けそうにもなったけどさぁ、頑張ってここまで北上して、ホントに良かったよぉ。やっぱり、諦めないって大事だよねぇ」
ぬかせよ。手前ぇのはただ、粘着質ってだけだろうが。
「それにしても、まさかこんな遠くまで逃げてたなんてねぇ。ヴァイス君も、ホントにご苦労様だよねぇ。結局は、無駄な努力で残念でしたぁ、ってトコだけどさぁ。アハハハハ――」
「……いいから、マグナを離せよ」
グエンは笑いを止めて、ぴくんと眉を跳ね上げた。
「止めときなよぉ。君はただ、勇者様が連れ去られるのを、自分の無力を噛み締めながら、黙ってそこで眺めてればいいんだからねぇ。それ以外の事をしたら、どうなっても知らないよぉ?」
「黙れよ……」
手前ぇなんざ、眼中にねぇんだよ。問題は、ティミの方だ。なんとか不意を突いてマグナを開放して、ルーラでトンズラこいてやろうじゃねぇか。連続で移動して撹乱すれば、振り切れねぇこたねぇだろう。
とりあえず、手前ぇはこいつで大人しくしとけ。
『メラ』
メラミじゃねぇだけ、ありがたく思いやがれ。
一瞬、遅れて――
『メラ』
爆音が轟いた。
腕で顔を庇って、熱波を避ける。
嘘だろ。
信じらんねぇ。
粘着質の野郎、俺のメラを自分のメラで撃ち落しやがった。
そんな事、出来んのかよ!?
残された衝撃の跡を目にして息を呑む。
雪の表面は、こちらに向かって抉られていた。
つまり、野郎のメラの方が、俺のそれより威力が上だったって証拠だ。
「やれやれ……君がそのつもりなら、仕方がないよねぇ」
わざとらしい溜息。
「ちょうどいいや、先延ばしになってた勝負といこうよねぇ。どっちが早く、次の呪文を唱えられるか競争だよぉ?」
弄うような口振り。
阿呆が、誰がそんな勝負受けるかよ。
だが、どうする。
力づくで、ティミからマグナを取り戻すのは、まず無理だ。
呪文も、まだ使えない。
くそっ、今ここに、シェラがいてくれれば。
あいつなら目配せをするだけで、俺の意を汲んでラリホーを唱えて、奴等を眠らせてくれただろう。
それでなくても、リィナさえいれば。
苦も無くマグナを奪い返してくれたに違いない。
だが今、俺はひとりだ。
ひとりで、この場を切り抜けなくちゃいけねぇんだ。
それが出来るって、証明しなきゃならねぇ。
俺はひとりで、この先ずっと、あいつを守っていくんだから。
だが、どうする。
どうするよ?
考えがまとまらないままに、恐ろしく速く時間だけが流れていく。
駄目だ。答えを出すのは、きっと間に合わない。
呪文が使えない状態のグエンは、とりあえず放っておいても問題ねぇだろう。
遮二無二跳びかかってティミの体勢さえ崩せば、マグナが自力で逃げ出す隙を作れるかも知れない。
とにかく、動け――
「はい、ざぁんねぇん」
嬉しそうなグエンの宣告。
ちょっと待て、冗談だろ?
俺より呪文を唱える間隔が短いったって、ここまで違うのかよ!?
俺の方は、感覚的にまだ三分の一は残ってる――
『メラ』
避け――
無理――
速――
野郎、こんなの狙いすまして撃ち落したってのかよっ!?
「うがっ――!!」
くそっ、熱っちい!!
多少は身を躱せたが、脇腹に喰らっちまった。
避けた勢いで、俺は雪の上に飛び込むみたいに倒れ込んだ。
「――ヴァイス!!」
マグナの悲鳴が耳に届く。
「離しなさいよ!!離して――」
「失礼します」
鈍い音がした。
「ほら、これで気が済んだだろ。さっさと行くよ」
あのクソ女、マグナに当身を喰らわせやがったな。
くそったれ――早く立ち上がりやがれ、俺。
早く!!
「やれやれ、ガッカリさせるねぇ、ヴァイス君。君の言ってた強さって、こんなものなのかい?お傍にいながら勇者様を守れない強さなんて、まるで無意味だよねぇ。そう思わない?」
痛ぇな、くそ……
なんで、立ち上がれねぇんだ。
「これで分かったでしょ?君は、なんの強さも持たない、つまらない人間なんだよぉ。何を勘違いしたのか知らないけど、君なんて、元から勇者様には相応しくなかったんだよねぇ」
なんで俺は、立ち上がらねぇんだ。
「本当は君、ここで殺されたって文句は言えないんだよぉ?なにしろ、勇者様をかどわかした大罪人――いや、違うなぁ。そんな生易しいものじゃないよねぇ。言ってみれば、いまや君は、人類全体の敵なんだからねぇ」
力が抜ける――言ってる場合かよっ!?
額を雪に押し付けて、なんとか立ち上がろうともがく。
「だって、そうでしょお?この世でただ一人、魔王を斃す事が出来る勇者様をさらって逃げるだなんて……この世の人間がみんな、魔王に滅ぼされても構わないって事だよねぇ、それって?
一体、何をどう勘違いすれば、そんな大それた真似ができるんだか、ホントに理解出来ないよねぇ」
うるせぇ。うるせぇよ。
痛いトコついてやった、みたいな得意げな声出しやがって。
ンなこた、ハナから分かってんだよ、くそったれ――なんで立てねぇんだ、俺!!
「ま、後の事は僕等に任せてさぁ、君はさっさとアリアハンの田舎に引っ込んでなよぉ。優しい僕は、何の力も持たない哀れでつまらない無害な君を、見逃してあげるからさぁ。ああ――眼中に無いって言った方がいいのかなぁ」
アハハハハハハハ。
心底愉快そうに、グエンは笑った。
こいつ――俺が勇者のお供をしてたのが、そんなに気に喰わねぇか。それとも、俺がクソ講師に目をかけられてたのが、そこまでプライドに障ったかよ。
「じゃあねぇ、ヴァイス君。もう一生会うことも無いだろうけど、下らない人生をどうか無難に過ごしておくれよ」
「ま……てよ」
「ああ、ごめんねぇ。勇者様、気を失われちゃったみたいだから、お別れの挨拶が出来なかったねぇ。僕じゃ代わりにならないかも知れないけどさぁ、それじゃあ、さ・よ・う・な・ら」
嘲笑に続いて、ルーラが聞こえて――
やっと立ち上がった時には、マグナの姿はどこにも無かった。
俺は。
何も出来なかった。
地面を掻いた拍子に手の中に残された雪を、力任せに握り締めると、指の間からぼろぼろと零れ落ちた。
すっかり、夜が更けていた。
日が落ちた頃から降り出した雨は、次第に強さを増している。
植え込みというには手入れのされていない繁みに身を潜め、俺はただひたすらにマグナを待っている。
すぐ脇には、巨大なダーマの神殿がそそり立つ。
なるべく何も考えないようにして、俺は凝っと蹲っている。
考えることなら、昨日済ませた。
一睡もしないで、延々と考え続けたんだ。
だから、もう何も考えるな。
昨日、グエンとティミにマグナを連れ去られた後――俺は、ルーラでアリアハンに飛んだ。
奴等の行き先はダーマに決まってるが、すぐに後を追おうにも、俺には不可能だったのだ。
俺はダーマで魔法協会に顔を出していなかったので、ルーラてひとっ飛びという訳にはいかなかった。
それに、正面からのこのこ押しかけても、門前払いならまだマシで、勇者様をかどわかした罪で、とっ捕まっちまう可能性が高い。
アリアハンに飛んだ理由は、それだけじゃなかった。
もう一度マグナと会う前に、どうしても確かめなきゃならない事がある。
俺は、そう思い込んでいた。
アリアハンの魔法協会で尋ねると、思惑通りに野郎はこっちに戻っていた。
「どこの浮浪者かと思えば、また貴様か――なんだ、その小汚い、死にかけのナリは」
クソ講師のヴァイエルは、俺を見るなりそうほざいた。
八割程度の確率で賭けに勝つ自信はあったが、居てくれてよかったぜ。野郎の仏頂面を拝んで喜ぶ日がくるなんて、考えたこともなかったけどな。
「まぁ、大体の察しはつく。貴様が考え無しに連れ出したマグナ嬢が、見つかったという報告を受けたのでな。ちょうど今から、ダーマに向かおうとしていたところだ」
危ねぇ。やっぱ、ギリギリだったかよ。
それにしても、言いたかねぇが流石だな、こいつ。誰が魔王を斃そうがどうでもいい、そう口にした通り、俺のやった事をガキの悪戯程度にしか気にしてなくて助かるぜ。
だから貴様の相手をしている暇はない、とか吐き捨てて、すげなく俺をあしらおうとするヴァイエルを、力づくで引き止める。
いくら不機嫌な顔されても、罵倒されても、こっちも必死なんだ。
「今度は、あんたが何を言おうが答えてもらうぜ。どうしてあいつじゃなきゃ、マグナじゃなきゃ魔王を斃せないのか、その理由をな――」
魔法使いの格好をしてフードを深く被り、ヴァイエルのお供のフリをして、俺がダーマに忍び込んだのは、翌日――つまり今日になってからだった。
野郎の部屋の窓から外に抜け出して、しばらくそこで待っていると、やがてリィナが姿を現した。
ヴァイエルに繋ぎを頼んでおいたのだ。なんでもひとつ言うことを聞くからという、俺の提示した条件に、野郎は全く興味を示さなかったが、渋々であれ頼みは聞き届けてくれたようだった。
ついでに部屋を空け渡してくれれば、もっと良かったんだが。そこまでしてやるつもりはないと、あっさり断わられた。
まぁ、例えば部屋を貸した上でマグナまで連れてきて、そんで俺がまた攫って逃げようもんなら、完全に共犯者だもんな。俺があいつでも断わるだろう。
俺としても、野郎に聞き耳を立てられてもイヤだし、それにリィナに言伝をしてくれただけでも、野郎にしては奇跡に近いくらいの力添えだ。
「なんか、久し振りだね」
実際、久し振りに顔を合わせたリィナは、何故だか少し照れ臭そうにそう言った。
「ああ、そうだな。シェラは、どうしてる?」
「元気だよ。あ、そっか。一緒に来ればよかったね。呼んでこようか?」
「いや、とりあえず、今はいいよ。よろしく言っといてくれ」
「うん、分かった」
挨拶を交わした後、なんとなくお互いに黙っちまった。
多分、リィナは俺に、言いたいことが色々あったと思う。
黙ってマグナと姿を消した事に、文句のひとつも言いたいだろうし、俺がマグナを連れ出した事で、ダーマでのこいつの立場が悪くなっていても不思議じゃない。
きっと、ずいぶん迷惑をかけたんだろうな。
だが、リィナは繰言じみたことを何も言わなかったし、俺も余計なことは口にしなかった。
どうにかマグナと会わせて欲しいと頼み込むと、予期していたのだろう、リィナは小さく頷いた。
「分かった。夜まで待ってくれるかな。なんとか、連れ出してみるよ」
「悪ぃ。恩に着る」
「……ひとつ、聞いていいかな?」
「ああ。もちろん」
「会って……どうするつもりなの?」
当然の質問だった。
「いや……とにかく、会って話がしたいんだ」
こんな答えで、満足してくれた筈もない。
だが、リィナはやはり、それ以上問い質そうとはしなかった。
神殿に戻りかけたリィナの背中に、ひと言つけ加える。
「……よろしく、頼むよ」
振り向いて、リィナは妙な目つきで俺を見た。
「ヴァイス君、キミ……」
言いかけた口を、リィナは途中で閉じた。
「ううん。やっぱ、いいや……ボクは、何も言わないよ」
そうしてリィナと別れたのが、日が落ちる前のことだ。
あれから夜が更けて、ずいぶん経つ。
俺が身を潜めている繁みは、例の馬屋よりもさらに奥まった場所に位置していた。ここなら、滅多に人が来ないからと、リィナが教えてくれたのだ。
分厚い雨雲が月も星も隠して、辺りは真っ暗だ。
枝葉が多少は遮ってくれているものの、冷たい雨が容赦無く体を打つ。
寒い。
歯の根が合わなくなってきた。
こんなところで、何をやってんだろね、俺。
自嘲じみた、惨めな気分が心を蝕んで――
ふと、思ってしまった。
俺は、ここに来ない方がよかったんじゃないのか、と。
今になって、はじめて思い当たった自分の迂闊さに臍を噛む。
そうだ。
なんで、俺はここに来ちまったんだ。
なにも、わざわざ――
雨のすだれの向こうに、ゆらゆらとゆらめく灯りが見えた。
マグナだった。
マントで手持ちランプを庇いながら、こちらに近付いてくる。
その姿がはっきりと目で確認できるところまで、俺は結局、その場から動けなかった。
左右をきょろきょろと見回して、マグナが俺を探している。
「ここだよ」
繁みから這い出して、冷えた体を動かしながら、俺はマグナに声をかけた。
思ったよりも、ちゃんと声が出た。
「ヴァイス!!」
嬉しそうに俺の名を呼んで、ばちゃばちゃとしぶきを上げて駆けてくるマグナから目を逸らす。
「寒かったでしょ?大丈夫?」
「まぁ、なんとかな」
マグナが、俺の手を握ろうとする。
「――?」
それを避けて手を引っ込めると、マグナは少し不思議そうな顔をした。
「迎えに来てくれると思ってた。さ、行こ。ヴァイスも、早くあったまらないと――どうしたの?」
体を寄せてきたマグナから、俺は一歩下がって身を離す。
「いや、あのさ……」
昨日、野郎の話を聞いてから、寝ないでさんざん考えたってのに――上手く言葉が口から出ていかない。
懐から包みを取り出して、マグナに手渡す。
「その……誕生日、おめでとう」
何やってんだ、俺は。
もう考えんな。予定通りに振舞えよ。
「うん……ありがと――なによ、そんな顔して?どうしたの?」
「あのさ……俺、お前を迎えに来たんじゃねぇんだよ」
ややあって、マグナの顔に半笑いが浮かぶ。
「え?なに、それ?どういうこと?」
「だからさ……お前、やっぱり、魔王を斃しに行った方がいいよ」
「……え?」
降り頻る雨に濡れて、額に張り付いたマグナの前髪。
指で掻き分けてやりたい。
頭の中で、全然関係無いことを考えている。
「なんていうかさ……やっぱり、らしくねぇよ。似合わねぇよ。なんもかんも放っぽり出して逃げるなんて、お前にはさ」
「っ……――」
手持ちランプの炎が、動きを止めたマグナの表情に陰影を躍らせた。
分かってる。
お前が言いかけたこと、よく分かってるんだ。
「お前はさ、色々あって、ただちょっと疲れちまってただけなんだ。それで、たまたま傍にいた俺に寄っかかりたくなっただけで……」
「なに……言ってんの?」
「――それに、ほら、憶えてるだろ?バハラタに向かってる途中で会った、隊商の連中。あいつら、魔物に襲われて全滅してさ……ああいうことが、今も世界のあちこちで起きてる訳だろ?」
俺は、卑怯者だ。
マグナが気にしているのを知った上で、喋ってる。
「全ての元凶である魔王を斃せるのが、お前だけだとしたらさ――」
せめて俯くなよ、俺。
「やっぱり、そうするべきなんじゃねぇのかな」
いいんだ、これで。
だから、下を向くんじゃねぇよ。
地面を叩く雨音と。
体内で刻まれる心臓の音が。
同期した気がした。
飛沫となって跳ねる、無数の雨粒。
「……分かった」
罵られる覚悟をしてたのに。
どれだけなじられても、仕方ないと思ってたのに。
思いがけない返事を聞いて、俺は我知らず顔を上げていた。
「あたしもね……ちょっと、思ってたんだ」
急に遠ざかる雨音。
「やっぱり、逃げらんないのかなって」
囁くようなマグナの声が、やけに大きく耳に届いた。
「だって、あれだけ逃げたのに、そこでもあの人の話を聞かされるなんて、ちょっと普通じゃないよね――ううん、ホントは絶対イヤよ?イヤだけど……」
「……」
「ヴァイスが、そう言うなら……」
息が出来ねぇ。
「ヴァイスが傍に居てくれたら、あたし、もうそれでいいや」
マグナの顔には、なんとも言えない微笑みが浮かんでいた。
ああ、やっぱりだ。
俺は、こうするべきなんだ。
ようやく、決心がついていた。
雨音が、うるさい。
らすとすぱぁぁと
「駄目――」
表情の変化で気付かれたのか。
あるいは、マグナにも予感があったのか――激しさを取り戻した雨音にかき消されがちな、マグナの制止の声。
俺は、止めなかった。
「違うんだよ――」
「黙って」
「俺は……ここまでだ」
「黙りなさいよ」
「ここで、お別れだ」
「黙ってってばっ!!」
マグナが、俺の方に倒れこむ。
地面に落ちたランプが、足元で転がった。
「お願いだから、黙ってよ……聞きたくない。許さない――そんなの。あんたは、あたしの目の届く場所にいなきゃいけないんだから……そうでしょ!?そう言ったでしょ!?」
これ以上喋らせまいとするように、力一杯、マグナがしがみついてくる。
俺も、加減無しにマグナを抱き返していた。
「ああ、そうだな」
ずぶ濡れで冷え切った体に、マグナの体温が暖かい。
ちぇっ。
結局、最後までヤれなかったな、そういや。
「でもさ、分かってるだろ――俺じゃ、お前を守れない」
「そんなの――」
「昨日、そいつは証明されただろ?俺は、ここの連中に、あっさりお前を連れ去られちまった。俺じゃ、お前を守れないんだよ。魔王を斃すなら、お前はここの連中と一緒に行った方がいい」
「さっきから、なに言ってんのよ……ばっかじゃないの……」
「その方が、生き残れる確率が高いんだ。俺なんかと、一緒に行くよりさ」
「違うでしょ!?そういうこと言ってるんじゃないでしょ!?」
莫迦だ、俺は。
やっぱり、ここに来るべきじゃなかった。
昨日、あのままマグナの前から消えてればよかったんだ。
ちゃんと別れを告げるべきだとか考えて――違う。
自分では意識してなかったけど。
きっと、単に俺は、もう一度会いたかっただけなんだ。
最後にひと目なんて――おこがましいにも程がある。
「なんで急に、そんなこと言うのよ!?なにまた、勝手に自分で決めちゃってんの!?いい加減にしてよっ!!あんた、全然変わってないじゃない!!」
全くだ。
全然、何も変わっちゃいねぇ。
だから、言うぜ。
「頼むから、分かってくれよ。俺はさ、お前に死んで欲しくねぇんだよ。前にも言ったろ。俺が頼りにならないせいで、お前が死ぬなんてことになったら、そんなの耐えらんねぇんだよ」
「だったら――それなら、あたしだってあの時、言ったでしょ!?頼りにしてるって?大体、誰と行ったって、絶対安全なんてこと無いじゃない!!それだったら、もし死んじゃうとしても、あたし、ヴァイスとだったら――」
「無理だよ」
「え――?」
僅かに力の抜けたマグナの腕を解いて、身を離す。
「無理って……何よそれ?どういう意味?」
「それじゃ、駄目なんだ――イヤなんだよ」
「なに……言ってるの?意味分かんない。ちゃんと、話してよ」
地面に落ちた手持ちランプの硝子の中で、炎はまだ燃え続けていた。
案外、消えないモンだよな。
俺は身を屈めて取っ手を握り、ランプを立たせた。
傘がついてるからな。こうしておけば、マグナが持って戻るまで、炎が消える心配は無いだろう。
「なにしてんのよ……そんなのいいから、さっさと答えなさいよっ!!」
「……じゃあな、マグナ。婆さんになるまで、ずっと生きるんだぞ」
「待って――ねぇ、本気なの?卑怯じゃない、そんな、自分が言いたいことだけ言って、もう喋らないなんて――なんなのよ、急に、そんな……」
「風邪ひいちまうから、なるべく早く中に戻れよな」
「ちょっと、待ってよ……あ、分かった。そうよ……どうせまた、嘘ついて……からかってるんでしょ……ダメ……よ……もう、引っか……からない……だから……」
来るんじゃなかった。
「イヤだよ……ヴァイス……傍にいてよ……」
来なければ。
こいつの泣き顔を、一度も見ないままでいられたのに。
「ばかぁ……」
こんなに雨が降っていて。
こんなにずぶ濡れなのに。
案外、はっきり分かっちまうんだな。
泣いてるのって。
「ずっと……一緒にいてくれるって……言ったクセに……」
一歩、二歩と、マグナから身を遠ざける。
「嘘吐きぃ……ゆる……さない……だからぁ……」
しゃくりあげて、途切れ途切れのマグナの声。
踵を返して、駆け出した。
背後で、ばしゃりと水溜りに膝をつく音。
「ばかぁっ!!嘘吐きっ!!」
俺は、逃げるようにルーラを唱えた。
「ヴァイスの、嘘吐きいぃっ!!!!」
微かに届いたあいつの叫び声が鼓膜を貫いて、いつまでも耳に残っていた。
お疲れ。あああマグナが泣いちゃった。
という訳で、ヴァイス君が遺憾なくへたれっぷりを発揮した第27話をお届けしました。
いかがでしたでしょうか。
いちおう伏線張りと空気作りはしてきたつもりなので、ほとんどの方にとっては意外でもなんでもないかもですが、誰も意外に思ってくれないのもまた淋しいとゆう微妙なお年頃。
とりあえず次回から、ヴァイス君の「へたれ一匹独り旅」をお楽しみください。
い、いえ、あの、ちゃんとツンデレは出しますから><
いやー、ジツはムオルの存在を、当初すっかり忘れててですね。
ダーマからマグナが逃げ出すのは、かなり初期の段階で思い描いてたんですが、どこに逃げたらいいものやら、全然分からなかったんです。
賢者の塔あたりに逃げるのかな〜、でも、それだとお話の都合過ぎてなんか違うなぁ、適当な町でもでっち上げるしかないか〜とか思ってたんですが、ある日、ムオルの存在を思い出しまして。
そしたらあなた、ムオルはルーラで移動できない上に、オルテガのエピソードまで残されてるじゃないですか!?
なんなの?まるでこの為に用意されたみたいな、この都合のいい村は!?
と小躍りしまして、こういう展開と相成りました。
その後、書き進める内に、ヴァイスくんの頑張り次第では、ここで別れる展開は回避できるのかな〜、と思うようになりましたが、結局無理でした><
次回の前半は、申し訳ありませんがヘタレが長々と愚痴を垂れるかもしれません(^^ゞ
これからしばらく、ゲームの本筋とは異なる展開になるかもですが、ゲーム的には勇者パーティから一旦魔法使いを外したみたいにご理解いただければと思います。
なるべく、ゲームの本筋と絡むようにとは思っていますが。
まー、なにが恐ろしいって、この後の話を全然考えてないってことですよw
頭の中に場面は二、三あるんですが、そこに至る経緯とか、まるで思いついてないです。
最終的にどうなるのかとか、さっぱり分かりません。
この人達、どうやって再会するんですかね?w
まぁ、このお話が持ってる道を出来るだけ踏み外さないことだけを考えて、なんとか書き進めたいと思います。
しばし登場人物が変わってしまうかもですが、よろしければ引き続き、どうぞお付き合い下さいませ<(_ _)>
>>CC氏
いやもうほんとGJです!
ヴァイスの天国から地獄具合に泣いた・・・
でも心配してないけどw
むしろマグナカワイソス・・・
3を久しくやってないとムオル忘れるよねw
ルーラに入ってないから。
次回からも期待っす
ゆっくり待ってますっ^^
CC氏、超GJ!!
ヴァイス……orz
マグナ……orz
グエンなんかヤマタノオロチにでも燃やされちまえバッキャローヽ(`Д´)ノ
CC氏、GJです
これはヴァイス君が「若返る」んでしょうか?w
>>74 お疲れ様です。
ムオルのこと忘れてたとは。。。
いや、そこでそれ黙っておけば誰にも気づかれなかったのにw
これからヴァイスくんどうするかなー。
魔法使いひとり旅は大変らしいですよ?
CC氏、乙です。
最近人大杉ですねぇ。専ブラでアクセスしましたけども。
最近ヴァイス君、へたれてますねぇ。
余裕で応対するとか活躍見せて欲しいんですけどね。
これは武者修行フラグでしょうかねぇ。
ちなみに魔法使いは火力高いので
薬草買い込んで宿屋利用しつつ狩ると一番効率がでます。
即死の危険はつきまといますが。
ってなんか別のゲームの話をしているみたいですねw
前半あまりのデレデレっぷりに悶絶w
いっそこのままパッピーエンドに突き進んじまえと思いましたが、
それじゃあ物語は盛り上がりませんよねw
いやぁしかしツンとツンがデレとデレになるとこうなるのかぁ
まさにダブルの2倍の二乗。
皆様、レスありがとうございましたヽ(´▽`)ノ
正直、ようやく書き終えてぐったりしてるのでw 皆さん色々書いてくださって、元気づけられます。
次回こそは、なるべく早く。。。とか、もう言わない方がいいかな(^^ゞ
でも、いちおうそのつもりで頑張りますです。
うん、ムオルは忘れますよねw ぱっと思い浮かばないとゆうか。
今後は、もう忘れないと思いますが〜。
マグナが気の毒なので、私もヴァイスくんには、できれば余裕で対応とか
活躍して欲しかったんですが、実際、ここに至るまでの二人次第では、
別れない展開でもいいや、と本気で思ってたんですが、どうにも不可避でした(^^ゞ
どうでもいいけど、グエンて完全に単なる脇役としてちょっと出しただけなのに、
なにやら自己主張をはじめやがりまして、少々困惑気味だったりしますw
こいつ、まさか後々まで出るつもりなのでは。。。
ひとり旅のアドバイス、ありがとうございますw
ヴァイスが素直に武者修行するか分かりませんが、今後の展開をお楽しみいただければと思います。
多分、マグナはツンを取り戻しただろうなぁ。どうやって再会するつもりなのやら。
ところで、若返るってなんでしょう?転職かな?
>>80 あ、書いてる間にレスが。そう感じていただけて、すごい嬉しいですヽ(´▽`)ノ
もっとマグナを可愛く書いてあげたかったんですが、それは今後にとっておくということでw
ちょうど、考えていた折り返し地点に辿り着いたので、
ここまでのことを少し振り返らせいただこうかと思ったんですが、
書いる内にとりとめなくなっちゃったので、内容というより構成的な話を少しだけ。
興味の無い方は、読み飛ばしちゃってください。
アリアハンでのお話は、構成的にはパーティの面子の紹介という位置づけでした。
で、アリアハンを出てからここまでが、彼らの掘り下げになります。
いちおう、誰も空気にならないように気をつけたつもりではいます。
ドラクエ3ってボス戦が少ないので、窮余の策として勝手に武闘大会とか開催してしまいましたw
で、ここからしばらくが転換点になります。
あえてパーティ内に留めておいた書き方を、今後は広げていく予定です。
全体の構成的には、お話に変化をつけるテコ入れの時期とゆうかw
その後、ようやく本番というか、やっと魔物と本格的にやりあうクライマックスになるのかなぁ、と。
まだどうなるか分かりませんが、もう少しケレン味成分を多目にしていきたいです。
ちょっと軽めのバカ話とかも、書きたいんだけどなぁ。
ここまでお付き合いいただいて、本当にありがとうございました。
読んでくださる皆さんがいなければ、このお話が私の頭の中から出ていくことはなかったでしょう。
基本的にハッピーエンドを好む性質ですが、捻くれ者でもあるので、
ラストがどうなるか、まだホントに自分でも分かりません。
最後まで、ご一緒に見届けていただけたら嬉しいです。
どうぞ、今後もよろしくお付き合いくださいませ<(_ _)>
そして保守
つか、いつまで人大杉なんだw
1日遅れのGJ
でも心の底からGJ
ありがとうございますヽ(´▽`)ノ
次回をなんとか固め中ほしゅ
CC氏GJ!そしてヴァイエルは俺の嫁
猛暑ほしゅ
暑中お見舞い申し上げます
最近、ホント暑くて死ねます。皆様も、体調にはお気をつけて。。。ぐへ〜
いつか女も嫁といってもらえるように頑張ろう。しばらくムリそうだけどw
無問題
既にエミリーとシェラは俺の嫁
前スレが581までしかないんだけどどこまで行った?
できればログが欲しい今日この頃
1嫁
わーいヽ(´▽`)ノ
姫さまは私の妹なので、あ、あれ、義弟(おとうと)!?w
>>90 ログはウチのまとめにありますよ〜。
うぅん、ホントに見られてないらしいw
今見てみたら、前スレは609まででしたね。
581の後、怒涛の埋めですぐ埋まりましたw
前スレのラストとこのスレ
>>7 の労作は必見。
つかよく考えたらシェラも女じゃない件www
シーッ! d( ゚ε゚;)
つか、そういや姫さまもエルフだしw
別の方向性思いついちゃって、どう融合させようか苦戦中。。。
あと、最近暑すぎワロタw
うん、こっちでいい筈。。。もうちょっと気温下がって欲しい保守
ずっと人大杉だったから専ブラインストールした俺
読めてよかった・・・万歳!
読んでいただけてよかったです。ホントに、ずっと人大杉ですよね(^^ゞ
順調とまではいかないけど、いちおう進んでますです保守
ほしゅり
CCさん、暑いけど体壊さんようにね!
応援しとります
ありがとうございます。つか、暑過ぎて笑えますよねw
今週中は予定があるので難しそうですが、来週には投下出来るように進めたい。。。
ちょっと涼しくなって、ほっと一息ほしゅ
今日は過ごし易かった。捕手
今日も蒸すなあ。触手。
土曜日だけやたら過ごし易かったですねぇ。
ひとまず用事も終わったので、また頑張ります。
って書くと、まるでコミケに行ってたみたいほすw
シェラの水着はどんなのだろう。
普通のワンピースで誤魔化すんでなく水着ということなら、
セパレートで腰にパレオを巻くか、もしくは下はスカート
(スカパンってやつですねw)の水着を中はガードルで抑えて穿きます。
上は紐じゃなくて可愛いスポブラみたいな感じで、薄いパッド入りです。
って何一生懸命説明してんだ、自分w
試しにSSを書いてるんだが、何度やっても3の女勇者がガチレズにしからないorz
まぁ、BLよりは良いのかもしれないが此処だと辛いか?
レズだからBLよりは良いだろって基準で考えない方がいいよ。
どっちだって、おおらかに受け止める読者もいれば拒絶する読者もいる。
慎重に行くなら専用板いった方がいいんじゃないだろうか。
此処だとマズイだろうねぇ。
ツンデレって定義が曖昧で酷く広範囲をフォローしてしまえるとはいえ
ガチレズじゃさすがにスレ違い。
そのSSも読んでみたくはあるんで機会があればどっかで見たいものだけど。
ここの板、誘導して上げられるほど詳しくないんで……
とりあえず適当なところが見つかるまでしまっておきなよ。
ぬーやっぱ辛いかな。
>>110 いや、エロって訳じゃないんだ。
なんか、敢えて超マザコンと言うか年上女性好き?
オルテガ母とかイシスとかヒミコには凄いデレデレ、近所の女性には普通
男にはツンツンってのはどうかなぁっと思って。
私の方は、書いてみたらびっくりするほど捻りが足りなくて、
現在大幅に手直し中です。もう少々お待ちを。。。
期待しながらほしゅ
保守
ホントは一昨日か昨日辺りには投下できてた筈なんですが。。。すみません><
でも、ようやく固まってきたので、今週中にはなんとか〜
>>107 個人的には読んでみたい
18禁じゃなければ構わないと思う
DQ4の女勇者とシンシアのように
DQ3のオルテガとサイモンのように
べっべつに、ガイアの剣があるから
着いて行ってあげるだけだからね!
もしくは読みきり形式はどうだろう
支持が集まれば連載開始とか
あくまでひとつの意見だけど。
正直BLもLESも嫌いな方だから、表現にはかなり気をつけて欲しいかな……。
今まで楽しみに巡回していたスレに突然なじめない連載が始まれば、
せっかく書いてくれても、ついキツイ反応を返したくなるのが人情だし。
それで「嫌ならこのスレ見なきゃいいだろ」なんて言われた日には、
ちょwww勘弁してくれよ!ってなるじゃん。
自分の作品の傾向を冷静に分析して、本当にここで大丈夫そう?
大丈夫だと思うなら、投下ヨロ! 新作はやっぱり楽しみだし。
投稿する側から聞いているのだし、
スレの趣旨や雰囲気から考えてどうかを一言二言言うのはいいにしても、
さすがに
>>117はうざすぎ。てか何様?
管理人でも職人でもないただの読み手が見る前のものにうんぬんするのはおかしいよ。
>>118 ちょっとキツいんじゃないかその言い方は
と言いつつおれも同意なんだけどさ
>>117みたいな駄目出しが増えると某マンガ誌みたいに死んだ魚の目みたいな作品にしか投稿されなくなっちまうんだぜ
自分で言ってるとおり、スレの雰囲気が変わってしまってそれが好きになれないなら見なければいいんだし、さ
最悪そのコテをNGにしてしmうわなにをするやめr
取りあえず読み切りからに賛成
読んでみなきゃわからんし
合わなきゃNG登録があるしね
エロなしなら大丈夫な予感
私が何か言うのもアレだと思って発言を控えてましたが、
書かれた方と皆様がお互いにおっけーならば、私も全然おっけーです。
ただ、今まで読んでくださってた方がスレを見なくなるというのは、
書き手のひとりとしては大変淋しい事ですので、「見なければいい」というのも
分かるんですが、個人的にはそれはちょっと困っちゃうかも(^^ゞ
いや、そんな風にはならないとは思いますが。
あ、そうそう、投下が重なるともったいないのでw、時期は教えて欲しいかな〜とか。
もう準備が整ってて、すぐにでも投下できるようでしたら、私はちょっと引っ込んでますし。
そいから、投下されたらお知らせに載っけようと思っているんですが、
もし必要がなければおっしゃってくださいませ。よろしくお願いします。
え〜と、どうしようw
じゃあ、とりあえず私は明日目標で投下予定ということで。
なにかありましたら、よろしくです。
あ、失礼。では折りを見て読みきりで投下してみます。
どうぞ、此方はお気に為さらずに
28. So Blue
「はにゃあっ!?」
真正面から俺にぶつかってきた女が、間抜けな声をあげてよろめいた。
その拍子に、視界を塞ぐほど詰め込まれていた買い物袋の中身が、端からぽろぽろと零れ落ちる。
「あわわ、大変……あ、ご、ごめんなさい――あああ、どうしましょ」
女は落ちたパンやら果物やらを拾いかけ、やっぱり先に謝ろうとしたのか中途半端に俺にお辞儀をしたかと思うと、また忙しく落ちた物の方を気にかける。
あまりの慌てっぷりに苦笑を誘われながら、俺は腰を屈めて拾うのを手伝った。
「あ、いえ、そんな――ありがとうございます――あの、結構ですから」
どっちだよ。
俺を制止しようとしたのか、はたまた先んじて地面の落し物を拾おうとしたのか、片手を前に差し出しながら前屈みになった女は、袋の中身をさらに景気良くぶちまける。
「ああ、もう、私ったら――!!いつも気をつけてるのに、どうしてこうなんでしょう?ホントに不思議――あ、すみません、あの、ぶつかった上に、お手伝いまでしていただいて」
「いいから、しっかり袋を抱えてなよ」
渡したソバからまた落とされたんじゃ、いつまで経っても終わりゃしねぇよ。
見かねた通行人に、二、三の果物なんかを手渡されて、女はぺこぺこと頭を下げる。だから、危なっかしいっての。もう動かねぇで、袋抱えて突っ立ってろ、あんたは。
どういうんだろうね、こういうの。そそっかしいっつーか、どうにも絶望的なまでにドジっていうかさ。
さっきもそうだ。分不相応な大荷物を両手で抱えて、この女が前からよたよた歩いてくるのが見えたから、俺は横に避けて道を譲ってやったんだぜ?
そしたら、素直に真っ直ぐ歩いてりゃいいのに、同じ方に避けやがんだよ、この女。で、俺が避け直してやったら、向こうもまた同じ方向に進路を変える訳よ。
そんなことが何回か続いて――
そこまでだったら、まぁよくある話だわな。
普通なら、ぶつかる手前でお互いに足を止めて、ちょっと苦笑を見合わせてから、それじゃ、ぺこり、ってな具合にすれ違って仕舞いだろ?
ところが、この女は何を考えたのか、足を止めずにあわあわ言いつつ直進してきやがったのだ。
そんで、立ち止まってた俺にそのままぶつかって、往来のど真ん中で場違いな露店を開いてみせたという訳だった。
「これで、全部か?」
「あ、はい、多分――ありがとうございました」
最後の果物を受け取りながら、女はにっこりと、照れ笑いではない朗らかな笑顔を浮かべた。少しは悪びれた顔をしてもいいんだぞ。
歳は、俺より少し下に見える。紺色のシンプルなメイド服を着てるトコを見ると、どこぞのお屋敷の小間使いかね。
「あの、お手伝いいただいたご恩は……えと、一生忘れません」
上手い表現が見つからなかったのか、女はそんな大袈裟なことを口にした。
「いいよ、別に。それより、もう落とさないようにしっかり抱えて、ちゃんと前見て歩きなよ」
「あ、はい。それはもう、大丈夫です」
こんなに力強さと説得力が噛み合わない断言、はじめて聞いた。
立ってるだけでもヨロヨロしてて、全く大丈夫そうに見えないんですが。
「それでは、失礼します――あわわ」
深々とお辞儀をしかけて、また袋の中身をぶちまけそうになったりしながら、女はふらふらと歩き去った。ありゃ、もう一回か二回は同じことを繰り返すね、間違いなく。
運ぶのを手伝ってやろうか――そんなことを考えちまったのは、女のおっとりとした顔立ちが悪くなかったからだ。ついでに言えば、胸もデカいし腰つきもいい。
華奢な背中にかかった艶やかな黒髪を見送りながら、嫌な気分が胃の底に溜まっていく。
まだあれから、何年も経った訳じゃない。つい最近だ。
自分のしでかしたことを、忘れた筈もない。
それなのに、他の女を見て浮かれている。
そんな自分に、嫌悪感を覚えていた。
この間まで、日がな一日、眠ってんだか酔っ払ってんだか分かんねぇような、ヒデェ有様だったクセによ。
寝ても醒めても、悪夢にうなされて。
何もする気が起きなくて。
体中がダルくて、なんもかんもどうでもよくて。
息してる以外は、死人と大して変わんねぇような状態だったのに――
俺は、アリアハンに戻っていた。
本心では最も避けたい場所だったが、それを言い出したら、あいつと一緒に巡った街には、どこにも居たくない。
だが、俺がルーラで移動できるのもまた、それらの街だけなのだった。
つまり、どこに行こうがおんなじで、単に一番慣れてる土地に舞い戻ってきただけの話だ。
それに、あいつと一緒だった思い出しか無い他の街と違って、ここなら、あいつに会う前から何年も住んでたから、その頃の記憶が少しは気分を紛れさせてくれるかと思ったんだ――結局、まるで期待外れだったけどな。
戻ったはいいが、ルイーダの酒場だけは避けたかった。あそこにゃ顔を出せねぇよ。ルイーダ姐さんにあいつの事を聞かれても、なんも答えられそうにねぇしさ。
それに、知り合いの冒険者連中にも、何を言われるか分かったモンじゃねぇから、あんまり会いたくなかった。
幸いにしてアリアハンの城下町は広いので、市街の反対側にある宿屋に引き篭もってりゃ済む話だ。この際、贅沢は言ってらんねぇ。
あの阿呆が治めてるロマリアだけは、絶対に行きたくなかったしな。
今にして思えば、あのロラン野郎、ハナから全部知ってやがったんだ。
あんな阿呆でも、いちおう肩書きは国王だからな。魔法使い共の話はいくらでも聞ける、というより、黙っていても報告される立場の人間だ。
だからこそ、あの阿呆は、あんなに自信満々だったって訳だ。
『君は、マグナを不幸にする』
あいつは、俺に呪いをかけたつもりだったんだろう。
マグナに秘められた事情を知った俺が、ビビって惑うことを見越して、俺がマグナから離れていくように、そっと背中を押す一言を忍び込ませたつもりでいたに違いない。
『俺は、絶対にあいつを不幸にしたりしない』
そう答えた俺に、野郎は言った。
『それでいいさ。いいか、絶対に彼女を不幸にするんじゃないぞ』
なにが『それでいいさ』だ。ふざけんじゃねぇぞ。
ああ、そうだよ。手前ぇの思った通りになりました。これで満足かよ、くそったれ。
けどな、あいにくだが、俺は手前ぇに言われた事なんか、すっかり忘れてたよ。手前ぇとの賭けに負けたから、俺はあいつの元を去った訳じゃない。
あいつに――マグナに別れを告げたのは、そんなんじゃねぇんだ。
大体、手前ぇだけ裏っかわの事情を承知してるだとか、そんな不公平な賭けが認められるかよ。あんなモン無効だ、畜生め。
まぁ――
だから、どうだってんじゃないけどな。
俺がマグナにしちまった仕打ちには、何の関係も無い。
魔王退治に行くなら、絶対にダーマの連中と一緒の方がいい。
そう思ったのは事実だよ。
自分の感情を無視して客観的に考えれば、絶対にそっちの方が生き延びる確率が高いからな。
魔物がはびこってるお陰で、世界中で毎日何人死んでんだか知らねぇけど、少しでも早く魔王を斃せば、それだけ犠牲は抑えられる。
だったら、放っておく訳にはいかねぇだろ。
そう思ったのも本当だ。
あいつにしか、魔王を斃せないなら――
「無知が故に貴様の理解が及ばなかろうが、どれだけ突拍子も無い誤解をしようが、私の知った事ではないぞ」
あの日、話を聞くまでは絶対に譲らないと思い詰めていた俺のしつこさに、とうとう折れたヴァイエルは、そう前置きしてから語り始めた。
「とある二つの勢力が争う場合、その規模の大小に関わらず、どれだけ両者の戦力に開きがあろうとも、どちらか一方が『必ず』勝利を収めると断言することは出来ん。その程度は、理解出来るな?
貴様等が運と呼ぶ要素が戦況を左右する場合もあるが、もっと極端な例を挙げれば、局地的な天変地異によって、戦力的に圧倒的優位に立っていた勢力だけが都合良く全滅するという可能性すら、いつだって皆無ではないのだ。
ああ、いい。黙れ。貴様の分かりきった下らん反論など聞きたくない。
そんなことはあり得ない。言いたければ、そう口にしても構わん。
だが、それは無視しても問題が無い程度に限りなく皆無に近いという意味であって、およそ人間が想像し得る範疇を超えて、どんな事象であれ『絶対に起こらない』等ということは、それこそあり得ない。
世界がいかに不確かであるかを理解していない、貴様ら無知共が絶対であると勘違いしているつまらん常識とやらに照らし合わせて、断じて起こり得ない筈の例外が発生した場合には、ちゃんと奇蹟という言葉が用意されている。
聞いているのか?
フン、いつでも止めて構わんぞ――離せ、腕を掴むな、鬱陶しい。
つまりだ、不利な勢力が勝利を収める確率は、仮令それが一毛にすらまるで満たないほんのちっぽけな可能性であれ、常に皆無とは言えないのだ。
むろん、普段から奇蹟とよばれる類いの例外まで考慮して、人間は行動しない。身動きが取れなくなるだけだからな。
だが、あえて例外まで含めるとするならば、いずれの勢力も十全の確率で勝利を収めるとは言い難い以上、彼奴――バラモスは必ず勝利者となる。矛盾するようだが、それは必ずだ」
頭の中で話を整理する時間をくれたつもりか、ヴァイエルはわずかに間を置いた。
支援?
「何故なら、それがどれほど小さかろうと、彼奴は己が勝利する確率を選び取ることが出来るからだ。
運命を司るもの――確率の支配者と、より俗っぽく言い換えても構わんが、膨大な議論と遠征軍及び暗殺部隊を用いた検証を重ねた結果、アレはそのような存在であると我々は結論づけた。
フン――?非難がましい目つきだな?
だが、我々は彼等に何も強制していない。仮令我々が何かを仕組んでいたところで、彼等はそれを意識していなかったし、彼等は全く自己の判断に基づいて行動したのだ。
そもそも、我々が何をしようが、何もしなかろうが、彼等の敗北は必然だった。
まぁ、今はそんな事はどうでもいい。つまり、そうした存在であるからには、彼奴は広義の世界における主体であり、それを以って先日は便宜的に神と称した訳だな。世界そのもの、という貴様の誤解を助長する表現をとっても、私は一向に差し支えないが。
但し、その神格は極めて低く抑えられており、加えて彼奴の歪な――ある意図の介在を疑わずにはいられない不自然な在り方――能力から、とある仮説が導き出される訳だが……これも、今の話には関係が無かったな。
ともあれ世界とは、神々の単純にして複雑な――むぅ。とても一から説明する気にはなれんな――まぁ、つまり、なんだ。ひと言では言い表わせん支配率――でよかろう――から成り立っており、彼奴の支配できる世界は、いまだタカが知れている。
そうだな。言わば、盗賊ギルド等と俗に称される組織に属す事なく、その目を掠めてコソコソと盗みを働くコソ泥といった風情か」
野郎は上手いことを言ったみたいな顔をしたが、あまり正確な比喩とは思えなかった。
なるべく俺に理解し易いように喋ってるのは分かるんだが、ところどころ却って分かり難い。
「とはいえ、彼奴に属する世界で人間が彼奴を討ち滅ぼすのは、およそ不可能だ。前にも言ったが、それが可能なのは、彼奴を支配出来るより上位の存在か、もしくはマグナ嬢だけだ」
続いてつまびらかにされた野郎の理屈に、完全に納得した訳じゃないんだが――あまりに突飛な内容で、正否の判断も出来なかった。
否定出来るだけの確信を得たくて、野郎のもとを訪ねた筈なのに、俺には無理だった。
そうなっちまう事を、俺は半ば予期していたかも知れない。
正しいかどうかは分かんねぇけどさ、思っちまったんだ。
もし、本当だったら、どうするんだって。
マグナにしか、魔王は斃せないとしたら――
俺なんかがあいつを独り占めにして、たったひとつの可能性を握り潰すような真似しちまっていいのかよって。
そんなの、俺には責任取れねぇよ。
そう思ったのは、事実だよ。
でもさ。
ホントのところは、多分、そういうのも関係ねぇんだ。
それは、自分を納得させる為の口実に過ぎなくて。
根っこの部分は、もっとこう、なんていうか……
俺とマグナの関係そのものが、このままでいいのかっていうか……
上手く言葉にできないけど。
ただひとつ言えるのは。
俺は、無理をしていた。
自分じゃ気付いてなかったけど。
気付かないフリをしていたのか、それとも本当に気付いてなかったのか、自分でも分かんねぇけど。
だってさ。
俺は、他人の為に何かをするような――勇者なんかとは無縁の生活を、あいつに送らせてやるんだとか、そんな風に思い込んじまうようなヤツだったかよ?
そんなご立派な人間じゃねぇだろ。
そもそも、柄じゃなかったんだって。
他人の事情に首を突っ込んで、苦労まで一緒に背負い込んで、自分がどうにかしてやろうだなんて、何より避けてきた行為じゃなかったのか。
そんな俺がさ――この先ずっと守ってやるだとか、それが出来ると証明しなきゃならないだとか、肩肘張って力んじまってさ。
そんな風に思い詰めちまったのは、俺とは全然違う筈のあいつに、ある意味で共感を覚えたから……今さら、言葉を取り繕っても仕方ねぇな。
俺はきっと――あいつに、同情してた。
どっちを向いてもどうにもならない、八方塞りに追い詰められた、あいつの寄る辺の無さに同情してたんだ。
別にやりたい事も無い、この先なにをしたらいいのかも分からない、ただぼんやりと時間を浪費して生きていく将来しか思い描けなかった、つまんねぇ自分のよすがの無さと重ねちまった。
独りぽっちの――自分と同じように――あいつを、放っておけなかった。
ついでに言や、要するにあいつは、手を伸ばせば触れそうな身近に居た女だった訳で。
つまるところ、俺が抱いていたのは、純粋な恋愛感情と呼べるような代物では、到底なかった。
そして、錯覚してたのは俺だけじゃない。
マグナもだ。
あいつはあいつで、普通の恋人同士みたいな間柄に憧れを抱いてたんだと思う。そしてそれは、ガキの時分から特別視されることで、抑圧を感じていたあいつが求めていた平凡さの象徴だった。
きっとあいつは否定するだろうし、俺も本当は認めたくないけどさ――
俺じゃなくてもよかった。
ひた隠していた内心を、おそらくはじめて共有した、しかも唯一の身近な異性である俺に、あいつは錯覚を抱いちまっただけなんだ。
体を壊して寝込んじまった時にさ、付きっきりで看病されたりすると、別になんとも思ってなかった相手でも、ついくらっときちまったりすることってあるだろ?
それと似たような心理だったんじゃねぇのかな。
おそらく本人も意識しないまま、本来向き合うべき事柄から目を逸らして、その錯覚に逃げ込んでいたんじゃないか。
要するに――
俺達はお互いに、欺瞞を抱えていた。
そんな状態で、あいつと関係を続けていくのが、嫌だったんだ。
いや、まぁ、さ。
愛だの恋だのが、錯覚からはじまるってのは、よくある話だよ。
言ってみりゃ恋愛感情なんざ、元から全部錯覚なのかも知れねぇし。
別に、とっかかりとしちゃ悪くない。
錯覚からはじまって、相手を知る毎に重ねられてく妥協を抱えながら、それでもそれなりの関係を築いていく――
普通の女とだったら、それでいいんだ。
なんの文句もありゃしねぇよ。
実際、そういう付き合いをしてきたしさ。
けど――
なんでか知らねぇけど。
あいつとは、それじゃイヤだったんだよ。
だって、そんな関係で構わないんだったらさ。
あいつじゃなくてもいいじゃねぇか。
俺と何をしていようが、世の中にはなんの影響も与えない。そういう、俺とおんなじ平凡な女と、よろしくやってりゃいいって話じゃねぇのかよ。
よりにもよって、魔王を斃せる世界で唯一の女じゃなくてさ。
いや、あいつが勇者と呼ばれる存在で、俺とは釣り合わねぇだとか守る自信がねぇだとか気後れしただとか、そういうのとも、ちょっと違うんだ。
上手く言えねぇけど。
つまり、さ。
普通に女と付き合うみたいに、あいつとは付き合いたくなかったんだよ、俺。
あのままだったら。
ダーマの連中に見つからないまま、ムオルで一緒に暮らしてたら。
きっと俺達は、普通の男と女がそうするように、いずれ普通に別れてたと思う。
それが、嫌だったんだ。
なんで嫌なのか、自分でもよく分かんねぇけど、とにかく堪らなく嫌だったんだ。
あいつに似合わねぇっつーか……違うな。とにかく、なんか違うんだよ。
まぁ――
どんな理屈をコネようが、俺があいつにした仕打ちが許される訳じゃないけどな。
俺はあいつの気持ちより、独りよがりの自分勝手な感情を優先させたんだ。あいつが一番して欲しくなかったであろう、最悪の行動を選択しちまった。
あいつ、泣いてたな――
ホントに、最低だ。
俺は、ロクデナシの甲斐性無しだ。
でも、だって、無理だったんだよ。
一旦無理だって思ったら、あのままの関係をずっと続けていくなんて、俺には考えられなかった。
なんだかんだ言い訳してみても――
結局のところ、俺はただ単にビビっちまっただけなんだろうな。
だって、考えてみてくれよ。俺はなんの変哲も無い、しがない農家の小セガレで、自他共に認めるチンケな野郎ですよ。
それが、世界をお救いになる勇者様のお供とか、どんな笑い話だっての。
いや、まぁ、そういうベタな筋立て、ジツは嫌いじゃないぜ。何の来歴もロクな取り柄も無いそこらの凡人が、泥臭く頑張って最後には勇者様と一緒に世界を救っちまうとかさ。
庶民の星だね。平凡な人間にも希望を抱かせる、いいお話じゃねぇの。
ソイツが、俺以外の誰かだったらな。
やっぱりさ。
あいつは、俺とは違うんだ。
ちょっとばっかり惑っちまっただけで、根っ子のトコじゃ、あっち側の人間だよ。
あいつの父親と同じく、吟遊詩人の奏でる物語に、主役として登場する側。
俺はぼけーっと口を開いて、それを聴く方。
だから、あいつはもう、俺との事なんて錯覚に過ぎなかったととっくに気が付いて、すっかり立ち直ってる筈なんだ。
そうだよな、マグナ――
支援
アリアハンに戻ってから、何日経った頃だったか、よく覚えてない。
部屋で寝てるか、宿屋の酒場で飲んだくれてるかのどっちかだった俺は、いつものようにお似合いの一番隅っこの席で酔い潰れながら、そんなような愚痴をテーブルの向かいに腰掛けた女にこぼしていた。
以前パーティを組んでいた女僧侶が、いつから目の前に座っていたのかも記憶に無い。珍しく街のこちら側に足を運んだのは、知り合いを訪ねた帰りだからとか言っていたのを、辛うじてぼんやりと覚えている。
尤も、俺の口はまるで呂律が回っていなかったし、頭の中で考えただけで口を動かすのが面倒になって、実際は喋らなかった箇所も多かったから、聞いてるナターシャには訳が分かんなかったと思うけどな。
経緯も何も説明していないので、ああ、勇者のパーティから逃げ出したのか、と思うくらいがせいぜいだろう。
「なんていうか……あなた、びっくりするくらい、全然変わってないのねぇ」
俺の愚痴が終わってから、しばらく黙ってグラスを傾けていたナターシャは、やがてくすりと笑った。
「……どうせ俺は、成長しないダメ人間ですよ」
「あら、別に悪い意味で言ったんじゃないのよ。あなたが勇者様のお供に相応しい、立派な人間になって帰ってきたら、そっちの方が気味が悪いもの。でも、私の知ってる朴念仁のヴァイス坊やのまんまで、ちょっと安心したわ」
「……坊やは止めろって言わなかったか」
「そうね。世間や常識なんてものには囚われずに自然体で生きる、洒脱な大人の男を目指してるんですものね」
「……勘弁してくれ」
昔のことを知ってる人間ってのは、これだから始末に困る。
「あら、それとも少しは成長したのかしら。ヘンに悪ぶってみせても、自分はどうしようもないお人好しだってことに、少しは気が付いた?」
色っぽく含み笑いを浮かべたナターシャは、グラスに残った酒を一息に空ける。
後から来たってのに、確実に俺より飲んでるよな。あんたのうわばみ振りこそ、相変わらずじゃねぇか。
「……気付いたのは、自分がどうしようもないダメ人間だってことだけだよ」
テーブルに突っ伏したままボソボソと漏らすと、苦笑が返ってきた。
「ホントに、よっぽど好きだったのねぇ。その勇者様のこと」
「そんなんじゃねぇよ」
「あら、そう?よっぽど盲目じゃなければ、あいつは普通の女とは違うだなんて、昔寝た女の前で言ったりしないと思うけど」
「……よく言うよ。ありゃ、あんたがそう仕向けて、いたいけな俺の貞操を奪ったんじゃねぇか」
「あ、傷つくわぁ。その辺は相変わらずだわね。そんな調子だから、変わり者が好きな変な女にしか相手にされないのよ」
「あんたも、変な女だもんな」
「そうよ〜。こんないい女が、変わってない訳ないじゃない」
俺は、ちょっと顔を上げてナターシャを見た。
まぁ、異論はありませんけどね。
「それにしても、凄い入れ込みようだこと。きっと、ヴァイス坊やの初恋だったのかもねぇ」
「ンな訳ねぇだろ」
「だって、あなた、本気で誰かを好きになったことって無かったじゃない。あなたがしてきたのって、言ってみれば周りに合わせてただけのおままごとみたいなものでしょ」
「……まぁ、そうかもな」
「あら――ホントに、少しは変わったのかもね。昔のあなただったら、ムキになって反論してたところよ」
「前よりもっと、ダメ人間になったってだけだよ」
のろくさと上体を起こして、グラス片手に背もたれにだらしなく寄りかかる。
「それに、今度のだって、なんも変わらねぇさ。本気なんかじゃねぇ。ごっこだよ、ままごと」
唇についた酒を舐めると、柔らかい感触を思い出す。
もったいねぇことしたよな。さっさと押し倒しておきゃよかったぜ。
そうすりゃ、世界をお救いになる勇者様と、最初に寝た男になれたってのによ。
我ながら下卑た笑いが漏れた。
「まぁ、あなたがそう言うなら、別にそれでもいいけどね。それじゃ、私はそろそろ失礼するわね」
「なんだ、もう帰んのかよ」
椅子から立ち上がったナターシャが浮かべた笑みの意味は、酔っ払った頭ではよく理解できなかった。
「私はあなたと違ってお人好しじゃないから、そんな目をされても慰めてあげたりはしないのよ。じゃあね、ヴァイス。顔を出し難いのは分かるけど、いつまでも飲んだくれてないで、その内ルイーダさんのところにも顔を出しなさいな」
保護者みたいな口調でナターシャに言われたが、俺はその後も変わらず引き篭もり生活を続けたのだった。
飲んだくれたまま、何日くらい経っただろうか。
突然、どかどかと酒場に闖入してきた兵士に引っ立てられて、俺は宿屋から連れ出された。
ああ、やっぱり俺のした事って、捕まっちまうほど悪い事だったんだな。
一切の抵抗を放棄してだらしなく引き摺られながら、ぼんやりとそんなことを考えていた俺が連れて行かれたのは、まるで見覚えのない小ぢんまりとした屋敷だった。
てっきり牢屋に放り込まれるモンだと思ってたので、さっぱり訳が分からずきょとんとしていた俺の前に、ほどなく苦虫を噛み潰したみたいな仏頂面が現れて、こう吐き捨てた。
「貴様、私との約定を反故にするとは、いい度胸をしているな。せいぜいこき使ってやるから、覚悟しておけ」
どうやらナターシャ経由で、俺の潜伏場所がヴァイエルに伝わったらしかった。
そういや、なんでもひとつ言うこときくって約束したんだっけ。
貴様が私に提供出来るものが、労働力以外に何かあるのか?とかなんとか言われて、その日から俺は、ヴァイエルの屋敷で働かされることになった。
市街の端っこにあるヴァイエルの屋敷では、使用人をほとんど雇っていない。いつも息を押し殺しているみたいな、恐ろしく影の薄い女がひとり、気付かない内にタマに出入りしているだけだ。
聞けば、女は無償で偏屈魔法使いの様子を見てやっているのだという。まだ若いのに、奇特この上ない女だ。
ともあれ、そんな有様だったから、あらゆる雑事が俺の役割だった。
せめて助手やら秘書やらの肩書きをもらえれば、それなりに格好もついたんだけどさ。要するに、下働きの雑用係だ。
とはいえ、野郎はひとりで部屋に篭っているか、いつの間にやら外出している事が多かったので、実際にはそこまで忙しくない。
野郎がちりんちりんと呼び鈴を鳴らした時に、急いでお側に馳せ参じて、アレを取ってこいだのコレを買ってこいだの偉そうに命じられた用事をてきぱきと済ませれば、それ以外の時間は割りと自由だった。
まぁ、「文句ばかり垂れてないで、呼んだらすぐに来んか、この愚鈍が」と「貴様よりも昆虫の方が、余程効率的に仕事をするな、この能無しが」は、口にしている時の表情まで、すぐに脳裏に描けるくらい嫌ってほど耳にしてるけどな。
ともあれ、最近の俺は空いた時間を利用して、読書に勤しんだりしている。
「用事を言いつける度に、赤子に言葉を教え込むように一から説明しなくてはならんのでは、余計な手間が増すばかりで役立たずよりも性質が悪い」
などとぬかして、野郎は俺の目の前に、どさりと本の山を積み上げたのだった。
せめて、この程度は暗記するくらい熟読しておけということらしい。無茶言いやがる。
でもまぁ、どうやら俺は、読書が嫌いな方ではなかったようだ。
田舎に居た頃は、農家に本なんて置いてある筈もなかったから、それこそ全く無縁だったが、王都に出て魔法使いになってからは普通の人間よりゃ読んでたと思うし、読書自体はさほど苦にならなかった。
それに、なんかやる事があった方が、気が紛れるしさ。
普通の人間にも閲読可能な体裁をとった書物は、魔法使い共にとっては奴等以外の社会との関係を円滑にする為――国から援助を受けたり、変に敵視されて異端扱いされない為に、申し訳程度に記されたものでしかないそうだ。
だから、連中にしてみれば読み返すのも馬鹿馬鹿しい基礎の基礎しか書かれていないという話だが、それでも俺には恐ろしく難解で、そして案外面白かった。
辞書やら辞典やらを引きつつ、注釈に導かれていくつもの文献を渡り歩く内に、俺もはじめの頃よりは、ずいぶん読みこなせるようになってきたと思う。
支援
ヴァイエルの野郎は、いつでも用事を言いつけられるように俺を横に控えさせて、調べ物をすることがある。そして、手を伸ばせば届くような本を、俺に取らせたりするのだ。
その際に、独り言みたいに何事かを呟くことがよくあるんだが、タマに俺への問い掛けとしか聞こえない場合があり、うっかり答えようものなら「誰が無知に物を尋ねるか。黙っていろ、このタワケが」とか罵られるのだった。
そうかと思って黙っていると、「少しは物を考えて、なんとか答えんか。どうせ使わん脳味噌ならば、そこらに捨ててしまえ。その方が頭が軽くなって快適だろう」などと舌打ちをされたりする。どうすりゃいいんだよ。
俺が読書に勤しんだのは、少しは野郎を見返してやろうという気持ちが働いたからだ。
やがて、ヴァイエルの呟きの一部をなんとなく理解出来ることが増えはじめ、仕入れた知識で相槌が打てそうだったので、試しに一度口にしてみたことがある。
ところが野郎は、これ以上無いくらいのしかめっ面をして、フンと小馬鹿にしたように鼻で笑ったのだった。
なんでも、俺に渡された書物の多くは、核となる本当に重要な部分は暗号化されていて、普通に読んだだけでは意味を為さないのだそうだ。そんなの言われなきゃ分かるかよ、くそったれ。
中には一冊まるまる、表面上は無関係な内容で構成されている書物もあるそうで、どうりで場違いな料理の本とか含まれてると思ったぜ。俺に料理を覚えろと、遠まわしに言ってるんじゃなかったんだな。
尤も、こいつが何か物を口に運んでいるところを見たことがないんだが。得体の知れない草を煙管でふかしているのを、タマに見かけるくらいだ。
まぁ、そんな感じで、毎日小言を聞かされながら、俺はヴァイエルの屋敷で世話になってる――つか、放っておくと生活がままならなさそうな野郎の世話をしてやっているのだった。
支援
あのまま飲んだくれてたら、俺は廃人まっしぐらだったろうから、酒場から連れ出してくれたのはありがたく思ってやってもいいけどさ。
あんまり感謝する気になれないのは、どう考えても俺の意識が無い間に人体実験か何かをしていたとしか思えない発言を、時折聞かされたからだ。幸いにして今んとこ、何処も具合が悪くなったりはしてないが、知らない内に何されてるか分かんなくて、怖ぇよ。
全く、魔法使いなんぞの世話になるもんじゃない。
今日も今日とて、野郎に偉そうに命じられて怪しげな品物を引き取りに、俺は街外れの道具屋まで足を運んでいるのだった。
ルイーダの酒場が近くにあるから、街のこっち側にはなるべく来たくないんだけどな。ヴァイエルにそれを言っても、「それは貴様の都合であって、私には関係が無い」とか吐き捨てられて終わりだろう。やれやれだ。
道具屋で受け取った小さい包みを隠しにしまい、誰か知り合いが通りかかっても見咎められないように、俯き加減に元来た道を帰りかけて――
俺はふと、足を止めた。
ここからじゃ、建物に遮られて見えないが――
あいつの実家って、確かこの辺りだったよな。
しばらくそちらを向いていた俺は、唇を歪めて苦笑した。
我ながら、女々しいね。
さっきは、自分があいつの事を忘れかけてるんじゃないかと嫌な気分に襲われたクセして、実際はまるで吹っ切れてねぇみたいだ。
もちろん、これ以上は近づけない。お袋さんにも、合わせる顔が無いしさ。よろしく頼まれてたってのに、やっぱり人選ミスだったみたいですよ。
ちくしょうめ。
俺はただ、思い出さないようにしてただけなんだ。
落ち込んじまうに決まってるから。
溜息を噛み殺す。
脳裏を過ぎった追憶が、記憶を励起したんだろうか。
なんだか無性に、エルフの姫様に会いたくなった。
脚の間にちょこんと腰掛けた姫さんの綺麗な髪を、のんびりずっと撫でていたい。
考えてみれば、あそこは他に人間いねぇしさ。隠遁するには、いい場所だよな。
あ――ダメだ。
俺は今、独りなんだった。
エルフの隠れ里にはルーラじゃ行けないから、ノアニールから歩くしかないんだが、あの距離は独りじゃ無理だわ。
そこまで考えてから、自嘲が喉を突く。
おいおい。冒険者でもねぇノアニールの爺さんですら、命を懸ければ辿り着けた場所じゃねぇかよ。それを無理って、お前は普通の村人以下ですか。
情けねぇにも程がある。こんなダメ人間がエルフの姫君に癒しを求めようだなんて、図々しいったらありゃしねぇ。
頭を振って踵を返したところで、正面から思わぬ衝撃を受けてよろめいた。
「きゃっ――!?」
尻餅をついた女を目にして、心臓がどきりと跳ねる。
「ちょっと、人が歩いてる道を、いきなり塞がないでよ!?」
なんで俺は――
この女を、マグナと見間違えたんだろう。
全然、似てないのに。
瞳は碧眼だし、顔の造りもまるで違う。長い金髪も、似ても似つかない。
あいつを彷彿とさせるのは、せいぜい気の強そうなところと年齢くらいだ。
ちょっとした病気かもな、俺。
「なんだっていうのよ、もぅ!ホントにこの街は、人が多くて歩き難いったら――なに妙な目つきで見てるのよ。失礼ね。ほら、早く起こしなさい」
片手を差し上げて、女は居丈高に命じた。
下手に口答えすると余計に絡まれそうだったので、大人しく引き起こしてやる。
それにしても、今日はよく人とぶつかる日だな。
「これからは、周りに気をつけなさい」
フンとばかりに顔を逸らして立ち去りかけた女は、振り向いて俺に一瞥をくれた。
「あなた、小さい女の子を見かけなかった?多分、こう――こんな感じで、すっぽりフードを被ってたと思うんだけど」
「知らね」
身振りを交えた説明を、面倒臭そうに短く返されて、女はカチンときたらしかった。
「なんなのよ、その返事は?少しは考えるフリくらいしてみせたらどうなの?不親切な人間しかいないのかしら、アリアハンって」
黙ったままの俺が気に喰わないのか、エラい目つきで睨まれた。
厄介なのに引っかかっちまったな。
「大体、なんで私が探さなくちゃいけないのよ……ちょっと、あなた。人探しを手伝いなさい。いいわね?」
はぁ?と声に出さずに表情だけで返してやると、女は頬を膨らませた。
「だって私、この街には不案内なんですもの。手伝ってくれたら、ぶつかって謝りもしない無礼は、それで許してあげてもいいわ」
いや、ぶつかってきたのは、あんたの方ですが。
女は腰に両手を当てて、俺を覗き込む。
「それに、困っているレディーを見かけたら、助けてあげるのが紳士の勤めでしょう?まぁ、あなたはとても紳士には見えないけれど」
貴婦人ねぇ。確かに、身に着けてるひらひらしたドレスっぽい服は、仕立ては良さそうだけどさ。ただ、ロマリアどころかアリアハンにあってすら古臭く目に映る。
どこぞの田舎貴族のご令嬢ってトコかね。その割にゃ、お供の姿が見えねぇけど。
「仰る通りだね。俺は紳士とやらじゃねぇから、遠慮しておくよ」
なんだか、この女とは関わり合いになりたくなかった――全然、似てねぇんだけどな。
「ちょっと!?待ちなさい!人を押し倒しておいて、なんてヤツなの――あら?」
背後でバタバタと忙しない足音が近付いてくるのは、少し前から気付いていた。
そちらに目を向けた田舎女が、なにやら驚いた顔をする。
「あ――わっ!?あわわわわっ!?」
駆け足の音が止んだと思ったら、腕をぐるぐる振り回しながら、メイド服が視界の端に滑り込んできた。
派手な音を立てて、ロクに受身も取らずに地面に激突する。うわ、痛そ。って、アレ、もしかして行きがけに俺と正面衝突したメイド服じゃねぇのか?
「なにをしとるんじゃ、アメリア」
メイド服と並んで走っていたらしい、フードを被った小柄な少女が、舌足らずな喋り方に似合わない言い回しで呆れてみせた。
「え――?」
思わず、口から呟きが漏れた。
「うぅ……痛いですぅ」
「転び慣れとるじゃろ。平気じゃ、大事無い」
薄情に言い置いて、フードの少女が頭を巡らせる。
「お主が突然現れおったから、アメリアがびっくりして転んでしまったんじゃぞ、依頼人の人間。こんなところで、何をしておる――」
少女は、俺を認めて目を見開いた。
造り物めいて整った、その可愛らしい顔立ちを見紛う筈も無い。
再び支援
「ヴァイス!!」
「おっ、ちょっ――おい、姫さん!?なんで――?」
首ったまに跳びついてきたエルフの姫君――エミリーを、どうにか受け止めて抱きかかえる。
遥かに遠い森の匂いを嗅いだ気がした。
つか、相変わらずびっくりするくらい軽いな。
「会いたかったぞ、ヴァイス!!――じゃが、積もる話は後じゃ。とりあえず、あのケダモノ共をなんとかしてくれぬか?」
「は?」
「あぁ?ヴァイスだぁ?」
またしても、聞き覚えのある声だった。
嫌な予感と共に振り返ると、そこにはゴリラとネズミが生意気にも人間の服を身に着けて立っていた。
「へぇ、ホントに野郎だぜ、兄貴」
「手前ぇ、どのツラ下げて、俺達の前に顔出しゃあがった、このトンチキが!!」
以前、俺とパーティを組んでいたチンピラ兄弟だった。最後に顔を合わせたのが――あいつと出会った日だから、もう一年以上前になるのか。
ご兄弟におかれましても、全くお変わり無いようで、なによりです。
「なんだこりゃ――よく分かんねぇけど、あいつらとモメてんのか?」
そう問い掛けると、俺にお姫様抱っこされたエミリーは、チンピラ兄弟に向かってびしっと指を突きつけた。
「そうなのじゃ!!あやつら、ヒドいのじゃぞ?わらわを捕らえて、人買いとやらに売り飛ばそうとしておるのじゃ!!」
「そりゃお前ぇ、そんなめっずらしい生きモン、ふんづかまえて売り飛ばさねぇ手はねぇだろうよ」
「全くだぜ、兄貴。エルフなんて見たこともねぇや、幾らンなるか分かんねぇよ」
「……うん、まぁ、大体分かった。なんだって、ああいうバカに正体バラしちまうかね」
バレないように、わざわざフードを被ってるんだろうに。
「違うのじゃ!わらわだって、気をつけていたのじゃぞ?じゃが……これを被っておると、そのぅ、擦れてなんかヘンな感じになって嫌なのじゃ!!」
「嫌ってもさぁ――」
「だから、違うのじゃ!!わらわは、ちゃんと先にアメリアに聞いたのじゃ!取ってもよいかと尋ねたのじゃぞ?そしたら、ちょっとだけなら構わぬとアメリアが言うから……」
「すみませぇん……まさか、こんなに騒ぎになるとは思わなくて……」
立ち上がって、ぱたぱたと服をはたきながら、メイド服のアメリアが申し訳なさそうに謝った。
派手に転んだように見えたが、どうやら怪我は無いようだ。慣れちまうくらい日常的に転ぶほどのドジってのも、どうかと思うけどね。
「だって、姫様は姫様じゃないですかぁ。なんで皆さんびっくりされるのか、よく分からないですぅ……」
「それはわらわにも良く分からぬが……とにかく、もうアメリアの言うことは信用しないのじゃ!」
「そんなぁ……」
アメリアは、情けの無い声を出した。
いやまぁ、エルフって以前に、こんだけ可愛ければ、それだけで人目を引くと思うけどね。
「ゴチャゴチャくっちゃべってンじゃねぇッ!!」
ゴリラ兄が一喝すると、ひっと悲鳴を漏らしてアメリアは首を竦めた。
「手前ぇ、ヴァイス、あの猿女はどうしやがった?どっかその辺にいやがんのか?」
そう言って、ゴリラ兄は辺りをきょろきょろと見回す。
猿女って――もしかして、リィナの事か?
手前ぇはゴリラの癖しやがって――ヤベ、ちょっと面白い。
「さぁな。だったら、どうだってんだよ」
「ケッ、あの猿女にも、いつか礼をしなきゃなんねぇってこったよ。だが、まぁ、今日のトコロは、そのエ――なんだかいうメスガキさえ渡しゃあ、手前ぇは見逃してやろうってんだ。ありがたく思いやがれ」
こいつ、相当リィナを恐れてやがるな。まぁ、あんなにあっさり倒されたんだから、無理もねぇけどさ。
「そいつはありがたいな――なんて言うとでも思ってんのか?」
あえて一年前と同じ台詞を使ってやったが、エルフの三文字すら覚えられねぇゴリラ頭に分かる筈もねぇか。
「うるせぇッ!!いいからさっさと、そのガキ渡しゃあがれッ!!」
恫喝の声を荒げたのは、ネズミの方だった。
いつの間にやらアメリアの背後に回り込んで、首筋にナイフを突きつけている。チビだから、デカいのの陰に隠れて、つい存在を忘れちまうんだよな。
それにしても、ホントに進歩ねぇな、こいつら。
「おお、でかした、弟よ。ほれ、とっとと渡しな、このトンチキが」
「卑怯者!!」
田舎女が睨みつけても、ゴリラはにやにや笑うばかり。
「あの……困ります」
人質となったアメリアの表情は、あんまり困ってなさそうだった。
「お止めになった方がよろしいですよ?」
なんだ、この余裕。ジツは武道の達人とか言わねぇだろうな。
「ああ。ヴァイスの手を煩わせるまでもなかったようなのじゃ」
姫さんも、慌てた様子もなく、そんなことを言う。
「手前ぇ、動くんじゃねぇッ!!」
アメリアが普通に振り返ろうとしたので、ネズミは慌ててナイフをさらに首筋に近づけた。
その腕が、いきなり横から出てきた何者かに掴まれる。
「いっ……ぎゃあッ!?」
「何をしているんだ、アメリア。買い忘れた野菜ひとつ買うのに、いつまでかかっている」
痛ぇ痛ぇ放せ放せと喚きつつネズミが暴れても、握られた腕はびくともしない。
いとも簡単にアメリアを開放した顔にも、見覚えがあった。サマンオサの喧嘩好きな勇者――ファングだ。
「お――あ?誰だ、手前ぇ!?弟を放しやがれッ!!」
「貴様、アメリアに刃物を向けたな?」
ゴリラの誰何を完全に無視して、ファングはネズミの腕を握ったまま、思いっきり顔面を殴りつけた。
「うわっ……あやつはホントに、容赦ないのぅ」
ゴッ、といかにも痛そうな音が響いて、エミリーは俺の腕の中で顔をしかめた。
鼻血を流して気絶したネズミをそこらに放り捨て、ファングはゴリラに歩み寄る。
「なっ――手前ぇ、なにしてくれてんだコラァッ!?」
ゴリラの拳を、ファングはあっさり片手一本で受け止めた。
「フン。その図体は見掛け倒しか」
「ッ――!?」
またしても一撃。
顔面をしこたま殴られたゴリラは、後ろにふっ飛んで、そのまま動かなくなった。
「大丈夫か?」
ファングが顔を向けると、アメリアは大きな胸の前で両手の指を組んで、にっこりと微笑み返した。
「はい。ファング様が来てくださると信じてましたから」
「いや、そうじゃなくてだな……その、怪我は無いか?」
「はい。怪我をする前に、必ずファング様が助けてくださいますから」
「うん。あまり、心配をかけるな」
はい、と答えるアメリアの語尾には、ハートマークがついて聞こえた。
照れもせずに往来で見詰め合う二人を、通行人がいくらか立ち止まって眺めたりしている。なんだ、このバカップルは。
支援
「あやつは、いつも颯爽としとるのぅ――わらわも、少しは分かってきたのじゃ。乱暴なところはいただけんし、それほど容姿が整っとる訳でもないが、ああいうのを人間は、男前と呼ぶんじゃろ?」
と、姫さん。
ああ、そうですね。
結局ボクは、何もしませんでしたし。
それに、姫さん基準じゃ不細工でしょうけど、人間にしちゃツラもそこまで悪くないですよ。
「ところで、シェラはどこじゃ?シェラやリィナは、どこにおるのじゃ?」
地面に下ろしてやると、姫さんは周りをきょろきょろと見回した。
「いや、ちょっと待ってくれ。あのさ、なんで姫さんが、こんなトコに居るんだ?」
「あやつらに連れてきてもらったのじゃ」
ファング達の方を見ながら、エミリーは答えた。
「連れてきてもらったって……ンなあっさり言われてもな」
「なんじゃ、その口振りは?お主らがいけないのじゃぞ!?また会いにくると言うたクセに、全然来ないではないか!!」
「あ、ああ。悪ぃ、色々あってさ……でも、エルフにとっちゃ半年やそこら、あっという間だろ?」
「それはそうなのじゃが……お主らと会ってから、なんだかよく分からぬが、そうではないのじゃ!!なんじゃ、ヴァイスはわらわに会えて、嬉しくないのか?」
泣きそうな目で、エミリーは俺を見上げた。
「わらわは嬉しいぞ?ヴァイスは、そうではないのか?」
フードがはだけそうになったので、慌てて直してやりながら答える。
「い、いや……そりゃ、嬉しいけどさ」
「そうであろ?ならば、何も問題は無いのじゃ!」
ころっと表情を変えて浮かべた笑顔の、なんとまぁ可愛らしいこと。
それだけで、思わず納得しそうになっちまうよ。
野次馬が集まりはじめたので、とりあえずその場から移動することにして、歩きながら交わした会話によれば――
ファング達がエルフの隠れ里を訪れたのは、大山脈を挟んで大陸のロマリア側をほぼ一周してしまって、他に行くところが無かったからだそうだ。
以前から耳にしていたエルフの話を、ファングは噂に過ぎないと捨て置いていたが、アメリアに会ってみたいと言われて向かうことにしたのだという。仲のよろしいことで。
とはいえ、実際に会えるとはそれほど期待しておらず、軽く辺りを巡って一旦サマンオサに戻るつもりだったらしい。
ちょうどその頃、隠れ里の周囲には魔物が異常発生していて、エルフ達を怯えさせていた。そこにやってきたファングが、そいつらをあらかた屠ってしまい、その働きによって、ファング達は人間禁制の隠れ里に足を踏み入れることを許されたのだった。
手引きをしたのは、例によって姫さんだ。
俺の非難がましい目つきに気付いたエミリーは、「違うのじゃ!わらわだって、あれから気をつけておるのじゃぞ?ちゃんと悪人かどうか見極めてから、声をかけたのじゃ!」と反論したが、どうだかね。
結果オーライなことばっかしてるから、今日みたいな危ない目に遭うんだよ。実際は、里を出るきっかけが欲しくて、後先考えずに行動したって辺りが正解だろう。
それにしても、あのエルフの女王様が、よく外界に出ることを許してくれたもんだ。
「お主らの事があってから、お母様もほんの少しだけ考えを改められたようなのじゃ」
だから、近隣の魔物を苦も無く平らげちまうファングみたいな丈夫が共連れなら、里から出ることを認めてくれたってんだが、どこまで信用していいものやら。単なる家出じゃないといいんだが。
姫さんが人間の世界にやってきたのは、嬉しい事に俺達と会うのが目的だった。
アリアハンに行こうと提案したのも姫さんで、どうやら俺達の故郷を見てみたかったらしい。なんらかの足取りが掴めるかも知れないという目算もあったようだ。
「じゃが、まさかここで会えるとは思わなかったぞ」
再び俺にお姫様抱っこで運ばれながら、姫さんは嬉しそうに笑った。
ここまでの会話の最中、つまらなそうな顔をして端っこを歩いていた田舎女は、やはり地方領主のご令嬢という話だった。
と言っても、アリアハンのことじゃなく、俺が先日まで居た大陸の東側、地理的にはムオルからずっと南に行った辺境を治める田舎領主らしい――くそ、ムオルなんて地名、思い出したくもねぇってのに。
詳しく話さねぇし、俺も聞く気が無かったからよく分かんねぇが、なんでも地元で起こったゴタゴタを解決する為に、アリアハンの冒険者を雇いに来たのだそうだ。
あれから一年。冒険者制度は世界中に広まりを見せており、まだ人も制度もこなれていない他所の国の方が、稼ぎ易いしデカい顔が出来るとあって、アリアハンから出稼ぎに行く連中もぽつぽつ現れてるらしいから、話は分からなくもねぇけどな。
ま、なんでもいいんだが――よんどころない家柄のお嬢様にしちゃ、従者のひとりもいないのはおかしいんじゃねぇのかと、話を引き伸ばす為に突っ込んでみると、自分では素晴らしい思いつきだと確信したのに、家人みんなに反対されたのだと言う。
「でも、本当に困って我が家を頼ってきた人が、実際に居るのに!それを見捨てるなんて、上に立つ者のすることじゃないのよ」
要するに、他の土地から来た人間の面倒を見る余裕なんてありゃしない田舎領主のご息女が、独りで勝手に暴走しちまったって事らしい。どこぞの誰かを思い出しそうになる無鉄砲振りだね。
アリアハンへは、たまたま領地を通りかかった魔法使いに、ルーラで連れて来てもらったそうだ。というか、その魔法使いが通りかかったからこそ、こんな無謀なことを思いついたという話の流れらしかった。
ところが、話に聞いていたアリアハンの冒険者は、会うヤツみんなゴロツキばっかりで、世間知らずのお嬢様は愕然としたって訳だ。物語に出てくる騎士みたいな上品な人間が、こんなヤクザな商売する筈ねぇのは、ちょっと考えりゃ分かりそうなモンだけどな。
厳しい現実に出くわして目眩を隠せなかった田舎領主のご令嬢は、ルイーダの酒場でサマンオサのご立派な勇者様を発見して、他に当てもなく依頼を持ちかけたという顛末だった。
支援
「それで、シェラはどこにおるのじゃ?あとリィナと、ついでに、あのイジワルな女はどこじゃ?」
腕の中のエミリーに屈託の無い笑顔を向けられて、俺は返答に窮する。
姫さん達の事情は、ほぼ聞き終わっちまったしな。これ以上、引き伸ばすのは無理かね。
「楽しみじゃ。シェラはわらわを見て、喜んでくれるかのぅ」
急に不安げな色が瞳に混じる。
「それとも……里で待っておれと言われたのに、こんな風に追ってきてしまって、怒られてしまうじゃろか?」
「いや、とりあえず、その心配は無いと思うぜ」
仕方ねぇ。観念するか。引き伸ばしたところで無意味だしな。
「そうか!?やはり、そうじゃな!?」
「ああ……つか、ジツは俺、今はあいつらと一緒じゃねぇんだよ」
エミリーは、きょとんとした。
「どういう事じゃ?」
「どうもこうも、あいつらは、ここには居ないんだ。だから、怒られる心配もねぇよ」
「ふむぅ?よく分からぬぞ。では、シェラ達はどこに居るのじゃ?」
「さぁな。俺も、知らねぇよ」
「知らぬ訳はなかろう……?」
首を捻ってしばし考え、エミリーは不審げな眼差しを俺に向けた。
「もしかして、袂を分かったと言うておるのか?」
俺は、「あぁ」とも「うぅ」ともつかない、呻き声みたいな返事をした。
「何故じゃ?――そうか、あのイジワルな女に、とうとう嫌気が差したのじゃな?ふむぅ、お主の気持ちも分からぬではないが、じゃからと言って、なにもシェラとまで――」
「矢張りな――」
横から口を挟んだのは、ファングだった。
「アリアハンの勇者が魔王を斃したという話も聞かぬのに、あの時、傍らにいたお前をここで見かけるのは、おかしいと思っていた」
ファングは、淡々とした目つきで俺を見た。
「お前――逃げたな」
我知らず、歩みが止まっていた。
立ち止まった俺を見上げて、エミリーが気遣い半分、訝り半分の声を出す。
「……ヴァイス?」
「さっきから気になっていたが……お前の、その顔つき」
続く言葉を聞きたくなくて耳を塞ぎたかったが、エミリーを抱えているので、それもままならなかった。
「それは、負け犬の顔だ」
今度は、息が詰まった。
「大方、己には魔王討伐など荷がかち過ぎると、今になって怯えて逃げ出したのだろう。情けないヤツだ。俺の一番嫌いな種類の人間だな」
ッ――!!
うるせぇ、うるせぇよ。
俺だって、手前ぇなんざ好きじゃねぇや。
そもそも手前ぇみてぇなご立派な勇者様に、俺の何が分かるってんだよ。
くそっ――なんも反論できねぇ。
「なんだ、その目は?負け犬にいくら睨まれようと、痛くも痒くも無いぞ。多少なりとも恥じ入る気持ちがあるのなら、黙ってないで負け犬らしく、せめて吠えてみせたらどうだ」
「坊ちゃまっ!!」
たしなめるような大声は――アメリアだった。
ファングが苦虫を噛み潰す。
「坊ちゃまは止せ」
「いいえ、止しません!他所様の事情も分からない内から、そんな風におっしゃるだなんて、アメリアは坊ちゃまをそんな子に育てた覚えはありませんよ!?」
「いや、共に育ちはしたが、お前に育てられた覚えは……」
「めっ!いけませんっ!坊ちゃまの心得違いを正すのも、世話係りである私の役目です!よろしいですか、坊ちゃま。こちらの方は、先ほど不注意でぶつかってしまった私を快く許してくださって、荷物まで拾ってくれたお優しい方なんですよ?」
「なんだ、お前、また人とぶつかったのか。だから、道を歩く時は気をつけろと、いつもあれほど言っているだろうに」
「い、今は、そんな話をしているのではありません!つ、つまりですね、その……この方にも、何か止むに止まれぬ事情があったかも知れないじゃありませんか」
「そうじゃぞ。ちょっとヒドいぞ、お主。ヴァイスは、そこまで腰抜けではないのじゃぞ?」
「とても、そうは見えん」
「なんじゃと!?わらわが嘘を申しておるというのか!?よいか、こやつは、あの時だって身を呈して――そうじゃ、誰ぞひとり魔法使いを雇おうと話しておったじゃろ。丁度よい、ヴァイスを連れて行くがよいぞ。そうすれば、お主にも……ヴァイス?」
ゆっくりとエミリーを地面に下ろして、力無く微笑みかける。
「いや、そいつの言うだよ。俺は、負け犬なんだ」
我ながら、最悪の台詞だった。
「……何を言うておる?お主、あんな事を言われて悔しくないのか?わらわ達と共に行って、見返してやればよいではないか」
「よしてもらえる?そいつ、私にぶつかって謝りもしなければ、あなた達を探す手伝いを頼んでも無視しようとしたのよ?そんなヤツ、役に立つとは思えないわ」
田舎女が、的確な告げ口をした。
返す言葉もありません。まったく同意するよ。
「イヤなのじゃ!!わらわは、ヴァイスがいいのじゃ!!」
独りで興奮しているエミリーの頭を、軽く撫でる。
「ごめんな。俺は、一緒には行けねぇよ」
「また、そんなことを言うのか!?お主はまた、わらわを置いてきぼりにするのか!?」
キツい――
自分では気付いてないだろうけどさ、姫さん。
その言葉は、胸に刺さり過ぎる。
そりゃ、俺だって――
いや、やっぱそういう訳にはいかねぇよ。
「姫さんのこと、よろしく頼むぜ。ちゃんと、無事に里に帰してやってくれよな」
「負け犬に案じてもらわずとも、承知している」
ファングの返答は、自信満々だった。実際、こいつは強いし、いかにも頼り甲斐がありそうだ。まぁ、心配ねぇだろう。
「じゃあな。機会があったら、そのうち里の方に顔を出すよ」
「ヴァイス……」
姫さんが声を詰まらせて、それ以上引き止めようとしなかったのは、俺がよっぽど惨めなツラをしていた所為だろう。
ホントに、どこまで情けねぇんだろうな、俺は。
くそったれ。
ここしばらくの平穏が嘘のような一日は、まだ終わりを迎えていなかった。
ヴァイエルの屋敷のすぐ近くまで戻った俺は、とぼとぼとした足取りで門から離れる人影を認めて目を細める。
最初は、あの影の薄い女かと思ったんだが――他に、あの野郎を訪ねる変わりモンなんて、いやしねぇからな。
だが、すぐに人違いだと分かった。
ひょろっと細い人影は、俺に気付いて一瞬足を止めてから、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「おやぁ?これはこれは、ヴァイス君。奇妙な処で会うねぇ」
顔を引きつらせてそう言ったのは、ここに居る筈の無いダーマの魔法使い――グエンだった。
「へえぇ、ヴァイエル様のお屋敷で、君がお世話になってるって話は、本当だったんだねぇ」
なんでこいつが、こんなトコに居やがるんだ?
「んん?ここで僕と会ったのが気に喰わないのかい?残念でした。僕らダーマの魔法使いは、ルーラを覚えたら真っ先に、上の人に連れられて各地の魔法協会を巡るから、その気になればどこにだって行けるんだよねぇ」
辺りに蔑むような視線を投げかける。
「まぁ、のんびり市街を見て回るのは、これがはじめてだけどさぁ。大昔の大帝国の首都だなんて言っても、やっぱりアリアハンなんて大したことないよねぇ。貧相でつまんない、君にお似合いの街だよ」
ぬかしやがれ。手前ぇんトコの山奥よりゃ、よっぽど都会だよ。
「……何しに来やがった?」
「はぁ?自惚れないでくれるかなぁ?僕がわざわざ、君に会いに来たとでも思っているのかい?君なんか、ホンのついでだよ、ついで」
「……ああ、そうかよ」
「おやぁ?勇者様のこと、聞かないのかなぁ?真っ先に聞かれるモンだと思ってたけど……ああ、そうかぁ。君には、もう関係無い話だもんねぇ」
「……」
グエンは、唇を歪めてククと笑った。
「聞かれても、教えてあげないけどねぇ」
なんだ、こいつ。
「まぁ、勇者様のお供を辞めたと思ったら、今度は見事ヴァイエル様に弟子入りを果たした君には、今さらどうでもいい話だよねぇ。ホントに、なんで君ばっかり……」
元からウゼェが――
俺を見る目つきが、尋常じゃねぇぞ。
「僕が君に劣っているところなんて、なにひとつありゃしないのに!!どうして僕じゃいけないんだっ!!」
なんだ?
おそらくこいつは今さっき、ヴァイエルに門前払いをくらったばかりなんだろう。
だが、それで俺に嫉妬してるだけが理由じゃないような――
「フン。まぁ、君のお零れを掠めようなんてつもりは、元からさらさら無かったけどねぇ。最初から全然、興味なんて無かったよ……なんだよ、なに見てるんだよ」
いや、意味分かんねぇから。
「その顔つきも気にいらないんだよっ!!僕の事なんて、まるきり気にしてないみたいな……違うだろ!!君は僕に見下される側で、そんな顔つきをしていいのは僕の方なんだっ!!」
いや、ちょっと待ってくれ。
俺、お前になんかしたか?
どっちかっつーと、恨まれるような真似したのは、お前の方だろうが。
普通は立場が逆なんじゃねぇのか、これ。
なんなんだ、この野郎の思い込みの激しさは。
「ほら、どけよ!邪魔だよ!ホントに君は、道端に落ちた邪魔っけな石コロそのものだよ!!けつまずいたら、なんでこんなツマンナイ物にって、人を苛立たせるところもソックリだ!!」
ドンと俺を突き飛ばして、グエンはせかせかと足早に立ち去った。
俺は呆気に取られて何も言い返せずに、ただぼんやりとそれを見送った。
それから二、三日の間、俺の日常は平穏を取り戻した。
ヴァイエルの野郎に悪態を吐かれながら、こき使われるのを平穏と呼ぶのなら、だが。
ところが、その平穏は、意外なところから綻びをみせたのだった。
「貴様、バハラタへはルーラで行けるな?」
いつものように呼び鈴で横着に俺を呼びつけたヴァイエルが、そんなことを尋ねてきた。
反射的に頷いちまってから、後悔しても時既に遅し。
「サマンオサの勇者殿が、バハラタに転移可能な魔法使いを探しているらしくてな。貴様、ちょっと行ってこい」
「……勘弁してくれよ。他にいくらでも、魔法使いは居るじゃねぇか。ルーラでバハラタに飛ぶくらい、あんただって出来る筈だしさ」
「五月蝿い。黙れ」
偉大なる魔法使い様は、そんなつまらない雑事を引き受けたりはしないのだ。
言外を解説すると、そんなところだ。
「大道芸人共にしても、バハラタに転移可能な者は皆無ではないが、数が少ない。手透きは貴様だけだ。どうせ貴様がここに居たところで、私に余計な手間を増やすだけだ。つべこべぬかさず、黙って従わんか」
「いや、あのさ……俺の事情は知ってるだろ?」
「貴様、何か勘違いをしているな?現在の貴様は、私の奴隷だ。主人が奴隷の都合を考える必要など無い」
「おいおい……俺は下働きどころか、奴隷だったのかよ」
「認識を正確に改められて重畳なことだな。犬猫程度には物分りが良くなったようでなによりだ。私の躾の賜物だな」
あんた、犬猫って。
いや、まぁ、虫以下呼ばわりよりはマシですけどね。
「ついでに、貴様には用事を申し付ける」
「はぁ」
「我々の中にも、他の魔法使いとの関わりを断って、独自に研究を進める類いの変人がいるのだがな」
まるで、自分は変人じゃないような口振りだ。
「その多くは単なる心得違いで、益体も無い素人の民間学者に毛が生えたようなのがほとんどだが、ごく稀に閉鎖的な環境が他の者には考えつかぬ成果を生み出すことがある。
いつか貴様に話して聞かせた『変化の杖』も、そうした類いのひとつなのだがな、先日ちょっとしたことを思いついた」
「はぁ」
「出来ることなら、手元に実物を置いて調べてみたい。面白い物が作れるかも知れん――ということで、貴様は『変化の杖』を手に入れるまで、帰ってくるな」
「いや、あのさ――」
今さら、どのツラ下げて、連中の前に顔出しゃいいんだよ。
と思ったが、これはひょっとして、偏屈な魔法使いの手から逃れるチャンスかも知れない。
このままここに居座ってたら、眠ってる間に何されるか分かったモンじゃねぇし、奴隷生活から開放してやると向こうから言ってくれてるんだ。
言うこと聞くフリして、トンズラかましゃいいんじゃねぇの?
「――承知しました、ご主人様」
「下らん嫌味をぬかすな。言っておくが、貴様の浅墓な考えなど、完全に筒抜けだぞ。今後、貴様が取るであろう行動も、全てお見通しだ。その上で命じていることを忘れるな」
「……いちおう、聞いといてやるよ。んで、その魔法使いは、何処に居るんだ?何処に行きゃ、その『変化の杖』とやらは手に入るんだよ?」
「知らん。他の魔法使いと関わりを断っていると言っただろうが。ほんの少しばかり前の会話も覚えとらんのか、貴様は」
「いや、あのな。じゃあ、どうやって手に入れるんだよ?」
「知らんと言っている。短期間とは言え、私の元に居たのだ。貴様の不自由な脳味噌も、小指の先程度にはマシになった筈だ。少しは自分で考えて、せいぜい気張って探すことだ」
無茶苦茶言いやがる。
だが、それに慣れてきている自分を発見して、俺はなんだか妙に物悲さを覚えた。
「俺はバハラタまで運んでもらえれば、別にどいつだろうが構わん」
興味無さげに、ファングはそう言った。
「まぁ、他に居ないんじゃ仕方ないけど……あんた、ホントに役に立つんでしょうね?」
疑り深い眼差しで、田舎女が俺を睨みつける。
やかましい。
俺がトンズラこかないで来てやったのは、何もお前らの為じゃねぇっての。
俺はただ、姫さんの喜ぶ顔が見たかっただけだ。
「どちら様じゃったかの?」
俺を見ようともせずに、エルフの姫君は薄い唇を尖らせた。
「お主のような薄情な人間など、わらわは知らぬのじゃ」
その後、機嫌を直した姫さんが、脚の間にちょこんと腰掛けて、髪を撫でさせてくれるまで、俺はさんざん謝らなくてはならなかった。
支援
という訳で、第28話をお届けしました。
。。。ダメだ、こいつ。早くなんとかしないと。。。
も〜、なんというかヘタレですいません><
もうちょっとマシになるかと思ったんですが。。。
この回、抜かせばよかった。。。でも、そういう訳にもいかないしな。。。
早く部屋の掃除もしたか(ry
ちなみに、田舎女の住んでる街は、ゲーム的にはムオルの南にあるほこらです。
あそこは宿屋があるので、ちょっと拡大解釈して街とさせていただきました。
すみませんが、ご了承くださいませ。
さすがのヘタレも後は這い上がるしかないと思うので、
宜しければ次回もお付き合いください(^^ゞ
コテ戻すの忘れてたw
ご支援ありがとうございました<(_ _)>
GJ!!
色々感想有り過ぎて困るけど、まずは一言。
俺の姫さんキタ――(゚∀゚)――!!!
アレだ、きっとヴァイエルはヴァイスをファング鬼コーチに鍛えて貰う為&姫さんに慰めて貰う為に送り出したんだそうに違いな(ry
姫さんギター!!
ウァイスの新しいパーティーは面白そう。
そうきたかー!!
なんとなく文体を似せてみた。
CC氏うpおつかれさまでした。
メイドとお嬢と姫さんと……と。
なんとも見た目は華やかですなぁ。
つかなんでへたれヴァイスはいつもハーレムPTなんだ?!
つ【ファング兄貴】
CC氏乙です!!
ヴァイエルのツンデレした優しさがいいですなww
新パーティーの旅が楽しみだぜww
ヴァイエル先生ツンデレ過ぎて惚れた
ジジイ結婚してくれ!
皆がヴァイエルに惚れてる隙に正規パーティの三人は貰っていくぜ
1日遅れのGJ!
ヴァイエルは史上最強のツンデレ
何だかんだいいながらヴァイスを鍛えているのが見え見えで萌え。
そして姫さまパーティ入りキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!
>>168アッー!!
みなさま、レスありがとうございましたヽ(´▽`)ノ
ヴァイエル先生のツンデレっぷりバレバレワロタw
新パーティが思ったより楽しんでいただけそうで、ほっとしました(^^ゞ
ファングとアメリアをここで出すつもりなのは覚えてたんですが、
最初うっかり姫様のことを忘れてて、危ないトコでしたw
ホントにヴァイスはヘタレの癖に、いつもハーレムパーティですよねー。
とはいえ、アメリアはファングにZOKKONラブですし、
ファングもヘタレを凹ませてくれたりするんじゃないかと思います。
あと、グエンからその分恨まれるんじゃないかとw
裏では正規組の三人の方にも色々ありますので、
その内話に出てくるんじゃないかと思います。
さて、また話を固めないと。。。(^^ゞ
そしてほす。
う〜ん、直後の話を考えてた筈なのに、何故かもうちょっと先の展開を思いついてしまった。
175 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/31(金) 00:52:58 ID:aV5ozVVcO
GJ
もう永遠にこの物語を書き続けて
とりあえず連載期間の目標としては当面の間はこち亀になるんでね?www
こち亀って!!w
いや、そうおっしゃっていただけるのはとても大変嬉しいんですが、
なんだかんだで、ジツはもうすぐ一周年な件。
当初の予定では、そろそろ終わってる筈だったのに。。。
なにやら、作中時間とほとんど差が無かったりする訳でして。
ってことは、完結までは、あと一年かかるってことなのか?
いやいや、さすがにそれはねーよ。。。その筈。。。ちょうど折り返し地点だけど。。。
。。。長いとどんどん飽きられちゃうだろうし、頑張ってペースアップしたいです<希望
次回は割りとさっくりなんとかなる気がしてきたー。代わりに次々回がキビしそうだけどw
アルェー もうすぐ最下層だと思ってたのに上がっちゃったか
……ツンデレ分が足りないと思わないかね?
アルェー 思ったより進まねー。久し振りに週間くらいでいけるかと思ったのに
すみません、いちおう増量を試みてはいるんですが(^^ゞ
べ、別にあんた達の為にツンデレ分を増量するんじゃないんだから!わ、私が好きなだけで。。。
取り急ぎ補充してみました。要りませんねそうですね。それでわ、また来世ノシ
むしろどんどん増量してくれw<ツンデレ分
今更ですがCC氏GJ!
浮気性の俺はさっそく新パーティにもwktkしてるぜ!いつも乙です。
例の読みきりはどうなったのだろう
もし問題がないようであれば
連載にならないかななんてチラっと思ってる
別のパーティーか、そうきたか。
もうね、激しくwktkですよ!!!
別のパーティというと、大昔ウィザードリィで
全滅したパーティの探索用に組んだ事を
思い出しました。板違いスマソ
そ、そんなwktkされても。。。別に、あんた達の為じゃないって言ってるじゃない///
ということで、レスありがとうございましたw
何故か筆が進まなくて超頭痛かったので、とてもありがたいです。
この先、上手く新パーティを絡めて面白い展開に出来ればなぁ、などと思っております。
WIZは装備を拾いにいく訳ですね。とか言いつつ、ほとんどやったことなかったり(^^ゞ
微妙に忙しいけど頭痛はマシになりましたほしゅ
フン。無理して風邪をこじらせて体壊さないことね。
勘違いしないでよ、別にアナタのSSが早く読みたいワケじゃないんだから。
一見嫌ってるのかと思わせて実は心配でたまらない初期のツンデレ乙
べ、別に風邪ってワケじゃ。。。でも。。。あ、ありがと///
はい、キモいですね。すみません。とっとと進めます。
皆様、台風にはお気をつけあそばして
もうちょい。。。でも、週末用事なので、投下は週明けかなぁ保守
>>193 毎回言うが無理をせず其方のペースでどうぞ。
一回の投下量半端じゃないしね
保守
守
ありがとございます。
明日で、スレに来て1年か。。。まさか、1年後まで書き続けてるとは思わなかったw
一周年記念SS↓
空気を読まずにYANA氏マダー?と言ってみる
ありゃ、レスついちゃいましたか。
さっき
>>197 を見て、突貫ででっちあげてみましたが、
大して面白くもないので、やっぱいいかw
あ、はい。そいでは。まだギリで9/10ですよね?w
実質2時間くらいで書いたので、内容についてはお察しください。
一周年に何かを掛けたかったんだけど、時間無さすぎでなんも思いつかんかったw
「……ィス?」
ぐらぐらと体が揺さぶられた。
「……ょっと、いい加減に起きてってば!」
いってぇっ!!
思いっきり肩の辺りをはたかれて飛び起きると、マグナの苦笑が目の前にあった。
「も〜、いつまで寝てるのよ。もうすぐ、あたしの誕生日になっちゃうじゃない」
え?
あれ?
なんだ、これ?
「なんで……」
「ん?――ああ、なんで起こさなかったのかって?だって、ヴァイス、すごい気持ちよさそうに寝てるんだもん。だから、まぁ、プレゼントは明日一緒に買いにいけばいいかなって」
「いや……」
俺は頭を掻き毟る。
ここはマグナと一緒に暮らす筈だったムオルの一軒家で、今はマグナの誕生日の前日らしい。
しかも、窓の外を見ると、もうすっかり夜だ。
おかしいな。
「そうじゃなくて……なんで今、俺とお前が一緒にいるんだ?」
この日の昼間に、もうお前はグエン達に拉致られた筈だったろ。
「は?」
マグナの眉間に皺が寄る。
「なに言ってんの?昨日から、一緒にこの家に移ってきたんじゃない」
「いや、だって……俺、お前と別れた筈だろ」
「……はぁっ!?」
マグナは、頭がおかしくなったんじゃないか、みたいな目つきでしげしげと俺を見た。
状況が上手く呑み込めずにぼんやりしている内に、マグナの顔から表情が消える。
「ごめん。全然、面白くない」
聞き慣れた不機嫌な声には、恐ろしくリアリティがあった。すぐ目の前の息遣いも、現実のものとしか思えない。
「急に、何言ってんの?冗談のつもりかも知れないけど、こんなタイミングで言う冗談じゃないでしょ!?」
マグナはベッドから身を起こして、ぷいと俺に背中を向けた。
「なんなのよ……ぐーすか眠ってプレゼントも買いに行かないし、起きたと思えば変な事しか言わないし……ばっかじゃないの?なんかもう、台無し」
ああ、分かった。
つまり、あっちが夢だったんだ。
マグナがダーマに連れ去れたのも、俺がマグナに別れを告げたのも。
ケーキや料理がのっかってるテーブルを、マグナが乱暴に蹴り付けたので、俺は慌てて後ろから抱き止めた。
「離してよっ!!」
まぁ、いくらか皿が床に落ちたが、ケーキは無事だ。つか、誕生日会の主役に準備までさせるってどうよ、俺。
「ごめん。悪かった。なんか、変な夢を見ちまったみたいでさ」
「なによ、それ?あたしと別れる夢見たの?そんな夢見るってことは、ホントはあたしと来たくなかったんだ?やっぱり、無理してたんだ?」
「いや、違う」
今、腕の中にマグナが確かにいる。
妙な夢のせいだろうか。この腕を離しちゃいけないんだと、強く思った。
「絶対、そんなことない。ホントに、変に寝惚けちまって、ごめんな」
「……知らない」
言葉とは裏腹に、俺の腕から逃れようとする気配が、マグナの体から失せた。
「もーマジで、ホントごめん。頼むから、機嫌なおしてくれよ」
「……」
「なんでもするからさ」
「……ホントに、なんでもしてくれる?」
「ああ、するする。なんでも言ってくれよ」
マグナは、俺の腕の中でくるりと体の向きを変えた。
「じゃあ……キスして」
目を瞑って、上を向いたりするのだ。
おいおい。いくらなんでも、こいつ、こんなに素直で可愛らしい真似するヤツだったか?
と思ったのは、頭のずっと片隅の方でして。
まぁ、なんというか。
もちろん、喜んで。
腰に腕回して、そっと口づける。
「ん……」
ゆっくり唇を離すと、マグナの口から「はぁ」と熱を帯びた吐息が漏れた。
「唇開いて……」
耳元で囁くと、少しくすぐったそうに首を竦める。
再び顔を寄せて、半開きの唇に舌を割り込ませた。
支援
「ぁっ……」
驚いたのか、ぴくりと身を震わせる。
背中に回されたマグナの手に、少し力が篭る。
何度か舐めて刺激を与えると、マグナの舌がおずおずと絡みついてきた。
甘い。
頭の後ろが痺れるような感覚。
ひとしきり絡ませてから、徐々に自分の口内にマグナの舌を導く。
ある程度慣れるのを見計らってから、マグナの口内や唇を舌で愛撫すると、ぎこちないながらもマグナもそれに倣った。
「んぁ……っ」
マグナの全身が、さっきより大きく震える。
腰から離れた俺の右手が、胸に触れたからだ。
口での愛撫が止まないように気をつけて、ゆっくりと優しく服の上から撫でる。
うん、思った通り、そこそこあるな。
「……ふぁっ」
顔を離すと、マグナはせつなげな吐息をついて俯いた。
服の裾からするりと手を滑り込ませて、下着を押し上げ直に胸を触る。
すげぇあったかくて柔らけぇ。
手が痺れる。
なんか、感動だ。
「あっ……」
「だいじょうぶ」
左手でマグナの頭をぎゅっと抱えながら、胸を揉んでいる右手の指で、まだ少し柔らかい突起を挟む。
「――ゃっ」
マグナが、むずがってる赤ん坊みたいな声を漏らした。
もう辛抱溜まらん。
「あっ――」
頭を抱いたまま一歩後ろにさがり、ベッドの縁に並んで腰を下ろさせる。
「スカート穿いてたんだな」
「もぅ……また今ごろ気付いたの?いっつも、ちゃんと見てくれないんだから」
挟んだ指にちょっとだけ力を込めて、マグナが身を竦ませるのを愉しんで胸から手を離し、今度はスカートから伸びた内腿の間に滑り込ませる。
「今度から、気をつけるよ」
「いい。諦めてるもん」
うるさいので、口を塞ぐ。
また舌を絡ませながら、内腿をそっと撫で上げつつ、ゆっくりとマグナの体をベッドの上に押し倒す。
「!?やだッ……!」
秘所を俺の指が掠め、マグナは反射的に両手でそこを庇った。
「大丈夫だから」
額にキスをして、凝っとマグナの瞳を見詰める。
まぁ、その間も、すべすべとした張りをある腿を撫でてるんですけれども。
「……うん」
マグナは小さく頷いた。
服を捲り上げると、下着のズレた胸が顕わになる。
仰向けになって、多少つつましやかになった双丘のてっぺんは、もうすっかり上を向いていた。
俺は左の丘に顔を寄せながら、なめらかな腹を撫で下げて、再びスカートの中に手を伸ばす。
『はーい、そこまでだよん。スレの限界超えちゃうんで、自重してくださーい』
いきなり天から降ってきた声は――アイシャか、これ?
気付くと天井は無くて、四方の壁が外側に向かってぱたぱた倒れる――って、書き割りかよ!
なんか知らんが、しゃがみ込んだシェラが両手で顔を覆いつつ指の間からこっちを見てるし、リィナもやたら興味深々な目つきでニヤニヤしながら俺を眺めている。
そして――マグナは、俺の隣りには居なかった。
股の間と胸を手で庇い、真っ赤な顔をして目からビームを出しそうな勢いで俺を睨みつけている。
ああ、やっぱりね。
さっきのは夢で――そうだよな。いくらなんでも、マグナがあんなに素直な訳ねぇもんよ。
そんで、今のこれも、きっと夢なんだな。
つか、ビームってなんだ。
『ということで、一周年記念のSSでした〜。楽しんでもらえたかにゃ〜?書いてる人が
>>197 のレスを見たのが、9/10の20:30過ぎで、そっからヤッツケで書いたからさぁ、てきとーなのは許してちょうだいねん♪』
アイシャの姿は見当たらない。声だけ上から降ってくる。
『物語時間でも現実時間でも、どっちも一年くらい経過したってコトで、こっからはみんなに裏話的なことを喋ってもらうよん。あ、申し遅れたケド、司会はワタクシ、自分でも何を喋ってるのかさっぱり分からないアイシャがお送りするよん♪』
「いや、裏話って……」
急に言われてもなぁ。
「はいは〜い、もう時間無いから早くはやく〜。只今、22:47分!!早くしないと、9/10に間に合わないよん」
何言ってるのか分からん。
あと、ちょっとくらい気持ちを切り替える時間をくれ。
「あ、はーい。いっこ思いついた」
『はい、リィナくん。言っちゃって言っちゃって』
「え〜とねぇ、マグナって最初は、なんだかんだあってから、世界のみんなに向かって『あんた達の為に魔王を斃すんじゃないんだからね!』とか言って魔王退治に向かう筈だったみたいだよ。
ツンデレって設定だから、それしかない!とか書いてる人が、はじめは思ってたみたい。でも、なんかそれじゃあんまりだって事で、もうちょっとマジメに考え直したんだって――ところで、ツンデレって何?」
「ツンデレは分からないですけど、じゃあ実際は、どうしてマグナさんは魔王退治に向かう事になるんですか?」
シェラが問うと、リィナはにんまりとマグナを横目に見た。
「そりゃあやっぱり、ヴァイスくんに振られたヤケクソだよね♪」
「はぁっ!?なにバカ言ってんの!?あたしとあの『バカ』には、実際なんにも無かったのに、なんでそうなんのよっ!!」
そんなに『バカ』に力を込めるなよ。お前に言われると、夢の中でも落ち込むぜ。
「そもそも、なんであたしが魔王退治に向かう前提で話してんのよ!?」
「だって、そうじゃないと話が終わんないし」
身も蓋も無ぇこと言うなよ、リィナ。
「話ってなによ!?何言ってんのか、ぜんっぜん分かんない!!大体ねぇ、なんであたし達が、こんな風に普通に顔合わせてんのよ!?なんなの、これ!?」
『はい、ざ〜んね〜ん。ちょうど時間となりました〜』
いや、おい。もう終わりかよ。
『一周年記念のSS、これにておひらきぃ〜。そいじゃ、また一年後〜』
一年後って。またこっから一年続けるつもりなのかよ。いや、続けるって、何をだ。
「ちょっと、待ちなさいよ――」
マグナの姿が、すぅと消え失せる。
気付くと、リィナとシェラもいなくなっていて――
俺は、夢から目を覚ます。
「なんじゃ。起きたのか、ヴァイス」
ふごっとか鼻から妙な音を出した俺に、姫さんが声をかけた。
「まったく、こんな揺れる馬車の中で、よく眠れるわよね」
嫌味を言ったのは、ド田舎出身のお嬢様だ。
荷馬車に幌をつけただけのオンボロ馬車での移動に、さんざん文句を言ってやがったからな。
そう、ここは田舎女の故郷に向かう馬車の中で――
やっぱり、今のは夢だよな。
ヘンな夢。
つか、どんな内容だったっけ?
夢の記憶は恐ろしい速度で薄らぎ、俺の裡には妙に寂莫とした感覚だけが残った。
以上でした〜。ギリでセーフだよね、これ?w
いちおう最初の部分が9/10なので、間に合ったことにしてください(^^ゞ
本編で重いのが続いてるので、ホントはもっと思いっ切りフザけたかったんですけど、まーとにかく時間が無くてw
大して面白いことも出来ず、なんだか却って申し訳ないです。
もうちょっと練った軽い話を、早く書きたいわ〜。
>>210 GJ!
面白かったです。これからもお体に気をつけて頑張ってくださいね。
何かSUGEEEE展開にwktkしてたけどオモスレー!
作者からの読者に対する良いツンデレでしたw
突然のエロパロ的展開に全力で(;´д`)ハァハァ
でもやっぱり夢オチ……orz
けど、もし寝惚けて姫さん抱き締めてたらと思うとwktkが止まらない俺w
一周年記念SS、GJでした!!
夢って最後まで見続けるもんだろ?
ぐああああ!!俺197だがまさか本当にSSが投下されるとは!!しかも寸止め!!GJすぎるぜ!!
では続きを脳内で読んできますねノシ
レスありがとうございました。
楽しんでいただけた方もいらしたみたいでよかったです。
安易なえち&メタネタじゃなくてパラレルのがよかったかなぁ、
程度のことを、一日経ってからようやく思いつきましたが、
さらに考えたらパラレルワールドは単なるスレ違いでしたw
あの二人はいつもおあずけばっかで、もうちょっと先まで
書いてあげたい気持ちもあったので、まぁいいや。
全く何も考えて無かったので、放っておいたら「一年経過ほしゅ」とか
書いて終わりだったと思いますw 197さんには感謝です。
1人暮らしだったりすると自分の誕生日とか普通に忘れていたりするんだよね。
ぐあー、タイミング逸した。ちょっと来ないとこれだ。俺のアホ。
ccさん一周年。まずはおめでとう。そしてまだそんなもんだったか、というのが本音です。
随分長いこと書かれている気がするのは、きっとそもそもから俺とは文の総量が違うからなのだろうなきっと。
お久しぶりです。現在自分は11月の国家試験に向けて勉強中。。。
その他諸々の事情につき、多分今年いっぱいは外伝の続きは書けないだろうという見通しです。申しわけねぇ。
漫画と小説は読む分には支障ないが、書くと確実に成績落ちる、という理をどこかで読んだ。そして多分本当(ぇー
けど全く書かないとただでさえ足りてない腕が更に落ちるので、ちょっとは書かんと…。
というわけでリハビリがてら何か短編書きます。せっかくなので、皆様方からもお題募集。
保守のついでに「こんなの読みてぇ」とか書いてくださると予告もなく投下…するかもしれないし、しないかもしれません。
そしてそれを受け、もしかしたらインスピレーション沸いた新しい職人さんが…来るかm(ry
古参の方はご存知でしょうが、当方そもそもは途方もない遅筆なので、短編とはいえ速度に関してはご容赦を。
cc氏GJ!
パンツ下ろしたところでアイシャ登場wwwwwwww
YANA氏キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
パンツ下ろしたところで
まさかこれをお題にするワケには・・・
つまりゴドーがパンツ下ろしたところでアレイ登場ということですね
そして3(アリスは ザキを となえた!)
へんじがない、ただのしかばねのようだ
YANAさんキター!
ねぇ。ホントに、アホほど量が多くて(^^ゞ
いちおう普通に小説書く時よりは情景描写とか相当省いてるんですけど、
スレに投下する類いの量じゃなかったなぁ、と後悔。。。もとい反省しきりです。
まぁ、もう開き直ってるけどw
国家試験、頑張ってくださいませ。つか、そんなことしてたんだw
お勉強に支障が出ない範囲で短編期待しております。
余ったお題でなんかいいのがあったら、私も便乗して息抜きしようかしらw
でも、さすがにパンツ下ろしたその先はマズいよねw
ああ、下ろしたところで何かが起こるようなのなら。。。いや、シチュ限定され過ぎか(^^ゞ
つ【パンツ脱ぎ】
つ【馬車】
つ【痔】
つ【ファング兄貴】
つ【パンツ脱ぎ】
つ【454@level6】
つ【270@level7】
つ【607@level8】
つ【リィナ】
YANA氏キテルーーーーー!
つ【チラリズム】
つ【ピクニック】
つ【男装】
ぽとり、と掌に小さな薬箱が落とされた。
「それじゃあ、頼む」
俺にケツを向けたファングが、ぐいと勢い良くパンツを脱ぐ。
「さすがに一日中、馬車の御者台に座っているとキツくてな。アメリアにこんな姿は見せられんし、男が居てくれて助かった」
前屈みになってプリケツをこっちに突き出しながら、そんなことをほざく。
「さ、やってくれ」
渡されたのは痔によく効くという軟膏で、つまり俺に、それを○○に塗れと言っているのだった。
自分で自分のケツは見えないし、上手く塗れたかイマイチ分からんとか言って、女連中から離れた場所まで無理矢理引き摺られたのだ。
薬箱を手にしたまま、俺はどうしようもなく途方にくれた。
股の間からチラリと覗く、ぶらりと垂れたファングのイチモツが、やたらデカくて不愉快だった。
※この文章は、本編とは一切関係のない完全なフィクションです。
パンツ脱ぎました。馬車も痔もファングも出したし、チラリもあるけど、
こうですか?分かりません><
ムシャクシャしてやった。今は反省しかしていない。
ファングは痔じゃないです、念の為(^^ゞ
もしそうだとしても、アメリアが喜んで塗ると思いました。
つか、
>>224 ワロタw よく調べましたねぇ。
YANAさん、ちょいちょい小ネタ書いてましたもんね。
チラリズムは、私もその内また本編の方で、是非やらせていただきたいw
あと、リィナのガチ短編書きたいなぁ、と前々から思ってたり。
なんというか、なんの捻りも無いしょーもないネタで
流れをぶったぎって、本当にすみません><
雲隠れするしかありません。
どうか見なかった事にして、何事も無かったかのように
ここまでのお題を元にしたまともな短編と、新しいお題を引き続きどうぞ↓
ちょwwwファング兄さんwww
CC氏GJ!
朝からコーヒー吹いたじゃないかwww
しーしーし何してんだwwwww
230 :
223:2007/09/13(木) 12:02:59 ID:+XAv9/KRO
ちょww俺のリク採用されてるwww
CC氏、多謝!!
んじゃ、変なリクした詫びに今からスレ住民に掘られ
アッ―!!!
腹いてぇ
つ【魔法少女】
つ【自作自演】
つ【超ウザい】
つ【いちおう3クリア後という設定(全くどうでもいいけど)】
つ【前回にレスがつくとは思いませんでしたw】
つ【ホントにかたじけない】
つ【自重しなきゃと深く反省しつつ、ありがちな思いつきをそのまま投下】
つ【今ちょっと壊れてるみたい】
つ【どうか大目に見てくだしあ><】
つ【ちゃんと本編も進めてます】
わたしの名前はヴァレアリア!
生まれた時から全ての魔法を自由自在に操れる、超絶天才美少女魔法使いなの♪
うん、わたしはホントに天才だけど、別に気後れするコト無いのよ?
気さくに「ヴァレア様」って呼んでネ☆
あ〜もぅ、こんなに美少女でしかも超天才なのに、どっちも鼻にかけないわたしって、ホントにいいコ!
同性にも好かれるタイプよね♪
ちなみにわたしのパパは、その昔に魔王退治を手伝った人達の一人なの!
わたしの親なんだから、せめてそれくらいじゃなきゃ困るっていうか、トンビがタカを産むって昔の人はホントに上手いコト言ったモンよね♪
そんな天才美少女のわたしは、ただいま日課のパトロール中!
パパ達が魔王を斃しちゃったお陰で、世の中から魔物はいなくなったんだけど、その分悪い人達が調子コイて、らんぼーろーぜきの限りを尽くしてるの!
そういう悪い人達から憐れでか弱い愚民共を守ってあげる、可憐な正義の魔法少女がこのワタシってワケ♪
そうこうしてる内に、街外れの森でワルモノはっけ〜ん☆
まぁ、大変!
荷馬車が山賊共に襲われてるわ!
でも、慌てて助けに飛び出しちゃダメなのよ?
正義の味方には、それに相応しい登場のタイミングってモノがあるんだから!
襲われてる人が、もぅホントに追い詰められて、誰でもいいから助けてくれ〜って泣き喚いて命乞いしても、無慈悲に殺されそうになったその瞬間!
そこを逃さず颯爽と登場してこそ、助けてあげた人の財布の紐も緩むってモノなのよ?
よく覚えといてね♪
あ――
んもぅ!
説明してたら、荷馬車に乗ってた商人一家が、みんな殺されちゃったじゃない!
「こらぁ〜っ!!」
許せないわ!
「なに勝手に殺してるのよっ!!」
「あぁ!?」
薄汚い山賊共め!生きてても何もいいコトなさそうな、醜い顔をキョトンとさせてトボけようったって、そうはいかないんだから!
「ワルモノは、正義の味方が登場するまで待たなきゃいけないって不文律を知らないの!?もぅ、自分勝手な人って、ホントに嫌いよ、わたし。正義の味方と阿吽で呼吸を合わせられないなんて、あんた達、ワルモノとして下の下だわ!!」
「なんだぁ、この小娘は?」
「げぇっ――!?」
「なんでぇ、どうした?」
「ヤベェよ、お頭……ありゃ、『魔幼女』ヴァレアですぜ……」
「あ?まようじょ?なんだそりゃ?どんな字書くんだ?」
「悪魔の魔に、小さい女の子って意味の……」
「ああ、そっちか。けどお前ぇ、確かに小便臭ぇが、幼女って程でもねぇだろがよ」
「いや、だから、昨日今日ついた二つ名じゃねぇんでさ。幼女の頃からルール無用の残虐非道、その黒髪と黒づくめのゴスロリ服ってぇ異様ないでたちと相俟って、別名を『まおうじょ』ヴァレア――」
『イオナズン』
ちゅどどどどどどどどどどぉ〜〜〜ん☆
あぁ……イオナズンの閃光って、いつ見てもとっても綺麗……(うっとり)
「無視しないで!話し掛けてるヨソの人をシカトして、身内同士で喋ってちゃダメじゃない!大人のクセに、常識ないのね!そういうの、ホントに嫌いよ、わたし」
「ちょっ……っま!?」
「さぁ、手下は全部やっつけたわ!残るはあなただけよ!世界の闇を支配する魔王、デス……デス……デスなんとか!!」
「いやぁ、オレはピアズって――」
「愛と正義の美少女魔法使いヴァレア様が、ルビスに代わってこらしめてやるんだから!」
「いやおい、自分に様つけて、神様呼び捨てとか――」
『マジカルステッキ〜♪』
「いや、聞けよ、オイ。つか、そいつは『理力の杖』じゃ――」
えいっ☆
「ぐぼぇっ」
あ、しぶとい!
天才美少女のわたしが、魔力をぎゅんぎゅんに込めたマジカルステッキの先っぽで、鳩尾を下から思いっきり抉り上げてやったのに、まだ立ってる!
まったく、さすが薄汚いだけあって、ゴキブリ並の生命力ね!
「もういっぱつぅ〜……」
「ちょっ……待て待て、ちょっと待て!あんた、魔法使いだろ!?なんでいきなり、杖で殴りかかってきやがんだ!!」
「何言ってるの?魔法使いにとって、魔法は最大の見せ場なんだから!必殺技っていうのはねぇ、敵を充分弱らせるまで出し惜しみして、避けられないようにしてから放つモノなの!」
「いやいや、あんた、さっきとっくに魔法使って――」
「も〜、うるさーい!脳天ど〜〜〜〜〜ん!!」
杖に伝わる確かな KA☆N☆SHOCK☆
頭蓋骨 WA☆RE☆TA☆
びたーんと倒れる山賊の親玉!
よし、動かなくなったわ♪
「とどめよっ!!」
今こそ、カッコよく必殺技を唱えるのよ、ヴァレア!
「せぇのぉ!『めっらぞぉまあぁ〜あ!』」
どっかぁ〜〜〜〜ん☆
あら?
クルクル回転しながら唱えたら、ちょびっと狙いがそれちゃった。
でも、山賊の親玉はもうピクリともしてないし、ポーズはびしぃっと決まったから、別にいいよね♪
ドンマイどんまい!
てへっ☆
あ、そうだ。お約束をやっとかなきゃ!
え〜っと、いちにぃさん……商人一家は全部で五人かぁ。
めんどくさいから、お父さんだけでいいよね♪
『ザオリク』
「……あ、あれ?わ、私は、死んだ筈じゃ……」
「か、勘違いしないでよ!?べ、別に、あんた達の為にやったんじゃないんだから!!わたしはただ、お礼が欲しかっただけなんだからね!!」
ツンツン☆
「え?は?」
「でも、あなただけでも生きててよかった……」
デレデレ♪
「え?いや、死にましたけど……あれ?あなたが生き返らせてくれたんじゃ――」
「それじゃ、お約束も無事に済んだコトだし、馬車と積荷はお礼としてもらっていくネ☆」
「え、あの――えっ!?」
「残りの人は、頑張って教会まで引き摺ってけば、生き返らせてくれるから♪それじゃあね〜、ばいばーい」
「え、ちょっとぉっ!?ど、ドロボーッ!!」
ぴしゃりっ☆
はいよ〜しるばぁ〜♪
あ〜、やっぱりいいことした後は、気分がいいわぁ。具体的には、後ろの積荷を売り飛ばして貰えるお金の分くらい☆
でも、ちょっと不完全燃焼なの。
敵が弱すぎるのがイケナイのよね。
私が魔王って呼んであげても、それでホントに山賊のお頭が魔王になる訳じゃないし。
天才過ぎるっていうのも、考えものだわぁ〜。
少しくらい歯ごたえのある相手じゃないと、ロクに見せ場も作れやしないもの。
パパ達の時代は良かったなぁ。
わたしも魔王退治したかったのにぃ。
あ〜あ。
魔王って、どっかその辺に落ちてないかしら。
神竜とかいう強い魔物だか神様だかが残ってるらしいんだけど、どこに居るのか分からないし――
でもね、この前パパが言ってたの。
もうじき、次の魔王が現れるかも知れないって。
楽しみぃ〜♪
もちろん、きゅってヒネるのは、魔王が世界を恐怖のドン底に陥れるまで、じっくり大事に育ててからネ☆
それでこそ、魔王を斃した暁には、お金も名誉も思うままってモノだもん♪
あ――
しまったぁ!!
変身するの、すっかり忘れてたぁ!!
せっかく、可愛いわたしにピッタリのポーズと呪文を、ついこの前思いついたのにぃ!!
やっぱり、魔法少女っていったら、可憐な変身シーンがあってこそだもんネ☆
いっけない、やり直しやり直し。
も〜、わたしったら、うっかり屋さん♪
てへっ☆
「あ、あれ、戻ってきた?ば、馬車を返してくれ!それが無いと、家族を運べ――」
『ザオリク』(×20)
「え――おぉ、お前達!」
「あ、あら?あなた……?」
「おぁ?へ、お頭!?」
「俺達、死んだんじゃ……」
「なんだ?一体なにがどうなってやがる!?」
「はぁ〜い、ミンナさっさと配置について〜!さっきの続きからやり直すよぉ〜♪」
「げえぇっ!!」
「ま、『魔幼女』!!」
「『魔王女』だああぁぁぁっ!!」
すうぅ。
「そこまでよっ!極悪非道の山賊共め!たとえルビスが許しても、愛と正義の美少女魔法使い、このヴァレア様が――」
「うわあああぁぁっ!!」
「逃げろおぉぉぉ!!」
「あっ、ちょっとぉ!!今から変身――」
「助けてくれえええぇぇぇっ!!」
「命だけはお助けおおおぉぉぉっ!!」
あぁん、もぅっ!!
さっすが、命懸かってると逃げ足速いわねぇ。
変身するまで魔法が使えない、ただの可憐な美少女っていう設定にしてあげたんだから、そんなに慌てて逃げなくてもいいのにぃ。
あ〜あ。
結局、今日は全部タダ働きになっちゃったなぁ。
次回は忘れずに、ちゃんと戦う前に変身しなきゃネ☆
あと、あいつらは、次に会ったら
MI☆NA☆GO☆RO☆SHI☆
えへっ☆
適当すぐる。正直、スマンかった。
吊ってきます。探さないでください。
腹痛ぇwwww
ケイオスwwwwwww
最近のしーしーしーのネジの外れっぷりは賞賛に値する!
これは酷いwww(褒め言葉)
にやにやしながら堪能させて頂きました。
魔幼女wwwwww誰の子だよwwwwwwwwwww
ちゃんと躾けろよwwwwwwwwww
こ れ は ヒ ド い
おおむね、そのような感想をいただき、とても本望です。
ありがとうございました。
またいつか壊れてヘンなの投下するかも知れませんが、お察しください。
あと「ちゃんと躾ろよw」には、深い感銘を受けますた。
ジツはこの話は、躾けの出来ない親が増えたことに対する、
ドラクエSSの名を借りた警告だったんだよ!な、なんだっ(ry
子供に平気でピカチューとか命名するやつがいる以上こんなが居てもおかし………いわ十分wwww
もっと壊れたらどーなんだろw
>>246 絶望した!ピカチュウと名づける親がいることに絶望した!
なんかちょっとカオスw
ちょっと他のことやってますた。正直スマンかった。
本編も、近日中に投下する予定です。
わざわざ続きが書けないキャラにしたのに、ヒドい続編を
思いつきそうになって、慌てて頭から振り払ったりなんだりw
保守
番外編03『綴られなかったお話 〜いのちしらず編〜』
「―――だからさ。ほら、僕を連れて行きなって」
銀行屋のお決まりの社交辞令を聞き流し、差し出した袋から金貨が取り出され、ぷちぷちと勘定されていく様をぼんやりと眺める。
古来から人の心を捕えて放さない、黄金の魅惑。権力の象徴、欲の温床―――それを嫌う輩は、まぁそうはいまい。
俺だって、例外ではない。だが、それはこのゴールドと呼ばれる物体が、物の『対価』として機能するからであって。
決して山吹色に輝くその態様が好きなわけではない。多分、一般的な価値観を持つ男には至極当然な評価だと思う(女の場合は“例外”が極めて発生しやすいのでここでは敢えて除外する)。
例えば…災害やら何やらで、砂漠や孤島に放り出されたと仮定しよう。切羽詰っているという意味では、別に戦場でもいい。
とにかく、そこで大量の金貨を持っていたとして―――果たして何人が『もっと使えるものがよかったなぁ』という愚痴を零さないといえるだろうか。
金は加工する手段でもない限り、対価となる『モノ』があって初めて意味を成す。
そして、俺は日々をそういった“切羽詰った”場所で過ごすわけで―――有体に言うと、邪魔なんだよこの金ぴかがっ。
「はいっ、ぴったり1000ゴールドですね。確かにお預かりしました」
「…どうも。助かります」
「って、ガン無視かい?きっついなぁー」
受付の中年男性に軽く会釈すると、俺の後ろに張り付いていた金ぴかが大して辛くもなさそうに肩を竦める。
「うるせぇな。せっかく人が慣れない語りでやり過ごしてるのに、しつこいぞ」
奥の金庫に運ばれていく前方の金ぴかを見送り、根負けして後ろの金ぴかを睨む。
奴はお得意の愛想のいい笑顔で、くりくりと鬱陶しそうな天然パーマのブロンドを揺らす。
「おまえの勧誘はもう何ヶ月も前に断っただろ。何で今頃、俺に付き纏う」
「それは、ほら、これから先、色々と入用だと思って」
「…何が言いたい?」
「―――魔法の玉。手に入れたんだろ?」
瞬間。奴のあどけない眼差しに、刃物のような光が宿る。
「王様も徹底しているよねぇ。外国との交流は物品の輸出入のみ。人の出入りはルイーダの酒場の営業主旨に準ずるものに限定。
それ以外は、一切の出入国を禁止、だなんて。…それが、例えかのオルテガの嫡子といえども、ね。
試練のつもりなのか、前回と同じ轍を踏まないようにっていう心遣いなのか…あんな壁まで作らせちゃってさ。
いや確かに。君が今この国を出るのなら、アレを使うしかないよ、うん」
奴はクスクスと笑いを堪えるように、この国の現状を懇切丁寧に語ってくれる。…いや、おまえそれ噛み殺せてねぇぞ。
―――こいつの名は、エル。上背は俺と同じくらいだが、細身で、童顔。一言で言うと、ボンボン風。
加えて人懐っこい振る舞いをするせいでよく誤解する奴が居るが…こいつは、俺より十は年上である。
だが、無駄に年を重ねているわけじゃない。
腕は立つし、知識も、先見の妙もある。世に言う“一人前”の実力は十分備えている。
しかしながら、こいつの最も恐ろしいところは。
その子供っぽい笑顔も。人懐っこい性格も。その優れた能力を隠蔽してしまっている全てが、何一つ“打算によらない”という点である。
だから時折こうして、その内に秘めた濃密な中身が、威嚇や牽制をするでもない局面で覗いてしまうのだ。
「外の世界の魔物との戦いを考えたら、僕が居ても損はないと思うんだけどなー」
「どうだかな。これだけ周到に『道』を作られてるんだ。
生息する魔物の力が俺の成長と都合よく釣り合う地域に繋がってることも考えられるんじゃねぇか」
「あはは、それ、あり得るかも」
「…それよりおまえ、“ピクニック”はどうした。俺なんかに構ってねぇで仕事しろ」
屈託なく破顔するエルを、再び睨む。
「うーん、そうしたいんだけどね。最近は魔物の勢力図も安定気味でさ、依頼が一部に偏りがちなんだ。
…それにほら、僕のなりだとやっぱり一見さんには受けが悪くて」
苦笑しながら、ぽりぽりと頭を掻くエル。…まぁ、確かに初見でこいつの本質を見抜ける奴なんてそういねぇだろうな。
必要に応じて能力の片鱗をアピールする、なんて器用な真似はこいつには出来ないだろうし。
俺だって、どこぞの飲んだくれが卓を囲むために突然引っ張ってきたこいつにオケラにされるまで油断していた。いや、青かった。
…因みに、ピクニックというのは、こいつがルイーダの酒場に舞い込むある種の仕事に対してつけた愛称である。
ルイーダの酒場の請け負う仕事は主に冒険者や荷馬車なんかの護衛なのだが、職業の如何によっては商業や催し物にも要請がかかる。
エルが“ピクニック”と呼ぶのは、その中の一種―――魔物の頒布図の調査、である。
人の手の入っていない野山は、一歩踏み出せば魔物の世界だ。商工業にかかせない、町と町とをつなぐ貿易商など、輸送隊が彼らといかに遭遇しないかが成功の秘訣である。高い金を出してでも、魔物の詳細な生息地帯の情報をつかみたい金持ちは多い。
更に、もしそれが明らかにされれば国や町の自警団の実戦訓練の危険度の目安を計る材料にもなる。
そのため、一部の富豪や政府が冒険者なんかにその調査を依頼する仕事が、一部で流行している。
態様としては、れっきとした国の調査団の護衛をすることもあれば、特に危険が予想される地域には撤退を考慮し、単独で赴くこともある。
だがどちらにせよ、星の巡りの如何によっては刹那の先に奈落が口を開ける、ともすれば世界一危険な仕事だ。
仕事の告知が回ってくるのは、ある一定以上の力量と戦果が認められている者だけである。
だっていうのに、この金ぴかはそれをして尚、
『え?だって、山とか森とか行って、洞窟とか見つけたら潜って帰ってくるわけでしょ?それ、ピクニックじゃない』
などとほざきやがったのだ。
「ああ、そうかよ。けどおまえ、仕事は報酬第一がモットーじゃなかったか。
いくらピクニックの依頼が少ないって言ったって、地元なら名前も通ってるし、いくらでも他で稼げるんじゃねぇか?
勇者の同伴なんて、それこそ二束三文の路銀と、あるかどうかも怪しいお宝と…あとはせいぜい、十把一絡げの名声くらいしか得るものないぞ。まさかおまえの興味がそっちに向いたってこともねぇだろ」
「そりゃ、まさかだね。有り得ない」
僕の興味があるのはそっちじゃないよ、と金ぴかが首を振って鼻で笑う。
…エルがこういう態度を取るときは、大体次の言葉は決まっている。
「僕の、生涯のパートナーのために!…あ、今舌打ちしたね?」
無論だ。こいつの悪癖がまた始まった。皮肉の一つもしたくなる。
「おまえな…あのバカのどこが気に入ったんだ?頭悪いぞ、あいつ」
脳裏に俺の唯一のパーティの姿を浮かべ、眉間を押さえて一応聞いてみた。
エルは、んもう、と拗ねたように怒りながら講釈を垂れ始める。
「ほらぁ、そうやってまた彼女のこと悪く言う。女の子はデリケートなんだからね?
君みたいにガサツなのと違って、君くらいの年頃の女の子はちょっとしたことで気持ちの浮き沈みが左右されちゃうんだから。
あのね、下手を打って彼女のモチベーションを損なうと、いざっていう時に君の命も危ういんだよ。そこんとこ、分かってる?」
「っるせぇな。そんなこといったって、本当にそう思うんだからしょうがねぇだろ。あんなかわいくねぇの」
目の前の金ぴかにあいつを弁護されるのが、何故だか無性に腹立たしかった。
本人に聞かれたら顔面大火傷くらいは覚悟しなければならない台詞だが、いわずにいられない。
さほど意識もしていなかった言葉が、口をついて飛び出した。
「えー、どこがさ!?可愛いじゃない、すごく。
あの服とか、ただの魔法使いの正装のはずなのに完璧に着こなしちゃって。セミショートの髪型も、彼女の活発な性格にすっごく似合ってるし。
大体、彼女が頭悪そうに見えるのは、ゴドーが怒らせるからでしょ?まったく、他の人といい、どうして皆」
「…あのな。そこまでいうなら、どうしておまえがあいつを誘わなかったんだ」
聞くに堪えない。我慢できずに核心をつい、と突付いてやる。
と―――立て板に水とばかりにべらべらくっちゃべっていたエルの口が、う、と詰まる。
「そ、そりゃあ、そのぅ…っ」
突然、顔を赤く染めてもごもごと声量を落としていく金ぴか。
…力も知恵も備えた、腕っこきの仕事人。それがエルの表向きの顔だ。
それは仮面じゃねぇ。仕事が絡むとスイッチが入るのか、間違いなくこいつは本物の戦闘職だ。
だが、その内面は180度真逆。
まず恋愛面。大体三ヶ月に一度のペースで誰かに惚れる。
勘に任せた一目ぼれじゃなく、しっかり相手を観察した上で、『これだ!』と決める。
元々観察眼はある奴なのでそれは的確といえる。―――だが、その後が不味い。
とにかくこいつは、自分に自信がないらしく、惚れた相手を誉めるだけ誉めるが―――相手にその言葉を伝えたことは、ただの一度もない。そのせいで、いつも誰かに先を越されて失恋する始末。
そもそも、こいつが人に愛想よく振舞うのも、全ては地の自分に自信がないからということに端を発する。
人懐こい笑顔で取り入って手練手管でどうにかしてやろうなどという大それたことは、こいつは思いつきもしない。
どこに出しても恥ずかしくない、正真正銘の“ヘタレ”である。
…悪い奴じゃあねぇのだが。職人気質が変な方向に仇になっている。
「はん。…大方、俺たちと一緒についていって、アリスのほうから告白してくるのを待つ魂胆だったんだろ。
やめとけ、あいつはそういう回りくどいのは絶対にきづかねぇよ。何せ鈍いからな」
グゥの音も出ない、という風に、エルは俯いて黙り込む。
これだけいえば諦めただろう、と俺は今のうちにさっさと退散することにした。
「…わかったよ。一緒に行くのは諦める。けど、ゴドー」
背を向ける俺に、エルの叫びが投げかけられる。
「せめて。彼女をもう少し、大切にしてあげて。僕からのお願いだ」
「…ま。善処はするよ」
片目だけの視線を返し、ひらひらと手を振ってエルと別れる。
…さて。奴のせいで少し時間を食った。酒場に置いて来たあいつが、いらん話を吹き込まれてなければいいが。
財布の中身を弄んで大体の手持ちを確認しながら、俺は銀行を離れた。
後で聞いた話だが、エルが死んだのはその丁度一週間後だったのだそうだ。
◇ ◇ ◇
山奥の村・カザーブ。
西の大陸はロマリアの領土の、地図で見て丁度中央辺りに位置する小さな集落だ。
ロマリアの中のどこに行くにせよ、大体の人間がここを通ることになるから、ある種の宿場の役割を果たしているともいえるかもしれない。
山の中だけあって、自然が豊か。太陽は丁度天頂だというのに、人の動きは実にのんびりとしている。
池の小島のほとりから、村中の大体の動きは見て取れる。昨日から目をつけていたが、思ったよりずっといい場所だ。
…俺たちはロマリアに着くなり王様に依頼された、盗まれた王冠の奪還に向っている。
だが、事を起こす前に一度確かめたいことがあったので、ここで丸一日、足を止めることにしたわけだ。
「…成る程な。穴ぼこだらけってワケか、この国は」
右手に束ねた数枚の地図。その最後の一枚を送り、誰にともなく愚痴ってみる。
「なーにが穴ぼこだらけなのよ、ゴドー」
「ん」
池の水面に、見覚えのあるとんがり帽子がぴょこりと映りこむ。
視線を頭上に上げると、不機嫌そうに眉を吊り上げたアリスが何か言いたそうに立っていた。
「朝起きたらいないんだもん。まったく、どこに行ったのかと思えば、こんなとこで地図と睨めっこ?殊勝なこともするもんね」
訂正。何か言った。
「やれやれ。…うるせぇのが来やがった」
「何か言った!?」
どっかと腰を下ろして隣に居場所を確保し、割といい感じの敵意を向けられる。これだよ…。
と。アリスが俺の持っているものの違和感に気付いた。
「ゴドー、その地図の×印、何よ?宝物でも埋まってるわけ?」
「ああ、これか。…そうだな、一応話しておくか」
どうせやることは終わったし、行き先を決定するのが俺とは言え、まぁしておいて損のある話でもねぇだろうしな。
「魔物の頒布図っていうのが作られてるってのは、知ってるか」
「トーゼン。あたしだってルイーダの酒場にいたんだからね。それの調査だって…ま、まぁあたしには話が来なかったけど」
当たり前だ。回ってきてたら困る。…あれ、俺、今脊髄反射で変なこと考えなかったか。
◇ ◇ ◇
山奥の村・カザーブ。
西の大陸はロマリアの領土の、地図で見て丁度中央辺りに位置する小さな集落だ。
ロマリアの中のどこに行くにせよ、大体の人間がここを通ることになるから、ある種の宿場の役割を果たしているともいえるかもしれない。
山の中だけあって、自然が豊か。太陽は丁度天頂だというのに、人の動きは実にのんびりとしている。
池の小島のほとりから、村中の大体の動きは見て取れる。昨日から目をつけていたが、思ったよりずっといい場所だ。
…俺たちはロマリアに着くなり王様に依頼された、盗まれた王冠の奪還に向っている。
だが、事を起こす前に一度確かめたいことがあったので、ここで丸一日、足を止めることにしたわけだ。
「…成る程な。穴ぼこだらけってワケか、この国は」
右手に束ねた数枚の地図。その最後の一枚を送り、誰にともなく愚痴ってみる。
「なーにが穴ぼこだらけなのよ、ゴドー」
「ん」
池の水面に、見覚えのあるとんがり帽子がぴょこりと映りこむ。
視線を頭上に上げると、不機嫌そうに眉を吊り上げたアリスが何か言いたそうに立っていた。
「朝起きたらいないんだもん。まったく、どこに行ったのかと思えば、こんなとこで地図と睨めっこ?殊勝なこともするもんね」
訂正。何か言った。
「やれやれ。…うるせぇのが来やがった」
「何か言った!?」
どっかと腰を下ろして隣に居場所を確保し、割といい感じの敵意を向けられる。これだよ…。
と。アリスが俺の持っているものの違和感に気付いた。
「ゴドー、その地図の×印、何よ?宝物でも埋まってるわけ?」
「ああ、これか。…そうだな、一応話しておくか」
どうせやることは終わったし、行き先を決定するのが俺とは言え、まぁしておいて損のある話でもねぇだろうしな。
「魔物の頒布図っていうのが作られてるってのは、知ってるか」
「トーゼン。あたしだってルイーダの酒場にいたんだからね。それの調査だって…ま、まぁあたしには話が来なかったけど」
当たり前だ。回ってきてたら困る。…あれ、俺、今脊髄反射で変なこと考えなかったか。
「…その調査で、つい最近、この大陸の魔物の勢力図にとんでもない変化が現れたっていう話。
基本的に頒布図なんてお偉方や金持ちにしか手のだせねぇ代物だが―――今回の件は、ことがでかくなる前に先手を打つつもりらしい」
ほれ、と束の中から×印が局地的に塗り込められた二枚を渡してやる。
「北西の半島と、東側の大河だ。…明らかにこの国の魔物の勢力図とは系統も能力も桁違いのバケモノが現れ始めてる。
ちょっとやそっとの変化なら公開する必要もねぇだろうが、今回はほっとけば確実に人死にがでかく出る類だからな。
最初に警告出しとけば、お偉方も政治責任をとわれるこたぁねぇだろうって、まぁそういう話」
要約すると『死にたくなければそこには近づくな』と釘を刺したわけだ。
「大河の向こう側―――これ、“ギアガの天井”じゃない」
アリスが、手と脳内の二つの地図を符合させたように唾を飲み込む。
「ああ。バラモスの膝元であるネクロゴンドはともかく、世界中探したって、あそこほどやばいところはねぇだろうな。
…恐らく、そこの魔物が流れ込んできてると見て、間違いねぇ」
ギアガの天井―――というのは、ロマリアの東を縦断する大河の向こう側の大地に聳える、馬鹿でかい山のことだ。
その頂上を見たものはいない…というよりも。生息する魔物があまりに強大なため、そもそもそこまで辿り着けないという噂すらある。
いわゆる一つの、秘境。てっぺんは天界とやらに通じてるとかいわれているが、眉唾もいいところだ。
「まぁ、それだけ確認しておきたかったんだよ。俺たちの今の力じゃ、間違いなく秒殺だろうし。尤も、最終的には戦ってみたいけど」
「まーた始まった。…あのね、それに付き合わされるあたしの身にもなってよね」
頭を抱えるように溜息を吐くアリス。悪かったな、性分なんだよ。
隣から垂れ流される文句を聞き流し、俺はさっさとその場で仰向けに寝転ぶ。
「あれ、もういいの?」
「ん。丁度、おまえが来たあたりで見終わったとこだ。俺は寝るから、おまえも好きにしてろ。明日は例の塔に向かうぞ。
幸い、あっちの魔物の勢力図は安定してるって話だしな」
「そ」
一言だけ、返事が返ってくる。が、アリスはその場から立ち上がろうとしない。
「おい」
「何よ。あんたが好きにしろっていったんでしょ」
視線は水面を忙しなく滑る水澄ましに向けたまま、奴は関心なさげに腰を据える。にゃろう。
「勝手にしろ」
俺は俺で、さっさと諦めて寝に構える。
いくらこいつがアホでも、寝てる俺をどうこうしようとは思うまい。
大体、こいつみたいに分かり易い奴の殺気(は、ちと言い過ぎだが)を、寝込みとはいえ察知できない俺じゃねぇ。
目を閉じて、束の間の長閑な休日を味わいたい―――と思ったのだが。
“アレ”の話の後に、アリスの横顔を見てしまったせいだろうか。
どうにも、今はいない金ぴかのことを思い出して仕方がない。
脇に置いた、地図の束に意識を向ける。…これが今ここにこうしてあるのは、あいつの命と引き換えであることは間違いねぇ。
だが、だからといって感傷に浸るつもりはない。あいつはプロで、俺は勇者。
戦いに身を置く理由は真逆だが、それでも自分達の危険の代価が、決して軽いもんじゃねぇことは知っている。
だから、互いがいつ死んでも、それを気にかけるつもりはない。
死の代価は、こうしてここに形となっている。それは、とても幸運なこと。
それに、仮令、形に残らなかったとしても、それはただそれだけのこと。少なくとも俺とあいつの場合は。
「おまえのその帽子。―――よく似合ってて可愛いぞ」
なのに―――何故だか、いつか奴が言っていたのと似た言葉が、口をついて出た。
「――――――そう」
アリスは一瞬だけぴくりと身体を強張らせ、素っ気無く応えた。
それきり、ぷいと視線をそっぽにやって、あとは一言も喋らなくなった。
…びっくりした。
何がびっくりしたって、突然こんなことを口走った俺が、一番びっくりした。
あいつに恩や義理はちっとも感じてねぇはずなのだが。今更、俺が奴の言葉をこいつに伝える義務なんて―――。
「欲を言うと、服はもう少しタイトなのがいいと思うぞ。露出はともかく、動きやすい方がお前の場合引き立つ」
自己弁護する脳みそをよそに、勝手にべらべらと好みを口走る俺の口。これはいったい、どうしたことかっ。
と。アリスは徐に立ち上がると、部屋に戻る、とだけ口にして小島の橋を渡っていった。最後まで、視線は水面に向けたまま。
追う事はしない。だって、俺とあいつはそんな関係じゃねぇ。
…そんな関係じゃねぇ、が。あいつに向かって、初めて『可愛い』などと口にしたのが、俺の後の転機のきっかけになったのは…認めたかねぇが、真実だと、思う。
だって、それきり。俺はあの金ぴかを思い出すことはしなかった。
なのに、俺はこれから先、ずっとアリスを意識することになった。
―――まぁ、要するに。本当に認めたくはないが。俺は俺自身で、あいつを可愛いと思い始めてしまっていたわけだ。
尚、この一連の話にはオチがつく。
「すまん、遅れた」
そのまま小島で寝こけていて、宿に帰るのは日が暮れてからになってしまった。
アリスの奴がさぞやご機嫌斜めだろうと思い、慌てて部屋に戻ったのだが。
「あ」
「………は?」
二人して、変なものでも見たように間抜けな声を上げる。いや、実際俺は変なものを目の当たりにしたんだが。
俺はドアを開いたままの姿勢で。アリスはなんだか、こう…武道着みたいなものを着て。
胸の止め具のついた部分をぎゅうぅっ、と引っ張って。なにやら、悪戦苦闘。
「って、いつまで見てるのよ、出ていきなさいよ!」
「うおっ」
硬直が解けたアリスに、ベッドに広げておいたナイフなど投げられ、ドアを閉める。いや、殺す気かこいつ。
暫く部屋の外で待機し、中からのアリスの声でやっと部屋に入る。
「…で。何してたんだ、おまえ」
「別に、何だって、いいでしょ…ぅ」
こめかみを押さえて問うと、アリスは唸りながら、歯切れ悪く拒絶する。
まぁ、怒ってるんじゃねぇかとは思っていたので、この反応は別にいい。
が、わからんのはその服装だ。さっきはちらっとした見えなかったが、よく見るとそれは男物の武道着だ。
女の服飾センスというのはイマイチ理解できねぇが、敢えて男物を着る選択はより意味不明だと思う。
「あんたが…タイト…が…いい…いうから…男用の…」
「?」
俯いて、ゴニョゴニョと何か弁明らしき言葉を口にするが、よく聞き取れない。
それよか、おまえは大丈夫なのか。
「いいけどさ。…男の武道着でそのサイズだと、おまえ、胸きつくないか。
…いや、いいたかねぇけど、サラシの一つも巻かねぇと、息苦しいんじゃ―――どうした?」
秒毎に顔色を悪くしていくアリスは、立ったまま自分の身体を両腕で抱く。
ただ事ではない風に、俺は奴に歩み寄るが、
「もうだめ、限界」
「は?―――――ぐおっ!!」
バチコーン、と、鼻っ面に凄まじい衝撃が奔る。
倒れるほどではないが、俺は予想だにしない不意打ちに大きく仰け反った。
「っ…何だ、おい、どうしたアリs―――あ」
歪む視界を、頭を振って正しながら、未だ正面にいる奴に臨む。
と―――アリスの武道着の胸元に並ぶ止め具の一つが、まるで吹っ飛んだようにほつれている。
そして、その肌蹴た部分から覗く………大きな。丸くて。白くて。大きな―――えっと。
「あうぅ…やっぱりやだぁ。こんな胸いらないぃ…」
しくしくと嘆くアリスをよそに、思考の停止した俺はその半ばまで露になった、真綿のような双丘に視線を奪われたまま固まる。
ごくり。生唾を呑み込む音が、頭蓋骨全体に響いた。でかい。でかいよ、ママン、などとわけわからん革命じみた言葉が脳内を反響するが、まぁ暫くこれはこいつに言わない方がいいだろう。
なんか、いらねぇとかいってるし、気にしてるんだろうし、人様の身体的特徴を論うのはよくないし、下手に刺激すると血を見る羽目になりそうだし、ああでも遠くない未来にちょっと気を抜いたらいっちゃいそうだけど俺頑張ってみる―――。
「って、いつまで凝視してんのよバカァァァァァッ!」
そんな俺の努力とは無関係に、奴の投げた分厚い本の角がいい感じに顔面にめり込む。俺だって一生懸命やってるんデスヨ?
気を失う前、最後に見えたのは、視界一杯に広がる『おてんば辞典』の文字だった。
〜了〜
YANA氏GJ!
YANA氏GJ!
アリス可愛いよアリス。
_ ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
⊂彡
【チラリズム】【ピクニック】【男装】
を一応踏襲してみたつもりだが、ちょっと本筋から外れすぎたね!わかりづれぇ!(挨拶
というわけで、
>>225の貴方のテーマを拝借させていただきました。どうもありがとう!
途中二重投稿があるのは手違いです、すいませんorz
時間軸は、いざないの洞窟直前→カンダタとシャンパーニの塔で戦う少し前、という感じです。何人がニヤリとするかしら。
初期の方は進行の都合で結構キングクリムゾンしたイベントが多いので、やろうと思えばまだまだストックはあったりなかったり。
あと「グリズられる」という言葉を最初に考えた人は天才だと思う。
因みにエルは、数ヶ月前にゴドーに一度パーティへの加入を申し出ていますが、その時の理由も案の定女の子目当てでした。
某ヒカリさんに惚れた彼は、彼女がゴドーを指導しているのを見て、当然に魔王討伐に同行すると思ったわけですが以下略。
良くも悪くも自分に正直な彼は自分が好意を持たない相手とはくっつく気が皆無ですが、外見のおかげで基本的にはモテます。
しかし、お姫様の全てが彼に売約済みだったりはしません。むおぉぉん。
今回は実験的試みをいくつか施してみましたが、如何だったでしょうか。色んな意味で。
もし二回目があるのなら、何か意外な面子を組んでみたかったり。終曲の展開のせいで、非常に制約は多そうですが。
ではではノシ
YANA氏GJ
ナンか初期の作品を読み返したくなった。
イテクル ノシ
さすがwwww
GJ!!強い魔物が出ると聞いてカザーブの東の端と思ったよ。
保守
保守保守
保守の三連単。雑談だがリメイクDQ2を始めた。
昔やった時は激難しかった記憶があったが今度は全滅無しで船までいった。
この難易度低下も時代の流れか・・・
FCの2は難易度が高いのはともかく、復活の呪文を写し間違えるのが痛い。
最終的にはビデオに録画してた。
今はデジカメという便器なものがあるからな
あれは確かに、間違えたら涙目ですよね〜。
なんだかんだでクタクタですいません><
気付いたら、今月まだ短編しか投下してなかった(^^ゞ
兄弟、信じられんかもしれんが、あれはそもそも呪文自体が嘘八百である虞があってな。
呪文聞く場所によってデマ吹き込まれる確率が違うとか何とか。確実を狙うなら二度書き。それすら100パーではないけど。
俺?勿論フルボッコにされましたよ(ノД`)俺らの世代にlovesong探してはトラウマソングですね。
そういえばドラクエオンリーイベントが近いようです。俺は無理だけど行く人は楽しんできて下さいねー
277 :
272:2007/09/24(月) 08:03:07 ID:wHtP79xyO
じゅもんが ちがいます
昔のDQ世代はこの文字に幾度となく泣かされたのか・・・
DQ筆下ろしがVの俺も何度もおきのどくですが〜に畳を濡らしたもんだが。
なぜかいまだにFC盤DQ2の最強状態の復活の呪文を覚えている俺w
15年以上前のことなのに何故か記憶からきえないwww
>>279 それはスゴいwww
全然関係無いけど、十年くらい前に自分が書きかけた長編をタマタマ発掘しちゃって、
ヘタ過ぎワロタで恥ずかしくて読めないかと思ったら、
意外にも続きが読みたくてしょうがなくなったw 最後まで書いとけよ、自分。。。
やっぱり、ちゃんと完結させないとですね。ということで、また頑張ります(^^ゞ
あ、普通はちゃんと完結させてますですよ、念の為(^^ゞ
しかし、内容をいい具合に忘れてましたが、私好みのハナシを書くものだなぁ。さすが自分w
>>279 2年前から猛烈な懐古主義に浸っており
FC、SFCの古き名作を買い集めてやってるんだ
DQ2もあるからその復活の呪文を聴きたいぜ!!!!!!
FCでDQ4やりながら、睡眠薬として
GBのDQ3やってる俺気持ち悪いと思いながらも
やっぱり面白いなぁ・・・
俺が知ってるのは、ゆうていみやおう(ryってヤツだな
これは何年たっても忘れないw
FC版の復活の呪文は実用的なのからネタ的なものまで
色んなサイトに載ってるからググってみるといい
「もょもと」www
>>282 んじゃ。スレチだけど失礼して・・・
ぽまぞ ぶぬれ ろわさぽ
ぽきひ うこお ぽふわす
ぷずま さもげ ずずじも
すべせ ぞぴば ぬわぜぷ
そまは ほ
ちなみに友達にもらった呪文だ。
子供の頃から根性のない俺にはMAXレベルとか無理www
きよはた なかはた はら
とか、適当にやってたら、すごいのが出てきた覚えがあるwwww
>>282 これもどぞ。つ
ttp://rainbow.sakuratan.com/data/img/rainbow55621.jpg そういえば2って、ラスボスが正規ナンバーズで唯一正真正銘の知性なき化け物だったり、
人間の敵とエンカウントしたり(仮にも宗教が相手なので、悪魔神官とかの仮面の下が人間という可能性もあったと思う)
二作目にして結構異質ですよね。
態々王族連中を直々に討伐に向かわるし、結構プロパガンダ的な裏もあったんじゃねぇかなぁ、と思ったり。
俺の次回作はこの辺を切り口に、かなーり救われないお話になる予定。
ってもそういうのを書くのなら、CCの御ン方と比較されざるを得ない覚悟が必要ですががが。頑張ってみます。
ちょwらめえええええwww
289 :
282:2007/09/26(水) 11:36:36 ID:369e3Yfw0
復活の呪文をいれてみた
まあやLv50 楽しませてもらいました!
ってYANA氏それホントにイケる呪文じゃないですか!
ググっていろいろ探してみます
御伽話の主人公は伝説の勇者ってのを突き詰めた
正しく字面通りの空想冒険譚の王道ですねぇ。
主人公が皆王族なのはその続編だからかなぁ。
盛り上がってるとこアレですが、何事もなければ明日くらいに投下予定ですほす
あ、明日とゆっても数時間後のソレではなく、明後日の朝くらいです(^^ゞ
わくてか保守
期待保守
wktk
29. Subliminal Seduction
「なかなか良いところじゃな」
田舎女の田舎は、やっぱりド田舎だった。
「近くに森も小川もあるし、わらわはこっちの方が落ち着くのじゃ。すまぬが、お主のふるさとのアリアハンは、石の建物ばかりで威圧されてるようでな、あんまり好きにはなれなかったのじゃ」
小さな手を俺と繋いで、田舎町の目抜き通りをとことこ散策しながら、エミリーはそんな感想を口にした。
「別に構わねぇよ。つか、俺も出身は王都じゃないしな。俺の生まれた村なんて、ここよりもっとひでぇド田舎で、ホントになんにも無いトコだったんだぜ?」
姫さんの歩幅に合わせてのんびりと足を運びながら、見るともなしに辺りを見回す。
田舎といっても、ここらじゃ一番大きな町って話だからな。
密集の度合いはアリアハンとは比較にならないが、建物はそこそこ並んでるし、表通りはそれなりに賑わっている。
あの女の屋敷の周りの方が、却って閑散としてるくらいだ。まぁ、あっちは金持ち連中の集まってる場所だから、閑静って表現すんのが適当なんだろうけどな。
それにしても――
こんなトコに、こんな町があったなんて、全っ然知らなかったぜ。
ダーマからの逃避行の際には、まるで気付かなかった。そうか、あそこで脇道に入って、もうちょい東まで足を伸ばしてりゃ良かったのか。
道幅は狭いわ、ずっと先まで森しか見えないわで、あの時は本街道の道なりに、そのまま北へ向かっちまったんだよな――いや、いい。思い出したくない。
「ほぅ、そうなのか?では、ヴァイスのホントのふるさとの近くには、森もあるのか?」
姫さんの舌足らずな喋り方が、俺を苦い記憶から呼び戻す。
「ああ、あるぜ。ってより、野山丸出しだよ。畑以外は全部山と森みてぇなトコだよ」
「わらわ達の里と似ておるな?」
「まぁ……似てるっちゃ似てるのかね。でも、生えてる木とか全然違うから、雰囲気はあんまり似てねぇかもなぁ」
「ほほぅ、わらわの知らぬ木々達か。それは是非、まみえてみたいのじゃ」
「いや、ホントに何も無いトコだぜ?」
「でも、森があるのであろ?なら、充分じゃ。いつかお主のふるさとに、わらわを連れていくのじゃぞ、ヴァイス」
「……ああ、機会があったらな」
俺の田舎を見たいなんて、女に言われたのははじめてだ。やっぱ、人間の女――特に街の女とは感覚が違うよな。
まぁ、女っても、少女っつーか、見た目は幼女だけどさ。
とはいえ、もしそんな機会が訪れるにしても、それはずっと先の話だろう。
なにしろ、俺達がいま居るのは、アリアハン大陸ですらない。距離のことだけ考えたって、俺の故郷は遥かに遠い空の下だ。
俺はまた、マグナ達と伴に旅した、この大陸に戻ってきちまったのだ。
田舎女――ユーフィミアとかいう気取った名前がついてるらしいが、長ったらしいので田舎女で充分だ。ちなみにフルネームは、もっと長ったらしくて覚えてない――の屋敷に俺達が辿り着いたのは、ついさっきのことだった。
ここまでの経緯を、ざっと説明しておくと――
アリアハンでファング達のもとを渋々訪ねたあの日、連中の旅支度はすっかり整っていて、後は魔法使いを待つばかりという状態だった。
そんな訳で、俺達はその日の内に、慌しくバハラタへと飛んだのだった。
正直、バハラタでも顔見知りには会いたくなかったから、ファングの背中に隠れてコソコソしてたんだが、サマンオサの勇者様は幅はともかく背が俺よりちょっぴり低いこともあって、正面からすれ違った男に見咎められちまった。
「あれ?ヴァイスさんじゃないですか?」
顔を背けるのが、一瞬遅かった。
立ち止まった俺の顔を回り込んで確認し、グプタは改めて驚きの声をあげる。
「やっぱり、そうだ。お久し振りです、何時いらしたんですか?あれ――他の皆さんは?」
「よぅ、久し振り。いや、今さっき着いたばっかなんだけどさ、ちょっと訳ありでな。あいつらとは今、別行動をとってんだ。それより、あれからどうだい。なんも問題ねぇか?」
言外に「それ以上、あいつらのことは聞くな」と含ませて早口でまくし立てると、グプタは頼りなげながらも、いちおう察してくれたらしかった。
「あ、ああ、そうなんですか――ええ、お陰様で。あれからは、魔物による被害を除けば、おおむね平和なものですよ」
「なんの話をしておるのじゃ?」
いちいち嘴を入れてくる姫さんの様子は、まるきり好奇心旺盛な子供そのものだ。里の外のモノは何を見聞きしても、まだまだ新鮮な時期なんだろう。
姫さんの常識外の可愛らしさに気付いて、しばし硬直したグプタは、ようやく気を取り直して、そっちの件については喋ってもよいものかと俺の顔色を窺いつつ、俺達が人攫いの一味を潰して自分達を救ってくれたのだと語って聞かせた。
「ほぅ、そんなことがあったのか。どうじゃ、ヴァイスもなかなかのものじゃろ」
ちょっと誇らしげに、姫さんはファングに向かって薄い胸を反らしてみせる。
「ここで、そんなことがあったの……それを、あなたが――へぇ。思ったより、役に立つのかしらね」
嫌みったらしい口調だったが、田舎女も少しだけ見直したみたいな目つきを俺に向ける。
まぁ、あんまり感心されても困るんですけどね。
あの時、俺は何もしちゃいなかったんだから。
そう――
本当に強い相手を前にしたら、自分が何も出来やしないんだってことを、俺はあの時、心の底から思い知らされたんだ。
だからこそ、俺は――
いや、いい。
俺は二、三度頭を振って、苦味を伴う昏い記憶を追い払った。
どうせバレちまったことだし、ついでにグプタに東へ行く方法を尋ねてみると、途中で大河に行く手を阻まれるものの、そこ以外は平地を辿って田舎女の故郷まで行けそうだと判った。
少し前、俺は――俺と「あいつ」は、大河の源流を迂回してダーマから東へ向かった訳だが、そこまで遡っちまうと例の神殿とは目と鼻の先だ。極力あそこにゃ近寄りたくなかったので、河は渡し舟で越えられるという話だし、この情報はありがたかった。
尤も、ハナからこの面子じゃ、あの道無き山岳地帯を越えていくのは不可能だけどな。
なにしろ、お姫様やらお嬢様やらいらっしゃるのだ。
その上、今なら、やたらとドジなメイドさんまでオマケで一緒についてきます。
いや、俺はさ。最初は、こン中では、アメリアは戦力としてまだ計算できるのかな、と勝手に想像してたんだよ。
だって、ファングと二人であちこち旅をしてた訳だろ?
雰囲気からして僧侶か何かじゃなかろうかと、俺はなんとなく思い込んじまっていたのだ。
つか、何の変哲も無いメイドさんを、魔物がウヨウヨしてる中を連れ歩いてるとか、普通は誰も思わねぇって。
まさか、ホントにそうだったとはね。
アメリアは、僧侶どころか冒険者ですらなくて、単にドジなメイドさんだった。
それを知った時にゃ、さすがに俺も呆れたね。あの喧嘩好きな勇者様は、一体何を考えてやがんだかな。
ところが、なんでメイドなんて連れて歩いてるんだよ、と俺が問い詰めても、ファングの野郎はきょとんとするばかりで、仕舞いにゃこんなことを言い出したのだ。
「質問の意味が分からん」
お前、あのな。
「いや、アメリアはさ、戦いの方はからっきしって事なんだろ?」
「そうだな。アレほど、他人を傷つけることを厭う女も珍しいだろうな」
「だったら、なんで連れて歩いてんだよ。危ないだけじゃねぇか」
「危ない?何がだ?」
何がって、あなた。
まるで戦力にならないんじゃ、完全に足手まといなだけじゃねぇか。戦闘さえ終われば回復呪文を唱える事が出来た分、出会った頃のシェラの方がまだマシだぞ。
しかも、あの時の俺達は四人パーティだったから、シェラってお荷物も三人で分け合って背負えたけどさ、お前らはたったの二人連れだろ。
「だからさ、自分の身も守れないんじゃ、魔物に襲われた時はどうすんだよ?」
「俺が守るから問題無い」
自信満々のファングの断言を耳にして、俺は何故だか無性にイラっときた。
「ああ、そうだろうよ。お前がそういうつもりなのは分かるよ。けどな、いつでも絶対に守ってやれるとは言い切れないだろ?」
「絶対に守るが?」
なに鳩が豆鉄砲くらったみてぇなツラしてやがる。分っかんねぇ野郎だな。
「だ〜か〜ら〜、もし、万が一でいいからさ、守り切れなかったらどうすんだって言ってんだよ!!何が起こるか分かんねぇだろ!?お前より強ぇ敵と出くわしたら、どうすんだよ!?それとも、お前の手が回り切らないほど、すげー沢山敵が出てきたら!?」
「関係無いな。いかなる状況だろうと、俺は必ずアメリアを守り抜く」
駄目だ、こいつ。話が通じねー。
「……そんなこと言って、いつか守り切れない時がきて、ホントにアメリアが魔物に殺されちまったら、どうすんだよ。イヤだろ?自分の我侭で連れ歩いて、それで死んじまうくらいなら、地元に置いてきた方がいいとは思わなかったのか?」
「全く思わん。そもそも、ついて来たいと言い出したのは、アメリアだ。俺も、あいつに傍に居て欲しかった。だから、連れて来た。連れて来た以上は、必ず守り抜く。それだけの話だ」
それまで要領を得ない様子だったファングは、急に得心の顔つきをした。
「ああ、なるほど――今、お前が口にしたようなのが、負け犬の考え方なのか」
なんだと、この野郎。
「そうやって勝手に想像した良からぬ未来に怯え、少し手を伸ばせば届く範囲の事まで諦めて生きる訳か。俺には到底、理解し難いな」
こいつ――
超ムカつく。
手前ぇが単に、考え無しなだけじゃねぇか。
手前ぇは――知らねぇから!!
どうやったって敵わねぇ、いくら足掻いたってどうにもならねぇ力の差に絶望したことがねぇから――
だから、そんなに自信満々でいられるんだ。
実際にアメリアが殺されちまう光景を目の当たりにしても、お前は同じ台詞を吐けんのかよ!?
ちくしょう。
やっぱり俺、こいつとは反りが合いそうにねぇや。
つか、大っ嫌いだ。
ともあれ、アメリアも単なる足手まといだって事実には変わりがない。
まったくさ。五人もいて、戦力になるのはこのバカと俺だけかよ。
ご機嫌過ぎて、目眩がしてきたぜ。
こんなことなら、ヴァイエルの野郎を脅してでも、僧侶の呪文を使えるようにしてもらっとくべきだったな。
301 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/29(土) 05:53:56 ID:Ac9xpF4XO
さる回避は5レスに一回位で平気かな?
「魔法使いと僧侶。そう呼称される冒険者の職業があるが、両者の違いを貴様は理解しているか?」
ファング達のもとを訪れる少し前、ヴァイエルは俺にそんなことを尋ねてきた。
「そりゃ……僧侶は魔法使いと違って、信仰心とかそういうのが必要なんだろ?」
「いや、素晴らしい。教えられた通りの、全く思考を働かせていない回答で痛み入る」
嫌味はいいから、先を話せ。聞いてやらんでもねーからよ。こちとらはすっかり耐性がついちまってるから、今さらムカつきもしないっての。
馬鹿にされるのに慣れちまうってのも、悲しい話だけどね。
「――では、ヴァイス先生の卓越したご見解に拠れば、僧侶の操る魔法はご自身のソレとは全く異なるという訳だ」
違うじゃねぇか。俺はホイミを唱えられないし、僧侶はメラを唱えられねぇだろ。
そう答えると、野郎は世界の終わりがやって来たみたいな、この上無く渋いツラをして、長々と溜息を吐いてみせた。
「貴様が私に提供出来る物が、労働力の他にもうひとつあったな――徒労感だ。多少なりと躾てやったところで、マトモな答えが返ってくるなどと期待するだけ無駄だったな」
いちいち、うるせぇよ。
いいから、言いたいことがあんなら、さっさと話せ。
「結論から言えば、どちらも同じ魔法――大道芸だ。貴様等の違いなど、脳味噌に刻まれた『すじみち』の違いに過ぎん」
何が言いたいんだ、こいつは。
「じゃあ、なんでわざわざ職業が分かれてるんだよ?」
「先程、貴様が口にした信仰心だの、双方の呪文の刷り込みは脳に負担でしかないだの、役割を分担をすることで混乱を排し集中を容易くするだのいう理屈は、全て後付けだ。攻撃呪文も回復呪文も、どちらも唱えられるのであれば、それに越したことはあるまいよ」
そりゃそうだけどさ。
「元来は、職業を分ける必要など無かったのだ。どちらにしろ魔法を扱うのであれば、いずれ魔法使いで構うまい――いいか、僧侶という職業はだな、政治活動とやらにご熱心な、教会を代表される御方々のゴリ押しによって生み出されたものなのだ」
なにやら生臭い話になってきた。
「言ってみれば、冒険者という制度を利用した宗教の宣伝だな。分かり易い奇蹟の体現は、信者の獲得と確保に非常に有効であるのは、わざわざここで繰り返すまでもあるまい。
由来はどうあれ、僧侶を名乗る者が目の前で不可思議な業を用いて瞬時に傷を癒してみせれば、鰯の頭すら信じ兼ねん貴様等無知共の信心もより深まるというものだろう」
揶揄する口振りで吐き捨てる。
「……もしかして、教会とあんたらって、仲が悪いのか?」
「我々は、なんとも思っておらんがね。我々にとって彼奴等など、単なる観察対象のひとつでしかない。だが、向こうはどうやら、こちらを煙たく思っているようだな」
なんとも思ってないようには、とても聞こえませんが。さっきから。
「俗世の権勢とやらに、我々がまるで興味を抱いていないという事実が、連中には理解し難いらしい。彼奴等は逆に、もっぱらそれしか頭に無いのでな、まぁ仕方あるまいが、さしもの我々もその分、政治的影響力では後塵を拝すといった処だ」
別に、あんたらの確執に興味はねぇよ。
つまり、こいつが何を言いたいのかというと――
「もしかして、その気になりゃ、俺にも僧侶の呪文が使えるって言いたいのか?」
「ほぅ、矢張り多少は察しが良くなったようだ。まがりなりにも、私のもとに居たのだ。そうでなくては困るが」
誉められているというより、自画自賛にしか聞こえない。
「僧侶に『転職』するってのとは、訳が違うんだよな?」
「違うな。僧侶に『転職』してしまっては、扱える魔法使いの呪文は既に修得済みのものに限られるが、そうではなく両者の魔法を等しく覚えられるという事だ。その職業は『賢者』と呼ばれている――」
ヴァイエルは、皮肉らしく唇の端を吊り上げた。
「修得可能な芸事の数が少しばかり増えた程度で『賢者』とは、全く畏れ入るがね」
「呼び方はなんでも構わねぇよ。つまり俺を、その『賢者』ってのにしてくれるって訳か?」
「まぁ、そこいらであっさり死なれたのでは、用事を言いつけた意味が無いのでな」
「魔法使いと僧侶の呪文を、どっちも使える職業か。そりゃいいな。んじゃ、ひとつよろしく頼むよ」
「……言っておくが、『賢者』は公には存在しない職業だ。あまり大っぴらになっては、自身の影響力の拡大にしか興味の無い教会の連中が五月蝿いのでな。アリアハンでは存在すら知れておらんし、ダーマでも然るべき試練を経た者でなくては『転職』を許されていない」
「なんだよ。期待させといて、つまり、あんたじゃ無理なのか?」
「……貴様には、まず口の利き方を、最初に叩き込むべきだったな」
いつも以上の渋面で、陰気に睨みつけられた。
「私にかかれば、貴様を『賢者』にする事など容易い――だが、止めだ」
「へ?」
なんだ、こいつ。スネやがったのか?
「貴様が考えている程度の事は、全て筒抜けだと何度も言っている。そのような愚にもつかぬ理由ではない。暗愚の淀んだ眼には看破の敵わぬ観相を得たが故だ」
小難しい言葉を並べて誤魔化すなよ、大人気ねぇなぁ――
舌打ちが聞こえてから、しまったと思っても、もう遅かった。
「……馬鹿にも分かり易く言い直してやる。要するにだ、『貴様はもう少し苦労をしろ』と言うことだ、このタワケが」
その後は、いくら宥めてもスカしても野郎は機嫌をなおそうとせず、結局俺は魔法使いのまま旅立ったのだった。
いやさ、アメリアが僧侶なんだと思ってたから、まぁいいかと軽く考えちまったんだが、こりゃ失敗だったな。
勇者を自称しちゃいるが、誰かさんと違ってファングはそもそも魔法を使えないってハナシだし、どうすんだよ、これ。
とにかく、五人連れのところに足手まといが三人もいたんじゃ、せめて馬車を仕立てるしかしょうがない。
馬車といっても、手配できたのは荷馬車に申し訳程度の幌をつけたオンボロ馬車だったから、汚いだの揺れるだのと、お嬢様にはさんざん文句を言われたけどな。
バハラタみてぇな田舎町で、貴族の乗るような馬車が簡単に調達できると思ってんのかね。少しは我慢ってモノをしやがれよ。姫さんはまだしも、あんたはとても歩いて旅なんか出来ねぇだろうが。
せめてもの幸いは、途中の大河以外は馬車が走れる平地を通って、目的地まで辿り着けそうだってことくらいだ。
全く、先が思いやられるよ。
だがしかし、俺の危惧に反して、道行きは非常に順調だった。
理由はひとえに、そこにファングが居た所為だ。
なんつーか、阿呆みたいに強ぇんだわ、これが。
御者も勇者様自らが買って出たんだが、魔物に行く手を阻まれたら、まず馬車を止めるだろ?
で、止まった馬車の荷台から俺が飛び出して加勢に駆けつけた時には、大抵もう全部倒しちまってるんだよ。
悔しいが、偉そうな態度をとるだけの事はあると、俺も認めざるを得なかった。
魔物との戦闘しか見てないから、単純に比較は出来ないけどさ。
さすがに勝てるとまでは思わないが、ひょっとしたら、あのニックとすらそこそこ戦えるんじゃないかってくらいに強い。
傷を負うこともほとんど無ぇから、回復は薬草があれば十分だ。
なるほどね。これなら、足手まといの一人や二人、連れて歩いても大丈夫な訳だ。
こりゃ楽だわ――いや、俺もちゃんと、それなりに働いてるけどね?
バハラタで馬車を手配したり、目的地までの詳しい道筋を調べたのは俺だし、戦闘だって毎回ファングに頼り切ってる訳じゃねぇよ。ぼっとしてたら、お前は何やってんだ、みたいな姫さんやお嬢の視線が痛かったしさ。
魔法協会の支部が近隣にすら無いド田舎出身だけあって、お嬢は攻撃魔法を見るのがはじめてだった。
俺の魔法に目を丸くする様が、なんだか妙に新鮮に感じられた。
「でも、冒険者になれば、誰でもあなたと同じ魔法を使えるんでしょ?」
口ではツンケンとそんな事を言っていたが、まぁ、多少は株を上げられたんじゃないですかね。
ともあれ、旅足は非常に順調で、田舎女が揺れて気分が悪いだのなんだのすぐに文句を垂れるから、あまり速度を出せなかったとはいえ、街道上をずっと馬車で進めたお陰で、ほどなく俺達は道程の中間地点にあたる大河に辿り着いた。
ちなみに、ここで渡し舟の手配をしたのも、俺なんだぜ。
なんつーか、目に見えて派手に活躍してるファングと違って、地味な裏方仕事ばっかしてるから、いまいち共連れから正当な評価を受けてねぇ気がするけどな。
とか思っていたら。
「こちらから頼んで来ていただいたのに、いつも面倒事ばかり押し付けてしまって済みません、ヴァイスさん。私も坊ちゃまも、こういう手配や何かはあまり得意ではないので、本当に助かってます」
大きな胸の前で両手を組んで、ちょっとした尊敬の眼差しで俺を見詰めながら、アメリアがねぎらってくれた。
良く気が付く女だな。メイドとしては優秀なのかもね。性格はいいわ胸はデカいわじゃ、ファングのバカにゃ勿体無ぇな。
それはともかく、俺が手配したのは渡し舟とは言ってもボゥトみたいな小さい船ではない。左右に何本も櫂の突き出した、馬車も運べる大きな船だ。ガレー船とか言うらしい。
外洋ほどではないにしろ、河口に近いこの辺りでも水棲の魔物が出没するそうで、小さい船なんぞは格好の餌食になっちまうのだそうだ。
渡し舟は定期的に大河を往復しているが、毎日ではない。馬車という大荷物があったこともあり、二日ほど足止めをくらった俺達は、河沿いの町で宿を求めた。
部屋割りは、まずファングとアメリアが二人で一部屋だ。
バハラタで何泊かした時もそうだったけどさ、二人で何してやがんだかな。やっぱ、夜はナニしてやがんのかね。
いやまー、別に構いませんけどぉ。乳兄弟だって話だし、ずっと二人で旅をしてる訳だから、同じ部屋に泊まるのは当然ですよねー。全っ然、羨ましくなんてないんだぜ。いや、ホントに。けっ。
俺は一緒の部屋でも良かったんだが、姫さんは田舎女と相部屋になった。
つまりまぁ、道行を共にする顔ぶれが一新したところで、俺は依然として独り部屋だってワケですよ。だから、淋しくなんてないっての。気楽でいいじゃねぇか。
田舎女は、さすがにお嬢だけあって、毎日馬車に揺られてただけでもクタクタになっちまったらしい。足止めを喰らっていた間中、飯まで部屋に運ばせて、ほとんどの時間をベッドの上で横になって過ごしたそうだ。
「全く、呆れた体の弱い女なのじゃ。それに、どういう育ちをしたのか知らぬが、自分の事もロクに出来ないのじゃぞ?面倒じゃが、わらわが世話をしてやらねばな」
こちらは至って元気なお転婆姫様が、食事を運んだり話し相手になったりと、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。なにやら、その言動は妙にお姉さんぶっていて、かなり微笑ましかった。
307 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/29(土) 06:30:13 ID:Ac9xpF4XO
さる回避
一方、アメリアのドジっぷりは、相変わらずだった。
ようやく予定の日を迎えて、渡し舟に乗る時のことだ。
「あ――わわ!?あわっわわわわ――」
船と岸の間にかけられた、大して揺れてもいない渡し板から、何故か転げ落ちかける。
石も落ちてない平らな道で転ぶような女だから、仕方ないかも知れないけどさ。
なんとかバランスを保とうと、爪先立ちで腕をぐるぐる振り回すアメリアの腰を、逞しい腕ががしっと支えた。
「気をつけろ」
いつもの事だ、みたいな口調で言って、ファングはそのままアメリアを脇に抱きかかえて乗船する。
アメリアはアメリアで、「すみませぇん」とか言いつつ、信頼の眼差しをファングに向ける訳だ。
はいはい。仲がいいのは、もう分かったっての。
「アメリアのドジは、アレはひとつの才能じゃな」
揶揄するでなく感心した口振りで呟き、軽やかに板を渡る姫さん。短いスボンから伸びた生脚がまぶしいね。
後に続こうと思ったら、背中にツンケンした声がかけられる。
「ちょっと、お待ちなさい」
振り返ると、田舎女が板の手前で二の足を踏んでいた。
「なんだよ?」
「なんだよ、じゃないでしょう?ホントに、気の利かない人ね」
アメリアとは真逆の事を言う。
「言わなきゃ分からないの?ほら――手をお貸しなさい」
ああ、気がつきませんで、お嬢様。
早くしろよ、みたいな目つきをした連中が後につかえてるし、面倒臭いので、俺は素直に差し出された田舎女の手を取った。
しかし、この女の態度は変わらねぇな。出会った直後の印象よりゃ、多少は見直してくれてると思うんだが。馬車の中でもほとんど口を利かなかったし、気のせいかね。
俺も俺で、はじめて会った日からこっち、なんとなく敬遠して距離を置く感じになっちまってる――いや、ホントに全然似てねぇんだけどさ。自分でも、なんで避けたがってんだか、よく分かんねぇよ。
「きゃっ――!?」
渡し板のたわみが予想以上だったのか、田舎女が腕にしがみついてきた。
やっぱり、新鮮な反応だ。この程度で悲鳴をあげるような女は、久しく周りにいなかったからなぁ。
そうだったな。女の子って、普通はこういうモンだったよな。
「……いつまで手を握っているの?さっさと離れなさいよ、この不埒者」
甲板に辿り着いてほっと息をついたと思ったら、拗ねた顔をして身を離す。
いやいや、あんたがしがみついてきたんですよ?
やがて出港のかけ声と共にもやいが解かれ、見送りの人間を残して船はゆっくりと岸から離れた。
姫さんはかなり船が珍しいようで、舷側から身を乗り出して眼下の水面を覗き込みながら、ふぁーとか呆けた声を出す。
「凄いのぅ。こんなに大きな物が水に浮くとは、驚きじゃな」
「そうだな。俺も、こんなちゃんとした船に乗ったのは初めてだよ」
案外、気持ちいいもんだな。頬に当たる風が心地良い。河を渡るだけだから、乗ってる時間もタカが知れてるので、まぁ船酔いも大丈夫だろう。
「姫さまぁ〜」
キャビンの脇にしつらえられたベンチにファングと並んで腰を掛け、アメリアがおいでおいでをした。
船員や他の乗客がいる中で「姫様」って呼ぶのもどうかと思うが、こんなトコに本物の姫君がおわっしゃるだなんぞと、普通は誰も信じやしねぇしな。
それに、アメリアの呼びかけにつられて、姫さんの方を向いたヤツがいたとしても、だ。
そいつらは皆、フードの下から覗くあまりにも愛らしい顔立ちに圧倒されて、ぎょっとしたように立ち尽くし、この少女ならば「姫様」の愛称で呼ばれてもおかしくないと勝手に納得の表情を浮かべるのが常だった。
とことこ歩み寄った姫さんを膝の上に乗せて、アメリアは後ろからぎゅっと抱き締める。
「く、苦しいのじゃ!なんじゃ急に、甘えるでない!」
「だって、姫様ったら、最近はいつも、ヴァイスさんとばっかり遊ぶんですもの。アメリアは、淋しいです」
「……やれやれ、お主ら全員の面倒をみねばならぬで、わらわも大変じゃな。宿ではユーフィミアの世話焼きに追われておったし、ずっと落ち込んだ顔をしておるヴァイスも慰めてやらねばならぬで、とても身がひとつでは足りぬのじゃ」
あらら。姫さん、まだ気を遣ってくれてたのね。そんなに暗い顔をしてたつもりは無かったんだけどな。
じゃれあっているアメリアとエミリーの隣りでは、ファングがどっしりと構えて腰を落ち着けている。なんだか、親子っぽく見えないこともない。実際は、子供にしか見えない姫さんが、一番年上なんだけどな。
そこから少し離れた、メインマストが落とす日陰では、田舎女が手持ち無沙汰にぼんやりと立ち尽くしていた。
風で乱れた前髪を時折掻き分け、まだ見えない対岸の方を、どこか物憂げな表情で眺めている。
はからずもドキリとしちまったのは、たまたま目が合っちまったからであって、特に他意は無いんだぜ。
「……何よ?」
「いや、別に……浮かねぇ顔をしてるな、と思ってさ」
「それは、あなたでしょ。言っておきますけど、情けない顔をして私に話し掛けても無駄ですからね。あの可愛らしいお姫様と違って、私はあなたを慰めたりはしませんから」
気の無い素振りを装っちゃいたが、お嬢も聞き耳立ててたのね。
「ご安心下さい、お嬢様。ワタクシメにも、そんなツモリはありませんので」
深々と体を折って、一礼しながら言ってやった。
「あら、そう。なら、よかったわ」
ついと顔を逸らして、風で乱れがちな髪を手で押さえる。
たなびく見事なプラチナブロンドは、暇さえあればブラッシングをしているだけあって、まぁ、綺麗は綺麗だった。
俺は、シェラの金髪を思い出す。
こうして見ると、あいつのは金色ってより亜麻色に近かったのかもな。田舎女のそれよりは、やや茶色がかっていた気がする。あっちはあっちで悪くないが――というより、俺は断然、髪もそれ以外もシェラの方が、ずっと好きだけどね。
「向こう岸についたら、あんたの町までどれくらいで着くんだ?」
「知らないわよ。私、あの町を出たことないんだから」
ああ、そうですか。
前回の経験を踏まえて見積もると、馬車で十日前後ってトコかね。
「――にしても、あんたも変わったお嬢様だよな」
そんなツンケンすんなって。姫さんをアメリアから奪い返すのも忍びないしさ、少しは世間話くらい付き合えよ。
なんといっても雇い主だし、多少は仲良くしといた方がいいかと思って、その程度のつもりで切り出した話題だったのに、ぎろりと怖い目をして睨まれた。
「なんですって?」
「いや、だってそうだろ。いいトコのお嬢がさ、お供も連れないでアリアハンくんだりまで独りで来るとか、危ねぇと思わなかったのか?」
「だって、アリアハンの王都って言ったら、世界でも有数の大都市の筈でしょう?他人の故郷を悪く言うつもりはないけれど、あんなに柄の悪い土地だとは思わなかったのよ」
そりゃ、あんたが下町ばっかり回ってたせいだな。
「アリアハンがもっとお上品なトコだったとしても、無茶に変わりはないと思うけどね。どうせ無鉄砲なコトばっかやらかして、ご家来衆をいつも困らせてんじゃねぇのか?」
「……なによ。意地が悪いわね」
はっきり否定しないってことは、どうやら図星かね。
「私はただ、あのまま……」
お嬢は、ちらりとエミリーを横目で見た。
「……あのお姫様の気持ち、私にも少し分かるわ。外に出れば何かが変わるって考えていた訳ではないけれど……ううん。別に変わりたいんじゃないのよ。私は我が家に誇りを持っているし、お父様に逆らうつもりも無いのだけれど――ちょっと、聞いてるの!?」
悪ぃ。
ほとんど聞いてなかった。
ちょっと失礼するぜ。
「きゃあっ――!?」
腕を掴んで、乱暴に抱き寄せる。
魚のそれとは明らかに異なる大きな影が、水面に浮かんだのが見えたからだ。
半魚人っていうのか?
体表が鱗に覆われていることを除けば、上半身は人間に近い。だが、下半身は魚に似た姿をした魔物が、派手に水飛沫を撒き散らして水面上に躍り出た。
『メラミ』
自分の体でお嬢を庇いつつ、最初の一匹を呪文で撃退した俺は、ファングの方を振り返った。
「ファング!!」
俺が呼びかけた時には、野郎は既に河に身を躍らせていた――って、いやおい、ちょっと待て。いくらお前でも、水棲の魔物相手に水の中で勝負を挑むとか。
大体お前の装備は全部、預けた馬車の中に置きっぱなしで、手持ちは護身用のナイフくらいしか無い筈だろ!?
ややあって、水泡がぼこりぼこりと湧き上がる。どうやら、ホントに水中で戦ってるらしい。
クラゲのお化けみたいな魔物が、ぷかりと水面に顔を出したので、俺は一瞬身構えたが、すぐに死んでいると分かった。
そして次々に、もう動かなくなった魔物の亡骸が浮かび上がる。内訳は、クラゲのお化けが三匹と、半魚人が一匹だ。皆一様に、急所を刺されて死んでいる。
最後にファングが水上に頭を出して、さすがに苦しそうにムセながら、荒い呼吸を繰り返した。
結局、全部あっさり水の中で斃しちまったよ、あのバカ。
はいはい、強い強い。
水夫が垂らしたロープを両手で握り、ナイフを口に咥えた無謀なバカは、あまりに見事な活躍に対してどよめきを隠せない船上に這い上がった。
いつの間にやら手拭いを用意していたアメリアが、とたとた小走りに駆け寄って、ずぶ濡れの全身を丁寧に拭いてやる。
はいはい、仲睦まじい仲睦まじい。
「終わったぜ」
腕を解いても、田舎女は俺の胸に顔を押し付けて、服にしがみついたままだった。
すぐ目の前でいきなり戦闘がはじまったんだから、ビビっちまっても無理はねぇか。多少跳ねっ返りとはいえ、こいつは冒険者でも勇者でもない、普通のお嬢様だもんな。
そしてそれは、なにもお嬢だけのことではなかった。
可能性として頭に入ってはいたんだろうが、実際に魔物に襲われて今さら不安に駆られた乗客達が何人か、「本当にこの船は大丈夫なんだろうな!?」とか船員に詰め寄っている。
不安はすぐに周りに伝染して、さっきとは違う種類のざわめきが船上を支配した。
ったく、魔物がウヨウヨしてるこのご時世に、安全な旅が保障されてるわきゃねぇだろうによ。
対応に苦慮した船員は、大丈夫、心配ないと、ただそれだけを必死に繰り返す。まぁ、そう言うしかねぇわな。
その時だ――
ドン、と大きな音が響いた。
床板を踏み鳴らして衆目を集めたファングは、手にしたナイフを高々と天に向かって突き上げて、大音声を発してみせる。
さる回避
さっきまでsage忘れてた…orz
「聞くがいい!我が名はファング!サマンオサの誉れ高き勇者サイモンの息子にして、魔物を征伐すべく旅を続けている者だ!」
旅商人風の男が、「勇者サイモンの名は聞いたことがあるぞ」と呟いた。他にも何人か知っていた者が居たらしく、「そういえば、ファングという名にも聞き覚えがある」という声も聞こえた。
「この俺が共に乗っている限り、お前達に危険が及ぶことは決して無い!何故なら、俺が全て排除するからだ!畏れることなど何も無い!水夫は引き続き操船に励み、乗客は安心して短い航海を楽しむがいい!」
たった今、実際にあっさりと危険を排除してみせた男の宣誓が高らかに響き渡り、船上には自然と拍手が沸き起こった。軽く手を上げてそれを抑え、キャビン脇のベンチに腰掛けたファングの体を、アメリアが甲斐甲斐しく拭き続ける。
またすっかり、野郎にオイシイとこを持ってかれちまったな。ま、ボクはその方が楽ですから、なんの文句もありませんけどぉ。
「おい、お――ユーフィミア。終わったぜ。もう大丈夫だ」
危ね。「お嬢」とか呼びそうになっちまった。
未だに俺にしがみついている田舎女に声をかけると、やっとのことでおずおずと顔を上げる。
「ふぇ?」
いつものツンケンした調子とは、あまりにかけ離れた情けない声音に、俺は吹き出すのを懸命に堪えた。
「魔物はファングが斃しちまったから、もう心配ねぇよ」
お嬢の情けない顔を見ていると笑っちまいそうだったので、何気なく視線を逸らして気がついた。最初に躍り出た半魚人が立てた水飛沫は思ったより激しかったようで、金髪についた水滴が陽光をキラキラと反射している。
「ああ、悪ぃな。いちおう庇ったつもりだったけど、綺麗な髪の毛が濡れちまったな」
「え――」
田舎女は、ちょっとびっくりしたみたいに俺を見上げた。
「や、やっぱり――綺麗だと思う?髪の毛?」
「へ?あ、うん、まぁ」
深く考えずに言った軽口で、こんなに喰いつかれるとは思わなかった。
「あ、ありがと……」
珍しくしおらしい事を口にしたと思ったら、途端に頬を赤らめて、俺の胸倉を両手で突き飛ばす。
「ちっ――違いますからねっ!?今のは、庇ってくれたお礼なんだから!!」
痛ってぇな。何が違うんだか、分っかんねぇよ。
ったくよ、タマに可愛らしく思ってやりゃ、これだよ。
「はいはい、別に勘違いしてませんよ」
「ホントでしょうね?なんだか、あなた、いつもその場凌ぎの適当な口振りで物を言うから、信用出来ないわ」
っ――
我知らず、俺はユーフィリアの腕を強く掴んでいた。
「痛っ」
お嬢の顔に怯えが疾る。
「な、なによ。急に怖い顔して――離して。離しなさいよ――痛いったら!」
苦痛に歪んだ顔を目にして、やっと俺は我に返る。
「ああ――悪い」
「なんなの?なんて乱暴な人なの?」
手を離すと、お嬢は身を竦めて非難がましい上目遣いを俺に向けた。
「悪かったよ。手、大丈夫か?」
「触らないで!」
伸ばしかけた手は、悲鳴じみた声で拒絶された。
「ああ、うん――済まなかった。触らないし、もうあんな事しないから、許してくれ」
素直に謝ると、お嬢は少し警戒を解いた。
「なんなのよ……まぁ――私にも、言い過ぎたところはあったかも知れないけれど……それにしたって、乱暴にすることはないでしょう?」
「そうだな。悪かった」
お嬢は拍子抜けした顔を見せたが、すぐに気を取り直して俺を睨みつける。
「それから、あまり私に気安く触らないで。大体ね、庇ってくれた事にはお礼を言うけど、あんな風に抱き締める必要があったの?」
「そうだな。無かったかもな。いや、あんたは美人だしさ、つい。まぁ、役得ってことで」
おべっかのつもりだったんだが。
「っ――この不埒者!」
ぱしっと俺の頬を叩くと、田舎女は逃げるようにしてキャビンの陰に消えた。
ちぇっ。俺だって、別に好きで庇ったんじゃねぇや。
掌に、お嬢の腕を握り締めた感触が残っている。
あんな真似、するつもりは無かったんだけどな。
くそ。少しは前みたいに――「あいつ」と出会う以前のいい加減な俺に、戻れたつもりだったんだが。あの程度の一言で、これだけ動揺してるようじゃ、まだ全然ダメかね。
「大事無いか、ヴァイス」
妙な摺り足で後ろから正面に回り込みつつ、姫さんが上体を横に傾けて、俯きがちな俺を下から覗き込んできた。
「お主も、よくよく女子と喧嘩をするヤツじゃな」
「……俺から売った試しは無いんだけどね」
両手を上げてみせると、姫さんが腰の辺りを掴んできた。
「本当に、平気か?」
「ああ、もちろん。なんもしてねぇ俺が、怪我する筈もねぇしな。心配するなら、ファングの方にしてやんなよ」
「あやつは心配無い。アメリアもおるしな――そうではないのじゃ」
姫さんは不安げな目つきで俺を見上げて、少し口篭もった。
「わらわは、その……お主が、泣いておるかと思ったのじゃ。なんだか後ろからだと、そういう風に見えたのじゃ」
俺は、思わず苦笑した。
「……悪いな、ずっと心配かけちまってるみたいで。でも、あの女に叩かれたくらいで泣かねぇよ。そこまで情けなくねぇってば」
「そうか」
姫さんは、それ以上何も言おうとせずに、俺の襟元を握って下に引いた。
「よしよし」
前屈みになった俺の頭を、小さい手でぺたぺたと撫でる。
こんな小さい女の子に気遣われるなんて、充分情けねぇよな。
ホント、なんだか泣きたくなってきたぜ。
支援
その後は魔物と遭遇することもなく、船は無事に河を渡り切って接岸した。
魔物を退治してくれた礼に、渡し賃はタダで構わないと申し出られたんだが、ファングの「別に大した事をした訳ではない」という一言でおじゃんになった。
素直にロハにしてもらっときゃいいのによ。さすがは勇者様、俺みたいな庶民と違って度量が広いね。
はいはい、カッコいいカッコいい。
大河から田舎女の町までは、俺が予想した通りに十日程度の道程だった。
昼過ぎくらいに町に着き、そのまま目抜き通りをお嬢の屋敷へ向かう。
当然、正門の手前で制止と誰何を受けたが、馬車に乗っているのが館の主のご息女と知れると、使用人がわらわらと集まって、担ぎ上げるようにしてお嬢を連れ去った。
「彼等を離れの客間に通しておいて――後で行くから、それまで自由にしてなさい」
とか去り際に言い残されたが、自由にしろって言われてもなぁ。
お嬢様が連れて来たこの奇妙な一行は果たして何者だろうか、と口で尋ねこそしなかったものの、目があからさまにそう言っている胡乱げな使用人に案内された離れの客間は、そこそこ立派ではあったが、やはり調度品が古臭かった。
ひと息ついたところで、姫さんに外の様子を見てみたいとせがまれて、正直しばらく休みたかったんだが、保護者としては同伴しない訳にもいかず、二人して連れ立って町中へ繰り出したという次第だった。
着いたばっかだってのに、姫さんは元気だね。それとも、まだ俺がシケた面してて、気を遣わせちまってるんだろうか。自分じゃ、そんな顔してるつもりは無いんだけどなぁ。
ぶらぶらと町中を一周して、もうじき屋敷に帰り着くところまで戻った時のことだった。
「ヴァイス――」
握った手を引かれて、俺は自分がぼんやりしていた事に気が付いた。
「ん?どした、姫さん」
「なにやら、わらわ達を怖い目で睨んどる女がおるぞ」
はぁ?
いや、俺はこんな田舎に知り合いはいねぇし、姫さんはもっとだろ。
勘違いじゃねぇのか、と思いつつ、姫さんが指さした方に目をやると――
「アンタ、こんなトコで、なにやってんのさ」
蓮っ葉な物言いには、覚えがあった。
ダーマで、やたらとリィナに突っかかってた女武闘家――ティミだ。
ジロリと睨まれて、姫さんはティミを睨み返しながらも、俺の背中にするりと身を隠す。うん、この女、怖いよな。
「そりゃ、こっちの台詞だっての。あんたといいグエンといい、こっちは御免だってのに、なんで俺の前に顔を出したがるんだか――」
「おい、今なんてった!?」
勢い良くティミが詰め寄って来たから、思わず後退りそうになっちまった。
だってよ、こいつの腕っ節はリィナに近いんだぜ。殴りかかってこられても、やり返せる訳ねぇもんよ。
「アンタ、あの馬鹿と会ったのかい!?どこで!?」
「ん、ああ、アリアハンで、ちょっとな」
「アリアハン!?ったく、あの馬鹿、なんだってそんなトコに……」
目を伏せて、親指の爪を噛む。
「なんだよ、知らなかったのか?ダーマで命令されて行ったんじゃねぇのかよ?」
「ああ――そんなんじゃないよ」
ティミは、ふぅと溜息を吐いた。
「あの馬鹿、勝手に出ていきやがったんだ」
「ふぅん。そうなのか」
ティミの口から苦笑が漏れた。
「アンタにも少しは関係あるハナシだってのに、随分とまた他人事だねぇ」
だって、他人事だもんよ。
知ったことかよ、あんなヤツ。
「アンタが勇者様の元を去ってから、あの馬鹿、すっかり自分がアンタの座に収まるモンだと思い込んでたからね。なのに、どうやら上の方は元々そんなつもりじゃ無かったみたいだし、勇者様にもはっきりイヤとか言われちまってさ、自棄になって出てっちまったんだよ」
「それで、あんたはグエンを心配して、後を追ってわざわざこんなトコまで来たって訳か」
「ばっ――バカ言ってんじゃないよっ!!そんな訳ないだろ!!」
なにやら全力で否定された。
「あの馬鹿、昔っから弱っちいクセしやがって、プライドだけはいっちょ前なんだ。だから、放っておくとまた馬鹿やるに決まってんだから、ぶっ叩いて止めさせようってだけだよ」
いや、どう聞いても、俺が言った通りじゃねぇか。
つか――
「ダーマの中じゃ、あの野郎でも弱っちい方なのか?」
「え?ああ――魔法は、まぁそこそこにはなったのかね。けど、どうだろうねぇ。あの馬鹿は根性無いからさ。勇者様のお役に立てるとは、ウチにゃとても思えないよ。今の段階だったら、実戦経験が豊富な分、アンタの方がいくらかマシなくらいさ」
「いや……そりゃ無ぇだろ。いくらなんでも、俺のがマシってことは」
それまで険しかった表情を不意に緩めて、ティミは俺を見上げた。
「なんだい、ずいぶん情けない声を出すじゃないか。ウチに偉そうに説教くれた男がさ」
皮肉らしく唇を歪める。
「別にウチは、嘘なんて言ってやしないよ。なんだってウチが、アンタみたいなアリアハン人に気なんか遣うモンかい――ああ。ムオルの村で、あの馬鹿とやり合った時のコトを気にしてるってワケか」
そうだよ。俺の魔法は、威力でも精度でも、あの野郎に劣ってたじゃねぇか。
「ハッ、あんなの、単なるお遊びじゃないか」
だがティミは、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに鼻で笑い飛ばした。
「いいこと教えてやるよ――ダーマの魔法使いの男はねぇ、子供の頃からああやって、お互いの魔法を比べっこして遊ぶモンなのさ。しくじっておっ死ぬヤツもいるってのに、全く男ってのは、なんでああも馬鹿なのかねぇ」
無意識に沈みかけた自分の声を、ティミは軽く手で払った。
「だからアレは、あの馬鹿の方がああやって遊ぶのに慣れてたって、ただそれだけの話さ。別にアンタが、シケた面する必要なんて、どこにもありゃしないんだよ」
そりゃ、ありがたいね。
「だから、もうちょいシャッキリしなっての。まったくドコの男も、案外女々しく昔のことを、いつまでも引き摺っちまうのは変わらないモンなんだねぇ……で、アンタは、こんなトコで何やってんのさ」
ティミは、ちょっと視線を落とす。
「こんっな可愛い女の子連れてさ。まさかアンタ、どっかから攫ってきたんじゃないだろうね――」
頭に伸びたティミの手を、姫さんはぱしっと叩いた。
「わらわに気安く触れるでない!」
「ハッ、こりゃ驚いた――アンタも大概、気の強い女が好きなんだねぇ」
いや、そういう訳でもないんですがね。
「無礼を申すでない!」
怒鳴りつけながらも、姫さんはますます俺の背中に隠れてしまう。
ティミは、リィナより殺気が剥き出しなトコがあるからな。暴力が嫌いなお姫様は、その身に纏った物騒な気配がお気に召さないようだ。
「あんたも……あいつとは、一緒じゃないんだな」
冒険者として雇われて来たんだ、みたいな事を、ごく簡単に説明してから、話に出たついでって訳でもないが、そんなことを尋ねてみる。
「アイツって、勇者様のコトかい?ああ、そりゃやっぱり、気になるよねぇ」
「……まぁ」
いきなり、ほっぺたをぎゅっと抓られた。
「なにさ、ハッキリしないね、男のクセに!いつまでも、ウジウジ暗い顔してんじゃないよ、ホラ!」
痛ぇっての。離せ。
「フン――悪いけど、ウチも勇者様が出発する前にダーマをおん出ちまったからさ、教えてやれる事は何も無いよ」
「へ、なんで?」
あんなに、お供になりたがってたじゃねぇか。
今度は、唐突に脳天に衝撃を受けた。
ティミに、すぱーんと頭をはたかれたのだ。
「なんでじゃないだろ!?アンタのお陰だよ!」
はぁ?
「ウチらはさ、勇者様をムオルから連れ戻して、アンタと引き離した張本人だろ?だから、勇者様にはこっぴどく嫌われちまってね。残ってたって、どうせお供に選ばれるワケなかったからさ」
ああ、そりゃどうも。ご迷惑をおかけしまして。
「勇者様のああいうハッキリしたトコ、ウチは嫌いじゃないんだけどね。まぁ、アレが無くても、選ばれなかったような気はするよ、今となっちゃ」
似つかわしくもなく、なにやら殊勝なことを言う。
「アンタ、いつか……勇者様のコト、勇者って呼ぶなって言ったろ?」
「言った……かな」
そういえば、そんな事も。
「言ったんだよ!ったく、シャキっとしないねぇ――ウチには、良く意味が分かんなかったけどさ……なんか、その辺りに、ウチが絶対に選んでもらえない理由がある気がして……気になってたんだ」
頭の左右にぴょこんと張り出したティミの纏め髪が、姫さんの長い耳よろしく感情によってしおれたりするんじゃないか。
俺はそんな全然関係無いことを、ぼんやりと考えていた。もちろん、しおれるわきゃなかったが。
「アンタが言ってた『強さ』ってのも、あれから妙に引っ掛かっちまってさ……だから、ウチに偉そうに説教くれたアンタには、そんな情けないツラしてないで、もっとシャッキリしてもらわなきゃ困んだよ!」
どん、と胸板を裏拳で叩かれた。痛ぇ。
「悪かったよ、偉そうなこと言って」
咳き込んじまったよ、みっともねぇ。
「そうだよな。見っとも無く逃げ出すようなヤツに、偉そうに説教されたかねぇよな」
「逃げ出した?」
何故かティミは、怪訝な目を俺に向けた。
「アンタが自分から身を引いたのは、ウチらダーマの人間の方が、勇者様をお護り出来るって信じてくれたからだろ?違うのかい?」
「いや……まぁ、それはそうなんだけどさ」
「だったら、逃げたってのとは違うんじゃないのかい。アンタだって、ホントは勇者様と一緒に居たかったんだろ?」
「そりゃ……出来れば」
出来なかったんだけどな。
「なんだい、ホンっとハッキリしないねぇ」
はぁ。すみません。
「その方が相手によかれと思って、自ら身を引くってのも、それなりに勇気が無いと出来ないコトだと、ウチは思うけどね。少なくとも、自分の思い通りにならないからって子供みたいに癇癪起こした、どっかの馬鹿よりゃよっぽど上等さ」
あれ?
なんだろ、これ。
こいつ、もしかして――
「……もしかして、俺を励ましてくれてるのか?」
そう問うと、自分でもはじめてそれに気付いたみたいに、ティミはきょとんとしてみせてから、急に顔を赤らめた。
「バ、バカ言うんじゃないよっ!!な、なんでウチが、アンタなんかを!?」
ことさらに俺を睨みつける。
「言っただろ!?ウチはアリアハンの人間なんかにゃ、興味無いんだ!アンタのことも、大っ嫌いだね!大体、アンタはウチに、リィナや勇者様の気持ちを考えてやれって偉そうに言ったけどさ、アンタだってウチらのことなんて、何も分かっちゃいないじゃないか!」
「……そうだな」
うぐっ。腹を拳で殴られた。
「ったく、少しは言い返しなよ、なっさけないねぇ。黙して語らず、みたいな偉丈夫ってワケでもないだろうにさ」
すいませんね、拳で語るような性分じゃないモンで。
「まぁ、いいや。あの馬鹿の消息が聞けただけでも良かったよ。ちょっと前に、そこの屋敷に招かれたって聞いて訪ねたんだけど、なんだか立て込んでるみたいで門前払いをくらっちまってさ」
田舎女の屋敷の方へ、顎をしゃくってみせる。
やっぱり、そうか。田舎女をアリアハンに運んだのは、グエンの野郎だったんだな。
支援
「よかったら、ルーラでアリアハンまで連れてってやろうか?」
俺の申し出は意外だったらしく、ティミは虚を突かれたみたいに目を丸くしてから、小さく頭を横に振った。
「そりゃ、ありがたいけどね――いいよ。アンタ、雇われてここまで来たんだろ?ウチをアリアハンに連れてったら、ルーラじゃここに戻ってこれないじゃないか」
ああ、そういやそうね。
「そんじゃ、こっちの用事が済んでから、って事で」
「……いいのかい?」
「ああ。別に構わねぇよ」
だから、あの馬鹿の顔を二度と見なくて済むように、ちゃんと首に縄つけといてくれ。
「で、どこに泊まってんだ?」
「いま、アンタが来た方だよ。宿屋は一軒しかないってハナシだから、すぐに見つかると思うけどね」
「分かった。そんじゃ、こっちの件が片付いたら顔出すわ」
「ま、当てにしないで待ってるよ。都合がついたらで構わないからさ」
ぽん、と軽く俺の肩を叩いてすれ違い、ティミは町中の方へと歩き去った。
それを見送っていた俺は、袖を引かれて背中に隠れていた姫さんの存在を思い出す。
「あの女は誰じゃ、ヴァイス?」
「ああ――いや、なんつーか……」
どう説明したものやら、と悩んでいると、姫さんは胡乱な目つきを俺に向けた。
「お主、わらわの知らぬあんな女とも、仲が良かったのじゃな。あちこちに女を作る、浮気者というヤツじゃな?」
思わず、ぶっと唇が鳴った。
どこでそんなコト覚えたんだ?あのバカ勇者とドジメイドと旅してる間に覚えたのか?
「そんなんじゃないっての。ただの顔見知りだよ。いや……どっちかっつーと、嫌われてた筈なんだけどな」
そう返すと、姫さんは難しい顔をした。
「口ではそんなコト言っておったが、そうゆう風には見えなかったぞ?ホントに、あれで嫌われておるのか?ふむぅ……やっぱりわらわには、人間の『好き』と『嫌い』は、まだよく分からぬのじゃ」
うん、そうね。
俺も、タマに分かんなくなるよ。
その後は、離れの客間に戻って何をするでもなく、姫さんとアメリアが仲良くお遊戯をしているのをぼーっと眺めていたら、いつの間にやら日が暮れていた。
ようやく姿を見せた田舎女は、小さく開いた扉の隙間から手招きをして、俺を部屋の外に呼び寄せた。
大人しく廊下に出た俺を、田舎女はしかつめらしく上から下まで無遠慮に眺め回す。
旅の間は四六時中、顔を合わせてたってのに、今さら何なんだ?
遣り切れないといった感じに俯いて溜息を吐いたと思ったら、顔を上げて口をぱくぱくさせる。
なんのゼスチャーだよ。分かり難いっての。
「どうした?なんかあったのか?」
てっきり、家人に反対されて俺達が追い出されるとか、そんな話で切り出し難いのかと思ったら。
「い、いいこと?あなたは、今から私の恋人なんですからね。分かった?」
意を決したように、田舎女は早口でまくし立てたのだった。
「ちょっと、なんとか答えなさいよ!?分かったわね!?」
すみません。
全然、分かりません。
ティミはいい子。
ということで、第29話をお届けしました。
本来は、こんなに日数かけるような回じゃなかったんですが、
なんだかんだで投下が遅れてすみませんでした(^^ゞ
まぁ、こんな感じで、男の子が戦って女の子を守るという意味でも、
それ以外のいろんな意味でも、正規パーティとは真逆の仕様となっております。
思ったよりも正規組の登場は早まりそうですが、
もうしばらくこのパーティにお付き合いください。
あ〜。。。次回の話を、早いトコ固めないとなぁ(^^ゞ
ここまで書いてきて、なんでこんなに毎回次の話が決まってないんだろうかw
やれやれ、外部の作業も終了っと。
ご支援、ありがとうございました〜ノシ
ああ、やっぱり文章書いてるのが一番いいわw
GJ!!
〜ヴァイスの女性関係〜
マグナ:ほぼ恋人。ギシアン一歩手前
リィナ:乳揉みOK。てか絶対誘ってただろw
シェラ:恥ずかしい秘密、ぜーんぶ知ってます
スティア:夜の誘いも快諾、ある意味セフレ
エミリー:耳(性感帯)弄り済み。幼女であろうと容赦無し
ユーフィミア:危機を救って一気にデレ化。展開次第では更にデレデレに
ティミ:険悪→友好的へと関係急上昇
ヴァイエル:師匠と弟子を超えた関係
ファング:番外編でアッ――!!
なんというハーレムwwだがそれがいいwww
これはいいツンデレですねw
今回はRALPH PETERSONでしょうか?
とりあえず乙です。
ちょっとヴァイス殺してくる
今回の話とヴァイスの女性関係を見ると『Nice boat.』と言いたくなるな
CCCGJ!!
まあある意味当たり前なんだけど、ヴァイスの周りはツンデレばっかりですね。
最高です。
俺にも一人分けてくれ。
CC氏GJ!
ラストまで魔法使いもシブかったけどヴァイスが賢者ですか!
ヘタレのこれからの汚名挽回に期待してます!
シーシーシーGJ。最近ヘタレウァイスがエロゲの主人公にしかみえんぜ。
賢者になれば名誉返上してくれるかな?
ツンツンなヴァイエルさんもやっぱり『賢者』って響きがあんまり好きではないようですな。
賢い者なんて偉そうで第一ドスが効いてな(ゲフンゲフン
僧侶という職業の位置づけとか、それ故アリアハンでは賢者が隠し職業であるとか
CC氏はそういう細かい裏設定とか上手だから好きよ。
どいつもこいつもツンデレかよおおぉぉぉぉ!!!
GJ!
みなさま、レスありがとでした〜ヽ(´▽`)ノ
ユーフィミアを、一箇所ユーフィリアとうっかり書いてしまいましたが、
ユーフィミアが正解です。すみません(^^ゞ
>>328,330,331,334
いやいやいや、なんだかんだで、結局お相手はこんなかもですよ?
マグナ:カゲの薄いアルス。もしくはアホの王様
リィナ:おやじさん。アラン。またはニック
シェラ:腕白坊主
スティア:誰も憶えてないアル。もしくはアホの王様
エミリー:エルフだからー
ユーフィミア:次回をご覧ください
ティミ:もったいないけどグエン
ヴァイスが指咥えて眺めてる間に、いつの間にやら売り切れ、みたいな〜。
こうして見ると、リィナはオヤジ好きだなぁw うん、いいですね。
ユーフィミアは、正確にはまだデレてませんが、まぁ、スンデレスレですしねw
残るのは姫さんだけなので、ヴァイスは姫さんを田舎に連れ帰って、一緒に畑を耕すとかなんとか。
自分が歳をとっても若いまま、どころかいい感じに成長して美しくなるばかりの嫁の誕生です。
うむ、とても許せん。姫さまは、ウチで保護することにしよう。
ちょと分割します
>>329 今回は、「What's Bootsy Doin'?」の1曲からとってみました。
>>329,332,337
ツンデレ成分増量を目指してみたので、そう言っていただけてよかったです(^^ゞ
>>333,334
いやー、どうでしょう?
先のことは正直私も分かりませんが、ヴァイスは賢者には結局ならせてもらえない気もw
>>335 わーい、うれしー。
こういう私の勝手な解釈を楽しんでいただけると、ほっとしますです。
>>336 大魔導師?特に元ネタないんですが、似たようなのがあっちゃったかな?
うわー、次回どうしよー。ホントに、なんで毎回こんな余裕が無いんだ。。。
>>339 もう大分前のネタになるけど、「ダイの大冒険」というドラクエ系の漫画ですね。
賢者といわれるのを嫌って大魔導師を名乗るキャラがいました。
>>340 当てはまりそうなのは、ポップの師匠かしら。。。うぅむ、全く覚えてません(^^ゞ
あのマンガも、もう10年以上前になるんですねぇ。
>>338 ちょっとマテ
この冒険が終わったら姫さまは俺の嫁になるのに
なに勝手なこと言ってやがる。
姫様は昨日自宅警備員から魔法使いに転職した私が…
>>343 うらやましい
俺も早く自宅警備員から転職したいぜ
>>340 スレ違いと分かっていても、そういう単語を聞くと反応してしまう俺は間違いなくダイ大世代。
あの漫画はポップとハドラーのための漫画だよね。
>>341 CC氏知らなかったんだw
てっきりYANA氏的なパロディかと思ってしまったww
では、嫁ぎ先が決定するまで、姫さまはウチでのんびり待機とゆうことで。
>>345 私、基本的にパロディってできないんですよ。苦手なのです(^^ゞ
とか言いつつ、今書いてるのが3のパロディかもですがw、多分、これから先も
ネタ元であるゲーム以外に元ネタがあるような書き方は出ないと思いますです。
冨樫さんがお仕事再開したので、私も頑張ろうと思いましたほす
スレ違いスマソ
姫さんはフォーチュンクエストのちっさい子のイメージ
。。。あれ?不思議なくらい全然思い出せないぞ?あれ??でも、なんとなく意外な気も。
人によって、やっぱり随分イメージ違うんですねぇ。。。いや、思い出せてないけどw
>>348 たしかルーミーだっけ?
ちっと幼すぎな気もするけど…
俺の中ではDQ7のグレーテ姫が一番イメージに近いかな?
灼眼のしゃなたn
ごめんなんでもない
あー、絵をちょっと思い出しました。すごい小さい子でしたよね、確か。
しまった、DQ7やってないことを思い出したw 8は楽しんだんですが。。。(^^ゞ
あと、シャナはよく名前を目にするんですけど、ジツは本屋さんで表紙みたことしかなかったり。
なにも知らねーにもほどがあるw<私
自分にダメを出してはフテ寝が続いております。う〜む。。。ほしゅ
すみません。ヴァイスが主役のギャルゲーってどこに売ってるんですか?
来春発売予定です!よろしく!。。。いや、ちがくて。
思わず簡単なノベルゲーとか組みたくなるので、カンベンしてください><
個人的には、あんまりホントにモテてる気がしてないんですが、
そーかー、ヴァイスはそんなにそれっぽく見えるのか〜、う〜ん。
でも、このままいきますけどw
今回のタイトル、直訳すると『潜在的な魅力』なんだぜ?w
357 :
354:2007/10/05(金) 18:24:13 ID:Jje+82+qO
>>355 勢いでレスしてしまった。後悔はしている。反省はしていない。
と書こうと思ってたんですがだんだん本当に欲しくなってきました。来春が待ち遠しいです。
もちろん限定版はリィナプリント立体抱き枕+各キャラクターのボイス目覚まし時計のセット同梱ですよね?
ウァイスが主人公・・・学園モノと申したか
>>356 あ、うれしー。そうそう、魅力とか誘惑(性的な意味で)とかで、微妙な感じを出したかったのですw
>>357 限定版の内容はまだ決定してませんが、抱き枕は検討してみますね!
あと、リィナの(胸が)立体マウスパッド、
マグナが最初は優しく、だんだん怒って叩き起こしてくれる目覚まし時計、
シェラが主役の絵本または何故かこの子だけフィギュア、
そいから姫さまのパソコン用抱き枕(のぽぽんみたいな、椅子に座って抱えるヤツ)
みたいのも考えてます!よろしく!
。。。すみません、調子に乗りました。自分で欲しくなってどうするw
>>358 なんで私と同じイメージなんですかw
ヴァイスが学生でヴァイエル先生攻略ルートがあると聞いて
訂正:フィギュア→(着せ替え)ドール
>>360 もちろん、そっちも完全カバー。どなたにもお楽しみいただけます。
とかいう妄想はともあれ、ようやくちょっと進みました(^^ゞ
>>359 それ、マジ欲しくなった。
是非発売してほしいものだ。
限定版だと、俺が入手できない可能性が
出てくるので、なんとか受注生産にできないものか...
誰が作るんだよw
枕は俺が丹精込めてチクチク裁縫しようかね
>>370 おまいはフィギュアを頼む
やぁ、職人が丹精込めた手作りとは素晴らしい。
どの道、ソフトのオマケには無理があるのでw
受注生産のグッズ展開は弊社としても願ったり叶ったりです。とか言ってみる。
〜以下、妄想自主規制〜
うぅ、眠い。。。次回もあんまし派手な話にはならなそうですが、よろしく哀愁。
割りと書き進んでますが、もうひと捻りあるべきだほしゅ
思ったより話が進まないなぁ。次回、楽しんでいただけるか、ちょい不安なので、
巻き戻しがあるかもですが。いや、私は結構楽しいんですけどねw
う〜む、ラストをどうしたらいいか分からにゃい。
つまり、次々回の内容も決まっとらんとゆうことですがw
眠い。。。なんとかなりそうかも。これ以上、巻き戻らないといいなぁ。
マグナと別れてからのほうがヴァイスの成長が顕著ですね
結構人間としての成長があっても再会したときは向こうの方が
はるかに成長していてやっぱりヘタレな展開になってしまうのかも
これからの展開に期待しつつ保守
やや、それはヤツに嬉しいご意見ですね。
次回でがっかりさせないように、しっかりヴァイスのケツを叩かないと。
まぁ、叩くと逆にヘソ曲げるようなヤツですが(^^ゞ
ようやく次回の内容が大体固まった。。。かも。あとは、頑張って練り上げますです。
上手くいったら、今週中か、来週頭くらいまでには投下できるといいなぁ、と妄想してみる。
すみませんが、次回は予想してたより、かなり長くなってしまいそうです。
長編期待保守
tndrしながら待ってます。
うわ、移転してたのか。最近、運用とか気にしてなかったから、全く知らんかったw
次回は、なかなか練り上げが手強そうかも〜。と言ってみるてすつ
皆様、無事に引っ越されたかしら。。。まとめやお知らせに載せてはみたものの、
数日レスが無くても誰も気にしない気がするので、ちょっと不安w
リダイレクトしてくれればいいのに〜。しない理由が、なんかあるんだろうけど。
ケータイだとリダイレクトできただぜ!
さぁ、早く姫様をうちにお持ち帰りする許可をくれw
専ブラが板移転検出してくれるので無問題
あ、携帯はスレもリダイレクトするのかな?専ブラは、めんどくてずっと変えてなかったり(^^ゞ
ともあれ、問題がなければなによりです。
週末用事なので、投下はおそらく週明けになりそうかも。
姫さまは、冒険の途中なのでまだダメですw
俺生まれ変わったらリィナのブラになるんだ・・・
残念ながら、サラシ巻いてない時は基本ノーブラなので、サラシでどうでしょ?
でも、ヴァイスも心配してたけど形が崩れないように、いつかちゃんと体に合ったブラを。。。
どーでもいいですね。いや、よくないけどw ちと苦戦中。。。
>サラシ巻いてない時は基本ノーブラなので
_ ∩
( ゚∀゚)彡
( ⊂彡
| |
し⌒J
380 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/13(土) 11:23:25 ID:y5dEOzgx0
サラシ巻いてない時は基本ノーブラ→サラシ巻いてる時は普通ノーブラ→基本的にいつもノーブラ
_ ∩
( ゚∀゚)彡
( ⊂彡
| |
し⌒J
381 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/13(土) 12:44:01 ID:botv+AM/O
さとりの書って一回しか使えないんですか?
382 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/13(土) 13:13:42 ID:LmBJh3JlO
すっかり長寿スレになってるね
383 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/13(土) 13:46:22 ID:botv+AM/O
はぐれメタルはどこが一番よくでますか?
ツンデレ風に聞いたら答えてくれるかも?
はぐれメタルって弱くね?
ありえねえよな〜
えっ?おまえはぐれメタルでレベルあげしたの?だせww
一体どこだよはぐれメタルの出る田舎ってwww
別に聞きたいわけじゃないんだからねっ
>>385 ワロチw なんだか、珍しい流れになってますねw
そうか、そういやいつもノーブラか。と感心してみたり。
よ〜し、今日もついさっき帰ってきて、早速PCに向かいますよ〜。
さて、ナビスコの結果は、と。。。いや、ちゃんと書きますとも(^^ゞ
う〜ん。。。どうなんだろ、これ保守
つまり服の下は裸だと?
つまりこの流れははぐれメタルの服の下は常時ノーブラという事か
なるほど。って、いやいや。
引き続き苦戦中〜。次回は、いつもの1.5倍くらいの分量になっちゃいそうです。
長すぎだろw どうもすみません。
どうも書き込めないしリロード出来ないと思ったら板移動か
久し振りに保守!
392 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/17(水) 17:54:24 ID:ZPRz6RcLO
保守
うぅ。。。歯茎になんかできて死ぬほど痛いのです。。。
ケアル
ディオス
ホントに呪文で治ったらいいなぁ。。。腫れと痛みがちょっとひいたかも。でも痛い。
誰もドラクエの魔法を使ってない件www
笑えるくらい、ほっぺた「ぷっく〜」腫れてたのが、やっとおさまってきたと思ったら、
痛くてじたばたして弱ったトコをやられたのか、今度は熱が出ますた。
うぅ。。。ホント、もぅ勘弁してください。。。関節痛いよ。。。
バニッシュ
デス
ちょwww
バニ・デスは、らめぇ〜www
マヌーサ
マヌーサ
タミフル
マヌーサ
マヌーサ
ザラキ
めがっさメガザル
うわ〜ん、みんなして止めをさすよぅ。・゚・(ノД`)・゚・。
しかも、フランケンシュタインばりに生き返らされたw
は〜。。。ようやく回復してきましたが、予定が狂いまくりですなぁ。。。
つか、もう土曜日って。。。今週、のたうち回ってた記憶しかない。。。
イキロ
流れブッタ斬りますが、昨夜見つけてから
今までずっと、CCさんのまとめサイト読んでました。
もうヴァイスで胸がいっぱい。
わーい、ありがとうございますヽ(´▽`)ノ
あの長さを一気に読んでいただけたとは超嬉しいです。
そろそろ次回を投下する(筈な)ので、よかったら今後はスレもチェックしてみてくださいませ。
お腹じゃなくて胸がいっぱいで、ホントに嬉しいよぅ。・゚・(ノ∀`)・゚・。
全裸に覆面で待ちます。
それじゃあ俺は、全裸にパンツとTシャツを着て待ちます。
そろそろとゆっても、数時間とかじゃないので、ちゃんと服着て待ってくださいねw
最近、めっきり寒くなりましたよね〜。そのうち秋が無くなるっていうのも、ちょっと頷ける感じ。
甘いな俺はしっとマスクを被って待つぜ
しっとマスクってなんだっけ?とか思って、検索かけたのは内緒ナリ。
ダメだーこりゃー。これ以上は、もっとちゃんと時間かけないと、私にゃ無理だー。
ということで、多分あさってくらいには、もう投下しちゃうと思います。
なんだかんだで、月イチペースになっちゃってスミマセン。。。
ほす〜
しーしーし、全レスの必要はないからさっさと書けぇ
べ、別に張り付いてたら体に悪いとかじゃなくて単に続きが気になってるだけなんだからね!
バニッシュ マダンテ
お前それ建前と本音逆じゃないかコラw
まぁ皆楽しみに待っていると思うんで、がんばって欲しいところです。
レスは人によってはアレかもしれんが
悪いことじゃないんで気にしないでいいと思いますよ。
大概のSSスレでは全レスは嫌われる要素ナンバーワンなのだよな…。
そういった意味で、特に作者レスがうざがられないこのスレは、大変興味深い空気を持っていると思います。
皆すっかり忘れてると思いますが、勉強の休憩の合間にぷちぷちとエロパロのアレのプロットをバラして再構築中。
意地っ張りな武闘家たんとのことですが、こんなんでいいのだろうか…リク主はどういった属性の「意地っ張り」を望むのか。
現在は俺の裁量で、孤高寡黙系で話を進めてます。…オーソドックスなツンデレ娘の方がよかったかしら。でもそんなの関係ねぇ。
…あと、とりあえず、アレだ。
オナ禁するとエロい文章を書きたくなるね!っつーかボキャブラリ稼働率が通常の数割り増しだよっ。サルか俺はっ。
あいや、間が空いちゃって申し訳ないので、せめて進捗でもと
保守がてらに1日1レスしてたですが。。。やっぱしウザいよねw
もうちょい考えますです。
眠くなったりしなければ、数時間後に投下予定。
やたら長い上に、読み直しながらゆっくり投下になると思うので、
遭遇しちゃったら、ひと眠りしてからどうぞー。
なぁに気にしてないよ
ついでに保守だ!
30. I'm Tired Of Good, I'm Trying Bad
1
ハッハッハ、と小気味の良いバリトンで笑うラスキン卿は、まるで古い物語から抜け出したみたいな、絵に描いたように立派な紳士だった。
「――するとヴァイス君は、家督を継ぐことを諦めてまで、魔物に苦しめられている人々を救う為に冒険者になったという訳か。いやはや、なんとも素晴らしい志だ。高貴なる義務の見事な体現と言うべきだろうかね」
美髯を鷹揚に撫でながら、そんなことを言う。
「本当ですわ、お父様。しかも、この人ったら、それをさも当たり前のように話すの。それで私、すっかり感心してしまったのですわ」
さっきから気持ち悪いくらいに俺を持ち上げているのは、ラスキン卿の娘であるユーフィミア――つまり、お嬢だ。
「いや、私も感心しているよ。君のような立派な青年と知遇を得たことに、神に感謝を捧げないといけないね」
「あら、お父様。私はもうとっくに、何遍も何遍も捧げましたのよ」
「おやおや、これはご馳走様だ」
ハッハッハ、ホホホ、とラスキン親子は、お上品に笑い合う。
カンベンしてくれ。
俺は、今すぐこの場から逃げ出したい衝動を必死に堪えつつ、凝っとソファに腰を埋めている。
隣りに座ったユーフィミアが、見せつけるように俺の手に指を絡めたのを見て、父親であるラスキン卿は大袈裟に目を剥いてみせた。
「ごめんあそばせ、お父様。はしたない娘だと、どうぞお怒りにならないでくださいまし。気が付いたら、自然と指が絡んでしまいましたの」
お嬢は尊敬と親しみを込めた――ように見える――瞳を、俺に向ける。
「だって私、殿方に対してこんな気持ちを抱いたのは、生まれてはじめてなんですもの。夢見がちな娘の戯言だとお笑いになるかも知れませんけれど、やっと運命の人に巡り合えた気がしてますのよ?」
いつに無く優しい口調でほざく娘と、ぴしゃりと額を叩いてみせる人の良さそうな親父さん。
「これはまた――いやはや、娘の成長というのは嬉しいものだが、矢張りそれよりも寂しさが先に立つものだね?」
「はぁ」
そして、さっぱり冴えない返事をする俺。
お嬢があらかじめ、俺のことを寡黙な性質だと紹介しておいてくれたお陰で、ラスキン卿はさして気にした風でもなく続ける。
「おお、これは失礼したね。歳若い君には、まだ分からない感情だったかな。だが、そう遠くない将来、君にも実感出来る日が来るのだろうね……とはいえ、私も同時に祖父の気持ちを味わわされるのは、もうしばらく御免蒙りたいが。これで私も、まだまだ若いつもりなのでね」
ラスキン卿は冗談めかして笑ったが、裏を返せば「君と娘の結婚なんて、まだとても考えられんよ」と言ってる訳だ。まぁ、そりゃそうだ。
「まぁ、お父様ったら。お気のお早いこと」
お嬢は「お父様のおっしゃりたいことは、分かってますのよ?」とでも言いたげに、じろっと父親を睨みつける。
ラスキン卿は、芝居がかった仕草で娘の視線に怯えてみせた。
「やれやれ、この子の強引なところが、君に迷惑をかけてないといいんだがね、ヴァイス君。この子がまだ幼い頃に妻を亡くしたこともあり、男手ひとつでついつい甘やかしたものだから、ご覧の通り随分と我儘に育ってしまったよ――」
「お父様ったら、ひどいわ。彼の前で、そんなことをおっしゃるだなんて……もちろん、迷惑なんてかけてないわよね、ヴァイス?」
たった今、イヤってほどかけられてますが。
「ああ」
くたびれ声で相槌を打った俺の親指の付け根を、父親には分からないようにお嬢が抓ってきた。
「――いや、その、よく出来た美人の娘さんですよ」
これでよろしいですか、お嬢様。
ところが、言わされてる感アリアリの俺の喋り方が気に喰わなかったのか、さらに強く抓られた。
もうホント、勘弁してください。
願い虚しく、その後も繰り広げられた、まるきり芝居じみた親子の会話――実際、単なる三文芝居だった訳だが――にさっぱり溶け込めずに、どうにも落ち着かなかった俺は、目の前の紅茶をとにかく口に運ぶことで間を潰した。
何やってんだろね、俺は。
一旦、蚊帳の外を意識してしまうと、隣りの会話はどんどん遠くへ去っていき、俺は独りで焦燥感に近い居心地の悪さを持て余す。
しえん
ホントに、なにやってんだ。
お嬢の勢いに、つい押されちまったけどさ。
そもそも俺は、こんな役回りを演じていい筈がねぇのに。
だってよ――
飲み干したティーカップを受け皿に戻して、内心で溜息を吐いていると、いつの間にやら紅茶が注がれていた。
ちょっと目を上げると、脇に控えた清楚なメイド服が静かに微笑み返す――やべぇな。俺、メイド服が好きなのかも知れん。着てるだけで、少なくともニ割増しに良く見える気がするぜ。
再び紅茶を飲み干したら、すかさずまた注がれた。もう一度メイド服を見上げると、さっきよりもはっきりと微笑み返してきたので、俺もニヤッと唇を歪ませる。
面白ぇ。なんだか分かんねぇが、これは勝負だな?
いい暇潰しを発見した俺は、隣りの会話をうっちゃらかして、メイド服との密やかなゲームにうつつを抜かす。
さすがに腹がぽちゃぽちゃいい始めた頃、それまで落ち着いた調べを奏でていた楽隊が急に演奏を止めたので、ラスキン卿がそちらに合図を送ったことに気がついた。
ロランのトコの晩餐会で見かけたソレとは、比較にならないささやかさだが、それでも食後の歓談に楽隊を用意するとか。さすがは金持ち、やることに贅沢って名前の無駄が多いね。
さて、ロクに聞いてなかったので、どういう話の流れだが、さっぱり分からないんだが――
「どうだろう。成長した娘のダンスを、久し振りに見たくなってしまったよ。ヴァイス君も、踊れるんだろう?」
「もちろんですわ、お父様」
俺は危うく、飲みかけの紅茶を噴き出すところだった。
なにを勝手に、しかも自信満々に答えてやがんだ、お嬢!?
そりゃ、俺はいいトコのお坊ちゃまって設定だから、ダンスくらい軽くこなしてみせるのが筋ってモンだろうけどさ。そいつはあくまで、単なる設定であってだな――
「ほら、ヴァイス」
お嬢が先に腰を上げて、俺の腕を両手で抱えて引っ張り上げる。
立ち上がった拍子に、たぽんと腹が鳴ったが、気にしてる場合じゃない。
しなだれかかるようにして脇のフロアに俺を誘うお嬢に、こっそり耳打ちする。
「バカ、お前、どうすんだよ」
「馬鹿とはなによ!?――あなた、まさかダンスも出来ないとか言わないわよね?」
「まさかじゃねぇよ!出来るワケねぇだろ!」
「なんでイバってるのよ!?」
お嬢は小さく、はぁ〜あ、と呟いた。
溜息吐きたいのは、こっちだっての。
「……いいわ。とにかく、私の動きに合わせてちょうだい。なんとかフォローしてあげるから」
とかなんとか内緒話をしている間に、ゆったりとした曲を楽隊が奏ではじめる。
ぼけーっと突っ立ってたら、爪先を踏んづけられた。
「ほら、私の腰に手を回して!」
ヒソヒソ声で怒鳴られた。
声音とは裏腹に、お嬢の顔面に貼り付いた不自然な微笑みが、脅迫されているようで余計に怖い。
しょうことなしに、やたら細い腰――コルセットでもつけてやがんのかね――に手を回したら、逆の手を握って床と平行に持ち上げられた。
なにやら体をくねらせてから、お嬢は小声で俺に命じる。
「はい、大股で前に三歩あるいて!」
言われるがままに、お嬢とぴったり体を合わせて足を運ぶ。
「はい、腰を落として、もう二歩!」
つか、歩き難いんですが。
「ここでターン!」
うわとと。
「一歩退がって!もう一回ターン!」
うわバカ無茶すんな。
ぐりんと振り回されて、思わずバランスを崩す。
「ばっ……」
「きゃあっ!?」
俺はお嬢の腰を抱いたまま、見事に仰向けに引っ繰り返った。
うぐっぷ。危ねぇ、床とお嬢の体に挟まれて、さっき飲んだ紅茶が喉のトコまで逆流しやがった。
驚いた楽隊が演奏を止めて、ざわざわ言ってるのが聞こえる。
「もーバカバカ、なにやってるのよ!!」
「だから、出来ねぇって言っただろ!?」
「……い、いつまで抱き締めてるのよ!!さっさと離しなさい!!」
腕を突っぱねてジタバタ暴れたお嬢が、俺の上から床に落ちる。
「も〜、どうするのよ……ホントにサイアク。あなたなんかに、頼むんじゃなかった」
ぺたんとフロアに座り込み、お嬢は両手で顔を覆った。
どうもすいませんね。
だから、素直にファングに頼んどきゃよかったんだ。あっちはホンモノの坊ちゃんみたいだから、俺みたいにボロは出さなかったろうぜ。
「おやおや、大丈夫かい。どこか調子でも悪いのかね」
気遣いの言葉を口にしちゃいるが、ラスキン卿の表情も不審げだ。
しょうがねぇ。ここはフォローしとくか。
「すいません。ここに来る途中で魔物に喰らった傷が、まだ癒えていないのを、うっかり忘れてました。ちょっと力を入れたら、急に脚が痛くなっちゃいまして」
お嬢が指の間から俺を覗き見た。
ほらよ。これでいいんだろ。
「そ、そうだったわね!?ご、ごめんなさい、ヴァイス。私もすっかり忘れてしまっていたわ!!」
わざとらしい口調だな、オイ。
「おお、それはいけないね。エフィも、気をつけてあげなければ駄目じゃないか。粗忽な娘で申し訳ないね、ヴァイス君」
「本当にごめんなさい、ヴァイス。あなたをお父様に紹介できると思って、私すっかり舞い上がってしまっていたのだわ」
膝を寄せて、俺を抱き起こすフリをするお嬢。
「いや、そんな大した怪我じゃないですから。うっかりしてた私が悪いんですので、ユーフィミアさんを――」
うひゃ、脇腹抓んな。痛くすぐってぇよ。
「……エフィを、叱らないでやってください」
「おやおや――もう愛称で呼び合う間柄なのかね。尤も、どうやらエフィが無理矢理呼ばせているようだが」
ハッハッハ、と愉快げなバリトンが響く。
しぇん
「ともあれ、怪我人をいつまでも引きとめてしまったのでは申し訳無い。今日のところはこのくらいにして、後はゆっくりと休んでくれたまえ。これ――」
手を打って使用人を呼びかけたラスキン卿を、お嬢が慌てて制止する。
「あ、結構ですわ、お父様。ヴァイスはちゃんと、私が離れまで送り届けますから」
「おお、これは気が付かなかった――いや、誤解しないでくれたまえよ、ヴァイス君。私はなにも、娘の恋路を意地悪く邪魔しようと考えたつもりはないのだよ」
「はぁ」
どうでもいいから、俺を早くこの場から開放してくれ。
「気の利かない娘に君を任せるのは、少々不安ではあるが……この世で一番の良薬は、愛情だという言葉もあるからね。ではエフィ、しっかりとお送りしなさい」
「ええ、お父様。どうぞ、ご心配なさらずに」
皮肉らしく言い返したお嬢に支えられて、ことさらに足を引き摺って扉へ向かう。
「それじゃ、すいませんが、今日はこれで」
「ああ。楽しかったよ、ヴァイス君。何か入用があれば、遠慮なく側仕えに申し付けてくれたまえ」
「あら、側仕えなど必要ありませんわ。私がちゃんと、全て面倒を見ますから」
いやぁ。どうせなら、お嬢じゃなくて、俺に紅茶を注いでくれたあの娘を面倒を見て欲しいんですが。
「これこれ、あまりはしたないことを言うものではないよ――では、ご機嫌よう、ヴァイス君。娘の我儘で世話をかけるが、何をするにも、まずはしっかりと養生してくれたまえ」
「ああ、はい。その――ありがとうございます……た」
仕舞いには、逆にお嬢を引き摺る勢いで廊下にまろび出た俺は、扉が閉じた瞬間に、人生で一、ニを争う盛大な溜息を吐いた。
ようやく、まともに呼吸が出来た気がするぜ。
お上品な空気ってのは、息苦しくて仕方ねぇよ。
「まったく!一時は、どうなることかと思ったわよ!」
人の気も知らずに、お嬢は態度を豹変させて、腕に絡めていた手で俺を突き飛ばす。
「いくらなんでも、あなたがあれほど何も出来ないなんて思わなかったわ。言葉遣いも滅茶苦茶だし。なるべく喋らせないようにして、ホントに正解よ」
いや、あのな。
こっちはイヤイヤ協力してやってるってのに、なんて言い草だ――
「うわぁ〜……」
部屋に入った俺を見るなり、エミリーは物凄い微妙な顔をして呻き声をあげた。
「なんというか、お主……そういう格好が、ホントに似合わないのじゃな」
よせやい。照れるゼ。そんなに誉めんなよ。
やけっぱちな台詞を、心の中で思い浮かべる。
話は遡って、今日の夕暮れ時――離れの客間に姿を見せたお嬢に命じられて、俺はいつもの薄汚い格好ではなく、ぴったりとした仕立てのいい服に着替えさせられていた。
パリっと糊の利いたシャツの上に、金糸の刺繍が施されたベストを羽織り、丈の短いズボンと長い靴下といういでたちだ。
その服装だけでも、姿見に映して情けなく思ったモンだが。
なにより、ぼさぼさだった髪を整髪料で綺麗に撫でつけ、ぴっちりと左右に分けられた前髪が、一番の噴飯モノだ。
俺の隣りでは、お嬢がうんざりと顔を曇らせている。
お前な、自分でこんなカッコさせといて、気に喰わねぇから不機嫌になるとか、そりゃ無ぇだろ。
「馬子にも衣装という言葉があるが、これほど当て嵌まらんヤツも珍しいな」
妙に感心した口振りでほざいて、珍獣でも見るような視線を俺にくれるファング。
やかましい。ホントだったら、お前が着る筈だったんだぞ、これ。
なんで俺が、こんな格好をしているかというと――
なんと、お嬢の恋人役を務める為なのだった。
「本当は、ファング様にお願いしたかったのだけれど……」
廊下に呼び出されるなり、だしぬけに一方的な恋人宣言をされて唖然とする俺に向かって、田舎女はそう言った。
「あの方には、アメリアさんがいらっしゃるじゃない?だから、いくらお芝居といっても頼み辛くって……仕方ないから、あなたで我慢してあげるわ。ほぉんっとおに『仕方なく』だけど!」
ああ、そうですか。そりゃ恐縮です。
ワケ分かんねぇよ。
続けて聞かされた、お嬢の要領の悪い説明から、何度も繰り返された言い訳をさっぴいて、俺がヴァイエルのトコで仕入れた知識を補うと、大体こんな感じになる。
田舎女の一族は、元々はエジンベアという遥か西方の島国出身なのだそうだ。世界地図で照らし合わせた訳じゃないから、正確な位置はよく分かんねぇが、地理的にはエルフの隠れ里からそれほど離れていない南西の海に浮かぶ島らしい。
ずっと昔の話になるが、全世界を制覇したアリアハンによって一旦は結びつけられた各地の国や地域は、その衰退に伴って再び関係性を失っていった。
アリアハンが広めた共通語や通貨は、利便性を主たる理由として辛うじて残ったものの、以降は表向きに各大陸や地域を繋いでいたのは、これもアリアハンによって普及が進められた教会組織だけだったと言っていい。
その状況を打破したのが、海洋国家として名を馳せることになるポルトガだ。イシスのさらに南方、現在では魔王バラモスの居城が存在すると見なされている暗黒大陸に姿を現したポルトガ艦隊は、瞬く間にその地を支配下に組み込んだ。
わずかに遅れて大洋へ乗り出したエジンベアは、先を越された暗黒大陸を避けて迂回し、ポルトガに対抗する為に、さらに東方を目指した。
そして辿り着いたのが、今の俺達が居る地方って訳だ。エジンベアが最も隆盛を誇った時代には、バハラタの辺りまで支配が及んでいたという。
本国との距離があまりにも遠い為、エジンベアは支配した各地域にそれぞれ総督府を置いて統治を行った。つまり、何代か前のラスキン卿も、そうして送られた総督のひとりだったって訳だ。
ところが、世界はまたしても分断の時代を迎えることになる。
魔物の出現だ。
この世に魔王が現れると同時に航路を脅かしはじめた、強力な魔物に船舶の往来を阻まれて以降、ポルトガやエジンベアは版図の縮小を余儀なくされた。
やがて総督府は、遠隔地の支配どころではなくなった本国から忘れ去られ、派遣されたエジンベア人達は当地に置き去りにされた。田舎女の身の回りが、どうにも古臭く感じられるのは、この時点のエジンベアで時代が止まっている所為らしい。
当然のことだが、俺達がいま居るこの土地でも魔物は猛威を奮い、すぐにでも己を庇護してくれる為政者を必要とした民衆に要請されて、ラスキン家は引き続き周辺を治めることになった。
魔物の脅威に苦しみながらも復古を遂げた王国に、取って代わられた総督府もあったようだから、ラスキン家のケースはかなり特殊だったと考えられる。
エジンベアがやってくる前は非道な支配階級の圧政に苦しんでいたこと、それ故に総督府がむしろ解放者として民衆に歓迎されたこと。
そして、ラスキン家は無茶な搾取を行わずに、言わば穏当な施政をもたらし、それなりに尊敬を集めてことが、未だに領主としての地位を失わずにいる主な理由のようだ。
まぁ、あの人の良さそうなラスキン卿を思えば、父祖の人柄も推して知るべしといったところかね。魔物の脅威に対抗する為とはいえ、こんな「とりあえず」的な統治が未だに続けられているのは、ほとんど奇蹟に近いんじゃないだろうか。
だが、やはり時代は徐々に変わっているようで。
エジンベア人というのは元来気位が高く、ここでも地元の人間なんかとはロクに交わろうとせずに、共に遣わされたエジンベア人同士でのみ付き合いを続けてきたのだという。お陰で治世は平穏ではあったものの、支配者層と被支配者層は完全に分離していた。
その上、当のエジンベア人達は、いつか魔物がいなくなったら本国に帰るものだと思い込んでおり、今ここに居るのは飽くまで腰掛けに過ぎないみたいな考え方をしてきたそうだ。
けれども、いつになったら帰れるものやら、さっぱり目星がつかないし、少しは土地に溶け込む方向で物事を考えなきゃいけないのかな〜、みたいな意識が、近頃になってようやく芽生えてきたらしく。
さらに、後に述べる事情が契機となって、ここにきてはじめて、エジンベア人ではない地元の有力者と、ラスキン家のひとり娘との縁談が持ち上がったという訳だった。
まぁ、要するにだ。
一方の当事者であるお嬢は、その縁談が気に喰わないのだ。
無断で家を鉄砲玉みたいに飛び出した娘の性格を危ぶんで、ラスキン卿が縁談を早めるつもりであることを、帰ってすぐに知らされたお嬢は慌てふためいた。
「今後は、私をエフィと呼ぶことを許可します」
そこで、今回の旅先で知り合った男――つまり、俺のことだ――に破廉恥にも一目惚れしちまったことにして、まんまと破談に仕向けてやろうと、まぁ、お嬢としてはそういう腹積もりなのだった。
「お父様にしたって、是が非にでもその人と私を結婚させたい訳じゃないのよ。それも悪くない、程度のおつもりに決まってるんだから、とりあえず今だけなんとか乗り切れば、またお心も変わると思うのよ」とは、お嬢の言だ。
正直、こっちはいい迷惑ですがね。
とはいえ、相手がしがない農家の次男坊ってんじゃ、惚れたの腫れたの言っても親父さんを説得するのは無理だとほざくお嬢によって、俺にはめでたく、アリアハン貴族の御曹司という設定が与えられた。
しかも、長男にも関わらず、人々を救う為に家督を投げ打って冒険者になったんですってよ。とても立派な人物ですね。どこのどなた様ですか、それ?
まったく、ホントにやれやれだ。
なんだって、こんな事になっちまったんだか。
「――あの、ちょっと、よろしいですかぁ?」
苦笑が爆笑に変わりかけているエミリーと、珍妙な表情で俺を眺めるファングの間を縫って、つつと近寄ったアメリアが、俺を椅子に座らせた。
「冒険者というのは変わらない訳ですし、無理してきちんとするよりはですね、ヴァイスさんは、もう少しだら――なんて言うんでしょ。ワイルド――じゃないですね、えと、あの――そうそう、無造作な感じの方がお似合いになると思うんですよ〜」
しどろもどろに言いつつ、後ろから俺の髪をイジりはじめる。
ホントは『だらしない』って言いたかったんだろ、お前。
「えっと……こんな感じで、どうでしょう?」
渡された鏡で確認すると、手櫛で適当にいくつか束ねた襟足を外側に向け、前髪のぴっちり分けも直してくれていた。
あれ?
顔にかかった前髪が、少々鬱陶しいが――悪くないんじゃねぇの?
長いこと切ってねぇから、割りかし髪が伸びてたんだが、それが却って色気を醸し出して見える――はいはい、ごめんなさいねぇ。良く言い過ぎましたよ。
別に、急に色男になった訳じゃないけどさ。でも、やっぱり髪型って大事なんだな。
「ほぅ、さすがじゃな、アメリア。いつもより、いくらかマシになったくらいなのじゃ」
正面に回り込んで、顎に手など添えつつ俺を品定めした姫さんが、感心したように呟いた。
「いえいえ、私がどうのと言うよりもですね、ヴァイスさん、元からそこまで悪くないんですよ?」
と、アメリア。
二人とも微妙に誉めてない気がするが、まぁいい。
「あとは、いつも胸を張って、堂々と振舞ってくださいね〜。それだけでも、ずいぶん違いますから」
アメリアに後ろから両肩を掴まれて、ぐいっと開かれる。
へいへい。俺の姿勢は猫背気味だからな。せいぜい気をつけさせていただきますよ。
「じゃあ、見た目はそれでいいとして――繰り返すようだけど、これはここに居る人達だけの秘密ですからね。くれぐれも他言は無用に、話を合わせてちょうだい」
俺のいでたちに、さっきよりは納得した様子のお嬢が注意を求めると、ファングが渋い顔をして横から口を挟む。
「事情は分かったが、父親をたばかろうとするのは、あまり感心せんな」
「それは……分かってますけど……」
しょげてしまったお嬢に、アメリアと視線を交わしたファングは肩を竦めてみせた。
「まぁ、別にとやかく言うつもりは無い。いいだろう――俺は、頼まれた仕事をするだけだ」
こんなド田舎まで、俺達がわざわざやってきた本来の目的である、お嬢に依頼された仕事というのは二つあった。
まず、ひとつ目だが――最近、ラスキン家が治める領地内で、人攫いの被害が相次いでいるらしいのだ。
この話を聞いて、俺は密かに納得したものだ。
なるほどね。バハラタで、俺達が人攫いの一味を潰滅したと聞いて、お嬢が妙に感心してみせたのは、これが理由だったんだな。
被害はこの町に留まらず、周辺の町村にも及んでいるという話だが、ラスキン卿の手勢は、どちらかというと各地の魔物被害の対応に追われていて、人攫いの件では後手に回らざるを得ない状況らしい。
一度だけ、攫われた娘二人が救い出された事があったそうだが、それはラスキン卿の手の者ではなく、この町に住むとある男のお手柄だという。
と言っても、賊の根城を突き止めたり、ましてや潰滅した訳じゃなく、かどわかしの現場にたまたま居合わせて、なんとか追い払っただけらしいんだが、それでも地元の有力者の息子という立場も手伝って、そいつは町ではちょっとした英雄になっている。
何を隠そう、その男こそが、お嬢の縁談の相手なのだった。
そもそも縁談話にしてからが、誘拐を未然に防いでくれた礼にと、ラスキン卿が男を屋敷に招いたのがきっかけで持ち上がったそうで、つまりまぁ、お嬢にとって人攫い事件の解決と破談は二つで一組みたいなモノなのだった。
接客&支援
残るもうひとつの依頼は、ここから海を渡ってすぐ東にある島国からやってきた人間が助けを求めてるって話なんだが、こっちは宿屋に滞在しているそいつに、明日にでも詳しい事情を聞きに行く段取りになった。
元々、お嬢がアリアハンまで冒険者を雇いに来たのは、こっちの件を依頼する為だったらしいが、自分の縁談が思いがけずに進展しそうなので、人攫いの方を先に片付けることにしたようだ。
いくら近いとはいえ、海を渡った他の国まで出かけてたら、いつまでかかるか分かんねぇしな。その間に、縁談が本決まりになっちまったら堪らないって気持ちは、まぁ分からなくもない。
そんなこんなで、ファングが人攫い共の棲家の探索を担当して、俺はお嬢の恋人役を演じつつ、島国から来たってヤツの話を聞きにいく手筈になった。
俺の方が、ずいぶん楽をしてると思われそうな配役だが。
「連中が身を隠しそうな場所は、大体見当がつく。屑以下の存在でも、生き物である以上は水が必要だ。川の周辺を探れば、自ずと見つかるだろう」
特に不満を漏らすでなく、自信たっぷりにファングの野郎はほざいてやがったので、ま、お手並み拝見といきますかね。
それにさ。
悪いけど、お嬢の相手を仰せつかった俺の方が、精神的には全然大変なんだぜ。
誰も、そんな風に思ってくれてねぇみたいだけど。
ま、別にいいけどね。
「ちょっと休んでいきましょう。なんだか、ひどく疲れたわ」
ラスキン卿との面談をどうにか終えて、離れの客間に戻る途中だった。
廊下の左右が半円状に拡張されたホールを横切り、一番奥に置かれたソファーに気だるげに腰を落としたお嬢は、両手で口を押さえて溜息を吐いた。
馴染めない空気に気疲れしたのは、こっちなんですけどね。
ラスキン卿の元を訪れたのは夕食前だったのに、天窓から覗く空はすっかり暗い。
ずいぶん長いこと、三文芝居に付き合わされてたんだな。
ホント、もうクタクタだぜ。俺も座ろう。
黙って隣りに腰掛けてたら、横目でじとーっと睨まれた。
お嬢は、また溜息を吐く。
「あなたって、ホントに気が利かないのね。仮にも恋人がこんなに疲れた顔をしてるんだから、少しは気を遣ったらどうなの?」
「ああ――その、大丈夫か?」
お望み通りに気を回すフリをしてやったのに、お嬢はうんざりした顔を隠さない。
「これだものね」
心が篭ってなくて、どうもすいませんね。
俺から視線を外したお嬢の睫毛が、物憂げに下を向く。
流れる金髪に半ば隠れた横顔。
黙ってそういう顔してりゃ、深窓の令嬢を地でいってんのにな。
もったいねぇの。
「ねぇ――」
「は?――はい?」
考えを見透かされた気がして、声が上擦っちまった。ヴァイエルじゃあるまいし、全部お見通しなわきゃねぇのにな。
「私は……心の狭い、イヤな女なのかしら」
思わず頷きかけて、危うく我慢する。
かといって、「いいえ、そんなことありませんよ、お嬢様」とか、べんちゃらを言う気にもなれずに黙っていると、お嬢は俺の返事を待たなかった。
「彼のことは――別に、嫌いではないのよ。ううん、町の皆が言うように、立派な人物だとすら思うわ……というか、それ以前にね?町の人達とだって、私は仲良くしてるのよ」
彼ってのが、おそらく縁談の相手のことを差しているのは理解できたが、お嬢が何を言いたいのかは、イマイチ掴めなかった。
「だって私は、小さい頃からよく屋敷を抜け出して、町まで遊びに行ってたんですもの。町の皆は、お嬢様お嬢様って、私を慕ってくれてるのよ?」
「ふぅん」
「……私に対して、そこまであからさまに無関心な素振りをしてみせるのは、ホントにあなたくらいだわ!これでも、憧れの目で見てくれるコとかも多いんだから」
「そうだろうな。綺麗な髪してるしな」
なにをスネてんのか知らねぇが、髪を誉めたら喜んだことを思い出して、いちおう話を合わせてみる。
すると、お嬢はなにやら頷いた。
「そう――私は、自分の髪が好きだわ。碧い目も好き。私は生まれてから一度も本国の土を踏んだことが無いけれど、私の両親はエジンベア人だし、私もエジンベア人として育てられたのよ。そして、それに誇りを持っているわ。この髪や目の色は、その誇りの象徴なの」
姫さんと町中を散歩した時に気付いたが、ここいらの人間は基本的に黒髪で目の色も黒い。
顔立ちにしても、エジンベア人であるお嬢やラスキン卿の方が彫りが深くて、明らかに見た目が異なることが、支配者層と被支配者層を分けている理由の一端なのかも知れない。
「だから、私はね……少し気が早いかもって自分でも思うけれど、私の子供にも、私と同じ髪や瞳の色でいて欲しいのよ。それは、私達がエジンベア人である確かな証だから。それまで失ってしまったら、私達は本国との繋がりを、一切失くしてしまう気がするのよ……」
だから、この土地の人間と結ばれる気にはなれないって訳か。
お嬢は俯いて額を押さえ、細くて長い息を吐いた。
「でも、これは差別主義的な考え方なのかしら。この縁談の話を聞かされた時に、はじめて気がついたのよ。自分でも知らない内に、私は人種で人を判断していたのかしらって。
町の人とも、普通に仲良くしていたつもりだったのに……だって、今の側仕えだって、私が町から連れてきた、私の友達なのよ!?」
しがない農家の次男坊としては、友達と側仕えが矛盾無く両立しているらしい感覚が、どうにもピンと来なかったが、大筋としてお嬢が言いたいことは分かってきた。
案外、面倒臭いことで悩んでるのね。
「私の考え方は、間違ってる?傲慢なの?あなたから見て、どう思う?」
「そうだなぁ……」
答えは、さっぱり思い浮かばなかった。
何故なら、そんなこと考えた試しも無かったからだ。
かつて世界を支配した大帝国の首都があるアリアハン大陸には、当時あらゆる場所からあらゆる人種が集まってきた。
そのお陰で、現在でもアリアハンは多民族国家なのだ。混血も珍しくない。というか、混血なんて単語を意識する機会が無いくらいに普通だ。
都会ほど顕著ではないものの、田舎の方でも他人種の流入はあった筈だが、長い年月をかけてすっかり共同体に吸収されている。
家系図なんぞを紐解いたことはないし、そもそもウチの実家にゃそんなモンは無いと思うが、何代か前まで遡れば、ひょっとしたら俺の先祖にもエジンベア人がいたかもしれない。そのくらい色々な血が混じっていて不思議じゃないのだ。
とはいえ、よくよく考えてみると、人種毎にそれぞれ色濃い地域というのは存在するし、特定の人種への侮蔑を語源とした俗語もいくつか思いつく。
古来から続くアリアハンの血筋しか認めない純血主義者みたいな連中の話を全く聞かない訳じゃないし、それに、お偉いさんになるとまた事情が違ってくるのかも知れない。
もしかしたら、そういうのを全く気にしない、俺個人のいい加減な精神構造の問題なのかも知れないが――
少なくとも俺と同じような庶民が、ことアリアハンの王都で暮らす限りにおいては、あまりにも雑多な人種の違いを、いちいち意識してる奴がいるとも思えなかった。
「だから、俺にはエフィの感覚は、よく分かんねぇよ。悪いけど」
「そう……そうなの」
意外そうに呟いたエフィの表情から、愁いは晴れなかった。
「まぁ、でも、さ」
俺の口は、ひとりでに言葉を紡ぎ続ける。
「俺には、支配階級の考え方ってのも、よく分かんねぇけど――自分は傲慢なんじゃないかとか、間違ってるんじゃないかとか、自省するだけマシなんじゃねぇの。普通のお偉いさんは、そんなの気にもしねぇって気がするぜ」
「そう……かしら。確かに、私もそうだったけど……」
「ある意味、それでいいとも思うしな。上に立つモンは、あんま揺らいだりしない方がいいんじゃねぇの」
どこかで聞いたような台詞だ。
そう思って、つい言葉を足してしまう。
「つか、エフィがいま抱えてる問題――つまり、縁談のことだけどさ。それって、そういう問題とは違うんじゃねぇか?なんつーか、人種どうこうじゃなくて、重要なのは相手が好きかどうかだろ。まず最初にさ?」
エフィは、意表を突かれた顔をした。
それで、俺はこう付け加える。
「まぁ、偉いさんなんてモンは、惚れた腫れたで結婚しねぇのかも知れないけどさ」
「そんなこと……ないけど」
微かに和らいだように見えたお嬢の横顔に、はっと胸を突かれた。
まただ――
ラスキン卿と歓談してる最中に持て余した、イヤな感じが再び胸中を満たす。
俺は、何やってんだ?
なんか、勘違いしてねぇか。
俺とお嬢は、実際は恋人でもなんでもねぇのに。
それなのに、不用意に親身ぶって、相手の裡に踏み込もうとして――
馬鹿じゃねぇのか。
なにマジになってやがんだよ。
また同じことを繰り返すつもりか。
違う――
同じなんて無理だ。
許されない。
俺が、許さない。
あんな近くに居ていいのは――
いいから適当に、ヘラヘラ話を合わしてりゃいいんだよ。
自分の言葉で喋らなくちゃとか、余計なこと考えてねぇでよ。
じゃなけりゃ、そうでなけりゃ――
あいつに――
あいつらに、申し訳が――
「『また』だわ……」
いつしか、お嬢は眉根を寄せて、憮然と俺を睨んでいた。
ヒドく悔しそうな顔をしていた。
「あなたって、ホントに失礼だわ」
「は?なにが――」
意図を把握できない内から、何故かギクリとした。
エフィは、俺に皆まで言わせなかった。
「あなた、また私を見てないじゃない。私と話す時のあなたは、いつもそう。私が目の前にいても、あなたはいつも私じゃない誰かを見てるのよ」
意外と――鋭い。
「こんな侮辱を受けたのは、ホントに生まれてはじめてだわ。せめて私が隣りにいて、私が真面目に喋っている時くらい、ちゃんと私と会話しなさいよ!!」
くそ。どうしてこう、女ってのは――
「いつも淋しそうな顔をして遠くを見ながら、まるで違う人のことを考えているんだわ。私の話なんて、全然聞きもしないで……馬鹿にして……私の前でそんな態度を取った人は、ホントにあなただけなんだから!!」
面倒なコトばっかり気にしやがるんだ。
「いいこと!?今のあなたは、私の恋人なんですからね!?もし、また私の前でそんな顔を見せたら――」
「あの、お嬢様――」
廊下とホールの境目から、メイド服がおずおずと顔を覗かせていた。
「――え?あ、なに?どうしたの、ファム?」
「その……カイ様がお見えになりましたけど」
お嬢の顔が、一瞬強張った。
「それで?お父様に、何かご用事なのかしら?」
「いえ、あの、お嬢様に、ご挨拶をと……」
「……どうして!?私が戻ったことを、なんであの方がもう知ってるのよ!?」
黒髪を耳の下辺りで短く切り揃え、頬にそばかすを浮かせたファムとかいうメイドは、エフィの語気にひっと小さく叫んで首を竦めた。
ラスキン親子の演劇じみた会話にさんざ付き合わされていた所為か、そんなファムの仕草まで、なんだか芝居がかって見えてしまう。
「も、申し訳ありません。先程、お迎えした時に、私がうっかり喋ってしまって……」
お嬢はひとつ深呼吸をして、表情を改める。
「ああ、ごめんなさいね、ファム。いいのよ、別に。言われてみれば、あなたとあの方は幼馴染ですものね。口止めをしていた訳でもないのだし、私が戻ったことくらい、世間話にするわよね」
「はい、あの……申し訳ありません」
「謝らないでったら。私とあなたの仲じゃない」
無理した感じで、にっこりと笑いかける。
「……そんなに恐縮されると、こっちが落ち込んでしまうわ」
お嬢はちらりと俺に一瞥をくれて、口の中で、多分そう呟いた。
このファムって子が、どうやらお嬢の言うところの「友達の側仕え」なのかね。
ま、別になんでもいいけどさ。
「でも、どうしましょう。どちらでお待たせしているの?ご挨拶するにしても、こんなところじゃ――」
「いえ、こちらで結構ですよ」
ファムの後ろから颯爽と姿を現したのは、やはり黒髪に黒い目をした男だった。
カイとか呼ばれてたな。こいつがお嬢に求婚してる物好きだってのは、まず間違い無いだろう。
思ったより、歳がいっている。二十代の半ばは越えてそうだ。ファムとお嬢は見たとこ同年代だから、幼馴染と言っても近所のお兄ちゃんって感じなのかね。
お嬢やラスキン卿のように大時代的な身なりでこそないものの、それなりに仕立てのよさそうな衣服を身に着けている。
人当たりの良さそうな――爽やか――実直そうな――いくつか、人となりを喩える表現が脳裏に浮かんでは消え、俺は考えるのを放棄した。
だって、お嬢の相手がどんなだろうが、別にどうでもいいハナシだろ?
「まぁ、酷い人ね。今の話を、隠れて聞いてらしたの?」
「いえ、とんでもない。たったいま来たところです。お父上にお話を伺いにあがったのですが、貴女がお戻りになられたと聞き及びましてね。ファムには向こうで控えているように言われたんですが、一刻も早くご挨拶をしたくて待ち切れませんでした」
「あら、お父様にはなんのご用事?」
「もちろん、貴女のことですよ」
つかつかとソファに歩み寄ったカイは、膝の上に置かれたエフィの手を握って持ち上げた。
「とても心配しました。お独りで町の外――どころか、他の大陸まで赴くだなんて、無茶もいいところだ」
「ごめんなさい――心配をおかけして」
お嬢は、カイから視線を外した。
「全く、貴女は無茶ばかりするから、本当に目が離せないな。早く私をお目付け役として、お側に置いていただけるといいんですが」
お嬢がなんとも答えなかったので、軽口に続くカイの笑い声は中途半端に止んだ。
誤魔化すように、俺に視線を移す。
「ひょっとして、君がお嬢様を連れ戻してくれた、アリアハンの冒険者なのかな?」
「ええ、まぁ。そうなりますかね」
おい、お嬢。
俺はコイツに、どういう態度を取りゃいいんだよ。
「どうもありがとう。こうして再び、お嬢様の元気な顔を拝見できて一安心だ。お礼を言うよ」
横目で尋ねても、お嬢のヤツ、俯いたまま反応しやがらねぇでやんの。
適当に相手しちまうけど、いいんだな?
「そりゃどうも。けど、エフィが元気ってのは、どうなのかねぇ」
「なんだって?」
カイの眉毛が、ぴくりと跳ねた。
「――というか、ずいぶん親しげにお嬢様を呼ぶんだな、君は」
「お蔭さんでね。色々と悩みを聞かされてる内に、いつの間にやら親しくさせていただきまして」
「悩みだって?一体、どんな?」
「あんたにゃ言えねぇ悩みだよ――ああ、すまねぇな。これでも、割りといいトコの出なんだけどさ。冒険者暮らしが長いモンで、昔習った口の利き方を忘れちまった。勘弁してくれよな」
顔を顰めたカイに、つけつけと言ってやる。
どうせお上品な口なんて利けやしないんだし、こうして最初から予防線を張っといた方が、後々になってボロ出すよりゃマシだろ。
「それは構わないが……私に言えない悩みだって?よかったら、聞かせてくれないか」
アホか。
「こいつが隣りにいるのに、俺が勝手に言えるわきゃねぇだろうが。それに、言わなくたって、あんたも薄々勘付いてんじゃないの?」
「ちょっと……なに言い出してるのよ!?」
ようやく顔を上げたエフィが、びっくりした目で俺を見ていた。
なんだよ、今さら?
俺が余計なことを言うのがイヤなら、さっきみたいに喋らせないように立ち回りゃよかったんだ。
そもそも、なんで俺が、こんな猿芝居に付き合わされてんだ?
こんな役回り、俺が演じていい筈が――
何故だか妙にイラついちまって、歯止めが効かない。
ああ、もういいや。なんか、めんどくせぇ――
「いや……全く、心当たりがないが。お嬢様も、意外な顔をなさっているようだが?」
「ふぅん。あんた、結構ニブいのね」
俺は、カイに握られたままだったエフィの手を解いて、そのまま隣りに座る細い肩に腕を回す。
「悪いけどさ、こいつ、すっかり俺に惚れちまってるんだよね」
「はぁ――っ!?」
「なんっ……だって?」
抱き寄せた俺を突き飛ばすべく力を篭めたエフィは、ギリギリのところで踏み止まった。
そうそう。こいつは、あんたが自分で拵えた設定だぜ。
だが、黙ってるのもシャクだったとみえて、お嬢は体で隠しながら、俺の腕を思いっ切り抓り上げる。
「ッ――それに、残念だけどさ。あんたとの結婚話にゃ、元々あんまり乗り気じゃなかったみたいよ?」
「なっ――」
「ちょっと!?」
エフィは目尻を吊り上げて、抓る指にさらに力を篭める。
へっ、非力なお嬢に抓られたくらいじゃ、俺でも大して痛かねぇっての。くすぐったいくらいだぜ――あいてて。そろそろ止めろ。
「なんか悪ぃね、横から掻っ攫うみたいになっちまって。いや、俺の方はさ、そんなつもりはさらさら無かったんだぜ?先に惚れてきたのも、積極的に迫ってきたのも、全部エフィの方だからな?そこんトコ勘違いしないように、よろしく頼むわ」
「こっ――このふざけた男の言っていることは、本当なんですか、お嬢様!?」
うわ、汚ね。唾飛ばすなよ、この野郎。
「えっ!?あ、は――その……」
ほれ、なに唖然としてやがんだよ。
手前ぇで書いたシナリオだろうが。こんくらいのアドリブは利かせてみせろよな。
「え、ええ、そうなの――私、アリアハンで出会ったこの人に、すっかりまいってしまったのだわ」
引き攣った笑顔を浮かべながら、俺に寄り添う。
やりゃ出来んじゃねぇか。
「……私とのお話は、どうなるんです」
声を一段低めたカイに、俺は言ってやる。
「本決まりじゃなかったって聞いてるけど?まぁ、なんていうか、ご愁傷サマだけどさ。こいつをがっちり掴んどくだけの魅力が、あんたにゃ足りなかったってコトだよね」
「黙ってろ!お前に聞いてねぇ――いや……すみませんが、失礼する。ここで話しても、埒が明きそうにない。お父上にお話を伺わせていただく」
おーおー、必死コイて取り繕っちゃって。
余裕ぶった野郎をからかうのは、やっぱ痛快だねぇ。
硬い顔をして踵を返し、大股にホールを横切って、カイは廊下の先に消えた。その後を、慌ててファムが追う。
と、俺の顔に陰が落ちた。
エフィがすっくと腰を上げて、俺の前に立ったのだ。
「この――っ!!」
すぱぁんっ、と頬を叩く鋭い音が、ホールに木霊する。
「不埒者っ!!」
「……いってぇな。そう気軽にパンパン、ハタくなよ。恋人をぶっ叩いてるトコを使用人にでも見られたら、ヤバいんじゃねぇのか?」
「うるさいっ!!」
頬を押さてニヤニヤしてたら、エフィは全身をぷるぷる震わせた。
ああ、こりゃ相当怒ってんね。
「なんなの……なんなのよ、あんたっ!?どういうつもりなの!?」
「そりゃ、こっちが聞きたいね。俺は、あんたの目論見通りに、あのカイって野郎があんたを諦めるように仕向けただけだぜ。何が不満なんだか、分っかんねぇよ」
「それはそうだけど!!もっと、やり方ってものが――」
「あいつを傷つけもしなけりゃ、地元の有力者との関係も悪くならねぇように、なるべく穏便にってかい。なんとも都合のいいハナシだな」
「なっ――」
「勘違いすんなよ、お嬢様」
俺も立ち上がって、お嬢を上から見下ろす。
「俺がそこまで気を遣ってやる義理はねぇよ。ったく、こっちは無理して契約外の下らねぇ三文芝居に付き合ってやってんのによ、報酬が張り手ってんじゃ割りに合わねぇや」
「……」
目をまん丸にして、口をぱくぱくさせてやがんの。
あんま面白い顔すんなよ。思わず、噴き出しちまったじゃねぇか。
「俺はこういうヤツなんだよ。あんただって、不埒なロクデナシって思ってた筈だろ?俺のやり方が気に喰わねぇってんなら、最初から素直にファングの野郎に頼みゃ良かったんだ」
あいつなら、お嬢様のお望み通りに、立派過ぎる恋人役を演じてくれただろうぜ。
「ま、俺を指名したあんたの、自業自得ってことで」
「あなた……見損なったわ。最低ね」
「とはまるで、今までは評価してくれてたみてぇな物言いだな。とても、そうは見えなかったぜ?」
「この――っ!?」
エフィが振り上げた平手を、俺は掴んで止めた。さすがに、これ以上ハタかれちゃ堪んねぇや。
「いいじゃねぇか。どうせ、あいつがお父様とお話すりゃ、さっき俺が言ったようなことはバレちまうんだからさ。ハナシが早くなってよかっただろ?他人からまた聞きでフラれた事を伝えられるよりゃ、手前ぇで引導渡してやった方が、よっぽど親切だと思うけどね」
「偉そうに、知った風な口利かないで。あなたなんかに、そんなこと言われたくないわ」
そりゃ、ごもっとも。
「最っ低。とにかく、今日はもうあなたと話したくないわ。顔も見たくない――私はこのまま自室に下がりますから、独りで勝手に離れに帰ってちょうだい」
「はいよ。ガキの遣いじゃあるまいし、俺も別にお見送りなんて必要ねぇしな」
「黙ってさっさと行きなさい!あなたはいつも、ひと言多いのよ!!」
「へーへー……あ、そうだ。明日は、そのなんとかいう島国から来たってヤツに、渡りはつけてくれんだろうな?」
「言われなくても、明日になったらちゃんと顔を出しますっ!!いいから、私の前からさっさと消えてよっ!!」
「あいよ――恋人なんだし、お休みのキスでもしとくか?」
「ふざけないで!!誰があんたなんかと!!」
「お〜、怖ぇ。そんじゃ、また明日。お疲れ〜」
鬼みたいな形相のエフィに背中を向け、俺は軽く片手を上げてホールを後にした。
まったく、愉快痛快ときたモンだ。
腹の底から、笑いが込み上げてくるね。
すげぇ久し振りに、ガキの時分みてぇな、いい加減な自分を取り戻せた気がするぜ。
やっぱ、こうでなきゃな。
ここんトコずっと、俺はどうかしてたんだ。
柄にも無く、マジんなっちまってさ。
悪ぃけど、お嬢。俺は、あんたに同情なんてしてやらねぇぜ。
あんたの気持ちなんて、考えてやるつもりはねぇんだよ。
大体だな、普段から文句ばっか聞かされてんのに、なんで俺だけ気を遣ってやらなきゃいけねぇんだ。
別に「そうしなくてもいい」んだってことを、すっかり忘れてたぜ。
いい加減に、適当に――マジんなったって、なんもいいこたありゃしねぇよ。
俺は、いい人――お人好しなんかじゃねぇんだからな。
ハッ、やれやれ、くそったれ。ご機嫌な気分だぜ。
己の口から漏れた笑い声は、やたらと乾いて俺の耳に届いた。
エフィを除く俺達は、到着と同時に通された離れで寝泊りすることになっていた。離れと言っても、そこらの一軒家よりよっぽど広い建物だ。
あちこち、いくぶん装飾過多で古臭いが、廊下の絨毯も深いし、適度な間隔で観葉植物とか置いてあったりして、雰囲気はそこそこ落ち着いている。
お屋敷のお嬢様が連れて来たとはいえ、よくもまぁ、俺達みたいな怪しい連中を、大して疑いもせずに置いてくれたモンだと思うよ。
どうせ、怪しさを微塵も感じさせない、ファングのクソ堂々とした態度が、屋敷の連中の心証を良くしたんだろうけどな。ひと目でタダ者じゃないと知れるあいつを見ながら、ヒソヒソ話を交わすメイドまで居たもんな――けったクソ悪ぃ。
部屋も余るほどあるので、その気になればそれぞれ個室で寝泊りできたが、例によってファングとアメリアは同室だ。
そして今回は、俺も姫さんと相部屋なのだった。
バカ、お前、別にヘンなこと考えてねぇよ。
ファング達と旅をしていた間、姫さんはいつもアメリアに抱きついて寝ていたそうで――そういや、エルフの洞窟への行き帰りも、毎晩シェラに抱きついて寝てたな――独りで寝るのはイヤだってんだから、しょうがねぇじゃねぇか。
ナニに及びたいファングとアメリアに邪魔にされちゃ可哀想だから、まぁ、抱き枕役を代わってやっただけのことだよ。
それにしても、思ったより帰りが遅くなっちまった。
姫さん、もう寝ちまったかな。
あてがわれた部屋の扉を開けると、廊下の灯りで室内の光景が照らし出される。姫さんがすやすや眠ってるのはいいとして、ほんの少しばかり予想と異なる点があった。
俺は手前の壁際にある低いチェストに置かれたランプを灯し、あまり明るくならないように炎を絞って、物音を立てないように細心の注意を払いつつ扉を閉める。
よし、大丈夫。起きてない。
うん。いい眺めだ。
ベッドの上では、エミリーとアメリアが抱き合って眠っていた。
待ちくたびれた姫さんが、付き合わせてたアメリアもろとも寝ちまったってところかね。
姫さんの寝顔は身悶えするほど可愛いが、いくらなんでもヨコシマな感情を抱く対象じゃない。短いズボンを穿いてるしな。
だが、ケツをこっちに向けて眠ってるアメリアは別だ。
こいつのスカートは、いつも丈が長くて、それが俺にはツマらなかったんだが、今は寝相のお陰で腿の辺りまではだけている。
う〜ん。思わず顎などさすりたくなる、なかなかのギリギリ加減ですね。
こいつ、いい尻してんなぁ。俺の好みより多少大き目だが、胸と尻がデカくて全身どこも柔らかそうなのは、アメリアの雰囲気に良く合っている。
「んん……」
アメリアが膝を擦り合わせてもぞりと動いたので、無意識にベッドの脇にしゃがみ込んでスカートの裾辺りを凝視していた俺は、びくっと立ち上がりかけた。
だが、どうやら、起きた訳じゃなさそうだ。
ビビらすなよ。
つか、今ので裾が、さらにめくれてるんですが。
うわ、ホントに後もうちょっとだよ。
裾を抓んで、ちょっと持ち上げたくなるのを、堪えるのが一苦労だ。
このもどかしさ。くぅ〜、やっぱこれだよなぁ、オイ。
唐突に――
俺は、あることを思いついていた。
なんで急に、そんなことを考えたのか分からない。
いや、衝動の源泉は、よく分かってる。解せないのは、唐突さの方だ。
こいつを――アメリアを、俺に惚れさせたら面白くねぇか?
俺は突然、そんなことを思いついていたのだった。
そりゃ、無理だってのは承知の上だけどさ。
こいつ、ファングにぞっこんだからな。
でも、例えばだ。
今ここで、無防備に寝こけてるこいつと、なにがしかの既成事実を作っちまったら?
んで、俺を意識させといて、今後は絶えずアピールを続ければ、あいつらの間に気まずい空気を作るくらいは出来るんじゃねぇの?
そうなっても、手前ぇは自信満々なままでいられるのかよ、ファング。
気付くと、俺はそっとアメリアに覆い被さっていた。
すぐ真下に、幸せそうな寝顔がある。
さらにその下では、姫さんがほっぺたをアメリアの胸に押し付けて寝息を立ててるから、あんまり派手なことは出来ねぇけどさ。
とりあえず、ふっくらした柔らかそうな唇くらい、手始めにもらっときますかね。
不意に――
リィナの顔が脳裏を過ぎった。
軽い既視感――
また、同じことをして傷つけるのか――
相手の気持ちも考えないで――
薄汚ぇ劣等感が増すだけ――
途端に、エフィと一緒だった時からこっち、ずっと持て余していた奇妙な苛立ちが、嘘みたいに霧散する。
ふぅ。
溶け出した力みが溜息となって、口から漏れた。
馬鹿か、俺は。
お嬢への態度といい、何に反発してるんだか知らねぇが――
これじゃ、苛立ちを上手く表現できねぇで、癇癪起こしてるガキと同じだぜ。
どこも自然じゃねぇ。
なにが、「俺はこういうヤツ」なんだか。
全然、らしくなんかねぇよ。
と――
俺の吐いた息が、顔に当たった所為だろう。
アメリアが、ぱちりと目を開けた。
超至近距離で、その目がバッチリ俺と合う。
「――おはよう」
俺は咄嗟に、そんな間抜けな言葉を口にしていた。
「あ――おはよぅ……ござぃまふ」
まだ寝惚けているアメリアが状況を把握する前に、俺は体を起こそうと慌てる。
「や、違くてだな、これは、その――」
「あら?私――寝ちゃってました?すみま――」
俺が身を遠ざけるより、アメリアが跳び起きる方が速かった。
ごっ。
「あぅっ!!」
いっ――てぇっ!!
額に物凄い衝撃を受けて、ベッドから転げ落ちる。
俺とアメリアは、お互いに額を両手で押さえたまま、言葉にならない声でしばらく呻き続けた。
いってぇ〜……額が割れたかと思ったぜ。間違いなく瘤になってるだろ、これ?
「悪ぃ……大丈夫か?」
「いえ……すみません、私こそ」
アメリアは涙目で額に手を当てながら、ちょっと頭を下げた。
いや、お前が謝んなくていいけどさ。でも、あんな近くに俺の顔があったのに、いきなり跳び起きんなよな……まぁ、この頭突きは天罰だと思うことにしよう。
「ごめんな。ホントに平気か?ちょっと見せてみ?」
「あ、いえ、あの、ホントにへっちゃらですから。私、おっちょこちょいなので、しょっちゅうどこかに頭をぶつけてるんですよ?」
いやぁ、それもどうなんだろうな。
「まぁ、大丈夫なら良かったけどさ。ホントに、ごめんな――でも、今のは俺が悪かったけど、普段はもうちょっと気をつけた方がいいぞ?女の子なんだしさ、怪我して傷でも残っちまったら大変だろ」
「ありがとうございます。でも、普段はちゃんと気をつけてますから、大丈夫ですよ?」
発言の矛盾に気付いた様子もなく、にっこり笑う。
こいつの、この根拠の無い自信は、一体なんなんだろう。
まさか自分ことを、ジツはしっかり者だと勘違いしてるんじゃねぇだろうな。
「む〜……うるさいのじゃ」
姫さんがもぞもぞと体を起こして、眠そうに目を擦った。
さらさらの銀髪が、ばさりと前に垂れる。
「すみません、姫様――でもほら、ヴァイスさん、戻ってきましたよ?」
「……ずいぶん、遅かったのじゃな」
まだぼーっとしながら、姫さんがもぐもぐ呟いた。
「ホントにな。慣れねぇ芝居にずっと付き合わされて、お陰さんでクタクタだよ」
「あ、じゃあ、今日はもうお休みになりますか?」
エミリーの髪を撫でながら、アメリアが俺に尋ねた。
「……そうね。そうさせてもらおうかな」
「それでは、私はあちらの部屋に失礼しますね」
とか言いつつ、ぎゅ〜っとエミリーを抱き締める。
「お休みなさい、姫様」
「うむ、お休み――く、苦しいのじゃ!!」
すっかり目を覚まして、じたばた暴れる姫さんをようやく解放すると、お休みの挨拶を俺と交わして、アメリアは部屋から出ていった。
「まったく、あやつはわらわを、ぬいぐるみかなにかと勘違いしておるのじゃ」
俺は苦笑を返しながら、窮屈な服を脱ぎ捨てて、フクロから出した楽な格好にさっさと着替える。
「アメリアは、エミリーが可愛くて仕方ねぇんだよ」
もちろん、俺もだけどね。
ベッドに腰掛けると、姫さんが膝で歩いてにじり寄ってきた。
「なんじゃ、ホントに疲れた顔をしておるな。それで、どうだったのじゃ?上手くいったのか?」
「まぁ、な」
別れ際、エフィに引っ叩かれた頬が、熱を帯びた気がした。
「まだ、分かんねぇけど……多分、エフィは結婚しなくて済むんじゃねぇのかな」
「そうか。それは、良かった……のじゃな?」
姫さんの語尾は、自信無さげな疑問形になった。
エルフには、結婚って制度が無いそうだ。あの隠れ里は、全体でひとつの大きな家族って感じだったし、説明されてもいまいち感覚が分からねぇんだろう。
「良かったのかどうかも、まだ分かんねぇなぁ。案外、エフィは結婚しちまった方が、幸せだったりするのかも知れねぇしさ」
「そうなのか?でも、相手の男のことを、あやつは『好き』ではないのじゃろ?」
「それは……そうみたいだな」
「ならば、何故ケッコンをした方が幸せかも知れないのじゃ?わらわは、ケッコンというのは、好きな者同士でするものだと聞いたぞ」
相変わらず、率直に質問するね。
「だから、俺にも分かんねって。まぁでも、別に『嫌い』って訳でもないみたいだしさ」
「ふむぅ。にくからず思っている、というヤツか。じゃが、ケッコンするほどには『好き』ではない、そうゆうことじゃな?」
お、憎からず、なんて微妙な言葉を覚えたのか。意味を正確に把握してるかどうかは別にして。
「さぁ、どうだかねぇ。町の連中のひとりとしては憎からず思ってても、相手の男に個人的な興味は抱けずにいるってトコじゃねぇの」
「……何を言っておるのか、よく分からぬのじゃ」
「そうだな。人間の『好き』だの『嫌い』だのは、無駄に複雑なんだよ。結婚にしたって、必ずしも好きなモン同士が一緒になるって訳でもねぇしな」
「そうなのか。頭がこんがらがりそうなのじゃ」
世界で一番の難問を前にしているような、しかつめらい顔をする姫さんに笑いを誘われつつ、俺はベッドに身を投げて横になった。
「あんまり難しく考え過ぎない方が、上手くいったりするみたいだしさ――ほら、そろそろ寝ようぜ。エミリーも眠いだろ。起こしちまって悪かったな」
「それは、構わぬのじゃが……」
仰向けのまま肩でずりずりと移動して、枕の上に頭を乗せた俺を横目に、エミリーはベッドにぺたんと座り込んだまま、頭と長い耳をうな垂れていた。
「どした?やっぱり、アメリアと一緒の方がよかったか?」
「……違うのじゃ。あっちには、ファングもおるしな。知っておるじゃろ?あやつはイビキがうるさくてかなわぬのじゃ」
姫さんは、鼻に皺を寄せてみせる。
「平気な顔をして隣りで眠れるアメリアの気が知れん。じゃから、わらわはこっちの部屋の方がよいぞ」
「じゃあ、ほれ」
ぽんぽんと、脇のシーツを叩く。
「アメリアほど柔らかかねぇから、抱き枕としては物足りないかも知れねぇけどな」
俺の軽口に、エミリーは反応しなかった。
代わりに、ようやくこちらを向いて、珍しく言い辛そうに口篭もってから、結局口を開く。
「お主がシェラ達と別れた理由も……お主と、あのイジワル女――マグナの『好き』や『嫌い』が、原因なのじゃろ?」
俺は、咄嗟に返事ができなかった。
「すまぬ――お主が言い辛そうにしておるのは分かっておったし、わらわは思ったことをすぐ口に出し過ぎると、いつも叱られておったのもしょうちしておるのじゃがな……我慢できなかったのじゃ。気を悪くしたなら、許すがよい」
「いや、いいよ」
そうだよな。
やっぱり、気になってたよな。
「俺の方こそ、ごめんな。ずっと適当に誤魔化しちまって」
「うむ、まったくなのじゃ。じゃが、許す。特別じゃぞ?」
俺がおいでおいでをすると、姫さんはころんと横になって、胸の辺りににじり寄ってきた。
ゆっくり頭を撫でながら、考えをまとめようとしたが、上手くまとまらなかった。
「ヴァイス?」
俺の溜息を聞いて、姫さんが顔を上げる。
「ああ、ごめん。違うんだ――どう話したらいいか、分からなくてさ」
「そうか。それは、わらわが人間の『好き』や『嫌い』が、よく分かっておらぬせいか?」
「いや――うん、そうだな……俺があいつらと別れた理由は、さっきエミリーが言った通りだと思うけどさ……それをエミリーに分かり易く説明する自信は、今は無いかなぁ。ぶっちゃけちまうと、自分でもまだ気持ちの整理がついてないんだよ」
整理のつかないままに引き摺ってるから、エフィにあんな態度を取っちまったし、アメリアにも馬鹿みたいなコトをしようとしちまった。
いま喋っても、グダグダの愚痴になるだけな気がする。そんなの、あんまり姫さんには聞かせたくないよな。
「ごめん。その内、ちゃんと話すよ。エミリーと別れてから、俺達がどうしてたのか――だから、もうちょっとだけ待ってくれるか?」
「よく分からぬが……分かったのじゃ」
「……ありがとな」
姫さんの次の言葉までは、少し間が空いた。
「いつか、わらわにも……」
「ん?」
「今のお主の気持ちが、分かる時が来るのじゃろうか……姉上のように」
人間と同じように人間を好きになって、湖に身を投げた姉さんのように。
「……正直、俺はあんまり、そんな時は来て欲しくないけどね」
「なぜじゃ?なんで、そんなこと言うのじゃ?」
「だって、姉上のようにってことはさ、どっかその辺の人間を、姫さんが好きになるってことだろ?それは、なんかヤダなー、俺」
「ふむ。やきもちとゆうヤツか。安心せい。たとえ誰か他の人間を好きになったとしても、わらわはヴァイスを嫌いになったりはしないのじゃ」
それはまた――嬉しいんだか、嬉しくないんだか。
「なんじゃ。なにを笑っておる」
「いや……エミリーが姉上の気持ちを理解するのは、まだ当分先になりそうだな、と思ってね」
「なんじゃと!?わらわを馬鹿にするなと、何度も申したであろ!」
ごめんごめんと謝ると、姫さんはぶつくさ言いながら、もっと撫でろと言わんばかりに頭を突き出した。
肩まで毛布をかけてやり、並んで寝そべりながら、ゆっくり頭を撫でていると欠伸が漏れる。
姫さんの耳も、トロンと力無く垂れていた。
その耳が、時折ぴくんぴくんと痙攣するのだ。
うぅ……久し振りに、触りてぇ。
凝っと見てたら、いきなり姫さんが顔を上げて睨んできた。
「わらわの耳に触ったら、しょうちせぬぞ!?」
「へ?いや、なんもしてねぇじゃん」
「なんだか、そんな気配がしたのじゃ」
むぅ。侮り難し。
「うわー、そんな風に疑われると、傷つくなー。姫さんがイヤがることを、俺がする訳ないだろ?」
「……ホントじゃな?」
もう一度、俺を睨みつけてから、もぞもぞと丸くなる姫さん。
素直だから、好きだぜ。
「ふにゃぁっ!?」
もちろん、俺は耳に触ったのだった。
逃げる姫さんの頭を追って、指先をわしゃわしゃ動かしながら長い耳の裏をくすぐる。
「やめっ――はっ――んっ――うにゃあっ!!」
「いってぇっ!!」
振り回された姫さんの手が、アメリアに頭突きを喰らった額の瘤をばちんと叩いて、俺は思わず叫び声をあげた。
「なにをするっ!!この嘘吐きめっ!!」
うぐっ。瘤を叩かれるより痛いな、その台詞は。
「あ〜、いってぇ……いや、ホントは触って欲しくて、わざと言ってるのかと思ってさ。振りってヤツ?」
「何を言っておるのか分からん!!触るなと申したであろ!!」
「ごめんごめん。いや、くすぐったそうにしてる姫さんって、すげぇ可愛いもんだから、つい」
「フン、そんなおべっかを使っても無駄じゃぞ。今度やったら、わらわは向こうの部屋で寝るのじゃ。ファングのイビキがうるさくても、そっちの方がマシじゃからな。もう二度と、慰めてもやらぬのじゃ」
そりゃ困る。
「ごめん。反省する。ホントに、もうしねぇから」
「まったく……ダメと言われて余計にしたくなるのは、小さな子供だけなのじゃぞ」
「ごめんなさい」
まぁ、姫さんからしたら、年齢的には小さな子供みたいなモンですが。
またぶつぶつ文句を言いながら、はだけた毛布を掛け直し、エミリーは俺の手を持って自分の頭に乗せた。
今度は耳に触れないように気をつけて髪を撫でていると、やはり眠かったのだろう、ほどなく寝息を立てはじめる。
自然と、頬がほころんだ。
こいつといると、なんだかなごんじまうよ。
再会してからこっち、俺はずいぶん、姫さんに救われてるな。
さっきエフィと別れた時とは、心持ちが雲泥の差だ――お嬢に対する態度も、少しは改める努力をしないとダメかね。そう思うゆとりも生まれている。
なんでお互いに突っかかっちまうのか、いまいち分からねぇんだけどさ。
明日顔を合わせたら、とりあえず謝っとくか。
そんなことを考えている内に、いつしか俺も眠りに落ちていた。
翌日、ファングは早速、人攫い共の根城を発見すべく、町の周辺を探りに出掛けた。用向きが用向きだけに、さすがにアメリアはお留守番だ。
離れに厨房が備えられていることを知ったアメリアは、ファングのメシを手ずから用意したいようで、後で姫さんと買出しに行くらしい。
「アメリアを独りにして、不安じゃないのか?」
少し不思議に思った俺は、出掛け際にファングを呼び止めて尋ねてみた。
あいつはドジだし、俺と出会った日もゴリラとネズミみてぇなチンピラに絡まれてたし――まぁ、原因は姫さんだったが――必ず守り抜くと口で言ったはいいものの、いつでも傍らにいないと無理じゃないかと思ったのだ。
「あいつは、独りでは何も出来ない子供じゃない」
それが、ファングの答えだった。
「俺も、そのように扱うつもりはない。あいつは、お前が思っているより芯の強い女だ」
ああ、そうですか。
保護者と被保護者って関係じゃなく、お互いに信頼し合ってる訳ね。
「いちおう、それなりの備えはさせている。それに、あいつが本当に助けを必要とした時は、どこに居ようと必ず俺が駆けつける」
釈然としない俺の顔つきが気に喰わなかったのか、そう付け加えた。
はいはい、分かったよ。きっと、そうなんでしょうとも。聞いて損した気分だぜ。
俺はといえば、島国から助けを求めに来たっていう例の余所者に会いに、お嬢と一緒に宿屋へ向かう手筈だ。
昨夜は、態度を改めなきゃな、と反省した俺だったが――
無理です。
全然ムリ。
だって、お嬢が物凄ぇ不機嫌なんだもんよ。
ホントだったら、あんたの顔なんて見たくもない、ってな空気を力の限りに発散してやがる。つか、実際にそう言われた。
屋敷を出るなり、「近寄らないで!離れて歩きなさいよ!」とかツンケン言われて、距離を置いたままひと言も喋ってない。
仲直りとか言う以前の問題だ。
エフィの頭が冷えるまで、しばらく時間が経たないとダメかね、こりゃ。
少々意外だったのは、道行くエフィに声をかける町の人間が多いことだった。
こりゃどうも、お嬢様、とか頭を下げられて、エフィも俺には見せたことがないような笑顔で応じている。
ちょくちょく屋敷を抜け出して、町まで遊びに来てたってのは嘘じゃないらしい。
途中で道の開けた、ちょっとした広場に差し掛かった時なんか、そこらで遊んでたガキ共がわらわらと寄って来て、お嬢様エフィ様とか口々に囃し立てながら、自分達の輪の中に引き込んじまった。
屋敷を出てから、はじめてエフィがこちらをちらりと振り返ったので、小さく頷いてやる。
別に急ぐ用事じゃねぇし、ガキと戯れることで少しでもお嬢の気分が晴れればめっけモンだ。
ガキ共と一緒になってガキ臭いお遊戯をしている姿を、俺に見られるのが照れ臭かったのか、最初はやや困った顔をしていたお嬢も、やがて屈託の無い笑顔を見せる。ふぅん。笑うと年相応に、案外可愛いじゃねぇか。
広場に面したパン屋の店先に置かれたベンチに腰を掛け、ぼんやりとそちらを眺めていると、店のおばさんがお茶を運んできた。
軒先に二組ほどテーブルが並んでいて、簡単な飲食が出来るようになっていたので、頼んでおいたのだ。
さてと。
道すがらに目にした光景を、俺はお嬢ほど素直に受け取る気にはなれねぇからな。ちょっと探りを入れてみますかね。
「なぁ、ありゃ誰なんだい?ここらの連中とは、ずいぶん毛色が違うみたいだけど。もうちょい向こうで見かけてから、ずっと気になってたんだけどさ」
視線はエフィに向けたまま、中に戻ろうとしたおばさんに何気なしに声をかける。
俺とお嬢は、かなり離れて歩いてたからな。こう言っとけば、連れだとは思われないだろ。
「ああ、お嬢様のことかい?」
話し好きらしく、普通に返事をしかけたおばさんは、急に疑いの眼差しを俺に向けた。
「って、あんた、どこの人だい?まさか、お嬢様を――」
おばさんは、慌てて語尾を濁す。
ああ、うっかりしてたわ。そりゃ、人攫いが横行してる状況じゃ、余所モンには警戒するよな。
「いや、違う違う。俺のこと、人攫いじゃねぇかって疑ってるんだろ?そのハナシは道すがら耳にしたけどさ、俺がそんな悪党に見えるかい?」
「見えなかぁないね」
言葉とは裏腹に、おばさんの顔には苦笑が浮かんでいた。
そこまでやさぐれてるつもりはねぇし、ゴロツキにしちゃ、我ながら見た目に威圧感っつーか、迫力が足りねぇからな。
「カンベンしてくれよ。俺ぁただの善良な田舎の村人だよ。ほら、ここからずっと北の方にあるムオルって村、知らねぇかな?」
思い出が不自然に表情を歪ませないように苦労しながら、具体的な地名を出す。
「聞いたことないねぇ」
おばさんはそう答えたが、トボけてると仮定しといた方が無難だろう。
「ああ、そう。まぁ、ずっと北の小せぇ村だしな。いや、ホントちっけぇ村でさ、いつまでもあんなトコに引っ込んでちゃ先が無ぇってんで、外に出て一旗上げようと思ってね、とりあえずバハラタに向かう途中なんだよ」
「そりゃ、あんまり感心しないねぇ。親は、なんて言ってんだい。働き手に出ていかれちゃ、いい迷惑だろうにさ」
「いや、俺は次男坊だからな。家はとっくに兄貴が継いでるから、はいどうぞ、ご勝手にってなモンだよ。それに、俺みたいに村から出てくヤツ、結構多いんだぜ。半年くらい前にも、ひとりいたしな」
俺と「あいつ」が住む筈だった、家の持ち主とかな。
「……まぁ、北の方は、ここよりもっと暮し向きが厳しいってハナシは、聞かない訳じゃあないけどねぇ」
適当に事実を散りばめた俺の話を聞いて、おばさんはそれなりに納得したようだった。今だけ騙せりゃいい訳だし、この程度で充分だ。
「でさ、急ぐ旅でもねぇから、あちこち寄り道してるんだけどさ。そしたら、言っちゃ悪いけど、こんな田舎町にゃ似合わねぇ、あんな綺麗な髪したお嬢さんがいるじゃねぇか。それで、ちょっと気になっちまってね」
「あんた、あの方に惚れたって、そりゃ無駄ってモンだよ。ありゃあ、ここいら全部を治めてるご領主のお嬢様さ。あんたみたいな田舎モンとは、身分が違うやね。あたしらみたいな下々とは、まるきり別のお方だよ」
自分の住む町を田舎町とか言われて、おばさんはカチンときたらしかった。遥か北のド田舎から来たおのぼりさんに言われちゃ、無理もねぇけどな。
CCCCCCCCCCCCCCCCCCCC
「いきなり何言ってんだよ、おばさん。そんなんじゃねぇっての。ただ、あんまり毛色が違うモンだからさ……ふぅん。ありゃ領主のお嬢様なのか。町中をひとりでほっつき歩くなんて、ずいぶん気さくなんだな。その上あんだけ綺麗なら、さぞかし人気あるんだろ?」
俺もよく言うよ。鳥肌立ちそうになっちまった。
「まぁねぇ」
おばさんの微妙な反応は、ほぼ予想通りだった。
「ん?なんか、奥歯にモノが詰まったみてぇな言い方だな」
「よしとくれよ。含むトコなんか、なんにもありゃしないよ。領主様は、そりゃいいお方だし、お嬢様だって、あたしら下々にも普通に接してくださる、そりゃ可愛いらしいお方さ……ただ、ねぇ」
案の定、但しがついた。
「話し振りからして、あんたの田舎は違うみたいだけどさ……ここの領主様は、余所から来たお方なんだよ」
「ああ、なるほどね。余所モンに支配されてんのが、面白くないって訳か」
放っとくと、際限なく話が長くなりそうだったので、意図的に加速させてやる。
「なんてこと言うんだろうね、この人は!違う違う、あたしゃ、そんなこた思っちゃいないよ!」
おばさんは、慌てて体の前で両手を振って否定してみせてから、声を潜める。
「けど、そうだねぇ……そんな風に話してる連中も、まるっきりいないワケじゃないよ。まったく、領主様には、さんざお世話になってるってのにねぇ、バチ当たりなハナシさ」
やっぱりな――俺は内心で頷いた。
お嬢の話には、どうにも違和感があったんだよな。支配者層と被支配者層がくっきり分かれてんのに、そんなに快く受け入れられてる訳ねぇっつーか。
その辺りの機微を、部外者ヅラして町の連中に確かめてみたかったんだが、果たせるかな、エフィが言うほどには、エジンベア人達はよく思われてないらしい。特におばさんを含めた、事情を理解してる大人連中にはな。
本人の前ではいい顔をしてみせてるだろうから、お嬢が楽天的に考えちまうのも分かるけどね。あいつが思うより、両者の溝は浅くは無さそうだ。それを埋める意味もあって、今回の縁談話が持ち上がったんだろうし。
あいつ――この先、苦労しそうだな。
そういや、お袋さんも、もういねぇんだっけ。
「けどまぁ、お嬢様とカイの坊ちゃんが一緒になりゃ、妙なことを言ってる連中も、多少は大人しくなるだろうよ」
おばさんも、縁談話を連想したようだった。
「へぇ、そんなハナシがあんのかよ?そのカイってのは、地元のヤツなんだ?」
「そういうことさね。まったく、お似合いのお二人だよ。だから、あんた辺りが今さら横恋慕したって、そりゃまるっきり無駄ってモンさ」
しつけぇな、このババァ。
「カイの坊ちゃんは、そりゃシュッとした立派な方でねぇ。そうそう、この前もアレだよ、人攫いに連れてかれそうになった娘を二人も助けてさ。それに比べて、領主様は一体なにやってるんだいって、皆で話してたモンさ――あたしゃ、なにも言っちゃいないけどね」
ラスキン卿も、領民を魔物から守ったりなんだり、色々してくれてる筈なんだが。
人間ってのは、身近で起きた派手な出来事に、つい目を奪われちまうモンだからな。裏方仕事ってのは、どこでも報われねぇモンさ。なぁ、ラスキンさんよ。
「ここンとこカイの坊ちゃんは、人攫い共を捕まえるんだって張り切ってるよ――そうだ、あんた。もし腕に覚えがあるんなら、坊ちゃんが人を集めてるみたいだから、話を聞いてみちゃどうだい」
あいつも、ラスキン卿の歓心を得ようと必死って訳だ。
「よせやい。俺が荒事に向いてるように見えるのかよ?」
「そりゃそうだ。こりゃ悪いこと言っちまったね」
声に出して笑ったおばさんは、ふと表情を曇らせた。
「ただねぇ……人攫い共を捕まえてくれるのはありがたいんだけどさ、どこで雇ってきたのか知らないけど、得体の知れない怖い顔した連中を町ん中で見かけるようになっちまってねぇ……あたしゃなんだか、落ち着かないよ」
「まぁ、荒事師なんて、皆イカツイ顔をしてるモンじゃねぇの」
「おやまぁ、生意気に、知った口を利くじゃないか。まぁ、そりゃそうなんだろうけどさ。皆、あんたみたいだったら、あたしも怖かないんだけどねぇ」
おばさんはまた、アハハと声に出して笑った。
はいはい、どうせ俺には凄みがありませんよ。
「ご馳走さん。邪魔したな」
テーブルに代金を置いて席を立つ。
向こうで、お嬢がガキ共から離れる気配があったからだ。
紫煙
「あいよ。おっかない連中に絡まれないように、あんたもせいぜい注意するんだね」
おばさんは、代金とコップを手に取って戻っていく。
店中のおばさんから見えない位置まで移動して待っていると、お嬢は誰かと話しながらこちらに近付いてきた。
「――じゃあ、私はこれでお屋敷に戻りますけど、気をつけてくださいね、お嬢様。最近は、この辺りも昔ほど安全じゃないんですから」
話し相手は、ファムとかいうそばかす顔の側仕えだった。屋敷の中と違ってメイド服を着てないから、最初は誰だか分かんなかったぜ。用事で外に出てたみたいだな。
「ええ、分かってるわ、ファム。それじゃ、また後でね」
屋敷に向かうファムを見送っていたエフィは、「ばいば〜い」とかガキ共に声をかけられて、にこやかに手を振って応える。
「あんた、そんな顔も出来たんだな」
つい嫌味が口を突いて出た。
「なんですって!?」
エフィは表情を一変させて、ギロリと俺を睨め上げる。
おぉ、怖ぇ。
「私は、普段からこうです!私がおかしいのは、あなたの前だけなんだから!あっ――ちっ、違う、ヘンな意味じゃなくて、とにかく、あなたが悪いんですからねっ!?」
へいへい。どーせ、全部ワタクシメが悪ぅございますよ。
不機嫌なのは相変わらずだが、ガキ共と遊ばせたのが目論見通りに功を奏したのか、俺はお嬢様と並んで歩くことを許可されたようだった。
多分、「離れて歩け」と文句を言うのを、うっかり忘れてるだけだと思うけどね。
エフィによれば、目的の宿屋のすぐ側まで来た時のことだった。
十歩ほど先の路地から姿を現した男の二人連れを目にして、俺はその場で足を止めた。
「そこで止まれ」
やや大きい声で制止する。
「え?」
エフィも立ち止まって俺を振り返ったが、あんたに言ったんじゃねぇよ。
「手前ぇらのことだよ、ボンクラ共。止まれ。怪我してぇのか?」
「あぁ?何言ってんだ、お前ぇ?」
二人連れの風体は、明らかにカタギじゃなかった。どっからどう見ても、立派なゴロツキだ。
一旦は足を止めたものの、まだこちらに来ようとするボンクラ共に向かって、俺はお嬢を引き寄せながら重ねて制止する。
「いいから止まれ。魔法って知ってるか?俺は、魔法使いだ。ちょいと呪文を唱えりゃ、今すぐ手前ぇらを消し炭に出来るって寸法よ。分かったら、そこで止まんな、ボンクラ共」
俺の恫喝は、辛うじて連中を押し止めた。
「おいおい、兄ちゃん。なんか勘違いしてねぇか?俺達ぁ、別にあんたらに用なんてありゃしねぇよ。ただ普通に、道を歩いてただけだぜ?」
スットボけてんじゃねぇぞ。
手前ぇら、路地から顔を出すなり、お嬢のことをジロジロ見てやがったじゃねぇか。明らかに、待ち伏せてたろ。
カイの野郎が集めてるって柄の悪い連中かとも思ったが、何かが俺の頭に引っ掛かっていた。
こいつら――人攫いだ。
根拠がはっきりしないまま、何故か確信していた。
俺も、それなりに修羅場を潜り抜けてるからな。そういう勘が働くようになったのかね。
とか、この時は思ってたんだが、後になって考えてみると、まるきり違う理由だったので、内心で大いに赤面することになる。
尤も、俺はもちろん自分に自信なんて無いので、単なる勘違いだったらマズいよな、との見方も当然のように残している。
うん、後で面倒事に発展したら厄介だ。直接手は出さないで、追っ払うだけにしておこう。
それにしても、いくら人通りがほとんど無いとはいえ、こんな白昼堂々と、どういうつもりだ、こいつら?
「それともなにかい、いちいち兄ちゃんの許可をもらわねぇと、俺達ぁ道も歩けねぇってのかよ」
「動くんじゃねぇよ」
また前進しようとしやがったので、すかさず釘を刺す。
「それ以上、近寄ってみやがれ。問答無用で消し炭にすんぞ」
「ちょっと――」
お嬢が、少し怯えた顔を覗かせた。
悪ぃね、乱暴で。
けど、もうちょい近寄られて殴りっこになったら、あっさり負けちまう自信ならあるからさ、俺も必死なんだよね。
「おいおい、兄ちゃん。さっきから、なにカラんでやがんだよ。あんまナメてっと――」
「黙れ。回れ右して、さっさと消えろ」
「あぁっ!?ンだと、コラ――」
『メラ』
威力を抑えた炎弾が、ボンクラ共の足元で爆発する。
ビビれよ――頼むから――なにニヤついてやがる。
「あーあ、使っちまったよ」
「野郎の言ってた通りだな」
二人組は、薄ら笑いを見合わせた。
「知ってんだぜ?魔法ってのは、一回使っちまうと、次に唱えるまでやたら時間がかかるそうじゃねぇか」
「つまり、これでしばらくは、手前ぇはただのひ弱な兄ちゃんってワケだ。えぇ、色男?」
ちっ。ボンクラ共の分際で、誰に入れ知恵されやがった。
「別に俺達ぁ、そんなツモリはなかったんだけどなぁ?」
「そうまで期待されちゃあ、お望み通りに、そのお嬢ちゃんにちょっかい出さねぇワケにゃあいかねぇよなぁ?」
お嬢が、体を固くした気配があった。
「馬鹿が。誰がしばらく魔法を使えねぇだと?」
ヘラヘラ笑ってこっちに来ようとしたボンクラ共に向かって、腰から抜いた杖を突きつける。
「へっ、ハッタリこきゃあがって――」
『メラ』
さっきよりも至近距離で、炎弾が炸裂した。
ひっ、とか情けねぇ声をあげた馬鹿共に、俺はなるたけ余裕ぶって吐き捨ててみせる。
「間違ってるのは、俺か?手前ぇらか?――どこの阿呆に吹き込まれたか知らねぇが、生兵法は怪我の元だぜ、このタワケが」
タワケの発声が、ヴァイエルそっくりだったことに気付いて、軽く落ち込む。
ちくしょう、モノはついでだ。
「偉大なる大魔法使いヴァイエルが一番弟子たるこの俺を、そこらの木っ端魔法使いと一緒にすんじゃねぇよ」
ヴァイエルの名前なんて、こいつらが知ってるわきゃねぇが、要はそれっぽく聞こえりゃなんだっていいんだ。たとえ嘘でも、野郎を持ち上げてみせるのは、胸糞悪いけどな。
話が違うじゃねぇか、とか小声で言い合いをはじめるボンクラ共。
よし、ビビりやがったな。もう一押しか。
「もう警告はしねぇ。次は、殺すぞ」
だから、そんな引くなって、お嬢。
こいつらバカだから、直截的な表現じゃねぇと言葉が通じねぇんだよ。
馬鹿にも分かるように言ってやった甲斐があり、片方がペッと唾を吐き捨てると、ゴロツキ共はそそくさと立ち去った。
心の中で、安堵の息を吐く俺。
やれやれ。
言うまでもなく、俺はそこいらの平凡な魔法使いなのであって、なんとか誤魔化せてよかったぜ。やっぱり、ハッタリって大事。
俺は先っぽに赫い石の象嵌された杖を腰に戻す。ニ発目のメラを唱えられたのは、ヴァイエルのトコからくすねてきた、この『魔道士の杖』のお陰だった。
薬草にホイミ、毒消草にキアリーの効果を付与するのと似た仕組みだと思うが、簡単に言うと、この杖は呪文の効果を溜めておくことが出来るのだ。しかも、薬草なんかと違って、何回でも繰り返し使える。
ただし、使えるのはメラ限定。しかも、溜めておけるのは一回分だけだ。簡単な儀式で再び篭め直せるが、メラを唱えてもう一度唱えるのと同じくらい時間がかかるので、戦闘中は普通に呪文を唱えた方が手っ取り早い。
正直に言って、あんまり実用的な代物ではなく、ほとんどヴァイエルへのいやがらせ目的で盗んできたようなモンだが、まぁ、それでもハッタリの役には立ったな。
ふと気が付くと、お嬢が蒼褪めた顔をして、俺を見詰めていた。
「なんだよ、凝っと見て。惚れたか?」
「ばっ!馬鹿……言わないで……」
エフィの反駁に、いつもの元気が無かった。
お嬢様には、ちょっとばっかし刺激が強過ぎましたかね。
「ごめんな。怖がらせちまったか」
「そんなこと……ないけど――あなた……ちょっと、怖かったわ」
「いやぁ。俺も内心は、ヒヤヒヤでしたけどね」
おどけて見せても――まぁ、本心だが――エフィはくすりともしなかった。
「悪かったよ、脅かして」
「別に、謝ることないけど……勘違いだったらどうするのとか、色々言いたいこともあるけど……いいわ。いちおう、私を守ってくれたんですものね」
なんだ、伝わってたのか。全然、分かってねぇのかと思ったぜ。
「でもね――あんな態度、私には絶対に取らないでよ!?あんな――怖い顔とか、言い方とか……絶対なんだからね!?」
「ああ、もちろん……つか、そんな怖かったか、俺?」
凄みが利かねぇの、自覚してるんだが。
「べ、別に!!大して怖くなかったわよ、あんたなんか!!」
どっちだよ。
「でもまぁ、これまではどうだったか知らねぇけどさ、この件が片付くまでは、エフィは独りで町を歩かない方がいいな。俺でよけりゃ、いつでもお供するからさ」
「わ、分かってるわよ……」
まだ少し動揺しているエフィから視線を逸らし、俺はチンピラ共が去った方に目を向けた。
ホントだったら、あいつらの後をつけて、連中の根城を突き止めちまいたいところだけどな。エフィを連れてちゃ無理だし、かと言って独りで放っぽり出す訳にもいかない。
まぁ、そっちはファングに任せとけば心配ねぇか。なにしろ、お強くてご立派な、頼りになる勇者様だからな。
にしても、ちっとばかし見通しが甘かったみたいだ。ここまで物騒な事になってるとは思わなかったぜ。昨日、姫さんと歩いた時は、のどかな田舎町に見えたんだが。
帰ったら、アメリアとエミリーにも言い含めておこう。あいつらだけで出歩かせるのは危なっかしい。
このまま屋敷に戻ろうか迷ったんだが、目的の宿屋が目と鼻の先だったので、俺はエフィを促してそちらに向かった。
sien
宿屋に入って、帳場の向かいにある食堂の前を通り過ぎようとした時だった。
「あ――おい、ちょっとアンタ!!」
聞き覚えのある声に足を止めると、ティミがずかずかと歩み寄ってくるのが見えた。
相変わらず、殴られるんじゃないかって勢いだ。
「よぅ。悪ぃけど、今日はあんたに会いに来たんじゃねぇんだ。こっちの用事が、まだ終わってなくてさ――」
「そんなこた、どうだっていいんだよ!!――なんだい、また違う女を連れてるね。ま、いいさ――あんた、アリアハンでグエンの馬鹿を見たってのは、ありゃホントなんだろうね!?」
「へ?」
いきなり、何を言ってんだ、こいつは。
「――いや、ホントだけど?」
爪を噛むティミを、誰よこの失礼な女は?みたいにお嬢が睨んでる。
気の強い女が俺の好みだと、またティミに誤解されちまいそうな目つきだ。
「まぁ……そうだよね。アンタがウチに、あんな嘘吐く理由ありゃしないもんね。じゃあ、やっぱり、ウチの見間違いか」
「どういうことだ?」
「いや……さっき、その辺で、あの馬鹿を見かけた気がしたんだよ」
「その辺って……この町でか?いやぁ、そりゃねぇだろ。あんたも言った通り、ここにゃルーラじゃ来れないんだぜ?」
「だよね……いや、ハッキリ顔を見たワケじゃなくて、ホントにちらっとそれっぽいヤツを見かけただけだからさ……ウチの勘違い、なんだろうね」
「ああ、そういう事ってあるよな」
割りと最近、俺にも似たような覚えがあった。
最初に出会った時、ぶつかってきたエフィを「あいつ」と見間違えたんだ。全然、似てねぇのに。
ちらりとお嬢を見ると、なによ?みたいな視線を返された。
さっきまで青い顔してやがったクセに、もう不機嫌な態度を取り戻してやんの。
「よっぽど気になってんだな、グエンのこと」
なんだってまた、あんなヤツを。と思わずにはいられない。
「な、なに言ってんのさ!?この前、違うって説明しただろ!?ウチは、別に――」
「だって、全然違う別人に、あいつの面影を見ちまうほど気にかかってるワケだろ?」
いかん。からかったつもりが、これじゃ墓穴だ。
「だから、そんなんじゃないって――」
ティミの反論は、途中で立ち消えた。
バン、と大きな音を立てて、宿屋の扉が開かれたからだ。
「よかった――ヴァイス、やはりここにおったのじゃな」
肩で息をしながら、中腰になった姫さんが、息が整うのも待たずに叫ぶ。
「大変なのじゃ!!アメリアが――さらわれてしまったのじゃ!!」
ヘンなハナシだが。
ああ、やっぱり――そんな言葉が頭に浮かんでいた。
だって、アメリアっていかにも攫われ易そうっつーか。
だから言わんこっちゃねぇ。
ったく、ファングの阿呆が。
手前ぇがなんとかしてくれんだろうな?
またしても、自分の裡に沸き起こった奇妙な苛立ちを、俺は覚えていた。
ということで、第30話をお届けしました。
ちょっと書き方を変えたせいか、大した内容じゃない割りに、やたら長くてすみません。
分割しようか迷ったんですが、やっぱりここまでで一話にしたかったので。。。
ヴァイスの評判がまた落ちそうな気がw
でも、物語も半ばを過ぎて、いまだに普通のチンピラ相手に四苦八苦してる
ヴァイスくんが、私は嫌いじゃなかったりします。
つか、姫さまとは絶対一緒に寝かせないでおこうと思ってたのに、
実際にそのパターンも書いたのに、結局添い寝しやがったので、
やっぱり許せないと思いました。
あと、お嬢は最初に登場した時は、「う〜ん、どうなのかな、このコは」
と思ってたんですが、今回「なんだ、結構可愛いじゃん」とか思ってみたり。
私だけが思ってるのかも知れませんが。
さて、次回はラストだけは決まっているので、
今回よりはマシな筈。。。と信じたい。
いやー、どうやってラストにつなぐのかなぁ。。。
お疲れ。とりあえずコレ差し入れ。
つ焼き鳥三人前
この手の話はやはり…
いや、何でもないです
CC氏おつです〜!
ヴァイスめ、姫さんと添い寝して、さらに耳を触るとは!!
だけど、チンピラを相手にしてるヴァイスが
普通にかっこよく見えちゃったよ・・・(・ω・)
お嬢が可愛いには同意www
ヴァイス君も結構ツンデレなんだと思う今日この頃
ゴロツキなんぞベギラマ一発でこんがりウェルダンだろうにw
ゴロツキにも優しいヴァイス君萌え
面白い!
やっぱりヴァイスはドンドンレベルアップしてるような気がする
ま、至極ゆっくりだけど
479 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/25(木) 17:09:12 ID:N+GwkOwO0
CC氏乙です
ヴァイスが俺の姫さんに手を出したのに嫉妬したw
皆様、レスありがとうございました。
ヴァイスの評判が、思ったより落ちてないっぽくてよかったですw
次回、どうなるか分かりませんが〜。
こっから先は、毎回お話をでっちあげるのに苦労しそうな予感。。。
40話くらいからクライマックスに向かう感じが理想ですが、
さてはてどうなりますことやら。。。
このペースだと完結までには全100話くらい必要だろ、常考…
完結するのが先か俺達が死ぬのが先か・・・
いやいやいや、100話とか無理ですから。私が先に死ねますからw
来年の今ごろ、同じこと言われてたらどうしよう。。。いや、終わってる筈。。。
逆に考えるんだ
少なくともあと1年、多ければまだまだ数年は新作が楽しめると考えるんだ
間隔が月刊誌のようだな
逆に考えるんだ。1日1レス投下してたらほぼ毎日分だと考えるんだ。
。。。ダメですか。そうですね。ホント、申し訳ない。頑張ります><
いえ、何だか幸せな気分になってきました。
本編の投稿も非常にwktkなんだけど、
この投稿の合間のやりとりが楽しみだったりしてる。
よーし、そしたらパパ、書き込んじゃうぞー。
す、すいません。自分に関係無い流れの時は、大人しくしますから><
合間に全然動きが無いのもアレですし、1日1回ほど気晴らしに覗いて
保守と進捗報告がてらに書き込むのがリズムに組み込まれちゃってる
部分があるので、ある程度大目にみていただければと(^^ゞ
ちなみに、次回は思ったより進んでる感じ。この後、苦労しそうですが。
俺も一日一回はCC氏の保守が無いと何故か不安になるw
あ、あたしは別に不安になんかなってないんだからね!!
そうよそうよ!
ヘンな時間に保守されるくらいならさっさと寝て体調整えてさっさと書き進めなさいよ!
ヘンな時間に保守する時は、大抵書いてて行き詰まった気分転換
だったりするので、これが無いと余計に遅れてしまうとゆうか〜w
うぎ〜。。。こりはこのまま書いても巻き戻しだ〜。。。
も、もう寝るけど、別に行き詰まってフテ寝するんじゃないんだから!
体調整えて書き進める為なんだからね!!
CC氏ドンマイ
改めて一から読み直すと一話あたりの量の多さにびっくり。
で、やっぱ面白えんだわコレがw
行き詰ったら前回のアッー!!みたいな小ネタで気分転換するのもアリだと思うんだぜ?
でも本編放ったらかしは簡便な?
小ネタ→ウァイスパフパフ小屋に
じゃあ、ヴァレアを。。。いやウソごめんw
正直、もうずいぶん前から燃料空っけつで、皆様のレスで元気をもらって
どうにかこうにかここまで来てる状態なので、楽しんでいただけたと聞くと
大変嬉しいです。ありがたやありがたや<(_ _)>
さて、次回はなんとか進められそうな。。。忙しくなる前に形だけでも作りたい。
パフパフは、確かに本編より小ネタの方が使い易いかもw
ん〜。。。どうもピンとこないなぁ保守
うわ〜バタバタしてきちゃいました保守
曝しage
途絶えたw 牛歩保守
さて、いい加減ちょっと大人しくしてますね。
ちゃんと裏で書き進めますので(^^ゞ
保守
wktkほす
保守
CC氏が来ないとそれまた寂しいな…
すみません、ちょっと本気で身辺がバタバタしてきまして。。。
時間を見つけて書き進めますので、いましばしお待ちくださいませ
定期保守
保守がてら一人事。
CC氏の独り言のような保守も楽しみにしていたので、
時間ができたらでいいので、カキコしてほしいなぁ。
べ、別に身辺バタバタなんて、心配してないんだから、
とっととカキコしなさいよね!
嘘ですよ〜、ゆっくりでいいですよ〜。
そいでは、あんまり書き過ぎてもアレなので、タマにお邪魔しますね。
いちおう、お話自体はほぼ出来ていて、後は捻りと仕上げなんですが、
テンション上げないと難しいのに、バタバタしてて上げる暇がないとゆうか〜(^^ゞ
でも、私も早く書き進めたいので、なんとか頑張りますです。
期待しつつ保守
一日一保守
来たついでに保守してくよ
保守
期待待ちしながら保守
保守
保守るよー
どもです。既にてんやわんやですが、来週を過ぎちゃうと、もっとてんやわんやなので、
ようやく少し進められたし、来週中にはなんとか投下したいと思っております。
すみませんが、もう少々保守の方、よろしくお願いしますです(^^ゞ
CC氏キター保守
期待して待ってるぜ!
CC乙!!
期待して保守しとくよwww
保守
保守するよー
あっちもこっちもそっちもいっぱいいっぱいです。すみません><
週末頃にはなんとかしたい。。。週明けに間に合わなかったら、もうダメだw
い、いや、間に合わせますとも!!
ゆっくりでいいのよ
ダメじゃないわよ
週末だけど、まったりやろうぜ。保守は俺らがするからさ。
待ってるよ、CC氏。
今日だけでもう10回以上このスレを更新してしまった…
べ、別にゆっくり推敲してくれて構わないんだからね!
生涯一保守
ちと雑談なんだがDSドラクエ4買った人いる?
DS持ってないけどリメイクの出来がいいならDSドラクエ6わ買おうと思うんだけど。
スルッと保守。
俺の携帯は[ほ]と打てば勝手に【保守】、[つ]と打てば勝手に
【ツンデレ】に変換してくれる優れ物なんだぜ。
まあつまりヴァイエル先生は俺の嫁ってことだ。
う〜ん、まとまった時間が取れないせいか、自分でもびっくりするくらい筆が進みません。
うぅ。。。週末に間に合わなかった。。。すみません。。。
引越しやらお仕事の締め切りやらが迫ってて、この先身動きが取れなくなってしまうので、
なんとか来週の前半には投下しておきたいです。
もうちょっとあがいてみます〜。ホント、申し訳無い><
では、それまでの穴埋めは、私に任せて頂く。
いや実際、そんな長くはいられないので本当にちょっとばかしですが!
…別に、後腐れが悪いから一度だけ借りを返しに来たとか、そういうのじゃないぞ!…本当だぞ!
第四章「Loony and Warrior」
目前に巨大な鋏が迫る。
樹木の胴回りほどはあろうかという異様な重量感を備えた、歪な甲の塊。
まともに捕まれば、人の肋骨ごと臓物を破砕するだろう、暴力そのもの。
…視線をやる。それの向こう側には、地に伏したままこちらを睨め上げ、ぎょろりと外部に突出した双眸を爛々とさせる、人間大の体躯はあろう、蟹の化け物。
―――『二匹目』を砕いたままの体勢。腰を落とし、罅割れた殻の目から腸を吹き出した遺骸から意識を外す。
敵を屠った拳を開く。作る形は貫き手。
拳法において、その名の通り、相手の急所を指先で抉り抜く必殺の型の一つ。
狙いを定める。…目前の鋏は、まだ届かない。この時間を観測する者がいたとすれば、それはどの程度のものなのだろうか。
「ふむ。何れにせよ―――其れで私の首を獲ろうと云うなら、愚行が過ぎるぞ」
作った右手の矛を、化け物の烏兎、甲と甲の合わせ目に捻じ込む。同時にやや脱力させた五指を引き絞る。
踏み出した右足に敷かれた土は、二度の踏み込みに耐えられなかったのか、悲鳴を上げて幾寸か沈んだ。
「ギ―――」
肉の裂ける鈍い音の後に、筋の塊を貫く独特の感触が指を包む。
ぐるん、と化け物の眼球が一回りし、向き合う。視線の先は、敵の指先全てを飲み込む自身の眉間。
からす≠ニうさぎ≠フ名を冠したその場所は、人であれば絶対の急所。指の五本など侵入を許せば、いうまでもなく即死。
だが、敵も魔の祝福を受けたもの。形を残さない破壊≠ナあればいざ知らず。ただ指で突かれた程度では、例え急所といえど、その命を摘み取るには至らない。
化け物が己が中枢に走る激痛に、節を剥き出しにした六本足を無軌道にばたつかせる。
拍子に、土煙と…赤いカケラが、視界を汚した。
―――全く、不快極まりない。
最早かけてやる言葉もない。行き場を失ったように振り回される大鋏の付け根に左腕をかける。
「――――――破ッッッ!!」
未だ、化け物の体内にある右手が鉤を模る。
節を掴んだ左手を起点に、右腕が大きな半円の軌道を描く。
右の掌に握るは、深い緑を湛えた、数尺はあろう歪な一枚の外殻。
眼下の化け物は、引き剥がされた硬い甲羅の鎧の下…腸も、筋も、脳漿も、体液も。ありとあらゆる積載物を辺りにぶちまける。
びちゃびちゃと異質な液体を浴びながら、すでに動くことのなくなった化け物から意識を移す。
真実―――『三匹目』は、今の刹那に事切れていた。
「………云った筈だぞ」
直後。背後の『四匹目』に諭してやる。
とはいえ、疾うに聞く機能は残っていまい。ソレの聴覚、否、五感は全て、用を成さないはずだ。
「―――愚行が過ぎると」
ごとり、という重そうな何かの落下音を聞き届け、正中線を組みなおしながら振り返る。
眼前には、黒色に腐敗した黴でも混ぜたような肌の巨体。右腕の棍棒は振り下ろされることなく、宙(そこ)にある。
私を背後から殴打しようとした者は、亜人の類であった。四肢には、外傷らしきものはない。
そこに足りないものはといえば、そう。本来、首に位置していなければならないモノが、代わりにその足元に転がっていた。
手にした外殻を、振り下ろす。
外殻の縁を染めた亜人の血液は、奴の首を横薙ぎに両断した証。滴る紫色のソレは、主の胸に飛び散り足跡を残す。
大気の振動が伝わったか、亜人の亡骸が大地に崩れ落ちる。肥えた肢体は、倒れて尚視界の幾割かを占有するが、まあ、それはよしとしよう。
…行く手を遮るガザミ共の残りを、亜人の亡骸越しに視認する。
どうやら、群れの首魁はこの亜人だったらしく、彼奴等は統率を失い、狂ったようにこちらへ殺到する。
「三匹も倒せば、勝手も解ると云うものなのだがな。口で云っても承知すまい」
嘆息し、一度だけ呼吸を整えて、残りを迎え撃つ。
今更、こんな連中に遅れはとるつもりはないが、長期戦はもらった傷の具合からいっても都合が悪い。
結局―――化け物のほうから死に急いでくれたおかげで、そんな心配は杞憂となった。
サイモン、という勇者がいた。
大地の名を持つ名剣を携えた英雄。その男の勇者としての在り方は、酷く歪んでいた。
否―――或いはそれは、一つの到達点かもしれない。
彼自身の力量は、いうまでもなく勇者の称号に相応しいものであった。
だが、それをして尚。彼は、自身の目的を果たすための手段をも、選ばなかった。
敵を倒すために策略も用いた。不意打ちもしたし、寝込みも襲った。
それによって挙げる確実な戦果とともに、彼に浴びせられる民衆の感謝の思いと言葉。
…民の平和と安息。それこそが、サイモンが何よりも渇望した目的だった。
―――サイモンにとって、それは孤独な戦いだったと。誰が知ることができただろうか。
手に入れた名声と、平和に比例して、彼の武人としての誇りは、苛まれ、磨耗していく。
それでも、彼は勇者を目指した。目指して、しまった。
なって初めて、彼はソレに気づいた。
勇者は、人々を背負う者。より多くの人々を救うため、個人としての生き様を捨てなければならない。
勇者に圧し掛かるは、耐え難い葛藤の渦。自我と、勇者としての在り方との鬩ぎ合い。
それが誰かに押し付けられた役割であれば、逃げ場もあろう。生き方を改めることも、また許されよう。
その起源が、自身でないが故に。
だが逆に―――だからこそ、それは反証の余地のない真実として、彼に答えを出させた。
自ら望んでしまった勇者≠フ生き方に、出口などないのだ、と。
その行き着く先は、等しく終わりのない地獄なのだ、と。
…そうして、彼は最期の時まで、自身の決めた勇者≠ナ在り続け、この世を去った。
彼が息絶える時に脳裏にあったのは、別れの時まで、瞳に映る勇者として称えられる自分に憧れた息子の姿だった。
『嗚呼、もし叶うのなら―――最後まで、あの子が憧れた勇者という在り方が地獄でしかないことに、気づかぬように―――』
かくして、勇者サイモンの願いは叶えられ。
彼の息子は誰もが認めるほどの武人としての道を歩み、今も勇者の生き方に交わらずにいる。
その武人の名を―――エデンといった。
・ ・ ・
目を閉じ、意識を広げて敵の気配が一つ残らず消えたことを確認する。
襲撃した魔物の数はそれほど多くはなかったが、初見の敵ということもあり、幾つかの傷を負った。
深い傷ではないが、今後の戦いの可能性を考慮すれば、こういった損耗の蓄積は馬鹿にはなるまい。
「…全く。どうしたものかな」
右手に持った、化け物の外殻を擲つ。
いくら硬いといっても、生物の体の一部を成す以上、その強度の限界は常識を逸脱しないのか。既に十回以上は同族を蹴散らした外殻は岩壁に当たると、表面を埋め尽くした亀裂からそのまま瓦解した。
…あんなものでも、今は武器として振う必要があった。
何しろ、先ほどの敵だけでも全て未見の相手だった。これから新たに出会う敵が同様である虞は、十二分に考えられる。
己の未熟が悔やまれる。身一つを完全な武器として昇華しきるには、私には今少し鍛錬が及ばなかった。
…まぁ。この状況では、四の五の言ってもいられまい。
辺りを見渡してみる。草一つ生えない剥き出しの岩肌が、両脇に高く聳えている。
どこかの谷なのだろうか。城壁よりも立派な風貌の岩壁を見上げれば、崖と崖の間から顔を覗かせる赤い空が、ささやかに存在を誇示していた。
「黄昏時か。…厄介だな。夜の谷で野宿というのは」
野営をするにも火を維持するために燃やすものはないし、隠れる場所もない。
前後の道、その彼方を確認するも、まるで出口は見えない。
どことも知れない場所から移動するのに、休みなしで未知の敵との遭遇を想定して進むというのは、芳しくはあるまいが―――いつまでもこうしているわけにもいくまい。
まずはここから動くことが先決だろう。…こんな時に、呪文の心得でもあれば、傷を癒すなど選択の幅も広がろうというものだが。
「―――それもまた、一興。ただ戦うだけの道というのは、何とも私らしい」
同時に。見知らぬ敵との戦いに打ち震え、魔力の供えのない境遇に感謝する自分が存在することに、思わず苦笑が漏れた。
――――――それよりも、だ。最も気がかりなのは。
そもそも、何故私はこんなところにいるのか、ということだ。
深い谷間を進む私が身につけているのは、簡素な稽古着だけだ。
このなりで戦士だといっても、恐らく誰も信じてはくれまい。
…記憶を辿る。そう、私はサマンオサの山で、修行をしていたのだ。
それがどうして、いつこんな見覚えのない場所に来たのかは非常に曖昧だが、少なくとも私の身なりと、そして持ち物らしい持ち物がないことから、修行中の私に何かが起きて、ここに運ばれたことは間違いなさそうである。
私にとって、武装から身を離しての修行など、生まれてこの方、あの山に入ってからが初めてだったのだから。
…それにしても、皮肉な話である。
完全に丸腰の状態で、こんなわけの解らない場所に放り込まれたものの。
その丸腰の状態で、半端とはいえ修行を積んでいたおかげで、真っ当な戦闘を行うことができたわけだ。
いい修行とでも思っておけばよいか、などという楽観的な考えも一瞬浮かんだが。
―――気を抜いて、一息。大きな呼吸をしてしまったせいで、全てが興醒めになった。
「――――――全く。最悪の事実は得てして冗談のようだというが―――成る程。これは、この上もない、冗談だ」
…鉄の臭いが、鼻腔に充満する。
空が赤いのは、それら≠フためかと錯覚してしまいそうだ。
踏みしめる、岩壁に挟まれた大地の道を埋め尽くすのは。
夥しいほどの―――――――――人の、亡骸だった。
「人の血の臭い、か。…久しいな。近頃は、魔物としか戦っていなかったからな」
千差万別、種々雑多、十人十色、老若男女…あらゆる死体の見本市が、谷中に広がっていた。
首を裂かれ、腹を破かれ、骨を砕かれ、脳を潰され、皮膚を焼かれ、目玉を抉られ―――その有様たるや、奈落の閻魔帳も網羅せんばかりである。
大小地面からところどころにせり出している岩にも、例外なくそれらは引っかかるように、土気色を赤黒い血と肉で汚している。
それらはどこまで続くのだろうか。半里を進めど、屍達は一向に見送りをやめてはくれない。
真実をいえば、死体は私がこの谷に最初に立っていた場所からずっと、進むと決めた前は勿論、背を向けた後ろにも散乱していた。
足元に広がるそれらを、視界に納めども気にしないように進んできたが、流石にこればかりだと、心変わりもしようというものだ。
「…魔物にやられたのではないな。腐敗の具合と死体の数が、まるで釣り合わん」
足元の、手近な数体に目をやる。
不思議なことに、全ての死体の腐敗はある程度から全く進んでいないようだった。
魔物の襲撃を受けて命を落としたにしても、余りにも時間の足並みが揃い過ぎている。
生息する魔物の数が膨大であるのなら、それも或いは可能だろうが、あれから魔物が襲ってくる様子はない。魔物の数は、それほどでもないということだ。
そもそも、これだけの統一性のない種類の人間が、こんな何もない場所にどんな理由でいたというのか?…疑問をあげていれば、きりがない。
「………」
数拍。その場で黙祷を捧げる。
魔物の生息するような場所―――いわば戦場でそんなことをする気分になったのは、初めてだった。
…いや。或いは、忘れているだけなのかもしれないが。少なくとも、慣れない感覚であったのは、間違いない。
「では、行くか」
――――――そんな不慣れなことをしたからだろうか。
次の一歩を踏み出した瞬間に訪れた、今まで感じたこともない、異質な殺気に気圧されてしまったのは。
「―――――――――っ」
歩を進めた先は、全く別の空間だった。
否、傍目には、少しも変わらぬ地獄絵図なのだろうが。
五感が一瞬揺らぐほどの警鐘を、私の勘が打ち鳴らした。
畢竟――――――そこは、地獄ですらなかった。
「………は」
口内に張り付いた唾液を飲み下し、視線を前方に飛ばす。
大地を這う私の視界(せかい)を、様々な屍が通り過ぎてゆく。そしてやがて、そこに人以外のモノの屍も混じりだす。
その数、実に―――百体は優に超える。それ以上を、数えている場合ではない。
先ほどのガザミや亜人のほかに、そこには魚人や竜種の類も混じっている。
人の赤と魔物の紫。二色の血が混じりあい、大地はさながら咲き誇る血化粧の花畑。
そして、その花畑の中心に君臨するのが。
「馬鹿な―――何だ、アレは」
この空間の支配者が、そこにいた。
全身に密着する、橙色の上下一体の一揃い。その上から纏った青い法衣は、僧侶のもの。
腰まである長い黒髪は、飾り気がなくとも十分な美しさを備えている。
それを特徴付けるモノは、どれも文句のつけようもないほど人のものでありながら。
その持ち主である女性は、人の領域を超えていた。
「…よもや、な」
誰にともなく、愚痴を零す。
微動だにせず、数え切れぬ屍に祭られるように、彼らに囲まれる中、一人の年若い女性が立っている。
そう、どこからどう見ても、ただの女性。些か長身ではあるが、その肉付きを初めとして、体の端々には特別異常な点は見当たらない。
だというのに、彼女が私達とは全く異質な存在であるということは、嫌というほど感じ取れる。
その矛盾が故。彼女が人であることに、私は疑念を抱いている。ここに来て初めて出会った、同胞であろう存在に対して、だ。
周りに化け物の屍が散らばっていなければ、化け物の変化の可能性を考慮して警戒もしようが、そうではない。
この化け物を殺したのは、彼女だ。それだけは、確信を持って断言できる。
―――だが、或いは。この谷に転がる数多の亡骸を作り上げたのもまた、彼女ではないか―――?
そんな、詮のない仮定まで、脳裏に浮かんだ。それはきっと、彼女の凍りつくほど静かな殺気のせいだろう。
直立不動の姿勢。彼女は首だけを私に向けている。
爬虫類か何かのように、瞬き一つせず。彼女の空ろな瞳に、私は映っているのだろうか。
尤も、今はそんなことは問題ではない。彼女の発する殺気は、確実に私を捕捉している。
…距離は、軽く十間以上を挟んでいる。これだけ離れていようと、ここは既に彼女の射程圏内に位置する。
そう―――彼女の両手に構えられた短刀が、物語っていた。
女性の右足が、静かに踏み出される。たったそれだけの動作が、例えようもなく、美しい。
…小さな嫉妬を抱く。彼女は、既に至って≠「る。そうでなくとも、私より高みにいることは確かだろう。
あのか細い体を鍛えることもせずに、あれほど自然に。
「―――ッッ!」
一瞬の迷い。いや、仮令、万全の状態で迎え撃ったとしても、ソレから逃れることは出来なかっただろう。
眼下には懐に踏み込んできた彼女の姿。一対の短刀が、私の手首の関節付近に突き刺さる。辛うじて、脈と腱からは逸らすことが出来た。
筋を断つにはやや足りない。彼女が私の体躯を読み違えた、と考えるか。或いは、敢えて外してくれたと己を卑下するべきか。
「ちっ―――!」
―――どうする?この状況だ、人間であれば、出来れば戦わずに済ませたいが、この殺気は、話して解る相手かも危うい。
だが、まともにやり合って、勝てる相手かどうか。正直、望みは薄い…っ。
※エデン選択 選択肢安価
>>540 ニア・応戦する。
・今はとにかく防御に徹する。
ニア・応戦する。
・今はとにかく防御に徹する。
YANA氏来てる! 乙です。
かなり凄惨な場所に来ているお二人ですね。
どのような状況なのか分かりませんが、この選択で。
・・・え、バッドエンドに向かいそうな選択?
YANA氏乙です!
リングネーム、デアボリックデスバーストとル・ラーダ=フォルオルが出会った時でしょうか
相変わらずのかっこいい文章に惚れました
そいではワタクシも。
もうギリギリのリミットなので、明日の明け方くらいにはなんとかしようと思いますです。
言い切らないトコが弱い。フラフラなので、明後日かも(^^ゞ
CC氏キタコレ! 正座して待ってます。
フラフラだなんて言って……む、無理すんじゃないわよ!
いっそ一晩ぐっすり寝てからにしなさいよ……
>>540 把握。大丈夫、メインキャラ同士の戦いなら、そう簡単に死亡フラグは立たないもんです。
だが例によって、速度はあまり期待しないでくれ!(ぇー
>>541 ありがとう、そういってもらえると嬉しいです。
今回も前の短編に引き続きちょっとした試みをしてみましたが、それが功を奏したと思いたいところです。
あと誤解を受ける前に、死魔炎殺光やドヴァ魔法について少し。俺は厨二的なネーミングは嘲笑的な感情抜きでも結構憧れてます。
昔っからネーミングセンスが皆無(悪い、でない点がミソ)な俺にとっては、他者の目にどう映るかは別にして、
自分が酔いしれるほどのネーミングを自分で作れるということは素直に羨ましいです。
自分自身で好きだと思えるモノを作ることすら出来ないのに、人に好きだと思わせるモノを作ることなど出来るはずもないわけで。
無論それだけでも駄目なので、日々自分には何が足りないのかを模索しては試行錯誤を繰り返して悶えてます。
こんな俺に付き合ってくださる方は、とっても人間出来てると思います。ヴァー。
よく出来ておる喃
時間がオニのよーなスピードで過ぎていく。荷造りヤバい、マジやばい。
でも、投下する。読み直して目を覆わなければ、数時間後に投下予定でふ。
大変遅くなり申し訳ありませんです。ぐっすりお休みになってから、どじょ。
接続環境までギリギリだわw
>>CC氏
いつもお疲れ様です。
31. Let's Pretend We're Married
「ヴァイス!こっちじゃ、早く!!」
泣きそうな顔をして、姫さんが俺の手を引く。
「なにを呆っとしてるの!?早く行かなきゃ!?」
エフィもまた、蒼褪めた顔で俺を急かす。
だが、俺はすぐに動こうとせずに立ち尽くしていた。
宿屋にまろび入ってきたエミリーに、アメリアが攫われたことを告げられて、ともあれ表に出たところだ。
事情が事情だから、例の島国から来たとかいうヤツに話を聞くのは後回しだな。
それはいいとして――
「ヴァイス!?なにをしておる!?」
姫さんの焦れた悲鳴。
さて、どうしたもんかね。
「……まぁ、待てよ。まずは、お前らを屋敷に帰すのが先だ」
お前らまでかっ攫われたら、話が余計にややこしくなっちまう。事実、エフィはさっき、かどわかされかけたばっかなんだぜ。
二人だけで帰らせる訳にもいかねぇし、ひとまず俺も一緒に屋敷まで戻るしかない。
手短にそれを説明すると、姫さんは髪を乱してぶんぶんと頭を振った。
「イヤじゃ!!わらわも助けに行くのじゃ!!アメリアがさらわれたのは、わらわを庇ったせいなのじゃ!!」
「そうよ、そんなこと言ってる場合なの!?足手纏いなのは分かるけど、私達は隠れるなりなんなりしてればいいじゃない!はっきりと想像はつかないけど……でも、事態が一刻を争うのは、確かなんでしょう!?」
まぁ、それはそうなんだ。
時間を置けば置くほど、お嬢には想像すら出来ないようなコトをアメリアがされちまう可能性は高くなる。
だから、困ってんじゃねぇか。
けど、こいつらを連れて行くっていうのもな――
『連れて来た以上は、必ず守り抜く。それだけの話だ』
うるせぇ、ファング。黙ってろ。俺は、お前とは違うんだよ。
だが――
「それに、お主だけでは、どこに連れて行かれたか分かならいであろ?途中まで後をつけたから、わらわは分かるのじゃ!!じゃから、ヴァイス、早く――」
この姫さんの台詞が決め手だった。
仕方ねぇ。このまま行くか。
アメリアには、昨日の晩に妙な真似しかけた借りもあるしな。
この時言葉に出来なかった、もやもやとした苛立ち。
それはきっと、状況に流されることでしか判断の出来ない自分に対する苛立ちだった。
「あやつら、最初からわらわ達のことを知った上で、狙っておったようなのじゃ」
エフィの屋敷とは逆方向、町外れに向かって走りながら、姫さんはそう語った。
人攫い共は顔は知らない様子だったらしいが、アメリアのメイド服も姫さんの容姿も目立つからな。並んで歩いてれば、目印には充分だ。
とはいえ、俺達はつい昨日、この町に着いたばっかなんだぜ?
解せねぇ話ではあるな。一体、誰がゴロツキ共に、二人のことを教えたんだ?
俺とお嬢が待ち伏せられてた件もあるし、なんだかキナ臭ぇ。まるで、準備万端で待ち受けられてたみたいじゃねぇか。
俺達の場合と同じく、やはり二人連れだったらしい人攫い共に名前を尋ねられて、アメリアは素直に頷いてしまったのだという。
「わらわには悪い人間じゃと、ちゃんと分かったのじゃがな」
エミリーはそう言ったが、ゴロツキ丸出しのあの風体じゃ、あんまり自慢にはならねぇかな。
すぐに本性をあらわしたゴロツキ共から、姫さんはアメリアを引っ張って逃げようとしたのだが、とても振り切れそうにない。
そこで、アメリアが隠しから取り出したのが、『斑蜘蛛糸』だった。
どうやら、ファングの言ってた備えの一端だろう。冒険者がタマに使う道具のひとつで、投げつけると粘着質の糸が絡み付いて相手の動きを封じてくれるってなシロモノだ。
ところが、走りながら取り出して後ろに向かって投げる、という動作はアメリアの運動能力の限界を超えていたようで、放る前にぽとりと落としてしまったんだと。
しかも、地面に落ちた『斑蜘蛛糸』に、自分の足首を絡み取られてズッコケちまう始末だ。
あのな、ドジも時と場所を選べよな。
慌てて腕を掴んで引っ張り起こそうとした姫さんを、アメリアは突き飛ばした。
「姫さまは逃げてください!早く!」
逡巡するエミリーに、アメリアは重ねて口を開く。
「私なら、大丈夫です。ファング様が、きっと助けてくれますから」
そう言って、にっこり笑ったそうだ。
アメリア程ではないにしろ、姫さんにも半分くらいは、その言葉を信じられた。三人で旅していた時も、アメリアの危機には必ずファングが駆けつけたのだから。
「それに、わらわまで一緒に捕まってしまうよりは、助けを呼んだ方がいいと思ったのじゃ。それで、わらわはアメリアを置き去りにしたのじゃ……」
己を責める口振りで、姫さんは沈んだ声を出したが、いや、いい判断だったと思うぜ。
自分だけ助かろうだなんて、姫さんが考える訳ないのは分かってるしさ。
アメリアを捕まえて、とりあえずよしとしたのか、脱兎の如く逃げ出した姫さんを、人攫い共はあまり本気で追わなかったという。
エミリーはそこらの家屋を回り込んで引き返し、物陰に身を隠しつつ後をつけて、アメリアがどこに連れてかれようとしているのか確かめたそうだ。こうして無事だったからいいものの、あんま無茶すんなよな。
だが、それも町外れまでのことで、それ以上は見晴らしが良すぎて尾行がままならず、草むらを挟んだ先に見える森の奥に消えたことを確認すると、俺達が宿屋を訪れる段取りを思い出した姫さんは、急いで助けを呼びに戻ったのだった。
「ここじゃ。この辺りから、アメリアは森の中に連れて行かれたのじゃ」
いくらか息を弾ませて、姫さんは森の手前で足を止めた。
お嬢は両手を膝について、口も利けないくらいに荒い呼吸を繰り返している。
途中から手を引いてやったんだが、それでもある程度はお嬢のペースに合わさざるを得なかったので、足手纏いは足手纏いだけどさ。でも、まぁ、そんな走り難そうなひらひらしたスカートで、よく頑張ったよ。
「こっから先は、しらみつぶしに探して回るしかねぇってことか」
そんなの、本来は人数が居ねぇと無理なんだけどな。言ってる場合じゃねぇけど。
リィナがいりゃ、下生えに残る足跡を頼りに追えたかも知れないが――そんなことを考えていた俺に、エミリーは首を振ってみせた。
「いや、いま尋ねてみる。少し待つがよい」
いくらか森に踏み込んで、力を抜いて楽に両手を広げ、やや上を向いて目を瞑る。
大して風も吹いてないのに、梢のささやきが森の奥に向かって広がった気がした。
しばらくすると、遠くで、近くで、葉擦れの音がそこかしこから、さわさわと聞こえてくる。
やがて、ぴくんぴくんと長い耳を震わせていた姫さんは、ぱちりと目を開けた。
「お主らに感謝を――すまぬ。見知らぬ者達じゃから、少し手間取った。こっちじゃ」
確信を持って走り出す。
俺と顔を見合わせたお嬢は、訳が分からないといった風に首を捻った。
もしかして、エミリーは今、おとぎ話よろしく木々と会話したってのか。
さすがはホンモノ、いつかのリィナとはワケが違うね。
再び走りはじめてほどなく、元から息の整っていなかったエフィが根を上げた。
「ごめ……ちょ……待って……」
森に入ってから、エミリーの走るペースが異常に早い。お嬢どころか俺まで、必死コイても置いてかれそうだ。
「なにをしておる!急げば追いつけそうなのじゃ!!」
エミリーが焦れったそうに、その場で足踏みをする。
「しょうがねぇ。おぶされ」
背中を向けてしゃがんでみせると、お嬢は一歩後ろに足を退いた。
「い、いやよ、そんな、あなたなんかに……」
「言ってる場合じゃねぇだろ?」
俺だって、誰かを背負って走れるようなガラじゃねぇんだ。それでも、お嬢がのたのた走るよりゃ、多少はマシだと思って言ってやってんじゃねぇか。
「そうよね……ごめんなさい」
珍しく殊勝な顔をして呟き、お嬢は俺の背中に乗った。
あれ、意外なほど軽い。これなら、イケるか――
と思えたのは、最初だけでした。やっぱ、キツいわ。シェラを背負って野山を駆けずり回ってたリィナに、コツってのを教わっときゃよかったぜ。
エミリーが木の根や下生えなど、走り難い場所を避けて先導してくれたお陰で、なんとか小走り程度のペースは保つことができた。
それに、邪魔な枝葉が自ら避けてくれるような按配で――俺は、エミリーとはじめて出会った時の、にやけ面共から全力で逃げた場面を思い出していた。
「もうすぐじゃぞ」
歩調を緩めたエミリーが声を潜めて囁いた時には、俺にも見えていた。
視線の先に、それまで密集していた木々が急に開けた、かなり広い空間がある。
もう少し進むと、広場の端にひどく古ぼけた小屋が見えた。
小屋と言っても小さいモンじゃなく、平屋の造りからして倉庫として使われていたんだろう、普通の家屋よりも余程大きな建物だ。
永らく手入れもされずに放置されていたと見えて、木造りの壁はあちこち朽ち果ててボロボロだった。
おそらく、すぐ裏手を流れている川を利用して町まで運ぶ伐採した木材を、一旦置いておくような用途で建てられた物だと思われた。
シエn
人攫い共が根城に使っているのは間違さそうだが、ここはその「ひとつ」に過ぎないだろう。
だって、いくらなんでも町から近過ぎる。こんな場所にずっと腰を据えてたら、これまでラスキン卿の手勢に発見されていない方がおかしい。居場所を突き止められないように、何箇所か用意したアジトを転々と移動しているのだと考えるのが自然だ。
まぁ、そんなこと、今はどうでもいいけどさ。
お嬢を背中から下ろし、今度は俺が先頭になって、草薮で体が隠れるように腰を落として倉庫に忍び寄る。
繁みの隙間から覗いた先には、予想外の光景が広がっていた。
ゴロツキ共が、全部で十人以上もゴロゴロと地に伏しているのだ。
何があった――と考えるまでもなく、忌々しくも察しがついた。
ファングの野郎だ。
町からの距離と、川べりという立地を考えれば、あいつが先んじてここを発見していても、それほど不思議じゃない――ホントにアメリアのピンチに居合わせてやがるよ、くそっ。
なんか知らねぇが、すげぇ苛々する。
「――ったく、てこずらせやがって」
その声は、倉庫の中から聞こえてきた。
倉庫の前面を半分以上も占めた幅の広い出入り口は、扉が朽ちて無くなったのか、完全に開け放しだ。
角度を変えて、上手く中が覗ける位置まで移動した俺は、思わずズッコケかけた。
「お前ぇらが、そのオンナ連れくんのがアトちっと遅れたら、危ねぇトコだったぜ。やっぱ、トンでもねぇ野郎だな、コイツぁ」
我が目を疑うことに、そこに居合わせたのは――なんと、ゴリラの兄貴だった。
いや、ほら。俺が昔、アリアハンでパーティを組んでたケダモノ兄弟の兄貴の方だよ。
ちょっと待ってくれ。
俺はさ、ひょっとしたら、グエンの野郎が絡んでんじゃねぇかとは予想してたんだ。ティミが見かけたようなこと言ってたからさ。
けど、コイツは意外もいいトコだ。なんでここに、あのバカが居やがるんだ?
「いやよぉ、まさか、こんなコトになってっとは思わないじゃねぇか」
「これでも途中でちょっかいも出さねぇで、まっすぐ戻ってきたんだぜ?」
ゴロツキ二人が、交互に言った。奥に、もう一人見える。
「あやつらじゃ。あやつらが、アメリアをさらったのじゃ」
姫さんが小声で報告した。
紫煙
つまりだ。人攫い共のアジトを発見したファングが大暴れをしているトコに、間の悪いことにアメリアを攫った連中が戻ってきて、そのまま人質に取られて立場が逆転しちまったみたいだな。
「だが、まぁ、こうなっちまっちゃあ、ザマぁねぇな。えぇ、大将?たっぷり礼してやっから、覚悟しやがれ」
ファングは装備を解かれて、手足を縄でぐるぐる巻きにされて立っていた。
両腕を後ろ手に縛り上げられた状態で、さらに二の腕の辺りには縄が幾重にも巻かれており、しかも足首から脛にかけて戒められているという念の入れようだ。突っ立ってる以外に、ほとんど身動きもままならないだろう。
ちょっと見え難いが、倉庫の奥にはゴリラの背丈よりもずっと高く、切り口をこちらに向けた丸太が山と積まれていて、その上にアメリアの姿が見えた。
「アリアハンでの礼もな!!やっちまえ、兄貴!!」
そして、例によってネズミ野郎が、飽きもせずにアメリアにナイフを突きつけているのだった。人質とるしか能がねぇのか、手前ぇは。
「案ずるな、アメリア。すぐに助けてやる」
状況だけ見れば絶体絶命にも関わらず、ファングの声は落ち着いていた。
いつもと変わらない。
必ず、どうにかしてくれる。
確信めいてそう予感させる、この上なく頼り甲斐のある態度と口振り――ムカつく。
「はい、ファング様!」
アメリアの返事も、震えはしていたが明るさを失っていなかった。
「フハッ、手前ぇのザマが分かってボザいてやがんのか?いつまでンなタワ言ぬかしてられっか、試してやっか?おぁ?」
俺は、無意識に舌打ちをしていた。
ファングとアメリアのやり取りに呆れたんじゃなく――ゴリラの野郎と同じ感想を抱いちまった、自分に対する舌打ちだ。
「助けに入らぬのか?」
「私達なら、ここに隠れてれば大丈夫でしょう?」
両脇から、姫さんとエフィに囁かれる。
「……まぁ、待てよ。アメリアを人質に取られてるんだ。下手に動いても、ファングの二の舞だよ。もうちょい様子を見させてくれ。あいつらが、まだ俺達の存在に気付いてないってのを、最大限に活かさねぇとな」
俺は、そう答えていた。
嘘じゃないが――全部でもない。
試演
すぐに助けるとか――無責任に、ほざきやがって。
まさか手前ぇが、口だけなんてこたねぇよな?
そんな有様で、どうやってこの場を切り抜けるのか、見せてもらおうじゃねぇか、ファング。
「どれ。ちっと可愛がってやんな」
ゴリラが偉ぶって命じると、ゴロツキのひとりがファングに歩み寄った。
つか、ゴリラ兄。事の次第はよく分かんねぇが、お前、ゴロツキの親玉が似合い過ぎ。まるで違和感無いじゃねぇかよ。
「ヘッ、いいザマだぜ。これじゃ、いっくら腕っ節が立とうがおしめぇだなぁ?あぁ?」
首を妙な角度に曲げ、ヘラヘラ笑いながらファングを斜めに覗き込んだゴロツキは、おもむろに腹に拳を叩き込んだ。
「おらァッ!!――いってぇッ!?」
殴った方が悲鳴をあげる。
全身を戒められて突っ立ってるだけのファングは、しかしビクともしなかった。
「なんだコリャ、どういう腹筋してやがンだ、この野郎!?まるで岩でも殴ったみてぇだぜ」
「なっさけねぇな。どら、俺にやらしてみろや」
別のゴロツキが腕を回しながら前に出たものの、結果は同じだった。
腹いせに顔面をぶん殴られても、ファングはよろけもしない。
「バッカだなぁ、お前ぇらぁ。ンな硬ぇんならよ、手でぇ殴んなきゃあいいんじゃねぇかよぉ」
残るひとりのゴロツキが、怪しい呂律でほざきつつ、振り回すのに手頃な木材を片手にファングに近づく――いやおい、ちょっと待て。
「ケッ、手前ぇは元から、ガキも張り倒せねぇだろが」
「さっきまで隠れて震えてやがった下呂助が、偉そうにほざくんじゃねぇよ」
そうなのだ。
あいつ、下呂助だ。カンダタの手下の。
ってことはだ――
ここの人攫い連中って、バハラタの時と同じで、あいつらだったのかよ!?
あの時――そうか。ニックとの死闘をどうにか乗り切って、満身創痍だったリィナやフゥマを抱えてそれどころじゃなかったから、気絶した手下連中はそのまま放ってバハラタに戻ったんだ。
グプタからお上に報告がいった筈だが、捕まる前にまんまと逃げおおせてたってことか。そんで、河岸を変えただけで、凝りもせずにまた人攫いに勤しんでたのかよ、こいつら。
はっきり顔を覚えてるのは下呂助だけだが、お嬢を攫おうとした例のゴロツキ二人とも、おそらく俺は顔を合わせてたんだ。
それが、記憶のどこかに薄っすらと残っていて、だからあいつらのことを人攫いだと確信出来たんだ――うわ、恥ずかしい。特別な勘が働いた訳じゃなかったのね。
「うるっせぇよぉ。ニンゲン様が、道具使ってなにが悪ぃってんだ――ほれぇッ!!」
半ば辺りで折れ飛ぶ程の勢いで、木の棒は横殴りにファングの頭に叩きつけられた。
血しぶきが舞う。
さすがに堪え切れずに、地面に転がるファング。
倉庫からはアメリアの悲鳴、左右からは姫さんの唸り声と、エフィの押し殺した悲鳴が聞こえた。
「オイ、まだあんま無茶すんじゃねぇよ。あっさり死なれちゃ、腹の虫がおさまりゃしねぇんだからよ」
ゴリラが脇にしゃがみ込んで、倒れたファングの顔を覗き込む。
「へぇ、気も失ってやがらねぇ。可愛くねぇな――おらよ、どっこらしょ」
髪の毛を掴んで、ゴリラはファングを無理矢理引き摺り起こした。
「さっきとおンなじこと、ぬかしてみろや。ホレ、まだホザけっか?」
「泣くな、アメリア。どうという事はない。いま助ける」
頭から血を流しながらも、ファングの口振りからは、わずかな揺らぎすら感じられなかった。
「はい……はい、ファング様!」
「おッもしれぇ――」
自分で立たせておきながら、ゴリラはファングを力任せに蹴り倒す。
「押さえてろ」
ゴロツキ二人に、うつ伏せに押さえつけられるファング。
「あのオンナが、ずいぶんと大事みてぇじゃねぇかよ、えぇ、大将?」
言いながら、ファングの横っ面を蹴り飛ばす。
「アリアハンでも、そンで世話になったもんなぁ?」
「アメリアには手を出すな。貴様、手を出したらゆる――」
言い終わる前に、ゴリラは髪の毛を掴んでファングの頭を持ち上げると、乱暴に床に叩きつけた。
「ナニ命令してやがる。違ぇだろ?そこはお前ぇ、せめて額を地べたに押し付けて、どうかあのオンナにゃ手ぇ出さないでクダサイって、俺サマにお願いすットコだろうがよ」
ファングの後頭部を押さえつけて、ぐりぐりと力を篭める。
「呆れた能天気な野郎だな。まだ手前ぇの立場が分かんねぇのか?オンナに手ぇ出して欲しくなきゃ、まず詫び入れろや。アリアハンでは生意気コイてスイマセンでしたってなぁ?」
「……下衆の言うことなど信じられるか。俺が詫びを口にしたところで、貴様のやる事に変わりはあるまい」
これを聞いて、ゴリラはぷっと噴き出した。
「こいつぁオミソレだ。俺っちらのコトを、よっくご存知じゃねぇか。えぇ、大将?そんじゃま、ご期待に応えて無茶してやっから、お前ぇはそこで指咥えて見てろや――ああ、そのザマじゃ、指は咥えらんねぇやな」
面白くもない自分の冗談で、ゲハハと笑うゴリラ。
「悪ぃな、姉ちゃん。アンタの大将がよ、あんまり聞き分けねぇモンだからよ。代わりに姉ちゃんに、ちぃっと遊んでもらわにゃならねぇみたいだぜ?」
両手を揉み合わせながら、アメリアは答える。
「わ、私がお相手すれば、ファング様にもうヒドいことしませんか?」
「そりゃまぁ、姉ちゃん次第だわなぁ」
「わ、分かりました。私でよろしければ、頑張ってお相手します」
自分に出来ることがあることを喜ぶように、アメリアの声はむしろ朗らかだった。
おいおい、状況がちゃんと分かってんだろうな?
「止せ、アメリア。下衆の言うことなど、聞く必要はない」
「お前ぇは指咥えて見てろっつったろうがよ、大将!?」
髪を掴んでファングの頭を持ち上げ、ゴリラは再び床に顔面を打ちつける。
「や、止めてください!坊ちゃまも、それ以上無理しちゃいけません!アメリアなら、大丈夫ですから」
坊ちゃまだってよ、とかヘラヘラ笑い合うゴロツキ共に、アメリアは問い掛ける。
「そ、それで……何をして遊びましょうか?」
思わず、手で顔を覆いたくなった。
明らかに、事態が呑み込めていない口振りだ。
つか、ホントに分かってねぇのかよ――あり得ねぇだろ――だって、いつもファングと一緒の部屋で――まさか、ホントに免疫無いんじゃねぇだろうな?
「マジで言ってやがんのか、このオンナ?遊びっつったら、コレしかねぇだろッ!」
ネズミが甲高い声をあげて、空いた方の手でアメリアの豊かな胸を揉みしだいた。
「――ゃっ!!」
アメリアが胸を庇いながら、その場にしゃがみ込む。
シ\
「なななにするんですかぁっ!!だだ駄目です、こここはファング様しか触っちゃ駄目なのです!!」
「ハァ?マジかよ、このオンナ?足りねぇのか?」
「まったくよぉ、揃いも揃って物分りの悪ぃヤツらだなぁ、オイ?姉ちゃんが遊んでくれねぇってんなら、やっぱ大将に相手してもらうしかねぇよなぁ、えぇ?」
またしても、ゴリラはファングを無理矢理立たせた。
「あっ、いけません!!もうファング様にヒドいことしないって――」
「手前ぇが言う事聞かねぇからだろうがッ!!」
後ろからネズミに怒鳴られてビクンと奮えた拍子に、アメリアは危うく木材の山から落ちかける。
「チッ……ここで落ちられたんじゃ、ツマんねぇんだよ。もうちょい下がりやがれ」
髪の毛を掴んで引き摺り戻し、ネズミはへたり込んだままのアメリアに、再びナイフを突きつけた。
「大人しくしてろ、アメリア。心配無い。すぐに助ける」
ゴロツキ共に殴られながら、ファングは同じ言葉を繰り返した。
無責任に。
八方塞りのこの状態で、どうするつもりなんだよ。
言うだけで行動が伴わなけりゃ、意味無いじゃねぇか。
なんなんだ――
「ヴァイス……わらわは、もう我慢できぬ」
俺の横で、姫さんが呻いた。
「そうよ!いつまでこんなところで――」
バカ、お嬢、声がデケェよ。
慌てて口を塞いだはいいが、興奮したエフィは俺の手を振り解こうと身をよじる。
その手が繁みを払って、ガサリと葉音を立てた。
「あ?なんだぁ――誰かいやがんのかッ!?」
ゴリラの怒声が響き、お嬢は両手で口を押さえて硬直する。
「おう、ちっと見てこい」
ゴリラに促されて、ゴロツキ二人がタラタラとこっちに向かって歩いてくるのが見えた。
くそ、しょうがねぇな。
「俺が出ていくから、お前らはこっから離れてろ――言い合いしてる暇はねぇよ。いいから、言う通りにしてくれ」
反論しようとしたエミリーの機先を制して釘を刺す。
「ご、ごめんなさい……」
蒼い顔をしてるエフィには、苦笑を向けた。
「いや、いいよ。どの道、そろそろ隠れてるのも限界だったろ」
それに、お前らと一緒に居ない方が、俺にとっちゃ何かと都合がいいんだ。
「いいか、エミリー。よく聞いてくれ――」
手早く姫さんに後を託して、俺は立ち上がった。
「――俺とあいつらが入るまで待ってから、音を立てないように静かに倉庫の脇に移動しろ。あちこち壁に穴あいてっから、中の様子は覗けると思うけどさ、見つからないように気をつけろよ。いいな?」
ゴロツキ共が側まで来ない内に、繁みを掻き分けて広場に出る。
「お、ホントに居やがったぜ」
「あ?誰だ、お前ぇ?」
両脇をゴロツキに挟まれて倉庫に連れて行かれた俺を、ゴリラがニヤつきながら出迎えた。
「やっぱ手前ぇか、ヴァイス。狡すっからしの手前ぇのことだから、どっかにコソコソ隠れてやがっと思ったぜ」
黙れ、ゴリラ。気安く俺の名前を呼ぶんじゃねぇよ。
つか、なるほどね。
口振りからして、俺とファング達が連れだって事まで、やっぱり承知してやがったみたいだな。
「あんたも、ご苦労なこったな。こんなトコまで、わざわざお礼参りに来やがったのかよ?」
ゴリラは、ゲハハと笑った。
「まぁな。ナメられたまんまじゃシマらねぇだろうが――妙な真似すんじゃねぇぞ、ヴァイス。おかしな素振りを見せやがったら、すぐあのオンナぶっ殺してやっからな」
「分かってるよ」
俺は、両手を上げてみせた。
そう、分かってる。
この場を切り抜けるのは、俺の役目じゃねぇんだよ。
「腕っぷしはからっきしだって、あんたも知ってる筈だろ?ハナから抵抗する気はねぇよ。昔のよしみじゃねぇか、あんまヒドいことしないでくれよな」
「ケッ、相変わらず、ナメたクチききやがる――あのサル女が一緒じゃねぇのは分かってんだ。手前ぇと大将をふん捕まえちまえば、手前ぇらに手が無ぇのは、こちとら承知の助よ。アホが、隠れてブルブル震えてりゃいいのによ、今さら何しようたって無駄だぜ?」
「だから、もう観念してるっての。残念ながら、見つかっちまったらオシマイだよ」
「ヘッ、手前ぇは昔っからそうだったな。アレコレめんどくせぇこと考える割りにゃ、最後の最後で甘ちゃんになりやがる。だから、こいつら可愛がってりゃ、手前ぇからノコノコ出てきやがると思ってたぜ」
黙りやがれ。手前ぇまで、俺をお人好しみたく言うんじゃねぇよ。
「いちおう、コイツもふんじばっとくんだろ?」
尋ねたゴロツキに答えたのは、ゴリラじゃなかった。
返事は、上から降ってきた。
「必要無いですよ。もし魔法を使われたところで、どうせ大したレベルじゃないですからねぇ。僕が完璧に防いであげますよ」
今度は、意表を突かれなかった。
俺の身長の倍ほども、うずたかく積み上げられた丸太の山。その裏手に潜んでやがったのか、さっきまで姿の見えなかったひょろっとした影が、アメリアとネズミの横に立っていた。
「そうだよねぇ、ヴァイス君?お仲間を巻き込んでしまうから、広範囲に効果を及ぼす呪文は使えない。かといって、単体用の攻撃呪文は、僕に撃ち落とされてしまうのは、とっくに証明済みだったよねぇ?」
やっぱり、お前も噛んでやがったかよ、グエン。
「よぅ、久し振り――でもねぇな。もう二度と、そのツラを見ねぇで済むかと期待してたんだけどな」
「おやぁ、ツレないことを言うじゃないか。こっちこそ、君のことだから、びっくりして腰を抜かしてくれると期待してたんだけどねぇ。まさか、僕がここに居ることを、予想してた訳でもないだろうにさぁ」
相変わらず粘着質な、ムカつく喋り方だ。
ティミに目撃されていた手前の迂闊さを、よっぽど指摘してやろうかと思ったが、考えるところがあって止めておいた。
グエンはククッ、と含み笑いを漏らす。
「物事に動じない大物ぶっても、まるで似合いやしないよぉ?君なんて、縛る必要も無い小者に過ぎないんだからねぇ――自由に体は動かせるし、呪文も唱えられるのに、なんにも出来ない自分の無力さを、君はせいぜいそこで噛み締めておくれよ」
嬉しそうだな、この野郎。
「おぅ。いちおう、そいつを見てろや――あぁ、手前ぇにも後で礼してやっから、心配すんなよ、ヴァイス」
ゴリラに命じられた下呂助が、俺の顔を覗き込んで首を捻った。
「んあ?手前ぇ、どっかで見た顔だなぁ?」
だが、思い出すところまでいかなかったらしく、すぐに諦める。このアル中が。
他の二人のゴロツキも、俺を覚えてないようだ。まぁ、リィナに速攻でぶっ倒されたヤツの顔なんざ、俺もロクに記憶に残ってねぇからな。お互い様かね。
「さってと。待たせたなぁ、大将?続きをやるとすっか?」
ゴリラはアメリアを仰ぎ見て、唇を歪める。
「俺達と遊びたくなったら、いつでも言ってくれよな、姉ちゃん」
「だ、だから、お相手するって言ってるじゃないですかぁ」
「そうかい?そんじゃ、今度は嘘じゃねぇって証拠に、スカート巻くって中見せてみな」
「え――っ!?」
アメリアは、咄嗟に両手でスカートを押さえた。
「そん次は、手前ぇでおべべを脱いでもらおうか」
「え――と、え?」
「兄貴よぉ。マジで頭弱ぇんじゃねぇのか、このオンナ?ホントに分かんねぇのかよ?ストリップしろっつってんだよ」
背後からネズミに声をかけられて、アメリアは挙動不審にあたふたする。
「はは裸になれっていうことですか?そそそんな、だって、こんなに男の方がたくさん居るのに――」
「いや、バカか?隠れて脱がれて、ナニが面白ぇってんだよ」
「なんだい、また嘘吐きやがったのかよ。そんじゃ、やっぱ大将と遊んでもらうしかねぇなぁ」
「わ、分かりました!分かりましたから――」
「アメリア。俺を、信じろ。必ず、助ける」
未だに、ファングの声は平素と変わらない――どころか、より一層、力強かった。
全身を戒められて芋虫のように床に転がり、頭から血を流している状態で、尚。
くそ、意味分かんねぇよ、こいつ――
「あぁッ!?」
同じく理解が及ばなかったらしいゴリラが、ファングの後頭部を踏みつけて哄笑した。
「信じろだぁ!?このザマで、手前ぇのナニをどう信じろってんだよ!?」
ネズミや他のゴロツキ共も、ゲラゲラと笑声をあげる。
その中で、ただ独り――
「信じています」
何故か、俺の心臓はドキンと大きく脈打った。
とても無防備で真っ直ぐな口振り――
「すみません、出すぎたことをして。大人しく待ってます。私、信じてますから、ファング様」
瞳には涙。満面には笑顔。
無理して自分の感情を抑えつけているのではない、目にしただけで伝わる、ただただファングへの信頼に満ち満ちた表情。
見えざる手に掴まれて絞り上げられたみたいに、胸の奥が苦しくなった。
「……笑えねぇよ」
ゴリラの顔から、笑みが消し飛んでいた。
私宴
「シアワセなザマ晒しやがって……そうだよ、ソイツが気に喰わねぇんだ。なんだか知らねぇが、手前ぇらのソイツをブッ壊してやりたくて仕方ねぇんだよ……」
それまでと違う、相手を弄うでない、素に近い口振り。
冷たいものが、俺の内側を撫でて胃の底に落ちる。
恐怖や、嫌な予感を覚えた訳じゃない。
俺がゴリラの野郎に覚えたのは、もっと性質が悪い――共感だった。
その事実が、俺に怖気をふるわせたのだ。
なんだよ、そりゃ。
ファングとアメリアの関係を目の当たりにして、俺もそう思っちまってる。
信じてるから、どうだってんだ。
信じ合ってさえいれば、それで全てが上手くいく。世は全てこともなし――そんな訳ねぇだろうが。
実際、どうにもなってねぇじゃねぇか。
ファングの馬鹿は、いますぐ助けると何度も口にしちゃいるが、現実には縄でぐるぐる巻きにされて床に転がり、惨めなザマを晒している。
いくら信じてたって、この状況はどうにもならねぇだろうが。
俺は、認めねぇ。
どうにもならないハメに陥る可能性が簡単に見越せるのに、それに対してなんら手立てを考えずに、ただ一緒に居たいって手前ぇの我を押し通す。
そんなやり方は、俺は認めねぇよ。
いや――
本当は、分かってるんだ。
そういうことじゃない――ファングとアメリアの関係は。
普段、自分でも意識していない、手前ぇにそんな部分があるだなんて思ってもいない、心の奥の奥底の方。
いつもの自分が、いくら否定しても、そこでは認めちまってる。
羨望にも似た感情と一緒に。
どんなに望んでも、手に入らないに決まってる。
ハナから、そう諦めちまってるモノ。
いや、自分だけじゃない。誰だって望みながら、決して掴めないモノ。
目の前でソレを見せ付けられて、実際にソレは存在するのだと思い知らされて――
でも、自分の手は決して届かない。
それなら――
知らない方がよかった。
憧れの中にしか存在し得ないモノだった方がよかった。
知っちまったら――否定するしかない。
だって、自分にはいなかった。自分を丸ごと信じてくれる人間なんて。
まるで、我が身の分身のように――
何の打算も損得も無く信じ合えるヤツなんて、自分の前には現れなかった。
それとも、気付けなかっただけで、実は居たんだろうか。
自分が、やり方を間違えただけなのか――
それは、恐怖だった。
決して手に入らないのではなく、自分が見落としていただけだとしたら。
自ら手を離していただけだとしたら。
悔やんでも悔やみ切れない。
だから、認める訳にはいかない。
無かった筈のモノを突きつけられて、でも、どうすれば自分の手がそこに届くのかさっぱり分からなくて――羨望は、憎悪に変わる。
目の前から消さなきゃいけない。
ブッ壊して、摺り潰して――
無かったことにするんだ。
「――世の中、そう甘くねぇってコトを教えてやるよ」
ゴリラが言った。
だが、どうする。
どうやって、ブッ壊すんだ。
ファングは、自分とは圧倒的に違う。
こいつは強い。
それは、認めてやる。
ファングがこっちを負け犬と見抜いたように、はじめて目にした瞬間から、それが分かっていた。
腕っ節だけのことじゃない。
裡にぶっといシンが通っていて、脆弱にブレたりしないのだ。
見ているだけで、自分がいかにちっぽけな存在であるかを思い知らされる。
それが破壊衝動をいや増すのだが――
こいつは、決して折れない。
いくら痛めつけられようとも、それこそ死の瞬間まで、こいつはきっと変わらない。
そんなんじゃ、ブッ壊したことにはならない。
だから、たとえ殺したって、こいつには勝てないのだ。
絶望的だ。どうやったって、今の自分じゃ勝てやしない。
なんであろうと死んじまったらオシマイだ。生きてる自分の勝ちなんだ。外に向かってうそぶくことは出来ても、自分は騙せない。まるで勝てていないことが、自分にだけは嫌というほど理解できて、きっと虚しいだけだろう。
じゃあ、どうする。
どうやったら、ブッ潰して無かったことに出来るんだ――
「とりあえず、そのオンナひん剥け」
淡々とした口調で、ゴリラがネズミに命じた。
「殴られながら、目の前でオンナをヤラれりゃあ、さすがにドニブい大将も、ちったあ手前ぇの立場が分かンだろうよ」
そうなんだ。
おそらくは、無駄だろう。
さっきから、ソレを見せ付けられている。
そうと分かっていても、こいつを直接痛めつけるのではなく――
大切なものを、傷つけるしかない。
俺は――手を貸さねぇぞ。
どんな状況だろうが、必ずアメリアを守り抜くってほざいたよな。
やってみせろよ、ファング。
「ズ、ズリィよぉ。お、俺にもヤラせてくれよぉ」
「待てよ、馬鹿野郎。アトで好きなだけヤラしてやっから、手前ぇはヴァイスの阿呆を見てやがれ――おわっ!?」
ゴリラが驚きの声をあげた。
床に転がっていたファングが、手も足も戒められたまま、体を折り曲げた反動で器用に立ち上がったからだ。
「フン。貴様等、ここまでしておきながら、まだ俺が怖いのか。この臆病者めらが」
「あンだと!?」
ともすれば滑稽な格好でありながら、胸を反らしたファングは、実に堂々として見えた。
「人質を取るなどと姑息な真似をせずに、直接俺に恨みを晴らしたらどうだ。文字通り手も足も出ないこの俺を、殴ることすら出来んのか、この腰抜けが」
「……面白ぇ」
ゴリラの唇が、嗜虐的な笑みを形作る。
「泣けるねぇ。手前ぇはどうなってもいいから、オンナにだきゃ手を出すなってかい?だが、その手にゃ乗らねぇよ――」
「黙れ。臭い息を撒き散らしてないで、さっさとかかってこい、この屑が」
「手前ぇッ――」
挑発に堪え切れず、ファングの腹をぶん殴ったゴリラが目を剥いた。
どうやって耐えたのか――そんなことが可能なのか――手足を縛られて立ったまま、腕力だけはあるゴリラの拳すら、ファングは耐えてみせた。
決して、折れない――
「野郎ッ!!」
ゴリラの振り下ろした拳が横っ面を叩いても、ファングは倒れなかった。
「痒いな」
ペッ、と血の混じった唾を吐き捨て、ニヤリと笑ったファングを、ゴリラは怒号をあげながら蹴り飛ばす。
「手前ぇッ――野郎ッ――調子コキやがってッ――なにナメた余裕コイてやがんだッ――オラッ――オラッ――オラァッ!!」
怯えた素振りのひとつも見せれば、また話は違っただろう。
だが、ファングの毅然とした態度は、言葉以上にゴリラの頭に血をのぼらせた。
床に転がったファングを、ゴリラは口角から泡を飛ばしながら力任せに蹴りつけ、踏みつける。
その様子を、アメリアは口を真一文字に結んで、涙の浮かんだ瞳を逸らさずに凝っと見詰めていた。
そうなんだ。
こいつら――アメリアもファングも、俺の方を見ようともしやがらねぇんだ。
ファングなんて、さっき俺が連れて来られた時に、ちらりと一瞥をくれただけで、その後は全くこっちを見ていない。
なんでなんだよ。
どうして、俺に助けを求めねぇんだ。
普通は、そうするだろ。
こっちは、縛られてもいない自由の身なんだぜ?
そのザマで、本気で自分だけで、どうにかできると思ってんのかよ。
アメリアにしても、ファングがこの場を切り抜けることを、本当に疑ってすらいないのか。
くそ――なんなんだ、こいつらは。
すげぇ、苛つく。
「おぅ、手前ぇら――そいつが勝手に起き上がんねぇように押さえてろ」
息を弾ませたゴリラの命じるままに、ゴロツキ二人がぐったりしたファングの体を左右から押さえつける。
「まだ殺さねぇ……まだ殺さねぇよ。そのナメた考えブッ潰してやる――おぅ、そのオンナ下ろせ。大将によっく見えるように、目の前でヤッちまうからよ」
悲鳴を上げたのは、蒼褪めた顔をしたアメリアではなかった。
「うわッ――!?」
「こ、こいつ――」
ゴロツキ二人に上から押さえつけられながら――まるで全身が力瘤と化したように、ファングの体が見て分かるほど、一回り以上大きく盛り上がった。
「貴様等……これ以上、俺を怒らせるなよ」
低く押し殺した呻き声。
もう少しで、全身を縛っている縄がぶち切れそうだ。
本当に、あと少し――だが、結局縄は切れずに、ファングはゴリラに頭を踏みつけられた。
「脅かしやがって……マジで、とんでもねぇ野郎だな」
「先にもう少し、弱らせておいた方がいいんじゃないですかねぇ」
なんのつもりか、グエンが上から俺を見下ろした。
「丁度いいじゃないですか。その役は、我らがヴァイス君にやってもらいましょうよ」
なんだと?
「大したレベルじゃないとは言っても、ヴァイス君はいちおう魔法を使えますからねぇ。一番強力な呪文なら、その人をもう少し弱らせるくらいは、さすがのヴァイス君にも出来ると思いますよ」
なんてことを思いつきやがる、グエンの野郎。
「ヘッ、そりゃいいな。全く、いい性格してるよ、アンタ」
「いやはや、動くことすらままならない、瀕死のお仲間に魔法で追い討ちをかけるだなんて、君はなんて卑劣なんだろうねぇ、ヴァイス君。僕だったら、殺されたってそんなこと出来やしないよぉ」
グエンは、くつくつと笑う。
この野郎――
どうやって知り合ったのか分からねぇが、おそらくグエンに手駒としてそそのかされて、ゴリラとネズミの兄弟は、ここまでやって来たんだろう。
その目的は、ファングへの意趣返しだ。
俺への含みも多少はあったかも知れないが、あくまでついででしかない筈だ。わざわざ他の大陸くんだりまで追いかけてくる程じゃない。
何故なら、奴等にとって俺は、同類であり理解の範疇だからだ。ファングに対するソレとは、ムカつきの度合いというか、種類が違うのだ。
だが、グエンはそうじゃない。こいつは、俺を恨んでここに居る。
なんだって、俺みたいなつまんねぇヤツに、ここまで入れ揚げてんのかね。
こいつも、よく分かんねぇ野郎だな。
「おら、大将を立たせてやんな」
ゴロツキ二人が、左右からファングを引き起こす。
「分かってんだろうな?避けんじゃねぇぞ、大将――ヴァイス。手前ぇはハイハイ言うこと聞いて、大将に魔法を喰らわしやがれよ?妙な真似しやがったら、あのオンナ、今すぐブッ殺してやっからな」
「いくら君でも、案山子みたいに突っ立ってる相手に魔法を当てるくらいは出来るよねぇ?」
黙れよ、グエン。耳が腐る。
「いけません、ヴァイスさん――」
アメリアがようやく俺に向けた視線は、ただファングの身を案じていた。
「構わん、アメリア」
顔を腫らし、飛び散った血が服のあちこちに滲んでいるような有様で――しかし、ファングはいつもと変わらない。
追い詰められておたおたするでなく、ましてや俺がなんとかしてくれると思っている訳では絶対に無く――
なんなんだ、こいつは。
構わんって、そんな訳ねぇだろうが。
この上にメラミなんか喰らったら、さすがに命に関わるぞ。
どうするつもりなんだ。
まさかメラミの炎で縄を焼き切るだとか、馬鹿なことを考えてるんじゃねぇだろうな。
いや――
もう、いい。
分かった。
もう、分かったよ。
そういうことじゃねぇんだよな。
ああなったらどうする、こうされたらどうする、自分の力が足りなかったら、自分の所為で大事な人間を危険に晒しちまったら――
そうじゃねぇんだ。
実際、自分に出来るかどうか。
そんなことより、もっとずっと手前の心構え――覚悟――信念――在り方が、そうさせるんだ。
最初から、やることは決まっている。
それ以外は、決して選ばない。
だったら、余計なことをあれこれ思い悩むのは、まるきり無駄ってことじゃねぇのか――
馬鹿が。
これまではどうだったか知らねぇけど、そんなやり方でいつまでも上手くいくと思ってんじゃねぇぞ。
この大馬鹿野郎が。
ボンクラが。
お前が嫌いだ。大嫌いだ。
ちくしょう――
俺は大きく二回、地団太を踏んだ。
「なんでぇ、ヴァイス。覚悟を決めやがったか?――よーし、そのまま動くんじゃねぇぞ、大将」
元より身動きもままならないファングを突っ立たせて、ゴリラ共は脇に身を避けた。
「ホレ、さっさとしやがれよ、ヴァイス。あんまり待たせっとよ、暇潰しに、あのオンナがどうなっても知らねぇぞ?」
ゴロツキ共は、むしろそっちを望んでるみたいに、下品な笑い声を立てる。
アメリアの首筋には、相変わらずネズミのナイフが光っていた。
「いいから、やれ」
ファングが言った。
落ち着いた目をしている――この底抜け馬鹿が。
「気軽に言いやがって……分ぁったよ。唱えりゃいいんだろ、そいつに呪文をよ」
やってやろうじゃねぇか。
どうなっても、責任持たねぇからな。
さんざデカいことほざきやがったんだ。
後は手前ぇでなんとかしてみせろよな、ファング。
「オラ、さっさとしねぇか」
うるせぇな。
もうちょい待てよ、ゴリラ野郎。
「手前ぇ、ヴァイス、この根性無しが。いい加減にしやがれよ?おぅ、そのオンナ、ちっと刻んでやれ――」
「待て。分かった、今やるよ」
そろそろだろ。
「覚悟はいいな、ファング?」
問いかけが無意味なことくらい、分かってる。
こいつは、底無しの大馬鹿野郎だからな。
グエンが、ゴリラとネズミの兄弟が、ゴロツキ共がニヤつきながら遠巻きに眺め、アメリアだけが言いたいことを無理矢理押さえつけてるみたいに口をパクパクさせている。
全員の視線が集まったのを確認して――
「ん?」
俺は、何気なくそちらを向いた。
つられて、連中の視線が後を追う。
「おあッ――!?」
「なんだぁッ――!?」
うずたかく積まれた丸太の端っこから、煙が立ち昇りはじめていた。
よくやった。バッチリだぜ、姫さん。打ち合わせた通りだ。
突然の出火に、まんまと気を取られてやがる連中を差し置いて、俺は呪文を唱える。
『バイキルト』
絶対、俺の行動を予想もしてなかった筈だ。全財産を賭けてもいい。
なのに、ファングの反応は瞬時だった――そういうトコがムカつくってんだよ、くそったれ。
力を篭めた全身が盛り上がる。
呪文で強化された膂力は、今度こそ戒めをぶち切った。
「アメリア!!」
ファングが叫ぶ。
「あッ――」
最初に我に返ったのは、俺を一番信用していなかったであろうグエンだった。
だが、その制止よりも早く――
火事に気を取られて僅かに離れていたネズミのナイフを逃れ、アメリアは躊躇うことなく空中に身を躍らせた。
「ファング様!!」
床に落ちる寸前で、駆け寄ったファングがしっかりとアメリアを抱き止める。
固く抱き合ったのは一瞬。
「野郎!!」
慌てて踊りかかったゴロツキ二人を、ファングは簡単に倒してのけた。
冗談にしか思えないくらい、あっさりだった。
「さて、ずいぶんと世話になったな」
ファングの声は、思ったより平静だった。
「……つけ狙うのなら、俺だけにしておけばいいものを……よりにもよってアメリアを人質に取るとは、屑が馬鹿な真似をしたものだ……」
いや、全然平静じゃなかった。
すげぇおっかない顔してますけど。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ――」
ゴリラは体の前で手の平を左右に振りながら、怯えて後退る。
こいつにも、分かっているのだ。
縄で全身を縛り付けておく位でなくては、ハナから勝負にならないことを。
踵を返して駆け出そうとしたゴリラの肩を、それほど早足とも見えなかったのに追いついたファングは、後ろからがしっと掴んで止めた。
「後悔しろ」
横殴りの拳が横っ腹を打ち、ゴリラは声も無く「くの字」にぶっ飛んだ。
腰を前に折ったんじゃなく、体が不自然に横にひん曲がったくの字だ。
背骨が折れたんじゃねぇのか、ありゃ。
「あぶっ」
床に転がって血を吐くゴリラの髪の毛を掴んで引き摺り起こし、顔といわず体といわず、ファングは片っ端から拳を打ち込んでいく。
「ぼぼ坊ちゃま!!ももう充分ですから!!」
あまりの凄惨さに泡喰ったアメリアが止めに入らなかったら、そのまま殴り殺していただろう。
「後は、あのネズミか」
ギロリとファングに睨み上げられて、ネズミはひぃと溜息みたいな悲鳴を吐いて、その場にへたり込んだ。
「あ、兄貴が……あ、ああ……火が……兄貴ぃ……」
もうもうと煙が立ち込め、炎が足場を侵食しつつあった。
迫り来る炎とファングをきょろきょろと見比べて、焼かれて死ぬよりマシだと思ったのか、腰を抜かしたネズミは必死にケツをずらして丸太の山から不恰好に落ちる。
「ふぎゃっ」
着地で足を挫いて、地面に蹲った。
「ひいぃ……痛ぇ……痛ぇよぉ……勘弁してくれぇ……」
やや大袈裟に見える憐れっぽい素振りは、手心を加えてもらおうってな姑息な演技混じりだろう。
そういうヤツだよ、こいつは。
だが、ファングは一切頓着することなく、兄貴に負けず劣らずの制裁をネズミに加えた。
一方、グエンは立ち尽くしたまま、呆然と俺を見下ろしていた。
分かるぜ、手前ぇの考えてることは。
メラミまでしか唱えられなかった筈の俺が、それより上級の呪文であるバイキルトを唱えたんだもんな。
なんかの間違いであって欲しいよな。
けど、残念ながら間違いじゃねぇんだよ、これが。
『ヒャダルコ』
冷気が吹き荒れ、燃え広がろうとしていた炎を押し包んで凍てつかせた。
俺としても、ここら一帯を焼け野原にしたかった訳じゃないからな。
燃えるに任せたらこっちまで危ねぇし、なにより森に延焼しようモンなら、姫さんに嫌われちまうよ。
「そんな馬鹿な……」
グエンは、ぽつりと呟いた。
「なんで君が、そんな呪文を……そうか、くそっ、嘘を吐いてたんだな!?メラミまでしか使えないだなんて、僕を騙してたんだな!?……全く、卑怯な君らしいよ!!」
俺は、反論しなかった。
グエンにどう思われようが構わねぇし、それに、どうせ俺の言うことなんて信じやしねぇもんよ。
というか、俺自身、あんまり実感無いんだよね。
メラミよりも上等とされる、二、三の呪文を唱えられるようになっていることに俺が気付いたのは、アリアハンを旅立った後だった。
覚えた記憶も無いのに――なにしろダーマからこっち、俺が活躍する機会なんてほとんど無かったからな――いつの間にやら使えるようになっていたのだ。
考えられる理由とすれば、アリアハンで魔法についてそれなりに学んだお陰か――もしくは、ヴァイエルの野郎が何かをしやがったかだ。
薬か何かで眠らされたような、妙に記憶が飛んだみたいな、思い当たるフシがいくつかあるぞ。
呪文を使えるようにしてくれただけなら、まだいいんだけどさ。あの野郎が、それで終わらせる筈がない。他にも、人体実験よろしく余計な真似をされたに決まってんだ。気持ち悪くてしょうがねぇよ。
今度アリアハンに帰ったら、きっちり問い詰めておかねぇと。
「フン――なんだい、ヒャダルコを唱えられたくらいで。そんな得意げな顔をするなら、今度は僕のヒャダインを防いでみろよ!!」
そりゃヤベェな。
ヒャダルコよりも、さらに上級の魔法だ。
無数の氷の矢が、ファング達をも巻き込んで降り注ぐだろう――イオラで防ぎ切れるか?
「もうよしな、グエン」
今まさに呪文を唱えんとしたグエンの口が、開かれたまま動きを止めた。
声に続いて、倉庫の入り口に姿を現したのは、ティミだった。
ティミはじろっと、グエンを下から睨め上げる。
「な、なんで、君がここに……」
「アンタ、何やってんのさ?黙って居なくなったと思ったら、こんなゴロツキ共と一緒ンなって……どんだけ転げ落ちるのが早いんだい。全く、なっさけないねぇ」
「う、うるさいっ!!」
グエンは、動揺を隠せなかった。
この町にティミがいるなんて、夢にも思ってなかった筈だから、無理もねぇけどな。
「年下の癖に、君はいつも偉そうな口利くんじゃないよっ!!」
「アンタが、いつまで経ってもガキなんだろ!ったく、今はスネて逃げてるような場合じゃないだろうにさ……とにかく、これ以上ダーマの恥を晒されちゃ堪んないからね、引き摺ってでも連れて帰るよ!!そこで待ってな!!」
言うが早いが、ティミは駆け出した。
助走をつけたとはいえ、ニ、三度足をかけただけで、あっと言う間に俺の身長の倍はあろうかという丸太の山を登り切って、慌てて裏手に姿を消したグエンの後を追う。
おそらく、そちらにも木材を運び出す為の出口があるのだろう。追いつ追われつ、二人が外に出た気配があった。
まぁ、あっちは任せるとしますかね。
俺は腰のフクロから薬草を取り出して、床に横たわったファングを介抱しているアメリアに歩み寄った。
「はいよ。これで、そのバカ治してやってくれ」
「あ――はい。ありがとうございます」
しこたまぶん殴られてたし、かなり血も流したしな。さすがに、ぐったりしてやがる。
けど、骨が折れたり致命的な怪我は負っていないようだった。
どんだけ頑丈なんだよ、この馬鹿は。
二人を後に残して、倉庫の脇に回り込むと、姫さんが駆け寄ってきた。
「ヴァイス!!一時は、どうなることかと思ったぞ!」
「ああ、もう大丈夫だ。姫さんも、言った通りにしてくれて、ありがとな」
「あれでよかったのじゃな?」
「うん、助かったよ。よくやったぜ」
俺が足を踏み鳴らすなりなんなりして、二回大きく音を立てたら火をつけろと、姫さんには言い含めてあったのだ。
その為に、魔法使いじゃなくても魔法を使える『魔道士の杖』を渡してあった。
この倉庫の壁は、あちこち腐って穴が空いてるからな。そこに杖を突っ込めば、メラで火をつけるのは難しくない。
「大丈夫か、エフィ?また、怖がらせちまったかな」
凍りついた壁から身を離し、蒼褪めた顔をして立ち尽くしているお嬢の元に歩み寄る。
途中で、ギクリとして足を止めかけた。
「――ほら、いつまでもこんなトコにいねぇで、早くあっちに行こうぜ」
「え――ええ……」
素知らぬ顔をして促すと、まだ少し呆然としながらも、エフィは大人しくついてきた。
最後にちらりと、後ろの繁みに目をやる。
二人のゴロツキが、そこには転がっていた。俺達を待ち伏せてエフィを攫おうとした、例の二人組みだ。
こっちの方が、先にここまで辿り着いてたみたいだな。俺に追っ払われた後、のんびり戻ってきたこいつらに、危うく姫さんとエフィが後ろから襲われるトコだったって訳だ。
それを未然に防いでくれたのが誰なのかは、大体察しがついていた。
姫さん達に気付いた様子は無いから、ソイツはほとんど音も無くゴロツキ二人を倒してのけた筈だ。そんな真似が出来る人間は限られてる。
倉庫に戻ると、ちょうどティミも丸太の山の上に姿を現したところだった。
無造作に宙に足を踏み出し、ほぼ無音で着地する。
猫より身軽だ。リィナを思い出すな。
思い出が誘う胸の痛みは、今までより少し和らいだ気がした。
「ルーラで逃げられたのか?」
手ぶらのティミに問うと、舌打ちが返ってきた。
「まぁね……なんか、横から妙なチビが出てきて、あのバカを手引きしやがってさ。これでまた、イチからやり直しだよ。全く、忌々しいったら」
「そりゃ、残念だったな」
いや、ホントに。あいつの首には、是非とも縄をつけておいて欲しいんだが。
「それはそうと、ありがとな」
「は?何がさ?」
「いや……」
さっきまで姫さん達が居た方にちらりと視線をくれると、それで通じたらしく、ティミは顔を真っ赤にした。
「な、なに言ってんだか、さっぱり分かんないね!ウチは何もしちゃいないよ!?誰が、アンタみたいなアリアハン人の為に、なんにもしてやるもんかい――なに笑ってんのさ!?」
「ああ、悪ぃ……いや、知らないってんなら、別にいいんだ。俺の勘違いだったよ」
「そ、そうさ。妙な勘違いするんじゃないよ!マッタク、いい迷惑だよ!」
そこまで必死に隠すコトでもねぇだろうに。
エラい照れ屋も居たモンだ。
振り返ると、姫さんはアメリアに抱きついて無事を喜んでいた。
その傍らで、お嬢もようやく笑顔を見せている。
薬草でそこそこ回復したらしいファングは、既に立ち上がって、いつものように泰然と女連中の様子を眺めていた。
「それにしても、ありゃ何者だい?いや、只モンじゃないのは、見りゃ分かるけどさ……あの状態で、拳だの蹴りだの喰らいながらシンを外すなんて、普通できるモンじゃないよ」
ファングを見ながら、ティミが呆れた口振りで呟いた。
「ああ、うん。あいつは、サマンオサの勇者様だよ」
「勇者だって?」
ティミは、なんだか複雑な顔つきをした。
「ダーマで言う勇者とは、ワケが違うのかも知れねぇけどさ……つか、あんた。やっぱり隠れて覗いてたんだな。あいつがぶん殴られてるのを黙って見てるなんて、ちょっとヒドいんじゃねぇの?」
からかったつもりが、きょとんとした顔で返される。
「は?だって、アンタが何かするつもりだったんだろ?」
だから、邪魔にならないように大人しく見物してたってのか。
頼むから、そんな当たり前みたいな顔して言わないでくれ。
買い被りだ。居心地悪くて仕方ねぇよ。
曖昧な返事で誤魔化して、向こうの姫さん達の気を引かないように、俺は静かに移動した。
ただ独り、ビビってファングに向かうことすら出来なかった下呂助は、倉庫の端っこで腰を抜かして震えていた。
つか、臭ぇ。
この野郎、小便漏らしてやがる。
垂れ流すのは、せめて下呂だけにしておけよな、汚ぇなぁ。
「おい」
「ひぃっ!!」
あらま。俺にまでビビりまくっちゃって。
「あんたに聞きたいことがあんだけどさ」
ま、話を聞くには、都合いいけどね。
異名に違わず、下呂助は俺の質問に素直にゲロした。怯えまくってる上に呂律も怪しいモンだから、何を言ってるのか理解するのに少々骨が折れたけどな。
なに喰わぬ顔をして戻った俺を、ファングのこんな台詞が迎えた。
「助かった。礼を言う」
俺は、咄嗟に返事が出来なかった。
だって、こいつはこれまで、俺を負け犬だとかさんざん罵倒してやがったんだぞ?
俺がこいつだったら、馬鹿にしてた相手に助けられた気まずさで、素直に礼なんて口にできねぇよ。
なのに、こいつときたら、あっさりと――
はいはい、分かってますよ。どうせ、俺のケツの穴が小さいだけですよ。
こいつは、そんなツマらないことには拘泥しない。
こいつが絶対にブレないのは、己の信念――ただ、それだけだ。
信念にもとらなければ、それ以外の小さいことには拘らない。
そうだよな。
言動が矛盾しちゃいけないだとか、以前の自分が口にした内容に縛られて――過去の自分に囚われて、今の自分を曲げる必要なんて、ホントは無いんだよな。
「恩に着ろよ」
そう答えると、ファングはニヤリと笑った。
やかましい。俺は、手前ぇなんざ嫌いだよ――いや、何も言われてねぇけどさ。
ラスキン卿に引き渡す為、ゴロツキ連中を縛り上げにファングが立ち去ると、おずおずとお嬢が寄ってきた。
「……とにかく、皆無事でよかったわ」
「うん、そうだな」
「あの……」
「ん?」
なんだか、もじもじしてやがる。
「……その、ごめんなさい。結局、足手纏いになってしまって」
しおらしいことを口にした。
なんだ。自分の所為で見つかったのを、まだ気にしてたのか。
謝られても、俺も困るんだよね。すぐにファング達を助けようとしないで隠れてたのは、全く俺の浅墓な気持ちの都合だったんだからさ。
「まぁ、気にすんなよ。エフィが言った通り、全員無事だったんだ。とりあえず、めでたしめでたしってことでいいだろ」
「うん……ありがとう」
おや、まぁ、素直だこと。
けどジツは、どっとはらいにゃまだ早いんだよね。
そうだな。汚名返上って訳じゃないけど、俺も少しはいいトコ見せねぇとな。
俯きがちなエフィの肩に両手を置いて、上げられた顔を凝っと見詰める。
「えっ?な――なによ、真面目な顔して?」
「なぁ、エフィ」
「は――はい」
「結婚しよう、俺と」
「――は?」
エフィは、絶句した。
見ると、姫さんとアメリアも、目をまん丸にしてこちらを眺めていた。
支援
ということで、第31話をお届けしました。
ふぃ〜、なんとか間に合った〜。
明日から接続すら出来ない状況ですよ、ホントw
今回は筋書きが決まってからも、ファングとアメリアをもっといい感じにしたくて、
足りない時間でじたばたしまくってたんですが、まーさすがにこれ以上引き伸ばしたら、
いつ投下できるか分かんなかったので、踏み切っちゃいました。
この一年で、ファングはずいぶん落ち着いちゃったからな。。。
もうちょいハッタリかましてくれたりした方が、こっちとしては楽だったんですがw
先に、ファングとアメリアの短編を発表しておいた方が、今回のお話は
分かり易かったかなぁ、とちょっと反省してます。そんな時間ないけど。
あちこち説明をほったらかしてますが、今回はアクション編で、
次回が解決編という形になりますです。
いや、解決編っても、別に謎解きがある訳じゃないですけど(^^ゞ
身辺が落ち着き次第、頑張って書き進めますので、次回もまたお付き合いいただければと思います。
いや〜、今回は物理的にも精神的にも、ホント疲れたわ〜w
やはりツンデレw
忙しい中お疲れ様でした。
今回はティミに萌えましたw
…これで漸く眠れるw
新作フォオオオオオオオオ
CCC乙!
ティミにも萌えたけど・・・今回はそれよりもファングに燃えっぱなしでした。
ファングかっこいいよファング。
俺はファングのような奴は説教したくなるわい。自分が薄汚れた人間だから。
それにしてもティミ・・・
登場時の印象で、脳内で不美人設定になってるのがもどかしい。
早く書き換えなければw
何故誰もヴァイスの爆弾発言に突っ込まないのかと(ry
それはそうと、どうやら俺も相当汚れているようだ。
軽く凹んだぜCC氏……orz
でもGJは忘れない。
毎回楽しみに読ませてもらってるけど
これ、CC氏には完結させる気はあるのだろうか…
けけけけ結婚っっッ!?
と、一瞬思うも、『どーせヴァイスのことだからウラがあんだろ』と思ってしまうのは自分も汚れた人間だから。
何にせよGJGJGJ!次回を楽しみにしてます!!(もちろん性的な意味で
裏があるも何も「狂言結婚」の話が出てなかったっけか?お嬢本人も忘れてるようだが。
いや、あれは恋人のふりするだけだったかな・・・?
しかし、ファングも曲がらない信念はいいけど、ヴァイスと姫様が来なかったらどうするつもりだったんだろう?
ゴリラたちだけならどうにでもなるけど魔法が使えるグエンもいたし・・・
中盤辺りでなんというか、怖さとか興奮とか不安とかうまく言い表せないけど
いろんなものが混じった震えがおきたよ…2日遅れだけど素晴らしくGJ
皆様、レスありがとうございました〜。
新居で接続環境が整ったら、改めてレスし直すことにしまして、携帯から少しだけ。
そうそう、『狂言』なんですよ。
つまり、皆お芝居と認識していたのに、ヴァイスが真面目な顔をして、本気(かどうかは次回に譲るとして)でプロポーズしたので、皆びっくりしたという訳です。
そいでは、また次レスで〜ノシ
ファングはジツのところ、正しい正しくないのくくりでは書いてなかったりするのが、めんどいとかなんとか。
もしまだご感想等ありましたら、引き続きお待ちしております。図々しいなw
浮腫
とりあえず仮接続〜。もーへろへろです。
改めまして、皆様レスありがとうございました。
いろいろ感想いただけて嬉しいです。
ヘコみや震えは申し訳ないなと思いつつも、書き手冥利に尽きますです。
そろそろ楽しい感じの話もお届けしないとですね。
個人的にも軽い話を書きたいんですが、ヴァイス君次第なのがアレなところ。
。。。いかん。色々なんか書こうと思ってたのに、ヘロヘロで頭が回りません。
欄外にアレコレ書くより、本編を進めなさいということですよね、うん。
しばらく落ち着くには程遠い状況ですが、また時間を見つけて書き進めますです。
皆様のレスは、大変喜びながら、しっかり吸収させていただきましたので<(_ _)>
なんとか年内には次回を投下したいところ。。。(志が低いw)
保守
今日過去スレ全部読み終わったんで久しぶりにVをゴドーとアリスでやり始めようと思ってるんだが、アリスが賢者になるまで大変そうだな…
599 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/08(土) 00:26:08 ID:T2XkBejl0
>>598 FC版でネクロゴンドまで行ったけどそこで放置中・・・
賢者になるまで何度アリスが死んだことか・・・
ええ乳→遊び人は邪道だろうか
hosyu
自分妄想用に女勇と男魔でやったけど割といける
レベル上がるし金余るし
FC版はわからんが、それ以外は二人旅オススメ
どの組み合わせでもほぼクリアできる
遊び人男と遊び人女で旅したら死んじゃいました><
クリア後に勇者抜いてうろうろしてただけだけどな
ふ〜、やっとちょっと片付いてきました。
つか、もう月の半ばって!?物凄い勢いで時間が経過してますが。
お仕事の締切もあるのに、今年中という目標には間に合うのでしょうか。。。
いや、もちろん頑張りますですともですけどね?(^^ゞ
お邪魔しました。それでは、引き続きご歓談をお楽しみくださいw
期待しながら保守
CC氏頑張ってくれ〜
遊び人2人旅、しんどい…
ほしゅ
hoshu
刹那――――――鼓動が高鳴った。
理性でなく、本能が思考を突き動かした。
…考えても見ろ。ここまで勝ちの目の見えない戦いが、かつてあったか。
策略であるとか、コンディションであるとか。そういった全ての戦略的・戦術的要素とは無関係に。
目の前の女性は、全ての面において私を凌駕し。
繰り出すあらゆる一手に最高の答えを提示してくれるだろう。
何故だかそう、断言できた。
…脳から足の爪先まで。全身の機能がスイッチする。
この相手であれば、全力を出しても大丈夫―――と。まるで一生に一度の好敵手に出遭ったことを悦ぶように。
彼女が何故私を襲うのか、とか。狂気の領域にすら足を踏み込む尋常ならざる殺気は何に起因するのか、とか。
そういった、凡そ人間染みた理屈を置き去りにして、肉体が反応する。
じわりとした痛みが広がる、両腕の筋を引き絞る。
「―――!」
眼下の女性が、異変に気づく。
表情の変化はない。ただ、彼女の身体の神経が。筋肉が。握ったナイフ越しに、それを私に伝えてくれた。
「――――――雄雄オオオオオオオッッ!!」
轟音。猛り、背筋から拳の先まで、容赦なく全力を込めた一撃を振り下ろす。
耳を劈くような破壊音が、既に暗闇が支配しつつある谷に響く。
飛散した砂利や礫がぴしぴしと皮膚に跳ね返るのを感じ取りながら、傾いだ半身を起こす。
彼女の安否を確認するのに、土煙が晴れるのを待つまでもない。
この手には、人の手応えは少しもありはしなかった。我が拳は空を切り、ただ何もない荒れ野の土を砕いた。
否―――この感触。それに足場の具合からいって、砕いたというより沈めた≠ニいうほうが、妥当かもしれない。
「…やはりな。いい対応だ」
引き絞った両腕の筋を緩める。
直後に、かちん、という乾いた音が響く。抜け落ち、地面で弾けた二本の短刀が、絡まりあって鮮血を混じらせる。
突き刺した得物が獲られたと見るや、即座に放棄して間合いを取る。
当然の反応だが、今の一瞬で私の筋量を見破り、単純な筋力だけで支配権を奪われたことを受け入れるとは。
今まで何度か手練との戦いで使った技だが、こうまで見事な判断は類を見ない。
…視線を前方に向ける。数間を挟み、無残に転がる亡骸の上、彼女は跪くように屈みこちらをしげしげと眺めている。
いや、彼女の目が虚ろであることは変わらないので、本当に私を見ているのかどうかは、わからないが。
ただ、彼女は表情を変えることもなく、口元を時折動かし、考え込むように何事かを呟いているようだった。
「………む」
いくらかの空気の弛緩。その数拍のうちに、あることに気づく。
先ほどは暗がりで分からなかったが、間合いを少し詰めてよく見れば、彼女は中々端正な顔立ちをしている。
中性的な顔つきは、麗人という言葉がよく似合う。男装でもすればさぞや似合うことだろう。
だが、それ故に惜しい。彼女が人ならざる殺気を発し、戦いに身をおくことが。
彼女は武人ではない。考えたくはないが―――狂人。ともすれば殺人中毒者の類であるかもしれない。
武人とは、矛を止める者。即ち、暴力から何某かを守る者だ。
力と技を鍛錬すればするほどに、その精神もまた練磨され、秩序を持ったものへと昇華される。
にも拘らず、彼女はどうだ。踏み込みの速度も、状況への対応も、他に類を見ないほど洗練されているというのに。
その殺気だけが、まるで制御の利かない凶刃の如く、剥き出しでいる。それは宛ら、童子の抱く純粋な殺意のように。
もし殺人中毒者でないとしたら、堕ちた武人。鍛えた技を、私利私欲に使う外道。
いや、服装から鑑みて、破戒僧、という線が妥当か。
いずれにせよ、そういった秩序外の存在を止めるのもまた…武人の役目である。
「手始めに―――仏を足蹴にするのを、やめて頂こうか―――!」
―――手近に転がる拳大の石を拾い上げる。
感触からいって、深成岩の一種だろう。サイズ、強度ともに十分。
確認して、歪んだ足下の土を踏み鳴らす。我が全力の踏み込みに、しっかりと耐えられるように。
女性が、僅かに首を上に向ける。こちらの動きの変化に気づいたか。
…足の爪先から手の指先まで。十箇所近い関節の具合を打診する。
化け物からもらった傷は全て関節や急所を外れている。問題は、彼女から受けた両手首近くの刃創だ。
痛みの度合いからいって、全力の九割を出せれば妥当だが――――――構わない。
間合いは十分―――この距離であれば、例え初動から何をするか悟られようと、まともな人間なら反応すら間に合わない。
そう。まともな人間≠ナあれば、の話だが。
―――首から下。関節という関節を限界まで捻り、石を掴んだ右腕を振りかぶる。
それによって狭まる視界、その意識の中心に彼女を迷いなく捉える。
「…!!」
瞬間。初めて彼女の眉がぴくりと震え、人間らしい変化を見せたかと思った刹那、彼女の身体が鈍い音と共に弾けた。
踏み敷いていた屍肉を粗方粉々に損壊して。彼女は私が何かをする前に勝負をつけようというのだろう、真っ直ぐに私へと疾駆する。
彼女には―――その確信が、あるのだ。
「面白い―――」
彼女の疾走を目にするのは二度目。更に、私の意識はかつてないほどに研ぎ澄まされている。
最高の、コンディション。彼女の能力を秤にかけても、決して引けはとるまい。
これで決められぬとあらば、最早悔いの残しようもない…!
「――――――我が一撃に、応えて見せろ。狂気の方…!!」
―――捻り上げた関節の筋肉を引き戻す。
爪先、足首、膝、腿から腰、背筋と肩、肘に手首、指先―――全ての力を、引きずり揚げるようにして伝え、倍化させる。
程よい刺激を伴う痛みに苛まれながら振りかざした右腕の先から、石が離れる。
それは宛ら、流星の如く―――人の目に見えぬ尾を引いて、撃ち抜くべき目標へと飛来する…!
「―――――――――っっっ!!」
――――――次の瞬間。目の前には、赤みの薄まった空と黒い二つの断崖だけが広がっていた。
…遠く、岩壁の砕ける音だけを、遠のきそうな意識の中、聞き届ける。
後頭部には痺れる様な痛み。全身を、等しい重量感が支配する。
―――自分が倒されたのだ、と、私が気づいたのは。
彼女が、横たわる私の首に、圧し掛かり短刀を突きつけ。そして、利き腕が痛みと大きな違和感に包まれているのを認識してからの事だった。
「………止めを刺せ。私の反撃より、貴殿の刃のほうが速かろう」
右腕の痛みと違和感は、肘を中心に広がっている。
間違いない。関節を外され≠ス。彼女が今の一瞬でどう私の投擲を掻い潜り、そして私の骨に細工をしたのか、興味は尽きないが。
結局の所―――敗因は、たった一つ。私が、彼女の力量を見誤ったからに他ならない。
悔いはない。私は全力の一撃を放った。あれを避けられるのであれば、徒手空拳であることは言い訳にならない。私が知る限り、どんな武装を用いても、私では彼女に対抗し得まい。
ただ、せめて私の命を奪う者の顔を目に焼き付けたくて、短刀越しに、馬乗りの彼女の目を見つめた。
…虚ろな瞳に、私を映さぬまま。彼女は眉を顰めて、聞き取れないほど小さな声で、まさか、と唇を振るわせた。
―――そうして、異変は訪れた。
直後に、彼女から発せられていた殺気は、信じられぬほどの速度で収束されてゆく。まるで、そもそもはそうあるのが当然というように。
急激な変化に戸惑う私を余所に、殺気を収めた彼女はそのまま暫く思案するように固まる。
そして、聞いたこともないような静かな、しかし確かな意思の感じられる声でぽつりと、呟いた。
「―――――――――君は、人間か」
・・・
肩関節を中心に、右腕を一回しする。
違和感があるのは否めないが、とりあえず支障はなさそうだ。
「まだ、あまり動かさないほうがいい。脱臼は骨の食い違いよりも寧ろ、それに伴う筋肉などの損傷のほうが厄介だ。
…骨は正確に戻したが、そっちの面で心配が残る。暫くは利き腕の使用は控えてほしい。本当は添え具になるものがあればいいのだが…」
「いや、この程度なら吊っておけば十分だ。一通りの負傷は体験している。無論、それを負った状態での体運びもな」
手当てを終え、助言をくれる女性の心配を遮る。
私とて戦士の端くれ、このくらいの負傷で戦闘に支障をきたすつもりはない。
と、私の言葉を聞くや、彼女の端正な顔が顰め面に変わった。
「………すまなかった。私が早合点したばかりに」
本当に申し訳なさそうに、彼女はむぅと唸って、地べたに胡坐をかく私の対面の岩に腰掛けた。
「構わない。軽率だったのは、私も同じだ。本来なら、どんな状況であれまずは言葉での接触を試みるべきだというのに、私は戦士としての未知の体験に誘惑され、力に力で応えてしまった。…反省すべきなのは、私のほうだ」
そう。彼女の身ごなしをこの目で見て、言い知れぬ高揚感に支配され。
武人としてとるべき振る舞いを欠いた私には、到底、彼女を責める資格などないのだ。
果ては、表面上の形に囚われ、初対面の人間を狂人扱いである。…全く、修行不足も甚だしい。
「そうはいうが、私は………いや。有難う。そういってくれると、助かる」
何事かを云い掛けたが、やがて彼女は和やかに微笑んだ。
…殺気の消えた彼女は、実に気持ちのいい人柄だった。
物腰は穏やかだし、責任感は強い。その上、芯もしっかりしている。
ほんの数分前の、あの人間離れした冷たさを纏っていたのと同一人物とはとても思えない。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私は、ライナー。…君には、信じてもらえないかもしれないが、その…医者をやっている」
穏やかな笑みと、苦笑の両方を浮かべ、彼女は名乗った。
…成る程。道理で、手当てが手馴れているはずだ。それに、経緯はどうあれ、あれだけの技巧を持っているのに尚精神が素人同然に剥き出しなのは、畢竟、彼女は武人でなく、学者の類であったからか。
「―――?ライ、ナー。ライナー殿…?」
と。些細な引っ掛かりを覚える。
彼女の名前の韻には聞き覚えがある。確か、線を引く者≠ニ呼ばれる、希代のナイフ使いがいると聞いたことがあるが―――まさか。
「失礼だが―――貴殿を、千本ナイフ≠ニお見受けして、よろしいか」
「私をそう呼ぶ者もいるな。…だが、勘弁してくれないか。あまり好きな呼ばれ方ではないんだ、それは」
そうだろう。先ほどの見事な体捌きの後だ、肯定されれば別に疑いはしない。
だが、この彼女を見てしまえば、とてもではないが、そんな物騒な通り名を自分で好む性分とは思えない。
「分かった。以後はそうは呼ばないと約束しよう。…私はエデン。戦士として、修行中の身だ」
尤も、この軽装だ。信じてもらえるとも、思えないが。
だが、ライナー女史は私が名乗ると、ああ、と納得したように手を打った。
「成る程、合点がいった。徒手空拳だから武闘家かと思っていたが…君の筋肉の付き方は、ストライカーともグラップラーとも違う。
どちらかというとグラディエイターの鍛え方だから、不自然だと思っていたが、やはり…いや、それにしても…むぅ」
喉の痞えが取れたとばかりに嬉しそうに語った直後、ライナー女史はまた深く何事かを考え込んでしまった。
何か、私の体で気になることでもあったのだろうか。
私が首を傾げていると、彼女はすっと立ち上がり、つかつかと歩み寄り、私の脇に屈み込んだ。
「失礼。少し、君の体を触らせてもらっても、構わないだろうか」
「?うむ」
何事か、と警戒する必要も最早ないだろう。ライナー女史がこの期に及んで私に危害を加えるとも思えない。
私は成されるがまま、彼女に体を委ねた。
「では」
私の許可を聞くや、彼女はぺたぺたと触診するように私の腕や胸を撫で始めた。
…手袋越しにとはいえ、女性に体を弄られるのは、少々体験に乏しい。何しろ傷だらけの無骨な代物だ。女性の目に不必要に晒すものでもない。
なにやらむず痒いものが体の内側を這い回るような感覚が広がる。いかんいかん、鍛錬が足りん。
「む」
と。頭を振って視線を眼下に移すと、ライナー女史は、探る手の動きこそ止めないものの、時折身を乗り出すように私の皮膚に顔を近づけて何かを思案しているようだった。
虚ろな双眸はそのままに、殆ど密着に近い状態まで顔を寄せて、数拍おきにふんふんと鼻を鳴らすような動きも見せている。
「目が、見えないのか」
「ん?…全く、ではないがね。ただの近眼だよ。
…尤も、今は眼鏡がないせいで殆ど使い物にならんし、似たようなものか。何、単なる不摂生の産物だ」
予てからの疑問を投げかけると、ライナー女史は苦笑し、触診を続けながら答えた。
「…成る程。では私は、視力にハンデを負った貴殿を相手にこの体たらくというわけか。…やれやれ、己の修行不足を実感する」
「何。そう悲観することでもないよ。私は人より、少しばかり人間という生き物の作り≠ノ詳しいのでね。
私はその御し方を心得ているに過ぎない。肉体の基本的なポテンシャルでは、私は君の足下にも及ばない」
嘆息する私に、ライナー女史はつらつらと言葉を返す。
彼女の性格だ、恐らくそれらは気休めでなく、全て事実のみを述べているのだろう。一先ずは、それを素直に受け取っておく。
「しかし、これで納得がいった」
「何がだい?」
「貴殿が私に襲い掛かった理由だ。貴殿は突然接近してきた私を、姿が見えないせいで魔物と勘違いしたのだろう?」
言いながら、辺りに散らばったままの魔物たちの死骸を見渡す。
何しろ、これだけの数の魔物と戦っていたのだ、知らない気配を感じ取ったら、新手と認識しても無理はない。
だが、ライナー女史は私の問いに、すぐさまかぶりを振ってみせた。
「いや。私が君を敵と認識してしまった理由は、視力とあまり関係ない」
「…何?」
私が反射的に怪訝な声を出すと、ライナー女史は気まずそうに目を伏せた。
だが、すぐに学者然とした、真摯な顔つきで、私を見上げ、言葉を続けた。
「私に近づいてくるモノがいたことには気づいていた。そして、ソレが人間の常識を超えた能力を持っていることにも。
ソレが近づくにつれて、その確信は強まっていった。呼吸の音、大気から感じる体温、地面を伝う振動、魔物の血の臭い。
それらの情報からソレの能力・性質を推測し、私は結論を出した」
そこまで一息に言い切って、ライナー女史は呼吸を一つついた。
そして、強くその『結論』を口にした。
「ソレは、人間ではない≠ニ」
………ソレ、というのは、いうまでもなく私の事だろう。
先ほど、彼女は言った。自分は人間という生き物の作りに詳しい、と。
そして、自分の肉体のポテンシャルは、私の足下にも及ばないとも。
………………………要するに、だ。私は。
「ああ、いや、待ってくれ、誤解しないでくれ。これは、完全に私の未熟による誤診だ。こうして間近で診てみてよく分かった。
魔物の血の臭いは体についた返り血のせいだと分かったし、肉体の基本構造も、人間のそれとなんら変わらない。
君は間違いなく、人間そのものだ」
よくない結論を出そうとする私の考えを表情から読み取ったのか、ライナー女史は慌しく自身の結論を撤回した。
「…結論が揺らいだのは、初撃の時だ。ナイフを刺した感触が、人間の皮膚そのものだったからね。
だが、ナイフ越しで、直接接触しなかったのが確信を鈍らせた。
…私が読み取った君の肉体の持つ力は、人間にしては余りに規格外だった。だから、君が人間だと信じられなかった」
一呼吸。聞こえるか聞こえないかというくらいの音を立て、静かに嘆息し、ライナー女史は視線を脇に外した。
「恐らく、君の姿を視認できていたとしても、私は君を魔物と認識していただろう。
…己の常識に反するものを認めようとしない。学問を志す者の欠点だ、などと言い訳したくないが…すまなかった」
恭しく頭を下げて詫びるライナー女史。…私は、別にそんなに腹を立ててはいないのだが。恐らく、彼女の性分が許さないのだろう。
それよりも、彼女の私の体に対する言い分のほうが気にかかった。
「…私の体は、それほどに異常なのだろうか」
一言、疑問が口をついた。
…確かに、今までこの力を振るって、そういう評価を戦友や好敵手たちから受けたことはあったが。
医者であるライナー女史をして、尚そこまでいわしめるというのは、少々興味をそそられた。
彼女は、私の言葉を聞くと、顔を上げて暫くぽかんとしたまま固まった。
「…驚いた。自覚していなかったのか」
「む」
「今、大部分を触り終えて分かったが…君の肉体は、弾き出す運動エネルギーはもとより、その構成自体が常識を逸脱している。
基本的な構造が人間のものとなんら変わらないというのに、その筋量と筋力は規格の埒外。
先の戦いで見せた瞬発力といい、恐らくは天稟の授かり物なのだろうが、それが可笑しい。
これほどの筋肉の発達、理屈で考えたら全身の骨格の伸長が阻害されて、碌な成長が望めないはずだ。
だというのに、君のこの体躯だ。実に、奇跡的なバランスで成立しているといっていい」
そこまで解説し、彼女は溜息をついて、少し投げやりそうに苦笑した。
「私は僧を破門された身だが―――君を見ていると、神の気紛れを感じずにはいられないな」
…神の気紛れ、か。成る程、この身が今こうして戦えているのは、神の贈り物というわけか。
それを、学者職の人間に諭される、というのも、滑稽な話ではあるが。
しかし、彼女の言葉の中に更に見るべきものを見つけた私の意識は、考えてもどうしようもないものから、すぐにそちらに向いた。
「破門といったか、ライナー殿。その服装。貴殿は、破戒僧か」
「うん?ああ、これか。いや、破戒僧には違いないが、別に教会に未練があるわけではなくてね。
単に、この服は個人的に気に入っているだけだよ。破門された理由も…まぁ、端的に言えば医学が彼らの教典に反したからだ」
ふむ。確かに、教会の人間は学問に関して反発する嫌いがある。破門の理由としては、学問を追及した、というので十分だろう。
だが、私が知りたいのはそれではない。私の網膜に焼きついた、あの鮮烈な加速は―――。
「…ライナー殿、教会には、ダーマ神殿直属の戦闘部隊を構成する僧侶がいると聞いたことがあるのだが。
…先ほど私の攻撃をかわして見せた、奇妙な動き。まさか、貴殿は」
ダーマ神殿。世界中の冒険者の、修行の聖地である。
鍛錬を積み、ある種の到達点に至った者が、自分のもしも≠フ『別の可能性』への道を開くために『転職』を行う神殿。
神殿、と名づけられている以上、そこは教会の施設である。しかし、その在り方は『信仰』よりも『鍛錬』に重きを置かれた、いわば別次元の寺院。
世界中の冒険者を鍛え、魔物達への対抗戦力として磨き上げる施設である。その重要性は言うに及ぶまい。
必然、その防衛にかかる力も、並々ならぬものとなる。
かつて魔王バラモスの軍勢がダーマを取り潰そうとした際、全ての職の能力を修めた一人の僧侶がこれを殲滅したという噂もある。
俄には信じ難いが、火のないところに煙は立たぬ。それに相応しい異常性を秘めた僧侶たちがいると見ていいだろう。
仮に―――ライナー女史が僧侶であった当時、ダーマに所属していたとするならば。先ほどの不可解な踏み込みは、或は。
「ああ、悪魔殺し≠スちのことをいってるのかい?確かに、在籍当時は引き抜き要請もあったのだが…。
生憎、私は『殺す』ことより『生かす』ことのほうが好きなのでね、辞退させてもらった。
それに、私はあそこの聖女殿とは絶望的に馬が合わない」
「?」
「ああ、すまない。最後のはただの愚痴だ、気にしないでくれ」
話半分の私に対して一通りの感想を口にし、ライナー女史はダーマの戦闘部隊への関与を否定した。
ということは、あの動きは彼女が独自に生み出した技、ということになるが…。
私が答えを出しあぐねていると悟ったのか、ライナー女史は口元に手を当て、何事か思案するように唸った。
「…そうだね。私は君の命を奪いかけたし、何より私ばかり君の体のことを知っているのはフェアじゃないね」
納得したようにいうと、彼女は左手の手袋を外し、橙色の一揃いの袖縁に手をかけ、引いた。
その下から、現れたものは。
「―――縫合跡。その数…貴殿は、一体、」
手首から肘にかけて、ライナー女史の腕の皮膚は、無数の蛇が張ったような、切創と縫合の生々しい痕跡で埋め尽くされていた。
彼女の病的なほど色白の肌に痛々しく残るそれらは、恐らくは全身に及んでいるだろうことを容易に想像させる。
「医者が、不確かな技術を患者に用いるわけにはいかない。
だが、その技術の確立のための実験に他者を使うことを、私はどうしても我慢ならなかった。…その答えが、これだ」
そういって、ライナー女史は捲った袖を元に戻し、左腕を隠す。
絶句する私を余所に、彼女は端的に説明を加えた。
「色々体中をいじくったせいで、妙なことも出来る様になった。君が見た動きは、その一つだと思ってくれ」
ライナー女史の説明は簡潔明瞭で、私の疑問を解くには十分なものであった。
疑問の氷解とともに、ある種の感慨を抱く。だが、彼女は私がそれを口にする前に、更に付け加える。
「―――もう一つ。面白いものを見せよう」
言うや否や、ライナー女史は右の掌で両目を覆った。
「…?」
数拍の間。そのままの姿勢で動きを止めるライナー女史。
そして、十秒ほど経った頃、彼女はゆっくりと腕を下ろした。
「――――――ライナー、殿」
息を呑む。掌を外され、閉じられた彼女の瞼がゆっくりと開く。
開眼した彼女の瞳は―――途方もなく澄んでいて。真っ直ぐで。静かで。そして、強かった。
「―――いくら私でも、初見の魔物を視力を封じた状態で、あれだけ相手にして無傷ではいられない。
少々疲れるが、こんな芸当も可能だ…っ!」
と、いうや彼女の半身がよろめく。
倒れこむ彼女の肩を抱きとめると、彼女は力なく苦笑した。
「すま、ない。これをやれるのは、日に一時間だけなんだ。それ以上は、視神経が焼き切れかねない。
本当は、早々に使い切ってしまって、立ち往生していたところだったんだ、さっきは」
もう大丈夫、と、再び虚ろな目に戻ったライナー女史は、私の腕から離れる。
………ふむ。つまり、何だ。彼女は少なく見積もっても一時間以上、ここで魔物たちの襲撃をいなし続けていたわけか。
視力が機能しない状態で。…まともな精神なら、狂いだしても可笑しくない。何がそこまで、彼女を支えるのか。
感銘を受ける私に気づいているのかどうか、彼女は元の淡々とした口調で続ける。
「それと、勝手に晒しておいて何だが…今見たことは、他言無用で頼むよ」
「わかっている。人に喋るような事ではないからな」
口止めされるまでもない。人の、ましてや女性の体に無数の縫合の後があるなどと、誰が好き好んで吹聴しようか。
「ああ、いや。別に、他人に知られるのは構わないのだが」
だが、ライナー女史はそんな私の言葉を、あっさりと否定した。
そして、柔和に微笑み、酷く落ち着いた様子で、本当の理由を述べた。
「一人だけ。――――――どうしても、知られたくない人がいるんだ。そのための、用心だと思ってくれ」
慈愛に満ちた、笑顔。瞳に光が宿らずとも、彼女が自身の脳裏に思い浮かべるその一人≠深く思っていることが窺える。
それは、学者としてでもなく、僧としてでもない。一人の女性の笑顔だった。
だが、それも一瞬。ライナー女史は、すぐにさっきまでの識者としての顔を取り戻す。
「それにしても、まったく。眼鏡さえあればもう少しまともな戦力配分も出来たのだが。
何の因果か、仮眠から目覚めていれば突然こんな谷間で、辟易するよ」
「何?ということは、ライナー殿」
私の反応に満足を得たのか、ライナー女史は、ふふり、と妖しく笑った。
「君も、似たようなものなのだろう?エデン君」
「…うむ」
「お互い、苦労するな。君も大概だろうが、私もこんな辺鄙な場所とは早々におさらばしたいよ」
からからと笑うライナー女史。私はそこに、違和感を覚える。
「ん、どうかしたかい」
「ライナー殿、貴殿は、医者だといったな」
「ああ、そうだよ」
「…貴殿は、何とも思わないのか。この、これだけの数の仏を見て」
そう。先ほど、彼女は視力を一時的にせよ、回復して見せた。
―――と、いうことはだ。彼女は、この谷の惨状を知っているのだ。
数え切れない人の亡骸。それを見て、彼女は医者でありながら、尚笑う。それが、どうしても解せない。
否、仮令、医者でなくとも、何らかの不快感は示すはずだ。
「――――――仏?」
ライナー女史は、私の問いの意味を分かりかねるというように、言葉を鸚鵡返しして首を傾げた。
…どういうことだ?彼女は、これだけの死体を、認識していないとでも―――。
と、突然。何かに気づいたように、ライナー女史は、ああ、と手を叩いた。
「もしかして、この人形≠スちのことをいってるのかい?」
そして、納得したように奇妙なことを口にした。
…彼女は、何と云った?…人形、と。この、亡骸の群れを、人形と、そういったのか?
混乱する私に、ライナー女史はくすくすと笑いながら助け舟を出す。
「心配しなくていい。ここに転がっているモノは、人間の死体なんかじゃないよ。ただの作り物≠セ」
「作り物?…馬鹿な。この、鼻に纏わり付くような鉄の臭いは、間違いなく人間独特の―――」
「ああ、そうか。君は戦士だったね。なまじっか人の死体を見慣れているものだから、逆に騙され易い。
…確かに。理屈でなく、感覚で人の死の臭いを認識している人間を誤認させるには、このやり方は効果的だ。
誰が何の目的でやったのかは、知らないが―――悪趣味、ここに極まるという感じだね」
うむうむと一人頷くライナー女史。だが、私には何のことかさっぱり分からない。
「いいかい、エデン君。これらは確かに、全て人を構成するのと同じ物≠ナ人型を形作っている。
…だが、それだけだ。同じ物質≠使ってヒトの血肉を真似て作られただけの、趣味の悪い人形だよ。一つの例外もなく、ね。
その証拠に、これらの人形には生の証≠ェ何もない」
鼻を鳴らし、呆れたようにライナー女史は諭してくれる。…正直、学者でない私は要領を得ないのだが。
だが、そこは学を修める者というべきか。彼女は、そういう者≠ノ対する例え話を持ち出した。
「人間の体というのは、その人が歩んできた人生を、自身に刻んでゆくものなんだ。
例えば、長くペンを使い続ける作家は手の指が歪む。剣を握り続けた戦士は手に剣ダコが出来るし、傷を負えば骨も拉げる。
最も身近で気付き難い例を挙げるなら、靴を履いて生活するだけでも、足は変形する。
…とまあそんな具合に、人の体というのは、存外、当人の意思よりも饒舌に人生を語っているものなのさ。
だが、これらの人形には、そういった形跡が何もない。何も読み取れない。
端的に云えば、これらには―――生きてきた歴史≠ェ、何一つ見当たらないんだ」
だから、これらは死んでいない。生きてすらいないものは、死体にさえ成り得ないのだ、と。
ライナー女史はさもどうでもいい、という風に、この惨劇を鼻で笑い飛ばした。
………正直。彼女を、否、医者というものを侮っていたと、認識を改めざるを得ない。
彼女が私との戦いの折、亡骸を踏みつけ、損壊したことも、これで納得がいった。
つまり、医者である彼女は―――この悲劇が、喜劇でしかないことを、疾うに悟っていたということなのだ。
「さて。ところでエデン君。一つ、提案があるんだが」
立て続けに起きる様々な感動に打ち震える意識を、彼女の声で引き戻される。
眼下のライナー女史はすっと立ち上がって、私を見下ろした。
「…私は、これからこの谷を抜けようと思う。日も沈んでしまったし、水や食料のことを考えても長居するのは得策ではないからね。
さっきはああ云ったが、こんな人形でも、今の私たちの技術じゃ到底、作れるものじゃない。それが、これだけの数揃っている訳だ。
初めからあったものにせよ、あとから用意したものにせよ、余りにも常軌を逸している。
私たちがここに来たことといい、何から何まで、状況が不明瞭だ。この先、何が起るか分からない」
…見上げる彼女の上には、黒い断崖に挟まれた夜空。
差し込む月光が、後光のように彼女を包み込んでいる。月明かりの中、彼女は、にっこりと微笑んだ。
「私と一緒に行かないか」
左手を、目前に差し出される。…私の右腕が使えないのを知っていて、気遣ってくれたのだろう。
私の視線が、その手と自身の顔を往復するのを感じたのか、彼女は自分の意図を語る。
「今の私は目が利かないから、道を進むのに君の手引きがあるととても助かる。
無論、それだけではフェアではないからね。私も、君の傷の手当てや戦闘のフォローには、尽力させてもらうよ」
…ライナー女史の言うことは尤もだ。
私は利き腕が使えない。そして、彼女の力は、治療に関してはもとより戦闘能力もとても心強いものを持っている。彼女と往くのなら、不安材料は大きく減少する。
それにそもそも私は、この谷間を進むうえで人に出会えたのなら、それがどんな人間であれ、意思疎通が叶いさえすれば協力を申し出るつもりだった。断る理由は何一つない。
「―――ライナー殿。その返答をする前に。最後に一つだけ、訊ねていいだろうか」
だが。私はそんな彼女に対して、敢えて一つの問いかけを用意した。
いや―――問いかけずには、いられなかった。
「うん?」
ライナー女史は、柔和な笑みを崩さずに、何を問われるのか興味深げに首を傾げる。
それを確認して、私は、用意した言葉を、一言たりとも紡ぎ忘れぬよう、強い意思を込めて放った。
「――――――貴殿は、何のために戦うのだ」
人の命を救う、医者という職でありながら。彼女は、途轍もない力を持っている。
人を蝕む災いを取り除くものが、何ゆえに人の外側の敵と戦うのか。それが、ただ気がかりだった。
その問いに、彼女はやはり、穏やかに微笑んで答えた。
「―――。一人でも多くの人を救うために。そのために、魔物(かれら)の血肉が必要だから」
それが、さも当然だというように。
「…酷い矛盾だ。貴殿はもっと聡明な人だと思っていたのだが」
その答えは、今までの彼女の言葉で、唯一私を落胆させた。
他者を実験台にすることを拒んだ彼女は。同時に、異形の存在とはいえ、魔物という別次元の他者≠糧とすることを、躊躇わなかった。
恐らく、彼女は自身の目的に必要だと判断すれば、血眼になって目標を殺しにかかるだろう。ソレが例え、背を向け、逃げ惑うモノだったとしても。
人間は駄目だが、魔物はいい。そんな都合のいい理屈を、彼女は抱えているのか。
そんな私の内心を見透かしたかのように。彼女は、変わらぬ笑みで。
「―――その通り。この身は、矛盾の塊だ。だが、私はこの矛盾を捨てることなど出来ない。
この分かり易い矛盾を抱えて生きることが、私が信じる唯一つの十字架なのだから」
―――そして、そこにほんの僅かな悲哀を混じらせて。彼女はつい、と天頂の月を見上げた。
それを見て、私の心は固まった。
…知りたい。どんな形かは、まだ全貌が見えないが。それでも、彼女がある確固たる意志に基づいて戦いの場にいることは、間違いない。
私が未だに答えを出しあぐねるその命題に、この女性は果たしてどんな結論を出しているのか。それを、この目で確かめたい。
「…いいだろう。貴殿の言葉の真贋、見極めたくなった。―――暫く、世話になる。ライナー殿」
「こちらこそ。宜しく、エデン君」
再度差し出された左手を、強く握り返す。
谷間に差し込む月明かりの道を、私達は肩を並べて見遣った。
…相変わらず、血肉の見送りは絶えないが。それでも、彼女が一緒なら、当分は気が滅入る事もないだろう。
私は内心、そんなことを考える自分を自嘲しながら、この奇妙な女性との道中に思いを馳せた。
「―――と、ああそうだ、待ったエデン君。…ものは相談なんだがね」
と。一歩を踏み出そうとしたところを、脇に控えたライナー女史に呼び止められる。
何事か、と、こちらを変わらぬ虚ろな目で見上げる彼女に振り返った。
「――――――君、一段落したら、少し体を私に預けてみないか。
何、別に変なことはしないよ、ただちょっと、詳しく調べさせてもらいたいだけでね――――――」
―――変わらぬはずの、虚ろな、目。そこに一瞬、刃物のような狂気を見た気がしたが。
それは、気のせいだったということに、しておきたい。
to be continue…
YANA氏乙です!
エデン、人間じゃないと判断されるくらいの身体って・・・
前回、一撃で倒せなかった事には理由があったのですね。
今朝は力尽きて寝ちまいました。すいませんでしたorz
そんなわけで、第四章をお送りしました。
正規作品で準主役キャラ同士がまともに絡むのは、何気に今回が初めてです。
っていっても、解説と自己紹介ばっかりでこれあんまり話動いてねーなというのが書きながらの感想でした。なんてこった。
しかしながら、この二人は筆者としては非常に絡ませやすく相性のいいコンビだと思ってます。実際筆も進みました。
さて、次回は漸く、主役組が動き出し、やっとこさまともにドラクエ3の展開に合流します。…またすぐに外れますがw
次章、第二章『ハジメマシテ』をお楽しみに。
ところで、三章・四章を読んで、「あれ?」と違和感を感じた方。
もしおりましたら、一応それに関しては現状、黙っていておくんなさいまし(ぁ
あれ?エデンとライナーって後日談で会ってなかったっけ
と言おうと思ったけどやめておこう
631 :
cyb:2007/12/17(月) 20:41:57 ID:Cc8ds3Ci0
今更ながら・・・ドラクエ始めたいんですけど・・・
最初は何がいいですか??
やっぱ1からでしょうか?
はいはいスレ違いスレ違い
なんでこんなとこで質問しようと思うんだろね
それとも俺が釣られただけなのか
どんな順番でやってもいいと思う
123は関連性が強いけど特に問題はないかと
FF7でコンピから本編入るみたいな
攻略的には1→2→3がやりやすい気はするけど
4以降はほとんど独立してるようなもの
べ、別にあんたの為に答えたんじゃないんだから!
あくまでもドラクエの宣伝の為なんだからね!
ツンデレスレだから答えたけど2chもドラクエも知らんような奴は
本当にこのスレには来て欲しくないなと個人的には思う
ドラクエは5が好きだな
フローラ可愛いよフローラ
後日談は数行だったし、まともに絡んだとは言えないかと
確か、後日談でもライナーが勝ったような描写でしたね
そしてエデンが実験台にされそうな予感w
うおっうおっうおっうおっ!
うひ〜、書く気はあるのに、じぇんじぇん時間がとれません〜><
しかも、マシンが一台ぶっこわれたw
そっちにまで時間を取られる訳にはいかないので、
今日明日くらいでお仕事を落ち着かせて、マシンは放置で進めますですとも。
クリスマス前後に投下できたらな〜、とか呑気なことを思ってたんですが、
物理的にムリそうなので、次なる目標はお年玉前後でしょーか。
やたら忙しい年末年始を過ごせそうですw
やなちゃんがいるw
携帯でやなちゃんの昔の読みたいんだけどミリ?
っPCサイトビューワ
愛とアフィのこもったメールでもいいなら配信させていただきますがいかが?w
ほす
お・・・IDがDQVだw
おめっとさんww
これは5で小説を書けということじゃないか?w
>639
逆から読んだらDQ7だねw
おしいな、気づいてから1時間もなかったジャマイカ。
これはマリベルとビアンカのツンデレが見れる予感
久しぶりに書き込んでみる。保守
7は記憶が曖昧だが、マジャスティスの所の姫様がツンデレしてなかったか?
646 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/28(金) 09:46:59 ID:YUIo85vL0
ちょいと携帯から失礼します。
よく考えたら、残り容量では次回が投下し切れないかもでした。
すぐに投下できる訳じゃないので、気が向いた時でいいんですが、
どなたか新スレ立ててくださると助かりますです。
中途半端に容量残っちゃいそうなので、なるべくこのスレも
消費できるような形で投下しようかと考えとります。
つか、ウチのプロバイダが規制されてて書き込めないんですがw
投下までに、規制が解除されると信じよう。。。
こいつ、相当量の文章を溜め込んで興奮してやがる…ッ
次スレを立てるにあたって、
>>1の過去スレリンクは
いらないんじゃと思うんだけど意見求む
こ、興奮なんてしてないんだからッ!!(*´Д`)ハァハァ
私も、個人的には特に必要無いんですが、
過去スレを辿れる方もいるかも知れないですし、
各種過去ログ倉庫みたいなトコで検索キーとして使えるかもなので、
残しておいてもいいのかな、という気はしますです。
しーしーしが律儀にも過去スレ保管してくれてるから要らないに一票
>>652 スレ立て、ありがとうございました<(_ _)>
私も、そんな感じでよろしいのではないかと思います。
昨日は頑張って進めたんですが、まだまだ残りが。。。
あ、いや、くたくたになっちゃったのは、他の事もちょっとしたからかな。えへっw
ということで、年末年始なにそれ的な生活を送ってますが、
昨年は色々とお世話になり、ありがとうございました。
年始のごあいさつは、新スレの方で〜。
また書き直しですよ、あっはっは。
マズい。既に新スレまで立てていただいたのに、ホント申し訳ない。
お仕事の方もマズい。。。うぐぅ、なんとか頑張ります><
保守
責任を取ってほしゅ。
うわああぁぁ。ダメ人間だ。。。
年末年始のお休み中に投下して、のんびり読んでいただきたかったんですが、
お仕事の都合もありまして、どうしても間に合いそうにありません。
来週には必ず投下しますので、どうかお目こぼしを。。。ひらにひらに。
責任ほしゅ。疲れ。。。てませんよ?
ほしゅん
今週投下?期待保守
こっちはタダでいいもん読ませてもらってんだから責任感じることも無理する必要も無し
的保守
正直、「書けねー。全然ダメだ〜」と頭を抱える夢を見てしまうくらい、
まだちょっと迷ってる部分もあるんですが、そんなこと言ってたら
いつ投下できるか分からないので、なんとか明後日くらいを目処に投下したいと思ってます。
これ以上先送りしたら、投下するする詐欺になってしまうw
>さくせん
>まったりいこうぜ
なんかここまで来るともう創作活動だね。
投下は、いったん寝てから明日の朝とかになると思います。
あれ、今日はまだ朝じゃないのか。えっと、二十数時間後くらい?
何言ってんだ、自分w
フォオオオオオオオオオ
きたーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ふ〜。今回の話を書き出してから、今日になってようやく初めてキまして、
大幅に書き直してたら、こんな時間になってしまいました。
多分、少しはよくなった。。。かな。
ホントはその分もうちょい練らないとだけど、もうダメ。無理ですw
少し休んだら、投下しちゃいます。
32. New Position
草木も眠る丑三つ時――
とは使い古された表現だが、要するに誰も彼もが深い眠りに落ちてなきゃおかしい真夜中。
こんな時間に他人の部屋を訪ねるヤツは、よっぽど特殊な用件でも無い限り、まずいない。
だが、静かに――
カーテンの隙間から薄っすらと差し込む星明りの元、蝶番の音を立てる事すらはばかって、ひどく慎重に、ゆっくりと俺の部屋の扉は開かれた。
時ならぬ闖入者の目的は、果たして夜這いだろうか。
蔭ながらひっそりと俺をお慕い申し上げていたメイドがジツはいて、募る思いを抑えきれずに、とうとう忍んで逢いに来たのだ。
薄く開かれた扉から、するりと忍び込んだ人影は、既に夜目にも慣れているらしく、ベッドで微かに上下する毛布の元へと迷わずに歩み寄る。
そして、毛布の中身が本当に眠っていることを確認するみたいに、しばらく凝っと息を殺して佇んだ。
荒くなりがちな呼吸を、侵入者が無理に抑え込んでいるのが分かる。
緊張しているのだ。
どのくらい、そうしていただろう。
やがて人影は、意を決したように懐をまさぐった。
星明りを反射してきらめいたのは、小振りの剣――
はいはい、分かってましたよ。夜這いな訳ねー。
予定通りだ。残念ながら。
大体、夜這いにしちゃ時間が遅すぎるもんな。前後不覚に鼾をかいてる相手に迫ったところで、寝惚けたオチが待ってるだけだ。
叩いても起きないくらいに、相手がぐっすり寝込んでいた方が都合がいいのは、もうちょっと剣呑な用向きの場合だ。
ぶるぶる震えながら振り上げられた短剣は、頂点で静止したままなかなか動かなかったが、やがて、その重さに耐え切れなくなったように毛布を目掛けて振り下ろされた。
刃に貫かれる寸前――
いきなり毛布が跳ね上がり、懐剣を握った腕が、がしっと力強く受け止められる。
「ッ――ぐぅっ!?」
あっという間に侵入者を組み伏せたファングは、部屋の隅っこでしゃがんで身を小さくしていた俺を見た。
「お前の言う通りだったな」
「大したモンだろ?」
投げやりに返してベッドに近寄った俺は、侵入者の顔を覗き込む。
苦痛と屈辱に歪んだその顔は、俺の予想した通り――
「――でも、あの時は、ホントにびっくりしちゃいました」
妙に嬉しそうに、アメリアが言った。
「横で見てただけなのに、私までスゴくドキドキして、ぽ〜っとしちゃいましたもん」
離れの廊下で、ばったり出くわしたついでの立ち話だ。
「ああ、そう?」
もういいじゃん、そのハナシは。と言わんばかりの俺のいい加減な相槌も、アメリアは気にした風が無い。
「はい、それはもうっ!とても真剣なお顔で、真っ直ぐにユーフィミアさんをお見詰めになって……スゴく、素敵でしたよ?ちょっと、憧れちゃいました」
幾ばくか笑顔に混じったからかいの気分に、辛うじて救われる。
「あ、すみません、お引止めして――今から、そのお話をされに行くところなんですよね?」
そのお話ってのは、当然アレだ。
『結婚しよう』
俺がエフィに、そう言ってプロポーズした件のコトだ。
恋人役なんていい迷惑だってな態度を、ずっと崩さなかった俺に言われて、あの時はお嬢が一番呆気に取られてたな。
まぁ、我ながら唐突だったとは思うけどさ。
『あなたは、今から私の恋人なんですからね』
俺がお嬢に言われた時もいきなりだったから、これでお相子だよな。
「では、失礼します――ヴァイスさんが、これからどうされようとしてるのか、ジツは良く分かってないんですけど……頑張ってくださいね」
「ああ」
「ユーフィミアさんのお気持ちも、ちゃんと考えてあげないといけませんよ?」
お姉さんみたいな口調で言い残して、頭を下げてすれ違う。いちおう、俺の方が年上なんですが。
どこまで分かってないんだかね、まったく。
どうせこれから、ファングの世話でも焼きに行くんだろうな。ちぇっ、あの果報者め。
離れを出て、屋敷へ向かう。
相変わらず大時代的な雰囲気を醸し出している天井の高い廊下を抜けて、お嬢の部屋を訪ねると、控えの間からそばかす顔が覗いて俺を迎えた。
「おはようございます、ヴァイス様。お嬢様が、先ほどからお待ちかねです」
「ああ、うん、おはよう――ちょっといいか?」
早速、お嬢に取り次ごうとしたファムを呼び止める。
「はい、なんでしょう?――あ、先日は、お嬢様が危ないところをお守りいただいたそうで、ありがとうございました」
「いや……まぁ、別に」
ジツは大した事をしてないので、言葉を濁して話題を変える。
「あのさ――あんたは、あのカイってのと幼馴染なんだろ?」
ホントは、もうちょい当り障りの無い会話を交わして、気分をほぐしてから切り出そうと思ってたんだが、つい本題から入っちまった。
「はい?そうですけど?」
ファムは細い目をきょとんとさせて、首を傾げる。
メイドだから当然かも知れないが、化粧っけはまるでない。いや、そうじゃないメイドも、これまで割りと目にしてきたが――主に、アホの王様がいるお城とかで――首の後ろで無造作に束ねたセミロングの髪といい、純朴な田舎娘そのものといった印象だ。
「えぇとだな……実際のトコロ、あいつはどんな人間なんだ?」
「どんな……と言われましても。立派な方ですけど」
うん。そういう、判で押したような返事を聞きたいんじゃないんだよね。
「あんたにゃ、見っとも無ぇトコ見られちまったから言うけどさ……」
この前、カイと顔を合わせた時に、ファムはずっと傍らに居たので、やり取りの一部始終を見られている。
「俺とあいつは、言わばおじょ――エフィを取り合ってる恋敵ってヤツだろ?あいつの弱みを握りたいって訳じゃねぇけどさ、非の打ち所が無い立派な御仁が相手ってのも上手くない。だから、それこそ幼馴染しか知らねぇような、ヘンな話とか無いモンかと思ってね」
こんな風に言えば、少しは口が軽くなるかと思ったんだが。
「いえ、私には分かりません」
ファムは、あっさりそう答えた。
「いやいや、なんかあるだろ。完璧な人間なんて居やしねぇんだからさ」
「はぁ、そういうモノですか」
なんだか、間の抜けた返事だ。
「いやさ、あんたにしてみりゃ、ぽっと出のどこの誰とも分かんねぇ俺なんかより、幼馴染のあいつを庇いたい気持ちはよく分かるよ?けどさ、性格にしろなんにしろ、どっかに欠点の一つくらいはあるモンだろ。例えば、真面目過ぎて融通が利かなくて困る、とかでもいいからさ」
「いえ、それで私が困ったことはありませんから」
「だから、そういうこと言ってんじゃなくてさ……せめて、恥ずかしい失敗談とか無ぇのかよ。ガキの頃から、すぐソバで見てきたんだろ?」
「はい。昔から、よくしていただいてます」
駄目だ、こりゃ。このままじゃ、無難な返答に終始されそうだ。
ちょっと攻め方を変えてみますかね。
「……ははぁ。なるほどねぇ」
「はい?」
「いや、あんたさ――あのカイってのに惚れてんだろ?だから、あいつを悪く言いたくないってワケだ?」
我ながら、かなり無茶言ってんな。
しかし――
「はい」
「そりゃそうだよな。そんなご立派な男がすぐ近くにいたら、惚れねぇ方がどうかしてる――へっ?」
煽り文句を続けるまでもなく、淡白に頷かれちまって、逆にこっちが拍子抜けする。
「えっと……ああ、そう。惚れてんだ?」
「はい」
動揺を誘って口を滑らせようってな意図を、察知された風でもないんだけどな。どうも話が噛み合わない。
「それじゃ、複雑な気持ちだったんじゃねぇの?」
「と、言いますと」
「いや、だから。あんたはエフィの側仕えって立場なんだし、そのお嬢様とカイの結婚話が進んじまっちゃ、あんたの立つ瀬が無ぇっていうかさ――そうだ。俺を応援してくれれば、カイをエフィに取られなくて済むかも知れねぇんだぜ?」
「いえ。たとえ、あの方が誰か他の人間を好きになったとしても、私はあの方を嫌いになったりはしませんから」
「……ふぅん?」
「――ファム?さっきから誰と話しているの?もしかして、ヴァイスが来てるの?」
奥の扉の向こうから、エフィの声が聞こえた。
「はい、お嬢様」
「え?ホントに来てるの?まぁ、ファムったら、なにをしているのよ?早く通しなさい」
「はい、申し訳ありません」
「あ――やっぱり、ちょっと待ってもらって!」
奥からバタバタと忙しない音がした。
待たされている間に水を向けても、ファムは会話を続ける気が失せたようで、可もなく不可もない返事しか戻ってこなかった。
ややあって、お嬢の部屋に通された俺は、ちょいと意表を突かれた。
いや、ある意味イメージ通りなんだけどさ――ずいぶん、少女趣味でやんの。
どれも金がかかっている事がひと目で知れる調度品が並んだ広い室内は、どこもかしこもお嬢が着ている服みたいにひらひらとしていた。
ベッドの天蓋からひらひら垂れた薄絹越しに見えるのは、あれ、ぬいぐるみじゃねぇのか。
「ちょっと、人の部屋をじろじろ見ないでもらえる?失礼ね」
しきりと髪を気にして撫でながら、お嬢はムッとした表情を浮かべた。多少の自覚はあるのか、照れ隠しのようにも見える。
いやぁ、可愛くていいんじゃないですか。室内香が、ちょっと強過ぎる気もするけど――いや、いい匂いですよ、ホント。
絵に描いたように女の子らしいエフィの部屋で、軽く打ち合わせを済ませて、一緒にラスキン卿の説得に向かう。
説得ってのは、アレだ。
なんとゆーか……だから、俺とお嬢の結婚のハナシだよ。
昨日は、人攫い共をひっ捕らえたりなんだり、バタバタしてたからな。おおまかな意向だけは、お嬢に伝えてもらってあるんだが、改めてちゃんとした話を聞かせろと言われているのだ。
父親であるラスキン卿にしてみりゃ、当たり前の要求だけどね。
正直、気が進まねぇよ。
胃が重い。
けど、行かない訳にもいかないのだ。せめて、話の進め方を間違えないようにしないとな。
「あのファムってのは、昔っからあんな感じなのか?」
放っておくと沈んでいく気分を紛らせようと、隣りを歩くお嬢に何気なく聞いてみた。
「どういう意味よ、あんな感じって?」
お嬢の方には、まるで緊張とか無ぇみたいだ。むしろ、普段より明く見える。気楽なモンだね、まったく。
「いや、なんつーか……」
いちおう友達らしいので、あんまり悪く言う訳にもいかず、返答に詰まっていると、お嬢は軽く溜息を吐いた。
「まぁ、言いたいことは分からなくもないわ。私も最近、あの子にちょっと距離を置かれてるのかなって気がしていたから……」
無意識っぽい動作で、今日も見事な金髪を手櫛で梳く。
支援
「仕方ないとは思うのよ。私もあのコも、いつまでも子供のままじゃないのだし、もうお互いに自分の立場を否応無く意識してしまう年齢だわ。
だから、あのコが使用人としての言動に務めようとするのは、理解できない訳ではないのよ。あの頃のようには……昔みたいに接することが出来ないのは、分かるのだけれど――」
髪を梳く手を止めて、眉をひそめる。
「でも、やっぱり……」
ニ、三度かぶりを振って、続く言葉を途中で呑み込んだ。
「ううん、いいわ。なんでもない」
自分とカイの縁談を気にして、ファムは無理に距離を置いているのかも知れない。
口にしかけた内容は、そんなトコロかね。ファムがカイに惚れてるってことは、お嬢にも分かってる筈だからな。
ふぅん。
俺には、エフィに伝えていないことがある。
それを知ったら、お嬢は俺を止めるだろうか。
「ん?――なによ、人の顔を凝っと見て」
軽く俺を睨み上げたかと思うと、お嬢はふふん、みたいに笑った。
「……惚れたの?」
してやったりの顔で、いつかの俺と同じ台詞を吐く。
「かもな」
「――えっ!?」
一瞬、うろたえたお嬢だったが、すぐに軽口で切り返された事に気付いて、悔しそうな顔をする。
ちょっと、可愛いじゃねぇか。
確かにな。最初に会った頃と比べりゃ、お嬢に対してわだかまりは無ぇけどさ。
お互いに距離を置く感じも、薄らいではいると思うし。
けど――
絶対に、俺を信じてくれる。
そう思うことは、やっぱり出来なかった。
だから、実際にその時がくるまでは、内緒にしておこう。
いきなり知らされる事になるお嬢には悪いけどさ、それを知ってるのは、俺の他にはファングだけなんだ。
姫さんもアメリアも、まだ知らない。エミリーには理解できるように説明するのが大変だし、アメリアの場合はあいつのドジで話が漏れたりするのが心配だ。
それぞれ理由は違うけど、お嬢にだけ秘密にしてる訳じゃないんだぜ。
だから、まぁ、大目に見てくれよな。
ラスキン卿の元を尋ねると、急な来客があったとかで、申し訳ないが少し待って欲しいとお付きの人間に頭を下げられた。
なんとなく予感が働いて、客の素性を尋ねると、案に違わずカイだった。
こいつは、願ったり叶ったりだ。
この機を逃す手はねぇよ。
なんとか、今すぐ中に入れるようにゴリ押ししてくれとエフィに頼み込むと、流石はお屋敷のお嬢様、程なく入室が許可された。
部屋に入る間際、エフィに耳打ちをする。
「頼む。本気で説得してくれ」
「ちょっとやだ、近い――え!?あなたがしてくれるんじゃないの?」
「うん、最後はちゃんと、俺が請け負うから。だから、エフィも自分で説得するつもりでいてくれよ、頼むから」
「なんで、私が自分で……分かったわよ」
口ごたえをしている暇が無かったのが幸いした。エフィは渋々顎を引く。
「やぁ、二人共、おはよう」
鷹揚に俺達を迎えたラスキン卿に、朝の挨拶――もう昼近いが――を返して、こっちを睨みつけているカイの向かいのソファーに、エフィと並んで腰を下ろす。
「エフィから多少は聞いているが、それほど急ぐ話なのかね」
前と同じメイド服が、ソツのない所作で紅茶を淹れてくれたが、今日はこの娘にかまけている余裕は無い。
「来客中にすいません。いや、そこのカイさんにも関係のある話かな、と思いましてね」
俺は見せつけるように、膝の上でエフィの手を握ってみせた。
びっくりして、握られた自分の手と俺の顔を見比べるエフィ。馬鹿、そんな驚いた顔すんじゃねぇよ。
突き刺すようなカイの視線が、より鋭くなった。
「ほぅ。君には既に充分驚かせてもらったが、この上まだ何かあるのかね?」
「事によれば」
人攫い共を一網打尽にした件は、全て俺の手柄ということにしてあるのだ。
これからする話に説得力を持たせる為には、その程度の実績じゃ足りないくらいだ。
手柄の横取りになっちまうけど、そこはほれ、ファングは細かいことを気にしない馬鹿だから、あっさりと了承済みだ。
「ジツはですね――」
そんな目で睨むなよ、カイ。
手前ぇが居合わせたお陰で、予定してた段取りを変えなきゃいけなくなっちまったんだぜ。
ああ、胃が痛ぇ。
まさか、俺が女の父親に、こんなことを言う日が来るとはね。
つか、俺なんかが言っても、笑われるだけなんじゃねぇの。
説得力無ぇだろ、俺みたいなゴロツキまがいがさ――
『とても真剣なお顔で、真っ直ぐにユーフィミアさんをお見詰めになって……スゴく、素敵でしたよ?』
ホントだな?
信じたぜ、アメリア。
俺は、可能な限り真剣な眼差しで、真っ直ぐにラスキン卿の目を見ながら口を開いた。
「お嬢さんと――エフィと、結婚させて欲しいんです」
支援
ラスキン卿は、それまでの鷹揚な態度を一変させて、ぽかんと呆けた顔つきになった。
あれ?話は通ってる筈だろ?
想像以上に驚かれちまって、俺は慌ててエフィを振り返る。
「え――な、なぁに?」
なぁに?じゃねぇだろ、このお嬢。
何を呑気に赤くなってやがんだ。
さてはお前、「大事なお話があります」とかなんとか、そんな風に伝えてただけだろ、これ?
「い、いや……なんともはや――」
「ふ、ふざけるなっ!!」
なんとか気を取り直そうと苦労しているラスキン卿の呟きを、ソファーから立ち上がったカイの怒声が遮った。
「昨日今日ぽっと出てきた流れ者が、こともあろうにお嬢様と結婚だと!?馬鹿も休み休み言うがいい!身の程を知れッ!!」
いや、あんたがそう仰る気持ちは、よく分かるんですがね。
「いいえ。失礼ですけど、貴方は勘違いをなさっておいでだわ」
隣りから落ち着いたいらえが聞こえて、今度は俺がびっくりした。
「ヴァイスは今の貴方と同じように、自分は結婚相手として相応しくないと言って、一旦は身を引こうとしたのです。それを、私が無理を言ったのですわ。だって、私……本当に、彼を好きになってしまったのですもの」
えらく感情の篭った、しみじみとした口調だった。
願ってもない助け舟だが、やっぱ、女ってスゲェな。
「私が人攫いの事件で心を痛めていたことは、貴方もよくご存知でしょう?貴方も、そしてお父様も、ずっと手をこまねいてらしたのに、ヴァイスは本当にあっという間に解決してしまって……はしたない言い方をしますけれど、私、心底から惚れ直してしまったのですわ」
「これは手厳しいね。そう言われては、私も形無しだ」
ラスキン卿が、場を取り成すように苦笑した。
カイは、二の句が継げずにわなわな震えている。
「ねぇ、お父様。私も、いきなり結婚だなんて、そこまで無茶を言うつもりはなかったんですのよ。けれど、この度の件で、考えが変わりました。これほど頼りになる人は、どこを探したって他に居ませんもの」
お嬢も言うね――うぅ、首の下が痒い。
「お父様が、色々なことを――もちろん、私の事も――懸案なさって、そちらのカイ様との婚約をお進めになっていたのは、よく分かってます。けれど――」
お嬢はちらりと俺を見てから、ラスキン卿に視線を移した。
「やっぱり、結婚となったら、自分の気持ちが一番大切なのだわ。それに気付かせてくれたのが、ヴァイスなんです」
「いや、それは……私もお前の気持ちを出来るだけ尊重してやりたいと、いつも思ってはいるがね――」
困惑しきりのラスキン卿に皆まで言わせず、エフィは嬌声に近い声をあげる。
「でしょう!?お父様は、きっとそう仰って下さると思ってましたわ!」
「これ、待ちなさい――」
「あら、何かご心配でも?家柄についてなら、以前に申し上げた通り、ヴァイスには何も問題ありませんわ。まさか、エジンベア人ではないことを、気にしてらっしゃる訳ではありませんわよね?それでしたら、カイ様も同じですもの」
「それは、そうだが――」
「そう、思えばつまらないわだかまりですわ。一度好きになってしまえば、その人がどこの人であろうと、そんなことは関係ありませんもの。そんな下らないこだわりよりも、自分の気持ちが一番大切なのだわ」
「これこれ。そんな風に、はしたない事を言うものではないよ」
「ごめんあそばせ、お父様。けれど、それを抜きにしたって、私の夫としてヴァイスほど相応しい人もいないと思いますのよ?だって、そうでしょう?今の私達にとって、一番の問題はなんですの?常に魔物の存在に脅かされている事、そうではありませんの?」
「いや、それは、もちろん――」
「でしたら、やっぱり私の夫として、ヴァイスは一番相応しい人ですわ。だって、その魔物を退治することにかけては、ヴァイスは専門家なんですもの」
「うむ……」
「ですから、私とヴァイスの結婚を、今すぐにでも発表して欲しいんです――そう、叶うのなら、明日にでも!」
お嬢は、無茶な事を言った。
支援
「い、いや、お前、それは……」
「いいえ、とりあえず婚約という形でも結構ですのよ。とにかく私、なんだか気持ちが急いてしまって、もう我慢が利きませんの」
お嬢は、含み笑いを父親に向ける。
「一刻も早く、彼と夫婦になるのだと、皆に認めて欲しいのですわ。それに、ひと度公になってしまえば、お父様も気をお変えになりようがありませんもの」
たとえ無茶でも、日を置かずに婚約の噂を流布させる事が肝心なんだ。
お嬢には、そう言ってあったよ、確かにさ。
けど、ここまで熱心に父親を説得してくれるとは思わなかった。
いや、助かるけどね。
やっとのことで、カイが横から口を出す。
「ば、馬鹿馬鹿しい。誰が納得するというのです、そのような話。そんな、どこの馬の骨とも知れない――」
「あら、そんな仰りようってありませんわ。彼は郷に戻れば、決して貴方に劣らない立場の人間ですのよ?それに彼は、皆を震え上がらせていた人攫いを、あっという間に捕らえてくれた人ですもの。きっと皆、彼に感謝して、私達の結婚を祝福してくれる筈ですわ」
「そ、そのように都合のいい話があるものか!まったく、お話になりませんな!す、少しは落ち着いてお考えになるがよろしい――」
「まぁまぁ。確かに娘は少々気が昂ぶって、周りが見えなくなっているようだが、君も少し落ち着きたまえ」
ラスキン卿の取り成しに、「まぁ、ヒドいわ、お父様ったら」とか言いながら、お嬢は頬を膨らませる。
「いずれにしろ、ここはひとまず、時間を置いた方が良いだろう。君との話を含めてね」
「なるほど……私は、お邪魔のようですね」
「いや、待ちたまえ。そのようなつもりで言ったのではないよ――」
カイが離席する気配を察した俺は、お嬢に目配せした。
俺からは切り出し辛いから、お嬢に言ってもらうように、さっき頼んでおいたのだ。
初遭遇
支援
「そうだわ、お父様。ヴァイスは私の婚約者ですもの。いつまでも他の人達と一緒に、あの離れに置いておく訳にはまいりませんわ。いずれ、この屋敷で暮らしてもらうとしても、準備が整うまでは、ひとまず彼だけ別棟に移ってもらうのがよろしいのではなくて?」
「いや、お前も落ち着きなさい、エフィ。そう簡単に言うがね、人の手配もあることだし――」
「ああ、結構ですよ。警護に人を回してもらったりする必要はないです。なにしろ、人攫い共は全員捕らえた訳ですから、危険も無いと思いますしね」
と、俺。
「それに、側付きが必要でしたら、ファムに頼みますわ。私の方はなんとでもなるのだし、それにヴァイスは私の大切な人ですもの。一番信頼の置けるあのコに世話をしてもらえば、私も安心ですわ」
打ち合わせた時は「どういうつもりなの?」とか渋っていたお嬢だったが、しれっと言いやがるね。
「いや、待ちなさい。そういう事を言っているのではなくてだね――」
困り果てたラスキン卿の隣りで、カイは荒々しく席を立った。
「どうやら、本当にお邪魔のようだ。私は、これで失礼します」
止める間もなく、ずかずかと足音荒く退室する。
気の抜けた顔でそれを見送って、ラスキン卿はソファーに深々と腰を埋めると、溜息を吐きながら額に手を当てた。
「やれやれ。一体どういうつもりなのかね、お前達は」
疲れ果てた様子のラスキン卿には気の毒だが、本題はこれからだった。
そして、ラスキン卿は、こちらの申し出を断わらないだろう。
結果的に、その読みが当たったことで、俺はとある確信を深めていた。
まだ書き込めるかな?前半はこっちなので、ほす
dat落ちしないようにほす
まだ大丈夫だろーか?
皆々様がた、あけましておめでとうございます。
残り容量も少ないので手短にですが、埋めがてら少々アンケートを。
ちょっと時間ができたので、アリワ完結1周年記念で短編を一本書こうと思うのですが、希望するシチュがありましたら↓にお願いします。
登場キャラや話の方向性(ギャグやらシリアスやら)等は一切問いません。細部まで指定するも、一言二言述べて丸投げするも自由です。
リク締め切りはこのスレが打ち止めになるまで、ということで一つ宜しくお願いします。
尚、例によって選抜は当方の独断と偏見なのでご了承下さい(ぇー
じゃあ女王様モードな感じで
ED後のほのぼの系で
ゴドーとアリスのラブラブデート -ツンデレ合戦- で