【ご主人様】メイドさんでSS Part9【旦那様】
■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は、読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。
■投稿のお約束
・名前欄にはなるべく作品タイトルをお願いします。
・長編になる場合は、見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに注意書きをしてください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
◆正統派メイド服の各部名称
頭飾り:
Head-dress
("Katjusha","White-brim")
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ,ィ^!^!^!ヽ,
,/゙レ'゙´ ̄`゙'ヽ
襟:. i[》《]iノノノ )))〉 半袖: Puff sleeve
Flat collar. l| |(リ〈i:} i:} || .長袖: Leg of mutton sleeve
(Shirt collar.) l| |!ゝ'' ー_/! / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /::El〔X〕lヨ⌒ヽ、
衣服: (:::::El:::::::lヨ:::::::::::i 袖口: Cuffs (Buttoned cuffs)
One-piece dress /::∧~~~~ヽ;ノヾ;::\_, / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
. ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /:_/ )、_,,〈__`<´。,ゝ
_∠゚_/ ,;i'`〜〜''j;:::: ̄´ゞ''’\_ スカート: Long flared skirt
エプロン: `つノ /j゙ 'j;:::\:::::::::;/´::|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
Apron dress /;i' 'j;::::::::\/ ::::;/
(Pinafore dress) /;i' :j;:ヽ:::/ ;;r'´ アンダースカート: Petticoat
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /;i' ,j゙::ヽ/::;r'´  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/;i'_,,_,,_,,_,,_,_,_,_,i゙::::;/ /
浅靴: Pumps ヽ、:::::::::::::::::::::::__;r'´;/ Knee (high) socks
ブーツ: Lace-up boots `├‐i〜ーヘ,-ヘ'´ 靴下: Garterbelt & Stocking
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ i⌒i.'~j fj⌒j  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
.  ̄ ̄  ̄
イギリスの正装メイド服の一例
ttp://www.beaulieu.co.uk/beaulieupalace/victorianstaff.cfm ドレスパーツ用語(ウェディングドレス用だがメイド服とは共通する部分多し)
ttp://www.wedding-dress.co.jp/d-parts/index.html
容量確認せず投下してしまいました。
タイトル・テンプレ相談無しに立ててしまってすみません。
では、↓から続きを投下します。
恥ずかしさでいたたまれなくて、私は両の手で顔を覆って隠した。
鏡が見えるのは嫌だからあっちを向いて触って下さいなんて、言う勇気なんかない。
手の平に残ったローションが頬につくべっとりとした感触に、カッと体が火照る。
性感を高めるための液体に全身のほとんどをまとわりつかれて、これからどうなってしまうのだろうと恐れにも似た感情が胸に生まれた。
しかし旦那様は、私が背筋を震わせたのは限界が近いからだと思われたようで、下半身への責めを強められる。
いや、だめ、怖いと切れ切れに訴えても、あの方の手は動くことをやめてくれなかった。
強引に高みへと押しやるように肉芽を苛まれ、乳首もつねられて。
間もなく、私は今まで上げたことがないほど大きな叫びと共に達してしまった。
だらりとした体を引き上げるように抱き起こしてもらい、お胸に背中を預ける。
ローションでぴったりと蓋をされ、肌から逃げられなかったはずの体中の熱が、すうっと引いていくような感じを覚えた。
ぜいぜいと乱れる息を懸命に整えながら、旦那様のお手に自分の手を重ねる。
何度か深呼吸して、ギュッと握った。
大丈夫ですかと問われて、いいえと小さく答える。
あんなに乱れて叫んでしまったのに、大丈夫なわけがない。
旦那様はまだ下着も取らないままなのに、私だけがあんな風になってしまって。
混乱が収まると、いつもの自分が戻ってくる。
私だけじゃ不公平だ、旦那様も同じ目に会わせてやる。
そのまましばらくじっとして体力が回復するのを待ち、頃合いを見て私は旦那様の腕の中から逃げた。
「美果さん?」
きょとんとしてこちらを見ているあの方に乗りかかり、傍らのガラス瓶を引き寄せる。
躊躇なくそれを傾けて、中身をあの方の肌に落とした。
「あっ」
冷たさに驚いたのか、旦那様の口から小さい声が聞こえ、私の口角が上がる。
液に粘りがあるせいで、細い瓶の口からは、もどかしいほどゆっくりしか出てこないけれど。
出てきた物の上に指先を乗せると、ほんの少量でもびっくりするほどよく伸びる。
まるで手でスケートをしているような面白い心地がして、好奇心がどっと湧いてくるのが分かった。
さっき旦那様が、私の胸の上で手を動かして遊ばれていた理由が分かる気がする。
手を滑らせるたびに組み敷いている人の表情が変わって、小さな声が聞こえて。
これは面白いわけだ。
悪戯心を刺激された私は、ローションで濡れて立ち上がっている旦那様の乳首を指先で弾いた。
さっき肉芽を責められた時のことを思い出し、円を描くようにそこを触り、爪で軽く触れる。
「あ……。いけません」
旦那様がハッとしたように私の手首を掴み制される。
もしかして気持ちよかったのかな、だから止めようとなさるのに違いない。
「いいじゃありませんか。旦那様だって、さっきいっぱい遊ばれたんですから」
私もやってみたいのは当然でしょうと、唇を尖らせて口答えをする。
しかし旦那様は、いいえそれだけはいけませんと頑なな態度を崩されなかった。
なんだ、つまんないの。
気勢をそがれた私は、あの方の胸に垂らしたローションをかき集め、しぶしぶお腹の方に持ってきた。
こっちならだめと言われないと思ったのだけど、無駄なお肉のない平らなお腹を触っても面白くない。
なんか面白くなる方法はないかと首をひねり、やがて一つ思いついた。
瓶を逆さまにし、鉄板の上のステーキに洋酒を振りかけるシェフのように、上下に瓶を振って旦那様の上にローションを落とす。
このくらいかなと思ったところで、今度は手の平に取って自分にも塗りたくる。
お互いの肌が同じくらい照り光ったところで、私はおもむろに旦那様の上に重なった。
そのまま上下左右に動き、全身でスケートするみたいにして旦那様の上を滑る。
最初体を固くされていたあの方は、やがて吹き出し、クスクスと笑い声を上げ始められた。
「美果さん、随分と面白いことをしますね」
ひとしきり動いて疲れた私が息をつくと、あの方が笑みを含んだ声で仰る。
「これならいいでしょう?旦那様、これもだめですか?」
「いいえ、楽しいアイデアだと思いますよ」
お伺いをたてる私に、旦那様が声を震わせながら答えられる。
「今度は僕が代わりましょうか?」
「いいえ、今は私の番ですから、旦那様はそのままになさっていて下さい」
旦那様が上だと、滑った拍子に布団から落ちて壁にでも激突されては困る。
私の方が小回りがきくし、旦那様を好きにしているというこの高揚感を取られたくはない。
「今度は背中にしましょう。旦那様、裏返って下さい」
私が頼むと、旦那様ははいはいと頷いて体を持ち上げられた。
ローションを足して、また旦那様の背中の上で目いっぱい滑って遊ぶ。
勢いがよすぎて時々布団から転げ落ちそうになっても何とか堪え、思うままに全身スケートを楽しんだ。
ついでに旦那様の背中をマッサージしてみると、ちょっと強い力をかけても心地が良さそう。
そういえば、滑りのよいオイルを使うアロママッサージっていうのもあるんだっけ。
肩揉みや指圧とは違って、こういうやり方でも凝りが解れるのかもしれない。
いくらかして、もういいですよと旦那様が仰ったので、手を離してふうと息をつく。
ふと自分の体に意識を戻すと、顔から胸から足先に至るまでべとべとのぬるぬるになってしまっている。
大丈夫なのは頭のてっぺんくらいだ。
旦那様も同じくらいになっていらっしゃるのを見ると、このまま二人できな粉にでも塗れたら面白そうだと思える。
残念ながら今はきな粉のストックは無いんだけど。
さて、いつまでもこんなことばっかりしていてはいけない。
旦那様をきちんと気持ちよくしてあげないと。
もういっぺん裏返って下さいとお願いして、私は旦那様の足元へしゃがみ込んだ。
ローションを吸って色が変わってしまっている下着に手をかけて、一息に下ろす。
出てきたアレを咥えようと姿勢を落とした時、いいアイデアを思いついた。
かなり中身が減ってしまったローションの瓶をまた引き寄せ、左手にたっぷりと注いで受ける。
瓶を離した右手を重ね、両方の手にローションをまぶして、アレを包むように握った。
「あ……」
根元から先端までを柔らかく擦り上げると、旦那様の吐息に熱が籠もってくるのが分かる。
粘っこい水音が絶え間なく立って、ひどくいけないことをしている感じがした。
先端の太くなっている部分に指を這わせると、旦那様が大きく息を飲まれる。
いつもより大きな反応に、自分の頬に笑みが浮かぶのが分かった。
ごく軽い力で先端に指を這わせ続け、根元の方は左手で規則的に扱いてみる。
ローションの粘りと滑りに助けられ、いつもよりはかどっているのではないかと思えた。
元々全て自己流で、上手にできているかどうかも全く分からないこの作業。
でも、今日は旦那様の反応が一際いいし、私もいつもより楽しい。
口でするのは後に置いといて、まずは手で目いっぱい触ってみたい。
力を変えたり指を細かく使ってみたりと、思いつく限りのことを試してみる。
手を止めて焦らしてみると、旦那様が不満気に長く息を吐かれるのを感じ取って、私は心の中でやったあと叫んだ。
さっきはこの方にいいようにされてしまったんだから、私も仕返ししなければいけないもの。
手と摩擦の熱でローションが乾燥すると、再び瓶を傾けて補充してまた触れて。
いつもよりずっと長いけれどちっとも飽きない時間を、存分に楽しんだ。
でも、時折気持ち良さそうな吐息が聞こえる反面、イかれる気配があんまりしない。
滑りがよすぎると、逆にそういうのからは遠ざかるのかな。
首を傾げたけれど分からないので、とりあえず先端を弄っていた手を離して私はアレに吸い付いてみた。
「美果さん……っ」
ハッとした声で旦那様が私の名を呼んで、腰をびくりと跳ねさせられる。
ぬるぬるしすぎて扱いづらいアレに手を焼きながら、唇と舌とで愛撫を続けてみる。
手触り同様、口に含んでもローションのおかげでいつもとは大分違う。
どんな食べ物とも異なった感触に、一体何に似てるのだろうと私は口の中でアレを弄びながら考えてみた。
だめだ、やっぱり思いつかないとさじを投げた時、あの方のお手が私の後頭部に触れる。
そのまま引き寄せるように押され、私はアレを根元まで飲み込んだ。
求められるままに頭を上下させて奉仕すると、旦那様が堪えきれない喘ぎを漏らし、体をぶるりと震わされる。
自分の楽しみを一旦忘れて、私は旦那様の望まれるままにしようと決めた。
先端に舌を這わせ、時には強く吸い付いて熱の解放を促す。
やがて、一際大きな体の震えと共に、あの方は私の口の中に出された。
息を乱してぼうっとした目をされているのを見ると、何がしかの勝利感のような物が胸に生まれてくる。
最後にもういっぺんアレに強く吸い付いてから、私は旦那様の足元を離れた。
旦那様に組み敷かれ、もう一度布団に背を預ける。
また胸とあそこを触られて声を上げさせられ、危うくまたイきそうになったところでお手が離れた。
しばらく待っていると、準備を済まされたあの方が改めて覆いかぶさってこられる。
でも、まだ下半身に残っているローションで滑って、うまく入らない。
焦らされただけなのかもしれないけれど、すごくもどかしくなって、私はお尻を浮かせてじたばたした。
脚を旦那様の腰に絡めて、お腹の力をなるべく抜いて協力すると、やっとアレが体内に押し入ってくる。
熱く大きい圧迫感に、私はのけぞって大きく息を吐いた。
なんだか、いつもより気持ちいいみたい。
散々煽って煽られてという手順を経たせいなのかな。
すぐにイってもつまらないので、旦那様の背中に両腕を回して抱きつき、何でもない風を装う。
いいですか、と耳元で尋ねられて頷くと、旦那様がゆっくりと動き始められた。
下腹部に感じる粘っこい感触に、お腹とお腹の間でまたローションの糸が引いているイメージが頭に浮かぶ。
そっちの想像にはもう慣れたのだけれど、でも、耳の方はまだ慣れていないみたい。
繋がった場所とお腹の二箇所から立ついつもより大きな音に、頭の中が沸き立つようになってくる。
ローションの働きで、いつものセックスより肌と肌がぴったりとくっついているように思えて。
旦那様と私の境が曖昧になって、触れ合っているというよりまるで溶け合っているような錯覚をした。
「やっ……あんっ」
乳首を舌で刺激されて、上ずった悲鳴がこぼれてしまう。
ローションで濡れた場所を舐められると、さらにぬるぬるが強くなったみたいで気持ちいい。
手とはまた一味違った感触に、びっくりするほどに体が跳ねて、声も出てしまう。
お腹にも力が入って、旦那様と繋がっていることを強く感じた。
「旦那様っ……あ……んんっ……」
だめ、またイってしまう。
精一杯の力を振り絞って体を揺すったけれど抵抗できず、私は先に達してしまった。
抱き起こされて、旦那様のお膝の上に繋がったまま座る格好になる。
熱い息を吐きながら視線を上へやると、目を細めていらっしゃるあの方と目が合った。
それに吸い寄せられるように私からキスをする。
舌と舌がねっとりと絡み、胸の奥がキュッと疼いた。
旦那様、大好きです。
恥ずかしくてとても口にできない言葉を思いながら、時間を忘れて唇を重ね続ける。
お屋敷にいた頃に初めて閨に上がった時は、こんな気持ちになるなんて全く想像していなかったのに。
自分でも驚くくらい、私はこの方に夢中になってしまっている。
旦那様が好き、旦那様以外の男の人なんて考えられない。
この方には、本当ならもっと洗練されていて、きれいで頭もいい女の人のほうがふさわしいなんて分かっている。
それでも、私はこの方とずっといっしょにいたい。
自分が一番ふさわしい女じゃないなんてとうに承知しているけれど、それでも私は旦那様の奥さんになりたい。
「……あれ、よそで使っちゃだめですから」
唇を離してローションの瓶を見ながら言うと、旦那様がクスッと笑われる。
もっと可愛くねだれたらいいのに、どうしてこんな挑むような言い方をしてしまうんだろう。
好きですとか、私だけ見てて下さいとか、似合わなくても一度くらい言えればいいのに。
「心配無用です。僕は恐妻家ですから」
冗談めかして言いながら、旦那様が私のお尻をさわさわと撫でられる。
これから籍を入れるところなのに恐妻家などと言われたのがおかしくて、私も同じように笑った。
でも、そんな風にお尻を触られると違う声が出てしまう。
「旦那様っ……ちょっと、やめ……」
逃げたくても、この体勢では無理な相談で。
くすぐったさに身を捩りながら言ってもやめてもらえず、困った私は旦那様に思い切り抱きついた。
手が滑るのにも構わず、ぎゅうぎゅうと密着して応戦してみると、やっとお手が動くのを阻止できた。
しめつけていたお背を撫で、ふうと息をついてあの方のお顔を窺ってみる。
目が合ったと思ったら急にお顔が大写しになって、今度はあちらから口づけられた。
何度か繰り返し唇が重なり、やがてチュッという音と共に離れる。
入れ替わりに、先ほど私のお尻に悪戯していた旦那様の両手が、腰を支える位置に固定される。
何も仰らなくても、それがどういう意味かが分かってしまう。
私は少し体を離して、互いのお腹を擦り合わせるように動き始めた。
旦那様のアレが入っている場所にぐっと力を入れて、緩急つけて腰を揺する。
いくらもしないうちに肌が汗ばみ、支えて下さっている旦那様のお手が何度も下へずり落ちた。
ローションの滑りに邪魔されても、動くのを止めることなんてできない。
旦那様が気持ちいいように動きながら、時折自分の快感も求めつつ、アレを締め上げる。
胸や首元に旦那様のキスが降ってきて、肌にいくつもの赤い跡を残した。
私もまねをして、お返しに旦那様の肩口や胸に吸い付く。
職場の大学で妙な噂が立たないように、鎖骨から上にはつけないのが決まりだから。
「あっ……んんっ!」
でもちょっとくらいなら……と首筋に舌を這わせると、突然下から大きく突き上げられて息を飲む。
いけませんと叱られたようで、私は慌てて吸い付いた場所を指先で擦ってごまかした。
しかし、旦那様の責めは緩むことなく私を突き上げ、揺り動かして翻弄する。
あっという間に一切の余裕を奪われて息も乱れ、思わずギュッと目をつぶる。
また先にイってしまってはだめ、旦那様と一緒じゃないといや。
血がにじむくらいに唇を噛んで堪え、時折腰を浮かして深い責めに耐える。
全身ににじんだ汗が、布団に落ちるぱたりという音が妙に大きく聞こえた。
汗ではなくローションの残りなのかもしれないけど、もうどっちでもいい。
「う……くっ」
旦那様が苦しげに呻いて、たたみかけるように腰を打ち付けてこられる。
朦朧とする意識をどうにか保ち、私は最後までお付き合いした。
あっ……と小さく息を飲む音が聞こえ、旦那様が全身を震わされたのは、それからどれくらい後だっただろう。
ほぼ同時にこちらにも大きな波がやってきて、また私も大きく叫んで達してしまった。
絶頂の余韻を長く留めようとするかのように、旦那様が一転ゆっくりと腰を動かされるのを感じながら、お背にギュッと掴まる。
子供をあやすように背中を撫でてもらって、私は心からホッとして頬を緩ませた。
二人で布団にごろりと転がり、荒い息のまま抱き合う。
体はもうどこもかしこもぐしょぐしょになっていたけれど、でも、とても幸福だった。
ようやく人心地がついたところで、旦那様に支えられるようにしてお風呂場に連れて行ってもらう。
椅子に座ると共に温かいシャワーが浴びせられ、安堵の吐息が漏れた。
気持ちよさにこのまま眠りそうになったのだけど、何回にもわたって肌に塗りこめられたローションは、そうやすやすとは取れない。
むしろお湯をかけたことでぬるぬるが復活して、お尻が滑って私は何度も椅子から落ちそうになった。
旦那様に掴まろうとしても、時間を巻き戻したようにぬるぬるになった手足では全く思うようにいかなくて。
まるでコントをしているみたいにお風呂場でどたばたして、私達は長い時間をかけて互いの体と髪をきれいにした。
お湯をかけながら丹念に私の体を擦って下さる旦那様に、また体の熱を煽られたのは秘密だ。
ちゃんときれいにしましょうと、さも衛生面から言っているようにボディーソープの用意をしながら、私は必死だった。
全身がさっぱりして、ようよう頭も冷えたところでお風呂場を出て、今度は旦那様の部屋に連れ立って行く。
清潔なベッドに潜りこみ、私はあの方に身を寄せた。
ローションをたっぷりとまとった体と体が擦れあう感じは、なかなか刺激的だったけれど。
清潔な素肌同士が触れ合うのも、やっぱりすごく気持ちがいい。
洗いたての旦那様の肌を堪能するように、温かいお体に抱きついてぴったりと密着する。
それだけでは足りなくて、私は頬擦りをするように旦那様に顔を近付けた。
「美果さんは、甘えん坊ですね」
旦那様が私の髪を撫でながら、笑みを含んだ声で仰る。
セックスの後は、どうしてもくっつきたくなってしまうのはどうしてなんだろう。
男の人って、女にベタベタされるのはあんまり好きじゃないんだろうか。
「すみません」
謝って距離を取ると、旦那様が首を傾げられる。
「どうしました?」
「えっと、その……。甘えられるのって、面倒なんじゃありませんか?」
イヤなのなら無理してもらうわけにいかないし、第一、嫌われたら困る。
恐る恐る尋ねると、旦那様は私を安心させるような柔らかい笑みを浮かべて口を開かれた。
「面倒などとは思いません。むしろ僕は、もっと甘えてくれてもいいとさえ思っているのですから」
「えっ」
「美果さんは恥ずかしがりやですからね。外では無理、日中は無理と、自分でルールを設けているのではありませんか?」
確かにそうだ、ルールとはいかないまでも、旦那様と一緒に寝る時以外は自制している。
「自制のたがを全て取り去れとは言いませんが、甘えたい時に甘えてくれると僕は嬉しく思います」
「日のあるうちにでも、ですか?」
「ええ。特に朝などは、可愛らしく起こしてくれると仕事への意欲がいや増します」
「はあ……」
「メイドが主人に甘えてもいいではありませんか。それに、僕達はもうじき夫婦となるのですから」
それは、そうだけど。
プロポーズしてもらって半年、一応の「お付き合い」期間を設けてもらって、バイトもして指輪や何かを買うお金も貯まった。
最初は実感がなかったけれど、結婚するならやっぱりこの方以外はないと、今では実感している。
さっきぐしゃぐしゃにしてしまった私の布団を捨てるのは、明日の大安吉日をもって、二人一緒に寝ましょうと決めたから。
来週には籍を入れるための準備が整うし、写真館でタキシードとドレスを着て記念写真を撮る予約ももうしてある。
結婚式と披露宴は省略するけれど、時期をみて新婚旅行には行きたいですねと意見も一致している。
こうなってみると、ちょっとぐらいなら昼間に甘えてもいいのかもしれない。
でも、いざとなると薄ぼんやりとした不安のような物が私の周りを漂ってくるのだ。
「あの、旦那様。本当に私なんかでいいんですか?」
正直言って、この方が私を妻にと望んで下さる理由がまだ分からない。
もしかして、愛情とかそんなのじゃなくて、ただ今までの働きに報いるためのご厚意ってだけじゃないんだろうか。
武士の恩賞みたいなものなんだったら、そんなのと結婚を同列にするわけにはいかない。
「どういう意味ですか?」
「えっと……」
それは、と眉を動かされる旦那様に、私は言葉少なに胸中を述べた。
「ふむ。つまり、僕が美果さんを好きな理由が聞きたいということですね?」
迷って、素直に頷く。
こんなことを聞きたがるなんて、頭の悪い女がすることだと思っていたのに。
いざ自分がこの立場になってみると、尋ねずにはいられない。
「美果さんはいつも元気に溢れていて、困難にぶつかってもめげずに立ち向かう姿勢を持っています。
馬鹿にされても、なにくそ!と思い、へこたれることはないでしょう?」
「は、はい」
「そのバイタリティは、僕からするとひどく羨ましくて、半ば憧れに近い感情を持っているのです」
とつとつと仰るその言葉には、お世辞を言っている雰囲気はみじんも感じられない。
人からあまり褒められたことのない身には、それがとてもこそばゆかった。
「とはいえ、そんな自立の気風を持っていながらも、時折甘えん坊な部分がのぞきますが」
えっ。
「特に同衾する時などは……むぐっ」
私は弾かれたように体を起こして、旦那様の口を手で押さえた。
全くもう、そんなことまで言ってくれなくてもいいのに。
「恥ずかしがり屋な所も可愛らしく思います。特に、今のような」
もがいて私の手から逃れた旦那様が、息を整えた後に続けられる。
おのれまだ言うか、とご主人様に対して不敬きわまりなく思いながら、私はふくれた。
二回も口をふさぐのは、さすがに気がとがめる。
「旦那様、目が腐ってます。私ちっとも可愛くなんかないのに」
嘘をつかれているとは思わないけれど、自分がどう見たってそんな風に言ってもらえない造作だということは知っている。
「美果さん。『可愛い』とは、なかなか奥の深い言葉なのですよ?」
「奥が深い?」
「ええ。『美しい』などとは、所詮顔の皮一枚のことです。しかし『可愛い』はそうではありません。
僕には、美果さんの意地っ張りな所もわざと悪ぶって見せる所も、とても可愛らしく思えます」
……やっぱり、顔が可愛いって仰ってるんじゃなかったんだ。
それでも旦那様の錯覚だとは思うけれど、まあ世界に一人くらい、私を可愛いと思ってくれる人がいてもいいか。
「他に、理由ってありませんか」
「そうですね、叱られるのが好きです」
「えっ……」
思わぬ言葉にサーッと血の気が引いていく音が聞こえる。
「叱られるのが好き?それってヘンタイじゃありませんか」
「そうではありません。叱ってくれるたびに『これほど僕は想われている』と再確認できるからです」
「はあ……」
私は叱られるなんて大嫌いなのに、旦那様はお好きだなんて理解不能だ。
やっぱり、この方は一筋縄ではいかないのかもしれない。
「美果さんはどうです?僕を好きな理由を聞かせてもらえませんか」
「……私、旦那様を好きだって言ったこと、ありましたっけ」
話の風向きが変わって、自分の目が泳ぐのが分かった。
そんなこと、改めて言うなんて恥ずかしいし、急には思い浮かばない。
「照れているのですか?可愛いですね」
おや、と旦那様がからかうような視線を向けられる。
それが挑発であることは明白なのに、言い返してやらねばという意気がむくむくと湧いてくるのがわかった。
「旦那様は、香りがいいんです。だからそばに寄るといい気分なんです」
「香りですか?」
ご自分の肩口に鼻を近づけ、ふんふんと匂いをかいだ後に、旦那様が首を傾げられる。
「分かりませんね。どういった匂いなのですか?」
「体臭ってことでもないと思うんです。旦那様がまとっておられる空気というか、雰囲気というか」
そんなの、私もうまく説明できない。
「要するに、僕のそばが心地いいということなのですね?」
「はい、そう受け取って頂いて結構です」
一緒にいると心が落ち着いて、余分な体の力が抜けて楽になる。
まあ時々は腹が立ってしまって、体、特に口に力が入ることもあるけれど。
「ふむ。一緒に暮らしていくことを思うと、それは何よりですね」
旦那様がにこやかに表情を崩される。
この方を好きな所は、他にも一杯ある。
美果さんと名前を呼んで下さる声も好きだし、髪や体に優しく触れて下さるのも大好きだ。
キスもセックスももう何度もしているのに、その度に胸がキュンとなるくらいに嬉しいし。
ああいったことを他の男性とも……なんて、きっと一生考えることはないと思う。
私がそうであるように、この方にも他の女性とあれこれするなんて考えて欲しくない。
プロポーズされた時には即答できなかったけど、こうなってみるとやっぱり、結婚しかないのだと思う。
今後も元気に頑張って、旦那様を支えていこう。
ノーベル賞の約束はまだ忘れていないけれど、今となってはもう、取っても取れなくてもどちらでも構わない。
「ところで美果さん」
ぼんやりとした不安が一掃され、ほの温かい幸せに胸躍らせているところに、旦那様がふと言葉をかけられる。
「先ほどの『あれ』ですが。まだ本体の方に原液が残っているのですが、どうしましょう」
「えっ……」
問われて考える。
最初は嫌だったけど、使い終わった今となってはもう、あくまで拒否する気は残っていない。
でも、女中部屋に置いた布団は捨てることが決まってるし……。
「あの、旦那様」
「はい?」
「先入観は、おかげ様で無くなったんですけど……」
「ええ」
「あれを部屋でまた使うのは、色々難しいと思うんです。汚れますし」
女中部屋からお風呂場に至る廊下を明日きちんと拭かなければと思いながら、次に続く言葉を選ぶ。
「ですから、次は……」
「次は?」
「お風呂場でなら、いいんじゃないかと……」
ああもう、なんで私はこんなことを言ってるんだろう。
言いたいことを言うくせに、私は結局、旦那様の手の平の上で転がされているだけなのかもしれない。
なるほどそうですねと頷いて、旦那様が私の髪を梳くように撫でられる。
その心地良さに目を細めると、小さなあくびが二つ、続けざまに出てきてしまう。
今夜はいつもより色々と濃くって、体力を使って疲れた。
次があるのなら来週以降にしてもらおう、目にクマを作った状態で、一生残る写真を撮りたくはないもの。
そう言っておこうかと思ったけれど、急激に襲ってきた眠気にじゃまされて、もう目を開けることも叶わなかった。
おやすみなさい……と小さく呟いて、旦那様の胸にくっつくように体をもぐり込ませる。
もう一度髪を撫でて下さるお手の優しさにうっとりしながら、おやすみなさいと言って下さる旦那様の声を聞いた。
来週には、この方が私の本当の旦那様になる。
嬉しくも気恥ずかしい幸福感に胸を震わせ、私はその日が早く来ることを願いながら眠りに落ちていった。
──終わり──
このSSはこれにて完結です。
長い間お付き合いいただいて、本当にありがとうございました。
新スレ立てにまつわる不手際の件は、深くお詫びします。
それでは失礼します。
ご馳走様でした。
ストックホルムでの番外編も是非。
長らくお疲れさまでした!
美香さんが投下される度に次の投下がいつかとわくわくして待ってました。
それも今日で終わりだと思うとなんだか切ないですが、美香さんが幸せそうなのでよかった。
美香さんは最後まで意地っ張りでしたねw
続編でも番外編でも違う作品でも、またの投下をお待ちしてます!
作者様お疲れ様でした!
毎回本当に楽しみに読まさせて頂きました。
有り難うございました。
作者乙!
>>12 >ストックホルムでの番外編
下手すると数十年後の話になりそうだな(爆
16 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/22(木) 06:40:11 ID:hPg/Tatf
好きなシリーズが終わってしまうのは淋しいですが、作者さんに感謝と惜しみないGJを
GJ!
寂しいけど今までありがとうございました!
美果さんと旦那様が幸せで良かった。
つか恋人ラブラブ状態が見たかったっす。
18 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 05:29:07 ID:voaW+GHp
前スレの秋乃さん、とても素敵で可愛いです
咲野さんと違った魅力に萌えまくりです
美果さんは大団円ですね
幸せに結ばれて とても嬉しくなりました
好きっていう気持ちが溢れるメイドさんが可愛いくて仕方ない
『メイド・莉子 6』
陽子さんが退院した。
いろんな人からお祝いが届き、お客さんも入れ替わり立ち代りで、俺は退院したばかりの陽子さんがまた疲れてしまわないかが心配なくらいだった。
莉子も、陽子さんに挨拶してきたらしい。
「とても緊張しました。とってもおきれいな方で、……旦那さまは、お母さま似ですか」
俺はバカメイドの頭をぱかっと叩いた。
「陽子さんは幾つで俺を産んだんだよ。血が繋がってないに決まってるじゃないか」
予想したとおり、陽子さんは親父と兄貴のいない家を寂しがり、俺に母屋で一緒に飯を食うように誘ってきた。
もう、旦那さまとご一緒にお弁当をいただけないんですね、と莉子が俺の膝に指先で穴を開けようとした。
「バカメイド。もう忘れたのかよ」
「はい?」
俺は莉子を脚に絡みつかせて、その頭頂部を指先で押した。
もともと俺は、あちこち演奏旅行の多い生活だったけど、高校生くらいからは陽子さんもべったり付いてきたわけではない。
今はピアニスト時代より家にいる時間は多くなったけど、できれば莉子とここで過ごした方がラクだ。
「俺は、ここに帰ってくるっていったじゃないか。朝飯は母屋で食わないとならないだろうけど、帰りの時間はまちまちだし、夜はここで食うから。ちょっと遅くなっても待ってろ」
「……あんまり遅くなると、ぎゅるぎゅるしすぎて倒れてしまいます」
程度ってもんがあるだろ。
「そん時は、なんか食っとけ」
俺と莉子は、毎日どんだけ食い物の話をしてるんだ。
俺は経済新聞に赤ペンを入れながら、足先で莉子を蹴って遊んだ。
莉子は、やんやんと体をよじって逃げながら、俺の足元にへばりついて離れない。
バカめ。
……親父がいない今、陽子さんは毎日をどう過ごすのかな。
半年振りに土曜の外出がなくなったので、莉子と過ごす金曜の夜は濃くなった。
莉子を素っ裸で立たせて変態呼ばわりされ、変態の名に恥じぬように莉子の全身を舐めつくしてやった。
どうだ、俺は立派な変態に成長しつつあるだろう。
「やん、あんまり、そんなことなさると、あん、おっ、奥さまに言いつけます」
なんだって。
「奥さまの大事な『なっくん』が、こんなヘンタイになったと知ったら、奥さまは、きゃっ」
莉子が『なっくん』言うな。
俺だっていつまでもそう呼ばれるのは恥ずかしいんだ。
「んなこと言ってみろ、二度と弁当を買ってきてやらないぞ。買ってきても激辛キムチカレーハバネロ弁当だ」
「そんな変なお弁当、長尾さまが開発なさるわけ、ああんっ」
うお。
ちくしょう、なんで俺はこんなにのめり込んでるんだ。
なんで、こんなに莉子が好きなんだ。
次の日曜、俺がジムに通っていると聞きつけた長尾が一緒について来た。
長尾の手前、ダラダラやるわけにもいかず、ランニングマシンやトレーニングメニューの筋トレをやり、最後に泳いでサウナに入った。
「高階くん、真面目ですね」
ビジターできっちり俺のメニューにつきあって、さすがにへばったのか、長尾が水風呂に飛び込む。
「ちょっと調べたんですけど。高階くんってすごい演奏家だったんですね」
つまり俺は、興味のない人間には、調べないとわからないくらいの知名度だったわけだ。
なんでやめちゃったのかな、社長と二束のわらじは不可能ですか、などと聞いてくる。
「長尾だって甲子園で優勝できなかったじゃないか。俺のピアノもそんなもん」
「でも私は草野球を続けてますけどね。高階くんは、もうさっぱり?」
シャワーを浴びて、ロビーでスポーツ飲料を飲む。
ピアノと楽譜はまだ、部屋にある。
俺に教えてもらうのを楽しみに、莉子がちゃんと手入れしてくれている。
「……そうだなあ。人に教えるくらいかな」
まだ、実際に教えてはいないけど。
「じゃあ、無駄じゃなかったわけだよ」
……え。
「あ、いや、失礼」
長尾が慌てたように手を振った。
そっか。
俺の人生は、無駄じゃなかったのか。
正直、陽子さんが帰ってきてからずっと、顔を見るのが辛かった。
ちびっ子だった俺を見出して、ピアノの英才教育を受けられるようにしてくれた陽子さん。
学校とピアノの両立が出来るように、送迎やマネージメントや、自分の子どもを産む暇もないほど忙しく俺のステージママをしてくれた陽子さん。
その全部を、俺は放り出した。
陽子さんの、俺自身の努力を全部無駄にしたと思って、後ろめたかったんだ。
その結果が、メイドにドレミを教えてやるくらいしか残らなかったとしても、全部が無駄じゃないんだ。
俺が黙ったので、長尾がもう一度謝った。
「あ、いやそうじゃないんだ。むしろ……、ありがとうって気分」
長尾がきょとんとした。
「…おもしろいなあ、高階くん」
そうかな。
俺はもっと面白い奴を知ってるけどな。
まあ、もしこれからもっと長尾と仲良くなって、もっと気を許してもいいと思えるくらいになったら。
世界中で一番サザンクロスデリバリーのファンだという顧客を紹介してやってもいい。
俺と長尾が友だちになれたのは、少しは莉子のおかげだからな。
……俺たち、友だち、だよな?
「おかえりなさいませ」
屋敷の離れに戻ると、莉子が出迎えた。
離れに来る前に母屋に顔を出したら、陽子さんにつかまって、新しいスーツだの時計だのの話をみっちり聞かされた。
「なっくんは変に世間知らずだから、タカシナの社長として馬鹿にされないような身なりが出来てるかどうか、心配だわ」
コンサートのステージ衣装で会社に行ったりしてはだめなのよって、それくらいは俺にもわかるけど。
陽子さんの話を聞いたり俺の話をしたり、二時間近く足止めされてから母屋を出た。
元気になってくれたのは嬉しいけど、ちょっと疲れる。
待ちくたびれていたはずの莉子は、紙袋と着替えやタオルの詰まったバッグを受け取って、部屋までの廊下をぴょこんぴょこんとついてきた。
紙袋の中身を隙間から確かめて、満面の笑顔になっている。
単純な奴。
部屋に入って、トレーナーにプリントしてもらった測定結果やスケジュールをファイルにまとめておく。
肺活量とか筋力とかが増えてきた。
ふと見ると、莉子がドアの横に立っている。
「今日はもう勉強しないぞ」
言うと、俺のそばまで跳ねてきた。
莉子はバカではあるけど、ちゃんと気を使う。
「今日は、なにをなさったのですか」
ファイルした書類を覗き込む。
「走って、筋トレして、泳いだ」
「それをすると、ホームランが打てるのですか」
莉子がひとさし指をあごに当てて首をかしげた。
野球を知らないとはいえ、期待しすぎだ。
「……なにごとも、基本が大事だからな」
「そうですか…。わたくし、旦那さまがホームランを打つの、見たいです」
まだ素振りもバットに振り回されている状態だっていうのに、無茶を言う。
もう少し振れるようになってからバッティングセンターに行ってみようと長尾に言われてるんだけどな。
「旦那さま?」
「もう少し、待て。もう少しな」
莉子がはい、と素直に言って頷いた。
俺はファイルを閉じ、莉子の頭を撫でてやった。
一度は執事に注意されたという髪飾りも、俺がこそっと口添えしてやったおかげで、今も莉子の髪を飾っていた。
「どのくらいしたら、旦那さまはホームランを打ちますか?」
そういう、おねだりの顔をするな。
しょうがない、出来るだけ早く体を作って、野球の練習をして、代打でも試合に出してもらえるようになろう。
ホームランは、ともかくとして。
長尾の言葉を借りれば、今までしてきたことに、今していることに、無駄なことはなにもないはずなんだ。
……たぶん、だけど。
俺はファイルを閉じて、莉子に弁当の入った紙袋を開けるように言った。
ぱっと表情を明るくした莉子が、いそいそと二段弁当を取り出す。
ジムで、今度新しい弁当のパンフレットを持ってきてくれと言ったら、長尾は不思議そうな顔をしていた。
それでも、車にいくらか積んでますよと取りに行ってくれた。
パンフレットを見て、莉子の好きそうなハンバーグだのスパゲティだのの入った弁当を電話注文しておき、帰りに買ってきたんだ。
どうだ、季節の和洋折衷弁当だぞ。
莉子が、ひとさし指をあごに当てた。
「ぼくもわたしもにっこり、ウキウキわくわくキッズ弁当」
え。
「わたくし、こういうのも好きでございますけど」
あわてて弁当を覗き込んだ。
商品コードで注文したから、気づかなかった。
季節の和洋折衷弁当は、その下の弁当の名前だったのか。
弁当には動物の絵のついた旗が立っていたり、ピンクや黄色のスティックがウィンナーに刺さってたりする。
なんと、チキンライスはクマの型抜きだ。
「あ、悪い、間違えた」
莉子が小さなカッププリンをつまみあげて、目を丸くした。
「食べてはいけませんか」
こんなのでも、いいのか。
「おいしそうです。なにを召し上がりますか。今日はわたくしが、あーんってしてさしあげます」
いや、自分で食う。
まあ、そうですか、では。
莉子がソファに座った俺の横に来て、ころんと転がる。
小さな口をパクパクして、催促しやがる。
なにがいいんだよ、と聞きながら弁当の中を見回した。
でかいお子さまランチだな、こりゃ。
甘ったるい味付けのオムレツやら、カニシューマイやらを莉子の口の中に落とし、自分でも食べる。
ウサギの型抜きをした山菜おこわは、けっこう美味かった。
カレー味のメンチカツに、ポテトサラダのハム包み。
莉子が聞きたがるので、俺はしゃべる口と食べる口を使い分けながら、ジムでの運動メニューや、鼻の横にでかいホクロのあるトレーナーの蛍光オレンジのタンクトップのこととか、長尾の不恰好な平泳ぎのこととかを話した。
莉子がうふうふむひゃむひゃと笑うので、俺も調子に乗ってずいぶんしゃべった。
だから、俺も莉子も、気づかなかったんだ、ドアがノックされたことなんか。
「まあ。まあ、まあ!」
俺は、その声にびっくりして弁当を取り落としそうになり、莉子は床に転げ落ちた。
「なにをしてるの、なっくん」
きれいな顔を不愉快そうにしかめて、陽子さんは床に座り込んだ莉子をきゅっと睨んだ。
「よ、陽子さん、なに」
陽子さんが部屋に踏み込んだ。
「夕食はいらないなんて言って、なあに、この幼稚園の運動会みたいな折詰は」
いや、これは俺が注文を間違えて。
「しかも、あなた。今、どんな格好してました?」
俺がステージの袖で、今日は出たくないとゴネた時と同じ怖い顔を向けられて、莉子は主人の膝枕で弁当を食べさせてもらっていましたと言う訳にもいかず、慌てて立ち上がると手を前で組んで深くうなだれた。
俺と莉子を交互に睨んで、陽子さんは両手を腰に当てた。
怖い。
怖いぞ。
陽子さんは、怒ると怖いんだ。
だから俺は、めったに怒られないように、それはそれは従順ないい子だったんだ。
「……なっくんは、ちょっとたるんじゃったのかしら。わたしが半年も寝てたから」
えーと、えーと、そうでしょうか。
すごく、楽しかったんだけど。
「この離れで一人暮らしっていうのも考えものかもしれないわね。それに」
俺の横で、莉子がすくみあがった。
「メイドのしつけも行き届かないし」
どきっとした。
俺は、まだ何か言おうとする陽子さんを慌てて遮った。
「いや、陽子さん、それはほら、俺のメイドだから、俺がやるから」
ものすごく思い切って、言った。
陽子さんは眉根を寄せたまま、俺をじっと見る。
まあ、まっとうな母親なら、息子の膝に寝転んで飯を食う使用人なんて、許せるわけないよな。
「あの、それで、わざわざなんの用?」
そうね、なっくんももう子どもじゃないし、タカシナの社長なんだし、だからってメイドってどうなのかしら。
小さい声でぶつぶつ言ってから、陽子さんはくいっとあごを上げる。
「そうそう、聞きたいことを忘れてたのよ。なっくん、次の野球の練習はいつ?」
野球?
「今日ね、タカシナフーズの長尾社長の奥さまとお会いしたの。お互いに、息子がお世話になってますって話して」
タカシナ社長夫人の役割も立派にこなしていた陽子さんは、長尾の母親とも知り合いのようだ。
「だから、今度練習の後にでも、チームの皆さんでうちにいらしたらどうかしらと思って。だめかしら」
あんまり堅苦しくないお食事を用意する、と陽子さんは言う。
わたしも、なっくんのお友だちにお会いしたいしね。
確かに子供の頃から俺は、一度も友だちを家に連れてきたことなんかなかった。
陽子さんは、学校の誰かが教室で自慢していたように、息子の友だちを集めて誕生日パーティとかしたかったんだろうか。
いつもだと、練習後は長尾がデリバリーを用意してくれて、グラウンドの端っこやや開店前の居酒屋を借りたりして飲食する。
それを、タカシナの社長宅となると、みんな肩が凝らないだろうか。
一応、長尾に相談してみるよと言っておいた。
「……なっくん」
なに、陽子さん。
「ううん、なんでもないわ。おやすみなさい」
まだ時間は早いけど、陽子さんはそう言ってドアに手をかけた。
「あなたも、ご用がないようだったら下がらせていただきなさいね」
ずっとうつむいていた莉子が、蚊のなくような声ではい、と答えた。
……びっくりした、な?
陽子さんが出て行ってから、俺は突っ立っている莉子のスカートを引っ張った。
莉子は黙って、俺がテーブルに放り出した『ぼくもわたしもにっこり、ウキウキわくわくキッズ弁当』を片付け始める。
もう、食わないのかよ。
莉子。
莉子って。
「やっぱり……」
箸を揃えて、莉子は俺に丸くなった背中を向けて呟く。
「奥さまは、わたくしのこと、お嫌いなのでしょうか」
いや、驚いただけだと思うけど。
ほら、莉子が来るまでは俺はメイドを追い出すことはあっても、膝に乗せていちゃつくことなんかなかったし。
莉子は弁当をテーブルの隅に置くと、ぺこっと頭を下げた。
「今日は……、下がらせていただきます。お弁当、ごちそうさまでした」
俺はぽかんと口を開けた。
なに言ってるんだ、こいつ。
下がるって、どこ行くんだ。弁当を食ってごちそうさま?初めて聞いた。
おい、莉子。
俺の呼び止めるのを無視して、今まで見たことないほどしょぼくれた莉子が部屋を出て行った。
メイドは住み込みだから莉子にも自分の部屋はあるんだろうけど、だけど今まで俺を一人にしたことなんかなかったじゃないか。
莉子がこの離れに来て俺のメイドになって以来、俺は初めて自分の部屋で独りぼっちになった。
部屋は広くてテレビの音はうるさくて、風呂のシャワーは寒々として、そして、ベッドはすかすかだった。
なんとか理由をつけて呼び戻そうとしたけれど、俺は自分ではメイドを呼ぶ方法すら知らなかった。
だって、メイドっていうのは俺のそばにいて、俺が誰かを呼んだり用を足したりするのを助けてくれるもんじゃないのか。
そのメイドがいなくなってどうすんだよ、バカ莉子。
俺は、誕生日に家に呼ぶ友だちもいない子どもだったから、莉子を呼び戻す方法がわからない。
自分から、誰かに近づく方法がわからない。
シーツの冷たいベッドで、俺はその夜、あまり眠れなかった。
翌朝になっても莉子は来なかった。
自分で着替えをして、母屋の食堂に行く。
陽子さんがいそいそと俺に味噌汁をよそってくれる。
ちらっと厨房の方を覗いてみても、莉子はいない。
まさか、ほんとに俺に黙ってクビにしてしまったわけじゃないよな。
草野球のチームメイトを招いてのお食事はなにがいいかしら、と浮き足立っている陽子さんに返事をしながら、味のない朝食を取った。
出かけるときは、陽子さんと執事がいつもどおり見送ってくれる。
振り返ったとき、並んで頭を下げているメイドたちの中に、莉子がいた。
離れではなく、母屋から出かけるときはいつも莉子は他のメイドたちの中にまぎれている。
よかった、莉子がいる。
昨夜は、俺と飯を食っているのを陽子さんに見咎められて、ちょっとヘコんだんだろう。
主人を主人とも思わない強気でナマイキなメイドのくせに、かわいいとこあるじゃないか。
その朝、のん気で鈍感な俺は、すっかり安心して会社へ向かった。
夕方、俺はちょっと足を伸ばしてオーガニックのレストランで限定のテイクアウトディナーを買って帰った。
母屋の陽子さんに帰宅の挨拶をして、話が長引かないうちに離れへ引き取る。
陽子さんがちょっと変な顔をしていたような気もするが、早く莉子に会って特別な弁当を見せて喜ばせてやりたかった。
執事は母屋にいたので、出迎えるのは莉子だけのはずだった。
それが、誰もいない。
まだ離れに戻らないと思ったのかな、そんなメイドにはたっぷり小言を言ってやらないとな。
すると、廊下の向こうからメイド服がぱたぱたと駆けてきた。
出迎えが遅れたからといって走ってくるとは、めずらしい……。
誰だ、お前。
髪の短い、メガネをかけた背の高いメイドが俺を見て足を止めた。
「あ、おかえりなさいませ」
あ、ってなんだ、あ、って。
用事があるのに会ってしまったから仕方ない、とでもいう顔で、俺の手から弁当の紙袋をひったくると、部屋に向かって歩き出す。
だから、誰だよ、お前。
「莉子は」
俺がぼそっと言うと、せかせか歩きながらメイドは振り向きもせずに答えた。
「莉子さんは母屋で奥さまのご用がございます。社長のお着替えやお支度は、わたしが」
はあ?
「奥さまのご用ってなんだよ。そんなもの、莉子がやらなくたっていいだろう」
「ご命令ですから」
メイドは部屋のドアを開け、俺が入るとテーブルの上に紙袋をどさっと置き、後ろに回ってテキパキと俺の上着を引きはがした。
「莉子を呼んできてくれ。お前はいらない」
いらっとしたせいで、言い方がキツくなった。
メイドはぴくっと眉を上げ、上着をソファの上に置いて出て行った。
うちにはまともなメイドがいないのかよ。
10分も待って、ドアを開けたのは陽子さんだった。
あれ、また言い忘れたことでもあったのか。
「なっくん、ちょっといい?」
「あ、うん。なんか飲む?って……、莉子がまだ来てないんだけど」
自分でお茶を淹れるわけにもいかずうろうろしてると、陽子さんが俺を座らせた。
「美奈絵さんは、気に入らなかった?」
へ。
「なっくんには、ちょっとお姉さんタイプのハキハキしたメイドがいいと思ったんだけど」
それで、さっきのメイドが美奈絵という名前で、陽子さんが俺の世話をするように言いつけたのだとわかる。
なんで、そんなこと。
「……なっくん、私、うるさい?」」
よっぽど、俺が莉子を膝枕していたのがショックだったらしい。
俺はソファの端に腰を下ろして、陽子さんを見た。
事故とその後の入院、急に夫と長男のいなくなった家に、陽子さんも落ち着かないんだろうな。
自分の留守の間にピアニストからタカシナの社長に転職した息子が、変態になったかと心配したんだろうか。
俺がもっと親孝行なことしてやればいいんだろうか。
「んとね、陽子さん」
……お母さん、って呼んだほうがいいんだろうか。。
「俺、演奏活動やめて会社に行くようになったろ?その頃、なかなかメイドが続かなくてさ、次々止めちゃって」
「……ええ」
執事に、聞いてたんだろうな。
「なんか、あいつだけは続いててさ。あんまり細かく世話も焼かないし、しゃべるときと黙ってるときのバランスがちょうどいいっていうか」
「……」
「だから……、離れのメイドは莉子にしてくれないかな」
「……」
「もちろん、そういうことを決めるのは、陽子さんだってわかってるけど」
陽子さんはふうっとため息をついた。
陽子さんが出て行って、莉子はカップラーメンが出来上がる前の速さで飛んできた。
「旦那さま旦那さま、おかえりなさいませ、お待たせしましたっ」
激しいな、飛びつくなよ、危ないじゃないか。
耳もとではふはふ言うな、犬か。
「遅ぇよ。弁当がカチカチになるぞ」
「そんな、それは困ります!」
他にももっと困ることがいっぱいあるだろうに。
さっさと弁当を出して、ここに寝転がれよ。
今日の弁当は美味いんだぞ。
莉子がぴょんと俺の隣に座る。
膝の上を空けて待っているのに、莉子は寝転んでこない。
なんだよ。
「……わたくし、こちらでいただきます」
莉子はセットになっているプラスチックの皿を手に取った。
なんでだよ。
弁当の箱をテーブルに置いて、俺は莉子の方を向いて座りなおした。
「陽子さんに、なんか言われたのか」
「……いえ」
「なんて言われたんだよ」
陽子さんは俺に過保護なとこがあるからな。
若くして後妻に来て、タカシナの跡取り息子と、天才少年ピアニストと呼ばれた俺の母親になって、それぞれを立派に育てようとがんばってたし。
世間知らずの息子に悪い虫がついたと心配してるかもしれない。
しかもその虫が、自分が管理する使用人の一人だとしたら、そりゃ速攻で駆除するだろう。
それでも莉子は、陽子さんを悪く言わなかった。
「わたくしのお掃除の手際がよくないと、あ、でも教えてくださいました」
ふうん。
「メイドというのは、主人の縁の下の力うどんなので、もっとテキパキと、目立たぬように働きましょうって」
力うどんが伸びないうちにテキパキ掃除するのか、バカメイド。
「それで、わたくしは飛びぬけて仕事が下手なので、しばらく奥さまのそばで教えていただけることになりました」
それは、莉子が陽子さん付きのメイドになるってことなのか。
莉子はひとさし指をあごに当てて、ちょっと頭をかしげた。
「奥さまのお付きにはもちろん、ちゃんとしたメイドがいるんですけど、わたくしはその見習いで」
ちゃんとしたメイド、という言い方に違和感を覚えろよ。
「でも、さきほどは急に奥さまから内線電話で、旦那さまのお部屋に行きなさいと言いつけられました」
「……俺が、莉子がいいって言ったんだ」
莉子は目を丸くして、俺を見上げた。
「旦那さまが?」
莉子は膝の上に両手を揃えて、背中を伸ばした。
何か言いかけるように俺の顔を見上げ、それからゆっくりとしおれるようにうつむく。
「……わたくしは、わたくしは、旦那さまのご迷惑になりませんか」
陽子さんは、そう言ったのか。
「……なんでだよ、バカ」
ふにょ、と莉子が変な声を出した。
細い肩に手を置いて、うつむいた莉子の顔を覗き込むと、莉子は唇を噛んでいた。
きっと、莉子は俺に言った以上の、いろんなことを陽子さんに叱られたんだろうな。
かわいそうなことをした。
がまんしないで泣けよ、バカ。
こっち来い、弁当食うぞ。
よろしいのですか。
さっさとしろ、俺が全部食っちまうぞ。
あん、それはいけません。
ほらほら、ぐずぐずしてたらまた陽子さんに叱られるぞ。
大丈夫です、メイド長にはあなたは慌てると失敗するけど落ち着いてゆっくりしたらできる、と言われました。
……ほんとに大丈夫なのか、それ。
それに、わたくし、他のメイドにできないことができるんです。
人の膝の上で器用に弁当が食えるっていうのは自慢にならないぞ。
高いところに昇ったり、重いものを運んだり、柵を飛び越えたりするのが得意です。
……あ……そう。
祖父が空手の先生だったので、黒帯です。
え、マジで?
はい。ですから、旦那さまがお屋敷でどなたかに襲われても、お守りします。
家にいてそんな危ない目にあいたくないんだけど。
あ、一度あったか、記者が乗り込んできたことが。
それだって、莉子が勝手に部屋にまで通したのが悪いんだ。
「ほにゅ、ほうれごらいましたっけ。あの、そっちの黄色いのをいただきたいです」
お、いい目をしてるじゃないか、ウニだぞ、これ。
莉子はいつもと変わらず、俺にあれこれ注文をつけながら弁当を食った。
バカメイドは、機嫌を直すのも早い。
「あのな、莉子」
「ふぁい」
「陽子さんはさ……、やっぱり俺には大事な母親だからさ」
「……はい」
「いっぺんに家族が死んじゃって、気持ちが不安定なとこもあるだろうし」
「……はい」
「ちょっとだけ、ガマンしろ。な」
「……大丈夫でございます、わたくし、ガマンしなければならないことなんてちっともありません」
意外なほど健気なことを言う。
「うん。俺も、できるだけ莉子の味方するから。辛いことあったら俺に言っていいから」
莉子が、うふうふ、と笑った。
「特別扱いは、人間関係を難しくいたします」
いいじゃねえか、こっそりやるからさ。
「わたくしは、旦那さまの特別なメイドでございますか?」
まあ、そうじゃねえかな。
「でしたら」
莉子が、俺の腹に柔らかく抱きついた。
「……わたくし、どんなことでも大丈夫です」
不覚にも、ぐっときてしまった。
ちくしょう。
ウニも肉も野菜も、いっぱい食え。
莉子が弁当をいっぱい食ったら、今度は俺が莉子を食ってやるからな。
うひゅうひゅ、むひぇひぇ。
バカ莉子、もうそれ笑い声じゃなくなってるぞ。
俺と莉子は弁当を食った後、腹ごなしにソファでいちゃついた。
一応、ほら、邪魔が入ると落ち着かないからさ、ドアにカギかけてこいよ。
そう言うと、莉子はなんのお邪魔でございましょうとそらっとぼけた。
バカ言ってないで、風呂の支度しろって。
莉子の好きなぬるい泡風呂でいいぞ。
俺はかーっと熱いお湯が好きだけどな。
「でも、お体を洗いますのは、柔らかいタオルがお好みなのですよね」
リビングから寝室へ行くためにピアノ室を横切りながら、莉子は俺の腕に絡み付いてナマイキなことを言った。
「ぬるい風呂に入ってヘチマで皮がむけるほどゴシゴシするほうがおかしいだろ」
「まっ、わたくしそんなにゴシゴシはいたしません。そうっと、ちょうどよくゴシゴシです」
今日はヘチマにいたしましょうかと言う莉子のおでこを突っつくと、うきゃっと笑った。
風呂に湯を溜めている間に、莉子はこっそり寝室のドアにもカギを下ろしていた。
俺が莉子にカギをかけろと言ったのは、万々一にも陽子さんが部屋に来たら、めんどくさいことになると思ったからだ。
用心を重ねるようにカギをかけるのは、陽子さんが怖いせいだろうか。
昼間、なにがあったんだろう。
「莉子」
呼ぶと、慌てたように飛んでくる。
「脱がしてやろうか。風呂、もうすぐだろう」
莉子は風呂の時はいつも、俺が自分で脱ぐのに邪魔なくらい手を貸して脱がせたがる。
その後、自分の服をさっと脱いで風呂に入ってくるから、俺は莉子を脱がせる楽しみがない。
「それは、そういう、ぷれい、でございますか」
また俺の蔵書で変な言葉を覚えたな。
「そんなたいしたことじゃないだろ、ほら」
莉子が制服のスカートを両手で押さえながら、うふうふっと笑う。
ではお願いしますと甘えた声を出しながら、莉子はそっとカギを下ろしたドアを振り返った。
「……大丈夫だよ。誰も来ないから」
俺に気づかれたことで、莉子は笑顔を消した。
「いえ、わたくし……」
陽子さんはしっかりした人だから、莉子にキツく当るかもしれない。
なにかに怯えるような顔をするのは、そのせいだろうな。
俺はくるっと莉子を後ろ向きにして、ワンピースのファスナーを下ろした。
右の肩のところが、薄赤くすりむけている。
「どうしたんだよ、これ」
莉子は俺から肩を隠すように体をよじった。
「はい、えーと、奥さまのお部屋の窓を拭いておりましたら、うっかり脚立が倒れてきまして、ぶつけてしまいました」
そそっかしいな。
まあ、たいしたことはないだろうけど。
ワンピースをすぽんと脱がせて、下着だけになった莉子をそのまま抱きしめる。
「俺、さっき、莉子にガマンしてくれって言ったけどな。なにをガマンしたかは、ちゃんと俺に言え。な」
ぐふゅ。
なんだよ、それ。
抱きしめた俺の腕を莉子の手が抱きかかえる。
ぐふ、ふぎゅ。
「莉子?」
うきゅ、と莉子が笑う。
「旦那さま、旦那さま」
莉子が俺の腕をほどいてくるんと振り向いたので、ついでに背中に手を回してブラをはずしてやった。
「旦那さまは、わかってません」
あ?
「女の子の初恋のパワーというものを、甘く見てらっしゃいます」
え。
「それはそれは、とてもすごいんです。そりゃもう、地球が吹っ飛ぶくらいです」
吹っ飛ばすなよ、地球を。
「そうしたらわたくし、旦那さまとご一緒して宇宙までランデヴーです」
バカメイド。
……莉子の初恋パワーが、陽子さんに勝てるといいな。
俺は莉子のぱんつを下ろして素っ裸にしてから自分も脱いで、一緒に風呂に入った。
どこに隠していたのか、莉子はヘチマを用意していて、よく揉んで柔らかくしましたから大丈夫ですと言う。
揉んで柔らかくするのはこっちのほうがいいんだけど、とバスタブの縁に座った莉子のおっぱいを揉んでやった。
そのまま乳首を舐めて、莉子のあふんという声を聞きながら脇腹から尻、太ももをなぞるようになでた。
膝の裏に腕を入れて、抱きかかえてお湯に入れてやると、莉子がぴょん、と足を伸ばした。
「なんだよ」
「お、お湯がしみました」
莉子が足先を手で押さえて、眉を寄せる。
見ると、親指の先っぽが赤くなって腫れている。
なんだ、これ。
「庭に出るのに外の靴を履いた時、えーと、小石が入っているのに気づきませんでした」
ふうん?
まったく、どんだけそそっかしいんだよ。
莉子はあごにひとさし指を当てて、困ったように首をかしげた。
お湯の中で温まってから、莉子は俺の背中をヘチマでこすろうと周りをくるくるした。
やだって、そんな荒っぽいの。
ヘチマで背中をこすらせたら、後ろからしてもいいかと聞くと、ほっぺたを膨らませた。
「イヤです、旦那さまの変態」
ちぇ。
じゃあさ、上に乗ってやってくれよ。
旦那さま、それお好きですね。
だって気持ちいいんだよ。莉子が俺の上で動くの。
ちょっとでございますよ?
じゃ、背中もちょっとな。
はい。ちょっとです、ちょっと。
ヘチマは、思っていたより痛くなかった。
適度な刺激が心地いい。
莉子は俺の背中をまんべんなくヘチマでゴシゴシし、俺は莉子を腰の上に乗せた。
指で探って、濡れているのを確かめる。
「いいんじゃないか。ほら」
太ももをなでると、莉子はベッドの上に膝をついて俺をまたいだ。
さんざん舐めたりなでたりした後だから、莉子は赤い顔をしている。
「もう、ほんとうは、恥ずかしいのでございますけれど」
言いながら、俺のモノに手を添えて尻を落とす。
下から少し支えるようにして角度を合わせてやると、引っかかるような抵抗の後で、ぬるっと入った。
「んあ…」
下から見上げる莉子の顔は、色っぽかった。
体の動きに合わせて揺れる二つの乳房を、両手を伸ばして包んだ。
「……へたくそだな」
莉子が揺れるように体を動かすのが気持ちよくてもどかしくて、俺はわざとそう言った。
「あん……、そうでございますか…、わたくしは…あん」
莉子は気持ちいいのか。
じゃあ、そのまま、…動け、よ……、う。
ゆるい心地良さが、じんわりと高まってくる。
こういうのも、あるんだ。
疲れたのか気持ちよすぎたのか、莉子がくにゃっと折れた。
胸に伏せた背中をそろそろとなでてやった。
「はうん、那智さまぁ……」
うんうん、なんだ。
「わたくし、このまんま死んでしまってもいいくらいなんですけど」
変なこと言うなよ。
縁起でもない。
「俺はいやだ。まだやりたいことがいっぱいある」
「……そうですか」
「会社の仕事もやりかけだし、秘書に読めって言われた本も読んでないし、……ホームランだって打ってない」
莉子がうふうふと笑って、俺の首筋に息を吹きかけた。
「後ろからだって、してないし」
「あん、それは困ります。ずっと長生きしても、だめです」
「ジジィになるまでには、またやらせろよ」
莉子はちょっと体を起こして、俺の顔を至近距離で見つめた。
なんだよ。
「わたくし、おばあさんになってしまいます」
そりゃ、俺が一人で齢を取るわけじゃないだろ。
「おばあさんになるまで、わたくしといちゃちゃしてくださいますか」
まあ、それもいいんじゃねえの。
莉子の顔がくしゃっとゆがむ。
「でしたら、いいです」
やめろ、その顔。
すっごく不細工で、すっごくかわいいから。
俺を体の中に収めたまま、莉子が少しだけ動いた。
「でしたら……、わたくし、長生きしてもいいです」
バカ。
俺は莉子のほっぺたを両手で挟んで、キスをした。
「まだ、ピアノも教えてないだろ」
ふえん、と莉子が謎の声を上げる。
泣くなよ、こんな状態で。
莉子の腕をつかんで一緒に横に転がった。
挿れたまま向きを変えようと思ったけど、やっぱり抜けた。
莉子を仰向けにして、片脚だけ折り曲げた。
「あんまり変な格好は恥ずかし、あ」
挿れると思わせて入り口の辺りで軽く動かすと、莉子がびくんと背中をそらした。
奥よりもここがいいのか。
浅いところでくちゃくちゃと音を立てるようにすると、両手で顔を隠す。
「や、そんなこと、わたくし、ぼうっとしてしまい、ま……」
はあん、という息遣いが艶かしい。
もっともっとぼうっとしろ。
一杯ぼうっとして、気持ち良くなって、いやなことは忘れてくれ。
莉子を守る方法は、俺が考えるから。
――俺は、この時もう莉子を守れてなんかいなかったのに。
莉子は俺が動くたびに、浅い呼吸を繰り返した。
ゆっくりと動くと、目を開けて俺の胸や肩、腕なんかをペチペチと叩いた。
なんだよ。
「この辺、ちょっとお体が固くなってまいりました」
ジムで鍛えてるからな。筋肉がついてきたんだ。
「お腹もでこぼこしてますし」
もうすぐ、腹筋が割れそうなんだ。
「あん、旦那さま、は、なんでもお出来になりますね」
なんにもできねえよ。
「だって、ピアノはとびきりお上手ですし、お仕事だっていっぱいお勉強なさいますし、野球も、筋トレも」
腰を回すと、莉子があん、と息を乱した。
「こういう、のも、お出来になりますし、あ」
あんまりしゃべると興ざめするんだけど。
「奥さまの、ご自慢の、なっく……、んあっ」
莉子のおしゃべりを止めさせるには、これに限る。
「いや、あの、すごすぎ……、やっ、あん、もうっ、ヘンタイっ」
ぜんっぜん変態じゃねえよ。
ごくごく真っ当にセックスしてんじゃねえか。
正常位で、ゴムもつけて、俺も莉子も気持ちよくて、普通じゃねえか。
「でも、だって、あ、こんなのっ、ああん、那智さまっ」
動きを早くすると、莉子が陸に上げられた魚みたいにぴちぴちと跳ねた。
「あ、あ、あ、ああっ、ああっ、那智さま、那智さま、あ、あ、おっ、落っこち……っ」
動けなくなるくらい、莉子が俺にぎゅっと抱きついた。
うお。
莉子の中が、俺を絞り上げた。
なんだ、これ。
「んあ、ああ……あん」
ゆっくりと中が緩まり、暖かくなる。
「莉子?」
聞くと、莉子は俺の首にほっぺたをこすり付けるようにして鼻をすすり上げた。
「び、びっくりいたしました、わたくし今、どこかに落っこちてしまいそうでした……」
え、なんだそれ。
「なんか、苦しかったか?俺、乱暴だったかも」
ずびずび。
「いえ、そうではないのですけど、あの、うっとりしてぼうっとしまして、ふわふわっと」
あ、そう……、それって、イクのと違うのか?
「なん、ですか、新しい変態です、か」
抱きついてくる力が抜けた莉子をベッドに仰向けにした。
まっ赤な顔で、目に涙まで浮かべている。
「つまりその、気持ちよかったってことじゃないのか?」
「……そんなの、わかりません」
そういうのこそ、俺の蔵書でしっかり勉強しておけよ、バカ。
毛布の端っこで鼻を拭くな。
「那智さ……、旦那さま」
なんで言い直すんだよ。
「あのぅ、まだ……?」
うん。
俺のは、まだすんごい元気なまま莉子の中だ。
「いいのか?」
「……はい」
んじゃ、お言葉に甘えて。
ああ、気持ちいい。
上のほうを引っかくように擦ると、莉子がまたうっとりと目を閉じた。
もう止まらねえからな、行くぞ。
「あ……、だん……、な、那智さまっ」
うん、その言い直しはいいな。
中がきゅっきゅっと締まる。
「うんっ、あ……、あ、あっ、や、ああん、あ、ま、また、落っこちっ……!」
うあ。
莉子が、落っこちた。
俺も、落っこちた。
始末をする間も、莉子が絡み付いてきたがって邪魔だった。
ちょっとは離れてろって。
「いやです、くっついてたいんです」
くっついてなくたって消えねえだろ、俺は。
「消えたらどうしますか」
やめろって、脅かすの。
莉子がくふくふ笑う。
湿った洗い髪が乱れて爆発してる。
化粧を落とした素肌には、小さなそばかすのような点や、薄く浮いた血管が見える。
そんな状態なのに、莉子はかわいかった。
それが俺のひいき目なのかどうか、よくわからない。
俺が莉子にのめりこんでるから、莉子のことが好きだから、かわいく見えてるのかな。
「んにゃ、なんですか、旦那さま」
シャワーを浴びながらまじまじと莉子を見ると、不思議そうな顔をした。
「なんでもねえよ。な、もし野球チームのみんながうちに来ることになったら、莉子も出て来いよ」
「わたくしですか?」
「どうせ、食いもん運んだりするメイドはいるんだし、それくらいできるだろ」
「それは、わたくしだってそれくらいのお手伝いはできると思いますけれど」
「ドリンクひっくり返したりすんなよ、莉子はそそっかしいからな」
赤くなっている莉子の肩に唇を押し付けた。
みんながうちに来て飯を食ったりするときに、莉子が他のメイドと一緒に料理とか運んで来るのを想像した。
5番のレフトかファーストの補欠あたりが、「あの子かわいいなぁ」なんて言って来るんだ。
そしたら俺は、悪いなアレは俺のメイドだから、って意味深な言い方をしてやるんだ。
面白いだろ。
「旦那さま、趣味悪いです」
放っとけ。
莉子の髪が爆発しないようにちゃんと乾かしてやって、ベッドに戻る。
「でも、奥さ……、えーと、メイド長がお客様の前に出てはいけないとおっしゃるかもしれません」
俺はすべすべの莉子の胸に顔を摺り寄せて、あくびをした。
え、そうなの。
なんで。
「……だって」
莉子の声が心地いい。
あー、今日さ、秘書のオバサンに小言を言われたんだよな。
一日中ボーッとしてた時はなにも言われなかったのに、仕事しようとするとダメ出しが多くてな。
だから、帰ってきたら、こうやって、莉子と、のんびりと、いちゃいちゃと、さ……。
半分夢の中で、俺は言った。
莉子は、んもう、ちゃんとわたくしのお話を聞いてくださいませ、とは言わなかった。
俺が眠るまで、ずっと胸に抱いていてくれた。
柔らかくて暖かくて、気持ち良かった。
たぶん、この時は屋敷中で俺だけが知らなかったんだと思う。
陽子さんが、莉子になにをしているかを。
――――了――――
莉子たんキテタ━(゚∀゚)━!
相変わらず読んでてむひゅふひゅ…と思ったら不穏すぎる描写が…
障害はメイドさんものの醍醐味だが、莉子たんが可愛すぎてガチにのたうってしまうわ〜
なっちー頑張れ。蝶頑張れ。
莉子キテター!!
陽子さん黒キャラなのか…?
>>11 美果さん完結かー!
すごく面白かったです。大好きでした
莉子の作者さん乙です。更新待ってました。
なんか、じわっ……じわっ……と二人の上に暗雲がたちこめてきてる感じですね。
陽子さんの名が出た回から今作までグラデーションみたいに雰囲気が変ってきて、すっごく不安にされます。
いつもながら描写が上手い。今後どうなるか楽しみだけど不安だ。
なんか不穏な空気が。
幸せになってほしいなあ。
陽子さん怖いよ…
読むの怖いけど、続きが気になる。くそ作者の罠か
お願いですから莉子に酷いことしないで。。。
作者様GJです!
莉子は悪いコじゃないんだけど、キャラ的に女には好かれなさそう。
陽子さんの心情もわかる。
ご主人さまの外出についてきたメイドさん。
楽しく歩いていたのですが、悪いやつらにインネンつけられてカツアゲの危機!
2人はどうやってこの状況をきりぬけるでしょう。
武さまと麻由の場合:麻由が武さまの盾になろうとする
直之と小雪の場合:おびえる小雪の手を引いて逃げる直之
遼一郎と詩野の場合:遼一郎が強くて相手を全員畳んじまう
秀一郎さんとすみれさんの場合:ぽかんとしてる秀一郎さんの手を引いて必死に逃げるすみれさん
旦那さまと美果さんの場合:殴られそうになり「うちの旦那さまに何するんじゃゴルァ」とキレる美果さん
若とシノブさんの場合:インネンの段階でシノブさんが強めの峰打ちかます
那智と莉子の場合:莉子が空手でやっつける。屋敷に帰ってごほうびの特上弁当でごろにゃんになる
・・・という電波を受信した。異論は認める。
個人的にすみれさん達が一番自分のツボにぐいぐいです
41 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/04(水) 23:16:49 ID:ll5/nr0I
投下しようとしてちまちままとめてたネタ帳代わりの携帯メモリが吹っ飛んだ
(´ω;)仕上がればメイドスレデビュー作だったのに…
43 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/05(木) 22:29:50 ID://f/2P+u
旦那様が喜んで下さることが私の喜び
旦那様の幸せが私の幸せ
もっともっと喜んでいただきたい
幸せを感じていただきたい
一生、おそばに置いてくださいね
うん
久しぶりに保管庫を読み返してきた
素敵なメイドさんたちに癒されてきたよ
これから出会うメイドさんたちが楽しみだ
早く規制解除になるといいね
『メイド・莉子 7』
草野球チームのメンバーを家に招待したいという陽子さんの提案を長尾が喜んで受けてくれたので、日曜日の練習の後でメンバーがゾロゾロやってきた。
高階の社長の屋敷へ行けると、いつもは顔を出さないようなメンバーの家族や彼女なんかも応援に来て、そのままついてきた。
人数が増えたけど、陽子さんはますます張り切り、メイドたちを仕切ってこれでもかというくらい料理を運ばせていた。
独身者が多いは、庭に面した窓を開け放ったパーティールームにあふれんばかりに並べられた料理に喚起の声を上げる。
「お母さん、僕たちタッパーを持ってきてるんで」
独身一人暮らしのキャッチャーが、ネタなのか本当にリュックから空の保存容器を出して、みんなを笑わせてた。
みんなは若くてきれいな陽子さんのファンになったとか調子のいいことを言って、ますます陽子さんを喜ばせてくれた。
「これだけ庭が広いんだったら、ここで野球の練習ができますね」
長尾が尻上がりの口笛を吹いて、庭師を青ざめさせる。
陽子さんは忙しくサンルームと厨房を往復しながらメンバーに挨拶し、息子をよろしく、運動なんかしたことのない子で、と笑う。
そんなことをされるのは気恥ずかしいんだけど、親孝行だと思って黙って見ていた。
「さすが、高階の本邸は規模が違いますね。メイドもたくさんだ」
グラスを手にした長尾が俺のそばまで来て、そう言った。
まあ、陽子さんの母親として威信をかけたパーティだからな。
グラスの中身を飲み干して、一本立てた指で長尾が部屋の奥を指した。
「あの子の名前、聞いたりしたらクビですか」
意外にも莉子に目をつけたのは長尾だった。
クビだ、絶対クビ。
二度と食品業界で働けないようにしてやるぞ。
「俺付きのメイドだ」
用意したセリフを言うつもりだったのに、控えめな言い方になってしまった。
「へえ……、名前、なんていうんです」
俺の言った意味がわかってないだろ。
「言いにくいぞ。うぐいしゅはりゃ、っていうんだ」
「ふうん。鶯原、ですか」
ちくしょう、仕事も野球もできて、鶯原も言えるのかよ。
空のグラスを手にして、長尾がかっこよく踵を返して莉子に近づいた。
練習の後のTシャツとジャージで、なにをキザにメイドを口説いてんだよ。
ドリンクをお客さまに提供するという仕事で頭を一杯にしているらしい莉子は、長尾が話しかけているのを聞こうともせず、その手からグラスを取り上げてお代わりを渡そうと必死だった。
バカメイド、それでいいぞ。
「フラれました」
笑いながら長尾が帰ってきて、俺は心の中で莉子を誉めてやった。
陽子さんはメンバーの関係者らしい女の子たちと楽しそうに話に花を咲かせている。
よかった。
メンバーたちが帰った後、まだ少し興奮して頬を桃色にした陽子さんが、ほんとに楽しかったと言ってくれた。
なっくんが、あんなにたくさんのお友だちと外で遊んでるなんて、夢みたい。
小学生みたいに言われて苦笑しながら、ピアノと大人に囲まれていた自分の子ども時代を思い出した。
俺をそんなふうにしたのは少なからず陽子さんがきっかけで、もしかしてそのことに責任を感じているんだろうか。
パーティの後片付けが終わる頃まで陽子さんのおしゃべりに付き合い、離れに戻る。
まもなく、莉子がワゴンを押して飛んできた。
「旦那さま旦那さま、わたくし、上手にできましたか」
うんうん。
他のメイドと比べて、それほど見劣りしなかったぞ。
グラスもひっくり返さなかったし、皿も割らなかったし、なんで手首にバンソウコウ巻いてるんだ。
「あの、お料理をオーブンから出すときに、天板にくっつけてしまいました」
まったく、そそっかしいな。
でも、長尾をフッたのは上出来だ。
「あ、そうでした。長尾さまというのはどの方だったのでしょう」
ま、覚えなくていいよ。
俺は莉子の頭に手を乗せてヨシヨシしてやった。
「あー、今日はもうゆっくりしたいからさ。釣りでもしないか」
莉子がいそいそと釣りゲームをセットして、コントローラーとリモコンを持ってくる。
「わたくし、今日は旦那さまに負けません」
勝ったことないくせに。
手加減しないからな、俺は大漁だぞ。
釣りゲームを始めようとしたところで、妖怪が鳴いた。
なんだ、今の。
莉子がそらっとぼけてゲームをスタートさせようとする。
「腹、鳴ったぞ」
うらめしそうな目で、莉子が俺を見た。
「旦那さま、デリカシーがありません」
いいじゃねえか、聞こえたんだから。
もう一度、ぎゅるぎゅると妖怪の鳴き声がする。
まだ晩飯には早すぎるし、俺はパーティでさんざん食ったばかりだ。
「なんだよ。昼飯食わなかったのか?」
「いえ、あの、わたくしがぐずぐずしておりましたので」
準備や後片付けでバタバタしてたのか、莉子は他のメイドのように要領よく食事をすることができなかったらしい。
昼抜きじゃかわいそうだな、メイド長もちゃんと目を配ってやればいいのに。
莉子の押して来たワゴンの中身は、パーティーの残り料理を盛り付けなおしたものだった。
食うか、と聞くと莉子は首を横に振った。
「だめです、あちらは旦那さまとご一緒にいただきます。だいじょうぶです、今日は大漁にしてみせますから」
バカメイド、ゲームで釣った魚は食えないぞ。
大画面テレビの中で、ゲームの魚が釣ってくれとばかりに泳いでいる。
今日は野球の練習もしたし、陽子さんも莉子もご機嫌で、いい日だな。
のん気に画面の中のカジキを吊り上げながら、俺は満足していた。
月曜から金曜まで、会社で俺は毎日のように秘書のオバサンにダメ出しをされる。
今週最初のダメ出しは、経済新聞で読んだ外国の経済政策について俺の言ったことが「呆れるほど浅はかで素人な考え」だったそうだ。
難しいな、会社経営って。
昼飯の間にも、えんえんと先進国の原油輸入とか海外工場での電子部品生産とかについて説明する秘書の話を聞く5日間の後で、ようやく次の休みがやってきた。
莉子とゴロニャンして過ごそうと思ったのに、陽子さんに買い物に付き合ってといわれてしまった。
ちょっと渋ると、陽子さんがじっと俺を見ている。
怒らせると怖いし、家族はもう俺と陽子さんだけだし、親孝行もラクじゃない。
買い物の途中で昼食をとり、俺が会計をすると陽子さんは「なっくんにご飯をごちそうしてもらった」とはしゃぐ。
陽子さんのストールや俺のシャツなんかは、陽子さんがカードで支払った。
結局、請求書はうちに来るわけで、それって俺の支払いになるのかななどとぼんやりしたところで、陽子さんはお茶にしましょうと俺を引っ張っていく。
ああ、帰りたいのに逆らえない。
予定してあったのか、案内されたテーブルは予約席で、そこに女の子がいた。
へ?
大きな窓に面した奥まった席で、女の子は立ち上がってにこやかに陽子さんに挨拶し、俺に笑いかける。
どっかで見たことがあるようなないような。
「いやね、那智さんたら。先週お会いしたでしょう」
さすがに人前では俺を「なっくん」とは呼ばない陽子さんが苦笑した。
野球の練習の後でうちに来たメンバーの関係者かと思ったら、俺と同じ、補欠にもならないような新入りの妹だという。
あの時はご挨拶もそこそこで、と女の子は改めて名乗った。
「桜庭美月です」
あ、どうも。
「美月さんはね、私の大学の後輩になるんですって」
陽子さんが、俺に言った。
てことは、音大のピアノ科?
「今年は小学校の臨時教諭をしています」
卒業したけど、音大出だと就職先が少ないと美月さんが困った顔をした。
それは、俺にタカシナのどこかに入れてくれってことなんだろうか。
「美月さんはオーストリアに留学もしたんですってよ。那智さんもウィーンには何度か行ったわよね」
うん、ウィーンが世界地図のどこにあるかもわからないままだったけど。
桜庭美月は、ピアノをやった人間なら絶対知っているだろう俺のことも、興味本位でいろいろ聞き出そうとはしなかった。
ピアニスト同士でしかわからないような内輪話や、あの先生はこうだったという学校の話、それから少し真面目な音楽議論を少しだけ。
もうずっとピアノに触れてもいないくせに、だからこそ音楽の話はおもしろかった。
秘書や長尾や、莉子にもできない話。
お茶とケーキが運ばれてきてからも、俺たちは話に花を咲かせた。
陽子さんとは、退院してきてからこっち、あえて音楽の話はしていなかった。
それでも話し出すと、初対面に近い桜庭美月との距離も感じないほど盛り上がる。
「だから、そのころのチャイコフスキーはさ……」
後から考えると恥ずかしいほど、熱く語ってしまった。
曲の解釈や作曲法なんかも、しゃべった気がする。
会社でわけのわからない話を洪水のように聞かされて、その意味を理解しようと必死で追いかけている毎日から解き放たれる。
なにかに酔ったように、自分の守備範囲で思う存分、俺は偉そうに音楽談義を繰り広げた。
俺に女の子を紹介しようという陽子さんの思惑がわかるだけに、はぐらかそうという照れもあったんだと思う。
陽子さんはともかく、桜庭美月はあきれたんじゃないだろうか。
とっくに引退したくせに、高階那智ってずいぶん偉そうな人ですね。
後から陽子さんにそう言うんだろうなと、高揚した気分が引いていく帰りの車の中で、俺はちょっと凹んだ。
「あら、美月さんも楽しそうだったわ。やっぱり音楽のわかる人とは話が弾むみたいね」
おほほと笑った陽子さんが、満足げに見えた。
「なっくん、ピアノやってた頃のお付き合いって、もうないんでしょ?」
もしかしてこれは、お見合いだったんだろうか。
ピアノやってた頃も、陽子さんや世間のみんなが考えていたような女の人との『お付き合い』なんてなにもなかったとは言えず、俺は言葉を濁した。
ご機嫌な陽子さんと、買ってきたもののファッションショーを一通りやってから、俺は離れに引き上げた。
日曜日で使用人も少ない屋敷の中をたらたら歩いていると、メイドたちが中庭にいるのが見えた。
石造りの椅子やテーブルをホースの水で洗っている。
今日は天気がいいからな、と思っているとその中に莉子がいた。
見るとはなしに足を止めると、庭を隔てた向こう側から誰かがメイドたちを呼んだようだ。
逆光でわかりにくいけど、メイドたちの様子からそれが執事かメイド長か、ひょっとして陽子さんかな、と思う。
すると、メイドたちは屋敷の中へ呼ばれ、莉子一人が残された。
莉子は水の出てくるホースとデッキブラシを不器用に使って、中庭の掃除を始めた。
あんなでっかいガーデンセットの掃除、ただでさえ要領の悪そうな莉子が一人でやってたらいつ終わるかわからない。
メイドたちも誰か残って手伝ってやればいいのに。
使用人の管理は俺が口を出せることじゃないけど、このまま離れに戻っても莉子はいないし、どうしよう。
「社長」
後ろから、執事の声がした。
振り向くと、半ハゲ半白髪の執事が俺に向かって頭を下げた。
「……メイドたちは奥のご用に呼ばれたようです」
ああ、うん。
「社長。鶯原の手をご覧になりましたか」
莉子の手?
「鶯原は先週、ヤケドをいたしました」
「ああ、うん、たしかパーティでぐらたん料理を出すときにオーブンで、だろ。聞いた」
「……鶯原は、そう申しましたか」
え?
「他にも、あちこち小さなケガをしているのは、ご存知ですか」
ああ、そういえばそうだけど……、それが、なんだよ。
「社長。ご存知なのに、不思議に思われませんか」
なんだよってば。
メイド長に仕事を教わってて、でも莉子はそそっかしいから、それで……、違うのか?
執事はちょっと肩を落とした。
「先週、パーティでお料理をお出ししますのに、奥さまは会場と厨房を頻繁に往復なさいました」
いきなり陽子さんの名前が出てくる。
うん、陽子さんは忙しそうだったな。
「メイドたちに、運んでいくものを指示して、皆がそれを運ぶのに厨房を出ました。残ったのは、鶯原と奥さまだけでした」
「……うん?」
「メイド長が厨房に戻ったときには、オーブンの天板が落ちて鶯原がヤケドをしておりました」
いやな、言い方。
「天板をつかむミトンは、奥さまがお持ちだったそうです」
「……なんだよ、それ」
「お客さまがいらっしゃる前に食事を済ませようとメイドが集まりましたときに、鶯原は納戸にナプキンを取りに行くよう申し付けられました」
「……」
「ナプキンは食料庫にございました。鶯原は納戸でずっとナプキンを探しておりました」
それ、誰が言いつけたんだよ。
「ナプキンが見つかりませんでしたと鶯原が戻ってきた時、メイドたちの食事は終わっておりました」
妖怪のように鳴いた莉子の腹。
「その前にも、天窓を拭くように鶯原に言いつけられました。鶯原は脚立を運んできて立てかけましたが、脚立が倒れて」
おい。
なに言ってるんだ。
「今週の間だけでも、バケツの水がひっくり返ってずぶぬれになるとか、植木鉢が落ちてくるとか、転がってきた装飾用のビー玉に足を取られて転ぶとか、外履きに小さなクギが入っていたのはもっと以前でしたか」
「待て、待てよ。なに言ってるんだ、それ」
「どれも、鶯原にだけ起こるハプニングです。そして、それを使用人は誰も見ておりません」
どきどきしてきた。
「なるべくメイド長がそばから離さないようにはしております。使用人のことですと私も手が届きますが……、ケガが増える一方で」
莉子の体は、隅から隅まで俺が見てる。
肩にできたすり傷も、尖ったもので傷ついた足の先も、手首のヤケドも、両ヒザの青あざも、それから。
だけど、みんな莉子は説明したじゃないか。
全部、莉子がそそっかしいのが原因で。
急に。
最近、急に莉子はそそっかしくなったのか?
「奥さまは、社長を頼りにしておいでです。ご病気のあとですし、お心が不安定なこともございましょう。……お気遣いくださいまし」
出すぎたことを申しました。
執事はそう付け加えて、頭ひとつ下げてから廊下の向こうへ歩いていく。
莉子の体に残る、たくさんの傷。
どれもすぐに治ってしまうような小さい怪我ばかりで、莉子もちゃんと俺に理由を説明して、だから俺も。
それが、誰かがわざと莉子に負わせた怪我かもしれないなんて、思いもしなかった。
その誰かが、まさか。
シューベルトの人間性について、楽曲の理解について楽しそうに話していた今日の陽子さんを思い出す。
桜庭美月と追加のケーキを選びながら、少女のようにころころと笑っていた陽子さんを。
なんで。
なんで、莉子にそんなこと。
俺の膝枕で弁当を食っていたからか?
それだけか?
なんで?
莉子は怪我をした理由を、いつも自分のせいにしていた。
俺の前ではいつも、くふくふ笑って、バカなこと言ってたのに。
なんであいつ、あんなに一生懸命テーブルを洗っているんだ。
言えって言ったのに。
辛いことは、俺に言えって。
俺は中庭に続くガラスのドアを開け放った。
「莉子!」
呼ぶと、莉子はぱっと顔を上げて俺を見る。
「離れに戻るぞ。付いて来い」
嬉しそうな顔をするかと思ったのに、莉子は心配そうに背後を振り向いた。
そこに、誰がいるんだ。
俺は中庭に降りて、小走りに莉子のそばへ行った。
途中でホースに水を送っている蛇口のレバーを下ろして水を止める。
莉子の手からホースとデッキブラシを取り上げた。
逆光で陰になっている通用口で、影が動いた。
「陽子さん!」
影が、そこで止まる。
「……ごめんね」
影は、なにも言わなかった。
「あの、旦那さま、わたくしお庭のお掃除が」
慌てたように言う莉子の手を取る。
「掃除、ごめん」
もう一度謝ると、すいっと影が奥へ入っていく。
「旦那さま、旦那さま」
俺にぐいぐいと手を引っ張られて離れへ向かいながら、莉子が呼ぶ。
なんだよ。
「ちょっと、ちょっとだけお待ちください。わたくし、お庭をお掃除しないといけません」
そんなの、俺が陽子さんに断ったからいいんだ。
莉子は俺と中庭とどっちが大事なんだよ。
「それはもう、お庭のお掃除はメイドの大事なお仕事ですし、旦那さまのお世話もメイドの大事なお仕事ですけど」
俺のことも仕事かよ。
部屋の前まで来て、莉子はまだ未練ありげに母屋の方を振り返った。
「お掃除が中途半端になってしまって、叱られてしまいます」
かっと頭に血が上った。
部屋のドアを開けて莉子を押し込み、後ろ手に閉める。
「莉子、俺になにを隠してるんだ」
「はい?」
細い両肩をつかんで揺さぶると、莉子は目を丸くした。
「ケガだよ。転んですりむいたとか、家具の角にぶつけたとか言って、いっぱいケガしてるじゃないか」
「はい、わたくしがそそっかしいものですから」
「そそっかしくないだろ!」
落ち着け、俺。
一家の女主人の悪口を言わないのは、メイドとして当たり前のことだ。
それが自分の主人の継母なら、なおさら。
「なんか、飲むものくれ」
ふうっと息をついて、ソファに座る。
莉子はテーブルにペットボトルから注いだ炭酸飲料のグラスを置いた。
俺の機嫌が悪いので、様子を伺うような目をしている。
なに考えてるんだろう。
莉子は、なにを考えているんだ。
コップ二杯分の炭酸の喉越しが、血が上った俺の頭をいくらか冷やしてくれた。
「怒鳴って、悪かったな」
隣りに座らせた莉子が、首を横に振る。
そうだ、莉子が主人の悪口や噂話を言いふらすようなメイドじゃないってことを、喜んだっていいはずだ。
「掃除のことは、俺がちゃんと、よ……メイド長に言っておくから、そうしたら叱られないだろ」
「でも」
莉子がひとさし指をあごに当てる。
「そういう特別扱いって、やっぱりよくないと」
「しょうがないんだよ、莉子は俺の特別なんだし」
ふよん、と莉子が俺に擦り寄ってきた。
そうだ、莉子は俺の特別の特別、とびっきりの特別なんだ。
「旦那さま、お出かけは楽しかったですか?」
え、な、なんでいきなり?
「お帰りがちょっと遅かったです」
「あ、うん、まあ。ほら、陽子さんがあちこち見たいっていうから」
ほんとは、カフェで盛り上がりすぎたせいだけど。
陽子さんが、俺に女の子を紹介しようとたくらんでたんだけど。
「……莉子に、なんか土産を買ってやろうと思ってたんだけどさ」
言い訳がましかったけど、土産を買いたかったのは本当だ。
証拠の残らない、おいしい土産。
みんなが勘違いしているような派手な付き合いのなかった俺の、唯一の女の子に。
「お弁当でしたら、今からでも間に合います」
バカメイド、俺に弁当買いに行かせる気か。
くふくふ笑う莉子の頭を、ゲンコでぐりぐりした。
莉子がちゃんと自分の仕事をしているなら、俺も俺の仕事をしよう。
会社でがんばって、家で当主として使用人の安全を守る。
俺の前で見せる、楽しそうな陽子さんの笑顔を思い浮かべた。
陽子さんは、俺の大事な、大事な母親だ。
莉子は、俺の特別の特別だ。
どうしたら、いいんだろう。
莉子にせがまれて、俺はまた弁当を買うために出かけて行った。
たぶん、その間に莉子は庭を掃除し終えるつもりなんだろうと思ったけど、言わなかった。
掃除の時間を計算して離れに戻る。
莉子はやっぱりなんにも言わず、水仕事で冷えた手で受け取った弁当の箱をくんくんした。
「当てて見せます」
やってみろ。
「フライの匂いがいたします。チキンカツです。付け合せはポテトサラダ、カットフルーツ」
すごい鼻だな、莉子。
「ゴハンにはゴマと鮭そぼろ」
ぶー、ハズレだ。
ゴハンはゴマと梅干、焼塩鮭の切り身はおかずだ。
「まあっ、チキンカツと焼鮭が両方入ってるなんて、なんて贅沢なんでしょう」
カップ味噌汁に入れるお湯を用意しながら、莉子がヨダレを垂らさんばかりにフタの隙間から覗く。
バカやってないで、食うぞ。
膝の上に莉子を乗せて、いつものように弁当を食う。
莉子は嬉しそうで食いしん坊で、俺の分のチキンカツまで平らげそうな勢いで、指先は荒れていた。
おいしゅうございました、と俺の膝の上で身をよじる莉子の頭を、ゲンコでぐりぐりした。
「いた、痛いです、旦那さま」
そんなに強くしてない。
それとも、頭のどっかにもケガしてるのか。
俺は莉子の髪の毛をかき分けるようにして地肌を調べた。
「髪をぐちゃぐちゃにしないでください、なんですかもう」
そこで、ふっと気が付いた。髪飾りがくっついてない。
「あのー、落としてしまったんです。そしたら、壊れて」
落としたくらいで壊れるようなものなんだろうか。
それとも、落ちた以上のなにかが。
「……買ってやる。グリーンリーフはまるごとうちの会社なんだ、全部買ってやる」
髪飾りを倉庫ごと買ってやれるのに、莉子が髪につけているひとつを守ってやることもできない自分が情けない。
「旦那さま」
ぴょこん、と俺の隣りに座りなおした莉子が、至近距離で俺の目を覗き込む。
やめろ、かわいいから。
どきどきするじゃないか。
きゅふきゅふきゅふ、と莉子が笑った。
腕を伸ばして、俺の首に抱きついてくる。
「わたくし……、わたくし、本当に、旦那さまさえいただけましたら、なんにもいりません」
弁当もいらないのか、とからかおうとしたのに、言葉にならなかった。
しょうがないから、莉子の背中に手を回して抱き寄せた。
……帰り、遅くなって悪かったな。
弁当も手抜きのチキンカツ弁当で、おかずも少なくて。
そんなことしか、言えなかった。
「たしかに、今日のお弁当はおかずが少なかったです」
俺の分のチキンカツも食ったじゃねえか。
「……ですから、今日は泡風呂です」
いつも泡風呂じゃねえか。莉子の好きなぬるい風呂。
「それでもって、ヘチマです」
え、それイヤなんだけど。
「皮膚を丈夫にすると風邪をひかないんです」
信用しないぞ、そんなうさんくさい民間療法。
俺は莉子を抱きしめたまま寝室へ足を向けた。
歩きにくいことこの上ない。
「……今日は、柔らかいタオルにしろよ。洗ってやるから」
擦り傷やら打ち身やらが残る莉子の手足が痛くないように、そうっとそうっと洗ってやるから。
風呂の中で、莉子は俺から体を隠すようにし、俺は見ないふりをした。
柔らかいタオルで、ボディソープの泡をふわっふわにして、莉子を洗ってやった。
髪の毛も、首筋も、耳の裏も、胸も背中も腕も脚もお尻も、足の指の先まで、そうっとそうっと。
莉子のつるんつるんの肌が、これ以上傷つかないように。
あー、ほんとにつるっつるだ。
出来上がりに満足するように、莉子の体を拭き上げて、上から下まで眺める。
「あ、なんかエロい……」
「いやん、旦那さま、えっち」
なにがいやん、だ。
隠すな、莉子はけっこうスタイルいいぞ。
全体的に、いや部分的にもだな、このくらいの、こういう感じがちょうどいいんだ。
両手を口元に持っていって、莉子が俺に擦り寄ってくる。
「わたくしも、このくらいがいいです」
思わず、ぷらんと下がった自分のモノを見下ろしてしまった。
あ、そう。
莉子がいいなら、いいけど。
「でもこれ、いつまでもこのくらいじゃないけど?」
やんやん、と莉子が体をよじった。
バカ。
くだらねえこと言ってないで、ベッド行くぞ、ベッド。
「はいっ」
喜ぶな、あからさまに。
莉子をベッドに転がして、その上にダイブする。
ちくしょう、逃げるのがうまくなったな。
「こらこら、ちゃんと見せろ」
「でも、お風呂でさんざんご覧になりました。それはもう、ねちっこく、舐めるようにねばっこく」
ねちっこくねばっこくはこれからやるんだ、覚悟しろ。
組み伏せるように抑えた肩に、新しいあざができている。
「あ、痛いか」
赤い斑点を散らしたような跡を指先でなぞると、莉子が目を丸くして俺を見上げた。
「いえ、なんともありません。お庭の肥料を運ぶのに肩に担いだら内出血してしまっただけです」
内出血するほど重いものを、メイドが運ぶ必要なんかないじゃないか。
何のために男の使用人がいるんだよ。
「わたくし、力持ちです」
がばっと起き上がって、俺の上に乗ってくる。
危ないじゃないか、やめろって、力持ちはわかったから、こら。
うきゅっうきゅっと莉子が笑う。
もしかして、もしかしてだけど、こいつ、本当にそそっかしいだけなんじゃないか。
それで、あちこちケガをしてるだけなんじゃ。
俺の上に乗った莉子を暴れないように抱きしめて、そんなはずはないと思い直す。
そうだったら、いいのになという俺の願望。
陽子さんがそんなことをするなんて思いたくないという、甘ったれた希望。
「莉子……」
俺、どうしたらいい?
莉子のことも大好きだけど、陽子さんも大事なんだ……。
「旦那さま、旦那さま」
……ん?
「どうなさいました?まさか、今日はこれでお預けですか?」
うーん。
「人混みにお出かけでしたから、お疲れですか?」
莉子が俺の髪に指を入れて、頭をつかんだ。
「せっかく、ジムに通ったり野球の練習をしたりなさってるのに、ちっとも役に立ちません」
バーカバーカ、体力なら余ってるよ。
俺が軽くおでこにデコピンすると、莉子は大げさに後ろに倒れた。
その上に乗りかかって、くだらないことを言う唇をふさいでやった。
ぷるんぷるんだ。
この柔らかくて弾力があって適度な湿り気と温度が好きなんだよな。
もちろん、うっすら赤くなったほっぺたとか、熱くなった耳たぶとか、脈打つ首筋とか、くっきり浮いた鎖骨とかも好きだ。
ぷるっとして手ごろな大きさの柔らかいおっぱいは大好きだし、すんなりした二の腕やくびれたウエストや、ぽつんと凹んだヘソも好き。
その下の、もじゃもじゃしてるのに柔らかい茂みと、ぴったり閉じてるくせに早く開いて欲しくてウズウズしてるような太もも。
あー、ヤバイ、俺、莉子大好き。
「あん、旦那さま」
莉子が甘えた声を出す。
腹が減ると機嫌が悪くなって怖い顔で見上げてくるくせに、こんなふうに見上げてくるのは卑怯なくらいかわいい。
腕の付け根の柔らかいところに吸い付くと、莉子が俺の髪の中に指を入れてぐしゃぐしゃにした。
こらこら。
「奥さまは」
え?
「甘いお花の香水をつけてらっしゃるんです」
あ、そう。
確かに、陽子さんはいつもいい香りがするな。
メイドは香水やアクセサリーをつけられないけど、莉子も女の子だからそういうのが好きなんだろうか。
「買ってやってもいいぞ」
言うと、莉子が俺の頭皮に噛み付いた。
なにすんだよ、痛いじゃねえか。
「お帰りになったとき、フルーツみたいな甘酸っぱい香りがしました」
……えーと、俺?
「どなたと、ご一緒だったのですか。香水の香りが移るくらい、ぴたっと」
いや、誤解誤解。
陽子さん以外の人っていえば桜庭美月だけど、そんな香水つけてたっけ?
だいたい、匂いが移るほど接近してないし。
頭の中で思いっきり動揺しながら、手は莉子のおっぱいを揉んでいる男のサガ。
俺がすっかり陽子さんの作戦と桜庭美月について白状すると、莉子ははうん、と変な声を出した。
「嘘でございます。お帰りが遅かったので、カマかけました」
う。ずるいじゃねえか。
莉子が俺の肩をつかんでくるんと体を入れ替え、上になった。
「それで、そのお嬢さまは気に入ったんですか」
「そんなわけないじゃねえか。……莉子がいるのに」
莉子が、俺の体の上に伏せる。
「でしたら、結構です。約束どおり、ちゃんと待ってたら帰ってきてくださいましたし」
ここで俺を待ってろと言ったことが、莉子にとってそんな大事な約束だったとは思わなかった。
「……うん。だからさ。ご褒美くれ」
「ごほうび?」
俺は莉子の重みを感じながら、その耳元でくふくふっと笑ってやった。
「して」
莉子の体温がかっと上がった気がする。
やんやん、と抵抗するふりをしながら、莉子は毛布を引き上げてその中にもぐりこむようにして俺の足元に移動する。
「てろん」
指先で俺のをつまみあげる気配がする。
効果音をつけるな、なにがてろん、だ。
「どうしますか、ゴシゴシですか、ペロペロですか」
莉子、言い方がエロいって。
「じゃあ、パックリでペロペロでチューチューしながらゴシゴシ」
毛布の中で莉子が不満そうに抗議した。
「旦那さま、注文が多すぎます」
う、パックリされた。
スリスリと太ももを撫でながら、舌先で先端をつついている。
うん、さっき丁寧に洗ったかいがあるだろ、存分に舐めろ。
あー、すげーいい。
毛布の中に手を入れて、莉子の髪や肩に触った。
この辺には、打ち身のあざはなかったな。
触っても痛くないかな。
弁当には文句を言うくせに、本当に辛いことには愚痴を言わないんだ。
バカメイド。
桜庭美月と話の弾んだ俺をうれしそうに見ていた陽子さんを思い出す。
ほんとに、どうしたらいいのかな……、ああ、気持ちいいな。
莉子が根元に手を添えてこすり始める。
あー、うう。
このままじゃヤバイ。
莉子の背中をさすって、もういいと伝える。
いつもなら交代ですねとうふうふ笑うくせに、今日の莉子はやめなかった。
いやいや莉子さん、それ続けるとちょっと危ないんですけど。
まだ莉子になんにもしてないのに、俺だけイっちゃうんですけど、莉子ってば。
「あむっ、いいんです、ずっとしますはら、ほのままひまふはら……」
なんかおかしいぞ。
なんでそんなにムキになってんだよ。
「あんっ……、旦那さま」
莉子が一生懸命してくれているのに、俺はちょっと冷めた。
毛布を上げて莉子が不満そうな顔を出す。
「てろんってなっちゃいました」
うん、いいからちょっと来い。
莉子の体を引き上げて、顔を近づける。
「どうした?そんなにムキにならなくても俺はいなくならねえよ」
軽く言ったつもりなのに、莉子の目に涙が盛り上がった。
「ほんとですか」
え?
「わたくし、野球もわかりませんし、お仕事のことも、お、音楽のことも」
俺の胸の上に、莉子の涙がぱたぱたと落ちた。
「メイドの仕事だって、メイド長や奥さまにも教えていただくのに上手にできません」
莉子を、ぎゅっと抱きしめた。
「ですから、わたくし、せめて、できることは一生懸命いたします」
いいんだよ。
莉子は、今のまんまでいいんだ。
できないことは覚えればいいし、どうしてもできなければあきらめてもいいんだ。
俺にできることなら教えてやる。
そうだ、ピアノをやろう。
前に教えてやるって約束したじゃないか。
ドレミから始めるぞ、一の指二の指三の指。
んでもって、それはそれとして、今はこっちやってもいいか?
くひゅ、と莉子が泣き笑いをした。
その目尻とほっぺたにキスをした。
胸を手のひらで包んで、指の間に乳首を挟んだ。
そのまま揺らすと、莉子が濡れたまつ毛の目を伏せる。
莉子を仰向けにして、俺が上になる。
指先で乳首をクリクリすると、固くなる。
気持ちいいのかな。
莉子がさっき俺にしてくれたように、舌先でつつく。
弾力があって面白い。
おい莉子、俺のも面白かったか?
乳首も、おっぱい全体も、強く吸ったり揉んだりさすったりする。
「ん、あん……」
莉子が俺の肩に置いた手に力をこめる。
胸から脇腹、背中の方まで唇を這わせると、ますますうっとりした顔をする。
腰を持ち上げてひっくり返すと、莉子はちょっと抵抗するように俺の腕に手をかけた。
なんだよ。
莉子が俺を見つめてまつ毛をパタパタした。
「後ろからですか?」
バーカ、莉子が嫌がることなんかしねえよ。
俺は後ろからもしたいけど、莉子が嫌ならしなくていい。
どうせ、すぐに顔が見たくなっちまうんだし。
「旦那さま……」
莉子が俺に抱きついてキスをねだった。
舌を絡めている間に、莉子の手が下がって俺に触れる。
「んふ、む……、あ」
キスしてるのにしゃべるなよ。
「かちんこちんに、なってます……」
あ、うん、そうかも。
「旦那さま」
うんうん、ちょっと待て、慌てるな。
俺のほうはカチンコチンだけど、莉子の方がぐしょぐしょになってないとな。
今、確かめるから、ちょっと転がれ、ほらほら。
「あんっ、そんな、いきなり変態……」
だから全然変態じゃねえだろ、莉子をひっくり返して脚つかんで広げて、あそこを確かめてるだけだ。
お、なんかいい感じ。
閉じるな、味見しなきゃならねえから。
かき分けるようにして舌を入れると、莉子がはうんと鳴いた。
指を使って、中のほうまで探る。
暖かくって狭くって、こんなとこにでっかくなった俺が入ってしまうなんて不思議だな。
まあ、赤ん坊が出てくるくらいだしな。
……赤ん坊?
莉子がここから、赤ん坊を?
誰のだよ。
おい、莉子、誰の赤ん坊を産む気だよ。
指を増やして中をかき混ぜる。
「あん……、あ、あん……」
お、ここがいいのか。
手の平を上にして、莉子の表情を伺う。
頬を赤らめて、甘い声で呼吸を乱して、時々何かを探すように手がシーツの上を滑る仕草。
ちくしょう、かわいいじゃねえか。
いつか莉子が誰かの赤ん坊をここから産むなんて考えられないけど、今の莉子はすげえかわいい。
今の莉子は、俺だけの特別だ。
呼吸が短く速くなる。
イクのかも。
「んあっ、や、な、那智さま、いやっ、ああっ、あっ、あうっ」
急に莉子の腰が浮いて、背中が反り返った。
そのまま痙攣するように突っ張って、ぱたっと落ちる。
莉子の中から湧き出た蜜ですっかりふやけた指を抜いて、シーツの端でぬぐった。
這い上がって莉子の顔を覗き込む。
「どうした?落っこちたか?」
「ん……、あ、な、那智さま」
半泣きの顔で、莉子が俺の首にしがみつく。
「わたくし、わたくし、また落っこちてしまいました……、ど、どうしましょう」
うん、いいじゃねえか。
落っこちるの、気持ちいいだろ。
それはその、そのような感じもいたしますけれど、でもとても不思議で、ふわふわします。
うんうん、俺もすごく気持ちいいと駆け上がって落っこちるみたいになる。
那智さまも、落っこちますか?
落っこちるよ。莉子がすげえかわいいと、俺も落っこちる。
わたくしが、あの、ぱくってしますと、落っこちますか。
うん。でも莉子にぱくってしてもらって駆け上がって、それからこの中で落っこちたいんだけど。
よくわかりません。
そっか。ま、いいよ。
で、莉子さん、俺もう駆け上がってる状態なんですけど。
はい?
落っこちてもいいですか?
俺の首に巻きついていた莉子の腕がほどける。
「……落っこちて、ください」
はいはい。
莉子がうふんうふんと笑い、俺に逆らわずに脚を開かせてくれた。
えーと、一応アレをな。
つけといたほうがいいと思うんだ。
で、新しいの買っておいたぞ、ちょっと恥ずかしかったけど。
なんか薄くてぶつぶつとかついてて……、それつけると、莉子が喜ぶんだってさ。
そういう説明なさるのって、変態……。
だから、ヘンタイしゃねえって。むしろ健全なんだけど、つけてくれる?
あ、やっぱりそれは嫌なわけだな。いいけど。
いや、俺はほら、世界のタカシナの社長だから。
ゴムくらい、自分でできる。威張ることじゃないけどな。
膝を立てて、腰を近づけた。
この中、好き。
「んっ……」
あ、莉子ももう一回ふわふわしてくれていいからな。
俺と一緒に落っこちて、いいから。
ゆっくりと根元まで入れて、じんわりと締めてくる感触と暖かさを楽しむ。
そうっと引くと、莉子が小さく鳴く。
それが心地良くて、繰り返した。
莉子の上に伏せるようにして腰を密着させ、揺らしながらキスをする。
唇がぷるぷるで、柔らかいおっぱいが胸に当たって、莉子の素肌が密着して、中はあったかくって気持ちよくて。
早く思い切りこすり付けて気持ちよさを追求したくもあり、このままじわっと高まってくる快感を楽しみたくもある。
「那智さま、わたくし……なんだかまた、ふわふわと……、あん」
そうかそうか。
莉子を抱きかかえるようにして転がり、繋がったまま横になる。
こういうのもいいだろ、とささやいたら、もう4分の1回転して莉子が俺の上に乗った。
上は好きじゃないんだろ?
「後ろよりは、ずっと好きです」
あ、そう?
莉子が俺の上で揺れた。
あ、そういうの、ちょっと反則気味に気持ちいい。
「うあー、ふわふわする……」
思わず口に出すと、莉子がうふうふっと笑った。
「はい、わたくしも、ふわふわで、むずむずです……」
俺も俺も、俺もムズムズする。
しばらく莉子が俺の上で揺れたり回ったり上下したりしたもんだから、もうすげえムズムズする。
「ギブ」
莉子を抱えて、半回転した。
「んじゃ、落っこちに行くから」
返事を聞かずに、動いた。
「あ、……あ、あ……、んっ、あ……」
小さな声が、呼吸に合わせたように続いた。
いい声。
莉子の体の両脇に手をついて、腰を打ち付ける。
俺の両腕に、莉子の手が触れる。
ヤバ、もうどこ触られても気持ちいい。
ちくしょう、指先で俺の乳首なんかいじくるんじゃねえよ、余裕だな。
ああ、気持ちいい。
俺、こういうの莉子しか知らないけど、だからって他の誰かとしてみたいとも思わないのはなんでだろう。
もう、ずっと莉子とこういうことしていたい。
「あん、那智さま……」
あー、落っこちる。
もう少しで、落っこちる。
この言い方、いいな。落っこちるって。
俺と莉子だけの暗号だな。
落ちるぞ、いいか、う、うわ、あ。
気持ちいい。
ふにゃふにゃと変な声を出しながら絡み付いてくる莉子を抱き寄せて、ちょっと強くなった匂いを思い切り吸い込む。
莉子の匂いだな、と思っていたら、莉子も俺の腋に鼻をつっこんでくんくんしていた。バカ。
肩にすり傷のできていたところがかさぶたになり、それも取れかけている跡を指でなぞった。
陽子さんに話そう。
俺が、莉子を特別なメイドにしてるってこと。
だから、陽子さんにも莉子のことを好きになってもらいたい。
うまく言えないけど、陽子さんが影でこっそり意地悪しているとしたら、きっと俺のせいだ。
莉子を特別扱いしていても、俺は陽子さんのことは大事だし、せいいっぱい親孝行するつもりだということも言う。
それで良くなるかどうかはわからないけど、言うだけは言おう。
俺がガマンしてくれって頼んだことを莉子は頼んだ以上にガマンしたから、俺もがんばるからな。
「ひゅあん……旦那さま…、落っこちてしまいましたか……」
うんうん。すんごい気持ちよく落っこちた。
「だいじょう、ぶ、でございます。わたくし、力持ちですから、旦那さまがあんまり落っこちすぎないように、ちゃんとつかまえて、ぶらさげます……」
それから、きゅぷっと笑った。
「あ、ちゃんとぶらさがってます……」
そういう言い方するな、触るな引っ張るな、もう一回落っことしてやるぞ。
いやあん、うふうん、と言いながら、莉子が俺に抱きついたまま転がる。
なにがいやあんだよ、やる気じゃねえか、二回戦。
次の朝、陽子さんに莉子のことを話そうと意気込んでいると、先手を打たれた。
「なっくん、今日のお帰りは遅いかしらね。奥さまたちと舞台を見に行くんだけど」
あ、そう、うん、いってらっしゃい。どこかで夕食してくるんでしょ?
「帰りにうちでお夕食することにしたの。もしなっくんが帰ってきたときにみなさんがいらしたら、ご挨拶してね」
はい。
陽子さんはすっかり以前どおり、タカシナの奥さまの社交を復活させているらしい。
話は、また明日になるかな。
その日、俺は会社でちょっと不愉快な私用メールを受け取った。
あれほど、クビにしてやる二度と食品業界で働けないようにしてやるとクギを刺したのに。
『またお屋敷にお邪魔してもいいですか。鶯原さんがいらっしゃるときに』
長尾の、ばかやろう。
ぷりぷりして屋敷に帰り、さっさと陽子さんのお客さまに挨拶して離れに行こう、長尾の顔なんか覚えてもいないはずの莉子と特製三段重弁当アイスクリーム付きを食って、目一杯いちゃいちゃしてやろう。
「こんばんわ、高階社長」
「まあ、大きくなりましたわね、那智さん」
「おひさしぶりですわ、坊ちゃん」
「奥さまがお元気になられてようごさいましたね、那智ちゃん、いえ高階さま」
マダムたちが口々に俺に言う。
そして、テーブルの一番奥に、一人だけ齢の離れた若い客。
「今日は初めてお招きいたしましたのよ」
にっこり笑った陽子さんが、若い客を前に押し出した。
控えめに上品な笑みを浮かべた、マダムたちのマスコットのような。
桜庭美月。
――――了――――
幸せなんだけどなんかぞわぞわするなあ
どうか莉子をシアワセにしてやっておくれよ
60 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/19(木) 22:47:12 ID:/Kr6P+tD
どこから見てもバカップルです
ありがとうございました
なんかホッとするけどねW
美月さんはかわいそうなことになりそうね
本当は陽子さんもかわいそうなんだろうな
あまあまなんだけど、やっぱり一抹の不安が。
莉子タソは俺が守る!って言えないところがつらいなあ(何
62 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/19(木) 23:55:26 ID:ACdyoAT9
はじめましてご主人様、ただ今、近くに住んでいます、私が、下着を持って来ました、あれやこれやと、いっぱいあります。ガクも見てね。
甘くて怖い・・・新感覚だ。
相変わらず莉子可愛いよ莉子。
なっちーがめろめろになる気持ちが良く判る。幸せにしてあげてくれ!
gj!
大学の後輩で自分のいいなりの嫁になりそうな子をホームパーティに混ぜたり
長尾に予め指示してたとしたら、陽子さん策士だなw
家族を失ったことと空の巣症候群もどきをさっぴいても、陽子さん視点でみたら
大事な息子に変な虫がついているのを駆除すべし、となるのは仕方なす。
しかし本人への直接攻撃はいかんな。執事さんのいうようにちょっと心が
不安定なのかもしれんね。
66 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/20(金) 20:28:45 ID:1QaQwWIN
乙!
GJ
メイドさんはええのう
「ど〜こ〜だ〜ご〜主〜人〜!
とっとと諦めて我がご奉仕を受けやがるがいい〜!!」
メイドさんハァハァ
このスレで連載中の作品っていくつある?
途中で止まってるほとんどは未完で放り出されてるのか?
未完じゃない
永遠に「連載中」なだけ
74 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/28(土) 17:05:42 ID:ZscDXNmA
唐突だけど
名付けって難しいよね
75 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 00:49:37 ID:+MSf9jLF
こんばんは
8レスほど貰いますね
76 :
<表題未定> 1/8:2009/11/29(日) 00:53:25 ID:+MSf9jLF
「何やってるんですかご主人さま!」
亜紀の怒号が飛ぶ。先に断っておくが、僕は今別に何かやましいことをしてい
たわけではない。
「写真見ながら回想に浸る暇があるなら仕事してください仕事!」
いつにも増して早口な亜紀。くり返すけども僕はやましいことはしていない。
僕はただ、小学校の卒業アルバムを眺めていただけである。何故その行いが、
普段は大人しく物腰の柔いメイドさんの感情を爆発寸前にまで引き上げてるのか
と言うと――
「――ご主人さま? 聞こえてますか、引越は明日ですよ!」
そう、明日は我が家――否。僕と僕のメイド、亜紀が本家へと引っ越す日なの
だ。本家と言っても、実際はこの新邸に移る前の家で、今は時々遠くから来た客
を泊める以外に使っていないただの空家なのだけど。引越の日取りが決まったの
はもうひと月以上も前の話で、恐らく普段から計画性のあるような人は引越の前
日なんてもう殆ど荷物を段ボールにまとめ終えて、余裕綽々で引越当日を迎えた
りするのだろう。問題は、僕は普段から計画性がない、その一点に限る。
「はい! タンスの衣服は私がまとめますから、ご主人さまはその本棚の本を箱
に詰めてください! さっさと!」
77 :
<表題未定> 2/8:2009/11/29(日) 00:55:56 ID:+MSf9jLF
――そんなものは全部業者に任せた方がいい気がするんだけどなぁ。亜紀は昔か
ら何でも一人でやろうとする気質が強すぎるんだよ。
「業者に任せたら引越先でどこに何を入れたかわからなくなりますよ! 私は後
でまた難儀するのは嫌です!」
――……了解です、マスター。
大量の本からこの部屋に残すものと持っていくものを選別する。あ、この本…
…懐かしいな、中学入ってすぐの頃に装丁に惹かれて買って読んだんだ。途中、
主人公が理解できない行動をして、それがとても引っかかったんだよな。確か…
…ん? これはもしかすると今読めば理解できるかも――
「ご主人さま!」
――はい、すいません。
現在時刻一九時三〇分。朝から本家でやってきた大掃除が無ければ、もう少し
余裕のある時間だったはずなのだが……。
78 :
<表題未定> 3/8:2009/11/29(日) 00:57:58 ID:+MSf9jLF
亜紀に尻を叩かれながら、僕が向こうへ持って行く荷物はどうにか全て箱詰め
された。但し、所要時間四時間超。普段の掃除を怠っていたせいで、半ば掃除を
しながらの荷造りとなったのだ。
亜紀は、お茶とお菓子を取りに部屋を出て行った。コンコン、と戸を叩く音が
する。無作法だがベットに寝そべったまま入るよう許可を出す。今日は丸一日、
ほぼ休み無しで作業をしていたのだ。今日だけは見逃して欲しい。でも亜紀にし
ては戻るのが早すぎるな。第一彼女が入室前に戸を叩くなんて稀だ。主人の部屋
にノックせず入るなんて、つくづくなんというメイドなんだ。
「お疲れさまでございます。若様」
――恭子さんじゃないですか。久しぶりです。
「お久しぶりです。この部屋も随分すっきりしましたね」
――亜紀のおかげですよ。いつもしっかり過ぎるぐらいしっかりしてます
恭子さんもこの家の給仕係ではあるのだか、彼女の場合は少し特殊なのである
。故に、僕も年上である彼女に対して敬語で会話をする。ちなみに恭子さんは亜
紀の伯母さんでもある。伯母さん、と言ってもまだ二十代のはずだけど。
79 :
<表題未定> 4/8:2009/11/29(日) 01:00:58 ID:+MSf9jLF
恭子さんは、亜紀ちゃん張り切ってるからなーとかいった、僕お付のメイドの
話を一通りした後に。
「少しフライングだけれど引越祝いです、現金ですけど。残りも頑張ってくださ
いね」
と、僕に封筒を渡して部屋を出ていこうと――ん? 残り?
「あら? だってまだ半分ぐらい荷物残っているじゃあないですか」
――あ、そういう事ですか。これらはここに置いていく荷物ですよ。流石に全部
持って行くのは量が多いですし。とりあえず引越が終わってから、もう一度掃除
をしに来ようと思ってるんですけど。
「えーっと……亜紀ちゃんから聞いてません?」
――な、何を?
「大分前に旦那さまが、本家はもう管理から何から全て若様に任せる、つまり本
家は若様の屋敷となるので、今までの若様の部屋は本家の代わり、言い換えれば
来客用の部屋として使うって。私はそれを亜紀ちゃんに、言ったのはもう随分前
なんですけど――」
――え。
「聞いてませんでしたか?」
ガチャ。
「お待たせしました。なかなかお茶菓子が探せなくて――あら、恭子お姉さん?」
80 :
<表題未定> 5/8:2009/11/29(日) 01:01:40 ID:+MSf9jLF
――……おい、亜紀。
「……亜紀ちゃん?」
「えっ、えっ?」
時計の針は一二時を過ぎている。部屋の荷物の半分をまとめるのにおよそ四時
間を要した。仮に残り半分が同じぐらいだとすると……。
――徹夜か。
――徹夜するの、久しぶりだなぁ。
「え?」
81 :
<表題未定> 6/8:2009/11/29(日) 01:03:29 ID:+MSf9jLF
「ごめんなさい!」
私は平身低頭、佑仁くん……じゃなくて、ご主人さまに頭を下げる。恭子お姉
さんは、からからと声を上げて笑っている。いくらお姉さんだからってご主人さ
まに失礼です。
「いや、別に怒ってないって」
佑仁く……ご主人さまは苦い笑みを浮かべながら――嗚呼、そんなお顔も素敵
です、じゃなくて。ご主人さまが手のひらで私の頭をとんとん、と軽く叩く。と
ても心地良い、じゃなくて。
「ただ、まぁ、次から気をつけような?」
どうやら、佑……ご主人さまは本当に怒ってないみたいだ。私がゆ……ご主人
さまに同じことをされたら間違いなく怒るのに。いや、本当は全然怒らないんだ
けど、本当はただヽヾ、ご主人さまに構って欲しいだけなんだけど。
「そういや、亜紀は自分の荷物まとめ終えた?」
「は、はい……一応」
「――嘘だな」
「あ、あの、少しだけ……まだです」
駄目だ。私は昔からご主人さまに嘘をつけない。ついたとしてもすぐ見破られ
てしまう。私の胸の中にあるこの桃色の感情もご主人さまには全てお見通しなの
だろうか。それは無いと信じたい。知られいるとしたら、私は恥ずかしすぎて死
んでしまう。
82 :
<表題未定> 7/8:2009/11/29(日) 01:06:05 ID:+MSf9jLF
「だよね。さっきそんなことを言ってたし。ほら、亜紀は自分の荷物まとめて来
なさい」
「ええっ!?」
「何でそんなに驚くのさ。自分の荷物まとめてきてから手伝ってくれよ」
「でも――
――問答無用で部屋から追い出されてしまった。
せっかく、ご主人さまとのティータイムだったのに……。取りあえず出来る限
りの早さで自分の荷物をまとめなければ。
「お手伝いしましょうか? 亜紀ちゃん?」
まだにやけ顔の治らない恭子さん。と言うより、さっきよりにやにや度が増し
てる気がするんですけど。
「ほら、私が手伝えば亜紀ちゃんの荷造り早く終わるし、そしたら亜紀ちゃんは
若様の隣にもっと長い間いれるわよ?」
「!」
それは正直……とても、魅力的です。でも、この提案を受け入れるということ
は、ご主人への秘めたる想いを吐露しているのと同じ! それだけは絶対に避け
ねば――
「ほらほら、一刻でも早く大好きなご主人さまの元へ駆けたいんじゃないの?」
「なっ!」
バレてる!? これはバレてます! この恭子姉さんの目は「いや、好きなの
はあくまで『ご主人さま』としてであって」とか言って誤魔化せる目ではありま
せん!
83 :
<表題未定> 8/8:2009/11/29(日) 01:07:09 ID:+MSf9jLF
「いや、好きなのはあくまで『ご主人さ――
「じゃあ私が貰っちゃおうかしらー、亜紀ちゃんの『ごしゅ――
「そ、それは駄目です!」
しまった、つい……。
恭子さんは、更ににやにや度を高めた顔で「正直でよろしい、じゃあさっさか
亜紀ちゃんの荷物片付けて愛しのご主人さまの元へアバンチュールしちゃいまし
ょうか」とか言ってはしゃいでいる。
――だけど亜紀ちゃんも一途だねぇー。あははー。
あの、あばんちゅーる、って何ですか?
<了>
84 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 01:11:38 ID:+MSf9jLF
投下終了です
因みに処女作、初めて自主的に書いた文章かもしれん…
全然推敲できずに申し訳ない
萌えってば難しいですね。一応続きの構想はあるのですが、
時間がある時に書ければ投下、したいかと思います
スレ汚し失礼しやした
>>84 先の展開が楽しみだよw
期待して待ってる
ウブ娘が融ける瞬間が楽しみだ
あまあまGJ!
90 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 15:22:32 ID:QEXwdVbM
他人に自分の萌を伝えるのは難しい
言葉で話すのもだがそれを文章におこすのはなおさらだ
思いつくままタイピングするだけでは日本語は崩壊し
読む者に萌どころか意味さえ伝わらない
登場人物のキャラはぶれ、描写は足りず、無駄が増えて物語は腐る
素人が迂闊に手を出して勢いだけでどうにかなるものではない
過疎を恐れる人々が愛想や義理で誉めたところで真に受ける愚かさ
今一度自分の書き連ねたものを読み返してみろ
それが、駄文だ
先人の書いたものを読み返せ
駄文と良作を見極め、自分の文章と比べるがいい
つまらない その文章は、くだらない
言い換えよう
おもしろくなかった、と
91 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 19:34:16 ID:luvGXgUe
このコピペっていかにも文章力無い人がそれらしい言葉繋げて書きましたって感じで読んでて恥ずかしいよね
>>74 遅レスだけど
ホント難しいよね。いつも悩む
――詩野、素直でありなさい。
耳になじんだ声が聞こえる。
――人を、信じなさい。いつかそれがお前の財産になるから。
詩野が頷くと、そっと髪をなでられたような気がした。
――お前を認めてくれる人ができたら、その人のことを大事になさい。
はい、と返事をしようとして、声が出せないことに気付く。はっとして喉に手をやるが、やはり声は出なかった。
――いいね、詩野……
聞こえる声が遠くなる。同時に目の前が黒く塗りつぶされていき、突然母の手から放り出された赤子にでもなったかのような心細さが詩野を襲う。
状況ができないまま、ぐうっと上から押しつぶされるような圧迫感に出せない声にくわえ息さえも詰まった。
足もとがぐらつきだし、ガラスが割れる音や得体のしれない轟音が耳に飛び込んでくる。何かがはじける音と熱さが一緒くたになって身を撫で、
どこかで火の手があがったことを悟り、詩野は恐怖におののき、その場からただ逃げたくて必死にもがいた。
(誰か助けて……!)
詩野が声にならない声で叫んだそのとき、その闇の中、ぼんやりとひとり、見知った青年の姿が浮かびあがったではないか。
穏やかに微笑む姿をみとめるなり、胸が張り裂けそうな切なさがひといきに沸き起こり、こらえきれず涙が落ちた。
繊細に張りつめた薄氷(うすらい)のような詩野の瞳から、頬へ、一筋。
「ああ……!」
いっぱいまで伸ばしたこの腕は、けれど詩野は、彼には届かないことを知っていた。
そしてそのまま彼を見失い、二度と会えないということを、知っていた。
「いかないで!」
「わあっ!」
「――っ」
ぱっと歌舞伎の早替えのように夢と現実が切り替わり、詩野は朝を迎えたことを知った。けれど消えない圧迫感を
不審に思って首を動かすと、驚いた顔で薄いかけ蒲団の上から詩野にまたがっている小さな人影と目が合った。
「!!」
その正体を理解した詩野が面喰らって顔を動かせずにいる間に、少年はさっと身を起こし、
風のように実質詩野の私室である奉公人部屋から飛び出して行ってしまった。
朝からいったいなんだったんだろう、と思う余裕が出てきたのは、視界がはっきりし、天井の木目が見慣れたものであるとようやく確信が持ててからだった。
意を決して起き上がると、頭の奥がじんじんと痛んだ。目尻から耳にかけてがひりついている。触れてみれば、
うっすらと濡れた痕が残っていた。
胸にこごったものを深い溜め息で吐き出し、詩野は布団を上げた。寝巻きからえんじ色の小袖に着替え、
いつものように首の後ろで髪をひとつにくくる。袖口にほつれた糸を見つけ、ぷつりと噛み切った。
かすかな溜息は、いつもどおりの顔でいつもどおり開いた障子のすべる音に、かき消されたのだった。
食卓に並んだきれいに盛り付けのすんだ皿を前に、詩野は困り果てていた。
粛々と朝餉をとる青年のはすむかいで、小さな客人が口をひん曲げたまま箸を取ろうとしないのである。
ふたりとも一言として口を利かないため、女中に過ぎない詩野としては口をさしはさむわけにもいかず、
不器用に沈黙に耐えるしかない。飯櫃の蓋のふちをなぞる人差し指が、無意識に同じところを行きつ戻りつする。
雑穀米はやわらかめ、味噌汁の豆腐とわかめは小さめに切った。少年の分の納豆にはからしを添えておらず、
青菜は旬の菜の花を白和えにしたものだ。主好みならからし醤油でおひたしにするところなのだが、
甘いもの好きの少年の好みから推し量ってみた。
そんな詩野の影の努力もむなしく、信次郎は親の敵でも見るような険しさでじっと目玉焼きを見つめている。
主と同じ半熟で火からあげたものだけれど、それが気に食わないのだろうか。前もって誰かに好みを聞いておくべきだったと、
詩野は己の手落ちを悔やんだ。きのうの様子から察するに恐らく信次郎は頑固者なのだろう。彼の信条に沿わない何かが、
その小さな握りこぶしをかたくなにしているのだ。
「信次郎、食欲が無いなら前もって言いなさい」
助け舟を出すように、視線を動かさず黙々と箸を動かしながら青年が信次郎をたしなめる。少年はきっと顔を上げて、
春のうららかな朝には不似合いな大声をあげた。
「だって! バナナが!!」
「声が大きい!」
気付いているのかいないのか、青年の声もつられて大きくなる。平素から温厚な人柄であったはずだが、
信次郎に対しては声を荒らげっぱなしだ。眉間に刻まれた皺がくせになってしまわないか、心配になるほどだった。
「バナナが最後に無いなら食べない!」
ぷくっと頬を膨らませ、そう宣言した信次郎はそっぽを向いた。示し合わせたように詩野と主は顔を見合わせて、
ふたりして呆気にとられる。どうしてそんな極端な理論になるのか、子供の思考というのは難しい。ともかく、
どうやら目玉焼きの焼き具合が問題だったわけでは無いらしいことは、詩野にも分かった。
「どうしてそんな一か十かの話になる」
呆れかえった青年が脱力して箸を持った手を食卓に落とす。
「それに朝からそんな高いもの食べてどうするんだ。おやつの時間になさい」
「いいいいぃやああああああぁだあああああぁ!!」
「ああ! やかましいっ!!」
吉祥寺に来てからというもの、こんなに騒がしい朝は初めてだった。そろりと立ち上がると、ふたつの違った視線が注がれる。
期待に満ちた少年の強気な瞳と、引き止めるような青年の気遣わしげな瞳。どちらと視線を交わそうか詩野は迷って、
やがて右へと顔を向けた。
「少し、お待ちくださいね」
先までのしかめ面が嘘のような少年の笑顔と、驚いたように目を見開いた青年を背に、こころもち弾んだ足取りで詩野は台所へと向かった。
ふたたび居間へと戻ってみれば、信次郎が皿のものに箸をつけていて、詩野はにわかに嬉しくなった。
食後のお茶の用意と一緒にお盆に乗せてきた2枚の皿を、それぞれ食卓へと並べる。はじめは咎めるような表情をしていた青年も、
さすがに実物を前にしては息を飲んだ。
ところが、あれだけ楽しみにしていたはずの信次郎があからさまに落胆したではないか。これには詩野も慌てて、
たまらずに声をかける。
「信次郎さま、いかがなさいましたか」
けれどへそを曲げてしまった信次郎は、ふんと鼻息で不服を申し立てるだけで何も言おうとしない。視線すら合わせてくれず、
まるで取り付く島がなかった。ここまで強烈に拒絶されてしまうと、詩野にはこれ以上何も言えなくなってしまう。
「なんでそんなにがっかりする」
信次郎の妙な頑迷さに慣れたのか、詩野の主は気の無い口振りで理由をたずねた。下女の問いには答えずとも、長兄の声に対しての反応は早かった。
「だって丸ごと一本じゃないじゃんか!! 半分なんて聞いてないぞ!!」
兄の皿を引き寄せると、信次郎は身を伏せて視線を食卓と同じ高さにし、子供らしい膨れ面をつくる。
「明らかにお兄の方が大きい!」
「……僕には同じに見えるけれど」
もはや青年は真面目に付き合う気は無いらしい。黄色い皮をかぶったままのバナナの切り口に指をかざしてまで寸法の違いを主張する末弟に、投げやりな言葉を返す。
「大きいよ! 大きいし太い! ずるい! おい、お前! 不公平だ!!」
ばっと身を起こすと同時に人差し指を突きつけられ、詩野はお盆を抱きしめておろおろとするしかない。
懐手してうんざりと眉間に皺を寄せる青年が指摘したのは、詩野にとって思いがけないことだった。
青年が抗議する小さな手を捕まえると、短い悲鳴を上げて信次郎は顔をしかめた。
「痛いよお兄!」
「そうやって指で人をさすなと教わらなかったのか」
静かな声音ではあったが、そこにあらわれた峻厳さに、叱られた本人ではないのに身が竦む。さしもの信次郎も一瞬言葉を失っておびえた表情を見せた。
「それに、いくらなんでも『お前』はないだろう」
場の空気が凍りついたことを察してか、青年はいくらか語気を弱めた。
「お兄はよくて俺はいけないの?」
ひるんだだけで反省したわけではないらしい信次郎が、すかさず言い返す。青年はその性懲りのなさに苛立った表情を浮かべたものの、
兄弟げんかにすっかり萎縮してしまった詩野に気付いたらしい。少なくとも表向きはその怒りをおさめ、諭すように言った。
「いけない。詩野はお前より年上だろう」
「だんな様、別にわたくしは」
「きのうも言ったけれど、これは信次郎のためだから」
相変わらずむすっとして反抗的な態度をとる信次郎の前に座っているのがいたたまれなくて、詩野はその場で肩を竦めて小さくなる。
『信次郎のため』とはいうが、何も自分を巻き込んで礼儀作法を説かなくても良さそうなものだ。
「じゃあなんて呼べばいいのさ?」
「『ねえや』なり『詩野さん』なり、いくらでもあるじゃないか」
「そぉんな田舎くさい言い方出来るかよ!」
信次郎は口を尖らせたまま、使い時を誤っているとしか思えない鋭すぎる視線を詩野に向けた。
「しの!!」
「は、はい!」
「返事したな! よし!」
勢いにほだされてつい返事をしてしまったけれど、しまったと我に返った頃にはもう遅い。
青年のかみなりにも臆すことなく、信次郎は詩野の呼び方を定めてしまったのである。
「……詩野、お茶」
「は、はい」
諦めたような溜め息があって、青年は食後の茶を催促した。それを見ていた信次郎が、茶碗にへばりついた米粒を一粒ずつさらえながら茶々を入れる。
「バナナにお茶ぁ? こーしー無いのこーしー」
「子供のくせにコーヒーなんて生意気な。そんなハイカラなものがこの片田舎にあると思うか?」
青年は急な要望に目を見開いた詩野の手の急須を一瞥した。ちぇ、とあっさり引き下がった信次郎は、
箸を置いて両手を合わせた。お待ちかねの主役登場に喜色満面でバナナへと手を伸ばし、はたと止まる。
「ねえ、お兄。大きさ同じだって言うならバナナ俺のと交換してよ」
「いやだ」
「じゃあ、あとは頼むよ。行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
今日は珍しく出かけるところがあると言う主を玄関先で見送ると、詩野には仕事が山のように待っている。
一番の難敵である洗濯に、晩の買い物、一人のときは抜いてしまいがちな昼食も、今日は信次郎のために用意しなければならない。
だのにいくら仕事が増えようと、詩野は浮き足立つ気持ちを抑え切れなかった。何せ、来客は本当にしばらくぶりだったのだ。
青年との暮らしに不満があるはずも無いけれど、二人以外の声がするというのはやはり感慨深いものがある。
「だんな様、いつごろお戻りになりますか?」
「晩に間に合うようには戻ってくるよ」
立ち上がり紺袴の裾をはたくと、主はその涼やかな目をわずかに見開いた。
「せっかく信次郎さまがいらっしゃいますから、なるべくお早めにお戻りくださいね」
ゆうべの賑やかな食卓を思い返し、詩野は嬉しくなってふふっと微笑んだ。その様子をなぜか物珍しそうにしげしげと眺めながら、青年が両手を組む。
「さっきのバナナのときも驚いたけれど」
「はい?」
「自分のことさえ後回しなのに、おまえが僕以外の人間を優先するのを初めて見たような気がする」
その一瞬の詩野の当惑は、主に伝わったかどうか。
青年をないがしろにしたつもりは無いし、青年自身もそうは思っていないだろう。後ろ暗いことなど何一つ無いのに、
ただ、ぴしりと音を立てて思考が固まってしまった。自分で自分に驚いた。
本家と離れたったの二人きりの暮らしで、その相手は自分の主人であるのだから優先されるのは当然のことだ。
おかしいことなど何も無い。とはいえ、そこまで自分のことを顧みてこなかっただろうか。詩野は思案に眉をひそめた。
青年が、詩野が膝に抱えていた風呂敷包みを受け取ろうと手を伸ばす。自分の荒れた指先がちりっとその手の甲をこすった気がして慌てて引っ込める。
色を失った詩野の顔には気付かないまま、戸に手をかけたところで、からりと三和土(たたき)に下駄の音を立たせ、青年はふと振り返った。
「ねえ、詩野」
「お忘れ物ですか」
「いや、そうじゃなくて。三つ編みとリボンは余所行きのときしかしないのかい」
「いえ、そんなこともありませんけれど」
「うん、似合ってたから、またしないのかなと思っただけでね」
気にしないで、と何ともない素振りで付け加えると、今度こそ青年は出かけていった。
ざわっとどこからともなく訪れた何かが全身を駆け抜ける。
声も出せずがばりと詩野は立ち上がって、着物の裾がまくれあがるのも気にしているゆとりなどなく、
行儀悪くバタバタと廊下を走り自室に飛び込んだ。
誰に教わらずとも知っているはずの呼吸が、うまくできない。胸が詰まる。
(かおが、あつい)
左手で両頬をかわるがわる触れながら右手で鏡台の埃除けを払うと、頬どころか目尻も耳も赤くした己の顔がそこにあった。
大雑把にひとまとめにしていた髪を、気が急いて不器用になる指先で紐をほどく。
ひきだしから出したつげの櫛で髪を梳かし、指を通して後ろ髪を三つに分ける。右、左、と順繰りに編んでいくだけなのに、
詩野は何度か失敗した。必死になりすぎて、途中で右を編んだか左を編んだか混乱してしまったのだ。
(恩賜公園の桜は、まだもう少しかな……)
詩野が遠出のときに束髪ではなくて三つ編みをするのは、女学生に対する憧れからだった。
詩野の実家は、小石川で定食屋を営んでいる。小さいながらも常連客もついており、それなりに不自由ない暮らしぶりであったが、
八年前の地震で大きな被害をこうむったことで、詩野の境遇も違ったものになった。
無理をしてでも高等女学校に通わせたいと言ってくれていた両親が、半壊した家を片付けながら茫然としているところを見てしまっては、
学費のかかる上の学校へ通わせてくれとなど、とてもではないが言えるはずがない。だから詩野も、尋常小学校を卒業してすぐに女中奉公へあがることとなったのだ。
詩野は決して、今の自分のありように不満を抱いたりしてはいない。
だけれども、少しばかり、想像してみたりも、する。
(セーラー服なんて、着てみたりして)
目白への道中ときおりすれ違う女学生は、近頃ではほとんどがセーラー服姿で、幼い頃に憧れた海老茶袴とは違うけれど、
洋装に馴染みの無い詩野にはそれが余計に眩しく思われるのだった。
リボンは、きのうと同じ桜色にした。
じっと鏡を見つめる。生真面目な表情をしているつもりなのに、どこか、目元のあたりが嬉しげに笑っているように見えた。
「……さて、と」
詩野はぴしゃりと頬を両手で叩くと部屋を出て、緩んだ白いたすきを歩きながら掛けなおした。
意味もなく胸の浅いところに苦しさを感じて、いつもより少しゆるめに紐を結ぶ。
(いつか……)
いつか自分も、青年ではないほかの誰かに思いを尽くす日が来るのだろうか――近いのか遠いのかも分からない未来のことを、
縁側から軒下の向こうに広がる春特有の白い空を眺めながら、詩野はなぜだかそんなことを考えた。
初めてこの屋敷に足を踏み入れたときに感じた古い畳の匂いなど、気付けばすっかり感じなくなってしまった。
裸足で踏みしめる廊下の床板も、目を瞑っても軋む音や感触でどこを歩いているか分かるほど、自分はもうこの家に馴染んでいる。
春先に庭から漂う香りが梅でなくなるかもしれないことも、座布団ではなく椅子に座するようになるかもしれないことも、今の詩野では想像もつかないことであった。
(そんな日が来たら、私は)
詩野はひとつ溜め息をついて、ふるふると首を振った。こんな空想など、無意味だ。
考えれば考えるだけ不安になる。そしてどれだけ考えようとも、詩野の手に選択権は無い。
自分が唯一考えるのを許されていることは、青年がいかに心安く日々を過ごせるかだけなのだ。
――角を曲がると、居間の前の縁側に少年がうつ伏せに寝転がっているのを見つけた。同じ瞬間に信次郎も詩野を見つけたのか、上目遣いに見つめてくる。
まだ丸一日分もともに過ごしてはいないが、正直なところ、詩野はこの目が苦手だった。
遠慮を知らず真っ直ぐに視線を投げてくることも、子供らしいどんぐりまなこも、どこか自分でも知らないことを
見透かされているような気がして、なんとなく落ち着かない気分になる。
それでもせっかくわざわざ訪ねてきてくれたのだから、詩野は信次郎となんとか仲良くしようとにっこり微笑みかけてみた。
「おはようございます、信次郎さま」
「さっき茶の間で会ったばっかだろ」
「あ、そうでしたね……」
苦笑いをする詩野を値踏みするように、信次郎はあいもかわらずじっと視線を送り続ける。
「…………」
「…………」
会話が続かない。
曖昧に微笑を浮かべたまま、仕事もあるためその場を離れようと試みたが、少年の妙な威圧感に負けて足を動かすことが出来ない。
朝食時のように何か言いたいことでもあるのだろうけれど、詩野は信次郎の口を開かせるすべを知らない。
こんなとき主やぬいならどうするのか思い巡らしてみても、実践できそうな対処法は残念ながら浮かばなかった。
信次郎が食いつきそうな話題を探すが、それさえもてんで見当たらず、詩野は困り果てて笑顔を消しそうになる。
「バナナが!!」
「!!」
唐突な大声に詩野は驚いて、ひっと身を強張らせた。
肘を突いてうつ伏せのまま上半身を起こした信次郎は、目尻を吊り上げてまた音量調節の利いていない大声で言い放った。
「バナナの本数が! 減ってない!!」
たしかに詩野は学はなかったが、決して頭の回転は鈍くは無い。ひとりで屋敷の手入れと主の世話を出来る程度には頭の使い方を知っているつもりだ。
しかし、こと信次郎の思考回路に関しては完全にお手上げ状態で、もはや最近銀座や新橋でよく見かけるようになった異人を相手にしているような心持ちだった。
日頃この少年を相手にしているぬいや書生の達彦はどんな特別な技術を持っているのか不思議になるほど、
信次郎の考え方にまるでついていけない。
「絶対俺たちに隠れてお勝手で一本丸ごと食べてると思ってたのに!! 食べてないなんて!!」
「そ、そんなことできませんよ」
信次郎の剣幕に押されながらも、なんとか返事をしてみる。どうも自分は盗み食いをしそうに思われていたらしい。
いくらなんでもな疑いに怒るべきだろうとは思ったのだけれど、少年の見事な怒りっぷりに毒気を抜かれ、逆に詩野は思わず宥めるような口ぶりになった。
信次郎の隣に膝をつき、視線を合わせる。
「絶対ずるっこしてるってさ。思ったのに」
「ずるっこ、でございますか」
「お兄が帰ってこないのはしののせいなんだろ」
話が見えず、つい訝しげな表情になる。
「朝だって見張りに行ったんだ。でもそういうことしてなかったから。それに、やたらめったら『じゅうじゅん』だし」
目と目が合ったそばから信次郎はふいと庭へ顔を背けてしまう。けなされているのか褒められているのか分からないけれど、
ばつが悪そうに勢いを失った声が、少年の照れをあらわしているように詩野には思えた。
「ねえ、しの、お兄はさ」
投げ出していた手足を子猫のように丸めて、少年が言葉を継ぐ。その呟き方が主にそっくりで、詩野はぎくっとした。
言葉の区切り方が、間の置き方が、言葉にまとわせたためらいが――ひと回り以上歳が離れていても、母親が違っても、
由幸がそうであるように、信次郎ともまた兄弟なのだという繋がりが、そこに染み出していた。
「お兄はさ、いつ帰ってくるの」
少年らしからぬ哀切の響きを宿して、信次郎はぽつりと呟いた。
詩野は返答に困って、曖昧に微笑みながら首を傾げる。
青年の背負う事情を信次郎がどこまで知っているのか詩野は知らない。真田家はそういう血筋なのか、
歳よりもいくつか頭の良さそうなところからして、ぜんぶを知っていてもおかしくはないし、
結局は年端もいかぬ子供であるから、何も知らなくてもおかしくない。
「……信次郎さまはお兄さまがいらっしゃらなくてお寂しいんですね」
口をついて出た憐れみは半ば共感だ。その寂しさは、少年も青年も同じ色かたちをしているに違いなかった。そして――
「詩野にも歳の離れた兄がおりましたから、坊っちゃまのお気持ちはよおく分かりますよ」
「そうなの?」
億劫がりながら起き上がって縁側に足を下ろし、不思議そうにこちらを見てくる信次郎に、詩野は頷き返す。
「はい、信次郎さまのお兄さま方と同じように頭が良くて、自慢の兄でございました」
「……いまは、いないの」
本当にこの少年はその大きな目で何を見ているのか、将来が末恐ろしくなる。
詩野は、そんな信次郎に対して、穏やかな声音で語り始める。
「信次郎さまがお生まれになる前でしょうか、大きな地震がありましたのはご存知ですか」
「目白のお屋敷も離れの瓦が落ちたり石どうろうがくずれたって聞いた」
「詩野の家のあたりは、一番ひどかった隅田川のむこっかしに比べるとそこまで大変な被害ではありませんでしたけれど、
少し行った先の養生所は避難してきた方で溢れておりました」
「ふうん……」
あまり現実味がないらしい。生まれる前の話だ、無理もない。
「人が死んだだの行方知れずだの、そういう話は好きくない」
詩野が苦笑して首を傾げると、話の行き先を敏感に察知した信次郎は、ぷいっとそっぽを向いた。
「ごめんなさい、いやなこと聞いて」
「――信次郎さま……」
「わあっ!」
子供らしいあどけない声ではあったけれど、そのひどく真摯な響きに、信次郎に対する胸のつかえが取れたのが分かった。
詩野はたまらなくなって、小鹿のような少年の身を細い腕できゅうっと抱きしめる。
「なんだよ、無駄話してないで仕事しろよ! うちから金貰ってるんだろ!」
こんな風に乱暴な言葉を投げつけられても、その奥にきちんと相手を慮れる優しさを持っていることが分かるから、
むしろその不器用さを愛しいとさえ思う。
詩野は名残惜しげなぬいの顔を思い出し、今さらながらその気持ちが本当の意味で理解できたのだった。
「最初のお家から今井様のお家に移って、弥生子さまのお輿入れにあわせて今度は真田様のお家へまいりましたけれど。
詩野は、真田様のおうちに来られて、本当に嬉しゅうございます」
信次郎も、詩野の主も、恐らくは次期当主由幸も、こう表現するのが正しいかどうかは別として、
とかくなぜだか放っておけない。そばにいて、あれやこれやと世話を焼きたくなってしまう。
そしていちばんの理由は、彼らが詩野のようなはしために対しても驕らずに向き合ってくれることにあるのだろう。
丁寧な扱いをされればこそ、誠心誠意尽くしたくなるというものだ。……もちろん、詩野の場合はさらに個人的な理由と事情が加わるのだけれども。
信次郎に子犬が鳴くように仕事へと急きたてられ、詩野はころころと笑いながら洗い場へ向かった。
そのままとてとてと後をついてくる少年は、「暇で暇でしょうがないから手伝ってやる!!」と、目白の屋敷では
近寄らせてもらえない場所への隠し切れない興味を顔に出している。
断るかどうか悩んだのはほんのわずかで、最後には信次郎の押しに詩野はやはり負けた。
たらいの中で洗濯物を踏みつけてきゃいきゃいと喜ぶ様子を自分も手を動かしながら微笑ましく見ていると、
不意に信次郎が顔を上げる。
「しのはなんでそんなにお兄のことが好きなの?」
「え――」
凍りついたようにまぶたさえ動かせない詩野の様子など気にもかけず、少年は足踏みをしながら、つぶらな目でさらに追い討ちをかける。
「だって今朝、そのリボンつけてなかったろう。きっとお兄にいいこと言われたのだろ?」
「いいえ、いいえ、そんな!」
反射的に詩野はぶんぶんと首を振ったが、それがかえって信次郎に確信を得させたらしい。
ひょいと伸びてきた子供の小さな手におさげを掴まれ、耳まで赤い顔をまじまじと見られてしまい、詩野はなおのこと慌てる。
「ねえ、どうして? お給金がいっくら良くたって、お兄のこと好いてなかったらこんなに尽くしたりしないだろ」
「それはそうですけれども……」
「別に変なことじゃないじゃんか。ぬいも俺のこと好きって言うよ」
「え……っ」
詩野は少年の言う『好き』と自分が思っていた『好き』の意味の違いに、ほっとしたような残念なような思いで、
身体の力を抜いた。早合点した自分に苦笑いを浮かべ、少年の疑問に見合う答えを探す。
「なにも分からないまま吉祥寺でお勤めすることになって、何日かして、だんな様がわたくしの料理を喜んでくださったのですよ。ですから」
「それだけ? それだけじゃないだろ?」
うふふ、と珍しくもったいつけた詩野はじれったそうに続きを催促する信次郎に満足して、口を開いた。
今日の詩野は少し、いつもよりも目線が低い。
「いいえ、それだけでございますよ」
不服そうに唇を尖らせた信次郎へ、詩野はにこりと小首を傾げてみせる。
「それだけ、でございます」
想う人のことを語るのは、楽しい。我知らず言葉が弾む。ひとり上機嫌になる詩野をよそに、
興味を失った信次郎はふうんと生返事をしただけで、どこからかやってきた庭先のスズメが地面をついばむ様子を目で追いかけ始めていた。
たしかにそれ自体は取るに足らない些細な出来事であることは、詩野だって分かっている。青年自身もそんなことは覚えてなどいやしないだろう。
「それだけですけれど、詩野はすごくすごく嬉しかったのです」
それでも構わないのだ。誰が覚えていなくとも、詩野にとって大事な思い出で、そしてきっかけであることに変わりはないのだから。
(『ご飯が美味しいと、憂鬱も晴れるような気がする』)
まだ日も高いうちから、詩野は夕餉の献立をうきうきと考えるのであった。
宣言通りにきっちり夕飯前に戻ってきた主は、どこか朗らかな表情をしていたように見えた。どんな良いことがあったのか
あからさまにすることは無かったが、平素あまり見ることのないここまでの晴れやかな面持ちは詩野の心までをも軽くさせる。
青年は紐付きの封筒を大事そうに小脇に抱え、詩野に風呂敷包みを預けるといそいそと下駄を脱いだ。
「まあ、どのような良きことがありましたやら」
「うん? ふふ、ちょっとね」
「おにいー!」
まだ内緒、と微笑んだ口元に人差し指を当て、青年が上がりかまちから立ち上がると、待ちかねた様子で居間から信次郎が走ってきた。
「これ、埃っぽいだろう」
「平気の平左だい!」
甘えて兄の袴の左膝に抱きつき足の甲の上に座り込み、ひしと両手両足をそのふくらはぎに絡みつかせた少年は、
期待に満ちたきらきらした目で顔を仰向ける。
「ちょっと会わないうちに、お前重くなったなぁ……」
「全然ちょっとなんかじゃないよ!」
青年はまんざらでもない様子で、「よっ」だの「それっ」だの掛け声を出しながら少年を振り落とさぬよう
えっちらおっちら足を動かしていく。足を振り上げるときの遠心力が気持ちいいらしい。
はしゃいで嬉しそうな笑い声が詩野の耳にも明るく響いた。
兄弟の姿を後ろから眺めながら、笑いたいような泣きたいような気分になって、詩野は唇を噛み、こっそりと湧き上がる感情を殺した。
(真田の家の人たちは、本当に)
詩野を惹きつけて止まないのだ。
「やれやれ、子どもができたときの予行演習とでもしておこうか」
うっとうしそうな口振りとは裏腹に、その頬が緩んでいるのが分かる。すらりと背の高い主とまだ成長途中の信次郎のじゃれあう様子は、
やはりまるで親子のようで、詩野は将来こんな日が本当に青年に来ればいいな、と密かに願った。
そのとき隣にいるのが自分でなくてもいい。今日のそれのように、困っていない笑顔をいつでも浮かべられる青年を見てみたい。
それは詩野が青年を慕うようになって以来の夢で、ささやかだけれど、一方で途方も無い望みであった。
ひとまずは真田家に横たわるわだかまりを解消しないことにはどうにもならない。そしてそれは、詩野は傍観しているしかない問題で、
なまじ当事者に一番近いところにいるだけに、こんなに幸せなひとときにあって、けれど決して頭から離れない重荷なのだった。
その重荷さえ、詩野が勝手に背負っているだけだ。痛みを共有してくれなどと頼まれたことも無い。さしあたってできることがあるとすれば、唯一。
(今日のお夕食は、気に入っていただけるかしら)
そんな詩野の期待と緊張は、思わぬ方向から簡単に打ち砕かれることになる。
「ちい兄とやえ姉さんのややも俺みたいに賢いといいね!」
「――やや?」
「聞いてないの? だからやえ姉さんの部屋広くするんだ」
興奮して上気した頬を青年の袴にひたとくっつけて、信次郎が嬉しそうに言う。
それとは対照的に、自分の顔からどんどん血の気が引いていくのが分かった。ざわっとなだれを打って背筋を駆け抜けていった悪寒は
喜ばしい事実には不似合いで、詩野の自己嫌悪を誘う。しかしそんなことは問題にならぬほど、気にかかるのは青年の表情だった。
(由幸さまの手紙には、そんなこと一言も)
後ろから見る限り、特に変わった様子もなく柔和な表情を崩してはいない。胸を突き刺されたような想いであるのは違いないのに、
つゆほどもそんな素振りを見せない。そのことが、余計に詩野の不安を煽る。
詩野が平素からつとめて触れぬようにしていた弥生子の話題。しかも信次郎のもたらしたのは、当の詩野すら知らないことだった。
黙っていてもいずれ分かることではある。例え知っていたとして、どんな頃合で伝えようとも青年にとって見れば今と同じように唐突な報告として捉えられるのだろう。
分かってはいる、分かってはいるが、けれど割り切れない。割り切れるはずが無い。
青年の心の平穏を何よりも第一に考えてきた詩野を愕然とさせるには十分だった。
「そうか……あいつも、人の親か……」
感慨深げな呟きの『あいつ』が弥生子をさすのか由幸をさすのかはっきりしないまま、青年は天を仰ぐ。
太陽も半ば落ちかけた空は、紫色にたなびく雲に彩られ、ひと日の終わりを惜しんでいるようだった。
「お兄は男と女どっちがいい?」
「うん? そうだなあ」
すでに食事の支度の整った茶の間に着くと、足から離れた信次郎の頭をぐしゃぐしゃと撫で、
青年は詩野が求め焦がれる満面の笑みを浮かべる。
ひとりで賑やかな少年といつもどおり物静かな青年との対比が辛くて、詩野は生きた心地がしなかった。
だんな様、と声をかけようとして。
「詩野、冷めてしまう前に食べよう。荷物を置いてくるから、少し待っていて」
その笑顔のまま促されては、もう何も言えず従うしかない。
「あ……はい」
「元気に生まれてきてくれたら、それでいいと思うよ。家族が増えるのは嬉しいね」
そう言うと、詩野から荷物を引き取った主はゆったりと着物の袖をひるがえして、奥の自室へ歩いていってしまった。
「どうしてそんな顔してんの?」
「え、いえ、なんでもありませんよ」
くいくいと太腿あたりの裾を引っ張られ、詩野は自分が暗い顔を隠せていなかったことにようやく気付く。
笑顔を取り繕うと、信次郎は別段気にした様子もなくこちらを一瞥しただけでさっさと自分の席についた。
(だんな様……)
詩野には主の心のうちがまったく読めなかった。
詩野は詩野なりに、自分の主との信頼関係を築いてきたつもりである。自分が主を想うまではいかずとも、
主も詩野のことを信頼してくれていると思っていた。またそういう自負もあった。
それなのに、こんなときに限って詩野は彼にとっては他人であるのだということを思い知らされるのだ。
(もし、私が)
男に生まれて、同じ学校に通い、そして朋輩として認めてもらえたなら、本音を打ち明けてくれただろうか。
(そんなわけ、ない)
詩野はかぶりを振って、あさはかな考えを捨てさった。実現するはずの無いたとえ話はまるで無意味だ。
それに口外無用の事情を、屋敷の外の人間にそう簡単に話すわけが無い。
今の自分では青年に頼ってもらえない。心配する心にくわえ、その事実にも詩野は打ちひしがれた。
信次郎という来客を向かえ、いつもにまして力を入れたせっかくの料理だったのに、手間をかけた煮物の出来栄えを推し量るどころか、
詩野は戻ってきた青年の顔をまともに見ることが出来なかったのだった。
客間に通した信次郎を寝かしつけたあと、屋敷中の雨戸を閉めて回る途中、詩野は主の部屋から押し殺したような声が漏れているのに気がついた。
主が何かにうなされているのかもしれない、そう思うと、いてもたってもいられなくなった。
無闇に主の邪魔をしないで済むよう、足を忍ばせそっと部屋へ近づく。
月の光に落ちる影が映らないよう柱にそっと身をもたせかけ、障子越しに中の様子を伺う。
「……っく……ふ……」
押し殺した声は相変わらず断続的に漏れている。
気持ちが沈んでいるのなら慰めるなりそっとしておくことしか出来ないが、もし万が一病気の兆候が見られようものなら一大事である。
(もう少し、中の様子が知りたい)
いけない、とは思った。主人の部屋を勝手に覗き見るだなど、許されることではない。けれど、なぜだかそのとき、
詩野は障子に手をかけてしまったのだった。
す、と上等な障子は音も無く滑り、指二本挟める程度の隙間を詩野に与えた。
心配したというのは紛れも無い事実だけれど、好奇心が無かったかといえば嘘になる。絶対に気付かれてはならないというゆえの緊迫感が、
どくどくと心の臓に早鐘を打たせる。
ごく細い光が一条、主の部屋の畳に線を描く。ぎくりとしたが、幸いにも気付かれなかったらしい。
気付く余裕がないのかもしれないと思い至り、なお詩野は中の様子が気になった。
「う……ぅ」
ぼんやりと闇に浮かぶ青年は、障子に背を向けて褥にあぐらをかいていた。息遣いが荒い。
てっきり枕を抱えて突っ伏しているのではと思っていたため、予想外の光景に余計に鼓動が大きくなる。
(もう、やめよう)
実のところ部屋の中を覗いてからすぐ、詩野はその尋常でないことには気がついていた。激しい後悔に襲われて障子を閉めようとしたその瞬間。
くちゅりと、かすかなかすかな水音が、した。
「――っ!」
中で行われている行為をまさしく理解した途端、うわっと顔に血が集った。柱に預けていた背がずりずりと滑り落ち、縁側の床板に尻をつく。
周囲の寝静まった夜でなければ気付かなかったほどの大きさではあったが、詩野は確かに聞いた。
おぼろげに心に浮かんでいたことが確信に変わり、驚きから素っ頓狂な声を出さぬよう、己の小さな両手でしかと口に蓋をする。
「あ、ふ……っ……う……」
やめなければ、やめなければ、やめなければ、と思えば思うほど、詩野の身体はその場から動くのを拒んだ。
立ち去らなければという罪悪感はいつの間にか抗いがたい好奇心にすりかわり、全神経がうすい障子紙一枚へだてた
向こう側の様子を必死で探っていた。
青年のせわしない息遣いにあわせるように、洗いざらしの木綿の着物がこすれてさやかな音を立てる。
その声が、その音が、詩野のやわ肌の上を舐めるように走ってゆく。
(こんな……こんなこと……!)
目が離せない。己の脈動が分かるほど、詩野は周りを忘れて主に見入っていた。非日常的な光景に呑まれ、
己が意識が溶かされてゆく。
おもむろに青年のあごがのけぞった。普段はきりりと引き結ばれている口元が危うげに開いているのが見え、
こぼれ見えたくちびるに乗った悩ましげな感情に、詩野の心の臓は鷲掴みにされた。
あの肌に、その熱い肌に、触れたい――そんな欲が、じわっと内からにじみ出たのを、詩野はもじとこすり合せた両膝で知った。
(わた、わたしは)
熱に浮かされ始め、息が浅く、早くなる。自分の吐息がたなごころを撫でる、その感触にさえ詩野はおぼれ始めていた。
「っは……、は……ぁ」
利己的な快楽に理性を預けた青年の押し殺した声に耳を澄ませる。詩野はやおら目を閉じて、記憶の中の青年とすぐ後ろの青年との姿を重ね合わせた。
白い指で己の耳をそっとくすぐる。きっとあの息は熱いのだろう。あの夜詩野の耳を撫でていったそれのように。
「く、ん……」
赤い舌で己の唇をちろりと舐める。きっとあの舌は正直なのだろう。あの夜詩野の乳房を翻弄したそれのように。
「……う」
薄紅色の丸い爪を袷の上に滑らせる。きっとあの手は貪欲なのだろう。あの夜詩野の秘所を蹂躙した、それのように。
「ふ……、あ」
下腹の疼きをどうにか宥めようと、詩野は悩ましげに眉根を寄せ身をよじった。裾が割れ、青い月の光に素足のふくらはぎが晒される。
(触れたい)
普段は慎ましく隠されている部分に外気が触れ、その些細な刺激が詩野の背徳的な欲をざわりと煽った。
視線は吸いつくように、青年の腰元を追っていた。……きっと、あの――
「……っ!」
唐突に、荒々しかった主の息遣いが止まった。強張った背中と一瞬の静寂ののち、全力疾走でもしてきたかのような息遣いが戻ってくる。
「……弥生子、僕は――」
ぞわっと全身がの毛穴が粟立った。
その名が耳に入るなり、さあっと我に返ってゆくのが分かった。
(あ、あ……)
詩野はかたかたと途端に震え始めたその身をままならない両手でぎゅうっと抱いて、主の部屋の前から逃げ出した。
音が立ったか立たなかったか、気にかけている余裕すら、なかった。
転げるようにして逃げ帰ってきた自室の布団をはぐっても、そう簡単に動悸は治まってくれるはずもなく、
詩野は狭い布団の真ん中で小さくうずくまる。己自身の体温で、少しは安らぐような気がした。
(やっぱり、忘れてなどおられなかった)
どんなに、どんなに詩野が想っても尽くしても、青年は弥生子を忘れてはくれない。押しつぶされそうに胸が苦しい。
もはやあの凛と穏やかな青年の心に自分が入り込む余地などありはせず、詩野がどんなに心を尽くそうとも、
身分でも家柄でも負け、そして女としても弥生子には決して敵わないことを、ほかならぬ青年自身につきつけられたのだ。
詩野は布団の中でかすかにうめいた。喪失感なのか、嫉妬心なのか、罪悪感なのか、何ともつかない感情のたかぶりが、
出口を探して全身をさまよっている。
(……ん、あ)
一方で、じんじんと女の入り口が刺激を求めてもどかしく疼いているのが、詩野の行き場の無いやるせなさに拍車をかける。
わずかに膝を開いてみれば、中からとろけた欲がにじみ出てくる感触がした。同時に、その事実が悦として
ぶわっと脊椎を逆流していき、首筋を抜けた痺れにたまらずに身をよじる。
こんなに女として否定されたような思いでいるのに、歳若い身体はこんなにも女であることを誇示している。
青年の強張った背や、せつなくこぼれた声、くちびる。詩野は、その味を知っている。その熱さを知っている。
(けれど)
詩野はついに、そろそろと寝巻きの裾を割り開いて、そこに触れた。ぬるりと濡れた感触が、細い指を迎え入れる。
詩野の心のなかで、何かがぷつりと切れた。
(ここは、知らない)
ぬめりに助けられながら怖々と往復する右の中指が、たまさか深みに滑り込む。そのたびに御しきれない熱がうまれ、
詩野の脳髄を内から溶かしていく。
けれど、そこはまだ、男を知らない。
「んっ」
女の体にあって一番敏感な部分に触れた拍子に、押さえきれなかった甘い声が漏れた。
果たして青年は、己のこんな声を覚えているだろうか。いつかの夜に思い浮かべたこともあっただろうか。
ゆるゆるとほどけきったあわいをなぞっていると、わだかまった官能が熱い息となってこぼれた。
まぶたを落とし、青年の無骨な指先の凹凸をつたない記憶から蘇らせる。あの夜、彼はどんな風に自分を触り、煽っていったか。
敷布をつかんでいた左手を、裾から素肌の胸元へ忍び込ませる。
(これはだんな様の手……)
張りのある乳房をつかまえる。指がやわらかな丸みに埋まり、押し返される。そのまま乳首をたわむれに摘むと、
また背筋が痺れたように何かが駆けた。知らず、腰が揺れた。
押し殺した高い声がちいさく、狭い部屋にこだまする。
青年に触れられたのはたった一度だ。それも無理をしかれての行為で、奥の奥まで開かれたわけではない。
それなのに、一度覚えた快楽を詩野は忘れていなかった。火のついた身体は、未だ鎮まりそうにない。
(だんな様、だんな様……!)
ひだを往復させていた指で、ぷくりと膨らんだ突起を撫でてやる。強い刺激を受け、詩野の眉がきゅっと切なげに寄せられ、
声ともつかない掠れた声が上がる。
ゆるゆると粒のまわりに指先を這わせ続けると、だんだんと息が荒くなる。左右交互にもてあそぶ乳房にも、
じっとりと汗が浮いている。
おぼつかない自慰でも肉芽は貪欲に悦楽をまさぐり、指の動きはどんどんと大胆に激しくなっていった。
愛液をひきつれて、思うさま指を動かし、肉芽をこねくりまわす。いつかの夜の青年の動きをまねて、
胸にやった手で乳首を弾いてみる。
「……ぅんっ」
びくりと足の付け根の筋肉が痙攣し、なやましげに腰が揺れた。羞恥も理性もかなぐり捨てて、
ぐっと自ら膝を立て、秘所に触れる手に自由を与えた。
「ん、ん、ふ」
どうせ誰も見ていない。みだらな行為にふけっても、自分しか知らない。
そう思えばこそ、詩野は快楽に身を委ねた。動きやすくなった手が、本能のままにひだを、肉芽を、中をこする。
割れ目を往復する指の速さがいや増し、快感の糸を着実に紡いでゆく。
「あ、は、あ、あ」
閉じた瞼の裏側に青年のまなざしを思い描く。ぬかるみをもてあそぶ指が好いた男のものであると想像するだけで、
甘いしびれが倍になる。無意識に腰を手に押し付ければ、どろりと身体の奥から欲があふれ出す。熱に浮かされた詩野は、
うわ言のように主を呼んだ。
「だ、んな、さまぁ!」
濡れた右の人差し指が、固く膨れた突起をぐりっとひっかいた。衝撃のような快感が詩野の身を貫く。
「あ、あぁ、ん……っ!!」
一気に意識が焼き切れる。背筋がぶるりと震え、ひくつく入口がこぼした愛液が、脱力し、くたりと倒れた太ももの付け根と柔らかな尻を伝い落ちていった。
疲れ切った身体で寝返りを打つと、自己嫌悪と満たされない気持ちに蓋をして、詩野は切ない溜息を敷布に隠した。
「……だんな様、私は――」
夢を見た。
夏の盛り、屋敷のまわりの野原に自生したひまわりが咲き誇っている。まだ荷解きの終わっていない荷物が、
部屋の隅に積まれている。
絽の着物を着て、たすき掛けした自分が、汗を拭きながら台所に立っていた。
襖をという襖を明け放ち、風通しのよくなった茶の間の軒先につるされた風鈴を、卓に行儀悪く身をも投げ出した青年が見上げている。
『……あの、お食事を』
お盆に料理を載せて茶の間へとやってきた詩野が、恐る恐る声をかけた。表情のない顔で、大儀そうに青年が詩野を見上げる。
『ああ……ええと』
額を押さえながら起き上った青年が、言葉を探すように眉を寄せた。
『詩野、です。だんな様』
『うん、そういえばそんなような名前だったっけ』
興味の無い様子を隠そうともせず、青年は大きくあくびをした。
『……食欲がない』
そんな青年の前に、おどおどと詩野は小鉢を並べていく。きゅうりとわかめの酢の物に、焼き茄子。
それから少し硬めに炊いたご飯と、大根の葉と豆腐の味噌汁。
『だから、いらないと言ったろう』
『あ、あの』
詩野は飴色のお盆を抱きしめながら、震える声で『どうか召し上がってください』と懇願していた。
――そうだ、このとき、私は……。
まだ吉祥寺に移ってきて、三日も経っていない頃だったろう。前の家に暇を出され、つてを頼って今井家へ奉公し、
ようやく慣れてきたところでまた主が変わり、詩野とて戸惑いを隠せなかった頃のことだ。夢の中で詩野は、
始めは気力に欠けた青年の投げやりな態度をたいそう怖がっていたことを思い出した。
このときのことは、よく覚えている。
こちらに来てからろくに食事をとってくれなかった青年に対して、なけなしの勇気を出して話しかけた日のことだ。
『い、いくらだんな様がお丈夫でも、これ以上何も食べないでいらっしゃると、その、お身体に障ります』
ぎろりと落ちくぼんだ目で睨まれ、詩野は身を凍らせた。
夏なのに歯の根がかたかたと鳴りそうなのをじっとこらえる。信頼関係がどうとか彼が主であるとか、
そういうのを抜きにして、詩野はただただ、食事もとらず日がな一日ぼんやりとしているばかりの青年の身体が心配だったのだ。
だから、どうしても食べてほしかった。ここでひいては、きっと青年はこの先詩野の料理を食べてはもらえないような気がして、
気弱な詩野にしては珍しく、主に対して強情を張った。
『……そんな、泣きそうな顔して』
このときは必死すぎて、青年の顔などよく見えていなかったけれど、夢の中の青年は、どうやら呆れ返っているようだった。
ぼそぼそと聞こえるか聞こえないかという声で、青年が何事か呟いた。
骨ばった左手が箸をとり、右手に持ち替えたのを見て、詩野ははっと目を見開いた。先ほどのつぶやきはいただきますと言ったのだ、と気が付いたのだ。
青年の箸が、焼き茄子を器用に切る。だし醤油が卓に落ちないよう左手の茶碗を箸の下に添え、
口へ運ばれていくのを、詩野は祈るような思いで見つめていた。
茄子にはきちんと火が通っているかしら。だし醤油は濃くないかしら。わけぎはお嫌いではないかしら。かつお節は固くないかしら。
それから、それから、それから。
焼き茄子が青年の口の中で咀嚼されているあいだ、詩野はそわそわしっぱなしで、次の動きを待っていた。
(もういらないって言われたら、どうしよう)
『出汁は』
『は、はい!』
目を小鉢から離さないまま話しかけられ、詩野はぴしゃりと背筋を伸ばす。
『何でとったの』
『こ、昆布です』
『ふうん……』
詩野の危惧をよそに、青年は淡々と食事を続けた。茶碗と小鉢の中身が少しずつ減っていくのを、詩野はじっと見つめ続けた。
その時の不思議な沈黙は、ある意味で勝負のようなものだったのかもしれない。
ここで詩野が余計な気を回して話しかけたりすれば、青年は食事をやめてしまったのではないかと、今にしてみれば思う。
けれど、青年は出された膳を食べきった。箸を置いたのちに聞こえてきたごちそうさま、という言葉は、詩野の緊張をほぐす何よりの薬だった。
『お粗末さまでした』
ぺこりと頭を下げて膳をお盆の上に片付け始めると、しばらくして軒先の向こうの入道雲を眺めていた青年がなんとはなしに言った。
『ご飯が美味しいと、憂鬱も晴れるような気がする』
『は……』
『こんなにご飯がおいしかったのは久し振りだよ。……どうもありがとう、詩野』
困ったような微笑みをさしむけられ、詩野はうち震えた。忘れてしまった笑い方を何とか取り戻そうとして、
そうしてやっと作り上げられたような、精一杯の微笑み。
――詩野にとって、こんなに心のこもった『ありがとう』は、初めてだった。
はい、と返事をすると、そそくさと詩野はお盆を持って茶の間から逃げ出す。
嬉しくて嬉しくて、涙目になっていたのを青年に見られたくなかったのだ。
拭っても拭っても飽きもせず湧き出してくる涙を懲りずに着物の袖で拭いながら、詩野は思った。
この方を心から笑わせて差し上げたい。この方のお世話をしたい。『ありがとう』の言葉に応えたい。
このとき詩野は、どうしようもなく青年に惹かれてしまうのを、止めることができなかったのだった。
青年の抱えた事情を知るのは、それから半月後のことである。
///春待ちて・4 おしまい
前回投下後、苺大福についてご指摘くださった方、ありがとうございました。
保管庫管理人様に連絡し、差し替えていただくようにお願いしました。
GJ でもなんだか少し悲しくなった
詩野さんキタ━(・∀・)━!
が、最後なぜか目から水分が…°・(ノД`)・°・
GJです。
111 :
sage:2009/12/04(金) 14:28:57 ID:oDkFgziv
登場人物のキャラはぶれ、描写は足りず、無駄が増えて物語は腐る
素人が迂闊に手を出して勢いだけでどうにかなるものではない
過疎を恐れる人々が愛想や義理で誉めたところで真に受ける愚かさ
今一度自分の書き連ねたものを読み返してみろ
それが、駄文だ
先人の書いたものを読み返せ
駄文と良作を見極め、自分の文章と比べるがいい
つまらない その文章は、くだらない
言い換えよう
おもしろくなかった、と
>>108 GJです!
詩野さんの想いが届く日は来るのでしょうか……
その時が来るまで全力で見守らねば
いや、実にいい。
おお、詩野さんきてたー!
相変わらず二人ともストイックで切ないです。
最後のご飯のシーン読んで、お腹すいてきたw
『メイド・莉子 8』
はやる気持ちを抑えて、陽子さんが招いたマダムたちとお茶一杯分の時間をおしゃべりに付き合ってから、俺は離れに引き上げるために席を立った。
離れを美月さんにご案内したら、とか、一緒に音楽の話でもしたら、とか言われたら面倒だと思ったけど、陽子さんはあっさり俺を解放してくれた。
桜庭美月も、にこやかに俺を見送った。
同席したのは数分だったけど、奥さまたちに囲まれて笑顔が引きつっていた俺よりも一つ二つ若い美月が、でしゃばらずに母親ほどの年齢の奥さまたちに混じってうまくやれるなんてたいしたもんだと感心した。
早く莉子に会いたくて急いで離れに行くと、いつもより玄関際に莉子が立っている。
「旦那さま、おかえりなさいませ」
俺を見て、飛んでくる。
さすがに人目を気にしたか、飛びついてはこない。
なんだよ、なんか用か。弁当は先に届けただろ。
「母屋でお食事なさってくるかと思いました。奥さまのお客様がお見えでしたし」
廊下でそう言って、部屋のドアを開ける。
「莉子も挨拶したのか?」
とんでもございません、と莉子が全身を左右に振り回した。
「わたくしが奥さまの大事なお客様の前になんか出たら、そそっかしすぎてなにをするか」
いや、莉子はそんなにそそっかしくはないけど。周りからそう言われてそう思い込んでるだけじゃないか。
誉めたつもりなのに、そうですか?と不満げな顔をされた。
「ま、いいや。腹減ってるだろ?今日は昼飯ちゃんと食ったか?」
莉子があごにひとさし指を当てて首をかしげた。
「旦那さまは、やっぱりわたくしがお昼も忘れるほどそそっかしいとお思いですか」
食ったんならいいんだよ。バカ。
上着を脱いで外したネクタイと一緒に莉子に渡し、ソファに座る。
それをクローゼットに片付けた莉子がダッシュで戻ってきて、弁当の入った紙袋を抱きかかえた。
「当ててもよろしいですか」
よし、やってみろ。
紙袋はサザンクロスデリバリーだから、季節のメニューを熟知している莉子なら十種類くらいの候補に絞れるはずだ。
紙袋に顔を突っ込むようにして、莉子が弁当の匂いをくんくんした。
俺もさっきこっそり嗅いでみたけど、あっためられた紙重箱の匂いしかしなかったけど。
わかったか、と聞こうとしたところで携帯電話が鳴った。
なんだよ、俺はこれから莉子とお楽しみタイムなんだ、この時間のために今日一日会社でわけのわかんない話に頭を痛めたり秘書に小言を言われたり腹の出たオッサンにバカにされたりしてきたんだ。
着信画面に出たのは長尾の名前だった。
留守電に繋がるまで鳴らしておいて、電源を切る。
「よろしいんですか」
莉子が顔を上げる。
――鶯原さんのいらっしゃるときに、お邪魔してもいいですか。
今日、長尾のよこしたメールの催促だろうか。
よりによって、莉子と一緒のときに。
「いいんだ。で、わかったか、弁当」
「もちろんです。お弁当は、僕も私もワクワクドキドキお誕生日パーティ、です」
なに?
慌てて紙袋をから紙重箱を取り出し、フタを開ける。
横取りされた莉子がぶーぶー言いながら足元に座り込んだ。
弁当の中身は、花形に型抜きされたハムが黄色い卵の上にかざられたオムライス。
その周りにブロッコリーとカリフラワー、プチトマト、レタス。
二段目には一口サイズのチーズハンバーグになにかのフライ、小型のカボチャをくりぬいた容器に入ったマカロニサラダ。
ご丁寧にクリームとカラフルな砂糖菓子でコーティングされたマフィンとカップゼリーまで入っている。
「あ、またやった」
だから、サザンクロスのメニュー表はわかりにくいんだ。
写真の上下に注文コードがあるからうっかりまちがえる。
俺が注文したかったのはピリカラスタミナ焼肉&シーフードパエリア二段重だったのに。
さっきの電話に出て、メニューのレイアウトについて提案してやればよかった。
莉子はそんな俺にお構いなしに、おいしそうです、わたくしこの花形のハムをいただいてもいいですかと言う。
うんうん、なんでも好きなものを食え。
陽子さんは、まだおしゃべりが続くだろうから、奥様たちの帰りは遅くなる。
その間は、絶対邪魔が入らないということだ。
俺は膝の上に莉子を寝転がらせて、子どもっぽい弁当を食う。
パンチの効いた肉や辛いものを食べたかったが、仕方ない。
「はふん、おいしゅうございました」
デザートのグレープゼリーをちゅるんと口に入れて、莉子が満足そうに言う。
そうかそうか、うん、それでさ。
莉子が寝転がったまま、ひとさし指をあごに当てた。
「なんですか、旦那さま。今日はなんとなく、落ち着きがございません」
そんなことはねえよ。ちょっと考えてたことがあるだけだ。
俺は会社に持っていったカバンから、薄っぺらい教本を取り出した。
莉子が覗き込む。
「なんですか?『初めての……』」
莉子が、目を大きくして俺を見上げる。
ネットで注文したのが、会社に届いたんだ。家に届いたら莉子が見るかもしれないからな。
まだ一度も開いていないその教本を、莉子に渡した。
『初めての、バイエル』。
「旦那さま?」
頭悪いな。
俺はゲンコで莉子の頭をぐりぐりした。
「ほら莉子。腹ごなしだ。ピアノ弾くぞ」
子猫みたいに両手を頭の上で動かして、痛いですと訴えた莉子が目を丸くする。
「はぇ?ふぉ、ふぉんとうでございますか」
本当だ、教本だって買ってやったじゃねえか。
ほら、立て。
「教えてやるって約束してたじゃねえか。一の指、二の指、三の指。ドレミドレミだ。今日からやるぞ」
莉子の手をつかんで、ピアノ部屋に入る。
「今ですか、今ぁ?」
今だ。
これから、俺は莉子にピアノを教えるぞ。
それで、莉子と音楽の話をするんだ。
いいか、ドレミのドは一の指だ。
教えながら、自分の指も柔らかくして、また簡単な曲くらい弾けるようになる。
陽子さんに、シューベルトのひとつやふたつ弾いて聞かせてやる。
すごいわねって喜んだら、莉子のおかげだよって言ってやるんだ。
埃ひとつない状態のピアノの椅子を引いて、莉子を座らせた。
蓋を開けて、カバーの布を取る。
半年ぶりに見る、鍵盤。
莉子の表情がぱっと明るくなった。
こんな顔をしてくれるんだな。
俺には、こんなことしかしてやれないけど、だけど、俺にできることはしてやるからさ。
さあ、やってみようじゃないか。
指一本で、白鍵を押してみる。
ボヨン。
思わず、ぶっと噴出してしまった。
莉子も不思議そうに俺を見上げる。
「旦那さま?」
「うは、あはは、悪い、ダメだ莉子。音が狂ってる。調律を呼ばないと」
勢い込んでいただけに拍子抜けして、俺は馬鹿みたいに笑った。
莉子がひとさし指をあごに当てた。
「え、では弾けないのですか」
「音は出るけど、合ってないからな、曲にならない。明日にでも見てもらって、それからだな、ははは」
思いのほか、莉子はがっかりと肩を落とした。
「そうですか……、で、でも明日は弾けますよね?」
「まあな。執事に言っておく」
そうですか、とちょっと莉子がしょんぼりした。
「あ」
なんだよ。
「ということは、調律をなさる方がこのお部屋に入るわけですね?」
ピアノを運び出すより調律師が来た方がラクだろうが。
「いけません、旦那さまの蔵書を隠しませんと!」
ピアノの椅子からぴょんと飛び降りた莉子が、楽譜の並んでいる本棚に飛びついてしゃがみこんだ。
その下段に、莉子がきっちり揃えて並べている……、エロ本。
「高階那智さまが、タカシナグループの社長が、日夜こういうもので楽しんでらっしゃるなんて噂になってはいけません」
俺は日夜、楽しんではいないだろ、お前が昼間こっそり読んでるだけだろ。
「そんなもの、誰も気にしねえよ」
「いいえ、旦那さまがこういうものの助けを借りないといけないなんて思われたら、わたくしメイドのメンツが立ちません」
だから。
何度も言うが、莉子。
逐一、なにもかも、間違ってる。
莉子はいそいそと金髪爆乳の女がポーズを作っている表紙の雑誌を重ねて裏返し、棚の奥にしまいこんで、わざとらしく見えるところに音楽雑誌を並べた。
「はあ、おっぱい大きいですねえ……」
車海老、大きいですねえと言うときのように、ため息混じりにつぶやきやがった。
「やっぱり、旦那さまは巨乳好きですか?」
そういう言葉をどこで覚えてくるんだ。あ、俺の蔵書か。
しまいこんだの引っ張り出して中を開くんじゃねえ、もうピアノはどうでもいいのかよ。
「まあ、わたくし……、小さいのでしょうか」
莉子が心配そうに胸を押さえた。
まあ、巨乳ではないな。
でも俺はそこに載っている金髪女の人工的な感じがするほどでっかい胸は、そんなに好きじゃないぞ。
莉子くらいでいいんじゃないのか。
上を向いても平らにならない程度で、手の中にすっぽり収まって、柔らかくって弾力があって、そういうの。
莉子は嬉しそうにもじもじしながら俺に擦り寄ってきた。
「よろしいのですか?」
まあ、いいんじゃねえの。
「その、今日は」
ん?
耳までまっ赤にしている。
「……旦那さま」
さて、なんだろうな。
そっか、莉子もしたいって思うんだ。
俺がしたくなって、莉子に付き合ってもらってるわけじゃなくて、莉子もしたいんだ。
「あん、もう」
「なんだよ、わかんねえよ」
莉子がひとさし指を俺の脇腹に押し付けてぐりぐりした。
やめろ、ばか。
「わたくし、食べごろでございますけども」
なに言ってる、バカメイド。
「DVDで勉強したんじゃねえのかよ」
俺が早送りしちまうような、冗長な出だしの部分。
「はい。でもお誘いはみんな、男の人から」
「いいからそれやってみろって、ほらほら」
言いながら、顔がニヤついてしまう。
莉子はうるうるっとした目で俺を見上げ、そろっと胸に手を当ててきた。
「……旦那さま」
うんうん。
「旦那さまが、おいしそうに見えます」
……この、肉食メイド。
さあ、食え。
うわ。
バカメイド、本当に主人を襲うんじゃねえ。
夜はまだ早いっての。
……しょうがねえな。
莉子が俺に飛び掛って服を引きはがそうとする。
慌てるな、がっつくな。
暴れる莉子を羽交い絞めにして引きずり、ベッドの上に放り投げた。
「あん、もう、暴力反対です」
なに言ってる、自分が飛び掛ってきたくせに。
ほら、襲え、俺を。
……気絶するかと思った。
莉子が空手の黒帯だっていうのは、本当かもしれない。
身ぐるみはがれて、俺は莉子に押さえつけられる。
「マジっすか、莉子さん……」
「はい。お許しをいただきましたので」
激しく、後悔。
ああ、強姦される。
莉子は自分だけきっちりと制服を着込んだまま、俺の唇を奪う。
すみませんごめんなさい助けてください勘弁してください。
莉子がきゅわきゅわっと笑う。
逆レイププレイになってきた。
手加減しながら抵抗するフリをしてみたりして。
ちくしょう、楽しいじゃねえか。
莉子が俺の体にいっぱいキスをした。
意外なところが気持ちいい。
よせやめろと言いながら、気持ちいいところで莉子の体に触れると、それを合図にそこんとこを責めてくる。
莉子も脱がせてやりたい。
どうせなら裸がいいと思うんですけど、どうでしょう、ここはひとつ脱ぐ方向で。
「やん、旦那さま、えっち」
人をひんむいて裸にしてベッドの上で組み伏せておきながら、なに言ってるんだ。
ひょいっと足首をつかんで引っ張ると、莉子がひっくり返った。
どうだ、力は俺のほうが強いだろ。
うげ。
みぞおちに手刀が決まって、俺は体を折って咳き込んだ。
「旦那さま、大丈夫ですか」
莉子が言うな。
「だい、じょうぶ、なわけねえだろ、バカメイドっ」
「きゃあんっ」
スカートの中に手をつっこんで、下着を引き下ろす。
そのままたくしあげて、太ももの間に顔をつっこんでやった。
「へ、ヘンタイなっくん……」
今のは、聞こえなかったことにしてやる。
両手で太ももを下から上に撫で上げて、そこに触れる。
女って、ここの毛が柔らかいのな。
かき分けるとピンク色だし、ふにょふにょの手触りで、あったかいし。
「あん、旦那さま、それ、なんですか」
わかるか。
1、2、1、2。
ピアノの基礎中の基礎の運指で、莉子の太ももを指先で弾く。
撫でるのとも、つかむのとも違う感触で、莉子の体を弾いた。
ワンピースの制服を脱がせて、ブラをはずして、ふるっふるのおっぱいの上で指を躍らせる。
指の動きは固いけど、簡単な曲なら弾けそうだ。
10本の指先で全身を弾かれて、莉子は体をよじる。
接点が小さくてもどかしいのか、触れられる回数の多さが気持ちいいのか。
だめだ、ピアノのレッスンをするって言ったじゃないか。
練習は早く始めるに限るじゃないか。
ほらほら、右手と左手をこんなふうに、な。
乳首を上から指先でトントンすると、はふん、と息をつく。
そのまま下がって、ヘソと下腹も弾いてやった。
「あん、旦那さま、それは、なんていう、あん」
「エリーゼのために、だ。それくらい聴いたことがあるだろ」
いて。
なんで噛み付くんだよ、気持ちよくしてやってたのに。
「わたくしのためではないんですね」
あー、まさかそんなベタなボケが返ってくるとは。
うお。
油断したところで襲い掛かられて、莉子は俺の足の間に入り込んだ。
「わたくしは、みんな旦那さまのためでございます」
それはどうも、あ。
莉子の指先が、不協和音で俺のを弾きはじめた。
それだとピアノじゃなくて、オーボエとかクラリネットとか、そういう感じなんだけど、あう。
ほんとに演奏するように、莉子は先っぽをくわえ込んで指先で軽く叩く。
あー、すげーそれ、きんもちいい。
できればもっとこう、激しめの曲を演ってくれないかな。
アップテンポで、フォルティッシモで、強めに。
あ、う、うん、そう。
莉子、ピアノよりオーボエかなんかの才能があるかも、う。
ヤバ、イク。
早すぎるだろ、俺。
俺は体を起こして、莉子の肩を押し上げた。
このまま終わったら、そりゃ気持ちいいだろうけど、なんかもったいないし。
「第一楽章、終わりだ」
莉子がひとさし指をあごに当てた。
「第なん楽章まで、ありますか」
そりゃもう、終わらないくらいいっぱいある。なければ俺が作る。
今度は、俺が指と舌先で莉子を弾いてやった。
ピアニッシモ、ピアニッシシモ、クレッシェンド、スタッカート、フォルテ。
記号の名前と意味を教えてやりながら、そりゃあねちっこくねばっこく。
「あん、あの、旦那さま、楽譜のお勉強はわかりましたから、あの」
はうんはうんと鳴いていた莉子が、脚で俺の顔を挟んだ。
なんだよ。
「ですから、もう、演奏会を」
バーカバーカ。
演奏を止めたオーボエ奏者は、俺の首に抱きついた。
いいか、オケはステージで待ってろ。
指揮者とソリストの俺が上がってくるからな。
客は割れんばかりの拍手をして迎えるわけだ、そんでもって指揮者は俺を客に紹介するように……。
「前置きが長くないですか?わたくし、干からびてしまいます」
干からびねえよ、ぐしょぐしょに濡れるまで弾いてやったからな。
しょうがない、指揮者がタクトを振ってるからな。演奏してやるよ。
ちょっと拍手しとけ、アレつけるから。
いくぞ、ほら。
「あん……、あ、世界の、高階那智さまでございますね、あん」
なにを誉めてるんだよ、バカ。
指揮者の指示どおりに演奏してるんだ。莉子が表情で出す指揮に従って。
ここがいいから、もっとこすって。そこはゆっくり。盛り上がって、力強く。
素早く、歌うように、滑らかに、クライマックスに向けて。
「あ、はあん…、んんっ……、あ、あん、那智さ、まあ」
もっと、テンポを上げて。
あー、そういう指揮者がいたな。
曲の解釈なんかどうでもよくて、やたら早弾きさせるのが好きな。
顔も覚えてないけど、あの非常識な速さのタクトの先は覚えてる。
その指揮の通りに、俺は弾いた。
リズミカルに、奥まで深く、手前で浅く。
「んっ、ん……、ん、あ、うんっ、な、那智さま、あん、ん」
二人で連弾してるみたいだ。
楽しいな。
気持ちいいし。
んじゃ、曲のクライマックスに向かおうか。
う、あー。
この最終楽章の言わんとするところはだな、繰り返されてきた主旋律が、ま、いいかそんなこと。
「あ、ふ、ふわふわ、します、那智さま、すごく、ふわ……っ」
そう、主旋律がふわふわして、それで最後に。
「んあっ、あっ、……あ!」
落っこちる。
……落っこちるって楽譜記号は、なんだっけ。
*
陽子さんは、事故の前より元気になったように見えていた。
奥さまたちとの社交も熱心だし、趣味のステンドグラスやコンサート鑑賞も、また始めたようだ。
ずいぶん気が合うのか、桜庭美月も仕事が休みの日はちょくちょくやってくるし、一緒に出かけたりしている。
陽子さんが外のことに気を向ければ、俺の世話も焼きたがらないだろうし、莉子に構っている暇もないだろうな。
だから、俺はちょっと安心していたんだ。
陽子さんは元気だし、会社でダメ出しされることも減ってきたし、仕事を覚えるのは面白いし、野球ではボールがバットに当たるようになってきたし、莉子は相変わらず食いしん坊でバカでかわいいし、ピアノは上手くならないし。
メールと電話を無視された長尾が、それ以上しつこく言ってこなかったことも、油断した。
つまり、俺はバカだったんだ。
次の日曜日、草野球の練習後に長尾が車で屋敷までついてきた。
来週の練習試合は少し遠いところでやることになっていたから、それならうちにある全員が乗れそうな小型バスで行こうと提案したんだ。
それでも試合で使う道具を先に運んでおくのに俺の車では積みきれなかったから、長尾が半分車に積んできてくれた。
離れの方に車を乗り入れ、バックミラーで長尾がついてきていることを確認する。
車を停めて降りると、なにやら母屋のほうが騒がしい。
自分の車から荷物を下ろそうとしていた長尾も、気にするように首を伸ばした。
「おかえりなさいませ」
いつの間に出てきたのかいきなり後ろから執事に声をかけられる。
「なんだ、騒がしいな」
見ると、執事が珍しく赤い顔をして肩を上下させている。
英国上流家庭のバトラーは、走ったりしないんじゃないのかよ。
「社長、恐れ入りますが母屋の方へ」
え、だって荷物とか、長尾とか。
「私にはおかまいなく、どうぞ」
長尾が気を利かせるように言い、執事が俺に近づいて声を落とした。
「……たった今、奥さまがお倒れに」
俺は長尾をそこに置き去りにして、走り出した。
陽子さん、めっちゃ元気だったのに。
やっぱり病み上がりに無理させすぎたんだろうか。
母屋の裏口にメイドたちが、屋敷の横付けにした車に群がっている。
俺が駆け寄ろうとすると、半ハゲ半白髪のクセに足の速い執事が後ろからひじをつかんで引いた。
「奥さまはこちらです」
部屋に駆けつけると、陽子さんは白い顔をしてベッドに横になっていた。
驚いたことに、メイド長と一緒にかいがいしく陽子さんの看護していたのは、桜庭美月だった。
今日は陽子さんに招かれて屋敷に来ていたという。
それまで美月とおしゃべりしたり庭を歩いたりしていたのに、急に倒れたのだと執事が言った。
高階家の主治医はこっちに向かっているけれど、入院していた専門病院にも連絡をしたらしい。
「なんで、そんな……、あんまり忙しくしないで休むように言ったのに」
ベッドの脇に座り込んで、なじるような言い方をしてしまった。
メイド長が何か言おうとしたけれど、思い直したように黙る。
俺は頭が混乱して、ショックで、立ち上がることもできなかった。
しばらくして医者がやってきて、俺と執事は隣の部屋へ移動する。
執事に、どういう状況だったんだ、と聞いた。
「社長、落ち着いてください」
ソファに崩れるように座った俺の隣に立って、執事が強い口調でたしなめる。
わかってる、俺がしっかりしないと。
「奥さまと美月さまに、メイドがお茶とお菓子を運んだのですがお気に召さなかったようです」
なにが。
お茶が?お菓子が?それくらいのことで、陽子さんが何か言うわけないだろ。
「運んだ、メイドです」
「……だれ、だよ」
ドアの向こうでは、カチャカチャと医療器具の音がする。
「鶯原でございました」
莉子。
そういえば、まだ帰ってきてから莉子を見てない。
「奥さまは急に興奮なさって、鶯原の持ってきたお茶とお菓子を床に投げ捨てまして」
え?
「桜庭さまがお止めくださったのですが、テーブルの花瓶で」
嘘だ。陽子さんが、そんなこと。
莉子に聞けばわかる、あいつはそそっかしいから、だから。
「鶯原はさきほど屋敷の車で病院へ運びました」
莉子!
「社長!」
ちくしょう、執事の馬鹿力。
執事に腕を押さえられたまま、俺はなんとか振り切ろうとした。
莉子がケガをした。
いつもの擦り傷や小さな打ち身ではなくて、病院へ行かなければならないほどのケガ。
陽子さんに、花瓶で。
その陽子さんは今、隣りの部屋で意識をなくしていて。
どういうことだよ、なんでだよ。
「しっかりなさってください、高階社長!」
俺を叱りつける執事の声は、死んだ父親が跡取りの兄貴を叱っているときの声に似ていた。
陽子さんはその日のうちに、意識を取り戻すことなく再び入院した。
眠り続けた半年間と同じように、きれいな顔をして、目を閉じて、たくさんの管で機械に繋がれて。
なにが起きたのかは、メイド長を問い詰めて聞きだした。
といっても、メイド長にもよくわかっていないようで、とにかく陽子さんはそれまで機嫌よく美月と過ごしていたのに、いきなり莉子に殴りかかったのだという。
執事は莉子がお茶を運んだように言ったけど、陽子さんが嫌っている莉子にメイド長がそんなことをさせるわけもなく、莉子は奥の部屋にいたらしい。
偶然、お茶を運ぶために開いたドアの隙間から莉子の姿を見た陽子さんは、形相を変えて花瓶をつかんだ。
花と水がこぼれ、お茶を運んだメイドに体当たりしながら莉子に向かって花瓶を振り上げる。
美月さんが止めようとするのも間に合わず、花瓶は莉子に向かって下ろされた。何度も。
信じられない。
どうして、そんなこと。どうして、そんなに。
陽子さんの入院を見届けて、俺は夜中になってから莉子が運ばれた病院へ行った。
面会の時間はとっくに過ぎていたけれど、ばかやろう、俺は世界のタカシナだぞ。
莉子は、入院が必要らしい。
二人部屋のうち一床が空いている部屋に、莉子はいた。
そっと戸を引くと、盛り上がった寝具が見える。
眠っているかと思ったのに、莉子は俺を見てぱっと起き上がろうとした。
「ばか、寝てろ」
あちこちにガーゼや包帯の当てられた寝巻き姿の莉子が痛々しくて、俺は泣きたくなった。
なんだよこれ、どういうことだよ。
「すみません、わたくし、そそっかしいもので……」
手を取ってやりたかったのに、三角巾で固定されている。
「びっくり、したろ。すごく……、びっくりして、痛くて」
ほっぺたにバンソウコウを貼った莉子が、ぎこちなく笑った。
「大丈夫です。ちょっと、ほんのちょっとでございます」
嘘つき。
ごめん、莉子。
ほんとに、ごめん。
俺がぐずぐずしてたから、莉子も大事だけど陽子さんも大事だなんて甘ったれたこと言ってたから。
結局俺は、自分ではなんにもできないお坊ちゃんだ。
「旦那さま?」
気づくと、涙がぼろぼろ流れていた。
「どうなさいました、どこか痛いんですか?ナースコールしましょうか」
こんなとこに他人を呼ぶなよ、バカメイド。
「もしかして、旦那さまも、どなたかに……」
殴られるわけねえだろ、バカ莉子。
みっともなく泣いて、最後のほうはちょっとしゃくりあげて、俺は朝まで莉子のそばにいた。
莉子は不自由な手で俺の指先を握って、嬉しそうに目を閉じて、イビキをかいて眠りやがった。
朝になって、莉子の顔を暖かいタオルで拭いてやったり、ベッドで歯を磨くのを手伝ってやったりした。看護って難しいのな。
「旦那さまは、なんでもおできになりますね。立派なメイドになれます」
ならねえよ。
病院の朝食は見るからにまずそうだったけど、俺が食わせてやった。
食後の鎮痛剤が効いてきて、眠そうな顔をした莉子に寝具をかけてやると、莉子は心配そうに俺を見上げる。
どこにも行かねえよ。莉子が寝て、起きてもここいるから。
「いえ、あの、お屋敷にお帰りになってください。いろいろ……ご心配でしょうし。それに会社にも行きませんと」
そんなこと、莉子が心配しなくたっていい。
でも、と莉子は必死にまぶたを持ち上げようとする。
「あんまり特別扱いしていただきますと、わたくし、お屋敷に帰ってから人間関係が……」
言いながら莉子が眠ったのを確かめて、俺は部屋を出た。
医者に話を聞きたかったんだ。
医者は、莉子の鎖骨と上腕骨にヒビが入っていて、あちこち打ち身がひどくて、割れた花瓶で切った傷もたくさんあると言われた。
暴力事件として、警察に連絡しなければいけない、とも。
医者と別れて重い気分で談話室に行き、携帯の電源を入れる。
執事と秘書から留守電が入っていた。
メールを確認する。
長尾。
そういえば、昨日長尾を離れの前庭に放り出してそれっきりだっった。
怒ってるかなと思ったのに、とことん人間のできている会社社長は、俺のことを気遣い、草野球の試合のことも気にしなくていい言う。
莉子が入院していることを知らせたら、どうするだろう。
一度しか面識のない親会社の社長の自宅のメイドなんかを見舞ったら、不自然だぞ。
こんなときに、どんだけヤキモチ焼いてるんだよ、俺。黒こげだぞ。
莉子は骨折部分の手術をして、半月ほどのリハビリの後に退院することになった。
俺が毎晩、会社帰りに弁当を買って見舞ってやったから、戻ってからの人間関係というやつを死ぬほど気にしていたが、知ったことか。
陽子さんは、眠ったままだ。
俺はまた、土曜日ごとに高速を飛ばして陽子さんの病院へ行く。
臨時教師の契約が切れて無職になったという桜庭美月が、ほとんど毎日のように見舞ってくれているという。
遠いのに大変だからと言ったのに、桜庭美月は通ってくる。
ピアノばっかりやってて友達も少なくて、それなのにピアニストにもなれなくて、そんな時に優しくしてくれた陽子さんに感謝しているのだそうだ。
髪をとかしたり、リップクリームを塗ったり、俺が気づかないような細やかな世話をしてくれるのはありがたい。
だけど、このままってわけにはいかないな。
美月も、莉子も。
莉子がいない間、俺はメイド長にきっぱり言われていた。
どんな理由があるにしろ、奥さまが鶯原をお気に召さなかったことは事実です。
そのストレスが奥さまにあのような行動をさせていたのであれば、鶯原に非はないとはいえ、お屋敷から出すべきでした。
そうしていれば、奥さまの心が限界に達して、再び眠りに逃げてしまうことはなかったかもしれません。
鶯原が、ケガをすることも。
いちいちもっともに思える言葉が、ぐっさりと突き刺さる。
陽子さんが倒れたのは、俺が莉子をクビにしなかったからなのか。
だけど、そんなことできたんだろうか。
次の日曜日、気分を引き立てましょうと長尾に言われるままに、草野球の練習に顔を出した。
そんな気分じゃなかったけど、執事も気分転換をすすめるし、断りきれないというのが本当のところだった。
チームメイトと顔を合わせると、パーティで会ったことのある陽子さんの体調が悪いとだけ聞いていて、みんなが心配してくれるのも、申し訳ないけどうっとうしい。
それでも、走りこんだり、柔軟したり、守備練習をしていると、確かに気がまぎれるようだった。
長尾も詳しい事情も聞かないで、いつもどおりに俺に接してくれるし、サザンクロスデリバリー今月のメニュー表までくれた。
ちくしょう、かなわないじゃねえか。
練習試合の送迎で迷惑をかけたお詫びに、休憩の飲み物は俺が差し入れた。
「えーと、高階…くん」
ペットボトルを抱えて遠慮がちに近づいてきたのは、俺と同じ頃にチームに加わったメンバー。
一通り、差し入れのお礼を言われたり、こっちが謝ったり、陽子さんを心配したりしてから、そいつは言った。
「妹は、ご迷惑じゃないのかな」
一瞬、莉子に兄貴がいたのかと思った。
俺が目を丸くすると、そいつはちょっと笑った。
「お姉さんが欲しかったとか言って、本人は本当に好きで行ってるみたいなんだけどね」
えーと、今、俺の目の前にいるこいつ、名前は。
「…桜庭くん」
「うん?」
桜庭美月さんって、キミの妹だったの?
間抜けなことを、言ってしまった。
陽子さんは美月のことを、あの日のパーティで会ったお嬢さんだと言った。
あの日来ていたのは、チームメンバーの家族や知人たちだから、美月の関係者がチームにいるのは当たり前なんだ。
俺は、どこまで頭の回らない甘ったれたお坊ちゃんなんだろう。
桜庭は笑いながら、自己紹介した。
カラオケやゲームの施設を全国にチェーン展開する会社で働いているという。
まさかな、と思いながら言ってみた。
で、社長の息子なんだ?
「まあね」
飲みかけていたスポーツドリンクを噴出すかと思った。
ちくしょう、育ちのいいお坊ちゃんはジャージのポケットにタオルハンカチを常備して、隣りで飲み物をこぼしたヤツにさっと差し出したりするもんなのかよ。
練習を再開しようと長尾が声をかけ、俺も桜庭も皆と一緒に腰を上げる。
「本当に迷惑だったら、すぐ止めさせるから。よろしく、お義兄さん」
それ、冗談なんだろうな。
俺は、慌てて帽子を被ってグラウンドに飛び出した。
美月が陽子さんに付き添ってくれるのはありがたいけど、それとこれはぜんっぜん違う話だから。
え、それとも違わないのか。
俺が知らない間に、そんなことになってるのか。
問いただしたくても、陽子さんは眠っている。
なにがなんだか、わけがわからない。
……疲れた。
俺は、つくづくお坊ちゃん育ちで苦労に慣れてないと思い知らされた。
だけど俺は、ちょっとだけほっとしていた。
陽子さんが眠ってしまったのは心配なことだけど、これで莉子は安心して俺のそばにいられるって。
今までどおり、甘えたり弁当食ったりピアノ弾いたり、あんなことしたりこんなことしたり。
問題は、なにひとつ解決してないっていうのに、面倒なことを見ないふりをしていた。
莉子の退院の日、仕事を抜け出して病院へ行った俺は、気難しい顔をしたメイド長の目をかいくぐって莉子を離れに連れて来た。
俺の部屋で、しばらく静養させるつもりだった。
「でも、人間関係が…」
もういいだろ、それ。もう屋敷中が知ってるぞ、俺と莉子のこと。
「まあっ、そんな」
照れたフリで嬉しそうに俺に絡まるな。
嬉しいけど。
メイド長に、怒られるだろうな。
あ、早く会社に帰らないと秘書のオバサンにも怒られる。
次の会議って、なんだったか。
草野球のスケジュールはメールで来てて……、まあそれはいいか。
なんか、忙しい。かったるい。めんどくさい。
莉子を休ませて、会社へ戻ろうとしたところで母屋の車寄せに黄色い車が止まっているのに気づいた。
美月のワーゲンだ。
足を止めると、ドアが開いて紙袋を抱えた美月が降りてきて、俺に気づいた。
軽く頭を下げると、小走りに駆け寄ってくる。
地味な色のひざ丈スカートに、明るい色のアンサンブル、かかとの低い靴。
落ち着いた組み合わせだけど、生地と縫製は上質な感じがする。
小学校の非常勤講師を辞めてから、ずっと無職のまま陽子さんの面倒を見てくれるのは申し訳ないと思っていたけど、社長の息子の妹ってことは、美月自身にも無理に働く必要はないってことなのかな。
桜庭のヤツ、俺のことをふざけてお義兄さんとか言いやがって。
「陽子さんの着替えを、あの」
「あ、いつもすみません」
お礼を言うのがモゴモゴした。
美月は上品ににっこりして腰をかがめると、紙袋を抱えて母屋の裏口から入っていった。
あれ、もしかして桜庭美月って、俺のこと?
確かに、桜庭美月なら陽子さんの世話も慣れてるし、陽子さんが目を覚ましても仲良くできるし、社長夫人たちとのお付き合いも上手だし、それなりの資産家の娘で、ピアノの教養があって、音楽の話も合って、美人だ。
タカシナの社長夫人として、ふさわしい。
誰も反対なんかしない。
陽子さんも、執事も、メイド長も、……みんな。
美月だったら、今みたいにいろんなことに気を回さなくてすんで、もっとのんびり暮らせるかもしれない。
あれ、俺、なに考えてる?
莉子のイビキが聞こえた気がした。
――――了――――
GJ!相変わらず面白いっす!
GJ!
でもどんどん複雑化していく状況に胸が苦しい……
全員ハッピーエンドを迎えられたらいいけど、そううまくいくのだろうか……
なっくん頑張れマジ頑張れ
社長、ここが男として人間として踏ん張りどころだな。
>なんか、忙しい。かったるい。めんどくさい。
でも気持ちはわかる。
この先どうなるんだろう。
どうか莉子さん幸せにしてくれよ…
長尾が引取るから大丈夫です
132 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 13:15:10 ID:HefhR7F4
でかい組織のてっぺんに座る
不自由なかわいそうな男なんだろ
女くらい我が儘を通してもいいじゃん
ほっすん
-*
Truc AI FIRE! 前
-*
どういう顔をすれば良かったのか。
どういう声を出せば良かったのか。
時間が止まる。
いや、まあ、たしかに。あたしが悪かった。
マナーがなっていない。その通りです。
油断もしていました。以後気をつけます。
でも泣かれると・・・。
あたしだって19歳になる今の今までこう言う光景を見るような経験が無かったのだから、どうしたら良いのか判らないというのが本音だ。
頭の中はなんか凄く失敗したぁってのととてつもなく気まずい感情と
なんだか心臓がバクバクするような羞恥心。
いや、この場合にあたしが羞恥心を感じるのは変かもしれないけど。
・・・はあ、でもこれはまずい。
ああ、そんな事を考えるよりタオルを渡そう。
それよりもなんて言おうか。言うべきか。
さすがにあたしにも想定外過ぎてなんていって良いのか判らない。
ガリガリと頭を掻く。
こういうのは沈黙の時間が溜まる分だけ気まずくなるんだから何でも良いから早く言った方がいい。
「あ、あの、別におかしな事じゃないからさ。ほら健康な、証拠だって。」
「うっわあああああああああああああああああん!」
ふわふわの柔らかい髪の毛。義文君の透明感のある顔立ちが青褪めてぐしゃっと歪む。
両手で顔を覆ってすすり泣く。
あぁ、まずい、これは、これはとてもまずい。
@@
いや、気をつけてない訳じゃなかったの。ホントに。
少しそのHな感じの本とか、こっそり辞書の裏とかお気に入りの模型の下に隠してたりするのも知ってるわけだし。
12歳といえばお年頃よね。女の子にも興味出るよね。少し早いのかな。
どうなんだろ。
ね。
ゴミ箱のティッシュとかもね。
こう、2重、3重に包んであったりするのがあったりするのもそれはまあ、
あたしにだって意味も?判るってものだし。
まあね、だって別にそれは変って事じゃない訳じゃない。
あんまり毎日続くと、そう云うのが普通なのかな?とか思ったりもする事はあるけどね。
だからまあ、最近はあたしなりに気をつけてはいたんだよ。
朝起こしに行く時とか、夜に水とかいる?とか聞くときとかもちゃんと部屋のノックしたりして。
いや当たり前って言えば当たり前なんだけどさ。
あたしにだってノックしないでドア開けるメイドがどこにいるって話なのは判ってるよ。
でもまあ、姉川家の3男の義文様付きって事で長くやってきたってこともあってさ。
両親に捨てられて公園でパン咥えてぼっとしてたあたしを拾ってくれて
美味しいご飯食べさせてくれて、それだけでもうけものの人生ってのは判ってるんだけど、やっぱねえ。
こう、自分で言うのも何だけれど長くいる分だけ遠慮ってのが欠けてる訳。
大体あたしが拾われたのが7歳の時だからえーと丁度義文君が産まれた年になる訳。
こう、ここまで一緒にいるとどっちかっていうとなんか年の離れた弟?みたいな感じにまあ、なる訳だしね。
でもまあ、失敗だよねえ。完全に。
こういうのってさ、こう、義文君の心に傷を与えてしまったかもしれないよね。
何だかんだいって弟みたいってのはみたいっていうだけな訳であって
別に血が繋がってる訳じゃないわけだし。結局の所あたしはただのメイドだし。
いくら懐いてくれてようがこういうのが切っ掛けで気まずくなっちゃったりしたら
あたしどうすればいいんだろうね。
どうもいつも危機感とか色々なものが足りないんだよね。
ある日いきなりクビ、とかならないよね。
お給料もあんまり溜めてないしさ。
あー洋物のギターとか買うんじゃなかったなあ。
あれはあれでとても良いものだったけれど。
お給料溜めておけば良かったなあ。
ご飯は食べさせて貰えるし、使わないで全部溜めてたらもしかしたら今頃、
小さなお店くらい持てる位にはなってたかもしれないのに。
ああ、なんか変な事考えてるなああたし。
きっと義文君も、あたし以上に気まずかったり傷ついたりしてるんだろうなあ・・・。
@@
「へえ。んで?」
クッキーを齧っていた鈴子が事も無げに言う。
あの悲惨な出来事があってから3日後、あたしは義文君との間に垂れ込める重い空気に我慢しきれず、お休みをとって友人と喫茶店に来ている。
フィッツジェリコという洋風の名前のこの喫茶店は石造りの壁がお洒落で赤みがかったランプの灯りと濃い目のテーブルクロスの取り合わせも悪くなく、
出てくる料理もそれなりに美味しく、食事の気分でなければ紅茶とクッキーのセットも値段の割りに中々という姉川家メイドの御用達の喫茶店だ。
微妙に姉川家と街の中心部とのラインからも外れており、知り合いやなんかにも会い難いというのもポイントが高い。
「いや、んでって。そう云う事だよ。」
「お風呂に顔を出したら義文様が自慰をしていたんでしょ。」
「・・・ん、う、うん。まあ、そうだね。ありていに状況を言うと。
・・・言い難い事を簡単に言うよねあんた。」
「・・・おっきかった?」
「いや、相談したのはそういう事を相談したいんじゃ無くてね。」
「大事な事だよ?」
「多 分 人 並 み だ と 思 う よ!!いい! ?
でね!あたしが聞きたいのはそういう事ではなくてね!」
「これからどうすれば良いのかってんでしょ?」
「・・・そうよ。判ってるじゃない。」
鈴子がうんうんと頷く。
今、あたしの対面に座っている鈴子は越智家のメイドをやっている。
越智家と姉川家は縁が深く、まあ要するに結構行き来が多いので自然とメイド同士も仲が良くなったりする。
特に同年齢の鈴子とあたしは話が会う事もあって、こうやってお休みが合うと一緒に喫茶店に行ったりなんかもする。
因みに鈴子の見た目はボーイッシュで可愛らしいタイプなのだけれど、
その同僚には秋乃さんという何だか形容しがたい位におしとやかな美人さんがいる。
眼つきが悪く、がさつな事に定評があるあたしはその人の事を神の如く崇拝していて、
何気に時間があると仕事、私生活の双方において色々と相談したりもしている。
どちらかというと今回は秋乃さんに相談したい内容だったので
今日も鈴子と一緒にどうですかと誘ってはみたのだけれどお仕事と云う事で断られてしまった。
案の定鈴子は真面目には考えてはくれないし。
「良いじゃん。別におかしなことしてた訳じゃないし。健康な証拠だよ。」
こんないい加減な事を言う始末だ。そんな事はもう既に言っている。
それじゃ済まないからこうやって相談しているんじゃないか。
「あのねぇ。人事だからっていい加減な事言わないくれる?
見たあたしはまだ良いけど、見られた義文君はそうはいかないでしょ。
あれ以来口も聞いてくれないしさ。」
「まあ、確かに私もそんなとこ見られたら当分は相手の顔見たくなくなるかもね。」
「・・・まあ、ね。」
まあいきなりクビとかは言われなかったのだけれども。
あれ以来義文君はあたしの顔を見るたびに真っ赤になって逃げる。
あの調子ではそのうちお付きの仕事も変えられるかもしれない。
他の仕事なんて出来るのかなあ。と、あたしは不安になる。
メイドの仕事は実に多彩だ。
基本理念としてはご主人様がお屋敷において何の不自由も無いように暮らす為のお手伝いだ。
つまり掃除洗濯炊事、それだけじゃない。
お買い物もあればお客様の多いお屋敷ならそれらの準備やあれやこれや。
ご主人様が出かければ付いていって出先でお世話する事もある。
つまり正解や明確な線引きなどメイドの仕事には無く全てを正しく行う事が仕事になる。
いや、正しいだけじゃ駄目で優雅に、作法を重んじて行う必要もある。
姉川家は特に躾に厳しい所があるから怒られているメイドを目にする事もしょっちゅうだ。
そんな中あたしの仕事は楽だった。
基本的には義文君の相手だ。そりゃ勿論やる事は色々ある。
身の回りの世話だから朝は起こして着る物揃えてお弁当作り。
まあ、お弁当はあたしのお仕事じゃ無いんだけれども義文君が仕出しのお弁当を嫌がるからあたしが作っている。
学園に送り出して忘れ物があれば学園までひとっ走り。
学校に行っている間は書類仕事に掃除洗濯、関連部署との連絡。
それからその日の夜に義文君が宿題をしている最中に聞かれた時に答えられるように多少の復習もしておく。
まあこれはそろそろおっつかなくなってきたけど。
学校が終る頃にお出迎え。時には寄り道しつつ一緒に帰って家でご飯。
ご飯の後は基本自由時間なんだけれどあたしは大抵一緒の部屋にいてお風呂に入るまでは宿題を見たりなんやかやと喋ったりする。
義文君が6歳になるまでは一緒にお風呂に入っていたけれど、
あたしのおっぱいが段々大きくなってきて
いかにもな女の子の身体になってきた頃からお風呂は自主的に別にした。
あたしは良かったのだけれど周りのメイドの目もあるしと思って、今日からは入らない。とある日そう言ったのだ。
だから今では勿論お風呂は別々だ。
義文君がお風呂から出たら頭を拭いてやり、明日の授業の準備を一緒にしておやすみなさいをする。
平日はそんな風に過ぎていく。
休日はどこかに出かければ付いていくけれどそれ以外の時間は適当にやっている。
まあ忙しいっていえば忙しい。やる事は常に沢山ある。
でも気は楽だった。他のメイドと働く事も少ないから怒られたりする事もあんまりないし。
さぼる時間は充分に取れたし。基本的に義文君と遊んでただけのような気もする。
これからあたし、厨房係とか接客係とか廻されたらちゃんとやれるのかしらん。
ぼう、と考える。
と、暫くして鈴子がじっとこっちを見ているのに気が付いた。
「何よ。」
「あのさ。若菜さ。」
ちなみに何だか洋風のサラダみたいなのであたしは自分の名前はあまり好きではない。
「何?」
「いっそのこと義文君の筆下ろしとか、してあげたら?」
ぶふぁっと飲みかけていた紅茶を吐き出す。
あたしにも筆下ろしの意味位は判る。
「な、な、」
鈴子がぴ、とあたしに紅茶をかき混ぜたスプーンを持ち上げて突きつけるようにする。
「いや逆にね、私思うわけ。そう云う時は、そう云う事は気にしてないし、
普通の事だし、恥ずかしくないんだよってのをこっちからこう、
教えてあげれば良いんじゃない?」
「・・・」
「いや私話聞いてて思うのよね。こういうのを、
なんていうの、心の傷にしてはいけないって。」
くるくるとスプーンを廻しながら鈴子が続ける。
「いやでも、義文君12歳だから。そういうのはまだちょっと。」
「いいじゃない。何の問題があるっての?機能は十分な事は見て知ってる訳でしょう?」
「あのね、機能って下品な事言わないでくれる?」
そう言いながらあたしは考える。
何だか言われっぱなしで悔しいし鈴子の云う事はどこかが決定的に間違っている気がしなくも無いが
ああいう事態を目にしてしまった際、恥ずかしくない、
少なくとも気にしてないよと教えるという鈴子の言葉は間違ってはいないような気もする。
「いやでもその、筆下ろしってのは。」
「いいじゃない。減るもんじゃなし。寧ろ若菜からそうやっていけば結構あれかもよ。
若菜眼つききついけどすっごい美人なんだし、本当に見られたことなんて忘れちゃうかもよ、義文君。」
しれっと言う。
あたしが美人な訳が無いだろう。背はにょっきりと高いし、
何故だか全体的に身体の色素が薄い所があって髪の毛も茶色い。
眼球がガラスみたいと言われるのはまあ、悪くは無いけれど眼つきは自分でも悪いと思う。
いやいや、そんな事はいい。
いや、しかし。しかしなあ。
「いや、その、鈴子。」
「いいじゃない。そうしなよ。あ、結構本当にいい案かも。
義文君も若菜が最初なんて、女を見る目付いちゃうんじゃないかなあ。
もうそう簡単には変な女の子に靡かなくなっちゃうかもよ。」
「そもそも義文君は変な女に靡いたりはしません。でもね、あのさ、鈴子。」
「何?」
「いや、鈴子の意見は意見として、そうするとも決めてないんだけど。
まあでも聞いたよ。一理あるかもしれない。ただね。」
「うん。何?」
「勿体つけるわけじゃないんだけどさ。経験無くても出来るもんなのかな。それって。
鈴子はあたしの顔を見て、指先で振り回していたスプーンを落としやがった。
@@
「え、嘘、本当に?え?本当?嘘でしょう?若菜、したことないの?」
鈴子が本気でびっくりした、という顔であたしを見る。
なんだかとても腹が立つ。
こちらもぴっとスプーンを鈴子に向ける。
鈴子がやるからついやってはみたもののこのスプーンを相手に向けるのはなんだかとてもはしたない事をしている気がする。
会話の方がもっとあからさまにはしたないから気にしない事にする。
「じゃ、じゃあ、なに?鈴子、あんたはあるっていうの?」
偉そうに普通はあるよみたいに言ってるけどさ。と思いながらそう言うと
「あるよ、当たり前じゃない。何歳だと思ってるのよ。」
と即答される。
腹が立つと共にショックを受けた。鈴子はあるんだ。そういう経験。あたしと同じ歳なのに。
何だか負けた気分だ。
「えーー。嘘。いやーうちのとこ、若菜は経験豊富に違いないって皆でいってたんだけどなあ。吃驚したなあ。そうなんだ。へえ。」
「ちょっと待ってちょっと待って、皆があたしについて何を言っているのかは知らないけど、適当な事言ったら怒るからね。」
「えー、言わない言わない。えーでも凄いなあ。知らなかった。若菜は見た目大人っぽいからなあ。男連中なんか、高嶺の花で手が出ない、とか言ってたよ。若菜の事。
そうかあ。そうなんだ。疑いもしなかったなあ。」
興味津々といった風情で目を輝かせている。信用が置けない。
「本当に誰かに行ったら怒るからね。大体別にしてるのが偉いってわけじゃないでしょ。
秋乃さんだってこの前、女の子の操はこれと決めた人に差し上げるものなのにねえ、
って置いてあった雑誌読みながら溜息吐いて」
「秋乃も処女じゃないよ。」
「ええぇ・・・」
力が抜ける。
「当たり前じゃない。何言ってるのよ。」
反撃しかけてまたも殴り返すようなショックな言葉を返される。
秋乃さんも?
いや、あれほどの美人なら男の人は放ってはおかないだろうけど。
がっくりと首を折ったあたしに鈴子がいぶかしげな声を掛けてくる。
「え、でも本当に無いの?声とか掛けられない?若菜、お客様とか。」
「いやまあ掛けられるけど。でも別に声掛けられたからそうなるって訳じゃないじゃない。」
「お客様いい所の人ばっかりでしょう?
しかも義文君付きだったら色んなとこも付いて行くでしょうに。」
「まあね。色んな所行くよ。」
「じゃあそういう所で出会った人に誘われたらどこかに行く約束でもすれば良いじゃない。」
「あのね。そういう所には仕事で行くの。義文君のお付で行ってるのに声掛けられて約束なんてできるわけないでしょう?」
あたしがそう言うと鈴子は心底呆れた顔をした。
「だったら若菜、あんたいつ相手見つけるのよ。」
それ、あたしが変なの?鈴子の話を聞いてるとあたしが変みたいだ。
「いつって・・・」
つい口ごもると鈴子が被せてくる。
「普通のメイドは、そういう所で相手を見つけるの。もういいよ。
じゃあさ、私の所で義文君みたいな子、いいなってメイド沢山いるからさ、
そういうのに頼もうか。きっと喜んで」
「駄目に決まってるじゃない。何言ってるの?」
「なんで?」
「だって・・・そういう話じゃなかったでしょ?あたしがその、義文君の・・・」
「自慰をお風呂場で見ちゃって♪」
「・・・鈴子?」
「ね、どんなんだった?手でするんだよね?どんな風にするの?」
「・・・・鈴子?」
「・・・判った。ごめん。で?」
「いやだからそれで、気まずくならないようにって話でしょ?
なんで鈴子のところのメイドが義文君にちょっかい出す話しになるのよ。」
鈴子がスプーンを咥える。夕暮れ時で店内はやや暗くなって、鈴子の形の良い前髪にランプの灯が当たる。
「少なくとも義文君が女の子の事知れば、少しは気まずくなくなるかもよ。
ほら、そういうのって知らない時が一番過敏なんだからさ。
一度経験しちゃえばなあんだって思うかもしれないし。
若菜が気にしてないってさりげなく言ったっていいしさ。
初めての女の子からそう言われれば義文君だって」
「駄目。」
「なんで?」
かちゃんとスプーンを置く。
「駄目。やっぱこの話無し。」
「ねえ、なんで?」
鈴子が変な目をしてあたしの事を笑う。
@@
ゆっくりと上からなぞる。
「んっ!」
声が出る。シーツを噛み締めて、脚をゆっくりと開いてみる。
ひっくり返った蛙みたいなはしたない格好。
確かに、これは、見られたらとてつもなく恥ずかしいかもしれない。
行為そのものも然る事ながら、格好とかそういうのも含めて。
思い切ってぐっと脚を開く。
自分でやった癖に恥ずかしさであっと声が出そうになる。
シーツに包まれて、その中でこうしただけでもあたしはこれだけ恥ずかしいのだ。
お風呂場で、手を上下させていた義文君を思い出す。
じんわりと濡れてくる。凄く一生懸命手を上下させてた。顔を少し紅くして。
そしてあたしがびっくりしていると、ふとこちらを見て、そして顔を青褪めさせたのだ。
なんだか酷い罪悪感を感じた。
どれだけ恥ずかしかっただろう。
今気が付いたけれど、もしかして、あたしが軽蔑したとか思ってたらどうしよう。
あたしが今これを見られて、そして義文君が固まっていたらあたしはきっと義文君に軽蔑されたと感じるかもしれない。
もし同じようだったら。
ちょっと真面目に考えてみる事にして、シーツを捲くって起き上がった。
灯りを点けて、寝巻きを脱いで、いつものメイド服に着替える。
あたしの部屋は義文君の部屋と隣同士だ。
呼ばれれば直ぐに行ける様、あたしと義文君の部屋を繋ぐ扉もある。
義文君が用があるとベルを鳴らし、そうするとあたしはドアを開けて義文君の部屋へと行く。
あたしとお風呂を一緒にしなくなった頃から義文君がそのドアを開けてこっちにくる事はなくなった。
用がある時にはベルを鳴らしてあたしがその扉を開く。
あたしのおっぱいが大きくなってから。
そして今度はあの日以来、ベルも鳴らされなくなってしまった。
なんだか改めて考えてみるととても寂しい気持ちだった。
昔は良かったなあ、と思う。義文君は怖がりで、雨の日とかは良くこっそりあたしの部屋に来てベッドに潜り込んできたのだ。
一人で寝なきゃ駄目じゃない。なんてお説教をしながらあたしは温かいふわふわの子犬みたいな義文君を抱っこして寝た。
灯りに照らされた部屋の中で、すい、と扉に向けてスカートを捲くってみる。
床に映るあたしの影もスカートを捲くる動きをする。
ほら、今扉を開けたら若菜さんの恥ずかしい姿が見えちゃいますよー。
凄く恥ずかしいですよー。
しん、としている。
はあ、と息を吐く。
こう云う時、どうすべきなのだろうか。
自慰位、だれだってするよ、気にしないで。
全然、あたし、気にしてないから。
どれ言われてもあたしだったら泣きながら「見られた人間の気持ちなんて判るはず無いんだ!」とか言って喚きそう。
思わず鼻から溜息を漏らす。
鏡を見る。
色素の薄い髪、ひょろひょろと高い背。きつく見える目。
まあ、姉御肌とか言われるし、着物は似合ってるといわれるし(賭場にいそうとか言われるけど)、
顔は多少は整ってるのかもしれないけど。
19歳。純潔は守ってきました。
まあ、秋乃さんなんかとは違って守ってきたっていうか、ねえ。
そういうのあんまり考えてなかったな。
毎日美味しいもの食べれて幸せ。とかそんな事ばっかり考えてたような気がする。
どうすべきなんだろうあたし。ここんところずっと、思考がばらばらに乱れている。
頭の中をまとめよう。
少なくとも一つ決まっている事がある。
これはあたしがちゃんとしなくちゃいけないことだって事。
本当に傷ついてるかもしれない。
怒ってるかも。あたしに何が出来る?
少なくとも話は出来る。
それとも口も聞きたくない?
いや、出来るはずだ多分。
きっと。
悩んでいてもしょうがない、と踏ん切りをつけてええい、と扉を叩いた。
「ねえ、義文君起きてる?」
こういう大雑把な自分は、実は嫌いじゃあなかったりする。
<つづく>
---
後編は書きあがったら投下します。
以上です。では。
ノシ
GJです。後編期待
しかし12歳か……処女が相手でも筆下ろしと言うんだろうか
GJ!
なんか姉御肌のひとが実は処女とかいいな。
ご主人さま。今夜はクリスマスイブです。
154 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/30(水) 10:42:48 ID:PV2t2DO+
保守でっせ
あけおめ。
幼馴染がメイドになる話を書いていたはずが、いつのまにか
そのメイドが友人に寝取られて、友人に仕えていた幼馴染メイドの妹が代わりにメイドとしてやってくる…という話になっていた
続きを書けば書くほど鬱展開で最悪の正月だぜ
156 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 09:32:04 ID:jnvme1LP
保守
『メイド・莉子 9』
金曜の夜、離れに帰ってくるとメイドの制服を着た莉子が飛び出してきた。
「おかえりなさいませ、旦那さま」
俺の手から弁当の袋を奪い取る。
え、莉子、もう仕事してるのかよ。
「はい、それはもう、すっかり元気になりましたし、お休みしてましたらお給料をいただけません」
テキパキと俺の世話をしようとするけど、やっぱりぎこちない。
「いいって、俺のことはしなくても!」
メイド長が軽い仕事を回してくれるのでラクチンです、今日なんてずうっと座ってさやえんどうの筋をとったり、銀食器をみがいたりしてました、としゃべる莉子を、まじまじと見る。
本当のことを、言っているか、どうか。
実際は、執事やメイド長にお勤めを辞めろとか言われてるんじゃないだろうな。
「旦那さま、お弁当はいついただきますか。今日は、ピアノも教えていただけますか」
弁当は、食ってもいいけど。
ピアノ、ねえ。
莉子は、子供の頃にピアノを習いたくて、見学に行ったピアノ教室で俺にひとめぼれしたという。
俺はさっぱり覚えてないけど。
結局、ピアノを習えなかった莉子に、俺はピアノを教えてやると約束していた。
半年以上のブランクを経て鍵盤を前にした天才少年ピアニストは、期待に目を輝かせたメイドを前にちょっと緊張さえしたもんだ。
音符を飛ばしながら簡単な曲を弾いてやってから、莉子に席を譲った。
初心者の不器用さに愕然とするのは、その直後だ。
なんで、右手と左手が同じ動きしかできないんだ。
指を動かしたら足が動かないのはなんでだ。
楽譜をいつもドから数えないとわからないのは、どうしてだ。
「やっぱり、わたくしが下手なので、もういやになってしまったのですか」
うん、とは言えない。
自分が習い始めのころのことは覚えていないけど、誰でもこんなもんかもしれないしな。
莉子は、弁当の袋ではなく、端がボロボロになった楽譜を抱きかかえていた。
俺が、最初の一曲に選んだ『チューリップ』。
こんなの寝てても弾けるのに、莉子はまだ左手が動かない。
「じゃあ、弁当食ってからちょっと弾くか」
「はいっ」
ケガのせいか、まだちょっとぎこちない動きで、莉子が楽譜を置いて弁当の紙袋を取り上げる。
楽譜には、なにをこんなに書くことがあるんだというくらい、びっしりと書き込みがしてあった。
莉子のヤツ、勉強してたのか。
いそいそと弁当のフタを取って、莉子が歓喜の声を上げた。
弁当を置くのはそうっとそうっとなのに、なんでとんでもない勢いで俺に飛びかかって来るんだよ。
「旦那さま、旦那さま、これは間違ったご注文ではありませんよね?」
あたりまえだ。莉子の大好物のトリプルハンバーグ弁当だぞ。
ソファの背もたれにしたたか腰を打ち付けて涙目になりながら、俺は莉子の頭をゲンコでコツンとした。
腕の中で莉子が目を丸くして俺を見上げながら、あごにひとさし指を当てた。
「でもわたくし、旦那さまがどうしてもとおっしゃるならひとつしかないこのウサギさんのカマボコをお譲りしてもいいです」
バーカ。
ちくしょう、やっぱりかわいいじゃねえか。
莉子の弾くあまりに個性的で芸術的な『チューリップ』に頭を抱え、出来の悪いピアノのお仕置きをベッドでみっちりやっていたら、寝坊をした。
とっくに起きて母屋の仕事をしていた莉子に見送られて、車を出す。
起こせよ、バカメイド。
土曜の恒例行事。高速を飛ばして、陽子さんが入院する病院へ。
こうして窓の横を流れていく景色を見てると、錯覚しそうだ。
陽子さんが一度目を覚ましたことも、莉子に対してむき出しにした敵意も、全部なかったことなんじゃないかって。
個室のドアを開けると、目の前に桜庭美月が立っていた。
これは、陽子さんが一度目を覚ます前にはなかったことだな。
「いらしてくださってたんですか」
正直、もしかしているかなとは思っていたけれど。
美月は小さいハンドバッグと、紙袋を提げていた。
ひとつにまとめて細いリボンをつけた髪が、俺のあごの下で縦に振られる。
「今日は那智さんはいらっしゃらないのかと思いました。失礼しようと思ってたので、どうぞ」
ドアの前を譲るように、美月が体をかわす。
莉子より頭半分、背が高い。
肩はもっと華奢で、薄い緑色の洋服からは細い胴とウエストが想像できた。
俺が動かないのでとまどっているのか、そっと自分の髪に触れた指は長い。
手首の細さのわりに大きい、ピアノ向きの手だな。
美月なら、チューリップくらい寝てても弾ける。
それどころか、総譜を見ながら交響曲について語ることもできるだろうな。
「もし時間があるんだったら、もうちょっといませんか」
気がついたら、そう言っていた。
美月の白い頬に、ぱっと朱が差した。
いや、えっと、だって、陽子さんは眠っているわけで、話しかけても独り言だし、相手がいたほうが話題もあるし。
俺のしどろもどろの言い訳に頷いた美月は、陽子さんの枕元、俺の隣りに腰を下ろした。
「お忙しい、ですよね」
しつこく俺が言うと、美月はくすっと笑う。
むひょ、とかうにゃ、とかいう笑い方はしないんだな。
当たり前だけど。
「仕事も見つかりませんし、時間はたくさんあります」
ピアノの先生というのも、再就職は厳しいのか。
「……でも、桜庭エンターテイメントのお嬢さんなら、なにも」
働かなくてもいいのに、という言葉は飲み込んだ。
「兄が口を滑らせたんですね」
あ、しまった。
形のいい眉をひそめていた美月が、俺の慌てたのを見てころころと笑った。
へえ、こういう笑い方もするのか。
「冗談です。でも、働いた方がいいですよね。人間として、バランスがいいというか」
……なるほどね。そんなもんかな。わかんないけど。
「那智さんは、すごいですよね」
陽子さんの顔を覗き込むようにしてちょっと微笑んで、美月は俺を見ないで言った。
「すごい?」
「タカシナの社長なんて、誰にでもできることじゃないですし」
俺に出来ることでもないような気がするんだけど。
「野球も」
へ?
「野球も、熱心にやってるって兄が。兄なんて、少年野球でちょっとやっただけで、今はただ運動不足解消にやってるんですって。お腹が出てしまうからって、ふふふ」
俺だって、そんなに熱心じゃないけど。
莉子にホームランを打って見せる約束があるから、やってるだけだ。
「それにお義母さん思いだし、優しいし……」
言われる言葉がくすぐったい。
俺はそんなに立派じゃない。
今、陽子さんが眠っているのだって、俺のせいかもしれないんだ。
陽子さんは、前と同じように眠っている。
まつ毛の長い目を伏せて、規則正しく息をしている。
だけど体にはいくつもの管がつながれていて、その目も唇も開くことはない。
それはたぶん、俺のせいで。
俺が……。
俺が黙り込むと、美月はそれ以上何も言わずに冷蔵庫からポットを出してグラスにお茶を注いだ。
「どうぞ。……あ、温かいほうがよかったかしら」
「あ、いや。ありがとう」
グラスを受け取るときに、美月の手に触れた。
俺は、思春期の少年みたいに手を引っ込めてしまった。
美月の指先は、ピアニストの指先だった。
あれ。
美月は、俺のことを誉めようとする人なら十人が十人、必ず言うことを言わなかった。
天才少年ピアニスト、高階那智のことを。
冷たい紅茶が、喉に流れ込む。
莉子の弾く、バラバラのチューリップ。
俺がいくつもの舞台で弾いてきた、たくさんの曲。
拍手をくれた、たくさんの観客。
苦笑いの、オーケストラ。
客を集められる子どもの機嫌を取る興行主。
俺を見ない指揮者。
そうだよな。
ちょっと音楽が好きな、小さい子どもがかわいらしく指を回すのを見るのが好きなお客ならともかく。
基礎からちゃんとクラシックをやった奴が、俺のピアノなんか評価したりしないよな。
「那智さん?」
呼ばれて、自分がちょっと笑ってるのに気がついた。
「美月さんは、やっぱり音楽の仕事を探してるんだよね?」
あ、残念ながら俺にどこか紹介してやる当てはないんだけど。
「そうですねえ、でも今は少子化でピアノを習いたい子どもも少ないですし、教職の空きもなくって困ります」
ふふふっと笑いながら、美月の長い指が空中で鍵盤を叩く。
嬉しそうに、楽しそうに。
鼻歌で曲を当てながら、指先と足の先が演奏をする。
俺、ピアノ弾くのにこんな顔したことあったのかな。
失業中の桜庭美月ほどに、ピアノが好きだったかな。
「今度、なにか聴きたいですね。うちの離れにはまだピアノ置いてあるんで」
空中で演奏する手をぴたりと止めて、美月が驚いた顔を上げた。
いや、驚いたのは俺のほうなんだけど。
俺って、お愛想とはいえ、こんなことすらっと言える人間じゃなかったはずだ。
「ぜひ」
にっこりされて、俺は心臓がバクバクした。
お先に、と病院を出たはずの美月が駐車場で車の周りをうろうろしているのを見つけたのは、つまむものを探しに売店へいく途中の廊下から外を見たときだった。
運転席のドアを開けて体を半分入れたり、車体の下を覗き込んだりしている。
どうやら、車の調子が悪いらしい。
俺はエレベーターで下へ降りた。
「どうかしましたか。上から見えて」
声をかけると、美月がほっとしたように笑った。
「エンジンがかからなくなったんです。私、こういうのってさっぱりわからないの」
俺だってさっぱりだ。
機械に弱いだけじゃなくて、お坊ちゃん育ちだからこういうトラブルの対処にも弱い。
どこか、修理屋みたいなところに連絡したらいいのか。それってどこだよ。
すっかり安心したような美月の様子を見たら放り出すわけにもいかず、俺は屋敷に電話して執事に手配を頼んだ。
「那智さんに気づいていただいてよかった。ほんとはかなり途方にくれてたんです、私」
修理屋が来るまで病院のロビーで自販機のカップコーヒーを飲みながら、美月が何度も礼を言う。
「地下駐車場に止めてたら見えなくて気づかないとこだった。それより、すぐ戻ってきてくれればよかったのに」
「でも、ご迷惑ですから」
「とんでもない、お世話になってるのはこっちなのに」
遠慮しあって、それがおかしくて、俺も美月も笑った。
もし今度なにかあったらすぐに、と携帯の番号を交換した。
初めて、自分でゲットした女の子の番号だ。すげえ、俺。
結局、美月のワーゲンはレッカーされて行き、俺は美月を乗せて帰ることになった。
「ほんとに、ほんとに良かった。那智さんが来て下さる日で。……車も」
初めて助手席に女の子が乗っている情況に緊張しながらハンドルを握り締めている俺に、美月はちょっとうつむいたまま話す。
沈黙が重苦しくならないように、話がうるさくない程度に。
ちょうどいい距離感と、ちょうどいい温度に、俺はほっとする。
「……那智さんの車でドライブなんて、夢みたい」
柔らかい声。
「でも、彼女に怒られたりしません?私がここに座ったりして」
冗談めかして、少し親しみをこめて。
「嘘、那智さん今ほんとにお付き合いしてる方いないの?」
喜んでるように聞こえるのは、俺のうぬぼれか。
「お忙しいんですものね。陽子さんが心配してらしたの、気のせいだと思ってたけど」
女の子といて、こんなに緊張しないのって珍しい。
「陽子さん、元気になったら真っ先に那智さんのお相手を探しそう」
耳に心地良く、美月が笑う。
お相手なら、陽子さんはもう、探してるのかもしれないと思ってたけどな。
冗談に冗談を返したつもりだったのに、美月は黙ってしまった。
え、あ、あれ。
……あれ?
美月?
なりゆきで、俺は美月を連れて帰ってきた。
離れに車をつける。
「こちらから来るの、初めてです。ちょっとロココ調かしら」
庭や離れの造りを眺めて、美月がにこっと笑った。
俺には洋風、としかわかんないけど。
帰ると連絡しなかったから、莉子は母屋にいるかもしれない。
今のうちにこっそり、いや、なんで自分の部屋に帰るのにこそこそしないとならないんだ。
「おかえりなさいませ」
ドアを開けるなり、声をかけられて俺はびくっとした。
「いらっしゃいませ」
業務用の微笑で、規則どおりに頭を下げた莉子が、俺の手から陽子さんの着替えの入った紙袋を受け取る。
今日のお弁当はなんでございますか、わたくし当ててみせます、お弁当にしますかピアノにしますかそれともわたくし。
莉子はいつもまくし立てるそんなセリフをひとつも言わず、美月の前にスリッパを整えた。
いや、別に、これは深いわけもなくて、いつも陽子さんが世話になっている人をだな、その。
俺が必死で目で語っているのに、莉子の奴は見向きもしない。
莉子は、俺の部屋でいつも寝転がって弁当を食うソファに座った美月にお茶を出すと、そのまま頭を下げて出て行った。
……怖え。
なんかわかんないけど、この後めんどくさいことになる気がする。
昨夜、あんなにわふわふと俺の体をむさぼっていた莉子が、拍子抜けするくらいきちんとメイドの仕事をしたのが不気味だ。
でかすぎるテレビを前に、俺は美月と並んでお茶を飲んだ。
「お茶ばっかりだね」
病院からこっちで三杯目だ。
美月がほんとに、と笑う。
トイレは一番奥の寝室なんだけど、廊下のを案内したほうがいいだろうな。
美月は俺にトイレなんて言い出しにくいだろうし、どうしよう。
「あー、ピアノはこっちなんだけど」
俺が言うと、美月はカップを置いてさっと立ち上がった。
莉子がきちんと蔵書を隠しておいてくれてよかったと、つくづく思った。
美月は恐る恐るグランドピアノの前に座り、フタをあけて布を取る。
どうぞ、と勧めるとぽろん、と鳴らした。
「いい音……。弾いてらっしゃるのね」
まあ、最近はちょっとだけ。
指を慣らすようにしてから、美月は短い曲を弾いた。
明るくて優しくて、かわいらしい演奏だった。
「ちょっとミスしちゃった」
照れたように、美月が肩をすくめた。
「うちにあるピアノとは全然音が違うわ……、こう、奥のほうから揺さぶられるみたいな」
そうかな。俺はあんまりわからないけど。
それなら、また弾きに来る?
ああ、なに言ってるんだ俺。
「そんなに優しいこと言ったら、私、ほんとに来ちゃいますよ?」
どうぞどうぞ。俺もまたちょっとやりたいし。先生がいると助かるよ。
それじゃ、先生もちょっと練習しておかないと、と美月はまた笑った。
よく笑うんだな。
そのきれいな横顔を見ていると、美月はまた一曲弾いた。
今度は、せつないような悲しげな、でも優しい音だった。
美月の譲った椅子で、俺はもっともっとやさしい簡単な練習曲を弾いた。
緊張して、間違いだらけで、俺と美月はものすごく笑った。
ピアノでミスしても叱られないなんて初めてで、楽しかった。
小一時間ほどで、俺はまた美月を桜庭の家まで送っていった。
帰りに、サザンクロスデリバリーの本店まで行って限定デラックス洋風弁当を買った。
後ろめたさを隠すように、デザートのプリンアラモードも追加で。
離れに戻ってから、莉子を探す。
なにやってんだよ、弁当だぞ。
匂いを嗅ぎつけて飛んでこないかと、廊下で紙袋をパフパフしてみた。
「おかえりなさいませ、旦那さま」
後ろから襲うんじゃねえよ、びっくりするじゃないか。
襲う……、おそ、襲わないのかよ。
莉子はただの荷物を受け取るように俺から弁当を受け取り、ちょっと後ろを歩く。
なんか、拍子抜け。逆に不気味。
部屋に入って、上着を脱いで、ソファに腰掛けても莉子は……、襲ってきやがった。
俺に飛び込むな、痛いから。
「旦那さま、旦那さま、おきれいなお嬢さまでしたよね」
いきなり核心を突くんじゃねえよ。
「おしとやかでお上品で、そりゃもう、奥さまが旦那さまのお嫁さんにと選んだだけのことはございます」
え。
なななななな、なに言ってんだよ。
俺は全身の毛穴を全開にして、はあっ?と言い返すのが精一杯だった。
「メイドたちは大騒ぎです、奥さまのご容態次第では、もうすぐにでもコトブキな行事があるのではないかと」
ソファの上に押し倒されて、くっつきそうなくらい顔を近づけて、莉子はにこっとした。
「プロポーズは、なさいましたか」
ババババババババカメイド、なに言ってる。
「わたくし、旦那さまにお嫁さまがいらしても、こんがりやきもち焼いたりいたしませんから」
……え。
莉子が俺の胸にぱふんと顔を伏せた。
真下を向いて伏せてるから、鼻が潰れてるぞ。
「高階さまくらいのおうちで、タカシナくらいの社長になりますと、奥さまの他に2号やら3号やらいても普通ですよね」
……は?
あの、莉子さん?
「やっぱり、3号4号と増えていきますと、一人あたまの回数といいますか、そういうのが心配ですけど」
は?は?は?
「でも、できればわたくしのことを2番目にしてくださるといいんですけど」」
おい、莉子。
それ以上、なんか言うと俺、混乱してなにするかわからないぞ。
ほっぺたを両側からつかんで、思いっきり横に引っ張った。
「ほげ……、いはい、いはいれふ、らんらはら……」
手を離すと、莉子はほっぺたを両手で押さえて目に涙をためた。
「はあ、痛いです。旦那さま」
うるさい。黙れ。
なに考えてんだよ、さっぱりわかんねえよ。
「だいじょうぶです。わたくし、もし3番目になったからって旦那さまのことヘチマで追いかけたりしませんから」
そういうことじゃないだろ。
なんで、俺が美月を本妻にして、莉子を妾に囲うことになってんだよ。
お前、俺のこと大好きなんじゃなかったのかよ。
「あ、わたくし、ちゃんとここでお勤めもしますから、あんまり費用はかかりません」
メイドがバカすぎて、言葉も出ない。
「いひゃ、いいひゃいいひゃいいひゃいれふっ」
俺はまたおしゃべりなメイドの口の中に指をつっこんで、両側に目一杯ひっぱってやった。
「い、痛いです、旦那さま、なにをなさるんですか、もう」
なになさるんですかはこっちのセリフだ、バカメイド。
俺に考える時間をよこせ。
「俺はあの人……、桜庭さんにプロポーズなんかしてないし、全然そんなんじゃねえよ」
疑わしい目で俺を見るな、近づくな、かわいいじゃねえか。
莉子を膝の上に乗せて、子猫みたいになでまわしてやった。
ふにゃん、と甘えてきたところで抱きしめて、キスしようとしたら恐竜が吠えた。
「……腹、減ってるのかよ」
「旦那さま、デリカシー……」
ねえよ、そんなもん。
俺はやっとほっとして、笑いながら莉子を膝から落とすと、弁当を持ってこさせた。
サイコロステーキをメインに、野菜のグリル焼きや蒸しエビ、イカリングフライにキノコのマリネなんかを次々と莉子の口の中に落としてやった。
おいしいです、と言いながら、莉子はあまり食が進まず、弁当を大分残しているのに俺の膝から下りた。
「なんだよ、具合悪いのか。まだプリンが」
うげ。
急に抱きつかれる。
「なんだよ、おい」
「約束してください。わたくしのこと、2号さんにしてくださるって」
バカメイド。
なに考えてんだよ。
メイドが主人の2号になりたいなんて、おかしいだろ。
まあ、莉子はただのメイドじゃなくて俺の特別だけど。
特別だったら、なんかこう、もっと、別のお願いがあるんじゃないのかよ。
「ですけど、ですけど、わたくし、ふゃあん……」
泣き出しやがった。
ああもう。面倒くさいな。わけわかんねえ。
莉子の背中に手を回して、ぽんぽんしてやった。
俺がちょっと、桜庭美月だったら、高階のお嫁さんとしてうってつけだと思っていたことが莉子にバレてたんだろうか。
美月だったら誰も反対しないし、家のこととか奥さま会のこととか、俺が面倒なことも全部引き受けて、きちんとやってくれるかなーって。
桜庭がバックアップしてくれたら、俺が頼りない分もフォローになるんじゃないかなーって。
俺が、ややこしいことを人に押し付けたいだけの甘ったれだって、莉子にわかってるんだろうか。
莉子の顔を覗き込むと、泣いてぐしょぐしょになって鼻水が垂れていた。
色気もかわいげもない。
ティッシュを引き抜いて、顔中を拭いてやる。
まっ赤な目をして、化粧が崩れて、ひどい顔だ。
だけど、やっぱりかわいいよな。
全然美人じゃないけど、俺には莉子がかわいく見える。
それって、やっぱり好きってことなんだろうな。
美月といるのは楽しいけど、美月のことかわいいとは思わない。
ワガママで食いしん坊でバカで不器用なメイドだけど、どこがいいのかわからないけど、俺は莉子の事が好きなんだろうな。
しょうがねえな、まったく。
……初恋パワーって、俺にもあるのかな。
もっと拭いてと言わんばかりに顔を向けていた莉子が、まつ毛をパタパタした。
「なんでございますか」
なんでもねえよ。
たぶん、莉子が俺の初恋だってことなんか、一生誰にも言えない。
24になるまで、誰のこともちゃんと好きになったことがなかったなんてさ。
だから、なんでもない。
なんでもねえけどさ、莉子。
今日、ピアノ弾く?それとも。
「昨日も、いたしました」
したけど、できるよ、俺。
くふ、きゅふきゅふ。
お元気ですね、旦那さま。
いいじゃねえか。いやなのかよ。
とんでもございません。ただ。
ただ?
連続だからって、手抜きはいけません。それはもう、みっちりとねばっこくしつっこく。
注文が多いな。
でも、やるよ。
莉子は俺の顔を見つめたまま、もう一度まつ毛をパタパタする。
「旦那さま?」
「……わかってるよ、みっちりとねばっこくだろ」
くひゅくひゅ、と機嫌を直した莉子が笑う。
「旦那さま、わたくしのことほんとに2号さんにしてください」
……今やめろ、そういう話。
せっかく、めんどくさい話をごまかそうとしてるのに。
「でも、旦那さまがよくっても、奥さまになる方がいやだとおっしゃったら、どうしましょう」
バスタブにお湯を溜めながら、風呂場に声を反響させて言う。
後ろから蹴ったら、莉子はバスタブに落っこちかけてずぶぬれになった。
「ひどいです、旦那さま」
「そうだろうそうだろう、ほら風邪を引く前にさっさと脱げ」
「やあん」
やあんじゃねえよ、タカシナの社長の2号ともなればな、健康診断が必要なんだ。
「でもでも、今までもいっぱいお調べになってますよね」
俺は、びしょびしょになって体に張り付いたメイドの制服を引っぺがした。
「まだ、足りないんだ。莉子のこと、なんにもわかってないんだ」
くるんと剥かれて、莉子は嬉しそうに身をよじった。
俺は莉子に服を脱がされて、バスタブに突き落とされて、目にも耳にも染みるくらい泡だらけにされて、嫌いなヘチマで背中と足の裏をこすられた。
なんで莉子は、俺の奥さんになりたいって言わないんだろう。
俺と結婚すれば高階の奥さんだし、今みたいなメイドの仕事なんかしなくていいし、小言を言うメイド長だって執事だって、今度は莉子の命令をきくんだし、今よりいいもの食べて、いいもの着て。
「旦那さま、集中です」
あ?
ボンヤリしていると、莉子がぷくんとほっぺたを膨らませた。
「気を散らさないで、ちゃんとしてください、ほら」
バスタブの栓を引っこ抜いて、莉子が俺を立たせる。
だけど、だけどもし莉子が俺に結婚してくれって言ったら、俺はどうするんだろう。
莉子に、高階の奥さんが務まるのかな。
親戚とか会社の重役とか、なんて言うだろう。
「だーんーなーさーまっ」
俺の頭からバスタオルをかぶせたまま、莉子が俺の手を引いた。
前が見えねえよ、危ないって。
うお。
突き飛ばされて、俺はベッドに転がった。
なにしやがるんだ、まったく。
上から莉子がダイブしてくる。
「旦那さま。難しいこと考えてますか。お仕事ですか、おきれいなお嬢さまですか」
どっちでもない。
「いけません、今はわたくしが独り占めです。……わたくしだけの、旦那だまでふ」」
言葉の最後を、ちょっと噛んだ。
莉子に首筋や肩先を甘噛みされながら、俺は何の根拠もなく莉子の耳もとで呟いた。
「心配しなくて、いいよ。バカ」
う。
莉子の指が、俺の弱点を捕まえる。
ピアノよりうまいじゃねえか。
上に乗った莉子が、俺の上半身をくまなくなでたり舐めたり噛んだりする。
だんだん下がってきて、ちょっと期待したのに脚のほうに移動した。
バカメイドのくせに、いっちょまえに主人を焦らすつもりらしい。
ちょっと膝を立ててやると、莉子のあごに当たる。
「あうん、いけません旦那さま」
ずりずりとよじのぼって来て、俺の顔を見下ろす。
「あんまりわたくしの顔をひっぱったり、ゴツンってしたりしますと、顔が変になります」
今は変じゃねえのかよ。
「今より、です」
そう言いながら俺のほっぺたに噛みつくなって。
「もし、もしですよ?旦那さまがわたくしのこと2号さんにしてくれる気になったとして」
また、その話かよ。
「わたくしの顔がその時あんまり変になってたら、反対されるかもしれません」
わけのわからないこと言いながら、莉子がせっせと俺の乳首をつまんでいる。
「タカシナの社長ともなれば、2号さんにはもっときれいな人を選んだ方がいいとか言われます」
あー、そういうもんか。
「まあ、わたくしは3号でも4号でも、文句を言ったりはしませんけど」
うん。気持ちいい。
「でもあんまりお妾さんがいっぱいいると」
莉子の手が下がってくる。
「わたくしのところに回ってくるのが、何日にいっぺんくらいになるか心配ですし」
あ、そこ。
「今はまだお若くてお元気ですけど、お疲れになっちゃったりしてあんまり出来ないとか困ります」
うん、すっげー元気。
莉子、コツをつかんでるじゃねえか。
「れふから、あんまり、わらくしの顔を変にしらいれくらはい……」
うんうん。あー、咥えられた。食われる。
おう。
莉子の舌遣いが、たまらない。
先っぽをぐりぐりしたり、下から舐め上げたり、全体を吸い上げたりする間に手で袋をそっと揉む。
あー、あー。
もちょっと強くしてくれ。
そしたら、イク……。
う。
なんで止めるんだよ、バカ莉子。
「気持ちいいですか、旦那さま」
うん。だから、もちょっと。
「落っこちちゃいますか」
うんうん、落っこちたい。
両手を交互に使いながら、莉子が本格的にしごき出した。
う、うあ、あー。
すげー、いい。
こういうの、いいとこのお嬢さんにはしてもらえないんだろうな。あ。うう。
「旦那さま、旦那さま」
なんだよ、今いいとこ。
「旦那さまが落っこちたら、わたくしのことも」
うん、うん、してやる。
「……あん」
してもいないのに、人のをしごきながら艶かしい声だしてんじゃねえよ。
色っぽいじゃねえか。
「うん……」
なんで莉子があえいでるんだ、それ、すっげえいいじゃねえか。
あ。
いい、それ、もちょっと。あ、そこ。
思わず、腰が浮いた。
背骨からしびれるような気持ちよさ。
全身の感覚が、1ヵ所に集まって、俺は莉子の手の中に射精した。
残らず搾り出すように莉子がしごいて、俺は気持ちよく落っこちた。
あー、すんごい良かったです、莉子さん。
ちょっとかったるくなったので、もちょっとなんかこう、アフターケアみたいのいいですか。
「あん、ずるいです」
言いながら、莉子は俺の隣りにぺったりとくっつくように横になって、耳たぶをはむはむした。
うっとうしいような、けだるいような、気持ちいいような。
しばらくそうしてから、俺は莉子の体に手を伸ばした。
待っていたように、莉子がすり寄ってくる。
ちょっと、あっち向け。
いいから、ほら、後ろからおっぱい触りたいんだよ。
背中から手を回して、胸を手のひらで包む。
さっき莉子が俺にしたように、指先で乳首を弾く。
「あん……」
感じるの、早すぎるだろ。
「だって、先ほどからずっと」
俺にしてただけで、感じたのかよ。
相性いいな、俺たち。
乳首がぴんと固くなるのが、指先でわかる。
背中を舐めたり、腋の柔らかいところを吸ったりしてるうちに、莉子の腰がもぞもぞする。
なんだよ、もう欲しいのかよ。
「あの、旦那さま……」
うんしょっとこっち向きに転がった莉子が、赤い顔をしていた。
「こっちにも、お願いします」
ひとさし指が、ぷっくりした唇を押している。
注文が多いな。
ま、手抜きなしでみっちりの約束だからな。
キスすると、唇が開いた。
絡めた舌も、気持ち良かった。
いつの間にか、舌も腕も脚も絡めて、俺は莉子とくんずほぐれつで転がっていた。
「ふあ…、ん、あん、な…」
お、のってきたな。
「……あ、ん、那智さまあ……」
うんうん。
その声が、好きなんだ。
莉子が俺に絡みついたところに手が触れた。
なんだ、このちょっとぬめっとしたの。
「ま、あの、やんっ」
そんな大股広げて俺に巻きつくから、俺の脚が濡れちゃうんだろ。
莉子の、気持ちいい水が付いちゃうんだろ、な。
「やあん、那智さま、ヘンタイ……」
俺の変態は、今に始まったことじゃない。
俺は莉子をベッドに転がして、ぱかっと脚を広げた。
「んきゃっ」
ほら、ここんとこぐしょぐしょじゃねえか。
こんなんで俺の脚を濡らしやがって。
どれどれ、ちょっと調べるぞ。
「んあっ、あん、いきなりですか、そんなの、んっ」
いきなりって言ったって、いきなり突っ込むわけにもいかないだろ。
ほらほら、ちょっと柔らかくなってるけど、まだ狭いだろ。
指一本からいくぞ。
お、ずっぽり。
もう熱いじゃねえか、エロメイド。
ぬめぬめだな、二本入るぞ。ほら。
知ってるぞ、ここんとこが気持ちいいんだろ。
「ふあ……、あ、んっ」
うんうん、いっぱい擦ってやるからな。
なんなら、落っこっちゃってもいいからな。
あ、なんか俺もむずむずする、あー、挿れたくなってきた。
指で中を擦っていると、莉子がどんどんうっとりした顔になってくる。
そのうち、ちょっと苦しそうに表情がゆがんだり、腰が揺れたりし始める。
あ、俺、莉子のことわかってる。
莉子がどこをどうされたら気持ちいいか、ちゃんとわかってる。
俺がどうされたら気持ちいいか、莉子がわかってるみたいに。
「ん、ああん、那智さま、いや……」
そうか、いやか。
わかってるぞ、莉子はこのまま指で落っこちるのがいやなんだ。
そういうことだよな?
俺はそうっと指を抜き、涙を浮かべた莉子のほっぺたにキスをしてやった。
ちょっとタイムな。
俺がもそもそとゴムをつけてる間、莉子は俺の尻に頬ずりしていた。
変な奴。
もう一度、莉子を転がす。
いいですか、莉子さん。
ふやん、という鳴き声は了解の合図だろう。
ゆっくり、ゆっくり。
「んあ、ん……」
あー。
あ、やっぱ口でしてもらうより気持ちいい。
してもらうのはラクだけど。
莉子がひゅんひゅん鳴くので、わざと焦らして腰を揺らしてやった。
「な……ち、さま、いじわる」
莉子だってやったじゃねえか。
俺はほら、莉子より人間が大きいからな、あんまり仕返しとかしないけど。
入り口のところを浅く動かすと、くちゅくちゅと音がした。
これ、何の音だよ。
「やあん、あん……」
も、俺もダメ。
置くまでぬっぷりと挿し込む。
おー、すげえ。
「あん、あんっ」
いきなり腰を振るなよ、折れたらどうする。
待て待て、してやるから。
莉子の脚を抱え込んで、挿れたり出したりする。
擦りあげるのが、気持ちいい。
莉子が、鳴く。
抱えていた脚を片方下ろし、横向きにする。
この角度もいいんだよなと思いつつしばらくその格好でしてから、仰向けに転がす。
やっぱこれだよな。
おっぱいの両脇に手をついて、莉子の鳴く顔を見ながら腰を振った。
俺の動きと、莉子が揺らす腰の動きがぴったり合って、すごくいい。
どんどん気持ちよさが上がってきて、思わず口をあけて息をしてしまう。
ああ、いい。
もう、止まんねえ。
莉子が、ぎゅうっと目をつぶって喉を反らせた。
あ、落っこちてる。
ごめん、落っこちたときってちょっとそっとして欲しいんだよな。
わかってるけどさ、俺、それ無理。
ガマンして、つきあえ。
「ん、あんっ、那智さま、やっ、あっ、あ!」
もうちょっと。あ、いい。
俺も、落っこちる。
二日連続で、二回目なのに、落っこちる。
俺、元気だな。
挿れてるのが、莉子だからかな。
俺、他の誰かをこんなふうに抱いて、落っこちたりするのかな……。
自分の中から熱いなにかが出るのを感じながら、俺は莉子の上につっぷした。
あー、落っこちる……。
――その後も、桜庭美月は陽子さんの見舞いを続けてくれ、ちょくちょく屋敷へも来る。
離れでピアノを弾いたり、ちょっとお茶とケーキでおしゃべりしたり、庭を歩いたり。
この間は、柄にもなく映画に誘った。
見たいのがあるんです、と言ってくれたのでほっとした。
映画は意外なことに話題になっていたアクション物の洋画で、面白かった。
相変わらず、会社の仕事は勉強することが次々出てきて忙しい。
週末の草野球は楽しいけどヘタクソで、美月は時々見に来てくれる。
草野球のメンバーである美月の兄も、話せば話すほどいい奴だ。
莉子は、陽子さんのいない屋敷で、そこそこうまく働いているようだ。
もちろん、俺担当のメイドで、特別なメイドなことにも変わりはない。
草野球の後で、重役や講師には聞きにくい経営者としてのイロハを、こっそり長尾に聞いてみた。
世界のタカシナの社長がなにを情けないことをと笑われそうだったのに、「ただの体験談でよければ」と言って、屋敷に来ていろいろ教えてくれた。
俺は、人に恵まれてるな。
……そんな風に考えてしまっていた俺は、やっぱり甘ちゃんなんだ。
そして、そんな風に忙しく、俺の毎日は飛ぶように三ヶ月ばかり過ぎて行った。
――――了――――
ターニングポイントのような話にドキドキ
今後も目が離せないなぁw
なんか嵐の前の静けさのような。
どうなるどうなる。
170 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 10:53:07 ID:wPaCIg39
保守
171 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/26(火) 22:51:04 ID:0Q0SNtAZ
ほ
し
>>149 遅くなったけど、後編も期待
前スレ
>>452で「本シリーズはこれでおしまいです。」とあったのでその時寂しく思ったけど、
鈴子さんも、秋乃さんも再び出てきてくれて良かった
(秋乃さんは実際の出番ではなく、あくまで描写だったけど)
後編でもチョコっとでも出てきてくれるといいな、特に今度こそ秋乃さんが実際に(略
>134のつづきです。
-*
Truc AI FIRE! 後
-*
-*-*
「・・・おきて、るよ。」
たっぷり3分は待たされた後、扉越しにおずおずとした義文君の声が聞こえてきた。
こくんと唾を飲む。
「・・・」
何かを言おうと思ったけれど声は出ずに、あたしは扉を開いた。
キイ、と音が鳴る。
暗い部屋の中、ベッドの上で俯いている義文君はなんだか猛烈に反省している子供のように見えた。
行き当たりばったりで何とかなると思ったもののそれを見た瞬間、
私も何も言う事が出来なかった。
つまり、それくらい義文君は参っているように見えたのだ。
私は何も言わずに義文君の隣に座った。
私の体重でぎし、とベッドが揺れた瞬間、ぎゅう、と義文君は更に、胸に顎を埋め込むみたいに頭を下げ、俯きを深くする。
本当に小さな子供の時、悪い事をして叱られた後みたいに。
思わず抱きしめたくなる。
肩に手を廻そうとして、思い直して手を引っ込める。
どう云う風に傷ついているか想像も出来なかったからだ。
触られたくも無いかも。
そんな風に躊躇していると
「うっく。」
と、突然義文君がしゃくり上げた。
私は呆然と義文君の方を見た。
「うっく、うっく。」
義文君の背中が揺れて、固く握り締めた手で義文君が俯かせた目元を拭うようにした。
何かしなくちゃいけない。
でもどうすれば良いのか判らなくて私は手をベッドの上と義文君の肩の間で彷徨わせた。
義文君の背中が息を吸い込む音と共に、ひゅっ、ひゅっと揺れて、唇から懸命に抑えようとしているような音が漏れる。
「うっく・・・ひっく・・・うっく・・・ご、ご、ごめんなさい。」
義文君が絞り出すように声を出した。
え、と思わず声を返す。
その私の声にも義文君はびくっと身体を振るわせた。
背中が大きく揺れて、義文君の膝にぽたぽたと涙が落ちた。
またごしごしと目を擦る。
「うっく・・・うくっ・・・ごめんなさいっ」
またぱたぱたぱたっと義文君の涙が膝の上に落ちた。
私は義文君の肩に手を置いた。
何だか凄く懐かしいような気分だった。子供の頃、二人で叱られた時みたいな。
ひゅうっひゅうっと義文君の背中が揺れる。
暫く考えて、
「・・・ずっと気にしてたの?」
浮かんできた言葉をそのまま口にした。
「ひっく・・・ひくっ・・・ごめんなさいっごめんなさいっ」
てっきり頷くもんだと思ったら、義文君はぶんぶんと頭を横に振った。
ゆっくりと背中を擦る。
ポケットからハンカチを取り出して、目を拭ってやるのはいかにもだから(義文君も男のプライドがあるに違いない。)額の汗を拭ってそれから手に渡してやる。
義文君はそのハンカチでぐしぐしと目元を擦った。
その時、トントン、と控えめにドアがノックされ、ゆっくりとドアが開いた。
てっきり寝ていると思ったのだろう、
水差しを持ったメイドがそっと部屋の中に入ってきて、
そして私達を認めた瞬間、ぎょっと目を見開いた。
小さい新入りのメイドだったので、私はしい、と唇に指を当てた。
直立不動で立ち尽くしたメイドに手を振ると、慌てたように水差しを置いて、駆ける様にして扉から出て行く。
その姿を見ながら今まで気にしてなかったけどあの仕事の割り振り、やめさせなくちゃなぁ。とふと思いついた。
夜中にこっそりメイドが扉を開けて何かを置いていくなんて、考えてみればプライバシーも何もあったもんじゃない。
そろそろ子ども扱いさせないようにしなきゃいけないのだ。きっと。
しん、と部屋の中は静まり返ってチクチクと壁に掛かった古い時計の音だけが聞こえる。私はふう、と溜息を吐いて、それから何も言わずに少しだけ義文君にくっつくようにして、義文君の背中を擦り続けた。
ひゅうっひゅうっと何度も嗚咽するように背中が動いて、
泣き声を上げないようにはあっはあっと息を吐き出して、
それから義文君が声を出せるようになるまでには10分以上の時間が掛かった。
「わか、わ、うくっ若菜ちゃん、うくっ」
漸く声を出したものの、言葉が続かなくて、
ひくっひくっと喉を震わせながら、ぐしぐしと目を擦る。
「ん?」
と背中を擦りながら言うと
「き、きも、うくっきもちわるいって、うくっおもったでしょ。」
漸くといった感じに搾り出す。
う、と詰まった。別に気持ち悪いとは思ってない。
が、この場合どう答えるべきだろうか。
上手い言葉が見つからないけれど沈黙は肯定と受け取られない。
ゆっくりと義文君の背中を撫でながら。
「うーんと、ちょっと、びっくりしたかな。」
と正直な所を口にした。
義文君がさらに俯く。
「ご、・・・うくっ・・・ご、こめん、なさい。ひくっ」
何と言うべきか。私の腕の中の義文君は今、とても傷ついている。
すう、と息を吸う。
「あ、あのね、泣くような事じゃないんだよ。それに、謝る事でもないんだよ。」
ゆっくりと声を出した。
「うくっ・・・でも、あんな事して、・・・ひくっ、ぜったい、気持ち悪いって、
わ、わ、若菜ちゃん、ひっく、すごい、驚いた顔して。」
「そんな事思わないよ。な、なんていえば良いかな。
そりゃ、義文君は恥ずかしかったよね。でも、なんていうか、それだけの事だよ。
義文君は皆してる事をたまたま見られちゃったってだけ。」
義文君はぶんぶんと頭を振る。
「しないよ、うっく、・・・あんな、変な事、皆は絶対しない。」
またひくっと背中が動いた。
「あんなの、ひくっ・・・僕だけだよ、僕、きっと、わ、若菜ちゃんは気持ち悪いって、うくっぼ、僕のことき、嫌いになったでしょ。」
「馬鹿な事いわないの。そんな事無いって。私がそんな事思うわけ無いでしょう?」
ぎゅうと手を握ってやる。
何がどうあったってそんな事は思わない。それくらいは寧ろ判って欲しい位だ。
でも義文君はまた俯いた。
「でも、わ、わ、若菜ちゃんは女の人だから、あ、あんなの、へ、へ、変な事って思うでしょう?き、気持ち悪いって思うよ」
「あ、あのね、」
すうと息を吸う。ぎゅっと肩を抱いて擦ってやる。
「義文君は眠たくなるし、お腹が空いたらご飯も食べたくなるでしょう?ね。
眠くて眠くてしょうがなかったら夜じゃなくても寝ちゃうし、お腹が空いてしょうがなかったらご飯の時間じゃなくてもお菓子を食べちゃうよね。
その、義文君のそれも同じ。大人になると眠くなったりご飯を食べたくなったりするのと同じでそういう事をしたくなるの。
だからあ、ああいうのは大人になれば女の人もするの。
だ、だから、私は、そんな気持ち悪いとか、変とか思わないから大丈夫だよ。」
初めて義文君の震えが止まった。
ゆっくりと義文君が顔を上げる。
「・・・若菜ちゃんもするの?」
ぐうっと喉から変な音が出た。背中を汗が伝う。
幾らなんでもこの告白はきつい。
「ぅ・・・んーーんーーー。んーー。ど、どうだろうね。あたしはし、し、しな・・・」
そう言い掛けた瞬間
「やっぱり、変なんだ。」
義文君の顔が戻る。
「し、・・・する、かな。う、うん。」
義文君の顔が持ち上がる。涙に潤んだ瞳で私の顔を見上げる。
「本当?」
なんというか、邪気の無い、若菜ちゃんも僕の仲間なの?という視線。
思わず頷く。
「う、うん。」
ほうっと義文君が息を吐いた。
べしゃっと顔が崩れる。
「ぼ、僕、ずっと、あんなの、変だって思って、ひくっ若菜ちゃんにもし知られたら死んじゃうって思ってて」
「馬鹿だなあ。」
私の袖を掴んで泣き顔でそう言ってくる義文君のふわふわの頭を撫でる。
「大丈夫だよ。死んじゃうなんて、そんな事考えちゃ駄目なんだから。」
「ひくっあの時も、若菜ちゃん、若菜ちゃんって言いながらそうしてたから、だから、」「・・・」
・・・それはきいてなかったぞ。と思う
・・・ええと、もしかするとそれは、私の事を考えながらって事か。
そう考えた瞬間、かあっと頭に血が上るのを感じた。
まさか、そんな事だとは思わなかった。
「それで、若菜ちゃんが急に扉開けて、それで、ひくっびっくりした顔して、僕、きっと若菜ちゃんが気持ち悪いって」
私の腕の中で義文君が訥々と私に言う。
やばそうだ。
私は胸がきゅんとなっている。
頭がくらくらする。
「あ、あ、あのさ。」
そう言うと、義文君が私の顔を見上げてきた。
「その、義文君は私の事を考えて、その、するの?」
思わずという感じで口に出た言葉だった。
そう言った瞬間、ばっと義文君が顔を逸らしたので私は慌てて
「あ、あ、嫌だって意味じゃないよ。そ、その、そうなのかなって」
そう言う。
心臓がばくばくと鳴っているのが判った。
義文君がゆっくり頷く。
自分が首筋まで真っ赤になっているのがわかる。
くらくらとする。
何と言って良いのか判らないけど、私はこういうのに弱いらしい。
わ、私の事考えて、義文君はするのか。
なんか、鼻血出そう。
何か言わなくちゃと思って口に出たのがこれだった。
「その、あ、あたしも、義文君の事を考えて、するよ。」
@@
「それで、どうしたの?」
「ちょ、秋乃さん、近い、近いです。近いですって。」
秋乃さんがクルクルとパスタを絡めていた手を止めてこちらに乗り出してくる。
メイド服ではない普段着の薄い色のシャツも清楚で秋乃さんにはとても似合っている。
「何それすごいじゃない。若菜。」
鈴子もフォークを咥えながら興味津々といった体だ。
秋乃さんも鈴子も声が大きくて、私は周りに他の客がいないのを慌てて確認した。
「え、何それ何それ何よそれ何て事なの?そんな状況ありえる訳?
私の場合なんてそれこそ業を煮やして押し倒したってのに
そんな鴨が葱と鍋と薬味とお皿とお箸を背負って来るなんてそんな事ありえる訳?」
「あ、秋乃さん?」
ぶつぶつと空ろな目で呟く秋乃さんに声を掛けると
秋乃さんははっと意識を取り戻したように私の方を見た。
「で、それでどうしたの?」
「な、何だかいつもの秋乃さんと違・・・」
「で、どうしたのか言いなさい!」
「え、いや、いえ、えっと・・・」
@@
二人でベッドの上でシーツを被って顔だけを出して寝そべったのだ。
義文君は大分元気を取り戻していた。
そして、私は片手をシーツの下で捲り上げたスカートの下、自分の下半身に当ててゆっくりと指を動かしていた。
義文君が私の顔を見ている。きゅう、と唇を噛んで私も義文君の顔を見ていた。
下着は少し前に脱いでいた。
脱いだ下着をシーツから出して枕元に置こうとした瞬間、義文君の視線が私の下着を追って、私は慌てて枕の下にそれを隠した。
ゆっくりと指をなぞる。敏感なそこを少しだけ擦って、
声が出そうになって慌てて唇を噛む。
「若菜ちゃんのする所みてみたい。」
駄目に決まってるでしょう。と言下に否定できなかった私の負けだ。
「だって、本当にするのか判らないし。」
「やっぱり嘘だったんだ。」
最大限に譲歩させて、私はシーツを被った状態で、それでも判るでしょ?
と云う事で義文君は漸く納得した。
それでも無理だと最初は思ったけれど暗い部屋の中、
蓑虫のようにシーツの中に入ってしまうと意外と大胆に私は下着を脱いだ。
それでも顔を見られるのは恥ずかしかったけれど先程からのドキドキが私を大胆にさせていたのだろう。
ゆっくりと指をその部分に当てると既にその部分は潤んでいた。
何だか凄くいやらしい。
「・・・んっ!」
ぴん、と弾くと鼻から息が漏れた。
シーツから顔だけ出した私を同じようにシーツに潜りながら穴が開くように見つめていた義文君がはあ、と溜息を吐く。
義文君と同じように私の顔も今、真っ赤になっているのだろう。
シーツが私の手の動きに合わせて揺れる。
シーツの上からでも義文君には私が下半身で手をいやらしく動かしている事位は判るだろう。
「・・・ぅんっ!」
自分の体の事だから、自分自身の手の動きは容赦ない。
的確に責めてきて、口から声が漏れる。
義文君が私の顔をじっと見てる。
ゆっくりと掻き回すようにする。
「・・・んあっ!」
声が抑えられなくなって、私はぎゅっと目を閉じる。
そこからは早かった。
恥ずかしさはどんどん消えていって、指の動きが私を高めていった。
「んっ!んっ!あっ!」
というかいつもよりびちゃびちゃに濡れているのが自分でも判る。
クリトリスの部分を弾いて、人差し指で浅瀬をかき回すようにするとじわっと中が溢れてきて、きっとシーツの中ではいやらしい音を立てているだろう。
薄く目を開けると、義文君がびっくりした顔で私の顔を見ている。
いやらしいって、変って思われたかもと思った瞬間、くすりと胸の奥から笑い声が起きた。
義文君もあの時、きっとそう考えたのだろう。
「義文君も、していいんだよ。」
少し笑いながら義文君に向かってそう言う。
真面目な顔をして頷いた義文君を見て、私はもう一度目を閉じた。
もう片方の手で思い切りクリトリスを捏ねる。
「あっ!あんっ!」
くん、と顎が上がって声が漏れる。
もう少しで、と、そう思った瞬間、
シーツの表面が動いて、義文君がシーツの中に潜ったのが判った。
「あっこ、こ、こらっ!」
ぱちんと目を開けて思わずシーツを捲って声をあげたけれど、義文君の動きは止まらなかった。
もこもことシーツの中を動いて、あっという間に私の脚の間にすっぽりと収まる位置まで来た。
脚を閉じる間もなくて、私の動かしていた指のすぐ下に義文君の位置が来る。
シーツの中で見えるのかどうかは判らないけれど当然私のスカートは捲くれ上がっている。
「こらっだ、だめっ!」
慌てて両手でそこの部分を隠して、潜めながらそう叱るように言ったけれど、義文君はじっと黙ったままどこうとしない。
私は両手で下半身を押さえた情けない姿でシーツの上から何度も義文君に向かって駄目と言った。
でも帰ってきたのは最後にぽつりと
「見せて。」
という義文君の言葉だった。
ぼすん、と持ち上げた頭を落とす。
頭の中が爆発しそうな羞恥心で一杯になる。
私はシーツを被ったまま両足の間に義文君を入れて、そしてその部分を見られている。
「もう、駄目だって言うのに。」
見えないように隠しながらそう言うけれど、無駄だろうなというのは判った。
そして、私も頭の中がじんじんとしていた。
「見せて。」
シーツ越しにもう一度義文君の声が聞こえた。
@@
「ご、ごめん秋乃、ちょっとそこの紙取ってくれる?はな、鼻血が。」
「・・・若菜ちゃん・・・恐ろしい子っ」
話の途中で既にフォークを取り落とし、
二人は手を握り合うようにして私を見つめてくる。
「いや、あの、ええと、鈴子、秋乃さん?」
「かえって経験が無い方がこういう状況になったりするのかもねえ。見習うべきかも、私達も。」
「で、それで、続きは?それでどうしたの?早く話しなさい。」
「あ、あの、なんだかあたしすっごい恥ずかしいんですけど。」
「いいから。」
「いいから。」
@@
ゆっくりと手を外した。
見えないかもと思っていたけれど、
シーツ越しに義文君の「凄い」という声が聞こえて私はぎゅうと目を瞑った。
「駄目だって、こら・・」
そうは言ったものの頭の中は煮立ったようにぼんやりとして、体中が熱くなって、見られている下半身からはじんわりとした何かが背筋を這い上がって来ていた。
ゆっくりと指を当てると、さっきよりもそこがもっとどろどろに潤んでいるのが判った。このまま指を動かしたら、きっとぴちゃぴちゃと音が義文君に聞こえてしまうだろう。
そう思って、私は思い切り指を浅瀬で廻すように動かした。
「んっ!んっ!!あああんっ!」
鋭い、今までにない位の快感が頭の中で弾けて、その瞬間、思い切り声が漏れる。
それでも指は止めなかった。
義文君に見られている、そう思いながら浅く指を入れたまま思い切り、上下に動かす。
「んっ!んんっ!あんっ!あっだめっ!」
「あっ!あっ!あっ!ああっ!」
一人でする時もそんな声を上げた事は無いというような声が私の口を漏れて出てくる。
左手でクリトリスを捏ね、右手で浅瀬をかき回す。
と、暫くして激しく動かしていた右手の指先に自分以外の湿った感触が這うのを感じた。
暫くぼうとした頭が理解できなくて、指の動きを弱める。
が、その湿った何かが私のクリトリスを突付いて、鋭い快感が頭に走った瞬間にそれが何かという事が判って、私はシーツ越しに
「あっ馬鹿っ!あんっ!」
と叫んだ。
その間も湿ったそれは私のそこをゆっくりと這った。
「ば、馬鹿、汚い、から、ああんっ!!」
啜るようにクリトリスが吸い込まれて私の腰が思い切り持ち上がる。
ぬとぬとと濡れた右手を引き上げてシーツを持ち上げる。
顔を突っ込んで
「駄目!駄目だよ義文くんあっ!」
と思い切り持ち上げた私の腰に顔を埋めている義文君に声を掛けた。
義文君が顔を上げる。
「若菜ちゃん、脚、開いて。」
「駄目、こら、ああっ!」
「若菜ちゃん、脚、開くの。」
思ったより強い力でぐいっと脚を押し広げられて、私は狼狽した。
思い切り脚を開ききった格好になり、自然と腰が上に持ち上がる。
そこに義文君が顔を伏せた所で私は諦めてシーツを持ち上げていた手を離した。
義文君が私のを。
ずるずる、と吸われた感触で
「あーーーっ!」
と声が漏れた。
そこからは決壊したように義文君の舌が私のそこを動く度に声が漏れた。
抑えられていた脚はいつの間にか義文君の手が離れていたけれど、
かくん、と力が抜けて閉じれなかった。
それだけじゃない。義文君は私の左手を取って、私のそこに当てる様にした。
快感と羞恥心の混ざった胡乱な頭の中、それでも義文君の動作の意味が判って
「意地悪・・・」
と呟く。
義文君のそれだけで軽く何度もいってるのに。
当てた自分の指を動かしてクリトリスを捏ね回す。その下を義文君の舌が這う。
時々私の指の動きを覚えるように私の指の後を義文君の舌が追いかけるように動く。
義文君が舌を尖らせて浅瀬に突き刺すようにした瞬間、私はシーツを握ってぐぐうっと丸まった。
まずい、と頭の中で考えるけれど動きは止まらない。
私は、義文君に舌でされながら、一人でする時以上におもいっきりいかされそうになっていた。
「駄目っ!義文君っそれ以上だめっ!あたしいっちゃうっ!」
シーツ越しにそう言った瞬間、クリトリスを捏ねていた右手を外されて、ちゅう、と吸われた。
頭の中が真っ白になって、自然と義文君の顔にに押し付けるように腰が前後にくねる様に動く。
はあっはあっという自分の息が自分の耳に聞こえるようになるまできっと数十秒、もしかしたらもっとかもしれない。
私は長い時間絶頂を感じ続けた。
@@
「ね、秋乃、さ。そ、そろそろ。わ、わたし、」
「う、うん。で、でもちょっと待ちなさい。最後まで聞かなきゃ、きっと後悔するから。
最後まで。」
ちらちらと鈴子と秋乃さんが目配せをしあっている。
「あ、あれ?鈴子、秋乃さん?」
鈴子は腰を浮かしかけ、秋乃さんも落ち着きが無い。
秋乃さんがコップの水をくうっと喉を見せながら飲む。
たん、とテーブルに置く。いつの間にか秋乃さんの目元が染まって、色っぽい。
鈴子もぱたぱたとメニューで顔を仰いでいる。
「そ、それからどうなったの?」
@@
「ね、義文君も、してる?」
跳ね回る息を少し落ち着かせた後、私はまだ私の脚の間にいる義文君にそう聞いた。
頭はぐねぐねで、身体は思い切りいった後の気だるさが支配している。
でも、一人でする時と違って、まだ体の中に何か温かさが残っているような感じがしていた。
義文君がうううん。と首を横に振って、「でも、もう、」と切なそうな声で言った。
私はその声だけで体中がじんじんとした。
私は身体を持ち上げながら
「義文君、こっち、きて。」
と、そう言った。
義文君を寝かせて、先程とは逆に、私が義文君の脚の間に跪くようした。
義文君のがちがちになったおちんちんの上で口を開いて、私は
「口の中に出して良いからね。」
と言った。
頭の中が義文君への愛おしさと、私の中のいやらしさが混じってじんじんする。
義文君のを口の中で思い切り出されたら、と考えてそれが待ちきれなくて、
舌が口の中から自然と出てきて唇を舐める。
義文君が右手で擦り始めて、私は上で口を開けて待った。
義文君の先っぽがぷっくりと膨れ上がって、先端から透明なそれが溢れるように出てくる。
待ちきれなくて舌で迎えるように舐めた。
「あっ!若菜ちゃん!」
くん、と義文君の腰が突き上がって、私の口の中に先端が入り込む。
口の中に苦味が走って、でも硬く熱くなったそれが口の中で跳ねて、
純粋にそれを逞しいと感じた。
支配されるような、傅くのが当たり前のような気持ちになって、
ちゅう、と頬をへこませて吸った。
舌は下顎の方に下げていたから、義文君の先端は私の喉の奥に一直線に向かっていた。
私は意図してそうしていた。
思いっきり口の中に出して欲しい。
「あっ!」
と義文君が叫んで私の頭を掴んだ。
どくん、と口の中のそれが動いて、思い切り、そう、びゅっという勢いで私の口内に義文君の精液が発射されて、私の喉の奥を叩いた。
苦い味が口内一杯に広がる。
しかもそれ一回だけではない、びゅ、びゅ、と何度も私の口の中に精液がぶちまけられるように、叩きつける様な勢いで発射された。
覚悟がなければ噎せていただろう、
でもその苦い精液が愛しくて、私は唾液と一緒に口内のそれを飲み込んだ。
それだけじゃない、口の中でまだ硬いそれを嘗め回すようにして、啜り上げて、
私は義文君のそれを全部自分の口の中、身体の中に入れた。
@@
「鈴子。」
「う、うん。」
鈴子と秋乃さんが頷きあう。
「あ、あの、へ、変ですよね、やっぱり。
そ、それ以降も、実は、ねだられると断りきれなくって、時々・・・」
私の言葉を聞かなかったかのように立ち上がった秋乃さんが
「今日のお会計は私で持ちます。」
と、そう言ってさっさと立ち上がる。
鈴子もぱっぱっとスカートを叩いて立ち上がる。
あまりにも変で呆れられたのだろうか。
「あ、あの、なんか、すいません。変な事ご相談して。」
頭を下げる。
立ち上がった鈴子がきっとこちらを見る。
「ま、負けてないんだからねっ。」
私を指差してくる。
「は?」
と答えると今度は秋乃さんが私の方を見てくん、と顎を持ち上げた。
凄艶な美人なだけにその仕草には迫力がある。
「私は若菜ちゃんを少々侮っていたようです。
と、年下だから、とそう思っていた自分が恥ずかしい気持ちです。
さすが姉川家付きメイド。今回は、悔しいですけど引き下がります。
でも、じ、次回こうやって会う時は私が若菜ちゃんをびっくりさせる番ですからね。」
「あ、あの、び、びっくりさせるって、私は相談して・・・」
「お幸せに」
「お幸せにっ」
え、ええと、ちょっと、と、くるりと背を向けて歩み去っていく二人に手を伸ばす。
でも鈴子も秋乃さんも振り返ってはくれずにずんずんと歩いていってしまった。
了
---
以上です。では。
ノシ
GJ!!!!!
続き来てたー!!!
GJ!
あの二人を完膚無きまでにたたきのめすとは・・・・
若菜、恐ろしい子・・・
『メイド・莉子 10』
会社で、深刻な顔をした重役が、俺にタカシナの重工業部門の業績不振を告げた。
なにがどう悪いのか俺にはわからなかったけど、重役の口調によればタカシナのトップが若くて無知で実績のない若造だということで、国内外の信用がなく、それがあーなってこーなってそーなって、結局重工業部門がワリをくったんだそうだ。
あまりにも難しい話で、俺は黙って聞いているしかなかった。
すでに業界では噂になっているもののメディアに情報が漏れる前に、「タカシナ重工の社長を解任して、新たな人材を据えて、大幅な人員削減で経営の立て直しを図りたい」そうだ。
そうすると、削減された人員ってクビってことなんだよな?
いろんな資料や数字を詰まれて、俺はただ自分の無力を噛み締める。
父親が生きていれば、兄貴がタカシナの社長になっていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
もしタカシナ重工が人員を削減したら、リストラされた人たちはどうなるんだろうか。
俺が頼りないせいで、たくさんの人が路頭に迷うんだろうか。
毎日帰りが遅くなり、陽子さんの見舞いも美月にまかせっきりになり、草野球も行かなくなった。
それでも、俺は頭で状況を把握するのさえ精一杯で、なにもできない。
莉子に弁当を買ってやることもできない時間に、ぼろぼろに疲れて屋敷の離れに帰る。
タカシナの社長が俺じゃなかったら。俺がもっとちゃんとデキる社長だったら。
タカシナ重工の何百人もの社員とその家族に、迷惑をかけることもなかったんだよな。
「おかえりなさいませ、旦那さま」
事情は説明していないけど、莉子は俺になにも言わなかった。
風呂を入れてくれて、ぼーっと座っている間に髪から体まで全部洗ってくれて、肩までお湯に浸からせて200まで数えてくれて、湯上りに転がったベッドで脚とか肩とかマッサージしてくれる。
あったかくて気持ちよくなると、眠くなる。
毎日、この繰り返しだった。
俺は何にもできず、タカシナ重工の業績は改善しなかった。
そしてついに、タカシナは重工部門を刷新して、外部から経営陣を迎えることになった。
俺には、ひとつのことだけが提案された。
タカシナの社長として、経営に関することはなにひとつ期待されない俺に、たったひとつ。
……どうしよう。
重い気分で、俺は屋敷に戻る。
「おかえりなさいませ」
離れで、莉子が出迎えてくれた。
「ひさしぶりに早く帰れたからさ、弁当買ってきた」
本当は、早く帰って、明日からの週末でじっくり考えてくださいといわれたんだけど。
莉子は嬉しそうな顔で、俺の手から弁当の紙袋を受け取った。
「ホテルタカシナですね」
うん、ついでがあったからな。ホテルタカシナのレストランで詰めてもらったんだ。
あ、長尾のとこの弁当が良かったか?
ネクタイを緩めながら、保温カップに入ったスープを取り出す莉子に聞いた。
「いえいえ、とんでもありません。あ、長尾さまもお弁当をお持ちくださったんですけど」
は?
「旦那さまのお帰りが遅いと思い込んで、いつもどおりメイドの休憩室に置いてきてしまいました」
ちょ。
ちょっと、待ってもらえますか莉子さん。
長尾が、どうしたって?
莉子が、ソファ前のテーブルに弁当の折詰を並べた。
「はい、長尾さまが、お店で余ったお弁当を持ってきてくださるんです」
え。
「旦那さまが、お屋敷のメイドはサザンクロスデリバリーのお弁当が大好きだとおっしゃったのでしょう」
あ?
「それで、残ってしまったお弁当を、時々お届けになってくださるんです」
……あの野郎。
俺が忙しくしてる間に、なにをこそこそと屋敷に出入りしてるんだよ。
何回か離れに招いたことはあったけど、俺の留守に母屋にまで顔を出していいとは言ってない。
しかも、メイドに弁当を、なんて言って狙ってるのは莉子に違いない。
だいたい長尾みたいな奴が、そうそう廃棄を出したりするような在庫管理をするもんか。
莉子を食べ物で釣ろうなんて、なんつー正確な判断。
「なんの話してるんだ、長尾と」
くふっ、と莉子が笑う。
「旦那さま旦那さま。こんがりでございますか」
焼いてねえよ、やきもちなんか。
「長尾さんはメイドたちに、お弁当の感想を聞いてらっしゃいます。若い女の子の意見がいいんだそうです」
若い女の子そのものがいいんだろうが。
「なんでも、サザンクロスはあんまり売り上げが良くないことがあって、長尾さまがお買い物するお客さまに若い人を狙った、えーと」
莉子が弁当を開けてごくんと喉を鳴らした。
「そういう、カイカクをしたら、お弁当が売れたんだそうです」
……へえ。
「それで、旦那さまもこのところお忙しいので、大変ですねとおっしゃってました」
そうか、長尾も業績不振を乗り越えた経営者なんだな。
タカシナ重工のことはもうニュースにもなってるし、俺のことも気にしてくれてるんだろう。
「わたくしにも、旦那さまのお世話をよろしくということでした」
なんで、長尾が莉子に俺をよろしくするんだ。
あいつ、聞こえてないフリしてたけど莉子が俺のメイドだってちゃんとわかってるな。
俺は莉子の腕をつかんで引き寄せ、膝の上に転がした。
仰向けに膝の上に寝転んだ莉子が、目を丸くして俺を見ている。
「莉子、怒ってんのか」
「はい?」
「俺が忙しいから。弁当も買って来てやれないし、ピアノもぜんぜん見てやってないし、その」
夜も、してないし。
前かがみになって莉子の顔を胸で潰しそうになりながら、テーブルの上の弁当を手に取った。
国産和牛のサイコロステーキと温野菜、キノコのソテー。
「だから、長尾なんかにホイホイといい顔して、弁当なんかで買収されて」
あごに指をかけて口を開けさせ、俺が半分食いちぎって小さくしたステーキを入れてやる。
もし、もし長尾が莉子に本気になって、毎日サザンクロスの弁当を食い放題だから嫁に来いとか言ったらどうしよう。
莉子がよだれをたらしながら、飛び跳ねながらついて行ったら、どうしよう。
でも、莉子にとっては長尾くらいの家だったら、本社社長宅のメイドから嫁になっても幸せかも。
なに考えてるんだ、俺。
「はひゅはひゅ、おいしいです、柔らかくってジューシーで、ほんとに」
うっとりとステーキに舌鼓を打ちながら、莉子がもだえる。
俺だって、莉子の事、全く考えてないわけじゃない。
だけど、同時に別のことも考えてる。
タカシナ重工の建て直しのために、俺ができる、唯一のこと。
ただでさえ若造でシロウトで信用のない俺が、タカシナの社長として、できること。
きちんと重工部門をバックアップをしてくれるところの筋から、嫁をもらうこと。
今どき、そんな政略結婚みたいなことがあるのかと驚いたけど、意外とそういう縁が大事なんだそうだ。
そうしたらタカシナ重工のことも、最低限でなんとかなるんじゃないかということだった。
だって、タカシナグループとそこに働く何千、下請けの何万という従業員とその家族の生活を守る責任が、俺にはある。
だけど、そうしたら莉子とのことはどうなるんだろう。
……桜庭エンターテインメントが、人材を送ってくれます。
重役は、そう言った。
桜庭家が、正式に人を立てて縁談を申し込んでくる用意がある、とも。
俺はその話を聞きながら、目の前にあるタカシナ重工の資料とをじっと見ていた。
俺はタカシナグループのために、そこに関わる何万人もの人のために、はっきりと桜庭美月か他の誰かと結婚しろって言われたら、断れないだろう。
タカシナの下請けや孫請けの社員か派遣社員の誰かが、シロウトみたいな本社社長のせいで人員削減されて、そこの年老いた親が満足な介護を受けられなくなったり、子どもが進学を諦めたり、欲しい玩具を買ってもらえなくなったりすることがないように。
父親と兄貴が死んで、俺がピアニストを辞めて社長になった時にそこまで考えていたわけじゃない。
ヨチヨチ歩きながら、社長として仕事を覚えようとし始めて、長尾や桜庭みたいな俺と同じ跡取りが、ものすごくしっかりした考えで仕事をしているのを見て、やっとぼんやりそう思うようになったんだ。
まさか、そうしなければいけない時がホントに来るとは。
桜庭美月との話が正式に決まった日、俺は莉子に話した。
なかなかい言い出せなくて、ようやく言ったのは風呂の中だった。
莉子は、にこっとして頷いた。
俺のこと、一言も責めずに。
「……俺さ、莉子」
「はい」
「もし、もし今度また人に生まれるようなことがあったらさ」
「はい」
「できるだけ早く、莉子のこと探すから。探して、会って、好きになるから」
「……え」
莉子はひとさし指をちょんとあごに当てた。
何の慰めにもなってないのに、莉子はちょっと考えた。
「では、わたくしはあんまりウロウロしないようにします。わたくしが旦那さまをお探ししてるうちにすれ違うと大変ですから」
バカメイド。
「……で、18になったら、すぐ結婚する。それで、長生きするから」
莉子が、黙って俺を見ている。
「一日でも長く、ずっとずっと莉子と一緒に暮らすからさ。ジイサンになるまで、ずっといちゃいちゃするから」
だから。
だからさ。
「……今の人生は、俺に譲れ」
俺は、今、莉子と、莉子とだけ、ジイサンになるまでもふもふして過ごすっていう妄想を諦めるから。
だから、莉子も諦めろ。
俺のワガママに、莉子の夢を譲ってくれ。
高階家の奥さまになる夢を、諦めろ。
「わたくし、そんな夢を見ておりません」
お湯の中で俺に抱きついて、莉子がのぼせたような赤い顔を俺のほっぺたにこすりつけた。
「それはもう、ちょっぴりでも長く旦那さまのおそばにいられたら、運がいいと思ってますけど」
欲がなさすぎ。
「旦那さまは、わたくしのこと、お好きですか?」
うん、好き。大好き。一番好き。
「わたくしの父母が健在でした頃はそれは仲良しでした」
……うん?
「父母はお互いが一番好きで、二番目にわたくしのことが好きでした。ひきとってくれた祖父母も、わたくしのことかわいがってはくださったのですけど、空手道場の生徒とか大会とか、大事なことが一杯あって」
……うん。
「学校で一番中がよくて大好きだったお友達も、わたくしよりも仲の良いお友達が他にいました」
……。
「だから、そういうの慣れてました。ですから旦那さまが、わたくしより大事な女の方がいらっしゃっても」
そんなことない。
今までの誰かがそうでも、俺は莉子が一番だ。
他の女と結婚しちゃうけど、莉子が一番好きで一番大事だ。
こんがりやきもち焼いたと言いながら、やけに物分りのいい莉子がかわいそうで、俺はボロボロ泣いた。
莉子の事が一番好きなのに、他の女と結婚する俺がバカすぎて、泣いた。
桜庭美月は嫌いじゃないけど、莉子の事が好きなのに。
「そういうデリカシーのないこと言うと、奥さまに嫌われます」
莉子は、俺が泣き止むまで柔らかいおっぱいで包むように抱いてくれた。
それから、俺を抱きかかえるようにしてベッドに転がり込む。
「旦那さま」
うん。
「これで、おしまいですか」
今夜が、一緒に過ごす最後の夜なのですか。
聞いてることは殊勝なのに、俺の上に馬乗りになってるってどういうことだ。
「莉子。俺の妾になってくんねえのかよ」
にゅほ。
その笑い方、変だって。
「奥さまに叱られないくらいには、ご一緒してくださいますか」
……うん。
答えようとしたら、唇を奪われた。
ああ、犯される。
莉子ははりきって俺の舌を吸い、からめてきた。
うまくなってる。
誰とどこで練習したんだよ、こんなこと。
あ、俺と、ここでか。
うん、気持ちいい。
「……旦那さま」
なに、今いいとこなんだけど。
「奥さまになるのは、あのおきれいなお嬢さまですよね」
そういうこと今、俺の乳首をはじきながら言うな。
「男の人とお付き合いしたことのある方でしょうか」
さ、さあ、どうだろう。
思わず、清楚にたたずむ美月の姿を思い浮かべてしまった。
萎えるって。
「でしたら、あんまりねちっこくねばっこくはいけません。さらっと、優しく、丁寧に」
莉子が俺に教えるな、バカ。
「あん、でも旦那ひゃまが、奥ひゃまと、いいことしてると思ったら、きっとわらくしは、一人で真っ黒焦げに」
だから、やめろって、俺を咥え込みながらフガフガ言うの。
話しながらの息遣いがまた気持ちいい。
こんなに俺のツボを心得てるのは、莉子しかいねえよ。
育ちのいいお嬢さまには、こんなことしてもらえないだろうな、いて。
こいつ、歯を立てやがったな。
「らって……」
ああもう、わかったから。
今は俺と二人っきりで、素っ裸で絡んでるんだから、焦げるんじゃねえよ。
ほら、おっぱい舐めさせろ。
莉子の脇に手を入れて引っ張り上げ、仰向けにする。
ほうら、俺の好きなぷりっぷりのおっぱいが、ふたつ。
先っぽはもうちょっと硬いんじゃねえの、エロメイド。
ちょっと舐めてみるか。吸ってもいいか。噛んだりしてみたりさ。レロレロ。
「あ、あん、もう、旦那さま、ヘンタイ……」
俺のどこがどうヘンタイなんだよ。
めっぽう真面目なセックスしてんじゃねえか。
ああ、おっぱい柔らけえ。
ここに顔を挟んでこすりつけると、気持ちいいよな。
ちょっと大きさが足りない気もするけど、俺のって挟めるかな。
両側からこう、ぐうっと寄せてさ。おい、ちょっと自分で押さえてみろって、いいから。ほら。
やっぱ足りないか、いて、怒るなって。
うまく乗ればいけるんじゃねえの。よっこいしょ。どうだ。
あ、いいんじゃねえか。ちょっと強く挟んでみろ。う。
「旦那さま旦那さま、これ、なんていうプレイですか」
うん、パイズリ。
「これがパイズリでございますか、うんっ、あの、旦那さまのご本では、金髪の、きょ、巨乳の方がなさってました」
勉強熱心だな。
あ、なんかこすりつけるの、楽しい。
俺はちょっと容積不足の莉子の胸に、自分のパンパンになったやつを押し付けた。
うーん、気持ちいいけど、これで終わるのはムリだな。やっぱDVDと本当は違うのか。
莉子は一生懸命おっぱいを寄せてくれていたけど、俺はそろっと腰を浮かせた。
「あん、旦那さま、まだ」
うん、でもじゅうぶん気持ちよかったから。
莉子の事も、よくしてやる。
エロメイドが俺のツボを心得ているように、俺も莉子のツボを知ってる。
もう一度おっぱい、と見せかけて横乳に吸い付いた。
「んひゃっ」
くすぐったそうにするのを押さえつけて、脇腹を舐める。
「うょ、んにゃ、あうんっ、だ、旦那さま、あ」
ほら、気持ちいいだろうが。
腋の下とか横乳とか、ウエストのくびれたとことか、莉子は身体の両横が弱いんだ。
もちろん、おっぱいやあそこも弱いけど。
「はうん、あん……、ああ、ん」
弱々しい声で、莉子が鳴く。
遠回りに責めていくと、莉子はお尻を上げて揺らした。
「あん、だ、旦那さま、わたくし、ちょっと、じ、じんじんしてきました」
どれどれ。
莉子の浮いた尻に膝を差し入れて、太ももに手をかける。
ぱかっと開いたそこに、顔をつっこんだ。
お、濡れてんな。いい匂いするぞ。
「やあん、だ、旦那さま、ヘン」
変態でいいよ、もう。
閉じたそこを開くと、くちょっと音がした。
濡れているのをかき分けるようにして、柔らかいところに指を当てる。
「莉子」
「……にゃ、は、はい」
「トロトロのふよんふよんだぞ」
「ひぇ、やん」
「あっつあつの餅みたいだな。つっこんでいいか」
「へ、や、そんな、あ」
指先を入れると、ぬるっと入る。
浅いところを動かすと、ぴくぴくと痙攣した。
「どうですか、莉子さん。お加減は」
にょあん、と莉子が鳴いた。
面白いな。
いじっていると、上のほうにぷるんと赤いのが見えてきた。
「こっち触ろっかな」
一応、断っておかないとな。
刺激が強いらしくて、前にいきなり触ったら莉子の脚が飛び跳ねて蹴られたことがある。
ぽちっと赤くなったのの縁のほうから、つんつん突く。
「んや……、あん……、は、あ……」
くるくるとなぞってやると、莉子の手が俺の頭に乗った。
気持ちいいんだ。
DVDとエロ本で勉強してた頃にはわかんなかったな。
ここにいきなり震える玩具を押し付けてアンアン言わせてるやつあるけど、痛くないんだろうか。
莉子にやったら、蹴り殺されそうなのに。
下の方にすぼめた口をつけて、そうっと吸った。
「んああっ、あん、あ、ああっ、や、あん、やっ、な、那智さま、あん、あああっ」
俺の頭をむっちりした太ももが挟み込む。
息ができなくなるんだけど、ま、いっか。
楽しいし。
「あ、はあん、はあ、ん、あん、な、なちさまぁ、ああん……」
うん、その声が好き。
困ったな、俺、やっぱり莉子が好きなんだよな。
美月と結婚したら、莉子とこんなふうにできるかな。
いや、したいけど、する気だけど、それって世間的にどうなんだろう。
美月は怒るよな。
やっぱ隠れて会うのかな。
あれ、莉子は俺の部屋で眠るわけにはいかないよな、どうしよう。
「なーちーさーまー……」
一度ぴんと足を伸ばして弓なりになった莉子の脚の間に顔をつっこんだまま、グズグズ考えていたら、莉子が俺の髪をつかんだ。
なにすんだよ、バカメイド。
「あんまり心配しなくていいです。わたくし、日陰にいますから」
おっぱいに包まれて、俺はすみません、とつぶやいた。
ほんと、情けないお坊ちゃんで、すみません。
妾囲う甲斐性もないのに、囲おうとしてすみません。
「うひゅ、うひゅ。旦那さま、あったかい」
いえいえ、莉子さんもあったかいです。
「な、莉子」
「はい」
さっきさ、脚がぴょんってなった時、落っこちた?
「…んもう、旦那さま、えっち」
だって、俺、まだ落っこちてないもん。
パイズリだけじゃ、落っこちれなかったからさ。
見て見て、ほら、すんげー元気だろ。
「やん、もう」
嬉しそうじゃねえか。
だからさ、俺が気持ちよーく落っこちるために、莉子さん、そこに転がって脚を開くっていうのはどうですか。
「やんやん、やんっ、変態、旦那さまヘンタイっ」
ヘンタイが好きなくせに。
ほら、ここだってぐしょんぐしょんだし。
どうでしょう、ここに俺のビンビンなヤツをお邪魔させるっていうのは、いて。
「もう、いじわる……」
わかったよ。
ちょっと焦らしすぎたらしく、莉子は涙目で俺を見ている。
俺の肩を叩いていた手を、開いて見せた。
いつの間に手の中に握っていたのか、しわくちゃになったゴムが乗っている。
こんなに潰れてるの、大丈夫かよ。
俺は引き出しから新しいのを出して、つけた。
しわくちゃのは、莉子が枕の下に押し込んだ。
改めて莉子の腰を抱え込み、先っぽを当てると、するんと吸い込まれた。
うお、さすが、相性いいよな俺たち。
早く、と莉子がせがんだ。
んじゃ、遠慮なく。
ゆっくり奥まで進む。
なんていうんだ、この感触。
あったかくって、ねっとりして、絡みつくように一番気持ちいい強さで締めてくる感じ。
最初の頃はもう、その気持ちよさに夢中でとにかく腰振ってたけど、今はちょっと余裕まである俺。
ああ、余計なことは成長するんだな。
莉子が気持ちいい場所にうまく当たるようにできるのも、成長の証。
「は、あ、ううん…、那智さまあ……」
こらこら、俺を置いてきぼりにして落っこちるなよ。
ちょっと、上になれ。
あ、うん、いい。
俺の胸に手をついて、莉子が腰を上下する。
あ、ちくしょう、俺のいいとこわかってる。
う、あ、おっ、く、うあ、ああ。
やば、俺、もうイッちゃうかも。
ああ、莉子にイかされる。犯される。助けて。
「あん、だめです、旦那さま。メイドに乗られて落っこちるなんて、タカシナの社長として、あっ、もうっ」
グダグダうるさいな、俺が腰振ればいいんだろ、ほら。
「んっ、あ、あんっ」
うあ、締めやがった。
ちくしょう、気持ちいい。
やっぱ俺、時々でもいいから莉子とこんなふうにしたい。
ごめん、ダメ社長でダメ旦那でダメ夫だ、俺。
「で、でも、…わたくし、は、だ、旦那さまが…大好きです」
うん。ごめん。ありがとう。
ほんとにごめん。
莉子。
だから俺、落っこちてもいい?
「莉子、俺さ」
気持ちよく落っこちて、力尽きたところを莉子主導できれいにしてもらって、俺はくったりと倒れこんだ。
莉子が今日何度目かのおっぱいで俺を包む。
俺は、ひとり言のように呟いた。
「今は莉子の事、ものすごーく幸せには、できないかもしれない」
莉子がぎゅっと腕に力をこめた。
窒息させる気か。
「……はい」
「だけど、不幸にはしないようにがんばる」
莉子の手が、俺の髪をなでる。
「……はい」
なんか、汗かいたから、あとでも一回風呂に入ったら、また髪洗ってくれ。
「……だからさ、最悪、今は2号で我慢しろ。な」
「……旦那さま、旦那さま」
莉子が、くふっと笑った。
「わたくし、じゅうぶん、幸せです」
うん。そっか。
せめて、3号は作らないようにするよ。
だから、リンスもしてくれ。
数ヵ月後、俺は桜庭美月と結婚式を挙げた。
美月は、申し分のないタカシナの奥さまになった。
俺は、美月との間に3人も男の子を作って、産まれるたびに莉子に脇腹をつつかれた。
長男は、タカシナの跡取りになった。
次男は、ピアニストに。
三男は、なんとプロ野球選手になった。
びっくりだ。
陽子さんはついに、もう一度目を覚ますことはなかった。
俺は、何十年もかけて、ようやくタカシナの社長らしくなったと言われ、還暦と同時にまだ早いと言われながら引退した。
そしたら、美月がヨーロッパで暮らす次男家族と一緒に住みたいと言って、行ってしまった。
ピアニストはピアニスト同士がいいんだそうだ。
俺だってピアニストだったのにと言ったら、あなたとだって楽しく暮らしましたよと笑った。
本当に、できすぎた嫁だ。
俺は、寂しくなりかけた頭の俺は、長男とその嫁と、小さな孫二人と一緒に屋敷に残った。
「おとうさん、話ってなんですか」
タカシナグループの若きトップとして、俺なんかより何十倍も信用と手腕のある長男が、忙しい時間をぬって顔を出した。
うん。
実はさ。
おかあさんも、ヨーロッパに行ってしまったことだし、おとうさんもちょっとワガママがしたいんだけど。
長男は、くすっと笑って肩をすくめた。
「わかってますよ。別宅に引っ越したいって言うんでしょう」
うん、できのいい息子っていいな。
「でも、タカシナの社長は苦労した先代を追い出したといわれたくありません。おとうさんがここを出て別宅で暮らすのは反対です」
え。
「ですから、ここに呼んでください。おかあさんにも、そうするように言われています」
美月。
ものすごく好きで嫁にもらったわけじゃなかったけど、一緒に暮らせばそれなりの情も沸いたし、不満はなにもなかった。
本当に、本当に俺には過ぎた嫁だった。
俺は、嫁も息子も、分不相応に恵まれている。
「うん。ごめん」
長男は、しかたないというように、笑った。
旦那さま、旦那さま。
庭で、莉子が俺を呼ぶ。
すっかり齢を取って、バアサンになって、でも莉子は莉子。
俺が人生で、ただ一人大好きな。
俺は、離れの庭に下りる。
暖かい日差しの中で、蕾の膨らんだ花を指さす莉子の隣りに立つ。
あーなんか、隠居した老夫婦って感じ。
「いけません、わたくしは2号です。そんなこと言うと、奥さまに叱られます。旦那さまが」
俺かよ。
な、莉子。弁当買ってきてやろうか。
莉子が、ふにょふにょ、と変な笑い方をした。
あ、それとも一緒に買いに行く?
莉子が目を丸くした。
「わたくしが?旦那さまと一緒にお出かけしてもよろしいのですか」
いいんじゃねえの。もう。
俺は莉子の頭に手を乗せた。
中身を使ってないから、莉子の頭は髪も白髪が少なくてふさふさだ。
「長尾のとこでさ、この近くに新しい店を出したんだ。ヘルシーでエコな、なんたらっていうコンセプトの新しい店」
莉子はちょっと首をかしげて、こくんと喉を鳴らした。
食いしん坊め。
「ちゃんとしたフレンチのレストランでもデリバリーとかやったりして、長尾って根っから弁当屋なんだよな」
「長尾さまも、今やタカシナフーズの社長ですものね」
お、なんだ、難しいこと知ってるじゃないか。年の功だな。
「毎年、お年賀状をいただきます。それに、別宅におりました時も時々お弁当を届けてくださいましたし」
あのやろう、孫が5人もいるくせに、人の愛人にまで手を出すか。
くひょくひょっ、と莉子が笑って俺の腕に遠慮がちに手をかけた。
「参ります。もうわたくし、お腹が怪獣になります」
うんうん、莉子の怪獣はすごい声で鳴くからな。
「あ」
庭を歩いてカーポートに向かいながら、莉子が声を上げる。
なんだよ。
「帰ってまいりましたら、わたくし、すぐにもお弁当をいただきたいのですけど」
うん、いいんじゃねえの。怪獣が鳴くし。
「そのあとは……」
ひとさし指をあごに当てて、俺を斜めに見上げる。
バアサンのくせにまつ毛をパタパタするんじゃねえ、かわいいから。
莉子が、俺にぎゅうっと抱きついた。
「その後は、ピアノを見てくださいますか?」
いいよ。
莉子は、何十年もかけて、ようやくごくごく初心者向けの練習曲が弾けるようになっていた。
才能のなさと、根気のよさは素晴らしい。
「あ」
今度はなんだ。
「順番といたしましては」
莉子の腹の怪獣が、準備運動のように軽く鳴いた。
「……ピアノになさいますか?それとも、わ・た・く・し?」
バカ莉子。
――――完――――
『メイド・莉子』完結です。ありがとうございました。
この結末は予想していなかった
あれですね、『メイド・小雪』に出てきた正之兄さんに近い感じ
正之兄さんよりちょっと幸せEND
長い間お疲れ様でした。GJです!
でも陽子さんのことだけはちょっと残念
なんだよ結局幸せになったんじゃねえか
途中ハラハラした
とまれGJ
ああ、投稿が続くな
規制が終わったか
若菜さんにワクワクドキドキして
莉子さんにふにゅふにゅにされたw
作者さまGJです
そういうまとめ方は予想の外だった(いい意味で)。
なんかおとぎ話の最後みたいでいい気持ち。
めでたしめでたし。
作者さんGJですた乙
せつねえなあ
やられた
泣いてしまったww
結局、女中は慰者
美月さんもかわいそうだよなぁ。
陽子さんって美月となっちーを結婚させる為に目覚めたんかな
会社の危機を救ったのは陽子さんかもしれない
なんて深読み
なんかサヨナライツカを思い出した。
男はさー夢だけじゃ生きられんよね
現実見ないと
遅れたがGJ。
恒例の番外編もあるなら楽しみだ。
GJお疲れ様でした!
もしも願いが叶うならしつじさんがも一度読みたい…言ってみただけだ
俺も潤ってしまった…
作者様GJです!!お疲れさまでした。
美月さんはずっと気付いていたのだと思うと、ぐっと胸にきました。
>>221 津田さん‥ 同じ気持ちです!
GJ!
面白かったです
長尾家にはメイドさんいないのかな?
もしいるなら、番外編はそれと予想してみる
(多分外れると思うけど
久しぶりに咲野さんにも会いたくなってきた
陽子さんのことは好きになれなかった。
陽子さんに出会わなければ、ピアニストにはならず普通のおぼっちゃまやれて、普通のことを享受できる生活できていたのにさ、て那智に同情した。少なくとも会社経営の勉強くらいは学べていたんじゃないかと。
陽子さんが継母になったせいで総てコントロールされた人生になっちまったじゃん。嫁さえも自分で選べないことに泣いた。
と、深読みしすぎて反応できずに今頃感想カキコ。
次回作も期待します。
もう那智が野沢那智でしか再生されない
津田さんカムバァック!!
他のメイド様もお待ちしてます
後ろから抱きしめると
赤くなって照れっ照れっになりつつも
そっとうなづいてくれる
「もう……仕方ないですねぇ」
なんて言いながら
ご主人様が後ろから抱きしめようとすると
その差し伸ばされた手を見切り、即座に手を取りつつそのまま背負い投げに持ち込み
そっとうなづいてくれる
「もう……仕方ないですねぇ
確かに隙があればいつでも試して下さってよろしいですよと申し上げましたが
夕方の道場での稽古まで待てないなら、スケジュールを繰り上げて今からしましょうか?」(ニコリ
なんて言う武道指南役も兼ねたメイドさんを希望したい
>>230 道場に連行されたらガチムチの鬼軍曹が・・・
そして鬼畜な扱きに耐えるご主人様をみて801なシーンを妄想するメイドさん!
こうですね!
菜々子さんと群馬弁ご主人さまの夫婦漫才カムバック
233 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/10(水) 07:30:10 ID:SvrrFD0h
保守
234 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 01:46:09 ID:NdzHdvy+
Aカップのメイドさんです。
初めて書いたので、微妙ですが保守代わりに。
メイドと恋人の間。
困る。
「千佐都」
ソファーで寛いでいらっしゃる朝顕さまが、空いてる隣を掌で軽く叩く。
お側にまで来たけれど、座るわけにはいかなくて私を見上げる朝顕さまに微笑んで誤魔化してみた。
「千佐都。ここ」
「あの、ご用がなければ済ませてしまいたいこ」
腕をとられてしまった。
「座って」
「…ハイ」
腕は放してくれそうもない。そのまま肩を抱かれ身体ごと寄り添う形でいるけれども、朝顕さまの体温とか、私の肩の指とか、いろいろと近しくて。
「千佐都」
「ハイッ」
びくりとしてしまう。しまった。
困惑そのままに朝顕さまを見れば、愉しそうに笑っていらっしゃる。
「千佐都は今、私のメイドの千佐都?私の恋人の千佐都のどっち?」
「…わかりません。出来れば今は残した仕事を」
顔になにかぶつかった。
身体を急いで退こうとしたのに動かない。
「そういう真面目なところ千佐都らしくてカワイイけど、可愛くない」
キス、された。
「だっ旦那さま!それはセクハラです。お雇いになってる人にそんなことなさいませんでしょう!?」
「私の場合は千佐都だけ」
固まったままの千佐都は可愛い。
「うん。口説きたい女の子をメイドにしたから」
真っ赤になったまま、目を合わせてくれないのが悔しいので更に追い詰める。
「やっと私の気持ちをこうして」
大切に大事にそっと抱きしめる。
囲いこみ閉じ込めて、誰にも見つからないように、私だけの可愛い千佐都を独り占めしたかったんだよ。
と庚朝顕(かのえともあき)は
「金をたくさん持っていて良かった。金持ちに生まれたことは幸運だった」
と真顔で
吹き出した。
小ネタキタ─wwヘ√レvv〜(゚∀゚)─wwヘ√レvv〜─!!
坊ちゃんを可愛がっちゃうメイドさんカモン
GJ!
はぁー、幸せな気分だ
投下ありがとう
>>238 GJ!!!!!!!!!!!!!つらしゃんおしやわせに。。。
「うおう! これは美味い!」
お付のメイドが昨夜から何を作っていたかと思えば、コトコトとカレーを煮込んでいたようだ。
「旦那様は良く煮込んだカレーがお好きですから。 辛くはありませんか?」
にっこりと、してやったりという笑顔でメイドが喜ぶ。
彼女は素直に喜んであげると、とても喜んでくれる。
私が嬉しいことは彼女も嬉しいらしい。
「後から熱くなってくる辛さだね。 煮込んだ旨味が先に味わえるから、食が進むよ。 これくらいの辛さがちょうどいいようだ」
次から次へと口へ放り込む姿を見せつけながらカレーを楽しむ。
ふと見ると、メイドの笑顔が妖しいものへと変わっているようだ?
「カレーのスパイスは漢方薬と同じものが多いのですよ。 なかには滋養強壮に効くものもありまして……」
頬を赤くしながらうっとりと微笑む。
「この熱さは……カレーか? それとも……」
「さあ? どうでしょうね。 あとで、試してご覧くださいませ」
艶然とした笑みを浮かべてメイドが下がる。
「お代わりもありますから、たんと召し上がってくださいませ」
後姿からは顔がうかがえない。 しまった、またやられたようだ。
熱くて眠れない夜に、お付のメイドを呼び出すことになる自分の姿が目に浮かんだ。
翌朝
「あら、どうしたの? 動きがぎこちないじゃない?」
「え? ええ、ちょっと……」
お付のメイドが他のメイドに声をかけられている。 理由はなんとなく判る。
私も、パンツの中はヒリヒリとしているからだ。
「旦那様、何かこう、変じゃありませんか? 痒いような、痛いような」
「ああ、判らないかい? 昨日のカレーだよ。 二人とも、粘膜質をカレーの辛味成分でやられたらしい。 今度から気を付けような」
口の中にカプサイシンでも残っていたのだろう。 おかげで、今日一日は下半身に違和感を持ったまま仕事をしなきゃならん。
困ったものだ。
「でも、旦那様。 痒い感じがするので、二人で擦りあったら好くなるのではないでしょうか? 今日はお昼にお仕事場に伺いますね。
可愛がってくださいまし」
すれ違いざまに耳元でとんでもないことを言いやがる。 まったく、カレーの強壮成分のおかげで朝から大変なんだ。
責任を取らせてやろうじゃないか。
ニッコリと見送るメイド。
ニヤリと見送られる主人。
これはこれで、幸せな日常なんだろうなと、素直に喜ぶことにした。
だって、私のメイドがあんなに喜んでいるのだから。
たくさん投下〜〜ありがたやありがたや…
つらしゃんかむばっく万歳!!!!
おのーらしゃんGJ!
>>238 個人的な意見ですが、ちゃんとメイドさんの本編をこのスレで投下した後の番外編なら
普通に投下しても良い様に思います
今回は無事収録されたようですが(保管庫管理人様収録GJです)、もし保管庫にうまく収録できないと、
将来新しくメイドスレの作品を読みに来た人は読めなくなってしまいますので
>>242 何故か包丁人味平のブラックカレー(カレー戦争編)の話を思い出しましたw
知ってる人いるかな・・・?
スパイスは、奥が深いですねw
>>238 GJ!!!!!!!!!!!!!!!
作者様ありがとう!!!!!
津田さんの続編をこんなに長編大作で読めて、感激です!!!!
さて
あ さて
テスト
つらしゃん、おのーらしゃん、あらっとー!
>>249 ここは幼児が来るところじゃない!!!w
若菜ちゃんこないかなー。
保守いたします
『メイド・カンナ 前編』
お屋敷にお戻りになった優介さまは、自分のお部屋に入ったとたん、それまでしゃっきりなさっていたのに急にヘロヘロになった。
「いやー、今日はたいへんだったよ。なんせ社長のお屋敷にお招きだろ。緊張したぁ」
それなのにジーンズにポロシャツというラフな格好なのは、朝のうちに草野球の練習をしてそのメンバーでお招きされたからだ。
なんでも、優介さまが趣味で作った草野球チームには最近、親会社の社長が加わったのだとか。
その親会社は、去年社長が英才教育を受けた跡取りと一緒に事故死して、急遽社長に据えられた弟っていうのがまだ二十代の若造。
で、なにがどうなったのか、優介さまがうまくその若社長に取り入ったのか気が合ったのか、一緒に貴重な休日に早起きして球遊びをしているというわけだ。
野球チームの皆で、練習の後で新入りの社長のお宅へ行ってお食事なんて、考えただけで肩が凝る。
優介さまは、足元がおぼつかない歩き方でソファに崩れおち、足を伸ばして靴下を脱がせとせがむ。
私はその足元にかがみ込んで、靴下を脱がせた。
「ピアニスト崩れの社長、ご機嫌でしたか」
裸足になった優介さまは、ぷっと吹き出してから笑いをひっこめた。
「こらこら、カンナ。誰が聞いているかわからないよ」
「聞いてませんよ。お風呂、入りますか」
「壁に耳ありジョージにメアリー。お風呂はあとでいいや」
くだらないことを言って、優介さまはスポーツバッグの中から飲みかけのスポーツ飲料のボトルを引っ張り出す。
「あ、それでね。やっぱり社長のお屋敷はなにもかもすごいんだけど、一番すごかったのはなんだと思う?」
「さあ、なんでしょう」
ボトルからドリンクを飲んで、それを私に渡してからソファにひっくり返る。
だらしないったらありゃしない。
「興味を持って人の話を聞きなさいって。使用人の数がうちなんかとはケタ違いでね。メイドがいっぱいいたこと」
やっぱり。
偉い人の家に昼ごはんに呼ばれたからってだけで、緊張したり珍しがったりするわけないと思った。
私は優介さまのスポーツバッグをひっくり返して、汚れ物を分ける。
長尾家のメイドは私ひとりきりで、すみませんね。
使ったタオルやジャージが汚れたまま丸めて押し込んである。
優介さまは寝転んだまま手を伸ばして、私の背中をつついた。
「そのメイドの中に、すっごい僕好みのかわいい子がいたんだよね」
私の働くここ、長尾家のご主人は、タカシナグループの系列会社社長だ。
明治のころ、先々代だか先々々代だかの高階社長が起業したときに、五奉行だか七武将だか呼ばれた部下たちがいて、その一人が今のご主人の先代だか先々代だかなんだそうだ。
もっとも、その5人か7人の腹心の中ではうちの旦那さまは下のほうで、タカシナグループでもあまりパッとしない食品部門を担当している。
私の母は、若いころから長尾家で働いていて、ずっと台所を任されていた。
学校を卒業してすぐ、見た目だけの男に騙されて私を孕んで捨てられて、そのあげく親にも勘当されて、そんな母を住み込みで雇ってくれたのが先代の奥さま、つまり優介さまのお祖母さま。
このお屋敷で、私はお坊ちゃま、優介さまと一緒に大きくなったのだ。
大人びている子どもだと思われていた優介さまは、時々ひどく自分勝手で子どもっぽく、齢の離れた私とおやつの取り合いもしたし、取っ組み合いのけんかもした。
旦那さまは、優介さまが私にひっかかれてほっぺたにミミズバレを作っても笑っているような方だったし、使用人の子どもとお坊ちゃまではあるけど、高階社長の家ほど大きくて格式のある家でもない。
母は隠居して別荘に行った大奥さまについて行ったし、今いる使用人だって、ほんの何人かだ。
私だって、学校を出たらアパートでも借りて普通に会社勤めでもするつもりだった。
優介さまが、勝手さえ言わなければ。
「カンナは、うちにいてよ」
その一言で、私は長尾家に主に優介さまのお世話をするメイドとして雇用されることになったのだ。
大学卒業後は、タカシナフーズの片隅で仕事をしている優介さまは、そこそこ評判がいいらしいが、私の前では昔と変わらないわがままなお坊ちゃまだ。
ひたすら世話が焼ける。
「そうですか。で、どうなんです、そのピアニスト…あがりの社長っていうのは」
言い直すと、優介さまはニヤッとした。
「まあ、ハンサムの部類に入ると思うよ。背も高いし、ステージ映えしたんじゃないかな」
私はスポーツバッグに入っていたグローブで優介さんの頭を軽く小突いた。
練習のたびに、手入れを欠かさない大切なグローブ。
「なにするの、カンナちゃん」
ソファにくたっと寝そべったまま、優介さまが苦情を言う。
「誰も社長の見てくれのことなんか聞いてないですよ。中身でしょ、中身。タカシナグループを率いて、まとめて、でっかくすることができる人なのかってことです」
ニヤニヤ笑いながらソファでごろごろしていた優介さまが、ほんの一瞬真顔になる。
私が見つめると、すぐにまたニヤニヤ顔に戻って、うーんと手足を伸ばす。
「まだ、シロウトだね」
なるほど、見込みはあるってことか。
優介さまが、ダメだね、とおっしゃったら、私はさっさとタカシナを見限るように勧めるところだった。
「人が良すぎるのが心配だけど、そこは周りがきっちりすればいいことだからな。タカシナさえ背負ってなければほんとに気持ちのいい青年なんだけど」
ぶつぶつ言いながら、大きなあくびをする。
野球の後に社長のお宅訪問で、疲れているんだろう。
「ちょっとお昼寝したらいいですよ。私、洗濯してきますから」
「やだ、カンナがいてくれないとやだ」
でかい図体をして、長い手足をジタバタしながら言う。
「あまえんぼちゃんでしゅねー、いけましぇんよー」
「カンナがいてくれたら、お昼寝するう」
「はいはい、子守唄でも歌いましょうね」
旦那さまか奥さまかお屋敷の誰か、会社関係の誰かが見たら腰を抜かすだろう。
タカシナフーズ社長の息子が、将来頼もしいとウワサのサザンクロスデリバリーの若き社長が、自宅のソファでメイドに添い寝を求めて駄々をこねているのだ。
私はソファに寝そべって両手を差し出す優介さまに近づき、そのまま胸の上に腰を下ろした。
「うげっ、ばか、カンナ、重い!」
「ふふん」
私は鼻で笑って立ち上がった。
赤ちゃんごっこはおしまいになった。
お部屋を一歩出れば旦那さまの自慢の息子で、お屋敷を一歩出れば期待の若手社長で、それなりに疲労とストレスが溜まるんだろうと思う。
だから、私はわかっていてわがままを聞いてやるし、ごっこ遊びにも付き合ってやる。
「ほんとに、お昼寝しませんか。30分したらコーヒーを持ってきますから」
「……うん」
優介さまは素直に目を閉じ、私は薄い毛布をかけてから洗濯物を抱えて部屋を出た。
優介さまが私のことを幼馴染だと思っているのか妹だと思っているのかメイドだと思っているのか、時々よくわからなくなる。
……少なくとも、女の子だとは思っていない。
見てくれに恵まれた優介さまは、小さい時からそりゃあもてた。
いい家の子女ばかりが集まる幼稚園や小学校に行ってたくせに、女の子たちは競って優介さまの隣の席になりたがり、ハンカチを貸したがり、お弁当のおかずを分けたりしたがった、と母から聞いた事がある。
勉強もできたし、スポーツもできた。
バレンタインや誕生日はチョコやプレゼントが机に山積みになり、恋の鞘当は日常茶飯事だった。
最初に優介さまのガールフレンドの地位を射止めたのは、どこぞのお嬢さまだったそうだ。
何度かデートらしきものをしたようだが、長く続かなかったらしい。
ファーストキスは中学二年生、初体験は高校一年生。
野球部に入ってレギュラー取り合戦の合間に、ちゃっかり校内一の美少女と付き合っていたのだ。
ぐりぐりの坊主頭で汗と泥にまみれてボールを追いながら、朝と放課後に彼女とイチャつくのが楽しかったらしい。
アタシを甲子園に連れて行って、というやつかもしれない。
なぜ私がそんなことまで知っているかと言うと、優介さまがいちいち細かに報告するからだ。
まだ小学生の私は、男の子の初体験について報告されても意味もわからず、わかってからの気まずさったらなかった。
もちろん、私が最初のボーイフレンドと学校の裏でキスしたことや、彼の家の六畳の和室で初めてエッチしたことなんかは、優介さまには話していないけど。
きっちり30分たってから、コーヒーを入れて優介さまの部屋に戻る。
あんまりお昼寝しすぎると、夜に眠れなくなる。
そっとドアを開けてみると、ソファには丸まった毛布があるだけで、優介さまは机に向かってなにか読んでいた。
お仕事かお勉強だろうと、私はそのままドアを閉めようとした。
「カンナ」
顔を上げてこちらを向いた優介さまが、ちょっと笑った。
「入っておいで」
さっきまで、駄々をこねる子どもごっこをしていたというのに、今はもうすっかり28歳の青年社長の顔になっている。
ちょっとドキッとしてしまった。
「お邪魔ですか」
「僕がカンナを邪魔にしたことなんかないだろう」
そんなふうに言われるとドキドキする。
カンナがいてくれないとお昼寝しない、と甘える子どもを演じて遊ぶ優介さまも嫌いじゃないけど、こういう優介さまも嫌いじゃない。
たぶん、私以外のみんなが見ている優介さまは、こっちなんだろうな。
「コーヒーですけど」
「うん、そこ置いて」
優介さまは読んでいた本に栞を挟んで閉じ、机の奥に置いた。
「さっきの話だけど」
コーヒーを一口飲んで、優介さまは手で私に座るように示す。
私は小さな椅子を持ってきて、優介さまの隣りに腰を下ろす。
「なんですか」
「だから、社長のとこにいた、かわいいメイド」
がっくりだ。
青年社長、撤回。
「やっぱり、社長のお気に入りかな」
「知りませんよ、そんなこと。社長に聞けばいいじゃないですか」
「聞いたんだけど、嫌がられた。うん、あれは絶対嫌がってる」
どういうこと?
「僕が思うに、高階社長はあのメイドが好きなんじゃないかな」
コーヒーカップを持ったまま椅子を回してこちらを向いた優介さまは、私に膝をくっつけるようにして身を乗り出す。
「へー。で、優介さまは高階グループの社長を敵に回してでも、そのメイドに手を出したいんですか」
「そこなんだよ」
どこですか。
「それはさすがにヤバイだろう。でもさ、気になるんだよ」
胸がチリっとした。
「だって、世界のタカシナの社長が、自分ちのメイドに気があるんだよ、しかもマジで」
マジかどうかわかんないじゃないですか、というのはガマンした。
「……気になるだろ?」
「いいえ、べつに」
「そうかなあ」
優介さまは、社長のメイドが本当に気に入ってどうこうしたいというより、お気に入りのメイドに他人が目をつけていると知ったタカシナ社長がどうするかを、見たいんじゃないだろうか。
「本気なんですか、その……、高階社長が」
「社長が、メイドに?」
私の目の前で、優介さまは手を振った。
「ないない、それはない。タカシナともなれば、社長がメイドを相手にするなんて絶対ない」
絶対。
また、胸がチリチリした。
「ま、そうでしょうけど」
「かわいい子だったんだよ、こう、目がきゅっとしてあごがつんとして、足とかちょんっとして」
全然わかんない。
どうせ私は、きゅっとかつんとかちょんっとかしてないし。
「わかんないです。優介さまは、高階社長が嫌いなんですか」
「んなこたない。社長でなくても友だちになりたいくらいだよ」
女の子は絶えずはべらせていたけど、男友だちの少なかった優介さまにしては、珍しい。
「だったら、嫌われるようなことしなきゃいいのに」
社長のお気に入りのメイドなんかに手を出さなくっても、他に女の子はいっぱいいる。
「なんていうの、先見の明で心配してんの」
「は?」
優介さまが、コーヒーカップを渡してくれたので、一口もらう。
ひとつしかないおやつを取り合う子ども時代が終わると、優介さまは、ごく自然に自分の分を分けてくれるようになった。
例えそれが、飲みかけのコーヒーでも。
どうしても欲しければ、私も自分の分のコーヒーを用意すればいいんだけど。
気が回るんだか回らないんだか、こういうところが優介さまはお坊ちゃんなんだろう。
「だからさ、いくらメイドが気に入られたって、所詮はメイドだろ。あの子にその気があってもなくても、結局は」
優介さまの手が、首の辺りをすっと横に動いた。
チリ、チリ。
「……いいじゃないですか、よそん家のメイドがどうなっても」
「でも、かわいい子だったんだよね。……カンナ?」
未練たっぷりな顔をしていた優介さまが、急に真顔になった。
コーヒーを返せと言ってるのかと思って差し出したのに、優介さまは受け取らなかった。
「なに、機嫌悪いね」
「べつに」
「あ、そうだ」
机の上にカップを置くと、優介さまはニヤッとする。
「どう、今日」
チリ。
「なんですか」
「もしかして、ダメな日?」
チリチリを通り越して、腹が立ってきた。
「そうじゃないですけど」
「いいだろ、最近ご無沙汰なんだよ」
優介さまがしばらく前に、お付き合いしていた女の子と別れたのは知ってる。
なぜ知ってるかといえば、優介さまが言ったからだ。
別れただけじゃなく、初めて会った日のことも、付き合うようになったことも、いつどこへデートに行って、どこで寝たかも。
その気になれば私は優介さまの日記を代筆できるぐらい、何でも知っている。
だから、優介さまがどのくらいご無沙汰なのかも、私は知っている。
「そうだ、新しいiPodを買ってあげるよ。カンナ、欲しがってたろ」
欲しいものを買ってあげるから、おにいさんとエッチなことしよう。
優介さまは、バカみたいだ。
「それとも」
私が、いいですよと言わないので優介さまは首をひねった。
「もしかして、新しいオトコでもできた?」
だったらいいけど、と言わんばかりにニヤッとする。
いつも会社へ行く時にはピシッと上げている前髪がほつれて、その隙間から切れ長の目が私を見ていた。
腹が立って、胸がチリチリ痛くて、私は床を蹴るように立ち上がった。
「ヘッドホンも欲しいんです。音質のいいのが」
優介さまは広い肩をちょっとすくめた。
「足元見てくるね、カンナちゃん」
手を伸ばして、読みかけの本を取り上げる。
「じゃあ、晩メシのあとね」
優介さまにとって、私はなんなんだろう。
旦那さまたちのお夕食の後、私は浦沢さんが作ってくれたご飯を食べた。
浦沢さんは子持ちの未亡人で、通いの料理係。この後、朝食の仕込をして帰っていく。
夜になると、お屋敷には住み込みの私と交代で夜勤の男の使用人が一人いるだけになる。
母は大奥さまについて別宅で働いているし、数人いるメイドもみんなパートで通いだ。
朝食は私が仕度をし、掃除や洗濯以外のことは奥さまもご自分でなさる。
長尾家は、その程度のお金持ちだった。
後片付けを済ませ、ご家族の方がみんな入った後のお風呂に向かう。
私は毎日、最後にお湯をいただくから、冷めている。
沸かしなおすのが面倒で、いつものようにシャワーで済ませて、静まり返ったお屋敷の台所から階段を上がって優介さまの部屋へ行った。
「ご飯、食べたかい」
ノックもせずにドアを開けたのに、優介さまは振り返りもせずに言う。
お風呂上りでダボッとしたスウェットのハーフパンツにTシャツだ。
「いただきました」
ポットに入れてきたジンジャーティーをカップに注いで、優介さまの机に置いた。
「カンナ、僕に精をつけさせて、どうする気?」
「そんなものつきません」
軽口の応酬。
「つけたいな。たっぷりしたい気分なんだけど」
ニヤニヤしながら、言う。
「じゃあ、バッグも買ってもらわないと」
「高いよ、カンナ」
「私、安い女じゃないんですよ」
「わかってるさ、町でウワサのいい女、誰もが一度は寝たいと思う、だろ」
歌うように言って、優介さまはジンジャーティーのカップを取り上げる。
そんな歌、ない。
「欲しいのは、どこのバッグ?」
私は、優介さまの横にぴったりと立って、腕に腰を押し付けた。
若い女の子の間で人気のブランドの名前と、新作の値段を言う。
優介さまは、少しも困った顔をせずに困ったねと言って笑った。
「明日にでも買っておいで。僕の名前でね」
また、チリッとした。
それは、優しさなんかじゃない。
代価を払うことで、私と優介さまは貸し借りをなくす。
さあ、とジンジャーティーのカップを空にして優介さまが立ち上がる。
iPodとヘッドフォンと新作バッグで買われた私は、しぶしぶ優介さまについてベッドのほうへ行く。
「カンナとするの、久しぶりだね」
チリ、チリ。
「前のオトコ、なんていったっけ。コンビニでナンパされたんだよね」
優介さまは、私の嘘を簡単に信じる。
「そいつとファーストフードを食べて、家に帰るのが遅くなってお母さんに叱られたんだろ。安い油で揚げたジャガイモでニキビができた」
季節の変わり目にできたニキビを、優介さまが見つけてからかったから、そう言った。
「銀行に就職したばかりの新社会人で、次のデートで一緒に映画を見たんだよね」
優介さまは留守が多いから、私がお屋敷にいようがいまいがわからない。
「そいつのワンルームマンションに行ったのは、何回目だっけ」
お休みなので出かけてましたデートでしたと言いながら、一日中お屋敷で窓拭きをしていても、わからない。
「で、良かったの、そいつ」
架空のカレシを作って物語を語っても、優介さまにはわからない。
「なんで別れたんだっけ。ああ、たしか」
優介さまは、私の服を脱がせる。
「……鼻をかんだティッシュで、テーブルにこぼした水を拭いたから」
ベッドに腰掛けて、優介さまは私の胸に下から顔を寄せた。
「カンナ」
優介さまは、私の嘘に気づかない。
背中に腕が回されて、引き寄せられる。
優介さまの脚に膝を乗せて、私は優介さまの首を抱く。
「……カンナ?」
優介さまが、下着の隙間から指を入れて弾いた。
「あ」
思わず声が出て、優介さまは私の腕を引っ張ってベッドに座らせた。
立ち上がって、Tシャツを脱ぎ、ハーフパンツと下着を一緒に脱ぐ。
甲子園の土を踏んだ高校球児は、今も鍛え上げられた身体をしている。
ベッドに片膝をついて私に乗りかかる。
「なに?気が進まない?」
「優介さまが、iPodとヘッドフォンとバッグだと思えば平気です」
そんなひどいことを言われても、優介さまはちっとも怒らない。
ニヤッと笑って、私を仰向けに押し倒した。
「エンコーには、ちょっと女の子が齢くってる」
エンコーを、援交と漢字変換するのにちょっとかかった。
「そういうことするオジサンになりそう」
「僕が?」
私の身体をまさぐりながら、優介さまはニヤニヤする。
脂ぎってハゲ頭でお腹の出た優介さまが、スカートの短い女子高生にお金をちらつかせてホテルに連れ込む姿を想像した。
「でも、女子高生は、ロミオとジュリエットごっこはしてくれないだろうな」
私だってしない。してあげてもいいけど。
優介さまの腕に手を添えると、筋肉の動くのがわかる。
二の腕から肩に、胸に、筋肉をなぞる。
休みの日の朝に走っていることもあるし、野球の練習やジムにも行っているせいか余分な脂肪はどこにもない。
割れた腹筋が上下している。
私が筋肉に触るのを愛撫だと思ったのか、優介さまは顔を両手で挟んでキスしてきた。
体中でここだけかと思うくらい柔らかな感触。
「カンナ。どっちがいい?」
「……なんですか」
自分の口の中に、優介さまの声が反響するみたいだ。
「コンビニでナンパしてきたカレシと、僕。どっちのキスがいい?」
状況と相手によれば、ものすごく今の場面が燃え上がる挑発的なセリフ。
「ばかみたい」
優介さまは気分を害して行為を止めてしまったり、怒ったり、ましてや私を殴ったりはしなかった。
ニヤッと笑うと、私の胸をつかんだ。
「開発中の季節の弁当。デザートにブランマンジェを入れたいんだ」
そのまま、優しく揉みしだく。
「持ち運んでも壊れない、口溶けのいいぎりぎりの柔らかさが欲しいんだよね」
私の胸は、ブランマンジェではない。
ていうか、人の胸を揉みながらテイクアウトのデザートについて考えるってひどくない?
「真ん中に、ブルーベリーかラズベリーとミントの葉。もしくは、フルーツソース」
目をつぶって、新しいバッグのことを考えた。
「ねえ、カンナ。ストロベリーとオレンジとどっちのソースがいいかな」
カチンときた。
「どっちでもいいです」
このままバッグのことを考えていれば、終わる。
優介さまが私の身体を気の済むまで撫で回して、勝手に興奮して、勝手に入ってきて、勝手に動いて、終わる。
バッグ。新しいバッグ。
そんなもの、いくつあったって持って出かけるところもないのに。
メイドの制服以外、優介さまがいくら流行の高い洋服を買っていいよって言ってくれたって、ネックレスもイヤリングも化粧品も、使い道がない。
そりゃ、部屋の中ででも新しい服を着てみるのは楽しくて嬉しいんだけど。
優介さまが、動かなくなった。
そっと目を開けると、触れそうなほど近くに優介さまの顔がある。
「カンナ」
「はい」
「ちょっと、中断ね」
中断って、なんだろう。
優介さまは枕を積んで壁を作り、そこに足を投げ出して寄りかかる。
両手を伸ばして私を抱き寄せた。
優介さまの脚の上で、私は硬い胸に顔を押し付ける。
優しく髪を撫でてくれながら、寒くないかいとささやいた優介さまの声が、私をチリチリさせた。
「なんですか」
「うん。いや、あんまり乗り気じゃなさそうだから」
「……そんなことないですけど」
優介さまが、私を撫でる。
「カレシとか……、好きな男とかできたら、断ってもいいんだよ」
「できません」
「ふうん。なんでだろ。カンナ、かわいいのに」
私は、優介さまの腕を力いっぱいつねった。
「いて。誉められて怒るのはおかしいだろ」
「自分がかっこいいから女の子にもてるって言いたいんですか」
「なーんで、そうなるかな」
私は、お仕事中の優介さまを見たことがある。
子どもっぽく笑ったり、私に甘えたり、自分勝手な理屈を並べたりしているいつもの優介さまとは別人で、髪も服もパリッとして、偉そうにいろんな人に命令していた。
反対意見を言う人をきちんと説得したり、その意見を受け入れて新しい考えを話したり、ものすごくデキる青年社長っぽかった。
まだ若くって、背が高くって、スポーツマンで、頭も良くて、仕事ができて、そこそこお金も持っているし、ちょっと顔もいいんだから、女の人が放っておかないだろうなって思った。
今の優介さまは、ただのニヤけたお坊ちゃんだけど。
「学生のころは、周りにいっぱい女の子がいたけどね。今はみんなほら、僕を社長だとしか思ってないから」
「ふうん」
「あ、なにその興味なさそうな言い方」
優介さまが、ずうっと私を撫でてくださる。
うなじとか耳の後ろとか、頭にもキスをする。
すごく、優しく。
肩から腕を少し強くマッサージするように撫でてくださるのが気持ちいい。
胸は、そっとさするように、動かす。
他愛のない話をささやきながら、体中を愛撫されて、私はうっとりと目を閉じた。
「カンナ」
「……ん」
「して、いい?」
あ、そっか。
「いいですよ……」
あったかくってとろんとしている心地良さが冷めないように、私は目を閉じたまま小さく言った。
「ありがとう」
なんで、お礼なんか言うんだろうと思いながら、私は優介さまに抱きかかえられたままベッドに横になる。
お互い、たまたま今はカレシとかカノジョとかいなくて、だからちょっとこういうことするだけ。
優介さまは、そう思ってる。
唇で、優介さまを受ける。
でも、きゅっと力を入れて唇を閉じる。
優介さまは閉じたままの私の唇の上と下を挟むようにしたり、舌先でつついたりする。
こういうの、キライじゃない。
気持ちいい。
優介さまは優しくしてくれるし、私がしてほしくない時に強くしたりしない。
壊れやすい薄いガラス細工か、ふわふわの羽毛に触れるように、そっと扱ってくれる。
だから、私は優介さまとこういうふうにするのが好き。
優介さまの指が、私の輪郭をなぞる。
頬とあごを温かい指先がすべり、唇に触れる。
あごをつまむようにして、下唇を開かせられる。
優介さまのあったかくって湿った舌が、唇を割る。
私は歯を食いしばる。
意地っ張りな私の口がこじ開けられる。
「……噛む?」
笑いながら、優介さまがささやいた。
噛んでやろうか。
差し込まれた舌を舌で受けながら、考える。
もう、他の女の子にキスなんかできないように、舌も唇も、血が出るくらい噛んでやりたい。
「……ん、んっ」
頭と反対に、私の口からは嬉しくてたまらないような声が漏れてしまう。
優介さまのしてくれるキスが好き。
優しくて、とろけそうになるまで続く愛撫が好き。
時々ささやかれる、照れ隠しのような冗談が好き。
優介さまが好き。
首筋にも胸にもお腹にもキスされて、私は綿菓子に包まれたような気分になる。
もう、優介さまったら胸が好きなんだから。
あんまり大きくないというか、どっちかというか、いや、はっきり言って小さいから恥ずかしい。
私はガリガリなのがコンプレックスだから、優介さまが物足りなくないか心配になる。
服を着ればモデルみたいでかっこいいって女の子同士なら誉めてくれるけど、男の子はもう少しぽっちゃりしてる方が好みらしい。
あとちょっとだけ、女の子らしい丸みとか柔らかさとかがあればいいのに。
それなのに、優介さまは私のちっさい胸を寄せ集めるようにして吸っている。
筋肉質な自分の胸のほうが盛り上がってるなんて言われたら、ほんとに舌を噛みちぎってやる。
私は優介さまの首に腕を回して抱きついた。
そのまま転がって、上になる。
いいなあ、優介さまの胸は仰向けになっても流れたりしないから。
私が見てるので、わざと胸の筋肉を動かしてみせる。
硬い胸だけど、先端の乳首はちょっと柔らかい。
唇で挟んでちゅっと音を立てる。
んふ、と優介さまの息が漏れた。
あ、気持ちいいんだ。
優介さまが、私の頭の後ろを撫でてくれる。
「サービスいいね、カンナちゃん」
こんな時にふざけるなんて腹立たしいけど、照れ隠しだってわかってるから許す。
私がしばらくサービスに徹していると、優介さまのアレが天に向かって立ち上がってきた。
いつ見てもグロイなあと思う。
怖いもの見たさでちょんちょんとつついて揺らしてみる。
「うお」
あ、おもしろい。
つついたり、握ったりしてみると優介さまが痙攣する。
へえ、こうなるんだ。
気持ち悪いなー、これが入るのかー、けっこう大きいよね、痛いはず。
「……カンナ」
ぽん、と優介さまが私の腰を叩く。
「チェンジ」
え、なに、と聞き返す間もなく、優介さまが私に乗りかかってきた。
あ、入れられる、と思った。
なのに優介さまは私の脚の間に身体を入れて、顔をつっこんだ。
「ご開帳」
なに言ってんだかわかんない。
あそこを、触られる。
恥ずかしくって、私は枕を顔に乗せて隠した。
触られる感覚だけが研ぎ澄まされるみたいで、変な気分。
お尻のあたりがムズムズして、頭がぼうっとして、ふわっと浮き上がるような気持ち。
なんか、変な音がする。
枕の隙間から見ると、優介さまが舐めてる。
「や、なに、なにしてるんですか優介さま」
目だけ上げて、優介さまがくぐもった声で答える。
「気持ちよくなるかなと思って」
それは、まあ、悪くないけど、だけどそんなことしてるって思わなかったから。
「やめてください、そんなとこ」
「だってねえ」
舐める舌が話すために使われているせいで、今度は指先でいじっている。
「カンナ、痛いんだろ?」
ドキッとした。
気づかれていると思わなかった。
学校の先輩に告白されて付き合って、誘われるままにエッチしたのが初体験。
それは本当だけど、その後たくさんいたはずのカレシの話はほとんど嘘で、エッチだって最初のカレシと2回しかしてない。
そのカレシだって、そんなに好きだったわけじゃないから、付き合ったのもほとんどモテモテの優介さまへの当て付けだった。
遊びなれたオンナノコのふりをして、彼女がいない時期の優介さまに抱いてもらった。
経験豊富だから、軽いオンナだから、気軽に誰とでもそういうことをするんだと思われてもよかった。
どうせ、優介さまは私のことメイドで幼馴染で妹みたいなものだとしか思ってないんだから。
そうでなきゃ、相手にしてもらえないと思ったから。
その度に、なにか買ってもらうのだって、優介さまが私のことを面倒に思ったりしないように、エッチと買い物でチャラくらいの関係の方がいいんだって自分に言い聞かせた。
慣れてるフリをしなきゃいけないから、アレが気持ち悪いとか言わないし、入れたときに痛いとか言わないようにいていた。
でも、優介さまにはわかってたんだ。
「女の子はデリケートだからね」
器用に片目をつぶって、優介さまはまたぺろっと舐めた。
ピリッとしびれたような感じがした。
「んあっ」
優介さんはそこばっかりする。
ピリピリが大きくなって、気がついたらお尻を跳ね上げて、優介さまの顔を太ももでぎゅーっと挟んでた。
「……あ、すみませ、あんっ」
優介さまが私の中にアレを入れて、すごーくゆっくり動いてくれた時にこんな気持ちになる。
入れた時と、早く動いた時はちょっと痛いんだけど、ゆっくりの時はすごく気持ちいい。
今は入ってないのに、ちょうどそんな感じでうっとりする。
「……うん、んっ」
そんなつもりないのに、声が出る。
「カンナ」
顔を隠してた枕が取られて、いつの間にか優介さまの顔が近くにあった。
「痛かったら、言うんだよ?」
もぞもぞと下の方に行って、ごそごそやっている。
それから私の腰の下に枕を入れて高くする。
「なんですか、優介さま、それ」
丸見えになってしまうんですけど。
「この方がラクだと思って」
また勝手なこと言ってると思ったけど、すぐに違うとわかった。
押し広げられるような感覚はあったけど、痛くない。
なんかこう、角度が合ってるというか、正しい方向を向いてる感じ。
あ、こうすればよかったんだ。
力を抜いて、優介さまを受け入れる。
あ、この感じ。
入っただけで、心地のいい気分。
「あ……」
「大丈夫?」
「…は、はい」
優介さまが、良かった、と言って私の手に唇をつけた。
唇にキスしてくれないのは、やっぱり気にしてるのかもしれない。
私だって、あそこをあんなに舐めた口でキスされるのはちょっとためらうけど。
でも。
言いたいことがわかってくれたのか、優介さまは窮屈そうに身体を丸めてキスをしてくれた。
目をつぶっていると、優介さまの舌や唇の感触が気持ちよくて、背筋にまでしびれがくる。
「カンナ…、動いていい?」
頷いてから、あ、また痛くなるかなと思った。
でも、優介さまは私の脚を回して、後ろから抱いてきた。
両手が胸を触って、お尻に押し付けるようにされて、ゆっくり、ゆっくり動く。
あ、気持ちいい。
胸を触っていた手が下がって、お腹の下に行く。
あ、と思う間もなく前から触られた。
「きゃ、あ、や、あん、それっ、あ」
脚をじたばたしたけど、なんといっても後ろから前に腕を回されて抱きしめられているし、身体の中心には、その、そんなものを差し込まれて固定されてるしで逃げようもない。
「もう、抵抗してもかわいいな、カンナ」
またそんなこと言ってからかって。
「あんまりかわいいから、興奮してきた……」
なに言ってるんだかちっともわかんない、あん。
いろんな女の子に、こういうこと言ってるんだろうなって思ったら、またチリチリッとしてきた。
「うんっ、……あ」
やだ、お尻が動いちゃう。
優介さまが、私の後ろで息を乱している。
ジョギングの後でも、筋トレの後でもへっちゃらな顔してるのに、私を抱いて息が荒くなってる。
そう思ったら、漏れる声が大きくなってしまって恥ずかしかった。
「カンナ、顔見せて」
そう言って、私の肩をつかんで上を向かせた。
片脚が優介さまをまたいで、あそこでつながったまま私は仰向けにされる。
中でねじれたりしてなきゃいいんだけど。
「……ん」
動いたのが、また変な感じ。
「ね」
目を閉じてたから、優介さまが私のほっぺたに自分の顔をくっつけそうになってるのに気づかなかった。
息がかかるくらい顔が近くて、その顔がちょっと紅潮していて、すごくカッコよく見えた。
「気持ちいい?」
そ、そんなこと言えるわけない。
「ねえ、カンナ」
私が顔を背けて横目で見ると、優介さまがニヤニヤしている。
「気持ちよくなってほしいんだけどな。もっと触らないとだめ?」
「あんっ」
前から手を入れて、ピリッとするところに触られた。
小刻みにいじられると、ピリピリする。
「やん、あ、……っ、ゆ、優介さま、あんっ」
そこに触ったまま腰を動かすものだから、私は悲鳴みたいな声をだしてしまった。
「……ん、僕も気持ちいい……」
あ、そうか。
ピリピリするとかムズムズするとか、変な心地だと思ってたけど、気持ちいいんだ。
うん、私も気持ちいい。
すごい、気持ちいい。
くちゃくちゃって音がするけど、これはなんだろう。
あ、すごい、いい。
当たるところとか、こすってる感じとか、すごい。
「あ、ん、うんっ……」
「ん、カンナ、かわいい……」
嘘ばっかり、そんなこと言って私を喜ばせようとして。
どんなに嬉しくたって気持ちよくたって、ちゃんとバッグは買ってもらうんだから、あん。
今までも感じたことのある感覚がどんどん強くなってくる。
飲み込まれる。
「あ、あ、っ、やん、あ、ああっ、ああ、あんっ」
もう声が止まらない、お尻が上がっちゃう。
優介さまの息遣いが聞こえる。
自分の声が自分で聞こえなくなって、ふうっと意識が遠のいた。
カンナ、カンナ。大丈夫、カンナ。
優介さまの声に目を開けると、目の前に優介さまの顔があった。
「……あ」
「気分はどう?」
あれ、私、どうしたんだっけ。
「気を失っちゃんだよ」
一気にいろんなことを思い出して、それから優介さまに抱きしめられて一枚の毛布に包まっている現状を把握して、顔から火が出そうになった。
「ちょっとやりすぎちゃったかな。あんまりカンナがかわいくてね」
「……嘘ばっかり」
私の呟きは、聞こえなかったらしい。
「大丈夫?くたびれちゃった?」
首を横に振ると、頭の上にキスされた。
「カンナが喜んでくれて、嬉しい」
そういうこと言われると、ものすごい恥ずかしいのに、どうして言うんだろう。
優介さまは、それからも私が恥ずかしくなるようなことをいっぱい言った。
何が良かったとか、なにがかわいいとか。
それから、だんだん言葉が少なくなって、そして寝息を立て始めた。
そのままじっとしていて、優介さまが熟睡した頃に私はそっとベッドをぬけ出した。
制服を着て、部屋を出る。
自分の部屋に戻って、ベッドに潜り込む。
暖かくって柔らかくて、優介さまの匂いがいっぱいついたベッドから、自分の冷たいベッドに入るとちょっと悲しくなった。
優介さまが朝帰りをしたときなんか、どこかの女の子が朝まであの腕の中で眠ってたんだろうなと思ってチリチリする。
それでも、目を閉じてうつぶせになると、ついさっきまでの優介さまの感触が蘇るようで、恥ずかしさでジタバタしたくなった。
かわいいよカンナ、と言ってくれた声が耳元で聞こえるみたい。
恥ずかしくて嬉しくて、私はすごく幸せな気持ちで眠りにつく。
優介さまの夢を見たかったのに、気がついたら朝だった。
午後になってから、優介さまがお仕事に言っている間にブランドショップに行って、欲しいと言ったのよりもっと高いバッグを選んで、優介さまの名前でツケにしてきた。
夜になって、これ買いましたよと見せたら、優介さまは、かわいいね似合うよと言ってくれた。
本心なのか上っ面なのかわからないけど、これで貸し借りなしだと思ったのかもしれなくて、私はまたチリチリする。
二週間後、優介さまは私に、届いたばかりの新型のiPodとヘッドフォンを渡してくれた。
ちょっと期待したのに、裏の刻印はふざけた愛のメッセージですらなく、ただ片仮名でそっけなく“カンナ”と彫ってあった。
部屋にある、これも前に優介さまに買ってもらったパソコンでCDを取り込みながら、私はひとりでチリチリする胸を持て余して悶々とした夜を過ごした。
――――了――――
ぷはっw
まったく、氏の作品の展開は面白い
千のGJを捧ぐw
GJ!
これは素晴らしいスピンオフ
相変わらずいい感じであります!
GJ!!!
後編に期待!
どっちがどう動くのかな〜。
秀一郎と那智がヘタレ系だから、優介はきっちり男前であって欲しかったりする。
意地っ張りメイドのカンナのべろべろに弱いところ発動もいいな〜。
若い頃から面倒を見てきた坊ちゃんが適齢期になっても
可愛くて可愛くて手放せないベテランメイド
自分が目をかけてきた優秀な若いメイドとくっつけようと陰謀をめぐらせる
母親(ベテランメイドとは乳姉妹の間柄)は母親で
良家のお嬢様とのお見合いをプッシュしてくるんですね
煩悩カキコします。
メイド服着たままで旦那さま(ぼっちゃま)にイタズラされて着たままエッチが読みたいです!
半脱ぎ可。
全脱ぎ無しで、肌着と服、ストッキング、メイドが持つ道具とかを克明に描写されているのが好きだ。
階段とか厚いカーテンの奥とか、屋敷モノなら曰くつきの開かずの部屋で、個人的に「コークス」「ポリッジ」「暖炉」「左翼、右翼がある左右対象の屋敷(及び城)」「馬屋」「藁」とか。
旦那さまには乗馬服を着て欲しいです。
「狐狩り」「鹿狩り」とか。
狩猟で興奮した旦那さまが、メイドにムラムラっと。
すみません、建物フェチと制服フェチなんです。
おまいが書け
『メイド・カンナ 後編』
「あ、しまった」
金曜の夜、部屋で本を読んでいた優介さまがふいに呟いた。
用がないなら部屋に帰らせてもらって、テレビでも見ながら缶チューハイでも飲んで、と考えていた私は反射的に聞き返す。
「なんですか」
「うーん、明日の朝、早いんだよ」
だったらさっさと寝ればいいじゃないですか、私も部屋に帰ってテレビでも見たいし。
くるっと椅子を回して、優介さまは私に向き合う。
「浦沢さん、帰っちゃったよね」
とっくに。
浦沢さんは通いの台所担当だから、夕食の仕度が終われば帰ってしまう。
こんな時間に家にいるのは、ご家族の他は、住み込みの私と夜勤のおじさんくらいだ。
「おなかすいたんですか」
私が夜食用に部屋に隠しているカップラーメンを持ってきてあげてもいいけど。
「いや、明日、チームの練習場所が遠いんだよ。おにぎりでも作っておいてもらおうと思ってたんだ」
チームといっても、趣味で社長の息子とかその会社の社員とかが集まった草野球。
優介さまは、練習に行く途中にでも車の中でおにぎりを食べるつもりだったらしい。
「じゃ、私が用意しましょうか」
「カンナが?」
疑わしそうな目で私を見る。
私だって、おにぎりくらい作れる。
「でも、早いよ?」
これでもメイド稼業だから、目覚ましをかけておけば、起きれる。
「じゃあ、お願いしようかな。コンビニのおにぎりとか嫌なんだよ、仕事みたいで」
タカシナフーズのお弁当会社社長はそんなことを言う。
「じゃあ、お米研いできます。用がなければそのまま部屋いきますけど」
そうだね、と言ってから、優介さまは思い出したように私を手招きする。
「カンナも、行く?」
「え!いいんですか」
大きな声を出してしまった。
「うちのチーム、女の子の応援とか見学が流行ってるみたいで、けっこうみんな彼女とか連れてきてるから大丈夫だよ」
彼女。
私が、優介さまの彼女みたいに、野球の練習を見に行ってもいいと言ってくれてるんだろうか。
「……連れて行く彼女がいなくて、肩身が狭いとか」
ついつい、意地悪なことを言うと、おでこをぺしっと叩かれた。
「おにぎり、二人分ね。かわいいカッコしといでね」
それからまた何か言い返したような気がしたけど、覚えてない。
気がついたら、ふわふわした気分で台所でお米を研いでいた。
それから部屋に戻って、テレビも缶チューハイもそっちのけでクローゼットを開ける。
メイドの制服とパジャマの他は、全部優介さまに買ってもらった服だ。
ちょっと不機嫌そうな顔をしていたり、無口だったりすると、優介さまは私になにか欲しい物があるのと聞く。
すっごい単純思考。
私の全部が物欲で出来てるみたいで嫌だけど、優介さまのシャツについている口紅や香水の匂いのせいだとも言えないし、仕事が忙しいのに、休みといえばジムだの野球だのタカシナの社長と出かけるだのと出歩いて、ちっとも構ってくれないからだとも言えない。
だから、服が欲しいとか靴が欲しいとか言ってしまうし、言えばうんいいよ買っておいでと言ってくれる。
そんなわけで、私の部屋には着ていく場所も、持っていく場所もない服やバッグや靴が山ほどある。
優介さまがカノジョと別れてから1年以上たつし、新しい人ができた様子もない。
それがわかるのは、頻繁にお呼びがかかるからで、その度に優介さまは代価を払うように私になにが欲しいのと聞く。
おかげさまで、私のクローゼットはこのところ急激にふくれあがったわけだ。
何枚もの服を引っ張り出して、私はうーんと悩む。
野球の練習を見に行くのに、あんまり派手なカッコもおかしいし、ジーンズにTシャツというのもそっけない。
他のチームメイトの彼女たちに負けないくらいかわいくて、その場に合っていて、もし、もし練習の後で優介さまがゴハンでも食べて帰ろうかって言ってくれたら、万一のそんな時にもお店に入れるくらいの服。
クローゼットの中を確かめて、シャワーを浴びて全身を隅々まで洗って、髪もトリートメントしながら何を着るかずっと考えた。
部屋でパックしながら、ベッドの上に服を並べてコーディネートを悩む。
ああ、早く寝ないとお肌によくないし、万々一にも寝坊なんかしたらおおごとだし。
数パターンのコーディネートをハンガーに吊るして、私はベッドの中で早く眠ろうと必死で羊を数えた。
「おっ、かわいいね」
翌朝、鮭と梅のおにぎりを作って、卵焼きとウインナーとサラダを詰めたお弁当箱を入れたカゴバッグを抱えて、駐車場に行くと、ワゴン車に野球の道具を積み込んでいた優介さまが振り向いてそう言った。
こちらはスニーカーにトレーニングパンツにTシャツだ。
どうせユニフォームに着替えるんだったら、もう少し小ぎれいな服装をすればいいのにとがっかりした。
これじゃ、練習のあとに寄り道どころじゃなさそうだ。
私はこんなに考えに考えて、おしゃれをしてきたのに。
「それ、こないだ買った服?」
車に乗ってから、優介さまが聞く。
一応、買ってもらったときはどこどこでこれとこれを買いましたと見せて、請求書を渡すけど、ちらっと見ていいねとか可愛いねとか似合うんじゃないと言うだけだから、覚えていてくれると思わなかった。
「そうです」
「そのバッグもサンダルも、見覚えがある」
「……そうです」
もっと言えば、バッグの中のお財布もハンカチもポーチも、足の爪を赤くしているペディキュアも、イヤリングも。
優介さまが、ニヤニヤする。
「いつの間にか、ずいぶんたかられてるなあ」
私も、合計金額を計算するのがこわい。
「その数だけ、してるってことか」
朝っぱらから、なに言ってる。
私は聞こえないフリして、カゴバッグからおにぎりの包みとおかずのお弁当箱を出した。
「鮭と梅干ですけど」
「梅干」
車が高速に入って、片手を出した優介さまに梅干のおにぎりを渡す。
梅干は別宅の大奥さまが漬けたもので、優介さまの好物。
私も今度の梅干作りは手伝いに行こうかな、男を捕まえるにはまず胃袋からって言うし。
「おー、けっこう上手に作れるね。形」
「そうですか」
「味は、うん、うみゃい」
良かった。嬉しい。
「卵焼きとかあるんですけど」
運転中には無理かな、と思ったら、前を見たままアーンと口を開けた。
フォークで刺した卵焼きを口に入れる。
なんか、くすぐったくって恥ずかしい
「甘い卵焼きだね」
いつも浦沢さんの作る卵焼きが砂糖味だから、合わせたんだけど、おいしくなかったんだろうか。
「今度、朝ごはんに卵焼き出す時はカンナが焼いてくれないかなあ」
どうしよう、胸がきゅんきゅんする。
朝ごはんは、前の日に浦沢さんが下ごしらえをしてくれて、私が温めたり味噌汁に味噌を溶かしたりして仕上げる。
卵焼きも、前の日に焼いてある。
「あ、朝はカンナも忙しいか」
私がきゅんきゅんしすぎて返事を忘れていたら、優介さまがおにぎりを食べながら遠慮がちにつけ加えた。
「いいですよ、卵焼きくらいなら」
前の道路を見つめる優介さまの横顔が、くしゃっと笑った。
「やったー」
子どもみたいな言い方に、私はまたきゅんきゅんした。
優介さまの胃袋を捕まえたい。
草野球の練習そのものは、見ててもちっとも面白くなかったけど、キャッチボールして笑ったり、ノックで皆を走らせたりしてる優介さまはカッコよかった。
芝生のベンチに何人か女の人がいて、みんなもう顔見知りみたいで一緒にグラウンドを指差したりして笑い合っている。
私が少し離れていると声をかけてくれて、輪に入れた。
さすが、優介さまのチームメイトがお付き合いするような人らしく、上品ながら流行を取り入れた上質のファッションが目につく。
自分が見劣りするんじゃないかと、心配になった。
みんな、どぎついロゴなんかどこにも入ってないけど、高い洋服なんだろうなと思いながらベンチの端っこに座ると、隣りの女の人がにこっと微笑みかけてくれる。
ひとつ向こうにいる人は、ちょっとくだけた話し方をするから、社長の息子のとりまきみたいな社員の彼女なのかもしれないなんて、勝手に考える。
その平社員の彼女風な人が、私の隣をカラオケやイベント主催で有名な大企業の社長令嬢だと紹介してくれた。
「兄がいるんです、今、長尾さんからグローブで叩かれて」
笑いながらグラウンドを指さす。
見ると、じゃれあうように優介さまと何人かの男の人が固まっていた。
「でもね、美月さんの本命は、お兄さまの応援じゃないんですよねー」
平社員の彼女がからかうように言って、娯楽産業の社長令嬢はやだ、そんな、もう、と照れた。
「でも、今日はお休みなんですねー」
残念そうに平社員の彼女が言って、社長令嬢は困ったように微笑んだ。
あなたはどなたの?と聞くから、私は慌てた。
「あ、いえ、私、長尾の家の者なんです。あの、お身の回りの」
「あら」
平社員の彼女が細い眉を上げた。
使用人ふぜいが、とか、場違いな人ね、とか言われるんじゃないかと思って、肩を縮めた私に、彼女は言った。
「長尾さんのお家の人なんだ、彼、カッコいいですよねーなんて。付き合っちゃえばいいのに」
さすがに令嬢はそんなことは言わず、静かに微笑んでいる。
私も笑いながら、なんだか練習の間が楽しくなりそうだと思った。
練習の後、帰り道のサウナでさっとシャワーを浴びるからと言って私をカフェで下ろした優介さまが、30分くらいで戻ってきた。
「なんか、盛り上がってたね」
声をかけられて顔を上げると、朝とは違った服装の優介さまが私を見下ろしていた。
白いシャツの袖をまくって、細身のパンツにインしているのがスタイルの良さをくっきり見せている。
胸板が厚くて、袖から出ている腕とかすごく筋肉質なのに、お尻が小さくて脚が長い。
無造作に下ろしている髪が額にかかって、その下の目元が優しげに笑っている。
隣りのテーブルの二人連れの女の子とか、ものすごく見ていた。
シンプルなデザインなのに、パターンとか生地とかがいいせいか、それとも優介さまのスタイルがいいせいか、ぱっと人目を引く。
「み、みなさん気さくで、優しくしてもらいましたよ。あ、なんか飲みますか」
とっくに空になったアイスココアのグラスをストローでかき回して、私はまっ赤になってあたふたした。
いや、もう、なんていうか、すっごいカッコいい。
まともに見られない。
普段は家でダラダラしてるか、会社で青年社長してるかしか見たことないから、こういう家の外のカジュアルな優介さんを見たのは久しぶりだった。
「いや、どっかで昼を食べようよ。出れる?」
慌ててバッグを引き寄せて立ち上がる。
優介さまったら、ちょっとふざけながらまるでレディにするみたいに手をとってくれた。
ほんとに食事に誘われるなんて思ってなかったから、心臓が飛び回って胸の中に収まってくれない。
優介さまはさっと伝票を取り、会計してくるねと言う。
私は大急ぎでトイレに駆け込んで、リップを直して髪をチェックする。
その後はもう夢見心地で、食事もその後の公園の散歩もあんまり覚えていないくらいだった。
公園の池で名前のわからない小鳥の水浴びを眺めていた時なんか、腕とか組んじゃってた気がする。
信じられない。
帰りの車の中で、私は一日中、空を覆っていた薄い雲を見上げた。
「来週の試合は、晴れるといいですね」
「んー。じゃあその前に、カンナは帽子を買わないとね」
「……なんでですか」
信号で車を止めた優介さまが、私を見てニヤッとした。
「応援。来てくれないの」
きゅんきゅんで、死んでしまうかと思った。
帽子が欲しいと言ったら、じゃあ今夜ねって言ってくれるかもしれない。
でも、自分から取引を申し出るみたいで嫌だし、ほんとに帽子が欲しいだけだと思われたくないし。
それにもし、したいって思ってるのがバレたら恥ずかしい。
仕事なのかそれ以外のなにかなのか、次の週は月曜日からずっと優介さまは帰りが遅くて、私は一人でチリチリする胸を抱えていた。
木曜日になって、優介さまは夕食の後片付けが済んだころに帰ってきた。
「ゴハン、食べましたか」
「うん、ちょっと飲んできた」
誰と、と聞きたいのをガマンして、私は冷水用のポットからグラスに水を注いで差し出した。
水を飲み干した優介さまが、ふうと息をつく。
「カンナちゃんカンナちゃん、ちょっと」
「なんですか」
別に、誰が聞いているわけでもないのに、優介さまは私の耳元に口を近づけて小声で言った。
「これ、まだ誰も知らない話なんだけど」
「……なんですか」
「高階くん、タカシナの社長ね、結婚するんだって」
え。
あの、優介さまがかわいいと言っていたメイドのいる、タカシナの社長が。
「メ、メイドと?」
「まさか」
優介さまは肩をすくめる。
「そんなわけにいかないよ。ちょっとタカシナグループでゴタゴタがあってさ、手を貸してくれる会社の社長令嬢と縁談がまとまった」
……え。
「じゃあ、その、メイドはどうするんですか。その、かわいいメイド」
そう聞きながら、頭の隅っこでは優介さまが高階社長の家に招かれたのはずいぶん前だし、もしかしてとっくに心変わりしてるのかもしれないと思う。
そこなんだよ、とまた優介さまが身を乗り出す。
「ちゃんと、囲うつもりらしい」
ちゃんと、という言葉と、囲う、という言葉はつながるんだろうか。
「あれくらいの金持ちだと、メイドはメイドで遊びなのかと思ってたからね。高階くんは僕が思ってた以上にデキた男だよ。感動したね」
「……それって、メイドを妾にするってことですよね」
胸がチリチリして、焦げそうだ。
「まあ、彼がメイドに本気なのは知ってたんだよ。カマかけてみたし。それにしてもねえ」
高階社長は、結婚は金持ちのお嬢さんとするけど、そのお嬢さんのほかに愛人として世話をするってこと?
それって、結婚するお嬢さんにも、メイドにもひどい扱いに思える。
それなのに、優介さまは高階社長のことを誉めてるみたいに聞こえた。
「あれ、なに、カンナ。怒ってるの」
「別に。私には関係ないですから」
チリ、チリ。
「まあね、人んちのことだからね。ただほら、あのメイドもいずれ追い出されちゃうんだろうなって思ってたから」
そんな家、さっさと出て行って新しい男を探した方が絶対幸せになれるのに。
「その点、いい家柄じゃなくて良かったよね、うちは。カンナも安心でしょ」
なに言ってるんだかわからない。
私はプリプリしながら、優介さまが机に置いた空のグラスを取り上げた。
「さあ、知りませんよ」
優介さまはお風呂に入るらしく、ネクタイを外す。
クローゼットから着替えのパジャマとタオルを出すと、それを受け取りながらついでのように私の頬に触れた。
「なんで。いい男がいなかったら、うちにいればいいんだよ」
それは、どうも。
「そしたら、カンナは僕がもらってあげるよ」
「……は?」
ロケット台から飛び出すシャトルみたいに心臓が宇宙へ行ってしまうかと思った。
冗談にも、ほどがある。
「そうですね、ろ、ろうしても見つからなかったら、優介さまで、が、まん、してもいいれす」
言い返そうとしたら声が震えて、噛みまくった。
「やった」
タオルと着替えを抱えた優介さまが、私の肩に手を置いて身体を折った。
……キスされた。
「約束だからね」
ななななななんの約束?
呆然と立ち尽くす私を残して、優介さまはお風呂に行ってしまった。
もらってあげる、って言った?
カンナは、僕がもらってあげる?
それってもしかして、優介さまが私と結婚してもいいってこと?
嘘、そんなバカな。
そんな、まさか、嬉しい。
私は優介さまの脱いだ上着に顔を埋めて、思いっきり叫んだ。
お風呂上りの優介さまは、私が部屋にいるのを見て嬉しそうな顔をした。
「いてくれたんだ。怒ったかと思った」
「……なんでですか」
「冗談だと思われたんじゃないかなって心配になったんだよ」
あんまり、前の話を蒸し返したりしない優介さまには珍しく、さっきの話に触れる。
私が黙っていると、優介さまは机の上のノートパソコンを開いた。
「お風呂みんな入ったから、カンナも浴びておいで。お湯、足しといたよ」
「……はい」
チリッとした。
優介さまがなにを考えているのか、本気なのか冗談なのかわからなくなった。
「カンナ」
部屋を出ようとしたところで、呼び止められた。
「あー、さっきの話。本気で考えてみないか」
…………え。
「で、まあ、良ければ戻ってきなさい」
お風呂に入ったら、自分の部屋に行かないで、ここに戻りなさい。
それって、そういうお誘いなんだろうか。
頭の中を、野球観戦にぴったりのつば広の帽子が横切った。
「……いいですけど」
優介さまの顔を見ないで、ドアを閉めた。
チリチリときゅんきゅんが同時に来ると、苦しい。
肌が赤ムケになるんじゃないかと思うくらいゴシゴシ洗って、私は優介さまの部屋に戻った。
照れ隠しに、帽子買ってもいいですかと聞いてみた。
明日にでも買っておいで、といういつもの決まり文句は聞けなかった。
その代わり、優介さまはパソコンの電源を落として立ち上がると、私を抱きしめた。
ジムに行ったり、部屋で私を脚の上に座らせて腹筋したりしているせいで、筋肉のついた体は厚くて硬い。
「店ごと買ってあげるよ。カンナが結婚してくれたら」
また、気を失うかと思った。
「なんでですか、なんで急にそんなこと言うんですか」
「急に言ったけど、急に思ったわけじゃない」
わけのわからないことを言って、優介さまは私のおでこにキスをした。
「高階社長が結婚するのが、うらやましくなったんですか」
「……ちょっと違う」
優介さまはベッドに腰を下ろして、私を隣りに座らせた。
「こないだ、チームの練習を見に来てくれたろ」
「はい」
「メイドの制服じゃないカンナを、久しぶりに見た」
裸は見てるくせに。
「すごくかわいくて、びっくりしたよ」
そんな風には見えなかったけど。
「かわいいのは知ってたけど、あんなにかわいいと思わなかった」
「……それは、どうも」
「急に心配になったんだよ。今はカンナにカレシがいないけど、またできるかもしれないだろ」
……あんまり、いたことないんだけど、カレシ。
「もしかして、次のカレシがカンナと結婚しようと思ったらどうしようって思った」
「……考えすぎです」
「そしたらカンナはここを出て行ってしまって、他の男のものになる。他の男と暮らして、寝て、子どもを産む」
「……はあ」
「嫌だったんだ」
「……あの」
「それ、すごく嫌だと思った」
うつむき加減に、ぽつぽつとそう言うと、膝に置いた私の手に、自分の手を重ねる。
「だから、その前にちゃんと予約しておきたいんだけど」
人という生きものは、本当にきゅんきゅんで死んでしまうことがあるかもしれない。
私は両手で優介さまの手のひらをもてあそんだ。
優介さまは、黙って私に手を預けていた。
「カンナ」
しばらく手のひらや指を曲げたり伸ばしたり押したりしていると、優介さまがため息混じりに呼んだ。
「なんですか」
「……それ、ちょっと感じるんだけど」
私は慌てて優介さまの手を放り出し、優介さまはお腹を抱えて笑いながらベッドに倒れこんだ。
「カンナの手も貸して。ほんとに気持ちいいから、してあげる」
「や、嫌ですっ」
「いいからほら」
腕をつかんで引っ張られて、ベッドに転がる。
ベッドに斜めに横になったまま、優介さまは私の手をとった。
手を挟んで暖めて、ゆっくり揉み始める。
手のひらの真ん中から、親指の付け根の盛り上がったところや指の下、指を一本一本。
……確かに、気持ちいい。
うっとりしてくる。
こういうところ、優介さまは優しいなと思う。
気持ちいいからもっとして、じゃなくて、気持ちいいからしてあげる、と考えるところ。
「そっちの手も貸して」
その手は、唇を押し当てられた。
「して、いい?」
まあ、そのつもりでは、いた。
「いいですよ……」
優介さまのキスは、優しい。
まだ二人とも服を着たままで、脚なんかベッドの外に出てるのに、両手で顔を包まれて顔中にキスされる。
思わず吐息が漏れてしまうと、その開いた唇を狙われた。
温かくて肉厚な舌が侵入してくる。
私は夢中で自分の舌を絡めながら、優介さまに抱きついた。
なんだかすごくもどかしくて、もっともっと深く求めたかった。
優介さまのTシャツの裾をつかんで引き上げ、ジャージのズボンを下ろして引き抜いた。
「うわ、カンナ、慌てなくても僕は逃げな、いてて」
下着もむしりとって、上に乗る。
優介さまが、ニヤニヤしている。
「すごい、積極的」
「だめですか」
スカートの裾に手を入れていやらしく太ももを撫でながら、優介さまは首を横に振った。
「いや。そういうの、好き」
腕を上げてワンピースを脱ぐと、優介さまが私の脇を両手で触った。
手を上げているとあばらが浮きやすいから嫌なのに。
肉が薄くてくびれの少ない、胸も小さい身体が嫌い。
優介さまがもっと肉感的な女性が好きだったらどうしよう。
「……ちっちゃいですよね」
なんとなく、言ってしまった。
優介さまはちょっと驚いたように目を開き、それから小さくて薄っぺらな私の胸を両手で包む。
「カンナにくっついてるなら、どんなおっぱいでも好きだよ」
……そっか。
よかった。
「だったら私も、優介さまにくっついてるなら、どんなに気持ち悪くてグロイのでも平気です」
「ぅえ?」
優介さまが急に起き上がったので、私はベッドに仰向けに倒れた。
「こら、カンナ。そんな風に思ってたの?」
あ、正直に言い過ぎた。
怒られるかと思ったら、ちゅっとキスされた。
「そのキモチワルイのが、キモチイイくせに」
意地悪。
ちらっと見たら、もう大きくなっていた。
「それ、もう入るんですか」
ついに、優介さまが吹きだした。
「入れて欲しいの?」
まあ、その。
優介さまがちょっと動いて、私はあそこに触られる感覚にぴくっとした。
「カンナ、まだだよ」
「え……、そうなんですか」
よくわかんない。
「もうちょっと、くちゃくちゃに濡れてからのほうが痛くないと思う」
「え、と……、じゃあ、どうしたら…」
中に、差し込まれる。
「あ」
「それは、僕の仕事」
笑いながら言って、下がっていく。
「あ、…んっ」
足を抱え込まれて、お尻がむずむずした。
中をかき混ぜられながら、前のほうを吸われて、胸まで触られて、私は身体をうねらせた。
「やん、…あ、うん、あ、んっ」
やだ、気持ち良すぎる。
下の方からぺちゃぺちゃと水の音までしてきて、頭の中がしびれてきて、私は短く叫んでしまった。
何かが身体の中ではじけて、それでも優介さまはゆっくり中を触っていて、跳ね上がっていた腰が落ちるとそっと引き抜いた。
「大丈夫、カンナ」
びっくりした。
前に気を失ったこともあったけど、その後にすごく気持ちのいいとこがわかって、ああこの間はコレにびっくりして気絶しちゃたんだなと思った。
だけど、手で触られただけでこんなになるなんて。
「…やん、もう……」
「ごめんごめん、調子に乗りすぎた。感じてるカンナがかわいかったから、つい」
「……ばか」
仮にも主筋に向かってばかもないものだけど、優介さまは笑って抱いてくれた。
太ももに、なにか当たってるけど。
優介さまは、まだぼうっとしている私を優しく抱きしめて、髪を撫でてくれた。
「ねえ、カンナに最初のカレシができた時、僕は妬けたんだよ」
私の髪に鼻を押し付けるようにして、優介さまが言う。
「嘘っ」
思わず反射的に言い返した。
「だって、僕はずっとカンナをかわいいと思ってたからね。トンビに油揚げさらわれた気分だった」
やっぱり、嘘だ。
だって、私があの先輩の告白に頷いたのは、優介さまに美人のカノジョがいたからだ。
「……いたじゃないですか、お付き合いしてる人、いっぱい」」
「そりゃまあ、カンナがオトナになるまでのツナギのつもりでね」
なに言ってるんだか。
「そんなの、私だって、優介さまがあっちこっちで女遊びしてるから、誰でもいいやって」
ぎゅっと折れそうなくらい抱きしめられた。
「……もしかしてカンナ、僕のこと好きだった?」
かっと顔が熱くなった。
口が滑って、変なことを言ってしまった。
「違うの?」
ああもう、どうにでもなれ。
「なんで…過去形なんですか」
優介さまの心臓のドキドキが伝わってくる。
「僕のこと、今でも好き?」
優介さまが顔をあたしの頭に押し付けてるから、声が頭に直接響く。
「好きです……よ」
ああ、言っちゃった。
いきなり、優介さまががばっと身体を起こした。
「え、あ、え?」
脚の間に身体を入れて、顔の横に手をつく。
「そういうこと言われると、もう我慢できない」
我慢なんか、したことないくせに。
もぞもぞと支度をして、私の脚を広げた。
このカッコ、恥ずかしいんだけど、どうにもならないものなんだろうか。
いきなり来るかと思ったけど、優介さまはあのキモチワルイのの先っぽでつっついてキモチヨクしてくれる。
「……ん」
「ね。コレも悪くないでしょ」
顔が火を噴いて、優介さまの髪を燃やしてしまうかと思った。
それなのに優介さまは、私の脚を抱えて腰を押し付けてくる。
「痛くしないつもりだけど」
やっぱり、優しい。
「……痛くないです。もう」
痛気持ちいいようなことはあるけど。
「もう、ね」
優介さまがニヤニヤした。
もしかして、バレてるんだろうか。
私が話した、たくさんのカレシとの経験のこと。
もうずうっと、優介さまにしか抱かれてないこと。
「かわいいよ、カンナ」
同じことばっかり繰り返して言う。
「知ってます。何回も聞きました」
「何度言ってもいいだろ。かわいいんだから」
自分を、そんなにかわいいと思ったことはない。
それはつまり、ちょっとした贔屓目というか、優介さまが私のことを好きで、だからそういう風に見えてるのかもしれない。
「優介さまも、……カッコいいです」
つんつん、と触られる。
まだ入ってこないのかな、くちゃくちゃになってないのかなと心配になる。
「じゃあ、美男美女のカップルじゃないか、僕ら」
また、ばかなこと言ってる。
「ねえ、カンナ」
あ。
入ってくる……。
「いつ……?」
「ん、あ…」
「いつから僕ら、両思いだったの」
「あっ、ん……、んっ」
「ねえ」
そんな、こんなことされてるのに、返事なんかできない。
いいとこばっかり、擦ってくる。
私は背中を浮かせて反り返ってしまう。
優介様も無駄口を叩くのをやめて、動くことに熱中し始めた。
「んっ、ああっ、あっ、や、んんっ」
いくら痛くないって言ったからって、そんな急に激しくされたら、おかしくなる。
「う、カンナ、カンナ……、いい……」
優介さまがうめくように言う。
そんな声で呼ばれたら、頭がしびれる。
くちゃくちゃになってる、だってそんな音がする。
「ん、ん、あ、優介さま、あ」
夢中で抱きついて、優介さまを呼ぶ。
呼んだっていいですよね、だって私たち、好き同士だから。
「……カンナっ」
「ゆうす、け、さま、あ、あ、ああっ」
優介さまの、キモチイイのが、私の中で震えた。
電気が走る。
頭の中が、真っ白になった。
「ん、あ、ああ……」
余韻のように、優介さまがゆっくり動いて、そして私の中からそうっと消えていった。
小さい胸が上下しているのが自分でもわかる。
見られるの恥ずかしいから隠したいけど、動けない。
くちゃくちゃになっていたところを、きれいにしてもらった。
ああもう、そんなことされるなんて死ぬほど恥ずかしいのに、抵抗できない。
「カンナ、大丈夫?」
私は黙って優介さまにしがみつく。
「気持ちよかった?嫌じゃなかった?」
恥ずかしいから、そういうことを聞かないでほしい。
「だって、嫌なことしてたら困るだろ。僕は、カンナにだけは嫌われたくないよ……」
そんなこと言われたら、私が困る。
せっかく優介さまが好きって言ってくれたのに、きゅんきゅんで死んでしまったら、困る。
「カンナ……、かわいかったよ……」
頭を撫でてくれながら、優介さまが耳元で言った。
「…過去形、ですか」
見えないけど、優介さまはきっとニヤニヤしている。
私を抱きかかえるようにベッドに横になって、半分床に落ちていた掛け布団を引き寄せる。
「かわいいよ。ずっと」
満足した。
そのまま優介さまは私の身体に腕を回して、またどこがどうかわいかったか、恥ずかしがらせるようなことをいっぱい言った。
もう死んでしまう、今夜中に、私はきゅんきゅんで死んでしまうに違いない。
そのうち優介さまは言葉が少なくなって、眠ってしまう。
様子を見てベッドを抜け出そうとして、優介さまの腕に手を掛けたら、ぎゅっと力がこもった。
「カンナ」
まだ、眠っていなかったのかと思ったら、優介さまは私に脚を絡めてきた。
「ここで眠って」
でもそれは、あまりにけじめがないような気がする。
「嫌なんだ。目が覚めて、カンナがいなくなってるの」
またそんな、勝手なこと。
優介さまは、ふうっと息をついた。
「カンナは、ここにいて」
それ。
ずいぶん前に、聞いたことがある。
学校を卒業する頃になって、就職したらアパートを借りるつもりでいたころ。
うちから出て行くの、と優介さまが私に聞いた。
母が大奥さまについて別宅に行くのが決まっていたから、私一人でここにいるわけに行かないし、別宅は田舎すぎて通勤に不便だからと言った。
そしたら、優介さまが不満げな顔をしたのだ。
カンナは、うちにいて。
あまりに勝手な話なのに、私は逆らわなかった。
優介さまがこのうちにいてって言ったから、私はいた。
僕のそばにいてって言ったから、御世話係になったのだ。
私は、目を閉じて優介さまの胸にほっぺたを押し付けた。
ここにいて、って言うから。
だから、ここにいようと思った。
「……いいですよ」
*
大きな帽子を優介さまのツケで買って、草野球の試合で優介さまがエラーをふたつもして、チームが負けたのを「カンナが見に来てくれたから緊張したんだ」と言い訳をした翌週、珍しく旦那さまと優介さまが同時に帰宅した。
奥さまと私が出迎えると、優介さまはぽんと手に持っていたカバンを渡す。
それから、先に歩き出していた旦那さまの背中に言った。
「お父さん、お母さん、僕、カンナと結婚しますけど」
全身からぶわっと汗が噴出した。
な、なに言ってるんですか優介さま。
旦那さまは足を止めて振り返る。
「カンナは、それでいいのかい」
え、私判断ですか。
「は、いえ、あの、だって、そんな、いきなり」
しどろもどろになると、優介さまが不満げな顔をする。
「カンナ、僕のこと好きだって言ったじゃないか」
言いましたけど、それは、でも、だからって。
「そ、そ、そ、それは、あの」
旦那さまが白髪の混じっている頭を横に振った。
「それじゃダメだな、優介。カンナが嫌がってるのに結婚なんかできないだろう」
ですから、反対の理由が私ですか。
私の立場とかの、いわゆる身分違いとかじゃなくて、ましてや見た目とか人柄とか、そういう基本的なことでもなくて。
優介さまが私を振り返った。
「嫌なの、カンナ」
だから、そういうことじゃなくて、ああ、もう。
こんな時に、旦那さまと奥さまがいる時に、私が優介さまをののしったりひっぱたいたりできないような場面で、そういうこと言うの反則じゃないですか。
優介さまの、そういうちょっと計画的で頭のいいずる賢いとこ、だいっきらい。
旦那さまが、ちょっと笑った。
「ちゃんと、二人でよく話し合いなさい。いいね、カンナ」
私と一緒に旦那さまを出迎えた奥さまが、そこで口を開いた。
「我が子ながら、優介の決断力のなさにイライラしてたのよね。やれやれですね」
奥さままで、なんてことを。
「まあ、まだわからんよ、優介がカンナにフラれることもあるし」
旦那さまがおっしゃると、奥さまも頷いた。
「ああ、なんとかカンナが首を縦に振ってくれるといいんですけどねえ。心配だわ」
優介さまにそっくりの笑い方でニヤッとして、奥さまが私を見た。
心臓、心臓、とっくに私の胸から飛び出してどこかへ行ってしまった心臓はどこにいるんだろう。
私の顔は、きっと燃え上がってしまっているに違いない。
メラメラと音が聞こえる気がする。
優介さまは、ニヤニヤしながら炎に包まれた私の頭に手を乗せた。
「大丈夫だと思うよ。だってカンナ、こないだ帽子を買っただろう?」
白いレースのついた大きな帽子を買った私は、その代金として首を縦に振らなければならないのだろうか。
私は、部屋中にあふれるくらいのものを優介さまのツケで買ってきた私は、ついにを白旗を掲げることになった。
……なにか欲しいものがあるの、カンナ。
……あります。優介さまです。
うん、いいよ。
――――完――――
『メイド・カンナ』完結です。ありがとうございました。
うぉう
いいなあ
カンナが幸せそうでGJ!
やばいやばい、カンナ可愛い
ハッピーエンドで嬉しくなるよ
氏の作品のメイドさんはどの娘も強烈に素敵
千のGJを捧ぐ
カンナちゃん乙!よかったねぇ
あまあま〜
作者乙!GJ!!
GJ!
カンナちゃん幸せになってよかった!
幸せエンドはやっぱり嬉しいな〜!
つか、優介やっぱヘタレ…?
両親から見たらヘタレ息子だw
柏餅を食べる、ぼっちゃまカモン!
素敵素敵、カンナ可愛い!
どっかにいっちゃった心臓、優介ぼっちゃまが間違いなく握ってるよw
あと少し前だけど莉子が可愛すぎてヤバイ
床転げまわりたくなった
こんな子にこんがりとやかれてる那智はズルい
最後少し切なくなっちゃったじゃないか・・
>>253 GJGJ!
これ見ると莉子と那智の関係は大っぴらだったぽいか
皆幸せそうで何よりだがその分陽子さんと美月さんが気の毒といえば気の毒
>>253 めっちゃGJでした
個人的に、旧知の仲の男女ができるだけ『やむおえる』理由で主従関係になったらどうなるかを読んでみたいんだが、
そういうのはここ向きではない?
>>292 それはどちらかといえば主従スレ向きかも試練。
>>292 止むを得ない
止む得ず
止むに止まれず
あ、292ッス。お騒がせしてますw
>>295 GJその通り。
何て言うか、頼まれてメイドをになる、とか
断っても良いんだけどそれまでの仲のよさからメイドを引き受けるみたいな感じか?
というか、
>>293 の主従スレか。
そっちか。違いがわからんがのぞいてみる。
ありがとうありがとう
>>294-295 エヴァンゲリオンの使徒というか、聖書の天使の名前じゃないのか?
サキエル
シャムシエル
ラミエル
ヤムオエル
違和感がない
297はいい人
間違いない
何個か前のメイド・莉子なんですが、長文感想失礼します。
あまりにもツボすぎて好きすぎて吐き出さないと苦しい・・まさかこれが恋?w
メイドとご主人様のスレコンセプトからは外れちゃうけれど、那智と美月のエロを想像すると楽しい。
今時珍しく、結婚式の夜が本当の初夜になりそうだ。かっこつけの那智はうまく美月を誘えたんだろうか。
美月は見た目通りの清楚なお嬢様で回数重ねるにつれ那智に染められてっちゃうのか、
それとも意外とエロエロ女王様なアブノーマル指向で、那智が染められてっちゃうのか。
前者の場合、美月とのセックスも普通に気持ちよくて焦ったり喜んでたりしてたら面白い。
後者の場合、莉子との最中にヘンタイ言われた那智が本当のヘンタイってのはだなーと遠い目したらぶんむくれられてご機嫌取りに励むことになったら面白い、かも。
その莉子は莉子で、最初お屋敷勤めを続ける/続けさせるつもりで二人がいたら笑える。
長尾がそのこと知って呆れながら慌てて妾の囲い方教えてたらもっと笑えるw
別宅と言ってるし、ちゃんと囲うと言ってるのでマンションか一軒家を用意したのかな。
いや妾の正式な囲い方知らんけど。メイド業は続けててほしいなあ。
で、莉子用の場所を確保したとして、移って最初の夜は初心に戻ってぎこちなくドキドキしながらいたしてたら可愛すぎる。
美月とのこと持ち出して真っ黒焦げになった莉子が那智を頭から食べててもいいし、意外と気にせずスパイス代わりにしててもいい。
子どもを生ませてもらえなかったっぽいのはどうなんだろうなあ。中田氏は最初の一回だけというのはロマンなのか。
子どもがいたら慰められることも多かろうと思うものの、色々難しい。
エロ関係ないけど、会社関係のあれこれを想像するのも燃える。
ここまで大きい設定の会社(というか財閥かな?コングロマリットの可能性も。でもトヨ/タを財閥とは言わないからああいうの?)なら派閥がないと考えるほうがおかしい。
会社間の支援なんて政府からの国庫支出金以上にひもつきなわけで、桜庭から人が送られてくる=桜庭派閥ができることに。
大騒ぎになるかならないかに関わらず、先日の富/士通社長の辞任劇のようなことが起こるのは時間の問題な気が。
苦労した先代というのはここら辺のゴタゴタも含めてのことかと想像してみたり。
更に妄想を進めて、美月との結婚のきっかけになった部門の業績不振自体、どこぞの派閥の重役が下手うったと説明された方がしっくりくるあたり昭和の小説の読みすぎだ。
情報収集・根回し・戦略不足のその取引の場で「社長がお若いと大変ですな、はっはっは」と取引相手から当てこすられる場面が容易に想像できるw
那智がキチンと社長やるようになってから、そういった派閥間の駆け引きの場面をチョロチョロする長尾を想像するのも一興。(なさそうだけど)
那智の引退後に莉子が本宅へ移ったのは・・・どうなんだろう。
本宅の使用人にとって女主は美月なわけで。
傷害事件おこした女主を諌めるでなく呆れるでなくひたすら同情しかばって、
世間体のためとはいえ一方的に怪我させられた使用人に救急車も呼ばない執事とメイド長、こういった上司に教育受けた使用人たち。
彼らに囲まれた引退後の当主とお妾さんの生活を想像すると土曜ワイド好きな胸がときめいちゃうw
いや美月が何十年と管理してきた使用人相手にこれは失礼だな。申し訳ない。
以上、チラ裏失礼しました。
作者様がご覧になってるか分かりませんが、ここまで好きになれるお話をありがとうございました!
心からお礼申し上げます。
あえて言おう、長いと。
一番のお金持ちは小雪の旦那様かと思ってたけど
長尾の読むと那智さまのがお金持ちかな
秀一朗さんちは貧乏だっけ?
今だと財閥ってないんだよね
グループ企業で一人の社長が統べてて
世襲制ってあるんだろうか
某巨大自動車企業なんかはアキオさんに戻ったりしているけど、現実みたら表立ってはないんじゃない?
でも財産やら血の権威みたいなのはあるし、関連企業の役員にいつの間にかいる、とかありそう。
まあ中小企業は世襲ばっかだろうな。しかしメイドの入る余地は、……あるのか?w
しかしあったらあったで面白そう。
まあ全て妄想なんだが。チラ裏すまん。
日本は財閥解体したからね
今も面影があるのは三つの◇のとこくらいかな
海外は結構あるのかねー
よし那智はそこの総帥と思って読みなおしてみよw
うちはパパとママがあんまり家にいないから、メイドさんがいる。
「坊ちゃま、お食事の用意ができましたよ」
名前はレイナ、金髪、青い目、長身、抜群のスタイル、そしてなにより美人!
道を歩いてたらみんなが振り向く、そんな人がうちでメイドやってる、ふしぎ! しかも本人いわく元スパイらしい、なんでそんな人がうちでメイドやってるんだろう、ふしぎ!
食事が終わればいよいよお楽しみタイム
「坊ちゃま、お待たせして申し訳ありません」
洗い物を終えたレイナが僕に声をかけてくる。もうお風呂は沸いていたんだけど、レイナの洗い物待ちだったんだよね。
脱衣所でメイド服がするすると脱がされ、生まれたままの姿になる。美しさというよりむしろエロさに特化した体、大きな胸やお尻、それに対してくびれた腰、ムッチリとした太腿、腋毛も陰毛も無いツルツルの体…男を悦ばすための体だと思う
ボクはそれを見てもうガマンができなくなった、晩御飯のときからパンツの中が痛いぐらいだったのに、こんな体を見てガマンできないはずがない。
「くちゅ…ちゅぱっ…ぼっひゃま、きもひいいへふか?」
跪き、上目遣いをしながらボクに聞いてくる。スパイ時代に使った男を落とすテクニックなのかな。とにかくエロくて、いじめたくなる。
ボクが手でレイナの頭を抑えると、レイナは自分からの奉仕を中断する。ボクは腰を振り、チンポをレイナの口の奥に突っ込み、口を犯す。
「んん〜っ、もごっ、もごっ…」
レイナが苦しそうに声を発する、でも気持ちよくて腰が止まらないっ…そのまま口の中に放出した。
「ちゅるっちゅっずずっ」
レイナが残った精液を吸い取り、「ごくん」と飲み干す。
「おいしゅうございました」
そう言って頭を下げ、ニコリと笑った。さっき苦しそうな様子を見せてたのはただの演出なのかなぁ…
その後、レイナはボクの背中から足の先まで、その大きなおっぱいで挟んで洗ってくれた。みんなが憧れるようなおっぱいで足を洗わせるってのは凄く気分が良くて、優越感に浸ってたらチンチンがまた大きくなった。
それを察し、お風呂場に仰向けになって(180cmのレイナでも寝転がれるぐらいうちのお風呂場は広いんだ)
「私をお使いになられますか?」
とボクを誘う でも、ただ単にレイナの言うとおりにするのも何から何まで思い通りされてるって感じで嫌だったから。
「自分で用意ぐらいしてよね ただし、手と足は使わないこと、おまんこを自分で舐めてね」
レイナはとても体が柔らかい だから自分の口で自分のおまんこを舐めることができる。
言われたとおりに大きな体を折り曲げ、滅多に見れない特殊なオナニーをはじめた、大きな胸が邪魔して窮屈そう。なんか貴重映像を見れてるみたいで嬉しい。
「ボクも手伝ってあげるよ」
もっと近くで見たくなったから、天井を向いていたお尻の上に座って、上からレイナの顔を見下ろした。こんな屈辱的な姿勢なのに、ボクの顔を見たら「にこっ」って笑った。
「んじゃ、もういいよ 元の姿勢に戻って」
そう言って再び仰向けの体勢に戻して、そのまま挿入した。 ボクの体はレイナに比べればだいぶ小さいから、入れてしまえば顔が届くのは胸まで、顔は見えない。
「あっあんっあんっ、ぼっちゃまぁっ!気持ちいいですぅっ!」
けれど声は聞こえる、高い声で喘ぐ、ボクは腰を動かすスピードを上げ…レイナの中に思いっきり放出した。
「はぁっはぁっ…」
頑張りすぎたから体が動かない、そのままレイナに体を預けていた。そしたらレイナは軽くボクの頭を撫でて、
「ふふふ、坊ちゃま…」
とつぶやいて、ボクの体を抱き寄せた
保守ヽ(`Д´)ノ
307 :
名無しさん@ピンキー:2010/05/21(金) 11:32:47 ID:scaeFj//
ネ申降臨。続きキボンヌ
ニコニコにあるファーファがメイドな動画がもうなんだかとってもたまらない
>>302 貧乏なイメージあったけど不動産収入もあるらしい
とりあえず3人の使用人を雇って養ってるからそれなりにお金もってんだろう
>>305 ショタなお坊ちゃまかな?新しい感覚だw
お疲れ
ここの住人的には森さんのエマやシャーリーどうなんだ?
>>310 エマとシャーリーを、キシリア様のもとにお届けすればいいんですね
分かります
312 :
名無しさん@ピンキー:2010/05/23(日) 22:54:29 ID:q3h1oQzV
「ぴちゃぴちゃ…じゅるっずず…」
レイナは全裸で胸をべっちゃりと床につけ、床の上の液体を舐め取っていた
僕が飲むはずだったジュースをこぼしちゃったから、そのお仕置きだ
頭をうりうりと踏んづけたり、お尻を叩いたりしてたらレイナのあそこが濡れだした
「お仕置きでおまんこが濡れてくるなんてホントにレイナはドMだよね」
じゅぶじゅぶ、と音を立てて僕のが飲み込まれていく ちょうどいい高さにレイナはお尻を上げていた
「ああーっ!あっひっひぁっ…坊ちゃまぁっ!」
「こら、なに勝手に舐めるのを止めてるんだよ」
そう言ってお尻をぺちぺちと叩く
「あひっ、じゅる…ぷはっ」
「ああっ出すよ!レイナ!」
僕がイったのと同時にレイナもイったみたい おまんこが潮を吹いて床に撒きちらされる 僕がチンチンを抜いたらその上に愛液で包まれた精液がボトりと落ちた
「あーあ、また汚しちゃったね また綺麗にしてよ」
こんなことはたまにあって、前に「レイナは完璧なメイドだからお仕置きができなくてつまんないよー」って言ったらレイナがミスをしだしたから、たぶんわざとやってるんだろうね
寝る時のお供も当然レイナの大事な仕事
「レイナ、そろそろ寝ようよー」
「ふふ、かしこまりました 少々お待ちください 着替えてまいります」
「えー、そのままでいいじゃん レイナは僕といっしょに裸で寝るんだからさ!」
レイナの服を引っ張り、そのままレイナの部屋に連れていく 僕の部屋でもいいんだけど、レイナの部屋にはいろんな玩具があるし、僕はこっちのほうが好き
まずはスカートをたくし上げ、裾を口で咥えさせた なかなかエロい状態だよね それでパンツの上からバイブを押し当てる
「んっ、んーっ」
少しずつパンツに染みが広がっていく パンツの後ろを少しズラし、バイブをお尻に突っ込んだら一気に洪水状態!
「レイナも準備万端だね、それじゃ全部脱いでよ」
「んんーっ、むーっ、もごーっ」
レイナは全裸で手を縛られ、口には自分の愛液がたっぷりしみこんだパンツを突っ込まれベッドで仰向けにされ僕のチンチンを受け入れていた
僕がひと突きするたびに大きな胸がぷるんぷるん揺れ、口からはまともな声にならないけど喘ぎ声を出している
いつも僕のされるがままだけど、こうすると無理矢理してるみたいで気持ちがいい 完全に支配下に置いたって感じがする
「あははっ、出すよ!」
精液が膣に叩きこまれると同時にレイナの体もビクンと揺れ、大きな声をあげた
パンツを取ってあげると
「坊ちゃま、満足なされましたか?」
といって微笑んだ いつの間にか拘束は解けていて、いつものように僕の頭を優しく撫でながら
>>312 お話書ける方っぽいし、長いのもちゃんと書けそう
起承転結があるような話だと、感想書きやすい・つきやすいかな?と思う
>>304 海外だとアメリカにカーギルって会社があるんだけど、ここは株式非上場会社で世界最大の売上がある会社らしい
個人経営企業で世界最強っぽい
>>313 へえーへえーへえー
海外つーたらロスチャイルドしか知らんかった
知る人ぞ知るお金持ちって何かかっこいーな
美果さんやすみれさんの旦那様みたいに職業が分かると
ご主人がメイドさんのどこに癒されたり励まされたりするのか分かりやすい・・・と思って
保管庫見直したんだが旦那様たちがパセリみたいであんま関係なかったw
メイドさんたち旦那様を好きすぎるだろwwかわいいな〜
旦那様を好きすぎだけど素直に表現できないツンデレメイドさんを求む
旦那様に色目を使う(注:ツンデレフィルター視点)新人メイドに危機感を覚えたり、
それにデレデレする(注:ツンデレフィルターry)旦那様にイライラしたり、
旦那様がお土産にくれた素敵な(注:ツンデレry)何かにキュンキュンしたり
するんですね、わかります。
カンナは結構ツンデレ系だよね?
そういわれればそうだね
最後のキュンキュンしてるとこのイメージが強すぎて
かわいくてかわいくて、あれ何書いてたんだっけ
でもそれでいくと美果や莉子もはじめの方はツンデレなんじゃないかな
『ひまわり会館 メイド・綾音』
メイドというお仕事は、お勤めするお宅によってずいぶん違うものです。
中には、共働きのご家庭へ通いで家事のお手伝いをするだけのものもありますし、たった一人のメイドが家の中の何もかもをこなさなければならないこともあります。
けれど、ここへ集まるメイドで一番多いのは、数人から十数人のメイドが住み込む、政界の大物や経済で名をなすお家、伝統芸能のお家元などのお屋敷でのお勤めでしょう。
申し遅れました。
私は、全日本メイド協会の相談役、中務薫と申します。
相談役といっても三十路のはじめ、最近ではアラサーとか申しますとか。
2年ほど前までは、江戸時代から続く大きな呉服商の会社社長のお屋敷で、その前は明治維新のころからの政治家のお屋敷でメイドをしておりました。
ひょんなことから、日本中のメイドが登録される全日本メイド協会の本部がある、この「ひまわり会館」で相談役を勤めることになりました。
主な仕事内容は、若いメイドたちの教育と親睦、そして息抜きのためにあるひまわり会館で、休日を過ごすために集まってくるメイドたちの相手をすることです。
相談も受けますし、ただ話を聞くだけのこともあり、最新のメイド情報を入手することもあります。
なにかと忙しいメイドからは、メールや電話での相談に乗ったり、口外できない秘密のあれやこれやを聞くのでございます。
今日も、ひまわり会館へは束の間お勤めから開放されたメイドたちが集うのです。
お屋敷では決して見せることのないだろうくつろいだ姿でソファに寝転がっているのは、沙希さんです。
外出時も制服が義務付けられているお屋敷は少なくないので、沙希さんもメイドの制服で、ティールームにあるテレビでアニメのDVDを見ながら、スナック菓子などをつまんでいます。
メイドとしてのしつけは、各お屋敷でそれぞれになさいますので、せっかくの休日、私はこれくらいのことで小言は言いません。
まだハタチにもならない女の子なら、茶室でお抹茶と干菓子をいただくより、コーラとスナックやチョコレートのほうを喜ぶでしょう。
私が通りかかると、一応は姿勢を正して挨拶をします。
「こんにちは、薫先生」
沙希さんはメイド一年目。つまり、このひまわり会館へ出入りするようになってからまだ半年ほどです。
「先生だなんて、もっと気楽でいいのですよ、ここでは。でも、なにか困ったことがあったらいつでも相談してね」
はい、と頷いた沙希さんは、まだほっぺたに小さなニキビができるほど若いのです。
スナック菓子で、そのニキビが大きくならなければいいのですけど。
「こんにちは」
「こんにちは」
正面玄関で声がします。
お屋敷での教育がすっかり身についているのでしょう、華道の家元のお屋敷に勤める愛さんと、大きな会社社長のお屋敷で働く綾音さんです。
「そこで綾音さんとバッタリお会いしました。お屋敷でいただいたお菓子がございますの。薫さんもいかがですか」
三人の中では年長の愛さんがテキパキと言って、紙袋から美味しそうな焼き菓子の箱を出します。
いただきたいのは山々ですが、あいにく私には仕事があります。
それに、私がいては若い子はくつろげないでしょう。
遠慮をして、ティールームの隣にある事務室に入り、ドアを閉めます。
ここにいると、大きな窓ガラスからティールームの様子を見ることができます。
私は、愛さんを手伝って綾音さんと沙希さんがお茶の仕度をするのを見ながら、そっと机の引き出しを開け、そこにあるスピーカーのスイッチを入れました。
「愛さんのお屋敷は気前が良くてうらやましい。ウチなんか、余った夕食のパセリのひとかけだってメイドには下げないわ」
すぐに、沙希さんの高い声が聞こえてきました。
事務室では、ティールームでの会話を隠しマイクで聞くことができるのです。
若い子の話を盗み聞きするなんて、最初はいやだったのですが、メイドのような仕事は時々ご主人さまの深い事情を知ってしまうものですし、知れば話したくなるものです。
うっかり広めてはいけない話を漏らしたり、間違った考え方でお勤めに不満を持ったりしないよう、そういう傾向のあるメイドにはそれと気づかれないように道を正すことが、私の仕事だと考えることにしました。
「今日は、三人だけみたいね」
とろけそうな顔で焼き菓子を頬張って、綾音さんが言います。
「先週来た時に、くるみさんに会ったんですけど、選挙が近いからお屋敷がバタバタしてると言っていましたよ」
そう言うのは、愛さん。愛さんは他の子のように、ここに来たときだけ言葉遣いがくだけるようなことがありません。
「あら、くるみさんのところはご主人さまが選挙に出るの?」
「やだ、沙希さんたら。選挙で忙しいのは政治家だけじゃないのよ。うちの旦那さまも、お金がかかるから大変ですって」
綾音さん、そういうことを言いふらしてはいけません。
もっとも、メイドの耳に入るような話ならたいしたことではないのでしょうが。
「綾音さんのところと、くるみさんのところ、接点があるんですか?」
メイド歴半年の沙希さんには、お屋敷の中のことだけで精一杯なのでしょう。
お屋敷とお屋敷の間の、業種を越えた複雑な交流関係を全部頭に入れておくのは、相当ベテランのメイドでも難しいものです。
「ないわけじゃないわよ。この間、くるみさんのところのお坊ちゃまがうちに来たし」
メイドたちは、お互いがどこのお屋敷にお勤めしているかを知っていますが、たしなみとしてお名前や会社名を出しません。
話題になっているメイドの名前で、「だれそれさんがお勤めしているお屋敷」「だれそれさんの旦那さま」などと濁すのが習慣です。
「くるみさんとこの、って、あの噂のプリンス?」
さすがの愛さんも、思わず紅茶カップを持つ手が止まりました。
メイドたちの話によれば、くるみさんのご主人さまは大きな会社を経営なさっているのですが、息子さんが二人いらっしゃって、ご次男の方が、それはもう、いわゆる「イケメン」なのだそうです。
すらっと背がお高くて、色白なのが知的で高貴な雰囲気で、彫りの深いお顔立ちにスポーツ万能、ご学業でもいくつも論文を書かれたとか、まあこれはみんなひまわり会館に来るメイドたちの話ですけど。
「で、どうだったんですか、プリンスは」
「あ、うん、そうね、でも、あたくしは別のところにいたからちょっと」
「え、そんな。せっかくプリンスを拝見できるチャンスなのに、私だったらモップ抱えてでも駆けつけるわ」
沙希さんの教育係の嘆きが見えるようです。
「綾音さん、プリンス……、くるみさんのお屋敷のお坊ちゃまがいらしたのは、夜ではありませんの?」
なんでしょう、愛さんの言い方に含みがあります。
おや、綾音さんが少しうつむいてしまいました。
「それは、そうなんだけど」
「え、なに、なんですか。私にもわかるように教えてください、お姉さまがた」
現場を離れて2年がたつ私は、そこでようやくピンときました。カンが鈍ったものです。
もっとも、メイド歴半年の沙希さんには、なんのことだかさっぱりわからないようです。
それにしても、しばらく前まではそんな素振りの全くなかった綾音さんが、まあ。
私は鍵のかかる扉の中にある名簿を取り出しました。
IDを確認して、パソコンに打ち込むと登録されているメイドのパーソナルデータが出てきます。
これは、メイド本人の自己申告で製作したものを基に、それぞれのお屋敷のメイドを管理する部門の方が随時最新の情報を更新するものです。
綾音さんの情報が、先月更新されていました。
氏名、年齢、そして。
お屋敷のご長男の、専属に配されていることがわかりました。
専属メイドとして一ヶ月。それはプリンスどころではないでしょう。
「どうなんですの、いらしたプリンスも眼中になくなるほどの……」
愛さんのからかうような言い方に、綾音さんの頬が桜色に染まります。
「やだ、愛さんたら、もう」
なんのことかわからない、というように沙希さんが文句を言います。
「えー、ずるいですよ、ふたりだけで」
「沙希さん」
たしなめるように、愛さんが沙希さんの膝に手を置きます。
「綾音さんは、お屋敷でお坊ちゃまのお世話を担当なさってるんですよ」
ちょっと考えて、沙希さんはまじまじと綾音さんを見ました。
「え、やっぱり、そ、そういうこと、あるんですか……」
旦那さまがもうお年寄りだったり、お坊ちゃまがお小さかったりすることもありますから、全部のお屋敷でそういうことがある、とは申しません。
それに、お相手するのが一人のメイドだけとは限らず、それはもう若いメイドを片っ端からというお屋敷もあります。
もちろんメイドたちがご主人さまの寵愛を奪い合うようなはしたない事は、表立っては控えますけれど。
年長、といっても愛さんは二十歳をひとつふたつ越えたかどうかのお年頃ですけれど、やはり経験がものを言うメイド稼業。
綾音さんが言わないことまで察しをつけたらしく、意味深な微笑を浮かべます。
愛さんのパーソナルデータも、あとで確認しておきましょう。
ところで、綾音さんのお屋敷では、男のお子さまにきちんと『そういう』メイドを決めてしまう習慣のようですね。
「そうですかー、私もお勤めしてて、なんか先輩の様子が変だなーとか思うことあったんですけど、いつもうまくかわされてて、そうですかー」
愛さんが、そっと沙希さんをたしなめました。
「沙希さんたら、物事をはっきり言うのははしたないこともございますのよ。ほんのり、ほのめかすのが礼儀なのです」
こういう、不文律のようなしきたりを先輩から後輩へ上手に伝えることができるのも、ひまわり会館の役割なのです。
「それで、どうなんです。綾音さんの、旦那さまは」
思わず、私はがっくりと肩を落としてしまいました。
愛さん、ちっともほのめかしていません。
「どうって」
「ここでそんな隠し事はなしにしましょう。ちょうど沙希さんもいらして、ちょうどいいお勉強になります。教えてさしあげたら」
きっと、本当は話したくて仕方なかったのでしょう。綾音さんはちょっと身を乗り出しました。
「あの、あたくしが、旦那さまの担当を拝命したのは金曜日だったの」
まあ、それは計算されつくした日程です。
思わず、私も事務室の中で両手を握り締めました。
「旦那さまは、大旦那さまの会社にお勤めだから、帰りは少し遅くて、9時ころだったかしら。ご挨拶に行ったわ」
沙希さんが息を飲みます。
「旦那さま、といってもお坊ちゃまのことよ。わかるでしょ?」
綾音さんが、沙希さんに確認するように言いました。
お屋敷ではお坊ちゃまと呼ばれる立場の方でも、綾音さんにとってはご自分だけの旦那さまなのです。
「もちろん、旦那さまは今までにも何人も担当のメイドがいらしたから、別にあたくしのことも、ああ今度のメイドはキミなんだねくらいしかおっしゃっていただけないと思ってたのよ」
おやおや、担当メイドをとっかえひっかえですか。
「なのに、こう、片手でネクタイを引き抜いて、それがまた格好良くて、それで」
綾音さん、もう顔が真っ赤です。
「緊張しないでもっとこっちへおいで、って。それから…あたくしの顔に手を当てて、よろしくねの代わりにキスしてもいい?っておっしゃったの」
きゃっ、と沙希さんが両手で顔を覆ってしまいました。
愛さんも驚いた様子です。
「まあ、ステキな旦那さま……。もちろん、それだけじゃなかったのでしょう?」
愛さん、愛さん、落ち着いて。
私はICレコーダーのスイッチを入れ、綾音さんのお話を書き取るためにペンを取りました。
――――
旦那さまは、それはそれはやさしくキスをしてくださったの。
あたくし、もうぼうっとしてしまって。
旦那さまがあたくしの耳元で、それはもう息がかかるほど近くでよ、綾音って呼んでもいいね?って。
そうでしょう、愛さん。あたくしもそう思ったの。
だって旦那さまですもの、メイドをなんて呼ぼうとご自由ですもの、それをわざわざ聞いてくださったの。
お優しい方なんだってすぐにわかったわ。
え、それから?
いやね沙希さん、そんなに先を急かすなんて。
まあ、メイドになって日が浅いからいろんなことを知りたいのはわかるけど。
あのね、旦那さまはね、ああ恥ずかしい。
いえ、話します話します。
見せて、っておっしゃったの。
つまり、あたくしをよ。
ほら、メイドの制服ってお屋敷によっていろいろだけど、うちの制服って実はセパレートなの。
エプロンを外すと、ブラウスとスカートに別れているのよ、珍しいかしら。
ブラウスとスカートを脱いで立ったら、旦那さまはソファにおかけになってあたくしをご覧になったわ。
長い脚を組んで、腕も組んで、にっこりなさったの。
それで、それでね。綾音、それじゃ見えないよって。
あたくしもう、体中が真っ赤になってしまうんじゃないかと思うくらい熱くて恥ずかしかった。
どきどきした……。
――――
これはまた、ずいぶんなお子さまを寄こしたもんだ。
貴士はもじもじと下着姿で立っているメイドを値踏みする。
白とピンクの下着をつけたまま、何度が手を背中に回そうとしたり、ためらったり。
もったいぶるんじゃないよ、たいした身体でもないくせに。
それでも貴士は訓練された上品な笑顔を顔に貼り付けたまま、メイドを眺める。
若い女が恥ずかしさに身もだえしながら衣服を取っていくのは、なかなかにそそる風景だ。
今まで何人ものメイドにそうさせてきたが、この瞬間が楽しい。
2回目からは、この楽しみは半減する。
目の前にいるメイドは、貴士が黙って見ているのでようやく決心したように両手を背中に回して下着をはずした。
さて、どんなのが出てくるかな。
女性の下着は補正効果が高いせいで、中身を見るまでわからないことが多い。
そこそこの大きさがあっていい形だと思っていても、中身が出てくると小さくてしなびてハリがない、ということだってある。
今回のメイドがそっと足元に安っぽいブラジャーを置いた。
思い切ったように、両手を下げる。
ショーツに手を掛けようとすると、胸があらわになった。
ほう。
貴士の眉が上がる。
半球状の、ぷりっとした乳房。
乳房、乳輪、乳首の形、色、大きさ。
まずまずかな。
あとは、さわり心地だが、これは後回しだ。
緊張と恥ずかしさで身の置き所もないようなメイドが最後の一枚を脱ぎ落とすのを待って、貴士はとっておきの笑顔を浮かべる。
もっとも、このサービスはうつむいているメイドには効果がなさそうだった。
「さあ、見せてくれるね?」
貴士の言葉に、メイドはおずおずと両手を横に下ろす。
「回って」
ぎこちなく片足を下げ、重心を移して背中を向ける。
その動きをもう一度くりかえして、貴士に向き直る。
「素敵だ、綾音」
まちがっても、まあまあだなとは言わない。
味見でもするか。
貴士はメイドを招き寄せ、小刻みに震えている全裸の少女に触れた。
この肌つやは、十代ならではだな。
片手をウエストに回して、片手で小さなあごをつまむ。
メイド長には処女をよこせといってあるが、この震えと強張りではキスも未経験だっただろう。
未開の地を侵略するのは楽しいが、我慢を知らない金持ち息子は、あまりに開拓が困難だと嫌になる。
緊張しすぎて少しも開かず、泣き喚かれたり、暴れたりされては興冷めする。
まったく抵抗なしに服を脱いだところ従順さを見ると、このメイドはほどほどに楽しめそうだ。
自分の欲求を満たしつつ、メイドに勘違いさせて自分に執着させる。
貴士のお気に入りの遊びのひとつだった。
うまくやれば、メイドは自分に入れあげるし、飽きて捨てても恨むことはない。
そのプロセスも、大切なゲームだと思っていた。
「ああ、とてもきれいだね。この身体は、誰のもの?」
え、そんな。
予想通りの答えが返ってくる。
「まだ誰のものでもないんだね。じゃあ、僕のものにしてかまわないね」
あごをつまんでいた指先で頬を下から上にすっと撫で上げる。
難なく、メイドは頷いた。
「キスをしよう。さあ、綾音からしておくれ」
動きの悪い機械仕掛けのように、メイドの顔が貴士に近づく。
「……あっ」
唇を噛まれたメイドが、びくっとして身体を離した。
「も、もうしわけございません、とんだ粗相を」
貴士はメイドの小ぶりな尻肉をつかみあげた。
「あんまりおいしそうだったから、食べてみたくなったんだ。痛かったかい」
「い、いえ、少しも」
貴士は尻や太ももを乱暴につかみ、揉む。
見た目より弾力がある。いい身体かもしれない。
メイドが不安と痛みで目に涙をためた。
このくらいにしておこう。
最初からやりすぎると、面倒なことになる。
貴士はもう一度メイドの唇を、今度は柔らかく吸った。
血の味は甘露だった。
尻を掴んでいた手を、触れるか触れないかで背中を撫でまわす。
メイドはいつまでも止まらないかのように震えている。
抱き上げてベッドへ連れて行くのが順当だろうが、むらむらと沸き起こった衝動にしたがって、貴士はメイドを床に倒した。
仰向けで驚いたように目を見張るメイドに馬乗りになる。
「綾音、きれいでかわいい、僕だけの綾音」
ささやくと、メイドの頬が紅潮する。
「このまっさらで清らかな身体に、僕の印を刻みたい。いいかな」
こくんと頷いたメイドのうなじに手を添えて、貴士は開かせた唇に舌を入れた。
素直だ。
このまま両手を頭の上で縛り、両足首をテーブルの脚に縛り付けてムチで嬲りたい。
以前、やはり若い無垢なメイドでそれをやって泣かれ、メイド長にちくりとイヤミを言われたことを思い出して、貴士はぐっと思いとどまる。
メイド長のイヤミなぞどうということもないが、メイド本人が表立って騒いでは家名に傷がつく。
それに。
貴士はメイドの白くて華奢な腕に唇を滑らせながら、淫猥な目で生贄の子羊をねめつける。
縛るのは、着衣のままのほうが楽しい。
中身を確かめるためにとりあえず脱がせたが、裸には裸の楽しみ方がある。
二の腕の内側の柔らかい肉に、歯を立てる。
強く噛んで離すと、白磁の肌に赤い歯形と鬱血の跡が刻まれる。
その間に形のいい乳房を柔らかく揉みたてる。
甘美な愛撫と時折加えられる鈍い痛みに、メイドは身をよじった。
閉じた目のまつ毛が震え、薄く開いた唇がわなないて吐息を漏らす。
筋のいいメイドだ。
さほど面倒にも思わず、貴士はメイドの耳元で甘い言葉をささやいてやる。
出会ったばかりなのに、もう綾音に夢中だ。
綾音の全部がとてもいとおしい。
どうか、今ここで綾音のすべてを僕におくれ。
なめらかな肌を貴士の手がすべり、全身を愛撫されてメイドは身をよじった。
指先で乳首をはじきながら、頬を赤らめたメイドを見下ろして貴士はベルトを外した。
その音に、メイドは涙に潤んだ目を開いて貴士を見上げる。
いい顔だ。
じゅうぶんに愛撫を加え、局所が柔らかくなるのを待つつもりだったが、気が変わった。
自ら苦痛に耐える意志のある処女を力づくで犯すチャンスは、一人の処女に一度しかない。
前を開けて男性器を露出する。
初めて目にしただろう勃起した陰茎に、メイドが本能的に身体を強張らせた。
「愛してる、綾音」
簡単な呪文で、メイドは力を抜く。
「旦那さま……」
硬く閉じた膝を割らせ、指一本で下からなぞるようにすると、初めてのそこが開く。
誰も触れたことのない、一度も開いたことのない性器。
貴士は今すぐ押し開いて陵辱したい欲望をかろうじて押さえ込み、乳房を揉みしだき、唇を重ねた。
その間も、しなやかに動く指が一枚ずつ花弁を開いて奥地へ進んだ。
親指で皮を被った快楽の芽をそっと押さえながら、中指で膣口を探る。
指先すら入らないそこを犯し、経験したことのない痛みに悲鳴を上げまいとこらえる女の顔を見たい。
貴士は両手でぐっとその場所を開き、大きさに自信のある分身を押し付ける。
「……あっ」
メイドが両手で自分の口をふさいだ。
一筋こぼれた涙を指でぬぐってやり、甘い言葉をささやきながら、貴士はメイドの腰を抱え上げて逃げ道をふさいだ。
「僕を愛してくれる?」
白々しく陳腐なセリフが、世間知らずでウブな処女には真心のこもった愛の告白に聞こえる。
苦痛と引き換えに、誰もが憧れる相手からのただひとつの愛を与えられると信じるのだ。
こじ開けるように指を入れ、強く目を閉じて唇を噛むメイドの顔を見ながら、無理に開かせたその場所を犯した。
裂けるのではないかと思うほど狭く小さなその膣に、じゅうぶんに勃起した男が押し込まれる。
道が作られ、血が流れる。
メイドは必死で声を抑えて、しかし涙は抑えきれずに流れる。
全身で悲鳴を上げるメイドを力で我がものにすることに、貴士はこの上ない快感を感じ、興奮する性質だった。
処女を犯す楽しみは限られている。
最初ほどの苦痛を感じなくなったメイドには、別の苦痛を与えなくてはならない。
何の準備もなく挿入したり、人工物をつっこんだりするのはもちろん、乳首やクリトリスをクリップで挟むことや、革のムチでしみひとつない滑らかでつややかな肌を打ち据えることもある。
電動で振動する道具を使って、身体で快楽を覚えこませる。
打ち据えられたり拘束されたりの苦痛と、性の悦びを交互に与えることで、自分好みに仕立て上げる。
この娘も、遠からずすすんで脚を開き、貴士の陰茎にしゃぶりつき、縛られて吊られながらムチ打たれ、全身に赤い傷跡を刻まれて悦びの喘ぎ声を立てるようになるだろう。
そして、そうなると貴士は飽きるのだ。
楽しいのは仕込みの段階であって、出来上がってしまえば興味がない。
新しい、無垢な処女が欲しくなる。
このメイドは、何人目だろう。
メイドの喉の奥で、声にならない声が引いている。
ほとんど潤いのない膣内を、先走りだけを潤滑液にして激しく擦り上げる快楽に没頭して、貴士は恍惚とした。
――――
愛してる、って何度もおっしゃってくださったの。
あの、沙希さんはおわかりにならないかもしれないけれど、その時って、それはちょっとは辛いのよ。
だって、経験したことがないでしょう。
大人の女性にしていただくんですもの、仕方がないの。
それに、そんなことちっとも気にならないくらい嬉しいって気持ちが強いのよ。
一晩中優しくされて、週末の間中おそばにいて、嬉しくて幸せで、ぼうっとしてしまったわ。
愛さんなら、わかってくださるでしょう?
あたくし、旦那さまにそんなふうにしていただいて、心の底から幸せ。
旦那さまはね、あたくし以外どのメイドもご自分にお近づけにならないのよ。
あたくしだけ。
旦那さまのお世話を全部させてくださるの。
朝も、夜も。
旦那さまが本当にあたくしのことを愛してくださっているのがわかるわ。
それはそれは、大切にしてくださるの。
ずっとおそばを離さないで、いろいろな方法でしてくださるのよ。
いつもいつも新しいことがあって、あたくしは知らなかったことを教えていただくの。
あんなことが、とてもいいなんて思いもしなくて。
同じお屋敷の他のメイドたちには、とても言えないのよ、だってみんなうらやましがるでしょう。
え、どんなこと?
いやだ、沙希さんたら、はしたないわよ。
そうね、いずれは沙希さんも旦那さまに見初められることがあるでしょうし。
大丈夫よ、沙希さんとてもかわいらしいもの、放ってなんかおかれないわ。
ここでお会いするお姉さま方にいろいろなことを教わって、きっと旦那さまに愛されるメイドになれるわよ。
あたくしみたいにね……。
――――
はにかみながら、綾音さんが頬にかかる髪を細い指先で撫で付けると、袖口から華奢な手首がのぞきました。
遠目にも、なにやら薄赤い筋のような跡がいくつも残っているのがわかります。
夢見心地で話を聞いている沙希さんはともかく、愛さんはそれに気づいたようでした。
メイドとして経験を積んでいる上、もともと賢く思慮深い愛さんは、綾音さんの話の内容にも不信感を抱いているのでしょう。
そっと私の方をうかがうような仕草をします。
その後しばらく綾音さんによる、『旦那さまがいかに優秀で見目麗しくて素敵』かという話が続き、沙希さんがうっとりと聞きほれていました。
沙希さんが、自分もいつか、噂のプリンスのようなお坊ちゃまのいるお屋敷にお勤めしたらと考えているのか、今いるお屋敷の旦那さまやお坊ちゃまなどを思い浮かべていらっしゃるのかはわかりません。
メイドたちの束の間の自由は、あっという間です。
残ったお菓子を沙希さんと綾音さんに分け、最後まで残ってお茶の後片付けをきちんと済ませて、愛さんが事務室に挨拶に見えました。
「薫さん、私もお屋敷に戻ります。ありがとうございました」
気のせいか、やってきたときより少し浮かない顔をしているように見えます。
おそらく、綾音さんのことを心配しているのでしょう。
私はわざと明るく返事をし、またいらっしゃいと送り出しました。
一人になって、私は思わずため息をつきました。
私には綾音さんのお話の端々から、お坊ちゃまの本音を覗き見ることができたように思います。
綾音さんは気づいていないようですが、どうやら少し変わった趣味をお持ちのようだ、ということも。
登録されているメイドのデータを検索してみると、綾音さんの旦那さまにお付きして解任されたことのあるメイドは片手に余るようです。
とりたてて苦情のようなものが上がってこないことを見ると、お坊ちゃまはメイドの身も心も、それはそれは上手にしつけなさる方なのでしょうか。
ですが、表に出ないからといって見過ごしていいこととよくないことがございます。
このまま綾音さんがお坊ちゃまのお世話係を続け、こんなしつけが続くようなら、メイド協会のほうから正式に綾音さんのお屋敷へ苦情を申し立て、メイドの勤務状況について監査を入れなければなりません。
取り返しのつかない傷が、メイドの心と身体に残ることがないように。
もちろん、事務室でメイドたちのおしゃべりを聞いていて、いつもこんな話にぶつかるわけではありません。
ほとんどの場合、女の子たちが楽しくおしゃべりをして、ほんの少し愚痴をこぼして、明日への活力を得て帰っていくのです。
私は、それを見守っています。
メイドたちが気持ちよく働けるよう、決して不幸な思いをすることがないよう、メイドたちを守るのがひまわり会館の、そして私の仕事なのですから。
明日は、どちらのお屋敷にお勤めするメイドから、どんな話を聞きますことか。
――今日も、ひまわり会館にはお休みをいただいたメイドたちが、わずかな時間を楽しむために訪れます。
ほんの少しの間、メイドからひとりの女の子に戻るのです。
私は、女の子たちの笑顔を見守り、送り出します。
「ひまわり」の花言葉は、「愛慕」。
そして、「私の目はあなただけを見つめる」……。
またいらっしゃい。
心をこめて、おつとめなさいませ――――。
――――了――――
今度はそうきたかw
あふれんばかりのメイドさんへの愛情とエロに敬服w
GJ!
メイドさんたちもひまわりかもしれんが
そのメイドさんたちを愛でてるスレ住人もひまわりだと思って読んでる
なんて書いたら恥ずかしいかw
これはなんともエロス!
で、薫さんがかわいく蕩けちゃうシーンはまだですかいな?
>>326 もしこの職人さんの次回作があるなら
きっとプリンスが次の旦那様だな
GJ!
いつもGJ!
薫さんがプリンスにやられちゃう展開きぼう!
>>312 下克上というと変だけどダンナさまがスーパーメイドさんに一矢報いれるまで頑張るのかな
職人さんお疲れー
>>326 クズはどこにでもいるんだな
個人的にワーストは菜摘さんの元ダンナだったが綾音さんのが酷いとりあえずもげとけ
職人さんお疲れー
そろそろロクデモないご主人様が出てきそうな気が・・・
まあ職人さんが書きたいのが自分の読みたいものなんだけどね
菜摘ってだれだっけ?出てきてる?
菜摘の元旦那は悪人というより
金持ちのぼんぼんでなにもわかってないだけの気がする
悪気のないのが罪
あそこは奥さんのしたたかさな印象が強かったかな
結婚してるのだから当然な自分の行動が義弟にあまりよく思われていないのを察して
小雪さんから攻略してくるあたりさすがw
自分で考えたにしろ奥様会からの助言に従ったにしろ
自我のないお人形さんじゃなかったと思うんだ
小雪さん、こういう人たちの中に入っていくのか
338 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/12(土) 19:41:49 ID:GKBbjlx+
ヒマラヤ
篤守と都小ネタ
篤守さんとの旅行から帰ってからも、これと言って何も変わらない日々が続いています。
いえ…別に何かを期待していたわけではないけれど、
あっという間に過ぎていってしまったから…。
ただ、少し変わったのは篤守さんが以前よりも笑う事が増えたような気がします。
家に帰ってきた後お風呂に入り、お食事を食べた後に最近では二人でテレビを観ながら
他愛もない会話をする事が増えてきました。
仕事の話しは正直イマイチよく分からないけれど、
それでも私なんかにちょっとした愚痴を言ってくれたり、
たまに甘えてくれるようになったり…嬉しい。
嬉しいなんて失礼かな。でも、よく分からないけれど心の中がポワッとなるの。
「ただいま〜」
あ!?篤守さんが帰ってきました。あれ?私なんで小走りして玄関に向かってるのかな?
べ…別に篤守さんが帰ってきたのが嬉しくて走っているわけではないんですよ…!!
は…誰に言い訳しているのかな私は…。
玄関を開けたらお疲れ顔の篤守さんが立っていた。
「お帰りなさい篤守さん」
笑顔で出迎えるとそっと篤守さんは私を抱きしめてきた。
「あ…篤守さん!?」
篤守さんの不意の行動に私は動揺のあまり、固まったままだった。
「ごめん…少しだけこうさせて…」
玄関のドアを閉めながら、篤守さんは私を抱きしめ続けた。
「吐きそう…」
おい〜!?良い雰囲気も一転、私は篤守さんの背中をさすりながら
トイレまで付き添い、急いで飲みすぎに効く薬と水を持ってトイレに戻った。
中からは擬音にするのも恐ろしい呻きが聞こえてきたけれど
臭いと便器の中のおぞましい物に目を瞑りながら
私は篤守さんに薬を渡すとだっとの如く走り去った。
これが少女漫画でなくて良かった…心からそう思いました。
「都〜…保守して…」
あ…瀕死の篤守さんが助けを呼んでる。
やっと規制が!
>>339 GJ!&保守ありがとー!
誰相手に意地張ってんだ都w
341 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/19(土) 22:44:08 ID:qSojHLMk
保守
342 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 15:30:42 ID:Q1JJ5XWj
保守
>>339 都さんが、ご主人様のもんじゃ焼きまみれにならなくて良かった
「酒は飲んでも飲まれるな」
結局、莉子の番外編はないのかな?
その後の話ってロダじゃだめなのか?
津田もけっこう残ってるし、作者さんがロダにしたいなら
構わないと思うんだけど、どう?
>>344 賛成なんだけど
えーと莉子の番外編は長尾なんじゃ?
津田もまあ一段落してるから残ってはいないんじゃないか
勘違いならスマン
>>345 だよな。
莉子の番外は長尾。
つらしゃんは、番外が住民の支持を得て続編(完結編)が投下されたと思ってる。
ご主人様・お坊ちゃま・お嬢様が何かこうお金持ちっぽいスポーツをしてて、それに付き合わされる
メイドさん〜〜な作品はあったかな?
乗馬、ゴルフ、ハンティングあたりがお金持ちがするようなスポーツのイメージ
モータースポーツ系もお金かかりそう
スポーツではないが金持ち的娯楽と言えばカジノ。
お前もやってみなさい、と渡されて
適当に一枚置いたルーレットが大当たりしている横で、
全額スった御主人様はメイドを質草にしようとしているわけだな。
『ひまわり会館 メイド・奈央子』
朝から、心地の良い陽気になりました。
今日も、メイド協会ひまわり会館のティールームでは、束の間のお休みをいただいたメイドたちが楽しげに笑いさざめいております。
協会に登録しているメイドでも、ここに来るにはお屋敷が遠すぎたり、お休みをお買い物や別のお友だちと過ごしたりするメイドも多くいます。
ひまわり会館には若いメイドたちの交流や教育と行った目的もあるので、私としてはできるだけここに来てもらいたいのですが。
今日ティールームにいるのは、くるみさん、奈央子さん、結衣さん、そして結衣さんと同じお屋敷にお勤めの麻理耶さんです。
奈央子さんは日本舞踊の大きな流派のお家元から、去年、全国でバレエスタジオを経営する高名なダンサーのお宅へお勤め変えなさったばかりなので、風習の違いにとまどっているようです。
「同じ踊りでも、洋の東西で大違いなのね」
少し笑いながら結衣さんがおっしゃって、奈央子さんはため息をつきます。
「ほんとうは、ひとつのお屋敷で勤め上げるのが良いっていうのはわかっていたのですけどね……」
「そうよ、前のお屋敷だってお勤めしにくいことはなかったのでしょう?お辞めになったと聞いておどろいたわ」
麻理耶さんが身を乗り出すのが見えました。
結衣さんが、そんな麻理耶さんの袖を引きます。
麻理耶さんはご存じないようですが、奈央子さんがお勤めを変えたのは仕方なかったことなのです。
「私なら、お勤めを変えるなんて考えられないけど」
意味ありげに控えめな微笑を浮かべたのはくるみさんです。
くるみさんのお屋敷には、他のお屋敷にお勤めするメイドたちの噂になるくらい素敵なお坊ちゃまがいらっしゃるのですから、気持ちはわかります。
奈央子さんはそれがわかったのか、ちょっと困ったように首を傾げました。
申し遅れました。
私は中務薫、メイド協会ひまわり会館の相談役でございます。
もとメイドの経験を生かした、女の子たちのまとめ役といったところでしょうか。
ちなみに、私が聞いているメイドたちの会話はティールームから大きなガラス窓で隔てられた事務室に備えられている小さなスピーカーから聞こえてくるものです。
もちろん、メイドたちは隠しマイクの存在など知りません。
相談役が聞いているとわかれば、言いたいことも言えないでしょうし、そうなれば私は彼女たちの内緒話から情報を知ることができませんから。
私はパソコンにIDを打ち込んで、奈央子さんのパーソナルデータを呼び出しました。
お屋敷にいるメイドもそれほど多くなく、奈央子さんも特に、どなたかを専属でお世話するという係りに決まっているわけでもないようです。
旦那さまと奥さま、ヨーロッパへバレエ留学なさっているお嬢さまが二人、バレエ団の看板ダンサーのお坊ちゃまが一人のご家族でした。
――――
あたしね、最初の日に粗相をしてしまったの。
お坊ちゃまがレッスンからお帰りになって、メイド長に言われて飲み物をお持ちしたのよ。暑い日だったのでアイスコーヒーよ。
そしたら、むっとしたお顔になったの。
冷たい飲み物は、身体が冷えるから良くないんですって。
すぐにホットコーヒーを入れなおしてお持ちしたら、今度はマッサージはできるのかっておっしゃるの。
できませんって申し上げたわ、もちろん。
だ、だって、お年寄りの肩を揉むくらいならできても、プロのバレエダンサーの身体になんて怖くて触れないでしょう。
それに、お坊ちゃまに触れるほど近づくなんて、少しは、怖いし。
それでね、お部屋にはソファやテーブルもないのよ、ストレッチの邪魔なんですって。
お坊ちゃまは脚を伸ばして床にぺたんと座ってらして、どこにコーヒーを置いたらいいか困ってしまったの。
外国の雑技団みたいに、脚の間から顔を出してコーヒーを飲んだりするんじゃないかと思うくらいよ。
仕方ないから直接お渡しして、そのまま逃げるようにお部屋を出てきてしまったわ。
他のメイドに聞いたら、お坊ちゃまはちょっと神経質なところがあって、みんなとても気を使うのですって。
だから新人のあたしに仕事を押し付けられたのかと思ったら、いい気持ちはしなかったわよ。
なのに、それからも何かといえばお坊ちゃまの御用をするように言いつけられてしまうの。
それはもちろん、メイド憲章にあるとおり、ご主人さまには真心をこめてお勤めしたわ。
……同じ間違いをしたくないっていう気持ちもあって、最初はぎこちなかったかもしれないけど。
でも、だんだんお坊ちゃまの機嫌が悪いのは真面目にバレエに取り組んでいるせいだってわかったの。
だからあたしも、なんとかお役に立てることはないか、一生懸命考えたわ……。
――――
レッスンから戻ると、和人は内線電話で部屋に飲み物を持ってくるように命じた。
来月に控えた公演で、和人はまたいい役をもらえなかったのだ。
バレエ団代表の息子で、将来のプリンシパルが当然の立場なのに、和人はその期待に応えていない。
自分でもわかっているのだ。
バレエの才能が全くないとは思いたくないが、もっとうまく踊るダンサーがたくさんいる。
人並み以上に努力しているのに、持って生まれた身体の硬さや筋力には限りがある。
どんなにたくさんの舞台や映画を見ても、和人が掴んだと思った解釈は浅く、表現力は乏しい。
海外のバレエ団に所属している姉ふたりが主役や準主役級の配役をもらっていることもあって、和人のいらだちは日々つのっていた。
「失礼いたします」
入ってきたのは、使用人たちが癇が強いと言っていやがる和人の世話を押し付けられている新人のメイドだった。
うまく立ち回ることができないらしく、このところずっと和人の用事にはこのメイドがやってくる。
ほかのメイドたちのしてやったりという顔が浮かぶ。
初日に冷たい飲み物を持ってくるというミスをして以来、ホットコーヒーのポットを持ってくる。
そのコーヒーは、かなり美味だ。
メイドがポットを運んできた和人の部屋には、家具がほとんどない。
小さなラインティングデスクとベッドの他は、レッスン場と同じ床材の広い空間。
思いついたときにすぐに身体を動かせるようにしてある。
それが強迫観念に近いものだという自覚をしているせいで、それがまた和人をいらいらさせる。
部屋にテーブルもないため、最初はおろおろしていたメイドも、今はためらわずに和人が座り込んでいる床に膝をついてトレーを置く。
和人は一般人よりは長い脚を引き寄せてあぐらをかき、コーヒーがカップに注がれるのを見ていた。
ポットを持つメイドの腕やスカートの裾からのぞく足首、顔を順に眺めた。
筋肉が少なく、体脂肪の高そうな体型だ。
これでは踊れない。
もっとも、バレリーナでない女はみんなこんな身体をしているものかもしれない。
メイドは和人の足元にランチョンマットのようなものを敷き、コーヒーカップを置いた。
ソーサーごと持ち上げると、遠慮がちに小さな皿を押し出した。
ガラスのカップに白いものが詰まっているが、なんだかわからない。
「なに、それ」
思いのほか、メイドがはっきりとビクついた。
そういえば、自分からこのメイドに話しかけたことはなかったかもしれない。
「ス、スフレでございます」
「スフレ?」
床に正座して、膝の上で両手を握り締めたメイドがうつむく。
「お夕食をお召し上がりにならないと聞きましたので、おしのぎに」
屋敷で出る食事を断ったのは、今朝の測定で200グラムの増量があったからだ。
太りやすい和人は身体の管理も厳しくしており、夕食をとらないことも多い。
無理な減食は脂肪より筋肉を落としてしまうから、ビタミンやプロテインのドリンクは摂取するつもりだった。
それなのに、なにも知らないメイドが余計なことをする。
目の前の小さなスフレを見たせいで、運動をした後の胃が食物を切望するのがわかって、和人は不機嫌になった。
「卵白を使っていて甘くないスフレでございます。低カロリーで、高たんぱくなので、もし」
下げろ、と言いかけたところで、メイドが決死の覚悟と言わんばかりの顔で訴えた。
まともに、目が合った。
十人並みの、とりたてて美人という顔ではない。
肌のきれいな、ふっくらした頬をピンク色にしている。
緊張のせいか少し潤んだ目と、半開きのまま固まった唇。
「……もし?」
メイドなんかの言葉を、なぜ聞いてやろうと思ったのかわからない。
ただの気まぐれか、なにかの予感か。
メイドはすっと手を滑らせて、床に指先を付いた。
何気ないその仕草が、和人をどきっとさせた。
無駄のない、美しい動き。
「もし、よろしければ……、お召し上がりくださいませ」
言葉にも無駄がない。
一通りの行儀作法を習っただけのメイドとは何か違う気がしたが、それが何かがわからない。
和人は黙ってスフレのカップを取り上げた。
ほっとした表情で、メイドがトレーからスプーンを取り上げた。
右手で取って、左手で持ち直して右手を添えて……、自然な動きで差し出されるスプーンを受け取って、和人はメイドを見た。
「名前」
「はい」
「いや、名前……、なんて?」
メイドはすっと背筋を伸ばしたまま、やや目を伏せた。
「奈央子でございます」
なおこ。
平凡なその名前を口の中で繰り返す。
卵白をふわふわにあわ立てたスフレは蜂蜜の風味がかすかに香り付けになっていた。
美しく立つことや高く見せることはクラシックバレエには欠かせない。
いかに高く飛ぶか、手足を長く伸ばすか。
西洋式の生活がなじんだ和人やこの家の者たちも、立ち居振る舞いはきちんとしているものの、このメイドはそれとは少し違う気がした。
スフレを食べながら、和人はもう一度メイドに聞く。
「新人だろ。前にどこかで働いてたのか」
控えめに、かつ失礼のない程度にメイドは和人にも聞き覚えのある日本舞踊の家元の名をあげた。
なるほど。
心地良い新鮮さを感じるメイドの所作は、和のものらしい。
「同じ踊りでも随分正反対のところへきたもんだな。……困ってないか」
うつむいていたメイドは、両の口角を上げた。
思わずいたわりの言葉が飛び出した自分におどろき、メイドの浮かべた微笑になぜかどぎまぎする。
「……ありがとう存じます」
――――
お坊ちゃまは、みなさんがおっしゃるほど気難しい方ではないのよ。
でも、ほら、あたし……。あんなことがあったでしょう。
できれば新しいお屋敷では、みなさまと直接お会いしないような下働きをしたかったの。
だから、お勤めを変えたばかりの新人なら雑用が与えられるだろうと甘く見ていたのよ。
でも、新人だからこそみなさんが敬遠するようなお仕事を与えられてしまって。
お勤めしているうちに、お坊ちゃまがあたしのことお嫌いではないとわかったわ。
専属になったわけではないから、お坊ちゃまから直接お呼びがかかった時に伺うんだけど、その回数も増えてきたの。
だから、もっとお役に立ちたいと思うようになるのはメイドとしてあたりまえでしょう?
暖かいお飲み物をさしあげたり、ストレッチをなさった後に柔らかいタオルをお渡ししたりね。
あたし、バレエのことはわからないけど毎日それは激しいレッスンをなさるんですって。
それなのにお坊ちゃまは小鳥がつつくくらいしかお食事を上がらないのよ。
だから、甘味も脂肪も少なくて、たんぱく質の多いスフレを差し入れしてみたら、お気に召していただけたの。
身体の動きがよくなったって、褒めていただけた時はとても嬉しかった。
次の公演では鳥の化身を踊るんだって、片腕をすっと上に上げただけで、羽ばたいているように見えたわ。
思わず、そうお伝えしたら、お坊ちゃまは笑ってくださったわ。
それでね、奈央子は日本舞踊を踊れるのってお尋ねになったの。
前のお屋敷はお家元だったけど、あたしは小さな頃に少しお稽古しただけでしょう。
何度もご辞退したんだけど、僕は素人なんだからうまいへたなんかわからないよって笑っておっしゃるから断りきれなくて。
ほんの一指し、舞っただけよ。
お着物もないし、靴下で板張りの床でしょう、滑ってしまってよろめいたの。
お坊ちゃまが手を差し伸べて支えてくださって、それなのにあたし、びっくりしてしまった。
とても失礼なことなのに、お手を振り払って、その場にしゃがみこんでしまったの。
……怖かった。
とても、怖かったの。
男の人に触れられることが、とても。
――――
「え、奈央子?」
とっさに思い返してみても、倒れかけた身体を支えただけでなにをしたわけでもない。
そんなにおびえる理由が分からなかった。
「奈央子、どう……」
「あの、そ、粗相をいたしました。申し訳……」
ひれ伏さんばかりに頭を下げる奈央子の前に、和人は膝をすすめた。
「いや、なんでもないよ。無理を言って悪かった」
肩に置こうと伸ばした手は、感電したようにびくっと上下した身体の上で止まった。
「大丈夫だよ」
なるべく優しい声で言い、手を引っ込める。
最近は和人の世話に慣れてきて、気を許してさえいたように見えていた奈央子の態度が変わったことにとまどう。
「勉強になった。日本舞踊は本当にバレエとは基礎から違うんだね。使う筋肉も違うし、表現とか動きのいろいろな……」
言葉を重ねても、奈央子は身体を硬くしてうつむいたままだ。
自分が何をしたか思い返しても、奈央子の変化に思い当たることがない。
仕方なく和人は奈央子の前に座り込んだまま、黙った。
「奈央子?奈央子、おい、なんだ?」
行儀良く並んで膝に置いた奈央子の手の甲に、ぽたっと水滴が落ちていた。
「あー、わかった、悪かった、僕が全部悪かった。ごめん、謝る、このとおりだ」
機嫌の悪い女の子には、とりあえず謝るに限る。
限られた経験でそう学んでいるせいで、相手がメイドなのも忘れてがばっと床に手をついて頭を下げる。
「ぅえ、え、かっ、和人さま、なにを、あの、おやめください、ど、どうして」
奈央子に口を開かせることに成功した和人が、慌てる小さな顔を下から見上げる。
「……え」
一度まぬけな声を上げて、一呼吸おいてから和人は弾かれたように笑い出した。
転がっていたティッシュの箱をひきよせて、ばさばさと引き抜く。
「奈央子、鼻。鼻水落ちてるぞ」
泣かせたかとあせったのが、ぽったりと落ちた鼻水だったことがおかしくてたまらない。
「拭いてやろうか、ほら」
「けっ、けっこうでございます!」
恥ずかしさのあまりに素が出て、奈央子は和人の手からティッシュを奪い取り、鼻に押し当てた。
直後に自分の態度の非礼さに気づいたのか、鼻を押さえたままフガフガと詫びる。
すっかり身についたと思っていた所作なのに、これではメイド失格だと気持ちが沈む。
「……そういうほうが、いいよ」
ティッシュをエプロンのポケットに押し込むのを見て、和人がつぶやいた。
「はい?」
「今の。普通の女の子みたいにしゃべるの。この部屋だけでもそうすればいいのに」
奈央子はそっと後ろに下がる。
「いえ、それはいけません」
「なんで」
跳ね返すように聞き返されて、奈央子はどうしたものかぎゅっと両手を握り締めた。
――――
メイドのお仕事はそれなりにしてきたつもりだけど、お坊ちゃまのなさることは予想できなかったわ。
だって、転びかけたメイドを支えてくださるのはお優しいからだって思えるけど、あたしはそのお手を振り払ってしまったのよ。
普通、お怒りになるでしょう?
それなのに、自分が悪かったなんておっしゃるし、わざと明るくしてくださるし、取り乱したあたしの顔までぬぐってくださるんだもの。
なんてお優しくて、素敵なお坊ちゃまなんだろうって思ったわ。
だけど、お尋ねにはさすがに迷ってしまったのよ。
今のお屋敷では、前のこと誰にも話したことがなかったのよ。
でも、専属ではないとはいえ、ご主人様のお尋ねでしょう?
お答えしないわけにはいかないわ。
ああ、麻理耶さんはご存じないわね。
あたしね、前のお屋敷で失敗してしまったの。
旦那さまのお世話を任されていたのだけど、旦那さまはそれはそれはお気遣いしてくださる方だったのね。
それであたしもついつい気を許してしまって、親しげな振る舞いをしてしまっていたのね。
そんなつもりじゃなかったのに。
だって、旦那さまには奥さまもお子さまもいらっしゃるのよ。
ええ、そう。
ある時、いつものようにお部屋に伺ったら、急に。
ドアにカギをかけられていたことにも気づかなくて、声を上げても誰も来てくれない。
次の日にはお勤めを辞めたの。
ほんとうはそんな辞め方をしたら、次のお勤めなんてないのよ。
でも、ひまわり会館で薫さんに相談して、なんとかメイドを続けられるように骨折ってもらったの。
メイドって時にはとても弱い立場なのよ。
そんな時、メイドを守ってくれるのはメイド協会しかないの。
ええ、思い切ってお坊ちゃまにお話ししたわ。
だから、男の方に近づきすぎるのはちょっと怖いっていうことと、でもお坊ちゃまのことは前の旦那さまのようではないとわかっていることを、一生懸命説明したの。
――――
奈央子の話に、和人は腹を立てた。
主人の立場を利用して、メイドをむりやり手籠めにするなんて許せない。
奈央子はそのトラウマで、男性恐怖症になるほどだ。
最初のぎこちなさを、使用人に評判の悪い和人の世話をさせられるのが怖いのかと思っていたが、それだけではないのだ。
ちょっと足をさすってくれと頼んだ時も、プロダンサーのマッサージなんてできかねますと断られたが、男に触れるほど近づくのが恐ろしかったのだ。
バランスを崩した身体を支えただけであんなに緊張したのも、もっと親しい口をきいてもいいと言っただけで激しく拒否されたことも。
「ひどいな」
怒りを隠そうともせず、和人は拳であぐらの膝を殴り、声を荒げ、それに奈央子が怯えたのではないかと慌てる。
「同じ男として許せない。そんな家、辞めて良かったんだ。泣き寝入りなんかすることない、全く、訴えてもいいくらいだ」
あまりに和人が怒り続けるので、奈央子のほうが居心地が悪くなる。
「だいたい奈央子も奈央子だ。そんな大事なこと、なんで黙ってたんだ。もしかして僕が同じようなことでもすると思って怖がってたんじゃないだろうね」
なぜ黙っていたと言われても、すすんで話したくなることではない。
矛先を向けられて、奈央子は縮こまる。
「いえ、和人さまはそんな方ではないと」
「あたりまえだ。ましてや好きな子なら大切にするっ」
言って、和人はしまったと思った。
よりによって、最悪のタイミングで告白してしまったことに。
唐突にそんなことを言われて、奈央子が困っているだろうと思うと、意外なことに、奈央子は微笑んだ。
和人がぽかんとした顔をすると、奈央子は慌てたように平伏する。
「奈央子?」
「申し訳ありません、あの、ほっと、ほっといたしました」
ゆっくり顔を上げて、形良くふっくらした胸に手を置く。
「こんなこと……、きっと身持ちが悪いとお叱りを受けるのではないかと思っておりました。メイド協会からも、あまり口にしないように言われておりましたし」
「なに言ってるんだ、奈央子が悪いわけじゃないよ。百パーセント、相手が悪い」
辞めたとはいえ、かつて主人だった人をあしざまに言うことはせず、奈央子はうつむく。
「……もし」
しばらくの沈黙の後、和人は脚を組み替えて膝を立てた。
「奈央子が、僕の部屋に来るのが怖いなら……、僕は奈央子が来てくれるのは嬉しいけど、もし嫌なら」
咳払いをして、和人はなにか返事をしようとする奈央子を片手で制した。
「メイドたちが僕のことを嫌ってるのは知ってた。奈央子が断れないのをいいことに僕の世話を押し付けられてることもね」
奈央子はうつむき加減に正座したまま、じっと和人の言葉を聞く。
「バレエがね、思い通りに踊れないんだ。まあ、それはメイドに当たることではないね。だけどイライラしてどうしても機嫌よくいられないこともあるんだ」
前のお屋敷でも、お稽古がうまくいかないと誰もが不機嫌になっていたのを、奈央子は知っている。
「だけど奈央子は、僕にスフレを作ってくれただろう。食事をしないなら手間が省けていい、って考えずに、僕のことを心配してくれた。そんなのは初めてだったんだ。嬉しかったよ」
「……和人さま」
思わずまた涙ぐんで、奈央子は和人が慌てて自分の肩に手を置こうとし、はっとしたように引っ込めるのを見た。
「だから、なんていうか。できれば、このままうちにいて欲しいし、ぼくの部屋に来て欲しい。奈央子がいやだと思うことはなにひとつしないって、約束する」
大きく息を吸い込み、繰り返す。
「なにもしない。奈央子が、好きだから」
メイドとして、誠実に一生懸命お勤めしなければいけないという気持ちと、主人に近づかれることの怖さとの葛藤に疲れていた奈央子の心に、和人の言葉が染みる。
胸の中に広がる暖かくて心地良いものを抱きしめて、奈央子はバレエのレッスンに適した床材に両手の先をついた。
「おつとめさせていただきます。よろこんで……」
――――
ええ、そうなの。
その時、お坊ちゃまは確かにあたしのこと好きだっておっしゃってくださったわ。
いやねくるみさん、聞こえなかったふりをしたつもりはないわ。
お坊ちゃまもそれっきり、そんなことおっしゃらなかったし。
でも、それからもずっとお世話をさせていただいたわ。
お坊ちゃまもご機嫌が良いってみんなも驚いていたし、公演も大成功って評判なの。
そうね、あたしもだんだんお坊ちゃまに魅かれて……、やだ、そんなこと聞かないでね。
え?
今のお屋敷にお勤めしてからはもう半年よ。
お坊ちゃまのお世話もそのくらいはさせていただいてるから、今のお話はもう数ヶ月前のことになるの。
だから、そうね、そういうことにも、なるじゃない?
なにもしないって、おっしゃったのは本当なのよ。
でも、でも、人の気持ちって変わるでしょう……。
――――
「……ほんとに、いいのかい」
「はい……」
奈央子が知っている男は、暴力的で強引で自分勝手だった。
何も知らないうちに、押し倒され殴られ開かれて押し入られた。
逆に言えば、それしか知らなかった。
暖かくて柔らかくて、そっと包み込んでくれるのも男なのだと教えてくれたのは、和人だった。
無理にとは言わないよ。
耳元でそう囁けるほど近づけるまでに、和人は辛抱強く待った。
距離を縮め、軽く触れ、手を重ねる。
背中を抱き、口付け、抱きしめる。
「僕、奈央子に好きだと言ったことがあるよね、覚えてる?」
こくん、と素直に頷いた。
「怖い?」
首を、横に振った。
お互いに魅かれながら、思いをかなえるまでに時間がかかったのは、奈央子の心の傷を和人が癒すための時間だったのかもしれない。
「奈央子がいてくれたら、踊れる気がする……」
何度も唇を重ねながらそう言う和人を、奈央子の華奢な腕が抱いた。
「鳥を……、鳥を見せてくださいませ」
ステージの上で、和人が鳥になるのを見たかった。
「いいよ。僕は、奈央子だけの鳥だ」
冷静に聞けば、くすぐったいを通り越して笑い出してしまいそうなセリフを、和人は大真面目で言い、奈央子も大真面目で聞いた。
筋肉と関節の柔らかい長い手足が、奈央子を巻き取る。
引きちぎられることなく脱がされてあらわになった白い裸体を、和人の面前にさらして奈央子は恥ずかしさに身をよじる。
まろやかな身体を、滑らかな肌を手のひらがなぞる。
吸い付くような感触に、和人は眩暈すら覚えた。
女を抱いたことがないわけじゃない。
つきあったこともあるし、ゆきずりもある。
抱きたい、愛したいという気持ちを、相手が心を開くまで抑えて待ったのは初めてだ。
そこまで大切にしたいと思った女。
それが、屋敷の使用人だというのも自分で驚いた。
乳首を軽く吸いたてた。
「……ん」
もう一度、奈央子が小さく声を立てた。
言葉少なに語った話から考えれば、初めてに近いはずだ。
つらい経験がある分、初めてより怖いだろう。
隠しこまれていた豊かな胸と、くびれたウエスト、小さなお尻と、張りのある太もも。
大丈夫です、望んでいますというように自分にすがり付いてくる。
和人はゆっくりと愛撫を繰り返した。
奈央子の緊張が解け、白い肌が薄桃色に上気し、甘い吐息が漏れ、乳首が紅色に立ち上がる。
和人の中で沸々と湧き上がっていた欲情が火を噴くようにたぎる。
挿れたい。
奈央子の中に、沈みたい。
指先を脚に這わせると、ぴたりと閉じた膝頭に触れる。
そっと撫でると、力が抜けた。
手を差し入れ、開かせる。
「もう、だめなんだ」
奈央子が閉じていた瞼を痙攣させるようにして、薄く開いた。
「もう、待てないんだ。もう」
「……はい」
開かせた脚に膝を入れる。
大切にするから、と言ったあとで、肝心なことを聞いていないと気づいた。
挿れたい、入りたい、今すぐ奈央子の柔らかな肉に包まれたい。
喉を上下させて、和人は奈央子の腰から胸をそっとさすり上げた。
「奈央子。奈央子は、僕が好き?」
恋の成就を目前にして、奈央子が涙を溜めた目で和人を見上げる。
「はしたない……メイドだと、お怒りになりませんか」
先端は、もう触れている。
「お互い好きなら、メイドでも主人でもない。恋人だよ」
目尻を涙がこぼれ落ちた。
「お慕いしています……」
柔らかな女に、硬い男が押し当てられた。
粘膜は熱く柔らかく、きつかった。
和人の侵入を拒むかと思われたそこは、吸い付くように飲み込んだ。
「……く」
暴発しそうな快感に、和人は焦った。
いくらなんでも、挿れるなり射精するっていうのはまずい。いろいろと。
とっさに頭の中で元素記号を暗唱しながら、一息つく。
奈央子がつらくないか、頬に手を当てる。
「……奈央子」
「は…い」
中が、痙攣するように和人を刺激してくる。
「やばい…、すごい、いい」
奈央子は目を見開いて、それから言葉の意味を理解したようにはにかむ。
恐怖と衝撃であまり覚えていないし、思い出したくもなかったけれど、あの時と同じ行為とは思えない。
違う、同じ行為なわけはない。
まるで違う。
前の時は激痛しかなかったはずなのに、今は心地いい。
凝った身体を揉み解してもらう時の、痛気持ちいいような感覚。
ゆっくりと動かされることで、圧迫される場所が変わる。
奈央子の腕に背中を抱かれて、和人は腰がぴったりとくっつくほど奥に押し込んだ。
中が、別個の生きもののように絡み付き、絞り上げる。
奈央子は歓んでいる。
和人に抱かれることを、歓んでいる。
ぬめぬめとした愛液が動きを助け、速度を上げさせる。
奈央子の背が反り返った。
女の歓びが、男の悦びになった。
唇を吸い、乳房を揉みしだき、膣をこすり上げる。
腰を抱いて裏に返す。
「あ、いや、和人さま」
自分の中から抜け落ちた和人を奈央子が肩越しに振り返る。
「…大丈夫」
白くて小さな背中に伏せて、その肩に歯を当てる。
後ろから侵入すると、奈央子が小さく声を立てた。
「こっちのが、いいの?」
「…ん……、あっ、はっ」
膝を立てさせ、抱え込んで動く。
もう、元素記号が思い出せない。
小さく悲鳴のような声が絶え間なく耳に届く。
歓びを伝える、高い声。
「あ、や、もう、どうか……どうかなるっ」
奈央子が根を上げた。
顔が見たい。
今度は、抜け落ちないようにそっと体位を変える。
奈央子が和人の首に腕を回して強く身体を押し付けてきた。
「どうしましょう、あ、……んっ、ど、どうなるのでございます、か、ああっ」
どうなるって?
こうなるんだ。
フィニッシュに向けて、和人が動く。
奈央子が身体をうねらせ、喘ぎ、眉を寄せ、和人の背中に爪を立てる。
「あ、あっ、あああっ、いや、助けて……!」
開かせて押さえつけた脚が硬直したかと思うと、びくんびくんと波打った。
和人は自身も低くうめきながら、最後の一運動に没頭した。
熱を持つ粘膜と柔肉に包まれて、和人は天に向かって舞い上がった。
余韻に震える身体の上に倒れこみ、その熱い息遣いを聞きながら柔らかな胸に顔を埋める。
鳥に、なったかも。
――――
スピーカーから、メイドたちのため息が聞こえました。
「素敵……」
うっとりとつぶやいたのは、結衣さんのようです。
メイドとご主人さまの間には、なにもないほうが好ましいとは思うのですが、一度悲しい思いをした奈央子さんだけに、心優しいお坊ちゃまに出会えたのは幸せなことでしょう。
メイドにひどい扱いをするご主人さまは決して少なくないのです。
先日も、暴力的な嗜好のあるお坊ちゃまに対して、メイド協会が正式に抗議する事例があったばかりです。
かわいそうに、綾音さんは結局ことの次第を正しく理解することもできず、無理やり引き裂かれたように思っているかもしれません。
たとえその時は辛くても、将来的に考えて、この事態は介入すべきというのがメイド協会の判断だったのです。
少しつまらなそうに、くるみさんがティーカップを取り上げるのが見えました。
くるみさんのお屋敷の、よそのメイドたちにもプリンスと呼ばれるお坊ちゃまは、どうやらまだ特別なメイドはいないようです。
くるみさんも、お坊ちゃまの目に留まりたいと思っているのでしょうか。
結局、すべて話してしまったことで奈央子さんは顔を赤らめ、あらもうこんな時間、とつぶやいて立ち上がりました。
結衣さんと麻理耶さんは奈央子さんを冷やかすようなうらやむような言葉をかけ、奈央子さんは逃げるように私に挨拶をしてひまわり会館を飛び出してしまいました。
その背中が、お勤めを変えたころとは打って変わって楽しげに見えたのは気のせいではないでしょう。
またいらっしゃい、そう声をかけて私はティールームを覗きました。
今日は、これ以上ここに来るメイドはいないようです。
何か気に掛かることがあるのか、くるみさんはため息をついていました。
一度、くるみさんのお話を聞いた方がいいかもしれません。
私としても、気になることがあるものですから。
もちろん、公私混同には注意いたします。
「そういえば、最近は愛さんにお会いしてないわね」
結衣さんが残りのお菓子を片付けながら、思い出したように言います。
「私は、少し前にここでお会いしたけれど、お忙しいのかもしれないわね」
話を向けられてくるみさんが気のない素振りで答え、それでなんとなく今日はお開きということになったようです。
そういえば、確かにしばらく愛さんにお会いしていません。
愛さんのように経験のある思慮深い方には、ぜひ他のメイドの模範になるべく度々は顔を見せていただきたいものです。
「薫さん、ありがとうございました」
来た時よりもきれいに片づけをして、メイドたちは三々五々お屋敷に帰っていきます。
その背中を見送りながら、私は一人一人すべてのメイドたちが幸せにおつとめできるよう願わずにはいられないのです。
少しでもそのお手伝いができますよう、ひまわり会館はメイドたちを見守ります。
私はスピーカーとレコーダーのスイッチを切り、ペンを置いてパソコンを落としました。
本当に、メイドというのはなんと複雑で繊細で、そして喜びの大きなお勤めなのでしょう。
できるなら、すべてのメイドたちが幸せにお勤めを全うできますように。
私は奈央子さんの幸せそうな笑顔を思い出し、嬉しく思うと同時に胸の奥にちくりとするものを感じてしまうのです。
――今日も、ひまわり会館にはお休みをいただいたメイドたちが、わずかな時間を楽しむために訪れます。
ほんの少しの間、メイドからひとりの女の子に戻るのです。
私は、女の子たちの笑顔を見守り、送り出します。
「ひまわり」の花言葉は、「愛慕」。
そして、「私の目はあなただけを見つめる」……。
またいらっしゃい。
心をこめて、おつとめなさいませ――――。
――――了――――
いっぺんやってみたかったので余計なお世話かもだけど
リアルタイム支援!
間抜けなことになってしまった。Orz
作者さんも善意の支援者もGJ!
前回がピリ辛だっただけに今回は尚更和んだ
GJ!
支援どんまい
かわゆいメイドさんのいる家のお坊ちゃまになりたいと思った。乙!
奈央子さんに笑顔が戻ってよかった
GJ
にしても前作からプリンスが気にかかるな
伏線?
不器用な主人(ぼっちゃま)と健気なメイドさんを書かせたらピカイチですな〜
GJ!!
『ひまわり会館 メイド・麻理耶』
メイド協会ひまわり会館は、しばらくの間大騒ぎでございました。
協会に所属するメイドがいる、華道家元のお屋敷で相続問題が起こっていたのです。
お勤めをするメイドたちには、お家の問題には決して関わらず、日々のお勤めに一生懸命真心を尽くすよう指導しております。
今回、家元相続を巡って揉め事が表ざたになった時も、お勤めしているのがメイド協会でも評判の高い愛さんを初めとする精鋭たちだと思って安心していたのです。
メイドが一人、いなくなったという報告が来た時は驚きました。
大昔には、労働条件が厳しすぎたり無理な要求をされたりで夜逃げするメイドもいたようですが、最近は労働基準法を遵守することになっています。
誰が、どうして。
それが、相続問題で揺れる華道家元のお宅で、家元の座を争っていた三男と愛さんが手に手をとって出奔したと聞いた時は、さすがに眩暈がいたしました。
家元には三人のお坊ちゃまがおいでになり、事業の才に優れている長男が社長業を引き継ぎ、華道の才能のある次男と三男が家元を争って大揉めに揉めていたのです。
三男の方は、社長の座と家元の座の両方を狙い、会社の株式証券や重要書類をこっそり長男の担当メイドである愛さんに持ち出させたようなのです。
もちろん、ベッドで愛さんを懐柔してのこと。
思慮深く、模範的なメイドである愛さんが、まさかそんなことになるとは。
いつも、礼儀正しくにこやかな態度を崩さない愛さんからは、とてもそんな騒ぎに巻き込まれているとはわからなかったのです。
私も管理不行き届きで注意を受けましたが、それは大きなことではありません。
お屋敷のほうで捜索の手を伸ばし、メイド協会でもあちこちを探しました。
遠い南の町で、旅館の住み込み仲居をしている愛さんを見つけたのは協会でした。
報告では、やつれてはいたものの健康に問題はなく、三男の方の行方は知らないとのことでした。
愛さんが無事だったことには安心しましたが、同時に恐れていた通りお二人で逃げたはずのお坊ちゃまがご一緒ではないことに落胆しました。
傷ついているだろう愛さんを思うと、涙がこぼれます。
信じる旦那さまに出会える幸せから、裏切られる絶望を味わって、愛さんは立ち直ることができるでしょうか。
再びメイド服に袖を通して、真心をこめたお勤めをできるようになるのでしょうか。
噂を聞いた他のお屋敷のメイドたちもしばらくは動揺しているらしく、ここに集まって情報を集めようとするのか、ずいぶんと賑わいました。
特に特定の旦那さまにお仕えしているメイドたちは、心配そうでした。
必要に応じて話を聞いたり、少し意見したりして、私も忙しく過ごしました。
愛さんがしばらく旅館にとどまりたいと言ったこともあり、この件はお家元の家の内の問題になりました。
「薫さん、ちょっといいでしょうか」
お家元の騒動が治まってしばらくして、給湯室でお茶の在庫を補充していると、急に声をかけられました。
振り向くと、くるみさんでした。
今日は5人ほどのメイドがさっきまでティールームでおしゃべりに花を咲かせていましたが、みんなで揃って挨拶をして帰って行ったばかりです。
くるみさんは皆と別れて、一人で戻ってきたようです。
私は補充の手を止め、くるみさんの華奢な背中に手を回してティールームに引き返しました。
「たった今、新しいハーブティーが届いたのよ。もう少し早ければみんなでいただけましたね」
開けたばかりのハーブティーはそれはそれはいい香りです。
くるみさんがお湯を注いで、ゆっくりカップに注いでくれました。
「……あの」
ハーブティーのカップを両手で包んで、くるみさんはつぶやくように言いました。
「あの、あ……、愛さん、どうしてらっしゃるのでしょう」
カップを置いて、私は出来るだけ穏やかな声で答えます。
「お勤めなさっていますよ。少しは勝手が違って大変なようですけれど、愛さんなら大丈夫。旅館の方で手放したくないというかもしれませんね」
「……そうですか。よかった」
言って、カップの縁を細い指先でなぞります。
「あの。メイドが、専属のお世話係になることって、どうなんでしょう」
「どう、と言うと?」
「……ここに来て、いろんなお屋敷のやり方を聞きますでしょう。自分のお勤めするお屋敷では当たり前のことも、他のお屋敷ではそうではなかったり、その逆もあります」
「そうね」
「ご家族に、専属のメイドがついてお世話をするお屋敷もたくさんあって、それがその、奥さまやお嬢さまの担当ではないこともあります」
「ええ」
「……お年頃のお坊ちゃまのお世話もいたしますでしょう、……愛さんのように」
思春期だったりお若いお坊ちゃまでは、特にお世話に気を使うものです。
くるみさんのお屋敷にもお坊ちゃま方はいらっしゃいますが、とうにご結婚されるお年頃のはずです。
「お坊ちゃまが、メイドをいらないっておっしゃることは、あるのでしょうか」
微妙な質問です。
他人に細かく世話を焼かれるのがうっとおしいと思うお年頃や性格もあるでしょうし、お世話するメイドと気が合わない場合もあります。
メイドのお世話が、ただの身の回りだけに限らないのであれば、外に好きな女性や恋人がいることも考えられます。
もちろん、ご結婚されて奥さまがいらっしゃるのでしたら、むやみにメイドをそばに置くのは誉められたことではありません。
くるみさんが言いたいことを言えるように、私はゆっくりハーブティーを飲みながら待ちました。
「うちのお屋敷の、あの、……プリンスの方のお坊ちゃまなんです」
ひまわり会館に来るメイドたちの中でも、くるみさんのお屋敷のご次男はプリンスとあだ名されて人気があります。
すらりとして背が高く、整ったお顔立ちだけでなく、交友関係が広くてあちこちのお屋敷にも気軽に顔を出し、お茶ひとつお持ちしたメイドにも笑顔を向け、趣味の乗馬や社交ダンスの大会で優勝したり、ご主人さまの経営する会社でも重役の一人に連なってご活躍のようです。
まだ、ご縁談があるという話は聞いておりません。
「上のお坊ちゃまには、もうずっとお世話をしているメイドがいるんですけど、プリンスのお坊ちゃまはその時々でいろいろなメイドがお手伝いするんです。ご自分でもさっといろんなことをしてしまうので、あまりお世話することがないのかもしれませんけど」
「そういう方も少なくありませんよ。メイドがいないとお着替えもできないという方ももちろんおいでですけどね」
「でも、プリンス……、お坊ちゃまもお仕事がお忙しいし、ご自分のことくらいメイドに任せるといいのではないかって奥さまもお考えになって、メイド長が、あの、私に」
そうですか、あのお坊ちゃまが、担当のメイドをお決めになりましたか。
「……でも、いらないって」
くるみさんが、目に涙を溜めて私を見上げます。
「どうしてでしょう。私、いつも一生懸命お勤めしています。お坊ちゃまの御用をしたこともありますし、その時だって問題はなかったと思いますのに、どうしてでしょう」
それは、くるみさんに落ち度があるわけではないように思います。
お坊ちゃまが、担当メイドを望まなかったというだけではないのでしょうか。
ひまわり会館にやってくるくるみさんを見ておりますと、自分のお屋敷の主人家族に心をこめてお勤めしているのがわかります。
もちろん、プリンスへのそれ以上の熱い思いも感じ取れはするのですが。
他のお屋敷のメイドは、時々垣間見るプリンスに抱くのは、見目の良い有名人へのファン心理のようなものでしょう。
まったく、ご自分の容姿やふるまいがどれだけ若い女の子の興味を引くかも知らず、ご交友のあるお屋敷の間をフラフラなさっては誰にでもお声をかけるなど、いい大人のなさることとも思えません。
あの方には、昔からそういう無邪気で罪作りなところがおありでした。
私はくるみさんを宥め、励ましてお屋敷に帰しました。
人気のありすぎるお坊ちゃまも困りものです。
誰もいなくなったひまわり会館を掃除し、事務仕事を片付けながら、私は若い子たちにプリンスとあだ名されるようになったあの方の精悍な横顔を思い浮かべ、そっとため息をついたのでございます。
くるみさんが話をしていってから数日後、麻理耶さんがやってきました。
いつもは結衣さんと双子みたいに一緒なのですが、珍しくお一人でした。
先に来ていた里奈さんや美紀恵さんが、麻理耶さんを見て歓声を上げたところを見ると、どうやらここで待ち合わせをしたようです。
私はちょっとためらってから、ティールームの隠しマイクにつながるスピーカーのスイッチを入れました。
事務室のガラス越しに、三人の女の子がはしゃいでいる様子が見えます。
「……それでそれで、とびっきりのニュースってなんなの、麻理耶さん」
「あんもう、こんな重大発表の日に二人しかいないなんてもったいないわね」
「焦らさないで、教えてくださいな」
麻理耶さんが、うふふっと笑います。
「驚かないでね。うちのお屋敷のお嬢さまに縁談があるの」
身を乗り出していた里奈さんと美紀恵さんが顔を見合わせました。
「それは、おめでたいけど……」
お年頃になったお嬢さまやお坊ちゃまのいらっしゃるお宅で、縁談があるのは珍しいことではありません。
「問題は、その、お・あ・い・て。なんと、あの、プリンスなのっ」
きゃあっ、と、今度は本物の歓声が上がりました。
「本当なの、麻理耶さん。だって、プリンスは降るほどあった縁談をもう何年も断り続けているのよ」
「私たちの間でも、くるみさんのところのプリンスはご結婚されるおつもりがないんじゃないかって噂なのに」
「でしょう、私もびっくりしたわ。でも、うちのお嬢さまにさすがのプリンスも心を動かしたってわけよ」
「そりゃあ、麻理耶さんのところのお嬢さまはミスキャンパスだし、二科展にも入選するほどの芸術家ですしね」
「でもまだ大学生でいらっしゃるでしょう?プリンスとは、お齢が離れているのではありません?」
「あら、でもプリンスは30歳を越えたくらいでしょう、十歳くらいの年齢差はなんてことありませんわ」
「うらやましいわ、プリンスがお相手だなんて」
「やだ、里奈さん、まるでご自分がプリンスと結婚なさるみたい」
女の子たちの笑い声が、ティールームに響きます。
その歓声に、私ははっと我に返りました。
メイドたちは私が彼女たちの会話を聞いていることを知らないのに、ガラス越しにじっと見つめてしまったのです。
気づかれまいとうつむいて、両手を握り締めました。
担当のメイドが付くのを断ったのも、近く結婚することになるお嬢さまに遠慮して、自分の身の回りに若いメイドを置くことをしなかったというわけでしょうか。
あの方らしい心配りだと思います。
きっと、お友達の家を訪ね歩いてメイドたちを無駄に騒がせることも、お止めになるでしょう。
「……あちこちのお屋敷でたくさんのお嬢さまをご覧になって、うちのお嬢さまにお決めになったのだと思うのよ。プリンスは持ち込まれる縁談ではなくて、ご自分の目で結婚相手をお選びになりたかったのだと思うわ」
メイドたちの噂話は止まりません。
麻理耶さんは二人しかいないのを残念がっていましたが、これで大勢のメイドたちが来ていたらさぞ姦しい騒ぎになったことでしょう。
そうですか、プリンスが。
あの方が、ついにご結婚なさるのですか。
スピーカーの音量を絞って、私は握り締めていた両手を胸に押し当てました。
――――薫。
耳にはまだ、あの方の声が残っています。
――――かおるちゃん。かおちゃん。かお。薫。
麻理耶さんのお屋敷のご家族情報をパソコンで表示しようかどうか迷っていると、マイクの近くに移動したのか、里奈さんの声が大きくスピーカーから聞こえました。
「……でも、麻理耶さんのお宅も大忙しね。この間、上のお坊ちゃんの婚礼があったばかりでしょう」
メイドたちの盛り上がりが落ち着いてきたようです。
「おめでたいことはいくつあってもいいけど。結衣さんも今日は来られなかったみたいだし」
麻理耶さんは、ちょっと細い眉を上げました。
「結衣さんは真面目だから、よく働くし頼りにされるの。私みたいなのはラクチンよ」
あらあら、これはメイドとしてあまり誉められたことではありません。
麻理耶さんのデータを呼び出してみると、特にお屋敷から苦情が来るほどではありませんが、協会が選ぶ優良メイドの候補に上がるほどではないようです。
おや。
画面をスクロールして、私はちょっと驚きました。
顔を上げると、予定通り里奈さんと美紀恵さんを驚かせることに成功した麻理耶さんが少し得意気にお菓子を食べています。
里奈さんと美紀恵さん、お二人は憧れのプリンスの結婚にちょっとガッカリしている様子。
そのお相手がご自分のお屋敷のお嬢さまなら、さぞ複雑な気分でしょうに、麻理耶さんはそんなふうに見えません。
それもそのはず、麻理耶さんは一年ほど前から先月結婚なさったお坊ちゃまのお世話を担当していたのです。
もしかしてお坊ちゃま、いえ、若旦那さまは麻理耶さんに身の回りのお世話以上のことをさせていたのでしょうか。
それは、いつまでのことでしょうか。
「だってほら、私は若旦那さまのお仕事があるでしょう」
一瞬、私は麻理耶さんに聞こえるように疑問を口にしてしまったのかと思うほどでした。
――――
若旦那さまは新婚だけど、もう一ヶ月でしょう。
一日おきだとしても、十五回。
それだけしたら、だいたいのことはわかるんですって。
え、いやだ、若旦那さまがそうおっしゃっただけよ。
それでね、やっぱり麻理耶のほうがいいなって。
相性っていうのかしら。
私だって、お坊ちゃま、いえ若旦那さまさえよろしければ依存はないわ。
うふふ、若旦那さまはね、そりゃあお上手なの。
毎回、天にも昇る気持ちよ。
でも若奥さまは違うみたい。
若旦那さまも、つまらないっておっしゃるの。
だから結婚なさって半月くらいはお呼びがなかったけど、その後でこっそり廊下で囁かれたのよ。
今夜、部屋に行ってもいいかなって。
若奥さまはお里帰りだったし、私も寂しくなってたから嬉しかったわ。
私、お気に入りの下着を着けてお待ちしたもの。
そりゃ、すぐに脱がされてしまうんだけど。ふふふ。
若旦那さまったら、私の部屋に来るなり抱きしめてくださって。
私だって若旦那さまとは久しぶりだし、ゆっくりしていただきたくてお酒やおつまみの準備とかしてたのよ。
それなのにもう性急で、困っちゃう。
――――
若奥さまとは、とても仲がよくって睦まじいって旦那さまがお喜びですのよ。
胸の中で精一杯の意地悪を言うメイドの唇をふさいで、誠一はくすくすと笑った。
「格上の家からもらった嫁だよ、大事にしないとヤバイでしょう」
「ん、そんな、あ、ん」
「だけど、箱入りのご令嬢だと思ってたら、これが意外や意外」
「え?」
誠一の手が麻理耶の胸をまさぐる。
「生娘かなと思ってたんだけどな」
メイドはわざと強く誠一の胸を押し返す。
「いやな誠一お坊ちゃま。こんな時にそんなこと」
笑いながら、誠一はメイドの弾力のある小さな唇を吸い上げた。
「聞きなさい。あいつ、初回からよがったんだよ、どう思う?」
「どうって、それは、誠一お坊ちゃまが丁寧にお可愛がりになったから」
「お坊ちゃまはよしなさい。別に特別にやったわけじゃないよ。普通、ごくごく普通だ」
話すために動く唇がかすめるほど顔を寄せた誠一に、麻理耶はうらめしそうな視線を送る。
「普通がうらやましゅうございます」
「今日は普通じゃないよ。丁寧に可愛がってあげるからジェラシーはやめなさい」
「まっ」
ドアを入ったところで誠一に抱きすくめられていたメイドは、ぽっと頬を染めた。
期待で膨らんだ胸をぎゅっと押し付けてくる身体をひょいと横抱きにして、酒とつまみの用意された小さなテーブルの前に運ぶ。
メイドに与えられる部屋は狭く、ベッドがソファの代わりになる。
並んで腰を下ろすと、メイドはぴったりと身体を寄せていそいそと水割りを作り始めた。
しばらく放ったらかしていたことに文句も言わないいじらしさに、誠一はむらっとした。
「どうぞ」
グラスを渡す手首をつかんで引き倒そうかと思ったが、がっついているとも思われたくない。
水割りとナッツでしばらく他愛のない話をしながら、手をメイドの膝に乗せる。
黙ったメイドが、そっと肩に頭を乗せてくる。
「こういうの、いいな」
誠一がつぶやいて肩を抱くと、メイドが手を誠一の腰に回してきた。
「こういうの?」
「ああ。なんていうんだろう、なにをするのでもなく、ただ一緒にいる……間、のような」
「“ま”……」
「じんわりムードが高まるような気がしないか?あれとは、こういう感じにならない」
「……若奥さま」
やめなさいと言われたジェラシーが頭をもたげ、メイドが抱きしめてきた。
肩を抱き、髪を撫でながらその頭にキスをしてやりながら、誠一はなじんだ匂いにほっとしている自分に気づいた。
正直なところ、結婚すれば、メイドなんかどうでもよくなると思っていた。
気を使わなければならないところから貰った妻が、期待を裏切ったせいもある。
「あれはね。相当、男を知っていたよ」
結い上げている髪を解く。
「きっと、好きな男でもいたんだろうな。もしかして、今頃逢っているかもしれない」
「まさか……」
「不思議じゃないだろう、私だって今、こうして麻理耶を抱いている」
するりと手が身体を滑って、メイドの服を緩める。
「ああ、いいな」
むき出しになった白い肩に目を細め、唇を押し当てて強く吸った。
「滑らかで、すべすべしてる。あれは、肌が悪いから触れていてつまらない」
衣服を腰に落として、下着をつけさせたまま腕や腋を撫で回した。
「それでも我慢して愛撫してやった。棒みたいにただ寝転がっていたけどね」
ベッドに片膝を立てて、誠一が触れやすいように身体を回していたメイドがぴたっと動きを止める。
誠一はくすっと笑って、メイドの動きを助けるように手を添えてやりながら、ヘソのあたりに吸い付いた。
「こんな風にはしてくれなかった。もちろん、私だってちゃんとするべきことはしてやったよ」
下着を押し上げるようにすると、形のいい小ぶりな乳房がこぼれ出る。
両手で下から押し上げるように揉み、指先で乳首をつまんでこねる。
「あん……」
メイドの唇から甘い声が漏れた。
「こうしてやった。乳首はすぐに堅くなったよ。あ、これは男を知ってるなと思ったものだ」
「だって、誠一さまが、毎晩のように……」
「毎晩のように、自分好みに仕込んでいく楽しみはなかったんだよ。麻理耶にしたようには、ね」
「……いじわるな誠一さま…」
メイドにシャツのボタンを外されながら、誠一はメイドのピンク色の下着を取り、スカートの中に手を入れた。
お互いの服を脱がせようと絡み合いながらベッドに倒れこむ。
生まれたままの姿になってメイドのうえにのしかかり、何度もキスをする。
「ん、キスを、しても、反応がなか、った。やり方を知っているくせに、されるがまま、で」
唇を吸い、舌をからませながら、話す呼気を吹きかける。
「ああ、いいね麻理耶……。キスは、感じるだろう……」
答えの代わりに、メイドは誠一の頭を抱いて自分の顔に押し付ける。
息が苦しくなるほどのキスをむさぼってから、誠一はメイドの身体を嬲ることにした。
身体の他の部分に触れないようにしながら、乳首だけをつまんだり吸ったり軽く噛んだりする。
ほどなく、メイドの身体がうねるようにもだえ始めた。
もっと、他の場所も、全部を愛して。
身体をまたいで、焦らすように乳首の愛撫を続けると、メイドの唇が薄く開いて泣き声が漏れる。
「あ、ああん……、いやあ……、そればっかり、あっ、んんっ」
「ここは嫌いじゃないだろう。感じる場所じゃないか」
「で、で、も、ああ……」
「他にも、触って欲しいのか」
メイドが腰を浮かせる。
「言いなさい。どこがいいんだ」
浮いた腰が、揺れる。
「や、あの、あん……」
指先を胸の谷間からヘソの下まで、つつーっと滑らせると、悲鳴が上がった。
――――
私たち、久しぶりだったでしょう。
もう、若旦那さまも私も盛り上がってしまって。
今思うと、はしたなくって恥ずかしいんだけど。
それまでは絶対口にしなかったような言葉もどんどん言わされてしまって、若旦那さまが興奮なさるのがわかったわ。
でもね、ひとつひとつのことを若奥さまと比較なさるの。
もちろんもちろん、私のほうがいいって誉めてくださるんだけど、それだけ若奥さまのことも気にしてるってことでしょ。
ジェラシーなんておこがましいことじゃないのよ、こちらはメイドなんだし。
ただなんていうのかしら、そうね。
……悔しかったのだわ。
――――
「丸太みたいに転がってるだけのくせにね、ここは、そう、こうなってた」
メイドの膝に手をかけて開かせ、みだらな芳香を放つ場所に顔を近づけて指を差し入れながら、誠一が言う。
指先は豊かな潤いの泉に沈み込み、粘着質な音をたてる。
「なんの反応もしないくせに、乳首だけはぴんと立てて、ここをぐっしょり濡らしてるんだ。呆れたよ」
自分の身体を弄びながら、妻との初夜を思い出す誠一に、メイドは唇を噛む。
「せっ、い、ち……さ、まが、あ、きもちいい、こと、なさるから……」
「麻理耶はいいんだよ、感じやすいのは私がそういうふうに仕込んだんだ」
指を回しながら奥へ進め、上のざらついた場所をこすりあげると、メイドは膝で誠一を挟み込むようにして身悶える。
「だけど、あれをあんな風に仕込んだのは、私じゃない」
同じ場所を執拗に攻められてメイドの身体はくねり、快楽の突起を舌先でねぶられるに至ってついに歓喜の波に襲われた。
「……今頃、その男が気持ちいいことをしてくれているんだろう」
余韻に身体を震わせながら、メイドが潤んだ目で誠一を見上げた。
箱入りの生娘だと思って娶った妻が男を知っていたこと、妻に喜びを教えた男がいること、それを知ってもなにもできないことに、誠一は苛立っている。
それは、プライドなのかジェラシーなのか。
「麻理耶。してくれ」
火照った体を起こして、メイドが誠一の股間に屈みこむ。
妻にはさせたことのない行為だが、他の男に対してはどうだろう。
誰かの陰茎をくわえ込んだ経験があるだろうか。
柔らかな袋を優しく口に含まれて、誠一は目を閉じる。
メイドの髪に手を滑らせながら、体を倒して仰向けになった。
誠一のツボを心得ているメイドは、陰茎に手を添えて周囲からじっとりと舐め始め、時折軽く吸う。
じわじわと襲ってくる快感に身を任せていると、何も考えられなくなってくる。
適度に焦らしと刺激を繰り返し、だんだんと強くしごきたてる。
逐一、自分が教え込んだとおりだった。
これでいい。
「く、う……」
やはり、セックスを楽しむならメイドが一番いい。
覚えはいいし、教えたことに忠実で、一生懸命だ。
いいようにさせれば、次からも望みどおりにできる。
もっと、強く、速く。
して欲しいときに、して欲しい刺激が来る。
「う、ああ、いい……、そう、うっ」
見栄を張って声を押し殺すこともない。
誠一は思う存分声をあげる。
「あう、うっ、出る、出る、もっとっ、うう、あ、出るっ」
妻を抱いたのは昨夜だというのに、濃くて多い射精だった。
丁寧にそれをぬぐい、残っている分を吸い上げられて、誠一はびくっと震えた。
「やっぱり、麻理耶が一番いいな」
急速に冷めた頭でぼそりと言うと、まだ熱い顔をしたメイドがうっとりとしなだれかかってくる。
胸に抱いて背中をさすってやる。
吸い付くようなしっとりとした肌だった。
やっぱり、女の身体はこうでなくてはならない。
きめの細かい滑らかな肌と、適度な筋肉に乗った柔らかな脂肪。
乳房は大きさよりもハリと弾力、きれいな乳首と乳輪、くびれた腰と鞠のようなはずむ尻。
太ももはむっちりと肉付きが良く、ふくらはぎはすらりとして足首は引き締まり、かかとは柔らかく。
メイドの体を撫で回して確認していると、愛撫に蕩けた顔をする。
メイドの手が伸びてきた。
そう、手のひらは小さく、指は細く長く、巻きつくように握り込むのがいい。
メイドの手の中で再び堅く立ち上がらせながら、誠一は小さなあごをつかんで唇を合わせた。
唇はぽってりと厚く、小さく、口内は広く、舌は長くてこちらをからめ取るように。
陰茎をしごく手を止めさせ、誠一はメイドを抱きかかえて向かい合うように座った。
腰と腰をあわせてから、メイドの上半身を後ろに倒す。
指で押し開くと、薄い陰毛の間にピンク色の秘密が現れる。
そう、ここは潤って柔らかく、複雑に閉じているのがいい。
肉を開き、ヒダを開いて、明るい場所にすべてをさらけ出す。
突起を剥き出しにして触れる。
縦になぞると、一際水気の多い場所に指が沈む。
入り口は小さく、中は狭く、男の陰茎を飲み込んだときはしっかりと包み込み、締め上げる弾力がある。
誠一は膝を立ててメイドの腰を抱え込み、ゆっくりと身体を合わせた。
最初は少し反発があり、それから飲み込まれるように迎え入れる。
暖かい膣が、別の生きもののようにうごめいて異物を搾り取る。
「うっ」
今度も、誠一は声を漏らした。
「あ……、あっ」
負けじとメイドも快感を伝えてくる。
そのまま動かずにいても、達してしまいそうに刺激される。
このメイドは、いいモノを持っている。
誠一がなにもしないせいで、焦れたメイドが腰を動かす。
メイドの腰が上下し、形のいいヘソがうねる。
「や、あ、誠一さま、いやっ、う、動いて、ください、いじわるしないでっ、もっとっ」
誠一の太ももにメイドの蜜がこぼれ落ちるほどになっていた。
くちゃくちゃという音がする。
「だめだよ、麻理耶がもっと動きなさい。自分で動いて、私を満足させてご覧」
自分の快感を追い求める顔になって、メイドが身体の向きを変えた。
横向きに向かい合うようにベッドに寝転ぶと、そのまま下になる。
つながったまま上にまたがったメイドが、髪を揺らしながら腰を上下させる。
「んあ、あっ、あ、あ、ああっ、あ、うんっ、ああっ、ああああああっ」
この体位なら、何もせずにラクに気持ちよくなれる。
コツを飲み込ませたメイドなら、勝手に向きを変えて飽きさせないはずだ。
期待にこたえて、メイドは誠一の胸に手をついたり後ろ向きで背中を見せたりしながら出し入れを繰り返した。
「は、あ、はっ……」
メイドの声が部屋に響く。
誠一は滑らかな太ももを撫でながら、ぐっと眉根を寄せた。
「ああ……、いい、麻理耶……、上手だ……、もう少し、そう」
誠一が終わったら、蕩けたメイドの膨らんだ突起を弾いたり舐めたりしてやって、イかせてやろう。
どうやら、このメイドはまだまだ使うことになりそうだから。
目を開けて、激しく飲み込まれる自分の陰茎とメイドの粘膜を見ながら、誠一は二度目の射精をした。
――――
うっとりと麻理耶さんが話すのを聞きながら、里奈さんと美紀恵さんは時々目を合わせてそわそわしています。
お二人が聞きたいのは、麻理耶さんののろけ話ではなく、プリンスとお嬢さまの縁談の詳細なのでしょう。
これ以上、身のある話はなさそうだと判断して、私はスピーカーのスイッチを切りました。
くるみさんのお屋敷には、お二人のお坊ちゃまがいらっしゃいます。
お忙しくて縁談も遅れがちでしたが、どうやらご次男のほうが先に身を固められる気になったのでしょう。
とはいえ、健康な青年でしたらそちらの御用もございましたでしょう。
ふと、プリンスと呼ばれるあの方も、担当ではないメイドの誰かとそんなことをしているかもしれない、と思いました。
もちろん、どこかのお嬢さまかもしれませんし、玄人の方の可能性もあります。
でも、正式なご縁談がおありならこれからは、身辺整理をなさるでしょう。
もしお相手が自宅のメイドなら、もし奥さまになった方がお気に召さなければ、ずっとメイドとの関係を続けるということもあるのでしょうか。
あの方に限って、そんなことはないと信じたいものでございます。
いえ、もちろん、そうなった場合のメイドの立場を心配しているのですが。
三人のメイドたちがひまわり会館をあとにしてお屋敷のお勤めに戻ってから、私は机の引き出しから小さな箱を取り出しました。
中に入っているのは、何の変哲もないただの小石。
あの方が、お庭の枯葉を集めていた私を気づかせようといたずらに放った砂利石です。
驚いて顔を上げた私に、あの方は片手を高く上げ、さわやかな微笑みを残して行きました。
その砂利石を拾ってそっとエプロンのポケットに入れたのは、もう何年前のことなのでしょう。
――――私のメイドとしてのお勤めの日々は、幸せでした。
すばらしいお仕事とお優しいご主人さまのご家族、素敵な思い出をいくつもいただきました。
できることなら、今お勤めするすべてのメイドたちが、同じように感じることができますように。
今日も、ひまわり会館にはお休みをいただいたメイドたちが、わずかな時間を楽しむために訪れます。
ほんの少しの間、メイドからひとりの女の子に戻るのです。
私は、女の子たちの笑顔を見守り、送り出します。
「ひまわり」の花言葉は、「愛慕」。
そして、「私の目はあなただけを見つめる」……。
またいらっしゃい。
心をこめて、おつとめなさいませ――――。
「かおちゃん……」
私が、忘れようとしても忘れられないあの声を、ひまわり会館の前で聞いたのは、その翌日でございました。
――――了――――
くはっ!
息をするのも忘れちまったい
GJGJ!
真打登場だ!
続きそうだ!
続きキボン
薫さんもひまわりだったのか
切ない展開になりそう?
374乙
なんか現実にありそうな話でいいね
男ってやつはほんとに…
GJGJGJ!
続きが楽しみだなあ
ああああ…これは…GJだ!!
薫さんには幸せになって欲しいなぁ
秀一郎さんの夫婦生活覗きたいw
だってそりは・・
秀一郎さんに恋しちゃったから・・
秀一郎さん目線の話がほしい
すみれさん目線&津田さん目線ときて、まさかの秀一郎さん目線w
読めるモンなら読みたいな。
おそらく頭の中は、パンとすみれさん、子どもちゃんのみw
つらさんのことも忘れないであげてー
ただのえろい人なのか
はたまた、果てしなく優しい心を持った男性な・の・か
すみれさんが来るまでの、メイドさんたちとの関係も気になる
秀一郎さま・・ハァハァ
自分の中で秀一郎さんは、、
伊勢谷ユウスケ
加瀬りょう
すみれさんは池脇千鶴
秀一郎さん一家は
絵師さんが書いてくれたイメージで
再生されるなー
あれは良かった
秀一郎さん目線の話は確かに読みたい
絵師さんの絵見られなかったんだよなー。残念だ。
美果さんの人はもう書かないのかなー
結婚後とか、ちょっと時間戻してアパート時代の番外とか
※完全にスレチですみません。
『物書き・秀一郎』
昼前に起き出したら、すみれがいなかった。
若葉の予防接種で出かけたらしい。
時間のずれた食事をしていたら、菜乃香がとことこやってきた。
「パパ、ブロッコリー食べるの」
こっそり皿の横に緑の物体を寄せていたのが見つかった。
これは、津田の教育に違いない。
食べるまでじっと見ているので、仕方なく口に入れた。苦い。
津田がテーブルに機械で淹れたコーヒーのカップを置く。
すみれが淹れたのではないコーヒーは、まずい。
前に、すみれの淹れたのがいい、と言ったら、津田が睨んだ。
奥さまは、菜乃香お嬢さまと若葉お坊ちゃまのお世話で大変お忙しいのですから、わがままを言ってはいけません。
津田が怒ると怖いので、言われないように黙ってコーヒーを飲む。
先週、津田のメガネが銀縁から金縁に変わったのはなぜだろう。
もしかして怒った津田よりもっと怖い津田の嫁が怒って壊したのかもしれない。
津田は時々、嫁に怒られている。原因は知らない。
怒られてるのに、津田はちょっと嬉しそうにする。
笑っているから、津田の嫁はもっと怒る。
津田も、毎日ちゃんと「いちばんすき」って言えばいい。
でも津田と津田の嫁は、ケンカした次の日はとても仲よしだ。
そんなことを言ったら、やっぱり怒られるから言わない。
最近は、なるべく昼間は起きていて、夜に寝るように変えてきている。
すみれも菜乃香も若葉も夜に寝るから、昼間に寝ていると遊べない。
でも、昼間は起きていてもあまり仕事がはかどらない。
菜乃香が書斎を覗くので、ここに入ってはいけないと言わないとならない。
「なんでー?」
鶴が出るから、と言ったら津田が嫌な顔をした。
仕事がはかどらないので溜まっていく。
そうすると、津田の嫁がやってきて小言を言う。
編集者が同じ家に住んでいるなんて厄介だが、津田の嫁なので仕方ない。
口の回りだした菜乃香と、まだ頻繁に授乳しなければならない若葉がいるので、すみれは忙しい。
すみれはできるだけしてくれるけど、自分のことは自分でしなさいと津田に言われている。
もっとすみれといちゃいちゃしたい。
菜乃香とも若葉とも遊びたい。
すみれがいないので、今日の食事も焼きたてのパンではなくて津田のオムライスだった。
津田は菜乃香に甘いから、なにが食べたいか聞く。
3回に1回はオムライスになる。
執事の嫁が、新作の宣伝もかねてテレビの情報番組にゲスト出演してくださいと言った。
トークのネタにするのでプライベートの写真を撮っていかねばならないのだそうだ。
菜乃香と若葉と、オレンジのパンを撮った。
その写真を見ながら司会者にいろいろ聞かれて、最後に本を宣伝してもらった。
昼ごろに起こされて、テレビ番組からかかってきたという電話に出るようにも言われた。
話の最後に忘れずに「いいとも」と言わなければいけないそうだ。
次の日に、津田の運転でスタジオまで行って、短い生放送に出た。
本のポスターを貼ってもらって、カレーの作り方や電車の話を聞いた。
知り合いのタレントにかけた電話に出されて、タレントも「いいとも」と言っていた。
仕事があるのはいいことだ。
本も売れているし、愛する妻とかわいい子どもが二人。仕事と私生活を助けてくれる執事とその嫁、古い屋敷を管理してくれる自称執事補までいて、これ以上のものを望むと贅沢だと言われる。
でも。
でも、甘やかされたお坊ちゃま育ちの身としては、ひとつ、もうひとつだけ贅沢がしたい。
すみれにも津田にも津田の嫁にも芝浦にも、決して言えないけど。
――――もっと、ちやほやされたい。
すみれが帰ってきた。
菜乃香がママと小さな弟を出迎えに行ったので、ついていった。
「秀一郎さん」
すみれが笑った。
「お食事なさいましたか、間に合わなくてすみません。若葉はとってもいい子でした。泣きませんでしたよ」
聞いていて、にこにこしたくなる声。
すみれから若葉を受け取る。
菜乃香もじゃれついてくる。
これはこれで、とても幸せなことだ。
「せんせー、しめきりー」
足元にしがみついた菜乃香が言う。
津田の嫁の口真似だ。
そんなことは覚えなくていいのに。
「パパしめきりしたら、なのとお庭で遊ぶのー」
それはいい考えだ。
すぐに遊ぼうとしたら、すみれに菜乃香を取り上げられた。
「やーの、なの、パパとお庭で遊ぶのー」
「パパはまだ、お仕事ですよ」
仕方ないので、津田に若葉を渡してとぼとぼ階段を上がる。
なのと、お庭で遊ぶ。
思い出したら、顔が緩んだ。
うん、早くしめきりして、お庭で遊ぼう。
溜まっていた原稿が、サクサク進んだ。
津田の嫁に渡したら、びっくりされた。
「どうしたんですか先生、熱でもあるんですか、津田さんにお薬もらってきましょうか」
津田の嫁は、一言も二言も多い。
お庭で遊ぼうと思ったら、もう夜だった。
菜乃香は、寝たらしい。
「お疲れさまです」
すみれが、コーヒーを淹れてくれた。
おいしい。
津田の嫁が管理しているホームページが更新されたのを二人で見た。
新作の増刷が決まったと書いてある。
すみれが、誉めてくれる。
若葉のおっぱいまで、まだ時間がある。
それまで、すみれのおっぱいは空いている。
袖を引っ張ると、ちょっと赤い顔をした。
手をつないで、ベッドまで行った。
菜乃香と若葉に手がかかるからって、あんまりかまってくれないと文句を言ってみた。
「秀一郎さんこそ、あんまり菜乃香と若葉をかわいがるから、もう私のことなんか」
そんなことはない。
すみれのことも、かわいがる。
今日の分を、言った。
すみれが、いちばんすき。
昨日も、その前も言った。
すみれが、いちばんすき。
明日も明後日も、その次も言う。
すみれが、いちばんすき。
腕の中で、すみれが笑った。
おっぱいは、ミルクの匂いがした。
ゆっくり、した。
ふたりも産んだのに、まだきつきつだった。
三人でも四人でもいい。
津田の嫁も産んだら、うちは幼稚園みたいになるかもしれない。
それでもいいけど。
でも、やっぱり。
ねえ、と言ったら、上になっていたすみれが身体をずらした。
起き上がって、耳元に囁いた。
――――もっと、甘やかされたい。
すみれは、怒らなかった。
その夜、すみれはいっぱい甘やかしてくれた。
うん、こういうのもいい。
できれば、昼間ももっと甘やかしてちやほやして欲しい。
でも、津田が怒るから、我慢しないとならない。
家族ができると、我慢しなければいけないことも増える。
ちやほやされたい性格なので、ちょっと辛い。
でも、それよりずっとずっと嬉しいことが多いから、いい。
すみれはだいすきだし、だいすきだと言ってくれるし、やわらかくて気持ちいい。
菜乃香はかわいくって、おませで、やさしくて、絵がうまい。
若葉は、男の子だからちいさいのに大きな声で泣くから、将来有望だと芝浦が言う。
自分にも孫がいるくせに、芝浦は菜乃香と若葉にじいじはね、と話しかける。
菜乃香と若葉のじいじだから、旦那さまは息子みたいなもんですと言った。
庭の隅で青物野菜を育てて、食べろ食べろと言うようになったので困る。
津田は昔っからうるさくて怖いし、津田の嫁は派手で口が悪くて声が大きいけど、すごく仕事ができて頭がいい。
それに、津田を怒ってくれるのは津田の嫁だけだから、助かる。
みんながいてくれるから。
こんな風に、仕事をして、庭で菜乃香と遊んで、若葉にげっぷをさせて、ブロッコリーやほうれん草を食べて、津田や津田の嫁に怒られて。
それがすごく、嬉しいと思う。
……すごく、気持ちいい。
すみれが、声を上げる。
きつきつの中を動いていたら、気持ちよすぎてしびれてきた。
ねえ、すみれ。
三人目も、欲しいよね。
すみれが、頭を抱いてくれる。
甘やかされて、ちやほやされて、すごく嬉しい。
すみれだけが甘やかしてくれるから、嬉しい。
明日の朝は、おいしいパンを焼きますからね、とすみれが言う。
なんのパンだろう、と思ったら笑いが止まらなくなった。
……今日、津田のオムライスだったんです。
「津田さんのオムライスは、おいしいですよ」
……でも、あなたのパンが食べたいです。
ここのところ、パン焼きをお休みすることが多くてすみません。
できるだけ毎日パンを焼きますからね。
……うん。楽しみです。
「だから、菜乃香とお庭で遊んであげてくださいね」
……うん。楽しみです。
――――仕事が一段落して顔を上げると、一枚の古い写真が目に入る。
その度に、笑いかけてくれるおとうさんとおかあさん。
おとうさん、おかあさん。
菜乃香と、若葉と、津田の嫁が増えました。
だいじょうぶです、幸せです。
――――完――――
『物書き・秀一郎』、完結です。
スレチなのに直接投下で失礼しました。
まさかの秀一郎さん目線キターーーーーーーーーーーーーーーーー
作者様、ありがとうございました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
感涙ものだ…
何度読み返してもイイ
秀一郎さん、幸せなんだね
383じゃないけどありがとー!
嬉しくて楽しくて幸せーw
おぉー!
秀一郎さん目線だ〜
おぼっちゃまは
「○一郎」かと思ってたw
保管庫の、武と麻由のやつは傑作だね
お金とれるんじゃないの
いいとも出てるwwwwwwwwww
あとひとつはなんだろ???????
たぶんはなまるカフェ?
作者さんGJ!
筆が速いなあ、読み手としては嬉しいかぎり
しかし無理はなさらず〜
秀一郎様激萌え
かわいい…
秀一郎さん。
タモさんと話す時は、坂と地図の話が合うと思います。
元アイドル司会者とは掃除用具の話が盛り上がります。
おめざの試食時には手皿はマナー違反だと突っ込んでください。
夫婦喧嘩は成立しなさげ
すみれさんの言うこと黙って聞いてる秀一郎さん
子供みたいだw
メーテルのように見守ってくれたり
時には実力行使におよんだりして
何くれと無く世話焼きなメイドさんが大好きだ
おめざはやっぱ、すみれさんのパンかね
おめざのパンを誉められて黙って喜ぶ秀一郎さん
トークが弾まず、苦労するタモさん
あとどんなテレビに出てるんだろう
だいぶ前に終わった 日本人テストとかのイメージ
あと徹子の部屋とかおしゃれイズムとかは
話題が30分もたないだろうか、と妄想
テロップでカバーしまくりが想像できるw
秀一郎さんは、お酒飲んだらどうなるのだろうか
下戸かな
もしかして笑い上戸かなw
ちょwwwwww
みんなの興味が(元)メイドのすみれさんより
ご主人様の秀一郎さんに行ってるから!!!
でも、気持ちワカル
古い御屋敷だとエアコンないかも
夏バテで倒れたりして
秀一郎さんにそうめん食べさせるの、苦労しそう…
めんどくさがって、手がストおこしそうだw
お屋敷のみんなで流し素麺するときも、ただつっ立ってるだけの秀一郎さん
(素麺を観察してる)
>>415 すみれさんが取ってつゆにつけて「あーん」させてお口に入れてあげて唇の端についたつゆをハンカチで拭ってさしあげるんだろJK
>>416 構ってもらって、内心めっちゃ喜んでる秀一郎さん
なのちゃんに食べさせようとするが、すみれさんに止められる秀一郎さん
成長した若葉くんとメイドさんの物語も見てみたいねぇ
秀一郎さんが果たしてどんな父親になっているのだろう
浮気するのかな
エレカシ 「絆」のPVがもろ秀一郎さん
すみれさんに出ていかれた後の怠慢秀一郎さんに見えて仕方ない
ところで麻由さんは、ふさわしい妻になれたのだろうか
チョイ心配
>>419 後日談で二人の子供をもうけて、立派な奥様になってたような
保管庫には収録されていない話か
『その後の二人』だけ読めない…
未収録はなんか3つ4つあったような
娘が出てくるやつと、麻由とダンナが攻守逆転するやつとか
なんかウロおぼえだわ、初めてフェラした時の話もあったような無かったような
426 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 15:20:38 ID:8mQ0c5Kd
過去スレあさって別サイトに後日談を投下していたことまでは突き止めけど…
もう読めないみたいだ。
ああ!!すっごい読みてぇよ!作者さんこっちに再投下してくれないかな?
美香さんの旦那さんにも萌えた
まんぐり返しするて、どんだけ好奇心満載…
>>428 ありがとうございました
新作お待ちしております
431 :
426:2010/08/15(日) 04:25:36 ID:fTEpvU+r
>>428 ニヤニヤ、ハアハアしながら拝見させていただきました。
相変わらず素晴らしい仕事をなさる。この作品のおかげでこのスレの住人
になった身としては非常に感慨深い気持ちになりました。
新作があるなら何年でもお待ちいたしております!
携帯厨にも救いの手を
奥様編が許されるなら
粉雪のパタパタマダムが見たい
萌えまくる自信がある
>>432同意。
携帯だと、せっかくの続篇が読めません。
つらいです。
>>434 ネカフェとかで落としてメールで携帯に送るか印刷するかでもしてね
そこまでして読みたいもんでもないし。諦めますわ
ファイルシークでみれる
暑くて書く気が全くおこらない
夏休み終わってスレが落ち着いてからにするか
誤爆!!!orz
涼しくなったら本気出す!
そんな甘えたことを言ってる旦那様の尻を叩いて働かせるのもメイドの仕事