1 :
名無しさん@ピンキー:
妖精さんをはじめとする普通の女の子より身体の小さな女の子で
エロ妄想・萌え談義・小説創作を行うエロパロスレです。
妖精だけでなく、精霊、小人、人形、etc…。
身体が小さいという特徴を持っている女の子が出てくればOKです。
オリジナル、二次創作、エロ、ほんわか、鬼畜、何でもアリ!
てのひらサイズの小さな女の子を、愛でたり弄ったり嬲ったり苛めたり
色んな意味で可愛がってみませんか?
いちおつ
O1乙 <これは
>>1乙じゃなくて
ただの土下座なんだからね!
| )
| ゙̄ヽ
|リMリリ
|゚ ヮ゚ノil
とl´ |
|=l_ノ
|:/
ようせいさんはまだでつか?
書いてる最中だ
・<おお、その言葉信じて待っているぞ
YO!SAY!
13 :
一尺三寸福ノ神:2009/06/17(水) 22:45:20 ID:MRKBkEhl
投下します
19話 恐怖の時間は終わらない?
時計を見ると、夜の十一時前。
一樹は何度か背伸びをしてから、ベッドに腰を下ろした。
「鈴音、いつまでむくれてるつもり?」
机の上に座って、一樹に背中を向けている鈴音に声を掛ける。HDDのトラップに、カーテ
ン自動開閉装置のせいで、拗ねてしまったのだ。
「ワタシの気が済むまでなのです」
振り向きもせずに、鈴音が答える。一樹が謝るまで拗ね続ける気のようだった。
一樹は眼鏡を取り、ナイトテーブルに置く。HDDを盗み見た件は自業自得であるが、カー
テンのネタはいくらか罪悪感があった。しかし、今すぐ謝るという気はない。
「それなら仕方ない」
一樹はため息をつく。
ぴくりと鈴音の肩が動くのは、見逃さなかった。
気づかない振りをして告げる。
「秋の夜は冷えるけど、風邪引かにように気をつけてよ?」
「……ふ、福の神は風邪を引かないので大丈夫なのです!」
語気を強めながら、鈴音が言い返してきた。だが、その言葉に先ほどの余裕はない。本
人は平静を装っているつもりなのだろう。あいにく鈴音は自分の考えていることが、すぐに
口調や表情に出てしまう。
「物事には順番というものがあるからね」
そう告げてから一樹はベッドから立ち上がり、電気のヒモを引っ張った。蛍光灯が消え、
オレンジ色の常夜灯が暗く部屋を照らす。薄暗い室内で、鈴音が少しだけ振り返ってくる
のが見えたような気がした。黒髪が白衣を撫でる微かな音が聞こえる。
今の言葉の意味が理解できたかどうかは分からない。
布団を持ち上げ、一樹はベッドへと潜り込む。まだ冷たいがそのうち暖かくなってくるだろ
う。肌寒く薄暗い室内。鈴音のいる机に背を向けてから、目を瞑る。時計の秒針が奏でる
音を聞きながら、意識を淡い眠気の中に漂わせていると――
すたすたと床を歩く音が聞こえた。
「一樹サマ――」
続けて、耳元で鈴音が声を掛けてくる。
「一樹サマのHDDを勝手に盗み見て、ごめんなさいなのです。これはワタシが悪いのです
から、余計な言い訳はしないのです。だから、布団に入れて欲しいのです」
力の抜けた声音で謝ってきた。その口調に嘘や偽りはないようである。演技である可能
性も考えられるが、鈴音にそこまで器用に感情を隠すのは無理だろう。
「案外早かった」
声に出さずに呟く。
寝返りを打って、目を開けると目の前に鈴音が立っていた。
両手を垂らして、申し訳なさそうな顔で一樹を見ている。元気なく下がっている、頭のアホ
毛。自分のやったことについては反省しているようだった。
一樹は小さく吐息してから、布団をめくって上体を起こす。常夜灯の薄暗い明かりに照ら
された室内。ぽんと鈴音の頭に右手を置いて、
「ぼくもカーテンの開閉機械で脅したのは、悪かったと思ってる。済まなかった。でも、あの
まま怯えてるのはさすがに気の毒と思ったから」
「うー。そうなの――」
カタン。
音は突然だった。軽いものが床に落ちるような音。
「一樹サマァッ!」
右手首にがっしりと抱きつきながら、鈴音が大声を張り上げる。薄い胸を右手の甲に押
しつけているが、本人にその自覚はない。涙目で見上げてくる。
「人がせっかく謝ってるのに、いきなり何でこんないたずらを――」
パタパタパタ、カシャン!
言葉にすればそんな感じだった。立て続けに何かの落ちる音。
鈴音が大袈裟なまでに身体を強張らせるのが分かった。
一樹は一言告げる。
「ぼくは何もしてないよ」
「なら、何なのです……。もしかして、お――」
半泣きの声で鈴音が言ってきた。だが、自分の推測を口に出そうとした所で口を止めて、
腕を握りしめる力を強くする。本当に幽霊だったらと思ったのだろう。
一樹は鈴音を抱きかかえてベッドから起き上がり、電気を付けた。
部屋が白く照らされる。
「やっぱり」
そこにあったのは予想通りの光景だった。
床に散らばったシャーペンやボールペン、サインペン。一緒にペン立てが転がっている。
それらは元々机の上に置いてあったものだ。
「何なのですか、これは……?」
鈴音が散らばったペン類を見つめ、気の抜けた呟きを漏らす鈴音。何が起ったのか、ま
だ分かっていないようである。
一樹は落ちたペンとペン立てを拾い上げ、机の上に戻した。
「鈴音がこっちに来るときに裾か髪の毛引っかけて、ペン立て倒したんだよ。多分。それが、
床に落ちて音を立てた。幽霊の正体見たり枯れ尾花、ってね?」
放心している鈴音に笑いかけてから、電気を消し、ベッドに戻る。小さな身体を抱きかか
えたまま、布団に潜り込んだ。痩せた胸板に、鈴音が身体を預けてくる。ついさっきの恐怖
から逃れるように。身体が微かに震えているのが分かった。
「一樹サマ……」
ふと鈴音が口を開いた。
「前から思っていたのですが、一樹サマはお化けが怖くないのですか?」
「僕は幽霊とか妖怪とか、そういう非科学的なものは信じないから」
鈴音の背中を撫でながら、一樹はそう答えた。
「ワタシの存在あっさり全否定しないで欲しいのです」
呆れたように鈴音が反論してくる。
自ら福の神と名乗る人形サイズの女の子。普通の人間には見えない。これを無理矢理
解釈するなら幻覚だろう。しかし、鈴音はそこに存在しているし、見える人間もいる。
一樹は鈴音の頭を撫でながら、小さく笑った。
「冗談だよ。幽霊も妖怪も、科学的に解明できる要素を持っているから非科学的って一蹴
するのは間違いだ。インチキが多いのも事実だけど。いつだったか幽霊なら気合い入れて
殴れば追い払えるって言ったの、鈴音じゃないか?」
「そういえば、そんなこと言ったような気がするのです」
最初に会った日の夜のことを思い出したのだろう。
「それに、存在するものなら、それは解明できるものだ。解明できる可能性があるものを恐
れる理由はないよ。未知のものだけど、不可知のものじゃないから」
「うぅ。難しい話なのです」
鈴音が眉根を寄せるのが分かった。ここから語り出すと小難しい上に長い話になってし
まう。寝る前にするような話ではないし、鈴音にも辛いだろう。
「そう思うなら、もう寝よう」
「はいなのです」
一樹の言葉に頷いて、鈴音は目を閉じた。
しかし、一樹は声に出さず、誰へと無く問いかける。
「でも、何でペン立てが倒れる音がしなかったんだろうね?」
以上です
GJ!
毎回乙です、アンタがここの生命線だ!
>元気なく下がっている、頭のアホ毛
アホ毛で感情がわかる子って良いよね
GJ
新キャラ登場とかか??
GJ、毎回乙
次回も待ってます
鈴音を抱きしめて寝たい
保守保守
保守〜
なにこの箱入り娘
>>24 MoEやってる俺からツッコませてもらうが
それ、現在は入手不可のレアアイテムだからね。
それ目当てにプレイしようっていうなら、頑張って稼いでくれ。
28 :
一尺三寸福ノ神:2009/07/01(水) 23:33:21 ID:6Od59G2e
投下します
20話 季節の変わり目
ピピピピ……。
ベッドに腰掛けたまま、一樹は腋から体温計を取り出した。
「37.8度。やっぱり風邪だね」
小さな液晶画面に移った数字を読み上げる。
十月から十一月にかけての季節の変わり目。この時期は気温の上下が大きくなるので、
風邪を引く人が多い。一樹も見事に風邪を引いてしまった。親には風邪の事は伝えてあり、
大学を休むことも伝えておいた。
「大丈夫なのですか、一樹サマ?」
ベッドの横に座ったまま、鈴音が不安げに見上げてくる。
一樹は口端を持ち上げ、軽く鈴音の頭に手を置いた。柔らかな黒髪を撫でながら、安心
させるように告げる。
「大丈夫だよ、ただの風邪だから。んっ……げほ……。長くても明後日までには治っている
と思うし。とはいえ、ちょっと熱が高いから病院行くべきかな?」
喉をさすりながら、一樹は天井を見上げた。症状は喉の痛みと咳、発熱に軽い頭痛、倦
怠感。喉から感染したのだろう。風邪としては普通だが、症状はやや重い。ただ寝ている
だけでは、明日も休むことになるだろう。
「お医者様の診断を受けるのですか?」
「うん。少し寝てから近所の病院行ってくるよ」
言いながら、一樹は毛布を持ち上げベッドへと潜り込んだ。病院までは歩いて十分ほど、
自転車で行けば五分も経たずに着く。さすがに出歩けないほど症状は重くない。
鈴音が枕元に正座をした。膝の後ろに手をやり朱袴の裾を少し上げながら、その場に両
膝をつく。両手を膝の上に置いて、
「ということは、注射をされるのですね?」
黒い瞳にきらきらとした輝きを灯し、真顔で訊いてくる。
一樹は自分の額を撫でつつ、苦笑いを見せた。窓から差し込んでくる午前中の日差し。
昨日はかなり冷え込んでいたが、今日は晴れて気温は上がるらしい。
「何か嬉しそうだね……」
「それは一樹サマの思い込みなのです」
断言する鈴音。もっとも、説得力はない。
言い返すのも不毛だと思い、一樹はその事については何も言わないことにした。質問に
対しての答えを口にする。
「これくらいじゃ、注射はされないよ。インフルエンザにかかって39度以上熱出れば話は別
だけど、これくらいじゃ風邪薬貰うだけだよ」
「残念なのです」
鈴音が肩を落とす。へなりと傾くアホ毛。本気で残念がっているようだった。
一樹は布団から左手を出し、鈴音の頭に乗せる。
「そう言うなら鈴音が注射して貰えばいいじゃないか。医者のツテが無いわけでもないし。
予防接種ってことでプスッと」
「な、何を言っているのですか、一樹サマは……!」
わたわたと両手を動かし、鈴音が慌てていた。腕の動きに合わせて、白衣の袖が揺れて
いる。自分が注射されるのは嫌らしい。
鈴音の頭から手を離し、一樹は天井を見上げた。
「頭が熱い……」
「それならワタシに任せて欲しいのです」
その場に立ち上がり、自分の胸に右手を当て、鈴音が元気よく言い切る。何か思いつい
たらしい。もっとも、さほど期待はできないだろう。
一樹が見ていると、鈴音は両手を胸の前で向かい合わせた。
両手で印を結ぶ。印については知らないが、それほど複雑なものではない。数は三つ。
術を使うには印を使うと言っていたが、実際に印を結ぶのを見るのは初めてだった。
「冷気の術なのです!」
鈴音が右手を振り上げると、手の平に生まれる青白い光。雪のように小さな氷の結晶が
光の周囲を舞っている。術で冷気を作り出したようだった。
その青白い光を差し出してくる。
「これで、頭を冷やすのです。効果はばっちりなのです!」
「………」
一樹はそっと右手を伸ばし、身長に冷気に触れてみた。何もない空間に冷気が凝縮して
いる。核になるようなものはなく、空気そのものが非常に冷たい。
一樹は手を引っ込めた。指先を見つめながら、訊く。
「冷たすぎない? これじゃ、凍傷になりそうだけど」
「そうなのですか?」
訝しげに応じてから、鈴音は無造作に冷気に左手を突っ込んだ。
「ッ!」
目を丸くして手を引っ込める。
同時に冷気が霧散した。集中が切れたせいだろう。だが、それはどうでもいいことである。
氷よりも冷たい冷気に無防備なまま左手を突っ込んだのだ。
鈴音は赤くなった左手を見つめながら、涙声で呻く。
「痛いのです……」
一樹は仰向けの体勢から、身体を傾け鈴音に向き直った。冷感が麻痺して痛覚しか働
いていないのだろう。ため息をついてから、両手を差し出し、右手を軽く動かす。
「僕の手に、鈴音の手を乗せて」
「はいなのです」
素直に頷き、鈴音はその場に正座をした。今度はただ足を折り曲げただけである。袴を
ただす余裕はないのだろう。差し出された一樹の手に自分の手を乗せる。
一樹は両手で鈴音の左手を包んだ。小さな手は冷たくなっている。
「凍傷にはなってないと思うけど、確か治療の術は使えたよね?」
「一応使えるのです。切り傷くらいは治せるのです。本当は一樹サマのケガを治して上げた
かったのですけど、自分の治療の方が先になってしまったのです……」
一樹の手に包まれた自分の手を見つめながら、鈴音は無念そうに眉を下げた。役に立
ちたいのに、逆に手間を掛けさせているのはもどかしいだろう。
その姿を眺めながら、一樹はぼんやりと考える。
(鈴音って術自体使い慣れていないんじゃないか……?)
「うー」
鈴音が一樹の手に自分の右手を乗せた。
右手も冷気の術を作っていたせいか、ほんのりと冷たい。
「一樹サマの手、暖かいのです……」
以上です
保守
久しぶりにカイムと妖精でも書いてみようかな、と。
覚えてる人いるだろうか?
覚えてますとも
この枯れかけのスレに活力を与えるためにも是非お願いします
書き手が一人いるだけでもマシ
38 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/17(金) 11:16:20 ID:fnV/QD2/
片やベタ褒め片や過疎、ギャップを感じますねぇ
マイナージャンルの辛いところさ。
40 :
1/3:2009/07/21(火) 12:53:56 ID:9n4zXoYb
題目:小人女の子、コメディ
ピコッ、ポコッ、パコッ
「あっ、いったいですぅ〜、あいつちょと強く叩き過ぎですぅ」
「ガマンしなさいよね!それくらい、文化祭なんだから」
「こらこら二人とも、口動かす前にあたま動かす」
「イ、イエッサー」
ピコポコ、ピコポコ
ここは文化祭、何の変哲もないただの教室の一角だ
でもちょっと違うのはそこには小人がいること
現実とは違い、いささかファンタジックな異世界となっている
過去に巨人病、小人病なるやまいで追われていた身の人たちが
いくつかの迫害と闘争の末、進化と発展を遂げ見事、人権を獲得したのだった
その中でも小人族に属する者たちはその小ささから重宝され良い待遇を受けている
今日も今日とて文化祭だからと息巻いて「人間もぐら叩き」に挑戦したのだった
「おらおら、氏ね氏ねモグラどもー!」ひとりの中学生が夢中でピコピコハンマーを叩く
「ヤッハッホッ!」
「あらよっと、あっ!・・・痛〜」
「ふえ〜疲れるよ〜」
3人の小人は一生懸命ピコピコハンマーを避けるものの、やはり勝手が分からず
見事に頭を打ち付けられてしまう、そもそも小さいのだ、彼女らが。
なにせ手のひらサイズときたもんだ
お手製のダンボールから作った基盤となるボードですら
作製するのに四苦八苦し、やっと5日をかけて出来た物を使っている始末
そこにはミミズがはったような字で「もぐらたたきげ〜む」と題打ってある
交代制でその箱に入り出たり入ったりするものなのでけっこう疲れる仕様となっている
ストックは数十人、フルタイム体制でおおよそ頭のよろしくなさそうなゲームを興じる
41 :
2/3:2009/07/21(火) 12:56:51 ID:9n4zXoYb
評判は上々で元々つぶだけに粒ぞろいの子がそろっているためか人気を呼んでいた
「わ〜もう飽きちゃったですぅ〜」
「ガマンしなさいよ!もう!あんたそればっかり」
「はいはいお二人さんあとでパフェ屋さん行きましょうね〜」
この3人の子らは午前の担当をしていてそろそろ午後となる所だった
人でも減ってきてお昼どきもありチラホラばらつき始めていた
「あ〜もういいですぅ〜いちぬけぴですぅ〜」
「あっ!コラ!勝手に行くな!そこ、箱から出ない!!!」
「あ〜ホラ、これ最後の一人にすればいいじゃない、ね、コレ終わったら行きましょ」
なんとか二人を取りまとめ最後の一人となるである自分の身丈の50倍はあろうかという
少年の前へと暗がりの穴の中から静かに立ちはだかった・・・レディ・・・ゴウッ
かけ声と共に高速の速さで穴を出たり入ったりする小さなる女の子たち
シュン!シュン!シュン!そんな擬音を残しながらピコピコハンマーを翻弄する
時おり残像すら見える、少年の狼狽は明らかだ、明らかに気が引けている、反則じゃないのか・・・この速さは。
42 :
3/3:2009/07/21(火) 13:00:04 ID:9n4zXoYb
「あはは、楽勝ですぅ〜こんな奴ザコですわ〜」
「コラッ!気をゆるめないっ!ちょっとあんた速すぎよ、ってあたしもだけど・・・」
「もう〜いつもこれなんだから」
3人もほどなくて楽勝ムードでその場の制空権を支配したことに少々安堵を覚えた
最後なる少年の邪悪である淫欲な一手を打ち放たれるまでは・・・
「あはは、楽勝ですぅ、もういいですぅ、これで締めぇですぅ〜」
「ふぅ〜そうね、もうこれで終わりね、ねっ!いいわよね?」
「ん〜じゃあ、あと2、3穴から出入りしたら終わりね、もう行きましょ」
しゅん、しゅん、しゅん、余裕な心持ちでそんな思いを抱きながら穴を出入りしていた刹那
最後の一手が放たれた
ベショ!
ドロ〜・・・
「ひえ〜!?なんなんですかこれはぁ〜」
「うわっ!あなた臭いわよ!なんかめっちゃ臭い」
「ペロ、これは・・・栗の花!?」
栗の花:ブナ科クリ属の木の総称、落葉樹で種子を食用にし、北半球の温暖で湿潤な地域に広く分布していると言われている
1/50って、身長数cm…?
保守
せめて細部を観察できるくらいの大きさはないと色々とツラいな・・・個人的には15〜20cmくらいが絶好。
難しいな
普通の女の子が縮んじゃうってのもありだよね?
南くんの恋人的な。
書きたいのに
なかなか進まない…
ファイト
一尺三寸福ノ神も一ヶ月ほったらかしだしなぁ…
子供が生まれると、どこからともなく妖精が現れて、
その子供の身の回りの世話から、夜伽まで世話してくれて
人生のパートナーになってくれて死ぬまで面倒見てくれる。
そんな夢を見た。
そういや千景の作者がサイト直ったらしい。
54 :
一尺三寸福ノ神:2009/08/03(月) 23:45:14 ID:N5ALqNIX
投下します
55 :
一尺三寸福ノ神:2009/08/03(月) 23:45:42 ID:N5ALqNIX
21話 診察
「小森一樹さん」
受付の人の声に、一樹は顔を上げた。
家の近くにある木之本医院。その待合室には、消毒液の匂いが微かに漂っている。椅子
に座っているのは、一樹を除いて八人だった。大人六人に子供が二人。最近は風邪が流
行っているので、病院に来ている人も多い。
膝の上に座った鈴音が見上げてくる。
「一樹サマ、呼ばれたのです」
「うん」
小さく頷いてから、一樹は鈴音を抱えて椅子から立ち上がった。身体が重い。動けない
ほどではないが、あまり元気ではない。念のためマスクは付けている。
待合室を歩いてから、診察室のドアを開けた。
「どうぞ、そちらに」
三十台半ばの白衣を着た男である。かなり昔から診察を受けているが、未だに名前は知
らない。胸の名札には『木之本』と書かれていた。
「木之本さくら……なのですか?」
名札を見つめてそんなことを呟く鈴音を、近くにあった荷物用のカゴに入れる。今回は財
布しか持ってきていないので、手荷物は無い。大人しくしているようにと鈴音の頭を一回ぽ
んと叩いてから、一樹は診察用の椅子に座った。
「今回はどうなされました?」
月並みな台詞で訊いてくる木之本先生。その視線は一樹にのみ向いていて、鈴音には
気づいていない。普通の人間では存在自体感じ取れないらしい。
「喉の痛みと咳が少しと頭痛、あと熱が37.8度あります」
一樹は自分の症状をそのまま答えた。典型的な風邪の症状である。
軽く苦笑いをしてから、先生は右手を伸ばして金属のヘラを手に取った。
「最近は風邪流行ってますからねぇ。では、口を大きく開けて下さい」
「はい」
56 :
一尺三寸福ノ神:2009/08/03(月) 23:46:20 ID:N5ALqNIX
一樹はマスクを外し、大きく口を開けた。
口の中にヘラを差し込み、ポケットライトで喉の奥を照らす。
「あぁ。腫れてますねー。これでは、喋るのも少し辛いんじゃないですか?」
「ええ、まあ」
先生がヘラを消毒液の中に入れるのを見ながら、一樹は頷いた。喉から鼻に掛けて炎
症起こしているのだろう。咳をするのも辛いので、無理に咳を抑えている状態だった。
「お腹の具合はどうでしょう?」
「そっちは問題ないです」
手短に答える。
「では、ちょっと服を上げて下さい」
聴診器を耳に付ける先生を見ながら、一樹はジャンパーの前を開け、上着を持ち上げた。
肋骨が浮いて見えるほど、痩せた体付き。
「一樹サマの身体って、本当に細いのです……」
カゴの縁を掴んだまま、鈴音が小声で感想を口にしている。呆れたような感心したような、
そんな口調。自分の身体を見た者は大抵こんな反応をしていた。
肌に当てる部分のチェストピースを指で叩いて確認してから、先生はそれを一樹の胸に
当てる。何ヶ所か当ててから、
「後ろを向いて下さい」
「はい」
言われた通りに後ろを向くと、服を持ち上げてぺたぺたと聴診器を当てた。背中から伝
わってくる聴診器の冷たい感触に、眉を動かす。
聴診が終わってから振り向くと、先生は事務的な笑顔で、
「症状の薬出しておきますね。あと、熱が出ているので、水分補給をこまめにしておいてく
ださい。普通のスポーツドリンクで大丈夫です」
「分かりました」
頷いてから、一樹は椅子から立ち上がった。嘔吐や下痢が止まらないとか、熱が39度以
上あるなどでない限り、ただの風邪では特に言うこともないだろう。
外していたマスクを再び付ける。
57 :
一尺三寸福ノ神:2009/08/03(月) 23:46:44 ID:N5ALqNIX
「何だか、あっけないのです」
腕組みをしながら、鈴音が不服そうに頬を膨らませていた。
一樹はそっと右手を差し出す。
鈴音はカゴから跳び上がり、一樹の右手を掴んでから器用に腕の中に収まった。身体の
動きに合わせて、黒髪が踊る。鈴音はかなり身軽なのだが、さすがに身体の小ささのため
歩いて移動というのは大変らしい。
「ありがとうございました」
「おだいじに」
定例的な挨拶を交わしてから、一樹は診察室のドアを開けて待合室へと移動した。さき
ほどと変わらぬ待合室。会計を終えたのか、親子が一組いなくなっている。
「ふぅ……」
一樹は小さく吐息してから、適当な席へと腰を下ろした。抱えていた鈴音を席の横に下ろ
す。大したことはしていないが、少し疲れた気分だった。
「大丈夫なのですか?」
眉毛を斜めに傾けながら、鈴音が見上げてくる。それは、掛け値なしに心配している表情
だった。色々と言っているが、やはり不安なのだろう。
一樹は安心させるように鈴音の頭を撫でながら、
「薬貰えるし、寝てれば治るよ」
「どんな薬貰えるのですか?」
訊いてくる鈴音に、一樹は少し考えてから答えた。喉に負担にならないように小声で。
「今までの経験からすると、総合感冒薬と解熱剤、あと喉の炎症止めと……結構熱出てる
から、抗生物質出かな? あと、トローチ出るかも」
風邪で出される薬はそう種類があるわけでもない。大体症状を抑える薬が出されるもの
だ。インフルエンザなどの重いものだとその限りではないが。
鈴音はため息とともに両腕を下ろし、
「病気を治す術が使えればいいのですが、ワタシはそういう難しい術は使えないのです。一
樹サマのお役に立てなくて、申し訳ないのです」
「その気持ちだけでもありがたいよ。ありがとう、鈴音」
マスクを外し、一樹はそう笑いかけた
58 :
一尺三寸福ノ神:2009/08/03(月) 23:47:09 ID:N5ALqNIX
以上です
カイムと妖精書き終わったので、
そのうち投下します
59 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 21:45:13 ID:svOWB+jx
毎度毎度GJ!
お疲れ様です。GJ。
保守
投下します
窓から流れ込む風がカーテンを揺らす。
学生寮二階の自室。カイムはベッドに身体を預けたまま、窓の外を見つめていた。
白い寝間着を着込んだ、二十過ぎの男。短く切った焦げ茶色の髪と、痩せた体付き。
その右足はギプスで固定されていた。足首の骨に亀裂が走っている。魔術による治療を
行っているので、一週間ほどで完治する予定だが、一週間はろくに歩けないということでも
あった。
「成功から転落ってこういうこというのかな?」
自嘲的に足を見つめる。
カイムの研究は一人用の飛行機械の製作だ。一昨日、試作用飛行機械の飛行テストを
実行し、念入りな準備のおかげで成功。ほぼ一時間の飛行を行った。それから、機材を片
付け仲間と一緒に成功パーティをやって、帰り道で階段から落ちた。慣れない酒を飲んで
酔っぱらっていたせいだろう。
結果、右足首亀裂骨折。大学内では笑い話として広まっているらしい。
「これから、どう時間を潰したものかな?」
医務室から借りてきたベッドテーブルには、ノートと鉛筆が散らばっている。問題点のまと
めなどは大体終わっていた。教授たちからは、秋休みだと思って少し休めと言われている。
最近無理をすることが多かったのので、それは適切な助言なのだろう。
「マスター。ただいま」
澄んだ声とともに、窓から小さな妖精が部屋に入ってくる。
手の平に乗るほどの妖精の女の子だった。見た目は十代前半ほどだが、実年齢は知ら
ない。透明な羽を広げてカイムの方へと飛んできた。
そのまま、本やノートの散らばったベッドテーブルへと着地する。
「おかえり。散歩楽しかった?」
少し外に跳ねた赤い髪を背中の中程まで伸ばし、赤い瞳に無邪気な感情を灯している。
服装は緑色の三角帽子に、袖や裾に深緑で縁取りのされた緑色のワンピース。あとは布
製らしい靴だった。いつもの格好である。
「うん……。でもやっぱりマスターと一緒がいいな」
残念そうに笑いかけて来るミィに、カイムは右足のギプスを指差した。松葉杖を使えばあ
るけるのだが、普段のように歩けるとは言い難い。
「これのせいで、一緒に出歩くこともできないし。すまんな」
「じゃ、わたしと一緒に飛んでみない?」
含みを持った声音で、ミィが訊いてくる。
台詞のまま理解するなら、ミィと一緒に飛ぶということ。だが、人間であるカイムは道具無
しに飛ぶことはできない。
「飛行機械はバラしちゃったから、飛ぶのは無理だよ」
「そういうことじゃなくて」
もったいぶるように笑ってから、ミィは短く呪文を唱えた。人間の言葉ではない、妖精の言
葉らしい。今までに見たこともない魔法式が作られる。
ミィが右手をカイムに向ける。
「知覚」
「へ?」
右目の視界が揺れた。
右目に見える景色の中に、自分の姿が映っている。自分を見下ろしているような自分の
姿。それが、ミィの見ている自分の姿だと理解するのには、数秒の時間がかかった。
「視覚の共有……?」
カイムは自分の右手で右目を押さえた。
使い魔との感覚を共有する魔術がある。それを応用したようだった。ミィから自分の感覚
を差し出したと表現するのが正しいだろう。
「あと、右手だよ」
見ると、カイムと同じようにミィが自分の右手で右目を押さえている。カイムの右手に連動
したのだ。しかし、カイムがミィの右腕を動かせるだけであって、ミィ自身は制御を放棄して
いない。
ミィは自分の右手を下ろして、窓の方を指差しながら、
「どこに行きたいか、指差してね」
「時々、変なこと考えるよなぁ……」
右手を下ろし、カイムは苦笑いをした。
原理を理解すれば、あとはそれほど難しいことではない。脳裏に浮かんだのは子供の頃
に見た人形劇だった。技術系魔術の制御に比べれば、簡単なものである。
カイムは自分の右手はそのままに、ミィの右手を動かした。前後左右に動かしてから、指
を曲げてみる。自分の手のようにミィの右手が動いていた。
「マスター、上手いね。こういうの得意なのかな?」
自分の右手を見ながら、ミィが笑う。
そして、ベッドテーブルを蹴って音もなく空中へと浮き上がった。背中から伸びた羽に魔
力が奔り、軽い身体を空中へと浮遊させる。
ミィの視界が大きく動いた。
「っ……!」
カイムは無言のまま息を止める。
自分が動いたわけではない。だが、体感で一気に身長の数倍の距離を動いたのだ。妖
精の大きさの感覚を人間の感覚として知覚する。それは、十倍近い体格差を実感するとい
うこととほぼ同じだった。
ミィは緑色のワンピースの裾を揺らし、窓へと向き直った。そのまま、一直線に窓へと飛
んでいく。部屋を横切り、カーテンをかすめるように窓を越え、外へと飛び出した。
カイムの視点では普通にミィが窓の外に飛んで行っただけ。
しかし、ミィの視点では身長の数倍の距離を凄まじい速度で移動。窓の外からは何十階
階建て以上の建物から飛び出したという感覚だった。
「凄い……」
右目を介して伝わってくる情報に、カイムは素直に感嘆の言葉を漏らす。妖精であるミィ
にとっては、空を飛ぶことは当たり前のことなのだろう。だが、人間であるカイムにとっては
道具も無しに跳ぶのは初めての感覚だった。
窓から少し進んだ所でミィが停止する。
『マスター、これからどうする?』
頭に響くミィの声。念話の類らしい。さきほどの魔法と一緒に掛けていたのだろう。
意識を集中させ、カイムは返事をする。
『念話できるなら、右手の感覚渡す必要なかったんじゃないか?』
『そうかも』
あっさりと認めてから、ミィは視線を下ろした。地面へと。
二階の窓の高さから地面を見る。人間の感覚では大した高さではないが、妖精の感覚を
通してみると、地上数十メートルほどに浮いているようだった。
『じゃ、急降下ー!』
言うなり、ミィが真下に向かって飛ぶ。
『ちょっと待て!』
慌てて静止するが、ミィは既に飛び始めていた。人間感覚で重力落下の数倍の速度で地
面へと向かって一気に落ちていく。実際に重力落下よりも遅いだろうが、身体の大きさのた
め、その体感速度は十倍近いものとなった。
「時間感覚が違うのか……」
そんなことを改めて実感する。
地面すれすれで身体を翻し、空中で二回転。その凄まじい運動能力は、小さい身体だか
らこそ可能なのだろう。虫などが異様に素早いように。
『次は急上昇ぅ!』
楽しげにミィが笑い、今度は一気に上昇へと向かう。
高く澄んだ青い秋の空と、羽根のような白い雲。空へと落ちていくように、上昇していった。
耳元で風を切る音が聞こえてくるようである。視界の端に学生寮の屋根が見えた。学生
寮の屋根よりも高く、空へと向かう。だが、いくら高く飛んでも空には近づかない。
「これが、『飛ぶ』ってことか――」
ミィの見る空を見つめ、カイムは小さく独りごちた。
自分の設計製作した飛行機械は、あくまでも滑空を基本として作ってある。飛ぶことはで
きるが、ミィのように自由自在に飛ぶということはできない。もっとも、ミィと同じように人間
が飛んだら身体が持たないだろう。
『ねぇ、マスター。どう、この景色』
ミィが空中に止まったまま辺りを眺める。
学生寮の真上。地上からは三十メートルくらいだろう。妖精の身体から考えても、相当な
高さまで上昇したようだった。
真下には三階建ての学生寮が佇み、寮の向こうには広いグラウンドと、四階建ての学棟
が三棟見える。大学の横には学生食堂と購買室の入った大学会館。大学の正門近くには、
他の建物よりきれいな作りの大学本部棟。大学の裏手には広い草地が広がっていた。
飛行機械の実験をしたのもこの草地だった。
「ニルナ魔術大学か。こうしてみるのは初めてだ……」
上空から大学を見る機会はまずないだろう。先日飛んだ時は、制御に手一杯で周囲を気
にする余裕はなかった。
『マスター、もっと上まで飛んでみる?』
ミィが真上を見上げた。
青い空と白い雲、そして太陽。
視覚しか分からないのだが、何故か強い風も見て取れる。視界の中で空気が動いている
のが分かった。人間に風を見るのは無理だが、妖精なら可能なのだろう。それを証明する
ように、ミィの前髪が大きくなびいているのが分かる。
カイムは右手を伸ばして、ベッドテーブルに転がった鉛筆を掴んだ。
『大丈夫なのか? 風強いみたいだけど。いや、今まで気にしたことないけど、妖精ってど
れくらいまで飛べるんだ? 口ぶりからするともっと行けそうだけど』
『わたしもよく知らない。でも、やろうと思えば、どこまでも飛べると思うよ』
ミィが気楽に答えてくる。
辺りを見回してから、適当に移動を始めた。それほど苦労することなく飛んでいく。体格
比で考えてもかなりの強風のはずだが、意に介すこともない。
「これは、意外と役に立つかもしれない」
そう呟いてから、カイムは広げたノートに今の様子を書いていく。今まで気にしていなかっ
たが、飛ぶという感覚は何かの参考になるだろう。
カイムは続けて話しかけた。
『ミィ、好きに飛んでみてくれ』
『うん。分かった』
頷いてから、ミィは再び急降下する。
以上です
コテ間違え失礼しました。
続きはそのうち。
カイムとミィの人来てたー
久しぶりのミィかわいくてGJです
鈴音とミィは書き手同じだけどな
投下します
>>63-67の続き
「終わった……」
カイムは鉛筆を置いた。外を見ると、もう夜である。
ミィが飛んでいる様子を参考に、飛行機械の改造案をノートにまとめていたのだ。これ
で、飛行の柔軟性をいくらか上げられるだろう。
ふと目を移すと、勉強机の上でミィが退屈そうに両足を広げていた。傍らに置いた小瓶
から角砂糖を取り出して囓っている。靴は脱いであり、机の上に並べて置いてあった。
カイムの様子に気づき、赤い瞳を向けてくる。
「終わったの?」
「何とか」
手を振りながら、カイムは笑った。
ミィは持っていた角砂糖を全て口に入れてから瓶の蓋を閉める。その場に立ち上がり、
羽を広げて飛び上がった。身体の動きにあわせて揺れる裾と赤い髪の毛。
空中を滑るように飛んでから、ベッドテーブルに降りる。
「なら、これから少し遊ぼうよ」
楽しそうに微笑みながら、上目遣いに見上げてきた。何かを含んだ口調。いつもとは
少し違った雰囲気に、カイムは眉根を寄せる。
「遊ぶって……。オセロでもするか?」
「マスター。わたしの掛けた魔法、まだ解いてないでしょ?」
と右手を動かす。
ミィが使った魔法。自分の感覚をカイムに差し出す魔法。ミィが部屋に戻ってきた時に
は、レポートをまとめることに熱中していて解除するのを忘れていた。単純に無視してい
るだけで、今もミィの感覚は微妙に伝わっている。
ミィは妖しく微笑みながら、
「わたしの身体自由にしてみない?」
「………」
カイムは無言のまま、人差し指でミィの足を払った。
「きゃぅ」
あっさりとテーブルに倒れるミィ。その腰辺りに指を置いて、動けないように固定する。
じたばたともがいているが、脱出することはできない。魔力を使って動かれると面倒だが、
魔法での筋力強化はすぐにはできないらしい。
「やっぱり、こないだの一件で何か目覚めちゃったのかな? 妖精ってそういうことには
あんまり興味無いと思ってたんだけど……」
呆れ半分でカイムはそう訊いてみた。
ミィは暴れるのをやめて、気恥ずかしそうに答える。
「わたしも年頃の女の子だから、興味無いって言えば嘘だよ」
「……年頃、なのかな?」
押さえつけたミィを見つめる。実際体付きや言動も子供のそれなので、今まで妖精の
子供として見ていた。本人はカイムよりも長く生きていると言っているが。
カイムが手を放すと、ミィはその場に起き上がる。四枚の羽をぴんと伸ばしながら胸を
張り、自分の胸に右手を当てた。得意げに断言する。
「うん。わたしって四人姉妹の次女だから」
「答えになってないって」
額を撫でながら、カイムは呻いた。姉妹がいるというのは初耳である。姉妹のことは気
になったが、妖精は自分のことをほとんど話さないので、無追求することもないだろう。
吐き出した分の息を吸ってから、右手を持ち上げる。
「でも、ミィがそう言うならいいかな」
「え?」
瞬きしてから見つめてくるミィ。
自分から言い出しても、実際に頷かれると戸惑うのは変わらない。本人も半分以上は
好奇心で口にしているのだろう。かといって、カイム自身に止める気もない。
両手に魔力を集め、ミィの作った魔法式へと流し込む。
「え……?」
虚を突かれた表情のまま、ミィがその場に崩れるように腰を落とした。膝が曲がりその
場に座り込んだまま、両手を力なく下ろしている。糸の切れた操り人形のような様子。思
うように身体が動かないようだった。
「何したの、マスター」
「魔法式を介して、ミィの身体を動けなくしてみた」
言いながら、ミィの身体を左手で持ち上げてみる。手の平にうつ伏せになった、軽く小
さな身体。手足からは力が抜けて、身体を起こすこともできない。赤い髪が少し肩から流
れるように落ちる。緑のワンピースを透過している二対の透明な羽。
「動けなくって……」
困ったようなミィの呟き。
魔法式を介して魔力と情報を逆流させ、ミィの四肢の動きに干渉し、動かすという情報
を遮断したのだ。ただ、普通にできることではない。
「技術型の精密魔術は得意だから」
笑いながらそう答え、カイムはそっと右上の羽に触れた。
「ん」
ミィの口からか細い息が漏れる。
指先に触れる薄紙のような透明な羽。その縁を指で優しく撫でる。
「んっ……」
動かない手足を動かそうするミィ。しかし、意志とは対照的に手足は動かない。辛うじ
て動く身体をもぞもぞと動かすだけだった。微かに羽が震えている。
「やっぱり、ミィの羽は手触りいいな」
羽の縁を撫でながら、カイムはそう笑った。縁をなぞる指先から、手を通り腕へと抜け
ていく痺れ。いつまで触っていても飽きない手触りである。
「マスター……。駄目……」
ぴくりと身体を強張らせながら、ミィが言ってきた。頬がうっすらと上気しているのが見
える。呼吸も少し乱れているようだった。
「誘ったのはミィなんだから、文句言わないの」
そう告げてから、カイムは人差し指でミィの頭に触れた。緑色の三角帽子の上から頭
を優しく撫でる。ミィが不服そうにしているのが分かった。それでも、露骨に拒否の態度
は示してない。示さないというよりも、示せないのだろう。
頭から指を放し、カイムは透明な羽を人差し指と親指で摘む。
「ひぅ!」
引きつった声とともに、ミィの身体が小さく跳ねた。
だが、気にせずカイムはミィの羽を指で撫でる。柔らかく滑らかで、適度に硬さを持っ
た薄い羽。いくら触っていても飽きない。妖精の羽はこの世で最も手触りのよいもののひ
とつに上げられるらしい。
どこかに書いてあったその言葉も納得できる。
「んん……ふぁ……」
ミィの口から漏れる甘い吐息。
ぴくぴくと小さく身体を跳ねさせながら、もぞもぞと身体を動かしていた。しかし、手足は
動かせないので、胴体をくねらせるだけ。
カイムは四枚の羽を順番に撫でていく。
「うぅぅ」
指の動きに合わせ、ミィが切なげな声を漏らした。
妖精の羽は高密度の魔力が具現化したもので、実際の物質ではない。だが感覚は通っ
ていて、かなり敏感な部分でもあった。そのため、他人に触られるのを極端に嫌がる。
そして、逆に信頼の証として羽を触らせることもある。
カイムも何度かミィの了承を得て、羽を触ったことがあった。
だが、今回のように無遠慮に触るのは初めてだろう。
羽の根元を優しく揉みながら、カイムは尋ねる。
「どうだ、ミィ?」
「うー。くすぐったいよ……」
頬を赤くしたまま、ミィが小声で答えてきた。
だが、くすぐったいだけではないのは明らかである。頬が赤く染まり、呼吸も乱れてい
る。赤い瞳の焦点も定まっていない。凍えたように身体も震えていた。だが、寒いわけで
はないだろう。赤い髪の毛先が、細かく揺れている。
カイムは羽を撫でるのを止め、羽の間に指を触れさせた。
「……!」
ミィの動きが止り、赤い瞳を大きく見開く。
そのまま、カイムは羽の間を撫でるように指を動かした。指先に感じるのは小さな人形
のような背中と、緑色のワンピースの柔らかな生地の手触り。
「あぅぅ……ますたぁ、そこはやめてぇ……」
力の抜けた声音で、ミィが泣きそうな声を上げる。
羽の付け根の間は、魔力の羽を作り出す部分であり、妖精にとっては急所のような場
所らしい。そこを軽く撫でられるだけで、身体から力が抜けてしまう。事実、ミィの身体に
は全く力が入っていない。
カイムは緩急を付けながら指を動かす。軽く押すように。
「んんっ――うぅ、あぅ……。だめ、だめっ……」
ミィの口から漏れる必死な声音。震えて擦れている。
神経を奔る痺れに耐えようとするも、身体を強張らせることもできない。脱力した身体
が、羽の付け根から全身に広がる刺激に小さく跳ねている。口元からはうっすらと涎が
垂れていた。羽も時折弾けるように動いている。
しかし、それらを気にすることなく、カイムは羽と付け根を交互に攻めていた。敏感な部
分を無防備なまま弄られ、ミィは終点へと上り詰めていく。
そして、何かに耐えるようにきつく目を閉じた。
「あっ、ふあぁ――! マスタァ……んんッ!」
呼吸を止め、言葉を飲み込み、ミィは小さな身体を大きく跳ねさせる。四枚の羽がぴん
と立ち、仰け反るように背筋が伸びて、顎が弾かれるように持ち上がった。動かない手
足を数回痙攣させてから、再びゆっくりと脱力する。
そのまま深い呼吸をしているミィ。
カイムは指を放し、人差し指でそっと頭を撫でた。
「羽弄られただけで、軽くイっちゃった?」
「マスターのエッチ……」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、ミィが言い返してくる。さすがに、羽だけで達すると
は思わなかった。ミィの身体はカイムの想像以上に敏感なようである。これを開発されて
いると表現する自信はない。
「でも、誘ったのはミィなんだから、最後まで付き合って貰うよ」
そう笑いながら、カイムはミィを自分の手の平に座らせた。
以上です。
続きは週末を予定しています
保守
投下します
両足を伸ばしたまま、左手の平に座っているミィ。
「マスター……」
赤い瞳に不安と期待の光を灯したまま、見つめてくる。
嗜虐的な感情をそそる眼差しに、カイムは軽く自分の舌を嘗めた。
前触れもなく、ミィの両足が動いた。
「え?」
突然のことに、驚きの声を漏らす。両足を少し左右に開き、膝を曲げる。だが、その両
足は自分の意志で動かしたわけではない。さらに、両手が勝手に動き、緑色のワンピー
スの裾を持ち上げてみせた。
「結構上手く行くものだな」
両足を開き、両手でワンピースの裾をたくし上げているミィ。隠すものもなく、白いショー
ツに覆われた大事な所が丸見えになっていた。
生地の表面が薄く湿っているのが分かる。
顔を赤くしたまま、ミィが口を動かした。
「マスター、これって……」
「ミィの作った魔法式を介して、ぼくが手足を動かしているんだよ。ミィが自分の右手のを
僕に差し出したのを、魔術でちょっと強引に身体全体に広げてるだけだけど。それ、解
除すれば自由に動けると思うよ」
「むぅぅ……」
カイムの言葉に不服げに喉を鳴らすだけで、ミィは魔法式を解除しようとはしなかった。
解除できないわけではない。自分で作った仲介の魔法である。いつでも任意で解除でき
るような魔法式ではあるが、解除はしない。
ミィは顔を赤くしたまま、両目を瞑り、顔を逸らす。
その反応を肯定と受け取り、カイムはそっと右手を伸ばした。広げられた両足の間に
指先を差し込み、そっとショーツの上から大事なところを撫でる。
「んっ……」
微かに漏れる甘い吐息、小さく震える身体。
カイムは左手の指を折り曲げ、ミィの身体を後ろに預ける。
うっすらと湿ったショーツの生地の上から、カイムは優しく人差し指を動かした。力を入
れすぎると壊れてしまいそうな、小さな妖精の身体。本人の話では見かけ以上に頑丈ら
しいが、あまり無理はできない。
「んんっ、ふぁ」
抑えきれない切なげな声とともに、ミィが身体に力を入れる。小さな白い生地に感じて
いた湿り気が、徐々に大きくなっていくように感じた。
「ちょっと試してみるか……?」
そう自問してから、カイムは指を放す。
肩の力を抜くミィを眺めながら、右手の指を空中へと奔らせる。
文字による魔術の構成。それは少し特殊なものだった。作り出された魔術の術式が、
魔法式を介してミィの身体へと流れ込んでいく。
「―――? マスター、何する、つもり?」
空中に画かれた文字に右手をかざし、カイムは右目を閉じた。
と同時に、暗くなった視界に移るミィの眺める景色。大きな手の平に座ったまま、カイ
ムを眺めている。その風景は、ミィの作った魔法式を使ったものよりも鮮明だった。
「まあ、技術的な面で興味があってね」
言いながら、魔術式に命令を送る。
ミィの小さな両手が、自分のものではないように動いていた。ワンピースの裾を放して
から、動きを確かめるように両手を開いたり閉じたりしている。開いていた足も閉じて、カ
イムの手の平の上に腰掛けた状態になった。
右手の指が赤い髪を梳いている。
「マスター、これって……?」
「ぼくの指じゃ上手くミィを弄れないから、自分で弄って貰おうと思って。遠隔操作の魔術
の複雑な応用……結構なんとかなるものだよ」
笑いながら告げてから、カイムは魔法式を介してミィの両手を動かした。小さな両手を
動かし、緑色のワンピースの上から自分の胸に触れる。手の平が微かな柔らかさを感じ
るのが分かった。ミィの手の感覚もある程度自分に還元することができる。
「あ……」
両手が自分の胸を撫でるを眺めながら、ミィが気の抜けた声を漏らした。反射的に眼
を逸らそうとするが、術式を介してそれを押さえ込む。視線を逸らされてはミィの手の動
きを見ることができない。
「んん、っ。何だか、身体が、ふわふわする……」
戸惑ったように、ミィが笑っていた。カイムの指では膨らんでいることが分かるだけだが、
ミィの手を介してみるとそれなりの膨らみであることが分かる。そして、服の上からでも分
かる胸の先の小さな突起。
ミィの両手が胸から離れた。緑色のワンピースの縁を掴んでから、そのまま両腕を持
ち上げる。脱ぎ捨てられたワンピースがベッドテーブルに音もなく落ちた。一緒に外れた
三角帽子も、ワンピースの上に落ちる。
「マスター……」
上半身裸になったミィ。見た目通り子供のような体型で、身体の線自体も細い。それで
も、女の子特有の身体の丸みは見て取れる。透き通った白い肌と、微かに膨らんだ両
胸。それは人間とは違う美しさだった。
ミィの両手が自分の胸を撫でる。
「あぅ――!」
背筋を走った寒気に身をすくめるものの、手は止ることなく自分の胸の先端に伸びる。
桜色の小さな突起を、両手の指先で転がすように刺激し始めた。
「あっ、ふぁ、マスター。んんんっ、胸がピリピリする。何これ……」
胸から背筋を通り、全身へと広がっていく痺れ。それは、カイムの指では与えることの
できない快感だった。ミィ本人にとっても初めてのものだとう。
「うんン……」
「自分で触るのと、ぼくが触るのと、どっちがいい?」
背中を丸めるミィを見つめながら、カイムはそう尋ねる。そうしている間も、ミィの手は
自分で胸を弄り続けていた。乳首を触りながら、胸全体を優しく撫でている。
ミィは小さく首を振ってから、
「分かんないよぉ」
「そうだろうな」
「ふぁ、それより、胸ばっかり」
四枚の羽を何度か跳ねさせながら、ミィが泣きそうな顔を向けてきた。両目にはうっす
らと涙が浮かんでいる。中途半端な刺激で苦しいのだろう。
嗜虐心を刺激するその表情に、カイムは一度喉を鳴らす。
「ああ。ごめん」
胸を触っていた手が下半身に伸びた。腰を少し持ち上げてから、三角形の白いショー
ツを脱ぎ捨てる。露わになる秘部、産毛も何も生えていないきれいな縦筋。
小さい布が狙ったようにワンピースの上に落ちた。
「あうぅ。マスター、恥ずかしい」
「なら魔法式を外せばいいじゃないか。簡単に外せるだろ?」
眼を逸らそうとするミィに、カイムはからかうように告げた。
「マスターのイジワル……」
怒ったように赤い瞳を向けてくるが。
その視線とは関係なく右手が動き、軽く秘部に触れた。
「ッ!」
背筋を軽く反らしながら、ミィは声にならない声を上げる。ぴんと伸びる透明な羽。カイ
ムが触ったことはあるが、こうして自分の手で触ったのは初めてなのだろう。
右手が細くきれいな秘裂を上下に撫でる。
「ひぁ、ああぁぁ……マスタぁ。何これ、あっ、何コレ……!」
上下に動く指に合わせて、ミィの身体が不規則に跳ねていた。両手両足が引きつり、
首が上下に揺れる。赤い髪が大きく動き、二対の羽も痙攣するように揺れていた。それ
は今までに味わったことのない直接的な快感なのだろう。
右手人差し指で縦筋をなぞりながら、左手の指で小さな淫核を優しくつつく。
「ひゃぅ! あぅ、んんッ! ふあぁっ!」
神経を貫く快感に、ミィが甘い悲鳴を上げていた。両目をきつく閉じ、背中を丸めて、
何度も小さく痙攣する。脳内に火花が散っているのだろう。小さな指で直接性感の中心
を触る――ミィの身体を動かしているからこそ可能なことだった。
「そろそろ、限界かな?」
そう呟いてから、カイムはミィの手の動きを変える。右手の中指で小さなすじを丁寧に
上下に撫でつつ、親指で軽く叩くように淫核を刺激した。同時に薄い胸の膨らみを包み
込むように左手を動かし、小さな乳首を指先で転がす。
「ふあッ! マスター、スゴいッ――! あッ、んんんッ、ふあぁああ!」
絶頂に上り詰めるまで、時間はかからなかった。
身体を二、三度大きく跳ねさせてから、ミィが大きく背筋を逸らす。筋肉が収縮して、手
足が意志とは関係無くぴんと伸びた。それとともに、身体の動きに介入していた魔術式
が壊れる。魔法式に繋いでいられる限度を越えたらしい。
十秒近く手足を硬直させてから、ミィは糸が切れたように脱力した。両手両足を力なく
下ろしたまま、荒い呼吸を繰り返している。
「どうだった、ミィ?」
両手で力の抜けた身体をそっと支え、カイムは尋ねた。自分の意志ではないとはいえ、
自分の手を使って自分を絶頂に導いたのである。ミィにとっては初めての自慰行為だ
っただろう。ついでに、カイムの魔術の練習にもなった。
しかし、ミィはどこか不満そうに見つめてくる。
「気持ちよかったけど……。やっぱり、マスターの手の方がいいな」
「その言葉に嘘は無いな?」
にっと微笑むカイムに、ミィは困惑するように目を泳がせる。
「えっと……」
だが、カイムは返答を聞くこともなく、ミィの身体を両手で掴んでいた。
親指を使って両足を開かせる。
一糸まとわぬ姿のまま、足を左右に広げたあられもない姿。頭のてっぺんからつま先
まで、隠す物は何もない。平坦な胸も、濡れた秘部も丸見えになっていた。
「うぁ、マスター……」
顔を真っ赤にしたまま、両手で隠そうとするが、両手もきっちり指で掴まれている。
カイムは気楽に笑いながら、ミィの身体をじっくりと眺めた。
「妖精ってやっぱりきれいだな」
「むー。そんなにじっと見ないでよ……」
怒ったよう言ってくるが、無視。自分の唇を一度嘗めてから、カイムはミィの身体に顔
を近づけた。子供のような身体を丹念に観察する。
ミィは不安げなままきょろきょろと周囲に視線を向けていた。
カイムは舌を出し、ミィの秘部を軽く嘗めた。
「ひゃぅ!」
突然の刺激にミィが細い悲鳴を上げる。
だが、構わずカイムはミィの秘部へと舌を這わせた。舌先で濡れた細い縦筋を上下に
撫でてから、その周囲へと舌の愛撫を向ける。味覚に感じる微かな塩気。
「ふぁあっ、マスタァ――。それは、駄目っ、駄目だよっ。んんっ、そんなところ、嘗めない
でぇ……ナメちゃダメっ、ッ。ふあッ、ひっ。あッ、あぁっ!」
唾液で濡れた舌が、ミィの太股から下腹部、お腹や胸、脇腹から脇の下まで、丁寧に
移動する。舌の表面に感じるミィの身体の形。舌での愛撫を続けながら、カイムは両手
を動かし、指で羽を摘んでいた。
「!」
快感に震える薄い四枚の羽を薬指と小指を使って攻めていく。ミィは何かを拒むように
首を左右に振った。赤い髪の毛が翻える。
「あふぁっ! 羽、はねは……ッ! マスター、駄目ッ――頭が熱いぃ。溶けそうッ。ああ
あッ……んッッッ! 待って待っテ、ふああッ! 羽は……!」
カイムの手の中で、ミィは甘く溶けた悲鳴を上げていた。身体を痙攣させながら、立て
続けに絶頂を迎えている。舌の動きと両手の動きに、ミィの反応。さながら、小さな楽器
を両手で演奏しているような錯覚を覚えた。
小さな身体を襲う快感に、ミィの意識が飛びかけている。
カイムは羽の付け根へと指を触れさせた。羽の付け根部分、妖精の急所。
「ふぁ……」
途端、今まで元気に動いていたミィから、糸が切れたように力が抜ける。まるで筋肉が
融けてしまったかのように。赤い瞳の焦点は既に定まっていない。それでも、ミィを嘗め
る舌の動きは変わらない。
カイムは羽の付け根を指先で擦った。
「ううぅ、ああぁぅ……ますたぁ、そこは駄目ぇ、駄目だよ……、ふぁっ、あぅぁ。やめてぇ、
ます、ますたぁ。んぁ、んぅ、身体が融け、ちゃうよぉ、んん……」
気の抜けた声音で、必死に言ってくる。
先程までの大きな反応は消えていた。だが、敏感な部分をまとめて攻められ、その快
感はさらに深く濃いものとなっていく。許容量の限界は越えているだろう。
「ますたぁ……。ふ、あっ、もう壊れる、かも……」
秘部からとめどなく溢れてくる液体を嘗めながら、カイムは指の動きを徐々に繋げてい
った。各部を攻めていた動きを連携させ、より深く強い快感を生み出していく。溶鉱のよ
うな快感が、ミィの体内を駆け抜けた。
「ああああッ! マスター! 駄目駄目、待ってッ! 熱い、熱いよォ。んんんんッ! ひッ、
ふぁッ、あああッ! わたし、わたシ、壊れちゃう!」
脱力した手足を細かく震わせるミィ。
だが、カイムは攻める動きを止めない。
「マスタァァ! あ、ふあっ、マスタァ、もう駄目駄目、ダメ……ぁ――!」
ミィの身体が大きく跳ねた。
それで限界と判断し、カイムは口と指を放す。
カイムの手の中で、ミィは両手両足を強張らせたまま、背筋を仰け反らせていた。光の
消えた瞳を虚空に向けたまま、爆ぜる快感に舌を突き出す。今までで最も大きな絶頂を
迎えたのだろう。
その体勢のまま、十数秒ほど小刻みに震えてから、脱力する。
両手の中で、ゆっくりと呼吸をしているミィ。光の消えた赤い瞳をどこへとなく向け、口
元からだらしなく涎を垂らしていた。
「――ァ、――アァ。マス、たあぁぁ……」
「大丈夫か?」
さすがに心配になって声を掛ける。
しかし、ミィは瞳に無理矢理光を灯し、カイムを見つめて力なく微笑んだ。
「大丈夫……」
「ねえ、マスター。どうだった?」
身体をハンカチで包んだミィが、ベッドテーブルから見上げてくる。三角帽子とワンピー
ス、ショーツは畳んであった。後で洗濯しておくべきだろう。
妖精だから、と言うべきだろうか。
ミィは気絶寸前まで行っても立ち直るのは早かった。
「どうって?」
苦笑いとともに訊き返す。
「わたしの身体、気持ちよかった?」
「と言われても、気持ちいいのはミィだけでしょ」
カイムは人差し指でミィの頭を撫でた。
ミィの身体を好き勝手弄っているとはいえ、それで気持ちよくなっているのはミィだけで
ある。カイム自身はこれといって快感を味わっているわけではなかった。
「そういえば……」
指で頬をかきながら、ミィは頷く。
「でも、ミィはどうなんだ? 結構無理してると思うけど」
ミィの乱れる様子を思い返しながら、カイムは尋ねてみた。本来なら適当な所で留めて
おくべきなのだろう。だが、カイムも自制心が維持できず、ミィが壊れるかと思うほど強く
攻めてしまう。
しかし、ミィは気楽に笑ってみせた。
「わたし、こう見えても丈夫だから。壊れるくらい弄って貰わないと歯応えないよ。だから、
マスターも遠慮しないでね?」
と、ウインク。
ため息をついてから、カイムは額を押さえた。変なことに興味を持ってしまったとは思っ
ていたが、どうやらもう戻れない所まで来てしまったらしい。
「分かったよ。じゃあ、今度からぼくに弄って欲しい時はそう言ってくれ。壊れるって思うく
らい可愛がってあげるよ。もう矯正するの無理そうだしね……」
「ふふ……」
その台詞に、ミィは満足そうに笑う。
そして、身体に巻き付けていたハンカチを外した。一糸まとわぬ姿のまま、羽を動かし
飛び上がる。細くきれいな子供のような身体が、カイムの目の高さまで移動した。
赤い髪と赤い瞳。華奢な手足と、透き通った白い肌。凹凸の少ない子供のような身体
だが、微かに胸は膨らんでいる。秘部には産毛も生えていない。背中には微かな赤みを
帯びた透明な四枚の羽が生えている。精巧な人形を思わせる、妖精の身体。
「ねぇ、マスター。わたしの事好き?」
両手を広げて、唐突にそんなことを言ってくる。どういう意味で言っているのかは分か
らない。楽しそうな光を灯した赤い瞳から、考えを読むことはできなかった。
「いきなり何を? 好きって言われれば、好きだけど」
曖昧にそう答える。気の利いた答えではないという自覚はあった。こういう時に的確な
答えを返せるほど、カイムは場慣れしているわけでもない。
しかし、ミィはその返答を気にすることもなく、
「わたしは、マスターのこと大好きだから」
笑顔でそう言い切り、カイムの唇に自分の唇を軽く触れさせた。
「え?」
思わず瞬きをするカイム。そっと自分の唇を撫でる。それがキスという行為であるとい
うことが分からなかったわけではない。それでも、戸惑いは隠せなかった。
もっとも、ミィにとってはその困惑も予想内だったのだろう。
「ありがと、マスター」
そう言ってから、屈託無く笑ってみせた。
以上です。
乙です.楽しく読ませていただきました
>前編
ミィ視点の展開が新鮮で良かったです.ニンゲン同士でもそうだけど,
同じものでも見え方が随分と違うんだろうな,ってのが感じられて
それ以前に,見てる物自体随分違ってそうで
>中,後編
アンマァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁイ
この甘々っぷりをぜひ続けていただきたい
>「わたしは、マスターのこと大好きだから」
うわああああああああああああああああああ
俺も言われてええええええ
保守
昔いた書き手は今どこで何をしているんだろう?
91 :
一尺三寸福ノ神:2009/09/03(木) 22:40:44 ID:PpOR0p2C
投下します
22話 鈴音の厄払い
閉じられたカーテンを眺めながら、一樹は喉を押えた。
ベッドに腰を下ろしたまま、体温計を腋に挟んでいる。喉の腫れと痛みはほとんど引い
ているし、頭痛や倦怠感もほとんど消えていた。医療用の薬は効果が強い。
傍らに座った鈴音が見上げてくる。
「元気になったのですか? 一樹サマ」
「病院から帰ってから一日ずっと寝てたし、だいぶ良くなったよ。医者で貰った薬も効い
てるし、もう大丈夫だよ」
一息ついてから、一樹は笑った。軽く鈴音の頭を撫でる。いつもと変わらぬ柔らかな黒
髪。特に手入れをしている様子はないが、髪質は変わらない。
「それはよかったのです」
安心したように、鈴音が息を吐き出す。朝から随分と心配していたのだ。
ピピピ、という音に、一樹は腋に挟んでいた体温計を見る。36.7℃
「ほぼ平熱。明日は大学行けそうだ。思ったよりも早く治った」
体温計をケースにしまい、ベッドの小物入れに置く。このまま一晩寝れば、元通りに回
復しているだろう。ただ、普段よりも回復が早いように思える。
すっとその場に立ち上がり、鈴音が静かに口を動かした。
「やはり、ワタシの厄払いの舞が効いたのです」
「厄払いの舞?」
普通に意味が分からず訊き返す。
「そうなのです。一樹サマが眠っている間に、ワタシが一生懸命踊っていたのです」
得意げに胸に手を当て、鈴音が宣言した。
一樹は眼鏡を動かしてから、視線を持ち上げる。白い天井と蛍光灯。十秒ほど考えて
みたが、よく分からなかった。鈴音に目を戻し、
「どういうの、それ?」
「よくぞ訊いてくれたのです」
得意げに答えてから、鈴音はベッドから飛び降り、床を駆け抜け、パソコンデスクへと
跳び上がった。いつもながら小動物的な身軽さである。
机の上に仁王立ちしたまま、鈴音は白衣の左袖に手を入れ、一本の棒を取り出した。
二十センチくらいの細い木の棒に、折った紙――神垂を四枚貼り付けたものである。神
社でお払いなどに使われる、祓串だった。
袖に収まるようなものではないが、何らかの方法で収納していたらしい。
「払いたまえ〜、清めたまえ〜。病よどこかへ飛んでゆくのです〜」
神妙な面持ちでそんなことを口にしながら、踊るように身体を動かし、祓串を左右に振
っている。足の動きに合わせて、朱袴の裾が跳ねていた。胸元で揺れるお守り。
神楽に似ているものの、神秘さは感じられない。子供のお遊戯を思わせる。
「それが厄払いの舞?」
「そうなのです」
一樹の問いに踊りを止め、鈴音は重々しく頷いた。祓串を持ったまま両手を腰に当て、
得意げに背筋を伸ばしている。
「一樹サマが眠っている間に頑張ってお祈りしていたのです」
祓串を真上に掲げ、そう告げた。神垂が微かに紙擦れの音を立てる。
何と言うべきか迷ってから、一樹は思ったことを率直に尋ねた。
「それって効果あるの? 病気を治すような術は使えないって言ってたと思うけど」
午前中に鈴音を連れて病院に行った時に、病気を治すような難しい術は使えないとこ
ぼしていた。厳密には少し違うが、言っていることは同じだろう。
鈴音は祓串を袖にしまいながら、
「これは穢れを払って清浄を呼び込む舞いなのです。病気を治す力は無いのですけど、
多分一樹サマが元気になる手助けになると思ったからやってみたのです」
「それは、ありがとう」
一樹は軽く頭を下げて礼を言った。
今回の風邪は治りが早いのは事実である。病院の薬が効いたのかもしれないし、鈴
音の舞いが効いたのかもしれない。どちらにしろ、鈴音の好意はありがたかった。
「福の神として当たり前のことなのです」
大きく頷く鈴音。その口元は自慢げな微笑みを見せている。最近は福の神としての力
を使っていなかったので、久しぶりに自分の力を見せられて嬉しいのだろう。
一樹はこっそりと苦笑してから、時計を見る。午後九時過ぎ。
「そろそろ寝た方がいいかな?」
「もうお休みの時間なのですか?」
不思議そうに首を傾げる鈴音。九時過ぎに寝ることはまずない。疲れている時は九時
前に寝てしまうこともあるが、鈴音が来てから早寝するのは今日が初めてだった。
一樹は一度背伸びをしてから、
「体調悪い時は早く寝るものだよ。昼間ずっと寝てたけど、寝る気になれば寝られるもの
だから。もう寝る」
「そうなのですか。確かに、早寝早起きは身体にいいのです」
納得したように首を動かし、鈴音は机から飛び降りた。フローリングの上に着地してか
ら、早足に部屋を横切り、草履を脱いでベッドに跳び上がる。
「では、一緒に寝るのです」
両手を持ち上げながら鈴音が言ってきた。抱き上げてほしいという合図。
鈴音が自分の所に来てから、そろそろ一ヶ月が経つ。その間、夜はずっと一樹と一緒
に寝ていた。ほとんど抱き枕のような状態であるが。
一樹は鈴音を右手で抱き上げた。人形のように軽い身体でありながら、ちゃんと生き
物特有の柔らかさと暖かさを持っている。
鈴音を抱きかかえたまま、一樹は布団へと潜り込んだ。
「そういえば、鈴音って自分用の布団とか欲しいと思わない?」
一樹の問いかけに、鈴音は少し考えるような仕草を見せた。左手で前髪を軽く払って
から、枕代わりにしている一樹の右腕に触れる。微かに頬を赤くしたまま、
「ワタシは一樹サマと一緒に寝るのがいいのです」
「そか。ありがと」
一樹は軽く鈴音の頭を撫でた。
以上です
GJ今回もお腹いっぱいご馳走様でした
このスレのSS
凄く良いと思う
面白いな
保守
職人さん乙!
101 :
1:2009/09/12(土) 23:44:12 ID:M3IWI1Xq
鈴音の続き書かないとな〜
103 :
92:2009/09/16(水) 23:37:15 ID:he0aOCUD
104 :
i:2009/09/17(木) 20:11:29 ID:Oc6GYvbv
ここの作品収録してるとこありますか?
過去作品も読みたいのです
>>105 福の神の作者は自サイト持ってるから見れるけど
他は無理っぽい
モリタポ買って過去ログ読むとか
一応datでログあるが…
発端の角煮の方のは消しちゃったな…
残念だ…
ここの最初のスレ(エロパロで)って続き物以外にも単発で色々あったよな?
そのあたりが読みたかった…
109 :
107:2009/09/22(火) 09:28:42 ID:OjXA0t2d
>108
わかった がんばってみる
>105
>108
DL:スレタイ
解:スレタイ
削除期限:9/28
斧 ヘリウム 244840
本当にDLがスレタイだった。
びっくりした…
福の神続き来ないかな?
・<職人さんたちが来るまで保守させていただきます
>>114 ツンツンナデナデプニプニモニュモニュ>ニア・
保
く?
>?
)
| ゙̄ヽ
|リMリリ ?
|゚ ヮ゚ノil
とl´ |
|=l_ノ
|:/
作者乙
絵師さんGJ
わお!イラストとか久しぶりだぜ!
妖精に羽はついてるのとついてないのがあるけどティンカーベルのイメージが強くてな
・
お久しぶりです。
投下します
23話 不運が作った幸運?
「やあ、一樹くん」
その声は突然だった。
鈴音を抱えたまま道を歩いている時である。晩秋の夕刻前、大学からの帰り道。人気
のない住宅街を歩いている最中、いきなり声をかけられた。
「はい?」
返事をしつつ一樹は振り返る。見覚えのあるような男がそこにいた。
年齢は三十歳ほどだろう。それなりに若いものの、そこはかとなく老けた雰囲気を漂わ
せている。少し伸ばした髪の毛は、灰色掛かった黒色――染めた色ではなく、地毛らし
い。しかし、他に変な部分はなく、格好は普通の背広だった。ネクタイは締めていない。
「いや、久しぶり。鈴音も元気そうだね」
気さくな口調で、一樹の抱えている鈴音に目を向ける。神である鈴音は自分から姿を
見せようとしない限り、普通の人間には見えない。だが、男には普通に見えるらしい。
反応に困り、一樹は間を取るように眼鏡を動かす。寒冷前線が通り過ぎた翌日、空は
晴れているが風は強い。
驚いたように、鈴音が男を見上げていた。
「ワタシのことが見えるのですか? あなた何者なのです――!」
「いや、作り主の事忘れないで欲しいな……」
苦笑しながら、男が頭をかく。
その台詞で、一樹も男が誰であるかを思い出した。
「いつだったかの酔っぱらいのおじさん」
「それも酷いよ……?」
男が声を少し強張らせる。
一ヶ月くらい前に一樹に鈴音の依代であるお守りを渡した男だった。あの時は夜遅く、
しかも前後不覚に泥酔していたので、今とは全く雰囲気が違う。だが、顔立ちなどはあ
の時の男と同じだった。
男はこほんと咳払いをしてから、胸を張るように背筋を伸ばした。
「私は山神の大前仙治。ちょっと用事でこっちに来たから、鈴音の様子でも見ようと思っ
てね。元気そうでなによりだ」
「なるほど……。あなた様がワタシの主様なのですね? 始めて知ったのです。ついでに、
思ってたよりも何だか頼りなさげなのです」
腕組みしたまま、鈴音がしたり顔で頷いている。頭のアホ毛が前後に揺れる。『主様』と
時々口にしていたが、今までその顔も知らなかったらしい。
それは予想外だったらしく、仙治は肩を落としている。
「ひとつ質問なんですけど」
「何?」
訊き返され、一樹は鈴音の頭に手を置いた。
「この子、本当に僕が貰っちゃっていいんですか? 鈴音のお守り貰った時から考えて
いたんですけど、こういう福の神って簡単に他人に渡していいんですか?」
「あんまりよくない……」
視線を逸らしつつ、仙治は小声で答える。
「ただ、渡しちゃったものは仕方ない。鈴音も君を新しい主人として認識してるし、それを
無理に書き換えるのは気が引ける。鈴音も嫌がるだろ」
「ワタシは一樹サマと一緒にいる方がいいのです」
仙治の言葉を肯定するように、鈴音が言い切った。自分の身体を抱えている一樹の腕
をしっかりと両手で掴み、強い意志の灯った眼差しを向けてくる。離れたくない、という感
情だった。思いの外懐かれているらしい。
「ありがと、鈴音」
背筋にむず痒いものを感じつつ、一樹は乾いた笑みを返した。
近くの電柱を革靴の先で軽く蹴りつつ、仙治が未練がましく呟いている。
「でも福の神は身近においておきたかったな。といっても、新しく作るわけにもいかないし。
材料も費用もないし……。諦めるしかなさそうだけど」
「作れるんですか?」
一樹が口にした率直に疑問に、仙治はこともなげに頷いた。
「作れるよ。材料さえあれば。特殊な式神制作方と言って分かるかな? 人工の神の作
り方ってのがある。できるのは、あくまで鈴音みたいなちんちくりんの最下級神だけど」
「うぁ、かなり失礼なこと言ってるのです!」
右腕を振り上げ仙治を指差しながら、鈴音が怒りの声を上げる。ちんちくりんの最下
級神。的確だが、かなり失礼な言い方だろう。
飛び出そうとする鈴音を両腕で押えつつ、一樹は続けて尋ねた。
「でも、何で福の神作ろうと思ったんです?」
「うーん、自分で言うのも何だけど、ボクって運が悪いんだよ。不幸を集める体質かなと
思って、近くに幸運を集める福の神置いておけば、不運も紛れるかと思ったんだけど、
そう上手くはいかないみたいだね」
肩を竦めてから、自嘲するように笑ってみせる。
(もしかして、いや――もしかしなくても……)
その姿を眺めながら、一樹の脳裏にひとつの考えが浮かんだ。口にするべきか黙って
いるべきか少し迷ってから、言うことにする。
「こんなこというのも何ですけど――」
そう前置きしてから、一樹は告げた。
「それって、普通に仙治さんに軽率な行動取る癖があるからじゃないでしょうか?」
ザクッ。
という音が聞こえた気がした。
右手で胸を押さえて仰け反る仙治。もしかしたら、自分の軽率さには自覚があったの
かもしれない。思った以上に衝撃を受けた様子だった。言葉が胸に突き刺さるというの
は、このような状態を言うのだろう。
小さくため息をついて、鈴音が続ける。
「ワタシが想像していたよりもお間抜けな主様なのです。こんな主様の下で働くよりも一
樹サマの所にいた方が安心してお仕事ができるのです」
ザグッ!
歯に衣着せぬ鈴音の台詞に、仙治はさらに仰け反った。足腰が砕け、そのままひっく
り返えりそうになった所で、近くの電柱を掴み辛うじて体勢を整える。
荒い呼吸とともに冷や汗を流しながら、仙治は唸った。
「なかなか、強敵だよ。君たちは」
何がですか?
そう思ったが、一樹は何も言わなかった。
以上です
続きはそのうち。
GJ
福の神が始まってそろそろ一年か
ほす
投下します
24話 必殺最終奥義炸裂
「あ。そうだ」
思い出したように仙治が頷き、背広の懐から封筒を一枚取り出した。長形4号の白い
封筒。宛名などは書かれていない。
それを一樹の前に差し出してくる。
「これ、君に渡そうと思ってたんだ。多分、近いうちに必要になると思うから」
「何です?」
封筒を受け取りながら、一樹は訊き返した。重さはさほどでもない。しかし、紙類が十
枚以上詰まっている感触がある。何か特別なものだろう。
鈴音をちらりと見てから、仙治は笑って見せた。
「それは秘密。でも、君が今思ったほど大したものじゃないし。中身見れば分かるよ。開
けるのは家に帰ってからにしてね」
「ところで主様」
挙手するように右手を持ち上げ、鈴音が声を上げた。黒い瞳に意志の光を灯しながら、
仙治を見つめている。
「ひとつお願いがあるのです。ワタシの身長を一センチ伸ばしてほしいのです。一人の
女の子として、四十センチくらいの身長は欲しいのです」
鈴音は以前から、自分の身長がほんの少し足りないことを気にしていた。一樹にはよ
く分からないが、乙女心らしい。その時に一樹が作り主に頼めば何とかなるのではと助
言したので、こうして頼んでいるのだろう。
「それは無理」
返答は簡潔していた。
「身体を作るってのは、色々と行程が必要となるから今から体格を弄るのは無理。一度
身体の構成をバラバラにしないといけないからね」
「むぅ」
仙治の解説に、鈴音が肩を落とす。
どのような事が行われるかは分からないが、その手間は簡単に想像できた。一樹は
封筒を上着のポケットにしまい、慰めるように鈴音の頭を撫でる。
そして、仙治はあっさりと付け足した。
「それに、ちょっと背丈が足りない女の子って可愛いと思わない?」
「とう!」
一樹の腕から素早く身体を引き抜き、抱えていた腕を蹴って鈴音が跳び上がる。長い
黒髪をなびかせ、白衣と朱袴をはためかせながら、空中を舞った。首から提げたお守り
が胸元で揺れている。
「仙治さん、やっぱり言動が軽率ですよ……」
声に出さずに、一樹はそう告げた。
振り抜かれた鈴音の足を、仙治はあっさりと躱して見せた。攻撃は素早いものの、い
つ来るかが非常に分かりやすいので、避けるのはそう難しいことでもない。
「はは、それじゃ当たらないよ」
「まだまだなのです!」
何もない空間を蹴り抜き、鈴音は空中で身体の前後を入れ替える。
ふと、一樹は風に拭かれて転がってくる広告用紙を見つけた。
(まさか、ね)
鈴音は電柱に両足を突き、再び跳躍する。普段からそのすばしっこさは見ていたが、
今まで思っていた以上に機動性能は高いようだった。
「凄いなぁ」
素直に感心しながら、一樹のいる方へと転がってくる広告を見つめる。
鈴音の蹴りを再び躱しながら、仙治は後ろへと下がった。まるで狙ったように、その足
下へと滑り込んでくる広告。このままなら踏むだろう。
しかし、仙治は素早く右足を引いて見せる。
「甘い――ッ!」
グキ、という音が聞こえたような気がした。無理に足の位置をずらしてたせいで、足首
を思い切り捻っている。余裕だった笑顔が凍り付き、額に脂汗が滲んだ。
そこに塀を蹴って方向転換した鈴音が飛びかかる。両手で印を結びながら、
「乙女の怒り! 禍福精算なのです!」
振り抜かれた右手が、仙治の顔面に炸裂した。強烈な張り手。といっても、元々ぬい
ぐるみくらいの重さしかない鈴音に叩かれても痛くはないだろう。
仙治を叩いた反動を利用し、一樹の右肩に器用に着地する鈴音。両足を少し広げて
バランスを取りながら、倒れないように左手を頭に置く。
「勝ったのです」
ふらりと後ろに傾く仙治。バランスを崩したまま落とした左足の真下に、さきほどの広
告が滑り込んだ。風のイタズラだろうが、まるで狙ったように。
広告で足を滑らせ、仙治は横に転倒し――
ゴッ。
電柱に頭をぶつけた。風に吹かれて流れていく広告。
頭を押さえ、仙治が跳ねるように身体を起こす。だが、今度は挫いた左足を地面に付
け、バランスを崩していた。そして、顔面からブロック塀に激突する。
「痛そう……」
「凄く痛いよ……」
一樹の呟きに、仙治は頭と顔を押さえながら涙声で呟いた。鼻の穴から音もなく血が
流れ出ている。さきほどまでの余裕はどこへやら、ほんの数秒でボロボロだった。
「忌術・禍福精算――ワタシが今まで福の神として使ってきた幸運の反動を全部叩き付
ける禁断の必殺技なのです。これで主様はしばらく不幸の絶頂なのです。これは乙女心
を踏みにじった天罰なのですッ!」
右手で仙治を指差しながら、一樹の肩の上で鈴音は断言した。話を聞く限り、かなり
酷い術のようである。さらに低確率のことを起こした反動というのもほとんど無いのだろ
う。仙治の運の悪さを考えると、その効果は想像に難くない。
仙治は何とも言えぬまなざしで鈴音を見つめてから、
「じゃ、帰るか……」
何も言い返さぬま、仙治は踵を返した。言い返す気力も無いのだろう。挫いた足を引
きずるように、歩いていく。さきほどまで元気だった背中が、陰っていた。
「生きて帰って下さい」
一樹は、静かに言葉を贈る。
以上です。
続きはそのうち
GOOD JOB!
gj!
仙治さんがミドリのときの副会長ポジションかと思うと
あんまりの落差がヒドスー
身長があると色々想像できていいなぁ 前のイラストも良かったし
一樹が貰った封筒の中身は何だろう?
・<保守するぞ!
取扱説明書とか
一時的に小さくなる薬とミニサイズのコンドームとか…?
おや、こんな時間に扉を蹴ってるのはだれd(ry
小さくなっていい事をしようと思ったら、鈴音より小さくなってしまった一樹
大したものじゃなくて中身見れば分かるもの、ねぇ
ほしゅぅ
投下します
25話 厄が現れる時
福神は本来厄神と対である存在であり、お互いに作り出す運勢の歪みを中和している。
しかし、鈴音は対になる厄神で存在せず、自分自身に歪みを蓄積してしまう。そこで、
ひとつの身体に福神と厄神両方の特性を組み込む荒技を取った。
そして、時折厄神の特性が表に現れるらしい。
仙治からの手紙に書かれていたのはおおむねそんな内容である。
「それが、今か……」
ベッドの掛け布団の上にうつ伏せになった鈴音を見ながら、一樹は眼鏡を動かした。
夜の八時過ぎ。帰って早々眠いと言って布団に突っ伏し、鈴音は今までずっと眠ってい
る。普段の眠りとは様子が違うのは明らかだった。
椅子に座ったまま、一樹は机に目を向けた。『厄封じ』と書かれた札が十枚。封筒に手
紙と一緒に入っていたものである。厄神の力から身を守るためのもので、使い終わった
ら自分宛に送るようにと住所が書かれていた。
机の上にはワンカップ酒、ベッドの横には雑用箱と大きな辞書三冊。一応これから起
こるだろうことへの準備はしてある。
「ん――」
鈴音が小さく声を漏らし、両手を突いて上半身を起こした。
寝ぼけた表情のまま、一樹に目を向ける。その瞳が、赤い。黒かった瞳は、鮮やかな
真紅に染まっていた。そして、きれいな黒色の髪から色が抜け始める。目に見える速度
で色を失っていく髪。ほんの数秒で、黒髪が白髪……いや、銀髪へと変わっていた。も
みあげの髪飾りも白色から赤色に変わっている。
「どういう仕組みだろう?」
その変化に、一樹は思わず声を漏らした。
変化はまだ終わらない。その場に立ち上がる鈴音。朱色だった袴が、黒く染まっていく。
同時に、白衣が赤く染まり始めた。袖の根本に切り込みが入り、白衣と袖部分が分かれ
る。それらは、五秒も経たずに変化が終わっていた。
それだけではない。背丈が少し伸び、子供ぽかった顔立ちも、やや大人びいたものに
なる。おおむね平坦だった体付きも、凹凸のはっきりしたものに変化した。
「あー、随分と長かったのだ。ようやく、オレにも出番が回ってきたのだ」
背伸びをするように両腕を伸ばして、鈴音がそんな事を口にする。声は変わっていな
いが、口調は少し荒っぽいものいなっていた。
袖から赤い布を取り出し、髪の毛を結い上げる。
「これでヨシなのだ。うん」
満足げに頷いてから、一樹へと向き直った。
見た目十代後半の人形のような少女。鈴音より少し背が高く、スタイルもよい。赤い布
で縛ったポニーテイルの銀髪、真紅の瞳に写る強気な意志。口元には不敵な薄い笑み
を浮かべている。赤い着物は、袖と胴部分が分かれ、隙間から白い襦袢が見えた。そし
て、黒い行灯袴。簡素な巫女服の鈴音と比べ、全体的に毒々しい印象になっている。
首から下げた『神霊』のお守りは変わっていない。
これが厄神としての姿なのだろう。
「さて、小森一樹。まずは自己紹介を。オレは厄ノ神の琴音なのだ。お前と顔を合わせ
て挨拶するのはこれが初めてなのだ。よろしく」
腕組みしつつ偉そうに言ってくる琴音。一樹のことはある程度知っているようだった。
人格自体は別人のようだが、鈴音とは記憶の共有をしているのかもしれない。
そんなことを考えながら、ポケットからゴムバンドを取り出す。
「さて、さっそくだが――。オレの災厄の餌食になりたくなかったら、オレの言うことを素
直に聞くのだ。安心するのだ、悪いようにはしないのだ」
目を細めながら不吉な笑みを向けてくる琴音に対し。
一樹は左手の親指を向けた。親指から伸びたゴムバンドを掴む右手。大きがある分、
輪ゴムよりも威力はかなり大きい。右手を放すと、勢いよくゴムバンドが発射された。
べち、と輪ゴムが琴音の足に命中する。
「………!」
その勢いと重さに、琴音は前のめりに倒れた。ポニーテイルの銀髪が跳ねる。事実上
足払いを食らったようなもの。倒れたのは布団の上なので痛くはないだろう。
一樹は琴音の元へと歩いていき、ベッド横の雑用箱を持ち上げる。
「いきなり何をするの――ンぉ!」
琴音がくぐもった悲鳴を上げる。背中に無造作に乗せられた木箱。一樹が使っている
雑用箱だった。主に工具類が入っているので、重さは五、六キロある。駄目押しに、分
厚い辞書を三冊乗せる。
「うぐぐぐ……!」
下が布団なので潰れることはない。琴音は両手をばたつかせて、必死に抜け出そうと
している。だが、赤い袖がぱたぱたと揺れるだけで、箱の下にある下半身を引き抜くこと
はできなかった。
ほどなく脱出は諦め、琴音が赤い瞳で睨み付けてくる。
「ええい、お前は何を考えているのだ! さっさとコレをどかすのだ!」
「駄目だよ。仙治さんからの手紙に、厄神は性格悪いから少し躾けるようにって書いて
あったから。けど、どうしたものかな? とりあえず、動けなくはしたけど」
ベッドに腰を下ろし、一樹は首を捻った。
「あの、アホオオカミはァ」
吠えるような声とともに、琴音が両拳でぽふぽふと布団を叩いている。腕の動きに合
わせて赤い袖が跳ねていた。基本的に従順な鈴音に対して、琴音はかなり反抗的だ。
手紙には適当な方法で一樹の方が立場が上であると分からせるようにと書かれてあっ
た。しかし、肝心の手段までは書かれていない。
一樹は眼鏡を取り、首を左右に動かしてから、眼鏡を戻す。
「確かに厄神だ……。これに言うこと聞かせるのは……まさに厄介」
「オレがお前の言うこと聞くことは無いのだ。だから、諦めてこの重りをどけるのだ」
左手で箱を指差しながら、琴音が叫ぶ。ひとまず動けなくしているが、重りをどけたら
好き勝手に動き出すだろう。鈴音並みのすばしっこさで動き回られたら、面倒だ。
「どけないというなら、こっちにも考えがあるのだ」
言うなり、右手の人差し指を一樹に向ける。
一樹は目を見開いた。福の神は任意で幸運を招くことができ、厄の神は任意で不運を
招くことができる。動けなくしても、完全に無害ではない。
「厄撃ち!」
琴音が声を上げるのと、一樹が厄封じの札を突き出すのは同時だった。
以上です
続きはそのうち
GJ
投下します
26話 琴音を躾ける
しん……
と、無音が訪れる。
人差し指を一樹に向けた琴音と、厄封じの札を突き出した一樹。
お互いに睨み合うこと数秒。
「あれ……?」
琴音は右手を引っ込め、自分の指を見つめた。銀色の眉を寄せながら、不思議そう
に右手を開いたり閉じたりしている。どうやら、失敗したらしい。
「おかしいのだ。厄が出ないのだ……。今までずっと鈴音が表に出てたから、かなり厄
が溜まってるはずなのに。何故なのだ?」
訝る琴音に、一樹は思ったことを告げた。
「その厄なら、多分鈴音が全部使っちゃったんじゃないか? えっと、禍福精算って術だっ
け? 昼に仙治さんに全部叩き付けてたと思うけど」
「………」
無言のまま、琴音が顔を向けてくる。赤い目を丸くして、口を半開きにした表情。難し
い問題の答えを教えられた時のような驚きの顔だった。
どうやら、一樹の推測は当たりらしい。
「あのポンコツ福ノ神はァアァ! 他人に厄を与えるのは厄ノ神の仕事なのに、何で福ノ
神が他人に厄を与えてるのだァ! しかも、全部」
両手で頭を抱え、琴音が騒いでいる。
微かに眉根を寄せ、一樹は天井を見上げた。仙治が鈴音を怒らせたのは、意図的な
ものだったのかもしれない。鈴音の溜めた厄を自分に全部使わせ、琴音の厄神として
の力を削るために。そんなことを考える。
ゆらりと、琴音は不吉な微笑みを浮かべた。再び右手を一樹に向けつつ、
「だがしかし……厄招きは普通にできるのだ」
その台詞を聞き流しつつ、一樹は持っていた厄封じの札を琴音の背中に押しつけた。
糊などは付いていないが、札はあっさりと琴音の背中に張り付く。
「え?」
琴音は右腕を布団に落とした。自分の身に何が起ったのか分からないんだろう。厄封
じの札を貼られると、厄神はしばらくまともに動けなくなるらしい。ただ、それで札は力を
失ってしまう。一種切り札のようなものだった。
「この札が……オレの力を奪っているのか?」
琴音は力の入らない手で背中の札を剥がそうとしている。しかし、札に触れるだけで
手から力が抜け、剥がすことはできずにいた。
「どうせお札使うなら、最初からこうしておけばよかった」
一樹は手早く琴音の上から辞書と箱をどかす。
「く、そっ」
重りが無くなっても、琴音は厄封じの札に阻まれて満足に動けないようだった。もっと
も、札の効力も無制限ではないので、急がなければならない。
一樹は雑用箱を開け、中から平紐を取り出した。糸巻きに巻き付けられた幅五ミリほ
どの白い紐。かなり丈夫なものである。
「小森一樹ッ、何する気なのだ……!」
一樹は琴音の両肩を掴み、その場に起こした。問いには答えず、琴音の両腕を掴み、
背中側に回してから、両前腕同士をしっかりと縛り上げる。これで、腕は動かせなくなっ
た。もう少し凝った縛り方をしたかったが、そこまでの技術はない。
続いて、両足の膝と足首を縛り上げる。
「これでよし」
一樹は琴音の背中に貼り付けていた札を剥がした。『厄封じ』という文字に被さるよう
に、×印が現れている。札の力を使い切ってしまったらしい。
「うがー、解けー、解くのだー!」
芋虫のようにうねりながら、琴音が赤い瞳で睨み付けてくる。縛った銀髪が暴れている
が、紐を引きちぎって動くほどの力はないようだった。
一樹は琴音の頭にぽんと左手を乗せる。
「さて、これから君に立場の違いってものを教えなきゃならないらしい。仙治さんもこうい
う難しいところは何とか処理して欲しかったな」
「ふん、お前がオレを屈服させるのは到底無理なのだ。無駄なことは諦めて、さっさとこ
の紐を解くのだ。今すぐ解くなら、お仕置きは軽めにすませてやるのだ」
上半身を起し両足を前に伸ばした体勢のまま、琴音は自信たっぷりに言い切ってみ
せる。自分が屈っするとは微塵も思っていないらしい。
「無駄というか、君の心を折る方法は考えてあるんだよ」
性格や容姿は大きく変わっているものの、琴音と鈴音は基本的な中身は変わっていな
いらしい。元々同じなので、そんなものだろう。今までの言動を見ても、鈴音と頭の程度は
変わっていない。ならば、琴音の心を折る方法は通用する。
「心を折る、お前にできるのか?」
琴音が挑発するように片眉を持ち上げる。
一樹は人差し指でこめかみをかきながら、
「ただ、鈴音なら確実に泣くようなことする予定だから、あんまり気は進まない。もう少し
穏便な方法あればいいんだけど……仕方ないかなぁ?」
「なあ、その方法をやってみるのだ。オレを泣かせられたらお前を認めてやるのだ。でも、
オレは鈴音みたいに甘くはないのだ」
挑発するように笑いながら、琴音は赤い瞳で一樹を睨んだ。一樹の努力を粉砕し、自
由になろうと企んでいる。だが、それは無意味だろう。
「ならその荒療治使わせてもらうよ」
一樹はベッドから立ち上がり、机に移動した。
机に置いてあるワンカップ酒。薄い金属の蓋を開けてから、カップに口を付けて、中身
の清酒を喉の奥へと流し込んでいく。一合全てを飲み干してから、アルコールの焼ける
ような刺激に、何度か咳き込んだ。やはり、酒は慣れない。
「……酒飲んで何するのだ?」
怪訝な表情を見せる琴音。
一樹は何も答えず、本棚に置いてあった小型ホワイトボードとマジックペンを手に取っ
た。マジックの蓋を取り、ホワイトボードに式を書き込む。『1+1』と。
「さて、簡単な算数の問題だ。1+1の答えは?」
「2なのだ。そんなの、幼稚園生でも分かるのだ」
一応答えてくる琴音に、一樹はホワイトボードに『1+1=2』と書き込む。小学一年生
の足し算であるが、意外奥の深いものだ。
「じゃ、何で 数学的に『1+1=2』が成り立つか、琴音は分かる?」
「え?」
琴音が目を点にするのが見えた。この問いに即座に答えられる者はそういないだろう。
簡単に答えられるようなものでもない。
構わず一樹は続ける。
「これから『1+1=2』の証明をしてみせる」
「は、い?」
引きつった声を出す琴音。その頬を冷や汗が流れ落ちた。
以上です
続きはそのうち
ここからが本当の地獄だ・・・!
GJ
アインシュタインはなぜ1+1=2なのか理解できずに、小学校中退。
真面目っぽいのに意外とSだよな
この主人公
保守
投下します
27話 一樹が見せたいもの
ホワイトボードに書かれているのは、細い三角形が二十個ほどだった。
「つまり、円の面積というのは、長さが限りなくゼロに近い底辺と、半径分の高さを持った
三角形が無数に並んでいるものと考えられる。結果『円周×半径÷2』というさっき教え
た三角形の面積を求める式で面積を求められる」
布団の上で倒れている琴音を眺めながら、一樹は続ける。1+1=2の証明から、ゼ
ロと無限大について語り、積分を通って、今は小学生レベルの面積の求め方に移ってい
た。一時間ほど経っただろうか。
「そして、この式を円のパーツごとに分けると、『直径×π×半径÷2』となり、直径の半
分が半径だから『半径×π×半径』となり、おなじみ『半径×半径×3.14』という円の面
積の求め方になる、と。分かった?」
ホワイトボードを机に置いて声を掛けるが、返事は無い。
琴音は両目から涙を流したまま、燃え尽きていた。両腕と両足を縛られたまま、放心
状態。もはや涙も枯れているだろう。五分ほどでギブアップ宣言をしたが、無視して語り
続けること一時間。少しやり過ぎたと思う。
「もう限界かな?」
一樹は琴音に近づき、手足を結んでいた紐を解いた。紐を取られても、ぐったりして動
かない。動く余力も無いのだろう。さながら壊れた人形である。
「終わったよ」
ぽんぽんと頭を叩き声をかけると、琴音の赤い瞳に少しだけ光が戻った。赤い袖で涙
を拭ってから、擦れた声を絞り出す。
「うぅ、ようやく、終わったのだ……。長い時間だったのだ……。だが、これしきのことで、
オレの心はは折れたりしないのだ……!」
「なら、次対数関数行ってみようか?」
一樹の呟きに、琴音は何も言えぬまま涙を流し、ふるふると首を振った。中学生以上
の数学の話を聞いても内容は理解できないが、難解な話であることは分かるらしい。内
容を無視すればいいのだろうが、そういう事もできないようである。
「オレの負けなのだ……。だから、もう許して欲しいのだ……」
涙声で琴音が敗北を認めた。
「よろしい」
一樹は小さな頭に手を置き、余裕たっぷりに微笑む。
琴音は頭に置かれた一樹の腕を振り払い、大きく息を吸い込んで身体を起こした。そ
の場にあぐらをかいてから、両手を黒袴の膝に置き、口元を引き締め睨み付けるように
見上げてくる。涙目であることを強引に誤魔化して、
「約束通り、オレはお前を認めたのだ。さあ、何でも言うのだ。オレにできることなら、何
でもやってやるのだ」
「うーん?」
数歩後ろに下がって、椅子に腰掛けてから、一樹は眼鏡を取った。霞んだ視界。眼鏡
拭きでレンズを拭いてから、再び掛ける。霞んだ視界が元へと戻った。
「コレといってやって欲しいことは無いんだよね。あんまり騒いだりせずに大人しくしてい
てくれれば、ぼくはそれで満足だよ」
「欲の無い男なのだ……」
琴音の呟きに、一樹は続けて言ってみた。
「それに、君何ができるの?」
その問いに、琴音の目が点になる。見ての通り、ぬいぐるみ程度の大きさと重さで、猫
並にすばしっこいものの単純な力はそれほどでもない。法術が使えるが、法術自体それ
ほど便利なものではないようだった。
「え、と?」
頬を流れ落ちる冷や汗。しばし考えてから、琴音はぽんと手を打った。赤い袖とポニー
テイルの銀髪が揺れる。何か思いついたようだった。
「お前に嫌いな奴がいたら、厄を招いてやるのだ!」
「いや、そういう相手いないから」
一樹はそう答える。
「うぐ」
傷ついたように琴音は胸を押さえた。厄神としての力は、あまり人に歓迎されるもので
はない。その自覚はあるだろう。
「ま、そういうことは期待してないよ。鈴音もほとんど何もしなかったし、せめて部屋の掃
除手伝ってくれるくらいはしてほしかったな……」
「あいつは怠け者なのだ……。オレは、気が向いたら手伝ってやるのだ」
腕組みしながら横を向き、琴音が呻く。鈴音の言葉では、得られる自然エネルギーは
常に一定なので、無駄遣いしたくはないとことこだが、あまり説得力はなかった。
思わず笑いそうになったのを口を押さえて誤魔化しつつ、一樹は尋ねてみた。
「ところで、いつになったら鈴音に戻るの?」
「オレは知らんのだ。でも、そう遠くない時期に戻るのだ。小森一樹、お前はオレよりあ
いつの方がいいというのか……。やはり、福の神の方が人気者なのだ」
ぐっと拳を握って悔しそうな顔をしている。
一樹は時計を見やった。午後九時半。
「さて、まだ寝るには早いよね」
そう言いながら、テレビの上に置いてあったリモコンを手に取る。テレビのリモコンと
DVDレコーダーのリモコン。
部屋を横切り、琴音の隣に腰を下ろし、リモコンでテレビを付けた。ドラマが流れて言
いたが、ビデオボタンを押し、青い画面に映る。それから、DVDレコーダーのハードディ
スクを開き、保存してある番組表を見せた。
「ビデオでも見る?」
「鈴音の時みたいに怖い番組見せても、オレには通じないのだ」
唇を曲げ、琴音が赤い瞳で睨み付けてくる。ただ、それがただの強がりであることはす
ぐに分かった。膝が微かに震え、視線も落ち着いていない。やはり基本的な部分は鈴音
と変わっていない。
だが、気づかぬ振りをして一樹はひとつのアニメを選択する。
「ぼくだってそうワンパターンなことはしないって。これは有名な名作アニメだよ。CM全部
カットしてあるけど、全十三話はちょっと時間掛るかな? でも、明日は休みだし、多少
夜更かしは大丈夫かな」
ハードディスクの動く音がして、アニメが再生される。
水中から見るような光。暗い空を飛んでいくカラスのような鳥、そして暗い空を落ちてい
く一人の少女。幻想的な雰囲気のアニメだった。
「ほう、なかなかきれいな絵柄なのだ」
琴音が腕組みをしながら、感想を口にしている。
「灰羽連盟ってアニメだよ」
テレビを見つめる琴音に、一樹はそう告げた。
以上です
続きは多分二週間後くらい
お疲れ様
灰羽連盟13話連続視聴・・・・
乙
保守
ティンカアアアベエエエエエエエエエエルウウウウ
・<気安く呼ばないでよねっ
投下します
28話 おやすみの時間 琴音ver
時計を見ると深夜一時頃だった。
DVDの電源を落とし、TVも消す。
ふっと息を吐いて、一樹は傍らに座っている琴音に目を向けた。肌寒い冷たい空気の
漂う静かな部屋。一回の両親も隣の部屋の姉も眠っていて、ほぼ無音。なんとも言えな
い深夜の空気である。
「どうだった?」
「あぅ、ぁぅ……」
問いかけられ、一樹を見上げてくる琴音。赤い両目からぼろぼろと涙を流していた。頬
から耳まで赤く染まり、口元が震えている。しゃっくりのような音を立てる喉。何か言おう
と口を動かしているものの、喉が上手く動かず何も言えない。
一樹がハンカチを渡すと、琴音はそれを受け取り両目から流れる涙を拭いた。ハンカ
チで顔を押さえたまま、何度か深呼吸を繰り返す。ハンカチを下ろしてから、右人差し指
を突き出してきた。
「小森一樹……ッ。お前は……外道なのだ……! 悪魔なのだ――!」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
小さく笑いながら、一樹は琴音の頭に手を置く。鈴音より少し髪質が硬い。涙ぐむこと
は予想していたが、ここまで泣くとは思わなかった。感受性が高いのかもしれない。
頭に乗せられた手を払いのけ、琴音は腕組みをして明後日の方を向く。
「うるさいのだ!」
「ラッカ、目を瞑って……」
「がー!」
その一言に、琴音が叫びながら振り返ってきた。最終話の最後に出てくる一言。それ
だけで、その場面を思い出してしまったのだろう。強引にせき止めていた涙腺が再び破
れ、両目から涙を流している。
「ごめんごめん。それにしても、君は随分と涙もろいね」
苦笑いとともに謝りながら、一樹は再びハンカチを差し出した。
「ウルサイのだ! お前には関係無いのだ!」
琴音はひったくるようにハンカチを奪い取り、立ち上がってベッドの端まで逃げるように
走っていく。一樹に背を向けてから、涙を拭いていた。
ベッドから腰を上げ、一樹は布団を捲る。
「そろそろ寝るつもりなんだけど、琴音も一緒に寝る?」
無言のまま振り返ってくる琴音。ひとまず、涙は止まったらしい。
警戒の眼差しで一樹を見つめてくる。当然の反応だろう。脳がオーバーヒートするまで
難解な話聞かされ、さらに感動で涙腺壊されれば警戒するのは普通のことだった。かな
り酷い事をしているという自覚はある。
「一人で寝るっていうなら、タオルケット出すけど」
「一緒に寝てやるのだ」
あっさりと琴音はそう言ってきた。偉そうに。
じっと見つめてみるが、その真意は分からない。根本的な部分が鈴音と変わらないと
考えると、一人で寝るのは寂しいというのがその理由だろう。だが、それとは別に何か企
んでいるような気もする。
ハンカチを持ったまま、琴音がベッドの一樹の前まで歩いてきた。ハンカチをナイトテー
ブルに置かれた小物入れに放ってから、銀髪をポニーテイルに結い上げていた赤いリボ
ンをほどき、それを右袖へとしまう。さらりと広がる銀髪。
眼鏡を置いてから一樹は、琴音の袖を指差した。赤い大きな袖。
「鈴音の時も袖から何か出したり入れたりしてたけど……祓串とか。その袖の中ってどう
なってるの? 四次元ポケット?」
「お前には教えてやらんのだ」
にやりと笑ってから、琴音は両手を持ち上げた。抱き上げろと言う意味らしい。
一拍の躊躇を挟んでから、一樹は両手を伸ばして琴音を抱き上げる。普段鈴音にして
いるように。左手で小さな身体を抱えたまま、両足を毛布に入れてからベッドに寝転がり、
右手で身体に毛布を乗せた。
眉根を寄せたまま、琴音がぶつぶつと呟いた。
「お前と一緒に寝るのは気にくわないのだ。でも、なんかこうやって寝る方が安心するの
だ。鈴音がずっとこうやって寝てたせいなのだ……」
「鈴音もそうだけど、抱き心地いいよな。ぬいぐるみみたいで」
琴音の銀髪を指で好きながら、一樹はそう感想をこぼす。小さい身体と適度な柔らかさ
と暖かさ。そっと抱いているだけで、不思議と気分が落ち着くのだ。鈴音が来てから、よく
眠れるようになった気がする。
布団の中から、琴音が睨み付けてきた。
「小森一樹。それは、褒めているのか?」
「一応褒めてるつもりなんだけど……。もしかしたら、仙治さんが抱いて寝る事も考えて
作ったとか? 眠れない時とかに抱き枕みたいに」
気の抜けた男の顔を思い出しながら、一樹はそんな予想を口にした。
「あのアホオオカミならありうるのだ……」
額を押さえて、琴音が呻く。一応作り主なので仙治の情報も持っているのだろう。鈴音
が顔を知らなかったり、情報に偏りがあるのは別として。
すっと表情を引き締め、赤い瞳で見つめてくる。
「あと、小森一樹。オレが寝ている間に変なことしようとしたら、ただじゃおかないのだ。
因果招きで一日中不幸にしていやるのだ」
「そういうことはしないよ」
安心させるように、一樹は笑って見せた。
「……まぁ、お前は女の子見てるより、数式眺めてる方が好きそうなのだ」
そう呟いた琴音の言葉に、表情が苦笑いに変わる。否定できない。女よりも数字の方
が好きだろうとは、中学生の頃から言われていることである。
一樹は琴音の頭に手を置き、顔を自分に向かせてから、笑顔で告げた。
「あと、琴音も僕が寝てる時に変なことしたら、光学や流体力学、電磁気学について三時
間くらい講義してあげるから、そのつもりでね? 難しそうにみえるけど、基礎的な部分
は掛け算と割り算分かれば理解できるから」
「……やっぱ外道なのだ」
冷や汗を流しながら、琴音が呻く。理解不能な話を聞かせるよりも、中途半端に分かる
程度の話を聞かせる方が効果的なのは、既に把握していた。
一樹はそっと琴音の頭を撫でる。
「じゃ、おやすみ」
以上です
続きはそのうち
ごしゅじんは
ほんとうに
外道だ
な
そして姉いたのかー。でてきてたっけ?
・<いつもGJな作品投下お疲れ様です
保 守
妖精型オナホがあったら買ってしまいそう
183 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 23:39:54 ID:21Shdt7a
あげ
もはやスレでの書き手が一人になってしまったな…
俺が何とかするからちょっと待っててくれ
期待してるよ
頼むぞ!
188 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 09:57:08 ID:BN5ISgHK
ホッシュ
ここってゼルダのナビィやチャットみたいに性別はおんにゃのこだけど人型かどうか不確定な妖精さんもあり?おしえておっきい妖精さん!
OKだろ
相当変な内容じゃない限り
批判するヤツはいないと思うぞ
・<注意書き付きで投下してみて評価を待てばよかろう
ジブリの新作が、小人の女の子×人間の男だって。
あんまりかわいくなかった
投下します
29話 因果応報
「さあ、行くのだ! 小森一樹ィ」
肩に乗った琴音が、右手で前方を指差している。
一樹の両肩に両足を乗せ、左手で髪の毛を掴んでいた。頭にしがみつくような肩車。
鈴音は抱きかかえられるのを好むが、琴音は肩に乗るのが好きらしい。
土曜日の朝八時過ぎ。住宅街を行き先も無く歩いていく。散歩に行くと騒いだ琴音に
連れ出されたのだ。適当に歩いたら帰るつもりである。
「散歩って言っても、琴音は歩いていないと思うけど……。鈴音も散歩が好きな割に自
分で歩こうとしなかったし、自分で歩くの嫌いなの?」
「男が細かい事を気にしては駄目なのだ」
ぺしぺしと右手で頭を叩きながら、琴音が偉そうに言ってくる。
一樹は眼鏡を動かしながら、問いかけた。
「細かい事かな?」
「細かい事なのだ。オレがそう言うのだから正しいのだ」
「無茶苦茶な……」
琴音の言い分にため息をつく。
頬を撫でる冷たい風に、一樹は視線を上げた。羽雲の浮かぶ青い空。さすがに十一
月も半ばを過ぎると寒い。普段着の上に冬用コートを着込んだ防寒姿である。普通の
人間よりも体脂肪が少ないので、寒さには弱い。
「そういえば、そんな格好で琴音は寒くないの?」
赤い着物と黒い袴。その上から何か羽織っているわけでもなく、生地が厚いというわ
けでもない。普通に考えれば、かなり寒い格好である。
「防寒の術を纏っているから、寒くはないのだ」
顔は見えないが、得意げにしているのは分かった。防寒の術。名前からして寒さを遠
ざけるような術なのだろう。もっとも、琴音も鈴音も一着しか服を持っていないようなので、
季節に合わせてそういう術を使う必要があるのかもしれない。
「便利だね」
一樹は本心からそう呟く。
琴音が前髪を払う気配が伝わってきた。
「確かに便利だけど、お前が考えるほどお気楽なものでもないのだ。神様は神様なりに、
人間には分からない苦労もあるのだ。……あ」
何かに気づいたような琴音の声。
一樹は足を止め、琴音が目を向けた方向へと目を向けた。琴音の顔は見えないが、
どちらを向いたのかは気配で分かる。
「どうした、琴音?」
道路の反対側に、一人の男が見えた。これといって特徴のない五十歳くらいのおじさ
んである。散歩か何かだろう。煙草を吸いながら歩いていた。
「あの男、歩き煙草は危ないのだ」
男を見ながら、眉根を寄せる琴音。顔は見えないが、不思議と表情は分かる。
男が吸い終わった煙草を、そのまま横へと放り投げた。くるくると回りながら、煙草が
アスファルトの地面に落ちる。微かに紫煙を漂わせていた。
「煙草のポイ捨ても迷惑なのだ……。最近のおじさんは躾がなっていないのだ」
琴音が呻く。その声には微かな怒りが見えた。
そして、右手を男に向ける。
不穏な空気を感じ、一樹は尋ねた。
「おい、何する気だ?」
「因果厄招き」
パッ、と紙を弾くような音を立てて、何かが放たれる。
小石が空を切るような音が聞こえた。見えない何かが空を走り、男の頬に当たる。一
樹には何も見えなかったものの、琴音が何かを放ったようだった。
「ん?」
男も自分の頬に何か当るのを感じたらしい。足を止めて、不思議そうに自分の頬を撫
でている。見た感じ、痛みなどは無いようだった。
しかし、頬には何も付いていない。手にも何も付いていない。
きょろきょろと辺りを見回している男。
「何した……?」
「世の中とは因果応報なのだ」
その答えを証明するように。
「カァー」
一樹は視線を持ち上げた。
電柱に一羽のカラスが留まっている。調度男の立っている真上。
「もしかして……」
これから起る展開を予想し、一樹は呻いた。
予想通り、男が真上に顔を向ける。続いて起った事も予想通りだった。
ペチャ。
「………。うあぁ!」
男が一拍遅れて悲鳴を上げた。その頬にカラスの糞が直撃している。蹌踉めいてか
ら、手で自分の頬に触れ、くっついた糞に思い切り顔をしかめていた。ポケットから取り
出したハンカチで、手と頬にくっついた糞を拭ってから、早足にその場を後にする。
「琴音、今のって……」
一樹の問いに、琴音が肩からするりと前に移動する。慌てて持ち上げられた一樹の
右腕に両足をついた。不安定な腕の上で、蹌踉めきもせず腕組みをして仁王立ちして
いる。口の端を持ち上げながら、ポニーテイルの銀髪を動かした。
「オレが厄を招いたのだ。煙草を捨てたことに対する応報なのだ。何かを捨てれば、自
分にも何かが捨てられる――当たり前のことなのだ」
「難しい事言うね」
思わず感心する一樹に、琴音はふっと鼻を鳴らす。
「厄神というのは、福神以上に難しい神様なのだ」
以上です
続きはそのうち
乙
厄・・・こわいな
200 :
2:2009/12/25(金) 06:59:57 ID:JddIuWCo
200
カッソage
ホシュ
203 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/30(水) 23:58:17 ID:EGt/ywX0
保守
ほっしゅ
>1
206 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/04(月) 12:31:47 ID:XC0GbqKj
ほ
一応
保守
投下します
30話 暇潰し
卓袱台の上に置かれたオセロ。
「……うぐぐぐ」
琴音が腕組みをしたまま、顔をしかめていた。眉間に寄せられたしわ、堅く食いしばら
れた歯、跳ねた白い髪。全てが追い詰められた現状を表している。
オセロの石を動かしながら、一樹は静かに口を動かした。
「どうせ置くところはひとつしかないんだから、悩んでも意味ないよ」
「分かっているのだ!」
琴音はそう叫び返し、ボードに叩き付けるような勢いで黒の石を置いた。ふたつ隣の
黒い石との間に挟まれた白い石をひっくり返す。それで終わりだった。
一樹は迷わず白の石を起き、挟まれた三枚の黒い石をひっくり返す。
「おしまい、と」
ボードの石は六十四枚を待たずに、白一色に染まっていた。四隅に黒いコマが残って
いる。だが、その四隅のハンデは意味の無いものになっていた。
「がー!」
あまりの一方的な結果に、琴音が両手でボードをひっくり返す。プラスチックの板が一
回転し、プラスチックのコマが辺りに飛び散った。ぱらぱらと落ちる白黒の石。ハンデを
貰っているのに、一方的に負ける。怒るのはある意味当然だろう。
両目から涙を流しながら、琴音が人差し指を向けてきた。
「小森一樹、お前はそうあっさり勝てるのだ! どんなイカサマしているのだ! カードゲ
ームじゃないから、イカサマはできないはずなのだ!」
家に戻ってから、琴音が暇潰しに何かしようと言ったので、一樹は部屋にあったオセ
ロを持ち出した。あいにく、テレビゲームやPCゲーム類は持っていない。
一樹は眼鏡を動かしながら、
「琴音が弱いんだよ……。ぼくは一応強いけど、プロ級ってほどでもないし。あと、オセ
ロは最初に数取りに行くのは自爆だよ」
「ならば、次は将棋で勝負なのだ」
琴音が棚に置いてある将棋セットを指差す。
手の中に落ちていたオセロのコマを動かしながら、一樹は確認するように告げた。
「言っておくけど、将棋はオセロ以上に強いよ?」
将棋や囲碁、チェスなど、オセロよりも複雑なボードゲーム類は得意である。身近に
強い相手がいれば、自然と鍛えられるものだろう。ボードゲームには一切運の要素が
入らない。いかに定石を使いこなせるかが、強さの決め手となる。
琴音は両腕を組み、白い眉毛を内側に傾けた。
「飛車角落ちでさらに金銀落ちなのだ。お前はこれくらいのハンデが調度いいのだ」
「その台詞、使い方間違っているよね?」
空笑いとともに告げてみる。本来は自分の実力の高さを元にして言う台詞だが、琴音
は一樹の実力の高さを基準にして言っていた。
琴音は卓袱台にどっしとあぐらをかき、睨むように見上げてくる。
「男が細かいことを気にしてはいけないのだ。もしこの条件でお前が勝ったら……オレ
はひとつだけお前の言うことを何でも聞くのだ。これで文句は無いはずなのだ! さあ
次の戦いを始めるのだ」
(飛車角金銀の六枚落ち……桂馬と香車が無事なら何とかなるかな?)
一樹は唇を舐める。最大ハンデは王将以外の十九枚落ち。それでも達人なら素人を
倒すことは可能らしい。一樹にそこまでの実力はないが、四枚落ちでも琴音が相手なら
ば何とかなるだろう。ただ、今のオセロのように一方的にはならない。
「その前に、オセロ片付けてくれない?」
辺りに散らばったオセロの石とボードを指差し、一樹は琴音を見つめた。
無言のまま視線を逸らす琴音に続ける。
「因果は応報、と」
「うぅ」
諦めたように喉を鳴らし、琴音は片付けを始めた。
***
「これで、詰みだ」
パチリ、と駒の置かれる音が響く。
二時間近い長期戦の後、一樹は竜王と香車と桂馬で、琴音の玉を追い詰めた。対局
内容は一樹がいかに琴音の駒を奪い、形成を逆転させていくかというある意味一方的
なものでる。だが、手駒が少ないため予想以上に時間がかかってしまった。
「無念なのだ……」
両手を卓袱台につき、琴音が首を左右に動かす。白いポニーテイルが揺れていた。
しかし、その声に怒りはない。負けたものの、全力を出し切った実感はあ
るようだった。
両手を放してから、その場に立ち上がって、自分の胸に右手を当てる。
「だが、オレの負けなのだ。約束通りお前の言うことを何でも聞いてやるのだ」
「そういえば、そんな約束してたなぁ」
ぽんと手を打って一樹は頷いた。六枚落ちという無茶なハンデから逆転することしか
考えていなかったため、約束自体を半ば忘れかけていた。
「忘れるななのだ……」
額をおさえ、琴音が呻く。
だが、何かを払うように右手を横に振ってから、目を閉じた。
「まぁ、それはまた今度になりそうなのだ」
白い髪を結い上げていた赤いリボンを取り、琴音はそれを袖へとしまう。白かった髪
の毛が灰色に染まり始めた。着物の袖と胴体の分かれ目がつながり、色が赤から白へ
と変わっていく。黒い袴も緋色へと変化していった。体格も少し大人びいたものから子
供っぽいものへと。
鈴音が琴音になった過程を逆回しにするように、二十秒ほどでその姿が鈴音のもの
へと変化していった。閉じていた目を開くと、赤い瞳も黒い瞳に戻っている。
「ただいまなのです。一樹サマ」
「おかえり」
快活に右手を上げる鈴音に、一樹は短く返事をした。
以上です
続きはそのうち
ちなみに、将棋のハンデですが
テレビ番組『進め!電波少年』の企画で、
松村邦洋が裸玉(玉将以外の19枚落ち)の羽生善治と対局して、
松村邦洋が敗れたという話があります。
出典wikipedia
>>213 毎度GJ
オセロも将棋も最近全然やってないな
俺にも相手してくれる妖精さんいないかな?w
しかしなんでそんな豆知識を載せようと思ったw
確かにスゲぇけどさw
>>214 将棋のハンデについて調べていたら
そんなネタがあったので何となく
>>210-212 乙です。次に出てきた時には何をしてもらうんだろう・・・俺なら(ry
>>213 あれって確か反則負けじゃなかったっけ?
松村は将棋のルール自体知らなかったとか。受け狙いだったという説もあるけど。
217 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 04:23:50 ID:JEhXvlxP
二歩でもやらかしたか
さて…そろそろ覚悟決めて投下します。
SS初挑戦ということもあって見苦しいところも多々あると思いますが、
楽しんで頂ければ幸いです。
Title:-A Fairy of Cherry Blossom-、投下します。
高橋直人−21歳、大学生、学力あり、彼女なし−は、
彼は東北にある某旧帝大の学生で、いつもは仙台市内のアパートに住んでいるのだが、
春休みに入ると田舎の実家へと戻ってくる。
そして、地元の公園に植えられている桜の写真を撮りに行くのが恒例行事になっていた。
『ご乗車、ありがとうございます。この電車は各駅停車の…』
久しぶりに聞く自動放送の車内アナウンス。
目指す公園は実家から数駅先。時間にして15分とかからない場所だ。
学校が休みの時期だからか乗車客は自分を含めて5〜6人ほど。
普段はガヤガヤ騒いでいるであろう高校生達の姿も無く、
車内に響くのは、幾分か老朽化した2両編成の列車自体から発せられる音だけだった。
しばらく電車に揺られた後、目的の駅に着く。
開業時から殆どの駅が無人駅の路線。
数少ないこの有人駅でさえも、列車同様人は駅員しかいない静かな空間だ。
ここから公園までは徒歩でしばらく歩くことになる。
公園へと続く道も桜並木になっていて、
花はまもなく満開、というところ…いや、まだ蕾が結構あるなこりゃ。
「ちょっと早すぎたか…まぁ、散ってるよりはマシだな」と自分を納得させつつ、
バッグからをカメラを取り出し、早速撮影を始めた。
シャカッ、シャカッ…
人気の少ない公園内にシャッター音が響く。
桜はまだ5分咲きといったところで、華やかさはいささか欠けるものの、
花開こうとしている膨らんだ蕾もなかなか悪くない。
写真を撮りながら公園を歩き回る。
さて、デジ一の愉しみの1つといえばレンズ交換。
今日は広角と望遠の2タイプを持ってきているので、
取り付けられている広角レンズを外し、望遠レンズに取り替え、
表面にゴミが付いていないことを確認して、おもむろにファインダーを覗き込む。
当たり前だが遠くの物を写せるようになるので、
離れた場所からでも木全体ではなく枝や花だけを撮ったりと、
広角レンズとは違った構図が取れる。
ズームをいじりながら辺りを見渡してみる。
…少し離れた所にある桜の枝に何かがぶら下がっている…ゴミか?
「ん…なんだありゃ…」
倍率を最大にして、フォーカスを合わせる。
何かが糸のような物に絡まった状態でぶら下がっているようだった。
よく見ると、どうやら人のような形をしているとわかった。
大きさからすると人形か。
子供が遊んだ後、あそこに置いていったのか…?
だが、その木がある場所は遊具などがある区域からは離れた場所。
一体何だろう…?と、考え始めた次の瞬間。
ドサッ!
糸が切れて、その"何か"が落っこちた。
「変な物じゃなけりゃいいが…」
そうぼやきながらも、正体が気になった俺はそれが落ちた場所に向かった。
枝の真下にそれは転がっていた。
おもちゃにしては精巧すぎる少女の形をしている。
手に取って間近で見てみる。
身長は30cmも無い程度。子供向けの人形に似た大きさだ。
小柄で華奢な体は薄手の淡いピンクの布地で出来たワンピースを纏い、
背中から生えていると思わしき蝶のような羽が背中の切れ目から出ている。
そして、綺麗な黒髪が腰あたりまで伸びていて、蜘蛛の巣と思わしき糸は髪とその羽に絡まっていた。
目を閉じたままの顔にはまだ幼なさを残している。
耳はフサフサした毛に覆われていて、犬などのそれとよく似ている。
そして何より驚いたのは、
工業的なプラスチック製品では無さそうだと思える柔らかさと、体温のような暖かさ。
あまりに精巧な作りに思わず見とれてしまう。
…周りに誰も居ないようだし…家に持ち帰って詳しく調べてみるか。
背負ってきたバッグにそれを入れ、駅へ向かった。
#after around 15 minutes...#
AFCB Phase:4
帰宅。
まずは髪と羽に絡み付いている蜘蛛の糸を取ることにした。
机の上に俯せにして、綿棒を使って糸を丁寧に取り除いていく。
髪の毛にも付いてしまっていることもあり、なかなか簡単には取れず悪戦苦闘する。
1時間程の格闘の末に糸を何とか取り除いたあと、
これが一体何なのかインターネットを駆使して調べてみた。
しかし、知っているすべての検索エンジンと、
思いつく限りの検索ワードを用いても該当するものが全く見つからない。
誰かのオリジナル?しかし何故あんなところに?
写真を撮ってアップロードして掲示板で聞いてみようかとも思ったが、
後々面倒になると嫌なのでそれはやめておく。
…細かい作業のあとに細かい表示の画面を見続けていたせいか、
頭がボーッとしてきた…目もひどく疲れているようだ。
とりあえず休もう。
こういうときは寝るに限る。
パソコンの画面を消して、ベッドに横向きに寝転がった。
歩き回っていたのも相まって、眠りは思っていたより早く訪れてきた…
…
……
………。
ツン。
ツンツン。
…ん?
何かが顔に触れている。
『…てください…』
ツンツン。
『……起きてください…』
何だ…客か?親か?
俺は中途半端に眠りに入りつつあった目を開いた。
『あっ…やっと起きてくれましたね』
聞いたことのない声だ。
声の方に顔を向けると、さっきまで机の上に置いてあったはずの"それ"が枕元に立っていた。
いや、立っているだけじゃない。こちらを見つめて、瞬きもしている。
『先程は助けていただき、ありがとうございました』
そう話すと"それ"は深くお辞儀をした。動いた。しかも喋ってる。
夢でも見ているのか?と思い自分の頬を抓ってみる。…痛いっつーことは現実か。
"それ"は俺の行動を不思議そうに見つめている。
「君は一体何者なんだ?少なくとも人間ではなさそうだが。」
『私は、あの公園に植えられている桜の妖精です』
妖精…SFかファンタジーか?ともかく相手の話を聞こう。
『飛んでいるときに運悪く蜘蛛の巣に引っかかってしまって、身動きが取れなくなってしまったのです。』
「んで、落っこちて気を失っていた君を俺が見つけて助けた、と。」
『はい。あなたのお陰です。あのまま身動きが取れないままだったら私は…』
彼女が俯く。
「役に立てたのならそりゃ光栄だ。」
何かを考えているのか、彼女はしばらく俯いたままだった。
が、何かを決断したのか、また俺の方を向いた。
『それで…お願いしたいことがあるのです』
そう彼女が切り出した。
「何だい?」
『しばらくの間、あなたの側に居させてもらえませんか?
きっとお役に立てると思います…これが私の出来る唯一の恩返しなんです。」
話が突拍子すぎる。
役に立てる、とは言っているが一体何が出来るのだろう?
しかし、折角の恩返しを断るのも失礼だし、ここは歓迎すべき所だ。
「ふむ…俺がここにいる間で良ければいいよ。
来月には学校に戻らないといけないから、それまでの間ってことになる。」
『あ、ありがとうございますっ!』彼女の表情がパッと明るくなる。
その変化に心がドキッとしたのは何故だろう。
「そーいや、俺の名前を教えていなかったな。」
「俺は直人。高橋直人だ。君は?」
『名前…ですか?』「そう。」
『私には名前がありません…そうだ、直人さん、私に名前を付けてくれますか?』
突然さん付けで名前を呼ばれ、何故かちょっと動揺しつつも名前を考え始める。
「…つぼみ」ほぼ思いつきで考えた名前を言ってみた。
『つぼみ…ですか?』
「あぁ。君を見つけたところの桜の木、まだ殆どが蕾だったからな。」
さくらだと某カードキャプターになるから、という理由もあるにはある。
『つぼみ…可愛い名前をありがとうございます。』
彼女が微笑む。
思いつきで出した名前だが、本人は悪くは感じてないようだ。
『それでは、よろしくお願いします、直人さんっ!』
「あぁ。よろしく。」
…何故彼女の笑顔や仕草を見る度に変な感情が湧いてくるのだろう。
その理由と感情の正体が分かるまでそう時間はかからないということを、
まだ彼は知らない。
こうして、カメラ好きの大学生と桜の妖精の同棲生活の幕が慌ただしく、しかし静かに開けるのだった。
/*ここで今日の投下はおしまいです。ありがとうございました。*/
/*今SETTING.TXTを確認したらtimecount=10,timeclose=8だったorz*/
/*こりゃしばらく書けないな…*/
/*ちなみにこの「つぼみ」という子は元となるキャラクターがいます(角煮の当該レス参考)*/
適度なネタ密度、これは期待
乙
キタキタアアアアアアアアGJだああ
GJ
いいねいいねぇ
カードキャプターなつかしいw
投下します
31話 風のイタズラ
午前九時過ぎ。窓の外では空気が唸りを上げている。
「風が強いのです……」
鈴音は窓辺に立ったまま、ガラスの向こうを眺めていた。
天気予報によると今日一日中強風が続くらしい。強風警報も出ていた。
部屋を振り返る。一樹の部屋。壁に貼られたお守り神棚に、自分の依代であるお守り
が納めてある。部屋の持ち主である一樹は、大学のサークル活動でどこかに出掛けて
いた。夜七時頃までは戻ってこないらしい。鈴音は留守番だった。
「一樹サマはいないのですね。ちょっと退屈なのです」
五秒ほど考えてから、鈴音はガラス戸を開ける。
ゴゥ!
唸りを上げて部屋に流れ込んでくる空気。
黒髪が巻き上げられ、白衣の袖や袴の裾が揺れる。思わず目を瞑りながらも、鈴音
はガラス戸の隙間から、外へと出た。振り返って、窓を閉める。
「うー。凄い風なのです……! さすが強風警報なのです!」
両手を腰に当てたまま全身で風を感じながら、鈴音は満足げに頷いた。吹き飛ばされ
るかと思うほどの強い風。耳元で唸りを上げる空気と、激しく揺れる白衣や緋袴。滅多
に無い状況に、胸の鼓動が早まっている。
しばらく風を感じてから、鈴音は身体を震わせた。
「寒いのです……」
冷たい風に身を竦めてから、部屋へと戻ろうとして。
不意に耳に入った乾いた音。
目を移すと、ベランダの柵に新聞が貼り付いてた。強風にどこからか飛ばされて来た
ものだろう。黒く塗られたアルミの柵に貼り付いたまま、ばたばたと音を立てている。
それは単純な出来心だった。
鈴音は柵に貼り付いた新聞紙の元へ歩いていき、その端を右手で掴む。そのまま引
き剥がして捨てようと、軽く引っ張った。それが見事に徒となる。
「な!」
急激な勢いが身体にかかった。視界が跳ねる。
鈴音が引っ張ったせいで柵に貼り付いていた新聞が、隙間から滑り込むようにベラン
ダに流れ込んできた。間髪容れず風に煽られ大きく広がり、まるで誰かが意図したよう
に鈴音の身体を空中へと引っ張り上げる。両足がベランダから離れた。
すぐに手を放せば助かっただろう。だが、鈴音が咄嗟に取った行動は間逆だった。反
射的に両手で新聞紙を掴む。
後は一瞬だった。
吹き付ける強風によって、その端を握った鈴音ごと新聞紙が空中へと舞い上げられ
る。風を受けて広がった新聞紙を押さえるほどの重さを、鈴音は持っていない。
「待つのでぇぇす!」
鈴音は悲鳴を上げていた。だが、それで何かが変わるわけでもない。真下に見える
一樹の家の庭。周囲の民家。正面に見える道路。不思議と音は聞こえない。青い空を
流れていく綿雲。その上空では羽雲が別の方向へと流れていく。
「きれいな風景なのです……って、そんな場合ではないのです! 何を悠長に現実逃避
しているのですか、ワタシは――!」
不意に重力が消える。
「え?」
両手を見ると、千切れた新聞紙の切れ端があった。小さな身体を空中に留めている
ものは――もうない。新聞紙は風に吹かれて、飛んでいく。鈴音を置き去りにして。
「その新聞紙、行っちゃ駄目なのでぇす!」
叫んでも、どうしようもなかった。飛行能力のない鈴音は落ちるしかない。
慌てて下を向くと、道路を走る軽トラックが見える。荷台に置かれているのは、タンス
やテーブルなどの家財道具類。引っ越しか何からしい。
「!」
一直線に荷台に落下し、鈴音の意識は途切れた。
* * *
どれくらいの時間が経っただろう。
ふと目を開けると、古ぼけた空の本棚が見える。何故そんなものが見えるのか訝って
から、鈴音は自分の置かれた状況を思い出した。
「ここは……どこなのです?」
起き上がって、周囲を見回す。トラックの荷台。ロープで固定された本棚とテーブルと
椅子、段ボール箱がみっつ置いてあった。左右には、明るい風景が流れている。どこか
の市街地。しかし、少なくとも鈴音の知っている場所ではない。
「何にしろ、ぬいぐるみみたいな身体で助かったのです……」
両手を動かし、身体を捻ってから、鈴音は頷いた。見た目は人間のような姿だが、実
は生物のような明確な骨格や内蔵はない。簡単に言えば、具現化した法力の人形であ
る。十メートル近い高さから落下して無傷なのは、そのためだった。
車が止まる。赤信号に差し掛かったらしい。
右を見ると大きな本屋があり、左を見ると大きな電気店があった。
『KYK電気 久多山市南支店』
「ええと、久多山市は確か北隣の市なのです……。一樹サマのお家からはそんなに離
れてはいないと思うのですが、随分と遠くに来てしまったのです……。ん?」
ふと身体に加速がかかる。青信号になり、車が走り出したようだった。
「マズいのです。このままだともっと遠くに行ってしまうのです!」
慌てて荷台を蹴り、鈴音はトラックから飛び降りる。アスファルトの歩道に着地。足の
裏に伝わってくる固い地面の感触。
相変わらず風はまだ強い。気を抜くと吹き飛ばされそうなほどに。ぼんやりと空を見上
げる。かなりの速さで空を流れる綿雲と、別方向に流れる羽雲。
「これは……物凄くピンチなのです……」
気難しく眉根を寄せて、鈴音は腕組みをした。
以上です
続きはそのうち
GJ
アリってたしか耐えられる衝撃>最大落下速度時の衝撃だからどんな高さからおちても平気らしいな
GJ
10〜20cmかそこらで落下最高速度になるらしい
テレビで結構高いところから落としてたけどピンピンしてた
小さい頃凧に体もっていかれそうになったなぁ
毎度乙です!
飛べないタイプの妖精さんも羽みたいに軽いから高いところから落ちても死んじゃったりしない
これってアリと一緒だったのかw
>>218 良い出だしだなあ 続き期待
# 耳掻き&綿棒もフォローしてくれるのか?!
>>福ノ神
乙です
鈴音に戻って平穏な生活も戻ってくるかと思いきや
まさかの急展開 TV版バウ最終回を思い出したぜ..
湿り気をともなった暖かな風が、カーテンを静かに揺らしている。
春の午後の教室には、定年間近の教師のゆっくりとした英語の発音が、まるで消し忘れたタバコの煙のように中空を漂っている。
教科書に並んだ英文の、ラストのセンテンスまで目を通してから、僕は口を閉じたままあくびをひとつした。
肩の上のドロシーに目をやれば、彼女は足を交互に揺らしながら、黒板に描かれた英文を読んでいる。
教師以上にたどたどしいテンポで、ガラスのコップを爪ではじくような声で。
「おい声出すなよ、バレるだろ」
「え? へーきへーき、平気だよ〜」
肩上で可笑しそうに笑うドロシー。
プラチナ色をした長いストレートヘアが、玉虫色に揺れる妖精の羽に、少しかかっている。
肌は全てが雪のように白く、声と同様に姿そのものもガラスで出来ているような感じがした。 小さな胸の先についている二つの突起だけが、窓の外に見える桜の花と同じような色を見せている。
「他の人には姿も見えないし、声も聞こえないんだから」
……そう言い添える妖精は、服を一枚もまとっていない。
「寒くないのかよ」
「少し寒いよ」
「じゃあ、服着ろよ」
「ゴワゴワしてるから嫌」
彼女はそう言って肩から飛び立ち、僕の着ているカッターシャツのネクタイの、結び目の部分に両腕でしがみつく。
足を突っ張ってネクタイを少し緩める。 そして隙間が出来た僕の服の中に、リスのようにするりと飛び込んだ。
「こうすれば暖かいし」
胸と服の間から、彼女は僕を見上げて笑う。
シャープペンシルよりも背の低い妖精の、子猫のような柔らかさと暖かさを感じつつ、僕は四月の空を見る。
町の上空に、小さな小さな紫色の穴が開いている。
何もないこの町に突然開いた、僕にしか見えない、今は妖精しか通れないほどに狭い異世界とのゲート。
それは今も少しずつ、広がり続けている。 胸騒ぎと共に。
以上です
短くてすいませんでした
ちょっとホラー…?
投下します
32話 意外な助っ人
電気屋のベンチに座ったまま、鈴音は空を見上げた。風は相変わらず強い。
「ここから一樹サマのお家まで帰るには、どうしたらいいのですか……?」
入り口横にある休憩所。自動販売機ふたつと、背もたれのない古いベンチがふたつ
置かれている。鈴音のいる休憩所は、風が建物に遮られているので、風の影響は弱い。
それでも髪や袖が揺れるほどの強風があるが。
まだ開店直後なので、人の姿は少ない。二車線道路の向こうには、本屋が見える。
「どっちにお家があるかは分かるのですが、方向しか分からないのです。まさか歩いて
行くというわけにもいかないのです。でも、最悪歩くしか無いのですかね……?」
胸元に手を当てながら、鈴音はため息をついた。一樹の部屋の神棚に置かれた、自
分の依代であるお守り。それがどちらの方向にあるかは漠然と分かる。だが、方向が
分かっても移動手段が無い。徒歩ではあまりにも効率が悪い。
「まったく、実に洒落にならない事態になっているのだ……」
自分の口が勝手に動いた。
「!」
慌てて右手で口を塞ぐが、左手が自分の意志とは関係なく動いて右手を掴む。左手
を動かそうとしても、動かない。白かった袖が、赤い色に変わっていた。
振り向いてガラスに映った自分の姿を見つめる。
長い黒髪の左側が白く染まっていて、左目も黒から赤色に変わっている。上着の左袖
が、白衣の胴部分から離れて、色も白から赤に変わっていた。
「琴音なのですか! これは何なのです……」
「どうもオレが一度表に出たら、お互い自分の意志で一部を表に出せるように作られて
いたようなのだ。お前が許可すれば、オレが全部表に出ることもできるのだ」
驚く鈴音に、琴音がそう答える。端から見れば一人芝居をしているように見えるが、幸
い見ている者はいない。他人の視線を気にしている余裕もなかった。
「ふぅむぅ。なるほどなのです。これは凄いのです」
意識を向けてみると、琴音の存在がかなり強く感じ取れる。今までかなり希薄だった
お互いの繋がりが、今は自覚できるほどに強くなっていた。しかし、相手の考えを読む
ことはできないらしい。そのため、同じ口を使った会話が必要である。
「オレもさっき気づいたのだ。それより、どうするのだ……この状況?」
感心する鈴音だが、琴音の冷淡な台詞に、現実に引き戻された。見知らぬ場所で迷
子。頼る相手もいない。帰る方向は分かっても移動手段が無い。八方塞がりである。
鈴音は右手の人差し指を持ち上げた。
「一樹サマに口寄せして貰えれば……!」
口寄せの術を使えば、離れた場所にいても一瞬で空間転移ができる。式神と持ち主
という主従関係に近いものがあるため、一樹は鈴音の口寄せが可能だった。
しかし、琴音は呆れたように答える。左手で頭を押さえて、
「オレもお前も、小森一樹には口寄せの術教えていないのだ。それ以前にあいつは普
通の人間だから、術は使えないのだ……」
「うぅ。こんな事になるのだったら、口寄せ用の術符作っておくべきだったのです」
的確な指摘に鈴音は呻いた。術師でない普通の人間では、口寄せの術は使えない。
鈴音が自分自身を口寄せする術符を作ることはできるので、それを使えば口寄せは可
能である。だが、必要となるとは思わなかったので、術符は作っていなかった。
「後の祭りなのだ。無事に戻れたら、何枚か作って小森一樹に渡しておくのだ……」
そう唸ってから、琴音は続ける。
「とにかく、あいつ連絡出来ればいいのだ。連絡さえつけば迎えに来るなり何なりできる
のだ。ここの電気屋の名前は分かっているのだから、場所も簡単に分かるはずなのだ」
「でも、ワタシは一樹サマの携帯電話の番号知らないです」
鈴音はそう答える。電話する手段は何とかなるだろうが、電話番号が分からない。
琴音が左手で頭をかく。
「手詰まりなのだ。ここは素直に交番か何か探すのだ」
「それが一番手っ取り早いのです……」
頷く鈴音。人間用の交番ではなく、妖怪や神など人ではない者を対象とした交番という
ものがある。この周囲のどこにあるかは分からないが、探せば見つかるだろう。多分。
「何を一人芝居しているのだ、そこの小娘?」
不意に声をかけられ、鈴音は正面に向き直った。
一匹の狐がそこに佇んで、訝しげに鈴音たちを見つめている。
「大きなキツネさんなのです」
「変な式神なのだ」
鈴音と琴音は同時に呟いた。同じ口から。
普通よりも二回りほど大きな狐である。タテガミのような長い毛が、頭から背中に伸び
ていた。茶色に瞳に映る利発そうな光。首に赤い首輪を嵌めている。人語を話すことを
除いても、普通の狐ではない。かなり力のある式神のようだった。
人間に認識できなくする簡単な幻術が身体を包んでいる。
「貴様ら何者だ……? 福神と厄神の両方の気配を感じるのだが」
狐が不思議そうに鈴音を見つめた。足音もなく近寄ってきてから、小さな身体を頭か
らつま先まで観察する。ついでに、鼻を近づけて匂いを嗅いでから、
「二人の人格で身体を共有しているのか……。ふむ、ワシが言うのも何だが、おかしな
やつらだな。こんな場所で何をしている? 見たところ、かなり困っているようだが」
「うー。ワタシ、色々あってお家に帰れなくなってしまったのです」
鈴音は正直に答えた。険しい雰囲気を持つものの、この狐は悪い者ではない。根拠
はないが、そんな気がした。他に頼れる相手も無く、藁にも縋る気持ちである。
「なるほど、迷子か……。お前、名前は何という?」
狐の問いかけに、鈴音は答えた。
「ワタシは鈴音と言うのです」
「オレは琴音なのだ。で、お前こそ何者なのだ?」
琴音は自分の名を答えてから、左目だけで威嚇するように狐を睨み付ける。
しかし、狐は琴音の赤い瞳を一瞥しただけだった。厄神としての力を意に介していな
いようである。この狐の力があれば、琴音の厄を打ち破るのはそう苦も無いだろう。
狐は二歩後ろに下がってから、背筋を伸ばして眼に力を込めた。
「ワシは一ノ葉。式神だ」
静かに答える。
以上です
続きはそのうち
一番槍GJ!
乙
狐サンまで登場とはな
保守
7/17公開の宮崎アニメは期待できそうだ
投下します
33話 善意の代償
「阿呆なヤツだな」
鈴音の話を聞いた一ノ葉の第一声がそれだった。腰を下ろしたまま呆れたように明後
日を見つめ、後ろ足で首元を掻いている。風になびいているたてがみ。
「うあ、失礼なキツネさんなのです!」
鈴音は思わず声を上げていた。
「オレもアホな話だと思うのだ……」
「琴音も失礼なのです!」
右手で左頬を引っ張りながら、言い返す。それを左手で引き離す琴音。身体を共有し
ているので、琴音とのやり取りは独り芝居になってしまうが、文句は言っていられない。
一ノ葉は目蓋を半分下ろして二人をやりとりを見ていた。
「そんな漫画に出てきそうなギャグ展開聞かされれば当然の反応だ。とはいえ、そう遠く
まで来たわけではないようだな。隣町くらいまでならワシが送ってやる」
腰を上げ、尻尾を一振りしてからベンチの横まで歩いてくる。
「乗れ」
「いいのですか?」
一ノ葉の背中を見つめながら、鈴音は思わず目を丸くした。
「構わん。どうせワシも退屈しのぎに散歩していたのだ。隣町まで行くくらいなら、調度い
い暇潰しになる。日が暮れるまでに帰れば文句も言われないだろう」
空を見上げる。まだ午前中。隣町まで行って戻ってくるだけならば、それほど時間も掛
らない。一ノ葉は人間よりも歩くのは速いだろう。
鈴音は素直に頭を下げた。
「ありがとうなのです」
「何か底意がありそうで気味が悪いのだ。タダより高いものは無いと言うのだ」
顔を上げるよりも早く、琴音が胡乱げに言い返す。慌てて口を押さえようとするが、琴
音が左手で鈴音の右手を掴んでいた。
一ノ葉が琴音の赤い瞳を睨み付ける。
「とりあえず……厄神、お前は引っ込んでいろ。話がややこしくなる」
「了解なのだ〜」
投遣りな返事とともに、琴音が引っ込む。髪の毛が白から黒に戻り、目の色も赤から
黒に戻る。袖が胴体と綱がり、白く染まった。琴音が完全に表から消える。
「面白い仕組みだな」
感心している一ノ葉の背中に、鈴音は飛び乗った。スカートのような行灯袴なので、少
し跨りにくいが、あまり気にしないことにする。
「それでは、出発なのです!」
左手で袴を押さえ、前方を指差し、鈴音は元気に声を上げた。
それに応じるように一ノ葉が歩き始める。足取りに合わせて、視界が少し上下に揺れ
ていた。電気屋の駐車場を横切り、歩道を歩いていく。周囲を包む薄い妖力。簡易結
界を張っているらしく、風の影響は少ない。黒髪の先端がなびく程度だった。
「ところで、鈴音……だったか」
ふと一ノ葉が口を開いた。足は止めぬまま、肩越しに茶色い目を向けてくる。
それを見つめ返し、鈴音は訊き返した。
「何なのです?」
一ノ葉は数秒迷うように口元を動かしてから、口を開く。
「送ってやる代わりといっては何だが……お前にひとつ頼みがある。金運を少し貰いた
いのだが、できないか? 欲しいものがあってな」
「欲しい物なのですか?」
鈴音が見つめると、一ノ葉は目を逸らした。
道行く人間は誰も自分たちを見ていない。一ノ葉は術を使えない人間でも見えるよう
だが、簡単な結界がその姿を眩ませている。
ぴくりと狐耳を動かしてから、答えてきた。
「高級タオルケットと大型ペット用電子マット、あと本が何冊か。これから冬になるし寒く
なるから、寝るときは暖かくしたい。……のだが、あいにくワシには金がない」
自信なさそうな口調。
今は一ノ葉の作った結界に阻まれているが、周りの空気は冷たい。寒さや暑さを感じ
ない式神もいるが、一ノ葉はそのような気温変化を感じる種類なのだろう。
左手で一ノ葉のたてがみに掴まったまま、鈴音は自分のもみあげを引っ張った。
「式神さんなら、主サマがいるはずなのです。ワタシに頼むよりも、主サマに買って欲し
いと頼めばいいのではないですか?」
「あいにく、ヤツは学生の身分。退魔師の仕事も無いから、金も無い。頼んだところで買
ってくれるとは思えん。そこでお前に頼んでいる」
振り向いてくる一ノ葉。
式神の面倒を見るのは、基本的に主である退魔師だ。だが、退魔師でも学生の間は
滅多に仕事は与えられないらしい。鈴音の知識にはそうあった。仕事がなければ収入
もない。一ノ葉が買って欲しいと頼んでも、肝心の買うお金が無いのだろう。
そう判断して鈴音は頷いた。
「分ったのです。金運招きしてみるのです。ただ、ワタシは見ての通り小さい福の神なの
です。大きな幸運は作れないのです。その福招きで無理にお金を手に入れようとすれ
ば、相応の反動が来るのです。それは気をつけて欲しいのです」
「分っている」
一ノ葉が頷く。
鈴音はぱんと両手を打ち合わせた。法力と神格によって作り出される、色も形もない
幸運の因子。右手を一ノ葉に触れさせ、その因子を流し込む。コップに水を注ぐような
感覚とともに、一ノ葉に金運が宿った。
見た目は何も変わっていないし、本人も他人も言われなければ分らない。
「終わったのです」
「そうか、ありがとう」
短く礼を言ってから、一ノ葉が続ける。やや声を抑えつつ、
「あと、琴音だったか……? そっちにも話があるのだが、代わって貰えないか?」
「……? 分ったのです」
首を傾げてから、琴音はそう答えた。
以上です
続きはそのうち
最後の文は、「琴音」ではなく「鈴音」です。
誤字失礼しました。
乙
貧乏ってやーねw
厄の内容を指定したりするのだろうか
保守
投下乙
GJ!
・<チョコ渡せなかったょぅ……
投下します
34話 厄神への頼み事
音も無く、鈴音の姿が変化を始めた。
黒かった瞳が赤く染まり、黒髪から色が抜け白い髪へと変わっていく。緋袴が黒袴にな
り、白衣が赤く変化し、袖口が胴部分から離れた。身体も子供っぽいものから、少し大人
びいたものへと成長していく。
鈴音から琴音への変化は五秒ほどで終わった。
琴音は袖から赤いリボンを取り出し、髪の毛をポニーテイルに結い上げる。両手を何度
か動かしてから、完全に主導権が入れ替わったのを確認。
「オレに何の用なのだ?」
一ノ葉の頭に手を置き、そう尋ねた。
「なかなか面白い仕組みだな」
足を止めぬまま、一ノ葉が振り向いてくる。琴音の姿を確認するように。変化が終わっ
たと確かめてから、正面へと目を戻した。
「ひとつお前に頼みがある……と――」
言いかけてから口を閉じる。
「どうしたのだ?」
「………。お前達は身体を共有しているようだが、記憶も共有しているのか? さっきの
福神にはあまり知られたくないことを頼みたいのだが……」
いくらかの躊躇を置いて、一ノ葉が答えた。厄神に頼む事は普通は他人に知られたくな
いことである。鈴音にも伝わることを恐れたのだろう。
琴音は前髪を右手で払い上げ、
「記憶の共有はしてるけど、隠すくらいはできるのだ」
口の端を持ち上げ、そう告げた。
一ノ葉の作った結界を隔てて、風が周囲を撫でている。結界をすり抜けた風がポニーテ
イルや赤い袖を揺らしていた。白い雲が青い空を流れている。
琴音は続けて尋ねた。
「お前は何をしたいのだ?」
「ワシの主に少し厄を与えたい」
一ノ葉は尻尾を動かしながら、答える。
両腕を組んでから、琴音は白い眉を寄せた。
「主との仲が上手くいっていないのか? それは問題なのだ……」
式神使いと使役される式神は、お互いの信頼によって成り立っている。式神と仲が悪い
と言うことは、式神使いにとって致命的な問題だ。それは式神使いにとっても式神にとっ
ても、悪い結果を招くことになるだろう。
「安心しろ」
一ノ葉が苦笑する。狐耳が小さく動いた。
「お前が心配するようなことは起こっていない。ワシと主の関係は良好だ。ワシもやつの
力は十分に認めている。ただ、あいつはワシのことをよくオモチャみたいに扱うからな。そ
のことでちょっとバチを与えてやりたいだけだ」
「ほう、お前の主ってのはどんな人間なのだ?」
「イタズラ好きのサディスト……かな?」
琴音の問いに、一ノ葉がため息混じりに答える。それだけで、何となくどのような人物か
は想像がついた。苦労しているらしい。
「小森一樹に似ているのだ。意外と気が合うかもしれないのだ」
「お前の主はどんな男だ?」
琴音は視線を持ち上げ、一樹のことを思い返した。琴音として表に現れて一樹と接して
いたのは一日程度。だが、それでも十分にその性格は分かる。
「三度の飯より数学が好きな、枯れ枝の智略者なのだ」
「………?」
一ノ葉の頭に疑問符が浮かんだように見えた。琴音の言葉にその人物像を想像しかね
たようである。さすがに説明が意味不明すぎるだろう。
しかし、琴音自身としては的確な表現だと思う。
「まあ、いい」
尻尾を一振りして、一ノ葉が話を戻した。
「ワシはやつに軽く仕返しをしてやりたい。かといって、下手に大きな事故とか起こされて
もワシも困るし、風邪でも引かせられれば、それで満足だ」
「分かったのだ」
琴音は頷きながらも、釘を刺す。
「先に言っておくのだ。厄を扱うのは、福を扱うよりも難しいことなのだ。人を呪わば穴ふ
たつなのだ。自爆してもオレを恨んだりするな、なのだ」
「分かっているさ」
軽い笑みとともに、一ノ葉が頷いた。
琴音自体力の弱い厄神なので、起こせる厄も大したものではない。だが、他人の運勢
に干渉するということは、思わぬ反動を招く危険性もある。小さな災厄でも、大きな災厄の
引き金になることはありえるのだ。
「オレはっちゃんと忠告したのだ。あとは、自己責任なのだ」
念を押してから、琴音は両手を打ち合わせた。法力と神格によって作り出される、色も
形もない災厄の因子。右手を一ノ葉に触れさせ、その因子を流し込む。コップに水を注ぐ
ような感覚とともに、一ノ葉に厄が宿った。
見た目は何も変わっていないし、本人も他人も言われなければ分らない。
「厄込め。終わったのだ」
言ってから、琴音は視線を上げた。白い髪の毛を結い上げていた赤いリボンを取り、赤
い袖へとしまう。頭を左右に振って髪の毛を散らしながら、
「オレの仕事は終わりなのだ。あとは上手くやるのだ」
身体が変化を始める。
髪の毛が黒く染まり、目が赤から黒へと変化する。上衣の袖と胴が繋がり、色が赤から
白へ、黒袴が緋袴へと変化していった。身体も少し縮んで子供っぽいものとなる。
五秒ほどで鈴音へと戻った。
わきわきと両手を動かしてから、鈴音は一ノ葉の頭に触れる。
「一ノ葉サマ、琴音と何を話していたのです?」
本来琴音と一ノ葉が話していた内容は、鈴音の記憶にも残るはずだ。しかし、鈴音はそ
の部分を見ることが出来ない。琴音が隠したようである。
「すまぬが、秘密だ」
軽く笑いながら、一ノ葉が答えた。
以上です
一番槍GJ
保守
ほっしゅ
277 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/02(火) 20:43:46 ID:YzRZOPF6
神スレ
投下します
25話 帰路異常なし
風に揺れるイネ科植物の葉。
一ノ葉の背に乗った鈴音は、右手を前に突き出した。
「この先に、一樹サマのお家があるはずなのです」
「川だぞ……」
ため息混じりの一ノ葉の声。
鈴音の前には、幅二十メートルほどの川が流れていた。強風に水面が激しく波打ってい
る。その両岸はオヒシバやエノコログサなどイネ科植物の茂った草地になっている。ただ
秋も深くなったせいか、ほとんど枯れている。川を挟むように土手が作られてあった。
いわゆる、普通の川である。
鈴音は目の前の川を見つめたまま、両腕を組んだ。
「困ったのです……。こっちの方向に一樹サマのお家があるのは分かるのですが、川にな
っているのです。このままでは進めないのです」
「近道とか言わず素直に道なりに行っていればよかったな……。多少遠回りにはなるが、
国道沿いに行っていれば普通に橋を渡れただろう」
右前足で頬のヒゲを撫でながら、一ノ葉が他人事のように呟く。
依代であるお守りのある方向へと誘導していたら、いつの間にか川岸にいたのだ。依代
の位置が分かるといっても、それは直線方向としてである。途中に障害物があっても、そ
の存在は分からない。
「これは、盲点だったのです……」
鈴音は神妙な面持ちで首を縦に動かした。
「普通は気づくものだが……」
言ってから、一ノ葉は足を進める。川に向かって。
その行動に鈴音は思わず声を上げた。
「一ノ葉サマ?」
「幸い川でよかったわ。高速道路とかだったら厄介だったが……」
前足が水面に触れる。
しかし、一ノ葉は沈むことももなく、水面に足を付けていた。続けて後ろ足も水面に付き、
そのまま川の上を四つ足で歩いていく。身体が沈むことはない。歩く度に足から薄い波紋
が川面に広がっていた。
「乱歩の術・水雲……」
一ノ葉は肩越しに鈴音を見やり、そう口にする。
「水の上を歩く術だ。ワシも初めて使ったが、そう難しいものではないな」
「面白そうなのです。ワタシも使ってみたいのです」
一ノ葉の足元を見つめながら、鈴音は正直に呟いた。足から薄い妖力が広がり、水面を
固定している。それほど難しい術式ではないようだった。
「使えるのか?」
茶色の目に不安げな色を見せる一ノ葉。
「使ったことはないのです。でも、試して見たいのです」
鈴音はぱんと両手を打ち合わせた。両手に法力を集中させる。手を合わせる深い意味
はないが、複雑な術を使う心の合図のようなものだった。
だが、一ノ葉が静止してくる。
「やめておけ、落ちて流されてたら笑い話にもならぬ。お前は多分泳げないだろうから、面
倒なことになるのは目に見えている。どのみち助けるのはワシなのだ」
鈴音は背中に掴まったまま、川面を見つめた。
強風によって水面には無数の小さな波ができている。深さは一メートルもなく、流れもそ
れほど速くはない。だが、落ちたら大変だろう。
両手に集めた法力を戻し、鈴音は頷いた。
「今度お風呂場で試してみるのです」
「それがいいだろ」
安心したように正面に目を戻す一ノ葉。
そうしているうちに川を渡りきり、向こう岸へとたどり着く。
「さて……」
水面から土の上に移動しながら、一ノ葉が空を見上げた。鈴音も空を見上げる。
先程と変わらぬ青い空を、白い雲がかなりの速さで流れていた。太陽の位置はそれほど
変わっていない。一ノ葉と一緒に一樹の家を目指してから、まだ一時間程度しか経ってい
ないようだった。
「この調子ならば、昼過ぎには着くかな?」
尻尾を動かしながら、一ノ葉が呟いた。元々極端に長い距離を移動するわけでもなく、途
中に大きな障害もない。人間よりも足の速い一ノ葉ならば、一樹の家まで行くのもそれほ
ど時間はかからないだろう。
「なんかあっけないのです。もう少し冒険したかったのです」
足を揺らしながら口にした鈴音の言葉に。
「ん?」
一ノ葉が右へと目を移した。
鈴音も一緒に目を向ける。
風上から紙袋が転がってきた。川岸の砂利道を転がるように近づいてくる。茶色い紙製
で取っ手が付いていた。どこかのホームセンターのものだろう。
近づいてくる紙袋を、鈴音はじっと見つめる。
「何かトラブルの予感なのです」
「ふん!」
だが、一ノ葉が右前足を一閃。
鋭い風切り音とともに、紙袋が裂けた。前足の爪から見えない刃を飛ばす術なのだろう。
鋭利な刃物で斬ったように、一瞬で細切れになっている。十枚ほどに分かれた紙切れが、
強風で空に舞い上げられていった。
「凄いのです……」
真上を飛んでいく元紙袋を見上げながら、鈴音は感嘆の言葉を漏らす。どのような術か
は分からなかったが、その攻撃力は真剣以上だろう。人間相手でも十分に殺傷能力のあ
る術を、一ノ葉は苦もなく使ってみせた。
「お前、何を期待していた?」
「あははー。気のせいなのです……」
ジト目で振り向いてくる一ノ葉に、鈴音は誤魔化し笑いを見せた。
以上です
つづきはそのうち
鈴音たんカワユスハァハァGJ(;´Д`)
284 :
1:2010/03/05(金) 00:18:38 ID:91MGnvkR
保守
>>275 ごめん、そっちも知ってるのに気づかなかった、、、
名前同じだなぁってw
289 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 08:25:23 ID:ajefDXBa
先月のコミックリュウの読みきりが妖精を作る話だった
投下します
36話 最後の難関
「着いたのです」
一樹の家の前までたどり着き、琴音は元気よく声を上げた。
閑静な住宅街の一角にある二階建ての一軒家。
「何事もなく着いてよかったな。短い間だったが、ちょうどいい暇潰しになったわ」
尻尾を動かしながら、一ノ葉が頷いている。
鈴音は跨っていた背中から跳び降りた。アスファルトの上に両足で着地してから、一ノ
葉に向き直る。一ノ葉がいなかったら無事に帰ってくることはできなかっただろう。背筋を
伸ばして一礼した。
「ありがとうございますなのです。おかげで助かったのです」
「気にすることはない」
素っ気なく答えてから、一ノ葉は素早く踵を返す。少し照れているようだった。それを悟
られないために、背を向けたようである。
「それでは、ワシは帰るとするよ」
すたすたと歩き出す一ノ葉。
「さよならなのです」
鈴音はその背中に向けて右手を振った。ぱたぱたと白衣の袖が揺れる。
唐突に風が顔を撫で、思わず鈴音は目を閉じた。一ノ葉の作っていた風除けの結界か
ら出たらしい。猛烈な風に緋袴や白衣がはためき、黒い髪が流される。
「早く戻るのです……」
髪を手で押さえながら、鈴音は玄関へと走った。助走を付けてから跳び上がり、玄関の
ドアノブへと飛びつく。体重を利用してドアを開けようとするが。
ドアが開かない。
「あれ……?」
ドアノブにぶら下がったまま、鈴音は硬直した。冷や汗が頬を流れていく。嫌な考えが
頭に浮かんでいるが、思考がそれを認めようとしない。
それから手を放し、玄関前のタイルへと降りた。
「そういえば、今日はお家の人はみんな出掛けているのです……」
一樹だけでなく、両親も姉も用事で出掛けている。出掛ける前の一樹にそう言われたこ
とを、鈴音は今更ながら思い出していた。一樹の家族は几帳面なので、家の鍵は全部閉
まっているだろう。
「最後の難関なのです……」
腕組みをして、鈴音は眉根を寄せる。家までたどり着いても中に入ることができない。
誰かが帰ってくればいいのだが、それまでは外で待つしかなかった。
声は唐突だった。
「……何をやっている?」
「一ノ葉サマ!」
後ろから聞こえた声に、鈴音は目を潤ませながら振り向いた。
玄関前に一ノ葉が腰を下ろしている。さきほど帰ったはずだが、戻ってきていた。心底
呆れた面持ちで、鈴音を見つめている。
「嫌な予感がして引き返してみれば案の定……。ま、これも乗りかかった船だ。最後まで
付き合ってやる。ワシに何をして欲しい? 出来ることならやってやるわ」
「あのベランダまで行きたいのです! お願いしますなのです、一ノ葉サマ! ワタシをあ
そこまで連れて行って欲しいのです!」
鈴音は真上にあるベランダを指差した。二階のベランダ。鈴音は一樹の部屋から外に
出たのだ。そこだけは鍵が開いている。
一ノ葉は小さく吐息した。
「その程度か。鍵壊せとか言われなくて安心したわ……」
言うが早いか、一ノ葉が動いた。今までの普通の挙動からは想像もできない、凄まじい
俊敏性。跳ねるように道路を蹴り、鈴音に飛びつく。
「な!」
驚いた時には、鈴音は宙を飛んでいた。
一ノ葉が白衣の襟を咥え、跳び上がったと理解するのには数瞬の時間を要した。妖力
による身体強化による跳躍。二階と同じくらいの高さまで、あっさりと跳んでいる。
屋根を蹴り、一ノ葉はベランダへと着地した。
放心している鈴音を下ろすと、ちらりと部屋を見やる。
「ここがお前の主の部屋か」
部屋の中を確認してから、前足でガラス戸を押し少しだけ隙間を空けた。
口をぱくぱくさせている鈴音に向き直り、
「これで大丈夫だな? ワシはこれで帰ることにする。なかなか楽しい時間だった。たま
にはこういうのもいいかもしれぬ。毎日は困るだろうがな」
そう笑ってから、一ノ葉はベランダを蹴った。三角跳びのように一樹の部屋のガラス戸
を後ろ足で蹴ってから、家の前の道路に着地する。二階から飛び降りたというのに、何と
もないようだった。
ベランダの方を一瞥してから、すたすたと歩き出す。
「助かったのです……」
鈴音はそれだけ呟いた。呟くしかできなかった。
- - -
「一樹サマ」
一樹が部屋に戻ると、鈴音が机の上に仁王立ちしていた。
そちらへと歩きながら、問いかける。
「鈴音、どうした?」
「これを持っていて欲しいのです!」
差し出してきたのは、四枚のお札だった。部屋にあったコピー用紙を切って作ったのだ
ろう。千円札ほどの大きさで、複雑な文様とともに中心に『霊』という文字が描かれていた。
墨文字のように見えるものの、墨ではないようだった。
「これは、ワタシを口寄せするお札なのです。もしワタシの助けが欲しい時は、これを手で
破って欲しいのです。それで術符に込められた口寄せの術が発動して、ワタシが一樹サ
マの所へ一瞬で移動できるのです!」
どうやら家を抜け出して苦労して戻ってきたらしい。
そのことには気づいたが、一樹は何も言わず、札を受け取った。
以上です
続きはそのうち
毎度乙です
しかしずっと読んでるけど、うちにも福の神来ませんかね
書き始めたのは一昨年の十月頃だったか
もう一年半だな
保守
保守
投下します
第37話 琴音のチャレンジ 前編
「ふっふっふッ、油断したのだ。小森一樹……」
誰もいない一樹の部屋。その机の上に仁王立ちして、琴音は目を細めて静かに笑ってい
た。鈴音から琴音に入れ替わり、大学に連れて行くか否か迷っていた一樹に、琴音は家に
残ると告げた。そうして今、誰にも邪魔されず一樹の部屋にいる。
琴音は右手に持ったUSBメモリを持ち上げた。
一樹が大学に行ってから二時間の家捜しの結果、テレビの下の隙間に隠してあったのを
発見したのである。16GBと容量が大きめのフラッシュメモリ。既に関数電卓も用意してあ
り、パソコンも立ち上げてあった。
「オレは鈴音ほど甘くは無いのだ。小森一樹、お前の秘密は見せて貰うのだ!」
赤い目を見開き、琴音はUSB端子へとフラッシュメモリを突き刺した。カシャという微かな
音とともに、コネクタが接続される。上下を間違うというミスは犯さない。
数秒でパソコンがメモリを読み取った。アイコンが追加される。
「データを残すのは、確かに外付けHDDが一番なのだ。でも、他人に知られたくないデータ
を保存するのは、容量が大きめのフラッシュメモリで十分なのだ。USBメモリやSDメモリは
外付けHDDよりも小さいから、どこにでも隠せるのだ」
自分の行動を確認するように喋りながら、琴音はパソコンの前に腰を下ろした。自分の
言葉を聞く者はいない。独り言はその場の雰囲気と勢いである。
白い眉毛を内側に傾けながら、琴音はマウスを動かし、メモリを開いた。
『パスワードを入力してください』
ほどなく出てくるパスワード確認画面。これは以前鈴音が見たものと一緒である。鈴音の
記憶として、琴音も知っていた。ここで違うパスワードが設置されていたらそれで努力は水
泡に帰すが、多分それはないだろう。
『12345678』
慣れた動きで琴音は数字を入力する。
『パスワード承認』
再び読み込み画面が動き出した。
琴音は白いポニーテイルを手で払い、両手の指をほぐしながら深呼吸をする。関数電卓
はすぐ傍らに用意してあった。
「ここまでは問題無いのだ。そして、こいつなのだ。問題を解くのは簡単だけど、地味に面
倒くさい入力方式。考えたヤツは性格悪いのだ」
『接続キー入力』
簡素な文字が表示され、続いて問題が表示される。
『10の平方根を 9桁まで 30秒以内に入力せよ』
「ラッキーなのだ。これは簡単なのだ!」
にやりと笑ってから、琴音は素早く関数電卓に指を走らせていた。10を入力してから、√
キーを押す。液晶ディスプレイに表示される、十二桁の数字。
『3.162277660168』
キーボードの数字を叩き、琴音は素早くその数字を入力する。残り時間を見るとまだ二十
秒も残っていた。余裕たっぷりにエンターキーを押し、
『接続キー入力失敗 再入力しますか? はい いいえ』
「あれ……? 入力ミスしたのだ」
思わず瞬きしてから、琴音はマウスを動かし「はい」をクリックする。
* * *
『接続キー入力失敗 再入力しますか? はい いいえ』
「……おかしいのだ」
画面に現れた小さなウインドウを凝視しながら琴音は口を曲げた。さきほどから入力を繰
り返すこと八回。だが、何度も再入力を求められる。
九桁の数字を入力。電卓を読み間違ったり、打つキーを間違えたり、入力ミスの可能性
はそれなりに高い。しかし、八回連続で入力ミスをするとは思えなかった。
「もしかして、なのだ……」
琴音は一度『いいえ』をクリックする。頬を冷たい汗が流れ落ちた。乾いた唇を舌で舐め
る。頭に浮かんだ、予感が頭。最も根本的な見過ごし。
マイコンピュータへと戻り、琴音は改めてフラッシュメモリを開いた。
『パスワードを入力してください』
パスワード確認画面が現れる。
『43gdsbdt8yf』
琴音は適当にキーを打ち、エンターキーを押した。絶対に間違っている文字列。普通なら
ばパスワードが違うと再入力を求められるだろう。だが、予想に反して――いや、予想通り
と言うべきか、出てきたのは同じ文字だった。
『パスワード承認』
「謀られたのだ……」
右手の親指を噛み、鈴音は眉間にしわを寄せる。大事なデータにはそれなりのパスワー
ドを入れるだろう。一度鈴音がHDDを開けたのに、全部のデータに同じパスワードを設定す
るほど一樹は脳天気でもない。当たり前すぎて、今まで意識の外にあった。
「オレは馬鹿なのだ……」
『接続キー入力』
簡素な文字が表示され、続いて問題が表示される。
『165の5.4乗を 9桁まで 30秒以内に入力せよ』
数字が減っていくが、答えを入力しても無意味なのは分かっていた。
パスワードの正否に関わらず、接続キー計算入力画面に移動し、パスワードが間違って
いれば計算の正解を入力しても、中身のデータには到達できない。
『接続キー入力失敗 再入力しますか? はい いいえ』
「このプログラム作ったヤツは、本当に性格悪いのだ……」
画面に表示された文字を睨みながら、琴音は呻いた。肝心のパスワードが分からなけれ
ば開けられない。それは当然のこと。だが、間違っても気づかない仕組みを組み込んであ
るのには、明らかな悪意を感じる。悪意というよりは、厭らしさ。
それでも、琴音はぎしりと奥歯を噛みしめ、赤い瞳に意志の炎を灯した。
「だがしかし、オレはこの程度では諦めないのだ……。こうなったら意地でも開けてやるの
だ。厄ノ神の根性見せてやるのだ! というわけで、鈴音、出番なのだ!」
「……出番って、何を言っているのです?」
音もなく右目が黒く染まり、鈴音が現れた。
以上です
続きはそのうち。
GJ!!
行動が可愛いよなあ…
307 :
名無しさん@ピンキー:2010/04/05(月) 04:41:42 ID:+jyc1Wql
ほしゅ
投下します
第38話 琴音のチャレンジ 後編
琴音はびしっと画面を指差した。さきほどから変わらぬ文字。
「オレに福を寄越すのだ」
「………?」
鈴音が不思議そうに見つめてくる。自分自身を見ることはできないが、自分を見るように
黒い右目が動くのが分かった。
「琴音とワタシは同一人物なのです。自分で自分に福を呼ぶことはできない……と思うの
です。試したことはないのですけど」
琴音の意志とは別に口が動き、そう言葉を連ねる。
他人に影響を与える力を持つ神は、自分にはその『何か』を与えることは出来ないことが
多い。自分で作ったものを自分に与えても、反作用と効果が相殺されてしまうからだ。自
分で自分の襟首を引っ張っても宙に浮かばないのと理屈は同じである。
しかし、琴音は強い口調で断言した。
「大丈夫なのだ。心は別人だから、何とかなるのだ!」
「うーん。でも、その場合、ワタシにも反動くるような気がするのです……」
鈴音が不安そうに目線を持ち上げる。鈴音と琴音。同じ身体を共有する別人格。人格が
交換すれば容姿も変わるが、あくまでも同一人物だ。効果と反作用が相殺せずに、別々
に現れるかもしれない。
「その厄はオレが引き受けるのだ。福神の作った福の反動は厄神が扱うのだ。だから、そ
の厄自体はオレがどうにでもできるのだ……多分」
鈴音の心配を打ち消すように、琴音は続けた。鈴音が福の神として使った幸運の反作
用は、厄として琴音が扱える。ある程度制御することはできるだろう。
それで、鈴音はひとまず納得したようだった。
「分かったのです。とりあえずやってみるのです。でも、ひとつお願いがあるのです。琴音
の身体をしばらく貸して欲しいのです」
「妙なことを言うのだ」
訝る琴音に、鈴音が答える。
「大人の身体の感じを試してみたいのです」
「そういえばお前、身体が小さいこと気にしてたのだ……。なるほど、分かったのだ。身体
を貸すくらいならどうってことないのだ。その条件で頼むのだ」
身体を貸す。身体を操作する役割を全て鈴音に預けるという意味だ。表に出てくるという
意味ではなく、身体の変化は無しにそのまま動かせるようにしろということである。特に難
しいことでもない。
両腕の袖が白く染まる。
「では――」
鈴音が両手を打ち合わせ、琴音の胸に右手を触れさせた。福が込められる。色も形もな
い幸運の因子。何も変化は無いが、それでも琴音は自分に幸運が宿ったと自覚した。
「これで終わりなのです。頑張るのです」
袖が赤に戻り、右目も赤色に戻る。鈴音が意識の奥へと引っ込んだ。
両手を組んで腕の筋を伸ばし、琴音はディスプレイを見つめる。
『接続キー入力失敗 再入力しますか? はい いいえ』
さきほどから変わらぬ文字が表示されている。ここで、適当に文字を入力しても正解にな
ることはないだろう。幸運とはそこまでご都合主義ではないのだ。
思考を回しながら、琴音は両目を見開く。
「閃きよ……来るのだ……。――! 来たのだァ……!」
脳裏に弾ける閃き。
弾けた電流が全身を躍動させる。大袈裟とも言える動きで琴音はマウスを操作し、『い
いえ』をクリックした。マイコンピュータ画面に戻り、メモリを開く。
『パスワードを入力してください』
「コレなのだ!」
両手を動かし、琴音は入力欄に文字を打ち込む。
『password』
そして、勢いよくエンターキーを押す。これがパスワードとは思えないが、何かしらの打
開策が出てくるだろう。窮地における幸運は閃きという形で現れることが多い。
『パスワードを忘れてしまった場合』
予想通り、画面に表示される新しい文字。
『100x^2+50x+100のx=0のxの値を求めよ』
「へ……」
目を点にして、琴音は表示された言葉を見つめた。
くるくると頭の中身が空回りしている。真っ白に染まった思考。パスワードを忘れた場合
に『password』と入力すると、パスワードを求める暗号が出てくる仕組みのようだ。その暗
号が、『100x^2+50x+100のx=0』という二次方程式らしい。
十数秒ほどして、琴音は結論を出す。
「分かるかーなのだー!」
机を勢いよく蹴り、右手を電源ボタンへと叩き付けた。ボタン内部のバネの手応えから、
コンピューターがシャットダウンへと移行する。電源シャットダウンはやらない方がいいらし
いが、壊れることもないだろう。
「まったく、小森一樹は何を考えているのだ……!」
文句を言いながら机から飛び降り、琴音は部屋を横切った。ベッドの手前で草履を脱い
でから、床を蹴ってベッドへと飛び乗る。両手両足を広げて、布団の上に寝転がった。急
激に押し寄せてくる徒労感。
赤い右目が黒く変化する。口が勝手に動き、言葉を紡いだ。
「一樹サマは知られたくないものを無防備にするような人ではないのです。琴音も残念だ
ったのです。でも、ワタシみたいに怖いアニメのトラップが無くてよかったのです」
「……そうかもしれんのだ」
両手を頭の後ろで組んで、琴音は適当に答える。一樹は抜け目ない男だ。好奇心の強
い者が近くにいる状況で、他人に見せたくないものを無防備にしておくほど愚かでもない。
分かっていた事と言えば分かっていた事なのだが。
鈴音が声を弾ませながら、言ってくる。
「それでは、約束通り琴音の身体を貸して欲しいのです」
「ああ。分かっているのだ。あとはお前の好きにするのだ」
琴音はそう答えて、ふて寝するように両目を閉じた。
以上です
続きはそのうち
GJ!
琴音の身体を借りて鈴音は何をする気なのだろwktk
314 :
名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 01:21:14 ID:aPjKMfAw
ほ
投下します
第39話 二人の違いは
鈴音は目蓋を開けた。琴音の赤い瞳ではなく、鈴音の黒い瞳。
自分の意志が手足の隅々にまで行き渡る。
「これで、オッケイなのです」
頭の後ろで組んでいた両手を離し、鈴音はベッドに手をついて上半身を起こした。視線
を下げると、赤い上衣に黒い行灯袴が見えた。身体は琴音のままである。額の辺りで揺
れている白い髪の毛。
「思ったよりも簡単にできたのです。これが琴音の身体なのですか」
ベッドの上に直立する。
視線が少しだけ高くなっていた。一樹の部屋が小さくなっているのが分かる。鈴音と琴
音の身長差は三センチ程度であるが、鈴音にとっては十分な身長差だった。
「やっぱり四十センチ越えると、世界が変わるのです」
腕組みしながら、鈴音はしたり顔で頷く。
それから、両手を広げて身体を動かしてみた。身体が重いとか軽いとか、そういう感覚
はない。体格が少し違うだけで、運動能力は同じである。いちいち変わるように作る必要
性も無かったのだろう。
鈴音はベッドを蹴って跳び上がり、空中で一回転して両足で着地した。いわゆるバク宙
と言われる動きである。
「10点ッ、なのです!」
両手を左右に広げたまま、鈴音は満足げに笑った。身体が軽いためかなり無茶な動
きが可能である。もっとも、純粋な力はさほど強くはない。
「んー?」
両手を下ろし、鈴音は軽く飛び跳ねた。上衣の袖やポニーテイルの髪が跳ねる。それ
と一緒に何か肩が下方向に引っ張られる感覚があった。鈴音に無い感覚である。
視線を下ろすと、赤い上衣を押し上げる膨らみが見えた。
「おおー」
驚きながらも、鈴音は両手で胸に触れる。両手ではっきりと分かる丸い膨らみ。凹凸
が辛うじて分かる鈴音とは違い、琴音は成長した少女の身体だった。
無遠慮に胸を触りながら、鈴音は眉根を寄せる。
「さすが琴音なのです……。というか、同じ身体のはずなのに、ワタシは子供っぽくて、琴
音は大人っぽいのは不公平なのです」
仙治の顔を思い浮かべながら、不満を口にした。
巫女装束のようなゆったりした服を着ているため体型が分かりにくいが、ぺたぺたと服
の上から身体を触ってみると、大人に近い体型であることがはっきりと分かる。
「琴音はどんな下着付けているのです?」
鈴音は黒い行灯袴の裾に両手をかけ――
その両手が跳ねた。
「!」
自分の意志とは関係なく、自分の顔面へと平手打ちを叩き込む。
声も上げられず、鈴音は仰向けにひっくり返った。背中からベッドの上に倒れる。いき
なりのことでびっくりしたが、痛みはそれほどでもない。
「お前は、何ヒトの身体にセクハラしてるのだ! 身体貸せと言うから何をするかと思え
ば、もう少しマシなことするのだ!」
口が動き、琴音の言葉を放つ。どうやら眠っていたわけではないらしい。鈴音の行動に
興味を示さなかっただけで、意識は残っていたようだ。現在身体の主導権は琴音にある
ので、それは当然なのかもしれない。
しかし、鈴音は上体を起こしながら、
「細かい事気にしてはいけないのです」
「細かくはないのだ!」
琴音が言い返してくるが、鈴音は両手を握ってさらに言い返す。鈴音の意識が完全に
表に出てきているため、今は琴音の意志を押し切って身体を動かすこともできた。
「しばらく身体貸すと約束したのです。約束は守るべきなのです」
「おかしなことしようとする相手に貸せるかなのだ。約束は無しなのだ。お前はおとなしく
引っ込んでいるのだ」
鈴音の意識を押し込めようとする琴音に。
「ならば、実力行使なのです!」
鈴音はきっぱりと抵抗した。
◇ ◆ ◇ ◆
「――というわけなのです」
「何がなんだか……」
一樹はこめかみを押えて首を左右に振った。そこはかとなく頭痛がする。
机の上に立った、琴音……だと思う。琴音と鈴音の身体がまだら模様になっていた。
身体のベースは琴音らしい。そこに鈴音の特徴が混じっている。髪の毛は黒と白が、上
衣も白と緋色が、袴も緋色と黒が混じっていた。キメラとでも言うのだろう。何とも不気味
な外見。ポニーテイルの髪は下ろしてあった。
「困ったのだ。このままでは不便なのだ……」
琴音がため息をついている。
一樹は現実逃避気味にカーテンの閉められた窓を見やった。大学が終わり家に帰り
部屋に戻ったら、琴音と鈴音のキメラが待っていた。話を聞く限り、身体の主導権争いを
していたら、混じったらしい。
「一樹サマ、どうにかしてほしいのです。主サマに言えば、多分直し方教えてくれると思う
のです。このままでは物凄く不便なのです」
「何かあった場合の直し方は一応知ってる」
眼鏡を直しながら、一樹は琴音に目を戻した。
琴音が現れる前に貰った仙治からの手紙。そこに、緊急事態用の初期化方法が書か
れていた。身体の状態を一度リセットするらしい。鈴音たちのことを機械のように表現し
ていたことに、苦笑した記憶がある。
「じゃ、さっさとするのだ」
白と黒の眉毛を内側傾けながら、言ってくる琴音。
一樹は右手を伸ばして、頭から跳ねたアホ毛を指で摘んだ。
「の!」
両目を見開き身体を強張らせる琴音。よく分からないが、意外と敏感な部分らしい。だ
がその反応は無視して、一樹はアホ毛を軽く上に引っ張った。冗談のようだが、これが
緊急リセット方法である。
カシャ。
と音が聞こえたのは多分錯覚だろう。
次の瞬間には、合成獣化していた身体が琴音へと戻っていた。白い髪に赤い瞳、胴と
袖の分かれた緋色の上衣、黒い行灯袴。リセットすると、意識の主導権を握っている者
の初期状態に戻ると書いてあった。ある程度なら身体や服の傷も消えるらしい。
琴音は自分の身体を撫で回してから、拍子抜けした表情を見せる。
「戻ったのだ……」
以上です
続きはそのうち
一尺三寸福ノ神は
そろそろ適当に終わらせようと考えています。
乙!
鈴音と琴音はもちろん
一樹のキャラも好きなので完結するのは残念ですが……(´・ω・`)
保守
ほしゅ
投下します
第39話 琴音と一緒に
家の近所にある児童公園。
「じゃ、そういうわけだから、後は上手いことやってくれたまえ」
手を振りながら去っていくスーツ姿の仙治。頭には三角耳が生え、腰の後ろでは尻尾が
ゆらゆらと揺れている。本人の言葉では、狼神として本来の姿らしい。仕事でこちらに来
たついでに一樹に声を掛けたようである。その用事は今終わった所だ。
「上手いことね……」
一度眼鏡を動かしてから、一樹は自分の手元に目を落とした。
両手に握られた赤いお守り袋。たった今、仙治から渡されたものだった。鈴音や琴音が
いつも付けているのと同じ形だが、文字は記されていない。
「時間はあるから気長に考えよう」
お守りをポケットにしまい、一樹はココアの空き缶を近くのカゴに放り込んだ。
◇ ◆ ◇ ◆
暖房の効いた暖かい部屋の空気。十二月にもなり、空気は冷たくなっている。もう暖房
無しでは生活できなくなっていた。冬は苦手な季節である。
「まだ、鈴音に戻らないの?」
ベッドの上に座っている琴音を見ながら、一樹は尋ねた。
一昨日からずっと琴音のままである。以前は一日ほどで元に戻っていたが、今回は三
日も琴音の姿を維持していた。もっとも、鈴音と琴音が入れ替わるのはまだ二回目なので、
今の状態が異常なのか正常なのかは分からない。
琴音が不服そうに白い眉を内側に傾け、腕組みをする。
「む。失礼なことを言うのだ、小森一樹。オレでは不満だというのか? やはり、厄神より
福神の方がいいというのか? やはり、人間は身勝手なのだ」
「そういうわけじゃないけど」
眼鏡を外しながら答える。外した眼鏡はベッドの近くに置いた。
組んでいた腕を解き、琴音が両足を伸ばして座った状態から立ち上がる。白い髪をポニ
ーテイルに結い上げていた赤いリボンを取って、袖口にしまいながら、
「安心するのだ。明日くらいには元に戻るのだ。あいつとオレとはそのうち表に出ている時
間が半々くらいになるのだ。それが元々福神と厄神の釣り合いなのだ」
答えながら、両手を差し出してくる。抱き上げろという合図だった。
一樹は琴音の両脇に手を差し入れ、その身体を抱え上げた。ぬいぐるみのように柔ら
かく、軽い身体。しかし、生き物特有の暖かさを持っている。
「随分と素直になったよね? 前はかなり反抗的だったのに」
「ヒトにトラウマ植え付けておいて、よく言うのだ……。お前は大人しそうな顔して、かなり
のサディストなのだ。下手な事すれば何されるか分かったもんじゃないのだ」
琴音がジト目で呻いていた。赤い瞳に映る呆れの感情。
数学について一時間ほど難解な話を聞かせ後、立ち直りかけた所に灰羽連盟のアニメ
を見せて泣かせている。仙治の手紙の通り、琴音を屈服させるを実行したのだ。効き過ぎ
たかもしれないが。
一樹は琴音から目を逸らしつつ、布団をめくった。
「あれは、まあ……その場の勢いというもので」
「まあいいのだ」
琴音の呟きを聞きながら、布団に身体を入れる。まだ冷たい布団の中。抱えた琴音の
体温が心地よい。ちょうど両手で抱えられる大きさで、暖かく柔らかい。鈴音と琴音は抱き
枕としても、優秀だった。
ふと琴音が見上げてくる。少し真面目な表情だった。
「やっぱりお前はオレより鈴音の方が好きなのか?」
「いきなり何を……」
一樹の戸惑いには構わず、琴音は独りで続ける。どこか神妙な面持ちで、
「お前がオレと鈴音のどっちを好きかなんて考えたこともないのは分かるのだ。でも、鈴音
に比べるとオレの方が扱いが悪いように感じるのだ」
「普段の態度のせいじゃない?」
「さすが小森一樹……。歯に衣着せぬ物言いなのだ……」
自然と口に出た言葉に、琴音が戦いたように呻いていた。目蓋を少し下ろし、頬に冷や
汗のようのものを浮かべている。それは当たり前の反応かもしれない。
それでも口元を引き締め、言葉を続けた。
「でも、オレにも少し優しくしてほしいのだ」
「優しくしてって言われてもな。何をすればいいのか」
左手で琴音を抱えたまま、一樹は右手で頭を掻く。
琴音の答えは簡単だった。
「とりあえず頭を撫でて欲しいのだ」
「それでいいのなら」
頷いてから、右手でそっと琴音の頭を撫でる。白い滑らかな髪の毛。鈴音よりも少し髪
質が硬いようだ。体格などだけでなく、細かい部分まで変化は現れるようだった。
頭を撫でられ、琴音が安心したように力を抜き、目を閉じる。
「やはりお前はいいヤツなのだ。お前の元で暮らせて、オレは幸せなのだ」
独り言のように、そう呟く。
目を開いてから、顔を上げて目を向けてきた。
「ちなみに、こういう態度をツンデレというのだ。実物を見られたことを感謝するのだ」
得意げに言ってくる琴音。
一樹はふと頭で揺れているアホ毛を摘んでみた。
「の!」
両目を見開き身体を強張らせる。以前も摘んだことがあったが、どうやら何故か敏感な
部分なようだった。指先で弄ると、ぱくぱくと口を動かしている。
一樹が指を離すと、琴音は慌てて両手で頭を押さえた。顔を真っ赤にしたまま。
「な、の……どこを、触っているのだ!」
「いや、アホ毛を……」
自分に向けられた怒りの眼差しに、戸惑いながら答える。
琴音は目元にうっすらと涙を浮かべ、睨み付けてきた。
「女の子には触っていい場所と悪い場所があるのだ。それくらいわきまえるのだ!」
「ごめん……」
理不尽さを覚えつうつも、一樹は素直に謝った。
以上です
続きはそのうち
「の!」
というリアクションが謎で可愛い
自分でツンデレ言うのが可愛い
抱き枕にするのが暖かそうで可愛い
いろいろ可愛い
続きを全裸待機するので防寒用の抱き枕として貸し出して下さい>鈴音or琴音
俺もアホ毛触りたいです
保守
投下します
最終話 これから
冷たい風が吹き抜けていく。十二月も半ば。気温は冬のものになっていた。
「もうすっかり冬なのです」
一樹の左腕に抱えられた鈴音が暢気に空を見上げている。
冬の空は高く澄んでいた。西高東低の冬型の気圧配置。日本海側では雪が降っていて、
太平洋側では晴天になり、気温が下がる。
「寒い……」
コートにマフラーという防寒着のまま、一樹は率直に唸った。日曜日の朝である。鈴音に
頼まれて朝の散歩に出掛けたのだが、既に挫けそうだった。
左手に掴まったまま、鈴音が振り返ってくる。
「一樹サマは寒がりなのです。やはり、体脂肪率が低いからなのです。痩せすぎなのです。
もう少しお肉食べた方がいいのです」
「肉は苦手なんだよ……」
菜食主義というわけではないが、一樹は子供の頃から肉が苦手だった。食べる量もそれ
ほど多くないので、子供の頃から痩せすぎ体型である。
「人間好き嫌いをしてはいけないのです」
腕組みをしながら、したり顔で頷いている鈴音。散歩に出る前に防寒の術を纏っているの
で、この寒さも平気なようである。
思いついたように声を上げた。
「ところで一樹サマ」
「ん?」
視線を下ろすと、鈴音が白衣の左袖に右手を入れている。仕組みは知らないが、袖には小
物を収納しておけるらしい。その仕掛けを訊いても答えてはくれない。
鈴音が袖から取り出したのは、赤いお守り袋だった。鈴音や琴音が付けているのと同じ形
だが、文字は記されていない。前に仙治から渡されたものである。
「昨日机の中からこんなものを見つけたのです。複雑な術が込めてあるみたいなのですけど、
これは一体何なのです? 多分主サマが作ったもののようですけど」
「他人の机を勝手に漁らないの……」
「痛い、痛いのです!」
人差し指をこめかみに押しつけられ、鈴音はばたばたと両足を振っていた。両手で一樹の
指をどかそうとしているが、痛みのせいで手に力が入っていない。
数秒ほどこめかみを攻められてから、しかし鈴音は気丈に反論してくる。
「好奇心とは古来より人間を発展させてきた、最も重要な感情なのです。不思議、疑問、謎、
ヒトはそれを解明するために、時に命を投げ出すこともあるのです。だから、ワタシが好奇心
で一樹サマの机を勝手に見たのも、当然の理なのです」
小難しい言葉を並べてはいるが、意味は半分も理解していないだろう。本かテレビ番組か
らの受け売りかもしれない。
一樹は眼鏡を光らせ、そっと鈴音の頭に手を置いた。頭を優しく撫でつつ、
「琴音用のお仕置きフルコース行ってみる?」
「ごめんなさいなのです。ワタシが悪かったのです。もう二度としないのです」
全身を硬直させて、即座に謝ってくる。効果は抜群だった。
鈴音は口元をきつく結んで、黒い瞳にうっすらとした恐怖の感情を浮かべている。微かに
身体が震えているのも分かった。鈴音も琴音も難しい話は苦手なので、それを無理矢理聞
かされるのは、お仕置きと言うよりも拷問に近いだろう。
「よろしい」
「うぅ……」
一樹の言葉に、鈴音が安心したように力を抜いた。
静かな道路を歩きながら、一樹は空を見上げる。千切れた鱗雲が浮かんだ、冷たい色の
空。冷たい北風の吹く住宅街の道路。気温のせいか、人の姿はあまり見られない。元々日
曜日の八時過ぎに出歩く人というのも、そう多くはないだろう。
「で、一樹サマ。これ何なのですか?」
鈴音は右手に持っていた赤いお守りを改めて見せてくる。
何の変哲もないお守り袋だ。話によると、袋自体はごく普通のもので、鈴音の依代のよう
に術保護もしていないらしい。重要なのは中身である。
話すか否か迷ってから、一樹は口を開いた。
「鈴音と琴音を人間にする術式の一番最初、らしい」
「人間に、なのですか?」
その説明に、鈴音が不思議そうな顔をする。
一樹は鈴音が持ち上げていたお守りを手に取り、小さく息を吐いた。白い湯気が空中に浮
かんで消える。何の意味の吐息なのかは、自分でもよく分からない。
「ぼくも詳しいことは分からないけど、人間の要素を加えるものみたい。これ以外にも色々必
要だけど、まずその最初だって。そうすれば、鈴音たちは人間の女の子になれる。そう説明
された。戸籍とかは向こうで何とかするって」
つらつらと隠さず告げる。いずれ話そうと思っていたことだ。
術などに関しては一樹は全く知らない。仙治もその辺りの説明は省いていた。だが、言わ
れたことは理解していた。鈴音と琴音を一人の人間に変える特殊な術。完全な人間として
の肉体を作る術で、外見年齢は適当に調整するらしい。
「幸せになって貰いたいんだろうな」
お守りについて説明する仙治を思い浮かべ、一樹は小さく独りごちた。自分で作った者に
対する愛情なのだろう。気の抜けた態度に見えた、仙治の強い意志――娘を想う父親のよ
うな必死さが印象に残っている。
「ワタシと琴音が人間に……なのです?」
鈴音が呆けたように自分を指差した。
「鈴音たちがぼくとずっと一緒にいるなら、いっそ人間になっちゃった方がいいんじゃないか
って……。仙治さんがね。でも、これを使わないなら、鈴音と琴音はずっとそのままだし、そ
こは自分たちで決めろとも言われているよ」
公園で仙治と交わした会話を思い出しながら、一樹は赤いお守りを見つめる。深く突っ込
んだ事までは言われていないが、何を言いたいのかは容易に想像がついた。いずれ考えな
ければいけないと思っていた事ではある。
一樹に抱えられたまま、鈴音が神妙な面持ちで腕組みをした。
「ふむ。異種族間の恋愛とすれ違い。王道なのです」
「違うような、違わないような……」
お守りをコートのポケットにしまい、一樹は苦笑いを見せる。
その態度に構わず、鈴音がまっすぐに見上げてきた。口元を引き締め、黒い眉毛を内側に
傾けている。説得力は薄いが、真剣で真面目な表情。
「それはつまり、ワタシと琴音が人間になって、一樹サマと結婚してしまえということなので
す。一樹サマはワタシのことが好きなのですか?」
直球の問いを投げかけてきた。
「……うん」
少し迷ってから、一樹は答えた。自分は一体何を言っているのだろうと気恥ずかしく思い
つつ。自分のことながら、他人行儀に言葉が浮かんでくる。
「好きだけど、多分恋愛感情とかそういうものじゃないと思う。本当に難しいことだよ。だから、
いつでも使えるようにって渡されたみたいなんだけど」
「ワタシは一樹サマのことが好きなのです。だから、いつ人間になってしまっても構わないの
です。プロポーズならいつでも受け付けているのです」
自信満々に自分の胸を叩く鈴音。難しい事を考えるのが苦手というだけあって、もう結論
は出してしまったようだ。その言葉に嘘偽りはないだろう。
悩む自分を馬鹿らしく思いながら、一樹は鈴音の頭を優しく撫でる。
「気長に待っててくれないか?」
「それがいいのです」
鈴音は笑顔でそう言ってきた。
以上です
これで一尺三寸福ノ神は終わりです。
次の話はそのうち
なんだか余韻のある終わり方で
乙でした
自分、元々ここのスレの存在を知らなくて
他スレに投下した自作SSの主人公の名前が妖精スレの数学マニアな主人公と同じと指摘されて
初めてこっちを観に来たのですけれども(^^;)ゞ
鈴音タンと琴音タンの話を読んで
もっと早くこのスレの存在を知っていればよかったと思ったですよ
次回作も是非お願いします〜
投下します
第1話 目が覚めた場所
目が覚めたら白い天井が見えた。
涼しい部屋と、うっすら漂う消毒液のような匂い。多分、病院か何か。
ええと……、僕は何でこんな所にいるんだろう? そう考えてみても、何も思い出せない。
思考を回してみても、空回りするだけで思い浮かんでくる情報が無い。これは、いわゆる
記憶喪失というものだろうか?
名前も……思い出せない。困った。
「起きたの」
声を掛けられ、僕は身体を起こす。身体は普通に動くみたいだ。
ベッドの近くに置かれた机。その縁に小さな女の子が座っていた。
身長は二十センチくらいで、見た目の年齢は十代前半か。腰辺りまである長い銀髪と褐
色の肌、感情の無い赤い瞳で僕を見ている。黒い大きな三角帽子を被り、黒い上着とケ
ープ、スカートを身に着けていた。魔法使いを思わせるような格好である。足には茶色い
ブーツを履いていた。
背中からは二対の薄い金色の羽が伸びている。妖精……だろうか?
「君は?」
「私の名前はイベリス。あなたの従者。まずはあなたの名前を教えて」
赤い瞳で僕を見ながら、淡泊な口調で言ってきた。あらかじめ設定された台本を読み上
げるような、そんな機械的な口調である。
単純にして難解な質問に、僕はため息をついた。
「分からない。思い出せない」
その答えに、イベリスは右上に視線を動かす。
「そう、やはり。ここに来る人では、名前を覚えている方が珍しいけど」
ここに来る――名前を覚えている方が珍しい……。
ということは、僕はどこからかここに来たのか。それで、記憶喪失か何かになっていると。
ここに来る前に何があったのかはよく分からないけど。
イベリスが近くに置いてあった金色の杖を手に取り、その場に浮かび上がった。背中の
羽が一瞬淡く光り、小さな身体を空中へと持ち上げる。
「立てる? 身体に異常は無いと思うけど」
「うん」
頷きながら、僕はベッドから降りてその場に立ち上がった。ふらつくとか足がもつれると
かやや不安だったけど、ごく普通に問題も無く立つことができる。身体を見下ろしてみると、
入院患者が着るような薄水色の寝間着を身に付けていた。
ベッド横の机に置いてあった手鏡を持ち上げて、自分の顔を確認してみる。
うーむ……。若い男だ。年齢は二十歳前後だと思う。伸び気味の髪の毛は灰色だけど、
眉毛は黒い。髪の毛を触ってみると、硬いな……。手入れ大変かも。瞳の色は黒色。自
分で言うのも何だけど、目付きが悪い。やる気の感じられない目である。
自分の顔を見ても、これといって分かるような事はなさそうだなぁ。
「イベリス、だったっけ?」
鏡を置いてから、僕はイベリスに目を移した。
金色の杖を両手で持ったまま、大人しく待っている。
「何?」
「ここは、どこ?」
「ここは最果ての森の神殿。神殿と言っても何かを祭っているわけでもないし、そんなに大
きくもないけど、みんな神殿と呼んでいる」
つらつらと読み上げるように答えてきた。
何が何だかさっぱり分からない。いや、想像はしていたけど……。いつまでもここにいて
も新しい事は分からないだろう。そもそも不明な事が多すぎて、何から調べればいいのす
ら分からないんだけど。
凄く困った――。
イベリスが口を開いた。
「教授の所に行きましょう」
「教授?」
訊き返した僕の台詞に、こくりと頷く。
「この神殿の責任者。名前は知らない。みんな教授と呼んでいるし、自分で名前を名乗っ
たこともない。ちょっと変な人だけど、色々知っているから」
言うが速いか、僕に背を向けた。淡い金色の羽を広げて、音も無く空中を滑るように飛
んでいく。ここで話し込む気は無いようだった。
僕は素直にイベリスの後を追う。
部屋を出ると白い廊下があったった。白い石組みの床と壁と天井。床は少しザラついた
表面だけど、壁や天井は滑らかな表面である。機械か何かで研磨したみたいに。
「さっき言ってた従者って何?」
前を進むイベリスの背に向かって、僕は声を掛けた。
イベリスはその場で身体の前後を入れ替える。白い髪の先端がふわりと広がり、腰へと
落ちた。赤い瞳で僕を見たまま、後ろ向きに飛んでいく。
「従者は主とともに行動して、主の生活を手助けする。従者の仕事はそれだけ。でも、私
は身体小さいから、助言くらいしかできないけど」
「助言だけでもありがたいかな?」
笑いながら、僕はそう返した。危険なものは無いみたいだけど、右も左も分からない状
況。小さな妖精の女の子でも、誰かが近くにいてくれるのは非常に心強い。
イベリスが金色の杖を背中に回す。それで、杖が背中にくっついた。
「とりあえず、あなたの名前を決めましょう。名前が無いと不便だから」
名前か……。自分で自分の名前を考えるというのも奇妙な話だけど、名無しのままじゃ
色々不便だろうし。でも、いざ自分の名前を考えるといっても、ぱっと気の利いた名前が思
い浮かぶものじゃないか。
僕はイベリスに目をやり、
「何かいい案ある?」
「ポチ」
眉ひとつ動かさずに答えたイベリスに。
僕は右手を持ち上げ、額に軽くデコピンを打ち込んだ。ケガしないようにかなり手加減し
てるけど。その場でくるりと縦に一回転してから、イベリスは額を右手で撫でる。無表情な
顔と無感情な赤い瞳で僕を見ていた。
「痛い……」
小さく文句を言ってくる。
ポチって犬みたいな名前だし……。
後ろ向きのまま廊下を飛んでいるイベリスと、二本の足で歩く僕。そんなに距離歩いてい
るわけじゃないのに、長い時間歩いているように感じるのは何故だろう?
数秒の沈黙から、イベリスが再び口を開く。
「それなら……タマ」
「猫でもない」
今度はきっぱりと反論し、僕は再びイベリスの額にデコピンを決めた。
以上です
続きはそのうち
>>337 イラストありがとうございます
福の神の人?
新作キター!(=^▽^=)
保守
ほしゅ
何か妖精さんを捕まえて嫌がる妖精さんに無理やり色々いたずらしちゃう妄想してたはずなのに
いつのまにかいたずらじゃなくて鬼畜行為に変わってた・・・
>>347 早くその様子を文章にする作業に戻るんだ
投下します
第2話 ここで暮らすための
色々話し合った結果、僕の名前はハイロに決まった。自分で考えたものである。髪の毛
が灰色だから、ハイロという至って手抜きな名前。だけど、イベリスが思いつきで口にする
犬猫の名前みたいなものよりはマシだと思う。
「キミがハイロくんね」
教授と呼ばれた男は、そう確認した。少し癖のある口調。
六十歳ほどの痩せた男である。適当に整えた白髪混じりの黒髪。暢気そうな顔で、眼鏡
をかけている。灰色の作業着の上に白衣を纏った格好だった。教授かどうかは分からな
いけど、先生という雰囲気はある。
「はい。そうなりました」
固めのソファに座ったまま、僕は頷いた。
目の前に置かれた背の低いテーブル。余分なものが置かれていないのは、そこだけだ
った。部屋にある他の棚や机には、所狭しと本やら実験器具やら用と不明の道具が置か
れている。この教授は、片付けが苦手らしい。
「いい名前だ。似合ってるよ」
教授は教授はコーヒーの入ったカップを二つ、目の前にテーブルに置く。ブラックではな
く、既にミルクの入れられたコーヒー牛乳って感じかな。
それからお菓子の入った皿を置いて、向かいの椅子に腰を下ろした。
「普通すぎてつまらない」
テーブルに直接腰を下ろしたイベリスが、そんな事を口にする。
「ポチ、タマ、ミケ、コロ……そういう名前は普通とは言わない」
僕はイベリスの頭を人差し指でつついた。イベリスは抵抗するように押し返してくるけど、
体格の差で抵抗にはなっていない。居心地悪そうに銀色の眉を寄せるだけで、逃げるこ
とはなかった。
「頑張って考えたのに……」
身体を傾けながら、イベリスが呻き声を漏らす。
コーヒーを半分くらい飲んでから、教授が窓の外を示した。窓の外には森が見える。明
るい雰囲気の森。生えている木に一貫性はないけど、どの木も高さ二十メートルを越える
ような大木だった。青い空には白い羽雲が浮かんでいる。きれいな場所だと思う。
「とりあえずキミはこれからココで暮らしていくけど、何か分からない事は――って、分かる
事がほとんど無いかな? 気になる事はイベリスに訊くといい。ボクが答えてもいいけど、
いちいち答えてたんじゃア切りがない」
他人事のようにイベリスを目で示す。正直な人だな……。
イベリスは教授が用意していたクッキーを手に取り、それを食べていた。手の平に乗せ
られる大きさなのに、目に見える速度でクッキーが小さくなっていく。二十秒もかからずに
一枚を食べ終え、二枚目のクッキーを掴み上げた。
話しかけるのは後にして、僕は教授に目を戻す。
「僕は誰なんです? どうしてここにいるんでしょうか?」
「ははは。残念だけど、それを思い出すことは多分永久にないよ――」
教授の答えは単純にして無情だった。笑いながら言うことじゃないけど。
よく訊かれる質問に、慣れた答えを返すような言葉の軽さ。僕と同じような質問をした者
は、かなりいるんだろう。
食べかけのクッキーを抱えたまま、イベリスが淡い金色の羽を広げて飛び上がった。僕
の周りを一周してから、目線の高で停止する。
「この最果ての森には、ここじゃないどこかから来た人が百人くらい住んでいる。でも、み
んな過去の事は覚えていない。思い出した人もいない。だから、あなたも自分の過去を思
い出す可能性は低い」
僕を見つめたまま、イベリスが言葉を並べた。まるで、僕に過去を思い出させないように
しているようにも見える。案外、僕の過去は思い出してはいけないものが潜んでいるのか
もしれない。でも、無感情な赤い瞳からイベリスの真意を読むことはできなかった。
抱えていた二枚目のクッキーを食べ終わり、イベリスはテールブルへと降りた。そして、
三枚目を食べ始める。どうやら体積は無視されているみたいだ。
「どういう原理だろう?」
疑問に思うけど、イベリスは目を向けてくるだけで、答えない。
教授が上着のポケットに手を入れた。
「ちょっと失礼」
そう断ってから銀色の箱を取り出す。蓋を開けると、中には煙草が入っていた。それを
一本取りだし、口に咥えてから右手の人差し指を弾く。ぽっという小さな音。指先から作ら
れた小さな炎が煙草の先端に火を付けた。
魔法……?
僕の向ける視線に、教授は紫煙を横に吹いてから面白そうに笑う。
「興味ある? 君に魔術の資質があるなら使えるかもね」
「ここにいる人は、魔術や魔法、そういう特異能力を使えることがある。元々の素質だか
ら、使える人は使えるけど、使えない人は使えない。あなたがどっちかは分からない」
頭に乗せた三角帽子を動かし、イベリスが見上げてきた。
変な能力を持った人間が住んでいる。それは、個人的な素質であって、全員が持ってい
るわけではない。……どういうことだろう? 分かるようで分からない。ここは本当に奇妙
な場所だ。場所もそこにいる人間も。イベリスは妖精みたいだけど。
煙草の灰を灰皿に落としてから、教授が一枚の紙を差し出してきた。
「まず、ここが君の家になる場所だ。日用品類は用意してあるから、そのまま住めるよ」
紙には手書きの地図が書かれている。日用品まで用意してあるって、えらく用意がいい
なぁ。まるで、僕がここに来るって分かってたみたいに。分かってたんだろうけど。
僕が地図を受け取ってから、教授は再び煙草をくわえた。
「衣食住、残ったのは食だけど。食べ物はその辺りに生えているものを食べればいい。森
の住人はここにあるものは何でも食べられるから」
何ですか、その投げやりな説明は? 僕は思わず眉を寄せた。
五枚目のクッキーを食べ終わってから、イベリスはティースプーンを手に取る。飾り気の
ない銀色のスプーン。僕に見せるように持ち上げてから、いきなり囓り始めた。
「ここにあるものは何でも食べられると表現すると分かりやすい。木の実や草、花から石
や木、金属まで何でも。あなたも私も教授も、そういう風に出来ている」
言い終わった時には、ティースプーンが全部イベリスの口へと消えていた。ポケットから
取り出した妖精サイズのハンカチで口元を拭いている。
非常に分かりやすい。けど、かえって疑問が増えてしまった。そもそも僕は"人間"なの
か? それ以前に"生き物"なのか? 根本的な部分が怪しくなってきたぞ……。
吸い終わった煙草を灰皿に押し付けて消し、教授は暢気に続けた。
「単純に暮らしていくだけなら、何もしなくても大丈夫だよ。でも、欲しい物があってそれを
買いたいと思うなら、街で仕事をした方がいいな」
「街?」
また新しい単語が出てきたよ……。状況を把握するどころか逆に分からない事が増え
ている時に、新しい事を言われても思考の許容範囲に収まらない。
それを理解しているのかいないのか、教授はコーヒーを飲んでマイペースに解説する。
「ボクたちがいるのは最果ての森。ボクやキミは森の住人。森だけで生活はできるけど、
森の外にあるものを手に入れたくなったら、街へ行って仕事をしてお金を稼ぐ。でも、森の
住人は街では働けても、街には住めない」
それは一種の身分格差というものだろうか? でも、教授の口振りからするに、そういう
ものじゃないみたい。敢えて言うなら、役割分担か――?
「逆に、街の住人は街に住むことができるけど、森の住人同伴でないと森へは入れない。
そういうルールだ」
「ルール……」
その単語が引っかかった。
僕の反応に気付いたのだろう。イベリスがテーブルから飛び上がり、目の前まで移動す
る。感情の映っていない赤い瞳で僕をまっすぐに見つめ、口を開いた。
「最果ての住人はルールに縛られている。と同時に守られてもいる。ここではルールを破
るようなことはしない方がいい。その方が安心して暮らせるから」
「ルールね……。分かったよ」
僕は腕組みをして、視線を下ろす。
どうやら、教授やイベリスの言うルールが、この場所での最大の鍵となるみたいだ。
以上です
続きはそのうち
不思議な雰囲気の話ですなあ
ティースプーンをかじってる姿を想像してワロタ
なんか灰羽っぽい
灰羽連盟の影響受けてるってサイトで書いてた
(;´Д`)ハァハァ
保守
360 :
289:2010/06/09(水) 07:43:24 ID:QpSvpzw1
>>347 キッチンの異常に気がついたのは、朝食を摂り終えてからのことだった。
食器を洗っている時から、何か違和感を感じていた。しかし、違和感の原因が分からない。
「冷蔵庫の中身が少なかったような気がする……ポルターガイス――」
「――このまま、死んじゃうんでしょうかー……ふぇぇぇん」
「ト――ギャアアアアアアアァ!!」
自己完結を試みた瞬間、はっきりと足下から泣き声が聞こえた。
奇襲を受けた思考回路が陥落、反射的に手放した皿が足の小指めがけて自由落下していく。
皿が着弾する行方を追っていた俺は、声の主と小指の激痛を同時に認識した。1ヤードほどの羽の生えた……人!?
「えっ? えっ?」
「貞子か! キサマ貞子か!」
「ちっ違います! 私は――という者で」
「うるせー! 普通の人間はこんなG用の罠に引っかからないだろ!」
「えっと、その、妖精なので体はちいさ――」
「問答無用ッ!」
痛みのせいで半狂乱と化した体を止める術を持っていない。
勢い余って、自称妖精の貞子が入ったGブリホイホイをレンジフード目がけてぶん投げた。
……かみはバラバラになった。すっきり。
――
「……すまない、取り乱した。怪我はない?」
「いえ、私は特に。お兄さんこそ、足大丈夫ですか?」
「痛いけどさー……今日が仕事休みで良かったよ」
仕事があったら死んでいた。そして、先ほどの妖精――由比(ゆい)と名付けた──が張り付いている粘着シートをテーブルに置き、これからどうしようか見つめながら考えている。
さっき投げた衝撃でホイホイの屋根が壊れたため、屋根は撤去した。
「えっと、その……そんなに見られたら……」
「妖精はテレビで見たことがあったけど、生で拝んだのは初めてなんだ。だから見せて」
名前はカレンダーに描かれていた東海道五十三次に由来する。つまり深い意味はない。
銀色の長い髪と赤い瞳が揺れる。由比は何とかしてシートの縛りから逃れようともがいているが、かえって粘着材が絡みついてしまい手がつけられなくなってしまった。
身に纏っている真っ白なキャミソールも、少し黒ずんでいる。服の中から自己主張する膨らみがなんとも扇情的だ。
起きてからの違和感も、由比が原因だとしたら納得がいく。“冷蔵庫のものを漁っていたらホイホイに引っかかった”ならば、当然の帰結であろう。
思考を一周させる。我が家は一人暮らしで、部屋の中にあるものは全て俺の資産、俺のもの。ジャイアニズム万歳。
──妖精の人権をどうするかが識者の間で話題になっているが、“現行法”で人権はない。
ペットのような扱いだと聞いている。ということは、由比も例外なく俺の資産ということだ。行動・言動的に、誰かが由比を飼っているとは考えられない……野良だろう。
「だから問題なし。出発進行」
「きゃっ!?」
キャミソールのスカートをめくりあげる。もちろん激しくもがくが、由比の力では粘着材の支配から逃れることはできなかった。
陶磁器のような白い太股に息をのむ。そして、ある好奇心が自分の中で芽生えた。
「やらないか」
「や、やめてっ、ください……」
スカートの中にひそむ桃色の布を、指で丹念になぞる。妖精とは思えない、少女そのものの柔らかさと暖かさを持っていた。
最初は尻、次に秘部の上と、刺激が強い部分で力の強弱をつける。ぴくぴくと、由比の小柄な肢体が揺れる。
往復するごとに少しずつ熱くなり、とうとう湿り気を帯びてきた。心なしか、顔も赤くなっているように思える。
「はあっ、あっ、あっ……」
「本当に生身の女みたいだな……そんなにこれが気持ちいいのか?」
「きもちよくなんか、ないっ、ですっ……ぅぅ!」
濡れはじめた場所を強めに押すと、由比がバネのように跳ね上がった。言っていることは強がりだろう。
最初は純粋な知的好奇心でいたずらしていたが、先ほどから股間が窮屈になってきた。
「こいつの出番だ……これでいたずらしてやる……」
「や、やだ、だめですっ……」
我が怒張を由比の濡れそぼった布に押しつける。既にこの周りの粘着材はふやけていた。布越しに感じる熱さと、動けない相手を無理矢理犯しているという背徳感に神経がショートしそうになる。既に俺も息が乱れている。
「……妖精も中に欲しいとか思うのか…………言ってみろ」
「そんなこと、あるわけないじゃないですかっ、はぁっ、ぁぅっ」
目視で分かるこいつの身長は1ヤード強、1メートル未満。妖精とは言っても、結局は自我の宿ったドールのようにしか認識できない。
本能が「モノ扱い」することを求めている……ここでぱんつを脱がして入れることもできるだろうが……
「えぐっ、えぐっ……、こんなのって、ない、です……よ……」
半泣きになった由比を見て、自分の中の良心がサイレンを鳴らし始めた。昔読んだことのある陵辱小説では、あまりに理不尽な辱めをすると、人格を壊してしまう。
俺としてはそこまでするのは不本意だ。好奇心は性的なモノだけではない。
「悪かった……」
「えっ……」
だがしかし、股間に集まった小宇宙を解放しなければいつ暴走を起こしてもおかしくない。
不意に漏れた謝罪できょとんとする由比を尻目に、再び怒張を由比に擦りはじめた。
「ひゃ、あぁ、はっ……さっきと……ちがっ」
「っ……出そうだ……」
「こ、このままなら……」
布を貫きそうな勢いで秘部に押しつけ、果てた。
「くっ……!」
「あ……ぁぅ、はぅぅ……!」
びゅっ、びゅっ、びゅっ。
「はぁっ、はぁっ……ぱんつ、まっしろに、なっちゃいますっ……」
勢いのある精液は、ぱんつだけでなく由比の太股や腹部までも汚した。
汗で剥がれた粘着材から離れ、指で精液をすくい取っては、口に含んで苦い顔をしていた由比の姿が印象に残っている。
──
「はぁ、はぁ…………つかまって、いきなりえっちなことされて……もうお嫁に行けません……」
「……これで、俺のものだよな? 生きてる限り、俺のものでいろ」
お互い決め言葉のようなものを発し、俺はチョコの切れ端を差し出した。
「うぅ……わかりました…………でも、いたいことは、やめてくださいね……?」
由比は微笑んでチョコを受け取り、契約が成立した。
363 :
初23:2010/06/10(木) 07:06:33 ID:OyhItEih
以上です。自由を奪われた妖精はえろいということで。
年に一回の投稿間隔となってしまい申し訳ありません……
GJ、投稿ペースなんて自分のペースで自由にやれば大丈夫だ
久しぶりのエロ成分でGJ、なんだけど・・・由比のサイズって「1ヤード」ってことは90cmくらい?
Gホイホイ関係の描写を見るにフィートの間違いかなとも思ったんだけど
「1ヤード強、1メートル未満」とも書かれてるし・・・
366 :
初23:2010/06/11(金) 00:44:38 ID:ONOcafTc
>>365 ごめんなさい、測量に無理がありますね……
真面目に考えたら確かに「1ヤードほどの妖精が入るようなホイホイ」は非現実的ですね……指摘通り、由比のサイズを1.5〜2フィート(45〜60cm)とすべきでした……
投下します
サイハテノマチ
第3話 新しい家
白い半袖シャツに茶色い袖のない上着を着込み、灰色のズボンを穿いている。これが
教授に渡された服だった。ごく普通の服装だと思う。服を脱いだ時に気付いたけど、左肩
には数字のようなものが彫り込まれていた。イベリスの言葉では番号らしい。
「分かってはいたけど、不思議な場所だなぁ」
僕は地図を片手に森を歩きながら、辺りに視線を向けていた。
地面には平たい石のいくつも敷かれた道が作られている。
道の左右には背の高い大木が並んだ森。地面には芝くらいの小さな草から、大人の背
丈を越える低木までいくつもの草や木が生えている。大木が多いのに不思議と日当たり
は良く、空気はほどよく乾燥していて適度に涼しく過ごしやすい。
「ここはそういう所。あなたもそのうち慣れる」
近くを飛びながら、イベリスが金色の杖を動かしていた。
木の合間に家が見える。あまり大きくはない家。多くは木の家だけど、石作りの家もあ
る。何にしろ、様式は様々だった。家の近くには野菜が植えられた畑もある。
「みんな二人一組なんだね。さっきから聞いてる従者」
畑に水を撒いている人や、お喋りをしている人、外には何人か人がいた。
若い男や女。髪色や服装に一貫性はない。とりあえず全員に共通しているのは、みん
な誰かを連れているということ。イベリスのように妖精ではなく、人形サイズの小人だった
り、肩に留まっている極彩色の鳥だったり、ここにも一貫性はない。
イベリスは感情の映らない真紅の瞳をあちこちに向けてから、
「最果ての森の住人は、みんな従者を連れている。ここではそれがルール。従者は主に
付き従い、主の生活を手助けすることを役割としている」
「イベリスは僕がここに来るまでどこにいたの?」
何の気無い質問に。
イベリスは右手を顎に当てて、空を見上げた。白い雲が流れている、高く澄んだ青空。
五秒ほど空を見上げてから、僕に目を戻す。感情変化のないジト眼で。
「記憶が無い。私は気がついたらここにいた。アナタの従者となるために」
これは、何と返したらいいんだろう?
イベリスも僕と同じようにどこからかここに来た。――多分そうじゃない。イベリスは僕
が来た時に合わせて作られた。記憶とか知識とか、必要なものを全部まとめて。薄々感
じてはいたけど、イベリスはそんな人工生物っぽいものなのだろう。
僕がそう困惑混じりに納得していると、
「着いた」
イベリスがすっと金色の杖を動かした。
そこに家――らしきものがあった。
ひときわ太い幹の木。やたらと幹が太いだけで、高さは周りの木と大差ない。その木の
正面にドアがついている。見ると幹にはいくつか窓もついていた。
地図を見て周りの木や家、四角い岩などからそこが目的の家だと理解する。
「うーん……。凄い」
「中を見てましょう」
マイペースに飛んでいくイベリスを追い、僕は家まで歩いていった。
ドアには『ハイロ』と書かれた表札が掛けられている。誰が掛けたのかは分からないけ
ど、手の早いことで。本当に僕の家らしい。
「おじゃましますー」
そう口にしながら、僕はドアを開けた。
中は広い空間がある。玄関、リビング、台所をまとめたような広い空間。家具が色々置
かれている。部屋の中央には木のテーブル。奥には浴室とトイレのドアが見えた。右に
は上へと続く階段がある。印象を言葉にするなら、ファンタジックな家。
「木の家って……これは、なかなか快適そうだね」
笑いながら感想を口にしつつ、僕は流しに移動した。水道のバルブを捻ってみる。蛇口
から流れてくるきれいな水。バルブを逆に捻ると水が止まった。
ええと、これは――
「……どういう仕組み?」
「私は知らない。でも、ここにはそんな不思議な仕組みがいくつもある。最果ての森はそう
いう所。気になるなら調べてもいいけど、あまりお勧めはしない」
素朴な問いに、イベリスは空中に浮かんだまま他人事のように答えた。予想はしていた
けど、ここには踏み込んじゃいけない禁忌のようなものが多い。やはり、ルールというも
のか。何か大きな秘密があって、それでこの場所を維持してるのかもしれない。
「そのうち慣れる、か……」
イベリスの言葉を繰り返してから、僕は階段に向かった。
すぐ傍らをイベリスが付いてくる。いつの間にか杖を背中に装着していた。
緩い曲線を画いた階段。登った先は寝室になっていた。
寝室としてはかなり広いだろう。窓の近くにベッドがひとつ、筆記用具の置かれた机と
数冊本が並んだ本棚、大きなクローゼット。家具はそれくらいだ。こっちは一階と違って
そんなに家具は置かれていない。上に続く階段も無いから、この家は二階建てらしい。
「なるほど」
淡い金色の羽を広げ、イベリスが僕の横から離れた。両手を広げて飛びながら、くるく
ると身体を回している。三角帽子や長い銀髪、スカートの裾が揺れていた。周りながら部
屋を一周し、再び僕の側まで戻ってくる。
「居心地のよさそうな家ね」
少し傾いた三角帽子を直し、イベリスが頷いていた。でも、機械的な口調で驚きや感動
というものが見られない。感情自体が無いのかもしれない。
カランッ。
下の階から鐘のような音が聞こえてくる。チャイムだろうか?
「お客さんが来たみたい」
「だね」
イベリスの指摘に頷き、僕は身体の向きを変えた。階段を降りて、玄関へと向かう。
でも、誰だろう? 教授が追いかけてきたというわけでもないだろうし……。心当たりが
ない。考えても分からないし、考えるよりも本人を見た方が早いか。
「はい。……え?」
ドアを開けた先には、大きな黒い犬がいた。
思考を一時停止した僕を見上げている。
体高は六十センチくらい。黒い毛に覆われた身体で、頭からは髪の毛を思わせる長い
タテガミが伸びていた。首と四本の脚には、鋼鉄製らしい金属の輪がはめられている。
尻尾を左右に動かしながら、妙に人間っぽい表情で笑っていた。
「おー。あんたが新入りか。なんか普通の人間だな」
そんな言葉が犬の口から放たれる。
「犬が喋った……」
「犬じゃない……。俺はオオカミだ」
僕の驚きに、黒い犬……改め、黒い狼がため息混じりに言い返してきた。
以上です
つづきはそのうち
ますます不思議な森ですなあ…
従者が妖精に限らないというのは、ちょっと意外ですた(^_^;
保守
374 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 15:31:27 ID:Q1JJ5XWj
保守
375 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 21:55:39 ID:Zt8jetH0
このスレ的にはアリエッティはどうよ?
アリエッティなんてありえないってぃ ってやかましいわ
まだ公開前の映画にどうよとか言われてもなあ・・・
378 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 13:38:59 ID:1uq4gCVN
CMみたらなんかよさげ
ちっちゃい女の子と言えば、やはりチャム・ファウが…
福ノ神とかの過去の内容がすごく気になるんだけど、ここってまとめサイトとかないみたいだね…
もし可能だったら、誰か過去の内容うpしてもらえないだろうか?
>>380 このスレのまとめサイトは今のところないけど
福ノ神の人は自分のサイト持ってて作品公開してるよ。
383 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 16:53:26 ID:IpEGd5s8
保守
384 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 19:56:43 ID:ywFmCm7N
アリエッティかわいかった
ストーリーは微妙だが
洗濯バサミでポニテってどうなんだ?
巨大洗濯バサミを2つ使ってお下げというキャラが
その昔、ワンダープロジェクトというゲームにいたなあ
あれは小人ではなく等身大のアンドロイドだったけど
>>385 あれは洗濯ばさみじゃなくクリップじゃね?
投下します
サイハテノマチ
第4話 隣のオオカミ
「俺はクロノ。よろしく」
椅子の上にお座りの姿勢を取っている狼。
家に入ってくるなり、慣れた仕草で椅子を咥えて後ろに引き、その上に飛び乗っている。
その仕草は狼というよりも、狼の姿をした人間だった。
「クロノ……さん?」
「クロノでいい」
戸惑う僕に、尻尾を動かしながら慣れた声を掛けてくる。
その言動の年齢は、僕より一世代上くらいだろうか? 人間でいうと二十代後半くらい。
狼の外見年齢というのも分かりにくいし。ついでに、お互いに初対面だというのに、不思議
と初対面な感じがしない。
イベリスが杖の先で帽子を持ち上げ、台所に眼を向ける。
「とりあえず、お客様にはお茶を出しましょう」
「お茶って言われても……」
台所を見回しつつ、僕は頭をかいた。
お茶を出す以前に、お茶があるのかも分からない。なにしろこの家に来たのは、数分前
なんだから。まだどこに何が置いてあるのかも確かめていない。
クロノが右前足を上げ、棚を示した。
「茶ならそこの引き出しの二番目に入ってるぞ。あと、ヤカンはそっちの棚。ティーポットは
そこの上、カップとかも一緒に入ってるだろ?」
と、順番に示していく。
言われた通りに、僕は引き出しを開けた。そこにはガラス瓶に入ったお茶が数種類収め
られている。何で……? それから、棚からヤカンを取り出し、ティーポットとティーカップ、
ソーサー、トレイを取り出した。クロノの言った通りに全部入っている。
「お湯沸かしてくる」
杖を背負い、イベリスがヤカンを持ち上げ流しへと飛んで行った。一度ヤカンを置いてか
ら、蓋を取り水道の蛇口を捻って中に水を入れる。ある程度水が入ったら、水を止めてヤ
カンに蓋をした。水の入ったヤカンをコンロに乗せ、火を付ける。
身体が小さいから大した事はできないって言ってたのに、意外と働き者……。
イベリスの動きに見入ってた僕は、我に返ってクロノに向き直った。
「何で道具の場所知ってるんです?」
「ここの荷物を置いたのは俺たちだからな。知ってるのは当然だよ」
後ろ足で首もとを掻きながら、クロノは素っ気なく答えた。
なるほど。自分で家具とかを置いたなら、何がどこにあるのか分かって当然だ。分かって
しまえば、どうってことのない疑問。でも、気になることがひとつ。
「たち、って?」
「俺の主のお嬢だ。隣ってことで教授に頼まれた」
その答えは多分予想していたものだ。クロノの主人。少なくとも人間か、それに近い何か
だろう。一匹の犬……じゃなくて狼が、日用品を整える姿というのも想像できない。
白い眉を微かに動かし、イベリスはクロノを諫めた。
「従者は主と一緒にいるもの。そういう決まりなのに、なぜあなたは一人なの? 従者とし
ての職務怠慢は良くない」
そう言いながら、身体は別の動きをしている。ポットの蓋を開け、中にお茶を入れていた。
人間には届かないみたいだけど、小さな身体の割にかなり力はあるようだ。
「俺に言うなよ……」
横を向いてぼやくクロノ。従者としての役割を果たせていない自覚はあるらしい。右前足
で耳の後ろを撫でてから、
「さっきまで背中に乗せてたんだけど、気がついたらいなくなってて。眼を放すと、すぐどっ
かに行っちまう……。放浪癖っていうのかなァ? いなくなってもそのうち帰ってくるから大
丈夫だけど。世話が焼ける。はぁ」
愚痴ってからため息をつく。
内容はどうでもいいけど、気になる言葉があった。
「背中に乗せてた……って?」
クロノの体格は大きいけど、大人が乗れる大きさじゃない。それに乗れるってことは、子
供? お嬢って呼んでるから、女の子かな?
考え込む僕を観察するように、クロノは黒い瞳を細めている。
「ふむ。あんたは割と"普通"なんだな。と、沸いてるぞ」
沸騰するヤカンを前足で示す。やっぱり、人間臭い……
僕はヤカンを火から下ろし、火を止める。中身のお湯はお茶三人分くらいだろう。イベリ
スは必要なだけしか水を入れなかったらしい。
お湯をポットに注ぎながら、僕は尋ねた。
「何ですか、普通って……?」
「この最果ての森に来るのは、人間だけじゃないってこと。お嬢は俺の背中に乗れるくらい
の小人だ。小人っていっても、そっちの妖精の女の子ほど小さくはないけど。身長は六十
センチも無いよ」
僕は近くに浮かんでいるイベリスを見る。
赤い瞳で無感情に見返してくるイベリス。身長はおよそ二十センチくらい。三角帽子のせ
いで、もう少し高く見えるけど。身長六十センチ弱、イベリスの三倍弱。僕の三分の一くら
いか。なるほど、僕の思考はは確かに普通だ。
カップにお茶を注ごうとして、僕は動きを止めた。
「カップで大丈夫だ」
言われた通りカップにお茶を注ぎ、ポットを置く。
お盆にお茶を乗せてから、テーブルに戻り、僕はお茶を順番にテーブルに並べた。クロノ
の前、僕の席の前、イベリスの前に。それから、席に着く。
イベリスがテーブルに降り、杖を下ろした。どういう仕組みなのか、横向きのまま空中に
固定される杖。そこに腰を下ろしている。椅子代わりのようだった。
「じゃ、遠慮無く頂くわ」
首を一度縦に動かしてから、クロノは両前足でカップを器用に掴み上げる。そのまま中
のお茶を口に流し込んだ。淹れ立ててかなり熱いはずなんだけど、その辺りは気にしない
らしい。ほぼ一口で全部飲んでしまっている。
カップをソーサーに置き、右前足で口元をぬぐった。
「やっぱり実は人間ですか?」
「いや、多分狼だ。あと、犬じゃないからな」
僕の問いに前半は曖昧に、後半はきっぱりと答えてから、椅子から飛び降りた。
すたすたと入り口の方へと歩いていく。軽く床を蹴って飛び上がり、ドアノブを咥えてドア
を開ける。その動作はやはり狼の姿をした人間を思わせた。
家を出る前に、クロノが肩越しに振り返ってくる。
「ま、気になったから見に来たけど、特に困るような事はないな。何か分からない事があっ
たら、気軽に声かけてくれ。俺は今日は隣にいるから」
そう言ってドアの隙間から滑るように外に出て行った。
パタン、とドアが閉まる。
「お茶にしましょう」
イベリスが両手でティーカップを持ち上げていた。
第5話 一日が終わる
夕食を食べ終わり、風呂に入り、一日を終える。
「ふぅ」
二階の寝室で、僕はベッドに腰を下ろた。用意してあった薄い水色の寝間着に着替えて
ある。夜の涼しい空気が湯上がりの身体に心地よい。
教授の言った通り、日用品一式は用意していあった。食料品も一週間分くらいおいてあ
るため、しばらくは生活に困らないだろう。その後は何かしないといけないけど。
辺りはすっかり暗くなっている。
「もう八時ね」
イベリスが時計を見る。
壁に取り付けられた四角い時計。時間は八時十分頃を差していた。
イベリスの格好は黒い薄手のワンピースだった。寝間着らしい。着ていた服や三角帽子
は片付けてあるが、金色の杖はそのまま持っている。
部屋の天井に吊るされた灯りが、部屋を白く照らしていた。
「まだ八時だけど……眠いな」
欠伸をしながら、僕は首を動かす。意識に薄い幕が掛かったような眠気。身体がずっし
りと重く、思うように動かない。疲れとは違う、眠さ。
「ここに来る前は、早寝早起きの生活してたのかな? なんとなく、もっと遅くまで起きてい
られそうな気がするんだけど」
「眠いなら、早めに寝てしまった方がいい」
イベリスがベッドテーブルに降りる。
そこには、小さな寝床が置いてある。引き出しを開けたら入っていた。イベリスの寝床ら
しい。四角い箱に、小さな布団と枕を入れた物だった。
箱の縁に腰掛け、赤い瞳を僕に向ける。
「明日から何すればいいんだろう?」
窓の外には夜の闇が広がっている。
寝室には東西南北の四方向に窓が作られていた。僕の座っているベッドは東向きのま
どのすぐ横にある。窓から見えるのは、夜の闇。表の道に向いている南向きの窓には、い
くつか家の灯りが見えた。
ふぅ、と息をつく。
最果ての森。どこからか着た者たちが住む、不思議な場所。どこから来たのかも分から
ないけど、僕はここに住むことになってしまった。
「あなたはここで何がしたいの?」
イベリスが見上げてくる。
半分目蓋を下ろした真紅の瞳。いつも通り、感情の読めない眼差しだった。
僕は眉を寄せて天井を見上げた。天井から下げられた四角いランプ。中に入っているの
は灯り石という発光作用のある石らしかった。
「何をしたいも……何ができるかも分からないし。何すればいいと思う?」
「うーん」
イベリスが顔を下げ、口元に手を当てる。
十秒ほど考えてから、再び僕に顔を向けた。
「まずはこの最果ての森がどんな所か知っておく必要がある。あなたが暮らすのはこの森
なのだから。それほど特別はものは無いと思うけど」
月並みな言葉だった。月並みだけど、正論である。僕がまず最初にやるべきことは、ここ
がどんな場所なのかを確認することだ。危険になるものは無いようだし、ゆっくり探索でき
そうかな?
それにしても、一番分からない事。
「ここにいる人って何なんだろう? 僕も含めて」
「それを知る事はおそらく無い。私やあなた、最果ての森の住人はこの"最果て"から外に
出ることはできないし、出た人もいない。私の知識にはそうある」
イベリスが僕の疑問を否定する。
この最果ての森と最果ての街。外の事は基本的に禁忌のようである。僕が知ってるんの
は、この家と神殿との間くらい。何度も聞いている街のことも全く知らないのだ。まだ自分
の世界は狭い。徐々に広げていきたいものである。
ぽんと、僕は手を打った。
「教授なら何か知っているかも」
神殿に住んでいる脳天気な爺さん。
イベリスが微かに羽を動かした。金色の羽が揺れる。一瞬飛び上がろうとしたように見え
たけど、箱の縁に座ったまま口を動かした。
「知っているかもしれない。あの人は森の住人でもないし、街の住人でもない。だらか、何
か知っているかもしれない。でも、それを喋ることはないと思う」
「だろうね」
僕は苦笑いをこぼし、ベッドから立ち上がった。
脳天気に見える教授だけど、頭はいいし抜け目ない。不必要なことは絶対に口にしない
だろう。見掛け通りの曲者だ。
カーテンを閉めてから、イベリスを見る。
「明日は森を見て回ろうかか」
「分かった」
そう頷くと、イベリスは杖を置き、寝床に潜り込んだ。小さな布団を持ち上げ、人形のよう
に 小さな身体を滑り込ませ掛け布団を掛ける。一件羽が邪魔に見えるけど、本人は気に
していないようだった。
「じゃ、おやすみ」
僕は灯りを消し、ベッドに潜り込んだ。柔らかな布団が心地よい。適度に冷たい空気が
眠気を加速させる。初めてのベッドなのに妙に落ち着く。
「おやすみなさい」
イベリスの声を聞きながら、目を閉じた。
第6話 寝起き
窓から白い朝日が差し込んでいる。
僕はふと目蓋を開けた。現在の名前はハイロ。従者は妖精のイベリス。過去の記憶は
無く、自分でも状況を理解できないまま、最果ての森に住むことになった。昨日の出来事
を思い起こしながら、目を擦る。
「よく寝た……。ふぁ……」
身体を捻りながら、僕は軽く欠伸をした。幸い寝起きはいいらしい。
部屋を照らす朝の光。時計を見ると朝の六時十分だった。
「イベリス?」
寝ているイベリスに目を向ける。
ベッドテーブルの上に置かれた箱。その中で、イベリスは静かに眠っていた。横を向い
たまま握った両手を顔の前に置いている。寝息は聞こえないけど、肩は微かに上下に動
いていた。白い髪の毛が寝癖になっている。
なんか可愛い。
僕は人差し指でイベリスの頬を軽く突いた。小さいながらも、生き物特有の柔らかさと
弾力のある頬。ついでに、かなりきれいな肌だと思う。
「んー?」
微かに眉を寄せてるけど、イベリスが起きる様子はない。
このまま頬を触っていてもいいけど、それじゃ先に進まないので。
「朝だよ。起きて」
僕はイベリスの肩を指で軽く叩いた。
微かに身動ぎしてから、イベリスが目を開けた。眠そうな赤い瞳をどこへとなく泳がせ
ている。まだ思考は動いていないようだった。それから、僕の存在に気付く。
「おはよう……」
「おはよう、朝だよ」
僕はイベリスの寝ていた箱を持ち上げ、窓辺まで歩いて行った。
窓から見える、朝の森の風景。窓を開けると、澄んだ空気が入ってくる。寒いほどでは
ないが、冷たさを含んだ朝の空気。深呼吸をするだけで、すっきりと目が冴える。
朝日に照らされた道や畑、他の家が白く輝いていた。
イベリスは布団から顔を出して、朝日を眺めてから、
「あと、二時間」
頭から布団を被った。
どうやら、寝起きのいい僕に対して、イベリスはあまり寝起きがよくないらしい。放って
おくと昼過ぎまで寝ているような気がする。二時間って言ってるしね……。
僕はイベリスがかぶっていた布団を指で摘み上げた。手触りと見た目は長方形のハン
カチである。しかし、ハンカチよりも生地の目が細かいようだった。身体の小さな妖精だ
と、人間には何も感じない布でも、粗いと感じてしまうのだろう。
「うーぅ……」
箱の中でイベリスは枕を両手で抱えて丸くなっていた。
ワンピースのような寝間着の裾が捲れて、褐色の太股が見えている。どこか華奢とも
言える両足だ。色気とは違うような気がするけど、目のやり場に困る。
ともあれ、起きる気はないらしい。
僕は布団を再びイベリスに掛けてから、箱をベッドテーブルに戻した。起きないなら起
きるまで待つしかない。ここで無理に起こす理由も無いしね。
「じゃ、朝食作ってるから。起きたら降りてきて」
「待って……」
階段へ向かおうとする僕をイベリスが引き留めた。
振り向くと、イベリスは枕を抱えたまま、起き上がっている。起き上がっているけど、目
付きが起きていない。眠い状態で無理矢理意識を動かしているみたいだ。
「私も行く……。主と一緒にいるのは従者の仕事……」
金色の羽を広げてみるが、身体はほとんど浮かばなかった。五センチほど頼りなく浮
かんでから、そのままテーブルの上に降りてしまう。人差し指で頬を掻きながら、背中の
羽に目を向けるイベリス。眠気のせいで飛び上がる力も出せないらしい。
やれやれ、世話が焼ける。
「僕が連れて行くよ」
僕はイベリスの前に左手を差し出した。
「ありがとう……」
イベリスは倒れ込むように、僕の手の平に身体を寝かせた。
そして、目を閉じて再び眠りに落ちていく。
こうしてイベリスを手に乗せたのは、今が始めてかもしれない。小さな妖精の女の子。
手にはその重さを感じるけど、思ったよりも重くない。人間をイベリスのサイズに縮めて
も、もう少し重いだろう。作りが違うのかも。
「それにしても、よく眠っているな」
僕は再び眠りについたイベリスの頬を、右手でつついた。
つつかれている感触はあるのか、眉を動かしているけど、やはり起きる様子はない。
朝の六時に起きる――僕にとっては平気だけど、イベリスにとっては辛いらしい。これ
からは朝は一人で何かしないといけないかな? イベリスが早く起きられるようにするか、
僕が遅くまで寝ているかは、あとでイベリスと話し合って決めよう。
イベリスの上に布団をかぶせ、僕は階段へと向かった。
イベリスを起こさないように、静かに一階に下りていく。
「朝だなー」
部屋に漂う、冷たく心地よい朝の空気。
窓から差し込む日の光に、台所全体が淡い白色に染まっていた。清涼感漂う朝の空
気というのは、実に心地よいものだ。心が洗われる、うん。
テーブルの横まで移動し、僕は左手のイベリスとそっとテーブルに下ろした。起こさない
ように優しく慎重に。それから、布団を掛けておく。
これで、起きるまでは平気だろう。
主から離れない、という従者の決まりも守っていることになるはずだ。従者としての決ま
りを破るのが嫌いらしいし。
さて、朝食の準備を始めよう。
第7話 森の東にある広場
朝食を食べ終わってから、僕はイベリスと一緒に森の中を散策していた。
「広いのか広くないのかは、よく分からないけど」
踏み固められた道の左右には、二十メートルを越える大木から、子供の背丈くらいの低
木まで色々な木々が生えていた。木が多いのに不思議と日当たりは良く、空気もほどよく
乾燥している。適度に涼しく過ごしやすい場所だ。
その木々の間には家が建っている。多くは普通の木の家だが、石造りだったり何かのオ
ブジェのような家もあった。
「そんなにおかしなものは無いんだね」
道を歩きながら、僕は苦笑いを見せた。
もっと奇怪な家やら何かがあるとも思ったけど、そういうものは無かった。
時々森の住人とすれ違うけど、変な人は見かけない。髪の色や目の色が違うけど、普通
の人間だった。人間じゃなさそうな人も見かけたけど。そして、みんな例外なく誰かを連れ
ている。それが主人と従者なのだろう。この意味はまだよく分からないんだけど。
「おかしなものが何を意味するかは分からないけど……」
三角帽子の縁を掴み、イベリスが不思議そうに首を傾げる。僕の従者であるイベリス。魔
法使いのような黒ずくめの格好をした妖精だ。背中に金色の杖を背負っている。
見た限り、イベリスくらいに小さい従者は珍しいようだ。
僕は道を歩きながら、この森で見たおかしなものを思い浮かべた。
「たとえば、昨日のクロノみたいな」
「なるほど」
イベリスが頷く。納得してくれてよかった。
失礼ではあるけど、僕がこの森で見た一番変なものはクロノだろう。黒い犬のような自称
狼で、人間のように喋り、立ち居振る舞いも人間臭い。両手でカップを持ってお茶を飲んだ
り。まるで狼になった人間だ。本人は狼と自称しているけど、自分でも生粋の狼であるかは
自信が無いようだ。
……うん、かなり変かもしれない。
道を歩きながら、僕は腕を組んだ。
「そういえば、"お嬢"とか言ってたけど。どういう人なだろうな、クロノの主人って? 三分の
一サイズの小人で、よくどこかに行っちゃうって……」
クロノの愚痴を思い返しながら、見た事もない相手の姿を思い浮かべる。朝方隣の家を
見てみたけど、姿は無かった。ちなみに、普通の木の家だった。
「機会があったら挨拶しにいきましょう。私も興味がある」
「だね」
イベリスの意見に僕は頷いた。
ふと足を止める。
道を歩いていたら、少し広い場所にやってきた。
「ここは最果ての森の入り口広場。森の一番東側」
イベリスが杖で辺りを示す。
地面に灰色の石畳が敷かれた広場。それほど広くはない。小さな公園くらいの広さかな?
広場からは四方向に道が伸びている。三方向は森へと続いているが、一本は他の三本と
は雰囲気が違った。
白と薄茶の煉瓦が敷かれた道。広場から東へと伸びるその道には、小さい門が作ってあ
った。明らかに森の道とは雰囲気が違う。
「この先は?」
僕は煉瓦敷きの道の先を指差した。道は緩く曲がっているため、木々に隠れて先がどう
なっているかは分からない。立入禁止でもないようなので、行ってみればいいんだろうけど、
用もなく立ち入ってはいけない空気を感じる。
イベリスは赤い瞳を煉瓦敷きの道に向けてから、
「最果ての街。ここから先は街の住人が住む所。森の住人が用もなく街に出掛けることは
しない方がいい。何が起こるわけでもないけど」
やっぱりそうか……。ここには街があると何度か聞いてたけど、この先か。でも、用事が
ないと行っちゃいけない。今の僕には街に行く用事もないから、行っちゃ駄目なんだろう。
興味はあるけど。
「ルール?」
「ルール」
僕の問いに、イベリスはこくんと首を縦に動かす。
やっぱり、ルールか……。僕は街へ続く道の門を見ながら考えた。何かをしてはいけない、
どこへ行ってはいけない。そういうものが主のようだけど、色々気になるなぁ。この場所を維
持するためのものという印象を受けるけど。
でも、分かるのはずっと先かな? 分からないかもしれない。
「あまり深い詮索はしない方がいい」
思考を読んだように、イベリスが声を掛けてきた。
僕はふとイベリスの姿を見る。
背中から伸びた四枚の淡い金色の羽で、小さな身体を宙に浮かべている。羽ばたくこと
はせず、ただ羽を広げるだけで空中に浮かんでいた。飛んでいる原理は謎だけど、魔術と
か魔法なんだろうか?
「そういえば、イベリスってずっと飛んでて疲れない?」
僕の問いに、イベリスはちらと後ろに顔を向けた。自分の羽を見たらしい。
赤い瞳をどこへとなく泳がせてから、イベリスは口を開く。
「ちょっと疲れるかも」
イベリスが移動するときはいつも自分で飛んで移動している。少しくらいの距離ならともか
く、今回みたいに一時間以上も歩き回るのは疲れるだろう。
僕は自分の左肩を指差した。
「なら、僕の肩に乗ってれば? 別にイベリスの重さなら気にならないし」
「んー……」
イベリスは僕の肩を見る。
何度か瞬きをしてから、
「お言葉に甘えて」
そう言って、僕の肩に腰を下ろした。
イベリスかわゆす(*^_^*)
そして身長60センチのお嬢にwktk
……それにしてもスレが落ち着いちゃってるなあ(T_T)
自分も規制で携帯でしか書き込めないけど
保管庫があれば…
404 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 03:36:52 ID:awQuhv1r
保守
405 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 03:59:05 ID:vJ3S5NPK
保守
406 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/14(火) 09:58:54 ID:2eIsozV9 BE:544857034-2BP(333)
保守
第8話
オオカミの主
森の北にある道を西に向かって歩いていく。
小一時間歩き回って、森の地図は頭に入った。おおむね中央から南にかけて家が並
び、北に行くと神殿があり、東に行くと街に行く。西にはこれといって何もない。
「そういえば、この森の外ってどうなってるんだろう?」
僕はそんな疑問を口にした。
森の中はどうなっているか分かったけど、森の外がどうなっているかは分からない。外
に出られるような道は無かったし、抜け道のようなものがあるのかもしれないけど……今
は調べようが無い。分からないままでもいいけど、気になると言えば気になる。
「何も無いみたい」
空中を滑るように飛びながら、イベリスが答えた。金色の瞳を僕に向ける。
さっきまで僕の肩に座っていたんだけど、揺れるという理由で離れてしまった。考えて
みれば、身体の小さなイベリスは、僕が歩く程度の震動でも居心地悪く感じてしまうのだ
ろう。それは、仕方ない……。
さておき。
「何も無いって?」
「何も無い。私の知識にはそうある。少なくとも、私はどうなっているかは知らない」
訊き返した僕に、イベリスは再び短く答えた。正面に目を戻す。森の中を続く道。この
辺りには家は無い。踏み固められた土の道が、緩く左へと曲がっている。
「なんだそれは……?」
言葉のままに受け取るなら、森の外は無が広がるだけ。しかし、さすがにそれは考え
にくい……けど、あり得ないと言い切れないのがここの怖いところだ。
「外に興味あるのか、お前」
聞き慣れた声に、僕はぴたりと足を止める。
少し進んでから、イベリスも止まった。
「クロノ?」
声のした方向に向き直る。
「よう」
道も何もない森から姿を現した黒いオオカミ。挨拶するように、右前足を持ち上げた。
やっぱり人間みたいな動作をする。
「こんにちハ……。ハイロさん、イベリスさン……」
「これが、お嬢?」
僕は思わず呟いた。
クロノの背中に乗った少女。クロノが言っていた通り、身長は六十センチも無い。
見た目は十代半ば。無感情な――というよりも機械的な黄色い瞳で、左目が眼帯に覆
われている。紫色の髪の毛は背中の半ばくらい。服装は丈の長い薄紫色の上着に白い
ショートパンツで、あちこちに歯車が意匠されている。何かの象徴なのかもしれない。
そこはかとなく、イベリスと同じ匂いを感じる。
「はじめまして。私は彼の従者のイベリス。あなたは?」
挨拶をしながら、イベリスが少女の前へと降りていった。身長の数倍の高さをあっさりと
移動する。表情を変えずに一度瞬きしてから、赤い瞳で少女を見つめた。
「イベリス……」
独り言のように小さく繰り返して、一度頷く。名前を記憶したのだろうか?
少女は黄色い目でイベリスを見返し、軽く右手を持ち上げる。
「ワタシはシデン。この狼の主。よろしク」
口をほとんど動かさずに、そう答えた。機械っぽい喋り方。イベリスも無感情だけど、そ
れよりもさらに無機質である。ついでに、微妙に言葉足らず。
「こちらこそ、よろしく」
イベリスが軽く右手を持ち上げた。
この二人、気が合うんだろう。そんな空気を感じる。
森から道まで移動してから、クロノが口を開いた。
「これが昨日話したお嬢だ。色々訊きたいことはあるだろうけど……ま、ようするにお前
と違って"普通じゃない"住人だ。言うことはそんなに多くはないな。うん」
説明が投げやりである。
昨日僕のことを"普通"と言っていた。見た目や考え方についての意味だろう。シデンに
対して言っているのは、その逆だ。見た目も考え方も、確かに普通じゃない。
突っ込んで訊くと長くなるだろう。
そう判断して、別のことを尋ねた。
「それより、こんな所で何してるんですか?」
道の脇からいきなり現れたクロノとシデン。脇道があるわけでもなく、獣道があるわけ
でもない。歩いて移動できるくらいには開けている森だけど。
「朝ノ、お散歩――」
「お嬢がいなくなったから探してた。いつもの事だ、気にするな……」
僕を見上げるシデンと、横を向いてため息をつくクロノ。比喩などではなく、言葉通りの
意味なのだろう。そういえば昨日、放浪癖があると愚痴っていた。
クロノの背から降りたシデンが、僕の前まで歩いてくる。
「あなたが、ハイロさン。はじめましテ」
「はじめまして……」
その場に腰を屈めて挨拶をする。でも、僕の存在自体がひどく場違いな気がする。喋
る狼、放浪癖のある小人、妖精の少女。僕だけ普通の人間だ。多分。
よそ見をするように右目を横に向けてから、シデンが頷く。
「失礼すル」
「うおぁ!」
言うが速いか、僕の肩へと素早く飛び乗った。両足を肩に乗せ、両手で頭を掴む、い
わゆる肩車の姿勢。拒否する暇もなく、あっさりと肩に登られてしまった。
「思ったよリ、良い感じかモ……」
僕の髪の毛を掴みながら、足を動かしている。気に入られたらしい。
「なら、私はしばらくこっちを借りさせて貰う」
そう言って、イベリスがクロノの頭の上に座った。両足を伸ばして杖を握った両手を膝
の上に置く。首を左右に動かしてから、頭の三角帽子を手で弄った。
「うん。意外と居心地いいかもしれない」
「………」
僕とクロノはお互いに目を合わせて、同時に小さくため息をつく。この狼とは気が合うな。
なんか、似たような境遇を持つ者として。性格も似ているみたいだし。
「しばらくお嬢のこと捕まえておいてくれ。目放すとすぐどっかに行っちゃうし。あと、この
森の外がどうなってるか気になってるみたいだな。ちょっと見に行ってみるか?」
と、クロノは前足で西を示した。
第9話
西の果てへ
「この森の果てに行くにハ、この道を進むのが一番速イ……」
僕の肩に乗ったシデンが、淡々と呟く。
横では、イベリスを頭に乗せたクロノが足音も立てずに歩いていた。イベリスは金色の
杖を両手で抱えたまま、辺りに目を向けている。
「道っていうのかな? 獣道みたいだけど」
自分たちが歩いている道のような場所を見下ろす。下草の生えていない箇所が真っ直
ぐ続いているだけだ。これを道と呼ぶのは、かなり無理がある。獣道と表現するのが一
番正しいだろうか?
「十分道だと思うけド……」
僕の意見に、シデンが首を傾げる。見てはいないけど、首を傾げるのが分かった。無
感情な声で、本気か冗談かは分からない。おそらく本気だ。
ゆっくりとため息をついて、クロノが首を左右に振った。
「お前が正しい。お嬢は気が向けばどこでも歩くから、道の基準が普通と違う……。森の
中歩いてるならまだいい方だ。時々木に登ったりしてるしな。しかも、結構な高さまで登る
し……。俺は狼だから木登りできないってのに……」
後半はただの愚痴になっている。
「木に?」
僕は肩のシデンに問いかけた。
さっきも僕の肩にあっさり登っている。身体が小さい分、標準サイズの僕よりも身軽な
んだろう。でも、木登りというイメージはない。
「お散歩は楽しイ。木登りモ楽しい」
シデンはそう答えてから、
「でも、飛べるともっと楽しいと思ウ」
クロノの頭に座っているイベリスに顔を向けた。
妖精であるイベリスは空が飛べる。どういう原理かは僕も知らないけど、見る限り自由
に飛べるようだった。それは素直に羨ましい。
イベリスが自分の背中に生えた羽を見る。淡い金色の四枚の羽。
「確かに飛べるのは便利かも。行こうと思えばどこにでも行けるから」
「どこにでも行かれたら、俺がさらに困るだろうが……」
沈痛な面持ちで、クロノが呻いた。尻尾を力無く下げている。普通に歩くだけでも頭を
痛める放浪癖に、飛行能力が備わったら打つ手無しだろう。
イベリスは頭に乗せた三角帽子のつばを動かし、
「でも、小さいのは不便。重いものを持ったり、遠くに行ったり出来ないから。従者の仕事
を満足にこなせない。私が別の身体になることはできないけど、あなたくらいの大きさは
欲しいと思う」
と、シデンを見る。
そういえば、イベリスは自分が小さい事気にしてたな。でも、気にしている割には、一人
でヤカン持ったりと色々出来る。体格の割に力はそれなりにあるようだし。
「イベリスはしっかり働いているよ」
「ありがとう」
僕の言葉に、イベリスがお礼を言う。小さく微笑んだように見えたのは、僕の気のせい
だろうか? 残念ながら気のせいだろう。
僕の足とクロノの足が地面の草を踏む僅かな音が聞こえる。
シデンが口を開いた。
「あまり大きくても困るかモ」
イベリスの小さいと困るに対する返事だと思うけど、何が困るんだろう?
僕の疑問に答えたわけではないだろうが――シデンは右手で僕の頭を撫でた。
「乗れなイ」
あぁ、確かに……。
クロノの頭に乗っているイベリスも、頷いていた。
「それはあるかもしれない」
左手で髪の毛のようなたてがみを撫でている。狼であるクロノは歩いてもあまり頭を揺
らさない。イベリスが不快に覚えるほどの揺れはないようだった。
何でだろう? そこはかとなく敗北感が……。
こっそりと肩を落としてから、僕は不意に肩をすくめた。
「なんか、少し寒くなってないか?」
今まで気にしていなかったけど、気温が下がっている。森の中は半袖でいて心地よいく
らいの気温なのに、今は肌寒くなっていた。
僕たち少し開けた場所にたどり着く。
「空見てみろ」
クロノに言われ、僕は空を見上げた。
木の枝葉の隙間から見える空。森の中で見上げた時は、晴れていたと記憶している。
空の様子は知らぬ間に、変わり果てていた。
「雲行きが怪しい……」
空を覆っているのは、手を伸ばせば届きそうなほどに低くたれ込めた灰色の雲である。
それだけではない。南から北に向かって、物凄い速さで流れていた。上の雲とは別の方
向へと流れている千切れ雲。まるで台風の時に見える積乱雲だ。
「なかなか、珍しい雲の動きね」
空を見上げ、イベリスが感心している。
シデンも空を見上げていた。
「この空を見るのハ、楽しイ……」
クロノはその場に腰を下ろし、後ろ足で首元を掻いた。
「最果ての果て。この"最果て"の周りは、猛吹雪になってる。いや、猛地吹雪か。ここの
外には近づくことはできるけど、出るのは無理だ。生身じゃ遭難する」
なるほど。外に行けば行くほど気温は下がり、天候も荒れてくるということか。
ま、ここで大人しく引き返すのが良策なんだろうけど。
「ここの外ハ、雪がとってもきれイ」
「後学のためにも、見ておいた方がいいかもしれない」
シデンの呟きに、イベリスが頷いた。感情の映らない赤い瞳を僕に向けてくる。淡々と
したジト眼だというのに、言いたい事ははっきりと分かった。
最果ての果てを見てみたい。
僕はクロノに目配せをする。
「見るだけなら大丈夫だ」
以上です
ようやく規制解除された
続きキター!
そして新キャラも不思議ちゃんですねえ(^^;
さらに続きに期待wktk
保守
〜なのです、という口調のキャラって
ゲームにしろ漫画やラノベにしろ
あちこちいるのだろうけど
俺が一番印象に残ってるのは
ここのSSの福の神だったりする
キャラにぴったりでめちゃ可愛かった
嫁にほしい
マジで人居ないな…。
次スレがあるなら、小さい女の子だけじゃなく男の巨人や女の巨人を含めた
大きさが違うキャラのSS総合スレ、ってのにした方が良いんじゃないの?
マジレスするとそういうスレは既にある。
で、まったく機能してない。
特に女巨人関係は今厨房荒らしが大暴れしてる最中だから、
一緒にするのはお勧めできない。
ここは元から人いないだろ
書き込んだ事はないが一応見てるぞ
投下します
第10話 外の世界
風が――
地面の雪を巻き上げ、視界を白く染め上げていた。轟音を響かせながら、大量の雪が
右から左に流れている。白の濃淡が激しく揺らめくその光景は、まさに圧倒的だ。
「これが、果てか……」
猛地吹雪を眺めながら、僕はただ驚くしかできない。
僕が立っている場所には、ほとんど風は来ない。五メートルほど先の森の端と外との
間にははっきりとした境界があり、そこで世界が分かれている。
もっとも、触れるような壁があるわけではなく、石を投げてみたら地吹雪の中に消えて
いった。あくまで猛烈な風が来ないだけであって、境界の内側でも無茶苦茶寒いし、木に
は雪が積もってるし、吐く息は思い切り白い。
クロノとイベリスが、無言で白い世界を眺めていた。
肩に立ったまま、シデンが淡々と言葉を連ねる。
「ここが最果ての果テ。ここから先は氷と雪の世界。出たら、戻っては来られなイ……。
だから、ワタシたちはここで眺めるだけで我慢」
「出て行った人はいるの?」
僕は地吹雪の世界を指差す。
どう都合良く考えても、生身ではこの極寒地獄に足を進めることはできない。迂闊に出
たら遭難、凍死。でも、ここにはシデンみたいな人間じゃない者もいる。
クロノが鼻を鳴らすのが分かった。鼻から白い息が漏れる。
「俺は聞いたことがないな。外に行きたいって言うヤツは何人か知ってるけど、実際に外
に出るような無謀なヤツはいない。その境界から数メートル出ただけで遭難する。この周
りは全部こんな地吹雪だ」
「出て行きたいと思っても、それは止めた方がいい。もし行くとしても私には止める権限
は無いけど、失敗すると分かっていて実行するのは賢いことではない」
と、イベリスが付け足す。赤い瞳を僕に向けて。
ようするに無理ってことか。ここが一体どこなのか、僕自身が一体何者なのか、気にな
る事は多い。外に出てみれば分かるとも思ったけど、無理っぽいし。
ぱさと軽い音を立てて、近くの枝から雪が落ちた。
「この最果てってのは、何なんだろう?」
一番最初から気になっている疑問。
過去の記憶を失った者たちが住んでいる森。昨日今日と見た限りでは、静かに暮らす
のにはうってつけの場所だろう。そして、住人は例外なく従者を連れている。従者の仕事
は主人を手助けする事らしいけど、見方を変えれば監視しているようにも思えた。
手掛かりが少ないため、考えれようと思えばどんな考えも浮かぶ。
結局のところ何が何だかさっぱり分からない。
「ここに来るヤツは、大抵そう考える」
尻尾を動かし、クロノが答えた。声から感じられる適当さ。前足で地面の雪をつついて
いる。僕の考えている事が分かっているみたいだ。本当に誰もが考えることで、クロノ自
身も見飽きているのだろう。
イベリスが三角帽子のつばを指で動かす。
「教授なら知っているかもしれないけど、答えないと思う」
感情の映らない瞳を向けてくる。
それは僕も考えた。あの教授は何か知っている。知らないはずがない。でも、尋ねたと
しても答えない。そんな確信があった。でも、今度機会があったら訊いてみよう。
ふと別の疑問が頭に浮かぶ。
「外の人間がこっちに来るってことはあるのかな?」
ここから外には出られない。なら、逆に外から入ることはできないのか?
「私は知らない。聞いた事がない」
イベリスが首を振る。
しかし、頭の後ろから答えが返ってきた。シデンの無機質な声。
「稀に人が来ることはあるみたイ」
「俺が聞いた限りじゃ、数十年に一度くらいだな。外から人が来るってのは。俺は外の人
間ってのを見たことはないけど」
前足で鼻の辺りを撫でてから、クロノが続ける。
ふむ……。
と視線を持ち上げた。
しかし、ぞくりと身体が震え、思考を中断する。僕は身震いをしてから、両手で身体を抱
えた。さっきから気合いで誤魔化してたけど、無茶苦茶寒い。目の前で地吹雪が荒れ狂
って辺りにも雪が積もっているってのに、寒くないはずがない。
「そろそろ帰らない?」
「そうね。寒いし」
杖を持った右腕を左手で撫でながら、イベリスが頷く。表情も変わらないし、寒そうな仕
草もしてないし、息も白くないから、全然寒そうに見えないけど……。
イベリスの目の前を粉雪が落ちていく。雪はクロノの鼻先に落ちて消えた。
「あたなの肩は居心地がよかっタ。また機会があったラ、お邪魔させてもらう」
シデンがそう呟く。
僕の肩を蹴って飛び上がると、空中できれいに一回転してみせた。紫色のコートをなび
かせ、クロノの背中へと着地する。体操選手を思わせるような華麗な動きだ。ちょっと痛
かったのか、クロノが鼻から白い息を漏らす。でも、うめき声は呑み込んだ。
「やっぱり、こっちが落ち着く」
クロノの背中を撫でながら、シデンが頷く。
黒い狼の上に座った小さな少女。その姿は妙に似合っていた。
「なら私も元の場所に――」
四枚の羽を広げて飛び上がるイベリス。空中を滑るように、僕の傍らまで移動した。
クロノが黒い眼で後ろを示す。
「じゃ、そろそろ帰ろうかね。風邪引くのは嫌だし」
以上です
続きはそのうち
乙
独特の雰囲気の作品世界が好きですよ〜
保守
保守
投下します
間違えた…
第11話 紫と黒と
最果ての最果てから森へと戻った四人――三人と一匹。
家へと戻るハイロとイベリスを見送ってから、クロノはシデンを乗せたまま手頃な草地に
歩いてきた。午後の日の光に暖められた草地。
「さすがに寒かった……」
クロノは草の上に寝そべり、草と地面の暖かさを身体に染み込ませていく。芯に伝わる
暖かさが心地よい。自分で考えていたよりも、冷えているようだった。
土と草の匂いが鼻をくすぐる。
「もう歩かないノ? お散歩は終わり?」
小さな手でぺしぺしと頭を叩きながら、シデンが訊いてくる。
しかし、クロノは耳を振って前足に顎を乗せた。完全に寝る姿勢である。
「しばらくここで身体暖める。興味本位とはいえ、あんな寒い所行くもんじゃないな。俺は
狼だから、服来てないし……毛皮はあるけど、寒いもんは寒いんだ」
「そう」
呟きながら、シデンがクロノの背中から降りた。小さい体格のため、それほど重くはない
が、背中から降りられると少し寂しい。
「なら、ワタシは一人でお散歩ニ――」
「行くなって……」
言いながらクロノは素早く頭を上げた。歩き出したシデンのコートを咥え、引き戻す。こ
こでどこかに行かれたら、夕方まで探し回るはめになるだろう。今朝のようにすぐに見つ
けられたのは、運がいい。
引っ張られるままに蹌踉めき、シデンは尻餅を付いた。
「従者なら主の側にいろって、イベリスに注意されたからな。お嬢をほったらかしにしてい
るのは、職務怠慢だとさ。だから、これから少し厳しくしようと思う。少なくとも、俺の見てる
ところで行方不明にはさせない」
「あの妖精は真面目な子。あたなとは違ウ」
そう言いながら、シデンがクロノの身体によりかかった。ソファに座るように体重を預け
る。毛皮の上から、コートの冷たさが伝わってきた。
暖かな地面と、ひんやりと冷えたシデンの身体。
咥えていたコートから口を放し、クロノは小さく鼻を鳴らす。
「それじゃまるで、俺が不真面目みたいじゃないか……」
「あんまり真面目じゃなイ」
シデンの言葉は正直だった。
「ちくしょう……」
顔を隠すように前足を鼻の上に乗せ、クロノは目を閉じる。
自覚が無いわけではないが、真正直に指摘されるのは傷つく。シデンが無遠慮に何で
も言ってしまうのは、今に始まったことではないが。
慰めのつもりか、ぽんぽんとシデンが肩を叩く。
クロノは手を下ろした。地面を掃くように尻尾を振りながら、
「で、お嬢はどう思う。あの新入り?」
ハイロ、昨日から森に住むようになった人間の男。髪の毛が灰色だからハイロらしい。
最果ての森に来た者の例に漏れず、この森のことを調べようとしている。そして、重要な
ことは何も分からず諦めるのだろう。
シデンは黄色い右目を持ち上げ、
「乗り心地は八十五点」
「基準はそこなのか……」
顎を地面に落とすクロノ。耳を伏せる。
地面に手を付いてシデンが立ち上がった。クロノの首の辺りの毛を右手で掴んでから、
地面を蹴って背にまたがる。人形のような見た目と大きさの小さな少女。クロノの背に乗
るには丁度いい大きさだ。いや、クロノがシデンに丁度いい大きさなのだろう。
シデンは左手で背中の毛を梳くように撫でている。
「あなタは九十八点」
「それは素直に喜んでおくべきなのか?」
組んだ両手の上に顎を乗せた姿勢に戻り、クロノは訊き返した。暖かな空気と地面。鼻
を撫でる柔らかな風に眠気が浮かんでくる。
「誇っていイ。あなたは最高得点」
「ありがと」
クロノは短く礼を口にした。
「時々ワタシも考えル」
背中のシデンが思いついたように口を開く。
「この最果ての外の外は、どうなっているのカ? あの雪の壁の向こうにハ、一体何があ
るのか、ここに来た時からずっと気になっていタ」
「俺も気にならないと言えば嘘だな……」
クロノは耳を動かした。雪の音を聞くように。
この最果ての地を包む猛地吹雪。人が出るのも来るのも阻んでいる。しかし、どういう
原理か、この人が住むに適した環境の場所があり、そこには大勢の人が住んで生活をし
ていた。森の住人と街の住人。なぜそうなのかは誰も知らない。
「いつになるか分からないけド――」
言いながら、シデンはクロノの背中に身体を伏せた。両腕を首に回して、クロノの頭の
上に自分の頭を乗せる。どこかおんぶのような姿勢。
クロノの耳に囁きかけるように、シデンが続けた。
「イつかあの雪を越える方法を手に入れたラ、ワタシは外の世界に行ってみようト考えて
いル。あの吹雪を越えて、その向こうへ」
「おいおい……。死ぬぞ、それは」
軽い頭痛を覚え、クロノは軽く首を振った。
「今じゃなイ……。ずっと先、遠い未来のお話……」
シデンが訂正する。この森にも街にも、地吹雪の雪原を越える方法は存在しない。だが、
それは今の話。未来永劫存在しないわけでもないだろう。その未来が、十年後か、百年
後かは誰にも分からない。
「その時は、アナタも一緒に来てくれる?」
「返答に困ることを訊くな」
クロノは目を瞑って答えた。
くぅ、と気の抜けた音。
シデンが身体を起こす。
「お腹空いタ」
以上です
つづきはそのうち
>>435 お疲れ様です。
続き楽しみにしています。
シデンちゃんの態度って
これ、さりげにプロポーズ?
ちっこい女の子可愛い
今月のコミックリュウに載ってた妖精漫画が結構よかった
投下します
第12話 二日目の夜
風呂で身体を洗い、寝間着に着替えて、脱衣所から出る。
最果ての果てを見に行ったせいか、身体が冷えていた。風呂に長く浸かっていたけど、
それでも肌が冷える気がする。この森の空気がひんやりしているのもあるけど。予想以上
に寒さって身体に残るもんだと、僕は実感していた。
湿った髪を掻き上げ、テーブルに目を向ける。
「イベリス……?」
テーブルの上に置いてある、小さな木の桶。
イベリスが風呂代わりにしている桶だった。コンロで湧かしたお湯を入れた、小さなお風
呂である。僕とイベリス。男女である以前に身体の大きさが違いすぎるため、さすがに一
緒に入るわけにもいかない。
横には脱いだ服と着替えが、畳んで置いてあった。
「もう出たの?」
湯船に浸かったまま、イベリスが顔を向けてくる。
僕は瞬きをして、イベリスを見た。
「……。まだ入ってたのかい?」
「うん。身体が冷えるから。今出るところ」
そう答えてから、お湯から身体を持ち上げた。ごく普通に風呂から出るように桶をまたぎ、
桶の横に置いたハンカチへと降りる。
当然、何も着ていない裸のまま。
身長二十センチくらいの小さな女の子。濡れた銀色の髪が、褐色の肌に張り付いている。
見た目通りに体型は子供のもので、凹凸は少ない。胸も辛うじて膨らんでいるのが分か
るくらい。手足も細く、細いというよりも、華奢な印象を受ける。それでも、男とは違う柔らか
な丸みを帯びていた。
「なに?」
赤い瞳を僕に向けてくるイベリス。
思わず見入ってしまったけど……。
いまだに硬直している僕をよそに、イベリスは置いてあった小さなタオルで髪の毛や身体
を拭いている。濡れた髪から水気を取り、身体を丁寧に撫でていた。
足の爪先まで身体を拭き終わり、小さく息をつく。
「珍しいの?」
視線を向けられ、僕は目を逸らした。
「いや……、あんまり恥ずかしがったりしてないから」
思った事を口にする。
一糸まとわぬまま、布で身体を隠す事もしない。でも、イベリスはそれを恥ずかしがって
いる様子もなかった。
イベリスはタオルを持ったまま自分の身体を眺め、
「恥ずかしがることでもないと思う」
「そうかな?」
僕は首を傾げた。
服を着ていないというのに、恥ずかしがる気配も無いイベリス。なんだか、気恥ずかしが
っている僕が馬鹿らしくなるような態度だった。
「ん?」
ふと目を止める。
イベリスの背中から生えた金色の羽。
普段は上着に隠れているため、根元がどうなっているかは知らない。そもそも知ろうとと
も考えなかった。しかし、今は服を着ていないため、付け根がはっきりと見える。
半透明の薄紙のような羽。根元に向かうに従い、細く薄くなっている。羽が生える根元は
羽が消えていた。つまり、皮膚から少しだけ離れた所から、実体化している。
「羽が、珍しいの?」
「うん。妖精の羽って初めてみるし」
僕はテーブルの横へと歩いていく。
「ちょっと触ってみてもいいかな?」
その言葉に、イベリスは少し考えるような仕草を見せた。
「構わないけど、引っ張ったりはしないで」
「分かった」
頷いて、僕は右手を伸ばした。
イベリスの背中から伸びる金色の羽を指でそっと摘む。
「?」
それは、不思議な感触。厚さは無いと思えるほどに薄い。表面は滑らかで、癖になるよう
な触り心地だった。指を動かすと、何とも言えない痺れが腕を駈け上がっていく。
これは、癖になりそうかも……。
僕はすぐに手を放した。
「ありがと」
「そう」
無表情のままイベリスは頷いてから、着替えを持ち上げた。
黒いショーツを手に取り、それに右足を通す。体格は子供っぽいわりに、大人っぽい下
着だった。右足に続いて左足を通し、それを腰まで持ち上げる。
それから黒い袖無しのシャツを手に取った。下着のキャミソールに似ているかもしれない。
両手を通してから、頭を通し、生地を身体に落とす。背中に入った銀色の髪の毛を右手で
払うように外に出した。
最後に寝間着の黒いワンピースを掴み、右手と左手を順番に通してから、身体を通す。
背中の四本の羽は、まるで存在しないように布地を透過していた。同じように襟から髪の
毛を外に出して、首を左右に振る。
イベリスは普段着を両手で抱えてから、軽くテーブルを蹴った。四枚の羽が広がり、微か
な光とともに生み出される浮力。小さな身体が空中へと浮き上がった。
「片付けお願い」
と、木の桶と濡れた小さなタオルを示す。
「了解、っと」
これらを用意して片付けるのは、僕の仕事だった。イベリスの小さな身体では、桶を動か
したりお湯を入れたりするのは大変である。
僕は小さな桶とタオルを持ち上げ、風呂場に向かった。
イベリスが無言で後を付いてくる。
以上です
続きはそのうち
癖になるような触り心地……味わってみたいGJ!
一番最初のミドリはどうなったんだろうな?
ミドリ
鈴音&琴音
イベリス&シデン
誰が好き?
癒されたいときは鈴音
悩み事があるときは琴音
どっちもだっこして抱きしめたい。
あー、随分と放置してすみません…
サイハテノマチはそのうち書きます
サイハテノマチ
第13話 三日目の朝
胸が重い……。
朦朧とする意識の中で、僕は左手を顔に乗せた。窓から差し込んでくる朝の光に、目の
奥が痛い。もう朝なのか。この森は空気がいいからぐっすり眠れる。
というか、胸が重い……。まるで誰かに乗っかられているように。
「おはようございまス」
掛けられた声に、僕は慌てて目を開けた。
布団の上に座っているのは、小さな女の子だった。身長六十センチにも満たない身体。
薄い紫色の髪と、無感情な顔、黄色い右目と瞳と左目を隠す眼帯。紫色のコートに、白
いショートパンツという恰好である。
シデンだった。僕の胸の上にちょこんと座っている。
「何してるの?」
黄色い片目を見つめ、僕はただ尋ねた。目が覚めたら胸の上に乗っかっている。客観
的に見ても何なのか分からないだろうし、主観的に見てもわけが分からない。
シデンは一度頷き、すらすらと答えてきた。
「お隣同士ということなのデ、起こしに来てみタ。なかなか起きない少年を起こすのは、隣
に住む女の子の嗜みと聞いたことがあル」
なんのこっちゃ?
「とりあえず、どいて」
「わかっタ」
シデンはあっさりと床に降りた。
布団をどかしてから、僕は上半身を起こした。目覚めともに手足の鈍りが去っていくの
が分かる。一度大きく背伸びをしてからベッドから降り、サンダルを穿いた。朝の日差し
が差し込んでくる窓に向って大きく背伸び。
それからベッドテーブルに置いてある箱に目を向けた。
小箱の中で小さな布団にくるまってイベリスが眠っている。
指でイベリスの肩を叩きながら、僕は声をかけた。
「イベリス。朝だよ」
「ん……」
微かに身動ぎしてから、イベリスが目を開けた。眠そうな赤い瞳をどこへとなく泳がせて
いる。まだ思考は動いていないようだった。
数秒かけて僕の存在に気付く。
「おはよう……」
気の入っていない声で挨拶をする。
ふと赤い瞳を動かした。いつの間にか箱を覗き込んでいるシデンへと。
「あなた……は?」
「彼を起こしにきてみタ」
と、僕を指差す。
どういう理屈かは分からないけど、シデンは僕を起こしにわざわざうちに来たようである。
玄関の鍵は閉めたはずなんだけど、どこから入ってきたんだろう?
イベリスはシデンの答えに満足したらしく、別の問いを口にした。
「クロノは……?」
「起こさないようニこっそり家を出たから、多分まだ眠っていル」
と、シデンが自分の家のある方向に指を向ける。
それは予想が付いていた。シデンがそこにいてクロノが一緒にいないということは、クロ
ノを置いて行動しているということ。きっとクロノは目が覚めたらシデンがいなくなっている
事に気付き、慌てて探しに出るのだろう。
眠たげな目でシデンを見つめ、イベリスが口を開いた。
「主はできるだけ……従者の目の届くところにいるもの……。あなたも、あまり好き勝手
にクロノの元を離れてはいけない……」
「善処すル」
答えは"いいえ"か……。
僕はそっと右手を伸ばして、シデンの身体に腕を回した。そのまま腕を引き寄せて、脇
に抱え上げる。荷物でも持つように。
「何をしているノ?」
両手両足を垂らしたまま、見上げてくる。
昨日肩に乗られた時は感じなかったけど、こうして脇に抱えてみるとシデンは意外と重
い。小さいといってもイベリスほど小さくないので、こんなものかもしれない。
僕はシデンを抱えたまま、窓の外に目を向けた。
「昨日クロノからシデンが一人でいたら捕まえておいてくれって頼まれたから」
「謀ったナ、あの狼メ」
淡々と呻くシデン。表情も口調も変えずに言っているから、本気の台詞なのか冗談なの
かは分からない。後者だろう。多分。
イベリスが箱の縁に身体を預けて二度寝に入っていた。
そのまま、シデンは続ける。
「でも、今日は仕事があるから、遊んでもいられない」
そういえば、イベリスも言ってたな。仕事。
僕ら森の住人は何でも食べられるから、働かなくても生活に困ることはない。そういう人
も結構いるらしい。でも、欲しいものがあるなら、街に行って働いてお金を稼ぐ。そのお金
を使って欲しいものを街で買う。それがここのルール。
「仕事ねぇ」
顎に左手を添えて首を捻る。仕事するからには自分の得意な事を選ぶべきだろう。そう
考えてみても、自分の得意不得意が分からない。過去の記憶自体無いし。
「シデンはどんな仕事をしてるんだ?」
「ワタシのお仕事は、図書館の司書。本の貸出、返却をしたり、本を並べたリ、古くなった
本を修理したリ。そんなお仕事。そのお給料で本を買っている」
脇に抱えられたまま、シデンが説明した。なるほど、司書か。図書館のカウンターに座
っているシデンを想像してみる。似合っているだろう。
「読書が趣味か」
機械みたいな言動だけど、なかなかいい趣味をしている。小さい身体で大きな本を読ん
でいるシデンの姿を想像し、僕は頷いた。
しかしシデンはあっさりと僕の考えを否定する。
「違う。食べル。ワタシの主食は本」
えー……?
以上です
続きはそのうち
超乙です。
シデンかわええ・・・
かわええ…(≧▽≦)
いまさらだけど
シデン=薔薇水晶だよな
保守
結局アリエッティっておもしろかったの?このスレ的に
投下します
第14話 街へ行く
白い石畳の敷かれた道を、僕たちは歩いていた。
靴と石がぶつかる硬い音。森から街に続く道である。地面には白く四角い石が敷き詰め
られていて、左右にはきれいに剪定された植え込みが壁のように続いていた。
「いやー。助かったぜ、お嬢捕まえておいてくれて……。目が覚めたらベッドにいなくて、家
中探し回ってもどこにもいなくて、びっくりしたわ、ホント」
シデンを背中に乗せたまま、クロノが暢気に笑っている。僕の予想通り慌てていたらしく、
僕が捕まえていたシデンを見てそのまま突っ伏した。
狼だからか、石畳の上を歩いても、足音はしない。
僕の傍らを飛びながら、イベリスが狼を見下ろした。
「あなたは、もう少し従者としての自覚を持った方がいい」
「うー」
頭を伏せるクロノ。歩いていなかったら、前足で頭を抱えていただろう。
その背中にまたがったシデン。古びた文庫本を左手に持ち、そのページを千切っては口
に入れて噛んでいた。本人曰く朝食らしい。
「それにしても、本当に食べるんだな……。本」
「あなたモ、どう?」
一ページ差し出してくる。
古本から千切ったページ。紛れもなくその材質は紙で、表面に文字が印刷されている。
普通の生物なら食べることはできないが、僕たちは食べられるのだろう。
黄色い右目が僕を見上げる。
「遠慮しておく」
でも、食べる気はない。
シデンは差し出していたページを口に入れ、むしゃむしゃと咀嚼していた。表情が変わら
ないから、美味しいのか否かは分からない。でも、主食にしているということは気に入って
いるんだろう。
にしても、本を食べる姿が怖いくらい似合っているな。
ちょっと気になったので、訊いておく。
「それにしても、主食本で図書館司書って大丈夫なの? そこら中に主食があるような環
境じゃないか。貸出用の本食べたら、怒られるだろうし」
「ワタシは盗み食いはしなイ、ちゃんと買って食べル」
僕に人差し指を向け、シデンが否定する。さすがに図書館で本を盗み食いしたら首にな
るだろう。そこまで飢えてるわけでもないし。
「でも、買うとなると、意外と食費高くないか?」
本の値段。僕はここの物価を知らないけど、安くはないだろう。毎日食事のペースで本を
口にしてれば、結構な金額になってしまうはずだ。
「まあな……」
尻尾を左右に動かし、クロノが鼻息を吐く。
「お前の心配通り、うちじゃお嬢の食費が悩みの種だ。司書の給料だけだとさすがに辛い
けど、俺も本書いて出版して金稼いでるからな。赤字になることはない」
「あなた、本を書いているの? 初耳」
イベリスが瞬きをしてクロノを見る。
人間くさい狼とは思っていたけど、作家か。主は本が主食の図書館司書、従者は乗り物
狼で作家。これは面白い組み合わせだな。
「従者が仕事してはいけないってルールは無いからな。俺は本を書いて、街の出版社から
売ってる。ま、こう見えても人気作家だから、収入は結構あるぞ」
「人は……いえ、狼は見掛けによらないものね」
三角帽子の縁を指で摘み、イベリスは赤い瞳を空に向けた。青い空に、白い羽雲が流
れている。この外は極寒猛吹雪なのに、ここは涼く心地よい気温で、風も無い。
クロノがジト眼でイベリスを見上げた。
「お前、俺を何だと思ってるんだよ」
「不真面目従者」
「………」
即答され、うなだれる。耳と尻尾を垂らした。
シデンが慰めるようにクロノの頭を右手で撫でる。
「彼の書く物語は美味しい」
「美味しい?」
物語の味ってあるんだろうか? 本を食べるなら、本の材質の味がすると思うんだけど、
それとも読んだ感想を味で表現しているのかな?
中身の無くなった本。その表紙を囓りながら、
「ワタシは物語の味が分かル。面白い物語は美味しイ、つまらない物語は美味しくなイ。彼
の作った物語は、のんびりシた美味しさがあル。高級ではナイけど、毎日食べても飽きの
来なイ味」
「ありがとよ」
頭を上げ、クロノが照れたように笑った。立ち直ったようである。
頭を上げ、クロノが照れたように笑った。立ち直ったようである。
そうしているうちに、道を抜けた。
「ここが街?」
石畳の道が終わる。
そこは、白い場所だった。
白い石の敷かれた道路に、白い石造りの建物。壁も屋根も白い。きれいな街だけど、ひ
どく無機質な印象を受ける。一瞬廃墟かとも思ったけど、見回してみると通りを歩いている
人は普通にいた。黒髪の男や女。服装は森の住人たちと変わらない。でも、何だろう?
僕たちとは絶対的に違う何かを感じる。
「サイハテノマチ。街の住人が住むところ。用事が無いのなら、森の住人は無闇に立ち入
ってはいけない。そういうルール」
街を視線で示しながら、イベリスが静かに説明する。その赤い瞳は、感情も映さずに街
を見つめていた。白い石の街と青い空。通りを歩く人たち。同じ場所にあるのに、全く違う
世界のようだ。確かに、森の住人が気楽に入れる雰囲気ではない。
ふと見ると、傍らにいたシデンとクロノがいなくなっていた。
「何してるノ?」
「おい、行くぞー」
声を掛けられ顔を向けると、クロノは既に歩き出している。
「分かった」
僕とイベリスは早足に二人を追い掛けた。
以上です
続きはそのうち
大好きな話なんだけど
過疎りまくりのスレに投下頂いて
レスもさっぱり乏しくて
作者様に申し訳ない気が…
でもGJですよぅ!!
2007年から続いてるんだぜ
過去に
過去に書いてくれてた人達、また戻ってこないだろうか。
名作多かったし、また読んでみたいな
過去に1レスかいて、どスルーされた人間ならいるぞ
かつての住人のフィフニルさんは
気がつくと主人公が狼になって妖精の女の子を
襲ったり食事、性的な意味で
という、超展開になっています
なん…だと… 俺が目が見えなくなってからそんな展開が?!
よーし 今度がんばって読みに行こう
俺の好きな作り手に限ってその後の行方が分からないんだよなぁ…
今頃どうしてるんだろう
あなたのすぐ後ろに・・・
あああああ百合妖精小説の某サイトが消えてる
どうしてエロサイトっていうのはこうも儚いのだろう
更新停止宣言のときに保存しておくべきだった……
>>474 おお、こんなところにあのサイトを知っている人が
俺もすんごいショックなんだけど…
あんな村上春樹のような文学系の小説書く人なんてもうこの界隈では現れないんだろうな
せめて某あぷろだにでもこれまでに書いた分を残して欲しかったな…
妖精系文章書きってどれくらいいるんだろう?
保守
投下します
一尺三寸福ノ神 後日談
前編 狼神のクリスマスプレゼント
「朝なのです。起きるのです、一樹サマ!」
「起きるのだ小森一樹。冬休みだからってだらだらしてると、身体に悪いのだ」
朦朧とした頭に、声は突然飛び込んできた。
聞き慣れた女の子の声。
「うん?」
一樹はぼんやりと目を開ける。冬の朝特有の寒さと明るい日差し。思考を空回りさせつ
つ、右手を伸ばす。ベッドの横に置かれていたケースを掴み、蓋を開けた。中身の眼鏡を
掛けると、視界の霞が取れる。
「おはようなのです」
身長四十センチほどの小さな女の子。見た目の年齢は十四、五歳くらい。腰まで伸びた
長い黒髪、気の強そうな顔立ちと黒い瞳。服装は白衣に緋袴、そして足袋に草履、いわゆ
る巫女装束だった。そして、お守りをひとつ赤い紐で首から下げている。
鈴音だった。
「おはようなのだ、小森一樹」
そして、その隣にもう一人の女の子。見た目十代後半くらいで、鈴音より少し背が高く、
スタイルもよい。赤い布で縛ったポニーテイルの銀髪、真紅の瞳に写る強気な意志。口元
には不敵な薄い笑みを浮かべている。赤い着物は、袖と胴部分が分かれ、隙間から白い
襦袢が見えた。黒い行灯袴と足袋と草履。首には鈴音と同じお守り。
琴音である。
「……ん?」
机の上に立っている二人を眺めながら、一樹は思考を回した。
鈴音と琴音。ひとつの身体を二人で共有している福神と厄身。どちらかが、表に出ること
で人格から容姿まで切り替わるが、ふたつの身体に分かれることはできない。
「夢か……早く起きないと」
そう結論付けて、一樹は眼鏡を置き、枕に頭を下ろした。
とん。
と胸の上に重さが加わる。
二度寝を諦め、一樹は胸の上に目を向けた。
「って、なぜそこで眠るのですか! ワタシたちを無視してはいけないのです」
「オレたちが二人になったのは現実なのだ。現実から目を背けては駄目なのだ」
鈴音と琴音が、それぞれ言ってくる。
どうやら夢ではないようだった。
一度大きく欠伸をしてから、一樹は上半身を起こした。右手をベッドに付いて、身体を持
ち上げる。両足をベッドから下ろし、ベッドに腰掛ける体勢に移った。一度置いた眼鏡を再
びかける。
鈴音と琴音は、布団の上に立っていた。
「何で増えてるの?」
とりあえず、尋ねる。
答えたのは琴音だった。緩く腕を組んだまま、赤い瞳を少し持ち上げる。
「昨日の夜……正確には今日の早朝なのだ。あのアホ狼が部屋に来てオレたちに何かし
ていったのだ。多分、分身の術の応用だと思うのだ。一日だけ二人になれるようなのだ」
アホ狼とは、作り手である狼神大前仙治のことだろう。
「部屋にって……」
一樹は頭を押さえて、窓を見た。ごく普通の一般家庭のガラス戸。道具も無しに開けら
れるものではないが、術を使えば開けられるかもしれない。
鈴音が続ける。
「クリスマスプレゼントだと言っていたのです」
「クリスマスプレゼント……」
そういえば、今日は十二月十五日。クリスマスだった。
日本の神がキリスト教の降誕祭を祝う理由もないが、元を辿れば冬至祭。そのような歴
史背景は抜きに、祭りは騒げと言う、ある意味日本人らしい適当さなのだろう。
鈴音は両手を持ち上げ、嬉しそうに説明する、
「律儀にサンタクロースの扮装までしていたのです。真っ赤な服と帽子にヒゲまで付けてい
たのです。でも、ばっちり不法侵入なのです!」
サンタクロースのコスプレをして深夜、部屋に忍び込んでくる仙治の姿を想像し、一樹は
ため息をついた。なぜそこまで凝るのかが分からない。
「あいつが捕まろうと何しようと、オレは興味無いのだ」
両腕を広げて、琴音がため息をつく。
「ま、ねぇ」
もう捕まっているのかもしれない。そんな確信めいた予感が浮かぶが、それを確かめる
術はなかった。あっても、実行する気はないが。
よく分からないことはさておいて。
一樹は並んだ鈴音と琴音の頭に手を置いた。
「しかし、こうして並んでみると、琴音の方が背が高いんだね」
「むぅ」
「うむ」
顔をしかめる鈴音と、胸を張る琴音。
鈴音は身長三十九センチと半分、琴音は四十二センチ。二センチ半の差であるが、四
分の一サイズの二人にとって、それは意外と大きな差だった。実際に並んでみると、その
差ははっきりと分かる。
「ふふん。オレの方が身体も大人なのだ」
左手を腰に当て、右手を後ろ頭に添え、胸を反らしてみせた。鈴音にはほとんど見られ
ないが、琴音は年相応に胸の膨らみが見られる。他の部分は、巫女服に隠れてよくわか
らないが、琴音の言い方では年相応なものなのだろう。
優越感を含んだ赤い瞳を、鈴音に向ける。
鈴音が両手を握りしめた。髪の毛が何本か、明後日の方向に飛び出している。
「ずるいのです!」
鈴音は両手を伸ばして、琴音の襟を掴んだ。
目元に涙を浮かべながら、叫ぶ。
「ワタシだって四十センチ以上の身長が欲しいのです。しかも、幼児体型というのも気に入
らないのです! 不公平なのです。琴音はその身体をワタシに貸すのです!」
「何を無茶な事を言っているのだ!」
鈴音の手を払いのけ、琴音が後ろに跳んだ。あくまでベッドの上なので、遠くへはいけな
いが、それでも間合いを取ることはできた。
一樹はベッドに座ったまま、二人の言い合いをぼんやりと眺める。
乱れた襟元を直し、首を左右に振る琴音。白いポニーテイルが揺れた。
鈴音は勢いよく琴音を指差した。
「無茶ではないのです。以前、琴音の身体だけ借りたことあるのです」
「ん……? その時はキメラになってなかった?」
思いついて、一樹は口を挟む。
以前、鈴音と琴音の身体がまだら模様に入り交じって、キメラになったことがあった。そ
の時は、リセットスイッチであるアホ毛を引っ張り、元に戻している。身体の主導権争いを
していたと言っていたが、何が起こったのかは想像が付くようで付かない。
鈴音が一歩前に出る。右手を握り締め、眉を内側に傾けた。
「それは琴音が抵抗したからなのです! 琴音が抵抗しなければ大丈夫なのです」
「身勝手なこと言うななのだ! 誰がお前なんかに身体を貸すかなのだ! 何されるかわ
かったもんじゃないのだ!」
同じく一歩前に出ながら、右足をベッドに叩き付ける琴音。体重も軽く、下は柔らかい布
団なので迫力はないが、気迫は伝わっただろう。
「ちょっとくらいいいのです!」
「よくないのだ!」
がっしと両手を組み合わせる二人。
それも一瞬、一度距離を取ってから、ケンカを始める。
鈴音の突きを琴音が腕で防ぎ、琴音の蹴りを鈴音が退いて避けた。踏み込んだ鈴音の
右手を琴音が取って背負い投げ。鈴音は空中で体勢を立て直して着地する。
映画のカンフーアクションのような、きれいな動きだった。行灯袴の裾と袖を振りながら
踊っているようにも見える。
数回演舞のような組み手を行ってから、
「まだまだなのです! この鈴音の本気、見せてやるのです。覚悟するのです!」
「ふっ。お前の本気など、たかが知れているのだ。返り討ちにしてやるのだ!」
二人が一度距離を取り、両腕を振った。
それぞれ、袖の中に手を引っ込め、その手を取り出す。
取り出した手には、祓串が握られていた。鈴音は白木の棒に白い紙を付けた祓串。琴
音は黒塗りの棒に赤い紙を付けた祓串。
両者、二本の祓串を二刀流のように構えてみせる。
一樹は静かに呟いた。
「和算について半日くらい語ってみようか?」
「ごめんなさいなのです……」
「ごめんなさいなのだ……」
即座に祓串をしまい、二人は姿勢を正して深々と頭を下げた。
顔を上げた二人には、うっすらと恐怖の色が浮かんでいる。どちらも思考が吹っ飛ぶま
で小難しい話を聞かせたことがあるので、それがトラウマになっているようだった。
一樹はベッドから起き上がり、窓の前まで移動した。
朝日に向かって背伸びをしてから、振り返る。
「にしても、どうしようか? 二人になっても、これといってやることないし」
「それはオレも同意見なのだ」
腕組みしながら、琴音が頷く。
鈴音がぽんと手を打った。
「そういえば、一樹サマ。今日は図書館に行くと言っていたのです」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「寒い……」
コートにマフラーの防寒装備で外を歩きながら、一樹は吐息した。
「やっぱり、お散歩は最高なのです」
一樹の左手に抱えられたまま、鈴音が嬉しそうに足を動かしている。
「うむ、最高なのだ」
一樹の両肩に足を乗せ、頭に捕まっている琴音。
ともに、定位置だった。二人とも、生地の薄い巫女装束のような服を着ているが、防寒の
術のおかげで、寒さは平気らしい。
図書館に向かう道路を歩きながら、一樹は口を開いた。
「いつも思うけど、散歩って歩いてるのは僕だけだよね?」
「男が細かい事を気にしてはいけないのだ」
頭の後ろから声が投げかけられる。
「細かいことかな?」
そう訊き返すが、返事はない。
空は快晴。文字通り雲ひとつない青空だった。気温は十度くらいだろう。しかし、風があ
るため、体感気温は少し下がる。空気も乾燥しているようだ。厚着をしても、その上から寒
さが染み込んでくる。
左腕に抱えられた鈴音が見上げてきた。
「それに、一樹サマに抱えられていると、なんだか凄く落ち着くのです。気持ちがとっても温
かいのです」
「ありがとう」
乾いた笑いを浮かべ、一樹は鈴音の頭を右手で撫でた。艶やかで滑らかな黒髪。嬉し
そうに、鈴音が目を閉じる。
「むぅ」
後ろから聞こえてくる不服そうな声。
「琴音もむくれるなって」
一樹は頭の後ろに手を回し、琴音の頭を軽く撫でた。ポニーテイルに縛った白い髪の毛
と、赤いリボンの手触り。髪質は鈴音よりも少し硬いように思える。
一樹の手を払いのけてから、琴音が空を見上げた。
「それにしても、雪なんて全然降りそうに無いのだ。ホワイトクリスマスというのも、一度見
てみたいと思うのだ」
「無茶言うなって」
一樹は再び空を見上げた。
典型的な西高東低、冬型の気圧配置。日本海側では雪が降り、太平洋側では晴れが続
く。太平洋側に雪が降るには、太平洋側を通る低気圧と、上空の寒気の南下が重ならな
ければならない。
「無いものを期待してもしょうがないです」
妙に悟ったような口調で、鈴音がそう言った。
486 :
名無しさん@ピンキー:2010/12/17(金) 20:33:44 ID:mppWSj3w
まだ続きがあるのか!
好きな話だけにうれしい
福の神キタコレ! これで年内はかつる! 年を越せる!!!
福ノ神様のクリスマスプレゼントきたおー!
投下します
一尺三寸福ノ神 後日談
中編 決着を付けよう
暖房の効いた部屋は暖かい。
鈴音と琴音は、それぞれベッドの両端に陣取り、図書館で借りてきた本を読んでいた。
鈴音は風景や植物の写真集を好み、琴音は宇宙関係の写真集を好む。
どちらも、文字の多い本は苦手のようだった。
一樹は椅子に座ったまま、パソコンのディスプレイを眺めていた。数学関係のニュースサ
イトをぼんやりと読んでいく。最近特に目を引く話題はない。
「小森一樹ー、質問なのだ」
琴音が声をかけてきた。
本を頭の上に乗せたまま床を歩いてくる。新書の写真集を持ち上げること自体はそれほ
ど大変でもないようだ。鈴音も琴音も小さな見掛けの割に、力はある。
椅子の傍らまで歩いてきた琴音。
「ちょっと持ち上げてほしいのだ」
「うん」
一樹は一度椅子を引いてから、腰を屈めて、琴音の両腋に手を差し入れた。そのまま、
琴音の身体を持ち上げる。小さな子供を抱き上げるように。さすがに本を持ったまま跳び
上がるのは苦労するらしい。持ち上げた琴音を、膝の上に下ろす。
落ちないように、一樹は左手で琴音のお腹の辺りを支えた。
琴音は本を机に置き、ページをめくる。
「この天文台ってこの近くみたいなのだ。ちょっと調べて欲しいのだ」
指したのは、本末の紹介ページだった。天体写真を撮影した天文台が、写真と解説入り
で記されている。琴音が示したのはそのひとつ。
検索サイトに天文台の名前を入れて、地図を開く。
「結構近いね。ここからだと一時間くらいかな? 大学よりも近いみたい」
「近いのだ。今度暇があったら連れていってほしいのだ」
琴音がモニタを指差す。
「連れて行くとなると、大体このルートになるかな?」
地図を動かし、おおざっぱに家から駅、駅から目的地までの道順をなぞる。
何も言わずに、琴音は画面を見つめていた。赤い瞳に好奇心の光を灯し、口を小さく開
けている。画面の地図に感心しているようだった。
「待つのです!」
とっ、という軽い足音。
視線を移すと、机の上に鈴音が飛び乗ったところだった。
両足を開き、広げた右手を突き出し、右目を瞑って小難しい表情を見せている。歌舞伎
役者などが行う見栄切りのような恰好。
「ワタシをのけ者にして、何をしてしているのです?」
「地図を見ているのだ。楽しいのだ」
琴音が指差した画面を数秒眺めてから、鈴音はきらりと目を輝かせた。両手を下ろして
から、何度か頷いてみせる。何をしているかは理解したらしい。
「なら、ワタシも混ぜるのです。地図で旅行というのは、色々と面白そうなのです。こういう
ことは独占はさせないのです。みんなで楽しむのです」
「構わないのだ」
あっさり頷く琴音。
ふと厳しい表情を作り、両足に力を入れた。琴音が落ちないように支えていた一樹の左
手に自分の左手を乗せ、机の上の鈴音を見上げる。
「だがしかし、ここは渡さないのだ」
鈴音の目付きに、刃物の輝きが灯る。
「む……? 一樹サマの膝はワタシの特等席なのです。悪いのですが、それは琴音には
渡せないのです。今すぐその場所をワタシに譲るのです!」
両腕を組み、両足を開いて仁王立ちする鈴音。
両者の間で視線の火花が散る。
「はぁ」
一樹はため息をついた。
鈴音も琴音も、何だかんだ言いながら一樹の膝の上にいるのが好きである。普段なら一
人なので、取り合いになることもない。だが、二人ではそうもいかないらしい。
「ならば、実力行使で奪ってみるのだ!」
「望むところなのです」
一樹の膝を蹴って跳び上がった琴音。右拳を引き、勢いよく突き出す。
鈴音の突き出した拳がぶつかる。
その間に稲妻が散った……ような気がした。
拳を打ち合わせた反動から、机の端を蹴って跳び上がり、空中で二回転してから、琴音
が床に着地する。鈴音は机から床に飛び降りた。
どこからとも無く吹き付ける、乾いた風。多分、錯覚だろう。
鈴音の黒髪と、琴音の銀髪が揺れていた。
「さすが鈴音なのだ……。今日こそ決着を付けてやるのだ」
「ふっ、望むところなのです」
言い合うなり、両者が飛び出す。
フローリングの床を蹴り、勢いよく左足を振り上げた。黒と白の髪の毛、白と赤の裾、朱
色と黒の袴が大きく翻る。
ガッ――!
鈴音と琴音の跳び蹴りが交錯。
二人は着地した。
お互いに向き直り、口元に薄い笑みを浮かべる。
「いい蹴りなのだ」
「お前こそなのです」
「なんか、二人とも楽しそうにケンカしてるね?」
二人の様子を眺めながら、一樹はそう口にした。
プロレスごっこという言葉が頭に浮かぶ。本気であるが、本気ではないケンカ。鈴音と琴
音、どちらも分かった上で、このケンカごっこを楽しんでいる。
琴音が短く吐息して、顔を向けてきた。
「同じ身体を共有していて、人格の優劣を持っていると、意外とケンカできないのだ」
「それに、自分とケンカしても、おかしいだけなのです」
続けて鈴音。
言っている事は正しいが、色々とおかしな主張。
鈴音が両足を前後に開き、何やら物々しい構えを取る。
「というわけで、一樹サマ。見届け人を頼むのです」
「幸福と災厄を招く神の……積年の決着なのだ」
応じるように、琴音が構えた。
「覚悟するのです」
「往くのだ」
そして、両者同時に飛び出した。
◆ ◇ ◆ ◇
五分ほどの決闘の後、二人はちょっとぼろぼろになっていた。それぞれ巫女服の襟元が
崩れて、白い襦袢が見えている。掛襟も外れていた。帯も解けかけている。髪も乱れ、琴
音はリボンが解けている。
しかし、これといったダメージは見られず、普通に立っている。
「さすが鈴音、オレの半身なのだ」
「琴音こそ、なかなか強かったのです」
軽く右拳を打ち合わせ、二人が笑った。戦いから、真の友情が芽生えたようである。
眼鏡を外してから、目を擦り、一樹は声をかけた。
「二人とも気は済んだ」
「大体済んだのです」
満足げに、鈴音が頷いている。
「久しぶりに暴れて、随分すっきりしたのだ」
床に落ちたリボンを拾い上げ、琴音は解けた髪を結い上げた。乱れた髪やはだけかけ
た上衣、解けかけた帯を直して、身体に付いた埃を払っている。
「決着付けられなかったのは残念なのだ。ま、オレと鈴音は、体格こそ違うけど、基本的な
性能は一緒なのだ。きちっと決着付ける方が難しいのだ」
そう納得したように頷いた。
鈴音と琴音。体格や思考は違うが、根本的な部分は同じ仕組みなので、運動能力や思
考能力に差は無いと仙治が以前説明していた。文字通り自分と戦う状況なので、決着が
付くこともないのだろう。
乱れた髪や服を整えてから、鈴音がぽんと手を打った。
「せっかくなのです。一樹サマとの決着も付けておくのです」
気楽な口調で言って、黒い眼を向けてくる。
一樹は緩く腕を組んで視線を持ち上げた。
「何か決着付けるようなことあったっけ?」
鈴音たちと一緒に暮らすようになってからおよそ二ヶ月経つ。しかし、これといって決着を
付けるような事柄に心当たりは無い。
しかし、鈴音にはあるようだった。眉を内側に傾け、
「ババ抜き、オセロ、将棋、真剣衰弱、7並べ、ポーカー、ブラックジャック……。ワタシも琴
音も今まで一樹サマに負けっぱなしなのです!」
「というか、勝った記憶が無いのだ……」
項垂れて両腕を垂らす琴音。
簡単なボードゲーム、カードゲームで鈴音や琴音と遊ぶ事はあった。一樹は手加減無し
で勝ちにいくため、鈴音も琴音も勝ったことがない。そのためか、最近ではそのようなゲー
ムをする事がなくなっていた。
そんな事を思い出してから、一樹は床に立った鈴音を見下ろした。
「じゃ、何やってみる? 部屋で出来る遊びってもう無いけど」
「…………」
無言のまま、鈴音が明後日の方向に目を逸らす。
それを呆れたように見つめる琴音。
「考えてないって顔しているのだ……」
実際何をするかは考えていないようだった。
しかし、不意に鈴音が頷く。
「とうっ!」
本棚に駆け寄ると、棚を一気に駆け上り、小物入れに置いてあったトランプケースを手
に取った。ケースを抱えたまま本棚を蹴り、空中を跳んでから床に降りる。
トランプケースを持って、鈴音は元気よく続けた。
「初心に返って、ババ抜きなのです!」
以上です
回線事情により続きは一週間後くらい
一週間ってぎりぎり25日ですがな(^◇^;)
待ってますよぅ〜(;_;)ノ
投下します
一尺三寸福ノ神 後日談
後編 勝者へのご褒美
「むー……」
散らばったトランプの前で、倒れ伏している鈴音と琴音。
ババ抜きから、各種カードゲーム、将棋やオセロなどのボードゲームから、途中夕食を
挟む。もう一度ババ抜きに戻って、時計を見ると午後八時だった。
「また惨敗なのだ……。勝てるとも思っていなかったのだ」
「琴音と一緒なら、何かは勝てると思ったのです」
疲れ切った顔で、琴音と鈴音がトランプを見つめている。
一樹は散らばったトランプを拾い上げ、それを数字順に並べ替えていく。ケースに収める
時は、きれいに整っている方が気分が良い。
「まあ、頭を使った勝負で僕に勝とうというのが無理あるよ。こう見えても、運に頼らないテ
ーブルゲームじゃ、相当に強いから。テレビゲーム類は苦手だから、そっちから攻められ
ればキツかったな」
笑いながら、そう告げる。
ボードゲームやカードゲームなどの手と頭を使う遊びは一樹の得意分野である。完全な
素人である鈴音たちがそこに飛び込んで、それで勝とうとしているのだ。言うなれば、大人
と子供の勝負。圧倒的に分が悪いことは否めない。
「むーぅ……」
鈴音が顔をしかめる。
それから、何か思いついたのか、一度首を縦に動かした。
両手で床の絨毯を叩いて、跳ね起きる。窶れたような表情は元に戻っていた。食事など
を必要としない身体構造のためか、その時の気分で体調がかなり変化するようである。
鈴音はぴっと人差し指を立てた。
「それでは一樹サマ。勝者へのご褒美なのです」
「ご褒美?」
トランプをケースにしまい、一樹は首を傾げる。
琴音もうつ伏せのまま、訝しげに鈴音を見上げていた。
鈴音は得意げに口元を緩めながら、
「そうなのです。勝者には報酬が与えられてしかるべきなのです。というわけで、ワタシが
キスをしてあげるのです」
と、黒い瞳を輝かせる。
「キス……ね」
一樹は一度目を閉じた。何を期待しているのかはよく分からないが、それが勝利への報
酬というのならば、余計な事は言わずに受け取るべきだろう。
目を開いてから、両手で鈴音を抱え上げる。
「そうなので……えっと、あれ……? あの……一樹サマ」
狼狽える鈴音。
身長四十センチに満たない小さな身体の女の子。ぬいぐるみのような重さと手触りで、
見た目は動くぬいぐるみだ。しかし、ちゃんと生きており、体温もあり呼吸もしている。手違
いで一樹の元に来た、福の神の女の子。
「おとなしくして」
「はい、なのです」
かくんと頷いて目を閉じる鈴音。
一樹はその小さな唇に、自分の唇を重ねる。そっと、優しく。微かに感じる体温と、綿細
工のように柔らかな感触。下手に力を入れれば、そのまま壊れてしまうそうな儚さだった。
ほんの少し唇を合わせるような、拙い口付け。
静かに唇を放し、一樹は鈴音を床に下ろす。
その頭を優しく撫でた。
「……」
鈴音が目を開く。
黒い瞳が揺れた。止まっていた思考が、緩慢に動き始めるのが分かった。それに伴い、
顔が真っ赤に染まっていく。
「あぅ……ぁぅ」
喉から意味のない声が漏れた。
耳まで真っ赤に染まった顔、がくがくと冗談のように震える身体。黒い瞳は意味もなく虚
空を泳ぎ、焦点も合っていない。頬を汗が流れ落ちた。頭の上から、ゆらゆらと陽炎のよう
なものが立ち上っている。それが錯覚か否かは分からなかった。
鈴音は震える右手を持ち上げて、自分の唇を撫でる。
それから、しばしの沈黙。
「んなあああああああああああああああ!」
いきなり絶叫するなり、弾かれるように駆け出した。両手を振り上げ目を回しながら、全
速力で。壁にぶつかってもすぐさま跳ね起き、別方向へと走り出す。部屋中を無茶苦茶に
走り回ってから、大きく跳躍。頭からベッドに突っ込んだ。
顔を毛布に埋めて、じたばたくねくねと悶えている。
「小森一樹、お前は本当に恐ろしい男なのだ……」
その様子を眺めながら、琴音が右手で額をぬぐった。いつの間にか立ち上がっている。
その顔には明らかな恐怖の感情が映っていた。
「大丈夫か、鈴音?」
「のおおおおおおお!」
一樹が声を掛けると、鈴音は再び叫びながらぐるぐると布団の上を転げ回る。
しばらくは声を掛けない方がいいようだった。
鈴音から目を離し、一樹は琴音に向き直る。
「琴音はどうする?」
その問いに、琴音はいくらか迷うように視線を泳がせてから、
「お前と戦った時点で負けは決まったいたようなのだ。オレも腹括るのだ。キスでも何でも
してやるのだ!」
「じゃ、お言葉に甘えて」
がっしりと腕を組んで宣言する琴音に、一樹は両手を伸ばした。鈴音と同じようにその身
体を持ち上げる。重さは鈴音と変わらない。
「は、初めてだから、優しくして欲しいのだ」
表情を硬くして言ってくる。
一樹は左手で琴音の身体を抱え、右手で頭を撫でた。
「大丈夫だよ」
優しく笑いかけてから、琴音の唇にそっと自分の唇を重ねる。
無抵抗に受け入れた鈴音と違って、合わせるように唇を押し付けてきた。それでも、はっ
きりと緊張していることが分かる。鈴音と同じようで少し違う、淡く薄い唇の感触。
一樹は唇を放し、琴音の頭を再び撫でた。
「……!」
顔を真っ赤にして口元を震わせている琴音。
一樹は抱えていた琴音を床に下ろす。
「うぅぅ……」
両手を握り締めたまま、琴音が呻き声を漏らす。鈴音のようにパニックになって暴れ出
すということは無いが、できるなら今にも走り出したいのだろう。
ごくりと喉を鳴らしてから、琴音が大きく深呼吸をした。
頬を赤く染めたまま、ジト眼で言ってくる。
「お前はつくづく、つくづく無意味に凄いのだ……」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
「褒めてないのだ……」
◆ ◇ ◆ ◇
二人が落ち着いた頃には十一時を過ぎていた。
ベッドに腰を下ろした一樹。その膝の上に、鈴音と琴音が並んで座っている。落ちないよ
うに、一樹は両手で二人を軽く抱えていた。
「一樹サマは大胆なのです」
鈴音が恥ずかしそうに口元を手で撫でている。まだ感触が残っているのだろう。
しかし、おもむろに目蓋を下ろし、眉毛を内側に傾け、したり顔で頷く。
「でも、これからワタシは一樹サマのお嫁さんになるのです。この程度で取り乱していては
身が持たないのです。これから、色々あるのです」
「ああ……。そうなのだ」
ため息をつき、琴音は呻いた。照れ隠しのためか、ふて腐れたようにそっぽを向いてい
る。一樹の手に右肘を乗せ、頬杖を突いて。頬はまだ赤い。
ふと思いついたように、鈴音が琴音を見た。
「ところで琴音は……どうなるのです? ワタシと琴音は一心同体なのです。一樹サマと一
緒になるには、琴音も一緒じゃないとマズいのです」
「むぅ?」
琴音が鈴音に目を向ける。
「仙治さんの話だと、二人を融合させちゃうみたい。鈴音一人だけだと、人間にするには容
量が足りないらしい。人格もまとまっちゃうって言ってたけど」
その言葉を聞いて、琴音が振り向いてくる。
一樹とずっと一緒にいるために、鈴音を人間にしてしまう。仙治の考えで、一樹と鈴音は
それに同意した。しかし、まだ琴音の返事を聞いていない。
「構わないのだ」
一樹の考えを察したように、琴音は無愛想に答えた。
右手で一度頭をかいてから、大きく息をつく。
「オレも鈴音と一緒にお前の妻にでも何にでもなってやるのだ。心の準備はもう出来てい
るのだ。いつでも好きなように似るなり焼くなりするのだ」
「ありがとう、琴音」
一樹は笑いながら、琴音の頭を撫でた。
その手を琴音が振り払う。
「でも、まだ僕も二人と一緒になるって年齢にはちょっと早いから、二人とももうしばらくこの
小さい身体のままでいてくれないかい?」
「分かったのです」
「気長に待つのだ」
鈴音と琴音はそう答えた。
以上です
お疲れ様です。
おお… HappyEND?
コレデトシヲコセル
思わず
にやけてしまうGJ!!
保守
ほ
書かないと、なぁ
投下します
サイハテノマチ
第15話 僕の仕事は
図書館はそれなりの広さだった。少なくとも、僕の住んでいる家の一階二階の合計面積
よりも広いと思う。そこに本棚が並んでいた。本棚の間では、ちらほらと本を選んでいる人
の姿がある。全員街の住人で、森の住人はいないようだった。
壁は白く天井も白い。床には薄い灰色の絨毯が敷いてある。
「ごゆっくりどうゾ。本は貸し出し品なので、食べないで下さイ」
背の高い椅子にシデンが座っていた。体格的に普通の椅子では足りないため、誰かが
作ったのだろう。腕には図書館と記された腕章を付けていた。
椅子の傍らには、クロノが伏せている。
「一応好きな本選んでくれ、貸し出しカード作ってやるから」
右前足を上げながら、そう言ってきた。
傍らにはタイプライターとペンが置かれていた。話によると、この図書館の備品を借りて、
文章を書いているらしい。
「物凄い光景……」
タイプライターで文字を書く狼。普通の環境では見られないものだろう。
近くに浮かんだイベリスが、杖を本棚のある方向へ向ける。
「さあ、本を選びましょう」
感情の映らない赤い瞳。普段から何を考えているのか分かりにくいイベリス。しかし、今
は少し興奮しているようだった。
僕はイベリスに先導されるように歩き出す。
目の前で黒い三角帽子と銀色の髪、金色の羽が揺れていた。
左右に並ぶ本棚に目を向ける。本自体は新しいものから、古いものまで沢山並んでいた。
いかにも図書館といった並びだった。もっとも使われている文字は、僕の知っている文字
じゃない。でも不思議と読み取ることができる。
「といっても、何の本を借りようかな。ここに来てから本は読んでないし、僕もどんな本が好
きなのか分からないし」
「眺めていれば、好きな本が見つかると思う。思う存分、探しましょう」
帽子のツバを持ち上げ、イベリスが断言する。
どうやら、今日一日図書館で時間を潰すことになりそうだ。
◇ ◆ ◇ ◆
「おー」
「美味しそう……」
料理の本を開く。簡単な写真と、作り方が記されていた。川魚の香草包み焼き。
僕の肩に座ったイベリスも、小さく喉を鳴らしている。無感情のまま熱意の籠もった赤い
瞳を写真に向けていた。かなり料理に興味があるらしい。
僕はそのレシピを見ながら、呟いた。
「今度作ってみようかな」
「うん、作って」
イベリスが言ってくる。
「お前、食べ物の本が好きなのか?」
ふと視線を向けると、クロノが見上げていた。
イベリスが僕の肩から離れて、クロノを見下ろす。
僕は指で頬をかきながら、苦笑いした。
「そうらしい」
「この人の作る料理は美味しい。見た目が簡単だけど、火加減とか塩加減とか細かく気を
使っている。きっとコックの才能があると思う」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
力説するイベリスに、今度は照れ笑いを見せる。
僕としては料理は普通に作っているつもりだったんだけど、言われてみると細かい所に
気を使っているな。自分で言うのも何だけど、確かに料理の才能はあると思う。
クロノはちらりとカウンターの方へ顔を向ける。ここからじゃ見えないけど。
「お嬢も料理とか全然しないもんかな。偏食屋だしなぁ」
尻尾を垂らして、そうため息ついた。
本ばかり食べるって、偏食の部類なんだろうか?
それから、クロノは首を一度縦に振った。
「飯屋のおやじが料理人探してたけど、どうよ? 料理作れるなら、料理人の仕事できるん
じゃないか?」
◇ ◆ ◇ ◆
肉っぽいものを包丁で切る。
店長のおじさんの話だと、ここでは牧畜はしていないので、すり潰した豆をそれっぽく加
工したものらしい。薄切りにした肉もどきを大鍋の中へと入れる。しばらく煮込んでルーを
入れれば、ブラウンシチューの出来上り。
「しかし、森の住人って信頼されてるのかな?」
鍋を眺めながら、僕は首を傾げた。
街にある宿屋兼食堂。ここもやっぱり他の場所と変わらず白基調の色遣いだった。それ
でも、汚れとかがある分生活感はある。
「さすがに即採用は何か……」
目を移すと、食器棚の隅にイベリスが腰を下ろしていた。金色の杖を膝に乗せて、僕の
様子を眺めている。小さいから邪魔にならないのはありがたかった。
「街の住人には街の住人の役割があるし、森の住人には森の住人の役割がある。お互い
にお互いを補ってくらしている。ここはそういう所」
「そういうものかな?」
「そういうもの」
僕の疑問に、イベリスが頷いた。
お玉で鍋のアクを取りながら、店内を見る。カウンターで仕切られた厨房とテーブルの並
んだ店内。決して大きいとは言えない店だった。店長は用事がある僕に厨房を任せてどこ
かに行ってしまった。店は準備中。……本当に、信用されているというか、これを信用と呼
ぶかはかなり怪しいけど。
ふっと視界に映る青いもの。
「?」
僕はお玉の動きを止めた。
小さな青い妖精の女の子が、店の入り口に浮かんでいた。
以上です
続きはそのうち
ほす
投下します
サイハテノマチ 第16話 妖精アルニ
僕が見ているうちに、青い妖精が店内に入ってくる。
「あ。こんにちは」
僕に気付いて、軽く会釈をした。
手の平サイズの身体で、背中からから四枚の半透明な羽が生えている。人間の年齢に
すると十五、六歳ほどだろうか。ショートカットの水色の髪と、青い瞳。紺色の上着とハーフ
パンツ、靴という恰好だ。肩から茶色の鞄を提げている。
「……誰?」
イベリスが棚から降りて、入り口の見える位置に移動した。そして、店に入ってきた女の
子に気付いたらしい。感情の見えない赤い瞳で、青い妖精を見つめる。微かに首を傾げ
たものの表情は変わらず、何を考えたかは僕には分からない。
青い妖精の女の子が声を上げた。
「姉さん!」
「姉さん?」
僕は棒読みに繰り返す。姉さん、姉、姉妹、妹……
「って、イベリスって妹いたのか?」
慌てて、イベリスを見る。僕がこのサイハテで目が覚めた時からいる妖精の女の子。見
た目は生き物だけど、もしかしたら機械のようなものかもしれない。僕の従者として常に僕
の近くにいる。ただ、僕が眼が覚める前に何をしていたのかは、僕は知らない。
もしかしたら……
「知らない」
しかし、イベリスの答えは簡潔だった。
青い妖精が店を通り抜け、カウンターの前までやってくる。空中に留まったままのイベリ
スを見つめて、不思議そうに一回瞬きをした。
「……あれ、人違いですね。姉さんに似ているような気がしましたけど、髪の色も目の色も
肌の色も違いますし、服装も違いますし、雰囲気も違いますし」
それを、何で見間違えるんんだろう?
僕は思わず肩を落とした。
髪の色、目の色、肌の色、さらに服装も雰囲気も違う。それを見間違えることは無いと思
うけど、何か他人には分からない共通点があるのかもしれない。
とりあえずコンロの火を弱め、根本的な質問を口にする。
「誰、君?」
この青い妖精は、森の住人や街の住人ではない。ついでに、誰かの従者でもない。具体
的にどうとは言えないけど、何でだろう? 雰囲気でそれは分かる。
妖精の女の子が笑顔で頷いた。
「初めまして。わたしアルニっていいます。ロアさん……ええと、一緒に旅をしている人と、
この街にやってきました。それで、しばらくここに用事があるから宿に来たんですけど。ロ
アさんがいなくなってしまいました。どうしましょう?」
と、首を傾げる。
だが、それはどうでもいい。
心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、僕は静かに尋ねた。
「もしかして、アルニは……外から来たの?」
「はい」
アルニはあっさりと頷き、
「大雪げ――ん……ン!」
言いかけた所で無理矢理口を閉じ、言葉を呑み込む。大雪原、と言ったようだけど、そこ
で自分で台詞を遮った。少し浮かんでいる高さを落とし、肩で息をしている。無理矢理言葉
を切ったせいで、苦しいらしい。
ぶんぶんと首を振ってから、固い表情で何度か頷く。
「と、駄目です……。駄目ですね。外の事は中の人に言っちゃいけないって言われました
から、お兄さんは中の人ですから、外の事を教えちゃいけません」
なるほど――そういう事か。外から来た者は中の住人に外の事を教えてはいけない。そ
れも、ここに存在するルールなんだろう。何か外の事を知られちゃマズい理由があるのか
もしれない。
思索を遮り、アルニが訊いてくる。
「ところで、お兄さんは誰ですか?」
青い瞳に好奇心の光を灯し、僕を見ていた。
イベリスやシデン、クロノ。僕の周りにいるヒトはみんな感情が薄いから、こうして子供み
たいな感情を向けられるとちょっと戸惑ってしまう。
「僕はハイロ。ここの森に住んでる。今はここで働いている」
そう自己紹介をする。
アルニが続いてイベリスに目を移した。
「私はイベリス。彼の従者」
杖を持っていない左手で僕を示す。
アルニは青い眉毛を傾け、じっとイベリスを見つめる。
「やっぱり姉さんじゃないですよね……?」
「私はあたなを知らない。今日初めて出会ったし、妹がいるという記憶も無い」
表情を変えぬまま、イベリスは答えた。
僕はなんとなく思った事を口にする。
「それに、君の方が年上に見えるけど」
アルニの外見は人間で例えると十代半ば。顔立ちに幼さが見えるものの、大人の凛々し
さも見える。胸も膨らんでいるし、子供然とした容姿のイベイスよりも年上に見えた。精神
年齢はイベリスの方が上っぽいけど。
「妖精に外見の年齢はあんまり関係ありませんよ。わたしの姉さんたち三人の二人は、わ
たしよりも年下の容姿していますから」
と、自分を示す。
アルニの家族関係は知らないけど、妖精の外見が年齢に比例しないことは理解した。ま
あ、普通の生き物じゃななそうだし、そんなもんかもしれない。
「それにしても、ロアさんどこに行ったのでしょう?」
そう呟きながら、アルニは店の外を振り返った。
以上です
続きはそのうち
お待ちしてます(*^^*)ノ
どこかに妖精さんいないものか…?
投下します
第17話 砂色の髪の剣士
「その"ロアさん"って誰なんだ?」
店の外に目を向けるアルニに、僕は尋ねた。
さきほどから何度か口にしている名前。アルニと同じく外の住人だろう。口振りや目の動
きからするに、妖精などではなく普通の人間だと思う。
アルニが僕の方に向き直る。
「わたしと一緒に旅をしている人間の剣士です。以前迷っているところを助けて貰いまして、
それからずっと一緒に旅をしています。優しいですし、頼りにある人ですよ」
と、微笑んだ。
「大変みたいね」
赤い瞳でアルニを見ながら、イベリスが呟く。感情が読めないので、どう考えているかは
分からなかった。でも、アルニの表情から苦労を読み取ったらしい。
「色々ありましたよー。何度死にかけたことか……」
腕組みをして、しんみりと頷くアルニ。
僕は続けて尋ねた。
「アルニたちは、ここに何しに来たんだ?」
「それはですね……」
左上を眺めながら、アルニが口を開く。
それを見計らったかのように、声が聞こえてきた。
「アルニ」
「あ、ロアさん」
入り口から入ってきた男。年格好は僕と同じくらいだろう。体格は中肉中背。背中まで伸
ばした砂色の髪と、どこか眠そうな青い瞳で、眼鏡を掛けている。服装は草色の上着とズ
ボン、編上げのブーツ。荷物の詰まった鞄を背負い、腰に剣を差していた。
「探したぞ……」
アルニに向かい、そう声を掛ける。
「すみません」
苦笑いをしながら、アルニが頭を下げた。
ロアはそれ以上何かを言うつもりは無いらしく、僕に視線を移した。イベリスやシデンの
ように無感情というわけではないけど、いまいち思考の読みにくい青い瞳。
「えっと、あんたは宿の人か?」
「いや、料理係です。店主は買い物に出掛けてます」
エプロンを示しながら、僕は答えた。
「じゃ、店主が来るまで少し待たせてもらう」
適当な椅子を引き、ロアがそこに腰を下ろした。
まだ開店時間前だけど、水とか出した方がいいかな? 一応お客ってことだし。そう判断
して、僕は厨房に移動。コップに氷水を注いで、トレイに乗せて戻ってくる。
ロアの前に水を置きながら、
「外から来たってアルニが言ってましたけど?」
「ちょっと用事があってな。ああ、外の事は中の人間には伝えるなって言われてるから、そ
れを聞かれても答えられないぞ」
「はい」
頷く。
コップの水を一口飲んでから、ロアが目を動かした。
僕の傍らに浮かんでいるイベリスを眺める。
「その子は、妖精か……?」
青い目に映る疑問の色。
イベリスは空中に留まったまま、軽く会釈をした。
「はじめまして。私はイベリス。彼の従者。妖精――ではないと思う」
ロアがアルニに視線で問いかける。
アルニは一度首を傾げてから、水色の髪の毛を手で梳いた。
「……そうですねぇ。姿形は妖精と似ていますけど、少なくともわたしと同じ種類の妖精で
はないと思いますよ。雰囲気が違いますし、妖精の魔力も持っていませんし。もしかしたら、
他の種類の妖精かもしれませんけど」
イベリスを見る。
イベリスは表情を変えぬまま、アルニの言葉を聞いていた。
同じ種類って言ってたけど、妖精って種類があるんだろうか? 僕が見た妖精はイベリス
とアルニだけ。しかも、イベイスは本物の妖精ではないみたいだし。
「そうか……ふむ」
考え込むように視線を下ろしてから、
「ええと、あんたは森の住人だよな?」
「ハイロと言います」
僕は自己紹介をした。
「うむ……」
再び顎に手を当て考え込むロア。
数秒してから、何かを決心したように頷いた。
「すまないけど、ちょっとあんたの家を教えて貰えないかな? 今すぐってわけじゃないけど、
しばらくアルニを預かって欲しいんだ」
「え、この子を?」
僕は驚いてアルニを見る。元気そうな青い妖精の女の子。
アルニ自身は少し驚いているけど、僕ほどではない。あらかじめ話を聞かされていたん
だろう。イベリスは無表情のままアルニを見ている。
「全部は話せないんだが、俺は森の教授の所に用があるんだ。でも、一人で来るようにと
言われているからアルニは連れて行けない。町長にその事話たら、妖精連れてるヤツに
預けるのが適当じゃないかって言われてな」
「町長って?」
気になった単語に、僕はイベリスを見た。
「教授は森の教授、町長は街の町長。このサイハテの世界を管理している人たち」
「引き受けてくれるか?」
ロアの問いに、僕は少し迷ってから、
「構いませんよ」
「ありがとう」
安心したようにロアが礼を言ってきた。
以上です
続きはそのうち
先が読めない不思議な話ですなあ(*^^*)ノ
続きに期待
保守
527 :
サイハテノマチ:2011/02/28(月) 18:26:02.10 ID:Sd6Tee7O
投下します
528 :
サイハテノマチ:2011/02/28(月) 18:26:43.66 ID:Sd6Tee7O
18話 シデンの好奇心
街から森へと続く道を歩いていく。
僕の傍らにはイベリスが音もなく飛んでいた。横ではクロノと、クロノに乗ったシデンがい
る。白い石畳が敷かれた道を歩いていた。
シデンの脇には文庫本が一冊抱えられている。
「それ、食べるのか?」
「今日の晩ご飯」
ごく当然とばかりに、シデンが答えた。僕たちは何でも食べられて、シデンは本類を主食
としている。実際、朝食べているのを見た。でも、いまだに半信半疑だ。僕はまだ普通の食
べ物以外を口に入れてないからなぁ……。
日は傾き、空は夕方の色に染まっている。森の住人が街にいられる時間は、決まってい
るらしい。日没以降は特別が用事が無い限り、街にいてはいけない。
「外からの人間が来たってのが話題になってる」
クロノが呟いた。尻尾を垂らしたまま、目蓋を少し下げている。
僕は一度頷いて、答えた。
「ロアって人と、アルニって妖精だった」
緑の服を着た剣士と、青い妖精の女の子。外から来た人間として、かなり騒ぎになってい
るようだった。外から人が来るのは、本当に久しぶりのようである。
クロノの背から、シデンが僕に黄色い右目を向けてきた。
「ワタシはまだ顔を見ていなイ。機会があったらお話をしてみたイ。外の事とか色々教えて
くれるカモ……」
それに答えたのは、イベリスだった。赤い瞳でシデンを見下ろしている。指先で三角帽子
のツバを動かし、口を開いた。
「彼は外の事を教えてはいけないと言われている。下手に話すとよくないことが起こる。こ
の最果ての住人が、外の事を無闇に知ろうとしてはいけない」
「そう。でも、気になル」
無感情のまま、シデンが続ける。表情は変わらず、声もいつもの淡々としたもの。しかし、
ロアとアルニにかなり興味を持っているようだった。
紫色の空に、橙色に染まった雲が浮かんでいる。今は大体六時過ぎ。辺りはさきほどよ
りも暗くなっていた。もうしばらくすれば、日が暮れる夜の闇が訪れるだろう。
「会うのは構わないけど、外の事を無闇に訊くな」
吐息してから、クロノが呻く。忠告するように。
529 :
サイハテノマチ:2011/02/28(月) 18:27:00.69 ID:Sd6Tee7O
「お嬢。悪いけど、これは俺も妥協出来ないんだよ。不用意な行動を取るっていうなら、ち
ょっとマジで捕まえさせてもらう」
微かに口端を持ち上げ、白い牙を除かせた。そう告げる口調はいつもとは違う。声に込
められた本気。黒い目に、鋭い光が灯っていた。シデンが不用意な事をする気なら、おそ
らく本気でロアとの接触を阻むだろう。
「あなたが、そんな事言うなんて珍しイ」
クロノの頭を右手で撫でながら、シデンが驚いている。
「一応、お嬢の従者だから……」
目から鋭い光を消し、クロノが横を向いた。
それから僕を見上げてくる。
「お前はそのロアってのの連れの妖精預かるんだってな」
探るような光を灯し、微かに目蓋を下げた。まだクロノにはその事を言ってないはずなん
だけど、誰かから聞いたのだろう。噂というものは、広がるのが早い。
僕は頭をかいてから、両手を広げて見せた。
「そういうことになってるみたい。いつから預かるかってのは、まだ聞いてないけど、僕の家
を教えてからそのうち来ると思う」
正直に告げる。隠す事でもないし。
クロノは尻尾を動かしながら、首を捻った。
「しかし……、何でお前なんだ?」
「イベリスを連れているかラじゃないかしラ?」
シデンが僕の傍らに浮かぶイベリスを見上げる。
今のところ、最果ての森で妖精の従者を連れているのは、僕だけのようだ。動物や鳥だ
ったたり、羽の無い小人だったり、ぬいぐるみだったり、生物か分からない四角い物体だっ
たり。従者の容姿に一貫性は無いけど、羽の生えた小さな女の子を従者にしているのは
僕だけらしい。
「そうかもしれない。違うかもしれない」
イベリスが曖昧な答えを返す。
530 :
サイハテノマチ:2011/02/28(月) 18:27:15.68 ID:Sd6Tee7O
僕が"妖精"を連れているから、自分が連れている妖精を預ける。普通に考えればそれ
が無難な答えだけど。違うからといって、何があるかけでもないかな。
「アルニって、どんな子だっタ?」
続けて質問するシデン。
僕は片目を瞑った。僕の前に現れ、色々お喋りをした記憶を思い返す。アルニを預かる
という約束をしてからも、ロアとともに少し話し込んでいた。
「青い妖精だったな。元気そうな印象だ」
「私とは性格の方向性が逆に見える。気が合うかもしれない」
それぞれ答えを口にする。
シデンは顎に指を添え、右目を横に向けた。少し考えてから、
「あなたの所ニ、そのアルニって子か来たら、見に行かせてもらウ。外の事は訊かないか
ラ。その程度なら問題ないと思ウ」
と、クロノを見る。
いくらか考えてから、クロノはため息をついた。
「その程度だったらな」
以上です
続きはそのうち
規制なのか何なのか、この過疎ぶりは……
でも続きを楽しみにしてる読者がここにいますよん(*^▽^*)ノ
保守
534 :
サイハテノマチ:2011/03/08(火) 18:20:05.78 ID:05wfSYkj
投下します
535 :
サイハテノマチ:2011/03/08(火) 18:20:26.91 ID:05wfSYkj
第19話 アルニ来る
「よう。こんにちは」
ドアを開けると、緑色の服を着た砂色の髪の男と、肩から鞄を下げた青い妖精の女の子
が待っていた。ロアとアルニの二人組。前に見た時と変わらぬ姿である。
僕は壁の時計を見てから、二人を見た。
「時間通りですね」
宿屋の食堂が休みの日の、午前八時半。時計はきっちりと八時半を示している。食堂で
働いている時に、ロアから言われた時間だった。
「いらっしゃい」
イベリスが二人を眺め、小さく挨拶をする。
「お久しぶりです、ハイロさん、イベリスさん」
「久しぶり。変わらず元気そうで何より」
元気に声を上げるアルニを眺め、僕は笑った。僕の周りにいる人は、みんな感情が薄い
から、こういう感情豊かな子は新鮮だった。
ロアが右手を持ち上げる。
「さっそくだけど、こないだの約束をお願いしたい。しばらくアルニを預かって欲しい」
「分かりました」
僕は素直に頷いた。
先日の約束。僕がアルニを預かること。どうやら、街の町長から直接指名があったらしい。
アルニを預ける相手は、妖精の女の子を連れた灰色の髪の森の住人、と。その条件に合
致するのは、僕しかいない。
どうして指名されたかは、よく分からないけど。
「よろしくお願いします!」
「よろしく」
頭を下げるアルニに、僕は頷いた。
イベリスは赤い瞳をアルニに向けたまま、三角帽子のツバを軽く撫でる。挨拶?
僕はロアに尋ねた。
「それで、いつ頃迎えに来ます?」
アルニを預けるとは頼まれているけど、いつまで預かるというのはまだ聞いていない。そ
う何日もってわけじゃないと思ったから、聞きそびれてしまったんだけど。
536 :
サイハテノマチ:2011/03/08(火) 18:20:45.44 ID:05wfSYkj
「今回は……明日の昼くらいになりそうだな」
首を捻りながら、ロアが曖昧に口を動かす。
本人も自信が無いっぽい。
「何しに行くんですか?」
「それは言えない」
僕の問いに、ロアはため息混じりに答えた。
「オレ自身、何をするかは聞いてないからな。ただ、明日の昼くらいまで掛かるらしいとだけ
言われてる。それより早くなるかもしれないし、遅くなるかもしれない」
なるほど。よく分からない。
教授の所というと、あの神殿か。僕も最初あそこで目が覚めたきり、行っていない。特に
行く用事も無いからだ。あの場所で教授が何をしているのかも知らない。イベリスに訊いて
みても、知らないらしい。
イベリスの傍らまで移動したアルニに、ロアが声を掛ける。
「じゃ、アルニ。大人しく待ってるんだぞ」
「はい。分かりました。ロアさんも安心して用事を片付けてきて下さい」
アルニが右手を上げて応じた。
「あと、外のことは話すんじゃないぞ」
続けて釘を刺すロアに、アルニは苦笑いを見せる。
「分かってますよ。心配しないで下さい。わたしたち外の者は、最果ての中の住人、特に森
の住人に外のことを教えてはいけない。そういうルールですよね?」
と、イベリスを見た。快活な青い瞳で。
無言で頷くイベリス。どこか眠そうな瞳でアルニを眺めているけど、その顔から何を考え
ているかは読み取れなかった。
「ハイロもあまり訊かないでくれ。アルニは口が軽いから」
「分かってます」
ロアの言葉に、僕も頷く。
中の住人は外の事を知ってはいけない。理由は分からない。イベリスもクロノもみんなル
ールという一言で済ましてしまう。ロアを見る限り、特別外に知られてはいけないものがあ
るとも思えないけど……案外、理由は無かったりして。
「イベリス」
537 :
サイハテノマチ:2011/03/08(火) 18:20:57.91 ID:05wfSYkj
「何?」
声をかけられ、イベリスが淡々と赤い瞳をロアに向ける。
「アルニが口滑らせそうになったら、口塞いでくれよ」
「大丈夫。その点は心配しないで……。私も"従者"だから、"主"のことはしっかり面倒を見
る。彼女が口を滑らせそうになったら、口を塞ぐ」
「あう、信用無いですね、わたし……」
両手を垂らし、二十センチほど落ちるアルニ。
苦笑いしながら、それを眺める僕。でも、掛ける言葉が無い。アルニ本人だけじゃなくて、
預かる相手とその従者にまで、きっちり釘刺していくんだからな。
「仕方ないだろ」
両手の人差し指をつんつんさせるアルニに、乾いた笑顔を向けるロア。
「じゃ、行儀良くしてるんだぞ、アルニ」
「それでは、ロアさんも頑張って下さい」
落ち込んだ様子もすぐに引っ込め、アルニが元気に声を出した。
以上です。
続きはそのうち
乙です。いつもROMってるけど
>> 二十センチほど落ちる
とこがツボりました。こういういかにもな演出があると嬉しいですね
謎まるけなので、毎回楽しみにしてます
気づかないうちに続きうpされてた
また続きお待ちしてます〜
> 二十センチほど落ちる
確かにツボるw
保守
542 :
サイハテノマチ:2011/03/29(火) 21:53:54.86 ID:7D9qKno2
投下します
543 :
サイハテノマチ:2011/03/29(火) 21:54:17.97 ID:7D9qKno2
サイハテノマチ
第20話 シデンの接触
神殿に向かい、ロアは足を進める。
道の左右には、見上げるほどに巨大な木。地面に生えた青々とした草。青色や白、黄色
などの淡くきれいな花。小さな畑には野菜が植えられている。極寒吹雪の中にある世界と
は思えなかった。凄まじく強大な力が、この世界を維持している。
「最果ての世界か……」
ロアは静かに足を進める。アルニは、ハイロに預けてある。青い妖精を連れた灰色髪の
男に預けておけば問題は起こらない。町長に言われた言葉だった。アルニについては心
配はいらないだろう。ハイロもイベリスも、真面目でしっかり者だ。
不意に、頭上に感じる淡い殺気のようなもの。
「おっと」
ロアは左足で地面を蹴って、軽く右に跳んだ。腰に差した剣の柄に一応右手を添える。こ
こで武器を使うことはないが、念のためだった。
とすっ。
軽い音とともに、小さな人影が地面に落ちた。そのまま尻餅をつく。
「着地失敗……残念」
呻きながら起き上がり、手で上着に付いた埃を払っている。
身長六十センチにも満たない、小さな少女だった。
見た目は十代半ば。無感情――というよりも機械的な黄色い瞳で、左目が白い眼帯に
覆われている。肩の辺りで切った外跳ね気味の紫色の髪。服装はコートのような丈の長い
薄紫色の上着に、白いショートパンツ。上着にはあちこちに歯車が意匠されている。何か
の象徴なのかもしれない。
「君は――」
ロアは息を止め、少女を見下ろした。
少女は無感情な黄色い瞳をロアに向け、簡単に挨拶をする。
「こんにちハ、外の世界の住人サン。ワタシは森の住人のシデン。よろしク」
「よろしく……」
他に言うこともなく、ロアは挨拶をかえした。右手を剣の柄から離す。武器を必要とするよ
うな相手でも無いだろう。
ただ、気になる事がひとつ。
「って、今何しようとしてた? 木の上から飛び降りてきたけど」
見上げると、道の上に木の枝が張り出していた。地面から、五メートルくらいの高さだろう。
シデンはそこからロアめがけて飛び降りてきていた。
同じように枝を見上げるシデン。
544 :
サイハテノマチ:2011/03/29(火) 21:54:41.53 ID:7D9qKno2
「そこの木の枝からアナタの肩に飛び乗ろうとしたケド、失敗。思ったよりも反射神経が良く
て、避けられてしまっタ。残念……」
と肩を落とす。落ち込んでいるような仕草をしているものの、口調や表情は変わっていな
い。しかし、一応落ち込んでいると見ていいのだろう。
苦笑いをしながら、ロアは告げた。
「普通は避けるって」
「むぅ……」
唇を少し曲げ、シデンが見上げてきた。黄色い瞳で、自分の三倍ほどの大きさの人間を
見上げる。それは何とも奇妙な感覚だった。
「外の世界の住人というのは、ワタシが想像していたよりも普通に見えル」
ロアを見上げたまま、そう感想を口にする。
「君は外の世界に興味があるようだけど」
ロアが気になってそう訪ねた。最果ての住人には、外の世界に興味を持つ者が多い。そ
う教えられている。実際、自分が同じ立場ならば、強い興味を持つだろう。
シデンは一度眼を閉じ、黄色い眼を横に向けた。その視線の先にあるのは、森ではなく、
最果ての最果て。猛吹雪の結界。そして、猛吹雪の外にある世界。
「もし可能なら、ワタシはこの最果ての世界から外に出てみたいと考えていル。でも、この
最果ての世界は猛吹雪に包まれていル。入るのも出るのも不可能……。なのに、あなた
はどうやって、あの吹雪を越えてきたノ?」
「悪いけど、それは言えないんだ」
シデンの問いに、ロアはそう答えた。最果ての住人に外の事を教えてはいけない。何度
もそう忠告されている。
「そう。分かっていタ」
シデンはあっさりと引き下がる。外の情報を喋れないことは百も承知だろう。
一度下を向いてから、シデンは再びロアを見上げた。
「ひとつお願いがあル」
「お願い?」
じっとシデンを見つめ返す。眼を見れば大体考えている事が分かるものだ。しかし、シデ
ンの黄色い瞳は、一切の感情を映すことなくロアを見つめている。
それから、シデンは口を開いた。
「あなたの肩に乗せて欲しイ。肩車をして欲しイ」
「肩車……? それくらいならいいけど」
予想外の頼みにいくらか戸惑いつつも、ロアは承諾した。肩車。主に子供を肩に座らせ
るように担ぐ行為を意味する。単純な遊びだったり、高いところのものを取るためだったり、
用法は色々とあった。
545 :
サイハテノマチ:2011/03/29(火) 21:55:06.03 ID:7D9qKno2
ロアはシデンの前に腰を屈めた。
左手を差し出すと、
「失礼すル」
シデンが地面を蹴って、ロアの左手に片足を乗せた。さらに、足を蹴って、頭を掴み自分
の身体を持ち上げる。するりと慣れた動きで身体を登り、シデンはロアの肩に腰を下ろし
た。紫色のコートが揺れる。
「うン……」
両手でロアの頭を掴み、満足げに頷いていた。
ロアはその場に立ち上がった。シデン。身長六十センチ未満の小さな身体だが、体格に
比べると体重は大きいかもしれない。
「歩いてみテ」
「ああ」
言われた通りに、ロアは足を進める。
最初の予定通り神殿に向かう道。平たい石の敷かれたきれいな道だ。きれいに手入れ
されているようで、石の隙間からは雑草一本生えていない。最果ては街も森も、まるで全て
が作り物のような空気がある。実際、非常によくできた作り物なのだろう。
思索は顔にも出さず、ロアは肩に跨ったシデンに声を掛けた。
「どんな感じ?」
「なかなか乗り心地は良好……。九十五点。現在二位。おめでとウ」
「ありがとう」
与えられた得点に、とりあえず礼を言う。基準が不明だが、ロアは乗り心地がいいのだろ
う。ほとんど身体を揺らさない特殊な歩行法のおかげかもしれない。
「ん?」
ロアは足を止め、左に向き直った。
「お嬢おおおおおおおおおッ!」
大声で叫びながら、草地を全力疾走してくる黒い狼の姿だった。突進してくる狼というの
はそれなりに野生の迫力があるのだが、この狼にそれはない。動物というよりも、人間的
な必死さがにじみ出ていた。
「見つかってしまっタ……」
肩の上のシデンが、小さく呟いている。
以上です
続きはそのうち
現在二位ワロタGJ!!
保守
549 :
サイハテノマチ:2011/04/14(木) 22:54:35.64 ID:zK1htZEz
投下します
550 :
サイハテノマチ:2011/04/14(木) 22:54:55.18 ID:zK1htZEz
サイハテノマチ 21話 妖精は不思議
皿に盛られた木の実。アサガオの種くらいの大きさで、色は薄茶色だ。
皿の隣に腰を下ろしたアルニが手で実を掴み、それを口に入れている。ぽりぽりと小気
味良い音とともに噛み砕かれていた。
「美味しいですねー。この木の実。わたしも今まで色々なもの食べてきましたけど、この木
の実は初めて食べました。この森にしか生えていないんですか?」
青い眼を僕に向け、訊いてくる。両足を伸ばして鞄を下ろし、自分の家のようにくつろいで
いた。まだ一時間も経ってないけど、適応が早いみたい。
テーブルの上に座ったアルニとイベリス。僕は椅子に座っていた。
「おそらく、この最果ての森だけに生えている」
しかし、答えたのはイベリスだった。アルニの隣に座って、木の実を囓っている。
ロアからアルニを預かった時から、ずっと傍らに付き添っていた。アルニが外の事を喋ら
ないように見張っているらしい。アルニもそのことを理解しているのか、余計な事を口にす
ることはない。今のところは。
「近所のカロンさんが作っている。ただ、彼が作っているだけしかない」
カロンは近所に住んでいる男だ。町には行かず、畑を耕して木やら野菜やらを気ままに
育てている。どこから持ってきたのか、色々奇妙な植物が育っていた。自分が食べるだけ
でなく、近所に野菜や木の実をおすそわけしている。
ちなみに、従者は白黒模様の鳥でアリアルという名前だ。
「ハイロさんは食べないんですか? 美味しいですよ」
右手に持った実を持ち上げる。
「僕は苦手なんだ。イベリスは好きなんだけど」
お茶の入ったコップを見せ、僕は苦笑いを返した。
微かに苦みを含んだ甘さ。好きな人は好きなんだろうけど、僕はどうにも苦手である。逆
にイベリスはこういうほろ苦系のものが好きなようだった。
「それは、残念ですね」
ぽりぽりと木の実を食べるアルニ。青みを帯びた羽が少し下がった。
「にしても、アルニ……君は随分食べるよね。その身体のどこに食べたものが消えている
か果てしなく疑問だ。イベリスも体積無視して食べるけど」
気がつくと、小皿に盛ってあった木の実が半分以下にまで減っている。小さい身体なのに
アルニの食べる速度は結構なものだった。
「成長期だと思います」
得意げに羽を伸ばし、アルニが言い切った。
それは違うと思うけど……。
思った事は言わず、黙ってお茶をすする。
551 :
サイハテノマチ:2011/04/14(木) 22:55:14.59 ID:zK1htZEz
「そういえば、アルニ」
イベリスがふと口を開いた。
「はい。何でしょう?」
アルニが顔を向けるのを見てから、続ける。
「ひとつ気になっていることがある。初めて会った時にあなたは、私の事を『姉さん』と勘違い
したけど。あなたのお姉さんは、どんな人なの?」
黄色い瞳で、じっとアルニを見つめた。初めてアルニを見た時、アルニはイベリスを姉と
見間違えた。アルニの話を聞いても、全然似ていないようだけど。
アルニは人差し指で頬を掻いてから天井を見上げる。
「えっと、髪は紫色で目は緑ですね。青と白の制服を着て三角帽子被って杖持ってます。ち
ょっとのんびり屋ですけど、真面目で礼儀正しい人ですよ。イベリスさんとは……そうですね、
声がちょっと似ているかもしれません」
やっぱり全然似てないよね?
ため息混じりに僕はアルニを見つめる。アルニの言葉から想像した姿は、イベリスとは似
ても似付かない。本人も自分が間違えた事を疑問に感じていたようだし。でも、もしかした、
三角帽子が原因? イベリスも黒い三角帽子被ってるし。
三角帽子のツバを指で摘み、イベリスが窓に目を向ける。
「機会があったら会ってみたい」
そう呟いてから、付け足した。
「ここにいる限り会う事は無いと思うけど」
興味はあるけど、無理。最果ての住人は外に出られない。この箱庭の世界を維持するル
ール。それを破れないことは、従者であるイベリス自身が一番理解している。
吹雪の壁を思い出し、僕はお茶を飲み干した。
残り少なくなった木の実を食べながら、アルニが首を傾げる。
「でも、姉さん今どこで何してるんでしょうね? どこかに行ったみたいですけど、それっきり
音沙汰無しすし。元気にしているとは思いますけど」
「それは、いいのか? 姉妹が音信不通って、マズくない?」
思わず僕は声を上げた。
しかし、僕の心配をよそにアルニはあっさりと言った。
「わたしたちの間では割と普通ですよ。ふっと居なくなって、数年数十年戻らなかったりって
よくあることですから。わたしも四年くらい故郷に戻っていませんでしたから。一番上の姉さ
んは三十年くらい連絡ありませんし」
耳が言葉を聞き、頭がその意味を理解しようとして――いまいち理解できない。
552 :
サイハテノマチ:2011/04/14(木) 22:55:30.86 ID:zK1htZEz
えっと、妖精の常識では長期間音信不通になるのはありふれたこと。アルニも四年故郷
に戻っていない。一番上の姉、イベリスに似ているという姉とは別だろう。その姉は三十年
くらい音信不通。
「三十年……。というか、君何歳? 一応、イベリスよりも年上に見えるけど」
改めてアルニを見る。
外跳ね気味の青いショートカットの髪の毛。青い瞳。紺色の上着と、膝丈のハーフパンツ。
傍らには茶色い肩掛け鞄を置いている。見た目の年齢は十代半ばくらいだろうか。言動は
子供っぽいけど、身体はそれなりに成長していると思う。
最後の木の実を呑み込んでから、アルニは目線を斜め上に傾けた。
「うーん。妖精って外見と実年齢が一致しないんですよね。それに、年齢自体あんまり意味
が無いものですし、わたしも自分が何歳なのかよく知らないんです。知らなくても特に困った
りはしないですから」
と、あっけらかんと笑う。
「妖精は、不思議――」
アルニの姿を眺めながら、イベリスがそう口にした。
以上です
続きはそのうち
> 「妖精は、不思議――」
君が言うな(^▽^;)
GJ!!
555 :
サイハテノマチ:2011/04/26(火) 18:54:31.81 ID:ugV3PqYw
投下します
556 :
サイハテノマチ:2011/04/26(火) 18:54:51.08 ID:ugV3PqYw
サイハテノマチ
第22話 悪戯心
窓から差し込んでくる朝の光。もう慣れた、心地よい早朝の空気。この最果ての森は、空
気がいいから、よく眠れるし、朝の目覚めもよい。
「おはようございます、ハイロさん。朝ですよ、朝」
そして、元気な声が聞こえてきた。
僕はベッドに横になったまま、声の主に目を向ける。
青い髪の妖精の女の子。ショートカットの水色の髪の毛に、青いパジャマ姿である。淡い
青色の羽を広げて、空中に浮かんでいた。肩からは、茶色い鞄を提げている。
「おはようアルニ。朝から元気だね」
身体を起こしながら、僕は声を掛けた。
ロアから預かっている妖精、アルニ。昨晩は、肩に掛けていた鞄から寝間着と布団一式
を取り出して見せた。妖精サイズの小さな肩掛け鞄。どう考えても容積的に無理があるけ
ど、その辺りは気にしてはいけないのだろう。
アルニは窓の外に一度目を向けてから、
「わたしは朝には強いんです。寝付きのよさと目覚めのよさは、ちょっと自慢なんですよ。朝
でもさっと起きられてすぐに行動できるって便利です」
「イベリスは真逆だよ」
イベリスの寝床の小箱を見つめて、僕は苦笑した。
寝るときは、イベリスの寝床の横に布団を敷いていたが、もう片付けたらしい。
アルニは小箱の隣に降りて、眠っているイベリスに声を掛けた。
「イベリスさん。朝ですよ、起きて下さい」
「んー……」
返ってくるのは気の抜けた返事。
寝間着の黒いワンピースを身に纏い、イベリスはハンカチのような布団にくるまっている。
白い髪の毛に微かな寝癖がついていた。
微かに目蓋を持ち上げ、イベリスがアルニを見る。
「もう少し……寝かせて」
力無く告げてから、再び目を閉じて寝息を立て始めた。
「もう六時半ですよ。起きる時間ですよ」
アルニが肩を揺すっているが、今度は目を開ける事もない。いつもの事だけど、起きるつ
もりは無いらしい。一度起きたら、夜まで昼寝もしないけど。
557 :
サイハテノマチ:2011/04/26(火) 18:55:05.17 ID:ugV3PqYw
「無理無理」
僕の声にアルニが手を止める。
「イベリスは一時間くらいそんな調子だから。無理に起こすことはないって。いつも朝食出来
上がった頃にようやく動き出してるし」
「目覚め悪いのは大変ですね」
僕に向き直り、アルニが頷いている。
その反応が気になり、訊いてみた。
「姉妹にそういうのいるの?」
「はい。一日の半分くらい眠っています」
やっぱり……。しかし、一日の半分って凄いな。
アルニは腕組みをしたまま、小箱の中のイベリスに目を移した。
「従者は主と一緒にいないといけないって、イベリスさんよく言ってますけど。この調子で大
丈夫なんでしょうか? 寝ぼけている間に、ハイロさんがどこかに行っちゃったらどうするん
でしょう?」
確かに……。イベリスは従者としての仕事を忠実に実行しているけど、この時間が一番
無防備だろう。僕が起きていて、イベリスが動けない時間というのはちょうど今だ。
「シデンじゃないから、そんな事はしないけど」
そう言っておく。イベリスが寝ている間にどこかに行くのは一度くらいやってみたいけど、
クロノの慌て具合を想像するに、実行はしない方がいいだろう。
「とりあえず、イベリスさんはわたしが連れていきます」
アルニは箱に両手を入れた。
眠ったままのイベリスを引っ張り出す。脇の下に両手を差し込まれて、それでも目を閉じ
て脱力している。背中の羽も下がったままだった。起きる気は無いらしい。
起きないイベリスを、アルニは背中に乗せた。いわゆるおんぶの姿勢。
この体勢だと、イベリスが邪魔で飛べないんじゃ?
僕の疑問を余所に、アルニは青い羽を伸ばした。イベリスを背負ったまま、器用に浮かび
上がってみせる。もしかしたら、寝ている相手を運ぶのに慣れているのかもしれない。姉妹
に似たように寝起きの悪いのいるみたいだし。
「……なんというか」
表現しがたい光景に、僕は首を傾げる。
あくまで起きないイベリス。アルニに背負われたまま、幸せそうに寝息を立てていた。
「本当に起きませんね」
頬に流れてきた銀色の髪を手でどかし、アルニが寝ているイベリスに目を向ける。感心と
驚きの混じった声だった。
558 :
サイハテノマチ:2011/04/26(火) 18:55:18.02 ID:ugV3PqYw
それから、ふと小さく笑う。何かよからぬ事を思いついたらしい。
おもむろに僕に顔を向け、口を開いた。
「ところでですね、ハイロさん。外の世界の事に興味――ぅぐ」
言葉が止まる。
イベリスがアルニの口元を腕で締め付けていた。右肘の内側で口を塞ぎ、左手で右手首
を固定している。アルニが慌てて腕を掴み返しているが、外れない。本気の締めだった。
「……口を滑らせるなら、口を塞ぐ。言ったはず」
右目を薄く開け、イベリスが囁く。かなり眠そうだけど、無理矢理身体を動かしたらしい。
意識は曖昧だけど、従者としての意志はあるということか。
でも、今止められなかったら喋ってたんだろうか?
そんな疑問。
「うぅ――!」
アルニは目元から涙をこぼしながら、必死にイベリスの腕を外そうと暴れていた。かわい
そうだけど、これは自業自得だよねー。
以上です
続きはそのうち
イベリスを起こすためにわざと言ったのかと思ったら
自業自得呼ばわりってことはガチってこと?(笑
いつも楽しませて頂いてます〜(*^▽^*)ノ
サイハテ、というか福の神の頃から
もしかしたら妖精の種書いてた頃、
このずっと俺のターン状態は何ヶ月、何年
続いているんだ・・・?
保守
563 :
サイハテノマチ:2011/05/12(木) 21:34:43.17 ID:LtoG7/b8
投下します
564 :
サイハテノマチ:2011/05/12(木) 21:35:03.78 ID:LtoG7/b8
サイハテノマチ
第23話 ロア戻る
午前十一時半の家の前。
約束通り、ロアは僕の家へとやってきた。
「ありがとう、ハイロ。助かったよ」
眼鏡を掛けた青年。砂色の髪の毛に緑色の服とズボン、すっきりした形の鞄を背負い、
腰に一振りの県を下げている。昨日見た時と変わらない――ようだけど、心持ち窶れたよ
うにも見えた。教授の所では何をしているか、僕は知らないし。
「どうってことはないですよ。僕も楽しい一日でしたし」
気付かなかった事にして、続ける。
僕の横に浮かんでいるイベリスが、外を眺めた。青い空と木々の緑。空気は澄んでいて
涼しい。居心地の良い場所だけど、少し寂しいかも。
「ここにいる人たちは皆大人しい。だから、アルニのように賑やかな人はそれだけで珍しい。
私も一日楽しかった」
「そう言って貰えると、嬉しいですねー」
ロアの肩に掴まったアルニが、言葉通り嬉しそうに笑う。
「それで、アルニが何か余計な事言いそうになったりはしなかった?」
「………」
「……えと」
ロアの口にした言葉に、空気が固まる。
朝方、アルニが外の事を口にしようとして、イベリスに文字通り口を塞がれた一件。アル
ニとしては本気で言う気は無かったらしい。しかし、イベリスは容赦しなかった。
眼鏡を一度持ち上げ、ロアがため息をつく。
僕は苦笑いをしながら右手を挙げた。
「イベリスが抑えたので大丈夫です」
声が硬いけど、気にしてはいけない。
アルニが誤魔化すように乾いた笑みを浮かべていた。その頬には、うっすらと冷や汗が
浮かんでいる。イベリスは表情も変えず、空気の変化を眺めていた。
「それならいいけど。アルニも軽率な行動は取らないでくれよ」
「はい……分かりました」
ロアの言葉に、アルニは小さく頷いた。
565 :
サイハテノマチ:2011/05/12(木) 21:35:29.22 ID:LtoG7/b8
「ところで、ロア」
その様子を眺めながら、僕は話題を変えるように口を開く。このままじゃ居心地の悪い空
気が続いてしまう。それに、前々から気になってることもあった。
「何だ?」
訊き返してくるロア。
僕は人差し指を持ち上げ、ロアの肩に掴まってるアルニを示した。
「アルニってそう肩に掴まってますけど、揺れたりしないんですか?」
ロアとアルニに会ってからしばらく立つ。アルニはロアと一緒にいる時は、ロアの肩に掴ま
ってる事が多い。多分居心地がいいんだろう。僕も以前にイベリスをこんな風に肩に乗せ
てみたけど、揺れて居心地が悪いと言われてしまった。
ロアは緩く腕を組んでから、
「俺は……見ての通りの剣士だ。子供の頃から剣術の基礎訓練を受けてる。その中には、
重心を揺らさずに歩くって移動方もある」
そう前置きしてから、ロアが横に向かって歩き出した。
一歩一歩普通に足を動かし、前へと進んでいく。十歩くらい進んでから、身体の前後を入
れ換えた。同じような足取りで、僕の前まで戻ってくる。
「こんな具合に」
なるほど。確かに。
普通に歩いているように見えるけど、確かに凄く姿勢が安定していた。身体が上下に揺
れたり左右に揺れたりせず、無駄なく重心を移動している。剣術って言ってたから、その関
係の歩行方法なんだろう。
アルニが得意げに言ってきた。
「ロアさんの肩は居心地いいですよ。羽で飛ぶ必要無いから楽ですし、そんなに揺れませ
んし。こうして掴まってると、ここがわたしの居場所なんだなぁ、って」
「ふーむ」
緩く腕を組んで、ロアの動きを頭で思い返す。
その動きを真似るように、足を進めた。身体の芯を意識して、腰から背中、肩が安定する
ように足の動きと全身を連動させる。思ったよりもすっきりと身体が動く。
すたすたと、今まで立っていた家の前から横に歩いてみた。
――なんか、上手く行きそう。
「こんな――感じでどうかな?」
僕は振り返って、ロアに声を掛けた。
566 :
サイハテノマチ:2011/05/12(木) 21:36:07.48 ID:LtoG7/b8
ロアは無言のまま首を捻る。
「イベリス、ちょっと来てくれ」
「分かった」
呼ばれて飛んでくるイベリス。
そのまま、僕の肩に腰を下ろした。掴まっている感じのアルニとは違い、僕の肩に座って
いる。三角帽子のツバを動かし、杖を膝の上に置く。
ほとんど重さは感じないけど、乗っかっているのは分かる。
イベリスを肩に乗せたまま、僕は家の前まで戻ってみた。
「こんなもんでどうだろう?」
「いいかもしれない」
いつも通りの、淡々とした返事。少しくらい驚いたり感動してくれたりすると僕も嬉しいんだ
けど。感情の薄い子に期待しても仕方がない。
「前に比べて、身体の揺れが小さくなっている。まだ少し不安定な気もするけど、これならあ
なたの肩に座ったままでも、私は苦痛を感じない」
大体大丈夫ってことかな?
僕らの姿を眺めながら、ロアが乾いた笑いを見せていた。
「……これは、余計な事しちゃったかな?」
「あなたが気にする必要はない。最果ての森の住人が、"過去"の技術を思い出すことは、
時々ある。彼もその類だと思う」
イベリスがそう説明した。
以上です
続きはそのうち
568 :
雨神の雨宿り:2011/05/16(月) 22:30:12.93 ID:wZhg1+YS
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雨神の雨宿り
前編 窓の外にいた女の子
窓の外では雨が降っている。
「雨だな」
多田原慶吾はアパートから窓の外を眺めていた。
今年で二十五歳になる、しがない会社員である。身長や体格は普通で、どこにでもいる
男だろう。特筆するような特徴もなく、目立った傷跡などもない、普通の人間。
灰色の空と、降りしきる雨。気温はさほど高く無いが、湿度は高い。雨の日は外に出掛け
るのも大変で、部屋にいてもあまりやることもない。
「今日はどうやって時間を潰そう?」
そんな事を考える。ようするに、退屈だった。
「うーむ………」
声は唐突に聞こえてきた。
数秒考えて、窓に目を向ける。
声は窓の外から聞こえてきたようだった。野良猫の呻きが人の声のように聞こえたのだ
ろう。まさか外に誰かが倒れていることはありえない。
そう判断して、慶吾は窓を開けた。
「え?」
思わず動きを止める。
ベランダに置かれた、靴脱ぎ台。そこに少女が一人腰掛けていた。ドアを開けた慶吾の
気配に気付き、振り向いていくる。日本人形を思わせる、小さな女の子。比喩ではなく、本
当に身長が五十センチくらいしかない。
「お前、アタシが見えるのか……? 珍しい人間だ」
驚きに眉を持ち上げ、声をかけてくる。
見た目は十代半ばくらい。長い植物の葉を思わせる長い黒髪が、身体にくっついていた。
落ち着いた光を映す瞳。紺色の縁取りのなされた白衣に、紺色の袴という出立である。色
合いは違うものの、巫女服を思わせるような衣装だった。足は裸足に下駄を履いている。
ずぶ濡れというほどではないが、かなり濡れていた。
女の子が、珍しいもの見るように、慶吾を眺めていた。
「ええと、あんたは何者だ……?」
我に返り、慶吾は単刀直入な問いを口にする。窓を開けたら、三分の一サイズの女の子
が雨宿りをしていた。これは明晰夢の一種だろうか? そんな考えまで思考に浮かぶ。
「アタシの名前は沙雨だ」
「ささめ……」
軽く顎を持ち上げ、名前を繰り返す。
状況が呑み込めない慶吾を置いて、沙雨は自己紹介を続けた。
「分類としては――雨神の一種だろうか? 見ての通りの小さな神様だ。あちこち旅をして
いる。近くを歩いていたら、雨が降り出したから雨宿りしていた」
と、右手を真上に持ち上げる。
二階のベランダがあるため、そこはさほど濡れていない。奥行きがあるわけではないの
で、雨粒は吹き込んでくるし、微妙に寒い。
少し考えてから、慶吾は自分の部屋を指差した。
「よかったら、部屋で待たないか?」
「そうさせて貰う」
小さく笑い、沙雨が下駄を脱ぐ。
――――
六畳二間のアパート。酷いというほどではないが、やや散らかっている。男の一人暮らし
なので、こんなものだろう。一人暮らしを始めると途端散らかってしまうこともあるようだが、
慶吾の部屋は一応きれいな部類にはいるだろう。
鴨居に渡された棒に物干しが下げられ、服やタオルが干してある。
珍しげに部屋を眺めてから、沙雨は自分の身体を見下ろした。
「すまぬが、タオルか何か、貸してくれないか?」
ずぶ濡れというほどではないが、上着や髪の毛が濡れている。今まではさほど気にして
いなかったようだが、さすがに濡れたままは、居心地が悪いだろう。
「これで大丈夫かな? バスタオルも持ってきたけど」
慶吾は風呂場から持ってきたタオルを沙雨に渡した。細長いフェイスタオルが二枚に、大
きめバスタオルが一枚。これだけあれば十分だろう。
「感謝する」
頭を下げてから、沙雨はタオルを受け取る。
それから、フェイスタオルの一枚で濡れた髪の毛を拭き始めた。身体が小さいせいか、
普通サイズでもバスタオルを使っているように見える。やや乱雑に両手を動かし、髪の毛
から水気を拭き取っていった。
髪を拭き終わり、ボサボサに逆立った黒髪。
もう一枚のタオルを手に取ってから、ふと見上げてくる。
「濡れた服を脱ぐから、あっち向いててくれ」
「了解」
素直に頷き、慶吾は沙雨に背を向けた。
すぐに服を脱ぐ布擦れの音が聞こえてくる。あまり聞き耳を立てるものではないが、自然
と意識が向かってしまう。慶吾がいることに躊躇はせず、手早く脱いだようだった。
背後から、沙雨が声を上げた。
「お主、名前は何だったか」
「慶吾だ」
背を向けたまま、答える。
「ふむ、いい名前だ。さて慶吾ちょっとこっち向いてくれ」
振り向くと、沙雨がバスタオルを身体に巻き付けていた。さながらマントのように。もしくは
てるてる坊主のように。身長五十センチほどの沙雨だと、何もせずともバスタオルの裾が床
に付いてしまう。
横には脱いだ上衣と袴が落ちていた。
バスタオルの隙間から手を出し、沙雨は脱いだ服を示した。
「少々手間をかけさせてすまないのだが、これを物干しにかけてくれないか? アタシの背
丈じゃ、さすがに手が届かない。いや、身軽さには自信がある。自分でできないわけではな
いが……多分、物干しが落ちる」
「はいはい」
苦笑してから、慶吾は脱いだ服を拾い上げた。
袖口や襟、裾を紺色の布で縁取りのしてある白衣。縁取り部分は頑丈な布で、白衣の補
強の意味があるのだろう。袴はスカートのような行灯袴だった。
「案外普通なんだな。人形の服みたいなの想像してたけど、作りはちゃんとしてるし。普通
の服よりも布のきめは細かいかな? あと、結構使い込まれてる」
思わず観察してしまう。
ふと目を移すと、沙雨が呆れたように眉を下ろしていた。
「女の着物をじろじろ眺めるものではない……」
「こりゃ失礼――」
軽く右手で額を叩き誤魔化す。
慶吾は白衣と婚袴を物干しの開いている所に留めた。
とりあえず一段落付いただろう。
慶吾はベッドに腰を下ろし、窓辺に立つ沙雨に目を向けた。
「改めて訊くけど、君は何者だ? 雨神とか言ってたけど。神様って」
正直なところ、自分の身に何が起こっているのか分からない。いきなり神様と名乗る小さ
な少女が現れた。常識的に考えてそんな事が起こるはずがない。自分は気が触れてしまっ
たか、やたらと現実味のある夢を見ているか。
バスタオルが揺れる。腕組みをしたらしい。
「神といっても、大物から小物まで人間以上に幅があるあらな。アタシは神社にいるような
立派な連中とは違う。まぁ、上司は凄い神だが、アタシは見ての通りちんちくりんだ。大した
神格も持ってない。拝んでも何も出ないぞ?」
濡れた髪を手で後ろに払い、得意げに笑ってみせた。妙に気取った仕草である。もしかし
たら拝まれたことがあるのかもしれない。
何と返していいのか分からないので、次の質問をしてみる。
「旅とか言ってたけど、どこか行く予定だった」
沙雨はバスタオルから右手を出し、指を動かした。印だろうか。
ぽっ、と音を立てて、右手に小さな本が現れる。どうやら術の類らしい。小さいといっても
実際の大きさは手帳ほどで、沙雨にとっては十分に大きいだろう。
表紙には"記録帳-056"の文字が記されていた。
「アタシの仕事は日本中を巡って、空の気の流れを記録することだ。環境調査――というの
が、一番近いか……? 閑職なんて言う奴もいるが、アタシはそのために作られた神なの
だから文句は言えん」
本を消し、ため息をつく。
その姿を想像し、慶吾は首を捻った。
「日本中を巡るって大仕事だな」
狭い日本という割には、やたらと長くて広い日本列島。山、川、海の障害物も多数。その
日本を旅して空の気の流れを記録する。さすがに一人でやっているわけではないだろうが、
小さな身体の沙雨にとっては大仕事だろう。
「公共機関にタダ乗りすればさほど疲れはしない」
慶吾の心配を余所に、沙雨はこともなげに言った。
「いいのか……」
肩をコケさせ、思わず訊く。
沙雨は軽く鼻息を吹いた。
「もう少し大きな神ならともかく、アタシは犬や猫のペット類と同じくらいの扱いだ。無賃乗車
しようと、罰則は受けないはず。もし罰を受けるような事になったら、上司が何とかするから
問題無い」
軽く胸を反らし、自慢げに断言する。
言うべき言葉が思いつかず、慶吾は額を押えた。色々とツッコミ所があって、どこから指
摘すればいいのかもわからない。どうやら沙雨の上司は偉い神様らしい。そして、案外気
楽に自分の仕事をこなしているようだった。
「そもそも、普通の人間にアタシは見えん。お主は偶然波長があったのだろうな」
慶吾に目を向け、沙雨は気楽に続けた。
以上です
続きはそのうち
>>567 何やらハイロの過去のヒントらしきものが示されましたね
>>573 梅雨に合わせた新作でしょうか
続きwktk
保守って訳ではないが、
いつも楽しみにしています。
と書いておきますね。
投下します
雨神の雨宿り
中編 沙雨のお誘い
卓袱台の上に置かれたカレーライス。
小さな箱を椅子代わりにした沙雨がスプーンでカレーを口に入れる。ティースプーンなの
で、人間の三分の一サイズでも問題はない。沙雨自身、かなり手先は器用らしい。慣れた
手付きで、カレーをすくい口に入れていた。
「日本人の食事は、随分と多様化しているものだ」
そんな感想を口にしながら、沙雨は最後の一口を呑み込んだ。
氷水の入ったコップを掴み、中身を半分飲んでからコップを置く。沙雨にとって人間の使
う道具は適正サイズの三倍ほどだが、不自由している様子はない。
「おかわり」
沙雨が空の皿を差し出してくる。
皿を受け取りながら、慶吾は呆れたように頭をかいた。
「お前、よく食べるなぁ。カレーライス二皿完食して平気ってのは何かの冗談だろ? その
人形みたいな身体の、どこにどう収納されてるんだ?」
皿にご飯とカレーをよそりながら、沙雨の身体を見る。
服はまだ乾いていないため、バスタオル姿だが、バスタオルを器用に身体に巻き付け、
服のようにしていた。その人形サイズの小さな身体に、明らかに無茶な量のカレーライスが
消えている。どのような原理なのか見当が付かない。
コップの氷水を飲んでから、沙雨は一息ついた。
「人間ではないから、結構何とかなるものだ。こうして見掛け以上に食べられるし。噂による
と人間と同じ体格で五十人分くらい食べられる猛者もいるらしい」
「何だ、その食欲魔神?」
驚きながら、三杯目のカレーを沙雨の前に置く。
慶吾の疑問には答えず、沙雨はスプーンをくるりと回した。それから軽く会釈してカレーラ
イスを食べ始める。今までと変わらぬペースで腹に収めていった。
「てか、少しは遠慮しろよ」
その言葉に、沙雨は一度手を止めた。スプーンを揺らしながら、
「遠慮は好かん。旅の身分、こうして普通の食事をすることも少ないのだ……。無賃乗車は
ともかく、盗み食いはさすがにマズい。食べられるうちに食べておかないと損だ。とりあえず、
冷蔵庫にあったチーズケーキが食べたい」
「あれは俺の!」
冷蔵庫を見る沙雨に、慶吾は釘を刺した。
- - - -
「変なの来たなー……」
湯船に浸かったまま、慶吾は天井を見上げていた。
暖かい風呂場の空気と、漂う湯気。雨の神と言っていた沙雨。日常生活に割り込んでき
た非日常。今日の昼から今まで、全部夢かとも思える。
「明日には出発するって言ってたし、居着かれることはないみたいだけど。今日は泊まって
く気満々だしな……。まだ雨降ってるから追い出すわけにもいかないし」
ぶつぶつと独り言を続ける。
その時だった。
「失礼するぞ、慶吾」
沙雨の声とともに、風呂場のドアが開く。
二度瞬きしてから、慶吾はそちらに目を向けた。
「い゙!」
「そう驚くものではない。……ま、健全な男なら驚くか」
沙雨は服を着ていなかった。
タオルを身体に巻き付けることもしていない。
いわゆる全裸。
十代半ばの女の子を、小さくしたような身体だった。丸みを帯びた手足やお腹、控えめな
大きさの半球型の乳房と、先端の小さな膨らみ。なだらかなお腹の曲線。何も無い下腹部
まで。全てが丸見えだった。
「………」
目を点にしたまま、慶吾は固まる。
からかうように笑ってから、沙雨は風呂場を横切る。
「見せても減るものでもないしな。それに、風呂はいいものだ……」
床に置いてあった椅子へと腰掛けた。
近くにあったボディシャンプーを引き寄せてから、自分の手にシャンプーを出す。本来は
ボディタオルなどに出すのだが、沙雨の身体では難しいだろう。
手の中のボディシャンプーを器用に泡立ててから、手で全身を洗っていく。
ほどなく泡だらけとなった沙雨。
今度は、ヘアシャンプーを手に取って髪の毛を洗い始めた。沙雨が手を動かすたび、白
い泡が瞬く間に広がり、髪の毛を包み込んでいく。髪の毛がきめ細かいせいか、沙雨が何
かしているのかは分からなかった。
「何をじっと見ている」
ふと、沙雨が半眼を向けてくる。
「いや……」
湯船に浸かったまま、慶吾は目を泳がせた。
お湯の入った桶を持ち上げ、沙雨は中身のお湯を頭からかぶった。流れるお湯が、身体
を包んでいた泡を洗い流す。かなり適当に洗っていたようだが、沙雨本人としてはそれでい
いようだった。
濡れた前髪を払い退け、沙雨は両手を腰に当てた。口元に笑みを浮かべる。
「おおかたいやらしい事でも考えているんだろう。人形のように小さいが、これでもアタシは
れっきとした女だからな」
そっと自分の胸を右手で撫でる。手の動きに、小さな胸の膨らみが微かに形を変えてい
た。大きさが違うだけで、その身体は立派な少女のものなのだろう。
慶吾は湯船に浸かったまま、眉根を寄せる。
何故、自分はこんな事をしているんだ?
根本的にして、答えのない疑問。
沙雨がどこからか取り出したタオルを頭に巻き付けている。
「まぁ……。そうだな。お主、アタシを抱いてみないか?」
「は?」
いきなり言われた言葉に、慶吾は再び沙雨を凝視した。
半ば思考停止に陥った頭脳を無理矢理動かし、考える。沙雨の言う"抱く"とは、単純に
抱きしめるという意味ではなく、男女の性交を意味しているのだろう。
沙雨の顔が少し赤くなっていた。人差し指で頬をかきながら、
「一宿一飯の恩というわけではない。昔会った舶来の者より神婚術というものを教わったこ
とがある。それを利用して、お主の精気を少し貰えないかと思ったわけだ。術師でも無いの
に、アタシが見えるって事は、かなり波長が合うのだろうし」
微かに笑みを浮かべ、沙雨は慶吾を見上げていた。
「神婚術?」
「神と交わることにより、精を与えたり貰ったりする術だ。本来なら儀式的なものだが、簡易
なものはアタシでも使える。……多分」
慶吾に疑問に、沙雨が解説する。
何と返してよいいか分からず、慶吾は思った事を正直に口にした。
「なんか、それって、釈然としないんだけど……」
沙雨は両手を腰に当て、口端を持ち上げた。どこか挑発するような口調で。
「女が臥所を共にしようと言っているのだ。据え膳喰わねば何とやら。それを断るような無
粋な事はするなよ?」
- - - -
時計を見ると、午後九時。部屋は静かだった。
ベッドに座った慶吾と沙雨。寝間着姿の慶吾に対し、沙雨は乾いた服を着ていた。青い
縁取り布のある白衣と、紺色の行灯袴に着替えている。寝る時もこの恰好らしい。
自分の胸に手を当て、沙雨は口元を緩める。
「さて、アタシの準備はいいぞ。撫でるなり揉むなり舐めるなり。お主の好きなようにするが
いい。さすがに、刺すとか抉るとかは困るが、過激な事をしなければ問題ない」
「楽しそうだな」
「こういうことをするのは始めてだからな」
黒髪を揺らしながら、沙雨が答える。
流れで、沙雨を抱くことになってしまった。これが、自分の意志によるものかと問われれ
ばおそらく否だろう。かといって、沙雨を説得して大人しく引き下がらせるかと問われれば、
やはり否だろう。そこまで煩悩を制御できてはいない。
「こういう事訊くのも何だけど、受け入れられるのか?」
沙雨の身体は小さい。男のものを受け入れるのは無理のように思える。挿らないくらいな
らいいだろう。無理矢理挿れて避けてしまうというのは、裂けたかった。
しかし、沙雨は手を動かしながら、
「大丈夫だ。位の低い神や妖怪は、生物のようにきちっとした身体を持っているわけではな
い。さっきもカレーライス三倍食べてみせただろう? あれと同じ仕組みだ。お主のものを
受け入れるくらいはできる」
「うーん……」
慶吾は首を捻る。
「煮え切らんヤツだな。仕方ない」
沙雨が右手を持ち上げた。人差し指と中指を伸ばした形。二本貫手に似ているかもしれ
ない。その手に、見えない何かが込められているのが分かる。
「必殺、精門孔!」
「おぐっ!」
沙雨の指が、慶吾の腹に突き刺さった。
それほど痛みはない。しかし、何かが開いた。腹の奥から、燃えるような熱が全身へと広
がっていく。心臓の鼓動が大きくなり、全身に力が漲る。喉が渇き、身体に薄く汗が滲んで
いた。指向とは別に、意識も高揚していく。
「おい……」
「精力増強のツボに、アタシの法力を叩き込んだ。これで、少しはマシになったろう?」
そう沙雨は笑ってみせた。
以上です
続きはそのうち
エロいのクルー!!
そのうちなんて待てませんキリッ(笑)
保守
投下します
雨神の雨宿り
後編 神と交わる儀式
左手を伸ばし、沙雨の脇に差し込む。
「本当にいいんだな?」
背中に手を回し、小さな身体を持ち上げた。見た目通りの重さで、大体三キロくらいだろ
う。あぐらをかいた膝の上に両足を下ろす。寄り掛かるように腕に背を預ける沙雨。
「構わないと言ってるだろう」
慶吾の手を撫でながら、そう笑ってみせた。
体内に響くような心臓の鼓動と、息苦しいほどの興奮。
「なら、遠慮無く」
一度深呼吸をしてから、慶吾はそっと沙雨の胸に手を触れさせた。女の子特有の丸みと
柔らかさを手の平に感じる。着物では平らに見えるが、触ってみるとしっかりと胸は膨らん
でいた。そして、手に伝わってくる沙雨の胸の鼓動。
「……む」
さすがに触られるのは恥ずかしいのか、沙雨が目を逸らす。
丸い膨らみやその谷間、乳房の縁を丁寧に指で撫でてから、慶吾は裾に指先を差し入
れた。上衣と襦袢の隙間からその奥へ。沙雨が身を竦ませたが、気付かない振りをする。
「ん?」
指先に触れる布の感触。
「ブラジャー付けてるのか?」
「着物用の下着だがな。付けていない方がよかったか?」
そう答え、沙雨は上衣の裾をはだけた。
胸を覆う白いブラジャーが目に入る。形状はスポーツブラジャーに似ているかもしれない。
着物用の下着なのだろう。沙雨は正面の留め具を指で外し、正面を広げた。
「これで触りやすくなっただろう?」
なだらかな曲線を描くふたつの乳房。
無言のまま、慶吾は沙雨の胸に手を這わせた。滑らかな肌の感触と、生き物特有の暖
かさ。人形のような大きさだが、人形ではない生き物の手触り。
手の平全体で包み込むように胸を撫で、先端の小さな突起を親指で擦る。
「ん……。くすぐったい」
背筋を引きつらせ、沙雨が片目を瞑った。
慶吾は右手を一度放し、両手で沙雨を持ち上げる。両腋に手を差し込み、子供を抱え上
げるように。はだけられた裾から、小さな胸の谷間が見える。
両足が膝から放れ、ぱたぱたと足先を動かす。
慶吾は軽く口を開け、沙雨の胸元に舌を伸ばした。
「ふっ、ん……」
突然のことに沙雨が声を引きつらせるが、慶吾は自分の衝動に従い舌を動かした。
胸の谷から首筋まで何度か舐めてから、右手で沙雨の上衣を引っ張る。上衣の左裾が
袴から抜け、お腹まで露わになった。両手で沙雨を固定したまま、慶吾は続けて乳房や下
やみぞおち、脇腹やへその辺りまで舌を這わせていく。
「ひゃぅ! なっ、なぁ……」
沙雨の口から漏れる、擦れた声。
今度は逆にお腹から胸、肩や首筋へと。沙雨を味わうように、慶吾は無言で舌を触れさ
せていく。汗だろうか。淡い塩味が味覚に触れている。
「んっ……。はぅ……」
悩ましげな声とともに、沙雨が慶吾の頭に手を置いた。
ふと顔を放すと、頬を赤く染めた沙雨の顔があった。呼吸は荒く、目の焦点も合っていな
い。手や足にも力が入っていないようだった。
「そんなに舐めるものではない……」
頼りなげに微笑んでから、婚袴の裾を掴む。
「そろそろこっちに頼む」
両手で袴を持ち上げる。細い足と、ほどよく引き締まった太股。白いショーツに包まれた
秘部が露わになる。その表面は湿り気を帯びていた。
慶吾は息を呑み、改めて問いかける。
「本当に、大丈夫なのか……? お前の腕くらいの太さはあるんじゃないか?」
「アタシは神だから平気だ」
そう言い、沙雨は濡れたショーツを脱ぎ捨てた。
産毛も生えてないきれいな縦筋、透明な液体に濡れ、淫猥な光沢を見せている。
左腕で沙雨を抱えながら、慶吾は右手人差し指を濡れた割れ目に触れさせる。指先に感
じる柔らかくも弾力のある感触。
「んんッ」
そっと指を動かすと、沙雨がきつく両目を閉じた。両手で紺袴を掴んだまま、肩を強張ら
せる。全身が小刻みに震え、奥から微かな粘度を帯びた液体が流れ出ていた。
「ふぁ」
指を放すと、沙雨が肩から力を抜く。
沙雨を一度膝に下ろしてから、慶吾はズボンから自分のものを取り出した。
それを見つめ、沙雨が薄く笑う。
「男は正直だな。遠慮せず来い。全部受け入れてやる」
「いくぞ」
慶吾は両手で再び沙雨を抱え、小さな身体を自分のものへと下ろしていく。
先端が沙雨に触れた。
そのまま、沙雨を下ろしていく。想像していたよりも抵抗はない。慶吾のものが、沙雨の
膣へと呑み込まれていった。熱く融けたような肉をかき分け、奥へと進む。
「んんっ。入った……」
数秒で、慶吾のものが完全に沙雨の中へと呑み込まれた。
「……どうだ?」
「さすがにちょっと苦しいが――」
沙雨は紺袴から両手を放した。袴の裾が落ち、二人の繋がっている部分が隠れる。
「そう心配するほどでもない。この身体は、人間の想像する以上に無理が効くからな。お主
のものが、アタシの中に入っているのがはっきりと分かる」
下腹部の辺りを愛おしそうに手で撫でている。
慶吾のものを締め付ける、熱い肉の感触。痺れるような感覚が、脊髄を叩いた。それだ
けで射精してしまいそうだが、気合いで耐える。
「動かすぞ」
そう言ってから、慶吾は沙雨のお尻の辺りを両手で抱え、上下に動かした。サイズ的に沙
雨が動くのは無理そうだからである。まるで人形と性交しているようでもあったが、沙雨は
紛れもなく生物だ。
沙雨が上下に動くたびに、微かな水音が部屋に響く。
「ん。ふぅ、ふぁ……」
甘い声を上げながら、沙雨は両目を閉じ、右手で自分の胸を愛撫していた。小さな手の
動きに合わせて形を変える、小さな乳房。
その小さな身体で、慶吾のものを全て飲み込み、締め付けている。
そうして。
「ン……!」
慶吾は息を止めた。衝動が最後の一線を越える。
腰の辺りが引きつり、痺れるような快感が下腹部から全身へと駆け抜けた。甘い衝撃とと
もに、慶吾は沙雨の中へと精を解き放つ。
数秒、射精の快感に固まってから、力を抜いた。
沙雨がお腹を手で撫でる。
「ほほう。出したか……。腹の奥が熱い……」
慶吾は沙雨の身体を持ち上げた。
膣から抜ける慶吾のもの。しかし、まだ勢いは衰えていない。
ベッドに下ろした沙雨が、その場に四つん這いになっていた。袴を捲り、お尻と秘部を見
せつけるように両足を左右に開いてみせる。黒い瞳に淫艶な色を灯し、
「次は後ろから挿れてみるか?」
慶吾は息を止め、腰を持ち上げた。その誘いに逆らう理由は無い。
勢い衰えぬものを、沙雨の小さな縦筋に押し当てる。両手で抱きかかえるように沙雨の
肩を掴み、腰を押し込んだ。慶吾のものが膣肉をかき分け、さきほどよりも深く挿入されて
いく。いわゆる背後位の体勢だった。
「うっ!」
一番奥を突かれ、沙雨が身体を強張らせる。軽く達したらしい、
慶吾は沙雨の両肩を抱きしめ、腰を前後に動かし始めた。人形のような小さな少女を、
拘束するように抱きかかえ、その秘部へと自分のものを挿入させる。それは、現実離れし
ていれ、ひどく背徳的な興奮を作り出していた。
「うっ、ふっ。はっ、んんン! ああっ!」
無音の部屋に、沙雨の声が響く。
慶吾と沙雨が擦れ合うい湿った音。思考がぼやけていく。喉の奥が焼けるように熱く、胸
が締め付けられるような興奮。飢えた獣のように、沙雨の膣を蹂躙する。
慶吾は沙雨の肩を掴み、身体を起こした。
ベッドに突っ伏した状態から一気に身体を引き起こされ、力の向きが変わる。
「んんンン! あああッ!」
両手で自分を抱きしめ、沙雨は大きく背筋を反らした。一番奥を突かれた衝撃で、絶頂を
迎えたようである。全身の筋肉を伸縮させ、弾ける快感を甘受していた。
慶吾のものを包む膣も激しく締め付けてくる。
「ぐっ……」
溜まらず慶吾は二度目の精を沙雨の膣へと解き放っていた。
お互いに繋がった状態で、十数秒。絶頂の余韻を噛み締める。
「まだ、元気そうだな」
自分のお腹を撫でながら、沙雨が妖しく笑ってみせた。
二度目の強烈な射精を行いながら、慶吾の勢いは衰えていない。じりじりと焼けるような
興奮が、意識を焦がしている。思考はかなり鈍くなっているようだった。
「次は何をする?」
「そうだな」
慶吾は沙雨を自分のものから抜き、その場で前後を入れ換える。
そして、再び沙雨を下ろした。詩文のものの上へと。慶吾のものが、沙雨の膣肉をかき分
けながら、三度奥まで挿入される。
「おはっ!」
それで、沙雨はまた達した。口を開け、少し涎を垂らす。
ぬるぬるとした粘膜と肉の感触に、慶吾のものが衰える気配はない。
慶吾は左腕で沙雨の肩を抱き、右手で顎を上に向けさせた。
「ん?」
訝る沙雨の唇に、慶吾は自分の唇を重ねた。薄く小さな唇。沙雨が一瞬驚いたように目
を見開いたが、すぐに目蓋を下ろし、口付けを受け入れる。
お互いに丁寧に舌を絡ませ、唾液を交換するような、濃厚な口付け。
口付けを続けながら、慶吾は右手で沙雨の胸に触れさせた。さきほどはだけられた胸。
小さな膨らみを、やさしく指先で撫で、軽く押し、先端を指の腹で丁寧に擦る。胸だけでなく、
腋やお腹やへその辺りまで、身体全体へと優しく愛撫を広げていった。
「……ん。……っ」
そのたびに、沙雨は小さく身体を痙攣させている。
その間も、ゆっくりと腰を動かし、沙雨の膣を刺激していく。身体が熱く火照り、思考が鈍
く緩慢になっていた。まるで、沙雨と身体が融け合っていくような錯覚。
「ふあぁ……ああっ」
沙雨が慶吾の口から放れた。
焦点の合っていない黒い瞳。だらしなく開けられた口から、少し涎が垂れている。時折手
足を小さく痙攣させていた。
慶吾の下腹部から広がる、じわりとした熱。
どうやら、お互いに絶頂を迎えたらしい。しかし、今までの絶頂とは違い、静かに身体の
奥まで染み込むようなものだった。不思議な心地よさがある。
お互いに繋がったまま、深い絶頂を味わうこと数十秒。
慶吾は沙雨の身体を持ち上げ、ベッドに下ろした。
「うーん」
しかし、慶吾のものはまだ勢いを維持している。一番最初に比べるとやや衰えてはいる
が、普段の全力を上回る力強さだった。
「お主……」
舌で唇を舐め、沙雨が妖艶に笑う。
「安心しろ。最後までつきあってやる。夜はまだ始まったばかりだ」
そう言って、上衣と袴、下着の上下を脱ぎ捨てた。
以上です
エピローグは数日中に
エロいエロいよ!!
うちでも雨宿りできますよ〜雨神さま〜(*^▽^*)ノ
592 :
雨神の雨宿り:2011/05/31(火) 19:57:18.85 ID:jdQms272
雨神の雨宿り
エピローグ
「気持ちの良い朝だ」
開いた窓から差し込む朝日。
心地よい日の光を受けながら、沙雨が背伸びをしている。昨日と変わらぬ白い上衣と紺
色の袴姿。同じものではなく、同じような服を何着も持っているらしい。
「おかげでかなり精気の補充はできた。感謝する」
「うー……」
ベッドから沙雨を眺めながら、慶吾は呻いた。
身体に力が入らずまともに動けない。まるで芯が抜けてしまったかのように。今日が休日
だったのは幸いだろう。
黒髪を指で梳き、沙雨が振り向てくる。
「神婚術とは神と交わり、精気を与えたり貰ったりする術の一種。その性質故、普通の性交
よりも多大な快楽を作り出す。その快楽に魅入られて溺れる者もいるとかいないとか。昨
日は少しやり過ぎた」
「そう言う事は先に言ってくれ……」
額を押え、慶吾は口を動かした。昨晩の事はあまりよく覚えていない。自分も沙雨も相当
に乱れていたような気もする。
「いかんせん始めて使った術だし」
苦笑いを見せながら、沙雨は目を逸らした。
「アタシの精気も渡してあるから、昼くらいには回復すると思う」
そう付け足す。
言われてみると、極度の脱力感の中に妙な清々しさがある。意識してようやく分かる程度
のものだが。それが、沙雨の精気なのだろう。
慶吾は沙雨を見つめながら口を開いた。
「実は今日、部屋の掃除と洗濯をする予定だったんだけど」
「分かった……」
肩を落とし、沙雨はそう答える。
以上です
エロっちかったですGJ!!
良かったのですよ〜。
保守
597 :
サイハテノマチ:2011/06/14(火) 23:32:34.56 ID:jV2X1kZX
投下します
598 :
サイハテノマチ:2011/06/14(火) 23:33:35.99 ID:jV2X1kZX
サイハテノマチ 24話
首輪と鎖と
イベリスを肩に乗せ、僕は煉瓦敷きの道を歩いていく。
森から街へ向かう歩道。手入れの行き届いた生け垣に挟まれた、僅かに曲がった小道。
空を見上げると、今日は珍しく曇り空だった。曇っているけど、湿度は高くないから過ごしや
すい。これから、街での仕事だ。
「で――」
と、隣を見る。
黒い狼が足音もなく石畳を歩いていた。
その背に跨った小さな女の子。五十センチほどの小柄な体躯に、薄紫色の髪の毛。左目
に眼帯を付け、紫色のコートに白いホットパンツという恰好だ。僕の家の隣に住んでいる森
の住人シデン。
「何、それ?」
「首輪」
僕の問いにクロノが返事をした。
「……それは見て分かるから。いや、クロノが首輪付けてるのは分かるんだけど、どういう
理由でシデンまで首輪付けてるんだ? しかも鎖で繋がって」
クロノとシデンの首に、黒い首輪が嵌められている。材質は金属のようだった。ふたつの
首輪は黒い鎖で繋がれていた。どちらかだけに首輪が嵌められていたのなら、納得したか
もしれないが、これは変だった。
「似合っていると思うけど」
三角帽子のつばを指で摘み、イベリスが一人と一匹を見る。
確かに似合っている。似合ってるけど、さすがに変だ。
「ロアに会いに行ったら、怒られてしまっタ……」
鎖を手でつまみ上げ、シデンが答えた。黄色い目で黒い鎖を見つめる。
シデンはロアたちに興味を持っていた。外の事が知りたかったのだろう。その態度に、ク
ロノが不快感を見せていた記憶がある。
「俺も本気を出したってこと」
横を向いて尻尾を動かすクロノ。シデンが不用意に外の事を尋ねる気なら、本気で捕まえ
ると言っていた。その本気がこの首輪と鎖らしい。
肩の座ったイベリスが口を開く。
「私があなたと同じ立場だったら、おそらく同じことをしていた」
視線を僕に向ける。
イベリスも言葉通りの意味でアルニの口塞いでいた。クロノの鎖もそうだけど、本当に手
段は選ばないみたいだし。外の情報が禁忌である理由。なんでだろう?
599 :
サイハテノマチ:2011/06/14(火) 23:34:41.10 ID:jV2X1kZX
石畳を歩く足音。そして、小さく鎖の鳴る音。
シデンが両手で鎖を引っ張っていた。
「凄く頑丈な鎖……。外れなイ」
「どこから持ってきたんだ、それ?」
鎖を指差し、訊く。まさか家にあったわけでもないはずだ。
クロノは鼻を持ち上げ、目を閉じる。
「教授から貰った」
やっぱり。
僕は口元を手で押えた。
でも、素朴な疑問。人間のような手を持たないクロノが、どうやってシデンに首輪嵌めたん
だろう? 教授がやったのかな? でも、狼の姿恰好をした人間みたいなヤツだし、案外手
先は器用なのかもしれない。訊くべきか、訊かざるべきか。
思いついた事を口にしてみる。
「それ、噛み千切れない?」
「うン?」
黄色い瞳が僕に向けられた。感情の映らぬ瞳に、微かな閃きが見える。
森の住人は半ば無差別に何でも食べられる。僕はまだ普通の食べ物しか口にしていない
けど、イベリスは初めて会ったときにスプーンを食べているし、シデンは本を常食としている。
多分、金属でも食べられる。
カチ。
「硬イ……」
鎖に噛み付いたシデンだったが、微かに顔をしかめて口を放す。僕の思いつきに迷わず
鎖に噛み付いたけど、あえなく弾かれてしまった。
クロノが呆れたように肩を落とす。
「残念だが、俺たちの歯でどうにかなるもんでもない。そういう代物だ」
「でも、諦めなイ」
鎖を握り締め、シデンは静かに呟いた。
600 :
サイハテノマチ:2011/06/14(火) 23:35:46.93 ID:jV2X1kZX
クロノが僕の肩に乗ったイベリスを見る。
「お前こそ、イベリス肩に乗っけるようになったけど」
「そういう歩き方できるようになった」
重心を揺らさずに歩く方法。ロアの歩き方を見て、真似して出来るようになった。ここに来
る前に、そういう歩き方をしてたんだろう。
クロノが無言で視線を明後日に向ける。
んー。やっぱり過去の記憶思い出すのは、マズいのかな。
シデンは口を開く。
「あとで、ワタシも乗せて欲しイ。あなたがそうしテ肩に座れるということは、以前よりも安定
しているというコト。乗り心地もよくなっているハズ」
「構わない」
イベリスが返事をする。
それは、僕がするべき返事じゃないかな?
肩越しにシデンを眺め、クロノは目蓋を少し下ろした。
「人に乗っかるの好きだよな、お嬢は……」
「うン。何でだろウ?」
シデンは首を傾げてみせた。
以上です
続きはそのうち
GJ!
遅ればせながらGJ!
保守
605 :
サイハテノマチ:2011/07/01(金) 21:28:38.72 ID:xizKq7Ui
投下します
606 :
サイハテノマチ:2011/07/01(金) 21:28:57.72 ID:xizKq7Ui
サイハテノマチ
25話 噂をすれば影
クロノは前足で首を掻いた。
街の図書館。カウンターの裏側。シデンが司書の仕事をしている時の定位置だった。た
めの前にはタイプライターが置かれている。図書館の備品で、クロノは本を書くために借り
ていた。しかし、文字はあまり打たれていない。
「暇……」
椅子に座ったシデンが両足を動かしている。
尻尾を左右に動かしつつ、クロノは自分の主を見上げた。
「この時間はいつもこんな感じだろう?」
それほど大きな街でもなく、この図書館もそれほど大きくはない。毎日のことだが、昼前
のこの時間帯は暇である。他の職員は、本の整理などをしている。
シデンは左手で鎖を掴んだ。クロノの首とシデンの首に嵌められた首輪と、それをつなぎ
合わせている黒い金属製の首輪。
「この鎖を外して欲しいのだケド。凄く、不便」
「我慢しろ。少なくともあのロアたちがここを出て行くまで」
クロノは硬い首輪を前足で撫でる。鎖を付け始めてから今まで、会う者全員がこの鎖を
みて驚いていた。図書館の他の職員も同様に。あまりおかしな事で注目を集めるのは好き
ではないが、今回はクロノも本気だった。
「……少なくとモ?」
微かに目蓋を持ち上げ、シデンは黄色い右目をクロノに向けた。いつもと変わらぬ、感情
の映らぬ瞳。他人には分かりにくいが、微かな憤り。
クロノは右前足を動かしながら、
「あー。これ、予想以上に楽だから、あいつらがどこか行った後も、このまま鎖に繋いでお
こうかなと思ってな。お嬢はよく行方不明になるし」
とっ、と軽い衝撃が背中に落ちる。シデンが椅子からクロノの背に飛び降りたようだった。
そのまま両手を伸ばして、頭の三角耳を掴み――引っ張る。
「イデデデ! 痛いって!」
頭を振り回し、手を振りほどく。あっさりと手を放すシデン。
クロノは床に顎を落とし、前足で耳の根元を撫でた。千切れることはないが、付け根にひ
りひりとした痛みが残っている。
607 :
サイハテノマチ:2011/07/01(金) 21:29:12.11 ID:xizKq7Ui
「コレ、どうやったら外れル? ただの鎖じゃないみたいだケド」
鎖に噛み付きながら、シデンは首を傾げていた。
この最果ての住人は、どんなものでも食べることができる。普通の食事から、生の木や
草、果ては石や金属まで。どんなものでも噛み千切り、飲み込み、消化が可能だ。そういう
ルールである。しかし、全部というわけではない。
この鎖はその食事のルールから外れた特例品だった。
「俺も知らん」
その言葉に偽りはない。
出所はクロノも知らない。教授の持ち出すものは大抵そういうものである。
シデンは天井を見上げた。白い塗料の塗られた木の天井。
「切断機で切れル? 鎖を切断する道具ガ、どこかにあったと思ウ。街か森かはよく覚えて
いないケド、きっとそれを使えば何とかなるかもしれなイ」
「そこまで行かせないけどな」
静かに、そう付け足すクロノ。
シデンとクロノでは、クロノの方が力が強い。千切れない鎖で繋がった状態ならば、クロノ
がそちらへ行こうとしない限り、目的地に向かうことはできない。
「ン?」
背中の毛が逆立つ。
寒気を覚え、クロノはその場に起き上がった。身体を勢いよく振り、背中のシデンを床に
落とす。背中から消える重さ。全身の黒い毛が、微かに擦れる音を奏でていた。
ぺたりと尻餅をついたシデンを見下ろし、訊く。
「……どこ引っ張ろうとした?」
「尻尾」
即答するシデン。クロノの尻尾を見ながら。
尻尾を下げつつ、クロノは威嚇するように牙を見せた。
「そっちはやめろ、マジで。脊髄に直接繋がってるから痛いんだぞ、本当に」
「そう言われると、引っ張りたくなル……」
右手を握って開き、シデンが尻尾を見つめている。淡々とした光を移している黄色い右目。
その奥に見えるのは、好奇心だった。クロノの尻尾を引っ張ってみたいという、単純にして
厄介な好奇心。
「やめろ」
尻尾を隠し、心持ち身を引きつつ、威嚇を続ける。
それで、触って欲しくないという気持ちは伝わったらしい。シデンは伸ばしていた右手を引
っ込めた。手の平を長めながら、思い出したように口を開く。
608 :
サイハテノマチ:2011/07/01(金) 21:29:26.85 ID:xizKq7Ui
「そういえば、アルニという妖精の女の子にはまだ会っていなイ。ロアの方は乗り心地が九
十五点だったと記憶していル」
「基準はそこなのか?」
口を閉じ、半眼で尋ねる。シデンは人に乗っかるのが好きだった。
もっとも、それはいつもの事なので、優先度は低い。
「てか、アルニか……」
クロノは眉間にしわを寄せる。
ロアと一緒にこの最果てのにやって来た妖精の女の子。妖精繋がりということか、ロアが
神殿に出掛けている間はハイロがアルニを預かっていた。主の近くに、外の者がいるのは
あまり感心できることではない。
「ハイロの話だと、アルニは口が軽いみたいだから、お嬢とは会わせたくないな」
「む……」
クロノの台詞に、シデンが頭を掻いた。
風が、流れる。
クロノとシデンは、同時に振り向いた。
「ワタシの事、呼びました?」
カウンターの上に、小さな女の子が浮かんでいる。
身長二十センチほどの身体で、背中から微かに青みがかった二対の羽が生えている。
人間の年齢にすると十五、六歳ほどだろうか。やや外跳ねしたショートカットの水色の髪、
青い瞳。紺色の上着にハーフパンツ、靴という恰好だ。
肩から茶色の鞄を提げている。
「アルニ……。噂をすれば影……?」
シデンが黄色い右目を妖精の少女に向けた。
クロノは無言で頭を抱えた。
以上です
続きはそのうち
ふたりの絡みが気になりますね(*^^*)ノ
そのうちって日が早くこいー!
611 :
サイハテノマチ:2011/07/20(水) 19:03:16.94 ID:J4Yp1USB
投下します
612 :
サイハテノマチ:2011/07/20(水) 19:03:49.52 ID:J4Yp1USB
サイハテノマチ
26話 図書館に来た理由
首を左右に振ってから、クロノは改めてカウンターの上に目を向けた。
身長二十センチほどの妖精の少女が浮かんでいる。やや外跳ね気味のショートカットの
水色髪、紺色の服に青いハーフパンツという恰好である。肩から鞄を提げていた。
「あんたがアルニか?」
伏せていた体勢から身体を持ち上げ、クロノはそう口を開いた。
アルニが青い眼を自分に向けてくるのを確認してから、続ける。
「一応ハイロとイベリスから話は聞いてるよ。ロアとは顔を合わせてるけど、あんたと顔会
わせるのは今日が始めてだったな」
床に腰を下ろし、お座りの姿勢を取る。右前足で自分を示し、
「俺はクロノだ。このお嬢の従者」
「ワタシはシデン。この図書館で司書をしていル」
前足を向けられ、シデンが自己紹介をする。
クロノとシデンを交互に見てから、アルニは頭を下げた。
「えっと、アルニです。ロアさんと一緒に旅をしている妖精です。初めまして」
片目を閉じ、クロノはアルニとシデンを交互に見る。外の世界の事を知りたがっているシ
デン、口が軽いらしいアルニ。よくない取り合わせだった。
「アナタはここに何をしに来たノ?」
「えっとですね」
シデンの問いに、アルニが首を傾げる。
古ぼけた図書館。床はリノリウム張りで、白い壁紙の貼られた壁。沢山の本棚と、読書
用の机がみっつ。カウンターの裏側には、貸出帳簿などの並んだ本棚が置かれていた。
クロノはふと視線を持ち上げた。
「調べ物があるんだ」
カウンターの向こう側に若い男が立っている。
ハイロよりもいくらか年上くらいの年齢だろう。背中まで伸ばした砂色の髪と、どこか眠そ
うな青い瞳で、眼鏡を掛けている。草色の上着と、緑色のズボン、編上げのブーツという出
立。腰に一振りの剣を差していた。
613 :
サイハテノマチ:2011/07/20(水) 19:04:21.49 ID:J4Yp1USB
「ロア」
クロノはその名を呟く。外から来た人間。顔を合わせるのは、これで二度目だった。目蓋
を持ち上げ、無言で見つめる。
自分に向けられた視線に気付き、ロアは両手を広げて答えた。
「調べたい資料がこの図書館にあるって聞いてやってきた。一人で探したいから、ちょっと
アルニ預かっててくれないか?」
「構わなイ」
シデンが答える。
「えと、シデンさん。よろしくお願いします」
改めて頭を下げているアルニ。
流れるように進んでいく状況を他人事のように眺めながら、クロノは首を左右に振った。
たてがみが大きく揺れる。一度息を吸い込んでから、やや目蓋を下ろした。微かに口元か
ら牙を覗かせながら、問いかける。
「預かるのはいいんだが、ひとつ気にあることがある。ロア、お前……調べ物があるからこ
こに来たんじゃなくて、"俺たちにアルニを預ける事"が目的なんじゃないか?」
ロアの返事は、微苦笑だった。
それから何も言わずにカウンターに背を向け、本棚の方へと歩き出した。身体を揺らさず、
安定した姿勢で歩いている。かなり鍛錬を積んでいるのだろう。クロノがその背を眺めてみ
るものの、振り向くこともなく本棚の影へと消える。
「外の連中ってのは、よく分からん……」
クロノはその場に突っ伏した。冷たい床が心地よい。
よく分からない外の世界の人間、何を考えているか分かりにくい好奇心旺盛な主、どうに
も行動の読みにくそうな青い妖精の女の子。そのような者たちを相手にするのは、クロノで
は明らかに荷が重すぎた。だが、逃げるわけにもいかない。
ぽんぽんと、シデンがクロノの背中を叩く。
「とりあえず、ここニ」
「……いいんですか?」
カウンターの内側に降りてきたアルニが、驚いたようにクロノの背を見つめている。知ら
ぬうちにソファ代わりに設定されているようだった。
クロノは前足を持ち上げ、
「別に構わないよ。妖精一人乗っけたくらいで疲れるものじゃない」
614 :
サイハテノマチ:2011/07/20(水) 19:05:12.52 ID:J4Yp1USB
「お言葉に甘えて失礼します」
アルニが背中に降りた。微かに感じる重さ。乗せているのは分かるが、ともすれば忘れて
しまいそうな希薄な重量だ。シデンよりも遙かに軽い。以前頭に乗せたイベリスと同じくらい
だろう。
「クロノさんの毛並み、ふわふわですね」
背中の毛を撫でながら、アルニが声を弾ませる。
その様子を見つめながら、シデンが口を開いた。
「彼の乗り心地ハ、九十八点。現在一位。現在二位は、ロア。九十五点。彼は予想以上に
安定した乗り心地だっタ」
「そうなんですか。凄い人だったんですね、ロアさん」
シデンの格付けに、アルニが腕組みをして感心している。
シデンが本棚へと目を向けた。さきほどロアが歩いていった方向。奥の方に行ってしまっ
たのか、姿は見えない。
「ところデ、彼は一体何を調べルつもリ?」
調べ物をしにきたというのは事実だろう。クロノはそう予想していた。しかし、ロアが欲し
がる情報がこの小さな図書館にあるとは考えにくい。もしかしたら、クロノたちが知らない資
料がどこかに眠っているのかもしれない。
アルニは頬に手を当て、首を傾げる。
「何でしょうね? ワタシも訊いたんですけど答えてくれませんでした」
シデンは無言で再びロアの消えた方向を眺めている。
「ところで、さっきから気になってるんですけど」
アルニが口を開いた。
「コレ――何ですか?」
視線を向ける先は、クロノとシデンの首を繋いでいる鎖だった。がっしりとした黒い金属製
の首輪と、黒い鎖で両者の首を繋いでいる。
クロノはため息をついて、両前足で頭を押さえた。
以上です
続きはそのうち
保守
617 :
サイハテノマチ:2011/08/01(月) 19:17:53.70 ID:M0F3ZIQH
投下します
618 :
サイハテノマチ:2011/08/01(月) 19:18:17.28 ID:M0F3ZIQH
サイハテノマチ
27話 シデンの思いつき
シデンは自分の首から伸びる鎖を手で掴んだ。
アルニはその鎖を見つめながら、首を傾げている。
「もしかして、そういうファッションなんでしょうか?」
「首輪と鎖。頑丈で外せなイ」
黄色い右目で、漆黒の鎖を見つめる。
クロノは尻尾を左右に動かしてから、前足で鎖をつついた。
「お嬢がお前たちに近付かないように拘束してるんだよ。最果ての住人は外の事を調べて
はいけない。そういうルールなんだが、お嬢は好奇心が強いから……。それに、よく勝手に
いなくなるから、その対策も兼ねて」
肩越しにアルニを見る。
シデンは以前から外の世界について興味を持っていた。外の世界から来た剣士と妖精。
放っておけば、外の情報を求めて二人に接触するだろう。事実、無断でロアに会いに行っ
ている。それを避けるために、完全拘束していたのだが。
「あんまり意味は無かったな……」
向こうからやって来たのは、予想外だった。
アルニは青い瞳でクロノとシデンを繋いでいる鎖を見つめる。
「ここの人は外の事を知っちゃいけないんですよね。わたしも何度も言うなっていわれまし
た。でも、何で知っちゃいけないんしょうね?」
首を傾げてみせた。
最果ての住人は外の事を知ってはいけない。この最果てのルールのひとつだった。
「オレに訊くなって、オレも理由は知らない」
前足で頬のヒゲを撫で、クロノは首を左右に振った。
最果ての住人の中には、従者がその秘密を知っているかもしれないと考える者もいる。
もしかしたら、何か知っている従者もいるのかもしれない。だが、クロノは最果ての事につ
いてはあまり知らなかった。
「多分、ココはそうして維持されてるカラ。危険なんだと思ウ」
シデンが窓を見つめた。
半分開けられた窓。木枠とガラスから作られている。窓の外には青い空と、薄い絹のよう
な雲が見えた。空はどこまでも高く、どこまでも近い。窓から吹き込んできた風が、シデンの
髪の毛を微かに揺らしていた。
窓から眼を離すシデン。
619 :
サイハテノマチ:2011/08/01(月) 19:18:34.81 ID:M0F3ZIQH
「アルニ」
「何でしょう?」
声を掛けられ、アルニが向き直る。
「ワタシの肩に乗ってみなイ?」
そう言って、シデンは自分の肩を叩いた。薄紫色のコートに包まれた小さな肩。いつも通
りの淡泊な口調で、表情もほとんど変わったように見えない。黄色い片目でアルニを見つ
めている。
「ワタシは小さいカラ、今まで色々な人に乗って来た。でも、他人を乗せたことはないと記憶
していル。あなたはワタシよりも小さいから、乗れル」
「そうですねー」
小さく微笑んでから、アルニはクロノの背で立ち上がった。
軽く脚を動かし、クロノの背から跳び上がる。四枚の薄い青色の羽に、淡い力が込めら
れ、小さな身体を浮遊させた。身体を傾け、羽を動かし、空中を滑るようにシデンへと近付
いていく。
「それでは、失礼します」
アルニがシデンの肩に腰を下ろした。両足を前に下ろし、両手でシデンの頭に掴まる。
普通に飛んだり、立ったりした時とは見える景色が違うのだろう。青い瞳に好奇心の光を
灯しながら楽しそうに微笑み、周囲を眺めている。
「奇妙な光景だ」
声には出さず、クロノは呟いた。尻尾を払うように一振り。
人間の三分の一くらいの少女が、さらにその三分の一くらいの妖精の女の子を肩車して
いる。滅多に見られるものではないだろう。
「どう?」
「わたしも色々人の肩に乗ったり、手の平に乗ったりはしましたけど、肩車してもらうのは初
めてです。不思議な感じですね」
「ワタシも、他人を乗せタのは始めテ」
シデンもアルニも楽しそうである。
シデンは数歩脚を動かした。肩に乗ったアルニが少し揺れている。
クロノは床に伏せたまま、その様子を眺めていた。
「クロノ」
「ん?」
620 :
サイハテノマチ:2011/08/01(月) 19:19:04.57 ID:M0F3ZIQH
シデンが床を蹴った。
軽く跳び上がってから、クロノの背中へと着地する。クロノの背に跨り、首辺りのたてがみ
を両手で掴んだ。いつもの騎乗姿勢である。
「ロアのところヘ」
右手を持ち上げ、シデンは人差し指を本棚へと向けた。
クロノはちらりとカウンターの奥の扉を見る。今図書館内にいる司書はシデン含めて三人。
残りの二人は、奥の部屋で資料の整理をしている。出てくる気配は無い。ロアやアルニに会
わないためかもしれない。
クロノは伏せた体勢から、身体を起こした。
「凄いですね……!」
シデンに載ったアルニが、感嘆の声を上げている。
こっそり苦笑しながら、クロノは歩き出した。カウンターの横を通り、床に付いたロアの匂
いを辿って足を進める。
あまり広くもない図書館。ロアはすぐに見つかった。
古い本を両手で抱え、歩いてくる。目当ての資料は見つかったらしい。
「何をしているんだ?」
一度足を止め、青い瞳で眼鏡越しに見下ろしてくる。不思議そうに眉を寄せて。狼の背に
乗った小さな少女。その肩に乗った妖精の女の子。かなり奇妙なものだろう。
「肩車です」
楽しそうに笑いながら、アルニが応える。
とんとん、と首元を叩かれ、クロノは振り向いた。
シデンが無言でロアの肩を指差している。
「やらないって」
「残念……」
クロノの返事に、シデンは小さく呟いた。
621 :
サイハテノマチ:2011/08/01(月) 19:19:17.56 ID:M0F3ZIQH
以上です
続きはそのうち
もう人いない…?
いるぜ?
復活せよ!
見てますよ〜
マジで復活しないかな…
何が復活?
困った
書けない…
そういうときも、あるさ
保守
632 :
雨神の雨宿り:2011/09/07(水) 19:19:11.32 ID:vmm+y3NB
投下します
雨神の雨宿り 第2話 雨の降る前に
前編 雨神の少女、再び
窓から外を見ると、灰色の雲が空を覆っていた。灰色と白の濃淡の見える低い雲。雲の
種類は乱層雲だろう。ゆくりと空を移動している。
「雨降りそうだな」
多田原慶吾はぼんやりと外を眺めていた。
トントン。
音は突然聞こえてくる。ガラス窓を叩くような音。大きな音ではないが、はっきりと耳に入
ってきた。誰かが外から窓を叩いたらしい。
「ん?」
窓の外に誰かがいる。
既視感めいたものを覚えながら、慶吾は窓を開けた。
ベランダに置かれた、靴脱ぎ台。そこに小さな少女が立っている。
「よう。久しぶりだな、慶吾。元気にしていたか?」
身長は五十センチくらいだろう。見た目は十代半ばくらい。長い植物の葉を思わせる長
い黒髪と、落ち着いた光を映す黒い瞳。紺色の縁取りのなされた白衣に、紺色の袴という
出立である。色合いは違うものの、巫女服を思わせるような衣装だった。足は裸足に下駄
を履いている。
「沙雨?」
慶吾は驚きつつも、少女の名を口にする。
一ヶ月くらい前に、慶吾の前に現れた雨神の少女。日本中を旅しながら、空の気の流れ
を記録していると言っていた。環境調査のようなものらしい。
沙雨は満足げに微笑んで、
「覚えていてくれたか。とりあえず部屋に上がらせてもらえないだろうか? こんな所で立ち
話も何だし、そろそろ雨も降りそうだ」
と、振り返り灰色の空を見上げる。
「別に構わないけど」
「感謝する」
沙雨は穿いていた下駄を脱ぎ、フローリングの床まで一足に跳び上がった。どこからとな
く小さなサンダルを取り出すと、それを床に起き、脚を通す。
「沙雨はうちに何しに来たんだ? 環境調査みたいな事をしてるのは聞いてるけど、俺の
所に来る理由あるのか? 前に何か忘れ物してたとか」
「せっかく知り合ったのだからな。顔見せに来た。あと、今晩泊まる場所が欲しい」
両手を越しに当て、沙雨は慶吾を見つめる。
慶吾はその場に屈み、視線を沙雨に合わせた。慶吾が屈んだ状態でも、視線は沙雨の
方がやや低い。慶吾を見つめたまま、どこか楽しそうな顔を見せる沙雨。
「泊まっていくのか」
「安心しろ。ちゃんと宿賃は身体で払う!」
右手で自分の胸を叩く。
慶吾は左手で顔を押さえ、ため息をついた。宿代は身体で払う、沙雨の台詞が何を意味
するか。容易に想像が付く。そして、その結果も容易に想像がついた。
沙雨の顔の前に右手を突きだし、鼻先に軽くデコピンを決める。
「いたいぞ……」
両手で鼻を押さえ、沙雨は一歩後退る。
目元に薄く涙を滲ませ、睨み付けてきた。
「こないだは、翌日動けなくなるくらい絞られたような記憶があるぞ」
慶吾は軽く額を押さえる。
「でも、あの時はアタシの精を取り込んだのだ。しばらくは体調はよかっただろう?」
得意げに笑い、沙雨が見上げてくる。
以前沙雨と交わった時は、翌日の昼くらいまでまともに動けなかった。仕事があったら確
実に休む羽目になっていただろう。しかし、翌日から一週間くらいは調子が良かった記憶
がある。沙雨は自分の精を渡したと言っていた。
もそもそと上衣の袖に手を入れる沙雨。
「そうそう。お主に土産持ってきた。京都に寄った時に買ったものだ」
取り出したのは、高級そうな紙の箱である。袖の大きさとは合っていないが、気にしては
いけないのだろう。小豆色の箱に生八つ橋と書かれている。
「八つ橋か。美味しいんだけど、なかなか売ってないんだよな、ありがとう」
笑いながら手を差し出すが。
沙雨はひょいと箱を引っ込めた。
「というわけで、お茶」
-----
カーペットの上に置かれた卓袱台。
沙雨が持ってきた生八つ橋と湯飲みが並んでいる。
慶吾は八つ橋をひとつ取った。三角形の素地の中に餡子が詰まっている。端を囓ってみ
ると、上品な甘さが口に広がる。
「沙雨って旅してる間は、宿とかどうしてるんだ?」
慶吾の正面には、箱を椅子に沙雨が座っていた。
右手を伸ばして生八つ橋を掴み、口に放り込む。身体に比べると大きい和菓子を、苦も
なく一口にしていた。人間サイズのものは食べ慣れているのかもしれない。
お茶をすすり、沙雨は頷く。
「うむ。大体神社仏閣や土地の偉いさんに頼んで、寝場所を借りているな。神様は色々頼
れる相手が多いからな。後は、野宿が多いかな。おおむねバックパッカーのような生活を
している。国外に出ることは無いが」
リュックひとつの低賃金な旅行者。沙雨の移動も似たようなものだろう。空の気を記録し
ながら、日本中を巡る旅。公共機関はただ乗りしているらしいが。
「大変そうだな」
沙雨の生活を想像し、慶吾は唸った。
しかし、沙雨は気楽に笑って、次の八つ橋を手に取る。
「お主のように人間ならば大変だが、アタシみたいな専門の神なら結構楽だ。身体がそう
いう風に作られているからな」
何故か得意げにそう言ってみせた。
身体は人間の三分の一程度、本人も大した神格は持っていないとは言っているものの、
沙雨は神様である。人間とは仕組みが違うのだろう。
そう納得して、慶吾は八つ橋に手を伸ばし。
「あれ……」
箱は空っぽだった。二十個入っていたはずだが、今はひとつも無い。表面から落ちたき
な粉が少しだけ残っている。
「お主がもたもたしているから、アタシがほとんど食べてしまったな」
指を舐めながら、沙雨は澄ました顔を見せた。
慶吾はふたつしか食べていない。
「八つ橋、好きなのに……」
「安心しろ。まだある」
目蓋をおろし口元に悪戯っぽい笑みを浮かべ、沙雨は袖に手を入れた。ものを収納する
術の類かもしれない。取り出した箱を、卓袱台に載せる。
「こっちは抹茶餡、こっちはチョコレート、こっちはクリームだ」
生八つ橋が三箱。こちらは十個入りの小さなものらしい。しかし、三箱三十個の計算とな
る。京都で買ったと言っていたが、調子に乗って買いすぎたのだろう。
「全部食べるのか、これ?」
湯飲みにお茶を入れながら、慶吾は沙雨を見る。
いくら好きなものでも、これだけあるとさすがに全部食べるのは辛い。
しかし、沙雨は自信たっぷりに笑ってみせた。
「二人で頑張れば、なんとかなるさ」
以上です。
続きはそのうち
ぬぉぉぉ!
沙雨ちんキタコレ
続き待ってます
おぉ。
こっちも好きなんだ。
続き待ってます。
wktk
641 :
雨神の雨宿り:2011/09/12(月) 21:57:55.21 ID:kIrQUA+p
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雨神の雨宿り 第2話 雨の降る前に
中編 静かな夜更け
しとしと、と。
雨粒が地面を叩く音が聞こえていた。
窓の外には夜の闇が訪れている。部屋には蛍光灯が付いているが、外からは静かな闇
が差し込んでいた。夜の八時半。夕食も食べ終わり、風呂にも入った後だった。
夕方から降り出した雨は、今も降り続けている。
慶吾は座布団にあぐらをかき、膝に沙雨を乗せ、小さな櫛でその黒髪を梳いていた。
「きれいな髪だな」
長く艶やかな黒髪。しっとりと水気を帯びているような滑らかさ。指で触れてみると、絹の
ような上品な手触りだった。人間の髪の毛とは似ているようでかなり違う。
「ふふ、ありがとう」
肩越しに振り返り、沙雨が微笑んだ。少し照れたように。
青い縁取り布のある白衣と、紺色の行灯袴。寝る時も同じ服を着ている沙雨。部屋の洗
濯機で洗濯し、干しておいたため、汚れなどはない。沙雨曰く強力な術で保護されている
ので滅多な事では汚れないらしい。さすがに下着は毎日替えているようだが。
慶吾は右手で沙雨の頭を撫でる。初めて会った時から気になっていたこと。
「失礼な事訊くかもしれないけど、沙雨って何歳なんだ?」
「一応未成年ではないから安心しろ」
楽しそうに答える。
「大体お主と同い年だ。三十年は生きていない。もっとも、アタシのような神には年齢はあ
まり意味をなさないのだが。生まれた時からこの年格好だからな」
手で自分を示し、そう言ってきた。
見た目は十代半ばの少女である。言われてみると大人びいた言動を取る事が多い。逆
に、子供っぽい部分も多いように思える。生まれた時から今と変わらぬ年格好。人間の常
識とは違う時間を生きているのだろう。
「さすがは神様か」
髪を梳き終わり、慶吾は櫛を差し出した。
沙雨は櫛を受け取り、上衣の袖へとしまう。
「さて、寝るぞ、慶吾」
「もう寝るのかよ。まだ八時半だぞ」
慶吾は時計を指で示す。土曜日の夜の八時半。普段ならまだ起きている時間だ。レンタ
ルしたDVDを見たり、ネットをうろついたり、時々本を読んだり。雨が降っていなければ、近
所のコンビニなどに出掛けていたかもしれない。
沙雨は目を細め、妖しく微笑んだ。
「ふふ。それは言葉の綾というものだ。今宵は寝かせはせん」
ぺしっ。
慶吾の人差し指が、沙雨の額を打つ。
「いたい……」
額を両手で押さえながら、沙雨が目元に涙を浮かべた。
「お主はウブだな。分かってはいたが」
小さく笑いながら、そんな事を言ってくる。
その台詞は聞き流し、慶吾は一度息を吸いこんだ。沙雨の肩に左手を添え、両足の下
に右手を差し込む。小さな身体を両手で抱え上げながら、その場に立ち上がった。思った
よりも軽い。いわゆるお姫様だっこの姿勢である。
「ほほう」
沙雨が好奇心に目を輝かせながら、辺りを見ていた。お姫様だっこをされるのは、今回
が初めてなのだろう。子供のような喜びようだった。
沙雨を抱えたまま、慶吾はベッドに足を進める。
「沙雨って本当に小さいよな。赤ん坊抱いてるみたいに感じるよ」
「アレだ。最近流行の省エネ。小型軽量高性能というヤツだ」
得意げに人差し指を持ち上げる沙雨に、慶吾は眉根を寄せた。
「小さくすればいいってもんじゃないとは思うけど。遊びを削るから全体的な性能は落ちる
し、強度も落ちる。必要な部分まで削るのは、あまり感心できないよ」
「……仕事で何かあったのか?」
冷や汗を浮かべながら、指を下ろす。
「ま、色々と」
誤魔化し笑いをしながら、慶吾は答えた。
沙雨を抱えたままベッドに腰を下ろし、布団をめくる。一度沙雨を膝に乗せてから、右手
を伸ばして蛍光灯の紐を引っ張り、電気を消す。常夜灯の照らす薄暗い部屋。
沙雨を左手で抱えたまま、慶吾は布団に潜り込み、身体に布団を掛ける。
「布団というものは心地のよいものだ」
慶吾に背を向けたままの沙雨が、もぞもぞと動いた。身体の向きを変えようと思ったよう
だが、途中で止める。苦笑するように肩を揺らすのがわかった。
「沙雨はあまり布団で寝ないようだけど」
両手でそっと沙雨を抱きしめる慶吾。人間とは違う小さく細い身体。ぬいぐるみを抱いて
いるようでもある。しかし、しっかりと暖かさと柔らかさを持っていた。
「ああ。アタシは野宿とかも多い生活だ。こうして暖かい布団にくるまれる機会もない。それ
に、人と一緒に寝るなんて、何年ぶりだろうか?」
沙雨が慶吾の腕に自分の手を添える。
しとしとと雨の音が外から聞こえてきていた。車が道を走る音。雨の夜は静かだった。オ
レンジ色の常夜灯に照らされた暗い室内。テレビやレコーダー、パソコンのランプが光の
点となって浮かび上がっている。
慶吾は一息ついてから、口を開いた。
「沙雨が望むなら、ずっとここにいてもいいぞ。俺も独り暮らしだけど、もう一人増えたとこ
ろで、そう変わることもないだろうし」
「ふふ……」
沙雨が微かに笑う。
「好意だけ頂いておくよ。閑職とは言うが、アタシはこの仕事が好きだからな」
日本中を旅しながら、空の気を記録する仕事。自分で歩いたり公共機関をタダ乗りした
り、宿を貸してもらったり野宿したり。話を聞く分には楽しそうだが、実際にそのような日々
を過ごすのは大変だろう。
しかし、沙雨は自分の仕事にやりがいと誇りを持っているようだ。
沙雨が肩越しに振り返ってくる。
「とはいえ、その言葉はしかと覚えておく」
「ありがと」
慶吾はそっと沙雨の頭を撫でた。
頭を撫でられ、沙雨が身体から力を抜く。慶吾は頭を撫でていた手を放し、両腕で沙雨
の身体を抱きしめ、自分の胸元に引き寄せた。
「やっぱり、沙雨って抱き心地いいな。大きさも暖かさも。抱き枕みたいだし。こうして抱え
て寝たら、ぐっすり眠れそう」
両目を閉じ、慶吾は笑う。小さく暖かく柔らかい沙雨。このまま沙雨を抱き枕代わりにし
て寝たら、朝まで安眠できるだろう。そんな確信があった。
しかし、沙雨が口を開いた。
「それは面白いかもしれぬが、抱きかかえて眠るだけでは、物足りない」
肩越しに振り向いた黒い瞳には、妖しげな輝きが映っていた。食事を前にした子供のよ
うな喜び、と表せばいくらか聞こえはいいだろう。
「まだ夜九時にもなっていないのだ。これで『おやすみなさい』などと、子供のような事は言
うまいな? 今宵は眠らせぬと言っただろう? 夜はまだこれからだ」
「元気だな」
慶吾は思わず口元を緩める。呆れたように、感心したように。
沙雨は自分の手を持ち上げた。緩く広げた手の平を見つめながら、
「ふふ、これでも神様だからな。お主の欲望くらいは受け止めてやる」
「ではお言葉に甘えさせていただきますよ」
慶吾はそう答えた。
以上です
続きは週末くらい
647 :
雨神の雨宿り:2011/09/16(金) 18:01:57.12 ID:SiqUdN7y
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雨神の雨宿り 2話 雨の降る前に
後編 静かな夜の
両腕で抱きかかえた沙雨。
身長五十センチくらいの小さな身体で、人形かぬいぐるみのようでもあった。しかし、柔
らかさや暖かさもあり、生き物だと分かる。見た目は十代半ばの女の子。
左腕で肩の辺りを抱きしめつつ、慶吾はそっと右手を動かし、沙雨の胸に触れた。白衣
越しに控えめな膨らみを指でやさしく押し、円を描くように指を動かす。
「くすぐったいな……」
沙雨が肩をすくめた。
小さな身体だが、体格は相応のものである。大人というには早い、いくらか幼さの残る体
付きだ。人形のような身体も含めて、色々と背徳感を覚える。
それは表には出さず、慶吾は手を動かした。膨らみの縁をなぞるように指を動かし、先
端の辺りを指先で軽くひっかくかく。
「んっ」
抱きしめている慶吾の腕に、沙雨は手を触れさせた。少し身体を強張らせる。
やはり緊張しているらしい。慶吾は手で包むように、優しく胸を揉み始めた。片手だけで
すっぽりと覆えてしまう小さな乳房。無理をすれば壊れてしまいそうな身体を、丁寧に暖め
ていく。
「ふぁ、んっ」
甘い吐息を漏らす沙雨。
上衣の上から乳首が起っているのが微かに分かる。
慶吾は指先で乳首を引っ掻いた。
「んんっ!」
沙雨が身を縮める。両手を握り締め、手足に力を入れた。
肩越しに振り返り、口を開く。
「……胸ばかり触っても、物足りないだろう。遠慮はするな」
「ああ」
慶吾は左手を下ろした。
行灯袴の裾を持ち上げ、沙雨の足に触れる。細く引き締まった両足。爪先から足首、す
ね、膝、太股へと順番に持ち上げていく。
「うぅ……」
沙雨が戸惑ったように身体を捻っていた。
今までこのような経験は無いのだろう。強がってはいるが、その奥に隠した不安が慶吾
にも感じ取れる。慶吾はその不安を受け止めるように、沙雨を腕で抱きしめる。
慶吾の思いが伝わったのか、沙雨は少し力を抜いた。
太股を撫でる手を少しずつ上へと移動させる。
「ん……」
指先がショーツに触れた。行灯袴の下に穿いている着物用のショーツ。滑らかな素地。
そのクロッチ部分は、微かに湿り気を帯びている。
慶吾はショーツの上から、沙雨の秘所をなぞるように指先を動かす。
「あっ、んっ――」
右手で口元を押さえ、沙雨が片目を閉じる。
常夜灯の照らす暗い部屋。外から聞こえる雨の音と車の音。暗く静かな部屋の中、慶吾
と沙雨の心臓の鼓動が響いている。そして、沙雨の甘の吐息が妙に大きく響いていた。
ショーツの素地を指先でどかす。
「ん!」
指先に感じる沙雨の秘部。
大事なところへと直接触られ、沙雨は声を呑み込む。
僅かに粘度のある液体。小さな縦筋と、その付け根にある小さな肉芽。そこを往復する
ように指先で擦りながら、慶吾は膣口に指を触れた。
「指挿れるぞ?」
「……ああ。好きにしろ」
一拍の間を置いて、沙雨が答える。
慶吾は沙雨の秘所へと指を差し込んだ。
「あ、ああっ……」
柔らかな肉をかき分けながら、人差し指が沙雨の体内へと呑み込まれていく。熱く狭い
膣内。蠢きながら指を包み込んでくる肉の感触。
「本当ならこれくらいが丁度いいんだろうけど」
指に絡みついてくる膣壁の感触に、慶吾は唾を飲み込む。沙雨のサイズから考えると、
中に挿れられるものは指くらいの大きさが丁度いいのかもしれない。
人差し指を動かしつつ、親指で縦筋の淫核を擦る。
「ふあ!」
慶吾の右腕にしがみつく沙雨。
右手で胸を弄りながら、左手で膣を刺激する。沙雨の身体が徐々に出来上がっていくの
が分かった。身体を震わせ、息を荒くし、湧き上がる快感を受け止めている。
「ああっ。待て、慶吾……!」
しかし、沙雨は慌てて声を上げた。
「指で、は……あっ、なくて――ンッ、お前のものをよこせ……!」
慶吾は一息つき、左手を引いた。
ぬるりと、指が抜ける。
「あぅ……」
沙雨が肩の力を抜いた。
慶吾は濡れた左手を目の前に持ってくる。透明な液体が常夜灯の光を受けて、淡く光っ
ていた。濡れた指を口に含むが、味はしない。
じっとりと皮膚に汗が滲んでいた。暖かい程度だった布団の中は、汗をかくほどに熱を
持っている。自覚以上に興奮しているのだろう。心臓の鼓動が身体に響いていた。
沙雨を両腕で抱きしめ、前後を入れ換える。
顔は赤く染まり、目元には涙が、口元には涎が滲んでいた。泣いているような笑っている
ような怒っているような顔。感情が溢れているのだろう。
「あんまり……じろじろ見るな」
黒い瞳で慶吾を睨み付ける。
空笑いをしてから、慶吾は沙雨を抱えて身体を起こした。布団が落ち、部屋の空気が火
照った身体から熱を奪う。
「お主ももう限界だろう?」
「まあな」
一度頭を掻いてから、慶吾はズボンの前を開いた。
全開のものを目にして、沙雨がにやりと笑う。
慶吾は沙雨のお腹を両手で掴み、身体を持ち上げる。
「遠慮はいらぬ。一気に貫け」
瞳に妖しい色を映す沙雨。右手で紺色の行灯袴をたくし上げ、白いショーツを横にずらし
た。濡れた秘所が露わになる。とても慶吾のものが入るとは思えない小さな縦筋だが、そ
こは神様なので大丈夫らしい。
「行くぞ」
慶吾のものの上に沙雨を下ろす。
沙雨が左手で先端を押さえ、自分の膣口へと添えた。
ゆっくりと沙雨を下ろしていく。慶吾のものが沙雨の膣へと呑み込まれていった。蠢く濡
れた膣壁。指を入れた時でさえきついと感じたのだが、指より太い慶吾のものを沙雨は根
元まで呑み込んでしまう。
「凄いな……」
「アタシは神様だからな。無理が利く」
沙雨は袴の裾を掴んでいた右手を離す。袴が落ち、繋がっている部分が隠れた。繋が
っている部分は見せたくないらしい。
慶吾のものが収まったお腹を撫でながら、沙雨は小さく笑った。
「さすがに多少苦しいが、こう……身体が満たされるようだ。やはりお主とは相性がいいの
だろう。アタシが見込んだだけはある」
そう言って視線を向けてくる。
慶吾は両手で沙雨を抱え、ゆっくりと上下に動かし始めた。熱い膣壁が慶吾のものを激
しく刺激する。静かな部屋に、響く湿った音。
「うん……はっ、熱い……! ふあ、お腹が溶けそうだ……あっ!」
口元から涎を垂らし、沙雨が頬を緩める。
体格差のためそれほど激しい動きはできない。返ってそれが沙雨に深い快感を与えて
いるようだった。沙雨の中を慶吾のものが、丁寧に上下に動いている。
慶吾は左手で沙雨の右手を握り締めた。
応えるように沙雨が手を握り替えしてくる。
「んんっ、あっ。くっ……!」
涙と涎と汗に濡れた顔で、ぎこちなく微笑んだ。
痛みすら覚えるような痺れが、背筋を駆け上がり、脳髄を叩く。みぞおちの辺りが、焼け
付くように熱い。喉が渇き、身体が熱い。意識が融けるような快楽の中で、冷静な思考が
そろそろ限界が近いのだと伝える。
慶吾は沙雨の奥まで自分のものを差し込んだ。
「出るぞ」
「来い。全部受け止めてやる」
沙雨が不敵に微笑む。
慶吾は右手で沙雨の頭を押さえ、顔を上に向かせた。
その唇に自分の唇を重ねる。沙雨は静かに口付けを受け入れた。
「……!」
身体を貫く衝撃とともに、精を放つ。小さな身体の奥へと。まるで沙雨に吸い出されるよ
うに、大量の精液を吐き出していた。痛みすら覚えるほどの射精感。
数秒か、十数秒か。
慶吾は沙雨の唇から自分の唇を離した。緩い脱力感を覚えながら、なんとなく沙雨の髪
を手で撫でる。汗を吸った黒髪。
舌で唇を舐め、沙雨は満足げにお腹を撫でる。
「随分と出したな」
「沙雨の中が気持ちいいからな」
深い呼吸を繰り返しながら、慶吾は呟く。
「そう言って貰えると嬉しいぞ。では、このまま抜かずに第二ラウンドと行くか。大丈夫だ。
今のお主なら十回くらいは出せる」
沙雨は慶吾を見上げ、微笑んだ。
エピローグ
窓から差し込む朝の光。日曜日の朝は静かだった。
卓袱台に並んだ朝食。白いご飯と味噌汁、卵焼きと醤油、味付けのり。休みの日は朝食
を食べない事が多いが、今日は沙雨に頼まれ作っている。
「今日は普通に動けるな」
わきわきと手を動かしながら、慶吾は正面の沙雨を見つめた。
普通の箸を器用に動かし、ご飯を口に入れている。
「今回は二度目だからちゃんと加減した。アタシの精力も適量渡しているし、体調に目立っ
た変化は起こらぬだろう。同じ失敗は犯さぬ」
醤油を掛けた卵焼きと味噌汁で手早くご飯をかき込んでいく。あまり噛まずに呑み込ん
でいた。沙雨は食べるのがやたらと早い。
あっという間に朝食を平らげてしまう。
「ごちそうさま」
両手を合わせて一礼。
沙雨は時計を見た。朝の七時五十分。
食べ終わった茶碗と皿を重ねてから、椅子から降りる。
「では、そろそろ出発だ」
「もう行くのか、早いな」
卵焼きを箸で切りながら、慶吾は尋ねた。
前回来た時は昼過ぎまで部屋にいた。慶吾が動けなかったので部屋の掃除を押し付け
たりしたのも理由だが。それとは別に今日は急いでいるように見える。
沙雨は駅のある方向に指を向け、
「九時の特急に乗るには、そろそろ出発しなければならん。次来るのは……三ヶ月後くら
いか。その時はまた宿を貸して欲しい」
と、見上げてくる。
その瞳をきらりと輝かせ、
「あと、次はカレーライスが食べたいな。ビーフカレーを頼む」
「調子に乗るな」
慶吾の人差し指が、沙雨の額を弾いた。
以上です
>>654 乙でした。
この雰囲気はやっぱり好きだ。
何となく思ってしまったが、
慶吾が何らかの理由で引っ越しちゃっても
頼りたかったり逢いたいと思ったら
神様だから何とかなっちゃうのかしら?
って。
それとも一人に固執しないで他の誰かを頼ったりするのかなぁ?
とか。
何となく思っただけなのでスルーでおKです。
うちにも来ないかな雨神様
あ、リア嫁の留守にw
>>655 普通に転居先を調べて押しかけると思います
沙雨は日本中を巡るのが仕事ですから、
転居先が国内なら、どこかで必ず近くを通ることになります
また、沙雨にとっても慶吾は特別ですし
GJ!
紗雨ちんマジいいな…
雨神さまにしぼりとられたい…
>>657 レスどうもです。
何かソレ聞いて安心したって云うかホッとしたって云うか、
そんな気分です。
今日猫カフェいったんだが
猫ならぬ妖精カフェなネタをふと妄想した
いかんいかん
妖精カフェ
人の環境破壊によるすむ場所と食料を確保できなくなった羽根付き妖精族。
その代表が、大国の人道的な時の首相に直訴し、人族に養ってもらえるよう交渉。
首相はせめて人権をと申し出たが、代表は政治的事情を鑑み、世間的には話のできるペットとしての地位を約束、締結した。
妖精は導術という一種のテレパシーを用いることができる。
代表はそれで同族の8割の同意を得、総意としてのペットを希望したのだった。
それから1年半。
世の中は妖精族を受け入れた。
当時、認められた瞬間にあちこちから妖精族が姿を現し、はじめのうちは乱獲されたりしていた。
しかし、導術による位置特定、緊急通信により犯人があっさり捕まると、乱獲は目に見えて減る事となる。
また、人にとって妖精族は癒やし効果があるとマスゴミが大々的に報じた結果、
猫カフェならぬ妖精カフェがあちこちに誕生することになる。
これは、1件の妖精カフェの話。
続かない。
この手の妖精姦は絵が無いと面白さが大幅減だわ
663 :
サイハテノマチ:2011/09/26(月) 21:37:12.93 ID:ZHK+3WjX
投下します
664 :
サイハテノマチ:2011/09/26(月) 21:37:33.28 ID:ZHK+3WjX
サイハテノマチ 28話
雨の日の朝
朝、眼が覚めると部屋が少し暗かった。普段な窓から朝日が差し込んでくるのだけど、
今日はそれがない。それにいつもよりも空気が冷える。
外を見ると雨が降っていた。
ここに来てから雨を見るのは、初めてか。
そんな事を思いながら、ベッドテーブルに置いてある小箱を眺めた。ハンカチのような布
団にくるまっている小さな女の子。
「おはよう、イベリス。朝だよ」
「ん……」
イベリスが小さく肩を動かし、片目を開ける。
黒い薄手のワンピースを纏った妖精。身長は二十センチくらいで、見た目の年齢は十代
前半か。腰辺りまである長い銀髪と褐色の肌、薄く開いた目はきれいな赤色だった。背中
からは四枚の金色の羽が伸びている。
「おはよう……」
淡々とした声で、挨拶をした。
イベリスは一度両目を閉じて再び開く。いつもと違う空気を感じたようで、眠そうな瞳を空
に漂わせていた。でも、起き上がって周りを確認しようとする気力は出ないらしい。イベリ
スは朝に弱い。
僕は左手でイベリスを持ち上げ、右手に下ろす。窓の外に指を向けながら、
「昨日から雲行きおかしかったけど、やっぱり今日は雨だよ。雨脚はそんなに強くないけど、
出歩けるほど弱くもないかな?」
窓から見える灰色の空と、雨粒の軌跡。耳を澄ますと雨音が聞こえる。雨脚はそれほど
強くない。でも出歩くには傘が必要だろう。あいにく手元に傘がないので、外に出たら濡れ
てしまう。街で傘を買うか、自分で作るかする必要があるだろう。
小さな布団にくるまったまま、イベリスが窓の外を見ている。
「なら、今日は一日家で大人しくしているのがいい……。多分、夜まで降ってるから」
それだけ言って、身体を丸めた。両目を閉じて、寝息を立て始める。違和感の理由を確
認して眠気を思い出したのだろう。
その肩を指でつつきながら僕は呟いた。
665 :
サイハテノマチ:2011/09/26(月) 21:37:51.30 ID:ZHK+3WjX
「いつもの事だけど、イベリスって朝弱いよね」
「んー」
イベリスが目を覚ましてから動き出すまで一時間くらい掛かる。目覚めのいい僕とは対
照的にイベイスは目覚めが悪い。もっとも寝付きがわるいわけでもなく、寝る時は普通に
寝ている。
― ― ― ―
テーブルの上に寝かせてあるイベリス。布団にくるまったまま、赤い瞳を僕に向けていた。
目蓋を七割くらい下ろした、眠そうな顔で。
いつもの朝の風景だった。
主と従者は常に一緒にいる。その仕事をイベリスは、生真面目にこなそうとしているのだ。
ほとんど一日中イベリスは僕の側にいる。しかし、この朝の時間だけは例外だった。イベリ
スが動けない。
「何食べよう?」
僕は冷蔵庫や棚を長めながら、朝の献立を考える。
栄養バランスとかは、考える意味あるんだろうか? よくそんな事を考える。ここに住人
は文字通り雑食な構造をしていた。主食が本とか、石を好んで食べる人とか、生木囓る人
もいる。そこに栄養バランスも何もないと思う。
「コーヒーが欲しい……」
イベリスの声に振り向くと、イベリスが宙に浮かんでいた。
四枚の金色の羽を広げて、テーブルの二十センチほど上に浮かんでいる。妖精である
イベリスは自由に空が飛べる。しかし、今は頼りなく揺れながら浮かんでいるのが精一杯
のようだった。眠気で浮力の制御ができない様子。
「大丈夫か?」
僕はイベリスに近付き、両手でその身体を支えた。無理に浮かぶのを止め、素直に僕
の手に降りるイベリス。意志と眠気の入り交じった赤い瞳で僕を見上げた。
「大丈夫……。私も少ししっかり起きられるように、努力する」
「無理はしない方がいいぞ」
僕は左手にイベリスを乗せ、右手で背中を軽く撫でる。
666 :
サイハテノマチ:2011/09/26(月) 21:38:07.23 ID:ZHK+3WjX
「主と一緒にいるのは従者の仕事……。眠いからといって、従者の仕事を疎かにしてはい
けない。多少の無理は行うべき」
そう断言して、イベリスは赤い瞳を僕に向ける。眠気や維持、真面目さ、無感情、それら
が混じり合って、異様な迫力を持った眼差しとなっていた。
思わず、僕が仰け反るほどに。
「私はあなたの……従者だから」
伏せられていた四枚の羽が広がった。羽が淡い金色の光を放ち、身体を空中へと浮か
び上げる。魔法とは違うが、何か不思議な力とはアルニの言葉である。
ふらふらと浮き上がるイベリス。気合いとは裏腹に、身体が付いてきていない。
「わかったよ」
僕は両手でイベリスを捕まえた。逃げるわけでもなく、ただ浮かんでいるだけなので、捕
まえるのは造作もない。その小さな身体を、僕の左肩へと下ろす。
「これは?」
イベリスは器用に僕の肩に腰を下ろした。座ったまま、金色の羽を後ろに広げている。こ
ういて肩に座る時は、羽でバランスを取っているらしい。
「従者は主と一緒にいる。これなら一緒にいられるだろう? すぐに寝起き良くなることもな
いから、ゆっくり身体慣らしていこう」
イベリスは、自分が寝惚けている間に僕がどこかに行ってしまわないか不安らしい。こう
して、肩に乗せていれば、その不安は無くなるだろう。
……食事の準備がちょっと大変になるけど。
「分かった。ありがとう」
イベリスはそう答え、僕の頭に身体を預けた。
以上です。
続きはそのうち
寝起き頑張るイベリス可愛いわ〜。
可愛いわ〜
肩に乗せるのは割とロマンだよな
頭に乗せるとギャグ風味
保守っておきます
672 :
サイハテノマチ:2011/10/11(火) 21:29:11.84 ID:Wf0phY1F
投下します
673 :
サイハテノマチ:2011/10/11(火) 21:29:36.70 ID:Wf0phY1F
サイハテノマチ
29話 冷たい空気
しとしとと雨が降っている。
窓から見える外の風景。いつもより灰色で、湿っぽい。
「寒いなぁ」
台所の椅子に座って本を読みながら、僕は腕を撫でた。微かに鳥肌が立っている。前に
最果ての果てに行った事があるけど、あれは寒すぎてかえって寒さが解らない。今は身に
染みる肌寒さだった。
「雨の影響で気温が下がっている」
テーブルに座ったまま、窓の外を見るイベリス。
寝間着から普段着に着替えている。大きな三角帽子を被り、黒い上着とケープ、スカート
という格好だった。傍らには鈍い金色の杖が置いてある。絵本に出てくる魔法使いのよう
だった。魔法の類は使えないようだけど。
「上着を羽織った方がいい。身体を冷すと風邪を引いてしまう」
イベリスの赤い瞳が僕を見る。
心配しているようなそうでもないような、事務的な口調だった。
半袖の上着と茶色いベスト、灰色のズボンという秋服。それが僕の服装だった。涼しい
時はいいけど、こう肌寒いとさすがに冷える。
僕は本を置き、椅子から立ち上がり、クローゼットへと向かう。大きな木のクローゼット。
僕がここに来た時からあるものだ。備え付けの備品らしい。
扉を開けて、並んだ服を眺める。
「これでいかな?」
取り出したのは長袖の上着だった。やや厚手の素地で、茶色に染めてある。僕の着て
いるベストに似た素材だ。ベストを脱いで上着を羽織る。うん、暖かい。
「これで、よし」
ベストをハンガーにかけてクローゼットに戻す。これは後で洗濯しておこう。
テーブルに戻ってから、読みかけの本に手を伸ばし、
「イベリスはその恰好で寒くない?」
ふとイベリスを眺める。
イベリスは両足を伸ばして腰を下ろしていた。ぼんやりと赤い瞳を窓の外に向け、両手
で金色の杖を抱えるように握っている。何もせずにどこかを眺めている事が多い。袖から
覗く腕や、スカートから見える脚やどこか寒そうだ。
数拍置いてから、僕に顔を向けてくる。
674 :
サイハテノマチ:2011/10/11(火) 21:30:41.15 ID:Wf0phY1F
「私はあまり温度差を感じない。多少寒くても、特に問題は――くしゅ」
小さくくしゃみ。
さすがに寒いらしい。
でもイベリスは鼻を手で撫で、何事もなかったような顔をしている。
「見栄張らないの。おいで、イベリス」
僕は両手を伸ばして、イベリスを持ち上げた。両手に掛かる、微かな重さ。硬貨数枚分
だろう。大きさの割に軽い。まるで布でできた人形のようだ。それでいて、生物特有の柔ら
かさもある。不思議なものだ。
感心しながら、僕は上着の胸元にイベリスを入れた。
「ここなら少し暖かいんじゃないか?」
襟元から肩から上を出している。右手に杖を持ち、左手でずれかけた三角帽子を直した。
羽は左右に広げている。
「ありがとう。暖かい」
返事は淡泊だった。本人が暖かいと言っているので、暖かいのだろう。イベリスは嘘をつ
く事はない。言った言葉は本心だろう。
僕は椅子に座り、本を手に取った。
「食べられる植物――」
イベリスが表題を読み上げる。落ちないように三角帽子のツバを手で押さえ、僕を見上
げてきた。感情は映っていないが、どこか不思議そうだった。
「食べるの? 私たちはここにあるものなら何でも食べられるのに」
「知っておくと便利かな、と思って」
苦笑いとともに、僕は答えた。
制限の無い食事。例え無機物質だろうと普通に食べられる。そのルール。それは、僕た
ちに"人"であることを辞めさせる試金石のように見えた。ここで食べ物以外のものを口に
するのが、僕はちょっと怖い。
ぞくり、と。
背筋を撫でる寒さに、僕は肩を竦める。
「寒いな」
襟元に入っていたイベリスが、上着から抜け出した。襟元を両手で掴み、自分の身体を
外に引っ張り出し、四枚の羽を広げて空中へと浮かび上がる。
「でも、おかしい……。まだ、こんなに気温が下がる時期じゃないのに」
675 :
サイハテノマチ:2011/10/11(火) 21:31:03.52 ID:Wf0phY1F
赤い瞳を天井や床に向けていた。
気温が下がってきている。さっきまではただ肌寒いだけだったのに、なんかはっきりと寒
くなっていた。二、三時間で気温が一気に下がったような。
「ん――?」
窓の外を見て、僕は瞬きをした。
椅子から立ち上がり、窓辺まで移動。イベリスも一緒についてくる。
「みぞれになってないか、これ?」
さきほどまで降っていた雨。それが少し大きくなっている。雨粒ではなく小さな氷と水の塊。
地面におちた滴には、小さな氷の結晶が混じっていた。みぞれ。
みぞれが少しづつ固まっていくように思えた。
「雪? 雪にはまだ早いのに……どうして?」
イベリスが窓の外のみぞれを見ている。
従者であるイベリスには、この最果ての気候が知識として存在するらしい。その知識で
は雪が降るのはもっと遅く。なのに、既に雪が降り始めようとしている。
……異常気象ってヤツかな?
他人事のように考えていると、入り口のドアがノックされた。
「おーい、ハイロ、いるかー?」
以上です
続きはそのうち
OCN規制でwktkできないとな
携帯からwktk
678 :
名無しさん@ピンキー:2011/10/15(土) 10:30:35.74 ID:6eRP4KNI
保守なのです。
続きは気長に待っているのです。
680 :
サイハテノマチ:2011/10/24(月) 20:54:16.85 ID:vrV2M8ac
投下します
681 :
サイハテノマチ:2011/10/24(月) 20:54:43.53 ID:vrV2M8ac
サイハテノマチ
30話 冬への準備
「失礼するぞ」
入り口のドアを開けて入ってきたのは、黒い狼だった。
体高は六十センチくらい。黒い毛に覆われた身体で、お腹側は白っぽい。頭からは髪の
毛を思わせる長いタテガミが伸びていた。毛首と四本の脚には、鋼鉄製らしい金属の輪
がはめられている。
隣に住んでいる狼のクロノだ。毛に雪の結晶が付いている。
ドアの外では音もなく雪が降り続けている。
寒い……。
ばたりとドアが閉まった。
「こんにちハ」
クロノ背に乗った少女が右手を挙げる。身長六十センチくらいの女の子。
外見年齢十代半ば。無感情で機械的な黄色い右目で、左目は白い眼帯に覆われてい
る。ショートカットの紫色の髪の毛。服装は丈の長い薄紫色の上着に白いショートパンツで、
あちこちに歯車が意匠されている。
クロノの主であるシデン。
シデンを背に乗せたまま、クロノは部屋の奥に進んだ。
「様子見に来た。この時期にここまで気温下がるのは、予想外だったから。お前は新人だ
し、戸惑ってるかもしれないと思ってな。困った事があったら気にせず聞いてくれ。できる
限り協力するよ」
窓の外を見る。雨音はしなくなったけど、白い雪が音もなく落ちていた。
左右に揺れている黒い尻尾。ちょっと掴みたい衝動が湧き出すけど、自重する。
意識を逸らすように、僕はクロノの背に乗るシデンを見る。
「シデンは寒くないのか? 長ズボンくらいは穿いた方がいいと思うけど」
黄色い瞳を向けてくるシデン。
紫のコートに白いショートパンツと、白いブーツ。素地は厚手だが、お腹からへそが見え
ていたり、太股が剥き出しだったり。微妙に露出度が高い服装。それは、つまり冷たい空
気に触れる面積が多いということである。
しかし、シデンは首を左右に動かした。
「大丈夫。そんなに寒くはなイ。ワタシはあなたたちとハ、身体の仕組みが違うカラ。寒くて
も、身体の動きに支障を来すことはナイ」
え?
何か引っかかる事を言ったけど、どういうこだ――?
682 :
サイハテノマチ:2011/10/24(月) 20:54:58.62 ID:vrV2M8ac
そんな疑問を余所に、シデンの黄色い瞳が、僕の胸元に向けられている。無感情で淡
々とした眼差し。上着の襟元に潜り込んだイベリスを見つめていた。
「あなたは暖かそウ」
「彼の体温を感じることができるから、とても暖かい。自由に動けないのは困るけど、しば
らくこうしていようと思う」
胸元のイベリスがシデンに応える。
シデンはクロノの頭を手で撫でてから、
「羨ましいカモ」
そう頷く。その言葉がどのような意味を持つのか。感情を映さない表情から、読み取るこ
とはできなかった。
「そろそろいいか?」
クロノが口を開いた。
シデンがクロノの背から降り、近くの椅子を引いて、その上に座った。先日まで首輪と鎖
で繋がっていたが、いつの間にか外したらしい。
イベリスが口を開く。
「ここでは雪が降り出すのはもう少し後だと、私の知識にはある。でも、こうして雪が降って
いる。どういう事?」
「おそらくは、ロアとアルニだろうな」
クロノは一度目を閉じてから、天井を――天井の向こうにある空を見上げた。
「あいつらが入って来た事で、ここの最果てを少し歪ませちまったらしい。この雪と寒さは、
その影響の産物だ。一ヶ月、冬が速くやってきたみたいだ」
目蓋を下ろし、クロノはため息を付いた。
この最果ては結界のようなもので覆われ、外界の猛吹雪と隔絶している。ロアたちはそ
の結界を抜け、最果てに入ってきた。その時に外の冷気を連れてきてしまったのかもしれ
ない。僕はそのような理由だと考えた。
「多分、これからもっと寒くなル。だから暖かい服を着た方がいイ」
椅子に座ったシデンが、クローゼットに人差し指を向ける。
「冬服は一番下に入っていル」
普段は使わないクローゼット一番下の引き出し。以前見た時は、冬用のコートや服など
が納められていた。おそらく一番最初にシデンが用意したのだろう。
683 :
サイハテノマチ:2011/10/24(月) 20:55:12.01 ID:vrV2M8ac
「あなたたちは冬服は着ないの?」
イベリスが赤い瞳でシデンとクロノを見る。
クロノは後足で首元を掻いてから、得意げに笑ってみせた。
「オレは寒さには強いんだよ。毛皮あるし」
「ワタシは平気」
シデンの答えは短い。
平気と意って平気なものなんだろうか?
「お嬢は平気だよ」
僕の考えを読んだように、クロノが口を開いた。呆れたような諦めたような、そんな口調
である。黒い瞳を明後日に向けながら、乾いた笑みを浮かべ、
「雪降ってる夜に、身体に雪積もるくらい外で突っ立ってたこともあるからな」
シデンを見ると、何故か得意げに胸を張ってみせた。事実らしい。
もしかしたら、シデンは寒さを感じないのかもしれない。寒いという感覚はあるけど、それ
が苦痛にはならないし、寒さが原因で体機能が低下することもない。
僕の空想を余所に、クロノはてきぱきと行動していた。
「それより、ストーブ出すぞ」
「ストーブ?」
木や木炭、油などをもやして熱を作り出す、暖房器具。寒くなる以上、そういうものがあ
るとありがたい。でも、この家にそういうものは無かったと思う。
「一応用意はしてあるから、手伝え」
クロノは床の板を一枚剥がし、口で取っ手を引っ張り出した。
以上です
続きはそのうち
ワクテカGJ!
保守
688 :
サイハテノマチ:2011/11/13(日) 20:35:04.56 ID:GtrmayiZ
投下します
689 :
サイハテノマチ:2011/11/13(日) 20:35:25.54 ID:GtrmayiZ
サイハテノマチ
第31話 雪は積もり始める
クロノが床下から引っ張り出したストーブ。
白い台の上に、ガラスの円筒があり、ガラス内部では赤い石が強い熱を発していた。熱
を作り出す石らしい。燃料が燃えているわけではないようだった。その熱を反射させる金
属の鏡と、手が触れないように作られた金網。
煙突などは付いていない。
「……不思議なストーブだ」
僕は椅子に座ってストーブを眺めていた。
僕の知識にある"ストーブ"には似ているけど、そっちは油やガスを燃やして熱を発生さ
せるもの。このストーブのように、直接熱源を置くようなものじゃない。
「ここにあるものに付いて深く考えても意味はないぞ。そういうものだ」
ストーブの前に陣取ったクロノ。
床に敷かれた絨毯に寝そべり、ストーブの熱を全身で受け止めている。前足の上に顎
を伸せ、両目を瞑っていた。力を抜いた尻尾がゆらゆらと左右に揺れている。
これはしばらく動かないだろう……。
「暖かい」
ストーブの近くに浮かんだイベリスが、熱を放つ赤い石を眺めていた。
「これなら冬の間も安心できる」
「ねエ」
ふと目を向けると、シデンがいた。
隣の椅子に立っている。左目を隠す白い眼帯。黄色い右目で僕を見ていた。
「この間の約束。あなたの肩にワタシを乗せルという約束。あなたの肩に乗ってみたイ」
少し前にロアに身体を揺らさない歩き方を教えて貰った。そのおかげでイベリスを肩に
乗せて歩けるようになった。その様子を見ていたシデンが肩に乗りたいと言っていたこと
を思い出す。約束をしたのは、僕ではなくイベリスなんだけけど。
「今?」
「今」
シデンが即答する。
それに答えたのは、イベリスだった。
690 :
サイハテノマチ:2011/11/13(日) 20:35:46.21 ID:GtrmayiZ
赤い瞳をシデンに向け、三角帽子のツバを撫でる。
「構わない」
「ありがとウ」
頷くシデン。
それは、僕がするべき返事じゃないかな?
ため息混じりにイベリスを見るが、赤い瞳を向けてくるだけだった。
シデンが動く。自分が立っている椅子を蹴って一度跳んでから、僕の座っている椅子の
背を踏み台に、僕の肩に両足をかける。肩車の体勢。
「うん。いい感ジ」
両手を僕の頭に乗せ、そう呟いている。
クロノが片目を開けていた。目蓋を半分くらい持ち上げ、黒い瞳で僕を見る。前脚で顔
を擦ってから、宙に浮かんでいるイベリスに目をやった。
「イベリスは俺の上に乗ってていいぞ。飛んでるよりは楽だろうし、お嬢の評価じゃ九十八
点らしい。どういう基準なのかは俺も分からないけどな」
「お言葉に甘えさせてもらう」
指で三角帽子を動かし、イベリスはクロノの頭に降りる。たてがみのような黒い毛。両足
を伸ばして頭に座り、ぼんやりとストーブを眺めていた。
僕は椅子から立ち上がった。
窓の近くへと歩いていく。身体をあまり揺らさないように。ロアの歩き方を真似したもので、
普通に歩くのとは少し違う足の動かし方だ。重心を安定させて移動する、格闘の技術らしい。
それを僕が使えるのは、そういう事をやっていたからなんだろう。
「本当に揺れなイ」
シデンが感心したように頷いている。
窓の外に見える景色は白く染まっていた。地面や木々、柵や石まで。空は灰色で、雨雲
のようにむらもない。音もなく降り続ける雪が、全てを覆っていく。
「もう積もってるな」
「いつもの初雪は五センチくらい積もル。でも今年はどうなるか分からなイ。すぐにやむか
もしれなイ。もっと積もるかもしれナイ」
窓に映るシデンの顔。僕の肩に乗ったまま、じっと外を見つめている。感情を映さぬ顔と
淡々とした瞳。人形的というか、機械的というか不思議な感じだ。
691 :
サイハテノマチ:2011/11/13(日) 20:36:07.15 ID:GtrmayiZ
「シデンって、ここに来てどれくらい経つんだ?」
僕はそう訊いてみた。
「七年目」
簡潔な答えが返ってくる。
窓の外では雪が降り続けていた。雨とは違い、音は無い。白い雪の結晶が静かに落ち、
地面に積もっていく。窓辺に落ちた雪は部屋の温度で溶けているけど。
落ちていく雪。積もっていく雪……。
「ここに住んでいる人って、最後にはどうなるんだろう?」
あまりそういう事を話す事はないけど、気にはなる。これから先、僕がどうなるのか。単
純に訊くのが怖いというのもあったけど。
「分からなイ。成長もしないし、老化もしなイ、死ぬこともなイ。一番古い人は、百年以上こ
こにいる。ずっと静かに暮らしていル」
シデンが振り返る。
ストーブの前で寝そべっているクロノと、その頭の上に座っているイベリス。主と従者。こ
こにはそんなシステムがある。いつも僕の近くにいるイベリス。まるで僕を監視しているよ
うでもあった。
「まるで死後の世界――だ」
「そうなのかもしれなイ」
シデンは否定もせずに頷いている。
以上です
続きはそのうち
まったりと続けて下さいGJ!
694 :
サイハテノマチ:2011/12/04(日) 21:49:20.13 ID:NQF49b4L
投下します
695 :
サイハテノマチ:2011/12/04(日) 21:49:39.42 ID:NQF49b4L
サイハテノマチ
第32話 雪夜の記憶
厚い雲が夜の空を覆っている。
しかし、地面に積もった雪が白く浮かび上がっていた。家の明かりなどを、雪が反射して
言う。漆黒の空と薄く輝く地面。昼待ちは違った幻想的な風景だった。
「さすがに寒い……」
帽子とコートを身に纏い、僕はどこへとなく歩いていく。
足を動かすたびに、雪を踏むくぐもった音がしていた。行き先は無い。ただ、森の中を
気の向くままに歩いているだけである。雪の日の夜。なんとなく散歩したくなり、好奇心の
まま外を歩き回っていた。
「雪は止んだけど、もう夜だから。寒いのは当たり前」
コートの襟元からイベリスが頭を出している。
さすがに冬着を着ても、外に出ているのは寒いようだ。僕だって厚着しているのに、身
体の芯に染み込むような寒さがある。身体の小さいイベリスは、それ以上に寒さを感じる
のかもしれない。
一度足を止め、僕は西を見た。いくつもの大木が並んでいるため奥は見えないが、西に
行くと最果ての果てがある。最果てと外との境界。
「元々ここって猛吹雪の雪原の中なんだよな。普段あんまり気にしてないけど」
以前、シデンとクロノと一緒に眺めた吹雪の壁。最果ての世界の周囲は猛吹雪の世界
になっている。普通の方法では外に出ることは不可能。逆に、外から入ってくることも難し
いだろう。
「僕――というか、ここに住んでる人ってどこから来たんだろう?」
それなのに、何故かここは人の住める環境があり、僕やシデンのような住人が暮らして
いる。誰かがそのように作ったのだろう。
イベリスの淡泊な答えが返ってくる。
「私は知らない。あなたたちがどこから来たのか、その知識を持っていない。ここの住人
は突然ここに現れる。そういうもの」
冷たい風が頬を撫でる。喉や肺に小さく痛みを感じるほど冷たい空気。
眼が覚めた時は、神殿のベッドの上。それ以前の記憶は無い。イベリスも僕がここに来
ると同時か、その直前に作られたようである。本人が言ったわけではなく、これは僕の想
像だけど、そう大きく間違ってはいないだろう。
696 :
サイハテノマチ:2011/12/04(日) 21:49:58.91 ID:NQF49b4L
吐き出した息が白い靄となって空気に溶ける。
「ロアとアルニは外から来た。外に世界が無いわけでもない。出る方法が無いわけでもな
さそうだ。ロアたちはいずれ出て行くだろうし」
「でも、最果ての住人が外に出ることはできない。そういうルールだから」
外の世界から来た剣士と妖精の女の子。それは、吹雪のさらに外にある世界を意味し
ている。その世界と、この最果てが行き来可能なことも。
しかし、最果ての住人は外には出られない。
そういうルールだ。
この最果ての住人はルールに縛られ、ルールに守られている。
「出られない理由って何だろうな? あの吹雪の中に飛び出しても、多分死ぬけど」
僕は一度腰を屈め、右手で雪をつかみ取った。
無数の氷が集まった白い綿のような雪。何もしなければただの冷たい粉。だけど、雪が
風と組み合わされば、視界と体温を奪う凶器と化す。この最果てを抜け出すには、最低
限猛吹雪の領域を越える必要がある。
僕は雪を軽く握り締め、放り投げる。
雪玉が木の幹にぶつかり爆ぜた。
「わからない」
イベリスの答えは短い。
いくらか迷ってから、僕は口を開いた。
「ここの住人が過去の事を思い出すって珍しいのか?」
返事は無い。
コートの襟に手を掛け、イベリスが外へと身体を引っ張り出した。金色の四枚の羽を広
げ、僕の視線の先へと移動する。赤い瞳が真っ直ぐに僕を見据えていた。
「時々あることとは聞く。でも、過去を思い出した人はいない」
僕は息を止め、イベリスから目を離す。
「こういう景色に見覚えがあるような気がする」
月明かりも星明かりもない漆黒の空。立ち並ぶ木々。厚く積もった雪。微かな光を受け
て、淡く浮かび上がる雪明かり。肌に刺さるような寒さ。音のない白黒の闇の世界。
「ここじゃないけど、どこかで僕はこんな雪の夜を見たことがある。詳しくは思い出せない
けど、僕はここに来る前に雪の夜を見ていた気がする」
「………」
697 :
サイハテノマチ:2011/12/04(日) 21:50:16.05 ID:NQF49b4L
イベリスは無言で三角帽子を動かした。
赤い瞳を空に向け、地面に向け、口を開く。
「森の住人が、過去の記憶を思い出すことはない」
声に見える緊張。森の住人、主と従者。従者は主に付き従い、主の生活を手助けする
ことを役割としている。予想はしていたけど、知識の量は従者の方が多い。そして、従者
は主が本来知るべきでないことも知っている。
「でも、絶対に無いわけではない」
小声で、イベリスは続けた。
「もし、あなたが過去の記憶を思い出したら……おそらく、この最果てにはいられなくなる
と思う。私もあなたとは一緒にいられなくなってしまう」
赤い瞳は、静かに僕を見据えていた。
数秒ほど、お互いに見つめあってから。
僕はそっと右手を差し出した。
「帰ろうか。寒いし」
「そうね」
イベリスが羽を動かし、手の平に降りる。
僕はコートの襟元にイベリスを入れ、家に向かって歩き出した。
以上です
続きはそのうち
従者も不思議な存在だなあ
この世界に主人がやって来るのに合わせて
誕生するのだろうか
保守
書きたいのに書けない
無理すんな
703 :
一尺三寸福ノ神:2011/12/28(水) 19:35:20.60 ID:ufF4zrn6
投下します
704 :
一尺三寸福ノ神:2011/12/28(水) 19:35:44.57 ID:ufF4zrn6
一尺三寸福ノ神 後日談
ある冬の日の夜
蛍光灯の照らす室内。
閉められたカーテンを少し開け、琴音が窓の外を見ていた。夜の九時。暖房の効いた
部屋は暖かいが、肌を撫でる冷たさがある。外はかなり寒いだろう。
「今日は冷えるのだ」
カーテンから手を放し、琴音が振り返ってきた。
身長四十センチくらいの女の子である。見た目の年齢は十代後半くらい。赤いリボンで
縛ったポニーテイルの銀髪、赤い瞳には気の強そうな光が映っている。赤い着物は、袖と
胴部分が分かれ、隙間から白い襦袢が見えた。黒い行灯袴と足袋と草履。首には神霊と
書かれた白いお守りを下げている。
レポート用紙に走らせていたシャーペンを起き、一樹は眼鏡を動かした。レポートを綴じ
てから、窓を見る。
「一月の半ばだからね。それに、寒気が流れ込んでるって天気予報でも言ってたし。日本
海側じゃ大雪降ってるし。暖房付けてても寒いよ」
西高東低の冬型。寒気が流れ込み、日本海側では大雪。この冬一番の冷え込みであ
る。日本海側は北海道から九州まで大雪とニュースになっていた。
ようするに寒い。
フローリングを琴音が歩いてくる。
「オレはまだ本物の雪を見たことないのだ。小森一樹、お前は見たことあるのか?」
机の横まで歩いて来てから、床を蹴った。
猫のような俊敏さで跳び上がる。一樹が座っている椅子の縁を蹴ってから、机の縁に腰
を下ろした。机に置かれたレポート用紙と参考書を見て少し眉を寄せる。
一樹はカーテンを見た。今日も天気は晴れである。
「今年はまだ見てないけど、雪なら何度も見てるよ。関東地方は滅多に降らないけど、そ
れでも年に二回くらいは降ったりするからね」
「むぅ。降るだけではつまらないのだ……」
銀色の髪を手で梳き、両足を動かしている。
「積もるのは数年に一回くらいだね。二年前だったかな? 二月に大雪が降ってね。窓を
開けると、静かな白と黒の世界。あれはきれいだった。でも、交通機関が止まったり寒か
ったり、大変だけどね」
左手を持ち上げ、一樹は笑った。
冬の太平洋側は毎日晴れだが、雪が降るときは降る。単純に降るだけなら年に一回か
二回かはあるだろう。積もることは少ない。数センチ以上の積雪は数年に一度。一樹の
記憶にある大雪は四回だった。
705 :
一尺三寸福ノ神:2011/12/28(水) 19:36:02.23 ID:ufF4zrn6
琴音は両腕を組み、目蓋を少し落とし、赤い瞳を一樹に向ける。
「羨ましいのだ……。積もった雪は、オレも見てみたいのだ。写真やテレビじゃ見るだけじ
ゃ、つまらないのだ。でも、さすがに雪は降らせられないのだ……」
自分の手を見つめた。
琴音の話によると、空の神ならば自由に天候を操れるらしい。積もるほどの雪を降らせ
ることも可能だろう。人間にも天候操作ができる者もいるとかいないとか。一般人には
像が付かない世界だ。
眼鏡を動かし、一樹は天井を見る。
「積もった雪見るなら、山の方に行かないと」
この時期、少し高い山に行けば大抵雪が積もっている。
「山……」
琴音は瞬きしながら、そう呟いた。
それから、小さく吐息。肩を落として呻く。
「そういえば、あのアホ狼は山神なのだ」
琴音がアホ狼と呼ぶ、山神の大前仙治。鈴音琴音の依代であるお守りを作り、紆余曲
折あってそれを一樹に渡した男。山神の仕事は霊的な意味での山の管理らしい。私用な
どでこっちに出張に来ることもあるようだった。
一樹も何度か直接話をしたり、手紙のやりとりをしたりしている。
「茨城の山奥って聞いてたけど、そっちなら積もってるんじゃないかな?」
頭の中に北関東の地図を広げ、空気の流れを予想する。福島県や栃木県に近い山な
ら、豪雪というほどではないが、十分雪は降るだろう。
「雪の写真送って欲しいって連絡入れれば送ってくれるかも。……あの人のことだから、
雪を箱詰めにしてクール便で送ってきそうだけど」
そう苦笑いをした。思いついた事をそのまま実行してしまう。仙治はそういう性格だと、
一樹は認識していた。それで余計な災厄を招きやすいようだ。
琴音は腕組みをしたまま、仰々しく頷く。
「やりそうなのだ。というか、絶対やるのだ」
「雪は気長に降るまで待つしかないよ」
一樹はそう言って、窓を指差した。
706 :
一尺三寸福ノ神:2011/12/28(水) 19:36:15.20 ID:ufF4zrn6
冬になれば一回くらいは降るものだ。運が良ければ、いや運が悪ければ大雪となって
交通機能が止まったりする。一樹たちは大人しく待つしかない。
「分かったのだ」
琴音が頷く。
一樹は時計を見た。午後十時半。レポートはおおむね終わらせたし、今日は急いでや
ることもない。明日はいつも通りの予定だ。
「そろそろ寝ようか」
「寝る時間なのだ」
呟いて、琴音がリボンを外した。結い上げていた銀髪が、背中に流れる。微かな音が聞
こえた。解いたリボンを袖に閉まってから、両手を持ち上げる。
一樹は琴音の腋に両手を差し入れ、人形のような身体を抱え上げた。小さく軽い身体で
ある。重さは一キロもない。柔らかく暖かい抱き心地。
「ぬいぐるみみたいだよな」
「オレはぬいぐるみじゃないのだ」
一樹の呟きに、琴音がそう言い返した。
以上です。
続きはそのうち
どうすれば福の神が我が家に来るのか(´・ω・`)
遅くなったけど続きを待ちつつ
あけおめで保守。
無駄に長い&駄文注意。
一応微スカ、特殊性癖あり。
森を歩いていると、地面で何やら苦しんでいる妖精さんを見つけた。
衣服の一部……主に下半身の部分が溶かされ、白濁の水たまりに浸かっている。
お腹も膨らんでいる。触手に襲われたのだろうか。この時期にしては珍しい。
優しく拾いあげると、言葉は分からないものの助けを視線で訴えている…気がした。
森の奥に用事があったのだが…仕方ない。また後日に回そう。
俺以外に誰も住んでいない寂しい家の戸を開けて、妖精さんを窓際に置いてやる。
仕事用の棚から妖精さん用の治療セットを取り出す。
近所の金持ち貴族の道楽の為に覚えた技術が約に立つとは思いもよらなかった。
おもちゃのように弄び、病気になったら俺のとこへ押し付けるように持ってくる。
全く、あそこの妖精さんは可哀想で仕方がない。
しかし、医療費として受け取るお金が、家計の大きな足しになっている。
善人面はできない。俺も奴らと同罪だ。
───閑話休題。今はそんなことよりあの妖精さんを救わなくては。
ゴム手袋を嵌めて、消毒用のアルコールをまぶす。
滅菌包装されたパックを破り、細いチューブを取り出した。
片手で妖精さんの身体を押さえると同時に、秘部を割り開く。
綺麗なピンク色から、黄色く変色した白濁がごぷっと溢れてくる。
「──────。」
妖精さんは、自分を救ってくれる人だと認識してくれているのだろう。
喋りはしないが、暴れもしない。とてもいい子だ。
さすがにチューブを近づけると、怖いのかきゅっと目を瞑ったが。
麻酔の混ざった潤滑剤をしっかり塗りつけ、チューブの先端を尿道へ挿入する。
「───────っ!!」
きっと、鋭い痛みだろう。悲鳴からなんとなくわかる。
触手の中には、尿道を好む者もそれなりの割合でいる。穴の区別が付いていないだけかもしれないが。
卵を産み付けられなくとも、粘ついた精液は排出されず、腐り、膀胱を痛めることがある。
そのために、膀胱を洗浄する必要があるのだ。悲鳴には耳をふさぐ他ない。
シリンジを押し込むと、チューブを洗浄液が伝い、膀胱を膨らませる。
そしてシリンジを引くと、おしっこや精液混じりの液体が吸い出される。
他人の意思で尿意の圧が変化するのはさぞかし新鮮に違いない。
実際、シリンジのピストンの動きに合わせて妖精さんの身が縮こまるのは、可哀想だが少し面白かった。
案の定、同じ動作を数回繰り返せば透明だった洗浄液が、真っ白に濁った。
仕上げに洗浄液を新しい物と替えて、もう一度繰り返せば、普通はそれで終わりだ。
今日は、この後の為にぬるま湯を膀胱がいっぱいになるまで注入する。
巷ではオナホール用に不法に販売されているほど、妖精さんの身体は柔軟で丈夫なのだが、
それはあくまでも「大丈夫」だという話。不用意に傷つける必要は無い。
1mlの差で無用に妖精さんが苦しむ可能性もあるので、慎重に様子を伺ってピストンを押す。
……少し深呼吸をしているが、苦しそうな様子は無い。よかった。
次は腸内の洗浄である。後ろを先にすれば、腹圧で膣内の精液も大部分が排出される。一石二鳥だ。
基本的には、人間で言う浣腸だ。市販のミニチュアサイズの妖精さん用浣腸薬を使えばいい。
「!!…っ!」
菊門に浣腸薬のノズルが触れた瞬間、抵抗された。本来、性交と関係ない不浄の穴だから無理もない。
この子のためだ。心を鬼にして押さえる手に力をこめた。
まるでガラス細工。これ以上力を込めたら壊れてしまいまそうと錯覚してしまう。
手が震え始める前に、浣腸液を絞り切るように腸内へ流し込んだ。
薬液の触れた腸壁が収縮を繰り返し、激しい便意を訴え始める。
妖精さんのお腹がぐるぐる鳴っているのが何よりの証拠である。
ステンレス製のシャーレを隣に置くと、その意味を理解したのだろう。
顔を真っ赤にして、こちらへ抗議の視線を向けてきた。
この辺りも、人間と変わりはしないようだ。
生憎妖精さん用のトイレは無いし、人間のものを使って溺れられても困る。
どうやって伝えるか悩んでいるうちに、妖精さんが限界に達した。
肩をぷるぷる震わせて、背中をこちらに向け、少々下品な音を立ててシャーレに吐き出された。
幸い(?)なことに目視では99%が浣腸液と触手の精液だった。
菊門がひくついているうちに、こちらにもぬるま湯を注入する。
これは身体の内側を暖め、子宮内に産み付けられた卵を産ませるためだ。
無理に卵を剥がすと、子宮を傷付けて最悪、子を成せない身体になってしまう。
まだ幼さそうなこの妖精さん。それはあまりにも残酷だろう。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!」
ふぅ、と一息付いた瞬間、甲高い、嬌声のような悲鳴が上がった。
慌てて見上げればイクラをそのまま大きくしたような卵が妖精さんの秘裂をみちみちと広げていた
しまった!思ったよりも早い!
だが産み始めた以上、終わるまで俺にはどうすることもできない。
てっきり妖精さんは苦しいのだと思ったら、そうではなかった。
口はだらしなく半開きで、なんというか……愉悦に満ちた恍惚とした表情を浮かべていた。
膝を震わせ、体液をシャーレに噴き出し、絶頂しているように見える。
ふと、妖精さんにとって出産は最高の幸せ、という話を聞いたのを思い出した。
……………なるほど、そういう意味だったのか。
小一時間後、13個の卵を全て産卵し終え、妖精さんはくったりとへたっていた。
その間俺はと言うと、余りに生々しく艶かしい出産ショーに見蕩れていた。
正直、股間の愚息もはちきれんほどにいきり立ってしまっている。
……しっかりしろ、俺!両頬を叩き、邪な考えを捨てる。
触手の卵を瓶にぶち込み、しっかりと蓋を閉めた。あとで焼却処分しよう。
最後の治療工程は、子宮の消毒だ。
綿棒が一番手軽で、都合がいい。
専用の消毒液を綿に染み込ませて、妖精さんの子宮へ挿入する。
出産直後で頸部が開き切り、抵抗無く、ぬるんと呑み込まれるようだった。
すると、びくん!と妖精さんの身体が仰け反った。
危ない危ない。暴れられて、一番大事な子宮を傷つける所であった。
先ほどまでと同じように、片手で抑えて、治療を続行する。
にゅるっ、にゅりんっ……、ずるっ
愛撫するように緩やかに綿棒を回したり、動かしたり。
いやらしい粘り気のある音と、妖精さんの嬌声が混じり始めるが、無心で続ける。
………ずりゅんっ
「っ゙っ゙っ゙─────────!!!!!!!」
突然、獣のような絶叫を上げて妖精さんの身体が痙攣した。
やばい、やりすぎた!?……慌てて、でも慎重に、綿棒を引抜いた。
綿の部分にはヨーグルト状の白濁した粘液がべっとり付着している。
妖精さんは顔を真っ赤にしたまま、よだれを垂らして、いわゆるアヘ顔状態で気絶していた。
あー………やっちまった。
頭をぼりぼり引っ掻いてから、妖精さんをクッションに寝かせ、治療用具を片付け始める。
とりあえず治療は終わった。結果オーライにしたいが……妖精さんはどう思っているのだろうか。
─────翌朝、窓を開き、ジェスチャーでもうどこにでも行っていいよ、と伝えようとする。
何度も同じジェスチャーをすると、漸く意味を理解したようだ。
しかし、その答えは、首を横に振ることだった。
人間も妖精も、多分、これの意味するところは共通だろう。
とろんとした瞳で、こちらに熱い視線を送ってきたかと思うと、
羽をはためかせ、俺の胸ポケットへ入り込んだ。
はぁ……参った。こいつは頑固そうだ。
…………………妖精の食費って、月いくら掛かるんだ……?
乙
>>710 乙。
自分の中では何か目新しく感じたわ。
716 :
一尺三寸福ノ神:2012/01/15(日) 22:24:32.91 ID:Iq/7ZVOE
投下します
717 :
一尺三寸福ノ神:2012/01/15(日) 22:25:00.59 ID:Iq/7ZVOE
一尺三寸福ノ神
第46話 布団の中で
小さな琴音の身体。身長は四十センチくらいしかないので、枕を抱えているようなものだ
った。寝る時に何かを抱きかかえるということは、不思議と安心できる。
右を向いたまま、左腕に琴音の頭を乗せ、右手で小さな身体を抱える。
「布団の中なのに、あんまり暖かくないのだ」
一樹の腕に触れながら、琴音は白い眉を寄せた。
「今日は寒いしね。暖かくなるまで時間はかかるよ」
電気の消えた部屋を眺め、一樹はそう答えた。
布団の中はまだ冷たい。暖房を付けていたとはいえ、布団まで暖まるわけではない。体
温で暖かくなるまでは数分かかる。しかし、その僅かな冷たさもいいものだと、一樹は考え
ていた。
琴音が見上げてきた。赤い瞳で一樹を見つめ、軽く頷く。
「オレたちがここに来てから随分時間が経ったのだ」
小さな手を、握って開く。
一樹は頭の中にカレンダーを思い浮かべた。
「鈴音がうちに来たのが十月の終わりで、琴音が出てきたのが十一月の半ばくらい」
大前仙治を交番に連れていきお礼に貰ったお守り。そこから鈴音が生まれたのが、十
月の終わりの寒い日だった。しばらくした風の強い日に、琴音が現われた。
そうして、今は一月の半ば。
「大体三ヶ月くらいかな」
一樹は琴音の髪の毛を指で梳く。指の間をすり抜ける、細く白い髪の毛。
それほど時間が過ぎた感覚は無い。つい先日の事のようにも思える。鈴音や琴音と一
緒に暮らすようになってから、生活の感覚自体が変ってしまっていた。
琴音は顎に手を添え、眉を寄せる。
「そんなに時間は経っていないはずなのだ。でも、凄く長く感じるのだ」
「まだ生まれてから一年も経ってないからね」
琴音の頭に手を置き、一樹は告げた。
見た目はそれなりに成長しているが、琴音たちは生まれて数ヶ月しか経っていない。子
供が時間を長く感じるように、琴音たちは時間を長く感じる。は二十歳の一樹とは全く違う
時間を生きているのだろう。
718 :
一尺三寸福ノ神:2012/01/15(日) 22:25:19.12 ID:Iq/7ZVOE
「言われてみれば確かに――」
驚いたような感心したような顔。
琴音は自分の手を見つめた。
「オレたちはまだ一歳にもなってないのだ。全然そういう自覚無かったのだ。生まれた時
から、普通に動けたし喋れたし色々知っていたのだ」
人間が何もできない赤ん坊から、琴音たちのようになるまで、十年以上かかるだろう。し
かし、鈴音も琴音も、一番最初から立ち上がり、跳んだり走ったり、会話も普通に交わせ
られる。多少心許ないが、人並みにの知識も持っている。
「そう考えると、凄いな……」
特殊な式神制作法。仙治が口にした言葉だった。
人間が数年掛けて覚えるものを、かなりの短時間でひとつの個体として作っている。一
種の人工生物の作成。まるで機械を組み上げるようなものだ。
「術で作られた神なのだ。そういうものなのだ」
琴音が続ける。
普通の成長をしていない自覚はあるのか、琴音はあっさりと言った。もしかしたら、鈴音
や琴音のような小さな人工神は多いのかもしれない。
そんな一樹の思考を遮るように、琴音が呟いた。
「ま、しかし」
琴音は微かに目を細め、口の端を持ち上げた。何か思いついた表情である。
その顔を見ながら、一樹はこっそりとため息をついた。
「年齢は赤ちゃんでも、身体は赤ちゃんではないのだ。それに、オレは鈴音よりは成長し
ているのだ。出るところは出てるし引っ込むところは引っ込んでいるのだ」
左手を胸元に添え、少し胸を持ち上げる。赤い上着を押し上げる丸い膨らみ。鈴音は
ほぼ平らだが、琴音は外から見て分かる程度に胸は膨らんでいる。
胸を強調するように、両腕を胸の下で組み、不敵な眼差しを向けてきた。
「小森一樹。ちょっとくらいなら触ってもいいのだ」
「なら、遠慮無く」
その言葉に、琴音が顔を固まらせる。その反応は予想外だったらしい。
一樹は左腕を曲げ、琴音を抱きしめた。前腕で背中を支え、手で肩を掴む。寝布団の
中で寝転んだ体勢では、逃げるのは難しいだろう。
719 :
一尺三寸福ノ神:2012/01/15(日) 22:25:39.43 ID:Iq/7ZVOE
「何を、するのだ?」
赤い瞳を一樹に向け、琴音が息を呑む。声に映る、微かな恐怖。
一樹は右手を琴音の脇腹に乗せた。
そのまま、くすぐる。
「! あははははは、ひゃははぅ、あはははは!」
琴音の喉から吐き出される笑い声。
わきわきと蠢く五本の指が、琴音の脇腹を容赦なく蹂躙していた。一樹の指から逃れよ
うと琴音は身体を捻るが、無駄な抵抗だった。肩を押さえつけられている上、くすぐられて
力が入らず、身体が言う事を聞かない。
涙を流して笑いながら、琴音は無理矢理身体の前後を入れ換える。
しかし、それは想定内だった。一樹はすぐさま左腕を引き、腕と身体で琴音の身体を固
定する。脇腹からお腹へと、くすぐる場所を変更する。
「このっ! ふふふふふっ。あはっ。こっ、こもり……かずき……あはははは」
抵抗はばたばたと足を振り回すだけ。
琴音の両腕は一樹の左腕に押え付けられ、動かせない。左腕と胸板で挟むように、琴
音は見事に固定されてしまっている。この状態で可能なのは、足を動かすだけだ。
そして、一樹の右手は琴音のお腹をわさわさとくすぐり続ける。
「はははははっ! はっはっ、苦しい……あははは!」
一樹はくすぐりを止めた。
それでもすぐにくすぐったさが消えるわけではない。
「ひっ、ふふっ……!」
残った余韻に、琴音が悶えていた。肩を震わせながら、荒い呼吸を繰り返している。時
折、小さく身体を跳ねさせていた。
数分して、ようやく落ち着く。
「うぅぅ。ごめんなさいなのだ……」
一樹に背を向けたまま、琴音は小声で謝った。
「まったく」
苦笑しながら、一樹は左腕で琴音を抱きしめる。今度は優しく丁寧に。それから、右手
で丁寧にに頭を撫でる。鈴音や琴音は頭を撫でられると落ち着くらしい。不思議と撫でて
いる一樹も気分が落ち着いてくる。
乱れていた呼吸が静かになり、身体から余計な力が抜ける。
720 :
一尺三寸福ノ神:2012/01/15(日) 22:25:56.76 ID:Iq/7ZVOE
「布団、暖かくなったかな?」
「ちょっと熱いくらいなのだ」
一樹の台詞に、琴音が答えた。布団の中は少し熱い。
やり過ぎたと反省しつつ、一樹は両手で琴音を抱きしめた。ぬいぐるみのように小さく柔
らかな身体。力を入れすぎると壊れてしまわないかと、時々不安になる。本人たちの話で
は、見掛け以上に頑丈らしいのだが。
「こうしてると不思議と落ち着くし、よく眠れるよ」
琴音の体温を感じながら、一樹は呟く。鈴音や琴音を抱き枕代わりにして寝るようにな
ってから、睡眠の質が上がったように思える。また寝起きもよい。
「オレもこうしてお前に抱きしめられていると、落ち着くのだ」
囁くような琴音の呟き。琴音も眠くなってきたのだろう。
「じゃ、おやすみ、琴音」
「おやすみなのだ」
一樹は琴音の頭を撫で、目を閉じた。
以上です
続きはそのうち
>>721 乙であります。
意外にも作品中ではそれ程時間が経過していなかったのね。
結構長く読んでいた気がしたから。
乙
エロいことするかと思わせておいてオモロいことしたの巻