【ご主人様】メイドさんでSS Part8【旦那様】

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1名無しさん@ピンキー
おかえりなさいませ、ご主人様。
ここは、メイドさんの小説を書いて投稿するためのスレッドです。
SSの投下は、オリジナル・二次創作を問わずに大歓迎です。

(※)実質通算8スレ目です。
   「メイドさんでSS Part4」スレはありません。

■前スレ
【ご主人様】メイドさんでSS Part7【旦那様】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1230849997/

■過去スレ
【ご主人様】メイドさんでSS Part6【お戯れを】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1221505706/
【ご主人様】メイドさんでSS Part5【召し上がれ】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1213801833/l50
【ホワイト】メイドさんでSS Part3【ブリム】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1204389730/l50
【ご主人様】メイドさんでSS Part2【朝ですよ】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1182588881/
【ご主人様】メイドさんでSS【朝ですよ】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1141580448/
【ご主人様と】メイドさんでエロパロ【呼ばれたい】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1116429800/

■関連スレ
男主人・女従者の主従エロ小説 第二章
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1185629493/

■関連サイト
2chエロパロ板SS保管庫 → オリジナル・シチュエーションの部屋その7
http://red.ribbon.to/~eroparo/contents/original7.html
http://sslibrary.arings2.com/
2名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 01:20:57 ID:tqM58uU5
■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は、読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルをお願いします。
 ・長編になる場合は、見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに注意書きをしてください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
3名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 01:21:14 ID:tqM58uU5
◆正統派メイド服の各部名称

頭飾り:
Head-dress
("Katjusha","White-brim")
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ,ィ^!^!^!ヽ,
                    ,/゙レ'゙´ ̄`゙'ヽ
襟:.                 i[》《]iノノノ )))〉     半袖: Puff sleeve
Flat collar.             l| |(リ〈i:} i:} ||      .長袖: Leg of mutton sleeve
(Shirt collar.)           l| |!ゝ'' ー_/!   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  /::El〔X〕lヨ⌒ヽ、
衣服:               (:::::El:::::::lヨ:::::::::::i        袖口: Cuffs (Buttoned cuffs)
One-piece dress         /::∧~~~~ヽ;ノヾ;::\_,  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
. ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  /:_/ )、_,,〈__`<´。,ゝ 
               _∠゚_/ ,;i'`〜〜''j;:::: ̄´ゞ''’\_     スカート: Long flared skirt
エプロン:           `つノ /j゙      'j;:::\:::::::::;/´::|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
Apron dress            /;i'        'j;::::::::\/ ::::;/
(Pinafore dress)         /;i'         :j;:ヽ:::/ ;;r'´    アンダースカート: Petticoat
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   /;i'       ,j゙::ヽ/::;r'´    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                 /;i'_,,_,,_,,_,,_,_,_,_,i゙::::;/ /
浅靴: Pumps        ヽ、:::::::::::::::::::::::__;r'´;/            Knee (high) socks
ブーツ: Lace-up boots     `├‐i〜ーヘ,-ヘ'´          靴下: Garterbelt & Stocking
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  i⌒i.'~j   fj⌒j   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
.                   ̄ ̄     ̄

イギリスの正装メイド服の一例
ttp://www.beaulieu.co.uk/beaulieupalace/victorianstaff.cfm

ドレスパーツ用語(ウェディングドレス用だがメイド服とは共通する部分多し)
ttp://www.wedding-dress.co.jp/d-parts/index.html

4名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 01:23:43 ID:WeZQOGd3
>>1
5名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 01:25:30 ID:tqM58uU5
容量きちんと確認せず投下してしまい失礼しました……
誘導できずすみません。

慌てて新スレを立てたため、【】←の中を考える余裕が無かったので前スレ引き継ぎました。
このスレもメイドさんとご主人様で溢れますように。
6 ◆ciy3NPyhLY :2009/05/02(土) 01:35:45 ID:tqM58uU5
うっかりしていて宣言し忘れ。
第3話は前スレ>>484で投下終了です。
しばらくエロ無しの展開が続きます。気長にお付き合いいただけると幸いです。

以上、名無しに戻ります。
7名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 05:37:05 ID:ie4O27XG
GJGJ!
ああ、この穏やかで微妙な距離感が徐々に詰まっていくかのような雰囲気が堪らない
詩野は健気で素直だね。こんな娘に世話してもらいたいな

さて、ちょっとバナナ買ってくる
8名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 05:38:51 ID:ie4O27XG
あ、あとスレ立て乙です
9名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 08:45:28 ID:vchoMHUi
GJ!
信次郎&ぬいの作者さんでもあったんですね。
あれ1話きりだけど好きだったから、続きが読めて楽しかった。
子供の無邪気さに救われることってありますよね、すんげーやかましいけど。
スレ立ても乙です。
10名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 09:57:55 ID:sT0xqHEU
乙たて〜>>1
あとGJ!!
そしてあそこまで素直にだまされてくれると
若旦那じゃなくってもからかいたくなるw
11名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 13:39:57 ID:cwUIQyhX
GJ!
12名無しさん@ピンキー:2009/05/03(日) 22:34:03 ID:tCuP+R9I
詩野さん来てたー GJ!
なんか和んだよ
13名無しさん@ピンキー:2009/05/05(火) 09:35:10 ID:C8uUonBh
無粋を承知で、失礼ながら「いちご大福」は昭和後期の和菓子ですよ…。
14名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 00:29:21 ID:LpPuCaAp
>>13
野暮なツッコミはよせ
15美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/05/06(水) 03:26:42 ID:+RBALIc7
第10話です。エロ無し注意。





2人暮らしを始めてから3年後、旦那様は博士号を取得し、ついで大学院をつつがなく修了された。
何の研究でどんな論文を書かれたのかというのは、教えて頂いても、やっぱり私には理解できなかったけれど。
ともかく、これで将来はバラ色になるのだと、私は大いに期待した。
しかし現実は、バラも桜も咲く気配を見せることなく、ただ物憂いだけの春がやってきた。
旦那様を雇ってくれる企業が、一社も見つからなかったのだ。
とはいっても、あの方が奇妙な発言をして面接官を呆れさせたとか、そんな原因があったからではない。
ようやく少しずつ良くなってきた景気が、また急に下を向いたせいだ。
おかげで新規採用の枠が大幅に減少し、コネも華々しい研究実績もない身では職を探すのは難しいのです、と旦那様は溜息をついて仰っていた。
旦那様のお父様は、生前大きな会社を経営なさっていたのに。
会社が親戚筋の手に渡った今となっては、旦那様の苗字がたとえ社長のそれと同じであっても、関係ないらしい。


旦那様が博士号を取られれば、いくつもの企業から、選ぶに困るほどのお誘いが来る。
そう暢気に想像していた私にとって、旦那様が無職になるというこの状況は、全く予想外だった。
考えてみれば、高卒や大卒を取る企業はいっぱいあるけど、博士を雇いたい企業なんてそりゃあ少ないはずだ。
まさか、博士が経理やセールスをするわけもない。
就職口を見つけるのが大変だというのは、はっきりしていたのに。
そこは中卒の悲しさ、学がある=就職に有利だと、私は思い切り勘違いしていたのだ。
旦那様が就職できなかったのは、面接官の目が悪かったことと景気のせい。
そう思って自らをなぐさめ、旦那様を励まして次につなげようとは考えていたけれど。
余裕のあまり無い生活にやっと光が……と抱いていた希望があっさり裏切られたのには、正直言ってがっかりした。
学歴が無くて職に困るのならまだしも、高学歴でも職に困ることがあるなんて。
旦那様は「研究生」という、まるで劇団の若手みたいな肩書きで大学に籍を残されることになった。
大学院を出たからといって、完全におさらばするより、そういった名目上でも大学とつながっていた方が有利なのだそうだ。
なんとなくだけれど、就職浪人のことに関しても、あの方は私ほど落胆なさっていないように見えた。
私は相変わらず、あちらこちらを掛け持ちしてアルバイトをする毎日を送っていた。
旦那様にいい会社に入って出世して頂いて、元のお屋敷と会社を取り戻してもらう。
もうすぐ手が届くはずだった、アパート暮らしの中でのたった一つの希望は、先に伸びてしまった。


そして、色とりどりのつつじが街中のあちこちに咲き乱れる頃になった。
桜の咲く少し前から今頃にかけては、年末年始につぐ人出で寺内も門前の商店街もごった返す。
おかげで茶店も忙しく、春の陽気のせいか甘酒に代わり、冷たい甘味もなかなかの売れ行きをみせている。
参拝客は皆一様に楽しそうで、春を満喫しているように見える。
しかしその浮き立った明るさの中にいながら、私はいまいちそういう雰囲気になじめないでいた。
全てを旦那様の就職問題だけのせいにするわけでは、ないのだけれど。
アルバイトの掛け持ちをやめて、一つの所にしっかりと腰をすえて働いた方がいいんじゃないだろうか。
先行きの見えない暮らしのことを思うと、それがベストのように考えられ、混雑する茶店の中でひっそり溜息をついた。


この日、お客が切れたのは夜7時前だった。
夜桜の頃ならもう少し遅かったのだが、桜が散った今は夜に出歩く人も少なくなる。
そんなわけで、私がアパートに帰ったのは夜7時半を少し過ぎた頃だった。
ただいま帰りましたと六畳間に呼びかけ、急いで夕食の準備をする。
最近は旦那様がご飯を炊いてお味噌汁まで作ってくれるようになったので、随分と楽になった。
しばらくして二人分の膳が整った頃、あの方が台所に姿をみせられる。
「お帰りなさい、美果さん」
はいと返事をした時、私はふと首をかしげた。
いつも当たり前のように聞いているあの方の言葉が、今日は何だか違うように聞こえる。
どことなくご機嫌な感じ、何かいいことでもあったのだろうか。
などと思いながらちゃぶ台に膳を並べ、いただきますをする。
食べながら時折そっと観察しても、旦那様はやっぱりいつもと雰囲気が違う。
16美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/05/06(水) 03:28:10 ID:+RBALIc7
これはやはり日中に何かあったに違いない、もしかしてまた福引でも当てたのかな。
無欲の勝利というやつなのか、旦那様は福引やくじなどの運に恵まれた方だ。
まあそれだけならいいのだけれど、しかし、その後がいけない。
前に温泉旅行を引き当てられた時も、この方はにじみ出る嬉しさを隠したつもりになって、私が気付くまで黙っていたし。
問うても散々焦らされてから「美果さん、僕は福引で特賞を引き当てました」と、どうだ褒めろといわんばかりの笑顔で言われた。
その後にも「特賞は何だと思います?ねえ、知りたいでしょう?」などと、うっとうしいほど尋ねられたっけ。
タダで旅行に行けて、リフレッシュできたから結果的には良かったけど。
あの時のことを思い出し、棚に飾った温泉名入りのミニちょうちんを横目で見た。


当ったのはテレビか商品券ならいいなあと思いつつ、尋ねないまま食事を終える。
アルバイトの疲れを感じていたので、旦那様のウキウキに付き合うのは、少ししんどかった。
いつもより長めにお風呂に入って、洗濯と残りの家事も済ませて、さっさと寝る準備をする。
「美果さん」
呼ばれて振り返ると、旦那様がすぐそこに立っておられた。
引き寄せられ、そっと唇を重ねられる。
最近はこうして、そういう雰囲気でなくとも口づけられることがたまにある。
まあ、その後はなし崩しに布団に倒れこむんだけど。
何度か合わさった唇が離れ、今日もそうなるのかな……と思った矢先、先程の疑問がまた頭をもたげてきた。
ご機嫌な理由を、まだ聞いていない。
「旦那様。何か、いいことがあったんじゃありませんか?」
疑問を抱えたまま事に及んでも、きっと集中できないに違いない。
私が水を向けると、旦那様はまた嬉しさを隠し切れない表情になられた。


「美果さん、僕は就職できるかもしれません」
どうだと言わんばかりに満面の笑みを浮かべて旦那様が仰るのに、私は耳を疑った。
福引で何か当ったのに違いないと、それしか考えていなかったから。
「……本当ですか?」
「ええ」
「ほんとにほんとですか、アルバイト……とかじゃなくて?」
「はい。正真正銘の、常勤の仕事です。最終選考まで残りました」
ってことは、やっぱり正社員ってことだ。
去年は最終選考なんて言葉、この方の口からは一度も聞けなかったのに。
年度が変わると運が向くのかな、桜には間に合わなかったけど、やっとうちにも春が来たんだ。
「旦那様、やったじゃないですか!」
疲れていたことなどすっかり忘れ、旦那様のお手を取って跳ねんばかりにはしゃぐ。
なんでこんな変な時期にという疑問はあるけれど、旦那様の良さをちゃんと認めてくれる企業があったのならいい。
まだ最終選考が残っているなら喜ぶのは早いけど、旦那様のご様子を見ると採用の見込みが高いのだろう。
「どこですか、○×化粧品ですか?それとも、何語か分からない横文字のメーカーですか?」
就職活動をなさっていた頃に口にされた企業名を思い出し、勢い込んで尋ねる。
他にはどんな名が出ただろう、ナントカカントカっていう、ああ思い出せなくてもどかしい。


「いいえ。大学の教員です」
手を取られたまま旦那様がにこりと笑われ、私はエッと目を大きく見開いた。
「え……。教授とか、助教授っていうやつですか?」
「美果さん、僕などが教授になるのはまだ無理です。採用されればもっと下の、教授になるための第一歩に立てるのです」
それに今は助教授ではなくて「准教授」と呼ぶのですよ、と旦那様が注釈をつけられる。
「第一歩……」
「ええ、ですがこの種の募集にしては珍しく、任期も定められていません。ですから、企業で正社員として雇われるのと同じことです」
旦那様が丁寧に説明して下さるのだが、私の胸は急速にざわめきだした。
正直言って、考えてもみなかった。
大学にお勤めなんて中々できることではないけれど、出世をしてお金を稼ぐという点では不向きなんじゃないだろうか。
研究で業績を上げて認められるのには、企業の中でのそれよりずっと長い時間がかかるだろう。
何より、大金持ちの企業家は数あれど、大金持ちの先生なんて聞いたことがない。
17美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/05/06(水) 03:29:58 ID:+RBALIc7
私が黙り込むのをよそに、旦那様が続けられる。
「僕が専攻する分野は特殊で、教員の枠も狭く募集も無いかと思っていたのですが、欠員が出たのは幸運でした。
関西の大学ですから、採用になれば引っ越さなければなりませんが」
「えっ、関西?」
旦那様の言葉に、私は心底驚いて問い直した。
「はい。美果さんはご存知かどうか分かりませんが」
そう言ってから旦那様が口にされたのは、一応は聞いたことがある大学の名だった。
しかし旦那様が通われていた大学より、はっきり言ってレベルは下だ。
それより、引越しだなんて。
池之端家の正当な跡取りが、仕事のためとはいえここを捨てて、遠く離れた場所に居を移すと?
そんなの、許されることではない。
「それって、都落ちってことでしょう?そんなんで、悔しくないんですか」
「美果さんは関西が嫌いですか?」
「関西がダメって言ってるんじゃありません、よそに行くなんて許されないと言ってるんです!」
気がつくと、私は大声で怒鳴っていた。
ご両親とお兄様を亡くされてすぐ、この方は心無い親戚に屋敷と会社を乗っ取られ、路頭に迷う一歩手前だったのに。
いつか見返してやると機会をうかがうことも、地方に行ったらできなくなるじゃないか。
常勤ならば、向こうへ行ったきりになることだって十分考えられる。
男なら、いや男じゃなくても、やられたらやり返すのが当然のこと。
私だって、継母と義理の兄弟に家を追い出されたようなものだけれど、いつかきっと……という夢は捨ててはいない。
ましてや名家にお育ちになった旦那様なら、乗っ取りの事実は、一般人の何倍もプライドを傷付けたに違いないのに。
なのにこの方は全て諦めて、遠い空の下で一生お勉強に取り組まれるおつもりなのだろうか。
「旦那様が頑張って勉強なさってたのは、池之端家のお屋敷や会社を取り戻すためじゃなかったんですか」
主従の関係も忘れて、旦那様を真正面から睨みつける。
大学院にまで行くほどいっぱい勉強して、知識を身につけられて。
あとはそれを活用して、池之端家の正式な跡取りとして社会に打って出るべきなのに。
なのに、場所を変えただけで相変わらず大学にい続けて、狭い世界でお金にならない研究をして論文を書きたいとでもいうのだろうか。
あんまりに情けなく思え、私は失望したとなりふり構わず大声で叫びたくなった。


「やはり、美果さんは反対されますか」
取り乱す私の耳に、夜に似合った静かなお声が届く。
夕食の頃から先程までの弾んだ雰囲気を、旦那様はいつの間にかもう纏っておられない。
私が何も言わないでいると、あの方はそれを肯定ととらえられたようだった。
「家族が生きていた頃、僕は将来兄の下で、社の一員として働くことになると思っていました。
好きな分野の研究も、所詮は学校を出るまでである、と自分に言い聞かせてもいました。
僕の専攻する分野は特殊で、これをそのまま生かせる職業に就くことなど、はなから諦めていましたから」
「…………」
突然話の矛先が変わり、警戒する。
思い出話で同情を引かれるようなことは、避けたかった。
「将来が決まっていて、好きなことを何が何でも職業にするぞという強い意志も無い。
そんなふやけた半端者であったからこそ、僕はあの時有効な手段も取れないまま、ああも易々と屋敷を追われたのでしょう。
美果さんはじめ4人の雇用を守れなかったことは、お詫びのしようもありません」
「だってそれは、あのクソオヤジが……」
クビを言い渡されたときのことを思い出し、思わず口を差し挟む。
記憶を戻すと、自分の体から怒りの炎がめらめらと立つように感じられた。
あの時の気持ちを忘れず、全身全霊で根に持っていたからこそ、私はつらくても頑張ってこられたのに。
「美果さんに支えて頂き、僕は学校を辞めずにすみました。
あなたの励ましにより、この上は勉学に励もうと決意し、生まれ変わった気持ちで研究に取り組みました」
「そうでしょう?だったら……」
いい会社に入って出世して頂いて、リベンジの機会をうかがうというのが私とこの方との共通の夢だったはず。
一体いつどこで、それが変わってしまったというのだろう。
「打ち込みすぎないようにと自分に言い聞かせるのをやめてしまえば、学問の魅力にとりつかれるのは易いことです。
いくらもしないうちに、僕は研究について、これは到底就職の時に諦めきれるものではないと考えるようになりました」
「えっ……」
18美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/05/06(水) 03:31:41 ID:+RBALIc7
「とはいえ、夢を見てばかりもいられませんから、熱心に就職活動も致しました。しかし、次第に自問するようになったのです。
僕は本当に企業に入りたいのか、学んできたことを生かしきれぬ職業に就いて、好きな研究を捨てられるのかと」
「だから……」
「僕の専攻する分野は特殊で、人を惹きつける派手さも華やかさもありません。
しかし僕には心底楽しいのです。これをもっと世に広め、学ぶ人の裾野を広げることこそが、僕の使命なのではないかと」
今まで見たことがないほど目を輝かせて、旦那様が語られるのを私は呆然と見ていた。
ああそうだ、研究のことを語られる時、この方はよくこういう目をなさっていた。
心底愛情を持っておられるということが、研究のことなど何も分からない私にも自然に知れた。
「それで、大学の募集に応募されたんですか……?」
「はい。僕の専攻ときわめて近く、待遇も申し分ありません。
これほどのチャンスが巡ってくることは、もう二度と無いと思いましたから」
黙っていて申し訳ありません、と旦那様が頭を深く下げられる。
おそらく賢明な判断だっただろう、もし私が応募の時点で知っていたら止めていただろうから。
「旦那様は、企業でお勤めされるんじゃなくて、大学の先生になりたいとお考えなんですね」
「はい。最終選考に漏れれば、その限りではありませんが」
「嘘をつかないで下さい。そんなに研究がお好きなら、一度ダメでも諦められるはずないじゃありませんか」
「それは……」
さすがに後ろめたかったのか、黙り込んでしまわれる。
旦那様は企業に就職するより、どうあっても大学の先生になりたいのだ。
欠員が出なければ新規採用の無いような狭き門なら、次の募集がいつあるかもわからない。
今回もしダメなら、今の不安定な暮らしをずっと続けると仰っているのと同じことだ。


「旦那様、旦那様は池之端家の跡取りだってことをお忘れなんじゃありませんか。
ご家族の無念を思えば、ご自分のしたいことより、奪われたものを取り戻すのを真っ先に考えるべきなんじゃありませんか」
精一杯考えて、諭すように言う。
なのに旦那様は、間髪をいれずに「いいえ」と返された。
「今の実質の当主は叔父です。僕など、もう傍流でしかありません」
「そんな!」
あまりにも情けないお言葉に、全身の血が逆流しそうになる。
自分が本当の跡取りであるというプライドも自負も、この方は捨てられてしまったのか。
「叔父達は幸いにも社をしっかりと切り回せているようですから、僕の出る幕はありません。
この不況の折に、父や兄の時代と同程度の水準を保っていられることを考えれば、経営手腕があるといってもいい」
「だって、あの人達はあんなにひどい……」
葬儀の後、あいつらがどんなに横暴な手を使ったか。
正統な跡取りである旦那様を追い出し、見せしめのために私や庭師のお爺さん達も追い出し、お屋敷まで乗っ取った。
あんな仕打ちをされたことを、きれいさっぱりお忘れになったのだろうか。
「旦那様は悔しくないんですか、あんなにひどいことをされたのに!」
腹が立って腹が立って、夜だというのに大声で言い募る。
しかしその訴えも、旦那様のお心には届かないようだった。
「確かに彼らの手法は横暴以外の何物でもありませんでした。しかし企業は、血ではなく手腕によって受け継がれるべき物です。
その観点をもってすれば、経営に長けた叔父の方が社長にふさわしいのは明らかです」
「えっ」
「僕などという青二才の素人が、ただ前社長の息子だというだけで、あの時社長になってしまっていれば……。
実力の無い者をトップに戴いた組織がどうなるかは、考えるまでもないことです。
社の業績は悪化し、皆の雇用も守りきれずに屋敷も手放していたかもしれません」
19美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/05/06(水) 03:33:13 ID:+RBALIc7
「でも旦那様は男でしょう、奪われた物を取り返して、悪い奴をギャフンと言わせるのが男じゃありませんか」
「美果さん」
旦那様が鋭く私の名を呼ばれる。
有無を言わせぬ威厳に満ちたそれは、いつものこの方の口調とは明らかに違うものだった。
手足の先から血の気が引くのを感じながらも、続く言葉を予想して私は耳を塞ぐ。
やめて、それ以上言わないで。
「引き際を知るのも男というものです。僕はもう、社と屋敷を取り戻すつもりはありません。
美果さん、どうか許して下さい。僕は、どうあっても研究を続けたいのです」
私の願いはあっけなくかわされ、むなしく宙を舞って地に落ちた。
旦那様は、ご自分の過去に引導を渡されたのだ。
私と一緒に描いていたはずの夢を放り投げて、一人で勝手に方向転換をなさったのだ。
私を置き去りにして、ご自分のことだけを考えられて。
今まで2人で頑張ってきたのは一体、なんだったのだろう。
足から力が抜けて、私は畳にへなへなと座り込んだ。
今までついぞ感じたことのなかった、旦那様への純粋な怒りが湧いてくるのを感じる。
胸が苦しくなり頭痛もして、今にも吐きそうなくらい気分が悪くなった。


「黙っていて、本当に申し訳ありませんでした」
旦那様がまた深く頭を下げられる。
「このことに関しては、いくら謝っても足りないと思います。
でももし美果さんが、それでも僕と一緒にいてやると……」
「いいえ!」
その、あまりに虫のよすぎる言葉にカッとなり、私は力いっぱいかぶりを振る。
約束を勝手に反故にしたくせに、それでも一緒にいろだなんて、馬鹿にしている。
私はただのメイドだけれど、だからってこんな無神経な扱いをされて黙っているほどお人好しじゃない。
「旦那様のお考えはよく分かりました。反対を恐れて黙っていらっしゃったことも、リベンジできない腰抜けだってことも。
本当にそう決められたのならどうぞご存分に、行きたい道を進まれて下さい」
感情を精一杯押さえ込み、緊張の糸が切れそうなのを堪えて言う。
私はこんなに低い声で恨み言を言うような、暗い人間だっただろうか。
ああそうだ、そういえば忘れていた。
実家でいびられお屋敷で馬鹿にされ、これ以上ないくらいに性格が曲がっていたことを。
この方と暮らす前から、元々私には可愛らしさもしおらしさも備わっていないのだ。
「美果さん、それは……」
「旦那様に夢を託した私が馬鹿でした。採用が叶えば、関西へはお一人で行かれて下さい。
私はもう、旦那様と一緒にいる意味を失くしました。私はメイドを辞めます」
「えっ」
「同居も解消します。もう旦那様とは暮らしたくなんかありません」
そこまで言ったところで緊張の糸がぷつりと切れ、涙がどっと溢れてきた。
みっともない姿を見られるのが耐えられず、お風呂場に飛び込んで鍵を後ろ手に閉める。
追ってくる足音は無く、暗く閉ざされた空気の中で私は一人になった。
無理矢理立たせた足からはまた力が抜け、先ほどのように床に座り込んでしまう。
タイルに残る水滴が服を濡らし、肌に冷たく感じられても、もうどうでもよくなった。
旦那様は、私との約束を反故にしてでも、ご自分のしたいようにすると決められたのだ。
あまりにひどいと怒りに任せて自分の膝を叩くうち、とうとう涙が止まらなくなった。
湿った空気の中にいると、いくら泣いても構わないように思えて。
私はひとしきり泣き、そのまま壁にもたれて眠ってしまった。

20美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/05/06(水) 03:34:22 ID:+RBALIc7
翌日から、旦那様と私の間には、まるで透明な壁ができたようになった。
旦那様は何も仰らず、私も一度言ったことを取り消す気にはどうしてもなれなくて。
今日は何時に帰る、何が食べたい、靴下の片方が見つからない。
日常の何でもない会話も一切無くなり、独特の静かな緊張感が漂うだけになった。
旦那様が時折、私を見て物言いたげな表情をされているのには気付いていたけれど。
私が旦那様に失望したように、旦那様もいっそ私に失望してくれた方がいいと、無視を決め込んだ。
なんと無礼で可愛げのないメイドだと思ってくれた方が、いっそせいせいするから。
耐え難いその雰囲気は、次第に旦那様と私の距離を遠ざけて。
朝晩の食事も別にとるようになり、夜も時間をずらして寝るようになった。
元々は主従なのだから、本来の状態に立ち返っただけのこと。
そして3週間が過ぎた頃、旦那様がやっと言葉少なに、採用が叶ったことをお知らせになった。
なるべく早くということなので、向こうでの住まいが決まり次第引っ越すことも。
私はそうですかと頷くのみで、ついていくつもりの無いことをもう一度態度で示した。
旦那様もそんな私を見ても何も仰らず、頷き返されるだけで。
考えを改めて下さるつもりのないことを、無言のうちに示されたのだった。
間もなく六畳間には、段ボール箱や梱包材に包まれた荷物が、壁に片寄せて置かれるようになって。
気がつけば、私が何も手伝わないうちに、一切の準備が整ってしまっていた。
旦那様の持ち物のほとんどは本だから、その気になれば荷造りはすぐできたとみえる。
こたつ以外の家具家電は、向こうへはお持ちにならないようだった。
メイドを辞めると言った私への、せめてもの思いやりなのだろう。
大家さんにも、私が一人でここに残ることを、旦那様の方から話して下さっていたようだ。
本当かとこっそり尋ねに来た大家さんの気遣わしげな視線に耐えられず、お願いしますと小さく言って、私は大家さんの前を逃げるように去った。
いよいよ引越しの日が近付くと、旦那様は送別会だの何だのと、部屋を空けられることが多くなった。
寂(せき)として音もない静かな部屋で、私はこれからの一人暮らしのことを思った。


そして。
引越しは、拍子抜けするくらいあっけなかった。
その日はお休みを取ったくせに、私は結局またお風呂場に隠れて、旦那様の荷物が運び出される音を聞いた。
小一時間ほどで物音がやみ、作業員が外に停めたトラックのエンジンをかける音が聞こえて。
ついでお風呂場のドアが小さくノックされて、私はびくりと肩を跳ねさせた。
「行ってきます、美果さん」
ドアの向こうで旦那様が仰ったのを最後に、足音が遠ざかり、そして玄関の閉まる音がした。
外で大家さんの声がして、そしてトラックの音が小さくなっていくのが、何か夢の中の出来事のように聞こえた。
お風呂場から出て六畳間に戻ると、あの方のいないそこは、驚くくらいにがらんとしていて。
ボロい、汚いとばかり思っていたこの部屋を、私は初めて広く感じた。



──第10話終わり──
21名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 04:03:25 ID:nG74BgyP
待ってた!待ってたよ美果さん!!

でもこんなに切ないことになるなんて…(´;ω;`)ウッ
とにかくうp主おつ!
22名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 10:09:05 ID:urozfmTl
だんなさまぁぁぁぁぁあああ°・(ノД`)・°・
23名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 11:32:47 ID:o481/g4a
うぉぉぉ!急展開!!
24名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 13:36:53 ID:KzPJQcLB
どうなるの?どうなっちゃうの?
続き楽しみだけど切なくなったぜ……
25名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 19:10:31 ID:yUz97mdr
美果さんキター、ってうぇぇぇえ!?

とても……バッドエンドです……
26名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 19:48:04 ID:xTBZ4/5d
さっき保管庫で読み返してて、うわラッキーと思ったのにえぇぇえええ!
続きを待ちます
27名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 19:48:53 ID:JHVin8Ns
こんな瞼のままじゃ明日出勤できません…うっ
28名無しさん@ピンキー:2009/05/07(木) 00:06:37 ID:LtxS0c5T
あわわわわわ〜ん(涙目)!
美果さんの意地っぱり〜!
ここの職人さんは読み手側を煽るのが巧すぎです。
29名無しさん@ピンキー:2009/05/07(木) 19:30:44 ID:n88Ggos6
うーん、どちらの気持ちもわかってしまう。やるせないねぇ
とにかくGJでした
30名無しさん@ピンキー:2009/05/07(木) 23:46:11 ID:2Ci4Kkqw
つづきがぁぁぁぁぁぁ気になるぅぅぅぅぅぅ
31名無しさん@ピンキー:2009/05/08(金) 08:17:53 ID:1y3Yv7Q7
GJだがぐわぁぁぁぁぁぁ…………
32名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 06:58:44 ID:/clbpqI/
同居って2年じゃなかったっけ。ま、いいけど
33名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 10:49:39 ID:UgiLhXqV
>>32
9話の時点から2年位では?今で3年目
34名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 23:59:10 ID:Zw8RcTKl
おい!旦那様と作者!

美果さんをシアワセにしないと承知しないぞ!
35名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 12:14:46 ID:Js2l86N3
>>34
作者ぁ…?
さんを付けろよデ(ry
36名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 19:51:27 ID:GRYKFdyF
たとえどんな結果でも正座して待ってます
37名無しさん@ピンキー:2009/05/11(月) 14:43:00 ID:FGJ/4Qq4
>>13
詩野さんの初回投下時の前書きに
>> 舞台は大正二十年ということで
とある。
大正が15年を超えても続いている世界なので、別の世界の日本か日本に似た国なんだと思う。
従って別の世界である以上、そこでは「いちご大福」が既に大正期に発明されていたのかもしれない。
まぁ、そういう世界だという事。
38名無しさん@ピンキー:2009/05/12(火) 10:05:49 ID:uHZUWeio
そうだね。露地栽培だと苺の収穫時期は5月になってしまうし。ビニールハウス栽培も大正20年なら有りか。
39名無しさん@ピンキー:2009/05/12(火) 15:42:05 ID:wfWh8xrI
おまえらフォローになってねぇw
まあ気にせず次の投下待ってるよー詩野さんの人


俺的に詩野さんは星野真里だな
美果さんは柴咲コウ
二人とも年齢合わないけど
40名無しさん@ピンキー:2009/05/12(火) 21:45:32 ID:QyN2Bzxu
女からみると今回の美果さんちょっと苦手かも。逆に旦那さまの高感度アップ。
この二人いいコンビだと思うんで、次回も期待してます。
41名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 05:37:28 ID:svznZxo8
好感度、だと思う。
42名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 20:53:18 ID:B59kcRHD
まあ、待て
旦那様の目が高感度で闇でも見えるようになったのかもしれん
行為のときは部屋を暗くするのだろうし
43名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 21:24:06 ID:VkEIYcsP
ほしゆ
44名無しさん@ピンキー:2009/05/14(木) 10:07:21 ID:PD4FO9oi
>>39え。フォローしてませんでしたか。
すみません!バナナは完全に輸入物だから、イチゴも輸入なんですよ!これなら完璧です。
45名無しさん@ピンキー:2009/05/15(金) 01:32:27 ID:yNETLtBg
>>40
でも旦那様と恋仲じゃないし、関西に着いていくのはメイドの名目がないと、
と美果さんが思ったんだったら、すごくいじらしいと思わないか?
むしろはっきり自分の態度を言っておけよ旦那様!もう三年も経ってんだぞー!
と思ったのは俺だけかな
46名無しさん@ピンキー:2009/05/15(金) 01:36:24 ID:dJ+h7eKu
>>45
俺もそう思った
大学の教員となる旦那様についていくのには、別に名目がいる気がする
言葉が足りなすぎるよ。美果さんに甘えすぎ>旦那様
まあ美果さんも意地っ張りだけど
47名無しさん@ピンキー:2009/05/15(金) 11:29:27 ID:LfP12vjf
そろそろ群馬弁の旦那さまが恋しい季節……。
48名無しさん@ピンキー:2009/05/15(金) 18:18:51 ID:TfwU3OUL
詩野いとおしいよ詩野
だんな様すてきだよだんな様
ぬい可愛いよぬい
バナナは果物の王様だよバナナ
49名無しさん@ピンキー:2009/05/15(金) 21:51:07 ID:zM5B0oQr
若い執事とメイドさんが恋愛してるのを、優しく見守り応援するご主人様(女主人も可)
というのはどうだろうか?
50名無しさん@ピンキー:2009/05/15(金) 23:08:13 ID:TfwU3OUL
>>49
萌えるね。
ほのぼのしそうだなあ。
ツンデレ執事と奥手メイドだから想い合っているのに恋仲に発展せず、主人がじれったくなってちょっかい出すとか。
51名無しさん@ピンキー:2009/05/15(金) 23:29:32 ID:9+nBtIRK
二人の前で実演してみせるお盛ん若夫婦とか?
52名無しさん@ピンキー:2009/05/15(金) 23:31:05 ID:pFgjLbkJ
ドジ執事と素クールメイドとか
女主人はツンデレで若い二人の反応を見て楽しんでいるとか
53名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 05:29:26 ID:23+Vbola
「春待ちて」の作者様は、登場人物の名前選びのセンスが光ってますね。
どれも素敵です。
文章は色っぽくしっとりはんなりしていて古き良き時代エロパロだとしみじみしました。
つい先ほど読んだのですが、感動の一言です。
54名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 08:56:53 ID:pG6v1mOF
執事とメイドが幼馴染で就職で再会・・というのは
幼馴染スレなのか?
55名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 09:36:26 ID:frmD1wXi
>>54
ここでいいだろ
56名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 22:56:35 ID:47Jpu2XB
>>47
そうだね

57名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 23:48:25 ID:KMvrx34w
暇つぶしにメイドさんの買い物についていったご主人様
メイドさんと揃ってお屋敷に帰宅
場所:居間

ご主人様:「商店街の福引で2泊3日旅行お二人様のチケット当たっちゃった。
       これ上げるから二人で行っておいでよ」
執事A:「二人って、Bさんとですか? い、嫌です。
     (Bちゃんと温泉旅行か、行ってみたいけどそんなの人前でバレるの嫌だし)」
ご主人様:「そう言わずに。 当然その時は、有給休暇扱いだから大丈夫。 たまには福利厚生しないとね。 
       福利厚生の原資がタダで済んじゃったけど」
メイドB:「ご主人様、本音が透けていますよ。 じゃなかった、異性同士だし問題が。 万一、間違いがあったら困るのでは?
      (というかむしろ間違い万歳! Aさん旅先で開放的になって、その勢いで私を頂いちゃってくれないかな)」
ご主人様:「いや、君ら付き合ってるようだし何も問題ないじゃん。 たまにはゆっくり寛いできなよ。 
       (ちょっと改まって) これは主人命令です。 異議は認めません」
執事A:「(って、隠れてつきあい始めたのにバレてる?) そ、そこまでご主人様が仰るのでしたら。 
     (Bに振り向いて) べ、別にBさんと行きたい訳じゃなくって、ただ単にご主人様のご好意を無碍にするわけにいかないだけ
     なんだから、変な勘違いするなよな」
メイドB:「そうですよね、ご主人様のご好意を無駄に出来ませんよね。 (ご主人様GJ! このチャンスで既成事実を!)」
58名無しさん@ピンキー:2009/05/17(日) 01:55:57 ID:F+KEGezf
>>57
これいいな・・・
59名無しさん@ピンキー:2009/05/18(月) 20:55:31 ID:HyenNSh7
GJてw 旅行先読みてぇっすw
60名無しさん@ピンキー:2009/05/18(月) 23:26:38 ID:+hp8GjMO
食われてしまうんだろう
61名無しさん@ピンキー:2009/05/20(水) 19:59:40 ID:Qut1R5O8
エリザベート・バートリーは吸血鬼伝説のモデルになった人で
血のお風呂やアイアンメイデンで有名だけど
実務というかその惨い行為をしたのはメイドさん達なんだよな。

命令されて嫌々やったんだろうけど怖い。
62名無しさん@ピンキー:2009/05/22(金) 23:23:18 ID:6daNA6tt
>>61
いつまでも若くありたいという病的なまでの欲望を持つ女主人に、残虐な行為を命じられてしまった新入りメイド。
しかし女主人はその新入りメイドの血がほしくなる。
新入りメイドに危機が迫る夜、ひそかに彼女に恋い焦がれていた執事が助けに入り、二人で逃走。
小さな空き家に身を潜めるうちに、二人はぎこちなくもだんだんと打ち解けていく。

……萌えないな。
63名無しさん@ピンキー:2009/05/23(土) 11:13:57 ID:4FGX5Bf8
>>62
萌える!
64名無しさん@ピンキー:2009/05/23(土) 14:09:34 ID:tRjaiCqh
機械のように仕事を完璧にこなすけれど、人の感情も機械のように読み取ってしまう情に疎いメイドさんと、そのメイドさんに振り回される女好きのご主人さまの組み合わせに萌える。
いつも冷静でポーカーフェイスで、無駄な干渉せずお喋りもせず仕事を淡々とこなすメイドさん。
ご主人さまが名家のお嬢様とにゃんにゃんしている現場に偶然出くわしても、当然メイドさんは顔色ひとつ変えない。
ご主人さまはいい男であるはずの自分に興味を持とうとしないメイドさんに腹が立ち、なんとか自分に気を向けさせようとしているうちにだんだんメイドさんのことが好きなっていく…的な。
65名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 02:06:20 ID:2qgGuzXB
>>64
すごく良い!
66名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 21:24:38 ID:K1fvMVWt
小ネタ投下します。勢いだけで書いたので、かなり内容がオカシイです。エロ無しです。




「篤守様お食事の用意ができました」
「どうぞ。入っていいよ」「失礼致します」

ドアノブに手を掛け部屋の中に入ると、パソコンに視線を向けたままの主人の姿があった。
部屋の奥、陽当たりの良いデスクでパソコンをするのが休日の彼の日課だった。
「折角のお休みの日なのに、今日もパソコンですか?」

デスクの空いたスペースに出来立ての朝食を並べながら、私は口を開いた。

「悪い?」

私の質問に一言だけ返して淹れたてのコーヒーに口をつける。

「そ…そんなつもりじゃ!?」

気を悪くさせてしまったのかと、私は慌てて弁解しようとしたが
篤守様は気にした風でもなく、スクランブルエッグを口にしていた。

「都も大分料理が上手くなってきたね。これ、美味しいよ」

やっと私の顔を見て、篤守様が微笑んだ。

「そ…それは言わないで…下さい…」

以前の失敗を思い出し、私は顔が真っ赤になるのを感じた。

「だって、初めてシチューを作った日なんて鍋に油を入れた途端、鍋が炎上して
あわや火事になる所だったんだよ?今となっては笑い話だけど
料理が出来ないとは聞いていたけど、本当だったんだと知って驚いたよ」

そうなのだ。ここで働く初日、家で何度か作った事のあるクリームシチューを作ろうとして
鍋を火にかけながら油を入れた途端、ものすごい勢いで鍋の中が火だるまになってしまったのだ。
リビングでテレビを見ていた篤守様が駆けつけて下さり、事なきを得たのだが
そうでなかったら、私は益々借金を背負う事になっていただろう。

「ここに来てもう半年なんだけど、まだ俺の事『様』付けで呼ぶの?
俺達幼馴染みなんだし、呼び捨てでいいのに…」

篤守様が朝食を召し上がられながら、こちらに視線を向けた。
そうなのだ。私と篤守様…ううん『あつくん』は家が隣同士の幼馴染み。
中学生になった頃から疎遠になってしまっていたが、幼稚園と小学生の頃は毎日のように遊んでいたものだ。
それが何故このような、ご主人様とメイドのような間柄になってしまったのかと言うと
私の父が事業に失敗し、それを助けてくれたのが『あつくん』だったのだ。
彼は自身で会社を起業し、成功して今や経済誌などで持て囃されるような
「イケメン社長」(本人談)になっていて、私の父が彼に助けてもらったのだ。
67名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 21:29:58 ID:K1fvMVWt
で、借金を肩代わりするかわりにと言う事で、私がメイドとして彼の世話をする事になったのだが、
私なんかが彼の世話をする事に未だに疑問が残る。私みたいな、ここに来るまで料理も洗濯も出来なかったような
そんな奴よりも、もっと「出来る」人を側に置いた方が彼の為にも良いと思うのだが…。
彼に「昔馴染みの方が気が休まる」と言われ、ここでメイドとして働く事になったのだ。

「だって仕事と私生活は別々ですし…」

私が言葉に詰まっていると篤守様が少し考えて

「なら『さん』付けにしてほしいな。都に『篤守さん』って呼んでもらいたい」
彼の提案に私は熱の引いた頬に、また赤みが差すのを感じた。私が俯きながら

「…あ…あつもり…さ…ん…」

と、言うと篤守さんがニッコリ笑ってコーヒーを飲み干した。




幼馴染みがメイドになった途端、女遊びがなくなった、そんなご主人様の小ネタです。

68名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 22:26:54 ID:z8HAFV+Q
GJGJ!!
もっと読みたい!出来るなら続きを…!
69名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 22:45:45 ID:wr60lIIn
GJ!
70名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 22:47:54 ID:AeWC7SBb
なにこれ。可愛すぎなんだけど

続きを期待してしまいます……
71名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 22:50:52 ID:4MsCuNm7
幼馴染がメイドかぁ
薫さんを思い出すなぁ
72名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 23:34:21 ID:FwHSgOvI
でもさぁ、幼馴染なのに料理が出来ない事を知らないのは不自然な気がすると思う。
それ以外はGJ、更なる続きを期待してます。
73名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 23:55:46 ID:XeJpXvMA
>>72
「中学生になった頃から疎遠に」ってあるからね。
相手に対する知識が小学生時代以降更新されていなければ、知らなくても不思議じゃない。
74名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 23:57:11 ID:AeWC7SBb
>>72
聞いてはいたけど本当にできないとは思わなかった、ってことでしょ?
別に不自然ではないと思うが
幼馴染みなら手料理を作ってもらえて当然なんて思うなよ
75名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 10:29:23 ID:PaJP4i44
>>74
幼なじみ関連で何かあった?w
76名無しさん@ピンキー:2009/05/26(火) 23:54:58 ID:o4XkVacM
>>71
和臣さんと薫さん、なついね
2006年8月初出だから、あの頃からもう直ぐで3年目
時の流れは速い
77名無しさん@ピンキー:2009/05/29(金) 23:02:34 ID:3aDspcUd
ちっとんべえ
78名無しさん@ピンキー:2009/05/30(土) 02:23:04 ID:ebdVolC7
>>71>>76 検索してもわからなかった。
詳しく教えて頂きたい。
気になります。
79名無しさん@ピンキー:2009/05/30(土) 04:34:31 ID:w+cQ15ft
>>78
このスレの過去スレ 【ご主人様】メイドさんでSS【朝ですよ】 に投下されたSS
PCからであれば以下から読めるはず
http://mimizun.com/search/perl/dattohtml.pl?http://mimizun.com/log/2ch/eroparo/sakura03.bbspink.com/eroparo/kako/1141/11415/1141580448.dat
260-265あたり、320-326あたり、364-370あたりなど参照

保管庫には保管されてないっぽいのな
削除依頼でもあったかな?
80名無しさん@ピンキー:2009/05/30(土) 04:51:06 ID:QbfQO8jD
81名無しさん@ピンキー:2009/05/30(土) 09:40:49 ID:Tn/Ps7D/
>>79>>80 ありがとうございます!
携帯厨なので、まったくのお手上げ状態…諦めます。
82名無しさん@ピンキー:2009/05/30(土) 09:55:56 ID:xITvfbv2
>>79
横からですが、過去ログはもう読めないものと思っていましたがこんな便利なサイトがあったんですね。

dattohtml.plの過去ログをdatファイルの形で保存して専ブラから見る事は可能なんでしょうか?
8379:2009/05/30(土) 15:35:33 ID:qASN8Wwa
84名無しさん@ピンキー:2009/05/30(土) 22:08:53 ID:axWaKXyy
>>83(79)様。 優しすぎます。読了致しました。幼馴染みメイドで年上は素敵です。
ありがとうございました。
85名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 02:59:42 ID:tQyjsdnU
82です。
ありがとうございました。
86名無しさん@ピンキー:2009/06/01(月) 20:02:31 ID:WHZOTSeH
優しいメイドさんがたくさんいるスレですね。
87名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 17:39:24 ID:DA6xYXI5
保管庫に「メイド空海」という作品があって
多分「そらみ」と読むんだろうけど
初めタイトル見た時「くうかい」(弘法大師)と読んで
頭ツルツルなお坊さんが女装メイドしてるのを想像した

俺だけじゃないよね?
88名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 12:52:07 ID:rLC7dgNx
男塾なメイドさん?
89名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 13:49:10 ID:IyjhAAiu
卵頭メイドとはまた上級工程だな。
90名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 20:35:02 ID:z1ELHmKI
小ネタ篤守と都の続きです。メイドさん関係ない話になってしまいました。



私は今、幼馴染みの家でメイドとして働いています。
自分で会社を立ち上げた彼は今では経済誌で持て囃される程の若手イケメン社長として活躍されています。
実際、私がメイドとして働きに来るまでは、かなり色々な所に行っていたようで、何度か雑誌でその手の記事を目にした事がありますが
私が住み込みで働きに来てからと言うもの、全く浮わついた話が出てくる事がなくなりました。
仕事で帰りが遅くなる事はあっても、泊まりで家を空けたり、どこかで遊んで帰りが遅くなるという事がありません。


私が住み込みで働いているのが問題なのかな?彼女さんが居ても、部屋に連れてくることもできないだろうし、
夜遊びしたくても、以前私がお鍋を炎上させた事を心配して、家が火事になっていないか心配で真っ直ぐ帰ってくるしかないのかな?
はぁ、情けない…。篤守さんが帰って来たら言ってみようかな。
「家の事は心配しなくても大丈夫だから、泊まりでどこか行ってゆっくりして下さい」
って。そしたら、篤守さん喜んでくれるかな?私に気兼ねする事なく……。
篤守さんが知らない綺麗な女性の肩を抱いて何処かのホテルに入って行く姿を想像したら、
何となくモヤモヤしてしまい私は頭をブンブン振った。
91名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 20:40:52 ID:z1ELHmKI
そんな事を考えていたら篤守さんが帰ってきた。夕食の時にでも言ってみようかな。
「篤守さんお帰りなさい」
「ただいま都。風呂の後に夕食を食べるよ」
篤守さんは上機嫌でお風呂場に向かっていった。
「篤守さん?機嫌が良さそうですが、何かあったのですか?」
私の声に篤守さんは振り返って「後で教えてあげるよ」と言って、そのままお風呂場に消えていった。


それから数十分後、パジャマ姿の篤守さんが台所に姿を現した。篤守さんが椅子に腰かけると、
何品かの料理を食卓に並べて、いつも通り篤守さんお気に入りのグラスにビールを注ぎ、話しかける。
「先程の続きです。何か良い事があったのですか?」そう質問した私の顔を見ながら、篤守さんは口を開いた。
「取引先の社長さんが新しいホテルをオープンするらしくて、ペアで招待してくれたんだ。だから今度の連休に行こうと思う」
「へ〜良かったですね。どなたと行かれるんですか?」
「何を言ってるんだい?君以外に居るわけないじゃないか」
……え?何かの聞き間違い?私と行くって聞こえた気がしたような?え?私と?
「急ですまないが、来週だからちゃんと準備をしておいてくれよ」
「わ…わたしでいいのですか?他の方と行かなくて宜しいのですか?」
思ってもいなかった回答に驚きのあまり、私はアワアワしてしまった。そんな私の姿が可笑しかったのか
「そんなに驚いてどうしたんだい?僕と旅行に行くのが嬉しすぎて動揺したとか?」
更に恥ずかしい台詞を言われて、私は顔が真っ赤になってしまった。酔ってる。篤守さん絶対酔ってる。
普段は酔う程飲まないのに、今日に限っていつもの3倍も飲んでいるせいだ。
「はい。篤守さんと2人きりで旅行に行けるのが嬉しくて舞い上がってしまいました」
酔っ払いに何を言っても無駄だと思い、私はサラッと言って、席をたった。チラっと篤守さんの顔を見たら
耳まで真っ赤だった。はぁ、そんなになるまで飲まなければいいのに…。私はお水を用意する為に冷蔵庫に向かった。
明日にはこの話しは忘れて別の人と行くって言うよね。だって私はただのメイドだもん。
…モヤモヤした気持ちを隠すようにネラルウォーターをコップに注ぎながら急いで篤守さんの元に戻った。


以上です。スレ主旨と違っていたらすみません。
モヤモヤするメイドさんと、チャンスをモノにしようと頑張るご主人様です。
92名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 20:49:50 ID:jwwfvNAY
続きが気になってモヤモヤしてしまうのう。
93名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 23:44:21 ID:+7gIxz2V
もっとモヤモヤする続きキボン
94名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 04:59:34 ID:OO6SOvAR
>>91
GJ!
<顔が>赤くて、<ビールの量が>通常の3倍・・・ ゴクリ

>>88
し、知っているのか雷電!?
95名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 11:27:56 ID:DGRkY8TX
>>94 すみません。男塾一度も読んだことないんです。
ただ、あの絵柄のパロディって物凄くありますよね…w
96名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 01:15:19 ID:hoJDiIq6
97名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 18:44:20 ID:ks4RiOOW
卵頭メイドさんではないけど、 『G.I.ジェーン』のデミ・ムーアの様なG.I.カットのメイドさん


今までは男しかいなかった軍の特殊エリート部隊へ入隊する事となるヒロイン
入隊訓練時に、他の訓練生に「仲間」としての信頼を得るため、他の訓練生同様G.I.カットにし
他の男の訓練生と寝起きをともにし、ある意味「女」を捨てて訓練に明け暮れる
厳しい訓練ながら初の女性隊員として合格し、そのエリート部隊で活躍していたが、ある作戦で
仲間を喪ったショックで軍を退役、民間に戻りメイドになる

メイドとして勤める先のご主人様は幅広くビジネスを手がけ、中には法律ギリギリの分野の仕事も
あり、敵も多く命を狙われるケースもある人物だった
メイドでありながら、イザと言う時ご主人様の身を守ることも出来るという点が重宝がられ、段々
側に仕える時間も長くなり、やがて専属メイドに抜擢される

軍を退役しメイドに応募した頃はかなり刈り込まれていた髪型も、勤め始めてからはまた伸ばし
始めると共に、女性らしい美しさを取り戻していく

メイドとしての気配り、緊急時の護衛もこなす能力、それでいて日に日に美しくなっていくメイドに
やがて一人の女性として惹かれはじめるご主人様・・・
98名無しさん@ピンキー:2009/06/13(土) 08:09:26 ID:vETLcIHd
保守〜
99名無しさん@ピンキー:2009/06/15(月) 00:57:31 ID:Tfb3ILRP
保管庫の麻由と武の「その後」が見れないのですが、作者様のサイトはもう無いのでしょうか?
100名無しさん@ピンキー:2009/06/15(月) 01:19:04 ID:8m3jEIsJ
>>99
uploader.jpは不定期にデータの全削除をやるので、それに巻き込まれて消えた
今のところオンラインで読める場所はないはず
101名無しさん@ピンキー:2009/06/17(水) 00:39:59 ID:VGUA8Nex
"美香と旦那様とアパート"と"春待ちて"の続きが気になりすぎて、毎日複数回このスレ確認してるのは俺だけじゃないはず
102名無しさん@ピンキー:2009/06/17(水) 01:16:23 ID:GaA+3SjT
見るついでに何か投下できればいいのにな
レベル高すぎて投下に気後れしてしまうのは俺だけじゃないだろ
103名無しさん@ピンキー:2009/06/17(水) 01:35:38 ID:6sYapEj+
一レスの小ネタでもいいんじゃね?

忍者メイドのシノブさんとか
昔書いてた百合さんネタも基本小ネタなんだし
104名無しさん@ピンキー:2009/06/17(水) 21:45:24 ID:29mpZu2a
草食男子ご主人様と肉食女子メイド
105名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 00:58:21 ID:0lbd9N6z
雑食男子では駄目なのか
106名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 06:44:29 ID:5LLYch75
雑食とは老若男女を食っちゃうのですか?
107名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 21:57:05 ID:Js7kCz7S
>>101
ノシ
108名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 22:46:34 ID:nPwUpz0Q
勢い2.0か……
109名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 23:41:17 ID:/AdYQxxk
>>106
アッー!なネタしか思い浮かばなかったので自粛


ところでそろそろ、群馬弁のご主人さまと菜々子さんの召還の儀式をしていい頃だと思うが
どうだろうか?
110名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 23:41:42 ID:/AdYQxxk
111名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 01:24:11 ID:dJUbSWch
112名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 01:31:19 ID:rDKbd3Fe
113名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 01:48:20 ID:9oaclnf5
114名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 02:25:44 ID:83IUDTiH
115名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 07:01:57 ID:/k1+w04P
116名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 07:24:27 ID:SbpP1QID
117名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 08:38:33 ID:eDN/IfT7
118名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 10:05:03 ID:NsALZFeQ
119名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 12:02:59 ID:3+L2h0EF
好      スレが伸びてるから投下があると思ってwktkして来たのに・・・
120名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 17:36:56 ID:YrQWoEEb
121名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 20:32:11 ID:zylsHOy1
122名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 22:06:37 ID:wbV8lzw9
123名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 22:53:14 ID:MIP43Qd6
124名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 22:56:01 ID:zkekim3Q
魚顔ってwww
125名無しさん@ピンキー:2009/06/25(木) 19:19:59 ID:5CLlVydB
ほしゅ
126名無しさん@ピンキー:2009/06/25(木) 22:45:00 ID:HkiT9nQO
うーむ
のりたまご飯食ってる その筋の通にはたまらない魚顔

落ちぶれてのりたまご飯だけの食事中に魚顔の女の人が通って
メイドさんにスカウトするために奮起する魚顔フェチのご主人様が浮かんだ
127名無しさん@ピンキー:2009/06/25(木) 23:36:53 ID:qV4FR/Og
フェラチオが上手そう
128名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 00:40:52 ID:oV3Vkdy7
インスマウス出身のマーシュ一族のメイドさん?
129 ◆dSuGMgWKrs :2009/06/27(土) 18:24:39 ID:vGkI5CLh
忘れた頃だと思いますが『メイド・すみれ』の後日談です。
完全にスレチでメイドでもなければすみれでもありませんので
興味のない方はスルーお願いします。
お待ちの作品の投下までヒマツブシでもよろしければどうぞ。

『執事・津田』
ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/12591

パスは『sumire』です。
130名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 20:50:35 ID:b3njYOkm
>>129
GJです!菜之香かわいすぎる
津田さんってこんな面白い人だったんだなww
結局すみれさんが一番しっかりしているってことなのか
131名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 20:52:50 ID:b3njYOkm
菜乃香だった。間違えた
132名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 03:53:00 ID:L70T8dnj
良かった。非常に良かった。
特に、小野寺さんと津田さんの不器用っぷりが。【なの】の天使っぷりは言わずもがな。
GJ!
次はないかと思うけど、続きが読みたくなったよ。
133名無しさん@ピンキー:2009/07/01(水) 04:05:30 ID:irBjPa37
>>129
遅ればせながらGJ
とにかく菜乃香にデレデレな大人たちに和んで癒されたw
相変わらず出てくる食べ物が美味しそうで食べたくなる

暇があったらまた投下してください
全裸で待ってる
134名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 00:05:01 ID:s+lIYtsI
メイドさんには夢がいっぱい詰まっている…。
135名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 13:23:34 ID:iDR2B3P+
《なの》にエプロン着せて小さなメイドさんごっこがしたい。
あれやこれやと。
136名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 18:25:09 ID:A6nKMvZg
ほしゅ
137名無しさん@ピンキー:2009/07/03(金) 15:11:03 ID:dQsWOHVQ
メイドロボの話はここでいいのだろうか?
138名無しさん@ピンキー:2009/07/03(金) 16:04:47 ID:os+xZp7L
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α8
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1219502527/l50
139名無しさん@ピンキー:2009/07/03(金) 16:22:13 ID:dQsWOHVQ
了解しました。
ではこれにて失礼。
140名無しさん@ピンキー:2009/07/03(金) 17:45:52 ID:wUli/Nkn
他のロボットものならともかく、メイドロボならここでもいいんじゃない?
あまり排斥的だと過疎りそう
141名無しさん@ピンキー:2009/07/03(金) 23:00:49 ID:DdBGDfPs
「メイド」とつけばなんでもカモ〜〜〜ンですわ、ご主人様!
142名無しさん@ピンキー:2009/07/03(金) 23:18:59 ID:HJ6eRWgt
メイドであれば良いだろうけど
メイドロボで括ると、実態はただの学生だったりするから厄介
143名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 03:20:27 ID:egoswWl8
>>129 GJ!
こどもの性別が知りたかったから、嬉しい。
つらしゃん、しばーらしゃんには笑いました。「誰?」w
第二子はどっちかな〜ワクワク。
144美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 02:51:24 ID:Cq0yCAJy
第11話です。長文注意。



旦那様が引っ越されて、瞬く間に日が過ぎ、季節は移り変わった。
私は、アルバイトの掛け持ちをやめ、ショッピングモールの中のアクセサリー店で働くようになった。
毎日制服を着て元気にお勤めをするという点では、メイドと変わらない。
以前のように、夕方にはアパートに帰るというわけにはいかなくなったけれど。
誰かのために家事をするという役目が無くなってしまったので、問題は無かった。
メイド服一式は、あの方が引っ越された次の日から袖を通さず、縫い直しもせずに仕舞いこんだままだ。
どこかのお屋敷へメイド奉公に戻ることも考えたが、何となく気後れしてやめた。
引っ越してから、旦那様は大家さんの方に一度だけ電話されたらしい。
大家と店子という枠を超えてお世話になっていたのだから、しごく当然のことだと思う。
その電話がかかってきたのは日中だったので、あいにく、私は勤めに出ていて留守だった。
だから旦那様のお声を聞くことは叶わず、大家さんに「元気そうでしたよ」と教えてもらっただけ。
線は細いけれど体は丈夫な方だから、きっとお元気でいらっしゃると思う。
今年の夏は酷暑だったから、夏ばてをされていないか、少し心配になったけれど。


秋が深まり、11月の声を聞くようになった頃、急激に寒い日がやってきた。
明日はもっと冷え込むとニュースで知り、上着を出そうと押入れの衣装ケースを取り出す。
冬用のセーターやマフラーをかきわけ、目的の物を取り出そうとした時、はたと手が止まった。
「あ……」
予想もしていなかった物が視界に映り、心臓が止まりそうになる。
旦那様の綿入れが、なぜかそこから出てきたのだ。
これは、私があの方に贈った物だ。
同居を始めて一年目の冬、旦那様が私に真珠のネックレスを買ってくれたことがある。
高価な品を頂いて恐縮した私は、それをクリスマスプレゼントだととらえ、お返しにこの綿入れを差し上げた。
隙間風が吹き込むこの部屋で、旦那様の背中が寒そうだったから……というのが、選ぶ決め手になった。
綿入れとはいえ、浮ついた柄の安物ではなく、それなりの値段のする上質な物を選んだのを覚えている。
旦那様もこれを気に入って下さり、毎日のように着ておられたのに、なぜ今これがここにあるのだろう。
考えてみるのだが、春頃の記憶はいまいちはっきりとはしない。
思い出すのは、旦那様と一緒にいることが苦痛で、できる限り背中を向けて暮らしていたということだけ。
おおかた、クリーニングから帰ってきたこれを仕舞い込む場所に困り、自分の衣装ケースに入れたのだと思う。
それを忘れた頃に、あの引越しの話が出たのに違いない。
そうでない限りは、これがここにあることの説明がつかない。
どうしよう。
サイズが大きいから、私が着るのには向かないと思う。
かといって、処分してしまうのもしのびない。
それなら宅配で送ればよさそうなものだが、旦那様のあちらでの住所を私は知らない。


大学まで、届けに行こうか。
そんな考えがフッと頭に浮かんだ。
書店で入試関連の本を調べれば、大学のある場所は分かるだろう。
夜行バスを使えば安く行ける。
これからは寒くなる一方だから、できるだけ早い方がいい。
もしかして、あちらでとっくに新しい物を買われているかもしれないし、私のことももうお忘れになったかもしれない。
それでも私は、旦那様に、この綿入れを傍に置いてほしかったのだ。
これを着て、あのコタツに入り、このアパートにいた時のように過ごしてほしい。
揃いで買った湯飲みの片割れでお茶を飲みながら、月に一度くらいは、口うるさいガサツなメイドのことを思い出してほしい。
そんな風に思うのが、贈った私のエゴだったとしても。
145美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 02:52:53 ID:Cq0yCAJy
こういう気持ちを、きっと世間では未練と呼ぶのだろう。
自分にもそういう感情があったことに戸惑ったけれど、一旦考えたことは頭から消えなかった。
次の日、店長と話をして、休みをもらう手はずを整える。
普段真面目なお陰か、すんなり承諾してもらえ、夜行バスでは大変だからと二日休みをもらえた。
綿入れは陰干しした後に包み、お渡しする準備を整えた。
そして、そうこうしている間に当日が来て、仕事を終えた私は夜行バスの発着所へ向かった。
車窓の景色は、夜ということもあって興味を引かず、狭いシートを少し倒して眠る準備をする。
旦那様は、まだ新しい綿入れを買われていなければいいんだけど。
行ったことのない地に思いをはせ、私はしばし浅い眠りについた。


早朝、バスが大きな駅のターミナルに到着し、乗客は一斉に下りて思い思いの場所に散っていった。
私は、駅前の喫茶店に入り、時間をつぶすことにする。
食事も済ませ、駅の中をしばし迷い歩いた後、電車を乗り継いで旦那様の大学へと向かった。
最寄り駅で降りると、学生の流れができていて、今度は迷うこともなく大学までたどり着ける。
しかし構内に入った瞬間、私はまた途方に暮れることになった。
旦那様が、この広いキャンパスのどこにおられるか、皆目見当がつかないのだ。
理系の研究室というひどく曖昧なイメージでは、この総合大学の中を探すのは大変だった。
案内板を見るごとに立ち止まり、道行く何人もの学生に尋ね、ようやくここと思われる建物にたどり着く。
フロアには廊下を挟んで両脇にドアがずらりと並び、○○教授だの××講師だのと、部屋の主の名が小さく表示されている。
まるで殺風景な入院病棟に迷い込んでしまったかのようで、心細さを覚えた。
旦那様は、どのドアの向こうにいらっしゃるのだろう。
多分、まだ個室をもらえるような待遇は受けていないはずだ。
そうすると、主の名がない部屋を数人で使っていらっしゃるのに違いない。
フロアの端から端まで歩いて調べると、それらしき部屋は5部屋あった。
この中のどこかに旦那様がおられるはず。
しかし、ドアは室内の様子をうかがえるようには作られておらず、私は困ってしまった。
ここは研究施設というだけあって、人通りも少なく、建物全体がしんと静まり返っている。
このような雰囲気で、よそ者がいきなりドアを開けるというのは、はばかられた。


廊下を行きつ戻りつするのに疲れた私は、置いてあったベンチに腰掛けた。
窓の外には広大な大学の風景が広がっていて、大勢の学生や職員が行き交っている。
皆それぞれに行くべき場所があるのに、私には「旦那様のおられる部屋」という、大づかみな目的地しかない。
そもそも、このフロアどころか建物自体が見当違いだということもあり得るのだ。
スーパーなら、案内所で迷子放送をしてもらえるのにな。
大きく溜息をついたその時、向こうの方でドアがカチャリと開く音が微かに聞こえた。
何気なくそちらに目をやり、一瞬で体中の血が逆流したような衝撃が私を襲う。
そこにあったのは、見覚えのある、懐かしい懐かしい背中だったのだから。
「旦那様!」
立ち上がり、自分でも驚くほどに大きな声で呼びかけると、その人影はハッとした様子でこちらに振り返った。
無機質な白衣を着てはいるが、見間違えるはずもない。
息を飲み、驚いた表情でそこに立ち尽くしているのは、やっぱり私の旦那様だった。
「美果……さん?」
呆然と呟かれた自分の名前が耳に届く。
よかった、あの方はまだ私のことを覚えて下さっている。
そう思った瞬間、涙が勝手に溢れ出し、私はその場にへたり込んでしまった。
コツコツと足音を立てて、旦那様がこちらへ歩いてこられる気配がする。
そして、床に座り込んだ私の目に見覚えのある靴が映り、確かにあの方であるということを報告してくれた。
もっとちゃんと見たくて、袖で乱暴に顔を拭い、目を何度も瞬かせる。
靴は私より二、三歩離れた所で止まり、折られたスラックスの膝が見え、そして懐かしいあの方のお顔が私を覗き込んだ。
「あ……」
何を言ったらいいのだろう、どう振舞えばよいのだろう。
仕事場に勝手にやってきて、いきなり泣き出すなんて、大人のすることではない。
「あ、の……」
口の中がからからに乾ききって、きちんと声が出ずにもどかしい。
今、旦那様がご自分のハンカチを取り出し、私の涙を拭って下さっているというのに。
何やら少し困ったような、難しい表情をなさっていて、それを見て胸が騒ぐばかりだ。
いきなり来たのは、やっぱりまずかっただろうか。
不安が急速にこみ上げてきて、呼吸が苦しくなった。
146美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 02:54:22 ID:Cq0yCAJy
「池之端君」
その時、不意に落ち着いた声が聞こえた。
旦那様が振り返られ、私もそちらに目をやると、旦那様の肩越しに小柄な老紳士が立っているのが見えた。
はいと短く返事をして、旦那様は私に背を向けてその人と何やら難しい話をされ始める。
言葉の感じからすると、その老紳士は偉い教授か誰かのようだ。
やはりここは大学で、私などのいるべき場所ではないという思いが、胸に突き刺さった。
私のあずかり知らぬ分野のことながら、旦那様が老紳士に何かを頼まれたのか、言いつけられたのが分かった。
いつの間にか話は終っていたようで、あちらへ向かう老紳士の背を見送って、旦那様がこちらに向き直られる。
再び目が合って、私の心臓はまた大きく跳ねた。
「美果さん、すみません。今はちょっと時間が無いのです」
旦那様が申し訳なさそうに仰って、お手にあったハンカチを私の手に握らされる。
「僕のアパートはすぐ近くです。すみませんが、僕が帰るまで待っていてもらえないでしょうか」
ちょっとそうしていて下さいと言って、旦那様が今しがた出てきたドアの中に消えられる。
そして何やらお手に持って戻ってこられ、私にそれを押し付けられた。
「これが鍵です。部屋は、3階の307号室です」
旦那様はそう早口で仰って、ポケットから紙とペンを取り出して地図を描いて下さった。
「この建物を出て、右に行くと裏門が見えてきますから。ほら、ここにあるこれです」
「……はい」
受け取った地図の中に、確かにその文字があるのを認め、頷く。
「なるべく早く帰るようにします。それまで、好きに寛いで下さって構いません」
旦那様はもう一度優しく微笑んで下さってから、きびすを返し、さっきの老紳士が歩いていった方向へ小走りで去っていかれた。
ご本人がいいと仰ったのだから、待っていても構わないのかな。
もらった地図をもう一度確認し、私は階段を下りて建物を出た。


旦那様のアパートは、本当にわかりやすい場所にあった。
裏門を出て左に折れてまっすぐ歩き、めがね屋の横の角を曲がってすぐ。
地図のとおりに歩くと、小奇麗な建物が見えてきて、これなのかと見当をつける。
階段を上がり、307号室に鍵を差し込んで回すと、カチャリと音を立ててドアが開いた。
中へ入ると、見覚えのある服や身の回りの物が目に入り、ここがあの方の住まいなのだと教えてくれる。
それに何より、旦那様と暮らすことになって初めての冬に買った、あのコタツが部屋の中央に鎮座していた。
本や資料が天板の上にたくさん積まれている光景も、とても懐かしかった。
洋間なのに、コタツを使っておられるなんて。
あの方らしいと、私の顔にはひとりでに笑みが浮かんだ。
部屋は、キッチンとリビング、その奥の寝室と広めの納戸という間取りになっている。
お風呂場とトイレもちゃんと別になっていて、一人暮らしには少し広いとも思える造りだった。
一通りの家電も揃っていて、旦那様はここで、それなりに充実した生活を送っていらっしゃることが窺える。
もう就職して社会人になられたのだから、収入も安定して、こういった物を買えるようにもなったのだろう。
最初は、ご自分の世話すらできないあの方を、私はずいぶん叱りつけたものだったのに。
私は、感慨にふけりながら荷解きをし、ハンガーを借りて綿入れを壁に掛けた。
こうしておけば、あの方はきっと気付いて、私が帰った後にこれを使って下さるだろう。
やっぱり持って来てよかったと、私はコタツに入って綿入れをしばし見つめた。


まだ日は高く、旦那様が帰ってこられるまで時間がある。
旦那様のハンカチが自分の手の中にあったことに気付き、洗おうかとコタツを出た。
涙で濡らした上に握りしめていたから、このままで返すわけにはいかない。
ふと部屋の隅を見ると、かごの中に洗濯前の衣類がある。
一人暮らしだから、つい溜め込んでしまわれたのだろう、これもついでに洗ってしまおう。
じっと待っているだけより、何かしている方が気がまぎれていい。
自分の物ではない衣類を洗うのも、久しぶりのこと。
見たことのないシャツや下着もあり、こちらで新しく買われたのだろうと見当をつけた。
洗濯物をベランダに干して、一仕事終えた気分になる。
寒いから、これが乾くのは、きっと私が帰った後だ。
やるべきことは終ったけれど、また時間がある。
そういえば、大学からこちらへ向かう途中に、小さなスーパーがあるのが見えた。
あそこで食材を見繕って、夕飯でも作ろうか。
147美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 02:55:57 ID:Cq0yCAJy
そう思い立ち、私は旦那様の部屋を出て、もと来た道を少し戻った。
向かったスーパーは、近くに大学があるせいか、単身者向けのお惣菜が充実している。
最近は帰りが遅くなると、こういう物を買って食べることがあるのだが、今日に限っては全く買う気がしなかった。
料理をしたいという意欲が、胸にふつふつと滾っている。
初めて来る場所で買い物をしてアパートに戻るなんて、まるで海音寺荘に引っ越した初日のようだ。
帰り道、売場にあった珍しいご当地野菜のことを思い出す。
旦那様は、ああいう野菜を使って料理をされるのだろうか。
考え事をしながら旦那様の部屋に戻り、台所を借りて料理をする。
夕食を今から作るのは少し早いけど、何かしていないと落ち着かなかった。
料理が全て終ったところで、コタツに入って目を閉じる。
夜行バスでは熟睡できなかったから、今になって眠気が襲ってきた。
洗濯も料理も済ませたし、やることはもう無い。
私の体はころりと横倒しになり、数分後には眠ってしまっていた。


ドアがノックされる音に、ハッと目を見開く。
つい寝入ってしまったらしい、見上げた窓の外は暗く、もう夜になっていることが知れる。
私は慌てて立ち上がり、玄関へ走った。
「お帰り、なさい」
ドアを開けてぎこちなく言うと、旦那様は「ただいま戻りました」と微笑んで下さった。
以前と全く変わらない、見る者を温かな気分にさせる笑顔が目に眩しい。
「いい香りがしますね」
旦那様が仰って、私は先ほど調えた夕飯のことを思い出した。
「あ……。さしでがましいかとは思ったんですけど、夕ご飯を……」
「そうですか。ありがとう、助かります」
旦那様が再び微笑まれたのを見て、私はホッと胸をなで下ろした。
着替えをされている間に、コタツの上に温め直した料理を並べ、ご飯をよそって準備をする。
この部屋には、二人分の膳に必要なお皿は無く、おかずは一緒盛りになってしまった。
謝る私に、旦那様は「全く構いませんよ。つつきあって食べましょう」と仰り、いそいそと箸を取られる。
私も少し遅れてそれに習ったのだが、皿の上の物に注ぐべき視線は、全て旦那様の方に集中してしまっていた。
食べている人をじっと見るなど、失礼なのに。
半年ぶりに会ったこの方が、私の料理を美味しそうに食べていらっしゃるのが、すごく懐かしかったから。


ぐずぐずしているうちに、旦那様が私より先に食事を終えられた。
一緒に暮らしていた頃は、いつだって私の方が早く食べ終えていたのに。
「美果さん、ゆっくりお食べなさい」
旦那様がそう仰って、お茶碗とお箸を流しへ持って行かれる。
「すみません」
なんだかきまりが悪くなり、私は食べるピッチを上げて膳の上の物を片付けた。
流しへ行き、洗い物をして戻ると、旦那様は壁の方をじっと見ていらっしゃった。
「これを、持ってきて下さったんですか?」
私が座ると、旦那様が視線を固定されたままお尋ねになる。
その目が見つめているのは、私が持ってきた綿入れだった。
「はい。先週から、急に寒くなりましたから」
「本当に。こちらも、随分と冷え込みました」
旦那様が、やっと私の方に向き直られる。
「寒いから上に着る物を……と、この綿入れを探したのに。無かったので、どうしたのかと思っていました」
そう仰るのに、私は、これが自分の衣類に紛れていたことを話した。
「そうですか。僕は、引越しのどさくさで失くしてしまったのかと、ひどくショックだったのです」
「ショック、ですか?」
「はい。綿入れとコタツと熱いお茶は、冬の風物詩ですからね」
旦那様の言葉に、二人で暮らしていた頃のことがまた脳裏によみがえってくる。
海音寺荘の部屋で、難しい本や書類と格闘して、一息つくと私にお茶を所望されたこの方の姿、声。
記憶の中のそれが、今目の前にいるこの方とぴったり重なり、一つになった。
胸をわし掴みにされるような懐かしさを覚え、目の奥が熱く潤んでくるようだった。
148美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 02:57:47 ID:Cq0yCAJy
泣きそうなのを堪えるため、お茶を淹れにキッチンに立つ。
気持ちを落ち着けてコタツへ戻り、離れていた半年間の話をすることにした。
私が、アクセサリー店に腰を据えて働き出したことを話すと、旦那様が微笑まれた。
「美果さんは弁が立ちますからね。売るのもお上手でしょう」
そう言われて、背筋がこそばゆくなる。
控えめな接客を心がけているとはいえ、ついセールストークに熱が入ってしまうのは確かだ。
「僕は、昼間に美果さんがいらっしゃったあの建物で、ほとんどの時間を過ごしていました。
休日には、社寺仏閣を巡ったりして、けっこう出歩いていたのですよ」
「えっ?」
旦那様は、明らかにインドア派のはずなのに。
「早く、こちらに馴染まなくてはいけませんからね。それにはあちこち歩き回るのが早いのです」
私が抱いた疑問を見透かしたのか、旦那様が言葉を重ねられる。
「休日は、ここにいると一人で寂しいですからね。それを紛らす意味もありました」
「えっ、寂しかった……んですか?」
旦那様が小さく頷かれる。
「寂しくないわけはないでしょう?今までは二人暮しだったのに、急に一人になったんですから」
声が出ず、私は無言で頷いた。
「ただ寂しいと思うだけでは、情けないですからね。
だから、あちこち見て回って『この地で僕は生きていくんだ』と、半ば強引に気持ちを切り替えていました」
それはもしかして、私がバイトを渡り歩くのをやめ、アクセサリーショップの職を見つけたことと同じなのだろうか。
どちらも、二人暮しのことを心の片隅に追いやって、自分を取り巻く環境を変えたのだから、きっとそうなのだろう。
「……それで、寂しいのは無くなりましたか?」
私が問うと、旦那様はしばらく考えてから首を横に振られた。
「残念ながら、紛らす程度にしかなりませんでした」
「そう……ですか」
「しかし、弱音だけは吐くまいと思っていたのですよ?こちらでやっていきたいという思いだけは本物でした。
地縁血縁の無い場所で頑張るのは、美果さんが15歳ですでにやっていたことですからね」
「えっ……」
「ずっと大人である僕が、めそめそするのは恥ずかしいでしょう」
「それは、そうですね」
「美果さんが恋しくなって逃げ帰れば、あなたは僕が関西に行くと言った時以上に、烈火のごとく怒るでしょう?
情けない男だと、幻滅するでしょう。それだけは避けねばと思っていました」
「えっ」
今、旦那様は何と仰っただろう。
美果が恋しいと、そう聞こえたような気がしたんだけれど。
「旦那様、今……」
「何です?」
「恋しい、って仰いましたか?」
「ええ。美果さんが恋しくて、随分と寂しい思いを致しました」
旦那様が私の言葉に頷き、感慨深げな表情をされる。
私も、旦那様が恋しかった。
一人を満喫するはずだったのに、気がつくと旦那様のことばかり考えていた。
それが苦しくて、仕事を変えたり遅くまで働いたりしたけれど、どうしても振り切れなくて。
仕返しだのお屋敷奪回だのと外面にばかりにこだわって、大切な人と離れてしまった自分の愚かさを死ぬほど後悔した。
別々に暮らしてみて、やっと分かった。
あの時の夢や約束なんか一切どうだっていい、もう一度私は旦那様と暮らしたい。
いるべき人がいないのは、もう沢山だ。


「旦那様、私……」
両手を体の前で握り合わせ、必死に心を落ち着ける。
感情のままに話せば、喧嘩別れみたいになったあの時と同じになってしまう気がした。
それだけはいや、絶対にいやだ。
「私、もう一度旦那様と一緒に暮らしたいんです。
会社やお屋敷のことなんか無くたって、私には、旦那様と一緒にいるってことがそれだけで楽しかったんです」
過去の怒りや恨みに心を占められ、本当に大切な物に気付くのには随分長くかかったけれど。
こうなった今、ずっと重荷になっていた感情は全て流れ去って、私の心には芯の部分だけが残っている。
旦那様に夢を預けてもたれかかるような、無責任な生き方はもうしない。
二人で住めることを喜びながら、ご飯の出来やアイロンの具合に一喜一憂するようなシンプルな生活がしたい。
それができるならば、私は関西でも外国でも、どこにでも行く。
149美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 02:59:44 ID:Cq0yCAJy
祈るような気持ちで頭を下げる私の肩に、旦那様のお手が触れる。
そのままふわりと抱き寄せられ、私は旦那様の肩口に顔を埋めた。
「……僕は、駄目な男です」
旦那様の苦々しい声に、心臓が縮み上がる。
その声の重さの意味は何だろう。
「あの……」
呼吸が浅くなり、胸がギュッと痛くなる。
やっぱり、旦那様はもう私となんか暮らしたくないのだろうか。
「ごめんなさい」
謝って、旦那様の腕の中から身を起こす。
環境が変われば、こうなるのは仕方がないことなのだ。
「無理なことを言いました、忘れて下さい。私は明日帰ります」
ここで、未練がましくすがってはいけない。
別の部屋に逃げようと腰を浮かせると、旦那様に強い力で腕を引かれた。
その手の平はとても熱く、びっくりして私は動きを止める。
「美果さん、人の話は皆まで聞くものです」
「えっ……」
有無を言わせぬ迫力で旦那様が仰って、私の頭が混乱する。
「旦那様は、私とはもう暮らすお積もりは無いんでしょう?だって、あんなに苦々しい声で……」
「違います。あんな声が出たのは、僕が言うべきことを美果さんに言わせてしまった……と悔やむ気持ちからです」
「それは……」
「美果さん。僕がどうして『部屋で待ってて』と言ったと思います?
待つだけなら、学校の図書館でもカフェテリアでも場所はあったのに」
さあ、それは分からない。
私は部外者だから、大学内にいるのがいけないからじゃないのだろうか。
首を傾げる私を見て、旦那様が焦れたようにまた口を開かれる。
「分かりませんか。美果さんのいるアパートに、帰りたかったのですよ」
「えっ?」
「美果さんに、ここで僕を待っていて欲しかったのです」
旦那様の言葉が胸を打つ。
海音寺荘では、私がこの方を待つより、この方が私を待つ方が多かったけど。
たまに遅く帰ってこられたこの方を迎えると、笑顔とともに「美果さん、ただいま」という言葉が返ってくるのが常だった。
仕事で心がささくれ立っても、旦那様のその仕草を見ると、いつも心がフッと凪いだのだ。
この方も、もしかしたら、私がお帰りなさいと言うのを楽しみにしていらっしゃったのだろうか。
「美果さん。僕はあの日、さよならとは言わなかったでしょう?」
「え?ええ」
引越しの日、見送ることもなくお風呂場に隠れていた私へ、この方が最後に仰った言葉。
『行ってきます』
ドアごしに聞いた、この短い言葉を私が忘れるわけもない。
「ほんの一時、離れるだけだという認識でしたからね。さようならと書かなかったのは、わざとです」
「えっ?」
自分の目がまん丸になるのが分かる。
私は、もう会えないかとまで思っていたのに。
「こちらで最低一年は頑張って、それから改めてあなたを迎えに行くつもりでした。
その前にこうして来て下さったから、ちょっと予定が変わりましたが」
旦那様が私の髪に手を触れ、穏やかに語られる。
その瞳には嘘や取繕いの色は無く、本心だけが宿っているのが見て取れた
「美果さんにもう一度会うのは、頼れる強い男になってから……と思ったのですが。
こうして会ってしまうと、もう駄目ですね。また、あなたと暮らしたい」
今まで見たこともないような情熱的な瞳で、旦那様が仰る。
自惚れかもしれないけど、旦那様が打ち込んでおられる学問のことを語られるときよりも、ずっと強い意志を感じた。
そのかっこ良さに目を奪われ、気持ちが舞い上がりそうになったところでハッとした。
あの日、私はこの世の終わりのように悲劇的な心境だったのに、旦那様は「ほんの一時、離れるだけ」と思っていらっしゃったなんて。
担がれたようで、なんか面白くない。
「そんなの、言って下さらなきゃ分かんないじゃありませんか」
「ええ、それについては謝るしかありません」
過去に例の無いほど深く頭を下げられ、謝られてしまう。
ずるい、そんな風にされると責められなくなってしまうじゃないか。
「言えなかったのは僕の弱さと、約束を破った後ろめたさゆえのことです。
ですが、信じて下さい。僕は本当に、美果さんともう一度暮らしたいと思っていました」
150美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 03:03:12 ID:Cq0yCAJy
熱意のこもった声と表情で言われて、胸に喜びが湧く。
しかし、今後のために少しだけ苦言を呈させてもらおう。
「こっちでしばらく頑張ってから、私を呼び寄せられるお積もりだったんですね?」
「はい。四の五の言わずに態度で示せば、あなたも分かってくれると考えていました」
「そんなの、六か七くらい言ってから引っ越して下さらなきゃ困ります。私はエスパーじゃありません。
頑張るってことは、職場で信頼を得て認めてもらうってことなんでしょう?」
「ええ」
「旦那様は言葉をケチっていらっしゃるんです。メイド一人の心も掴めないのに、周囲の人に認めて頂くことなんか、できるはずないじゃありませんか」
「それは……」
旦那様がうっと言葉に詰まられる。
この感じは、二人暮しを始めた頃によくあった。
根っからのお坊ちゃまである旦那様に、庶民の生活をこんこんと説いていた、あの最初の頃の。
あの時同様、ひたすらガミガミ言うのはやめておこう。
この辺で角を引っ込めることに決め、自分の眉間に指で触れてしわを伸ばした。
自分は弱いという自覚があるのなら、私が今後それをみっちりと鍛えてあげればすむことだ。
「私、こっちに越してきても構わないんですね?」
「ええ。待っていますから、是非ともそうして下さい」
旦那様が大きく頷かれたのを見て、私はやっと安心すると共に、さっきのことはもう不問にすることにした。


色々片付いたところで、旦那様の後にお風呂に入り、パジャマを借りる。
「美果さんはベッドをお使いなさい。僕はこちらで寝ますから」
長すぎる裾と袖を折り返している私に、旦那様がコタツを指差して仰った。
「そんなわけにはいきません。押しかけたのは私なんですから、私がこっちで寝ます」
パジャマを借りた上、ベッドまで独り占めするのは気がひける。
「いいえ、美果さんはお客人なのですから、床で眠らせるわけにはいきません」
「だめです。前にも旦那様、コタツで寝るって言い張って、風邪引いて寝込んだじゃないですか」
最初の冬、そうなった旦那様に「小学生ですか、全く!」と怒ったことを思い出す。
就職したんだから、「風邪を引くのは、自己管理がなってない証拠だ」と上司に思われるかもしれないのに。
「ほら、旦那様はあっちで寝て下さい」
肩を押して促しても、旦那様は頑なに首を横に振られるばかり。
「美果さんが風邪を引くのも困ります。それでは宿を提供した僕の立場がありません」
何の立場だろう、男のプライドってやつだろうか。
「分かりました。じゃあ、一緒に寝ましょう」
このままベッドを譲り合っていても、埒があかない。
だからそう提案すると、旦那様はやっと頷かれた。
「いい考えですね。それなら風邪を引く心配はなさそうです」
合意しあったところで、二人して寝室へ行く。
先に横になられた旦那様が、掛け布団をめくって、私の入るスペースを作って下さった。
招かれるままにそこへ入り込むと、旦那様の温もりをはらんだ布団が、私の体を優しく包み込んだ。
なんて温かいんだろう。
コタツも好きだけれど、この温もりは、電気や何かでは決して作れない、人肌だけが持つ温もりだ。
気持ちがふわふわとほぐれていくようで、心地良くて堪らない。
目の前には、青いパジャマを着た旦那様の胸がある。
私は自然にそちらへ近付き、ぴたりと触れるほど近くに身を置いた。
「温かいですね、美果さん」
旦那様の腕が私の背に回り、もっと距離を縮めようとするかのように引き寄せる。
こんな風に抱きしめてもらうのは、いつ以来だろう。
私達の間に距離ができたのは、就職の話が出た時からだから、引越しの日よりさらに前だ。
そんなに長くご無沙汰だったなんて信じられないくらい、旦那様の胸は心地いい。
様々に悪態をついていたけれど、私はこの方にこうしてもらうのが、すごく好きだった。
最初はただの深夜勤務だったけど、一緒に住むようになって、そのお心に触れるようにもなると、楽しみで。
ここに自分の居場所があると思うと、時折泣きたいくらいに幸せだったのに。
旦那様の言葉が足りなかったせいとはいえ、自分から遠ざかるような真似をしたなんて、私はなんて馬鹿だったんだろう。
「旦那様、旦那様っ」
後悔と自己嫌悪がよみがえり、私は旦那様に力一杯抱きついた。
ぎゅうぎゅうと音がするくらいに密着して、二人の体を隔てる空気さえも押し出すくらいに。
151美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 03:04:08 ID:Cq0yCAJy
「美果さん?」
旦那様が覗き込もうとされるのを拒み、両脚まで絡めてくっつく。
今の私を横から見ると、きっと馬鹿なコアラか間抜けなナマケモノだ。
「旦那様、抱いて下さい。今すぐに」
密着してもなお拭いきれない不安を振り払いたくて、恥を忘れて懇願する。
驚いた表情で固まっておられるのがもどかしくて、私は起き上がり、借りたパジャマを脱ぎ捨てた。
下着のホックに手をかけたところで、ようやく気を取り直した旦那様が私を制される。
「美果さん、お待ちなさい。どうか落ち着いて」
諭すような言葉に、私は背に回した手を戻し、シーツに落とした。
「落ち着いてます、私……」
旦那様に抱いて欲しい、ただそれだけなのに。
自分とこの方の温度差が、無性にもどかしい。
「私、冷静です。本気で、旦那様に抱いて欲しいって思ってるんです」
泣きたくなる気持ちを懸命になだめ、精一杯言葉をつなげる。
女からこんなことを言うのはみっともないけれど、でも、どうしても本心を伝えたかった。


「僕の我慢が、無駄になるではありませんか」
沈黙を破って、旦那様が決まり悪げに呟かれる。
意外な言葉に、私は目を何度も瞬かせた。
「我慢?」
「再会してすぐ手を出すような真似は、誠意に欠けるからと慎んでいたのに」
私は、へっ……?と間抜けな声を上げる。
「あの、こういう場合は、ぜひ手を出して頂きたいんですけど」
「いえ、やはり分別が、その……」
もじもじと煮え切らない態度を取られる旦那様は、アパートに引っ越した当初のこの方そのものだ。
ああもう、こんな時に限って。
「んっ……」
この上は実力行使だと、私は姿勢を落として旦那様にキスを仕掛けた。
唇が触れ合った瞬間、二人で暮らしていた頃のことがどっと脳裏によみがえってくる。
私達が初めてキスをしたのは、あのアパートに移ってから。
最初は何とも思わなかったけど、回数を重ねるにつれて、気持ちも伴うようになった。
目を閉じてからキスまでのわずかな時間、全身の神経が研ぎ澄まされたように敏感になって。
唇がくっつくと、他のこと一切が頭から消えて、旦那様のことしか考えられなくなるのは以前も今も同じ。
「ん……」
何度も何度も角度を変えて、キスに夢中になる。
そうするうちに、向こうからかけられる力が大きくなってきて、私は心の中で快哉を叫んだ。
差し込まれた舌を受け入れ、深く絡め合いながら、旦那様のパジャマをギュッと掴む。
ずっとしていても構わないくらいだったのに、とうとう息苦しくなって、唇が離れてしまった。
それが寂しくて、下を向いて唇を噛む。
「美果さん、顔を見せて下さい」
旦那様が言い聞かせるように仰って、私のあごを指先で持ち上げられる。
目が合うと、あの方は少し微笑んでこちらをご覧になっていた。
その表情を見てしまったら、もう。
「旦那様……」
「はい」
「私、旦那様のことが好きです」
自覚するのに長い月日を要した本心が、口をついて出る。
不思議と、慌てたり焦ったりとか、そういった気分には全くならなかった。
「僕も、美果さんのことが好きですよ」
目を細めて言って、今度は旦那様の方から唇を重ねてこられる。
胸を温かい物が満たし、鼻の奥がツンと痛くなった。
この方が私のことを好き、だって。
今すぐ近隣の人達に言って回りたいくらい、自分が舞い上がるのが分かる。
旦那様が、私の機嫌を取り結ぶためではなく、本心で仰っているのが分かったから。
152美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 03:05:08 ID:Cq0yCAJy
互いの服を脱がせあって、改めて二人してベッドに横たわる。
体を慈しむように撫でてもらい、期待を煽られて心臓が爆発しそうに高鳴った。
「あ……」
ようやく旦那様のお手が胸にたどり着き、乳房を包み込む。
どこまでも優しいその手つきが嬉しくて、私はまた泣きそうになった。
「あっ……や……あ……」
旦那様の指が乳首を擦るたび、声が出てしまう。
この半年間、一人寝の寂しさに耐えかねて自分で触ったときより、ずっとずっと気持ちいい。
お体を引き寄せてせがむと、旦那様はそこを丹念に愛撫して下さる。
快感と喜び、旦那様を好きだと思う気持ちがごちゃ混ぜになり、胸が詰まった。
もっとしてほしい、ずっとこうしていたい。
ただそれだけで、他一切のことは頭の中から消え去っていく。
息が荒くなり、顔は火がついたように熱く火照っていて。
胸に置かれていた旦那様のお手が次第に体を下りていくのを、ぼんやりと感じていた。
ウエストやおへその辺りで止まるのがもどかしくて、左右に身を捩る。
私に余裕がないのが愉快なのか、旦那様が時折クスクスと笑い声を上げられるのが、ちょっと悔しい。
二人で暮らしていた頃は、よくこうやって焦らされていた。
最初は気丈に振舞っていても、ついには欲しくてたまらなくなり、私がいつも負けていたっけ。
「美果さん?」
懐かしさにお手を取りギュッと握ると、旦那様が怪訝そうに尋ねてこられる。
しかし、触って欲しい場所にお手を押し付けると、私の言いたいことが伝わったようだった。
求めに応え、旦那様が私の脚の間に指を滑り込ませられる。
目的の場所に着いた瞬間、ぬるりとした感触がし、顔がさらに熱くなる。
旦那様はほうっと感心したように息をつき、遠慮がちに指を動かされるばかり。
黙っていられると、なんか、気まずい。
「あの、……そんなに?」
驚くほど濡れているんですか、と問いかけると、ややあって旦那様が頷かれる。
「ええ。ひどく潤んでいて、僕のことを誘っています」
その周囲をなぞりながら旦那様が仰って、私の顔を覗き込まれる。
返答に困って目をつぶると、またキスしてもらえた。
指が動くたびに体をびくつかせながらも、懸命に応じる。
全身に力が入り、両方から刺激を受けて余計に追いつめられた。
「んっ、あ……あっ!」
肉芽を指先で弾くように刺激され、短く叫んでしまう。
快感のあまり、閉じた目の裏が白く光る思いがした。
「あっ……んんっ」
指とは違う物がそこに触れて、今度は驚きで体が跳ねる。
焦らすこともせず、旦那様がいきなり私の腰を抱え込んで、そこに舌を届かされたから。
「やっ……あ……あぁ……」
甘い物を舐めるように旦那様の舌が動き、秘所をなぶる。
恥ずかしさと気持ちよさがごちゃまぜになって、私はお尻をもぞもぞさせた。
そんな風にされるなんて耐えられないと思うのに、腰が抜けるくらいに気持ちいい。
もっとぐしょぐしょになるくらいに舐めて欲しい、許してもうやめてと言いたくなるほど愛撫して欲しい。
大きく開かされた脚を閉じることも忘れ、まるで溺れてでもいるかのように激しく呼吸しながら旦那様に身を委ねる。
頭の中が沸騰したように熱くなり、喘ぎと呻きの繰り返しで喉の奥がジンと痛んだ。
「あ、だめ……。あ……あああっ!」
旦那様の責めに、体がついに音を上げる。
腰だけでなく全身を震わせて、私は、自分でも驚くほどの声を上げて達してしまった。
大波が去った後も、小さな波がそれこそ波状攻撃を仕掛けてきて、危うく気を失ってしまいそうになった。
153美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 03:06:32 ID:Cq0yCAJy
「美果さん」
旦那様に呼ばれ、視線だけで応える。
まだ胸がドキドキして、下半身の震えが止まらない。
久しぶりなのに、旦那様はなんでこんなに私を気持ちよくさせられるんだろう。
まだ何もしてない自分と目の前の方を比べ、私は顔をしかめた。
旦那様だけなんてずるい、私にだって気持ちよくさせて欲しい。
お腹に力を入れて起き上がり、あべこべに旦那様を押し倒す。
ぽかんとしていらっしゃるうちに、パジャマをお脱がせしてベッドの下に放った。
ちょっと行儀が悪いけど、この際だから仕方ない。
さらに姿勢を低くし、旦那様の下着に手を掛ける。
一気に引き下ろすと、久しぶりに見るアレが目に飛び込んできた。
握りこんで擦り上げると、旦那様がうっと苦しそうな表情をされる。
そうだ、アパートにいる時もこうだったっけ。
私のことを敏感だと笑うくせに、ちょっと触っただけでそんな顔をされるなんて、旦那様だって十分に敏感だ。
主導権を取り返して気分が良くなり、さらに手の動きを速める。
いくらもしないうちにアレは固さを増し、手触りがまるで違ってきた。
「美果さん」
旦那様が、困ったような、何かをねだるような表情で私の名を呼ばれる。
頷いて、私はアレを口の中に納めた。
唇で柔らかく擦り上げ、舌を使って舐め上げてもみる。
久しぶりだからぎこちないのだけど、旦那様はまた苦しそうに眉根を寄せ、深く息を吐かれた。
「んっ……。我慢しなくても、構いませんよ」
そう言ったのだけど、旦那様は頑なに首を左右に振られる。
「やっと、美果さんと睦みあえているのに。僕が不甲斐ないところを見せるわけにはいきません」
別に、不甲斐ないなんて思わないけど。
必死に堪えておられるのがおかしくて、私は少し悪乗りすることにした。
「あ、っ……」
舌先でアレの輪郭をなぞり上げると、旦那様が脚をわななかせて声を上げられる。
きっと、もう少し。
先端を卑猥な音を立てて吸い上げ、根元を微妙な加減でしつこく擦り上げて追いつめると、旦那様はついに音を上げられた。
「うっ……」
小さな声と共に、私の口の中に生温かい物が放たれて、しゅうっと音がするみたいに旦那様の体から力が抜ける。
やったぁ、という達成感が胸に湧いて、私は喉を鳴らして口の中にある物を飲み干した。
なんだか、前よりも特別な味がしたようだった。


場違いににやにやしていると、旦那様がついと立ち上がり、クローゼットを開けられた。
がさごそと何かを探されているのを見るともなく見ていると、小さなくしゃみが出る。
「美果さん、布団をかぶっていなさい」
少し慌てたような声で旦那様が仰って、私は素直に言いつけに従った。
クロゼットの閉まる音がして、旦那様がこっちに戻ってこられる。
私に背を向けて手を動かされているのを見て、旦那様の探し物の正体に思い至った。
そうか。でも、あれっ……?。
理由の分からないの違和感を覚え、布団の中で何度かまばたきをする。
何だろう、これは……と考えようとした時、物音が止んだ。
布団を剥がれ、代わりに旦那様が覆いかぶさってこられる。
その目に情欲の光を見て取って、私は吐こうとした息を飲み込んだ。
いつも優しい旦那様だけど、閨の時に限っては、たまに怖いほど真剣になられることがある。
半年ほどもご無沙汰だったのに、ちゃんとお相手できるだろうか。
久しぶりだし、痛かったらどうしよう。
「美果さん、僕につかまっていらっしゃい」
私が身構えたのが分かったのか、旦那様が表情を和らげて優しく仰る。
お言葉の通りにすると、クスッと小さい笑い声が聞こえてきた。
不安を和らげて下さるなんてやっぱり優しいけれど、私が素直に従ったのが、そんなに面白いのだろうか。
こういうときに笑うなんて、ムードが無いと睨もうとしたその時、アレがゆっくりと押し込まれてきた。
「あ……んっ……」
私に負荷をかけないようにと、旦那様が気を使われているのが分かる。
一息に挿れるより、ゆっくりする方が男性には大変なはずなのに。
それより何より、思ったほど痛くない。
154美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 03:08:37 ID:Cq0yCAJy
ホッとして、私は体の力をなるべく抜いて協力した。
「美果さんのここは、僕のためにあるのですから。間が開いても、拒むようなことはありませんよ」
全部入ったところで、旦那様が珍しく調子に乗った発言をされる。
いつもなら、何言ってんですかと軽くいなすところなのに、今は全くそんな気にはならない。
久しぶりだし、気遣ってもらえてすごく嬉しいし。
心底幸せな気持ちで、旦那様の頬にキスをする。
それを合図としたかのように、旦那様が動かれ始める。
アレが中をうがつ久しぶりの感触は、体がちりちりと熱く焼けるようで、あっという間に呼吸が乱れてくる。
頭の中がぼうっと白く霞んで、心細くなって。
私は強い力で、まるでぶら下がるようにして旦那様にしがみついた。
「美果さん、これでは動けません」
旦那様が苦笑いして仰る。
「手を握ってあげましょう。それなら、大丈夫でしょう?」
私の不安を見透かすかのように、旦那様が私の手を外させてご自分の手の平を重ねられる。
指を絡めて握ってもらうと、なるほど落ち着く。
頷いて笑ってみせると、旦那様が目を細められる。
「では、いきますよ」
腰を深く沈めては後戻りされ、緩急の幅がきつくなっても、もう心が揺れることはなかった。
圧迫に耐え切れず手に力を入れても、旦那様も同じように握り返して下さるのがとても嬉しくて。
この方とのセックスが、こんなにも温かくて幸せな物であったことが思い出されてくる。
体を起こされて繋がる角度を変えたり、急に腰を止めて焦らされたりするのも、とても懐かしかった。
何かが目尻を伝って落ちる感触に、自分が泣いていることを知る。
嬉しくて涙が出るなんて、今までの人生には無かった。
「旦那様っ…………あぁ……んっ……」
うっとりと蕩けきった声で、何度も旦那様を呼ぶ。
はい、とそのたびに応えて下さるのが、輪をかけて私を喜ばせる。
私がついていてあげなければ……なんて、偉そうに考えていたこともあるけれど。
本当は、旦那様がいらっしゃらなければ困るのは、私の方だった。
もうだめかと思っていたけれど、また会えてこうして体を重ねられる幸せを思った。
ずっとこうしていられたらいいのに、明日帰るなんていやだ。
「んっ……。旦那様……私、明日……」
引き止めて欲しくて、息が上がっているのに語りかける。
帰りたくなんかない、と続けようとしたその口を、旦那様の唇が一息にふさぐ。
「く、んっ……ん……」
舌を絡められ、吸われて意識が飛びそうになる。
大きな熱が、解放を求めて身体中を荒れ狂って私を追いつめる。
ああ、もうだめ。
薄れる意識の中で、私は旦那様のキスから逃げて大きく叫び、達した。

絶頂の余韻に体を激しく震わせている私を、旦那様が抱き上げられる。
肩に手を回させてもらい、抱きついてやっと人心地がついた思いがした。
でも、まだ指先がぴりぴりして、うまく力が入らない。
指を一本ずつ動かして、体を元に戻そうとする。
「美果さん」
旦那様が、私を落ち着かせるように背中を撫でてくれる。
そうだ、旦那様はまだのはず。
抱きついた腕を少し緩め、ゆっくりとお尻を持ち上げる。
お腹に力を入れて、今度は私から動き始めた。
旦那様のためなんだけど、でも、やっぱり自分も気持ちよくなってしまう。
今しがた達したばかりなのに、何てはしたない。
気をそらすために、旦那様の首筋に吸い付いてみても、あまり効果がなかった。
「旦那様、お願いします……。私……」
申し訳ない思いで頼むと、旦那様がまた私の背を撫でて下さる。
その手が私の腰までやってきて、掴んで下から大きく突き上げられ始める。
「あんっ……あ……あぁ……」
我慢しようと唇を噛み締める力は弱く、また大きく喘いでしまう。
だめ、まだだめとうわ言のように自分に何度も言い聞かせ、ぎりぎりのところで耐え続けた。
その甲斐あって、精一杯締め上げていた旦那様のアレが、ようやく私の中で脈打ち大きく震える。
低い呻きがうなじを撫でていき、旦那様が絶頂を迎えられたことを知った。
どうにか頑張れた……とホッとしたところで、目の前が真っ暗になって、私はそのまま意識を手放した。
155美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 03:09:55 ID:Cq0yCAJy
温かい物が頬にくっついている感触に気付いて、目を覚ます。
どれくらい気を失っていたのか、私は最初のようにきちんとベッドに横たわっていた。
頬に触れていたのは、青いパジャマを着た旦那様の胸だった。
向こうのアパートにいた頃と何も変わらない安心感に、深呼吸をして旦那様の背中に腕を回す。
目を覚ましたくせに、まるで雲の上にでも乗っているようにふわふわとした心地良いまどろみが、私をまた眠りへと誘う。
素直に従おうと目を閉じた時、さっきの違和感の正体が突如目の前に現れ、私はあっと声を上げた。
旦那様一人暮らしのこの部屋に、なんでゴムなんかがあるんだろう。
まさか、他に……。
不安が黒雲のように広がり、今までの心地良さが体から一掃される。
聞きたくないけど、でも、どうしても聞かなければならない。
「旦那様」
眠っていらっしゃるかと思ったけれど、呼びかけると、はいと返事がある。
「さっき使った、あれ、は……。誰か他の方のための……」
怖い上に事後の雰囲気をぶち壊しにする質問を、恐る恐る口にする。
若くていい男が新天地で新しい恋をするなど、きっとよくあることに違いない。
でも私は、それがこの方にも当てはまるとは思いたくなかった。
「あれとは、あれのことですか?」
「はい。あれ、です……」
名称をぼかしたために、旦那様の確認が入る。
「あれは、引越しの時に海音寺荘から持ってきたものですよ」
「えっ?」
「心配には及びません。あれは、美果さんと使っていた分の残りです」
安心しなさい、とでもいうように旦那様が笑みを浮かべて仰るのに、私は胸を大きくなで下ろした。
よかった、杞憂だったのか。
だけどあんな物、引越しの荷物に入れるような種類の物ではないはずだ、と私の頭の中に疑問符が浮かんだ。
「でも、なんでこんなの、わざわざ持ってきたんですか?まさかこっちで使うた……」
「違います」
重ねて質問すると、それに被せるように旦那様が否定の言葉を返される。
「僕がこれを持ってこちらに来たのは、美果さんのためです」
「え、私の?」
「ええ。妙齢の女性の部屋にこのような物を置いていくのは、教育上よろしくありませんからね」
だから隔離したのですよ、と旦那様が説明されて、私は目をまん丸に大きく見開いた。
「教育上って、私はもう大人なんですけど」
「分かっています。しかしこういった物は、あれば使いたくなるのが人の常ですから」
その言葉に心底呆れてしまった。
私が心を不安に揺らめかせていたあの時、旦那様はそんなくだらないことを考えていらっしゃったなんて。
本当に、つくづくマイペースな方だ。
「私がこれを見て妙な気を起こさないようにという、旦那様のお考えだったんですか?」
「はい」
「若い女が持つのは悪くても、30歳目前のオジサンが持ってるのは構わないんですか?」
私についてそう仰るならば、旦那様だって、あれば使いたくなるだろうに。
男の人だったら、女よりももっと「そういう気」になりそうなものなのに、そっちの可能性は無視なのか。
なんか、釈然としない。
「美果さん、『オジサン』と言ったことを訂正なさい。僕はまだそんな年ではありません」
旦那様が眉根を寄せて仰るのに私は、はぁ……と、しまりのない返事をした。
確かに、自分のご主人様に対して少々失礼だったかもしれない。
「他の者が美果さんをさらっていかないようにという、まじないです。
捨ててしまわなかったのは、まだ使える物を捨てると、あなたに顔向けできなくなるからです」
そういえば、同居を始めた当初よく私は「むやみに物を捨てちゃいけません」とこの方に言い含めた気がする。
律儀にそれを守って下さっていたのなら、むしろ喜ぶべきことなのかな。


「それよりも美果さん。その質問をしたいのは僕の方です」
旦那様の声のトーンが変わる。
「半年間、あなたに他の者が手を触れませんでしたか?」
私の髪に遠慮がちに触れながら、旦那様が不安げな面持ちで仰る。
そんなことあるわけなかったから、私は即座に首を振った。
「ええ。残念ながら、私は理想が高いんです。寂しくても、妙な男とゆきずりになんて、絶対にしたくありませんから」
もしそんなことをしていれば、私はきっと自分が許せなかったと思う。
156美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 03:11:08 ID:Cq0yCAJy
「そうですか。しかし、寂しかったんですか?」
「えっ……」
旦那様に顔を覗き込まれ、あたふたしてしまう。
「ちょっとだけ。本当に、ほんのちょっとです。別に『旦那様じゃなきゃいやだ』なんて、思ってませんから」
寂しいなんて、口が滑ってしまったかもしれない。
こんなことを言えば、旦那様が調子に乗られるのは分かりきっているのに、私の勘も鈍ったものだ。
「手のかかる人が急にいなくなって、暇で暇で物足りなくなって。
これって、寂しいってことなのかなって思っただけです。ほら、私は働き者ですから」
「ええ。美果さんは近頃の若者には珍しいほどの、働き者ですね」
にこにこ笑いながら、旦那様が褒めてくれる。
この方に頭を撫でてもらうのも、随分久しぶりのことだ。
「旦那様より若くて頭が良くてハンサムで、センスとお金と気配りと頼りがいもある男なんて、世の中に溢れ返っているのに。
折悪しく、本当にたまたま、この半年間出会わなかっただけです」
「そうですか」
「ええ。現れたら、さっさと乗り換えてやったのに」
そう言うと、旦那様は私の頭を撫でるお手をそのままに、ふむと頷かれた。
「奇遇ですね。僕も、理想が高いんです」
「えっ?」
「美果さんより可愛らしくて、僕のことを一心に考えてくれる女性とは、出会えませんでした」
私の頬を指でなぞり、旦那様が言葉を続けられる。
あっという間に、頬が熱を持つのが分かった。
そんな風に言われたら、若いだのハンサムだのと、馬鹿な条件を並べ立てた自分がひどく滑稽に思える。
今のは言葉の綾というやつで、本当はそんな条件なんかどうでもいい。
同じ部屋に旦那様と住んで、身の回りのお世話をして、たまには夜に仲良くして。
そんな生活ができさえすれば、私は他に何も望むことはない。
でも本当に、私はこっちに引っ越してきてもいいんだろうか。
さっきそう言ってもらったはずなのに、なぜだか今になって疑問が湧いてくる。
旦那様も、つい言葉の勢いで仰ったんじゃないだろうか。
「あの、旦那様……。私、こっちに来ても、本当にいいんでしょうか……」
声が震えて、自分でも聞き取れないくらい小さくなる。
新しい道を歩まれている旦那様に、頼るような真似をするのは良くないのかもしれない。
「美果さんは、引っ越してくることに不安がありますか?」
やはり食べ物の問題ですか?と重ねて問われ、私はまた、へっと間抜けな声を上げた。
「いいんですか?私がこの部屋に、旦那様と一緒に住まわせて頂くんですよ?」
「不都合ですか?こちらは海音寺荘よりは広いし、新しくて丈夫ですよ?」
何を言っているんだという顔をして仰る旦那様と、同じような顔で二人して見詰め合う。
お互いに首を傾げて、そのまましばらく微動だにしなかった。


「あちらのアパートの賃貸契約のことが気に掛かるのですか?」
旦那様が問われて、そういえばと思考がそちらへ持っていかれる。
そうだ、急に引っ越すとなれば、向こうの大家さんに違約金とか取られるんじゃないだろうか。
不安になって言うと、旦那様は私を安心させるように微笑まれた。
「渋い顔はされるかもしれませんが、許して頂けるでしょう。もし怒られたら、言い出したのは僕だからと謝りますよ」
「はい……」
「こちらに来てからも、僕は大家さんと時々連絡を取っていました。近況報告のついでに、美果さんの様子を尋ねたりもして」
「そうなんですか?」
「ええ。月に一度くらいは、電話をかけていましたよ。こちらの名産品を送ったこともあります」
「え?だって大家さんは、旦那様の連絡先を知らないって…」
私の言葉に、旦那様は驚いたように目を見開かれる。
「こちらの住所は教えていましたよ?何かあったら、ご連絡下さいと」
「だったら、なんで…」
大家さんは、知らないなんて言ったんだろう。
意図が分からなくて、私は首を傾げた。
同じく考え込むような顔をなさった旦那様が、何かを思いついた表情になられる。
「美果さん。あなたはどうやら、大家さんに一本取られたようですね」
「えっ?」
「僕の連絡先を教えないでおけば、あなたが大学に来られるということを、大家さんは見抜かれたのでしょう」
157美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 03:12:36 ID:Cq0yCAJy
「あ!」
…………やられた。
言われてみれば、その通りだ。
このアパートの住所を知っていれば、私は綿入れを一方的に送りつけ、それで終わりになっていただろうと思う。
それができなかったから、大学の住所を調べて、こちらへ赴くという行動を取る羽目になったのだし。
「ね。あなたがこちらへ来ると言っても、大家さんは怒らないと思いませんか」
クスクス笑いながら、旦那様が楽しげに仰る。
悔しいけれど、きっとそのとおりになるだろうと思った。
「美果さんは行動派ですからね。大家さんにとっては、その想像をすることは容易だったのでしょう。
長く生きていらっしゃる方は、そういうことに思いが至るようになるものです」
年を取るってことは、賢くなるってことになるのかな。


「ですから、美果さん。引越しの準備が整えば、すぐにでも来て欲しいと思っています」
「本当ですか?私をからかってらっしゃるんじゃ、ありませんよね?」
「当たり前です。僕はそんな悪趣味なことはいたしません」
心外だという顔を旦那様がされて、私はやっと、その言葉を素直に受け取ることができた。
「ノーベル賞を取るという約束は、まだ果たせていません。このままでは僕は嘘つきになってしまいます。
僕が賞を取って、美果さんが賞金を持ち逃げするのでしょう?離れていては、それもできないではありませんか」
そういえば、寝物語に、そんな話をしたような気がする。
よく覚えていらっしゃったものだ、私なんかすっかり忘れてしまっていたのに。
「いいことを教えてあげましょう。ノーベル賞の賞金は非課税だから、額面そのままもらえるんです。丸儲けですよ」
「え、本当ですか」
がぜん元気になった自分に、心の中で冷や汗をかく。
現金の話をされて目を見開くのは、庶民のさがだと、旦那様にはどうか好意的に受け取って欲しい。
「ええ。僕が独り占めしそうだと思われるなら、授賞式には美果さんもついていらっしゃい」
「いいんですか?」
「構わないでしょう。ああいった場には、一人きりでは行かないものです」
旦那様の言葉に、以前行った弓島家のパーティーのことを思い出した。
「ああいうのって、女連れじゃないとだめなんですか?」
問うと、旦那様が大きく眉をひそめられる。
「美果さん、その言い方はおよしなさい。パートナー同伴、です」
「はあ。同伴で」
現金の話の時は無反応なのに、こういう突っ込みはきちんとなさる。
「授賞式って、どこでやるんですか?」
「スウェーデンのストックホルムですよ。北欧の、とても寒い国です」
「寒い国……」
「ええ。オーロラが出るくらいに寒い地ですよ」
それならすごく遠くになる、渡航費とか結構かかるんじゃないんだろうか。
「それって、まさか自費じゃないですよね?」
もしそうなら、とてもそんな場所には行けそうにない。
「多分大丈夫でしょう。お前にやるからここまで取りに来いというような、ケチなことは言わないはずです。
あれはスウェーデンの政府も関わっている、権威のある賞なのですからね」
そうか。国家が関わっているなら、きっと太っ腹なのだろう。
それならパーティーのお料理も豪華に違いない……と胸算用をして、頬が緩むのが分かった。
158美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/07/05(日) 03:13:51 ID:Cq0yCAJy
「何年かかるか分かりませんが、きっと連れて行きますから。それまで僕の傍にいてくれますか?」
すごく真剣な、男前度が確実に何割か増した表情で旦那様が仰る。
「はい。でも、今度こそですよ?また約束を破られたんじゃたまりません」
「ええ、頑張ります。ですから一緒に住んで、せいぜい僕の尻を叩いて下さい。
美果さんさえよければ、僕達の関係も、もっときちんとしたいと思っています」
「え?きちんと、ですか?」
旦那様の言葉に、池之端家にメイドとして雇われた時の、ややこしい手続きのことを思い出す。
別にそんなの無くっても、私は、また二人暮しができればそれだけでいい。
「遠慮しときます。甲とか乙とか義務を負ふとか、七面倒くさい文字で一杯の真っ黒な契約書に署名するんでしょう?」
ああいうのは、なんだか悪魔に魂を売る儀式みたいで気が進まない。
読めと言われて書面を読んでも、頭の中がひっかき回されるみたいで気分が悪くなるし。
「いいえ、確かそこまで文字数は多くありませんでした。色も、黒ではなくエンジ色だったように思います」
「エンジ色、ですか」
ちょっと読みやすそうだけど、やっぱり気が進まない。
「契約書は、やめにしませんか?だって、読んでると眠た……く……」
そこまで言ったところで、あくびが立て続けに出て、勝手にまぶたが下りてくる。
もっと話していたいけれど、どうやらこの辺が限界みたいだ。
「そうですか。ではこの話は、もう少し先にしましょうか」
遠くで聞こえる旦那様の声に、やっとの思いで頷く。
「お休みなさい、美果さん」
「お……休み……なさい……」
名残惜しいけど、さっさと寝て明日に備えよう。
朝食には、旦那様の好きな甘い玉子焼きと、きんぴらごぼうに豚汁も作ろうか。
コタツの上に並びきれないくらいおかずを並べて、旦那様を喜ばせたい。
昼間のスーパーは確か24時間営業だったから、起きたらひとっ走り買い物に行こう。
眠りに落ちる寸前、旦那様の温もりに包まれながら、うとうと考える。
二人分の朝食を作るのは、自分だけの分を作る時より、きっと何倍も楽しい。
早く、朝になればいいな。



──第11話終わり──
159名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 03:34:17 ID:GNTR1ezZ
美果さんきたー!

いや〜よかった!よかったねぇ…
160名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 04:48:21 ID:1tXCRRAC
美果さんよかったねぇ(´;ω;`)
161名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 07:24:41 ID:i++DEhjB
えんじ色の書類w
ウヒヒ、気付け美果さん!
162名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 07:24:46 ID:ra1KWcM5
美果さんキテターーーー!!!

ああ、やっと元の鞘に戻ってくれた……
旦那さまも鈍いけど美果さんも鈍いよなぁw
いいカップルだ
そして大家さんGJ!
163名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 07:59:49 ID:D8iX/ukS
GJGJ!
また二人が一緒に暮らせることがなんか我がことのように嬉しいw
美果さん、本当によかったねえ……
旦那様もますますやる気になるに違いない

それにしても、大家さんやるな
164名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 08:44:02 ID:SRedq9MR
ほっとしたw
大団円が心地よいなぁ
165名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 13:42:00 ID:lEtAZEr2
11話キテター
旦那様カッコイイいいなぁ 仲直りできて良かったよ。
―完― じゃないから、まだ続きを楽しみにしてていいんだよね?

166名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 13:44:47 ID:KE9mhbcH
えんじ色だったっけ?
ずいぶん前だからなぁ
ちゃんと役所に出すのはいいことだよ




引越し届け
167名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 22:21:52 ID:WCVyXEmx
美果さん来てた!!
元鞘良かったねえ
12話も期待してるん
168名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 00:15:49 ID:BThMNGcU
最高でした!

…間違って緑色の書類出さないように(爆
169名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 20:31:14 ID:KkXHQH1q
幸せだね、2人は。
170名無しさん@ピンキー:2009/07/08(水) 12:52:23 ID:q1K8tS+D
誰か>>169に専属メイドをつけてやって下さい
171名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 03:33:57 ID:WdIX4eXP
>>129
すみれと秀一郎がかなりツボです。。。
続き・・とか番外編とか読みたい!!
172名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 08:09:22 ID:Ftiol2w5
激しく同意。
173名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 09:41:31 ID:Kj9IxRsZ
すでに>>129が番外編で続きなわけだがw
津田主役で執事スレにでも移動してもらうか?
174名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 14:27:28 ID:WdIX4eXP
正直津田さんどうでもいい・・・
175名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 16:31:01 ID:DbZF9w6j
謝れ!津田さんに謝れ!(´Д⊂
176名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 08:14:19 ID:bhfNYGFL
津田はすみれと秀一郎にとって必要な人だ。
177名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 20:38:11 ID:NssUTXX+
souda
178名無しさん@ピンキー:2009/07/14(火) 05:55:37 ID:1JZyLO6I
ほしゅ
179名無しさん@ピンキー:2009/07/14(火) 14:20:14 ID:pH7pGJai
女装ショタメイドの話はここでいいのだろうか?
180名無しさん@ピンキー:2009/07/14(火) 14:58:39 ID:StrT2D/y
女装メイドはアリだと思うが、お相手は女性でお願いしたい
相手も男性でガチホ○になる場合は、801板へどうぞ
181名無しさん@ピンキー:2009/07/14(火) 20:24:26 ID:jPaTst7l
自分は津田さん続編を密かに切望しています
182名無しさん@ピンキー:2009/07/15(水) 00:36:30 ID:5pzRSpPU
津田さんはええ人じゃ
183名無しさん@ピンキー:2009/07/15(水) 07:04:27 ID:Z0OfLtTx
>>180
いや、この板の女装少年スレだな
184名無しさん@ピンキー:2009/07/15(水) 07:53:05 ID:g/tfnuwl
麻由、小雪、美果、詩野、すみれ。
自分の家に来て欲しいメイドは誰?
185名無しさん@ピンキー:2009/07/16(木) 00:19:06 ID:dYFhIU0w
これは究極の選択・・・
でも、俺は美果さんだな、一緒にいて楽しそうだ
186名無しさん@ピンキー:2009/07/16(木) 00:59:25 ID:I7xSOsvM
いつの間にか『執事・津田』が保管庫に収録されとるw

>>184
百合さんやゆかりちゃんがリストに入ってないのはなぜだー!
187名無しさん@ピンキー:2009/07/16(木) 14:53:06 ID:JqmxKoq/
咲野さんが可愛くてしかたない
188名無しさん@ピンキー:2009/07/16(木) 15:41:12 ID:HCQfOQim
群馬弁ご主人様の菜々子も忘れちゃいけないぜっ


とは言ったものの俺は麻由さんに尽くされたい
189名無しさん@ピンキー:2009/07/16(木) 20:18:55 ID:xdw3eor7
詩野さんとまったりもいいが、小雪をカッパにする自信がある
190名無しさん@ピンキー:2009/07/17(金) 10:15:56 ID:AYosk6f0
執事と元メイドの恋愛が見たいので、菜摘さんに一票。
191名無しさん@ピンキー:2009/07/17(金) 20:14:25 ID:9Lj/FSn5
そういや◆DcbUKoO9G.氏のその後の二人が保管庫に入ってるな。
192名無しさん@ピンキー:2009/07/17(金) 21:01:19 ID:TGE/Vrs5
管理人乙!
193 ◆dSuGMgWKrs :2009/07/18(土) 19:23:11 ID:QZ6bagAO
『メイド・莉子 1』


午後五時のアラームで、デスクのパソコンの電源を落とした。
なにか言いたげな秘書や部下の視線を無視して、ビル最上階の社長室を出る。
どうせ、父親の急死でいきなり社長の椅子に座ったような俺がいようがいまいが、重役たちが勝手に会社の業績をのばしてくれる。

地下駐車場へ降りるエレベーターに、追いついた秘書が飛び乗ってきた。
「社長、雑誌の取材はいかがなさいますか」
俺は黙って首を横に振った。
以前受けた経済誌の取材では、真面目に相手をしたのに雑誌になったときには『天才ピアニスト高階那智、タカシナグループ社長へ華麗なる転身』とかいうふざけた記事に華麗なる転身をしていた。
以来、俺は表に出るのをやめた。
ネクタイを外し、上着を脱いで夕暮れの混みあうデパートへ向かう。
地下食品売場でオバチャンを押しのけて松坂牛ステーキ弁当とデニッシュパンを買った。
その袋を車の助手席に放り込んで、まっすぐ自宅に帰る。
今日も、瑣末なこと意外はいつもとほとんどかわらない。
我ながらつまらない生活だ。

裏門から車を入れ、でかい母屋の隣にある小さい建物の前に停めた。
子供の頃、神童とうたわれた俺がピアノの練習に集中するためにと、親父が建てたものだ。
それ以来、家中をいつもうろついている大勢の使用人にまとわりつかれるのがうっとおしくて、もっぱらこっちで寝起きしている。
ドアを開けると、奥から半白髪で半ハゲの執事が出てきた。
「おかえりなさいませ、社長」
俺は黙って頷いて、自分の部屋に向かう。
執事を追い抜くときに、ちらっと見慣れない女がいるのが目に入った。
着ているのはメイドの制服だから、先週辞めていったメイドの代わりだろう。
三部屋続きの自分の部屋へ入り、買ってきた弁当をソファ前のテーブルに投げ出す。
上着とネクタイを車の中に忘れてきたが、執事が車をガレージに入れるときに気づくだろう。
リモコンを取り上げて、100インチのテレビの電源を入れる。
続きのアクションゲームをやろうかと思ったが、冷める前に弁当を食おうと思い直す。
食堂へ行けば母屋のコックが作ったうまい料理があるが、出て行ってテーブルにつき、ナプキンをかけ、ワインを選び、パンとスープから順に出されるものをちんたら時間をかけて食い、隣に立った執事や出てくるコックにうまいとか、まずいとか愛想を言うのがめんどうくさい。
ただでさえ、毎日オヤジたちに取り巻かれて過ごしているんだ。
家でくらい、一人でゆっくり過ごしたい。
それなのに、片手と口で割り箸を割ろうとしたときに誰かがドアをノックしやがった。
返事をしないでいると、ドアが開いてさっきちらっと見えたメイドが立っていた。
血管が透けそうなほど白い肌に、まだ幼さの残る顔つき、背だけ伸びてしまってバランスを取りきれていないような体型。
ひっつめた髪からまとめ切れなかった産毛のような短い毛が額の生え際でくるっと巻いている。
前のメイドはベテランでぎすぎすした女だったが、これはまた正反対のタイプを寄こしたものだ。
メイドはドアを背にして頭を下げた。
アニメやゲームだったら、ぴょこんという効果音が鳴りそうだった。
「ご挨拶させていただきます。本日からお世話させていただきます、鶯原莉子でございます」
めんどうなので返事をしないでいると、メイドはずかずかと部屋の中に入って俺の足元に散らかった弁当の入っていた袋や包み紙をぽいぽい拾う。
勝手にそんなことをされて少なからずむっとした俺は、片手でテレビのリモコンを取り上げてDVDの再生ボタンを押した。
「あああああああんっ!!」
デッキに入ったままのディスクが途中から再生され、大画面でニセモノのナース服をはだけたAV女優が大きな声を上げる。
赤面して耳でも覆うかと思ったら、メイドは聞こえていないかのようにゴミをゴミ箱に入れ、ドアの横でまたぴょこんと直立して待機の姿勢になった。
「あん、あん、ああん、きもちいいっ」
女優のセリフがうるさい。
俺はリモコンを上げてDVDの再生を止め、そのリモコンをメイドに向けて振った。
用はないからさっさと出ていけ、というつもりだった。
ところがタイミング悪くドアがノックされ、そっちを振り返ったメイドは俺を見ていなかった。
やってきたのは使用人のだれからしく、短く話をしてからメイドが俺を見た。
194 ◆dSuGMgWKrs :2009/07/18(土) 19:24:31 ID:QZ6bagAO
「社長、お約束したというお客様がお見えのようですが」
約束なんか誰ともしてないぞ。
「社長。お通しして、よろしいですか」
俺は返事をしなかった。
不機嫌な顔を見ればわかるはずだ。
メイドはムキになって繰り返す。
「こちらに、お通ししても、よろしい、ですか」
それが主人に対する口の利き方か。
見ると、両手を握り締めてちょっと顔を紅潮させているメイドと目が合った。
「……」
眉間に縦ジワを刻んでじろっと睨みつけてやる。
それをどう思ったのか、メイドはすました顔でドアを閉め、また直立不動に戻った。

なんだ、こいつ。
手を下から上に振って、出て行くように示しても気づかないようだ。
そのくせに、ちらちらと俺を見ている。
俺は存在を無視することにして、ガツガツと残りの弁当を食い、弁当で足りない分を別に買ってきたパンに食らいつく。
そこに突っ立っているならお茶の一杯も入れればいいのにと思ったが、メイドは棒のように突っ立ったままだ。
弁当の空容器をテーブルに放り出したところで、またドアが開いた。
せっかくの夜のくつろぎの時間を邪魔するのは、どこのどいつだよ。
「どぉおも、こんばんわぁ」
聞き覚えのある声に、俺はまたむっとした。
「太平出版の、山口ですぅ」
本当に通しやがった。
俺の表情さえ読めないとは、察しの悪いメイドが来たものだ。
こういうメイドは早めにいびり出してやるに限るが、来てしまった男は自分で追い返すしかないようだ。
「約束なんかした覚えはないぞ」
経済誌の編集者のわりに頭の弱そうな山口は、いやいやそんなとかなんとか言いながら勝手にソファに座る。
「それで、最近はいかがですか、社長」
ねちっこいしゃべり方が大嫌いな男だった。
「こないだのうちの記事が評判でしてね、なんせ世界的に有名な天才ピアニスト高階那智が突然の引退宣言、タカシナグループ社長就任ですから」
うるさい。
「音楽界も、ずいぶん引き止めたんでしょ?それでも高階ともなれば、二束のわらじってわけにもいかないですよねえ」
うるさい、うるさい。
「まだ24歳、神童とさわがれてイケメンで独身で人気ピアニストで、タカシナグループのお坊ちゃんで」
うるさい!
俺は脇においていたテレビのリモコンを取って、山口の真後ろの巨大画面で叫ぶ裸の女の映像を再生してやった。
その音量に驚いて振り返った山口が、実物の何倍も大きい乳房に慌てたように取材用のICレコーダーを取り落とした。
「い、いやあ、びっくりした。そうですよね、社長もまだ若いですから、えっへっへ」
腰を上げる様子のない山口を、俺は奥歯を噛み締めて最大級の眼力で睨みつける。
リモコンを投げつけてやろうと手を上げたところで、俺と山口の間に何かが立ちふさがった。
「お約束した、と、いうのは」
俺はとりあえず、振り上げた手を下ろす。
目の前に立ちはだかったメイドが、山口の落としたICレコーダーを拾ってカバンに押し込んでいた。
「……嘘、だったのでしょうか」
こちらからは、メイドの表情は見えない。
見えるのは、ただいつもの愛想笑いを顔に貼り付けたまま、落っこちそうなほど目を剥いた山口の恐怖の顔。
「お、おい……」
俺が言っても、メイドは振り返らない。
「でしたら、お引取りいただきませんと」
言葉だけは落ち着いた、無邪気ささえのぞく口調。
山口は血の気の引いた顔を何度も何度も縦に振って、ICレコーダーを押し込まれたカバンを抱えると転がるようにドアのほうに駆けて行った。
「また、またおじゃましまふはらへっ」
聞き取りにくいものの、かろうじてそれだけ言って出て行ったのは、編集者根性あっぱれというべきか。
いや、そんなことより。
「あ、ああ、あああん、ああっ」
DVDの女優が代わり映えのしない声を上げ続ける中、メイドは俺の食べた弁当の空を集めた。
「おい、お前」
腰を曲げて紙くずを集めていたメイドが、ぴょこんと背中を伸ばして振り向いた。
195 ◆dSuGMgWKrs :2009/07/18(土) 19:26:05 ID:QZ6bagAO
少し色素の薄い丸い目が下から俺を見上げる。
それから顎に白い指先を当ててひょいと眉を上げる。
「なるほど、社長のお客様には要注意、なのでございますね」
ゴミを脇に置き、背中を伸ばす。
その洞察力があるのに、俺の出て行け光線は気づかなかったのか。無視か。
「それと、わたくしは鶯原莉子と申します。そう申し上げましたが」
……う。
顔を近づけられて、思わずソファの背に背中を押し付けた。
きめの細かいつるんつるんのほっぺたが、至近距離にある。
「うぐいすはら、りこ、でございます」
そんなに接近して、二度も言わなくても。
俺が黙ったまま頷くと、メイド、いや鶯原莉子は、ソファの隙間から一冊の雑誌を拾い上げ、センターテーブルの真ん中にキッチリ揃えて置いた。

『御曹司ピアニスト、引退の本音と経営手腕』。

山口の野郎、俺の知らないところでもう一本記事を書いてたのか。
一年以上も前に撮ったらしいステージ写真が表紙を飾っていた。
―――半年前、親父と兄貴が乗った飛行機が不時着なんかしなければ。たった三人の死者の中に二人が含まれてさえいなければ。
俺はまだ、空港で待っているファンに手を振りながら世界中でピアノを弾いていたんだ。
「いらねえよ」
雑誌をテーブルに置いたまま、鶯原莉子が下がろうとしたので、俺は言った。
DVDの女がうるさい。
男優までが、おうおうと言い出した。
もうすぐフィニッシュなのだろう。
つまらないエロなら、せめてもっとまともなBGMを使えばいいのに。
莉子はゴミを持ったまま俺の視界から消えようとする。
「おい!」
雑誌を持っていけよ。
鶯原莉子が振り向いて、ひとさし指を顎に当てた。
「わたくしですか」
他に誰がいるんだよ。
「お前……いや、うぐいしゅ…」
噛んだ。
鶯原莉子が眉を上げた。
「うぐいすはりゃ…」
「はい」
鶯原莉子は返事をしたが、俺は自分の舌を噛み切ってやりたいような気分だった。
「莉子」
「はい」
ふん、名前で呼ばれても返事をするのか。
「そいつは今の男の忘れものだ。俺のじゃない」
「はい、かしこまりました」
お届けしましょう、とでも言うかと思ったら、莉子は雑誌を弁当のゴミを入れたビニール袋の中に押し込んだ。
俺の視線に気づいたのか、顔を向けてにこっとした。
笑うと幼なく見える。
こいつ、いくつなんだ?
「社長のお嫌いな人間は、クズでございますし」
「……」
「その忘れ物など、ゴミでしかございませんし」
……まあ、取りにもこないだろうけど。
莉子はビニール袋を縛ると、それがクセなのか、またひとさし指を顎に当てて眉を上げた。
「次にあやつが参りましたら、半月ほど立ち上がれないようにいたしましょう」
いや、それ、やりすぎ。
「おま、莉子、なんかできるのか」
莉子は細い眉を上げた。
目が丸くなった。
「わたくしはメイドでございます。お屋敷内で社長になにかありましたときのため、一通りのことは」
……怖えよ、なんだよ一通りって。
だいたい、家にいてなにがあるっていうんだ、物騒じゃないか。
196 ◆dSuGMgWKrs :2009/07/18(土) 19:26:45 ID:QZ6bagAO
俺が呆然と見ていると、莉子は手を止めて俺の顔を見た。
なんだよ。
「あの」
ぎくっとする。
なんで俺がメイド相手にビクビクしてるんだ。
「お忘れ、で、ございましょうか」
莉子の顔と、その手が持っている雑誌を交互に見比べて、俺は頷いた。
「だから、忘れ物だと言ってる」
「そう、でございます、ね」
バカなのか、こいつは。
「おおおおおおおっ」
テレビ画面で、男優が吠えた。
「いっちゃううううううっ」
合わせて、女優も叫ぶ。
莉子がゴミを片付けて、またドアの横に待機した。
気のせいか、不機嫌そうにむくれている。

なんか、このメイドは今までと違うぞ。
執事か秘書の陰謀か?
何だって俺はさっきからこいつが何か言ったりしたりするたびにぶつぶつと独り言を言っているんだ?
DVDが終わって静かになった部屋で、気配を消したように立っている莉子をちらっと見る。
さっき立ったところを見ると、長身の俺のあごくらいまでは背がある。
肩幅は狭いから、骨格は華奢だろう。
しかし、山口があれほどおびえたのは尋常じゃない。
「用はないぞ」
手を振ってもあごをしゃくっても、気づかないようにそこに立っているので、仕方なく言葉で言う。
「はい」
返事をして、そのままそこにいる。わかってないじゃないか。
「用がないんだからそこにいるなって言ってるんだよ」
莉子がぴょんと一歩前に出た。
「あ、お休みになるんですか」
俺は小学生か。何時だと思っている。
「寝ねえよ」
なんでメイドふぜいに俺がこんなに口をきいてやらなきゃならないんだ。
「そうですか」
そう言うと、また石像のように固まる。
うっとおしい。
リモコンを向けて、くだらないバラエティ番組に合わせる。
半年もすれば地方の営業だけが仕事になり、一年もたてば事務所で電話番でもしてそうな芸人が騒いでいる。
「だったらそのへん片付けてろよ」
視界に入るのが気になるので、そう言ってやった。
……返事もしない。
「おい!聞こえてるだろう」
莉子がわざとらしくきょとんとする。
「……わたくしでございますか」
「他に誰がいるんだよ!」
だんだん声が大きくなる。
なんで、こんなに体力も気力も使わなきゃいけないんだ。
自分の部屋という、この上なくくつろげる孤独の楽園にいるのに。
「うぐいすはら、りこ、でございます」
うんざりだ。
俺は片手で莉子の言葉を遮った。
「わかった。莉子。奥の部屋が散らかっているから、片付けろ」
莉子は満足そうに口角を上げた。
「かしこまりました」
返事をして、続き部屋になっている奥へ行く。
俺の部屋はこのリビングと、奥のプライベートルーム、その奥の寝室が三つつながっている。
197 ◆dSuGMgWKrs :2009/07/18(土) 19:27:43 ID:QZ6bagAO
その真ん中の部屋へ莉子が入っていってから、俺ははっとしてソファから立ち上がった。
「おい、お……、莉子!」
莉子がまるでそこで立ち止まっていたかのようにすぐに戻ってきた。
「社長」
俺が何か言う前に、莉子が部屋の中を指差した。
「大きなピアノが、ございます」
……なにを、驚いているんだ。
プライベートルームは、俺のレッスン室だったのだ。
一流といわれる世界のピアニストたちも愛用しているメーカーのグランドピアノが置いてある。
もう用がないものだが、素人に興味本位で触られるのは許せない。
触るな、と注意しようとしていたのに、拍子抜けした。
「今もこれは、お弾きになるのでございますか」
なに?
「いや、もう、弾かない……が、さ、触るな」
「かしこまりました」
莉子はそう答えて、また奥へ消えた。
なんだ、あいつは。
自分が働く屋敷の主人が、半年前までそこそこ名の知られたピアニストだったことを知らないわけはない。
ポップスやロックのアーティストほど知名度はないかもしれないが、サッカーのルールを知らなくても一番有名な選手の名前くらい知っているだろうし、選挙に行かなくても首相の顔くらい知っているものだろう。
だとしても、何のための確認なんだよ。
ハゲ執事はどんな基準でメイドを採用しているんだ。
どっと疲れた。
俺はぐったりとソファに座り込んで、しばらくくだらないテレビを見た。
サインしてあげましょうかと言ったら、あなたどなたと言われたような気分だ。
今はもう存在しない、ピアニスト高階那智のプライドがくしゅんと縮んだ。
まあ、莉子にとって俺がタカシナの社長であれば、それでいいんだろうが。
テレビの内容がちっとも頭に入らず、しかたなく風呂にでも入るかと奥の部屋の方を見た。
何をしているのか、莉子はこっちに来ない。
テレビを消して耳を澄ますと、ばさばさと紙の音がした。
まさか、楽譜か。
奥の部屋の壁一面の書架には貴重な楽譜や本、写真集がぎっしり並んでいる。
もう用はないとはいえ、楽譜は演奏家の宝だ。
俺はソファから身体を起こして、奥の部屋へ飛び込んだ。
「おい、いや、莉子。なにをしてる」
莉子がテーブルに広げている雑誌の束を見て、俺は別の意味で慌てた。
発売日順に並べなおされているのは、俺が中学時代からこっそり買い集めていたエロ雑誌。
そういえば、本棚の下段はかなり乱雑になっていて、その中にいらない本も突っ込んであった。
片付けろといわれれば真っ先に手をつけたくなる場所かもしれない。
「あ、いや、それはいい、もういらない」
莉子は古い雑誌をぱらぱらとめくった。
唇がちょっと突き出される。
「さようでございますね。もうずいぶん、使い込んだようでございますし、新しいものにしたほうが」
雑誌のページはゆがんだまま硬くなっていて、ところどころページがくっついている。
その通り、ずいぶんお世話になった……いや、そういう問題ではない。
このメイドは、なんだ。
メイドというものは、主人の機嫌を取りながら命令に従ってかいがいしく世話を焼くものじゃないのか。
少なくとも、今までのメイドはそうだった。
俺は莉子が手にした雑誌を取り上げて、テーブルに叩き付けた。
両手を雑誌を持つ形で空中に掲げた莉子が、俺を見る。
じっと見つめられると、どぎまぎした。
「おま、莉子がどう思っているか知らないが、俺はこの家の主人だ。タカシナの社長だ。使用人は使用人らしくしろ!」
今まで何人もの若いメイドを辞めさせた、ドスを効かせた声で言う。
さあ、泣け。
泣いて部屋を飛び出して、そのまま荷物をまとめて出て行ってしまえ。
莉子は空になった手の平をそっと上下に合わせると、そのまま軽く組み合わせる。
すい、と足を出して俺との間合いを詰める。
な、なんだ。
莉子は唇をとがらせて、ぷいっと横を向く。
「かしこまりました」
198 ◆dSuGMgWKrs :2009/07/18(土) 19:28:26 ID:QZ6bagAO
……疲れる。
こいつはさっさと部屋から追い出すに限る。
「寝る」
吐き捨てるように言うと、莉子は笑顔のまま答えた。
「では、お風呂をお支度いたします」
「いらない。シャワーでいい」
続き部屋の一番奥は、洗面所とバスがついた寝室になっている。
そっちへ足を向けながら俺は莉子の目の前で手を下から上に振った。
さあ、今度こそお役ごめんだ。出て行け。
「ご一緒いたします」
俺の耳はどうかしたのか。
絶対音感にこそ恵まれなかったが、そこそこの相対音感くらいは身についている。
いや、そうでなくてもこんな近くでこんなにはっきり言われた言葉をどう聞き間違うのか。
「なに?」
俺が足を止めたので、莉子は危なく俺の背中にぶつかりそうになる。
「どうかなさいましたか」
それはこっちが言いたい。
莉子は俺の前に立って寝室のドアを開ける。
「どうぞ」
やはり、聞き間違えたか。
半年のブランクですっかり動かなくなった自分の指に目を落とし、聴覚も鈍るのかと思う。
俺はベッドに腰掛けて、莉子がバスルームに入ってシャワーの温度を確かめ、俺の着替えを用意するのをボンヤリと見ていた。
莉子が部屋に戻って来るのを待って、立ち上がってシャツを脱ぎかける。
「……おい。…莉子」
「はい」
莉子は俺の横に立って脱いだシャツを受け取ろうとするような仕草を見せた。
「なにやってるんだ」
「はい」
「もういいから、下がれ」
ボタンを外したシャツを、莉子がはぎとるように脱がせた。
「シャワーは明日の朝になさいますか」
なにを言ってる。
「いや、今から」
「はい」
わけがわからない。
だから出て行け、と言おうと息を吸ったとき、莉子がにこっとした。
「ご一緒いたします」
やはり、聞き間違えではなかった。
だとしても、意味がわからない。
「なんだっ、て?」
シャツを手の中で簡単にたたんで、莉子はひとさし指を顎に当てた。
「シャワー、ご一緒いたします」
俺は、さもまぬけた顔をしていたに違いない。
「……なんで?」
聞かれたことが不思議だとでもいうように、莉子は俺を見上げる。
「はい?」
混乱してきた。
「……意味わからない。シャワーは一人で浴びる」
莉子は素直に頷く。
「かしこまりました。ではお後に頂戴いたします」
……俺の耳は、いったいどうなったんだ。
なんで、メイドが俺の部屋のシャワーを使うんだ。
「他の部屋にもシャワーぐらいあるだろう」
いらっとしながら言って、ベルトの金具に手をかける。
さっさと出て行かないと、脱ぐぞ。
「ですが、お添い寝いたしますのに」
……耳、俺の耳、しっかりしろ。
莉子が睫毛の長い目をしばたく。
199 ◆dSuGMgWKrs :2009/07/18(土) 19:29:44 ID:QZ6bagAO
「……お添い寝も、いたしませんか」
メイドの添い寝。
俺は幼稚園児か?
改めて、莉子を上から下まで観察する。
薄化粧の白い顔は、細い眉とくっきりした丸い目、ちょっと反り返り気味の鼻、小さなぷるっとした唇。
細い首と華奢な肩、すらっと長い腕。
悪くはない。
俺は無意識にごくっと喉を鳴らした。
制服に隠れた胸や腰、尻や脚はどうなっているんだろう。
シャワーの後で、どんなふうに添い寝するつもりなんだ。
それはその、つまり。
莉子がうふっと笑った気がした。
「どうぞ」
シャツを置いて、代わりに取り上げたバスタオルを俺に渡した。
それ以上の問答をあきらめて、俺は黙ってバスルームに向かう。
熱いシャワーを浴びながら、考えまいと思っても俺の頭は勝手に莉子を裸にする。
気にいらない、ナマイキなメイド。
口調はていねいだが俺の言うことなど全く聞こうとしない。
にこっと笑って見せながら、時々俺をバカにしたような目をするのは気のせいか。
言うことを聞かず、得体の知れない『ひととおり』のことを身につけた女。
それなのに、頭の中で一糸まとわぬ姿になった莉子を妄想して、俺の血液が下半身に集まる。
やばい。
シャワーを冷水にして、俺は思考から莉子を追い払う。
なんとか落ち着かせてバスルームを出、体を拭いて置いてあるパジャマを着た。

俺が部屋に戻ると、莉子がいそいそとタオルを抱えてバスルームに向かっていく。
こいつ、ほんとうに主人の部屋のシャワーを使うのか。
お湯の音が長く続き、俺は部屋の明かりを消してベッドに入った。
目をつぶっても、眠くはならない。
お湯の音が止まり、しばらくしてドライヤーの音が聞こえてくる。
それも止まってから、人が暗い部屋の中をそうっと近づいてくる気配がした。
なんで、自分の部屋の自分のベッドに横になって、こんなにドキドキしなければならないんだ。
掛け布団がそっと持ち上げられる。
マジかよ。
「……お添い寝、いたします」
うっ。
俺の背中に、なにか暖かくて柔らかいものが触れる。
びくっとして身体を離そうとすると、細い腕が胸に巻きついてきた。
「……おい」
言ったつもりが、喉と口の中が乾いて声になっていない。
「おい」
もう一度、言う。
「はい」
首筋に息がかかる。
「くっつくんじゃねえよ、暑苦しい」
返事の変わりに、暖かな脚が絡みついてくる。
跳ね回っている心臓の鼓動が、莉子にバレやしないだろうか。
「お添い寝は、こうでございます。決まりをご存知ありませんか?」
決まりも何も、添い寝そのものがわからない。
まさか、『朝飯』と同じくらい『お添い寝』が世間では認知されている風習なのか?
知らない、と言うとバカにされるような気がして、俺は黙った。
うふふっと、また莉子の息が吹きかけられた。
「嘘でございます」
なんだと。
言い返す前に、莉子が俺を後ろからそうっと抱きしめた。
「でも、お約束でございますから」
意味がわからない。
ただ、莉子に抱きつかれて自分の体のそこが熱くなるのはわかる。
俺は莉子の体温を全身で感じながら、なるべく別のことを考えようと必死になる。
もしかして、メイドに後ろから抱きつかれたくらいで眠れないなどと思われてはいないか。
200 ◆dSuGMgWKrs :2009/07/18(土) 19:30:46 ID:QZ6bagAO
俺は莉子が後ろから身体を押し付けてくるのに耐えながら、眠ったふりをした。
まさか、朝までこうしているのか。
莉子に気づかれないように、そっと自分の股間を押さえる。
おとなしく、おとなしくしとけよ。
同じシャンプーを使ったはずなのに、莉子から甘い匂いがする。
背中に触れるだけなのに、この柔らかさはなんだ。
女って、こんなに柔らかくていい匂いのする生き物なのか。
もぞもぞと動いて離れようとすると、莉子が鼻を鳴らした。
「あん」
なにがあん、だ。
「しゃちょぉ……」
はふん、と俺のうなじに息を吹きかける。
「わたくし、もう、眠いです……」
体を摺り寄せて、莉子はうふ、うふ、と笑った。
「お添い寝、楽しい、ですね…」
言い終わるか終わらないかで、すうすうと莉子が寝息をたてはじめる。

なんだろう、人の体温をこんなふうに感じるのはひどく久しぶりだな、などと考える。
俺を生んだ人は、覚えていないほど早く死んでしまった。
天才少年ともてはやされて、世話係のメイドも使用人も、俺を腫れ物に触るかのように扱っていたから、誰かに抱かれたり頭をなでられたりした記憶はない。
そうか、人ってあったかいんだ。
むしろ、暑い。ひっつきすぎだ。
莉子のヤツ、俺をナメてるのか、よほどの経験があるのか、……天然か。
ちくしょう、振り向いて触りたい。
しかし、そんなことをして莉子が目を覚ましたら、どうする。
それを力づくで思い通りにする自信は……ない。

子どものころからお坊ちゃんで神童でちやほやされ続けた俺は、ずっと大人に囲まれてやれテレビだコンサートだ海外だといそがしく、ろくに友だちを作って遊ぶ暇もなかった。
つまり、俺は彼女いない歴イコール年齢で、……女を、知らない。
モテ過ぎて困るでしょうと言われて、そんなふりをしているが実際はそうなのだ。
そして今、薄い下着一枚で後ろから女に抱きつかれて、手も出せずにいる。
やばい。ほんとに、やばい。
誰か、このメイドを、今の俺をなんとかしてくれ。


その夜、俺は時々寝返りをうったり絡みついてきたりする莉子をもてあまして、朝まで悶々として眠れなかったのだった。


――――了――――
201名無しさん@ピンキー:2009/07/18(土) 19:58:10 ID:EKcVLSBl
続きが気になって俺も眠れないw
202名無しさん@ピンキー:2009/07/18(土) 21:21:15 ID:shDnQjlo
莉子さんGJ!!
何という新しいメイドさんなんだ。たまりません
そして社長が童貞なのもたまりません
203名無しさん@ピンキー:2009/07/18(土) 23:10:39 ID:wEfpfghw
意に反する人生を歩んでいる社長の荒みぶりの不憫さと、得体の知れない素直クール系メイドの対比が面白いな。
続きを待つ。
204名無しさん@ピンキー:2009/07/19(日) 01:15:49 ID:xl0TgeU1
GJ!!!!!!!!!!!!!!!
205名無しさん@ピンキー:2009/07/19(日) 15:34:43 ID:QRbh/dtV
>>199
GJ
206名無しさん@ピンキー:2009/07/19(日) 17:21:56 ID:n8R9kJ9T
社長道程かwwwwwww
萌ゆる
207名無しさん@ピンキー:2009/07/19(日) 22:42:22 ID:5Oc56IIi
ニュータイプ!
GJ!
208名無しさん@ピンキー:2009/07/20(月) 12:26:21 ID:/PDvdKUR
命令をまったく聞かないワケではなくとも引か
ないところは引かないあたりがいいな。
また読みたい
209名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 15:41:31 ID:Bd3UXgmp
これはGJすぎるでしょう
210名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 13:05:37 ID:NhyK9eUR
続きが気になる
211名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 04:36:51 ID:yUfsZOcH
だんだん好きになる気になる好きになる
(気になる気になる気になる気になる……)
212名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 11:46:32 ID:UPCDAYtE
☆彡
213 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/01(土) 18:18:07 ID:UJwb/gsK
『メイド・莉子 2』

頬に何か柔らかいものが当たる感触に、目が覚めた。

寝返りを打つと、暖かい空気が吹きかけられる。
「おはようございます」
半分以上眠っていた意識が、その声で一気に覚醒する。
ぱっと目を開くと、莉子が俺の上に乗りかかるようにして俺の顔を覗き込んでいた。
「お目覚めのお時間です」
うわ。
振り払うように起き上がると、薄いキャミソール一枚の莉子がぽんとベッドから降りる。

ようやく頭がこの状況を思い出した。
新しくやってきたメイドが「お添い寝」といって俺のベッドにもぐり込むようになって四日目だ。
最初の夜こそ、若い女の体温と感触に気分が高ぶってろくろく眠れなかったが、さすがに昨日あたりからは睡魔に負けるようになった。
下着姿で同じベッドに入ってくるのだから、あんなことやこんなことをしても文句は言えないはずだが、なにせ俺のほうに、経験値がなさすぎてどうしていいかわからない。
もしかして男として異常だと思われているんじゃないか、童貞なのがバレているんじゃないかと考え出すと寝つきが悪い。
だからといってぴったりそばに貼りつかれていれば、自分でどうにかすることもできない。
生殺しだ。

莉子は昨夜ベッドサイドにかけたメイドの制服を身につけ、ハイソックスをはいて手早く髪を上げる。
その様子を眺めていると、どんどん布地で隠されていくあの肌に触れ、この腕に抱いたらどんなに、と思う。
最後にエプロンのリボンを結んで、莉子が妄想真っ只中の俺を振り向いた。
「お仕度なさらないのですか」
莉子は今まで泣いて辞めていった何人ものメイドたちのように、俺の着替えを選んだりしない。
だが、やれと言ったら、できないんですかと聞かれそうなので黙っている。
身支度を整えた莉子から下半身を隠すようにして立ち上がり、トイレと洗顔を済ませ、クローゼットを開けてシャツとスーツ、ネクタイと靴下を選ぶ。
実際に着替える時はシャツを着せ掛けたりネクタイを結んだりと手を貸すが、俺は莉子の結んだネクタイの結び目に指をかけて緩めた。
きちんと締めるのは会社に向かう車の中でいい。

莉子が、腕時計で時間を確かめて寝室から出て行く。
開いたドアから、莉子がピアノの上に手をかざすようにして通り過ぎるのが見えた。
やたらと場所をとっているのに弾かないピアノが気になるものの、触れるなといった俺の命令を守っているんだろうか。
莉子の後からピアノ室を突っ切ってリビングに行くと、母屋から届いたばかりの俺の朝食をソファの前のテーブルに並べている。
朝はあまり食欲がないのだが、最初の「お添い寝」の後の朝、莉子にそう言ったのに聞こえない振りをしやがった。
朝食も食べられないような軟弱さだから、一晩中メイドが添い寝しても指一本触れてこないんですなどと思われてはいないだろうか。

俺はソファに浅く座って、莉子がポットからカップに注いだコーヒーを受け取って飲む。
「…ちっ」
熱い。
カップをソーサーに戻すと、莉子がクロワッサンをウォーマーから皿に移しながらぱっと俺を見た。
こいつ、俺が猫舌だと知っていて熱いコーヒーを出したのか。
しかも、ブラックだ。
ミルクと砂糖を二つ、入れ忘れている。
ぬるいカフェオレでなきゃ飲めないなんて、子どもみたいですね、と言われている気がした。
わかっている、こいつはほんとうにそんなことを言ってはいない。
ただ、俺がそう思っているだけだ。
ぬるいカフェオレでなければ飲めない、ベッドで擦り寄ってくる女に指一本触れられない自分が、バカにされはしないかと思っているだけだ。
人にバカにされるなど、俺のプライドが許さない。俺は高階那智だ。
歩くより先にピアノを弾き、自分の名前を漢字で書くより前にステージに上がっていた。
金持ちの家に生まれ、才能と容姿に恵まれ、世界中でコンサートを開き、行く先々の空港ではファンが待っていて、テレビも雑誌も引っ張りだこで、足りないものなど何もない、タカシナグループの次男。
スズメの涙ほどの月給で下働きをするメイドなんかに、塵ひとかけらほどもバカにされるなど、ありえない。
「あ。熱かったですか、申し訳ございません」
実際に莉子が言ったのは、短い謝罪の言葉。
カップに角砂糖二つとクリーマーのミルクを溶かして温度を下げ、差し出す。
そこでにこっとされれば、悪い気はしない。
なにせ、さっきまで俺の背中にくっついて無防備に眠っていた女の子だ。
顔だって悪くないし、押し付けられる胸も柔らかい。
……俺からは指一本触れていないのが悔しいところだが。
俺はぬるいカフェオレとパリパリのクロワッサンを胃に押し込んで、出社した。
214 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/01(土) 18:19:22 ID:UJwb/gsK
昨日と同じ、その前とその前とも同じく、十時から五時までを社長室のデスクでネットサーフィンをして過ごした。
昼には秘書が組んだ予定でどこだかの社長とランチをしたが、仕事の話は一つも出なかった。
このジジィも、実際のビジネスの話は俺なんかじゃなく、担当部署の重役と相談するんだろう。
時報と共にパソコンを落とし、デパ地下で弁当を買って帰る。
出迎えた莉子が、ドアの脇に立って俺がテレビを見ながら弁当を食べるのを見ていた。
テーブルに空になった弁当の箱を投げ出すと、莉子がすっと近寄ってきてそれを手に取る。
「……です」
なんか言ったか。
また、空耳か。心の声か。
顔を向けると、莉子と目が合った。
「……なんだよ」
莉子はカーペットに膝をつき、弁当の箱から惣菜カップやフィルムを取り出した。
「おかしいです」
「なんだと?」
紙とビニールに分けたゴミを重ねて、莉子はわざとらしく首を降った。
「この数日、わたくしは社長のお世話をさせていただきましたが」
お前が世話といえるほどのなにをしてるんだよ。
「会社を五時に終わってから、お弁当を買ってまっすぐ帰ってらっしゃる。六時には」
ソファの座面を白い手がぽんと叩いた。
「ここに座っていらっしゃいます」
それがなんだよ。
「お金にも時間にも余裕がおありで、若くて独身、モテモテのはずですのに遊びにいくわけでもない」
なにが言いたいんだ。
「毎日が朝帰りでもよろしいようなお年頃ですのに、なぜでございましょう」
なぜって。
「おま……、莉子には関係ないだろう」
言われなくてもわかってる。
俺は遊び方を知らないんだ。
小さい頃から金持ちのボンボンの天才少年で、オトナにばかり囲まれて、分刻みのスケジュールであっちこっちに運ばれていた。
気づけば、流行のアニメやゲームもテレビも知らず、同級生たちが休日に何をして遊んでいるのかもわからなくなっていた。
今になって自由になる時間と金が与えられても、どこでなにをしていいのか。
せいぜいがデパ地下で一番高い弁当を買い、自分の部屋で大画面でテレビゲームをするくらい。
周囲にいるのが白髪混じりの重役やオバハン秘書では、酒の飲み方も女との遊び方も、そういう店への通い方も教えてくれるはずがなく、
たまに引き合わされるベンチャー企業の若社長たちが着こなしているスーツやブランドらしい持ち物も、それがなにでどこで売っているのか聞くわけにもいかない。
「ま、いくらお若くても無茶のできるお立場でもないですし。おとなしいのはいいことで」
「てめぇ、いいかげんにしろよ」
人の嫌がることを選んで言うような態度に、俺はすごんでみせた。
莉子がひとさし指を顎に当てた。
「社長は殴り合いのケンカをなさったこと、おありですか」
う。
あるわけない。
ピアニストが指を守るのは当然だろう。
「……莉子。黙ってろ」
バカにして笑うかと思ったら、肩を落としてほうっと息をついた。
「かしこまりました」
ゴミをかき集めると、またいつものようにドアの横で待機する。

なんだよ。
なんで、おまえに、莉子にそんなことを言われなきゃならないんだよ。
なんでおまえは、本当のことばっかり言うんだ。
気のせいか、直立不動の莉子が少しばかりうつむいている気がする。

その夜、俺の後からそっとベッドに潜り込んできた莉子の足先が、ちょっとだけ冷たかった。
215 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/01(土) 18:20:16 ID:UJwb/gsK
「お出かけなさいますか」
翌日の土曜、朝起きて着替えている俺を見て莉子が少し驚いた顔になる。
それから、はっとしたように口を閉じる。
昨夜の、黙っているようにという命令がまだ有効だと思っているのか。
「そう」
俺が答えると、莉子は口を閉じたままなにか唸った。
……バカか、こいつ。
俺はちょっと敗北感を感じながら、腕時計をぱちんとはめてため息混じりに言う。
「しゃべれよ」
莉子は俺が脱いだパジャマを手に取った。
「どちらにお出かけですか」
確かに、部屋でくつろぐにはボタンダウンのシャツにきっちりセンタープレスされたパンツは似合わない。
「なんか関係あるのか」
パジャマを洗濯カゴに置いた莉子の眉がぴくっと上がった。
平日の夜に出かけないと不満げだったくせに、休日に出かけるのも不満なのか。
それきり莉子はまた黙り、母屋から運ばれてきた朝食をテーブルに並べ始めた。
それに手をつけずに上着を着ようとしたところへ、がちゃんという大きな音がした。
見ると、フローリングの床についた莉子の膝元に割れた皿が落ち、テーブルにコーヒーがこぼれる。
それを急いで片付けるわけでもなく、じっと見つめている。
偉そうなことを言うくせに、そそっかしいメイドだ。
放っておこうとしたが、あまりにも動かないのでもしかして怪我でもしたのかと思いなおした。
「おい……莉子、大丈夫か」
返事もしない。
不必要なところで命令を守るんじゃねえよ。
「わかった、もうしゃべっていい。解禁だ」
「……らにっ!」
な、なんだ。
禁を解くなり、いきなり莉子がテーブルに両手をたたきつけた。

「なんだよ」
「どちらに、お出かけ、ですかっ!」
俺は、あまり人に叱られたことがない。
まして、ヒステリックに怒られたり怒鳴られたりという免疫は、ほとんどゼロだ。
怖い。
「え、いや、なに……」
落として割った皿も、ひっくり返したコーヒーも、もしかしてわざとなんだろうか。
莉子はどんどん流れてランチョンマットやナプキンに染みていくコーヒーを睨みつけている。
これを無視して出かけてしまうのが、マスコミあたりが期待している俺のキャラなんだろうな、とぼんやり思う。
だが実際の俺はそんなに骨太でもない。
「ケガ…、ヤケドは」
ふう、と莉子が肩を落とした。
「嘘でございます」
なにが。
奇跡的にか計算したのか、床のラグには一滴も落ちていないコーヒーをナプキンでふき取り、新しいランチョンマットを広げる。
何事もなかったかのようにポットから新しいコーヒーをカップに注ぎ、砂糖とミルクを入れる。
足元の割れた皿を拾い集めながら、俺を見上げてにこっとした。
「お食事をどうぞ」
なんだ、なんなんだ。
ぶすっとしたままソファに座ると、甘くてぬるいカフェオレが手渡される。
「……なんのマネだ」
莉子が何の説明もしないので、俺はついに聞いてしまった。
「やきもちでございます」
は?
クロワッサンに手を伸ばしかけて、莉子を見る。
細い眉をくいっと持ち上げて、ひとさし指を顎に当てた。
「平日は6時帰宅の社長が、お休みの日は早起きしてお出かけなさるのにやきもちをやきました」
「……意味わかんねえ」
コーヒーのポットを抱えて、莉子が首をかしげた。
216 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/01(土) 18:21:12 ID:UJwb/gsK
「ですけど、今までの社長を拝見していれば、どんなメイドだってお休みの日は一日中お部屋に閉じこもってゲームやテレビでだらだら過ごされると思います」
余計なお世話だ。
……そんな日もある。
「それなのに、新任のメイドをほったらかしていそいそとお出かけなさる、その行き先もお教えいただけません」
今の『新任のメイド』という言葉が『新婚の妻』にでも変わらないと、そのセリフは意味不明だ。
膝立ちのまま莉子がすり寄って来て、俺の膝に落ちたクロワッサンの破片を拾い、膝にナプキンを広げる。
「やきもちくらい、焼きますでしょう。こんがりと」
「……」
わけがわからない。
なに言ってるんだ、このメイドは。
こんがり焼けるのは、クロワッサンだけで十分だ。

食器をひっくり返してみせるほどやきもちを焼いたと言いながら、莉子は平然と玄関で俺を見送った。
出かける主人にいちいちやきもちを焼くというのもわからないし、それを昔の野球マンガのように食器をぶちまけて怒るというのもわからない。
添い寝といいやきもちといい、こいつもしかして俺に身分違いの恋心でも抱いてるんじゃ、と思っても、その後はまるきり何もなかった顔でいってらっしゃいませとぬかす。
莉子に振り回されてぐったり疲れた俺も、ハンドルを握って高速に乗るころには気持ちを切り替えた。
週に一度、俺は必ず行く場所がある。
つまらないくだらない毎日は、この日のためにある。
これがなければ、俺はタカシナの社長になんかならなかった。
ならなくて、済んだ。
目的地が近づくにつれ心は弾み、俺は莉子を忘れた。


帰宅したのは、日が落ちてからだった。
脱いだ上着を渡すと、莉子はひとさし指をあごに当てた。
「わかりません」
なんだよ。
「とくに香水の匂いもいたしません。お食事や海の匂いもついておりませんし……どちらにいらっしゃったのでしょう」
人の服の匂いを嗅ぐな。
「強いて申し上げますと」
俺は莉子が鼻を近づけた上着をひったくって、もう一度それを莉子に投げつけた。
「くだらないこと言ってるんじゃねえよ」
俺は香水をつけた女に会いに行ったわけでも、飯を食いに行ったわけでも、海なんか見に行ったわけでもない。
莉子がこれ以上余計な詮索をしないように、さっさとソファの定位置に座り、テレビをつけて買ってきた弁当を広げる。
今日はいつものデパートじゃなく、高速のサービスエリアで話題だという人気弁当を買ってきた。
慣れない場所では緊張するが、このくらいはギリいける。
家から離れたところだと知り合いに会うこともない気がして、深くキャップをかぶって少しの列に並んだ。
どこを歩いても人に騒がれるほど有名じゃないが、油断すると田舎にもコアなクラシックファンが潜んでいて、アレが父親の会社を継いで音楽を捨てたピアニストよと指差されたりすることがある。
弁当は、三段重にサラダと肉料理と野菜、揚げ物や煮物、三色のおこわ、彩のきれいな副菜に別容器でデザートのプチケーキ、ドリンク。
それらを無造作に並べたところで、低い音がした。
なんだ?
テレビかと思ったら、もう一度。
顔を向けると、ドアの横で莉子が直立したままほんのり目の縁を赤くしていた。
「うるさいな、腹減ってんのかよ」
横向きで口にくわえた割り箸を片手で割る。
「……」
返事もしやしない。
ぐぎゅ。
また、莉子の腹がうめいた。
目の前の、テーブルいっぱいに広げた料理に目を落とす。
割り箸と取り皿は三人分ある。
一人で外食をしたことがないから昼は食べていない。
このくらいいけるかと思うが、多いといえば多い。
俺は三本あるドリンクのカップをひとつ取り上げた。
「やる」
莉子が目だけ動かす。
「やるっつってんだよ。そばでグルグル腹が鳴ってたんじゃ食べにくいだろうが」
「いえ、結構です」
メイドが主人の善意を断るってなんだ。
「グダグダ言わないでこっち来い」
217 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/01(土) 18:21:54 ID:UJwb/gsK
まったく、俺がどうしたら気に入るっていうんだ。
テーブルの端に、ドリンクと皿と割り箸を置く。
なんで俺がメイドにテーブルセッティングしてやらなきゃならないんだ。
「取り分けてまではやらないからな」
仕方なさそうに近づいてきた莉子が、俺の前に突っ立っている。
「テレビが見えない」
莉子がテレビの前から体をずらして、床に膝を付いた。
「お取りします」
さすがに、俺がやったらこうはいかない、というくらいきれいに盛り付けて前に置く。
折詰の中身が皿に移っただけで三割り増し美味そうに見えて、おれは皿を手に取った。
ソファに座った俺の太ももに、莉子の体が触れる。
「……なにやってんだよ」
莉子がぽかんと口を開けて、俺の顔を見上げていた。
「……」
しばらくそのままの格好で俺を見ていた莉子が、口を閉じて眉をひそめた。
「嘘でございますか」
なんだよ。
「わたくしに、くださると」
俺は手に持った箸でテーブルの折詰を指した。
「嘘じゃない、やるよ」
するとまた莉子がぽかんとする。
……まさか。
「食わないのか」
莉子が口を開けたまま擦り寄る。
「ですから」
口の中に、小粒の白い歯が並んでいる。
バカだ。
薄々そうじゃないかとは思っていたが、こいつは、まちがいなくバカだ。
俺は思わず箸を握った手の甲で、目の前にある莉子の額を軽く叩いた。
「なんで俺が食わせてやるんだよ。自分でやれ」
口を閉じたかと思うと、莉子はほっぺたをプクンとふくらませた。
「お考え下さいませ」
なんだ。
「社長は、今日はお休みでございました」
そうだよ。
「わたくしにとって、初めての社長の休日です」
わかってるよ。
「期待もしますでしょう」
なにをだよ。
「ですのに、社長は早起きしてお出かけになって、まあいつもどおり夜遊びまではなさらずにお帰りですけど」
どうして一言カチンとくる言葉を付け加えるんだ。
「このあとは、わたくしと甘い時間を」
「莉子」
「はい」
まつ毛をパタパタさせるんじゃない。
俺は持っていた割り箸で莉子の鼻をつまんだ。
考えなしにつまんだはいいが、その後どうするか考えていなかった。
莉子が子猫のように顔の前で手を動かして、割り箸から逃れる。
「んにゃ、召し上がり方が、違います」
何の話だ、何の。
折詰の中の一番大きくて噛みにくそうな唐揚を選んで、莉子の口に押し込んでやった。
「ほぎょっ」
変な声を出して、莉子は口の中いっぱいの唐揚に目を丸くした。
218 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/01(土) 18:23:05 ID:UJwb/gsK
「莉子。前から思ってたんだけどな」
「ほぁい」
必死で唐揚と格闘している。
窒息したりしないだろうな。
「おま、莉子な、メイドの仕事を勘違いしてるぞ」
「ほぇ」
「だいたい、俺が休みに出かけようが出かけまいがおま、莉子には関係ないし、飯を食わせてやることもない」
「ほぅぇ」
「それにだ、その、なんでメイドが、俺の、主人の布団にもぐりこんでくるんだ」
「ひぇ」
「おかしいだろ」
「ほ」
「……さっさと食ってしまえ」
しばらくかかって、莉子は唐揚を飲み込んだ。
「今までのメイドは、そうでしょうけど」
エビチリと山菜おこわを皿に乗せた手が止まる。
「鶯原莉子でございます」
知ってる。
ものすごく、言いにくい名前だ。
うぐいしゅはりゃとか、うぎゅいすはなとか言いそうになる。
「うぐいすはら、りこです」
わかってるって。
莉子は、わざとらしく大きく息を吐いて、肩を落とした。
「約束いたしましたのに」
「はあ?」
なにを言ってるんだ。
俺が顔をしかめると、またぽかんと口を開ける。
しかたなくその口の中にエビチリを入れてやる。
エビチリは三個しか入っていないのに。
「ほぁ、ふひょ、ひぁ」
今度は何だ。
「ひゃちょう、こ、これは、いけまひぇん」
「なんだよ」
「かっ、かっ、辛いです」
涙ぐんでいる。
俺は大好物のエビチリをもうひとつ箸でつかんで、莉子の目の前に差し出してやった。
「そうかそうか。もうひとつ食べろ」
「んやっ、いけません、わたくしはっ」
「ほら」
「か、から、辛いのはっ、あのっ」
いつもあれほど偉そうに振舞うくせに、たかがエビチリでこれほど取り乱すとは思わなかった。
莉子がいやがったエビチリを自分の口に入れる。
そんなに辛くない。
「バカだな、エビチリはこのくらいがうまいんだ」
涙まで浮かべた莉子がついに俺の太ももの上に腕を投げ出すようにして伏せた。
いくらなんでも、それはないだろう。
「……やっぱり、わたくしのことなんか」
なに?
「忘れんぼさんで、ございますね……」
「おい……」
なんだ、なにを言ってる。
「莉子、おまえ、俺と会った事があるのか」
なんだろう、いつだ。
テレビや雑誌で見たことがある、という程度ではなさそうだ。
コンサートかなにかに来たことがあるわけでもないだろう。
「……思い出してくださらなければ、けっこうです」
俺の膝の上で、莉子が呟いた。
「からぁい……」
219 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/01(土) 18:24:22 ID:UJwb/gsK
脚がむずむずずる。
莉子の髪から、甘酸っぱいような匂いがする。
俺は莉子を膝に乗せたまま、弁当を食べた。
途中でくるんと上を向いて、口を開ける。
主人の膝の上で寝転んだまま飯を食うメイドというのはどうなんだ。
俺は自分が食べながら、時々莉子の口に人参の甘く煮たのやらシーフードサラダのイカやらを落としてやった。
「社長」
海老しんじょ揚げをもぐもぐしながら、莉子が言った。
「楽しいですね」
人の膝の上で、なに言ってやがる。
手厳しいことを言ってやろうと思ったが、次に莉子の口に入れてやる赤飯おこわを箸で小さくまとめながらでは、迫力がない。

こいつと、どこかで知り合いだったことがあるんだろうか。
にこにこしながら口を開けて次を急かす莉子の顔をまじまじと見た。
……かわいくないことも、ない。
顔の上に箸を持って行くと、口が閉じた。
「それ、なんですか」
警戒するような目つきになる。
俺は弁当に入っていたリーフレットを見た。
「筍の山菜はさみ揚げ」
「揚げ物は先ほどもいただきました」
「……じゃあ、なにがいいんだよ
莉子は俺の上でころんと横になって、折詰を覗き込む。
「その炊き合わせのお魚がいいです」
俺はまたリーフレットを見る。
「キンキと芋の山椒煮だぞ」
「辛いですか」
炊き合わせの芋の小さいのを食べてみる。
「辛くない」
莉子がまた上を向いて口を開けたので、その中にキンキの小さいのを入れてやった。
……俺は、なぜこんなふうに莉子に飯を食わせてやってるんだ?
しかめ面を作った俺を見上げて、莉子がうふ、うふ、と笑った。
「おいしいです」
そうだろう、高い弁当だからな。
莉子は辛いといったが、エビチリなんかプリッとしてピリッとして。
そこで箸が止まる。

会社にいる秘書や部下は、俺がエビ好きだと知っているはずだ。
会食やランチなんかに、エビ料理が出てくることもある。
どこも有名で一流どころの料亭やレストランのものだ。
エビが出れば真っ先に食べるし、うまいと思っていた。
俺の好きなエビなんだし、厳選素材で腕のある料理人の手によるものなんだし、うまいはずなんだ。
頭でそう思って食べていたけれど、俺の舌は本当にそれをうまいと思っていたんだろうか。
一緒に飯を食った他の奴らが言うほど、うまいと感じていただろうか。
人気があるとはいえ、たかが千円札数枚で買えるサービスエリアの弁当に入っているこのエビチリほどに。
プラスチックの折詰の、アルミのカップに入った冷めたエビ。
確かに、俺はこれをうまいと感じた。
頭ではなく、気持ちで。
なんでだ。
220 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/01(土) 18:25:36 ID:UJwb/gsK
「社長?」
莉子の手が俺の腕に触れた。
「おなかいっぱいですか?わたくし、デザートもいただきたいのですけど」
折詰とは別になったカップに、果物の乗った白いものが入っている。
リーフレットには「苺のブランマンジェ」と書いてあった。
これも、うまいだろうか。
ヨーロッパのホテルで修行して日本で店を出したとかいう、あの菓子職人が作ったケーキよりも。
俺はごく当たり前のようにブランマンジェのフタを開け、スプーンですくって莉子の口に落とした。
「んーっ」
俺の膝枕で、莉子がいやいやをするように体をよじる。
「なんだよ」
「おいしいです!」
あんまり嬉しそうに喜ぶから、なんとなく俺も頬の筋肉が緩んだ気がした。
「そうか」
次を下さいとばかりに開いた口に、苺を落とす。
その合間に、自分も煮物やご飯をかき込む。
「社長、おいしいですか」
「……まあな」
さっきよりも、うまい気がした。
膝の上に、傍若無人なバカメイドを乗せて、俺は弁当を食べた。
俺が口に運んでやるブランマンジェを全部食べて、莉子はよいしょっと起き上がった。
ぴったりとくっついて隣に座る。
「社長、次はわたくしが食べさせてさし上げます」
「……いいよ」
莉子はかまわず俺の手から箸を取り上げた。
「なにを召し上がりますか」
中身の減った折詰を手にとって、俺の顔をやや下から見上げてくる。
なにを食べるか、だって?
「……莉子」
「はい」
俺の言葉の意味を理解せずに、莉子が返事をした。
言った方が照れる。
カッコつけて失敗した。
「あ」
うふ、うふ、と莉子が肩を揺すった。
もう、社長ったら、とかなんとか小さく言う。
「それは、デザートになさいますか?」
ぐっと股間が熱くなった。
今なら、勢いでできるかもしれない。
莉子は真っ赤な顔をしながら、折詰の中から箸で水茄子をつまんで俺の目の前に差し出した。
「あーんってしてくださいませ」
……ちくしょう、バカにしやがって。
頭ではそう思ったが、不思議とそれほど腹は立たず、俺は素直に口を開けた。
水茄子の歯ざわりがいい。
あの、それで、と言いながら頬を染めて莉子が擦り寄ってきた。
「お召し上がりに、なりますか」
もじもじしながら、言うことは大胆だ。
これはいわゆる、据え膳というやつか。
「……なんでだよ。そこまでメイドの仕事じゃないだろ」
「あん」
なんだ、その声。
「でも、メイドは主人にかわいがられてナンボでございましょ」
指先で俺の太ももをつつーっとなぞった。
ぞくぞくっとする。
なんでだ。
どうして、莉子は俺にこんなふうにするんだ。
221 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/01(土) 18:26:27 ID:UJwb/gsK
「莉子」
「はい」
「おま、莉子は俺に添い寝するだろ」
「はい」
「ほんとに、そんな決まりがどこかにあるのか」
うふ、うふ、うふ。
莉子が伸び上がるようにして俺の耳もとに唇を寄せる。
「……怒らないでくださいますか」
「ああ」
「嘘でございます」
弁当を食わせてもらってご機嫌な莉子は、そのまま俺の頬に唇を押し当てた。
「だって、お添い寝したかったんです」
これを食わないと、男じゃないんだろうな。
俺はぎこちなく莉子の背中に手を回した。
「うふっ」
莉子が熱い息を吐き、俺の頭を抱え込んだ。
「ダメです、社長。ちゃんと、あっち行きましょう」
俺が立ち上がると、莉子はちゃんと食べ残しのある弁当の折にフタをかぶせ、それから腕を絡めるようにして寝室へ行く。

改めてさあどうぞと言われると、手順が良くわからない。
ズボンの中では痛いくらい硬くなっているのに、目の前にいる莉子をどうしたらいいものか。
すると、莉子は俺の目の前でぽんとベッドに腰掛けた。
あれか、その、シャワーとか浴びた方がいいのか。
莉子が両手を俺に伸ばした。
「社長」
そう呼ばれて、なんだか俺は急にがっかりした。
会社にいる名前だけの部下や秘書を相手にしているようだ。
「それ、やめろよ。家だか会社だかわからないだろ」
肩に入っていた力が抜けて、莉子の隣に座る。
莉子が目を丸く見開いて俺を見上げた。
「なんてお呼びしましょうか」
「……なんでも。名前でもいいし」
ひとさし指を顎に当てて、首をかしげる。
「那智さま?」
その名前で呼ばれるのは、しばらくぶりだ。
親や兄貴や、数少ない身内だけが俺をそう呼んだ。
うふ、と莉子が笑った。
「でも、ちょっとわたくし、くすぐったいです」
ごく自然に、俺は莉子の腰に手を添えた。
「旦那さま、でよろしいですか」
「……ああ」
「でも」
少し乗りかかると、莉子はすんなりベッドに倒れた。
なにがどうなっているのかわからないエプロンやカチューシャを、半ばむりやり剥ぎ取った。
莉子が俺のシャツのボタンを外す。
少し汗ばんだ胸に外気が触れる。
ナマの乳房が、俺の目の前に現れた。
下着の跡がうっすらついている。
触ってみると、ぷにぷにしている。
乳首は、思っていたより小さかった。
先っぽをつついてみても、莉子はDVDの女のようにすぐにあんあんと声を上げたりせず、肩をよじるようにして恥ずかしがった。
両手で寄せてみても、それほど大きくない。
これはいわゆる、挟んでするのは、無理かもしれない。
「でも、……旦那さま」
「ん?」
莉子は目をそらして俺の脱いだシャツを顔に押し付けた。
「時々は、お呼びしていいですか」
「ん?」
莉子の言うのも上の空で、俺は初めて触る女の肌に夢中になった。
222 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/01(土) 18:27:16 ID:UJwb/gsK
莉子の胸や腋や二の腕に顔を押し付ける。
どこからも甘い匂いがしてすべすべで、気持ちがいい。
莉子が俺の首に腕を絡ませた。
起き上がらせて、正面から顔を見る。
上気した頬と潤んだ目が、なにか言いたげに俺を見ている。
あ、そうか。
俺はそっとつき出された唇に、自分の唇を押し当てた。
ぷるぷるだ。
押し当てたはいいけど、これからどうしたらいいんだろう。
ただ触れただけで、俺は莉子から離れた。
一呼吸おいて、今度は莉子が顔を近づけてきた。
まっすぐではなく、下唇を挟むようにキスすると、莉子の口が開く。
あ、このほうがやりやすい。
そういえばこれ、俺のファーストキスじゃないか。
ちくしょう、メイドに奪われた。
これからもっといろいろ奪われてやる。
俺は莉子を強く抱きしめて、一心不乱にキスを続けた。
「……ん、んっ」
莉子の手が俺の背中を叩いた。
唇を離すと、莉子がぱっと口を開けて大きく息を吸った。
「はあ、息がく、苦しいです、旦那さま……」
「あ、わ、悪い……」
とっさに謝ったが、息くらい鼻ですればいいじゃないか。
「え、莉子、おま」
莉子が顔から鎖骨の方まで赤くなった。
「今の、わたくしの、ふぁ、ふぁーす、と」
え。
「お前、あんなに、そっ、添い寝とかしといて」
誘ったくせに経験ないのかよ、という言葉は飲み込んだ。
莉子がぷくっと頬を膨らませる。
「鶯原莉子でございます」
わかってるよ。
俺はもう一度莉子の唇を吸った。
「あのな」
頭がぼーっとしてる。
思っていたより、莉子がかわいいからだ。
顔も、仕草も、ナマイキな口の利き方も。
だから、俺の口が滑るんだ。
「俺も、初めてだから。うまくできるかわからないけど」
うっかり、正直に言ってしまった。
莉子が俺の膝をひとさし指でつっつく。
「……だいじょうぶです。旦那さまは、たくさんお勉強してますから」
DVDやエロ雑誌がどれほど役に立つかわからないが、俺はとりあえず莉子を抱きかかえてベッドに仰向けにした。
早く下のほうを見たかったが、あせってはいけない。
莉子が初めてだって言うならよけいに。
バカにされるのはイヤだが、初心者同士というのも心細い。
とりあえず、胸を揉んでみた。
「……あれ」
気のせいか、さっきより乳首が大きい。
大きいというかなんというか、これがいわゆる“立ってる”ってことなのか。
指先で弾くようにする。
舌先で舐めてみる。
その間、莉子はずっと俺の腕や肩に手を滑らせていた。
触れられているところが、むずむずする。
莉子の太ももをなでて、間に手を入れると、莉子が脚に力を入れた。
「イヤだったら……」
処女とヤるときの注意事項、みたいなものも雑誌には載っていた。
とにかくあわてず、ゆっくり、優しく。
そんな余裕が俺にあるだろうか。
223 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/01(土) 18:28:05 ID:UJwb/gsK
莉子は首を横に振って、力を抜いた。
太ももの内側も、ゆっくりなでてやる。
そっと開くと、そこが見えた。
ごく、とつばを飲む。
モザイクなしだ。
毛って、こんなふうに生えてるのか。
この溝が、アレなんだ。
指で開こうとすると、莉子が俺の頭に手を置いた。
落ち着きなくそわそわと動いている。
「あ、あの、あっ」
いいからじっとしてろよ、と言うと、太腿が閉じた。
「だって」
脚をたたんで、莉子が俺の腕を引っ張る。
「なんだよ。……恥ずかしいのか」
「それもそうですけど、でもわたくし」
あせりは禁物か。
俺は反り返った自分のイチモツが触れないように気をつけて、莉子の隣に寝転がった。
くるんと寝返りをうった莉子が抱きついてくる。
「アンケートで、イヤな態度の何位かにありました。お、女の子がマグロになるのは良くないそうです」
俺の蔵書を見たな。
それで、俺の体をあちこち触ってくるのか。
確かに、触られたら気持ちよかった。
「そうか」

俺も寝そべったまま、たくさん莉子に触った。
そのうち上になったり下になったりして、転がりまわった。
これってセックスじゃないよなとも思ったが、莉子がうふうふっと笑って嬉しそうだったので、まあいいか。
じゃれているうちに俺の手が何度も莉子の胸やあそこの毛に触れ、莉子の手も俺のアレに触れた。
早く、したい。
自然と俺は莉子の片脚を抱え込んでいて、そこはぱっくりと口を開けていた。
指先で押してみても、今度は莉子はいやがらなかった。
中に、ヒダがあった。
親指で開いてみる。
これのどこに挿れたらいいんだ。
入り口を探していじっていると、なんとなく湿ってきた。
「濡れてきた……」
呟くと、莉子が小さくきゃっ、と言った。
まずよく指で慣らして、入り口が柔らかくなったら指を入れてみる。
雑誌にはそう書いてあった。
ちょっと切り込んだような小さい割れ目、これが膣か。
こんなとこに、俺のなにが入るっていうんだ。
指先だって入らない。
手の平を上にして、中指で弄りながら親指で豆というやつを探す。
ひょいと首を伸ばして、莉子の顔をうかがうと、目を閉じている。
気持ちいいのか。
根気良くいじっていると、入り口が少し柔らかくなってきた。
もう、いいんだろうか。
俺は挿れたくて挿れたくて痛いくらいになっている。
指一本を入れて中を広げるように回すと、じゅくじゅくと音がしてきた。
「莉子、いいか」
「は、はい」
指を抜いたあとの小さい穴に亀頭を当てる。
ぐりぐりっとねじ込もうとすると、莉子が悲鳴を上げた。
「いた、痛い、いたぁい……!」
224 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/01(土) 18:28:54 ID:UJwb/gsK
ムリか。
がまんしろよ、と言いたくなるのを抑えて腰を引く。
「悪い、そんなに痛いか」
「痛いです、痛すぎて、壊れちゃいます!こんなことするなんて旦那さま、ひどいっ」
言いながら、俺に抱きついてくる。
「ひどいって、おま、莉子だってしたがってたんじゃないのか……」
「しっ、したがって、たかもしれませんけど、こんなに痛いなんて思わなかったからっ」
「いや、だって、みんなしてることだから」
情けないことに、俺は莉子に抱きつかれたままあたふたする。
俺がなにをしたっていうんだ。
莉子の、そこに、俺の、あれを、挿れようとしただけなのに。
「…ち……さま」
ぐすん、と俺の耳もとで莉子が涙声になった。
「もう一回、してください。わたくし、できますから」
「だいじょうぶかよ」
「はい。…な、那智さまは覚えてなくても、わたくしは約束しましたから」
なんのことだ、と聞き返す前に、莉子は足を開いて俺の腰を挟み込んだ。
「してください」
両手でしっかりと開いて、場所を確認する。
片手を添えて、狙いを定めて。
実験でもするかのように慎重に、俺は膝を進めた。
全然入らない。
萎えてしまうんじゃないかと心配したが、むしろギンギンなのがおかしいくらいだ。
俺は指を添えて、莉子の表情を見ながら触れるか触れないかの強さでまさぐった。
指一本入れて、浅いところを触っていると、少しずつ中から染み出てくる液体の量が増えてくる。
奥へ差し込むと、莉子がきゅっと体を縮めた。
「痛い…?」
聞くと、首を横に振る。
「は……」
は?
俺の目の前でぱっくり開いた脚の間から、莉子が両手で顔を覆うのが見えた。
「は、恥ずかしいです……、あ……」
俺のイチモツが腹にぶち当たるかと思った。
もう少し、もう少し落ち着け。
指がなんとか二本入るようになり、俺は莉子のあそこに自分の腰を近づけた。
先っぽで周囲をずっとなぞっているうちに、少し入る。
「……!!」
莉子が頭を振る。
「い、痛いか?」
「いた、い、痛いです、痛いですけどっ」
先っぽだけなのに、体が震えるくらい気持ちいい。
「痛いですけど、やめないで……!続けてください」
ぐいっと押し込む。
ゆっくりの方がいいんだろうな、と思いながら止まらない。
じゅわっと暖かいものがあふれてきた。
「ああん、いたぁ……、な、那智さまぁ」
「莉子……」
動きたい。
「い……、あうっ」
莉子の目から涙がこぼれて、枕に落ちるのを見た。
あとは、気遣う余裕がなかった。
225 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/01(土) 18:29:49 ID:UJwb/gsK
熱くて、柔くて、痙攣するように締めてきて、とにかくとにかく気持ちいい。
これか、これがセックスなのか。
頭が真っ白になる。
何回、腰を降ったかは覚えていない。
莉子の両脚を目いっぱい開いて押さえつけ、腰を押し付けて上下に擦り付け、浅く引いては叩き込む。
なにもかもがよかった。
途中で抜けたりしたが、また突っ込んだ。
目の前にある胸も揉んだし、食いつくようにしてしゃぶったりもした。
莉子が泣いているのはわかったけれど、とにかく俺は必死だった。
ぞくぞくするほど気持ちよくて、莉子の中でパンパンになったモノを擦りつけた。
「……出るっ、うぁ、うっ」
しまった、中に出してるぞ俺。
莉子の上に倒れこむ。
「ふは、は、ああん……」
莉子が変な声を出した。
「おしまいですか……、那智さま、あん」
ぬるっとモノが抜け落ちた。
急激に冷静になっていく頭で、俺はなにか言うべきだと考えた。
なにから、どんなふうに言えばカッコいいのか、今更カッコつける必要なんかないのか。

「あー、うん、悪い……、出しちまった」
起き上がって莉子が自分の腰を見下ろした。
「あ」
俺と莉子が同時に声を上げた。
シーツに、薄赤い汚れが広がっている。
莉子の処女が失われた証拠。
「血って、こんなに出るんだ……」
「やだ、見ないで下さい。あいたっ」
シーツの上に枕をかぶせようとした莉子が顔をしかめる。
「まだ痛いのか。その……、乱暴だったか」
聞くと、うつむいて首を横に降った。
「全然、そんなことございません……」
シーツの汚れは、枕だけでは隠しきれない。
俺は改めて、自分がしたことの重さを見せ付けられた気がした。
「莉子、俺……」
「わたくし、いかがでございましたでしょう」
「……ん?」
汚れの上に置いた枕に尻を乗せて、莉子が俺に向き合う。
「わたくし、旦那さまに……貰っていただいて、嬉しいです。とても痛かったですけど、嬉しいです」
「……ああ、うん……」
「やはりあの、ピ、ピアニストの指というのはこう、器用なものでございましょうか、あの」
莉子の顔が真っ赤になる。
両手で顔を隠すようにして、俺の胸に寄りかかってくる。

なんだろう。
カッコいいこと言ったり、さすが高階那智と言われるように振舞ったり、バカにされないように威張ってみたりする気になれないのは。
俺はぎこちない動きで莉子の背中に手を回し、抱き寄せた。
「悪かったな……、へたくそだったろ」
莉子が首を横に振った。
「それに……早くて、しかも中に」
見ると、莉子の胸や腕に赤い斑点がいくつもついている。
「うわ、すごいな。力加減わかってないから、俺」
その赤い跡を指でなぞって、莉子はうふっと笑った。
「……嬉しい」
え、そんなもんなのか。
226 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/01(土) 18:30:30 ID:UJwb/gsK
「あ」
なんだ。
うふうふ、うふふ。
「わたくし、旦那さまの……初めてをいただいてしまいました」
まあ、そうだ。
腕の中で莉子が顔を上げた。
「いかがでございましょう、旦那さまが今まで、例えば初めて人前でピアノを弾いたときとか、初めてテレビに出たときとか、初めて会社の重役さまたちと会議をなさったときとか、あと」
ひとさし指を顎に当てて、ぶつぶつと呟く。
「いろいろな初めて……の、中で、初めてのわたくしは、いかがだったでございましょう」
その言い方がおかしくて、思わず頬が緩んだ。
出来の良さはともかく、無事に経験を済ませた安心感で気が緩んだのかもしれなかった。
「あっ」
莉子の両手が、俺の頬を挟んだ。
「なんだよ」
「お笑いになりました。旦那さま、今、にこって」
「……それがなんだよ」
「いけません」
俺の顔を包んだ莉子の手に力が加わった。
「旦那さまは、そういうキャラじゃございません」
なんだと?
「そんなに素敵なお顔でにこってなさったら、女の子がいっぱい寄ってきます。そうしましたら、わたくし」
唇に、柔らかくて湿ったものが触れた。
「……わたくし、こんがりどころか、まぁっ黒に焦がしてしまいますでしょう。やきもちを」
なにバカなこと言ってやがる。
「あん、もう」
莉子が俺に抱きつき、俺たちはベッドに転がった。
「わたくしとふたりっきりのときだけでございますよ?にこってなさるの」
あちこちをくすぐられて、俺は脚を振り回した。
「やめ、やめろっ、わか、わかったからっ」
逃げ回りながら、俺はくすぐられて笑い続けた。

ふいに、莉子が俺に馬乗りになる。
「……約束でございます。今度は、忘れないで下さい」
ん?
なんだ?
聞く前に、莉子が俺の上に伏せた。
「旦那さまぁ……」
なんだろう、こいつは。
なにか、俺の知らないなにかを知っているような。
うふ、うふっと笑っている。
「奥のほうが、じんじんします……」
「……そうか」
「ほんと、いたかったん、ですからぁ……」
そう言いながら、抱きつく。
うん。
まあ、かわいいことはかわいいな。
「ねえ、旦那さま。今日は、お風呂をご一緒してもよろしいですか?」
いいんじゃねえの。
莉子がむきゅむきゅ、と変な笑い方をした。
「お休みはあと一日ございますね。まさか、明日もどちらかお出かけですか?」
その予定はないから、一日中ゲームとテレビだな。
「いけません。明日は、メイドとずうっといちゃいちゃなさる日に取り分けてください」
俺はげんこつで莉子の頭を軽くこづいた。

「前から思ってたけど、おま、莉子」
「はい」
「……バカだろ」
うふうふうふん、と莉子が笑った。

――――了――――
227名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 19:53:05 ID:RDzt+a7E
なんだこの二人w
萌えるじゃないか
228名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 20:05:03 ID:xO3RlGcr
GJ!莉子は意外と甘えるタイプ?
しかしあなたの作品を読むと、メイドだけじゃなく男の方にも萌えるんだがw
229名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 21:00:00 ID:3n/FamL1
二人とも愛おしい
良い仕事をなさるお方だ
素晴らしい
230名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 22:23:50 ID:jj4WE+eH
この作者は本当に上手だよね


美果の続きの人も待ってます〜〜
231名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 23:26:24 ID:IUTgJwuV
>>226
ニヤニヤが止まらないぞどうしてくれるんだ
232名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 03:57:41 ID:qLg4ci2u
GJとしか言いようがない!
233名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 18:20:35 ID:LMev3grm
GJ!
しかし敢えて叫ぼう!

詩野たそ……(;ω;)
234名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 01:46:58 ID:20vpFDuj
ちょっと前にお姫様スレに来てた職人さんもしかしてそうかなぁ
なんとなく詩野さんの人っぽい気がする
235名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 01:58:13 ID:cKkHG5d5
莉子が可愛いなあ

旦那様も不器用だけどいい


で、忘れてる事ってなんだろ
236名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 04:10:30 ID:PcR1Sqjf
いつも心に詩野ちゃんがいるよ。
春が来るのをひたすらバナナ食べながら待つよ。
237名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 13:47:27 ID:+FNiYfZ2
「メイドさんの膝枕」
「メイドさんを膝枕」
どっちがいいか迷う。
238名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 13:51:57 ID:EXZeQkcX
>>237
前者で耳かき付き、終了時には吐息でふーっと
239名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 14:22:33 ID:4/TluJ9y
http://w11.mocovideo.jp/movie_detail.php?KEY=xa1djo
歳はイッてるがイイ感じ。
240名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 05:51:02 ID:YIshjiCj
メイドさんと膝の舐め合いっこはどうかな?
241名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 00:45:57 ID:GRFu7eT/
新スレが立っていたのか。
しかも美果さんシリーズが進んでいるではないか。
完結する前に気づけて良かった。
242美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/09(日) 13:51:04 ID:Cs3R969x
第12話です。長文注意。



私が、海音寺荘を引き払って旦那様のアパートに引っ越したのは、5月になる少し前だった。
本当はもう少し早く行くつもりだったのだけど、アルバイトの後任が見つからず、辞めるのがずれ込んだためだ。
その一方で、心配していた海音寺荘の賃貸契約の問題は、あっさりと片付いた。
「遅かれ早かれ、そうなると思っていましたのよ」
旦那様のアパートから戻った日の夕方、さっそくお部屋を訪ねて詫びると、大家さんは笑ってそう言われた。
なんでも旦那様は「いつか必ず美果さんを呼び寄せます」と大家さんに宣言されていたらしい。
だから、私が契約途中で引っ越すことは、大家さんには全くの想定内だったそうなのだ。
全くもう、私に隠れて二人で何を相談していたんだか。
もう一度私と暮らすことを、旦那様が人様に言うくらい固く決めておられたのは、そりゃあ嬉しいけれど。
こんなんだったら、旦那様が行動を起こして下さるまで、意地を張り通してやればよかったと思った。


次に旦那様と会ったのは、年の瀬だった。
大学が冬休みに入ったのを利用して、旦那様がこちらへ戻ってこられたのだ。
旦那様ファンの近隣のおば様お婆様方はそりゃあ喜んで、先を争うように歓待していた。
騒がしいのが一段落すると、私はあの方がご両親とお兄様のお墓参りをされるお供をした。
墓石周りの雑草を抜いて、水を掛けて花とお線香を供えて。
手を合わせてじっと目をつぶっておられる旦那様の後ろで、私も神妙に頭をたれていた。
三名がご存命だった頃は言葉を交わすことも叶わなかった下っ端メイドの自分が、こうしているのがなんだか不思議だった。
その帰り道、旦那様と私は初めて手をつないだ。
前を歩かれていた旦那様が足を止めて、私が追いつくのを待って手を差し出されて。
取られた手が優しく握られる感触に、びっくりしすぎて声が出なくなった。
ぎこちなく指先が触れるくらいのつなぎ方だったけれど、私にはとてもとても刺激が強くて。
今まで、手を握る指を絡めるといえば、閨の時だけに限られていたから。
歩き方も妙にぎくしゃくとしてしまって、はたから見ればきっと、私が旦那様に連行されているように見えたに違いない。
信号待ちの時も、切符を買う時でさえあの方はお手を離されることはなくて。
そのまま、アパートに着くまでドキドキが止まらなかった。
関西に行かれて何か変わられたのかな……などと考えて、その日はあまり眠れなかった気がする。
年末までは、私もぎりぎりまで忙しくなかったので、一緒の時間を長く持つことができた。
一緒に食事をして、お茶を飲みながらとりとめのないことをあれこれ話して。
布団は一組しかないから、夜はまあ、それなりに。
年が明けると、アクセサリー店の初売りで忙しくなったので、一緒にいられる時間は大幅に減った。
それでも、ちゃんと観音様に初詣をして、帰りには私が前に働いていた茶店で食事をして帰った。
お正月が終ると、また離れ離れの生活に戻ってしまったけれど。
寂しさを埋めるように、冬から春にかけて何通か手紙を交換しあって、やっと私は旦那様の待つ関西へ引っ越した。


思っていたほどの変化もなく、私はすぐに関西での生活に溶け込めるかのように思えた。
しかしものの数日で、ちょっとした違和感を覚えるようになった。
旦那様が、妙に優しいのだ。
元々すごくお優しい方なんだけど、引越し後はなんだか、私をとても労わって下さる。
たまに朝食を作って下さるし、休みの日には外へ連れ出して、あちこちを案内して下さる。
おかげで楽をさせて頂いているのだが、暢気に喜んでいたのは最初だけで、そのうちに居心地が悪くなってきた。
どう考えても、メイドが主人にして頂くこととしては行きすぎだ。
ここだけの話だけれど、閨の時にも今までしたことのない体位を取らされ、面食らうことがこのところ続いている。
変だ変だともやもやした後、ある結論に達した。
ずっとアパートにいるから細々と考えてしまうのだろう、向こうにいた頃みたいに私も働こう。
大学という固い場所に就職されたとはいえ、旦那様のお給料を当てにしてばかりもいられないし。
そう思って相談したのだが、あの方は私を止めてこう仰った。
「しばらくはアルバイトをせず、こちらに慣れることを第一に考えて下さい」
関西に住んだことのない私への、思いやりに満ちた言葉に従わないわけにはいかない。
243美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/09(日) 13:52:17 ID:Cs3R969x
というわけで私は、メイドの仕事だけに専念することになった。
それなら全てをきっちりやろうと、三畳ほどの納戸を片付けて女中部屋とさせてもらうことにした。
迷われるあの方に、お仕事を頑張って頂くため、私が邪魔をしない環境を作りましょうと強引に押し切って。
といっても、最初の2週間ほどは旦那様のベッドに連日引きずり込まれて、そこで寝る羽目になってしまったのだけれども。


そして6月、私が関西に来て一ヶ月ほど経ったある日のこと。
海音寺荘の大家さんが、私宛に一通の封筒を送ってこられた。
何の用事かと首を傾げながら封を切ると、中には転送シールの貼られた一枚の葉書が入っていた。
「あ……」
差出人が故郷の父であるのを認めて、胸に不快な動悸を感じる。
血の気が引いたように指先が冷たくなり、自分の表情が苦々しく歪むのが分かった。
葉書には、父の手で池之端家の住所が書かれた上から、機械文字で打ち出された海音寺荘の住所が貼られている。
嫌な胸騒ぎに震える手で葉書を裏返すと、そこには簡潔な文面があった。
5月の末に手術をすること、入院する病院のこと。
短いながらも驚くべき内容に、私は葉書を何度も読み返した。
入院先は、母が息を引き取った病院であることに気付き、心臓がまた嫌な跳ね方をする。
母の死後あまり間をあけず再婚して、あの性悪の後妻と連れ子をうちへ引き込んだ父。
彼らにひどい仕打ちを受けたおかげで、私は中学卒業と同時に半ば家出のような形で池之端家にメイド奉公に出た。
あの日から今の今まで、実家からは電話の一回も葉書の一枚もなかったのに。
さては馬鹿オヤジ、病を得て気弱になったか。
せせら笑おうとするが、心とは裏腹に、表情は硬くこわばったまま動かなかった。
商売柄、早寝早起きでとにかく健康だった父が入院だなんてと、驚きと不安が先に立つ。
もしかしたら、すごく悪いのかもしれない。
死期が近いのを悟って、最後に一目私の顔が見たくて葉書をよこしたのかもしれない。
次々に浮かんでくる悪い想像を振り払おうと、所在無く立ったり座ったりを繰り返す。
家を出て以来里帰りもしていないから、もう7年ほど会ってない計算になる。
割り切れない思いはあるけれど、ここはやはり見舞いに行くべきだろうか。
いや、でも……。
頭の中がぐるぐるして、考えがまとまらずに気分まで悪くなってくる。
一人では結論が出せそうもなく、私は旦那様のお帰りを待って相談することにした。


「それは心配です。美果さん、すぐお父上を見舞うべきです」
その夜、葉書を読んだ旦那様は即座にきっぱりと仰った。
多分そうするのが正しいのだろうけど、でも……。
はいと頷くことができずに困っていると、旦那様が私の手を取って下さる。
「病気の方を見舞って元気づけるのは、健康であればこそできるのです。
美果さんがご実家に対して複雑な思いを抱いているのは存じていますが、ここはお父上の病状を確認しなければ」
とにかく一度お行きなさい、こっそり様子をうかがうだけでも……と重ねて促され、私はようやく首を縦に振ることができた。
「申し訳ありません、私用でこんな……」
「構いませんよ。そうだ、いっそのこと僕もお供しますから二人で行きましょう」
「えっ」
「一度ご挨拶せねばと思っていたのです。この際ですから」
「は、はあ……」
なんで旦那様が、うちの父に会う必要があるんだろう。
分からなかったけど、どうしても一人で行くと断るようなことでもなかったので、二人で行くことにした。
私一人だと、不安に押し潰されそうで心細いから。
結局、その週末に故郷へ行くことになった。
土曜日の朝にアパートを出て、特急を乗り継いで久しぶりの故郷に向かう。
病院の最寄駅で降りて田舎道を歩いていくと、周囲の雰囲気にそぐわない近代的な建物が見えてきた。
母が入院していた頃より、随分大きくなっている。
病院の立派さに、父の病状への悪い想像が胸を潰しそうに大きくなる。
「大丈夫ですか、美果さん」
足を止めた私に旦那様が呼びかけられる。
爪が食い込むくらいに握り締めていた手を取られ、はっとする。
一人で行くんじゃない、隣に旦那様がいて下さるのだ。
難しい病気の話が出ても、旦那様がかみ砕いて説明して下さるはず。
もし継母や義理の兄弟がいても、前みたいに一人で対峙しなくていい。
244美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/09(日) 13:53:26 ID:Cs3R969x
心配そうに私の顔を見ておられる旦那様に頷いてみせ、門をくぐる。
病院特有の白く清潔なつくりも、やはり母がいた頃とは違う。
しかし父が病室の番号を葉書に書いていたので、ほぼ迷わずにたどり着くことができた。
今は個人情報のナントカで、名前は戸口に出ないらしい。
息を整えて、小さくノックしてからドアを開ける。
そっと中をうかがうと、窓からの風にカーテンが揺れていて、殺風景な病室に表情を作っていた。
7年ぶりに会う父は、ノックの音に反応したのか、ベッドから起き上がってまっすぐ戸口の方を向いていた。
「……美果」
呟いた父の顔色は良く、元気そうだ。
道々の悪い想像が外れて、私はこっそり胸をなで下ろした。
戸口で突っ立っているのも妙なので、ベッドのそばへ行く。
不思議そうに旦那様を見ている父に、この方が私のご主人様であることを紹介すると、父は慌てて姿勢を正した。
「美果がいつもお世話になっております」
ベッドの上でえらく深々と頭を下げる父の姿に、本来は私もこうすべきなのだと思いだす。
あれをしろこれをするなと、敬意のかけらもない態度でこの方に接している自分はやはり失礼なのだ。
私は慌てて旦那様に椅子を勧めた。


病状を問う私に、父が手術の説明書を見せて、無事成功したよと説明する。
資料の下の同意書には、父と後妻の署名が見えた。
そういえば、あの人はどうしたんだろう、入院患者に付き添いもしていないなんて。
ベッド周りもどことなく乱雑で、手が行き届いていないように見える。
「父さん、あの人はあんまり来てないの?」
「ああ。店があるからね、毎日は来られないんだ」
私が実家にいた頃は店番も嫌がったのに、あの人も少しは改心したのだろうか。
「去年、店を畳んでコンビニにしたんだ。バイトをあまり雇ってないからね」
「え、店やめたの?」
続く父の言葉にびっくりしすぎて、吐くはずの息を飲み込んでしまい何も言えなくなる。
「客足が遠のいてね。このまま昔ながらの商いを続けるよりも、思い切って商売換えしたのさ」
「そ、そう……」
確かに、今は果実店よりスーパーでフルーツを買う人が大半なのだろう、私もそうだ。
それは分かるのだけど、店のことは私の小さい頃の記憶と切り離せないから、商売替えはまるで自分の子供時代がなくなったかのように思えて。
配達に使っていたバイクと、店名の入った帽子や前掛けの記憶がよみがえり、胸の奥がぎゅっと痛んだ。


胸の内の動揺を悟られないために、壁際のカゴの中にある洗濯物を片付けようと思い立つ。
そう断って、父が口を開く前にさっさと病室を出た私は、2階下にあるランドリー室に向かった。
洗濯機のスイッチを入れても病室に帰る気になれなくて、そこにあった椅子に腰掛ける。
うちの店がなくなってしまったなんて。
さっきの父の言葉が、まだ自分の中で実感を伴わない。
お見舞いの果物盛りカゴや贈答用果物も扱う、小さくとも由緒のある果実店だったのに。
小学生の頃には、両親の商売のことを作文に書いて、先生に褒めてもらったこともあるのに。
家を出てから一度も帰郷しなかった身ではあるけれど、すごくショックだった。
洗濯物を乾かし、病室へ戻る。
旦那様と父は、和気あいあいといった様子でお喋りをしていた。
「美果さんお帰りなさい。お父上に、果物の話をお聞きしていました」
旦那様がにこやかに仰るのに、父が同意するように大きく頷く。
初対面で年齢の違う父のような人と、旦那様の話が合うのが不思議だった。
果汁が豊富で美味しいメロンの選び方、露地のみかんとハウスみかんの違い。
ベッドの足元を台の代わりにして洗濯物を畳みながら、二人の話を聞くともなく聞いた。
さほど面白いとも思えない話なのに、旦那様が興味深げに聞いて下さるので父は饒舌に喋る。
何となくその輪には入りにくくて、私は父に何か欲しい物があるかを聞いて、買出しに行くことにした。
病院から少し歩くと、大きなスーパーがあることは知っていたし。
「いい考えですね。僕は少し、お父上と男の話を致しますから」
旦那様が了承して下さったので、病室を出て階段を下りる。
お見舞いに来たはずなのに、用事を片付けているのが何だかしっくりこなかった。
それより、男の話って何のことだろう。
まさかいかがわしい方面の……と眉根を寄せて考えながら、スーパーに続く道を歩いた。
売場をあちこち歩き、父に聞いた入用の物、目に付いた便利そうな物を買って病室へ戻る。
父がありがとうと言ってくれ、それにほんの少し気持ちが凪いだ。
245美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/09(日) 13:57:03 ID:Cs3R969x
窓から西日が入ってきて、眩しさにブラインドを下ろしたところで気付く。
「旦那様、そろそろ……」
袖を引っ張り、帰る時刻が近付いていることを小声で言うと、旦那様がああと頷かれる。
「帰るのか?」
私達のやり取りに気付いた父が尋ねてくる。
ほんの少し寂しそうなその姿に、胸がちくりと痛んだ。
アパートは遠いから……というようなことを、口の中でもごもご言い訳する。
指定席を買っているわけではないけれど、旦那様の休日を頂いているのだから、あまり遅くなるのも気が咎める。

「お気を落とされずに。明日も参りますから」
不意に旦那様が仰って、私はびっくりして息を飲んだ。
「そうですか。いや、ありがとうございます」
父も暢気に旦那様に頭を下げ、私のことはそっちのけで、二人の中で話がまとまっている。
「では僕達はこれで失礼致します。ひとまずお大事に」
旦那様が立ち上がって優雅に頭を下げられ、私の背を押される。
それに流されてしまい、私は旦那様の仰った言葉を父に訂正できないまま、病室を出てしまった。
階段を下りきったところで、傍らの方に向き直る。
「旦那様、何であんなことを仰ったんですか」
廊下を歩きながら文句を言うのだが、旦那様は顔色一つ変えられない。
「あんなに寂しそうにされては、はいさようなら、と帰るわけにはいかないでしょう」
「それは、そうですけど……」
「次いつ会えるとも限らないのです、この際ですからまとめてお父上に顔を見せておあげなさい」
「だって、明日も行くってことは、今晩帰れないってことなんですよ?」
「ええ、ですから宿を探しましょう。駅前に行けばホテルが見つかるでしょう」
旦那様は事も無げにそう仰って、私の手を掴み、握られる。
ぎこちなく手をつないだまま、私達は駅前へ今日の宿を探しに行った。


そして。
「言ったとおりじゃありませんか、もうっ!」
約二時間の後、私は旦那様に文句を言い立てていた。
まずは夕食にしましょうと仰った時、私は「ぼやぼやしてたら泊まる所にあぶれますよ」と言ったのに。
食事処選びにぐずぐず迷い、やっと夕食が終わった時にはもうかなり時計の針が進んでいて。
予想通り、駅前のホテルにはもう空きが無く、宿泊を断られたのだ。
あわててよそを当ろうとするも、地方都市にホテルは数少ない。
漫画喫茶やインターネットカフェなど、気の利いた施設も無くって。
困ってあちこち歩き回るうち、裏通りにさしかかった私達には、もう選択肢は残されていなかった。
門前に2種類の値段が告知されている、妙に艶かしい明かりを灯しているホテルに嫌々入ったのである。
一旦アパートに帰るよりも泊まりの方が安いから、などと思いつつも心中は複雑だ。
なんでこんないかがわしいホテルに泊まらなきゃいけないんだろう。
この部屋は普通だけれど、フロントには、貝殻型ベッドの部屋や天井がプラネタリウムになっている部屋の写真があったっけ。
入ったものの諦めがつかない私は、気楽な見学者さながらに室内を見て回られている旦那様の背中をにらんだ。
既にこの状況を受け入れ、ほおとかふむとか、もっともらしく頷いている暢気なあの方を。
行き当たりばったりのくせに、妙に適応力があるんだから。
「美果さんご覧なさい、ジャグジーがありますよ」
お風呂場から楽しそうな声が聞こえてきて、私は呆れて深い溜息をついた。


一緒にお風呂に入りたそうにしている旦那様を無視して、ソファに足を乗せて行儀悪く座る。
昼間の父のことを思い出して、しばし目を閉じた。
あっけないくらいにあっさりとした再会だったと思う。
継母や義理の兄弟がそこにいなかったせいもあるけれど、拍子抜けするくらいに自然だった。
実家にいた頃は、いじめられている私を助けてくれない父に対して、失望を感じていたのに。
会った途端に父に対する過去の怒りが爆発するかもしれない……という想像は、想像で終った。
これが「日にち薬」っていうやつなんだろうか。
会ったとはいっても、洗濯や買い物でほとんど席を外していたけど。
明日もう一度会ったら、父に対する自分の感情がもっとクリアになるのかな。
なんだかそう思うと不安になり、気分を変えるためにテレビを見ることにする。
面白い番組を探してリモコンを触っていると、画面がいきなり肌色一色になった。
246美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/09(日) 13:58:44 ID:Cs3R969x
『ご主人様おやめ下さい、いけませんっ!』
メイド服を着た女の子が、主人と呼ぶには明らかに怪しい全裸男に襲いかかられている。
揉み合う二人はもつれ込むように床に倒れ、女の子が頬を一つ張られて涙ぐむ。
クラシックなエプロンが引き裂かれ、破れたフリルの隙間から彼女の両胸がこぼれ落ちるように覗いた。
『いやっ、だめっ……。ああ……』
男の無骨な手が女の子のスカートの中に入り込み、下着を引き下ろして露になった場所に指を届かせる。
小刻みに刺激を与えられ、女の子は高い悲鳴を上げながら脚をばたつかせる。
スカートがまくれ上がり、脚の付け根が見えて心臓がどきりとする。
これは、アダルトビデオ……?
まばたきを忘れた目が画面に釘付けになる。
男はとうのたったオッサンだけど、女の子は若くて可愛くスタイルがいい。
『あぁんっ……ご主人様……』
強制的な「ご奉仕」の後、女の子が男のアレを挿れられて切なげな声で呼ぶ。
大きく揺さぶられ、小柄な彼女の体がシーツに浮き沈みしはじめる。
こんな荒っぽいセックスなんて痛いに決まってるのに、そもそもこれは演技のはずなのに。
見ていると妙に体の芯が熱くなって、呼吸も上がってくるのが分かる。
私は視線を画面に固定したまま、身震いが止まらない自分の体を抱いた。
リモコンが手からすり抜け、小さな音を立ててソファに落ちる。
『ご主人様、気持ちい……ああんっ、あんっ」
拒否していたはずの女の子が、いつの間にか媚びさえ感じさせる声で主人を呼び、あられもない格好で貫かれている。
絶え間ない喘ぎと乱れきったメイド服は、彼女が本当に快感に悶えているようにしか見えなかった。


「美果さん?」
「ひっ!」
名を呼ばれソファから飛び上がる。
弾かれたように振り向くと、バスローブを着た旦那様がこちらを不思議そうに見ておられた。
私がビデオに目を奪われているうちに、お風呂が済んだのだ。
時が止まったように見つめ合う私達の背後では、女優があんあんと喘ぎながら「ご主人様」にねだっている。
この状況はまずい、言い訳の余地も無いほどまず過ぎる。
悲鳴を上げてリモコンを拾おうとするが、リモコンは震える手をすり抜け、まるで生き物のように逃げる。
床に落ちたそれがソファの下に消え、冷や汗がどっと背筋を伝い落ちる。
私は弾かれたように前方に突進し、テレビの主電源に手刀をくれてお風呂場に逃げ込んだ。


どうしようどうしようどうしよう。
お湯に浸かって唸りながら、脚をバタバタさせる。
勢いがついて腰が浮き、私は危うく浴槽で溺れそうになった。
偶然のこととはいえ、あんなビデオに目を奪われているところを見られてしまったなんて。
女のくせにスケベのヘンタイだと思われたんじゃないだろうか、もうお嫁に行けない。
お湯には入浴剤でも入っているのか、柑橘系のいい香りがしているのに、ちっとも心が落ち着いてくれない。
せめて私が男なら、大人のたしなみだと堂々としていられるのに。
お風呂場を出た後の有効な対処方法が思い浮かばないまま、ふやける寸前でお湯から出る。
置いてあったバスローブを着て、そーっと脱衣所のドアを開けた。
漏れ聞こえる音に、旦那様がテレビで天気予報か何かを見ておられるのが分かる。
もうこうなったら、今のうちに寝てしまうしかない。
足の裏に全神経を集中させ、猫になったつもりで抜き足差し足で部屋を横切る。
大きくて立派なベッドに感心する余裕も無く入り込み、ギュッと目を閉じた。
旦那様がなるべく長くテレビに気を取られていますようにと願いながら、寝返りを打ちベッドの端に寄る。
壁を向いて寝たふりをするのだが、頭の中はかっかと熱く火照っていて、ちっとも冷めてくれない。
さっきのビデオの女優と、どうにもご主人様らしくない男とのセックス風景が脳裏によみがえって、私の血圧を上げる。
もし旦那様があんなに強引になさったら、私もあんな風にはしたなくなってしまうのだろうか。
あれがフィクションなのは明白なのに、妙に頭から離れず、自分達に置き換えて考えてしまいあわあわする。
これではだめ、もう寝る寝ると口の中で唱えていると、旦那様がこちらへ歩いてこられる気配がした。
「美果さん?」
呼びかけられても返事をせず、精一杯呼吸を整えて寝たふりを続ける。
ベッドの向こう側がギシリと沈み込み、旦那様が傍らに座られたのが分かった。
寝ているのを確かめるように肩の辺りを触られる。
それにも無反応を決め込んでいると、旦那様は掛け布団をめくり上げて隣に入ってこられた。
247美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/09(日) 13:59:56 ID:Cs3R969x
自分も寝ようとお考えになったのかな、と思ったその時。
むに。
「っ!?」
前触れ無くわき腹をつままれて、驚いて声にならない声が出る。
大きく跳ねた体をころんと上向かされ、思わず目を開けるとすぐ上に旦那様のお顔があった。
「あ……」
いたずらっぽい面持ちで見つめられ、さっきビデオを見ているのを見つかった時と同じにあたふたしてしまう。
私のこざかしい狸寝入りなんか、とっくにお見通しになっていたんだ。
この期に及んで知らぬふりをする知恵もない私は、旦那様を見たまま固まった。


いくらか見つめあった後、旦那様がプッと吹き出される。
また上手い言い訳の言葉が見つからなくて、頬に血が昇りっぱなしになった。
真っ赤になっているそこを隠したくて、ようやく動くようになった手で顔を覆う。
なのに女心の分からない旦那様は、私の手を掴み顔から外させられた。
口答えする間もなく唇を重ねられ、閉じるはずの目を大きく見開いてしまう。
きちんと目を閉じておられる旦那様のまつ毛が至近距離に見え、慌てて目をつむった。
軽く触れるだけのキスが、次第に深く、心にざわざわとした物を呼び起こすようなキスになってくる。
先程まで顔を隠していた私の手は、いつの間にか旦那様の首に回り、縋りついていた。
「ん……」
夢中で長い時間を過ごした後、唇を離して息をつく。
必死にたぐり寄せようとしていた眠気は、はるか向こうへ飛んでいってしまっていた。
こんなキスをしてしまえばもう、大人しく寝るなんてできない。
旦那様を引き寄せていた手にもう一度力を入れると、あの方は私の考えがお分かりになったようだった。
バスローブのベルトが、するりと解かれる。
閉じたまぶたを透かす光の弱まりに、部屋の照明が落とされたのを感じた。
もう一度軽くキスを下さってから、旦那様の手と唇が私の体を順に撫でていく。
バスローブの上から焦らすように胸を触られ、もどかしさに身を捩る。
早く直接触って、一杯感じさせて欲しいのに。
んっと不満な吐息を漏らし、旦那様の指を誘うようにバスローブをはだける。
自分のはしたない行いが、さっきのビデオの女優と重なり、身の置き場の無い心地になる。
「あっ」
求めに応え、旦那様のお手が直接胸元に触れ、柔らかい愛撫を始める。
その手の温かさが、空調の効いた部屋ではやけに生々しく、心がざわついた。
「あんっ!」
旦那様に乳首を吸い上げられ、上ずった叫び声が出てしまう。
最近、私のここは一層敏感になってきている。
前よりも感じやすくなっているのでは?と、旦那様がセクハラ発言をされるくらいに。
確かにそうかもしれないけど、でも、それはあの方が言っていいせりふじゃない。
閨のたびに執拗にそこを愛撫なさっているのは、誰あろうこの方自身なのに。
私だけのせいになさるなんて、ちょっと違うと思う。
「んっ……。あ……あんっ……」
刺激を受けるたびに胸が切なく疼いて、頭の中がぼうっとしてくる。
この感じは決して嫌いではないから、いつもされるがままになるのだけれど。
旦那様の気配が遠のくと切なくなって、手をギュッと握り締めてしまう。
一瞬でも離れないで、離さないでいて欲しいとお願いしたくなる。
下を向くと、私の胸に顔を埋めておられる旦那様が目に入る。
一心に吸い付いていらっしゃるのが可愛く思えて、口元がほころんだ。
「んっ!」
視線を感じたのか、顔を上げられた旦那様とまともに目が合って激しく動揺する。
吐くはずの息を飲み込んでしまい、喉の奥が大変なことになった。
こんな時に目が合うなんて困る。
ベッドがきしむ音がして、旦那様が私の顔を覗き込むようにずり上がってこられたのを感じ、慌てて壁を向く。
今また目が合ったら、それこそどうしていいか分からないもの。
なのに女心を分からない旦那様は、私の頬に手を触れて自分の方を向かそうとされる。
「やっ……ん、んっ……」
必死で抗って、体を揺すって旦那様の手から逃れる努力をする。
いつもは私の言うことを何でもはいはいと聞いてくれるくせに、こういう時のこの方は妙に強引だ。
どう逃げようか思案してもうまくいかず、気がつけば私はベッドから下りていた。
248美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/09(日) 14:00:55 ID:Cs3R969x
散々愛撫されて、熱を持った体が冷えるのに身震いする。
「美果さん?」
戸惑ったように名を呼ばれて、どうしていいか困って俯く。
ふと手を取られて顔を上げると、旦那様が決まり悪げな笑みを浮かべていらっしゃった。
「困らせすぎたようですね」
許しを乞うように仰るのに、反射的に首を振る。
わざとじゃないのは分かっているから、旦那様を責める気なんか全く無い。
でも、ちょっとした悔しさが自分の中にあるのもまた事実で。
どうすればこの気持ちが治まるかしばし考え、やがて一つだけ思いついた。
もう一度ベッドに乗っかり、旦那様の足元へと下がってバスローブに手をかける。
さっきこの方が私になさったようにお脱がせして、ベッドの下に放った。
「あっ」
固くなり始めているアレに手をやり、軽く握りこんで扱くと、息を飲まれる気配がする。
それにほんの少し胸がすくような心地になり、俄然やる気が湧いてきた。
かがみ込んでそっと唇を寄せ、軽くキスするように何度も柔らかく触れる。
「美果さん。……頼みます」
焦れた旦那様がねだるように仰るのを聞いて、頬が緩む。
私も、満更じゃない。
気を良くして、私は旦那様を上目遣いに見上げながら、ゆっくりとアレをくわえ込んだ。
喉の奥を動かして、唾液をいっぱいに絡め、音がするほど啜り上げて愛撫する。
根元は軽く握り、上下に扱いて快感を煽る。
さっきのビデオで女優がしていたように。
「あ……う、っ……」
旦那様が悩ましげに眉根を寄せて、苦しそうな表情をされる。
その脚がわななき腰も揺れて、限界が近いことを示していた。
ここで焦らしてやろうかとも思うけれど、旦那様のイくお顔が見たい。
目を閉じていらっしゃるのを幸いに、私はあの方のお顔から視線をそらさず、アレの先に強く吸いついた。
舌先を尖らせて、太い部分の輪郭をなぞるように舐め上げる。
根元をさする手の動きも早くして、旦那様を追いつめた。
「あっ!」
旦那様の短い叫びと共に、生温かい物が口の中一杯に広がる。
舌や喉に絡みつくそれを、頷くように頭を上下させて少しずつ飲み下した。
アレの先端にもう一度舌を這わせてから、名残惜しく唇を離す。
旦那様が深い溜息をついて、放心したように枕に頭を預けられた。


ご回復を待つ間、旦那様の脚やお腹を手持ち無沙汰に触れる。
力加減を変えてみたり、指先や手の平で擦ってみたりして遊んでいると、あの方がようやく体を起こされた。
髪を梳いてくれる感触が心地良くて、されるがままになってじっとする。
いつの間にか目を閉じていたようで、肩に手を掛けられてハッとした時には、私はシーツに背を預けていた。
鼻と鼻がくっつきそうなほど近くには、旦那様のお顔がある。
上から私を見つめるあの方と目が合い、魅入られたように視線を外せなくなってしまう。
長く見つめ合った後、旦那様はついと私の足元へ下がられた。
「あっ……」
脚を開かされて立った水音に、頬がカッと熱くなる。
まだそこには指一本触れられていないのに。
旦那様のアレに触れていただけで、そんな風になったなんて。
急に気恥ずかしくなってそこを隠そうとしても、旦那様のお体にぶつかって脚が閉じられない。
ヘッドボードの方ににじり上がっても、その分だけ距離を詰められて逃げることは叶わなかった。
「んっ」
膝の裏を押されてもう一度開脚させられ、完全に露になった場所に旦那様の指が触れる。
ぬめりを帯びた音がさっきよりも大きく聞こえ、息を飲んで身をすくませる。
やっぱりいやだ、恥ずかしい。
脚を閉じられないならと、力を抜いていた手を脚の付け根に持っていく。
「いけません」
旦那様に強い力で手首をつかまれ、シーツに押し付けられた。
「だって……んっ、あ!」
口答えの代わりに出たのは、上ずった叫び声。
手首を戒めていたはずのあの方のお手が、いつの間にか私を裏返しにするように太股の裏側を押し上げていて。
隠したくて堪らない場所が天井を向いて、体の中で一番高い位置に来ていた。
249美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/09(日) 14:02:06 ID:Cs3R969x
「やっ、旦那様っ」
体を揺すって抗議しても、私を変な体勢にしているあの方のお手はちっとも動いてくれなくて。
濡れた場所に感じる吐息に、お顔をすぐそばに近付けておられるのが分かった。
危険信号が大音量で頭の中に鳴り響き、目に涙がにじむ。
いや、いやと何度も繰り返し言って脚をばたつかせ、ようやっとあの方から逃れた。
「美果さん?」
呼ばれても返事をせず、体を胎児のように丸める。
寒くも無いのに体が震えて、私はますます縮こまった。


足元にあった旦那様の気配が、いつの間にか背後に来ている。
ようやく呼吸が整って、真っ先に感じたことがそれだった。
振り返りたいけれど、恐くて動けない。
あんな風に拒否して、気を悪くなさったのではという思いが先に立つ。
心の中身が羞恥から恐怖にすり替わった時、前触れ無く背中が温かい物に包まれる。
旦那様が後ろから私を抱きしめて、落ち着かせるように頭を撫でて下さっていた。
その温もりが心地良くて、深呼吸して旦那様の香りを胸いっぱいに吸い込む。
背中をぴたりと旦那様の胸に密着させ、前に回ったあの方の腕を握った。
さっき変な格好をさせられていた時とは違う、触れられることの純粋な嬉しさが胸を満たすのを感じる。
みぞおちの辺りに触れていたお手を持ち上げ、自分の頬に押し当てて目を閉じる。
旦那様は指を少し動かして、私の頬をくすぐるように撫でられた。
「ん……」
その心地良さに、自分の物とも思えないうっとりした声が口をついて出る。
いたずらに羞恥を煽るような触れ方には抵抗があるけれど、こういうのならいくらでもされたい。
旦那様が私の頭を撫でていた手を止め、腕をシーツにつけて後ろから腕枕をして下さる。
一方、私が捕まえて頬に押し当てていたもう片方の手は、ゆっくりと下へ向かった。
私の薄い茂みをかき分け、今しがたほんの少しだけ触れられていた場所に戻り、そろそろと動き始める。
また美果が嫌がるかもしれないと、遠慮がちになさっているのが分かった。
「んっ……あ……あんっ……」
でも、もう私の口からはいやなんて言葉は出てこなかった。
抑えた指の動きが、まるで焦らされているようで堪らなく気持ちよくて、それだけで。
襞や肉芽に触れられるたびに体を跳ねさせ、与えられる快感だけに集中するのみだった。
旦那様に後ろから抱っこされている安心感もあり、声を上げるのを抑えられなくなる。
しみ出た愛液を周囲に塗りこめるように動いていた指が、私の中に浅く入り込む。
それに次の期待を煽られ、私はギュッと旦那様の腕を握り締めた。
うなじを撫でていく旦那様の安堵の吐息に、ほんの少し申し訳なくなる。
もう、大丈夫ですから。
その思いを込めて旦那様のお手に触れ、そこへと押し付ける。
濡れそぼった柔らかい場所への責めが強くなり、私は何度も湿った吐息を漏らした。


快感にぼうっとした私の耳元で、旦那様が囁かれる。
頷くと、あの方がベッドから降りられる気配がした。
私も寝返りを打ち、今度こそちゃんと……と自分に言い聞かせて待った。
しばらくして、準備を済ませた旦那様が覆いかぶさってこられる。
私の手を拾い上げて自分の肩に回させ、落ち着かせるように撫でて下さってから、ゆっくりと身を沈めてこられた。
徐々に増す圧迫感に、私はのけぞって大きく息を吐く。
全部入ったところで頬にキスしてもらって、嬉しさにまた頬が緩んだ。
手に力を入れて旦那様を引き寄せ、小さくねだる。
それに安心したように、あの方は腰を使われ始めた。
浅く深く、緩急つけて貫かれて快感に身を捩る。
中を探るようにアレを押し付けられて、体が何度もびくりと跳ねた。
弱い場所が全てばれてしまっているようで、圧倒的不利を感じる。
でも、旦那様とこうしているのはすごくすごく気持ち良くて、嬉しくて。
ここがアパートじゃないことも、さっき心の中でこの方に散々悪態をついたことも、もう頭の中から消えてしまっていた。
そんなことより、今抱き合ってることの方が何千倍も大事だもの。
イくのはできるだけ先がいいな……と、息を乱しながら考えていた。
心地良い揺さぶりに身を任せていると、旦那様がふと動きを止められる。
繋がったまま抱き起こされそうになって、私は慌てて旦那様にしがみつき、いやだと首を振った。
最初は正常位で安心させておいて、途中で妙な体位に替わるのが最近のパターンになっている。
250美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/09(日) 14:03:27 ID:Cs3R969x
変なのはいやだ、このままでいいのに。
「美果さん、いい子ですから……」
なだめるように背中をさすられても、首を振り続けて拒否の意思を伝える。
しかし旦那様は、その訴えを無視して私を抱き起こされた。
あぐらをかいた膝の上に座らされ、これからどうなるのかと不安におののく。
しかし、予想に反してそれ以上は何もされず、私は心の中でホッと息をついた。
これなら経験のある体位だし、安定するから結構好き。
「いいですか?」
問われるのに頷いて、私は腕の力を抜いた。
一瞬だけ目が合ったと思ったらまた距離が近くなって、唇が触れ合う。
軽いキスが物足りなくて、私は知らぬ間にあの方の首に腕を回し、もっと欲しいと求めていた。
最近は変な体位ばっかりで、こうしてきちんと向き合えてなかったから、できる時にしておかないと。
夢中でキスをして、苦しくなったらちょっと唇を離して、息が整えばまたくっつけて。
繰り返してもちっとも飽きなくて、むしろもっと欲しくなっていくようだった。
何度目かの時、不意に身をかわされて狙いが外される。
ムッとして口答えしようかと思った時、お尻をゆっくり撫でられて体が跳ねた。
「美果さんは、大胆なのかそうでないのか、よく分かりませんね」
笑みを含んだ声で旦那様が仰って、またお尻を触られる。
珍しい体位を拒もうとしたくせに、キスには積極的だって言いたいんだと思う。
「そんなの、エロいだけの方に言われたくなんかありません」
何もかも全て、私を困らせる旦那様がいけないのに、変な奴だとでも言われるのは心外だ。
「これはまた随分な言われようですね」
「当然です。今まで全然しなかった……姿勢とか、この頃しょっちゅうなんですから」
「よりよい物があるかと思い試したのですが、お気に召しませんか?」
「いやです。なんか落ち着かなくって、心細くなりますから」
私は別に、今までのセックスに不満なんかない。
人を恥ずかしがらせて楽しむのはやめて下さいとは、たまに言いたいけれど。
「そうですか、美果さんは新しい分野を開拓する気はありませんか」
「はい。今のままで十分です」
旦那様がどこか残念そうなのは、研究者だから探究心が抑えられないからなのかな。
それとも、ただスケベなだけだろうか。


私の言葉に旦那様が頷かれる。
「分かりました。少し惜しい気もしますが、美果さんの意思を尊重しましょう」
思慮深いながらも、どこか残念そうな口調で仰る。
旦那様は、あんな体位とかそんな体位とか、色々試したいのだろうか。
もしかして、私を抱くのに飽きたのかな。
不快な想像をし、旦那様の首に巻きついたままの手に力が入った。
問うてみようかと口を開いた時、体が揺さぶられる。
繋がった場所から、十分にそこが潤っていることを示すように水音が上がった。
「あ……っん……」
体重のせいで、中に入っているアレの存在感がいつもより大きい。
往復するたび、狙いすましたかのように気持ちいい場所に当って息が止まる。
私は、これで十分なのに。
「旦那様……。や……あっ……」
気持ちいいですかと尋ねたいのに、それを口にすることができない。
何度か聞こうとしたのに、結局、呼びかけるだけになってしまった。
言葉を口に上せるのを諦めて、お腹に力を入れてアレを締め付けてみる。
旦那様の動きに呼応するように腰を使い頑張ると、息が一層荒くなり、肌にうっすらと汗が浮かんできた。
「あ……」
旦那様が切なそうな表情を見せて、ギュッと目を閉じられる。
演技のできない方だから、気持ちいいんだ。
ホッとして体の固さが取れ、動きがスムーズになるのが分かった。
「あ……あっ!」
旦那様が上体を屈ませ、私の胸に唇を寄せられる。
腰の動きに注意を向けられているせいで、そちらへの責めは緩いけれど、それが焦らしのテクニックみたいに思えて。
こちらももっと……と言う代わりに、私は旦那様をぐっと引き寄せた。
251美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/09(日) 14:04:57 ID:Cs3R969x
舌先を尖らせて乳首をつつかれるのが堪らなく気持ちいい。
胸への刺激のたびに体に力が入り、それにつられてあそこが収縮するのがわかった。
「んっ……あ……あんっ……」
夢見心地で揺さぶられ、胸を可愛がられて意識が飛びそうになる。
気持ちよさを伝えたいけど言葉にならず、その代わりに旦那様をもっと強く引き寄せた。
触れ合う面積が広い方が、安心できていい。
そんなことを言うとまた「美果さんは甘えん坊ですね」と言われるから、秘密にするけど。
でも多分、私の状況を見れば旦那様には分かってしまうのだろう。
それなのになぜ、最近は変な体位ばっかりなのかな。
「旦那様っ……ん、もっと……」
我慢できずにねだると、すぐそれが叶えられ、腰をつかまれ深く突き上げられる。
かき混ぜるようにもされて、いよいよ危うくなってきた。
自分のてっぺんがすぐそこに来ているのが分かって、受け入れるべく心構えをする。
「あ……ああっ!」
下準備のしきらないうちに、大きな快感の波に襲われて叫び達する。
体も思考もふらついたけど、今日は旦那様に抱きついているおかげで何とか堪えられた。
息を整えるのもスムーズで、いつになく調子がいい。
一旦体の力を抜いて、旦那様の肩におでこをつけると、髪にあの方の指が絡まった。
そうだ、旦那様はまだのはず。
背中の方に重心を移し、布団に旦那様を引き倒そうと頑張っていると、意図を読み取り叶えて下さる。
シーツに折り重なった所で、また視線が合ってドキリとする。
いつもの大人しい草食動物みたいな目じゃなく、熱と情欲のこもった「男の人」の目だ。
見惚れて言葉を失っていると、足首をつかまれて大きく開脚させられる。
繋がりが一気に深くなり、私は圧迫に息を飲んだ。
苦しいけど、こうされるのは嫌いじゃない。
私が頷いて目を閉じたのを見計らい、旦那様が腰を使われ始める。
さっきとは違い、ご自分の快感を求められているのだけど、でも私も気持ちよくてまた息が乱れた。
また抱きついて堪えたいけど、ワンパターンだと思われるのは本意じゃない。
しばらく迷った挙句に枕を掴み、顔を埋めて声を殺した。
でも、突き上げの合間に肌を吸われると、どうしたって声が漏れてしまう。
いつもなら、痕が残るからいやだと文句を言うところだ。
でも今日は黙っていよう、変な体位はやめてというお願いを聞いてもらったばかりだし。
あれはいや、これもいやと言ってばかりじゃ、旦那様の優しさにつけ込んでいるみたいで良くない。
私がいつになく従順なのが妙だと思われたのか、あの方が肌に吸い付く力を強められる。
それにつられて体の震えも大きくなったけど、それでも不平は言わず、私はされるがままになった。
「あっ……」
旦那様が一際切ない声を上げ、動きを大きくして畳みかけるように責めてこられる。
私も脚を絡めて必死についていき、先にイかないように頑張った。
「んっ!」
音を上げるギリギリのところで、旦那様のアレが私の中で大きく脈打つ。
それに息を飲んだ後、どうにかイかせてあげられたことに、自分の口元が綻ぶのが分かった。
旦那様は、絶頂の余韻を味わうかのように何度か緩く突かれた後、深い深い溜息をついて姿勢を起こされた。


今日何度目かのキスをして、体を離す。
何だか気恥ずかしい雰囲気のまま、私達はもう一度並んで横になった。
面白がってあの貝殻ベッドの部屋にしないでよかった、あっちなら事後の雰囲気に耐えられなかっただろう。
アパートじゃないから、他の部屋に逃げることもできないし。
「美果さん」
穏やかな声で呼ばれて顔を上げると、こちらをじっと見ていらっしゃる旦那様と目が合う。
はいと返事をすると、あの方の指がまた髪に触れた。
「昼間は、どうでしたか」
曖昧な質問に眉を上げるも、すぐに仰りたいことの意味が分かった。
「なんか、いざ会ってみるとアッサリしてて拍子抜けしました」
ドラマなんかだと、再会シーンでは愛憎をぶつけ合ってドロドロするのに。
自分もそうなると密かに恐れていたことは全くなく、我ながら驚いている。
「そうですか。お父上が元気そうで僕も安心しました」
心底同意して大きく頷く。
すごく重い病気だったらどうしようかと、心中は穏やかではなかったから。
252美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/09(日) 14:06:02 ID:Cs3R969x
「旦那様、ありがとうございます」
背中を押してもらわなければ、私はお見舞いに来ないまま、もやもやとした思いを抱えていただろう。
とにかく父が元気そうでよかった、他のことはとりあえず今はいい。
「僕は何もしていません。ああ、お見舞いの品は見繕いましたが」
冗談めかして仰っているけれど、今回のことは本当に旦那様のおかげだ。
「なんかすっきりしました。と言いましても、全部これでチャラ、というわけではありませんけれど」
許したか許してないかで言えば、私はまだ父を全て許したわけではないと思う。
それは事実だけれど、それとは別の所で、そろそろ認めてあげてもいいかなという気にはなっている。
苦労させられた事実は決して消えないけれど、今、私抜きの家族が一丸となってコンビニを頑張っているのであれば。
父は新しい家族の中に入り、私は親離れした。
何となくだけど、そう思えるようになった。
これは、きっと旦那様がいて下さるおかげだ。
今の暮らしが平穏で幸せだから、父に怒りをぶつける気にもならないし、その必要もない。
「見舞いを提案したのは軽々しかったと、後で思ったのですが」
「いいえ。旦那様があの時ああ言って下さらなかったら、来てませんから」
こんがらがった感情の糸をほぐしてきれいに巻き直すには、まだ時間がかかるはず。
でも、父がさっさと治ってくれることの方が今は重要だ。
「僕もたまには役に立ちましたか」
「はい。旦那様がいて下さるからこそ私、幸せで……あっ」
さっき胸に去来した思いを言葉にしかけ、あわてて口に手を当てる。
危ない、こんなことを言ったら旦那様が面白がられるに決まっている。
「何ですか美果さん。今、『幸せ』と……」
「そんなこと言ってません。旦那様の聞き間違いです」
「いいえ、確かに聞こえました。空耳ではありません」
珍しく強硬に言われ、困って私は視線を泳がせた。
「ええと、私が言ったのは、その」
「はい」
「お屋敷にいた頃は、いじめられたりしてあんまり幸せじゃなかったんですけど……。
今は旦那様と二人で、そういうストレスもありませんし、旦那様はお優しいから」
「ええ」
「何かを恨む気持ちになれないのかなって。だから、その……ちょっと、幸せなのかなって……」
いつになく押し出しのある雰囲気に負け、しぶしぶ答える。
せめてもの抵抗で最後を濁したけれど、それも中途半端に終った。
私の答えを聞いて黙ってしまわれた旦那様が、口を開かれるまでの時間がひどく長く感じられた。
「僕はただ提案をしただけに過ぎません。美果さんが、自分の力で葛藤を乗り越えたのでしょう?」
ようやく旦那様が仰ったのは、あまりにも私を買いかぶりすぎた言葉だった。
「そんなことないです。そもそもはお屋敷を追われた時、旦那様が同居を誘って下さった時からです」
自分で言うのは渋るくせに、旦那様のけんそんには反論したくなるのはなぜなのか。
「もしあの時一人ぼっちでクビになっていたら、私は今頃すごくひねくれてて、手遅れになったと思います」
ひがみっぽい私のことだ、環境を恨み自分の運命を恨み、そうなっていたことは想像に易い。
ああもう、こうなったら言ってしまえ。
「私が今幸せなのは、旦那様のおかげですから」
性格が慎ましいのはこの方の長所だけど、自分を過小評価してもらっては困る。
会社とお屋敷を取り戻してもらうことは諦めたけど、ノーベル賞の約束がまだ残っているんだから。
ちょっとくらいなら自信を持ってもらってもいい、そもそも事実なんだし。
「そうですか。美果さんは今、幸せですか」
いいえと否定したいあまのじゃくな気持ちを押し込めて、旦那様の言葉に頷く。
いつまでもそんな子供っぽいことでは、進歩がない。
「そうですか。では、もう少し幸せになる気はありませんか」
からかわれると思いきや、旦那様が口にされたのは意外な言葉だった。
心なしか、身に纏われている雰囲気が変わったような気がする。
もう少し幸せって何だろう、犬でも飼いたいのかな。
考えたけど分かりかねて、私はもう一度旦那様を見上げた。
「結婚しましょう。美果さんに、僕の伴侶になって頂きたいのです」
続けて仰ったことを聞いて、私の時間が止まった。

253美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/09(日) 14:07:07 ID:Cs3R969x
たっぷり、一分半は経ったと思う。
さっきより格段に分かりやすい言葉を理解するのに、それだけかかった。
「け……」
「結婚です。いつまでも曖昧なままではいけません」
固まる私をじれったく思ったのか、旦那様がさらに言葉を重ねられる。
「え、だって。そんな……」
私達はご主人様とメイドで、ずっとやってきた。
旦那様が大人しくて私がガサツだから、立場の差は随分とあいまいにはなっていたけれど。
そもそもは主従なのだから、結婚なんか身分違いだというのは私にでも分かる。
「旦那様は、お立場とかそういう、色々と……」
「今の僕はただの大学職員です。それ以上でも以下でもありません」
確かにそうだけれど、この方は元々すごい名家の御曹司で、私なんかと釣り合う方ではない。
もっと私より上等の女の人、例えば教授のお嬢さんなんかの方がお似合いだと思うのに。
「今まで苦労をかけた分、美果さんをもっと幸せにしたいのです。お父上には報告済みです」
「えっ?」
まさか、私が洗濯や買い物で席を外していた時に?
「じゃ『男の話』って……」
「ええ」
旦那様が頷かれる。
「便乗した形になりましたが、この機会を利用させてもらいました。いつかは通らねばならぬ道ですから」
晴れ晴れとしたお顔から察するに、父もいい返事をしたのだろう。
この方と会って、好印象を抱かない人がいるとは思えないもの。
「海音寺荘で暮らしていた頃から、言おう言おうと思っていたのですが……。
あの頃の僕は自分一人も食わせられない半人前の学生でしたし、美果さんも未成年でしたから」
そんなに前から考えていて下さったのかと、私は驚きに目を見開いた。
「また一緒に暮らすようになってからも、いいタイミングが掴めずにぐずぐずしていました。
先にそれとなく仄めかしても、美果さんは気付かれませんでしたから」
「仄めかすって、いつのことです?そんなの全然……」
「『僕達の関係を、もっとちゃんとした物にしましょう』と」
「あっ!」
夜に不似合いな大声を上げ、私は再び固まった。
そういえば、去年そう言われた覚えがある。
「もっとも、最近はすぐ言うより先に下地を作ろうと方向転換していました。
僕に惚れて、妻になりたいと思ってくれるようにと」
「まさか、それって……」
やけに優しかったり、あちこち連れて行って下さったり、閨で変な体位を試されたことも、あれも全て……。
ごめんなさい、妙だ妙だと思うだけでドキドキなんてしませんでした。
心の中で謝りながら、自分の鈍感さに落ち込んでしまう。
申し訳なくて申し訳なくて、穴があったら入りたい心地だ。
でも、旦那様が私のことを目一杯考えて、あれこれ画策して下さっていたのかと思うと嬉しい。


「美果さん。返事を聞かせて下さい」
旦那様が私を引き寄せ、胸に抱きとめて仰る。
「……私なんかに、旦那様のお嫁さんが務まるでしょうか」
「特別な何かをしてもらう、などというわけではありませんからね。今まで通りに家事をして、僕の帰りを待って下されば」
「え、たったそれだけで……」
「はい。僕はただ美果さんに、ずっと傍にいてほしいだけなのです」
これから先、もっとうんと年をとってもずっと旦那様と一緒。
想像してみて、それが全くいやじゃないことに気付いて驚く。
旦那様と二人で暮らしていさえすれば、きっとそれだけで幸せだ。
でも、それに関しては一言ある。
「あの、旦那様」
呼びかけると、私を抱きすくめているあの方の腕に力が入る。
「今仰ったこと、申し訳ないくらい嬉しくて、ありがたいんですけど……」
「なんです?断りたいのですか」
焦れたように言って、旦那様が私の顔を覗き込まれる。
「そうじゃありません。すぐじゃなくて、少し先にして頂ければ、と……。
嫁に来いと言って頂けるのは嬉しいんですが、私、こんなですし」
254美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/09(日) 14:09:22 ID:Cs3R969x
「こんな?」
「ええ」
打たれ強い以外の長所がこれと言ってないことは、自分が一番よく知っている。
ガサツだし口うるさいし鈍感だし、もし私が男なら、こんな女を奥さんにしたいとは絶対に思わない。
こないだも、旦那様に趣味の悪い嫌がらせをしたところだし。
「結婚を急ぎすぎたら『早まった』って後悔なさると思います。私がすっごく陰険なのは、旦那様もご存知でしょう?」
「陰険?何のことです」
「こないだのお弁当のことです」
自分の罪を改めて口にするのは気が進まないけれど、こうなれば言うよりしょうがない。
少し前の夜、旦那様と私は、くだらないことで軽く口論した。
悔しくて眠れなかった私は、腹いせに翌朝、旦那様のお弁当を思い切りファンシーに作りたてたのだ。
人参をハート型に切り、うずらの卵とごまでヒヨコを作り、レタスやハムをじゃばらに切ったのを巻いて花を作って。
さつまあげをクマの顔に切り、チーズを星型に切って飾り、蒸したジャガイモの輪切りには海苔で顔を描いた。
しかもわざとご飯を入れず、旦那様がこのお弁当を人目の多い学食に持って行かれるようにも仕向けた。
まあこれは、おかずが盛りだくさんになってしまい、ご飯のスペースが無くなったせいもあるけれど。
「可愛らしい弁当の日のことですか?あれは、美果さんの僕への愛情表現ではなかったのですか」
「は?」
「ご飯を入れ忘れるほど、おかずに手をかけてくれたのでしょう?」
「ち、違……」
「見た人に冷やかされましたが、仲直りの印だと思って僕は美味しく頂きました」
それが何か?と不思議そうな旦那様の表情を見て、私の体から力が抜ける。
手の込んだ嫌がらせをしたのに、丸きり反対に受け取っておられたなんて。
あの日は、力作が完成した時点で気が済んでしまい、旦那様がご帰宅なさった時の表情は確かめなかった。
そういえば、量の多さにもかかわらずお弁当は全てきれいに平らげてあったっけ。
呆れるを通り越して、乾いた笑いが口の端に浮かんでくる。
善意の固まりのようなこの方と暮らしていれば、私の性格ももうちょっとましになるかもしれない。
「早まったなどとは思わないでしょう。海音寺荘の頃から数えても、見定める期間は十分ありました」
「それは、そうですけど」
この、自分でもよく分からない戸惑いをどう伝えればいいんだろう。
様々に悩み、百面相をして言葉を搾り出そうと頑張る。
首を傾げておられた旦那様が、先に口を開かれた。
「猶予期間が欲しいのですか?」
「あ、それです。少しの間で構いませんから」
「なるほど。結婚を前提としたお付き合いということですね」
さすがに優秀な方だ、言いたいことをうまく言葉にできない私の頭の中を先に読み取られるとは。
毎日顔を合わせていたし閨のお相手もしていたけれど、すぐ結婚したらうまく切り替えられない気がする。
今さらだと思われてもいい、私は旦那様ときちんと恋愛がしたい。
力いっぱい頷くと、旦那様はふむとしばし考え込まれる。
「いいでしょう。確かに、僕達には生活はありましたが、付き合いというと乏しかった。
結婚の前に、まずは恋人という関係を経るのも悪くありません」
美果さんはまだ若いですから、そういう楽しみも欲しいのでしょうねと旦那様が頷かれる。
「閨の時以外では、美果さんはあまりこう、僕に甘えられませんからね」
「それはそうです。昼間っからメイドが主人に甘えるなんておかしいですもん」
旦那様の言い方だと、夜中は目一杯甘えているように聞こえるけど、それは事実と違う。
「分かりました、この話は少し延ばしましょう。ただし、前提に異論はありませんね?」
それは無いので素直に頷く。
255美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/09(日) 14:11:01 ID:Cs3R969x
「しょうがないです。惚れられた弱みってやつですから」
ずっと一緒にいたい人に結婚してくれと言われれば、首を縦に振るだけ。
だからそう言ったのに、旦那様はおやと首を傾げられる。
「それを言うなら『惚れた弱み』ではありませんか?」
「違います『られた』です」
私が言うと、旦那様がわずかに傷ついた表情になられる。
「ほら、惚れられると『ありがとう、それなら期待に応えよう』って思うでしょう?そういうことですよ」
ちょっと申し訳なくなったので、慌てて言葉をつなぐ。
こんなこと言ってるけど、自分がこの方に惚れてもらっているという実感なんかありはしないんだけど。
今まで男性に好きだといわれたことなんか無いし、付き合った経験も無いし。
「私、こういうことには鈍いですが。よろしくお願いします」
「全くです。美果さんはよく気がつく反面、こういったことには疎いようですね。
先ほどは僕の一挙一動に敏感に反応して、随分と可愛らしかったのに」
「あっ」
旦那様が聞き捨てならないことを言いながら、私のお尻をいやらしい手つきで撫でられる。
そんな風にされると、さっき貪欲に求めてしまったことを思い出して、いたたまれなくて死にそうになる。
「そもそも、美果さんをこのようにしたのは僕です。その責任も取らねばなりませんね」
げっ。
「旦那様、私、セクハラする人と結婚するなんていやなんですけど」
身を捩って、旦那様の手から逃れようと抵抗しながら言う。
「諦めて下さい。大学では女子学生にしないようにしますから、あなたにだけは」
旦那様のお手は止まることなく、変な場所ばっかりを選んで撫でさする。
器用な指先に快感を呼び起こされ、私は上ずった声を上げるしかなかった。
確かに、こんなことを大学で女子学生にされては大変だ。
「もうっ!こんな悪いことをする人とは、お付き合いする気になれません」
「そうですか。ではまた別居しますか?」
「えっ、それはだめです」
せっかくまた一緒に暮らせているのに、別居なんかいやだ。
「そういうことじゃありません。たしなめたかっただけです」
「そうでしたか」
「こんなんじゃダメですよって言いたかったんです。もうちょっと精進して頂く意味でも、一緒に暮らす必要があります」
「ええ、よろしく頼みます」
「安心するのは早いですよ?旦那様が危ない道に進まれないように、私が監視するんですから」
「はい、しっかり頼みます」
旦那様が、微笑みながら頭を撫でて下さる。
その心地良さにたやすく懐柔されて、私はそれ以上言う気が摘み取られてしまった。
この方と結婚して、奥さんになる。
そう遠くない未来図は、まだつかみ所が無いけれど、きっと幸せなものになるだろうと思った。
明日、病室に行ったら父としっかり向き合って、さようならを言おう。
私は関西で、ずっと旦那様の傍で生きていきたい。



──第12話終わり──

256名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 15:53:51 ID:OytUGjKm
旦那様がついに(鈍感な美果さんに)プロポーズですな
ニヤニヤしちまいました


っていうか、果物屋さんの娘だから美果さんなのね
257名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 21:11:29 ID:FAwBdm3R
>>255作者様  GJ
今日最初から読み返してたところだった。もしかして11話でおしまいかなと
さびしく思ってたところだったよ。も少し続くよね。

>>256
第一話に命名の由来は書いてあったよ。
258名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 21:27:21 ID:anhuVrhx
>>255
GJです! とうとうプロポーズされましたか
美果さんのあまりの鈍さに旦那様もストレートに行きましたねw
259名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 01:13:00 ID:fOFCkrqx
>>255
作者さま、ありがとう!
美果さんには幸せになってほしいな〜旦那様、お願いします!
260名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 20:21:26 ID:AVFTwXW2
ハッピーエンドに安心と嬉しさがこみ上げてくる
メイドさんがどんな形であれ幸せになるのはいいことだ
長い間楽しませてもらった
エンドロールが楽しみだ
261名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 04:43:01 ID:Jmifq1un
美果さんキテター

地の文読んでると美果さんは旦那様好き好きなのに未だに態度は素直じゃないのなw
しかし旦那様がどんどん男らしくなっていってる……
美果さん視点補正ってのもあるだろうけど
この二人には幸せになってもらいたい
262 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/16(日) 19:03:11 ID:mTc97q/b
『メイド・莉子 3』

ベッドサイドに置いた携帯のめざましアラームが鳴ると、莉子が飛びついて止めた。
「だめです、いけません」
起き上がろうとした俺に飛び掛って、頭を枕に押し付ける。
「いて、なにすんだよ」
「今日は土曜日でございます、お仕事はお休みでございましょう」
昨夜、俺は莉子と三度目をした。
一週間前にたどたどしくお互いの初体験を済ませ、痛い痛いと言っていた莉子を気遣って、二日おいてからまたした。
最初ほどではないがまだ痛いらしく、少し血も出た。
それで、また三日おいて、昨夜添い寝してくる莉子を抱き寄せたのだ。
泣きはしなかったが、痛いのはまだ痛いらしい。
女って、大変なんだな。
一度目のあと、俺は背中にびっしょり汗をかきながらコンビニで一番高いコンドームを買った。
指を折って日付けを数えた莉子が、たぶんだいじょうぶとは言ったけれど。
二度目は俺がコンドームをつけるのに苦労して、三度目の昨夜はようやくスムーズにことが運び、莉子も俺に触られてちょっといい感じでございますと吐息を漏らした。
後から一緒にシャワーを浴びて、莉子は裸のまま俺の隣に滑り込みんだ。
俺に腕と脚を絡みつかせて、小さなイビキまでかいて眠りやがった。
その莉子が、Tシャツ一枚の俺が動けないように覆いかぶさって抱きしめている。
「お出かけなさっては、いやでございます」
先週、莉子がメイドとしてやってきて最初の土曜に俺は出かけた。
出かけた先を教えなかったが、莉子はこの一週間ひどくそれを根に持っていた。
それ、メイドの行動としてはおかしい。
こいつはバカだから仕方ないが。
だが、今日は出かける。
こればかりは、莉子なんかの言うことを聞くつもりはない。
莉子を振り切ってベッドを降りて顔を洗ってくる。
形のいい手ごろな乳房を隠しもせずにベッドに座り込んでいた莉子が、ひとさし指を顎に当てた。
「なぜでございましょう」
「……んだよ」
新しいボクサーパンツに履き替えて、Tシャツを脱ぐ。
「だって、旦那さまは昨夜、それはもう、ねちっこくってねばっこくって」
……おい。
「わたくしのうなじから腋からお尻から、脚の先までさすったり舐めたり噛んだり」
……悪いか。
「果ては、あんなところまでぐちぐちぐちぐち」
いいかげんにしろ、バカメイド。
「わたくし、最後の方はさすがにうっとりいたしました」
顔をぽっと赤くして言うことか。
「でも、あの、いざとなるとやっぱりまだ痛くて」
俺はクローゼットからプレスしたてのシャツを出した。
「前の時のがまだ治ってないのか、新しく裂けちゃったのかはわかりませんけど」
さ、裂けた?
さすがに手を止めて莉子を見た。
「でもあの、手で触ってくださったところは、ちょっと別の感じでむずむずじんじんと」
俺のだってむずむずじんじん……、とか言うと思ってるのか。
へくちょ、と莉子がくしゃみをした。
「なんか着ろ」
「ふぁい。……それで」
まだなんか言うのか。
「あれほど、甘くて濃い夜を過ごしましたのですから、今日も一日その余韻を引きずって」
パチンと腕時計をはめると、莉子は毛布に包まってうらめしそうに俺を見上げた。
「……ずっと、いちゃいちゃしてくださると、思っておりました」
そういう目で俺を見るな。
俺は手を伸ばして、莉子にデコピンをした。
「……弁当、買ってきてやるから。夕方までに腹をぎゅるぎゅるにしとけ」
263 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/16(日) 19:03:48 ID:mTc97q/b
リビングに向かうと、急いで着替えたらしい莉子が追いかけてきた。
「旦那さま、旦那さま」
テレビをつけて天気予報を探す。
莉子が廊下へのドアを開け、置いてあったワゴンを引っ張り込む。
ソファの前のテーブルにカップを出して、慌しくコーヒーを注ぐ。
「ミルクと、お砂糖を二個」
確認してから俺の前に置き、ウォーマーから温かいホットサンドの皿を出す。
「それででございます」
「あ?」
適温まで下がったカフェオレを一口飲む。
莉子がひとさし指を顎に当てる。
「あの、先ほどのお約束でございますけれど」
また約束か。
「あ?」
「もちろん、ぎゅるぎゅるにしてお待ちしておりますけれど」
ああ、そうか。
「弁当か」
「はい、そうでございます」
胸の前で手を組んで、莉子が大きく頷いた。
「もちろん、旦那さまがお出かけなさらないで、ずっとわたくしといてくださるのが一番でございますけれど」
ホットサンドの中身はハムチーズだ。
母屋で作って運んできたくらいの冷め具合がちょうどいい。
熱々のチーズなんかが舌の上に流れ出たりしたら、俺はのた打ち回る。
「どうしてもお出かけになるとおっしゃるのなら、仕方がございませんし、それにお弁当をいただけるのでしたら、でもそれはやっぱり」
付け合せはフルーツマト。
「あの、先週のと同じ、三段の」
俺はよく動く莉子の口にトマトを突っ込んでやった。
「んぎょ、んま、あ、甘い……」
「あの三段弁当が食べたいんだったら、そう言え」
「いえ、メイドが主人にお土産をねだることなどいたしません」
ねだってるじゃないか。
腕時計を見て、俺は莉子の頭に手を置いた。
「わかったから、おとなしく待ってろ」
そう言ったところで、誰かがドアをノックした。
莉子がぴょこんと立ち上がった。
「どなたでしょう、主人とメイドの甘い時間を邪魔するなんて」
なんか、逐一間違ってるぞ、莉子。
「那智坊ちゃ……、社長」
莉子がドアを開けると、半ハゲ半白髪の執事が入ってきた。
朝っぱらから何の用だ。
俺が生まれる前からこの家にいる執事は、若い頃にイギリス留学をしたとかいうのが自慢で、本当はバトラーだのスチュワートだのと呼ばれたいらしい。
執事は俺の服装を上から下まで素早くチェックし、ナプキンで口元を拭くまで二呼吸分待った。
「本日の、陽子さまのところへのお出かけですが」
俺は内心でちっと舌打ちをした。
クイーンズイングリッシュだか銀食器だか知らないが、こいつにはデリカシーがない。
莉子がちらっと俺を見た。
「お取りやめ下さいませ」
「……なんでだよ」
この半年、俺は毎週土曜の予定を変えたことはない。
執事はわざとらしく手を差し出して窓の方に向けた。
「テレビ局が来ております」
なんだと?
「今、お出かけになると追いかけられます」
「……取材なら断れよ。だいたい、なんで今頃」
マスコミも一時は騒ぎ立てたが、今はすっかりどっかの芸能人の結婚や離婚に話題がころっと移っている。
「ドラマでございます」
俺はナプキンをテーブルに投げ出した。
「ちゃんと話せ」
「テレビをご覧になりませんでしたか」
いらっとして睨みつけると、執事はこほんと咳払いをした。
264 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/16(日) 19:04:41 ID:mTc97q/b
「先月放送されたドラマの中で、那智ぼっちゃ、社長が去年発表したCDに入っていた曲が使われました。それが話題になりまして、高階那智は今どうしているのか、と。ワイドショーのちょっとしたコーナーで、数十秒のVTRを流したいそうで」
「……いやだ」
どんな顔でカメラの前に立つっていうんだ。
その数十秒で、なぜピアノをやめたか、会社経営はうまくやれているか、付き合っていたと噂のアメリカ人モデルとはどうなっているか、全部聞き出すつもりに違いない。
「そうおっしゃると思いましたので、断ったのですが、どうやら屋敷の外観を撮りに来たようですね」
「連中が帰ったら教えろよ。時間を遅らせて出るから」
執事が大げさなくらい気難しい顔で首を横に振る。
「ですが、ああいった輩は一筋縄では参りません。帰ったと見せかけて、お出かけになる社長のお姿なりと撮るつもりかもしれません」
だが、出かけられるのは今日しかないんだ。
一週間に一度、土曜の午前11時から午後3時まで。
「追い返せよ。俺は出かける」
「……かしこまりました。確認できるまでは、お待ちくださいませ」
仕方ない。
執事が頭ひとつ下げて出て行く。
だから、マスコミは嫌いなんだ。
話題性のあるときは散々持ち上げておいて、状況が変わったら手の平を返す。
俺が不機嫌になったのがわかるのか、莉子が黙ったまま俺の足元に座り込んだ。
かちゃんかちゃんと音を立てて皿を重ねる。
うるさい。
最後に、割れたんじゃないかというくらいの音で皿をワゴンに置いて、じろっと俺を下から見上げてくる。
やめろ、怖いじゃないか。
俺は人に怒られるのに慣れてないんだって。
「……なんだよ」
莉子が黙っているのに耐えられず、自分から言ってしまった。
高階那智、惜敗。
「……いーえ、べっつに」
なんだ、その言い方。
外出が延期になったので、俺は落ち着かずにソファに腰を下ろしたまま足の先で莉子の腰辺りを突っついた。
「蹴らないでください」
蹴ってるわけじゃないだろ。
俺以上に不機嫌な顔をするんじゃねえよ。
食器を片付けて、莉子は俺のほうを向いて床に正座しなおした。
「旦那さま」
だから、怖い顔をするなって。
「お出になればよろしいではありませんか」
「あ?」
「テレビです」
なに言ってるんだ。
「テレビに出て、今は会社社長として一生懸命やってるって、立派な経営者になってるっておっしゃればいいんです」
「なに言ってるんだ、いきなり。なにもわかってないな」
「旦那さまぁ!」
莉子が膝に取りすがる。
やっぱりこいつはバカだ。
俺は社長業なんか全然一生懸命やってないし、立派に経営もしてない。
仕事は全部、重役や社員がやっているんだ。
それに、連中が取り上げたいのはそんなことじゃない。
お坊ちゃんピアニストが用意された社長の椅子にポンと座らされて、周りに振り回されてオタオタしたり、ヤケになって遊びまわってたりしてるのを見たいんだ。
その上でスキャンダラスなゴシップでもつかめたら大喜びだろう。
俺はテレビのリモコンを取り上げた。
莉子はぶすっとふくれっつらをしたまま、食器を片付けたワゴンを廊下に出す。
部屋の中にふたりっきりなのに、そのうち一人がぶーたれていては居心地が悪い。
莉子は不機嫌さをアピールするように、ドアの横に立って唇を尖らせていた。
最近は、俺の足元に座って猫みたいにくっついていることが多かったのに。
莉子が離れていたほうが、脚が自由でいい。
俺は座ったまま何度も脚を組み替えて、テレビを見ながら時計ばかりを気にしていた。
さっさと出かけたい。
どんどん時間が減っていく。
265 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/16(日) 19:05:33 ID:mTc97q/b
「……莉子」
メイドの癖に、主人に名前を呼ばれてぷいっとそっぽを向くっていうのはどうなんだ。
「りーこ!」
「……はい」
俺は片脚で床を蹴った。
「ここ、スカスカする」
まったく、なんで俺がメイドの機嫌を取らなきゃならないんだよ。
莉子はぴょこんぴょこんと俺の足元まで跳ねてきた。
ぺたんと床に座って、俺の脚に腕を絡めた。
「これでよろしいですか」
そんなにくっつかなくたっていいんだが。
しばらく莉子を足元に絡ませながら、頭に入らないテレビを見ていると、ハゲ白髪執事がやってきた。
裏玄関から脱出させてやる、ときた。
俺は家族中から反対された身分違いの恋人に会いに行く御曹司か。
……そのシチュエーションの方が面白いかもしれないが。

結局、執事の手配で俺はワゴンを引き下げる使用人のフリで母屋へ行き、マスコミが離れを張っている横から車で脱出した。
ちらっと見ると、俺にコンタクトを取るのをあきらめたカメラマンが、屋敷を背にしてしゃべるレポーターを撮っていた。
混雑していない道路はわかっている。
車はすんなり高速に乗った。
そういえば、執事が急かして慌しく出発したせいで、莉子には何も言わずに出てきた。
なんか、むくれた顔をしていたような気がする。
俺が出かけるのを寂しがっていたのに、かわいそうなことをしたな。
帰りに、どこかで先週の弁当より美味いものを探して買って行ってやろうか。
行き慣れてないところに行くのは好きじゃないし、いろいろな場所を知っているわけじゃない。
カバンにミニノートが入っているから、ネットで探せばなにかあるだろう。
……ん?
ハンドルを握ったまま、首をひねる。
なんで、俺はこんなに莉子のことを気にしてるんだ?
普通メイドなんか、主人の留守を寂しがるどころか羽を伸ばしているものじゃないか。
たかが使用人に土産を買っていくのもおかしいし、そのために自分の苦手なことをするのもおかしい。
ばからしい、先週は車を走らせた途端に、莉子のことなんか忘れたはずだ。
今は、目的のことだけを考えよう。
それなのに、俺は見慣れた風景の流れていく中で、ぼんやりと膝の上で嬉しそうに弁当を食った莉子や、痛いと泣きながら抱きついてきた莉子、ぴったりと体を寄せてうふうふっと笑う莉子を思い出していた。



「おかえりなさいませ」
離れに帰りつくやいなや、莉子が飛び出してきた。
「先週より、お帰りが一時間も遅いです」
俺が持っていた紙袋を受け取って、執事に聞こえないように不平を言う。
じろっと睨みつけるとわずかに肩をすくめて黙る。
部屋に入ると、莉子は珍しくいそいそと俺の着替えに手を貸した。
「そんなに慌てなくても飯は逃げねえよ」
緩めていたタイを引っ張って締め上げられ、俺はメイド服を来た子猫を振り払う。
「やっぱり、あれはお弁当でございますか」
莉子がテーブルに置いた紙袋を指差す。
「買って来いと言っただろうが」
「お店が違います」
確かに、先週の弁当が入っていた紙袋は、サービスエリアのテナントのものだった。
「別の店だからな」
莉子はこの店を知らないらしい。
少し遠かったが、ネットで調べて若い女の子に人気のイタリアンのレストランを見つけた。
初めての店なのに、電話してテイクアウトを注文した。
ミニノートの画面でメニューを見ながらの注文をしただけなのに声が震えた。
いい年して、どんだけ人見知りなんだと自分が情けなくなる。
回り道はカーナビが案内してくれたし、店の中と外の赤いベンチに並んだ女の子たちとは別の受付でテイクアウトの食事を受け取ることができた。
266 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/16(日) 19:07:16 ID:mTc97q/b
「旦那さま。今日は、先週とは違うところへお出かけだったのですか」
うらめしそうに見上げるな。
脱いだ上着の匂いを嗅ぐな。
「うまそうな弁当を探しに行ってやったんじゃねえか」
軽くデコピンしてやると、莉子は顎にひとさし指を当てて首を傾けた。
「わたくしが、おねだりをしたからですか?」
「……いいから出せよ。腹減ったんだ」
急に機嫌を直した莉子が、いそいそと紙の箱を並べた。
「旦那さま、旦那さま」
なんだよ。
「たくさんございます!」
一番高いのを買ってきたからな。
正直、値段くらいでしか俺には物の良し悪しの判断が付かない。
まだ暖かい箱のフタを開けて、目を輝かせる。
「旦那さま!」
うるさいって。
ソファに腰を下ろすと、莉子が床に膝を付いた。
添付されていたパックメニューの写真と食事を見比べて、莉子が弾んだ声を上げる。
「なにから召し上がりますか、旦那さま。オードブルは、小エビと旬の野菜のゼリー寄せ、イワシのシチリア風香草パン粉焼き……」
うふっ、と笑って俺を見る。
「オードブルだけで6種類もあります。わたくし、これだけでお腹いっぱいになってしまいそうです」
「ふうん。じゃあ、腹いっぱいオードブルを食えよ。生ハムとルッコラのピザも、インゲンとジャガイモのパスタも、チキンのソテーホワイトソース添えも、えーと、デザートのフロマージュケーキとフルーツブリュレも、俺がひとりで、いてっ」
「んご、いけませんっ」
主人の脚に噛み付くんじゃねえよっ。
俺は莉子の頭に手を置いてぽんぽんと叩いた。
「少しずつ、全種類食べればいいだろうが。……食わせてやるから」
今、俺の口はなんて言ったんだ?
んふ、うふ、うふっと莉子が変な笑い方をする。
「でしたら、先にわたくしが旦那さまにあーんってしてあげますね」
まったく、こいつはバカだ。
「あ、この仕切りの器がかわいいです。ほら、旦那さま、お花の形になってる中に、お魚が」
折詰の形なんかどうでもいいじゃないか、バカだな。
俺は付属のフォークで水牛のチーズ・カプリ風とやらを突き刺した。
莉子がごくりと喉を鳴らす。
「どんだけ食い意地の張ったメイドなんだよ」
チーズを自分の口に入れる。
うまい。
莉子は皿に6種類のオードブルを見栄えよく盛り付けた。
「はい、旦那さま。あーん」
バカ。
開けた口に野菜のトマト炒めが入ってきた。
ズッキーニの火の通り具合がいい。
俺はビニール袋を破ってスプーンを取り、野菜炒めをすくって、床に座り込んだ莉子の顔の前に持っていった。
「うまいぞ」
莉子が口を閉じたまま俺を見上げている。
なんだよ、食べさせてやるっていうのに。
「あーんって言ってください」
スプーンを持ったまま肩が落ちる。
「あのな、わがままにもほどがあるだろ」
「だって」
主人の膝を、指先でぐりぐりするな。
「いちゃいちゃ、したいんです」
間違っている。
それは、間違っているぞ、莉子。
「……あーん」
俺の口は、最近俺の意思に反した言葉を発する。
ぱくっと開いた莉子の口に、スプーンを入れた。
「んーっ、おいしいですっ」
そうだろうそうだろう。味が染みこんでいるのにシャキシャキだぞ。
267 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/16(日) 19:08:47 ID:mTc97q/b
……なんで俺が先に毒見してからメイドに食わせてるんだろう。
それでも、顔中でおいしいと表現する莉子を見れば、悪い気はしない。
苦手な電話をかけて予約してまで、買いに行って良かったと思う。
俺は自分の口と莉子の口に交互に食事を運んだ。
俺はイタリア風生春巻きが気に入ったが、莉子はハムのピザをもう一切れ下さいとねだった。
確かにうまいことはうまいが、隣でそんなにはしゃがれると変な気分になる。
気の置けない人間と一緒に飯を食うのは、嬉しいものなんだな。
「あっ」
次々と口に入れられる料理をご機嫌で食べていた莉子が、俺の膝に両腕を投げ出して取りすがった。
「旦那さま、今、にこってなさってます」
「……あ?」
慌てて、頬の筋肉に力を入れる。
「あん、戻さないで下さい。わたくしもっと見ていたいです」
笑ってなんか、いねえ。
飯を食うたびにニヤニヤする奴なんか、いないだろ。
……目の前にいるけど。
俺の腰に手を回して上半身を太ももに預けた莉子が、じっと見上げてくる。
「にこって、なさってください……」
なに言ってるんだ。
俺は膝を揺すって莉子を仰向けにした。
背中が海老反りになって苦しそうなので、脚を抱え上げてソファに乗せてやる。
俺の膝枕で寝転ぶ形になった莉子の顔の上に、オリーブのフリッターを刺したフォークをかざす。
「莉子」
「んぐ、ひゃい」
もぐもぐしながら返事をする。
「前に、俺と添い寝する約束があるって言ってなかったか」
「はい」
「あと、なにか俺が忘れているって」
「はい」
「それ、なんだ」
莉子が黙ってオリーブを噛む。
「いつ、俺と会った」
莉子の口が開き、俺はその中にチキンの塊を落としてやった。
「ん、ん、んぐ」
大きな塊に目を白黒させる。
それを噛み砕いて飲み込むまでが、シンキングタイムだ。
莉子がわざとゆっくりチキンを飲み込んだ気がした。
「…わたくし、うんと小さい頃、ピアノを習いたかったのです」
「あん?」
ピアノなんか、お稽古事でやるにはポピュラーなもんだ。
中古のアップライトでも買って、年に一度か二度の発表会。
中流家庭にだってさほどの負担じゃないし、たいていの子どもはその程度で満足する。
趣味で簡単なポピュラーソングの伴奏ができるくらいになら、誰でもなれる。
「習わなかったのか」
「ピアノ教室に、連れて行ってもらいました」
莉子の手が伸びて、俺の顔に触れる。
「その教室で、前に習っていたっていうお兄さんが遊びに来ていていて、教室の子達がきゃあきゃあ騒いでました」
「……」
「先生が、なにか弾いてもらおうかっておっしゃって」
莉子がうふっと笑った。
「わたくし、お兄さんに近づいてお礼を言いました。自分もこんなふうに弾けるようになれますかって、聞きました」
「……うん」
「お兄さんが、にこってなさって、そうなったら一緒にやろうっておっしゃいました」
俺の膝の上で、莉子が嬉しそうに笑う。
「それ……、どこの」
「でも、すぐにうちの事情が変わってしまって、結局わたくしはピアノを習うことが出来なくて」
「莉子。見学に行ったピアノ教室は、なんて先生のとこだったんだ」
もうわかっていたけど、確認の意味で聞いてみる。
俺が最初にドレミを習った、俺のイトコだかハトコだかが開いたばかりの、小さなピアノ教室。
268 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/16(日) 19:09:53 ID:mTc97q/b
当時そこでバイトしていた音大生が、習い始めた俺を抱きかかえるようにして屋敷に飛び込んできたっけ。
那智くんは、天才です、って。
「ずっと、那智さまの載っている雑誌や新聞を切り抜いて、スクラップしてました。ピアノは弾けないから、一緒に演奏するなんてムリですけど、でも」
莉子の髪をなでてみた。
俺とよく似た、柔らかい猫っ毛で、くせっ毛。
俺は、海外で演奏会が増えてきた中学生くらいまで、ちょくちょくあのピアノ教室に遊びに行っていた。
気が向けば、生徒たちにせがまれるままに何か弾くこともあった。
いつ、莉子がそこに来ていたのか、俺は全く覚えていなかった。
「一緒に、って約束してくださったって、思うことにしました」
背中を丸めて、莉子のつるんとした額に唇を押し付けた。
「それで、俺が出かけるとぶんむくれてんのか。一緒にいないから」
莉子だって、俺の言ったことが子供だましのお愛想だってことぐらいわかってる。
それを自分の都合のいい様に解釈してるってことも。
「祖母のところでは、那智さまの載っている全部の雑誌は買えなくて、図書館でコピーしたり、友だちにテレビを録画してもらったり……CDは買わずに借りてしまいました」
莉子が、なにかの理由で祖父母に引き取られて、その悲しい環境を俺の言葉を張り合いにして生きていけたのだとしたら。
俺が忘れてしまっていると、知っていても。
「でも、那智さまはピアノを弾くのをやめてしまって」
莉子はひとさし指で顎に凹みを作った。
「学校を卒業するときに、高階さまのお屋敷で求人があると聞いて、わたくし」
「……うん」
「那智さまが、わたくしを見つけて、約束を守ってくださるんだと思いました」
「……」
莉子が最初にうちに来た日、俺に言った。
お忘れですか。
それが、誰かの忘れ物のことだと俺は思ったんだ。
「……そんなの違うって、わかっておりましたけど、でも」
脚に重みがかかり、莉子が起き上がって俺の隣に正座した。
真剣な顔で、俺を見つめている。
「今は、少しはわたくしのことを気にかけてくださっているって、思ってもいいのでしょうか」
ああ、もう、しょうがねえな。
「気にかけてなかったら、こんなもん買ってきたりしないだろ」
乱暴に肩を抱いて引き寄せる。
俺には記憶の隅にも引っかからなかった出来事を、何年も何年もこいつは大事にしてきたんだな。
ぱんつの見えそうなミニスカートで嬉しそうにピアノに向かう幼い莉子を覚えていないのが、残念だ。
「でも、那智さまは、わたくしのこと忘れてしまっておいででした」
しょうがないじゃねえか。
「莉子の初めてを貰うからと約束してくださいましたのに」
思わず、俺は激しくむせこんだ。
俺が、そんなガキに変な約束するわけない。と、思う。
うふうふ、と莉子が笑った。
「嘘でございます」
タチの悪い嘘をつくな。
俺は莉子の頭をこつんと拳で叩いた。
莉子が、むひゅむひゅ、と変な笑い方をした。
本当に嬉しくて嬉しくて仕方ないとき、こいつは変な笑い方をする。
みっともないから、俺の前だけにしとけ。
「でもぉ、那智さまはわたくしに、難しい名字とかわいい名前だねっておっしゃいました」
笑った後で、莉子が顎にひとさし指を当てて言った。
それで、あんなに名前を言ったのか。
お前とか君とかではなく、名前で呼べば、俺が莉子を思い出すかと思って。
「……もう忘れねえよ」
うぐいしゅはら、なんていう言いにくい名前。
「ほんとうに?」
メイドのくせに、甘ったれた声でなに言ってんだよ。
ぐふ、という変な音は、莉子が笑ったらしかった。
なにがそんなに楽しいんだ。
「……莉子、最初の頃やたらツンケンしてたような気がするんだが」
今度はにゅふふ、と笑う。
バリエーション多いな。
269 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/16(日) 19:11:10 ID:mTc97q/b
「だって、旦那さまがお忘れでしたから。わたくしすっかりいじけておりました」
こいつ、ほんとにバカだ。
バカだろうと言う代わりに、莉子の唇にキスをした。
俺のヘタクソなキスに、さらにぎこちないキスが返ってきた。
うふ、うふうふ、と莉子が笑い、起き上がると残った料理に紙のフタをかぶせた。
「あの、旦那さま」
「ん」
「あの時弾いてくださったのは、なんという曲でしょう」
覚えていない。
その頃、俺が子ども相手に得意になって弾いてやったような、短い曲は、なんだろう。
「さあ……」
莉子がちょっとしょげた。
「探してみれば、いいんじゃないか。……一緒に」
半年もゲームのコントローラーしか触っていない指で、なにができるかわからないけれど。
ちょっと調律の狂ったようなピアノがちょうどいいんじゃないか。
もう、ピアノを弾いて聴かせる人なんかいなくなったと思っていたのにな。
暖かな重みと、甘い匂い。
俺に抱きついた莉子がまた、ふぇ、ふぇ、と変な笑い方をした。
「ちょっと、聞かないで下さい」
なんだよ。
莉子が床に膝を付いたまま、両手を伸ばして俺の耳をふさいだ。
ふさいだのに、耳もとに口を寄せる。
そして、言った。
ふさがれているのに、かすかに莉子の声が聞こえた。

――――那智さま、大好き……。



昔、欲しくて欲しくてたまらなかった楽譜を手に入れたときのように、そうっと莉子を抱き寄せた。
それから、莉子の耳を両手でふさいだ。
ふさいでおいて、そのすぐそばで俺は呟く。
莉子、俺は、莉子が思っているほどのピアニストじゃなかったんだよ。
いいうちのお坊ちゃんで、そこそこ見た目が良くて、話題性があっただけでさ。
その証拠に、誰も俺にコンクールに出るようにとは言わなかった。
勝てないのがわかってたからな。
コンサートを見に来る客だって、俺の演奏を聞きに来るんじゃない、俺を見に来てたんだ。
小さい子が、小さいタキシードを着て、器用に指を回すのが面白かったんだ。
大人になったら価値がなかった。
だから引き際を探してたんだよ、俺も、周りも。
事故は、ちょうど良かったんだ。
ものすごく悲しくて辛かったけど、社長になれって言われたとき、俺はほっとしたんだ。
これで、ピアノがやめられる。
――――がっかりしただろ、こんな奴で。
手を離すと、莉子も俺の耳をふさいでいた手を首に回してきた。
自分の血が流れる音と、頭に直接響く自分の声だけが聞こえていたのに、急にいろんな音が耳に飛び込んでくる。
莉子のメイド服がたてる衣擦れの音や、息遣い、窓の外の風。
莉子が睫毛をぱたぱたさせた。
そんな顔するなよ。
俺は急にどきどきしてきた。
これは、いいんだよな。
そういうことだよな。
ちくしょう、もっとスマートにかっこよく誘うにはどうしたらいいんだ。
うふ。
莉子がわざとらしくもじもじして、俺を見上げてきた。
急におかしくなった。
俺だって莉子だって、まだまだ不慣れで不器用で、ヘタクソだ。
お互いにそれがわかってるんだから、何を気にしてカッコつける必要があるんだ。
俺は、高階那智を知っているどんな人が見ても驚くくらい野暮ったく言った。
「あー、莉子。するだろ?」
270 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/16(日) 19:12:28 ID:mTc97q/b
ぎこちなくて、ヘタクソで、不慣れで不器用なセックスをした。
ベッドの上で向かい合ってキスをするとき、膝と膝がぶつかってしまう。
脚を交互にすると、膝頭が莉子の足の間の奥に触れてしまってこそばゆい。
舌を入れようとすると歯にぶつかってしまうし、唇を挟んで吸うのは正しいんだろうか。
ベッドに倒したとき、最初は仰向けでいいんだろうか。
うつぶせにして背中を撫でたり舐めたりしているとき、莉子は俺に乗られて苦しくないんだろうか。
莉子のヘソの凹みの下からあそこまでの下腹のとこにキスするのが好きだと言ったら、変態っぽいだろうか。
背中から抱いて、手の中におっぱいを二つ包んで揉みながら自分の胸を背中に擦りつけたら気持ちいいのは、普通だろうか。
ふいに莉子が俺にしがみついてきて、乳首を舐めてきた。
思わず、ひゅっと喉が鳴るくらい、電気が走った。
「うわ、こら、莉子、やめ」
「ふぁ、ひもちよくなひですか」
「……いや」
舐める方も楽しいが、舐められるのはまた、すごいもんだな。
莉子が乗りかかってきたので、下から胸を揉んだりあそこに手を入れたりして弄った。
胸だけじゃなく、あちこちを舐めたり噛んだりしながら、莉子は俺の腰のほうへ下がっていく。
「……あ」
ソレに手が触れて、莉子が呟いた。
あんまりまじまじと見られると俺も恥ずかしくなる。
莉子のあそこはじっくり見たけれど。
「旦那……さま」
莉子が小声で言った。
「触っても、よろしいですか」
「あ……う、うん」
間抜けた返事だ。
うわあっ、と叫びたくなるくらいだった。
自分で擦ったり、きつくてこっちも痛いくらい狭い莉子のアノ穴にねじ込んだりするのとはまた違う、手の平で包まれる感覚。
「ちょ、待て、もちょっと、そっと。うん、そう……、う」
ああ、俺は今、莉子に手コキの指導をしている。
背中に枕を入れて上体を起こした格好で、一生懸命しごく莉子を見た。
俺の反応を気にしながら、あちこちをそっと揉んだり擦ったりする。
恐る恐る、先っぽを指先でつっつく。
ああ、ぞくぞくする。
このままガマンせずに出してしまったらどんなに気持ちいいだろう。
「ん、あの、旦那さま」
「……ん?」
「旦那さまの、これ……、を、こんなふうに、するのは……わたくしだけ、でございますか」
そりゃそうだ。
俺は、莉子としかしたことがないんだから。
「ああ……、そうだな」
莉子が恥ずかしそうににこっとした。
「……嬉しい…」
莉子の頭に手を乗せて、軽く誘導する。
ゆっくりと両手で包み込んで動かしている。
俺はどきどきして、呼吸が大きくなった。
はぁ、はぁ、という息遣いは、莉子にも聞こえているだろう。
できれば、口でしてくれないだろうか。
これだけでも十分気持ちいいけど、できれば……。
緩やかな刺激がずっと続けられ、俺はガマンできなくなってきた。
271 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/16(日) 19:13:47 ID:mTc97q/b
きゅっと強く握られて、俺はのけぞった。
「うわ、ちょ、も、……出るっ」
快感と、開放感。
全部出るまで、しごき続けてくれた莉子の手や胸が汚れた。
悪いな、と思ったけど、ぐったりベッドに倒れてしまった。
「旦那さま……?」
心配そうに、莉子が覗き込む。
すげえ、気持ちいい。
すげえ、かわいい。
莉子が、かわいい。
白い腕に飛んだ精液を指先ですくってじっと見ている。
「おもしろい?」
聞いてみると、ぽっと頬を染めた。
「不思議でございます……」
ベッドサイドからティッシュを取って、拭いてやる。
ティッシュ越しに、莉子の腕や胸の柔らかい弾力が伝わってきた。
仰向けになったまま、手でおっぱいを包み込み、下から揉む。
ちくしょう、おっぱいまでかわいいじゃねえか。
「莉子。莉子のこのむにゅむにゅしたのをこんなふうにするの、俺だけか」
はふん、と息が漏れる。
「……あん、ど、どうでございましょうか」
なんだと。
手が止まった。
だって、俺が莉子とは間違いなく初めて同士だったじゃないか。
それから二週間足らずで、俺のいない間になにがあったっていうんだ。
俺は、莉子としかしてないのに。
なんでだ、いつだ、誰とだ。
ぱふん、と莉子が俺の上に伏せた。
「嘘でございます」
「……ばか、おどかすなっ」
背中を軽く叩くと、莉子がうひゅ、と笑った。
「今、やきもちをお焼きになりましたでしょう。こんがりと」
焼かねえよ。
「わたくしの気持ちが、わかっていただけましたか」
……ちょっとはな。
それから莉子はちょっと真顔になる。
「ほんとに、嘘でございます。わたくしは、旦那さまだけ」
「……わかったよ」
覆いかぶさっている莉子を、腕に力を入れて抱いた。
「よかったです……。旦那さまが真っ黒焦げになってしまわれなくて」
ちくしょう、メイドのくせに主人をからかいやがって。
この、バカで嘘つきが。
莉子の尻の肉をぎゅっとつかんでやった。
「んひゃっ、な、なん」
むぎゅむぎゅ。
「莉子。俺に幾つ嘘ついてるんだよ」
「いえ、わたくしは、なにも、ひぁっ」
むぎゅ。
「まだあるだろ。添い寝する約束したっていうのも、嘘だろ」
「それは、信じるほうがおかし、いたたたた」
「俺がバカだっていうのかよ」
ついに莉子が俺の上から転がり落ちた。
「もう、わたくしのお尻がお猿さんみたいにまっ赤っかになってしまったらどうしますっ」
人の肩や胸をゲンコで殴るな。
「いいじゃないか、俺は莉子のケツがまっ赤っかだって気にしねえよ」
俺をボカボカ殴っていた莉子が、急に喉でも詰まらせたかのように動きを止めた。
なんだよ、他に莉子のまっ赤っかな尻を気にするヤツでもいるのか。
「そういうことではございません」
丸い目を細めて、真顔で怖い声を出すな。
俺はビビリなんだ、人に怒られるのは怖いんだ。
272 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/16(日) 19:14:52 ID:mTc97q/b
「うわっ、いてっ」
莉子が手を入れて俺の尻をつねり上げた。
「いて、いてて、なにすんだよっ、アザになるじゃないか」
「まあ、旦那さまのお尻が赤くなりましたら、どなたが気になさるのですか。わたくしは、平気でございますけど」
「い、いや、誰も気にしない、けど、痛いじゃねえか」
慌てて言うと、莉子はひとさし指をあごに当ててにっこりした。
「はい。そういうことでございます」
バカか、ホントに。
俺はもう一度莉子の尻に手を回して、今度はさするように撫でた。
「力が強すぎたんなら、そう言え。俺はほら、よくわかってないから」
莉子が俺の鎖骨の辺りを吸い上げてわざと跡を付けている。
「……よくしてやりたいんだから」
前のほうから手を入れると、莉子の腰がぴくっと上がった。
なんだよ、もうぐしょぐしょにしてるじゃないか。
そう言うと莉子は、にょあん、と変な声を出した。
「嘘つきメイドにお仕置きだ」
莉子の上になって、手首をシーツに押さえつける。
うきゅっ、と莉子が笑った。
「それ、旦那さまのご本に書いてありました」
人の蔵書のエロ本を勝手に読むな。
「ちょっと変態っぽいですけど」
莉子の脚が俺の腰を挟み込む。
「わたくし、嫌いではございません」
お仕置きのムチならぬ、こん棒の準備はできている。
俺は莉子の脚をほどいて、ヘッドボードの小さい引き出しからゴムを出す。
覗き込んでくる莉子を押し返して横を向いて袋を開ける。
付けるのには、まだもたもたしてしまう。
その間も莉子は俺の腰や背中を撫でてくる。
装着して、えいっと莉子を突き飛ばすと笑いながらベッドに転がった。
この辺だったな、というあたりに押し付けると、莉子はまだ笑ってやがる。
こいつめ。
俺も笑ってやりたかったが、笑えなくなった。
莉子の中が、気持ち良すぎたからだ。
痛いほどキツキツで、それでいて全体を包み込んで柔らかくて、きゅっと収縮する。
なんか、毎回よくなってきてないか。
さっき一度出してなければ、ヤバかった。
「んあっ」
ぐっと押し込むと、莉子が笑いを引っ込めて小さな声を上げた。
「あ、悪い。痛いか」
莉子の額にこぼれかかる髪を指先で払って顔を見る。
「いえ、だいじょうぶです」
「なんか、痛かったりとかしたらちゃんと言えよ。俺、すぐ自分だけになるから」
なんせ、まだ初心者だし。
莉子が俺の首に腕を回した。
「でも……、わたくしのこと、…よく、してくださいますのでしょう」
ああ、ちくしょう。
ちくしょう、ちくしょう。
世界のタカシナの社長が、天才ピアニスト高階那智が。
なんでこんなメイドふぜいに。
こんな、めちゃくちゃかわいいヤツなんかに。
うぐいしゅはら、りこなんかに。
いつの間に、夢中になってるんだろう。
「莉子、おまえ」
おまえと呼ばれるのが嫌いな莉子が、訂正した。
「うぐいしゅ…」
自分で名前を噛んでやがる。
俺は嘘つきで食いしん坊で甘えん坊のメイドを力いっぱい抱きしめた。
そのまま腰を揺らす。
「ああん…、旦那さまぁ」
273 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/16(日) 19:16:21 ID:mTc97q/b
「……うん、そうじゃなくて。ほら、あれがあるだろ」
「ん、あん……、なんですか」
「おま、莉子がたまに、言うヤツ。こういうときは、あれにしろよ、う」
莉子の腕がパタッとベッドに落ち、俺は細い腰を抱え込んだ。
「うん……あ……、あっ…」
甘えるような声で、莉子が喉を反らせた。
片脚を折って、莉子を横向きにしてまた動いた。
ほんとうはバックもやってみたいのだが、莉子が恥ずかしがるからまだやったことがない。
早くしたり遅くしたりしながら、莉子の中に自分を擦り付ける。
ああ、気持ちいい。
莉子に、呼んでほしい。
俺は莉子にキスした。
唇を挟んで吸って、舌を押し込んで絡ませて、莉子の顔中に唇を押し付けた。
どんなにしてもしたりないくらい、キスしたかった。
腰を揺らすと、莉子がきゅっと目を閉じる。
「莉子……」
あんまり乱暴にして、痛かったらかわいそうだ。
今まで人のことなんか気にしたことないし、自分のことだけ考えてきたけど。
なんだって、自分が一番だったけど。
俺は、莉子と一緒に気持ちいいセックスがしたい。
「あん……旦那さま…、むずむずします…」
違うだろ。
そうじゃないだろ。
うわあ、すげえ気持ちいい……。
莉子が俺の腕に手をかけて力をこめた。
「ん、あ……」
あ、もうこらえきれないかも。
「……なち、さまぁ……」
莉子が吐息まじりに喘いで、俺はその声でイった。
すげえ、いい声だった。
274 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/16(日) 19:17:05 ID:mTc97q/b
二人で一緒に、バスタブに張ったお湯に浸かった。
今度は泡風呂にいたしましょうねと言って、莉子はうひゅっと笑う。
ま、いいんじゃねえの。
旦那さまは柔らかいタオルでお体を洗いますけれど、わたくしはもっと固いスポンジでゴシゴシするのが好きです。
俺はお坊ちゃんだから柔肌なんだ。
一度、ヘチマでお背中をお流しします、気持ちいいですよ。
やだ、背中の皮がむける。
まあ、旦那さまのお背中は完熟の桃ですか。
ああそうだ、俺は桃だ、だから触れるな、こら、よせ、くすぐったい、莉子っ。
うふ、うふうふうふふ、むひゅひゅっ。
だからそういう笑い方は気味が悪いからよせ。
ねえねえ、旦那さま。
……旦那さま、かよ。まあいいけど。なんだよ。
わたくしに、その、あの、あれ、少し、すこぉし、教えてくださるというのは、いかがでしょう。
あ?なんだよ。
子どもの頃に、ほら、わたくし、いけませんでしたでしょう、ですから。
……ピアノか。
はい。
うん……まあ、でも俺もずっと触ってないからな。
いけませんか。
いけなくはないが……、うん、まあ考えておく。
ほんとですね。ちゃんと、しっかり、考えてくださいね。約束ですよ。
……うん。
うふ、うひゅ、むにゅふふふ。

いつも通り過ぎるだけの寝室とリビングの間のピアノ部屋、スタインウェイのリビングルームタイプのグランドピアノ。
親父の事故があってから、一度も手を触れてない。
運指もできないような超初心者が練習するようなピアノじゃねえよ。
そう言いながら、俺は莉子を柔らかいタオルで洗ってやった。
本格的な譜読みやソルフェージュなんかより、流行のポピュラーなんかを練習した方が、楽しめていいんじゃないかなと考えてる自分に気づいた。
莉子は、俺に知らない店で弁当を買わせるだけじゃなくて、ピアノの蓋まで開けさせようとしてる。
「ふにっ?!」
頭からざっぷりと桶のお湯をかけられて、莉子が変な声を出した。
「な、なんですか、旦那さまぁ」
ぷるぷると頭を振った莉子が目を丸くして俺を見上げた。
俺はなんだかおもしろくなって、うひゅっと笑った。

ヤバイ、感染してる。

――――了――――
275名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 19:47:39 ID:5youhEDh
くそお。旦那様がかわいいじゃねえか!
276名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 20:09:48 ID:aklO0XnD
この微笑ましさがたまらんわ
傍らにテーブルがあったらダムダムしてそう
277名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 22:40:11 ID:xN78UKVJ
GJ!変な笑い声いいなw
278名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 00:49:23 ID:koq3GYkQ
すげえ面白え!GJ!
279名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 09:21:10 ID:rL42x/yg
これが萌えるって感覚か(*´Д`)
280名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 12:56:01 ID:BdKkn6dV
旦那様の誘い方、カッコ悪すぎてワロタwwwww

初めての店とか電話で注文とか緊張するよね
あるあるwwwだな
281名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 10:48:21 ID:B8qqJNQe
>261>220
282美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/24(月) 23:33:42 ID:XttnTv0t
保守がわりの番外編を投下します。
位置的には、9話から10話に移行する2年間のいつかの話です。9.5話とでも。




商店街の福引で、旦那様が特等の温泉旅行を見事引き当てられた。
「いい機会です。これを、美果さんへの福利厚生にあてましょう」
目録をひしと抱きしめながら仰る旦那様は、とても明るい表情をされていた。


有名な観音様の門前に栄える商店街が主催する、年に一度の大福引大会。
加盟店三千円分のレシート一口で、あのガラガラを一度回すことができ、出てきた玉の色によって賞品が決まる。
期間を通してただ一本しかない特等を、まさかうちの旦那様が引き当てられるなんて。
最初は冗談だと思ったのだけれど、目の前に燦(さん)然と輝く当選目録には、確かに商店街の名と特賞の表書きがある。
ただのビギナーズラックなのか、それともこの方の持って産まれた強運なのか。
うーんと首を傾げる私の前で、旦那様はにこにこして、褒めて欲しそうにこちらをちらちら窺っておられる。
相当嬉しかったようで、本日遅れて帰宅した私は、アパートのドアを開けた瞬間、幸せ光線にカウンターを食らわされた。
しかし、何かあったんですかと問うても「言いましょうか、どうしたものでしょう」などと焦らされて。
寝る前になって、しびれを切らした私が語調を強くして問い詰め、あの方はやっと白状されたのだ。
すごいお金持ちの名家にお育ちのくせに、最近はめっぽう小市民的なことで喜ばれるようになった旦那様。
どうせ大したことではないのだろう、と思っていたのだが、今回のことは私の想像を超えていた。
翌日以降もまだ信じられない私を尻目に、旦那様は相変わらずウキウキと日々を過ごされている。
研究をそっちのけにして、大学のパソコンで温泉地の観光スポットを調べたりしていらっしゃるようだ。
浮かれていらっしゃるお姿を見るうちに、私もだんだんと考えが回るようになってきた。
今回の福引で当ったのは旅館の宿泊券だけで、それ以外の費用は自腹になる。
正直言って家計には負担なのだが、あんなに楽しみにされているのに、「お金がかかるからダメです」とも言いにくい。
旅館代以外の費用の算段をすることで、やっと私は普段の調子を取り戻した。


数日後、旦那様と私の予定を見比べて旅行の日を決めた。
予約もすませ、二人であれこれ相談しながら、少しずつ旅支度をして。
何年ぶりかの旅行に浮かれるわが身を自覚しているうちに、当日がやってきた。
私が旅行するのは中学の修学旅行以来だし、旦那様も、ご両親が多忙だったせいで旅行の思い出はあまり無いのだそうだ。
一泊二日とはいえ、こうなったら目一杯楽しもうと意見が一致している。
早朝にアパートを出て電車に乗り、まずは温泉町の最寄り駅へ行く。
それから有名なお寺に行き、名産のソバを食べて、鰯の大群泳で有名な水族館へ行ってから、旅館へ向かう。
一日目のスケジュールはこのような物に決定ずみだ。
旦那様のリサーチのおかげで、下準備はバッチリ整っている。
なんでも、この温泉町には湯の町バスという有名なバスがあり、一日券を買えば何度でも乗り降り可能なのだそうだ。
お得なこの情報を逃せるわけもなく、今回の旅行はこのバスを主な足とさせてもらうことにした。
最寄り駅に到着し、バスの発着所で観光パンフレットをもらい、いそいそとバスに乗り込む。
車窓から見る町並みには、伝統ある温泉町らしい情緒があり、たくさんの旅行者が行き交っている。
楽しそうな彼らの横顔を見ているうち、バスは最初の目的地であるお寺に到着した。
「ここですね、美果さん」
旦那様が仰るのに頷き、二人して目の前の建物を見上げる。
「うちの近所の観音様とは、だいぶ違いますね」
「そうですね。こちらのお寺は、薬師如来がまつられているそうですよ?」
旦那様の講釈を聞きながらお寺の中に入る。
団体客の相手をしていたここのお坊さんらしき人のお話にこっそり耳を傾けながら、寺内を見て回った。
なるほど、ご本尊は観音様よりずっと恰幅がよく、座っているものの背丈も大きい。
仏様に性別があるのかは知らないけれど、何となく男性的な印象のある仏様だった。
本堂の窓口で線香を買ってお供えし、何筋もの煙がたなびく中で手を合わせて目を閉じる。
たまにはこうやって、きちんとお参りするのも悪くない。
とりあえず、福引が当ったお礼と今回の旅行の成功をお祈りしておいた。
「美果さん、そろそろ参りましょうか」
促されて、次の目的地に行くためにお寺を出る。
地元産の醤油とかつお節とわさびを使ったソバが、私達を待っているのだ。
283美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/24(月) 23:35:07 ID:XttnTv0t
かき揚げソバを堪能し、水族館では鰯の群泳に度肝を抜かれ、タッチプールで旦那様ときゃあきゃあ騒いで。
朝からの疲れが出始めた夕暮れ時、私達は本日の宿となる温泉旅館に到着した。
なかなか大きな和風旅館だけれど、ファミリー向けの安っぽさは無く、しっとりと落ち着いた風情がある。
中に入ってみても、外観同様に閑静な雰囲気は変らず、いい感じだ。
チェックインをすませて部屋に案内してもらい、夕食までの時間を過ごすことになった。
「旦那様、海です、海が見えます!」
仲居さんが部屋を出てすぐ、私は部屋の最奥に続く広縁に駆け寄り歓声を上げる。
窓には、海と、今まさに水平線に沈まんとする夕日が大写しになっていた。
オーシャンビューなんて横文字は、自分には全く関係の無い言葉だと思っていたけれど、こんなところで出会うなんて。
目を凝らすと、沖にいくつか舟が浮かんでいて、それが何とも旅情をかき立てる。
「綺麗ですね、旦那様」
海に見惚れたまま呟くと、隣で同じく窓の外をご覧になっていた旦那様が、はいと返事をされる。
「いいものですね。予想以上に良い眺めです」
福引の温泉旅行だからとあまり期待はしていなかったけれど、思った以上にいい旅館だ。
さすが、多少古びても伝統ある大きな商店街だけはある、とインスタントな地域愛が胸に湧いてくる。
夕日が沈み、窓の外を暗がりが覆うまでをじっくり堪能してから、部屋の中に向き直った。
「遅くなりました。お茶をお淹れします」
少々はしゃぎ過ぎたことを自覚しながら、座卓の上の急須と湯飲みでお茶の用意をする。
茶筒には、このお茶は県内産の良質な品である旨が、どことなく誇らしげに書かれている。
昼間のソバ屋でも感じたことだけど、この県は随分と名産品が多いらしい。


お茶でしばし過ごしてから、夕食の前に温泉を楽しむことにする。
一風呂浴びてさっぱりして、気分も新たに夕食に取りかからないと。
大浴場のある下の階へ行き、旦那様とは一旦別れる。
服を脱いで浴場の引き戸を開けた途端、私は歓声を上げた。
打たせ湯に岩の露天風呂に樽のお風呂、他にも趣向を凝らしたお風呂がいくつもいくつも、一度では入りきれないほどある。
どのお風呂に入ろうか迷い、とりあえず一番大きい露天風呂に入る。
少し茶色がかった温泉が源泉かけ流しになっていて、何だかとても贅沢な気分になってくる。
お湯は柔らかく肌になじみ、長く浸かっていても心地がいい。
お風呂の外には小さな日本庭園がしつらえてあり、灯された明かりも風流で情緒がある。
何より、体を小さくせねば入れないアパートのお風呂とは違い、ここは泳げるほどに大きい。
たぶん、一気に30人は入れるんじゃないかな。
それほど大きいのに、今の時間は空いていて、私の他には数人しか入っていない。
何だかとても愉快になり、意味も無く手でお湯の表面を撫でてさざ波を作って遊ぶ。
しばらくそうした後、次はどのお風呂に入ろうか考えながら立ち上がった。


歩き回り、とっかえひっかえして浸かっても、まだ全種類のお風呂を制覇できない。
そのうちのぼせ気味になってきたので、今回の入浴は一旦終えることにし、お風呂から上がる。
二枚の浴衣を前にし、どっちを着ようか少し迷った。
この旅館は、女性客に限り、好みによって浴衣と帯が選べるのだ。
お風呂の前に、チェックインの時にもらった引き換えチケットを見せて衣裳部屋に入れてもらい、浴衣と帯はもう選んである。
女性客を喜ばすためのサービスに過ぎないと分かっていても、着たい浴衣を決められるというのは、心が浮き立つものがある。
私が選んだのは、淡い藍色の地に白と桜色で季節の花が描かれた物。
もう一つは、落ち着いたクリーム色の地に細竹と糸菊の模様の浴衣。
年にしては控えめな柄のようにも思うけれど、あまり派手なのでは旦那様に失礼だ。
ピンクや明るい空色の浴衣を選んでいる女性もいたけれど、私が着ると浮いてしまいそうだから。
まずは藍色の浴衣を着て、苦心さんたんで帯を締めて部屋へ戻る。
既に戻っておられた旦那様に、長風呂したことを謝ってから、改めてお茶を淹れ直した。
急須を持つ私に、「その浴衣は美果さんに似合いますね」と旦那様が褒めて下さる。
私は言葉を返し損ね、はあとかいえとか、返事にもならない返事をした。
お風呂上りの旦那様が着ていらっしゃるのは、濃紺の地にグレーで麻の葉模様が描かれた浴衣。
女性は浴衣が選び放題なのに対し、男性はお仕着せなのだけれど、この浴衣は旦那様にとてもよく似合っている。
一見地味にも思えるけれど、この方の穏やかな人柄が引き立って見える、落ち着いたいい柄だった。
284美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/24(月) 23:36:25 ID:XttnTv0t
そういえば、この方の和服姿を見るのは初めてになる。
普段の服装とは違うシックな浴衣を身に纏われているのを見ると、胸が高鳴ってくるようだ。
やだ、久しぶりの旅行で浮かれているのがまだ治らないのかな。
「美果さん、夕食前ですよ?」
目をそらして座卓の上の茶菓子を手に取ると、あの方が私を制される。
「あ、はい。そうですよね……」
封を切るのをやめ、籠の中に菓子を戻す。
タイミングよく、夕食の用意が整ったことを知らせる電話が鳴り、私達は再び連れ立って部屋を出た。


足を向けた食事処は、各席がつい立てで余裕を持って仕切られていて、部屋食ではないものの落ち着いた雰囲気があった。
酔って騒ぐお客もおらず、時々聞こえる人の声も、お料理を褒める声や小さな話し声ばかり。
大広間で一列に並んだお膳に突進し、自分の席を探すという過去の経験とは全く違う設えだった。
席には前菜だけが用意されていて、後は食事の進行にあわせ、その都度お運びさんが持ってきてくれる。
名産品の多い地方らしく、お料理も地元の食材を多く使って作られているそうだ。
二人分とは思えないほど立派な舟盛りに始まり、海鮮の小鍋立て、和牛の陶板焼き、地元野菜の天ぷらにハモのお吸い物。
膳の脇にある献立表とお料理を見比べ、あれこれ話が弾む。
舟盛りに乗っかっているお刺身の魚名を当てっこして、固形燃料の炎が小さい私のお鍋を心配して。
牛肉の霜降り具合をうんぬんして、天つゆには大根おろしを入れるべきか入れざるべきか、意見を戦わせて。
一品出てくるごとに、お料理と一緒に話題までが運ばれてくるようだった。
アパートで私が作るのは、おしゃれでも華やかでもない普通のお惣菜。
食事中に一言二言意見を交わすことはあっても、今のようにこんなに盛り上がることは無い。
こんなに楽しい食事は何年ぶりだろう、もしかしたら初めてかもしれない。
お料理も、まるで私達の話を盛り上げる役目を担っている自覚があるかのように、外れが無くて。
締めの釜飯についているお漬物も4種類もあって、お腹に納まりきらないくらい盛りだくさんの内容だった。
それでも何とかデザートのアイスクリームまで終わり、畳に後ろ手をついてふうと息をつく。
「美果さんはやめておきなさい」と食前酒を旦那様に巻き上げられた他は、完璧な夕食だった。
まるで、自分がどこかのお嬢様になったみたい。
げっぷをこらえているこんなのが、お嬢様だなんておかしいけれど。
こんな経験がタダでできるなんて、明日死んでも文句は言えないかもしれない。
「美果さん、堪能しましたか?」
旦那様の問いに、はいと答えて目を見交わし微笑む。
「何もかも美味しかったです。旦那様はいかがでしたか?」
「僕も堪能しました。動くのも億劫なくらいです」
本当に、もう少しそっとしておいてもらわなければ部屋に戻れない。
「旦那様、どうしましょう。こんなに福利厚生して頂いて、私、これからワガママになるんじゃないでしょうか」
お腹を押さえて言うと、旦那様がおやおやと相好を崩される。
「どうしたものでしょうね。これが福引でなく、僕が連れてきてあげられたのなら、ちゃんとしなさいと強く言えるのですが」
元手はかかっていないようなものですからね、と笑みを含んだ声で続けられる。
「えっ?タダだから余計に美味しいんじゃないですか」
家計に見合った福利厚生なら、もっと貧弱な内容になるもの。
私が言うと、旦那様が小さく吹き出される。
「それもそうですね」
「でしょう?それに、連れてきてもらったような物じゃありませんか。運も実力のうちです」
本当に、たった一本の特等を引き当てられた旦那様の強運には、今も感嘆の気持ちしかない。
もし私が福引をしていれば、きっとティッシュの類しか引き当てられなかっただろう。
「そろそろ戻りましょうか。他のお客も、あらかた引き上げたようですから」
しばらくして旦那様に促され、二人して、なるべくお腹を圧迫しないように立ち上がった。


部屋に戻ると布団が敷かれていた。
座卓は部屋の隅に片寄せられていて、白く清潔なカバーのかかった布団が部屋の真ん中に二組。
上げ膳据え膳で床の用意までしてもらって、本当に楽ちんだと頬が緩む。
この福利厚生は、向こう10年分を先払いされたほどの価値はある。
このまま寝転がってごろごろしたいくらいだったけど、それはさすがに憚られるので、広縁のソファに座った。
置いてあった観光用パンフレットを見て、明日の予定をもう一度確認する。
今度いつこんな機会が巡ってくるか分からないんだから、せいぜい楽しまないと。
285美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/24(月) 23:38:09 ID:XttnTv0t
相談の結果、当初の計画を変更し、近くにある観光牧場に行くことを決める。
この旅館の宿泊客には、各種の体験プログラムがある、ハーブ園が併設された大きな牧場の入場料割引サービスがあるのだそうだ。
乳搾りやハーブ石けん作りなんて良さそうですね、などとまた話が盛り上がり、子豚レースも見てみたいと旦那様が仰って。
あれこれ話をして、お腹を落ち着けた後にもう一度お風呂に入りに行った。
さっき入れなかった花のお風呂やワイン風呂を堪能し、湯上りの火照る体をサービスの冷茶で落ち着かせ、部屋に戻った。
今度こそ、布団の上に2人して横になる。
久しぶりに見るテレビには、合間の天気予報で見慣れない地図が映って、旅行に来たなあという実感がある。
ふと旦那様の方を見ると、妙に首をコキコキ動かしておられる。
どうしたんだろう、肩が凝っているのかな。
いや、温泉でリラックスしたから、逆に体の疲れを自覚されているのかもしれない。
「旦那様、肩をお揉みしましょうか?」
私の言葉に、旦那様は首を動かすのをやめてこちらを向かれる。
「ああ、頼んでもいいですか?妙に固くこわばっているのです」
申し訳なさそうに仰るのに、私は首を振った。
「構いませんよ。私、今日はメイドらしいこと何もやってないですから」
昼間は旦那様以上にはしゃいで、豪華な食事を楽しんで、果ては布団に行儀悪く寝そべって。
家事から全く解放させてもらってるんだから、せめて、肩を揉むくらいはやりたい。
布団の上に座り込んでもらい、背中に回って両腕を旦那様の肩に乗せる。
まずは、どこを揉むべきか調べないと。
「旦那様、どの辺が凝ってますか?触りますから教えて下さい」
ただ揉むだけじゃ小学生のお手伝いだから、どうせならもっと効果的にしたい。
人差し指と中指を使って、旦那様の肩をまんべんなく押してみる。
反応を示された場所の位置を確認して、心にメモした。
自分の肩も押してみて、骨の上など、明らかに痛い場所は候補地から除外して、触れるべき場所をしぼりこんだ。
「では、いきますよ」
いきなり力を入れては痛いと思うから、最初は軽い力で揉み始める。
急がないで、落ち着いて。
ゆっくりと何度も手を動かして、肩全体をほぐす感じでマッサージする。
そっと窺うと、旦那様は目を閉じてじっとしていらっしゃる。
時たま、肩の荷を降ろすように大きく息を吐かれるのが、気持ちよさの証明のようだった。
うん、これはいい調子。
もっと頑張ろうと、手の平全体を使って、筋肉をつかみあげるようにして揉む。
人様の体に触れるのは、なかなか力加減に神経を使う。
指先に意識を集中させると、肩の皮膚の下に所々、こりっとした固まりがあるように感じられる。
きっと、これが「凝り」なんだ。
これを解さなければ、本当の気持ちよさは得られないんじゃないかな。
全体的に揉むだけじゃなくて、もっとピンポイントで、この固まりを何とかしなきゃ。
「旦那様、今からこわばってる場所を押しますから、痛かったら言って下さい」
断って一旦手を止め、固まりのある場所を上から押すような動きに変える。
肩の真ん中辺りに触れると、旦那様がうっと呻かれた。
「あ、すみません」
痛かったのかと謝ると、旦那様が首を振られる。
「そこ、とても気持ちいいです。もっとお願いできますか」
あ、気持ちよかったのか。
はいと頷いて、旦那様の背中に向き直る。
押すだけじゃこれも芸が無いので、示された場所に手を置き、指で挟みこんでぐにぐにと握る。
さっき全体的に揉んだ時より、固まりの所在が明確に感じられる。
「あっ」
不意に、頭の中にバイト先の茶店が思い浮かんだ。
小上がりの壁に貼ってある、全身のツボ一覧表。
頭の先から足の裏まで、びっくりするぐらいに沢山ツボが描いてあったっけ。
もっとちゃんと見て覚えておけばよかったと思いながら、懸命に表を思い出す。
確か、肩のもう少し下にも「肩凝りのツボ」があったはず。
探してみようと指で押すが、この体勢ではやりにくい。
「旦那様、寝転がって頂いていいですか?もっとやってみたいんです」
私が言うと、旦那様は素直に布団にうつぶせられる。
そのままだと苦しいだろうから、窒息しないように枕を抱いてもらった。
うるさいテレビのスイッチを切って、改めて旦那様に向き直る。
「じゃ、いきますから。『そこ』とか『違う』とか、指示して頂けると助かります」
286美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/24(月) 23:39:51 ID:XttnTv0t
全くの素人だから、私の指先の感覚より、触られてる本人の感覚の方が頼りになる。
旦那様が頷かれたのを見て、私は肩の下のツボを探した。
「あ……」
この辺かなと思う場所に触れると、旦那様の吐息が聞こえる。
そこに親指を合わせて力を入れると、ふうっ……とまた息を吐かれる音が聞こえた。
やっぱり、ここなんだ。
指を押し付けて上下に動かし、まんべんなく刺激が行き渡るようにして、さらに旦那様の反応を見る。
もう返事することも忘れて、されるがままになっていらっしゃる。
よっぽどここが凝っていたのかな。
大学ではパソコン、アパートでは書き物や読書をなさる生活を続けていらっしゃるからに違いない。
ならば腕も凝っているに違いない、ああ、眼精疲労は首にくるってツボ一覧表には書いてあったっけ。
これは、かなり大掛かりなマッサージになりそうだ。


性根を据えて旦那様の凝りと取り組み、疲れと固さを追い払うようにマッサージをする。
いくらかして、肩のこわばりが取れたように思った頃、背中にターゲットを移した。
一覧表を思い出して、肩のツボの斜め内側、つまり背骨の両脇を押すと、旦那様はまたうっと呻き声を上げられる。
それが苦しさから来るものではないことを確認してから、うつ伏せになられた旦那様をまたいでポジションを取る。
こうした方が、この方のお体を正面からとらえられる。
ご主人様をまたぐなんて失礼この上ないけれど、こういう時だから多めに見て下さるだろう。
小学生の時は父の背に乗って足踏みマッサージしたものだけど、旦那様を踏みつけにするなんてそれこそできないし。
背骨を挟んで、両手の親指で対称に同じ場所を押して、次第に腰の方へと下がっていく。
筋肉が固くなっているのが指先に感じられて、これは結構分かりやすい場所なのかもしれないと思った。
肩の凝りが小ぶりの石だとすれば、背中の凝りは、硬く薄い板のよう。
揉めない場所だから、親指であちこち押して、その圧力で凝りを追い出すしかない。
骨の上を避けて親指を置き、触れぬところが無いくらいにあちこち探って、これと思う場所を圧迫してみる。
そのうちに、押すコツのようなものが段々と分かってきた。
闇雲に力で押すより、親指を支えにして体重を乗せるほうがやりやすいし、力が安定する。
いいやり方を見つけ、ウエストから腰骨の辺りに到着したところで、旦那様が一際大きく息を吐かれる。
「旦那様、腰も凝ってるんですか?」
大きな反応に思わず尋ねると、はいという小さな声が返ってくる。
座りっぱなしで前傾姿勢が多い方だから、腰も疲れているのかな。
あとは何か……と考えたところで、自分の頬に血が昇るのが分かった。
腰といって思い出すものがあれだなんて、私はなんてはしたないんだろう。
頭の中の想像を追い払うように、指にかかる力を強める。
痛いかなと思ったけれど、こちらは肩よりも強い力で押しても大丈夫なようだった。
それにしても、旦那様も私なんかの素人マッサージによく身を任せていられると思う。
こんなに無防備に背を向けて、リラックスしていらっしゃるなんて。
けど、それはつまり、私を信用して下さっているからだと考えると、満更でもない。
胸の中がくすぐったくなって、面映い気分になった。


もっと頑張りたい気持ちになって、こうなったら手足もマッサージしようと決める。
しかし、記憶から引っ張り出したツボ一覧表の中で、手足に打たれていた印の場所を明確に思い出せない。
なんといっても素人マッサージ、後で害になるような触れ方だけは避けなければいけない。
どうしよう、困った……としばらく悩んで、肩や背中と違う方法を取ることに決めた。
曖昧なツボの記憶に頼るのをやめて、手の平をいっぱいに使い、揉みほぐすのがいいだろう。
まずは足からと、末端から体の中心に向かって、緊張した筋肉をほぐすように揉み始める。
脚も、帯を解いて浴衣を緩めてもらい、かかとの辺りから脚の付け根に向かって揉み進める。
私の手がふくらはぎに到達すると、旦那様が気持ちいいと声を上げて伝えて下さる。
そんな風に仰ったら、やりがいがある。
「旦那様、手の平もマッサージしましょうか?」
もう、どうにでもしてくれといった様子で横たわっておられる旦那様に確認すると、緩く首が縦に振られる。
連日パソコンを叩いたり、ペンを持ったりするこの場所が、疲れていないわけがない。
旦那様の指に自分の指を絡め、そのまま後方にそらし、旦那様の指が伸びをするように引っ張る。
「あ、それ……。とても……」
旦那様がうっとりとした声で呟かれ、また私の頬に血が集まった。
287美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/24(月) 23:41:01 ID:XttnTv0t
そういった声には、少しばかり聞き覚えがある。
今と同じような時間と状況で、私が、旦那様の……。
恥ずかしさを隠すように、手の平の輪郭を内側に向かって揉み解し、仕上げに押すと、旦那様はまた黙られた。


手足と胴が終って、残るは首から上のみ。
ちょっと怖い気もするけれど、こうなったらもうやるしかない。
目の疲れは首に溜まるというツボ一覧表の言葉を思い出し、旦那様の首にそっと触れる。
思い立って、置いてあった手拭いを持ってきて、それ越しにマッサージすることにした。
まずは背中の時と同様に、凝りの固まりがある場所を探す。
すると、うなじのラインから少し内側に入った場所に、固まりが細長く分布しているように思えた。
小石、硬く薄い板ときて、今度はごつごつした棒状の凝り。
一気に攻めて凝りを追い出したい気持ちをなだめ、手を何度かギュッと握って力を逃がし、深呼吸して旦那様の首筋に触れる。
肩や背中よりデリケートな首を、痛めるようなことがあってはならない。
凝りよ出ていけと頭の中で念じ、抑えた力で注意深く触れる。
上から圧迫するのではなく、指を押し付けて左右に揺する動きに変え、マッサージを続けた。
自分の首にも触れてみて、こうやったら気持ちいいというやり方を探して同じようにする。
私は旦那様ほど目は疲れていないから、ほとんど当てずっぽうに近いのだけれど。
肩と首に触れていた時間を足したほど長く、首を隅々までマッサージする。
さて、最後は頭皮。
ここに関しては、シャンプーの時に自分でもやるから自信がある。
指を開き気味にして、指先を利かせて握ると、頭がフッと軽くなって気持ちいいのだ。
まんべんなく頭皮を刺激し、仕上げにもう一度肩と背中のツボを押して、私はマッサージを終えることにした。
「旦那様、こんなもんでいいでしょうか」
尋ねるが反応がない。
「旦那様?」
まさか……と覗き込むと、旦那様はすうすうと心地良さそうな寝息を立てて眠っていらっしゃった。
よかった、何でもなかったんだ。
胸をなで下ろしたけれど、こういう時に眠られてしまうと、する事が無くなってしまう。
テレビを見たい気はあるけれど、音でこの方を起こしてもいけない。
何をしようかしばらく思案した挙句、思い浮かばなかった私は、旦那様の横にころりと寝転がった。
休みなく動かしていた手は少しだるく、眠気が襲ってくる。
うつ伏せになられている旦那様に寄り添うようにして、私はそっと目を閉じた。


小一時間くらい、眠っていたらしい。
頬に触れている物がないのに気付き目を開けると、私は自分が天井を向いて眠っていたことを知った。
ハッとして周囲を見回す。
「あっ……」
旦那様はとっくに目を覚まし、横向きに頬杖をついてこっちを向いていらっしゃった。
やだ、暢気な寝顔を見られていたんだろうか。
慌てて寝返りをうつと、旦那様がクスッと笑われるのを背中に感じた。
「よく眠っていましたね、美果さん」
「は、はい」
「あまりに気持ちよさそうなので、起こすのが惜しくなって見ていました」
いつから見られてたんだろう、別に起こしてもらっても構わなかったのに。
よだれとか、垂れてなかっただろうか。
「旦那様こそ、途中から眠っていらっしゃったじゃありませんか」
後ろめたさから、恨みがましく言ってしまう。
「ええ、美果さんのマッサージがあまりにも気持ちよかったものですから。寝ますよ、と断る前に寝てしまいました」
「……そうですか」
そんなに良かったんだったら、いいんだけど。
でも、だからって人の寝顔をずっと見るなんて悪趣味だと思う。
変な寝言とか、言ってやしなかっただろうか。
288美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/24(月) 23:42:18 ID:XttnTv0t
「今度は僕が美果さんをマッサージしましょう」
言うが早いか、旦那様が起き上がられる。
びっくりして声を上げる前に、私の体はまるでお好み焼きのようにたやすくひっくり返された。
「痛っ!」
肩の骨の場所を見当違いに押され、不躾に悲鳴を上げてしまう。
「これは失礼」
旦那様が謝って、慌てて手をどけられる。
しかし。
「ぎゃっ!」
今度は力加減が強すぎて、私は布団にめり込みそうになった。
これではたまらないと、飛び起きて後ずさる。
「旦那様、いいです。遠慮しときますっ」
不器用な方だから、マッサージができるなんて思えない。
力の強さも、破壊力につながってむしろ危険だ。
「そうですか……」
私の言葉に、旦那様が肩を落としてしょげられる。
「申し訳ありません。僕は、美果さんのように上手にはできないようです」
まるで叱られた子犬のようにしゅんとされると、罪悪感が湧いてくる。
「気にしないで下さい。主人がメイドにマッサージ、なんて変でしょう?」
「でも……」
主従関係を説いても、旦那様は尚も諦めきれないご様子。
私を気遣って下さる優しさを無駄にしたくないが、体を委ねるのは怖い。
困ったな……と考え込むと、小さな効果音とともに一つのアイデアが頭に浮かんだ。
「旦那様。マッサージの代わりに、撫でて下さいませんか?」
「えっ?」
「指圧して頂くほど、私は凝ってないんです。撫でるくらいがちょうどいいと思うんです」
そう提案すると、旦那様はなるほどと頷かれる。
「分かりました。では、こっちにいらっしゃい」
招かれて、今度は素直に旦那様の方に戻る。
横向きに寝転がられたあの方と向き合って、そっと目を閉じた。
旦那様の大きなお手が私を引き寄せて、優しく髪を撫でてくれる。
その心地良い刺激に、体から力が抜き取られていく。
指圧はだめでも、撫でることにかけては、この方には才能があるようだ。
特に閨の時はお上手で……と、また危ない方向に考えが向きかけるのを、慌てて止める。
この距離で妙なことを考えては、たちどころにばれてしまう。
旦那様のお手が、肩や背に移って撫でてくれる。
ますます気分がほぐれていくようで、私は大きく深呼吸し、旦那様の香りを胸一杯に吸い込んだ。
ただ手を上下に動かされているだけなのに、こんなに心地がいいなんて、この方は天才かもしれない。
もっともっと撫でて欲しくて、私はさらに旦那様にくっついた。
飼い主に擦り寄る子猫の気持ちが、今なら分かる気がする。
んっ、と甘えるような声が鼻に抜け、さっき痛くされた時に体中に入った力が、完全に抜け落ちる。
気持ちよすぎて、また寝てしまいそうだ。
「旦那、様……」
自分の物とも思えない、うっとりして蕩けきった声が出る。
無防備っていうのは、きっと、こういうことを言うんだろう。


眠りに落ちる直前で、旦那様のお手がふと止まる。
「やっ、もっと」
それが不満で、私は旦那様の胸の中で抗議の声を上げた。
「美果さん」
呼ばれてしぶしぶ目線を上げると、半開きになった私の唇に、旦那様の唇がそっと触れる。
キスされていることを、回らない頭で認識した。
「ん、っ……ん……」
あっという間に舌を絡めて吸い上げられ、くぐもった声が出てしまう。
いつもは私も頑張るんだけど、今日は何だか骨抜きにされたようで力が入らない。
旦那様のキスに翻弄され、どれくらいの時間が過ぎたのか分からないまま、あの方の唇が離れる。
その頃にはもう、眠気などより別の欲望が、私の体に生まれていた。
そんなに経ってないはずなのに、私をこんな風になさるなんて、この方は錬金術師か何かだろうか。
目を合わせて視線でせがむと、分かったとでも言うように旦那様が微笑まれる。
289美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/24(月) 23:44:39 ID:XttnTv0t
首筋に軽く吸い付かれて、そこから下へ向かって順々に唇が寄せられていく。
唇は鎖骨に当ったところで一旦止まって、帯はそのままに、浴衣の前が大きく開かれた。
「旦那様、明かりを……」
急に恥ずかしくなって言うと、それが聞き入れられて照明が絞られる。
広縁の明かりが障子から薄く差し込み、幻想的な雰囲気を作る。
同じ和室でも、うちのアパートとはやはり違う。
戻ってこられた旦那様が、浴衣の衿で寄せられ、いつもより高さを増した私の胸にお手を触れられる。
「あっ……」
手の平で柔らかく弄ばれて、体の中心がむずむずと騒ぎはじめる。
期待感がどんどんと高まり、溜息が何度も漏れた。
撫でるような、さするような手の動きに快感を呼び起こされ、鼻にかかった声が漏れる。
旦那様がお餅を食むように胸に口づけられ始めると、私は声を抑えられなくなった。
「ん、あんっ」
旦那様の鼻が乳首をかすめる感触に、体を跳ねさせてしまう。
一瞬のことだったのに、そこが吸われることを望むように固く立ち上がるのが分かった。
こんな風になるなんて、池之端家のお屋敷にいた頃からすると考えられない。
胸を弄ばれる旦那様の頭を、もっと触れてとでもいうように抱きしめることも。
「んっ……旦那様……」
後ろ髪に指を絡めて小さく呼ぶと、それに応えるようにあの方が私の胸元で息をつかれる。
乳房を包み込むようにしていた両の手が外され、胸が少し冷やりとした。
「あっ……ん、っ……。やぁ……」
旦那様の悪戯な指に、両方の乳首を弄ばれて身を捩る。
なぜだか腰まで揺れてしまい、頬に血が集まるのが分かった。
ただ体の一部を指で擦られ、弾かれているだけなのに、どうしてこんなに甘い刺激が体を走るんだろう。
頭の中がぐずぐずに溶けそうなくらい、すごく気持ち良くて堪らない。
「あんっ……あ、あ……」
指で触られるだけじゃ、もう我慢できない。
乳首を口に含み、熱を吸い出すように舐めて吸い上げて欲しい。
でも、そんなことはとても言えない。
「旦那様……あ……んっ……あの……」
喘ぐ合間、あの方の頭を抱きしめ、自分の胸元に強く引き寄せてねだる。
早く、早く欲しい。
「あっ!」
求めに応えるように、旦那様が舌を使われ始める。
一舐めされた乳首が、恥ずかしいくらいに固くなっているのが分かった。
待ち望んだ刺激に、裏返ったような高い声が出て、体が大きく震える。
固くなりすぎたそこを、温めて溶かすようにゆっくりと舌を使って欲しい。
口を付けていない方の乳首は、浴衣の上から軽く引っかくように指で弄って欲しい。
旦那様の愛撫に慣らされた体は、持ち主の自制などたやすく飛び越えて、貪欲に求める。
だってあの方は、私の頭の中を読めるのかと思うほど、して欲しいと思った通りのことをして下さるから。
望んだ快感をたちどころに与えられては、平常心などどこかへ飛んでいってしまう。
旦那様に触れて欲しい、ただそれだけしか考えられなくなる。


先程から与えられ続けた快感に乱れた浴衣の裾を、旦那様の指がつまみ、左右に開く。
帯はきっちりと締めたまま、私の爪先から脚の付け根の寸前までがむき出しになった。
胸から顔を上げられた旦那様の視線が、ちりちりと肌に突き刺さってくるような心地に、身がすくむ思いがする。
足の指をキュッと握り、羞恥に耐えた。
「あ……」
旦那様のお手が閉じた膝の間を割り、私の脚を布団の上で立体のMの字を作るような形にする。
粘り気のある水音とともに、汗ばんだ内腿が夜の空気に触れて冷やりとした。
小さくお尻を跳ねさせた私の隙をついて、旦那様が私の下着を引き下ろされる。
隠す物を奪われ、私は帯で辛うじて隠れている腰回りの他全て、旦那様に見下ろされる形になった。
見られては困る場所がむき出しなのに、隠れなくてもいい場所だけ中途半端に隠れている格好。
いたたまれなくて、私は両手で顔を覆いながら腰をもぞもぞさせた。
「恥ずかしいですか?」
どことなく楽しそうな趣のある声で尋ねられ、返答に困って黙る。
反応が無いのを肯定ととらえられたのか、旦那様が小さく含み笑いされるのが聞こえた。
「きゃっ!」
290美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/24(月) 23:45:41 ID:XttnTv0t
なんか面白くない、と不満を感じたその時、前触れ無く腰を抱えられて悲鳴を上げる。
浮いたお尻が座布団か何かに着地して、腰が斜めになる。
「え……。あ、あっ」
秘所をぬるりとした物が撫でさする感触に、またお尻が浮いてしまう。
旦那様が私のそこを舐めていらっしゃることが、今度はすぐに知れた。
「やんっ……あっ……あ……んっ……」
柔らかい場所を柔らかい物が撫でるたび、勝手に声が出て体がびくりと跳ねる。
あの方の舌が敏感な肉芽をとらえ、つつき始めると、私の声はさらに高くなった。
首が痛くなるほどあごが上がり、喉をむき出しにして喘いでしまう。
顔を隠していたはずの私の両手は、まるで溺れる人の手のようにシーツを掻き、振り回されていた。
「ああんっ……あっ……あ……もう、っ……」
そこをぐっと指で開かれ、露わになった肉芽を甘噛みされて、啜り上げるように唇でこすられて。
旦那様の髪に指を差し入れ、押し返そうとしたけれど、全くといっていいほど手に力は入らなかった。
そんなことをされたら、本当に、もう。
「いやっ……あ……あぁんっ……だめっ……旦那、様……」
ああ、もうだめ。
かつてないほどの大きなけいれんに襲われ、私は、声にならない声を上げて達してしまった。


全力疾走した後のような苦しさに、息が乱れる。
著しく敏感になっている下半身と裏腹にぼうっとする頭では、ただはあはあと肩を上下させるしかできなくて。
達してしばらく、私は一言も発することができなかった。
「美果さん?」
旦那様に名を呼ばれ、掠れた声でようやく返事をする。
大丈夫ですかと問われ、首を緩慢に動かして答えた。
これ以上ないほど濡れてしまった下半身が次第に冷えていく感触に身震いし、そこでやっと下に手をやって浴衣の裾の乱れを直す。
上半身の着崩れも戻そうと胸元に触れた手を、旦那様のお手がつかんだ。
鼻と鼻がくっつきそうな距離で顔を覗き込まれ、火がついたのかと思うほどに頬が熱くなる。
それならよそを向けばいいのに、私はまるで頭を固定されたかのように、旦那様の目から視線を外せなかった。
微かな衣擦れの音がして、帯が緩められて抜き取られる。
浴衣は風もないのにふわりと左右にはだけ、私の体を隠す用をなさなくなった。
あっ、と息を飲む間もなく、また脚が大きく開かされる。
さっき旦那様の思うままにされた場所に、固くたくましい物が押し当てられるのを感じた。
それだけで、私の脳はじんと痺れて、押しつけられた物を受け入れるために体の力が抜けてしまう。
いつもは、旦那様が私をよくして下さるみたいに、私も「それ」に触れて色々するものなのに。
こうなってしまうと、ただただもう、一刻も早く「それ」を挿れてもらいたいだけになって。
恥ずかしさやその他諸々の、繋がることを邪魔するあらゆる事どもが、波が引くように遠くへ行ってしまう。
早く、早く欲しい。
旦那様の背後に手をやり、もどかしく手探りで帯を解く。
落ち着いた麻の葉模様の浴衣が緩んだその隙間から、素肌が覗いた。
私は吸い寄せられるように顔を近づけ、露わになった鎖骨の辺りに唇を押しつけた。
位置を変えて何度も繰り返し、跡がつくのではと思うほどに吸いつき、舌を這わせる。
温泉に二度も浸かったせいだろうか、旦那様の肌はいつもよりしっとりしているように思えた。
私が夢中になっているのを止めることもなく、旦那様がゆっくりと腰を進めてこられる。
アレの先が半分ほど入った頃には、私は旦那様の肌に吸いつくのをやめ、その肩にしがみついていた。
何かに縋っていないと、みっともなく叫んでしまいそうだから。
全部入ったところで、旦那様がふうっと息をついて、動きを止められる。
私も同じように深呼吸して、挿し入れられたアレの熱さと逞しさに耐えた。
あるべき物があるべき場所に納められている安心感に、口の端がひとりでに上がる。
胸がきゅっと切なくなり、抱きつく腕に力を込めた。


いいですか、と耳元で尋ねられてから、旦那様が腰を使われ始める。
大丈夫ですと答えたくせに、私の息は瞬く間に速くなった。
気持ちいい場所を探られ、そこを擦るようにアレを押し当てられては、息を乱すなという方が無理だ。
意識が飛びそうになるのを押しとどめるのが精一杯で、ただただ揺さぶられ続ける。
また私だけ……なんてことになっては、さすがに不公平だもの。
麻の葉模様に鼻を擦られて私がくしゃみをしたのを見かねたのか、旦那様が浴衣を脱ぎ捨てられる。
何も隠す物の無くなったあの方の肌が、また私の目を奪った。
ますます腕の力を強め、肌と肌がぴったりくっつくくらいに密着する。
291美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/24(月) 23:46:47 ID:XttnTv0t
胸と胸が擦れて、さっき散々可愛がられた乳首が、また固くなるのが分かった。
「んっ……あっ!」
こじ入れられた旦那様のお手が、私の胸をつかみ、強く揉みしだく。
驚きと予期せぬ快感に、体、特にお腹の下の方に力が入った。
挿れられているアレを、決して離すまいときつく食いしめるみたいに。
眉根を寄せて低く呻く声に、旦那様の快感も増したことを知る。
その嬉しさに、私は意識的にお腹に力を込めた。
事前に触れなかったぶん、今気持ちよくなってもらいたい。
両脚をあの方の腰に絡めて支えにし、さらに意識を集中する。
旦那様のためとはいえ、こうでもしていないと、私の方が先に達してしまいそうだったから。
「あっ!」
不意に抱き起こされ、驚きに息を飲む。
私のお腹の力が抜けたのを契機としてか、旦那様は私と入れ替わりに寝そべられた。
苦しげな表情の中に、ほんの少しだけいたずらっぽい色を乗せて。
「やっ……あんっ……」
伸びてきたあの方のお手に両胸が包まれ、手の平で円を描くように乳首が擦られる。
辛うじて優勢だったさっきまでの状況はどこへやら、私は一気に窮地に追いこまれた。
敏感な場所をそんな風にされると、もうどうしようもなくなってしまう。
「あっ……ん……んっ……」
旦那様が、何かを促すように私の腰に手をやられる。
このままの姿勢で、今度は美果さんが腰を使いなさい。
そう囁かれたようで、私は素直に背を伸ばし、恐る恐る動き始めた。
支えになる物のないこの体勢は、快感だけに没頭するにはいささか怖い。
何度もしている体位なのに未だ慣れなくて、おっかなびっくり……といった調子になってしまう。
見かねたのか、旦那様が胸を弄っていたお手を離し、私の手を取り指を絡めて下さった。
あ、これなら大丈夫かも。
勇気を得て、少々大胆に腰を使ってみる。
先ほどのようにお腹に力を入れ直す余裕もできて、下になられているあの方のお顔を窺えるようにもなった。
私が腰を沈めた時と、姿勢を戻した時では、その表情が変わる。
じっとお顔を見ながら腰を動かしていると、眉根を寄せた旦那様に、小さく叱られた。
「あまり、こういう時の僕を注視してはいけません」
めっ、と目を凝らして仰るのに、すみませんと素直に謝る。
大らかで飄々としたこの方も、じっと見られると恥ずかしいのかな。
謝ったもののやっぱり見たくって、私は快感に身を震わせる合間に、あの方のお顔を盗み見るのを続けた。
「美果さん」
旦那様が、今度は強く私をたしなめられる。
ばれてしまった……と背筋が冷やりとした瞬間、不意に起き上がられたあの方の両腕の中に閉じ込められる。
「主の言うことは、聞くものですよ?」
耳たぶに唇を触れさせながら仰るのがくすぐったくて、私はいやいやをするように左右に身をよじった。
なのに旦那様は、無礼なメイドにはお仕置きだとでもいうように、私の耳たぶを甘噛みされる。
「やんっ……あ……んっ……」
胸や脚の付け根を触られている時と同じ、熱に浮かされた声が勝手に口から漏れる。
ここが、こんなに感じるなんて。
「旦那様っ、ごめんなさ……んっ、あっ!」
耳のラインをなぞるように舌を這わされ、背筋がぞくぞくする。
謝る声も中途半端に切れてしまい、私は旦那様の腕に閉じ込められたまま、身を震わせるしかなかった。
もうしません、本当にごめんなさい。
何度も何度も同じ言葉を繰り返し、やっと耳を解放してもらう。
私を戒めていたあの方の腕は、今度は下へ向かい、私の腰を支えるように両側からつかんだ。
下から大きく突き上げられ、あっという間に息が乱れてくる。
力強いその動きは、昼間の疲れなど全く感じられないほどたくましくって。
私は大波に足をすくわれ飲み込まれみたいに、されるがままになるだけになった。
そんな風なのに、少しでも気持ちいい場所を突いて、擦って欲しいという欲望が頭をもたげてくる。
旦那様の動きに合わせ、お膝の上で私もこっそりと腰を使い、中に入っているアレを締め上げる。
懸命に快感に耐え、先に音を上げないようにとぎりぎりの所で持ちこたえ続けた。
「くっ……」
旦那様の低い呻きが私の髪を一撫でしていく。
292美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/24(月) 23:48:05 ID:XttnTv0t
もうちょっと、あと少し。
達するのが惜しいと思いつつも、目の前にぶら下がっている絶頂を求めないわけにはいかなくて。
唇を噛み締めながら、あの方の力強い突き上げに挑むように私も腰を使った。
私が音を上げるより一瞬早く、旦那様が短い叫びとともに、大きく体を震わされる。
それを感じ取ったすぐ後で、私も叫び、そして旦那様の胸にがっくりとしなだれかかった。


後始末を済ませられた旦那様が、隣に横たわって掛け布団を被せて下さる。
私は、速い息と心臓をどうにかなだめ、深呼吸をして布団に頬を擦りつけた。
おずおずと傍に寄ると、さっきのように髪をゆっくりと撫でてもらえて頬が緩む。
旦那様に撫でてもらうのは、いつでもどんな時でもすごく嬉しい。
つけ加えるなら、体のどこを撫でられても。
その大きなお手から伝わってくる体温は、この方の優しさそのもののようなんだもの。
「……旦那様。マッサージは、いかがでしたでしょう」
撫でてもらって気分がいい反面、自分の施したにわかマッサージの成果が気にかかる。
今になって痛くなってきたとか、凝りが戻ってきたとかじゃ、申し訳ない。
「ああ、とてもよい具合でした。百点満点です」
旦那様が落ち着いた口調で言って下さって、私はホッと息をついた。
「よかったです。頑張った甲斐がありました」
素人の仕業に百点満点だなんて大げさだと思いつつも、褒めてもらえるのはやっぱり嬉しい。
「ああいった技術は、仕事上で教わった物なのですか?」
「え?いいえ」
池之端家で奉公していた頃に学んだものじゃなくて、自己流ですと説明すると、旦那様がふむと頷かれる。
「そうですか。美果さんが上手なので、てっきり僕はそういう知識があるものと思っていました」
感心したように仰るのを聞いて、私はまた自分の頬がだらしなく緩むのが分かった。
ナントカもおだてりゃ木に登るとか、そういう感じ。
「旦那様。あんまり褒めて頂くと、私は調子に乗っちゃいますから」
だからあまり持ち上げて下さると困ります、と言うと、旦那様がえっと小さく呟かれる。
「僕は世辞を言っているのではありません。体の凝りがほぐれて、疲れが取れたのは本当のことです。
おかげで、はかどりました」
「はかどっ……」
おうむ返しに言いかけ、慌てて口に手を当てて動きを止める。
確かに、今日の旦那様はいつも以上に「お元気」だった。
愛撫にさいて下さる時間も長かったし、繋がってから最後までの時間も、密度が濃かったように思う。
おまけに、ちょっとばかし意地悪だったっけ。
「恥ずかしいですか」と、分かりきったことをわざと問うたり、私の耳を責め苛んで楽しまれるようなそぶりが見られたし。
もしかして、さっきマッサージをした時に、変なツボを押してしまったのかもしれない。
精力が強くなるツボとか、女をいじめて喜ぶツボ、とか。
そんなツボが本当にあるのかは、怪しいところだけど。


「そっ、そういえば旦那様。電気街には、メイドが足ツボマッサージをする店があるそうですよ」
動揺を気取られぬように、いささか強引に話題を変えることにする。
どこかで聞きかじった話をすると、旦那様はほうと頷かれた。
「今時はそういう物が流行っているのですか?」
「はい。足ツボだと、お客が座ってメイドがひざまずきますから、そういうのが好きな人もいるんでしょうね」
本当の主従関係じゃなくても、そういう形だとインスタントなご主人様気分が味わえるんだろうと思う。
さっき私は、旦那様にまたがって指圧していたから、これとは正反対だけれど。
「それは、どこかの家から派遣されたメイドの女性が、接待をしてくれるのですか?」
「いいえ。普通の女の子のアルバイトだと思います。時給いくらで雇われているんじゃないでしょうか」
もしかしたら、中にはメイド経験者もいるかもしれないけど、大部分は違うと思う。
「ふむ。美果さんは本物のメイドですから、看板に偽り無しですね」
旦那様が面白そうに仰るのに、私は小さく吹き出してしまった。
看板って、私は別にマッサージで食べているわけじゃないのに。
「確かに本物ですけれど、マッサージの技術は素人ですよ?足ツボとか、全く分かりませんもの」
彼女達がメイド経験者じゃなくても、マッサージの技術にかけては、私ははっきりと負けているだろう。
ツボの位置も力加減もほぼ当てずっぽうで、探り探りやっている私など、きっと足元にも及ばない。
今後もやるなら、もっともっと勉強しなきゃ、信じてお体を委ねて下さっているこの方に申し訳ない。
293美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/08/24(月) 23:48:44 ID:XttnTv0t
「美果さん。アパートに帰っても、またマッサージをしてもらえますか?」
旦那様が尋ねられるのに、私の心にちょっとした悪戯心が湧き上がる。
「いいですけど、高いですよ?私のマッサージは商売じゃありませんから」
「そうですか……」
軽口の応酬を期待したのに、旦那様ががくりと肩を落とされて調子が狂う。
ご主人様なんだから、「やりなさい」と命令なされば済むことなのに、こうしてわざわざ尋ねて下さる。
こんな心の広い方をいじめたら、きっと今日お参りした仏様から罰が当る。
「冗談です。言って頂ければ、いつでもやりますから」
「本当ですか?」
「ええ。茶店にあるツボの一覧表をコピーさせてもらってきます」
あの表を壁に貼っておけば、それをカンニングしながらマッサージができる。
うろ覚えでやるより、きっとそっちの方がはかどるし、旦那様のためにもいいだろう。
たまには、私からも福利厚生ってやつをしてあげたい。
なにせ、普段はあれをやれこれをするなと、この方に指図するばかりなんだから。
旦那様にマッサージするのを習慣にすれば、せっかちな私の性格も、少しくらい大らかになるかも。
「ありがとう。美果さんは本当にいい子ですね」
終わった後にこう言って頭を撫でてもらえるのなら、ちょっとくらい手が疲れても、きっと気にならないだろう。
そうだ、マッサージの後に撫でてもらうことを交換条件にするのも、いいかもしれない。
それなら、私は一層真剣に、旦那様の凝りと取っ組み合える。
リフレッシュなさったら、研究や勉強もはかどって、旦那様にもきっとプラスになる。
そうしたら、いっぱいお金を稼いで下さるようにもなって、今度は自費で旅行に来られるかもしれない。


生活の匂いのしない部屋で、一つの布団に旦那様と二人。
次、こんな機会はいつ来るだろうと頭の隅で考えつつ、私を引き寄せて下さっている旦那様の腕につかまり直す。
まぶたを引き下ろそうとする眠気と戦いながら、ぽつりぽつり、明日買うお土産の相談をした。
誰に買うかは決めてあるけど、何を買うかはまだ決まっていない。
旦那様のご学友と私のバイト先の人達には個包装のお菓子を買うとして、大家さんには何を渡しましょう。
眠たい声で言うと、やはり温泉まんじゅうでしょうかねえ、と旦那様が返される。
一人暮らしの老婦人が、まんじゅうを食べきってくれるでしょうか、おせんべいの方が日持ちするんじゃないでしょうか、あふっ。
ほとんど夢見心地で、きちんと喋れているのかどうかも確認できないまま言う。
美果さん、寝る前に難しいことを考えるのはおよしなさい。それより、明日の朝食のことでも考えていらっしゃい、ふわ、くぁっ。
私より眠い声で旦那様が仰って、体の力を全部抜こうとするみたいに長く息を吐かれる。
真似をして私も息を吐くと、今日食べた数々の物が頭の中に順番に浮かんできた。
昼のかき揚げソバ、夜の舟盛りに天ぷらに和牛にお吸い物、その他。
明日の朝食には、何が出てくるんだろう。
魚の干物かな、ご飯は朝粥になってるのかな。
お土産を考えるより何倍も楽しい想像は、眠りに落ちる直前にはうってつけだった。
エビのお味噌汁なんかどうだろう、旦那様のお好きな甘い玉子焼きは出てくるだろうか。
一足先に眠られた旦那様の傍らで、私はふわふわとした甘美な想像に胸をふくらませていた。



──番外編終わり──
294名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 23:50:14 ID:Xg4w/Q6l
あっま〜〜〜〜〜〜〜い!!!
GJ!
295名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 01:50:03 ID:/1ygnC+9
畜生

俺も美果さんにマッサージされたいいいいい
読んでて揉んでもらいたくなったぜ
296名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 00:57:38 ID:D5vn14jx
GJ!
小市民な旦那様かわゆす ////
297名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 15:51:48 ID:6t6pvEw3
初期の事務的な美果さんもいいが、甘々なのもまたグッド。
旦那様と美果さんの睦み合いを見られるのもあと少しか…
298名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 17:37:00 ID:CWGUyEv1
よし、>>299が立派な大人になって家政婦さんを雇って
恋仲になってここにうpしてくれればいいんだ
299名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 15:18:06 ID:dj36PL/e
このスレって和風の女中さんとかもok?
時代をさかのぼって武家や公家の侍女や女官はスレチ?
300名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 16:30:18 ID:77yTgiNv
>>299
どんとこい
前にも和風の女中作品あったはず
301名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 17:47:26 ID:gZnvXIj1
>>299
カマーン!
302 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/30(日) 19:24:08 ID:92yjhtjG
『メイド・莉子 4』

トイレから社長室のデスクに戻ると、秘書のオバサンが書類を持って立っていた。
「ハンコ?」
聞くと、目を通すだけでいいと言う。
書類をデスクに置く横で椅子に座ろうとして、秘書の後頭部が目に入った。
いつもは俺が座っている横に立っているから、頭なんかを見たのは初めてだ。
「……それ」
俺が言うと、秘書は怪訝な顔をした。
秘書の髪の毛が渦巻きになって頭に張り付いていた。
莉子も長い髪を二つに分けて三つ編みにしているが、それを髪留めで頭の上にまとめている。
女の髪型になんか詳しくはないが、秘書の髪は編んでもいないし髪留めもない。
「あ、いや、それ。どうなってんだ」
頭を指差されて、秘書はちょっととまどう。
「どう、といいましても」
左手で頭の後ろを押さえ、右手で黒い針金のようなものを抜き取った。
「これです。髪をうまく丸めると、これ一本で押さえておけますから」
ふうん。
説明してから、秘書がその針金を髪の中に戻して埋める。
まあ、莉子には三つ編みのほうが似合うけどな。
「グリーンリーフの商品です。娘が買ってきたのですが、使いやすいのでつい」
「あ?」
なんだ、それ。
「……タカシナの系列会社です」
なんだ、そういうことか。
タカシナは系列会社や孫会社、その下請けなど無数の子会社を抱えているから把握しきれない。
もちろん俺だって上から下までタカシナの服を着ているわけじゃないし、社長室の中だってタカシナ家具以外のものがたくさんある。
接待だってタカシナフーズ系列じゃない店にも行くし、車や飛行機はタカシナでは作ってない。
別に、秘書の使っているものが自社製品かどうかなんかチェックしたつもりじゃないんだけどな。
原油の輸入に関する小難しい報告書を、なんとか最後まで読んで、秘書に返した。

それから俺は、パソコンに秘書の言った『グリーンリーフ』という単語を打ち込んでみる。
比較的安価な女性向けのアクセサリーを製造する会社のようだ。
もちろん、工場は中国かどこかだろう。
数百円から数千円のネックレスやヘアアクセサリー。
タカシナの系列の、さらに子会社だった。
それで秘書は、娘が買ってきたと言い訳したのか。
サイトの新作情報で、きらきらした石のついた髪飾りの写真が並んでいる。
プラチナや宝石などを使ったタカシナのジュエリーブランドとは購買層が違うらしい。
戻ってきた秘書がちらりとパソコンを覗く。
俺はアクセサリーの種類も名称もよくわからないまま、タカシナの業務は手広いなと感心してウィンドゥを閉じた。

夕方、五時の時報で席を立とうとすると、黒縁メガネの紺スーツの中年社員が俺を止めた。
「こちらにございます」
どちらだ?
社員はデスクに平たい箱を置き、フタをとる。
なんだ?
中に、色とりどりのビーズやリボンの付いた小物が並んでおさまっていた。
「グリーンリーフでございます。今月の新商品でして」
午前中の出来事を思い出すのに、5秒かかった。
「あ、そ……」
珍しく俺が興味を持ったので、秘書が気を回したのだろう。
親会社の親会社の社長秘書に呼びつけられて、暑い中を慌ててすっ飛んできたらしいグリーンリーフ社長が気の毒になる。
だからといって、俺が孫会社にどうこう言うわけもないし、女の買うようなものを持って来られても。
あ、莉子にやるか。
もらっていいかと聞くと、どうぞどうぞと言う。
俺に何を期待してどう誤解したかは放っておくことにして、俺はその箱を持ち、いつものデパ地下で弁当を買って帰った。
303 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/30(日) 19:24:54 ID:92yjhtjG
屋敷の離れに帰ると、莉子の機嫌が悪かった。
弁当の中身にも興味を示さず、むっつりしてドアの横に立ち、黙って俺を睨みつける。
なんだよ。
怖いじゃないか。
俺はなんとか機嫌を取ろうと、弁当の横に置いたグリーンリーフの新商品をひとつ手に取った。
「莉子、これ」
「どなたですかっ」
え、俺?
「高階那智だけど」
「存じております」
だったら、なんだよ。
「どなたのお忘れ物でございますか。どちらのお嬢さまが、旦那さまのお仕事先まで押しかけて、そのようなものを置いてっ」
俺は肩を落としてため息をついた。
こいつ、ほんっとうにバカだ。
どこの誰が、こんなに頭いっぱいに髪飾りを山盛りにして来て、それをそっくり忘れていくんだよ。
「違うって。タカシナの系列会社で売ってるんだ。新商品の見本をもらったから、莉子にやろうと思ったんだけど」
莉子の目がきらっとした。
「気に入らないんだったら、やらねえよ」
瞬間移動でもしたのかという素早さで飛んできた莉子が、俺の手から箱を奪い取った。
「ほんとでございますか?わたくしに?」
先週、俺は前に使っていた黒いワニ皮のものに飽きが来て、携帯電話のストラップを買い換えた。
ガラスケースの中に並んだストラップは種類が多くて選ぶのは楽しかったし、シルバーとターコイズを連ねたデザインのストラップに決めて満足した。
だが、今の莉子の反応は、新しいストラップを選ぶ俺の百倍は浮き足立っていた。
「ごらんください、旦那さま。すっごいかわいいです、これも、これも。この小さいのをふたつ、こうやって付けるのどうですか。あ、これは着物の柄です、メイドの制服にも合うでしょうか」
一分前までものすごく怖い顔で俺を睨みつけていたくせに、満面の笑顔で箱の中身を次々とテーブルの上に並べて、箱のフタに付いている小さい鏡に向かっていろいろと試着している。
俺には使い方もわからないような形のものばっかりだ。
おまえ、そんなことより俺の着替えをしろよ、まったく。
はしゃいでいる莉子の横にかがんで、箸の先にガラスの玉がぶら下がったかんざしを手に取って見た。
「俺の秘書がこんなの一個で髪をまとめてたぞ」
莉子がぴたりと手を止めた。
「秘書の方、ですか」
すうっと表情が消える。
俺はかんざしで莉子の頭をつっついた。
「中学生の娘がいる人だよ」
莉子が唇をとがらせた。
「娘さんがいらしても、ご主人がいるとはかぎりません」
バーカ。
俺はおもしろくなって、莉子の頭を何度もつついた。
「やあん、もう」
しつこく悪ふざけをする俺に、莉子がグーで殴るマネをした。

俺がさっとシャワーを使う間に、これを使えば簡単にこんな髪型にできます、という図解を見ながら莉子が髪をほどいて結いなおしていた。
「今からやったって、すぐ俺がほどいちまうけど?」
耳もとで言うと、莉子はぽっと頬を染めた。
それでも、和風柄の赤いクリップで髪を止めて、莉子は嬉しそうだった。
女って、こんなもので喜ぶんだ。
知らなかった。
俺自身はなんにもしてないのに、得意気に莉子にプレゼントしたみたいで、なんだか居心地が悪い。
それでも、一緒に弁当を食いながら、莉子は嬉しそうに髪飾りの話ばかりした。
前に買った髪飾りが、いくらも使っていないのに壊れてしまったとも言った。
「気に入ってたし、高かったんですけど」
「高かったって、いくらだよ」
「千二百円もしました」
それが高いのか安いのか、莉子の懐具合からどの程度のものなのかはさっぱりわからない。
「これも、一個千二百円くらいなのか」
莉子はひとさし指をあごに当てて首をかしげた。
「もう少し高いかもしれません。それが、いち、に、さん……六個もありますから、えっと、い、一万円ぶんくらいあるかもしれません!」
興奮して声が高くなっている。
そのくせ、俺が差し出した焼鮭に目ざとく気づいてパクッと食いつく。
304 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/30(日) 19:25:43 ID:92yjhtjG
俺のストラップだって、一個一万円くらいはしたけどな。
それでも並んでいた中にはもっと高いものもいっぱいあった。
そう言うと、莉子が蟹の甲羅を器にしたグラタンを口いっぱいに詰め込んで、目を丸くする。
「い、いひまんえんの、ふとらっふれすか!」
子供の頃から自分で買い物をすることもなく、今ひとつ金銭感覚が育たないまま無駄に金を持たされているせいで、俺には物の値段がぴんとこない。
「莉子は、ストラップが一万円だったら買わないのか」
「買いません!とんでもございません!わたくしでしたら、せいぜい何百円かです」
そんなもんなのか。
それでも、莉子はその何百円のものを自分で働いた給料で買ってるんだよな。
俺の膝に寝そべって弁当を食うのが、仕事だとしても。
偉そうに莉子にサンプルをやっても、それは俺が指一本動かして手に入れた金じゃない。

「はあ、やっぱりいいお肉はおいしいです」
俺の膝の上に寝っ転がって、莉子は比内鶏の甘辛煮に舌鼓を打った。
「おかねもちなんれすねぇ……」
なに言ってやがる。
「ですけど、下々のものが買うお弁当には、こんな串は付いておりません」
比内鳥の甘辛煮を刺していた竹串は、頭に飾り彫がしてあった。
「食べたら捨ててしまうのに、すごく丁寧に作ってあって、もったいないです」
そんなもんか。
こないだも、折詰の仕切りになっている入れ物がかわいいだのなんだの言ってたっけ。
俺なら、気づきもしないようなことをよく見ているもんだ。
満腹になった莉子が俺の膝の上で寝返りを打つ。
「はふん、おいしゅうございましたぁ……」
そうだな、うまかった。
満腹になって満足したのか、莉子は目を閉じた。
まつ毛が顔に落とす影を見ながら、明日はどんな弁当がいいかな、などと考える。
……俺、莉子に振り回されすぎじゃないのか?

「あの、旦那さま」
少し腹もこなれたころ、頭に三つも髪留めをくっつけた莉子が、テレビのリモコンを取り上げた俺に言った。
え、野球見たいんだけど。
「先日の、お約束でございますけど」
だまされないぞ。
莉子が言う『約束』なんて、どれもこれも莉子の思い込みか嘘なんだ。
俺は莉子とあんなことやそんなことをするなんて、十年も前から約束しちゃいないんだ。
してるけど、あんなことやそんなこと。
……しようかな、あんなことやそんなことを、今日、これから。
俺の足元に座り込んだ莉子が、指先で太ももをつんつんする。
「いたしましたでしょう、あの、すこぉし、教えてくださると」
あ?……ああ。
ピアノか。
「まあな」
「はい」
どうしようか。
正直、あまり気が進まない。
俺は莉子の頭にぽんと手を置いた。
「うん。……もうちょっと、な。もうちょっと待て」
あの飛行機事故の後、ピアノをやめて、死んだ父親の代わりにタカシナの社長になると言った時。
事務所もレコード会社も、引き止めなかった。
ちょうどいい潮時だ、二十歳を越えた神童なんていつまでも売れないと言わんばかりに。
そして、タカシナの連中さえ、形ばかりの社長に就任した俺に迷惑そうな顔をしたんだ。
俺が持っていたもの、持っていたと思っていたものはなにもなくなった。
まだ、そのわだかまりがある。
「はい。……たのしみに、しております」
いつになく殊勝にうつむいた莉子の頭を撫でてやった。
こういうところは人の気持ちがわかるヤツだな。
わがままで嘘つきで食い意地がはって、俺のことが好きで、困ったメイドだけどな。
莉子を脚に絡みつかせたまま、俺はテレビで野球を見た。
305 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/30(日) 19:26:27 ID:92yjhtjG
その夜、ベッドの中で苦しいほど俺の首にしがみついた莉子が、俺の耳にはふはふと息を吹きかけた。
「旦那さま……」
莉子の裸の胸や脚が俺の素肌に密着する。
「あ?」
「ピアノ弾くのって、楽しいですか」
ん?
どうだったっけ。
コンサートやらテレビやら、ちやほやされるのは嫌いじゃなかったけど。
莉子はそんなにピアノが弾いてみたいのかな。
「社長のお仕事は、楽しいですか」
んー、それは、どうだろう。
俺が黙ると、莉子は小さくあくびをした。
「……旦那さまとご一緒できて、わたくしは毎日楽しくて楽しくてたまりません」
「……そうか」
「旦那さまは、楽しいですか?ピアニストと社長と、どっちが楽しいですか……」
こいつは、時々変なことを言う。
朝顔のつるみたいに俺に絡みついたまま、莉子がすうすうと寝息を立てた。
耳もとでいびきをかかれる前に、俺も目を閉じる。

俺は、ピアノを弾いていて、楽しかったのかな。
俺は、今、楽しいのかな……。



翌朝、一度、部屋を出て行った莉子が、ぴょんぴょん跳ねながら帰ってきた。
廊下に置かれた朝食のワゴンを部屋に入れるのを忘れて、抱えてきたなんかの広告チラシをテーブルに置いてから慌てて廊下に戻る。
「なにやってんだよ」
天気予報を見ながら聞くと、莉子はコーヒーを仕度しながら、わざとらしく俺の前にチラシを置きなおした。
今日は湿度が高いらしいから、あとでもう少しキープ力の高いワックスを付け直そう。
俺は猫毛で天パなんだ。
ハム野菜サンドイッチに手を伸ばしながら、広告チラシに目をやる。
「先ほど、旦那さまの靴を取りにまいりましたら、郵便受けにポスティングのチラシが」
ポスティングってなんだよと思ったが、それは聞かなかった。
「……季節のピクニック弁当?」
ミルクを入れて湯気の出ないくらいの温度に冷ましたカフェオレを差し出して、莉子がうふっと笑う。
「莉子、ピクニックに行くのか」
莉子がほっぺたの中に空気を詰め込んだ。
「顔がでっかくなってるぞ」
カフェオレの温度も甘さもミルクの量も、俺好みになっている。
「それはまあ、旦那さまとお弁当を持ってピクニックにまいりましたら、楽しいと思いますけど」
いやな予感がする。
「公園で、お弁当を広げて、主人とメイドがそれはそれはいちゃいちゃと」
やっぱりそれか。
俺は莉子の頭をカップのソーサーで、かこっと叩いた。
「あうっ」
そんなに痛くないだろ。
「莉子の考えそうなことはわかってる」
俺はピクニック弁当のチラシを手にとった。
「帰りに遠回りをして買ってこさせるつもりなんだろう」
種類は和洋中、予約は2人前から、午前中の注文で午後三時からのお受け取りができます、とある。
どこのバカが夕方からピクニックに行くんだよ。
活字を追っていくと、一番下に会社名が印刷されていた。
「いえ別に、わたくしはただ、チラシを置いただけです」
夕方からピクニック弁当を販売するような、まぬけた商売をしているのはタカシナフーズ系列の外食産業だった。
「どれがいいんだよ」
サンドイッチを食いながら聞くと、莉子はいそいそとチラシを覗き込んだ。
俺のメイドは、食いしん坊。
そんなアニメとか、ありそうだな。
306 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/30(日) 19:27:57 ID:92yjhtjG
秘書から朝の報告とか確認とか、そういうのが終わると、俺はスーツのポケットからチラシを取り出した。
昼はどっかの誰かとメシを食うと言われたので、早めに予約をしておこうと思ったのだ。
莉子は、洋食のBコースを選んでいた。
俺なら間違いなく一番高いのを選ぶのに、莉子はなにがよくてこれがいいと言ったんだろう。
「あら」
今日はタカシナブランドのロゴがデザインされたスカーフをこれ見よがしに巻きつけたオバサン秘書が、俺の手元を覗き込む。
秘書に説明して注文させてもいいが、自分でネット予約した方がめんどくさくない。
「サザンクロスデリバリーですね。企業資料をまとめましょうか」
「あ、いや、そうじゃなくて。単にこれを食いたいから」
秘書が変な顔をした。
「うちの系列だけど、いいんだろ?」
秘書が、今度は困った顔をした。
「お昼に会食をなさるのが、サザンクロスの社長ですが」
そうだっけ、と冷や汗をごまかしながらチラシを畳む。
聞いていたつもりなんだが。
秘書は俺が受け取ってデスクの上に積んだ資料の山から、サザンクロスのファイルを引っ張り出した。
「最近ぐんと実績を伸ばしている会社です。社長はまだ若いのですけど、そのせいか健康嗜好や低価格だけでなく簡易包装に走りがちな容器に一工夫することで若い購買層に……」
なんたらかんたら。
棚からファイルを引っ張り出したりパソコンにデータを呼び出したりする秘書を見て、俺は弁当事業より弁当そのものに興味があるんだとは言い出しにくかった。
「……とりあえず、予約だけしとく」
ようやくそう言うと、秘書はなぜか感動したように何度も頷いた。
「覆面捜査ですね。社長自ら」
なんか、誤解されてる。
「失礼ながら、先日のグリーンリーフの件といい、社長はお代わりになったのではないかと思っております」
両手をぎゅっと握り締めて、秘書はうっすら顔を紅潮させながら喋った。
「いきなりご準備もないままタカシナの社長に就任なさったのですから、その責任の重大さ、環境の変化など、戸惑われることも多いとお察しいたします」
「……あ、そ……」
「ですがやはり、タカシナの正当な後継者、いよいよ満を持して始動、といったところでございますね」
……なんの話?
「わたくし、微力ながら精一杯お手伝い申し上げます、なんなりとご命令くださいませ」
あ、ども。
意味不明にはりきる秘書がどんどんどん、とタカシナフーズやサザンクロスデリバリーの資料を積み上げる。
その隙に、俺はサザンクロスのサイトから、洋食のBコースの注文欄にチェックを入れて送信した。

その後、秘書の手前、形だけと思って資料をパラパラしてみると、昼の会食をするデリバリー会社社長のプロフィールに『甲子園』の文字が見えた。
バットを握ったこともないくせに野球好きな俺は、ひょいとそのファイルを手に取る。
そこには、俺より少し年上の青年が日焼けした顔でこっちを向いていた。
高校時代、夏の甲子園に出場経験がある、という略歴が載っていて、さっき目にしたのはこの部分だろう。
俺の高校時代は、世界中でピアノを弾いていた。
……毎日グラウンドで汗と泥だらけになって、監督や先輩に怒鳴られながら白球を追いたかったとまでは思わないが、そっちを選んでいたら俺は甲子園に行けたんだろうか。
ピアノを弾くのより、楽しかっただろうか。
社長の椅子になんか、座っていなかったんだろうか。
307 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/30(日) 19:28:51 ID:92yjhtjG
「ほぇ、ここの、ひゃちょうとれすか」
夕方、俺の膝枕で、口に入れてやったハンバーグをモグモグしながら莉子が目を丸くした。
注文どおり、サザンクロスデリバリーの洋食Bコース弁当だ。
莉子の目当ては、メインのキノコ盛りハンバーグ濃厚デミグラスソース添えらしい。
「偶然な」
その日のランチで初めて会った長尾優介という弁当屋の社長は、いかにも元高校球児ですというさわやかなヤツだった。
短くした髪に日焼けした肌、真っ白い歯とワイシャツ。
系列とはいえ末端の弁当屋となんで会食なんだろうと思ったら、父親がタカシナフーズの代表だった。
今は弁当屋の社長だが、将来はタカシナフーズの跡取りらしい。
どおりで、28歳という若さも頷ける。
親の敷いたレールを歩くのもラクではありませんねと笑った後で、俺と自分を同列に扱ったことを詫びる。
長尾はひとしきり、会社の業績やこれからの問題点、協力要請などを喋った。
今まで会った系列や他社の社長たちはみんな、俺をお飾りの社長だと知っているから、大抵の場合仕事の話はせず、もっぱら俺の機嫌を取る。
それがこの長尾はまともに返事に困るような仕事の話をし、なにかの口約束だけでも取り付けようとさえする。
さらに今度は、細い糸状に編んだ飴細工のカゴに盛り付けられたアイスケーキを見て考え込みだしたから、俺はまたしどろもどろになる。
「こういうものを運ぶとすれば、どうしても大きな保冷容器が必要になりますし、これだけを別容器にしますと……」
隣でオバサン秘書が咳払いをしてくれなければ、せっかくの冷たいデザートが台無しになるところだった。
そのあと、やられっぱなしで悔しかった俺が甲子園の話題を振り、それが意外に盛り上がってしまった。
「旦那さま、野球はご覧になるだけですよね?」
飴細工のカゴに入ったアイスケーキ、と言ったところでゴクリと喉を鳴らしやがった莉子が、寝転がったままひとさし指を顎に当てた。
「いいじゃないかよ、見るだけでも」
ぽかんと開いた口に、付け合せのジャガイモを落としてやる。
「むきゅ、ほれは、ほうれごらいまふけれど」
「でさ、ついつい俺が午前中にこの弁当を予約したって言ったら、恐縮するどころか大笑いしたんだ。それで、失礼ですが社長とは気が合うような気がいたしますなんて言ってな」
学校でもろくに友人のいなかった俺は、初めて齢の近い相手と話が弾んで楽しい会食だった。
「ほ、ほれは……」
次々とジャガイモを放り込む俺の手を押さえて、莉子がまつ毛をパタパタさせた。
「あの、親会社の社長である旦那さまの機嫌を取って、なにかこう、なにか」
「まあ、それも少しはあるかもな。でもな、長尾の行ってた高校ってのが野球の名門校なんかじゃなくてむしろ進学校でさ」
「……」
「選抜じゃなくて、一個ずつ勝ちあがって夏の甲子園に出たんだ。長尾は二年生で、ベンチに入れるかどうかってところで」
「……」
「一回戦の相手が同じ初出場でな、実力が拮抗してて、ただ長尾のチームの方がピッチャーが、……莉子?」
莉子の顔が、でっかくなっている。
いや、ほっぺたがぷんぷくりんに膨らんでいるだけだった。
「……イモ、溜まってるぞ」
「んぐ、旦那さまが、ジャガイモばっかりお入れになるからです、って、そんなわけないじゃありませんか」
お、ノリツッコミ。
「じゃあ次は肉を入れてやる、ほら。あーん」
開けない。
俺は豚肉の生姜焼きを箸の先にぶら下げて、莉子の口元で振った。
「なんだよ、他のがいいのか」
「飴細工のカゴを食べたいです。バリバリと」
なんだ、俺が昼に食ったランチがうらやましいのか。
「じゃあ今度……」
「今!今、食べたいですっ」
なんつーわがままなメイドだ。
莉子がころんと転がって、俺の膝から落ちた。
そのままソファの上に座り込んで、俺をじっとりした目で見上げる。
だから、そういうの怖いからやめろって。
「なんだよ……」
言いかけて、莉子の目に涙が溜まっているのに気づく。
ななな、なんだよ、俺がなにしたんだよ、莉子を泣かすような、なにを。
308 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/30(日) 19:29:34 ID:92yjhtjG
「旦那さまは、長尾社長ととても仲良くおなりですね」
仲がいいというほどかどうか、今日会ったばかりだし。
「気が合うと言われたのですよね。旦那さまはお友だちもいないし、毎日六時に帰ってくるくらいヒマですし、きっと長尾社長が誘えばほいほいとお出かけになりますよね」
なんかカチンと来る言い方ではあったが、図星だ。
実際俺は、次の日曜に長尾が入っている草野球チームの試合を見に行くと約束してきたんだ。
自分ではバットもグローブも持ったことがないと言うと長尾は不思議がった。
横にいた長尾の部下が耳打ちし、それから感心したように言った。
「高階社長は、ピアノをお弾きになるんですか」
長尾の秘書が一目でわかるほど慌てふためき、俺は舐めるように飲んでいたワインを噴出しかけた。
ピアニスト高階那智を知らない男。
おもしろいじゃないか。
莉子は俺の肩につるんつるんのおでこを乗せた。
頭の後ろに、この間俺がやった髪飾りがくっついていた。
正確には、俺が父親から引き継いだ会社の孫会社が、俺の機嫌取りに持ってきた髪飾り。
「わたくし、野球もピアノもわかりません……」
莉子がぐずぐずと鼻水をすすっている。
俺はテーブルの上のティッシュをばさばさと引き抜いて、莉子の鼻に当ててやった。
「ほら、チンしろ」
ほんとに、チンしやがった。
「なんだよ、長尾にやきもちかよ」
「らって、わらくし、旦那さまがお部屋にお帰りになってくださらないと、ご一緒できません……」
やきもちでこんがりと黒焦げになった莉子が、鼻をずびずびしながら訴えた。
顔をぐしゃぐしゃにして、みっともないはずなのに、かわいいじゃないか、ちくしょう。
「土曜日はいつもお出かけですし、日曜日まで長尾さまと」
なだめすかして弁当を食べさせ、ソファの上に正座して恨みがましく見上げてくるメイドの顔まで拭いてやって、俺はいったいなにをしてるんだ。
「いいじゃねえか、飲み歩いたり夜遊びしたりするわけじゃないし。平日は六時に帰ってきてるんだし」
おしぼりで莉子の顔をぐいぐいとこする。
「……わかっております。旦那さまはまだお若いのですし、あちこちお出かけになっていろんな方とお会いになって、お仕事もお遊びもたくさんなさったほうがいいんです」
自分に言い聞かせるように、莉子がうつむいて呟いた。
ああ、まったくもう。
続きの気になるゲームがあるっていうのに、俺は莉子を抱き寄せた。

……そういうごまかし方、嫌いです。
じゃあどういうのがいいんだよ。
それは、まあ、そういうのでもいいんですけど。
長尾は弁当屋だからさ、頼んでみるよ。
あんまり辛いおかずが入ってなくて、カップとかフォークとかがかわいくて、そういうの。
ほんとうですか。
そういうの、好きだろ、莉子。
はい、お弁当は見た目でも楽しみませんと。
だから、機嫌なおせって。
莉子がぶーたれてるの、嫌いなんだ。
……そうですか?ほんとに?…うふっ。
だって、怖いもん、お前。
え、なんですか、今なにかおっしゃいましたか。
なんにも言ってねえよ。な、莉子……。
…あん。
309 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/30(日) 19:30:11 ID:92yjhtjG
莉子が聞いたことがないような色っぽい声を上げた。
お、それ、いい。
莉子の首に腕を回して、俺は莉子のこめかみに唇を押し付けた。
メイド服を来た子猫が、くるんと丸まって俺にくっつく。
機嫌の悪いときはぶーたれて、怖い顔をして直立不動でドアの横にいるメイドと同一人物とは思えない。
脚を曲げてソファに横座りした莉子が、俺の膝に頭を乗せて寝転がる。
いいのか、その態度。
「旦那さま」
俺の腰に抱きついて、莉子がくぐもった声で言う。
しがみついてくる莉子の髪をしばらく撫でて、俺は莉子を引きはがした。
ちょっと、その位置にそのままいられるとヤバイ。
「旦那さま……?」
もう何度もしてるのに、俺はいまだに莉子をスマートに誘うことが出来ない。
もちろん、莉子はそんなこと気にしないだろうけど。
「あっち、行かないか」
今日も、俺はカッコ悪く言った。
うふ、うふ、と莉子が笑った。
シャワーを使いたいという莉子を、俺はベッドに座らせた。
そのままで、いいから。
恥ずかしそうにしながら、莉子は頭に手をやって髪飾りを外した。
この前、俺が外そうとして思い切り髪に絡まったまま引っ張ってしまったからだ。
指を入れて髪をほどくと、顔の印象が幼くなる。

初めて会ったときは、きっついメイドだと思ったんだけどな。
キスしただけで顔を赤くして目を潤ませている莉子に言うと、頭を胸にぶつけてきた。
頭突きかよ。
「それは、何度もおっしゃいますけど、旦那さまがいけないんです」
「なんだよ、痛いじゃねえか」
「わたくしのこと、見ても思い出してくださいませんでしたし、名前を聞いてもおわかりになりませんし」
「それはなあ、仕方ないじゃないか」
つるつるのほっぺたと細い首筋にもキスした。
スカートの裾から手を入れて、太ももを撫で上げる。
女って、みんなこんなにつるつるですべすべで、柔らかくって、あったかくって、気持ちいいもんなのか。
「内緒です」
「なんだよ、それ」
スカートの中を探って下着に手をかけると、莉子が脚をぴたっと閉じた。
「だって、旦那さまが他の女の方で確かめたら困ります」
バカ。
「内緒にされたら、余計確かめたくなるじゃねえか。専務の娘がかわいいって言ってたし、紹介してもら、いてっ」
莉子がかっぷりと俺の腕に噛み付いた。
「いけません、そんなお嬢さまとお会いになったら、わたくしなんか」
痛いって、バカメイド。
「わたくしなんか、つまんなく見えてしまいます……」
バーカバーカ。
「んなわけ、ねえよ」
「だって、そういうとこのお嬢さまは、美人で、賢くて、毎日きれいなお洋服を着て、エステなんかも通って、箸より重いものも持ったことがなくて」
「莉子は箸だって持ってないだろ、俺が食わせてやってるんだから」
閉じた脚をそろっと撫でる。
うん、エステに通った専務の娘がどんな脚をしてるか知らないが、俺はこの脚がいいな。
いいよ。
俺は、莉子でいいよ。
莉子が、いいよ。
薄く莉子の歯型の付いた腕で、メイドの制服ごと莉子を抱きしめた。
「旦那さまあ……」
うん、いい声だ。
枕を高く積んで、そこに寄りかからせるように座らせる。
足元からスカートの中にもぐりこむと、くすぐったいのか膝を曲げて俺の肩を両手で押さえた。
「やん、旦那さま、えっちっ」
そうだ、俺はえっちだ、変態だ。悪いか。
310 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/30(日) 19:30:50 ID:92yjhtjG
莉子の脚を開かせて、内ももに顔をすりつける。
湿気を帯びた熱い空気がむっとする。
シャワーの後ではこれは楽しめない。
下着の上から触ると、莉子がいやん、と抵抗した。
バカ、これがいいんじゃねえか。
莉子の匂い。
噂ばかりは華やかで、女っ気のない生活をしてきたのに、目の前にぽんと置かれた据え膳にこんなにのめりこむなんて思わなかった。
こんなに、莉子のこと好きになると思わなかった。
バカでわがままで食い意地の張ったメイドなんかに。
「ほんとですか?旦那さま……」
下着の隙間から手を入れると、莉子が身じろぎした。
体と下着の間で温められて湿った、細い毛に触れる。
女は、こんなとこまで柔らかい。
脱がせずにずらそうとすると、莉子がふにょ、と変な声を上げた。
「旦那さま、旦那さ、あの」
なんだよ。
すっぽりと頭にかぶっていたスカートから顔を出す。
真っ赤な顔をして、莉子が俺の頭をぺちぺちと叩く。
「いて、なんだよもう」
「旦那さまが変態なのは、わたくし嫌いではございませんけど」
スカートに顔つっこんでぱんつを引っ張るくらいで変態呼ばわりとは心外だな。
「でも、今日はわたくし、とびきりお気に入りのをつけております」
え、そうなのか。
それって、勝負用とかいうやつか。
「ですから、あんまり乱暴にしないでください。そうっと、そうっと」
「そっと脱がせってか?」
やあん、と恥らって見せるのはいいが、その度に俺をぺちぺち叩くんじゃねえよ。
仕方なく、俺は莉子の腰を浮かせて、とびきりお気に入りだというそいつを脱がせた。
脚から抜いてみると、確かにいつもよりてろんとしていて透け透けで、なにかレースのようなものが付いている。
「ふうん、こういうのが好きなのか」
莉子がぱっと俺からそのぱんつをひったくる。
「旦那さまは、なんにもわかってません」
なにが。
「こういうのは、スカートの中から取ってしまっては意味がないんです。ちゃんと、その」
まっ赤なほっぺたを膨らませながら、莉子はうつむいてひとさし指でシーツをぐりぐりする。
「着けてるとこ、見てもらいたかったんです」
うお。
時々莉子は、こういうフェイントな発言をする。
今のも、一気に俺のを元気にしてしまった。
「そうか。せっかくその、お気に入りなのに、俺が変態っぽいことしたがったから」
いやだから、スカートに顔つっこむのはそれほど変態じゃないだろ。たぶん。
うつむいたまま、莉子が目を上げてまつ毛をぱたぱたした。
「……上も、おそろいなんです」
ちくしょう。
俺は莉子に飛びかかった。
きゃっ、と声を上げてベッドに転がった莉子をひっくり返して、メイドの制服を脱がせる。
背中のファスナーひとつでくるんと剥けるワンピースって、すっげえ便利。
透け透けのてろんてろんでレースの付いた小さい下着が、莉子のかわいいおっぱいを覆っていた。
おそろいかどうかはよくわからなかったが、外す前に上からなでて「かわいいな」と言うと莉子はうふうふっと笑った。
きっと、たいして高額でもない給料の中で、俺に見せたくて選んだんだろうな。
311 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/30(日) 19:31:29 ID:92yjhtjG
ちくしょう、困る。
莉子が俺を大好きすぎて、困る。
靴下を脱がせると、莉子はすっぽんぽんになった。
「きゃっ」
脚を開いて転がった莉子が、慌てて膝を抱く。
こらこら、隠すな。
「旦那さま、へんた、うにょっ」
莉子に向かってもう一度ダイブする。
「とぉっ!」
「にゃぁっ、だ、旦那さまっ、むにゅ、くすぐった、うひゃっ」
だから、俺を叩くな、しかもゲンコで。
「んにゃ、えいっ」
思わぬ反撃。
莉子に脚を取られて、俺はベッドにひっくり返された。
「うわ、この、なにすん、莉子っ」
「ずるいです、わたくしだけこんなに裸んぼになさって、旦那さまだけお洋服をお召しなんて」
そう言って、俺の部屋着の裾を乱暴にまくりあげた。
俺が莉子のスカートに顔をつっこんだみたいに、Tシャツの裾から頭を入れようとしてくる。
それは無理だろ、生地の量が違うだろ、破れるぞこのバカメイド。
頭をつっこむのをあきらめた莉子が、そのまま上に引っ張って脱がせようとする。
襟ぐりが鼻に引っかかっているのにぐいぐいと引っ張る。
「うげ、莉子、やめ、鼻、鼻がちぎれるっ」
そのまま無理矢理Tシャツを剥ぎ取って、ウエストゴムのスウェットパンツは簡単に引き抜く。
「あ」
莉子が声を上げた。
自分よりずっと小柄な莉子にいいように転がされてた俺は、やっとベッドに手をついて体を起こした。
「え、なに……」
「旦那さま、いつものです」
いつも同じじゃない、似てるけど微妙に色もデザインも違うんだ、俺のボクサーパンツは。
「わたくしはお気に入りを着けておりますのに」
無茶なこと言うな。
「もう、旦那さまの……バカ」
小声で付け足すように言ってるけど、聞こえたぞ。

莉子が、えいっと俺のパンツを脱がせた。
「おそろいじゃねえか」
足先に引っかかったのを、ちょっと足首を振ってベッドの下に落とす。
莉子がひとさし指をあごに当てた。
「おそろいですか?旦那さまも、……ブラを?」
俺はそういう変態じゃねえよ。
「バカ。俺と莉子がおそろいになったって言ってんだよ。ふたりとも素っ裸じゃねえか」
「……あ」
熟れた桃みたいになった莉子が、くたっと俺にもたれかかってきた。
「だって、旦那さまが」
「俺のことは、莉子が脱がせたんだろ?なんで?」
「……なんでって」
恥ずかしさにもじもじしながら、薄い毛布を引っ張り寄せて体を隠そうとする。
「なんでだよ?なんで、俺を脱がせちまったわけ?」
言ってるうちに、楽しくなってきた。
「ベッドの上で俺を裸にして、なにがしたいんだ?言ってみろ、莉子」
胡坐の上に、毛布に包まった莉子を乗せてあちこちをつんつんする。
やん、やん、と体をよじって逃げるのを抱きしめて、そのままベッドの上に組み伏せる。
「どうだ、言えよ。言わないと、くすぐるぞ。明日の弁当はとびきり辛いのにするぞ」
「や、おやめください、それだけはっ」
「それだけってどっちだよ、くすぐるほうか、辛い弁当の方か。ほらほら」
莉子が両手で俺の顔を押し返そうとする。
それをよけながら、莉子の胸やお腹や太ももをくすぐる。
うわ、楽しい。
312 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/30(日) 19:32:05 ID:92yjhtjG
「ほらほら、なんで俺を脱がせたんだよ、莉子」
莉子がベッドの上を転がって、俺に横から抱きついてきた。
しがみついてこっちの動きを封じようとする作戦らしい。
莉子の滑らかな肌の感触とか、俺より少しほてった体とか、顔に触れる髪の毛とか、時々押し付けられる唇とかが気持ちいい。
「……わっ!」
ふわふわしたゆるい気持ちよさを楽しんでいたところに、急に強い感触。
莉子が、俺のモノを握りやがった。
「……です」
な、なにが。
「だ、旦那さまを、裸んぼにしたのは、こちらの、これが、窮屈そうだったからです」
……あ、そ。
ふうん。
でも、それだけだと困るんだけど。
大っきくなっちゃって窮屈だったから開放されて、それだけだと困るんだけど?
せっかく収まるとこに収めてたのに、出しちゃって、それでどう責任とるんだよ?
「……んにょわぁん……」
莉子のやつ、どんどん変な声になっていくぞ。
俺のをやわやわと握りながら、莉子が俺にぴったりと体を押し付けた。
「先に、わたくしを裸んぼにしたのは、旦那さまです。……責任、とってください」
よし。
まかしとけ。
俺は莉子の唇に自分の唇を押し付け、舌で舐めまわしてやった。
そのままあちこちにキスして、おっぱいを揉んで、乳首に吸い付く。
舌先にあたる弾力を楽しみながら甘噛みしたり、舌を大きくして舐め上げたりすると、莉子は俺の髪の中に手を入れて自分の胸に押し付けるようにした。
こいつは下から押し上げるように揉まれながら乳首を吸われるのが好きなんだ。
俺だって大好きだ。
莉子の腰や脚をなでながら、乳首を唇で挟んで引っ張ったり、それが離れてぷるんと揺れたりするのを繰り返す。
脚を開かせて内ももをなでる。
内側の、このふよふよした柔らかいとこがまた好きなんだよな。
舐めたり吸ったり、それにすぐそこにあそこがあるし。
毛の中に鼻を埋めるようにして、そこを唇で押し分ける。
「やあん、旦那さま、そこ、まだ……」
なで回されてうっとりしていた莉子が、うつろな声で言う。
そうか。
俺も莉子にもキスしてもらったり、胸や背中に体をこすり付けてもらったり、あそこを咥えてもらったりしないとな。
その前に、俺が莉子を食べる。
「ん、う……」
舌を入れると、莉子が声を上げた。
気持ちいいのかな。
尻を抱えるようにして脚を開かせる。
ひだをかき分けると、くちゃっと音がした。
なにがまだ、だよ。
ひくひくしてるじゃないか。
くじるように穴に舌を入れたり、細くした舌先で何度も溝を舐めたり、皮を被った豆に吸い付いたりすると、腰が揺れるようになってきた。
「うん、あ……、んあ……、ああんっ、旦那さ、ま、あっ」
「気持ちいいか?」
顔を横向きにして枕に押し付けた莉子が、弱々しく頷いた。
「だ、ん……なさ、あっ」
莉子の声って、こんなによかったかな。
俺が莉子の脚の間から顔を上げると、もっと、というように脚で俺を挟んできた。
「まだするか?」
してもいいけど、したいけど。
俺は莉子に顔を挟み込まれたまま、腰をなでた。
313 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/30(日) 19:33:18 ID:92yjhtjG
「いいよ。……呼んで」
「……だん……」
そうじゃなくて。
指を一本、そっと挿れる。
そのまま、上のほうに吸い付く。
そうじゃなくてさ。
ほら。
莉子の腰がぴくんと震える。
同じ場所を舌先でつつく。
「……んっ、あっ、あ、……あん……、あ……、な…ちさま」
ぎゅっと股間が痛くなった。
「…ああん……、あ…、な、那智さま、那智さまぁ…、あっ」
魚みたいに、莉子が体を反らせる。
ちょっとイッたのかな。
よくしてやれたのかな。
もっと続けたら、ちゃんとイけるのかな。
もう一度、莉子の膣に舌を差し込もうとしたとき、莉子が体をひねった。
え、嫌なのか。
起き上がった莉子は、まるで泣いてるみたいに目に涙をためて、俺にしがみついてきた。
「な…那智さま」
ぐすん。
なんだ、なんだ。
「……どうしましょう、わたくし」
ぎゅうっと力を入れて、俺を締め上げるように抱きしめる。
「……だいすき…………」

そのまま莉子は俺の上になった。
肩や胸に白い手を滑らせて、俺がしたのと同じように乳首を唇で挟んで吸った。
そのまま下に下りて、天を突くように上を向いたモノの根元にも口付ける。
手を添えて、柔らかい袋を唇で挟む。
柔らかく吸いたてながら、手を動かす。
うわ、気持ちいい。
竿をしごきながら、先端を包むようにして揺らす。
そんなこと、どこで覚えたんだよ。
「ん。昼間、勉強しました」
だから、勝手に俺の蔵書を読むなと、う、それ、いい。
莉子がぱっくりと咥えこみ、時々ちゅぽっと音をたてる。
「あー……、いい」
思わず、言ってしまった。
くふくふ、と莉子が笑った。
笑うとその息遣いがまた刺激になって、……いい。
俺は莉子の肩を叩いて、ギブアップを伝えた。
ころんと転がして、脚の間に入る。
ベッドの隅に丸まっていた薄い毛布で莉子の顔を覆って隠し、引き出しからコンドームを出す。
装着したところで、毛布をよける。
頬を紅潮させて、莉子が俺を見上げている。
ああ、かわいいじゃねえか。
腰をぽんぽんと叩いてから背中に腕を入れて抱き起こすと、俺から顔をそらすようにして俯いた。
そのまま仰向けになると、恐る恐る俺の胸に手をついて腰を上げる。
よし、騎乗位だ。
体を支えて手伝ってやるが、うまくいかない。
もう少し脚を開かせて、ゆっくり腰を下ろさせる。
「あ……、んっ」
中腰で前かがみになりながら、莉子が一生懸命俺を自分に挿れようとしてる顔を下から見上げる。
ああ、いいな。これ、すげえいい。
角度が見つかったのか、莉子がそっと俺の上に座るようにして、ゆっくり入った。
314 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/30(日) 19:35:12 ID:92yjhtjG
「……あ」
同時に、ため息が漏れた。
莉子がうふっと笑って、その振動が伝わって、たまらない。
「莉子……、動いて」
下から体を揺すって催促した。
「あんまり、見ないで下さい」
莉子が手で俺の目を隠した。
そのせいで体が前に動いたのか、あっと短く声を上げる。
いいトコに当たったのか。
前のめりになった莉子のウエストに手を回して、腰を持ち上げる。
下になったまま腰を上下すると、莉子がそれに合わせたように声を立てた。
「あ、あ、あっ……、あ、あ…、ああんっ」
下からだと、上になるより疲れる。
ちょっと腹筋鍛えておけばよかった。
もう一度腰をなでて、莉子に動けと合図する。
莉子は恐る恐る腰を前後に滑らせて、こすりつけるようにした。
前から親指を入れると、こすり付けるときに当たる。
「んんっ」
胸に手をついていた莉子が、今度は腰をぐるっと回した。
う、いい、それ、いい。
もっと、と言うと、莉子はぐりぐりと押し付けてきた。
寝転がったままで、こんないい思いが出来るとは。
それでもだんだん刺激が足りなくなってくる。
これだと、俺は終われない気がする。
疲れたのか、莉子が休憩した。
抜けないように腰を抱いて、今度は莉子を仰向けにして俺が上になった。
「いけませんでしたか、わたくし…」
心配そうに、莉子が言った。
「まあ、いいんじゃねえの。……いや、すげえよかった」
ほっとしたような莉子のぷるっぷるの唇を吸い上げて、そのまま耳もとで言った。
「ま、世界のタカシナとしては、女に上に乗られてイクのはプライドに関わるからさ」
冗談めかして言うと、莉子がくひゅっと笑った。
お、出たな、変な声。
莉子が両手を俺に向けて伸ばした。
「はい。お願いします」
まかしとけ。

浅く入れて軽く動かすと、莉子の中の暖かさが気持ちいい。
莉子もうっとりと目を閉じて小さく口を開けている。
気持ちいいか、と聞くのはちょっと照れる。
でも、俺は気持ちいいぞ。
しっとり濡れていても、いきなり挿れると痛そうな顔をしたことがあるから、浅い抜き差しを繰り返す。
莉子の息遣いを見ながら、もういいかなと判断して、ぐっと奥まで挿れる。
「……ん、あんっ」
莉子が高い声をあげ、俺も頭の奥がキンとした。
ああ、気持ちいいぞちくしょう。
莉子の胸の両脇に手をついて、俺はゆっくり腰を振った。
動きが滑らかなのにちょうどよく締めてくる。
思う存分動きたいのを必死でガマンして、少しずつ速度を上げる。
「ん……、あ、あっ、…那智さまぁ……」
莉子の腰が浮く。
それを抱え込んで、俺は頭の中を真っ白にした。
莉子の中で締め付けられて、擦り上げて、目の前でかわいいおっぱいが揺れて、乳首がつんと上を向いて、
白い喉がそりかえって、ぷるぷるした唇がぽかんと開いて、そこから絶え間なく小さな喘ぎ声が漏れて、
閉じたまぶたのまつ毛がふるふると震えて、俺を求めて手を伸ばす莉子が、俺の名を呼ぶ。
莉子。
呼ぶと、締まる。
かわいい。
ああ、いい。すげえ、いい。
もう、イク。
315 ◆dSuGMgWKrs :2009/08/30(日) 19:35:58 ID:92yjhtjG
俺はぎゅっと眉を寄せて、それでも一瞬でも莉子から目をそらすまいとして、フィニッシュに向けて莉子の中に自分を擦りつけた。
「……う、あ、……くっ」
「あん、あっ、……那智さまっ!」
根元を絞られるような感覚の後で、ぎゅうっと全体が締まって、俺はその中で射精した。
うわ、いい。出てる……。
我ながら、長いな…。
「…あー……、出た」
うわ、なんつームードのないことを言ってるんだ、俺。
莉子の上に突っ伏すと、莉子が俺の背中を抱いてなでた。
「なち…さまぁ」
甘い声を出す唇に、キスした。
ありがとな、の気持ちをこめて。
莉子がキスを返してくれたのは、同じ気持ちなんだろうか。

ちょっと落ち着いてから、ゴムが抜けないようにそろっと引き抜く。
始末して、見ないようにしながら莉子のあそこもきれいにしてやった。
莉子が抱きついてきたので、しばらく抱いてやった。
なんか、ずっとこうしてたいよな。
うひゅ、むひょ。
それが返事かよ。
莉子の気の済むまでベッドの上でいちゃいちゃして、それから二人で泡風呂に入った。
俺は温泉の素が入ったかーっと熱い風呂がいいんだが、莉子と一緒にいちゃつくんならぬるめの泡風呂でもいい。
髪も体も洗ったり洗われたりして、長風呂に疲れた俺たちは裸のままベッドでしっかり抱き合って眠った。
腕の中に莉子がいるのが、心地良かった。
「……旦那さま」
また、旦那さまに戻ったのか。
「なんだよ」
俺の腕の中で、莉子が言った。
「あの、……これからも、旦那さまが土曜日のお出かけをなさったり、うんと長尾さまと仲良しになったり、…お仕事がお忙しくなったりしても」
ん?
くるっと巻いたくせのある前髪を指に絡めると、莉子はころんと転がって俺を見上げた。
「わたくし、ここで旦那さまのお帰りをお待ちしていても、いいんですよね」
バカ。
こいつ、本当にバカだな。
俺は指先で莉子の頭を突っついた。
「いいんじゃねえの」
にゃん、と莉子が俺の腰に抱きついた。
「ほんとですよ。……あの」
「約束な」
俺は、初めて自分から莉子に約束をした。
もう眠くて、俺は莉子がその後なんて言ったのか聞こえなかった。
莉子は、どんなつもりでそんなこと言ったんだろう。
この時、きっと俺なんかよりよっぽど、莉子にはなにかが見えていたんだろうと気づいたのは、ずっとずっと後だ。


翌朝、まだいちゃいちゃしたりませんとバカなことを言う莉子を起こして着替えていると、リビングのドアを誰かがノックした。
「どなたでしょう、主人とメイドの甘い朝のひとときを邪魔する方は」
莉子がドアを開けると、半ハゲ半白髪の執事が立っていた。
珍しい。
なんかあったのか、と思うと一瞬で毛穴が開くような緊張感に包まれた。
ハゲ執事が、のんびりと言った。
「おはようございます。さきほど病院から電話がありまして、陽子さまの容態に変化がございましたそうで」
ばかやろう。

俺は莉子を振り向きもせずに部屋を飛び出した。


――――了――――
316名無しさん@ピンキー:2009/08/30(日) 20:29:38 ID:9C9b1AWE
GJ!
317名無しさん@ピンキー:2009/08/30(日) 20:41:37 ID:HuREpQRd
GJ!かわいいなあもう!
どんだけ萌え殺す気なんだちくしょう

急展開来るかな
318名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 00:10:57 ID:RBdxOfxw
続きが気になって仕方ない。
二人ともかわいいな
319名無しさん@ピンキー:2009/09/01(火) 22:04:07 ID:2o1u94Ak
320名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 16:04:28 ID:fLk9gNnj
旦那様かわいいw

良作多いのに人少ないね
もったいない
321名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 01:50:26 ID:lJVMymGO
俺に彼女がいてしかもメイド姿という夢を見た

なんか知らんが上はメイド服なのに下は短パンだった、脚が綺麗だった
俺はもう駄目なのかもしれない
322名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 22:20:59 ID:b6D9ZhqZ
俺は恥ずかしがり屋だから稀にGJ!としかレスしないが毎日ROMっている。
323名無しさん@ピンキー:2009/09/05(土) 02:33:02 ID:JU5aRBJV
靴下を脱がせたところで足舐めプレイを想像したのは俺だけでいい
324名無しさん@ピンキー:2009/09/05(土) 05:52:25 ID:VnCE98IZ
すまん陽子ってだれだっけ?
325名無しさん@ピンキー:2009/09/06(日) 08:37:53 ID:Da6quP3V
>>324
名前だけ出てきたんじゃ?
326小ネタ 〜まるでバカップル〜:2009/09/06(日) 15:00:59 ID:DrW0YJkX
「もうすぐ秋ですね」

残暑が和らいできた9月の休日
お付のメイドがコーヒーのおかわりを注ぎながら呟く

「ああ、もうすぐ食い物が美味い季節になる。 今年も皆で落ち葉を集めて焼き芋でもしようか?
 去年は意外と盛り上がったしな」

手元の本を閉じてコーヒーをすする。

「よそのお宅に比べて当家は和やかといいますか、和気藹々というか、日常のささやかな楽しみを
 主人が使用人と一緒になって楽しんでおられますから。 皆も心から喜んでおりました。
 主人自ら落ち葉を掃き集めて焚き火をなさったり、よそではありえません。
 旦那様からよく焼けた芋を手渡されたメイドの何人かは感激のあまり熱い芋を無理して頬張って
 口の中を火傷させていたようです」

なんととらえていいか判らない言葉に返答が詰まる。 無意識なんだろうが、困った娘だ。

「ああ、何人か涙を流していたのを見た記憶がある。 そうか、熱いうちが美味いと思って勧めたのだが、
 無理をさせてしまったか。 自重しよう」

「まあ、宜しいではありませんか。 あのあと、後片付けをしながら
 美味しかったと、旦那様のお手からいただいたと感激しておりましたから。
 彼女たちにとっては、口の火傷よりも感激の方が大きかったようですよ」

と言いながらも何か不思議な空気を身にまとっている お付のメイド。
どうやら、腹に何か一言溜めているらしい。

「で、何が言いたいんだ?」
「?? 判りますか?」
「何年の付き合いだと思っている。 お前の機嫌は顔を見なくても、声を聞かなくても判る。
 何か言いたいことがあるんだろう?」

目を見つめると、頬を赤くしてプイッと視線を逸らして呟いた。

「私は、いただいておりません」
「? 何だ?」
「私は、旦那様のお手から焼き芋をいただいておりません。 お付として、寂しく思っておりました。
 私こそが、旦那様にとっての一番のメイドであると自負しておりますのに。
 旦那様にとっては私など他のメイドと同じなのですね……」
「あ〜〜、何だ。 嫉妬か?」

ヒクッと右の眉があがる。

「ええ、そうですとも! 今夜は寝かせませんからねっ! 
 明日は月曜ですが、寝不足を覚悟しておいてくださいませっ!」

あ〜あ、どうやら地雷を踏んでしまったようだ。
まあ、たまには たっぷりと可愛がってやろうか。
可愛い私だけのメイドさんなんだから。
327名無しさん@ピンキー:2009/09/09(水) 02:08:25 ID:sEiWb1Op
一番槍GJ
328名無しさん@ピンキー:2009/09/09(水) 06:32:05 ID:p8LDSuI2
しんがりGJ!
329名無しさん@ピンキー:2009/09/09(水) 06:36:23 ID:sGqA/qIP
しんがりてお前これ以上のGJ言わせんつもりかw
330名無しさん@ピンキー:2009/09/09(水) 13:19:21 ID:CBrM2jDH
しかしGJだ
331名無しさん@ピンキー:2009/09/10(木) 11:48:35 ID:theqC3xz
GJあげ
332名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 01:10:11 ID:Msspddsi
小学生メイドとかどうよ
333名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 18:11:46 ID:a67ST9OE
>>329
後詰めGJに来ました
334名無しさん@ピンキー:2009/09/18(金) 05:43:03 ID:DNuD8zKY
保守いたします
335名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 19:48:11 ID:ExcGMd77
だれか新作投下してよ
336折檻:2009/09/20(日) 12:55:01 ID:eSh4hHCC
「メイド〜!」
今日も怒鳴り声が、狭い屋敷に木霊する
「役職で呼ばんで下さいよ〜」
迷惑そうに、だれた声で返事が返った
「うるさい!
名前なんて記号だ」
せっかちで気難しい主人は、苛々と怒鳴る
「珈琲と煙草が切れたぞ
サッサと持ってこい」
「お断りします」
アッサリ逆らうメイド
「なんだと!?」
「ご主人さまは、私が作ったご飯を4食も手付かずでつっ返しました
もう、アリサは働きません」
プイとそっぽを向いた
「ふざけるな!!」
短気な主人が吠えるが、慣れきっているメイドは全く動じない
背を向けて、台所から去ろうとするが……

グイッ
ガタンッ!
襟首を掴まれテーブルにうつ伏せに叩きつけられた
「主人の言うことを聞けないメイドは、仕置きが必要だな」
「メイドの忠告も聴けない主人のクセに、暴力だけは一人前ですか」
この期に及んで尚も減らず口を叩く

バシッ
「……ッ!」
突き出た尻に平手打ちが飛んだ
気丈にも声を上げずに堪える
「どうだ
少しは後悔したか?」
「蚊でも止まりましたか?
非力なご主人さまでは、殺せないでしょうに」
更なる減らず口
「キサマッ!」
激昂する主人
ビリビリッ
テーブルナイフを取るや、メイドの長いスカートを、ズロースごと引き裂いた
彼女の肌が露になる
良くしまった、染みひとつ無い白い尻
まだ少女らしさを残し、薄めの肉づき
前傾姿勢で突き出されているため、蕾も筋も丸見えだ

ピシャッ
「アアッ!!」
直接、肌への懲摘
さすがに堪える切れず、声を上げた
ピシャッ、ピシャッ、ピシャッ…………
主人は無慈悲に懲摘を重ねる
白い肌が朱く染まっていった……



続く


保守程度のつもりが終らなくなってしまった
明日くらいまでに続きを書きたいと思います
337名無しさん@ピンキー:2009/09/20(日) 12:58:53 ID:KyL72/Dr
続けw

っていうかお預けかい
338名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 18:00:36 ID:05bwZFev
「ああ、子供って可愛いよなぁ」

主人の呟きに聞き耳を立てていた数人のメイドの話は
数時間を経たずして屋敷全域に伝わり
あちこちで手帳やカレンダーを見て日にちを数えるメイドが続出
歓喜と哀しみが入り混じる屋敷は水面下でシフトを争う騒動が勃発
近所のエステはメイドたちの予約で埋まり
出入りの肉屋、八百屋、魚屋には精のつく食材が山ほど注文が入り
通販で下着をオーダーする者や青いタブレットを買い入れる者
普通の薬局からは判定薬を取り寄せたり
赤ひげ薬局からはオットセイのエキスを取り寄せたり

秋の夜長の妊娠狂想曲は密やかに賑やかに紡がれるのであった
339名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 18:58:39 ID:srjrGLgg
GJ
健気なんだか、計算高いんだか
340名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 19:31:31 ID:sT+ybON3
つうか、全員可能性はあるのかよw
341折檻:2009/09/22(火) 00:51:50 ID:vdo/ZYzs
>>336の続き
アナル、微スカ

**********************************************

ハアッ、ハアッ……
「……お、許し……下さ、い
ご、主人さ……ま」
過酷な仕置きの後、メイドはやっと詫びをいれた
テーブルに突っ伏したまま、動くことも出来ないメイド
ハアハアと荒い呼吸で喘ぐ
ゼィゼィ……
体力の無い主人も同じだ
テーブルにあった水差しを取り、ガブガブと喉に流しこむ
一息つくと、眼下にはメイドの美しいお尻が……
真っ赤に染まって、痛々しい
その尻の奥、密かな蕾も荒い息に合わせ、ヒクヒクと蠢いていた
誘われるかのように近づく

ツーーー……
「アッ!?ご主人さま
何を……」
「動くな
冷やしてやる」
水差しの冷水を、ゆっくりと尻に垂らしていった
張りのある尻たぶが、しっとりと濡れひかる
「アッ、アアッ……」
メイドは、思わず嗚咽をあげた
熱をもった肌に、冷たい水が心地いい
痛む尻を撫でるような水流
細く垂らされたそれが、不浄の蕾を掠め、その下の裂け目にも到達する
「ヒッ!?」
更なる刺激
冷水より更に冷たい物が、蕾にあてがわれた
「ご、ご主人さま!?
そこはっ……」
「気持ち良さそうだからな
内側からも冷やしてやる」
ツプッ
「ヒイッ!!」
本来、受け入れることのない器官を侵される
小さな氷塊とはいえ、強い刺激がメイドを責めたてた
「ヒ、ヒギィ……」
制止の言葉も出せない
それをいいことに、主人は調子にのる
ツプッ、ツプッ……
「アッ、アヒィ……!!」
二つ、三つ……
大きな塊、小さな塊、長い塊、太い塊、角ばった塊……
新たな氷を、どんどん押し込んでいった
342折檻:2009/09/22(火) 00:53:27 ID:vdo/ZYzs
「沢山呑み込んだな」
水差しの氷をすべて使いきった主人が、揶揄するかのように問いかける
「お……願い、とっ……て
苦し、い……」
ガクガクと身体を震わせながら、メイドは哀願した
「なんだ。もう要らないのか」
意地悪く訪ねる
「取ってやるから、自分で開け」
まだ、責めを弛めるつもりはない
「……クスン」
小さな嗚咽を洩らしながら、メイドは従順に従った
小さな手を伸ばし、自らの秘所を割り開く
まだ肉付きの薄い尖った尻のあわいの奥、隠されていた菫色の蕾が露にされる
しっかりと締まり、傷もない放射状のシワが収縮するソコは、用途が信じられないほど、美しく愛らしい
しかし、

プ、プッ……
「イヤァッ!」
割り開かれた拍子で、幾つかの氷が飛び出した
羞恥に身を捩るメイド
「イヤじゃないだろ
まだ入ってるぞ」
パンッ
再度、尻を叩く
ププッ
また、幾つか……
パンパン……
調子にのって何度も叩くが
「出なくなったな」
「ウ、アアッ…」
広がりきったアナルの縁に、大きな氷塊が引っ掛かっていた
慎ましかった小さな穴がしなやかに拡がり、シワがほとんど延びきっている
透明の氷が透けて、中まで覗けた
343折檻:2009/09/22(火) 00:55:48 ID:vdo/ZYzs
グチュ……
「ホラ、もっと息まないと出ないぞ」
「ヒィィ!!お許し下さい」
凄まじいまでの淫蕩な姿を堪能した後、主人は再度チョッカイを出し始めた
少しだけ顔を出した氷塊を、ゆっくりと押し込む
そのまま指を突っ込み、くじり倒した

指を激しくピストンさせる
腸壁を擽る
まとめて突っ込んだ指を、中で拡げる
中の氷を掻き回す
開ききったアナルの縁を、爪でなぞる
指を押し込んだまま、舌先でシワを舐めあげる……

「ヒイッ、ヒギィ……」
どさくさ紛れに、ヴァギナにまで指を埋め込み、間の薄い肉をつまむように刺激した
アナルからは冷水が溶けだし、ヴァギナからは淫水が溢れ出す
「アクッ、ヒィッ!」
高まっていくメイドの淫声

チュポンッ
「エッ!?」
食いつくように締めつける双穴から唐突に、主人の無骨な指が引き抜かれた
「駄目だな
此方の穴からでは、奥に押し込むばかりだ」
白々しい諦めの台詞
達する直前、お預けをくらったメイドはオギオギと腰をにじらせながら、潤んだ瞳で振り返った
「ご、ご主人さまぁ……」
「ン、どうして欲しい」
メイドを見下ろしながら、傲慢に尋ねる
「……シテ下さい」
「何をだ」
淫心を完全に引かせないよう、主人は緩やかに尻を撫で、アナルやヴァギナの縁を掠め続けた
焦らしながら、肉体の求めに狂うメイドに、完全な屈伏を求める
「ご主人さまのペニスで、卑しいアリサのヴァギナから、アナルの氷をほじり出して下さい」
ウウッ……
肉欲に耐え兼ね、メイドはすすり泣きながら懇願した

ズンッ
「ヒアッ!」
すぐさま、突き込まれる熱い肉槍
心まで突き崩すような激しい挿入に、メイドは声も出せない
ビリッ
勢いあまった主人は、メイド服の背中を合わせ目から引きちぎる
露になる、白く薄い背中
首筋から指を這わし、背筋を撫で下ろしながら腋に抜けた
344折檻:2009/09/22(火) 00:57:46 ID:vdo/ZYzs
ギュッ
「ギッ!?」
テーブルに突っ伏していたメイドが、上体を反らす
脇から侵入した主人の手が、両の乳房を激しく掴んだから
「相変わらす貧弱な躰だ」
手の内にすっぽりと納まってしまう小振りな胸を、容赦なく揉みしだきながら、主人は揶揄した
「も、申し……訳、ご、ざいま……せん」
苦しい息の中、無慈悲な主人の罵倒に、それでも従順に詫びを入れるメイド
先ほどの反抗的な態度が、まったく息を潜めている
「どうする?
刺激を与えれば、少しは大きくなるかも知れんぞ」
主人は、意地悪く尋た
あくまで、メイドに求めさせる積もりなのだ
「ご、ご主人さま
私の貧弱な躰が育つよう、乳房を握り潰し、乳首をつまみ上げて下さい」
メイドは恥辱に震えながらも、自ら主人に応えた

ギリッ
「アギィ!」
主人は強制した懇願に乗じて、容赦なく幼い乳房をいたぶった
揉みしだき、掴みあげ、捻り潰し、握りしめた
苦痛でしかない筈のそれらの行為が、下半身に与えられる快感と相まって、メイドの躰を昂らせる
「ご主人さま、ご主人さまぁ……」
自ら腰を振り、主人の責めに応えたながら、メイドは止めを懇願した
「どうした?
氷はまだ出て来ないようだが」
メイドは主人の言葉の意味を、正確に察知する
前で主人を喰わえ込みながら、両の指を自らのアナルに捩じ込み拡げあげた

グニッ
さんざん弄られたアナルは、しなやかに応え、中が覗けるほどポッカリと開く
「ご主人さまの熱いモノで満たし、氷と私を溶かして下さい」
行為と裏腹に、羞じらいを残した口調でメイドは再度懇願した

グチュ
「アッ!」
最早、主人にも余裕はない
絡み付くようなきついヴァギナから、猛り狂ったペニスを引き抜くと、すぐさま上の穴に突き込んだビクン!
「……ッ!」
声も出せずに、激しく躰を反らせるメイド
反動でテーブルから跳ね上がる
よろけた主人は、メイドと繋がったまま後ろに倒れそうに……
345折檻:2009/09/22(火) 00:59:55 ID:vdo/ZYzs
ドスン
丁度、後ろにあった椅子に着地した
グチュ!
「………………ィッ!」

チョロチョロ……
自分の体重全てが掛かった勢いで突き込まれ、メイドは達してしまった
激しい刺激に耐えきれず、尿まで漏らして……
「アッ、アッ、ヤァッ……」
メイドは気付いたが、躰が痺れるようで止められないようだ
主人の膝に、後ろで繋がったまま座り込む、丁度幼女にオシッコさせるような姿勢から出し切った

「エッ、ヒグッ…」
ショックで泣き出してしまったメイド
「ごめんなさい
ごめんなさい、ご主人さま」
『……なんだ、まだガキじゃないか』
雇った当初から、態度はでかく口は悪い
安いが取り柄のようなメイドだった
だが、一月以上居付いたのも、こいつだけだ
まあ、なんとなく……
「ああ、いい。怒ってないから
お前は悪くない」
主人は、慰めるように頭を撫でる
『ああ、らしくねえ』
「……ご主人さま」
メイドは不思議そうに、振り返った
クチュ
「アンッ」
その動きで挿入部が刺激された
考えてみれば、とんでもない状態である
とりあえず主人は、メイドを膝から下ろそうとするが……
「待って、ご主人
アリサは悪いメイドです」
メイドが抵抗した
「どうかこのままお仕置きして下さい」
潤む瞳で訴える
「アッ!?」
挿入したまま、やや萎えかけた主人が、グングン膨れあがった
「アアッ」
「こんなに締め付けて
悪いコだ」
グチッ、グチッ……
膝の上のメイドを持ち上げ、突き落とすを繰り返す
合間に、両の手で胸やヴァギナを弄り廻した
「ご主人さま
お慈悲を、お慈悲を……」
メイドは首を捻り、瞳で懇願する
クチュ……
主人は欲求に応えた
「「………………ッ!!」」
二人はくちづけを交わしながら、同時に果てていった……
346折檻:2009/09/22(火) 01:05:58 ID:vdo/ZYzs
いい香りに包まれ、うたた寝から目覚めた
掛けてあった布が、パサリと床に落ちる
テーブルに突っ伏したまま寝ていたからか、体のあちこちが痛んだ
「お目覚めですか?ご主人さま」
メイドが声を掛けてくる
見れば分かるだろう
相変わらずの、短気が顔を出す
コトッ
カップと皿が目の前に置かれた
「もうじき出来ますから、それでしのいで下さい」
確かに、腹は減っていた
しかし、クラッカーはともかく、カップスープ……
「おい、珈琲を……」
「空腹に珈琲は良くないです
只でさえ飲み過ぎなんですから
食後にお出ししますので、我慢して下さい」
ムカッ
「なんだ……と」
何時ものように怒鳴りかけ、やっと事態に気がついた
何時ものメイド
白いエプロンも、何時もの物
ただ、何時ものメイド服ではない
……と言うか、服を来ていない
「御飯の支度しますね」
メイドは調理台に向き直る
透き通るような白い背中と、赤みの残る形よい尻
クラッ
『また、やっちまったのか?』
夢のような出来事を反芻する
確かに、ズボンは湿っぽい気がする
いろんなモノで濡れた筈の床は、もう拭われているようだ
その床に落ちていた布
さっきまで掛けられていたものだが……
引き裂かれたメイド服だった

全身に脱力感が襲いかかってきた
『研究で、徹夜を繰り返し、ろくに飯もとらず篭っていたからとはいえ、なんちゅうことを……』

情けない事実にヘタリ込みながら、メイドの背を見詰める
小気味よく動きながら、調理をしていた
怒っていたのは、体を心配してのことだろう
どうしても、引きこもり状態を止めさせようと……
今も、服も着替えず食事の支度をしてくれている
服も着替えず
着ず……
………
……


ギュウ
347折檻:2009/09/22(火) 01:09:10 ID:vdo/ZYzs
「エッ?ご主人さま」
「お前が食いたい」
可愛く動く、白い尻に引かれた
我慢できずに背中から抱く
「だ、駄目です
丸一日以上食べてないんですよ
お身体に障ります」
「スープ飲んだ
クラッカーも食った」
「……でも」
「本当に嫌なら我慢するが、また研究室に篭る」
まるで、子供のような駄々
「もう……」
呆れ顔のメイド
「ちゃんと食べて、寝てくれますか?」
「約束する」
「後、もうひとつ」
少女は顔を赤らめた



「ちゃんと名前を呼んで下さい」







ps.
アリサの日記

今日、ご主人さまのお篭り終了
適度な運動で食欲を回復
お腹を脹らませ、睡眠に誘う

私にもお情けを頂けたし、お通じも良くなった
オマケに制服も新調して貰える

有意義な一日だった

fin
348名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 23:36:15 ID:DXY/2abX
GJGJ!!
349名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 07:15:48 ID:p0dzNfSo
日記可愛いなw
350 ◆dSuGMgWKrs :2009/09/24(木) 20:56:09 ID:VnzHfCV4
『メイド・莉子 5』

陽子さんの容態が変わった。

それだけを聞いて、俺は家を飛び出した。
高速をかっ飛ばして、病院の受付で地団太を踏みながら時間外面会の手続きをした。
分厚いじゅうたんを敷きつめた廊下を小走りに駆けて、特別室の扉を引く。
看護師が、軽く頭を下げた。
少し起こした、医療器具に囲まれたベッドの上で、まだ青白い顔をして、陽子さんがまぶしそうに俺を見た。
半年振りに、陽子さんは目覚めた。
少しも変わらない、懐かしい笑顔で、俺を呼んだ。
「……なっくん」
おはよう、陽子さん……。

半年前の飛行機事故。
多数の重軽傷者と三人の死者を出したその事故で、俺はタカシナグループ代表の父親と跡取りの兄貴を失った。
そして、その飛行機に乗っていたもう一人の家族、継母はこん睡状態に陥ったのだ。
意識を取り戻す可能性は高くない、と医者は言った。
できるだけのことを望んだ俺は、継母である陽子さんをこの専門病院の特別室に入院させ、毎週土曜の面会日に通った。
そして、眠ったままで人形のような陽子さんに、俺はいろんな話をしてきた。

俺が初めて陽子さんに会ったのは、親戚のやっているピアノ教室で、音大生だった陽子さんはそこでアルバイトをしてた。
ピアノを習い始めてすぐ、俺の手を引いて家にやってくると、那智くんにもっとちゃんとピアノを勉強させてくださいと親父に直談判したんだ。
この子は天才です、と。
世界のタカシナの社長に、一介の女子大生が。
親父は驚いたけど、陽子さんのいうとおり俺を高名なピアノ教師に預け、結果俺は神童と騒がれ、天才少年ピアニストとして世界を飛び回ることになった。
そして、早くに妻に死なれた親父は、陽子さんを手に入れたのだ。
親父は齢の離れた後妻をかわいがったし、陽子さんは俺のステージママとして忙しくしながらも親父とも仲が良かった。
俺も兄貴も、陽子さんが大好きだったんだ。

目を覚ました陽子さんは、親父と兄貴が半年も前に亡くなっている事を聞いても、驚かなかった。
飛行機の中の記憶までしかないはずなのに、なんとなく知っているような気がするわと言った。
なっくんが、ずっと眠っている私に話をしてくれていたせいかしらね、と。
そして、泣いた。
その後、俺がピアノをやめてタカシナの社長になっていると話したときは、驚いた。
なっくん、ほんとに?
ほんとにもう、ピアノ弾いてないの?
俺は叱られた子供のような気がして下を向いた。
なっくんのシューベルト、好きだったわ。
ごめん、陽子さん。
親父と結婚した陽子さんはあまりに若くてきれいで、俺は恥ずかしくてついに一度もお母さんと呼ばなかった。
そして今また陽子さんは、俺にいってらっしゃいと手を振ってくれた半年前の朝と同じように微笑んでくれる。
病院の特別の配慮で、俺はそれから三日間を陽子さんの部屋で過ごした。
窮屈で固い介添人用の簡易ベッドも、気にならない。
「季節が変わっていて、びっくりしたわ……」
果てしなく続く検査の合間に、車椅子を押す俺に陽子さんがぽつんと言った。
陽子さんの大好きだった親父も兄貴もいなくなっちゃったけど、俺が、たった一人の家族になっちゃったけど。
せいいっぱい、がんばるから。
安心して、家に帰ってきていいよ。
ふっと陽子さんが微笑んだ。
「なっくんが社長って呼ばれるとこ、見れるのね」
それは、恥ずかしい。
「ちょっとは、聞きたいけど……、なっくんの」
聞き取れないほど小さな声で、陽子さんがつぶやいた。
なっくんの、ピアノ。
きっと、そう言いたいんだろう。
もうまるで動かなくなっただろう指を握り締めて、俺は聞こえないふりをするしかなかった。
351 ◆dSuGMgWKrs :2009/09/24(木) 20:56:48 ID:VnzHfCV4
家に帰ったら、さぞ機嫌を取るのに苦労するだろうと思っていたのに、莉子は怒ったり拗ねたりしていなかった。
メイドに無断外泊を叱られるとびくびくしながら帰宅した俺は、軽く拍子抜けしたくらいだ。
「……長尾さまが」
うらめしそうにするどころか、遠慮がちに莉子が言う。
あ、長尾の草野球を見に行く約束をすっぽかしたんだった。
「うん、あとで……、電話して謝る」
いつものソファにどっかり腰を下ろして、俺はやっと疲れを感じた。
陽子さんと過ごした時間は楽しかったけど、急なことで興奮していたし、固いベッドでの付き添いもあった。
莉子がちょっと脚を揉んでくれたりしたらいいんだけど、やっぱりダメか。
顔を上げると、莉子はドアの横に直立して、少し前の床を見つめている。
やっぱり怒ってるよな。
うん、あいつが怒らないわけはない。
なんせ、三日も留守にしたんだ。
ぷんぷくりんのぱっつんぱつんに膨れ上がっているはずだ。
「……莉子」
呼んでみた。
「はい」
短い、返事。
おかしいぞ。
そんな、メイドみたいなことするなよ。
俺が主人みたいじゃないか。
「怒ってるんだろ」
莉子はうつむいたまま、前で組んだ指を動かした。
「なぜですか」
「聞こえねえよ。そんな遠くでぼそぼそしゃべったって」
俺は脚でカーペットの床を蹴った。
「ぐずぐずしてないでこっち来い、バカ」
莉子はのろのろと近づいてきた。
いつもはぴょこぴょこ跳ねて来るのに。
莉子が俺の足元に座り込み、ふくらはぎに腕を回す。
「怒るなよ。悪かったよ。今度から黙っていなくなったりしないから」
なんで俺はこんなに自然にメイドに謝ってるんだ。
莉子は俺の脚にぎゅっとしがみついた。
「旦那さまは、わたくしのこと怒ってらっしゃるのでしょう」
「なんでだよ」
「……わたくしが、バカだから」
昨日今日、初めてバカになったような言い方をする。
「莉子のバカは、とっくにわかってるじゃねえか」
「でも」
ぐすんと鼻をすする。
俺の脚で鼻水を拭くな。
「わたくし、旦那さまが毎週お出かけになるのに、嫌な事を言いました」
出かけないでもっといちゃいちゃしろとか、そういうことか。
「奥さまのこと……、存じ上げませんでした」
それは、俺が言わなかったから。
陽子さんがこん睡状態で入院したのは、莉子がうちに来る前からのことだし。
「旦那さまが、とても奥さまのこと心配してらしたのに……」
そんなふうに言われるのが嫌だったんだ。
「わたくし、わがままばかり言って、食いしん坊で甘えん坊で」
ま、それは嫌いじゃない。
「……奥さまがお目覚めになったのですし、旦那さまはもう、わたくしのことなんて構ってくださる暇もなくて」
そんなわけないじゃねえか。
俺はこれからも毎日ここに帰って来るんだし、その時莉子がいないと……困る。
352 ◆dSuGMgWKrs :2009/09/24(木) 20:57:23 ID:VnzHfCV4
「奥さまがお元気になられてお帰りになったら、使用人のことなど内のことはこれまでどおり取り仕切られるって、執事の」
「ハゲがそう言ったのか」
「……わたくしのように出来の悪いメイドは、いくら旦那さまがお許しになっても、奥さまから見て良くなければ、すぐに」
「んなわけないって」
ぐずぐずと莉子が涙声になる。
「れ、れも、もっとちゃんとしないと、わたくしなんか、旦那さま付を解任されたり、お屋敷を解雇されたりするって」
「ハゲの野郎……、俺のいない間になに勝手なこと」
陽子さんはそんな意地悪じゃないし、この家の当主は俺だ。
俺が莉子をそばに置くって決めたら、それは決定なんだ。
「それで、普通のメイドみたいな真似してたのか」
「わたくしらって、やれば、れきます」
ああもう、ほら、ティッシュ。チンしろ。
俺は莉子の頭をなでた。
あれ?
「髪、どうした。使ってないのか」
俺が会社から貰ってきた髪留めを、莉子は日替わりで髪に飾っていたのに。
莉子は鼻をかんだティッシュをエプロンのポケットにしまった。
「……あれは、前からずっと注意されてました」
またハゲか。
「それと、母屋のメイド長ですとか。勤務中に、派手過ぎるって」
「……俺が使えって言ったって、言ってやれ」
はふん、と莉子が変な息をついて、俺の膝にあごを乗せた。
「だめです。そんなことしたら、メイド仲間にいじめられます。人間関係って、難しいんです」
「だけど、俺が言ったんだから」
「特別扱いって、反感を買うんです。旦那さまはお坊ちゃまですから、おわかりになりませんけど」
なんだ、その生意気な言い方。
いつもの調子が戻ってきたじゃないか。
莉子はそうでないと、つまんないからな。
「じゃあ……、なんかやるよ。誰にも叱られないような、なんか」
言ったけど、具体的に思いつかない。
莉子がうふ、と笑った。
俺の膝にあごを乗せて、顔の両脇に手を添えて、猫みたいに見上げてくる。
「それはもう、証拠の残らないものが一番です」
食いしん坊め。
「晩メシ、食ったか」
莉子はちょっと目を伏せて、わずかにほっぺたに空気を貯めた。
「いただきました。母屋の厨房で、他のメイドと一緒に。ビーフシチューとシーザーサラダとオムレツと、パンナコッタ」
豪華じゃないか。
俺なんか、病院で陽子さんのおこぼれと売店の菓子パンだぞ。
「でも」
莉子が俺の脚を指先でぐりぐりした。
いつかそこ、穴が開く。
「旦那さまが、いらっしゃいませんでした」
シェフが作った、ほかほかのディナーより、俺と一緒の冷めた弁当のほうがいいのかよ。
まったく、困ったメイドだな。
「約束したじゃねえか。莉子は、ここで俺を待っていればいいんだよ。絶対帰ってくるんだから」
俺の言った言葉のなにがツボにはまったのか、莉子はくふくふ笑いながら俺の膝によじのぼると、首に抱きついた。
「はい。ぎゅるぎゅるにして、お待ちしております」
待ってるのは俺か、弁当か。
353 ◆dSuGMgWKrs :2009/09/24(木) 20:58:43 ID:VnzHfCV4
してもいいな、と思ったけど、莉子はくっついてるだけでいいですか、と言った。
ただ、旦那さまにぴったりくっついていたいんです。
腕も脚も俺の体にからめて、莉子は俺の存在を確かめるようにくっついた。
そっか。
莉子は莉子なりに、心配してたんだな。
俺が陽子さんのことですっかり舞い上がっていたこの三日間、莉子は不安だったんだろう。
悪いことしたな。
俺は莉子をきゅっと抱きしめて、耳もとでバカメイドのいびきを聞きながら眠った。

翌朝、会社に行くと秘書のオバサンが、控えめに陽子さんのことを言った。
以前に何度かお見かけしたことがあるだけですけれど、本当に良かったです、と。
自分でも意外なくらい、するっと「ありがとう」という言葉が出た。
ずっと、自分の中でひっかかっていた塊が溶けた気がした。
「サザンクロスデリバリーの長尾社長から伝言をお預かりしております」
草野球を見に行く約束をすっぽかしたのを謝るのを、忘れてた。
伝言は、次にある草野球の試合時間、場所だった。
活発なチームなんだな。
俺は交換した長尾のアドレスに、簡単な事情と謝罪、次は必ず行くというメールをした。
陽子さんは、俺が草野球を見に出かけていくなんて聞いたら、びっくりするかな。
俺は陽子さんに会いに行く週末の予定にそなえて、平日はめいっぱい莉子の機嫌取りに励んでいた。
「はむ、んぐ、べつに、わらくしは、だんなさまが、おでかけなさるくらいれ、いちいち、んぎゅ、怒ったりは、いたしませんけれろも」
チーズハンバーグのトマトソース煮を口いっぱいに詰め込まれて、莉子が俺の膝の上で強がった。
バーカ。
ちゃんと、帰ってくるから。
ここで待ってろ。


陽子さんは、あまりに長く眠っていたので、目を覚ました後も様々な検査や治療のためにまだ入院していなければならなかった。
俺は変わらず土曜の面会時間に陽子さんを尋ね、今度は笑ったり驚いたり相槌を打ったりしてくれる陽子さんを相手におしゃべりをした。
「なっくんは、こーんなに小さい頃からそれはそれは上手にピアノを弾いたもの。社長の仕事だって、慣れれば上手にできるわよ」
慣れの問題なのかな。
俺は返事に戸惑いながら、そうだねと答えた。
陽子さんは少しずつ回復して、この調子なら間もなく退院して自宅療養が出来るだろうということだった。
容態が安定したことでやっと安心して、俺は長尾の草野球チームの試合を見に行った。
チームのメンバーは、長尾に紹介された俺をタカシナの社長と知っているはずなのに、同年代の友だちのように接してくれる。
それが不慣れでくすぐったくて、楽しかった。
その日、俺にいっぺんに十人以上の友達ができたんだ。
試合の後の打ち上げは、長尾の会社のデリバリーが大盤振る舞いされ、賑やかに盛り上がる。
残った料理を奪い合っているのは、独身の連中だろうか。
ほら、高階くんもと手渡された紙袋を受け取ってとまどっていると、長尾がくすくすと笑っていた。
長尾がぽんと俺の肩を叩いた。
「来週は、素振りから教えるよ。……高階くん」
よし、バットを買いに行かなくては。
グローブも、ボールも、靴も、練習用のウェアも。
そういうのはどこで買えばいいんだろう。
きっと、長尾に聞けば教えてくれる。
陽子さんは、おれが自分で草野球をやるなんて聞いたらなんて言うかな。
きっと、もう指を心配しなくていいものねと喜んでくれるだろう。
浮き立つ気分のまま、俺は皿に残っていたフライをプラスチックのフォークで刺した。
フォークには、前に弁当に入っていて、莉子がかわいいと言っていた竹串の飾りと同じ模様が施されていた。
ソースの入っている花形のカップにも見覚えがあった。
以前、秘書のオバサンが、長尾の会社は容器にも工夫をしていると言っていたことを思い出した。
泥だらけで草野球をやって、くだらないことを話題にしながら大笑いをしていても、長尾はやっぱり社長だ。
「……長尾」
「ん?」
隣で誰かと話をしながら笑っていた長尾が振り返った。
「このフォーク、どっから仕入れてる?」
長尾が、ニヤッとした。
354 ◆dSuGMgWKrs :2009/09/24(木) 20:59:20 ID:VnzHfCV4
「旦那さまが、土曜日のたびにお出かけになるのは、我慢いたします。他でもない、陽子さまの…、奥さまのお見舞いですし」
莉子がほっぺたをぷんぷくりんにした。
「でも、日曜日も長尾さまとお出かけなさって、最近は平日のお帰りも遅くなりがちで」
俺の膝枕で寝転がって、莉子は不機嫌に顔をしかめる。
確かに、最近俺は忙しい。
俺は部下に頼んで、経営を一から教わることにしたのだ。
長尾に聞くと、たかが飾りのついたフォーク、くらいに思っていたことが意外に深い戦略だということがわかった。
見た目のかわいい容器というだけでなく、内容や価格、売り出す場所や時間帯の工夫。
聞けば聞くほど、莉子が長尾の作戦にすっかり乗っかっていたのがわかる。
長尾は若いがやり手、という秘書の言葉は当たっていた。
「そういうことに興味を持つというのも、経営者の素質ですよ」
自分で言うのもおかしいですけどね、と笑う。
じゃあ、前に莉子が喜んだ髪飾りも、ただ髪を留めるだけじゃなくて、いろいろな工夫があるんだろうか。
女の子が飛びつくような、なにか。
そう言うと、秘書のオバサンは張り切って経営学のプロフェッショナルをかき集めてきた。
いきなり、ハードル上げすぎだろ。
毎日をボンヤリとパソコンの前で過ごしてきた俺は、あらゆる専門家を教師に、山ほどの資料を積み上げて講義を聞き、ノートを取り、質問をした。
ピアノだけを弾いていた時にさえ感じたことのない学習意欲が沸いて来ているのだ。
週末の土曜は陽子さんの見舞いへ出かけ、日曜は草野球を見たり、ジムで走って基礎体力をつけたりする。
前とは比べ物にならないほど時間が飛ぶように過ぎていく。
平日も家に帰ってから復習をしたり、読んだことのない経済新聞を赤ペン片手に読んだりする。
莉子は黙ってドアの横に立って、俺の勉強を邪魔しないように気配を消していた。
そんなことがここしばらく、続いている。
俺は莉子のくるんと巻いた猫っ毛を手でなでた。
長尾が届けてくれたサザンクロス新発売の弁当を食べて満腹になっている莉子は、俺の腹に顔を押し付けるようにして抱きつく。
よしよし。
「しょうがないんだよ。タカシナの社長って忙しいんだ」
「……今までは、お暇でした」
「今までは、真面目に社長やってなかったからな」
「真面目に、社長をなさってるんですか、今」
キツイこと言う。
「ま、社長になれるように、がんばってんだよ」
「タカシナの社長は、野球もなさらないとならないんですか」
「ならないんだよ」
嘘だけど。
「……そうですか」
バカメイドは、騙される。

社長っていうのは、ほんとに忙しい。
勉強もしなきゃならないし、ちょっと覚えるといろんな仕事を持ち込まれるし、長尾は野球に誘うし、
陽子さんの見舞いもあるし、メイドはかまってやらないとすぐに拗ねるし。
それに、陽子さんが退院したら、俺はこの離れに閉じこもっていられないかもしれない。
タカシナの社長であるのと同時に、俺は高階家の当主だから。
陽子さんが莉子を気に入ってくれるといいけど……、どうだろう。心配だ。
「わたくし、真面目じゃない旦那さまも好きでしたのに」
独り言のように、小さな声で呟く。
ちょっと莉子がかわいそうになった。
俺には仕事も勉強も野球もあるけど、莉子には俺しかいない。
膝の上にある莉子の頭を、ゲンコでぐりぐりした。
「俺が真面目に社長やってれば、陽子さんだって子ども扱いしなくなるし、一人前の当主として認めてくれるだろ」
「……マザコンですか」
うるさい。
「そうなったら、莉子がどんなにバカで役立たずのメイドでも、勝手にクビにしたりできないからな」
莉子が、まつ毛をパタパタした。
「ほんとですか」
「ほんとほんと。だから、勉強や野球で疲れた俺の肩とか脚とか、ちょっと揉んでくれ」
はいっ、と莉子が俺の膝から起き上がって、ソファの後ろに回りこんだ。
首と肩をさするようにマッサージしてから、力を入れて揉みほぐし始める。
355 ◆dSuGMgWKrs :2009/09/24(木) 21:00:03 ID:VnzHfCV4
「どうですか、旦那さま」
「うん、ちょうどいい」
あんまり上手ではないけど、莉子が押したりさすったりしてくれるのが気持ちいい。
「旦那さま」
「あ?」
「旦那さまが、急に立派な社長を目指されたのは……どうしてでしょう」
どうして、と言われても。
一生、会社のパソコンの前でネットサーフィンして過ごすのもどうかと思うぞ。
「わたくし、みっつ、考えました」
ほう。
バカのくせに、いっちょまえに。
俺はニヤニヤした。
「言ってみろよ、みっつ。ほら、ひとぉつ」
「ひとぉつ……、は、やっぱり、奥さまです」
ふうん。
「奥さまがお元気になられたので、マザコンでカッコつけの旦那さまは、ちゃんと社長をやっているところをお見せしたかったんです」
マザコンとカッコつけは余計だ。
ま、ハズレじゃない。
なっくんならちゃんと社長もできるわと言われて、あせったのは確かだ。
「ふたぁつ」
俺が先を急かすと、莉子は俺の肩に置いた手に力をこめた。
「ふたぁつめは、長尾さまです」
「長尾ぉ?」
「そうです。長尾さまは、旦那さまよりちょっぴり年上ですけど、同じ跡取りのお坊ちゃまなのに、
あちらはちゃんとご自分で会社を動かしてらっしゃいます。旦那さまは、そこでむくむくとライバル心が沸いたんです」
莉子のやつ、腹を空かせて弁当を待っているだけかと思ったのに、真っ当なことも考えてやがる。
それじゃ、俺は人に影響されるだけで自分からはなんにも出来ない男みたいだな。
実際、そうなんだろうけど。
「みっつめは……」
莉子が、言いよどんだ。
あ、まだみっつめがあったか。
なんだ?
「あの、旦那さまが世界のタカシナの社長として押しも押されもせぬ立派な人物になりましたら」
そりゃまた、大きく出たな。
「……わたくしが、どんなにバカで役立たずでも、お嫌いにさえならなければ、ここに置いてくれますよね?」
あ?
「奥さまや、執事さまや、メイド長や、もしかして会社のどなたかが、あんなバカメイドはクビにしてしまえと
言っても、旦那さまに力があれば、ええいやかましい莉子は俺のメイドでい、って、わたくしを守ることが出来ます」
「俺が、お前をリストラから守るために経営の勉強をしてるっていうのかよ」
「……ちがいますか」
いて、その筋をぐりぐりするな。
「ずいぶんうぬぼれたもんだな、あん?」
振り向くと、莉子はちょっとだけ唇を尖らせてうつむいていた。
「……いいです。じゃ、最初のふたつだけで」
俺は後ろに手を伸ばして莉子の腕をつかんだ。
「こっち来い、バカメイド」
莉子は素直に俺の前に回ってくると、足元に座り込んだ。
「俺は、莉子に約束しただろ」
莉子がひとさし指をあごに当てた。
「どのお約束でしょう。わたくしのこと大事にしてくださるとか、そのうちピアノを教えてくださるとか、
ちゃんとここにお帰りになってくださるとか」
……そんなにあったっけ。
「うん、まあ、そんなとこだな」
「あと……」
調子に乗るな。
「いいよ、みっつめも。せっかく考えたんだ、全部カウントしとけ」
ふにゅん、と莉子が鳴いた。
356 ◆dSuGMgWKrs :2009/09/24(木) 21:00:48 ID:VnzHfCV4
莉子さん、俺、したいんですけど。
なにをですか。
そりゃその、それだよ。
そういうの、いけません。
なんで。
わたくしが拝見した旦那さまのDVDでは、そうではありません。
おま、莉子、俺の留守にDVDまで見てるのかよ。
もっとこう、ロマンチックに誘ってください。
そういうの苦手なんだよ。
やってみてください。お勉強です。立派な社長になりますのでしょう。
それは関係ないだろ。
いいですから、ほら、どうぞ。
どうぞって……、あー、その。
はい。
や……、やろうか?

莉子のほっぺたがぷんぷくりんになった。
「DVDでは、男の人が女の人をこう抱き寄せまして、好きとかかわいいとか」
めんどくさい奴だな。
「好き好き、かわいいかわいい。だからさ、あっち行ってしよ……」
痛い痛い、噛み付くなバカ。
「もう、旦那さまってば、半人前です」
なに言ってんだ、バカ。

文句ばっかり言うくせに、莉子は俺が立ち上がると嬉しそうにぴょこんぴょこんと付いてきた。
お風呂にしますね、とバスルームに行く。
また莉子好みのぬるい泡風呂らしい。
確かに肌はつるすべになるからいいけど。
莉子はこれでもかというくらい泡を立てて、俺の体に塗りたくる。
「立派な社長は、お肌もつるっぺかじゃなくてはいけません」
「誰も見ねえよ」
「わたくしが拝見します」
「莉子は俺が立派な社長だろうがナマケモノだろうが、関係ないじゃねえか」
「いけません、リストラがかかってます」
自分自身ががんばってリストラされないようにしようとは思わないのか。
泡の中で絡みついたり、バスタブの外で柔らかいタオルでボディソープを泡立てて体を擦ったりする。
「旦那さまは完熟桃の柔肌ですから、そおっと擦りますね」
椅子に座らされているから、目の前に莉子のおっぱいが来る。
ちょっと突っついてみると、莉子が体をよじった。
「もう、いたずらなさってはだめです」
いいじゃないか、減るもんじゃなし。
「減ったらどうします、減ってからでは遅いです」
小学生の口喧嘩か。
莉子が湯桶にたっぷりとお湯を溜める。
うわ、それちょっと待て。
制止するまでもなく、莉子はそのお湯を俺の頭からざっぱりとかけた。
「ぶは、だから、シャワー使えって!」
俺はちゃんと莉子を洗ったあと、シャワーで泡を流してやってるのに。
「これだといっぺんに済みます」
ほんっとにバカだな。
ったく、俺がちゃんとした洗い方を教えてやるからそこに座れ。
「タカシナの社長は、メイドを洗うのもお上手ですか」
からかうんじゃねえよ。
「でも、そんなに同じとこばっかりですと、いかがかと」
バレたか。
泡だらけになったおっぱいから、ちょこっと乳首の出てるのがいいんだけどな。
ほら立て。ケツも洗うから。
あんとか言うな、興奮するじゃねえか。
357 ◆dSuGMgWKrs :2009/09/24(木) 21:01:21 ID:VnzHfCV4
ちゃんと髪も体もシャワーで丁寧に流してやって、バスタオルで包んで上からパフパフする。
こういうのでいいんだよ、わかったか。
「はふん、いい香りがします」
バスタオルにミノムシみたいに包まれて、俺に抱きつく。
俺と同じ匂いじゃねえか。
さっさと俺も拭け。
莉子がバスタオルを自分に巻き付けたまま、俺の周りをコロコロした。
交代で髪を乾かすと、莉子はちょんと俺の膝に乗った。
「旦那さま」
「あ?」
「……好き」
DVDの真似か。
「違います。ほんとに」
うん。
知ってる。
俺はミノムシの莉子の肩を抱いて、引き寄せた。
莉子が目を閉じる。
目尻にキスすると、ぷくんとほっぺたに空気をつめこんで目を開けた。
「そこですか?」
がっつくんじゃねえよ。
俺は莉子の背中を押して膝から落とし、つんのめる莉子を転がすように押してベッドに放り込んだ。
「旦那さまあ」
なんだよ。
「扱いが適当です。もちょっと、そうっとそうっと」
「注文多いな。そっとな、そっと。えい」
バスタオルの端をつかんで引っ張ると、莉子がベッドの上でころんと転がった。
湯上りでピンク色になった素っ裸の体がこぼれ出る。
「やあん、ちょっ、ひゃっ」
ベッドに飛び上がって、莉子の足首をつかんで上に乗りかかる。
「よいではないかよいではないか」
「あ、そういうのもございました、DVDに、きゃっ」
バーカバーカ。
つるつるのふくらはぎや太ももにカップリかぶりついてやった。
ひゅえっ、と莉子が変な声を上げた。
どうだ、俺はいつも噛み付かれてるんだ。
……噛み付くのって、けっこう楽しいな。
莉子の脚にかぷかぷと薄い歯型を付け、ぱっくりとカカトをくわえ込んだ。
「んにゃっ、旦那さま、へんたっ」
みなまで言うな。そうだ俺は変態だ。
俺に足を食われて、莉子がじたばたする。
人の顔を蹴るな、バカメイド。
二本の脚を交互に噛んだり舐めたりしてると、莉子の抵抗が弱くなってきた。
「……うん、旦那さまあ」
おっ、脚も感じるのか。
ふっくらした膝の裏とか、小さな桜色の爪のついた足の指とか、ちゅぽんちゅぽんと舐めていると、莉子が両手でぱたぱたとシーツを叩いた。
なんだよ、人が楽しんでるのに。
俺が脚をはなすと、莉子はベッドの上でくるんと丸くなって俺の足元にすっぽり入り込んできた。
「そ、それも、こう、むずむずして、とてもよろしいのですけど……」
白い背中にうっすら浮き出た背骨にそって指をすべらせると、ぴくんと揺れた。
「……そっちは、旦那さまが、遠いので、寂しいです」
足元にいると、遠いのか。
仕方ないな。
莉子の肩を抱いて、あごに指をかける。
いつもと同じ、ぷるんぷるんの唇を吸い、舌で唇を割る。
莉子の口の中の暖かさが、心地いい。
夢中でキスしていると、下腹が熱くなる。
今すぐ、莉子が欲しい。
358 ◆dSuGMgWKrs :2009/09/24(木) 21:02:00 ID:VnzHfCV4
舌を絡めながら、手ごろな大きさの胸を下から揉み上げた。
つんと尖ってきた乳首を指先で弾く。
莉子が腰を浮かせるようにして俺にしがみついた。
「旦那さま……」
莉子の膝が、俺の股間に入る。
そこが丸い膝頭で押されて、むずむずした。
「……いかがですか」
莉子がいたずらな目で俺を見上げた。
こいつ、計算してるな。
俺はちょっと腰を上げて莉子の膝の上にそれを乗せた。
「……まっ」
ぽん、と顔を上気させて、莉子はそれをそっと手に取った。
左手の上に乗せて、右手でそろそろと撫でる。
俺のそれは、手乗りインコじゃねえよ。
「でも……、こうしますと、ほら。おっきくなります」
遊ぶな。
「どのくらいになるんでしょう、あの」
なでたり、つついたり、つまんだり。
やめろって、それ、気持ちよすぎるから。
「このくらい、だと、もう、よろしいんですか」
張りをもったそれが、ぽろんと莉子の手から飛び出した。
うん、このくらいになるといいんじゃねえか。
莉子の中に入るのに、ちょうど。
手の平を上にして莉子の脚の間に滑り込ませる。
「ん、あん」
しっとりと湿ったそこをかき分けて、指を入れる。
下からなぞり上げるように何度も動かすと、莉子の体からくたっと力が抜けた。
「ああん、旦那さま……」
莉子の体を倒して、脚の間に入る。
顔を埋めて鼻先を押し当てる。
莉子の匂いと一緒に、ぬめっとした感触。
もうこんなに濡らしやがって。
舐め取るように舌先を滑らせると、莉子が切ないような声を上げた。
「うんっ、あっ」
莉子の両手が宙を泳ぐ。
それをつかんでやると、体を起こして俺に抱きついた。
「も、や……、あ……、な…那智…さま」
これは、おねだりか?
俺はベッドサイドの引き出しから箱を取り、その中に指を入れて小袋をひとつ掴み取る。
端のほうを割いて取り出し、もぞもぞしながら装着する。
毎回手こずってるうちに莉子が冷めてしまうんじゃないかと思うが、莉子はうっとりした表情のまま俺の脚を指先でつついている。
莉子の腰をつかんで持ち上げた。
シーツに膝をついて、莉子が俺の首を抱いたままゆっくり腰を落とす。
「…ん、……ああ、っ」
引っかかり、つかえるような感覚の後で、莉子は俺を飲み込んだ。
はあ。
気持ちいい。
359 ◆dSuGMgWKrs :2009/09/24(木) 21:02:29 ID:VnzHfCV4
莉子が脚を使って腰を上下させ始めた。
肩に置かれた莉子の手の平から体温が伝わってくる。
喉を反らせて胸を揺らしながら、莉子が一心に動いた。
ねっちょりとしたいやらしい音。
はあ、はあ、という莉子の息遣い。
擦られるたびに、高まっていく快感。
うわあ、すげえ。
莉子の動きが遅くなる。
ついに俺の上に座り込んで、息をついた。
「旦那さま……、ずるはなしです」
ずる?
「あん、わたくしばっかり。疲れてしまいます」
バーカ、俺ばっかりのこともあるだろ。
俺はくたびれたという莉子を抱いてベッドにうつぶせにした。
「え、あ、だ、旦那さま」
いつも莉子が恥ずかしいからいやだと言い張っているカッコだ。
いやいやと抵抗するのを後ろから抱え込んで、ムリヤリ腰を押し付けた。
「やあ、いやあ、旦那さまの、ヘンタイっ!」
あっ、と短く声を上げて莉子が体を硬くした。
ヤバイかな。
ほんとに嫌がってるかも。
俺に尻を押さえられたまま、腕を前に投げ出して、シーツにほっぺたをくっつけたまま、うらめしそうに俺を見た。
「……ヘンタイ」
二度も言うな。
「ヘンタイは、嫌いじゃないんだっけ?」
わざとからかうように言うと、莉子はぷいっと顔をそらした。
「焦らすようなヘンタイは……、嫌いです」
ようし。
俺は莉子の下半身を抱きかかえて、膝立ちのまま自分の腰を打ちつけた。
「んあっ、あっ、あ」
莉子の反応がいいような気がする。
角度とか、そういうのがあるんだろうか。
うーん。
フェチの問題だろうか、莉子の背中と尻を見ながらするのも悪くないけど、ちょっと違う。
360 ◆dSuGMgWKrs :2009/09/24(木) 21:03:03 ID:VnzHfCV4
莉子の太ももに手をかけて、横に転がした。
「んきゃ……」
片脚を俺に抑えられて、横向きに倒された莉子がびっくりした顔になる。
「やんっ、もっとヘンタ、あっ」
「これは別に、ヘンタイじゃねえだろ」
莉子の背中側に横になって、後ろから手を伸ばしておっぱいを包む。
柔々と揉みながら、後ろから莉子の中を擦る。
あ、いいかも。これ。
じわじわと暖かい感じが擦れる刺激とあいまって、たまんねえ。
「莉子……」
呼ぶと、短い喘ぎ声を上げていた莉子が俺の手に自分の指をかけた。
「んあ、……那智さま……、や、あん、い、や……ん、あっ」
無理に首を曲げて俺を見る。
「ちゃんと……ちゃんと、見たいです……、那智さまっ」
わかったよ。わがままなヤツだな。
莉子の片脚を回して仰向けにする。
「ああん、那智さま……」
抱きつくなよ、動きにくいじゃないか。
ほら、キス。
ん。
莉子は目をうるうるさせて、俺の腰に脚を巻きつけた。
そっか。
正常位が好きなのか。
つまんねえな。
……いや、俺も好きだけど。
莉子が真っ赤な顔して、出る声を抑えようとしながら抑えられずに喘いでる感じとか、
おっぱいがぷるぷる揺れたり小っちゃいヘソのついたお腹が上下したりするのを見ながらできるからな。
「莉子、どうだ?」
「……ん」
莉子の口が小さく開いた。
かわいいじゃねえか。
どうだ?その、ちょっとは気持ちいいか?
……はい、とっても、あん。
そっか。気持ちいいか。
…俺もだ。
「あんっ、ああっ」
俺の好きな声。
莉子の胸の両脇に手をついて、あとは夢中で腰を振った。
あったかくて、きゅうきゅう締めてきて、ねっとりと絡み付いてきて。
「う、あ、んっ、ああっ、あっ、那智、さま、な……、あ、あのっ」
なんだよ、今いいとこなのに。
「な、ち、さま……は、タカシナ、の、社長ですから、こんなに、すご、あっ」
バカ言ってんじゃねえよ。
こんなことだけ、ちゃんとできたって誰にもいばれねえよ。
喜んでるのは、莉子だけじゃねえか。
あと……俺も。
う。
もう、だめかも。
莉子、イッたかな。
よくわかんねえな。
俺はもう、イく……。
「うあ……、あ」
ああ、またみっともない声を出しちまった。
ま、いいか。
どうせ、莉子しか聞いてないんだし。
361 ◆dSuGMgWKrs :2009/09/24(木) 21:03:36 ID:VnzHfCV4
ゴムが抜けないように抑えて、そっと引き抜く。
ティッシュで包んでゴミ箱に放り込むと、莉子が俺の腕に触れた。
「や、どこ……」
どこにも行かねえよ。
ほら、きれいにしてやるからおとなしくしてろ。
「あん、くすぐったいです」
がまんしろ。
莉子が俺の腕に絡まってくる。
少し息が上がっているらしく、俺が背中をなでてやるとぴとっとくっついてきた。
「……旦那さま、旦那さま」
なんだよ、さっきは名前で呼んだくせに。
「ほんとに、立派なタカシナの社長に、なるんですか」
「あ?ああ……、まあ、そうできればいいなと、な」
ごろにゃんと言わんばかりに、莉子は俺に絡みついた。
こらこら、俺は少し汗ばんでるぞ、いいのか。
素っ裸でごろごろしてたら風邪引くぞ。
毛布をかぶせてやると、莉子は俺と一緒に毛布に包まった。
素足と素足が交差する。
「でしたら、ちゃんと、一生懸命勉強して、すごく頭のいい社長になってください」
頭がいいかどうかは、今更変えられないけど。
「そしたら、わたくし、リストラされないで済みます」
特別扱いは人間関係が難しくなるんじゃなかったのかよ。
「それで、お部屋にお帰りになれるときは、わたくしにお弁当を買ってきてください」
この、食いしん坊メイドめ。
「わたくし、わたくし……、旦那さまと一緒にいただくのが、一番おいしいです……」
はふん。
もう眠くなったのか、莉子があくびをした。
「……ですから……ちゃんと…。わたくし……お待ちしてますから、ちゃんと」
ちゃんと、帰ってくる。
俺が将来、どんだけ立派な社長になって、世界のタカシナに高階那智あり、と言われるようになっても。
……ならないだろうけど。
ちゃんと帰ってくるからさ。莉子のとこに。
だから、ぎゅるぎゅるにして待っとけよ。


長尾の草野球チームに正式に加入して、最初の練習で派手にファーストベースに蹴っつまづいて頭からすっ転んだ次の日、
俺は午前の重役会議で初めて一言だけしゃべり、午後には陽子さんの退院日が決まった。


――――了――――
362名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 21:56:50 ID:6msP7cXi
乙!
莉子可愛すぎてニヤニヤした
363名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 22:36:35 ID:uCfiB8dE
莉子も社長も可愛いよ!
長尾もいい人だし、陽子さんも退院おめでとう!秘書もいい人だよ。
エロパロでこういう事言うのもあれなんだけど、みんな幸せになるといいなぁ
364名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 00:38:22 ID:0apyUcC+
GJ!泣いた!
このスレエロ抜きでも普通に面白い話ばかりだから困る
365名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 01:57:51 ID:UYQw4KNa
ええ話や…
366名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 02:25:55 ID:EpoU6ci7
旦那様、成長してる…!
367名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 22:30:41 ID:TXr5XrRI
「読書の秋だな」
「今夜は官能小説の再現プレイですね?」

「運動の秋だな」
「首輪ならありますので、お散歩しましょうか」

「食欲の秋だな」
「シチューを作りたいのですが、ミルクが足りません。絞ってもらえますか?」
368名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 13:38:18 ID:wKf6kZhW
それは全部メイドがされたいことだろうが……。
369名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 22:36:53 ID:QFL5Dw3f
「む゛〜っ、暑いっ! 暑いわっ!」

狭く、暑く、息苦しい そこから顔を引き剥がす。
汗で前髪が額に張り付いている。
まったく、酸素がこれほど美味いと思ったことはないな。
まさか、こんなことで死ぬわけにもいくまい。

「も、申し訳ありません。 で、ですが、このほうが旦那様が喜んで下さるかと思って……」

すっかりしょげてしまったメイド。 まだ若く経験も少ないのだから仕方ないか。
いつまでも怒っていると大人気ないな。

「ふう。 まあ、加減が判らないのだろうから仕方あるまい。 ゆっくりと教えてやろう」

頭をくしゃりと撫でてから、手を差し伸べて目の前に立たせる。

「ふむ、持っているものは悪くないのだから、あとはお前の努力次第なんだよ。 頑張ってみるか?」
「はいっ、やらせて下さいっ! 今度こそ上手にシテみせますから」

椅子に座ったまま全裸のメイドを目の前に立たせる。
膝を跨ぐように座らせ、たわわに育った胸に顔を埋める。
嗚呼、至福のひと時。

しかし、豊かな胸の谷間は体温が逃げにくいために深く挟まれていると暑くてしかたない。
柔らかな感触は角度と力加減が悪いと鼻と口を塞ぎ、数分を待たずして意識が遠のく。

「あ、あの……私もいただいて宜しいでしょうか?」
「ああ、かまわんよ。 奥まで飲み込むといい」

ヌプリと湿った感触が先端から根元までを包み込む。
こちらも熱いな。 悪くない。

さっきは昇りつめたメイドが力いっぱい抱きしめてくれたおかげで本当に昇天しかけたが、さてさて。

ゆっくりとリズミカルに揺れる二人の夜は更けていく。
370 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:27:41 ID:BgK7tUo9
-*-*-*
お仕置きについて。
-*-*-*



「きゃっ!」

という小さな悲鳴と共に机の上の全ての書類やら筆立て、置時計などが一瞬で吹っ飛んだ。
遅れてどがらがらがしゃーん!とばしゃーん!という金属質と水音が混ざった騒音が響く。
音と同時に横合いから上半身全体に冷たい液体がばしゃん、と引っかかって、慌てて椅子から身体を持ち上げる。
袖まで体中がびしょびしょだ。しかも零したのはアルコールだろう。液体が引っ掛かった顔はべとつき、甘ったるいような匂いが香った。

騒音の方を見ると鈴子がこちらを見て、しまった、という顔をしていた。
肩で切り揃えた艶のある黒髪。虹彩の強い勝ち気そうな瞳と整った鼻筋。
メイド達の中でも一番低い145cmの身長の、細身でしなやかな身体が絨毯の上に倒れこんでいる。

しかし彼女の後ろはしまった所じゃあなさそうだった。
青褪めた顔色の見慣れない面々がこちらを見ている。
全員が揃って目を見開き半分は悲鳴を押し殺したような顔をしている。
もう半分は気まずそうに俯いている。


僕の足元の方へ倒れこんだ鈴子。
足首まで埋まるほど毛の長いペルシャ製の絨毯の上に転がったグラスとそれを載せたトレイ。転々と転がる氷。
今日中に判子を押さなければならなかった書類もぐっしょりと琥珀色の液体に塗れ、絨毯の上でぐったりと横たわっている。

横たわった鈴子の横には秋乃が立っていて、
表情の薄いつんと澄ました美形の顔は崩さないまま、
しかし彼女と親しい人間には判るくらいにはあからさまに笑いを噛み殺している。
いや、それ以上か。鈴子とは対照的に背中の中央まで伸ばし、
一房を綺麗に編みこんだ髪がかすかに揺れている。

それを見て、僕はああ、もう、今年もこんな季節かぁ、と思った。

371 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:28:11 ID:BgK7tUo9

@@

無論、普段から鈴子がこんなへまをやる訳ではない。
というか、僕は鈴子がへまをする事など殆どと言って良いほど見た事は無いし、
そしてそれはやったとしても僕には判らない程の些細なものだ。
鈴子はミスをすると黙って顔を赤くするから僕はそれでそうと判るくらいだ。
それは秋乃も一緒で秋乃は顔すら赤くしないから、僕には秋乃がミスをした事は
今まで無いように思える。まあ、鈴子がこっそり告げ口をしてくれて判るようなものだ。
これは年に一度の鈴子と秋乃の悪戯なのだ。
今年は鈴子の番だったらしい。
そういえば昨年は扉を開けようとした瞬間に秋乃に思い切り向こうから扉を開けられて、しこたま鼻を打った。
その前の年は庭を歩いている最中、窓の下を通った所で上から鈴子が落ちて来て間一髪受け止めたが肝を冷やした。

昨年も、一昨年も、鈴子と秋乃の後ろには青褪めた顔の見慣れない顔が揃っていて、
やはり同じように半分が恐怖に慄いた顔をして僕を見つめ、もう半分は俯いていたものだ。
372 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:29:16 ID:BgK7tUo9

@@
越智家において僕付きのメイドは子供の頃から鈴子と秋乃が務めていた。
初めて会ったのは僕が7歳の頃だから、秋乃は9歳、鈴子に至っては6歳だった筈だ。
まあ、僕の遊び相手を兼ねて様子見でと云う事だったのだろう。
僕は子供の頃、病気がちであった上に相当に偏屈だったのだけれど秋乃も鈴子も嫌がる事無く相手をしてくれて、
色々と叱ってくれたり遊んでくれたり、一緒になって悪戯をしたりした。
そして秋乃と鈴子以外にも数人は僕付きのメイドとして来たのはいたけれども
一年で辞め、2年で辞めして、結局僕が19歳となった今に至るまで残ったのは秋乃と鈴子の二人となった。

無論、越智家のメイドは秋乃と鈴子だけではない。
父が死んで僕が当主となってから減ったとは云えども客は多いし、
その客の相手だけではない、そもそもの屋敷の手入れや、家の中の細々とした事をする為に沢山のメイド達や使用人がいる。

沢山のメイドや使用人を束ねるのにはそれに伴う様々な雑事に長けている必要がある。
それらについては実際は父の頃からいた年配のメイド長である和子さんが取り仕切っている。
実際人を使うのには事務仕事も多いものだから、和子さんは基本的には一日中、書類とにらめっこをしている。
大き目のクロぶちの眼鏡を掛けて、いつもしかめっ面をしているように見え、そして外見通りに中身も厳格な人だが、
メイド達にとっては学校の校長のようなものなのだろう。
結構皆に慕われているのだという話を鈴子から聞いたことがある。
373 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:30:03 ID:BgK7tUo9

新人のメイド達は年に一度、その和子さんによる面接を経て屋敷に入る。
なんでも越智家のメイドは民間では結構な難関らしい。
結構良い家柄の娘なんかが行儀見習いの為に数年メイドをやって結婚して行くなんて事も多いそうで、その為に入れ替わりも多い。
僕にとっては生まれた頃からこれが普通だが、越智家のメイドは躾が行き届いているとの噂でそういうものがブランドというのだろうか。
そういう噂が流れる事によって、いくつかの親しい家から内密に直接にそちらで働かせて不良娘を矯正したいのだ。などという話をされた事もある。
そういうのは全て和子さんにまかせているので意識した事はないが、毎年一、二年程と云う契約で来る子も数人はいるらしい。

そういった按配だから不足分を補う為に、大体年に10人から20人ばかりが新人として入ってくる。
入ってきた新人は、和子さんの訓示を受けた後、和子さんに指定された教育係がみっちりと1ヶ月、2ヶ月と掛けて扱き抜く。
和子さん曰く、扱き抜くのはメイドとしての腕が良く、全ての仕事にそれなりに精通し、更にそれなりに時間に余裕のあるメイドが好ましいそうだ。
つまりは学校に通いながらメイドをしていた位に子供の頃から屋敷にいて全ての仕事に精通し、腕も良く、
入ってくる子達と同年代でありながらよりやや年齢層が高く、
僕付きである事から少なくともどちらかはある程度時間に都合をつける事が可能である鈴子と秋乃が適任であると云う事だ。

374 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:30:48 ID:BgK7tUo9

@@
普段を見ているとそうは思わないのだが、その教育期間というのは相当厳しいものらしい。
使用人のある1人が、ほんの数週間で全員の顔つきが変わるのだと言っていたのだからそうなのだろう。

特に鈴子が厳しいらしい。
あの小さい背丈の鈴子が教育期間中は鬼教官と噂されている程なのだそうで、
掃除でもなんでも全てにおいて鈴子と同様に出来るようになるまで決して許さないのだそうだ。
入って一週間もすると皆、英国の兵隊のようになるのですよ。とは秋乃曰くだ。
その秋乃も秋乃で相当なもののようで、礼儀作法やらなんやら、実に細かい所までを指摘し、
教育期間中は叱られる数は一人頭で100回や200回ではきかないのだ。とは鈴子曰くだ。
年の近い(若しくは同じ位)の鈴子や秋乃にそれほど叱られれば恨みに思う事もあるのではないのかと思うものだが、
それでも不思議なもので教育機関が終る頃には新入りのメイド達は皆、鈴子と秋乃の子分のようになるのだ。
教育期間の子だけに関わらず、鈴子と秋乃は休憩時間になると駒鳥のようにきゃらきゃらと笑うメイド達に取り囲まれている。
きっと教え方が上手いのだろう。
教え方にもコツというものがあるのだろうな。と思う。
375 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:31:31 ID:BgK7tUo9

@@

で、あるのだからこういった事が必要なのか、と云う事に関しては僕は多分に疑問を感じている。

しかし事これに関してはそれを指摘すると鈴子も秋乃も頑として云う事を聞かない。
屋敷の主人としての威厳を保つ為に必要な事なのです。と、にべもなくこうだ。
確かに主人としての威厳に関しては些か自信が無いのも確かだが、教え方が上手いのであればそういう事も口頭で説明出来る物なのではないのだろうか。
そう言うといえ、こう云う事は口で教えられて身に付くものではありません。
そう言って絶対に譲ろうとはしない。

「も、申し訳ございませんっ!な、何て事をっ・・・」
ぴょんと飛び上がった鈴子が思い切り頭を下げる。
下げた頭は上がらない。

秋乃が一歩踏み出し、手早くハンカチで濡れた椅子の座面を拭う。
椅子に座り、足を組み、鈴子を見つめる。
鈴子と秋乃との約束なのだから仕方がない。
最初は僕は喋らないのがルールなのだ。

「ああっ、お仕事の大事な書類が!」
そう言いながら秋乃がぐっしょりと濡れた書類を持ち上げる。
どちらかというと役者としては秋乃の方が大根だ。
376 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:32:27 ID:BgK7tUo9

「そんなっ・・・」
鈴子が震えながら顔を覆う。鈴子は上手い。心底怯えているように見える。
いや、本当に大事な書類だったんだけどね。と嫌味を言いそうになって慌てて口を噤む。
ふう、と溜息を吐く。いや、本当に吐いた溜息なのだが、秋乃がちらりと僕を見て上手い!ご主人様!とでも言いたげなオーラを発した。

「どうするんだ。姉川家から廻って来た大事な書類なんだぞ。今日中に処理する必要があったんだ。」
いや、本当にどうしよう。もう一回貰うしかないかもしれない。
あそこの爺さんは結構頑固だから2度も請求すると今度会ったらきっと嫌味を言われる事になるだろう。
どうせ零すなら、書類の上でなく僕にだけ引っ掛ければ良いものを。

そう思っていると秋乃がベルを鳴らした。
部屋に入ってきた家令に手早く事情を説明する。
「ですから、こちらの書類を姉川様よりもう一度頂けるよう、早く手配をお願いします。」

家令が頷くと同時に素早く引っ込む。ドアをかちりと閉める。
びしょ濡れの僕の姿も、畏まる鈴子の姿にも驚きもしなかった。あいつもグルか。
だとすると、もう一度書類が届くのに本来なら2日は掛かるだろうが、もう既に裏で用意してあるに違いない。

鈴子の後ろに立つメイド達はもう誰一人顔を上げていない。
全員が真っ青な顔で俯いて自分がここにいるかどうか確認するかのように自分の足を見ている。

はあ、ともう一度溜息が出た。秋乃がちらりと僕を見る。
今度は溜息を吐くならもうちょっと威厳がある感じにお願いします。という表情をしている。
ええい、放っておいてほしい。
そう思いながらも、約束は約束だ。
口を開く。
377 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:33:00 ID:BgK7tUo9

@@

「こっちに来なさい。」
僕も大概が大根だ。普段鈴子に向かって言い馴れない言葉だから声が震える。
そう言った瞬間、びくり、と鈴子が震える。
「はい・・・」
と心底怯えきった声を出す。
鈴子の後ろに立つメイド達までびくりと震えた。

なんだか僕が悪い事をしているみたいだ。
秋乃の肩が震えている。笑うな。
鈴子が動いたことで、メイド達の視線が鈴子に向けられる。

鈴子が僕の前に跪く。
「お仕置きをお願い致します。」
失礼します。と言って、僕の膝の上に横向きに下腹部を載せる形になる。
この体勢はお尻が完全に上を向く為に僕の膝を視点として鈴子はかなり前のめりの体勢になる。
秋乃の場合は手が付くので手は床においてバランスを取るのだけれど
背の低い鈴子だと床に手が届かない状態になるので、
鈴子は右手で僕の裾を掴む形でバランスを取っている。
鈴子の全体重が太腿に掛かる事になるが、鈴子は体重が軽いので重くは無い。
寧ろ心配になるくらい軽い。

メイド達は何をするのかと言う感じで自分の足元と、僕と鈴子の方とを交互に見つめている。
次の瞬間、その視線が一点に釘付けになった。
378 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:33:36 ID:BgK7tUo9

バランスが取れた瞬間に鈴子が空いた左手でゆっくりとスカートを持ち上げたからだ。
驚くほどの白い肌のほっそりとした脚、そして白いガーターで飾られた下着が丸出しになる。
鈴子は顔を染めてはいるが、当然のようにそこまでやった。
「お仕置きをお願い致します。」
俯いたままそう言う。

失礼します。とそう言って秋乃が僕の横に来る。
ゆっくりと腰を屈め、鈴子の足を押さえる。
この体勢になるとどうしても浮いた足がばたつくので抑える為だ。

メイド達の視線が突き刺さるのを感じる。

ここでは何も言ってはダメです。無慈悲に。無慈悲にですよ。
ええい。

右手を振り上げる。中途半端にやると鈴子が怒る。
思い切り打ち下ろす。ぱあん、と音が鳴る。
「ぅんっ!」
と鈴子が上半身を揺らして声を漏らす。
打つなり、弾力のある鈴子の白い尻が揺れて、同時に赤く染まる。
379 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:34:35 ID:BgK7tUo9

メイド達のどこかからか、きゃあっという声が聞こえる。
「静かにしなさい。」
と、それに向かって秋乃が嗜める様に言う。

もう一度手を持ち上げる。思い切り打ち下ろす。
ぱあん、と音が鳴る。
「ぅ・・・ぅんっ!」

手を持ち上げる。思い切り打ち下ろす。
「は・・・ゃんっ!」
「ぅんっ!」
「んんっ!」
そのうちに鈴子の目から、ぼろぼろと涙が毀れ始める。
メイド達の数人が両手を前に合わせ、身を揉むようにして見つめている。

鬼教官(実際は怖いお姉さまとか呼ばれるらしいが)ですらご主人様の前ではこうなるのだと云う事を教え込む為と、
自らがそういう罰を受けないように身に染みさせる為だ。
と、鈴子と秋乃は言う。
380 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:35:09 ID:BgK7tUo9

「ぅんっ!」
「ああっ!お許し、」
「く・・・ぅんっ!お、お許しくださいっ!」

が、なんだかそれが体よい言い訳のような気がしなくも無いのは何故だろうか。
お許しください、から20回が、終了の合図だ。

ここからはより強く叩く必要がある。らしい。
叩くこちらもかなり手が痛い。鈴子の尻ももう真っ赤だ。
いつの間にか秋乃は鈴子の脚を抑えるのを辞めて鈴子の尻を叩く僕をぽうっと上気した顔で見上げており、
鈴子は上半身を持ち上げ、しゃくり上げながら僕の胸元にしがみ付いている。
鈴子の涙と、汗の匂いがする。不快な匂いではない。杏の花のような、甘ったるい匂いだ。
鈴子はつい昨年までの学生時代には良く運動をしていたし、運動して家に帰ってきて、
そして他のメイドがいない事を確認した後にこっそりと僕に飛びついて来る時なんかも同じ匂いがした。
膝の上で鈴子を抱きとめるようにしながら右手を持ち上げ、今まで以上の勢いで叩きつける。

「ぅんっ!ああぁっ!」
381 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:35:46 ID:BgK7tUo9

と、その時だった。
「やっやっ・・・やめてくださいっ!!!!!」

後ろにいたメイド達のうちの1人が叫んだ。
思わず秋乃と一緒にそちらに目をやると、
叫んだのは前髪をぱつんと切り揃えた日本人形のような整った顔形をしている少女だった。
両手を腹の上で抑えるように交差させていて、その手がぶるぶると震えている。
「そ、そ、そのっ!ひ、酷すぎると思います。す、鈴子お姉さまはその、わざとそうした訳ではないですし、その、し、失敗することだって、きっと・・・」
注目されているのに臆したか、それとも僕、もしくは秋乃に見られていることに気付いたからか、どんどん声音が小さくなる。
声が消え入りそうになったその瞬間、それでもその少女はきっとこちらを睨みつけてきた。
「きっと、失敗することは誰にでもあります。そ、それなのにそんな、お姉さまに恥ずかしい格好をさせて、お尻を叩くなんて!」

思わずそうだよね。といいそうになった瞬間、秋乃が立ち上がる。
「黙りなさい!!主人様に向かって言う言葉ですか!!」

びくん、とこちらまでびっくりしそうな声で叫ぶ。
「で、でも!」
と、少女が叫ぶ。
「でもじゃありません!」
秋乃も負けない。
応酬の間に鈴子がこれ幸いといった風情で僕にしがみ付く。
382 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:37:43 ID:BgK7tUo9

暫く少女と秋乃のやり取りが為された後、鈴子はずずず、と鼻を啜り、
それから涙と涎を僕のシャツで存分に拭ってから泣き顔を少女に振り返らせた。
「彩、いいの。いいのよ。」
そう言うと、にっこりと微笑む。
「でも、そんなのって!」
なおも言い募る彩という少女に向かって、唇に人差し指を充てて黙らせる。
どうもこの少女は鈴子の方により懐いているようだ。

鈴子が僕の膝からとん、と下りて、スカートを元に戻す。
痛そうに一度顔を顰めてから、少女の側に寄る。
…お仕置き中に僕の膝から勝手に降りることはこの際いいのだろうか。
基準が良く判らない。

鈴子が端正に整った顔を少女に寄せる。
「ご主人様に叱られるのは辛いことなんかじゃないの。寧ろ叱ってくださることは嬉しい事なのよ。」
「でも、お姉さま泣いています。」
「これは辛い涙ではないの。あなたにもそのうち判るようになるから。いいえ、判って欲しいの。」
「お姉さまっ!私には判らないです。」
「うううん。絶対判る。彩、あなたなら判るようになるから。」

鈴子が彩と言った涙をその目一杯に湛えている少女の手を握りしめる。
うんうん、と秋乃が頷きながら目尻を拭う。
なんだか良く判らない気持ち悪さに僕は身を捩る。
383 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:39:52 ID:BgK7tUo9

しばらくして少女が頷いて、鈴子が少女の頭を撫で、
そしてぱんぱん、と秋乃が手を叩いた。
「さ、皆も、良く判りましたね。間違えた時に叱られるのは当然。
でもご主人様からの愛情があればこそ、叱られるのです。
ご主人様から叱られる事、それは辛いことだけれど、とても嬉しい事でもあるのです。
今の鈴子を見れば、皆、その事が判りますね。」

メイドたちがてんでに頷く。中には何か感じ取ったのか、メモを取っているものや秋乃の顔を見ながらしきりに何度も顔を上下させているのもいる。

鈴子がくるりとこちらを向く。
「主人様、お仕置きの続きをして貰えますか?」
そう言ってこちらに来ようとしたのを手の平を前に出して押し留めるようにする。

「・・・いや、もういいだろう。行きなさい。」

鈴子がどことなく残念そうにはい。と言った瞬間、今度は秋乃がすっとさりげなく膝の上に乗ってくる。
秋乃は最初から最前の鈴子がしていた格好と同様、僕の膝に横座りし、胸にかじりつくように顔を寄せる。
おい、と言ってもどこうとはしない。
384 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:41:54 ID:BgK7tUo9

「では、主人様、最前の彩の無礼、私にお仕置きする事でお許し下さいませ。」
「そんな、秋乃お姉さま!」
最前の少女が叫ぶ。

「彩が、彩が間違っていました。私にお仕置き下さい。」
「いいえ、あなた達の無作法は私の責任、私がお仕置きを受けます。」
「そんな、私の所為でお姉さまがお仕置きなんて、お願いします、ご主人様、私が、私がお仕置きを受けますからっ!」
「いいえ、私が受けます。彩、下がっていなさい。」

今度は鈴子が俯きながら肩を震わせている。

喧々諤々のやり取りの後、鈴子が間に入って漸く落ち着く。
僕の膝の上に乗り、僕の胸元に顔を寄せながら悪戯っぽい顔で秋乃が笑う。
ちゅう、と僕の首筋に垂れた液体を吸う。
「んふー。お酒にして正解。お仕置きの後で鈴子とお風呂場で一杯舐めて綺麗にして差し上げますからね。」
と、耳元で囁いてくる。

僕の手はもう腫れ上がっていて、どちらがお仕置きされているのかは微妙な所だな。
そんな事を考えながら、僕はこっそりと笑っている鈴子と興味深げにこちらを見ている新人のメイド達を見回すのだ。


385 ◆/pDb2FqpBw :2009/09/28(月) 19:42:18 ID:BgK7tUo9
---

以上です。では。
ノシ
386名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 22:34:46 ID:Lb4R++MB
GJ!
387名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 00:17:16 ID:7jheizWN
肝心のお風呂エッチはナシかい!!


でもGJ!

鈴子お姉様を想ってその晩一人でしちゃう彩のはしたない姿をひとつ頼む
388名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 23:26:24 ID:5OzapFpr
GJ!

お仕置きされたがりなメイドさんっていいね。
389名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 01:56:22 ID:EmOMpfW7
GJ!
390名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 11:53:29 ID:PtTCohaI
「メイド〜〜〜!
俺の書斎に触るなと言ったのがわからんか〜〜〜〜!!

「そのご指示は無視します
お屋敷の管理は私の仕事であり、例外は認められません
ご主人様が管理なさるとおっしゃりましたので、様子を拝見させて頂きましたが、一向におかたずけ
になる気配がございませんので、清掃、及び整理をさせて頂きました
まあ、ドブネズミ並みの感性しかお持ちにならないご主人さまなら、お気にならないかも知れませんが、
不幸ながら、職業的に同居せざるを得ない私としては、いくらご主人さまのご友人とはいえ、ノミ、
ダニ、ネズミなどと住居を共にする気はございません」
「キサマ〜〜!!」
「アアッ、何を……」

エロエロエロエロエロエロエロエロエロエロエロエロエロエロエロエロエロエロ

「申し訳ありませんでした、ご主人さま」
「ま、まあ、わかればいい」
「愚かなメイドの浅知恵ですか、お掃除だけはさせて頂けませんでしょうか?
勿論、ご主人さまの大切なお荷物に触れたりは致しませんから」
「す、好きにしろ」


ps.
アリサの日記

大成功









……これだと、顰蹙かうだろうな
391名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 12:07:23 ID:x4H3qBSP
中略しやがったなっ!!!!!!!!!!!
392 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 12:49:37 ID:c4oWThXg
>370の続きです。
393 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 12:51:01 ID:c4oWThXg

「痛くなかった?」
後ろから伸びて来た手が私のお尻を撫でる。

ええと、と言いよどむ。
痛いのは痛いんだけど。ううん。そう言うと傷つくかなあ。
痛くなかった?という聞き方は的外れですよ。
と思いつつ上手く返答が思いつかなくて、ぽんと頭に浮かんだ言葉を口に出す。

「えぇっと、素敵、だったよ。」

今度は向こうがええと、と言いよどんでいる。
ふふふ。勝った。と思う。
と、その瞬間、横合いから声が掛かる。

「痛いのが良いんじゃないですか。もっと痛くしても良い位です。
主人様はお仕置きの時に気を使われすぎるのが良くない所です。
もっとこう、びしっと。ばしっと。無慈悲に。です。」

私のお尻に置かれていた手が離れる。
私の後ろでちゅっと何かが吸われる粘着質な音が響く。

あ、こら。秋乃め。良い雰囲気だったのに。
394 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 12:51:25 ID:c4oWThXg

振り返ると上半身だけメイド服を脱いで裸になった秋乃が、主人様の胸元に舌を這わせている。

「もう。」
と言うと、こっちを見て悪戯っぽく笑いかけて来る。
秋乃はスレンダーな身体を主人様に絡みつけるようにしながら真っ白で形が良い胸を主人様のお腹に押し付けた格好で、
主人様の胸元から首筋に掛けて丹念に舌を這わせている。
「もう。今年は私の番なのに。」
もう一度言うと、今度は主人様が笑った。
私より一つ年上の主人様だ。

もう一度真っ赤に腫れ上がったお尻を撫でて欲しくて、
スカートだけを脱いで上はメイド服、下半身は裸という格好の私は膝立ちの格好でゆっくりと主人様の方へ向かう。

キスしようか、それとも秋乃と一緒になって体中嘗め回してあげようか。
と迷う。
395 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 12:52:06 ID:c4oWThXg

@@

いや実際問題のところ、自分で言うのもなんだけれども。
本来私はこんなにいやらしい女の子ではない。
自意識過剰と言われるかもしれないが、どちらかというと本来はお堅いタイプだ。
女学生時代を振り返れば振るようなと言っても過言ではない回数申し込まれているデートのお誘いを片っ端から断ったのは、
メイドの仕事があったから時間が取れなかったというのが主な理由の一つではあるけれど、正直言って男が怖かったというのが大きい。

越智家のような所でメイドをしていると普段主人様以外の男性と触れ合うことなど物理的に無いし、主人様は主人様で元々男という対象ではなかった。
子供の頃からの付き合いでもあり、主人様の事は年上だけれどどちらかと言うと可愛い弟のように思っていたからだ。
つまり男というものに触れ合う機会が無いのだから、無論あまり話した事もなく、したがってデートに誘われてもどうして良いのか判らないという次第だ。

挙句の果て越智家にはそれこそ学生時代には私などよりよっぽどもてた秋乃(大学出たての新人教師にプロポーズまでされたという伝説が残っている)がいて、
そのくせこれまたその全てを袖にしてきたというので参考にはならないし、
なによりも和子さんが目を光らせているから下手に誘いに乗ったりして後でばれるとこれまた怖い。

そんな無理な事や、怖い事をするくらいなら、貞操を守った方がよっぽどマシだろう。
というやや消極的かもしれないけれど近年の女学生にしては真面目な理由で正しく生きてきたつもりだ。
それにどちらかと言うとそういう事に悩むよりも運動をしている方が好きだった事でもあるし。
つまりそういう訳で当時、二年位前までは私は男性の性欲に関して基本的な知識は殆ど無かった

だからこんな事になったのはひとえに秋乃の所為だ。と、私はそう思う。
うん。きっとそうだ。あとご主人様の所為だ。きっと。
396 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 12:52:35 ID:c4oWThXg

@@
きっかけはこんな感じだった。
2年前、私が16歳の時だ。
つまり主人様は17歳で、秋乃は19歳で学校を卒業したばかりだった。

とある晴れた秋の日で、越智家の広い庭にある楓の木と銀杏の木が綺麗に紅葉に染まっていた。
私はいつものように学友達とソフトボールをしてから家に帰り、屋敷の皆にただいま。と挨拶をした。

ここで通常であれば学校から帰ったらメイドの仕事が始まるわけだ。

しかしその日は暇だった。

何故かというと他でもない。
主人様付きのメイドである私や秋乃の仕事は主に主人様の側にいるという事が多い。
子供の頃はひがな一日一緒に遊んだり勉強をしたものだが、長じて主人様が思春期を迎えるという時期になってから後は、
中々ずっと一緒にいるという訳にはいかなくなって来たのだ。
主人様が家督を継がれ、仕事をされるようになればまた話は別になるのだが、
その頃は主人様も学生で、更に言えば1人の時間を好んでいるようだった。
と云う事で、その頃の私や秋乃の主人様に関する仕事といえば食事のお相手やお風呂のお手伝いなんかに限定されていて、
それ以外の時間は主に他のメイドと一緒になって掃除や、細々とした仕事なんかをしていたのだ。

しかしながらそれぞれの仕事にはそれぞれの担当者がいる訳で、その人たちの仕事を全部取るわけにもゆかず。
その頃私や秋乃はそれなりに暇を持て余し、
それこそ普通の女学生のように自分の部屋で本を読んでいるなんて事も多かった。
397 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 12:52:57 ID:c4oWThXg

その日もそんな具合でメイド服に着替えたは良いもののどこに行っても手伝えるような仕事はなく、
部屋に戻って学校の勉強でもしようかしら。と自分の部屋に戻りながらぼんやりと考えていたのだ。

私の部屋と秋乃の部屋は仕事の都合上、他のメイド達の部屋とは棟ごと離れている。
つまり、主人様つきなので主人様の近くにいる必要があり、
この為に私と秋乃の部屋は主人様の部屋の真向かいにある部屋を使わせてもらっている。
部屋の前に来た所、主人様の部屋からは明かりが漏れており、部屋にいらっしゃるのだな。とぼう、と考えた。

通常、主人様に「ただいま。向かいにいるから何かあったら呼んでね。」と挨拶をする所で、
(まあ無論こんな言い方は秋乃以外のメイドがいない時に限られるけれども。)
その日もそうしようと思ってドアをノックしようとした所できゅい、と私は誰かに襟首を掴まれたのだ。
398 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 12:53:18 ID:c4oWThXg

@@

びっくりして振り向くとそこにはなんだかやたらと真剣な顔をした秋乃がいた。
秋乃はすらりと背が高いから、こちらが見上げる形となる。
秋乃は一房だけ綺麗に三つ編みにした髪を弄りながらなんだか難しい顔をしていた。
そして、なんだか奇妙な格好をしていた。
奇妙な格好をしていたというよりも、目がなんだか違和感を訴えてくるような、そんな感じだった。
いつものメイド服を着ているように見えるのだけれど、ぱっと見たところ何か違和感がある。

はて、と思った瞬間、その違和感の元に気が付いて、私は声を潜めながら叫んだ。

「ちょっと!それ、私の予備のメイド服じゃない!」
しいっと秋乃が唇に指をあてる。
こっちはそれどころではない。良く見てみれば秋乃は目も当てられないような姿なのだ。
私より背の高い秋乃が私の体型に丁度合わせたメイド服を着るとどうなるか。
スカートは太腿の真ん中位までしかない。
ミニスカートとも言えない長さで立っていれば問題ないだろうが、
そもそもふわりと浮くように作られたスカートだ。
この長さでは座れば思いきり下着が見えてしまうだろう。
上半身は更に酷い。
かなり悔しい事だが、私と秋乃では背だけでなく、胸の大きさにもやや微妙に差がある。
16歳のその頃は私だってもう少しすれば良い感じに育つ筈と思っていたが、
それから3年経ってもその差は縮まっていないどころかやや開いてすらいる。
まあいい。
兎に角、その時秋乃は胸の第3ボタンまで開いて、胸の谷間が丸見えの格好だったのだ。
どう考えてもサイズの合っていないメイド服姿。丈が短い所為で両脇からはお腹も見えそうになっている。
つまりどう見ても痴女だ。
秋乃はどちらかというと着物が似合うような涼やかな顔立ちな物だから余計にアンバランスに見える。
399 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 12:53:56 ID:c4oWThXg

「どうしたの?秋乃、気でも違ったの?」

そう聞くと、秋乃は怖いような、なんだか泣きそうな顔をしながら私に向かってこう言った。
「ちょっと良い?私の部屋に来て欲しいの。」
と。

@@

秋乃は私を部屋に連れ込み、自分はさっさとベッドの上に座り込むと両手で顔を覆った。そして思い切り溜息まで吐いた。

「なんなのよ。ていうか、服返してよ。伸びるじゃない。」
主に胸の部分が延びそうで、スカートのウエストはあまり伸びなさそうな所がやたらと腹立たしい、などと考えながら言うと、
秋乃は私の言葉には答えず、顔を上げながら絶望的な声を出した。

「鈴子、これから私、大事な事聞くよ。良い?正直に答えてね。」
「な、なに?ていうかまずその格好の説明をしてよ。」
あまりにも真に迫った物言いなので、一瞬詰まりながら私は答えた。

「いいから、こっちの方が先。鈴子、あなた、主人様に身体を触られたこと、ある?」
「・・・」
秋乃の言った事があまりに予想外で私は一瞬固まった。
主人様が、あの主人様が身体を触る?
そりゃ、昔から、その、普通に触れ合ったりする事はあるし、どちらかというと距離感は近いし、
子供の頃は結構べたべたと抱っこしたりした気がするけれどつまり、秋乃の言っている事はそう言うことじゃないだろう。
つまり、そういう意味で、触るって事だ。
ええと、ある意図を持って、こう、触ったりするってことでしょう?
「あ、あ、ある訳無いでしょう!そんな事!」
と、私は叫んだ。
400 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 12:54:27 ID:c4oWThXg

「しっ!静かに!」

「静かにするわけ無いでしょう!主人様がそんな事する訳無いじゃない!何馬鹿なこと言ってるのよ!」
そう思いきり怒鳴ったのだけれど、秋乃ははあ、と肩を落としてくしゃくしゃと頭を掻いた。

「そう…若しかしたら胸の小さい子供みたいなのが好みなのかも、と思ったのだけれど。それも違うみたいね。」
「・・・良く判らないけど、私に喧嘩売ってる事だけは良く判った。いいわよ買うよ私。」
腕を捲り上げる。

「それ所じゃないわよ。ああ・・・もう・・・どうしたら。」
悲嘆にくれたように首を振る。

「何?何なの?」
さっぱりと要領を得ないまま、問い詰めるようにそう言うと、秋乃はこう言った。
「ああ・・・駄目だぁ…もしかしたら、主人様、男色だったりするのかしら。だったらもうお手上げ。」
そう言ってがっくりと肩を落とす。

「はあ?何言ってるの?」
と私は答えるしかなかった。

401 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 12:55:13 ID:c4oWThXg

@@

「鈴子には判らないかもしれないけれどね。17歳の男となれば、それはもう、
普通はどんなものにでも穴があればやりたくなるというものだそうなのよ。」
ちゃぶ台の前に二人で座り込むなり、秋乃は真剣な顔でそう言った。
「……秋乃、下品だよ。あのね。主人様がそんな風な訳無いじゃない。」
ずずず、とお茶を啜りながら答えると「判ってないなあ。」と、手を振ってくる。

「あのね。主人様といえど男よ男。成績も良くていらっしゃるし、何事にも真面目に取り組まれる方だけれど、
それでも男は男なの。主人様は17歳の男なの。そしてそれは別段何も悪いことじゃない訳。
寧ろそういう事こそ普通じゃないほうが心配でしょう?」

しばし考える。
「そ、それは、まあ、そうだけど。確かにそう云う事も、それが普通なら主人様も普通の方が良いかもね。」

「でしょう?ね。で、考えてみなさい。主人様の近くには、基本的に24時間、私と鈴子がいる訳よね。」

「・・・だから?ずっとそうじゃない。」
「普通だったら、どっちかを抱こうと思うに決まってると思わない?寧ろ、両方とか。」
ぶふおっとお茶を吐き出す。
繰り返すが当時私は男性の性欲に関して基本的な知識は殆ど無かった。

「な、な、な」
「だってね、自分で言うのもなんだけど私達、そこそこな筈よ。鈴子だってとっても可愛らしいし、
私だって磨き上げられる部分は磨いてるし、そういう部分でならこのお屋敷のどのメイドよりも負けてないつもり。
私達のどちらも趣味に合わないとはどうしても思えないの。
だって私達主人様と二人きりになる事も多い訳だし、こうやって部屋だって向かい合わせ。当然夜に部屋に鍵だって掛かってない。
普通だったらこう、部屋のドアをこう、夜中に開いてくださったって良い様なものじゃない?大体さ、」
402 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 12:56:20 ID:c4oWThXg

「・・・ちょっとまって、ちょっとまって秋乃。ごめん私ついていけてないわ。」
「何?」
「・・・その、さ、えーと何から話せばいいんだろ。」
額を押さえる。ええと、混乱している。抱かれる、抱く?ええと、そういう事をする、という事だよね。
ええと、普通はこう、手紙のやり取りとか、お互いの気持ちの確認とかをした上で、恋愛をして、
結果として結納婚約へと進んでその上で、まあいいやその途上である事もあるかもしれないあれだよね。

「その、なんだろ。ええと、うまくいえないや。まず、秋乃は、その、あの、うーんと、良い訳?
その、主人様が仮に、部屋に来たとしたら。その、そういう目的で。」
こう、なんだろ。いいのか?いいんだろうか。いいの?その、なんていうかね。
結構真剣に聞いたつもりだが、秋乃は間髪入れずに答えてきた。

「良いに決まってるじゃない。何言ってるの?私が何の為に学生時代誰の相手もしなかったと思ってるのよ。」
くんと胸を張ってここまで堂々と答えられると何もいえない。
何もいえない。のだが。

「その、そのさ。主人様だよ。私最初に主人様に会ったの6歳の時だよ。秋乃だって9歳だったじゃない。」
「だから?」
「その、ほら、私年下だけどさ、こう、まあ勿論?仕事で?な訳だけどこう、10年も一緒に居る訳じゃない。」
「そうね。」
「こう、弟?みたいな?いや、勿論その、んーなんだろう。なんだろうね。
あの、その、もしそうだったとした時にいやっとか絶対駄目!とかそう言う訳じゃないんだけど
ただなんていうんだろうな。あの、順番とか、こう、色々さ。あるじゃない。それにほら、難しい訳じゃない。
御互いこう、気持ちが仮にあったとしてもこう、なんだろ難しいなんていうかな」
「あんたの悩みはどうでもいいの。どうせあれでしょ。立場が違うとか、そんなくだらない事考えてんでしょ。」

「な・・・」
ぴしゃりと言われて絶句する。
と、秋乃はいきなりだん、と机を叩いた。
403 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 12:58:18 ID:c4oWThXg
「そーじゃないの。それはそれ!これはこれ!そんな事じゃなくて私は今、主人様の男の話をしているの!
あのね、自分で言うのも何だけど私ね、結構異性にはもてるのよ。
学校じゃ中等部から6年連続で男子生徒から選ばれる模範的女子に選ばれてた訳だし、鈴子も今年で4年連続だっけ?
そうだろうけど。ラブレターとかもそれはそれは情熱的なのを一杯貰っている訳。
秋乃様へ、僕は清純なあなたの事が日夜忘れられず、なーんて書いてあるのを一杯!
それに結構胸だってあるし!腰だってこう、ほら、自分でも女っぽいかな?みたいに思う訳。
その私がね、お風呂の際に裸になってこう、主人様の背中を流したりしてる訳じゃない。
だったらこう、手の一つも引いて『秋乃、そこはもういい』とかなんとか言ったっていいじゃない?
『いやっ恥ずかしいです!』とか私が言ったら『いいからこっちを洗うんだ』なーんていって
『そんな困りますっでもっ!いやっそんな、すごい、主人様逞しいっ!』ってそしたら」

「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って秋乃。今私すごく聞き捨てならない事聞いたんだけど。」
「何よ。今いい話してるんだから。」
「いやいやいやあのさ、て、いうかさ、お風呂場でのお手伝いはメイド服か水着でって言われてるでしょう?
言われてるよね。言われてるよね?何か今裸って聞こえたんだけど。」

「そんなの裸に決まってるじゃない。何、鈴子違うの?」
しれっと答えた秋乃に眼前が暗くなる
「はあ?メイド服か水着着てるに決まってるでしょう!?え、何?秋乃裸でやってるの?」
「当たり前じゃない。そのまま私も入るし。」
「信っじられない!何それ、何っそれ、私初めて聞くんだけど。
そっか、だからか、だから主人様に前一回聞かれたんだ鈴子はここのお風呂は入らないのって、意味判んなかったんだけど今判った。
何してんのよ!」
両手を振り回す。なんだか微妙なショックを感じていてやたらと手持ち無沙汰な気持ちになって、
お茶菓子に手を突っ込んで煎餅を一掴み取ってばりばりと齧る。

「何してんのってお風呂はお風呂じゃない。何?鈴子、水着って何着てるの?持ってたっけ?」
「学校の水着。髪の毛落ちるのやだから帽子も被ってる。」
「だめよそれじゃ。色っぽくない。」
「何言ってんの駄目なのはあんたでしょう!?知らなかった。うわ知らなかった私。
何、秋乃一緒に湯船とか入るの?」
404 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 13:01:06 ID:c4oWThXg

「うううん。主人様湯船も碌につからずにすぐ出ちゃうのよ。昔は違ったのに今じゃカラスの行水ね。
もういいから、僕上がるよとか言って。だから体拭いてあげて、その時とかもさ、こう、
『そこは物で拭く所じゃないだろう?』なんて言ってくれれば、『え?でも?』とか言って『お前の口は何のためについているんだ?』なんて
『そんな、恥ずかしいっ!でも寧ろ洗う前に仰っていただければ私のここで洗わせて頂きましたのにっ』みたいなそれでさ、」

「だからかー。そういえば鈴子の番はゆっくりできるなあって湯船に浸かりながら言ってた言ってた。
あーもう!迂闊だった。すっごい迂闊だった。何でって聞けばよかった。
てか駄目だよ!ちゃんと湯船入らせないと風邪ひいちゃうじゃない!」

「ちゃんと拭いてるから大丈夫よ。それよりもね。そんなことどうでもいいの。」
「いやどうでも良くないって。あんたそれ和子さんが知ったらどんな事になるか判ってるの?大目玉食らうよ。」

秋乃がびっとこちらに指を向ける。
「あの婆さんに掛かったら何だってそう言われるに決まってるでしょうが。あのね、そんな事はどうでもいいの。
私が言いたいのはそうじゃないの。お風呂もそうだけど、それだけじゃないの。私はね、
主人様と二人でいる時とかもさりげなーく、さりげなくよ。
こう、ちら、とか、ぴら、みたいな。ちょっとこう、胸のボタン一つ余計にあけてみたりとか?こう、高い所を掃除してみたりとかもしてるの。
それとか話をする時もわざと押し倒しやすそうにベッドの方に腰掛けてみたりとか。脚とか組んじゃったり。
でもぜんっぜん。ぜんっぜんなの!『秋乃、僕はもう、我慢できないよ!』『ご主人様っ!そんなっ!駄目ですっ!』
『いいだろ、なあ、いいだろう?それとも嫌なのかい?』
『・・・嫌じゃないですっでも!っでも・・・ああ、主人様、そんな、お辛そうな・・・判りました。
でも秋乃、秋乃は初めてなんです。恥ずかしいっ!でも頑張りますから!』」

身をくねらせる秋乃に指を向け返す。
「そんなおっさんくさい主人様は嫌。ていうかさ、ていうかさ、
初めて知ったんだけど秋乃、あなた、私に黙ってそれやってた訳?ね、いつからやってたのそれ?」

「2年位前かなあ。」
「2年も!?」
全然知らなかった。私といる時は普通の顔をしていたくせに。
それとも私がにぶいのだろうか。
405 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 13:02:11 ID:c4oWThXg

「そう、2年も経つの。2年前ったら私17よ。そろそろかなー。とか、思ったの。そりゃ思う訳じゃない。17よ17。
大体主人様もさ、13歳位までは『秋乃ちゃんこの本一緒に読もうよ。』とか言ってさ。
はいはい読んであげますよーってソファに二人で寝そべってたら『秋乃ちゃん良い匂いがするね』なーんて、
んもう超可愛いくって『こぉら、くすぐったいですよ』とかいっても顔とか押し付けてきて
『秋乃ちゃん、もうちょっとこうしてていい?』なんて言ってきて『秋乃は仕事があるんですよ。』なんて言いながら
んもう!良いに決まってるじゃない!なのに急に14歳位になったら余所余所しくなってさ。
本とかも1人で部屋で読んでてさ。これからじゃない!これから先があるってのに!
どうすればいいのよ!私にどうしろっていう訳!?」
秋乃も憤懣やる方ないという風情でお茶菓子から煎餅を取り出してばりばりと齧っている。

「・・・あのさ、あんたのその身体を持て余した未亡人みたいな話はいいんだけどさ。大体話は判ったし。
そうやって主人様に迫りまくった訳ね。私のメイド服まで持ち出して。でもちょっといい?」
「何?」

すう、と息を吸う。これから聞く事を考えて、少々顔が火照る。
つまりはそういうことだと云う事は大体判っていた訳だが、一応聞いておく必要がある。
「その、秋乃、秋乃はさ、主人様の事、好きな訳?」
「好きよ。決まってるじゃない。鈴子だってそうでしょ?」
あっけらかんと言う。

「だからそういう好きじゃなくってさ。」
「だからそういう好きでしょ。何?鈴子違うの?」

しれっと言える秋乃が羨ましい。

私達は別に奴隷じゃない。そりゃ勿論、越智家には恩がある。
私も秋乃も昨今珍しくも無いけれど家族に恵まれない人間で、
でもだからこそ私達を子供の頃から育ててくれて、
学校まで出させて貰った事に言葉以上の感謝の念を感じている。

でも別に必要以上の事を求められる事は無いし、する事も無い。
その気になれば来月にでもお世話になりましたと言って、バッグ一つ持って出て行く事だって可能だ。
私達は奴隷じゃないし、主人様を好きにならなきゃいけない義務なんてものは無い。

だから、好きってのは本当に、その、好きッて意味になるのだ。
その、メイドとか関係無しに。
406 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 13:03:52 ID:c4oWThXg

「えーと・・・だから、もう一回、ほんっとーに大真面目に聞くよ。今まで聞いた事無かったから。
ん。
秋乃、秋乃は主人様、じゃない、崇文君、越智崇文君の事が好きなの?」

秋乃は少し小首を傾げた後、一度座りなおしてお茶を啜ってから私の目を見た。
「だから好きって言ってるじゃない。何?真面目じゃないとか思ってる?
大真面目よ大真面目。きっと鈴子と同じ位にね。」

最後の言葉は聞かなかった事にしておく。
「・・・・・・じゃあ、聞かせて欲しいんだけど。例えば、メイドが主人の事好きになったとするよね。
でもさ、それが恋愛として成就する可能性なんて殆ど無い訳じゃない。小説の中ででも無い限りさ。
身分の差とか、そんなのもあるけどさ。壁は高すぎる訳じゃない。
使用人は使用人。もし万が一主人様がその気になったとしたって最終的に周りにはこう言われると思わない?
育ててやった他人の子に母屋を乗っ取られたって。
悪女扱いよ悪女扱い。言葉でそんな事なんでも無いって言うのは簡単かもしれない。
でもそうなったらそのメイドだけじゃない。その主人様だって馬鹿扱いされるのよ。
あの人たちの世界で馬鹿扱いされるって事がどういう事か、私達は知ってるよね。」

「そんな事で悩む人間は馬鹿だと思うよ。」

「なっ」
さらりと言われて絶句する。
秋乃が艶のある髪を一度梳くように撫でた。そしてふう、と呆れたように溜息を吐いた。
「鈴子あのさ。そんな道は私が3年ほど前に通ってんのよ。私の方が年上だから、悔しいけど教えてあげる。
そんな言い訳して、1人で部屋で悩んで。はっきり言って完全に無駄。無駄なの。
私の場合は自分の方が主人様より年上だってだけ誰かさんよりも深かったと思うけど。
あのね。誰かを好きになったら、それをやめるのなんて絶対に無理なの。
私は悟ったわ。少なくとも好きになったその人がどんどん素敵な人に変わっていってる限りそんなのは無理。
ネガティブな要素を何百個持ってきたって、好きって一つ気持ちがあればそんなもの全部どっかに行っちゃうの。
少なくとも私はそうで、多分女の子なら誰だってそう。
思い出が沢山あって、一緒に育ったご主人様の事、好きにならない訳ないじゃない。
私にとって他の男なんてメじゃないの。ご主人様1人だけ。
だったら私は片付けるわ。我慢できないものは片付けて我慢できるものやどうにも出来ない事は我慢する。
メイドの仕事と一緒よ。目的は片付けられるものを一つづつ片付けて達成するのよ。」

秋乃の言葉にはやたらと迫力があった。
普段から無口にしてないでこんぐらい喋ればいいのに。
407 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 13:05:03 ID:c4oWThXg

「・・・で、その努力が痴女の格好って訳?」

くっと秋乃の眉が上がる。
「あのね、まあ方法は色々あるんだろうけど。まず私はもう19歳なの。
鈴子と違って和子さんからも見合い話はどう?とか事ある毎に言われてるの。形が必要なの。のんびりやってる暇は無いの。
そっちと違って主人様に襲われた時に『いやっ!恥ずかしいっ』とか言えるのはもうギリギリなの!」

「なんかさっきより口調が切実だよ秋乃。」

「うるさぁい!鈴子にはまだ判んないの!だんだんだんだん小さいメイド叱るのばっかり上手くなって、このままじゃまずいの!絶対にまずいの!
でも私だって女の子なんだから向こうから迫られたいじゃない。
判るでしょ?折角ここまで大事に取っといたんだから
初めて位は大事に向こうから私の事欲しがってもらいたいじゃない。
折角ご主人様、背だって伸びて、カッコよくなってるんだから
『やさしくして下さいね』『ああ、判ってるよ』位のやり取りはしたいじゃない。
そのギリギリが私にとっては今年なの!今年中に襲ってくれなかったらご主人様捨てて他の所に嫁に行ってやるんだから!
鈴子には判んないわよ。きっと後3年して襲われなかったら私みたいに悩むんでしょうね。
でも鈴子にはあと3年あっても私には今なの。今なの!
あのね、2年間私がどんなに恥ずかしいと思いながら色々したか判ってる?
初めてお風呂に裸で入った時、主人様に『昔みたいですね』とかいいながらどんだけ頭の中混乱してたか判る?
私は2年前に鈴子の悩みなんかは乗り越えて、そして1人で頑張ってきたの!
痴女みたいとかいうなあああああああ!」
408 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 13:06:21 ID:c4oWThXg

ずだあん。と湯飲みがちゃぶ台に叩き付けられる。
「判った、判った。ゴメン。ごめんね。その服、まだ着てていいからさ。意外と似合ってるかも。何だったら他の服も。」

「似合ってる訳無いじゃない!馬鹿見たいって自分でも判ってるわよ。
それより鈴子、あんたここまで私が言ったんだから、鈴子も言いなさいよ。主人様の事好きなんでしょう?
男として好きなんだよね?言いなさい!言わなかったら私取るよ。取っちゃうからね!取ったらあげないんだからね。
今言わなかったら取ったらあげないからね!」
ずずずずず、と秋乃が身を乗り出してくる。

「・・・っ・・・まあ、う、うん。す、す、好き、だよ。」
勢いに押されてつい言ってしまう。誰にも言ってなかったのだが。
特に最近は主人様は弟や兄のようなもの、と自分に言い聞かせてきていたのだが。

「もっとはっきり言う!」
「・・・あのね、私は秋乃の部下じゃな」
「はっきり言いなさい!」
小さいメイドの子だったら一発で震え上がる秋乃の一喝が飛ぶ。

「判ったわよ!私も崇文く、じゃない、主人様の事が好き!」
私は叫んだ。
そして、口に出してみて自分でも割とあっさりと納得した。
うん。確かに、私はあの人、じゃない主人様の事が好きなのだ。

きっと、秋乃がドアの方を睨む。
「よし、覚悟決まったわ。まどろっこしいのは沢山。幸い今日はこの後仕事も無いし、二人で行きましょう。」
がたん。と秋乃が立ち上がる。
「は?」
話の展開に付いていけない。
見上げると、秋乃が立ちなさい。と、くいくいと手の平を私に向けて上下させてくる。
409 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 13:06:45 ID:c4oWThXg

「行って、主人様の気持ちを聞いてくるの。私もちゃんとした服に着替えるから。
鈴子も着替えて来なさい。」
ぽいぽい、と私のメイド服を脱ぐ。女の私が見てびっくりするくらい綺麗な肌が露出する。

「ちょっと待って、ちょっと待って、ちょっと待ってよ。秋乃。」

「私達の気持ちを伝えて、それで雰囲気出たら、そのまま行くからね。」
「ちょっと待ってよ!」

「こんな可愛い子二人で迫って鼻血も出さないご主人様ならこっちから見限ってやるんだから。」
「ちょっと待ってって言ってるでしょ!もし雰囲気って私、そんな事になったら初めてなんだから。」
「大丈夫、私も初めてだから。」
「大丈夫じゃなあい!全然大丈夫じゃないじゃない!」

「じゃあ、私が主人様と愛し合ってるのを指咥えながら横で見てなさい。」
秋乃が叫ぶ。

そして勢いあまり、カチンときて私も叫び返したのだ。
「な、何言ってんのよ!たかふみ、じゃないしゅ、主人様がやりたいっていうんなら
そうしたら私だってやらせてあげるに決まってるでしょう!
だって、私だって、嫌いじゃないんだから、崇文くん、じゃない主人様の事!」
410 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 13:07:09 ID:c4oWThXg

@@

結局その後二人で主人様の所に行ったのだ。
まあ、常々想像してたように主人様にリードしてもらうような感じじゃなかったけれど。
いや、寧ろ襲い掛かるようにという感じだったけれど。うう。
まあ、それはそれで素敵な思い出となった。うん。
主人様だって、私と秋乃なら、初めての相手としては文句無い、筈だ。きっと。
うん。

結果的には。

411 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 13:08:12 ID:c4oWThXg

@@

そして今に至る訳だ。


秋乃と奪い合うようにして主人様のかちかちになったあそこを舐める。
ご主人様が、顔を紅くしながら、でもなんとなく嬉しそうにしている。

秋乃が根元を粘っこく舐めているうちに私が上から咥えてちゅうっと吸い込む。
あ、こらっと秋乃が言う。

ちょっとだけ、口を離して、私の大好きな主人様に向かって言う。

「私の口の中に出してくれたら、すっごい事してあげるから。」

主人様は私と秋乃にメロメロのように、見える。
その、自意識過剰でなければいいのだけれど、それは多分、私が6歳、秋乃が9歳の頃からずっと。
照れ屋な主人様だけれど、少なくとも私達をとても大事にしてくれている。
そんな事位は判る。

ただ、一時期、主人様がそういう事に恥ずかしがった時期があって、
それに私達が不安になって、そして自分の気持ちに気が付いた、
とそういう事なだけだ。あれはきっと。

そして大事に思っているって事は勿論私達もそうで、
だからこそこういう一つ一つが私達にとってとても楽しくて、大事な事で、
秋乃のいう、片付けなきゃいけない何かを片付けているように思えて、
下らない悩み事を片付けていっているように思えて、
いつものメイドの仕事が片付いていくあの快感と同じ感覚を、
幸せなあの感覚を、
私に与えてくれているのだ。


412 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/03(土) 13:08:49 ID:c4oWThXg
---

感想ありがとうございました。では。

ノシ
413名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 21:57:35 ID:U+qx4laC
続きGJです

なんだかんだで三人ともすごく仲が良い感じ
なんていうか、家族みたいな
414名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 22:25:08 ID:4KAclgap
くっ、萌えた
萌えちまったw
GJです
415名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 00:12:04 ID:k/j+kDwr
肝心要の本番なしかー。
416名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 01:13:46 ID:m+IRb1A7
萌え萌えですな
417名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 02:24:39 ID:pCbvuGhn
まあ待て今
>>412が秋乃と鈴子のうれしはずかし初体験を書いているところだから
418名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 18:28:44 ID:bqkWy0De
GJ!

幼馴染兼メイドで、一緒に育ってきたって感じが良かった。

それにしても年上の秋乃の切羽詰ったアプローチにワラタw
419sage:2009/10/05(月) 11:02:41 ID:bwILdQyN
保管庫で1から見たけど
利子ってツンなのか?デレなのか?
420名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 01:43:41 ID:2cLADui4
今思い切ってのSS書こうかと思ったけど
>>412の作品見て改めてSS作者の凄さってのがわかった

…もう半年ROMってきます
421名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 07:28:06 ID:fMKzdBxZ
>>420
初めは誰しも初心者だw
れっつとらい
422名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 23:57:24 ID:0xiaRjLA
頑張って書き上げて投下したものの、特定の職人に甘く新参者に厳しい、このスレの風土に耐えられずに消えてしまう>>420
423名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 00:31:38 ID:Uk3RjGnv
>>422が先頭に立って叩くに一票
424名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 02:06:25 ID:uCD+Dd4w
>>420はご主人様とのいやらしい日々をネットで公開したい淫乱さを持ちつつも、やはり恥じらいには勝てないメイドさん

>>421は、そんなメイドさんをエロくいじめたいがためにニヤニヤしながら応援し、小説を書いたら「淫乱め」と罵る予定の意地悪なご主人様

>>422は、淫乱メイドさんと意地悪ご主人様の愛のある生活を興味ないを振りして見ているものの、実はメイドさんが気になって仕方がなく、しかし不器用なため冷たくしてしまう執事
425名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 08:41:57 ID:Hg7pBBl0
すげぇww
これで二本くらい書けるんじゃないかwwww
426 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:42:53 ID:k6cIKdBK
>370
>393
の続きです。
427 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:43:37 ID:k6cIKdBK
-*

「と、いうことで。今週の日曜日に日取りは決まりましたから。」

「はあ。」
と、答える。というか答えざるを得なくて、頷く。
頷いた瞬間、不味いかな、と思い返す。

「良かったですね。あなたは器量も抜群だし、何事にもよく気が付くし、私はきっと、こういう良いお話が来ると思っていましたよ。
でも、まさか、姉小路様のご子息様からとは思いませんでしたけどね。」
ふふふ、と笑いながらそう言う和子さんにかなり引き攣っているであろう笑みを返す。
うん、やっぱりマズい。

「その、あの、なんていうか、大変光栄なんですけれど、やはり身に余る話なので」
「だめよ。」
おそるおそる言った所でぴしゃり、と言われる。
うぐ、と黙る。
428 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:44:44 ID:k6cIKdBK

「あなたの言いたい事は判ります。
姉小路家と言えば越智家までとは言わないまでも名家中の名家。
そこに越智家主人様付きとはいえ、いちメイドの身分である
自分などが嫁に行っても良いものかどうか。そう考えているのでしょう?
悩むあなたの気持ちは私にもよく判ります。いえ、当然の事とも言えます。
しかし、私の頃とは時代が違うのです。
いえ、それは悪いことと言っているわけではありませんよ。
こうやって変わっていかなくてはいけないのかも知れない事ですし、
そうであればあなたのように若く、聡明な人が変えていく、
世の中とはそういうものです。
ねえ、主人様のご学友に見初められて、
こうやって向こうからお話を頂けるなんて事は中々あるものではありませんよ。
無論、それもあなたの日々の努力があったからこそです。
遠慮をする必要は全くないのですよ。
私も鼻が高いですし、ほっとしもしましたよ。
あなたはもう21になるのですからね。
あなたのような優秀な子はいつまでも手元に置いておきたい、勿論私もそうは思いますけどね。
やはりこうやっていいお話を頂けるとなると、ほっとするものですよ。」

最早これが、のっぴきならない状況である事だけは身に染みて判る。

「これからが忙しくなりますね。無論、嫁に行くとなれば養子の手続きが一度必要になりますからね。
それは私の方から姉川家にでも頼む事としましょう。それから・・・」

「あの・・・」
はかない抵抗だとは判っている。が、一応口を出してみる。

「その、なぜ私が、なんでしょうか。姉小路家といえば和子さんの言う通り、名家ですよ、ね。
その、なんでわざわざ私なんかを。 しかも後添いとからなら判りますが、
その、私、お相手の方より年上になるんですよね。 私、お会いした事もないのに。」

和子さんがぱちんとウインクをする。
うげ。あるのか、会った事。
429 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:45:44 ID:k6cIKdBK

「お会いした事はあるのですよ。忘れたのですか?
この前、姉小路様が主人様の所へ遊びにいらっしゃったでしょう。
その時あなたがお茶をお出ししたんでしょうに。」

あー出した出した。お茶出した。と思い出す。あれが姉小路様か。
そういえばそうだった。主人様がそんな事を言っていた。と思い出す。
一月ほど前に来て、主人様と楽しそうにお話をされていた人だ。
眼鏡を掛けて顎がしゅっとした印象の中々男前の人だった。
何か若手のメイドがきゃあきゃあ言ってた。

「向こうが言うには一目惚れ、だったそうですよ。
背中に電撃が走ったようだった。あんなに美しい女性は僕は見た事が無い。
なんて向こうでは言っていたようですよ。
もう寝ても醒めてもあなたの話をしているらしくて、
この話を持ってきた向こうの家令の方がもう笑う事笑う事。」

「そ、そうですか。」
と言うしかない。

「ねえ、私も、立場もありますし、あなたの言うとおり姉小路様も主人様と同年齢ということで年下となる訳ですし、
とは言ったのですけれどね、 そこはやはり若いと言ってもお偉い方ね。
姉小路家でも同じような話になったそうなのだけれど
昨今人の身分などというのは流行らないよ。結婚とは人と人とが心で結びつくものなのだよ。
とぴしゃりと言われてその話はおしまいになったそうよ。
情熱的で、素敵な方じゃないですか。」

あら、それにあなた、姉小路秋乃なんて雅な名前じゃないの。
なんぞと言いながら和子さんはぽう、とあらぬ一点を見つめている。
430 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:46:05 ID:k6cIKdBK

「日曜日までに体調を崩さないようにして、できるだけね、身綺麗にしてお伺いするのですよ。
あなたの事だからその点についても、向こうでの作法についても心配はしていないですけどね。
でもあなたは時々抜けているところがありますからね。
当日は服も出来るだけ控えめで、でも殿方の気を引くようなものにするのですよ。
そうね、あなたなら着物が似合いますし、あの桜色の振袖があったじゃない。
少しばかり派手ではあるかもしれないけれど、あれが良いわ。そうよ。そうなさい。」

さあ、決まった。と部屋から送り出されながらそう耳打ちされ、
もう上機嫌!という風に和子さんが私に手を振りながら扉を閉める。

私はさてどうしようかしら、としばし扉の前で佇むのだ。


431 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:46:33 ID:k6cIKdBK

@@

あんの御節介婆が。と毒つくのは簡単なのだけれど。
現実問題、うん、現実の問題なんだよな。と考える。

21歳でございます。年下の貴族様から見初められました。
和子さんが喜ぶのも判らないでもない。
越智家にとっても名誉な事だろう。きっと。
私にとってもきっと悪いことではない。というよりも望外の幸せと言っても良い。
年齢としても私の年は結婚するには普通か、18で学校を出た身としては少し遅いかもしれない。
同い年のメイドの仲間はそういえばもうあらかた片付いている。

私もそろそろなのだ。
そういう順番なのだ。
そういう訳だ。

学校まで出させてもらって3年間。
いつの間にか厨房付きと和子さんを除けば、メイドの中で私が一番年上になっている。
そう考えればそろそろ卒業するべき時なのかもしれない。
432 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:47:39 ID:k6cIKdBK

というか、卒業させてもらえるのだ。こんな家が今時どこにあるだろう。
使い潰せば良いものを、世間では当たり前のようにそうしているものをこの家では決してそうしようとはしない。

和子さんは19歳、20歳あたりになったメイドに必ず嫁の世話をする。それがどんなに仕事の出来る子でも、出来ない子でも、
例え18でこの家に来た子にすら、しつこい位に声を掛け、根負けした彼女達に見合いをさせ、そして送り出す。
場合によっては今の私の話みたいに家格の問題を解消する為に一時的な養子の口まで探し出す。
まだ働いていたい若いメイド達は御節介婆と和子さんの事を言うのだけれど。
でもこれは正直言って私達にとって、とてもありがたい、
いや、殆どありえない事なのだ。

それどころか私などは学校まで出させて貰ったのだ。
そう云った事について越智家に対して恩返しもまだ済んでいないというのに
その上で給金まで貰っていて、そして今、私は見分不相応な嫁入り先まで用意してもらったという訳だ。


「あ、秋乃、丁度良かった。今日さ、主人様のお風呂変わってくんない?
急に女の子になっちゃってさ。換わりに私、食事の後片付けと掃除やっとくから。」

部屋に向かって歩いている途中に私と同じく主人様付きのメイドをやっている鈴子が声を掛けてきたのを無視して通り過ぎる。
なんだかあまり話をしたい気分ではなかった。

「ねえ、聞いてんの!?」
「聞いてるわよ。交換ね。いっこ貸しだからね。」
背中でそう答えると鈴子のむくれたような声が返ってくる。

「ん、な、何が貸しよ。いつもなら喜ぶ癖に!どっちかといえばこっちが貸しでしょう?」
後ろを向いて、わかった、わかった、と言ってひらひらと手を振る。
不思議そうな顔をする鈴子を尻目に部屋に入った。

ふう、と息を吐く。

433 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:48:07 ID:k6cIKdBK

@@

でもね。と思うのだ。
贅沢を言う訳じゃないのだけれど。

それにしてもさ。
主人様は何も言ってはくれなかったのだろうか。
私としてはそう思う訳だ。

主人様が7歳の時、つまり私が9歳の時から私は主人様をお世話している訳。
贅沢を言う訳じゃないのだけれどもうちょっとこう、
何かあっても良さそうなものじゃないだろうか。

ねえ。

だってさあ、ほら、主人様のお勉強も、ご飯も、遊んだりも、全部さ。
一緒だったから。
学校とかもほら、私と鈴子は通わせてもらってたから、なんていうんだろ。
上手く言えないけどほら、一緒だったから。

434 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:48:31 ID:k6cIKdBK

身体がどうとかって言うわけじゃないんだけど、そういうのもさ、あったし。
私の気持ちとかも、伝えてはある、訳だし。
その、ねえ、出し惜しみするわけじゃないんだけど。
結構その、私としても覚悟とかも要った訳。

まあだから将来的にどうなるとかってのは確かに避けて来た所はあったのだけれども。
その結果としての主人様の判断がこれって事なんだろうか。

まあ。というよりも、あの主人様がこういう判断を出来るようになったって事なのか。
それはそれで凄いよなあ。と思う。
なんか正直ずっと子供っていうか、弟みたいに思ってたからなあ。
いつの間にか身体だけじゃなく、心も逞しくなったのかも。と思う。
それはきっと、うん。良いことだとは思う。

主人様のお世話はどうしようか。
・・・まあ、どうしようも何も無いか。鈴子なら何の問題もないだろう。
いまだにちょっと気の利かない所もあるけれど、でも別に何の問題も無い。
というか鈴子はとても優秀な訳だし。
私が抜ける分を補充するにしたって和子さんが優秀なのを入れるだろうし、
鈴子は嫌がるかもしれないけれどその子ともちゃんとやるだろうし。

あ、鈴子にも言わなくちゃいけない。鈴子こそ妹みたいなものなのだから、
話が決まったら真っ先に言ってあげなければ。
どうだろう、喜んでくれるだろうか。それとも、怒るだろうか。


435 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:48:56 ID:k6cIKdBK

そうか。と気が付く。これと一緒だったのかもしれない。
主人様は優しいから。そして少し心配な位に気が弱い所があるから。
だから私の事を気遣って直接言えなかったのだ。多分そういうことなのだろう。
怒ると思った?
・・・それとももしかして、喜ぶ私を見たくなかった?
なんてね。それは自意識過剰と言うものだろうけれど。

でも、ちょっとは逡巡とかしてくれたのかなあ。
そうだといいなあ、と思う。


なんでだろう。
何で泣いているのか。私は。

つうつう、と頬に垂れる涙を拭う。
しゃくりあげる。ひっく、と声が漏れる。

お嫁さんにしてくれなんて言ってない。
いいじゃないか。ずっとずっと隣にいたかっただけなのに。と思う。
9歳の時からずっと一緒にいたのに。
私が本を読んであげて、部屋を片付けてあげて、
熱を出した時は一晩中一緒にいてあげたのに。
勉強も教えてあげたし、一緒になってボール投げもした。
あんなに小さかった背が、いつのまにか私を追い越して、
いつの間にか何でも私が一緒にやってあげていたのが、私が手伝うっていう形になっていって。
子供向けの冒険活劇のお話が、最近の流行の文学物の話に変わっていって。
主人様とかそんな事関係なく、私がその間ずっと、一番可愛がって、一杯可愛がってあげたのだ。

よりによってお友達を紹介する事なんて、ないじゃないか。
私を邪魔にする事なんて無いじゃないか。


主人様の馬鹿。
436 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:49:44 ID:k6cIKdBK

@@

「今日はなんだか、秋乃、優しいね。」

そうかしら、私は優しくしているつもりはないけれど。
湯船に浸かりながら腰だけをお湯の上に浮かせた格好の主人様の脚の間に身体を滑り込ませた格好でそう考えながら、湯船から突き出されたそれに唇を被せる。
口いっぱいと言って良いほどの逞しさ。
首を捻りながら舌を絡ませ、唇が湯面に付く位、口の奥の方まで飲み込ませる。

どくんと、口の中のそれが脈打つことで嬉しくなる。
自分でも健気だなあ、と思うような律儀なリズムでせっせと上下に首を振る。
私の口の中に唾液が溜まって口の中のそれに絡みついて粘着質ないやらしい音を立てる。
余った分が唇から漏れて、屹立したそれの側面を伝ってお湯の中へ溶ける。

嬉しそうにそれがすっごく硬くなって、私の口の中でびくんと跳ねる。

でもこれ、ご奉仕という割には私も気持良いんだよな。
と悔しくなる。
私の口の中で硬くなるそれはなんだかすごくいやらしい気分になるし、
硬くなる度に先端から出てくる唾液に混ざる苦味のあるそれも、なんだかもう、すんごくやらしい気分になるし。
それを必死で啜っている私自身もお風呂に浸かっているっていう以上に完全に身体が火照っていて、いやらしい。

何だか悔しくて、引き抜きざま、私の唾液でぬとぬとになったそれが舌の先端に丁度当たる位の位置で軽く歯を当ててやる。

437 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:50:05 ID:k6cIKdBK

「痛っ」
と、声がして、ちゅぽん、と口から離す。
「あら、ごめんあそばせ。」
こくん、と口の中に溜まった唾液と先端から漏れたそれの混じった液体を飲み干しながら謝ると、こちらを軽く睨みつけてくる。

「こら、秋乃。」
と言われる。目が笑っている。
うわあ、判ってるなあ。というか判られてしまっているなあ。
と、考えて、自分でも顔が紅くなるのが判った。
えーと、そういうつもりでは。

「こっちに来て。」
うわ。やっぱり笑っている。
おねだりした格好になるというかそう思われている。

「いや、ちょ、ちが、」
「いいから。」

ぐいと手を引かれて、ざばんと立ち上がる。

「ううぅ・・・ええと、今のはそういうつもりじゃ」
「ほら。」

小さいメイドを叱る時の様に叱られるのが好き。
悔しい位私の事を知っている。
いつもは意識してやっていたから、今日のはなおの事恥ずかしい。
438 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:50:30 ID:k6cIKdBK

覚悟を決めて、すうと息を吸い、背中を向けて湯船を跨ぐ。
脚を思い切り開いて両足をそれぞれ湯船の淵に乗せ、顔にまたがるようにする。
四つん這いの格好になるように両手もそれぞれ湯船の淵を掴む。

ええと、つまりは、思いきり、凄く恥ずかしい格好になる。
湯船に寝そべった主人様の上に、逆向きになって思い切り脚を開いた物凄く屈辱的な格好。

湯殿自体は思い切り広いのに湯船が狭いからこそ出来る格好だ。
まあ、この為じゃないと思うけど。

バランスを取る為に両足はまるで無理やり広げさせられてるみたいに思い切り広げる格好になる。
しかも両手も広げざるを得ないからカエルのような格好だ。
初めてではないとはいえ、頭がめちゃめちゃになるくらい恥ずかしい。

ちなみに鈴子はこの格好、1分と耐えられない。
私は、ええとその、いや、えと、・・・まあ、その、大好きだ。
439 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:50:51 ID:k6cIKdBK

ぴしゃん、とお尻を叩かれて、ひゃん、と声が出た。
瞬間、指が私の中を割りながら入ってきて電流が流れたみたいな快感が走った。
「んっ!」
抵抗できない格好で、見ながら触られてる。
「いやらしいな、秋乃。こんなに締め付けて。」
ああああああ、それだけで頭が爆発しそうになる。
私のそこに埋められた2本の指がゆっくりと出し入れされて、
私のそこが凄く、濡れている事を証明するような音が漏れる。
力を入れていないのに、勝手にきゅう、と指を締めるように動くのが判る。

「あっ……ぁあああああ…んっ、恥ずかしいっ!やだっはずかしいぃっ!」

お湯を割って丁度顔のところに突き出されたそれの先端に夢中でしゃぶり付く。
首を使えないから舌を使って思い切り嘗め回す。

「やだっ!んっ!見ないでっ!お願いっ!んっ!ねっ!やぁっ!」
私がそういう度に、わざと開くように指を動かしてくる。
わざと乱暴に抜き差ししてくる。
私はあんまりにも気持ちが良くて、恥ずかしくて、
口の中に必死に神経を集中させて吸い込んで、唾を塗して、嘗め回す。

鈴子にはそうしない。
鈴子にはもっと優しくする。

鈴子はお姉さんぶるのが好きな癖に、ああ見えてとても甘えたがりだから、そうしてくれる。
私にも、私がこういうのが好きって判っててそうしてくれる。
優しい性格だから。
440 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:51:12 ID:k6cIKdBK

中に入れられた指が開かれて、
「あっ!・・・んうっ!・・・はあっ・・・ああああんっ!」
下半身に感じた衝撃にもちかい快感に思わず脚から力が抜けて、じゃぼん、と湯船の中に落ちる。
お腹の上にぺたんと座った格好になる。
ぐるんと回転して思い切りしがみつく。

「秋乃の中で。」
「あああああああああっ」
声だけで達しそうになって耳元で声を上げると、私の腰を軽々と持ち上げてきて。

そして入れてくれる。

「んああああああああああんっ!」
凄く逞しいそれが、私を貫く。
嫌になるくらい甘ったるい声が私の口から出てくる。

「いやっ!太いっ!だめっ!いやっ!だめえええええ!」」
私から動く事なんて出来ない位激しく上下に動かされる。
私達の動きで湯船の表面がざばざばと揺れる。

「いやっ!はずかしいっそこ、そこだめですっ!あああああっ」
力強い両手でお尻を掴まれ上下に揺さぶられて私の身体と共におっぱいが上下に跳ねる。
自分の意思に関係ない、私を求めてくる動き。
私で気持ちよくなってくれている動き。
揺れているおっぱいを口元に近づけるとちゅうと強く吸い込んでくれる。

上下に揺さぶられながら私は両手を使って主人様の頭をぎゅっと抱きしめる。
信じられないくらい愛しくて、恥ずかしくて、色んなことが頭を過ぎって、
次の瞬間、頭の中が真っ白になる。

441 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:51:34 ID:k6cIKdBK

@@

「今日、秋乃、僕の部屋へ来る?」

ゆっくりとタオルで身体を拭っている所でそう言われた。
少し考えて、首を振った。
何て言おうかと、一瞬考える。何といっても断った事なんて無かったから。
「いえ、え、ええと、実はちょっと体調が悪いので、」
ちょっとのぼせ気味で、大して考える事も出来ず頭の中に浮かんだ言葉をそのまま口に出す。

「えっ!」
「あ、ええと、全然、大した事は無いのですけど。」
嘘を吐いてしまった。と自分で言っておきながらショックを受ける。

「早く寝なきゃ駄目だよ!」
ばさっと私が拭っていたバスタオルを奪われて私の体に掛けられる。
馬鹿だな、と言われて私の身体がごしごしと擦られる。
まるで大事なもののように、丁寧に。

何だか何もいえなくて私は立ち竦んだ。
本当ならそんな事させちゃいけないのに。
私はメイドなんだから。さ。

442 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:51:55 ID:k6cIKdBK

「折角なのにごめんなさい。」
ごめんね。
心配そうに私の事を見てくるのを、見上げながら言った、

「そんな事いいから!きちんと乾かさないと駄目だよ。
早く部屋に戻って、寝なきゃ。」
全く、そう云う事は早めに言ってくれないと駄目じゃないか。
時々抜けてるんだから。と言われながらごしごし、と頭を擦られる。
耳の後ろを指でくすぐるようにしながら手が頭の後ろに回って、
首の後ろを上下に擦るようにタオルで水滴を拭う。
私がいつもやってあげていたやり方だ。
そのやり方で、頭をごしごしと擦られる。

泣くまい、と努力した。
でも俯いて気取られないようにするのが精一杯で、やっぱり無理だった。

443 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:52:28 ID:k6cIKdBK

@@

前日に頬に小さなニキビが出来るというアクシデントがあったものの
無事にその日は訪れた。

和子さんが本気になって着付けた桜色の着物は自分で言うのも何だけれど似合っていた。
形も良い。腰周りがどの角度から見てもすらりと柳腰に見えるようになっていて
自分で着付けるとこうは中々ならない。
さすが年の功だ。とは口には出さない。
髪は編みこんでうなじを出すようにした。
和子さんと二人で鏡を覗き込む。完璧ね。との呟きにそうかも、と思う。
うん、まあ、中々のものかも。

見せたいな、とふと思ったけれど、主人様の部屋に声は掛けなかった。
外出する時にそうしないのは初めてだな、とそんな事を考えながら。

444 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:53:02 ID:k6cIKdBK

和子さんが呼んだ車に和子さんと一緒に乗って、先方の待つ料理屋へと向かう。
和子さんは母親代わりだ。
車に乗る瞬間にふと庭先に目をやると、箒を持って目を丸くしてこちらを見ている鈴子と目が合った。
車の出しなにひらひらと手を振ってやる。
帰ったらさぞかし質問責めにされる事だろう。

主人様の付き添いでしか入った事の無いような、素晴らしい庭園のある料理店に着いて、一番奥の部屋へ通される。

襖を開けた瞬間、おお、どよめくような声が聞こえた。
この前お屋敷で見た、しゅっとした印象の人と、かなり年配の恐らく父親。
そして母親であろう女性と、御付きのメイドだろう若い女性。

「はじめまして。本日はお招きをいただきましてありがとうございます。」
と、挨拶をする。
和子さんが続いて挨拶をする。

445 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:53:25 ID:k6cIKdBK

私達の挨拶ももどかしそうに立ち上がったその人が、ちょっと背は主人様より高いくらいかも。私に手を差し出してくる。
「今日は来てくれてありがとう。」
ぎゅっと手を握られる。
ゴツゴツとした手だった。

慣れるだろうか。慣れる事が出来るだろうか。と思う。

出来るかではない。そうしなきゃいけないのだ。
ここまで来て、私に嫌という権利なんて、いや、そんな事を思う方が間違っている。
和子さんが、主人様が与えてくれようとしている私の幸せを逃す権利なんて、私には無い。

その人の顔を見て、にっこりと笑う。
2重写しにしちゃいけない。そんな失礼な事は出来ない。そう心に誓う。

446 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:54:02 ID:k6cIKdBK

話は和子さんを中心として非常にスマートに進んだ。
スマートに進むように作られているのだから当たり前といえば当たり前だ。
和子さんはこの道のベテランでもある訳だし。
話のもっていき方も何もかもがなんだか先程の乗り心地の良い車の如く、素晴らしく澱みなく進行する。
趣味、好きな本について、休みの日にはどんな事をしているのか。礼儀作法は?云々。
私が少しでもつっかえると和子さんがすかさずフォローして私の事を褒めたり、上品にからかったりしてくれる。
その人も見た目よりもずっと話上手で、なんやかや、と私に話を合わせてくれ、好きな作家も一緒だと云う事で、その話をする。
そしてつつがなくといえばつつがなく進んだ後、暫くして、二人で話でもしてきなさい、と言われて庭に放り出される。

その人が先に立って、私に手を差し伸べてくるのを、雪駄は履き慣れないのもあって、
手を取ってもらって庭へと降りる。
降りたら手を離してもらえるかと思ったけれど、そのままに手を引かれる。

石造りの小さな橋と池とそこにいる艶のある赤色の鯉、
直射日光が当たらぬ様に所々に配置されている整えられた竹薮。
そこから放射線状に薄く差す日光。
歩く度に音のする綺麗に形の揃った敷石。
見事に作りこまれた回遊式庭園の中を手を引かれながら歩く。
447 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:54:34 ID:k6cIKdBK

「今日は、本当に、嬉しかった。」
と、その人が言う。そして本当に嬉しそうに笑う。
「私の方が年上なのに、宜しいのですか?」
そういうとぶんぶんと首を振る。
「そんな事は全く、何も問題などありません。
私はあの日、越智のお屋敷であなたを見てからというもの、あなたの事が忘れられなかった。」

じゃりじゃり、と音を立てて歩く。
右手に繋がれた手。少しごつくて、温かい手だ。
私はそんな事ばかり考えている。
何だかちょっと違う。

いつものと違う。

ほう、と息を吐いた。顔を上げる。
人の好意を無にして、きっと私は、馬鹿なんだろう。
何だかちょっと違うなんて自分でも説明できない子供染みた理由で和子さんの、主人様の顔を潰すのだ。
「すみません、今日のお話なのですが、」

私が言いかけたその瞬間だった。

「すみません!申し訳ない!!」
後ろ側から大きな叫び声が庭に響いて、ひゃっと飛び上がる。

448 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:55:12 ID:k6cIKdBK

びっくりした。
                           
きいたこともないくらい、大きな声だ。 こんな声、出せるんだ。

走ってきて、私の手を掴む。

「お、おい、」
その人が言う。
主人様が、走ってきてその人から奪い返すように私の手を掴んだ主人様がその人に向かって頭を下げる。

「すまない、八尋君。今日の話は無かった事にしてくれたまえ。」
「帰るよ、秋乃。」
そう言って、ぐい、と手を引かれる。私はぼう、としながらこくり、と頷く。

私は主人様にぐいぐいと手を引かれながらとつとつと歩いた。
きっと私は随分と目を丸くしていた事だろう。勿論周りの人間もだけれど。

歩いて料理店から出て、すぐ側にある公園だろう。連れられるままにそこを通る。
私にはそこがどこだか判らない。お屋敷の方向なのかすら。
手を引かれながら歩く。
漸く広い芝生と周囲を綺麗に紅くなった紅葉に囲まれている公園の中心付近まできて、急に振り向かれる。
真っ赤に染まった葉が私の桜色の振袖の裾に落ちる。

そして主人様は大きく息を吸って、
「何で僕に言わないんですか!」
と、怒鳴った。

449 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:56:34 ID:k6cIKdBK

「はいっ」
と反射的に思わず答える。主人様は怒ると何故か敬語になる。
昔からそうだった。

「あ、あ、秋乃、僕は怒っているんですよ。鈴子が屋敷中に聞きまわって、
漸く家令の1人に事情を知っているのがいて、
そして僕の所にすっ飛んできて、そして話を聞いてびっくりしました。」

「そ、その、あなたが彼を好きだと言うのなら仕方の無いことです。
自分が今、その、随分と常識はずれな事をした事も判っています。
しかし、しかし秋乃も、酷い、その、あまりに酷いじゃないですか。
僕に一言の相談もなくこんな。無論、その、秋乃には秋乃の人生がある。
そう云う事は判ってはいる、います。でも、でも、
その、こんな事を人伝えに聞いた僕がどんな気持ちになると思っているんですか?
こ、これを聞いた時、ぼ、僕は・・・その、秋乃がそういう事に気が回らない、そういう人じゃない事は知っているから、
だ、だから若しかしたら言い辛かったのかもしれない。そうも思いました。
あなたが彼を好きになり、であれば確かに僕にはきっと言い辛いという気持ちもあったのだろう、とそう判ります。
僕にだってその位の想像は付く。付きます。
だ、だから、僕の今日の行動を秋乃は軽蔑するかもしれません。でも、
しかし、であればこそ、であればこそやっぱり僕は秋乃にきちんと言って欲しかった。」

「ええと、その、それって・・・」
何か重大な齟齬があったのだ。と気がつく。
でも、彼は私の表情に気がつかないようで、言葉は続く。

450 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:58:00 ID:k6cIKdBK

「でも、でもこれだけは言わせて下さい。
もう遅いかもしれないけれど、その後、あなたの気持ちを聞かせて貰いたい。
若しかしたら僕がはっきりしない事で、秋乃も、鈴子も、僕がメイド相手に本気にならない、
なんて、そういう男だと思われてるかもしれない。
でも違う。違うんです。
僕がその、決められないでいたのはそう云う事じゃないんです。
そんな事はどうでもいい、いや、考えた事すらありません。
秋乃も、鈴子も僕にとってそんな、そんなような事を考える存在なんかじゃない。
そんな事じゃなくて、僕は子供の頃から一緒に居た秋乃と、鈴子と、そして僕を好きだといってくれるその事が嬉しくて、
だからはっきりといえずにいたんです。だらしないと思います。思っています。
でもどちらかを選ぶなんていう決心をする事が出来なかったのです、
いえ、正直に言えば今もです、しかしそれはけしていい加減な気持ちだからではなく、」

彼の話は続く。
真っ赤な紅葉の葉が、私と彼の間に落ちる。
主人様は私に言い聞かせるように、私の顔の高さに合わせるように膝をかがめている。
うーん。やっぱり、このひとは、私より大きくなったんだなあ。

「聞いてますか?聞いて下さい!秋乃に怒ってるんですよ、僕は!」
ちゃんと聞いてください。と声が続く。
451 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 20:58:23 ID:k6cIKdBK

しかし私はもうそんな言葉は聞いておらず、
主人様の前に回って、踵を少し上げて爪先立ちになって、
初めて出会った頃に比べて随分と大きくなった背と、
少し男らしく厚くなった胸板に身を預けるようにして、
そしてそれに比べれば幾分細いともいえる首筋に手を廻しながらぎゅうとしがみつくようにした。

頬と頬を合わせるように、そう云う風にしながら私は今、昔そうした時のようににっこりと笑っているのだろう。

そうやって、赤い紅葉の葉を肩に乗せながら、ぎゅうと、ぎゅうと、ぎゅうと、私は可愛らしい主人様を抱き締め続けるのだ。



452 ◆/pDb2FqpBw :2009/10/15(木) 21:00:04 ID:k6cIKdBK
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感想、ありがとうございました。
本シリーズはこれでおしまいです。

では。

ノシ
453名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 00:02:39 ID:YmSZbOIi
ご主人様GJ!

そして、作者もGJ!
454名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 02:45:25 ID:WzH3rX77
GJ!

やっぱり、ご主人様知らなかったのか、あの場面でこなきゃ駄目だよなw
いい話でした。
455美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/10/21(水) 07:33:01 ID:HHNQ1Krf
最終話です。



「絶対にイヤです。使うならお一人でなさればいいじゃありませんか!」
旦那様を睨みつけ、声を荒らげて抵抗する。
困った顔でこちらを見ていらっしゃるあの方の手には、妙にファンシーでポップな色調の瓶が握られていた。
わざとらしいハートマークとFOR LOVERSの文字を見れば、それが何であるかなど私にだって分かる。
聞けば、おととい薬局でゴムを買う時に目につき、ついでに買ってきたのだという。
断りもなしに事後承諾だなんて、全く何を考えているんだろう。
「どうしても駄目ですか?たまには、こういう物も……」
「イヤだったらイヤです。そんないかがわしい物なんか使いたくありませんっ」
あくまで拒否して、なおもすがろうとする旦那様を振り切り、足音も高く女中部屋に戻る。
戸口にありあわせの物でバリケードを築きあげ、私は何もかもを一切無視して早々に寝ることにした。

翌朝以降も、なるべく旦那様の傍に寄らないようにして、会話も必要最低限に抑えた。
いくらあの方のご希望だからって、こっちにも自分の意志ってものがある。
何があっても拒否だ拒否!と鼻息を荒くしていたのだが、さらに数日が経つうちに、心境にほんの少し変化が訪れた。
私が今、女中部屋で使っている布団を捨てる日が近付いてきたためだ。
粗大ゴミの日は清掃局に確認済みで、有料シールの用意ももうしてある。
どうせ布団を捨てるのなら、「あれ」を一度くらい試してみてもいいかも。
そんな考えが、日ましに私の頭の中で膨らんできた。
まだ使える物を捨てるという罪悪感も、いっそ「あれ」で布団をもう使えないほど汚してしまえば消えるかもしれない。
美果が駄目なら、他で試してみようなどと旦那様に思われても困るし。
あの方がそんな考え方をなさるとは思わないけど、それはそれ、万が一ということもある。
もしかしたら、もったいないオバケに二倍祟られそうで怖いけれど。
たった一度、旦那様の顔を立てて一度だけなら。
こうして、私はぎりぎりで覚悟を決めた。


「あの、旦那様」
布団をゴミに出す前夜、私は意を決してあの方の前に立った。
お風呂上りに、また机に向かわれる前に用件を切り出さないと。
「どうしました?美果さん」
ここしばらく避けていた私が目の前に立ったのを妙だと思われたのか、パジャマ姿の旦那様が首を傾げて私を見られる。
「こないだの『あれ』ですけど……。まだ、捨てていらっしゃいませんか?」
私が問うと、旦那様はもう一度首を傾げ、しばらく考えた後に頷かれた。
「ええ。僕の部屋の棚に仕舞ってあります。あれが、どうかしましたか?」
問い返されて言葉に困り黙ってしまう。
まさか「今晩使いません?」なんて……。
言えるだろうか、いいや言えるわけもない。
せっかくの決意が頭の中でぐらぐらと揺れはじめ、私は所在無くエプロンのフリルを指先で弄り回した。
単刀直入に言うより、あの日から今日までの心境の変化を、順を追って説明するのが無難だろうか。
「美果さん、もしや」
指先以外は微動だにさせず黙っていると、こちらを見つめていた旦那様が何かに気付かれた風になる。
「気が変わった、ということですか?」
「あの……、えっと……。はい」
旦那様が重ねて問うて下さったのを幸いに、微かに頷く。
「もう使う気が失せてしまわれたのなら、いいんですけど……」
旦那様のお察しがいいことに感謝しながら、それでも、遠慮がちにお伺いをたててみる。
こんなにうじうじと煮え切らない物言い、私には縁の無いものだったのに。
いっそ、カラッと明るく誘った方がよかったのかもしれない。
複雑な思いに駆られながら、ご返答を待った。
「その気になってくれたのなら何よりです。では、使ってみましょうか」
短いような長いような間を置いて、旦那様がいつもと変らぬ調子でお答えになる。
浮き足立って鼻血でも出そうな私に比べ、なんと余裕のある物腰だろう。
「本当に、構わないのですね?」
「は、はい」
さすがだと暢気に関心していたところに、念を押され慌てて答える。
妙に高鳴り始めた胸をそっと押さえ、気付かれぬよう深呼吸をした。
456美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/10/21(水) 07:34:03 ID:HHNQ1Krf
準備をしてきます、と旦那様が自室に立たれたので、私は先に女中部屋に戻って待つことにした。
突っ立っているだけでも何なので、とりあえず布団を敷いてみる。
床の準備なんかしたら、この後のことをすごく期待しているように思われそうだけど。
私がこうするのは、こないだ拒否した時に言い過ぎたのが後ろめたいのと、段取りをしておく、ただそれだけのため。
別に、あれを試すことに乗り気で、好奇心が抑えられないとかじゃないから。
誰に向けるでもない言い訳は、頭の中で並べているつもりが、いつの間にか小さく口からこぼれていた。
布団を敷いてその脇に座り込み、意味も無く布地を指で突っついて待つことしばし。
ノックの音をさせてから、旦那様が女中部屋のドアを開けて顔を覗かされた。
しかしその手には、あの可愛らしい瓶ではない別の瓶をお持ちになっている。
あ、あれは来週の資源ゴミに出すために洗って干していた米酢の空き瓶じゃないか。
「用意ができました」
旦那様がにっこりと笑って部屋に入ってこられる。
「用意?」
私がおうむ返しに言うと、旦那様はええと頷いて、瓶をこちらに差し出された。
「説明書きには希釈式だとあったので薄めたのですが、比率がよく分からなくて」
試行錯誤するうちにこうなりました……と、五合瓶にほぼ満タンに入った中身を示される。
受け取って、私はそれをまじまじと見てしまった。
これがあの、いわゆるローションという、あれなのか。
透明な液体が、小さな泡を含んで容器に納まっているさまは、ゼリー状ドリンクのようにも見える。
揺すると瓶の中で緩慢に動く様子は、中華料理のあんかけみたい。
こんなの、本当に使って大丈夫なんだろうか。
「心配には及びません。人体には無害であると明記してありましたから」
私の疑問を解消するように旦那様が仰って、さあさあと瓶を取り戻し、私をうながして布団にいざなわれる。
組み敷かれたところでハッとする。
布団は捨てるからいいけど、メイド服が汚れるのは困る。
それを言うと、旦那様は頷いた後にローションの瓶を少し離れた場所に置かれた。
「服を着たままでも使えるようなのですが、美果さんが嫌なのならやめておきましょうか」
まるで私が脱ぎたがっているかのように言われ、思わず頬を膨らませてしまう。
いくら気心の知れた方の前だからってポンポン脱ぐような、私はそんな恥知らずじゃないのに。
でもやっぱり服が汚れるのは困るので、釈然としない気持ちのまま頷く。
旦那様のお手にエプロンの結び目が解かれ、腰の戒めが軽くなる。
ちなみにだけど、旦那様の後に私もお風呂は済ませている。
決意を示すのにパジャマでは不足だから、自分の戦闘服ともいうべきこの格好で旦那様の前に立とうと思っただけ。
でも、いつもは徐々に脱がされるのに、段取りのためとはいえ最初から全部だなんて恥ずかしい。
それじゃますます私が「あれ」に興味津々で、ノリノリみたいに見えるもの。
旦那様がエプロンを畳んで下さっている間に照明を落とそうと、一旦起き上がる。
しかし、スイッチに触れたはずの私の手は、背後から伸びてきたあの方のお手に動きを止められた。
「美果さん、明かりを消してはいけません」
「えっ……」
「何かあってはいけませんから、今日はこのままいたしましょう」
旦那様に手を捕らえられたまま、布団に再びお尻をつけて座る。
そんな、電気をつけたままするなんて困る。
変な場所とか表情とか、明るかったら全部見られてしまいそうだもの。
「ね、美果さん」
今回だけだから……と諭すように言われてしまうと、どうしても嫌だとは言いにくい。
私がしょうがなく頷くと、旦那様はワンピースのボタンに手をかけられた。
手際よく脱がされ、ブラもストッキングも外されて、身に纏っているのは下半身の布一枚だけになる。
「旦那様も、脱いで下さらなきゃ困ります」
私がこんな格好なのに、旦那様だけパジャマ姿だなんてずるい。
明るい場所で裸になっている恥ずかしさを隠すように、私も旦那様の着衣をお脱がせして、汚れないよう遠くにやった。
「では」
旦那様が瓶を掴んで手元に寄せられる気配がする。
いよいよ始まるのだと、なぜだか体が小さく震える。
これって、武者震いってやつなのかな。
「寒いですか?」
問われたのに首を振ってみせ、私はシーツをくしゃりと握り締めた。
457美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/10/21(水) 07:35:17 ID:HHNQ1Krf
抱きかかえられるようにして、布団の上に横たえられる。
「始めましょうか」
その声が耳に届いた次の瞬間、胸元がいきなり冷やりとした。
「んっ」
水やお湯とは全く違う液体が肌にかかる初めての感触に、体が大きく跳ねる。
「動かないで。じっとしていて下さい」
旦那様が、まるでお医者様のように指示される。
でも、よく分からない物に肌を一部分でも覆われているのは、何となく居心地が悪くて。
お言葉に従いたい気持ちとは裏腹に、どうしても身じろぎを止めることができない。
化粧水、乳液、ボディーソープに軟膏の類。
肌につけたり塗ったりするあれこれを思い浮かべてみても、それらとは全く違う質感なんだもの。
気もそぞろになっている私を尻目に、旦那様がさらに瓶を傾けられる。
「あっ……」
増やされたローションが、胸の谷間を滑り落ちる感触に思わず声が出てしまう。
「おっと」
胸を通り抜けておへその辺りへ向かおうとするローションを、旦那様の手がせき止める。
流れに逆らうように押し戻されたそれは、今度は私の首元へ一直線に向かってきた。
顔をかばおうと反射的に出した手の平が濡れ、ローションが指の間に入り込む。
そこをすり抜けてさらに下へと滴るほど、この液体はさらさらではないみたいだ。
むしろ、私の手首からひじを伝って体の脇へと流れ落ちたがる。
このまま布団に吸収されてはもったいないのではという、ケチな考えが頭をよぎった。
これ以上ローションが落ちないよう、ひじを突っ張るように持ち上げてみる。
力を入れた手の平がずるりと滑り、右の乳房を滑り降りるように撫で下ろした。
「あ、んっ」
驚きと、それとは別の何かを含んだ声が唇を割る。
未知の液体をまとった手で触れた胸は、やけに敏感になっていて、故意ではない摩擦にも違う意味を持たせた。
面白い、もう一度やってみたいと興味がそそられる。
旦那様に止められないのをいいことに、私は恐る恐る手の平を後戻りさせた。
「ん……あ、あ……」
肌に乗っかったローションが、まるで吸い付いたみたいに手の平と胸をぴたりと密着させる。
それなのにつるつると滑って、手の平が元の位置に戻ろうとするのを邪魔して、下に引き戻そうとする。
まるで経験したことの無い新しい触感に、全身の感覚が鋭敏になるのが分かった。
起きているのに、さらに目を覚ましたみたい。
もういっぺんやってみたい、今度は、ごくゆっくりと。
好奇心に導かれるまま、鎖骨の辺りまで濡らしていたローションをすくい直した手で胸を撫で下ろす。
指先に触れた乳首は、一瞬でも分かるほど固く立ち上がっていた。
ほんの一往復半、しかも自分で胸を撫でただけなのに、なんで。
頭に疑問符が浮かんだのとほぼ同時に、またローションが垂らされる。
今度は胸元ではなく、左の乳房のてっぺんを狙って。
「あ、ああっ!」
少し冷たくどろりとした液体が、細く長く左の乳首を狙い打つ。
言いようもないほど背筋がぞくぞくして、私の呼吸はいっぺんに乱れた。
なのに両腕は体をかばうでもなく、ローションの瓶を傾けている旦那様のお手を掴むでもなく。
私はただ、陸に上げられた魚のように体をびくつかせ、口をぱくぱくとさせるだけで。
「はっ……あ……」
どれくらいそうしていただろうか、いつの間にか左胸に落ちるローションは止まっていた。
しかし息を整える間もなく、体の脇へと流れ落ちようとするそれを旦那様のお手がすくい、胸の頂上を通って心臓の方へと戻す。
「やんっ……あん、んっ……」
粘っこい刺激に胸を蹂躙されて、呼吸がまた乱れてくる。
私がそんな状態でいるのを面白がるかのように、旦那様の指は何度も同じ動きを繰り返した。
気がつけば、いつの間にか右胸も同じように弄ばれている。
ただ手を左右に動かすだけの単調な動きで、愛撫と呼べるほどのいやらしさなど、これっぽっちもないのに。
それでこんなに感じているなんて、私は一体どうしてしまったんだろう。
「あ、やっ……」
ローションをまとった旦那様の親指に乳首を嬲られ、むずかったような声が出てしまう。
まるで、そこをねっとりと舐められているような錯覚に支配されていく。
458美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2 :2009/10/21(水) 07:36:35 ID:HHNQ1Krf
気持ちいい、もっともっと触って欲しい。
旦那様の手首を掴み、胸に押し付けるようにしてねだる。
さっきの行為で濡れた手の平には、旦那様の体温がはっきりと感じられた。
一緒にお風呂に入って、お湯の中で触れられている時より、何倍も鮮やかに。
私の求めに応じるように、旦那様が両手を動かして下さる。
そのうちにローションを足そうと思われたのか、ふと旦那様の両手が胸から離れた。
「ひゃっ」
にちゃ……という音と共に、旦那様のお手と私の胸の間にローションの糸が何筋もできる。
引いた糸はその緊張に耐え切れない順番に切れ、体温を含まない間があったことを示すかのように、肌に一瞬の冷たい感触を残した。
全く見なくても、幾筋もの糸の一本一本が切れていくさまが思い描けるくらいに。
お手が触れていなくても感じることがあるなんて、今の今まで想像すらできなかった。


ローションを足して、旦那様がまた私の両胸に手を密着させられる。
今度は優しく揉むように愛撫されて、私はいよいよ声を高くして喘いだ。
とろみのある液体をまとった手で触れられるのが、こんなに気持ちいいなんて。
ぬるぬるするのも、当初想像していたような不快さは全く無い。
それどころか、摩擦が軽くなったせいで「もっと」と欲望が煽られる一方になる。
この辺でとか、もういいとか遠慮する気持ちがどこかに飛んでいってしまったよう。
限界まで固く立ち上がった乳首に触られるのは、本来なら痛いはずなのに。
ローションのおかげで滑りがよくって、痛くないどころか、その、絶妙だ。
旦那様がお手を動かされるのに合わせて、くちゅ、ぴちゃ……と粘っこい水音が立って、私の羞恥を煽る。
まだ触れられていないのに、脚の間がじわじわと熱くなり疼き始めた。
あまりにも、そこを愛撫される時の音と今している音がそっくりだから。
二箇所を同時に愛撫されているような錯覚を起こしそうになる。
旦那様も、こういった小道具を使うという初めての経験を楽しまれているようで。
好奇心を抑えられないといった様子で、いつもよりずっと念入りに愛撫して下さっている。
全てをお任せして、私は喉が痛くなるくらいにいっぱい声を上げて、たまに叫んでしまって。
時間を忘れるくらいに耽っていたのだけれど、ふとした変化に気付いて眉根を寄せた。
柔らかいお餅をこねるように滑らかだった旦那様の手つきが、あちこちに引っかかるように動きが悪くなりかけている。
やだ、さっきの方が気持ちよかったのに。
もしかして、私の体温でローションが乾燥してしまったのかも。
液を足したらまたぬるぬるが復活して、元の素晴らしく滑らかな愛撫になるのかな。
そう考えながら枕元の瓶を横目で見やっていると、ひとりでにそちらへ手が伸び、指先が瓶を掴んだ。
「美果さん?」
気がつけば、私は不思議そうに尋ねられる旦那様に、おずおずと瓶を差し出してねだっていた。
これを使うのは嫌だと散々ごねていた私は、どこに行ってしまったんだろう。
釈然としない気分になった時、胸にまた液体の落ちるとろりとした感触がする。
望みどおりにローションがまた垂らされたことに、私の頭は自己批判を遠くへ追いやった。
「んっ……あんっ……あ、ああ……」
再び旦那様の手の動きが滑らかになり、胸に快感を呼び起こす。
やっぱり、こっちの方がずっといい。
ひとりでに腰が浮き、身をくねらせて悶えてしまう。
まるで、旦那様の愛撫を誘っているみたいだ。
このローション、まさか使うとエッチな気分になる成分が含まれてるんじゃないだろうか。
少し怖いように思うけれど、こうなってしまえばもう、今更どうすることもできない。
明かりが煌々と灯った部屋で素肌を晒して、あられもなく喘ぐ姿を旦那様に見られている。
すごくいけないことをしているという罪悪感と高揚感が、触れられる快感を底上げして、私を夢中にさせて。
冷静な思考が奪われて、いけない欲望だけが全身から溢れそうなくらい、どんどん湧いてくる。


ふと、わきの下に旦那様の手が入り込み、前触れも無く抱き起こされる。
びっくりして目を開けると、鼻と鼻がくっつきそうなくらい近くで見つめられていた。
恥ずかしさに下を向くより一瞬早く、旦那様が唇を重ねてこられる。
するりと忍び込んできた舌が口中を這い回り、私の舌を絡めとった。
「く……ん、んっ……」
愛撫の余韻にぼうっとしながらも必死でキスに応え、置いていかれないように頑張る。
459美果と旦那様とアパート ◆CKHo.sFTP2
旦那様の腕を掴もうとした両手はずるりと滑り、手首の辺りでようやく止まった。
それでは物足りなくて、私は旦那様の背に腕を回し、あの方を抱きしめるように捕まえた。
愛撫されるのもいいけれど、こうして密着しているのも大好きだ。
こうしてくっついて、旦那様の香りをいっぱいに吸い込むと、胸に明かりが灯ったようにほの温かくなる。
塞がれている唇も口角が上がって、まるでキスをしながら微笑んでいるみたいになる。


私の気がすむまで唇を重ねていて下さっていた旦那様が、体を起こされる。
また組み敷かれるかと思いきや、私は今度は背後から抱きかかえられ、あの方の胸に背を預けた。
旦那様を座椅子にして、体重を全て預けて寄りかかっているような体勢。
普段とることのない形に、私は背筋を緊張させた。
「旦那様?」
振り返って旦那様のお顔を窺うと、心配ないとでもいうような微笑が返ってくる。
私が頷くと、体の前であの方の両手が動き、またガラス瓶が傾けられる。
「あっ」
瓶からローションを受けた旦那様の左手が、私の胸元にそれを塗りこめるような動きをする。
再び与えられた快感に、私は思わず自らの体を凝視した。
旦那様の長い指に液体を塗りたくられた両胸が、部屋の明かりを反射して妖しく光る眺めは、とても刺激的で。
まるで自分の体ではないような錯覚がして、そこから目が離せなくなった。
お屋敷にいた頃に見た、白桃のコンポートやゼリー寄せにされたメロンのタルトを連想させる照りと輝き。
触れてみると、たっぷりと垂らされたローションでぬるり、つるりと指が滑る。
手を離すと、粘着質な音を立てて、まるで気泡を含んだ細いつららのような糸が何筋も引く。
何度も同じ動きを繰り返し、同じ感触に酔う。
見慣れた自分の体が、まるで初めて触れる珍しい何かになったみたいで、手を止めることができない。
そんな私の心中を知ってか知らずか、旦那様は胸に触れていたお手を止め、私の下着に右手をかけられた。
いくらもかからず脱がされたそれは、ほんの一瞬見ただけで、正視できないくらいにじっとりと湿っているのが分かった。
綿の下着があんなになるなんてと、私は怖れにも似た思いで、それが軽く畳まれてあちらに置かれるのを見送った。
胸に垂らされたローションが、覆う物が無くなった下半身へと伝い落ちていく。
控えめに生えている茂みなどやすやすと踏み越えたそれは、私の脚の間へ入り込み、どろりとした感触を残して姿を消した。
流れ落ちた後をたどるように、旦那様の指が私の体をなぞる。
力を入れていないくらいに弱い触れ方なのに、私は体を大きく跳ねさせた。
みぞおちからおへそを通って、茂みを通り抜けて、脚の間へと指が分け入るさまを、息をすることも忘れて感じる。
気づいた時には、旦那様の5本の指が脚の間にぴたりと押し当てられていた。
ローションで濡れそぼった指が、それと同じくらいに濡れて熱を持った場所を覆っているのは、それだけで頬に血を昇らせて。
そこの柔らかさを楽しむように指にほんの少し力がかかるだけで、掠れた悲鳴が唇を割る。
指から逃げたくても、背後は旦那様に抑えられていて、腰を数センチ引くこともままならない。
「あ……んっ、あっ!」
旦那様の指が、脚の間をゆっくりと撫でさすり始める。
ほとびてしまうほどに湿っている敏感な場所を上下に擦られて、私は背を大きくそらし、喉をむき出しにして喘いだ。
中から溢れた物で十分潤っている場所をさらに濡らすかのごとく、ローションを塗りこまれて。
指先だけの微かな力とは思えないほど、その刺激は鮮烈に私のそこを捉えて夢中にさせた。
時々わざと動きを止められると、体を揺すって抗議したくなるほどに気持ちいい。
「旦那様……んんっ」
柔らかい襞を丹念に撫でていた旦那様の指がある一点を捉え、ぴたぴたと叩くように刺激する。
体の中で一番敏感な場所に与えられた快感に、私はそこを責め苛む旦那様の腕に掴まった。
爪を立てるほどに力を入れて声を堪えようと頑張るのだけれど、濡れた手ではそうすることなど無理なこと。
ローションで滑って肉芽を十分触ってくれない旦那様の指に、快感と同じくらいもどかしさをかき立てられて、どうしようもなくて。
二つのもどかしさに思考を奪われ、いくらもしないうちに、私は脚を閉じることも忘れてしまっていた。
「美果さん」
旦那様が耳元で小さく呼びかけられる声にさえ感じてしまい、熱い吐息が漏れる。
見開いた私の目は壁際に置いた小さな鏡をとらえて、そこに映っている我が身を見てしまった。
旦那様に後ろから抱っこされて愛撫を受け、あられもなく身をくねらせる己の姿。