+基本ルール+
・参加者全員に、最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう。
・参加者全員には、<ザック><地図・方位磁針><食料・水><着火器具・携帯ランタン><参加者名簿>が支給される。
また、ランダムで選ばれた<武器>が1つから3つ、渡される。
<ザック>は特殊なモノで、人間以外ならどんな大きなものでも入れることが出来る。(FFUのポシェポケみたいなもの)
・生存者が一名になった時点で、主催者が待っている場所への旅の扉が現れる。この旅の扉には時間制限はない。
・日没&日の出の一日二回に、それまでの死亡者が発表される。
+首輪関連+
・参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
・24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
・放送時に発表される『禁止技』を使ってしまうと、爆発する。
・日の出放送時に現れる『旅の扉』を二時間以内に通らなかった場合も、爆発する。
・無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
・なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
・たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止魔法が使えるようにもならない。
+魔法・技に関して+
・MPを消費する=疲れる。
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる敵と判断された人物。
・回復魔法は効力が半減します。召喚魔法は魔石やマテリアがないと使用不可。
・初期で禁止されている魔法・特技は「ラナルータ」
・それ以外の魔法威力や効果時間、キャラの習得魔法などは書き手の判断と意図に任せます。
+ジョブチェンジについて+
・ジョブチェンジは精神統一と一定の時間が必要。
・10-2のキャラのみ戦闘中でもジョブチェンジ可能。
・ただし、スペシャルドレスは、対応するスフィアがない限り使用不可。
・その他の使用可能ジョブの範囲は書き手の判断と意図に任せます。
+戦場となる舞台について+
・このバトルロワイヤルの舞台は日毎に変更される。
・毎日日の出時になると、参加者を新たなる舞台へと移動させるための『旅の扉』が現れる。
・旅の扉は複数現れ、その出現場所はランダムになっている。
・旅の扉が出現してから2時間以内に次の舞台へと移らないと、首輪が爆発して死に至る。
━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活は認めません。
※新参加者の追加は一切認めません。
※書き込みされる方はCTRL+F(Macならコマンド+F)などで検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に、【死亡確認】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細は、雑談スレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際は、雑談スレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーは雑談スレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は極力避けるようにしましょう。
書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。
みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであれば保管庫にうpしてください。
・自信がなかったら先に保管庫にうpしてください。
爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない保管庫の作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
・巧い文章ではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
できれば自分で弁解なり無効宣言して欲しいです。
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・ …を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・極力ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
■参加者リスト
FF1 4名:ビッケ、ジオ(スーパーモンク)、ガーランド、アルカート(白魔道士)
FF2 6名:フリオニール、マティウス(皇帝)、レオンハルト、マリア、リチャード、ミンウ
FF3 8名:サックス(ナイト)、ギルダー(赤魔道士)、デッシュ、ドーガ、ハイン、エリア、ウネ、ザンデ
FF4 7名:ゴルベーザ、カイン、ギルバート、リディア、セシル、ローザ、エッジ
FF5 7名:ギルガメッシュ、バッツ、レナ、クルル、リヴァイアサンに瞬殺された奴、ギード、ファリス
FF6 12名:ジークフリート、ゴゴ、レオ、リルム、マッシュ、ティナ、エドガー、セリス、ロック、ケフカ、シャドウ、トンベリ
FF7 10名:クラウド、宝条、ケット・シー、ザックス、エアリス、ティファ、セフィロス、バレット、ユフィ、シド
FF8 6名:ゼル、スコール、アーヴァイン、サイファー、リノア、ラグナ
FF9 8名:クジャ、ジタン、ビビ、ベアトリクス、フライヤ、ガーネット、サラマンダー、エーコ
FF10 3名:ティーダ、キノック老師、アーロン
FF10-2 3名:ユウナ、パイン、リュック
FFT 4名:アルガス、ウィーグラフ、ラムザ、アグリアス
DQ1 3名:アレフ(勇者)、ローラ、竜王
DQ2 3名:ロラン(ローレシア王子)、パウロ(サマルトリア王子)、ムース(ムーンブルク王女)
DQ3 6名:オルテガ、アルス(男勇者)、セージ(男賢者)、フルート(女僧侶)、ローグ(男盗賊)、カンダタ
DQ4 9名:ソロ(男勇者)、ブライ、ピサロ、アリーナ、シンシア、ミネア、ライアン、トルネコ、ロザリー
DQ5 15名:ヘンリー、ピピン、リュカ(主人公)、パパス、サンチョ、ブオーン、デール、レックス(王子)、タバサ(王女)、ビアンカ、はぐりん、ピエール、
マリア、ゲマ、プサン
DQ6 11名:テリー、ミレーユ、イザ(主人公)、サリィ、クリムト、デュラン、ハッサン、バーバラ、ターニア、アモス、ランド
DQ7 5名:主人公フィン、マリベル、アイラ、キーファ、メルビン
DQM 5名:わたぼう、ルカ、イル、テリー、わるぼう
DQCH 4名:イクサス、スミス、マチュア、ドルバ
FF 78名 DQ 61名
計 139名
生存者リスト
FF1 0/4名:(全滅)
FF2 3/6名:フリオニール、マティウス、レオンハルト
FF3 5/8名:サックス、ドーガ、エリア、ウネ、ザンデ
FF4 2/7名:カイン、エッジ
FF5 5/7名:ギルガメッシュ、バッツ、レナ、ギード、ファリス
FF6 7/12名:ゴゴ、リルム、マッシュ、エドガー、ロック、ケフカ、トンベリ
FF7 4/10名:ザックス、セフィロス、ユフィ、シド
FF8 5/6名:ゼル、スコール、アーヴァイン、サイファー、リノア
FF9 3/8名:ジタン、ビビ、サラマンダー
FF10 1/3名:ティーダ
FF10-2 2/3名:ユウナ、リュック
FFT 4/4名:アルガス、ウィーグラフ、ラムザ、アグリアス
DQ1 0/3名:(全滅)
DQ2 1/3名:ロラン
DQ3 5/6名:オルテガ、アルス、セージ、フルート、ローグ
DQ4 6/9:ソロ、ピサロ、アリーナ、シンシア、ライアン、ロザリー、(アリーナ2)
DQ5 8/15名:ヘンリー、リュカ、パパス、ブオーン、デール、タバサ、ピエール、プサン
DQ6 6/11名:テリー、イザ、クリムト、ハッサン、バーバラ、ターニア
DQ7 1/5名:フィン
DQM 3/5名:わたぼう、ルカ、テリー
DQCH 1/4名:スミス
FF 41/78名 DQ 32/61名
計 72/139名
■死亡者状況
ゲーム開始前
「マリア(FF2)」
アリアハン朝〜日没
「ブライ」「カンダタ」「アモス」「ローラ」「イル」
「クルル」「キノック老師」「ビッケ」「ガーネット」「ピピン」
「トルネコ」「ゲマ」「バレット」「ミンウ」「アーロン」
「竜王」「宝条」「ローザ」「サンチョ」「ジークフリート」
「ムース」「シャドウ」「リヴァイアサンに瞬殺された奴」「リチャード」「ティナ」
「ガーランド」「セシル」「マチュア」「ジオ」「エアリス」
「マリベル」
アリアハン夜〜夜明け
「アレフ」「ゴルベーザ」 「デュラン」「メルビン」「ミレーユ」
「ラグナ」「エーコ」「マリア(DQ5)」「ギルバート」 「パイン」
「ハイン」「セリス」「クラウド」「レックス」「キーファ」
「パウロ」「アルカート」「ケット・シー」「リディア」「ミネア」
アリアハン朝〜終了
「アイラ」「デッシュ」「ランド」「サリィ」「わるぼう」
「ベアトリクス」
浮遊大陸朝〜
「フライヤ」「レオ」「ティファ」「ドルバ」「ビアンカ」
「ギルダー」「はぐりん」「クジャ」「イクサス」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「ほんっとに大丈夫?」
「大丈夫だから」
「ホントのほんとの本当に?」
森深く、明るい、だが真剣な声が響く。
あの草原からこの森にかけて、リュカとリノアはこんなやり取りを延々続けていた。
「そんなに信用ないかなぁ」
「リュカは何でも自分に溜め込んで、それを顔に出さないから恐いのよ」
表面上のリュカは落ち着き、元来の穏やかさを取り戻している。
けれどそれを、どこまで正直に受け止めるべきだろうか。
確かにリノアは、リュカの「大丈夫」を全く信用していないのだ。
視線をそらせば瞳を暗く沈ませて、ちらりと横目にそれを見ると、またすぐに笑顔を作り直す。
誰かに心配をかけないために無理をすることに、体が慣れきっている、そういう風にリノアには思える。
その気遣いは大したものだと褒めてやりたいが、張り詰めた糸の上でそんなことをやっていては身が持たなくなるのは歴然としている。
今は自分がリュカを気遣ってやるべきときだ。
「もう、しょうがないんだから」
リノアはリュカの手首を掴み、目指す城へ歩を早める。
そんな時だ。タイプライターの音が響いたのは。
レオンハルトを追って、デールは森を駆けていた。
だが基礎体力の違いだろうか。森の中腹まで来て自分が完全に巻かれたことに気づく。
「ちっ」
舌を打ち、しかしそれでどうにかなるわけでもない。次なる獲物を探さなければ。
そんな時だ。女の、明るい声が響いたのは。
デールは一目散にその声の者へ急いだ。
そこにいたのは男女の二人組み。
相手の死角から二人を確認して、デールは唇の片方を持ち上げた。
女の方は知らない。
だが男のほうは、ヘンリーに次ぐ大物じゃないか。
(まあマリア義姉さんには負けるけど、あの人はもう壊してしまったから。)
銃口を向ける。
二人はかなり近づいて歩いていたけれど、正確に女の方だけを狙って。
そう、リュカをこんな不意打ちで壊してしまうなんて勿体無い。
彼には絶望と言う名の美酒に酔い、恍惚の内に壊れてもらおう。
それがいい。
だって彼はヘンリーの親友なのだから。
タイプライターの音。舞い散る赤。
自分の手首を握ってくれていた彼女の手が、ほどける。
鈍い、物が落ちる音。足元に崩れる彼女。
「リ、ノア……、リノア!!」
反射的に抱き起こす。
脱力した身体は異様に重く、覗き見れば顔も、身体も張り裂け血にまみれて、人の原形をとどめていることがいっそ痛々しくて。
息を呑む。
呼吸が出来ない。
誰かが木々の間を縫って近づいてくる。
そのことが分かっているのに、体が全く動かない。
「こんなところで会えるなんて、思いもよりませんでした。嬉しいです」
彼は穏やかに笑いかけてくる。
自分と彼に境界線を引けるなら、彼のいる世界は例えば舞踏会。
そんな想像をしてしまうほど彼は優雅で、リノアの血に汚れた自分とはまったく別世界の人間ではないかと思える。
ただ彼の構える銃口だけが、彼が確かにこのゲームに参加しているという証明を果たしている。
「どうしたんですか、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」
彼の笑顔が少し歪んだ。恍惚に引きつっている。
「まあコレは、そんな甘いモノじゃないんですけどね」
マシンガンを構えた腕に力が入る。
指が引き金を引けば、その先になにがあのかを、リュカは知っている。
本能的に体が動く。
ザックの底にしまってあったスナイパーCRの残骸を回転をつけ投げる。
意識が一瞬それたその隙に前進、肉薄、引き金を引く隙を与えてはならない。
その動きに、デールは少なからず慌てた。
リュカの繰り出す竹槍の一撃に、不覚にもマシンガンを落としたのだ。
だが、とっさにザックから取り出したアポカリプスが、竹槍を真っ二つに切って落とす。
リュカは引かない。大剣であれば接近戦は不利。
覆いかぶさるように地面に押し倒し、デスペナルティをデールの眉間に突きつける。
今度はこちらが引き金を引けば、それで終わりだ。
けれど。
指が動かない。
使い慣れた剣や杖の類なら、戦闘中に思考の入る暇もなく、とどめをさせただろう。
けれど銃は、昨日使い始めたばかり。
どうすれば相手に向けて撃つことが出来るかを、身体が無意識に覚えているというほど使い込んではいない。
一度脳を通さなければならないその命令は、誰を撃とうとしているかを、撃った後どうなってしまうかを、同時に考えてしまう。
デールを、ヘンリーの弟を、殺そうとしているのだと、自覚を促される。
それは決定的な隙であって、デールがそれを見逃すはずはなかった。
腹部に強烈な足蹴りが打たれる。
アポカリプスの柄の打撃に、デスペナルティを落とす。
今度は逆に地面に押し倒され、首筋に、冷たい刃が突きつけられる。
デールはそのまま首を切り落とそうとはせず、刃を少し下にずらし、心臓のない右胸を、貫いた。
「あああああああーーーーーーーっ!!!」
悲鳴に聞惚れるよう目を細める。
さて次はどうしよう。目をえぐろうか、それとの舌を引き抜こうか。
いや、どれも駄目だ。
「あなたの悲鳴をもっと聞かせてください。あなたの瞳が絶望に染まる様を見させてください」
ではどうしよう。
アポカリプスはリュカを串刺しにするのに使っているから、刃物で切り裂くことは諦めなくてはならない。
マシンガンは残弾を考えると余り使いたくないし。
ふと視線をずらせば、すぐそこに先ほどまでリュカが使っていたデスペナルティがある。
「ああ、いいものがありました」
リュカは、アポカリプスの刃をそのまま握ることも構わず、胸に突き刺さるそれを引き抜こうともがいていた。
二発の銃弾が、その腕を撃ち抜く。
「駄目ですよ。逃げようなんて、思わないで下さい」
それは突然に、何の前触れもなく。
辺りは煙に包まれる。
「くそっ、誰だ、邪魔をして!!」
闇雲にデスペナルティを乱射するが、そはマシンガンとは勝手が違う。
何の手ごたえもなく煙が晴れるのを待てば、そこにあるはずの得物も、獲物も忽然と姿を消していた。
あるのはただ、城の方向へ伸びる人の通った跡のみ。
「駄目ですよ。逃げ切れるなんて、思わないで下さい」
「シンシア、大丈夫かい、そんなに大きな剣を持って」
「私は大丈夫です。それよりエドガーさんは?」
森を駆ける二人の男女。
男は右手を失くしていたが、器用に体格もそれほど違わない男を背負ったまま走っている。
「私は大丈夫だが、この彼は、かなり傷がひどい。城まで持つかどうか。たとえ持ったとして回復手段が…」
「その人が回復魔法を使えるのなら、私がモシャスをして助けてあげられます」
彼らは城へと駆ける。
【リノア 死亡】
【残り 71名】
【エドガー(右手喪失) 所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン
【シンシア 所持品:アポカリプス 万能薬(ザックその他基本アイテムなし)
第一行動方針:サスーン城に向かいリュカの傷の手当てをする
第二行動方針:仲間を探す 第三行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【リュカ(右肺刺傷、両腕被弾) 所持品:お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4
第一行動方針:?
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【デール 所持品:マシンガン(残り弾数1/4)、アラームピアス(対人)
ひそひ草、デスペナルティ リフレクトリング 賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
第一行動方針:リュカを殺す為追いかける(サスーン城へ向かう)
第二行動方針:皆殺し(バーバラ[非透明]とヘンリー(一対一の状況で)が最優先)】
【現在地:カズス北西の森→サスーン城】
サラマンダーとロランの戦いを見つめながら、バーバラは建物の影に身を隠していた。
(イクサス…大丈夫かな…)
洞窟を見つめ、その中に入っていった少年の身をを案じる。
『…ねが…い』
突然、バーバラの頭の中に、声が響いた。
(なに…!?)
バーバラは驚き辺りを見渡すが、声の主の姿は見えない。
『…お、願い…の…力を…受け…取っ…』
再度声が響く、気のせいなどではない。
(力? 受け取るって…)
『魔…の…からを…手を、伸ば…て』
その声は、今にも事切れてしまいそうなほどか細く弱い。
(こ、こう?)
その声に哀れみを感じたのか。彼女は言われるがまま、頭の中に直接送られてくるイメージに向かって手を伸ばした。
『ありが…う、…れと…彼に伝え…愛…てる…て』
そう言うと、頭の中のその声は、煙のように掻き消えた。
バーバラの手がそれに触れた。瞬間、ものすごい勢いで何かが体の中に流れ込んできた。
体が熱い。体の奥が燃えるように熱い。
体が冷たい。体が末端から凍り付いてしまいそうなほど寒い。
乱暴なまでに巨大なエネルギーが流れんで来る。
そのエネルギーはバーバラの体中を滅茶苦茶にかき回す。
(いや…! こんなの、入りきらない!)
魔法都市カルベローナの魔女バーバラ。その器は魔女を受け入れるには相応しい。
だが、いくら器があろうとも、彼女の体は魔女を受け入れるには幼すぎた。
溢れ出た魔女の力が彼女の意識を浸食していく。
(いや…怖い! 助けて、誰か…! イザ…)
耐え切れず、彼女は意識を手放した。
その場に倒れこんだバーバラの背中から、光の翼が生まれる。
そして意識のないその体は宙を舞い、目の前で戦闘を行う二人に向かい近づいていった。
【バーバラ(ヴァリー暴走中) 所持品:ひそひ草、様々な種類の草たくさん(説明書付き・残り1/4) エアナイフ
第一行動方針:不明 基本行動方針:魔女の力の制御
【現在地:カズスの村・ミスリル鉱山入り口】
カツン、と小さな音がした。
蹴飛ばされた小石が、サックス達の視界の端をころころと転がり、止まる。
(誰だ……?)
ロランかと思ったが、それにしては気配が全く感じられない。
イクサスを警戒しているのかとも思ったが、彼の死体はこの部屋より前にあるのだし
あれだけの血が流れている以上、匂いで見つかるはずだ。
イクサスの死体を見つけて尚、気配を消して忍び寄る相手――
二人の頭に浮かんだのは、『敵』の可能性だった。
「オラァ! 隠れてないで出て来いや!」
フルートが小石を拾い、投げる。
どのみち全力が出せない以上、まともに当てるつもりもなかった。
攻撃というよりも単なる威嚇、暗闇の向こうにあるはずの壁を放った一撃。
けれど、酷使された筋肉の痛みは彼女の手元を狂わせて。
さらに悪い事に、彼らは彼女が考えたよりもずっと、ずっと近くにいた。
「うぁあああっ!!」
悲鳴が響く。赤髪の少女よりもずっと幼い、甲高い声が。
その声の主に思い当たり、二人は息を呑む。
呆然とするフルートの耳に、追い討ちをかけるかのように怒りに満ちた声が届いた。
「テメェ……テメェら、やっぱり……」
「ゼル!?」
サックスが叫ぶ。姿は見えず、気配も無く、されど確かにそこにいる仲間に向かって。
「近寄るんじゃねぇ」
返ってきたのは、拒絶だった。
激情を押し隠した静かな声は、彼の意思を百万の言葉よりも雄弁に物語っていた。
「ゲームに乗らないんじゃねぇのかよ、テメェら。
それとも最初からそのつもりだったのか?」
「ゼル……テメェ、何を勘違いしてんだ?」
フルートが眉を潜めて聞き返す。
「石を投げたのはあたしが悪かったかもしんねぇ。
だがな、ゲームに乗ったとか言われる筋合いはねーぜ」
エドガーは森の中を駆けながら背に負った青年の呼吸が弱くなっていくのを感じていた。
彼のマントに染み込んでくる血の量も軽視できない。
『マズイな。もう長くは持たない……どうする?』
あの銃を持った男も虚を突いたおかげでかなり引き離したが、以前気配は追ってくる。
「シンシア、この人のザックを探ってみてくれ。
何か使える物が入っているかもしれない」
「は、はい」
シンシアは大剣アポカリプスを持ったまま苦しそうに走っているが今はエドガーにも気遣う余裕はない。
片手で器用にリュカのザックを抱え、中を探る。
その顔が失望にゆがんだ。
「駄目です……袋に入った小さな柔らかい紙とお鍋しか入っていません。
後は普通の配給品です」
それを聞いたエドガーも諦観が頭を掠める、その時……。
「そうか……いや、待てよ!」
灰色の脳細胞が頭に電球が浮かび上がる勢いであるアイデアを閃いた。
そして前方に都合よく身を隠すに適した巨木が見えてくる。
「シンシア、あの巨木に身を隠す。
そこに着くまで鍋で彼の腕から滴る血を受けておいてくれ!」
「あ、はい、血を辿れなくするんですね?」
シンシアはエドガーの言葉を自己解釈して指示を実行する。
アポカリプスは邪魔なのでリュカのザックに仕舞い込む。
巨木につく頃には20cm片手鍋には浅く血が溜まっていた。
エドガーはリュカを背から降ろし、巨木の根元に横たえる。
「シンシア、彼にモシャスしてみてくれ。
彼が助かるかどうかで我々の行動も変わる」
その言葉にシンシアは不服そうな表情を浮かべたが何も言わずにリュカへと変化した。
「あ、すごい……回復呪文は持っています!
それにしても高位の僧侶や神官並の呪文量だわ……そうは見えませんけれど……」
それを聞いたエドガーは決意した。
「よし、僕が囮になってあの男をここから遠ざける。
その間に彼を治療してくれ。今のままではもう持たない」
「危険です! 一緒にここに潜伏したほうが……」
「ふざけてんじゃねぇ!」
がぁん、と大きな音がした。
岩肌が剥き出しになった天上から、小さな欠片がぱらぱらと落ちてくる。
「トラック壊して、ガキを殺して、リルムの目ぇ狙っておいて!
そんな寝言で誤魔化せると思ってんのか!」
「ゼル、誤解だ! 僕達はそんなんじゃ……!」
「うるせぇ!」
駆け寄ろうとしたサックスの目の前で、炎が弾けた。
薄闇に包まれた炭鉱に、そのわずかな間だけ光が満ちる。
濡れていた。
サックスの手にした剣は、赤く。
うずくまりながら右目を抑えるリルムの手も、赤く。
歯を食いしばるゼルの頬だけが、色の無い雫で。
「今さら過ぎるだろ。誤解だの何だの言いやがったってよ」
炎が消えた。決別を示すかのように、闇の帳がゼル達の姿を覆い隠す。
「ロランの奴には言わねーよ。
あいつ、お前らとは気が合ってたみてぇだし……リルムとも仲良かったからな。
……けどな、ロランには悪りぃが、あいつにも助太刀する気はねぇぜ。
それでなくてもこっちはお荷物抱えちまったんだ。リルムの手当てもしなくちゃなんねぇし、構ってる余裕はねぇ」
苦々しく、どこか悲痛な声が渡る。
サックス達は呆然と聞いていた。フルートでさえ、何も言い返せずにいた。
「オレらはオレらで行かせてもらうぜ。……もう会う事もねーだろうな」
決別の言葉は――ゼルがサックス達の仲間として言う最後の言葉は――
淀んだ空気をわずかに揺らして、すぐに、消えた。
……イクサス達をやり過ごした後の話だ。
「着替えぐらいならここにもあるかもしれないし……俺、ちょっと探してくるわ」
そう言って、ティーダは一人で部屋を出て行った。
僕は床に座りこんだまま、壁の穴の向こうに視線を注ぐ。
もちろん、ボーっと見ているわけじゃない。
体が思うように動かないといえ、五感までが鈍ったわけじゃないんだ。
戦えないのならば、戦いになる前に逃げられるようにしとかないと。そう考えた。
イクサス達は洞窟の前にいる。僕がいるのは二階の部屋だ。
直線距離にすれば50メートルも離れていないけど、背の低い子供の視点じゃ僕の姿を捉えられるはずもない。
それにディアボロスの加護がある限り、ソロやスコールクラスの実力者相手でも気付かれない自信があった。
だから狙撃の時と同じように、静かに、息を潜めて。
視覚と聴覚を限界まで研ぎ澄まし、何も見逃すまいと、何も聞き逃すまいと、イクサス達の様子を伺って――
――
「――おっ、これなんか結構いいんじゃないッスか〜? ユウナに似合そうっつーか」
俺が見つけたのは、魔道士が着るような純白のローブだった。
宿屋だし、タンスの中身もタオルやシーツ・パジャマと下着類ぐらいしかないと思っていたけど……これが大間違い!
普通のシャツやズボンも結構揃ってたし、雨具類やマントまできっちり仕舞われていた。
多分、店の人達が着替えや何かに使っていたんだろうな。あるいは服を汚した奴に貸し出しでもしてたのか。
どれもこれも薄手の生地で作られているから、防御力は期待できそうにねーけど……
アーヴィンが言ったみたいに外見の印象を変えるだけなら、ここにある服だけでも十分そうだ。
気に入った数着をザックに詰め込み、俺は部屋に戻る。
「色々あったから適当に持ってきたッスよー。
あんた背高いし、着れるかどうかわかんねーのばっかりだけど」
そう言って幾つかの服を取り出して並べてみる。
けれど何でだか、アーヴィンは振り返らず、頭を抱えて俯いている。
その様子が酷く辛そうに見えたんで、俺は思わず声をかけた。
「どうしたんだ……?」
「痛いんだ……頭が割れそうで、痛い……」
(頭が……痛い?)
聞き返そうとした、その時――突然、車が事故った時のような轟音が響いた。
「な、何だぁ!?」
驚きながらも、俺は広げた服をザックに詰め直し始める。
なんだか良くわからないが、誰かが言い争っているような声がする。
さらに最後の一着を詰め込んだ時、もっと大きな爆発音が響いた。
俺は壁の影に身を隠しながら、穴の外を見る。
そこには炎上する軽トラと――何故に軽トラ?――イクサス達と、見覚えの無い妙な連中の姿があった。
事情は良くわからないが、一人はイクサス達に味方し、残りの三人はイクサス達と戦う姿勢のようだ。
(やっべぇ……!)
ここで見つかったらややこしい事態になる。
それ以上に、今のコイツが戦闘に巻き込まれたら確実に殺されてしまうだろう。
様子がおかしいだとか、そんなことを気にする暇も余裕もない。
「逃げるぞアーヴィン! つかまれ!」
俺はアーヴィンの腕を引っ張って立ち上がらせると、肩を貸して走り出した。
青年は最後まで外を見ていた。
青い瞳には、軽トラを包んで燃え上がる炎の色が映っていた。
そして鉱山の中へ走っていく少年の後ろ姿と、少年を追い駆ける男女の姿が映っていた。
「ちっくしょぉおお!!」
走る、走る、走る!
重いガキんちょを背負いながらもとにかく走る!
「もっと急げよ、チキン頭!」
人の気持ちも知らずに、背中のリルムが叫んだ。
「だったら降りろぉおお!!! つーかユウナ達を置いていけねーだろうが!」
一々言い返しながら、オレは走る! ……後続二名を置いてけぼりにしない程度に。
「……ユウナ?」
どこからともなく聞こえた声に、俺は顔を上げた。
その視界の端に、奇妙な影が映る。
トサカみたいな髪型の、自分と同じ金髪の男と、背中に負ぶわれたやっぱり金髪の少女。
そしてその後ろからやってくる中年の男と、白いローブを来た女性――
「あれ? ちょっと止まって」
リルムがいきなり妙なことを言い出した。
オレの頭をいきなり掴んだかと思うと、むりやり首を捻らせる。
「いでででで、おいリルムふざけんな! ……って」
オレは抗議の声を上げかけたが、やってくる人影を前に口をつぐんだ。
どっかで見たような金髪の男。そして、やっぱりどっかで見たような、そいつに肩を貸されている茶髪の男――
「ユウナ!」
「アーヴァイン!?」
お互いの口から出た名前に、ゼルとティーダは立ち竦む。
そうしている間に後ろから走ってきていた二人も追いついて、棒立ちになっている青年の姿を目にした。
「……キミ、なの?」
ユウナがぽつりと呟いた言葉に、金髪野郎は首を縦に振る。
「久しぶり。……会いたかったッスよ」
ラブストーリーに出てくるようなセリフと、はにかんだ微笑を浮かべて。
ユウナは一瞬俯き、顔を上げて、耐え切れなくなったように走り出す。
おいおい何だこの場違いなラブシーンは。
オレとリルムの冷たい視線を余所に、金髪はユウナを抱きしめようと両手を広げ――
――両手を広げた時、アーヴァインの奴が、どさっと音を立てながらぶっ倒れた。
「ど、どうしたの?!」
驚いたユウナが、慌ててアーヴァインに駆け寄る。
ナイスお邪魔虫! ……何て言ってる場合じゃねぇ!
ちょっと支えが無くなっただけでぶっ倒れるだなんてフツーじゃねぇぞ。
毒か何かでも間違って飲んじまったのか?
そう思い、脈拍と呼吸を確かめてみたが、どちらもしっかりしている。
だが、やっぱりフツーじゃない。瞼は開きっぱなしだし、瞳孔は完全に開いている。
「おい、アーヴィン!」
金髪野郎が呼びかけて――なんでセルフィの奴みてーな呼び方してるんだ?――何度も肩を揺らすが、反応が帰ってこない。
その様子を見ていてだんだん苛立ってきたオレは、奴の胸倉を掴んだ。
「この野郎! いつまで寝てんだ、とっとと起きろ!」
気合いを込めたパンチで叩き起こそうと手を振り上げるが、金髪野郎が人の腕を掴んで押し留めようとする。
「や、止め止め止めぇ! それはちょっとキツいって!」
「邪魔すんな! 一発気合い入れてやろうってんだよ!」
「腹パンチなんかしたら、気合入るどころか魂出て行くっつーの!」
「大丈夫に決まってんだろ! このカッコつけ野郎がちょっと殴られた程度で死ぬタマか!」
「今のアーヴィンじゃ死んでもおかしくないっつーの!」
「……大声、出さないでよ……頭、痛いんだってば」
「だぁぁあ! 誰のために言い争ってると思ってんだ!」
「そうッスよ! だいたいアーヴィンが起きないから……」
……ん?
「だから、起きたって……頼むから静かにしてくれよ、ティーダ」
オレと顔を見合わせた金髪――ティーダに向かい、アーヴァインは呆れたように言う。
それからややあってオレに気付いたらしく、アーヴァインは眉を潜め、呟く。
『幻覚かな〜? バラムの田舎者がそこにいるみたいに見えるけど〜』
普段のアイツだったら、きっとこう言うはずだ。
けれど、奴の口から出た言葉は、全然違っていた。
「ゼル、か……丁度いい。頼みがあるんだ」
額を抑えながら、らしくない表情で、らしくないことを言い出す。
「この先の洞窟に、子供が一人逃げ込んだんだ……そいつを、助けてやってほしい」
「!?」
何故かティーダは息を呑んでアーヴァインを見つめた。
けれどアーヴァインは意に介さず、言葉を紡ぎ続ける。
「大ッ嫌いな奴だけど、こんなところで死なれても困るしさ。
子供にしちゃ強いけど、相手はトラックを壊した奴らが二人だ。
追っかけて、洞窟の中に行ってった……僕、見たんだ」
「トラックを壊したぁ!?」
リルムが素っ頓狂な声を上げる。オレも驚いて、リルムやプサンたちと顔を見合わせる。
あの貴重な移動手段がなくなってしまったら、オレらの今後は厳しいものになるだろう。
それ以上に、軽トラックにはフルート達が乗っていたはずだ。
誰かが軽トラックを壊したのなら、乗っていたあいつらはどうなった?
身を固くするオレたちを余所に、アーヴァインは言葉を続ける。
「アイツ一人じゃ逃げ切れないし、勝てる相手じゃない。
本当は僕が行かなきゃならないけど、できないし、嫌われてるし、ややこしくなるだけだから。
頼むよ、ゼル。……あんたに頼むのも正直不安だけど、他に頼れる奴もいないんだ。
だから……」
「わかった。イクサスって奴だな?」
オレの念押しに、アーヴァインはうなずいて、ゆっくりと手を差し出す。
小刻みに震える手から、黒く輝く光が湧き上がり――オレの手に渡ると、吸い込まれて消える。
これは……ディアボロスか。そういやコイツ、一時期は愛用してたっけな。支給品だからカンケーねぇけど。
「OK、任せとけ。Seedの実力見せてやっから、テメェはユウナ達と一緒に隠れてろ」
わけがわからなかった。耐え切れなかった。我慢できなかった。
「どうして……」
遠ざかっていくゼルと、「あたしも付いてく!」と背中に負ぶさったリルムの姿を見送りながら、俺は呟く。
「わかってるのかよ。あいつはあんたの命狙ってるんだぞ?」
アーヴィンは事もなげに答える。半ば予想していた通りに。
「あんただって僕のこと助けようとしただろ。それに、ソロもヘンリーさんもきっとそうしろって言ったさ」
「だからって! あんな自分一人が正しいと思って、他人のこと平気で巻き込むような奴……」
俺は言い続けた。言っても無意味だと分かっていたけれど、言わずにはいられなかった。
そしてやはり、言いたい事を全部言い終える前に、アーヴィンが首を振った。
「ごめん。頭、痛いんだ。後で聞くから、今は……休ませて」
身勝手にもそれだけを言い残して、目を閉じてしまう。
俺は釈然としない気持ちを抱えたまま、ユウナに声を掛けられて、安全な場所を探しながら今までの事情を話すことにした。
頭が痛い。今にも割れてしまいそうなほどに痛い。
振り切ろうと思ったのに。吹っ切れかけてたはずなのに。
何でこんなタイミングであいつらがやってきて、何であんな事を話し出す?
……どうして、こんな時に思い出してしまうんだ。
これが……あんたや、マリベルとかエーコとか、ラグナさんまで手に掛けた報いだってのか?
それともあんたの一人の呪いかよ、リチャードさんよ。
そんなにあの毒薬使いの物騒なお子様を護ってやりたいのか?
バカみたいなハンデをつけて、カッコつけたまま死んだくせに。
わかってるよ、ちくしょう!
イクサスの奴に謝れっていうんだろ。
僕があんたを殺したから、代わりに伝えろっていうんだろ!?
わかってる。そんなにアイツの名前を呼ばなくても、あんたの言いたいことは分かってる。
止めてくれ。伝えるから。きっと償うから。
だから囁くな。囁かないでくれ。
あんたがその言葉を言うたびに、頭が割れそうで、痛いんだ……
『生きろ、俺の分まで――イクサス――』
ゼルは走った。リルムを背に負ったまま。
闇の召喚獣の力を使って己の気配を断ち切り。
互いに睨み合い、戦いに集中しているロランとサラマンダーの脇を全速力で通り過ぎて。
仲間に託された、名も知らない子供を助けるために鉱山の中を駆けて――
そして、見つけた。
一人の男が命を賭して守ろうとした、医術士の少年を。
血を流して息絶えた、体温がまだ残っている無残な骸を。
……あとは誤解。
早とちりと誤解。
それが生んだ決別。
少年が持ち、今は騎士が持つ宝玉と。
青年の仲間と共にいる男と。
一度はかみ合いかけたはずの希望の歯車は、呆気なく――あまりにも呆気なく外れた。
竜騎士が言い残し、殺人者が継ごうとした、小さな祈りとともに――
【フルート(重傷) 所持品:スノーマフラー 裁きの杖 魔法の法衣
【サックス
所持品:水鏡の盾 草薙の剣 チョコボの怒り 加速装置 ドラゴンオーブ シルバートレイ ねこの手ラケット 拡声器
第一行動方針:小部屋で休憩/? 第二行動方針:なるべく仲間を集める
最終行動方針:ゲームから抜ける。アルティミシアを倒す】
【現在地:ミスリル鉱山内部・1F小部屋】
【リルム(右目失明) 所持品:英雄の盾 絵筆 祈りの指輪 ブロンズナイフ】
【ゼル(エンカウントなし発動中)
所持品:レッドキャップ ミラージュベスト GFディアボロス(召喚不能)】
【第一行動方針:表の戦いを無視してユウナ達の元へ急ぐ 第二行動方針:なるべく仲間を集める
最終行動方針:ゲームから抜ける。アルティミシアを倒す】
【現在地:ミスリル鉱山内部・1F】
【ユウナ(ジョブ:白魔道士)
所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子】
【プサン 所持品:錬金釜、隼の剣
第一行動方針:ゼル達の帰りを待つ 第二行動方針:ドラゴンオーブを探す
基本行動方針:仲間を探しつつ、困ってる人や心正しい人は率先して助ける 最終行動方針:ゲーム脱出】
【アーヴァイン(身体能力低下、HP2/3程度、一部記憶喪失)
所持品:竜騎士の靴
【ティーダ
所持品:鋼の剣 青銅の盾 理性の種 ふきとばしの杖〔3〕 首輪×1 ケフカのメモ 着替え用の服数着
第1行動方針:罪を償うために行動する(アーヴァイン)/ゲーム脱出方法を探す(共通)】
【現在地;カズスの村入り口付近】
*アーヴァインはリチャード殺しについて思い出しましたが、他の事やセルフィの事はまだ忘れています。
あと、ラグナやエーコのことも自分が殺したと思い込んでいます。
>>20 長々と占領してスイマセンでしたorz
「その方が危険なんだよシンシア。 大丈夫、うまくやるさ」
そういってエドガーは何故かリュカの血が溜まった片手鍋を持って立ち上がった。
「どうするんです、そんなの?」
「獣を誘き寄せるには餌が必要だろ?」
デールは不機嫌だった。
せっかく料理したご馳走を横取りされたのだ。
前菜は頂いたが、あれだけでは物足りない。
そのご馳走もあれだけ丁寧に料理したのだ。
美味しい時間はあと僅かだろう。
冷めてしまえばゴミだ――それは避けなければならない。
急がなければ。
横取りした奴らはついでにデザートにしてやる。
しかし決意とは裏腹にデールは立ち止まる。
今まではご馳走からこぼれたスープを目印にして追っていたのだが、
途中でぷっつりと途切れてしまっているのだ。
「フン、流石に気付いて止血をしたらしいな……」
デザートの癖に中々甘くはない。
だが、止血をするには立ち止まらなくてはならないだろう。
その分だけ追いついているはずだ。
もしかしたらすぐ近くに隠れているかもしれない。
周りを見渡す。
「あの巨木なんて怪しいですねぇ…」
ニヤリと笑って歩いていく。
その時、足元に再び血が滴っていることに気がついた。
「これは……?」
先を見ると巨木とは逆方向に続いている。
「クククク、ハーハッハッハッハッハ!!」
やはり奴らはただのデザートでしかない。
蜂蜜のように大甘だ――せいぜい美味しく頂いてやるとしよう。
デールはご機嫌だった。
巨木から北に向かってしばらく行った先の木の上にエドガーは居た。
笑いながら眼下を駆け去っていくデールを確認し、一言呟く。
「蜂蜜のように大甘だよ、お坊ちゃん」
場慣れしていないのが丸わかりだ。
冷静に相手を見極めればそれが素人かどうかはすぐに判別できる。
最もあの狂気を前にすれば言うほど簡単なことではないだろうが。
しかし相手の戦場経験の浅さを見越しそれを利用したとは言え、
こんな単純な誘導トラップに簡単に引っ掛かってくれるとは思わなかった。
最悪一戦交える覚悟もしていたというのに。
だがそんな危険を冒す必要がなくなって僥倖だった。
シンシアの下に急いで戻らなければ。
エドガーは片手で器用に木を降りて、駆け出した。
【シンシア 所持品:万能薬(ザックその他基本アイテムなし)
第一行動方針:リュカの傷の手当てをする
第二行動方針:仲間を探す 最終行動方針:ゲームの脱出】
【リュカ(右肺刺傷、両腕被弾) 所持品:お鍋の蓋 ポケットティッシュ×4 アポカリプス
第一行動方針:?
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【現在地:カズス北西の森の巨木の根元】
【エドガー(右手喪失) 所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン 血のついたお鍋
第一行動方針:シンシアとリュカの下へ戻る。
第二行動方針:仲間を探す 第三行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【デール 所持品:マシンガン(残り弾数1/4)、アラームピアス(対人)
ひそひ草、デスペナルティ リフレクトリング 賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
第一行動方針:リュカを殺す為追いかける(サスーン城へ向かう)
第二行動方針:皆殺し(バーバラ[非透明]とヘンリー(一対一の状況で)が最優先)】
【現在地:サスーン城東の森付近】
>>26 「大ッ嫌いな奴だけど、こんなところで死なれても困るしさ。
子供にしちゃ強いけど、相手はトラックを壊した奴らが二人だ。
追っかけて、洞窟の中に行ってった……僕、見たんだ」
↓
「大ッ嫌いな奴だけど、こんなところで死なれても困るしさ。
子供にしちゃ強いけど、相手はトラックを壊した奴らが二人だ。
そう、男と女の二人組……追っかけて、洞窟の中に入っていった……僕、見たんだ」
「わかった。イクサスって奴だな?」
↓
「わかった。そいつは子供なんだな?」
脳内変換お願いします
33 :
修正 2:2005/06/24(金) 22:04:18 ID:GuCJEjqq
まだあったo...rz ゴメンナサイ
>>25 だが、やっぱりフツーじゃない。瞼は開きっぱなしだし、瞳孔は完全に開いている。
↓
だが、やっぱりフツーじゃない。瞼が開いてるのはまだしも、瞳孔までが完全に開いている。
>>26 リルムが素っ頓狂な声を上げる。オレも驚いて、リルムやプサンたちと顔を見合わせる。
↓
リルムが素っ頓狂な声を上げる。オレも驚いて、ユウナやプサンたちと顔を見合わせる。
>>28 血を流して息絶えた、体温がまだ残っている無残な骸を。
↓
血を流して息絶えた少年を。体温がまだ残っている無残な骸を。
サスーン城へと到着し、扉を開けたマティウス達。
殺気などは無いものの、微かに香る血の臭いに戦慄した。
「……これは」
「誰かが戦っているか、戦った跡か。どちらにせよ、危険な事に変わりはないが」
マティウスは意見を求めようと二人を一瞥する。
が、二人共全く表情を変える事はなかった。
「城へ行くと決めたなら行けばいいだけの事だ。
どちらにせよ、ここには安全な場所など皆無だからな」
「物真似をしている以上、マティウスの意見に私も賛成する」
魔女と対立するのなら――安全などという物を追う意味などない。
追ったところで意味もなかろう。最終的に死ぬか魔女を倒すかしなければこの円環の世界は終わらないのだから。
しかしそれでも、思考の内に魔女と会う為には参加者が減ってから動くべきではという物が少なからずあったのも事実だった。
どちらかを選択しなければならない。
危険を承知で臭いの元へと駆けるか、惹かれるままに来たこの城から一旦退くか。
それぞれメリットもデメリットもある。
もしこのまま進んだ場合、戦いの勝者が潜んでいる可能性がある。
勝者が襲われて反撃したのかそれとも進んで襲ったのかはすぐには分からないから、対応を遅らせて死を招く事も有り得る。
敗者の遺留品のような物が残っている可能性もある。しかし大抵は勝者が持ち去るだろう、これは望み薄だ。
それを加味して考えれば、その勝者を倒す・もしくは仲間に迎える場合一挙に最低二人分のアイテムを手にする事になる。
どちらにもならなくとも、勝者の行動方針も大体は把握出来るだろう。
好戦的であった場合は殺せばいい。最終的に被害者を減らせるのだから、仲間が増える可能性も増える。
ハイリスクハイリターンだ。
逆に引き返す場合、結局誰が戦い誰が勝利したのかがわからない。
誰が好戦的で、誰が非好戦的なのかという情報は非常に重要だ。
それだけでも分かれば対策も立つというものなのだが。
但し今しばらくの安全は買えるだろう。少なくとも今回の戦いの勝者に遭遇する可能性は減る。
このまま魔女討伐を目指すなら、人数が減るのは極力避けたい。
百人以上居た参加者を前に笑っていられるような相手だ。力の程は計り知れない。
しかし元皇帝といういわゆる頂点に居た男にとって、このような問題など悩む必要はないことだった。
「ふ……これしきの危険を乗り越えられんようでは、魔女討伐など不可能だな」
「まずは臭いの元からか」
「そうだな……」
三人は城の中をゆっくり進んでいく。
次第に濃くなる血の臭いの中を。
廊下に散らばった食料。異常があった証。
そして恐らく臭いの元であると思われる部屋――サラの寝室へとたどり着いた。
そこで見た物は、ソレは本当に人間であったのだろうかと問いかけたくなる程の『残骸』であった。
部屋全てが血で装飾された中にぽつんと在るこの光景は、ただ普通に相手を殺しただけでは到底出来るものではなかった。
純粋な殺意だけだ、この部屋というキャンバスに描かれた感情は。
「二人共、警戒しろ」
「分かっている……! こんな物を見せられて警戒するなという方が無理だ!」
人間なら――余程恨みを持った相手ならともかく、ただ対立しただけの相手を殺した後に更に痛めつけるなどという馬鹿な真似はしない。
ましてやベッドの上に転がっていた残骸とは別の『残骸』が、部屋の隅に転がっていたのを見れば余計にその異常さは分かる。
四肢は引き千切られ、首も当然のように切り離された挙句、何か重い物でも落とされたように頭蓋骨はひしゃげていた。
片方の目玉がなかったが、恐らく飛び出した後踏みつけられたのだろう。その残骸の手前に少し白さが混じっていた。
更に警戒する理由たりえたのが、血がほとんど乾いていなかった事だ。
「あまり大声を出すな」
「分かっているが……」
これはとても、『人間』に出来る芸当ではない。
アグリアスはそう言いたかったし、マティウスもそれは感じていた。
「あまり信じたくはないが、これを実行した者はまず人間だ」
「そう……だな」
これだけの血がこびり付いた部屋から全くの返り血も無しに出る事は不可能だ。
当然、外に足跡は残っていた。革靴の足跡だ。だが消そうとした跡は全く無い。
足跡を残した所で、窓からでも出ればいいだけの話だが――人の気配はそこから確かにある。
「そこまで気が回らなかったのか……?」
「獲物が来るのを待っているのかもしれんな。あまりに不用意過ぎる」
「獲物、か」
アグリアスは考える。
きっと第二の世界に来るまでに、一般人はほとんど淘汰されてしまっただろう。
ここで倒れた彼等もまた別の世界の英雄であったのかもしれない。
マティウスもゴゴも、深く聞いてはいないがそれなりに場数を踏んでいるのは間違いない。
しかしそういった人間達の中でここまで無残な殺しが成立するということがどれだけ恐ろしい事か。
どれだけ強大な相手が待ち受けているのか。
……いや、考えまい。
自分の内に芽生えた恐怖が増長する前に振り払う。
私は帰らねばならない。剣は鞘に。在るべき場所へ。
ならば、障害は払わねばならない。
そしてたとえ私が獲物であり死ぬ運命であったとしても、騎士として在り死ぬべきだ。
「人影を見つけたら躊躇いなく攻撃する。無くとも油断はするな、警戒は続ける」
『分かっている』
マティウスと、マティウスの物真似をしたゴゴが同時に返事をする。
これから血を流す事になるだろうというのに、笑いがこみ上げてきた。
いや、こういう死の宴の最中だからこそこういう感覚を大事にしたい。
戦いが終わったら思いっきり笑ってやる。
「では、いくぞ」
クロスクレイモアを強く握り締め、いつでも聖剣技が出せるように集中する。
マティウスとゴゴは低く構え、すぐに飛び出せるようにしている。
準備が出来たのを改めて確認し、アグリアスが左手でゆっくりと扉を開けた。
刹那――窓から差し込む柔らかい光の中をこちらに飛び込んでくる一つの球状の物体。
何だ、あれは。
そう思いたかった所ではあったが、窓の外に在る標的に意識を奪われてしまった。
危険だという予感はした。だが、止める時間的余裕もなかった。そのまま剣を構え、聖剣技を繰り出す――
話は十数分前に遡る。
あれだけ騒いでいたのだから当然だが、アリーナは三人が来た事に気付いていた。
マティウス達三人が城に入る前に、休息と同時に奪い取ったアイテムの使い方を粗方確認していた。
取り扱い説明書がついていたのは、残念ながら一つだけ。
・手榴弾 安全ピンを抜くと作動開始。投げれば爆発して大ダメージだぞ。
他の武器防具は名称も説明もなかった。使って判断しろということだろう。
弓に剣、鞭に指輪とアリーナの世界でも馴染みのものだしそういうのは問題はない。
手榴弾は確かに説明書がなければ不味かった。自分自身が巻き込まれたかもしれないのだから。
だが、この説明書の書き方がアバウトなのも困った。相手に当てたらいいのだろうか。
「まあ、使えなきゃ別のを試すだけだしいいけど」
といっても、ある程度使う装備の選別はしておいた方がいいだろう。
まずは剣だ。はっきり言ってマトモに扱える自信がない。
しかし何となく凄い武器のような気はする。取り敢えず剣を得意とする相手に取られない為に持っておく。
次に鞭だ。オリジナルに鞭の心得はあるので、アリーナも大丈夫だった。
ただそれでも威力に信用が置けなかったのも事実だった。あくまで牽制用だと認識する。
皆伝の証を装備し、素手で戦えば負けはしないと妄信している部分もあったのだが。
そして弓。残念ながら問題外。狙って相手に当てられる気がしない。
武器として使うより別に何かないだろうか。
分解して罠や道具を作るとか、固定式の砲台みたいにするとか……後で考えてみよう。
最後に指輪。効果も不明、呪われている可能性も考えると迂闊に装備は出来ない。
装飾からするとそういう事はなさそうだが、念には念を。今度誰か騙して装備させてみればいいかもしれない。
結局使える可能性があるのは、ファイアビュートと手榴弾だけであった。
両方共誰も居ない場所で試してみようと思ったのだが、そこでマティウス達が乗り込んでくる音が聞こえた。
「いきなり実戦かぁ……ま、いいけど」
まずアリーナは扉の外から手榴弾を投げ込み、援護要員(恐らく後方、扉周辺に待機しているであろう相手)を殺す事にした。
運良く直撃を避けたとしても――大ダメージを与えるくらいの爆発ならかなり効果範囲は広いのだろうと想像する。
そして大抵は死、どんなに良くても怪我は負うはず。それで仲間が動揺してくれれば万々歳。
あとはご機嫌に三分クッキング。齧るも千切るも思うがままだ。
そうアリーナは考えていたのだが、残念ながらそうはならなかったのだ。
「では、行くぞ」
カチャリ、とドアノブが回る。
扉が……開く。
アリーナはすかさずピンを抜き、思い切り手榴弾を投げつける。
手榴弾を避け、突撃してくる二人の男。
女騎士は後ろで待機している。よし、一人死んだ。そう思った。
だが壁に当たっただけで、手榴弾はすぐには反応をしなかった。その上女騎士から離れていく始末だ。
一瞬呆気に取られてしまった。そしてその隙を待っていたかのように、地面から白く巨大な刃が突き出した。
「な……によ、これっ!?」
完全に顎を貫いていたであろう軌道から仰け反り回避したのは、さすがはアリーナの分身といったところである。
(態勢がっ……迎撃が、出来ない――!?)
黒服の男が真横から剣を振り下ろす。部屋側で爆発音と声が聞こえたが、全く躊躇っていない。
認めたくはないが、やられる。このままではコイツらに殺される。
一対一の戦いなら今は誰相手でも負ける気がしない。不意を突けば複数相手でも負けるとは思っていない。
だがこの時既に、アリーナにとって幾つか誤算が発生していたのだ。
扉が開いた瞬間手榴弾を投げつけた。爆発し、アグリアスはダメージを受けた。これはいい。ここまではいい。
しかしマティウスとゴゴの突撃がアリーナが思っていたよりずっと早かった事と、爆発に全く気を取られなかった事がある。
仲間同士お手手繋いで「殺し合いはやめよーね」なんて連中だけじゃない。当たり前だ。
……さっきの二人を殺した時の興奮が冷めていなかったのか、危機感が薄れていたのもあるかもしれない。
対してアグリアスは扉を開けた位置からアリーナを視認した後、すぐ聖剣技を放った。
アリーナの中の戦いの感覚として『剣で数メートルあるいは数十メートル離れた敵を攻撃するのは不可能』という物があった。
確かに普通はそうなのだが、理の違う世界が入り混じっている場所においてそういう先入観は致命的ともいえる。
そういう付加要素もあっておかげでアリーナを怯ませる事ができたが、代償として手榴弾の破片が多数アグリアスの右脇腹と右足を貫いた。
そして考えていた手榴弾の強さ・仕組みとは少し違っていたのも要因だった。
ピンを抜いた瞬間から時限装置が発動し点火するのだが、衝撃で爆発する物だと認識していたが為に全力で投げ、
壁に当たった後逆にアグリアスから離れるように廊下を転がってしまった。
理解していればこの時点で完全に二対一となったであろうが、近距離戦を挑んできた二人の予想以上の強さもあった。
攻撃が迅速且つ的確。そして人間に須らくあると思っていた動揺が微塵もない。
予想外な事が次々に起こる。これでは対処のしようが――
「……それでもっ! あたしは負けないっ!」
態勢を崩したまま、マティウスの側頭部に蹴りを浴びせ弾き飛ばす。
蹴り足に力が伝わらなかったので威力はなかったものの、すぐ傍に迫っていた危機は一先ず去った。
いや、もう一つ危機が迫っていたが気付くのが遅れたというべきか。
マティウスの真後ろから、全く同じ形でゴゴが剣を振り下ろしてきていたのだ。
ゴゴにしてみればマティウスの物真似をしていたのだろう。
切っ先が少し肩に沈み、肉を裂いたところでゴゴの腹部に蹴りを入れて飛ばした。
今度は傷口の痛みに気を取られて本気で蹴れなかった。
それでも二、三メートル後ろに転がすだけの力を持っているのだから化け物じみている。
だがアリーナ自身は自分の詰めの甘さに苛立ちを隠せずにいた。
「殺せてたっ、絶対殺せてたはずなのにっ! またアタシはっ……!」
アリーナがやったなら手際よく全員殺せているのではないか、と思う。
やはり自分はただのまがい物なのか?
――いや、違う。
あたしはアリーナ、アリーナはあたしなんだ。
――考えないで、前を見なよ!
勝つ。ただ勝つ。それがあたしの全て。産まれた理由。
――馬鹿、早く反撃を……
魔女の事なんて知らない。どうでもいい。興味もない。ただ、勝ちたい。
――ああもう、いい加減に……!
でも勝った後、アリーナと一緒にあの魔女と部下を嬲り殺すのは面白いかもしれない。そうだ、それがいい。
そこまで思考が到達してやっと、自分の身体がダメージを受けている事に気付く。
無意識の内に反撃はしていた。けれど、それは意識して戦っていた時の強さとは比べるまでもなく。
(今は何も考えない。考えちゃいけない。目の前の肉を壊す事だけ考えれば負けるはずが――)
黒服の男が立ち上がり、剣を構える。心なしか楽しんでいるようにも見えた。
「なるほど……常人離れしている。魔女討伐の肩慣らしには丁度いい」
「はん……あんた達にあいつは殺れないよ! 殺れるのは――」
とても怪我しているとは思えぬ踏み込みで一気に間を詰める。
「あたし達だけなんだから!」
マティウスは反応が遅れている。あたしの拳が先に届く。間違いなく殺った!
瞬間、視界がぐらつく。意識が混濁する。何が起きたのか分からない。
しかし後から襲い掛かる強烈な痛みに無理矢理意識を引き戻される。
「う……がぁっ! く、なっ……なんなのよ、あんた……っ!」
「俺は物真似師ゴゴ、今まで物真似をして生きて来た」
ゴゴが咄嗟に、皆伝の証つきの連続攻撃を真似てみせたのである。
威力はアリーナの比ではなかった。だが、ただ相手の意識を飛ばすだけなら十分過ぎる。
そして後はマティウスの剣の餌食となったわけである。
「物真似っ……そんな下らないのに私がっ……やられるわk」
アリーナは全ての言葉を紡げぬまま、マティウスの剣に伏した。
「それ以上喋るな。アグリアス、大丈夫か?」
実際三対一という状況でなければ負けていただろう、そう思える。
一番ダメージを受けたアグリアスは扉の前で震える片手で剣を構え、身体を柱で支えて何とか立っていられる状態だ。
左手で腹部を押さえ、そこからは血が止め処なく溢れている。
早急に治療をしなければ非常に危険なことは見てすぐに分かった。
「……ああ、何とか……すまないがっ、回復してもらえるか」
『分かっている』
マティウスとゴゴの声が重なる。戦う前の事を思い出し、笑いがこみ上げてきた。
「ぷ……くく、ぐっ、はは……あはははは!」
「身体に障る、少し落ち着け」
満身創痍でも、激痛が体中を走っても笑うのをやめる気にはならなかった。
それほどおかしくて、心地よかった。
ゴゴに抱えられ、ベッドへと寝かされたアグリアスはゴゴの物真似治療を受けながらずっと笑っていた。
マティウスはアリーナの装備を奪い、二人へと渡すと治療を始めた。
更なる来客にも気付いてはいたが、相手が誰であれ出来る限り回復する時間が欲しい事、
こちらに敵対の意思がなくとも今出て行くと誤解を招くだけであると判断し何も言わなかった。
「あ……あぁ……」
笑いの中に、微かに響いた声。
隣の、あの残骸のある部屋から聞こえた声。マティウスが気付いていた、更なる来客。
「おかぁ……さっ……! うあああぁぁぁぁあああああっ……!」
一人の少女――タバサが膝をついて泣いていた。
爆発音に驚いて走ってきてみれば、タバサとセージの二人はその手前の部屋で最悪の物を見つけた。
別れたばかりの仲間と、母の変わり果てた姿だった。
セージは怒りをこらえ切れず壁に拳を叩きつけた。
(こんなの……子供にゃ残酷過ぎるだろう、魔女さんよ……!)
そして問題はもう一つ。先程から笑い声の響いていた部屋。爆発音のした部屋。
廊下の所々を焼き焦がす鉄の破片、三人以上の声。
マーダーである可能性は非常に高いとセージは考える。
そうでなかったとしても、恐らくタバサはそうは思わないだろう。
実際セージ自身でさえ、マーダーじゃないと言われて信じられるかといえば疑わしい。
「腹は立つが、退いた方がいいのか? それとも……」
(まだ……っ、死ねない……アタシは……死なない!)
即死でもおかしくない傷を負ったにも関わらず、アリーナはまだ息をしていた。
いや、正しくは息を吹き返したというべきだが。
生への執着か、はたまた怨恨の賜物か。
装備は既に全て剥ぎ取られていたし、思考も遅くなってはいたがそれでも諦めてはいなかった。
(コイツら油断してる……いつなら殺せる? どうすれば殺せる? 絶対許さないんだから!)
静かに。か細い息を更に潜めるようにして、好機を待つ。
【マティウス (HP4/5程度) 所持品:ブラッドソード 男性用スーツ(タークスの制服) 皆伝の証
第一行動方針:ある程度アグリアスの回復をした後、隣の部屋の相手とコンタクトを取る
基本行動方針:アルティミシアを止める
最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
備考:非交戦的だが都合の悪い相手は殺す】
【ゴゴ (HP2/3程度)所持品:ミラクルシューズ、ソードブレーカー、手榴弾、ミスリルボウ
第一行動方針:マティウスの物真似をする】
【アグリアス (HP1/4程度・右足重傷)所持品:クロスクレイモア、ライトブリンガー、ビームウィップ、ファイアビュート、雷の指輪
第一行動方針:回復に専念する
基本行動方針:マティウスに同行する 最終行動方針:魔女討伐に乗る】
【アリーナ2(分身) (HP 1桁)
所持品:E悪魔の尻尾
第一行動方針:目の前の三人を殺すor逃げ切り回復を図る
第二行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない
最終行動方針:勝利する 】
【セージ 所持品:ハリセン ナイフ
第一行動方針:??? 基本行動方針:タバサの家族を探す】
【タバサ 所持品:ストロスの杖 キノコ図鑑 悟りの書 ナイフ
第一行動方針:???
第二行動方針:スミスの呪縛を解く 基本行動方針:同上】
アリーナ達の死闘から時間が経ち……意識を取り戻したタバサは悟りの書を熱心に読んでいた。
先程の母親のあの悲劇のことを口に出そうともせず、ただ静かに熱心に見ている。
そしてセージも彼女の隣に座り事情を説明した後、悟りの書や魔法等の色々なことを教えていた。
「あの……お兄さん」
「ん?何かな」
急に悟りの書から視線を外し、セージの顔をじっと見る。
そして今にも泣きそうな表情で言った。
「あの時……何も考えずに動いて、ごめんなさい……お兄さんが止めてくれなかったら……」
「大丈夫だよ。結果オーライだし」
「……でも……ごめんなさい」
そう言って俯くタバサにもう一度「大丈夫」と返事を返すセージ。
そしてまた悟りの書をタバサが読み出す。
彼女は力が必要だと、そう考えていた。力が無ければ人を護れない。
故にこうしてセージに魔法を教授してもらっている。
人を護る力を掴むために、がむしゃらに。
「勤勉なものだな」
脚の治療が一段落したようで、マティウスは2人に話しかけた。
そして2人の場所へと歩き、悟りの書を覗き見るが……首を静かに横に振り、苦笑を浮かべる。
「この書……妙に理解できないのが悔しいものだ。しかし、タバサといったか?お前は何故こうも勤勉になる」
「護りたい人が、いるから」
「そうか、前を向くのは良いことだ。だが……何故あの惨劇を見て、立ち止まらない?母が死んだのだろう?」
「おいマティウス、質問が過ぎるぞッ!何も今言う事では……」
「ああ、すまないアグリアス。だが……訊いておきたくてな」
セージが避けていた事すら、はっきりと口にする。マティウスのその行動にセージは少し呆れてしまった。
だが、ただ人の心に意味無く土足で上がりこむような馬鹿な人間とは違う、ある種での高貴さに満ちている。
そんなマティウスを不思議そうに見ていると、タバサが彼の問いに答えた。
「私も悲しいけど……でも、でもそれだけじゃダメなの!
悲しかった時……私はよく泣いちゃうけど…でも泣くのをやめた後は前に進まなくちゃいけないから」
「人を護る為に……力を欲すと?そして更にその為に前に進むと?」
「私が今できるのは……それくらいだから。だから今、こうして"勉強"してる」
そうか、そういう力の求め方もあったのか。マティウスは心の中でそう呟く。
人を殺す為ではない。人を護る為の力。そして前に進んでいく力。
私が世界征服などと口にしていた頃は……そんな事を考えていただろうか。否、考えているはずも無かっただろう。
「では我々もそろそろこの城を出ようと思う。お前たちとは多少歩む道が違うようだからな」
「そう?わかったよ、気をつけて……また生きて会えると良いけれど」
「大丈夫だ、ではな……アグリアス、歩けるか?」
「ああ、お蔭様でだ。激しい運動は出来そうに無いが……歩くだけなら大丈夫だ」
「そうか、ならば――――――」
マティウスはそこまで返事をして、黙った。
そして辺りを警戒しながら見回す。
「気のせいか……奇妙な違和感を感じたのだがな……」
溜息をつき、警戒を解きそうになる。
だが、タバサがそれを見て静かに言った。
「気のせいじゃないと思う……私も、嫌な感じがする」
そしてその言葉を言い終わった次の瞬間、タイプライターの様な音が一瞬だけ聞こえた。
マティウスの違和感は当たっていた。
そしてタバサの嫌な感じというのも当たっていた。
そう、この城にまたあの殺人鬼が帰ってきたのだ。
その名は、デール。
彼はエドガー達を探していた。
自分がまさか罠にかけられていたとは知らず、城の内部で彼らを探す。
だが当然見つからない。そして焦りを感じ、どこか適当な部屋にマシンガンの弾をばら撒き相手を燻り出そうとした。
だがその時、遠くに見える部屋に数人の参加者がいる事にデールは気が付いた。
リュカ達かと思ったが、違う。だがデールはニヤリと笑みを浮かべた。
どこにいるのかわからないリュカ達よりも、まずは場所のわかる奴らを殺す方が話が早い。
そして彼は急いで、先程視界に写ったあの部屋に向かいだした。
そしてまた場面はマティウス達の場所に戻る。
彼らは先程の発言も何処へやら。奇しくも共に行動していた。
嫌な予感や違和感の前に、根本から彼らは色々なことに気を配らねばいけなかったからだ。
この城はとにかく部屋や廊下が多く、そして何より広い。
自分達はこの城のそういった特色を使って潜伏していたのだ。マーダーもそういった事をしている可能性も非常に高い。
そう思った彼らは、城を脱出するまで同じ行動を取ることにしたのだ。
そして警戒しながら静かに歩く。
先程起こった未知の音のこともあり、慎重になる。
そして5人がしばらく歩いた時……目の前の曲がり角から男が飛び出すように現れた。
その男とは、勿論……。
「おや、あの人の娘さんもいたのか……心配しないでくれ、苦しまずに壊してあげよう」
デールはそう言うと即座に銃を―――デスペナルティを2発撃った。
そしてそれは見事に、マティウスの両肩にあたった。
「ぐ……っ!」
「マティウス!?」
しかしまだその銃は人を殺しておらず威力が低かった。
故に喰らった彼は致命傷にならずに済んだ―――彼らにはその銃の特性など知る機会もないが。
「大丈夫だ、あの男が持っているモノの攻撃だろうが……不思議とそれ程痛くは無い」
そう言うとマティウスは右腕を天上に向かって掲げた。
確かに、それ程の大袈裟な痛みは無いらしい。
「サンダー」
マティウスが紡いだ魔法は一直線にデールに向かっていった。
だが、何故だかそれは当たらず……しかも今度はマティウスに向かって行く。
「ちィ!!」
彼は何とかその電撃を避けることは出来た。
自分の扱う魔法故に扱いに長けていたのだろう。
そして後ろの廊下が稲妻によって損傷していくのを、じっと確認していた。
「マホカンタでもかかってるのか?いや、でも……」
セージは先程の魔法の反射に対しセージは様々な可能性を張り巡らせる。
何かの道具を使ったか、しかしそんなものがホイホイ存在するような凄い技術は自分の世界にはそうそうない。
ならばやはりマホカンタかと思ったが、あれは一応高等呪文だ。目の前の魔力の少ない人間が出来るとは思えない。
だがどういった力を相手が持つのかわからない以上、魔法はあまり使わない方が良いだろう。
タバサもそう考えていたらしい。頷くと、ナイフを取り出す。
「セージ……こうごちゃごちゃと固まっていては戦い辛く退き辛い、2手に分かれるぞ。魔術も派手なものが多数…状況は不利だ」
「そりゃどうも。生憎その通りだ。心遣い、感謝しておこうかな」
「アグリアス、お前はあの2人を守れ。魔術の出来ない魔術師は、相当な武器を持っていないと苦労する……今の私のようにな」
「いいだろう。ではセージ、タバサ、行くぞッ!」
「ゴゴは私とだ」
「そうだろうと思っていた。勿論不服ではないがな」
こうして彼らは2手に別れ、デールから身を引いた。
彼の命を絶つために、そしていざという時退くために。
だがデールはそれを許しはしない。
タバサの走っていく方向を睨みつけ、一心不乱に追いかけているのだ。
それを見てタバサは虚空に向かって問いかけていた。
何故デールが自分たちを殺そうとしているのか、あの優しい笑顔は何処へ行ったのか、あの父の親友の弟としての姿は何処へ消え失せたのか。
だがどんなに問いかけても答えは返ってくるはずもないし、自分で答えを見つけようとしても無駄なことだった。
「ぐッ!!」
その時、アグリアスが前のめりに倒れた。痛む足を引きずり走っていたのだから当然だ。激しい運動は無理だと、本人も言ったばかりだ。
そしてそれを見計らったかのように、彼女の右足にデスペナルティの銃弾が打ち込まれた。
「もう追いついたか……ッ!」
「自分の欲の為には妥協をしないことが、世の中では重要な事です」
そう言いながら、同じ場所に何度も何度も銃撃をする。
デスペナルティ事態の攻撃力がまだ低いといえども、同じ場所に……更に怪我が治りきっていない場所に撃ち込まれると最早威力など関係ない。
ただ痛みと不快感が押し寄せるのみだ。
「ククク……ははははははははは!!ははははははははは!!!!」
遂に動けなくなったアグリアスを尻目に、銃撃を終えタバサとセージへと視線を向ける。
哄笑しているデールのその眼は……何の違和感も無い、ここに来る以前の彼と同じものだった。
「なんで……デールさん!なんで!!」
「ああ、久しぶりですね王女。いつも一緒にいた王子がいないですね、病気でも召されましたか?」
「わかってるんでしょ……?嫌味なんて聞きたくない、質問に答えて!!なんでこんな事をするの!?」
「私の居場所に気づいたからです。人を壊す事に私が価値を見出したからです。それ以外に理由は無い」
セージは、その問答を黙って聞いていた。
カインの言ったその人間がタバサの知り合いだったという事に対しての驚きと、彼の眼差しへの不快感で言葉が出ない。
そう、その眼に違和感は無いのだろうが……これほどまでに何かに固執し、何故ここまで人を傷つけ笑っていられるのか。
自分にはわからない、理解できなかった。
だが理解しようとしなくとも、この男はこのゲームに馴染み、今ここで笑っている。
「さぁ、終わりです。王女、私のために壊れてください」
その時、アグリアスは立ち上がった。
まもなく使い物にならなくなるであろう右足をも使って立ち上がった。
「天の願いを胸に刻んで」
そして、唱える。彼女の業を、聖剣の力を。
「心頭滅却!聖光爆裂破!」
だがしかし、放った斬撃は惜しくもデールに避けられ、彼女が重傷者だった事を再確認させただけで終わった。
そしてデールがいつの間にか、あのいくつもの血の苑を作り上げたマシンガンを右手に持ち、
聖騎士アグリアス・オークスの左胸を完璧に撃ち抜いた。
「すまない…ゴゴ……マティウ…ス……使命を、果たせ……られなかっ………」
「"疲労"と"焦り"は人を殺します、お気をつけください」
それが彼女の最期の言葉となり、彼女はそのまま無機質な床へと墜ちた。
彼女の無念の死を見届けた後……タバサの方を振り返ると、彼女が自分へと肉薄していたのに気が付いた。
彼女の右手にはナイフ。だな、そんな俄仕込みの剣での攻撃が上手くいくはずも無く。
「危ないですよ、こんなものを振り回しては。ご両親がお泣きになりますよ」
「あ゛ぅっ!」
彼女の右手首を力強く握り締め、自分の目線の高さへと彼女を持ち上げる。
そしてナイフを奪い取り、それを彼女の腹部から胸部へと、上に斬り裂いた。
「ぁ……デー……ル、さ………」
「すぐには壊しません、ご安心を。しかし少々手加減しすぎたか?」
そしてデールが手を離すと、あっさりとタバサの体が地面へと叩きつけられた。
服は無残にも縦に裂け、露出する白い肌は血に濡れていた。
そして彼女は虚ろに両目を見開き、一心不乱に何も考えられずに息をしている。
セージはそれを見て、動けずにいた。
ナイフを構えじっと相手を見つめるものの、自分では彼に勝てないと確信してしまう。
自分の攻撃の要である呪文は使えない。相手の未知なる攻撃は強力すぎる。自分は接近戦が苦手……否、「できない」。
「どうした?驚いたか?」
「ああ、驚いたよ。正直ここまでとは思っていなかった。敵いそうに無い」
「だろう?ならば観念して、僕に壊されろ。そこの2人の女性のように、な」
「敵いそうに無いというのは"僕だったらの話"だ。あの子は僕が絶対に守るっ!!」
そう言うと、彼は魔力を一転に集中させる。
それをデールは、何が起こるのかと半ば楽しそうに見ていた。
「モシャス!」
セージはあっさりと、その呪文を唱えた。
そして一瞬でセージはある人間へと変化した。
その姿は、血に濡れているわけでもないのに服と帽子が赤く、奇麗な金色の長髪が服のおかげで目立っている。
ナイフを構える姿は剣を使うことが出来る人間の「それ」だった。
「ビアンカさんの娘を守るのならば、俺のこの姿が一番不都合が無いだろう……なんて、ね」
「成程、あの泥で出来た汚らしい魔物が使っている呪文か。まさか人間が使えるとは」
デールはおどけながら目の前の人間―――赤魔道師ギルダーの姿をしたセージにそう言い放つ。
だがセージはその言葉を聞かず、ナイフを構えデールの元へと走った。
何故セージがギルダーの姿になったのか、それには理由がある。
もっと剣術に長けた、例えばアルス等に化ければ話は早い。だが敢えてギルダーの姿になった理由がある。
「いいのか?モシャスなんて負担の掛かる呪文……」
「だから僕はこの姿になった。それだけさ」
そう、モシャスは体に負担の掛かる要素が大きい。
自分の苦手なことをほいほいと補える半面、体力をかなりすり減らす。実際、今もかなり体に負担が掛かっている。
故に彼はアルスの様な完璧な接近戦タイプではなく、自分の戦法に近く、だが戦術をより接近戦寄りのギルダーの力を借りたのだ。
「どうした、キレが無いぞ。自分の弱点を上手く補えていないようだが」
「その通りかも……馬鹿な事をしたよ。本人であればもう少し何とか出来ただろうにねぇ!!」
そう言ってデールの右腕を狙ってナイフを突きたてようとした。が、その思惑は見事外れる。
見事にナイフの攻撃を避けたデールは、右手に持つマシンガンでセージの左肩を撃ち、その傷にナイフを突き立てた。
更に一閃。デールのマシンガンがセージの右の脇腹を狙った。幸運にも浅かったようだが当然のように血が流れ、痛みを与えた。
「ぐ…ぁ……痛………ッ!!」
そしてセージは苦悶の表情でモシャスを解いた。体の負担と銃撃の負担が大きすぎたのだ。
セージはその場に座り込み、ナイフを抜いた。それをデールはじっと見下し、デスペナルティの銃口を彼の左胸の位置に合わせた。
そしてデールは何か勝利の言葉を言おうとした。だがデールはそれを止め、何かに聞き耳を立て始めた。
デールの耳が、この場に近づくマティウス達の足音を聞き取ったのだ。
彼はそれを聞き、ふと考える。彼らを壊してしまおうか、だが今のこの状況では不利だ。
何せ自分はこうして連戦に勝利した後だ。いくらなんでも疲労が溜まっている―――――
デールは一度退くことにした。
あの強そうな2人を壊せないことがとても悔しい。
だが今はそんな事に拘っている暇は無い。デールは城を駆け、出口へと向かっていった。
その出来事が終わった後、余程近くにいたのかすぐにマティウスが到着した。
そして辺りを見回すがどこにもデールの姿は無い。
代わりにそこにあったのは倒れているタバサと苦悶の表情を浮かべるセージ、そして……亡骸となったアグリアス。
「遅くなってしまった……すまない、私のミスだ」
「いや、違う違う。……僕の…責任だ……また一方的に攻撃を喰らうだけで……何も出来なかった……」
マティウスの言葉にセージはそう返し、タバサの元へと歩いていった。
彼女の華奢な体は血で紅く染まっているが……デールの手加減のおかげか内臓への損傷は無いようだ。今から必死に回復すれば、間に合う。
「お兄さん……怪我、大丈…夫……?痛く、ない……?」
「自分の心配をしなよ全く!――――――ベホマ!」
そしてセージの魔力が光となり、回復呪文としての機能を開始し始めた。
だがこれだけでは足りない。幾度となくベホマを唱える、唱え続ける。
「アグリアス、すまない。私には到底侘び切れない……」
「マティウス………」
マティウスとゴゴは、アグリアスに静かに礼をした。
自分の事を信じてくれた誇り高き騎士に、追悼と尊敬の意を込めて。
そしてセージに振り返り、真剣な表情で彼を見る。
「さて、すぐに出発する予定だったが……こうなると仕方が無い。お前達の傷の回復、我々も手伝おう」
「………無理はしなくて良いよ。あなた達にも目的があるんだろうし」
「私からも言う。マティウスの様に私もお前達の傷を治す物真似をしよう。止めてやるな」
「…………わかった。ありがとう」
そして……ゴゴのケアルがセージを、セージのベホマとマティウスのケアルがタバサを照らした。
53 :
血の苑:2005/06/25(土) 14:48:24 ID:gqGcgpJ5
【デール 所持品:マシンガン(残り弾数1/4)、アラームピアス(対人)
ひそひ草、デスペナルティ リフレクトリング 賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能) ナイフ
第一行動方針:サスーン城から撤退、休息を取る
基本行動方針:皆殺し(バーバラ[非透明]とヘンリー(一対一の状況で)が最優先)】
【現在地:サスーン城内部→サスーン城出入口へ】
【マティウス(HP4/5程度)
所持品:E:男性用スーツ(タークスの制服)
第一行動方針:タバサの傷を癒す
基本行動方針:アルティミシアを止める
最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
備考:非交戦的だが都合の悪い相手は殺す】
【ゴゴ(HP2/3程度)
所持品:ミラクルシューズ、ソードブレーカー、手榴弾、ミスリルボウ
第一行動方針:マティウスの物真似をしてセージの傷を癒す】
【セージ(HP1/2程度 左肩重傷 右脇腹負傷)
所持品:ハリセン ナイフ ギルダーの形見の帽子
第一行動方針:タバサの傷を治す 基本行動方針:タバサの家族を探す】
【タバサ(HP1/3程度 腹部から胸部にかけて負傷)
所持品:ストロスの杖 キノコ図鑑 悟りの書
第一行動方針:不明 基本行動方針:同上】
【現在位置:サスーン城東棟廊下】
【アグリアス 死亡】
【残り 70名】
>>51 だが戦術をより接近戦寄りのギルダーの力を借りたのだ。
↓
だが戦術がより接近戦寄りのギルダーの力を借りたのだ。
へと脳内変換してください。すみません。
度々すみません
デールの所持品のマシンガンの残り弾数を
1/6程度
に変更してください。
赤い色彩を撒き散らし、森の中に倒れた少女。
その脇に立つ、少女と同じ姿をした『何か』が呟く。
「なるほど……あの小娘に継承したか」
金色に輝く瞳を遠くに向けて、それは無表情に笑う。
「広間に集めたのは失敗だったかもしれぬな。
あのわずかな時間で、私以外の継承者を見出していたとは……な」
魔女の力の継承は面識が無くてはできない。エルオーネのジャンクションと似たようなものだ。
見知らぬ相手に意識を接続できないように、見知らぬ存在に継承を行う事は魔女の力を持ってしても不可能。
だからこそ、魔女アデルは己の後継者を探し出すために少女を狩り集めた。
しかし――例え名前を知らなくても、顔を見ていればそれは『面識』として成り立つ。
大魔女バーバレラの後継者として生まれ、今では夢の世界の身体しか持たぬ少女。
そんな特異な存在だからこそ、リノアの遺志と魔女の力を惹き付けて、己の元まで導くことができたのか。
あるいは、時空の魔女と全く同じ力を持つリノア・ハーティリーだからこそ出来た芸当だったのかもしれないが。
「称えてやろう。伝説の魔女よ。
死に瀕してなお、私に抗う……その愚かさだけは」
微笑むこともせず、されど邪悪に満ちた瞳は死した少女を確かに嘲笑い。
「……さて。愉快なモノが見れそうだ」
黒い髪を白銀に煌かせ、闇色の翼をはためかせて。ソレは骸に背を向けると、静かに歩み出した。
舞い落ちる羽。白い翼。
あの青いワンピースにも描かれていた、彼女の象徴。
けれど――そこにいるのは赤い髪の少女。リノア・ハーティリーではない、別の誰か。
鉱山から出てきたゼルは、その光景を前に立ち竦んでいた。
少女を包んでいるのは、紛れもなく魔女の力だったから。
リノアだけが持つはずの力だったからこそ、その意味を理解できなくて。
されど、少女がゆっくりと手を掲げるのを見て、ようやく動く事を思い出した。
「ロラーーーーン!! 逃げろぉおおおおお!!!」
全力で叫んでから、一気に走り出す。
炭鉱内にではない。そんなことをすれば、閉じ込められてしまう可能性がある。
魔女の力が生み出す真の魔法の恐ろしさは十分に知悉しているつもりだ。
だからこそ外へ。リルムを腕の中に抱え込み、少女から少しでも遠ざかるために。
後ろを振り向く時間はなかった。ただ、祈るしかなかった。
ロランが何とか逃げきってくれることを。魔法が紡がれる前に、仲間達の元へたどり着くことを。
ゼルの叫びを耳にして、サラマンダーもようやく少女の異変に気が付いた。
鳥のそれであるにも関わらず、竜を思わせるほどに大きな白翼を背負い。
異形に変じた彼女は、どこも見ていない金色の瞳を二人に向ける。
トランス。サラマンダーの脳裏にその単語が浮かび――しかしすぐに違うと気付いた。
トランス状態は、単に自分の潜在能力を引き出せるだけに過ぎない。
魔法として紡がれていないのに風を起こし、電撃が這うような感覚を与えるほどの絶大な魔力。
数千数万の魂を集めてトランスしたクジャですら、ここまでの力を持ってはいなかった。
ロランも気付いた。
全てを滅する力を持つ存在が、そこに現れたのだということに。
(ゼル……)
彼は逃げろと言った。
事実、逃げなければ、この恐るべき天使がもたらす死に飲み込まれるだけだろう。
満ちる魔力は目に見えるオーラとなって、虚空を震わせている。
彼女が何を望み、何をするつもりかは知らないが、――『それ』が成された時、自分が生きているとは思わない。
(……リルム、ゼル、サックス――フルート)
仲間の顔が浮かぶ。ムースとパウロと同じ、掛け替えのない友の顔が。
死を前に挫けそうな心を奮い立たせてくれる。そんな守るべき人達の顔が。
「僕は……ロトの血を引く……破壊神を破壊した男だ……」
だからこそ、自分に言い聞かせるように呟き、
「だからこそ……勇者の血筋と、僕自身の誇りにかけて。
皆を、仲間を守るために……」
静かに剣を構える。
「君を、止める」
少女はふらふらと宙を彷徨う。
息を呑むサラマンダーには目もくれず、それ以前にどこを見るでもない瞳を街並みのほうに向けて。
彼女を包む光に共鳴するかのように、不意にラミアスの剣が鈍い光を放つ。
けれど、サラマンダーは気付かなかった。
少女に、そしてロランに気を取られていたから。
ロランは駆ける。
少女が右手を上げた。
ただ放たれていただけの魔力が渦を巻き始め、同時に、大地の神の名を冠した剣が閃く。
一瞬。
ガイアの剣が、無防備なバーバラの心臓を貫き。
収束した力が、閃光となって迸り。
血に染まった剣を握り締めるロランを、魔力を受けて鳴動するラミアスの剣を携えたサラマンダーを、
真紅の飛沫を胸から散らしたバーバラ自身を、
間に合わないことを悟りリルムを抱かかえて地面に伏せたゼルを、
町の入り口にたどり着いたティーダたちを、
宿屋を、武器屋を、民家を、鉱山を、木々を、カズスの町を飲み込んで。
その光を切り裂くかのように、ラミアスの剣が輝いて――
音無き轟音が、大地と天空を揺るがせた。
天空の剣。
あらゆる魔を打ち破り、無に帰すとされるその力は、天空の神が与えたものだという説が残されている。
そしてまた、一説には……竜神に力を与えたのは、育ての親である一人の魔女だったとも――
原型を留めていない街並みの中で、焔色の髪を持つ男は立ち尽くしていた。
相対していた剣士は、左腕と顔の半分しか原型を留めていない。
後は肉片であり、骨片であり、血飛沫であり、炭としか呼べないものになっている。
(――なのに、何故、生きている?)
その言葉は、果たしてどちらに向けたものか。
己自身か、目の前で言葉を紡ぐ少女か。
「……えて……こーるに……」
途切れ途切れに呟くバーバラ。その胸には、ロランの剣が突き刺さったままだ。
心臓を貫かれ。常人でなくても即死であるはずの傷を受けてなお、彼女はただ喋り続ける。
「あい……てるって……かれに……つたえて……」
「……彼?」
聞き返したサラマンダーに、バーバラは少しだけ首を傾げる素振りを見せた。
「すこーる……ううん、いざ……すこーる……」
言いかけて直ぐに訂正し、また先の名前を言う。壊れた蓄音機のように。
「そう、壊れかけ」
サラマンダーの思考を読み取ったかのように、誰かが囁いた。
「壊れかけの器。希望の竜に託す力も、あの剣に与えてしまった。
今は、魔女の力があるから動いている。動いているだけで、死ねないだけ。
だから何も出来ない。思いを伝えに行くことも、己の願いを叶えることも」
口ずさむように言葉を紡ぐ少女は、ゆっくりとバーバラに近づく。
アレクサンドロスの王女にも似た長い黒髪を風になびかせて。天空と同じ色の衣に身を包んで。
美しくも邪悪な、金の輝きを瞳に宿して――
サラマンダーは立ち上がり、バーバラと少女の間に割って入る。
深い理由はない。ただ、目の前の相手から言い知れない『何か』を感じたからだ。
それを見た少女は、無表情に手を振る。
ぱぁん、という音がして、身体が宙に浮いた。
見えない力で弾き飛ばされたのだと気付いたのは、地面に叩きつけられた後だった。
少女は……少女の姿をした邪悪な『何か』は、バーバラの傍に立つ。
「永遠に眠るがいい、夢の魔女よ。
お前の願いは届かない。リノア・ハーティリーの願いが届かぬように。
運命はいつだって残酷だ――誰の祈りも叶えはしない」
子守唄を歌うように囁きながら、ソレはそっとバーバラに触れた。
そして、止まった。
もがいていた指も、言葉を紡いでいた唇も、動いていた胸も、全てが止まった。
サラマンダーは息を呑む。
ようやくわかったのだ。目の前にいるものが何なのか。
「……何故、だ?」
ソレは答えることもなく、ただ、くるりと身を翻した。
硬直するサラマンダーには目もくれず。
ゆったりとした優雅な足取りで、壊れた町の向こうに姿を消す。
サラマンダーは立ち尽くしていた。
とうの昔に見えなくなった魔女の後ろ姿を見つめながら、白銀の光を宿す剣を手に、いつまでも立ち尽くしていた。
『伝えたい』。奇跡を引き起こしたのは、その願い。
悲劇を引き起こしたのも、その願い。
視界は白く塗りつぶされ、爆風と衝撃が身体を翻弄し、宙に投げ出す。
地面に叩きつけられて、二、三度バウンドし、それでようやく終わった。
「……っー、なんだよ、一体!?」
悪態をつきながら身を起こしたティーダだったが、次の瞬間、息を呑んで固まった
町が、壊れていた。
周囲を包んでいた森の木々は全て薙ぎ倒されている。
石造りの家並みは見る影もなく破壊され、一部は溶けてすらいる。
地面は抉られ、あるいは焼け焦げ、吹き飛ばされている。
今、自分がこうして生きている事自体が奇跡と思える。そんな光景が、目の前に広がっていた。
「……え……なに、これ?」
唐突に響いた声にティーダは振り返る。
アーヴァインが顔を上げていた。かつて町だったモノを、呆然と見つめていた。
「うそ……ねぇ、なんだよ、これ……ゼル、は? なぁ……なんで、なに、なん、………」
たどたどしい呟きは、やはり唐突に止まり――絶叫に変わる。
「ぅうぁああああああああああああああーーーーーッ!!!
ゼル、ゼルーーーッ!! ぁあああああああああああああああぁぁあーーっ!!」
記憶を失ってからというもの、何回みっともなく取り乱したことだろう。
けれど今からすれば、それなりに余裕が残っていたのだと思う。
自分を情けないと思ったり、外面を取り繕って言葉を選んだり、激情を隠すだけの余裕が。
でも、もう、無い。
「ゼルーっ! うそだ、いやだぁああああああああああーーーっ!!
うわぁあああああああああああああああああーーーっ!!」
自分でも信じられないぐらい大量の涙をぼろぼろこぼし、
自分でも何を言っているのかわからないほど、ひたすらに叫び続けて。
向こうに行こうと足を動かそうとして、けれど身体はついていかず、地面に躓いて、受身も取れずに転んで。
そんな自分の姿を無様だとか情けないとか、思う事も、気付くことすらも出来ない。
ティーダは立ち竦んでいた。ユウナは口を押さえながら、壊れた町を瞳に映していた。
プサンは無言で呆けているように見えたが、拳を固く握り締め、町のどこかを睨んでいた。
ただ一つの慟哭だけが、虚空に響き、木霊して――
「ぎゃーぎゃー騒いでんじゃねぇよ、バカ野郎!」
――どこかで、誰かが言った。
「あ……?」
アーヴァインの、涙でぶれた視界の向こうに、金色の輝きが映る。
最初は目を疑った。幻を見ているのではないかと。
それから自分の頭を疑った。現実を受け入れられずに、気が狂ってしまったのではないかと。
――けれど、その人影は確かにそこにあり。
声も、紛れもなく空気を震わせて返ってきた。
「ケッ、テメーに泣かれたって嬉かねーよ。リノアやユウナならともかく」
「そーそー。モヤシ男なんかに心配される義理はないからね」
ティーダも、ユウナも、プサンまでもが目を見開く。
すぐそこまで、歩いて来ていた。
相変わらずの憎まれ口を叩くリルムを腕に抱えて。
閃光に飲み込まれたはずのSeed――ゼル・ディンが、呆れたように四人を見ていた。
「あ……あ、ああ・……」
ぐしゃぐしゃに汚れた顔を上げながら、アーヴァインが言葉にならない声を上げる。
「落ち着けってんだよ、バカ野郎。
オレ様があの程度で死ぬわけねーだろうが」
「いやいやいやいや、フツーは死ぬッスよ!?」
ぶんぶん首を振りながら、幽霊を見たかのような表情でティーダは叫ぶ。
ユウナとプサンも、ティーダに同意するかのように頷いた。
「な、何で……無事だったの?」
ユウナの問いかけに、ゼルは「死んだ方が良かったかよ?」と口を尖らせながらも答える。
「正直、オレにもわかんネェよ。
何となくヤベェってのがわかって、せめてコイツだけは庇おうと思って抱きかかえてうずくまってよ……」
彼は片目を抑えているリルムを地面に降ろし、言葉を続ける。
「気がついたら二人とも無事だったから、フツーに歩いて帰ってきた」
「……それ、ちっとも説明になってないっつーの」
「だからオレにもわかんネェっつったじゃねーか」
呆れ顔のティーダに言い返した後、ゼルはまだ泣き続けていたアーヴァインの肩を軽く叩いた。
――本当は、ゼルにはわかっていた。
何で自分達が助かったのか。
一つは、G.F.ディアボロス。
勝手に発動して、自分を庇って消滅してしまった。いくら挑戦しても召喚できなかったのに、最期の最期で。
――何かの理由で、魔女の封印が解けて、それで召喚できたのだろうか。
暴走した魔力が封印に干渉して、一時的に弱まってくれたのかもしれない。
……あるいは、ゼル自身の思いにG.F.が応えて起こった奇跡だったのか。
『リルムを守りたい』。もうダメだと悟った時、本気で、心から願ったのはそれだった。
もしかしたらその願いが届いて、ディアボロスが力を貸してくれたのかもしれない。
己を犠牲にしてでも、守ろうと――そう、してくれたのかもしれない。
もう一つは、ロラン。
いくらディアボロスが庇おうと、二度も三度も魔法を喰らってたら、やはり死んでいただろう。
誰かが止めたのだ。敵と呼べる存在がいなくなるか、発動者が意識を失うまで止まらないはずのヴァリーを。
……あの時、自分は逃げろと叫んだ。
けれどロランのことだから、逃げるよりも戦う事を選んでしまったのだろう。
だから、止まったのだ。魔法が一度放たれただけで止まったのだ。
きっと、『あの』ロランだから、彼自身の身がどうこうではなく。
ただフルート達やリルムやユウナ達や自分を生かそうとして――
『守りたい』。それぞれが祈った、その願い。
奇跡を引き起こしたのも、その願い。
【サラマンダー(疲労) 所持品:ジ・アベンジャー(爪) ラミアスの剣(天空の剣)
第一行動方針:? 第二行動方針:アーヴァインを探して殺す
基本行動方針:参加者を殺して勝ち残る(ジタンたちも?) 】
【現在地:カズスの村・ミスリル鉱山入り口付近】
*ラミアスの剣で天空の剣の効果(凍てつく波動)が使用可能になりました。サラマンダーは気付いていません。
【リルム(右目失明) 所持品:英雄の盾 絵筆 祈りの指輪 ブロンズナイフ】
【ゼル 所持品:レッドキャップ ミラージュベスト】
【第一行動方針:なるべく仲間を集める
最終行動方針:ゲームから抜ける。アルティミシアを倒す】
【ユウナ(ジョブ:白魔道士、軽傷) 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子】
【プサン(軽傷) 所持品:錬金釜、隼の剣
第一行動方針:ドラゴンオーブを探す
基本行動方針:仲間を探しつつ、困ってる人や心正しい人は率先して助ける 最終行動方針:ゲーム脱出】
【アーヴァイン(身体能力低下、HP2/3程度+軽傷、一部記憶喪失)
所持品:竜騎士の靴
第一行動方針:自分の罪を償う/ゲーム脱出方法を探す】
【ティーダ(軽傷)
所持品:鋼の剣 青銅の盾 理性の種 ふきとばしの杖〔3〕 首輪×1 ケフカのメモ 着替え用の服(数着)
第一行動方針:ユウナ達と一緒にゲーム脱出方法を探す】
【現在地;カズスの村・入り口】
【ロラン 死亡】
【バーバラ 死亡】
【残り 68名】
ウィーグラフ・フォルズは森から現れた二人の男の姿を初めから見ていた。
かたや、忍者を思わせるような身軽さを備えた男。金髪だがラムザではない。
その男が連れていた仲間は死んだようだ。場の雰囲気から殺したのは対峙している男であろう。
かたや、かつての仲間、いや『同類』というべきか、
自分と同じく聖石―というよりルカヴィに選ばれた者、エルムドアを思い出させる銀髪の男。
奇しくも得物も同じ刀。
弾けるように二人が動きを為し、スピードと技量がしのぎあいを始める。
魅入られるようにウィーグラフはそれを眺めていた。
セフィロスのダメージを差し引いてもスピードは確かにジタンが上回っていた。
だが、その差とて絶対的なものではない。
簡単に言えばセフィロスの能力で対応可能な範囲なのだ。
動きで翻弄することはできるが攻撃には反応される。防御される。反撃される。
攻撃力という面では圧倒的にセフィロスが上回っていた。
お互いに得意の武器ではあるが、短刀と刀では分が悪い。
仮にセフィロスの太刀を一度でも浴びたならもう抵抗は不可能なダメージを負う。
翻ってジタンの武器では急所を打ち抜かない限り一発で、というわけにはいかない。
しかも目の前の相手、セフィロスはそのチャンスすら簡単に許すような相手ではないのだ。
それでも、幾多の激闘により蓄積されたセフィロスのダメージは大きい。
素早い動きから攻撃を繰り出すジタン、ほとんど位置を変えないままそれを捌くセフィロス。
戦闘開始よりずっとこれと同じ流れの攻防が繰り返されている。
反応して防いではいるものの防御に専念せざるを得ない。攻勢に出ることができない。
(クッ…予想以上に体が動かないか……気に入らん)
苛立たしさをその奥に隠しつつ、それでもセフィロスは悠然と刀を振るう。
連打をしのぎきったセフィロスがようやく放つ反撃を後方へひらりとかわし、すたっと着地する。
傍から見れば圧倒的優勢に戦闘を進めながら、けれどジタンの心理はそうではない。
どれほど手数を重ねようと決定的な一撃を許さない予想以上の相手の技量への焦り。
目の前で死んだクジャの為の復讐への、気負いすぎ。
何よりセフィロスの表情に残ったままの余裕と冷静さがジタンを追い詰める。
その余裕は何を隠しているのか、何を企んでいるのか。
不安、疑心、それが導いてくるのは敗北への恐れ。
自分は絶対に負けるわけにはいかないというのに。
(くそっ、弱気になるな!力を貸してくれ、クジャ!)
焦りが、激情が、不安が戦いの視界を狭めていく。
それはこのゲームでも幾人もの強者を呑み込んできた陥穽。
ウィーグラフの脳内の奥底から、
冷たく刀を舞わしている男の姿が自らの記憶の残照と重なってゆく。
メスドラーマ・エルムドア。
その名が思い出させるのは、振り返りたくも無い自分の歳月。
激動のイヴァリースの日々。
理想を求め、力を求め、復讐を求め、いずれも得ることなく敗れ去った。
自分の行動は正しかったなどと主張する気など最早微塵も無い。
正しさだとか正義などというものがどれほど下らないかは嫌というほど経験済みだ。
あの日、すべてをなげうって求めたものこそラムザ・ベオルブへの復讐。
今、異世界を彷徨う私が求めているものも同じである。
何故なら自分にはそれしか残されていないはずだったから。
それだけを思考し、それだけのために行動する。
それ以外のことなどどうでもよいはずだった。だが。
だが、目の前で銀髪に挑みかかる男に心が騒ぐのは何故なのか?
何度目の攻撃であったか。
揺さぶりから死角を狙うジタンの攻撃をセフィロスが受けるという同じ流れは、
セフィロスの行動により崩される。
ジタンがそれに気付いたのは村正とグラディウスがぶつかろうとする瞬間。
何かを取り出すそぶりを見せたセフィロス、だが攻撃は止められない。
(来たッ、なにが来る!?)
通常考えられるような武器であればジタンには容易に回避できただろう。
だが、ザックから引き抜きざまに空間を薙ぎ払うのはグリンガムの鞭。ジタンの想像を超えた武器。
不馴れとはいえ三つ又の鞭が不規則に舞いながらジタンへと襲い掛かる。
刀での追撃に備え相手の間合いを外しながらそれらをなんとかグラディウスで弾く、が―
鞭を投げ捨てたセフィロスの手にあるのは、どこに隠し持っていたのか、銃。
(しまった!)
今までの剣劇とまったく質の異なる攻撃。
それ以前に既にギリギリの回避行動の途中、これ以上はかわせない。放たれた弾に肩を撃ち抜かれる。
崩れたバランスを立て直しつつ間合いを大きく開けて着地したジタンに訪れる変化。
そう、撃ち込まれたのは神経弾。
精神に重圧がかかる。視界が維持できない。だめだ、どうして、眠ってなんか……
余裕の笑みを貼り付けながら凍りついた月のような眼がジタンを刺す。
「……クックックッ、復讐だと?気持ちだけで私に勝てるとでも思ったか?」
反応は、無い。神経弾により眠りに誘われているのだから。
「そんな些末な事に命を使い切るとは、哀れだな」
一歩、また一歩と死神がジタンへと迫る。
「お別れだ。兄弟ともども…永久に眠れ」
交錯の後、銃声。
片方の男が崩れ落ちる。決着――
だが、ウィーグラフは独りでいた時の冷静さに戻ることはできなかった。
心の奥底で脈動し湧き上がる何かがある。
観客は自分ひとりの陳腐な復讐劇。
失った者のために戦う男に自らを重ねていたのではないか?
声が、聞こえた。
『復讐だと?――』
心がざわつく。胸の鼓動が早くなる。
黙れ、エルムドア。
『そんな些末な事に――』
黙れと言っているッ!貴様こそ死を恐れ自らを悪魔に売り渡した臆病者の癖にッ!
何がわかるッ!奪う側にいたお前に、私の想いが、何がわかるッ!
私に残る最後のものまで奪い去らんとするかッ!
『兄弟ともども―――』
最後の言葉。全てを待たず、ウィーグラフの身体が躍動する。
銀髪の男へ向け、右手に渾身の力を込めてウィーグラフは駆けていた。
「大地の怒りがこの腕を伝う! 防御あたわず! 疾風―――」
去来した複雑な思いを込めて、大地をたたく。
「地裂斬!」
気配で存在自体は察していた。
この男を助けるためか、その姿を現した男。
だがセフィロスの思考よりも早く、放たれた一撃が存在を主張する。
地裂斬。大地を伝う衝撃がセフィロスに絡みつき、その足を止める。
(ーッ!地を伝う攻撃、だと!?)
思いもよらぬ未知なる攻撃にブラスターガンが手を離れ、地面を転がる。
なお間合いを詰めてくる新手の男に対して迎撃すべく刀を構えるが、
「死兆の星の 七つの影の 経路を断つ!」
予想外。斬り結ぶのでも飛び道具でもなく予想外に離れた位置で男は剣を振り上げ、
「北斗骨砕打!」
瞬間、身体を貫いて下から突き抜けるような衝撃。タイミングの全く読めない攻撃がセフィロスを襲う。
その場に膝から崩れ落ちる。
(ぐっ……何だ……今の攻撃は…!?)
いかにセフィロスといえどこの未知、かつ初見の攻撃に対処する術など持ち得ない。
既に耐久の限界を超えた身体が警報を発している。この身体が後どれほどもつだろうか?
(ばかな……私が、敗れる?)
見据えた男の姿に、アリアハンで戦ったあの少年の像が重なる。
あのときの続きとばかりに破壊の剣を自分に振り下ろしてくる残像。
(貴様は…!)
改めて目を凝らせば残像など無く、男がこちらへ向け剣を構えているのみ。
覚えの在る忌まわしい感覚が背中を這い上がる。
(クッ…ククッ……恐怖…恐怖か……再会、だな)
相手が五体無事なままで退くなどセフィロスにとって屈辱以外の何物でもない。
だが、いったんそう決断した以上行動は迅速だった。
次の攻撃のために動こうとする男の機先を制しザックから手が掴んだ何かを投げつける。
分厚い本がウィーグラフへ向かい高速で飛び、思わぬ投擲が足を止める。
その隙に魔法を紡ぐ。狙いも威力も要らない、ただ、速さだけを求めた詠唱を。
フレア。虚空に発生する強烈な爆発。
視覚、聴覚を襲う間隙をついてセフィロスはその姿を北へと続く樹海の奥に消した。
眠っている男を足元に見下ろしながらウィーグラフは自らの行為を反省する。
無用な危険に自らを晒した事。
最後の魔法は当たらなかったとはいえ、あの身体であの抵抗。正直軽率であった。
だがしかし、どこかに満足感を得た自分がいる。
それは、自分と同じ終幕を迎えなかった復讐劇に満足したからであろうか?
(私と同じ道を行くもの、か)
今のウィーグラフには眠りに落ちたままのこの男を放置することはできなかった。
自嘲する。自分は何をやっているのか。この行為は必要ないだろうに。
共に行く気は無い。私は己の力だけで成し遂げる。その決意は変わらない。
それでも不思議と、この男と少しだけ話がしたくなっていた。
とりあえず人目につかない位置まで眠っている男の身体を抱え移動する。
(…さて、とにかく起こすとしよう)
より深く森の奥へ、奥へとセフィロスは向かう。
敗因は明確に自らの消耗にある。
思えばクラウドのメテオを受けて以来万全であった時間が無い。
一時多少は回復したものの格闘家、怪生物、クジャ、そして先程と再びの連戦。
クジャとの盟約も消えた。あとはただ、ひたすらに勝ち残るのみ。
その為に戦闘は必然であるが、身体が先に朽ちては何にもならない。
まずは二度とこのような無様を晒さぬよう自らを癒すべきだ。
必要ならば一日ほどの時を費やすのも悪くは無いだろう。
それがセフィロスの判断。故に広大な森の奥深くへと身を沈めてゆく。
だが―覚悟せよ、未知なる技を操る男よ。いずれ私自らの手で葬り去ってくれる。
芽生えた復讐心が忌々しき相手の像を結ぶ。
その男、ウィーグラフが求める黒マテリアを所持していることなど知る術も無かった。
【ウィーグラフ
所持品:暗闇の弓矢、プレデターエッジ、エリクサー×10、ブロードソード、レーザーウエポン、
首輪×2、研究メモ、フラタニティ、不思議なタンバリン、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、
黒マテリア、グリンガムの鞭、攻略本、ブラスターガン、毒針弾、神経弾
第一行動方針:ジタンを起こす
第二行動方針:生き延びる、手段は選ばない
基本行動方針:ラムザとその仲間を殺す(ラムザが最優先)】
【ジタン(睡眠)
所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面 釘バット(FF7) グラディウス
第一行動方針:不明
基本行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【現在地 カズス北西の森、最南端】
【セフィロス(HP 1/20程度)、
所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠
第一行動方針:回復を優先
基本行動方針:黒マテリアを探す
最終行動方針:生き残り力を得る】
【現在地 カズス北西の森中央部へ】
ジタンのパラメータを以下に修正します。
【ジタン(睡眠、左肩銃創)
所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面 釘バット(FF7) グラディウス
第一行動方針:不明
基本行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
「…つまり、あの扉の前で行動を起こしたのは大正解だったわけだ」
「ああ。6人いるうち2人は確実に殺したし、もう3人に重傷を負わせたんだからな。
ところでお前、レオンハルトはどうした?」
「殺せそうだったんだが、邪魔が入ってな。
わけのわからない飛び道具で襲ってきたから、念の為に逃げてきた」
「わけのわからない飛び道具…まさか、デールか?」
「デール?誰だ?」
「それよりさあ」
それまで続いていた会話を、スミスが遮る。
「こいつのことはどうすんのさ?思ったよりヤバそうだけど」
カインはスミスを振りかえり、その背に乗せられている重傷の少女を見た。
「そういえば、それは一体誰だ?今にも死にそうだが」
先ほどまでカインと話していたフリオニールも言う。
彼は先ほどカイン達と合流したばかりだった。
カインとスミスが気絶したアリーナを連れ、城の南の平原に出た際、偶然に彼と出会ったのだった。
フリオニールも自分達と同じで何処へ行くか決めかねていたらしく、
目的も一致していたので行動を共にすることにしたのだ。
もっとも、一致している目的とはすなわちゲームの成功であり、最後の一人となるまで生き延びる事なのだが。
マーダー同士で殺し合うには早過ぎる事ぐらい、カインはもちろんフリオニールも了承していた。
彼らを結びつけ、仲間としているのはとどのつまり、利害の一致でしかないのだ。
「ああそうだ。その事でお前に頼みがある」
カインが思い出したように言うと、こう続けた。
「お前、回復魔法は使えるか?」
「ある程度なら使えるが…まさかその娘を治療しろだなんて言わないよな?」
「そのまさかだ。頼めるか?」
冗談じゃないとばかり腕を広げるフリオニールに、カインが落ち着き払った口調で言う。
「僕もあんまり気乗りしないんだけどさあ…」
少々顔をしかめながら、スミス。
少女の体は自らの血に紅く塗りつぶされているが、その半分は他人からの返り血である事がわかる。
その返り血にまみれた姿が意味する事は一つ。
彼女もまたゲームに乗ったマーダーだということだ。
それをわざわざ治療して助ける気には、スミスもフリオニールも少々気が進まない。
マーダー同士が徒党を組む事は確かに重要だが、ゲームに乗ったもの全てが勝利を目的としているとは限らないからだ。
蔓延する狂気に影響されて殺人に走っただけかもしれないし、
ただ他人の死そのものを目的としている殺人鬼かもわからない。
もしそうだったなら、傷が癒えて意識を取り戻した瞬間襲われてもおかしくはない。
故に、いくら同類だとしてもおいそれと助けるわけにはいかないのだ。
「なに、こいつはきっと良い駒になるさ」
妙に自身ありげに、カインは言う。
「本当なら生きてるほうが不思議を通り越して不気味なぐらいだ。
こんな傷負ってもまだ生きてるようなのをここで野垂れ死にさせるには惜しい」
カインはそこで一旦区切り、「それに」と続ける。
「例え襲ってきてもスミス、こっちにはお前がいるじゃないか」
「ええ?なんだよそれ」
飛竜が迷惑そうな顔で漏らすのに対し、剣士の方は不意に破顔して大笑いした。
スミスの読心能力と干渉能力の威力がどれほどのものかを、彼は身をもって知っている。
「まあ、あんたらには恩みたいなのもあるし、一肌脱いでやるかな」
しばらくの後、ようやく笑いが収まったフリオニールは言うと、左手に淡い青色の光を宿らせる。
「とりあえず、そこの森にでも移動してからにしようよ。ここじゃ目立ちすぎる」
少し不機嫌そうな顔でスミスがそう言うと、彼らはすぐ近くにあった森へと身を隠した。
【カイン(HP 5/6程度) 所持品:ランスオブカイン ミスリルの小手 えふえふ(FF5) この世界(FF3)の歴史書数冊
第一行動方針:アリーナ2の回復を待つ
最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【スミス(変身解除、洗脳状態、ドラゴンライダー) 所持品:無し
行動方針:カインと組み、ゲームを成功させる】
【フリオニール 所持品:ラグナロク
第一行動方針:アリーナ2を治療する 最終行動方針:ゲームに勝ち、仲間を取り戻す】
【アリーナ2(分身) (瀕死)
所持品:E:悪魔の尻尾 マティウスの支給品袋
第一行動方針:気絶中
第二行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない
最終行動方針:勝利する 】
【現在地:サス―ン城東の森】
>>73 ×「ああ。6人いるうち2人は確実に殺したし、もう3人に重傷を負わせたんだからな。
○「ああ。5人いるうち2人は確実に殺したし、もう3人に重傷を負わせたんだからな。
77 :
焦熱の大地:2005/06/29(水) 00:26:59 ID:8pQg2MtT
故郷を思い起こさせる濃厚な夏の匂いが漂っていた。
ただ違うのは、空気も海が故郷より濁っている事か。
デルムリン島にいるブラスと友達を思い、そして次に、このゲームに参加している仲間を思った。
「ポップ……マァム……」
漆黒の海が波打つ海岸にて、勇者ダイは寂しげに夜空を見上げる。
どうしてこんな事になってしまったのか。
仲間同士で殺し合い? 冗談じゃない。
何とかしてこのゲームから脱出し、主催者である大魔王バーン達を倒さなくては。
勇者の力強い決意に応えるように、彼の手には鈍い輝きがあった。
肉を裂くために造られた物。
刃が広く厚く、先の尖った凶器。
一振りすれば人の命を奪い取る事も出来るだろうが、それは元々他者の命を奪うための物ではない。
だのに、それを造り出した者達の意図とは異なる最悪の使い方……殺し合いのためにそれは支給された。
だが案ずる事はない、その刃は平和を愛し人を守る勇者の手に握られているのだから。
そう、勇者ダイが支給された武器。
その名は……!!
出 刃 包 丁 。
魚や鶏肉のあらぎりに用いる。by広辞苑
……まあ、剣やナイフを得意とするダイにとってはどちらかと言うと当たりの支給品かもしれない。
アバン流刀殺法は問題無く使えるだろう。しかし、竜闘気を使った場合、こんな包丁など一瞬で燃え尽きてしまう。
「おれの剣があれば……」
ため息をつきながらダイは出刃包丁を見下ろす。
雑魚相手の場合は出刃包丁で済むが、強敵相手の場合は素手で竜闘気を使った方がマシだ。
竜の騎士の持つ超戦闘能力、竜闘気のパワーに耐え切れる物など、ダイの世界においてはオリハルコンしか存在しない。
「……はぁっ、これからどうしよう? 何とかポップとマァムと合流できればいいんだけど」
78 :
焦熱の大地:2005/06/29(水) 00:28:04 ID:8pQg2MtT
聡い方ではないダイはうんうんと唸り声を上げて悩み、とりあえず海岸を歩き出す。
ダイは出刃包丁を握ったまま走り出し、女性はそれに気づいた。
「……何者……!?」
苦しげな、けれど気丈な声。
ダイは包丁を腰のベルトにかけ、無邪気な笑顔を浮かべた。
突然咳き込みだした女性の元へ駆けつけたダイは、優しい手つきで彼女の背中を撫でる。
「大丈夫かい?」
返事は無い。女性は呼吸を乱したままダイに身をゆだね、五分ほど経った頃に落ち着きを取り戻した。
「……すまぬ。下界の空気は私にとって毒のようなものでな、だいぶ慣れてはきたが……」
「空気が毒? そうか、確かにこの辺の空気は汚れてる気がする。山の方にでも行けば楽になるかな?」
「……おぬしは優しい子じゃな。名は?」
美女の背中を撫で続けながら、小さな勇者は元気よく答えた。
「おれの名前はダイ。元の世界じゃ一応勇者って呼ばれてる」
「ふふっ、頼りがいのありそうな勇者じゃな」
ダイの言葉を信じたのか、それとも冗談か何かと思ったのか、美女はクスクスと笑った。
彼女の笑顔があまりにも綺麗なので、ダイは思わず赤面する。
「私は竜吉公主と申す。ダイよ、よければ太公望という男を捜すのを手伝ってはくれぬか?
そやつは頭が冴える。この状況を何とかしてくれるやも……コホッ、コホッ」
「竜吉公主さんっ、無理して喋らないで」
再び咳き込みだした竜吉公主のため、ダイは自分の鞄から貴重な飲み水を取り出した。
竜吉公主は申し訳無さそうな顔をしながらも、水を二口ほど飲む。
わずかに咳が静まった美女は、「公主でよい」と微笑んだ。
【ダイ 所持品:荷物一式 出刃包丁】
【竜吉公主(少し息苦しい程度・体力常時微消耗)
所持品:荷物一式(支給品不明)】
【現在地:高知県南部の海岸
第一行動方針:空気の綺麗な山などへ行く。
基本行動方針:仲間を集める。ポップ、マァム、太公望優先。
最終行動方針:ゲームを脱出し主催者を倒す】
79 :
焦熱の大地:2005/06/29(水) 00:32:48 ID:8pQg2MtT
「そりゃ、どうゆうことですかい!!」
突然、ダミ声が響く。声の主は、2mはあろうかという禿頭の大男だった。月の所からは良く見えないが、
どうやら男は、角の異形と同じプロテクターを身に着けている。
「フリーザ様?!一体全体なんの冗談です!?どうして俺の首にまで……こんな!!」
「お静かになさい、見苦しいですよ、ナッパさん」
冷たい声に、ナッパと呼ばれた大男は一瞬怯むものの、なおも食い下がる。
「……俺はこれまでずっと、あんたの命令に従って来たじゃないか?!なあ、フリーザ様!なんだって、俺が!」
「丁度良い、ナッパさん、こちらへいらっしゃい。皆さんに、首輪の威力をご覧にいれましょう」
「な……!」
会話の内容からしてこの二人はどうやら主従の関係にあるようだが、主の物とはとても思えぬその言葉に、ナッパは息を呑む。
「どうしました?早くおいでなさい。皆さんによく見えるように、前の方へ」
がちがちと、ナッパの歯の根が噛み合わない。顔中に脂汗を浮かべ、その巨躯は小刻みに震えている。
「ほら、早く……来なさいってば」
「……い、いやだ」
ナッパは、搾り出す様にそれだけ言うと、また俯いた。
「いい加減にしないと、怒りますよ?ナッパ!!!」
フリーザの恫喝に、ナッパの理性が切れた。フリーザに向けて右手の人差し指と中指を向けると、雄叫びとともに指を振るう。
「クンッ」
ここは秋田。外界は一面の雪景色。山小屋の中、青年、夜神月は明かりも点けずに思索に没頭していた。
屈辱だった。新世界の神となる自分が、一山幾らの命として扱われているという現実が。
許せなかった。主催者と名乗る怪人に投げかけられた、蔑むような、哀れむような、不遜な視線が。
信じられなかった。殺し合いをさせられるというのに、こんな支給品を引き当ててしまった自分の運のなさが。
生きて帰らなければならない。例え、誰を始末してでも。生きて、生きて帰りさえすれば、自分のノート、
生き物の生殺与奪を司るデスノートで、あの倣岸な化け物どもに一泡吹かせてやることも出来る。
そして、このゲームとやらはまたとない好機でもある。竜崎、いや、Lを、名前を聞き出すことなく始末することが出来る。
法から外れている、今の状況だからこそつけられる決着。だが、正面から挑むのは得策ではない。
Lは、このふざけたゲームから脱出する方法を考えているだろう。そして、思い出すたびに不愉快になるが、広間で、主催者の一人に
人間界最高の頭脳とまで絶賛されている。彼の仲間になりたいと考える人物は、決して少なくはないはずだ。
自分にも道具がいる。適度に馬鹿で、適度な強さを持つ、操りやすい道具が。
そこまで思考が及んだとき、唐突にドアが開かれた。
二人の少女が山小屋を見つけたのは、単なる偶然だったが、僥倖といっても差し支えはなかった。
雪女の少女、ゆきめと、ナノマシンを操る少女、イヴ。彼女らは、互いに戦う意思がない事を知り、心細さから、
行動を共にしていたのだ。が、ここは雪国。雪女、ゆきめにとっては何の問題もないが、イヴにはこの寒さは
辛いのではないか。そう考えていた矢先に、見つけた山小屋。ゆきめは迷わずドアを押し開いた。
>>77-80 キチガイのやってる事なのでお気になさらず。
ちなみにジャンプロワにもFFDQロワのSSを貼りつけるという荒らし行為を行っていました。
アリーナの身に手をかざし治癒魔法をかけていたフリオニールだが、
彼は不意に魔法の光を消し、荷物を持って立ち上がった。
「どうした? フリオニール」
カインの言葉に忌々しそうに首を振る。
「どうしたもこうしたもない。傷が深すぎる。
俺の魔法では魔力を使い切っても傷口を塞ぐのがやっとだろう
完治は無理だ」
「ならば傷口を塞ぐだけでも……」
それを聞いたフリオニールはカインの襟首を掴みあげた。
「ぐっ」
「おい、ふざけるなよ。
何故俺が魔力を使い切ってまでこんな役に立つかどうかも判らん小娘を救わなけらばならない?。
ここで魔力を切らせばいざ俺が危地にある時、不利になるだけだ。
俺にそこまでする義理はない。いいか、忘れるな……お前とは仲間になったわけではない。
都合がいいから今は組んでいるだけだ。いずれは雌雄を決することになるのを忘れるな!」
そういってフリオニールはカインを突き飛ばし背を向ける。
「どこにいくのさ?」
スミスの言葉にも振り向かずに答える。
「さあな。だがお前らと共に行動する気は無い。
情報交換が必要なら日没の時にカズスの村で落ち合ってやる。
それまでは好きに行動させてもらおう」
「ふーん、ま、いいけどね。
僕も群れで行動するより二手に分かれたほうが効率いいと思うし」
フリオニールは頷きもせずにこの場から立ち去っていく。
「小娘の止血だけは終わっている。後は好きにしろ」
そして彼は森の木の影の中に消えていった。
カインはようやく起き上がり、吐き捨てる。
「ち、協調性のない奴だ」
「あ、それ君が言うんだ?」
カインはそれには答えず、アリーナの上着を肌蹴て上半身を裸にする。
「あれ、強姦? 趣味悪いなぁ」
「黙って見てろ」
ザックから水筒を取り出し、アリーナの傷口を洗い流していく。
そして城から手当て用に失敬していた清潔な布を取り出して傷口に押し当て、
その上からアリーナのマントを引き裂いた布を縛り付けた。
「へぇ〜〜手馴れたもんだね」
「バロンの騎士団ならこの程度の応急処置は誰でも習得している。
白魔導士の治療を受けられない状況などざらにあるからな」
しかしここまで処置をしてようやくカインもフリオニールの意見を認める。
「だがしかし……やはり無駄だな、これは。
ろくな医療道具もなくここまで深い傷はどうにもできない。
よくも切られた瞬間にショック死しなかったものだ」
「ふ〜ん、じゃあ置いていこうよ。
役に立つならともかく助からないなら邪魔なだけだよ」
「そう、だな。随分と派手に殺っているようだから囮として使えるかと思ったが……
近くの村までも持つまい。せめて介錯してやることが情けか……」
アリーナの呼吸は既に弱弱しく、今にも消えてしまいそうだ。
カインは立ち上がり、アリーナに向けて槍を振りかぶる。
「怨むなよ。俺にはどうすることもできん」
いざ、槍が振り下ろされようとしたその時。
突如として制止の声が上がった。
「待て! そこで何をしている!?」
カインたちが振り向くとそこにはこれみよがしに
ザックから何かを取り出そうとするエドガーの姿があった。
「「何者だ?」」
誰何の声がハモる。
実はお互いにアリアハンで一度出会っているのだが、
エドガーは面倒を避けすぐに町を出たためカインの顔を覚えていなかった。
カインに至っては戦闘中であったため、エドガーの存在そのものを知らなかった。
沈黙が―――降りる。
リュカが目を覚ますとそこには……自分が居た。
「え、うぇええ?」
突然のことに思わず混乱する。
「あ、目が覚めたんですね。良かった……」
もう一人の自分はかなり憔悴しているようだった。
ボゥン
突然、その目の前の自分が煙に包まれたかと思うと、中から小柄な少女が現れた。
驚愕して身を起こそうとするリュカだが、全身を奔る痛みに動きを止める。
「あ、動かないでください! 私の魔法力では辛うじて傷を塞ぐだけで精一杯だったんです。
肺のほうは血を抜いてありますから機能に支障は無いと思いますけど、
激しく動けば傷口が開いてしまいます。
それに右腕の方は完治できましたけど、左腕は骨や神経が完全に破壊されてしまっていて……
傷は消せましたけどもう……動かないでしょう」
残念そうに俯く少女。
しかしリュカは笑って首を振り、今度こそゆっくりと身を起こした。
「いや、助けてくれてありがとう。命があるだけで充分さ。
こんな痛みはリノアに比べればずっと……ずっとどうってことはない……くっ」
唯一動く右の拳を握り締めて俯く。その拳の上に涙が零れた。
「デール――彼は、彼はね、僕の親友の弟だったんだ。
優しくて、落ち着いていて、とても……とてもいい人だったんだ……
なのになんでこんなことに……リノア……ッ!」
シンシアがそっとリュカを抱きしめる。
「しっかり、してください。あれはあなたの責任じゃありません。
後悔しても何にもなりません。だから、だから今は何も考えないで……」
リュカは動かない。しかし彼の嗚咽はいつしか止まっていた。
その時。
「シンシアの言うとおりだ。零れたミルクはもうコップには戻らない。
なればこそ、我々は二度とそのミルクを零さないように土台をしっかりと作らねばならない。
そして私には一つだけシンシアとは違う考えを持っている。
それは君を休ませる気など私にはないということだ!」
大声を張り上げ、そこに現れたのはエドガーだった。
「エ、エドガーさん! 無事だったんですね!」
喜色満面の笑みを浮かべてシンシアは彼を迎える。
「はっはっは、心配をかけさせてしまったようだねレディ。
無事な上にお客さんを連れてきたよ」
そしてエドガーの後ろから現れたのはアリーナを担いだカインとスミスだった。
「さて、それでは自己紹介と情報交換といきたい所だが……」
エドガーはカインをチラリと見て、それに頷いたカインが背に負っていたアリーナを横たえる。
「彼女の傷が酷い。
若干の治癒魔法と優れた応急処置で今は小康状態だがこのままでは近く死に至る。
そこで……」
リュカの方を見る。
その視線を受けてリュカは涙を拭い、しっかりと頷いた。
「分かりました。僕の名はリュカといいます。
その娘の治療、僕にやらせて下さい」
きっぱりと言い切った。
もう、誰かが目の前で死んでいくのは見たくないと思ったから。
お互いの自己紹介が終わり、沈黙が訪れた。
何かを考え込んでいるエドガー。アリーナの治療に専念しているリュカ。
それを手伝うシンシア。カインとスミスもそれらの様子を窺っていた。
情報交換は既に終えている。
カインの伝えるデールの恐怖にリュカは歯噛みし、カインはリュカがタバサの親だと知って驚いたが
なんとか平静を保ち、タバサのことは伝えなった。
別れ方が自分達が見捨てた形になるので、隠したほうがいいと判断したからだ。
「すみません、私に魔法力が残っていれば……」
「気にしないで、僕が必ず救ってみせる」
リュカとシンシアはお互いに気遣いあう。
一方、エドガーは一心にアリーナの首輪に視線を注いでいた。
『何だろう、この違和感は……彼女の首輪に我々の物とは違う違和感を感じる……
しかしそれが何だか判らん! くぅ〜〜〜〜もどかしいな』
ボリボリと無造作に頭を掻く。考えに没頭して貴族としての振る舞いにも気が回らないようだ。
カインもまた考えていた。
これは一気に数を減らすチャンスだと。
満身創痍の人間が3人。そしてか弱い少女が一人。
不意を討てば容易に全員殺害できる気がする。
しかし……エドガーは考え事をしながらもちらちらとこちらに視線を向けてくる。
やはり完全には信用されていない。
そしてリュカ。
彼がこの娘の治療をやらせろと言ったときの瞳には思わず気圧されるほどの力があった。
近接戦闘で負けるとは思えないが、何か格の違いのような物を感じる。
不意を討つことは難しい。下手に動くことは出来ない。
少なくとも彼が魔力を使い果たすまでは襲撃は待つべきだとカインは結論した。
その意思を伝えようと、スミスのほうを見やる。
するとスミスは身体を震わせ、リュカの方を睨みつけていた。
『どうしたスミス!?』
『カ、カイン! 殺して、殺してよあの男!
タバサと同じ、いや、もっとタチの悪い目をしてるよ!!
君がやらないなら僕が……!』
『おい、落ち着け!』
スミスはリュカの瞳を見たときからまたあの愚か者の意識が浮かび上がりそうになるのを感じていた。
タバサのときはじっと見つめられなければ感じなかったのに、リュカの場合一瞥で心を揺らされた。
『僕を侵そうとする奴は、排除しないと!』
カインは必死に暴発しそうなスミスを制止する。
相棒がこの様子ではどんなイレギュラーが発生するか判らない。
ここは一旦退いて罠を仕掛けるべきだと判断する。
『今はまだ、危険を冒す段階じゃない! ここは退くぞ!』
『ぐ、……わかったよ。だったら急ごう!
もう一秒でもあいつの傍に居たくないよ!!』
カインは頷き、エドガーへと声をかける。
「エドガー、我々は目的があって移動している。
その娘はあなたたちに任せる。
すまないが先に行かせてもらおう」
エドガーはその突然の申し出に驚いたが、冷静に問いただしてくる。
「その目的とは何だ? 我々にも手伝えることがあるかもしれない。
話を聞かせてくれないか?」
しかしむべもなくカインは首を振った。
「いや、話すと長くなってしまう。
正直、ここまで付き合っていたのもかなりの譲歩だったのだ。
だがここであなた達との縁を終わらす気もない。
日没の放送より2・3時間程後ににカズスという村で待っている。そこで改めて落ち合おう。
スミス、行くぞ」
そう一方的にまくし立て、カインとスミスはその場から走り去った。
「あ、待ってくれ!」
エドガーの声ももう届かない。
シンシアが不安そうに呟く。
「あの人たち……怪しくないですか?
もしかしたらこの娘を斬ったのも……」
「いや、それはないと思う。
この娘の傷は斬られてから少し時間が経っているみたいだし、応急処置はきちんとされている。
彼の話に嘘はないだろう。ただ……何かを隠しているようには感じられた」
「それで、カズスへはどうするんですか?」
今度はリュカが尋ねた。
「……行ってみよう。罠は充分に警戒する必要があるけれど、情報が欲しい。
それに日没後ならサスーン城を経由してからでも間に合うだろうしね」
方針が決まり、しばらく三人は少女の治療に専念する。
そして長い時間を掛け、ようやく傷が塞がった頃にはリュカは魔力の殆どを使い尽くしていた。
「フゥ、やっと塞がりましたね……何て深い傷だったのかしら」
「そうだね。でもまだ油断は出来ない。
辛うじて傷を塞いだだけだし、まだ激しく動かせば傷が開くのは僕と同じだ。
しばらくは安静にして、体力を回復させないと」
そう、これでしばらくはこの場所を動くわけにはいかないだろう
「だが、いつまでもここに居るわけにも行かない。
太陽が下り始めたら辛いだろうが城に向かって移動しよう。
動けないようならばこのレディは私が背負っていく」
「そうですね」
リュカは頷いて空を見上げた。
正午を回るまで後1時間くらいだろう。
自分も今の状態なら軽く走ることくらいならできそうだ。
戦闘は……正直わからない。魔力が殆ど尽きた今、自分に戦闘力は殆ど残されていない。
自分には護る力が足りない……。
脳裏に浮かぶリノアの姿。マリアさん、サンチョ、ピピン、はぐりん、ケット・シー
そして―――――――レックス。
『駄目だ! 弱気になるな!』
生きるんだ。護るんだ。自分にはまだ妻と娘がいる。
共に生きた仲間が友がいる。ここで弱気になるわけにはいかない……!
「う……ん、あ」
悩ましげな声でリュカは正気に戻る。
見ると少女が目を覚ましていた。
アリーナは目覚めるとまず現状を理解しようと周りを見た。
三人の男女が自分を取り囲んでいる。
どうやらあれから自分はこいつらに救われたらしい。
「気が付いたかい? 名前は言える?」
「……アリーナ」
「そうか、僕はリュカ。助かって……良かった……」
『何なのこの馬鹿。始末しちゃおうかしら』
目を潤ませて手を握ってくるリュカに一瞬殺意が湧く。
しかし、その殺意を感じ取ったのかリュカは顔を上げ、アリーナの瞳を見つめてきた。
その瞳は深く、雄大な海のように底が見えない。
そして自分の全てを見透かそうとしてくるかのように迫ってくる。
「ひっ」
全てを曝け出されるかのような恐怖に思わずアリーナは顔を伏せる。
「おやおや、リュカ、レディを怖がらせちゃあいけないなぁ」
「い、いえ、そんなつもりは……」
アリーナは脂汗をかいて、必死にリュカと目を合わせないように俯き続ける。
『な、何だってのよコイツの瞳は! マズイ……私がゲームに乗ってるってことがバレる。
あの瞳に見つめられたら絶対に見透かされてしまう。目を合わせちゃダメ。
何とかごまかさないと……』
今の自分では彼らを全て殺したり、ここから離脱することは不可能だ。
何としてもしらばっくれて、ここから抜け出す隙を窺わねばならない。
『しかもリュカですって? 城で殺したあのおばさんの夫の名前じゃない!
バレたら確実に死ぬわね……フフフ』
目を合わせたらほぼ確実に気取られることを確信している。
そんな絶体絶命の状況でもアリーナは笑みが零れてきた。
これだ。あたしは今生きている。
その恐怖が、危険が私に迫れば迫るほど私は生を実感できる。
やってやる。絶対に欺ききって逃げ出してやる。
そう、決意する。
「アリーナ、大丈夫かい? 怖がらせてゴメンよ。
さぁ顔を上げてくれ」
そしてリュカがポンと軽くアリーナの肩を叩く。
『駄目! これ以上俯いていられない!
どうしよう、どうしたらいい!?』
このまま俯き続けるのは不自然極まりない。
しかし顔を上げれば確実に瞳を覗かれる。
確信がある。目の前のコイツは私の瞳を見て私を見透かそうとしているのだ。
肩に置かれたリュカの手が強くなる。
これ以上は――もう駄目だ。
アリーナは顔を上げ―――目を潤ませたと思えばすぐに目を閉じ
リュカに抱きついてその唇を奪った。
傍で見ていたシンシアが固まる。
エドガーはそれを見てピュウ、と口笛を吹いた。
当のリュカも硬直して動けないでいた。
ピチュ
アリーナの舌がリュカの口腔に入ってきたところで正気を取り戻し、
慌ててリュカはアリーナを振り解く。
「う、うわぁっ! な、何するんだ突然!」
アリーナは尻餅をつくと、胸を押さえてうずくまった。
「……つっ」
「あ、ゴ、ゴメン。大丈夫か?」
咄嗟に駆け寄り、アリーナを抱き起こす。
アリーナは顔を赤らめ目を逸らす。
「ううん、こっちこそあんなはしたない真似を突然しちゃってゴメンね。
私、このゲームが始まってからあんなに優しくされたことなかったから。
それにあなたを見たとき電流が走るみたいになったの」
アリーナは早口にそうまくしたてる。
「一目惚れ、という奴か…… 一度経験してみたいものだね」
軽口を叩くエドガーをキッと見つめるシンシア。
エドガーは肩を竦めた。
「私、私出会ったばかりですけど判るんです。あなたこそが運命の人だって、
私は……私はあなたを……」
そしてアリーナは静かにその言葉を口にした。
「私はあなたを愛しています」
それは偽りの誓い。
しかしその場に居たもの全てを絶句させるほどの力を持った呪いの言葉。
『これでいい、咄嗟にしては上出来だわ。
これでしばらくは見つめられても頬を染めて俯けば自然に瞳を見られなくすることが出来る。
そう長く凌げるとは思わないけど、隙は必ず出来る。機会を待つんだ――』
今のアリーナは恋する乙女。
そう、相手に妻がいようと娘がいようと関係のない恋する乙女。
一途にリュカを思う―――恋する乙女。
【カイン(HP 5/6程度) 所持品:ランスオブカイン ミスリルの小手 えふえふ(FF5)
この世界(FF3)の歴史書数冊
第一行動方針:カズスの村でフリオニールと合流し、罠を張る
最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【スミス(変身解除、洗脳状態、ドラゴンライダー) 所持品:無し
行動方針:カインと組み、ゲームを成功させる】
【現在地:カズス北西の森の巨木の根元→カズス方面】
【フリオニール 所持品:ラグナロク
第一行動方針:移動
第二行動方針:日没時にカズスの村でカインと合流する
最終行動方針:ゲームに勝ち、仲間を取り戻す】
【現在地:サスーン城東の森→どこに向かったかは後の書き手さんに任せます】
【アリーナ2(分身) (HP1/5程度)
所持品:E:悪魔の尻尾 マティウスの支給品袋
第一行動方針:演技をしながら脱出の隙を窺う(殺人より離脱優先)
第二行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない
最終行動方針:勝利する 】
【リュカ(HP2/5程度 左腕不随) 所持品:お鍋の蓋 ポケットティッシュ×4 アポカリプス
第一行動方針:正午過ぎまで待機、その後サスーン城へ
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【エドガー(右手喪失) 所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン 血のついたお鍋
第一行動方針:正午過ぎまで待機、その後サスーン城へ
第二行動方針:仲間を探す 第三行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【シンシア 所持品:万能薬(ザックその他基本アイテムなし)
第一行動方針:正午過ぎまで待機、その後サスーン城へ
第二行動方針:仲間を探す 最終行動方針:ゲームの脱出】
村には誰も居なかった。
道具屋や武器にも大したアイテムは置いておらず、民家にも使えそうな道具は無い。
何の収穫も無いまま探索を終えた六人は、武器の分配や今までの情報交換も兼ねて、宿屋で早めの昼食を取ることにした。
ソロとヘンリーが知ったのは、フリオニールがかつての親友と再会したということ。
ターニアが知ったのは、ティーダがロックと一緒にいたということ。
ロックが知ったのは、アーヴァインがティナを殺した張本人だったということ。
「あいつのこと……恨むか?」
ヘンリーの言葉に、ロックは少しだけ顔を伏せた。
「わからないな。言われても実感が湧かないんだ」
器代わりのコップに入ったスープが、彼の手の動きに合わせてさざなみを立てる。
「あんな気弱そうな奴にティナが殺せるだなんて思えない。
あのガキが言ってた、ティナが人殺しだって話も、信じられない」
――ティナが死んだこと自体、まだ受け入れられてないしな。
そう言ってロックは一旦言葉を切り、コップを直接口に運ぶ。
冷めてもいないそれを一気に飲み干して、ふっと息を吐いた。
「多分、まだ、俺の中で整理がついてないんだ。
誰が誰を殺したとか言われても、遠い世界の話みたいにしか感じられない。
恨むとか憎むとか……そういうことが出来るほど、落ち着けてない」
「そうか」
呟いて、ヘンリーはパンを齧る。
「……俺も、単に落ち着いてねーだけなのかもな」
その意味を理解できたのは、ソロとビビだけだった。
レーベの村にいた、第三の殺人者。
その存在はロック以外の全員が知っていたが、それがヘンリーの弟で、彼の妻を殺した人物だと知るのはソロ達三人しかいない。
黙っていることがメリットになるとは誰も思っていないが、事情が事情だ。
アーヴァインと違っておいそれと話せる話題ではないし、ヘンリー自身、デールが弟だということを口外する気にはなれなかった。
だから、ピサロとターニアが知っているのは『貴族風の格好をした緑髪の殺人者がいる』ということだけだ。
ヘンリーが起きる前に出立してしまったレナとエリアに至っては、容姿すらロクに知らないだろう。
「あーあ。それにしても、みんなは何処に行っちゃったんでしょうかねー」
陰鬱な空気を少しでも吹き飛ばそうと、ソロがわざと明るい声で言う。
「シンシアにアリーナにライアン、ロザリーさんでしょ。
リュカさんにビアンカさん、タバサちゃん、パパスさん、ピエールさんでしょ。
イザさんにランド君にバーバラさん、ハッサンさんでしょ。
エドガーさんにマッシュさん、リルムちゃん、ゴゴさん、レオさんでしょ。
ジタンさんにフライヤさん、サラマンダーさん、ベアトリクスさんでしょ。
アーヴァインにティーダ君にフリオニール、レオンハルトさんにギルガメッシュさんでしょ。
これで20人以上ですよ?
こんだけいるんだから、一人ぐらいこの村に居たっていいじゃないですか」
「あの魔女のことだから、知り合い同士はわざと遠くにすっ飛ばしたんじゃないか?」
「やっぱそうなんでしょうか……」
ロックの言葉に、ソロは折り曲げた三本の指を伸ばしてからため息をつく。
実のところ、ソロが名前を挙げたメンバーのうち六人は既に命を落とし、三人はゲームに乗る決意を抱いてしまっている。
そしてもう一人、いや『二人』は大変な事になっているのだが――
今の時点では、彼らがそのことを知る由も、術も無かった。
「そういえば」
黙って話を聞いていたピサロが、ヘンリーに視線を向ける。
「貴様、ヤツと何か話していただろう。ガーディアン・フォースなるモノがどうとか」
ヘンリーはしばらくきょとんとしていたが、唐突に、ポンと手を叩いた。
「やべーやべー、すっかり忘れてたぜ。そういや一回試してみようと思ってたんだよな」
「試すって……?」
首を傾げるビビとソロとターニア、ロック。
そんな四人に、ヘンリーは自分の頭を人差し指で突付いてみせた。
「アーヴァインの野郎が教えてくれたんだよ。ガーディアンナントカってヤツの使い方を」
「ガーディアン・フォースだ」
あまりのうろ覚え具合に、ピサロが呆れとも嘲笑ともつかない表情で訂正を入れる。
ヘンリーは苦笑いして誤魔化した後、「外でやった方がいいよな」と扉を開けて出て行った。
一人にさせるのが心配なのか、未知の力に興味があるのか、ソロとロック、ビビが彼の後を追っていく。
そして――ターニアとピサロだけが、宿屋の中に残された。
「小娘。貴様はどう思った? あの茶髪の男のことを」
急に話題を振られ、ターニアはきょとんとする。
「茶髪って、アーヴァインさんのことですか?」
ピサロはうなずく。ターニアはしばし考えを巡らせる素振りを見せ、ややあって口を開いた。
「悪い人じゃないと思いますけど……」
「我々や貴様を殺そうとした張本人であっても、か?」
ターニアはピサロから視線を逸らし、俯いた。
どれだけの沈黙が流れただろう。ピサロは目を細め、小さく息を吐く。
「……質問を変えよう。
ヤツの記憶喪失は演技だと思うか?」
彼女は即座に首を振った。――はっきりと、横に。
「そうか」
ピサロは面白く無さそうに呟き、石造りの天井に目を向ける。
「貴様は魔女の名前を覚えているか?」
「え?」
「主催者の魔女の名だ」
「はっきりとは覚えてませんけど、アルテ……ミシア、でしたっけ」
「そんなものだろうな」
ピサロはコツコツと机を叩く。
「ヘンリーも正確に魔女の名を言ってはいなかった。
ソロやビビやロックに聞いても、一回で正しい名を言えるとは思わん」
何を言いたいのかわからず、ターニアは首を傾げる。
ピサロは何も言わなかった。聞きたいことを聞き終えて、もはや興味を無くしたようだ。
一人でじっと腕を組み、ひたすら思案を巡らせる。
アーヴァインが記憶喪失になっている。
この前提は、もはや揺るぎようのない事実と考えていいだろう。
策略家の演技にしては態度が不安定過ぎるし、自分の身を省みない行動が目立ち過ぎている。
だが……本当に忘れているとすると、何故あの青年は『主催者の名前を正確に』言えたのだ?
『僕は人殺しだ! アルティミシアの脅しに屈した人殺しなんだ!』――と。
最初に思い浮かんだのは、アーヴァインが魔女の部下であり、主催者の差し金ということだった。
一日経たないうちに5人を葬る行動力。緻密にして大胆不敵な戦術、非凡な射撃の腕。
この大地に最初に降り立った男だという事実。
何より、あまりにもタイミングが良すぎる記憶喪失。
どの要素をとっても、遊戯を引っ掻き回すために用意された主催者側の道化――ジョーカーであることを裏付けているようだ。
しかし、それにしては言い方や態度がおかしい。
『脅しに屈する』とか、『尻尾を振った』というフレーズからは、忠誠を誓うどころか敵対していた印象を受ける。
それとは別に、広間で最初にアルティミシアの名を呼んだものの存在も気に掛かる。
(このゲームには魔女の部下、あるいは敵対者が参加している……
アーヴァインはその一人だったということか……?)
信じ難い部分もあるが、可能性は否定できない。
『魔女を倒すという目的のために、あえてゲームに乗ることを選んだ』。
あるいは『敵対者であるからこそ、その力量に目をつけられ、魔女に操られて利用された』。
仮定に仮定を重ねた仮定だが、どちらも有り得る範囲に入るだろう。
精神面がいくら脆かろうと、実力的には十分なものを備えていることも確かだ。
(……どちらにしても、早めにあの男の身柄を回収する必要がありそうだな)
アーヴァインが本当に魔女について知悉しているのならば、その情報は有用な武器に成り得る。
ただの傀儡であっても、もしかしたら主催者側とのコンタクト手段やそれに次ぐ何かを持っているかもしれない。
ピサロはそう結論付け、そして、思案を打ち切った。
彼は知らない。
この殺し合いの中で誕生した、真のジョーカーの存在を。
それが仕組んだ邪悪な罠を。
その罠にかかったのが誰なのかも――
「あーあ、やってらんないねー」
「そうだねー……」
リュックが呟き、わたぼうがうなずく。
エリアがため息をつき、レナは――相変わらず、心ここにあらずといった風情で膝を抱えている。
ここはウルの村。
森の奥に隠された倉庫の二階。
「まさか閉じ込められちゃうなんて思わなかったね」
リュックが言う通り、彼女達はここから出られずにいた。
階段はあるが、出口がどこにもないのだ。
本当は、隠しスイッチを入れると開く壁の向こうに出口があるのだが――残念なことに、誰もスイッチのことに気付いていない。
村を探索していたソロ達も、倉庫の存在そのものには気付いていたが、ロウソクに仕込まれたスイッチには気付かなかった。
「私、もう一度調べてきます。
何か見落としているだけかもしれませんから」
そう言ってエリアが立ち上がり、階段を下りていく。
「あ、じゃああたしもー」
リュックが後を追い、わたぼうもおたおたと歩き出した。
「レナはここで待つ?」
わたぼうに声を掛けられ、そこで初めて皆の動きに気づいたらしく、レナは慌てて立ち上がる。
「……う、ううん。私も行くわ」
そうして、訝しい表情を浮かべるリュックとわたぼうを余所に、さっさと階段を下りていってしまった。
レナは知らない。
別れたはずの彼らが、すぐそこにいることを。
リュック達は知らない。
レナの心を苛み、蝕んでいるのが何なのかを――
【ソロ 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング
第一行動方針:ヘンリーに付き合う
第二行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】
【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード
行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ヘンリー(6割方回復) 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可) キラーボウ グレートソード
第一行動方針:GFを試してみる 第二行動方針:デールを止める(話が通じなければ殺す)】
【ビビ 所持品:スパス 毒蛾のナイフ
第一行動方針:ピサロ達についていく 基本行動方針:仲間を探す】
【現在地:ウルの村・外】
【ピサロ(HP3/4程度、MP3/4程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 魔石バハムート 黒のローブ
第一行動方針:しばらく休憩 基本行動方針:ロザリーを捜す】
【ターニア 所持品:微笑みの杖
第一行動方針:ピサロ達についていく 基本行動方針:イザを探す】
【現在地:ウルの村・宿屋】
【リュック(パラディン)
所持品:バリアントナイフ マジカルスカート クリスタルの小手 刃の鎧 メタルキングの剣 ドレスフィア(パラディン)
【わたぼう 所持品:星降る腕輪 アンブレラ
第一行動方針:出口を探す
第二行動方針:アリーナの仲間を探し、アリーナ2のことを伝える
基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【レナ 所持品:エクスカリバー
第一行動方針:? 基本行動方針:エリアを守る】
【エリア 所持品:妖精の笛、占い後の花
第一行動方針:サックスとギルダーを探す】
【現在地:ウルの村・森の奥にある倉庫の二階】
98 :
訂正:2005/06/29(水) 22:43:34 ID:sU1NwwGX
文章訂正
偽りの誓い 4/10
> なんとか平静を保ち、タバサのことは伝えなった。
→ なんとか平静を保ち、タバサのことは伝えなかった。
状態表訂正
【アリーナ2(分身) (HP1/5程度)
所持品:E:悪魔の尻尾 マティウスの支給品袋
第一行動方針:リュカと目を合わさない
第二行動方針:演技をしながら脱出の隙を窺う(殺人より離脱優先)
第三行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない
最終行動方針:勝利する 】
【リュカ(HP2/5程度 MP残量微小 左腕不随)
所持品:お鍋の蓋 ポケットティッシュ×4 アポカリプス+マテリア(かいふく)
第一行動方針:正午過ぎまで待機、その後サスーン城へ
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【エドガー(右手喪失) 所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン 血のついたお鍋
第一行動方針:正午過ぎまで待機、その後サスーン城へ
第二行動方針:仲間を探す 第三行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【シンシア(MP残量0) 所持品:万能薬(ザックその他基本アイテムなし)
第一行動方針:正午過ぎまで待機、その後サスーン城へ
第二行動方針:仲間を探す 最終行動方針:ゲームの脱出】
【現在地:カズス北西の森の巨木の根元】
【ソロ 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング
第一行動方針:ヘンリーに付き合う
第二行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】
【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード
行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ヘンリー(6割方回復) 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可) キラーボウ グレートソード
第一行動方針:GFを試してみる 第二行動方針:デールを止める(話が通じなければ殺す)】
【ビビ 所持品:スパス 毒蛾のナイフ
第一行動方針:ピサロ達についていく 基本行動方針:仲間を探す】
【現在地:ウルの村・外】
【ピサロ(HP3/4程度、MP3/4程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 魔石バハムート 黒のローブ
第一行動方針:しばらく休憩 基本行動方針:ロザリーを捜す】
【ターニア 所持品:微笑みの杖
第一行動方針:ピサロ達についていく 基本行動方針:イザを探す】
【現在地:ウルの村・宿屋】
【リュック(パラディン)
所持品:バリアントナイフ マジカルスカート クリスタルの小手 刃の鎧 メタルキングの剣 ドレスフィア(パラディン)
【わたぼう 所持品:星降る腕輪 アンブレラ
第一行動方針:出口を探す
第二行動方針:アリーナの仲間を探し、アリーナ2のことを伝える
基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【レナ 所持品:エクスカリバー
第一行動方針:? 基本行動方針:エリアを守る】
【エリア 所持品:妖精の笛、占い後の花
第一行動方針:サックスとギルダーを探す】
【現在地:ウルの村・森の奥にある倉庫の二階】
「ある程度なら使えるが…まさかその娘を治療しろだなんて言わないよな?」
「そのまさかだ。頼めるか?」
冗談じゃないとばかり腕を広げるフリオニールに、カインが落ち着き払った口調で言う。
「僕もあんまり気乗りしないんだけどさあ…」
少々顔をしかめながら、スミス。
少女の体は自らの血に紅く塗りつぶされているが、その半分は他人からの返り血である事がわかる。
その返り血にまみれた姿が意味する事は一つ。
彼女もまたゲームに乗ったマーダーだということだ。
それをわざわざ治療して助ける気には、スミスもフリオニールも少々気が進まない。
マーダー同士が徒党を組む事は確かに重要だが、ゲームに乗ったもの全てが勝利を目的としているとは限らないからだ。
蔓延する狂気に影響されて殺人に走っただけかもしれないし、
ただ他人の死そのものを目的としている殺人鬼かもわからない。
もしそうだったなら、傷が癒えて意識を取り戻した瞬間襲われてもおかしくはない。
故に、いくら同類だとしてもおいそれと助けるわけにはいかないのだ。
「なに、こいつはきっと良い駒になるさ」
妙に自身ありげに、カインは言う。
「本当なら生きてるほうが不思議を通り越して不気味なぐらいだ。
こんな傷負ってもまだ生きてるようなのをここで野垂れ死にさせるには惜しい」
カインはそこで一旦区切り、「それに」と続ける。
「例え襲ってきてもスミス、こっちにはお前がいるじゃないか」
「ええ?なんだよそれ」
飛竜が迷惑そうな顔で漏らすのに対し、剣士の方は不意に破顔して大笑いした。
スミスの読心能力と干渉能力の威力がどれほどのものかを、彼は身をもって知っている。
「まあ、あんたらには恩みたいなのもあるし、一肌脱いでやるかな」
しばらくの後、ようやく笑いが収まったフリオニールは言うと、左手に淡い青色の光を宿らせる。
ほす
いつもと変わらない風が吹いている。
いつもとは違う風景に立っている自分がいる。
『物事には必ず意味がある』と考えることがトレジャーハンターの自分の並外れた洞察力を支えてきたのであろう。
それゆえに、ある仮定を思いつくとそれを確かめたくなるのだ。
「ヘンリー。悪いんだが、宿に戻らしてもらっていいか?」
ソロとヘンリーは不思議そうにロックの顔を見て
「別にいいぞ。」
ヘンリーは何も気にせず言った。恐らく目の前の物に対する好奇心で一杯なのだろう。
ソロとビビはロックの後ろ姿を横目で見送るだけであった。
「それではがーだんふぉーす力を試すぞ!!!!!」
意気揚々と声を発するが、すぐにソロが訂正する。
「ヘンリーさん。ガーディアン・フォースです。」
多少呆れ顔なソロに指摘されて照れ笑いするヘンリー。
ガーディアン・フォース?果たしてそんな生ぬるいものなのだろうか?
〜宿屋〜
ピサロの思案を打ち切った瞬間、再起動させるべくノックが鳴る。
ピサロは瞬時に手に力が入り、目が血走る。
「すいません。ロックです。」
その声を聞いて空気が急速に緩む。
シンシアが嬉しそうにドアを開ける。
「あれ?一人ですか?」
多少ガッカリ感は否めない感じだ。
「ああ。実は確かめたい事があってね。」
ロックはシンシアを見ずにピサロの方を見ながら言った。
ピサロは軽く顎で「座れ」と合図した。
ロックはシンシアと一緒に軽く会釈して座った。
「あんたは魔王なんだろう?」
「ああ」
ピサロは何をいまさらという顔で答えた。
「だったら可能なのか?人を生き返らしたりワープや首輪による人の管理など・・・・」
「可能だ。ただ容易い事では無い。」
ロックは確信を得たかのような笑みを浮かべて、さらに言葉を続ける。
「なら、俺の推測を聞いてくれ。物事には必ず意味があるんだ。
アルテ・・・・あの魔女は元々一人に絞る気はないんじゃないのか?」
「え?それってどうゆうこと?」
シンシアは話が長くなりそうと踏んでコーヒーを持ってきた所であった。
「砂糖は2つで頼む。で、どうゆうことだ?」
ピサロはコーヒーをすすぎながらロックを見る。
「砂糖はなしでミルクを少々。話に戻るが考えてみてくれ。このバトルロワイアル方式のゲームってのは
意図的に極限状態を作り出すのには適している。というより最高の形だ。
だけど、例外がある。参加者全員が精神的につわものの場合、この方式は役にたたない。」
「確かに、ソロみたいなお人よしばかりいるなら困るな。だがみんな生きたいはずだ?」
「それはわかっている。ならアーヴァインやその仲間たちはどうだ?必ず魔女を倒しに来るはずだ。
それに皆がゲームに乗ったら前の大陸で終わっていたはず。思ったよりゲームに乗らない馬鹿が多いらしい。」
ピサロは窓のほうを見ながらコーヒーを啜る。
「だからどうした?」
待ってましたと言わんばかりにロックは立ち上がり力説する。
「だ・か・ら!魔力の無駄遣いを避けたいんだ!!!!最初に集められたあの城から魔法を使っていたら
無駄な浪費を食っちまう。だから中継地点が必要だ!!」
ピサロは雷光に打たれたかのように話に食い入る。
「人間無勢にしてはさえてるな。お前の言う通りだ。魔女は合理的に動く。それは人間の形をしている以上仕方ないこと」
「考えたんだが、前の大陸にでかい塔が存在したのは覚えているか?
あれなら完璧に電波塔の役割を果たせる。それに魔力の電波塔は送信以外にも受信もしている。」
「マホトラか?」
「そんな感じだ。回復魔法の力が弱っているのも説明がつく。そこを叩けば・・・・・・」
ロックの最後の言葉とともに一瞬の静寂が訪れる。
そして3人一斉に言葉を発する。
「
首輪ははずせる(ます)
」
三人の意見は一致した。
その時、ウルの村の南の南の高き山。
古き名にバハムートと名を持つティアマトが頂上に黒き影を落としているのは誰も知らない。
【ソロ 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング
第一行動方針:ヘンリーに付き合う
第二行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】
【ヘンリー(6割方回復) 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可) キラーボウ グレートソード
第一行動方針:GFを試してみる 第二行動方針:デールを止める(話が通じなければ殺す)】
【ビビ 所持品:スパス 毒蛾のナイフ
第一行動方針:ピサロ達についていく 基本行動方針:仲間を探す】
【現在地:ウルの村・外】
【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード
行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ピサロ(HP3/4程度、MP3/4程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 魔石バハムート 黒のローブ
第一行動方針:しばらく休憩 基本行動方針:ロザリーを捜す】
【ターニア 所持品:微笑みの杖
第一行動方針:ピサロ達についていく 基本行動方針:イザを探す】
【現在地:ウルの村・宿屋】
ジェノラ山。
少女と、中年の戦士を背負った老婆――言葉にすれば一見不可解な集団が、山頂目指して歩き続けていた。
「ソロ…殿…」
ウネの背中でライアンが呻く。
「ライアン?大丈夫?」
アリーナが歩きながら心配そうに見つめる。
まだ意識を回復していないライアンだが、先程からしきりにソロの名を呼んでいる。
「まったく…気を失っている時くらい妻とか恋人とかの名を呼ぶものじゃないのかい。
ソロってのは…そんなに大切な仲間かい?」
ウネがやれやれと言った表情でアリーナを見る。
「うん、まぁ、確かにそうだけど…ライアンに恋人がいるなんて聞いた事もないしね」
アリーナは、ライアンの顔を見ながら少し笑顔を見せる。
「…確かに、いる風には見えないけどねぇ」
ウネもそれに合わせて笑う。
「それはそうと、ソロってのはどんな人なんだい?」
何か感じるところがあるのだろう、ウネは真剣な表情に戻りアリーナを見つめる。
「えっ…ソロ?ソロは…あたしたちの仲間で…勇者として、生まれたの」
――そう、勇者として。
「ソロは、故郷を滅ぼされて、大切な人を失った。
でも、最後には、故郷を滅ぼした張本人とも手を組んで、本当の悪を倒すために、戦い続けるの。
それが、勇者であることの意味だからって…」
――小さな村で、一人の青年として静かに暮らす事を、彼は望んでいたのかもしれない。
――でも運命は、彼が勇者としての道を歩くことを望んだから。
――彼に悲しい宿命を背負わせることを、望んだから。
「ソロは…自分のためには何一つとして望んだことがないの。
勇者として生まれたから、これが宿命なんだって言っていつも笑っているけれど、
その宿命のために大切なものを失って、それでも彼は戦い続けなきゃならなかった」
――皆の前での笑顔も、独りになった時の寂しそうな表情も、あたしは、知ってる。
――ずっと、ずっと、背負い続けてきた物も。勇者であり続けることの重荷も。
「みんな彼をお人よしだって笑うけど、あたしは…悲しくなるの。
自分のために何かを望むことが出来ないんじゃないかって。人のためでないと、何も出来ないんじゃないかって…」
――彼が故郷で見た幻。廃墟となった故郷での、大切な人との再会。
――彼が本当に自分で望んだことは、大切な人と静かに過す事…ただそれだけ…
「アリーナ、どこへ行く気だい?」
ウネの声にハッと気付けば、一人山頂とは別の方向に向かっていた。
「あっ…」
照れ笑いをし、アリーナは走って本来の道に戻る。
「ごめんなさい、つい話すのに夢中になっちゃって」
そんなアリーナを見て、ウネは皺の刻まれた顔を綻ばせる。
…ソロという青年、一度会ってみたいものだねぇ。
ふと、アリーナ、次いでウネが足を止める。
「…誰かいるようだね?」
二人の視界に、山頂に佇む男の影が映り込んでいた。
次の瞬間には、先程までとはうって変わった緊張感が、その場を支配していた。
【ウネ(HP 1/2程度、MP大幅消費) 所持品:癒しの杖(破損)
第一行動方針:山頂へ向かい、眠る
基本行動方針:ドーガとザンデを探し、ゲームを脱出する
【ライアン(外傷は回復、気絶)所持品:レイピア 命のリング】
行動方針:不明】
【アリーナ 所持品:プロテクトリング
第一行動方針:山頂へ向かい、ウネとライアンを守る
第二行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】
【現在位置:ジェノラ山 山頂近く】
【アルガス(視覚聴覚は通常状態へ)
所持品:カヌー(縮小中)、兵士の剣、皆殺しの剣、光の剣、ミスリルシールド、パオームのインク
妖精の羽ペン、ももんじゃのしっぽ、聖者の灰、高級腕時計(FF7)、インパスの指輪、他2人分の支給品、武器ではない。
第一行動方針:これからどうするか考える
最終行動方針:脱出に便乗してもいいから、とにかく生き残る
【現在位置:ジェノラ山 山頂】
おともだちができました。
ぼくはそれまで宝箱の中の三匹のお友達しかいませんでした。
だから、新しいお友達ができて、本当にうれしかったです。
でも、れくすはわるい人をやっつけようとして、遠くに、遠くに行って、
ついにもどって来ませんでした。
次に会ったとき、れくすはもう動くことはありませんでした。
みんなから、そしてぼくの中からも、かなしい感じがいっぱい出てくるのが分かりました。
ぼくはそのとき決めました。わるいやつは許さないって。
わるいことができないようにやっつけてやるって。みんなのうらみ、ゼッタイ晴らしてやるって。
れくすは死んでしまったけれど、ぎどさんは、
ぼくが覚えているかぎり、れくすはぼくの中で生き続けるんだって言ってくれました。
「トンヌラ」の名前を付けてくれたのはれくすだから、
ここにれくすが生きているですか?きっとそうなんだと思いました。
おともだちができました。
「るか」っていうてりみたいな人と、「どるば」っていう強そうな「どらごん」さんでした。
どるばさんもるかさんも優しいです。
お肉を分けてくれました。とってもおいしかったです。
そのあと、いっしょにけしきを見ました。とってもきれいなけしきでした。
旅のナントカもみんなでいっしょに入ったからこわくありませんでした。
ふわーっとして、もやーっとして、みんなの顔がのびたりちぢんだりして面白かったです。
なんでれくすの体があるのでしょう?
なんでれくすに剣がささっているのでしょう?
れくすは何か悪いことをしましたか?
れくすは天国に行けなかったですか?
ぼくは泣きました。今までよりも、もっと、もっと泣きました。
そのとき、とつぜん、ぱんって音がしました。
てりがとつぜん、吹き飛ばされました。
ぷよぷよしたものに乗った、変なのが出てきました。
まだかわいていない、赤い血が付いていました。
れくすとてりにひどいことをした、わるいやつだと分かりました。
どるばが、こいつをやっつけてくれるって言いました。
なんだかとってもいやな感じがしましたが、どるばは強いから、大丈夫だと思って
先にてりを助けるために町に行くことにしました。
でも、それでもいやな感じがして、こっそり後ろの方を見てみると、
どるばが剣できられて……
それを見たとき、ぼくの体が勝手に動き始めました。
頭の中が、ぐるぐるまわって、止められない感じでした。
先ほどピエールが殺したドラゴンの支給品の杖。
とびつきの杖、ひきよせの杖、ようじゅつしの杖。
仲間がいる場合、そして逃げる場合、これら杖の効果は不利にはたらく。
とびつきの杖で自分一人逃げるわけにもいかないし、ひきよせの杖を使えば敵に追いつかれてしまう。
また、効果がランダムな杖は何が起こるか予測できないため、非常に使いにくい。
だが、狩る者が使えば、これらは非常に有用なものとなる。
とびつきの杖。奇襲ができるというメリットはあれど、敵陣のど真ん中に飛び込むのは、危険行為である。
ひきよせの杖。これを遠くから使えば、強制的に一対一に持ち込むことができる。
当たればいいので、銃のように細かく狙う必要もない。
相手との距離は30メートル程度。これなら、向こうが追いつく前に一匹始末する時間は十分にある。
ピエールは剣を構え、ギード達に向かってひきよせの杖を振った。
「トンヌラ!どこへ行くんだ!」
先ほどまでテリーに寄り添っていたトンヌラが、突然飛び出していったのだ。
その原因は分かっている。
ドルバは自分たちを逃がすための捨て駒となったのだ。
トンヌラはとても純粋だ。おそらく、感情的な行動だろう。
確かにあのスライムナイトは許せない。
だが、ここで殺されてしまうと、ドルバの行動、ドルバの思いは無駄になる。
逃げ切れるかどうかの微妙な距離だが…
それとも、確実に自分たちが逃げられるようにトンヌラ自身も捨て駒になる気なのだろうか。
させない。そんなことは絶対にさせない。まださほど離れていない、連れ戻すことができる距離だ。
「ギード!中のもの貸して!」
ギードの支給品袋に手を入れ、取りだした風のローブをさっとまとう。
少しでも身が軽くなるよう、自分の支給品袋は置いていく。
「トンヌラ、待て!戻ってこい!」
そういってトンヌラを連れ戻そうと飛び出た瞬間。
何故か自分の体はスライムナイトの真ん前にあった。
そして、まさに剣が振り下ろされようとしていた。
「トンヌラ!待て!戻ってこい!」
こんな声が聞こえました。
ぼくは反省しました。カッとなって、自分だけ勝手に行動するのはいけないことです。
急いでもどろうとしました。何で、るかはぼくを追いぬいているですか?
剣がふりおろされているのが分かりました。
るかも……?れくすも、どるばも、るかも、あいつにきられて……?
…だれかがぼくに話しかけてきました。そうじゃないかもしれないけど、そんな感じがしました。
自分の思う通りにやれって。自分のキモチを相手にぶつけろって。
もうぼくはがまんができませんでした。
ぼくは、もやもやしたキモチをみんなぷよぷよにぶつけることにしました。
剣が振り下ろされたとき、もうダメかと思った。
でも、俺だって冒険者だ、反射的に体は反応してしまう。
確かに一介の冒険者に比べたらまだまだの反応だろうけれど、
山から吹く風、このローブ自体の滑りやすさとつむじ風、ローブによって高まった自分の素早さ。
色々な要素が合わさって、大したダメージは無かった。
自分は生きてる。相手は戸惑っていた。
当然だろう、確実に殺せるはずの行動が、何故か失敗したのだから。
その隙をついて、わるぼうにもらったチカラ。命の無いものを破壊する、破壊の鏡のチカラで、青龍偃月刀を壊してやった。
それで、相手がさらに驚いているうちに、急いで逃げようとしたとき、何か赤黒いものが自分たちの周りを漂っているのに気が付いた。
何かと思って、ふとトンヌラの方を見ると、トンヌラの方にもその赤黒いものが漂っていた。
それで分かった。トンヌラの特技なんだろうと。
でも嫌な感じがした。そう、ちょうど、魔王に操られたモンスター、どうしても仲間にできないモンスターの発する感じに似ていた。
私は確かに青龍偃月刀を振り下ろしたはずだった。
それは確かに相手の脳天を捉えたはずだった。
だが、斬撃が滑って、ほとんどダメージを与えられなかった。
風の抵抗があった。おそらくあのローブのせいだろう。
この程度のタイムロスなど問題ない。もう一度一閃するだけの余裕はある。
相手は何を考えたのか、逃げずに刀の鎬地の部分を手で挟んでいる。冷静な判断を失ったか。
子供の腕力だ、たかが知れている、相手は丸腰、この状態でもはや反撃は不可能。
剣を持つ手に力を込め、下から斬り上げた。
刃の部分が無かった。剣が砕けていた。
どういうことだ?この剣に使用制限などは無かったし、そんな脆い武器でもなかったはずだが…?
考えても仕方がない、ウィンチェスターを取り出そうとして、周りの状況に初めて気付いた。
何だ、私を囲んでいるこの赤黒いものは?直後、映像が映し出された。
これは…?
確か、ゲームが始まって間もなく私が殺した少女だ。
こっちには、昼に焼き殺した黒装束の男。放送直後に殺した男。向こうは金髪の女性。
旅の扉の前で殺した、五人組のうちの二人。今さっき殺したドラゴン。
そして、今し方、剣を突き刺したレックス様。
何だ?一体なんなんだ?
こんなものを見せて何をしようというのだ?
『ネェ、ドウシテ ワタシヲ コロシタノ?オニイチャンモ コロスノ?』
『キサマハ ワタシノムスメモ コロスノダロウ?』
『セッカク、テリーニ デアエタノニ、アナタノセイデ…。イマモコロソウトシテイル』
そうだ、子供でも容赦はしない。
全員殺して、リュカ様を生き残らせる。
貴様らは過去の亡霊だ、あの世で成り行きを見守っているがいい。
謝罪ならあとでいくらでもしよう。
『キサマノセイデ、シシテナオ、ワタシノ プライドハ フミニジラレタ』
『オレサ、カノジョガマッテタンダゼ?ドウシテクレルンダ?』
『イキノビタカッタ、ナニガナンデモイキノビタカッタ。ソレヲ…』
死んだのは貴様らの生への執念が弱いせいだ。
強い意志を持っていれば、必ず目的は達成できる。
私は達成する。リュカ様を元の世界に戻し、私自身はここで朽ち果てよう。
言い訳はそのときにいくらでも聞いてやる。邪魔をするな。まとわりつくな!どうして動けないのだ!
『キサマノヨウナマモノ、マスタートモドモイキルカチナシ』
『ネエ、ピエール、キミハモウ ボクラノナカマジャナイ。オトウサンモ キット ソウイウダロウネ』
そうだ、私はもはやあなたたちの仲間ではない。リュカ様を生かすためだけに動く、ただの駒なのだ。
駒に情などない。…なのに、未だに罪の意識に囚われて動けないでいるというのか!?自分がもどかしい!
『『『『『『『『シンデシマエ、オマエナンカ コロサレテシマエ!』』』』』』』』
たかが雑霊、だが何だ、この圧迫感は?頭が割れそうだ。
あの揺れている光、カンテラの光か?そうか、このあの包丁を持った見慣れぬモンスターの仕業なのか。
何か無いか?この状況を打破できる何かがないか?チャンスは無いのか?
こんなところで脱落してなるものか!
明らかにトンヌラの目がおかしい。あれは、野生のモンスターの目でも、ましてマスターのモンスターでもない。
最初の広間で見た、あの魔女と、その手下の目にそっくりだ。
それに、カンテラの周りに集まる変な霧。明らかに、何かの影響を受けている。
何とかして、もとに戻さないと…。
『ネェ、ドウシテ ワタシヲ コロシタノ?ドウシテ オニイチャンヲ コロソウトスルノ?』
イル?確かイルはもう死んでしまったはず。どうして?
スライムナイトを包む、赤黒い霧をよく見てみる。
イルだけじゃない。ドルバに、ミレーユさんもいる。他にも何人も見える。
もしかして、こいつが?こいつが、みんなを殺したのか?
心臓が、ドクン、ドクンと鳴っているのを感じた。
「その霧はトンヌラや死者達だけのものではない!魔女の魔力が入っておる!
このままにしておいては、トンヌラの意識が魔女に乗っ取られてしまうぞ!」
『オニイチャンタチ、ワタシタチノ カタキヲ トッテヨ…』
「ルカ、止めさせるんじゃ!このまま殺しをさせてしまうと、もうトンヌラは元に戻れなくなってしまうぞ!」
でも、こいつは妹の仇…。
「ルカ!これを使うんじゃ!このオーブの魔力なら正気に戻せる!」
ギードが星降りのオーブを投げてよこした。
確かにこれなら多少の恨みや魔力といったものは取り払うことができるけれど…。
俺はスライムナイトのザックから武器を取りだした。
先に自分がこいつを殺してしまえば、トンヌラはこいつを殺さないですむはずだ。
それに、…どうせなら自分で仇を討ちたいと思う。
欲張りかもしれないけれど。
心臓の部分に確実にダガーを突き刺した。
頭に、ボウガンにセットされている矢をすべて撃ち込んだ。
といっても、ちょっと重いせいで、ほとんど外したけれど。
ウィンチェスターは…ちょっと無理か。
でも、もうこいつは動かないはず。
トンヌラの目の闇が一層深まった気がした。マズイ。
俺は急いで星降りのオーブをかざした。
トンヌラは何が起こったのか分からない様子で、きょろきょろしている。成功だ。
「さ、トンヌラ。もう大丈夫だよ。行…」
確かに動けるようにはなった。
だが、思った以上に体が言うことを効かない。
本体に攻撃されなかったので、一命は取り留めたか。
あの技も最後の「締め」は受けなかったので、ダメージは少ない。
今なら目の前の一人と一匹は油断している、本来なら殺せるのだが。
ダガーやボウガンを抜いたり、言霊を紡いだりすれば確実に気付かれる。
生きていることに気付かれれば、本体の部分にウィンチェスターの弾を撃ち込まれて今度こそ終わりだ。
ようじゅつしの杖。取り出すと同時に振れば効果が出る。効果がランダムであり、多少使いにくいが、
五分の四の確率で切り抜けられる!
魔法弾は当たり、相手は消えた。
ワープの効果らしい。この状況では、贅沢は言えない。
カメがこちらにきている。あの包丁のモンスターも健在だ。
このままでは勝てない。武器は体に刺さったダガーと散乱したボウガン。体も思うように動かない。
とびつきの杖なら、一瞬で町まで行くことができる。
不本意だが、仕方がない、退避しよう。急いで治療せねば後に響く。
突然光に包まれて、気が付いたら別の場所にいる。
そうだ、スライムナイトの本体は下のスライムだった。
じゃあ、あいつにやられたのか。
どうして肝心なことを忘れていたんだろう?あいつはまだ生きてるかもしれない。
ギードが追いついてるだろうから、多分みんなは大丈夫だと思うけれど…。
仇は取れなかったし、結局別れてしまったし、言い表せないけれど、もどかしい気分だ。
いきなり光がぱぁーっときて、気が付いたらぷよぷよがたおれて、るかは無事でした。
よかった、と思ったら、とつぜんるかのすがたが消えて、ぷよぷよもどこかへ行ってしまいました。
何がおこったですか?ぼくはどうすればいいですか?
何も分かりません。ただ、さっき感じた、もやもやな感じが残っているみたいでした。
何だったんだろ?
【ピエール(HP1/10程度) (MP1/2程度) (感情封印)(弱いかなしばり状態)
所持品:魔封じの杖、ダガー、死者の指輪、魔法の玉、毛布、対人レーダー、オートボウガン
ひきよせの杖[5]、とびつきの杖[5]、ようじゅつしの杖[5]
第一行動方針:町に身を隠し、休む
基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す
現在位置:カナーンの町】
【ギード 所持品:首輪
第一行動方針:テリーの治療 第二行動方針:首輪の研究】
【テリー(DQM)(精神不安定回復気味、右肩負傷)
所持品:突撃ラッパ、シャナクの巻物、樫の杖
第一行動方針:治療を受ける 第二行動方針:わたぼう、わるぼうを探す】
【トンヌラ(トンベリ)(精神不安定状態)
所持品:包丁(FF4) スナイパーアイ
行動方針:テリー達についていく???】
現在位置:カナーン北の草地】
【ルカ 所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) 、風のローブ
第一行動方針:ギード達と合流
第二行動方針:ピエールを殺し、妹の仇をとる】
現在位置:?】
120 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/05(火) 16:15:22 ID:WgrQQT0y
保守
「フレア!」
極限まで圧縮されたエネルギーが、小規模の爆発を起こす。
石造りの壁は呆気なく打ち砕かれ、瓦礫の舞う通路の先には、さほど大きくない部屋が四人を招くように広がっていた。
「やったぁ!」「すごい、すごいよレナ!」
リュック達の歓声を聞きながら、レナは額の汗を拭う。
白魔法はともかく、すっぴん状態で黒魔法を……それもフレアのような高度な魔法を使うのは久しぶりだ。
やはりきちんと黒魔導士にジョブチェンジするべきだろうか。
一瞬悩んだレナだったが、携えた剣のことを思い出す。
エクスカリバーは騎士剣だ。
すっぴんかナイト以外ではまともに扱えないし、ナイトでは魔法が不得手になりすぎてしまう。
リュックとわたぼうがどこまで戦えるのかわからない以上、エリアは自分が守らなくてはならないのだ。
一撃必殺の攻撃力にも、移動能力にも欠けるが、この組み合わせなら大抵の事態には対処できるだろう。
今のまま、白魔法と黒魔法をつけているのが一番良い。そう判断した。
そして彼女は、自分の後ろにいる水の巫女の姿を見る。
どこか不安そうだった。怯えているようにも見て取れた。
――それが自分のせいだとはレナは考えもしない。考えるだけの余裕もない。
ただ、代わりに繰り返すだけ。己に課した誓いを。
(エリアは私が守る。守り抜いてみせる。
そして彼の魂も、必ず救って……)
誰にも聞こえぬ声で呟きながら、彼女は静かに扉を開ける。
倉庫を囲むようにして生い茂る小さな森。その一箇所が切り取られ、道になっていた。
そして森の向こうからは、ざわめきとも呼べぬ声が、かすかに響いていた。
「誰か居るみたいだねー……危ない人じゃないとイイけど」
リュックの言葉に、レナは聖剣を握り締め、告げる。
「私が見てきます。エリアはここにいてくれる?」
それだけ言うと、三人の返事も確かめず。
呼び止める声すら聞かずに、彼女は村の方へと走り出した。
「……俺、やっぱこの手の才能ねぇわ」
そう言って壁に手をついて項垂れるヘンリーに、「そんなことないよ」とビビが労わりの声をかけた。
けれどヘンリーの表情は沈んだままだ。
ドロー。擬似魔法発動。回復薬精製。
アーヴァインが教えてくれたことは全て試してみたものの、結局どれ一つとして成功していない。
回復薬精製は、原料となるアイテムの問題かもしれない。
だが、アーヴァイン曰く『素人同然の女の子でも簡単に使えた』ドローや魔法すら発動しないとなると……
さすがに自分の素質を疑わずにはいられない。
『とりあえずねー、頭の中で「ドロー!」とか「僕に力を貸してくれー!」とか叫んでればGFが勝手にやってくれるよ』
その(恐ろしく適当な)説明を聞く限りでは、単に集中して念じるだけで発動するようなのだが。
「きっと何かコツがあるんだよ。諦めないで、何度か試してみようよ」
「そんな時間、あるかぁ?」
引きつった笑いを浮かべるヘンリーに、ビビは帽子を被りなおしながら答える。
「うーん、でも、みんななんか話し込んでるみたいだし……
出発はもう少ししてからじゃないかなぁ」
その言葉を聞いていたヘンリーは、軽くため息をついた。
それから右腕をぐるぐると回し、背伸びしながら深呼吸をする。
「うぅー……よっしゃ、もう一回だけチャレンジしてみるか!」
自分を元気付けるためなのか。彼は大声で気合を入れると、壁から離れ、広場の方へ歩き出した。
その後を追おうとして、ビビが地面に躓いてしまう。
振り返ったヘンリーが、地面に落ちたとんがり帽子を拾い上げる。
「おいおい、気をつけろよ」
そう言ってクスリと笑うヘンリーに帽子をかぶせられて、ビビははにかんだ微笑を浮かべ――
そんな二人を横目に、ソロとロックは宿屋の真正面に座り込んで話し合っていた。
未知の力『ガーディアンフォース』を見てみたいというロックの好奇心は、今のところ叶う様子がなく。
敵が来たら危険だし、ヘンリーはまだ怪我が治りきっていないし、放っておけない――というソロの心配は杞憂に終わりそうで。
何となく時間を持て余しつつあった彼らは、どちらからともなく他愛も無い話を喋り出していたのだ。
例えば今までの事、例えば仲間の事。そして……
「――天空の剣?」
聞き慣れないアイテムに、ロックが首を傾げる。
ソロは携えた盾を翳しながら説明を始めた。
「はい。この盾と揃いの剣なのですが……
あれがあれば、首輪の解除ができるのではないかと思うんです」
首輪の解除が、と来た。
予想だにしなかった爆弾発言にロックは目を丸くする。
「剣、なんだろ? なんでコイツが外せるってんだ?」
「天空の剣にはあらゆる魔力を打ち破る力が宿っています。
そして、この殺し合いの主催者は魔女と呼ばれている。
彼女が言葉通りの存在なら、この首輪も魔法的な技術で動いている可能性が高いと思いませんか?」
「なーる。魔法で動いてるなら、その剣の力で打ち消せるかもしれないってワケか」
ポン、と手を打つロックに、ソロは頷く。
「ええ。……最も、魔法ではないカラクリがあるのかもしれませんけどね。
鋼で出来た乗り物や、形すら変えて空を飛ぶ巨大な建築物といったものまで存在する世界もあるようですし。
ですが、主催者の意に応じて自在に発動する爆弾首輪などというものが、カラクリだけで出来るとも思えません」
……実を言えば、アルティミシアの世界では、遠距離から爆弾を起爆させる程度の技術は確立されているのだが。
しかし機械と呼べるモノが殆ど存在しない世界に住むソロからすれば、そんなものは荒唐無稽な夢物語でしかない。
他に何らかのカラクリが仕掛けられているかもしれないが、遠距離からの制御が必要な部分は魔力で動いているはずだ――
それがソロの考えだった。
「でもよ。ンなもん、わざわざ支給品に入れるアホな主催者なんているのか?」
ロックがもっともな疑問を口にする。
「わかりませんけど……でも、感じるんです。
剣だけじゃない。兜も、鎧も、この世界のどこかにあるって」
ソロに同調するかのように、天空の盾がきらりと輝く。
それに気づいたかどうか。彼は静かに言葉を続けた。
「だからこそ、僕は誰も死なせたくないんです。
無闇に人を殺めなくたって……希望は、必ずどこかにある」
「諦めない限り、可能性は0にはならないってか」
先に呟かれた言葉に、ソロはこくりと頷く。
ロックは小さく肩を竦めてから、「まぁ、がんばれよ」と言わんばかりに、若き勇者の背中を軽く叩いた。
レナは思い悩んでいたのかもしれない。
少なくとも、その時までは、緑髪の男と聞いて思い浮かぶのはソロ一人だけだった。
やけにあの男に肩入れし、あの男を宿屋に招き入れた張本人で、目つきが少しきつい少年。
外見はあまり関係ないかもしれないが、行動だけでも十分疑わしい。
――だが、納得が行かないのも事実だ。
ソロがあの男と通じていたならば、なぜ宿屋に集まった人々を殺めなかったのか。
彼は、何だかんだ言って周囲の信頼を勝ち取っている。見張りに立つフリをして寝首を掻くなどいくらでもできるだろう。
わざわざあの男に呼び出させて、真っ先にギルバートを殺す必然性が思い浮かばない。
それに、ピサロの言葉も気に掛かる。
彼は確かに信用できる存在ではないかもしれない。
だが、彼ほどの実力者が、下らない嘘をついて自分の目を欺こうとするだろうか?
彼のような男が、他人を陥れるような人間を認めたり、庇ったりするだろうか?
答えは見つからなかった。
山を降りても、森を歩いても、リュック達に会っても。
果たしてソロが本当に緑髪の男なのか、確証を持てなかった。
そんな時だった。
起きるはずのない、起きてはならない再会が起きてしまったのは――
「レナお姉ちゃん!?」
意外に早く訪れた再会に、ビビが嬉しそうな声を上げる。
けれど、レナの耳には届かない。幼い黒魔導士の姿も目に入らない。
彼女が見ているのは、その隣で何かの術を唱えていた『緑髪の男』の姿だった。
剣を背に負っている。鞘から垣間見える刃は、陽光の下で赤味を帯びて輝いていた。
手を翳し、叫ぶ。その動作は、あの男がしたものと同じだった。
そして彼女の中で、かちり、と噛み合わさる。
ピサロが自分達を騙したり、他人を欺く人間を庇うために労力を裂くとは思えない。
ソロが殺人者なら、回りくどい策略に頼る必要も必然性もない。
けれど、彼は――
そう、彼は悪態をついてはいたが、あの男を助けることに賛成していた。
そう、彼は一人で全てを成せるほど強くは無い。むしろ他人の手を必要とする側だ。
皆の信頼を受け、魔王にさえも信用されている青年とは違って。
そう、彼だった。炎に包まれた宿屋の前で、二手に分かれて逃げる事を提案したのは。
そう、彼だった。あの男たちや誰かに襲われたというけれど、結局傷一つ負わずに生きていたのは。
あの青年は竜騎士に襲われて多少の手傷を受けたのに、彼だけは無事だった。
まともに逃げられるはずもない重傷の身で。
何故?
答えは瞬時に導き出された。
ソロではない、もう一人の『緑髪の男』を前にして。
彼女は、自ら抱いていた疑問を――綺麗に片付けてしまった。
男がこちらを振り向く。(遠くで寂しげな声が木霊する)
『レナ……どうしてあいつを逃がしたの? なんであいつと仲良くしてるの?』
男は少しだけ驚いたように目を見開いた。(耳の奥で彼が囁く)
『あいつは僕を見て笑っていたんだ。 真っ赤な剣を持って、笑ってた……』
男は笑いながらレナの名前を呼んだ。彼とクルルの血が馴染んだ剣を持って。
『レナ、痛いよぉ……この胸の痛みを消してよ、レナぁ』
男は不意に足を止めた。(苦しんでいる。嘆いている。耳元で叫んでいる)
『お願い、レナ……僕を、助けて――』
ギルバートの声が、幻の声が、レナの脳裏に響き渡る。
――ミドリのカミの あのオトコヲ コロしテ――
「――おい、レナ? エリアはどうしたんだ? あんた一人だけなのか?」
ヘンリーの言葉は果たして届いているのか。
レナは俯いたまま、じっと剣の束を握り締めている。
ビビもソロも、途惑いの色を隠せない。
ロックに至っては完全に蚊帳の外であったが、彼女を包む剣呑な雰囲気――殺気と言って良かった――だけははっきりと感じ取っていた。
「レナさん……!」
どこからともなく響いた声に、ヘンリーが顔を上げる。
「エリア?」
その言葉に応えるかのように、木々の向こうから、水の巫女を名乗っていた女性が駆け寄ってくる。
彼女の姿にヘンリー達の視線が集中した、その時――
ずぶり、というくぐもった音とともに、赤い飛沫が噴出し、レナの顔に撥ねた。
「……レ、ナ?」
ヘンリーが顔を上げる。
腹を貫こうとする刃を、己の手で止めたまま。
指先から血が滴り落ちる。激痛に顔を歪めながら、緑髪の男は問い掛ける。
「何故、だ……?」
「貴方がギルバートを殺したからよ」
彼女は冷酷に答えた。殺意と憎悪に曇った瞳を向けて。
「聞いたわ。ギルバートから。あの男と組んでいた緑髪の男が、彼を殺したんだって。
それってあなたのことよね? ヘンリーさん」
ヘンリーの目が見開かれる。『アーヴァインと組んでいた緑髪の男』、その存在に心当たりがあったから。
けれどレナは違う風に受け取った。
真実を言い当てられた驚愕だと――そう思い、信じた。
「え……ヘ、ヘンリーさん!?」
予想外の事態に固まっていたソロが、ようやく我に返る。
「サンダラ!」
その行く手と動きを阻むように、彼の周囲に雷撃が降り注いだ。
暗闇のような怒りに満ちた目が、ソロと、ロックと、ヘンリーの傍にいたビビに向けられる。
「邪魔をしないで。そうでなければ、貴方達も殺すわ」
「……け……んな……」
かすかな舌打ちと歯軋りが聞こえ、レナははっと視線を戻す。
そして気付いた。押し込めているはずの刀身が、鋼の板が防いでいるかのように、一ミリも進まなくなっていることに。
彼の手が、限りなく淡い光の膜で包まれ、守られていることに。
――彼を取り巻く、不可思議な『力』に。
「ざけんなよ、ちくしょう・……
どいつもこいつも、勝手な事ばかり言いやがってぇッ!!」
翡翠色の瞳が、不意に輝く。
「――ッ!」
一度見たことがあった。この不吉な感じを。あの、夜闇に包まれた茂みの中で。
(まさか、あの男と同じ――召喚獣の暴走!?)
レナの迷いは一瞬だった。判断も一瞬だった。
剣を捨てて後ろに跳び下がる。
その弾みで、エクスカリバーが地面に転がり落ちる。
けれど拾う余裕も、疲弊している余裕もなかった。ただ、持ちうる限り最大限のスピードで魔力を紡ぐ。
「ブリザガ!」
詠唱と共に生み出された巨大な氷刃が、ヘンリーの心臓を抉るために飛来する。
けれど届かない。届く寸前に、ソレが姿を表したから。
翡翠の体毛に包まれた獣。ヘンリーを守るために実体化したGF、それは――
「カーバンクル!?」
予想だにしなかった切り札の姿に、レナは反射的に叫んでいた。
同時に召喚獣の額の紅玉が輝く。
真紅の光は氷の弾を飲み込み、レナの、ソロの、ビビの、エリアの視界を一瞬だけ塞ぐ。
(しまった……!)
カーバンクルの能力、『ルビーの光』。
その効力はあらゆる魔法を反射する防壁を作り出すこと。
召喚士としての修練を積んだレナには、それを思い出すこと自体は造作もなかった。
だから跳んだ。真横に。跳ね返されるであろう魔法を避けるために。
レナの反射神経を持ってすれば可能だった。
氷の刃は呆気なくレナの脇をすり抜け、虚空を切り裂いて突き進む。
けれど――レナの真後ろにいた彼女は違った。
ずぶり、という鈍い音が響き、悲鳴とも呻き声ともつかぬ声が零れる。
その主は、ヘンリーでも、ソロでも、ビビでも、ロックでもなく――
胸に氷塊を突き刺したエリア。
彼女の口から、血と共に、流れていた。
「え……?」
振り向いたレナに、エリアは縋るような視線を向ける。
その右胸は血で赤く染まっていた。貫いた氷すら、ルビーのように赤く輝いていた。
「エリア? ……エリア!」
ヘンリーが叫ぶ。
立ち竦むレナの脇を通りすぎ、ふらふらとよろめきながら彼女に駆け寄る。
「ビビ君! ピサロを呼んできて! 早く!」
ソロが叫ぶより早く、ビビは宿屋に走る。
エリアは身体を地面の上にくずおれさせた。
小刻みに震える手を、助けを求めるかのように、レナの方に差し出したまま。
「エリア……!」
「おい、しっかりしろ!」
ヘンリーとロックが必死に呼びかけながらエリアを抱え起こす。
走り寄ったソロが素早く回復呪文を唱えながらも、二人に声をかけた。
「エリアさんは僕が見ます!
先にヘンリーさんを宿屋の中に運んであげてください!
カウンターの中に傷薬らしきものがありました、それで手当てを!」
ロックは頷き返した。だが、ヘンリーは首を横に振る。
「道具があるなら全部エリアに使えよ! 俺の手当てなんか一番最後で十分だ!」
彼はそう言い放つと、ぐったりとしたエリアの手を握り締めながら、レナの方に振り向き、叫んだ。
「おい、レナ! ぼーっとしてるんじゃねぇよ!
あんただってこんなこと望んだわけじゃねぇんだろ!?」
そのセリフが彼女の心を捉え。
それ以上に、彼の次の言葉が。
ヒビの入りかけた心に止めを刺した。
「――このままじゃ、エリア、死ぬぞ!?」
その言葉にはきちんと続きがあったのだけれど、レナの耳には届かなかった。
「だからレナ、手を貸せ! 貸してくれ!」という続きがあったけれど、聞こえていなかった。
ただ、エリアが死ぬというフレーズだけが、責めるように彼女の中で繰り返される。
問いかけとともに。
(エリアが、死ぬ? 誰のせいで?)
ヘンリーに跳ね返された魔法のせいで。それを避けた自分のせいで。
(エリアがシぬ? ダレのせいで)
氷の魔法を唱えた人間のせいで。
(エリアガシヌ、ダレノセイデ)
魔法を唱えた自分のせいで。
(エリアガシヌ――)
―― ワ タ シ ノ セ イ デ ――
「いやぁぁあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!!」
わけもわからず、レナは叫んだ。
現実を認めたくなくて。
そして、走った。
誰の制止も懇願も叫びも聞かずに。剣すら置き去りにして。
ただ、逃げるために。
逃げてもエリアが死ぬ確率が上がるだけだということには頭が回らない。
ただ、逃げる。
自分のせいでエリアが死ぬ、その瞬間を見つめたくないがために。
自分がエリアを殺してしまったのかもしれないという事実から、目を逸らすために。
混乱した頭で彼女は逃げ続ける。逃げられるはずも無いのに逃げ続ける。
守るべき人を傷つけてしまったという恐怖から――現実から、逃げるために。
【ソロ 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング
第一行動方針:エリアを助ける
第二行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】
【ヘンリー(HP1/2+重傷)
所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可、HP3/4) キラーボウ グレートソード
第一行動方針:エリアの手当てを手伝う 第二行動方針:デールを止める(話が通じなければ殺す)】
【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード
行動方針:エリアとヘンリーの手当てを手伝う/生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【エリア(瀕死) 所持品:妖精の笛、占い後の花
第一行動方針:?】
【現在地:ウルの村・外】
【ビビ 所持品:スパス 毒蛾のナイフ
第一行動方針:エリアを助ける/ピサロ達についていく 基本行動方針:仲間を探す】
【ピサロ(HP3/4程度、MP3/4程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 魔石バハムート 黒のローブ
第一行動方針:? 基本行動方針:ロザリーを捜す】
【ターニア 所持品:微笑みの杖
第一行動方針:?/ピサロ達についていく 基本行動方針:イザを探す】
【現在地:ウルの村・宿屋】
【レナ(重度の混乱状態) 所持品:なし
第一行動方針:?】
【現在地:ウルの村周辺のどこか?】
【リュック(パラディン)
所持品:バリアントナイフ マジカルスカート クリスタルの小手 刃の鎧 メタルキングの剣 ドレスフィア(パラディン)
【わたぼう 所持品:星降る腕輪 アンブレラ
第一行動方針:?
第二行動方針:アリーナの仲間を探し、アリーナ2のことを伝える
基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在地:ウルの村・森の奥にある倉庫のそば】
「ドーガさん、出口だよ!」
「そうじゃな…」
薄暗い洞窟から陽光の下へと飛び出す。
光を照り返してキラキラと輝く穏やかな水面がまぶしい。
ようやく仰いだ普段より近い青空では既に日が中天を過ぎていた。
フィンとドーガにとって不運だったのは飛ばされた先が洞窟の奥だったことである。
封印の洞窟、この地方で最大のダンジョン。
いかにドーガに浮遊大陸の知識があろうとも洞窟の細部まで知り得てはいない。
その結果脱出にこれほどの時間がかかってしまった。
それでも隠し通路やスイッチの様式を理解しているドーガがいなければ
いまだ洞窟の奥をさまよっていただろう。
とにかく、失ってしまった時間は大きい。
それぞれの思惑、不安を胸にしまい込んで二人は次なる障害、湖へと向かった。
(アイラ、フライヤ…まだ無事でいてくれるかな)
(ギルダーがさらなる罪を重ねておらねばよいが…
ところであの島は? この湖に島なんぞなかったはずじゃが)
【フィン 所持品:陸奥守 魔石ミドガルズオルム(召還不可)
第一行動方針:湖を渡る 基本行動方針:仲間を探す】
【ドーガ(軽傷) 所持品:マダレムジエン、ボムのたましい
第一行動方針:湖を渡る 第二行動方針:フィンの仲間とギルダーを探す
第三行動方針:ギルダーを止める】
【現在位置:封印の洞窟前】
「……」
バッツは考える。
視線の先、まるでエクスデスを見ているような凶悪な魔力。
間違いなくさっきの爆発音のもとはこいつだ。
できるんなら戦いじゃなくて交渉したいところだけど、向こうはどうだろうか…?
洞窟の出口がこっちにしか無いというのなら待ち伏せってのもありえる話。
敵だとしたら当然次に爆発を体感するのは俺達…か?
いや、最初っから疑うのはよくない。良くない、けど…
「………」
ローグは考える。
視線の先、お前はアークマージかだいまどうかってレベル、いやもっと上か?
はっきり言って嫌な気配がぷんぷんしやがる。例えるならそう、魔王だな。
交渉できりゃ…いいんだけどよ。
あのツラ、贔屓目に見れないほど悪人面だしなあ。関わり合いにもなりたく無いってヤツ?
とは言え俺達には退路は無いワケで…ついてねぇ。
もし、バッツと俺、たった二人だけで戦ったら。勝てるかっての。
何とかなんねぇかなぁ?
「ファファファ……そう怯えるな。大人しく出てくれば何もしない」
…怪しい、怪しすぎる。それ思いっきり悪役のせりふだろ。
隣のバッツを見ると何やら思案顔。そりゃ疑うよな。
どう動けって言うんだよ。不信感は三割増しってくらいだぜ?
これでまたしばらく睨み合いか。
「ファファファ……大人しく従えば貴様らを攻撃しようというつもりはない。
私は話し合いをしようというのだ」
もう、呼びかけの流れが悪役以外の何者でもねぇな。
だからって俺達に取れる選択肢、今は『にげる』すら無いんだよなぁ。
本当に、どうしたらいい?
ってちょっと待て、おい、バッツ?バーーッツ!
俺の心配をよそにバッツはひらりと階段からフロアに飛び上がり、男の正面に躍り出る。
そこに魔法が炸裂する!って感じは無い。
少なくとも話をする所までは本当のようだ。まずは一安心。
「ふむ、お前が交渉役というわけか。全滅の危険を冒さぬためには必要なことかも知れぬな」
男の口元が歪む。
「さて、交渉の前に失礼かも知れぬ。だが話の前に――」
男のその指がバッツを指す。おい、それはやばいぜ? やめろ、やめてくれ。
一瞬だった。
魔法の扱いに詳しくは無いローグにもバッツの周りに
何がしかの力が集まっていることが感知でき、
それはあっという間にバッツを取り囲む透明な二重の直方体を為す。
「バーーッツ!」
「うわぁあっ!」
二人の声と同時に二つの直方体が小さくなってゆき、バッツの身体に重なるようにして消えた。
転がるように駆け寄るローグ。立ち尽くすバッツには…傷ひとつなさそうだ。
「おいバッツ、なんともないのか!?」
「ああ、特に痛いとか苦しいとかは」
「身体が動かないとかは?」
「いや……今のはもしかしてライブラ」
「ふむ…、こんなものか…」
「何しやがる!やっぱりお前は…!」」
「ファファファ……非礼なのは承知、いくらでも詫びよう。
だがライブラは私の生来の性分でな、未知のものは分析せねば気分が悪い。
自己紹介が遅れたな。私はザンデ」
「んな問題じゃねぇだろ! 行こうぜバッツ、こんなヤツ相手すること無い」
「落ち着けローグ。謝ってくれてるんだし敵意はなさそうだし…」
「だからってあんな意味のわからねぇ不意打ちだぜ? 悪党のやり方だぞ」
「だから話だけでも…」
「バッツにローグか。ファファファ……そうだな、謝礼というわけでもないが
この世界を抜け出る可能性がある、と言ったらどうする」
「それがどうし…」「えっ!?」
「あくまでほんの僅かの希望という程度ではあるがな」
やはり反応したか。まあ普通だろう。
だが、魔女への反抗であることは間違いないこの推論は、そう、まだ推測の域を出ていない。
そして魔女はおそらくどこかに監視の目をもっているのだろう。例えば首輪だ。
ならばうかつなことは言えないし、信用できない相手に教えることもできない。
以上二点より今はまだ私の頭に留めておくべき話である。
冷静な口調で続ける。
「ふむ、言い過ぎたかも知れん…失望するだろうがまだすべて推測、机上の空論の段階。
ただ私が脱出を考えているということは覚えておいてほしい」
「なんだよ」と言う声が漏れ、やはり二人に明らかな失望の色が浮かぶ。
「信じる信じないはお前達の自由だ。
少しでも信じてくれるというのならば、私からお前達に頼みたいことがある。
高い魔力を持つアイテムまたは人、そして旅の扉とやらに詳しい人物を見つけてほしい。
明朝、魔女が死者を読み上げる頃には私はこの部屋にいるつもりだ。
可能ならでよい。私の頼みを引き受けてはくれぬか」
盗賊風の男、ローグにはよほど信用が無いらしくしばらく二人で相談していたが、
どうせ向こうにも当てなど無いのだろう、できればであるが請けてくれた。
尤も厄介払いにはいと言っただけという線もあるが、まあ別にそれでもいい。
「ファファファ……有難い。魔力の高い者には私にも二人ほどあてがあってな、
ウネとドーガという老人だ。ザンデの名を持ち出せば信用するだろう」
向こうからも注意すべき人物としてカイン、緑髪の狂人。
彼らの仲間としてアルス、セージ、フルート、レナ、ファリスという人物の情報を得る。
味方となりうる人物が多いのはいいことだ。
また、ローグの世界には二点を固定した旅の扉が普通に存在しているという。
残念ながらローグにはそれ以上の知識はなかったが、
仲間のセージという者には期待できるかも知れん。
「ここの出口はその台座の裏、魔法陣だ。乗ればすぐに出られる。だが、その前に――」
ローグへとライブラを放つ。
「やっぱり信用できねぇよ!」
などと言い残しながら二人は洞窟から出て行った。
二人を見送った後、ザンデは自分の構想を改めてまとめる。
魔女が生み出した世界の外への移動は不可能だと思われているが、
我々はすでに、それが魔女の世界同士だとしても異世界への移動を二度経験している。
旅の扉。
私にとっては見慣れぬものだが、特定の次元同士をつなぐデジョンを維持しているといったものか。
これに干渉し、コントロールすることはできないだろうか。
放り出される場所が異なるなど安定はしていないようだから、可能性はあるだろう。
ともかくできるならだが詳しい話が聞ければ心強い。
さて、光と闇のバランスを崩し、弱いポイントを作り出すという方法ではあったが、
生前の私は二つの異世界を意図的につなげた経験がある。
何より大がかりな魔力を動かすという点においてノア門下でも私に優る者はいなかった。
干渉のためにどれほど魔力が必要かは不明だが、扱いきって見せようぞ。
しかし、繰り返すがこれは明確な反抗だ。おそらく向こうから妨害があるはずである。
それに、試みが成功しても首輪は残る。
ウネやドーガよりは機械にも詳しいつもりだが専門外であることは否めない。
これは別に解決すべき問題である。
とにかく、研究が必要である。次の扉でそれは行うとして、順調に行っても
実行に移るのは少なくともその次ということになる。
成果の時まで私、また幾人に命があるだろうか? それでも。
気づけばザンデは笑っていた。
人に依頼するような自分が、その義理を返すつもりの自分が、おかしくて。
【ザンデ(HP 4/5程度) 所持品:シーカーソード、ウィークメーカー
基本行動方針:ドーガとウネを探し、ゲームを脱出する】
【現在位置:祭壇の洞窟 クリスタルの間】
【バッツ 所持品:チキンナイフ、ライオンハート、薬草や毒消し草一式
第一行動方針:ザンデの頼みをきく?
基本行動方針:レナ、ファリスとの合流】
【ローグ 所持品:銀のフォーク@FF9 うさぎのしっぽ 静寂の玉 アイスブランド ダーツの矢(いくつか)
第一行動方針:ザンデの頼みをきく?
最終行動方針:首輪を外す方法を探す】
【現在位置:祭壇の洞窟の前】
※ザンデの頼み
『高い魔力を持つアイテムまたは人、そして旅の扉とやらに詳しい人物を見つけてほしい』
『彼女の首輪……そうか、魔力を感じないんだ!』
アリーナの首輪を見つめていたエドガーは唐突にザックから首輪を取り出してそれを眺める。
『この首輪にはデッシュと共に行った今までの解析から
魔力と機械の両方の技術によって構成されていると結論を出した。
その内、魔力は爆発の力に使われているはずだ。
そうでなければ、魔王クラスの力を持つ参加者やあのケフカを殺せるような爆発を
起こせるはずがない。しかも首を飛ばすほどに範囲を限定された威力をだ。
だったら……』
だったら彼女の首輪は取り外せるのではないか?
魔力を感じないなら取り外そうとしても爆発は起こらないかもしれない。
しかし――。
『これは推論にすぎない。
私も魔法に精通しているわけではないから、極微量な魔力を感じ取れないだけかもしれない。
それに、もしそうだとしても何故そんな不良品が彼女の首に嵌まっている?
魔女のミス? イレギュラー? それとも遊びか?』
爆発しない首輪に怯え、右往左往する参加者を見て嘲笑う。
あの魔女ならばやりかねない。
そして…… 一番考えたくないが罠だった場合。
魔力を感知できないようにしておいて、安全だと思った参加者が首輪を取り外し、爆発。
参加者の希望を刈り取り、絶望を植えつける最良の手段だ。
『だが、それならばその処置を全員の首輪に施していてもおかしくない。
というよりそうしていなければおかしい。何故彼女だけが……』
全員の首輪に魔力遮断が施されていれば、人の集まる序盤で先程の悲劇は起こっていただろう。
そうすればよりこのゲームを加速させることが出来ていたはずだ。
ならば……本当にイレギュラー? 彼女の首輪は爆発しない?
『もしもそうならば……彼女の首輪を取り外し、中身を解析することができたなら……』
自分達の首輪も外せるかもしれない。
死亡した者から首輪を取り外しても爆発は起こらなかった。
ならば、機械式であろう生命検知装置を外部から無効化できる方法を見つけることができたなら……。
自分達を死亡扱いにすることができるのならば……
主催者の命令信号を受け付けられなくできるのならば……!
『何とか確証を得たいな……魔法に関してはシンシアは私とそう変わらない。
アリーナは呪文が使えないということだし……リュカなら、判断できるか?』
シンシアは言っていた。彼の呪文量は高位の神官や僧侶並だと。
彼ならばあるいはアリーナの首輪について
魔力が隠蔽されているのか、そうでないのか判断できるかもしれない。
『だが、今はまだリュカもアリーナにも黙っておいた方がいいな。
二人とも傷を負っているし、リュカはリノアの亡くしたばかりでまだ心が弱っている。
もう少し回復を待ってから話すべきだろう』
それにこの話をするということは、盗聴器のことを考え必然的に筆談ということになる。
おそらく長文を繰り返すことになるため、現在の手持ちの紙では不都合だ。
エドガーはサスーン城に入るまではこの件は自分の心にしまっておくことにする。
そういえばリュカは強がってはいるが、アリーナと似たような状態だろう。
正午までもう少しだが、この場所に留まる時間を延長するべきだろうか。
彼の思考は現実的な部分へと移行していった。
【アリーナ2(分身) (HP1/5程度)
所持品:E:悪魔の尻尾 マティウスの支給品袋
第一行動方針:演技をしながら脱出の隙を窺う(殺人より離脱優先)
第二行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない
最終行動方針:勝利する 】
【リュカ(HP2/5程度 MP残量微小 左腕不随) 所持品:お鍋の蓋 ポケットティッシュ×4 アポカリプス+マテリア(かいふく)
第一行動方針:正午過ぎまで待機、その後サスーン城へ
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【エドガー(右手喪失) 所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン 血のついたお鍋
第一行動方針:正午過ぎまで待機、その後サスーン城へ
第二行動方針:仲間を探す 第三行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【シンシア(MP残量0) 所持品:万能薬(ザックその他基本アイテムなし)
第一行動方針:正午過ぎまで待機、その後サスーン城へ
第二行動方針:仲間を探す 最終行動方針:ゲームの脱出】
【現在地:カズス北西の森の巨木の根元】
誤
> アリーナの首輪を見つめていたエドガーは唐突にザックから首輪を取り出してそれを眺める。
正
→ アリーナの首輪を見つめていたエドガーは自らを束縛する首輪に触れ、その感触を確かめる。
に訂正します。
142 :
ねずみとり:2005/07/12(火) 01:03:12 ID:Iq11v+qz
ハッサンが目を覚ますのを待つケフカであったが・・・・・・・
照りつく太陽に無限に広がる砂漠、それはまさしく灼熱地獄。
暑い・・・・これは流石の温厚なぼくちんもかなり腹がたちますねぇ。」
あれから30分?嫌、1時間?時間さえ気にならなくなるぐらい
ハッサンの屈辱にゆがむ顔を妄想した。
ケフカの心情はただ一言で表せる。
『飽きた』
「こいつには屈辱も希望も絶望も与えるのも面倒ですねぇ。
例えそれを与えたとしても、暑苦しい顔しか拝めませんねぇ・・・・・・」
と!その時、ケフカに閃きが!!
「アーヒャヒャヒャヒャ!!これは最高のショーになりますねぇ!!!」
ケフカはその準備の下ごしらえをしている間に内容を説明しよう。
え?俺が誰かって?そんな野暮な事を聞くのはなしだぜ。
まず、ケフカの圧倒的な魔力と知性で、
爆発寸前のボムと同じ状態に魔法で作ります。
これは人が触れるだけで大爆発をしてハッサンもろとも塵になります。
以上、ケフカトラップの説明を終わります。
「善意でやったことが相手を傷つけることはかなりの苦痛ですねぇ。
それで相手を死なせるような事になると・・・・・・・・・・・アーヒャヒャヒャヒャ!!」
そうして、ケフカは灼熱地獄の中で獲物を待つのであった。
作戦も完璧である、ハッサンが起きるという可能性以外は・・・・・・・
【ケフカ 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 ブリッツボール
第一行動方針:ハッサンと偽善者を狩る 第二行動方針:できるだけ多くの人にデマを流す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【ハッサン(HP 1/10程度)(気絶)(爆発寸前)
所持品:E爆発の指輪(呪)
第一行動方針:生きる、又は誰かに意志を継ぐ。
第二行動方針:オリジナルアリーナと仲間を探す
最終行動方針:仲間を募り、脱出 】
【現在位置:カズス西の砂漠】
「あ……あぁ……うう……」
エリアが重傷を負った事故から少しだけ時間が経った頃。
レナは未だ何かに怯える様に隠れていた。
ここはウルの村から北に位置する森。
彼女はそこにある1本の大樹に体を預け、隠れていた。
最早あの村にいた人間の事はどうでも良い。
今はただ逃げたいだけだ。罪からも、人からも。
ふと彼女は、ある音に気が付いた。
草を踏みしめて歩く人間が出す、その音。
2人ほどの人間がこちらに確実に近づいている。
「……い、嫌……来ない……で……」
レナはその現実から逃げるように目を閉じ耳を塞ぐが、確実に気配は近づいてくる。
そして、現れた人間は―――――
「ったく、ライブラだかラブラブだか知らねぇけど……やっぱちょっと信用できそうにねぇな」
「まだ言ってるのか?大丈夫だって、普通に話しかけてくれたじゃないか」
「んな事言ったってよ……」
話は数十分前に遡る。
2人の人間――――バッツとローグは祭壇の洞窟から少しずつ南下していた。
地図によるとどうやらウルという村があるという事を知り、
『じゃ、そこで手がかりゲットと行きますか』
というローグの意見にバッツが賛成、そしてウルの村へと2人は向かい始めたのだ。
それが数十分前。
そしてしばしの時間が経ち、2人が暫く歩いていると1つの気配に気が付いた。
「ローグ」
「わかってる、盗賊なめんな」
「なめてない」
「わかってる、盗賊なめんな」
「いや、だから」
「わかってる、盗賊なめんな」
「………」
どうやらローグは気配の方に意識を集中しているらしく、人の話をあまり聞いていない。
だが気づいているという事はなんらかの対処が出来るという事だ。
そして恐らく、彼の頭の中ではいくつかの戦術や遁走方法などが浮かんでいるのだろう。
「コンタクト取ってみよう。やけに大人しすぎる」
ローグのその提案を聞き、バッツは小さく頷いた。
そして、彼らが見た気配の主は―――――
そして3人は出会った。
レナは怯えながら、かつての仲間がいることに気づき、
ローグは彼女が非常に怯えていることに気づき、
バッツは彼女の姿を見るや否や、その状況の意外性に頭が一杯一杯になってしまった。
そして、静寂が辺りを包んだ。
レナは酷く怯えていた。
ローグは現状を理解する努力をしていた。
バッツはレナが何故ここまで怯えているのかと考えていた。
「バ……ッツ……?」
「レナ!レナだろ!?」
そしてバッツは彼女とお互いに見つめあった後、1歩踏み出した。
そして彼女に今の状況を尋ねるつもりだったのだが―――――
「嫌っ!近づかないで……っ!」
「レナ……?なんでそんな……」
「嫌だ…嫌だ!バッツでも嫌ぁ!!」
レナが拒絶していた。その様子を見て、バッツは足を止めた。止めざるを得なかった。
「おいバッツ、こいつマジで仲間なのかよ?失礼だけど俺にはとてもそうには見えねぇ」
ローグが隣で冷静に客観的な意見を放つ。その声には彼女に対する猜疑心が篭っていた。
しかしバッツはまたレナに少しずつ近づいていった。
混乱しているかつての仲間を、バッツは放っておけなかったのだった。
だがレナはそんな彼の思いなど知らず、恐怖に押し潰されかけていた。
そしてついに、彼女の恐怖は許容量を超えてしまい、
「……フレア!!」
爆発呪文を紡ぎ、バッツに至近距離で爆風での攻撃を与えたのだ。
「レナっ!?」
「んな……っ!」
小規模ではあるが、爆発を喰らったバッツはかなりの勢いで吹き飛ばされた。
そしてその勢いは殺される事は無く、バッツは後ろにあった木の幹に体を勢いよく打ち付けてしまった。
ローグもローグで彼女を警戒し少し離れていたものの、やはりフレアの爆風に吹き飛ばされていた。
こちらは運良く怪我を負う事は無かったものの、少々混乱している。
「バッツ……バッツ!おい!」
ローグが必死に叫ぶものの、返事が無い。
爆風によって起こった砂埃が晴れていくと、気を失っているバッツの姿を目にすることが出来た。
彼は気絶しているだけではなかった。左足に火傷を負っている。
ローグは急いで自分の飲料水を、バッツの左足にかける。
だがそれだけで当然上手く行くはずもない。しかもローグには回復呪文というものが使えない。
不味い、不味い不味い不味い。どうする、どうすればいい。ローグは焦る。
とその時、レナの名を叫ぶ声が突如響いた。そしてその刹那、脇からある人物が現れた。
「いた!……おい、お前!さっきは……」
脇から姿を現した人物、それはロックだった。
ロックは先程の騒ぎを目にし、仲間に自分でレナを探すよう頼んだのだ。
人の治療が出来る人間が減ることに抵抗を感じたソロだったが、ロックの申し出を断る事は出来なかった。
ソロ自身、レナの事が気になっていた。そこで出たロックの申し出はありがたくもあったのだった。
そしてロックは今レナを見つけ、ここにいる。
辺りを見回すとレナの他には気絶している男と、自分を奇異の目で見つめる男がいる。
「おい、なんだか知らねぇけど……こいつの知り合い?」
「ああ、近くの村でこいつが知り合いを負傷させた。そっちは?」
「こいつに自衛のようでそうでない攻撃されました。今も困ってます、そんだけ」
ロックはその言葉を聞いて大きな溜息をついた。
そして視線をもう一度レナに向けると、レナは奇妙な剣と支給品袋を持っていた。
こちらに構え、混乱しているものの臨戦態勢を取っている。刺激を与えれば襲い掛かってくるだろう。
「マズったな……爆風で連れの袋が盗られた」
「爆風?あいつ、そんな事まで……」
「で、そのアイテム盗られた連れはあの女の知り合いらしい」
「何?」
「それを踏まえた上でちょっとお願いがある」
ローグの「お願い」はこうだった。
単純明快、バッツをウルの村に連れて行き手当てをしてやって欲しいという趣旨だった。
「その間俺はこいつを退けたり陽動したり、臨機応変にするさ。囮作戦ってやつだ」
「大丈夫なのか?俺を信用するかどうかとか、お前が独りになることとか」
「大丈夫だ。俺は確かにまずは初対面の人間を疑う生き方をしてきた。でも今はそんなんじゃ無理らしいし、な。それに俺は丸くなった」
ロックは彼のその言葉を聞きながら、バッツの体を背負った。そしてローグを見つめる。
「行けッッ!!」
ローグの叫びを合図に、ロックはウルへと走り出した。
それを確認すると、ローグはアイスブランドを取り出して構える。
そしてそれから数秒も経たぬうちに、レナは早速ローグに肉薄した。
レナのその奇襲にローグは素早く対応したが、レナの攻撃はまだ終わらない。
それは彼女に眠る戦闘の経験がさせた業だろうか。彼の防御を鍔迫り合いへと発展させる。
ローグは主導権を握られかけたことを確認すると、すぐに後退した。そして考える。
フルートの様な単純な力ではない。状況に応じた「知恵」を働かせる。
次の行動は、ローグが先だった。
袋から取り出したのは数本のダーツ。そう、アリアハンで受け取ったアルスの支給品だ。
それをまずは1本、器用にもナイフを投げる要領で投げたのだ。普通に投げるよりも勢い良く矢は飛んだ。
レナはそれを見てすぐさま回避した。そしてローグの元いた場所を見る。
彼はいなかった。元いたところには何も無い。強いて言えば後ろで樹が無造作に生えている。
突然、彼女の顔をまたも1本のダーツが掠めた。見ると右頬に細い線が出来ている。
それは確実に斜めの軌道を描いていた。矢が地面にほぼ垂直に刺さっていることからも、上からの襲撃だという事を決定付けた。
「相手はいつの間にか昨日絵に潜伏した」という事を確信して、頭上を見る。
するとまたも葉の影から次は2本のダーツの矢が飛び出した。
今度は左腕に刺さった。血が流れ、激痛が襲う。
だがそれを耐え、先程の葉の影をじっと見つめた。しかしやはり、何もいない。またどこかへ移動したようだ。
「どうしてもってんなら、仕方ないよな」
「ひ……っ!」
どこからともなくローグの声が聞こえた。その不気味さにレナは思わず声を上げた。
そして怯えている彼女目掛け、今度は3本を一気に投げた。これで彼の持つダーツの矢は全て無くなった。
だがレナは、それを避けた。3本のダーツの矢を一気に避け、そして今度はどこから来るのかと上を見ていた。
だがローグはいつの間にか下に、しかもレナのすぐ傍にいた。
そう、今までのダーツでの攻撃は彼女の注意を上へ上へと惹き付ける為の行動だった。
そしてレナはその罠にはまり、すぐさま起こったアイスブランドによる斬撃を喰らってしまった。
ライオンハートがアイスブランドの衝撃で吹き飛ばされ、そして同時にレナの右胸も切り裂かれた。
服が裂けた場所からは、傷が見える。血が流れ、激しい痛みを呼び覚ます。
「あ……嫌!…痛い……痛い痛い痛い!」
そう叫ぶレナの目の前で、ローグは意外にもアイスブランドを鞘にしまった。
そして今度はローグが、先程のバッツのように静かにレナに近づいていった。
「今のお前は……ガキん頃の俺みたいに、全部に怯えて……全部信用しようとしない、そんな目をしてる」
「え……?」
「だから助けたい。お前と同じ眼をした俺の仲間も、いつか救ってやろうと思ってるしな。だから、お前も助ける」
「嫌!……私は……私は……っ」
「大丈夫だっつーの……俺だって、お前をボコってはいそれまでなんて考えてないしな。バッツの仲間ならなおさらだ」
ローグはそう言うと、また彼女にそっと近づいた。そう、村に連れて行くためにだ。
彼女は重度の混乱状態にあっただけだ。バッツの仲間なのだから、話せばきっと判る。
だがレナは、またもローグの知らぬ内に恐怖に囚われていた。
―――――エリアは自分と同じように右胸に傷を負った。
そうだ、エリアと同じ。そして彼女を傷つけた人間は自分。目の前にいるのは自分を傷つけた人間。自分を写した鏡の様な存在。
目の前の男は自分自身の罪の形だと思えて。そう、自分自身の罪は人となって自分を追っていた様に思えて。
それが、今、目の前で自分をどこかへ連れて行こうと――――――
彼女の思考は、そこで止まった。
そして袋の中で輝いた様にも思える1本のナイフを取り出した。
そう、恐怖に囚われるほど強くなる、チキンナイフと呼ばれる短剣。
それを、
「嫌ぁああぁあぁああぁぁあぁあぁぁ!!!!」
ローグの胸へと、突き刺した。
「………マジ……かよ……」
ローグはそう呟くと、静かに地面へと倒れた。
彼の背から、刃が姿を現していた。そしてその貫通していたナイフを、レナは無理矢理引き抜く。
「わ……たしは……あ…ぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そしてまた自分の新たな罪に怯えるようにそこから逃げていった。刺さったダーツを抜く事すら忘れて。
「………救えなかったのか……俺には……」
誰もいなくなった森の中で、ローグは自嘲気味に呟いた。
眼が霞む。もう助からない事は明白だ。
だが、酷く頭は冷静で。最早諦めにも似た感情が支配していた。
だからこそ、彼は考え始めた。
何もすることが無く、何もすることが出来なくなったからだ。
そして彼女のあの眼を思い出し、色々な事も思い出していた―――――
―――俺も、ガキの頃はあんな嫌な眼をしたガキだったんだろうか。
独りになって……道行く人に物を乞い、そして遂に人から物を盗むことを覚えたあの頃。
あの頃の俺は、さっきのレナって奴みたいな眼をしていた。何も信じようとしない、あの眼。
でも俺はアルスと旅をする内に……そんな眼は忘れてしまった気がする。
だからあのレナって奴も……きっと混乱してるだけで、あんな嫌な眼はすぐに消えてしまうと思ったのによ。
まぁ囮作戦を決行した時点で俺は死を予感してたけどな。それで予感が当たったから嫌な話だぜ。
だが、そういや凶暴な人格の方のフルートはずっと変わらなかった気がする。
俺たちのことをずっと仲間だと思っていなかった。自分でもそう言っていたな、アイツは。
そんで……セージに言われたっけな。「似たもの同士だ」って。あん時は反論したけど……今はそう思うぜ、悔しいけど。
だから、守ってやらないとって思ったのに……フルートと再会する前に甘さを見せてこのザマだ。
アイツは今良い仲間を見つけられただろうか。良い仲間に守ってもらえているだろうか。
そして、アイツ自身が仲間を仲間として認めただろうか。
『大丈夫だ、馬鹿』
ぁ?なんか今フルートの声が聞こえたような……。
って、お前こんな所で何してんだ?……いや、幻覚か。
俺もヤキが回ったな……まぁいいや。で、何が大丈夫なんだ?
『今はてめぇらも、今あたしの周りにいる奴も、皆……仲間だよ』
……そうか、そりゃ何よりだ。良かった良かった……ってオイ!消えんのかよ!
おいおい、なんだったんだあの幻は。俺の自己満足?自己満足か、自己満足なら仕方ないな。
でも、もしかしたら……なんかテレパシーみたいなので俺にあいつが伝えに来てくれたのかもな。
もしあのフルートが言った事が正しかったのなら……俺は満足して眠れるぜ。さっきのは心残りだけどな……バッツの仲間だし。
満足……か。本当に満足してるだろうか。でも、俺と同じ眼をしてたフルートやレナを救えたら……俺も同時に救われる気がしてたんだ。
打算っぽくて嫌な奴だな、俺。それでも仲間はこんな俺を救ってくれたのに。ごめん皆……俺、死ぬ。
「フルート……皆…死ぬなよ………」
こうしてローグは、静かに命を落とした。
そして同時刻、ロックはバッツを背負ったままウルの村へと到着した。
銀髪の盗賊は、皮肉にも最後に人を救おうとして足元を掬われた。
だが彼のフルートを守り、救いたいという思いは彼女に届いたかもしれない。
これは、皮肉な物語。
【バッツ(気絶 左足火傷有)】 所持品:なし
第一行動方針:気絶中(ロックに運ばれている)
基本行動方針:レナ、ファリスとの合流】
【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード
第一行動方針:バッツをソロ達の元へ連れて行く
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在地:ウルの村入り口付近】
【レナ(重度の混乱状態 左腕負傷 右胸負傷) 所持品:チキンナイフ 薬草や毒消し草一式
第一行動方針:どこかへ逃げる】
【現在地:ウルの村周辺のどこか?】
【ローグ 死亡】
【残り 67名】
※ライオンハートとローグの支給品が落ちています
>>147 >「相手はいつの間にか昨日絵に潜伏した」という事を確信して、頭上を見る。
「相手はいつの間にか樹の上に潜伏した」という事を確信して、頭上を見る。
に脳内変換してください○| ̄|_
海港都市カナーン。浮遊大陸一の貿易都市であり、広く、複雑な造りをしている。
この町の周辺は見通しのよい平原であり、隠れ場所としてはここが一番といえよう。
町は確かに人が集まってくるとはいえ、水路に離れ島、大きな屋敷、裏手には森と、隠れる場所には困らない。
ピエールは回復に専念しようと町の奥にある森に向かって進み出したが…やはりそううまくいくはずもない。
レーダーを見ると反応があった。
その方向には…
「お前…」
今朝、旅の扉の前で戦った男、ザックスがいた。
(マズイな…)
この会場へ来て、まだ会ったことのない相手なら、交渉の余地はあるかもしれない。
が、ピエールとザックスとは今朝戦ったばかりである。
少し前にザックスの仲間を二人殺しているのだ、見逃してくれるとは思えない。
さらに、ピエールは直前に戦闘をしており―ベホマで気休め程度の回復は行ったとはいえ―かなり消耗している。
しかも、先ほどの技の効力か、体が上手く動かないのだ。
一方で、ザックスはどう見てもピエールより健康である。
砂漠では地の利はピエールの側にあった。だが、カナーンの町は石畳で舗装されている。
イオナズンでも使わない限り、砂を巻き上げることなどできない。
しかもザックスは先にこの町に来ていたのだ、いくぶん町の形を把握しているだろう。
町の中を逃げても回り込まれる可能性は高い。
町の外はどうかというと、直前に戦闘をしたばかり。
追手が来る可能性が大いにある。そうなれば、挟み撃ちとなってしまう。
しかも、この町の周辺に、いくつかの人影を確認できた。
その中に、夜に仕留め損ねた銀髪の男と、黒装束の男の仲間だった女の姿が含まれていたのだ。
状況は圧倒的に不利。
ピエールの方が勝っているのは手数の多さだ。
相手は他に4人と行動していて、さらにその中では一番の実力者だった。
この場合、強力で、使いやすいアイテムは他の弱い仲間に持たせるのが普通だろう。
ならば、相手が取れる手段はそれほど多くはないはず。
一方で自分は、武器をいくつも失ったとはいえ、ある意味それ以上の効果を持つサポート用のアイテムを持っている。
上手く使えば、倒すことも不可能ではないはずだ。
だが、接近戦に持ち込まれれば不利になる。遠距離からできるだけ弱らせなければならない。
長期戦になれば競り負ける。さらに追手が来るかもしれない。
アイテムは惜しめない。何を使い、どう行動するのが最善の策か。
一方で、ザックスもピエールの戦闘力を分析していた。
彼には、単騎で自分たち5人組と互角に渡り合った実績がある。
純粋な剣の実力は自分の方がわずかに上か。だが、それをカバーする精神力に大胆さ。
相手は明らかに消耗しているが、考え無しに攻めて勝てる相手ではない。
さらに、相手は前の時点で飛び道具を持っていた。
自分は仲間のサポートが得られず、接近戦に持ち込むしかない。
だが、相手がそう簡単にこちらの思惑に乗ってくれるはずもない。
どう攻め込むべきか。いつ攻めるべきか。
両者は慎重に相手の出方をうかがう。
噴水をバックに、まさに戦いが始まろうとしていた。
【ザックス(HP9/10程度、ちょっと憂鬱)
所持品:バスターソード スネークソード 毛布
第一行動方針:ピエールを倒す 最終行動方針:ゲームの脱出】
【ピエール(HP3/10程度) (MP1/3程度) (感情封印)(弱いかなしばり状態)
所持品:魔封じの杖、ダガー、死者の指輪、魔法の玉、毛布、対人レーダー、オートボウガン
ひきよせの杖[5]、とびつきの杖[5]、ようじゅつしの杖[5]
第一行動方針:この場を切り抜ける 基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す
【現在位置:カナーンの町、サリーナ宅裏】
先に動いたのはピエール。
オートボウガンでザックスを狙う。それを上手く回避するザックス。
もちろんピエールもこれが命中するとは考えていない。上手く建物の壁に追いつめるためのものだ。
ピエールはボウガンの矢に混じえて、魔法の玉をザックスに向かって投げつける。
手榴弾と思い、実際そのようなものなのだが、回避行動を取ろうとするザックス。
が、ボウガンに阻まれ、逃げ道がない。
ならば。
「ブリザラ!」
ザックスは魔法は専門ではないが、一応使用できる。
対象をそのまま凍らせることで、熱を伝わりにくくし、
さらにまわりに氷をまとわせて、落ちたときの衝撃をやわらげる意図があるのだ。
だが、ピエールもそこで終わるわけではない。
「イオ!」
魔法の玉のあるあたりを中心に、小規模な爆発が起こった。誘爆させようというのだ。が……
((爆発しない!))
イオの熱とエネルギーによって、爆発すると考えていたが、思惑が外れた。
ザックスが突っ込んでくる。
オートボウガンで牽制するピエール。
が、ザックスは上手くボウガンの矢を回避し、集中し、大振りに、だが素早く剣を振る。
かまいたちによる攻撃だ。ピエールの予想しなかった攻撃。
ピエールはとっさにオートボウガンで受けながそうとするが、弾かれてしまう。
さすがに頑丈なようで、かまいたちを受けても壊れることはなかったようだが。
ただちにピエールに斬りかかるザックス。
ピエールはダガーでなんとかそれを受け止めるが、体に思うように力が込められない。
ダガーは宙を舞い、後方の川に落ちてしまった。
第二撃。跳んでかわし、毛布を前方に放り投げる。
毛布のような、柔らかく、抵抗の少ないものは斬り飛ばしにくい。
一旦下がり、回避する。その隙に、ピエールが杖を振り、魔法弾を発射する。
魔封じの杖だ。ザックスが魔法も使えるとなると、選択肢は大幅に広がる。それを封じておこうというのだ。
種類にもよるが、総じて魔法弾はかなり大きく、速い。わずかにでも触れれば、その分効果が現れる。
だが、距離がありすぎた。大きく跳んで、回避する。
全く同じ手が何度も通用する相手ではない。単発での魔法弾の攻撃は、以後は見切られるだろう。なら。
「イオラ!」
ザックスとピエールの間に爆発が起こる。
視界を遮るためのものだ。イオよりも大きな爆発。そこに落ちていた毛布にも引火する。
毛布は黒い煙を出しながら、派手に燃え始める。
その後ろから、ピエールが杖をいくつも振る。
爆煙の中から現れる幾多の魔法弾。多少自分から逸れていたこともあり、一つ目は上手くかわした。
二つ目は見当違いの方向だ。
三つ目。前の二つよりわずかに速い。危なげなくかわす。下手な位置に移動して、後ろの魔法の玉に直撃しないかが気がかりだ。
四つ目。速い。かすってしまった。
五つ目。かわせない。直撃した。
ザックスの体には、今のところ体に異常は見られない。
相手の追撃が来ない。ネタが切れたのか。
爆煙で相手の位置が不確定な以上、今むやみに突っ込むのは危険だ。
煙が晴れるまで比較的範囲の広い魔法で攻撃することにした。
多少のダメージは期待できるはずだ。
「………!!」
声が出ない。そう、先ほどの魔法弾の効果はこれだったのだ。
イオラの煙が晴れ始めた。ピエールの姿が見当たらない。
かわりに、魔法の玉があった。燃えている毛布の上に。
炎によってまわりに付いていた氷は溶け、そのまま魔法の玉を熱し、ついに大爆発を起こした。
ピエールはザックスの後方にいた。
先ほどの魔法弾。それぞれ別の杖から放ったものだ。
一つ目の魔法弾はひきよせの杖。魔法の玉を引き寄せ、再利用するためのものだ。
二つ目はとびつきの杖。ザックスと魔法の玉から距離を取るためのもの。
三つ目は魔封じの杖。四つ目以降はようじゅつしの杖。
相手の行動を封じて損はない。
残念なことに、即効で動きを封じる効果は現れなかったようだが。
先ほどの亀たちも、今の爆発があればこの町に来るのは控えるだろう。
レーダーを見ると、ちょうどこの家を挟んだ向こう側に、二人いるのが確認できた。
ここから出ていってくれた方が今は都合がいいのだが。
ザックスのいると思われる方向を見る。
大きな噴水が見える。
(噴水か…。まさか!)
爆風に吹き飛ばされて落ちたのか、
吹き飛ばされる前に自分から飛び込んだのかでは、大きく意味が違う。
自分で連投規制を解く
答えは…後者の方だった。
ザックスは、魔法の玉が爆発する直前に、とっさに目に付いた噴水の池に飛び込んだのだ。
魔法の玉は、破壊力自体はかなりのものだが、範囲はそこまで広くはない。
池の中なら、熱風から免れることも出来るのだ。
そのおかげで、大した怪我はせずに済んだ。飛び込んだときに、少し頭を打ってしまったが。
非常に強い殺気を感じる。先ほどまでピエールがいた方向か、その建物の影だろう。
早く対処しないと、次に何をしてくるか分からない。
(何を俺は焦っているんだ?)
どうも感情を上手くコントロールできない。 この異常な状況のせいか。
が、相手を早く倒すに越したことはない。
建物の影にいる相手。普通の武器攻撃では届かない。
だが、スネークソード。この剣はその名のごとく、蛇のように曲がりくねった刀身を持つ。
空気の切り口が曲線になるため、これでかまいたちを放てば、曲がるのだ。
相手は建物の影から動いていない。
相手は武器はもう持っていないようだった。奇襲をかけ、もう一度接近戦に持ち込めば、勝てる!
集中。ザックスは建物の影にいる相手に向かって、かまいたちを放つ。
さらにそれを追い、追撃をかけんとする。
かまいたちは上手く弧を描き、…片腕の剣士に襲いかかった。
(な!?あの魔物ではなかったのか!?)
「フン、派手にやりあっていたから、どんなヤツらかと思って様子を見ていたら、
いきなり攻撃してくるとはな…。姉さんの敵になるヤツは全員殺す」
ザックスのミスの理由。
他の人間が来る可能性を考慮にいれていなかったこと。
ファリスを守ろうとしていたテリーの殺気があまりにも強く、ピエールの気配を打ち消していたこと。
とびつきの杖によるワープに気付かず、ピエールが先ほどまでいた方向から感じる気配をピエール本人のものだと考えていたこと。
そして、ようじゅつしの杖の、おびえの効果によって、冷静な判断が下せず、勝負を急いでしまったこと。
このため、望んでいない戦いをするはめになったのである。
一方で、ピエールも思わぬ事態に戸惑っていた。
戦況は変わったとはいえ、ここにいる相手は全員敵である。
行動を一つ間違えれば、身の破滅を招きかねない。
(次はどう動くべきか…)
【ピエール(HP3/10程度) (MP一桁) (感情封印)(弱いかなしばり状態)
所持品:魔封じの杖、死者の指輪、対人レーダー、ひきよせの杖[4]、とびつきの杖[4]、ようじゅつしの杖[3]
(オートボウガン、ダガーはカナーンの町に落ちています)
第一行動方針:この状況を切り抜け、休息
基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す
現在位置:カナーンの町、宿屋の脇】
【ザックス(HP9/10程度、ようじゅつしの杖の効果により、口無し状態、弱いおびえ状態)
所持品:バスターソード スネークソード 毛布
第一行動方針:事態の対処
第二行動方針:ピエールを倒す
最終行動方針:ゲームの脱出】
【テリー(DQ6)(左腕喪失、負傷(八割回復)
所持品:雷鳴の剣 イヤリング 鉄の杖 ヘアバンド 天使の翼
行動方針:『姉さん』(ファリス)の敵を殺し、命に代えても守り抜く】
【ファリス(MP消費) 所持品:王者のマント 聖なるナイフ
第一行動方針:事態の対処 第二行動方針:レナとバッツを探す】
【現在位置:カナーンの町、サリーナ宅裏】
先に動いたのはピエール。
オートボウガンでザックスを狙う。それを上手く回避するザックス。
もちろんピエールもこれが容易く命中するとは考えていない。むしろ、上手く壁際に追いつめるためのものだ。
ピエールはボウガンの矢に混じえて、魔法の玉をザックスに向かって投げつける。
手榴弾と思い、実際そのようなものなのだが、回避行動をするザックス。着地点となる場所からできるだけ下がる。
体が上手く動かないのか、投擲距離も短いようだ。回避は容易だと考えるザックス。確かにそのとおりだった。
が、地面に落ちても、魔法の玉が爆発しない。これは衝撃のみで爆発するような代物ではなかったのだ。
そのままころころと転がってくる。右は壁。後ろに下がり続ければ、相手との距離が空きすぎて、不利になってしまう。
左に逃げればボウガンの的になるだろうか。
目の前の爆弾が勝手に爆発することはあるまい、自分と爆弾との距離が近くなったその瞬間、誘爆させるに違いない。
となると、あの爆発の魔法だろう。ならば。
魔法の玉との距離はまだ空いている。今爆発はさせられまい。集中。そして、一閃。空気を斬り、かまいたちを放つ。
かまいたちは、ボウガンの矢を弾きながらピエールに迫る。ザックスはそれに続く。
ピエールにとって、遠距離攻撃がくるのは想定外だった。今魔法を使えば、誘爆は可能だが、自分も真っ二つになってしまう。
イオを使うのは一旦諦め、かまいたちをかわそう、とするが、またも体が上手く動かない。
仕方なく、オートボウガンで受け流すことにする。
だが、衝撃が大きく、オートボウガンが弾かれてしまう。
さすがに頑丈にできてはいるようだ、かまいたちを受けても壊れない。回収すればまだ使えるのだろう。
今そのようなことをする暇はないのだが。
ザックスがピエールに肉薄し、追撃を放つ。
ピエールはとっさに取りだしたダガーでなんとかそれを受け止めるが、体に思うように力が込められない。
ダガーは宙を舞い、後方の川に落ちてしまった。
第二撃。今度は跳んでかわすことができた。同時に毛布を前方に放り投げる。
毛布のような、柔らかく、抵抗の少ないものは斬り飛ばしにくい。
剣で払いのけたとしても、刃の部分に巻き付いてしまう可能性がある。
よって、一旦下がり、回避する。その隙に、ピエールは言霊を紡ぐ。
「イオラ!」
ザックスとピエールの間に爆発が起こる。
視界を遮るためのものだ。イオよりも大きな爆発。そこに落ちていた毛布にも引火する。
毛布は黒い煙を出しながら、派手に燃え始める。
その後ろで、ピエールは杖をいくつも振る。
爆煙の中から現れる幾多の魔法弾。多少自分から逸れていたこともあり、一つ目は上手くかわした。
二つ目は見当違いの方向だ。手元が狂ったのだろうか。
三つ目。前の二つより速いが、かわせた。後ろに下がると、魔法の玉を爆発させられる可能性がある。動きにくい。
四つ目。効果が違うのか、速い。少しかすってしまった。
五つ目。これはかわせず、剣で受け止める。が、すべてを受け止めることはできなかった。多少、体にも受けてしまう。
ザックスの体には、今のところ体に異常は見られない。
相手の追撃が来ない。ネタが切れたのか。
一旦呼吸を整えようとする。
「………!!」
口で息ができない。口が開かないのだ。おかしな効果だが、先ほどの魔法弾の効果はこれだったのだ。
そのため、調子を整えるのに少々時間がかかって、イオラの煙が晴れ始めるに至った。ピエールの姿が見当たらない。
かわりに、魔法の玉があった。目の前の、燃えている毛布の上に。
魔法の玉は激しく熱され、ついに大爆発を起こした。
ピエールはザックスの後方にいた。
先ほどの魔法弾。それぞれ別の杖から放ったものだ。
一つ目の魔法弾はひきよせの杖。魔法の玉を引き寄せ、再利用するためのものだ。
二つ目はとびつきの杖。ザックスと魔法の玉から距離を取るためのもの。
三つ目以降はようじゅつしの杖。相手の行動を封じて損はない。
残念なことに、即効で動きを封じる効果は現れなかったようだが。
先ほどの亀たちも、今の爆発があればこの町に来るのは控えるだろう。
レーダーを見ると、ちょうどこの家を挟んだ向こう側に、二人いるのが確認できた。
ここから出ていってくれた方が今は都合がいいのだが。
ザックスのいると思われる方向を見る。
大きな噴水が見える。
(噴水か…。まさか!)
爆風に吹き飛ばされて落ちたのか、
吹き飛ばされる前に自分から飛び込んだのかでは、大きく意味が違う。
答えは…後者の方だった。
ザックスは、魔法の玉が爆発する直前に、とっさに目に付いた噴水の池に飛び込んだのだ。
魔法の玉は、破壊力自体はかなりのものだが、範囲はそこまで広くはない。
池の中なら、熱風から免れることも出来るのだ。
そのおかげで、大した怪我はせずに済んだ。飛び込んだときに、少し頭を打ってしまったが。
非常に強い殺気を感じる。先ほどまでピエールがいた方向か、その建物の影だろう。
早く対処しないと、次に何をしてくるか分からない。
(何を俺は焦っているんだ?)
どうも感情を上手くコントロールできない。 この異常な状況のせいか。
が、相手を早く倒すに越したことはない。
建物の影にいる相手。普通の武器攻撃では届かない。
だが、スネークソード。この剣はその名のごとく、蛇のように曲がりくねった刀身を持つ。
空気の切り口が曲線になるため、これでかまいたちを放てば、曲がるのだ。
相手は建物の影から動いていない。
相手は武器はもう持っていないようだった。奇襲をかけ、もう一度接近戦に持ち込めば、勝てる!
集中。ザックスは建物の影にいる相手に向かって、かまいたちを放つ。
さらにそれを追い、追撃をかけんとする。
かまいたちは上手く弧を描き、…片腕の剣士に襲いかかった。
(な!?あの魔物ではなかったのか!?)
「フン、派手にやりあっていたから、どんなヤツらかと思って様子を見ていたら、
いきなり攻撃してくるとはな…。姉さんの敵になるヤツは全員殺す」
ザックスのミスの理由。
他の人間が来る可能性を考慮にいれていなかったこと。
ファリスを守ろうとしていたテリーの殺気があまりにも強く、ピエールの気配を打ち消していたこと。
とびつきの杖によるワープに気付かず、テリーの気配をピエール本人のものだと考えたこと。
そして、ようじゅつしの杖の、おびえの効果によって、冷静な判断が下せず、勝負を急いでしまったこと。
このため、望んでいない戦いをするはめになったのである。
一方で、ピエールも思わぬ事態に戸惑っていた。
戦況は変わったとはいえ、ここにいる相手は全員敵である。
行動を一つ間違えれば、身の破滅を招きかねない。
(次はどう動くべきか…)
【ピエール(HP1/5程度) (MP一桁) (感情封印)(弱いかなしばり状態:体が重くなり、ときどき動かなくなります、時間経過で回復)
所持品:魔封じの杖、死者の指輪、対人レーダー、ひきよせの杖[4]、とびつきの杖[4]、ようじゅつしの杖[2]
(オートボウガン、ダガーはカナーンの町に落ちています)
第一行動方針:この状況を切り抜け、休息
基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す
現在位置:カナーンの町、宿屋の脇】
【ザックス(HP9/10程度、ようじゅつしの杖の効果により、口無し状態{浮遊大陸にいる間は続く}、弱いおびえ状態{時間経過で回復})
所持品:バスターソード スネークソード 毛布
第一行動方針:事態の対処
第二行動方針:ピエールを倒す
最終行動方針:ゲームの脱出】
【テリー(DQ6)(左腕喪失、負傷(八割回復)
所持品:雷鳴の剣 イヤリング 鉄の杖 ヘアバンド 天使の翼
行動方針:『姉さん』(ファリス)の敵を殺し、命に代えても守り抜く】
【ファリス(MP消費) 所持品:王者のマント 聖なるナイフ
第一行動方針:事態の対処 第二行動方針:レナとバッツを探す】
【現在位置:カナーンの町、サリーナ宅裏】
『彼女の首輪……そうか、魔力を感じないんだ!』
アリーナの首輪を見つめていたエドガーは自らを束縛する首輪に触れ、その感触を確かめる。
この首輪にはエドガーがデッシュと共に行った今までの解析から
魔力と機械の両方の技術によって構成されていると結論を出した。
その内、魔力は爆発の力に使われているはずである。
そうでなければ、魔王クラスの力を持つ参加者やあのケフカを殺せるような爆発を
起こせるはずがない。しかも首を飛ばすほどに範囲を限定された威力をだ。
『だったら……だったら彼女の首輪は取り外せるのではないか?』
魔力を感じないなら取り外そうとしても爆発は起こらないかもしれない。
しかし――。
『これは推論にすぎない。
私も魔法に精通しているわけではないから、極微量な魔力を感じ取れないだけかもしれない。
それに、もしそうだとしても何故そんな不良品が彼女の首に嵌まっている?
魔女のミス? イレギュラー? それとも遊びか?』
爆発しない首輪に怯え、右往左往する参加者を見て嘲笑う。
あの魔女ならばやりかねない。
そして…… 一番考えたくないが罠だった場合。
魔力を感知できないようにしておいて、安全だと思った参加者が首輪を取り外し、爆発。
参加者の希望を刈り取り、絶望を植えつける最良の手段だ。
『だが、それならばその処置を全員の首輪に施していてもおかしくない。
というよりそうしていなければおかしい。何故彼女だけが……』
全員の首輪に魔力遮断が施されていれば、人の集まる序盤で先程の悲劇は起こっていただろう。
そうすればよりこのゲームを加速させることが出来ていたはずだ。
ならば……本当にイレギュラー? 彼女の首輪は爆発しない?
『もしもそうならば……彼女の首輪を取り外し、中身を解析することができたなら……』
自分達の首輪も外せるかもしれない。
エドガーが推測する首輪に付いている機能は5つ。
あらゆる参加者の命を握る爆破装置。
生死の判断に使用する生命検知装置。(恐らく対人レーダー等はこれに反応している)
参加者の声を主催者側に送る盗聴機能。
主催者の送る爆破信号を受け取る受信機能。
そしてある程度の負荷を一定時間以上受け続けると爆弾を作動させるセンサー。
この内の受信機能とセンサーの二つを外部から無効化できるようになれば……!
いや、盗聴器に関してはいくらでも誤魔化しようはある。
それで主催者を欺くことが出来れば……センサーだけでも無効化できれば勝機はある!
『何とか確証を得たいな……魔法に関してはシンシアは私とそう変わらない。
アリーナは呪文が使えないということだし……リュカなら、判断できるか?』
シンシアは言っていた。彼の呪文量は高位の神官や僧侶並だと。
彼ならばあるいはアリーナの首輪について
魔力が隠蔽されているのか、そうでないのか判断できるかも……。
期待がエドガーの中で膨れ上がる。だが軽はずみに行動する訳にはいかない。
事を急いたために今朝、右手を失ったばかりなのだ。
そして何より、今度は他人の命が掛かっている。慎重に慎重を重ねなければならない。
アリーナの首輪に我々に嵌っている首輪のように魔力が感じられないのはどういう訳か。
充分に警戒して確認しなければ。
『いや、やはり本職の魔導師ではないリュカでは力不足かもしれん。
ここは魔術に精通した者を探す方がいいだろう。
しかし話をする必要はある……が、今はまだ黙っておいた方がいいな。
リュカもアリーナも傷を負っているし、リュカはリノアの亡くしたばかりでまだ心が弱っている。
もう少し回復を待ってから話すべきだろう』
それにこの話をするということは、盗聴器のことを考え必然的に筆談ということになる。
おそらく長文を繰り返すことになるため、現在の手持ちの紙では不都合だ。
エドガーはサスーン城に入るまではこの件は自分の心にしまっておくことにする。
しかし今後の為に、エドガーは再び首輪の研究メモと懸案事項のメモの執筆を始めた。
右手がないため書きにくいが、元々左利きの彼はすぐに慣れてスラスラと筆をすべらせていく。
そういえばリュカは強がって動くだけなら問題ないと言ってはいるが、
まともに立ち上がることも出来ないアリーナと似たような状態だろう。
正午までもう少しだが、この場所に留まる時間を延長するべきだろうか。
筆を滑らせながら彼の思考は現実的な部分へと移行していった。
エドガーがそんな考えに没頭している間、アリーナは必死に策を練っていた。
『こいつらは正午を過ぎるとサスーン城に向かうと言っていた。
冗談じゃないわ! そこにはあたしを斬った忌々しいあいつらが……』
そしてこいつらと奴らが接触した瞬間、アリーナの正体は暴かれ、命運は尽きる。
今の自分は歩くことで精一杯だろう。とても逃げ切れない。
何とか行き先を変更させるか、せめて走れるまでに回復するまで逗留を延長させなくては。
その時、ふと気付く。
自分はサスーン城から逃げ出したとき、奴らからザックを一つ奪ったはずだ。
そのザックはどこだろう。
中に入っているアイテム次第では上手く立ち回れるかもしれない。
となりで腰を下ろして休んでいる少女を見る。
確か名前はシンシアといったか。聞き覚えのある名前だが、思い出すことが出来ない。
向こうも自分を知らないようだし、特に知り合いというわけでもないのだろう。
彼女に聞いてみよう。
「えーと、シンシア? 私の持っていたザックはどこにあるか知らない?」
「え? えーとリュカさん、分かりますか?」
『何のためにアンタに話振ったか少しは考えようね♪
思わず殺したくなっちゃう♪』
湧き上がる殺意を必死で押し殺し、アリーナはリュカの方へ恐る恐る視線をやる。
「ああ、アリーナのザックならここだよ。
エドガーさんがカインから受け取っていた」
そういって傍らにまとめて置いてあったザックから一つを取り出し、アリーナに渡す。
リュカの態度はどこかよそよそしい。
先程、自分に妻子があることをアリーナに説明して
彼女の求愛をきっぱり断ったのだがそれを気にしているらしい。
この気まずい雰囲気は目を合わせたくないアリーナとしては願ったりだ。
ちなみにカインはそのザックを本当は回収しようとしたのだが、
エドガーに見咎められしぶしぶ諦めていたという経緯があった。
「あ、ありがとう……ポ」
目を合わせないように俯いて、ザックを受け取る。
興味津々で覗いてくるシンシアの視線を背中でガードしてザックを探ってみた。
通常の配給アイテム以外に中から出てきたのは……まず皆伝の証。
『やった! これがあれば……』
早速、装備する。これで相手が一回行動するうちに四回攻撃できる。
現在の自分の状態では役立たずだが、回復さえすれば非常に役立つアイテムだ。
そしてもう一つ……それは紅い刀身の剣だった。
『これは……あの黒い服着てた男が使っていた剣!』
そうだ、そして自分はこの剣で最も手酷いダメージを負ったのだ。
何て忌々しい……自分は剣を使えないし、交渉道具として使うしかないかも知れない。
「わぁ綺麗な剣……」
いつの間にか側面に移動していたシンシアが声を上げる。
『このアマ……!』
思わず声を上げかけるアリーナ。
周囲への警戒を欠いてシンシアの気配に気付かなかった自分も問題だが、
それよりもこれで自分が武器を持っていることを悟られてしまった。
ふと見ると、すでにエドガーとリュカの注目を集めている。
「確かに綺麗だ……けど何か底冷えするような威圧を感じる……
何か呪いの武器の類じゃないでしょうね」
「いや、あの刀身には見覚えがある。私が知っている物とは多少装飾が違うが間違いない。
あれはブラッドソードと呼ばれる妖剣だな。
少々物騒な能力を持ってはいるが呪い等は掛けられていないはずだよ」
リュカの懸念にエドガーが答える。
アリーナは考える。これで自分の手の内は彼らに知られてしまった。
だが自分はこの剣の能力を知らない。情報を引き出さなければ、不利になるだけだ。
「エドガーさん、その物騒な能力って何なんですか?
怖いけど自分の武器だし、知っておきたくて……」
なるべくか弱そうな声を出す。
ふむ、と鼻をならしてエドガーは顎を撫でる。
「レディは今までその剣を振るわなかったのかね?
……まぁいい、お教えしよう。その剣は所謂「吸血」の効果を持っている。
斬った相手の生命力を血液を介して刀身から吸収し、持ち主の活力へと変換するんだ。
相手へのダメージと同時に自身の回復を行う、利便性の高い武器ではあるが
血を吸うというその効果から忌み嫌われ、妖剣と呼ばれるようになった。
アンデッドモンスターを相手に使うと逆に生命力を奪われてしまうから気をつけたまえ」
そう、エドガーは説明した。――説明してしまった。
それを聞いてアリーナは心の中の唇を耳まで裂いて吊り上げる。
「そう……それは、とても恐ろしい能力ね……」
アリーナの脳が高速で活動を始める。
生き残るために、勝利するためにどうすればいいのか思考する。
「あの、みんなはどういった道具を持ってるの?」
そして、アリーナは行動を開始した。
全員のアイテムを聞いて ―― ご丁寧にもエドガーの解説付きで ―― アリーナはほくそ笑む。
飛び道具がない。そしてリュカとシンシアは魔法力を限界近く消費しているという。
『あたしのために――ね』
エドガーも下位魔法しか使えないうえに、魔法力も自分の右手の治療のために半分以上消費しているようだ。
彼は元々魔法は得意ではなく、武器や機械での攻撃を好んだため魔石を使用する機会が少なかった。
その為、魔法力の絶対量も習得した魔法の数もティナやセリスに比べて劣っていたのだ。
アリーナはブラッドソードを腰に下げ、ゆっくりと立ち上がる。
途端に眩暈に襲われ、よろついたところをシンシアに支えられた。
「突然どうしたんですかアリーナさん? まだ動いちゃ駄目ですよ!」
「でも私……いかなくちゃ」
そういって足を引き摺る。
「まぁ待ちたまえレディ。突然どうしたのかね?
そんな身体では何をするにも何処に行くにも不自由だろう。
話してみたまえ。力になるよ」
「その通りだよ、アリーナ。僕たちを信用して欲しい」
エドガーとリュカも立ち上がり、口々に言う。
アリーナは頬を染めて俯き、ボソボソと喋る。
「や、エドガーさんには絶対付いてきて欲しくないの……
まぁリュカなら……どうしてもっていうなら……我慢するけど」
「?」
アリーナ以外の全員の頭に疑問符が浮かぶ。
どうやら、このチームから離れるとかそういう話ではないようだ。
アリーナはもじもじと身体をくねらせ、恥ずかしそうに口にする。
「……………………おしっこ、漏れちゃう」
ピギッ
空気が凝固したかと思うような音が全員の脳内に響く。
エドガーは再び腰を下ろし、リュカへと声をかける。
「あー、付いていくかねリュカ?」
「遠慮します。シンシア、彼女に付き添ってあげてくれ」
「はい、わかりました」
リュカは即答し、頭痛を堪えるように頭に手を沿えながら腰を下ろす。
そしてアリーナはシンシアに支えられながら、巨木から少し離れた木陰へと移動した。
『勝つため、生き延びるためならこんなの恥でも何でもない……何でもない』
顔を真っ赤にして、そんなことを呪文のように繰り返しながら。
リュカとエドガーからは完全に見えない位置に移動して、シンシアは呆れたような声を出した。
「アリーナさんったら……ああいうことは最初から正直に話したほうが
恥ずかしさも少ないんですよ?」
「ごめん、苦労をかけるわねシンシア……」
「もう、おっかさんたらそれは言わない約束でしょ」
茶化して返すシンシアにアリーナは真剣な表情でその目を見つめる。
「冗談じゃなくて、シンシアには本当に世話になってるわ。
だからお礼がしたいの」
「そんな、お礼なんて……何してもらおうかしら♪」
シンシアは顎に指を当てて、考える振りをする。
「ええ、あなたには本当に世話になったわ……だから……
あなたが綺麗だと言ったこの剣をあげようと思うの」
「え?」
ふとアリーナの方を向いたシンシアは突然喉を掴まれた。そして――
ズ ブ リ
ゴキュッ――ズキュン――ドクン――
「か……ハッ、アリー、ナ……あ、なたは」
「へえ、本当に力が湧いてくるわ。傷もだんだんと塞がっていくのが分かる……」
アリーナの握るブラッドソードはシンシアの腹部を貫いていた。
紅い刀身が輝き、溢れ出る血液を吸収しているのがわかる。
急速に失われていく生命力と喉を掴まれているせいでシンシアは声を出せない。
皆の前であんな恥ずかしい小芝居をしたのも、全て自然な形で彼女と二人きりになるため。
シンシアの懐から万能薬を回収し、アリーナはニッコリと微笑んだ。
「ゴメンね、あたしの栄養になって♪」
シンシアは答えない。答えられない。
完全に脱力したシンシアから、ずるり、と剣を引き抜く。血は殆ど流れ出ない。
しかし全身を真っ青に変色させながらシンシアにはまだ僅かに息があった。
「……ソ、ロ……」
―― もう一度だけ……会いたかったな…… ごめんね ――
その呟きと思考を最後にシンシアはがっくりと項垂れた。
そしてその言葉を聴いて偽りのアリーナはオリジナルの記憶を思い出す。
「ああ、この娘……隠れ里でのソロの幼馴染だっけ。
話に聞いてただけだから判らなかったなー」
『でも、これでソロに対する呪いの材料が増えたわね……』
勝利するために、生き残るために、呪える奴らは皆呪ってやる。
だが手始めはあの二人だ。
吸血のおかげで大分回復したとはいえ、まだ本調子ではない。
怪我人とはいえ二人の戦闘巧者を無理に相手にするつもりは更々なかった。
自分は学習する女だ。だがこのまま逃げたのでは面白くない。
後を有利にするためにも、呪いは是非ともかけておきたい。
アリーナは随分と軽くなったシンシアの身体を担ぎ、木をよじ登り始めた。
「呪いを効果的にかけるには演出が大事よねー♪」
そんな事を口走りながら。
「遅いですね、シンシアたち」
「レディには色々とあるものだ。気を長く持つべきだよ」
「はぁ」
リュカが力ない受け答えをしたその時、ガサリ、と木々が揺れる音がした。
二人は即座に立ち上がり、周囲を警戒する。
「この気配は……」
「判りません、だけどただの動物や風ではないみたいです……」
ふと二人に降りかかっていた木漏れ日に影が射す。
「上だ!」
リュカの声で咄嗟に降ってくる何かから身をかわす。
ドサリと音を立てて落ちてきたのは……血塗れのシンシアだった。
「シ、シンシア!?」
エドガーはすぐに駆け寄り、容態を調べる。
リュカも駆け寄ろうとしたその時、哄笑が聞こえてきた。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ」
その声は……アリーナ。
「アリーナ、君は!?」
その問いを発した瞬間にもうリュカは理解していた。
シンシアを手にかけたのが彼女だということに。
ガサガサガサ、と音が鳴り、木の上からアリーナがリュカの前に降り立った。
10mほどの間合いを空けてアリーナは不敵に微笑んでいる。
「ウフフ……彼女の血はとても美味しかったわ……ごちそうさま♪」
唇を舐めるアリーナを見て、リュカの全身はざわつく。
「はじめから……騙していたのか!」
「そうよ、はじめから騙していたの。おかげで吸血剣の話を聞けたのは幸運だったわ。
ビアンカっておばさんの血もこうして吸えたら良かったのにな。
ま、とりあえずこれで満足だから私は行くね。また会いましょうリュカ」
そういってアリーナはくるりと無造作に身を翻し、歩き去っていく。。
しかしリュカは先程のアリーナの言葉に戦慄していた。
全身から汗が噴出し、不安が心臓を締め付けてくる。
「待て、何故ビアンカの名を知っている。
会ったのか、彼女に!? 彼女をどうした!!」
アリーナは振り向いたがその問いには答えない。ただ、笑った。
ニタリ、と口を裂いて。
「貴様ァーーーーーーーーーーー!!」
リュカはアリーナに向かって駆け出そうとするが、足が動かずにすぐ膝を突いてしまう。
強がってはいてもやはり戦闘に耐えられるほど回復はしていないのだ。
それならば、とリュカは手をかざし呪文を唱えようとする。
「あら、いいの? 私なんかに残り少ない呪文使っても?
彼女はまだ生きてるんだけどなー?」
ハッとしてシンシアの方を振り返る。
そこには必死にシンシアに回復呪文をかけるエドガーの姿があった。
「彼女の言うとおり、シンシアはまだ生きている!
リュカ、手伝ってくれ! 彼女を追うよりもこちらが先決だ!」
リュカは仇とシンシアを前に一瞬、迷いをみせたが
ついにアリーナに背を向け、シンシアの治療に入る。
呪文を唱え、癒しの光をシンシアにかざした。
しかしリュカの魔法力はすでに残り少なく、すぐに光が弱まっていく。
「頼む、助かってくれ……頼む、もう嫌なんだ……目の前で人が死んでいくのを
ただ見ているのは、何も出来ないのはもう嫌なんだ……頼む……」
額に汗を浮かべ、必死に何かにリュカは懇願する。 だが……。
「ああ、忘れ物しちゃった。 私はもう使わないし、コレ、あげるね」
ヒュオッ
そんな声の後、鋭く風を切る音がした。
治療に集中していたリュカは反応できない。エドガーはもとより気付いてもいない。
鋭利な何かがリュカの背後から風を切って襲ってくる。
『殺られる!』
ドカァッ
リュカがそう思った瞬間、飛来した剣は突き立った。
―― シンシアの即頭部へと。
紅い刀身がシンシアの頭蓋を断ち割り……彼女は即死した。
「あ……」
リュカもエドガーも声を発することが出来ない。
振り向いたそこにはアリーナの姿はすでに見えない。
リュカは呆然とシンシアを抱きかかえる。
そこにまたアリーナの声が聞こえてきた。
「ウフフ、楽しんでくれたかしらリュカ?
私はあなたに心を覗かれそうになってからずっと思っていたわ。
こんな屈辱は初めてだって。絶対に苦しめて殺してやるって。
苦しめて苦しめて一番最後に殺してやるって! 貴方は今、苦しんでくれているかしら?
リュカ、私はね……私はあなたを……」
そしてアリーナは静かにその言葉を口にした。
「私はあなたを憎んでいます」
それは真実の誓い。
しかしその場に居たもの全てを絶句させるほどの力を持った呪いの言葉。
そして再び哄笑を残して、彼女の気配は完全に消えた。
沈黙が、降りる。
ガン、とエドガーは巨木の幹を叩いた。
「糞、私の責任だ……! 私が彼女を救ってしまった!!」
自分の見込みの甘さのせいでシンシアを失ってしまった。後悔しても仕切れない。
『だが、これで遠慮はいらなくなった……次に会うときは
そのそっ首叩き落として首輪を頂くぞ、アリーナ!』
エドガーは暗い決意を秘める。
そして……リュカはただ心を失ったようにシンシアを見つめていた。
唇が震える。
「何故だ……僕は家族や、手に届く人たちだけは守りたいって……
ただ、それだけで……なのに、なのに僕は……どうし、て……何も……できない?
どうして……」
リュカはシンシアの頭蓋を割っているブラッドソードに手を掛けた。
そこから流れ込んでくるのは正真正銘、シンシアの命の最後の一滴。
不意に涙がポロポロと溢れ出てくる。
「う、うぁ、うああああああ……」
力ない慟哭が……静寂の森の空気を僅かに震わせた。
【アリーナ2(分身) (HP4/5程度)
所持品:E:悪魔の尻尾 E皆伝の証 万能薬
第一行動方針:潜伏する場所を探す
第二行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない
最終行動方針:勝利する 】
【リュカ(HP1/2程度 MP残量一桁 左腕不随)
所持品:お鍋の蓋 ポケットティッシュ×4 アポカリプス+マテリア(かいふく) ブラッドソード
第一行動方針:慟哭 基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【エドガー(右手喪失 MP1/3)
所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン 血のついたお鍋 再研究メモ
第一行動方針:シンシアを埋葬する
第二行動方針:アリーナを殺し首輪を手に入れる
第三行動方針:仲間を探す 第四行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【現在地:カズス北西の森の巨木の根元】
【シンシア 死亡】
※再研究メモには以前の研究メモよりも首輪について少しだけ詳しい事柄が書かれています。
(アリーナの首輪に関する事項や、確定していないその他の事項等)
「…気分はどうだ?」
目が覚めるや否や、マント姿の男にそう聞かれた。
どうやらここは森の中のようだ。
一瞬、記憶が混乱する。
…確か、あのセフィロスのクソ野郎と戦って、肩を撃たれて、それからいきなり眠くなって…
そこから先が、ぼんやりしていてよく判らない。
「あまりよくないようだな。
まあ無理もない。おまえはもう少しで殺されていたのだからな」
「…誰だ?」
あまり回らない舌で短く問うと、目の前の男は、こう答えた。
「私はウィーグラフだ。ウィーグラフ・フォルズ」
「そうか…俺はジタン・トライバルだ。あんたが助けてくれたのか?」
「まあそうなるな」
ウィーグラフと名乗った男は軽くそう言うと、「動けるか?」と聞いてきた。
言われるがままに体を動かそうと試みる。
が、全身が痺れたようになっていて、あまり言う事を聞かない。左手でゆっくり地面をまさぐるが、指先の感覚がない。
次に右腕を動かしてみると、肩が激しい鈍痛に襲われた。
「痛っ!!」
その痛みに、思わず呻く。
「…ああ、肩の損傷が思ったより酷いな。それなら少しじっとしてろ。治してやる」
思うように動けないジタンを見下ろしながら、ウィーグラフは彼に歩み寄った。
「…なあ、一つ聞いていいか?」
あいかわらず地面に寝そべりながら、ジタンがウィーグラフに目を向ける。
ウィーグラフは顔だけを彼に向けた。
「あんた、ゲームには乗ってないよな?」
ジタンはわかりきった質問のつもりだったが、その答えは少し意外だった。
「どうかな…乗っているとも言えるし、乗っていないとも言える」
「………?」
「まあ、その事については後で話そう。それよりもほら、治療してやるからじっとしていろ」
「清らかなる生命の風よ 天空に舞い 邪悪なる傷を癒せ ケアルラ」
何度目かの静かな詠唱の後、傷に添えられた手に青い癒しの光が宿る。
同時に、銃で撃たれた傷が塞がり、その苦痛が大きく和らいだ。
「…っと、ありがとうな」
起き上がりながら、礼を言うジタン。
「危ないところを助けてくれたし、肩は治してもらったし、何て言ったら…」
「いいさ。私は突然奴が憎らしくなっただけだから」
ウィーグラフはジタンの言葉を遮ると、木に寄りかかって腕を組んだ。
どうやら、回復魔法を何度も使ったせいで少し疲れたらしい。
…エリクサ―を使えば簡単に治療できたが、残念ながら彼はそこまでお人好しではない。
「…ところでさ」
しばらくしてから、またジタン。
「あんた、さっきゲームに乗ってるとも乗ってないともいえるって言ってたけど、どういうことだ?」
「…すまないが、先に私の質問に答えてくれないか」
閉じていた目を開け、自分と同じように木に寄りかかっていたジタンを見据えながら、ウィーグラフ。
「お前、どうしてあの男に戦いを挑んだ?」
ジタンは少し面食らった。
「実力差からして勝てない事は戦う前からわかっていたろう。なのにどうして逃げもせずに奴に挑んだ?」
解せないとばかり、ウィーグラフは言う。
だがジタンにとっては、先程と同じようなわかりきった質問のように思えた。
「どうしてって…あいつは何人も人を殺してるんだ。俺が知ってるだけでももう6人も。そんな奴を」
「野放しにするわけには行かなかった、か」
間を置いてから話し始めたジタンの言葉の先を読んで、ウィーグラフ。
「奴は兄弟がどうとか言っていたが?」
聞きたい部分を挙げる彼に、ジタンは少し目を細めた。
「兄弟、か…あいつ…クジャと俺が兄弟だってのはつい最近知った事だし、
本当にそういうことになるのか俺にはよくわからないんだ」
そこで少し区切ってジタンは首を横に振る。
「でも、確かにあれはクジャの仇討ちでもあった。
ああ。俺の目の前で死んだあいつは、俺の兄貴だっていまなら言えるぜ」
「………」
語り終えたジタンを、ウィーグラフは黙って見据えていた。
話から察するに、自分とジタンは似ても似つかなかった。
彼はウィーグラフのように復讐に狂っていたわけではなく、どちらかと言えばマーダーを止めようという、
おそらくこのゲームにおいてありがちであろう意思でセフィロスに挑んだのだ。
むしろラムザに似る物があった。
自分の抱く意思こそが正しいと信じて疑わない、そんな奴だ。
ため息が出る。
目の前の男の内面を少し知り、彼に対する興味は突然薄れた。
あの時突然こみ上げてきた怒りや、妙な満足感すら嘘のように思える。
「…なあ」
ふと、ジタンが口を開いた。
「これで一応俺の方は話したし、今度はあんたが話す番だぜ」
今となっては、ジタンと話しているのがひどく時間の無駄のように思える。
が、それでもウィーグラフは話し始めた。
「…ある参加者を追っている。かつて私から全てを奪った男だ」
「…全てを?」
「そうだ。奴への憎しみを除いた、全てをだ」
怪訝そうに口を挟むジタンに、ウィーグラフが吐き捨てるように付け加える。
「お前によく似た男だ。”正義”というモノを信じきっている」
また首をかしげるジタンに構わず、続ける。
「私も一時期はソレを信じて戦っていた。奴…ラムザと出会ったのもちょうどその頃だ。
といっても私達はその頃から既に敵同士だった。
なぜならその時の奴にとっての正義は私を殺す事で、その時の私にとっての正義は奴を殺す事だったからだ」
「なんで…」
「”正義”とは結局そんな物だという事だ。
人や立場によって簡単に変えられてしまう幻惑なのだよ、ジタン・トライバル」
ウィーグラフはそこまで言い、「まあ、そんなことはこの際どうでもいい」と、
何か言い返そうとするジタンに釘を刺した。
「その戦いで20年以上ずっと共に生きてきた妹が死に、仲間を一人残らず失い、
私の描いた理想はその全てが消えてなくなった…あの時に悟った。
正義や理想など、力が無ければただの幻想でしかないとな」
しばらく間を置いて、ウィーグラフ。
「そしてその後、私は奴への復讐の機会を狙いつづけた。
悪魔に魂を売ることすら躊躇わず、堕ちるところまで堕ちた。
しかし…それでも奴には勝てなかった。その時、私自身も奴の剣に倒れ、死んだ」
まあ手短に話すとこんなところだ、と、ウィーグラフは語り終えた。
「それで…」
理解できないといった表情で、ジタン。
「それで、このゲームでまたそいつに復讐する気なのか?」
「ああ。それが乗っているとも乗っていないとも言える、ということだ」
当然だとばかり、ウィーグラフが返す。
「そんな…それじゃあんたはそれだけの為に生きてるのかよ!?
そのラムザってのがどんな奴かはよくわからねえけど!それじゃ「黙れ」
ウィーグラフがジタンの言葉を遮った。
その声は先程までの落ちついた口調とはうってかわって、重い脅すような響きがあった。
「…知った風な口を聞くな。お前ごときに何がわかる」
言い、刺すような目でジタンを睨みつける。そのまま、またも長く重い沈黙がおりた。
結局、2人は全く違う意思の持ち主だった。
ウィーグラフがジタンに自分の姿を重ねていた事はもはや言うまでも無い。
ジタンもまた、セフィロスから命を救われた事で、
彼もまた自分と同じように、ゲームに乗ろうとしていない参加者の一人だと思いこんでいた。
が、そのどちらも違った。
かたや魔女に反抗しようとしている青年。
かたや復讐にその力の全てを傾ける騎士。
どちらも、決して相容れる存在ではなかったのだ。
「…さて」
一分にも一時間にも感じられた沈黙を破ったのはウィーグラフだった。
「長話をしすぎたようだな。私はそろそろ行く」
「お、おい」
荷物をまとめてさっさと歩き去っていくウィーグラフを、ジタンが静止しようとする。
「…セフィロスといったな」
そんなジタンを、肩越しにウィーグラフが見やる。
「あの黒服の男は森の奥へ逃げて行ったぞ。重傷を負ってな。 止めを刺すなら、今だ」
「…あんたはどうすんだ?」
「参加者は日が暮てから村や町に集まる可能性が高い。それまでは別の所を探す」
「………」
背後からのジタンの問いを淡々と受け流しながら、彼は森の外の方へと消えていった。
ジタンもその場を離れたのは、ずっと後のことだ。
こうして異なった二人は出会い、別れた。
二人が再び会うことは、もう二度とないかもしれない。
【ウィーグラフ (MP消費)
所持品:暗闇の弓矢、プレデターエッジ、エリクサー×10、ブロードソード、レーザーウエポン、
首輪×2、研究メモ、フラタニティ、不思議なタンバリン、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、
黒マテリア、グリンガムの鞭、攻略本、ブラスターガン、毒針弾、神経弾
第一行動方針:ジタンを起こす
第二行動方針:生き延びる、手段は選ばない
基本行動方針:ラムザとその仲間を殺す(ラムザが最優先)】
【現在地 カズス北西の森→東へ】
【ジタン(左肩軽傷)
所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面 釘バット(FF7) グラディウス
第一行動方針:不明
基本行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【現在地 カズス北西の森】
同方向へと移動を続けているであろう、
つまり自分の歩みではいつまでたっても距離の縮まらない気配を追って
それでもクリムトは急ぐ事も無く、淀みない歩みを続けていた。
既に水の気配は遠くへ去り、
吹き抜けてゆくは岩と草の香り。
そして、今はまだ晴天の巻雲の如き微かなしるし、乱れながら、
一歩一歩ごとに強まる殺気、血の気配、暗い流れ。
先程などは怨霊、死霊の力さえ感ぜられた。
距離は離れてしまったが、前を行った気配は確実にそちらへ向かっているはず。
正しきを導き、悪しきをまた導く。
賢者として自分に課した役割を思い出し、もう何かに躓くことも無い、
およそ光を失った者とは思えない確実な歩みが遥か先の悪意へと近づいてゆく。
オルテガとパパス、二人の偉大な親父は西へと進路をとっていた。
旅の扉から放り出された先は穏やかな平地。
まずは素早く地図を広げ現在地を確認、南方に見える孤峰より位置を確定。
それからそれぞれの探し人を求め、その山の西にある町、カナーンを目的地に定めた。
なだらかな丘の向こう、目に頼らず人ならざる力で二人に気付いた賢者に会わぬまま。
旅慣れた頑健な足は速く、的確に地を蹴って前へ進む。
誰とも遭遇しないままに、
はや二人はカナーンを微かに望むことのできる場所まで辿り着こうとしていた。
盲目の賢者は、急ぐ事も焦る事も動揺する事もなく歩む。
勇敢な男達は、勇気と確固たる意思を持ち前へ進む。
異なる歩み、同じ道。辿り着く先は戦いの気配渦巻くカナーン。
そこで何が起きようとしているのか、彼らに知る余地は無い。
【クリムト(失明) 所持品:力の杖
基本行動方針:誰も殺さない。
最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【現在位置:カナーン北東・峡谷の中ほど】
【オルテガ 所持品:ミスリルアクス 覆面&マント
第一行動方針:アルスを探す
最終行動方針:ゲームの破壊】
【パパス 所持品:パパスの剣 ルビーの腕輪
第一行動方針:仲間を探す
最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:カナーン北東・峡谷出口】
【ウィーグラフ (MP消費)
所持品:暗闇の弓矢、プレデターエッジ、エリクサー×10、ブロードソード、レーザーウエポン、
首輪×2、研究メモ、フラタニティ、不思議なタンバリン、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、
黒マテリア、グリンガムの鞭、攻略本、ブラスターガン、毒針弾、神経弾
第一行動方針:ジタンを起こす
第二行動方針:生き延びる、手段は選ばない
基本行動方針:ラムザとその仲間を殺す(ラムザが最優先)】
↓
【ウィーグラフ (MP消費)
所持品:暗闇の弓矢、プレデターエッジ、エリクサー×10、ブロードソード、レーザーウエポン、
首輪×2、研究メモ、フラタニティ、不思議なタンバリン、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、
黒マテリア、グリンガムの鞭、攻略本、ブラスターガン、毒針弾、神経弾
第一行動方針:ラムザを探す
第二行動方針:生き延びる、手段は選ばない
基本行動方針:ラムザとその仲間を殺す(ラムザが最優先)】
ここはカズスから北西の方角に広がる森の中。
フリオニールは、カインに「好きに行動させてもらおう」とは言ったものの、素直にカズスの村へと移動していた。
それは、自分が余計な場所へふらふらと移動して無駄に窮地に陥ったりなどの危険を無くす為だ。
本当は色々な場所へと移動したかった。この世界やここにいる人間などの情報が欲しかったからだ。
だが今は相手に「日没に落ち合おう」という約束を自分からした身。そう危険な事は出来ない。
と、突然フリオニールは足を止めた。
突如何者かの気配を感じたのだ。
「先手を打つか」
彼はそう呟くと、ラグナロクを構えて気配のする場所へと走っていった。
丁度良い。このまま参加者を消してしまおう。
そう考えての行動だった。
気配の主であるアルスとシドはカズスの村へいく為、砂漠を選ばずにカズスの北西付近の森の一端を抜けようと進んでいた。
「やはりあそこはチョキを出すべきだったのか……」
「今更ぼやくなよ、意味無い意味無い。それにどんな反省会だそれ」
そう、アルスはシドとのじゃんけん勝負に負けてしまい、しぶしぶカズスへと歩いていたのだ。
「ところで、お前の傷口……本当に大丈夫なのか?僕の魔力ならほぼ塞ぐことは出来るんだが」
「ここで無駄に魔力使うのも能天気な話だろうが。大丈夫だって、軽く動かせるしな」
「だが……」
「煩ぇ、ガキは黙って大人の言うこと聞いてろ」
「なんだと?」
シドは左肩を軽く動かしながらそう言っていたが、
アルスは軽く不快感を示しながら反論していたが、
謎の気配を感じ、2人の言葉はそこで止まった。
目の前から迫ってくる人影。それは銀髪の謎の男。
銀髪の男――それはフリオニールなのだがアルスたちには知る由もなく――はラグナロクの一撃をアルスに叩き込んだ。
だがアルスはそれをドラゴンシールドでなんとか弾いた。
しかしまだフリオニールの猛攻は止まらない。何発も何発も斬撃を放つが、アルスはそれを黙って盾で受け止めていた。
「フッ、何かと思えば攻撃一辺倒とは……」
「フン、何も考えずに防御一辺倒とは……」
「「くだらない」」
2人の声が重なるその場で、シドはビーナスゴスペルを構え立っていた。
アルスに左肩は大丈夫だといったものの、自分の完璧なコンディションでは無い以上今は危険だ。
暫くはアルスの補助といくか、と彼は武器を握り締める力を強めた。
アルスはシドの状態を気にかけつつも、まずは目の前の人間をどうにかすることを先決としていた。
ドラゴンシールドとドラゴンテイルを構え、目の前の人間を見据える。
相手はかなり強敵だろうという事が雰囲気だけでわかる。だが、負ける訳にはいかない。彼は相手を更に睨んだ。
目の前にいる2人はなかなかの実力者なのだろう、とフリオニールは感じ取った。
そしてラグナロクを構え、少し考える。少年を狙うべきか、それとも体格の良い男を狙うべきなのか。
だがどちらにしろ自分でまいた種だ。この状況を切り抜けるには相手の命を絶つ事が最良の選択。彼もまた武器を構えた。
そして、最初に動いたのはアルス。
ベギラマを唱えて瞬時にドラゴンテイルを振ると、中規模の爆破と竜の尾を模した鞭が同時に相手に襲い掛かった。
だがそれはフリオニールにいとも簡単に避けられてしまった。
そう、障害物がある場所では鞭の様な攻撃は使いづらい。事実、ドラゴンテイルは周りの樹に当たってしまいそうになっていた。
更にあまりにも規模の大きめの呪文はこんな狭い場所、ましてや森の中では呪文自体が視界を覆い隠し使いづらい。
フリオニールはそのまま、アルスへと一直線に肉薄した。
そしてラグナロクをまたも振りかぶった。しかしそれはドラゴンシールドで止められる。
それはまたも競り合いに発展した。剣と盾がぶつかり合う。しかしラグナロクの剣圧はアルスの盾の防御を大きく上回っていた。
このままでは負ける!アルスはそう思うも剣が無いため敵への攻撃がやりづらかった。アルスに危機が訪れる。
しかしその時、シドの槍がフリオニールを襲った。
その攻撃をフリオニールはラグナロクの非情な刃でなんとか受け止めた。
「1つの事で精一杯な甘ちゃんが剣なんか振り回してんじゃねぇよ!!」
「しま……っ!」
シドの思惑に気が付いたときは既に遅かった。
彼の攻撃は相手とアルスの競り合いを解消し、なおかつ敵に一矢報いることだった。
シドの槍とフリオニールの剣が鍔迫り合いを一瞬でもした瞬間にアルスが隙を突き鞭で攻撃するという思惑。
その作戦は見事に成功した。シドの思惑に気が付いたアルスがフリオニール目掛けて鞭の攻撃を放ったのだ。
「だが、浅いな」
だがその鞭の攻撃は近くに生えていたいくつかの樹に掠り、勢いを殺されていた。
相手の左の脇腹に命中はしたものの、相手の動きを制限させるほどではなかった。
「やはり怪我人を狙うべきだったか」
そう呟いたフリオニールはそのままアルスの横を素通りし、シドに向かって剣を振るった。
アルスはその行動に驚いた。当然次の攻撃もアルス自身を狙うものだろうと思っていたからだ。
「シド!?」
「状況の切り替えも大事だろう?」
しかしフリオニールの奇襲は、見事にビーナスゴスペルによって阻む事が出来た。だがその槍の防御は心なしか頼りない。
「俺を怒らせたな。怪我をしているのによくやるものだ」
「バレてやがったか……ッ!」
「当たり前だ。あんな肩が紅いんだ……怪我をしていると考えるのが普通だ」
そう言うと彼はそのままラグナロクでシドの体を上へと斬り裂いた。
その攻撃によってシドの胸に大きな傷が生まれ、そして思いの他簡単にビーナスゴスペルが上空へと飛んだ。
そしてそのままフリオニールはシドの胸を狙う。
携帯から書き込み、連投規制解除にチャレンジ。
「アルス!逃げろォ!!」
シドのその叫びは、彼の最期の言葉になった。
ラグナロクは確実に彼の心臓に突き立てられていた。
シドは大量の血を吐き、そのまま地面へと倒れて動かなくなった。
そしてフリオニールはそのまま回転して落ちてきたビーナスゴスペルを左手でキャッチした。
その一連の流れは、アルスが何か行動を起こす暇も与えずに終わった。
「あっけなかったな。まぁこんなものだ」
アルスは、先程フリオニールがシドの命を絶ったことを、信じられないという目で見ていた。
彼は強かった。それは自分が彼を見て感じたことだ。しかし今、自分を置いて勝手に死んでしまった。
何を戸惑っていた?何を迷っていた?
たとえその場では不利な武器を持っていたとしても、盾で守るくらいは出来たのだ。
それが出来ず怪我をしているシドへの攻撃を許し、そしてシドは死んでしまった。
「シド………」
アルスは、その光景を見て怒りを覚えていた。
しかしそれは相手へのではない、自分への怒りだ。
勇者でありながら、親しい人間を救えなかった自分への憤りだった。
「……ああ、そうだ。もうすぐ雨が降る。後で体をきちんと拭いておけ」
「何を言っている?気でも触れたか?俺の奇襲に今頃恐れをなしたのか?」
「雨は雨でも……水ではないがな」
怒りに満ちてはいるが、アルス自身は酷く冷静だった。
唐突に、呟くように放たれる彼のその一つ一つの言葉も冷え切った刃の様だ。
「お前がゲームに乗っているのなら、僕はお前を殺す。
悪く思うな。これはお前の行動から始まった戦いだからな」
そう言うと彼はドラゴンテイルを片付け、番傘を差した。
それは雨よけの番傘だ。彼らから見ると洒落たデザインというだけで、特にこれといって変わった事は無い。
しかしアルスは気にせず番傘を差し―――そして今度は左手を真上に掲げた。
すると、空気が変わった。酷く乾いている。違和感を感じる。
「……なんだ?」
だがフリオニールが空を見上げるが雲は何処にも無い。
本当に気が触れてしまったのかとアルスを見る。
彼の周りには魔力が渦巻いていた。
ただ静かに魔力は渦巻く。辺りもその魔力と同じように静寂したままだ。
「嵐の前の静けさ」という言葉が、よく似合った。
そしてその静けさの中で、アルスは静かに呪文を紡いだ。
「ギガデイン」
その彼の言葉に呼応し、魔力は姿を変えた。
そう、天から降る稲妻となって悪に裁きを与えるのだ。
この場合の「悪」は、勿論フリオニール。
「サンダガ……?いや、違う!何だ!?」
天からの怒槌は雷鳴という轟音と共に、シドの亡骸があった場所へと降り注いだ。
それによって彼は持ち物ごと黒く焦げ、灰になっていく。だがフリオニールはそこから瞬時に離れ、なんとか直撃は避けた。
ここは森だ。雷は高い場所に降り注ぐ傾向がある。実際アルスはそれを覚悟していながらもギガデインを唱えた。
そして見事に雷は、まず最初にフリオニールの近くにあった樹に当たってしまった。
しかしそれでも勢いは少ししか殺されなかった。辺りのいくつかの樹をまとめてなぎ倒し、更に抉れた地面にも電流が走る。
その強力な攻撃は、そこから逃げるフリオニールにも多少のダメージを与えた。
「周りごと薙ぎ倒せるのなら、規模は気にする必要は無いだろう?」
そして衝撃で巻き上げられた土が、砂埃が、樹の破片が彼らに降り注いだ。
鬱陶しいほどに降り注ぐそれらの「雨」を、アルスは番傘を差して「濡れない様にしながら」見ていた。
一方のフリオニールは近くで倒れていた。どうやら軽く気絶している様だ。しかし思いの他すぐに立ち上がってしまった。
そしてアルスを見据え、何か呟くとそのまま走ってカズスへと逃げていってしまった。
だがアルスはそれを追わなかった。
呪文で魔力を使ったし、森の中での鞭を使った戦闘で到底勝てるとは思えない。
だから今は、シドがいた場所をじっと見続けている。
「シド、体が大変な事になってしまったな……済まなかった。
しかしこうでもしないと、あいつには当たらなかっただろうからな」
番傘を畳もうともせず、アルスはそう呟いた。
そして唐突に、先程は冷静さで封印していた感情をぶちまける様に叫びだした。
「本当に済まなかった……っ!僕の力の無さが、お前を殺してしまった!
お前にガキだと笑われても仕方が無いな、僕は。笑いものだ……道化だ」
そしてアルスは、そこから逃げるように歩き出した。
今度はカナーンへと。最初に自分が提案した方向へと歩き出した。
これから如何するべきなのかと、迷いながら。
ゲームに乗った人間への憎しみを、更に強く抱きながら。
支援
一方のフリオニールは必死に走っていた。
先程の大規模な雷の呪文で自分は結構なダメージを受けている。
まずは村にでも入って潜伏し、休憩しなければ。
今の自分は戦える状況ではない。たとえどんな相手でも、正直今の自分では勝てる気がしない。
仕方が無い。自分の実力を計り違えてはあっけなく死へと体を突き飛ばされる。
急がなければ。
【フリオニール(HP1/2程度)所持品:ラグナロク ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
第一行動方針:カズスの村へと走って移動する
第二行動方針:日没時にカズスの村でカインと合流する
最終行動方針:ゲームに勝ち、仲間を取り戻す】
【現在地:カズスの村北西の森の一端→カズスの村の方角へ】
【アルス(MP4/5程度)所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘 官能小説3冊
第一行動方針:南の村に向かう(カナーンの村)
第二行動方針:イクサスの言う4人を探し、PKを減らす
最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】
【現在地:カズスの村北西の森の一端→カナーンの村の方角へ】
【シド 死亡】
【残り 65名】
※戦闘場所はかなり焼け焦げています・シドの死体は黒焦げの灰になっています
>>192のフリオニールのセリフを変更します。
「サンダガ……?いや、違う!何だ!?」
↓
「サンダー……?いや、違う!何だ!?」
宜しくお願いします。
「さて……どうするか」
デールはタバサ達に襲撃をかけた後、
サスーン城から何事もなく脱出し、そして自分の取るべき進路を模索していた。
自分は今、敵から身を引いている身だ。出来る限り早い内にここから逃げておきたい。
しかしながらどこへ行けば良いのかと迷っているのだ。
人を狩るチャンスのある街がいいだろうか。そう考えたが今の自分はかなり動きすぎた。故にそろそろ休息を取りたい所だった。
ならばやはり森の中か。しかし森の真ん中に駐留して、例えば奇襲等に遭ってしまっては元も子もない。
ならば森を北へ進み、湖のある場所へ抜けるほうが良いかもしれない。ただそこで行き止まりとなるが……。
デールは北へ歩き出した。
湖に道を阻まれる事になるが、近くに水があるという事で安心は出来る。
自分も人間だ。そういった心理を持つのも当然なのだ。
「また会いましょう……王女」
そう呟きながら、デールは北へ歩き続ける。
彼は知らなかった。
かの街サラボナの住民を恐怖に陥れた魔物が、まさかその湖に潜伏しているなどとは。
知る由も無いのは、当然なのだが。
「リュカ!待つんだ!一体如何したというんだ……」
「早く城に行かないと……早く!!」
ここは森の中。死んでしまったシンシアを埋葬した後、リュカは城の方角を見据えていた。
一点を見据えるそのリュカの姿にエドガーは違和感を覚えていた。
そしてその違和感は、納得のいくものになった。
「せめて正午まで休息を取り、それからでいいだろう!?リュカの身が心配だ!!」
「僕は大丈夫だ!……でも、行かないと……」
なんとリュカは、サスーン城の方角へと迷わず走り始めたのだ。
その表情は焦りそのものだった。あわててエドガーは追いかける。
リュカにも考えがあった。
カインと情報交換をした時、彼が自分達がいた場所に来た際、今まで何をしていたかという事を教えて貰っていた。
しかし知っての通りタバサに関する事はカインは伏せており、リュカはその情報は知る事は出来なかった。
だがカインはリュカに隠す必要の無い情報だと判断したのか、
「城から場所を移す為に真っ直ぐ森を歩いていた」
という趣旨の情報を提供していたのだった。
カインはアリーナを背負い、自分達と出会った。
つまり城からまっすぐこちらへやって来たカイン達が、アリーナをサスーン城からの道の途中、もしくは城内部で発見した可能性が高い。
そしてそのアリーナがビアンカを傷つけたというのであれば……ビアンカもそこにいるだろうという事。
だが彼女は、以前にいた世界でビアンカを襲ったのかもしれない。その可能性も大いにある。もう自分の行動は遅いのかもしれない。
だが、リュカは辛抱できなかった。どうせ城へ行くのであれば、この可能性にすがるしかない。
しかもアリーナは、はっきりと「ビアンカを殺した」とは言っていない。もしかしたら、もしかしたら生きているのかもしれない。
「せめて……この可能性だけでも……っ!」
そしてやっと、遠くに城の姿が見えてきた。
「ありがとう、ゴゴ。もう僕は大丈夫だ」
「そうか、それなら良かった」
「しかしタバサよ、お前は強いな……呼吸が整い始めている」
「違うわ、マティウスさんとお兄さんのおかげ……」
サスーン城内。
一応の回復の処置を終わらせたマティウスとゴゴは、タバサをベッドで療養させ、セージにもまた療養するよう提案していた。
そしてそのマティウスの提案にセージは乗り、今もこうして部屋で休息を取っている。
「さて、こやつの為に服を持ってこなければな」
「え?あ、ありがとうマティウスさん……」
「それと……ゴゴ、あれを」
「ああ、これだな」
マティウスが部屋を出て服を探しに行くと、それと同時にゴゴは悟りの書をタバサに渡した。
タバサはゴゴに礼を言うと、また一心不乱に悟りの書を食い入るように読み始めた。
「いや、それほどでもないさ。人を気遣うのは当たり前だしねぇ」
なので、このゴゴの先程と比べるとかなり違和感のある話し方に気づくのが遅くなった。
「え?え?お兄さん……?え?でも……」
「いやぁ、そろそろこの僕"物真似師ゴゴ"の得意技の解説でもしておこうと思ってね」
タバサが驚いてセージ本人を見ると、彼もまた驚き絶句していた。そして彼女も改めて驚く。
そう、今ゴゴは「セージの物真似をしている」のだ。声も話し方の癖も挙動も、全てがセージそのものだ。
「僕の特技は人の物真似をすることなんだ。実際に自分が見た技をコピーするのも朝飯前さ」
「あのお兄さんのモシャスみたいな……ものなの?」
「そのモシャスっていうのがよくわかんないんだけど、まぁ普通に物真似さ」
相変わらずゴゴの恐ろしい特技は続いている。
ちなみにゴゴが話をしている間は、セージは絶句している事を付け加えておく。
「でも勿論困ったところもあるの。例えば……実は人の技を真似しても、威力が低くなっちゃうの」
「………っ!?え?ゴゴさん、それ……私の声……!」
「あ、驚かせてごめんなさい……でも、大体の事は出来るっていうのを見せたかったから。お兄さんどう?似てる?」
なんと今度は瞬時にタバサの物真似に切り替わった。声もタバサと同じものになり、目を瞑れば間違えてしまうだろう。
そしてセージはゴゴの問いに、無言で首を縦に何回も何回も振って答えた。
「と、まぁ……このような具合だ。今の私は大体の場合マティウスの物真似をしている。
流石に声まで真似すると色々と問題面倒だろうと踏み、
そこは似せようとはしていないが……他は奴そのものだと自負させてもらう」
その言葉でゴゴの物真似ショーは締め括られた。そして丁度マティウスが、何着か服を持って戻ってきた。
「戻ったぞ。城故に当然だがあるものと言えばドレスドレスドレス……この様な普通の服は殆ど見当たらなかった」
見るとその服は、この世界の文明がタバサと世界と同じ程だったおかげか雰囲気は違和感の無いものだった。
「じゃ、これからお姫様はお着替えの時間だ。僕たちは外に出よう」
そう言うとセージ達は、タバサを残し部屋を出た。タバサはマティウスに礼を言うと、新しい服に着替え始めた。
「しかしセージよ、あの少女……何者だ?
たったあれ程の年齢で、あの様な理解不能な書物を読み解いていく姿は最早異様だ」
「事情を知らない人が見るとそうかもね。でも彼女、特別だから」
「ほう、何か特殊な能力がある等の類か?」
「だね。まずあの書物を読んでる時点で神に選ばれてる。そしてあの子の双子の兄は勇者様らしい」
「神に選ばれた……ほほう。兄が勇者……興味深いな」
「後もっと凄いのは、魔物の邪気を取り払って仲間に出来るらしい。あと動物と話すことも出来る」
それを聞いたマティウスは、今度はセージにも何か特殊な能力があるのかと尋ねた。
「そうだね、僕の場合は……やっぱ大量の呪文かな。大体の呪文は使えるよ」
「それは凄いな」
「元の世界では賢者なんて呼ばれてる。まぁ僕はそこまで崇高な人間だっていう自信はないけどさ」
そして今度はセージがマティウスに問いかけた。
「……そろそろマティウスの話も聞きたいんだけど?」
「私の話か?成程、私だけがお前達に問いかけるだけというものもずるい話だな。良いだろう」
マティウスはセージに、自分が行った今までの所業を語った。
その内容はゴゴに話した事と全く変わっていない。
そしてその内容を、セージはただただ聞いていた。
「世界征服を企んだ下らぬ皇帝……それがかつての私だ」
「ふ〜ん……じゃあ、今は?」
「今は………今は、そうだな。マティウスという名の黒服の男だ」
「そうか」
マティウスの話はそこで終わった。
その時、部屋からタバサの声が聞こえた。着替えが終わったらしい。
それを聞いて部屋に入ろうとセージが部屋に入りかけたその刹那。
「ビアンカ!どこだ!ビアンカー!!」
声が聞こえた。男の声だ。
当然タバサの声ではない。だがゴゴが物真似をしているわけでもない。
セージは、その声が発した言葉にすぐに反応した。謎の男が叫ぶ「ビアンカ」と言う名に。
そしてタバサはこの声を知っていた。優しく自分を包んでくれる南風の様な声。家族を愛するあの男の声。
「お父さん!!お父さーん!!」
タバサは部屋から飛び出すと、廊下に立ち、叫んだ。
まだ少しふらふらとし、汗も少し流れている。だが彼女は叫ばずに入られなかった。
「リュカ……さん!?リュカさん!!」
セージは彼女の体を優しく支えると、自分も叫んだ。少女から聞いた父の名前を。
すると、走る音が近づいてきた。
そして曲がり角。そこからリュカは姿を現した。
紫色のターバンに、濡れ羽色の長い髪。優しく全てを見通すような瞳。
そう、それは確かにセージがタバサの話で知り、そしてタバサがここに来る前にずっと見続け、求めた姿。
「タバ……サ……?」
「おとお……さぁん……」
タバサはついに目の前に来たリュカに抱きつき、そして大きな涙を流しながら父を呼んだ。
そしてリュカも、しゃがみ込んでその娘の体を抱きしめた。その体の温もりを確かめるように抱きしめた。
「お父さん!会いたかったぁ!」
「ああ、父さんもだ!僕もタバサに会いたかった……っ」
「会えて……良かっ………えぐっ……うっ」
マティウスとゴゴは、安堵の表情でその光景を見ていた。
セージは微笑んでいた。が、目を拭っている。少し貰い泣きしてしまったのだろうか。
少しして落ち着いたリュカはタバサの体を離し、立ち上がった。
そしてセージの瞳をじっと見つめた。その瞬間、セージを奇妙な感覚が襲った。
『なんだこの目は……なんだ!?見つめられると何もかもが見透かされてしまいそうだ……。
かつての僕の魔物に対する負の思いとか、両親との思い出すら……いや、でもそんな疚しい事はしてないし!落ち着け僕!』
「君が、この子を護ってくれたのかい?」
「え?ああ、一応……いや、でも酷い怪我させちゃったしねぇ……」
「お父さん、あのね……このお兄さんはセージさんって言って、私の事をずっと護ってくれたの」
「やはりそうか。娘を護ってくれて有難う、どうお礼をすれば良いか……」
リュカの問いかけにセージは少し焦って答える。頭が一杯になって余裕が無かったらしい。
そのままマティウスとゴゴにも同じ質問をリュカはした。2人は揃って「大した事はしていない。護ったのはあの男だ」と言った。
「でも、問う必要も無かったかもしれない。あなた達の目を見れば、すぐにわかった」
「目?」
「ああ。目を見れば善も悪も何もかもがわかる。母から授かったエルヘヴンの力のおかげでもあるのだけれど……。
けれど人間は誰しも、そう言う力を持っている。あなた達の目は悪い人ではないという事を、僕に教えてくれているよ」
『じゃあローグの鷹の眼見たら何て言うんだろう、この人』と、能天気なことを考えながらセージは興味深く話を聞いていた。
「エルヘヴンの力」という単語は、タバサの口からも出てきた言葉だ。恐らく彼女はこの父親の力を色濃く受け継いだのだろう。
邪気を取り払うなどという神の行いにも似たことが出来る一族だ。ならばタバサが賢者の素質を持っていてもおかしくは無いだろう。
彼の瞳の力を目の当たりにした今、タバサの証言はより信憑性の高いものになった。寧ろ、完璧だ。
そう彼は考えを展開していると、唐突にリュカがある事を尋ねてきた。
「ところで、ビアンカっていう女性をあなた達は知らないかい?長い金髪で細身の女性で……」
その質問をした時、一瞬で空気が重くなったのをリュカは感じた。
そして相手の表情を見ると、暗いものばかりだ。
「ごめん、知らないなぁ」
だがセージは真実を言えば彼が傷つくだろうと思い、殆ど反射的に嘘をついた。
しかしリュカは、彼の瞳に隠された嘘に哀しいほど早く気づいてしまった。
「嘘を言わないでくれないか……目を見れば嘘か真実かわかると、さっき言ったばかりじゃないか」
「………やっぱ、無理か」
セージは降伏した。リュカの瞳に敵う筈は無いと改めて思い知ったが故に。
そしてセージがどう話せば良いか迷っていると、マティウスが一歩前へ出た。
「おい男。そこまで真実を見たいのなら、覚悟を決めて着いてくるが良い」
そう言って、あの惨劇の部屋へと歩き出した。
ゴゴもマティウスの後ろを歩き出す。リュカはそれを見て、彼らを追っていった。
「………ねぇお兄さん。お父さんは優しいから、絶対悲しむのに……私、どうすればいいかわからない……」
「だね、僕もだ。あそこで止めるべきだったかも、なんて思っちゃうよ」
残ったセージとタバサは部屋に入り、沈んだ声でそう話していた。
如何すれば良いのかが判らない、その言葉が壁や床、色々な場所へと染み込んでいくようだった。
「くそ……見失ってしまったか!」
一方森の中。エドガーはリュカを見失い、独り森の中で立ち往生していた。
右腕を失ったが故に体のバランスが取れず、思うように走れない。
そして遂には溜まり溜まった疲労が体を蝕み、そこから休むことを強要した。
「城に向かえば……恐らく会えるだろう。だがこの体で急ぐのは難儀なものだ……」
そう言いながら彼は出来るだけ身を潜めた。やはり休息を取らなければ拙いだろう。
そして手持ち無沙汰に名簿を閲覧し始めた。そしてビアンカの項で手が止まる。
その名簿の写真の欄には、金髪で美しい女性が写っており、
名前には、朱い線が引かれていた。
「……これが、ビアンカか………」
「……これが、ビアンカ………?」
リュカはサラの寝室の入り口で座り込み、呆然としていた。
「そうだ、これが今のお前の妻の姿だ。仲間らしき男も……この通りだ」
「嘘だ……嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!」
「本当だッ!!これは真実なのだ!!だから言っただろう、覚悟を決めろと!!」
「でも……でもなんで……なんで!!嘘だあッ!!」
リュカは叫び、床を殴りつけ、怒りと悔しさを露わにした。
再会した妻は最早美しくなど無かった。さながら朱い部屋にポツンと置かれた、オブジェの失敗作だ。
彼女だった物がある場所は、酷く醜く思えた。
そこにある色はただただ残酷な程、自分の目に惨劇を焼き付ける。狂いそうな程の紅と赤、そして朱。
アリーナという、狂気に満たされた人間が起こした惨劇が広がるのみだった。
「ビアン……カ……」
リュカは覚束ない足で立ち上がり、ビアンカの首のある場所へと歩いた。
そして、彼女の髪に巻かれていたリボンをそっと解き、右手で握り締めた。
あの幼少の頃の様に、リボンは今この手にある。だがしかし、ビアンカはもういない。
「愛しているよ、ビアンカ……」
その一言の後、リュカは泣いた。
彼のこれからの人生で流す予定だった全ての涙を使い切るかのごとく、泣き叫んだ。
そしてリュカは、決意した。
今は泣いてしまえ。だがこの時間が過ぎた後は、必ず娘は護る。
狂気などに堕ちてたまるか。必ず自分は父として、娘を護る。
だから今は、泣いてしまえ。
「お兄さん……小鳥さんがね、お父さんが泣いてる、って言ってる……」
「どこの世界でも物知りだねぇ、小鳥さんは。彼らなら……完璧に人の悲しみを取り除く方法も知ってるのかな」
タバサは、部屋に入ってきた小鳥を優しく手に乗せながら言った。
そして窓の外に手を伸ばすと、小鳥はまた空へと飛び出した。
「お願い小鳥さん。お父さんが泣くのを、今は止めないであげて……お願い」
よく晴れた日。
小鳥は場違いなほど平和に空を飛んでいた。
「ビアン……カ……」
リュカは覚束ない足で立ち上がり、ビアンカの首のある場所へと歩いた。
そして、彼女の髪に巻かれていたリボンをそっと解き、右手で握り締めた。
あの幼少の頃の様に、リボンは今この手にある。だがしかし、ビアンカはもういない。
「愛しているよ、ビアンカ……」
その一言の後、リュカは泣いた。
彼のこれからの人生で流す予定だった全ての涙を使い切るかのごとく、泣き叫んだ。
そしてリュカは、決意した。
今は泣いてしまえ。だがこの時間が過ぎた後は、必ず娘は護る。
狂気などに堕ちてたまるか。必ず自分は父として、娘を護る。
だから今は、泣いてしまえ。
「お兄さん……小鳥さんがね、お父さんが泣いてる、って言ってる……」
「どこの世界でも物知りだねぇ、小鳥さんは。彼らなら……完璧に人の悲しみを取り除く方法も知ってるのかな」
タバサは、部屋に入ってきた小鳥を優しく手に乗せながら言った。
そして窓の外に手を伸ばすと、小鳥はまた空へと飛び出した。
「お願い小鳥さん。お父さんが泣くのを、今は止めないであげて……お願い」
よく晴れた日。
小鳥は場違いなほど平和に空を飛んでいた。
207 :
悲哀交錯:2005/07/18(月) 00:05:55 ID:6YxyorCl
【リュカ(HP1/2程度 MP残量一桁 左腕不随)
所持品:お鍋の蓋 ポケットティッシュ×4 アポカリプス+マテリア(かいふく) ブラッドソード ビアンカのリボン
第一行動方針:今はただ泣き叫ぶ 基本行動方針:タバサ、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【マティウス(HP4/5程度 MP1/2程度)
所持品:E:男性用スーツ(タークスの制服)
第一行動方針:リュカを待つ 基本行動方針:アルティミシアを止める
最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
備考:非交戦的だが都合の悪い相手は殺す】
【ゴゴ(HP2/3程度 MP1/2程度)
所持品:ミラクルシューズ、ソードブレーカー、手榴弾、ミスリルボウ
第一行動方針:マティウスの物真似をする】
【現在位置:サスーン城東棟サラの寝室】
【セージ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復 魔力1/2程度) 所持品:ハリセン ナイフ ギルダーの形見の帽子
第一行動方針:リュカを待つ 基本行動方針:タバサに呪文を教授する(=賢者に覚醒させる)】
【タバサ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復) 所持品:E:普通の服 ストロスの杖 キノコ図鑑 悟りの書 服数着
第一行動方針:リュカを待つ 基本行動方針:数々の呪文を習得する】
【現在位置:サスーン城東棟の一室】
【エドガー(右手喪失 MP1/3 かなりの疲労)
所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン 血のついたお鍋 再研究メモ
第一行動方針:身を潜め休息を取る 第二行動方針:アリーナを殺し首輪を手に入れる
第三行動方針:仲間を探す 第四行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【現在位置:サスーン城南西の森】
【デール 所持品:マシンガン(残り弾数1/6)、アラームピアス(対人)
ひそひ草、デスペナルティ リフレクトリング 賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能) ナイフ
第一行動方針:北の湖へ撤退、休息を取る
基本行動方針:皆殺し(バーバラ[非透明]とヘンリー(一対一の状況で)が最優先)】
【現在地:サスーン城出入口→北の湖へ】
>>204の
名前には、朱い線が引かれていた。
の一文を削除し、
美しい女性が写っており、
の最後の「おり、」を「いた。」
と変更してください。
「リュカ!待つんだ!一体如何したというんだ……」
「早く城に行かないと……早く!!」
エドガーとリュカが、シンシアの埋葬を終わらせた直後のことだった。
リュカはブラッドソードをじっと見つめていた。
妖しく光る刃を見据えるそのリュカの姿にエドガーは違和感を覚えていた。
だがすぐにその違和感は納得のいくものになった。
「本当に……本当にごめんなさい!!」
なんとリュカはエドガーの右腕にブラッドソードを刺したのだ。
驚くエドガーを余所に、リュカは剣の力で体力を回復させていく。
そして自分の体が少しでも長く動く様になり、かつ相手にも重い支障がない程度で剣を引き抜いた。
リュカはすぐにエドガーに謝った。仲間をも手にかけた事を涙を流しながら本気で謝り、出来る限りの応急処置もした。
「すみません……これは、あなたが使ってください。悪い人間と出会った時に刺せば……大丈夫です。では!」
そしてそう言ったリュカはブラッドソードを相手に渡し、いくらか軽くなった体で城に走り出した。
だがエドガーも追いかけ、必死に叫ぶ。
「リュカ!剣についての非礼は誠意が見えたからもういい!……だがそこまで急ぐ必要は……!」
リュカにも考えがあった。
カインと情報交換をした時、彼が自分達がいた場所に来て今まで何をしていたかという事を教えて貰っていた。
しかし知っての通りタバサに関する事はカインは伏せており、リュカはその情報は知る事は出来なかった。
だがカインはリュカに隠す必要の無い情報だと判断したのか、
「城から場所を移す為に真っ直ぐ森を歩いていた」という情報を提供していたのだった。
カインはアリーナを背負い、自分達と出会った。
つまり城からまっすぐこちらへやって来たカイン達が
アリーナをサスーン城からの道の途中、もしくは城内部で発見した可能性が高い。
そしてそのアリーナがビアンカを傷つけたというのであれば……ビアンカもそこにいるだろうという事。
だが彼女は、以前にいた世界でビアンカを襲ったのかもしれない。
その可能性も大いにある。もう自分の行動は遅いのかもしれない。
だが、リュカは辛抱できなかった。どうせ城へ行くのであれば、この可能性に縋るしかない。
しかもアリーナは、はっきりと「ビアンカを殺した」とは言っていない。
もしかしたら、もしかしたら生きているのかもしれない。
ならば自分は、仲間を踏み台として扱う様な馬鹿な事をしてでもその可能性に縋り付かなければ。
「せめて……この可能性だけでも……っ!」
そしてやっと、遠くに城の姿が見えてきた。
「くそ……見失ってしまったか!」
一方森の中。エドガーはリュカを見失い、独り森の中で立ち往生していた。
リュカに体力を奪い取られ、思うように走れない。更にはリュカにも逃げられた。
そして遂には溜まり溜まった疲労が体を蝕み、そこから休むことを強要した。
「城に向かえば……恐らく会えるだろう。だがリュカ、お前は何故………」
そう言いながら彼は出来るだけ身を潜めた。やはり休息を取らなければ拙いだろう。
そして手持ち無沙汰に名簿を閲覧し始めた。そしてビアンカの項で手が止まる。
その名簿の写真の欄には、金髪で美しい女性が写っていた。
「……これが、ビアンカか………」
「……これが、ビアンカ………?」
リュカはサラの寝室の入り口で座り込み、呆然としていた。
「そうだ、これが今のお前の妻の姿だ。仲間らしき男も……この通りだ」
「嘘だ……嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!」
「本当だッ!!これは真実なのだ!!だから言っただろう、覚悟を決めろと!!」
「でも……でもなんで……なんで!!嘘だあッ!!」
リュカは叫び、床を殴りつけ、怒りと悔しさを露わにした。
再会した妻は最早美しくなど無かった。さながら朱い部屋にポツンと置かれた、オブジェの失敗作だ。
彼女だった物がある場所は、酷く醜く思えた。
そこにある色はただただ残酷な程、自分の目に惨劇を焼き付ける。狂いそうな程の紅と赤、そして朱。
アリーナという、狂気に満たされた人間が起こした惨劇が広がるのみだった。
【リュカ(HP2/3程度 MP残量一桁 左腕不随 疲労)
所持品:お鍋の蓋 ポケットティッシュ×4 アポカリプス+マテリア(かいふく) ビアンカのリボン
第一行動方針:今はただ泣き叫ぶ 基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【マティウス(HP4/5程度 MP1/2程度)
所持品:E:男性用スーツ(タークスの制服)
第一行動方針:リュカを待つ 基本行動方針:アルティミシアを止める
最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
備考:非交戦的だが都合の悪い相手は殺す】
【ゴゴ(HP2/3程度 MP1/2程度)
所持品:ミラクルシューズ、ソードブレーカー、手榴弾、ミスリルボウ
第一行動方針:マティウスの物真似をする】
【現在位置:サスーン城東棟サラの寝室】
【セージ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復 魔力1/2程度) 所持品:ハリセン ナイフ ギルダーの形見の帽子
第一行動方針:リュカを待つ 基本行動方針:タバサに呪文を教授する(=賢者に覚醒させる)】
【タバサ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復) 所持品:E:普通の服 ストロスの杖 キノコ図鑑 悟りの書 服数着
第一行動方針:リュカを待つ 基本行動方針:呪文を覚える努力をする】
【現在位置:サスーン城東棟の一室】
【エドガー(HP1/2 MP1/3 右手喪失 右腕負傷 かなりの疲労)
所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン 血のついたお鍋 再研究メモ ブラッドソード
第一行動方針:身を潜め休息を取る 第二行動方針:アリーナを殺し首輪を手に入れる
第三行動方針:仲間を探す 第四行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【現在位置:サスーン城南西の森】
【デール 所持品:マシンガン(残り弾数1/6)、アラームピアス(対人)
ひそひ草、デスペナルティ リフレクトリング 賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能) ナイフ
第一行動方針:北の湖へ撤退、休息を取る
基本行動方針:皆殺し(バーバラ[非透明]とヘンリー(一対一の状況で)が最優先)】
【現在地:サスーン城出入口→北の湖へ】
「さて……どうするか」
デールはタバサ達に襲撃をかけた後、サスーン城から何事もなく脱出していた。
そして自分の取るべき進路を模索していた。
自分は今、敵から身を引いている身だ。出来る限り早い内にここから逃げておきたい。
しかしながらどこへ行けば良いのかと迷っているのだ。<BR>
人を狩るチャンスのある街がいいだろうか。そう考えたが今の自分はかなり動きすぎた。故にそろそろ休息を取りたい所だった。
ならばやはり森の中か。しかし森の真ん中に駐留して、例えば奇襲等に遭ってしまっては元も子もない。
ならば森を北へ進み、湖のある場所へ抜けるほうが良いかもしれない。ただそこで行き止まりとなるが……。
デールは北へ歩き出した。
湖に道を阻まれる事になるが、近くに水があるという事で安心は出来る。
自分も人間だ。そういった心理を持つのも当然なのだ。
「また会いましょう……王女」
そう呟きながら、デールは北へ歩き続ける。
彼は知らなかった。
かの街サラボナの住民を恐怖に陥れた魔物が、まさかその湖に潜伏しているなどとは。
知る由も無いのは、当然なのだが。
「リュカ……大丈夫か?」
「大丈夫です。心配、しないでください」
エドガーとリュカがシンシアの埋葬を終わらせて何時間かが経過した頃。
その間に回復した魔力で少しずつ怪我を回復させ、そしてまた体を休ませて体力を回復させた。
そしてやっと精神的にも落ち着いた頃、リュカとエドガーはサスーン城へと進み始めた。それから暫く時間は経過し、今に至る。
だがそうしても、数々の災難が目の前で起こり、精神的にも肉体的にも疲弊していたリュカの声は暗い。
最初よりはいくらかマシにはなっているのだが。
「エドガーさん……僕は、もしかしたら城にビアンカがいるんじゃないかって……思うんです」
そう言ったリュカにはある可能性が浮かんでいた。
カインと情報交換をした時、彼が自分達がいた場所に来た際、今まで何をしていたかという事を教えて貰っていた。
しかし知っての通りタバサに関する事はカインは伏せており、リュカはその情報は知る事は出来なかった。
だがカインはリュカに隠す必要の無い情報だと判断したのか
「城から場所を移す為に真っ直ぐ森を歩いていた」という情報を提供していたのだった。
カインはアリーナを背負い、自分達と出会った。
つまり城からまっすぐこちらへやって来たカイン達が
アリーナをサスーン城からの道の途中、もしくは城内部で発見した可能性が高い。
そしてそのアリーナがビアンカを傷つけたというのであれば……ビアンカもそこにいるだろうという事。
だが彼女は、以前にいた世界でビアンカを襲ったのかもしれない。
その可能性も大いにある。もう自分の行動は遅いのかもしれない。
だが、どうせ城へ行くのであればこの可能性に縋るしかなかった。
しかもアリーナは、はっきりと「ビアンカを殺した」とは言っていない。もしかしたら、もしかしたら生きているのかもしれない。
ならば自分は、仲間を踏み台として扱う様な馬鹿な事をしてでもその可能性に縋り付かなければ。
「そうか、私もそう願っている……。と、どうやら辿り着いたようだ」
そしてやっと、城の姿が見えた。
「ありがとう、ゴゴ。もう僕は大丈夫だ」
「そうか」
「しかしこの少女、強いな……呼吸が整い始めている」
「ううん、マティウスさんとお兄さんのおかげ……」
サスーン城内。
一応の回復の処置を終わらせたマティウスとゴゴは、タバサをベッドで療養させ、セージにもまた療養するよう提案していた。
そしてそのマティウスの提案にセージは乗り、今は城で休息を取っている。
「さて、こやつの為に服を持ってこなければな」
「え?あ、ありがとうマティウスさん……」
「それと……ゴゴ、あれを」
「ああ、これだな」
マティウスが部屋を出て服を探しに行くと、それと同時にゴゴは悟りの書をタバサに渡した。
タバサはゴゴに礼を言うと、また一心不乱に悟りの書を食い入るように読み始めた。
「いや、それほどでもないさ。人を気遣うのは当たり前だしねぇ」
なので、このゴゴの先程と比べるとかなり違和感のある話し方に気づくのが遅くなった。
「え?え?お兄さん……?え?でも……」
「いやぁ、そろそろこの僕"物真似師ゴゴ"の得意技の解説でもしておこうと思ってね」
タバサが驚いてセージを見ると、彼もまた驚き絶句していた。そして彼女も改めて驚く。
そう、今ゴゴは「セージの物真似をしている」のだ。声も話し方の癖も挙動も、全てがセージそのものだ。
「僕の特技は人の物真似をすることなんだ。実際に自分が見た技をコピーするのも朝飯前さ」
「あのお兄さんのモシャスみたいな……ものなの?」
「そのモシャスっていうのがよくわかんないんだけど、まぁ普通に物真似さ」
相変わらずゴゴの恐ろしい特技は続いている。
ちなみにゴゴが話をしている間は、セージは絶句している事を付け加えておく。
「でも勿論困ったところもあるの。例えば……実は人の技を真似しても、威力が低くなっちゃうの」
「………っ!?え?ゴゴさん、それ……私の声……!」
「あ、驚かせてごめんなさい……でも、大体の事は出来るっていうのを見せたかったから。お兄さんどう?似てる?」
なんと今度は瞬時にタバサの物真似に切り替わった。声もタバサと同じものになり、目を瞑れば間違えてしまうだろう。
そしてセージはゴゴの問いに、無言で首を縦に何回も何回も振って答えた。
「と、まぁ……このような具合だ。今の私は大体の場合マティウスの物真似をしている。
流石に声まで真似すると色々と問題面倒だろうと踏み、
そこは似せようとはしていないが……他は奴そのものだと自負させてもらう」
その言葉でゴゴの物真似ショーは締め括られた。そして丁度マティウスが、何着か服を持って戻ってきた。
「戻ったぞ。城故に当然だがあるものと言えばドレスドレスドレス……この様な普通の服は殆ど見当たらなかった」
見るとその服は、この世界の文明がタバサと世界と同じ程だったおかげか雰囲気は違和感の無いものだった。
「じゃ、これからお姫様はお着替えの時間だ。僕たちは外に出よう」
そう言うとセージ達は、タバサを残し部屋を出た。タバサはマティウスに礼を言うと、新しい服に着替え始めた。
「しかしセージよ、あの少女……何者だ?
たったあれ程の年齢で、あの様な理解不能な書物を読み解いていく姿は最早異様だ」
「事情を知らない人が見るとそうかもね。でも彼女、特別だから」
「ほう、何か特殊な能力がある等の類か?」
「だね。まずあの書物を読んでる時点で神に選ばれてる。そしてあの子の双子の兄は勇者様らしい」
「神に選ばれた……ほほう。兄が勇者……興味深いな」
「後もっと凄いのは、魔物の邪気を取り払って仲間に出来るらしい。あと動物と話すことも出来る」
それを聞いたマティウスは、今度はセージにも何か特殊な能力があるのかと尋ねた。
「そうだね、僕の場合は……やっぱ大量の呪文かな。大体の呪文は使えるよ」
「それは凄いな」
「元の世界では賢者なんて呼ばれてる。まぁ僕はそこまで崇高な人間だっていう自信はないけどさ」
そして今度はセージがマティウスに問いかけた。
「……そろそろマティウスの話も聞きたいんだけど?」
「私の話か?成程、私だけがお前達に問いかけるだけというものもずるい話だな。良いだろう」
マティウスはセージに、自分が行った今までの所業を語った。
その内容はゴゴに話した事と全然変わっていない。
そしてその内容を、セージはただただ聞いていた。
「世界征服を企んだ下らぬ皇帝……それがかつての私だ」
「ふ〜ん……じゃあ、今は?」
「今は………今は、そうだな。マティウスという名の黒服男だ」
「そうか……」
マティウスの話はそこで終わった。
その時、部屋からタバサの声が聞こえた。着替えが終わったらしい。
それを聞いて部屋に入ろうとセージが部屋に入りかけたその刹那。
「ビアンカ!いるのか!?ビアンカー!!」
声が聞こえた。男の声だ。
当然タバサの声ではない。だがゴゴが物真似をしているわけでもない。
セージは、その声が発した言葉にすぐに反応した。謎の男が叫ぶ「ビアンカ」と言う名に。
そしてタバサはこの声を知っていた。優しく自分を包んでくれる南風の様な声。家族を愛するあの男の声。
「お父さん!!お父さーん!!」
タバサは部屋から飛び出すと、廊下に立ち、叫んだ。
まだ少しふらふらとし、汗も少し流れている。だが彼女は叫ばずに入られなかった。
「リュカ……さん!?リュカさん!!」
セージは彼女の体を優しく支えると、自分も叫んだ。少女から聞いた父の名前を。
すると、走る音が近づいてきた。
そして曲がり角。そこからリュカは姿を現した。
紫色のターバンに、濡れ羽色の長い髪。優しく全てを見通すような瞳。
そう、それは確かにセージがタバサの話で知り、そしてタバサがここに来る前にずっと見続け、求めた姿。
「タバ……サ……?」
「おとお……さぁん……」
タバサはついに目の前に来たリュカに抱きつき、そして大きな涙を流しながら父を呼んだ。
そしてリュカも、しゃがみ込んでその娘の体を抱きしめた。その体の温もりを確かめるように抱きしめた。
「お父さん!会いたかったぁ!」
「ああ、父さんもだ!僕もタバサに会いたかった……っ」
「会えて……良かっ………えぐっ……う……っ!」
マティウスとゴゴは、安堵の表情でその光景を見ていた。
セージは微笑んでいた。が、目を拭っている。少し貰い泣きしてしまったのだろうか。
少しして落ち着いたリュカはタバサの体を離し、立ち上がった。
そしてセージの瞳をじっと見つめた。その瞬間、セージを奇妙な感覚が襲った。
『なんだこの目は……なんだ!?見つめられると何もかもが見透かされてしまいそうだ……。
かつての僕の魔物に対する負の思いとか、僕の過去全てがバレて……いや、でもそんな疚しい事はしてないし!落ち着け僕!』
「君が、この子を護ってくれたのかい?」
「え?ああ、一応……いや、でも酷い怪我させちゃったしねぇ……」
「お父さん、あのね……このお兄さんはセージさんって言って、私の事をずっと護ってくれたの」
「やはりそうか。娘を護ってくれて有難う、どうお礼をすれば良いか……」
リュカの問いかけにセージは少し焦って答える。頭が一杯になって余裕が無かったらしい。
そのままマティウスとゴゴにも同じ質問をリュカはした。2人は揃って「大した事はしていない。護ったのはあの男だ」と言った。
「でも、問う必要も無かったかもしれない。あなた達の目を見れば、すぐにわかった」
「目?」
「ああ。目を見れば善も悪も何もかもがわかる。母から授かったエルヘヴンの力のおかげでもあるのだけれど……。
けれど人間は誰しも、そう言う力を持っている。あなた達の目は悪い人ではないという事を、僕に教えてくれているよ」
『じゃあローグの鷹の眼見たら何て言うんだろう、この人』と、能天気なことを考えながらセージは興味深く話を聞いていた。
「エルヘヴンの力」という単語は、タバサの口からも出てきた言葉だ。恐らく彼女はこの父親の力を色濃く受け継いだのだろう。
邪気を取り払うなどという神の行いにも似たことが出来る一族だ。ならばタバサが賢者の素質を持っていてもおかしくは無いだろう。
彼の瞳の力を目の当たりにした今、タバサの証言はより信憑性の高いものになった。寧ろ、完璧だ。
セージがそう考えを展開していると、曲がり角からもう一人、男が姿を現した。
「おいリュカ、少し急ぎすぎでは……って……あ!!」
「む?」
「ゴゴ!」
「……エドガー?」
そしてここでもある2人が再会した。
そう、エドガーとゴゴは元の世界では仲間なのだった。
「エドガー、知り合い?」
「ゴゴ……こやつと知り合いか?」
「ああ、かつての仲間だ」
「それほど大袈裟なものではないがな」
リュカとマティウスは同じ質問をし、そしてエドガーとゴゴも同じ回答をした。
「ところでリュカ、その少女は一体?」
「僕の娘だよ……タバサっていうんだ。そしてそこにいる青髪の彼がセージだ」
「セージは僕ね」
「成程。で、そこの黒服男は?」
「マティウスだ」
「そうか、一応紹介しておくと私の名はエドガー。そして黒髪の彼はリュカだ。宜しく頼む」
場が平和的なことを察したエドガーは、全員の把握と自分の紹介を終えた。
どうやら彼らはゲームには乗っていないようだ。エドガーはそう確信し、安心した。
すると今度はすぐに、ビアンカの身が安全なのかという疑問が生まれた。
そしてそれは、リュカも同じだったらしい。
「ところで、ビアンカという名の女性を知らないか?長い金髪で細身の女性で……」
リュカがその質問をした時、一瞬で空気が重くなったのを感じた。
そして娘やセージ達の表情を見ると、暗いものばかりだ。
「ごめん、知らないなぁ」
セージはその時、真実を言えばリュカが傷つくだろうと思い、嘘をついた。
しかしリュカは、彼の瞳に隠された嘘に哀しいほど早く気づいてしまった。
「嘘を言わないでくれないか……目を見れば嘘か真実かわかると、さっき言ったばかりじゃないか」
「………やっぱ、無理か」
セージは降伏した。リュカの瞳に敵う筈は無いと改めて思い知ったが故に。
そしてセージがどう話せば良いか迷っていると、マティウスが一歩前へ出た。
「そこまで真実を見たいのなら、覚悟を決めて着いてくるが良い」
そう言って、あの惨劇の部屋へと歩き出した。
ゴゴもマティウスの後ろを歩き出す。リュカはそれを見て、彼らを追っていった。
エドガーも急いで彼らを追いかけた。セージとタバサは、それを複雑な表情で見送る。
「………ねぇお兄さん。お父さんは優しいから、絶対悲しむよ……。
あそこでお父さんが行くのを止めた方が良かったの?私、どうすればいいかわからない……」
「だね、僕もだ。あそこで止めるべきだったかも、なんて思っちゃうけど……さっぱりだ、判らない」
残ったセージとタバサは部屋に入り、沈んだ声でそう話していた。
どうすれば良いのかが判らない、その言葉が壁や床、色々な場所へと染み込んでいくようだった。
「……これが、ビアンカ………?」
リュカはサラの寝室の入り口で座り込み、呆然としていた。そしてエドガーは後ろで落胆していた。
「そうだ、これが今のお前の妻の姿だ。仲間らしき男も……この通りだ」
「嘘だ……嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!」
「本当だッ!!これは真実なのだ!!だから言っただろう、覚悟を決めろと!!」
「でも……でもなんで……なんで!!嘘だあッ!!」
リュカは叫び、床を殴りつけ、怒りと悔しさを露わにした。
再会した妻は最早美しくなど無かった。さながら朱い部屋にポツンと置かれた、オブジェの失敗作だ。
彼女だった物がある場所は、酷く醜く思えた。
そこにある色はただただ残酷な程、自分の目に惨劇を焼き付ける。狂いそうな程の紅と赤、そして朱。
アリーナという、狂気に満たされた人間が起こした惨劇が広がるのみだった。
「ゴゴ、これは……」
「エドガー、私に聞いても無駄だ。私は今マティウスの物真似をしている。彼が知らぬものは私も知らない」
「ゴゴの言うとおりだ。我々が来た時には既にこの状態だった。不愉快な話だが……な」
エドガーは2人の答えを聞き、そしてまたアリーナの姿を思い出した。
残酷な凶器に満ちた微笑み。あの表情で、このような惨劇を生み出したのだろうか。
そう思うと、背筋が凍るように寒く感じた。あまりの不快感、嫌悪感に吐き気すら抱く。
だが、リュカはもっとなのだろう。自分よりも遥かに重い悲しみを背負ってしまった。
エドガーは彼にかける言葉を思いつくことが出来なかった。
「ビアン……カ……」
リュカは覚束ない足で立ち上がり、ビアンカの首のある場所へと歩いた。
そして、彼女の髪に巻かれていたリボンをそっと解き、右手で握り締めた。
あの幼少の頃の様に、リボンは今この手にある。だがしかし、ビアンカはもういない。
「さようなら……」
その一言の後、リュカは泣いた。
エドガーが見守る中、彼のこれからの人生で流す予定だった全ての涙を使い切るかのごとく、泣き叫んだ。
そしてリュカは、決意した。
今は泣いてしまえ。だがこの時間が過ぎた後は、必ず娘は護る。
狂気などに堕ちてたまるか。必ず自分は父として、娘を護る。
だから今は、泣いてしまえ。
「お兄さん……小鳥さんがね、"お父さんが泣いてる"って言ってる……」
「どこの世界でも物知りだねぇ、小鳥さんは。彼らなら……完璧に人の悲しみを取り除く方法も知ってるのかな」
タバサは、部屋に入ってきた小鳥を優しく手に乗せながら言った。
そして窓の外に手を伸ばすと、小鳥はまた空へと飛び出した。
「お願い小鳥さん。お父さんが泣くのを、今は止めないであげて……お願い」
よく晴れた日。
小鳥は場違いなほど平和に空を飛んでいた。
【リュカ(MP1/2 左腕不随)
所持品:お鍋の蓋 ポケットティッシュ×4 アポカリプス+マテリア(かいふく) ビアンカのリボン ブラッドソード
第一行動方針:今はただ泣き叫ぶ 基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【エドガー(右手喪失 MP1/2)
所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン 血のついたお鍋 再研究メモ
第一行動方針:落胆 第二行動方針:アリーナを殺し首輪を手に入れる
第三行動方針:仲間を探す 第四行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【マティウス(MP1/2程度)
所持品:E:男性用スーツ(タークスの制服)
第一行動方針:リュカを待つ 基本行動方針:アルティミシアを止める
最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
備考:非交戦的だが都合の悪い相手は殺す】
【ゴゴ(MP1/2程度)
所持品:ミラクルシューズ、ソードブレーカー、手榴弾、ミスリルボウ
第一行動方針:マティウスの物真似をする】
【現在位置:サスーン城東棟サラの寝室】
【セージ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復 魔力1/2程度) 所持品:ハリセン ナイフ ギルダーの形見の帽子
第一行動方針:リュカを待つ 基本行動方針:タバサに呪文を教授する(=賢者に覚醒させる)】
【タバサ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復) 所持品:E:普通の服 ストロスの杖 キノコ図鑑 悟りの書 服数着
第一行動方針:リュカを待つ 基本行動方針:呪文を覚える努力をする】
【現在位置:サスーン城東棟の一室】
【デール 所持品:マシンガン(残り弾数1/6)、アラームピアス(対人)
ひそひ草、デスペナルティ リフレクトリング 賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能) ナイフ
第一行動方針:北の湖へ撤退、休息を取る
基本行動方針:皆殺し(バーバラ[非透明]とヘンリー(一対一の状況で)が最優先)】
【現在地:サスーン城出入口→北の湖へ】
どれくらい泣いただろうか、わからなかったが…涙は止まらなかった。
エドガーにはひとつ計算ミスがあった。
それはリュカにとって、どれだけビアンカが大切だったかと言う事。
マティウスもゴゴも、リュカの涙を見て油断している。
リュカにはひとつの考えが有った。
それは、もしかしたら
ビアンカを殺したのはアリーナ2じゃないかもしれない、という疑惑だった。
この部屋で死体に為ったっ言う事は、同じ城にいたマティウスやゴゴにも可能性はあるし、
もしかしたら、エドガーが先回りしてビアンカを殺したのかもしれない。
そんな馬鹿な!と重いながらも
悲しみで心が壊れたリュカにはそれを馬鹿だと思うことが出来なかた
気が付けば、三人は死体になっていた…
「僕はなんてことを。そうだタバサに会おう、タバサに会えば落ち着くだろう、でもタバサがビアンカを殺したのかも。」
そうだリュカは、帰り血をあびたままタバサを目指して歩き出した。
その顔は狂喜に満ちていた…。
【リュカ(MP1/2 左腕不随)
所持品:お鍋の蓋 ポケットティッシュ×4 アポカリプス+マテリア(かいふく) ビアンカのリボン ブラッドソード
第一行動方針:皆殺し】
【エドガー 死亡】
【マティウス 死亡】
【ゴゴ 死亡】
227 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/19(火) 03:42:30 ID:KPjUw9e/
上のは無しにします。
。すいません何故か、三回しか投稿出来ませんでしたが、重ねてお詫び申し上ます
スレ汚し失礼しました。すいません修行しますね!リュカ頑張って、大好きなんですよvv
だから上手な人が、頑張らせてやってあげて下さい
それでは修行します^^
ビアンカ……ビアンカ……
リュカは回想する。
少年時代、出会った頃の溌剌な彼女を。
青年時代、見違えるほど美しく成長した彼女を。
彼女と結ばれ、共に艱難辛苦を乗り越えてきたことを。
ずっと自分を傍で支え続けてくれた人を。
リュカの愛したかけがえのない人。
それを……壊した者がいる。
アリーナ。
彼女の悪魔のような笑みが脳裏に浮かぶ。
どくん。
腰に下げた血の色の剣が脈動した気がした。
そう、彼女はこの剣によってもリュカの大事な人の命を奪っている。
自分の命を救ってくれた少女。
その命を文字通り奪い去っていったアリーナ。
『許せない』
リュカの思考を真紅に燃える憤怒が、憎悪が侵食していく。
そう、アリーナは決して野放しにしておくわけにはいかない。
アリーナを探し出して殺す、それはひいては娘を護ることにも繋がるのだ。
そんな言葉で自らの破壊衝動を正当化する。
それは真紅の刃から流れ込んでくる、血を求める意志。
そうだ、憎め。怒れ、そして八つ裂きにしろ。
そうすればお前の娘は護られる。今すべきこと、それは敵を破壊すること。
『違う、僕は!』
何が違う。憎いだろう? 殺したいだろう?
お前の妻の姿を見ろ。シンシアの姿を思い出せ。
息子の姿は? リノアはどうだ?
次にこの姿になるのは誰だ? お前の親友か? 娘か?
それとも……父親か?
リュカの脳裏に、胸を貫かれるヘンリーの姿が……頭蓋を割られる娘の姿が……
そして炎に包まれる父親の姿が浮かんでは消える。
「ぐぅ、くぅおおおおおおおおおおぁぁああああああああああああああああああああああ!!!」
憎いだろう?
『憎い』
誰が?
『アリーナが憎い』
それだけ?
『デールが、クジャが憎い』
ならばどうする?
『コロシテヤル』
そうだ、娘を、友を、父を、護る為に。
『護る、護る、護る、護る、護る、絶対に護ってみせる』
―――だから、その為に刃を振るえ
ダンッ
「リュカ!?」
絶叫を上げ、うずくまったリュカを心配げに見守っていたエドガーだが、
突然にリュカが床を蹴り、部屋を飛び出したのを見て声を上げる。
「くそ、やはり酷だったか!」
舌打ちをしてエドガーはリュカを追っていく。
マティウスはそれをじっと見守っていた。
「無理もない。今は一人にしておくべきだな……」
それを聞くゴゴは何も答えず沈黙をまもる。
彼らが走り去るのを窓から見送り、しばらくして自分たちも部屋を出ようとしたその時、
タバサとセージが部屋の中に入ってきた。
「? マティウス、リュカさんとエドガーの姿が見えないようだが」
「お父さんは?」
部屋に入るなり、口々に問うてくる二人にマティウスは落ち着いて答える。
「この惨状を見て、やはり耐えられなくなったらしい。
部屋を飛び出していったよ。連れの男が追っていった」
それを聞いてタバサは胸を押さえて青ざめる。
セージは怒り心頭でマティウスに詰め寄った。
「それで!? 君はそれを黙って見ていたのかい!?」
「そうだ。一人思い悩むべきだと思い、捨て置いた。
闇に落ちるも落ちぬも彼自身の問題だろう」
セージは話にならないという風に首を振って声を荒げる。
「あー、もう! 君には情というものが理解できないのかい?
今、彼に必要なのは心の支えとなるべき者、タバサの存在なんだよ!
それに距離を置いたということは彼の中で取り返しの付かない答えが出た可能性が高い!
君は無理にでも彼を引き止めるべきだったんだよ。
闇に落ちるも彼次第だって? 違うね! 周りにいる人間次第さ!
今、彼は君のおかげで確実に闇に一歩踏み出してしまった!」
マティウスにはセージの言葉の半分も理解できない。
彼が闇に落ちるのは、彼自身の弱さのせいではないのか。
人間は常に孤独だ。誰かの救いなど当てになるはずもない。
しかし―――もしかしたらセージの言う事もまた、正しいのかもしれない。
『情、か……我に足りなかったのはそれなのかもしれぬな……』
今ひとつ、自分がこの場に居るわけを掴みかけた気がする。
その時、タバサが決意の表情で声を上げた。
「お兄さん、お父さんを追いかけよう!」
「ああもちろんだ。マティウス、彼はどっちの方向へいったか解るかい?」
セージの問いにマティウスもまた、決意する。
これは自分に足りない物を知る機会だと。
「いや、私も同行し先導しよう。彼を見送ったのは確かにこちらの落ち度。
責任は果たす。いいな、ゴゴ?」
「問われるまでもない。我はマティウスの真似をしている。
いつでも行けるぞ」
マティウスはアグリアスのものだたったザックから二つの武器を取り出し、セージとタバサに渡す。
「途中、襲われる危険もある。武器を渡しておこう」
「これは―――ギルダーの……」
「お母さん……」
セージが受け取ったのはライトブリンガー。ギルダーの振るった光の聖剣。
タバサが受け取ったのはファイアビュート。ビアンカが持っていた灼熱の鞭。
そして、マティウスは十字をかたどった巨大な剣を背負った。
「アグリアスよ、汝の無念……我が背負おう」
それこそはアグリアスが剣技を振るった十字大剣、クロスクレイモア。
長躯の彼こそが自分の本当の場所であるかのように、その剣はピタリとマティウスの背に収まった。
「ゆくぞ」
「あ、少しだけ待ってください」
制止の声を上げたのはタバサ。
タバサはビアンカの遺骸を見つめた。
「お母さん。お父さんを迎えに行ってきます。
私、お父さんに会って本当に嬉しかったから。
沈みそうな心がお父さんの手で掬い上げられたような気持ちになれたから。
だから、今度はタバサがお父さんを助けに行きます。
心配しないで……お兄さんもいてくれるし、私も少しは強くなれたから。
だから、見守っていてください。今からお母さんを天へと送ります」
一雫、、涙をこぼしてタバサは鞭を振るった。
炎の鞭に打たれたカーペットはたちまち燃え出し、部屋に熱気が充満する。
「この塔は石造りだから窓を開けて扉を閉めれば、燃え広がりはしないと思います。
さぁ、行きましょう」
「うむ」
セージは扉を閉めようとして、部屋の肖像画に気付く。
その肖像に付けられたプレートには……サラ、と書かれていた。
『ギルダー、ここは君の言っていた想い人の部屋だったのか。
僕は何もしてやれなかったけど……せめて、安らかに』
一瞬だけ瞳を閉じて、セージは扉を閉めた。
「彼は東のほうへと走り去っていった。
森林道なりに行ったとするならカズスという村に行き着くはずだ。
だが、彼も何かしら傷を負っていたようだから急げば途中で追いつけるだろう」
「そうでなきゃ困る。急ごう!」
「待て! リュカ! 一体どこへ行くつもりだ!」
エドガーはリュカの背を追って森の中を疾駆する。
もう大分長い時間走っているが、一向に追いつけない。
『くそ、彼はかなり手酷い傷を負っているはずなのにどうしてこうも走れる?
基礎体力の差か? それとも我を忘れているせいなのか?
どちらにしろ、このままでは彼のほうが危険だ。何とか止めないと……』
リュカは最初、咆哮をあげながら疾駆していたが今はもうただ前だけを見て疾走している。
エドガーはチラリと太陽を見やる。空は大分紅く染まってきていた。
走っている方向は……北東。ウルの村の方向だ。
最も、間を山岳地帯が隔てているので容易には行き着けないだろうが。
恐らく、リュカは論理的思考を持って方角を定めているわけではないのだろう。
時間的に城を出てから小一時間といったところか。流石にエドガーも限界に近かった。
こうなれば根競べだとエドガーが覚悟を決めたとき、リュカに限界が訪れたらしい。
その場に崩れ落ち、膝を突いた。
「ハァ、ハァッ ……やっと、追いついたぞ……リュカ。
これだけ汗をかいたのだ。流石に落ち着いたか?」
背後からリュカの背を叩こうと手を伸ばすが、即座に振り払われる。
振り向いたリュカの瞳には憎悪の炎が宿っている。
「足りない……僕には力が足りない。
こんな、こんな場所で立ち止まってるわけにはいかないんだ。
ビアンカの仇を……僕は!」
リュカの胸の傷は開いてしまっていて、衣服の上半身をすでに血で染めていた。
腰に下げているブラッドソードを引き抜き、エドガーへと向ける。
「邪魔しないでください、エドガーさん。
僕はアリーナを探します。それを止めるというなら……」
その言葉を聞いてエドガーはカッと頭に血が上った。
目の前にいる彼は、自分が今まで見知っていた格高き男ではない。
「止めるなら……何かね? その刃で私を斬るか?
私を斬ってその傷を癒すか! 傷を癒してさらに憎悪のままに奔るか!!」
エドガーは何の防御体勢も取らず、無造作にリュカへと近づいていく。
その憤怒の声に押されるかのようにリュカは剣を構えたまま後ずさる。
「来ないで……近寄らないでください! 本当に斬りますよ!?
あなたには城に戻ってタバサを……」
「己が大事な物を他人の懐に預けるか? そして自らは己の衝動の赴くままに復讐に往くと?
ふざけるな! 甘えるのもいい加減にしたまえ!!」
「あ、あなたに何がわかる! 大切な物を奪われ、踏みにじられた者の気持ちが!
僕の気持ちが解るわけがない!!」
剣を振るって叫ぶリュカに全く億さず、エドガーはさらに近づく。
「解るわけがないだろう、他人を理解できるなどと所詮は幻想に過ぎない。
ましてや王者でもない唾棄すべき惰弱な愚者のいうことなら尚更だ!」
「僕は―――」
「君は何者だ、リュカ!!」
バキィッ
エドガーの拳がリュカの頬にめり込んだ。
なすすべなく吹っ飛ばされ、リュカは倒れ伏す。
ブラッドソードは手から離れ、すぐ脇に突き立った。
リュカはすぐに起き上がるが、見下ろすエドガーに完全に気圧され言葉を失う。
その時、エドガーの背後から光が射したような気がした。
―― お父さん ――
『レックス?』
息子の呼び声。幻聴? 否、確かに心に響いたと感じた。
「む?」
エドガーも背の光に気がつき、ザックから何かを取り出す。
それは、天空の鎧。
天空の勇者だけが身に着けることが出来るという伝説の武具の一つ。
そして、ふと自分の周囲に優しい風が舞ったような気がした。
―― リュカ ――
『ビアンカ?』
幼馴染だった妻に抱きしめられた錯覚を起こした。
ふと見れば、ずっと手に巻いていたビアンカのリボン。
リュカはリボンを握り締め、その場にうずくまる。
低く、聞こえてくる嗚咽。
「レックス……ビアンカ……僕は、僕はどうしたら……」
すでに光の失せた鎧を再びザックに戻し、エドガーはリュカに歩み寄る。
「私には君の気持ちを理解することは出来ない。
君の気持ちには君自身が答えを出さなくてはいけないんだ。
だが私にもできることはある。それは君を信じることだ。
私は君が正しい選択ができる者だと信じているよ」
リュカは涙をボロボロと溢れさせながらエドガーを見上げる。
エドガーは瞳を閉じ、微動だにせずにじっと待っていた。
恐らく、ここでリュカが刃を振るえば黙って斬り倒されていただろう。
エドガーは言葉通りリュカの選択を信じたのだ。
『僕の……選択……』
自分は復讐を選んだ。
家族を、仲間を、恩人を奪った者たちが憎い。それは間違いない。
だが、それは本当に自分が選んだことだっただろうか。
自分が本当に選択したのは……覚悟を持って決意したことは……護ること。
タバサの笑顔が脳裏に浮かぶ。
『何を―――していたんだ、僕は』
そうだ、自分は娘を護ることを――必ず護りきることを決意したのではなかったのか。
何かに惑わされていたとしか思えない。
脇に突き立つ真紅の剣を見る。
今まで数多の血を吸ってきたこの妖剣に魅せられてしまったのか。
『違う、僕の心の弱さだ! 』
剣の柄を握り締め、正眼に構える。
切っ先をエドガーへと向けて……迷わぬ軌道で鞘へと収めた。
キンッ
エドガーが瞼を開く。
「答えは出たかね?」
「はい」
「君は、何者だ?」
先程、拳とともに出した問いを再びリュカへと浴びせる。
それにリュカは今度こそ迷わずに答えた。
「僕の名はリュカ。グランバニアの国王、そしてタバサの……父親です」
その答えを聞いて、エドガーはフッと笑った。
「やっと己を取り戻したようだな。
今の君の瞳は意志の力に満ちている。安心したよ」
「エドガーさん、あなたは……」
「フム、まだ話していなかったか。私はエドガー=ロニ=フィガロ。
しがない砂漠の城主さ」
エドガーは空を見上げる。
「本当は……私は一介の機械技師になりたかったんだがね……」
その表情は何故だか哀しそうに見えた。
ふとエドガーが視線を戻すとリュカが自分に向かって頭を下げている。
「すみませんでした。僕の心が弱かったばかりに、面倒を掛けさせてしまって。
なんと言ってお詫びしたらいいのか」
「王たる者がむやみに他人に頭を下げるのは感心しないな。
まぁ気にすることはない。ここのところ頭ばかり働かせていた気がするからね。
いい気分転換になったと思うさ。さぁ、君の可愛いレディのもとへと戻ろうか」
「はい!」
「いえ、それは困りますなぁ。これからしばらくは私に付き合っていただかないと」
突如として割って入ってきた声に二人は振り返る。
そこには―――緑髪の殺人者。
「「デール!!」」
「潜伏しようと思っていましたが、大声を聞きつけて駆けつけてみれば
こんな場所で食べ逃したご馳走に出会えるとは。私は運が良い。
クフフフ……それに、逃した魚は大きいと言いますが、 まさか私と同じ国王とはね。
これでこの場には国王が三人集ったわけです。随分と豪華な森ではないですか」
デールはデスペナルティの銃口をリュカに向け悠然と歩いてくる。
エドガーは身構えながらも皮肉を返す。
「三人? 一体三人目の国王とやらはどこにいるのかね。
私の瞳にはリュカの他に、人であることも忘れた飢えた獣しか写ってはいないが」
それを聞いてデールはさらに哄笑を上げる。
「くははははは! なんとも活きの良い食材です。
是非とも今のを最期の言葉にして頂きましょう!」
そして――デスペナルティの咆哮が、戦闘の開始を告げた。
【リュカ(HP1/3 MP0 左腕不随)
所持品:お鍋の蓋 ポケットティッシュ×4 アポカリプス+マテリア(かいふく)
ビアンカのリボン ブラッドソード
第一行動方針:この場を切り抜ける
第二行動方針:城へ戻り、タバサを護り抜く
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【エドガー(HP4/5 MP1/3 右手喪失)
所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン 血のついたお鍋 再研究メモ
第一行動方針:この場を切り抜ける
第二行動方針:アリーナを殺し首輪を手に入れる
第三行動方針:仲間を探す 第四行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【デール 所持品:マシンガン(残り弾数1/6)、アラームピアス(対人) ひそひ草、デスペナルティ
リフレクトリング 賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能) ナイフ
第一行動方針:リュカとエドガーを喰らう
基本行動方針:皆殺し(バーバラ[非透明]とヘンリー(一対一の状況で)が最優先)】
【現在地:ウルの村 西の山岳地帯と森林地帯の境】
【マティウス(MP1/2程度)
所持品:E:男性用スーツ(タークスの制服) クロスクレイモア 雷の指輪 ビームウィップ
第一行動方針:リュカを追う 基本行動方針:アルティミシアを止める
最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
備考:非交戦的だが都合の悪い相手は殺す】
【ゴゴ(MP1/2程度)
所持品:ミラクルシューズ、ソードブレーカー、手榴弾、ミスリルボウ
第一行動方針:マティウスの物真似をする】
【セージ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復 MP1/2程度)
所持品:ハリセン ナイフ ギルダーの形見の帽子 ライトブリンガー
第一行動方針:リュカを追う 基本行動方針:タバサに呪文を教授する(=賢者に覚醒させる)】
【タバサ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復)
所持品:E:普通の服 ストロスの杖 キノコ図鑑 悟りの書 服数着 ファイアビュート
第一行動方針:リュカを追う 基本行動方針:呪文を覚える努力をする】
【現在位置:サスーン城→カズス方面】
238 :
雲1/4:2005/07/22(金) 01:05:56 ID:d+GN1HSs
「アーヒャヒャヒャ!まったく、ぼくちんは暑いのが苦手だと言ってるでしょ!
いつまで寝てれば気が済むんだろうね!このトサカ頭は!」
ケフカは相変わらず、カズスの砂漠でハッサンの目覚めを待っていた。
というのも、ハッサンは男性の中でもかなり大柄な体格であるため、ケフカ一人の力ではとても彼を背負ったまま、砂漠を移動することなどできなかったからだ。
「困りましたね…日もどんどん高くなっていますし、このままではもっと気温は上がりそうですしねえ」
このままこいつを置いていってやろうか、それも何度も考えた。
しかしわざわざ自分で回復してやった手前、それを無駄にするのは勿体無いのではないか。
ここまで待ったのだから、徹底的に『駒』として利用してやろう、そう決めた。
「とっとと起きなさいよ、ヒャヒャヒャ!」
うだうだと愚痴を漏らしながらも、こまめにハッサンに回復魔法をかけてあげているケフカは、なんだかんだでお人良しなのかもしれない。
239 :
雲2/4:2005/07/22(金) 01:07:00 ID:d+GN1HSs
「――暑い、なあ……」
ピエールのようじゅつしの杖によって吹き飛ばされたルカは、カズスの砂漠へと降り立っていた。
あたり一面、まるで出口のないような一面の砂は、マルタの国に居た頃に不思議な鍵を使って降り立った世界を彷彿とさせた。
「そういえば、あのときは仲間にしたモンスターたちと力を合わせて頑張ったっけ……」
しかし今回はそうも行かなかった、何故なら僕は今、一人だから。
仲間と離れ離れになってしまったという不安が、歩くたびまとわりつく砂とともにルカの体力を奪っていく。
疲労していくにつれて、ルカには不安が更に重くのしかかっていく。
もしかしたら、僕が居なくなったあとあのスライムナイトにギードもトンヌラもテリーもやられてしまったのではないか。
もしかしたら、イザもどこかで誰かに殺されてしまったのではないか。
もしかしたら、もう知り合いは誰も居ないのではないか。
そして僕もまた――この砂漠で干からびて死んでしまうのではないか。
「空でも飛べれば、みんなの様子を見にいけるのに―――」
そこで思い出したのは、ワルぼうにもらった力。大空の盾によってもたらされた『空中を移動する能力』。
コレを使えばみんなの様子を見に行くまでは無理にしても、砂に足を取られることくらいは防げるかもしれない。
目を閉じて、強く念じる。するとやがて、雲のようなものが目の前に現れた。
ルカは素早くその雲に飛び乗ると、その雲は地上から少し浮いた状態でゆっくりとまっすぐに動き始めた。
うまくいった。これなら、無事に砂漠を渡りきれるかもしれない。暑さはあるが、それだけだ。
これなら体力を残したまま、砂漠の出口まで移動できるだろう。
するとやがて、砂以外の景色を視界に捕らえた。
それは出口ではなく、二人の人間だった。そのうち一人は倒れており、一人は奇妙な笑い声を上げている。
ルカはその光景を見て――倒れている男が血まみれであることを確認し――反射的にウィンチェスターを構えた。
(――人殺しなんか、絶対に許さないんだ!)
240 :
雲3/4:2005/07/22(金) 01:08:44 ID:d+GN1HSs
人の気配を感じ取ったケフカが向いた先には、雲に乗る少年の姿が見えた。
「おや、今度は子供ですか。何に乗っているのかよく分かりませんが
ぼくちん、暑いのも嫌いだけどガキも嫌いなんですよね、ヒャッヒャッヒャ!」
しかし、子供であれ人手は人手である。ましてや小さな子供は殺し合いに参加しているとは考えにくい。
みたところ純粋そうな少年であるし、このトサカ頭を砂漠の外に移動させる手伝いもしてくれるのではないか。
(――それに、子供は騙しやすい上に子供の話というのは他人の信頼を得やすい。
なにやら乗り物を出せる能力も持っているようですし、手駒としては優秀ですね…贅沢も言っていられませんか)
すると少年が雲から降り、銃のようなものを構えてこちらを警戒している様子が見えた。
どうやら足元にトサカ頭が血まみれで倒れているのを見て、ぼくちんのことを殺人者の一人だと誤解しているようだ。
……確かにこの状況では誤解をされても仕方ないのかもしれない、迂闊だった。
「そこのガ…じゃない、子供!ちょうど良かったです、ちょっとこの男を安全なところに運ぶのを、手伝ってもらえませんか?
ぼくちんが回復してあげたはいいですが、まだ目を覚まさないので、とりあえずこの場から移動したいんですよ、暑いですしねえ」
と、言いながらトサカ男に向かって回復魔法を唱えて実演してみせる。
魔法を見たところで、少年もようやく警戒を緩めてくれたようだ、銃を降ろして、こちらへと向かってきた。
(ヒャヒャヒャ、ちょろいもんですね、やっぱり甘ちゃんばっかりですねえ)
241 :
雲4/4:2005/07/22(金) 01:13:54 ID:KQ44jz+L
簡単に話を聞いたところ、このケフカという人は
「ぼくちんはこのトサカ頭の人(ケフカも名前は知らないらしい)が死にそうだったところを助けた、いい人なんだよ、ヒャッヒャ!」
ということらしい。(見た目もだけど、自分のことをぼくちんと言ったりするあたりからもとっても怪しい人だ)
確かにこのトサカ頭の人の傷はケフカさんの武器でつけられるようなものではなかったので、素直に信じてみることにした。
詳しい話は砂漠を出てからしようと言う話になり、まずはトサカ頭の人を運ぶことになった。しかし―――
「すごい鍛えてる人ですね、二人がかりでも全然持ち上がらないや」
「鍛えてるんだったらとっとと起きてほしいもんですねえ」
仕方がないので、もう一度『空中を移動する能力』を使って、雲にトサカ頭の人を乗せて運ぶことになった。
この人は体が大きいから、僕は乗らずに歩くことになった。これだと僕のほうが砂漠を出る前にへばってしまいそうだけど。
そもそもどの方角に行けば砂漠を抜けられるかも良く分からないけど。新しい仲間も出来たばかりだし、頑張ろうと思った。
【ルカ 所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) 、風のローブ
第一行動方針:砂漠を抜けて安全なところへ
第二行動方針:ギードたちと合流する】
【ケフカ 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 ブリッツボール
第一行動方針:砂漠を抜けて安全なところへ
第二行動方針:ハッサンやルカを手玉に取り、多くの人にデマを流す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【ハッサン(HP 1/5程度)(気絶)
所持品:E爆発の指輪(呪)
第一行動方針:生きる、又は誰かに意志を継ぐ。
第二行動方針:オリジナルアリーナと仲間を探す
最終行動方針:仲間を募り、脱出 】
【現在位置:カズス西の砂漠】
「…くそっ」
足下に転がる死体に、サラマンダーが毒づく。
”あれ”が目の前に現れ、そして消えていってから、どれくらいの時間がたっているのだろう。
10分かも1時間かもわからない。
なにせあれからかなり長い間、呆然と立ち尽くしていたのだから。
それでも何とか思考を取り戻し、その思考が鉱山の中に逃げていったイクサスに伸び、
急いで様子を見に来たら…この有り様だ。
イクサスは右肩が大きく斬られ、心臓を一突きにされて死んでいた。
その顔には怒りのせいか恐怖のせいかはわからないが、歯をくいしばった表情が刻まれたまま。
辺りには彼の自作と思われる薬の入った瓶やボールが転がっている。ただしラケットは無い。
サラマンダーはとりあえずそれらを拾い集め、炭坑の奥へと用心深く進んでいく。
今となっては手遅れかもしれないが、あの女格闘家と剣士がまだいるかもしれないからだ。
実際、フルートとサックスはまだミスリル鉱山の、ゼルと別れた小部屋の中にいた。
フルートの重度の疲労――と言っていいのかはよくわからないが――は一向によくならないし、
何よりも全くの誤解で、あんな形で仲間に見捨てられたショックが未だに二人をそこから動かす気力を与えないのだ。
「クソッ…一体なんだってんだ…あいつら…」
まだ肩で息をしながら、フルートが呻く。
どういうわけか、まだ「あの人格」のままだ。
「あまり体を動かさないで。今は休む事が先決ですよ」
気遣うサックスだが、その心は重く暗い。
…当面はフルートの回復を待ち、この炭坑の中にこうして留まる他無い。
だがその後は?いつまでもここでじっとしているわけには行かないし、ロランの事も心配だ。
ゼルが何をどう誤解したのかはわからないが、あの様子ではもはやその誤解を解くことは出来ない。
しかもあのギルダーがマーダーに転落したという。あのいつも冷静で頼れる仲間だったギルダーがだ。
どうしていいかわからない。
サックスがそうして今後の事を考える余裕すら持てないでいると、入り口の方から足音が聞こえてきた。
「誰だ!」
奥から聞き覚えのある声が威嚇する。
どうやら、本当にまだいたらしい。鍵爪を装着しなおす。
少し間を置いて、サラマンダーは彼らの前に姿を現した。
「てめえ…!」
「お前は…!」
見ると、背後に格闘家を庇う形で、剣士――確かサックスと言ったか――がこちらに向かって剣と盾を構えている。
格闘家は相変わらずの満身創痍の様子だが、剣士はまだまだ健在だ。
サラマンダーの姿を見とめると、小部屋の手前、サラマンダーの立っている通路へと進み出た。
「…まさかとは思ったが、まだこんなところにいたのか」
言って格闘の構えに入る。
が、その時、サックスは急にある事を思い到った。
彼と剣を交えた男が、こうしてここに立っている…
「ロランさん…ロランさんはどうした?」
焦った声で言う。と、目の前の暗殺者は「…気の毒だな」と首を小さく横に振った。
「貴様…!」
「悪く思うなよ。これが戦いだ」
サックスは自分があの剣士を殺したと思いこんだらしい。
真実は少し違うが、まあサラマンダーにとっては都合が良い。
怒りは人を一時的にだが強くするからだ。イクサスはその好例と言えよう。
2人はしばし睨み合っていたが、やがてサックスの方から仕掛けてきた。
一気に距離を詰め、大上段に構えた草薙の剣を振り下ろすサックス。
サラマンダーはその一撃をアベンジャーで受け止めると、体を回転させて剣士の体を蹴りつける。
サックスは避けきれず、代わりに盾でダメージを防ぐ。が、その衝撃で壁に叩きつけられた。
「ええい!」
すぐに体勢を立て直し、サックスが再び斬りかかる。
サラマンダーは右腕の爪と左拳、さらには蹴りを繰り出して迎え撃った。
場所が狭い上にもともと本職の武器ではないので、ラミアスの剣は使わない。
サラマンダーの多彩な攻撃を盾で防御し、サックスは怒りに任せて剣を振るう。
許せなかった。
人を殺しても、まるでそれが当然だとばかりに振舞う目の前の敵が。
そして何よりも、ロランの死を防げなかった自分が。
イクサスに勝利してフルートを炭坑の中にかくまった後、すぐに救援に向かえば彼は死なずに済んだかもしれないのに。
しかし、今や何もかもが遅過ぎた。
先程まで彼に出来た事と言えばただ悩む事で、
今彼に許されているのは悔いる事と戦う事だけだった。
そうして幾度となく閃いた草薙の剣の切っ先が、ついにサラマンダーを捕らえる。
が、暗殺者もとっさの回避で致命傷を交し、筋肉で固められた首元に小さく浅い傷を残すに留まった。
「チッ」
素早く後方に跳び退き、傷口に手を当てる。
その左手を見ると、その指は自らの血で紅く染まっていた。
「やるな…」
言い、にやりと笑うサラマンダー。楽しくなってきた。
サックスが追い討ちをかけようと、なおも剣を手に跳びかかる。
サラマンダーは先程とは違って、その場に立ち止まって受けて立つ姿勢を見せる。
そしてナイトが敵の心臓めがけて剣を突き出す瞬間――不意に、白い光に包まれた左手が突きつけられた。
とっさに水鏡の盾で防御しようとするサックス。
次の瞬間、暗い炭坑を白色の閃光が照らし、彼は後ろへと跳ね飛ばされた。
「がはっ!」
もといた小部屋まで吹き飛ばされ、壁に派手に叩きつけられる。
「…っの野郎!!」
それまで座り込んでいたフルートが、劣勢に追い込まれたサックスの代わりに立ちあがろうとする。
が、その行動は彼女のダメージの程を敵に知らせる以上の意味を持たなかった。
「フルートさん!」
サックスが慌てて起き上がり、膝をついて荒い息をしているフルートに駆け寄る。
「…いいのか?」
不意に、重く太い声が聞こえた。
見ると、サラマンダーが先程と同じ白い光を両手に宿らせてゆっくりと迫ってくる。
「戦いそっちのけで気遣い合ってよ」
「くっ!!」
フルートが咄嗟に剣を振るい、襲い来る光弾を跳ね返す。
白い光はあさっての方向に飛翔し、壁や天井に激突した。
雑魚散らし。
サラマンダーの極めた奥義の一つだ。
これは魔法とよく似た攻撃で、実際に魔力を消費する技だが、
彼独自の工夫が加えられており、連続で叩きこめば大型のモンスターでさえ一たまりも無い。
…はずなのだが。
(これは…たまげたな)
4発目、5発目と光弾を造り出し、撃ち出しながら、サラマンダーは小さく呟く。
なんと、剣と盾を駆使して雑魚散らしを弾き、サックスが徐々に前進して来るのだ。
彼に向かって放たれた光弾は全て跳ね返され、通路や天井に大きな音や振動とともにぶつかって消滅していく。
先程も言ったように、雑魚散らしは大型のモンスターでさえ葬る強力な攻撃だ。
それを何度も弾き返し、あまつさえそのままこちらに進んでこようとは。
壁に叩きつけられた時のダメージも結構な物だろう。
それすらものともしないのは、マーダーに対する怒りか、それとも仲間を護ろうとする意思か。
どちらかはわからないが、サックスは着実にサラマンダーとの距離を縮めていった。
もはや何発目かわからない雑魚散らしの閃光がサラマンダーの真横の壁を穿ち、岩石や坑木の破片を撒き散らした。
そしてサックスはとうとう彼を接近戦の間合いに捕らえ、剣を一閃させるが、鍵爪で受け止められた。
「やるじゃねえか剣士さんよ。やるじゃねえか」
「ふざけるな!まるでさっきから戦いを楽しんでるように…!」
宙返りで後退しつつ言うサラマンダーに、サックスは怒りの声を上げた。
「さて、こいつは防げるかな?」
そんな彼の叫びを無視し、またも笑いながら、サラマンダーは左手に魔力の塊を造り出し、
「そらよ!」
放つ。
「くそっ!」
サックスも盾を構え、今度は両足を地について攻撃を正面から受け止める。
だがその直後、間髪入れずに、それまでより少し小さい球体が彼を襲った。
サックスはほとんど反射的に、それを叩き斬ってしまった。
音もなく、真っ二つに割れる玉。
手応えがあきらかにこれまでと違う。
その中からふわりと、白い粉末が霧散し、サックスを包むように宙を漂う。
「な…?」
彼は訝ったが、その疑問のほぼ全てがすぐに解決された。
突然視界が揺らぎ、倒れかけてその場に膝をつく。
息が苦しい。体がうまく動かない。吐き気がする。
後ろからフルートが自分の名を呼ぶのがぼんやりとわかったが、よく聞こえない。
「やはり中身は毒だったか。イクサスもなかなか使えるモノを残したな」
サラマンダーの勝ち誇ったような太い声が聞こえた。
それまでと同じような攻撃と見せかけ、飛竜草の粉末が詰められたカプセルボールを投げつけたのだった。
皮肉にもイクサスの調合した毒薬によって、サックスは窮地に立たされた。
「カ…ゲホッゴホッ!…く…」
うずくまり、咳き込むサックス。
「…俺の勝ちだな」
サラマンダーは腕を組み、満足げに彼を見下ろしていたが、やがてアベンジャーの爪を剣士の喉元に突きつける。
「サックス…!」
フルートはサックスを助け出そうと立ちあがっては、その度に地面に倒れこんだ。
そして暗殺者の爪が大きく振りかぶられたその瞬間、彼らのいる炭坑が大きく揺れた。
「…なんだ?」
訝しげにサラマンダーが辺りを見渡す。
すぐ近くの坑木がミシミシと高い悲鳴をあげた。
――彼らがいるのは、鉱山に無理矢理穿たれた炭坑の中だ。
そして彼らはそこで戦い、壁や天井も雑魚散らしの連打でかなり破壊されている。
だから…落盤が起こるのも、当然と言えば当然だ。
サックスとサラマンダーの間に、一際大きい岩石が落下する。
暗殺者は大きく舌打ちし、一瞬恨めしげに彼を睨みつけた後、背を向けて入り口へと逃げ去る。
本格的な崩壊が始まった。
残された剣士は自由に動かない体の向きを変え、ぼやけがちな目で辺りを見まわす。
すると、満身創痍のフルートが視界の中に入ってきた。
彼女はなんとか起き上がろうとしているが、深すぎるダメージがそれを許さない。
その姿に、もう生きてはいないであろうロランの姿が被る。
彼が死んだ――あの暗殺者の言う事を鵜呑みにすれば、だが――のは、ほとんど自分のせいだ。
すぐに助けに行けば、死ぬ事は無かったかもしれない。そして今またしても、仲間が独りで死にかけている…
そこまで思考が伸びたサックスは、重い体を引きずってフルートに駆け寄る。
そして飛竜草の毒がすでに全身にまわっていたにも関わらず、立てないでいる彼女を担ぎ上げた。
「馬鹿…モタモタしてると間にあわねえぞ…」
フルートが呻き、「早く…俺にかまわないで行け…」と続ける。
「いえ…けホッ、絶対に、見殺し、には、しません。絶対に」
彼女にそう答え、サックスはフルートを担いで崩壊し続ける炭坑内を歩き出した。
が、彼の努力はそこで終わった。
数歩も歩かない内に、強い眩暈がサックスを襲った。
彼はその場にまたも膝をつき、荒い息遣いで再び立とうとする。
が、今度は足がふらついて倒れた。
(だめだ…こんな、こんなところで…)
そしてもう一度立とうと地面に手をつく間もなく、彼の意識は闇の中へと引きずり込まれて行った…
「おい…サックス!おい!」
フルートが剣士の体を揺さぶり、呼びかけるが、返事はない。
とりあえず苦しげに息はしているから生きてはいるのだろうが、この様子では今すぐに死んでもおかしくはない。
「起きろ!このままじゃ…うおっ!?」
なおも呼びかけようとする彼女のすぐ傍らに、岩が何個も落ちてくる。
フルートは今の彼女にもてる限りの力でサックスの体を引き、それらの岩石をさける。
それからは呆然と辺りを見渡す事しか出来なかった。
崩壊が落ちついた頃には、彼らのいる小部屋から炭坑の出口へと通じる通路は、完全に岩石によって埋め尽くされていた。
「危なかったぜ…」
一方、サラマンダーは炭坑の入り口から少し離れた所に座っていた。
支給品袋に手をかけ、中から毒入りのボールを取り出し、じっと観察する。
剣士との戦いの時、試しに使ってみたが、これは優れものだ。
武器やアイテムを「投げ」て攻撃できるサラマンダーにはラケットのような発射装置は必要無いし、
毒粉末の即効性と効果は申し分ない。
これを使えば一撃で敵の動きを止められるし、集団が相手でも優位に立てる。
不敵な笑みを浮かべてボールを袋の中に戻すと、村の外へと歩き出した。
待ち伏せがいかに効果のない戦法かは昨夜思い知らされている。
積極的に参加者を狩るべきだろう。
【サックス (負傷、重度の毒状態、意識不明)
所持品:水鏡の盾 草薙の剣 チョコボの怒り 加速装置 ドラゴンオーブ シルバートレイ ねこの手ラケット 拡声器
第一行動方針:不明 第二行動方針:なるべく仲間を集める
最終行動方針:ゲームから抜ける。アルティミシアを倒す】
【フルート(重傷) 所持品:スノーマフラー 裁きの杖 魔法の法衣
第一行動方針:同上 第二行動方針:同上 最終行動方針:同上】
【現在地:ミスリル鉱山内部・1F小部屋】
【サラマンダー(疲労、MP消費) 所持品:ジ・アベンジャー(爪) ラミアスの剣(天空の剣)
紫の小ビン(飛竜草の液体)、カプセルボール(ラリホー草粉)×2、カプセルボール(飛竜草粉)×2、各種解毒剤
第一行動方針:出会った参加者を殺す 第二行動方針アーヴァインを探して殺す
基本行動方針:参加者を殺して勝ち残る(ジタンたちも?) 】
【現在地:カズスの町→移動】
・フルートとサックスがミスリル鉱山の小部屋に閉じ込められました。
「――暑い、なあ……」
ピエールのようじゅつしの杖によって吹き飛ばされたルカは、カズスの砂漠へと降り立っていた。
あたり一面、まるで出口のないような一面の砂は、マルタの国に居た頃に不思議な鍵を使って降り立った世界を彷彿とさせた。
「そういえば、あのときは仲間にしたモンスターたちと力を合わせて頑張ったっけ……」
しかし今回はそうも行かなかった、何故なら俺は今、一人だから。
仲間と離れ離れになってしまったという不安が、歩くたびまとわりつく砂とともにルカの体力を奪っていく。
疲労していくにつれて、ルカには不安が更に重くのしかかっていく。
もしかしたら、俺が居なくなったあとあのスライムナイトにギードもトンヌラもテリーもやられてしまったのではないか。
もしかしたら、イザもどこかで誰かに殺されてしまったのではないか。
もしかしたら、もう知り合いは誰も居ないのではないか。
そして俺もまた――この砂漠で干からびて死んでしまうのではないか。
「空でも飛べれば、みんなの様子を見にいけるのに―――」
そこで思い出したのは、ワルぼうにもらった力。大空の盾によってもたらされた『空中を移動する能力』。
コレを使えばみんなの様子を見に行くまでは無理にしても、砂に足を取られることくらいは防げるかもしれない。
目を閉じて、強く念じる。するとやがて、雲のようなものが目の前に現れた。
ルカは素早くその雲に飛び乗ると、その雲は地上から少し浮いた状態でゆっくりとまっすぐに動き始めた。
うまくいった。これなら、無事に砂漠を渡りきれるかもしれない。暑さはあるが、それだけだ。
これなら体力を残したまま、砂漠の出口まで移動できるだろう。
するとやがて、砂以外の景色を視界に捕らえた。
それは出口ではなく、二人の人間だった。そのうち一人は倒れており、一人は奇妙な笑い声を上げている。
ルカはその光景を見て――倒れている男が血まみれであることを確認し――反射的にウィンチェスターを構えた。
(――人殺しなんか、絶対に許すもんか!)
簡単に話を聞いたところ、このケフカという人は
「ぼくちんはこのトサカ頭の人(ケフカも名前は知らないらしい)が死にそうだったところを助けた、いい人なんだよ、ヒャッヒャ!」
ということらしい。(見た目もだけど、自分のことをぼくちんと言ったりするあたりとても怪しい人だ)
しかし確かにこの人の傷はケフカの武器でつけられるようなものではなかったので、素直に信じてみることにした。
そして詳しい話は砂漠を出てからしようと言う話になり、まずはトサカ頭の人を運ぶことになった。しかし―――
「すごい鍛えてる人だな、二人がかりでもとても運べそうにないぞ」
「鍛えてるんだったらとっとと起きてほしいもんですねえ」
仕方がないので、もう一度『空中を移動する能力』を使って、雲にトサカ頭の人を乗せて運ぶことになった。
この人は体が大きいから、俺は乗らずに歩くことになった。これだと俺のほうが砂漠を出る前にへばってしまいそうだけど。
そもそもどの方角に行けば砂漠を抜けられるかも良く分からないけど。新しい仲間も出来たばかりだし、頑張ろうと思った。
【ルカ 所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) 、風のローブ
第一行動方針:砂漠を抜けて安全なところへ
第二行動方針:ギードたちと合流する】
【ケフカ 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 ブリッツボール
第一行動方針:砂漠を抜けて安全なところへ
第二行動方針:ハッサンやルカを手玉に取り、多くの人にデマを流す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【ハッサン(HP 1/5程度)(気絶)
所持品:E爆発の指輪(呪)
第一行動方針:生きる、又は誰かに意志を継ぐ。
第二行動方針:オリジナルアリーナと仲間を探す
最終行動方針:仲間を募り、脱出 】
【現在位置:カズス西の砂漠】
はい、みなさん。P.156、『擬似魔法の確立以前に行われた呪術・第2章』ですよ。
ほらそこ、寝てないでちゃんと開いて。テキストを忘れたなら隣の人に見せてもらいなさいね。
コホン。……えー、太古の昔から、強い願いは現実を変えることができると信じられていました。
『生贄の儀式』も、一般的には、願いの強さを示すためのものであると考えられています。
「何を犠牲にしてでも叶えたい願いなんです、だから神様叶えてください!」というわけですね。
けれども、古代における呪術の中には、他の意図や意味から生贄を用いていたケースもあったようです。
ある遺跡から発掘された石版にはこう記されています。
『時を残すは人の歴史、歴史を紡ぐは人の意志、意志を生み出すは魂なり。
魂こそは時の源、大いなるハインに頼らずして、現世を変える唯一の力。
数多の命を奪いて数多の魂を得た者、望むままに時を紡ぐ……』
……と、途中で終わってしまっていますが、言いたいことは何となくわかりますね。
非科学的かつ強引な考え方ではありますが、一部の人々はこうだと信じていたわけです。
その結果、その遺跡がある地域では、生贄として人間を捧げる呪術が誕生したのですね。
それにしても、想像つきませんよねぇ。一人一つしかない魂を、何個も何十個も集めて持ってみせるというのも。
仮に集めた人がいたとして、その人は本当に人間って言えるのでしょうかね……?
もはや別の、人を超越した存在になってしまっているような気がしますが。
……っと、チャイムが鳴りましたか。今日の授業はここまでにしましょう。
あ、どんな願い事があっても生贄なんて本当にやらないように。
バイトバグやケダチク、アルケオダイノスなら幾らでも倒して構いませんけどね。
ところで、スコール=レオンハートとゼル=ディンは今日も欠席ですか。
Seedとはいえ、任務中以外は勉学にも励んでほしいのですがねぇ。
……ん、何ですって? 寮や家にも帰っている様子がない?
リノアさんやアーヴァイン君、サイファーも昨日から行方不明だって、他のSeed達や風紀委員の二人が騒いでた?
……うーむ。
サイファーが一緒というのは解せませんけど、五人でどこかに遊びに行ったのですかねぇ……
「おいおい、風邪でも引いたのか?」
「っ、……そんなわけないだろ」
茶化すマッシュに、俺は鼻をこすりながら答えた。
さっきから何故かくしゃみが出る。
野ざらしで一晩過ごした程度で風邪を引くほど、軟になった覚えはないのだが……
こんな状況だし、ストレスで体調を崩しかけているのだろうか?
それとも、どこかの誰かやサイファー辺りが噂でもしているのか。
「気をつけろよ? 今の状況で風邪になったらシャレにならないぜ」
マッシュの言葉に、俺は内心でこそ頷いたものの、口では別の事を言った。
「大丈夫だ。熱が出ても気合でなんとかする」
もちろん本気で言ったわけではないのだが、マッシュはそうは取らなかったらしい。
眉を潜め、微妙な表情でこちらを見る。
(……俺は、今のを本気で言うような奴だと思われているのか?)
軽い失望と、釈然としない気持ちを抱えながら、俺は「冗談だ」と付け足した。
森は静かだった。『今だけは』で、『ここだけが』だが。
少し西のほうに戻れば墓がある。数十分ほど前に戻れるならば、ネズミ人間と男の死体を見る事が出来ただろう。
男の方がマッシュの知り合いというので、少しばかり時間を割いて埋葬してやったのだが。
二人とも殺されたのは相当前だったらしく、周囲には敵の気配も、生きている人間の気配も見当たらなかった。
そう、今は静かだ。一時だけの、場違いな平穏がもたらす静寂。
それが警戒心や集中力を緩めさせて、思考をどうでもいい方向へと飛ばす。
(あいつらがいたら、どういう風に切り返しただろうな)
ふと、そんな事が頭に浮かぶ。
六人一緒に行動していた頃の、他愛の無い会話を思い出しながら。
そしてそんなことを懐かしんだり、考えたりする自分に、思わず自嘲する。
(……変わったな、俺も)
昔は――Seedになってリノアと出会う前は、他人と関わる事すら避けていたはずなのに。
リノアの事だって、世間知らずでわがままなクライアントとしか思っていなかったのに。
気がつけば、思い出を懐かしむような仲間達がいて。
彼女は、俺の中で掛け替えのない存在になっている。
『あいつなんかよりも、リノアの奴を探してやれ。お前に会いたがってたぜ』
あのセリフを聞いた時は、サイファーも随分らしくない事を言うようになったと驚いたが……
あいつの言う通りかもしれない。
リノア。
この世界のどこかで寂しい思いをしているなら、俺を探しているなら、俺のことを待っているなら。
何よりも誰よりも先に見つけ出して、傍にいてやるべきだったのかもしれない。
だが、同時に思う。
これ以上、アーヴァインに罪を重ねさせるわけにはいかないと。
俺があいつを止めきれなかったせいで、ティナだけでなく、マリベルも死なせてしまった。
そして、恐らくは今も、あいつは誰かを殺すために動いているのだろう。
――二人の思い出作りの夜にぴったりの場所があるんだ。目印に古雑誌置いといたから、あんた達使いなよ――
――あんたの事情も気持ちもどうでもいいんだ。ただ、リノアのためにそうしてやってくれ――
――リノアには殴られたり蹴られたりしたからね〜。こうなってくれると僕も痛い思いした甲斐があったってもんだよ――
(…………)
嫌になるほど浮かぶ思い出を振り切りながら、俺はマッシュに声をかけた。
「急ごう。日没までには、物資の補給と地形の把握を完璧に済ませておきたい」
マッシュは「おう!」と胸を叩き、俺に続いて足を速める。
目的地は既に話してあった。
カズスの町。
大陸の中央にあり、拠点から拠点に移動する際の休憩地として、最も人が集まることが予想される場所だ。
アーヴァインの能力と武器、計算高さを考えれば、目をつける確率は高いといえる。
もちろん、あいつ以外のマーダーも集まるだろうし、他のどの拠点よりも危険な場所だが。
それでもマッシュは嫌そうな顔一つ見せず、快く了解してくれた。
『他にアイツみたいな奴がいたら、そいつらもまとめてやっつけてやるさ』
がっはっは、と笑いながら言いのけた、その単純さには少しだけ呆れたが……
陽気で明快な態度に、心強さと頼もしさを覚えたことも確かだ。
そしてまた、幾ばくかの罪悪感も。
「すまない」
ぽつりと零した言葉に、マッシュが振り向く。
「ん? 何だよ、いきなり?」
「一方的に俺に付き合わせている」
そう答えると、マッシュは一瞬きょとんとした表情を浮かべ、ややあって破顔した。
「今さら何を言ってんだよ。仲間だろ」
出会って一日半の、性格だって掴みきってない相手を。
頼りになるとはお世辞にもいえない、10歳も年下の俺を、仲間と言って付き合ってくれる。
その気持ちは嬉しいし、この上なく有り難いものだった。
だが、だからこそ『悪い』と思ってしまう。
彼の仲間であるティナを殺したのは俺の仲間だから。仲間と言えた存在だったから……
そこまで思った時だった。
思考に沈む俺の意識を呼び戻そうとするかのように、急に木の葉がざわめいたのは。
「何だ、ありゃ?」
マッシュが目を細め、行く手の空を見つめた。
「なぁ、今、あっちで何か光らなかったか? それに、音も聞こえたような気がしたんだが」
マッシュが指で示したが、俺にはわからない。
空は相変わらず青いまま広がっているし、響いた音といえば風と木の葉と鳥の声ぐらいだ。
「気のせいだろ」
俺の返事に、それでもマッシュは納得がいかないように首を傾げる。
俺は軽く肩を竦め、歩き出した。
南東の方角から吹きつけた突風が、木の枝を揺らしながら俺の耳元を通り過ぎる。
その時だった。
――スコール――
すぐそばで聞こえた女の声に、俺は反射的に辺りを見回す。
けれども、マッシュ以外に人影らしいものはどこにもない。
気のせいだったのかもしれない。
甲高い、聞き覚えのない声だったし、そんな声を出せるような他人の姿も見当たらないのだから。
けれど、悲しげな声だった。
拗ねるようで、甘えるようで、寂しそうな声だった。
……そのトーンが、少しだけ、リノアに似ていた。
そのせいだろうか、ひどく嫌な予感がした。
認めたくはないけれど、決して否定できない可能性が、頭に浮かんだ。
それを振り切ろうと、俺は頭を振りながら目を閉じる。
なのに、また声が聞こえた。
今度こそ、はっきりと。間違いようもないリノアの声で。
――スコール……愛してる――
……俺は目を開けた。淡く儚い期待を込めて。
けれどもやはり、彼女の姿はどこにもない。
相変わらず静かな森。
木の葉の間から垣間見える、無意味に澄んだ平和な空。
正午過ぎの青い空。
あのワンピースと同じ、スカイブルーの空――
「どうしたんだ?」
心配そうなマッシュの声が、俺の意識を引き戻す。
そして、気付いた。
いつの間にか、涙が頬を伝っていることに。
「何でもない。ゴミが入っただけだ」
そんな嘘くさい言い訳で誤魔化しながら、俺は目をこする。
――ふと、思った。
魔女討伐班の六人が、仲間達がバラムガーデンに揃う日は……この先、二度と訪れないのではないかと。
『そんなことはない』と言って欲しかった。
ここにはいない、あいつらに。
サイファーに。
ゼルに。
アーヴァインに。
誰よりも、リノアに。
けれど、現実は優しくない。
俺の願いを叶えてくれるほど優しくない。
――風はいつの間にか止まっていた。
リノアの声も……もう、聞こえなかった。
【マッシュ 所持品:ナイトオブタマネギ(レベル3)、モップ(FF7)、ティナの魔石、神羅甲型防具改
レオの支給品袋(アルテマソード、鉄の盾、果物ナイフ、君主の聖衣、鍛冶セット、光の鎧、スタングレネード×6 )】
【スコール 所持品:天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3) 、ちょこザイナ&ちょこソナー、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
吹雪の剣、ビームライフル、アイラの支給品袋(ロトの剣、炎のリング、アポロンのハープ)】
【第一行動方針:カズスへ向かい、アーヴァインを探す 第二行動方針:ゲームを止める】
【現在地:カズス北西の森・南部→カズスへ】
「うおーっ、なんだあの爆発!!」
「あれ、さっきまであたしたちが居たカズスの村からだよ?」
「ってことは……あのまま居残ってたらヤバかったかもな。
つーかあの村、ちゃんと人居たんだな。全然出会いやしなかったが」
「もしかしたらあの爆発に巻き込まれてみーんな吹っ飛んでたりして……」
「おい、縁起でもねえこと言うんじゃねえ!」
カズスの村で血文字のメモを(逆さまに)確認したユフィとエッジは、
そのまま当ても無くマリアの形見となった大きな剣と、それを持つ人を探し続けていた。
気づいた時にはカズスの村を抜けていたようだが、それが幸いして被害を免れていたようだ。
「――あ、前方に二人組はっけ〜ん!といっても、一人は人間じゃなさそうだけど」
「お、ホントか?どれどれ、どんな感じのヤツだ?」
ユフィの視線を追った先、そこに居た男を視界に捕らえた瞬間、エッジは飛び出さずにはいられなかった。
「――む」
「うわ、カイン、まぬけ〜」
リュカたちと別れてからカズスの村へと向かっていたカインとスミスは、
ちょうどカズスの方角にて発生した爆発を遠目に目撃した。
二人は即座にカズスは今戦闘状態にあるだろうと判断し、カズスの村の手前の森で様子を見ることになった。
そんな折、カインの顔に1枚の紙切れが飛んできたのである。
それにはどうやら血を使って文字が書かれているようで『キンパツニキヲツケロ』と記されていた。
「金髪か――俺のことではなさそうだが、厄介だな」
「どういうこと?」
「この紙がどれくらい出回っているかは分からないが。
万一これを見ているヤツが他にいたとしたら。これであらぬ疑いをかけられるかもしれん」
「あらぬっていうか、実際疑いあるんだけどね」
「まあ、そうだが」
「でも金髪の人って意外と多いんじゃないかな?タバサやエドガーだって金髪だったし。
カインなら、今までどおりにやれば大丈夫だと思うよ」
「だと、いいがな……まあいい、先を急ぐぞ」
メモを他の誰かに読まれないよう、破り捨ててしまおうとして――
「カイン!カインじゃねーか!」
現れたのは旧知の友。
「その声―――エッジか?」
遅れて更に、片腕の無い少女も現れた。
「ちょっとぉ〜エッジ!勝手に先行かないでよ!……って、もしかして感動の再会シーン?」
この二人組には覚えが――もちろんエッジはここに来る前からだが――あった。
そう、人を『壊す』と表現していたデールという狂人に仲間を殺された二人だ。
あの時は片腕の少女は死にかけていたようだが、どうやら持ち直したらしい。
その代償として、あの女が殺された、というワケか……。
「カイン、知り合い?」
スミスが不思議そうに問いかける。
「まあ、旧友とでも言っておこうか」
「いやー、生きててくれてよかった!
セシルも、ローザも、――リディアも。みんな、出会うこともできずに死んじまったから!
カインにここで出会えて、俺はとても嬉しいぜ!良かったなぁ!」
「エッジのほうも無事で何よりだ。
とりあえずはどこかで落ち合って、情報交換とでもいかないか?」
人目につきにくいという理由で森の奥へと移動する途中、スミスからいつもの念が届く。
(そのままでいいから、聞いてね)
カインは気づかれないように頷く。
(エッジて人、カインの知り合いみたいだけど――情にほだされて殺らない、とか言わないでね)
(タバサといい、リュカといい失敗続きだしね、いい加減、誰か殺そう)
(どうせ友達だって、アルティミシア様にかかれば簡単に復活させることができるし)
(躊躇する必要なんか、ないからね)
カインは静かに、もう一度頷いた。
適当な木の周辺に腰を落ちつけた後、お互いに自己紹介と情報交換を済ませた。
ちなみにさっきの爆発についてはお互い分からないらしい。
ただやはりあれだけ大規模な爆発を起こすような参加者がうろついている以上、
今すぐに近づくのは得策ではない、様子を見ようという意見で一致した。
次にエッジ曰く「銀髪のセフィロスという男に注意しろ」とのことらしい。
どうやらユフィと同じ世界から連れ込まれた者のようで「バケモノのような強さ」という話だ。
確かにそのような見境無くゲームに乗るヤツはあまり相手にしたくないタイプである。
また、カインの持っていた血文字のメモはカズスの村にてユフィも同様のモノを拾っていたらしい。
そのメモでは中身を解読できなかったようだが、どうやらそれは上下逆さまに見ていたからだったようだ。
そしてカインは正確な内容を伝えると同時に、自分はその気をつけるべき金髪ではないことも告げた。
ユフィは「わかってるよぉ〜」と軽口を叩いた。どうやらエッジの知り合い=信用できるという認識らしい。
そしていよいよ、エッジが本題を切り出した。
「ところでカイン、お前は小さな穴の開いた、大きな剣を持ってるヤツを見てねえか?
その剣を持ってるヤツを――恐らくはマリアさんの仇を。今探しているとこなんだ」
カインはそれにも覚えがあった。
マリアの仇とはまさにデールのこと。大きな剣とはデールがあの時持っていた剣のことだろう。
そして俺の記憶が正しければ。
いきさつは知らないが、その剣は現在、先ほど別れたリュカという男が所持していたはずだ。
その時カインは閃いた――これは使える、と。上手くエッジを利用する事ができるかもしれない、と。
「そんな感じの剣を持ってるヤツなら、実は少し前まで一緒に居た。
一時的に別れ、日没後にカズスで落ち合わせる約束をしたが――もしかしたら罠なのかもしれないな」
ちなみにそいつは、紫色のターバンをしたリュカという男だと付け足したが、二人とも知らないようだ。
「カイン、俺たちもカズスに同行していいか?真相を確かめてぇ。
もしかしたらマリアさんを殺したヤツを殺して手に入れたのかもしれねぇしな……」
「そいつが本当にマリアさんを殺した人だったら、このユフィ様がやっつけてやるもんね!」
と言いながら、ユフィは片腕でジャブを打つような真似をした。
「ふむ……スミスは構わないか?」
スミスは「僕は構わないよ」と、コクンと頷いた。
「では――日没を少しすぎた頃にリュカという男は仲間を何人か連れてカズスに現れるはずだ。
しかし日没すぎに俺たちの仲間がもう一人合流するから、その頃までにはカズスに向かう。
だからそれまでに……戦闘になることも覚悟して、休むなり、なんなりしておいてくれ」
エッジもユフィも了承し、休息をとりはじめた。
話が終わったところで、スミスが納得した風に念を送ってくる。
(――なるほどねー、上手く誘導して漁夫の利を得るってワケね)
もっとも、スミスも以前レナを相手に同じ――いや、それ以上か――ことを行っていたのだが。
よし、まずはこれでいいだろう。
あとは日没後に上手く立ち回るだけだ。勿論エッジがリュカたちを殺してくれるのが理想だが、
殺せなくとも、リュカたちを消耗させてくれれば俺たちでもトドメを刺せるようになるハズだ。
ただ――気になるのは先程の爆発か。一度先行して状況を見てきた方がいいかもしれないな。
そんなことを考えながら、カインは忘れていた血文字のメモを破り捨てた。
【カイン(HP 5/6程度)
所持品:ランスオブカイン ミスリルの小手 えふえふ(FF5) この世界(FF3)の歴史書数冊
第一行動方針:カズスの村でフリオニールと合流し、罠を張る
最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【スミス(変身解除、洗脳状態、ドラゴンライダー) 所持品:無し
行動方針:カインと組み、ゲームを成功させる】
【エッジ 所持品:風魔手裏剣(10) ドリル 波動の杖 フランベルジェ 三脚付大型マシンガン 】
【ユフィ(傷回復/右腕喪失)
所持品:風魔手裏剣(10) プリンセスリング フォースアーマー 】
【第一行動方針:アポカリプスを持っている人物(リュカ)と会う
第二行動方針:マリアの仇を討つ 基本行動方針:仲間を探す】
【現在位置:カズス北西の森の東部】
アルガス、彼は多くの支給品を持つ者である。
役立つ役立たないは関係ない。ただただ多くのアイテムを持つ者。
そんな彼は、またも新しいアイテムを手に入れようとしていた。
事の発端は、不機嫌な彼がある事を思い出したことにある。
彼は自身が2人分の支給品を持っていたのを思い出したのだ。
「よし、開けてみるか」
彼はかなり期待をしながら、袋を開けてみることにした。
そして今に至る。
「では行くぞ……当たり出ろッ!!」
まずは1つめの袋を開けた。すると入っていたのは……。
まずは妙なものだった。どうやって使うのかも判らないものが5つセットで出てきた。
説明書を見ると「マシンガン用の予備弾倉です」と書いてある。
しかしその肝心の"ましんがん"が無い。ならばこれ単体では大外れだ。
だがそのマシンガンというものがあったとしたら、これは良い物になる。誰かが持っていたら口車に乗せて奪い取るか。
そして次。次は妙なものが出てきた。
猫の耳と尾を模した何か……頭と腰につけるアクセサリーのようだ。
説明書を見ると「猫耳としっぽです。女の子が着けると萌えます」と書いてある。
駄目だ、外れだ。別に何かの魔法が封じ込められているとかそんな事でもないだろう。それに説明書の意味がわからん。
ラスト。中身は……なんだ、この黒い服は。
「タークスのスーツ(女性用)」と説明書には書いてある。
よくわからないが、女性用であれば用は無い。取引にでも使うか。
しかし「女性用」と言うことは……「男性用」もあるのか?
さて、続いて。
今度はもう一つの袋も開ける事にした。
さっきは外れしかなかったが、今度こそは。
そう祈りながら、開けた。
またも何やら妙なものが出てきた。説明書によると「でじかめ」というらしい。
で、このでじかめは……物を「写し取ることが出来る」らしい。
写し取ったものはこの画面に映し出されるとの事……ちょっと撮ってみようか。
おお、出てきた。先ほど樹を写したが、そっくりそのまま画面に樹が映し出された……が、外れではないのか?これは。
そして次は「デジカメ用予備電池」とか言う物が、今度は3つセット。
名前の通り、このでじかめとやらに使うらしい。「でんちぎれ」を起こしても、これを入れればまた使えるそうだ。
だが外れのために使うものを入れられても実際困る。
駄目だ、ついていない。これも外れだ。
そして最後は……妙な杖が出てきた。説明書を見ると、「変化の杖」と書いている。
なんとこれは、振ると別の姿に変身できるらしい。素晴らしい!これは大当たりだ!!
これを使えば、色々な人間を騙すことも可能だし、弱いものに変身して油断させてからの奇襲に使うのも良いだろう。
やっと当たりが出た。しかしそこに至るまでの外れが痛い。
こうして、彼のアイテム博覧会は終わりを告げた。
と、思ったが……彼はある事に気が付いた。そして笑みを浮かべる。
それは「でじかめ」の事だ。
よく考えれば「物を写し取る」のだ。これは大いに使える。
例えば殺人者が人を殺している現場を目撃したら、自分がそれを撮れば良い。
そして「こいつに気をつけろ」と参加者に情報を売るのだ。そして自分は報酬としてアイテムや別の情報を頂く。
それに「電池切れ」とやらの心配もない。仮に電池切れを起こせば使用できなくなるらしいが、予備があるから大丈夫だ。
アルガスの笑みは止まらなかった。
そしてアルガスは、人が歩いてこちらに向かっていることに気が付いた。
よく見ると遠くには背負われた男と女性が2人いる。若者と老婆だ。
多少不安ではあるが、接触しておこうか。
彼はアイテムを全て片付けると、彼女らが自分のいる場所へ歩いてくるのを待つことにした。
【アルガス
所持品:カヌー(縮小中)、兵士の剣、皆殺しの剣、光の剣、ミスリルシールド、パオームのインク
妖精の羽ペン、ももんじゃのしっぽ、聖者の灰、高級腕時計(FF7)、インパスの指輪
マシンガン用予備弾倉×5、猫耳&しっぽアクセ、タークスのスーツ(女性用)
デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3、変化の杖
第一行動方針:目の前の女性達(アリーナ達)との接触
最終行動方針:脱出に便乗してもいいから、とにかく生き残る
【現在位置:ジェノラ山 山頂】
【ウネ(HP 1/2程度、MP大幅消費) 所持品:癒しの杖(破損)
第一行動方針:山頂へ向かい、眠る
基本行動方針:ドーガとザンデを探し、ゲームを脱出する
【ライアン(外傷は回復、気絶)所持品:レイピア 命のリング】
行動方針:不明】
【アリーナ 所持品:プロテクトリング
第一行動方針:山頂へ向かい、ウネとライアンを守る
第二行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】
【現在位置:ジェノラ山 山頂近く】
ピンクの髪が、森を駆ける。
レナは森の中を逃げ続けていた。
エリアに続いて、ローグまで。その、自身の罪から、逃げるように…。
「違う!私は殺してない!」
レナは叫んだ。
自分の為、叫んだ。
だが、チキンナイフにはローグの血がついていた。
違う、私は殺してなんかいない。
絶対に誰も殺してなんていない。
走り続けると、ふと気が付くと砂漠にいた。
なんてことだ。汗びっしょりだ。
「ここはどこなの?私を助けて!」
レナは叫んだ。
自分の為、叫んだ。
だが返事は無い。
「助けて…姐さん…ギルバート…」
レナの涙は砂漠の砂に消えていった。
「あ、あれはなんだろう?」
ルカは前方に何かを発見した、それは人の様だ。
「また人間ですか。ひゃっひゃっひゃっひゃっ」
ケフカも気付いたようだ。
「様子が変だ。話しかけてみよう」
「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ。いいですよ」
「うるさい」
「なっなにを〜〜!!!!」
カナーンの南、ジェノラ山の西の平原を一人の満身創痍の男が越えようとしていた。
もうすぐ、あの町へ辿り着く。その思いだけが今この男――ギルガメッシュを支えていた。
傷を負った状態で歩いていたのだ、その分血は流した。眩暈もする。吐き気もだ。
しかし彼にとってはこれからどうすればいいのか。どうしてああなったのかという事の方が重要だった。
俺がしっかりしていないからフリオニールは、サリィは――と最早考えれば考えるほど気力が失われていく悪循環だ。
力が抜けていく。目の前が霞んできた。喉が酷く渇く。ここで死ぬのかもしれない、そう思う。
ふとわるぼうとサリィ、二人と一緒だった時の事を思い出した。
「うるせぇーーーっ!!」
俺とわるぼうの頭に強烈な拳骨が打ち込まれた。
「人が集中して仕事してんだ! ちったぁ静かにしやがれ!」
「「……す、すいません……」」
今まで色んな奴と戦ってきたが特別有無を言わさぬ迫力のある奴だった。
だが一番最初に法服に身を包んだ女に襲われた時、ほんとに一般人だってのが理解出来た。
人を殺した事なんてない、ましてや自分の振るうハンマーを人に向けた事だってなかっただろう。
気のいい奴だってのもすぐに分かった。こんな状況でなければ惚れてたかもしれない。
そう考えるとひどく残酷だ。このゲームはそんな殺し合いとは無縁の奴さえそうさせてしまうのだから。
……このままじゃ終われねぇ。あの魔女にサリィの受けた痛みを倍返しにしてやるまでは。
そうして奮い立たせようとするが、また疑問がある。わるぼうの事だ。
アイツと合流したいところだが、旅の扉に入ったタイミングが違うだろう。
一緒の場所に出なかったのがその証拠だ。あまり考えたくはないが死んでる可能性もある。
いや駄目だ。考えたくねぇ。アイツまで死んでるなんてのは。
またそうして嫌な事を思い浮かべて、いっそこのまま死ぬのもいいかもしれないとすら考えてしまう。
だが意識を失うわけにはいかない。ここで倒れるわけにはいかない。
サリィをあんな風にしておいて、俺がここでこうしての垂れ死ぬなんてそれこそ侮辱だ。
最期のその一線が気力をぎりぎり保たせていた。ここに来るまでに倒れていたなら、恐らくはそのまま死ぬのを待っていただろう。
そして気力を振り絞ったお陰で町に近付いてきていた二人に気付いてもらえた。そういう意味では、サリィに生かされたと言える。
感謝の言葉の一つも掲げるべきなのだが、生憎ギルガメッシュにはそれだけの余裕などあるはずもなかった。
「大丈夫か! オルテガ殿、この者怪我をしていますぞ!」
パパス達が町の近くへと差し掛かった時だ。
明らかに分かる一つの違和感に気付いた。南側に在る赤く染まった体躯を引き摺る一人の男の姿だ。
見過ごすわけにもいかず、こうしてほとんど意識の無いギルガメッシュに身体を預けられている。
「ム……しかもかなり酷いですな。このままでは命に関わります。すぐ町に入り治療致しましょうぞ」
「ええ……分かっております。しかし――」
パパスが懸念していることは、町の中から聞こえる爆発音だ。
彼を助ける事に疑問はない。それが最優先だ。
しかし、ピエールとザックス、そしてテリーとファリスの戦いが行われているのだ。
パパス達は戦っている者が誰かまでは分からなかったが、
もしゲームに乗っている者であるとすれば今出くわすのは非常に不味い。
二人だけならば問題はない。ただ己の生き方に従い、悪意を導く。
悪意の元である者がそれを打ち払えなければ切り捨てるだけだ。
この不器用な生き方を変えるつもりはないし、今更変えようもないだろう。
だが今なら確実に彼――ギルガメッシュを庇いながら戦う事になる。刻一刻と体力が失われているのだ、そのような時間はない。
相手が彼を狙ってくれば余計に危険であり、更には全滅の危険をも孕む。
それでもなお、パパス……そしてオルテガには目の前に在る戦いを見過ごす事も出来ないのも事実であったが。
「成る程……あちらも気になるという事ですな?」
「ええ。もしかすると、あそこには我が子も――と考えてしまいます故」
あの子は強い、きっと生きている。誇らしくなるほど立派に育っていた。
こんなところでしか会えないというのも、皮肉であったが。
だが、ここに誘われた者達も違った世界の強者であるこの現状を見れば、
早急に合流しなければならないのは明白である。
「ならばパパス殿。貴殿は彼の治療をお願いできますかな?」
「承知した。ではオルテガ殿は……」
「私は彼等を止めに行きましょうぞ。心配なさるな、私は簡単に死ぬようには出来ておりませぬ」
オルテガはそれだけ言うと、町の中へと駆け出していった。
その頃アルス、そしてクリムトの二人は別方向からではあったが、戦い渦巻くカナーンへと着実に向かっていた。
早くに自分の進んでいる方角から発している強烈な爆発音に気付いたアルスは、仲間が居るかもしれないという思いを抱き走りだした。
そしてもう一つ。ゲームに乗った人間が居るかもしれない。もう誰も死なせたくはない。必ず倒す。
胸の奥にある憎悪を勇気と気力に変え、遠くに臨む町へと疾駆する。
クリムトはカナーンに在る悪意を打ち払う為に、また失われ行く命を救い上げる為に。
静かに淀みなく、意思を込めて歩き続ける。きっとそれが自分の取るべき最良の道であると信じて。
【オルテガ 所持品:ミスリルアクス 覆面&マント
第一行動方針:状況の確認と戦いの阻止、場合によっては戦う
第二行動方針:アルスを探す
最終行動方針:ゲームの破壊】
【ギルガメッシュ(HP1/4程度・無気力状態・意識混濁)
所持品:厚底サンダル 種子島銃 銅の剣
第一行動方針:不明】
【パパス 所持品:パパスの剣 ルビーの腕輪
第一行動方針:ギルガメッシュの治療
第二行動方針:仲間を探す
最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:カナーンの町東部】
【アルス(MP4/5程度・疲労)所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘 官能小説3冊
第一行動方針:南の村に向かう(カナーンの村)
第二行動方針:イクサスの言う4人を探し、PKを減らす
最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】
【現在地:カナーン北西・湿地帯】
【クリムト(失明) 所持品:力の杖
基本行動方針:誰も殺さない。
最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【現在位置:カナーン北東・峡谷出口】
セージは扉を閉めようとして、部屋の肖像画に気付く。
その肖像に付けられたプレートには……サラ、と書かれていた。
『ギルダー、ここは君の言っていた想い人の部屋だったのか。
僕は何もしてやれなかったけど……せめて、安らかに』
一瞬だけ瞳を閉じて、セージは扉を閉めた。
「彼は東のほうへと走り去っていった。
森林道なりに行ったとするならカズスという村に行き着くはずだ。
だが、彼も何かしら傷を負っていたようだから急げば途中で追いつけるだろう」
「そうでなきゃ困る。急ごう!」
「待て! リュカ! 一体どこへ行くつもりだ!」
エドガーはリュカの背を追って森の中を疾駆する。
もう大分長い時間走っているが、一向に追いつけない。
実際、リュカとエドガーの身体能力には大きな差があった。
戦闘経験で言えばエドガーもそう劣る物ではないが、戦闘において機械による後方支援が主だった彼は
常に前線で身体を張っていたリュカに及ぶべくもなかったのだ。
逆に距離が開かないのはリュカが傷を負っているせいであろう。
『くそ、彼はかなり手酷い傷を負っているはずなのにどうしてこうも走れる?
基礎体力の差か? それとも我を忘れているせいなのか?
どちらにしろ、このままでは彼のほうが危険だ。何とか止めないと……』
リュカは最初、咆哮をあげながら疾駆していたが今はもうただ前だけを見て疾走している。
エドガーはチラリと太陽を見やる。空は大分紅く染まってきていた。
走っている方向は……北東。ウルの村の方向だ。
最も、間を山岳地帯が隔てているので容易には行き着けないだろうが。
恐らく、リュカは論理的思考を持って方角を定めているわけではないのだろう。
時間的に城を出てから小一時間といったところか。流石にエドガーも限界に近かった。
こうなれば根競べだとエドガーが覚悟を決めたとき、リュカに限界が訪れたらしい。
その場に崩れ落ち、膝を突いた。
後方から追うエドガーからは判らなかったが、今までリュカは自身に回復魔法を掛けながら走っていた。
しかし回復する傍から消耗していくため、リュカの傷自体は未だかろうじて塞がっている状態である。
それにシンシアを埋葬した後、しばしの休息で得た魔力ももう残りは少なかった。
そしてついに魔力が尽き、疾走するだけの体力を維持できなくなったのだ。
「ハァ、ハァッ ……やっと、追いついたぞ……リュカ。
これだけ汗をかいたのだ。流石に落ち着いたか?」
エドガーは背後からリュカの背を叩こうと手を伸ばすが、即座に振り払われる。
振り向いたリュカの瞳には憎悪の炎が宿っている。
「足りない……僕には力が足りない。
こんな、こんな場所で立ち止まってるわけにはいかないんだ。
ビアンカの仇を……僕は!」
リュカの胸の傷は開いてしまっていて、衣服の上半身をすでに血で染めていた。
しかしそれに構わず腰に下げているブラッドソードを引き抜き、エドガーへと向ける。
「邪魔しないでください、エドガーさん。
僕はアリーナを探します。それを止めるというなら……」
その言葉を聞いてエドガーはカッと頭に血が上った。
目の前にいる彼は、自分が今まで見知っていた格高き男ではない。
「止めるなら……何かね? その刃で私を斬るか?
私を斬ってその傷を癒すか! 傷を癒してさらに憎悪のままに奔るか!!」
エドガーは何の防御体勢も取らず、無造作にリュカへと近づいていく。
その憤怒の声に押されるかのようにリュカは剣を構えたまま後ずさる。
「来ないで……近寄らないでください! 本当に斬りますよ!?
あなたには城に戻ってタバサを……」
「己が大事な物を他人の懐に預けるか? そして自らは己の衝動の赴くままに復讐に往くと?
ふざけるな! 甘えるのもいい加減にしたまえ!!」
「あ、あなたに何がわかる! 大切な物を奪われ、踏みにじられた者の気持ちが!
僕の気持ちが解るわけがない!!」
剣を振るって叫ぶリュカに全く億さず、エドガーはさらに近づく。
「解るわけがないだろう、他人を理解できるなどと所詮は幻想に過ぎない。
ましてや王者でもない唾棄すべき惰弱な愚者のいうことなら尚更だ!」
「僕は―――」
「君は何者だ、リュカ!!」
バキィッ
エドガーの拳がリュカの頬にめり込んだ。
なすすべなく吹っ飛ばされ、リュカは倒れ伏す。
ブラッドソードは手から離れ、すぐ脇に突き立った。
リュカはすぐに起き上がるが、見下ろすエドガーに完全に気圧され言葉を失う。
その時、エドガーの背後から光が射したような気がした。
―― お父さん ――
『レックス?』
息子の呼び声。幻聴? 否、確かに心に響いたと感じた。
「む?」
エドガーも背の光に気がつき、ザックから何かを取り出す。
それは、天空の鎧。
天空の勇者だけが身に着けることが出来るという伝説の武具の一つ。
自分の息子、レックスがかつて身に纏った武具だ。
そして、ふと自分の周囲に優しい風が舞ったような気がした。
―― リュカ ――
『ビアンカ?』
幼馴染だった妻に抱きしめられた錯覚を起こした。
ふと見れば、ずっと手に巻いていたビアンカのリボン。
リュカはリボンを握り締め、その場にうずくまる。
低く、聞こえてくる嗚咽。
「レックス……ビアンカ……僕は、僕はどうしたら……」
すでに光の失せた鎧を再びザックに戻し、エドガーはリュカに歩み寄る。
「私には君の気持ちを理解することは出来ない。
君の気持ちには君自身が答えを出さなくてはいけないんだ。
だが私にもできることはある。それは君を信じることだ。
私は君が正しい選択ができる者だと信じているよ」
リュカは涙をボロボロと溢れさせながらエドガーを見上げる。
エドガーは瞳を閉じ、微動だにせずにじっと待っていた。
恐らく、ここでリュカが刃を振るえば黙って斬り倒されていただろう。
エドガーは言葉通りリュカの選択を信じたのだ。
『僕の……選択……』
自分は復讐を選んだ。
家族を、仲間を、恩人を奪った者たちが憎い。それは間違いない。
だが、それは本当に自分が選んだことだっただろうか。
自分が本当に選択したのは……覚悟を持って決意したことは……護ること。
タバサの笑顔が脳裏に浮かぶ。
『何を―――していたんだ、僕は』
そうだ、自分は娘を護ることを――必ず護りきることを決意したのではなかったのか。
何かに惑わされていたとしか思えない。
脇に突き立つ真紅の剣を見る。
今まで数多の血を吸ってきたこの妖剣に魅せられてしまったのか。
『違う、僕の心の弱さだ! 』
剣の柄を握り締め、正眼に構える。
切っ先をエドガーへと向けて……迷わぬ軌道で鞘へと収めた。
キンッ
エドガーが瞼を開く。
「答えは出たかね?」
「はい」
「君は、何者だ?」
先程、拳とともに出した問いを再びリュカへと浴びせる。
それにリュカは今度こそ迷わずに答えた。
「僕の名はリュカ。グランバニアの国王、そしてタバサの……父親です」
その答えを聞いて、エドガーはフッと笑った。
「やっと己を取り戻したようだな。
今の君の瞳は意志の力に満ちている。安心したよ」
「エドガーさん、あなたは……」
「フム、まだ話していなかったか。私はエドガー=ロニ=フィガロ。
しがない砂漠の城主さ」
エドガーは空を見上げる。
「本当は……私は一介の機械技師になりたかったんだがね……」
その表情は何故だか哀しそうに見えた。
ふとエドガーが視線を戻すとリュカが自分に向かって頭を下げている。
「すみませんでした。僕の心が弱かったばかりに、面倒を掛けさせてしまって。
なんと言ってお詫びしたらいいのか」
「王たる者がむやみに他人に頭を下げるのは感心しないな。
まぁ気にすることはない。ここのところ頭ばかり働かせていた気がするからね。
いい気分転換になったと思うさ。さぁ、君の可愛いレディのもとへと戻ろうか」
「はい!」
そう勢い良く返事したリュカだが、突然胸を押さえて咳き込んだ。
咄嗟に口を手で押さえるが、見ると唾の中に血が混じっている。
「無理をしすぎだ、リュカ。張り詰めていた精神が落ち着いて自身のダメージを自覚したな。
とにかく治療してゆっくりとでいいから城に戻ろう」
「いえ、それは困りますなぁ。これからしばらくは私に付き合っていただかないと」
突如として割って入ってきた声に二人は振り返る。
そこには―――緑髪の殺人者。
「「デール!!」」
デールはサスーン城から退去した後、水場を目指して移動していた。
城から北東の場所にある湖だ。
アラームピアスがあるので不意打ちを喰らうことはないが、今は疲労している身である。
他の参加者に出会わないよう、慎重に休息を取りながら北東へと歩いていた。
昨日から散々移動している森林道だが一朝一夕で慣れる訳でもなく、
森の踏破に思った以上に時間がかかり、湖の手前の森に着く頃には大分日も暮れてきていた。
その時、そう遠くない場所から何か大声で言い争う声が聞こえてくる。
無視しようかとも思ったが、聞き覚えのある声のように思えた。
興味を覚えたデールは気付かれないようにもう少し声の方に近づいてみる。
そして声が判別できるほどの距離まで近づいてデールは唇の端を吊り上げた。
近くの木に身を隠し、様子を窺う。
『これはこれは……食べ逃したご馳走ではありませんか。
すでに死んだかと思っていましたが、こんな所で思わぬ収穫です』
あの時、自分がリュカに与えた傷は疑いようもなく致命傷だった。
しかし今彼は目の前で生きて存在している。
恐らく仲間に回復呪文の使い手が居たのだろうが、今はそれに感謝しよう。
見ればリュカの胸の傷は開いていて再び血が流れ出してきている。
連れの男も大分疲労しているようだし、よく観察すれば右手がない。
そうだ、あの男は以前自分が襲ったときも成す術もなく逃げ出していた男だ。
彼らにまともな戦闘能力は残っていない。
もし残っていたとしても自分の武器は飛び道具だ。わざわざ接近する必要はない。
いざとなれば切り札のマシンガンを使えば向こうは手も足も出ないだろう。
注意するべきは呪文攻撃だが、それも警戒することはない。
自分にはあらゆる呪文を弾き返す効果を持つ指輪があるのだから。
それに加えて、自分自身は休息を取りながら歩いてきたので
サスーン城を出たばかりのような大きな疲労感は消えている。
潜伏する必要はあるが、それはこの素晴らしいご馳走を平らげてからでも遅くはないだろう。
デールは自分の状況と相手の状態を冷静に分析し、
これは戦闘ではなく一方的な狩になると結論付けた。
「さあ、食事を始めよう」
デールは正面からリュカたちに向かって歩き始めた。
「潜伏しようと思っていましたが、大声を聞きつけて駆けつけてみれば
こんな場所で食べ逃したご馳走に出会えるとは。私は運が良い。
クフフフ……それに、逃した魚は大きいと言いますが、 まさか私と同じ国王とはね。
これでこの場には国王が三人集ったわけです。随分と豪華な森ではないですか」
デールはデスペナルティの銃口をリュカに向け悠然と歩いてくる。
エドガーは身構えながらも皮肉を返す。
「三人? 一体三人目の国王とやらはどこにいるのかね。
私の瞳にはリュカの他に、人であることも忘れた飢えた獣しか写ってはいないが」
それを聞いてデールはさらに哄笑を上げる。
「くははははは! なんとも活きの良い食材です。
是非とも今のを最期の言葉にして頂きましょう!」
そして――デスペナルティの咆哮が、戦闘の開始を告げた。
【リュカ(HP1/3 MP0 左腕不随)
所持品:お鍋の蓋 ポケットティッシュ×4 アポカリプス+マテリア(かいふく)
ビアンカのリボン ブラッドソード
第一行動方針:この場を切り抜ける
第二行動方針:城へ戻り、タバサを護り抜く
基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【エドガー(HP4/5 MP1/3 右手喪失)
所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン 血のついたお鍋 再研究メモ
第一行動方針:この場を切り抜ける
第二行動方針:アリーナを殺し首輪を手に入れる
第三行動方針:仲間を探す 第四行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【デール 所持品:マシンガン(残り弾数1/6)、アラームピアス(対人) ひそひ草、デスペナルティ
リフレクトリング 賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能) ナイフ
第一行動方針:リュカとエドガーを喰らう
基本行動方針:皆殺し(バーバラ[非透明]とヘンリー(一対一の状況で)が最優先)】
【現在地:湖の手前の森】
【マティウス(MP1/2程度)
所持品:E:男性用スーツ(タークスの制服) クロスクレイモア 雷の指輪 ビームウィップ
第一行動方針:リュカを追う 基本行動方針:アルティミシアを止める
最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
備考:非交戦的だが都合の悪い相手は殺す】
【ゴゴ(MP1/2程度)
所持品:ミラクルシューズ、ソードブレーカー、手榴弾、ミスリルボウ
第一行動方針:マティウスの物真似をする】
【セージ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復 MP1/2程度)
所持品:ハリセン ナイフ ギルダーの形見の帽子 ライトブリンガー
第一行動方針:リュカを追う 基本行動方針:タバサに呪文を教授する(=賢者に覚醒させる)】
【タバサ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復)
所持品:E:普通の服 ストロスの杖 キノコ図鑑 悟りの書 服数着 ファイアビュート
第一行動方針:リュカを追う 基本行動方針:呪文を覚える努力をする】
【現在位置:サスーン城→カズス方面】
アルスは苦悩していた。
やはり迷いがあるのか、自分は。と自身を忌々しく思いながらもカナーンへと走っていた。
悪を殺そうという覚悟はできている。だがそれでも無血の道を模索しようとしている自分も、心の中で小さくも確実にいる。
ふと、自分はなんて傲慢なんだろうと思ってしまった。
例え仲間が悪と手を組んでいても、必要ならば仲間ですら斬ろうという覚悟もある。
ならばたとえ道中に独りになろうが、自分は悪を倒さねばならないのではなかったか。
しかし自分はフリオニールという悪を逃がし、一方でギルダーという悪にも出会えないままだ。
それに本来の目的―――仲間との再会も、ローグと会っただけでそれ以前もそれ以降も成し遂げられていない。
だが覚悟は出来たと人に嘘を言う。実際、昨夜はまだ迷いがあったのにシドには「覚悟は出来た」と嘘をついてしまった。
「矛盾、葛藤……くだらない、くだらないな僕は……」
だがアルスはそう呟きながらも、確実にカナーンへと向かっていた。
そして、アルス本人は知らないが父のいるあの場所へ辿り着こうとした時、アルスの足は止まった。
同じようにカナーンへと向かう3人の男女の存在に気づいたからだ。
そう、それはサイファーとロザリーとイザ。そしてまた彼らも、アルスの存在に気が付いた。
3人は数時間前からずっとカナーンへと歩いていた。ただ単純な話、近いという理由からだった―――最初は、だが。
だが爆発音を聞き、彼らは自分たちの進路について深く考えてみる必要が出てきた。
「まぁでも、戦いがあるっつー事は何か理由の一つや二つはあんだろ」
彼らは歩みを止めなかった。
海岸沿いにカナーンを目指し、歩き続けた。
そして、アルスに出会った。
「荷物を置け、んで両手を上に上げろ」
「………わかった、指示に従おう」
サイファーのこの言葉に、アルスは抵抗せずに従った。
そしてサイファーはしばらくそれを見つめると
「もういい。悪かったな」
そう言って、アルスの元へ近づき荷物を渡した。
「これくらいで信用するのか?」
「脅しをかけた方から歩み寄らねぇと、てめぇが損だろうが」
そして数メートル後ろにいたロザリー達も、サイファーのいる場所へと近づいた。
「あの…失礼だと思いますが、あなたは何をしてらっしゃるのですか?」
今度はロザリーがアルスに話しかけると、
「今僕はカナーンに急いで向かっているところだ」
「そうだったのですか。実は私たちも、その村に向かっているのです」
「ほう……」
アルスは普通に答えた。別に渋る情報ではないからだ。
そして答えを聞いたイザは何かを思いついた。
「じゃあ僕たちと共に行動しませんか?」
「断る」
しかしアルスは即座にイザの提案を却下した。
「……急いでいるんだ。他人の歩調に合わせる余裕等、今の僕は持ち合わせてはいない」
「そりゃなんでだ」
サイファーもアルスのその答えに即座に反応する。
そしてサイファーがこう問うと、アルスは暗く重い声で、
「ゲームに乗った人間を、殺す為だ」
こう、答えた。それを見たサイファーは、軽く咳払いをした。そして―――
「アルス、俺はな……今ロザリーの手助けをしてる
だから俺はイザの提案がロザリーの得にもなりそうだから、イザの意見に賛成したいところだ。
それに俺らも後々でかい奴を相手に戦う。その為の仲間も1人でも欲しい。俺自身は大勢と群れるのは好かねぇがな。
だからよ、てめぇが一緒に行動してくれるとありがたかったんだが……」
捲くし立てる様に、サイファーはそう話した。
そして更に、
「……この提案を跳ね除ける程の、人を殺す覚悟はどれ位だ?俺らがどれ程邪魔になる?長くなっても良い、言え」
驚くほどストレートに、尋ねた。
「……覚悟など、今の僕は十分すぎるほど背負っている。僕の殺した人間のかつての仲間を悲しませようが、僕は殺す。
そしてたとえ僕のかつての仲間が、僕が殺すべき悪と共にこの地で手を組んでいたとしても……必要であれば、仲間も殺す。
だからサイファー。とにかく仲間を探すお前と、かつての仲間と殺すべき人間のみを探す僕は必ずこの先道を違える。
現に今も確実に差異と壁と溝と違う未来がある。ただ、僕はこのゲームを確実に潰す。魔女如き僕の手で倒してやる。
だからいつか、僕の願いが、僕の望みがお前たちと合致した時……その時僕は改めてその話を受けよう」
一寸間を置き、アルスは自分の思いを語った。
そして自身の全ての思いと全ての言葉で、サイファーの言葉を否定した。
「ある意味、傲慢だな」
「ああ、そうさ。今の僕はとても傲慢だ。ここまで言葉を並べ立てたのに……まだ僕は悪を殺せていない」
サイファーのこの言葉を聞き、アルスは自嘲して答える。そう、傲慢だ。自分はなんて傲慢なのだろう。
これ程の覚悟があると散々人に語り、仲間に語り、これから先かつての仲間に語ろうとしている。
だがそれでも自分は悪を殺せず、悪を逃がし、悪から逃げ、そして今ここにいる。
アルスは、あのカナーンの村を見た。
サイファーも見た。相変わらず闘いは終わっていないのだろう。
「お前の覚悟はわかった。共闘するゆとりもなさそうだな、"今のお前"は」
「ああ、そうだ。傲慢な人間ですまなかったな」
「別にいい。そこまで俺はてめぇを傲慢だと思ってねぇ……だが」
「だが……?」
「だが、そこまでの覚悟があるなら必ずやり遂げろ。今生きてる"悪"とやらを全部殺すくらいでやれ。
それが出来なきゃお前は完全に傲慢な人間に成果てちまう……判るな?覚悟があるならやり遂げろ」
「………」
「それが出来てねぇ今のお前は、そのままじゃ本当に傲慢な人間になるだろうよ」
サイファーの言葉は静寂を生んだ。
イザもロザリーも、そしてアルスも黙ったままだ。
だがサイファーは続ける。
「必ず仕留めろ。生きている者に止めを刺さねぇ奴は傲慢らしい……なんかの映画で見た」
「エイガ……?まぁいいか、覚えておく。もしカナーンで会ったなら、その時はまた宜しく頼む」
問答を追え、アルスはカナーンへと走っていった。
それをサイファーが暫く見つめていると、ロザリーがいつの間にやら彼の隣にいた。
「サイファーさん……」
「いいだろーが、俺らもあいつと同じ事を目指してんだ。それに……覚悟だけ並べて何もしない奴は嫌いだ。
もし同じ志持ってる奴が、んな奴だったら反吐が出るからよ……ほら、行くぜ!」
「ええ、あのアルスさんという方の様に急ぎましょう。実は大変な何かがあるのかもしれないですから……」
284 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/26(火) 23:02:17 ID:09XAobFf
傲慢と言えばミスター一人相撲、楓の出番!
「俺を出さないのは傲慢なんだそうだぜ!」
楓の雷が辺り一面に直撃した!
そしてアルスは、相変わらず疾走していた。
そして思う。自分は次こそは必ず悪を討つ事が出来るだろうかと。
先程の彼らと会う前は、必ず討つと意気込んでいた。
だが、どうしても今の自分には無理なのではないかと不安が過ぎる。
サイファーにもただただ言葉を並べ立て、"嘘をついた"。
本当は自分は仲間が欲しい。
自分と同じ道を進む人間がいれば、全く同じ人間を討とうと考える人間がいればどんなに気は楽だったか。
だが少しでも道を違う可能性があるなら、自分は人と共に行動する事はできないのだ。
してしまえば、自分と他人は互いに邪魔をしてしまうだろう。
………いや待て、違う。それは違う。ようやく判った。
つまり自分は、同じ考えを持つ人間と共に動き、そして自分一人に圧し掛かる重圧を軽くしたい、そう思っているだけなのだ。
なんて自分勝手で傲慢なのか。そうやって自分は、敵味方関係なく人を遠ざけたのではないか。
歩み寄る人間がいたはずなのに。かつての仲間にまで共に歩む気を起こせなかったのはこういう事だ。
苦悩の理由は自分の迷いじゃないか。
アルスは足をピタリと止め、笑った。自分への嘲りを全て吐き出し、笑った。
そして気づかなかった。その後ろに彼らがいたことを。
「よう、す〜〜〜ぐ追いついちまったな。何笑ってんだ?」
サイファーは、アルスの顔を覗き込んでそう言った。
アルスは驚くものの、そのサイファーの問いに答える事もなく言った。
「……気が変わった。僕はあのカナーンの闘いを止める。
その時だけでいい……少し、僕に力を貸してくれ」
「……上等!!」
【イザ(HP3/4程度) 所持品:ルビスの剣、エクスカリパー、マサムネブレード
第一行動方針:カナーンの村へ急ぐ 基本行動方針:同志を集め、ゲームを脱出・ターニアを探す】
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ
第一行動方針:同上 基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル
第一行動方針:同上 基本行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【第一行動方針(共通):セフィロスとクジャを倒す 第二行動方針(共通):ゲームからの脱出】
【アルス(MP4/5程度・疲労)所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘 官能小説3冊
第一行動方針:サイファー達と共にカナーンへ行く
第二行動方針:イクサスの言う4人を探し、PKを減らす
最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】
【現在地:カナーン北西・湿地帯→カナーンの村】
287 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/26(火) 23:06:08 ID:09XAobFf
「なんか屑が突っ込んでるな。氏ねよ」
通りすがりのアルルは楓を焼き尽した!
「あぼ〜んしといた」
微笑むアルルは悪魔のようだった……。
それはまだ、太陽が青い空に輝いていた頃。
少女の姿をしたモノが、焔色の髪の男の前に姿を表した、少し後の話。
赤く染まった緑の中で、二対の瞳がそれを見ていた。
かつて、リノア=ハーティリーと呼ばれていた少女の遺体を。
美しい顔も身体も、見る影もないままに真紅に染めた、少女の姿を。
もはや歩く事も、話す事も、笑う事も、泣く事さえも出来ない、リノアだったモノを。
木の葉を揺らしながら、犬の吼え声が悲しげに響く。
嘆くように、惜しむように、寂しそうに。
少女の死を嘆き、復讐を誓うように。
けれどそれを聞いたのは、『彼女』の横にいた青年、一人だけだった。
――『その時』は、まだ。
一発目の銃弾を避けながら、エドガーは考える。
戦場では焦りは禁物。相手のカードを観察し、自分のカードを考えながら、冷静に判断を下さねばならない。
――デスペナルティをメインで使っているということは、マシンガンが弾切れしたか、弾数が少なくなっているのだろう。
それだけは不幸中の幸いと言える。
だが、それ以外の点では、状況は極めて厳しい。
デールの指に輝いているのはリフレクトリング、その名の通りリフレクの効果がある指輪だ。
並みの魔法では反射されてしまう。
二発目の銃声。横に逸れた木の幹を撃ち抜いた。
――強力な魔法の一部にはリフレクを貫通するものもあるらしいが、残念なことにエドガーは習得していない。
リュカの世界の呪文ならもしや、とも思うが、リュカにそんな余力は無いだろう。
ブラッドソードやアポカリプスで戦おうにも、相手は銃だ。近寄ること自体が難しい。
疲弊したリュカを庇いながら逃げる、というのはもっと無理な相談だ。
とすると、残された手段は一つしかないだろう。
「リュカ、少しだけでいい。時間を稼いでくれ!」
――その声が届いたかどうか、確認する余裕もない。
エドガーは素早く詠唱を開始する、
同時に、三発目の銃声が空気を切り裂き――甲高い金属音が木霊した。
リュカが翳したブラッドソード、その強固な刀身が銃弾を弾き返したのだ。
「生きが良いというものも考え物ですね」
デールは舌打ちし、四度撃鉄を起こす。
「リフレク!」
それよりわずかに早く、完成した魔法が解き放たれ、エドガーの身体を包み込んだ。
「防護魔法ですか? 無駄な事を……
生に執着するのも結構ですが、苦痛をいや増す結果に終わるということには気付いた方が宜しいですよ」
「殺し合いに乗るのは、生に執着しているからじゃあないのか?」
怒りとも悲しみともつかぬ声で、リュカが言う。
「生憎ですが、僕は命を奪いたいわけではありませんよ」
聞き分けのない子供を諭す父親のように、デールは微笑んだ。
けれどその表情の下にあるのは、決して優しさや理性などではない。
「僕は壊したいだけなのです――僕以外の全てをね!」
その一言とともに虚空が震え、狂気の銃弾はエドガーの頬を掠めた。
焼け切られた肉から、一筋の血が溢れ出す。
「この程度で壊れるほど、私は軟ではないのだがね」
エドガーもまた、笑った。余裕たっぷりな表情で。
それが癇に障りでもしたのか、デールはやれやれと肩を竦める。
「逃げる余力も、戦う術もないくせに抗うとは……無駄な努力ほど見苦しいものはありませんよ」
「そうでもないさ。……サンダー!」
詠唱が終わると同時に、エドガーの右手に紫電が散る。
「バカが……僕に呪文など効くものか!」
嘲り、銃をエドガーに向けるデール。
けれど、彼が引き金を引くよりも早く、雷光は彼の身体に突き刺さった。
「うあ"ッ!?」
予想外の衝撃と、全身を走る経験した事のない苦痛に、デールは銃を取り落とす。
「反射された魔法は二度反射されない。戦いの基本だよ、お坊ちゃま」
「チィッ……味な真似を!」
デスペナルティを拾い上げようとはしなかった。
素早くマシンガンを取り出し、引き金に手をかける。
けれどもやはり、エドガーの方が早かった。
「ブライン」
その途端、デールに夜が訪れた。
夕焼け色に染まっていたはずの森は、どこにもない。
暗闇が視界を覆い、獲物の姿を包み隠す。
「どこまでも往生際が悪いッ……!!」
狙いも定められぬまま、デールはトリガーを引いた。
マシンガンによる全方向射撃、これなら避けきれるはずがないだろう。そう見越して。
「ぐっ!」
タイプライターの音が響き渡る中、デールの予想通り、悲鳴が聞こえた。
「エドガー!」
リュカが叫ぶ。どうやらエドガーに命中したらしい。
デールは心の奥で哄笑しながら、声の方角に銃口を向け、再び引き金を引く。
カチッ。
「……?」
カチッ、ガチャ、ガチャガチャガチャ。
「弾切れのようだな」
焦るデールの耳に、エドガーの勝ち誇った声が響く。
「覚えておきたまえ。後先を見通す力に欠けるようでは、王としても狩人としても失格だ」
デールの誤算は、敵を甘く見すぎたこと。
満身創痍といえ、戦いで培った経験や技術は相手の方が圧倒的に上だったというのに。
「サンダラ!」
エドガーの声とともに、先よりも強力な電撃がデールを襲う。
うめくことさえ出来なかった。
魚のように身体が跳ねたのも、彼の意志に沿ってではない。
(負ける……この、僕が……?)
そんな問いを残して、彼の意識は深遠に沈んだ。
――耳元で囁く、『風の音』を聞きながら。
「どうする?」
エドガーがリュカの肩を叩く。
「狂った殺人鬼とはいえ、元は君の知り合いだったのだろう?
辛いならば、私にその剣を貸してくれ。私が止めを刺す」
「いえ……僕が、やります」
リュカは自分の荷物をエドガーに預け、ブラッドソードだけを手に、気絶したデールに歩み寄る。
親友の弟だった。
誰に対しても優しく、親切な人だった。
あのヘンリーと本当に血が繋がっているのかと疑いたくなるぐらい、穏やかな人だった。
思い出を振り切ろうと、目を閉じる。
殺さなくてはいけない。
彼はもう、自分やヘンリーの知っている彼ではない。
ただの、血に餓えた殺人者なのだから。マリアを殺し、リノアを殺した男なのだから――
……デールを殺す。その覚悟自体は本物だったろう。
けれど、彼は再びミスを犯したことに気付いていなかった。
エドガーですら、気付いていなかった。
そうやって思い出を過ぎらせる。その躊躇いこそが、取り返しのつかないミスだということに。
「……『ドロー』」
エドガーの身体から、数条の光が放たれる。
それは気を失っているはずのデールの手に集い、弾けた。
「エスナ」
呟かれた言葉の意味を、エドガーが理解する前に。
暗闇に目を覆われていたデールは、有り得ぬ速さで、一瞬の途惑いすらなくデスペナルティを拾い上げる。
避けることは間に合わなかった。
轟音と共に、リュカの右腕に赤い血の花が咲く。
「リュカ!」
「余所見をしている場合じゃないでしょう? ドロー!」
リュカに銃口を向けたまま、デールはエドガーに視線を向ける。
魔力の輝きが、再びエドガーから離れた。
「デスペル!」
デールの叫びと共に、光と化した魔力は弧を描き、エドガーの身体を包み込む。
緑色に輝く反射壁は、瞬く間に光に解け、散っていく。
「バカな……!」
驚愕も動揺も隠す事などできなかった。
それはリュカも同じだ。
呪文を使えないはずの人間が魔法を唱えている。
彼の世界にあらざる力を使っている――
「フフ……フフフ、アーッハッハッハッハ!!
素晴らしい! これがお前の力か、パンデモニウムよ!」
血のように赤い夕焼けの下で、翡翠の髪を風になびかせて。
逢魔ヶ時に相応しい禍々しさと、一枚の絵画のような美しさを備えて、彼は哄笑した。
そして硬直する二つの獲物を前に、若き狂王は『何か』に語り掛ける。
「さあ、これだけではないのだろう?
見せろ、お前の力を……僕の力を、屠る力を、喰らう力を、破壊する力を!!」
魔法のランプに封じられていた闇の使者は、忠義から青年の意に従った。
誇り高き地獄の番犬は、強敵に挑まんとする魔女の騎士に戦う力を貸し与えた。
宝石を額に抱く守護者は、宿した自覚すら持たない主を影から守っていた。
G.F.パンデモニウム。
荒れ狂う風の化身は――破壊しか生み出さない風は、狂気に憑かれた男を新たな主と認めたのか。
守るのではなく壊すための力を、彼に教え、与えたというのか。
ただ、破壊だけを望む男に。
「ドロー、サンダラ!」
リフレクによる守りを失ったエドガーに、デールが放った雷撃が襲い掛かる。
生まれ持った魔力の差か、エドガーが紡いだそれに比べれば遥かに小さな光だったが……
リュカとの追いかけっこで疲弊していた彼を気絶させるには、十分な威力を発揮した。
昏倒し、崩れ落ちるエドガーの姿に、デールが哄笑を上げる。
「素晴らしい……雷撃魔法、選ばれし者の力さえ使いこなせるとは!
アーッハハハハハ! これが僕の力! 僕が手にした力か!」
「くっ……!」
一撃に賭けようとしたのか、リュカがブラッドソードを振りかぶる。
体調さえ万全であったなら、あるいはデールを葬ることもできたかもしれない。
けれど、体力を無視して酷使し続けた身体は、もはや彼の意には沿いきれなかった。
そしてまた、デールに宿った風の精も、その一撃を易々と受けさせはしなかった。
「哀れですねぇ、リュカさん。
……悲しいです、僕は」
虚空を切ったブラッドソード、それを握っていたリュカの腕を左手で掴み、デールは呟く。
「貴方は僕の憧れでした。
ヘンリーを上回る強さを持ち、魔物どころか魔族でさえも従えてしまう。
――そんな貴方が、僕相手にこんな醜態を晒すことになるとは」
嘲りではなかった。偽りでもなかった。
彼の声音には、本心からの悲しみが宿っていた。
そして、悲しみなどでは決して塗り潰せない狂気も。
「……もういい。もうたくさんだ。
これ以上、貴方の無様な姿を見たくない。
思い出は美しいまま、胸の中でのみ生き続けるべきなのですよ」
ため息をつきながら、デールは銃を投げ捨てた。
一瞬後、開いた右手が、リュカの喉に食い込む。
「僕の中で貴方は生き続ける。
醜いだけの貴方など、壊れてしまえ」
呪いにも似た言葉の真意は、すぐにわかった。
デールの手に宿った光に誘われるかのように、『風』が起こる。
生きる力、命、それ自体が。
リュカの身体から解き放たれ、風となって、デールに集まっていく。
「がはっ……」
声と共に、血が零れた。
アポカリプスに貫かれた時の傷口が開いたのかもしれない。
呼吸が苦しいのも、気管を締め付けられているというだけではないだろう。
魔力が尽きていなければ、それでも打つ手はあった。
だが、もう、ない。
諦めの色を過ぎらせながら、最後の力を振り絞り、リュカは聞いた。
「な、ぜ……?」
――何故、君が、こんなことを。
最初の部分しか言葉にはならなかったが、デールには伝わったようだ。
「ヘンリーもマリアも同じ事を聞きましたよ」
呟いて、デールはリュカを見つめる。
「貴方の瞳なら、黙っていても見通してしまうと思っていました。
……期待はずれですね。それとも僕が買いかぶり過ぎていたのか」
嘲るような口ぶりだった。
けれど、その顔に浮かんだ微笑みは、何故だか無性に寂しそうで。
「いや、わかるはずがないんだ……
貴方やヘンリーには……一生掛かったって理解できるはずがない」
その一瞬、リュカの脳裏にかつての彼の姿が過ぎる。
まだパパスが生きていた頃、ヘンリーと出会う前の話。
初めて訪れたラインハット城の中で、母親と共にいた彼の姿が。
涙を流さずに泣く、幼子の声が。
「フフ、そうだ………貴方ごときに、僕の心などわかるはずもありませんよ。
貴方はただ、大人しく壊されればいい。そして僕の一部となって、僕と共に在り続ければいいんですよ。
……フフフ、アーッハッハッハ!!」
あの時の気弱な子供は、今、人であることすらも止めて歪んだ笑みを浮かべている。
壊れた心、壊れた笑い、壊れた言葉。
そのくせ、瞳だけは昔とどこも変わることがなく、優しく静かな光を湛え続けている。
そう、昔となんら変わらない瞳。初めて出会った時と同じ、翡翠の瞳――
――昔と、同じ――
その時、リュカは不意にわかった気がした。
彼が壊れた理由が。
彼がこうなってしまった理由が。
けれども、見つけた言葉はすぐに闇に飲まれて消える。
リュカ自身の、命の灯火と共に。
地面が鳴動する。沈む日と共に。
黄昏の終わりが告げられる。忌むべき魔女の声とともに。
だが、狂った王の耳には届かない。
彼は笑う。死に行く者を前にして。
「リュカさん。僕と共に、全てを壊しましょう」
屈託の無い晴れ晴れとした笑顔で。まるで、友に向けるかのように、デールは笑う。
しかしリュカは、もう、何も見ていなかった。
(ヘンリー……タバサ、ピエール……とうさん……)
親しい人の顔も、思い出も、何もかもが、塗りつぶされるように消えていく。
(シンシア、リノア、ケット・シー……レッ、クス……ビア……ンカ)
押し寄せる喪失感すらも、悲しみさえも。
(ごめんね……僕は、誰も……何も――)
――その言葉すらも深遠に呑まれ、それきり、彼の意識が覚醒することはなかった。
抜け殻になった身体を投げ捨て、デールは満足そうに微笑む。
彼の死を、この目で看取ってやることができたから。
そして、誰よりも強く、勇ましかった『リュカ』は、自分の中で生きているから。
満たされた感情に酔いながらも、けれどあることを思い出し、残念そうに呟く。
傷ついた子猫を拾わなかったことを後悔する、子供のような口調で。
「もっと早く出会えていたら、マリア義姉さんも生かしてあげられたのにな」
その裏に隠れている歪んだ欲望を、誰が見抜けるというのだろう。
哀しい表情のどこに、苦悩と後悔を浮かべた瞳のどこに、狂気が宿っているというのだろう。
だが、彼は確かに狂っている。
彼自身でさえ、自分が狂っていると思っている。
――そんな果てしない狂気の矛先が、次にどこに向かうのかは。
彼が狂っているというのと同じぐらいに、わかりきったことだ。
デスペナルティとブラッドソードを拾い上げ、デールはゆっくりとエドガーに近づく。
リュカのように喰らってやりたいとは思わない。
心はもう満足している。満たされていないのは衝動だけだ。
時間をかけて、一本ずつ指を切り落とそう。手と足を切り落とすのはそれからだ。
目を抉って耳を削いで、腸を引きずり出して、いつまで生きていられるのか試してみよう。
身体を壊して、心を壊して、飽きるまで切り刻もう。
そんな妄想を胸に、ゆっくりとエドガーに近づく……
わぉん!
その時、犬の声がした。
草むらを掻き分け、茶色の塊がデールに向かって突進する。
「ぐあっ!!」
凄まじいスピードが生み出した衝撃をまともに喰らい、デールは弾き飛ばされた。
同時に、上空から降ってきた何者かが、エドガーの身体を掴んで飛び去る。
「くっ!!」
体制を立て直そうともせず、デールは闇に向かって銃を撃った。
だが、弾丸は木の枝を撃ち散らすだけに終わる。
――気がつけば、夜の静寂が落ちる森と、リュカの死体だけが、そこに残されていた。
デールは知らない。
その身体に染み込んだ血と硝煙の匂いが、彼と彼女をこの場に招き寄せたことを。
自らが殺した少女に、人ではない『親友』がいたことを。
――彼女が、その嗅覚で以って、仇を追っていたことを。
襲撃者の正体に気付かないまま、デールは聞いた。
月が浮かぶ空の下で、犬の遠吠えが響き渡るのを。
嘆くような、復讐を誓うような、悲しげな声を――
【デール 所持品:マシンガン(弾数0)、アラームピアス(対人)、ひそひ草、デスペナルティ、ブラッドソード
リフレクトリング 賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能) ナイフ
基本行動方針:皆殺し(バーバラ[非透明]とヘンリー(一対一の状況で)が最優先)】
【現在地:湖の手前の森】
【エドガー(HP2/3 MP0 右手喪失 気絶)
所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン 血のついたお鍋 再研究メモ
リュカの荷物(お鍋の蓋、ポケットティッシュ、アポカリプス+マテリア(かいふく)、ビアンカのリボン
第一行動方針:?
第二行動方針:アリーナを殺し首輪を手に入れる
第三行動方針:仲間を探す 第四行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【ラムザ(話術士 アビリティジャンプ)
所持品:アダマンアーマー ブレイブブレイド アンジェロ
第一行動方針:エドガーを助ける
第二行動方針:仲間を集める(テリー、ファリス、アグリアス優先)/リノアの仇であるデールを討つ
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:湖の手前の森→移動】
【リュカ 死亡】
【残り 64名】
*リュカが死んだのは日没放送が始まった後です。
実際にリュカの名が呼ばれるのは『日の出放送』になるでしょう。
「僕は壊したいだけなのです――僕以外の全てをね!」
その一言とともに虚空が震え、狂気の銃弾はエドガーの頬を掠めた。
焼け切られた肉から、一筋の血が溢れ出す。
「この程度で壊れるほど、私は軟ではないのだがね」
エドガーもまた、笑った。余裕たっぷりな表情で。
それが癇に障りでもしたのか、デールはやれやれと肩を竦める。
「逃げる余力も、戦う術もないくせに抗うとは……無駄な努力ほど見苦しいものはありませんよ」
「そうでもないさ。……サンダー!」
詠唱が終わると同時に、エドガーの右手に紫電が散る。
「バカが……僕に呪文など効くものか!」
嘲り、銃をエドガーに向けるデール。
けれど、彼が引き金を引くよりも早く、雷光は彼の身体に突き刺さった。
「うあ"ッ!?」
予想外の衝撃と、全身を走る経験した事のない苦痛に、デールは銃を取り落とす。
「反射された魔法は二度反射されない。戦いの基本だよ、お坊ちゃま」
「味な真似を……どこまでも往生際が悪いッ……!!」 !」
デスペナルティを拾い上げようとはしなかった。
デールは素早くマシンガンを取り出し、引き金に手をかける。
狙いも定める必要はなかった。
マシンガンによる広範囲射撃なら避けきれるはずがない。そう見越していたからだ。
「ぐっ!」
タイプライターの音が響き渡り、一拍遅れて、エドガーが悲鳴を上げた。
デールは心の奥で哄笑しながら引き金を引く。 引く。引き続ける……
カチッ。
「……?」
カチッ、ガチャ、ガチャガチャガチャ。
「弾切れのようだな」
焦るデールの耳に、エドガーの勝ち誇った声が響く。
「覚えておきたまえ。後先を見通す力に欠けるようでは、王としても狩人としても失格だ」
デールの誤算は、敵を甘く見すぎたこと。
満身創痍といえ、戦いで培った経験や技術は相手の方が圧倒的に上だったというのに。
「スリプル!」
エドガーの声とともに、強烈な眩暈がデールを襲った。
夜でもないのに、視界が暗闇に包まれたような感覚。恐ろしいまでの眠気。
身体が傾ぎ、地面に膝をついたのも、彼の意志に沿ったわけではない。
(負ける……この、僕が……?)
そんな問いを残して、彼の意識は深遠に沈んだ。
――耳元で囁く、『風の音』を聞きながら。
「どうする?」
エドガーがリュカの肩を叩く。
「狂った殺人鬼とはいえ、元は君の知り合いだったのだろう?
辛いならば、私にその剣を貸してくれ。私が止めを刺す」
「いえ……僕が、やります」
リュカは自分の荷物をエドガーに預け、ブラッドソードだけを手に、うつ伏せになって眠り続けるデールに歩み寄る。
親友の弟だった。
誰に対しても優しく、親切な人だった。
あのヘンリーと本当に血が繋がっているのかと疑いたくなるぐらい、穏やかな人だった。
「デール……」
思い出を振り切ろうと、目を閉じる。
殺さなくてはいけない。 彼はもう、自分やヘンリーの知っている彼ではない。
ただの、血に餓えた殺人者なのだから。マリアを殺し、リノアを殺した男なのだから。
「うぉおおおおおおおおおおおお!!」
未練や記憶を断ち切るかのように、リュカは叫び、剣を振りかざす――
……デールを殺す。その覚悟自体は本物だったろう。
けれど、彼は再びミスを犯したことに気付いていなかった。
エドガーですら、気付いていなかった。
そうやって思い出を過ぎらせる。その躊躇いこそが、取り返しのつかないミスだということに。
「……『ドロー』」
エドガーの身体から、数条の光が放たれる。
それは眠っていたはずのデールの手に集い、弾けた。
「まさか、もう目覚めただと!?」
「生憎ですが、あんな大声を出されて眠っていられるほど無神経ではないのですよ!」
振り下ろされた剣を転がって避けながら、デールは素早くデスペナルティを拾い上げた。
轟音と共に、リュカの右腕に赤い血の花が咲く。
「リュカ!」
「余所見をしている場合じゃないでしょう?」
リュカに銃口を向けたまま、デールはエドガーに視線を向けた。
「デスペル!」
デールの叫びと共に、魔力の光が、エドガーの身体を包み込む。
緑色に輝く反射壁は、瞬く間に光に解けて散っていく。
修正終了です。
ご迷惑おかけしました。
ウルの村ではまだ混乱が続いていた。カーバンクルの出現、レナの突然の逃亡。充分過ぎる程の騒動だ。
だが彼らが混乱している現時点での最大の理由は、やはりエリアの重傷だった。
「早く治れ……治れっ!」
ソロは深い傷を負ったエリアの胸に、自分自身の魔力を込めた回復呪文を必死にかけていた。
ピサロもそれを手伝い、ターニアは出来るだけ血を見ないよう宿屋で水や薬の調達をしていた。
そして「自分の事は良い、まずはエリアだ」と頑なに治療の拒否をしていたヘンリーだが、
ビビは彼を何度も何度も説得し、そして何とか彼の手当てをする事は出来た。
「あーあーあー!俺の手はもうこれで良いから!後だ後!後の傷薬は全ッ部エリアにだ!!わかってんな!?」
ヘンリーの怒号にも似た叫びを聞き、ターニアは傷薬を持ってエリアの倒れている場所へ向かった。だが、
「あ……ごめ、なさ……血が……ごめんなさ…い……やっぱり……」
「ビビ、この小娘を宿屋で休ませろ。血を見すぎて疲れが生じている」
「う…うん!おねえちゃん、早く行こう?」
「ごめんなさい……本当に……ごめんなさい……」
「小娘、貴様も耐えた方だ。本当に倒れる前にベッドで寝ておけ……よくやった、助かったぞ」
だがターニアも限界だった様だ。宿屋のベッドで療養する事になってしまった。
これで、回復呪文の有無に関係なく人の怪我を治すことが出来る人間は……怪我人のヘンリーを除いて3人。
足りない。足りなさ過ぎる。
回復呪文が使える人間が更にいれば。せめてロックだけでも帰ってくれば。
エリアの顔色は悪い、青ざめている。元々白かったその体も、今は青白い。最悪の状況だ。
「おい、帰ったぞ!」
が、その時ソロ達の元へロックが帰ってきた。これでやっと治療がスムーズに出来るとソロは喜ぶ。しかし―――
「すまん、また怪我人連れてきちまった……左足に酷い火傷だ。どうにかできないか?」
「どうにか……できませんよ!今の状況じゃ!もっと人手があればいいですけど!でも……っ!!」
更なる怪我人の出現に、ソロは戸惑いを隠せなかった。
今はエリアとヘンリーの怪我の治療に専念しなければならない。
故にそこで火傷を負った怪我人が来ても、その怪我人を切り捨てなければならない可能性も出てくる。
「とにかく今は……エリアさんを!」
ソロは断腸の思いで、そう叫ぶ。
今はエリアを必ず助けなければならない。
必ず生かし、そしてまた彼女が笑えるようにしなければならない。
「でもソロ!こいつは……」
「いくらなんでも、そんな余裕は……」
「応急処置くらいは!」
「人手が足りないんです!!」
そう言い争いをしている彼らは気づかなかった。
自分たちの傍に近づく者がいたという事に。
そう、彼女たちは―――
「あ、あのさっ!!」
突然女の子の声が聞こえた。
ソロは声を追う様に視線を移すと、そこには少女と……奇妙な、魔物の様なものがいた。
「何ですか!?今は精一杯なので……すみませんけど後で……」
「アタシはリュック!突然だけどさ……あたし達にも、手伝わせて!彼女の治療!」
「わたわた、僕はわたぼうっていうんだ!僕も手伝うよ!」
少女と魔物は、突然そう言うと支給品の袋を遠くに投げた。
「ほら、これで丸腰だしさ!……信じて、くれない?」
「ピサロ、ちょっと治療頼んだ」
「わかった」
ソロは一旦治療を留めて立ち上がり、2人を見た。
「何故手伝いたいのか、その理由を聞かせてください」
その問いに、リュックは一寸間を置いた。言葉を探しているらしい。
「あの…実はさ!あたし達、前の世界でレナとエリアに出会って一緒に行動してたんだよ、ね」
「……え!?」
「だから、レナが急にあんな事して、あたし達には止められなかったからさ……だから、せめて……」
言葉の最後の辺りは、リュックの声は完全に暗くなっていた。
「お願い!今だけで良いから信用して!お願い……お願いだから……」
両目に涙を浮かべ、そう懇願するリュックを見て、ソロは信用しないわけにはいかなかった。
「じゃあ、あの火傷を負った人の応急処置をお願いします!それが終わったら……」
「エリアとヘンリーっていう人の治療の手伝いだね!」
「お願いします!」
「大丈夫!カモメ団の名に賭けて、絶対治すから!」
リュックとわたぼうはそう答えると、急いでバッツの左足の応急処置を始めた。
それを確認すると、ソロはまたエリアの治療をしている場所へ戻った。
「ソロ……信用するのか、奴らを」
「ピサロ、今は人手の確保だ……察してくれ。それに僕は彼女達を信じたい」
そして、治療は続いた。
時間だけが過ぎる。だが時が経つにつれて、光が見えてきた。
バッツの応急処置を終えたリュック達が手伝いに来てくれたのがよかったのだろう。
エリアの汗を拭い取り、水を用意したりなどの雑用をこなしてくれる事はとても有難かった。
「ソロ、お前は魔力を使いすぎだ。後は私がやる」
「大丈夫だ……最初から、温存する気なんてない」
ソロはピサロの提案を却下し、自分の魔力を使い回復呪文を使い続けた。
そしてソロの魔力が尽きかけた時、エリアの容態は遂に回復の方向へ向かう事となった。
未だ意識は戻らないが、呼吸はしっかりと整っている。遂に、終わった。
「よかった……やっと………」
「終わったか……」
「いや、まだだ!皆さん!少しですが傷薬はまだあります!それをヘンリーさん達に!」
ソロはそう言うと、立ち上がろうとする。だが足に力が入らず倒れそうになってしまった。それをロックが受け止める。
「おいおい、大丈夫か?」
「ごめんなさい……ちょっと眩暈がして……」
「だから魔力を使い過ぎだと言っただろう、馬鹿者」
横からピサロが呆れたように指摘する。
そしてリュックはエリアの体を背負い、自分達の支給品も回収すると一足先に宿屋へとエリアを運んでいった。
そして宿屋室内にて。
ターニアは心労の蓄積が効いた様でベッドで寝ており、バッツも別のベッドに運ばれ眠っていた。
エリアは何の問題も無く眠っている。
そしてリュックが血塗れの服から着替えさせたらしい。清潔感には困っていない。
そしてヘンリーは、エリアの様子を見ていた。
自分も大変な怪我をしているのだが、それでも他人を気遣っている。
「ねぇ……」
「ん?ビビ、なんだ?」
「手……大丈夫?痛くない?」
「ああ、大丈夫大丈夫。なんかマシにはなってるから、治った後も支障ないと思うぜ」
ビビの不安な問いにも笑って答える。明るく事実を述べているおかげで、ビビの不安も取り除かれた。
そんなやり取りをしていると……。
「レナァ!!」
そんな叫びが聞こえた。
そしてそこにいる全員が、驚きながら声の主を見た。
声の主――先程まで寝ていたバッツ――は、ベッドから上半身を起こし息を荒くしていた。
悪夢でも見たのだろうか、脈絡の無い叫びで飛び起きたその姿は異様だ。
「あれ……レナ……?夢か……って、いっててて…背中が……ん?あれ、ここは……」
そして一人で混乱している。
それは至極当然のことなのだが、そこにいる人間はそれを知る由も無い。
「おい貴様」
「え?あ、ちょっ……おま……誰?」
「今"レナ"と叫んだな。知り合いか?」
「え?ああ……さっき、えっと……」
ピサロの問いにバッツは迷う。そして必死に思い出していた。
自分がどういう状況に置かれていたのか。
そして、それを思い出した。残酷な記憶を、レナのあの怯えた眼を。
「そうだ……レナが森の中で怯えてて……で、俺が近づいたら……フレアで……」
「成程、攻撃してきたのか」
「ああ、そうだ。それで……あ!ローグ!ローグは!?ローグはいないのか!?」
「ローグ?」
「ああ、銀髪ショートで口調は俺みたいなので……知らないか?」
ロックは、その並べられた特徴で気がついた。
そうだ、あの森でバッツの事を自分に任せた男。
そして囮作戦だと言って一人でレナに戦いを挑んだ男。
「俺は……そいつに頼まれて、お前をここまで運んだ」
「な……っ」
「そんであいつはレナに一人で戦いを挑んだよ」
「一人で……じゃあ、どうなったんだ!?レナは!?ローグは!?」
「すまない、俺はその後の事は知らない」
「知らない……?知らないって、知らないってなんだ!?どういう事だてめぇ!!見捨てたのか!?説明しろ!!」
バッツがロックの胸倉を掴み叫ぶ。だがピサロの「怪我人がいる、静かにしろ」という言葉で、すぐに鎮静はした。
そして火傷で痛む足を摩りながら、バッツは溜息をついた。そして言う。
「とにかく……説明してくれ」
「ああ、わかった……でもまずはレナのことから話さないとな」
そしてバッツに今までの経緯を話した。
レナがヘンリーを殺そうと襲い掛かったこと、その事件の弊害としてエリアが瀕死の重傷を負ったこと。
そしてレナは混乱して森へ逃げ、そしてソロたちはエリアの手当てをし――――
「俺は、レナを探しに行って……そして、倒れてるお前とあいつに出会った」
ロックはそう言うと、今度はロック自身がローグの事を話した。自分の森にいたその時間に起こったことを全て話した。
レナの恐怖に支配された表情。ローグが自分に提案した事。自分が見た最後のローグとレナの姿。
そしてその話が終わると、バッツは苦虫を噛んだような表情で物事を整理し、ある事を頼む事にした。
「じゃあ、俺の代わりに誰か森に行ってくれないか?そこで2人がどうなったか……見てきてくれ」
そのバッツの頼みを聞いたのは、意外にもピサロだった。
「私が行こう。この状況、私にも些か解せない部分が多すぎる」
「ありがとう。地図で言うと……位置は大体ここら辺だ。ローグとレナがいたらここに来る様に説得してくれ」
「居なければ如何すれば良い?」
「そのまま戻ってきてくれ」
「わかった。では私は行く……その間お前達は休んでおけ」
そしてピサロは宿屋から出て行き、村からも出て行き、そして森へ向かっていった。
それを心底感謝しながらバッツはまたベッドに寝転がった。
彼は嫌な予感に憑かれていた。
ローグはもう既に自分をこの村に送るよう言って、死んでしまったのではないかと。
だがそれでも信じるしかなかった。この世界で出会った最初の友と、かつての仲間の無事を。
だが嫌な予感は、無残にも当たるものだ。
長い時間が経った後、ピサロは戻ってきた。
力なく眼を閉じ、動かない銀髪の男を抱えていた。
「ロー……グ……?」
「残念な事だが女は見つからず、この男が死んでいるのを発見した。特徴は合っていると思うが」
「合ってるよ。合い過ぎて……反吐が出る………」
ピサロはバッツの言葉を聞くと、床へそっとローグの遺体を置いた。
「そしてこれがこの男の遺留品だと思われる物だ、確認してくれ」
更にピサロは、支給品袋をバッツに渡した。
見るとその中には、当然だがあのローグの持っていた武器が入っていた。
バッツは呆然としていたが、すぐにその袋に武器を入れなおした。
そして布団を被り、重く暗い表情を浮かべた。
「悪い……ちょっとごめん、寝る。頭を整理したい……」
「そう、ですか……」
「で、誰かさ……ローグの墓でも作ってやってくれないかな?頼む……」
「わかりました。彼は、弔っておきます」
「ああ、頼んだ……じゃあ、お休み」
そしてバッツはまた眠り始め、ソロは言われたとおりローグの墓を作る為、立ち上がろうとした。
が、それはリュックに止められてしまった。曰く"まだ眩暈がするのだったら自分がやる"という事だった。
そしてリュックはローグをゆっくりと、大変そうに抱えて宿屋を出た。
「俺も手伝う」「僕も行くよ」
その直後に、ロックとわたぼうも同時にそう言って宿屋を出た。
眠り続ける3人。
勇敢な男を弔う2人と1匹。
宿屋にて静かに休息する4人。
彼らのいるその村は、いつの間にか静かに時が流れていた。
【ソロ(魔力ほぼ枯渇 体力消耗) 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング
第一行動方針:休息 基本行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】
【ピサロ(HP3/4程度、MP1/3程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 魔石バハムート 黒のローブ
第一行動方針:休息 基本行動方針:ロザリーを捜す】
【ヘンリー(手に軽症)
所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可、HP3/4) キラーボウ グレートソード
第一行動方針:休息 基本行動方針:デールを止める(話が通じなければ殺す)】
【ビビ 所持品:スパス 毒蛾のナイフ
第一行動方針:休息 第二行動方針:ピサロ達についていく 基本行動方針:仲間を探す】
【エリア(瀕死からは回復 体力消耗 怪我回復) 所持品:妖精の笛、占い後の花
第一行動方針:睡眠中】
【バッツ(左足負傷) 所持品:チキンナイフ、ライオンハート、薬草や毒消し草一式 ローグの支給品
第一行動方針:眠って頭を整理する 基本行動方針:レナ、ファリスとの合流】
【ターニア(心労過多) 所持品:微笑みの杖
第一行動方針:睡眠中 第二行動方針:ピサロ達についていく 基本行動方針:イザを探す】
【現在地:ウルの村 宿屋内部】
【リュック(パラディン)
所持品:バリアントナイフ マジカルスカート クリスタルの小手 刃の鎧 メタルキングの剣 ドレスフィア(パラディン)
【わたぼう 所持品:星降る腕輪 アンブレラ
第一行動方針:ローグを埋葬する
第二行動方針:アリーナの仲間を探し、アリーナ2のことを伝える
基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード
第一行動方針:ローグを埋葬する 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在地:ウルの村 外(宿屋のすぐ傍)】
313 :
送還 1/3:2005/07/28(木) 04:00:42 ID:KNVb2Rq+
走っていた。
ダーツが抜け落ちた腕の傷からは赤い糸が伸びている。
胸の傷から流れる血は衣服を赤く染め、痛覚で激しく警告を発しているはず。
だが、今は伝わらない。
右腕には血にまみれた一振りのナイフを握り締めて。
顔は泣きつかれて憔悴しきったような表情を貼り付けて。
取り付かれた様によろよろと走っていた。
先発した二人を見送った後、
ザンデはじっくりと地図を見ながら今後の動きについて計画を練っていた。
明朝にここで待つことを宣言してしているから動ける時間は残り18時間程。
不測の事態に備えて、また目的のため丁寧に行動することを鑑みて、
ウル〜カズス〜サスーン城と移動、そこで折り返しここへ戻るというルートを定め、
それから魔王と呼ばれた男は移動を開始すべくゆっくりと腰を上げる。
出口直通の魔方陣で一瞬で外へ。
日光の下に出てすぐに、こちらの方へ向かってくる人物を発見する。
なんとも幸先の良い、という思いはその人物、レナの様子に裏切られた。
向こうからもこちらが見えるはずだが反応している感がない。それは明らかに異常な状態。
近づいてくるにつれ彼女が負傷していることが見て取れた。
「そこの女、どうした?」
声を掛ける。女の顔がこちらを向き、自分を認知した。だが、返事はまるで悲鳴のよう。
「嫌あぁぁあぁあぁぁああああぁっっっ!」
314 :
送還 2/3:2005/07/28(木) 04:01:41 ID:KNVb2Rq+
鋭い悲鳴と共に加速し、女は手にしたナイフを腰だめにして突っ込んでくる。
ザンデとレナ、二人が洞窟の前で交錯する――
だが、状態を省みない無謀な動きがほぼ万全の相手に通用するはずもない。
冷静に、ザンデはレナの直線的な動きを避けて足を払う。
逸らされた自身の勢いに抗しきれないレナの身体は受身を取らずに地面を転がり、うつぶせで停止。
彼女の一切の動きはそこまでで無くなり、どうやら気を失ったようだった。
さて、どうしたものか。とりあえずライブラ。
それで結構なダメージを負っている事を確認し、ザンデはとりあえず彼女を治療することにした。
かつてのザンデには考えられないことだが、いまは彼も協力者を求める身なのだ。
大きな外傷は胸に斬られた傷、他に左腕に何かに突かれた痕。流血も多い。
随分と錯乱した状態にあったようだが襲われて逃げてきたのであろうか。
しかし手にした刃物の様子、また傷の位置からして顔についている血は誰かの返り血だろう。
ならば、どちらが仕掛けたにせよ彼女は誰かと交戦してこうなったのだ。
では、彼女は他人に積極的な害意を持っているか?
否。なぜなら、悲鳴をあげていた表情が語っていたのは恐怖。世界の全てに怯えているような恐怖。
さらに警戒する様子も無く視野狭窄で走ってきた様子。
これらは仮にもここまで生き残っている殺人者のとる態度ではない。
状況に混乱して今は誰に対しても過敏に拒絶反応が出ているだけであろう。
最終的にザンデは推測を交え以下のように結論付けた。
仲間と共にいたところを襲撃され戦闘、仲間を失い自身も負傷して何とか逃れてきた。
現在は錯乱しているが落ち着けば常識的思考で味方とできるはずである。
万が一狂ってしまったのであれば…始末するしかないだろう。
阻害要因、不確定要因はできるだけ排除したい。
315 :
送還 2/3:2005/07/28(木) 04:03:42 ID:KNVb2Rq+
とりあえず不得手な回復魔法でレナの傷を塞ぐ。
そもそもザンデは大規模な、大雑把な魔法は得意だが細かい操作は苦手だ。
彼の癖になったライブラは苦手とする精密さへの憧れから。
それでもそこいらの平凡な魔道士になど比べるべくも無いレベルにあるのだが。
…話が寄り道に逸れたか。
とにかく時間も惜しいことだと、まだ目を覚ます様子のないレナを抱えて
ザンデは自身の計画通りウルへと向かった。
実際に起こった事態の複雑な経緯や背景を含めた飛躍した推測などできるはずも無い。
だからザンデはレナを襲撃を受けた哀れな参加者と判断し、気を失っている彼女を連れている。
ウルで待つは彼女が傷つけた者、彼女の仲間だった者、彼女が誤って憎んでいる者、
加えてザンデのかつての所業を知る者。
二人の到着が何を引き起こすか、それはまだ不確定の未来。
【ザンデ(HP 4/5程度) 所持品:シーカーソード、ウィークメーカー
第一行動方針:仲間、あるいはアイテムを求め、ウルの村へ
基本行動方針:ドーガとウネを探し、ゲームを脱出する】
【レナ(気絶) 所持品:チキンナイフ、薬草や毒消し草一式
第一行動方針:不明】
【現在地:ウルの村の北】
>>312のバッツの状態を変更します
バッツ(左足負傷)
所持品:ライオンハート
ローグの支給品(銀のフォーク@FF9 うさぎのしっぽ 静寂の玉 アイスブランド ダーツの矢(いくつか))
第一行動方針:眠って頭を整理する 基本行動方針:レナ、ファリスとの合流】
ブリザガで生み出した氷を核にドーガの魔力で作り出した氷の船。
船というよりは小型のテーブル型氷山だが、役割は十分に果たす。
長いこと封印の洞窟に隔離されていた二人はそれで大急ぎで湖を渡っていた。
湖へ飛び出してすぐ、フィンが問い掛ける。
「ねえ、ドーガさん…あの赤魔道師、ギルダー…だっけ。
あの人はよく知っている人で、仲間だったんでしょう?」
「…ギルダー、か」
「やっぱり、戦って…やっつけないといけないんですか。
たとえ仲間とでも、その人が他人を傷つけてしまうなら、やっぱり…」
「うむ。…ギルダーはの。かつて世界を救った光の戦士でな、
クリスタルの力を得た者じゃ。クリスタルの力は正しく用いられねばならない。
まさかギルダーが、こんな事があるとは思わなかったが」
「…クリスタルの力で人を殺すから、だから…?」
「…ああ、そうじゃ。だがの…、それは建前という奴じゃな。
たとえ誰であれ、仲間であれ親友であれ道を、踏み外してしまったならば、止めねばならん。
人を襲う様子、赤く染まった剣。ギルダーはおそらくすでに幾人か傷つけ殺めていたのだろう。
そして、あれから、今さえも…どこかで罪を重ねつづけている、じゃろうな」
ギルダー、かつての光の戦士。
だが今は自分を見て驚愕に固まる表情ばかりが思い浮かぶ。
血に汚れたライトブリンガーを振り回す姿。何が彼を変えてしまったのか。
なんにせよ、彼を見つけ出しその真意を質さねばならぬ。
そして…おそらく否定できないのだろうが、
道を踏み外してしまったのであれば自分の手で。
時間はあったのだ、覚悟は十分にできている。
何よりもそれがこの世界への、今のドーガの解答。
他のノアの弟子たちがそれぞれ何事かを画策する中、今もドーガの心中を占めるのは一人の赤魔道師。
人に、転機に遭わなかったが故に実はすでに生命を失った一人の人物に占め続けられている。
それきり、二人とも口を閉ざし、沈黙が場を支配する。
仕方の無いこととはいえかつての仲間でさえ殺さなければならない。
生き残るために誰かが誰かを殺す、それがこの世界のパラダイム。
それはフィンの心の奥の伏流を敏感に刺激する。
マリベル、キーファ、メルビン、アルカート。既に会う事もできない人達。
彼等も誰かに殺されたのだ、一体誰に、どこで、どのように…?
省みれば自分は、何をやってきた?
他にあてもなかったし、流されるまま、なりゆきのまま
ドーガと一緒に来たけれど、誰も救えなかった。
何も知らないまま、できないままに、いつの間にかみんな死んでいた。
もし一人で行動していたら、別の道を行っていたら。
変わらなかったかもしれない。自分が死んでいたかもしれない。
それでも、もしかしたら……
選び取れなかった未来への後悔は無力感と混ざり合い、
心中一片の影となり、闇となってゆく。
まだ生きているはずの仲間たちとの再会の希望、それらがフィンの心を支えている。
でも――こんなことで救うことができるのだろうか?
また、また手の届かないところでみんな失われていってしまうのではないか?
弱い部分から際限なく湧き上がる不安、焦り、怖れ、無力感、絶望感。
この世界へのフィンの解答はまだ、無理矢理にでも希望でそれに蓋をする。
結局、話しかけるか躊躇している間に頭上の人は思いっきり自分を蹴っ飛ばして
跳んでいってしまった。痛かった。あんな脚力の人間がいるのか。
ともかく、そういうわけでやはりブオーンは隠遁に全力を挙げることに決めた。
身動き一つせず息を潜めて、来訪者をやり過ごす。
ずっと、ずっとそうやって来た。
それなりに戦える自信はある。あるけれど、積極的にやろうなんてとんでもない。
誰が死のうと関係ないし、そもそも無意味に傷ついたり死ぬなんてたくさんだ。
このままみんな全滅してくれないかな、なんて思う。
それでも最後の1人とは戦わなくちゃならないかもと考えると憂鬱だ。
それはきっととびっきりの強者だろうから。
まあ、それは…そのとき考えよう。
隠遁、潜伏、消極策。殺伐とした世界の背景に徹する、それがブオーンのこの世界への解答。
今氷の船でやって来たフードの二人組も余裕でやり過ごしてみせる。
だが、この世界での潜伏は今までと決定的に異なる点が一つあった。
湖上の島という形を選んだこと。
爽やかな湖水がすこしずつブオーンの体温を奪い続け、
それは、くしゃみという形で結実しようとしていた。
傍らを通り過ぎていく船の上から視線がこちらへ向けられている。
ここでばれるわけにはいかない。耐えろ、耐えるんだブオーン。
…無理でした。
湖を離れたラムザはアンジェロを連れ徒歩で森を南下していた。
とりあえず当面の移動目標は、地形と町の位置から見て交通の要になりそうな
森の南に広がる平原部。
多くの人が行き交う可能性が高いということは仲間を得るチャンスが多いということだ。
まあ、危険な相手に会う可能性も高いけれど。
道々考えるのは名簿にあった気になる顔。
ウィーグラフとアルガス、結局戦うしかできなかった人達。
因果だろうか、彼らも同じ参加者としてどこかにいる。
彼らを、自分は説得することができるだろうか。仲間として同じ道を歩むことができるのか。
いや、彼らとだって状況が違えば、きっと分かり合えるはずだ。
狂気の世界で、誰だって意味も無く他人を殺したくなんか無いはずだと。
でも…説得を聞き入れてくれないほどに害意のある人物がいるのならば戦うしかない。
それも仕方の無いことだと思う。
なるべく他人を殺したくないという思考の裏で、幾多の戦闘を潜り抜けた彼には覚悟がある。
剣を交えなければならない相手、状況があるということ。それに立ち向かうということへの。
いつかと同じように、ただ僕は正義を、自分の信念を貫き通す。
それがこの世界でのラムザの解答。
不意にアンジェロが足を止め、耳をそばだてる。
「?どうしたんだい、アンジェロ」
「…いえ、なんでもない。ただ、誰かの雄叫びが聞こえたような気がして」
「僕には何も聞こえなかったけど。犬の聴覚は人間の何千倍って言うしなぁ…
ずいぶん遠くなのかな」
山に囲まれた地形に反響して響き渡るブオーンのくしゃみ。
どこの世界にくしゃみする島があるだろう。
それは隠遁作戦の破綻を意味していた。
既に船は動きを止め、老人は気迫のこもった目で、少年は不思議そうな目で
こちらをじっと見つめている。
急に襲ってくるってことは無い、無いけれども、視線が、雰囲気が痛い。
一応身動きをせず、まだ島のふりをしてみる。
…いや、これ無理、絶対無理だ。…どうしよう、どうすればいい?
ブオーンがこの空気に耐えられなくなるまで時間はかかりそうになかった。
【フィン 所持品:陸奥守 魔石ミドガルズオルム(召還不可)
第一行動方針:びっくり 基本行動方針:仲間を探す】
【ドーガ(軽傷) 所持品:マダレムジエン、ボムのたましい
第一行動方針:この偽島の調査 第二行動方針:フィンの仲間とギルダーを探す
第三行動方針:ギルダーを止める】
【現在位置:封印の洞窟前の湖上(氷の船の上)】
【ブオーン 所持品:くじけぬこころ、魔法のじゅうたん
第一行動方針:焦燥 第二行動方針:頑張って生き延びる】
【現在位置:封印の洞窟南の湖の真ん中】
【ラムザ(話術士 アビリティジャンプ)
所持品:アダマンアーマー ブレイブブレイド アンジェロ
第一行動方針:仲間を集める(テリー、ファリス、アグリアス、リノア優先)
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【中央部森林地帯、その中央あたり】
微修正。
>>318 タイトルが抜けてしまいました。「answers 1/5」です。
>>322 ラムザの現在位置表記が定型を外れていました。
【現在位置:中央部森林地帯、その中央あたり】 ですね。
324 :
エクスカリバー 1/2:2005/07/28(木) 23:56:36 ID:1LQIjY+u
バッツは布団の中で一人そわそわとしていた。
ああは言ったものの、頭の中がごちゃごちゃで、正直眠れるような気分じゃない。
「睡眠魔法でもかけてもらうべきだったかもしれないなあ」
そう一人ごちて、ベッドから起き上がる。
やはり、部屋にはピサロもロックもいなかった。
静かで、耳に入ってくるのは少女の寝息だけだった。
少女の顔を見て、バッツはどきっとした。
心臓を電流が突き抜けるような感覚が襲ったのだ。
「か、かわいい…」
驚くほど美しかった。レナやファリスとはこう言っては悪いが月とスッポンだ。
「もう我慢できない!」
バッツの男の本能が完全に理性を負かした神々しい瞬間だった。
バッツはエリアの布団をはがすと、服をぬがしていく。
「ひっ…」
ターニアは気づかないフリをしようとしていたのだがムリだった。悲鳴が出た。
「見たな?」
バッツは血走った目でターニアをにらむとタイオンハートでその喉をひきさいた。
ターニアは必死で悲鳴をあげようとしたが、のどが切れているので出ない。
「仕方ない、まずはお前からだ」
バッツはターニアの邪魔なパンツをずり下ろすと、天国への入り口に赤黒いエクスカリバーをズニュズニュと押し込んだ。
「なんだ、処女か。つまんね」
ターニアはバッツのエクスカリバーのあまりの大きさにまんこが裂けて死んだようだった。
あまりの血の量にバッツは我に帰る。
「あ、あああ…俺はなんてことを…」
バッツはターニアの不慮の死に泣いた。だがある重大な事に気が付く。
「人を殺してしまった…俺が?」
レナの気持ちが少しだけわかったバッツだった。
325 :
エクスカリバー 2/2:2005/07/28(木) 23:57:07 ID:1LQIjY+u
【エリア(体力を激しく消耗) 所持品:妖精の笛、占い後の花
第一行動方針:睡眠中】
【バッツ(左足負傷 体力を激しく消耗) 所持品:チキンナイフ、ライオンハート、薬草や毒消し草一式 ローグの支給品
第一行動方針:眠って頭を整理する 基本行動方針:レナ、ファリスとの合流】
【現在地:ウルの村 宿屋内部】
【ターニア 死亡】
一旦、僕達だけで先行して、村の様子を偵察する。
それはそれでいいけれど……
「ああ、もう……偵察なら僕一人でいいじゃんかー。重くてたまんないよ〜」
フラフラと低空飛行を続けながら、僕は呟く。
それを聞き咎めたのか、背中に跨ったカインが苛立ったように吐き捨てた。
「朝方、ロクに偵察もこなさずに帰還したのはどこのどいつだ?」
「だからアレは……」
ちゃんと理由があったのだと言い返そうとしたけれど、その途端、カインの心に殺気じみた怒りの色が混ざり始める。
僕は慌てて口を噤み、空を駆けることに集中した。
広い森を抜け、開けた野原の上空を、数分ほど駆けただろうか。
「スミス」
唐突にカインが僕の名を呼び、一角を指し示した。
ちょうどカズスがある方角。そちらから幾つかの人影が歩いて来ている。
僕が提案する前に、カインが釘を刺してきた。
「エッジやリュカの事もある。ここは接触するだけに留めるぞ」
接触するだけ=殺せない。
一瞬落胆したものの、人影の数を確認し、考えを改める。
――絵筆を持った女の子、軽装の男。白いフードを目深にかぶった魔道士。
――盗賊っぽい姿の剣士、中年のオジサン。何だかワケのわからない格好をした人。
全部で六人、かなり大規模なグループだ。
急襲をかければ半分くらいは仕留められるかもしれないが、無傷で勝ち逃げるには、少し厳しいものがあるだろう。
それに一人でも逃がせば、エッジやリュカ達に僕らのことがバレる可能性もある。
それじゃあ流石に面白くない。
『ゲームに乗る気がないモノ同士をいがみ合わせて殺させる』
……カインはあくまで自分の手を汚さないため、その程度にしか考えてないようだが。
僕にとっては貴重な『仕込み』のチャンスだ、数人ごときのために逃す手立てはない。
傷つける必要の無い者を傷つけた。無意味に命を奪った。
自責、後悔、罪悪感。心を苛み、切り刻む刃が生み出す苦痛。
そこに付け入ることこそが、ドラゴンライダーの本領と言っていい。
罪悪感を抱いたヤツが待ち望むのは、許されるための方法。苦痛から逃れるための手がかりだ。
恋人を目の前で失い、仇に手出しすることもできなかったフリオニール然り。
止める事もできたのに、みすみす仲間を死なせてしまったレナ然り。
僕は真実を教えよう。二人がリュカを殺してから。
『あんたが殺したのはマリアさんの仇じゃない。帰りを待つ子供がいる、何の罪も無い男だ』と。
仇討ちなんて真顔で考える二人のことだから、本当のことを知れば、絶対に後悔するに決まっている。
壊れる寸前まで追い詰めて責めたてて、それからフリオニールの時のように一言囁いてやればいい。
『優勝することができれば、死んだ人を生き返らせてもらえるよ』……とね。
優しい声で告げてやれば、エッジもユフィも、きっと良い駒になってくれるだろう。
――けれど、そこまで上手く事を進めるには、我慢する事も大切だ。
僕は翼をはためかせながら、彼らの前に降り立った。
驚く六人に、僕の背から飛び降りたカインが、武器を収めて話し掛ける。
「驚かせて済まない。見てのとおり、俺たちには戦う意思はない。
ただ、少し話を聞かせてほしいのだが」
「話だって?」
トサカみたいな髪型の、頭の悪そうなヤツが応じた。どうやらコイツがこのグループのリーダーらしい。
流石に警戒しているらしく、フリオニールやレナみたいに易々と心を覗かせてはくれないが……
殺し合いに乗る気がないこと、みんなと仲良く脱出なんてことを考えるバカだってことは読み取れた。
僕はそれをテレパシーでカインに伝える。
カインは口の端をわずかに吊り上げながら、言葉を続ける。
「ああ。実は、別行動中の仲間とカズスの村で落ち合わせる約束をしていたのだが……
先ほどカズスの方角で爆発が起こるのが見えたのだ。
そして、君たちがそちらからやって来たのもな」
カインの言葉に、六人は顔を見合わせる。
そして、魔道士の前に立ちはだかっていた、バンダナを巻いた剣士が答えた。
「あんたの仲間って……言っとくけど、俺が見たの、こいつらとイクサス達ぐらいッスよ?」
「イクサス?」
聞き覚えのない名前に、カインはおうむ返しに呟く。
「ああ。医者みたいなカッコした子供でさ。
人のこと、すぐ人殺し呼ばわりして来るような奴で……でも、殺された」
「殺されたとは穏やかではないな。一体誰に?」
目を細めるカインに、トサカ頭が苦々しく口を開く。
「サックス、いや、フルートだ……オレたちの仲間だった。
あいつがそう思ってたのかは知らねーし、オレももう、あいつを仲間だなんて思っちゃいねーけどな」
NGワードに触れたのかもしれない、と思う暇もないまま。
僕らはしばらく、トサカ頭の愚痴に付き合わされることになった。
それでわかったのは、フルートってヤツがやったコト。
『道案内を買って出たから任せたところ、目的地から離れた森に誘導された。その結果襲撃にあった』
『回復呪文が得意なのは彼女しかいないというのに、瀕死の人間を小一時間も放置した』
『偵察に行くのに何故か軽トラ(馬車のような乗り物らしい)を使うと言い出し、その軽トラをわざと壊した』
『子供一人を二人がかりで追い詰めた上、殺した』
『絵描きのリルム(金髪の子供の事らしい)の右目を潰した』……
――僕に言わせれば、二番目か三番目で気付かない方がマヌケだ。
カインもまた、同じようなことを思ったのだろう。
(ここまで騙されやすいバカがいるのか……フルートとやらも、さぞ楽だったろうな)
そんな心の呟きが聞こえてきたが、当然、表情には一切出していない。
あくまでも真摯に聞き、真剣な顔で問い返している。
「それで、そいつらはどこに?」
「村の奥にある鉱山の中だ。落盤が起きてなきゃ、生きてると思うぜ。
……ただ、気をつけろよ。天然ボケを演じちゃいるけど、本性はとんでもねぇぜ」
ご丁寧に忠告までしてくれた。どこまでいってもシアワセで、脳天気な連中だ。
そういうことは、利用される側の連中に言ってやるんだね。
まぁ……フルートってヤツは僕達と同じ立ち位置にいるみたいだし、生きているなら接触してもいいかもしれない。
「それで、爆発の原因なのだが……まさか、それもフルートとやらがやったのか?」
そんなことを考えている間に、カインは話題を変えていた。
そういえば、当初の目的は爆発の理由を聞き出すことだ。長い話のせいで忘れかけていたが。
ぺろりと舌を出す僕の前で、トサカ頭が魔道士の方を振り向く。
「いや。ありゃ、赤髪の女がやったんだ。名前は……何だっけか……、ぁー」
「バーバラ、です。ゼル君」
魔道士が、ローブについたフードを被り直しながら喋り出した。
声が妙に甲高くて、少し耳障りだ。
「イクサスと一緒にいた、魔法使いの女の子です。
詳しい事情は知りませんが、二人で、アーヴァインという男を探していたようでした」
「あ……あ……?」
何故かトサカ頭は眉を潜め、口をぱくぱくさせる。
そんな彼の足を、これまた何故か蹴りながら、金髪の女の子が早口でまくし立てた。
「そういうことなの、そのバーバラってヤツが町を吹っ飛ばしたのよ!
天使みたいに羽を生やしてふわふわ浮いてたと思ったら、いきなりドカーンって!
ホント、とんでもないと思わない?」
そこで同意を求められても、リアクションに困る。
はっきり言って『思う思わない』以前の問題だ。態度といい、内容といい、果てしなく嘘臭い。
僕が聞いたバーバラは、もっと無力な存在だ。
生粋の殺人者から武器を盗むなどという無謀な真似をした、愚かな娘。
狂気の殺人者に目を着けられた、哀れな娘。
カインが語った彼女の像は、そう言った、狼に追われるだけの無力な羊に等しいものだった。
そんな女が、いきなり羽を生やして空を飛んで、町一つを吹き飛ばしたなど……
突拍子が無さ過ぎて、下らないガキの夢か、イカれた人間の妄想としか思えない。
カインが訝しげに問い返したのも、こればっかりは演技ではなく、本心からの行動だったろう。
「本当なのか?」
金髪の少女に話し掛ける、その視線が、一瞬だけ僕の方を向いた。
探れということのようだが、言われるまでもなく、僕は彼女の心を覗こうとしている。
だが、ダメだ。こいつも僕達を警戒している、僕に気を許していない。
他の連中――トサカ頭や剣士も似たような感じだ。
辛うじて読み取れたのは、『何かを隠しちゃいるけれど、ウソはついていない』という事だけ……
(――って、ウソじゃないのかよ!!?)
信じられない……が、心まで偽れる人間がいるはずもない。
驚愕を隠し切れないまま、僕はカインに思念を送る。
同時に、トサカ頭が「間違いないぜ」と頷いた。
それで初めて、カインが動揺の色を浮かべる。
「本当に……本当にあのバーバラが、爆発を?」
「……もしかして、あいつと知り合いだったんッスか?」
剣士の問いに、カインは即座に答える。
「ああ。俺の友人と一緒に行動していたことがあった。
だが、何の変哲もない、多少魔法が使えるだけの子供にしか見えなかったが」
淀みなく、すらすらと話す様子は、アドリブであることなど微塵も感じさせない。
剣士は疑うこともなく、「そうなんだ」と納得した様子を見せる。
それから、何かが気になったのか、別の事を聞いてきた。
「じゃあさ、アーヴァインって奴のことは?」
――もちろん知らないはずもないのだが、まさか本当の事を喋るわけにはいかない。
カインはまたもや平然とした表情で、顔色一つ変えずに嘘をついた。
「残念だがそちらは知らんな。
だいたい、バーバラと会ったのは昨日の夜に一度きりだ。
大方、その後で酷い目に合わされたのだろう。その時には、そんな男の事など話さなかったからな」
「ふーん、そっか」
剣士の問いは、それで終わりだった。
最後にカインはバーバラの生死についても尋ねてみたが、
「倒されたとは思うが、死んではいないかもしれない」という奇妙な答えが帰ってきただけだった。
どうやら、これ以上詳しいことは、危険を押してでも自分達の目で確かめるしかないようだ。
聞きたい事も、連中への興味も無くなった僕達は、定型文のような別れの挨拶を告げてカズスへ飛んだ。
竜の影が鳥のように小さくなってから、オレはアーヴァインとリルムを睨みつけた。
「何だよ、あの気色悪りぃマネは。つーか、なんでいきなり蹴るんだよ?」
けれど、二人は謝るどころか肩を竦め、冷たい視線をオレに向ける。
「このニブチン。そんなんだからニワトリ頭なんだよ」
リルムの暴言に言い返す間もない。
似合いもしない白いローブをはためかせながら、アーヴァインが詰め寄る。
「忘れないでよね、何で僕がこんな服に着替えたのか」
「あ……」
そういえば――カズスの入り口で、怪我の手当てをしていた時のことだ。
泣き止んで、ようやく落ち着いてきたアーヴァインが、身を震わせながら喋った話。
『僕は……人を殺してしまったんだ。
思い出せるのは二人だけだけど、多分、五人は殺してる……もしかしたら、もっと多く……』
どこまで本当かもわからない。こいつの話だけならば、精神不安定な男の妄想と断じていただろう。
けれど、ティーダのヤツがいた。
ソロ、イクサス、バーバラ。ティーダが見てきた三人の態度は、どれもアーヴァインの話を裏付けるものだった。
だが、人が死んだと思ってわぁわぁ泣き出すヤツに、殺し合いに乗る度胸があるとも思えない。
大方、サイファーやガルバディア軍の連中みたいに、魔女にコナを掛けられて正気を失っていたのだろうと思う。
思うが――それはあくまでも『オレの見解』だ。
こいつに被害を受けたヤツからすれば、操られてようが自分の意志だろうが、見分けもつかないし大差もない。
そもそも本気で復讐を考えている奴は、言い分すら聞かずに襲ってくるだろう。
だからユウナが、ティーダが持ってきた服に着替えて、顔を隠すことを進めたのだ。
(ティーダはティーダで、イカれたストーカー女に目を着けられているらしい。難儀なこった)
――そんな状況で名前を呼ぶというのは、確かに迂闊過ぎたかもしれない。
反省するオレに追い討ちをかけるように、リルムが冷たく言う。
「ついでに、何でもかんでもペラペラ喋んないでよね。
あの金髪カッコマン、かなりの食わせ者っぽいよ」
「……食わせ者?」
首を傾げるオレに、背後から納得したような声が届く。
「あ、やっぱりそういうことだったの?」
「道理でおかしいと思っていたのですよ」
声の主はユウナとプサンだった。二人ともポンと手を叩き、勝手に頷いている。
アーヴァインもその意味がわかってるらしく、すました顔をしている。
どうも、わかってねーのはオレとティーダのヤツだけらしい。
「「????」」
困惑する俺たち――いや、ティーダに、リルムが眉をひそめる。
「知ってて聞いたんじゃないの? バーバラと、そこのモヤシのこと」
「いや、純粋に気になっただけッスよ。
それにアーヴィンのことは、アーヴィンが聞いてくれって頼んできたから……」
「なーんだ」
リルムは呆れたようにため息をついてから、アーヴァインに向き直った。
「てことは、最初から心当たりがあったわけ?」
珍しく真剣な表情で、アーヴァインは頷く。
「ああ、ヘンリーさんが言ってたんだ。昨日の僕と手を組んでいた男がいたって。
……そいつは槍を携えた、金髪の騎士だったってさ」
――金髪に槍。飛竜に乗った男と、特徴が一致している。
アーヴァインはさらに言葉を続けた。
「外見的な要素だけじゃない。あの男は確実に僕のしたことを知っている。
それなのにすっ呆けて、知らないフリをしてやがった」
すっ呆けている。
そのフレーズに、オレはさっきの会話を思い返す。
そして――ふと、『おかしな点』に気付いた。
「あー……そうか、そういうことか」
「?????」
まだわからないらしく、困惑の色を強めるティーダに、ユウナは苦笑しながら説明する。
「アーヴァイン君ね、『バーバラって子が探してる』としか話してないんだよ?
なんで『酷い目に合わされたから』ってわかるの?
知り合いだから探してるとか、逆恨みで探してるとか、色々考えようはあるのに」
「あっ!」とティーダが声を上げた。ようやくわかったようだ。
その傍らで、リルムが冷静に切って捨てる。
「『知らない』って答えたのもマイナスポイントね。
フツーは背格好ぐらい聞き返すし、どっちかって言えば『わからない』って答えるもの。
――で、そう言って嘘をつくってことは、アイツはこいつとの関係を誤魔化したい立場だってこと」
さらに、リルムの説を補足するようにプサンが言う。
「あの竜からは、魔女の魔力や邪念といったものを感じました。
恐らく、ですが……主催者が紛れ込ませた手駒だと思います。
まともな人間なら、そんな存在を引き連れるはずがありません」
「BINGO、だねー」
アーヴァインが言った。
腰に手を当てながら口笛を吹いたりする様子は、まるっきり他人事のようだ。
「って、いいのかよ、そんなヤツ野放しにしてよ?」
その様子に苛立ちでも覚えたのか、ティーダが言った。
魔女の手下と手を組んだ殺人者。そんなヤツを逃したら、この先何人犠牲者が出るかわからない。
捕えておくか、何がしかの手を打つべきだったのではないか? そんな考えが、表情に出ている。
「そりゃ、まーね。並みの相手だったら、とっ捕まえるって手も打てたかもしれないけどさ。
ボウガンとG.F.装備した僕がまるで相手にならなかったっていうピサロさんと、槍一本で渡り合ったっつーしねぇ。
あの竜も、アルティミシアの下僕ってことは相当強いんだろうし……戦ってたら、こんな感じになってた気がするよ」
アーヴァインはそう言って、『お手上げ』と両手を上げた。
調子こそふざけてはいたが、目は決して笑っていない。
さらに、ユウナが銀球鉄砲をくるくると回しながら付け加える。
「上空から攻撃されたら、私の銃と、リルムの魔法しか打つ手がないでしょ?
それに、こっちにはプサンさんも、リルムも、アーヴァイン君もいる。
下手に戦って犠牲者を出してしまったりしたら、それこそ本末転倒だよ。
もちろんキミの言いたいことはわかるし……こういうのも、少し、ムカツクけどね」
アーヴァインはまともに戦えない。
相手の正体に気付いたところで、それを暴いて戦いを挑むなど、出来るはずがなかっただろう。
空に逃げ去った相手を追いかけて、戦闘を仕掛けるというのも無理がありすぎる。
そしてユウナの言うとおり、上空からの襲撃者相手に、誰一人犠牲者を出さずに勝つなど不可能に近い。
騙されたフリをして見送るのは、現状からすれば最良の選択だった。
――もちろん長期的に見れば、ティーダの考えの方が圧倒的に正しいだろうが。
釈然としない表情で俯くティーダに、ユウナが声をかけた。
「ねぇ……カズスに行こうとする人と会ったら、私たちで引き止めてみようよ。
そうすれば、危険な目に合う人も少しは減ると思うんだ」
その言葉に、アーヴァインがうんうんと頷く。
「そーそー。それでも行くようならジコセキニンってヤツ。僕、しーらない」
「そういう考えは感心できないなぁ……」とユウナは呟いたが、実際、オレ達が打てる手はそれぐらいしかない。
「ま、納得行かないかもしれないけど、この際仕方ねーだろ。
それにあんなヤツを構うより、この輪っかを外す手でも考えた方が利巧ってもんじゃねーか?」
取り成すつもりで言った言葉に、ティーダはいきなり顔を上げた。
「そうッスよ、首輪! 誰か調べてるヤツいないかと思って、持ってきたんだ」
そう言ってヤツは、自分の袋からソレを取り出した。
見間違いようもない、オレ達の首についているのと同じ首輪。わずかに血がこびりついている。
どうやって手に入れたのかは気になるが、ティーダの表情を見る限り、聞かない方が良さそうだ。
「これさ、機械に詳しいヤツだったら、調べられるんじゃねーかなって」
機械、か。
ガーデン操縦士のニーダ辺りが得意そうな気もするが、ヤツはこの殺し合いには参加させられていない。
「物知りゼルー。実はこの手の解析が得意だとか言ったりしない?」
アーヴァインが茶々を入れるように聞いてきたが、地理や歴史ならまだしも、機械工学は守備範囲外だ。
「できるワケねーだろ」と、首を横に振る。
その時、黙って話を聞いていたリルムが言った。
「エドガーなら調べられると思うよ。機械に詳しいし、色々弄って変な武器作るのも好きみたいだし」
……改造したり、製作が好きとなると、相当に専門的な知識を持っているのだろう。
リルムの世界の文化レベルにもよるが、そいつは頼りになるかもしれない。
「ティーダ、リュックは?」
今度はユウナが手を上げる。
「シンラ君ほどじゃないけど、リュックもそっち方面には詳しいし。
三年前と違ってね、マキナ自体の発掘や研究もけっこう進んでるんだよ。
だから、多分解析できるんじゃないかって思うんだけど」
「マキナ?」
「あ……ええと、機械のこと。機械っていうと抵抗があるからって、マキナって名前で広まったんだ」
……三年間の溝は中々深いらしい。
首を傾げるティーダ(と俺たち)に説明するユウナは、少し寂しそうに見えた。
ともかく、これで話は決まりだ。
第一目標は、エドガーだかリュックだかと合流して、首輪を調べてもらうこと。
そのついでにプサンの探し物――ドラゴンオーブとかいう、本人曰く『大切なお守り』を見つけるのを手伝って、
後は……殺し合いに乗っていない奴で困ってる人がいたら助ける、といったところか。
――で、最大の問題は、そいつらもオーブも探す宛てがないってことだが。
この世にカミサマってのがいるなら、せめて二人の居場所だけでも教えてくれねぇかなぁ……
【カイン(HP5/6程度) 所持品:ランスオブカイン ミスリルの小手 えふえふ(FF5) この世界(FF3)の歴史書数冊
第一行動方針:カズスの村を偵察した後、カズス北西の森の東部に戻ってエッジ達と合流する
第三行動方針:カズスの村でフリオニールと合流し、罠を張る
最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【スミス(変身解除、洗脳状態、ドラゴンライダー) 所持品:無し
行動方針:カインと組み、ゲームを成功させる】
【現在地;カズス北の平原→カズスへ】
【リルム(右目失明) 所持品:英雄の盾 絵筆 祈りの指輪 ブロンズナイフ】
【ゼル 所持品:レッドキャップ ミラージュベスト】
【ユウナ(ジョブ:魔銃士、MP1/2) 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子】
【プサン 所持品:錬金釜、隼の剣
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、身体能力低下、一部記憶喪失)
所持品:竜騎士の靴、自分の服
【ティーダ(変装中@シーフもどき)
所持品:鋼の剣、青銅の盾、理性の種、ふきとばしの杖〔3〕、首輪×1、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、自分の服
第一行動方針:機械に詳しい人(エドガー、リュック)を探し、首輪の解析を依頼する
第二行動方針:ドラゴンオーブを探す
基本行動方針:仲間を探しつつ、困ってる人や心正しい人は率先して助ける】
【現在地;カズス北の平原→移動】
『待て! 俺にあんたと戦闘する意思はない!』
口無しの効果によって話すことの出来ないザックスは掌を目の前に突き出し
制止の意を伝えようとするが、殺気を込めて歩いてくる剣士は別の意味に受け取った。
「呪文か! 唱えさせない!」
そう吐き捨てて剣士、テリーはザックスへと肉薄する。
いきなり攻撃を仕掛けてきた上に無言で掌をテリーへ向けたのだ。
彼がそう判断するのも無理はなかった。
テリーの初太刀をバスターソードで弾き返し、ザックスは更に後ろに下がる。
『ぐっ、マズイ!』
今のザックスは口を開くことができないため鼻で呼吸するしかなく、
それは彼の想像以上に体力を奪っていく。
『長々と戦闘を続けられる状態じゃねぇな。
話して誤解を解くことが出来ない以上、何とか逃げ出すしかない』
そう判断し、踵を返そうとするがそれをテリーは許さない。
「逃すか! 姉さんの敵はここで殺す!」
開いていた間合いを一瞬で詰め、テリーはザックスに連続攻撃を仕掛ける。
上下左右、あらゆる角度から超高速で迫る太刀筋をザックスは全て防ぎきる。
打ち合いながらザックスは戦況を分析していた。
『力は俺が上。速さは向こうが上。技量は互角……いや、向こうが僅かに上か。
何とか防ぎきれてんのは正直、相手に片腕がないおかげだな。
時々、バランスを崩すところを見ると失ってからそう時間も経ってない。
おそらくこのゲームに巻き込まれてからなんだろうがよくやるぜ……!』
ザックスは分析しながら逃走する隙を窺う。
おそらく傍にはあの魔物が潜伏しているはず。
いや、気配が感じられないところを見ると既に逃げ出したのだろうか?
どちらにしろ悠長にしている暇はなかった。
攻撃を受けて急に駆け出したテリーにファリスはようやく追いついたが
その戦闘に手を出せないでいた。
両者の位置が近すぎるため呪文で援護もできないし、あれだけの技量者同士の戦闘に
ナイフ一本で割って入ることなどもできそうになかった。
そして割ってはいる隙を窺いながらテリーとザックスの戦闘を見守っていたファリスだが
不意にあることに気付いた。
『何だあの戦士? やけに呼吸が荒いな。どんどん顔色も悪くなっている。
毒にでも犯されているのか……それに、攻撃を全くしない。防御一辺倒だ。
テリーが何度かバランスを崩し(その度にヒヤッとしたが)たがそこを突こうともしなかった。
これは……』
確かに攻撃を仕掛けてきたのはあの戦士のほうだった。
しかしその前にあの戦士は何者かと戦っていたはずだ。
その相手はどこにいるのか。もしかして敵を誤認したのではないのか?
でもそれならば戦闘を続ける必要はないはずだ。
そこまで思考に上ってようやくファリスは違和感に気がついた。
『あの戦士、さっきから全く口を開いていない。
まさか口が利けないのか? あの症状は毒ではなく呼吸困難だとしたら……』
その瞬間、テリーは渾身の一撃をまたも弾かれ、大きくバランスを崩した。
『『殺られる!!』』
ファリスとテリーは同時にそう悟ったが、ザックスはまたも間合いを広げるだけに留めた。
テリーの追撃を警戒してすぐに逃走には入らない。
『もう決定的だ。あの男は敵じゃない』
「余裕のつもりか!? 舐めやがって!!」
情けを掛けられたと誤解したテリーは怒り心頭でザックスに向かって雷鳴の剣を振りかざすが、
それをファリスは押し留めた。
「待てテリー!
剣を引くんだ! そいつは敵じゃない!」
「姉さん!?」
テリーはその言葉に驚いて動きを止める。
「でもあいつから攻撃を仕掛けてきたんだぜ!
今殺しておかないと……」
「落ち着くんだテリー。私達は戦闘の気配を追ってここに来た。
ならその戦闘を行っていたのはアイツの他に誰だ?」
「そ、それは……」
ファリスはテリーを制止し、ザックスの下へ歩いていく。
「あんた、まだ私らと戦う気はあるかい?
やるんなら今度こそ二人で決着をつけるけど」
ザックスはその言葉に首を横に振り、バスターソードを地面に突き刺す。
それを見て、ようやくテリーも剣を鞘に収めた。
「チッ、それなら訳を聞かせてもらうぞ」
「いや、どうやら彼は口が利けないみたいだ。
彼が戦っていた相手がまだいるかも知れないから、とりあえず場所を移動して
筆談で事情を……」
戦闘が収まりかけたその時、その様子を建物の陰でじっと気配を殺しながら窺い続けている存在があった。
ザックスと戦闘をしていた張本人、ピエールである。
ザックスの意識がテリーに向いた直後から、この場を離れようとしていたのだが
対人レーダーには村の周囲にいくつかの光点を映し出していた。
どうやら先ほどの魔法の玉の爆発で呼び寄せてしまったらしい。
今脱出すれば彼らとの接触は免れまい。
ならば彼らを村の中におびき寄せ、その後で身を隠しながら脱出するべきだろう。
ピエールは戦闘するザックスたちを尻目にボウガンを回収し、その機会を窺っていた。
そしてザックスたちの戦闘が収束を迎えたのに気付く。
外の者たちが村に入るには未だ若干の余裕がある。
彼らが和解すれば、次に探すのはピエールの身柄だろう。
ピエールは自分の放ったようじゅつしの杖がザックスに口無しの効果をもたらしている事に気付いていなかった。
『ならば油断している今のうちに先手を打つべきだ』
そう判断した彼は回収したボウガンを構え、彼らに向けて無情に矢弾を解き放つ。
「危ない姉さん!」
迫る数本の矢の存在に気付いたテリーは咄嗟にファリスを庇い、剣で矢をいくつか叩き落す。
しかし、呼吸を必死に整えていたザックスは反応が遅れて左肩に被弾してしまった。
背負っていたザックの紐が切れて地面に落ちる。
『あの野郎! こっちが戦闘中にも中々姿をみせねえし、気配も感じられなくなってたから
すでにこの場を離れていたかと思ったが考えが甘すぎたか!』
ザックスは歯噛みし、肩に刺さった矢を抜いて物陰に身を隠した。
テリーは雷鳴の剣を構えなおし、ピエールに向かって突っ込んでいく。
「よくも姉さんに!」
テリーの殺気に臆することもなく、ピエールは冷静に杖を振るって光弾を放つ。
予想外の攻撃にテリーは驚いたが、最小限の動きで身をかわした。
しかしその光弾はテリーを狙って放たれたわけではなかったのだ。
テリーの背後にいたのは……ファリス。
ファリスはテリーの姿が死角になって、光弾の存在に気付くのが遅れ……
結果回避することができなかった。その効果は――引き寄せ。
テリーは気付かずにそのままピエールに肉薄し、必殺の斬撃を叩き込む。
そのピエールの前には、引き寄せの杖の力で瞬間移動したファリス。
「「え?」」
二人は同時に間の抜けた声を上げる。
そしてテリーの斬撃がファリスの首を跳ね飛ばす。
ファリスはバッツを……レナのことを想う時間さえも与えられず絶命した。
ピエールはその場所から飛びつきの杖を振るって消え去る。
テリーはそのことにも何も反応はせず、ただ呆然と首のないファリスの死体を見つめていた。
どん、と音を立てて今更ファリスの首がテリーの足元に落ちてくる。
『何だ、これは?』
『姉さん? 何で姉さんがここで死んでるんだ』
『俺が……殺した?』
『違う、俺が斬ったのはあの魔物だ』
『そうだ、これは魔物が俺を惑わすために変化した姿だ』
『そう、モシャスという呪文があった』
『全く間抜けな魔物だ。髪の色も違うじゃないか』
『姉さんの髪の色はもっと』
何色だっただろう? 蜂蜜色だった気がする。薄紅色だった気がする。
いや、違う。どちらも偽者の姉さんだ。
よく思い返してみる。
―― テリー ――
そう優しげな声で自分を呼ぶ姉の顔は……真っ黒に塗りつぶされていた。
「ぐぁっ!」
激しい頭痛に襲われ、テリーは頭を押さえてうずくまる。
その場に嘔吐し、激しく咳き込んだ。
しばらくそうしていた後、虚ろな目をして起き上がる。
テリーはキョロキョロと辺りを見回した。
『本物の姉さんはどこだろう?
探さなきゃ……早く探して護ってやらなきゃ……』
そして――テリーは当てもなく走り出した。
ザックスはその様子を一部始終見ていたが、動くことが出来なかった。
テリーとの戦闘での消耗が激しく、肩に矢傷を受けたことで
さらに呼吸困難が深刻化していたのだ。
『畜生……何もできずに、俺は……』
顔を紫色に変色させ、ザックスの意識は薄れていった。
目の前に動く物がなくなったことを確認し、ピエールは再び姿を現す。
ザックスが落としたザックとファリスのザックを回収し、ついでにボウガンの矢も拾う。
そしてまた息のあるザックスに止めを刺そうと近づくが、その時背後からの気配に気がついた。
振り返るが姿は未だ見えない。しかしその雄叫びは聞こえてきた。
対人レーダーを見ると東側から迫る光点がある。それこそは――勇者の父、オルテガ。
ピエールは止めを刺す暇はないと判断し、北へ向かって走り出した。
そしてピエールが北の出口に差し掛かったとき、4人組の一団が向かってくるのに気付き建物の中に隠れる。
その4人組はアルスとサイファー達であった。
「! サイファー、今何かがあの建物に身を隠した。見えたか?」
「馬鹿にすんなよ。オイ、イザ、ロザリー、気をつけろよ」
アルスたちは警戒しながら、建物……魔法屋の入り口を取り囲む。
その時、中から光弾が打ち出された。
「危ない!」
咄嗟に身をかわすアルスたちだったが、その光弾は彼らを狙ったにしてはあまりにも外れすぎていた。
光弾は全員に避けられ、北の出口付近に着弾する。
すると、そこにピエールが出現した。飛びつきの杖を使ったのだ。
「何!?」
驚愕する一同。ピエールはそれを尻目に村の出口を抜け、逃走する。
アルスは悟る。間に合わなかったのだ。
戦闘は既に終了してしまっている。
「くそ、逃がさない!」
アルスは歯を食いしばり、戦闘を引き起こした張本人であろうピエールを追って駆け出す。
「オイ待て!」
サイファーの制止の声もアルスには届かない。
「チッ、俺はあの野郎を連れ戻す!
イザはロザリーを死ぬ気で護りながら村を調べろ!」
サイファーは一方的にそれだけ言うと、イザが頷くのも待たずに駆け出した。
それを見て、ロザリーは心配げにイザへと顔を向ける。
「イザさん、私達も追ったほうが」
「いや、サイファーの判断は正しいよ。
今は敵を追うよりも、戦闘で負傷した人たちがいるなら彼らを助けることが先だ。
それに君を危険な目に合わせるわけにもいかない。
もっとも……あのアルスって人を説得するなら口の悪いサイファーより
僕が行ったほうが良かったかもしれないけれど」
そういってイザは肩を竦める。
軽薄そうなイザのその仕草にロザリーは少しムッとするが、
彼の足が震えているのを見て考えを改める。
『私は、いつでも待つことしか出来ないのね……』
気落ちして俯くロザリーだが、イザが歩き始めたのを感じて顔を上げた。
「行こう。僕たちにはやることがある。
ただ待つだけなんて許されやしないんだ」
そして力強く歩いていくイザの言葉に、何故かロザリーは嬉しくなり
大きく返事をして後を付いて行った。
村を出たテリーは真っすぐ北東に向かって走っていた。
途中、クリムトの姿が視界に映ったが気にも留めずに走り抜ける。
クリムトのほうもテリーに気がついたが、視界を失っているため
相手がテリーだとは気付かず、またこの身では追うこともできないと判断して
当初の予定通りカナーンへと向かっていった。
テリーは純粋に姉を探していたため、邪悪な気を発していなかったこともある。
そしてテリーは走り続け……何時間が経っただろうか。
既に時刻も午後を迎えて大分経過していた。
テリーは深い森を掻き分けながら姉を探し続けている。
『姉さん、姉さん……ミレーユ姉さん。
どこにいるの?』
当てもなく、ただ森を無造作に歩き回りながら姉を探す。
思い出せるのは黒く塗りつぶされた姉の顔。
『大丈夫さ、今は少し混乱してるだけだ。
会えば姉さんの顔も思い出せる。だって姉さんだもの』
そうテリーは信じて疑わない。
そうしないと壊れてしまうから。
そして―――ついにテリーは姉と再会した。
森の木々の間から現れた亜麻色の髪の少女。
その顔が黒く塗りつぶされた姉の顔に上書きされる。
「姉さん! 会いたかったよ、どこに行っていたんだい?」
「は? アンタ何なの?」
突然、話しかけたテリーに少女は訝しげな表情で問い返す。
「何って、僕だよ。弟のテリーさ!
忘れちゃったの?」
テリーはまるで子供のような口調で不安げに少女へと答える。
その答えを聞いて少女はしばらく考え込んでいた。
そして不意にニヤリと笑うと、今度は優しげな表情でテリーに声をかける。
「ああ、ごめんなさいねテリー。敵に襲われたので少し混乱していたのよ」
そう言って彼女は腕を広げる。
テリーは疑いもせずにその胸に飛び込んでいった。
「ああ、会いたかったよ姉さん。やっぱり敵に襲われていたんだ。
ごめん、今度はしっかりと護って見せるから。
この命に代えても護り抜くから……許してくれ、姉さん」
「ええ、今度はちゃんと私を護ってね……私の可愛いテリー
愛しているわ……」
テリーの頭を撫でながら彼女……アリーナ2はニッコリと微笑んだ。
【アリーナ2(分身) (HP4/5程度)
所持品:E:悪魔の尻尾 E皆伝の証 万能薬
第一行動方針:テリーを手懐けて、護衛にする
第二行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない
最終行動方針:勝利する 】
【テリー(DQ6)(左腕喪失、負傷(八割回復)
所持品:雷鳴の剣 イヤリング 鉄の杖 ヘアバンド 天使の翼
行動方針:『姉さん』(アリーナ2)の敵を殺し、命に代えても守り抜く】
【現在位置:サスーン城の南・森の入り口付近】
【ザックス(HP1/4程度、口無し状態{浮遊大陸にいる間は続く}、左肩に矢傷)
所持品:バスターソード
第一行動方針:気絶
最終行動方針:ゲームの脱出】
【オルテガ 所持品:ミスリルアクス 覆面&マント
第一行動方針:状況の確認と戦いの阻止、場合によっては戦う
第二行動方針:アルスを探す
最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:カナーンの村南部】
【クリムト(失明) 所持品:力の杖
第一行動方針:カナーンへと向かう
基本行動方針:誰も殺さない。
最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【現在位置:カナーン北出入り口】
【イザ(HP3/4程度) 所持品:ルビスの剣、エクスカリパー、マサムネブレード
第一行動方針:村を調べる。負傷者がいたら救う
基本行動方針:同志を集め、ゲームを脱出・ターニアを探す】
【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル
第一行動方針:同上
基本行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在地:カナーンの村北部】
【ピエール(HP1/5程度) (MP一桁) (感情封印)
(弱いかなしばり状態:体が重くなり、ときどき動かなくなります、時間経過で回復)
所持品:魔封じの杖、死者の指輪、対人レーダー、オートボウガン(残弾1/3)、スネークソード
毛布 王者のマント 聖なるナイフ
ひきよせの杖[3]、とびつきの杖[1]、ようじゅつしの杖[2]
第一行動方針:この状況を切り抜け、休息
基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ
第一行動方針:アルスを連れ戻す
基本行動方針:ロザリーの手助け
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【アルス(MP4/5程度・疲労)所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘 官能小説3冊
第一行動方針:ピエールを追う
第二行動方針:イクサスの言う4人を探し、PKを減らす
最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】
【現在位置:カナーンの村→北】
【ファリス死亡】
【残り64名】
ピエールのとびつきの杖の残り回数は[2]です。
「三人の国王」は無効です
戦闘は既に終了してしまっている。
「くそ、逃がさない!」
アルスは歯を食いしばり、戦闘を引き起こした張本人であろうピエールを追って駆け出す。
「オイ待て!」
サイファーの制止の声もアルスには届かない。
「チッ、俺はあの野郎を連れ戻す!
イザはロザリーを死ぬ気で護りながら村を調べろ!」
サイファーは一方的にそれだけ言うと、イザが頷くのも待たずに駆け出した。
それを見て、ロザリーは心配げにイザへと顔を向ける。
「イザさん、私達も追ったほうが」
「いや、サイファーの判断は正しいよ。
今は敵を追うよりも、戦闘で負傷した人たちがいるなら彼らを助けることが先だ。
それに君を危険な目に合わせるわけにもいかない。
もっとも……あのアルスって人を説得するなら口の悪いサイファーより
僕が行ったほうが良かったかもしれないけれど」
そういってイザは肩を竦める。
軽薄そうなイザのその仕草にロザリーは少しムッとするが、
彼の足が震えているのを見て考えを改める。
『私は、いつでも待つことしか出来ないのね……』
気落ちして俯くロザリーだが、イザが歩き始めたのを感じて顔を上げた。
「行こう。僕たちにはやることがある。
ただ待つだけなんて許されやしないんだ」
そして力強く歩いていくイザの言葉に、何故かロザリーは嬉しくなり
大きく返事をして後を付いて行った。
テリーは北に向かって走っていた。
村を出るとき、東の方向にクリムトの姿が視界に映ったが気にも留めずに走り抜ける。
クリムトのほうもテリーに気がついたが、視界を失っているため
相手がテリーだとは気付かず、またこの身では追うこともできないと判断して
当初の予定通りカナーンへと向かっていった。
テリーは純粋に姉を探していたため、邪悪な気を発していなかったこともある。
【アリーナ2(分身) (HP4/5程度)
所持品:E:悪魔の尻尾 E皆伝の証 万能薬
第一行動方針:テリーを手懐けて、護衛にする
第二行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない
最終行動方針:勝利する 】
【テリー(DQ6)(左腕喪失、負傷(八割回復)
所持品:雷鳴の剣 イヤリング 鉄の杖 ヘアバンド 天使の翼
行動方針:『姉さん』(アリーナ2)の敵を殺し、命に代えても守り抜く】
【現在位置:カナーン北の山岳地帯】
【ザックス(HP1/4程度、口無し状態{浮遊大陸にいる間は続く}、左肩に矢傷)
所持品:バスターソード
第一行動方針:気絶
最終行動方針:ゲームの脱出】
【オルテガ 所持品:ミスリルアクス 覆面&マント
第一行動方針:状況の確認と戦いの阻止、場合によっては戦う
第二行動方針:アルスを探す
最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:カナーンの村南部】
【クリムト(失明) 所持品:力の杖
第一行動方針:カナーンへと向かう
基本行動方針:誰も殺さない。
最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【現在位置:カナーン北東 村の近く】
『何だあの戦士? やけに呼吸が荒いな。どんどん顔色も悪くなっている。
毒にでも犯されているのか……それに、攻撃を全くしない。防御一辺倒だ。
テリーが何度かバランスを崩したが(その度にヒヤッとしたが)そこを突こうともしなかった。
これは……』
確かに攻撃を仕掛けてきたのはあの戦士のほうだった。
しかしその前にあの戦士は何者かと戦っていたはずだ。
その相手はどこにいるのか。もしかして敵を誤認したのではないのか?
でもそれならば戦闘を続ける必要はないはずだ。
そこまで思考に上ってようやくファリスは違和感に気がついた。
『あの戦士、さっきから全く口を開いていない。
まさか口が開けないのか? あの症状は毒ではなく呼吸困難だとしたら……』
その瞬間、テリーは渾身の一撃をまたも弾かれ、大きくバランスを崩した。
『『殺られる!!』』
ファリスとテリーは同時にそう悟ったが、ザックスはまたも間合いを広げるだけに留めた。
テリーの追撃を警戒してすぐに逃走には入らない。
『もう決定的だ。あの男は敵じゃない』
「余裕のつもりか!? 舐めやがって!!」
情けを掛けられたと誤解したテリーは怒り心頭でザックスに向かって雷鳴の剣を振りかざすが、
それをファリスは押し留めた。
「待てテリー!
剣を引くんだ! そいつは敵じゃない!」
「姉さん!?」
テリーはその言葉に驚いて動きを止める。
「でもあいつから攻撃を仕掛けてきたんだぜ!
今殺しておかないと……」
「落ち着くんだテリー。俺達は戦闘の気配を追ってここに来た。
ならその戦闘を行っていたのはアイツの他に誰だ?」
「そ、それは……」
ファリスはテリーを制止し、ザックスの下へ歩いていく。
「あんた、まだ俺達と戦う気はあるかい?
やるんなら今度こそ二人で決着をつけるけど」
ザックスはその言葉に首を横に振り、バスターソードを地面に突き刺す。
流れにワロタw
sage
ピエールは走りながら必死に次の一手を考えていた。
カナーンからの脱出は成功したものの、黒髪の少年が自分を追っている。
自分は今傷を負った状態だが、一方の相手はどうやら身体への異常はない。
このままではまずいと思い今も逃げているが、やはりこの様な状況では不利だ。
後ろを見ると、黒髪の男との距離は近くなっていた。
決めた。こうなればもう仕方が無い。使用回数がどうのと言っていられる状況ではない。
ピエールは妖術師の杖を構え、一直線に自分へと向かう黒髪の少年に光弾を発射した。
サイファーはアルスを追って走っていた。
アルスの姿は捉えているが、如何せん足が速い。
今は遠めに姿を確認できる程度だ。サイファーは仕方なく彼に止まるよう叫ぼうとしたが、
彼は見た。
不思議な光がアルスを包み込むのを。
そしてアルスがどこかへ消えてしまったのも見た。
「な……何をしやがった!?」
虚空に問うものも、現状は変わらない。
ピエールの姿はもう無く、アルスの姿ももう無く、自分一人が取り残されていた。
しばし呆然としてしまう。だがふと、イザとロザリーの姿が彼の頭を掠める。
サイファーは急いでカナーンへと走った。
アルスが行方不明になってしまったのは仕方が無い。
見たところあれは恐らくワープの類。命をとられたわけではないだろう。
まずは自分は身近にいるあの仲間たちの元へ急がねば。
レオンハルトは森の中にある城を見据え、ゆっくりとそこへ向かっていた。
自分があの狂気に満ちた男に追いかけられ城を脱出してからかなりの時間が経った。
今はもう夕方と呼ばれる時間だと言われても違和感はないだろう。
そして城では何も騒動は起こっていないようだ。城が燃えているわけでも無し、窓が破壊されているわけでも無し。
うんと静かだ。誰もいないかのように、その城は静かにその姿を誇示している。
自分は傷を負っている。回復魔法を幾度か唱えてみたが、それでもまだ足りない。
しかも魔力をただ使い切る結果になってしまいそうになるのを考えると、かなりきついものがある。
ならば城で潜伏したほうが良いだろう。それから自分はフリオニールを追えば良い。
そして城の入り口が森の向こうに見えた時、突然音がした。
人が草の上に落ちてきたような、そんな音。
恐る恐るその音がした方向を見ると、そこには黒髪の少年がいた。
おまけに、眠っていた。
「逃がすか!!」
アルスはカナーンの街からピエールを追っていた。
後ろからサイファーが自分を追っている事は知っているが、それでも止まらない。
止まるわけには行かなかった。自分の追っているあの魔物は確実に何かを知っている。
だが、魔物はこちらを向いたと思うと突然杖を振った。
杖からは光の弾がが発射された。駄目だ、視覚はそれを感知した。だが体が完全に反応できない。喰らった。
意識が遠のいていく。死ぬのではないというのは本能で察した。眠くなっただけだ。
そして自分の体が浮いたかのような……旅の扉にも似た感覚が襲う。成程、これらがあの杖の効果か。ドジを踏んだ。
駄目だ、意識を保てない。終わりなのか、こんな所で僕はまた逃がしてし
レオンハルトは、アルスの体を草むらから普通の地面へと移動させた。
そして顔を軽く叩き、起こそうとする。
反応は無い。もう一度起こそうとする。口が開いた……起きたか?
「むね…やわらか……むにゃ……あ、いい……」
寝言か。しかし「胸、柔らかい」とは何だ。
まさか不埒な夢を見ているんじゃないだろうな?
仕方が無いので体を大きく揺すると、やっとアルスは眼を覚ました。
「柔らかい胸は堪能できたか?」
「は?……お前が助けてくれたのか?」
「そうだ。俺はレオンハルト」
「そうか。僕はアルスだ」
レオンハルトが話しかけると、アルスはきちんと返事を返す。
そして少し寝ぼけていたのだろう。アルスは今更ながら現状に気づいた。
アルスは急いで自分の今までの行動を説明し、今の状況を尋ねた。
だがレオンハルトは、当然アルスの事は先程の姿からしか知らない。
自分が急に現れ、眠っていたということを伝えると、アルスはやっと現状を理解した。
「成程……あの杖の力か」
「まぁとにかく無事ならよかった」
レオンハルトは立ち上がると、また城を見据える。
その姿を見て、アルスはある事に気がついた。
「肩……怪我をしているのか?」
アルスのその言葉を聞き、レオンハルトは思い出したように肩を動かす。
「大丈夫だ、気にするほどではない。それに、俺にはこんなことで魔力を消費する余裕が無いからな」
実際は意外と痛むが、だがここで回復する余裕もない。アルスにはこう言って納得してもらおうとした。
だがアルスは、肩の負傷によって死を招いてしまった仲間を知っていた。
「肩の怪我は一生ものだ……きちんと治した方が良い」
アルスはそう言って、回復呪文を唱えようとした。
だがレオンハルトは「こんな場所で魔力を消費するのは愚行だ」と言ってそれを止めた。
ならば、とアルスは城を指差してある提案をした。
「ならばあそこの城に潜伏して僕がお前を回復させる……それなら大丈夫だろう?」
「成程……丁度俺もそうしようと思っていたところだ。だがアルス、お前は良いのか?」
「正直あの村が心配だが……随分と遠いところに来てしまった。諦めよう」
そう言うと、2人は城へと歩き出した。
太陽はまた少し傾いている。意外に時間を食ってしまったのだろう。
「ところでアルス。フリオニールという男を知らないか?
銀の髪にバンダナと装飾品をつけ、闘いで剣を使う気持ち褐色の男なんだが……」
アルスは、その言葉を聞いてピタリと足を止めた。
そして怒りを溜めたような、恐ろしい気迫でレオンハルトに尋ねた。
「その男……強力な剣を”右手で持っていた”か……!?」
アルスには自信があった。
確実にその特徴の男と、自分は戦っている。
「知っているのか……?どこで見た!?どこへ行った!?」
「知っているも何も……僕の仲間はそいつに殺された!……そのまま奴は、カズスとやらへと向かった」
「間違いは無いか?」
「間違いは無い」
2人はそのまま、静かに睨み合っていた。
しばらくそれが続いた後。
「そうか、わかった。感謝する……ありがとう」
レオンハルトはそう言って、また城へと歩き出した。
アルスは急いで早足で追いつくと、レオンハルトに言う。
「僕もあの男が気になっていたところだ……丁度いい、手を組む理由が深まった様だな」
レオンハルトは城の扉を目前とし、アルスに言う。
「そうだな……城で何事もなければ、夜にでもカズスに向かおう。だが……」
レオンハルトは足を止めた。そしてアルスへと向き直る。
「お互いが何を目的をし、行動しているかをまだ言っていない」
その言葉に、アルスは「そうだったな」と苦笑する。
レオンハルトも同時に苦笑した。
「僕はこの先、ゲームに乗った人間を殺してでも止める。当然、フリオニールもだ」
「俺もフリオニールを、殺してでも止める。そしてこのゲームを破壊する」
「成程、お互い似ているんだな……面白い。ならば改めて……協力しよう、レオンハルト」
「ああそうだな。こちらこそ宜しく頼む、アルス」
そしてレオンハルトとアルスは扉の向こうへと進んでいった。
その城にはレオンハルトと最早因縁とも呼べるような人間がいるということを、彼らは知らない。
その城にはアルスの探していた仲間と彼が殺すべきだと考えていたある人間の遺体があるという事を、彼らは知らない。
運命は、味方したのか敵対したのか。
それは当然の様に、誰にもわからない。
【ピエール(HP1/5程度) (MP一桁) (感情封印)
(弱いかなしばり状態:体が重くなり、ときどき動かなくなります、時間経過で回復)
所持品:魔封じの杖、死者の指輪、対人レーダー、オートボウガン(残弾1/3)、スネークソード
毛布 王者のマント 聖なるナイフ ひきよせの杖[3]、とびつきの杖[2]、ようじゅつしの杖[1]
第一行動方針:この場から逃亡し、休息
基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ
第一行動方針:カナーンへと戻る
基本行動方針:ロザリーの手助け
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在位置:カナーンの村から北方面】
【レオンハルト(右肩負傷)
所持品:消え去り草 ロングソード
第一行動方針:サスーン城で潜伏
第ニ行動方針:フリオニールを止める
最終行動方針:ゲームの消滅】
【アルス(MP4/5程度・疲労)
所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘 官能小説3冊
第一行動方針:サスーン城で潜伏し、後にフリオニールを追う
第二行動方針:イクサスの言う4人を探し、PKを減らす
最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】
【現在位置:サスーン城内部入り口】
ピエールは走りながら必死に次の一手を考えていた。
カナーンからの脱出は成功したものの、黒髪の少年が自分を追っている。
自分は今傷を負った状態だが、一方の相手はどうやら身体への異常はない。
このままではまずいと思い今も逃げているが、やはりこの様な状況では不利だ。
後ろを見ると、黒髪の男との距離は近くなっていた。
決めた。こうなればもう仕方が無い。使用回数がどうのと言っていられる状況ではない。
ピエールは妖術師の杖を構え、一直線に自分へと向かう黒髪の少年に光弾を発射した。
それは見事に当たり、相手の動きは鈍くなった。
だがそれでも少年はこちらになおも向かう。恐ろしい執念だ……やられる!
急いでもう一度、妖術師の杖を振った。使い切る事も惜しまずに。
そしてその賭けは……勝ち、らしい。
サイファーはアルスを追って走っていた。
アルスの姿は捉えているが、如何せん足が速い。
今は遠めに姿を確認できる程度だ。サイファーは仕方なく彼に止まるよう叫ぼうとしたが、
彼は見た。彼に光が襲い掛かるのを。
そしてもう一つの不思議な光がアルスを包み込むのを。
そしてアルスがどこかへ消えてしまったのも見た。
「な……何をしやがった!?」
虚空に問うものも、現状は変わらない。
ピエールの姿はもう無く、アルスの姿ももう無く、自分一人が取り残されていた。
しばし呆然としてしまう。だがふと、イザとロザリーの姿が彼の頭を掠める。
サイファーは急いでカナーンへと走った。
アルスが行方不明になってしまったのは仕方が無い。
見たところあれは恐らくワープの類。命をとられたわけではないだろう。
まずは自分は身近にいるあの仲間たちの元へ急がねば。
レオンハルトは森の中にある城を見据え、ゆっくりとそこへ向かっていた。
自分があの狂気に満ちた男に追いかけられ城を脱出してからかなりの時間が経った。
今はもう夕方と呼ばれる時間だと言われても違和感はないだろう。
そして城では何も騒動は起こっていないようだ。城が燃えているわけでも無し、窓が破壊されているわけでも無し。
うんと静かだ。誰もいないかのように、その城は静かにその姿を誇示している。
自分は傷を負っている。回復魔法を幾度か唱えてみたが、それでもまだ足りない。
しかも魔力をただ使い切る結果になってしまいそうになるのを考えると、かなりきついものがある。
ならば城で潜伏したほうが良いだろう。それから自分はフリオニールを追えば良い。
そして城の入り口が森の向こうに見えた時、突然音がした。
人が草の上に落ちてきたような、そんな音。恐る恐るその音がした方向を見ると、そこには黒髪の少年がいた。
おまけに、眠っていた。
「逃がすか!!」
アルスはカナーンの街からピエールを追っていた。
後ろからサイファーが自分を追っている事は知っているが、それでも止まらない。
止まるわけには行かなかった。自分の追っているあの魔物は確実に何かを知っている。
だが、魔物はこちらを向いたと思うと突然杖を振った。
杖からは光の弾が発射された。駄目だ、視覚はそれを感知した。だが体が完全に反応できない。喰らった。
意識が遠のいていく。死ぬのではないというのは本能で察した。眠くなっただけだ。だがそれでも追う。
しかし鈍った体にまたも光弾が襲いかかった。そして今度は自分の体が浮いたかのような……旅の扉にも似た感覚が襲う。
成程、これらがあの杖の効果か。ドジを踏んだ。2度もあんなものを喰らってしまうとは迂闊過ぎた。
駄目だ、意識を保てない。終わりなのか、こんな所で僕はまた逃がしてし
【ピエール(HP1/5程度) (MP一桁) (感情封印)
(弱いかなしばり状態:体が重くなり、ときどき動かなくなります、時間経過で回復)
所持品:魔封じの杖、死者の指輪、対人レーダー、オートボウガン(残弾1/3)、スネークソード
毛布 王者のマント 聖なるナイフ ひきよせの杖[3]、とびつきの杖[2]、ようじゅつしの杖[0]
第一行動方針:この場から逃亡し、休息
基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ
第一行動方針:カナーンへと戻る
基本行動方針:ロザリーの手助け
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在位置:カナーンの村から北方面】
【レオンハルト(右肩負傷)
所持品:消え去り草 ロングソード
第一行動方針:サスーン城で潜伏
第ニ行動方針:フリオニールを止める
最終行動方針:ゲームの消滅】
【アルス(MP4/5程度・疲労)
所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘 官能小説3冊
第一行動方針:サスーン城で潜伏し、後にフリオニールを追う
第二行動方針:イクサスの言う4人を探し、PKを減らす
最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】
【現在位置:サスーン城内部入り口】
ピエールは朝からずっと戦ってて、とにかく早く決着付けて逃げるなりなんなりしようとしてたから、
夕方はちょっと進みすぎかもしれない。
まあ、そうだとしても、アルスは木の上に飛ばされてそこで寝ていた、にすれば済む話だけどね。
364 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/07(日) 06:49:19 ID:9vWpFszx
>>361の続きです
まうのか。
それは駄目だ、何故なら、僕はマーダーを見逃しすぎた。
このままでは…勇者失格だ…。
僕はそ
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