けいとらっ!Cパートを投下させて頂きます。
7レス分です。
前半の締めです。
宜しくお願いします
パーティーって、華やかなイメージだったけど…あーあっ退屈…
もう何人だろう。大河は両親と一緒に、ただひたすらニコッと笑顔を作る。
あっち行ってウフッ、こっち行ってアハッ、そっち行ってエヘッ…
大河の完全無欠な美少女っぷりに、挨拶したほとんどの相手は、感銘していた。写メ撮られたり、
握手までした。もう何をに来たのか分らない。
もちろん肝心の合併相手の社長も、すごく気に入ってもらえたみたいだ。
大河が学年を答えたら、ちょっとビックリしていたけれど…
グオオオオオオオ…
あらやだ…、大河の母親は、大河の異変に気付く。どうやら、お腹が空いているらしい…
丁度、料理を運ぶワゴンが通り、お腹の轟音はごまかせた。危なかった。
肝心の婚約者は、まだ顔を見せてないが、この状態では逢わせられない…よしっ。
「大河。食事まだよね?休憩ついでに行ってらっしゃい」
「う、うん!」
ドバーッて、駆け出すと思いきや、大河は、キョロキョロと辺りを見回しながら、
しずしずと料理テーブルへ向って行く。
誰かを探しているように見えるのは気のせいか?見送る母親は首を傾げる。
「どっこいしょーいちっーっとぉ…」
パーティ会場に設置されたイスに、ドカッと座る大河。足をブラブラさせている。
大河は控えめに山盛りにした、ビーフや、ポークや、チキンを口に運ぶ。目がキラッ。
「うんまーーーいっ!旨さでビルが建ーつっ!」
タイミング良く、竜児達がバンドの練習していたステージで、ジャズの演奏が始まる。
おかげで大河の咆哮は聞こえなかったようだ。またもや危なかった。
虎は聴き取ったみたいだが。
「いい食いっぷりだな」
大河もその声を聴き取った。さっきの男の声だ。料理から顔を上げ、ふふんっ、とする。
「あげないからね」
人ごみから現れた男は、まるで旧友と再会したような、人懐っこい笑顔になる。
あげないと、大河に言われたにもかかわらず、男は大河の取り皿からひょいっと、
ローストチキンを摘む。暴れると思った大河は、特に何も抵抗もせず、受け入れ、
かわりにジャズに合わせて、エアーピアノよろしく、指をワキワキする。
「今度キーボードすんの。わたし上手いんだから」
「そうか…器用なんだな」
「そうよ。なんで?意外?見かけによらない?」
大河は男の顔をジーッと覗き込む。大河の瞳は大きく、キラキラして、星空のようだ。
「いや、そっちは見かけ通りだ。意外なのはあの蹴りだ。普通じゃねえ」
「あんたも、普通じゃないわよね。蹴り止められたの、初めて。ショックだったんだからっ」
プイーっと大河は膨れてみた。こうすると、少しは可愛いと思われるのかな…
「ほんと、面白いな、お前…なんでだろ、初対面でこんなに話した奴は初めてだ」
わたしも、なんでこの男とベラベラ仲良く話しているんだろう…でも居心地が、良い。
「ほんとうに?あんたモテそうじゃんっ」
「そうか?初対面の奴にはいつも恐がられてな…モテそうとか…初めて言われた」
ふうん。恐がられるのは大河も一緒だった。最近は大人しくしているのに…曲が変わる。
「あっ、この曲スキっ、なんだっけ」
「テイクザAトレインだろ」
「へーやるじゃん。即答じゃん。A列車って何?」
「ニューヨークの地下鉄だろ、クイズすんなよ」
「ううん、知らなかったの。あんがとっ」
さっき大河は、両親と愛想笑いを繰り返していたが、今の大河の笑顔は、
その百回分より、色彩が鮮やかだった。大河は、自分の頬の色に気付かない。
えへへっと、大河は声に出す。尻尾のように、アップした髪が揺れる。
「もしかして気に入ってくれたのか?」
大河は、男の質問に動揺してくる。動揺すると、普通、とんでもない事を言うものだ。
「かっ勘違いしないでよね!別にあんたの事っ…別になんでもないんだからっ…」
あれ?大河は、口走った言葉に、自分の気持ちに気付く。しかしなんてベタな…
「お前の恋人…退屈しないだろうな…」
「なにそれ褒めてんの?」
トランペットのソロが始まる。大河はステージに顔を向けると、大河の母親がいた。
母親は大河と目が合った瞬間、傍らにいる男を確認すると、驚いたような顔になる。
しかし、すぐニッコリして、手を振る。ご機嫌な大河は、ステーキが刺さったままのフォークを振る。
「おーいっ!…あっ、あの人、わたしのママなの」
大河の母親を見た瞬間に、男の顔色が変わった。
「一緒に来いっ」
男は大河の腕を取り、連れ去る。大河は、なんとか皿を落とさなかった。
「なななにっ?ねえっ、ちょっ、痛いんだけどっ!」
大河は、文句を垂らすが、やはり必要な抵抗はしない。男と一緒に会場を走る。
それは、男の腕っ節を知っているから、…だけでは無いだろう。
「話がある。あそこではマズい。みんな俺たちを…知っている」
ふたりは会場を出て、廊下へ出る。ただでさえドレスが目立つ大河は、
注目を集めまくりながら、男の控室に辿り着く。
ドアを閉め、ふうっ、と一息。
「…お前、あの女社長の娘か?」
「え?うん。そう。なんで?」
「お前、恋人がいるって言ってたよな?本当か?」
「そそっ…そうだけど…何っ?それが何なのさっ!」
頭を抱え、男は天井を見上げる。
「このままだと、お前は、俺のフィアンセになるんだぞ」
「へぇ?わわたしがあんたのフィ、フォ、フィ…フィアンセ?」
「やっぱりな…何も聞いてないんだな。おまえの母親の会社と、
合併する会社の社長は、俺の親父だ。…いわゆる政略結婚ってやつだ」
「結婚?そ、そうなの?政略結婚?わたしが?」
「…お前、恋人いるんだろ?今日はもう帰れ。会場で正式に発表されちまう。
後は俺に任せろ。上手くやる。会社の合併話も、何とか説得するから」
「か…帰るって…何処に?」
「恋人のところに決まってるだろ。しばらく、一緒に逃げてろ」
フロントに内線をしロビーに車を手配する男。今日あった事をしばらく大河は考える。
頭の中を整理する。そして正しく理解した大河は、コクッと頷く。ベルボーイが迎えに来た。
「じゃあね。またね」
控え室のドアがバタンと閉まる。
大河を見送った男は、テーブルの上に残る、虎柄の手帳を見つけた。
俺とした事が…大河に手帳を、返しそびれた事に気付く。
男は、そのかわいい手帳を手に取る。さて、こいつをどうするか…
「!」
手帳からハラリと落ちた、ラミネートされた写真。
その写真には、大河と、三白眼の若者が写っていた。竜児の顔を見て…三白眼を見て、男がワナワナ震える。
こいつっ!
見つけたっ!男はそう思った。何回も写真で見た、三白眼をした男…ヤツだっ!
しかし…若い。若すぎる。男は、自分の宿敵の相手の写真を出し、見比べる。
似ている…コピーしたみたいにソックリだ…。こいつ…間違いない。そうか、奴の息子か…
因果だな…よりによって、あの女の恋人か…くっそお。
手帳には竜児…と書いてある。竜児か。ヤツの、息子竜児に…ヤツの居場所を聞き出し…そして…
男の中の虎が覚醒した
殺すっ。
大河の母親は、夫と一緒に、合併相手の社長と歓談していた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
控え室から出て来た男は、それを見つけ、合流する。軽い挨拶を済ませ、
大河の母は、辺りを見回し、大河を探す。
「そうそう、ウチの娘を紹介しますわ。先ほどお話しされてましたよねぇ…あら…
どこ行ったのかしら、…おほほほほ……もうっ…ぁのヴァカッ…」
「社長のお嬢様は、先ほどご体調崩されましたので、勝手ながら、お車のご用意させて頂き、
お帰り頂きました。ご報告遅れまして、誠に申し訳ございません」
「え?そうなんですか?それは…ご面倒おかけしました。そう…なら、良かった」
良かったのは、大河の所在なのか、自己紹介が終わっていた事なのか… 男が切り出す。
「あの…、ひとつ教えてください。…竜児くんってご存知ですよね?」
ワインを吹きそうになる
「りゅりゅるるうぢ…こほん…竜児くん。高須竜児くんね。存じておりますが…何か?」
「お嬢様の親しい友人でしょう。婚約前に、一度キチンと挨拶したいので。紳士的に…」
「はあ…紳士的に…」
どうやら婚約を承諾してくれそうだが、紳士的というわりには、何故か語り口に迫力を憶える。
「あの、住所なら…」
母親はつい、竜児の居場所を漏らしてしまう。
「おお〜!大河!こんな時間にどうした?おあがりっ」
「うわ〜ん、みのり〜んっ、ごめんねっ、どうしても相談したくて…」
夜9時、櫛枝家。実乃梨は突然の来訪者、大河を自分の部屋にあげる。
偶然なのか、必然なのか、弟のみどりが、甲子園出場を決め、親子は祝賀激励会に出席し、
学校にお泊まりで、実乃梨はお留守番だ。
ちょこんと正座し、黙っている大河。実乃梨は、大河が話し出すまで待っている。
「大河ぁ〜、茶受けに羊羹あるよ〜、よー噛んでな〜っ、…笑っていいんだよ〜」
「みのりん…あの、あのさっ、わたし…結婚するかも」
「え?結婚?ほんとう?いついつ?高須くんとは話しついたの?っていうか、おめでとうっ!、
…ゴホゴホッ!おっちゃんが〜死ぬ前に〜、早くおまいらの孫の顔見せとくれ〜っ」
寸劇を始めた実乃梨に、大河は打ち明ける。
「違うの、みのりん…竜児じゃ…ないの…今度ママの会社が、吸収合併するから、その…
相手の会社の、ひとり息子の人と。さっき話したけど…なんか、仕方…ないかも…」
「なっ…」
絶句する実乃梨。
「なんでだよ!?仕方なくってなんだよ!高須くんは?…高須くんは知っているの?」
「ううん、竜児にはまだ…どうしよみのりん…相手の人は事情を話したら、しばらく逃げてろって。
竜児と駆け落ちしろって。…でももう、ママに迷惑掛けたくないっ…わたし…どうしよっ」
「大河っ!なに言ってんの?そんなの決まってんじゃん、悩まないじゃん!あんたまさか…」
大河も気が付いていた
「その男の事…好きなのね…」
大河は黙ってしまった。
「許さない!認めない!大河と高須くんは運命の人!なのに、そんな…そんなんならわたし…
せっかく諦めて…せっかく、あんたに高須くんを譲っ……あっ」
吐き出しそうになった次の句に、実乃梨も言葉を失う。それは、傲慢で、ズルいから。
大河は…実乃梨の真意を確認し、安心する。みのりんになら…
「みのりん…わたしは、竜児が好き。だから竜児にも迷惑掛けたくないっ」
それを聞いた実乃梨は、拘束具を引きちぎる人造人間のように立ち上がるっ
「だから!大河っ!…んもぉ〜お前たちはふったりともぉ〜っ!いいっ!わかった!
いまから決着つけるよ!いくよ、大河!高須くんの所へ!」
「たのも〜!…ありゃ、いないみたい」
既に時計は十時を回っている。部屋の灯りが消えていた。こんな時間に何処へ…
「あれれぇ?大河ちゃんと実乃梨ちゃ〜ん!こんばんは〜☆」
「おうっ、どうしたっ?そうだ、丁度四つあるし、プリン食っていけ」
仕方ない事だが、事情を知らないふたりには、緊張感の欠片もない。
泰子と竜児は、風呂上がりにコンビニへプリンを買いに行っていたのだ。
「あっ、竜児っ!あの…あのねっ…」
竜児を呼ぶ大河の声に、通りの向こうから男の声がした。
「高須竜児か?」
外灯の明かりに照らされた男は、今にも襲い掛かりそうな野獣の表情をしている。大河が驚く。
「なな何で?なんでここにいるの?」
実乃梨は、大河の婚約者の男だと、気付く。この男…実乃梨のスカウターがグングン上昇し、
男の戦闘値の高さを理解…どうやら世間話をしに来たのではない…高須くんが、危険だ…
高須くんは…高須くんは、わたしが守る…絶対…。
実乃梨は、男が出す闘気に、死をも覚悟する。
「あんた誰だ。親父の知り合いか?」
竜児をかばう実乃梨の腕を、平気だ、っと引きそっと退ける。
「知り合いも何もっ…お前の父親は、俺の姉さんを死に追いやった…殺したっ!
だからっ!おいっ!教えろっ!お前の父親はどこにいる!答えろっ!!」
「どういう…事…?」
そう呟いた泰子の足元にプリンが転がっている。
「大変、御無礼な振る舞いっ…申し訳ございません」
泰子と竜児に土下座する男。
「もう…その、もういいです。事情も納得しましたから」
竜児がなだめる。泰子は…うなだれたままだ。男の話をまとめると、泰子が竜児を身籠った時に、
男の姉と、竜児の父親は逃げた。しかし、逃亡先で、男の姉を妊娠させ…また逃亡したのだ。
そして、男の姉は絶望し、自ら死を選んだ。まだ幼かった男は、復讐を誓った。
そう、ただ復讐のために、自分の体躯を凶器のように鍛え上げたのだ。
…そういう事だった。 …しかし…最悪な親父だ。
「今後、出来る限りの謝罪はする。そして、大河さんとの婚約の事も、俺が説得する。
いろいろ悪かった。竜児くん…大河さんと、幸せになってくれ」
再び、男は深々と、泰子と竜児にひれ伏す。猛省している。
そこに黒いポルシェが到着する…大河の母親だ。
「大河!やっぱり…ここだったのね…帰るわよ。あっ」
大河の母親は、男に気付く。男も会釈する。
「遅くまで申し訳ございません。竜児くんと、しっかりお話し出来たので…
どうも、ありがとうございました。では大河さん…お気をつけて」
「うん…じゃ」
実乃梨は大河の態度に、ちょっと不安を感じる。大河…それでいいの?…
ポルシェの助手席に乗る大河。ブロンッっと低い始動音がした。
竜児は昼間の疑問を実乃梨に聞く。
「…なあ櫛枝。ポルシェって、いくらするんだ?」
「ん〜、たしか前に大河が、イッセンマンくらいって言ってた、けな?」
イッセンマンか…訳分かんねえ金額だな…竜児はプリンを拾いながらそう思う。
そして、大河を乗せた2642万円のポルシェGT2は、暗闇に溶けていった。
「さてっ!わたしも帰るかねっ!じゃあ、高須くんっ、あしたっ、お昼に駅前ねっ」
「おうっ。櫛枝、もう遅せーし、俺が家まで送って…」
ポンッと、男が竜児の肩を叩く。
「竜児くん、櫛枝さんは、俺が送るから…君のお母さん、そばに居てあげて欲しい。頼む」
そうだ…泰子は放心状態のままだ。放っておけない。
じゃあ行きますか…実乃梨は歩き出し、男は追いていく。
竜児は泰子を抱きかかえるようにして、家の階段を上っていった。
実乃梨は、家までの道すがら、SPのように後ろを追ける、男に質問した。
「あの、大河と結婚するんですか?」
「いや、幸せを引き裂くような野暮はしない。彼女の母親は…世襲させたいみたいだけどな」
世襲?実乃梨は繰り返した。
「ああ。俺と大河さんを結婚させて、息子を次期社長にしたいんだろう」
「それって…大河の子供って事?」
「いや、彼女の弟だろう。純血で世襲させたいんだろうな。たいした母親だ。
実は俺は、勘当されて、最近まで外国にいたし、そういう事は興味ないんだ」
「へえっ…あの…外国でなんか…してましたよね、ブラジル?…雑誌で見ました」
弟のみどりが好きな、格闘誌を読んだ事ある実乃梨は、途中で男の事を思い出して、ちょっと、
サインが欲しかったが、とてもそんな空気じゃなかったので、我慢していたのだった。
「昔の話だ。俺見たいに、相手を潰す事を躊躇するような、軟弱な精神の奴は…
頂点に昇れない世界だ。例えば…好きな女を強引に奪い獲るくらい、強欲でなければ……
ま、俺の運命だな…」
実乃梨は男に振り返る。好きな女を強引に奪い獲るって、まさか…大河の事?しかし…
「運命って、自分で切り開くんだと思うんです。決まった人生なんて無いと思います」
わたし…何言ってんだろ…大河と竜児は運命の人。でも、運命が…
運命の人が、奪い取れるなら…実乃梨は、竜児を…
「いい友達だな。君は。家に着いたか、じゃあ、失礼する」
あの…実乃梨は言いにくそうだったが勇気を出す…
「あの…サインください」
***
助手席の大河は、まるで人形になったように、ピクリとも動かない。
当初の計画とはずいぶん違う展開だが、何故か首尾よく事が運んでいるようだ。
大河を攻めるなら周りからっ…と、実乃梨には、体育大の裏口入学を手配しようとしたが、
どうやら普通に推薦されるらしいし、亜美に至っては、グラビアデビューさせようと、
有名写真家を口説いてみたが、断られた。しかも亜美の所属事務所に聞いたらなんでも
映画デビューするらしい…。上手く行ったのは、文化祭のスポンサーくらいだった。
「…ママ」
突然人形が喋り出した時のように驚いた。
「話して…婚約する前に…あの男の人の事、わたしに話して」
「…ごめんなさい、大河…ごめん…ね」
涙ぐむ母親は、計画の全てを打ち明けた。
大河は迷う、竜児は苦悩する、実乃梨は惑う、男は独り、バーで、ショットグラスを呷る。
みんな、それぞれの思惑を胸に、夜は更け、また一日が始まる。