【田村くん】竹宮ゆゆこ 21皿目【とらドラ!】

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1名無しさん@ピンキー
竹宮ゆゆこ作品のエロパロ小説のスレです。

◆エロパロスレなので18歳未満の方は速やかにスレを閉じてください。
◆ネタバレはライトノベル板のローカルルールに準じて発売日翌日の0時から。
◆480KBに近づいたら、次スレの準備を。

まとめサイト2
ttp://yuyupo.dousetsu.com/index.htm

まとめサイト1
ttp://yuyupo.web.fc2.com/index.html

エロパロ&文章創作板ガイド
ttp://www9.atwiki.jp/eroparo/

前スレ
【田村くん】竹宮ゆゆこ 20皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1247779543/

過去スレ
[田村くん]竹宮ゆゆこ総合スレ[とらドラ]
http://sakuratan.ddo.jp/uploader/source/date70578.htm
竹宮ゆゆこ作品でエロパロ 2皿目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180631467/
3皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1205076914/
4皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225801455/
5皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1227622336/
6皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1229178334/
7皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1230800781/
8皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232123432/
9皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232901605/
10皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1234467038/
11皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1235805194/
12皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1236667320/
13皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1238275938/
14皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239456129/
15皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1241402077/
16皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1242571375/
17皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1243145281/
18皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1244548067/
19皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1246284729/
2名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 21:53:01 ID:WyvYrooU
☆☆狩野すみれ兄貴の質問コーナー☆☆☆

Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」

Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」

Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」

Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」

Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」

Q続き希望orリクエストしていい?
A「節度をもってな。節度の意味が分からん馬鹿は義務教育からやり直して来い」

QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」

Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」
3名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 22:51:28 ID:jzfN8NmZ
よくわかるとらドラ!

 <(^o^)>
   ( ) 竜児とみのりんの仲を取り持つわ
 //
   <(^o^)> 北村君好き好きー
    ( )
    \\
  ..三    <(^o^)> みのりんは大切な親友!
   三    ( )
  三    //
.
                       ヘ(^o^)ヘ ねえパパ、もっとお金
                         |∧
                     /  /
                 (^o^)/ 北村くん?年上好きらしいし、もうどうでもいい
                /(  )
       (^o^) 三  / / >
 \     (\\ 三
 (/o^)  < \ 三  りゅーじぃ好き好きー
 ( /
 / く  みのりん、竜児のことは諦めて。貯金は貰う

以上テンプレ終了!
4名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 22:57:37 ID:uXtXtY+R
813 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2009/01/14(水) 20:10:38 ID:CvZf8rTv
荒れないためにその1
本当はもっと書きたいんだがとりあえず基本だけ箇条書きにしてみた

※以下はそうするのが好ましいというだけで、決して強制するものではありません

・読む人
書き込む前にリロード
過剰な催促はしない
好みに合わない場合は叩く前にスルー
変なのは相手しないでスルー マジレスカッコワルイ
噛み付く前にあぼーん
特定の作品(作者)をマンセーしない
特に理由がなければsageる

・書く人
書きながら投下しない (一度メモ帳などに書いてからコピペするとよい)
連載形式の場合は一区切り分まとめて投下する
投下前に投下宣言、投下後に終了宣言
誘い受けしない (○○って需要ある?的なレスは避ける)
初心者を言い訳にしない
内容が一般的ではないと思われる場合には注意書きを付ける (NGワードを指定して名前欄やメ欄入れておくのもあり)
感想に対してレスを返さない
投下時以外はコテを外す
あまり自分語りしない
特に理由がなければsageる
5名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 10:11:09 ID:uKeP9lQp
        ドンドコドンドコ!ドンドコドンドコ!
             ∧_∧   ∧_∧      言え!
ずーり        /   ・ω ./   ・ω     「>>1おつ!!」と!
 ずーり    ∧_∧__ノ...../____ノ∧_∧  ずーり
        /    )          /  ・ω・)
       ∧_∧ _ノ  ヒ、ヒィー   ...../_∧_∧
      (    )   ('A`≡'A`)     ( ・ ω ・ )
       ヽ ∧_∧   人ヘ )ヘ  ∧_∧__ノ
        (・    ヽ       (・ω・  \
ずーり    ヽ_ ∧_∧   ∧_∧___ノ 
           ω・   \ ω・   \    ずーり
           ヽ____\ヽ___ノ
6名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 11:22:44 ID:1A1mZeLU
>>1


亜美タン可愛いよ亜美タン
7名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 16:18:51 ID:01fXcREc
>>1
これ立ってから一日経つのに全く伸びないな
竹宮スレの輝きはどこいった?
8名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 19:03:00 ID:VtzvvwIe
いちゃもんかネガティブな意見かワガママしか言わない荒らしがいるから投下控え。
9名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 20:56:49 ID:eAb+OJJY
いや、書き上がっているけど、じっくり校正している奴だっているよ
何せ、72レスもあるからね
10名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 21:04:24 ID:/MOAgizB
それが本当なら楽しみ。オレの好きなカップリングの話でありますように。
11名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 21:49:39 ID:vSP8n4df
そこまであったら、さすがに読みにくそうだ。
前後編に分割して投下してほしいな
12名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 22:03:36 ID:7BK/GDvc
SL66氏ばねぇw
13名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 22:27:53 ID:TSIze4AM
モチベーションが低下して執筆が止まってしまった。
それで30分くらいで適当な埋めネタ書いて気を紛らわせている人もいますw
14名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 23:22:43 ID:X6umIb5l
そういえば幻の僕っ子いたんだよなあ…というかとらドラ!って無口っ子成分がないと思うんだ。
15二人だけの修学旅行・続き:2009/08/05(水) 01:51:30 ID:6smysP8C
覚えている方いないと思いますが、続きです。
また突然切れたら、ごめんなさい。

つうか勉強なら一人づつでも出来るだろ、などと考えている竜児に、
「そうか・・・確かに亜美一人だけでは心配かもしれないな」
などと言いだす北村失恋大明神。
「北村君、ばかちーなんて一人で平気よ! むしろ竜児と二人っきりの方が危ないって!」
何が危ないんだよ、大河・・・。
お前は俺と二人きりでも、スカートはいたまま深夜の高須家で寝こけてるじゃねーかよ。
「いやいや逢坂・・・六月にはあんなこともあったし。俺としては、亜美を高須に任せておく方が安心出来ると思う」
六月、というのはストーカー事件のことか。

「そうそう、それに一人だとやる気になれない課題も、二人で力を合わせて楽しくやれば
 あぁ・・・今頃みんなは楽しくスキーかぁ・・・なんて思わなくて済むわよ」
独身のあまりにも適当な言い分に、さすがの竜児もあきれてしまう。
「先生、俺は一人でも、ちゃんとやれますよ」
「いーえっ!」
独身の声が急に甲高くなり、思わずみんなビクリとする。
16二人だけの修学旅行・続き:2009/08/05(水) 01:53:40 ID:6smysP8C
覚えている方いないと思いますが、続きです。
また突然切れたら、ごめんなさい。

つうか勉強なら一人づつでも出来るだろ、などと考えている竜児に、
「そうか・・・確かに亜美一人だけでは心配かもしれないな」
などと言いだす北村失恋大明神。
「北村君、ばかちーなんて一人で平気よ! むしろ竜児と二人っきりの方が危ないって!」
何が危ないんだよ、大河・・・。
お前は俺と二人きりでも、スカートはいたまま深夜の高須家で寝こけてるじゃねーかよ。
「いやいや逢坂・・・六月にはあんなこともあったし。俺としては、亜美を高須に任せておく方が安心出来ると思う」
六月、というのはストーカー事件のことか。

「そうそう、それに一人だとやる気になれない課題も、二人で力を合わせて楽しくやれば
 あぁ・・・今頃みんなは楽しくスキーかぁ・・・なんて思わなくて済むわよ」
独身のあまりにも適当な言い分に、さすがの竜児もあきれてしまう。
「先生、俺は一人でも、ちゃんとやれますよ」
「いーえっ!」
独身の声が急に甲高くなり、思わずみんなビクリとする。
17二人だけの修学旅行・続き:2009/08/05(水) 01:54:33 ID:6smysP8C
「高須君、あなたはわかってない! 周りのみんながいなくなって、一人きりで残されて
 あせっていく気持ちが、全っ然っわかってない!」
そして誰もいなくなった、かよ・・・クラスの誰かのつぶやく声が聞こえる。
「そりゃね、最初の一人二人は何とも思わないわよ、あー早い子もいるんだー・・・位の感じだし。でもね、周りがどんどんと少なくなっていき残された方が少数派に区別され
とうとう最後の一人に、なってみてごらんなさいっ!」

おいおい、そりゃ別の話になってるだろ・・・今、クラスの心が一つになった。
竜児もエキサイトする独身の気持ちは理解しつつも、ここはスルーすることにする。
「つまり・・・川嶋を一人きりで三日間も家に閉じ込めておくと、PTAからクレームが来た時に先生が困る・・・先生の一人生活がますます延長されてしまうのが嫌、ということですか」
全然違う解釈を、あえて述べてみたつもりだったのだが、
「そう! 女の子が一人きりで家にこもる悲しさが、先生にはよ〜く分かるんです!」
噛み合わない返事が返ってきた、つうか「女の子」って・・・せめて女子と言えよ。

「高須、本当に申し訳ないとは思うのだが、亜美の面倒を三日だけ見てやってはくれないだろうか?」
失恋大明神に拝まれてしまった・・・失恋したのは、自分の方が直近なはずなのに。
「まあ、俺は別にそれくらい構わないが・・・」
「竜「嬉しい〜っ、高須君、ありがとう〜」児っ!!!」
亜美がいきなり腕に抱きついてくる。
向こうでは大河が実乃梨に抑え込まれつつ、こちらに暗黒闘気を飛ばしている。
「しょうがないだろ。俺も川嶋も修学旅行にゃ行けないんだし。最近はお前のせいで飯を作る時も、三人前のレシピで考える癖がついちゃってるしな」
何気なく言った言葉に何故か大河が凍りつく、よく見ると実乃梨まで? 何だ?
「竜・・・児・・・。」
「ん?」
「あんた・・・ばかちーに、ご飯まで作ってあげようっていうの?・・・」

?・・・ ああそうか、考えてみたら大河とはわけが違うのだ。
一日中うちでゴロゴロしているってわけじゃないし、食事くらい自分で食うよな。
午後から夜まで勉強してりゃ、三日もあるし課題くらい終わるたろうし。
と考えている竜児の心を知らず、なのか読み切って、なのか亜美は腕に抱きついたまま、
「当然じゃ〜ん。可哀想な亜美ちゃんはスキーにも行けず、朝から晩まで勉強、勉強なの。
 外にご飯食べに行く時間も惜しいほど大量の課題が出されて、もしかしたら二人で徹夜
するくらいでなきゃ、期限明けに提出出来ず留年しちゃうかもしれないんだから」
「何だと! そんな過酷なまでに大量の課題出されるのか? 何て罰ゲームだよ、それ!」
竜児もさすがに、それを聞いてあせる。
まさか修学旅行に行けなくなった哀れな学生に、そんな試練が与えられようとは。
「高須・・・亜美はともかく、お前が留年なんてことになったら俺は泣くゾ」と北村。
「高須留年悲しいよ高須」カワウソも目をぷるぷるさせる(かわいくない)。
「やっほー、高っちゃん留年するってことは、来年も俺と同じ学年?」あほが一人。
大河も、さすがに竜児の留年がかかってるとあっては、もう文句を言う気はないらしい。
そんな中、独身三十路の担任が、
「ねえ高須君、あなたは流石に課題提出が遅れたくらいで留年なんてことはないんだけど
 川嶋さんの方は、成績はともかく出席日数の問題もあって結構厳しいの・・・その辺を
 わかってくれないかなぁ・・・」などと言ってくる。
そう言えば・・・と、腕に抱きついたままの亜美に目をやる。
ストーカー騒ぎで大橋に一時避難? してきた亜美には、普通の公立で融通も利かない
高校に居続けるのは、自分たちが思う以上に大変なはずだ。
私立の学校なら、モデルや芸能活動に対して寛大な対応をしている所も多いはずなのに、
ストーカー騒ぎが終わっても亜美が大橋に残っているのは、何か理由でもあってのこと
なのか・・・。
せっかく亜美が大橋を、2−Cを自分の居場所にしたいと決めたというのなら出来ること
ならしてやろう、やるべきだろうと竜児は思った。
18二人だけの修学旅行・続き:2009/08/05(水) 01:55:16 ID:6smysP8C
そんな竜児の思いをよそに、外野は盛り上がりまくっていた。
(なぁ・・・亜美ちゃん、二人で徹夜とか言わなかったか?)
(まさか、高須家に二泊三日の泊まり込みで課題合宿?)
(高須君の家って・・・夜中、高須君一人よね?)
(亜美ちゃん・・・もしかして勝負に出る気なのかな?)
クラスの一部が異常な反応を示していたが、竜児の考えていることと言えば
「留年なんてしてたまるか! させてたまるか!」以外には何もない、あるはずもない。
そんな竜児を横目に、亜美が大河と実乃梨に対して、ふふんと笑ったのにも気付かないが。

スドバに寄って計画を立てるという七人を置いて、竜児は亜美と二人で帰路に付いた。
大河や北村にはしつこく誘われたが、旅行に行けない自分が混ざっていても気を遣わせるだけだろうと思ったからだ・・・亜美も同じ考えだったようだし。
「ところで川嶋、旅行出発日の月曜って何時位にこっちに帰って来るんだ?」
「ん〜お昼前には駅に着いてると思うけど・・・何で?」
「何時から課題やるのか決めねえとな。あと昼飯をどうするのかも」
そうだねぇ・・・などと呟きながら隣を歩く亜美の顔は、何故か少しだけ楽しそうだ。
こいつを一人で残さなくて済んだだけでも、俺が行けなくなって良かったと思おう。
珍しく、そんなことを思ってしまう。
「じゃあさぁ、12時に高須君の家に行くから、それからお昼食べて13時頃から勉強
しよっか? 終わりはきりの良いところまで、ってことで」
「おう、俺は全然構わないゾ。ところで川嶋って嫌いなものあったっけ?」
「嫌いってわけじゃないけど、お肉の脂身とか揚げ物とかはちょっと・・・」
「カロリー計算とか、その辺は任せろ。低カロリーかつ高タンパクでバランス良く栄養が取れるメニューを考えとくよ」
「ん、まかせる」
そう答えて微笑む亜美は本当に嬉しそうで、腕の振るい甲斐もあるというものだろう。
19二人だけの修学旅行・続き:2009/08/05(水) 01:55:51 ID:6smysP8C
「それにしても・・・お前、旅行に行けなくなったのに、あまり残念そうに見えないよな」
「え〜 そんなことないよ。予定が変わったって聞いた時は、一人で居残りかって憂鬱に
 なりそうだったもん」
「そう言えば、職員室で不機嫌そうだったよな」
「そうだよ〜亜美ちゃんだって、沖縄は結構楽しみにしてたんだからぁ〜」
「・・・お前なら沖縄どころか、海外のビーチや島にも、しょっちゅう行ってるだろうに」
竜児の言葉に亜美がふくれる。
「わかってないなぁ、高須君は。お仕事で大勢の大人たちと行くのと、クラスのみんなと
 修学旅行に行くのとは全然違うの。それが雪山だったとしても、人生で一度きりの高校での修学旅行なの・・・それぐらい、わかるでしょ?」
「・・・お前、すっかり馴染んでるもんなぁ。転校してきたばかりの頃とは大違いだ」
「あたし・・・変わった?」

竜児の顔を真剣に見つめる亜美。
「変わったよ。何て言うか・・・そう、前よりずっと面白い顔をするようになった」
「・・・普通そこは、面白い顔、じゃなくていい顔を、じゃないかなぁ」
亜美の不満に苦笑する竜児、なるほど北村も変なことを言う奴だ。
「でもね・・・高須君は何であたしが変わったのか、わかるのかな?」
「・・・夏休み空け、学園祭くらいから急に変わったような気がするけどな」
「うん・・・自分から変わろうと思ったのは、確かにその頃から」
一学期の頃の亜美は何と言うか、まだ「転校生」で「雑誌モデル」の「川嶋亜美」だった
・・・竜児にはそんな気がする。
それが二学期になって「2−C」の「クラスメート」の「亜美ちゃん」になっていったと思う、思えるようになっていった。
「でもね・・・あたしが最初に変わろう、と思ったのは六月のある雨の日のことだよ」
「それって・・・」
「あたしの被っている仮面を見破っていたある人が、取り繕うのなんてやめろ、と言ってくれたから。本当の自分を見せても受け入れてくれる人が居るんだ、ってわかったから」
遠くを見つめるような眼差しで、歌うように亜美は続ける。
「だからね・・・あたしを変えたのは高須君。高須君がいたから、あたしは変われたの」
買い被り過ぎだろ、それは・・・と思ったが口には出さずに別の言葉を口にする。
「そんなふうに言うんだったら、俺もお前に会って変わったと思うよ」
「高須君が? あたしに会って?」
不思議そうに竜児の顔を覗き込む亜美。
「ああ・・・変わったよ」
「どこが?」
20二人だけの修学旅行・続き:2009/08/05(水) 01:56:33 ID:6smysP8C
竜児は思い出す・・・。
一年の時、一年間をかけても出来た友人は北村、能登、春田の三人くらいだった。
木原と香椎は違うクラスだったし、北村と話しているのは何度か見かけたが、竜児は殆ど口をきいたことさえなかった。
そもそも、女子の友人なんてものが存在していなかった。
二年になって大河と実乃梨が増えたが、実乃梨はもともと北村の知り合いだったわけだし、大河とは・・・知り合って友人になったとは言えないだろう、出会いがあれでは。
GW明けに転校してきてすぐに、普通に会話を交わすようになった亜美は、竜児の中でも
かなり特殊というか異色の存在だったのだ。
その亜美を通じて、今では木原や香椎とも普通に会話をするようになっている。
亜美が転校して来なかったなら・・・同じクラスにならなかったなら・・・竜児の生活は
今とは随分と違うものになっていたに違いないと思う、思って亜美を見る。

「・・・それは内緒だ」
「高須君〜 子供みたいな意地悪しないで教えてよぅ」
亜美がむくれる。
「安心しろ、お前のおかげで俺は良い方向に変わった・・・変われたんだ」
「ふ〜ん・・・それって、亜美ちゃんに会えて良かった、ってことかな?」
夕焼けのせいか、亜美の顔がほんのりと赤く染まっている。
「おう、お前に会えたことを北村に感謝しなきゃな」
「何で祐作〜? そこは、神様とかって言うところじゃないの」
「何せ北村は失恋大明神なわけだし、お前の幼馴染でもあるし」
「まあ、いいけど・・・会えて良かった、って思ってくれてるんだったら」
夕焼けに照らされて土手に伸びる二つの長い影が、手をつないで歩いているように
揺れて見えた・・・。
21二人だけの修学旅行・続き:2009/08/05(水) 01:57:01 ID:6smysP8C
亜美と夕飯の買い物を済ませて帰宅した竜児を待っていたのは、今年から高須家に出入りしないはずになっている大河と微妙な感じの泰子、それにインコちゃんという去年までの光景だった。
「遅いわよ! この駄犬っ! スドバにも寄らなかったくせに何でこんなに遅いわけ?」
しかも、大河は何故か不機嫌モード全開である。
「夕飯の材料買いに川嶋とスーパーに寄ってたんだよ。つうか、来るなら連絡しろよ。
お前の分買ってきてねーゾ」
「へー・・・三人分のレシピが、体に染み付いてるんじゃなかったっけ?」
「レシピが染み付いてても材料がなけりゃ、作れねーっての」
「安心おし。私はご飯を食べに来たわけじゃないから」
冷蔵庫に買い物を詰めつつ、んじゃ何しに来たんだ?と思う竜児。
「ねえ竜ちゃん、大河ちゃんに聞いたんだけど〜 竜ちゃん修学旅行行くのやめにしたんだって?」

げ! 大河の奴、俺が話す前に泰子に言いやがったのかよ?
「ごめんね〜竜ちゃん・・・やっちゃんが、もっとちゃんとお金を稼いでたら・・・」
「待て泰子、お前はしっかりやっている。シングルマザーでここまで息子を立派に育てている母親なんて、そうはいないと思うゾ、俺は」
「だってぇ・・・竜ちゃん修学旅行行けなくて、みんなが沖縄で楽しんでいる間、お家に
 一人きりなんてギガ寂し過ぎるでヤンすよう・・・」
まだ、その言い回し使ってたのか・・・とあきれて一瞬気を抜いた隙に。
この時を待っていた! と言わんばかりのタイミングで大河が口をはさむ。
「安心してやっちゃん、修学旅行は太陽輝く沖縄から吹雪の吹き荒れる雪山スキーに変更
されたから」
「へ? そうなの? って言うか沖縄が雪山に?」
「そうなんだ。くそ寒い1月にわざわざ雪山なんか行きたくないし、良かったんだよ」
「でもでも〜・・・それでも竜ちゃん、お友達と一緒の旅行の方が楽しくない?」
「やっちゃん、それも安心していいよ」

22二人だけの修学旅行・続き:2009/08/05(水) 01:58:01 ID:6smysP8C
まずい・・・大河の後ろから、黒い何かが立ち昇っている気がする。
「竜児はね、一人っきりで残されたりしないから」
「大河ちゃん、ありがとう〜」
何か勘違いしたらしい泰子が、礼を言うなり大河を抱きしめる。
「大河ちゃん、竜ちゃんのために残ってくれるんだ〜」
「おい! 違うぞ泰子、大河はちゃんと雪山に行く!」
「え? だって大河ちゃん今『竜ちゃんは一人じゃない』って言ってくれたよ?」
「だからそれは・・・」
「竜児はねぇ・・・修学旅行の三日間の間、ここにクラスの女の子を連れ込んで二人で
仲良くお勉強するんだって! ふ・た・り・っ・き・り・で・っ!」
「お勉強? 何で〜?」
「修学旅行も一応は課外授業扱いらしいから、その代わりに課題が出るんだと」
そんなのひどい〜、と暴れ出すとばかり思っていた泰子の反応は、違う方向に向かった。
「でも竜ちゃん、大河ちゃん以外に、クラスの女子にお友達なんかいたんだ?」
「お、俺にだって一人、二人くらいの友達はいるよ!」
母親の、思春期の息子に対するあまりの情け容赦のない言い分に、つい叫んでしまう。
「ん〜〜〜」

考え込む泰子、そんなにお前の息子には女友達がいなさそうかよ。
泰子の背後には、仁王立ちで腕を組んだ大河。インコちゃんの毛が、はらはらと・・・
「わかった〜〜〜」
インコちゃんに気を取られていた竜児は、つい何も考えずに聞いてしまう。
「わかったって・・・何がだ?」
「亜美ちゃんだ〜 亜美ちゃんでしょう〜」
げ! 一発で当てやがったよ、こいつ!・・・つうか泰子は大河の他は亜美しか知らないはずだから、実乃梨や他の女子の名前が出てきたら、そっちの方がビックリなのだが。
「あの子って、すっごく綺麗だよね〜 モデルさんみたいにスタイルいいし〜」
いやモデルだし、つうか答えてないのに勝手に決めるな・・・当たってるけど。
そして・・・大河を、小さな虎を逆なでするな。
「そうなの、やっちゃん。竜児はね、あのすっっっっごく綺麗な亜美ちゃんと二人きりで色々なお勉強をする気まんまんなの!」
「え〜 やっちゃんの留守中に、変なお勉強しちゃ駄目だよ〜」
「何だよ、変なお勉強って!」
二人がかり(ひとりは無意識な上に天然)の攻撃に、こらえきれず竜児も叫ぶ!
「そっか〜 でも竜ちゃん良かったね。一人っきりじゃ寂し過ぎるけど、亜美ちゃんが
一緒だったら、きっとお勉強も楽しいよ〜」
・・・実乃梨なみに人の話を聞かない母親に、竜児はがっくりとうなだれる。
23二人だけの修学旅行・続き:2009/08/05(水) 01:59:18 ID:6smysP8C
「んじゃ、そういうことだから。私帰るね」
「へ?」
「用は済んだから」
「用って・・・つうか、本当に飯食って行かないのか?」
「うん、今年からあんたの世話にはならないって言ったでしょ」
「・・・何しに来たんだ? お前」
「・・・さあね。じゃあまた」
言い残すなり、あっという間に出て行ってしまう大河。
亜美が来ると聞いて泰子がどんな反応を見せるか、大河がそれを確かめに来たのだということなど竜児に分かろうはずもない。
「変な奴・・・って、もうこんな時間か。早く支度しないと」
夕飯の準備の頃には、様子のおかしかった大河のこともすっかり忘れてしまっていた。

部屋に戻った大河は、ベッドにごろりと横になって「ふう・・・」と息を吐いた。
分かっている・・・泰子が喜んでいたのは「亜美が来る」ことに対してではなく「竜児が一人にならなくて済んだ」ことなんだと。
本当は、たとえ相手があのばかちーでも、自分も竜児が一人にならなくて良かったと思うべきなんだとも分かっている。
それでも心の片隅は痛むのだ、イブの晩に気付いたこの気持ちがある限り。
竜児と居残るのが実乃梨だったら、自分はどう思うのだろうという想いもある。
ばかちーで良かった・・・なんて思ってしまう自分は嫌いだ、許せない。
実乃梨との最後のチャンスを竜児は無くしたんだ、などとも考えたくなかった。
もう何も考えたくない・・・ただ時が過ぎて、今の状態に何かしらの結論が出て欲しい。

だから大河は、修学旅行の三日間の間に「何か」が起こることを望んだ。
そして、それは皮肉にも実現することになる。
大河の望んでいた方向とは全く違う形で。

修学旅行先ではなく、残された二人の居残り組の間で「何か」は起きる。(プロローグ完)
24名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 02:05:24 ID:qIOcC5FK
sageないと叩かれるかもよ?
25名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 02:07:12 ID:b1czr9I5
何はともあれGJ!


続き楽しみにしています。
26名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 02:21:46 ID:G4+9Q0Fq
このスレじゃあ何やっても大丈夫そうな98VM氏の原作終了後の亜美ちゃんによる竜児寝取りモノが読んでみたい気がする…
いやまあ一ファンとしてだから気にいらない人もいそうだけども
27名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 03:31:04 ID:TrdD2k54
GJ
続きを待ってるよ
28名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 07:58:19 ID:AKyNN8aO
GJ
やっぱり亜美ちゃんが一番いい
29名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 08:28:07 ID:ZXBDV6zX
GJ!
あのままもう書かれないのかと思ってたけど
続きが読めてよかったよ
30名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 08:38:42 ID:lm1nRs4S
まとめサイトで前のを読んでから続きは?思ってました。
GJです、続き楽しみにしてます。
31名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 08:41:56 ID:ma+RBn1U
続いたんでびっくらこいた
GJっす
32名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 11:12:58 ID:IH3evKe8
癖なのかも知らんが、文末のゾをやめて欲しい
竜児がクッキングパパに脳内変換されてしまう
33名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 12:42:43 ID:1vBQgE/i
優れものゾと〜町中騒ぐ〜
34名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 20:49:59 ID:RR27FX2a
>>15
あんた待たせすぎだぜ…まああのまま終わらんで良かった。
続き待っているから最後まで頼むぜ…

他の未完のSSも続き読みたいのう
35 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:00:29 ID:3UJQSr/Q
皆さんこんばんは。
[言霊]の続きが書けたので投下させて貰いに来ました。
前回の感想を下さった方々ありがとうございます。
※今回は修羅場です。苦手な方はスルーしてください。
では次レスから投下します。
36 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:01:18 ID:3UJQSr/Q
[言霊(6)]

『ああ…何で、何でこんな事に………』
乱れた花園に集った三人の紳士と唯一の良心が一名、皆の想いは一つになる。
そうあの時、ドアを開けて入って来たのは……よりによって大河だったのだ。
ヤバい……これは血の雨が振る。
瞬時に俺達は全日本ラリー選手権SSメカニック並の素早さで押入の中に隠れた。
「ヤバいよヤバいよ…」
真後ろの春田がガタガタと震えながら、そう呟き続けていた。
それを皆で黙らせ、僅かに開いた隙間から大河の動向を伺っていた。
こういう事態の時、人は緊張のあまり些細な事でも面白く感じてしまうものだ。
タオルで頭を拭き吹き、大河が部屋のど真ん中に突っ立ち、その爪先で何かを見付けた。
指で摘んで、それを顔面まで持ち上げて首を傾げる。
そう…それは亜美の下着、先程まで俺が守っていた代物だ。
急な事態に慌てて放ったソレを、何を思ったか彼女はスンと微かに嗅ぐ。
「ちっ!!ばかちーのじゃん、やだわ犬臭いったらありゃしない」
舌打ちしたのは、下着のサイズが主な原因。俺には分かる。
顔をしかめて、そう吐き捨て、下着を指に引っ掛けてクルクル回し始める。

37 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:02:10 ID:3UJQSr/Q
「うらぁあっ!!ファイヤーッ!!!」

そして渾身の力を込めて投げ、壁に叩き付ける。
「…っは」
その光景を見て、微かに吹き出したのは能登である。
もちろん隠密行動中の俺達に睨まれ、すぐに頭を下げる。
「ふんっ!」
満足気に鼻を鳴らした大河がテクテク歩いて何処かへ向かい、すぐに戻って来た。
その手には豆乳のパック、後で飲もうと売店で買っておいたのだろう。
が…すぐには飲まず、どういう訳か畳に置き、タオルを首に掛けて座る。
「イソノボンボン〜♪イソノボンボン〜♪大地の恵みぃ〜豆乳♪」
外れた音程で自作の歌を口ずさみつつ、彼女が水の滴る髪を指先でクルクル巻く。
調子外れなメロディーに誰もが吹き出しそうになるが、そこはなんとか耐えた。
それより遊んでないで、まずは髪を拭け、そして乾かせ…………って、おい!もう良いのか?タオルを放るな!まだしっとりしてるぞ!
そんな俺達の願いは露知らず、彼女は豆乳パックの前に正座して手を合わせる。
「胸が大きくなりますように、胸が大きくなりますように、胸が大きくなりますように、せめて今より二倍増し、出来るなら三倍増し…お願いします」

38 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:02:53 ID:3UJQSr/Q
「ぶふっ…っ」
北村が吹き出す。気付かれない様に口を押さえて、必死に堪えている。
分かるぞ、皆も同じ気持ちだ。
大河の願いはネタなんかではなく、本気も本気の大真面目。
ギュッと瞳を閉じ、真剣な表情で豆乳を拝む姿を見れば…、な?
身体の事、コンプレックスに思っているから非常識なのは重々承知しているが、これはあんまりだろう?お互いに。
「ふっふ〜〜ん♪…ん?ん、あれ?」
長いお祈りを終え、豆乳パックに彼女の手が伸びた。
そしてストローを刺そうとする…のだが、なかなか上手くいかない。
たまにあるよな?ストローの先が潰れてしまって、刺さらない事が。
まさに今、大河はその現象に翻弄されている。
だが気付かない。何故、刺さらないのか…。
ほら…良く見てみろ、お前の手が持つ物を見れば全て解決する。
だが目の前の理不尽に彼女は抗う、無理矢理にでも突破しようと…。パックを持つ手にも自然と力が入る訳だ。
「ふひゃっ!?」
そして御想像通りの結末が待っていた、四苦八苦しながらもストローを差したまでは良い。おめでとう。
だがな、その瞬間に飛び出す訳なのだ…豆乳が。込めた力でパックが潰れてな。

39 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:03:27 ID:3UJQSr/Q
普通なら、そこで力を緩める。だがドジな大河は、むしろ力を増させる。
「「「「ふおぉおお………!」」」」
お人形の様に整った可愛らしい顔にかかる白濁液。
『これは良い光景!すぐに脳内ホルダーに保管せねば!』
……紳士達は淫らな妄想に心を躍らせ、歓喜の声が洩れる。
『ぐあぁ!このドジめ!シミになるだろうが!』
対して唯一の良心たる俺は、汚れてしまったTシャツと畳に心を痛めて嘆く。
「んあ?」
奇しくも同じ声が洩れてしまい、押入の中で木霊して僅かだが大河の元に届く。
眉をひそめて辺りを見渡し、暫くして視線が窓に向けられた。
「隙間風?」
そう呟いて窓際に歩いていき、押したり引いたり確認すると、彼女は納得した様だ。
それを見届けて、俺達はジェスチャーで謝罪合戦を繰り広げる。
といっても、誰もが加害者であり被害者でもある。ものの数秒で終止符が打たれた。
『次は気をつけようぜ?お互いに』
皆の笑顔が意味するのは、この言葉である。
そして再び、襖の隙間から外を伺うと……そこには信じられない光景が…っ。
……大河は放ったタオルを拾って豆乳に塗れた顔面を拭く。

40 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:04:09 ID:3UJQSr/Q
そりゃそうだ…、このままじゃベタベタするもんな?
ん…畳を凝視して……おぅおぅ…良いぞ!そうだ!畳だ、畳を拭け!トントンと叩く様にっ……良し!上手いぞっ!!
大河…成長したな、お前もやれば出来るじゃ…………っ!?
「「「「ふぐぁっ!!??」」」」
どうして……どうしてっ!!何で、豆乳でシットリしたタオルで髪を拭く?
しかもガシガシと力一杯っ、それは駄目だ!止めてくれ!頭皮がムズムズする!
全員が心で叫ぶ、そして堪えきれなくなり声になって洩れる、それも…それなりの音量で。
ビクッ!と大河が身体を震わせ、恐る恐る振り向く…。
その視線は一直線に押入に向けられていた。
そして素早く立ち上がり、タオルをビシッと両手で引っ張る。
ポタポタと垂れる豆乳が、数分後には俺達の血液と取って変わるだろう。
タオルでぶたれたら痛いんだよな…かなり。ああ…北村、能登、春田…死ぬ時は皆一緒だぞ?
どす黒いオーラを放ちながら、大河がゆっくりゆっくり…近付いてきた。
襖を隔てた一歩手前で止まって、大きく深呼吸し…
「にゃ、だ、誰じゃ!!」
と、咆哮しながら一気に襖を開けた。

41 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:04:58 ID:3UJQSr/Q
ガチャ…。
それは大河が襖を開放つのと同時に聞こえた。
またしてもドアノブが回る音、つまり男子存亡の危機である。
「くそっ!!」
「ひゃあっっっ!?」
俺が大河の口元を手で押さえ、北村が抱き付いて押入の中へ引っ張り込む。
能登が足を押さえて、春田が腕を掴む。
傍目から見れば犯罪の匂いプンプン、だが違うんだ、これは仕方の無い事。
ここで残りの女子四人に見付かる訳にはいかない。
「大河すまん!大人しくしてくれ!乱暴な事はしないから!」
なるべく小声で彼女に語りかける。
「ふむーっ!!むむーっ!?」
だがパニック状態の彼女はさらに暴れる。
四人掛かりで何とか動きを封じるが、いつかは限界が訪れるだろう。
「きゅ、きゅしえだと話すタイミングを掴む為だ耐えてくれ!」
俺は噛み噛みになりながらも、そう伝える。
すると少しだけ暴れる力が和らぐ。
「お前なら分かるだろ?意味がっ!だから頼む、後で俺をボコボコにするなり、何なりして良いからっ!今だけは…今だけは堪えてくれっ」
俺は大河に懇願する、何故こうなったか…それは後で説明するから。
そして奇跡が起こった。
彼女が身体の力を抜いて抵抗を止め、キッと俺達を睨む。

42 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:05:49 ID:3UJQSr/Q
『ア・ト・デ・コ・ロ・ス』
と、口パクで彼女が紡ぐ。
顔は真っ赤、瞳は涙目、髪はボサボサ。その姿は庇護欲をそそる、だが禍々しいオーラはそのまま……むしろ増した。
「あれぇ…大河、居ないのかい?部屋を出る時は、あれほど鍵は閉めろって言ったのに…」
「え〜タイガー居ないの?何かちょー嫌な予感がするんですけどぉ」
そして聞こえた声は二人分、櫛枝と……木原か?
「ほっときなよ?チビ虎の事だから、お菓子でも買いに行ったんじゃね?」
「そうね、ほら麻耶…タイガーちゃんも言ってたわよ、お腹が空いた、って」
続いて、亜美と香椎……つまりはこの部屋の女子全員が戻って来た訳だ。
と言っても大河は出るに出れない状況だ。
この状況を見守るしかない、俺が言った事……それが終わるまでは待ってくれるみたいだ。
そうこうする内に、彼女達の『大切な肌のお手入れ』が始まる。
化粧水をパチャパチャ、クリームを塗り塗り、自慢の髪を乾かして巻いて…。
櫛枝も………するんだ。そういう事。
いや…してて当然だよな、年頃なんだから。
「てかタイガー遅い、ねぇ櫛枝は何処行ったのか知らない?」

43 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:06:24 ID:3UJQSr/Q
木原がハンドクリームを塗りながら櫛枝に問う。
なんか木原ってさっきから大河の事ばかり気にしてるな、何でだ?
「うぅん、きっと眠くなったら帰ってくるよ」
対する櫛枝は顔面パックの箱を興味深そうに見ながら返す。
「ふふ……北村君の所に居たりして」
香椎が長い艶髪をタオルで丁寧に拭きながら、冗談ぽく木原に言った。
「えぇ〜だったらマジ嫌なんですけど、まるおは優しいからな〜、有り得るし」
木原は心底嫌そうに……そう言った。ちょっと眉をひそめて、さ。
「へぇ〜麻耶は心配なの?ふふっタイガーちゃんに確かめてみたら良いじゃん」
またしても香椎が木原をからかう、楽しいんだろうな多分。顔を見れば分かる。
「タイガーが言う訳無いじゃん、そうだよね亜美ちゃん?」
「ん?んん〜亜美ちゃんには、わっかんなぁ〜い……」
問われた亜美は笑って誤魔化す、その事には関わらない、そう言う様に。
「じゃあ…じゃあ櫛枝はどう思う?すんなりと言うかなぁ?」
そして矛先は櫛枝に向く。
綿棒で耳の水気を拭っていた彼女は一瞬、きょとんとして…すぐに困った様な、そして取り繕った笑顔で返し始める。

44 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:07:07 ID:3UJQSr/Q
「あ〜大河が素直に言うかねぇ?試しに帰って来たら聞いてみなよ、ち〜と櫛枝さんには分からんぜい」
あはは、と微妙な笑いを残して櫛枝はうつむく。
「あ〜あ、いやマジ気になるし、高須君がバシッと大河を貰ってくれたら心配しないで良いのに…」
後手を付いて木原は不満を洩らす、それを香椎がからかって…、亜美と櫛枝は何も言わない。
つまりは……木原は北村に好意を寄せてる?
で、大河が何をしているか気になって仕方無いのだろう。
「じゃあ今日はガールズトークでもしようか?タイガーちゃんが帰って来たら、うふふ☆」
口元を手で隠して香椎が木原に提案した、他人の恋バナをあれこれ想像したり、それを見守るのが楽しいのだろう。
「もちろん!じゃないとまるおが…、待ってらんない!私、タイガーを探して来る!」
木原が即座に立ち上がってドアに向かう。
『じゃあ私も…ほら亜美も櫛枝も行こうよ』
と、立ち上がったのは香椎。
亜美は…乗り気では無さそう、面倒そうに立ち上がる。
多分だが…事情を知らない彼女達に引っ掻き回されるのが嫌なんだ。
亜美の言い分通りなら、他人の介入は好まない。本人同士が決める事だと言ってたし。

45 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:07:59 ID:3UJQSr/Q
でも、そう言って余計な追求もされたくないから、嫌々付いて行くしかない。そんな感じだ。
「あ、ごめん。あ〜みん、ちょっと話があるんだ、残って貰っても良いかな」
三人が部屋を出ようとした時、最後まで立ち上がらなかった櫛枝が真剣な目差しで亜美を呼び止める。
襖の隙間から見える横顔は複雑な表情、……亜美も櫛枝も。
「へぇ〜実乃梨ちゃんが亜美ちゃんに何の用事だろうね?あ、奈々子ごめん、後から行くわ」
ニコッと笑って亜美は香椎に断って、櫛枝の元へ…。
ドアが閉じられると、一気に空気が張り詰める。重く…冷たく、紳士以外の全員は何が行われるかの予想が付いているから…。
対面して座った彼女達の間に沈黙が流れる。
どちらから切り出すか……見えない火花を散らす、呼び止めたのは櫛枝だが、その理由を勘づいた亜美は相手の出方を待っている様だ。
ぱんっ!
そんな乾いた音がして均衡が崩れた。
………櫛枝が亜美に向かって手を合わせて深々と頭を下げたのだ。
「まず最初に謝っとく、ごめん。
実は…この前、大河とあ〜みんが話してた所"たまたま"見ちゃって……あ、わざとじゃないよ?
偶然、通り掛かって…だけど」


46 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:08:58 ID:3UJQSr/Q
横の大河がそれを聞いてビクッと震える、それが何故なのかは分からない…、けどマズい内容なのかもしれない。
目が泳いで、明らかに落ち着きが無くなっているから…。
「…………別に。どっちみち実乃梨ちゃんにも言うつもりだったし、謝んなくたって良いよ」
だが亜美は動じてない、静かにそう返したのだ。
「そうかい、ありがとう…うん…あのさ、その"聞いちゃった事"を踏まえてあ〜みんにお願いがあるんだ」
頭は下げたまま、櫛枝は手を床に付いて亜美に続ける。
「高須君の事を諦めてはくれないかなぁ?」
それは一息に、何の感情も込めず……淡々と…でも搾る様に放たれた。
「は…?急に言われても意味が分かんないし」
亜美は僅かに動揺する、櫛枝が言わんとしている事の真意、それは解っていても…唐突に言われて驚いている。
「大河には…高須君が居なきゃ駄目なんだよ。あの娘を見てやれるのは高須君だけ、私じゃ踏み込めないから…
だから、あ〜みんには申し訳無いんだけど………高須君の事を諦めて欲しい、他の人を探してよ」
「…………嫌だ、って言ったら?」
その言葉を聞いて亜美の表情に怒りの色が見えた。

47 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:10:13 ID:3UJQSr/Q
だって櫛枝の言ってる事は身勝手で、俺や亜美の気持ち…大河の事すら完全に無視している……。
「無理矢理にでも首を縦に振って貰う。……"大河の為"に」
ゆっくり顔を上げた櫛枝が亜美を睨みながら唸る。
「……"自分の為"の間違いじゃなくて?
てか……何で実乃梨ちゃんが私に言うのか意味分かんない
前の話って本当に聞いてたの?大河や"竜児"にそうして欲しいって言われた訳ぇ?」
『竜児』
亜美がそう言ったのを櫛枝は見逃さない、睨む瞳が更に鋭くなる。
大河は…うつむいて…唇を噛み締めていた。
「いや…だから聞いてたよ。大河は素直になれないから…高須君にも直接には…だからあ〜みんに言ってんじゃん?
ねぇ…ところでさ、あ〜みんはいつから高須君の事を名前で呼ぶ様になったんだい?
不思議だ…ああ"高須君はもう私の"って?」
櫛枝は苛立ちを隠さず、亜美に噛付く。
俺を名前で呼ぶ間柄……それは大河だけだった、だが亜美がいつの間にか同じ位置に居た。
それに堪らなく腹がたっているのだろう、櫛枝は…。自分が想う様に回っていかないから。
「……あんたには"関係ない"
てか口出ししないでよ、頼むからさ」


48 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:11:20 ID:3UJQSr/Q
そして亜美も苛立ちを隠さない。
理由を問うても核心は濁され、重箱の角をつついて…誤魔化されるから。
「身体で誘惑した癖に…男の子の弱味に付込んで。勝手に割り込んで大河から奪おうとしてるじゃん。
親に騙されて、傷付けられた大河から最後の拠所を奪って楽しい?
今なら引き返せるよ、あ〜みんに相応しい人を探せる。
何で高須君なのさ、他にも居るっしょ?
その自慢の身体とウソツラで騙せそうなヤツは沢山……」
「はぁ?居ねぇし、居ても願い下げだわ。本当の意味で私を見て欲しい人は…竜児だけ。
嫌な顔せずに見てくれるから惚れて…そんな彼が傷付いたから自分の持てる全てで助けたかったんだ。
それとも私には恋をするなって?
実乃梨ちゃんの言ってる事は事実、でも何も解ってないよ」
あからさまに喧嘩腰な櫛枝の言葉を遮って亜美が淡々と紡いだ。
悲しそうに、そして哀れみの表情で…猛るのは亜美だと思っていた、が、実際には落ち着きは保てているみたいだ。
「高須君だって本当は大河の事が好きなんだよ。……気付いてないだけ、気付いた時にあ〜みんが痛い目を見るんだ。
それは嫌だよね、だから……」


49 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:12:08 ID:3UJQSr/Q
「だからぁ、そういう事は実乃梨ちゃんには"もう関係無い"って言ってるし。
"無かった事にしたかった"から何も言わせなかったんでしょ、高須君に。
はい、なら御望み通りに"何も"無かった。これで実乃梨ちゃんはただのクラスメートて事だよね?
後は割り込んだ私、チビ虎と竜児の問題だから口出ししないでくださ〜い。
…目一杯に傷付けたんだよ?あと言っとくけど、あんたに高須君を語る資格は無いから」
亜美の言う通りだ。贔屓目に見ずとも……櫛枝は俺をどうしたんだ?
何で、大河との仲を取り持とうとするんだ、必死に…。
誰の気持ちも顧ずに、彼女が想う様にされるのはいい気がしない……むしろ不愉快だ。
何で告白すらさせてくれなかった?
俺は……俺は彼女が言う程に出来た人間じゃない、辛いと傷付くんだ。
…付き合う相手すら決めようとする櫛枝の考えは解らない。
俺だって自分の意思決定で動きたい、誰かに強制されたくない!
櫛枝は何も言えなくなる、いや…言わないだけだろう。亜美と睨合いが続く。
北村、能登、春田、皆は唖然とこの修羅場を見ていた。状況が理解出来ずに。

50 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:13:04 ID:3UJQSr/Q
俺と大河も…同様に、この二人の応酬を聞く事しか出来ない。
「何かを得る為に一方は諦めたんだよね、そして傷付けた。
そこまでして何かを成したいなら、それで良い。実乃梨ちゃんが決めた事だから」
亜美が目を細めて、フッと小さく溜息を吐く。
静かに燃え上がる怒りが瞳の奥に…見えた気がした。
「でも、その諦めた事を他人を介して見ようとするのは………オナニーと一緒だよ、自己満。
竜児と大河がそのせいで苦しんでるのに気付かない?そう…なら大河の事も口出ししない方が良いんじゃない、すっごく失礼だから。
見てる様で全然見てあげれてない、下に見て…あの娘の頑張りなんて初から無視、ナメてるから…。
『私は大河の事をぜ〜んぶ解ってんだよ?親友の言う事をお人形みたいに黙って聞いてれば良いんだぁ〜』そういう事、そうしたいんでしょぉ?
ねぇ…そっちから吹っ掛けてきたんだから黙ってないでさぁ〜何か言えよ!
聞いてんのか櫛枝実乃梨ぃっっっ!!!」
櫛枝がギリッと歯を食いしばり、亜美を憎々しげに睨み付ける。
「実乃梨ちゃんの話してる事の中に"竜児"も"大河"も居ない。自分の本心も言わない。なら話す事なんて無いよ」


51 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:14:10 ID:3UJQSr/Q
亜美が髪を掻き上げて、櫛枝を嘲笑う。
そして…櫛枝が……沈黙を破る。
「黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって……っ!あんたに私の何が解るってんだ!?
じゃあ…じゃあどうすれば良かったのさ?
高須君と付き合ってれば良かったの?
迷いを残したまま、親友の気持ちに気付いていても知らん振りして……そんなの無理、堪えれない」
彼女は亜美に詰め寄り、斜め下からグッと顔を寄せて猛る。
「それに私は叶えたい夢があるんだ、悩んで悩み抜いて……決めた。……幽霊を見る前に夢を適えるんだって。
高須君には酷い事をしたとは思ってる、でもそうするのが最善だったんだよ!聞いたら……揺らいでしまうから。
高須君は強いから…優しいからっ!一度手に入れたら失うのが怖くなる……くっ!私は……私は……逃げたんだよ、それは認める」
一言紡ぐ毎に、彼女の顔が歪む。
隠しておきたかった気持ち、堪えていた痛み、それを亜美に言い当てられて心の中で泣き叫び、また傷付いて…。
「できれば誰にも言いたくなかった…情けないし言い訳みたいだから、自分でも解ってる。
私の行いは"ずるくて傲慢"だって……、こんな事しても何も解決しないってのも…」


52 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:14:55 ID:3UJQSr/Q
「高須君を見ていて…夢を、目標を見失うのが怖かった。手に入れて大河を悲しませたくなかった。
それならいっそ…二人が付き合えば、見なくて済む、悲しませなくて済む。
だから…何も言わせずに…自分が言いたい事だけ言って…逃げた。
好き…大好きだからこそ…これ以上は見たくない。
だから高須君に全部押し付けて…傷付くことなんて百も承知だった、あ〜みんの言う通りだよ」
櫛枝は自嘲し、ペタッと座り直して天を仰ぐ…。
「結局は"無かった事"になんか出来ない。
かといって、今さら受け入れる事も出来ない。
私は先に進むしかないじゃん、無理矢理にでも完結させてね…勝手だけど、そうしないと激痛を負った意味がない」
そこまで聞いて亜美が口を開く。怒りも幾分かは消えて、さっきよりは柔らかい顔つきに見える。
「…完結させたいなら、竜児と大河の言う事も聞いてあげなよ、それで半端に放った事の始末をしっかりつけて、……無かった事には出来ないんだし、せめて"気持ちの良い終わり方"でバイバイしたら。
それがお互いの為じゃない?……じゃないと"亡霊"を見たままだよ、二人共。
大好きな人達が傷付いたままなのは嫌でしょ」


53 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:15:41 ID:3UJQSr/Q
亜美が諭す様に紡いだ言葉に櫛枝は目を見開く。
「…一を半端に放ったままの人間が、十を成せる訳無いじゃん。
きっと夢を叶える事も途中で痛い事があったら逃げてしまう。
竜児を…ちゃんと振ってあげてよ、強くなった大河を認めてあげてよ…、二人から痛みに耐える勇気を貰ってから先に進みなよ。
あと…色々と酷い事を言ってごめん。どうかしてたわ」
そう言って、亜美は彼女に頭を下げる。
「私もごめん…、うん、あ〜みん………一つだけ聞いても良い?」
同様に櫛枝も謝り、そして真面目な顔をする。
「何?」
「あ〜みんは高須君の事……好き?迷いなく言える?」
迷いつつ、言葉を選び、櫛枝は問う。
嘘なんか言わせない、そう目で伝えながら…。
どんなに痛くても……我慢するから、納得したいから…聞かせて。
そう言うみたいに…。
「……みのりん」
大河が泣きそうな顔をして彼女の名を呟く。
俺も他の皆も櫛枝の心境を察して、心が痛む。
「あったりまえじゃん、迷う必要が無い、自信を持って言える…。
私は竜児が大好きだよ

亜美が微笑んで返す。
飾らず、率直に、そして正直に教えたのは彼女なりの優しさなのだろう。


54 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:16:57 ID:3UJQSr/Q
「そっか…、うん、そっか…。敵わないね…ホント……、あ〜みんには敵わないよ」
櫛枝が亜美に笑みを返して呟く。
『スッキリしたし、納得した』
本当にそう思っているのかは解らない。
けど…自分がした事で生み出した『現実』を受け入れようと足掻いている。先に進む為に。
それだけはハッキリと読み取れた。
「大河…探しに行こうか?」
亜美が彼女に呼び掛け、そのままドアに向かう。
「よっしゃ…行くかね」
それに続いて彼女も部屋を後にした。
バタンとドアが閉まる音がして、数秒開けて俺達は押入から這い出る。
「あ〜何つうかスマン、隠すつもりじゃなかったんだ」
俺は友人達に謝る、そして大河にも。
「大河もスマン。おぅ…約束通り、気が済むまで殴ってくれ」
約束は約束、なにより自分がしでかした事の責を受けないと気が済まない。
大河に監禁紛いの事をしたし、余計な事に巻込んでしまったから。
「アホ犬…細かい事は目をつぶっといてやる。今すぐに、ばかちーとみのりんを追いなさい」
だが開口一番、彼女は俺を見上げて…そう言ってくれた。
「…高須よ、突っ込みたい事は山程あるが…まあ先に用事を済ませてこい」


55 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:18:03 ID:3UJQSr/Q
北村が眼鏡を押し上げ、俺の背中を押してドアの方へ向かわせる。
「高須…何つう物を見せてくれてんだよ、うらや………けしからん、実にけしからん。帰って来たら詳しく話を聞かせて貰うよ、ん?」
振り向いた俺に能登がエールを送ってくれる。
冗談ぽく…そして普段と変わらない様子、これに俺は後押しされる。
「高っちゃぁん〜櫛枝じゃなくて亜美ちゃんとかよ〜、ひぇ〜ヤリチンってやつ?あは…いってら〜」
春田は春田なりに送り出してくれる、まあ…急にまともな事を言われても困るしな、サンキュー春田。
「優しい御主人様が、みのりんに重要な事は教えとく。だから安心して、軽やかに、無様に、見事にフラれて来なさい、ほら………行けっ!!」
大河が携帯を開いて、面倒そうに振りながら…微笑んで、俺の尻を蹴る。思い切り…。
俺は勢い良く部屋から出され、辺りを伺う。
櫛枝と亜美に……言われたい事、言いたい事。過去を振り返らない為に、歩みたい人と逢う為に……もう言いたい事なんて決まってる。
しっかり言葉に想いを込めて…言霊にして絡まった糸を一気紡ぎ直してやる。
俺は廊下を駆けていく。


続く
56 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 21:18:45 ID:3UJQSr/Q
今回は以上。
続きが書けたらまた来させて貰います。
では
ノシ
57名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 21:28:18 ID:LziQTSRL
GJでした。
続き楽しみにしております。
あと、ずっとマイペースで投稿し続けるのが何気に凄いです。
本当にご苦労様です。
58 ◆KARsW3gC4M :2009/08/05(水) 22:17:01 ID:3UJQSr/Q
すいません…所々、名称を間違えている部分がありました。
次回からは気をつけますので勘弁してやってください。
では
ノシ
59名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 22:20:53 ID:gq+W1uva
GJ!……なのだが、なぜ、「あーみん」ではなく「あ〜みん」?
真剣な場面なはずが笑ってしまった

みのりん派の自分としては辛いけど続き期待
60名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 22:23:12 ID:gq+W1uva
>>58
あ、納得。意図はなかったのかww
連投すまそ
61名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 22:36:17 ID:7fDbzHOl
中盤は凄まじい修羅場だったが、読んでいくうちにいい青春してるな、って羨ましくなったぜw

投下GJ。次回投下も楽しみにしてます
62名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 22:48:21 ID:cfeIWN0H
あ〜みん表記だと他のものを色々連想してしまうからふいてしまうw
63名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 23:19:21 ID:n5wEQAB3
お父さんは心配性?
64名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 00:15:44 ID:aSCDedyH
ぬおお
言霊(4)を読みたいけどまだ保管庫にない……
まとめ管理人様〜っ
65名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 00:16:56 ID:PXQ+RhCu
みのりんだと他のry
66名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 08:15:09 ID:n9/RZ8by
竜虎END後に大河死んじゃってみのりんが竜児慰める話見つからないんだが

どこにあるか知らない?
67名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 09:37:21 ID:nNVqMz/0
>>66
そんなのあったか?
真剣に探してみたがなかったぞ…俺は釣られたのか?
68名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 17:28:44 ID:cBRxyM+9
なあ…クロスオーバーってか他アニメのパロディーのSSって駄目かねぇ?
69名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 17:44:00 ID:TK6+fmpy
駄目ではないと思うがフルボッコは覚悟したほうがいいよ
そもそもこの板の少なくともラノベ系のスレでは基本的に嫌われてるうえに
今このスレには荒らしたい人たちが居座ってるから
70名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 17:45:27 ID:1jt6EIIF
クロスオーバー系はそういうスレなかったっけ
71名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 17:45:43 ID:WQZnjLmD
>>15
やっと新スレを見つけてくれたか… GJ!

>>56
GJ!GJ!!GJ!!!
72名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 17:47:38 ID:cBRxyM+9
なるへそ、把握した。
確かにスレが荒れそうだから考え直す。
スマンかった
73677:2009/08/06(木) 22:20:32 ID:FxX5m3SM
>>72
ちなみに、過去にFFとかDQを舞台にしたSS書いた人が居たけど
その時は荒れなかったよ。荒らしたい人もいなかったけど

別作品のキャラが強く前面に出てくるのは良くないし、批判されそう
舞台、設定だけを使うのは個人的にはいいんじゃないかと思う
74名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 22:39:05 ID:cBRxyM+9
>>73
そうか。貴重な意見をありがとう。
俺のわがままで荒れたら申し訳ないから、考えを改める。
チラ裏を書いてスマンかった。
レスを返してくれて、みんなありがとう。
75 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/07(金) 00:26:43 ID:CUtfMc0v
けいとらっ!Dパート(前スレの続き)を投下させて頂きます。
今回はDパートです。9レス分です。
未読の方は、内容が特殊なので、お読み頂きたいのですが、
下記リンクで味見してからお願いします。
けいとらっAパート
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1247779543/450-458
けいとらっBパート
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1247779543/519-528
けいとらっCパート
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1247779543/563-570
です。注意書きもお読みください。

なお、Fパート+αで、一応ラストの予定です。
また、亀ですが、>>1スレ立てご苦労様です。
宜しくお願いいたします。

参考までに作中に出てくる曲です…
そばかす
ttp://www.sonymusic.co.jp/?51237190_ESDB-3655&51237190_ESDB-3655_01SFL


プラネタリウム
ttp://www.sonymusic.co.jp/?70003712_ESCL-3114&70003712_ESCL-3114_01VFL

Love for you
ttp://www.sonymusic.co.jp/?70002609_SRCL-7053&70002609_SRCL-7053_05SFL

オレンジ
ttp://www.starchild.co.jp/special/toradora/release/sound/orange.asx

76けいとらっ!Dパート1 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/07(金) 00:29:02 ID:CUtfMc0v
「どりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅ!アチョー!」
「おはよう…櫛枝…このムシ暑いのに、テンション高いな…」
「おっはよー!高須くん!実はさっき、新しいドラミング技を開発したのだよ!
 名付けて…BPM200光速ドラムほとんど雑音スペシャル〜っ!アチョー!」
今日も馬鹿が付くほど晴天だが、太陽の申し子、実乃梨は、ガードレールを連打。絶好調だった。
大橋駅前、12時。ふたりは電車で、演奏曲の、『そばかす』のバンドスコアを買いにいく。
都内に行かないと、売ってないし、竜児は電子メトロノームが欲しかった。

「へっへーっ明日からソフト部の合宿があるでよ、ドラムの練習出来ないしね。気合い気合いっ」
改札を抜け、プラットホームへ。そこに見覚えのある人物がいた…

「あっれ〜?高っちゃ〜んっ、どったの〜?櫛枝も一緒じゃ〜ん」
春田浩次っ、ロングヘアーがなびくたび、アホをまき散らす、竜児の親友だ。
「おうっ、春田、偶然だなっ。実はまだ内緒だったんだが、今度の文化祭で櫛枝とかとバンド組むんで、
 いまから一緒に、バンドスコアとか買いにいくところだっ、お前こそっ…」
春田の背後から、ふわっと銀色の髪が覗いていた。
「春田くん…お友達?あっ、バレンタインの…たしか、高須くんね?こんにちはっ、お久しぶりっ」
「おうっ…どうもっ、ご無沙汰してます。あの時は、ありがとうございました」
美大生の濱田瀬奈は、春田のガールフレンド。彼女ではなく、ガールフレンドなのだそうだ。
「バンドか〜。うわあ、いいね〜。わたしは美術学部だけど、バンド組んでる知り合いもいるの。
 今度ふたりで、遊びにおいでよ…じゃあ、あなたが、竜児くんの恋人ね?ライオンちゃん?
 …だったかしら…」
「いかにもわたしは百獣の王っ!ライオンちゃん!!…うわーっ違いますっ!」
実乃梨は真っ赤になってバタバタする。
「なんか、ライオンって…イイかもっ!ちっがーう☆瀬奈すわ〜ん、高っちゃんの彼女は、タイガ〜ッ。
 櫛枝じゃないって〜」
春田は、涙目になってクネクネする。
「あらっ、いい感じだったから、てっきり恋人かと…ごめんなさいっ、でもお似合いねっ」
黙ってしまった竜児と実乃梨に、ウインクする瀬奈。ここで竜児はなんとか切り返す。
「えっそのっ…ありがっ…いやっ、今日は、春田とデートですか?」
「春田くんに、神保町の画材屋さんに付き合ってもらうの。そうだっ一緒にいかない?
 お茶の水近いし。楽器屋さんいっぱいあるし、わたし、詳しいの…それともお邪魔かな?」
再起動した実乃梨がニコッと微笑む
「いえいえいえっ、旅は道連れっ世は情けっ!頑張って行っきましょーっい!!」
彼女と間違われた実乃梨が、いつもより笑顔が100Wくらい明るく見える。
77けいとらっ!Dパート2 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/07(金) 00:30:37 ID:CUtfMc0v

四人はスドバではなく、スターバックスコーヒーにいた。
「うわっ〜、ちょ〜そつっ!!」
ちょ〜そつ…超そっくり…という事なのだろう。実乃梨に理解がある、竜児だけには伝わった。
春田のガールフレンド自慢で、実乃梨の作曲ノートに、イラストを描いて貰っているのだ。
ふたりが初デートの時に描いたものと同じモノらしい。瀬奈は、無免許医師を描き上げ、
隣にかわいい少女を描き始める。印刷やコピーと違い、生描きの暖かみを感じた。

「好きなのよ、ブラックジャック…医者っていうより…アーティストっぽいところが…」
実乃梨は、幼い少女が、目の前で手品でも魅せて貰っているようなキラキラした顔になる。
「瀬奈さん、おねがい〜っ、となりに週刊秘密の記者も描いて!」
「ううっ、マニアック…解るわたしもどうなのっ…」
1分もかからず、瀬奈は、イラストを完成させる。流石だ。
「ありがとうっ!費用は一生かかっても、どんなことをしても払います!きっと払いますとも!」
「それを聞きたかった」
実乃梨と瀬奈は、今の会話で一気に親しくなったようだ。あの話いいよね〜っと手を取り合う。

「…ねえねえ、高っちゃん、さっき買ったの見せて〜」
「おうっ、楽譜と、メトロノームだな。見てくれ、このメトロノーム、カードサイズなんだぜっ」
「ほえ〜っ、小っさいね〜、ここから音出るんだ?よおおおっし、スイッチ☆オーーーッフ!!」
オフすんなよ。と、竜児が突っ込む。それを聞いた実乃梨も袋から取り出した。

「いや〜連られて、おいらも買っちまったよっ!店員にドラマーこそ必須って言われちまってね」
そう言って実乃梨も電子メトロノームをイジり出した。電池を入れて、おっ?すげえっ?っと、
細かい反応をしている。そんな実乃梨から、目を離せない竜児。見ていて楽しいのだ。
「すっげ〜!いいねっこれっ。買って良かったかも〜。…ねえねえ高須くんっ、突然だけど、
 BPM250光速ドラム完全に雑音スペシャル2が完成したよ!!!アチョチョー!!!!」
竜児の肩を、アイスの棒みたいなマドラーで、連打する。まったく痛くないが、視線が痛い。

どうみてもバカッ…カップルにしか見えない竜児と実乃梨に、瀬奈は素直に反応。
「ふたりで色違いでいいわね。お揃いでピンクとブルーか。うふっ、かーわいい」
たしかにかわいいメトロノームなんだが…それとも、お揃いが、かわいいってことか…
実乃梨も、デートみたいで楽しかったのだろうか、調子に乗っている自分の頭をコツンとする。

78けいとらっ!Dパート3 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/07(金) 00:32:22 ID:CUtfMc0v

春田はピコーンっと、去年の文化祭を思い出す。瀬奈に説明を始めた。
「2年のときの文化祭はプロレスだったんだよね〜、しかもガチ☆クラス対抗でさ〜、
 気合い入って、チョー盛り上がったんだよね〜そーそーっ高っちゃんは、びびび洗脳光線、
 放射しちゃうしっ、櫛枝のリングの天使も、ハゲヅラの輝きが良かったっ……あれ? 
 これってっ、なにげに自業自得かもっ」
「自画自賛だろ?あっそういえば、瀬奈さん、画材買ってないですね、近いんですか?」
「そうねっ、通りの向こうの画材屋さんなの。あの大きい本屋さんの隣…」
ちょっと考えて、瀬奈は続ける
「…じゃあ今、ちょっと買いにいってくる。まだいるでしょ?春田くん、一緒に行こっ」
ボーイフレンドの春田は同意する。
「イエーーッス、ウィー、アーーー!!!byオバマ☆!」

春田のミステイクをスルーして、竜児と実乃梨は、店を出るふたりを見送る。
ゆっくり歩く瀬奈を、衛星のようにくるくる回りながら器用に歩く春田。笑顔だ。
ふたりは仲良く交差点を渡っている。竜児はふと、疑問におもう。
「あの二人も将来、結婚するのかな?」

「どうだろ…結婚と恋愛は違うっていうけど…でもさ…好きな人と結婚できたら…ねっ」
交差点を渡りきった春田と瀬奈が手を振った。実乃梨も合わせて手を振る。羨望…

「なあ櫛枝…昨日の事だけど、例の…男の人…いい人だよな」
「あー、あの…大河の…そうねっ、うん…敵に回したくない奴よのう…byオバマ…」
実乃梨は窓の外を見たまま返事をした。

「俺は、政略結婚とか良くないと思うけど、現実的に考えると…仕方ないよな」
「そんな事…わたしに聞かないでよ」
「大河はあの男の事、どう思ってるのかな…嫌ってないみたいだけど」
「知らない…」
「俺は大河に幸せになって欲しい、俺はどうすればいいんだ。どう思う?」
「分かんない!!分っかんねーよっ!!高須くん、これ以上わたしを悩ませないで!!!
 わたしだって!わたし…だって…もうっ…ふぇっ…くっ…帰る!!」
走り出した実乃梨は、呼び止める暇も竜児に与えてくれなかった。
テーブルの上のピノコに、涙が落ちた跡。竜児の心を責め立てる。…俺は馬鹿だ。

「あれ?高っちゃんっ、櫛枝は?さっき走っていたのそ〜お?」
「あ…ああっ…先に図書館行くって」
瀬奈は過去に辛い恋愛をしている。熱愛中に、彼氏を…友人に奪われた。
自殺未遂もした…どういう状況かを、…竜児の嘘を…、見破る。

「ねえ、確認するけど、櫛枝さん。あの娘、高須くんの事好きよね。分ってるわよね?
 大好きな人だから怒るの、悩むの、泣くの。いますぐ追いかけて。はっきりしてあげて」
冷たい視線を向け、問いつめる瀬奈。竜児はその、アイスブルーの瞳に凍り付く。
クーラーはあまり効いていないのだが。
79けいとらっ!Dパート4 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/07(金) 00:34:03 ID:CUtfMc0v

実乃梨は、図書館にはいなかった。
「そりゃあ…そうだよな…」
ただ、予約してあるし、ベースもあるし…せっかくだから…竜児は練習していく事にする。
本当は、実乃梨に会って、言うべき言葉を、今はまだ迷っていたからかも知れない。
携帯でダウンロードした『そばかす』を、AUX端子に繋いで聞いた。イントロが始まる

♪大キライだった、そばかすをチョット、ひとなでして溜息をひとつ…

バンドスコアを買う時に、実乃梨は言っていた。この曲のヒロインのイメージは、
キャンディという、昔のマンガのキャラクター。そばかすと鼻ペチャが特徴の、明るくて、
おてんばで、いつも前向きで、強い心を持っている少女。そして、丘の上の王子様という、
初恋の相手と結ばれる…らしいが。

♪思い出は、いつも綺麗だけど、それだけじゃお腹が空くの…

どうやら失恋ソングのようだ。実乃梨は、この曲を聞きながら、何を感じていたのだろうか…
ヘビー級の恋に敗れても、前向きなこの曲を聞いて、何を求めていたのだろうか…

あぐらをかいて座っていた竜児は、おもむろに立ち上がる。ベースをケースから出し、
少し長めにしてストラップを付ける。軽くペグを廻し、ハーモニクスで、チューニング。
シールドをジャックに押し込む。エフェクターをセットし、ゲインを右いっぱいに回す。
アンプのボリュームを全開に上げ、トグルスイッチを上に跳ね上げる。ダイアフラムがビクッとする。
そして…ポケットに入っていた10円玉をピックに、竜児は強烈にアタック。

ヴァヴァァァァァァァーーーーーーーーンン!!ヴァン!!!ッ!ッ!ーーッ

思ったより大きな音…鼓膜が悲鳴を上げる。竜児も、悲鳴を上げた。
「うおおおおおおおぉぉぉぉおっーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
俺はっ…本当に馬鹿だ。
80けいとらっ!Dパート5 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/07(金) 00:35:45 ID:CUtfMc0v

ガチッ
防音扉が開いた。

「あれ!?竜児、みんなは?」
大河だった。そういえば大河は、今日は実乃梨とふたりで練習することを知らない。
しかし…竜児が、顔を腕で擦る仕草を見て、不慮な事態が起きた事を知る。
ベースアンプはまだ、残響音を漏らしていた。

「おぅ…実は、今日はリズム隊だけで練習する予定だったんだけど…櫛枝に…嫌われちまった…」
もっと、違う言い方もあっただろうが、竜児はあえて大河にそう答えてしまった。

「…あんた、みのりんに何か言ったの?」
大河は、竜児の眼を見る。睨むに近い。大河が心に侵入してくる、気がした。
「ああ…昨日の事だ。その…お前の婚約の話だ…俺は…どうすればいいか、聞いた…」
竜児は大河の取り調べに、完落ちする。

「あんた…最悪…みのりんは、あんたの事を好きなのよ?忘れたの?好きだけど、
 ソフトを選ぶって、それがわたしの幸せだって、言ってたけど…それはっ、そんなっ
 好きな相手から…竜児から、俺、フリーになるんだって言われたら…なんて答えれば良いのよ?
 あんたいったい、みのりんに何て言わせたかったの?じゃあ付き合おうかって?馬鹿ぁ?
 なんでそんな事聞くの?なんで自分で決めないの?ハチ公気取りなの?他力本願なの?」
竜児を一気に大河は攻めたてる、そうだ…その通りだ。だから俺は馬鹿なんだ。
「ああ…最悪、だよな…」
大河は我慢できず感情が、そのキレイな瞳から流出…する。

「わっ、わたしは決めたわ!あんたも自分の事!自分で決めろっ!みのりんが、わたしが、
 どう決めたとしてもっ…自分で…ほんっっと…ヒックッわ…グズッ…わたしだって…
 あんたの事、好きなんだから!!あんたの事大好きなのにぃっ…こぉんのぉ…馬っ鹿…
 竜っ児っ…つううっ!…わた…わたしだって辛いんだからぁ!!もうっ!死ねっ!!」
竜児に背中を向け、大河は走り去る。まただ…また過ちを犯した。あのクソ親父のように…

大河が出て行った半開きの防音扉から、亜美がヒョイっと顔を出した。
「…タイガー、扉開けっぱで、全部聞こえちゃったよ。今日…買い物行って来てさ、
 ラデュレのマカロン。差し入れなんだけど…なんか入りにくくて…さ」
亜美は紙袋を気まずそうに振る。
81けいとらっ!Dパート6 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/07(金) 00:37:17 ID:CUtfMc0v

「お…う、川嶋か…」
「ふーん、タイガー婚約しちゃうんだ。なにその昼ドラ展開…キモ……
 つーか、高須くんタイガーの事、追いかけねーの?」
「俺は…そんな資格ねえ… 最悪な親父と…一緒だ、カエルの子は…やっぱカエルだな…」
「カエルの子って、おたまじゃくしでしょ?…キモいはずだわっ」
「そういえば嫌いだったな。おたま…」
「くっだらねえ事、憶えてんじゃねーよ、つーか、資格とか三角とか、どうでもいいんじゃね?
 高須くんっ、追いかけなよ。タイガーか、実乃梨ちゃん。…それとも…わたし?うふっ」
竜児は、何の反応もない。
「ケッ!…じゃー、いい事教えてあげる。祐作から聞いたんだけど、実乃梨ちゃん、
 体育大の、推薦貰ったらしいんだけどさ、推薦っても、あの大学、倍率超〜高いんだって。
 去年なんかは、出願者500人中、合格したの15人よっ、出願許可貰えたっていっても、
 実乃梨ちゃん、どんなに実力あっても、地区大会で負けてるし…間違いなく落ちるんだって。
 祐作には絶対言うなって言われたんだけどさっ」
「えっ?」
「なによその顔。ほれ、片付けておいてやるから行ってこい。キモいし」
「…わかった川嶋。悪いな…」
竜児は、スタジオを飛び出していった。ただ、片付けは、ちゃんとしてからだ。
そして…走りながら、竜児はすごく。すごく辛い結論を出した。

マカロンを亜美はパクッと一口。口の中に酸味が広がる。竜児の辛い結論は、亜美にはお見通しだった。
亜美は女優になる。そして女優の娘だ。馬鹿な高校生ぐらい騙せるほどの演技は、お手の物だ。
北村から推薦の話をメールで教えて貰ったのは本当。あとは全部嘘だ。

「わたしが体育大なんか、詳しい訳ねーし。…さ〜て、わたしはタイガーを追い掛けるか…」
嘘つき亜美は、iPhoneのサファリを起動、大河の母親の会社をググッた。
82けいとらっ!Dパート7 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/07(金) 00:39:00 ID:CUtfMc0v

「あら、竜児くん、おかえり。ちょっと早いのね?」
家に戻ると、祖母の高須園子が、夕食の準備をしていた。昨夜、親父の大罪を聞き、泰子が
あまりに落胆していたので、祖母の園子に相談したら、夜中にタクシーで駆けつけてくれたのだ。
泊まりで、泰子を見守ってくれた。

「おうっ、祖母ちゃん、俺が…」
園子は首を振る。

「泰子ったら、竜児くん出掛けてからも、ずーっと寝っぱなし。
 竜児くんのお料理もおいしいけど…
 こういう時は、何か作ってあげたいの、母親として。
 世界中が敵になっても、わたしだけは、泰子の…味方…」
「祖母ちゃん…」
竜児は泰子の部屋に入る。子供みたいな寝顔だ。目元が腫れている。台所から声がする。

「竜児くん、親はね、いくつになっても子供が可愛いの…泰子が家出した時も、
 そりゃあ、いろいろあったけど、元気で生きてくれたらそれでいいの。
 間違いなんかないの。今は竜児くんがいてくれて、お祖母ちゃんは、すごい幸せ。
 竜児くん、迷っているのね?泰子から聞いたわ。泰子は母親だから…だから…
 これから、どんな決断を出したとしても、娘は…泰子は分かってくれるわ。
 味方になってくれる。しっかり考えたなら…その通りに、正直に生きなさい」

竜児は、涙を堪えるので精一杯だった。泰子の頭を撫で、居間に戻る。
「祖母ちゃん…これからもよろしくお願いします…」
深く頭を下げる竜児。そして自室に戻り、ベースを置き、押入れから、段ボールを出す。
そして、封印していたオレンジ色のヘアピンを箱の中から晒す。

「竜ちゃん…」
「泰子っ、大丈夫か?」
竜児は駆け寄る、園子は心配そうな顔を向けたが、竜児に、お願いね…っと頷く。
「大河ちゃんと…別れちゃうの?大河ちゃん、パパの宿敵のあの人と一緒になるの?」
「まだわからねえ。それを決着付けに行く。なあ泰子。もし…どんな結果になっても…
 見届けて欲しい…お前の肉体から生まれた俺を、見続けて欲しい…」
泰子は竜児のおでこにキスする。

「…うん」

83けいとらっ!Dパート8 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/07(金) 00:40:28 ID:CUtfMc0v

「何?」
「おうっ、泣かした事…謝りたくて」
そう聞いて実乃梨は、家からニョロっと出て来て、扉を閉めた。神妙な面持ち…というのか、
竜児に対して、逃げたネコが振り返り、覗き見るような…そんな瞳を竜児に向ける。
「俺自身、どうすればいいか迷ってた。そんで、誰かに答えを聞きたかった。
 でも櫛枝には、聞くべきじゃなかった…本当に…悪かった。馬鹿だった」
竜児の顔をジロジロ観察しながら、実乃梨はしばらく間を作る。

「…いいよっ、もう。ううんっ高須くん、わたしこそ泣いてゴメン。親友なのに、
 悩んでいるのに、ゴメンなさい。今度は、次は、ちゃんと、答えるから…」
「違う。そういう事じゃねえんだ。俺は大河の事、櫛枝に聞いたらいけなかったんだ」
実乃梨はわずかに眉を動かす
「え?いいよっ、なんでも…だからこれからもっ」
「櫛枝に、大河の事を聞くべきじゃなかったんだ。それは…櫛枝はっ」
竜児は胸中を振り絞る。

「お前は、俺の事…好きっ…だからだっ」
なっ…実乃梨は目を瞬く。そんなっ、そんな事、自分で言う?……そう…だけど…
「だから俺は決めた…今からお前と、ジャイアントさらばをする」
「えっ?ジャイアントさらば?…を?」
うなづく竜児。その三白眼は、真っ直ぐ実乃梨を見据えている。実乃梨もかしこまる。
「そうだ。俺とお前の、友達としての関係をジャイアントさらば…する。そして、周りの事、
 大河の事、全部決着付けて、改めてお前の前に戻ってくる…戻れねぇかも知れねーけど…
 櫛枝…俺は決めたんだっ!おまえがどう思おうと!…それだけ伝えたかった」

実乃梨は、否定しなかった。竜児が決めた事だからだ。つまり、友人関係を絶縁する…と
「高須くん…それがあなたの答えなの?まだ答えは出てないけど…」
竜児はポケットから、ヘアピンを取り出す。
「そうだ。中途半端ですまねえ。もしっ、お前の前に俺が戻って来たら、その時はお前に…
 渡せなかったオレンジのヘアピンを渡すっ!ジャイアントこんにちはを…するっ!」
真剣に答える竜児だったが、意外なワード、ジャイアントこんにちはが、実乃梨のツボを直撃。

「ジャイアント…こんにちは?ふえ?なんだそれ?クッ、、ごめん…可笑しいっ、あはははははっ」
実乃梨は笑っているのに、溢れるほど涙が出る。止まらない。
「なんだよっ、そんなに…可笑しい…か?」
耳が真っ赤になる竜児に、実乃梨は、微笑む。キラキラ輝き出す。頬が綺麗なピンクになる。
その笑顔に、涙に、竜児の胸が鼓動を打つ。そう、実乃梨には笑顔が似合う。

「ううん、ごめん、ごめんね高須くんっ、うふっ、あなた、本当に…本当に…好っ…素敵」
許されるのであろうか?心に秘めた、深くて…でも不確定な決意のまま…
実乃梨は竜児の手を取り、自分の胸に当てる。今はこれで精一杯だった。

「わたし高須くんが好きって言ったよね。なんで好きになったと思う?
 大河への横恋慕じゃないの、見た目とかじゃないの、家事が上手だからでも、
 ガサツなわたしに、好意を持ってくれたからでもないの…」
竜児は、実乃梨の言葉を一言も漏らさず聞き取る。心が動く。

「高須くん…あなたの、その…真っ直ぐなところ…正直で、逃げないで、困難にも、
 真剣に向いあってくれるところなの。わたしの恋人の理想なの…あなたが…」
実乃梨の告白を遮るように、竜児は一気に、捲し立てる。魂をぶつける。

「俺は、お前の見た目だけじゃない、明るいところだけでもなく、運動神経がいいところでもねえ、
 始めはそうだったけど…。そして大河に後押しされたからでもねえんだ。前から…
 今も、お前の、真っ直ぐなで、正直で、逃げないで、困難にも、真剣に向うところが、
 好きだっ!」
好きだと言った。ハッキリ。なんだ…同じじゃん…実乃梨は呟く。
84けいとらっ!Dパート9 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/07(金) 00:42:02 ID:CUtfMc0v

大河は、男の会社の応接室にいた。窓から見える高速道路の流れをじっと、見つめていた。
「…おもちゃみたい」
止めどなく流れる車たちには、それぞれ生きた人間たちが乗っている。それぞれの人生を生きている。
「わたしの人生…」
僅か18年で、色んな事があった。辛い事、楽しい事、そして、恋。
「竜児…」
そう呟く大河。しかし決めたんだっ。…けど…
応接室をノックする音。男が入って来た。
「待たせてすまない、丁度いい。また忘れないように、先に返す」
男は、虎柄の手帳を手渡す。大河の目蓋に目が止まる。涙の跡…

「…何があった?…俺の事か?」
大河は暮れかかる日差しを浴び、まるで後光が射したように、神秘的に見える。

「あのさ…考えたの。いっぱい。やっぱり、わたし、竜児が好き。大好き。
 別れるなんて考えられない。もう一心同体なの。わたしと竜児。だから…
 だから、あんたと、結婚する、矛盾しているけど…あんたなら…意味。分かるでしょ?」

そういう決断。両虎は見つめ合う。同情でもない。愛情でもない。友情でもない。しかし魂が通じる。
インターフォンがなる
「客人が?…そうか…こっちに通してくれ」
しばらくして応接室の扉が開く

「あっ、はじめまして〜、川嶋亜美ですっ。亜美ちゃんって呼んでくださいね?あっ、ゴメンなさい…
 わたし馴れ馴れしく…あれっ?もしかして〜っ、わたしの事、今、天然〜って、思ったぐほぉ!」
大河のボディブローが突き刺さる。カバンにあたって傷は浅かった。

「天然バカチワワ、いい加減空気よめっ」
「痛ってーなっ!チビトラ!空気読んでっから、こうしてるんだろーが!ムカつくっ!」
「こっちのセリフだっ、ばかちーっ!!こうしてやるっ!」
大河は亜美に飛びかかり…ギュウウウっと、抱きしめた

「…ムカつくほど、いい奴なんだ、ばかちーは…」
「何?ちょっと…タイガー…、もう、気付くの遅せーよ…」
亜美は、大河を強く抱きしめる。大河の想いが、決意が、哀しみが、伝わってきた。

85名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 00:57:45 ID:ps7lRbvv
規制かな?
しえん
86名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 00:58:19 ID:ecB7myZn
>>84
9レスだからこれで終わりか
脇役の使い方がやはり絶妙ww あと2回がんば
87名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 01:02:27 ID:ps7lRbvv
そういや9レスだったなw
>>84

続き気になるっす
88TF ◆3wUugiKJsM :2009/08/07(金) 04:45:28 ID:6E3KPO6f
「過去にFFとかDQを舞台にしたSS書いた人が居た」
というのは俺のことかーい!?
どもっすTFです.TORADORA FANTASYとかいうのを書いたアホです。
今日の午前中、もしくは夜に第四話を投下しようと思います。
読んで頂ければ幸いです。では。
89名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 06:35:39 ID:KKn/zN0a
これ誰が読んでもスッキリしねえだろ
90名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 06:45:38 ID:GRXbof1O
なんで決めつけるんだ
91名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 06:55:51 ID:bAa81o+k
決めつけは厨の証
92名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 08:45:12 ID:WOvrFZPO
実はスレを荒らしたいのが目的の投下で荒れてる人は踊らされてるだけだったりして。
93名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 08:50:38 ID:m/ARGoWa
>>88
待ってるよ
94名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 08:53:54 ID:Gu6kdZr7
>>92 ?
95名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 09:02:48 ID:bAa81o+k
>>92
それを言い出すと疑心暗鬼の嵐になるからあまり持ち出さない方が良いよ
96名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 09:10:14 ID:pvb5WxIJ
>>88
楽しみにしてます
97名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 16:26:18 ID:Gu6kdZr7
ぶるああああああああ
98名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 19:19:03 ID:Gu6kdZr7
今気づいた、誤爆すまん
99名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 19:56:45 ID:zVmeMmUA
竜児in若本
100名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 23:42:02 ID:f4H9b16N
奈々子様物を・・・
101名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 23:47:19 ID:GRXbof1O
奈々子オオオォーー!!!
102 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/08(土) 00:51:22 ID:k7yPrdMD
けいとらっ!Eパートを投下させて頂きます。
6レス分です。今回は楽曲で言うとサビ?の部分です。
お読み頂くと判りますが、Fパートは18禁な内容になります。

続き物ですので、初めてお読み頂く前に
>>75
をご参照ください。

宜しくお願いいたします。
103けいとらっ!Eパート1 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/08(土) 00:53:51 ID:k7yPrdMD

竜児は、櫛枝家を飛び出したあと、大河に電話を掛けたがつながらず、メールも不発。
大河の実家に行ったが不在、母親の会社に至っては門前払いだった。
そして、竜児が大橋駅のロータリーで、途方に暮れているにいた、その時、
「公衆電話から?」
竜児の携帯に着信。例の男だった。

「竜児くん。話しがしたい。大河さん、川嶋さんも一緒だ。場所は…」

待ち合わせ場所は、大橋駅のビル2階のカフェ。大河の良く行く雑貨屋さんの隣…
一年前の文化祭の時、大河の父、陸郎とベーグルを食べた場所だ。
「あそこ…か…2、3分ってところか…」
見上げていた駅ビルに、竜児は走り出す。

***

「あっ、そうそう、このCDの5曲目ね。タイガー、本当に聞いただけで弾けるの?」
「ん。へーき。…ふうん、こういうの好きなんだ。ばかちーも普通の女子高生なんだねえ…」
「なによそれ?違うの。R&Bって、意外に唄うの難しいのよ?だから…って、聞いてねーしっ!」
「ふごっ、ゔぁかちーも…ゴクン…ベーグル食べちゃいなよ」
「でけーなコレっ!…前にも言ったけど、あたし顎関節症なのよね。指2本以上口開けられないの」
「へーっ、そうかい。…あんたの彼氏になる奴…かわいそっ、ププッ」
「チッ!エロタイガーくたばれっ…、つーか、そう言うあんただって、……あ、来たわよ…」

公衆電話から、カフェの入り口に戻り、そのまま待っていた男が、竜児と一緒に戻って来た。
「おうっ、ふたりとも…すまねえ…」
「ばんわっ、亜美ちゃんは今日は、ただの証人だからっ、気にすんなよっ」
窓際の席に向かい合って座っている大河と亜美。ふたりの美少女は、竜児を見つめている。
「…竜児、わたしの隣座って」
「大河っ、お前に言わないといけない事があるんだ!俺は…」
走って来た勢いのまま、一気に話をしようとする竜児。男が制止する。
「竜児くん、とりあえず座ってくれ。それに俺が君を呼び出したんだ。先に話させてくれないか?」
大河の横の席を引いて、着席を促す男。竜児は座る。少し落着いたみたいだ。男も座る。

「食事を楽しみに来たんじゃない。端的に話す。二つある。ひとつめ。俺は、大河さんと結婚したい。
 政略結婚だからじゃない。単純に大河さんに惚れたからだ。こんないい女。二度と出会えない。
 しかし現時点では君の恋人だ。俺はどんな手を尽くしてでも、必ず君から奪い取る。
 たった今から、君は俺の宿敵だ。いいな…竜児っ」
宿敵。そうだ。こいつは虎だ。俺は竜だ。竜虎相打つ…。思わず竜児は武者震いする。
「話し合いなんだろ?俺の意見は聞かないのかよ?」
「俺の話の後だ。ふたつ目。君は、強敵だからな…君を潰す為に、俺は余力は残さない。
 全力で勝負する。つまり…宿敵はふたりと要らない。竜児、君の父親は、もうどうでもいい。
 …以上だ」
ハッとする竜児の顔を見て、男は恫喝する。
「そんな目していると、俺に大河さんを奪われるぞ?竜児」
竜児は、大河に実乃梨の事を話に来た。どうやら、竜児の思惑は筒抜けだったようだ。
そして、竜児が実乃梨の元へ行きやすい状況を創ってくれているように、思える…
自分の想いを伝えるだけしか考えていなかった竜児は、恥ずかしくなる。そして、
何も言えなくなる。言わなければいけないのだが…俺のターンだが…唇が震える。
言おうと思っていた想い…逃げては行けない。何と言えばいいのか?どうすれば…
意を決し、竜児は隣に座る大河へ顔を向ける

「…大河…俺は、お前の事…きっ…ううっ…」
わかっていた事だが、大河はブワッと涙が出てしまう。
「…嫌いだ…お前の事が、嫌いだ…だから…おっ、俺と別れてくれ…。うおおおっ」
「うん…わたしも…竜児が、ふぇっ、大…嫌、ぃ…ふえええっっつん!」
大河は竜児に抱きつき、最後のキスをする。

104けいとらっ!Eパート2 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/08(土) 00:55:26 ID:k7yPrdMD

大河は、男と一緒にタクシー乗り場にいた。亜美を見送った後だ。
竜児はとっくのとうに、走り去ってしまっていた。

「お前…スゴいやつだな」
男は、空を見上げてた。柄にも無く、熱いモノが零れないように。
「そうね。自分でもそう思うわ。でもあんたは思ったより馬鹿よね?ジャンボ」
「ジャンボ?俺の事か?」
男は40cm下からの可愛らしい声に反応する。

「あんた、虎っぽいじゃん?わたしみたいに。でもデカいからジャンボ。文句ある?」
「いや、…気に入った。それで良いぜ、リトル」
「なっ、なによリトルって!そのままじゃんっ、嫌だ。普通に大河って呼んでよ、もう
 …ばっかみたい…いいわジャンボ。許してあげる。ふたりの時だけね」
大河はさっきまで大泣きしていたのに、急にイジワルそうな顔つきになる。

「まあ、それはいいが…なんで思ったより馬鹿なんだ?教えてくれ」
「本当に、馬鹿よ。あんた…こんなきき綺麗なレディーが、フィアンセになってあげるって
 言ってるのにっ、もっと、やったーっ喜べないの?馬鹿よね、馬鹿虎っ」
生意気な口ぶりに、男の感傷は崩壊、あの、旧友と再会したような、人懐っこい笑顔になる。

「馬鹿はお前だ。知らないのか?虎の交尾は2日間に百回以上するんだぜ」
真っ赤になる大河、しかし…
「ふんっ、楽しみだわ」

105けいとらっ!Eパート3 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/08(土) 00:58:27 ID:k7yPrdMD

櫛枝家。両親は弟の祝賀激励会に出席したが、帰ってくるのが面倒になって、
明後日の月曜に戻ってくる…と、留守電に入っていた。チャイムが鳴る。
「櫛枝っ!」
「高須くん…本当に…戻って来たんだ…」
「そうだっ、戻って来た。櫛枝の前に。櫛枝を、恋人にするために…」
実乃梨は人差し指で、竜児の唇に触れる。魔法が掛かったかのように、竜児は黙る。

「高須くんっ…高須くんってさ、ハッキリ言わないとわからない系だよね?遠回しって苦手だよね?」
「…なんだよそれ…でも…当たっている、かもな…」
嬉しいような、悲しいような、複雑な表情で、実乃梨はゆっくり話し出す。

「わたしね、高須くんと恋人になりたいって思ってるよ?でも、だめなの。理由があるの。
 大河もさ、望んだら破滅しちゃうからって言ってたじゃん?あんな感じで。理由があるの。
 ぶっちゃけ、高須くんよりソフトの全日本を選んだ、本当の理由なんだけどさ…」
「…それを…話してくれるのか?」
竜児の心臓の鼓動が速くなる。走って来た時よりもだ。

「だって、高須くんとソフトボールで迷うっておかしいと思わなかった?普通比べないじゃん?
 だから…本当の理由…その理由を聞いても、それでもわたしを選んでくれるなら、その時は…
 …ごめん、話がそれた。うん。順番に話すね。まず…質問から。高須くん。運命って信じる?」
意外な質問に、竜児は感じたまま答える。
「そうだな…神様を信じるかに近いよな。でもその中でもあがきたいとも思うぞ、俺の意思で」
実乃梨がちょっと、光ったかのように見えた。実乃梨は続ける。

「本当?うん…じゃあ次。…あのさ、UFOの話したよね、それくらい恋愛って、
 わたしにとって現実味なかったんだよね。でも、高須くんがわたしに見せてくれたんだ。
 高須くんがいたから現実になったんだ。それで…解っちゃったんだ。自分の事…自分の正体が…。
 あのさっ高須くん。去年、一緒に北村くんの家に行った事、覚えてる?」
覚えていない訳が無い。あの時…竜児は、実乃梨を永遠に愛すると、誓った。

「わたし…実は高須くんと一緒に帰りたかったの。大河と仲がイイの知っているのに。
 あーみんは来ないの判ってたし、大河も、気を使ってくれて、来ないの判ってた。
 ズルくない?ズルいよね。でも、そうしてでも、高須くんと一緒に帰りたかったのっ… 
 …だから言ったじゃん。怖いって。わたしの全てを知ったら、高須くんに嫌われるかも…」
実乃梨は足下を見つめる。竜児は即答する。
「それっくらい、問題ねえし、逆にそうだったのかと、嬉しいくらいだ」
話の中枢に迫る。顔を上げた実乃梨の唇は…ふるえていた。

「じゃあ…最後。もし…わたしが高須くんと恋人になったら…なっちゃったら、
 大河みたいに別れたり出来ない…他の女の子と話したり仲良くするのも辛いの…
 もし浮気なんかしたら…あなたを許さないかも…あなたを殺しちゃうかも…
 わたし、嫉妬深いの、わかったの。恋人じゃなかった今までだって…だから…
 今のままなら、まだ…だから…お願い…捕まえたら、二度と離さないで、もし…
 運命がそうだったとしても…わたし…」
そんな事言われて、なんと答えたらいいのか…と考える前に、竜児の口は勝手に動く。
「俺は、高須竜児は、運命のイタズラで、お前が俺を殺す事になっても…俺は、
 それを受け入れる」
実乃梨は…もう泣き顔でクシャクシャだった。
「実乃梨!好きだっ!。俺と付き合ってくれ!ジャイアントこんにちはだっ!!!」
竜児はオレンジ色のヘアピンを握った手を、実乃梨に差し伸べた。
「わ…わたしも…竜児くん好きっ…大好き…ふえええっ…」
実乃梨はヘアピンを受け取り、今日最後の涙と共に、竜児の胸に飛び込んだ。
「実乃梨…離さねえ…」

***

次の日の朝。竜児は新聞を読んで知った。都内近辺の夜空に、巨大なUFOが目撃された事を。
それは、輝かしく、綺麗で、美しくて…まるで何かを祝福しているようだったと。
…長い間抱き合っていたふたりは、その祝福に気付かなかったのだ。
106けいとらっ!Eパート4 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/08(土) 01:00:54 ID:k7yPrdMD
ピアノの美しい旋律が響く。
大河は、亜美の希望曲の前奏部を弾きはじめる。

♪hey… ah…ummmm…oh…yeah…

亜美の声は、きれいだ。ピアノに負けず歌声が主張している。金が獲れるレベルだ。

♪簡単には好きにはなれないけど…恋に振り回されたい…

肩を揺らしながら拍子を取る。音楽の女神、ミューズが乗り移ったかのように、
亜美は唄いながら踊り出す。ベリーダンスのような艶かしい動き、ターンする度、揺れる長い髪…
調子の乗るから本人には言えないが、ディーヴァという言葉がぴったりだった。

演出的に、この曲は、亜美と大河だけで演ろうって事にしたのだが…大正解だろう。
竜児は思わず、観客と化してしまい、北村も聞き惚れている…まあ、無理もないのだ。
それは、近い未来。この年の年末に、亜美は銀幕デビューする。そして、竜児の目の前
で揺れている亜美の黒髪は、500万人もの瞳を魅了する事になるのだから…曲が終わる。

「うわ〜、やっぱわたし上手いわ…映画だけでも忙しいのに…カラダが二つ欲しいっ、どうしよっ」
「ばかちー風情がふたりいたら、チョー迷惑っ、まあ、歌はまあまあだけど…
 でもなんか…悔しい…わかるでしょ?竜児っ。この焦燥感っ、不快感っ」
「おまえのピアノも良かったぞ。数回聞いただけで弾けるなんて、俺的に奇跡に近いっ。
 まあ確かに悔しがるほど川嶋が上手かった事は認めるけどよ…」
「おほほほほほっ、あれ?もうこんな時間っ、…いまごろ実乃梨ちゃん、合宿か〜」
「そうだな、今年は男子ソフト部だけなんだが、櫛枝は部長だから、女子ひとりでも、
 行くのは仕方ないなっ」
え?北村が3人の視線を一身に浴びる。
「おうっ?そ…そうなのか、北村?」
「言わなかったか?いやー、櫛枝も、なんだかんだで部員に結構人気あるしなあ、
 あいつも彼氏作る、いいチャンスだろ。はっはっはっ」
「なっ」
亜美が目を細める。エロい目になる。こういう時の亜美は、無敵だ。
「え〜っ?ムサい男祭りの中に、紅一点?…それって…乙女の危機じゃな〜いっ?
 聞いた話だとっ、祐作以上のヌーディスト部員もいるらしいし、あはっヤバめ〜っ!!
 いっくら実乃梨ちゃんだってぇ、複数の男相手じゃあ…実乃梨ちゃ〜ん可愛いし〜…
 まあ私ほどじゃないけどっ」
「おうっ、何言ってんだ?そっそんな事…」
「なによ竜児、分りやすいわね。気になるなら今から行きなさいよ…まあ手遅れかもしれないけど…」
気になるっ、でも昨日誓った、抱きしめた…でもっ

「なんだ高須?大丈夫だ。去年なんかは、合宿で5組カップル出来たんだぞ。安心しろ!!」
笑い出す亜美、頭抱える大河、もう6時を回っている、この時間から電車だと無理だ。

「北村っ、お前の兄貴のバイク貸してくれ、頼むっ」
107けいとらっ!Eパート5 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/08(土) 01:03:31 ID:k7yPrdMD

山梨県の河口湖までは高速で約2時間弱。竜児は北村の兄のビッグスクーターで高速を走る。
買ったばかりで、まだ新車の匂いが残っている。竜児はもちろん免許がない。
「実乃梨っ…」
信じていない訳ではない、しかし…心が黒くなる、嫌な感じだ。カーナビが方向を指示する。
竜児はスロットルを全開。500ccのエンジンは、それに従い、ツインエンジンの甲高い音を奏で、
スピードメーターを振り切り、漆黒のハイウェイを切り裂いていく。

***

ペンションでは、部長との別れを惜しむ、ムサい男祭り達が、入り口に集結していた。
「なんだいなんだい、お前達、そんな永遠の別れでもないのに、大袈裟じゃのお」
男子部員どもは、先に帰ってしまう部長、実乃梨との別れを惜しんでいた。
じゃあ、あたしゃ、帰るから〜っと言ってから、もう30分経つ。もうすぐ最終バスだ。

本当は2泊の合宿だが、実乃梨の実家は無人だし、やっぱりエロゲーじゃない限り、
女子ひとりでお泊まりっていうのも禁忌な事。最終バスで帰る事にした。
男子に勝る、実乃梨の卓越した実力を認め、普通に別れを惜しむ者、
邪な考えを持っている者、おいおい泣き出す者…実乃梨は大人気だ。
そして…1人くらいいるのだ。その部員は思い切って実乃梨に告白し…瞬殺。

「いや〜っ、ゴメン。わたし彼氏いるんだわっ」
うおおっ!と絶叫する部員しかし、周りに慰める仲間達がいる。大丈夫だ。
おっ?最終バスが着たようだ。…あれ?バスじゃない…それは、ものスゴい勢いで
迫って来て、ものスゴい勢いで、実乃梨達の目の前で急停車した。バイクだ。
そして…バイクは、ガシャッと倒れる。ライダーも転がっている。

「実乃梨っ!…お…おうっ…転んじまった…」
実乃梨の彼氏様が到着した。

***

ETCが故障してしまったのと、外装が壊れたまま高速に乗るの事を、
不安に思った竜児と実乃梨は、道志みちという、一般道を疾走していた。
「えへっ…竜児くんってさ、やっぱり…素敵だねっ。もう予想GUYって感じ…」
山間の一般道は、真夏と言えど、少し肌寒い。実乃梨は竜児をギュウっと抱きつく。
「お…おう、俺もなんで今、実乃梨とバイク乗っているのか、意味判らねえ…」
「うふーん?竜児くんさっ、わたしの事言えないよね〜、心配だったんでしょ?」
「う…、いや、信用してない訳じゃあねえけど…気がついたら…すまねえ」
「あやまることないよ。わたしも同じ事するかもよ?似てるのかな?わたしたち」
実乃梨は安心する。嫉妬してくれて、ちょっと嬉しかった。もしかして、竜児なら、
本当に、以心伝心出来るのではないかと思った。念ずれば、竜児は実乃梨の事…
実乃梨は念じてみた…

「おうっ、停まったっ、ガス欠だ…」
やっと、山間を抜け、湖が見えたと思った所で停まってしまった。
数十メートル先を見ると、明かりが見える。…いわゆるラブホテルだ。

「そこまでは念じてねえんだけど…」
エスパー実乃梨は、今後あまり力を使わないように決意するのだった。

108けいとらっ!Eパート6 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/08(土) 01:06:05 ID:k7yPrdMD

「…竜児くんっ!はっ恥ずかしいからっ!早く選んじゃって!」
「おおうっ、そうなんだが…やり方が判らねえ?ボタン?どっどこにする?」
「どこでも良いぞっ、うわわわ、誰か来たっ…ヤバいヤバいひえええっ」
「なっなんで隠れ…おうっ…」
ホテルのロビーで、暴走状態になったふたりは、何故か…観葉植物の影に隠れる。
実乃梨の身体が密着する。密着する部分に、竜児は全神経を集中してしまう。
…ねえ、どの部屋にする?…ここっドリームチェアー完備だって…え〜エッチッ…
そして、カップルは部屋に消えた。

「ちょちょっと、竜児くん!!どっ…どりいむちぇあーって何ぞ?うああああっ」
「しっシラねえよっ、なんだ、その…何にも浮かばねえ!!ラブホっ!深えっ!」
「わわっ、また誰か来たっ…隠れろっい!竜児くんっ、とりゃあああっっ!」
またもや観葉植物の影に潜む。もうノゾキだ。犯罪スレスレじゃないのか。
…ええ、どこでもいいですっ…一番安い所で…いいんです、大丈夫ですから…
…わたしみたいな三十路過ぎの独身…ええ……じゃあ…行きましょうか…
そして、カップルは部屋に消えた。

「…竜児くん、今のヒト知ってる?顔見えなかったけど…」
「知らない人だった。と思う。大丈夫だ。さあ、俺たちも部屋を選ぼう…」
冷静になったふたりは、最後の1部屋のボタンを押す。満室のサインが点灯した。

***

「…どこの部屋だ?…おうっ、ここかっ」
部屋のプレートが点灯している。ガチャッ…鍵も開いている。
「おじゃま…しまっおうっ」
「もうっ、竜児くんっ!恥ずかしーよっ!早く部屋に入って!ええいっ!」
ドンッと、背中を押される竜児。おおうっと、転げるように部屋に入る。
雰囲気も何も、あったもんじゃない。まあ、俺達…らしくていいのかも。

ゴージャス。そんな言葉がぴったりの部屋だ。ホテルの最上階だった。
「おうっ、広いなっ、なんかラブホって、もっと、狭くて、汚くて、臭いイメージが…」
「見てっ、竜児くんっ、お風呂場すっげーよっ!ライオンの口からお湯が出るのっ!」
「どれっ、おおうっ、広くて、清潔だっ、プロの仕事だな!すげえ…」
バスルームの隅から隅までピカピカ。ポケットに忍ばした高須棒の出る幕は皆無だ。
感心している竜児に、実乃梨はプイっと、ふてくされる。
「あのさーっ…竜児くん…別にいいんだけどさっ。か…彼女とホテルにいるんだよ?
 その…もっと、なんつーかよっ、いや、なに…あはは、な〜に、言ってんだろ…わたし」
床に目を落としてしまった実乃梨だが、真っ赤な顔が、竜児には見えてしまっている。

「実乃梨…正直言うと、俺も、どうしていいのかわからなくて…現実逃避というか、
 誤魔化しているというか…なあ、直球でいいか?」
竜児も顔が真っ赤になる。本当に緊張しているのだろう、心臓の音が聞こえる。

「直球?あははっ、いーよっ、直球勝負。好きだぜっ。よしっ、どんとこいっ!」
両手を挙げた実乃梨を…竜児は…抱きしめた。耳元でささやく。
「好きだ…、実乃梨。その…やりてえ…」
竜児の直球は、実乃梨のど真ん中に突き刺さる。実乃梨は一瞬、液体になった気がした。

109名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 01:17:59 ID:y7nINqeZ
独身、何があったの
110名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 02:02:43 ID:4acHWkLk
>>108
え!?独sry
いやそこはあえてドライブスルーだよな・・・
乙女なみのりかわいいよGJ
111SL66:2009/08/08(土) 05:50:41 ID:ndSpjNGs
30分後に、「指輪(後編)」を71レスのうち19レスほど投下します。
オリジナル臭ふんぷん、修羅場ありですが、圧倒的な描写で抵抗なく読めるようになています。

では、しばしお待ちを…。
112名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 05:53:50 ID:x+9Ty3Kg
この男意思弱すぎだろ

惚れる要素もないし父親諦めるし普通に好きになってるし。

この展開のための適当な設定にしかみえないんだが

あと男と大河のセックスシーンは絶対書くな。結婚式も。つか男の名前なんなんだ?
113指環(後編) 1/71 by SL66:2009/08/08(土) 06:23:03 ID:ndSpjNGs
 築二十年の、いささか老朽化した賃貸マンショに籠もっての肉体労働は、四日目になろうとしていた。
 最初の頃は、重たい建材の運搬やら、出てきた廃棄物の撤去やら、何ら技能を要しない仕事ばかりだったが、それも
風向きが若干だが変わってきた。
 丁寧な建材の置き方や、作業用のブルーシートを展開し、撤収する時の作業の的確さに職人のリーダー格である
サブが注目し、戯れ半ばといった感じだったが、竜児にクロスの張替えをさせてみたのだ。

「タカ、おめぇは手先が器用そうだし、何より、やることが丁寧だ。仕事は何でもそうだが、雑なのは一番いけねぇ。その
点、丁寧なおめぇは、掃除や建材運びのような単純作業よりも、多少は手先を使うような仕事を、ちょっくら試しにやって
もらうぜ」

 サブの言葉に竜児は、三白眼をきょとんとさせて、面食らったが、作業場ではサブには従わねばならない。
 竜児は、「へい!」と、声だけは威勢よく応答した。

「いい返事だ。取り敢えず、あそこの壁のクロスを貼り替えてみろ」

 サブが指差した箇所には、薄汚れ、所々が擦り切れたクロスが貼られたままだった。

「あそこですかい? てぇことは、あの古いクロスを剥がさにゃなりませんぜ」

 演技のつもりであったが、何だかサブの物言いにシンクロしているのか、バイト中は、任侠物のキャラクタのような
口調になってしまっている。それが、竜児本人にとっても、可笑しかった。

「おう、そうだったな。古いクロスはリムーバーで剥がすんだ。それには、あれが要る。タカ、ちょっと、俺についてきてくれ」

 サブは思い出したように機材を格納しているワゴンへ向かった。竜児もそのサブの後を追う。

「え〜と、お前の顔に合いそうな面は、っと…」

 その大型ワゴンの、本来なら最後部座席があるべきところに据えられた棚から、サブは鼻と口元だけを覆うマスクを
いくつか取り出した。マスクはゴムかプラスチックかでできているようで、先端部分には、フィルタをねじ込んで取り付け
るためらしい螺旋が設けられている。
 サブは、そのうちで、一番大きそうなマスクを選ぶと、アルコール系らしい匂いがするスプレーを顔面が接する部分
からマスク内部に吹き付けた。洗浄と滅菌のつもりらしい。

「これを着けてみろ」

 洗浄されたマスクが竜児に手渡された。そのマスクには、ゴムのベルトが取り付けられており、そのベルトを後頭部に
巡らせてマスクを鼻先に固定するものらしい。
 今までの作業では、不織布に活性炭を挟み込んだ簡易マスクが渡されていたが、このようにフィルタが交換でき、
顔面に密着する防毒面は初めてだ。それだけに、リムーバーに含まれる有機溶媒には、相応の毒性があるのだろう。
 竜児は、消毒されたばかりのマスクを口元に当てた。アルーコール特有の匂いと、それを不快なものとさせないため
なのか、ほんの少しばかりミントのような人工的な香りがする。そのまま、ゴムのベルトを後頭部に回して、マスクを固定
した。

「こんなもんですかい?」

「どれ…、ちょっと、見せてみろ」

 サブが、竜児のマスクの装着具合をチェックすべく、マスクを掴んで軽く揺さぶった。

114指環(後編) 2/71:2009/08/08(土) 06:25:17 ID:ndSpjNGs
「どうだ? こうしてマスクを揺すられた時に、鼻でも、頬でも、顎でも、何でもいいから、どっか隙間ができているような
感じはしねぇか?」

「大丈夫みたいですぜ」

 マスクは、竜児の鼻先をすっぽりと覆い、顔面に接するゴムのスファスナー状の部分も、肌にぴったりと密着しており、
隙間などはなさそうだ。

「そうか、じゃぁ、これからこの面は、お前専用ってことにしておく。あとは、こいつに吸収缶を取り付けるんだ」

 サブは、別の棚からマスクに取り付けるフィルタである新品の吸収缶を一個取り出した。その吸収缶は、ビニール袋
で密封されていたが、サブはそのビニール袋破って、吸収缶そのものを露わにする。
 破られたビニール袋には、『有機溶剤用吸収缶』と言う文言が記されていた。

「お〜し、タカ、こいつを取り付けるから、ちょっくら面を外してくれぃ」

「へぃ」

 サブの塩辛声に命ぜられるままに、竜児はマスクを取り外した。束の間、それもフィルタなしで装着していただけだが、
夏場だけに蒸れそうな感じは否めない。

「吸収缶は、開封しちまったら、もうダメなのさ。使いきるしかねぇ。面に付けて息をしなくたって、空気中の汚れを吸って
寿命が来ちまう。だから、吸収缶は毎日交換するんだ。
でねぇと、肝心の作業の時にリムーバーに含まれている有機溶剤をこっちが吸わされるはめになるからな」

 そう言いながら、サブは竜児専用となったマスクに手にした吸収缶をねじ込み、吸収缶を保護するためのカバーを
取り付けた。

「着けてみろ」

 サブから手渡されたマスクを竜児は装着してみた。
 吸収缶が取り付けられると、それが抵抗になって、心持ち息苦しいような感じになる。しかし、それは想像していたよりも
軽く、この程度であれば、さほど不快なものではない。
 それよりも、蒸れる感じの方が問題だった。

「ちょっと、暑苦しいですぜ…」

 マスク越しにくぐもった声で、竜児はサブに忌憚ない意見を述べた。吸収缶と弁が付いた排気口以外は外界と隔絶
されている防毒面だから当然である。

「まぁ、有機溶剤を直に吸わされるよりは遥かにましだ。その点は、我慢しろ」

 職人のリーダー格のサブは、意外にも理をわきまえた人物であるらしい。当たり前のことを不服として言われても、
少なくとも竜児に対しては、頭ごなしに怒鳴りつけるようなことはしない。

「面を着けたなら、さっそく、古いクロスを剥がして、新しいクロスに貼り替えだ。まずは、リムーバーを古いクロスの上に
塗ってみろ」

 現場に戻った竜児は、サブの指示で、浸透性がよさそうな透明な液体を古いクロスの部分に刷毛で塗りつけた。
 本来ならその液体に含まれている有機溶剤の強烈な臭いがすることだろう。しかし、有機溶剤専用と銘打たれた
115指環(後編) 3/71:2009/08/08(土) 06:29:10 ID:ndSpjNGs
吸収缶の威力は絶大だった。

「塗ったら、古いクロスが浮き上がってくる。そいつを丁寧に剥がすんだ。部分的に固着しているような箇所があったら、
そこには改めてリムーバーを塗り付ける。力任せに引っ張るのは絶対にダメだ」

 マスクのせいで、サブの塩辛声がいっそうひび割れて聞こえる。
 それにしても、内装業も家事に相通ずるものがあるようだ。炊事でも、掃除でも、裁縫でもそうだが、とりわけ、裁縫で
は丁寧な作業が求められる。
 裁縫では、縫い合わせるべき部分を正確に合わせ、糸が絡まないように、慎重に針を運ばなければならず、
糸の滑りが悪いからといって、力任せに引っ張るのはご法度である。

「よし、綺麗に剥がせたな。ほんじゃ、リムーバーをもう一回塗って、壁面に残っている古いクロスのカスや、
糊を溶かし出して、布切れで拭き取れ」

 再び壁面にリムーバーが塗られた。壁面に残っていたクロスの糊が浮き上がってきたところを見計らって、
竜児は布切れで拭き取った。

「どうにか綺麗になったようですぜ…」

 竜児の言葉にサブも頷いている。ここまでの一連の手際は及第点らしい。

「それじゃ、このまま数分間放置して、リムーバーが完全に揮発するのを待つんだ。その間に、そこへ貼るクロスを切る」

 サブは、専用のカッターにクロスをセットし、竜児に、そのカッターの前に来るように手招きした。

「見ての通り、このカッターは、作業台と定規とカッター本体とが一体となっている。カッターは、所定の幅でクロスを
切断できるようにガイドに沿って動く。後は、そのガイドから外さねぇようにカッター本体を動かすんだ。できるか?」

 竜児は、そう言われて改めて専用のカッターを見た。なるほど、カッターというよりも、一定の寸法でクロスを切断する
ための治具と呼んだ方がふさわしいかも知れない。ガイドレールに従って刃が動くのだから、バカでもチョンでもでき
そうに見えたが、その実、こうした物は意外に扱いが難しい。力の加減を間違うと、カッター本体があらぬ方向へ逸れて、
大変なことになるだろう。

「できやす、やらしていただきやす」

 クロスがやわな素材だから扱いが簡単ではないのだ。
 だが、竜児であれば、裁縫を通して、布地などの軟質な素材の扱いには長けている。

「やってみろ…、うまくいったらお慰みだ」

 いつしか、春田やノブオやテツも作業の手を止めて竜児の一挙手一投足に注目していた。
 鮫のように感情が窺えないテツの目は相変わらずだが、春田の目には驚きの色が、ノブオの目には、一種の嘲りにも
近い、悪意の色が浮かんでいた。
 どうやら、見た目以上に難しい作業であるらしい。

「じゃ、いきやす…」

 竜児は、刃先がクロスと干渉する微細な感触を捉えることに神経を集中させた。
 カッター本体の刃先が、樹脂製のクロスに接触し、それを切り裂いていく感触が指先に伝わってくる。
 竜児は、その感触が絶え間なく指先に入力されるように、一定の速度でカッター本体を動かすことを心がけた。
116指環(後編) /71:2009/08/08(土) 06:30:01 ID:ndSpjNGs
 カッター本体の移動速度にムラがあると、クロスが歪み、所定の寸法で切断できないに違いないからだ。

「あと、一息…」

 曲がりなりにも建材の一種なので、貼るべきクロスの寸法は、かなり長い。
 その長い距離を、竜児は、ペースを一定に保持したまま、カッターを最後まで引き切った。

「できやした…。どうです? サブ兄ぃ」

 そう言いながら、竜児は、自身の額に玉のような汗が吹き出ていることに気付いた。
 精神を集中していたためなのだろう。その汗を首に巻いていたタオルで拭う。

「ふ〜む、こいつぁ…」

 サブが、竜児が切断したクロスを前に唸っている。
 ミスをした覚えはなかったが、やはり素人では職人の目に適う切り方はできなかったのか、と竜児は思った。

「てぇしたもんだ…」

 その声に春田も、ノブオもテツも驚いたが、何より驚いたのは竜児本人だった。

「サブ兄ぃ、今、何て言いやした?」

 竜児は、迫力のある三白眼を丸く見開いてサブを見た。その竜児の三白眼が、敵意のない無害なものであることを
既に承知しているサブは、にやりとしながら竜児に向き直った。

「タカは器用な奴だとは思っていたが、ここまで出来るとは俺も正直思っていなかった。大概の初心者は、簡単だろうと
嘗めてかかって、いい加減に刃先を動かして、まっすぐ切れないってのが普通なんだが、お前はそういうスットコドッコイ
とは違うらしい」

 そう言って、サブは春田、それにノブオとテツを一瞥した。
 その一瞥で、春田とノブオは恥じるように首をすくめたが、テツは鮫のように冷たい眼で、サブと竜児を睨んでいる。
 その剣呑な雰囲気に、竜児は息が詰まる思いだった。職人は三人居るが、その存在は一枚板ではないらしい。
 雇い主である春田の親父に忠実で、技量があり、人格もそう悪くないリーダーのサブと、技量はあるようだが、陰険な
性格で、潜在的にサブや春田の親父、それに竜児を敵視しているテツ、ガタイはでかいが、気弱で、テツに引きずられて
いるようなノブオといったところのようだ。
 テツは、ひとまずは大人しくしているが、何かのきっかけで突発的に造反するような危うさが感じられる。
 やはり、この男、かなり危険な存在であるようだ。

「うわぁ~、高っちゃん、初めてなのにこんなに綺麗に切れるなんて、大したもんだよ」

 そして、『ボン』と呼ばれる春田は、そうした職人たちの険悪な対立など意に介さぬように、実に脳天気に竜児の仕事
を称賛している。やはり春田は春田なのだ。

「ボンの言う通りだ。初めてとは思えねぇほど完璧な切り方だ。よし、タカ! こいつをさっきの場所に貼り付けるんだ。
きっちり所定の寸法に切られているから、後は、最初に貼る位置をきっちり決めておくことに注意するんだ」

 竜児は、切断したクロスを所定の場所に位置決めして、壁の上から下へ徐々に貼り付けていった。クロスの裏側には
糊が付いているので、貼るのは簡単だが、ちょっとでもいい加減に作業すると、気泡を取り込んだり、シワになりやすい。
竜児は、障子や襖の張り替えのコツを思い出しながら、丁寧な作業を心掛け、慎重に貼り終えた。
117指環(後編) 5/71:2009/08/08(土) 06:31:11 ID:ndSpjNGs

「どうですかい?」

 作業を終えて、額に浮き出た汗を拭いながら、竜児はそう言って、サブの評価を待った。
 そのサブは満足そうに頷いている。

「上出来、というか完璧と言ってもいい。親父さんは、お前を下働きとして雇ったのかも知れねぇが、俺は、職人に近い
技量を備えた奴として、仕事をしてもらいてぇと思っている。何せ、これからもっと大きな部分のクロスを貼り替えなきゃ
なんねぇ。それには職人が二人一組になる必要があるんだが、あいにくとボンにはそうした技がねぇ…。
だが、お前が居るなら、ちょっとばかり話が違ってくるってもんだ」

「へ、へぃ…」

 意外な展開に竜児は戸惑った。そりゃ、単純な肉体労働よりも、技能を要する仕事の方が面白い。しかし、つい数日
前にこの仕事にかかわったばかりの竜児が、職人たちと同じような仕事を任されるというのは、作業場の雰囲気を考え
ると、素直には喜べない。

「お前は、俺と一緒になって、クロスの貼り替えや位置決めをして貰おう。もちろん、クロスの切断もやってもらう。お前が、
職人並に働けるとあれば、俺とお前で一組、ノブオとテツとで一組が出来上がる。こうすれば、作業の効率が予定よりも
上がるってもんだ」

 案の定、ノブオが不満丸出しの仏頂面を浮かべ、テツが鮫のように無感情で不気味な眼を竜児に向けている。
 竜児がここに来る前の、サブ、ノブオ、テツの関係がどういったものなのかは分からないが、元々、サブと残り二人の
職人、とりわけテツとはあまり相性がよくなかったのかも知れない。

「その相性の悪さを、俺がさらに悪化させちまったのかも知れねぇ…」

 サブが自分を評価してくれるのは嬉しかったが、あと六日、無事に作業を終えることが出来るかどうか、
竜児はますます不安になってきた。

 その後はサブとペアになって、竜児はクロスの貼り替えや、フロアシートの貼り替えに専念することになり、資材運び
や掃除は、竜児も行うが、専ら春田の役目になった。春田は、「高っちゃんはいいよなぁ…」というぼやきを漏らしたが、
それだけだった。社長の息子とは言え、リーダーであるサブには絶対服従ということらしい。

「よぉし、今日は仕事がはかどったから、予定よりも早めに撤収するぞぉ!」

 午後四時、テツの塩辛声で、その日の作業は終了となった。サブも含めた一同は機材や資材を片づけ、ワゴンへと運
んだ。そして、事務所である春田の家に戻って、その日の進捗状況の報告を終えて、いつものように解散となった。

「ほんじゃ、お先に失礼します」

 竜児は、職人たちが全て帰り、最後の一人になってから、春田の親父に会釈し、居合わせた春田に、
「明日も頑張ろうぜ」と言って帰宅した。
 初日は解散したのが六時近かったが、今は未だ五時前だ。これならスーパーかのう屋に寄って、
夕食の食材を買って帰ることができるだろう。
 Tシャツからは塩を吹き、全身は埃で薄汚れていたが、銭湯に寄っていくのは控えることにした。
 何よりも腹を空かせた泰子のために夕食の支度をすることが先決だったし、帰宅したら、そのまま浴室に飛び込んで
シャワーを浴びてしまえばよい。

 亜美が居ない、泰子と二人きりの夕食を終えると、竜児は、机に向かい、通称『青本』と呼ばれる法律の解説書を開
118指環(後編) 6/71:2009/08/08(土) 06:32:20 ID:ndSpjNGs
いてみた。法律への理解力が未だ乏しい竜児にとって、その記載が意味するところを正確には把握できないが、
そうした箇所は『特許法概説』といった別の専門書を辞書代わりにして理解することにした。

「しかし、やっかいなことを始めちまったもんだ…」

 今さらながら、大変な試験に手を出してしまった、とは思うが、亜美とのことを思うと、何としても合格しなければなら
ない。不慣れな法学書を読むのは、苦痛そのものであったが、そこは並はずれた集中力を持つ竜児である。午後九時
に開始したと思ったら、あっという間に三時間以上が過ぎていた。

「今日はここまでにしておくか…」

 この日は、特許法第七十七条から同第八十二条までの規定にある実施権、巷でよく言われるライセンス関係の
項目を勉強できた。亜美が居ない一人きりでの勉強だったが、それなりに捗ったようだ。
 竜児は、本を閉じ、机の照明を消し、室内灯も消すと、携帯電話機を手にベッドにごろりと横になった。

「どうしているかな、あいつは…」

 メールを確認してみると、つい今しがたの午前零時頃に亜美から届いたメッセージがあった。それを選択して、早速、
読み始める。

『我らが同志へ 定時連絡その3
 今夜は、家族三人が顔を合わせることができたので、フレンチのフルコースを晩餐でいただいてきた。レストランは、
いわゆる業界人が多数出入りしているところで、何でそんな俗っぽいところを選んだのか理解に苦しむけど、料理は
それなりに美味しかったと言っておく。まぁ、正直、あんたの作った料理には及ばないけどねぇ。
 しかし、特記すべきは、ママである川嶋安奈が妙にやさしかったこと。
 本人が言うには、今までの親子の確執をなかったものにして、今後は、和やかにいこう、ということなんだけどぉ〜、
嘘臭さ丸出し。聖母のような笑みの裏で、どす黒い陰謀を企てているのは見え見えっぽい。近日中にも何かを仕掛けて
きそうな感じがするから、こっちは油断なく、面従腹背を貫き通すつもり。
 そうそう、明日は、ママからショッピングに誘われてる。注目度が高い川嶋安奈だから、クルマで直接ブティックや
有名ブランドの直営店に行って、何やかや買い漁るんだろうけど、これもどういうつもりなのか…。
 あたしは、冷静に彼女の言動を観察し、その真意を探るつもり。
 あたしの方から定時連絡は以上。
 あんたの方はどう? バイトはうまくやっている? とにかく、ただでさえオーバーワーク気味なんだから無理は
しないで。
 同志亜美より』

「相変わらずだな…。お袋さんに全く気を許しちゃいねぇ」

 それでいて、元モデルで表情を作り上げるのが巧みな亜美のことだ。川嶋安奈に対しても面従腹背に徹することだ
ろう。対する川嶋安奈も業界では海千山千の食えない存在だから、亜美の皮相とも言える作られた表情がどこまで
通用するかは疑問だが、お手並み拝見というところである。

「それにしても、動き出したな…」

 亜美が実家に帰った初日は、母親である川嶋安奈がスタジオでの収録が長引いたとかで、家族揃っての夕食は
ままならなかった。その翌日、現時点から起算すると昨日に相当する日には、今度は父親も不在。亜美は、『こんなこと
なら、あんなに急に呼び付ける必要なんてなかったじゃない!!』という怒りのメールを竜児に送ってきたものだ。
 だが、今日になって、ようやく家族揃って豪華な食事をしたことで、川嶋安奈の思惑通りに事態が進みつつあるような
気がした。

119指環(後編) 7/71:2009/08/08(土) 06:33:27 ID:ndSpjNGs
「物量作戦かな?」

 明日は高級ブティックでショッピングだという。竜児は、一瞬、実家で亜美に贅沢三昧をさせて、大橋でのつつましい
暮らしに見切りをつけさせるつもりかとも考えた。しかし、そうした陳腐な策が亜美には通じないことを、川嶋安奈なら
竜児同様によく知っているだろう。

「だとすれば、どう出てくるか…」

 亜美は、川嶋安奈が竜児の存在を知っているか否かは微妙だ、と思っているようだ。竜児も、その点では、亜美と
ほぼ同意見だが、警戒するに越したことはない。そのため、川嶋安奈は、竜児の存在を把握しているという前提で、
事態に対処すべきなのだ。
 川嶋安奈の思惑は謎だが、その思惑の一つには、竜児と亜美を別れさせることも含まれていると見るべきだろう。

「昔から、男女の仲を取り持つのも、御破算にするのも、既成事実が決め手だよな」

 既成事実と一口に言っても、いわゆる『できちゃった婚』から『見合いで婚約』といった古典的なものまで、実に様々だ。

「しかし、見当がつかねぇな…」

 聡明な竜児ではあったが、こうしたテーマを考えるには、少しばかり、年季が足りないようだし、そもそも、色恋沙汰の
駆け引き、それも、一筋縄ではいかない川嶋安奈が相手では、竜児の手に負えるような事態ではない。
 だが、食えない性悪女である亜美ならば、川嶋安奈の企てを見抜いてうまく対処してくれるかも知れない。
 竜児は、その亜美へのメールで、手先の器用さを職人のリーダーに認められて、単なる下働きではなく、職人と同様
の作業を任されるようになったことを報告し、最後に『海千山千のお袋さんにしてやられないように、十分に注意してく
れ』と、ありきたりな文言で締めくくった。
 良くも悪くも、竜児よりも世間ずれしている亜美のことだ。竜児ごときがあれこれ言うよりも、彼女の勘と判断力に
任せるべきなのだろう。
 竜児は、メールを送信すると、携帯電話機を枕元に置き、タオルケットを掛けて瞑目した.。重い資材運びや、ゴミの
片付けだけという、面白くもない単純作業ばかりではなくなったが、それなりに神経を使う作業を任されるようになった
ため、却って気苦労が絶えなくなった。明日も、そうした精神的にもきつい仕事が待っているのだ。


 翌日も、竜児は、リーダーであるサブに付き従って、クロスの貼り替えに従事した。
 サブは、思いの外、竜児が器用で、しかも指示されたことを的確に理解して行動することに気をよくしているようだ。
 その半面、他の職人たちは心中穏やかではないらしく、特にノブオは、竜児に対する怒りと嫉妬が交錯しているよう
な険悪な面持ちを隠さない。

「お〜し、昼になったから、飯にしようぜ」

 そうした険悪な空気を意に介さないのか、例によってサブは塩辛声での号令を張り上げた。一同はコンビニで買って
きた弁当を広げ、昼食にする。
 郷に入りては郷に従え、ではないが、竜児も自前の弁当は持参せずに、他に倣ってコンビニ弁当に箸をつけた。

「高っちゃん、すげぇじゃん。もう、いっぱしの職人みたいだよ。あの、自分にも他人にも厳しいサブ兄ぃが、あそこまで人
を誉めるのを初めて見たぜ。やっぱ、高っちゃん、大したもんだよ」

 焼きそばパンを頬張りながら、春田が竜児に話し掛けてきた。その春田をノブオが鬱陶しそうに睨め付けている。
 竜児だって、誉められるのは悪い気分ではない。しかし、場をわきまえるべきなのだ。
 それでもなお、「高っちゃん、すげぇ」を連発する春田に対し、「お、おぅ、ありがとよ…」とだけ言って、適当にあしらった。
結局のところ、春田の本質的な部分は、何も変わっていやしない。相変わらずKYなままなのだ。
120指環(後編) 8/71:2009/08/08(土) 06:37:35 ID:ndSpjNGs

 昼食後から午後一時までの数十分は、束の間の休息である。春田や職人たちは、作業の現場であるマンションの
一室に雑魚寝して、惰眠を貪っている。竜児も、暫し横になって、午後の厳しい作業に備えることにした。
 午後一時五分前、それまで死んだように眠っていたサブがやおら起き出し、目をしょぼつかせながら腕時計で時刻を
確認した。

「お〜し、もうすぐ一時だ。そろそろ起き上がって弁当殻を片付けて、午後の仕事に備えにゃならねぇ」

 竜児と春田が、ゴミ袋として用意しておいた大きなビニール袋を持って、職人たちの弁当殻を回収して回る。
 弁当殻やペットボトルで膨れたビニール袋は、ひとまず作業場になっているマンションの一室の玄関に置いておく
ことにした。

「タカ、作業を始めるから、早いとこ面を着けてくれ」

 サブに促されて、竜児は自分専用のマスクを着用した。マスクのスカート部分を顔面にあてがい、ゴムのベルトを
後頭部に回してマスクを固定する。有機溶剤をくまなく吸着してくれるであろう吸収缶は活性炭や不織布がきっちりと
詰まっているためか、息を吸い込む際には、少しだが息苦しい抵抗感があった。

「サブ兄ぃ、準備オーケイです」

 マスク越しでのくぐもった声でそう告げると、同じくマスクを着用しているサブは、リムーバーの缶と専用の刷毛を
指差した。午後も、これを使って古いクロスを剥がし、新しいクロスに貼り替える作業が続くのだろう。
 缶を開け、専用の刷毛を中の液体に浸し、それを古いクロスの上に塗り付けた。リムーバーから溶剤が揮発し、周囲
には異臭を伴う瘴気が充満する。それでも、マスクがあれば、その瘴気も問題ではないはずだ。
 しかし…、不意に、鼻腔と喉を刺すような感覚に、竜児は思わず咳き込んだ。マスクを着用しているにもかかわらず、
シンナーのような刺激臭がする。

「タカ、どうした?」

「兄ぃ、マ、マスクが効きやせん!」

「面が効かない? お前、吸収缶をちゃんと交換しなかったのか?」

 サブが、マスク越しに詰るような口調で言った。寿命が尽きた吸収缶で竜児が作業していたと思ったのだろう。
 だが、竜児は、今朝、たしかに吸収缶を新品に交換していた。午前中も、使用したが、それだけで急激に効力が落ちる
とは考えられない。

「とにかく、ワゴンへ行って、吸収缶を新しいのに交換してこい!」

 サブが、舌打ちしながら、ワゴンのキーを寄越してきた。完全に竜児の失態だと思っているらしい。

「すんません…」

 理不尽な思いではあったが、竜児は、素直にキーを受け取り、吸収缶を交換すべく、サブに一礼して、その場を離れた。
 ワゴンの後部ドアを開け、棚から新品の吸収缶を取り出す。
 そして、その吸収缶を取り付けるべく自身のマスクの吸収缶を覆うカバーを取り外した。

「何だこりゃ?!」

 吸収缶が取り付けられているべきところには、丸めたティッシュが詰め込まれていた。これで、吸気に適当な抵抗が
121指環(後編) 9/71:2009/08/08(土) 06:39:32 ID:ndSpjNGs
あるようにして、着けた直後は、吸収缶が付いていると誤認させたのだ。
 食事中とその後の休憩で、マスクを作業場に置きっぱなしにしていた隙にやられたのだろう。

「悪質だな…」

 すぐに気付いたからいいようなものの、気付かずにそのままだったら、リムーバーに含まれる溶剤で中毒したかも
知れない。

「犯人は、ノブオかテツか…。そんなところだろうな…」

 単なるアルバイトに過ぎない竜児が、リーダーのサブから職人がすべき仕事を任されているのが面白くないのだろう。
それに、事務所での初対面で、連中と睨み合ったのも今となってはまずかったのかも知れない。

「憎まれ役ってぇ訳か…。それにしても油断も隙もねぇ…」

 鬱陶しそうに呟くと、竜児は新品の吸収缶を自分のマスクに取り付けた。今日が終わればあと五日。
 とにかく、気を引き締めて頑張るしかない。


 ちょっとした事件があったその日も、就寝前の午前零時に、竜児は亜美に定時連絡をした。
 もちろん、職場の雰囲気が険悪であり、あろうことか竜児のマスクに吸収缶ではなくティシュが詰められていた、
なんてのは報告しない。当たり障りのないことを書き綴って、送信した。

「あいつからも来てるな…」

 その亜美からのメールには、川嶋安奈とのショッピングの様子がかいつまんで認められていた。
 川嶋安奈は、妙に気前がよく、亜美のためにドレスや、宝飾品を色々と見繕い、購入したらしい。何のつもりかは不明
だが、そうして亜美に買ってやった品々で、亜美をドレスアップさせて、パーティー等に出席させるのではないか、と亜美
は推測している。これについては竜児も同意見だ。
 しかし、今日のところは、川嶋安奈は亜美のためのショッピングを終えると、早々にテレビ局のスタジオに行って
しまったという。そのため、亜美も川嶋安奈が何を企んでいるか、掴みあぐねているらしい。

『さすがに、芸能界で長年君臨するだけのことはあるのか、本当に食えない女。あたしも、この血を受け継いでいるのか
と思うと、何か嫌な気分になる。
 ママは、事務所からクルマを回して、それであたしを帰宅させようとしたけど、それは辞退した。新宿で買い物をした
かったし、もうモデルでも何でもない、ただの女子大生に過ぎないあたしが、そこままでの特別扱いを受ける理由はない
からね。でも、ママが色々と買い込んだものを持って、電車に乗るのだけは勘弁してもらいたかったから、買った物は
すべて配送してもらうようにした』

「亜美の奴も、お袋さんに負けてねぇな…」

 川嶋安奈は、そんなささやかな亜美の抵抗を鼻先でせせら笑っていることだろうが、何でもかんでも唯々諾々として
いるのは、亜美の矜持が許さないのだ。

『帰宅途中、新宿三越の地下にある、製菓・製パン用の材料や器具を売っているお店で、イーストと、小麦の全粒粉と、
ライ麦の粉と、強力粉と、長さ二十センチのケーキ型を買ってきた。これで、パン作りを始めることができる。
 あいにく、黒パンに必要なサワー種はなかったけど、あれは乳酸菌と酵母の混合物だから、プレーンヨーグルトの
上澄みとドライイーストで代用できそうな気がする。
 取り敢えず、実家に戻った午後は、試しに、基本的な白パンを試作してみた。レシピは、ベルリン職業訓練校のものを
援用した。小麦粉と水と塩だけの簡単なパン。
122指環(後編) 10/71:2009/08/08(土) 06:40:57 ID:ndSpjNGs
 しかし、こうした基本的なものこそ、難しいのかも…。どうにか形にはなったけど、ちょっと一次醗酵をさせすぎたのか、
すかすかになっちゃった…。でも、生まれて初めて自分でパンを作ることができた。
 出来上がりは、ちょっと、すかすかなのを除けば、フランスパンに似ている。おやつとして試食したけど、二百グラムの
粉を使ったのに、ぺろりと完食。美味しかったが、しめて、七百キロカロリーは食べてしまったことになる。手作りパンは、
ダイエットの敵かも知れない。
 明日は、今日と同じ白パンを作るか、ライ麦を使った黒パンを試作するか、未定。白パンを作るなら、粉の分量を今日
の三倍くらいにして、家族の分まで焼いてみようと思う。あたしがパンを焼くなんてのを知ったら、パパやママ、特にママ
はどう思うだろうか。ちょうどいいから、大橋で一緒に勉強しているお友達に教えてもらった、とか適当なことを言おうと
思う。その友達を女子と誤認するだろうから、あんたの存在をちょっとばかりは隠蔽できるかも知れない。
 定時連絡は以上。
 同志亜美より』

「すげぇな、初回で何とか焼けたんだ…」

 パン作りは醗酵が難儀なのだが、夏場ということが幸いして、うまくいったのかも知れない。
 だが、それを割り引いても、初めてで、ちゃんと食べられるものができたのは、驚きだ。

「結局は、思考力の問題なんだろうな」

 レシピはドイツの標準的なもののようだが、単にそのレシピをトレースするだけでは、うまくいかないのだろう。
 なぜ、粉と水を十分にこねるのか、醗酵に最適な温度は、ということを考えながら行う必要がある。経験もなければ
勘もない初心者が成功するには、科学的とも言うべき思考力こそが重要なのだ。
 現に、竜児はそのように考えながら調理しているし、亜美もそうなのだろう。

「モデルとしてそこそこ成功したのも、あいつには他にはない思考力があったからなんだろうな。何かを考え、行動して
いる奴と、そうでない奴とでは、どんな分野であっても、差がつくもんだ」

 それに、亜美は直感にも優れている。この直感と思考力をもってすれば、あの川嶋安奈も出し抜いて、別荘の鍵を
もらって大橋に戻ってこられるかも知れない。

「しかし、あいつがお袋さんをどうやったら出し抜けるのか、俺にはさっぱり見当もつかねぇ…」

 攻守の別を言うとすれば、川嶋安奈は攻め手であり、亜美は守り手だ。相手の攻撃をかわしながら、反撃に転じる。
柔道で言えば、巴投げのような捨て身の攻撃をしなければならない。

「受け身を取りながら反撃する…。言うは易しだが、行うは難しだな…」

 少しでもしくじれば、自滅する危うさを孕んでいる。
 竜児は、大きくため息をついて、照明を消してベッドに横たわった。
 亜美のぬくもりが恋しかった。竜児には、その亜美が無事に戻ってきてくれることを願いつつ、深い眠りに落ちていった。


 油断も隙もない剣呑な雰囲気の中で、竜児はサブに付き従って黙々と作業をこなしていった。
 もう、マスクは肌身離さず持ち歩くようにし、靴を脱いだら、再度履くときには、逆さに振って画鋲とか釘片とかの鋭利
な物が仕込まれていないかのチェックを徹底した。疑心暗鬼にかられているとも言うべき状況であったが、再び何かが
起こってしまうよりも、それを警戒して対処する方が賢明だ。

「タカ、本当におめぇは手先が器用だな」

 クロスを手際よく、正確に切断し、それを的確に壁面へ貼り付ける竜児を見て、サブが感嘆するように唸った。
123指環(後編) 11/71:2009/08/08(土) 06:43:04 ID:ndSpjNGs
 家事万能であることが、経験上生きているのだろうが、元を正せば、思考力の問題なのだ。亜美の初めてのパン作り
ではないが、経験も勘もない初心者は、考え抜いて解決を図るしかない。そして、自らの思考力で問題解決ができれば、
それを糧に更なる上達も見込める。これは、勉強や研究における法則のようなものだが、それらに限らず、広く技術や
技能に係るものにもあてはまるのだろう。

「タカのおかげで、だいぶ作業がはかどったぜ。この分なら、期日中に作業を完了できそうだな」

 作業六日目は、こうして平穏に終わった。


 いつものように、青本と条文集での勉強を終えると、竜児は、ベッドに横たわって、亜美への定時連絡を行った。
 亜美からの連絡も実家に戻って五日目は特に警戒すべきことはなかったようだ。
 川嶋安奈に引っ張り回されるようなこともなく、一日中家に籠もっていたらしい。そのため、パン作りを試すには絶好
の機会であったようだ。

『我らが同志へ 定時連絡その5
 今日は、ママも私を連れて出かけることはなかったので、じっくりとパン作りをすることができた。
 まずは、昨日、醗酵させ過ぎで、ちょっとすかすかになっちゃった白パンを作った。材料も昨日の三倍量とし、パパや
ママにも食べてもらえるようにした。粉が多いとこねるのが大変だったけど、これなら前腕や大胸筋を鍛えられそう。
ジムでマシントレーニングをするよりも何倍も楽しいし…。その後は、昨日失敗した一次醗酵の温度と時間に留意して、
適温のオーブンで焼き上げた。結果は、大成功。これなら、お店で売ってるパンにもそれほど見劣りはしないと思う。
 これに気をよくして、さらに黒パンであるミッシュ・ブロートも試作した。
 サワー種がないのが難点だったけど、ドライイーストとヨーグルトの上澄みを混合したもので代用したら、それなりに
納得のいくものが焼き上がった。技術的には、白パンよりも黒パンの方が難しいらしいけど、サワー種を使わない簡易
な方法をとったこともあって、あたしにはそれほどでもなかった。これなら、別荘でも焼けそう。
 で、夕食では、あたしが作ったパンをパパとママに試食してもらった。
 外交辞令って感じもしたけど、二人とも、おいしい、とは言ってくれた。ただ、パパは黒パンを特に好んだけど、ママは
黒パンをセレブにふさわしくない貧乏くさい代物と感じているみたい。“ちょっと、素朴過ぎるわね…”、とか言っていた。
 この言動にママの経歴がにじみ出ているような気がする。ママは過去を話したがらないし、あたしも詮索しないように
しているんだけど、女優として成功する前のママって、決して裕福じゃなかったんだと思う。
 で、セレブになった今は、その反動で、きらびやかなものばかりに執着し、そうでないものは貧乏くさいから、我が身か
ら遠ざけているみたいな気がする。
 そんなママだから、あたしを劇団に横滑りさせて、親の七光りで女優として成功させようとしていたんだろうね。
 小娘が何の援助もなく、徒手空拳で頑張ることがいかに大変かを身をもって経験しているママだからこそ、そうする
ことが娘であるあたしにとって最良だと思ったんだ。
 そうなると、そのママの思いを踏みにじったあたしって、本当に親不孝だな…。
 ごめん、なんか書いていて鬱になっちゃった…。今日はここまでにしておく。
 定時連絡は以上。
 同志亜美より』

「う〜ん…」

 亜美からのメールを読み終えて、竜児は暗い天井を見上げて、しばし考え込んだ。
 川嶋安奈のパンの好みから、そこまで分析できる亜美も大したものだが、川嶋安奈の過去というか深層意識という
ものが、今回は重要なファクターになりそうな気がしたからだ。
 川嶋安奈は、『きらびやかなものばかりに執着する』と亜美は書いてきた。テレビで見る本人は、あくまで芸能人に
してはだが、比較的地味な装いであることを鑑みると、『付加価値があるものに執着する』と言い換えてもよさそうだ。
 付加価値がどういうものかの定義は難しいが、社会通念的にその存在が一般に認められているものと考えていい
かも知れない。物であればブランドであり、人であれば資産の有無や地位の高さということになるのだろう。

124指環(後編) 12/71:2009/08/08(土) 06:45:28 ID:ndSpjNGs
「俺には、そのどれもが無縁だからなぁ…」

 竜児は、目をつぶって、深くため息をついた。今の竜児では、川嶋安奈の眼鏡にかなう存在とは言い難い。
 だが、それが何だというのだ、といった敵愾心にも似た気持ちが、むくむくと湧き上がってくる。
 川嶋安奈が認識している付加価値が、物であればブランドで、人であれば資産や地位であるとするならば、何と俗な
価値観であることか。
 いみじくも亜美が指摘したように、己れの出自の卑しさをことさら否定するために、富や名声に固執しているとしたら、
かなり救いのない女であるに違いない。
 その瞬間、竜児は、あることに思い至り、携帯電話機を再び手にして、亜美に対して再度のメッセージを送信した。


 竜児にとってバイト七日目のその日は、特に不穏な動きはなく、終止平穏であったが、亜美にとって実家での六日目
に当たるその日は大きな動きがあった。
 その日、昼食後の昼休みにメールを確認していると、『緊急連絡』と銘打たれた亜美からのメッセージが届いていた。
暗黙の了解と言う訳ではないが、互いに『定時連絡』として、午前零時頃にメッセージを交換するのがここ数日のお約
束になっていた。例外的に、相手のメッセージに対して返信することはあるが、それもほとんどが夜間での通信である。

「何かあったな…」

 竜児は、そのメッセージを選択して、黙読した。

『我らが同志へ 緊急連絡!
 今朝になって、ママから、今夜日比谷のホテルで行われる与党の大物政治家のパーティーにママと一緒に出席する
ように言われた。その時のママは、物腰は穏やかだったけど、有無をも言わせない圧力があって、ほとんど命令も同然。
正直、罠が仕掛けられているのが見え見えっぽいから、出席なんかしたくないけど、面従腹背を貫くのであれば、
にっこり笑ってママに同伴するしかない。
 一昨日、ドレスやら何やらを買い漁ったのは、やっぱりこのためだったんだね。買ったドレスは三着だったから、今日を
含めても、こんな茶番が少なくとも三回はあるってことなんだろうね。もう、うんざり…。
 とにかく、どんな時でも冷静に対処して、敵の術中には嵌まらないようにするつもり。
 それと、昨日は返信でのアドバイスありがとう。あんたのアドバイスに従って、ICレコーダーを潜ませておく。
 はっきり言って誉められた行為じゃないけど、ママを追い詰めるネタが拾えればめっけもんだね。
 緊急連絡は以上。今夜の首尾は追って報告するつもり。
 同志亜美より』

「茶番か…」

 親子で腹の探り合いをやっている。これが茶番でなくて何であろうか。
 川嶋安奈も亜美にはギリギリまでスケジュールを明かさないらしい。そうやって、亜美をきりきり舞いさせて、屈服させ
ようというのか、それとも、単に手の内を探られないようにしているだけなのか、どっちにしても、ガキ臭い幼稚なやり口だ。
 クールだと業界で畏怖されている川嶋安奈だが、その実、メンタリティーは、十代の小娘とさほど違いはないのかも
知れない。

「高っちゃん、しかめっ面してぶつぶつ言ってさぁ、第一、茶碗がどうかしたの?」

 つい亜美のことを考え込んでいて、横合いの春田の存在を忘れていた。
 しかし、『茶番』を『茶碗』と聞き違えるとは、いかにも春田らしい。竜児は、引き締めていた相好を崩して苦笑した。

「な、何だよ、高っちゃん。今度は急に笑ったりしてさぁ…」

「お、おぅ、すまねぇ。ちょと、考えごとをしてたんだけどよ、お前の何気ない一言で、何だか救われたぜ」
125指環(後編) 13/71:2009/08/08(土) 06:46:49 ID:ndSpjNGs

「はぁ?」

 春田が、意味不明とばかりにアホ面を歪めている。竜児は、そんな春田を見て、何だか微笑ましいような気分になった。
KYな春田だが、時には心の救いになることもあるようだ。


 仕事を終えて帰宅した竜児は、入浴と泰子との食事もそこそこに携帯電話機を手に亜美からのメッセージを待った。
 まずは、午後七時頃に亜美からの第一報が届いた。

『我らが同志へ 緊急連絡その2
 今、ホテルに設定されているパーティー会場に到着して、さりげなく辺りを窺っているところ。
 それにしても、政治家のパーティーなんだから当然なんだけど、政治に疎いあたしでも新聞やテレビで見聞きした
政治家とか財界人が脂ぎった顔つきで、ぞろぞろやって来ている。
 それに、芸能人、特に女優とか、女性タレントとかがやけに目立つ。出席している政治家とか、財界人とかの愛人やっ
てる奴も多いんだろうね。うわぁ〜、生臭い!
 そんな中、ママはそうした政治家や財界人の間を、ひらひらと蝶が舞うように行き来して、しきりに愛想を振りまいてい
る。パパが居るってのに何やってんだか…。
 以上、取り急ぎ報告。
 続報は、可能であれば行うつもり。
 同志亜美より』

「始まったな…」

 簡略な文面からでは、パーティーの詳細な様子は分からないが、雰囲気は何となく把握できた。思ったよりも大物が
揃っているらしい。
 パーティー自体は、よくある立食形式のものだろうが、そういう形式だからこそ、他の出席者と会話する機会に恵ま
れるというわけだ。

「で、あれば、亜美を誰かに引き合わせるつもりなんだろうな…」

 政治家、それに財界人というのが曲者だ。
 そういった連中に亜美を紹介するつもりかと思ったが、老いても劣情することは忘れない生臭い政治家や財界人は、
モデルを引退した亜美を愛人候補程度にしかみなさないだろう。
 家事も育児も、多分放ったらかしだった川嶋安奈とはいえ、一応は母親だ。娘の幸せを願っていることだろう。そうで
あれば、パーティーでの成り行き上は別として、そんなエロ爺に亜美を好んで引き合わせるとは考えにくい。

「では、このパーティーで、川嶋安奈は何を企む?」

 竜児は、改めて、亜美からのメールによる情報と、テレビ等から得られた川嶋安奈のプロファイルを検討してみた。
 無学だけれど、計算高く、人一倍上昇指向が強く、貧しかったであろう過去を明かさず、それを振り返らない。
 そして、亜美が女優になることを放棄させた原因が男であることを勘付いているであろう、亜美の実母。

「成り上がりセレブである自己を満足させ、かつ、亜美が引退したことの間接的な原因を排除するには、どうするか…」

 古典的でベタなやり口だが、結局は『玉の輿』を目論んでいるらしい。
 であれば、パーティーで亜美に引き合わせるのは、政財界の大物の御曹司か何かだろう。おそらくは、大学も卒業
していて、親のコネで一流企業に職を得て、そこで羽振りを利かせているような奴といったところか。もちろん、世間一般
の相場では『イケメン』に分類され得る容姿を備えているに違いない。

126指環(後編) 14/71:2009/08/08(土) 06:48:08 ID:ndSpjNGs
「そいつに中身が伴っていれば、ちょっとした脅威かも知れないな…」

 だが、竜児は、不安になるよりも苦笑した。楽観視はできないが、そういった親や親族の庇護の下でぬくぬくと育った
輩は、往々にして中身がない。
 優れた直感に加えて、竜児との密なつき合いで、思考力も備えた亜美の眼鏡にかなうのは難しいことだろう。

 竜児は、携帯電話機を手にすると、亜美へのメッセージをタイプした。

『我らが同志へ 返信
 俺の勝手な推測だが、お袋さんは、お前に政財界の大物の御曹司を引き合わせるつもりのようだ。
 そいつは、若くても、金も地位も保証されていて、多分、イケメンだろう。
 そいつの中身がどれほどのものか、しっかり確認しておいてくれ。特に、何か知的な話題を振ってみたときに、どんな
反応を示すかが見ものだろう。
 以上』

 その文面を送信して、竜児は、亜美からの応答を待つ。
 待つこと二十五分、亜美からのメッセージが、竜児の携帯電話機に届いた。

『我らが同志へ 緊急連絡その3!
 やっぱりあんたの推測通りだったよ! ママは、あたしに財界大物の孫で、その家の跡継ぎになる奴を引き合わせた。
 容姿もあんたの予想通りに、かなりのイケメン(笑)。
 笑顔も爽やか(苦笑)で、多分、並の女ならイチコロなんだろうな。
 でも、その絶えず笑みをたたえている目が気持ち悪い。もう、何ていうか、世の中、舐めきっているっつうか…、何つう
か…。とにかく、自ら問題解決せずに、ぬくぬくと育ちました、っていうのが、その目を見ただけで感じられる。
 まぁ、阿呆だろうね。それも救いようがないほど。今日は、ざわついていた立食パーティーだから、込み入った話は
してないけど、親が社主やってる大手商社で秘書室長をやってるなんて自慢してた。その社長とやらも、そいつの親族
らしいんだけど、大学出たての青二才にそんなポスト与えるなんて、どいつもこいつもどんだけバカなんだか…。
 もう、失笑もののおバカさん。
 あんたは、亜美ちゃんが、そのイケメン・バカに寝取られるかと気が気じゃないだろうけど、安心して。それは絶対に
ないから。
 緊急連絡は以上。
 同志亜美より』

 竜児は苦笑した。やはり、知的であることに覚醒した亜美には、物足りない男のようだ。
 しかし、油断は禁物。亜美自身は、その男に全く興味がなくても、川嶋安奈が、先方と通じて、何らかの強行手段に
打って出る可能性が否定できない。
 竜児は、携帯電話機を手にすると、亜美に返信する文章をタイプした。

『我らが同志へ 返信
 まぁ、正直なところ、あんまり心配していなかった。
 財閥の御曹司だか何だか知らないが、本当に自身の力で問題を解決した経験がない奴じゃ、熟慮の末、女優への
道を敢えて放棄し、必死の猛勉強で大学に合格し、更には、弁理士になることを目指しているお前には全く物足りない
に違いないと思っていた。実際に、そうだったようだな。
 しかし、お前がそいつを拒絶しても、お袋さんとか、そいつの家の奴等とかが、何かエグいことを企んでいるかも知れ
ない。そのエグいことが何なのかは具体的には不明だが、一つ考えられるのは、何らかの既成事実で、お前を拘束し、
俺と別れさせるなんて線だろう。
 既成事実には、色々あるが、お前が未成年であることを利用して、お前の法定代理人に相当するお袋さんが勝手に
婚約させるとか、もっと、エグいところでは、そいつにお前を抱かせるなんてのまで考えられそうだ。
 後者に関しては、お袋さんはさすがに了承しないと思うが、何かの弾みで、そのイケメン・バカが暴走して、そうした
事態に至るおそれがなくはない。
127指環(後編) 15/71:2009/08/08(土) 06:49:35 ID:ndSpjNGs
 いずれにせよ、油断大敵だ。
 次にお袋さんがどう出てくるか次第だが、お前とそいつが差し向かいで会食する、見合いもどきの一席を設けそうな
予感がする。
 そのときは、成り行き次第で、ピンチにもチャンスにもなるだろう。嫌だろうが、面従腹背を貫いて、表面上は大人しく
出席してくれ。お前も、ICレコーダーを忍ばせて、敵方の言質を記録することができるからだ。その席では、お前一流の
性悪さを剥き出しにして、相手の無知や無教養を執拗にいたぶってやればいい。その挑発に乗って、財界の貴公子
(笑)にふさわしからぬ違法性がある発言を記録できれば、俺たちの大勝利だ。
 問題は、夏場のドレスではレコーダーを隠蔽できる箇所がほとんどないことだが、今日はどうだった?
 うまくレコーダーを隠せたか? 男だったら、ドレスシャツの胸ポケットに入れておけば、十分に相手の声は記録でき
るんだが…。婦人物のドレスにはそうした箇所がないから、大変だな。
 う~ん、男の俺じゃちょっと妙案が思いつかない。この点はお前の才覚で何とかしてくれ。
 以上』

 上記の文面を送信してから、竜児は亜美の応答があるかどうか待機していたが、そのまま音沙汰なしだった。
 きっと、頻繁にメールをしていると、川嶋安奈等に怪しまれるからだろうと思うことにした。

「ただ無駄に待っていても仕様がねぇ…。ちょっと、青本でも読んでおくか」

 時刻は午後九時半。定時連絡があるであろう午前零時までは未だ時間があった。
 竜児は、青本(工業所有権法逐条解説)のうち、特許法第百条に規定の差止請求権から同百六条に規定の信用回
復の措置までを読みながら、亜美からの連絡を待った。

 果たして、午前零時に机に置いていた携帯電話機が振動し、亜美からメッセージを受信した旨を伝えてきた。

「さて…、その後の首尾はどうだったのか…」

 いくばくかの不安をもって、竜児はそのメッセージに目を通した。

『我らが同志へ 定時連絡その6
 ついさっき、帰宅したところ。
 午後九時半以降応答できなかったのは、ママにぴったり張り付かれて、携帯をいじる隙がなかったため。
 どうよ、連絡がなくて心配した?
 その後も例の御曹司君と話したけど、それにしてもバカ丸出し。
 夏なのに新型インフルエンザが流行っていることが話題になったら、“うがいして、インフルエンザ菌を洗い流す必要
がありますね”、だって…。
 インフルエンザは、細菌じゃなくて、ウィルスで感染するなんてのは、小学生だって知っているよ。
 学歴を訊いたら、最難関の私学の名前を挙げやがった。そこの幼稚舎から大学の法学部まで、ずっとそこの私学
だったらしい。もう、完全な温室育ち、そんでもって裏口入学及び進級は間違いなし。
 ママは、こんな奴に、“うちの娘です、宜しく”、なんて調子で妙に恭しくしてて、本当に気持ち悪かった。
 宴席でのマナーというには、ちょっと度が過ぎていたよ。
 この分だと、ママはあたしを、このバカにくっつけるつもりだね。うぇ~、冗談じゃない。
 おそらく、あんたが指摘したように、近日中に、こいつとの差し向かいの席を用意するんだろう。でも、その時は、う~ん、
といたぶってやるつもり。何しろ法学部卒だっていうんだから、法律関係の話に持ち込んで、徹底的に痛めつけてやる。
 ああ、それから、念のため言っておくけど、亜美ちゃんは性悪なんじゃなくて、バカなくせに威張ってる奴が嫌いなの。
そういう奴を天に代わって成敗するというだけのこと。性悪、性悪ってあんたも言い続けていると、寝技で成敗してやる
からね。
 それと、ICレコーダーだけど、今日は超小型のものを腰の辺りにテーピングして、そこから外部マイクロフォンを胸の
谷間に忍ばせてテーピングしておいた。しかし、大失敗! 自分の心音がかなり目立っちゃって、肝心のママやバカ
御曹司の声が微かにしか聞こえないorz
 テーピングしていた部分は蒸れて痒くなるし、最悪。あんたが居れば、痒くなった部分を嘗めて治してもらえるんだけどね。
128指環(後編) 16/71:2009/08/08(土) 06:53:16 ID:ndSpjNGs
 まぁ、冗談はさておき、レコーダーを隠し持つ方法は、ちょっと考え直す。今日は、インフルエンザ菌なんてのを別に
すれば、それほど大した話はしなかったから、録音に失敗してもあまり影響はないけど、差しでの会食でミスは許され
ないからね。
 一応は、レコーダー本体はハンドバックに隠し、ハンドバッグのストラップの付け根辺りに外部マイクロフォンを付けて、
そのマイクをバカ御曹司とかに向けるってのがよさそう。この方法なら、ノースリーブで、胸元が大きく開いたタイトな
ドレスでも関係ないからね。ちょうど、捨ててもいいようなハンドバッグがあるから、明日はそれにマイクを取り付けて
テストしてみる。
 定時連絡は以上。
 同志亜美より』

「やはり、そうきたか…」

 どうやら、『見合い』というベタで古典的な手段に訴えるつもりらしい。
 それにしても、亜美からの主観的な情報だが、相手の男はもうちょっとどうにかならなかったのか、と思わざるを得な
い。資産も地位も約束されている財閥の御曹司だが、『インフルエンザ菌』なんてことを臆面もなく口走る愚か者だ。
 川嶋安奈には、もはや人を見る目がないのだろうか、それとも、自身が財界と結び付くための手駒として自分の娘を
利用するつもりなのかとも思い、竜児は胸くそが悪くなった。

「いずれにしろ、思い通りにはさせねぇ…」

 母親としての川嶋安奈の気持ちは、所詮、竜児には分からないし、分かりたいとも思わない。はっきりしているのは、
彼女はもはや竜児にとって敵だということである。
 竜児は、亜美に対して、今日も作業は無事に終わったことを記すと、最後に『俺達の未来のためにも、負けるわけに
はいかない』と結び、亜美へ送信した。


 賃貸マンションの一室に籠もっての作業も、八日目になった。
 もう、竜児は、完全に職人並の扱いで、サブと一緒に、クロスやクッションフロアの貼り替えに従事している。作業で
出てくる廃材や廃棄物の処置、作業に必要な資材や機材の運搬は、もっぱら春田の役目になった。

「高っちゃん、いいなぁ、俺もクロス貼ってみたいよ。今後は、ずっと内装屋をやっていくんだろうからさぁ…」

 その春田が、羨ましげにぼやいている。
 その春田の台詞を字面通りに判断したら、竜児への嫉妬が込められていると思われることだろう。しかし、アホだが、
春田は気のいい奴なのだ。その春田の台詞は、不甲斐ない自己へと向けたものであることを、竜児は知っている。
 人を妬んだり、ましてや逆恨みするような奴では決してない。

「だが、問題は、あいつらだよな…」

 そう微かに呟きながら、竜児は、別の部屋でクロスの貼り替えをしているであろう、ノブオとテツを思い浮かべた。
 今日は幸い、彼等とは別々の部屋での作業となったが、そうでなかったら、この作業場の雰囲気は更に険悪になって
いただろう。

「おぃ、タカ、何をぼんやりしてやがる、ここは貼ったから次、いくぞ」

 サブの塩辛声で竜児は現実に引き戻された。
 サブは口調はきついし、ぶっきらぼうだが、器用に作業をこなす竜児を高く買ってくれている。
 だが、それがために、サブと他の職人たちとの間の軋轢が目立つようになったのも確かなのだ。
 それにしても…、サブ配下の職人たちが不満なのは、アルバイトに過ぎない竜児が職人まがいの扱いを受けている
ことが原因かと思われたが、どうもそんな単純な話ではないらしい。
129指環(後編) 17/71:2009/08/08(土) 06:56:20 ID:ndSpjNGs
 春田に聞いても要領を得ないから、以下は竜児の推測なのだが、元から、リーダーのサブと、その配下であるノブオ
とテツとは、あまり仲が宜しくないようだ。特に、テツは、サブを敵視しているのが、その言動の端々に窺える。
 職人たちの反目は、元々、存在していたのであり、竜児がやって来たことで、それが激化し、顕在化したというのが
真相なのだろう。

「背景はどうあれ、俺がトラブルの種であることには違いねぇなぁ…」

 大橋高校での亜美のぼやきではないが、結局は竜児も異分子なのだ。
 異分子は、どんなに有能であっても、いや、有能であればあるほど、称賛よりも嫉妬、嫉妬よりも憎悪の対象にされ
やすい。

「今日が終われば、あと二日だな…」

 とにかく、無事にこのアルバイトを勤め上げることだ。そして、竜児さえ去れば、ここの職人たちの険悪な雰囲気も、
少しはマシになるかも知れない。
 竜児は憂鬱そうにそう思いながらも、持ち前の器用な手先を、産業用ロボットのように正確に操って、クロスを
ぴったりと貼り合わせた。


 食後、机の上に携帯電話機を置いたまま、今夜も竜児は特許法の勉強をした。本当は、亜美からの連絡が気になっ
て仕様がないのだが、そんなときこそ、勉強や家事で気を紛らわすのが竜児の流儀である。
 この日は、特許法第百七条から第百十二条までに規定の特許料とその納付は簡単に読んだだけにして、
第百二十一条から始まる審判に関する規定を熟読した。
 審判とは、裁判と紛らわしい言葉だが、裁判所ではなく、特許庁が特許の有効性を司法に準じる方法で解決する
制度である。
 特許権者は、その特許権に基づいて差止請求(特許法第百条)や損害賠償請求(民法第七百九条)をすることが
できるが、権利行使をされる側にとっては、下手すれば廃業せざる得ないような死活問題となる。それでも、権利行使
に係る特許権に問題がなければまだしも、もし、その特許権に瑕疵があったら、それで権利行使をされた側はたまった
ものではない。そのため、特許無効審判によって、瑕疵ある権利を消滅させることができるようになっている。
 また、特許受けるための出願は、その出願よりも先にその出願の発明と同種の発明がないかどうか、ない場合でも、
過去の発明に基づいて、その出願の発明が簡単に発明できるようなものではないかどうかが、特許庁の審査官によっ
て厳重にチェックされる。
 その結果、問題がない出願だけが特許される(特許法第五十一条)。
 しかし、審査官の判断にだって過誤はあり得るし、出願に問題があったとしても、適法な補充・訂正によって、瑕疵の
ない出願となる可能性だってある。そのため、審査で拒絶された出願も、拒絶査定不服審判で審判官によって再度
チェックされ、問題がなければ特許されるようになっている。
 司法まがいの判断が行政である特許庁で行われるのは、三権分立を考えると、何となく微妙だ。
 しかし、特許制度は法的のみならず、技術的な観点からも対象をチェックする要請があることから、技術系の公務員
である審判官が、準司法的な手続きである審判を行っている。

「特許無効審判は、当事者対立構造なんだな…」

 特許権者と、それに対抗する者が争う特許無効審判は、特に、準司法的な手続きが色濃い。その当事者は、裁判の
ように、原告・被告とは呼ばずに、それぞれ請求人・被請求人と呼ぶが、実質的には民事訴訟の原告及び被告とさして
変わらない。実際に、請求人と被請求人との間で、訴訟まがいの激しい攻撃防御の応酬が行われる。

「特許法ですら、紛争が生じることを前提にしてやがる」

 当たり前のことだが、みんな仲良しなんて綺麗事は、現実の社会ではあり得ない。法律というのは、紛争解決の物差
しでもある訳だから、融和よりも、利害をめぐって対立するという、シビアな現実を実によく捉えている。
130指環(後編) 18/71:2009/08/08(土) 06:58:23 ID:ndSpjNGs
 竜児は、そうした対立構造の一部を描いた特許法第百三十四条の規定を見て、軽い眩暈を覚えたような気がした。
 昼間の作業で疲れていたせいだろうが、その規程は、亜美と川嶋安奈との対立を想起させ、それで気が滅入ったのも
確かだった。

「今日は、ここまでにしとくか…」

 竜児は条文集や青本、その他の専門書を閉じると、照明を消し、携帯電話機を持ってベッドに横たわった。
 時刻は午前零時五分前。そろそろ、亜美から定時連絡が来る頃だった。

「来たか…」

 携帯電話機が発光ダイオードを明滅させながらブルブルと振動した。
 竜児は、送信元が亜美であることを確認して、そのメッセージを黙読した。

『我らが同志へ 定時連絡その7
 今日は朝食時には何も言われなかったので、夕食時までは平穏だった。
 “夕食時まで”と勿体をつけたのは、察しの悪いあんたでも分かるように、明日は、例のバカ御曹司と差しで会食と
いうことになったから…。
 うんざりするほど嫌だけど、こうも展開が早いと、そう感じている余裕すらなくなってしまいそう。何でも、先方があたし
のことを気に入っているんだとか。おい、おい、あたしの気持ちや都合はお構いなしかよ、って感じでムカついている。
 金も身分も保証されていて、特別扱いが当然って奴だから、何でもかんでも相手方が言いなりになると思っているん
だろうね。
 まぁ、こんなことだろうと思って、昼間のうちにハンドバッグにレコーダーを隠す工作をしておいてよかった。
 ちょっと勿体ないけど、ハンドバッグの側面にマイクが覗く小さな穴を開けて、そこにレコーダーの外部マイクロフォン
を強力な粘着テープでバッグの内側から固定した。
 テストもしたよ。
 実際に、あたしがテーブルについて、その差し向かいの席に例のバッグを置き、レコーダーを作動させてみたんだけ
れど、結果はバッチリ! 自分の声がちゃんと録れている。現地はノイズがあるだろうと思って、テレビをつけた状態でも
テストしたんだけど、これもオーケイ。この外部マイクは指向性が強いから、相手方にさえ向いていれば、多少離れてい
ても、周囲にノイズがあっても、明瞭に録音できるみたい。昨日、あたしの心音を拾っちゃったのは、ご愛嬌だけど。あれ
は、心臓近くにマイクをべったりと貼っ付けたから、心音というよか、振動を拾ったんだね。まぁ、とにかく、これで、明日の
準備は万全。
 あんたが言うように、バカ御曹司にとって致命的な言質をとれたら、もう、ママとの反目は決定的なものになるだろう。
今渡こそ、本当に勘当かもね…。少なくとも、実家には今まで以上に居づらくなるから、作戦が成功したら、その翌日、
つまり、明後日には、そっちに帰る。
 あたしとしては、ちょっと悲しいけど、さすがに今回のような強引なやり口には怒りを覚える。だから、明日は容赦なく、
例のバカをいたぶって、こっちに有利な発言を引き出してやるつもり。
 あたしからの定時連絡は以上。
 ああ、それと、今日もパン作りをしたよ。材料を残しておきたくなかったから、残りの材料全部使って、盛大に白パンと
黒パンを焼いた。もう、白パンも黒パンも、どうにか人様に食べてもらえそうなものが、コンスタントにできるようなったよう
な気がする。
 あんたも、バイト頑張って。あんたは何も言わないけど、本当は、バイト先で嫌な目に遭ってるんでしょ? 隠しても
ダメ。あんたは、苦しいことや、辛いことがあっても、それを明かさないけど、あたしは雰囲気で分かるんだからね。でも、
もう、あと二日なんだから、止めろとかは言わないよ。あたしも、あんたの無事を祈っているから…。
 あたしからの定時連絡は以上。
 同志亜美より』

「予想以上に展開が早いな…」

 亜美の外面のよさに、バカ御曹司も気をよくしたのだろうが、単にそれだけで、こうも話が勝手に進むとは思えない。
131指環(後編) 19/71:2009/08/08(土) 07:00:10 ID:ndSpjNGs
相手方が、亜美のことを気に入っているのは確かだろうが、川嶋安奈が強力にプッシュしていると見るべきだ。

「川嶋安奈の焦りみたいなもんが感じられるな…」

 おそらく、川嶋安奈は、何らかの手段で、竜児と亜美の関係を知ったのだろう。相思相愛で、肉体関係を持ち、更には、
共通の目的を持って行動している二人の仲を裂くのは容易ではないことも理解しているらしい。
 そのため、何としてでも、バカ御曹司に亜美をくっつけるつもりのようだ。

「ヤバイ状態だが、むしろ精神的に追い詰められているのは向こうなんだ…。そこに、こっちの勝算がある」

 竜児は、携帯電話機を取り出すと、今日もバイトが無事に終わったことと、川嶋安奈がかなり焦っているであろうこと、
及び、こちらとしては、あくまでも冷静に相手方に対処し、バカ御曹司なり、川嶋安奈なりが、失言や失態を演じたら、
すかさず反撃に転ずること、をタイプし、亜美へと送信した。

「蝶のように舞い、蜂のように刺す、といったところか…」

 有名なボクサーが、自身のファイトを表現したものだが、それは今の亜美にもあてはまる。美貌に加え、直感と洞察力
に富んだ亜美ならば、相手を翻弄し、致命的な失言を引き出すことも可能だろう。

「全ては、明日が勝負だな…」

 竜児は亜美の身を案じながら瞑目した。昼間の疲れもあって、竜児は、携帯電話機を手にしたまま、夢すら見ない
深い眠りに落ちていった。


 大橋高校近くの賃貸マンションに籠もっての作業は九日目を迎えていた。
 作業完了の期日は翌日である。その日にまでには何としても作業を完了して、更にその翌日には、マンションを管理
している不動産会社の立会いの下、作業が完璧であることを示さねばならない。もっとも、これは社長である春田の
親父の役目ではあるのだが。
 その一方で、期日までに作業が終わらなかったらどうなるか。それは、理系といえど、法律の勉強を始めた竜児には、
分かっていた。その場合は、民法第四百十五条に規定されている債務不履行に該当し、春田の親父の内装屋は、
違約金という名目で損害賠償を請求されることになるだろう。

「どうにも、作業が遅れ気味だな…」

 昼休みの休憩時、サブが二リットル入りペットボトルの麦茶をラッパ飲みしながら、ぼやくように言った。
 予想外に戦力となり得た竜児の奮闘によって、本来なら、作業は順調に推移しているはずだった。しかし…、

「あの二人がチンタラやりやがって…」

 サブと竜児のコンビがバリバリ仕事をしているのと比べ、ノブオとテツの作業の進捗が芳しくないのだ。
 この二人は、元々が勤勉ではないのだろうが、竜児やサブの働きぶりなどお構いなしに、いかにもやる気がなさそう
に、のろのろと身体を動かしており、覇気が全く感じられない。
 そのノブオとテツは、クッションフロアの床に寝そべって、しばしの惰眠を貪っている。

「よぉ!」

 その二人に向かって、サブが声を荒げた。
 その、いつになく刺々しい口調に、KYだが小心な春田はもちろん、竜児も驚いて、声の主を見やった。

132SL 66:2009/08/08(土) 07:03:01 ID:ndSpjNGs
ちょっと、時間的余裕があるので、予定を変更してあと9レス程度投下します。
133指環(後編) 20/71:2009/08/08(土) 07:04:18 ID:ndSpjNGs
「ノブオにテツ! お前ら、どういうつもりなんだぁ?! ここんとこ、チンタラ、チンタラ作業しやがって、お前らも職人なら、
プロだろう。プロってのは、締切りまでに仕事を終わらせてなんぼだ。それが、何だ、今のお前らは、ぐずぐず、のろのろ、
傍で見ててもイライラするぐれぇに手際が悪い。もっと、しっかりしやがれぇ!」

 マンション敷地内にある欅の大木から聞こえていたミンミンゼミの大合唱が、ひび割れた塩辛声で打ち消された。
 かつてないほどの、剣呑な雰囲気に、春田はもちろん、竜児も、凍り付いたように、身動きがままならない。
 だが、当のノブオとテツは、床にごろりと寝そべったまま、面倒くさそうに、物憂げな目線でサブを眺めている。
 更に…、

「うっせぇなぁ…、暑いんだからよぉ、作業の能率が落ちんのはしょうがねぇだろ? 文句は、梅雨明け前だってのに、
こんなにクソ暑い天気に言ってくれよぉ」

 ノブオもテツも、特にテツは、怒っているサブなんぞは意に介さずとばかりに、ふてぶてしく抗弁している。
 その、仕事への責任感がまるで感じられない弛みきった言動に、サブは怒りをあらわにした。

「作業の能率が落ちるのはしょうがないだとぉ?! ふざけるな! お前らは職人だろ? 親父さんに雇ってもらって、
給料をもらっている身だ。お前らが、びた一文もらってねぇってんなら、まだ、話は分かるが、一応はプロのはしくれなん
じゃねぇのか? プロならプロらしくキッチリ仕事をしやがれぇ!!」

「プロねぇ…。昨日や今日、この仕事を始めたばかりのガキでもできる仕事にプロ意識を求めてもしょうがねぇだろ?」

 テツは面倒くさそうに言うと、例の鮫のように感情が伺えない冷たい眼で竜児を一瞥した。

「お前は、タカのことを言ってるのか? タカは関係ない。問題なのは、お前らのだらしなさだ!」

 その一言に、テツは寝っ転がったまま、「へっ、へっ!」と、吐き捨てるように、サブを嘲った。

「だらしねぇのは認めるよ。だけどよ、俺たちがいくらだらしなくったって、俺たちが居なくちゃ、ここの作業は絶対に明日
中には終わらねぇ。そこんとこを忘れねぇでもらいてぇな」

 テツたちを責めているはずのサブが、一瞬だが、ぎょろ目を不安そうに泳がせたのが竜児にも分かった。
 どうやら、痛いところを突かれたらしい。
 だが、そこはリーダーとしての意地なのか、次の瞬間には持ち直し、ノブオとテツに、殺し文句を突きつけた。

「お前らがその気で居るのは勝手だが、親父さんは、お前らの体たらくを薄々は知っている。今回の報酬にもそいつが
影響することは覚悟しておくんだな」

「薄々も何も、サブが逐一報告してんだろうから、もう、親父は俺たちのことをよくは思ってねぇだろ? でなきゃ、サブと
俺たちとの待遇の違いが説明つかねぇ」

 相変わらず寝っ転がったまま、テツがふてぶてしく言い放つ。
 職人たちの間の不協和音は、結局のところ、賃金格差だったらしい。物質的な欲求に関わる諍いは、単純だが根深
いのだ。

「逐一報告だぁ? 俺はそんなことをしちゃいねぇ! 親父さんを甘く見るなよ。俺が何も言わなくても、親父さんは、
お前らの不甲斐なさを、とっくに承知だ。お前らの待遇が悪かったとしても、それはお前らが怠けた結果だ。
それを履き違えるんじゃねぇ!」

 サブがテツたちの行状を報告していないというのは本当だろうと、竜児は思った。
 初対面でも感じたが、春田の親父は、洞察力に長けている。一見、穏やかそうな目で、対峙する相手の内面を、
134指環(後編) 21/71:2009/08/08(土) 07:05:15 ID:ndSpjNGs
驚くほど的確に把握する。その春田の親父であれば、サブからの具体的な報告がなくても、職人二人の働きが
芳しくないことぐらい分かるのだろう。

「けっ、雇い主の犬が偉そうに…。まぁ、安い報酬で俺たちをこき使って、儲けは全部、あの親父の懐におさまって、
サブや、そこのバイトに、おこぼれがめぐってくるって寸法か…」

 そう言って、鮫のように感情が伺えない眼をまたも竜児に向けてきた。
 異分子である竜児の存在が、元々存在していた軋轢を、さらに悪化させたことは間違いない。

「おい、もう、いい加減にしやがれ! ここにはボンも居る。親父さんへの不平不満は言うもんじゃねぇ。それにタカも
関係ねぇだろ! どうしても、ここでの扱いに不満があるなら、それは俺やボンの前ではなく、親父さんに直接言って
くれ。その結果、どうなるかは、親父さん次第だってことも覚悟しとけ」

 言い終わると、サブは、ぎょろ目でテツの感情が伺えない眼を睨め付けた。テツも、サブに臆することなく、その視線を
無言で受け止めている。
 水を打ったように静まり返っているマンションの空き部屋に外の蝉しぐれが残響していた。
 風はそよとも吹かず、実に暑苦しい。

「そうかい…、分かったよ…。ま、雇い主の犬には敵わねぇや。ああ、はい、はい…、俺たちの待遇が悪いのは、俺たちが
だらしねぇから、ああ、もう、そういうことでいいよ。その代わり、午後も、だらしない俺たちなりにやらせてもらうからよぉ」

 それだけ言うと、テツは、目をつぶって、サブに背を向けるようにして側臥した。
 聞く耳もたん、と言いたげな、そんなテツの態度に、サブは唇を震わせている。職人たちの対立は、竜児の出現を
契機として、もはや修復が困難なほど険悪化していた。

 竜児と春田は、ぴん、と張り詰めた空気にいたたまれなかったが、身体が強張って身じろぎすらままならない。
 そのくせ、聴覚だけはやたらと鋭敏になっていて、蝉しぐれと一緒に室内に流れ込んでくる往来の物音のうち、
行き交うクルマの車種すら識別できそうなほどだった。

 不意に近くの大橋高校から、午後一時を告げるチャイムが、蝉しぐれや往来の物音を打ち消すように鳴り響いた。

「時間だな…」

 テツの背中を睨んでいたサブが、吐き捨てるように呟いた。

「ああ、そのようだな…。じゃぁよ、俺とノブオは、引き続きマイペースでやらせてもらうからよ、そっちはそっちで、
リキ入れて頑張んな」

 テツが憎々しげにそう宣うと、ノブオとともに、持ち場である別の空き部屋へと去って行った。
 その二人を、サブが腕組みし、目をぎょろつかせて見送る。
 竜児と春田はほっと胸を撫で下ろした。一触即発の険悪な空気は、割れ鐘のようなノイズ混じりのチャイムで、
ひとまずはおさまったらしい。

「タカ…。頭のよさそうなお前なら、俺と連中の関係は、前から分かっていたんだろうな?」

 サブが、テツとノブオを見送るような姿勢のまま、竜児の方を見ずに訊いてくる。
 その問いに、竜児は、「へぇ…」とだけ応答した。

「なら、話は簡単だ。今回の連中との揉めごとは、お前には一切、責任がねぇ。だから、さっきのことは気にしなくて
いい…。そんなことを気にするよりも、今は仕事だ。何しろ期日は明日なんだ。連中があんな有り様じゃ、あてには
135指環(後編) 22/71:2009/08/08(土) 07:06:11 ID:ndSpjNGs
できねぇ。その分まで、俺とお前と、それに…」

 サブは春田を一瞥した。

「ボン、お前にも職人と同じ仕事を頑張ってもらわなきゃならねぇかも知れねぇな…」

「え、お、俺?」

 唐突に名指しされた春田が、アホ面を弛めている。剣呑な状況だが、下働き以外の作業も任されるかも知れない
好機と思っているのだろう。どんなに深刻な状況でも能天気でいられるのが春田なのだ。

「まぁ、胸糞悪い揉めごとは取り敢えず忘れるこった…」

 サブは自分に言い聞かせるように呟くと、マスクを顔に固定した。竜児も、サブに倣ってマスクを着用する。

「よし、じゃぁ、タカ…、クロスを七百五十五ミリ幅で正確に切ってくれ」

「へぃ」

 嫌なことを忘れるには、作業に徹することだ。これは竜児のモットーのようなものなのだが、サブも同じなのだろう。
 竜児とサブは、互いに言葉少なに、時折、頷き合う程度のコミュニケーションで、クロスを修繕する作業に没頭した。

 その日の午後は、テツとノブオが不甲斐ない分をフォローすべく、竜児とサブは、夕方まで懸命になって働いた。
その甲斐あってか、どうにか期日である翌日までには、作業が完了できそうな目処がついたらしい。
 ただし、不甲斐ないなりにも、テツとノブオが成し遂げるであろう分も勘定に入っている。この点が、ちょっと心許ない
ところだろう。

 クロスを貼り替える作業では、その日、どの程度の面積を貼り替えたかを克明に記録する必要がある。
 この記録を根拠にして、使用した資材のコストや、作業代金を算定することになるからだ。

「うちは、明朗会計がポリシーだからな…」

 サブがメジャーを手に、貼り替えた部分の寸法を計り、その寸法と、それから計算された面積を作業日報に記録していく。
 クロスは長方形に切断されて貼り替えられるから、面積の計算自体は小学生だってできる。縦と横の寸法を乗じる
だけだ。
 だが、今日に限っては、少々勝手が違っていた。

「こいつぁ、計算がやっかいだな…」

 サブが面積を割り出そうとしている箇所は、長方形ではなく、三角形だった。それも、単純な直角三角形ではなく、
三つの角のいずれもが、九十度以外の角度を示していた。
 二等辺三角形ならまだ話は分かる。しかし、その三角形は、三辺の長さがバラバラで、正三角形とか、直角三角形
とか、二等辺三角形とかの規則性を持っていない。

「サブ兄ぃ、そんなの適当でいいじゃないすかぁ」

 どうやって面積を割り出すかで悩み、呻吟していたサブの脇で、春田がKYなことを宣っている。その春田を、サブは、
ぎょろり、と睨み付けた。

「ボン、うちがこの地区の内装屋の中でも、多くの不動産屋から贔屓にしてもらっている理由ってのを、親父さんの跡を
136指環(後編) 23/71:2009/08/08(土) 07:07:18 ID:ndSpjNGs
継ぐかも知れない身なら、ちったぁ考えてくれぇ」

「そんなこと言われたって、俺、頭悪いから、分かんないよぉ…」

 サブのぎょろ目に射竦められて、春田は弁明どころか却ってサブの不興を買いそうなことを口走っている。考えずに、
あたかも脊髄反射でものを言っているようなところは、高校時代と全く変わらない。
 そんな春田に呆れたのか、サブは大きく嘆息して、坊主近くまで刈り込んだ頭を、物憂げに振った。

「ドンブリ勘定はまずいってこってすよね、サブ兄ぃ」

 竜児のフォローに、サブは軽く頷いた。

「さすがはタカだ。ちゃんと、分かっていやがる…。そうとも、この業界ってのは、結構いい加減なところが多いんだ。
で、そういったところは、かなり露骨に水増し請求をしてやがる。だが、水増し請求がバレたら、お終いだ。仕事の契約は
打ち切られるだろう。だから、うちは、きっちりと作業に掛かった労力や、建材の量を正確に記録して、仕事を充てがって
くれた不動産会社に報告しているってわけさ」

「正直なのが一番ってことですかい?」

 敢えて訊き直すまでもなかったが、サブ、それに雇い主の春田の親父に、実直で正直な自分と共通する何かを感じ、
竜児はちょっと嬉しくなった。
 そのサブは、ぎょろ目を心持ち細めて、頷いた。

「さてと、問題はこいつの面積だなぁ…」

 数学科である竜児にはどうやれば正確な面積が計算できるかは当然に分かっていた。しかし、この場でそれを口に
することは、竜児が大学生であることを職人たちに勘付かれるおそれがあった。
 竜児は、何とかサブが解決してくれることを願ったが、サブはうん、うん、と唸りながら首を捻るばかりで、いたずらに
時間だけが過ぎ去っていく。その姿を、サブに反目しているノブオとテツが苛立ちながら、眺めている。いい加減に早く
帰りたいのだろう。その点は、竜児も同じだ。何しろ、今夜は、亜美が例のバカ御曹司と見合いをする。その際に、亜美
からは緊急の連絡とかがあるに違いない。その緊急連絡に対処するためにも、今日はここを引き払いたかった。

「サブ兄ぃ、ここはこうすりゃ、面積が出そうですぜ」

 竜児はスケール類の中から、分度器を取り出して、それぞれの角度を計り始めた。

「分度器なんかで角度計ってどうすんだ?」

 こんな三角形は、二辺とそれに挟まれる角に着目し、その二辺の長さとその角の正弦とをそれぞれ乗じ、二分の一に
すればよい。高一の数学で習う初歩的な計算方法だ。だが、ここでの竜児の設定は、落ちこぼれということになって
いる。その落ちこぼれが、三角関数を使った計算方法を使うという不自然さをどうやって誤魔化すかが鍵であった。

「いや、ちょっとばかし、高校での数学の公式を思い出したんでさぁ。こんな、直角のねぇ三角形でも計算できる奴が
たしかあったと思いやして…」

 指数、対数、三角関数といった分野は、数学嫌いには虫唾が走るほど嫌なものだろう。落ちこぼれだったら、憶えて
いる方がおかしい。そうした設定をされている竜児が、ごくごく初歩的とはいえ、三角関数を使うのは、さすがにまずい
だろうとは思ったが、それよりも、さっさと帰りたいという欲求が優先した。

「ここの角度はちょうど三十度でさぁ。そうなると、この角度のsinは二分の一ってことになりやす。で、この角を挟んで
137指環(後編) 24/71:2009/08/08(土) 07:11:01 ID:ndSpjNGs
いる二つの辺の長さを掛けて、さらにその値を半分にすると、この三角形の面積になるはずですぜ」

 サブが、うん、うん、と頷きながら、紙の上で鉛筆を走らせている竜児の手元を見ている。

「そういやぁ、こんな式、高校で習ったような気もするなぁ。まぁ、俺にはその式が正しいのか、何でそんな風に計算でき
るのかは分からねぇけど、たしかに、そんな式は授業で習ったなぁ…」

「じゃぁ、サブ兄ぃ、この計算で求まったのが、ここの面積ってことでいいすね?」

 サブが顎を引くようにして頷いている。竜児は内心ほっとした。本当かどうかは分からないが、サブの記憶に、三角関数を
使った三角形の面積の求め方が、微かに残っていたらしいことが幸いしたようだ。
 しかし…、

「お〜っ、すげえやぁ、さっすが、大学で数学を専門にやっている高っちゃんだぁ。俺なんか、こんなの全然分かんないよ」

 アホな春田が、全てをぶち壊す致命的なことを口走っていた。

「何だと?! ボン、そいつは本当か?」

 竜児を落ちこぼれニートだとばっかり思い込んでいたサブが、ぎょろ目をまんまるに見開いて春田に詰め寄った。
 春田の親父が言った竜児のプロファイルとまるっきり違うのはどういうことだ、ということなのだろう。
 その春田は、詰め寄るサブの尋常でない雰囲気と、ノブオにテツの怒りがこもった刺すような視線を感じ、弛んで
いたアホ面をにわかに引きつらせて、心持ち後ずさった。

「サブ兄ぃたちに親父や高っちゃんがどう言ったのか、お、俺は知らないけど、高っちゃんは、大橋高校でも成績優秀で
さぁ、今は国立大で数学を専門に勉強してるんだぜ。そ、それがどうかしたの?」

 なんてこった、春田の親父の心遣いも、任侠口調を真似てサブに同調していた竜児の苦労も、この春田のKY発言
で全てが台無しになってしまった。

「タカ、ボンの言ってることは本当なのか?」

 サブが、竜児に詰るような視線を送ってきている。もはや、言い逃れはできないだろう。
 竜児は、申し訳なさそうにうなだれた。

「すんません…。俺は、春田が言ったように、ニートじゃありません。大学生です」

 三人からの視線が刺々しく、竜児は思わず目を伏せた。方便とはいえ、嘘をついていたのは確かである。
 実際に竜児が落ちこぼれであるという設定をでっち上げたのは春田の親父だが、それを否定しなかった竜児もまた、
責められるべきなのだ。

「けっ! 何か気に食わねぇと思ったら、一流大学の学生さんとはね…。それを、素行不良の落ちこぼれとか親父も含め
て騙しやがったのか、屑だぜ、こいつは」

 テツが、鮫のように冷たい瞳を竜児に向けて、吐き捨てた。
 春田の親父も竜児が騙したということにされてしまっている。春田の友人であるという竜児の立ち位置を考えれば、
春田の親父が竜児の素性を正確に把握していないという方がおかしいのだが、場の雰囲気は、その抗弁を許すような
ものではない。
 それに、春田の親父が職人たちを騙していたことをつまびらかにすれば、サブはともかく、雇い主に反感を覚えている
ノブオやテツは黙っていないだろう。
138指環(後編) 25/71:2009/08/08(土) 07:12:08 ID:ndSpjNGs

「た、高っちゃんは親父を騙してなんかいないよ。実際、親父は、みんなが帰った後で、高っちゃんのことを、大学生だが、
根性のある奴だ、って誉めていたんだぜ…」

 またしても春田だった。

「ボン、そりゃあ、どういうこった?!」

「ど、どうって…、多分、親父には親父の考えがあって、高っちゃんが大学生だってのを兄ぃたちには内緒にしていたん
だと思う。お、俺も親父からは何も聞いちゃいないから、これ以上のことは分からないよう」

 更にまずいことを口走ったことに春田もようやく思い至ったようだが、もう遅かった。ノブオとテツは、
憤怒を込めた険悪な視線を春田と竜児に向けている。

「要は、親父は俺たちをコケにしていたってことだろ? こいつが大学生だってのが俺たちにばれると、こいつがいじめ
られるとかって親父は思ったんだろ? で、親父は猿芝居をした。ほんと、ふざけてるぜ」

 そう言い捨てると、テツはのっそりと、その場から立ち去ろうとした。そのテツに、ノブオも追従する。

「どこへ行きやがる!」

「どこって? 帰るんだよ。今日の作業は終わったし、ここに居てもしょうがねぇからさ」

「作業現場からの勝手な帰宅は許されねぇ! 作業現場に直接行かずに、まずは事務所に集合するのと同じように、
作業が終わったら、事務所にワゴンで戻って、それで解散ってのがルールだ。それには従え!」

 だが、テツはもちろんノブオも口元を歪めて、睨み返してきた。

「ルールだとぉ? 笑わせちゃいけねぇや。こいつが大学生だってことを、俺たちに正直に言わなかった奴が決めた
ルールなんざ糞喰らえだ。俺もノブオも、そんな奴の言いなりになんかなりたくねぇ。
第一、報酬だって、働きからすりゃ安すぎるんだ。そんな状況だってのに、ルールなんざ知ったことかよ」

「そいつは、親父さんに対する反抗と見ていいんだな? それと…、ここを辞めると見てかまわねぇんだな?」

 『辞める』、の一言に、テツが眉毛つり上げた。

「辞めるかどうかは、今晩ゆっくり考えるさ。まぁ、ノブオはどうだか知らねぇが、俺はかなり辞めたい気分だ。正直、ここ
よりももっと待遇がいいところで働きてぇ。まぁ、明日の朝、事務所にひょっこり現れるかも知れないし、そうでないかも
知れねぇ。こればっかりは、明日にならねぇと分からねぇな」

 サブが、怒りでぎょろ目を血走らせて、小生意気なテツを凝視している。

「勝手過ぎるぜ! お前らをどう扱うかは親父さんが決めるんだ。だから、勝手に帰るのは許されねぇ」

 サブは、暗に春田の親父が二人の職人を解雇するかも知れないことを匂わせて、テツを牽制したつもりのようだった。
しかし、テツとノブオは、もう春田の内装屋を辞める気だったのだろう。全く動じる気配がない。

「雇い主の犬であるお前さんと、ほとんど使い捨てに等しい俺たちとじゃ、所詮は考え方や価値観が違うんだよ。
今回のこいつの件じゃ、お前だって親父にコケにされていたんだぞ? それでも腹が立たねぇのか? だとしたら、
立派なもんだよ。そのご立派な態度を貫いて、精々、親父と一緒に仲良くやっていくんだな」
139指環(後編) 26/71:2009/08/08(土) 07:15:48 ID:ndSpjNGs

 それだけ言い放つと、ノブオを伴って、作業現場から立ち去っていった。

「畜生…」

 サブが悔しそうに頬を引きつらせ、両の拳を握りしめたまま、その場に立ちつくしている。
 怒りと動揺からか、握りしめた拳が、ぶるぶると振るえていた。

「サブ兄ぃ…」

 その背後に掛けられた竜児の声で、サブは振り返った。

「すんません…、おれが身分を隠していたばっかりに、こんなことになっちまって…」

 サブは竜児をぎょろ目で一瞥したが、それだけだった。

「タカ…、正直お前が大学生だってのを知ったときは、嫌な気分になっちまったが、今はそれをどうこう言ってもしょうが
ねぇと思っている」

「へぃ…」

 もう必要はなさそうなのだが、サブと向かい合っていると、任侠めいた口調が出てしまう。

「問題はだな…、期日が明日に迫ったここの内装工事が無事に完了するかどうかってことだ。俺とお前とで、残りの
作業を完全に終わらせなけりゃいけねぇが、まぁ、無理だろう。今は実際の作業をしていない親父さんにも頑張ってもら
わなきゃならねぇかも知れねぇし、他の内装屋から応援を頼む必要があるかも知れねぇ。いずれにしろ最終的な判断は
親父さんがすることになるだろう」

 そう言って、サブは本日は撤収する旨を竜児と春田に告げ、自身が大型ワゴンを運転して、内装業の事務所である
春田の家に向かった。
 事務所では、春田の親父が、険しい顔つきでサブの報告を聞いている。
 ひとしきり報告を聞いた後、春田の親父は竜児に向き直った。

「そこでだ、高須、明日のお前だが、定時を超えて、場合によっちゃ徹夜でも作業はできそうか? サブからの報告で、
お前が並の職人以上の能力を備えてることを教えてもらった。サブとお前の頑張りで、この難局を打開したい。
宜しく頼む」

 半ば、『やれ』という命令だった。それに、春田の親父の嘘に便乗して、今回の事件のきっかけを作った責任もある。

「できます。徹夜でも何でも、俺にも責任がありますから、やらせていただきます」

 春田の親父は、険しい表情ながら、鷹揚に頷いた。

「しかし、俺とタカが徹夜でやっても、間に合うかどうか微妙な状態ですぜ」

 サブが春田の親父の前で、不安そうに眉をひそめている。職人たちが造反したのは、リーダーである自分の不手際
だと思っているのかも知れない。

「うん、たしかに、あの二人が明日来ないかも知れないことは痛手だが、それについては、もうどうしようもない。
元々、働きはそう誉められたものじゃなかったから、こういう日がいずれは来るだろうとは思っていた。だから、連中が、
140指環(後編) 27/71:2009/08/08(土) 07:16:57 ID:ndSpjNGs
明日から来なくなっても、それはお前の責任ではないし、ましてや、学生であることを隠すように俺に言われて、
それを正直に守った高須のせいじゃない」

 請け負った仕事が不履行に終わるかも知れない緊急事態にもかかわらず、竜児やサブを責めない春田の親父に、
竜児は人を使役する立場というものが何となく分かってきた。無理難題をふっかけるようなゴリ押しは禁物なのだ。
事実に基づいて、公平かつ誠実であれ、ということなのだろう。
 春田の親父は無学であるかも知れないが、人を使役する経営者としては、なかなかの徳義を備えているらしい。

「すいやせん…、親父さんにそう言って戴きやすと、こっちも少し気が楽になりまさぁ。しかし、俺とタカ、それにボンの
三人だけじゃあ、戦力が足りません。あと最低でも職人が一人、それに職人を補佐するボンみたいなのが、できれば
あと一人は欲しいところですぜ」

 春田の親父は、もっともだとばかりに頷いた。

「よそから職人を連れてくるってのは、時間的に厳しいだろう。それに、サブは知っての通り、うちは明朗会計で公正に
やってきているから、それを快く思わない同業者が少なくない。そんな連中は、うちの窮状を、ざまぁ見ろ、ぐらいにしか
思わないだろうし、そんな徳のない連中に助けてもらったら、後々が面倒だ。だから、これは俺たちだけで解決するんだ」

「と、言いやすと?」

 竜児には、春田の親父がどうするか分かっていた。それはサブも当然に理解しているのだろうが、念のために、
それに、隣でアホ面を晒している春田に聞かせるために、こう言ったのだろう。

「言わなくても分かっているだろうが、俺も一職人に戻るのさ。経営者として、デスクワークばかりしてきたが、それで少々
身体がなまってきたようだ。明日からは、初心に戻って、お前たちと一緒に汗を流すつもりだ」

 春田の親父は、にっこりと笑った。その笑みは、竜児やサブを不安にさせないためのものなのだろうが、同時に、職人
としてのアイデンティティを取り戻すことへの愉悦のようなものが感じられた。

「話としては以上だ。明日は、サブに高須、お前たちの働きに期待している。特に高須は、あと一日だってのに、こんな
ことになって済まなかった。お前にも定時以後はプライベートで色々あるだろうが、無理をきいてはくれないか。もちろん、
相応の報酬ははずむつもりだ」

「いえ、今回の騒動の原因の一つは自分にあります。だから、当然に責任をとらせて戴きます」

 竜児の言葉に春田の親父は満足げに頷いたが、気になることを呟くように言った。

「お前のその責任感が強いところ、それに何でも如才なくこなす器用さは本当に得がたい能力だ。だが、周囲の人間は、
俺もサブも、今回、造反した二人も含めて、お前と同じじゃないんだ。悪い意味でなく、お前は普通の人間じゃないんだ。
その点は、ちょっとでいいから、心の片隅にでも置いといてくれ…」

「は、はい…」

 竜児は、台所でオムレツの出来栄えについて亜美から『嫌味な謙遜』とたしなめられたことを思い出した。たしかに
亜美の言う通りだった。竜児にしてみれば、自分が成し遂げた結果を、正直に論じているのだが、それは、竜児以外の
人間には煩わしく不快に映る場合があるのだろう。
 そんな風に竜児が思い悩んでいることを春田の親父は敏感に察したのか、ほんの少しだけ相好を崩して、竜児の顔
を見た。

「まぁ、お前という奴は、何事も徹底しないと気が済まないようだから、凡人である俺がつべこべ言えた義理じゃないな。
141指環(後編) 28/71:2009/08/08(土) 07:17:57 ID:ndSpjNGs
今言ったことは忘れてくれて構わない。その代わり、明日は、そのお前の能力を遺憾なく発揮して、サブと一緒に頑張っ
てくれ」

「は、はい!」

「それじゃぁ、今日は解散だ。ただし…」

 春田の親父の表情が再び強張った。

「浩次、お前は別だ。今回の騒動で、お前には色々と訊きたいことがある。この場に残ってもらおうか」

 その、ドスの効いた一言に春田は震え上がった。
 サブと竜児も互いに目配せをして、「こりゃ、やばそうだ」という意見の一致をみた。二人は、春田に注意がいっている
春田の親父に黙礼すると、その場をそそくさと立ち去ることにした。

「お、親父ぃ〜、おい、俺は何も悪気があって、高っちゃんの素性を口走ったんじゃねぇよぉ」

「馬鹿野郎! あれほど言ってるのに未だ分からねぇのか。公の場では、俺は社長だぁ!!」

 サブと竜児が門から外に出た瞬間、雷のような春田の親父の怒号が聞こえてきた。


 帰宅してシャワーを浴びたら、すでに時刻は午後七時近くだった。竜児は、携帯電話機を傍らに置いたままで、夕餉
の支度をし、泰子と一緒の食卓についた。
 バカ御曹司との見合いが何時から始まるかは教えてもらってないが、今日は平日だし、バカ御曹司も一応は社会人
ということになると、仕事を終えてのイブニングという線が濃厚だ。

「竜ちゃぁ〜ん、さっきからどうしたの? 携帯ばっか気にして〜」

 携帯電話機をチラ見しながらの食事している竜児が気になったのだろう。

「いや、亜美から連絡があるかも知れねぇって思ってさ。あいつ、急に実家に戻っちまって、もう一週間以上だから、
ちょっとさ…」

 下手をしたら、亜美は金輪際、こっちには戻って来ないかも知れない。もしかしたら、今の大学も辞めさせられて、
どっかの私学を受け直させられるかも知れないのだ。
 そんな不安を抱えた息子に、泰子は、幼女のような頑是ない笑みを向けてきた。

「ふぅ〜ん、そうだねぇ、やっちゃんもそうだったけど〜、愛する人が、遠くに離れていると、落ち着いてご飯も食べられ
ないからね〜。でも〜」

「でも、って?」

「亜美ちゃんは、必ずここに帰ってくるよ。理由なんか全然ないけど〜、やっちゃんには分かるんだ。亜美ちゃんは、実家
での生活よりも、こっちの方を選ぶ。そんな気がする。だから〜、今はあれこれ悩まずに、しっかりご飯を食べて、勉強す
るなり、ゆっくり休むなり、気持ちを切り替えていこうよ〜。亜美ちゃんは賢い子だから、絶対に間違ったことはしない。
だから〜、竜ちゃんは亜美ちゃんを信じて、もうちょっとだけ待っていてあげようよ〜」

「お、おう…」

142指環(後編) 29/71:2009/08/08(土) 07:19:31 ID:ndSpjNGs
 泰子の言う通りだった。亜美からの緊急連絡があるかも知れないが、竜児にできることは、その際に、適宜アドバイス
をすることと、亜美から何か要請があったら、可能な限りそれに応えるということだけだ。
 全ては、その場での亜美の奮闘にかかっている。
 食後の食器洗いを終え、自室に籠って、亜美の連絡を待った。時刻は既に八時過ぎになろうとしていたが、未だ亜美
からの連絡はない。
 何かあったのだろうか、と竜児は不安になる。川嶋安奈の監視が厳しくて、身動きがとれないのかも知れないし、
下手したら、バッグの中にICレコーダーを仕込んでいるのがバレて、作戦が台無しになっているのかも知れなかった。

「待つってのが、こんなにも精神的にきついのは初めてだぜ…」

 時刻が八時十五分を過ぎた頃、ようやく亜美からの第一報が届いた。

『我らが同志へ 本日の緊急連絡その1
 連絡が遅くなってごめん。
 宴席は七時に始まって、最初は関係者全員での会食になった。あたしの側からは、あたしとママ、相手側からはバカ
御曹司とその母親ってのがやって来たよ。それに仲人気取りの財界のお偉いさんの夫妻。その夫妻の旦那の方は
テレビか何かで見たような気がするし、名前も聞いたんだけど、忘れた…。要するに、どうでもいい存在だね。
 で、相手方の母親ってのが、意外に若くてびっくり。どう見ても四十代には見えない。だとしたら、未成年でバカ御曹
司を生んだのか? うわぁ、生臭い。なんか正妻じゃない感じなんだよね。物腰が微妙に下品だし…。まぁ、それは成り
上がりセレブの我が家にも言えるんだけどさ。
 やっぱ、元は妾って感じがプンプンする。想像なんだけど、こいつの父親ってのが、高校生くらいの女の子にお手付き
しちゃって、こいつができちゃった。で、責任とって妾にして囲った。正妻は別に居たんだろうけど、跡継ぎが生まれな
かったとかで妾にその座を奪われたのかも知れない。
 どっちにしてもかなり複雑な家庭の事情がありそう。関わり合いにならないのが一番だね。
 だけど、その元妾らしい母親と、成り上がりセレブのママとが気が合うとかだったら嫌だな。今回の話がトントン拍子
に進んだのは、そのせいか? もう、正直、気持ち悪くて吐きそう。
 でも、これで心置きなくこの宴席を台無しにできる。
 もう、ママに対する罪悪感なんか吹っ飛んだ。この後は、バカ御曹司との差しでの面談が待っている。あたしは正気
でいるためにアルコールは飲んだふりにしておくけど、バカ御曹司にはワインでもシャンパンでも飲ませて、少しでも
理性を麻痺させて、挙句に暴走させるつもり。
 ちょっと、危険だけど、飲酒した後、“僕のクルマで、どこかホテルか、うちの別荘にでも行って、今夜を過ごしません
か?”とか言い出せばしめたもの。堂々と飲酒運転を宣言していることになるし、そこで嫌がったあたしに無理強いした
ら、強姦未遂とかも言い出せそう。あたしが十八歳未満だったら、淫行条例に違反することも主張できるけど、さすがに
今は無理。
 そこで、お願いがあるんだ。これからの一連のイベントもバッグに隠したICレコーダーで記録しておくけど、念の為に
携帯電話でも会話の一部始終をそっちに送っておく。あんたは、それを録音しておいて。万が一だけど、レコーダーを
没収されたり壊されたりすることもあり得るから。
 次、あたしからメールじゃなくて電話のコールがあったら、それには無言で応答して、代わりにあたしの携帯からの
音声を記録しておいてね。
 本日の緊急連絡その1は以上。
 そろそろ、化粧室から出なくちゃ、怪しまれるから…。
 同志亜美より』

「会話が長くなりそうだな…」

 であれば、携帯電話機の録音機能では録音時間が足りない。竜児は、講義の録音に使っているICレコーダーを
専用のケーブルで携帯電話機に接続した。これなら長時間の録音も可能になる。
 そして、接続を完了して、いつでも録音が可能なようにしたタイミングを見計らったかのように、亜美からの電話で
竜児の携帯電話機が振動した。
 そのまま、無言で通話ボタンを押し、レコーダーでの録音を開始する。
143SL66:2009/08/08(土) 07:22:05 ID:ndSpjNGs
ひとまず、今朝はここまでです。
残りは今夜に投下しますので、お楽しみに。

(残りには、控えめですが、エロがしっかりあります)
144名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 08:38:53 ID:UoUO/Nh0
ななこ様ものこーい
145名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 08:53:19 ID:M+Uw3NOP
>>113
SL66さん、毎度GJです
146名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 10:06:19 ID:DkRF4K1N
もうなんか紙媒体で読みたいw
147名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 10:28:48 ID:kVofLMzl
>>146
ときどき思うw
148名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 10:59:31 ID:X/v7mydI
>133
読み応えあって面白かった
次楽しみにしてます
149名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 13:20:16 ID:4XdImsuV
久しぶりに来てみた。
SL66氏は相変わらず面白かったが、この軽トラって作品はひどいな
下手なエロ同人誌よりも登場人物がペラペラで違和感あるし、読んでて不快にしかならない
Cパートの後に荒れたからこのスレでは荒らしたくないのか、拒否してるから誰も見てないのか?

エロが書きたいならそのカップルだけ出して他に触れない方が無難だろ、これ
明らかに作者の力量を越えた設定で収拾付かなくて反感を買ってる
作者がとらドラが好きだとはどこからも感じられないし、全員オリジナルで作れば?
150 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:22:29 ID:PXuxqX+o
皆さんこんにちは。
[言霊]の続きが書けたので投下します。
前回の感想を下さった方々ありがとうございます。
では次レスから投下しますので、良かったら読んでやってください。
151 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:24:04 ID:PXuxqX+o
[言霊(7)]

俺は駆ける。
全力疾走…には程遠いけど、速歩きよりは速く、駆け足より遅く。
気持ちだけは焦って、前へ前へと歩みを進めていくが、肝心な身体が付いていかないのだ。
櫛枝に改めて言われる事の重み、亜美と早く逢いたいくて焦燥する気持ち。
±して中間より少し上…そんな中途半端な速度になるのだ。
カッコつける訳じゃないけど……俺なんかが傷付くのはどうでも良い。櫛枝と『バイバイ』する事で一番、心が痛むのは彼女自身なのだ。
『好き…大好き』
と…俺に櫛枝が抱いている気持ちを亜美に教えて……変な意味無しに嬉しかった、…そして辛かった。
漠然としていて、実態は掴めない。けど、その二つの感情が俺の胸を締め付ける。
だけど乗り越えないと…お互いに先は無い。
停滞して、絡まった糸を解くキッカケを見失ってしまう…。
亜美が身を挺して開いてくれた突破口を塞いでしまう事になる。
だから、どんなに怖くても俺は成し遂げる。
矢面に立たされても引かずに守ってくれた亜美…どんな時だって自分より俺を庇ってくれた。
彼女から貰った勇気を無駄にはしない、一緒に並んで歩みたいから。


152 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:25:10 ID:PXuxqX+o
角を右に折れ、そのまま前進、エレベーターホールで表示を見上げて、横の階段から階下へ下る。
一分やそこらの待ち時間が惜しい、駆け足で階段を下って残り数段は飛び降りる。
体勢を崩しそうになるのを踏ん張って、目の前のロビーを睨む。
……居た。
「櫛枝ぁっ!」
俺は駆けながら、彼女の名を呼ぶ。
何故なら、彼女を含めた女子達がエレベーターに乗ろうとしていたから。
「ん?」
櫛枝が振り向くと同時にエレベーターが閉まる、その時…俺は見た。
亜美が少し驚いた表情をして、すぐに俺に微笑み返し言った。
『が・ん・ば・れ』
言葉として聞こえはしなかった、けど唇の動きで、そう言ったのは解った。
鉄の軋む音を聞きながら、膝に手を付き肩で荒く息をする。
「お〜高須君じゃないか、どうしたよ?私に何か用かい?」
腰に手を当てて彼女は明るく問う。
「っは!……はあ!お、おうっ!櫛枝…お前に…っふ!話したい事があってな、ちょっとで良いんだ時間をくれ…っは!」
あがった呼吸を整え、乾いた喉を唾で潤して答える。
「ん〜………それは、さっきの話の続き?………それとも真面目な話かい?」

153 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:26:01 ID:PXuxqX+o
それは真剣な表情、そして…辛そうで…櫛枝が一瞬、小さく見えた。
「大真面目な方……だな」
俺の言葉を聞き、彼女の眉が僅かに…良く見なければ解らない位だけど…ヒクッと動いた。
「…うん。そっか…、あっ、ちょいと待ってておくれやす」
達観した表情を浮かべ、彼女は呟く。
そして話の途中で鳴った着信音。
『大河からのメールだ』
そう言いながら、ポケットから携帯を取り出す。
恐らく、大河からの着信とメールは通常とは違う物に設定してあるのだろう。
じゃなかったら、わざわざ話の腰を折ってまでメールの確認はしないだろうから。

そして…指先がボタンを下にスクロールさせていき、ある瞬間にピタリと止まる。
唖然というか…なんにせよ驚きを隠せないといった感じ。
「…待たせてごめんよう、じゃあとりあえず人の居ない所に行こうか?」
覇気の無い声で櫛枝は返す、大河からのメール…それに何が書かれていたのかは解らない。
しかし、メールを読んでから彼女に変化が起こったのは確か、確かめるのは筋違いだけど気になる。でも聞かない方が良いのだろう、その内容は…大河の言っていた
『重要な事』
に違いない、嫌でも知る事になるだろう。


154 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:27:16 ID:PXuxqX+o
そして連れて来られたのは玄関の外。深々と雪が降る中では、確かに誰も居ないが…寒い。
「さて、それで用事は何かな」
櫛枝が俺と相対する、その距離は1メートル半。それが俺達の距離、思い切り身を乗り出せば届く、けど直立したままなら絶対に届かない距離。
彼女が意識せずに提示した……俺達の在るべき距離。
「イブの晩の続き……って言ったら解るか、っても変な事を頼むなんだけどな」
「…告白だ、よね?あの晩に高須君が私に言おうとしてた事」
櫛枝がポツリポツリ…呟く、伏目で…俺と目を合わせようとはしない。
「ああ、こんなのを頼むのはおかしいんだが、今から告白するからフッてくれ」
彼女は何も言わない、ただうつむいているだけ……吐息が白い帯を引いて流れて闇夜に溶けていく。
「その前に一つ聞かせてよ、その……今さらだけど、もし…もしだよ、
その今からしてくれる告白……私がフラずに頷いたらどうすんの…かなって、絶対に曲げない?
"フッてくれ"っていう考え」
数分、いやもっと長い時間かもしれない、彼女が問の答を返し始める。でもそれは問の問で…うわずった声で迷い、選びながら問い掛ける。


155 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:28:44 ID:PXuxqX+o
……その問は櫛枝の心の叫び、心情の発露。
『もう戻ってこない時間、過去にもどれたら…後悔している』
俺には……そう聞こえた、自惚れかも…な。
さっきの出来事が無ければ
『俺の心変わりを警戒して…』
そう感じただろうな、掛け違えたボタンが生み出す被害妄想。
でも…聞いてしまった後だと
『万に一つ無いけど、もしかしたら…』
そう期待してる様に見えてしまう。
余計なフィルターを通して見たくない…彼女を愚弄する行為だから、でも…俺の心の中にコンマ1残った『櫛枝』が見させる。
「…俺を信じて待ってくれているヤツ、大切な事を教えてくれた娘が居る…だからブレない」
俺は、その邪魔物を無理矢理に乗り越える。
それは亜美が待ってくれているから…。
そして櫛枝の気持ち、夢、それらを遮る『高須竜児』という障害物を除きたくてストレートに…。
「よっしゃ…なら、どんと来い」
沈黙を破り櫛枝が顔を上げ、優しく微笑む…。
「俺…櫛枝の事がずっと…好きだった。
もう一年位になるか、寝ても醒めてもお前を想ってた」
真直ぐ俺を見詰める櫛枝が息を呑む、瞳が潤んで、揺らいで…輝いている。


156 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:29:49 ID:PXuxqX+o
「一目惚れ…だったよ。二年になって同じクラスになれて嬉しかった、気さくに接してくれて…嬉しかった。
気持ち良い笑顔で挨拶してくれて、俺が持って無いモノを持ってて…眩しかった。
少しづつ仲良くなれて、距離が縮まっていく日々が楽しかった」
どんなに楽しかった事か…。大河と共同戦線を張って毎日何とか気を引こうとして……さ。
「喧嘩しちまって…辛かった、謝れない自分が嫌だった。
けど…仲直り出来て良かった、グッと距離が近付いたから…。
でも…その辺りからボタンを掛け違えた…認めたくなかった、掛け直したかった、だからクリパに誘って…さ」
あの日の焦燥、チクチク刺さる痛み。…櫛枝はもっと痛かったんだろうな。
フッと息を吐いて続ける。
「結局は来てくれなかったけど、…いや来てくれたよ。
それが、あの日の晩だったな。お前が立ち去る位から、こんな雪が降ってた…覚えてるか?
………今の俺達はイブの日に"居る"って事にしてくれ、あの時に言いたかった事……言うぞ?」
櫛枝が頷く、力強く一回…目を逸さずに…。
「櫛枝っ……お前の事が好きだっ」
『過去形』にしなかったのは…今の俺達はイブの晩に戻っているから…。


157 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:31:03 ID:PXuxqX+o
あの晩の落とし物を届ける為に……どんなに亜美を想っていても、それが偽りじゃなくても、今この時は『イブの時の高須竜児』だから…。
櫛枝が一度ブルッと身体を震わせる。うつむいた顔の影から覗く……彼女が歯を食いしばる姿。
「……私はコレを受け取らない」
外に出た時から握り締めていた手をゆっくり拡げて、俺の方に差し出す。
「何か順番がアベコベ…あの日、答えてたら貰えてた物だけど……知らない内に……ううん知らなかったよ。
大河からじゃなくて、本当は高須君からのプレゼントだったなんて、さっき知ったから。
大河がくれたから着けてたコレ…高須君を知らない内に傷付けてた。ごめんなさい。
コレを返す事が私の……櫛枝実乃梨の答えだよ」
差し出された手の平に乗っているヘアピン。
顔を上げた櫛枝が見せてくれた笑顔は…あの眩しい太陽の様な笑顔だった。
「おぅ…。分かった、ありがとうな」
ヘアピンを受け取って、そう俺が言うと彼女が首を横に振る。
「私の方が"ありがとう"だよ、色褪せない大切な"想い出"を高須君がくれたから…へへっ…私は何をくっさい事言ってんだろうね」


158 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:32:30 ID:PXuxqX+o
右足の爪先をサクサクと地面に積もった雪に埋めて、彼女が深呼吸する。
そして…。

「私は今でも高須竜児の事が好きじゃあっっっ!!!ベタ惚れなんじゃ、こんちくしょうっっ!!!」
彼女が大きな声で叫んだ。
「気付いたら視線で追ってたよっっ!!幽霊の話を信じてくれて嬉しかったよっっ!!!
誰よりもカッコ良かったっ!凄く優しかった、私を解ってくれた!!こんなんじゃ誰だって惚れちまうだろっっっ!!!」
天を仰ぎ、握り締めた拳を震わせて…。
「告白されそうで嬉しいけど怖かった!!あの時は逃げちまったけど、言うぜぃ!!言っちまうぞぉ!?
高須竜児ぃっっっ!!大好きじゃあぁあっっっっ!!!!!」
彼女が言っている事、言いたい事、俺に言わせたい事、それを俺は理解した……。
これが彼女なりの『気持ちの良い終わり方』
これが彼女なりの不器用な『秘めた想いの伝え方』
散る事なんて解りきっているのに……あえて櫛枝は言霊を載せて紡いでくれたんだ。
それは俺が言霊を伝えたから、しっかり返してくれているんだ…。
なら俺が答える言葉は決まっているじゃねぇか。
「俺はコレを贈らないっ!それが答えだっ!」


159 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:33:58 ID:PXuxqX+o
「解った!!OK!!了解したっ!!にゃろうめいっ!!」
彼女は即座に返してくれた。音量はそのままに。

「ふぅ…スッキリした。ははっ…ゴメンよう、どうしても伝えたかったんだ……私は高須君を嫌ってフッたんじゃないって、さ」

「おぅ」
肩で息をしながら彼女は満面の笑みで俺に言う。
「これでお互いに失恋…じゃないや、高須君はもう新しい恋を見付けてるし……うん、代わりに私が全部貰っておこう。もったいないオバケに恨まれるから」
皮肉を込めて櫛枝が紡ぎ、ほんの少しだけ寂しそうな顔をした。
「キミみたいな良い男にはあーみんみたいな良い女が似合う、って訳さね。さっき高須君に会う前に…あーみんから聞いたよ、色々とね。んふふ〜☆
この色男めぇ〜このっ!このぉっ!」
肘で俺の腹をグリグリと押してからかわれる。
それを俺は笑顔で返して答代わりにする。
「ほっっっんと…良い女ってあーみんみたいな人を言うんだよ、私の方が手込にしたい位の……いい娘だよ。
半端なく愛されてるよ、高須君は……羨ましい。
………あーみんを泣かせたらギャラクティカマグナムした後にバスターホームランで吹っ飛ばすべ、マジで」


160 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:46:21 ID:PXuxqX+o
櫛枝が真剣な目差しをして俺に釘を差す。
先程…亜美に見せた、櫛枝の怒り狂う姿なんか嘘みたいだ。
俺達を後押ししてくれている。
「おぅ、そん時は頼む。ボッコボコにしてやってくれ、大河と一緒に、な」
俺は笑いながら…そんな優しい彼女に誓う。
「ん。………ここで私の役目は終わりですたい、愛しのあーみんが待っとるばい。ほら行ってやるとよ」
彼女が手をヒラヒラ振って、亜美の元へ行けと促してくる。
「ありがとうな…、櫛枝も風邪を引かない内に戻れよ?」
「がってん!あ〜…そうだ、まだ"バイバイ"してなかったね」
ギクシャクした感じなんて無くなって、自然に彼女と接する事が出来る様になっていた。
ロビーに戻ろうとした時、俺は彼女にそう呼び止められた。
「ジャイアントさらばっ」
拳を俺の顔面に緩く突出し、僅かに唇に触れる。
「ふふっ。私はもう少し、ここに居るよ…バイバイ」
何だよ俺の方から櫛枝に『バイバイ』したかったのに…先にやられてしまった。
けど…これで、糸は紡ぎ直せたんだよな。
変な遺恨なんか残さずに、前より頑丈に結べたんだ。そう信じたい。
「バイバイ」


161 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:49:34 ID:PXuxqX+o
.
櫛枝の元を去った俺は、急いで来た道を戻る。
直接、彼女の元へ行こうか…いや一旦、自分達の部屋に戻ろう。
まだ風呂に入ってねぇし…部屋に起きっぱなしの携帯から連絡を取って…………消灯まで時間はそれなりに残っている、間に合うよな?
そんな考えを巡らせながら部屋の前まで戻ると…亜美が待っていた。
「竜児…」
壁にもたれ掛かり、腕を組んで……。俺を見付けると頬を綻ばせてくれた。つまらなさそうにムスッとしていた顔が、瞬時にパッと明るく……キラキラ輝いた。
『半端なく愛されてるよ』
そんな櫛枝の言葉が頭の中で木霊する。
「部屋に居ても暇だし………来ちゃった」
ちょっと苦笑しつつ、彼女が紡ぐ。
本当は逢いに来てくれたんだろうな、櫛枝との事を聞きたい…とかじゃなく、純粋に俺の事を案じて来てくれたのだろう。
「おぅ…寒いだろ、部屋にでも入るか……って鍵持ってねぇや」
そう言う途中で、そんな事に気付く。確か能登が持ってるんだよな鍵。
戻って来てれば良いけどな。
と、ドアノブに手を掛けようとすると亜美が口を開く。
「…開いてないよ」
だよな、誰か居るなら部屋の中で待ってるだろう。

162名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 13:51:07 ID:x+9Ty3Kg
さるさんか?支援

>>149
良い事言った
多分叩かれてなかったらもっと酷い事になってたよ
こういうifでもない本編後から好きなキャラと竜児くっつけて
残ったのは適当に捨てとくってのはほんと許せん
内容がペラペラってのほんと同意だわ

SLさん毎度乙っす
163 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:51:18 ID:PXuxqX+o
「てかさ、祐作達がチビ虎に引き摺られていってたの見たし…あのアホ達、何をしでかしたんだろうね?ねぇ?り・ゅ・う・じ」
ニヤリと笑って亜美が俺の顔を覗き込む……まさかバレてる?
「お…知らねぇ、春田辺りが大河に何かしたんじゃないか?」
口から出任せ、部屋に忍び込んだ事を口外してはいけない。俺はともかく北村達が可哀相だ、色んな意味で。
「へぇ〜じゃあ、そういう事にしといてあげよっかな……んふ♪
"竜児達"が何をしてたか、は奈々子と麻耶にはナイショにしといておくわ」
思わせぶりな言い方に俺は観念するしかない、事情を話せば少し位は情量酌量の余地は有るやもしれん。
「気付いてたのかよ……」
「まあ………エレベーター乗ってる時に、だけど。だって、おかしいじゃん?
実乃梨ちゃんと私に色々あった後、すぐに竜児が探してたら。
ちょっと考えたら分かるし、あ〜私達の話してた事を聞いてたんだなコイツら、って。
な・に・よ・り亜美ちゃんは竜児の嘘なんて簡単に見破れるんだゾっと」
亜美は別に気にしていないみたいだ、クスッと笑って俺の鼻を指先でつつく。
「嘘は付けねぇな、それよりも亜美に話したい事がある」

164 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:52:28 ID:PXuxqX+o
そう、ずっと言おうと想っていたこと。
彼女を好いてると自覚し、認めた時から伝えたい言葉。
それを言霊として贈るのは今しかない。
「俺とお前の"これから"の事なんだが、場所を変えて話したい」
「ん…、うん」
亜美が唾を飲み込んだのが見えた。一歩遅れてだが、しっかり頷いて…。
「おぅ…」
こういう時、何か気の利いた事が言えれば良いんだろうな。…緊張して思い付かない。
それは彼女の湯上りの淡い桜色をした頬に朱が差している姿に、そして艶やかな唇に目を奪われたからだ…。
期待に瞳を潤ませ、ジッと見詰められて…堪らなく綺麗で。
魅入ってしまう……。俺は動けなくなる。
まだ告白なんてしていないのに心臓がドクドク鼓動を速め、手が震える。
そんな時だった、亜美が顔を真っ暗にして両手で俺の手を包んでくれた。
何を言う訳でもない、ただ優しく微笑んで手を撫でてくれる。
言葉に出さずとも、緊張をほぐそうとしてくれてるんだと察する事ができた。
だから勇気を振り絞る事が出来る、亜美の優しさに後押しして貰えたから。
「ありがとう、行こう」
俺は頷いて亜美の手を握り、一歩を踏み出す。


165 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:53:56 ID:PXuxqX+o
.
「はあ…そりゃそうだ、良く考えたら当たり前だったよな」
一歩を踏み出して十分後、俺達はロビーのソファーに座っていた。
告白するに相応しい場所を探して歩き、なかなか見付からない。

互いの泊まってる部屋は誰かが居るし、通路の袋小路は他の部屋の前、屋上は無いし、自販コーナーは売店と併設していて人通りがある、残るはトイレと大浴場くらい。
流石にそこは駄目だろ?なら、さっきみたいに屋外か……けどそれを選択肢として選ぶのは嫌だった。
なんか櫛枝に対して失礼だから。
そして最終的に行き着いたのは、ココ、ロビーである。
人が居なくなるのを待つが、それは無駄だろう。
少なからず誰かが居る、フロントマンもな。
誰かに見られたり、聞かれたりが恥かしいとかって理由じゃない。
亜美が
『なら祐作みたいにみんなが居る前で告白とか?……やぁん亜美ちゃん愛され過ぎて困っちゃうよぉ♪』
とか言っていたが、それは出来ない。
告白するのに雰囲気は大切だからな、かといって雰囲気が作れそうな場所は無い。
だから困ってる、その姿を楽しそうに見る亜美を横目に捉えながら。
「仕方無いよ、なら修学旅行が終わってからは?」


166 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:55:13 ID:PXuxqX+o
「おぅ?」
でも最後には助け船を出してくれるのだ、亜美は。
「亜美ちゃん待てるよ?楽しみは後に取っとく、それで良いよ、焦んなくてもさ。
あ、さっき言ったみたいにぃ〜、みんなの前であっまぁ〜いコ・ク・ハ・クしてくれた方が嬉しいかもぉ。
てか、して?なんちゃって」
キャハッ☆と可愛い笑い声を残して彼女はニコニコ顔。
「それじゃ北村のパクりだ、いや…それがどうってわけじゃねぇけど、
はあ…仕方無い。悪いけど、修学旅行が終わるまで待っててくれ」
翌日だって、今と変わらず、だろうからな。
なら後日、改めてだ。
「え〜恥かしいわけぇ、なら亜美ちゃんが声を大にして言ってあげようか?
あは、ま…冗談はさておき。いつでも良いよ、竜児が言える時で、…………待ってる」
亜美がニッコリ微笑んで紡いでくれる優しい言葉。
「おぅっ」
情愛に満ちた彼女の想いが嬉しくて、すぐに返事を返す。
「………けど竜児は前にした"約束"を覚えていてくれてるのかなぁ」
そう彼女がポツリと呟いた言葉の意味を理解するのは、二日後の事であった。


続く
167 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 13:56:19 ID:PXuxqX+o
今回は以上。
途中、規制に掛かって投下が遅れてすいませんでした。
次回から亜美ちゃん視点エロ有り。
では
ノシ
168名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 16:23:44 ID:NKp1RHak
>>149
じゃあ、読むな。
つか、このスレに二度と来るな、ボケ。
マジ死ねよ。
169名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 16:29:56 ID:+wSqG1Xt
嫌ならスルーしろ精神は作品擁護派も持つべきだと思うの
170名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 17:50:00 ID:PPTc6E1z
>>168みたいに言葉が悪くて脊髄反射するやつがいるから荒れるんだよな。
煽り成分しかないレスする前にGJの一つでも書けばいいのに。
それとも感想や指摘すら言えないスレになっちまったのか?
171名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 17:55:02 ID:fZcxSJfp
まぁ正直、けいとらはとらドラキャラである必要性は確かに感じないな
しかしそういった事はSSを多く見てればたびたび出会うパターンではあるし
面白くないと思う人はあぼんすればいい、感想見てると楽しんでる人もいるんだしな
172名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 18:07:52 ID:8ulzVJQs
だからあれはスレ荒れさせるのが目的の投下なんだってばよ。踊らされんな。あぼんするのが吉。
173名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 18:34:45 ID:FTQ64swR
それは知らんけど、けいとらはVIPで適当に単発スレ立ててやれば良かった
エロパロはオナニーにはきびしいですよ?
174名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 18:47:10 ID:vKuOK6nT
KARs様GJ!
みのりん、あーみん、竜児はいい感じにまとまりましたが現在放置プレイ気味な
大河がどう動くかもまた楽しみです。
次回のエロスも待ち遠しい(;´Д`)ハァハァ
175 ◆KARsW3gC4M :2009/08/08(土) 19:19:49 ID:PXuxqX+o
>>164
すいません、誤字がありました
×亜美が顔を真っ暗にして
○亜美が顔を真っ赤にして
です。
orz
176名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 20:18:01 ID:zX61PDYX
エロパロ=作者のオナニー

それを楽しんでみてる変態が俺ら
177名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 20:34:15 ID:vKuOK6nT
>>175
あーみんヤンデレ?Σ(゚д゚ ;)
178名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 20:43:22 ID:4acHWkLk
エロパロ=作者のオナニー
それでさらにオナryする変態が俺
179名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 20:46:54 ID:QvvoOCN+
まあアレな言い方になるけどあえて言わせてもらうと、
エロパロは作者のコスプレオナニーであり、エロパロスレは公開オナニーの場所なのよね。
ギャラリー(読み手)は他人(作者)のオナニーを見に来てるって構図か。
公開オナニー劇場。
そこでオナニーしている人にオナニーを禁じようとしたり文句を付けるなんて場違いも甚だしい。
嫌なら立ち去るか見なければ良いだけで。
作者に対価を支払ったなら別だけど。




「オナニー」って何回言ったかしら
180名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 21:14:14 ID:+wSqG1Xt
まあでも空気を読んでオナニーしないと反発が出ても仕方ないんじゃない
俺も書く方だけどああいう設定ではちょっと書けないな
だってちょっと想像すればスレ投下した時点で絶対荒れるだろうなって分かるし
だからけいとらの作者さんはそんなの知ったこっちゃねー俺はここでオナるんだよ文句なんか勝手言ってろやー
というタフ(?)な精神の持ち主なんだろうな
181名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 21:25:38 ID:Q1zN27+E
大河、実乃梨、と来たら次は奈々子様か?
182名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 21:26:38 ID:RxzYcqym
まぁ、けいとらがオナニー以下の酷いメアリースーものなのは同意

何を書きたいのか、何を表現したいのかサッパリ伝わってこないし、俺キャラが大河寝取りイイ!としか

ま、ウザい時はNG登録でおk
183名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 21:35:58 ID:4XdImsuV
>>172に荒らし認定されてて吹いたが、別に荒らすつもりで書いたわけじゃねーよ
俺は実乃梨、大河の順で好きだけど、つーか二人の友情がとりわけ好きなんだよ
大河×竜児好きな人は絶対読まないで、には当てはまらないんよ、だから読んだわけ

大河が竜児を諦めるって時点で実乃梨は一声叫ぶだけ。あれだけ原作で堅持してた想いにどうやって折り合いを付けたんだ?
大河から奪い取る実乃梨を書くなら、二人の絡みとか心情の揺れが一番の見せ場だと思うんだけどな
単純に自分に好都合だからっつって、ホテルで竜児に擦り寄る実乃梨とか最悪だわ、そんなキャラなら愛されてねーだろと

大河と竜児が当人同士でほとんど話をせずに別れるのに納得する部分も俺としては笑うしかない
泣きながらキスだって違和感ありまくり、その場にいるキャラ誰一人の心情も読み手は理解できねーだろ、これ?
大河とジャンボだかの会話も下品極まりなくて悪意しか感じられないし
実乃梨に幸せを引き裂くような野暮はしないとか言ってて、次に登場したら結婚したいって言うのは最早クイズだな

長文で悪いが、これが俺の感想だ
オナニーな流れの中でKYと言われても痛いと思われても構わん
184SL66:2009/08/08(土) 21:47:32 ID:ndSpjNGs
二時間後に「指環」のラストを投下するので、まぁ、落ち着きましょう。

なお、劇中で亜美にパン作りをさせましたが、素人でもそれが可能であることを身をもって立証しました。
以来、パン作りにはまってしまい、今日も、劇中に出てきた新宿三越地下の店でライ麦粉、小麦全粒粉を
買ってきたSL66です。
185名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 21:51:05 ID:DkRF4K1N
お隣さんが時々手作りパン持ってきてくれるが美味いんだよね
186名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 22:00:37 ID:lde7bCyV
>>183
なら、このスレから出て行け!
俺的にはけいトラ!は最高だ!
みのドラ!マンセーwww
187名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 22:00:38 ID:cInbK6kE
>>184
期待して待ってるぜよ
188名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 22:06:16 ID:lde7bCyV
「人類の為だ」
いつまでもイノセントな魅力を発し続ける堀江由衣。 少し売れればアーティスト宣言をし、売れるまで支えててくれた声優ファンに後ろ足で泥をぶっ掛けるような狭量で狡猾な恩知らずがテレビに出るたび、受像機に向かって「それでも声優か!!」と叫ぶ自分がいる。
彼女のようなアイドル声優路線を貫き通し、それが商売としてきちんとペイする存在を知っているからこそ、彼女らが本物の声優ではないと断じられるのだ。
自らが信じた道をひたすら突き進み、自分がファンから求められている堀江由衣像を裏切らずにコツコツと積み重ねてきた年輪の凄みを感ずれば、世の中の不毛な争いもなくなるであろう。
ソレこそが、唯一絶対の真理への道なのである。日本人は堀江由衣を全員が聞くべきだ。それは日本人の為ではない。人類の為だ。
189名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 22:08:48 ID:PPTc6E1z
>>167
色々あるけど、作品を楽しみたいので最初から「言霊」読み直してきたよ!
今日の分も面白かった、あーみん視点エロ期待してますね

>>184
全裸待機ktkr!
190名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 22:33:42 ID:lde7bCyV
うっお―――っ!! くっあ―――っ!! ざけんな―――っ!
こいつの使い道はまだあるぜ――っ!!てめぇ… なめとんのか?
拳に道具はいらねぇ!魂のはいった拳なら―― どんなもんでも打ちぬくぜーっ!!!!
う… ぎゃああーっ!! ごが ごががあっ!!ぜったいだれにも負けねぇから!!
空中殺法か!自分の手をよごさぬ闘いをしかけたてめぇこそ闘士じゃねぇだろ
男なら拳ひとつで勝負せんかい! なにが気功だ てめえの気功術はでたらめだよ サニーパンチ!!
わたしは許しませんよーっ!こんな刃じゃあ ハエも殺せねえぞ――っ!!
て…てめえは狼じゃねぇ…な… オ…狼なら… ただ殺すだけの狩りはし…ねえ…
いったいてめぇはなにモンだ―――っ!?ばかぬかせーっ!?
時を止めた者が前に歩を進める者に勝てるわけがない!!素手でうけたら骨がくだけるからね
うっぎゃああっ!やかましい! すげえ気をもってやがる うげら!!んならこいつ見切ってみろやーっ!!!!
なめんじゃねえ… おれはまだ狼のままだ うろたえるんじゃねえ――っ!!!
ザコどもはきみとアンディにまかせる 大人の教えだーっ!! いったいなんのリストだよてめ―――っ!!
あんな殺気をはなつわきゃね―――っ!!おもいあがるんじゃね―――っ!! う… ぎゃああーっ!!
悪いな おれは医者じゃねぇ そいつはできねぇ相談ってもんだ
うぎゃっ うぎゃっ うぎゃーっ!!おれはいったいだれだ!?

191名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 22:34:26 ID:lde7bCyV
qaswdefrgtyhjuikolp;qswdefrtgyhujikolp;@:[]

亜qswでfrgtyhじゅいこlp;@:「」
192SL66:2009/08/08(土) 23:18:46 ID:ndSpjNGs
危惧したように、頭の不自由な人が湧いたようですので、
禊を兼ねて、早めに投下を開始します。

それにしても、病んでますね(笑)。
193指環(後編) 30/71:2009/08/08(土) 23:19:53 ID:ndSpjNGs
 携帯電話機のスピーカーからは、レストランらしいざわついた雰囲気とともに、若い男の声が聞こえてきた。

『それで、川嶋さんは法学部だそうだけど、別に司法試験とかを受験する訳ではないよね? あれは法科大学院を
出ないと受験すらできなくなったから、大学出てからも必死に勉強しなくちゃいけないなんて、人生の空費だよ。
それよりも、女としてもっと楽しい人生を送った方がいいと思うけどね』

『そう言われましても、学生は勉学が本分ですので、あたくしは女としてよりも、在学中は学徒として実直に参りたいと
思っています。それに、会ってすぐに結婚とか何とか、性急すぎやしませんか?』

 どうやら、バカ御曹司は単刀直入に亜美にプロポーズしたらしい。一方の亜美は、大学で勉強したいから、結婚なん
てのは時期尚早とつっぱねたのだろう。しかし、『あたくし』とは…、亜美の本性を知っている竜児には、噴飯物の
一人称だ。

『まぁ、僕と結婚しても、引き続き今の大学には通えばいいんだし…。結婚したからっていっても、家事とかは全くやる
必要はない。全部、家政婦に任せておけばいい。何ら思い悩むことはない優雅な生活が待っているんだけどね』

『何ら思考することなく、上げ膳据え膳の毎日なんですか? それって、脳味噌が退化しそうですわね』

 亜美の性悪毒舌が始まった。

『いやいや、セレブにはセレブらしい頭の使い方があるんだよ。まぁ、暇つぶしに株式や為替相場、それに美術品か何か
のオークションに手を出せば、それなりに頭を使うことになるし、それで十分だろ?』

 うふふ、という鈴を転がすような亜美の笑い声が聞こえてきた。悪意をオブラートにくるんだときに亜美がよくやる
笑みに相違ない。

『それって、思考というよりも運任せの要素が大きすぎますわ。単なるギャンブルでしょ? 競馬や競輪、もっと低俗な
パチンコ辺りと何ら変わらないですわね』

 ドン! という、耳障りなノイズが竜児の携帯電話機のスピーカーに轟いた。亜美の性悪な応答に翻弄され続けて
いるバカ御曹司が、ワイングラスか何かをテーブルへ乱暴に置いたのだろう。

『あらあら…、どうかされました? もう、酔われましたのぉ? そんなことはありませんよねぇ? 殿方たる者、ワイン
程度で酔われるようでは、宜しくありませんことよ』

 こぽこぽ、というグラスにワインが注がれるような音が聞こえてきた。ウェイターが気を利かして、バカ御曹司が干した
ワイングラスに新たなワインを注いだらしい。

『君ねぇ、僕に勧めるのはいいけど、君自身は全然飲んでいないじゃないか』

 バカ御曹司の語気がいささか荒くなってきた。意のままになりそうもない亜美の態度に業を煮やした上に、酔っても
きたのだろう。

『あたくしは未成年ですから、もとよりお酒はたしなみません』

 嘘つけ! と竜児は、内心で毒づいた。
 弱いくせに飲酒は大好き、酔えば酒乱という、どうしようもないのが亜美の本性だ。

『そりゃ、残念だ。酔った方が、刺激的な体験が色々とできるもんなんだけどね』

194指環(後編) 31/71:2009/08/08(土) 23:21:03 ID:ndSpjNGs
『刺激的? それはどういう意味ですか?』

『そ、そりゃあ…』

 バカ御曹司が口ごもっている。下心を見透かされたことで動揺しているのだろうが、そんなものは見え見えだ。

『あたくしは、今の大学での勉強の方が刺激的ですけど…。そういえば、あなたも法学部のご出身でしたわね。では、
ちょっと教えて戴きたいのですが、民法の三大原則って何ですかぁ?』

 先日の予告通り、亜美からの攻撃開始である。

『そ、それは…』

『たしか、民法のどの教科書にも冒頭に書かれているはずなんですけどぉ…。何せ、これから財閥の御曹司として、
法務にも精通されていなければならない御身ですからぁ…。まさか、ご存じないなんてことはありませんよねぇ』

『う…』

 バカ御曹司が苦しげに唸っているのが聞こえてくる。

『これだけ待っても、何のお返事も戴けないので、どうやらご存じないらしいですわね、ダメじゃないですかぁ、
所有権絶対の原則と、私的自治の原則と、過失責任主義の原則の三つですよぉ。
こんなの民法の講義の一番はじめに習うことなんですけどぉ』

『あまりに初歩的過ぎて、忘れたんだよ』

 例の鈴を転がすような笑い声が、またも聞こえてきた。

『そうですか、ではもうちょっと高度なことをお伺いしても宜しいですわね? では、先ほどの過失責任主義の原則とは
いかなるもので、その過失責任主義が適用されない例外を条文を含めて挙げて戴けますか?』

『き、君ねぇ、あんな長ったらしい民法の条文なんか、手元に条文集がなくちゃ答えられないだろ』

『あら、そうでしたわね。でしたら、これをお使いください』

 テーブルの上に、厚みのある紙束が置かれたような音がした。

『ポケット六法! こ、こんなのを持ち歩いているのか?!』

『あら、こんなものとは失礼な。仮にも、あたくしは法律を学んでいる学徒ですのよ。であれば、常日頃、条文集を持ち歩
いていて当然ではないでしょうか。さぁ、あなたの御託は結構ですから、これをお使いになって、先ほどの質問に答えて
下さいな』

 バカ御曹司のものらしい呻き声と、パラパラと条文集をめくっている音が聞こえてきた。しかし、亜美も意地が悪い。
無過失でも責任が問われる追奪担保責任(民法第五百六十一条)や瑕疵担保責任(同五百七十条)だが、
このバカ御曹司に答えられるとは到底思えなかった。

『だいぶ時間も経ちましたし、条文集もかなりいろんなページを開いてご覧になったようですけどぉ、そろそろ答えて
戴けないでしょうか? あ、分からない、っていうのでしたら、潔くそうおっしゃって下さいませんかぁ?
答えられなくても、別段、ペナルティーはありませんわ。所詮、この程度だと思うだけですからぁ』
195指環(後編) 32/71:2009/08/08(土) 23:22:40 ID:ndSpjNGs

 竜児は、その光景が目に浮かぶようだった。亜美の奴は、例の目をちょっと細め、口元をいくぶんはひきつるように
歪ませた、例の性悪笑顔をバカ御曹司に向けていることだろう。
 竜児等のごく近しい者を除けば、第三者に披露することは滅多にない亜美の腹黒い素の部分。
 今はその滅多にない場合なのだろう。例えば、ストーカーに逆襲して、これを撃退したときのように、または、どうでも
いい存在と、相手を完全に見下しているときである。

『く、くそ、何て、陰険な女なんだ』

 性悪チワワに追い詰められたバカ御曹司が歯噛みしている。そりゃそうだろう。楚々としたお嬢様面の内面が、こんな
にも腹黒いと初対面で見抜ける奴は、そうは居まい。中身のない奴ほど、亜美の皮相な面しか分からないのだ。

『陰険な女が答えですのぉ? そんなの条文集には書いてないでしょう?』

 語尾を持ち上げたイントネーションが嫌味ったらしい。

『まぁ、とにかく、あなたが所詮はこの程度だっていうことが分かりました。やはり、為替だ株だ程度の低俗なギャンブル
にうつつを抜かしているうちに、脳味噌が退化なされたようですわね』

『退化とは何だ、失礼だろ!』

 バカ御曹司が激昂している。そろそろ、怒りの臨界点が近い。

『あら、そうでしたわね。退化という言葉は不適当でした』

『当然だ!』

『退化というのは、元はまともだったのが、後で劣化することを言いますけどぉ、あなたの場合は、どうやら最初からダメ
みたいですもの。ですから、退化という言葉は不適当でしたわね。ほんとにぃ…』

 再び、鈴を転がすような亜美の笑い声が聞こえてきた。

『なんて、失敬なんだ。君は、躾というものがなってない。所詮は、成り上がり芸人の娘だな』

『あらまぁ、それこそ失敬ではありませんかぁ? まぁ、あたくし自身、それはそう思いますけど、それをあなた程度の
おバカさんに言われる筋合いはありませんわ』

 じわじわと、真綿で首を締めるように亜美がバカ御曹司を追い詰めているのが、電話でも手に取るように分かる。
 何のことはない。これは隠し事をしている竜児を追及するときの亜美と似ている。ただし、竜児との場合は、詐欺すれ
すれの引っ掛けや、恫喝まがいの強迫等、いっそう遠慮がないのだから、もっと大変である。

『所詮、芸人の娘が偉そうに…。どうやら、君は男というものがどんなものなのか身をもって知る必要がありそうだな』

『あら、そうですの?』

 怒りの臨界点寸前のバカ御曹司に対して、亜美は冷静そのもののように感じられる。
 だが、亜美だって精神的にはきついのだ。それを押し殺してバカ御曹司と対峙していることが竜児には分かった。
 不意に、じゃらり、という金属が干渉するような音が聞こえてきた。

『ちょっと夜風に当たった方がいいだろう。僕のポルシェで、ちょっと首都高を走って、河岸を変えよう』

196指環(後編) 33/71:2009/08/08(土) 23:23:56 ID:ndSpjNGs

 バカ御曹司は、ポルシェだか何だかのキーをテーブルの上に置いたらしい。

『河岸って、具体的にはどこですの?』

『予約が取れる手近なホテルだ。そこで男が何たるかを教えてやる』

『嫌だと言ったら?』

 鼻息荒いバカ御曹司に比して、亜美の口調はあくまでも冷やかだ。

『腕ずくでも引っ張っていって、一発ぶち込んでやる』

『あら、下品…。あんたって嫡子らしいけど、躾がなってないって言葉をそっくりお返しするわ。
単に甘やかされるばかりで、何ら苦労なくのうのうと育ったんでしょ? だから、バカなのよ』

 亜美が不自然なお嬢様口調をやめ、言葉遣いを普段のそれに戻している。どうやら、とどめを刺しにかかるらしい。

『生意気な女だな…。なるほど、お前の母親の川嶋安奈が持て余す訳だ。言っておくがなぁ、お前を煮て食おうが、
焼いて食おうが、それはお前の母親である川嶋安奈も承知の上なんだよ!』

 バカ御曹司の激昂の後、気詰まりな沈黙が続いた。会話に代わって、レストランらしいざわついた雰囲気が伝わって
くる。時間にしてみれば、ほんの数秒間なのだろうが、その会話の中断が竜児にはひどくじれったい。

『あら、そう…、今の話は何かあんたの作り話っぽいけどぉ、そうだとしたら、川嶋安奈に対する名誉毀損もいいところね。
それに、話が本当だとしても、別段、あたしは驚かないわ。ママは本当に食えない女だからねぇ、あたし以上に。だから、
自分の利益になるなら、この程度のことは言いかねないわね』

『強がってんじゃねぇよ、お前は、実の母親にも、手駒というか、厄介物扱いされてんだ。だが、そんな厄介物を俺は川嶋
安奈から貰って、これから調教してやろうってんだよ。どうだ、自分が何様か思い知ったか!』

『調教、あんたかこの亜美ちゃんを? 本当に下品ね…。あんた本当に財閥の跡継ぎなの? まぁ、あんたみたいな
バカは、衣食足りても礼節はないんでしょうね。そんなあんたに、あたしが何様かなんて言われる筋合いはないわよ。
自分が何様かは、モデルを廃業して、一高校生になったときにきっちりと理解している。あんたなんかに言うつもりは
なかったけど、あたしはママである川嶋安奈の影響から脱するために大学で勉強して、自分で進路を切り拓くのよ。
温室でぬくぬくと育ったあんたなんかとは違うのよ』

『小娘が偉そうに…』

『その小娘に、いいようにあしらわれているのは、どこのおバカさんかしらね。どうでもいいけどぉ、さっきから何か端末を
ごそごそいじってるけどぉ、何やってんのよ、みっともない』

『ホテルの空きを確認したんだよ。お前みたいな小娘は、一晩中、陵辱されて、身の程を知った方がよさそうだな。来い! 
ちょうど、湾岸地区のホテルに空きがあるようだ。そこで、男と女の関係ってもんを教えてやる!』

『嫌よ! あんた、強姦罪って知ってるの? 嫌がるあたしを手篭めにすれば、当然にそうなるわね。そうなれば、あんた
お終いよ』

『そんなもん、お前を黙らせれば済むし、警察や検察にもパイプはある。もみ消す方法はいくらでもある』

197指環(後編) 34/71:2009/08/08(土) 23:25:37 ID:ndSpjNGs
『腐ってるわね…。それに、あたしは黙らないわ。だとしたら、この亜美ちゃんを殺すのかしら? 強姦どころか殺人罪ね』

『口の減らない女だな、だが、その方が調教のしがいがあるってもんだ。とにかく来い!
ホテルに着いたらたっぷりかわいがってやるぜ』

『あら、あら…、劣情丸出しでみっともない。それはそうと、確認なんだけど、そのホテルにはどうやって行くのぉ?』

 興奮しているバカ御曹司とは対照的に、亜美の態度は落ち着き払っている。
 竜児は、無理してクールに振る舞っている亜美を案じた。亜美が健気に頑張っているのが、受話器を通して竜児には
分かるのだ。

『何度も言わせるな! 俺のポルシェでだ。そいつでひとっ走りすれば、すぐに着く』

『あんた飲酒運転するの? ワインだいぶ飲んでんじゃない。もう、それだけ飲んだら、酒気帯び運転じゃ済まないで
しょうね。それって、立派な犯罪よ』

『うるさい! そんなものいくらでももみ消せるんだ。金とそれに見合う権力があればな』

『あ〜ら…、つまり、あんたは、強姦事件や飲酒運転等の罪を犯しても、それを非合法にもみ消して知らぬ存ぜぬ
という訳なのね。コンプライアンスのかけらもない、本当に腐った奴だわ』

 例の性悪笑顔で畳み掛けるように迫っているのだろう。
 大きな瞳を意地悪そうに心持ち細めた表情は、竜児の三白眼同様に、本当はこけおどしだが、意外に迫力がある。

『だからどうした、この場の単なる会話の言葉尻をつかまえて、ねちねちと下らないことを言いやがって。
腐ってるのはお前の方だ。さすがに、業界で食えない女の代表格である川嶋安奈の娘だな。
その川嶋安奈ですら持て余す出来損ないがお前だ』

 元より亜美には何ら論理的な反論ができていないのだが、ここに至っては、低次元な悪口雑言の水準に堕したよう
だ。そろそろ、フィニッシュだな、と竜児は直感した。

『言いたいことはそれだけかしら? でも、まぁ、いいわ、あんたが、どうしようもない人間の屑だってのが分かったし、
それを多くの人が知り得る証拠も手に入れることができた…』

『どういうことだよ!』

 ゴソゴソという音がした直後、ごつん、といった、携帯電話機がテーブルにぶつかったような音がした。

『け、携帯電話…』

『そう、ICレコーダーじゃないから、これを没収しても、通話先で録音しているから、もうあんたにはどうしようもない。
あとはこの録音データを有意義に活用させて戴くわ』

『はったりだ! そ、そんなもん』

『はったりかどうかは、あんたが、この場で亜美ちゃんにおいたをすれば、すぐに証明できるわ。通話先では、ここの会話
をモニターして、あたしに万が一のことがあれば、警察に通報することになっているのよ。警察に通報するだけでなく、
この録音データは色々と使い道があるでしょうしね』

 警察に通報は、亜美との事前の打ち合わせでは予定外だが、緊急事態となれば、誰でもそうするだろう。

198指環(後編) 35/71:2009/08/08(土) 23:27:00 ID:ndSpjNGs
 だが、バカ御曹司は、警察よりも、亜美が言った『色々な使い道』の方が気掛かりのようだ。

『脅迫するのか?!』

『まさか、あたしは、あんたみたいな人間の屑じゃないからそんなことはしないわよ。あたしは、この場を安全に去って、
あんたみたいな人間の屑に金輪際関わり合いになりたくないというだけ…。それだけが所望よ』

 バカ御曹司が歯噛みしながら唸っている。

『お前…、このままで済むと思うなよ…』

『おお、こわい…、あたしが、この場を安全に去って、あんたみたいな人間の屑に金輪際関わり合いになりたくないって
控えめに言った意味が分からないようね。いいことぉ? 既に某所で安全に管理されているここでの録音データは、
そうしたあんたの側からの合法又は非合法な報復に備えるためなのよ。あんたがちょっとでも不埒な真似をしたら、
これを容赦なく世間にばらまくわ。その時は覚悟なさい』

『うちの財閥はマスコミにも影響力があるんだ。そんなもの記事になる前に握りつぶしてやる』

 鈴を転がすような亜美の笑い声が携帯電話機のスピーカーを振るわせた。

『誰が、広告収入いかんで、事実を歪曲するマスコミなんかへ真っ先に流すもんですか。今はインターネットがあるの。
ここにアップロードして、風評が広まるのを待って、一般誌の記者に記事を書かせる。これなら、どう?
いくらあんたでも手も足も出ないでしょうね』

『く、くそ…』

『インターネットの民意を甘く見ないことね。あんたのような人間は、民衆なんて虫けら以下としか思っちゃいないだろう
けど、今は違うの。そこんとこをわきまえて欲しいわね』

 何だか、嗚咽のようなくぐもった声が聞こえてきた。

『あら、脅しやすかしが通用しないとなったら、泣き落としぃ? 女々しいわね、これだけでも、あんたって下らない人間だ
わ。でも、その人間の屑に、もう一つ、念押し…。今回の件で、あたしのママ、つまり川嶋安奈にも手出しは許さないわ。
あんな女でも一応は、あたしのママだもの。あんたらの圧力で、仕事を干されたりしたらかわいそうだからね。どう、約束
して戴けるかしら?』

 しかし、バカ御曹司は返答しない。受話器から聞こえてくるのは、湿っぽい嗚咽だけだ。

『泣いてばかりで、だんまりだと困るんですけどぉ。まぁ、いいわ。沈黙しているあんたは、黙示の同意ってことで、どう?』

『う、う、うううう…、ち畜生、黙示の同意でも何でも勝手にしやがれ!』

『はい、ご苦労さん。今の言葉忘れないでね。もっとも、あんたが忘れても、ちゃんと録音してあるから、どうでもいいけ
どぉ。あとは、あんたも、あたしや川嶋安奈に変なちょっかいや圧力を加えない。川嶋安奈の仕事も妨害しない。これを
きっちりと守ってちょうだい。それを守れないときは、あんただけじゃなくて、あんたが継ぐことになっている財閥とやらも、
相当の打撃を受けると思ってなさい』

 携帯電話機のスピーカーからは、『畜生…、畜生…、畜生…』というくぐもった怨嗟の呟きが、切れ切れに聞こえてくる。

『あら、きったない。涙も洟も涎も垂れ流しじゃない。今の顔を携帯で撮影してもいいけれど、そこまでみっともないと、
199指環(後編) 36/71:2009/08/08(土) 23:28:46 ID:ndSpjNGs
さすがに哀れを催すわね』

 おそらく、性悪笑顔で冷笑しているであろう、その亜美に、バカ御曹司が懇願するように言葉を紡いでいる。

『わ、分かった、お前や川嶋安奈には、て、手出しはしない。や、約束する。そ、その代わり、その携帯電話の通話先を
教えてくれ…』

 屈服したように見えても、送信先を聞き出して、手を打とうというのだろうか。そのあまりのバカさ加減に、竜児も呆れ
返って、大きくため息をついた。
 何より、亜美の携帯電話は囮でもあるのだ。亜美の脇に置いてあるバッグでは今もICレコーダーが作動中で、携帯
電話でモニターしたもの以上に明瞭な状態で会話が記録されているのだから。

『本当にバカ丸出しね。切り札のありかを言うわけないじゃん。でも、これだけは言っておくわ。送信先は“我らが同志”』

『わ、我らが同志ぃ?』

『そう、あたしと同じ志を持った素晴らしい人よ。あんたみたいな屑とは大違い。ていうか、あんたと比べることすら、
その人には失礼過ぎるくらいだわ』

 持ち上げすぎだ、と竜児はこそばゆく思ったが、亜美は、本気でそう信じているのだろう。だからこそ、気丈にも、
バカ御曹司に立ち向かっていられるのだ。

『くそったれ! 好き放題喚きやがってぇ』

『あらまあ、みっともなく喚いているのは、あんたでしょ? でも、もういいわ、あんたのみっともないのは、十分録音でき
たから…』

 携帯電話機が何かに掴まれるような、ごそごそとした音が聞こえ、再び亜美の声が響いてきた。

『それではぁ…』

 音声が急に明瞭になった。亜美が携帯電話機を手にして、話し始めたらしい。

『我らが同志へ、協力を感謝する。以上…』

 その言葉を最後に、亜美からの通話は切れた。

「大変な一大活劇だったな…」

 状況自体は、男女二人が向かい合って会話したというだけなのだが、その応酬の激しさは、活劇と呼ぶにふさわし
い内容だった。
 竜児は、ICレコーダーの録音を終了させ、そのレコーダーをUSBケーブルでパソコンに接続した。そして、レコーダー
に記録されていたmp3ファイルをパソコンにも保存し、パソコンのメディアプレーヤーで再生する。
 音声は意外と明瞭だった。バカ御曹司が亜美を手篭めにしようとしたところとか、飲酒運転しようとしているところとか、
それらの罪を犯しても、もみ消せば済むとか息巻いているくだりも、しっかりと記録されていた。これなら、証拠としての
価値は十分にある。

「しかし、あいつが精神的につらいのは、むしろこれからかも知れねぇな…」

 バカ御曹司との見合いが亜美によって台無しにされたことで、川嶋安奈の面目は丸つぶれである。

200指環(後編) 37/71:2009/08/08(土) 23:31:17 ID:ndSpjNGs
 それゆえに、川嶋家では、親子で相当の諍いがあるはずだ。その時に亜美は、ICレコーダに記録されているであろう、
バカ御曹司の『お前を煮て食おうが、焼いて食おうが、それはお前の母親である川嶋安奈も承知の上なんだよ!』なる
発言を盾に、川嶋安奈を追及するに違いない。

「親子の確執は、もはや決定的だな…」

 バカ御曹司による問題発言の真偽は不明だが、今回の見合いまがいの茶番を率先して手引きしたのは川嶋安奈に
ほかならない。亜美の意向を完全に無視して、それを執り行った責任は決して軽微なものではないだろう。竜児にしても、
今回の川嶋安奈の所業は許せない。だが…、

「後味はどうしようもなく悪いが、ひとまずは俺たちの大勝利だ…」

 そうであれば、敗者をギリギリまで追い詰めてはいけない。甘いとか、手ぬるいとか言われそうだが、温和な竜児は、
こんな時でも非道にはなり切れないのだ。
 竜児は携帯電話機を手に取った。

『我らが同志へ
 第一次作戦の成功を祝す。録音データを確認したが、相手とのやりとりが克明に記録されていた。
 それにしても鮮やかな戦いぶりだった。本当にお前はすごい奴だと思う。
 この後は、対お袋さんの作戦である第二次作戦が展開されるが、録音データにバカ御曹司によるお袋さんの許可を
得て、お前を犯す、という発言がある以上、その発言の真偽のいかんを問わず、お袋さんは相当に苦しい立場に立たさ
れることだろう。それに、お前の親父さんの立ち位置が不明なのも気になる。
 もし、今回の一連の騒動が、お袋さんの独断専行であるなら、下手すれば、川嶋家は分裂しかねない。それはお前も
望むところではないだろうし、俺もそうだ。
 だから、今回の事件で、敗者であるお袋さんを過剰に追い詰めるようなことはしないでくれ。
 俺たちは勝ったんだ。手ぬるいと思われるかも知れないが、これで十分だと思う。
 以上、同志竜児より』

 その文面を送信し終わって、時計を見た。時刻は午後十時になろうとしていた。今頃、川嶋家では、亜美、川嶋安奈、
それに亜美の父親を交えての家族会議が行われているのかも知れない。その顛末は、早ければ、午前零時ごろの定時
連絡で竜児にも知らされることだろう。
 竜児は、それまでの間も、少しでも法律の勉強をしようとして、条文集と青本を開いたが、亜美のことが気になって、
勉強が手に付かなかった。

「大丈夫だろうか?」

 それにしても、バカ御曹司による、『お前を煮て食おうが、焼いて食おうが、それはお前の母親である川嶋安奈も承知
の上なんだよ!』発言は強烈だ。常識的に考えて、亜美の保護者である川嶋安奈がそんなことを言うはずはないのだが、
そんなとんでもないバカに亜美を嫁がせようとしたのは事実なのだ。
 しかも、今日の会場に、亜美の父親の姿がなかったことから、どうやら彼は、与党大物政治家主催のパーティーに端
を発した今回の騒動で、全くの蚊帳の外だったのかも知れない。

「あのコメントは、さじ加減を間違うと、川嶋家が崩壊しかねない劇薬だ」

 川嶋家が分裂せずに存続するか否かは、その劇薬を扱う亜美次第だ。あのコメントを盾に取って、頑なに川嶋安奈を
責めたら、おそらくは蚊帳の外であった亜美の父親の憤懣を激化させ、最悪の事態に陥りかねない。

「あいつの節度と良識に祈るしかねぇな…」

 亜美は、性悪で、嫉妬深い。しかし、健気で、聡明でもある。その亜美であれば、判断を誤らないかも知れない。

201名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 23:32:33 ID:Oo1aA0JW
C
202指環(後編) 38/71:2009/08/08(土) 23:33:00 ID:ndSpjNGs

 時間の流れが異様なほど遅く感じられる中、竜児は条文集や青本をパラパラめくりながら、亜美からの連絡を待った。
 条文集や青本の記載は、映像として網膜には結像しているものの、それは情報として記憶されることはなかった。
亜美のことが気掛かりで、その他のことを思考し記憶する機能が一時的にせよ麻痺したような気分だった。
 そんな状態で、難解な法学書に目を通すことは無意味なのだろうが、何かをしていないと不安でたまらない。

 時刻が午前一時近くになって、机の上の携帯電話機が鳴動した。
 竜児は、すかさず取り上げ、それが亜美からのメールであることを確認すると、落ち着くために、ごくりと固唾を飲み
込んでから読み始めた。

『我らが同志へ 定時連絡その8
 後味は誉められたもんじゃないけど、全てが終わった。
 あたしたちの大勝利。
 パパを交えての家族での話し合いで、最初、ママは“このバカ娘、せっかくの良縁を台無しにして!”って感じで、
あたしを詰りまくっていたけど、バッグの中に仕込んでおいたICレコーダーの録音を聞かせたら、形勢逆転。
 ママは、完全に意気消沈して、別荘の鍵も渡してくれて、この夏中、あたしたちがそこを自由に使っていいことになっ
た。それと、局アナになるつもりが全くないことも宣言した。弁理士を目指しているとは言ってないけど、難しい資格試験
に挑戦することは告げた。それに際して、必要な学費を出世払いを条件に貸してもらうことも約束させた。
 あんたは嫌がるかも知れないけど、あんたの分も借りるつもりだよ。
 理由のない施しを嫌うあんたでも、もらうんじゃなくて、借りるなら抵抗感は薄らぐんじゃないかしら。
 それに弁理士試験は戦争なの。戦争にはお金が掛かる。であれば、軍資金と割り切って、川嶋家から借りた方が
いいに決まってるって!
 それに、いずれは耳を揃えて返すことになるんだから、理由なく施しを受けている訳じゃない。何なら、返済する時に、
利子で色を付けてやればいいじゃない。返済する時は二人とも弁理士になって、相応の稼ぎを上げているだろうから、
多分、大丈夫でしょ。
 とにかく、今回はママの勇み足で、こっちにとって、かなり有利な条件を引き出すことができた。
 反面、ママは相当な痛手を被ったことになるわね。でも、安心して。あたしも鬼じゃないから、ママへを執拗に追及しな
かった。何よりも、あたしが追及する前に、ママはパパに“母親失格だ”と詰られていたからね。泣いたママを見たのは、
あたし、これが最初かも知れない。
 それを見たら、あたしも、ママにはそれ以上言えなかった。
 その後は、とにかくパパとママの仲をフォロー。バカ御曹司の、あたしを煮るなり焼くなりの許可をママから得ている
発言は、そいつの大嘘で、ママも、まさかあんなどうしょもない奴だとは知らなかったのよぉ! ってね…。
 そのおかげで川嶋家の崩壊は何とか食い止められたと思う。
 でも、今回の事件をきっかけに、あたしは精神的にママとは決別したと思う。それまでは、ママには反発しながらも、
女優としてのママの存在を輝かしく思い、母親としてのママを頼りにしていた。
 でも、それもつい数時間前までの話。今回の事件で、あたしはママの愚かしさや、ママの心の弱さ、醜さ、脆さを知っ
た。この人も、所詮は、物質的な欲望に忠実な存在なんだってこと。
 でも、ママを憎んではいないよ。かわいさ余って憎さが百倍とかって世間ではいうけれど、憎悪ってのは愛情の裏返
しみたいなもんなんだろうね。
 あたしが、今、ママに対して抱いてるのは、ママに対する期待どころか、興味すら失せた冷やかな感情だけ。
愛情と対立する概念は、憎悪ではなく無関心なんだなって、実感した。
 う〜ん、あたしって、何げにひどいこと書いてるなぁ…。でも、正直にそう思うんだから仕方がない。
 とにかく、あたしって、世間の相場では、とんでもない親不孝娘なんだろうけど、もう、だから何? って感じだね。
 あたしにだって、あたしの人生がある。それを、ママの、本当のセレブと姻戚関係になりたい、っていう私的な欲望の
ために犠牲にしなけりゃならない謂れはない。
 ママはあくまでも娘であるあたしの幸せのためとか泣きべそで主張していたけど、パパに上記の本音を指摘されて、
子供みたいに、わんわん泣き崩れちゃった。
 それを見て、かわいそうって気持ちよりも、無様だなって思った。もう、ママとの確執は終わった。こんな人といがみ
合っても不毛なだけだって。
 明日には、大橋に帰るつもり。あたしがママの居る実家を心地よく思うことは最早あり得ないし、ママのことを見直す
203指環(後編) 39/71:2009/08/08(土) 23:34:10 ID:ndSpjNGs
すこともないと思う。
 定時連絡は以上。
 同意亜美より』

「終わったな…」

 亜美からのメールでは、どうにか川嶋家の崩壊は食い止められたらしい。しかし、亜美と川嶋安奈の和解はならな
かった。それどころか、亜美は完全に母親である川嶋安奈を見限ったらしい。
 好ましい結果ではないが、無理もないな、と竜児は思った。本人の意向を無視して、夫である亜美の父親にも内緒で
独断専行した責任は重い。竜児が亜美の立場だったとしても、そんなことをしでかした母親は、見限ることだろう。

「これも、あいつなりの親離れなんだろうな」

 いずれ子は親の元を離れていく。
 それは、単に親とは別個の所帯を構えるだけで、心情的には親とはつながりがある場合が普通なのだろう。
 今回の亜美のように、子供の側から精神的に親の影響力を断ち切ってしまうというのは、極めて稀なことに相違ない。

「だが、こうするしかなかったんだな…」

 世間一般の物差しでは、亜美のように実の母親に冷淡な感情しか抱けなくなった者は、画一的に『親不孝者』と
呼ばれることだろう。だが、それはあくまでも親の側からの一方的な視点での評価に過ぎない。

「俺には、あいつの気持ちが何となく分かるんだ…」

 竜児の場合は父親だ。泰子を孕ませて、今となっては消息不明な無責任極まりない男。だが、その男を憎悪している
わけではない。会ったことがないせいもあるが、無視や無関心といった冷たい感情しか、その対象には抱けないのだ。

「好悪の感情のうち、極限的に虚無な状態は、無視や無関心なんだろうな…」

 愛情が憎悪に転ずるのは簡単だ。昨日のニュースでは、メールに返信しなかっただけで刺殺された男子高校生が、
報じられていた。客観的に見てつまらない些細なことでも、符号が逆転するように、愛情が憎悪に転ずることはままある。
 しかし、相当なことをしでかさないと、愛情が無視や無関心には至らないのだろう。対立や憎悪では、負の感情なが
ら、相手の存在を認めてはいる。だが、無視や無関心では、その相手の存在自体を認めてはいないからだ。

「川嶋安奈は、自分の娘を付加価値のある商品と思っていたんだろう。で、本人の意向は二の次に、永久脱毛やら、
ジムでのトレーニングやら、ダイエットやらを、幼い頃から課していた。その累積に加えて、今回は、自分の娘に対して、やってはいけないことをしでかした。亜美が、彼女を見捨てたのは、その報いだな…」

 傍目には、救いのない結末かも知れない。だが、亜美が、川嶋安奈に何らの感情を抱かなくなったということは、亜美
が母親のことで思い悩むこともなくなったことを意味する。虚無の極致とも呼ぶべき状態だが、安定した状態である
ことも、また確かなのだ。
 竜児は、携帯電話で『我らが同志の賢明なる判断に感謝する』とタイプし、更に追伸として、バイト最終日の明日は、
多忙で、かなり遅くなって帰宅するであろうことを記して、同志亜美へと返信した。

「もう、二時近いな…」

 明日も六時に起きることを考えると、睡眠不足は確定的だ。
 消灯してベッドに横たわる。虚無の極致の状態である無視や無関心、それが時の流れで変わることがあるのだろう
か、と思いながら、竜児は深い眠りに落ちていった。

204指環(後編) 40/71:2009/08/08(土) 23:35:29 ID:ndSpjNGs

「やはり来なかったか…」

 翌朝、春田の親父の事務所には、ノブオとテツの二人は現れなかった。もちろん、電話とかでの連絡もない。

「まぁ、こうだろうたぁ、思っていたけどな…」

 春田の親父が、シワの刻まれた面相を歪めて自嘲した。二人がいずれは辞めることを薄々は勘付いていたらしい。

「社長、あいつらは、他の内装屋と通じていたのかも知れやせんぜ」

 サブの指摘に、春田の親父は、頷いた。

「まぁ、そんなところだろうな。うちが期日の厳しい仕事を請け負ったことを機に、日頃、不満を抱えていたノブオとテツに
転職を打診し、わざと仕事を遅らせた挙句に、途中で仕事を投げ出すように仕向けたんだろう。どこの店の仕業かも
見当はついている。俺の予想している店だったら、連中への転職の打診も空手形だろうな。まぁ、自業自得なんだが…」

「じゃぁ、あの二人は馘ってこってすかぃ?」

 春田の親父は、ふふっ…、と脱力するように笑った。

「去る者は追わずだよ。このまま何の連絡も寄越さなかったら、そうなるな。だが、仕事を放棄したことを反省して、明日
にでもここへやって来るなら、待遇は更に悪くするが、雇ってやれないこともない」

「そうすか…」

 サブは、ちょっと納得がいかないのか、小首を傾げている。これだけの不始末をしでかした奴らでも、再雇用しようと
する春田の親父の真意を計りかねているのだろう。
 そんなサブの気持ちを、春田の親父は敏感に感じとったらしい。

「なぁに、職人は結構少ないから、戻って働く意思があるなら、取り敢えず働かせるということさ。それに、法律で給与を
簡単に下げることはできないが、今回のような職務規定にあるような、職務の放棄とかだったら、給与を下げる大義名
分が立つから、その点でもありがたいのさ」

 その計算高いシビアな判断に、竜児は、経営者というものの一端を垣間見たような気がした。一時の感情ではなく、
長い目で見て損か得かを判断する。そうした合理的な判断能力があったからこそ、春田の内装屋は、他店から妬まれ
るほどに成功しているのだろう。もちろん、経費や工賃を水増しすることなく適正に計上する明朗会計も、顧客に評価さ
れているているに違いない。

「さてと…、連中を待っていてもしようがないから、そろそろ現場に向かうことにするか。サブ、浩次それに高須、準備は
いいな?」

「「「へぃ!!!」」」

 職人二人が欠けたことは戦力として痛手だが、泣いても笑っても、今日が期日なのだ。徹夜をしてでも、工事は完了
させなければならない。
 春田の親父以下四名は、サブの運転するワゴンに乗り込み、大橋高校近くの現場へと向かう。
 外装のモルタルがひび割れた築二十年の賃貸マンション。もはや見慣れたこのマンションを訪れるのも、今日が
最後になるだろう。
 現場に到着して、マスクの吸収缶を新品に交換し、必要な資材や機材を抱えて、最後に手つかずで残った一室へと
205指環(後編) 41/71:2009/08/08(土) 23:36:40 ID:ndSpjNGs
向かう。

「一番厄介なのが残っちまったな…」

 ベテラン職人のサブがぼやきたくなるほどに、その室内は荒れていた。クッションフロアは、何箇所かが破けており、
壁にはところどころ大きな穴が開いている。

「サブと高須は、穴の開いた壁をやっつけてくれ。俺と浩次はクッションフロアを貼り替える」

「分かりやした。おーし、タカ、軽トラから石膏ボードを持ってこい」

 竜児が頷いて外へと向かうのをちょっとだけ目で追ってから、サブは、床に這いつくばるようにして作業している春田
の親父と春田の方を向いた。

「社長、すいやせん。ちょっくら、リムーバーを使いやす…」

「おお、そうか…」

 それを合図に、春田の親父と春田はサブと一緒にマスクを着用した。今日からは、春田も、サブや竜児が着用して
いる吸収缶付きの本格的なものを使う。
 室内にいる全員がマスクを着用したのを確かめてから、サブはリムーバーを刷毛で壁面に塗ったくった。マスクが
なければ、有機溶剤の蒸気で中毒しかねないが、有機溶剤専用の吸収缶の威力は絶大だ。

「おぅ、持ってきたか…」

 サブがリムーバーを塗っている最中に、石膏ボードを抱えた竜児が戻ってきた。

「もうちょいで、リムーバーが効いてくるから、そしたら、古いクロスをひっぺがすんだ。おれは、石膏ボードを切る鋸と、
石膏ボードの継ぎ目を埋めるパテを持ってくる」

「へい!」

 マスクを着用した竜児は、頃合いを見て、古いクロスを剥がしにかかった。リムーバーで糊が軟化したクロスは、
ちょっと力を入れて引っ張っると、ずるずると剥がれてくる。

「おぅ、剥がしたか…」

 振り向くと背後には電動の丸鋸を持ったサブが立っていた。

「よし、おれは、石膏ボードの穴の開いてるところを、こいつで切り取る。お前は、他の部分のクロスを剥がしていてくれ」

 そう言うと、サブは、手にした丸鋸で、石膏ボードの穴が開いている箇所を、長方形に切り取った。切り取った部分は、
竜児が持ってきた石膏ボードで継ぎを当てるのだ。
 一方の竜児も、サブに指示された箇所にリムーバーを塗り付け、クロスを剥がす。

「最終日だってのに、修繕箇所がやたらと多いな…」

 四人がかりでも夕方までには到底終わりそうにない。冗談抜きで、徹夜を覚悟しないといけないようだ。

「とにかく、頑張るしかねぇ…」
206指環(後編) 42/71:2009/08/08(土) 23:37:56 ID:ndSpjNGs

 春田の親父やサブは、そうは思っていないようだが、ノブオとテツの職人二人が職務を放棄したのは、竜児にも責任
がある。竜児が居なければ、こんなことにはならなかったかも知れないのだ。

「これは、もう単なるバイトじゃねぇ…。俺自身のけじめの問題だ…」

 マスクのせいで、もごもごとした声にならない呟きを漏らしながら、竜児はクロスを剥がす作業に没頭した。


 悪夢から覚めたばかりのように、目覚めの悪い朝だった。だが、これは夢でも幻でもなく、現実なのだ。
 亜美は、机の上の時計で時刻を確認した。既に時計は八時半を指していた。夏休みだから許されるかも知れないが、
普段だったら、竜児と一緒に都心へ向かう電車に揺られている頃だ。

「それにしても…、何もかも変わっちゃった…」

 亜美の縁談を独断専行で進めて、挙句に無残な失敗に終わり、そのことを亜美の父から詰られて、幼児のように泣き
喚いていた川嶋安奈の姿は、衝撃的だった。その無様な姿は、尊敬し、目標としていた女優川嶋安奈ではなく、反発し
ながらも、どこか頼りにしていた母親のそれでもなかった。
 単に愚かで、脆く、醜悪な中年女に過ぎなかった。

「結局、あたしは、川嶋安奈っていう偶像を崇めていただけなんだわ…」

 ブラウン管や銀幕で輝いているママのようになりたい、という気持ちがあったからこそ、ジムでの辛いトレーニングに
耐え、食べたい物も我慢してきた。ママのようになりたいから、レーザー照射による永久脱毛も、ママが勧めるままに受け、
焼けるような痛みも堪えたのだ。

「でも、それは、今となっては虚しいだけね…」

 亜美は、のろのろと起き上がった。寝具を片付け、シーツはマットレスから取り外して、簡単に畳んだ。
 そして、パジャマ代わりのTシャツを脱ぎ、ブラジャーとショーツも脱いで全裸になった。

「ひどい寝汗…」

 シャワーを浴びておこうかと思ったが、やめておいた。母親と完全に決別した今、この家に長居は無用だった。
 タオルで、全身を拭って、脇の下や陰部はアルコールで拭い、化粧水でそれらの部位と、首筋を拭き取るだけにした。
あとは、愛用しているトワレをつけておけば、そうひどい臭いはしないだろう。
 洗濯済みの下着を着用し、黒に近いチャコールグレーの長袖ブラウスに袖を通して、黒いコットンパンツを穿く。
 いつぞや、竜児と銀座を散策した時に着た服だ。太陽熱を吸収し易いが、紫外線を遮るには黒っぽい服装が効果的
ではある。
 汗まみれの衣類は適当に畳んでビニール袋に仕舞った。

「大橋に帰ったら、まずはシャワーと洗濯ね…」

 そのビニール袋を、キャスター付きのキャリーバッグに入れる。既に、荷造りはほぼ終わっており、実家に滞在中、
ついぞ開くことのなかった『工業所有権法逐条解説』、『特許法概説 第9版』、『商標 第6版』等の分厚い法学書、
それに、これも結局は使わなかったMac Book、昨夜は証拠収集に大活躍したICレコーダー、川嶋安奈からせしめた
別荘の鍵、数日前に購入し、黒パンを焼くときの型に使ったパウンドケーキ用の金型等が、衣類や化粧品等とともに
きちっと収納されていた。
 そのキャリーバッグへビニール袋に入れたTシャツと下着を収めた。

207指環(後編) 43/71:2009/08/08(土) 23:39:16 ID:ndSpjNGs
「このほかに、持ち帰った方がいいようなのはあるかしら…」

 亜美は改めて自分の部屋を見渡した。勉強や日常生活に必要なものは、あらかた大橋の伯父の家に持っていった
から、室内はこざっぱりし過ぎて、味気ない。本棚にも、子供の頃に読んだ児童文学の類を除けば、めぼしい書籍はなく、
段のいくつかは、本も何も置いてない空っぽの状態で、うっすらと埃が溜まっていた。

「でも、これぐらいは持ってくか…」

 本棚の片隅には高校の卒業アルバムが、ぽつんと横倒しになっていた。それを手に取って、息を吹きかけて埃を簡単
に払い、キャリーバッグの開いているスペースに押し込んだ。

「これでよし…」

 ファスナーを閉め、完全に荷造りが終わったことの合図のように、亜美は、ちょっと目を細めて、ふぅ〜っと息を吐き
出した。
 そうして、もう一度、首を左右に廻らせて自室をぐるりと見渡す。ストーカー事件が起こる高校二年の春まではここで
起居していた懐かしい部屋。
 母親である川嶋安奈と決別したことで、もしかしたら、もう、二度と、この部屋に戻ることはないかも知れない。
そう思うと、さすがにちょっと泣けてくる。

「でも、しっかりしなくちゃ…」

 もう決めたのだ。女優川嶋安奈の娘である前に、高須竜児の伴侶であり同志として生きていくことを…。
 滲んできた涙をティッシュペーパーで拭い取ると、亜美は手鏡で自分の面相をあらためた。お世辞にも状態はいい
とは言えない。ベッドで泣いた覚えはないのだが、目は充血して、目蓋は腫れぼったかった。

「もう、お化粧とかで、時間を掛けたくないわね…」

 母親と決別した以上、この家を一刻も早く出たかったからだが、ぐずぐずしていると、決意が鈍りそうだったからでも
ある。亜美は、部屋にある鏡台の前に座り、化粧水で顔を拭い、化粧乳液で肌を整え、紫外線対策のファンデーションを
薄く施した。目と目蓋は、短時間での姑息な化粧ではどうにもならないので、サングラスで覆い隠す。そのサングラスは、
竜児とお揃いのレンズがまん丸なミラーグラスである。
 さらに、これもいつぞやの銀座散策でかぶっていたつばの広い帽子を着用して、亜美は身支度を整えた。

「さてと…」

 思い出深い自室をもう一度隅々まで見渡した。懐かしいけれど、何だか、借り物のような気がして、滞在中、掃除する
ことのなかった自室。本棚や鏡台の手の入りにくいところには、既に埃が目に見えて溜まっている。鏡台の上に置いて
ある化粧品の類も、間もなく使用期限が切れて全てがゴミと化すのだろう。そんな様を想像して、亜美はうんざりする
ように大きく首を二、三回振ると、重たいキャリーバッグを抱えて、玄関へと向かった。
 家の中は静まり返っていた。父親は、仕事か、接待ゴルフか何かに行ったのかも知れない。母親の川嶋安奈は、
どうやら、昨日のショックで未だに寝込んでいるらしい。その証拠に、川嶋安奈用の靴は、玄関の脇にしつらえてある
彼女専用の収納スペースに全て揃っていた、どうやら、今日の仕事はドタキャンすることになるのだろう。
 昨夜は、バカ御曹司に、『川嶋安奈への手出しは無用』と釘を刺したが、何のことはない、川嶋安奈は、結局、自分で
自分の首を締めているのだ。芸能界で畏れられてはいるものの、やはり、CMモデルでの人気をてこに、棚ぼた的に
女優となったという噂は本当なのだろう。あぶく銭のような、演劇とは直接関係ないモデルとしての人気や容姿で、
労せずして仕事があてがわれてきたから、他者と対等の条件で、自ら何かを命がけで勝ち取るということはなかったし、
その厳しさがよく分かっていないのだ。
 そんな川嶋安奈に比べたら、何の拠り所もないのに、劇団で日々稽古に打ち込んでいる下積みの団員たちの方が
遥かに立派だ。
208名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 23:39:19 ID:Oo1aA0JW
C
209指環(後編) 44/71:2009/08/08(土) 23:40:38 ID:ndSpjNGs

「でも、もういいわ…。あの人のことは、もう、完全にどうでもいい…」

 自分は、もう、川嶋安奈の価値観には影響されないし、惑わされない。美貌や他分野での評価で、他者を結果的に
押しのけて、幸運を享受するなんてのは最低だ。やるなら、その分野で、他者と対等の条件で戦うべきなのだ。例えば、
大学入試のように、さらには、亜美がこれから自らの能力と存亡を賭けて戦う弁理士試験のようにだ…。
 亜美は、ダークブラウンのウォーキングシューズを履くと、キャリーバッグを引きながら玄関を出て、再びこの家を訪れる
ことはないかも知れない、と思いながら、その玄関を施錠した。


 昼休み、例によってコンビニ弁当を突っつきながら、竜児、サブ、春田の親父の表情は優れなかった。

「思った以上に手が掛かりやすぜ…」

 サブが坊主頭に吹き出てきた汗を、薄汚れたタオルで拭いながら、ぼやいた。

「そうだな…、この分じゃ、徹夜も覚悟しなきゃならん。ぶっ通しで頑張っても、クロスやクッションフロアの貼り替えが
完了するのが真夜中頃、その後の、清掃と、作業の出来の確認作業に二・三時間ってところだろうな」

 春田の親父も、渋い顔だ。

「まぁ、頑張るしかねぇでしょう…」

「そうだな、みんなには済まないが、明日の午前中には不動産会社が工事の出来を確認に来る。その時までに全てが
終わっていなかったら、債務不履行として違約金を請求されても文句は言えない」

 債務不履行、民法の第四百十五条だな、と竜児は思い出した。弁理士試験の論文試験でも、主要な論点ではない
が、出題されることが少なくない条文だということを、いつか亜美に教えてもらったことがある。
 その亜美が、今日は帰ってくるのだ。本当なら、ここのバイトを早々に切り上げて、亜美に会いたい。会って、その華奢
でしなやかな身体を抱き締めてやりたかった。
 だが、今は、春田の内装屋が危機的な状況にある。それも、間接的とはいえ、竜児の存在が、かかる事態に少なから
ず影響しているのだ。亜美に会いたいという理由で、この場を早々に離れるのは、状況からも、竜児の倫理からも、
許されない。

 そんな風に亜美のことを思っていたからなのだろうか。不意にジーンズのポケットに入れておいた薄型の携帯電話
機が振動した。竜児はフリップを開き、それが亜美からの電話であることを知る。

「すいません、電話です…」

 春田の親父と、サブにそう告げ、春田の親父が鷹揚そうに頷いたのを確認して、作業場であり、四人揃って昼飯を
食べていた部屋を小走りで出た。
 廊下を進んで、階段の踊り場付近で、携帯電話機の通話ボタンを押す。

『もし、もし…、竜児ぃ?』

 スピーカーからは、亜美のよく通る声が流れてきた。声そのものは、昨夜のバカ御曹司との一大活劇でも聞いたが、
差しでの会話は本当に久しぶりだった。

「おぅ、俺だ」

210指環(後編) 45/71:2009/08/08(土) 23:41:54 ID:ndSpjNGs
 『元気そうだな』、という常套句は喉まで出かかったが、昨夜届いた亜美からのメールの文面を思い出すと、言えな
かった。母親である川嶋安奈と精神的に決別した今の亜美が、何の屈託もなく元気であるはずがない。

「それにしても、大変だったな…」

『うん…』

 やはり、気持ちが萎えているような反応が気になった。昨夜は、バカ御曹司や川嶋安奈への怒りに任せていたようだったが、一晩経って少し冷静になってみると、何かを後悔し、不安になっているのかも知れない。
 その不安を和らげてやりたいと竜児は思う。

「お袋さんの件は、仕方がねぇと思う。俺がお前の立場だったとしても、お前と同じように対処しただろう。
実際、ああするしかなかったんだ…」

『うん…。あたし、もうママは見限ったから…。あんなことをしたママのことを、あたし、多分、一生許さない』

「その気持ちは分かるよ…。俺も、泰子一人に苦労を背負い込ませた、自分の父親が許せねぇからな…」

『でも、もう、どうでもいいんだ。メールでも書いたけど、何だか憑き物が落ちたみたいでさ、ママに対する怒りとか、憎し
みとか、そんなものすらなくて、もう、冷え切った、ぽっかりと開いた空洞みたいに虚しい感じしかしないんだよ…』

 頼っていたもの、信じていたものが瓦解したのだ。川嶋安奈そのものはどうでもよくても、寄る辺なき不安感は否定
できないのだろう。

「亜美…。今、どこに居るんだ?」

 精神的に頼るものを喪失した亜美を支えてやりたい。今すぐにでも、その場に駆けつけて、抱きしめてやりたかった。
だが、それは許されない。

『大橋駅に着いたところ…。竜児、あんたにものすごく会いたいよぉ。でも、あんたは仕事があるんだ。あたしは、一旦、
伯父の家に戻って、夕方、あんたの家で、あんたが帰ってくるのを待ってるよ』

「その件なんだがなぁ…」

『な、なぁに?』

 竜児の一言にただならぬものを察したのか、スピーカーからの亜美の声が、不安げにかすれた。

「昨日もメールでは遅くなるって書いたが、事態が予想以上に悪いんだ。下手したら…、いや、正直に言おう。今夜は
徹夜で現場に張り付かないといけねぇんだ」

『そんな…』

「済まねぇ。今日の夕方で全てが終わるはずだったんだが、ちょっとしたトラブルが起きた。それも、俺がそのトラブルの
種なんだ。だから、その責任をとらなきゃならねぇ…」

 竜児は心苦しさで、口中が渇き、苦々しくなるような気がした。崇めていた母親と決別した今、亜美にとって精神的に
頼れるのは竜児だけなのかも知れない。それ故に、一刻も早く竜児に会い、会って互いの存在を確認し合いたいのだ。
 それが叶わぬとは、亜美にとっても、亜美を思う竜児にとっても、何と残酷であることか。

211指環(後編) 46/71:2009/08/08(土) 23:42:55 ID:ndSpjNGs
 二人にとって残酷で気詰まりな沈黙が暫し続いた後、抑揚に乏しい声が携帯電話機のスピーカーから聞こえてきた。

『いいよ、それなら仕方ないじゃない。あんたは自分の仕事を頑張ってよ。あたしは、泰子さんのために夕食を作って、
あんたの家で、あんたの帰りを信じて待ってるから…』

「亜美…、済まねぇ…」

『ずっと、ずっと、ま、待っているから…』

 亜美との通話は、嗚咽らしいくぐもった声で終わった。竜児には、涙を必死に堪えているであろう亜美を思い、唇を
噛んだ。こうした事態に陥った不運というか、こうした事態を招いた不甲斐なさが情けない。

「お、高っちゃん、こんなところに居たの? そろそろ昼休みが終わっから、親父が高っちゃんを連れ戻せってうるさいん
だよ」

 目の前に、にゅっ! とばかりに突き出された春田のアホ面で竜児は現実に引き戻された。
 竜児は、亜美との通話内容を聞かれたかな? と身構えたが、どうもそうではないらしい。もし、竜児が亜美と電話し
ているのを春田が知ったら、竜児にしつこくその内容を訊いてくるに違いないからだ。

「おお、済まねぇ、ちょっと、ぼんやりしてたんだよ」

「ばんやりかぁ…。高っちゃんでも、ぼんやりすることがあるんだな」

 春田は、ドラ猫のように鼻に小じわを寄せて笑った。こういうのを屈託のない笑いというのだろう。
 それにしても、責任感がみじんも感じられないのが春田らしい。元はと言えば、職人たちの前で、竜児が大学生で
あることを春田が暴露したのがいけなかったのだが、そんなことは、もはや全く気にしていないらしい。

「俺だって、色々と思い悩むことはあるのさ…」

 その言葉に春田が、うん、うん、と相槌を打っている。竜児は呆れるのを通り越して苦笑した。
 以前、奈々子が言っていたが、春田の脳味噌は本当にトンボ並なのかも知れない。

「何、その笑い? まぁ、いいか…。でもよぉ、高っちゃん、午後も頑張らなきゃいけないからさぁ、ぼんやりしていると
親父やサブ兄ぃにどやされるぜ」

 やれやれと、竜児は嘆息する。春田は我が身の愚かしさを理解していない。だが、ここまでアホだと、むしろ賛辞すら
送りたくなってくる。

「そうだな…。今夜は徹夜になるかも知れねぇんだ。頑張らないといけねぇな」

「そうそう…」

 アホの春田に促されるのは釈然としなかったが、不思議と腹が立たない。春田という男、底抜けにアホだが、人の
神経を逆なでしない不思議な雰囲気が備わっている。きまじめで、一見、強面の竜児には、望んでも叶わない資質だ。

 結局、人はそれぞれだし、持って生まれた資質というのは、簡単に変えることはできないのだ。
 先天的に有しない資質を後天的に獲得するというのは至難の業であり、人は、与えられた資質でもって、この世に
対処していかなければならないのだろう。
 アホだけど、どこか憎めない春田は、その憎めないところを意識無意識を問わずに発揮し、亜美は、人当たりのよい
笑顔に隠した性悪な洞察力で相手方との間合いをはかり、更にその深層に隠している健気さで、いざという時は頑張
212指環(後編) 47/71:2009/08/08(土) 23:44:51 ID:ndSpjNGs
り抜くし、北村祐作は、カリスマ性とも表現できそうなリーダーシップでその場を仕切ればよい。
 そして、竜児は、深く考え、何ごとも真摯に取り組む。午後からの作業も、竜児持ち前の資質に則って、やり遂げるしか
ないのだ。
 作業場に戻った竜児は、春田の親父とサブに黙礼して、マスクを着用した。

「おーし、タカ、午後も気合い入れて頑張ろうぜ」

「へぃ!」

 不運や自己の不甲斐なさを呪うよりも、自分ができることを全力で成し遂げる、それだけなのだ。
 竜児は、サブの指定した寸法通りにクロスを切断する作業に没頭した。


 時刻は午後七時になろうとしていた。高須家では、亜美と泰子が差し向かいでの夕餉を終え、泰子は食後のお茶を
堪能している。
 料理は、雑穀を炊き込んだご飯に、いつぞや竜児が作ってくれた豆のカレー、タンドリーチキンにグリーンサラダで
ある。調理していた竜児の手元を思い出しながら、ぎこちない手つきでこしらえた料理だったが、泰子は満足してくれた
らしい。
 竜児は、作りおきのおかずで泰子が晩ご飯を済ませることを想定していたらしいが、それを覆して、豆のカレーを作っ
てみたのは正解だったようだ。

「亜美ちゃんって、本当はお料理上手なんだね~。うん、うん、もう、立派に竜ちゃんのお嫁さんだよ~。
やっちゃん、何だか嬉しくなっちゃう~」

 誉め殺しのような礼賛は、身体のどっかがむず痒くなるような違和感があるものだが、泰子の賛辞にはそれがない。
おそらく、本心で言っているから、言葉に毒がないのだろうと亜美は思った。
 だが、それにしても、竜児のことが気に掛かる。昼間の電話では徹夜も覚悟していることを言っていたが、どうやら、
本当に徹夜での作業に突入したらしい。そのことを思うと、泰子の他意のない賛辞で形成された淡い笑みが崩れ、
眉をひそめ、口元を引き結んだ険しい面相になってしまう。

「あれれ~、亜美ちゃん、何だか、綺麗なお顔をそんなに歪めちゃ、美人さんが台無しだよ~」

「あ、ああ、す、すいません。ちょっと、考え事していたもんで…」

 元モデルの亜美であれば、ウソのツラで内心を誤魔化すことは造作もないはずだった。
 しかし、竜児の身を案じていると、そのウソのツラを制御することができなかった。

「隠さなくたっていいんだよ〜。やっちゃんは、亜美ちゃんや竜ちゃんと違って、あんまり頭はよくないけど、雰囲気で
二人が何を考えているのかが分かっちゃう…。竜ちゃんが、やっちゃんに内緒でアルバイトしているってことも〜、
それを亜美ちゃんが知ってて、帰りが遅くなりそうな竜ちゃんのことを心配しているのも〜、やっちゃんは〜、ぜ〜んぶ
お見通しなんだよ〜」

「は、はい…」

 亜美は、年増女の色気と、幼女のような頑是なさが渾然一体となった泰子の笑顔に魅入ってしまった。
 およそ、洞察力とは縁のなさそうな風情の泰子だが、意外にも、物事をきちんと正確に把握している。長年、水商売で
それなりにやってこれただけのことはあるのだろう。

「だったら、簡単! 亜美ちゃんが思う通りのことをすればいいんだよ〜。竜ちゃんのことが心配なら、お仕事をしている
竜ちゃんのところへ行ってみればいいじゃない〜。ただ、会いにいくだけでもいいし〜、その時に、亜美ちゃんが竜ちゃん
213指環(後編) 48/71:2009/08/08(土) 23:46:02 ID:ndSpjNGs
を助けられるようなら、竜ちゃんを助けてやっていいんだよ〜」

「ええ?! で、でも…」

 本当は亜美だって、竜児の手助けをしたい。だが、春田の母親らしい人物に言われた、女は男が成し遂げようとする
ことを黙って見守ること、という言葉が、今もこだまのように耳の奥で響いているような気がして、それは憚られた。

「誰かに何かを言われて、それを気にしているのかも知れないようだけど、そんなことよりも、亜美ちゃんの本当の気持ち
の方が大切だよね〜。今の亜美ちゃんは〜、竜ちゃんのことが心配でたまらないし、何よりも竜ちゃんに一目でも会いた
い。だったら、何の遠慮もいらないよ〜。亜美ちゃんは、その気持ちに素直になればいいんだよ〜」

「そ、そう言われても…」

 竜児の仕事は、きつい肉体労働だ。であれば、非力な女の出る幕ではないだろう。
 そうした点では、春田の母親の言い分は正しいのだ。
 だが…、泰子は、躊躇している亜美の背中を押すようなことを言う。

「亜美ちゃんができることで、今の竜ちゃんのためになることを、してあげればいいんだよ〜。何も、竜ちゃんの仕事を
直接手伝ってあげなくたって構わない。頑張っている竜ちゃんのためになることだったら、何だっていい。今、亜美ちゃん
にできること、そして、今の亜美ちゃんでしかできないことを、考えてみてね〜」

「あ、あたしにしかできないこと? な、何だろう…」

「何でもいいんだよ〜。例えば〜、竜ちゃんたちは、遅くまで仕事してるんでしょ〜? だったら、お腹も空いてくるじゃな
い〜? それをどうにかしてあげられるのは〜、今の亜美ちゃんなんだよ〜」

 亜美は、はっとした。未だに料理は得意とは言えないけど、竜児の助けになるならば、頑張れる。
 厳しい肉体労働をしているのであれば、塩分補給のために、ちょっと塩味を利かせた握り飯を作ってやろう。それに、
竜児にも誉められた水飴入りの卵焼き。これらを作業している人数分に見合うだけ作って、持って行ってあげよう。後は
飲み物。本当なら、冷たい麦茶でも作って持って行ってあげたいが、時間の都合でこれは途中のコンビニででも買って
いけばいい。

「や、泰子さん。すいません、タンドリーチキンの残りと炊飯器のご飯、全部使います。それと、冷凍保存しているご飯も
全部使わせてください!」

 泰子は、うんうん、と頷いて、亜美の申し出を了承している。その泰子に、軽く黙礼すると、亜美は再び愛用している
黒いエプロンをまとった。
 冷凍庫から保存しているご飯を残らず出して、ボウルに入れてレンジにセットする。雑穀入りではなく、白米だけの
普通のご飯。ざっと、五合分はあるだろう。レンジで、冷凍ご飯を温めている間に、亜美は中性洗剤で入念に手を洗い、
炊飯器に残っている雑穀のご飯でおにぎりを作る。具は、梅干しに塩昆布、それに削り節に醤油を加えたものだ。
更に、夏場なので、腐敗防止ために塩だけでなく酢も掌に付けて握った。

「亜美ちゃんて〜、すごく手際がいいね〜、やっちゃんも手伝ってあげたいけど〜、亜美ちゃんみたいに器用じゃないか
ら、見てるだけでごめんね〜」

「いいんですよぉ。あたし、泰子さんに励まされたから、竜児のためにおにぎり作る気になったんですから…」

「うん、うん、でもさ〜、最後に海苔で包むくらいは、やっちゃんでもできるから〜、ちょっとやっとくよ〜」

 そう言うなり、泰子は入念に手を洗ってから、防湿用の缶から海苔を何枚か引っ張り出し、それを紙をペーパーナイフ
214名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 23:49:08 ID:Oo1aA0JW
C
215指環(後編) 49/71:2009/08/08(土) 23:49:26 ID:ndSpjNGs
で切るような要領で、包丁で適当な大きさに切り揃えた。
 その切り揃えた海苔で亜美が握った米飯を包んでいく。亜美と泰子の共同作業は意外に捗り、ものの十五分程度
で、都合七合分の米飯を使った握り飯が出来上がった。

「じゃぁさ、やっちゃんは、出来上がったおにぎりをラップで包んで、それと、タンドリーチキンとかをタッパーに詰めていく
から〜、亜美ちゃんは、卵焼きを作っていて〜」

「あ、は、はい…」

 泰子に促されるようにして、亜美はボウルに冷蔵庫に残っていた卵七個を全て割入れ、それに少量の水を加えて
レンジで軽く加熱した水飴と、薄口醤油と本みりんを加えて、菜箸でさっくりと混ぜ合わせた。
 それを、まずは半分、適温に加熱したフライパンに流し込み、じっくりと加熱していく。いつか、竜児が披露してくれた
プレーンオムレツ作りのように、卵の液の一部分が固まったら、それをフライパンの片隅に寄せ、新たに卵の液をフライ
パンの表面に広げて、薄い膜状に固めていく作業を繰り返した。そうやって、中はしっとり、心持ち半熟気味になるよう
して、一個目の卵焼きを焼き終えた。
 更に、残っている卵の液を全てフライパンに注ぎ、二個目の卵焼きも同じ要領で焼き上げる。

「うん、うん、この前も亜美ちゃんの卵焼きをご馳走になったけど〜、竜ちゃんのと違って、亜美ちゃんのは、ちょっと
優しい味がするんだよね〜。竜ちゃんのも好きだけど〜、亜美ちゃんの卵焼きも、やっちゃんは大好きだよ〜」

 泰子の、他意のない率直な賛辞が嬉しかった。これなら、竜児や、竜児と一緒に頑張っている春田や職人たちにも喜
んでもらえるかも知れない。

 出来上がった卵焼きは、粗熱をとってから、適当な大きさに切ってタッパーに詰め込んだ。その卵焼きの入った
タッパーと、タンドリーチキンを入れたタッパーと、泰子がラップで包んでくれた握り飯を、竜児お手製のエコバッグに
入れていく。

「じゃぁ、行ってきます」

「竜ちゃんのことを思っている亜美ちゃんは、やっぱり生き生きとしてていいね~。竜ちゃんは、果報者だよ~」

 その言葉に励まされたような気がして、亜美はバッグを抱えて玄関から小走りに階段を下りていった。
 場所は、以前に春田の母親らしい人物から教えてもらっている。大橋高校近くの賃貸マンション。通学途中で何度か
目にしたことのある建物だった。途中、コンビニで二リットルのペットボトル入りの麦茶と、緑茶、それに紙コップと割り
箸を買う。更に、紅茶か、烏龍茶も買いたかったが、重くなるので断念した。

 コンビニでの買い物もあって、少々時間はかかったが、足早に歩くうちに、どうにか目指す賃貸マンションに行き着いた。

「でも、どの部屋だろう…」

 亜美は、ずっしりと重いエコバッグの取っ手を両手で持ちながら、竜児が働いている部屋はどこなのか、マンションの
駐車場から、各部屋をあらためるように見渡した。
 だが、どの部屋なのかはすぐに目星がついた。玄関が開け放たれていて、煌々と輝く作業用照明の光が漏れ出てい
る部屋が一つだけあったからだ。

「ご、ごめんください…」

 もし、竜児が居なかったらどうしようと不安にはなったが、ここまで来て後戻りもできないので、亜美はどきどきしなが
ら、その部屋の玄関口から声を掛けた。
 その声と、白熱灯で浮かび上がったスレンダーな姿に、長髪にマスク姿の春田が真っ先に反応した。
216指環(後編) 50/71:2009/08/08(土) 23:51:17 ID:ndSpjNGs

「あれぇ? 亜美ちゃんじゃないの?」

「今晩は、そして、久しぶりね、春田くん」

 マスクはしていても、長髪と、アホっぽく間延びした声で、春田と分かった。

「浩次、その別嬪さんは誰だ?」

 手を休めた春田に、春田の親父らしい男が咎めるような目線を送っている。だが、アホでKYなくせに色気にだけは
敏感な春田は、そうした父親の非難なぞ意に介さず、素直に亜美の来訪を喜んでいる。

「俺と同じ高校出身の川嶋亜美ちゃん。すげぇ美人だろ? 何せ、元はファッションモデルなんだからさぁ」

 春田の『すげぇ美人』『元はファッションモデル』というコメントに亜美は苦笑した。今の出で立ちは、Tシャツにジー
ンズ。動きやすいように髪はポニーテールに束ね、化粧らしい化粧もせず、ほとんどすっぴんのままだったからだ。

「ファッションモデルだなんて…、もうとっくの昔に廃業して、今は単なる学生よ。それはそうと、高須くんは居るかしら?」

「居るよ、この部屋の奥の方で、クロスっていうか、壁紙を貼り替えている。でも、何で、高っちゃんなの?
俺に会いに来てくれたとばっかり思ったんだけどなぁ〜」

 アホで自意識過剰なところは、高校時代と全然変わっていない。そして、そんなことを口走っても、どこか憎めない
のも相変わらずであることに、亜美は呆れるよりも、何だかほっとした。

「まぁ、まぁ、そう拗ねないで…。ちょっと、泰子さんとあたしとで、おにぎりこしらえたから持ってきたの。
高須くんの分だけじゃなくて、春田くんたちの分も考えて作ってきたから、よかったら食べてね」

 そう言って、ずっしりと重いエコバッグを玄関の上がり框に置いた。

「うわぁ、何かいっぱい詰まってるけど、これって亜美ちゃんが作ったの?」

 亜美は、内心は、早く竜児に会いたくて、春田に苛立ちを覚えていたが、モデル時代にならした営業スマイルで、
にこやかに頷いた。
 だが、春田の親父は、そうした亜美の本音を見抜いたのだろう。

「おい、浩次! いい加減にしねぇか。この別嬪さんは、お前じゃなくて、高須に用があるんだ。さっさと高須を呼んでこい!」

 雷よりも怖い父親からの一喝で、春田は漸く、竜児が居るらしい部屋の奥へと向かって行った。

「お嬢さん、済まないね。浩次の奴は万事があんな調子でね…。親としても、頭が痛いんだ」

「いえ、そうした物怖じしないところが春田くんですから…」

 春田は一人っ子らしいから、いずれはこの父親の跡を継ぐのだろう。悪い奴ではないのだが、こうもアホだと、父親と
しては不安になるのも無理はない。とかく、相続とか、承継とかは、当事者の願う通りにはいかないもののようだ。
 かく言う亜美だって、母親とは決別し、竜児とともに弁理士を目指している。

「あ、亜美…」

217指環(後編) 51/71:2009/08/08(土) 23:52:55 ID:ndSpjNGs
 春田の親父と、とりとめのないことを話している時に、春田に伴われて竜児が玄関に佇む亜美のところへやってきた。

「ひ、久しぶりね…」

 春田や春田の親父の目がなかったら、衝動的に竜児に抱きついていただろう。
 その衝動を、亜美は辛うじて、声を震わせただけで、堪えることができた。

「色々と大変だったな…」

 亜美はかぶりを左右に軽く振って、微笑した。

「いいのよ…。結局、こうなるしかなかったんだから。もう、そのことは、あたし気にしないことにしているの…」

「そ、そうか…。それなら、川嶋家の部外者である俺が、つべこべ言うことじゃないな…」

 竜児の言葉に、亜美は心持ち頷き、そして、上がり框に置いてあるエコバッグを指差した。

「よかったら、皆さんで食べて。泰子さんと一緒に、おにぎりを作ってきたの。タンドリーチキンと、卵焼きも作ってきたから、
これも一緒に食べてよ」

 そう言いながら、エコバッグからラップに包まれた握り飯を一つ取り出して見せ、握り飯が潰れないようにエコバッグ
の隅に寄せていたペットボトルのお茶を、上がり框に置いた。

「おお、こ、こりゃ、助かる。しかし、本格的だな…」

 春田の親父が、エコバッグから次々に現れる握り飯やタッパーに、心持ち目を丸くしている。

「さあさ、どうぞ、皆さんで召し上がってくださいな。おにぎりは梅干しと昆布とおかかです。ご飯は大部分は白米だけの
ものですが、三個か四個くらいは、麦と小豆とかの雑穀を炊き込んだのが混じっています。おかずは、卵焼きと、鶏肉を
辛めにに仕上げたタンドリーチキンです」

 春田は、亜美の説明が終わらないうちに、「いただきま~す」と言いいながら手をエコバッグに突っ込もうとして、父親
にその手を叩かれていた。
 その春田の親父は、亜美に対して「じゃ、有り難く頂戴するよ…」と告げて、握り飯を三個ほど掴むと、それを竜児に
手渡した。

「しゃ、社長、バイトの俺よりも、社長とサブ兄ぃが先に召し上がってください!」

 驚いている竜児に、春田の親父は、意味ありげな笑みを向けている。

「いいから、それを持って、そこの別嬪さんと屋上へでも行って涼んでこい。別嬪さんは、本当はお前に会いたくて、
お前だけに握り飯を食べさせたくて、ここにやって来たんだ」

「社長…」

「俺だって、男女の機微は何となく分かる。だから、四の五言わずに、それ持って、別嬪さんと好きなだけ話してこい」

 春田の親父はそれだけ言うと、なおも「え~っ? 高っちゃんと亜美ちゃんって、どういう関係よ?」と口走っている
春田の襟首を掴んで、「お前は、引っ込んでいろ!」と一喝した。
 竜児は、そんな春田の親父と、騒ぎを聞きつけて奥から出てきたサブに、申し訳なさそうに一礼すると、亜美を伴って、
218指環(後編) 52/71:2009/08/08(土) 23:53:58 ID:ndSpjNGs
エレベータへと向かった。

「そんなに高くねぇマンションだけどよ、屋上からの眺めは悪くねぇんだ…」

「う、うん…」

 前を行く竜児から、男の汗の匂いが漂ってくる。
 竜児と一緒にエレベーターに乗り込み、ドアが閉まるや否や、亜美は、その逞しい肉体に縋り付いた。

「お、おい、ちょっと気が早いって。屋上に着くまでに誰かが乗ってきたら…」

 そう言いかけたが、抱き付いている亜美がくぐもったような嗚咽を漏らしているのに気付いたのか、竜児は慌てて
口ごもった。

「やっと、やっと、会えた…」

 泣くつもりなんかなかったのに、竜児の身体に縋ったら、もう気持ちを制御できなかった。
 本当なら、竜児はとっくの昔に仕事を終えて、今頃は、竜児の家で互いに抱き合っていたはずなのだ。

「亜美、屋上に着いたぞ…」

 屋上に着くまで、このエレベーターに誰も乗り込んで来なかったのは僥倖だった。
 竜児の身体にしがみついたまま、亜美はエレベーターを下り、竜児とともにフェンスに寄り掛かるようにして座った。
 竜児は、手にしていた握り飯を膝の上に置くと、縋り付いている亜美の身体を力強く抱き締めた。

「俺も、会いたかったぜ…」

 湿っぽい夏の夜空の下で、竜児と亜美は抱き合い、唇を重ねた。互いの舌が別個の生き物のように妖しく絡み合い、
竜児も亜美も陶然となる。
 亜美は、乳首とクリトリスが痛々しいほどに固くなり、秘所から生暖かい愛液が滲んでくるのを感じた。用心のために
パンティライナーを当てておいてよかった。そうでなかったら、ジーンズにも愛液のシミがくっきりと目立ってしまったこと
だろう。
 口唇を重ねながら、亜美は竜児の股間に手を伸ばした。竜児のペニスも、ジーンズを突き破りそうな勢いで勃起して
いる。
 亜美に股間をいじられた竜児が、その報復とばかりに、亜美の乳首を摘み上げた。

「あ、う、うう…」

 その電撃のように唐突に襲ってきた快感に、亜美は身悶え、声にならない呻きを発する。
 互いの官能が極致に達し、同時に息苦しさを覚えた頃、竜児と亜美は、ゆっくりと口唇を引き離した。口唇が離れた
後も、暫し絡み合っていたそれぞれの舌は、一筋、二筋の唾液の糸を煌めかせながら、名残を惜しむかのように、互い
の口中に収まった。

「き、気持ちよかったよぉ~」

「俺もだ…」

 亜美は、ハンカチを取り出して、竜児の口元から唾液を拭い、次いで、そのハンカチで、自分の目元と口元を拭った。

「このまま、あんたと一つになりたい…。互いに気絶するまで抱き合っていたいよぉ…」
219指環(後編) 53/71:2009/08/08(土) 23:55:27 ID:ndSpjNGs

「そうしたいのは、俺も同じなんだけどよ…」

 亜美は、うつむいて、首を微かに振った。

「うん…、分かってる…。竜児の仕事が第一だもの。だから、あたしのわがままもキス止まり…」

「済まねぇな…。社長である春田の親父の好意に、いつまでも甘える訳にはいかねぇ…」

「そうね、積もる話はあるけど、それは、あんたのバイトが無事に終わってからにしましょ…。だったら、時間が限られて
いるから、そのおにぎりを食べちゃってよ。
正直、あんまり上手じゃないから恥ずかしいけど、それでも、竜児の腹の足しになるんなら嬉しいわ…」

 そう言いながら、亜美はうつむいたまま、上目遣いに竜児の顔を窺った。
 その竜児は、ラップをほどき、亜美がこしらえた握り飯を美味そうに食べ始めた。

「上手にできているじゃねぇか。これを『あんまり上手じゃない』って言ったら、専業主婦の大半から恨みを買うだろうな」

「ほ、本当?」

 竜児は頷きながら、指先に付いたご飯粒まで美味そうに嘗め取った。

「塩だけじゃなくて、酢でご飯を締めているのが秀逸だな。夏場だから腐敗防止のためなんだろうけど、適度な酸味が
食欲をそそるし、何よりもさっぱりしていて美味しいよ」

 更に、もう一つ、竜児は握り飯にかぶりつき、最後の一個は、亜美に差し出した。

「なんか、俺ばっかが食べていると申し訳ないから、お前も食べてくれ。お前も食べてみれば、俺の言葉が嘘ではない
ことが分かるはずだ」

「う、うん…」

 差し出された握り飯を、亜美はおちょぼ口でおずおずと食べた。汗を流している竜児たち向けに、かなり塩分をきつめ
にしたのだが、米飯とうまくなじんで穏やかな味わいになっている。酢で締めたのも正解だったようだ。

「本当だ…、美味しい」

「なぁ、本当だっただろ?」

「で、でも、あたし、押っ取り刀で適当にでっち上げただけなのに…、何でこんなに美味しいんだろう…」

 竜児は、握り飯を食べ終えて、伸びをするようにしながら、夜空を見上げている。

「料理ってのはよ、作り手の気持ちがこもるんだと思う。お前は適当にでっち上げたとか言ってるけど、
本当は、頑張ってる俺に食べさせたくて、時間に追われながら必死に作ったんだろうな。そんなマジな気持ちが、
その握り飯には込められている。だから、美味いんだ」

「マジな気持ち、そうなんだ…」

「お前は、いざという時は、誰よりもマジになるからなぁ。マジな気持ちになったから、大学にも合格した。マジな気持ちに
220指環(後編) 54/71:2009/08/08(土) 23:56:58 ID:ndSpjNGs
なったから、弁理士試験にも挑戦する。そして…」

 亜美は、食べかけの握り飯を手にしたまま、竜児の言葉をじっと待った。

「マジになったから、実家からこっちに戻ってきた…。実家では色々と大変なことがあったかも知れねぇが、俺はマジに
なったお前の判断に誤りはなかったと信じている」

「う、うん…。あ、ありがとう」

 双眸に涙が溢れ、優しげに微笑む竜児の姿がぼやけてきた。再び竜児の胸に縋りたかったが、竜児のバイトが第一
であることを思い出し、ハンカチで目頭を拭いながら、その欲求を押し止めた。

「そろそろ戻らねぇと…。いつまでも春田の親父の好意に甘えるわけにはいかねぇ」

 亜美も頷いて、残りの握り飯を食べ終えた。

「じゃぁ、降りるとするか」

 竜児と亜美はエレベーターに乗り込んで、春田の親父たちが作業している階へと向かう。

「お仕事、頑張ってね…。あたしも、祈ってるから」

「ありがとよ…」

 エレベーターは目的階に到着した。

「ここで、いいよ、今夜はあんたに会えて本当によかった…」

「ああ、俺もだ…」

 本当は、竜児の仕事を手伝ってやりたいが、非力な女が出しゃばれるのは、おにぎりを差し入れるのが関の山なのだ。
それでも、この一言だけは言っておきたかった。

「あたしは、あんたの助けにはならないかも知れないけど、明け方、また会いに来るから…」

「お、おぅ…」

 夜明け前の薄闇の中で竜児に会いたい。その思いは竜児も同じなのだろう。頬を赤らめながら、微かに頷いてくれた。

「じゃあ、もう行くね…」

 思いを振り切るように、『閉』のボタンを亜美は押した。
 鉄の扉がゆっくりと、視界から竜児の姿を奪い去るように閉まり、エレベーターはマイナスのGを伴って降下した。
 一階に着いて、亜美はマンションの駐車場に佇み、竜児たちが作業している部屋の方を見た。その部屋は、亜美が
来た時と同様に、作業灯の白い光が玄関から溢れていた。あの光の中で、竜児は頑張っているのだ。
 亜美が訪れたことで、春田が執拗に二人の関係を訊いてくるだろうが、竜児は適当に相槌を打って誤魔化している
に違いない。それを思うと、亜美はちょっとだけ可笑しくなった。
 とにかく全ては明日だ。そう思いながら、亜美は、自宅へと歩き出した。


221指環(後編) 55/71:2009/08/08(土) 23:58:16 ID:ndSpjNGs
 帰宅して、ベッドに横になった亜美は、三時間ほど仮眠をとって、午前三時に目を覚ました。
 軽くシャワーを浴びて、新しい下着と、Tシャツにジーンズを身に纏った。
 肌は化粧水と乳液で整えた程度で、昨夜同様に、ほとんどすっぴんだ。もっとも、若い亜美には、ごてごてとした化粧
は本来必要ない。
 ただ、睡眠不足は明らかだ。薄くだが、目の下にはクマができていた。

「眠たいけど、竜児なんか、寝ずに頑張っているかも知れないんだから…」

 そう思うと、睡眠不足も不思議と苦にならない。亜美は、軍手とタオル等、必要となりそうな物を何枚かをバックパック
に入れ、そのバックパックを背負って、竜児たちが居るはずの大橋高校近くの賃貸マンションに向かった。

 目的地に着き、先刻と同様に、マンションの駐車場から各部屋をあらためるように眺めてみる。どの部屋も真っ暗で、
ひっそりと静まり返っていた。

「作業は終わったのかしら?」

 だとしたら、竜児たちは帰宅してしまったかも知れない。だが、駐車場に、先刻も目にした春田の家のものらしい大型
ワゴンを認め、亜美は未だに竜児たちがこのマンションに居ることを確信した。

「呼び出してみるか…」

 亜美は携帯電話機を取り出した。

『約束通りやって来たわ。起きてる?』

 そうタイプして送信し、竜児からの返信を待った。竜児はマナーモードで使っているのが常だから、寝入っていたら
メールには反応しないだろう。
 だが、竜児にメッセージを送信して間もなく、その返信が亜美の携帯電話に送られてきた。

『起きてるよ。今は、春田たちが寝泊まりしている部屋とは別の部屋に居る』

 やっぱり起きていたか、と亜美は思った。そして、何故に、竜児だけが起きているのかも察しがついた。

『寝泊まりってどういうこと? どこの部屋に居るの? それに、一人で何をやってるの?』

『夜中まで作業したら、みんなバテバテで、仮眠することになったんだ。だが、俺は一階の105号室で、部屋を掃除して
いる』

 思った通りだった。春田の内装屋の仕事が危機的状況に陥ったのは自分のせいだと思い込んでいる竜児は、その
責任を感じて、一人作業現場の清掃に明け暮れていた。
 もっとも、責任云々とは別に、単純に掃除が好きだというのも、大きな理由なのだろう。

『あたしも手伝うよ。今から、そっちに行く』

 送信して、一分ほどだけ待ってみたが、竜児からの返信はなかった。それを、亜美は、竜児の許可と受け取ることに
した。そのまま105号室のドアの前に進み、ノックする。

「亜美だな? 待ってろ、今開けてやる」

 ドア越しに竜児の声が聞こえ、カチリ、という金属音とともに解錠された。そのドアが、室内側から押し開かれる。
222指環(後編) 56/71:2009/08/08(土) 23:59:36 ID:ndSpjNGs

「来たよ…」

「まぁ、入れ…」

 言葉少なに頷き合って、竜児は亜美を室内に招き入れた。
 クロスもクッションフロアも新しく貼り替えられた室内には、建材に含まれているらしい溶剤っぽい臭いが微かにした。
 カーテンも何もない窓からは、街灯の青白い光が差し込んでいる。その光に照らされた室内は、当たり前だが、調度
品の類は何もなく、ただただ、白い壁と、マホガニー調の木目をあしらったクッションフロアが貼られた床面があるだけ
だった。

「掃除は、まだまだ大変なの?」

 がらんとした室内には塵一つ落ちていなかった。もう、あらかた掃除は済んでしまっているように亜美には思えた。

「大まかには片付いている。後は床面を洗剤と水で拭うだけだ」

「あんた、結局無理して、一人で徹夜してたんだね。もう、やめなよ、そんなバカなこと…」

 内罰的な竜児に言っても無駄だとは思ったが、ちょっとした皮肉のつもりで苦笑混じりに言ってやった。
 それが竜児にも分かるのだろう。形良く明瞭に突き出ている鼻の頭をぽりぽりと引っ掻いている。

「まぁ、お前も呆れているとは思うけどよ。これが俺のキャラなんだ。今さらどうこう言ってもはじまらねぇや」

「あら、開き直り? どうでもいいけど、何でも一人で背負い込むのは、いい加減やめにしなよ。あんたが苦しいときは、
あたしができる限りのフォローをする。それを忘れないで欲しいわね」

「お、おぅ…」

「だったらさぁ、床の掃除は手分けしてやろうよ。あんたが洗剤で床を拭ったら、その後はあたしがその洗剤を水拭きし
て取り除く。これなら、あっという間に掃除は終わるわよ」

「たしかにそうだな…」

 かくて、スプレー式の住居用洗剤を噴霧しながら雑巾で床を拭う竜児の直後を追うようにして、亜美がその床を水拭
きしていくことになった。

「ねぇ、あたし、竜児から、今回のバイトでの竜児の責任ってのを説明してもらってない」

「ああ、そのことか…」

 作業する手を休めることなく、落ち着いた声で竜児が応えてきた。そろそろ、亜美に事情を説明しておくべきだと竜児
自身も考えていたのだろう。

「そう言えば、このマンションの工事をしている人って、あんたと春田と、春田の親父と、奥から出てきた坊主頭の人
だけ? だとしたら、なんか人数足りなくない?」

 実家に赴く日の朝、竜児は『職人のリーダー格は結構まともな人だった』とか言っていたはずだ。そうであれば、
あの坊主頭がそのリーダー格だろう。そのリーダーに従うはずの他の職人の存否が気になった。

223指環(後編) 57/71:2009/08/09(日) 00:00:56 ID:ndSpjNGs
「実はな、おれのせいで、職人が二人、フケちまった…」

「フケたって、居なくなっちゃったってことぉ?」

「ああ、俺が大学生だって分かったら、連中不機嫌になって、仕事を放り出しちまった…。それで、昨日は徹夜覚悟で、
しかも、社長である春田の親父までが作業するハメになったんだよ」

「あんたが、大学生だって理由だけで、仕事を放棄したのぉ?
そんなの、人間ができてない、そいつらが悪いんじゃない! あんたは、全然悪くないってぇ!」

 予想はしていたが、竜児という人間は、本当に内罰的でお人好しだ。

「いや、事情はちょっと複雑でさ、たしかに辞めてった連中は人間としてダメだろうが、連中が不機嫌になるのも全く
理由がないわけじゃねぇんだ」

「どんな理由なのさ」

「まぁ、こういった肉体労働やってる奴は、俺たちのような大学生とかはインテリで虫が好かないんだとさ…。で、春田の
親父は、俺を素行不良で進学も就職もできなかった落ちこぼれってことにして、俺を雇ったんだ」

「随分な設定じゃない…」

「まぁ、たしかにそうだな…。でも、それでバイトできるんだったら、俺は構わねぇよ。問題は、そんな人間の屑であるはず
の俺が、つい、小器用にも職人並の作業をしちまって、連中の妬みを買ったことなんだ」

 亜美は思わず眉をひそめ、左手を額に当てた、何だかめまいのような頭痛がする。

「あんた…、またしてもやり過ぎたのね。もう、言わんこっちゃない…」

「済まねぇ…。何かの課題みたいなもんがあると、ついそれに熱中しちまうんだ。それに、お前には『嫌味な謙遜』に注意
するように釘を刺されていたんだが、ダメだった…。自然に振る舞うように心掛けたが、それでも、何か嫌味ったらしい
謙遜の雰囲気があったのかも知れねぇな」

 亜美は、深呼吸するように、大きくため息をついた。

「まぁね…。何事にも全力で取り組み、水準以上の成果を上げても、それをことさら誇らないのは、あんたの個性なんだ
から、しようがないわね。所詮、高須竜児は、どこまでいっても高須竜児なんだわ。その個性は、基本的に変わらない…」

「そう言ってもらうと、俺もちょっとは気が楽になるな。弁明するわけじゃねぇけど、俺も同じようなことを考えていたんだ」

「そうなの?」

 亜美の問いに、竜児は頷き、その広い背中がたわむように上下した。

「このバイトで春田に卒業以来、久しぶりに会ったんだけどよ、最初は、春田でも、仕事すれば、しっかり者になるんだっ
て思ってたんだよ」

「でも、そうじゃなかった、とか?」

「結論を先回りされちまったが、そうなんだ。本質的な部分は、まるっきり変わっちゃいなかった。まぁ、お前なら俺以上に
224名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 00:04:21 ID:XbQbkBzk
C
225名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 00:05:47 ID:Oo1aA0JW
C
226指環(後編) 58/71:2009/08/09(日) 00:07:15 ID:ndSpjNGs
人を見る目があるから、気付いているだろうけど、アホで軽薄で、KYなところは全然変わっていなかった。まぁ、あいつ
は、それでも不思議と憎めないから、いいけどな」

「春田には昨晩会ったけど、全然しっかりなんかしていなかった。父親に怒られていたわよ」

「さすがだな…。おれは、一瞬だが、あいつがしっかり者だと誤認した。まぁ、それからすぐに、あいつが相変わらずって
ことには気付いたけどな」

 そう言いながら、竜児はその部屋のどん詰まりまで洗剤で拭き終わり、その場から脇に退いて、後続する亜美の水拭
きを待った。

「終わったわ…」

 竜児に追いつくようにして水拭きを終えた亜美は、右手の甲で額にうっすらと滲んだ汗を拭った。

「掃除は、もうこれで終わりなの? 他の部屋はどうなの?」

「おぅ、あっけなかったが、これで、もう御仕舞だ。他の部屋は、お前が来るまでに、済ませちまった…」

 そのコメントに、亜美は不満げに頬を膨らませた。しかし、目には悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。

「あんたって、いざというときでも人を頼ったりしないのね。ほぉ~んと、可愛くないんだからぁ」

「まぁ、それは自覚しているよ。でも、これが俺なんだから、しようがねぇ」

「そうね、でも、いいわ…。あたしは、何かしら、あんたの手助けになるようなことをしたかったから…。昨日はおにぎりを
差し入れて、今朝は、ほんのちょっとだけだけど、あんたの掃除の手伝いができた…。まんざらでもない気分かしらね」

 春田の母親らしき人物には、『女は男がやることを黙って見守ること』と言われたが、泰子に言われたように、亜美は
亜美の思う通りのことをすべきなのだ。
 亜美は、ポケットから携帯電話機を取り出して時刻を確認した。

「ねぇ、未だ、四時半くらいだわ。そろそろ夜が明けるだろうけど、春田たちが起き出してくるまで、ちょっと余裕ありそう
よね?」

 いわくありげな流し目を竜児にくれてやる。これなら、鈍感な竜児にも亜美が何を求めているのかが分かるだろう。

「そうだな…。掃除した場所を、ちょっとばかし汚すことになるが、昨夜の屋上での続きをするのか?」

「あんたにしては、察しがいいじゃん。それに、もう、あたしのあそこが大変…。おっぱいも張っちゃって…、乳首とかが
何かずきずきする…」

 そう言うなり、亜美はTシャツの裾をめくり、背中のホックを外してブラジャーをたくし上げた。
 乳首が腫れ上がったように勃起した美乳が露わとなる。

「ねぇ、おっぱい吸ってよ…。なんか火照るように疼いちゃって、啜ってもらわないと、乳腺炎とかになりそう…」

「バカ言え、乳飲み子抱えた母親じゃあるまいし、単に、お前にとって乳首が敏感だってことだろ?」

 竜児の突っ込みに妖艶な笑みを返し、亜美は乳房を揺らしながら、いざるように竜児へ寄り添った。
227指環(後編) 59/71:2009/08/09(日) 00:09:05 ID:XT2ezsuR

「あんただって、おっぱい好きでしょ? 誤魔化してもだめ。この前だって、しつこく吸い付いて離れなかったんだしぃ」

「あれは、お前が、乳を吸われただけでイキそうになったから、無理矢理に俺の唇を引き剥がしたんだろうが。
まぁ、お、俺も、お前の乳、す、吸いたいけどよ…」

 亜美は、にやりとしながら、勃起した乳首を竜児の眼前に差し出した。

「なら、つべこべ言わずに、本能に忠実になりなさいよ。あんたは亜美ちゃんのおっぱいを吸いたい。
あたしは竜児におっぱいを吸われたい。互いの利害は一致するんだからさぁ」

「お、おぅ…」

 竜児の薄い唇が亜美の乳首にあてがわれ、甘噛みされながら強く啜られた。その電撃のような刺激に、亜美は
身悶え、思わず声を上げそうになった。

「あ、あんまり大きな声出すな。マンションの住人や、春田たちに感づかれる」

「う、うん、じゃぁさ、こ、こうするから…」

 亜美は、ポケットからハンカチを取り出し、それを噛み締めた。

「お、おい、大丈夫かよ」

 心配そうな竜児に、もごもごと声にならない呟きを発しながら、亜美は頷いた。口で呼吸できないのは辛いが、
それほど息苦しくはない。

「じゃ、再開するぞ…」

 だが、亜美は、立ち上がって、ジーンズとショーツを脱ぎ捨てる。ショーツは粘液の糸を煌めかせて、亜美の秘所から
離れていった。

「ど、どうしたんだよ、も、もう本番か?」

 亜美は頷くと、噛み締めていたハンカチを一旦抜き取った。

「う、うん。勝手な話だけど、なんか、久しぶりに乳首吸われたら、それだけで気持ちよくなり過ぎちゃいそう。
だから、このまま前戯なしで突っ込んでよ。ここだと何か落ち着かないから、手っ取り早くエッチしたいし…」

「それもそうだな…。長期戦になって春田とかに見られたら大変だ。だったら、激しいのを一発やって、この場をしのぐ
ことにしようぜ」

 亜美が頷いたのを確認してか、竜児もジーンズとブリーフを脱いだ。
 勃起して大きく反り返った竜児のペニスに、亜美は目を奪われる。亜美の秘所をかき回し、無上の快楽へと誘って
くれる至福の器官だ。

「き、来て…」

 亜美は、再びハンカチをくわえると、床に仰臥して、股を開いた。外側の薄い褐色と内側のピンクとのコントラストが
艶めかしい陰裂は、滴る愛液で瑞々しく潤っている。
228指環(後編) 60/71:2009/08/09(日) 00:10:27 ID:XT2ezsuR

「じゃ、い、いくぞ…」

 その陰裂に、熱く膨れ上がった亀頭が撫で付けられ、次いで、それが、ずぶずぶと、亜美の膣へと送り込まれていっ
た。火のように熱い竜児の亀頭が、蛸の吸盤のような子宮口に達し、それを子宮ごと突き上げる。

「う、ううう…」

 子宮だけでなく、内臓全てが突き上げられるような激しさに、亜美は身悶える。
 竜児には内緒だが、実家では、毎晩自慰にふけっていた。ある時は、我慢できなくて、竜児のペニスよりも少し太い
化粧乳液の瓶を膣に突っ込んだこともある。だが、気持ちよくなかった。固いことは固いが、ただの円筒形の瓶では
メリハリがなく、むしろ瓶の底の縁で痛い思いをしただけだった。
 やはり、膣に突っ込むのは男性器に限る。それも竜児のものでなければダメだ。竜児に処女を捧げ、その後も竜児の
極太ペニスを受け入れてきたことから、亜美の膣は竜児のペニスでなければ満足できないようになってしまったらしい。

「あ、亜美…。ど、どうだ?」

 亜美の膣の中で、竜児の極太ペニスがピストンのように激しく往復している。そのピストンは、上死点では子宮だけ
でなく内臓全てを押し上げる爆発的な衝撃で亜美の全身を震わせ、その上死点と下死点への移動では、膣壁を擦過
し、下死点では膨れ上がった亀頭が膣口をひしゃげさせ、亜美にめくるめく快楽をもたらすのだ。

「う、う~っ、う~…」

 よがり声を出さないように自ら噛み締めているハンカチが恨めしい。だが、ハンカチがなくても、もう呂律が怪しくなっ
ていたことだろう。

「あ、亜美、体位変えるぞ」

 そう言って、竜児は正常位で亜美に挿入したまま身体をほぼ九十度ひねった。竜児の脚と、亜美の脚とが、互いの
陰部を接点にして直角に交差している。

「う、ううううううっ~!!」

 いわゆる松葉崩し。亜美は、竜児の反り返った極太ペニスで腹腔の中身全てがかき回されるような感じがした。
その、これまでに経験したことがない強烈な刺激が、高圧電流のように亜美の身体を貫いている。
 その松葉崩しで、竜児は二・三回ピストン運動をして、更に身体を九十度ほどひねり込んだ。
 いつしか、亜美は尻を突き出したまま、うつ伏せになっていて、背後から竜児のペニスに突かれていた。

「ど、どうだ? バックで突いているんだが」

 正常位とも、対面座位とも全く違う刺激に、亜美は全身をわななかせた。強いて言えば、一度だけ試した背面座位に
似た感じだが、それよりも格段に深く竜児の極太ペニスが突き込まれている。その激しい突っ込みに、亜美は思わず、
くわえていたハンカチを吐き出した。

「あ、あぅ、ふ、深いよぉ~! い、いくぅ、あ、亜美ちゃん、いっちゃうよぉ~」

 さらに、竜児の指が、パンパンに膨れ上がっている両の乳首を強く摘んで捏ね上げた。その乳首から走る電撃のよう
な快感が全身を駆け巡り、脳髄に入力される。
 秘所を突かれる衝撃と、乳首に走る電撃のような快感が、頭の中で交錯した。まるで、スタジオ用の大型ストロボの
ような眩い閃光が炸裂したような感じだった。それとともに、亜美の膣が痙攣するかのように不随意に収縮し、脈動した。
229指環(後編) 61/71:2009/08/09(日) 00:11:28 ID:XT2ezsuR

「あ、亜美、し、締め付けが、き、きつ過ぎる!」

 悲痛とも聞こえそうな叫びとともに、亜美の中に熱を帯びた生命の源が注ぎ込まれる。
 その幸せな暖かみを胎内に感じながら、亜美は夢見心地で意識を喪失した。


 雑魚寝から目覚めてみれば、一緒にいたはずの竜児の姿がなく、他の部屋を探して、亜美とともにその姿を発見した
春田の親父は、呆気にとられたように竜児の顔を見た。

「全く、お前という奴は…。結局、徹夜で今回工事した部屋全部を掃除していたんだな」

「俺一人じゃないですよ。途中からですが、亜美が手伝ってくれましたから」

 床を水拭きしただけという内容を考えると、こそばゆかったが、それでも、微力とはいえ、竜児を手助けできたことが
誇らしかった。

「まぁ、おかげで、今回の工事は成功だ。綺麗に修繕してあるってことは最低条件なんだが、こうも徹底的に清掃して
あれば、仕事を発注した不動産会社も文句は言わんだろう」

 サブも、春田の親父の言葉に頷いている。だが、春田だけが、亜美が竜児のために差し入れを持ってきてこと、
それに亜美が竜児と一緒に二人だけで掃除をしていたことに納得がいかない風情だった。

「ほら、浩次、何をぼんやりしてやがる。この場はひとまず撤収するぞ。昼頃に不動産会社のチェックがあるが、その前に、
今回の最大の功労者である高須にバイト代を支払ってやらにゃならん」

 昨日の朝と同様に、サブの運転で、事務所でもある春田の自宅に戻ることにした。
 ただし、昨日と違うのは、大型ワゴンの後席には、竜児と春田に加えて、Tシャツにジーンズ姿の亜美が居たことだ。
 その亜美と竜児とを、春田はしきりに見比べている。アホの春田でも、二人の関係がただならぬものであるような感じ
がするらしい。

 そんな春田の視線を亜美は鬱陶しく感じたが、それをおくびにも出さずに、にこやかなウソのツラを貫き通した。

「さてと…。うちの奴は、ちゃんと言いつけ通りに計算してくれたかな?」

 時刻は六時。照明が消え薄暗い中、事務所に備え付けの金庫を解錠しながら、春田の親父は呟いた。昨日までの
うちに、おそらくは副社長か経理か何かの立場であろう春田の母親に、竜児のバイト代を計算して、現金で用意して
おくように命じていたらしい。

「おお、あった、あった、これだ…」

 春田の親父は、定形サイズの茶封筒を金庫から取り出すと、「ご苦労さん」とだけ言って、竜児に手渡した。
 封筒は思った以上に重かった。税込みで日当が一万二千円だから、十日間では、税抜きで十万円強になるはずだ。
しかし、竜児の手にある封筒は、とてもその程度の金額ではなさそうなほど、ずっしりとしている。

「まぁ、何だ、ちょっと中身を確かめてくれ」

 春田の親父に促されて封筒を開けると、『明細書』と銘打たれた書面と一万円札が入っていた。
 竜児は、明細書を一読して驚き、一万円札の枚数を数えてみた。

230指環(後編) 62/71:2009/08/09(日) 00:13:57 ID:XT2ezsuR
「…十九、二十、社長! 二十万円も入っています!!」

 明細書にも、税引き後の手取りが二十万円であることが明記されていた。
 社長である春田の親父は、苦笑とも微笑とも判じがたい微妙な表情を竜児に向けてきた。

「今回の最大の功労者を適正に評価したまでのことさ。正直、十日前に雇ったときは、ここまでできる奴だとは期待して
いなかった。しかし、やらせてみれば、下手な職人よりも手先は器用で、しかも勤勉だ。作業の結果も申し分なしだ」

「で、でも、俺のせいで…」

 春田の親父が、『それ以上は言うな』とばかりに、竜児に右掌を向けて左右に振った。

「職人二人がフケちまったが、それはお前のせいではなく、フケちまった連中に問題がある。連中は、元々、うちでの待遇
に不満があった。それに、うちとは競合関係にある他店と通じていた節もある。お前が居なくても、遅かれ早かれ、ここを
出ていっただろうな」

「はぁ…」

 それでも、未だに自己の責任を感じているらしい竜児の脇腹を、亜美は右肘で軽く小突いて、微笑んだ。
 何のことはない、竜児に過失らしい過失はないのだ。そうであれば、破格とも言うべき報酬も、遠慮なく受け取って
おけばいい。

「それにだ…。お前は、報酬が高すぎると思っているようだが、これは信賞必罰の結果なんだ。手柄のあった者は高く
評価し、過ちを犯した者は必ず罰する。今回、まず罰せられるべきは、フケた二人の職人だ。この二人の最終日での
日当をお前に割り振っている」

 だが、それにしても高すぎる。他にも罰の対象になった者が誰か居るようだ。

「次いで罰せられるべき者は、浩次! お前だ」

 いきなり名指しされた春田は、目を白黒させている。自分に非があるとは夢にも思っていなかったのだろう。

「な、何で、俺なんだよぉ!」

 その責任感はおろか、当事者としての意識がみじんも感じられない発言に、春田の親父は怒りを顕わにした。

「バカ野郎! お前が、この十日間に、どんだけ下らないことを口走ったのか、胸に手を当てて考えてみろ!」

「そ、そんなこと言われたって、お、俺、バカだから、いちいち憶えてねぇよぉ~」

 春田の親父は怒りで顔を歪めながら、息子のおつむのお粗末さに今さらながら呆れ返ったという感じで、大きく嘆息
した。

「サブから、お前の失言については色々と聞いているが、今回の最大のミスは、高須が大学生であることを職人たちの
前でお前が暴露したことだ! あれさえなかったら、昨日は泊まり込みで作業することはなかったし、高須も嫌な思いは
しなかっただろう。浩次ぃ! 全ては、お前のバカさ加減が招いたトラブルなんだぁ!! だから、当面、お前に給料は
支払わないから、そのつもりでいろ!」

 そのライオンの咆哮のような怒号とともに当面無給であることを宣告された春田は、茫然として後ずさった。
 そして、あろう事か、肩先が触れた亜美の身体に反射的に抱き付いた。
231名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 00:15:13 ID:X8j8iBX/
C
232指環(後編) 63/71:2009/08/09(日) 00:15:13 ID:XT2ezsuR

「ちょ、ちょっとぉ! は、離しなさいよぉ!!」

「春田、お、お前は、何やってんだ!」

 フィアンセの危機に、朴念仁である竜児も慌てて、春田の身体を亜美から引き剥がしにかかる。しかし、当の春田は、
まるで牡蠣か何かのように亜美にくっついて離れない。

「亜美ちゃぁ~ん、おや…、じゃなかった、社長がひどいんだよぉ。ただでさえ手当てが安いのに、これからはただ働き
だってのは、あんまりだぁ~。亜美ちゃぁ~ん、お、俺を慰めてくれよぉ~」

「やだぁ! キモイこと言わないでよぉ! さっさと離れなさいよっ!!」

 しかし、春田も怯まない。更にしつこく、亜美の腰の辺りにしがみついてきた。

「おい、浩次、いい加減にしねぇか!!」

 本能と煩悩が剥き出しになった春田には、雷よりも怖そうな父親の怒号も耳に入らないらしく、大胆にも、亜美の
脇腹に、頬を擦り付けている。

「いやぁ~ん、竜児ぃ、何とかしてよぉ!!」

「あ、亜美、あれだ、お前が俺に食らわす、こめかみに拳骨をねじ込む奴を見舞ってやれ!!」

「う、うん、わ、分かった」

 亜美は身体をひねると、脇腹に擦り付けられている春田の頭部、そのこめかみに小さいけれど、サザエのように固い
拳骨を、渾身の力を込めてねじ込んだ。

「う、うぎゃああああああああ!!!!」

 頭蓋骨ばかりが分厚くて、大した脳味噌が詰まっていそうもない春田であっても、亜美の必殺技にはひとたまりも
なかった。高圧電流で感電死する時の断末魔もかくやの絶叫を残し、春田は頭を押さえて、その場に昏倒した。

「お前なぁ…」

 その春田を、竜児と亜美が、怒りよりも、哀れみを込めて見下ろしている。

「あ、あたしには、もう、け、結婚を約束した相手がいるんだからさぁ。そのあたしに、それも、あたしの結婚相手が居る
目の前で、抱き付くなんて、最低!」

 春田の目に涙が浮かんでいる。

「け、結婚? 亜美ちゃん、結婚しちゃうの?! 相手は誰よ? ま、まさか、高っちゃんじゃないよね? だって、お、俺の
方が、高っちゃんよりも、お、男前だもん…」

 自意識過剰もここまで来れば犯罪的と言っていいだろう。
 竜児や亜美だけでなく、春田の親父も、サブも、申し合わせたように、大きくため息をついた。

「その、『まさか』なんですけどぉ、何かご不満?」
233指環(後編) 64/71:2009/08/09(日) 00:16:47 ID:XT2ezsuR

「そ、そんなぁ、高須ばっかり、何で、何でぇ~」

 春田は床にひっくり返ったまま、子供が駄々をこねるように手足をバタつかせた。

「おい、おい、お前にだって、瀬奈さんだったっけか? つき合ってる美人のお姉さんが居ただろ?」

 自分のフィアンセに狼藉を働いた春田にも竜児は慰めの言葉を掛けた。しかし、それを聞くや否や、春田は、海老の
ように背を丸めて、号泣した。

「うぉおお!! た、高っちゃん、そ、それは言わないでくれぇ!! い、言わないでくれよぉ!!」

「お、おい、ど、どうしたんだよ?」

 なおも、春田を問い詰めようとする竜児の左手を亜美は引いた。

「それ以上、春田を追及しちゃ酷だわ…」

 春田は濱田瀬奈にも愛想を尽かされたのだ。それを察してやれ、というつもりで、亜美は竜児に向かって、眉をひそめ
て首を左右に振った。
 それで、男女の機微に異様なほど疎い竜児も察したのだろう、「お、おぅ…」と、力なく頷いて、床に転がったままの
春田から離れていった。

「高須に、嬢ちゃん、最後の最後まで済まなかったな…。何せ、不肖の息子でね。君らも知っての通り、どうしようもない
アホだが、これでも跡取りなんだ」

「「はぁ…」」

「それはさておき、何でもそつなくこなす高須に、しっかり者らしい嬢ちゃんは、理想のカップルだな。
君らなら、末永く幸せに暮らしていけるだろう。俺からも、おめでとうと言わせてもらうよ」

「そ、そんなぁ、結婚するのは確実ですけどぉ、少なくとも大学を卒業して、ちゃんと稼げるようになってからですよぉ」

 そうは言ってみたが、春田の親父の言葉が嬉しくて、亜美は、自然と頬が紅潮するような気がした。

「高須や嬢ちゃんみたいなのが、うちの子供だったらよかったんだが…。まぁ、親である俺が大したことないから、
浩次みたいなのが息子なのが分相応なのかも知れないけどな…」

 苦笑する春田の親父を、春田が恨めしそうに見ている。

「親父ぃ~、何だかんだ言ったって、結局、俺は親父の子供だからダメなんじゃないかぁ~。それを、今回の件は俺が
全部悪いみたいに言う。ひどいじゃないかぁ~」

 その一言に、苦笑していた春田の親父の表情が、憤怒で大魔神のように険しくなった。

「バカ野郎ぉ! 一番の大バカ野郎のお前に、そんなことを言われる筋合いはねぇ!! それにぃ…」

 春田の親父は、怒りのエネルギーをチャージするかのように、深々と息を吸った。そして…、

「公の場で、『親父』と呼ぶんじゃねぇ!! 俺は、社長だぁあああああ!!」

234指環(後編) 65/71:2009/08/09(日) 00:18:02 ID:XT2ezsuR


「何か、未だに鼓膜がじんじんするみたいな感じ…」

「俺もだ…。それにしても、春田の親父が本気で怒鳴ったときの迫力は凄まじかったな」

 春田の家を出た竜児と亜美は、それぞれの自宅に戻るところだった。何しろ、竜児は完徹であるし、亜美だって、
睡眠不足は否めない。帰宅したら、まずは睡眠が必要だ。

「でもさぁ、二十万円も貰っちゃって、そのお金どうするの? そう言えば、バイト代の使い道も教えてもらってなかった
わねぇ」

 並んで歩く竜児の顔を、亜美が例の目を細めて口元を左右に軽く引きつらせたような性悪笑顔で覗き込んでいる。

「お、おぅ…、こ、これはだな…」

「これは? 何だか、さっぱり要領を得ないわね」

「い、いや、今はちょっと言えねぇけど、時期が来たら必ず明かにするから、も、もうちょっと待ってくれ」

 三白眼を神経質そうに動かして、額に冷や汗を浮かべている姿が、亜美には可笑しかった。良くも悪くも、高須竜児
という男は、隠し事とか嘘とかが下手なのだ。

「はい、はい、もう、隠し立てなんかしなくたっていいのよ。事情は、祐作が全部白状したから」

「え? 北村が、言っちまったのか?!」

「そうよ、祐作に、幼稚園の頃の悪行を、アメリカに居る狩野先輩にバラすぞ、って言ったら、即座に白状したわよ。
でも、何? 酔っ払ったあたしが気まぐれで指差したプラチナの指輪を買おうとしたんですってぇ?」

 亜美は、苦笑しながら、大きなため息をついて、心底呆れていることを、わざとらしく表現した。

「で、でもよ…、あの日、お前は、本当にあの指輪が欲しそうに思えたんだ…。それに、お、俺は、お前が何かを貰った時
の嬉しそうな顔を見たかったんだよ」

「それだったら、もっと安いもんで十分じゃない。何も、何十万円もするような高価なアクセサリーを無理して買うことは
ないわよ」

 竜児がプレゼントしてくれるのは、正直嬉しかった。しかし、ここまで無理をして欲しくなかったのも確かである。

「まぁ、でも、俺はお前に何かをプレゼントしたい。せっかく、バイトで稼いだんだ。何か、俺たちの記念になるものを
プレゼントさせてくれよ」

 『頼むよ』という感じで、亜美を見ている竜児が、可愛らしかった。その竜児に、性悪笑顔ではなく、穏やかな微笑みを
投げかける。

「そうねぇ…、そう言うんなら、記念にペアリングを買ってもいいかも知れないわね」

「そ、そうか!」
235指環(後編) 66/71:2009/08/09(日) 00:19:51 ID:XT2ezsuR
 竜児が目を輝かせている。どうにか、当初の目的通りに、亜美に指輪をプレゼントできそうなことを喜んでいるのだ。
亜美のためにバイトをした以上、その金を、その目的以外に遣うことは、どうやら念頭にはないらしい。

「それじゃぁ、今日の午後三時に大橋駅に集合して、電車に乗って、指輪を買いに行きましょうよ。せっかくだから、
デートも兼ねてね。あ、服装は、特別なものじゃなくていいけどぉ、できれば、あたしたちのイメージに合う、黒っぽいもの
であること。それに、お揃いの黒眼鏡を忘れないこと」

「お、おぅ…」

「じゃぁ、決まりね…。午後三時に駅に集合するまで時間があるから、少し眠っておきなさいよ。
あんた、徹夜したんでしょ? あたしも、寝不足気味だから、帰宅したら、シャワー浴びて、ちょっとお昼寝…」

 そう言って、亜美はウインクして、竜児とは交差点で別れ、寄宿している伯父の家へと歩いていった。


 午後二時五十分、大橋駅改札口。
 シルキーな光沢がある黒いタイトなブラウスと、これも黒でシルキーな細身のパンツを着こなした亜美は、竜児と
お揃いのレンズが丸いサングラスで目もとを隠し、鍔の広いチャコールグレーの帽子をすっぽりと被って竜児を待つ。
 ブラウスの胸元からは、黒いレースのブラジャーが、微かに見え隠れしている。いわゆる、勝負下着の心意気だ。

「遅くなって済まねぇ!」

 午後二時五十五分。黒いコットンパンツに、通気性が良さそうな黒いカットソーのプルオーバーシャツ、亜美と揃いの
黒眼鏡、それにいつぞや銀座で買った黒いリネンのハンチングを被った竜児が現れた。
 現金を入れているであろうショルダーバッグを、大事そうに胸元で抱えているのが、亜美には微笑ましかった。

「遅いわよ! と言いたいところだけど、まぁ、いいでしょ。遅刻じゃないんだから。でも、今度からは、女の子を一人っきりにしないこと。いいわね?」

「お、おぅ…」

「まぁ、分かれば宜しい…。じゃぁ、もう行きましょ。善は急げよ。とにかく電車に乗って東京へ出るわ」

 言うが早いか、亜美は定期入れを自動改札のセンサーにかざして、ホームへと向かって行った。その後を竜児は
慌てて追う。
 平日で、昼間だったので、電車はガラガラだった。竜児と亜美は、強い日差しを避けるために、北側になる席に並んで
座った。窓の外に目をやると、青い空に入道雲が湧き上がっている。

「なんだか、空梅雨のまま夏本番になっちゃったみたいね」

「そうだな、今日も暑いし、梅雨はもう明けたみたいな感じだな」

「だとすれば、間近に迫った合宿が楽しみだわ。別荘の鍵も、亜美ちゃんが捨て身の行動でせしめてきたしぃ」

 だが、その代償という訳ではないが、亜美は、母親である川嶋安奈とは決別することになってしまった。
 実家を出てきた時は、葛藤などは全く感じなかったが、今となっては、何か、心の中に釈然としないしこりのようなもの
を感じている。それが、竜児にも分かるのだろう。

「そうだな、その準備もそろそろ考えねぇと…」

236指環(後編) 67/71:2009/08/09(日) 00:21:21 ID:XT2ezsuR
 鍵を借りられた経緯には触れず、苦笑するような、それでいて毒のない淡い笑みを向けてくる。
 以心伝心、心が通じ合うとは、こういうことなんだな、と亜美は思った。

「それはそうと…。何を狩野先輩にバラすって言ったら、北村は自白したんだ?」

 今朝方の話を竜児が聞き返してきた。無理もない。どちらかと言えば、口が固い北村祐作が、慄いて自白するような
ネタとは如何なるものなのか、北村という人物を知る人間であれば、誰だって知りたくなる。

「教えてあげてもいいけど、あんたがこれを知ると、祐作との友情にひびが入るかも知れないわよ。それでもいい?」

 ちょっと大げさに言ってみたが、幼稚園の頃とはいえ、真相を知ったら、竜児だって複雑な感情を北村に抱くかも
知れない。

「そんなにひどいことを北村はやらかしたのか?」

「うん…」

 今朝方は、うっかり口を滑らせたが、竜児には真相を告げない方がいいだろう。竜児が北村を今以上に変質者扱い
することになりそうだし、亜美も、恥ずかしくて竜児には知られたくない。
 だが…、竜児の突っ込みは、あまりにも正鵠を射ていた。

「なぁ、ひょっとして、北村がお前に、お医者さんごっこをしたことか?」

「ど、ど、ど、どうして、それをあんたが知ってるのよ!!」

 亜美は驚愕し、次の瞬間には耳まで真っ赤に染めて、竜児に詰め寄った。

「お、怒るなって。いや、北村の奴が、俺とお前の仲が進展しないことを気にしてか、お前との幼稚園時代の話を持ち出
してさ…。お医者さんごっこで、お前の、な、何だ、パ、パンツを北村が脱がしかけたってのを聞いちまった…」

「あんたぁ!! 祐作からそんな話聞いてて、何とも感じなかったの? 不快に思わなかったの? サイテー!!」

 恥ずかしそうに口ごもってはいるが、事実をたんたんと話す竜児に、亜美はムカついた。

「ま、まぁ、話を聞いたときはびっくりしたけどよ、それも、甲斐性なしの俺が、お前に全然手を出さないから、発奮させる
ために、そんな話をしてくれたんだって思うことにしたんだ」

「お人好しねぇ。あんたって、呆れるくらい、その更に超が付くくらいのお人好しだわ」

 亜美は、いからせていた肩の力を抜くと、気だるそうに嘆息した。怒ってもしょうがない。高須竜児は、どこまで行って
も高須竜児なのだ。

「それに、北村は、もうちょっとのところで、お前のお袋さんに見つかって、未遂に終わったそうだし…。それだったら、
子供の頃のことでもあるし、北村を責めてもしょうがねぇって思うんだよ」

「そうね…」

 亜美は、その頃の若々しい川嶋安奈を思い出した。女優業にかまけていて、母親らしいことを碌にしてこなかったが、
北村がパンツを下げる寸前で亜美を救ったその時は、女優川嶋安奈ではなく、亜美の母親そのものだった。

237指環(後編) 68/71:2009/08/09(日) 00:22:53 ID:XT2ezsuR

 電車は、JRと地下鉄との乗り換え駅に到着した。改札口を出て、地下鉄乗り場に向かおうとする竜児の袖を亜美が
引いた。

「地下鉄じゃなくて、JRで行きましょ」

「え、何でだ? 銀座に行くんじゃなかったのか?」

 あくまでも、この前に亜美が指差したプラチナの指輪を買うつもりだったのだろう。それが亜美には可笑しかった。

「そう、指輪は銀座以外で買いましょうよ。プレゼントされる側から要求するのも変だけど、あたしが欲しい指輪を
買うってことで、どう?」

 サングラスをデコに押しやり、双眸を大きく見開いた輝くような笑みを竜児に向けた。作られたウソのツラではなく、
竜児のことを慮っての素の表情だった。それが竜児にも分かるのだろう。

「それでよけりゃ、俺は別に構わねぇよ。お前が喜んでくれるなら、それで俺は満足なんだ」

「なら、こっちよ。地下鉄じゃなくて、山手線で原宿まで行きましょ」

 原宿駅を降りて、亜美と竜児は人混みをかき分けるようにして進んだ。平日とはいえ、この界隈はいつも賑わって
いる。もうすぐ、中学校や高校も夏休みになるから、そうなったら、尋常ではない混み方をするに違いない。

「ここら辺りがよさそうね…」

 亜美が足を止めたのは、若者向けのアクセサリーを売る店だった。

「お、おい…、宝石店でなくていいのかよ…」

 店に入っていこうとする亜美を見て、竜児が語尾を震わせて困惑している。
 その竜児に、亜美は、サングラスを取って、淡い笑みを投げ掛けた。

「そうよ、何も高級品でなくたって、いいものはいいのよ。第一、あたしが欲しい指輪を買うって、さっき約束したばっか
でしょ?」

「お、おぅ…、そ、そうだけどよ」

 納得がいかなそうな竜児の手を亜美は引いた。

「あんたは、どうしても銀座で見たプラチナの指輪のイメージが抜けきっていないようだけど、あんな高額なもの、学生に
は分不相応よ。第一、あたしたちは、自己の存亡を賭けて弁理士試験に挑戦するんでしょ? 受験勉強って、お金が掛
かるものよね? だったら、アクセサリーとかにはあんまりお金を遣わないで、バイト代は弁理士試験を戦い抜くために
温存しとくべきだわ」

 予想外のことを指摘されたのか、竜児が口をぽかんと開けている。未だに、亜美はセレブで、きらびやかで高価な
ものを好むと思い込んでいるのだろう。この点は、今後の教育が必要なようだ。
 亜美は、竜児の手を引いて、その店の中へと入っていった。

 その店は、学生でも無理なく買えるシルバーのアクセサリーが主力商品らしかった。
 その店の指輪のショーケースを前に、亜美は、呻吟しながら、個々の指輪を慎重に見比べた。

238指環(後編) 69/71:2009/08/09(日) 00:24:02 ID:XT2ezsuR

「う〜ん、色々あって、正直迷うわね。でも、これかしら…」

 亜美が選んだのは、縦方向と言うか、はまり込む指の方向に対して波打つように歪んでいるシルバーの指輪だった。

「なんか、妙な形だな…。波打ってやがる」

 一目見て、キワモノ扱いしている竜児に亜美は、ちょっと性悪そうに目を細めた淡い笑みを向けた。

「そうね、でも、この形って、最近は結婚指輪とかでも見られるのよ。だから、決して変な形なんかじゃないの。それに…」

 亜美は、手にした指輪の位置をほんの少し変えてみせた。

「この角度で見ると、何かに似てない?」

「何かって、何だよ?」

 訝しげに指輪を見ていた竜児が、「あっ!」という、短い叫びを発し、その頬が、ぴくん、と動いた。

「分かったでしょ? この角度から見ると、数学の無限大の記号にそっくりよね」

 確かに、その指輪は、『∞』の記号に見えなくもない。それを知った竜児が、にやりとした。

「ベタだけど、俺たちの可能性は無限大、俺たちの関係も無限に続く、ってことを言いたいんだな?」

「ご名答。無限の可能性を求めて、まだまだ戦わなくちゃいけないあたしたちには、最高の指輪だわ」

「そうだな…。そういうことなら、この指輪でいいんだな?」

 亜美は無言で、しかし、満足そうに頷いた。
 竜児は、店のスタッフに、この指輪で竜児と亜美に合うサイズのものを出してもらい、試着して着け心地を確認して
から、料金を支払った。

「なんか恥ずかしいな…」

 店を出た二人の左薬指に銀の指輪が光っていた。
 その指に指輪をはめることの意味は、さすがに竜児でも分かっていて、反対したのだが、いつものように亜美に
押し切られた。

「でも、すごく似合ってるじゃない。まるで、若夫婦みたいでさ」

「そ、それが恥ずかしいんだよ…」

 サングラス姿の竜児が、頬を朱に染めている。恥ずかしいとは言いつつも、内心はまんざらでもないらしい。

「ねぇ、この後なんだけど、軽くお茶して、ちょっと、服を見て…」

「そうだな、まぁ、デートも兼ねているんだから、それぐらいしとかないと割が合わねぇな」

「でしょ? で、ショッピングが終わったら、ホテルにチェックイン」

239指環(後編) 70/71:2009/08/09(日) 00:25:14 ID:XT2ezsuR

「え? 今、何て言った?!」

 サングラスをデコに押しやっている亜美が、目を細めたお馴染みの性悪笑顔を竜児に向けている。

「ホテルにチェックイン、って言ったのよ。実質的には、本日が、あたしたちの夏休み初日じゃない? それに、揃いの指
輪を買った。これからショッピングやお茶もする。その他にカップルがすべきことと言ったら、もう、決まりきっているわよ」

「で、でもなぁ、ホテルなんていつ予約取ったんだよ? それに、ホテルったって、まさかラブホじゃないよな?」

「大丈夫よ、ちゃんとしたまともなシティホテルだから。そこのダブルを昼間のうちに予約したのよ、インターネットでね。
知ってた? インターネットで予約すると、宿泊料がものすごく安くなるの」

 にこやかに迫る亜美に気圧されて、竜児は額に冷や汗を浮かべている。

「しかし、や、泰子はどうなる? さすがに、今夜ぐらいは俺がちゃんと晩飯を作らねぇと具合が悪い…」

 そうくると思っていた亜美は、あはは! と哄笑した。

「泰子さんなら、あんたが昼寝している間に、電話して了解しているわよ。『亜美ちゃん、竜ちゃんと〜、好きなだけエッチ
してきなよ〜、何せ、一週間以上も離れ離れだったんだから〜』、ですって」

「しかしなぁ…」

 なおも、渋る竜児に、亜美は、表情を引き締めて無言で詰め寄り、キス寸前の状態で向き合った。竜児のサングラス
のレンズに、目元がマジな亜美の顔が映っている。

「あのさぁ。ラブホじゃないちゃんとしたホテルが予約してある、泰子さんの許可も得ている。それに…」

「そ、それに、な、何だよ?」

「女に恥をかかせないで。あんたは優しい、そしてあたしを気遣ってくれている。でも、そうやって気遣ってくれるなら、
あたしの気持ちもちゃんと汲み取ってよ」

 そう言って、ブラウスの胸元のボタンを一つ外し、勝負下着である黒いレースのブラを見せつけた。

「お、おぅ。マ、マジなんだな?」

 その言葉で、亜美は、ふっ、と微笑した。

「そうよ、マジにあたしは、あんたが好きになった。マジだから、あんたと一緒に人生を歩んでいくことを決意した…」

「マジなお前は、正直怖いぜ…。それに、こうまで段取りよく先手を打たれると、正直萎えるな…」

「あら、失礼ね。怖いかどうか、ちゃんと確かめてくれないとダメじゃない。あたしたちは永遠の愛を誓ったんでしょ? 
それに、段取りよく先手を打たれた、って言うけど、あんただって、あたしを謀ってバイトしてたんじゃない。お互い様よ。
だから、今夜は、マジなあたしを、あんたに捧げるから、あんたも、あたしにマジになってよ」

「永遠の愛をマジに捧げるか…」

240指環(後編) 71/71:2009/08/09(日) 00:26:22 ID:XT2ezsuR
 今度は、竜児の方が苦笑した。

「な、何よ? 急に笑うなんて気持ち悪いじゃない」

「いや、ちょっと、『指輪』と『永遠の愛』で、ある物語を思い出してさ…」

「何よ、それってトールキンの『指輪物語』?」

「違う、ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』だ」

 頓珍漢な誤答を指摘された亜美がむっとしていたが、竜児は構わず続けた。

「その『ニーベルングの指環』で、男は妻に永遠の愛を誓った。だが、忘れ薬を一服盛られたとはいえ、その誓いを違え
るんだ」

「男が、女を裏切ったってこと?」

 亜美の訝しげな問いに竜児は頷いた。

「まぁ、事情はもうちょっと複雑なんだが、結果的にはそういうことになる。なぜ、そうなったかについては、いろんな解釈
があるだろうが、俺なりに思ったのは…」

 そう言って、竜児もサングラスを取って目の前に迫った亜美の瞳と向き合った。竜児の瞳と、相対している亜美の方が
動揺したのか、その瞳が落ち着きなく彷徨っている。

「ど、どう思ったのよ、あんたは…」

「男女の間柄で、男ってのは、常に全力で女を愛してやらなくちゃいけねぇ。正解かどうかは分からねぇが、俺はそう思う。
記憶がなくなるような薬を一服盛られても何ともないくらいに、男は相方の女を愛さなくちゃいけねぇんだ」

「じゃ、じゃぁ、いいのね?」

「おぅ…、『指環』でジークフリートは妻のブリュンヒルデを不幸にしたが、それは、俺の哲学上、あってはならねぇ…」

 あくまでも、自己を律するような竜児のもの言いに、亜美は苦笑して、その頬を左手で優しく撫でた。

「内罰的な言い方には問題があるけど…、まぁ、いいわ…」

 竜児は、その亜美の左手を取り、その手の甲にキスをした。

「長い夜になりそうだな…」

「でも、思い出に残る、楽しい夜になるわよ…」

「そうだな…」

 そう言って、二人は、指輪を嵌めた左手の掌を合わせた。それぞれの薬指にある指輪は、西日を浴びて、
赤みを帯びた輝きを放っていた。

(終わり)
241名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 00:27:35 ID:G/LfErla
gj 乙でしたー
242SL66:2009/08/09(日) 00:29:43 ID:XT2ezsuR
以上です。
このシリーズは、あと一編で完了します。
最後の一編は「大潮の夜に」と仮称していますが、詳細は未定です。

なお、投下中に支援してくれました諸兄に感謝致します。
(明日は、ライ麦100%のパンを焼いてます)
243名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 00:30:34 ID:wc+g5++l
ますます紙媒体で読みたいなw
乙カレー
244名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 00:35:08 ID:X8j8iBX/
ノンブルが71もあると相槌打つのも大変だなあ。

>>242
春田の親父がかっこよすぎるぞ。
これなら会社が繁盛するのも当たり前の話だ。
春田は空気嫁。
瀬田さんどうしたのさ(´・ω・`)

改装後の部屋でサクッと情事る亜美たん萌え。

ラスト一編も楽しみにしています。
それにつけても黒パン旨そうだなあ。
245SL66:2009/08/09(日) 00:55:02 ID:XT2ezsuR
ドイツ式のパンのレシピは、
以下を参考にしました。

簡易的な黒パン
ttp://cookpad.com/recipe/139459
 「サワ-種パウダ- 」ドイツ以外では入手不可能ですが、プレーンヨーグルトで代用できます(実証済)。

ドイツパンの総合的な情報
ttp://www.geocities.co.jp/foodpia/6377/index.html
そのサイトから、基本の白パン(小麦本来の味がして、美味いです)
ttp://www.geocities.co.jp/foodpia/6377/DEBaeckerei/kaisersemmel.html

サワー種の自作(意外と簡単です)
ttp://www.geocities.co.jp/foodpia/6377/Brotland/Sauerteig.html

ライ麦100%のパン(既に我が家の定番です)
ttp://www.geocities.co.jp/foodpia/6377/DEBaeckerei/Roggenvollkornbrot.html

ぜひ、お試しください。
246名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 02:42:34 ID:NNcBL1Du
>>245
乙ですー
ところで雑談ですが、秋からTACで弁理士講座がスタートするらしいですね
247名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 03:25:46 ID:5RmykszP
読むのに一時間かかったw
普通に公式外伝で出されても買うわ、コレわ
248名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 03:36:03 ID:B7aU7fa3
しっかし内装の作業や弁理士試験の内容の記述といい、SL66さんは弁理士と内装屋を兼業してるからここまで詳細に書けるのかな
で、今度はパン屋も開業するわけね
249名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 03:47:23 ID:OytUGjKm
>>240
いつもながら内容たっぷりの外伝SS乙です
亜美がいじらしくも可愛くてイイ

無駄な(褒め言葉)ディテールたっぷりの描写がリアリティを増しててイイです
長くても読むのが辛くないのがスゴイ。

続きの完結編も期待しちゃいます
250名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 06:24:51 ID:dWN6GCn4
ちょっと気になったが、分度器使うよりヘロンの公式つかってもとめたほうが正確な値でただろうね
三辺の長さは分かってるだろうし
251SL66:2009/08/09(日) 07:36:42 ID:XT2ezsuR
上記発言は、ヘロンの公式が劇中で竜児が使った式から誘導されることを分かっていない荒らしです。

ttp://ja.wikipedia.org/wiki/ヘロンの公式

無視してください。

252名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 08:11:57 ID:uaK7fcxO
荒らしって程でもないだろ…言い方ってものがある
253名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 08:54:24 ID:rrmVCv7N
軽とら叩かれすぎ吹いたwwww
竜虎厨だから読まなかったけど荒れ方が異常だったから読んだけど
これは荒れて当然だわwwwこれでエロに行って誰がオナニーすんだよww

内容が薄っぺらすぎだな、突然現れた男がヒロイン寝取って自分の好きなキャラと
くっつけて喜んでる厨房じゃねえかwこれだから夏休みは困るw
こんだけ叩かれて擁護して貰って微妙な線で成り立ってる作品は始めてだ
叩かれて喜んでるドMには興味ありません。こういうのに限って作品終わったあとに
トリップ変えて別のオナニー作品投下するんだよなぁあー困る困る
254名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 09:30:50 ID:Wz24gm6w
>>251
荒らしと決めつけるのはいかがなものか。
公式内蔵関数電卓にはヘロンの公式が入っているのもあるし。
内装屋がそういうツールを持っていない方がやや不自然。
255 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/09(日) 10:03:04 ID:OqHdGql9
けいとらっ!Fパートを投下させて頂きます。
5レス分です。

続き物ですので、初めてお読み頂く前に
>>75
をご参照ください。
この後水曜日の投下で終わらせます。お騒がせして申し訳ございません。
宜しくお願いいたします。
256 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/09(日) 10:06:14 ID:OqHdGql9

んんっ…実乃梨は息が苦しかった。竜児はキスを続けている。舌を絡めてくる。
でも、キスが嫌と思われたくない…。んっふっ、なんとか呼吸し、キスをし続ける。
あんっ、声が漏れ、唇が離れる。竜児が実乃梨の胸を触って来たからだ。
自分で触っても何ともないのに、竜児に触られると…敏感になる…あんっ、あはっ、
…はっ、恥ずかしいっ…でも…もっと…触って欲しい…
「竜児くん…もっ…」
危うく実乃梨は求めてしまう所だった…初めてなのに…わたしってエロいのかな?
「実乃梨…直接…触りてえ」
竜児は背中から侵入してきた。触られる場所に電気が走る。あっ、反応する。
実乃梨の首に、竜児は吸い付く。そんな事された事ない実乃梨は、カラダを収縮する。
んっ!と…溶けそう…なんでこんなに…竜児くんっ…感じちゃ…の?…あふっ…
竜児の指がブラジャーのホックに辿り着く…ああっ、わたし…ヤラれるんだ…そう思う。
しかしよく考えたら汚い。竜児くんじゃなくて、わたし。やばい。臭いかも。
ソフトの練習終わって、軽くシャワー浴びただけだった。我に返る。

「あっ、ねえ竜児くん、わたしシャワー浴びたいんだっ、あんっ!ちょっ、うふっ」
ホックを外した竜児は、胸の先端に触れていた。快感に、カラダの制御が出来ない。
理性は、なんとか快感に打ち勝ち、竜児を実乃梨のカラダから、ひっぺがした。

「おねがい、竜児くんっ、初めてなのっ、せめて…シャワー浴びさせてほしいのっ!」
おうっ、すまん…竜児は冷静さを取り戻したかに見えたが…
「じゃあ、実乃梨。…いっしょに入ろう」
絶対言うと思った…

***

「うわ〜、急げ、急げっ」
実乃梨は急いでいる。あと3分後に、竜児がバスルームに入ってくるからだ。
こんな風になるなら、合宿先のペンションでちゃんと髪の毛洗うんだった。
調子に乗って、ヘッドスライディングとかしちゃうし…あと臭いそうな所…
あっ、ここ…すげー濡れてるし…う〜っ恥ずかし〜っ…実乃梨は洗い始めた。
「実乃梨っ、入ってもいいか?」
「え?マジ?わわわ、わたし裸なんだけど…あっ、電気!電気消して!プリーズっ!」
「電気?…いやだ」
「だめーーっ!消して消して!グハーーーッ!でんこチャーーン!!」
…わかった…消す。やっと了解した竜児はパチッと明かりを消してくれた。
「おうっ、暗いな。実乃梨っどこだ?」
「うん。わたしは湯船。竜児くんも洗う?…そうだっ!背中流してあげるよっ!カマン!」
見えないから安心したのか、全裸の実乃梨は、全裸の竜児の後ろにひざまずく。
「ゴシゴシゴシっと…へえ広いね。男の人の背中って。ゴシゴシゴシッ〜、痛くない?」
「おうっ、丁度いい…実乃梨っ…また直球投げていいか?」
「…いいよっ、なーに?カマン!」
「おっぱいで…背中洗って欲しい」
「え?おっぱい?おっぱいで?あーあーあーっ!!…想像だけでヤバい気がしますが…」
「…やっぱダメか?」
え〜っ、風俗っぽい…っといいつつ、実乃梨は承諾…竜児くん…エロい…いいけど…ね…
ボディシャンプーを胸に付け、泡立てる。竜児の背中と、実乃梨の乳房が、触れる。
ぬるりという感触、なんともいえない感触。実乃梨は乳房で背中をまさぐりはじめる。
快感に頭が沸騰する。これは…想像以上に…ヤバい…、実乃梨は竜児に奉仕を続ける。
「実乃梨っ、キスしてえ…」
竜児は正面を向いて、抱きしめてきた。実乃梨のやわらかい乳房が竜児の胸板に触れる。
押しつぶされる。そして…竜児自身が…接触してくる。その熱さに実乃梨は驚く。
実乃梨の指先は、知らぬ間にその熱いモノを握っていた。堅い…、想像より…太い…
「おうっ、そこ…はあはあ…」
やっぱり気持ちいいんだ…実乃梨は、ヌルヌルの手で擦る。竜児の実乃梨を抱く力が強くなる。
はうっ…実乃梨は背中に爪を立てられたが…痛くはなかった。竜児は射精した。

257けいとらっ!Fパート2 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/09(日) 10:08:17 ID:OqHdGql9

「なんか…すまねえっ」
よく考えたら竜児は初めてだ。実乃梨もそうだ。おっぱいで背中を洗わせる…
いくらなんでもやりすぎだった。もっと、普通に実乃梨を愛さなくては…
ボディーシャンプーを流し、ふたりはバスルームを出る。お互いの身体を拭く。
「実乃梨…ベッドまで運ぶな」
竜児はふわりと抱き上げる。うわっと驚く実乃梨。見つめ合う視線が近い。
ベッドルームの、微かな明かりだけを頼りに、お互いの表情を確認する。
実乃梨は竜児の首筋に手をまわす。
「おねがい、竜児くん…」
目を瞑る実乃梨。しかし竜児は卵のようなおでこにキスをした。
唇を持て余した実乃梨は、竜児の頬にキスをする。
微笑む竜児は、ゆっくりと実乃梨をベッドへ導く。

竜児に抱かれ、空中を浮遊する実乃梨が呟く。 
…リテ・ラトバリタ・ウルス…アリアロス・バル・ネトリール…
天空のお姫様になった実乃梨。その呪文で、竜児のロボット兵を、起動させる。

***

竜児は、ベッドに横たわる実乃梨の髮を優しく撫でた。
こみ上げる愛情を、無垢な実乃梨を汚したい激情を、必至に抑えている。
「竜児くん、恥ずかしい…あまり見ないで…」
どこが恥ずかしいのか?こんなに可愛いらしく、いじらしく、可憐で愛しい実乃梨が…
実乃梨の形の良い乳房に、竜児の指先が埋まる。
そして、円を描くように、揉み上げる。先端を隆起させ、竜児は吸いついた。

あはん…我慢していた声が漏れる。竜児の舌先は、実乃梨の胸の谷間へ移動。
少し汗の味がする。そして、胸の谷間から、曲線を確かめるよう下降する。
縦長のヘソ。そして、柔らかな茂みに辿り着く。

「竜児くん…汚いよ…そんな…」
実乃梨の忠告も虚しく、竜児は、さらに深層部に迫る。
ペチャ…二人の吐息しか聞こえない沈黙の空間に、妖艶な音が響く。
「んっ…んはああっ、おかしくなっちゃうっ」
実乃梨は、竜児の髪を掴んだ。痙攣を起こしたみたいに、反応がとまらない。
そんな中、竜児は、少し冷静だった。悦びの吐息が漏れる箇所を、探っているのだ。
そして、見つける。
「あっ、あん、あん、あん…いやっ、あはっ…んっんっ…」
その場所は、どんどん潤沢になる。竜児は、それを舌で拭うが、追いつかない。そして…
「はあんっ!いっ…ちゃうっ」
実乃梨は、絶頂を迎える。

258けいとらっ!Fパート3 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/09(日) 10:09:50 ID:OqHdGql9

実乃梨は、頭の中が、ハートで一杯になって、パンクしそうだった。
竜児の全てが愛おしくなっていた。心臓がドキドキして、カラダ中がジンジンする。
わずかな理性が問い掛ける…愛しい竜児とはいえ、無防備なわたしを晒してしまった。
羞恥心…いや、相手は竜児…でも…だから…責任取ってもらいたい…な…
「実乃梨…流れで、こうなっちまったけど…俺…責任取るから」
その一言で、実乃梨のわずかな理性は脆くも崩れ去る。
「うん、竜児くん。わたし…竜児くんのお嫁さんになりたいっ!だからっ」
もういいんだ。実乃梨は、最後の鍵を開け放つ覚悟をする。全てを捧げる覚悟をする。
竜児に抱き付き、想うがままに口づけをする。本能が解き放たれ、野性になる、
激しい愛に、竜児は答えてくれる。大丈夫。竜児なら…実乃梨は、竜児を、求める。
「セックスして…」

***

「実乃梨…真っ直ぐで、正直で、諦めなければ…
 俺たちはずっと一緒だ…セックスはその誓いの儀式だ」
満ち足りた表情になる実乃梨…この愛しい恋人と、竜児はひとつになりたいと思った。
「竜児くん、大好き」
横たわる実乃梨は、両手を広げ、竜児を誘う。
自然な流れで、竜児は、実乃梨の胸に吸い込まれる。
そして、熱いキスをする。むさぼるような行為に、ふたりの交差する言葉は、
大好きから、愛してるに変わっていく。
「実乃梨…愛してる…」
何度も交わしたキスを再び交わし、竜児は、自分の先端を、実乃梨の下腹部を這うようになぞる。
その先端は、いちばん潤う実乃梨の入口で、一旦止まった。
「…ここ…か?」
「…うん…」
角度を探り、ある角度で、竜児は実乃梨に、挿入っていった。
「!!」
痛みが走るっ、しかし…我慢出来る程度だ。竜児が動き出す。
「痛っ、ねえっ、せめてゆっくりっ、おねがい」
「すまねえ…」
「竜児くん…あやまらないで…わたしこそ、ゴメン…」
ただ、竜児は充分だった。敏感なのは、竜児も一緒だった。実乃梨の中は、熱く、
溢れた粘液が竜児を締め付ける。
「こっ、こんなに…くう…実乃梨…実乃梨…はあ、はあ、実っ…」
実乃梨は名を呼ばれる都度、うなづく。竜児を、恋人を確認するように。
わたし…スゴい事…しているんだ…こんな…竜児くん…悦んで…
「…はあっ、はあっ、りゅっ、はあっ、じぃ、くふんっ…」
竜児にしがみつく実乃梨。竜児の腰が速い。痛みを堪える…やがて…
「おうっ」
誓いの儀式が終わる。

259けいとらっ!Fパート4 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/09(日) 10:11:23 ID:OqHdGql9

「うっわあああ!キレーイっ!竜児くんっ、宇宙旅行してるみたいだね〜。」
ホテルのベッドルームには、プラネタリウムが設置されている。
実乃梨は夜空が好きなんだそうだが、逆に嫌いなモノは何だろうか…
「そういえば、プラネタリウムって曲やるじゃん。ドラマの主題歌だったよね?」
「…知らねえ。そうなのか?」
「そうだよっ、キャットストリート。原作、花より男子の神尾葉子だよ?」
「花より団子…ことわざ…と違うのか?」
「んも〜っ、竜児くんの世間知らずっ…うふっ、チミは教え甲斐があるのぉ」
苦笑する竜児。写し出された夜空に、光が横切る。消えた。
「おうっ、流れ星!本物みたいだな…すげえ」
竜児は実乃梨を腕まくらしているのだが、実乃梨はたまに、竜児の臭いを嗅ぐ。
特に脇の下とか、かなり恥ずかしいが、竜児は何も言わなかった。
「ねえ竜児くんっ、あれが射手座。ほら、天の川の所。そそ。射手座の矢が、
 蠍座の方向いてるでしょ?蠍の心臓狙ってるの。心臓がアンタレスーって星。
 あっ、その真上にベガ!七夕の織姫星ねっ、彦星は分る?あれあれ。
 わし座のアルタイル…あっ、わし座って言ったら、もちろん、…魔鈴だよねっ?
 イーグルトゥフラーッシュ!!」
と叫んで、実乃梨は掛け布団を蹴り飛ばしてしまった。
裸のふたりは、クーラーの寒さに飛び起きる。無事掛け布団を回収する。
「えへっ、ごめんよっ、竜児くん」
「いいさ。そういう実乃梨が、俺は好きだ」
ほんと?  おうっ!
ほんとに? おうっ!
大和煮?  缶詰だろ…
ファンジニ?韓国ドラマだろ…
じゃあ…

…そうやって、ふたりは眠りについた…

260けいとらっ!Fパート5 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/09(日) 10:13:31 ID:OqHdGql9

「実乃梨っ、おつかれっ、着いたぞ」
バイクは櫛枝家に到着。実乃梨はヘルメットを取る。
「竜児くんっ、バイクの免許取りなよっ!ナイスライディングだったぜっ」
そうだな…と、同意をする竜児だったが、今この時でさえ、はたから見れば、うおらあああっ!
てめえら気合い入れろォっ!今日は青空集会っ!マッポなんざ、仏恥義理じゃあああっ!!…
と、伝説の総長に見えてしまうのだ。前向きに考えるだけにしておいた。

「帰るの?ケロケロ…」
実乃梨は寂しそうだ。…かわいい…
「一旦帰る。北村にバイク返さねえといけねえし…そんな顔すんなよっ、実乃梨…」

竜児は実乃梨を抱き寄せて、キスをする。
ちょっとのつもりが、名残惜しく…数分経過…そして…

「…嘘だと言ってよ…バーニィ…」
そこには、甲子園に行く前に、支度しに来た弟みどり…だけならまだ良かったが、
お父さん、お母さん、おじさん、おばさん、おばあさん、いとこ、はとこ、みどりの友人、
その他大勢…がいた。ざっと数えて20人程度。そして、その40の瞳は、櫛枝家の玄関で、
熱〜い…舌まで…キスをしている竜児と実乃梨を凝視していたのだった。
そういえば…今朝は、月曜日。家族が帰宅してくる日だった。
この世の終わりかと思ったのか、完全に故障した実乃梨。煙が出ているように見える…
「おうっ」
竜児は昨日、実乃梨に誓った。俺は責任を取ると。つまり、そういう事だ。

「あ…あの、俺!高須竜児と申します。実乃梨さんをっ、僕にくださいっ!!!」

土下座をする竜児。その隣にへなっと座り込む実乃梨。顔を見合わせる両親。
実乃梨の18年を知っている父親は、娘の選んだ男のにフッと苦笑。ゆっくり
父親は竜児の目線まで降りて来た。

「こんな娘でよければ…よろしく。高須くん」

数秒後、櫛枝家の周囲500mに、大歓声が響いた。

261名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 11:42:19 ID:6rOsrFML
>>251
それだけで荒らしってw
262名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 12:42:54 ID:JSAP/5h+
奈々子様物をおおおぉぉぉぉ!!!
263名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 12:43:41 ID:B7aU7fa3
>>251
前から思ってたが耐性低いよな
良いSS書いてるんだからもう少しドンと構えてれば良いのに
264名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 12:59:05 ID:SPs4rwGQ
>>256-260
SGJ!
やっぱ、竜児には実乃梨だよね!
答えは聞いてない!
265名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 13:05:12 ID:0R9jTXYp
叩かれまくっても反駁一つせず黙々と作品投下してるけいとらの作者氏の方がまだマシだな
まあけいとらは読んでないから作品の方は評価できんが
266名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 13:29:25 ID:cLZdL3+6
だってオナニーだもん
267名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 13:33:24 ID:SPs4rwGQ
>>266
とりあえずお前は失せろ!
268名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 13:34:08 ID:LK9whwd8
まぁ自己紹介に寛容なスレだから耐性も低くなるんだろう
パンの話がしたいのならブログでもやってろとか誰も言わないしなw
269名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 13:57:18 ID:uaK7fcxO
作者としての器量と人間としての器量はこれまた別ものという意味だろう
何にせよ投下が多くてうれしいよ
270名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 13:59:23 ID:aeYwQAYG
いとこ、はとこ含めての40の瞳は面白かったですw
この人コメディ書きとしてはすごい才能だよなあ。
なんか叩かれたりしてますが、最後まで頑張ってください。

言霊7も面白いです。
ペース速いですねー
亜美ちゃんやっぱいいですな。
271名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 14:10:09 ID:sgUlBTzY
俺もそれ思ったわ
設定は確かにムチャあったけど、ちょっとしたギャグは面白いし、竜×実の絡みに関しては文句なしにGJをつけられる
構想してから書いてるとこや、逆ギレ一つ起さず丁寧な態度は色んな意味で尊敬出来るなぁ
みのドラ好きとしてはぜひIFか何かで次回作に期待したいところ


といってもあーみんもなかなかに好きだけどな
272名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 16:09:57 ID:NNcBL1Du
みくるがキョンのおちんぽを「おくしゅりおいしいでしゅ」って感じでレロレロチュパチュパするSSください!
273名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 16:12:08 ID:NNcBL1Du
ごめん
素で誤爆でした
深くは考えないで軽く流してください
274名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 17:12:35 ID:wc+g5++l
こういうときだけsageるのなw
275名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 18:05:18 ID:aD0ig7eD
おくしゅりおいしいでしゅ

これは流行る
276名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 19:38:51 ID:T+Y6PtCu
泰子「おくしゅりおいしいでしゅ」
竜児「!?」
277名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 19:48:19 ID:C9mLe08t
もうおくしゅりおいしいでしゅはそっとしておいてやれよwww
278名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 20:09:01 ID:LTNcLe0W
「…なんだ、寝言か…」
居間で寝てしまった泰子にタオルケットを掛ける竜児。
しかし、ちょっと気になる…
竜児は、自室の本棚から、夢判断の本を取りだす。
「どれ…、おうっ!これはっ!」
竜児は、見なかった事にして、本を閉じた…
279名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 21:44:36 ID:KU3MBGcE
>>240
亀レスですが、毎度毎度、長編ご苦労様です。
GJです。
安奈さん書きとしては、安奈さんが只の阿呆になってしまっていて悲しい…。
が、お陰様で創作意欲が湧いて来ましたw
280名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 10:04:37 ID:kayt9+uN
SL66さん
商業作品顔負けの完成度に、ただただ驚愕です
しかし、安奈ちゃんは…

でも、昨今の芸能界の不祥事を思うと、川嶋安奈もこんな程度なのかも…
う〜ん
281名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 10:47:55 ID:gScOXSZR
まったく泰子はなんてもんを読んでんだよ・・・
いかん!いかん!見なかったことにしたんだった・・・
「竜ちゃんの美味しいよ〜♪」
「見なかったことになんかできるか!!!」
「んぅ〜、あれ〜?なんで竜ちゃん服着てるの〜?」
「ああ、悪い起こしちまったか」
ん?今なんだかとんでもない爆弾発言が聞こえた気が・・・
いやいやいや!気のせいだよな!うん!
「竜ちゃ〜ん、続きしよ!」
「は?」

282名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 12:50:22 ID:2W3/2EHz
ちょ……
おくしゅりの続きが気になるんですけどw
283名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 12:59:36 ID:euj5R8kh
下手に誤爆するもんじゃないなww
このスレは誤爆でSSが出来る   前例もあるし
284名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 13:22:13 ID:ocnfbrHu
おくしゅりおいしいでしゅ


……これは流行る!
285名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 13:34:14 ID:w2B90ERM
亜美「おくしゅりおいしいでしゅwww」


…10代のカリスマ的存在と言われる、モデル川嶋亜美さん、本名高須亜美さんに覚醒剤取締法違反の罪で逮捕状が請求されました。
また、夫は暴力団員との未確認の情報もあります。
詳しい情報が入り次第、改めてお伝えいたします。
286名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 13:36:20 ID:euj5R8kh
やけにタイムリーな話題だなww
どっかで聞いたことあるぞ
287名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 13:37:24 ID:aBM+LCgm
ちょw
あーみんは子供を放って逃げたりしないやい><
288名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 15:43:17 ID:io4w/uAB
>>287
ツッコむところが違うぞ
289名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 15:57:36 ID:vEBvt6qT
インコちゃん「おっ、おっ、おくしゅりおいしいでしゅwww」
竜児「インコちゃん・・・!?」
290名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 21:45:00 ID:rZuGzbTH
夢判断の意味がイマイチ分からなかったんで調べてみた。

【薬】…快復をもたらす力。自分から望みはしないが悪状況を好転させる為に必要な体験。
劣等感を克服したい気持ち。罪のつぐないへの願望。人生からの逃げ。外的状況に麻痺していること。
内よりも外に答えを求めていること。不自然な手段方策で悟りを追究している状態。
◆白い薬や粉薬を見る・薬を処方される…胃腸に負担がかかる。身体的な違和感。体調不良。
◆薬を調合する…病気にかかる。
◆薬をもらう…敵対するものやマイナス要素を打破することが出来る。議論や争い事が有利に展開。
◆薬を飲む…何かを失い、何かを得る。
◆栄養剤を飲む…事態の好転。気力体力の回復。
◆身体の具合が悪いのを感じて薬を飲んで直そうとする…劣等感を克服しようとしている。
◆傷口に薬を塗る…【傷口】が「女性器」を表すので、性行為への罪の意識。自慰行為。自己を哀れむ気持ち。
◆覚醒剤・麻薬…中毒を起こすもの。煙草などの止められない悪習。手出しすると危険なもの。かなり危険な恋。

未弐の夢事典より
291名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 00:44:06 ID:JYPE6Al3
奈々子がおくしゅりおいしいでしゅwwwって言ったら結構そそる
292名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 00:50:30 ID:eSLnZTEu
芝を生やさないで普通にボーっとしてる所に何気なくポツリと
おくすりおいしいでしゅ……
みたいなのもいいと思う
293289に勝手に追加:2009/08/11(火) 00:57:22 ID:E7uDIDQv
「泰子もインコちゃんも同時にこんな事になるなんて?これは……まさか!」
俺も欲しい!
あたかも麻薬に飢えた常習犯が全てを射抜いてやると言わんばかりにギラつかせた目を更に見開いて
竜児は急いで携帯を取り出した。震える指先は目的のアドレスをすぐに探し出せない。
ようやく発信できた相手は路地裏で知り合った麻薬の売人、ではない。
「た、大河、ああ、たたった、大河っ……!」
高須家の一人と一羽が同じ日に異常な寝言を呟いたのだ。毎日高須家に足を運ぶ大河の身にも
同じ事が起こらないなどと誰が言えようか。どうか大河は無事であって欲しいと願いながら、
額に脂汗を浮かべて無機質な呼び出し音を聴くこと不吉な数の13回。携帯を片手に部屋の隅から隅へ。
不安に煽られ出た言動は意味を成さず、どう見ても麻薬に飢えた常習者の姿なのだが本人に
そんなことを気にしている余裕はない。そもそも自宅である。
そして唐突にスピーカーから流れた音は虎の気だるい欠伸だった。
『ふぁあ……くあ。うゅじ……?何なのよこんな夜中に……。』
294289に勝手に追加 2:2009/08/11(火) 00:58:44 ID:E7uDIDQv
「大河!無事か?無事なのか?」
『んん?無事も何もピンピンしてるわよぅ。あんったねぇ、明日覚えてなさい。
乙女の眠りを妨げた罪は重いわよ。』
「無事か!よっ良かった!何よりだ!」
『せっかくいい夢を見ていたのにもう……台無し……だ…わ……ふにゅ……』
「そうか、それは悪かった。泰子とインコちゃんが、いや、細かいことは明日話す。ゆっくりと寝てk」
『くぁ……あ〜るぅじが……はらか……ふへ』
「!?」
『りゅうりのおくしゅり』
「……ちょ」
『おいひい』
「ま……っ」
『れしゅー』
「待てええええええっ!お前らの夢の中で俺は一体どんなことになっているんだああああっ!!」
『ペロペロ(ブツッ、ツー、ツー、ツー)』
「━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━」
295289に勝手に追加 3:2009/08/11(火) 01:00:42 ID:E7uDIDQv
……非合法な薬も何も無く、スズメが朝の訪れを報せるまで竜児は洞窟のような目を開いたまま
人生の虚構を見つめていた。
「俺は泰子に、大河に、何をした?薬?インコちゃんにも?
 薬……俺の薬?別に俺は薬なんか使ってないぞ?」
泰子の寝顔に目を向ける。
毎日酒浸りの母を気遣ってなるべく胃に優しい料理を作っているつもりだった。
薄味になりがちなため難しいが調理には細心の注意を払って。バランスが悪く
不摂生な食生活を続けてきた大河にもそういった料理が適しているだろう。
インコちゃんの餌も例外ではない。
「でも泰子、昨日は確か胃薬飲んでたもんな。この間は大河も食べ過ぎて胃腸薬を飲んでたし、
 まだ努力が足りねえか。」
連日のアルコール爆撃に被爆した胃袋やパンク寸前まで膨らませられている胃袋が
料理だけでどうなる訳でもないのだが、少しでも負担を減らしたい。
不意に泰子がのっそりと背を起こす。
「薬ぃ〜、竜ちゃんのお薬〜?んふ〜」
妖しげな仕草を伴って容易く竜児に近付く母に我が身が固まった。
「まさかまた……?」
「優しい竜ちゃんがいてくれて〜、竜ちゃんのおいしい手料理が食べられるならこれ以上の薬はないんだよぉ〜」
「え」
言うだけ言ってばったりと倒れた。再び寝息を立てている。
「おくしゅり……おいしいでしゅ……」
296名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 01:13:36 ID:E7uDIDQv
いじょ。
エロさも面白さもなくてスイマセン。

そして誰か>>291版を書いて下さい。
奈々子様(;´Д`)ハァハァ
297名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 01:16:14 ID:WjXGjxrT
>>293-295
何やら良い話で纏めやがって……


GJ
298名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 01:43:22 ID:E7uDIDQv
あはは、恐れ入ります。
SSは今までROM専だったので初書きでしゅ。
早速穴を発見。泰子と大河が同じ日に同じ寝言を呟いた理由orz

竜児が調理している間、胃薬を飲んだ泰子を見た大河が泰子と竜児の料理の話題に花を咲かせた
ということにして下さいw

まさか続きを読みたいと言った自分が続きを書くことになるとは思いもしなかったでしゅ
299名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 01:57:30 ID:JYPE6Al3
>>298
276、289だけどまさかこんなに書いていただけるとはw
GJすぎる、ありがとうw
300名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 01:58:35 ID:knUMc/3t
OKUSYURI いいね。
それだけで、話を続けられるのがすごい!!
GJでーーーす。
301名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 09:02:23 ID:E7uDIDQv
読み返すと我ながら読みにくい……、ちゃんと推敲すれば良かったorz
しかし初めて書いたものの反応が良いと嬉しいですね。

>>299
こちらこそありがとうございますー。
あなた様がおくしゅりネタの道の一つを指し示してくれたおかげで出来上がりました。
一連の流れで他の方も出していたネタ(夢診断情報など)をフル活用できなかったことや
エロ無しになったのは悔やむべきところですがw

>>300
ありがとうございましゅ。
薬+おいしい+レロレロ=薬膳料理?
とか思いましたが薬膳を普段の料理内容として考えるとさすがに無理があるので当たり障りないオチに。
最初からそこで高須棒レロレロに行かなかったのがエロパロの書き手としては失格なのだと実感。
後は頼みます………ガクリ
302名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 09:12:40 ID:knzM/jhL
竜児のせーしにおくすりっぽい成分が含まれてて、全員病み付きになっちゃうSSください!!
303名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 22:58:25 ID:oxHRXBW7
奈々子「たかすくんのおくしゅりおいしいでしゅwwwwwwww」
30498VM:2009/08/11(火) 23:55:29 ID:pIs1hwO9
こんばんは、こんにちは。 98VMです。

お題目が出題されているではあーりませんか。
発見が遅れて今頃になってしまいますた。
急いで書いたので誤字があったらご愛嬌。


お題目:  おくしゅりおいしいでしゅ。
エロ:   微エロ
登場人物: 奈々子、亜美
ジャンル: ネタ
分量: 4レス
305おくしゅりおいしいでしゅ:2009/08/11(火) 23:56:19 ID:pIs1hwO9

自然石を模した壁のタイルに柔らかな間接照明が当たる。
タイルの凹凸が成す陰影は息を潜める男女の秘め事のようだ。
駅から少しばかり離れたバーでは、緩やかなジャズと、囁くような会話が、心なし曇った空間を流れていた。
そして、磨きこまれたカウンターに、そんな空間には似合わない影が突っ伏している。
年の頃は、ようやくこういった場所に立ち入る事を許されたばかりだろうか。
しかし、ウェーブのかかった黒髪と、飾り気の無いワンピースに包まれた豊満な肢体は年に似合わぬ色香を発散している。
寡黙なバーテンダーがナイト役を務めていなかったら、声を掛ける男の数は呆れるほどであったろう。

ふと彼女が顔を上げる。
はたして幼さを残す顔つきは、二十歳そこそこの娘のものだ。
しかし、口元の黒子のせいだろうか、酔って淀んだ瞳を玄関に向ける彼女は、いっぱしの女の色香を纏っていた。
――― カラン。
玄関のドアが来訪者を知らせようとするのを待ち構えたかのように、グラスの氷が崩れた。


        「おくしゅりおいしいでしゅ」   Ver.奈々子×亜美


女の勘と言うやつだろうか?
来店した人物は、まさしく彼女の待ち人だった。
薄暗い店内では遠目にはその人物の顔までは見えない。
だが、美人だ。
疑いようが無い。
本物の美女とはそういったものなのだろう。 纏う雰囲気自体が彼女の周囲の景色を塗り替える。
その美女は軽く店内を見渡すと、真っ直ぐにカウンターに向かっていく。
「うふ。 亜美ちゃん、やっぱり、来て くれた…。」
8頭身以上に見える小顔に奇跡的に収まった大きな目、通った鼻筋、桜の花びらのような唇。
そんな陳腐な褒め言葉など必要ないほど美しい女。
肩口に届くか届かないかのショートカットを軽く払ったのは、最近まで髪が長かった故の癖なのか。
いまや日の本に知らない人は居ないであろう、人気の若手女優。 川嶋亜美。
その彼女は、僅かに渋面をつくると、黒髪の女の隣に腰掛けた。
「あんた、べろんべろんじゃない…。 どうしたのよ… 奈々子らしくないよ?」
「亜美ちゃん、半年ぶりなのんだからぁ、そんなのいいじゃない。」
「あのさ、あたし、超忙しいんだから勘弁してよね、こういうの。」
そういって呆れた表情を作るが、この友人がバカが付くほどお人好しなのを奈々子は良く知っていた。

それきり何も話さないのは、亜美が呼び出された理由に感づいたからなのだろう。
奈々子がこのカウンターに腰掛けたのはまだ夕刻と言える時間だったが、いまや時計は10時を指している。
いまさら僅かの沈黙など無いに等しい。
「―――バラライカ」
寡黙なバーテンに促されたか、亜美が注文する。
「…なんで、あたしな訳?」
こんなのに付きあわされるほど、実際亜美は暇ではなかった。
奈々子の頬に残る涙の痕を見るまでも無く、用事の程は知れている。 
―――だが。 『友人』として頼られては、亜美に断るなどという選択肢は無かった。
奈々子は、それを見通して亜美にメールを送ったのだ。

306おくしゅりおいしいでしゅ:2009/08/11(火) 23:57:10 ID:pIs1hwO9


最初は、奈々子とて、亜美を煩わせる気などなかった。
ところが、こんな日に限って、木原は合コン、新しく大学でできた友人達も男と遊びふけっていたのだ。
それで已む無く亜美にメールをしたのだが…
今となってみれば、これほど適任もいないと、奈々子は薄く微笑む。
この馬鹿げた位に美しい友人は、しかし、奈々子以上に恋愛には不器用で、恐らく初恋だった恋の傷を未だに引き摺っている。
と、奈々子は確信していた。
酒で朦朧とした頭は、奈々子の自制心を失わせ、その加虐心に火をつける。
「亜美ちゃん、髪切ったんだぁ… くすっ 失恋でもしたの?」
「はぁ? んなわけ無いじゃん。 役作り。 今度の映画、ちょっとボーイッシュな子の役なの。」
「ふーん。 そうかぁ。 うん、そうだよねぇ。 高須君に振られたの、もう三年も前だもんねぇ。」
「!!」
流石に亜美の顔色が変わる。 厳しい表情で奈々子を睨みつけたが、それも束の間、すぐに穏やかな表情に戻った。
奈々子が泣いていたから。 そして恐らく本人は気が付いていないから。
「ねぇ… 大丈夫?」
それ以上は言わない。 
言うべきでもない、と亜美は思った。 
恐らく自分の方がそういう経験は少ないから、言える事など何もない。 自分はただ聞くだけでいい、と。
そして、その優しさは酔った奈々子の頭でも理解できる。
「大丈夫、 なのかなぁ… わからないわ。」
ポツリと呟く言葉は消え入りそうなほどに小さかった。
わざと亜美の古傷をえぐって気晴らしするようなまねをした自分が情けなくなる。
この美しい川嶋亜美ですら、恋に破れ、古傷を癒しきれないでいる、それを確認することで自分を慰めようとした。
そうじゃない。 それじゃダメだ。
そんな事をするために亜美を呼んだわけではないのだ。
「そっか。 わかった。 ………付き合うよ。」
高校時代から知ってはいるつもりだった。 亜美の優しさを。 
しかし、それが自分に向けられた今、そのあまりの温かさに胸が打たれる。
それは、長らく忘れていた母の温もり、それに近かったからかもしれない。
そして奈々子は、こみ上げてくるものを抑える必要がなくなった事を悟った。
嗚咽する。
奈々子はただ、どうしようもなく、涙を流し続けた。

307おくしゅりおいしいでしゅ:2009/08/11(火) 23:57:49 ID:pIs1hwO9


泣きながら、奈々子は亜美がここに来てから3杯目になるルシアンを飲み干した。
手振りだけで、もう一杯とバーテンダーに示す。
若くも、老いてもいない寡黙なバーテンダーは首を横に振る。
そして亜美に向かって見た目どおりの渋い声を披露した。
「…悪い酒です。」
亜美が目で頷くと、バーテンダーは小さな紙切れを亜美に手渡す。
「奈々子、さぁ、帰ろう?」
優しい亜美の声に、奈々子は微かに頷いた。
かろうじて亜美の肩を借りてカウンターを下りたが、足元のおぼつかなさは亜美にとっては苦難だった。
一緒にふらふらになりながら、かろうじて通りに出ると、気が利くバーテンダーに亜美は感謝した。
通りには既に一台のタクシーが待っていたからだ。
高校時代の記憶を辿り、大橋の奈々子の家の付近をタクシーの運転手に告げる。
小一時間の道程、亜美は考えていた。
はたして、自分はこんなに泣いたことがあっただろうか、と。
新しい恋を見つけようとしても、どうしてもあの三白眼と比べてしまう。
もう終わったはずなのに、どうして追いかけてしまうのかと何時も思っていた。
肩にもたれて、聞いた事の無い男の名を何度も呟く奈々子を見て、いつまでも未練を断ち切れないのは、ちゃんと泣いて
いないからなのではないかと、高須竜児への恋心をちゃんと自分で認めていないからなのではないかと。
亜美はそんな事を考えていた。

「ここで、いいです。」
見覚えの有る路地で亜美は奈々子を抱えてタクシーを降りた。
たしか、奈々子の家はこの近くだった筈だ。
できれば、奈々子に覚醒してもらいたい、そう思って奈々子の顔を見れば、車に揺られたせいか、顔色が悪い。
「亜美ちゃぁ〜ん。 ここどこぉ? たんといっしょにいへよぉ…。」
時計を見れば、もう日付が変わっている。
明日は貴重なオフだというのに、このまま奈々子に付き合っていては半日はつぶれてしまいそうで、亜美は次第に焦ってきた。
「あみひゃぁ〜ん。 わらひがこぉ〜〜んなめにあっへるにょに、まやひゃんったらごーこんらって… ひど〜〜いぃ。」
もう完全に酔っ払いと化した奈々子を抱えて、ふらふらと記憶を辿る。
しかし、夜の景色は怪しい記憶で辿るには特徴が無さ過ぎた。
奈々子に聞いても要領を得ず、なんだか見当違いの方向にきてしまった気がした。
そんな時見えてきた自動販売機の光。
亜美は酔い覚ましを買うべく、奈々子を地べたに座らせる。
たしか、果汁がアルコールの分解に役立つと聞いた気がして、グレープフルーツ100%のジュースを二本購入した。
「ほら、奈々子、これ飲んで。 ちょっとは酔いが醒めるかも。 そしたら、家思い出してよね。」
「う〜ん。 なぁに、これぇ。」
「酔い覚まし。 ほら。」
「う…ん。 よい…? おくしゅり?」
「えーと、うん、まぁそんなとこ。 ほら。」
「う、んぐっ くっ っく ん んくっ ……ぷはぁ〜〜〜。」
「どう・ ちょっとはすっきりした?」
「ん。 んふふふふふぅ。」
「?」
「おくしゅり、おいしいでしゅ」   
「…………はぁ……。」
軽く眩暈がしたのか、頭を抱える亜美だった。

308おくしゅりおいしいでしゅ:2009/08/11(火) 23:58:27 ID:pIs1hwO9

それからまもなく、なんとか奈々子の家についた。
家は真っ暗で家人は就寝しているのか、あるいは留守なのか。
「きょうは、お父さんしゅちょうでいなーの…」
すこしはまともになったが、いまだ呂律が怪しい奈々子が告げる。
その目はちゃんと家の中までつれてってね?と雄弁に語っている。
亜美は観念して、その脅迫に屈することにした。
酔っ払いに下手に逆らうと碌な事にならない。

「じゃ、そろそろあたし…」
家の中まで奈々子を送り届けると、亜美は早々に帰ろうとしたが…
「亜美ちゃん、まひゃか『友達』見捨てて帰ったりしにゃいよね?」
酔って自制心を失った奈々子は亜美の心の一番やわらかい場所に容赦なくナイフを突き立てる。
「おふとん敷くの手伝って。 なんかふらふらしひゃって…」
妙に色気の有る奈々子の台詞に、亜美はビビッていた。 「おふとん」という響きが淫猥に聞こえてしまう。
一方、奈々子のほうも麻痺した頭で、さっきまで密着していたこの美し過ぎる友人に痺れるような感覚を感じていた。
ふとんを二人で敷き終えた時、奈々子は唐突に服を脱ぎ捨てた。
「あ、あたし、帰るね、奈々子、も、もう大丈夫だよね?」
しかし、奈々子は酔っ払いとは思えない、いや、酔っているからこそかもしれないが、驚くべき速さで亜美を拘束した。
「亜美ちゃんは傷心の『親友』を放って帰る様な娘じゃないよねぇ…ねぇ、いっしょに居て。 朝まで…。」
呂律が回ってきた。 だが、奈々子の頭はそれ以上に劣情に回ってしまっているようだ。
本来なら亜美の方が力は強い。
ところが、奈々子の有無を言わせないような迫力に、亜美は反応が遅れてしまった。
「きゃっ。 ちょ、ちょっと奈々子、やめて!」
いっきに寝技に持ち込まれる。
奈々子は意外に経験が豊富なのか、手際よく抵抗する亜美の服を剥いでいった。
「亜美ちゃん。 可愛い……。」
「や、やめてっ、お願い、奈々子おかしいよ、あんた!」
「うん。 わたし、亜美ちゃんがあんまり綺麗で、あんまり悲しくて、そしてあんまり寂しくて…… おかしくなっちゃった。」
奈々子はその時はもう、亜美を見ていなかった。
それに気が付いた亜美は絶句する。 それは恐怖からであり、また、その深い悲しみを理解できてしまった事からでもあり。
泣きながら、奈々子は亜美を全裸にし、そしてその体を愛撫する。
亜美はすくんで動けなかった。
これほどまでに深い憎愛を目の当たりにしたことは無かったからだ。
奈々子の象牙のように滑らかで、豊満な体が、彼女を捨てた男にしてやっていたのであろう動きを繰り返す。
徐々に亜美は恐怖以上に強い快楽で体が麻痺していった。
やがて、奈々子よりも引き締まった奇跡のようなバランスの体は快楽に震え始める。
「んあっ や、やめて、なな…こ。 あぅ はっ……はあっ!」
「んふふふふ。 やっぱり亜美ちゃんって綺麗。 どこもかしこも。 ほら、ここもこんなに…」
くぐもった水音が響く。
亜美のそれより二周りは大きそうな乳房が亜美の白い体をなぞり、紅色の唇は、ピンクに色づいた蕾を噛む。
ゆっくりと、ときには激しく、執拗に、執拗に責めていく。
その度に悲鳴のような嬌声を上げて亜美が震える。
だが、奈々子は容赦しない。
「やっぱり亜美ちゃんって、バージンなんだ。 上のお口は大人だけど、下のお口は全然子供。 くすっ。」
意地悪に笑うと、亜美を責める。
「あっ んあっ はぁ うあぁぁぁぁ!」
生まれて初めて他人に体を弄ばれて、亜美はもはや狂ったように感じていた。
「んふ、ふぅ。 亜美ちゃん、イイ。 凄いよ、あみちゃん… 気持ちいい…。」
徐々に奈々子ものってくる。
貪欲に亜美の媚態を味わい、その美影を征服していく…。
象牙のように滑らかな肢体が、亜美の真っ白な石英のような体を噛み砕いていく…。
やがて、亜美は激しく震えると、一声啼いて力尽きた。
激しく吹きだした亜美の体液が、奈々子の顔を伝っていた。
奈々子は、妖艶に舌をだして舐めとる。

「―――― うふっ。  亜美ちゃんのおくしゅりも、おいしいでしゅ。」

                                               おわり
309名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 00:06:44 ID:6FWDd7Wd
98VM氏、GJです!大人な奈々子様がえ・ろ・い!
ショートの亜美もいい。

ななこ「……コホッコホッ」

たかす「お、おい香椎!大丈夫か!?初めてなんだから無理に飲むなよ!」

ななこ「コホッ……う、ん。だいじょう、ぶ…んっ」

たかす「……」

ななこ「まだ、残ってるの。……んっ」

ななこ「すごく苦い。でも、高須くんの、だから―――」

ななこ「―――だから、すごく、おいしい」

たかす「……おぅ」
310名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 00:15:11 ID:uu3GipoN
98VMさんノリが良すぎるwwGJ!
これだからゆゆこスレは止められないw
311名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 00:22:44 ID:IPQFrpbg
98VMさんありがとうございます!マジでありがとうございます!:*:・(T∀T)・:*:
そして>>309さんも!
お二人にGJ!
312 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/12(水) 03:11:30 ID:X+TV8i7O
けいとらっ!最終楽章(コーダ)を投下させて頂きます。
5レス分です。
その名の通り、最終回です。

続き物ですので、初めてお読み頂く前に
>>75
をご参照ください。

ここまでお読み頂いた方、ありがとうございます。
もしお時間あるようでしたら、アニメのED『オレンジ』
をお聴き頂きながらお読み頂きたく存じます。
宜しくお願いいたします。
313けいとらっ!コーダ1 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/12(水) 03:17:43 ID:X+TV8i7O

「よっしゃ!いっくよ〜っ…いち、にっ、スリー、フォー!…ととっ?」
ズダダンッ!誰も付いて来ない…
「だからね?実乃梨ちゃん?最初のカウントォォォっ!英語か日本語か、どっちかにしろぉい!!」
「いや俺はだな…緊張して、最初のタイミングが掴めなかったんだ…」
「小心者の小市民…くっ、あんたがみのりんの彼氏じゃなかったら…再起出来ないくらい、
 もっと酷く罵倒するのに…みのりんに感謝する事ね、竜児…」
「大丈夫だ高須っ!俺もピックだと思って掴んでいたら、蛾を掴んでいたぞ。ほら」

そう言って北村は、素手で掴んだモスラ級の蛾を振り回す。鱗粉がまう。迷惑だ。
うわああっ、っと逃げ回る即席バンド、マーティのメンバー達。
実乃梨のM、亜美のA、竜児のR、大河のT、祐作のY合わせてMARTYだ。
余計なことすんなっ!!っと、亜美にスタンドマイクで、引っ叩かれるまで、北村の奇行は続いた。
「ひええっ…そういえば大河、ジャンボさんは?来ないの?」
「来る来る。来なくていいって言ったのにさ。馬鹿虎」
「いたたっ…いやあ、しかし暑いな…メガネが曇るぞ。本番はコンタクトするしかないかっ」
文化祭当日、最後の練習。残暑厳しい大橋高校の体育館は、熱気がこもっていた。その時。

「メガネはてめえのトレードマークだろうがっ」
開け放たれた扉の向こうに、誰かが仁王立ちしていた。
聞き覚えのある、ドスの効いた男気溢れるハスキーボイス…狩野すみれがそこにいた。
「会っ…狩野先輩!どうして、あなたがここに?…」
「久しぶりだな北村っ、今夜アメリカに発つんだが、さくらから面白いモノが見れると聞いてな。
 新学期の準備でバタバタしてた所、来てやったぞ。バンド演るんだってな」
すみれは、のしっのしっと北村の直前まで詰め寄ってきた。相変わらず…美しい。
「いいか、北村。生徒会長として、てめえの本気ってやつを、私に曝してみろっ!だいたい
 なんだ?その府抜けたツラはっ!しょっぱいもん見せやがったら、タダじゃおかねえぞ!」
「はい!、わかりました!狩野先輩、今日のライブ!貴女の為に命がけでやりますっ!」
調子に乗るな馬鹿野郎っと、鉄拳を食らう涙目の北村。彼の、すみれ原理主義は、健在だった。
北村は留学の為に、必死に貯金している。パスポートも取った。TOEFLも受験した。
MITの近くのボストン大学で、考古学を専攻したいのだ。…みんな、夢に向って努力している。

「…そうだ、逢坂、いつかは手紙、ありがとうな。ちゃんと…フッ、わたしの机の前に貼ってあるぞ」
大河の姓が変わった事を知らないすみれ。手紙とは大河が停学中に『ばか』と書いた手紙だ。
『私だって…バカに…なりたい…っ!…でも…どうしても、どうしても…っ…!で、きな、いぃ…』
…と泣き叫んだすみれに、あんたが一番真っ直ぐ突っ走るだけの馬鹿じゃん…と送った手紙だ。
「こいつはお返しだ。あとで読んでくれ」
すみれは、大河に手紙を渡す。
「何よ…まっ受け取っとくわ…」

…後で聞く事になるのだが、そこには

Failure is not an option! (失敗という選択肢はないんだ!)

と、NASA主席管制官の有名な言葉が書いてあった…

314けいとらっ!コーダ2 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/12(水) 03:20:13 ID:X+TV8i7O

体育館は、マーティの意外?な好演に、ボルテージは最高潮だった。
既に3曲を演奏し、残りは1曲だった。

「じゃあ…最後の曲ですっ、オリジナルでっ『オレンジ』!…すうっ」
亜美は大きく息を吸う。

「あたしの歌を…聴けぇぇぇぇえぇぇっ!!!」

大河がイントロのアルペジオを奏でる。あーみん…かっこいい…実乃梨は亜美に、
あたしの歌を聴けぇっと、叫ぶように頼んだのだ。ありがと〜。ウルウルしていた。
そして、軽快にドラミングを開始。約2ヶ月間、この自分の曲を演奏する為に、
みんな頑張ってくれた。イントロが終わりブレイク…Aパートへ。

♪眠れない、夜には…ヒトリでタメ息…

亜美は、感情を込め、丁寧に歌い出した。大河が、優しくサンプリング音を再生。
リフレイン。実乃梨のドラムが響く、そしてBパート。

♪広い大地にっ。一粒の種っ、根っこ伸っばっしって…

竜児は、実乃梨のドラムの音にベースを合わせる。ぴったりだ。
北村は、カッティングで全体の音に厚みを付ける。サビに突入する。

♪オーレーンジ色に、早くなりたい果実、きみのヒッカリを浴びて…

亜美が、伸びやかに、メインを唄い、実乃梨、大河は、コーラス。
大河がふと見た盛り上がる観客の中に、大きな影が手を振るのが見えた。
来なくていいのに…と思うのと同時に、去年の独りのミスコンも思い出す。
曲はAパートに戻る。

♪似てても、違うよっ…マンダリン、オレンジっ…

実乃梨は、ピンクのメトロノームの音をイヤホンで聞き、走り過ぎないよう、
拍子をキープ。集中していたが、観客席の春田の変な踊りに吹きそうになる。
隣の瀬奈は笑っていた。

♪奇跡なのにねっ、出逢いも、恋も…

竜児は、何度も弾いたベースラインを、北村は、コードを弾き、サビに入る。

♪オレンジ色は、あの日見た夕焼けを想い出させてくれる…

ドカッと最前列に座っていたすみれが、会場のテンションにつられ、立ち上がる。
それを見た北村は興奮し、危うく間違えそうになる。…が立て直した。
すみれに伝わってしまい、ちょっと驚かせてしまったようだ。

♪…ぜんぶ食べたーっ、すっぱい…

曲が変調し、Cパート。

♪好きだかけど、泣けるよ…
♪好きだから、…泣かなぁーいーっ
実乃梨は気付く。あれ?歌詞が違う…まさか…
亜美は、歌詞をすり替えたのだ。

315けいとらっ!コーダ3 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/12(水) 03:22:49 ID:X+TV8i7O

♪オレンジ色に燃える恋の炎は誰にも消せやしない         
♪高鳴る胸が止められないの自分でもね       
♪オレンジ。やっと大きくなった、ふたりの日差し浴びて
♪甘い果実のわたしの事を全部食べて…好きだよ〜♪
         (実乃梨は真っ赤になっているが、手を止めない)
 好きだよ〜♪
         (竜児はクッソーっと漏らしつつ、口元が緩んでいる)
 エロいよ〜♪
         (あーみんだ…)
 エロいよ〜♪
         (大河まで…)
 恥ずいよ〜♪
         (みんな…)
 いっぱい〜♪
         (会場も盛り上っている)
 好きだよ〜♪
         (竜児と実乃梨は笑顔を交わす)
 みのりん〜♪
         (ありがとう…みんな)


         (最後に大河が…)

 おめでとっ☆


316けいとらっ!コーダ4 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/12(水) 03:25:11 ID:X+TV8i7O

 わたしは今…悩んでいる。相当悩んでいる。

合併後の会社は、業績は黒字に回復、大幅なコスト削減で、経営はまあまあ順調だ。
大幅な役員人事があり、わたしは専務、相手の会社の社長は、会長に就任した。

そして今は、若い新社長のもと、会社は堅実かつ大胆に、成長し続けている。

しかし…悩みの元は、莫大なマーケティング費用を投入した事だ。金額は80億…
簡単にペイ出来る金額ではない。国外にも経費を注ぎ込んだ経費も含めると、
事実上、100億は上回っているだろう…

「ったく、ちゃんと、元取れるのかしらっ」

2016年の今日。この日の為に、オフィシャルパートナー料を注ぎ込んだ。
そう。東京オリンピックのスポンサーだ。特にソフトボールの競技種目復帰には、力を入れた。
もし勝てば…チャンピオンになれれば、企業イメージアップは、計り知れない。
事務処理に追われ、詳しくは分らないが、今、ソフトボール決勝をやっている。
デスクの上の写真立てには娘…大河の結婚式の写真がある。
社長夫人…娘の大河の決断が問われる時だ。

プーッ プーッ 
おっと、内線だ。
「テレビ?…そうなの?おめでとうっ大河!そう…よかったわね。じゃあ、あとでね」

テレビの電源を付けると、スタジアムの映像。いろんなモノが、飛び散っている。
日本代表の選手が抱き合っていた。音声は、大きな歓声で埋め尽くされている。
実況アナウンサーが興奮しながら、涙ながら、栄光の瞬間を讃えている。
そして、画面の中央。日本代表の選手の中から、今日のMVPが、日本のエースが、
画面いっぱいアップになる。画面に太陽の光が反射した…と勘違いするほどの笑顔。

実乃梨だった。

実乃梨は、お祭騒ぎの中、ベンチに押し流され、どうやらインタビューを受けるようだ。
地響きのような歓声で、やはり聞こえにくい…マイクの調整をして、再び質問される。

『…っ、聞こえますか?おめでとうございます!櫛枝投手!やりました!金メダルですっ!
 すごいっ!今の…この気持ちを、一番に誰に伝えたいですか?!』
キラキラ光る笑顔、涙。画面に目を向けるっ。

実乃梨は世界中に叫ぶっ! わたしの幸せは…これだぜっ!

『はい!!恋人ですっ!わたし、その人と結婚するんですっ、竜児くん!愛してるっ!』


317けいとらっ!コーダ5 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/12(水) 03:28:23 ID:X+TV8i7O

数ヶ月後、実乃梨は、父親とともに、大きな教会の扉の前に立っていた。
「オリンピックより緊張…するっ」
「安心しなさい。もうすぐ。彼と逢える。それまでの我慢だ」
「うん…そだね…」
パイプオルガンの音。メンデルスゾーンの曲が、大音響で流れる。
扉が開き、たくさんの拍手と、笑顔達が迎えてくれた。
亜美、北村、春田、瀬奈、木原、香椎、能登…後方の席には、
よく見る顔、懐かしい顔が混ざっている。ゆりちゃんもいる。
ソフトの選手とか…もう数えきれない。
みんな、笑顔で迎えてくれる。拍手で感動を分かち合ってくれる。

実乃梨はヴァージンロードの上を、純白のウエディングドレスを纏い、
ゆっくり歩いていた。チューブトップのドレスは露出部が多く、
豊かなバストが強調されるが、実乃梨のアスリートらしい、
引き締まった、しなやかな首から肩のラインも強調。
フェミニンさと、健康美が両立して、神々しく、美しく、奇跡だった。

竜児の母、泰子、叔母の園子、叔父の清児、高須インコもいた。
惜しみない喝采、心から喜びを分かち合ってくれている。
連呼される、おめでとうっ!の声が、実乃梨の涙腺を緩ませる。

祭壇が近づき、オルガンを弾いてくれている大河も見えた。
傍らにはジャンボさんもいる。ふたりは一瞬、手を振ってくれた。

実乃梨の母親、プロ野球選手の弟みどりと目が合う。涙が止まらない。
今や伝説のキスを目撃した、実乃梨の親戚達も、待ちに待った式に、大興奮。
うわ〜いっ!とウェイブまでしている。

そして…祭壇の前には竜児が待っている。笑顔で実乃梨を、花嫁を迎えてくれる。
実乃梨の指が、父親から竜児に引き継がれ、実乃梨はブーケ越しに愛しい人をみつめる。

竜児と実乃梨は、神様の前で…いままで何度も誓い合った…永遠の愛を確かめ合う。

「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、
  悲しみのときも、富めるときも、貧しきときも…
これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命のある限り、
  真心を尽くす事を…誓いますか?」

「…誓います」
と。
愛の証である指輪を交換。竜児は実乃梨のベールを挙げ、そして誓いのキス。
唇が離れる瞬間、実乃梨のへアドレスに付けた、オレンジのヘアピンがキラリ輝く。
式場にいる人々の割れんばかりの大きな拍手、歓声とともに…誓いの儀式は終わる。

ふたりが教会を出ると、わあああっという大歓声。カメラのフラッシュの嵐。
オリンピックの関係者や、ラジオ局や、テレビ局も取材に来ている。
見渡す限り、人、人、人の海、みんな全員、ふたりを祝福してくれているのだ。
この映像は、衛星を伝わり、ヒューストンのすみれの目にも届いていた。

無限のライスシャワーを浴び、竜児と実乃梨は、同じ方向を見上げている。未来へ…

「なんか…すげーな、実乃梨っ!、幸せだけど…」
「あははっ!すげーね?竜児くんっ、幸せ、見せつけちゃおうよっ!チュッ!!」

世界中の人々に祝福されながら、ふたりは長いキスをした。



おしまい。
318 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/12(水) 03:31:25 ID:X+TV8i7O
以上です。
ありがとう御座いました。
319名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 04:09:20 ID:R3c/5+IW
>>308がエロくてたまらん・・・
320名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 06:42:01 ID:FSpTSLpA
>>318
>>313からオレンジを聴いて読んだら「好きだから〜」のとこからフルマッチし始め、あまりのタイミングの良さにインコ肌
大体平気の読む早さに合わせて書いたならかなりの才能を感じる
乙、次回作も良かったら書いて欲しい。出来ればみのドラ期待っす
321名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 09:05:33 ID:TnG+cz53
お疲れさまでしたー
みのドラとか全然読まないんですけど、文章がお上手なんで
なぜか読んでしまいました。
みのりん語とか特殊ですけど、キャラを上手に使いこなされてたと思います。

やはり大河が別ルートに行く部分が動機が弱いというか
展開的に苦しく見えましたが、面白かったです。
次回作も楽しみにしてます。僕の希望は亜美ものですw
322名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 12:37:12 ID:67giiRXR
>>318
お疲れー
とりあえず二人の絡みが上手過ぎて悶える
設定に難あったがよく投げださずに書いたなーと思うな
ちょっと厳しかったがw
IFを希望するぜ
323大河ルート:2009/08/12(水) 13:30:30 ID:UZrQpyOG
大河「りゅうじー?」

大河「いないの?全く…ブツブツ」
ガサゴソ

大河「あれ?なにこれ?」
「バニラ味!アルミホイルのうえに本品を少量乗せ、ライターなどで炙ります。煙を吸ってください」

大河「変わったお菓子?これ。よく分からないけど、まぁいっちょやってみますか!」

324名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 14:34:06 ID:Wvhj1SoW
アパート全焼フラグだな
325名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 15:59:56 ID:aqGAuRxY
>>318
やっと独り善がりなオナニーが終わったか。さぞ気持ちよかったんだろうな?
スレ汚し失礼とかって謙遜で言ってると思ってたけど、本当にそういう作品ってあるんだな
全く期待はしてなかったが、設定の丸投げっぷりが酷いなんてレベルじゃねーぞ
俺はまともな作品が読みたいんで、こんな物が次々と投下されると荒れるし正直迷惑だ
326名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 16:29:04 ID:67giiRXR
>>323
何でそんなやる気なんだよ大河ww


まともな作品、何をもってそう言うんだろうな…
327名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 16:37:45 ID:gPhnQ4cF
おれはみのみはそうでもなかったから読んでなかったけど
評価は各人のなかでしていればいいじゃないかできがどうこうけなす必要は感じないけど
328名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 17:30:32 ID:Sr0JyQqS
>>325
俺に言わせれば、あんたみたいなのがよっぽど迷惑だ。
そんなに読みたくなければ二度とこのスレに来るな。
もしくは自分でこれだという作品を投下してみろ。
それが出来ないくせに一丁前に叩いてんじゃねー、このクズ以下の厨坊が、一ぺん死んでこい!
329名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 17:32:11 ID:Sr0JyQqS
>>327
aqGAuRxYが基地害なんだよ、Arl
330名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 17:50:26 ID:1lg7HdgM
収拾が付かなくなって結局荒れるんだから喧嘩腰なレスはやめとけ
嫌なら読むな、スルーしろの精神は作品以外にも適用して良いと思うぞ
331名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 19:31:51 ID:m6IWWjjY
読後感の悪さは「狙撃」と同レベルでした。

歌詞ネタやメアリスーといった厨二全開っぷりが
生理的嫌悪を催す。という面も大きいんだろうが、
この作者がここまで総叩き食らってる一番の要因は、
無自覚な原作レイプぶりにあるんだろうと思う。
おそらくこの作者は「実乃梨(with堀江)は大好き!
でもとらドラ自体はそれほど・・・」というタイプの
人なんだろうね。だから「原作アフター」と言いつつ
原作設定ガン無視とか、各キャラの支離滅裂な行動原理とか、
二次創作において大切にすべき部分がメッチャおざなり
になっちゃってる。
だから「スレが荒れない」こと「だけ」を気にして
SSならば何でも全肯定!な人を除いた
「原作のファン」であることが第一義であるスレ住人達
の反感は買いまくるだろうね。
332名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 19:42:31 ID:Q/ZkUP3o
一言で言えばとらドラ!の要素が「名前」位しか残ってないしなぁ
ツンデレ女とその友達、そして男という設定で別の名前使って一次シチュスレに投下しても
これとらドラの設定パクってね?と言われることがないくらい薄まってる
333名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 20:39:56 ID:IPQFrpbg
スルーで。
334 ◆v6MCRzPb66 :2009/08/12(水) 20:56:54 ID:NJX9iHw3
迷いましたが、一レスだけ失礼致します。
私の前回投下させて頂いた、にせどら!の時に御指摘頂いたご意見を踏まえ、注意書きを書く、感想レスに、
反応しない…ようにしました。
ただ、私の配慮不足もあり、結果的に、御迷惑を掛けてしまいました。申し訳ございません。
しかしながら、少数ですが、ご支持頂いた方もいらっしゃり、大変有難く存じております。
2スレ位前から、常勤されている住民の方には、私が、何故けいとらっ!を投下させて頂いたか、
御理解頂いけると思いますが、もし次回投下させて頂いく機会がございましたら、今回の事を踏まえていく所存です。
以上です。失礼致します。
335名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 21:18:16 ID:nCbrb2mg
みのりん派の俺としてはため息しか出ない
みのりんの救いを求めてここに常駐しててよ、竜児との結婚式とかキラキラと夢を叶えるような話は
ど真ん中ストライクだったはずなのに、こんな最悪のオナニーで見せ付けられるとは・・・・orz
何なんだよこれ?みのりんの面の皮だけ被った奴が演技してるみたいで胃の辺りが気持ち悪くなるんだけど、俺だけか?

いつか尊敬する作家に書いてもらいたかったのになあ
リアリティがあまりに無さ過ぎるのがせめてもの慰めだけど、なんかもうどうでもいいや
やっぱり原作者に選ばれなかったキャラの末路なんてこんなもんなんかな・・・・・

この人も謝ってるのにネガって悪いね、もう来ないよ
名前は出さないけど、みのりんの切なくて幸せなSS書いてくれた人、本当にありがとう
336名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 21:34:37 ID:E1n8+ZWC
なぁ大河死んでみのりんが体で慰める話知らない?
337名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 21:40:32 ID:UZrQpyOG
そういうのは奈々子様やあーみんの役割だろ条項
338名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 22:07:40 ID:z9aQ53gC
てか、竜児とくっ付いていた大河を、訳も分からん理由で別れさせてメアリー・スーな俺キャラに寝取らせ・・・
まさにオナニー作品だったな。実乃梨が単なる話のダシに使われたようで逆に可哀想だわ

正直、自分でHPでもブログでも作ってそこでシコシコ書いていた方が一番よかったんじゃね?
339名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 22:45:00 ID:UqchuZga
公式な結論が出ちゃってる、ってのがとらドラの難しいところだよね。
ここがゆゆぽスレである以上、来る人は公式な結論が念頭にあるというのは忘れないで欲しいなぁ。
公式な結論を受け入れる受け入れないは各人の自由だとしても、それを表現することについてはちょっと考慮して欲しいわ。

まぁ、エロだけ書いていればいいんじゃね?
340名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 23:00:01 ID:viCt/8Qn
もう良いじゃん、けいとら!の作者も謝ってるんだし。
ちょっと引っ張り過ぎかと思われ
341名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 23:00:49 ID:FSpTSLpA
ところでふと思ったが、簡単に二人をくっつけてしまったから良くなかったのか?

例えば夢に挫折した実乃梨を竜児が同情のようなもので接して、決して愛情はなく関係を持っていくような話なら大丈夫なのか?
342名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 23:11:28 ID:KXE9TSX3
いや、もう止めよう、マジで。
「?」1つ火事の元だ。
343名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 23:21:53 ID:aqGAuRxY
>>326
とらドラのキャラを好きであることだな
原作に敬意を払ってると言い換えてもいい
少なくても主役の二人にはそれがあるべきなのに、
実乃梨は軽すぎるし竜児は格好悪いとしか感じられない

オレンジの歌詞も好きだったのに穢された気分になった

悪いな>>342もう止めるわ

>>341
不幸にする時点で反対だ
344名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 23:29:29 ID:6FWDd7Wd
最近発見した同人なんだが、サークル「ED」の「アミえろ!」。

http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0010/18/84/040010188444.html

これ、KARsW3gC4M氏の「伝えたい言葉」をそのまんまマンガ化した感じだった。

微妙に違う展開だが、似てる。作者、このSS読んだんじゃね?というくらい。

亜美ちゃん人気と、空気を変えるつもりで紹介してみる。
345名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 23:34:46 ID:Q/ZkUP3o
まぁこういう子がいるくらいだから
346名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 23:41:53 ID:hXMrAeFt
>>335
よう俺。まぁ俺はその人が戻ってくるのを気長に待つけどな。
347名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 23:49:59 ID:FSpTSLpA
>>346
長いことここにいるのにその人の存在がわからない俺はみのりん派失格か……


その同人誌の作者がKARさんだったりしてなww
348名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 00:42:46 ID:dM8CVnY6
けいとらの作者は頑張ったし、こういうスレの作者としては見習うべきだと思う
ああいう状態になったときの対応もいい方だと思うな

折角書いた作品だし楽しみにしている人もいるから完結はさせてほしいしね
ついでに他スレで反対多くなった時だが、あっぷろーだにあげてそれ紹介ってのをみた事がある
そういう手も、もし今後こうなったら使ってみてもいいんじゃないかと思うな

でも、けいとら自体に関しては言われているように原作レイプに近いな
過去にも感想書いた事あるし大体言われているから否定ばかり繰り返すのも
あれだし一応省略させてもらう

もし次も原作後設定の竜虎以外がくっつく場合の作品を想定してるなら
大河もそうだが、それよりも実乃梨と亜美と竜児(北村も目立たないが)のキャラを
相当貶すことになるということを意識して欲しいかなと思う

特に亜美はまだ本人の性格や立場、これまでの立ち回りを貶すだけですむが
加えて実乃梨は本人の夢、竜児は人格含めた全面を否定する状態になるから
並の設定と腕ではこれを回復させるのはきついと思う

とらドラは過程でメインキャラの心情や事情が複雑に入り組んでるから無理に
ひっくり返そうとすると他キャラのほうにまで連鎖で影響がでてしまうんだよな
349名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 01:07:33 ID:t0EuGPCD
いやなら読まなければ良いだけ
350名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 01:12:12 ID:Bk+L4Lo3
オリキャラ入れないと独自の展開作れないのなら二次は向いてないと思うけどね
むしろこれだけ長くかけるんなら完全オリジナルで良かったろうに
351名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 01:16:26 ID:dM8CVnY6
なんだかんだ文句言ってても作者さんはいい人だし期待しているのです
まぁ、原作後で上手くいくと思えないからできれば次はIFにして欲しいとは思う・・・w
352名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 01:32:53 ID:AKGJC5FV
二次創作界って、不思議とオリキャラを入れたがる人が居るよね。
何が不思議って、オリ主人公ならともかく全く無駄な立ち位置で出したり、原作キャラで十分に賄える役割をあえてオリキャラ出してやらせようとするの。
あれって一体なんなんだろうか。
353名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 01:37:22 ID:tEmNgv4+
たかだか一読み手の俺としては、オリキャラよりクロスを何故書きたくなるのかの方が謎だ
354名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 01:42:49 ID:Bk+L4Lo3
ファミコンジャンプ世代なのさ
355名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 01:45:53 ID:8CaQ0k9U
>>353
もしこの作品にあのキャラが居たらどうなるんだろ
このキャラの性格ならこいつと話が合うんだろうな意気投合してコンビとか組ませたら……
うはwww妄想が止まらないwww
とか考えてたらついつい書いちゃうんじゃねw
356名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 01:48:30 ID:KwiiqA0h
>>353
釘宮病つながりでのクロスSSや主人公キャラに新たな活躍の舞台をお手軽に与える場合のそれなら理解できる。
まあ、分量のあるSSを生産し、かつ話を終わらせることができるというのは一種の能力なので作者にはもっと書いて欲しいけれども。

ゆりちゃん先生SS希望。
357名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 03:06:48 ID:of1fSKPh
>>353
スパロボとかルパンvsコナンとか、人はついつい作品の枠を超えたくなる生き物なのですよ
358名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 03:16:27 ID:64UxKH2e
じゃあ、ここはあえてとらドラ!×けいおん!のクロスで仕切り直しをお願いしたい
359名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 03:28:59 ID:EMpXk8kQ
じゃあ、ここはあえてとらドラ!×ひぐらしのクロスでドロドロしたやつで仕切り直しをお願いしたい
360名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 03:37:56 ID:t0EuGPCD
じゃあ、ここはひぐらし×けいおん!のクロスでSFなやつで仕切り直しを
361名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 08:48:39 ID:xfze4uuq
とらドラ要素が!にしかないな
362名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 09:04:06 ID:AKGJC5FV
>>318

カップリングは気にしない、雑食派の俺が感じた事を一言。
あくまでも一読者の一意見として聞いて欲しい。

先ず、SSの設定として「原作後」「竜児と大河が付き合っている」という前提。これらは作者が自らチョイスして設けた設定な訳だ。
で、ここから「竜児と大河の破局」という破壊力の大きなカタストロフィ――ぶっちゃけてしまえば、良くも悪くもショッキングな展開に持っていく以上、そこに「意味」が見出されなければ単なる虚仮脅し。場合によってはキャラ虐めや原作レイプと言われる事になる。
無論、失恋や破局といった展開を扱っても名作良作と言われる作品も多々ある以上、こういった展開そのものが悪いという訳では決してない。
要するに、そういった“読者にとって”心理的ウェイトの大きな要素は、作中できちんと昇華しているか、または必要性を提示出来ているかが問題な訳だ。
自ら設けた設定である以上、それが作品内でのリアリティ――現実に照らし合わせるという意味ではなく――を以って妥当に表現(処理)され切れていないのなら、叩かれる要因になっても仕方ないと言えるだろう。
そもそもからして、最初から一部の読者にとっては決して愉快ではない展開なのだし。
要はつまり、無意味な設定は作品の盲腸であり贅肉なのだ。
そして盲腸なら虫垂炎に、贅肉ならは不健康を呼ぶ可能性を常に孕む。本物の人体ならばともかく、創作物にとっては不必要であるばかりか危険要因ですらある訳だ。
その上で「読者を納得させられるか」という受け手側次第の命題をクリアしなければならないのだから、どうしても作品の成立に不可欠だというのでない限り、避けておいた方が無難なのではないだろうか。

例えば、だ。
「ニセドラ」において、竜児は大河を裏切っており、みのりは大河を裏切っている。
彼女持ちが、以前に恋していたとはいえ他の女に手を出したら浮気だ。
どんな想いを抱えていようとも、親友の彼氏に手を出すのも裏切りである。
こういったファクターを「人間の弱さ、儚さ」「恋愛の残酷さ」「彼らの愚かさ、若さ、幼さ」等々といった表現で昇華されていれば良い。しかしそういった処理が『不十分』であったならどうだろうか?
答えは簡単。「竜児とみのりは嫌なヤツ」という印象が残るのだ。

これは「けいとらっ!」に措いても同じ事が言える。
文庫本10巻、アニメ二十数話に渡って繰り広げられた物語の結実である「竜児と大河の絆」というファクターをひっくり返すというのに、作中で用意された仕掛けが圧倒的に足りていない。あえて歯に衣を着せなければ、杜撰なのだ。
ぽっと出の御都合キャラにふらふらするタイガーが良い例である。
ここで「相手の男の設定」や「大河が惚れる理由及び竜児を裏切る理由」に中身が詰まっていない上、そのシチュエーションそのものに説得力がない。
個人的な読感で言わせて貰えば、話の中枢である「みのドラ」を成立させる為に無理やりこじつけたと言うか、適当に処理したという印象を受けた。
つまり、読者にとって『不十分』なのだ。
363名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 09:05:32 ID:AKGJC5FV
そりゃ、正式に付き合っている恋人を「テキトーな理由で」一方的に捨てて、他の異性に走るキャラは「嫌なヤツ」だろう。
浮気相手がどれだけ完璧超人であろうと、以前に惚れていた相手であろうと、そういう行動そのものが彼ら彼女らの魅力を大きく損なうのだから。
そしてそれは、原作小説とアニメを通して築き上げられて来た「キャラクターと物語の歴史」を破壊する結果となってしまう。原作レイプと誹られる所以は、このあたりにあるのではないだろうか。

これらの危険要素を回避するのは実に簡単だ。
態々「原作後」や「竜児と大河は付き合っている」などという難易度の高い設定縛りを避け、「最近竜児と大河はそこはかとなく良い雰囲気」程度に抑えておけば良いのである。

結論を言おう。

『自分で「原作後」や「既に正式な恋人同士」という設定を設けた以上、ちゃんとそれを踏まえて書こう』

である。
原作やカップリングは、原作やキャラを愛する読者にとって大きく重いものなのだ。

そしてもう一つ。

『キャラを無意味に悪者にしない』

だ。
キャラに悪い事をさせるな、悪人にするな、という意味ではない。
キャラが他人を裏切ったり傷つけたりするのに、その行動になんらかの説得力ある理由付け(と表現)が出来ないのなら、それはキャラの魅力を損ない、読者の何割かを不快にさせ、作品自体のクォリティを引き下げる結果となる、という事だ。
場合によってはキャラヘイトにすら見えてしまう。
もちろん、逆にそういった難題をクリア出来るなら、それは素晴らしい人間劇作品になるかも知れない。
だが、そうなるには筆致にかなりの腕前が必要であるし、そういった要素が作品に必要かどうかも検討すべきだ。繰り返すが、文章作品にいつ虫垂炎を罹患するかも知れない盲腸は要らないのである。
また、上手く誤魔化す手法もある。「けいとらっ!」で言えば、既に大河が竜児の元を去った後から物語が始まり、詳しい経緯はぼかすといった風に。

このあたりの匙加減は多分に経験――つまり慣れと学習によって培われる所が大きいため、上で述べたような事に気を付けつつ、とにかく精力的に読み、また書き続ける事をお勧めする。

最後にまた繰り返すが、これらの意見はあくまでも一読者の個人的で勝手な意見だ。気に入らなければどうか聞き流して欲しい。
また、「大事なのはみのドラである事なので、大河なんてどうでもいい」という楽しみ方を否定する気もない。
二次創作は書くのも読むのも個人の趣味であり「遊び」である以上、他人と場(スレ)に“実質的な”不快や迷惑を及ぼさない限り、楽しみ方はそれぞれの自由なのだから。

以上、無粋な長文であった事を謝罪する。
364名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 09:38:21 ID:Vn2nh9U+
>>363
俺も同意見だなぁ…
内容が稚拙なんだよねぇ。
みのりんに対しての愛は少し感じるけど、「とらドラ!」への愛は感じられない。
もしかしたら書き手の人、かなり若いのかな?
リアルでの恋愛含めた人間関係の経験が圧倒的に不足してる感じ。

でも、文章力はあると思うからこれからに期待かな。
365名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 10:56:54 ID:t0EuGPCD
ガチガチだなあ
366名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 11:16:27 ID:xfze4uuq
ここはにちゃんなんだし、もっと力抜けよ
書きたいものかかせて、読みたいものだけ読んであとはNGにいれれば良いだけ
367名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 11:37:27 ID:B8Gv6OOS
「文章力はあると思うし」

二次創作で拙いのが「文章力だけはある」書き手、語彙の豊富さや表現技法の巧みさと、一方ストーリー展開の稚拙さやキャラメイクの弱さとが重なると、まずマイナスの方向に評価が向かってしまう。
逆にストーリー展開が上手くて「定番ネタでも新たな切り口で新発見をさせる」発想力や、「ラストまで読者の興味を離さない」構成力があると、表現技法等「文章力」が多少稚拙でも評価はプラスに向かう。

読者はまず面白いストーリーを読みたいのであって、作者の細かいウンチクとか表現技法の上手さに感心したくて読んでるわけじゃない。
「竜児が美味しいチャーハン作って大河を落としたストーリー」に、美味しいチャーハンの作り方を実際に書くのはいいが、それを延々10レスも重ねて書くのは構成に問題ある、というかそれもう作者の自己満足の世界だってこと。
368名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 12:24:57 ID:0FIu0rgo
けいとら!を読んでから真剣に考えてみたが、原作アフターでみのドラを完璧補正つきで書けた奴がいるなら
恐らくプロになれる気がする。いや、プロでも早々出来ることでは……

というわけで言うのは簡単でも実際やってみないとその大変さがわからないと思って>>341の設定で書いてみた。
けど俺には無理だった。これが限界だった
原作Afterで竜児×実乃梨の浮気もの、完全BAD
(竜児は心変わりしているわけではないから浮気とはいえないかもしれないが…)
一番書きたかったのは、傷つくこと、傷つけることを恐れる弱さと臆病さ、誰でも持っている矛盾した心。
あと、みんなが幸せであるだけが物語ではないという残酷さ。
鬱展開と浮気モノが好きな人、または上のことが理解できそうな人向けです
※竜虎好き、純粋なみのドラが好きな人はもちろん、読んでも得にはならないので注意してください
 原作レイプ、キャラ崩壊その他もろもろ、読んだら3秒で忘れてくれ
 正直反省してる、ごめんなさい
6レス、エロは最初だけだ
タイトルは 最後の「またね」
369368:2009/08/13(木) 12:26:22 ID:0FIu0rgo
最初は本当に同情だったのかもしれない。
どうして、とか何故、だなんて考えてもどうすることも出来ないのに、私はいつもそれを考えてしまう。

「っは!んぁあ…あっ!」
「くっ!お、俺、もう…ヤバいっ!」

練習中のたった一瞬の事故が原因で、右肩を壊してソフトを続けられなくなったのは大学2年の夏だった。

「ひうっ!あんっ!!や…わたし、もうだめっ たかすくんっ、あぁっ」
「……っ、く、くしえだっ」

大学を中退して、かと言って家族に大声で夢を語って進学した手前、
大橋に帰るのも恥ずかしくてこの地で就職をして早2年以上。

「んっ…あぁ!はぁ…うあ…ああぁぁ」
「…く…うあっ」

高須くんとこんな関係を始めてしまってからも、それくらいが経つ。
背徳感でさえも消してしまう快感も相まってどんどんと深みに嵌まってしまい、抜け出すことが出来ない。
荒い息を少しづつ整えながら高須くんの腕を強く握る、背中に手を回す。
たった一瞬の温かさを求めて。
未来なんてあるわけはないのに、無くてもいい、
でも確かに今ここに温もりはあるのだ。
だからどうしてもやめることが出来なくなってしまう。

「っはぁっ……ねえ」
「…はぁ…な、んだ?」
「高須くん、好き……っ」
「んっ……」
「ちゅくっ…ちゅっ!…んうぅ。」

私はいつもこうやって一方的に想いを告げてすぐに彼の口を塞ぐ。
どんなに想いを告げても、それはいいことなんだけれど高須くんの心は変わるはずなはく、返事に困らせてしまうのが嫌だから。
そして随分と前にそう言った時、高須くんは何も言わずに困ったように私を見ていたのを見て、自分自身が酷く傷ついたからだ。

帰らないで欲しいとか、自分を好きになってもらいたいとか、
高須くんと付き合いたいとか結婚したいとか、そういうことを考えなかったと言ったら嘘になる。
だけど私はその言葉を一度も言ったことはなかった。
言ってしまったら、自分の中で取り返しのつかないことになることと、
あの頃の決意が全て偽りになってしまうことが怖かったから。
どんなことがあってもあの頃の信念だけは曲げてはならず、
大切なものを壊すのは二度としてはいけないと思ったから。
370368:2009/08/13(木) 12:27:58 ID:0FIu0rgo
「櫛枝?寒くねえ?」
「ん?あー、ごめんよ、このアパート隙間風吹くんだ。心頭滅却で頑張ってくれい」
「いや、そうじゃなくて……おまえが。もうちょっとこっちに」
「………っ」

高須くんは同情とも愛情とも取れない不思議な態度で接してくれ、
私のつまらない話を聞いてくれて数時間だけだけど一緒にいてくれる。
最初は本当にただ話しているだけだったのだ。仕事の話大学の話、近況について、
昔のこと、どんな小さな話題も変に盛り上げて、笑って懐かしんで。
そうして気づけば雰囲気というか勢いというか、体を重ね合うようになっていた。
昔誰かがお互いの愛情がなくとも肉体関係は成立するのだと言っていたことがあったが、それは本当なのだと私は20代になって初めて知った。

いつか終わる関係でも、彼の心が誰に向いているかわかっていても、それでもいいと思う。
今、一緒に時を過ごせていることが幸せなのだ。
ただ月に2回、泰子さんに見つからないよう仕事時間を見計らい家を出て、わざわざ電車に乗ってここまで来てくれることがたまらなく嬉しいのだ。
実際には罪悪感と背徳感が9割9分を占めているわけで、頭ではわかっていても……というのは正しくこういうことなのだと思う。
こんな後ろめたい関係を中々やめようと、私が言いだしたくても言い出せないのは
残りの1%のわずかな幸せを感じてしまう自分が、邪魔をするから。


「じゃあね」
「…おう」

始発電車が動き始めるころ、高須くんはまだ薄暗い空の下帰って行く。
本音を言ってしまうとこの時が寂しい。
高須くんはもうここには来ないのではないかと思うと、それが本当は一番いいことなのに不安で不安で苦しくなり、
言ってはいけないことくらいわかっている。そんなことはわかってる。
だけどどうしても、
「……また、ね」
私はいつもこの言葉を彼に言ってしまい、その瞬間ひどく後悔をするのだ。

「……お、う」
高須くんは困ったように前髪をいじりながらいつもそう答えてくれる。
いっそ聞こえていない振りをして無視をしてくれて構わないのに。
答えてくれなければいいのにと思いながら、心のどこかでその答えに安堵を覚えている自分がいるのも、隠しようのない事実であった。
去っていく高須くんの背中を見ながら、今追いかけてその腕を掴んだらどうなるだろうかとか、
後ろから抱きついて帰らないで欲しいと願ったらどうなるかとか、たまに考えて、止める。
もちろん実行したことなど一度もない。
どうにもならないことはわかりきっているし、どうにかなってしまったときはそれはそれで本当に困る。
371368:2009/08/13(木) 12:29:24 ID:0FIu0rgo
「………くっ…ひぅっ」
彼がいなくなったまだ薄暗い部屋で一人、私は薄い手のひらで顔を覆い泣くのだ。
一人になった寂しさか、友人に対する罪悪感か。涙の理由はわからない。
でも悲しくて悲しくて仕方なくて……仕方ないのだ。
いつだって私は、この涙を覆い隠すことしか出来ない小さな手のひらが大っ嫌いだった。
だけどいつかはこの小さな手でも、夢を、自分の幸せを掴もうと思っていたのだ。

その頑張りを信じてくれているだけで十分だったのに。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
いつから自分はこんなにも弱く――いや、強がることを止めてしまったのだろう。


大河は高2の冬から実家……お母さんの元で暮らしていて、今はそこから大学に通っている。
大河と高須くんは今年大学を卒業したら同棲を始め、結婚するそうだ。
そう話してくれた高須くんの顔を見たとき、悲しくもあり、だけど自分の中で安心の方が勝っていた気がした。
高須くんは大河が好き。絶対にそう、それだけは誰の異論も認めない。

止められない関係といえども、私は以前からデッドラインを設けていた。
それはどんなに続けても、大河と高須くんが結婚をするまで、そう、決めていた。
ばれなければいいなんて邪な考えをするわけではないけれど、
ばれてしまう前に終わらせなくてはいけない。
仮に見つからなくても、大河がどこか怪しみ不安がりだしたらその時点でもう私は大河を不幸にさせてしまっているわけだから。
今はさせていないのか、と訊かれれば決して首を縦に振ることは出来ないわけだけど。
そして今は3月の第一金曜日。
終わりはすぐ傍まで来ていた。


一緒に居たい、ずっと傍に居てほしい。
そう思ってしまうのは、私にはもう何もないという後ろ向きな考えからだけではない。
本当に好きなのだ。高須竜児のことが、大好きなのだ。
月に2回の逢瀬に心を踊らせ、それが許されるのものではないことに憂鬱になり、自分でも馬鹿だなぁと思う。
そしてその関係すら終えてしまうことに戦慄にも似た悲しみを覚えていることも、やっぱり馬鹿だなぁと思うのだ。

でも私はそれでいいと思う。
本来ならば決して手に入らない、見えていたものとは違う幸せのカタチを一瞬だけでも見ることが出来たから。
それ以上の悲しさを味わうことは目に見えて分かっているけれど、それもなんだか受け入れられる気がした。
大河と高須くんはお互いが大切で、私も二人のことが大好きだから。


次に高須くんが来たら、この関係を終わらせようと思う。
最後の強がりを、彼に見せてやろうと思う。
それだけは、ずっと前から決めていたことだから。

ぼやけた視界で弥生の月は今にも消えてしまいそうで、しかし優しく部屋の中の私を照らしていた。
日はもうすぐ昇る、今はその眩しさがひたすらに辛い。  

372368:2009/08/13(木) 12:30:57 ID:0FIu0rgo
***

誰だって事が起きてから気づかされるのもで、こんなことになるなんて予想も出来なかった、と言うだろう。
先程まで寝まいと喋り通していた櫛枝だけど、どうやら完全に寝入ってしまったようだ。
薄い上唇も、柔らかそうで健康的に染まった頬も、高校時代からほとんど変わっていないどこか幼げな顔。
彼女は小さな寝息を立てながら、無意識的に布団の中で俺の手を掴んでいた。
持前の握力は大して使っていないようで決して強い力ではないけれど、しかし弱くてもしっかりと俺の手を握って離そうとはしない。
それが無意識であるから尚、俺は櫛枝の手を拒むことが出来なかった。


きっかけは大学2年の冬に行われた2Cの同窓会だった。
団結力は衰えを見せず多くの元クラスメイトが集まり、随分と楽しかったのを覚えているのだが。
そこで俺は久しぶりにあった櫛枝の様子がどうも変なのに気付いてしまった。
相変わらずのテンションで、ノリで、ギャグセンスで、大河も川嶋も北村も、
その他同級生は誰も気付いていなかったのかもしれないが、俺は言葉に出来ない違和感を覚えたのだ。

それが確信に変わったのは、櫛枝がふざけて春田に絡み、奴を投げ飛ばそうとしたときだった。
右手を大きく上げたとき、一瞬だが櫛枝が顔を歪めた気がした。
それでバランスを崩した櫛枝は春田を巻き込み倒れ、いやー、体格差があり過ぎたわ、なんて笑って、
春田は相変わらずのアホ全開で怒り、バカとアホがやっちゃったよ、
なんて周りはふざけてその場は和やかそのものだった。
同窓会が終わって暫く経って、俺はその時の櫛枝の様子がどうも気になって、教えて貰っていた住所に尋ねて行ったのだ。
友達が何かあって困っているなら助けてあげたい、そのくらいの軽い気持ちだったのだが、それが全ての始まりだった。

櫛枝は器用な奴だけど、肝心なところで不器用だと思う。
訪ねて行った俺を見ると驚き、何かあったのかと訊くと尋常じゃないほどきょどり出して、しばらくはずっと誤魔化していたが、珍しく根負けして教えてくれた。


その年の夏、櫛枝はソフトを止めたという。
正確には止めざるを得なかったと言うべきか。
俺だけには絶対に知られたくなかったと言った櫛枝に、俺は何と言っていいのかわからず掛ける言葉を失った。

夢を追いかけていて頑張れなくなってしまう奴は五万といる。
本当に夢を掴むのは実はごく少数だ。
そんなことは分かっていたけど。
だけど痛いほどに真っ直ぐに夢を目指す彼女なら、いつか掴んでしまうのではないかと信じて止まなかった。
その姿はいつだって眩しく輝いていて、自分たちの救いに、道しるべになるものだと思って止まなかったのだ。
373368:2009/08/13(木) 12:32:06 ID:0FIu0rgo
最初は後ろめたい気持ちを抑えつつも、元気づけるつもりで通い出した。
しかしあまりにその関係が深くなってしまったから俺はいつも止めようと思い、それを切り出すつもりで彼女の家に行くのだが、
俺を迎い入れる櫛枝の表情があまりに安堵に満ちていて、言い出せなくなってしまうのだ。

そうして俺たちがこんなことを繰り返して2年が経つ。
おまえは何をしているんだと、いっそ誰かに殴ってもらった方が幸せだったのかもしれない。

俺は大河が好きだ。
こんなことをしていて随分と説得力がないのだが、それは本当だ。
大学を卒業した秋には結婚も決めている。
だから大河を裏切るようなことは絶対に出来ないし、やらない、そう決めていた。
櫛枝は俺のことが好きだと、会う時にいつも一回だけ言う。
そしてその言葉に俺が頷けないのを知っていて、すぐに俺の口を塞ぐ。
多分櫛枝は未来を求めているわけではないのだと思う、だから俺は余計に止めようと言いだせなくて、
情けなくも時間だけが経ってしまった。

でもこんな関係も今日で最後なのだ。
もう終わりにしようと櫛枝が言い出したのは数時間前。
俺は今日彼女がそう言いだすことを実は少し分かっていて、その言葉にうなずいた。
もうすぐ始発電車が動き始めるころだ。行かなくてはいけない。
隣の櫛枝の肩を軽くゆすり起こす。


「じゃあね」
「…おう」

櫛枝は笑っているつもりなのだろうか、それでも泣きだしてしまいそうな笑顔で、
いつもどこか躊躇いながら
「……また、ね」と呟く。
高校時代いつでも見ていたあの太陽のような笑顔とは別の、言葉では表しようもない切ない笑顔。
俺はその言葉に答えるべきではないとわかりつつも、頷いてしまうのだ。
でも、またね、という櫛枝の言葉を聞いてどこか言葉に出来ない嬉しさと安堵感を抱いている俺もいた。
そんな矛盾が生じてまうのは恐らく、櫛枝が俺の初恋の相手だから。
愛情とも同情とも取れない半端な態度をとってしまったのは、今の俺と昔の俺が一時的に混ざり合ってしまっていたから。


でも今日は一度だけ俯いて顔を上げ、いつもとはどこか違う笑顔でもう一度だけじゃあね、と櫛枝は言った。
これが俺達の本当の終わりなんだと思う。
櫛枝はもうまたね、とは言わない。
それが彼女なりの決意なんだと思う。
だから俺はそんな彼女の決意に答えるように、また俺自身何かを決意するように一度だけおう、と返した。
374368:2009/08/13(木) 12:33:13 ID:0FIu0rgo



「………」
大橋駅は随分と人で賑わっていて、そこにはいつも通りの日常があった。
大学の卒業式も終わり、もうすぐ大河と同棲を始める。
多分そうやって新しい幸せに包まれ始めたら、
俺は今日までのことを少しずつ記憶の奥底に隠していくのだと思う。


気づけば朝日が差し始め、西の方でうっすらと輝く月はもう消えてしまいそうだった。
今も宇宙のどこかで、月は太陽に照らされているのだ。
ふと思う、全てを照らす太陽は、何に照らされているのだろうかと。





私たちは……俺たちは
『どこで間違ってしまったのだろう』

END
375368:2009/08/13(木) 12:35:44 ID:0FIu0rgo

以上です 
とらドラ!が嫌いなわけでも竜児や大河や実乃梨が嫌いなわけでもありません。
それだけは誤解しないでほしいです。
>>341とても申し訳ないことをした
…目汚し大変失礼しました、本当にすいません
ドロンッ

376名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 12:47:50 ID:bVKGIsYj
原作で人間関係や物語の結末を曖昧に終わらせる作品は
二次創作の題材に向いているという事を改めて思い知った
377名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 13:18:51 ID:gynY48C/
>>375
なぜだ・・・決して微笑ましい内容じゃないのに引き込まれるような文章だった
>>375が浮気経験者なのでは?と疑いたくなる
そして泣けた
378名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 13:20:18 ID:Vn2nh9U+
>>375
乙です!GJです!
とらドラ!やキャラに愛情を感じますねぇ。
リアルでありそうな話なところもGood!
次回作も期待してます。
379名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 13:30:50 ID:Zln3N38M
>>375
僭越ですが、GJです。細かい所にご配慮がお見受けられました。きっと執筆中は、苦痛でらしたと思います。良い意味で私には、マネできないできないと思いました。
非常に読みやすかったです。
380名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 14:33:48 ID:of1fSKPh
>>375
にがい。


GJ
381名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 15:16:50 ID:7WROC3nT
>>375
乙でした。
バッドエンドではあるけど、なかなか読み応えあったよ。

いまみのどらで一本書いてるけど、みのどらに大河を登場させようとすると難しいなぁってことを実感する。
竜虎にみのりん絡ませるのはかなり自然に行くんだけどねー……
382名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 15:31:31 ID:s0LD2v6O
会社経営、大人側の都合、それが大河と竜児を引き離すことになるってのはありえるけど。
それでも二人は絶対諦めないだろうしなぁ。そこに櫛枝をもってきても、結局二人の間に入る
ことは難しいし、本人も応援する立場で動くだろうし。
あの挑戦的設定でうまくまとめることができるやつはいるか?
なんていう挑戦だったりしてw
383名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 16:42:53 ID:64UxKH2e
むしろ、正規みのドラルートで大河と浮気っての書いて欲しい
難易度高いかもしれんがねぇ
384名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 17:09:49 ID:AOJCCBWv
>>375
あンた言うだけのことはあるじゃん!
苦くて切なくてイイSSですわい

一つのお手本示すあたりは流石!
GJ!



で、あーみんの傷心を癒すSSはまだですか?
385名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 19:31:32 ID:AKGJC5FV
>>375
切なさあふれる、良いお話でした。
人間は時に弱くて悲しいよね。それ故に竜児とみのりというキャラが「人間」として良く書けていたと思う。
それは人間の持つ醜さでもあるけれど、だからこそそれを丁寧に書き綴ったこのお話には、作者からキャラへの愛情を感じます。
GJ!!!!
386名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 19:50:31 ID:PZRS89ve
>>375
なんかこう・・・複雑な気持ちなんですけど
泣けました。GJです


やっぱりみのりんには幸せになって
ほしいと思いました。
でもわかっているけど
みんなが幸せってのは無理なんですよね・・・。
387名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 21:01:48 ID:VObQXGaz
>>362-364
二次創作に対して細かい事グダクダ抜かすな!
俺的には「気に入らないなら、読むな」としかどうして思えない。
例え、短絡的な考えだったとしても。
俺はけいトラ!読んでて、設定に無理があるとかなんて思った事ないぞ。
むしろ、原作のあの結末の方が俺は納得していないし、納得するつもりもない。
俺が原作者だったらあんなラストには絶対にしない。
そんなにけいトラ!が無理があると思うなら、自分で書けと声を大にして言いたい!
評論家ぶってあれこれ叩いてくる奴らはウザイ事この上ない。
そんな腐れアンチ共がなんと言おうが、俺はけいトラ!と作者に最大の賛辞を送る!
ジャイアントGJ!
388名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 21:19:57 ID:Efd2Rwcq
>>387
上げてまで言うことか?
こうした程度の低い喚き散らしが、ここの雰囲気を一番悪くしているな
389名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 21:39:28 ID:5ahEYZXy
>>375
切ないけど、何か来るものがあったな。GJ〜
ほろ苦い青春の匂いが・・・

>>387
まずはsageを覚えろ
390名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 22:08:12 ID:f8LDH+16
やっぱり言われたか。ww
もうけいトラ談話は止めにしようぜ。
切り替えようぜ arl
391名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 22:16:06 ID:pDYOhOh+
>>390
もしかしてALLと以下略
392名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 22:20:24 ID:EWZbGLyY
>>390
お前裏口入学だろ?
393名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 22:20:53 ID:U6+ZiAy3
>>387
みのりんエンドじゃなかった原作なんて大っキライ!てか?w

つーか、そんなオマエが絶賛してるという事実こそが、
けいとらがいかに原作レイプなオナニーSSであるかの
証左になると思うんだが。

もしかして作者叩きの一環なのか?
394名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 22:27:41 ID:6domNEJi
>>388-389
荒らしに反応するなよ
395名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 22:54:29 ID:gynY48C/
せっかく作品投下があって流れ変わり始めたのに、そんなにひっぱったらけいとら!の作者さんも可哀想…
396名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:27:08 ID:VObQXGaz
>>388
そんなこと、俺が知るか。
397名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:31:03 ID:VObQXGaz
>>393
何と言われようが、気に食わんもんは気に食わんのだ!
だから、原作小説はブックオフ行きだし、アニメだって19話までしか見ていない。
今からでも遅くはないから、みのりんメインのアナザーストーリーを作るべきだ!
398名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:31:50 ID:VObQXGaz
何かムカつくからまた荒らしてやる!
399名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:32:21 ID:VObQXGaz
aqGAuRxYaqGAuRxYaqGAuRxYaqGAuRxYaqGAuRxYaqGAuRxYaqGAuRxYaqGAuRxYaqGAuRxY
400名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:33:56 ID:VObQXGaz
かはやまひたかゆまにやたかなまぬまなきなしているところです!と
401名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:34:37 ID:VObQXGaz

402名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:36:17 ID:VObQXGaz

403名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:36:54 ID:Efd2Rwcq
みのりんendが問題じゃないんだよ
オリキャラ出して、オリジナル展開するんなら、相応の設定、表現、多くの人に受け入れられる展開
これらをある程度の水準まで何とかすべきなんだ
それがあまりにお粗末だから、痛いんだ

ま、作者本人には馬耳東風だろうな
又、別人を装って同じことを繰り返すだろ(嘲笑)
404名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:38:13 ID:Efd2Rwcq
ああ、ほんとに痛い奴だ
作者はここの荒らしだったようだな(冷笑)
405名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:45:31 ID:VObQXGaz
>>403-404
あんた、バカァ?
作者とは赤の他人だっつーの!
そんな事もわかんねーお前らの方がよっぽど痛いつーの!
406名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:46:34 ID:VObQXGaz
>>403
そんなの気にしてたらSSなんて読めねっつーの。
407名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:47:22 ID:VObQXGaz
かなたやらみなはなたかはなたなひやなたにまひなまゆかあまゆかまさやまなやなやにま
408名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:50:47 ID:Efd2Rwcq
405 名無しさん@ピンキー [] 2009/08/13(木) 23:45:31 ID:VObQXGaz Be:
>>403-404
あんた、バカァ?
作者とは赤の他人だっつーの!
そんな事もわかんねーお前らの方がよっぽど痛いつーの!

特定作者の擁護とは、
珍しい荒らしだな(爆笑)
409名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:53:45 ID:bVKGIsYj
ついに荒らしのネタとして目を付けられたか
けいとらっ!作者さんもご愁傷様だな……

まあ、荒れる題材扱った作品だから、いつかこうなるんではないかと思ったが
そういうのも覚悟してチャレンジしてたってんなら、その姿勢だけは評価に値するか
410名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:59:27 ID:gynY48C/
うーん・・・俺も作者と荒らしは別人だと思うぞ

思うにこの荒らし、普通にレスしてることが多々ある気がするんだ
レスに特徴がありなんとなくわかる
それを否定されると荒らす傾向があるような・・・

まあ俺も極度のみの厨だしわからんでもないが、荒らしはやめようぜ・・・

なんてマジレスしてみる
朝起きたら平和になってますように
411名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:59:43 ID:Bk+L4Lo3
まぁスレが荒れても本人にとっちゃ違うスレに向かって出て行けば関係ないからな
412名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 00:01:07 ID:zjMqxQB7
>>397
>今からでも遅くはないから、みのりんメインのアナザーストーリーを作るべきだ!
マジレスするけどそれには誰も反対してないんぢゃね?
原作endの後からってのが問題なんであって。
もしかして自分でいってて「アナザー」の意味がわかってない??
413名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 00:03:59 ID:p4rrZ/3H
俺的には、「軽トラ」作者は荒らし確定
批判されてもクズを延々投下しただけでも十分に荒らし

その上で、今回のレス見て確信した
このスレに以前から居座っている癌は、こいつだったんだな
414名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 01:39:45 ID:Cq8O08W2
>>362-364
丁寧で素晴らしい分析だな、個人的に心に刻ませてもらう。

今回の件は、精神的にも技術的にも未熟な作者が、身の程を越えたものに挑戦したが大失敗して荒れに荒れたわけだが、メアリースーとか最低限のマナーを周知できたという面では色々と勉強になっただろう。

適当な厨作品の2次だったらここまで叩かれなかったのに、よりによって心の機微を繊細に描いてるからこそ人気のある「とらドラ」でやってしまったのも要因の一つだ。

一作目の終了時にも言葉は悪いが同様の事を言われてるのに、二作目で更に悪化しているのが理解できない。せっかくここまで丁寧に説明してくれる人がいるのだから、件の作者はともかく、自戒の意味も込めて各自で考える良い機会ではないか?

最強クラスの反面教師が現れた。今は去り平和が戻ったが何も残りませんでした、むしろ荒らしだけ残りました。では未来が無い。
>>375が血の通ったキャラとはこういうものだ!と良い例を見せてくれて非常に喜ばしい。

415名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 01:41:54 ID:Cq8O08W2
作者の性善説を唱えてる人もいるみたいだが、言葉遣いが丁寧で感想に返事をしなかっただけだ。実×竜以外の境遇の悲惨さや台詞の端々に感じる獣臭さというか、生理的嫌悪感を与える作風を鑑みるに個人的には同意しかねる。

>>410
この荒らしには確かに特徴がある。
・件の作者への辛口批評に対して、死ね!とか消えろ!と噛み付く。しかも常に一人だけ。
・短時間に脊髄反射的なレスを繰り返す
・キレると無意味な文字列で荒らす
・みのり派(堀江関係の痛いレスもあった)

最近の出没時期がニセとら終盤〜終了後と、けいとら!中盤以降〜現在でほぼ完全にリンクしているため、同一人物ではないかと疑われるのはしょうがない。反論に耐えられなくて荒らしに走ったと誰もが考えるだろう。

精神年齢が幼そう、微妙に誤字があるあたりも似ていると言える。別人ならば作者にはご愁傷様としか言えないが、そもそもが自分が蒔いた種だし、いい薬になっていることを望む。
416名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 01:59:08 ID:ZILypOvv
なんか長文きてるからSSきてんのかと思ったら・・
417名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 02:20:10 ID:WLY6i6sX
昼にみんなで食べる平和な昼食、そんな時突然
奈々子が竜児に、「一般的に」男の子はどんな女の子がタイプなのかを聞く
胸の大きい子と小さい子なら?とか、料理や家事が出来る子?
仕事だったり何か一芸で外で活躍する相手か、家庭を守ってくれる子か?などなど
竜児はまぁ男ならこちらの方が多いんじゃないかって方に答えていく
すると最後に奈々子が
高須くんは別に女の子に変な嗜好とか趣味を持ってない「一般的な」男の子よねって聞く
竜児は単純に、こんな顔だから誤解されがちだが変な趣味なんてないし一般的と言う
質問の答えのほとんどが奈々子にあてはまり
そして自分達には全くあてはまらなかった三人が竜児を睨む

そんな夢を見た
418名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 02:45:39 ID:ZILypOvv
>>417
今からその続きの夢を見てやるぜ!
419名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 04:23:34 ID:AWWzNpyd
>>413とか、嫌な物をきっちりよんでおきながらグダグダ不満を垂れ流すってのはマゾヒストなのかね
嫌なら無視すれば良いものを、わざわざ嫌な思いをしながら受け入れるなんて普通じゃないよな
420名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 04:26:05 ID:WiVRcag1
ところでさ、何でいちいち反応すんの?
以下荒らしに関してスルーな
レスしてるやつも荒らしと判断
421名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 06:37:28 ID:NSRgTPTL
基本的にここは避難所の食糧配給だと思ってる
原作とアニメの完結で飢餓に遭っている
炊き出しの料理を作ってくれる人はボランテイアだから
老舗料亭の本物の味は無理なことは当たり前
自分の苦手な食材も使ってあるし
その人オリジナルの創作料理もある
どの皿を取るのも自由だし
作った側も残さず食べろとは言わない

この状況でボランテイアの人にまずいと文句は言えないと思う
ここには自分の意思で来たのだし
とりあえず腹が満たされればそれでいい
料理の出来に多少の不満があっても
料理が好きなだけの普通の人に
お前の技量を上げるためだと言って
素人の自分が上からアドバイスはできない

うまいものが食べたければそれなりのアクションを起こせばいい
自分で料理を極めるもよし
金を払って本物を求めるもよし
ただ飯にありついて食べた時に言うことは
「ありがとう」「ごちそうさま」
これって間違ってるかな
422名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 06:48:42 ID:p4rrZ/3H
今回の件と、一般的な事例を混同するな

けいとらの作者は、この板最悪の荒らしだったから、>>421の言ってることは事実誤認だ
それに、ボランティアから出されたものに文句をいうなという理屈もおかしい

毒を食わされて感謝なんかできるか!

そういうことだ
423名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 09:00:57 ID:5UOY9FU9
>>422
>ボランティアから出されたものに文句をいうなという理屈もおかしい
一度でも災害の避難所でボランティア活動したことありますか?
なければ体験することをお勧めする。
その理屈がおかしいかどうかが身に染みてわかって人生観が変わるから。

すでに今スレも420KB。
静かにSS投下を待つべし。
424名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 09:07:13 ID:zl7X7Gl4
>>375
優柔不断な竜児は大嫌い。もう書くな。と言いたい所だがほろ苦くて壺ったわ
GJ!
425名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 09:17:42 ID:/KVA6t5o
>>423
>一度でも災害の避難所でボランティア活動したことありますか?
なければ体験することをお勧めする。

そもそも、不愉快なオナニー投稿をボランティアと言ってる時点でお里が知れる

作者の自演か?
426名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 09:23:20 ID:5UOY9FU9
>>425
>そもそも、不愉快なオナニー投稿をボランティアと言ってる時点でお里が知れる
それには同意w
ボランティアという言葉をネタにしてほしくなかっただけでそれ以上の意味はない。
427名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 09:44:29 ID:idFZ0r60
前書きも題名も酉も付いてたんだから読んだほうが悪いだろ
俺?前書き見てからNG余裕でした
というか専ブラ使えよフリーだし便利だぞ
428名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 10:11:20 ID:euLhle9M
>>421
生きるか死ぬかの局面で出される、それこそ「食えりゃいい」炊き出しと、
基本娯楽に過ぎず、且つ原作という「尊守すべき基準」
が厳然として存在する二次創作スレを同レベルで扱う
こと自体、間違ってると思う。

その上で、敢えて話に乗っかってやるが。例えば炊き出し
ボランティアにだって、「やっちゃいけないこと」はあるだろう?
いくら「無料」だからって、適当に手掴みで給仕したり、
いくら「味は二の次」とはいえ、料理の体を成さない
ゲテモノ、例えば、野菜と味噌とオレンジジュース
を使って、わざわざ「野菜のオレンジジュース煮」と
「味噌だんご」を作って出したり。
そんな輩は、只働きのボランティアとか関係なく叩かれるだろ?

「無料だから」「素人だから」なんてことには関係なく、
何事にもタブーというものは存在する。
件のボランティアの世界で一番のタブーは、おそらく
「ホームレスを否定する人間がボランティアに参加する」
ことだろう。
「ホームレスうぜえ、氏ねwww」とか思ってる奴が、
そのホームレスに食わせるメシを作る。考えるまでもなく
最悪であり、そんな人間は全力を以て排除されるべきだろう。

ここで話を二次創作の世界に戻して。上記のような
「最悪の人間」が、このスレに現われたとしたら、どうだろう?

原作が嫌いな人間が、その二次創作を書く。
とらドラのラストが気に入らないから、原作レイプSSを書く。

そんな作者は、やはり件のボランティア同様、排除されて然るべき
なんじゃないかと思うんだが。
429名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 10:34:37 ID:Gi4TFIDo
作家に対する礼儀は必要だが、ボランティアって言葉が良くないね、俺も含め反感を買う。
そもそも、それは好意でなされるものだろ?ところがどこにもそんなものは感じない。

読まなきゃいいとは言うが、毒を食って苦しんでる人が多いのが現状だよな
せっかくの配給所が誰にとっても居心地がいい場所じゃなくなってしまってる
430名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 10:36:12 ID:IpNP85il
災害派遣の現場に来て何も出来ず周囲の人の邪魔だけやった人に
助けに来てくれただけで嬉しいです、貴方は一生懸命やってました、とか言える奴がどれだけいるのやら
結果の出ないボランティアは傍からみりゃ助けに来た俺かっこいいキリッと同じで
自分の事しか考えてない自己満オナニーのために被害者を利用してるだけ
的外れな比喩表現使うのは勘弁願いたい
431名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 10:49:17 ID:YNREI0M1
ヘイヘイ、話がずれてる気がするぜ
心穏やかにすごそうよ
432名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 10:50:15 ID:idFZ0r60
もう一度書く
注意書きがあったのに読んだ理由は何?
433名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 11:02:44 ID:NARa3hrw
>>432
俺は読んでないから分からんが
けいとらっ!を読んで「GJ!」とか「面白かった!」とか感想レスを書き込む奴が多かったおかげで
「そういう感想が出るなら、微妙な設定でも面白いのかもしれない」と興味を持ってしまい
読んでしまった奴が多いんでないの?
「それなら、最初の投稿分を読んだ時点で気付けよ」って意見もあるだろうが、同じように
続きの投稿分でも褒める感想が出てるので
「もしかしたら最初読んだ時に面白くなかった部分はどんでん返しの伏線で、続きを読めば面白くなるのかもしれん」
と考えて、更に読んで不快感を味わう奴も出るだろうし
毒も食らわば皿までと、気に入らん作品と分かってながらも最後まで読みたくなる奴も出るだろう

まあ、それでも「スレの空気が悪くなるから読んでも叩くなスルーしろよ」という意見はあるだろうが
個人的には作品の分析は嫌いではないので、今回の流れは色々と興味深かったけどな


あ、あとソレとは別に「叩く為に読む」って人種も存在する
「作品にツッコミ入れるのが楽しい」ッつー奴はジャンプ漫画のスレに結構いるし
434名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 11:14:09 ID:euLhle9M
>>432
別に注意書きってのは、何書いても許される免罪符
というワケじゃないだろう。

そもそもけいとらに必要な注意書きとなると、
「原作レイプものなんで、原作ファンはスルーしろ」
になると思うんだが、そんな事はどこにも書いてなかったし、
そんな注意書きの必要なSS、このスレに持ってくるなよって話になるだろ。
435名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 11:34:45 ID:LrOByVcC
もう読むのは自己責任ってことでいいじゃないか…。
せめてこのスレでこんな流れ終わらせてくれよ…。
436名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 12:05:12 ID:YOMIkeUR
なんつーか鏡に映したみたいに構造がそっくりだなw
「荒らしてやる」宣言の387 (ID:VObQXGa) は実は「けいとらっ!」作者なんかどうでもよくてみのりんハッピーエンドSSが読みたくて暴れているだけだし、
434 (ID:euLhle9M) の主張も原作レイプを理由にしてもっともらしいががよーするに自分が気にいらないSSがスレに投下されるのが許せないってことだし。
この二人がいなくなれば心穏やかにSS投下を待てる気がする。
間違いない!
どっとはらい
437名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 12:10:31 ID:WLY6i6sX
作品は自分的には微妙な気がしたから名前欄であぼんしてたけど
批判してる奴やそれに絡む奴の応酬があまりにしつこ過ぎてうざいので
本文中「けいとら」もあぼんしたので、以降批判する奴も擁護する奴も
そして批判ばかりの奴に忠告する人も本文中に「けいとら」って入れてね
438名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 18:51:26 ID:hPy1VFZ8
Arl boys!!
これ以上揉めるなら俺が荒らしになるぞ!
439名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 19:04:03 ID:82zlhiVL
>>438
春田おちつけw
440名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 20:39:30 ID:rvWhmw4y
荒らすのはいかんぞ春田!ここはすべてをさらけ出してお互いの理解を深めようじゃないか
ではまず俺から脱ごう!
441名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 20:59:01 ID:RYkLiYhu
ここの住民はスルー能力が皆無だな
442名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 23:13:24 ID:/wkirSJS
そうだよな
物書きとしてはちょっとこの状況許せないんだよね
けいとらみたいな荒らしに反応する奴がエロパロをスポイルしてる事に早く気づけよ
443名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 23:16:02 ID:p4rrZ/3H
物書きを名乗る前に
まずはsageを覚えろ
444名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 23:18:05 ID:Dfrgiq6w
ワロタw
445名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 23:26:00 ID:/wkirSJS
>>443
マジレスしちゃう男の人って…
ほんとにエロパロって耐性ゴミ以下だよな
「物書き スポイル」でググってこいよ
446名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 23:35:57 ID:p4rrZ/3H
442 名無しさん@ピンキー [] 2009/08/14(金) 23:13:24 ID:/wkirSJS Be:
そうだよな
物書きとしてはちょっとこの状況許せないんだよね
けいとらみたいな荒らしに反応する奴がエロパロをスポイルしてる事に早く気づけよ

445 名無しさん@ピンキー [sage] 2009/08/14(金) 23:26:00 ID:/wkirSJS Be:
>>443
マジレスしちゃう男の人って…
ほんとにエロパロって耐性ゴミ以下だよな
「物書き スポイル」でググってこいよ
-------------------------------
この異常なほどの作者至上主義、なんかデジャブ
超訳すると、「おれは軽トラ作者だけど、今度はコテ変えて荒らすから」
って感じ?

少なくともわたしゃ、作品単位で評価するけどね
良作ならGJ 軽トラみたいなクソなら相応の評価、つーだけのこと
447名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 23:47:27 ID:/wkirSJS
くだらんレスつけるまえにコピペ耐性つけろよカスw

お前けいとらの作者だろ?分かってんだよ(キリッ)
なんてレスつけられても困るよ!だって読み飛ばしてたからどんな内容かも知らないしさ

話変わるけど、やっぱコミケ期間は人少ないね
クソ暑い中よくもまぁ御苦労様、とは思うけど、人の趣味だからね。仕方ない。
448名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 23:54:47 ID:bDqZ2mKl
ところで

みのりんに耳掻きされる竜児
あーみんに耳掻きされる竜児

大河を耳掻きする竜児


どれが一番幸せそうだと思う?
449名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 00:01:47 ID:P6eWvi1x
会長に耳かきされる北村に一票お願いします
450名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 00:13:27 ID:4yTlGIjy
>>448
やっちゃんを耳かきする竜児に一票
451名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 00:46:28 ID:bFKdwqFl
>>448
インコちゃんに耳掻きされる竜児に一票
452名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 00:58:20 ID:lZ4kaO8E
大河に膝枕されて頭を撫でられているやっちゃん、そして撫でている大河
それを見ている竜児の三者共が最高に幸せそうな顔をしているであります
453名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 02:00:12 ID:U3bRJ66F
大河なら「耳掻きしてやる竜児」
あーみんなら「耳掻きしてもらう竜児」


あれ、今みのりんを想像したら緊張で手が震えまくって
竜児の耳に惨劇が降り掛かる図しか出てこない・・・
454名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 02:12:40 ID:67wbc882
あれ?それじゃあ今俺に耳掻きしてくれたあーみんは・・・なんだ。幻覚か
455名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 02:17:43 ID:w1lNr9Nx
>>453
ちょwwみのり頑張れ
器用な設定じゃないか…
456名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 02:19:07 ID:RgQFfcW3
>>455
緊張するとミラクルなミスをやらかす人だからね
457名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 02:26:04 ID:w1lNr9Nx
言われてみれば
竜児の股間に頭を突っ込む大河、肩を組んでくる亜美、手が触れただけでキョドる実乃梨だもんな…まあ仕方ない

さくらに膝枕されて耳掻きされる幸太
多分これが一番エロくなる
458名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 02:28:43 ID:+40p3JUY
外向きじゃなくて内向きでやってそうだな
459名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 02:55:51 ID:AWrAO9Sx
>>458
大河も竜児に「ホラ、反対側だ」って言われたら普通にそのままごろって内向きになっちゃうと思うんだぜ


股間の匂いを嗅いじゃった大河がなぜだか胸の中が騒いだり
頬を染めてる大河になぜだかドギマギしちゃう竜児だったり
460名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 02:56:48 ID:AWrAO9Sx
でもって大河は顔だけじゃなくて耳たぶまで赤くなっちゃいそうだな
竜児が触ってる耳たぶが熱くなってくるのに竜児はまたドキドキを強めてしまって…



どこまでエスカレートするんだか
461名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 03:24:22 ID:cB4mJcYU
>>453
こうなんか、どるどるどるどるっとかいいながらかき回す図が見えたんだが・・・w
462174 ◆TNwhNl8TZY :2009/08/15(土) 03:46:14 ID:/JC1HSV5
★「ん・・・ふぁ・・・・・・」

傷付けぬよう注意深く差し込むと、泰子が身悶える。
進入してきたそれを感じ取ると敏感に反応して、その都度小刻みに体を震わせる。
そういう仕草とキツク閉じられた瞼、薄っすらと紅潮した頬が、若干緊張しているのを俺に知らせている。
なにも今日だけじゃない、始めると泰子はいつもこうだ。

「あっ竜ちゃんそこぉ・・・もっとぉ・・・・・・」

「・・・・・・ここか?」

壁に沿って這うように進めていくと、泰子がそこを重点的にしてほしいと言ってきた。
止まり、驚かさないようにゆっくりと注挿させる。
当たる位置を微妙に変えながら、できるだけ繊細に、繰り返し繰り返し。

「くふぅ・・・ん・・・・・・」

特に敏感な箇所に当ててしまったのだろうか。
予期せずして漏れた吐息と背を跳ねさせた泰子に、手を止める。

「んぅ・・・ごめん、もうだいじょぶだから・・・続けて・・・・・・」

無意識に強張っていた体から力を抜き、堪えるつもりでそうしているのか、人差し指を口元に添えた泰子。
開いていた目を閉じるのを待ってから、俺は再度それを動かし始めた。

「・・・・・・っ・・・っ、ぁ・・・・・・」

捩ろうとしてしまう体を、泰子は時折添えた人差し指を軽く噛みしめて耐えている。
薄っすらと色づいていた頬はますます赤みを帯び、触れ合っている部分からじんわりと熱が伝わってくるほどだ。
閉じられた瞼の下は潤みを増してているのか、目尻には光る物もある。

「・・・・・・んっ!」

しばしの間そんな状態が続いてると、泰子が指から口を離し、ブルリと一際大きく震えた。
と、同時に先端に微かに感じた、コツンと何かがぶつかる感触。
油断した。
知らず知らず行きすぎてしまい、一番奥───泰子の弱い部分を突いてしまっていた。

「悪い、痛かったか?」

痛くない訳がない。
普段は触れられもしないところを刺激されたんだ。
ピクンと不規則に跳ねていた体を硬直させ、目尻に珠となって溜まっていた物も、一本の線となって頬を伝っている。
痛くない訳がない、なのに

「うん・・・ちょっとだけ・・・でも、ビックリしただけだから平気・・・だから竜ちゃん」

───もっと、して───

朱に染まった顔の中でもなお映える、赤い唇で紡がれた、その言葉。
ここで止めにしないでほしいという泰子の『おねだり』。
聞き入れ、引き抜いてしまっていたそれをもう一度泰子に当てがう。

「あと少しで終わるから、我慢してろ」

「・・・うん・・・ぁっ・・・・・・んん・・・・・・」
463174 ◆TNwhNl8TZY :2009/08/15(土) 03:46:53 ID:/JC1HSV5
さっき以上に慎重に、注意して泰子の中で動かす。
慌てるな、集中しろ、もっと丁寧に。
そう自分に言い聞かせ、泰子の反応も気にしつつ。
いつもよりも多目に時間を使って、くまなく泰子の中をかき回す。

「・・・よし・・・泰子、もういいぞ」

「あ・・・待って竜ちゃん・・・いつもの、やって・・・・・・いつものぉ、あ・れ」

ハッキリ何とは言わず、含みを持った泰子のセリフに一瞬どれの事を言っているのか考えを巡らすが、すぐにそれが何か思い至る。
今しがた抜いたそれを逆さにし、あのモコモコの綿状の部分───梵天で、耳たぶの溝を軽くなぞりながら奥へ奥へと滑らせていき

「ふぅーーー・・・・・・」

「はぁぁぁ〜〜〜〜〜ん・・・き、きもちいぃ・・・・・・」

最後に息を吹きかけてやって、取り損なっていた耳垢を払う。
これで全行程終了、泰子の耳の中には今や塵一つ残っていない、キレイなものだ。

「・・・・・・ねぇ、竜児もやっちゃんも、さっきからなにやってんの」

と、長時間力を入れっぱなしだった肩を揉んで解していると、今までテレビを見ながらお茶を飲んでいた大河が口を開いた。
そこはかとなく距離を置かれている気がするのは俺の気のせいだろうか。

「何って・・・耳掃除してやってたんだよ、泰子の。見りゃ分かんだろ・・・大河はしないのか? 耳掃除」

うちではするのが当たり前の事だが、世の中にはべつに耳掃除なんて必要ないと思っている人間もいるかもしれない。
ひょっとしたら大河の家ではやらないのが普通なのかもしれないと考え、そう言ったが

「するわよ、耳かきぐらい私だって」

そういう訳でもないらしい。
だったら何でそんなに恥ずかしそうにというか、気まずそうな顔をしてるんだろう。

「はぁ・・・? ・・・じゃあ、どうしたってんだよ」

「・・・私が言いたいのは、なんていうか・・・その、やっちゃんの声っていうか・・・も、悶え方? っていうか・・・」

はぁ?

「べつに普通じゃねぇのか? 単にくすぐったがってるだけだろ」

「え・・・そ、そうなの? あれで?」

「そうだろ」

変なもんでも食ったんじゃないのか、大河のヤツ。
耳掃除をしたら誰だってあんな声を出すもんだろう、少なくとも泰子はずっとああだった。
そりゃあガキの頃は疑問に思った事だってあるが、その頃から泰子は耳掃除をしてやっている最中はあんな声を出していたし、
緊張したり恐がったりだので顔を赤くしていた。
耳が敏感らしく、ついつい体を揺さぶってしまうのもしょっちゅうだった。
それだって全然普通じゃないか。
何らおかしい部分なんてないのに、何を大河は不思議がってやがんだ。それも真っ赤な顔して。
464174 ◆TNwhNl8TZY :2009/08/15(土) 03:47:23 ID:/JC1HSV5
「あ〜ん・・・竜ちゃぁ〜ん、もっとやってぇ〜・・・」

泰子が言う。
だめだ。
これ以上しなくても十分清潔になっているし、あまりやりすぎるとかえって耳の中の皮膚やらを傷めてしまう。
説明しても、フニャフニャと体中を弛緩させて寝そべっている泰子は聞いていないのか、うわ言みたいにもっと、と催促していて効果がない。
相手にするだけ時間のムダだ。
そう決め、時間も時間だし、俺は飯の用意をするために居間から離れた。





「・・・ね、ねぇやっちゃん? ちょっといい?」

「う〜ん・・・なぁにぃ大河ちゃん、どぉしぃたの〜?」

「その・・・み、耳かきにしては、なんだかやっちゃん、すっごく気持ちよさそうにしてるな〜って・・・」

「だってすっごくきもちいぃんだも〜ん・・・もうやっちゃん腰砕けでしゅ」

「う・・・そ、そんなにいいんだ、竜児のみみかき・・・へぇー・・・」

「うん、そんなにいぃのぉ〜・・・気になるんなら、大河ちゃんもしてもらったらぁ? 竜ちゃんの、み・み・か・き」

「私・・・? いいわよ、私は一人でできるし・・・」

「ふ〜ん・・・もったいないなぁ、あんなにきもちよくしてくれるの、竜ちゃんだけなんだけどなぁ・・・
 まぁいいやぁ、大河ちゃんが遠慮するんなら、やっちゃんが独り占めし〜ちゃお」

「だから、私はべつに・・・ででででも、やっちゃんがそこまで言うんだったら、一回くらい試してみないことも吝かじゃあないのよ?」

「なら、これから試してガッテ〜〜ン! ・・・けどね、大河ちゃん。覚悟はした方がいいよ〜? あの耳かき・・・ヤミツキになっちゃうから」

「・・・・・・っ・・・りゅ、竜児ー! ちょっと、あの、えっと・・・み、みみみっ耳かいて!!」
465174 ◆TNwhNl8TZY :2009/08/15(土) 03:49:04 ID:/JC1HSV5
おしまい
超やっつけなんで勘弁してください
466名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 04:06:45 ID:+40p3JUY
みみかきおいしいでしゅ
467名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 05:26:35 ID:9WbZF4PF
>>465
さあ…次は大河だ……
468名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 05:47:31 ID:65T04mAC
みみかきは、上手な人にやってもらうと本当に気持ちいいよね。
こんな素晴らしいSSが書ける作者の身近には、達人が居ると見た。
469名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 10:03:16 ID:RLjt7wKh
>>大河「み、みみみっ耳かいて!!」

不覚にも萌えたw
470 ◆99y1UMsgoc :2009/08/15(土) 21:24:17 ID:y0cZ7Dlq
ある程度書き終えるメドが立ったので、前編部分を投下します。
みのドラ!もので、次から4レス程度お借りします。
471証をください(前編)@ ◆99y1UMsgoc :2009/08/15(土) 21:25:15 ID:y0cZ7Dlq
冷たい――

シャワールームの床にぺたん、と尻をつき、実乃梨は頭から水を浴びていた。
今の自分は泣いているのかどうかもわからない。
顔を流れる水は、シャワーなのか涙なのかもわからなかった。
ただひとつわかるのは、悔しいということ、だけだった。

 * * *

「櫛枝、ちょっと調子悪いのか?」

私の向かいに座った高須くんが、三白眼をぎらり、と睨み聞かせて尋ねてくる。
普段はカウンター席で肩を並べて座ることが多いのだけれど、さすがに休日の午後で混んでいる。
いつもは横からの視線が、今日は前から降り注ぐのがすこし気恥ずかしい。
周りの人たちは「ヤクザだ!」とか言うけれど、慣れてしまえば可愛いものだ。
一見危ない視線の奥に隠された、優しくて、繊細な、そしてちょっと鈍感な中身。
そのアンバランスさを思うと、少し顔がニヤけてしまったかもしれない。

「おう、どうした? 今度はニヤけて」

前言撤回。その変なところの観察力だけは、鋭い視線に似合っているよ。
そう考えると、ますます笑いをこらえきれなくなる。
くくくく、と声にならない声を上げて、テーブルに突っ伏してしまう。

「く、櫛枝が壊れた……!?」

私が壊れているのはいつものことだろうに。
そして、今から壊れているとしか思えないお願いをしようと思っているところなのだ。

「ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど……」
「お、おう」

テーブルに突っ伏したまま、次の言葉を呟く。
あくまで、聞こえないように。

「――――――」
「え、何だって?」

心配そうに高須くんが私の顔を覗き込もうとする。
確かめられてよかった、高須くんはこういう人だ。
ちゃんと私の話を聞いてくれる。
きっと私のことを捕まえていてくれる。
それと同時に、彼のことを試してしまったという後ろめたさも少しはある。
心地よい安心感と、ほんの少しの罪悪感に包まれて、私は彼の耳元で囁く。

「私が女であるうちに、高須くんに、わ、私の体を知ってほしいんだ」
472証をください(前編)A ◆99y1UMsgoc :2009/08/15(土) 21:26:14 ID:y0cZ7Dlq
「それってどういう――」

高須くんは思わず声を上げ、それが周囲の客の視線を集めていることに気づくと、ばつが悪そうに前髪を引っ張った。

「こ、ここはちょっと人が多いからさ。
ちょっと外に出ようよ」

 * * *

7回裏、ワンアウト一塁三塁の大チャンス。
ここはいい場面で打席が回ってきた。
そう勇んで打席に向かおうとしたところ、

「櫛枝、代打だ」

えっ? なんで!?
一瞬頭が真っ白になる。
今日は交代させられるようなミスもしていないし、仮にしているならもうとっくに交代させられているはずだろう。

「櫛枝、お疲れさま」

ベンチに戻ると、キャプテンが声をかけてくる。
でも、どうにも怒りをこらえきれず、その声を無視してベンチに腰を下ろす。
結局、代打で出た先輩は大きなフライ。
タッチアップで2点差までは詰め寄ったけれど、結局そのまま試合終了。

モヤモヤは試合後も晴れず、一人残って素振りをしていたらすっかり日も暮れてしまった。
そろそろ上がろう、と思って一息ついたとき、背中からの声。

「あんまり根詰めすぎるんじゃないわよ?」

声の主は、キャプテン。試合中に少し無視した様な形に、いや、無視したのだ。
なんとなく居づらさを感じ、できれば早くここから逃げたいなと思ってしまう。

「今日の試合、残念だったね。
私は、櫛枝に任せてもよかったかな、と思ったけどね」
「……」
473証をください(前編)B ◆99y1UMsgoc :2009/08/15(土) 21:27:17 ID:y0cZ7Dlq
「やっぱり納得いかない?」
「……今日は、監督は何で私に任せてくれなかったんでしょうか」
「私は監督がどう思ったか想像することしかできないけれど、」

そう前置きして、キャプテンは続ける。

「あの場面、大きい当たりが欲しかったんだと思うよ」
「私じゃダメってことですか?」
「それは、櫛枝が一番よくわかってるんじゃないかしら?」

図星だった。
非力な私の打撃じゃ打ち上げても浅いフライ。
転がせば最悪ダブルプレイもある、冷静になって考えてみればそうなのだ。

「私は、櫛枝の『夢』を知っているからこういう話をするのだけど」
「……!」

ごくり、と息をのみキャプテンの言葉を聞く。

 * * *

「それで、パワーをつけるために肉体改造をする……と?」
「そういうことなのよ、高須くん」

私が選んだのは、夕暮れの河川敷のベンチ。
ベンチならば二人で並んで座れるし、何よりこの場所に来ると自分の感情を曝け出せる気がする。
いい感情も、悪い感情も含めて、かもしれないけれど。

「キャプテンがね、行っているジムを紹介してくれるって言うんだ」
「いいキャプテンだな」
「……うん、そうだね。
来週ちゃんと、試合中に無視しちゃったこと謝らないとなぁ」

このまま話題をそらしてしまえ、とも一瞬思うが、逃げない、と決めたのだ。
そう、私は逃げない。

「それで、肉体改造始めると筋肉がつくわけじゃない?
はっきり言って、その……女の子の体じゃなくなっちゃうんだって」
「そういうことか……」

ひとまず高須くんは私が言ったことの正体がわかって少し安心した顔。

「びっくりしてる? 迷惑……だよね?」
474証をください(前編)C ◆99y1UMsgoc :2009/08/15(土) 21:28:22 ID:y0cZ7Dlq
「おう、びっくりしてる……けど、迷惑では、ない。
言われて、だな、その、悪い気はしない、けどな。」

いつも通り「、」の多い人だな、と思う。

「そう、それならよかったよ。
変な子だ、って軽蔑されたらどうしよう、って思ってさ」

でもきっと、それも彼なりの照れ隠し。
高須くんはいつもの仕草で前髪を引っ張り、

「櫛枝のことを軽蔑なんてするわけないだろ。」
「変な子ってところは否定しないんだね」
「茶化すんじゃねぇよ」
「うん、そうだね。ごめん
それでね、来週の週末なんだけど……」

一息をついて私は一気に、

「土曜日は部活が午前中で終わるんだ。
だから、土曜日のお昼過ぎから私の家に来て欲しいな。
両親は、弟の関東大会の応援に出かけてていないはず、だからさ。
それじゃあ、来週、待ってます!
またね!」

言い切った。
そして、ベンチを立ち上がり、バイバイと手を振り、高須くんを置いて駆け出す。
返事は言わせないんだ、私は傲慢でずるいんだから。
高須くんがどんな表情をしていたのか、見られなかったのが心残りかもしれないけれど。
475 ◆99y1UMsgoc :2009/08/15(土) 21:30:15 ID:y0cZ7Dlq
ひとまず、今夜はここまでです。
この流れだと当然っちゃ当然ですが、後半部分はエロありになります。
早ければ2日程度、遅くとも1週間以内には投下したいと思います。

どうもありがとうございました。
476名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 22:30:04 ID:w1lNr9Nx
>>475
何という話だww
わっふるわっふる
477名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 00:17:11 ID:5youhEDh
478名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 00:17:29 ID:5youhEDh
誤爆スマソ
479名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 00:24:47 ID:f7hQ+B2i
>>475
いいネタですね。
竜児はみのりんの発言を聞いて「モロッコ」と思ったんだろうか?
書き出しは竜児視点で、騙し文入れても面白かったかも
後編まってます
480356FLGR 無題 1/2:2009/08/16(日) 00:27:32 ID:BtynRMOh

「じゃあ、いいんだな?」
「い、いいわよ。やってちょうだい」

 竜児は小さな大河の入り口を広げる様にやわらかい肉をつまんですこしだけ引っ張った。

「あんっ」ちいさな桜色の唇が小さく呻く。
「やっぱ、狭いな」
 小さな穴を覗き込んでいた竜児が呟く。大河の肩がぴくんと揺れる。
「りゅ、竜児、くすぐったい。息が…」
「それぐらい我慢しろ。やっぱ、すこし濡らした方がいいな。傷つけちまう」
 竜児は手にした棒をローションで濡らして大河の入り口にあてがった。
「んっ」
「入れるぞ。動くなよ」
「う、うん」
 しっとりと濡れた棒が大河の中に入っていく。
「あ…、くふっ」
 竜児は撫でる様にしながら大河の中を探っていく。指先に集中して柔らかい壁を傷つけ
ない様に丁寧に撫でて抜き取った。
「はぁ…」
「大河。痛くなかったか?」
「大丈夫… 続けて…」

 それに応える様に竜児は再び大河の中に入れていく。
 今まで男に触れられたことの無い敏感な部分を優しく撫でられて、くすぐったさとは違う
むず痒いような快感に大河の息が詰まりそうになる。小さな手が時折きゅっと握られ、
それが緩むのと同期するように息がもれる。

「…ん、あふ…」

 入り口を囲む柔肉はすっかり血の赤にそまって熱を帯びている。
 竜児は更に奥の部分を探ってくる。瞼を固く閉じて自分の内側に触れられる感覚とそこを
撫でられる生々しい音に思考を蕩かされていく。

「あ、うん…、りゅーじ、ちょっとこわい」
「ん、おぅ。大丈夫、もうちょっとだ」
「んあ…はぁ」

 竜児はゆっくりと捻りながらゆっくりと綿棒を抜いていった。
 ゾクゾクとした感覚に緩く開いた大河の唇から吐息が漏れだした。

「…よし、大河。次、反対側」
「えっ? もうおしまい?」
「おぅ。少し傷ついてんだよ。あんまり弄ると炎症になっちまう。お前、どんな耳掃除
してんだよ」
「わ、わかったわよ。次からはちゃんとあんたにやってもらうわよ」
「おぅ、そうしろ、そうしろ」
 大河はもそもそと身体を起こした。竜児は反対側の膝が大河の枕になるように移動した。
「いいぞ。横になれよ」
「うん」

481356FLGR 無題 2/2:2009/08/16(日) 00:28:58 ID:BtynRMOh

 大河は小さな頭を竜児の膝に乗せて目を閉じた。膝を枕にして手足を畳んで丸くなって
いる姿はまるでネコみたいだ。ふわっとした粟栗色の髪の毛はシュシュで束ねられていて
奇麗な首筋がのぞいている。

「動くなよ」
「わかってるわよ」
 
 耳朶に優しく触れられて大河の肩が少し揺れる。ベビーローションでしっとりと濡れた
綿棒で優しく耳の中を撫でられるとつい声がもれてしまう。

「あんっ」
「ん、痛かったか?」
「ううん、大丈夫…」
 
 膝の温もり。首筋と耳を撫でる静かな吐息。耳朶に優しく触れる少しだけゴツゴツした指。
そういった全てが心地よくて、気持ち良さとはまたちょっと違う、もっと暖かいような
そんな感覚で胸が満たされてくる。

「…よし。おしまい。もういいぞ」
「もうちょっと…」
「だめだ。こっちもちょっと傷ついてる。治ってからちゃんとやってやるから」
「そうなの…。しょうがないわね」
 そう言ったきり大河はぴくりとも動かない。
「どけよ」
「…いいじゃない。減るもんじゃなし」
 薄らと瞼を開けて大河は竜児を見た。
「もう少し、このまま…」
「…分ったよ。減るもんじゃないしな」

 五分と経たないうちに小さな肩がぴくっと揺れてふっくらした唇は寝息を立て始めた。
長い睫毛に飾られた瞼はぴったりと閉じている。

「あらら〜。大河ちゃん寝ちゃったの〜」
 仕事に出かける支度を済ませた泰子が竜児の背中から覗き込んでいた。
「ああ。しっかし、ほんと気持ち良さそうに寝るな。こいつは」
「ふふふ、竜ちゃんも〜小ちゃいときはこんなふうにやっちゃんの膝で寝てたんだよ〜」
 そう言われて竜児の顔は少しだけ赤くなった。
 泰子は自分の部屋から膝掛けを持って来て小さくまるまっている大河の身体にかけた。
「行ってくるね。竜ちゃん、大河ちゃん」
「おぅ。気をつけていって来いよ」

 ドアが閉じる音がして、狭い木造アパートはすっかり静まり返った。
 すぅすぅという大河の寝息だけが聞こえてくる。鼻をくすぐるのはふわっとした甘い香り。
膝に感じる重さ。それらが不思議と心地よくて、竜児の胸は暖かい様な不思議な感覚で
満たされていく。くすぐったい様な、疼く様な、でもそれが何かはまだ分らない。

 それが分るのはまだ先のことだったから。

(おわり)
482356FLGR:2009/08/16(日) 00:30:52 ID:BtynRMOh
耳かきネタで書いてみたけどちっともエロくならなかった。
やっつけ仕事なんで大目に見ておくれ
483名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 01:17:51 ID:rdj3fcyT
ふぅ……

けしからん!!
484名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 01:19:09 ID:5/MOLbDz
GJ!
だが名前欄トリップミスか?
それならID変わらないうちにとりあえず一時的なのでいいからトリップ変更宣言したほうがよくないかな
485名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 08:26:07 ID:0w1jxM1g
>>484
前から名前欄に“356FLGR”で書き込みしてるみたいだから、トリップミスじゃなくてハンドルネームだろ
486名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 11:22:42 ID:HCi/xLAa
>>481
いやぁ。耳かきエロいねぇ。
GJです。
487名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 21:41:53 ID:q19xTVEG
コミケ後っていつもこんなに静かなん?
488名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 23:38:57 ID:7naflz0w
ここに来なくても、オカズが沢山あるからな。
489名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 00:37:48 ID:wmkVpSl2
いや、耳掻きで賢者タイムだと信じたい
490 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/17(月) 01:23:37 ID:fAdm2dvG
タイトル『みの☆ゴン』
内容  最終的には竜×実ですが、竜が他のキャラと絡む描写有り。
時期  原作ビフォアー(IFもの)の1年生のホワイトデーからです。
エロ  妄想シーンです。いわゆる本番は、竜×実がくっついてから
    になります。
補足  文体が独特で、読みにくいかもしれません。前作のことがあり、
    さわりでとりあえず5レス投下します。ご不快になられましたら、
    スルーしてください。宜しくお願いします。
491みの☆ゴン1 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/17(月) 01:27:08 ID:fAdm2dvG
…高須くんっ…好きっ…
おうっ…おっ、俺も…櫛枝の事、好きだ…
…うれしいっ…高須くん…抱いて…
高須竜児は、櫛枝実乃梨が好きだ。その実乃梨が、竜児を見上げている。
見上げる実乃梨の瞳には、竜児の顔が映り、ユラユラ揺れていた。
チュッ…
ファーストキス。その味は、どんな果実より酸っぱく、どんな菓子よりも甘かった。
真っ赤になり、うつむく実乃梨。キスの味を確かめるように、竜児は舌なめずりする。
…櫛枝…
竜児は実乃梨の華奢なアゴを、そっと持ち上げる。そして再びキスをした。
ニュル…
竜児のセカンドキスは、実乃梨の堅く閉じた唇を突破する。舌先が舌先に出会う。
絡み合い、求め合い、確かめ合う。
…高須くん…
離れた唇、糸が光る。
竜児は実乃梨の上着をスルリと脱がす。リボンを解き、ブラウスのボタンを外す。
ムワっと、オンナの臭い。竜児は顔を埋める。しかし両手は実乃梨を脱がし続けた。
プリーツスカートが、ストンと落ち、実乃梨はスポーツブラ、ショーツのみの姿に。
竜児は気持ちがはやり、実乃梨のブラをグイッと引き上げ、乳房を露出させてしまう。
…あんっ…
実乃梨の乳房に吸い付きながら、竜児も自分が着ている服を脱ぎだした。
早く、1秒でも早く、実乃梨の体温を、肌で味わいたい。感じてみたい。
全裸になった竜児は、実乃梨に飛び込む。もう夢中でどうなっているか分らない。
…櫛枝っ、お前が欲しい…
頷く実乃梨に、竜児はつるんと挿入る。半分抜いて…また挿入る。
スイッチが入ったように竜児の腰は、同じ動きをし、実乃梨の声と共鳴する。
…あっ、あっ、んっ、あっ、あっ、んふっ、んっ、んっ…
竜児は、結合部分に全神経を奪われる。熱くなる。そして、沸点を超える…


「おうっ!!……はあ、はあ…」

高須竜児はティッシュを取り出す。いつも後悔する。いつも良心が痛む。
フレッシュで、爽やかで、瑞々しい櫛枝実乃梨…を、己の妄想で汚してしまう…
平均的な高校1年生としては、自己嫌悪するほどの事ではないと思うのだが、
マスターベーションのあと、竜児はいつも落ち込んでしまうのだ。

初めて実乃梨と会ったのは、同じ1年A組の親友、北村祐作と一緒に下校した時だった。
竜児は目つきが悪い。初対面の人間に無意味に恐がられたり、嫌われたりするのは、
日常茶飯事だった。しかし。彼女は…実乃梨は違かった。卒倒者続出の竜児との、
ファーストコンタクト、実乃梨は竜児に対して
『ハァーウッ、デューデュー!高須くんっ!わたくし櫛枝実乃梨です〜、4649ねっ!』
実乃梨は物怖じせず,竜児に太陽のような眩しい笑顔くれた。
北村との短い会話の中でも、次々と変化する表情、伸びやかな声、大袈裟な身振り。
見ているだけでも竜児の心は晴れ、実乃梨と仲良くなりたい、好きだ。と思ったのだ。

時計を見ると、午後11時59分。今日は、期末テストの最終日だった。
午前零時になる。日付が変わり、今日は…3月14日。ホワイトデー。

片思いしている位だから、彼女がいない竜児には、本来なら関係のない日だ。
しかし母親の高須泰子から、バレンタインデーにしっかりチョコレートを貰っている。
お返しと言っては何だが、明日…正確には今日の夕食は、気合いを入れたい所だ。
「泰子にタルトでも作ってやるか…」
竜児は、妄想前にしたためた…もう3通目になる、実乃梨へのラヴレターを箱の中にしまう。
そしてキッシュやらタルトやらのレシピ本を取り出し、メモにかき出す。
「こんなもんだな…もう寝るか…」
電気を消す竜児。竜児の部屋の、北側の大きな窓から、最近ふわっと、
明かりが見えるようになったのだが。興味のない竜児は、特に気にも止めていなかった。

492名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 01:27:25 ID:uG9LLIyX
>>490
うたれづよい作家は好き。
がんばれ。
493みの☆ゴン2 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/17(月) 01:29:05 ID:fAdm2dvG

ホワイトデーの放課後。竜児はレシピ通りに買い物を済ませ、少し急いでいる。
高須家の夕食は6時半と決まっているからだ。ケーキを作るのに2時間はかかる。
最後の曲がり角を過ぎ、自宅の借家が見え、その隣の白い建物に…つい、立ち止まる。
「しっかし…でっけえマンション様だな…」

竜児の借家の隣に、去年、10階建ての高級マンションが出来た。それが器用な事に、
たぶん竜児の身長より、ちょっと長いくらいに隣接して建てたもんだから、
ゆうに20メートルの高低差がある高須家の日照時間は、1日0秒になった。
家賃が5000円安くなったのは嬉しいが、その代償として、太陽が奪われたのだ。
外から眺めると、ほんとに…俺んち可哀想…なのだが、その時、奇跡が起きた。

「高須…くん?だよね?」
「お、おぅっ…く…櫛枝…実乃梨…さん…」
片思いの天使、実乃梨が降臨した。竜児は前髪を摘み、目を反らせてしまう。
「あらあらまあ!フルネーム憶えてくれてたんだ。嬉しいカモ〜」
「…ズズッ…みのりん、知ってるの?こいつ…ぶしゅん」
「大丈夫かい?大河っ。高須くんだよ。男子ソフトの北村くんの親友だよ。ね?」
「ききっ…北村くんの?…はっはじめまして、逢坂と申します。ご機嫌うるわしゅう…」
「高須ですっ。こ…こちらこそ、ご機嫌…うるわしゅう…です」

竜児は、ただでさえ、片思いの実乃梨に話し掛けられ、心臓が爆発寸前なのに、
傍らにいる美少女に目を奪われる。透き通るような真っ白な肌。蕾のような唇。
小柄なカラダは、可憐さをさらに引き立て、竜児はその美貌に息を飲む。 
「今からこの娘っ、大河んちでさ,期末テストの打ち上げ&ホワイトデーパーティーするんだ。
 オンリーツーで。フォッツフォツウフォッツ…で、高須くんっ。なんでこんなトコロにいるの?」
緊張でガチガチながら、なんとか竜児は会話を続ける。
「おうっ、ここ…俺の家なんだ…」
「え?大河んちのお隣さん?隣人?そうなの?偶然じゃん!!」
「…みのりん、わたし知ってた。わたしの寝室からこい…この殿方の部屋が見えるの」
竜児は焦る。そんな事があっていいのだろうか。
「そうなのか?全く俺は気付かなかったぞ!はっ恥ずかしいっ」
真っ赤になり、うずくまる竜児。しかしふたりは、道に落ちていた石コロほどにしか
考えていないのか、特に気にせず、じゃあね〜っと竜児の横を通り過ぎる。

「…!」
このまま実乃梨をスルーでいいのか?今まで竜児は、サッカーで例えるならリベロだった。
実乃梨と北村の会話に混ざり、ちょっとした挨拶や、笑顔をゲットするだけだった。
目の前に奇跡のこぼれ球がある。リベロなら…もちろん。オーバーラップ。攻撃体勢だ。
意を決し、竜児は、自分でも信じられない事を口にした。

「なっなあ、良かったらでいいんだが、タッ…タルト食わねえか?俺、得意なんだっ!」
失言!なんて図々しいんだ俺はっ!のたまった言葉に、竜児は、
自分の直毛バングスを、さらにグルグル指に巻き付ける。
恐る恐る見上げたふたりは、顔を見合わせていた。実乃梨は大河の腹のチラッと見て…

「たるる〜ッ!オレッ!たこ焼…タルト大好物だよ!パティシエ高須!食べさせてくれい!」
「え…マジで?みのりん…食べたいけど…っぶしょん!」
鼻をかみながら実乃梨を見上げる大河。吐いた言葉は取り消し出来ない、竜児は、駄目押し。

「おう!たこ焼きだろうが、タルトだろうが、なんでもござれだっ!まかせろっ」
エコバックを持ったまま腕まくりするフリをする竜児。
もう死んでもいい…そう思う竜児であった。

494みの☆ゴン3 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/17(月) 01:41:33 ID:fAdm2dvG
女子の家…しかも超の付く美少女、大河の家。片思いの実乃梨と一緒だというのに、
竜児は、チラチラ目で追ってしまう。マンションのエントランスに入る。
歩くたび揺れる、小柄なカラダを包む柔らかな髪、ほっそりした手足、
外国の人形の様な横顔…病弱なのだろうか、しきりにクシャミをする。プシュンっ!
その仕草も可愛い。萌え?とでもいうのか…高鳴る竜児の心臓は正直だった。

「大河んち、久しぶりだねっ、半年くらい?ちゃんとお掃除してる?」
エレベーターのドアが開き、3人は乗り込む。
「そ…そうね、みのりん…バッチリキレイだから、家事得意なんだからっ」
北村の親友らしい、竜児の顔色をうかがいながら、大河は答える。
視線に気付いた竜児は、勘違いして、ドギマギする。大河は玄関前でクルッと振り返る。

「高須くんっ、ちょっぴり片付けるから、し、しばしお待ちください…みのりんっ来て!」
大河は実乃梨の腕を取り、室内に引きずり込む。バタンと玄関が閉まった。

「…はあ、緊張するっ…」
溜息をつく竜児は、落ち着こうと辺りを見回す。玄関までの廊下は、まるでホテルのように、
洒落た作りだ。敷かれたカーペット、間接照明、空調、監視カメラ…この2階のフロア、
逢坂宅、1戸である。考えられる答えはひとつ。大河はお嬢様…という事だ。
「リッチで、可憐で、病弱で、控え目で、家事が得意…無敵じゃねえか、逢坂大河…」
竜児の口から今度は感嘆の声が漏れた。

***

それから、十五分経過…
もしかしたら、忘れ去られてしまったのかと、竜児は心配になってくる。
すると、やっとガチャっと扉が開き、実乃梨が顔を出した。申し訳なさそうな顔をして…
「…ゴメン、高須くん…今日はダメかも…いや、大河の乙女グッズが散乱してて…」

 どわーーーーっ!!!
背後から聞こえた絶叫に実乃梨は、振り返る。
「大河っ?どーした!今行くっ!」
走り去る実乃梨、いったい何があったのだろう?竜児は想像する。泥棒?変質者?
決して腕っぷしには自信がない竜児だが、ここで何もしないっていうのは男が廃る。
「だっ、大丈夫か!俺もっ…加勢してやるっ!」
竜児は、ストッパーで僅かに開いていたドアを開け、室内に入る。もちろん、靴はキッチリ揃えた。

「櫛枝さんっ!…おうっ!臭え!」
部屋中撒かれた殺虫剤の臭い、さらに…酸味のある、何とも言えない悪臭が、
竜児の鼻を突き抜ける。この臭い…竜児的に許されない、有り得ない臭いだ。
ハンカチを口に当て、竜児は前に進む。部屋の奥が、煙で見えない。火事?いや、これは…
バルサンだ。

「けほっ!けほっ!ぐえぇっ!あっ、高須くん!窓開けて!窓!」
「おうっ!…えっと…ここかっ!」
竜児は、キッチンの窓を全開、ついでに換気扇を回す。
部屋の空気が動き、煙が薄まり始める。煙の中から、実乃梨が飛び出してきた。
「水っ!水っ!おっしゃ、キッチン!アーチチ、アーチチッ!トウッ!」
実乃梨は、えらい勢いでモクモク煙を噴出するバルサンをシンクに投げ入れる。
バルサンは、見事にシンクに入るが、…トプン…と、粘度が高い入水音が聞こえた。
「ひでえっ!」
竜児が目の当たりにしたシンクは、惨劇と言う言葉がピッタリな状態だった。
よどみ、ぬめり、くすみ、とろみ、ねばり…信じられない、許せない。
キッチン、いや、生活への冒涜だ。竜児は頭の中が真っ白になる。

「もうっ!大河っ!危うく火事になる所じゃん!ゴキブリ一匹でバルサン発動するんじゃないっ」
リビングルームは、まるで荒野のように、煙が流れ、ゆっくりと、大河の姿が現れる。
「こーーんな大きくって…動揺して…ケションッ!…ごめんね、みのりん…」
わざとらしく右腕を挙げ、足をバタバタさせ、キーッとする実乃梨。しょんぼりする大河。
そして…生命活動を止めていた竜児のスイッチが入る。
495みの☆ゴン4 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/17(月) 01:49:20 ID:fAdm2dvG
「あ、い、さ、かーーーーーーっっっ!」
竜児の中の何かが弾ける。突然の大声に驚くふたりの視線を、竜児は一身に浴びる。
「俺に…どうか俺に、このキッチンを掃除させてくれぇっっ!!」
実は北村に想いを寄せている大河。今まで北村の親友、竜児に気を使っていい娘でいたのだが、
実乃梨との努力も虚しく部屋の惨状がバレ、…開き直った。
「はぁ?…なにあんた?…いいわよ別に。余計なお世話よ。勝手に人の家に上がり込んで、
 押し掛け掃除?北村くんの親友だっていうからオトナしくしてたけど。チッ。出てってよ」
へーっくしょい!!溜まっていたムズムズを一気に吐き出す大河。竜児の顔に粒が飛んできた。
汚い。しかし完全にオフェンスになったお掃除命っ!の竜児は、そんな事では引きはしない。
「15…いや、10分でいいっ!このシンクを10分後に舌で舐められる位に綺麗にする!
 よしっ、10分後に俺が舐めるっ!どうだ?」
竜児の祈りにも似た、尋常ではない気迫に充ちた態度を見て、実乃梨は竜児サイドに廻る。
「大河ぁ、せっかく高須くんがそう言ってくれてるんだしっ、お言葉に甘えたらどうだい?」
「え〜っ、みのりんっ…ズズッ…でもっ」
チンッ!レンジの音。竜児はいつの間にかミルクを温め、ささっと、きな粉とハチミツを入れた。
「これでも飲んで、待っててくれっ」
「おおっ、素早いっ!おぬし…やるな?かなりの凄腕と見たっ!ふうふう。いっただきま〜っす」
「…ゴクッ……ほあっ!……おぃ、しぃ…」
竜児は見る見るうちに、よどみ、ぬめり、くすみ、とろみ、ねばりを取り除いてゆく。
なんにせよ手際が良い。油分や、水垢、カビの酷い所を溶剤に漬け、その間に、ゴミ、
トッ散らかったモノを片付ける。竜児の流れるような動きに、感動すら覚える実乃梨。
「たっ、高須くんっ!なんかもう、スポーツじゃんそれっ!お掃除レボリユーションだっ!
 よおおっしっ!わたしも手伝うぜっ!」
トランス状態の竜児だったが、キッチンに乱入してきた実乃梨を確認すると、横っ飛びした。
「おおうっ!櫛枝さんっ、近え!!」
ちょこっとだが接触したのだ。竜児の肘と、実乃梨の肘が。竜児の意識は一気に、
現実にカムバックした。実乃梨は竜児に微笑み、ゴミ袋をまとめ始めた。
「ど〜した、高須くんっ!ゴキちゃんでも出たのかね?」
「すっ、すまねえ…なんでもねえんだ。その、ありがとうなっ」
ヘドロ化しているシンクの中を、竜児オリジナルお掃除グッズ、高須棒で、擦りまくる。
ディスポーザーの中に、もう何だか分らない黒い塊が出来ていた。電源を入れる。
まだ使えそうだ。竜児の至近距離を実乃梨がチャッチャと動く。恥ずかしいけど嬉しい。
もしかして…夫婦って、こんな感じ…なわけないか…。いろいろな妄想をしながら、
竜児と、実乃梨はキッチンを綺麗にしていく。残り3分だ。
「…なんか…ひっくしゅんっ!!…これって…」
大河は、きな粉ミルクを味わいながら、新しい競技を観戦している気分になった。

496みの☆ゴン5 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/17(月) 01:51:33 ID:fAdm2dvG
「かーんせーいっ!やったなっ!高須くん!!ジャスト10分だぜっ!」
満面の笑顔で、右手を上げる実乃梨。ハイタッチのポーズだ。
竜児は緊張のあまり油切れのロボットのように、右手をギクシャク挙げた。パチーンッ!
「イエーッス!高須クリニック!!高須くんってホント、家事得意なんだねっ!なんか、
 タルトも楽しみだよっ!わたし大河と他の部屋掃除するから、キッチン任せていい?」
「おうっ!まだ4時半か…大丈夫だ。任せてくれ」
大河がスタスタと近寄って来た。つま先立ちして覗き込む。
「っぷしょーいっ!ズズ…おおっ、シンクの底が見える…半年ぶりだわ…あ、カップ洗って」
またもや竜児の顔に粒が飛んできたのだが、達成感で寛容になった竜児には何て事なかった。
きな粉ミルクが入ったカップを置いて、大河は実乃梨がいるウォークインクローゼットへ向う。
そして誰もいなくなったのだが、カップにまだミルクが残っている。実乃梨のカップだ。
「…間接…うおおおっ!…間接って…有りなのかっ?」
自問自答。実乃梨のやわらかそうな唇が接触したカップ…飲み口は分る。きな粉の跡がある。
震える手。震える心。昨日の夜の夢を想い出す。有りだ。全然有りだ。結論がでる。
「酪農家の皆様、いただきます…」
まだ残っているのにMOTTAINAI。竜児はまるで、一気飲みのようにグイッとひと飲み。
ファースト間接キスは、味わう暇も無かったのだが…
「…あんた、何してんの?」
「ブフォオオオー」
「…このツイッターのマグ。みのりん使ってたヤツよね…まあいいわ、犬にもエサ。
 必要よね。…ぷしょんっ!…さっきアイス食べたから、スプーンも洗って。グス…
 んあー、鼻水うざっ、北村くんの親友なんでしょ?特別に黙っておいてあげるわ」
っと言って、改めて大河は実乃梨の元へ戻っていった…竜児は違和感を感じる。
なんだあの態度、言葉遣い…逢坂…そうかっ、きっと汚い部屋を男子に見られて、
自暴自棄になっているんだ。精神汚染しているんだ…なんていじらしい…と、
拡大解釈し、変に納得してしまう竜児であった。

497 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/17(月) 01:56:06 ID:fAdm2dvG
以上です。
文字数間違えてしまい、4レス部を2分割しました。
予定より短いですが、様子を見させて頂いてから
次回投下するか判断させていただきます。
失礼いたします。
498名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 02:01:06 ID:kwyHuR44
とりあえず全部投下すればいいんでない
499名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 02:09:32 ID:D0d3pPuL
別に読みにくくないから首領と来なさい
500 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/17(月) 02:21:09 ID:y59eYYqc
投下予定だった分を投下いたします。
2レスあります
501みの☆ゴン6 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/17(月) 02:23:33 ID:y59eYYqc

竜児は鍋を火にかける。そして果物をすばやくスライス。薄力小麦粉とアーモンドの分量を量る。
沸騰した鍋に果物スライスを投入、その間にバターと砂糖をボールで泡立てる。鍋の火を止める。
ボールに卵を加え、ヘラであわせる。そしてボールは、洋酒を加えた鍋と一緒に冷蔵庫へ。
とりあえず…ここまで。

「おうっ、しみじみ…金持ちなんだな。逢坂は」
リビングルームを改めて見渡す竜児。10坪はあるであろう広いリビング。窓から公園が見える。
モダンなシャンデリア、白やグレーを基調にした家具や小物…センスが良すぎて…まるで、生活観がない。
そういえば、家の人は居ないのか?竜児は今更ながら、疑問になる。
しかし、部屋の状況や、単品で配置される家具の数から察するに、どうやら…
「独り暮し…だよな」
既にキッチンは輝きを甦らせたが、端っこや、隅っこを、タルトが焼き上がるまで待っている間、
高須棒で擦り続けながら竜児は大河の事情を飲み込んだ。

***

冷蔵庫から生地を取り出し、タルトの形に整え、電子レンジへ。果実を絞り、余った皮も擂る。
新しいボールに卵やら何やらを入れ泡立て。ジュース、皮を混ぜ、クリームを作る。
それを火にかけ、バターを合わせる。
あと…もう少しだ。

「…ついでに晩飯の下ごしらえもするか…」

今日はタルトだから、夕食も洋風にしてみた。タラコを縦に切り、スプーンですくう。
生クリームと、バター、ニンニクを加える。さらにサイドメニューにも手をつけ初める。
そして、レンジからタルトを取り出し、クリームを敷く。スライスを乗せ、ジャムを塗る。
「出来上がりだっ」

丁度そこに、実乃梨と大河が戻って来た。
「うおお〜っ、いい匂い…私の記憶が確かならば〜、美食アカデミー最年少にして最強…
 いでよっ!アイアンシェフ!高須竜児〜っ!!ってね!!」
「にんにく…の臭い…がするっ…ゴクリ」
大河っ、ヨダレっ! はっ!ありがと、みのりんっ…いいコンビだ。
「俺、一旦帰るな。母親にホワイトデーのタルト渡したいんだ。」
「もう帰っていいわよ。ちゃんと食べてあげるから安心して。あとタラスパのソースちょっと頂戴」
「なんだよ大河っ、あんまりじゃねえの?ねぇ高須くん、よかったらお母さんも呼んだら?
 迷惑じゃなかったらだけど…」
竜児は、母親の泰子の姿を思い浮かべ…どうやって遠慮しようか思慮する。
502みの☆ゴン7 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/17(月) 02:25:52 ID:y59eYYqc
「はじめまして〜☆竜ちゃんのお母さん、やっちゃんで〜すぅっ!」
10年近く23歳の母親を横目で見ながら、これで良かったのか後悔しはじめる竜児。
「おおおっ!高須くんのお母さん!ダイナマイトなハニーっ!でもいんじゃない♪
 でもいんじゃない♪どもっ!櫛枝っす!今後ともお見知りおきを…」
「はじめまして…うわわっ…逢坂と申します。ご機嫌うるわしゅう…っぷし!」
ふたりとも泰子のムチムチでプルプルのFカップに熱い視線。実乃梨は揺れる生チチに興奮、
大河はトラウマになるんじゃないかと心配するほど動揺している。
「うっふ〜ん!ふたりとも可愛い〜☆…でぇ〜、どっちの娘がぁ、竜ちゃんの彼女ぉなの?」
「おいっ、泰子!違うって!しっ失礼だろっ」
竜児はバスケのディフェンスみたいな動きをして否定する。実乃梨は頭をかき、大河はあくびした。
「え〜っ、そうなの〜?残念〜☆仲良くしてね?じゃあ、食べよっか☆」

いっただきま〜っすっ!久しぶりに大河の部屋に団欒の声が響いた。

***

竜児は、泰子に言われ、実乃梨を家まで送る事になった。
「今日はありがと〜っ、そんでごちそうさまっ!高須くん!楽しかったぜ〜っ」
「いや…俺こそ、楽しかった。櫛枝さんっ、ありがとうなっ」
憧れの女子に、自分の手料理を食べてもらい、しかも褒められた…満悦至極の竜児。
「うふっ…ねえ高須くんっ。大河の事、どう思う?」
「おぅっ?ど…どうって何がだ?」
「実はさ、半年前に大河と色々あってさ、それまでたまに掃除とか手伝っていたんだけど、
 行けなくなったんだ。でも最近あの娘、ちょっと痩せて、体調悪くて…なんとなく聞いたら、
 ライフラインのお弁当屋さんが無くなっちゃったみたいなの」
「そうか…一人暮らしだもんな…」
「うん。だからわたし、期末テストやホワイトデーに託けて、大河んちに行くことにしたんだ。
 …なんか、変な話してゴメンね。なんか話しやすくて、高須くんって!」
実乃梨は竜児の左肩に手を置く。竜児の全神経は右肩に集中。実乃梨の手が離れた。
「なっ…何も話してないんだが…」
「えへっ、話し上手は、聞き上手ってね!大河だって、高須くんの事、気にいったと思うよ。
 あの娘、デリケートなんだからっ!じゃあ、高須くんっ!すぐそこなの。ここまででいいよっ。
 サンキューサンキューベリマ〜ッチ!」
手を振りながら走り去る実乃梨。実乃梨がいうには、大河には気に入ってもらったようだが、
肝心の実乃梨は竜児の事、気に入ってくれたのだろうか…
帰り道、リベロ竜児は、オフェンスからディフェンスのポジションに戻った。

503 ◆9VH6xuHQDo :2009/08/17(月) 02:34:28 ID:mKLLiB9p
以上です。レスして頂いた方ありがとうございました。失礼します
504名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 02:46:19 ID:D0d3pPuL
続き待ってるからまたおいで…
505名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 03:09:00 ID:c0WLxJDk
投稿お疲れさまです。

この作品だけに限らないんだけど、前々からこのスレの全体的な傾向として気になるんだけど、描写が無駄に細かすぎるかなぁって気がする。
確かに原作もわからない人にしかわからないネタってのはあるんだが…
例をあげると、原作8巻でインコちゃんの動きをサッカーになぞらえる部分がある。
この部分はサッカーよく知らない人には「?」なネタなんだが、「俺を元気づけてくれようとしたのか?」って一言にこの行動の意義が説明されてるからまだ(後付けとはいえ)意味を理解できる。
何と言うか、料理をわからん人間にはただ延々と料理シーンを見せられてもなぁ、って感じ。
この場合大事なのは料理の内容じゃなくて、みのりんと料理をしたこと、だから肉付けするにしてもそっちに描写を割いたほうがもっとよくなると思う。

チラ裏失礼。
506名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 05:55:47 ID:sDS+To0c
>>503
テンポよくて面白い!
続き期待
しかし貴方のトリが時々変わる件について…前々から気になっていたのだが
507名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 13:41:41 ID:Tig0FaCt
>>505
ギクッギクッギクッ
508名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 14:13:28 ID:cXI5QXoG
軽トラはアレだけどこれは面白いな

続けてくれ
509名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 17:29:09 ID:21BfS2Iq
>>503
コメンターさん達のアドバイスを取り入れて弱点を克服した姿勢に好感が持てる。
リベロ竜児のオフェンス/ディフェンスのスイッチ表現のような、細かいギャグも面白い。
そして上でも言われているが、テンポの良い筆致が心地良い。
このままの勢いで駆け抜けてください。
510名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 20:16:59 ID:zuxIylKJ
>>507
ギシギシアンアンに見えた・・・あーみん、俺を鞭で叩いてくれ。
511名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 21:23:33 ID:mMmYbutf
>>503
これは続きが楽しそうなifストーリーで、続きも楽しみですな。GJ!

実乃梨と大河がどう絡んでいくか期待してますぜ
512名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 07:23:46 ID:BOkmejE9
竜虎スレでもそうだったけど、ある特定の作者が投稿を始めるとパタッと他の作者が投稿しなくなるよね。
ある意味この作者には勝てないって認めてるから時期をずらして投稿するのかな?
513名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 09:28:59 ID:oxoSm/XC
>>512
ここ最近、毎日のように投下来てない?
書くのに、結構な時間がかかるから、すげーハイペースだと思うんだけど、このスレ
以前だって2日〜3日投下無しって、それなりにあったと思う
514名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 09:29:55 ID:wP6lsnH4
向こうはギシアンがあるけどこっちは流石にお茶を濁すようなのは控えてしまう傾向だろうなあ
515名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 10:29:07 ID:3OK8My9a
>>512
つSSを書くにはモチベーションがいる
516名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 10:34:14 ID:IMVjLtUG
マナーです
517名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 10:41:55 ID:YIHS4JQ3
もう475KBだし量的にもある程度長いのは無理になるしな。
ガイドラインによればそろそろ次スレの準備をする頃でもある。
518名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 10:41:55 ID:aJVIIy/M
竜虎スレの誰かいまひとつ特定できないが全く性質が違うと思う
このスレも落ち着いて来たと思ったら新作が来たので様子見してる
ってのが正解じゃないか?

ま、犯人はコミケで間違いない
519名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 13:36:42 ID:vp1aocBN
なんにしても盛り上がるのはいいこと
520名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 23:12:23 ID:duLj13po
投下しようかと思ったんだが、容量のことすっかり忘れてたわ。
少し残り容量がギリギリなので、推敲するのにいい時間ができたと思うことにする。
明日の夕以降、新スレ立ったら投稿します。
52198VM:2009/08/19(水) 00:50:02 ID:uVFCwrNH
こんばんは、こんにちは。 98VMです。

>>512
書き手の立場でコメントさせていただくと。

 そ れ は な いw

私に限らず、書いてる人には「自分が書いたのが良く書けているか?」
しか興味無いと思います。勝ち負けという発想自体が無いかと。
私個人的には「いっぱい読んでもらってるみたいで、うらやましいなぁ〜」
位に思う事はありますがw

で、そろそろ次スレかなーと思って埋めネタを書いてきたら、まだでしたねー
でも、面倒なので投下していきます。
2レス 落ち無し。
522〜奈々子様の何も無い昼下がり〜 1/2:2009/08/19(水) 00:51:27 ID:uVFCwrNH

ガラス越しに見上げる空は、あの頃と何も変わっていない。
数日雨が続いた後の青空はとりわけ美しく見える。
カウンターから見える通りの景色は、幾つかの看板が姿を変えていて、それだけが時間の流れを感じさせた。
ゆるくウェーブのかかった柔らかそうな黒髪。
ダークブラウンのシンプルなワンピース姿の彼女は、氷が解けて薄くなったアイスコーヒーに差し込まれたストローを
軽く摘んでもてあそんでいた。
緩く伏せられた瞳はけだるげに、退屈そのものを絵にしたような表情で。
人待ち顔というなら、まさしくそれがそうだった。
しかし、そんな彼女を退屈から救ってくれる者が、ようやくコーヒーショップ、通称「スドバ」に転がり込んできた。
もっともその人物こそ、彼女を退屈にした張本人でもあったのだが。
「ごっめーん、奈々子、待った?」
奈々子は携帯に浮き出た数字を示しながら応じる。
「おそいよ、麻耶。 30分。 …せめて連絡くれてもいいのに…。」


     埋めネタ  〜奈々子様の何も無い昼下がり〜


「この間はごめんねー、奈々子。 急な連絡だったからさー。」
「うん、いいよ。 しかたないよね。」
「前から約束してたし、頭数あわせないと拙いしさぁ。 急に断れなかったんだよねー。」
「そうだよね。 かえってゴメンね。」
「いいよ〜、謝んなくてー。 それより、どうしたの? なんか、ちょっと様子がおかしかったみたいでさ、気になってたんだ。」
「うん、別になんでもない。 もう大丈夫だから。」
「本当に?」
「ええ。 実はね、あの日、亜美ちゃん呼びつけちゃった。」
「えーーー。 亜美ちゃん、来てくれたの? すっっごーい。」
「んふふふふ。」
「最近、CMとかドラマとか、いっぱい出てて忙しそうじゃん! あたし、半年近く会ってないよ〜。 あたしも会いたかったなー。
変わってなかった? 亜美ちゃん。」
「相変わらず、超綺麗だったよ。 あ、そうだ。 髪、ショートにしたみたい。」
「え!マジ! あんなに綺麗な髪の毛してたのに、なんで、なんで!」
「なんか、役作りって言ってたと思う。」
奈々子はあまり自信なさげに言う。 正直、酔っていて記憶があやふやだった。
「ふぇ〜 やっぱ女優って大変なんだー。 あんなに綺麗な髪の毛、バッサリやっちゃうなんて…。 あたしだったらヤだなー。」
「そうね。 あたしもちょっと嫌かな。」
「ショート、似合ってた?」
「そうね…。 ん〜。 亜美ちゃんクラスだと、もう髪型なんか関係無いって感じかなぁ…。」
「そうなんだー。 やっぱり、綺麗だよねー。 亜美ちゃん。」
奈々子とて女である。 いくら仲の良い友人といえど、嫉妬心が無いわけではなかった。 それは麻耶も同じで、亜美の美しさ
を認めていても、心のどこかでは少しチリチリしたものがあるのだろう。
だが。
今はもう、奈々子の心から嫉妬心など、跡形も無く消え去っていた。
それに代わって、別な感情が燻る。
―――それは怪しげで、背徳的な何か。

奈々子は思い出す。
その美しい亜美が自分の腕の中で力尽き、無防備に横たわる姿を。
桜色の唇から漏れる、その切なげな鳴き声を。

523〜奈々子様の何も無い昼下がり〜 2/2:2009/08/19(水) 00:52:23 ID:uVFCwrNH


「どうしたの? 奈々子?」
不思議そうに覗き込む麻耶の大きな美しい目に我に返る。
そもそも麻耶も奈々子も、亜美を羨む必要などない。 彼女らは十分に美しいから。
ならば、奈々子には当然気になる話題があった。
突然湧いた劣情を誤魔化すのに丁度良い話題が。
「ん、なんでもない。 ねぇ、ところで、あたしを振ってまで出掛けた合コンの成果はどうだったの?」
麻耶も亜美ほどではないが、折り紙つきの美少女なのだ。 合コンでもてない筈が無い。
「えっ! あ、あはははは。 そんなのゼーンゼン。 まるで不作でさぁ。 ろくなの居ないの。 3人にくっつかれてもう、超ウザ
かったぁー。 もう最悪。 ほんっと、『まるお』みたいな男って居ないんだよね〜。」
まだ麻耶は『まるお』信者なのか、と奈々子は呆れる。
だが、その一方で麻耶が月に一、二度は能登と会っているのも奈々子は知っていた。
「うふふふ。 『まるお』みたいな男は居ないかもしれないけど… 『能登君』くらいの男ならけっこう居そうじゃない?」
「なっ、なんでそこで能登が出てくるのよー。 なんか、奈々子絶対勘違いしてる!」
自分が赤くなっているのに、麻耶はおそらく気が付いていない。
麻耶と能登の関係は、一番の親友である奈々子にとっても不可解極まりなかった。
能登の一方的な片思いのはずだったし、未だに麻耶は北村に未練がある。 いや、未練というより、麻耶は一途な性格なのだ
ろうと思う。 確かに麻耶の気持ちは北村に向いている筈なのだ。
だが、一方でこの反応。
案外、この麻耶と能登の関係のように、長い時間を掛けて、付かず離れずを続けた果てにあるものが理想的な男女の関係なの
かもしれないと奈々子は思い、つい最近終わった己の恋を振り返る。
麻耶を軽くからかいながら、思い出を辿る。
そして、麻耶がすこし大人びた顔になったのに気付く頃。
奈々子は麻耶をからかう話題が尽きたことと、自分の目が涙で潤んでいることを悟った。
そして、どうしても麻耶に会いたくなった理由も。
「…奈々子…。 やっぱり、あたし合コン断るんだった… ごめんね。」
やはり、麻耶は親友だった。
大切な、大切な、親友だった。
「ありがとう。 ―――うん、大丈夫。」
そう言って奈々子は微笑む。
麻耶の言葉の温かさが、ぎりぎりで奈々子の涙を止めた。
きっとこの傷は簡単には癒えないだろうと奈々子は思っていた。
しばらくは…
しばらくは男の人を好きになることは出来ないと、奈々子は思う。 
失うことの恐ろしさに身が竦んでしまったから。
人を愛する喜びよりも、裏切られる痛みの方が強いと、思ってしまったから ―――。

奈々子の気を晴らすために、バカ話を一生懸命になって連発する麻耶。
一緒になって笑いながら、少しづつ癒されていく自分の心に向き合うと、またしても淫靡な光景がフラッシュバックする。
奈々子は自分の心が壊れてしまったのかと、いぶかしむ。
いけない事だと思いながら…
しかし、その光景は瞼の裏に焼き付いて、消えない。
やがて、親友に別れを告げ、店を出た奈々子の口元が微かに嗤った。
「また、亜美ちゃんにメールしてみようかな…」
誰にとも無く放った言葉は、呟き声より小さく。
奈々子の妖艶な瞳は……
憐れなチワワを狙う、猛禽類の輝きを放っていた―――。

                                                                    おわり。
52498VM:2009/08/19(水) 00:53:24 ID:uVFCwrNH
いじょ。
お粗末さまでした。
525名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 01:16:27 ID:Hs57YNM7
GJ!麻耶が可愛いw
設定はおくしゅり〜のつづきなのかw
526名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 01:22:41 ID:Hs57YNM7
あと次スレたててきた
【田村くん】竹宮ゆゆこ 22皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1250612425/
まだあと20くらい容量残ってるから雑談とかはこっちでしたらいいんじゃないかな
527名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 02:07:40 ID:H2dzHn5+
>>512
竜虎スレの場合⇒その物語に浸かっていたい空気だったから
このスレの場合⇒爆発に巻き込まれたくなかったから(過去形)
528名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 04:57:29 ID:kguQ97EO
98VMさんGJ!
奈々子様の野獣化(;´Д`)ハァハァ
あーみんの貞操の危機(;´Д`)ハァハァ
529名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 05:48:16 ID:9LPJzHNm
>>521
GJでした、相変わらず変わらないハイクォリティーで楽しませてもらってます

>私個人的には「いっぱい読んでもらってるみたいで、うらやましいなぁ〜」
>位に思う事はありますがw

御冗談をw
ここまで来て貴方のSSを読まない人がいないワケがない
530名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 05:50:32 ID:9LPJzHNm

一応自分もSS書きなのに2行目の日本語がおかしいw

疲れてるのかな?寝よう
531名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 08:36:06 ID:bxb9O9c4
>>526
532名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 15:44:20 ID:aY87Eq5K
ume
533名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 17:16:32 ID:5nPBZV18
さて、そろそろ会長が来る頃だな
534名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 20:01:22 ID:BPWsZU7+
500前半で容量が来るのは優良スレの証拠!
535名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 20:33:08 ID:vt1GgiH7
投下は多いよね
投下量に対し、感想レスがもっと多くてもいいとは思うけど、
それだと、スレ自体は伸びるかな
536名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 21:58:20 ID:ckR4Q3fj
レスが延びないのは、最近上がってないからじゃないかな。
上げれば確かに人は来そうだが、諸刃の剣でもある
537名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 22:09:10 ID:GZyA8l0p
ageられたらスレに来るってことは専ブラ入れてない、お気に入り登録してないレベルの人なんだから
望むような結果は得られず荒らしとかの方を呼び込むだけになると思うよ
53898VM:2009/08/21(金) 00:15:15 ID:jTLbpgwZ
こんばんは、こんにちは。 98VMです。

なかなか埋まりませんね〜。
兄貴がおいでになる前に、麻耶たん置いていきますヨ。
原作とはだいぶイメージが異なるかもしれませんが、
アニメの最終回の麻耶ちゃん、結構好きなのですよ。

と言うわけで2レス。 設定は埋めネタ共通時系列。
539〜麻耶たんの何も無い昼下がり〜 1/2:2009/08/21(金) 00:16:34 ID:jTLbpgwZ

音がするような空。
それはきっとこんな青空を言うのだろう。
何処までも抜けるような青空は、耳鳴りの音が聞こえてきそうなくらいに純粋だった。

晴れの日が続いたのは久しぶり。
もともとあまり物事を深刻に考える性質じゃない彼女は、いつも軽やかに歩いているのかもしれない。
けれど、それでも今日の彼女の足取りは一段と軽やかに見えた。
この時節にしてはやや乾いた風が、シャラの木の白い花を揺らす。
サラリと風に舞う亜麻色の髪は、高校時代から変わっていない。
レモンイエローのシャツにライトブラウンのゆるタイ。
くすんだオレンジ色のVネックカーディガン、チャコールグレーにエンジ色のチェックのミニプリーツ。
着こなしの難しいボーダー柄のレギンスも、そのほっそりとした足ならいい選択だった。
その髪の色も、服装も、いかにもギャル系の彼女―――
木原麻耶。
毎月きまって今頃、彼女はその坂を上る。
彼女は例月の約束事を守るべく、いつもの店に向かっていた。


      埋めネタ  〜麻耶たんの何も無い昼下がり〜


本当は、親友である香椎奈々子と同じ大学に行きたかった。
けれど、世の中そうそう上手くは行かないもので、麻耶だけが落ちた。
どうしてもその大学に行きたかった訳じゃない。
ただ、奈々子と同じ学校に行きたかっただけで、それだって、絶対という訳でもない。
結局、流されるまま私立の女子大に入ることになって、現在に至る。

でも、今になって少しだけ後悔している。
なぜなら、女子大という所は彼女のような娘にとっては、あまりにも退屈な場所だったから。
大橋高校2−Cの三人娘。 かつて彼女はその一角を占めた。
その一人に、人気美人女優の川嶋亜美が入っていた事でも窺い知れる。
彼女のルックスは水準を大きく上回る。
それは、女子大にあっては、合コン時の広告塔に最適である、という事を意味した。
お陰様で麻耶は、仲間内で合コンにひっぱりだこで、そして、それが麻耶の退屈を余計に助長することになっていた。
つまらない。
毎日、つまらない。
高校時代好きだった北村は国立の難関校に合格して、正直、麻耶の『ブランド』では気後れしてしまう相手になっていた。
届かない所へ行ってしまい、半端に理想化された男と比べれば、大抵の男は色あせる。
合コンは麻耶にとっては本当につまらない茶番であった。
彼女の友達が求めるような一夜の関係など、麻耶には到底許容できるものではなかったからだ。
それでも、友人たちの『遊び』の一つとしてそれがある限り、麻耶はそれに付き合うしかなかった。
もしかしたら、素敵な出会いがあって、退屈から救ってくれるかもしれない、そんな想いが全く無い、といえば嘘になる。
けれど、先日の合コンは大失敗だった。
親友の奈々子を見捨てて行くなんて、やっぱりバカな事だったと、今更ながらに思う。
「今度誘われたら、断ってみようかなぁ……」
声に出せば、決意になるような気がして呟いてみる。
「はぁあぁ… やっぱり女子大なんて、退屈。」
そう。 毎日、毎日、退屈な日々。
これから起きる事に、ほんのちょっとだけ心がウキウキしているのは、毎日が退屈すぎるから。
そう自分に言い聞かせる麻耶。
しかし……
いつもの丘の上のカフェテラス、久しぶりに並べられたウッドデッキのテーブル。
そこに居る人影が目に入ったとき、不覚にもほんの少しだけ胸が高鳴るのを……麻耶は感じていた。

540〜麻耶たんの何も無い昼下がり〜 2/2:2009/08/21(金) 00:17:25 ID:jTLbpgwZ


黒縁メガネのキモい奴。
一言で言えばそんな男だ。
ファッションセンスは悪くない。 二流の私大に現役合格した頭はぎりぎり合格。
ルックスはまぁ、普通。 不細工ってほどではない。
でもやっぱウザイ奴。
それが、麻耶にとっての能登久光だった。
それが少し変わったのは、やっぱり卒業を前にしてコクられた時からだろう。
結局、その告白には麻耶はなんの答えも出さなかった。
いや、出せなかったというのが正確な所だ。
嫌いだった筈なのに、真剣極まりない顔でコクられて、正直ちょっと嬉しかったから。

卒業して2年。
能登は少し大人びて、高校の時とは少しだけ印象が変わったように思えた。
ウッドデッキで文庫本を読んでいる姿に、ほんのちょっぴり『男』を感じる。
「ごめん、ちょっと遅れた。」
本に集中していたのか、驚いたように能登が顔を上げる。
「あ、ああ。 おっ、俺も今来たところ。 待ってない、待ってない。 あはははは。」
でも、こうして見え透いた嘘をついてキョドっちゃう所はまだまだ子供。
テーブルに置かれたグラスは氷が溶けて水だけになっていた。 もう、何を飲んでいたのかすら判らない。
「木原、毎月悪いな。 これ、今月の原稿。」
「うん、まぁ、いいけど。 けっこうこれ人気あるし。」
匿名希望のライターによる連載小説。
それは麻耶の学校の文学サークルが出すフリーペーパーの人気コンテンツだった。
最初はこんな手まで繰り出してきた能登を心底キモイと思ったが、『木原に会うためなら、やれることは全部やる』
そう言い放たれて、心がグラグラ揺れた。 震度5強くらいに。
それからだ。
麻耶は毎月こうして原稿を手渡しで貰って、文学サークルにいる友人に渡していた。

駅からだいぶ離れた高台。
都心から少し離れたこの町で、ごみごみした家々を少し遠くまで見渡せる。
そこから見る景色は、いつの間にか麻耶の好きな場所になっていた。
能登はいつもこの丘の上のカフェテラスで、窓際の席に腰掛け、本を読みながら待っている。
それはほんの30分ほどの邂逅。
話題はいつも原稿の感想だけ。
言葉が尽きれば、それが別れの挨拶だった。 
いつも能登が先に席を立つ。 ……そして、今日も同じ。
「それじゃ、また来月な。 書きあがったらメールするよ。 じゃな。」
「う、う…ん。」
喉元がひっつくような感じがして、上手く言葉がつなげられなかった。
唾を飲み込んで、ぎゅっと拳を握る。
「ちょっと、待ってよ。 い、いつもあたし、忙しいのに呼び出されて、すごーく迷惑してるんだから…」
「えっ?」 能登の顔が曇る。
麻耶は焦って次の言葉を吐き出した。
「だ、だから、たまにはあたしに感謝して、買い物の荷物持ちとか、ご飯おごってくれたりとか!」
心臓がばっくんばっくんいっている。
「そ、そのくらい気利かせろって言ってんの! なに暗い顔してんのよ、ウゼーな、もう!」
思いがけない台詞に、きょとんと見つめる能登の視線の先。
ウッドデッキの脇に植えられたサルスベリの、咲き始めたばかりの花が、丘を吹き上がる風に手を振っている。

―――その花の色は、亜麻色の髪をなびかせる少女の頬の色だった。

                                                             おわり。
54198VM:2009/08/21(金) 00:18:42 ID:jTLbpgwZ
いじょ。
まぁ、埋めネタということで、ご勘弁w
お粗末さまでした。
542名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 01:23:16 ID:vtFjtsnM
>>541
いいもん書いたなあ。なんだこのクオリティは!!
読後ニヤケた俺超キモイ。

ZERO3俺文庫に収録しておこう・・・
543名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 03:11:46 ID:Mt0OyprA
(*´Д`*)
544名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 06:17:24 ID:nHiBFkqf
あれ……麻耶が好きになった
545名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 08:29:16 ID:Qa9+LVgU
麻耶x能登はええなぁ・・・・
546名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 12:33:57 ID:Zkad2PIk
GJ、乙でした。

もう、大河とかよりよっぽどツンデレじゃねぇかw
547名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 14:40:06 ID:EuteITqh
大河はツンデレじゃないです
548名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 22:24:08 ID:Mt0OyprA
デレデレですね
54998VM:2009/08/21(金) 22:42:52 ID:jTLbpgwZ
こんばんは、こんにちは。 98VMです。

調子に乗ってもう一発、梅。
3レス。 あーみん、かわいいよ、あーみん。(発作中)
楽屋に戻ると、携帯がチカチカとメールが入っていることを知らせてくれていた。
プライベートの携帯は、かつての大橋高校の仲間にしか番号を公開していない。
まぁ、それ以前にメールの主は判っていたが…。
折角のオフが台無しになったあの日以降、ときどき届くメールはいつも同じ内容だった。
『この間はごめんなさい、亜美ちゃん。 できればちゃんと会って謝りたいの。 もし時間があったら、今夜会えないかなぁ?
また、あの店でずっと待ってるね…』
奈々子からのメールだ。
『会えないかなぁ?』 の直後、『ずっと待ってる』かよ。 これって脅迫に近くね?
「なんか最近怖いよ、奈々子。」 
カリスマモデルにして、人気女優、川嶋亜美は誰も居ない楽屋で独りごちると、ぶるっと肩を震わせた。
奈々子の妖艶な微笑みは、もはや亜美にとってトラウマになりかけていた。
自分ではどちらかと言うと『S』だと思っていた。
だが、あの夜、奈々子に徹底的に蹂躙され、なすすべも無く朝までイかされ続けた。
あの夜、というか朝、亜美は…『女』としてのプライドというか、性能というか……
なんとなくそういう分野で半端じゃない敗北感に見舞われたのだ。
だから、できれば暫くの間、奈々子と差し向かいで会いたくはなかった。
だが、このひと月の間、奈々子からのメールはすでに二桁に達していた。
「でも、流石にずっと断り続けるわけにもいかないよね…謝りたいって言ってるんだもん…亜美ちゃん、そんなに心狭くねーし。」
亜美はけだるげな表情を浮かべ、何気なく髪を払おうとして。
その手が華麗に空振った。

      埋めネタ  〜亜美ちゃんのちょっとイイ事があった宵〜

数日後、またしてもプライベートの携帯がチカチカ光っていた。
それを見ただけで、亜美は思わず肩を落とす。
珍しく収録が早く終わって、せっかく夕焼けを自宅から見れそうな週末の午後なのに、気分が急降下する。
「はぁ…」 予想通りの奈々子からのメールに溜息が漏れる。
が、しかし。
今日のメールの内容はいつもとちょっと違っていた。
『2−Cの仲良しグループで飲むことになったんだけど、もし暇だったら、亜美ちゃんも来ない? 場所は… 時間は… 』
願っても無いチャンス! みんな一緒なら、自然と奈々子との関係修復が図れる!
亜美は速攻で返信した。
こんな日にたまたま仕事が早く終わるなんて、なんてラッキー。 きっと亜美ちゃん、神様にも愛されてるのね〜♪
などと考えながら……。

約束の時間の10分前、そそくさと指定された店に入っていく亜美。
「いらっしゃいませー。」
「えっと、香椎で予約してある…」
「はーい、香椎さまですねー。 こちらでーす、あ、クツはこちらでお預かりしますので、そのままお上がりくださーい。」
こういう庶民的な店は不慣れで、すこし戸惑う亜美だったが、店員に導かれやがて奥まった個室に通される。
言うまでもないことだが、奈々子様はそれほど甘くない。
当然、罠だった。
しかし、それは亜美にとって、とびっきりの嬉しいサプライズ。
「お…ぅ、 か、川嶋か?」 「えっ、高須くん?」
亜美はてっきり、女の子同士で飲むものとばかり思っていた。
硬直する。
わりと広めの部屋に居るのは、奈々子と高須、そして亜美。
言葉が何も出てこない。 卒業してから2年、亜美は高須に一度も会っていなかった。
昨年開かれたという同窓会も、亜美は仕事で行けなかったのだ。
「ひ、久しぶりだな、その、元気だったか?」「う、うん。 高須君は?」「お、おぅ。俺も、大過なかった、うん。」「そか。」
「……」「……」
明らかにキョドっている二人を見て奈々子は目を細める。
その表情が雄弁に語る。 『計画通り…』 と。 奈々子はわざと高須と亜美だけ開始時間を30分早く告げたのだ。
みんなが集まればすぐにばれるだろうが、その時にはもう、そんな事は追求できる環境ではないだろう。
そして、毎日傍にいれば麻痺しても、2年ぶりともなれば、亜美の破壊力は計り知れないというのも、奈々子の計算通りで、
案の定、高須竜児は笑えるくらいに動揺していた。
そして、おもむろに奈々子は携帯を取り出して、ミッションを第二フェーズに移行した。
「あ、麻耶からだわ。 ちょっと電波が悪いみたい。 外で電話してくるね。」
「え、あ、うん。 わかった。」
そうして二人だけが安い居酒屋の割には間接照明と凝ったインテリアがムダにムーディーな部屋に取り残されたのだった。
亜美はめちゃくちゃ緊張して、真っ赤になってしまっていた。 部屋の明かりがやや暗いのがせめてもの救いだ。
高校時代よりも、高須竜児はいくらか男らしさが増して、ファッションもなかなかきまっていた。
おそらく彼の事だから、鏡の前で何時間も悩みぬいて選んだ服装なのだろう。
そんな彼と不意打ちで二人っきりになって、亜美はぶっちゃけノックアウト状態だった。

一方の竜児も……
「お、お前、髪のきぇ…おぅ…」
テンパッていた。

それもその筈、亜美は高校卒業後、本格的に女優デビューして、瞬くうちに男達の心を捉えた。
そのボーンナチュラルビューティーっぷりは昨今の改造美女とはやはりオーラが違う。
いつもTVの向こうで輝いているかつての級友を見て、改めてその美しさを客観的に認識させられていたのだ。
その彼女が目の前に、全くの自然体で居る。 しかも二人っきりで。
流石の竜児も動揺せざるを得ない。
例え、大河というきまった人が居ても、である。 男とはそういう生き物なのだ。

そんな竜児を見て、亜美はやっとのことで自分を取り戻した。
自分は、高須竜児にとって、『ちょっと綺麗なクラスメート』でしかないことを思い出したのだ。
ゆっくりと深呼吸したあと、ようやくまともな会話を始めた。
「髪、切ったんだ。 どう? 似合ってる?」
「おぅ。 そ、その、似合ってると、思う。」
「そう、よかった。」
「………」
「大学、どう? 面白い?」
「お、おぅ… そうだな。 色々な人が居て、勉強になる。 なんていうのか……世界が、こう、広がった感じだな。」
「へぇ。 そっかぁ。 やっぱり高校とは違うんだろうね。」
「ああ、全然、別物だ。 そうだな、やっと、お前の、…川嶋が見てた世界に追いついてきた感じだよ。」
「え? どういう意味?」
「ああ、なんていうのかな、社会ってものがすこしづつ見えてきたっていうか…色々と簡単じゃねーのが、判ってきた。」
「ふーん。」
「もっとも、芸能界なんて厳しい所で生きてるお前にゃ敵わないと思うけどな。」
「あったりまえじゃん、この超絶美少女の亜美ちゃんと張り合おうなんざ、100年早いって。」
「はははは。 変わらないな。 やっぱり川嶋だ……うん。 …川嶋だ。」
憑き物が落ちたように、急に落ち着いた表情になった高須を見て、亜美は直感的に彼に何かあったことに気がついた。
「どうしたの? 高須くん、元気ないじゃん。 ってか、なんでタイガー一緒じゃないの?」
言いながら亜美は、たぶんそれが答えだと感づいていた。 きっと、大河と何かあったのだと。
「おう…。 実はな…。」
「うん。」 なんだろう、すごく嫌な感じがする。 亜美は努めてゆっくりと返事をした。
「ここ3日、大河と会ってねぇんだ……。」
「………」 
はぁ?3日? 3日って言ったよね? それがなんだってんだ? 亜美ちゃん、難聴になったのかと思っちゃったよ…この
バ カ ッ プ ル め が ぁ !
「で?」
「…おぅ?」
「だぁからぁ、それがどーしたんだっつの!」
「い、いや、川嶋、最後まで話を聞いてくれ!」
「なに?」
「いや、最近、大河がやたらと俺がなにかしようとすると拒むんだよ。」
「なにかって、エロイこと?」
「ちっ、ちがう! その、世話を焼こうとすると怒るんだよ。 どんな小さな事でも。 そしてついに3日前、しばらく会わないって
宣言された……。」
亜美は軽く眩暈がしていた。 あれから二年も経ってるのに、まだその段階なのか、この二人は、と。
成程、体は大人になっていても、心はまだまだゆりかごの中だったというわけだ。
そして思う。
今なら勝ち目あるかもしれないな、と。
しかし、亜美はすぐに思いなおした。
ダメになるときは勝手にダメになるだろう。 人として成長していく過程で捨て去られるものの代表選手が『恋』だ。
亜美は既に味わった。
もしかしたら、大河は自らそれを選ぼうとしているのかもしれないが、そこに口を出す必要はない。
そうなったらそれまでだ。 そうならなかったら、また全身全霊で二人を応援しよう。
大好きな二人だから。
ただ、それだけだ。
「大丈夫だよ。 高須君は自分の気持ちを見失わなければいいの。 大河のことが好きって、その気持ちさえあれば…」
「―――大丈夫。」
なんだ、あたし、ちゃんと抵抗無く言えるじゃん。 そう亜美は思って微笑んだ。 彼女が本来持っている天使の笑顔で。
その笑顔は、今まで高須竜児が見た笑顔の中で最も美しい笑顔。
高須は暫くその顔に見とれて、惚けていた。
「どうしたの? 高須君?」
「ああ。 すげーな。 やっぱり川嶋はすげーよ。 それに、信じられねぇ位、綺麗だ…。」
「え?」 
高須が亜美を綺麗だと言ったのは、もしかしたら初めてだったかもしれない。 
高須竜児と川嶋亜美はそれから暫く、無言で見つめあった。


そのすこし前、店の外では、奈々子が予想外に早くやってきた二人連れを発見していた。
手を握りたそうで、握れない、そんな感じの能登久光。
そして、何気なく握りやすそうな位置に手をぶらさげて、イライラしてる木原麻耶。
なんとなく、見てはいけないものを見てしまった気がして、奈々子は慌てて店に戻る。
さて、どうしたものか、と奈々子は小首を傾げる。
そして、悪いのは、珍しく時間よりかなり早く着いた麻耶だということに結論付け、店の奥に引き返した。
頃合的には丁度いい頃合だとは思ったが、心の中で申し訳程度に亜美に謝って扉を開ける。
はたして、部屋の中にいた二人は、距離こそ互いの手が届かない程離れていたけれど、今にも口付けを交わしそうな雰囲気
で見詰め合っていた。
『作戦通り』と奈々子はほくそ笑む。
亜美はこれが誰が仕掛けた罠か当然もう気付いている。
これできっと亜美の奈々子に対する警戒心は下がるだろう。
薄手の夏服は亜美の完璧な体を浮き立たせる。
甘い女の香り。
官能的な体。
そして奇跡のような美貌。
これだけ揃っているのに、見つめるのが精一杯なんて、高須君って不能なのかしら?と奈々子は思いながら…
亜美の形のいい胸の先端、微かな突起に視線を這わせる。
二人の会話に混ざりつつ、
その妖艶な唇を微かに舌で塗らした事に ――――― 亜美は気付かない。

                                                              おわり。