乙
>1乙
無口っ娘との語らいももう六言目か
まだまだこれからだな
5 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/13(水) 23:37:22 ID:yNpK0Qm7
無口でクールな彼女
「ねぇー彼女?モデルとか芸能界に興味ない?君みたいに可愛い娘だったら人気出るよ」
学校の帰り道、体が溶けてしまいそうな暑さの街を歩く中現れたのはいかにも胡散臭い男。
暑さのせいもあり『オレ』は苛立ちを隠すことなく答えた。
「あのオレまだ高三だしそもそも男なんで」
これで今月何回目だ?いや、それ以前に今のオレ制服姿だぞ。いくらなんでも気が付けって。
確かにオレは女顔、友人から聞くにかなり可愛いらしい。それだけならまだしも『城ヶ崎のぞみ』なんて名前のせいで昔から初対面で男と分かった人間はいなかった。
友人である結城雪春と桐山秋葉を除いて。
しばらく歩いて街外れの巨大な日本家屋へと辿り着く。
実を言うと我が城ヶ崎家は古くからこの街に伝わる武道の名門。百人もの門下生が住み込みで修行を積んでいたこともあったという。
改装し洋室もあるが広さは相変わらず。現在は両親とオレさらにもう一人住んでいるが四人ではこの広い屋敷を使い切れるわけもなく多くの部屋を持て余している。
とはいえ日中は道場として運営しているため人寂しくなることはないけど。
オレは部屋で稽古着へと着替えると離れにある道場へと足を運ぶ。
井草の匂いが立ちこめる広い畳の室内には胴着に袴姿の女性達が既に稽古を始めていた。
一口に女性といっても小学校低学年から社会人とその年齢はまちまちだ。
「城ヶ崎さんこんにちは」
一人の女の子がオレの姿に気づき挨拶をしてくる。
「よ!あれ師匠は?」
室内を見渡すも師匠の姿は見えない。
「いやまだです。でも部屋にこれが」
彼女はペラッと一枚の紙を手渡した。そこには見慣れた師匠の文字で簡潔に『本日組み手』と書かれている。
オレは大きなため息をついた。
コレじゃあ師匠と組まなきゃなんねぇ‥
実は我が流派は女性専用、本来は男子禁制。もちろん師匠だって女性。男はオレ以外いない。そのため組み手となるとどうしても女性と組まなければならないのだ。
男のオレでは力の差は勿論、またオレもそういう年頃なので女性の体に触れるのは気になる。
さらに、組み手をやるとなると一番実力の近い師匠と組まなければならない。
実力が近いとはいえ師匠の強さは別格だ。歴代最強と噂され、街でも知れ渡っている。『城ヶ崎』の名前を出すだけでそこらのチンピラも逃げ出す。
けどそれは大した問題じゃない。
では問題点は何か?
それはオレが師匠のことが好きなことだ。
しばらく門下生達を指導しているといよいよ師匠がやってきた。
動きやすいように肩口で切られた外ハネの癖がある黒髪。切れ長の瞳をした端正な顔立ち。
こんなに袴姿の似合う女性は他にいないんじゃないかと思う。
この人が我が道場の現師範――城ヶ崎冷夏だ。ちなみに花の女子大生。
名字が同じなのは師匠の親父さんがオレの母親の兄だから。ようするに従姉。
代々女性が師範を受け継ぐ我が流派にとってオレという男子が産まれたのは誤算だった。そこで師匠に白羽の矢が立ったそうだ。
「師匠こんにちは」
「……」
師匠は無言でただ頷く。冷夏なんて名前通りクールな人だ、表情を変えることは殆どない。冷たく感じることさえある。師匠が実は魅力的なハスキーボイスの持ち主だと知るのは恐らくこの中でオレだけだろう。
「あの師匠?今日もオレと組むんですよね?」
「……」
師匠は無言で頷きオレと対峙する。
張りつめた空気の中、本格的に稽古は始まった。
「うわぁ、マジやべ…明日からどうしよ」
稽古が終わり一風呂浴びた後、オレは自室で悶々としていた。
実はさっき師匠と組んだ時に思わず胸を掴んでしまった、それも結構思いっきり。
師匠は全く気にする様子はなかったが…
未だに手には師匠の胸の柔らかな感触が残っている。
師匠のは思っていたより大きかったな。着痩せするタイプなのかもしれない。
昔はよく遊んでくれた師匠、とても可愛がってもらった記憶が今でも残っている。
住み込みで師範を務めることになると聞きオレは嬉しかった、ただその日を境にオレ達は『師弟関係』になってしまった。
近いようであまりにも遠い存在。恐らく師匠はオレのことなんか弟子、よくて弟のようにしか思っていないだろう。
でもオレは違う。物心ついた時から好きだったんだ。
師匠の胸の感触を思い出すと自然と股間が反応してくる。
とりあえず性欲処理をしようかと思ったその時だった。
コンッコンッ
部屋に響くノック音。
両親は出かけているので残るは師匠しかいない。
一体何のようだろうか?不思議に思いながらもオレはドアを開いた。
「師匠どうかしました?」
目の前の師匠はTシャツにズボンという極めてラフな格好だが充分に美しさが溢れていた。
「……」
師匠は漆黒の瞳でオレを見据えながら無言で部屋へ入ってくる。
「ししょ――」
もう一度口を開きかけたその瞬間オレは師匠に押し倒されていた。
一瞬何が起きたのか理解出来なかった。気付けばベッドの上に押し倒されている。それほど師匠の技を繰り出すスピードは早かった。
眼前には師匠の端正な顔立ち、汗を流したんだろうシャンプーのいい香りが鼻孔をかすめる。
「………をとれ」
師匠が何か言った。しかしこの距新たな刺激によりさらなる血液が肉棒に送られ、師匠の手の中でビクビクと脈打った。
「……女のような顔で…これほど凶暴なモノを……」
先走りの液を潤滑油代わりにヌチャヌチャと卑猥な旋律を奏でる。
師匠は自分の世界に入っているようだ。師匠は自らの服に手をかけると手を下げていった。
「くっ…し、ししょ」
前々から大きくテントを張ったオレのそこに師匠の細く長い指が優しく触れたその時、それだけで言いようもない快感が全身を襲った。
師匠はオレの大きさをじっくりと確認するように服の上から優しくなで上げていく。
そして気付いたときにはもう下半身の衣服全てを引き剥がされていた。
「………すごいな」
天に向かってそそり立つ怒張を見つめて確かに師匠はそう言った。
「……大きく…堅く…そして熱い…」
ゆっくりと手を伸ばすと師匠はしなやかな指を竿に巻き付けるように握り、しごいていく。
新たな刺激によりさらなる血液が肉棒に送られ、師匠の手の中でビクビクと脈打った。
「……女のような顔で…これほど凶暴なモノを……」
先走りの液を潤滑油代わりにヌチャヌチャと卑猥な旋律を奏でる。
師匠は自分の世界に入っているようだ。師匠は自らの服に手をかけるとこれまた素早い動きで己の裸身を晒した。
「すげ…綺麗」
思わず口から声が漏れ出た。
思った通りの豊かな胸、その頂にある桜色の乳首、くびれた腰に両足の付け根の茂り。女性特有の柔らかさを感じさせるものの日頃の鍛錬の成果だろう、無駄な肉は一切ついていない。
「……何を見ている」
オレの言葉に冷静さを取り戻したのか師匠は珍しく恥じらいの表情を露わにした。突然のギャップについ可愛いと思ってしまう。
「…いくぞ…」
オレに馬乗りのまま師匠は一言呟くと、未だに堅く天を指すオレの肉棒に手を添え腰をおろした始めた。
「えっ!師匠━━」
オレの言葉むなしく師匠の既に蕩けきった淫肉は剛直を飲み込みかけていた。
まだ先端しか入っていないが初めて味わう女性のそこは充分すぎる快楽を与えてくれる。
「………くッ…」
けどその一方で師匠の顔は苦痛で歪んでいた。
「し、師匠もしかして初めてなんじゃ」
さすがにこれはマズいだろ。オレは体を起こそうとしたが師匠の手に制された。
「‥案ずるな…」
掠れた声でそっと言うと師匠はオレの胸板に手を置き腰を降ろした。
何かを突き破る感覚がしたかと思うと師匠は腰を動かし始めた。
師匠の処女血と愛蜜そしてオレの先走りが混ざり合う淫音が部屋に響き渡る。
「‥はぁ…んぁ…」
次第に師匠の表情が快感を得たそれへと変化していった。
師匠の姿は圧巻だ。
顔を上気させた師匠の艶やかな表情。腰を振る度に重力に逆らいツンと上を向いた豊胸も一緒に揺れる。
男は視覚で興奮を覚えるというのは本当らしい。
同時に師匠の何とも形容し難い膣内の媚肉がオレの怒張を攻め立てる。
このままでは中で果ててしまう。それだけは避けようとするも師匠が馬乗りになっているためどうしようもない。
「‥んはッ…案ずるな…今日は大丈夫だ……あぅ」
もう限界だ…童貞のオレがここまで耐えただけでも評価すべきだろう。
ドクドクドクドク
そんな音が聞こえてきそうな程大量の精液が師匠の最奥へと注ぎ込まれた。
「‥あッ……はぁぁぁッッ…」
同時にあられもない媚声をあげ師匠も達した。
「あの〜師匠?」
コトが終わり着替え終えるとオレ達は並んでベッドに腰掛けていた。
「…先の痴態は忘れろ」
師匠は顔をこちらに向けることなく冷たく言い放つ。
「……のぞみが悪い…稽古中に胸を掴むなど…」
淡々と師匠が弁明した。
「……時々自身の性欲が抑えられなくなるのだ…」
普段己を厳しく律している人ほど欲求を抑えられなくなることがある、そんな話を思い出した。
「じゃあ誰でもよかったんですか?」
「たわけ!私がそんなはしたない女のわけないだろ!!」
声を荒げて言ったそれはとてもはっきりとした口調だった。オレはもちろん師匠自身が一番驚いていた。
落ち着きを取り戻すと師匠は呟く。
「………のぞみ以外とはせんから安心しろ…」
え?まさか今のって…
「あの〜それどういう意味ですか?」
「……私はのぞみのことが好きなのだ…悪いか?」
師匠はまだ何か言いたげだが、どうでもいい。オレは師匠に抱きついた。
「…何の真似だ」
オレの腕に抱かれても師匠は表情一つ変えていない、やっぱりクールな人だ。
「オレも好きですよ『冷夏さん』」
そっと耳元で囁く。
「…ふっ…たわけが…」
師匠は嬉しそうに呟くとオレの背に手を回した。
「し、師匠もしかして初めてなんじゃ」
さすがにこれはマズいだろ。オレは体を起こそうとしたが師匠の手に制された。
「‥案ずるな…」
掠れた声でそっと言うと師匠はオレの胸板に手を置き腰を降ろした。
何かを突き破る感覚がしたかと思うと師匠は腰を動かし始めた。
師匠の処女血と愛蜜そしてオレの先走りが混ざり合う淫音が部屋に響き渡る。
「‥はぁ…んぁ…」
次第に師匠の表情が快感を得たそれへと変化していった。
師匠の姿は圧巻だ。
顔を上気させた師匠の艶やかな表情。腰を振る度に重力に逆らいツンと上を向いた豊胸も一緒に揺れる。
男は視覚で興奮を覚えるというのは本当らしい。
同時に師匠の何とも形容し難い膣内の媚肉がオレの怒張を攻め立てる。
このままでは中で果ててしまう。それだけは避けようとするも師匠が馬乗りになっているためどうしようもない。
「‥んはッ…案ずるな…今日は大丈夫だ……あぅ」
もう限界だ…童貞のオレがここまで耐えただけでも評価すべきだろう。
ドクドクドクドク
そんな音が聞こえてきそうな程大量の精液が師匠の最奥へと注ぎ込まれた。
「‥あッ……はぁぁぁッッ…」
同時にあられもない媚声をあげ師匠も達した。
「あの〜師匠?」
コトが終わり着替え終えるとオレ達は並んでベッドに腰掛けていた。
「…先の痴態は忘れろ」
師匠は顔をこちらに向けることなく冷たく言い放つ。
「……のぞみが悪い…稽古中に胸を掴むなど…」
淡々と師匠が弁明した。
「……時々自身の性欲が抑えられなくなるのだ…」
普段己を厳しく律している人ほど欲求を抑えられなくなることがある、そんな話を思い出した。
「じゃあ誰でもよかったんですか?」
「たわけ!私がそんなはしたない女のわけないだろ!!」
声を荒げて言ったそれはとてもはっきりとした口調だった。オレはもちろん師匠自身が一番驚いていた。
落ち着きを取り戻すと師匠は呟く。
「………のぞみ以外とはせんから安心しろ…」
え?まさか今のって…
「あの〜それどういう意味ですか?」
「……私はのぞみのことが好きなのだ…悪いか?」
師匠はまだ何か言いたげだが、どうでもいい。オレは師匠に抱きついた。
「…何の真似だ」
オレの腕に抱かれても師匠は表情一つ変えていない、やっぱりクールな人だ。
「オレも好きですよ『冷夏さん』」
そっと耳元で囁く。
「…ふっ…たわけが…」
師匠は嬉しそうに呟くとオレの背に手を回した。
おまけ
「と、いうわけでオレは師匠と付き合うことになった」
「へぇ、よかったな」
「……おめでと…」
冷夏との刺激的な初体験から数日、のぞみは友人である結城雪春と桐山秋葉にその旨を伝えていた。
二人に話す際少し緊張したが、二人は心から祝福の辞を述べてくれた。
「で、相談があんだけどよ…」
雪春と秋葉を交互に見るとのぞみは本題に入る。
あの日から冷夏の態度は大きく変わった。とはいえ素がクールな性格のため人前での変化はない。
ただ二人きりだと『‥抱いてくれ‥』とか『‥愛している…』と平気な顔で言うため、のぞみは恥ずかしくてたまらないのだという。
「ま、それが師匠なりの愛情表現だ。嬉しく思えよ」
話を聞いた雪春が言うと隣の秋葉はウンウンと頭を縦に振る。が、あることに気付き雪春に対し口を開いた。
「……雪春も知り合い…?」
どうやら雪春が冷夏を師匠と呼んだことを疑問に思ったらしい。
「え、まぁ昔は俺ものぞみの家の道場に通ってたから…」
口を濁す雪春を疑問に思うも秋葉はそれ以上言及しなかった。
「とにかくさ、二人共ありがとな」
流れる微妙な雰囲気を払拭するようにのぞみは明るい声をあげた。
のぞみと別れ雪春と秋葉は激しく太陽が照る中、家路に着いていた。
二人の手はこの前の旅行以来お決まりとなった恋人繋ぎで堅く結ばれている。
「秋葉、さっきの話だけど」
「……?」
「ほら、俺が昔のぞみの家の道場に通ってた話」
気まずそうに口を開く雪春を秋葉は制した。
「……無理しないで…いつでもいいから…」
秋葉はそう言うとニッコリ微笑む。
恋人目に見てもやはりとても可愛い。雪春は改めて思った。
「悪い、その内話すから」
隠し事をするのは気が引けるが今は秋葉の優しさに甘えることにした。
不意に秋葉がギュッと腕にしがみついてくる。
「どうした急に?」
「……へへ、何となく」
歩く時は今まで手すら繋がったのだが…また一段と秋葉は甘えん坊になっていた。
「……大好き…」
「サンキュ」
この暑い中で恋人の腕にしがみつく秋葉とそれを別に何とも思わない雪春。
今まで二人に何があったのかを知らない端からはただのバカッブルにしか見えないが、二人は気にすることもなく歩き続けていた。
「あ、秋葉」
「……?」
「そろそろ暑くなってきたからしがみつくのは…」
「……やだ」
「でもほら薄着で胸当たってるし」
「……変態…」
投下ミス…誠に申し訳ない…
女の「子」かどうかは微妙なラインの師匠でしたが投下させてもらいました。
ちなみに城ヶ崎家の武道はフィクションです、恐らく存在しません。ただ単に「師匠」という言葉が使いたかっただけですので。
ではまた投下するようなことがあったらよろしくお願いします。
一番槍でもう興奮させてもらえるとは。
GJです。
GJ!
ししょー可愛いよ
うはっ、久々に雪春と秋葉が出てきた!
この二人のカプ超好きです!GJ!
お二人ともアイデアの幅が広くて羨ましいです。
スレの重鎮が二人も投下された後で気後れし気味ですが、中編の投下をします。
今回は5レスほどで短いです。今回も非エロ。
彼女が泣いた、あの事件の次の日、笹川袖は僕の通う学校に転校してきた。
残念ながら彼女が配属されたクラスは僕の居る所とは別である。
僕は彼女が学校で上手くやっていけるか不安だったけれど、比較的品の良い生徒ばかりが通う(一応)進学校である事もあり、無関心げに振舞う人間に過度の干渉をしてくる生徒はいない。
彼女の自己主張が殆どできないと言う特性は"大人しい生徒"と言う好意的な評価の元、問題視されずに受け入れられていた。
当然のことかもしれない。
元々"目を付けられない"為に身につけた処世術なのだし。
社会でやって行く上で個性なんて無用の長物だ。
それでも友達らしい友達を一人も作れていないのは、悲しいことだと思った。
一方、彼女と僕との関係はと言うと、あの晩から取り立てて何か進展があったわけではなく、他人以上友達未満に留まっていた。
相変わらず彼女は自分の意思を表に出そうとはしなかったし、僕の方もその体臭からこれと言った感情を嗅ぎ取れないでいる。
あの夜僕の手を取った時の様に、鮮烈な感情の香りを爆発させることは無かった。
ただ、彼女は良く家事を手伝ってくれるようになった。
自分からやると、はっきりとは言わないが、割り当てられた事は言われなくても必要以上にきちんとこなしてくれる。
おそらくは"叱られない為に"やっている事なのだろうが。
それでも僕の洗濯物がきちんとアイロン掛けされていたり、朝起きると出来立ての朝食が食卓に並んでいたりすると、嬉しくなってしまう。
その厚意に甘えない為にも、きちんと礼を言うようにしているし、その晩のメニューを豪勢にしてみたりはしているのだが、彼女からの反応は薄い。
一度感極まって彼女をひしと抱き締めてしまったのだが、羞恥の感情は全く匂って来なかった。
きっと僕は異性として認識されていないのだろう。同居する上では気まずくならずに済むのである意味有難い事ではあったが。
そんなこんなであっと言う間に一週間が過ぎ、再び週末がやって来た。
金曜日の夕方、僕と彼女はプラットホームで帰りの電車を待っていた。
冬の日没は早い。もう外は真っ暗である。
「おそいねー」
僕は十何回目になろうかと言う愚痴を零した。
電車が来ない。
普段なら十分も待っていれば快速電車が到着するのに、今日に限っては三十分待っても鈍行一つ来ない。
時折周りで囁かれる「人身事故」云々の言葉が状況を説明していた。
人も段々増えてきた、このままではラッシュの時間帯に巻き込まれてしまう。
人ごみは苦手なのに。
吐きかけた溜息を飲み込む。
できれば彼女の前で苛立ちを表に出したくない。
彼女の方はと言えば、相変わらずの無表情でじっと俯いて大人しく待っている。
倣って僕も大人しくしている事にした。
折角なので待っている間、じっくりと隣で佇む彼女を観察してみる。
年頃の少女の様な華やかさには欠けるものの、笹川袖は美人と言うよりは可愛いと形容される容姿だと思う。
小柄な躯は制服に着られている感があり、学校指定のコートの袖から指先だけがちょこんと覗いている。
普段余り表情を変えることの無い彼女だが、冬の冷気で微かに頬を紅潮させているのを見ると、やはり生きた人間なのだなと実感させられた。
だが彼女の芳しいハーブの香りは、他のごちゃごちゃとした体臭の渦に紛れて確かめることができない。
まさか鼻を寄せて確かめるわけにもいかないが、他人の強すぎる自己主張に彼女の存在自体が埋没されていく様な感傷に駆られてしまう。
そんな感じで時間を潰していると、暫くして僕達が待っている列の反対側の番線に列車がやって来た。
行き先を確かめると、僕達が降りる予定の駅にも止まる路線の様だ。
僕は顔を綻ばせて彼女を伴い反対側へ向かおうとしたが、僕の期待は流れてきた構内アナウンスによってあっけなく破られた。
『この列車は予定を変更し、当駅止まりで回送列車となります。
お待ちのお客様はお乗りになられないよう――――』
周りにいる通勤帰りのサラリーマン達の顔が露骨に顰められる。
僕の顔も醜く歪んでしまうのを止められない。
別に待つこと自体はどうでも良い。
客とは言え乗せて貰っている身の上だし、安全のためならダイヤが遅れるのは仕方が無い事だと思う。
でも、周囲の人間が一斉に放つ苛立ちの臭気だけは耐えられない。
僕は感情の匂いに敏感な分、集団の真ん中でそれに晒されるとどうしても大きな影響を受けてしまう。
自分の意思が周りの圧倒的な感情の渦に飲み込まれ、翻弄される。
口を押さえてふら付く。
彼女は感情の読めない目線で僕を見ていた。
「笹川さん、悪いんだけどバスを」
そこまで言いかけた時、再びアナウンスを告げるベルが鳴った。
周囲に期待の匂いが満ちる。
『まもなく、二番線を、通過電車が――――』
期待が失望に、苛立ちが怒りに塗り替えられていく。
この空気はいやだ。
OLが苛立たしげに携帯電話に向かって愚痴を言っている。
男子学生が壁に蹴りを入れている。
身なりの良い中年が駅員に罵声を浴びせている。
吐き気がする。意識が朦朧とする。視界が回る。
「乾さんっ!」
流れ込んで来る恐怖の匂い。
それが自分の名前と認識する間もなく、僕は物凄い力で腕を引っ張られた。
目の前を物凄い速さで何かが横切る。
そのまま僕は尻餅を付いて呆然と貨物列車が通り過ぎるのを眺めていた。
後ろを見ると僕の腕を掴んだ彼女が一緒になって後方に倒れこんでいる。
間一髪、僕は危く線路に転落する所を彼女に助けられたようだ。
「ああ、笹川さん、ありが」
僕の言葉の途中で彼女が抱きついてくる。
恐怖と悲しみの匂いがした。
ああ、僕はまた彼女を泣かせてしまったらしい。
僕はそっと、嗚咽を漏らす彼女の背を撫でた。
思えば、彼女が誰からも言われずに自主的に動いているのを見るのは、これが初めてだ。
今まで自分の意思を必死に押さえ込んできた彼女にとって、それを行うのにどれだけの勇気だ必要だっただろう。
そのなけなしの勇気を、僕のために使ってくれたのだ。
どうしよう。
恐怖が消え去り、安堵の匂いに塗り替えられても、胸の高鳴りが押さえられない。
周りの臭気も気にならない。吐き気もどこかへ行っていた。
ただ、腕の中の小さな少女のことだけを感じる。
僕は袖のことが、好きだ。
「笹川さん、明日、君とデートに行きたい」
気が付いたら、僕は余りに唐突にそんな事を口走っていた。
彼女は呆気にとられてまじまじと僕の顔を見つめてくる。
彼女のそんな表情は始めて見る。
うん、眼福眼福。
やがて彼女はこくんと一つ頷いた。
羞恥の匂いがしないのは残念だが、それよりも今は彼女が申し出を受けてくれたことを喜ぶべきだろう。
気が付くと、周りの乗客一同も鳩が豆鉄砲を食らったような顔で僕達を見ていた。
そりゃそうだろう。
あわや人身事故に会いかけた二人が、その直後に吊り橋効果でのろけを始めたのだから。
愚痴を言っていたOLがニヤニヤと僕たちを眺めている。
壁をけっていた男子高生が顔を赤らめて小さく拍手を送ってくれる。
駅員に掴みかかっていた中年は、ばつが悪そうな顔をして駅員に詫びを入れると立ち去っていった。
苛立ちの匂いは、もうどこからも漂って来ない。
とても恥ずかしかったけれど、僕はそのことだけで幸せな気分になれた。
そして、願わくば彼女にもこの幸せを感じてほしい。
そう、思った。
蛇足ながら登場人物簡易紹介
乾洋一:主人公。人並外れた嗅覚以外はごく普通の高校生。
比較的陽気だが、人とは一歩線を引いた付き合いをすることが多い。
嗅覚の描写は深く考えて書かれたものではなく、某ハードボイルド恐竜探偵とか某万能道具存在ネズミとかを参考にしている。
が、彼らのダンディズムは全く感じられず、変態にしか見えないのは何故だろう
ちなみに彼は感情によって移ろいゆく儚い体臭の変化を好んでいるだけで、ヒロインの下着に手をつけたりはしていないはずである。
……今のところは。
笹川袖:ヒロイン。情緒不足気味の高校生。
親に虐待を受けていたらしく、親戚である主人公の家に引き取られてきた。
自分の意思を完全に心の内に閉じ込め、盲目的に他人の意向に従う習慣が染み付いている。
錆び付いてしまっている心の歯車を、ゆっくりと主人公のそれと噛み合わせようとしている最中である。
喋る時は基本的に敬語。
投下終了です。
イベントとかで忙しくなりそうですので、後編の投下は再来週以降になりそうです。
ぐっじょぶ。
とうとう無口っ子に叫び声を上げさせたか、やるなぁ洋一くんw
24 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/17(日) 12:01:26 ID:BIx/gFX9
age
sage
GJ!
再来週はまだか!
GJ!
ああ、一応報告
幼馴染スレに行くと幸せになれかも
両方見てる俺に死角はなかった
「俺に死角は無い」
すると彼女はおもむろに背中に抱き着いて
「…この大きな背中が…死角」
そう言って彼女は
(省略されました。続きを読むには好きなプロレス技を語ってください。)
プロレス技なんかムシキング経由でしか分からんorz
じゃあロビンスペシャルで
逆エビ固めとかでいいんじゃね?
ぱ、パロスペシャル…
>>29 真最強ハイキックについて語れと申したか。
どうでもいいが、無口なプロレス好き娘が、
会場で上手く声援を飛ばせないで凹んでいるのを助けてあげたい。
無口なプロレス好き娘と一緒にテレビでプロレス見ていたら
いつの間にか技かけられてる妄想が降りてきた
プロレスといえば青川さんを思い出す
oremoda
突然、スミマセン。
以前、SSを投下させていただいたふみおというものです。
今回、以前に投下させていただいた『擬似マチュー・ランスベールにおける希少的チョコ』というSSの番外編を書きました。
一応、無口な女の子はヒロインで出てきます。
ですが、前作を読んでいない方には少々、辛い文章かもしれません。
ので、投下すべきか、どこかにUPすべきか悩んでいます。
どうか、皆様のご意見をうかがわせていただけないでしょうか。
宜しくお願い申し上げます。
>>38 無口な女の子がヒロインならば
保管庫の前作のアドレス貼り付けて、ここに投下
でよろしいと思いますよ
>>38 番外編で無口で……充分だと思います
ここに投下でいいんじゃないでしょうか
>>36 プロレスではない
>>35 怖いヒールが出てきて、怖がってぎゅっと抱きついてきたんだと
男が勘違いしてたら、何か息苦しいのに気づくわけですね。わかります。
気付いたらマッスル・リベンジャーですね
主人公は返し技を習得していて、思わず脱出したらジト目で睨まれると なおイイ
脱出じゃなくて逆に押さえ込まなきゃだめだろう
そしてそのままいい雰囲気に・・・
技をかけられる→かけかえす
の繰り返しで、気がついたら服が脱げているんですね、わかります
ローリングクレイドルでぐるぐるしている内に
一枚づつ脱げていくのですね、わかります
全部脱げたらコブラツイストであんなところこんなところを
卍固めって、かける側の片手は空いてるんだよな
take1
「おかえりんこ」
「……ただい……まんこ」
「なんでそこで切るんだ…」
「………………えっち」
take2
「おかえりんこ」
「……ただいまんこ」
「なんでこんな時だけ一息で言い切るんだ…」
「…挨拶は……はっきり…と…」
淫語スレ見たら頭に浮かんだ
なんかちがうw
「……!」
ただ今彼女とプロレス観戦中。テレビの前に並んで座っとります。
「……!!」
彼女がどっちの選手を応援してるかは不明。どちらかが技を食らうたび震えてるから。
「……っ!」
ただまあ、俺にしがみつくたびその柔らかーい質量が押しつけられているので満更でもない。
「きゃ………!」
おっと、ワニマスクがトラマスクをロックしたぞ。あー、首入ってる入ってる。ついでに俺も首入って………
「がふっ!?おまっなにやって…………!!」
やばいから!マジ入ってるから!ちょ、おち、落ちる……
……なんてな!
「せやっ!!」
「…!」
自由な両手をわき腹に突き刺し、拘束が緩んだところで床に押し倒し動きを封じる!
ふふん、どうだ。
「…………」
…あれ?何故に顔が赤くナットるのでしょう?
カンカンカンカン
テレビから試合終了のゴングが響いた。それと同時に彼女の唇が近づき、俺の唇と一つになった。
ぼやけ始めた頭で、なんとなく理解した。
ーーー俺たちにとっては、試合開始のゴングだったんだ。
>>39氏
>>40氏 貴重なご意見ありがとうございました。
アドバイスに従い、ここに投下させていただきたいと思います。
・このSSは以前、投下させていただいた『擬似マチュー・ランスベールにおける希少的チョコ』という長いタイトルのSSの番外編です。
一応、前作である本編のアドレスを貼り付けておきます。
http://wiki.livedoor.jp/n18_168/d/%a1%d8%b4%f5%be%af%c5%aa%a5%c1%a5%e7%a5%b3%a1%d901 ・このSSの前編は、主人公の少年時代の話で、後編は、時系列的に言えば、主人公とヒロインが秋の日を迎えた後の話です(わからない方、スミマセン)。
とはいえこの番外編の本編は、やたら長いし、古いので、読めない(読む気も起きない)方もいらっしゃるでしょうから、
ここで本編『擬似マチュー・ランスベールにおける希少的チョコ』の説明をハイテンションで。
☆主人公は◎情けない◎冴えない◎どうしようもないの、無い無いづくしの3☆才児♪
竹内悟(たけうち さとる)っで〜す♪
☆そんな中年オヤジ竹内♂は、ある日、◎キュートな女子社員に目をつけま〜す♪
見た目は中学生、中身は20代OLという、ある種反則的な女、千埜綾音(ちの あやね)です♪
☆綾音に、×冴えない男として、竹内は犬猿されてしまいます、(ノ◇≦。) ビェーン!!
☆でも大丈夫!! ☆U\(●~▽~●)Уイェーイ!☆
☆竹内悟、3☆才児にはなんと人には言えないヒ・ミ・ツがあるのです(o^∇^o)ノ
「さぁ、悟!! 今すぐ、あの能力を使うのよ!!」
「オーケイ!! この力で愛しのあの娘のハートも鷲掴みさ♪」
……本編はそんな話です。
あぁ、疲れたし、ハイテンションなんて、やらなきゃよかった……。
つーか、見づらいよ……。
では、番外編『擬似マチュー・ランスベールにおける希少的青春』どうぞ……。
――の前に、注意書きを。
この物語は、バッドエンドです。
不条理で、不合理なほどのバッドエンドです。
たぶん、誰かに怒られてしまうほどのバッドエンド。
バッドエンド嫌いの人は、スルーを推奨します。
ふいにあの日のことを思い出すことがある。
それは、川辺での戯れのことだったり。
それは、夜の家出のことだったり。
それは、最後のデートの日のことだったり。
いくら思い出しても、思い出し足りない、そんな思い出。
そんな胸が苦しくなるような日々の残滓。
ちょっとだけ、思い返してみよう。
あれは君と出会う前の、“彼女”の話。
他愛もない、ただの昔話。
◇ ◇ ◇
「ぼく、大きくなったら、しほねぇとけっこんする!!」
「………………」
「いいでしょ? ねぇ!?」
「………………」
僕の言葉に、彼女は少し首を傾けた。
そして、関西系のイントネーションでこう言うのだった。
「……生きてれば、な」
そして、切なげに微笑む。
僕にはその切なさの根源がわからなかった。
だから。
「じゃあ、生きててよ! ね、約束だよ!!」
こんなにも無邪気に。
こんなにも残酷に。
彼女に生を命じた。
命じてしまった。
……。
………………。
………………………………。
僕と彼女の話の始まりは、僕の祖父母の家から始まる。
今から思うと、僕は随分と精神的成長の遅い子供だったと思う。
頭も相当悪く(それは今もだけれど)、体は小さく、声だけはやたら大きい。
そういうありふれた馬鹿な子供の一人だった。
そんな僕は、昔からの習慣で、夏休みの大半の子供がそうするように、祖父母の家に帰省した。
そして、挨拶もそこそこに、田舎の盆の風景の一部、親戚一堂会しての、宴会が始まる。
最初は親戚に混じり、楽しく食べていた僕。
それも何時間も続くわけでもなく、すぐに飽きる。
まぁ、同年代の子供がいなかったせいもあるのだろうけれど。
僕は、宴会の場をこっそり抜け出し、祖父母の家を探検することにした。
いまでこそ、たんなる田舎の農家の家にしか見えないのだが、その当時の僕にとって、そこは未開の大迷宮。
冒険小説の主人公よろしく、僕は鼻息荒く、無駄にふすまや障子を開け閉めし、探検気分を堪能していた。
だが、それにもすぐ飽きてくる(というか、特別飽きっぽい子供だったのだ、と思う)。
なにしろ、部屋の大半はただ畳が敷いてあるだけ、とか、単なる押入れだったりするわけだから。
それに、遠くから聞こえる親戚たちの騒ぐ声。
それを聞いていると、なんだか自分だけが皆から取り残され、独りぼっちになってしまった錯覚を覚えた。
「(そろそろ、皆のところに戻ろうか)」
心の声がささやいた。
そんな時だった。
家の奥、家から出っ張るように増築された、もっとも風通しのいい場所であろう部屋。
その当時でも、あまり見かけなくなっていた蚊帳に囲まれたその場所に、人がいた。
興味本位に蚊帳の中を覗いてみてみる僕。
その人は、狭い部屋の中、開け放した窓に囲まれ、部屋の中心の布団の中で寝ているようだった。
僕は恐る恐る、慎重に、かの人を観察し始めた。
性別は女。
女といっても、年のころはその当時の僕より、少し上、といったところだろう。
つまりは少女と呼んでなんの差し支えも無い年頃。
肌は色素が飛んでしまったかのように白く、髪は子供の僕が怯えるほど黒く長いようだ。
着ているものは涼しげな空色のパジャマ。
その上にタオルケットがかけられている。
白すぎるその素肌はうっすらと汗ばんでいた。
正直に言おう。
僕のその彼女への第一印象は、
「お、おばけがいる……」
だった。
まぁ、それもしょうがない。
同年代のクラスの子供たちは、皆、肌が黒く、無駄に元気だった。
つまり肌の白さ、その線の細さと相まって、はっきりいって、彼女とは対照的。
僕は恐ろしくなって、その場から逃げ出そうとした。
彼女を起こさないように、ゆっくりと。
しかし、震える足はいうことを聞かず、ただガタガタと震えるのみ。
しょうがないので、後ろ手にふすまに手をかけた。
ガタガタガタッ!
無駄に体重をかけすぎたため、開きっぱなしだった襖が大きく鳴った。
そんな冷静な判断など、もう出来ない僕は。
「ひゃぁぁぁぁ!!」
とうとう、腰を抜かしてしまった。
「………………」
その音で、目を覚ましてしまったのだろう。
少女が上半身を起こし、襖のほう、つまり僕のほうを見る。
そして、目が合う。
件の幽霊のような少女と。
そして、彼女は言う。
「……悟、ちゃん?」
「う、うわぁぁぁぁっぁ!! お、おばけが!!」
僕の悲鳴を聞きつけたのか、どたどたと大きな男の人が廊下を走ってきた。
「どうしたんや、志保!!」
開口一番に言う彼に、僕は泣きながら、
「たす、たすけて! おじちゃん!!」
縋り付くのだった。
……。
………………。
………………………………。
「……あの、おねぇちゃん。アメ、食べる?」
「………………」
首を横に振る彼女。
『いらない』という意思表示であることは言うまでもない。
………………。
「あ、その、おねぇちゃん! アイスがあるって!! いるよね!?」
「………………」
首を横に振る彼女。
『いらない』という意思表示――以下略。
「………………」
「………………」
結局のところ。
僕は彼女のことを知っていた。
名前は志保(しほ)。
僕の二つ上の親戚。
遠縁過ぎて、言葉が無いほどに遠縁(だと後から聞かされた)。
そんな彼女とは、家が近いという理由で、よく遊んでいた。
というか、遊んでもらっていた。
そんな彼女が、もともとの体質虚弱のせいで田舎に引っ越したことはおぼろげながら覚えていた。
でも、まさか。
祖父母の家にいるとは、お釈迦様でも、知らぬ仏。
それに、僕の知っている彼女は、色黒で、ショートカットのお転婆娘だった。
それが。
肌の白さが。髪の長さが。
……なにより線の細さが。
まるで違っていた。
そんなに月日は経っていないはずなのに。
そんなに離れてなかったはずなのに。
「おねぇちゃん、ゴメンなさい」
「……なに?」
まだ機嫌が悪いようだ。
要領の悪い僕はただ謝ることしか出来ない。
そう思ったんだけれど。
「あの、お化けっていっちゃって、その――」
「……ちゃうやろ?」
「え?」
なにが『ちゃう』んだろうか?
頭の悪い僕は、必死で考えた。
『人に酷い事したときは、相手の立場になって考えなさい』
そんな母親の言葉を思い出す。
だから、自分が逆の立場だったらどう思うか考えてみた。
そして、思いつく。
「しほねぇのこと、忘れてて、ひどい事言って、ごめんなさい」
心から謝る。
忘れるなんて、本当に酷いことだ。
それこそ、お化けと間違えるよりも。
「……“しほねぇ”」
「え?」
「……“しほねぇ”って、もっぺん」
「しほねぇ?」
彼女は、ようやく、薄っすらと笑んだ。
「……久しぶり、悟ちゃん」
僕は、ちょっと動転しながらも、彼女が許してくれたのがうれしくなり、笑った。
「しほねぇ! ひさしぶり!!」
僕の無駄にでかい声を聞いて、彼女はにっこりと微笑んだ。
……。
………………。
………………………………。
「昭三さん。アイスちょうだい」
「おっ。ええで! 悟ちゃん。何個か!? 三個くらい食えるんとちゃうんか!」
ガハハハハ。
昭三(しょうぞう)さんは笑い、僕の頭を撫でた。
笑い方同様、豪快に。
しかし。
「あー……、志保と食うんか……」
「? うん」
事情を話すと、昭三さんの顔が暗くなった。
何がいけないのだろうと、僕は思った。
でも、今にして思えば、そりゃそうだろうと思う。
今にして思えば。
そして、昭三さんは大きくひとつ頷くと、僕にアイスを二つ持たせた。
そのまま、僕の耳に顔を寄せると、ひそひそと小声で喋る。
「ばあさんらに見つからんように、な。悟ちゃん」
「え? なんで?」
意味がわからない。
「もうすぐ夕飯やろ。志保は少食やから」
まだ、昼の三時だったが、有無を言わさない迫力が昭三さんの顔にはあった。
だから、僕はこわごわ頷いた。
「あと……」
「う、うん」
昭三さんはニコリと笑い、少しだけ声を大きくした。
「志保に『半分ちょうだい』て言うたら、多分、全部くれるで。試してみ」
「え? でも――」
そんなことをしたら、しほねぇの分がなくなると思った。
子供心にそれは、酷いことのように思えた。
しかし、昭三さんは真剣な目を僕を見る。
「ええから、な? 頼む、悟ちゃん。もし食えんかったら、俺に持ってきてもええ」
その大人の迫力に負けながら、僕はただ頷くことしか出来なかった。
そして、しほねぇと二人でアイスを食べる。
彼女は布団から半身を起こし、カップタイプのものを。
僕はガリガリとスティックタイプのものを。
僕のほうのアイスのほうが心なしか少なかったので、早めに食べ終わる。
しほねぇの方を見てみると、半分以上が、溶けかかっていた。
「しほねぇ、食べれないの?」
僕は昭三さんの真剣な目を思い出しつつ、彼女に問う。
彼女は苦笑した。
「……うーん。どうやろ……」
そして、ため息ひとつ。
実行するしかないのか。
酷い罪悪感に包まれつつ、僕は口を開く。
「しほねぇ……」
「……?」
「……半分、ちょうだい……」
言ってしまってから、僕は後悔した。
いくらなんでも、こんな美味しいものを横取りするなんて。
酷い話だ、と心底思った。
暗い顔の僕に、彼女は微笑みながら言う。
「……ありがとう。悟ちゃん」
なんで、彼女が礼を言うのか。
なんで、こうも嬉しそうなのか。
僕にはちっとも判らなかった。
「………………」
カップごともらったそのアイスは、全然、甘くなく感じた。
その後の閑話。
アイスをほぼ二個食べた僕は、当然のようにお腹を崩した。
僕がトイレに引きこもっていると、ドンドンドン、とドアが鳴る。
不思議に思い、僕がドアを開けると。
昭三さんが土下座していた。
「スマン! スマンなぁ、悟ちゃん!! おっちゃん、悟ちゃんの腹の事、考えてなかった!!」
「……あ、えーと……」
「悪い! 本当に悪かった!! 許してくれ!!」
「あの、昭三さん……」
「なんや!? なんでも言うこと聞くで! 悟ちゃん!!」
「皆、ねてるから。しず、しずかに……」
時間はすでに、夜半過ぎ。
皆も寝静まっている。
それに。
「あ、あの僕は用事があるから、トイレに」
「ああ!? 邪魔してもうたか!? スマン、本当にスマン!!」
「昭三さん、クスリ、クスリを……」
「ん! わ、わかったで、ラッパのマークの用意しとくで!!」
そして、僕はそそくさと扉を閉めた。
ドアの向こうから、何かの破裂音やら何やらが聞こえたけれど、聞こえなかったことにした。
休題。
……。
………………。
………………………………。
次の日。
僕は珍しく考えていた。
どうしたら、しほねぇを元気付けることが出来るのか?
とりあえず、子供らしく両親に尋ねてみた、が。
『志保ちゃんは病弱だから……』
次に、祖父母に訊いてみた。
『あんまり、志保にかまって、無理させたら……』
と芳しい返事はもらえなかった。
その時、思った。
しほねぇを喜ばせることが出来るのは、ここには僕しかいないんだな、と。
子供ながらの傲慢さで、そう、考えた。
「……川?」
「うん、そこの」
僕は、いつも開け放されている、窓から指を刺した。
その先には、さすが田舎というべきか、汚れの無い川が流れている。
とはいえ、上流と中流の境ともいうべき所なので、川の流れは存外に速い。
「……川、川か……」
「……うん」
あまり、気乗りしていない様子の彼女に、さすがに気まずくなる。
しばらくの沈黙が流れた後、彼女は、静かにささやいた。
「……ええなぁ」
「え?」
その羨望交じりの声に、僕は若干、ドキリとした。
なぜ、彼女がそんな声を出したのか、今の僕には、少し判らないでもない、かもしれない。
でも、その当時の僕は、その老成してしまったような声に、少し、戦いた。
まるで、遠くの人のような声に。
「……悟ちゃん」
「う、うん……」
次は何を言われるのだろう。
やっぱり、ダメだといわれるのだろうか?
甘やかされて育った僕は、ダメだということに若干の恐怖を覚えていた。
でも。
「……行こか」
蚊帳の中の人は、僕の目を見て、にっこりと微笑んだ。
その直後の僕のはしゃぎようは言うまでもないのだけれど、結果的に蚊帳が崩れた。
………………。
「……川か……」
いつも機嫌のよさそうな、その人は、遠い目をした。
彼女が外に出るには、彼の了承を得なければならない。
大柄で、態度も豪快な、その人。
昭三さんに。
「……川、川なぁ……」
「……う、うん」
彼はポロシャツの胸ポケットを探り、そして、何かを思い出したかのように、ポケットから指を離した。
その動作を見て、不意に思い出す。
そういえば、いつもタバコを吸っていたのに、田舎で吸っているところを一度も見ていない。
その変化を、そのときの僕はどうにも思わなかったのだけれど。
なんだか、違和感だけは感じた。
『どうして、タバコ吸わないの?』
訊いてみようか、やめようか。
そんなことを、少しだけ逡巡した。
しかし。
そんな僕の関係の無い疑問を吹き飛ばすように、彼は、彼女とは似ても似つかないような豪快な笑みを浮かべた。
「……よし! 行ってええで!!」
「ホント!?」
飛び跳ねて喜ぶ僕の頭を押さえつけて、彼は付け加えた。
「ただし……おっちゃんも行くで」
「え……」
ていうか、当然、一緒に行くものだと思っていたので、なんで、そんな怖い顔をするのかがわからなかった。
ので。
「うん! 昭三さんも一緒!!」
大きな声で笑う僕。
彼は、一瞬、呆気にとられた顔をしたが、すぐに笑顔になり、
「じゃあ、いますぐ準備や! よーい、どん!!」
「わー!」
僕と彼は、駆け足で用意を始めるのだった。
………………。
「……暑いなぁ」
薄手のワンピース。
年代モノのサンダルと、日傘。
まるで、夏の暑さに溶けてしまうのではないかという不安さえ覚える外見。
だから、僕は訊いた。
「しほねぇ、大丈夫?」
僕の何度目かの同じ質問に、彼女は微笑した。
「……私、そんなヤワやない」
今にして思えば、この発言から取れるように、彼女は自分の健康を正確に把握していなかった。
でも、その当時の僕にはそんなことは判らない。
「(ヤワ……?)」
ヤワという言葉の意味もわからなかった。
「いやー、スマンスマン。おっちゃんが最後か!」
釣竿を肩にかけつつ、麦藁帽子の彼はそう言った。
彼女に日焼け止めやら虫除けやらを塗る彼。
その手つきは真剣で、普段から考えられないような繊細な動作だった。
僕には、それがなにやら特別な儀式のように思われ、ただただ、静かに見守っていた。
そして、全部塗り終えた後。
彼は僕に言った。
「悟ちゃんにも塗ったるで。おいで」
僕は、なんだか彼女に悪いような気がして、一歩後ずさった。
それをどう誤解したのか彼は。
「あ、なんや。ビビってんのかい」
「ビビる? なにそれ?」
彼は天を仰ぐ。
そして、何かをひらめいたように、僕を指差した。
「ビビる、ちゅうのはな、怖がってる、や!」
「!! ち、ちがうよ!!」
彼は意地悪く、にやりと笑う。
「なら、ほれ、さっさとこっちにきい。悟ちゃん」
なんだか馬鹿にされたような気がしたので、僕は覚悟を決めて、彼の前に立つ。
「お、ええ子やな」
そして、先ほどと同じような几帳面さで、薬液を塗っていく。
憮然とした表情の僕の頭を、いつの間にか隣に立っていた、彼女が優しくたたいた。
「……いい子、いい子」
悔しいことに、それはなんだか気持ちよかった。
そして、ようやく出発。
川は前述したようにすぐ近くなので、十分も歩かずにこれる。
密集した木々がすぐ隣にあるせいか、川には直射日光が当たらず、涼しげだ。
僕はサンダルのまま、川に足を入れる。
冷たくて気持ちがいい。
そのことをすぐにでも、彼女に伝えたくて、隣を見る。
隣の彼女は、少し息が上がっていた。
「だ、大丈夫? しほねぇ」
「……うん。……冷たい?」
彼女は無理やりにだろう、笑みをつくり、逆に僕に尋ねる。
「う、うん。気持ちいいけれど……」
「……そうかぁ」
でも、僕のそんな感動は、心配に取って代わり、すぐに不安になった。
僕の内心がわかったのだろうか。
彼女は、僕とは反対の隣で竿を下げている昭三さんに言う。
「……入ってもええ?」
「寒なったら、すぐに出るんやで」
「……うん!」
彼女は、サンダルを川辺に置き、片足ずつゆっくり、川の中に入れた。
「……ひゃ」
彼女が小さく、声を上げた。その瞬間。
「だ、大丈夫!? しほねぇ」「大丈夫か!? 志保」
男二人が同時に声を張り上げる。
そんな様子がおかしかったのか、彼女はクスクスと笑った。
「……ちょっと、冷たかっただけや」
「な、なんだぁ」「ビックリさせんなやぁ、志保ぉ」
彼女は、まだクスクスと笑っていた。
「あ、魚だ」
「……ん?」
僕は、水が深くなっているところを指差す。
しかし、一瞬遅かったのか、彼女は見逃してしまったようだ。
「……おらんよ」
「しほねぇ、おそいよ。……あ、ほら、そこ!」
「……どこ?」
やはり、彼女が見つける前に、魚は姿を消す。
「……おらん」
「………………」
どうにか、彼女に魚を見せたくなった僕は、少し移動し、昭三さんのところへ。
そして、いつかみたドラマの台詞を言ってみる。
「釣れますか?」
昭三さんは、にやりと笑い、
「ボチボチでんなぁ」
となぜか悪役のように言った。
でも。
釣った魚を入れる容器が無い。
「魚、どこ?」
「あちこち、いまんがな」
彼は川のほうを指差す。
「じゃなくて。釣った魚は?」
っていうか、そもそも、入れる容器なんて持ってきていたのか?
記憶を探る。
……いや、最初から持ってきていない。
「どうして? 魚、釣るんじゃないの?」
「釣っては逃がし、釣っては逃がし、や」
「んん?」
「釣った後が、メンドいからなぁ。魚」
「ふ〜ん……」
彼の言っていることがよくわからなかったので、あいまいに頷いておく。
少なくとも、彼女に魚を見せられないようだ。
でも、言っておく。
「次に釣れたら、しほねぇに見せてあげて。ね?」
「ん? わかった」
でも、結局、彼女が魚を見ることは無かった。
さて、しほねぇは何をしているのかな、と僕は彼女のいるほうに足を向けた。
彼女は、川辺にぼんやりすわり、ただただ、川を見ていた。
「しほねぇ、何、見てるの?」
「……川」
そりゃそうだ。
「……ありがとうな」
「え?」
礼を言われることに、心当たりが無い。
「……川、誘ってくれて」
「う、うん」
彼女は、儚げに微笑んだ。
僕は、少しだけ、ドキドキした。
何故、ドキドキしたのかは、そのときは判らなかった。
でも。
そんな彼女に見とれてしまったのは事実で。
「……これで、見納め、かぁ……」
そういう彼女の、本当に小さな声を、その時、僕は聞き逃した。
聞き逃したのだろう。
………………。
そして、時間も昼ご飯時となり、僕と彼女と彼は川から引き上げた。
来たときと同様、歩いて帰るのだが……。
「……ごめん、しんどい」
彼女が蹲った。
見れば、肩で息をしている。
相当無理をしてしまったみたいだ。
僕はおろおろするばかり。
「ど、どうしよう。昭三さん」
そんな僕と彼女を見た彼は、何度かうなずき、僕に竿を渡した。
「もっててくれるか、悟ちゃん」
「う、うん」
彼は、よっこいせ、という掛け声とともに、彼女を軽々と背負う。
そのまま無言で歩く僕ら。
正直、僕はひどく落ち込んでしまっていた。
やはり、彼女に無理をさせてしまったのではないかと。
これで、彼女の病状が悪化したらどうしよう、などと。
いままで、楽しかった反動で、心は重くなるばかりだった。
小さくため息をつく。
そんな僕の身勝手な心情を察したのかどうか、彼は言う。
「ありがとうな。悟ちゃん」
「え?」
礼を言われるいわれは無い。
だから困惑するばかりで、僕は顔を上げ、彼女を背負う、彼の背中を見る。
でも、まっすぐ前を向いた彼の顔色は伺えない。
「志保は、久しぶりに、遊びに出られてはしゃぎ過ぎたみたいや」
「そう、なの?」
本当にそうなのだろうか?
僕を慰めるために適当に言っているだけじゃないのか?
そんな猜疑心が頭をもたげる。
でも。
「……余計なこと、言わんで」
ふてくされたような彼女の声。
それは、彼の言っていることを肯定する声、だと思った。
だから。
「また、いつか行こうな。みんなで」
その彼の言葉に、僕は大きく返事をするのだった。
“いつか”なんて約束、無邪気に信じて。
………………。
そして、昼食を食べる。
田舎らしい質素な食卓。
だが、そこに彼女の姿は無い。
そういえば、彼女が食卓に現れたのを見たことが無い。
ので。
「しほねぇは?」
隣に座っていた彼に話しかけてみる。
「ん? 志保か。志保はなぁ」
彼の遠い目。
何を見ていたのだろう。
「皆と食べんの、少し、しんどいらしいんや。色々と」
「……そうなの」
皆で食べるからおいしいと思っていた僕には、その言葉は意外だった。
だから。
「僕、しほねぇのところで食べようか?」
「ん?」
「だって、一人は寂しいよ?」
一人より、二人のほうがいいだろう、と単純に考えた結果だった。
昭三さんは、少しだけ笑い、僕の頭を撫でる。
「悟ちゃんはええ子やなぁ。でも、今はあかん」
「どうして?」
彼は僕の頭を撫でながら、また、遠くを見た。
「ちょっと、志保、今疲れてるんや。だから、寝とると思う」
「あぁ……。そうなんだ」
やっぱり無理をさせてしまったのだろう。
子供心に、少しだけ良心の呵責を感じた。
そんな僕を励ますためか、彼は豪快に笑った。
「心配せんでもええ。悟ちゃんといるの楽しいから、遊びすぎたんや。だから、気にせんでもええで」
そして、今まで僕の頭を撫でていた手で、軽く僕の背中を小突く。
「あと、2時間もすれば起きるやろ。そん時、おかゆ作るから、持ってってくれるか?」
純粋に、彼女のために何か出来るのだったら。
こんなにうれしいことは無い。
たぶん、それは、その感情はきっと、今にして思えば――。
だから。
僕は、一際、大きく返事をするのだった。
………………。
「……ごめんなぁ」
「……うん」
「……でも、もう少しだけ」
僕は彼女に抱きつかれたまま、その背中をやさしくたたいた。
………………。
彼の予想した時間通りに、おかゆを持っていった僕。
彼女はまだ寝ているようだった。
だから、起こさないように慎重に、おかゆを彼女の枕元に置く。
その時、気づいた。
彼女の瞳から、涙が流れていることを。
僕はそのことに動揺しつつも、涙を指でぬぐった。
その刺激でか、彼女はゆっくりと瞼をあげた。
「あ、しほね――」
瞬間。
彼女は身を起こすと、僕に抱きついてきた。
僕は、動けない。
そして、彼女は震えながら、呟いた。
「……死にたくない、死にたくない……」
「しほねぇ……?」
「……あぁ、怖い。怖いよぉ……」
彼女の低めの体温。
華奢な腕。
僕は、彼女の背中に両手を回した。
そして、言う。
本当に、何とでもない風に。
あっけらかんと。
「大丈夫だよ。しほねぇ」
子供だった僕に、彼女の絶望などわかったのだろうか?
「みんな、みんな、よくなる。しほねぇは幸せになれる」
何の根拠がある? 未来なんて見えないくせに。
「僕が、しほねぇを幸せにする」
でも、たぶん、それは、本心。
僕の人生最初の――
「しほねぇのことが好きだから」
――告白。
叶うことの無かった、告白。
でも、彼女は、言った。
「……うん。悟ちゃん」
………………。
「将来?」
「……うん、何になりたいん?」
彼女が泣き終わり、落ち着いた後の会話。
結局、冷めてしまったおかゆは、半分以上残されてしまっていた。
彼女は、それについて何も言わなかったし、僕も(珍しいことに)余計なことは言わなかった。
そして、ぼんやりと彼女は聞いてきた。
未来のことを。
その当時の僕には、未来なんて見えなかった。
一片たりとも。
だから、能天気に答えることが出来た。
「サラリーマン」
「……へ?」
さも意外そうな彼女の声。
僕は、その意外さがわからない。
「お父さん、カッコイイから」
「……あぁ」
僕の答えに彼女は納得したようだ。
続けて彼女は問う。
「……どんな、サラリーマンになる?」
「うーん。わかんないけど……」
「……けど?」
「いっぱい仕事して、いっぱい偉くなる」
「……偉くなって?」
「けっこんする!!」
「……ふぅん?」
わかってなさそうだったので、もう一度言う。
「ぼく、大きくなったら、しほねぇとけっこんする!!」
「………………」
絶句する彼女。
僕は問う。
彼女の意思を。
「いいでしょ? ねぇ!?」
「………………」
僕の言葉に、彼女は少し首を傾けた。
そして、関西系のイントネーションでこう言うのだった。
「……生きてれば、な」
そして、切なげに微笑む。
僕にはその切なさの根源がわからなかった。
だから。
「じゃあ、生きててよ! ね、約束だよ!!」
「……うん。約束、な」
その時、彼女がどんな顔をしていたのか。
残念ながら覚えてない。
……。
………………。
………………………………。
その晩。
ぐっすりと眠っていた、僕は確かに聞いた。
『……悟ちゃん。バイバイ』
そして、立ち去る誰かの足音。
ものすごく眠かった僕は、それでも起き上がる。
「しほねぇ……?」
そして、何を思ったか。
落書き帳に文字を書き始めた。
真っ暗闇の中、猛烈な勢いで。
ただ無意識に、無感情に、無思考に。
そして、詳細な地図を、その隣に寄せる。
書き終わると、その紙を、昭三さんの枕元に置く。
寝ぼけ眼のまま、僕はサンダルをはき家のすぐ隣の山道を歩き出した。
怖がりの僕には珍しく、何の恐怖も抱かずに。
なぜなら。
そこで、彼女が泣いている、そんな気がしたから。
………………。
今にして思えば、アレはなんだったのか。
“見えた”わけじゃない。
でも、それじゃないと説明がつかない。
はっきり言って、異常現象。
否、超常現象の類だ。
それでも。
僕はそれに感謝したい。
だってそれのおかげで。
彼女を見つけることが出来たのだから。
複雑に絡んだ獣道の奥。
きっと今まで、誰一人として足を踏み入れたこと無いであろう、そこに。
彼女はいた。
目を閉じ、首筋にカッターナイフを押し当て。
手には、何かの封筒。
多分、遺書だろう。
でも、その当時の僕には何がなんだかわからない。
というか、眠くて眠くてしょうがなかった。
だから、あくび混じりに言う。
「しほねぇ、なにしてんの?」
今にして思えば、もっと気の利いたことを言えばいいのに、と思うが。
まぁ、それでも、上出来だ。
「……悟、ちゃん……!? な、なんで……!?」
彼女の行為をとめることが出来たのだから。
………………。
彼女はポツリ、ポツリと語りだした。
彼女は一年前くらいから入院していたらしい。
しかし。
彼女の病気は悪化の一途をたどっていた。
だから。
せめて、最後は自由にさせてやろう。
そう思った、昭三さんは、せめて空気のよい田舎に引っ越したのだった。
でも。
病気持ちの彼女はあまり歓迎されなかったらしい。
それに。
薬での治療も苦しかったらしい。
そして。
生きていくのを辞めようと、思った。
あの当時の彼女は、何歳だったのだろう?
たぶん、そんなには大きくは無かったはずだ。
そんな彼女が、自殺まで考えてしまう。
救われない話だ。
本当に、救いようの無い話だ。
でも、やっぱり、当時の僕は馬鹿な子供だった。
「でも、生きててよ」
「……悟、ちゃん?」
「死んだら、悲しいよ?」
「………………」
「とっても、とっても、悲しい。僕も、昭三さんも、お父さんも、お母さんも、じいちゃん、ばあちゃんも」
「………………」
「みんな、みんな、悲しい。みんな、みんな、しほねぇが好きだから」
「……そんなこと」
「みんな、しほねぇが思っているより、しほねぇが大好きだと思う。必要だと、思う」
「……だって、私は……」
「みんなでダメなら、自分も足しなよ。『自分が一番必要なのは、自分』だよ」
「………………」
「って、教科書に書いてあった」
「………………」
「僕は、しほねぇ、好きだよ。だから――」
「……悟ちゃん……」
「――生きようよ、ね?」
……。
………………。
………………………………。
結局、僕らはその場で寝てしまった。
彼女はカッターナイフと遺書を捨て、僕は着の身着のまま。
発見されたのは、早朝。
見つけたのは、昭三さんだった。
彼は後にこう語る。
「いやぁ、びっくりしたで! 便所しに起きたら、志保も悟ちゃんもおらん。で、布団を見てみたら、
なんや、機械みたいな文字と地図が書いてある紙がおいてあるやん。で、そのとおりに行ってみたら……』
僕と彼女が眠っていたらしい。
彼はそんな、僕と彼女を見て。
驚きとか、勝手に出て行った怒りとかを通り越して、ただただ笑ってしまったらしい。
何が可笑しかったのか、面白かったのか。
それは、今になってはわからない。
僕らは、やさしく起こされ、地図のとおりに帰った。
家では何も知らない親戚たちが、普通に朝食を食べていた。
どうやら、朝から遊びに行ったと思われていたらしい。
僕と彼女は、隣同士に座り、一緒に、元気よくご飯を食べるのだった。
……。
………………。
………………………………。
そして、帰るときがきた。
僕と彼女と彼は、車の窓越しに会話する。
「……悟ちゃん」
「うん?」
「……私、がんばる」
「病気、治すのを?」
彼女は、あのお化け騒動のときとは比べ物にならない、いい顔色で頷いた。
「……うん! そう!」
そして、力いっぱい笑う。
僕もそれに習い、力いっぱい笑った。
「がんばれ、しほねぇ!! いっぱい、いっぱい、がんばれ!!」
「……うん!!」
そして、その横から、彼が顔を出す。
「ありがとうな、悟ちゃん」
「……? 何が?」
やっぱり、礼を言われるいわれが無い。
「志保に一杯、一杯、元気を分けてくれて。助けてくれて、本当、ありがとうな……!!」
見れば、昭三さんの目には涙が。
でも、僕には意味が判らない。
だって。
「僕、しほねぇが好きだから、好きにしただけだよ? それで、元気になったら、それは最初から志保ねぇが持ってたものなんじゃないかなぁ……」
自分でも何を言っているのかわからない。
そんな台詞。
「悟ちゃん……」
父がそろそろと車を発車させる。
窓の外の親戚一堂に対して手を振りながら。
僕は、彼と彼女に手を振った。
窓から身を乗り出し。
「……悟ちゃん!!」
彼女が駆け寄ってくる。
そして。
窓から身を乗り出したままの僕に、僕の口に、彼女は唇を触れさせた。
そして、真っ赤になりながら、彼女は言う。
「また、今度、一緒に遊ぼうな!! 悟ちゃん!!」
これが、僕と彼女の最初で、最後のキスになった。
……。
………………。
………………………………。
次の年、お盆。
いつものように、祖父母の家へ。
「あれ? しほねぇは?」
あの部屋にいると思っていたのに。
去年と同じように。
でも。
蚊帳が吊り下げてあったはずの部屋は。
蚊帳が無く。
その中に布団が敷いてあったはずの部屋は。
布団が無く。
そこで眠っているはずのあの人の姿は。
そこには無かった。
「ねぇ、ばぁちゃん、しほねぇは?」
祖母は言いにくそうに、視線を落とした。
「志保ちゃんはなぁ。遠いところにいったんよ」
「とおい、ところ?」
嫌な予感がした。
僕は生唾を飲み込み、尋ねる。
「ねぇ、昭三さんは?」
「志保ちゃんと、同じ所に、いったんよ」
いくら鈍い僕でも、どんな意味かは、解った。
解ってしまった。
「イヤだ……! そんなのイヤだよ!!」
僕はベソをかきながら、そこを飛び出した。
そして、家中を探す。
でも、いない。
いない。いない、いない、いない、いない、いない、いない、いない。
……いない!!
しほねぇも、昭三さんも、いなかった。
そして、悟った。
もう、あの人たちには、ここでは会えないことを。
僕は、泣き疲れるまで、えんえん泣き続けた。
えんえんと、えんえんと。
……。
………………。
………………………………。
そして、夏が終わり、秋が来る。
学校が何もなく始まり、いつものように過ぎていく日々。
でも、なにも面白くなかった。
なにも、楽しくなかった。
『……いい子、いい子』
そういって撫でてくれる人はもう居ない。
『あ、なんや。ビビってんのかい』
そういってからかってくれる人は、もう居ない。
すべての景色が灰色に見えた。
僕は空っぽだった。
空っぽな毎日だった。
そんなある日。
ピンポーン。
家の呼び鈴が鳴る。
勉強することでしか、暇をつぶせなかった僕は、ただ机に向かっていた。
でも。
ピンポーン。
誰も家にいないのか、その呼び鈴に答える人が居ない。
そういえば、今日は母親は働きに出ている日だった。
しょうがないので、一階に下り、玄関に向かう。
ピンポーン。
「はーい」
何の警戒もせず、ドアを開けた。
そこには。
「……久しぶり、悟ちゃん」
「お、久しぶりやな! 悟ちゃん!!」
居るはずの無い人が居た。
居るはずの無い、と思い込んでいた人が。
僕は。
呆気にとられる前に。
反射的に、涙をこぼした。
そして。
「……しほねぇ!! 昭三さん!!」
泣きながら、鼻水を駄々漏れさせながら、二人に思いっきり抱きついた。
……。
………………。
………………………………。
まぁ、結局のところ。
その年の盆にいなかったのは、彼女はちょうど移植手術の真っ最中だったから。
当然、昭三さんもそれに付き添った。
病院の場所は、アメリカ。
……確かに遠いところだが。
祖母よ。
もう少し、言い方が無かったものだろうか。
っていうか、今にして思えば、あれは祖母流の一級のジョークだったのではないか。
人として最悪(とまでは言いたくないけれど)のブラックジョーク。
そうとでも考えなければ、やりきれなさ過ぎる。
そして、幾年が過ぎた頃、彼女は言う。
「……悟ちゃん。待ってるよ」
「なにをですか、志保さん?」
その頃僕は、しほねぇと呼ぶのが気恥ずかしくなり、彼女のことを志保さんと呼び、敬語を使うようになっていた。
「……お嫁さんに、してくれんの」
「………………」
その時、僕はどんな顔をしていたのだろう。
たぶん、耳まで真っ赤だったろうな、と思う。
以上が前編です。
先ほど、バッドエンドを連呼しましたが、嘘ではありません。
後編はバッドエンドです。
釣りではありません。
本当にバッドエンドなので、どうかスルーか、ご容赦をください。
お願い申し上げます。
続きます。
>>51 GJ!
試合内容kwsk
>>71 説明文ハイテンションすぎて引くわwwwwwwwwwwww
バッドエンドでも読ませて頂きますGJ!
>>71 GJ
バッドエンドはあまり得意ではないんだが
後編が早く読みたい
,,-―--、
|:::::::::::::;;;ノ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|::::::::::( 」 < 続きます。
ノノノ ヽ_l \_____
,,-┴―┴- 、 ∩_
/,|┌-[]─┐| \ ( ノ
/ ヽ| | バ | '、/\ / /
/ `./| | カ | |\ /
\ ヽ| lゝ | | \__/
\ |  ̄ ̄ ̄ |
⊂|______|
|l_l i l_l |
| ┬ |
スミマセン、これより『擬似マチュー・ランスベールにおける希少的青春』後編を投下させていただきます。
後編は、以前書かせていただいたとおり、本編を読んでいないと辛い文章だと思います。
また、超展開で、バッドエンドです。
それでもかまわないという方は、片手間にでもお読みいただければ幸いです。
それでは、投下します。
「……でも、生きてて、悟ちゃん」
「………………」
「……死んだら、悲しいよな?」
「………………」
「……とっても、とっても、悲しい」
「………………」
「……みんな、みんな、悲しい。みんな、みんな、悟ちゃんが好きやから」
「そんなこと」
「……みんな、悟ちゃんが思っているより、悟ちゃんが大好きやと思う。必要や、思う」
「それでも僕は……」
「……みんなでダメなら、自分も足しい。『自分が一番必要なのは、自分』や」
「………………」
「……って、全部、悟ちゃんの台詞やで」
「………………」
「……私も、きっと“あの子”も、悟ちゃん、好きやで。やから――」
「……――――」
「――生きようよ、な?」
“彼女”の夢を見た。
『隣に居るあの娘を幸せにしてあげて』
そんな内容だったと思う。
しあわせ、幸せ、ねぇ……。
でも、僕といると、間違いなく彼女は不幸になる。
なぜなら僕は、疫病神で、死神だから。
そのことをどうして忘れていたんだろう。
だから。
僕は思った。
だったら、彼女の幸せに僕は必要ない、と。
人生最悪のプランを実行しよう、と。
◇ ◇ ◇
『……今まで、両親にも隠した事柄なんだけれど。君で三人目なんだよねぇ。バラしたの』
そう、彼女にいったことがあったような、なかったような。
でも、バレたことは何度か。
僕は高校一年生で、“彼女”は高校三年生だったり。
これはそういう類の話。
……。
………………。
………………………………。
「ゲームセンターなんてどう?」
いつのものように唐突なのだろう僕の発言。
目の前の彼女は開いた口がふさがらないようだ。
気の早いショッピングモールなどは、もうすでにクリスマスに向けての商品と飾り付けを怠らない、そんな時期の地方都市。
僕と彼女は、喫茶店で話をしていた。
議題は、これからどうするか。
もっと正確に言うなら『今日は、これから何をして過ごすか』ということを。
彼女はきっと、『正直、自宅でぼんやり過ごすのがいいな』とか思っているのだろう。
でも、それでは困る。
どうやら、彼女は疲れてはいないようだし、それに。
早いほうが良いだろう。
「ねぇ、どう? 千埜君」
目の前の彼女は迷っている。
まぁ、いかにも若者向けという感じで、僕たちには似合わないかもしれないが。
でも。
「……行きたいんですか……?」
そう訊いてきたときは、半分勝利を確信した。
そんなことはおくびにも出さず。
僕は苦笑を装い、コーヒーを一口飲んだ。
「君の意見を聞いてるんだけれどね……。それでも答えるなら、行きたい、ね……」
「………………」
その時、僕はどんな顔をしていたのだろう?
苦笑が崩れていなければいいのだけれど。
まぁ、でも、多分失敗だ。
彼女が少し疑う目をしている。
やはり、騒がしいところは苦手なんだろうか……。
…………。
もしダメだったらしょうがない。
違う手を考えるまで、だ。
「……行きましょう。竹内さん……」
――コレで決まった。
もしかしたら、僕たち二人の運命の分かれ道、なのかもしれない一日が。
◇ ◇ ◇
「……子猫」
彼女はその物体を持って、断言した。
うん、断言どおりの生物が彼女の手の中に居る。
「………………」
僕は何も答えられない。
「……かわいい、やろ?」
そう言いつつ、彼女の手から逃げ出そうと弱弱しく抵抗している子猫を、優しく抱きとめた。
「………………」
僕は何も答えない。
そんな僕に、彼女は言う。
「……ね、悟ちゃん……。あの、飼い主が見つかるまで……」
彼女が言わんとしていることは、それこそ、『言わずもがな』だ。
だから、僕は彼女の発言を遮るように言った。
「――ダメですよ。志保さん」
僕の言葉を予想していたように、彼女は表情を曇らせる。
「……やって……」
「やって、じゃありませんよ。そんな余裕はないです」
「……私のお小遣いを削れば……」
はぁ……。
僕はこれ見よがしにため息をついた。
「削る、なんてことができるほど、お小遣いが無いじゃないですか」
「……大丈夫」
何の根拠も無いであろう、その言葉を彼女は無い胸を張って言った。
「……私に任せて」
この言葉を言い出したら、もう、彼女は止まらない。
そのことを知っている僕は、ただただため息をつくのだった。
◇ ◇ ◇
結局、僕たちは近場のゲームセンターに行くことになった。
その道中。
「手、繋ごうか?」
なんの衒いもなさそうに、僕は言った。
でも、本当は――。
――コレが最後の一日になるかもしれないから。
だから。
彼女が逡巡している隙に。
ぎゅ、と僕は彼女の手をつかんだ。
彼女は驚いているのか、声も出ない。
そんな彼女に僕は言う。
「こんな中年と手を繋ぐなんてゾッとしないだろうけれど、我慢してね」
その台詞を聞いた彼女は、キッと僕を睨んできた。
睨んできた……?
睨まれる謂れが無いはずだけれど?
そんなことを思っていると、大胆にも彼女は僕の指に、自分の指を絡ませた。
いわゆる“恋人繋ぎ”だ。
「……違います……」
「ん?」
何が違うんだろう?
彼女はかまわず言う。
「……私だって、手ぐらい繋ぎたい……」
「ふぅん?」
平然とした表情が出来ているだろうか?
僕の動揺に気づかないように彼女は続ける。
「……私も、あなたを感じたい……」
「………………」
「……でも、照れる。それだけ、です……」
そして、耳まで真っ赤になっているであろう顔を、彼女は僕の視線から背けた。
あぁ、くそ。
愛おしいなぁ。
離したくないな。この手を。
僕は、少しだけ、手の力をこめた。
でも、プランに支障が出ては仕方が無い。
だから茶化すように言った。
「『あなたを感じたい』って、なんだかセクシーな言葉だねぇ。もう一回言ってよ」
彼女は、僕の足を思いっきり蹴ることで、その返事に変えた。
◇ ◇ ◇
僕と彼女と子猫。
結局、子猫の世話をすることになった僕と彼女。
といっても、基本的な世話は彼女が行っていた。
哺乳瓶を買ってきて、ほどよく暖めたミルクを与える。
子猫を入れているダンボール箱の温度を常に気にし、学校にいく。
彼女の居ない間は、僕が世話を担当することになった。
気が向いたときに、段ボール箱に様子を見に行く。
僕を認めたソイツは「にゃー、にゃー」と、鳴きながらフラフラと近寄ってくる。
小さな毛玉っぽい生物を、丁寧に撫でる。
しかし。
毛並みが悪く、ふわふわしているとは言いがたい。
それに、鼻からは鼻水が止まらないし、目脂もひどく、元気も無い。
でも、それも予想通り。
だから、なるべく構いすぎないように。
過保護にならないように。
なにより。
情が移らないように。
僕はそう彼女に言い続けた(効果があったかどうかは不明だが)。
結局のところ、僕は自分のことしか考えていなかった。
これ以上、誰かの悲しい顔を、“死に顔”を見たくは無かったのだ。
だから。
その時が来た時、僕は迷いも無く、実行した。
彼女が気づいたのは夕刻。
学校から帰ってきたときだった。
――コンコン。
「はい」
僕はなるべく平静を装い、淡々と返事をした。
彼女は、ゆっくりと部屋に入ってくる。
「……ごめんな。悟ちゃん」
どうでもいいことだが、彼女が部屋に入ってくるときは、かならず『ごめんな』と言葉の前に付け足す。
そんなことをぼんやり考えた。
「いえ、なんですか?」
自動的な、平坦な声。
「……ちょっと、いい?」
怯えるように、手招きする彼女。
ただでさえ白い顔がさらに白くなっていることに、僕は気づきたくなかった。
「はい。いいですよ」
棒読みの僕の言葉に、彼女は頓着しない。
「……こっち」
そして、彼女は部屋の外に出て行く。
僕もそれに従う。
招かれた先は、一階のリビング。
そこには。
横倒しになったダンボールと、開け放された窓があった。
「……どういうこと? 悟ちゃん」
「………………」
「……ねぇ」
僕は軽く目を瞑り、頭を下げた。
「すいません。空気の入れ替えに窓を開け放していたら、そこから子猫は逃げ出してしまったようですね」
「………………」
「僕の管理不行き届きでした。申し訳ありませんでした」
あぁ、なんという棒読み。
こんな機械のような言葉による謝罪なんて、だれが信じるだろう。
そんな僕を見て、彼女は無表情に言う。
「……悟ちゃん。目、閉じて」
「?」
予想外の言葉。
しかし、圧倒的に不利な僕に抗うすべも無く、目をさらに大きく瞑った。
「こうですか?」
「……。次に――
――歯、食いしばって」
へ?
と尋ねる隙も無く、瞬間、僕の顎から頭頂部まで貫くような衝撃が走った。
それにより、体はバランスを崩し、僕は無様にも、床に仰向けに倒れた。
つまり、見事なまでにきれいなアッパーカットを食らったのだった。
僕は呆然と彼女を見上げる。
彼女は、泣くのを我慢しているように見えた。
どうして?
そんなに、猫のことが大事だったのか?
いや。
そうだ。そうにちがいない。
でも。
必要なことだったんだ。
重要なことだったんだ。
だから、どんなに憎まれても、痛くは無い。
……痛くは無いんだ。
「……悟ちゃん」
「ごめんなさい」
ごめんなさい。志保さん。
「……悟ちゃん」
「ごめんなさい」
本当にごめんなさい。真実を、伝えられなくて。
「……悟ちゃん、そんな“ごめんなさい”はいらん」
「………………」
でも、僕にはそれしか出来ない。
あるいは土下座でもしろというのか?
いいだろう。
甘んじて僕は――。
「――本当は、死んだんやろ? あの子……」
「…………な、にを」
そして、彼女は一粒の涙を流しながら言った。
「……悟ちゃん。あんたには、“未来”が見えるんやね……?」
◇ ◇ ◇
「いやぁ、意外と難しいものだねぇ。才能ないのかな? 僕」
ぐったりとしている彼女に、僕はそう笑いかけた。
「………………」
彼女は無言。
というか、そうとう疲労しているみたいだ。
僕と彼女はそこそこ広いゲームセンターに着いた。
まぁ、休日なのに、大学生とか、社会人しかいないのはご愛嬌。
とりあえず、札を小銭に換えて、なにをするかを探してみる。
「(さすがにあのときの筐体は……、ないか)」
まぁ、わかっていたけれど。
でも、次の予定まで時間があるし、何かしたいところなんだけれど。
すると。
目の前には大型の筐体。
形状から察するに、タイコ状のインターフェイスを操り、リズムを取って遊ぶというやつで……。
昔、同僚から聞いたことのある、ええっと、『音ゲー』というやつみたいだ。
二人プレイ可能、と書いてある。
「(これなら、簡単そうかな)」
そう思った僕は、彼女に意見を聞いてみることに。
すると彼女は、蒼白な表情をして、小動物のように首を横に振る。
訳を聞くと、どうやら『恥ずかしい』のと、『自分の音感に自信が無い』とのこと。
……音感、って関係あるのかな? このゲーム。
そう思いつつ、後ろに人が並んだので、とりあえず、その人のプレイを横目で見ることに。
その彼氏もあまりやったことが無いらしく、少し戸惑い気味にゲームをしていた。
数分後。
「……やろう! 千埜君!!」
彼氏が去った後、僕は燃え滾る、熱いパトスを抑えることが出来なくなった。
なんて面白そうなゲームがこの世にあるのだろう。
そう思うと、僕はいつの間にかコインを投入し、バチを持っていた。
「さぁ! 千埜君!!」
彼女は仕方なさそうに、しかし、はっきりと赤面しつつ、僕の隣に立った。
そして、僕たちのゲームは始まった。
結局。
楽しいことは楽しかったけれど、中年のリズム感では、このゲームは難しいことが判明。
いつもノルマを達成していたのは、彼女だけだった。
彼女は恥ずかしそうに額を掻きながら、それでも、少しうれしそうに見える顔で、僕を見る。
「(ふぅ。もしかしたら、最後かもしれない、というのにね)」
それでも、そんな彼女に見とれていたのは内緒だ。
なんて事をぼんやり考えていたら、ゲームは終了。
少しだけ残念そうな彼女を見て、僕は笑った。
ゲーム後、ベンチに座り、小休止。
彼女は壁に寄りかかり、僕はタバコを取り出した。
「つぎにやりたいものってある?」
「………………」
無言で首を振る彼女。
「そう。じゃ、UFOキャッチャーででも遊ぼうか?」
「……でも、お金が……」
それを聞いて、僕は少しだけ苦しくなった。
そんなときに、“同じこと”を言わないで欲しい。
これは、単なる僕のエゴ。
でも、その感情をすぐに消し去り、言う。
「千埜君。君も知ってのとおり、僕は少しだけ偉いんだよ? 遠慮することは無いさ」
彼女は首を振りつつ言った。
「……左遷させられかけた……」
あぁ、それは痛いところを。
「……降格も、時間の問題……」
………………。
「誰が言ってたんだい? そんな根暗な事」
「……順子さん……」
「余計なことを言ってくれちゃって、まぁ……」
そして、それは限りなく正解に近いのだけれど。
「まぁ、いいや。とにかく、偉いうちに遊んでおこう。今出来ることは今のうちにやっておかないと」
「……今出来ることは、今……」
彼女の顔が曇る。
「(やっぱり、考えちゃうよねぇ。“あのこと”)」
でも、今の僕には好都合。
そう思って、チクチクと痛い、心の刺激を無視する。
僕は、彼女の頭を軽くたたくと、持っていたタバコを灰皿に捨て、立ち上がる。
「さ、UFOキャッチャーが僕らを待っているよ。楽しいことが目白押し。休む暇は無い、かも」
明るい表情を作った僕に、彼女は影を引きずりながら、それでも微笑んだ。
◇ ◇ ◇
「ここです。埋めたのは」
「……ん」
緑の木々が影を作るが、風が無いせいか、冬なのに寒くはなかった。
そんな錯覚を覚えるような自然公園。
その隅っこに、盛り土がされ、貧相な棒が一本立っていた。
数時間前に着たこの場所は。
何者にも荒らされることも無く、静謐な時間が流れていた。
彼女は、そこに座り込み、何本かの線香に火をつけ、棒の前に指す。
そして、両手を合わせた。
僕もそれに習い、両手を合わせる。
彼女は独白のように呟く。
「……ごめんなぁ」
彼女が、あの子猫に対して何を謝っているのか。
僕には、判るようで、解らなかった。
そのまま動かなかった彼女が立ち上がったのは、しばらく経った後だった。
彼女は墓を見下ろし、手を振る。
「……また、来る」
「………………」
そして、ゆったりとした動作できびすを返し、のんびり歩き出す。
自然公園からの帰路は、商店街を突っ切るのが一番早い。
だが、彼女は商店街ではなく、住宅街の方向に歩いていく。
冬の中、通行人も車もほとんど居ない住宅街。
僕は十数分ぶりかに彼女は声を聞く。
「……いつから、見えたん?」
「志保さんが、猫を連れ帰ったときです」
「……やから、面倒見るのに反対した?」
「それも、あります」
僕は彼女の歩調に合わせるように、ゆっくりと話し出した。
――猫ヘルペスウイルス感染症。
その病気に、あの子猫はかかっていた。
それも、もう病院では治せないほどに進行したそれに。
僕が見えた未来。
それは、動物病院の小さな箱の中で、不安そうに泣きながら、死んでいく子猫の姿。
それを看取るものはおらず、ただただ、不安の中で死ぬ。
だから、思った。
もしこのまま、病気のことを告げれば、あの子は、きっと予知どおりに死ぬ。
多分、親猫にも、飼い主にも見捨てられた、あの子。
少しだけでもいい、安心できる場所で、誰かに看取られながら死ぬ。
それのほうがいいと、そう思った。
でも、それはエゴ。
誰も幸せにはならない構図。
それでも。
僕は――。
「すみません。本当は、志保さんが居る時に、旅立つ予定だったんですが」
「……うまく、いかんかった?」
「その通りです」
――だったら、プランBだ。
猫は逃げ出したことにして、生死不明にする。
決して、見つかることも無く、志保さんもいずれ忘れていく。
人間なんて、忘れてしまう生き物なのだから――
「……見損なわんで」
「いくら志保さんでも、忘れてしまいますよ」
「……私は忘れん」
頑なな彼女の態度に、少し感情が高ぶる。
「いいえ。いつか気が向いたときに、『あぁ、あのときの猫はどうしているのかな』などと
ぼんやり考えて、いつしか、そのことすら忘れてしまう」
「……私は忘れん」
彼女が繰り返す台詞に、なぜだか無性に神経を逆なでされた。
だから。
気づいたときには立ち止まり、声を張り上げていた。
「忘れますよ!! 志保さんだって!! 僕だって!!」
「……悟ちゃん」
「皆、皆、忘れていく!! 『そういえば、そんな人も居たな』なんて言いながら平気な顔して忘れていくんです!!」
「……悟ちゃん」
彼女は辛そうに、顔をゆがめ、僕を見る。
彼女の表情を見て、僕は感情がとまらなくなってしまった。
「………僕も、僕も……! 忘れたくないのに、どうしようもなく、希薄になっていくんです!! 両親の事、昭三――」
「――悟ちゃん!!」
めったに聞くことの無い、彼女の大声に、僕は身をすくめる。
そして、彼女は、僕の頭を撫でる。
その感触に、僕はたまらなくなり、そして、気づく。
僕の両頬がぬれていることに。
泣いていることに。
「……大丈夫」
「………………」
「……大丈夫やから、ね?」
何の根拠も無い『大丈夫』。
でも、どうしてだか、胸に染み渡ってきた。
雨が、降り出した。
◇ ◇ ◇
「いやぁ、なかなかうまくはいかないものだねぇ」
僕と同じくベンチに座っている、隣の彼女に話しかけた。
彼女は、すこし楽しそうにはにかんでいた。
その手には手のひらサイズのマスコット人形。
UFOキャッチャーの戦績。
十五試合中、一勝十四敗。
十四連敗したあとに挑戦した小さなマスコットを取るゲームでやっと一勝、といったところだ。
やれやれ、あの“彼”のようにはうまくいかないな、と少しだけ苦笑した。
そういえば、あの“彼”は、今、どうしているのだろう?
少しでも救われる未来が待っているように願うのは、傲慢だろうか?
閑話休題。
僕と彼女は(というか僕が)、気が済んだので移動することに。
次も僕が行き先を決めた。
場所は映画館。
見る映画も、放映時間も決めていた。
彼女の意見も聞き入れたいところだったが、正直、今日は予定をつめてある。
プランは始まったばかりだ。
「さ、そろそろ時間だね。飲み物も買ったし、準備万端、かな?」
僕の言葉に彼女はうなずく。
すると、タイミングよく入場を促すアナウンスが流れ出す。
僕らはそれを聞き終わると、チケットを持って、同じスクリーンのあるシアターに足を向けた。
十何年ぶりかの映画館は、ひどく近代的で、広かった。
そして、映画が始まった。
◇ ◇ ◇
「……なぁ、悟ちゃん」
「はい?」
「……今度の日曜、空いとる?」
僕の手には哺乳瓶。
もう必要の無くなった哺乳瓶。
彼女はそれを見ないように努力しているようだった。
……無駄だったみたいだけれど。
「気を使っていただかなくても結構ですよ」
僕はなるべく軽く笑いながら、首を振る。
「……ちゃう」
「?」
彼女は僕の目をみて言う。
その真正面からの視線に耐えられず、僕は目をそらした。
「……気分転換」
「はぁ」
「……あの子のこと、忘れるためや無い」
「………………」
「でも、でも――」
そんなに心配されるような顔なのだろうか?
自分の今の顔は。
僕は、必死な彼女に頷いて見せた。
「いいですよ。行きましょう。今度の日曜ですね?」
「……うん」
でも、これだけは言っておかなければ。
「でも、約束です」
「……?」
「タクシーにだけは絶対に乗らないでください。いいですね?」
「……“未来”の話?」
「はい」
彼女は噴出した。
「……お金、ないで」
まぁ、そりゃそうなんだけれど。
でも、僕は、覚悟を決めた。
――僕と一緒ならあるいは。
それは希望的観測だったのだろう。
結果的にみれば、非常に馬鹿げた希望的観測。
でも。
不確定因子が紛れ込めば、もしかして。
あるいは。
僕は死にたかったのかもしれない。
彼女と一緒に。
……。
………………。
………………………………。
そして、日曜日。
めかしこんだ格好の彼女が、玄関に立って居る。
そんな彼女に内心動揺しつつ、僕は無理やり笑った。
「さすが志保さん。お綺麗です」
浮ついた調子で、冗談ぽく。
彼女はただ純粋に微笑み、僕を見る。
彼女の視線に気づかない振りをして、僕は彼女の隣に立つと、少しだけ早足で歩き出す。
「さて、では行きましょうか」
「……うん」
そして僕らはバスに乗り、市街地へと繰り出す。
十数分後、バスは予定通り、目的地へとつく。
バスを降りた僕は、その人の多さに圧倒された。
「(これは、油断しているとすぐにはぐれそうだ)」
彼女が隣に降りる気配を感じる、と同時に。
ぎゅっ。
何かが手に触れる感触。
僕は驚き、手を振り上げ、隣を見る。
すると、隣には当然彼女が居て、その彼女はきょとんとしている。
「な、なんですか? いきなり」
僕の質問に、彼女は片手を差し出し、
「……手、繋ご?」
などと言い出すではないか。
さすがにそれはやりすぎなのではないか、と思ったが。
コレはデートなのだ(?)。
そんなことで臆してどうする。
「(よし! ここで男気を見せなくてどうする僕!!)」
と、覚悟を決め彼女の華奢な手に、僕の手を載せる。
「……これで、はぐれずにすむ、ね?」
なんだ、そんな実利的な目的か……。
無駄に跳ねてしまった心臓の鼓動を返してくれと、多少思うが。
「(まぁ、そっか。そうだよな)」
そうだ、コレはデートなんかじゃないのだ。
浮ついていた自分に少し苦笑する。
すると。
「ちょっと、あなたたち。邪魔よ」
バスの昇降口でイチャイチャしているように見えたらしい僕と彼女は、
後から降りようとした人に冷たく睨まれるのだった。
そして、第一目的地、ゲームセンターに到着。
◇ ◇ ◇
映画ははっきり言って、B級もB級だった。
まぁ、それでも、それなりには楽しめた。
特に、悪役のあの俳優が――。
「(――って、僕はいつの間に、にわか映画評論家になったんだろうね……)」
下らないな。
などと苦笑していたら、一緒に出たはずの彼女が隣に居ない。
「あれ? 化粧室、かな?」
だったら、あまり動かないほうがいいだろうか?
「(いや、僕が居そうだ、と彼女が思う場所のほうがいい)」
そう理屈付けて、さっさと喫煙コーナーに向かう。
そして、着くなり、タバコを取り出し、一服。
胸一杯に紫煙を吸い込み、吐き出す。
それだけで、頭がクリアになった気分がする。
「(もちろん、偽物の清涼感、とかいうやつなんだろうけれどね)」
そして、設置されているソファーに座る。
クッションが程よくやわらかくて、気持ちがいい。
などと考えて数分後。
予想通り、彼女が来た。
「……ごめんなさい……」
いきなり消えたことを謝っているらしい。
まぁ、たぶん、彼女のことだから。
「パンフレットはあったかい?」
「……はい……」
やっぱりか。
多分、このぶんだと……。
「ボールペンは?」
「……買いました……」
彼女は、意外にもB級映画好きで(とくにアクション物)、
その手の映画を鑑賞しに行っては、そのパンフレットやら何やらを買っている、らしい。
まぁ、本当に閑話休題。
「(さて、仕込みは十分、かな?)」
僕はタバコをもみ消すと、彼女の目の前に立った。
なぜか、それだけで無条件にうれしそうな彼女。
――でも、もうお別れだ。
「今日の終わりに、君に紹介したい人が居るんだ。会ってくれるかい?」
◇ ◇ ◇
ゲームセンターで目に付いたのはやはり大型の筐体。
レースゲームのようだった。
黒い帽子をかぶった青年が、巧みにハンドルを操っている。
僕と彼女は、そのドライビングテクニックにしばし見とれた。
そして、帽子の彼は、素人でもわかる断然早いタイムをたたき出すと、どこかへ行ってしまった。
「さて、何します?」
彼氏が去った後、彼女に訊いてみる。
すると、彼女は首を振り。
「……ここはダメや」
と断言した。
何がダメなんだろうか?
「はい? せっかくですから、そんなこと言わずに楽しみましょう」
彼女が、人ごみや騒がしいのが苦手という話は聞いたことがないけれど?
すると彼女は、少し悲しそうな顔をした。
「……でも、お金が」
その深刻な様子に、少し胸が痛むが、今日は。
今日ぐらいは。
「お金、ありますよ」
ケチってはいられない。
もしかしたら、最後かもしれないんだから。
結局、僕と彼女は、無難なUFOキャッチャーへ。
でも。
「と、とれないものですね……」
「……もうええから」
彼女がほしいといった、ピンクのペンギンがどうしても取れない。
そろそろ、時間が危ないし。
「これで、ラスト――」
最後のコインを投入しようとした、そのときだった。
「――兄ちゃん、それ、欲しいのかい?」
後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこには先ほどレースゲームをしていた黒い帽子の青年が立っていた。
………………。
「ありがとうございました」
僕は笑顔で、帽子の彼氏に言う。
つられて彼女も、頭を下げる。
彼氏は照れたように、帽子を掻くと、僕を呼び寄せた。
とりあえず、彼女をその場に残し、青年に近寄っていく。
少し離れた場所で、青年は僕に言った。
「イヤミに聞こえるかもしれないけど、もし、彼女の前でイイカッコしようとしてたんならゴメン」
?
意味はわかるが、青年が僕に謝る理由がわからない。
だから、僕も彼氏に言った。
「いえ、彼女が欲しいものが手に入ったので、こちらとしてはバンバンザイなのですが」
あまりにも素のコメントに、彼は少し笑い、安堵したように吐息を出した。
「いや、俺の彼女にもよく言われるんだ、『お前は空気が読めてない』ってさ」
「? そうですか?」
意味がわからなかったので、曖昧に頷く。
『空気を読む』ってどういうことなんだろうか?
人の顔色を伺うことか?
それだったら、不本意にも大得意だが。
「うん、喜んでくれたんなら、それでいいよ。んじゃ――」
あ、そうだ。
僕は唐突に、右手を彼に差し出した。
彼は面食らったように、それを見つめる。
「握手です。記念の」
はは、何の記念?
といいつつ、しっかりと握ってくれた。
………………。
うん。
見えた。
「もし、来年の×月に、あなたの彼女が×××線のバスに載ろうとしたら止めてください。絶対に」
「んん?」
「じゃないと、あなたは大切なものを失うことになる。いいですね、×月の×××線ですよ」
「????」
「僕、占い師なんです。今のは予言。信じてくれなくてもいいですけれどね」
そして、呆然とした様子の青年に背を向け、彼女の元へと戻る。
彼女は、僕が来たことに安堵した様子で、駆け寄ってくる。
「……どうしたん? 悟ちゃん?」
心配そうに聞いてくる彼女。
僕は平然と嘘をつく。
「いえ、なんでもなかったみたいです。さ、行きましょう」
「……どこへ?」
「すぐそこの、映画館に、ですよ」
◇ ◇ ◇
適当に昼を済ませ、僕らはバスに乗った。
ほどなく、目的の場所へ。
似たような形状の石の造形が、整列しているその場所。
静かな時間に、時折、風が吹くだけの場所。
大抵の人間が、行き着くところ。
“墓場”というところ。
僕は迷いもせず、時折彼女に手を貸しながら、そこに着いた。
『竹内家ノ墓』
その場所に鎮座している、その墓石の正面には、そう彫られている。
僕には見慣れたその風景。
しかし、彼女には意外だったようだ。
「……もしかして……」
彼女が息を呑む。
そして、僕は振り返り、言う。
「昔話を聞いて欲しいんだ。少しだけ、長くなるけれど」
彼女は、戸惑いつつ、頷いた。
◇ ◇ ◇
映画ははっきり言って、B級もB級だった。
まぁ、それでも、それなりには楽しめた。
「どうでしたか? 志保さん」
見れば彼女は、ものすごく微妙そうな顔をしていた。
「……悟ちゃん」
「はい?」
「……ああいうの、好きなんや……」
!!
ちょ、ちょっと待ってくれ。
何で、何かを納得したような顔で僕を見るんだ。
ち、違うんだ。
アレは僕の趣味では……!!
ちくしょう、順子め!!
適当な情報を教えてくれて!!
「……ふふ」
「?!」
「……冗談、や。悟ちゃん」
「………………」
「……ちゃんと、悟ちゃんのことは知ってる」
「タチ悪いですよ。志保さん」
本当に心臓に悪い。
見れば彼女はいまだに笑っている。
……やれやれ。まったく。
「……次は?」
「お別れです」
憮然とした表情で、僕はそっぽを向いた。
彼女は、やっと笑い終え、柔らかな口調で言う。
「……悟ちゃん、ゴメン」
………………。
こういう態度には弱い自分がいやだ、と考えつつ。
「次は、どこかで昼を食べましょう。そして――」
「……そして?」
「久しぶりに昭三さんに、会いに行きましょうか」
「……………!」
◇ ◇ ◇
僕の両親は共働きでね、同じ職場に勤めていたんだ。
それが縁で結婚したらしいんだけれど。
そして、出産。
僕が産まれたわけだねぇ。
何事もなく、時間は過ぎて、僕は地元の中学に入ることになった。
その入学式の終わった後の晩餐でのことだった。
ふ、とした拍子に父の手に触れたんだ。
そうしたら、見えてしまったんだよね。
父の死に顔が。
怖かったよ。
本当の本当に怖かった。
だってそうでしょ?
まだ中学あがったばかりだよ?
“死”なんて身近じゃなかったし、実感も無かった。
そんなときに、父親の死に顔だ。
震え上がった僕は、年甲斐も躊躇も無く母親に抱きついた。
そして、見てしまったんだ。
「……もしかして……」
そう。
母の死に顔を。
同じ情景の中に。
見えるのは、荒涼とした風景。
違うのは、死んでいる人の顔。
父の顔ではなく、死んだ母の顔。
そう。
二人は、同時に死ぬ。
そんな予知だった。
昔は今より予知が鋭かったから、時間も正確にわかった。
19××年××月××日、××時××分。
この数字は今でも忘れられない。
そして、その数字は一週間後を示していた。
僕は焦ったよ。
本当の本当に焦った。
あらゆる手段を講じて、二人を出かけさせないように、ってね。
土下座までして頼み込んだ。
両親は、驚いていた。
あのときの僕は焦ってばかりいたからね。
今にして思えば、両親はなんて思ったんだろうね。
今じゃ、わかりようもないけれど。
そして、その日は訪れた。
僕は前日からこじらせていた風邪で、近所の病院に緊急入院していた。
それでも、心配だったから、這って病院を抜け出したんだ。
そして見たのは、もぬけの空の家だった。
「……どうして……」
後で聞いたところによると、どうしても人手の足りなかった職場に呼び出されたらしい。
そして、そこで、死んだ。
僕の予知どおりに。
地震だったんだよ。
そんな大規模なものでもない、それでも一日はニュースで報道されるくらいの。
両親のビルは老朽化が進んでいたんだとさ。
崩れるのはあっという間だったらしい。
そして、二人は、その下敷きになった。
◇ ◇ ◇
「フヒヒヒ……。緑色の馬に乗って、おれをおれをおれを$※&#??――」
何でこんなことになったのか。
僕と彼女は、その男を目の前にして硬直していた。
………………。
昼を適当に食べた僕らは、その墓地へと向かった。
寒さに少し凍えながらも目的の墓石につき、手を合わせた。
その瞬間。
墓石の後ろから、汚らしいなりをした男が急に飛び出してきた。
そして、男は意味不明の言葉を話し、腰から大振りのナイフを取り出した。
そして、今。
僕と彼女はその男と対峙している。
男は、ブツブツと何かを呟き続けている。
まれに、風によってその言葉が届くが、まったく持って意味不明だ。
僕は隠れてため息をついた。
「(こんな未来は、見えなかったのになぁ……)」
正直、本当に混乱した。
でも、男が刃物を出したとき、ふ、と思った。
『ああ、僕は、ここで死ぬんだな』と。
だからだろうか、自分でも意外なほど、冷静に状況を見ている。
そして、その結果。
「(志保さんだけでも、逃がさないと……)」
位置がマズイ。
男により近い場所に、いまだに、呆然と立ち尽くしたままだ。
……しょうがない。
男を刺激しないように、ゆっくりと彼女の腕をつかみ、ゆっくりと後退させる。
彼女は混乱したように、それでも小声で言ってくる。
「……さ、悟、ちゃん」
僕も小声で答える。
「志保さん。ここは僕がどうにかしますから、志保さんは警察に連絡してください」
「……悟、ちゃん? なにを……」
いいから、早く。
「志保さん。あと、絶対に、絶対に。タクシーには乗らないでください。良いですね?」
これだけは言っておかないと。
すべての予知が無駄になる。
すると彼女は。
「……阿呆っ!! 悟ちゃん!!」
信じられないような力で僕の腕を引っ張ると、一気にその場から逃げた。
「ちょ、志保さ――」
後ろから男が追いかけてくる。
あぁ、もう、無駄に刺激してしまった……!!
「僕が残るって言ったじゃないですか!! 志保さん!!」
すると彼女は、普段からは考えられないような大声で叫ぶ。
「ダメ!! 悟ちゃん、死のうとしてたやん!!」
――!?
なんで、わかったんだろう。
――ここから先のことは、断片的にしか覚えていない。
道路端についた僕ら。
かなり後方から、男が何かを叫びながら、追いかけてくる。
計ったようにタクシーが、タイミングよく流れてくる。
躊躇することなく、タクシーの前に飛び出す彼女。
当然、タクシーは急ブレーキを踏む。
そして、強引に僕を押し込めた彼女は、その隣に陣取り、
「出してください、早く!!」
と運転手に怒鳴った。
運転手は、後ろから追ってきた刃物を持った男に驚きつつ、車を急発進させた。
「な、なんだありゃ……。あ、あんたら――」
スピードを上げるタクシー。
後ろを振り向きつつ、アクセルを踏む運転手に向かい、僕は怒鳴る。
「――前、前見て、運転……!! 危な――」
もうそのときには手遅れだった。
車線を大きく飛び出したタクシーに反応することも出来ずに、大型のトラックが、目の前に突っ込んできた。
今まで、受けたことも無いような衝撃が全身を貫く。
……。
………………。
………………………………。
こうして。
「……う? うぅ……。志保、さん……」
僕の隣の人は。
「志保、さん……? 大丈夫です、か?」
僕の隣でいつも微笑んでくれていた人は。
「志保さん、脚、どこやっちゃったんですか」
僕の初恋の人は。
「志保さん、志保……ねぇさん。……姉さん。 ……しほねぇ?」
僕の、最初で最後の義姉は。
「しほねぇ!!」
死んだ。
◇ ◇ ◇
中学生の僕のことをどうするか。
親戚中で喧々諤々の大騒動になった。
僅かばかりの財産のために、子供を引き取りたくは無い。
本音はそんなところだろう。
いよいよ、『施設にでも入れるか?』という意見がちらほら出始めたころ。
今まで一言も口を挟まなかった家族が、言ったんだ。
『うちが引き取る』ってね。
その言葉に、その一家の正気を疑ったのは、多分その場の全員。
もちろん、僕を含めてね。
だって、一家といってもたった二人。
父親と長女が居るだけだったんだから。
それも彼らはこう続けた。
『財産もいらない。その子供だけ引き取る』。
有無も言わさない感じだった。
結局、その後、大人だけの会議になって、僕と彼女は締め出された。
そのときの彼女の言葉は鮮明に覚えているんだ。
「……私のこと、好き?」
そんな、ストレートに聞かれたら困っちゃうよね。
………………。
「キライじゃ、ないです」
まぁ、好きだったんだけれど。
「……兄弟になったら、“お嫁さん”は、もう無理やな」
「………………」
「……私のことを本当に好きや言うんなら、せめて敬語はやめてな」
「………………」
「……………な?」
今でも、あの人にしては長台詞だな、って思ったよ。
そして、僕はなんだか堪らなくなってね、少しベソをかきながら、言ったんだ。
「恥ずかしいから、嫌です」
ってね。
でも、今にしてみれば、後悔しているよ。
もっと、姉さん、て呼んであげて、敬語もやめるんだったよ。
ホント、後悔している。
その後、僕は予知にノイローゼになりながらも、中学を卒業し、高校に入った。
その年に、竹内昭三さん……僕の義父が亡くなった。
それを防ぐことが出来なかった僕は、登校拒否になった。
◇ ◇ ◇
それは、あの日の夕暮れ。
「な、ぜ、予知のことがわかったんですか?」
あの人は泣きながら、笑っていった。
「……私は、悟ちゃんの、“お姉ちゃん”や」
多分、それは判り難い、あの人の冗談。
「理由になってないですよ……」
もう、聞くことの出来ない、冗談。
「……お父さんが、生きてたときに言ってたんや」
そして、聞くことの無い――
「……『悟ちゃんには、アレ、未来、見えてんで』って」
――声。
「なんて、調子の軽い……」
もう会うことの無い、あの人たち。
「……悟ちゃん。そんな重大な事、隠し通せるなんて、見くびらんで。
お姉ちゃんと、お父さん。あなたの家族を、見くびらんで。絶対に」
もう会うことの無い、貴方。
◇ ◇ ◇
「タクシーに乗ったら死ぬ。そんな予知だったんだ」
「結局、ハンドルを急に左に切ったおかげで、運転手は無事。ダンプも無傷、とはいかなかったけれど、
まあ、なんとかなった。でもね――」
僕はなるべく感情を込めないように言う。
「――歩道の電柱に突っ込んだ、車の左半分は、ぐしゃぐしゃになった。義姉は即死だった」
あと、ついでのように付け足す。
「あぁ、そうそう。墓場の変な男は薬物中毒だったらしい。すぐに逮捕されたけれど、今はどうしているのやら」
もう、服役は終わっただろう。
でも、あの人はもう帰ってこない。
「……なんで、そんな話を……?」
下を向き、何かをこらえているような彼女が、震える声で聞いてくる。
「僕はね、本当はそのときに、死にたかったんだろうね」
「………………」
「だって、そうでしょ?」
「………………」
「家にいれば、タクシーなんて乗ること無い。予知は絶対に外れる」
「………………」
「でもさぁ、“彼女”のいうとおりに外に出て……」
「………………」
「あんなことになった」
「………………」
「僕は全部、予知してたのかもしれない。そして、どうせ外れることのない予知なら――
――彼女と一緒に死にたかったのかも、ね」
こういうのも無理心中っていうのかな?
僕は珍しく、タバコの無い手で頭を掻いた。
彼女は何も言わない。
僕は、沈黙を殺すように続ける。
「そして、今日、君を連れまわしたのにも理由がある」
彼女はピクリとも動かない。
僕も、口以外動かさない。
「わかったでしょ。これは“あの日”のリピートなんだ。何でこんなことをしたのか、というと」
「………………」
「僕はね、今日一日、“彼女”と千埜君を比べていたんだよ」
「………………」
「“彼女”はあの時どうだった、それに比べて君は――。ってね」
彼女は俯いたまま。
僕は空を仰いだ。
「さっきから話しているように、僕は最悪の人格の持ち主ということ。それだけじゃない。
どんな人間も死に巻き込んでしまう疫病神、死神なんだよ」
だから。
さあ、嫌いになってくれ。
僕のことを蔑んでくれ。
僕のことを、忘れてくれ!
「ほら、最低の男でしょ、僕は」
すべてを吐露した後、何か清清しい気分になり、彼女を見つめた。
それは単なる加虐心の発露だったのかもしれない。
しかし、笑えるほどに――。
「――最低だ、僕は」
「……竹内、さん」
「こうして予防線張っておくことで、君に“最低”と言われないようにしている。本当に、愚劣だ」
「竹内さん」
「君も嫌気がさしたでしょ? 僕がこんな矮小な人間だなんてさ」
彼女はつかつかと歩み寄ってくる。
「(あぁ、これでお別れか……)」
そう思うと、自然と、笑みが――
――浮かぶわけが無い。
「(ああ!! くそっ! 離したくない、離れたくない!! 僕は、僕は!!)」
こんなにも、彼女のことを求めている。
それでも。
コレが僕の最後の、策だから。
嵌ってくれ! 見下してくれ! 見放してくれ!!
僕のことを、忘れてくれ!!
千埜君! 千埜、綾音君!!
そして、彼女は、突っ立ったままの僕を、ただ抱きしめた。
抱きしめたまま、彼女は言う。
「……ありがとうございます。こんなに私のことを想ってくれて」
「千埜、君……」
「竹内さんから『嫌い』というのは簡単。でも、それじゃ、私に未練が残るかもしれない」
「………………」
「……だから、嫌われ者になって、自分が死ぬときに、私が悲しまないように、忘れさせようとした。そうですね」
「ち、違う。僕は、本当に彼女と君を比べて――」
「嘘です」
「………………」
「私の知っているあなたは、最低でも、愚劣でも、矮小でもない。そんなことを許せる人じゃない」
「………………」
「一番に人のことを考えて、一番に人のために損をする人。謀好きなくせに、計算違いばかり」
「………………」
「あなたの思考は、私が一番わかります」
「……君の言ってるそれは、その概念は、もはや宗教だよ」
「妄信的なところは、恋愛も宗教も違いありません」
「………………」
「悟さん。私はあなたを信じています。お義姉さんと同じように」
「……だから、覚悟もしている、と?」
彼女はうなずいた。
「君ってつくづく不器用な娘だよねぇ……」
「………………」
「僕といると、不幸になるよ」
彼女はやはり、首を振る。
もう十分に幸せなのだろうか? それとも、これからもっと幸せになると信仰しているのだろうか?
「僕は来年の春頃に、大きな交通事故に巻き込まれる」
それはあのときのリピート。
「………………」
「それが電車なのか、車なのか、それとも飛行機なのか。あるいは歩いているだけなのかもしれない。特定は出来てない」
救いようの無い、繰り返し。
「………………」
「僕は、そのときに死ぬ」
定められてしまっている、未来。
「………はい」
「君は、それでも、僕を、僕といる未来を選択してくれるのかい?」
あの時と同じ言葉。
最低、最悪のプロポーズ。
彼女を不幸に陥れる、罪悪のプラン。
でも。
彼女のいうことが手に取るようにわかる。
「……………当たり前……………」
言うと思った。
だから、僕は彼女に言うしかない。
「ありがとう。綾音君」
……。
………………。
………………………………。
僕と彼女は、ようやく離れた。
見れば、彼女の顔は真っ赤で、息も荒い。
照れているのかと思ったら――
「……はぁ。喋り、疲れた……」
――どうやら、長台詞で、今までつかってなかった気管を酷使しすぎたらしい。
精神的にも来るものがあったのだろう。
「……元気、分けてください……」
は?
と疑問符の付いた僕の顔に彼女の唇が近づき、そのまま――
――口を塞がれた。
そして、唇が離れた隙に僕は言う。
あのときの、“彼女”の台詞を。
「僕のことを本当に好きだというんだったらさ、せめて敬語はやめてよ」
彼女は目を見開き、そして、何度もうなずく。
「……はい。わかりま……。わ、わかったぜ……」
え?
それはなんか違うんじゃない?
そう指摘しようとした僕の唇を黙らせるように、彼女はもう一度、自身の唇を重ねるのだった。
……。
………………。
………………………………。
とうとう帰る時間が来た。
彼女は振り返ると、“僕の家族”に頭を下げた。
僕は振り返らずに、“義父と義姉”に手を振った。
タバコを吸いながら。
『……カッコつけ? 悟ちゃん』
そう“彼女”にいわれた気がして。
「そうだよ、姉さん。ちょっと、気取ってみた。どう?」
小声だったのが悪かったのか、“彼女”からの返事は無く。
肩を軽くすくめた僕は、隣でまだ頭を下げている彼女の肩を軽くたたく。
そして、僕らは歩いていく。
決められているはずの未来へ。
救われないはずの未来へ。
ただただ、笑いながら。
歩いていく。
了
以上です。
稚拙でやたら長い駄文にお付き合いさせてしまい失礼いたしました。
もっと魅力的な文章を書けるように努力していきたいと思います。
お粗末さまでした。
GJ
前作から読んでたし楽しめたよ。
前作に引き続き、読んでいて心が動かされるssでした
……………GJ
GJ
・無口国語教師
・無口物理教師
・無口化学教師
・無口美術教師
・無口数学教師
>>101 >・無口化学教師
昔HAPPY LESSONという作品があってだな・・・・
無口ATM
>>103 「何?」(ご希望のお取引をお選びください)
「ん」(カード、または通帳をお入れください)
「番号」(暗証番号をお入れください)
「馬鹿」(暗証番号が違っております。今一度暗証番号をお確かめの上、お入れください)
「で?」(ご希望の金額をお入れください)
「領収書は?」(領収書の有無をお選びください)
「はい」(現金をお取りください)
「忘れ物は?」(現金、またはカードのお取り忘れにご注意ください)
「じゃあ、また」(ありがとうございました)
音声ガイドの役に立っていない点を除けば、なかなか良いと思うがw
>>104 音声ガイドが無ければ最強の無口っ子じゃね?
それもうATMとして機能してないじゃんwwwww
昔、考えたっけな
ツンデレな自販機と無口な自販機
役に立つのはどちらか、とか
前スレで書いた『幼馴染は口が悪い』の続きを投下します。
エロ無しですのでエロ無しが嫌な方はスルー願います。
「あ、あの、本宮先輩……これ、読んでください!」
放課後の下駄箱で、幼馴染の佐伯都(さえき みやこ)を待っていた俺に、
真っ赤な顔で手紙を差し出してきた女の子が一人。
こ、これは?……放課後の下駄箱。真っ赤に照れてる女の子。カワイイ字で『先輩へ』を書かれた手紙だと?
こ、この状況から察するに……ラブなレターってヤツか?
……えええええ?レターでラブなのか?この俺に?マジで?
彼女いない歴=俺の年齢の、この本宮明(もとみや あきら)にラブレターだって?
「こ、これっていったい何ナノかな?」
「い、いつでもいいですから!アタシ、本気ですから!」
まるでトマトのように顔を染めて、走り去る女の子。
走り去る彼女のパタパタと揺れるスカートが、なんか愛おしく感じてしまう。
そんなショートカットで黒髪の、俺よりも10センチは低いであろう身長の小さな女の子。
都のように綺麗という印象はなく、どちらかというと、カワイイといった感じの子だ。
胸も都のように大きくなく、どちらかというと、貧乳の部類に入りそうだ。
……おっけ〜おっけ〜、俺が大きくしてやんよぉ〜!貧乳を巨乳へと変える……それが男の浪漫だ!
そういや俺の事、先輩って言ってたな?ということは下級生なのか?
そうかそうか……俺の魅力は同年代には分からんのか。
手紙を手にニヤニヤしていると、後ろからガタンという大きな音が。
何の音だと振り返ってみると……はぁぁ〜、またかよ。
俺の視線の先には、都が倒れていた。きっとまた足でも捻ったんだろうな。
「おい、大丈夫か?都、立てそうか?」
手を差し伸べて、都を引っ張り起こす。
俺の問い掛けにフルフルと首を振り、立てないとアピールする。
「おいおい、また歩けないとか言うんじゃないだろうな?」
背負って帰るのか?いくら家が近くても、夏に背負って返るのはちょっとした拷問だぞ?
「……何、もらったの?」
俺の問い掛けを無視した都の視線の先は、俺へのラブで満ち溢れているであろうレターに向けられている。
「あぁ、これか?さっきな、下級生の子にもらったんだ。返事はいつでもいいって。アタシは本気だって。
これってどう考えてもラブレターだよな?いやぁ〜困っちゃうなぁ?どうしようかなぁ〜?」
どうする?ここで読むか?いや、家に帰ってジックリと読んだ方がいいな。
そのほうが初めてのラブレターを堪能できる。うん、そうだ、そうしよう。
風呂上りにでもジックリと時間をかけて読むことにしよう。
きっと周りから見れば今の俺はニヤニヤとして、気持ち悪いんだろうな。
けどそんなの関係ねぇぜ!今の俺にはこのラブで溢れたレターがあるんだからな!
って、都、お前さっきから何してんだ?
「なぁ都。お前さっきから何してんだ?」
目の前では上履きを履いたまま、靴を履こうとしている都が。
どう考えても入らないのに、必死に履こうとしている。
これはギャグのつもりなのか?それともいつもの天然なのか?さぁどっちだ?
「なぁ都。靴を履くんなら上履きを脱いだ方がいいと思うぞ?」
俺の言葉に慌てて上履きを脱ぎ、靴下まで脱ぎだした。
靴下を脱ぎ現れたその素足は、透き通るように白く、スベスベとしていそうだ。
う〜ん……一度でいいからその綺麗な素足で踏んづけてほしいな。
そして都は靴を履き、その靴の上から靴下を履こうとしだした。
なんなんだ?今日の都は様子がヘンだな?
「いい加減に笑えない冗談は止めろよ?なんで靴の上から靴下を履こうとしてるんだ?
お前、なんか様子が変だぞ?なにかあったのか?」
フルフルと首を振り、靴下を下駄箱に入れて、上履きをカバンに入れる。
そして靴を履き、俺の手を引っ張り家路に着こうとする都。
ダメだ、今日の都はやっぱりどこかおかしい。
まぁいつもおかしいヤツだけど、今日は一段とおかしくなってる。
……どうでもいいが、靴下は持って帰りなさい。じゃないとマニアなヤツ等に盗まれてしまうぞ?
「ただいま〜!おっふくろ〜、俺、ちょっと部屋に篭るから〜」
「あらあらどうしたの明?なんだかご機嫌ねぇ。都ちゃんが3キロ太ったから嬉しいの?」
お袋の言葉にカバンを振り回し、襲いかかろうとする都を羽交い絞めにしてどうにか押さえる。
何故だかわかんないんだけど、都とお袋は仲が悪く、いつもケンカ腰で会話をしている。
はぁぁ〜、毎回板ばさみになる俺の身にもなってくれよ?……まぁ面白いんだけどな。
「あらあら、カバンを振り回して、はしたない子ねぇ〜。そういえば3キロは言いすぎだったわね、ゴメンね?
1キロだったわね。哀れにもダイエットしてるんでしょ?その無駄な胸の脂肪は取れるのかしらねぇ?」
追い討ちをかけるように薄ら笑いを浮かべながら都を挑発するお袋。
だから止めなさいって!いい歳してなんで都に突っかかるんだよ!
「いい加減にしろっての!お袋も都も!いい加減にしないと……本気で怒るぞ?」
俺の言葉にシュンとする2人。……そうか、都の胸が大きくなったと感じたのは1キロ太ったからか。
前に背負った時に、大きく感じたのはそのせいだったんだな。
都の胸の感触を思い出し、ニヤケてしまいそうになる。
……いかんいかん!ニヤケてる場合じゃない!俺にはラブなレターがあるんだ!
「実はさ、今日学校でラブレターをもらっちゃってさ。またくれた子がちっさくってカワイイ子だったんだよ」
嬉しさのあまり我慢できずお袋にも報告する。俺がこんな話するのって初めてだから、お袋、驚くだろうな。
驚きのあまりなのか、台所からドタンバタンという大きな音が。
「お、お袋?でかい音がしたけど大丈夫か?いったいどうしたんだ?」
慌てて様子を見に行くと、何故か真っ二つに割れているまな板と、グニャリと曲がったフライパンがあった。
な、なにが起こればフライパンがこんな風になるんだ?お袋、いったいなにをしたんだ?
「そ、そう、ラブレターをもらったの?よかったわねぇ。……一度その子を家に連れてきなさいな。
ママ、その命知らずを……コホン!そのカワイイ子を見て見たいわぁ」
ニコニコと微笑みながら話すお袋の手には、無残にも形を変えていく中華鍋が。
なにをどうしたら中華鍋が2つ折に出来るの?
ねぇ、なんで中華鍋が4つ折に出来るの?……なんでそんな馬鹿力なの?
そもそもなんで殺気を振りまき微笑んでいるんだ?
何故か都もウンウンと頷いているし……お前らなんか企んでいるだろ?
あれ?まな板って、みじん切りするものだったっけ?
家の包丁は切れ味抜群なんだね!……お袋、鬼気迫る形相でまな板を切り刻むのは止めてくれよ。
都は都でカバンから鉄の棒を取り出してブンブン振り回してるし……まだ持ってたんかい!
「2人ともどうしたんだ?今日はいつにもまして様子が変だぞ?」
おかしい。いつにもまして、2人の様子がおかしい!
時折視線を合わせ、何故か頷きあってるし……こいつ等絶対何かをするつもりだ!
……まぁいいや。どうせくっだらねぇことだろうしな。
そんなことより早くラブに満ち溢れているレターを読まなきゃな!
「じゃあ俺、部屋に篭るから。都、また明日学校でな〜」
俺に向かって手を伸ばし、何かを訴えかけてくる都を無視して部屋へと向かう。
何か言いたそうだったけど、どうせくだらない事だろ?
そんな事よりも早くラブレターだ!このアナログな方法での告白ってのがいいねぇ。
気に入った!カワイイ君を俺の愛で溺れさせてやるさ!
部屋に入り鍵を閉め、ドキドキしながら封を開ける。
そこには携帯のメールアドレスと、女の子らしいカワイイ字でこう書かれていた。
『先輩、いつでもいいので放課2人きりで会ってくれませんか?
アタシ、待ってます。先輩と2人になれる日を待ってます!お返事待ってます。 谷涼子』
そうか、彼女は谷涼子ちゃんというのか。……いいねぇ!
放課後に涼子ちゃんと2人きり!……これはもしかしてもしかするシチュエーションじゃねぇか?
……解かねばならないな。今こそ封印せし、伝説の防具を封印を説かねば!
高速に近い速度で涼子ちゃんに『早速明日にでも会おう』とメールで返事を出し、
引き出しの奥に封印している箱を取り出す。ついに……ついに俺にもこの日が来たのか!
伝説の防具……薄いあまりに着けている事を全く感じないという、黄金伝説。
『うすうす君2008 夏』……ついに封印と解く日が来たんだ!
とりあえず練習の為、一つ取り出し明日の放課後のことを思い、既に全開になっているわが息子にセットする。
おおおお……このフィット感、まさしく伝説の名に恥じないコンドームだな。……練習しとこ。
伝説の防具を身につけ、明日の為に練習に励む俺。
イメージした相手が都なのは内緒だ。……背中に感じた都のオッパイは柔らかかったなぁ。
イメージトレーニングで都と3回戦戦い終えた俺は、携帯にメールが届いているのに気がついた。
お?涼子ちゃんから返事がきたのか。どれどれ……うおおお!明日の放課後、柔道場で会いたいだってぇ〜?
我が学校には柔道部はない!ってことは……放課後に誰もいない柔道場で2人きり?
え?カワイイ涼子ちゃんと2人だけでの柔道場?……い、いかん、3回も出したのにまたでかくなってきた!
仕方がない……今度は今日見た都の生足でイメージトレーニングするかな?
次の日の放課後、約束どおりに柔道場へと足を向ける。
後ろからコソコソと都が付いて来てたので、校内を3周ほど早足で歩く。
……案の定、歩き疲れて追いつけなくなってきたな。都は体力がないからなぁ。
そんな体力でよくもまぁお袋にケンカを売ってんな。
勇気があるというか、無謀というか……まぁ見てる分には面白いからいいんだけどな。
さらに歩くスピードを上げ、都をまいて待ち合わせ場所の柔道場へ向かう。
柔道場の扉を開けるとそこにはすでに柔道着姿の涼子ちゃんが待っていた。
「お、お待たせ!き、昨日の手紙についてなんだけど……あの手紙って、アレだよね?」
俺の問い掛けに真っ赤な顔でコクンと頷く涼子ちゃん。
あまりのカワイイ仕草に、その使い込んでいるであろう、所々が擦り切れている黒帯の柔道着姿も可愛く見える。
カワイイ子は何を着てもカワイイな!こんなちっちゃい子が柔道着を着るなんて……可愛くていい!
……あれ?なんで柔道着?
「先輩……いざ、勝負です!」
「へ?勝負ってなに?いきなりなんなん……どわぁぁぁぁ〜!」
真っ赤な顔をしていた涼子ちゃんの顔が一瞬で引き締まったかと思うと、目の前から消えた。
え?消えた?……そう思った瞬間、目の前の景色が一回転した。
なんだ?何が起こってるん……だっがはぁぁ〜!
目の前の景色が一回転したかと思うと、次の瞬間、全身を物凄い衝撃走る。
まるで車か何かにはねられたような衝撃。
衝撃でグルグルと回る視界には、何故か天井が見えた。
なんで天井が見えるの?……あれ?もしかして俺、寝転がってるの?
グルグルと回っていた視界は、グニャグニャとなり、次第に真っ黒に染まっていった。
意識が暗闇に落ちようとした瞬間、涼子ちゃんの声が聞こえた。
「はぁはぁはぁ……お母さんのライバルだった人の息子さんって話だけど、すっごく弱いんだぁ。
お母さん……涼子は敵を討ちました!」
お母さんのライバル?息子さん?敵を討った?あれ?もしかしてこれって……お袋のとばっちり?
もしかしてあの手紙はラブレターなんかじゃなく、果たし状?ならなんであんな可愛い字で書いてくるんだよ!
っていうか、女子校生が果たし状ってなんなんだよ!
ラブレターをもらったとテンション上がってた俺はいったいなんだったんだ?
ちっくしょう……お袋!恨むからな!……がふ!
「都、待っててくれたのか?先に帰ってたらよかったのに」
柔道場で投げ飛ばされ、意識を取り戻してみたら……真っ暗な柔道場で1人きりだった。
涼子ちゃん……せめて目が冷めるまで待っててくれよぉ。
ていうか、投げ飛ばさないで。メチャクチャ痛かったから。
トボトボと下駄箱まで来てみたら、俺の下駄箱の前で三角座りをしている都がいた。
おいおいおいおい、正面から見たら、パンツが見えるんじゃねぇのか?
……クソ!見えそうで見えねぇ!ちょっとしたイリュージョンだな。
「グスッ……どこ行ってたの?」
上目遣いで俺を見つめる都。
その瞳には涙がいっぱいに溜まっており、潤んだ瞳で俺を見つめるその表情は、はっきり言って反則なくらいに可愛い!
「え?い、いや、それはだな、あれだ……そう、昨日のラブレターくれた子に会ってたんだよ」
さっきの事をどう説明したもんかな?
ラブレターじゃなく果たし状でした。しかも一発でのされて今まで気を失ってました。
……なんて言いたくないなぁ。だってあんなちっさなかわいい子にやられたなんて、男としてカッコ悪いじゃん。
「まぁカワイイ子だったけど、俺には合わないな。だからあの子と付き合うとかはナシだな」
下駄箱から靴を取り出しながら都と話す。
ぼやかした表現だけど、ウソはついていない。だって付き合うとかいう話は全くなかったんだからな。
「ホ、ホント?ホントに付き合うとか……きゃん!」
俺の言葉に驚いたのか、勢いよく立ち上がった都。
だがそれは運悪く、俺が下駄箱の扉を開けている時だった。
で、都は俺の下駄箱の前で三角座りしてたわけで。立ち上がるとそこには下駄箱の扉が開いていたわけで……
『ゴチン!』
勢いよく立ち上がった都は下駄箱の扉に思いっきり頭をぶつけてしまった。
頭を押さえ蹲る都。あらららら、これは痛そうだな。血、出てるんじゃないか?
「ヒック……あ〜ちゃんに傷物にされた」
「傷物ってなんだよ!人聞きの悪いこと言うなよ!」
「……たんこぶ」
涙をボロボロとこぼしながら自分の頭を指差す。
タンコブが出来たっていうのか?で、なんでそれが俺のせいなんだ?
「ほら!もう遅いからさっさと帰るぞ!」
まだ座り込んでいる都の手を引っ張り、無理やり立たせる。
……あれ?なんで絆創膏なんて貼ってるんだ?さっきまではこんなのなかったよな?
「なぁ都、お前、指を怪我でもしたのか?」
「……画鋲で怪我した」
「画鋲?さっきまでは怪我なんてしてなかったよな?しかも画鋲って……先生に何かを手伝わされたのか?」
先生もこんなドンくさいヤツによく手伝いをさせたなぁ。
そう思ってたところに俺を投げ飛ばし、気絶させたままいなくなった涼子ちゃんが現れた。
「や、やぁ、君も今帰りなのかい?ボクもついさっき意識を取り戻してね、今から帰るところなん……あれ?
足、引きずってるけどどうしたんだい?」
また投げられるんじゃないかとビクビクしながら話しかけてみると、彼女が足を痛そうに引きずっているのに気がついた。
もしかして柔道場で怪我でもしたのか?俺が怪我させちゃったのか?
「どうしたんだい?もしかして俺が怪我させちゃったのか?」
俺の言葉にキョトンとした表情を見せた涼子ちゃんは、お腹を抱え笑い出した。
あれ?俺、ギャグなんか言ってないぞ?何が面白いんだ?
「あははは!先輩何も出来ずに一発で失神したじゃないですか。
これは誰かがアタシの靴の中に画鋲を入れてたんですよ。……絶対に犯人を捕まえてブン投げてやります!」
あ、そういやそうだったな。彼女に一方的に投げられて気絶してたんだった。
……気絶した人間をほったらかしにするのは、人としてダメだと思うよ?もっと優しくなろうよ?
「画鋲なんか入れられたの?今時そんな古風なことするバカなヤツもいるんだなぁ」
俺以外にも彼女を恨んでるヤツがいるんだ。画鋲を仕込むなんて勇気があるなぁ。
「ですよねぇ?こんな馬鹿なことする人間なんて、よっぽど器が狭いんですよ。人として最低ですね」
確かに最低だ。……その手があったかと思ってしまったことは秘密にしておこう。
「ホント、最低なヤツだな。でも明日から気をつけたほうがいいと思うよ。
こんな最低なことをする人間は同じことを繰り返しそうだからね」
俺だったらそうする。ていうか、そうしたい気分でいっぱいだ!
「あはははは!願ったり叶ったりですよ!またするようでしたら捕まえて本気でブン投げてやりますよ!」
……やっぱり陰湿な事はしちゃいけないよね?バレたら本気でブン投げられるのかぁ。
……え?本気?じゃあさっきのは手を抜いてたの?あれで?ウソだろ?
「ホ、ホンキ?じゃあ今日はもしかして手加減してくれてたの?」
「当たり前じゃないですか。様子見で軽く投げたのに、先輩ったら気絶しちゃうんですもん。がっかりでしたよ」
がっかりなのはこっちの方じゃい!ラブレターだと思って喜び勇んで会いに行ったら、ブン投げられたんだぞ!
「じゃ、先輩、さようなら!……犯人らしき人を見たら教えてくださいね?……絶対にブン投げてやる!」
「あ、あぁ、分かった。でもやり過ぎはよくないよ?じゃないと相手が死んじゃうから」
手加減してあの威力だと、本気で投げられてたら俺、死んじゃってたかもしれないなぁ。
涼子ちゃんは俺の言葉にアハハハと笑いながらペコリと頭を下げ、足を引きずりながら帰っていった。
……手加減する気、ゼロ、なんだ。犯人に同情してしまうなぁ。
しかしあんな恐ろしい子の靴に、画鋲を仕込むヤツなんているのか?
そう思い、どんなヤツが画鋲なんか仕込むのかを考えてみた。
あれ?画鋲?そういや都は画鋲で指を怪我したって言ってたな?
そう思い、都を見てみた。……涼子ちゃんの後姿を物凄い形相で睨んでいる。
……もしかしたら犯人は身近な人間なのかもしれない。ていうか、俺の隣にいるのかもしれない。
「なぁ都、お前その指の怪我、画鋲で怪我したんだよな?」
都は痛そうに大げさに指を擦り、コクリと頷く。
そんな演技したって心配はしてやらないぞ?っていうか、別の意味で心配になってきた。
「もしかして、お前が涼子ちゃんの靴に仕込んだのか?」
まさかと思いながら尋ねてみた。いくら都でもそんな陰湿なことはしないだろう?っていうか、する意味がないだろ?
しかし俺の考えを否定するかのように、都はコクリと頷き、即答した。
「お前マジか?シャレにならないぞ!お前、いったいなにやってんだよ!」
お前、バカか!この事を涼子ちゃんに知られたら、俺が命令してやらしたと思われちまうかもしれないじゃないか!
そうなったら、俺が本気の投げを喰らうハメに……お前、なにしてくれとるんじゃぁぁぁ〜〜!
怒りのあまり、都の頭をヘッドロックで締め上げて、出来立てのタンコブにデコピンをペシペシ喰らわせる。
タンコブをペシペシするたびに、「ひぎ!ひぎゃ!」と可愛い悲鳴を上げ、手足をバタバタさせて暴れる都。
……こ、これはなかなか可愛いな。都のこういう可愛いところも大好きだな。
そう思い、たんこぶペシペシを楽しんでしまった。
……ゴメン、痛かったよな?だから号泣するのは止めてくれない?帰りにアイス奢るからさ?
「なぁ都。いい加減家に帰れば?っていうか、帰ってくれ!」
真夏の放課後、都を背負い家まで帰りついた俺は、帰りが遅いと心配していたお袋に事情を説明した。
昨日の手紙はラブレターじゃなく、果たし状だったって。
その果たし状を渡してきた相手はどうやらお袋のライバルの娘さんみたいだって。
で、一瞬で投げられ一発で気絶しちまったって。……気絶したことは黙ってりゃよかったよ。
俺の話を聞いたお袋は、奇声を上げながらどこかへ走って行った。
どこかじゃない、絶対に涼子ちゃんに何かをするつもりなんだ。
『クソ弱かった分際でアタシの可愛い明ちゃんに手をかけるとは!殺してくださいと言わせてやるぅぅ〜!』
……道行く人たち全員が振り返るような形相&雄たけびを上げての疾走。
こんなことを叫びながら疾走してるんだぜ?あれが自分の母親かと思うとブルーな気持ちになっちまう。
俺は途中で追いつくことは不可能だと諦め、家に帰ることにした。
……途中でまた足を捻って蹲ってる都を拾う。
はぁぁ〜、また背負って帰らなきゃいけないのか。……まぁ、背中のこの感触があるから役得なんだけどな。
家に帰って都を送り届けたら、部屋でゆっくりと胸の感触を思い出して下半身の自主練習に励もう!
そう思い、都を背負い早足で家に帰りついたんだ。……自主練習したいから早く帰れなんて言えないよなぁ。
「…………今頃ババアに殺されてるはず。ババアは殺人で逮捕」
おいおいおいおい、物騒なことを言うもんじゃありません!
いくらお袋でも殺すとかはしないって!……しない、よね?
「お前なぁ、殺すとか物騒な言葉は使っちゃいけません!だいたいなんで涼子ちゃんの靴に画鋲を仕込んだんだ?」
都はお袋の前以外だと、口数が少なくて大人しく、とてもいい子なんだ。
そんな都がなんであんなヒドイことをしたんだ?涼子ちゃんに何か恨みでもあったのか?
「…………取られると思った」
はぁ?取られる?涼子ちゃんにか?都はいったい何を取られると思ったんだ?
「…………あ〜ちゃんが取られると思った」
「は?俺を取られると思った?」
コクリと頷く都。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでおり、
その表情は、都が冗談ではなく、真剣にそう思っていたことを物語っている。
「俺をとられるかと思ったって……だから画鋲を靴に仕込むなんて嫌がらせをしたのか?」
コクリと頷く都。……いかん、マジで可愛い!都、メチャクチャ可愛いじゃねぇか!
あまりの可愛さに一瞬見惚れてしまった。
都のヤツ……メチャクチャ俺に懐いているな。まぁ毎日相手にしてやってるから当たり前か?
「あ〜……コホン!安心しろ、都。俺はこれからもずっとお前の側にいるから」
……いつまで側にいてやれるんだろうな?
コイツもそのうち好きな男が出来て、その男の所に行っちまうんだろうな。
「安心しろ、都。俺はお前の側にいる。お前が許す限り側にいてやるよ」
都の頭を軽く撫でながら話す。
都は瞳を潤ませてながら俺の話を真剣に聞いている。……コイツにこんな目で見つめられる男が羨ましいな。
「ずっと側にいてやる。都……俺は一生、お前の友達だ。だから、な?もうヘンなことするんじゃないぞ?」
「…………と、友達?」
「そう、友達だ。俺達は一生涯変わらない友達だ」
「…………い、一生、友達?変わらない?」
都はなぜかガックリと肩を落とし、そのままトボトボと部屋を出て帰っていった。
……なんだ?いったいなんなんだ?俺、なにかヘンなこと言ったっけ?
ま、いいや。帰ってくれたから結果オーライだ。
背中に感じた感触を覚えているうちに……すまん、都。お前の一生涯の友達は最低なヤロウだ。
「……ただいま」
仕事から帰り、シャワーで汗を流してスッキリした後のビールを飲んでいると、愛する愛娘が帰ってきたわ。
やっと肴のあてが帰ってきたわね。……ん?様子が変ね、明君と何かあったのかしら?
「都、落ち込んでいるけど、何かあったの?お母さんに話してみなさい。力になるわよ?」
さぁ、早く話しなさい。貴方たちの話を聞かなきゃ美味しいお酒が飲めないじゃないの。
「……友達」
「は?友達?」
「……一生涯友達だって言われた」
がっくりと膝から崩れ落ちる都。
都の落ち込みようから察するに、どうやら明君にずっと友達でいようと言われちゃったみたいね。
なるほどねぇ、明君にとっては都はまだ恋愛対象じゃないのね。……あぁ、ビールが美味しいわ。
「大丈夫よ都、そんなに落ち込みなさんなって。明君、気づいてないだけよ。絶対に貴方のことをお嫁さんにしたいはずよ」
「……ホント?」
「えぇ、本当よ。恋愛というものはそういうものよ。今は友達でもそのうちお嫁さんに昇格するわ」
まぁ赤の他人に降格することもあるんだけどね。
「だからね、諦めず今は自分を磨くことを考えて……あら?メールだわ。都、ちょっと待ってね?」
携帯に届いたメールを見てみる。送信者は……え?谷さん?
あら、珍しい。あの子からメールが来るなんて初めてじゃないの?どれどれ、何の用事なのかしらね?
『たすけてころされる』
……は?なに、これ?夫婦喧嘩でもしたのかしら?
でもあの子は柔道3段。お隣さんの自称ライバルだった子よ。
夫婦喧嘩で殺されるなんてありえないわ。……いたずらかな?ま、無視してもかまわないわね。
古い友人からのいたずらメールを削除して携帯を閉じ、都にアドバイスをする。
「明君からは恋愛対象にされてなく、嫁姑の争いには歯が立たずに連敗中。う〜ん……前途は多難ねぇ」
私の言葉にがっくりと肩を落とす都。あぁ、ビールが美味しい、何本でもいけちゃうわね。
「でもね、その困難を乗り越えた先に、貴方と明君の輝かしい未来があるの。
お隣さんを打ち倒し、明君を物にした先に貴方たちの幸せな結婚生活があるのよ。
ラブラブな新婚生活を送りたいのなら、がんばりなさいな」
私の励ましに元気が出たのかウンと強く頷きいた都。
……だからね、まだ貴方たちは恋人でもないのよ?何で結婚を前提で考えているのかなぁ?
ま、面白ければどうでもいいんだけどね。
「ま、がんばんなさいな。お母さんは応援しているからね?」
力いっぱい頷き、やる気に満ち溢れた表情を見せる愛娘。
あぁ、面白いわぁ、日本酒もいっちゃおうかしら?
愛娘の幸せを祈り、日本酒をコップに注ぎ込む。
愛する娘を幸せを祈りつつ美味しいお酒をいただく私はいい母親ね。我ながら惚れ惚れしちゃうわ。
……またメール?『いっそのこところして』ってなんなのかしらね?
以上です。
GJ
みんな相変わらずだなぁ
谷吹いたwwwwwwwwwwwwww
GJ!
まってましたw
GJ!
これは実にいい
…………………………じぃ…ぢぇい………………///
ちょっと待て。母上達がGJ過ぎて鼻血が出たんだが
続きを要求しても良いかね?
127 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/29(金) 04:04:26 ID:O20TMduY
谷にマジで吹いたwwww
これはGJ!
128 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/29(金) 14:18:10 ID:+XzJtNGN
都の母ちゃんが1番強いんだろうな〜
129 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 07:04:37 ID:bViaIlr/
あげ
>>107 人間とはなんと深いことを考えるのだろうか・・・
無口さん5番勝負
・オーバーアクション無口さんVS無感情無口さん
・ドリフトキング無口さんVS自転車に乗れない無口さん
・超アウトドア無口さんVS超インドア無口さん
・ウサギ系無口さんVSハムスター系無口さん
・お嬢様系無口さんVS大和撫子系無口さん
1 たまにしか見せない貴重な表情がグー。後者
2 優しく手ほどきしてあげたい。後者
3 自室でずっといちゃいちゃ。後者
4 小動物的動作がミソ。引き分け
5 ドレスの似合う優雅な気品。前者
133 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/31(日) 21:11:13 ID:Saimvg1w
全て引き分け
無口っ娘に勝敗もなければ上下などないのだ
唯一の敗者は取り合いされてる男だろうが
ここでの敗者は、好みは主張できても
実際に無口っ娘とイチャイチャできない俺達なのではなかろうか orz
じ……自分を、信じ……て……
>>131 1、身振り手振りで伝えようとしてるところを伝わってるのに伝わってない振りして困らせたい、前者。
2、ドリフトを卒業したドライバーがグリップで走るのが一番速いことを教えたい、前者。
3、二人で出掛けて帰ってきてただいま「・・・・おかえり」、帰ると必ず家に居てくれて「・・・・おかえり」、引き分け。
4、取り敢えず餌付けしたい、後者。
5、何もせず、何も話さずのんびりしたい、後者。
>>131 自転車に乗れないってのが何かこう…むにゃむにゃした
>>134 でも実際世の中にそうはいないよな→無口っ娘
特に女の「子」に該当するような十代〜二十代なんてウルサいのばっかだ
頼れる幼馴染みがいないと無口になれない
>>139 箸が転がっても笑うお年頃か
無駄にはしゃぐガキを見て煩いと感じたらもうおじさん、って言われるけれど
俺たちにもああいう時代が有った事を考えると酷く不可解だよなぁ
>>141 箸が転んでも笑う年頃
の方が語呂がいい
>>141 むしろ年取ると今までは「ガキうぜえ」だったのが、「元気があって良いな」に変わってくるもんだ
俺も年をとったのかな?
('A`)
醤油を取ってもらいたくても黙る年頃
>>144 「何だよじーっとこっち見て。……ああ、これか。はいどうぞ。」
「……あ、りがと。」
(ケチャップか……私、目玉焼きには醤油派なんだけどな)
って何でこんなところで931出るかな。やっぱ出先のネカフェじゃ駄目だわorz
常にパペットを持ってる………
ダメだ。シュールすぎる
パペットいいじゃないか。パペットの口を借りて甘えてきたり。
「……」[あのねあのね、キス、してほしいの(ヒョコヒョコ)]
「しかたないなあ」
チュッ☆
「……!」
「だってしてほしいって言ったのは人形だし。お前もしてほしかったら自分の口で言わないと」
「……orz」
右手に主人公のパペットを
左手に自分のパペットを持って………
右手にウシのパペットを
左手にカエルのパペットを持って……
パペットマペット♪
って懐かしいなオイw
なぜかカエルとかパンダとかのパペットを使ってしゃべる毒舌系無口娘の妄想が降りてきた
偶然にも丁度パペットネタで書いていたんですが…
エロ無しですがよかったらどうぞ
〜無口でシャイな彼女〜
「ねぇやっぱり学校でももっと喋った方がいいよ…」
「……」
僕が言っても目の前にいる少女――沢渡朝妃は口を閉ざしていた。
ここは彼女の部屋、幼なじみの僕には慣れ親しんだ部屋だ。
恥ずかしがり屋の朝妃は人前で滅多に喋らない。僕は幼なじみだから顔を見れば朝妃の言いたいことは分かるけど…
そのせいで学校だと僕は朝妃の通訳さんみたいになっている。でも僕だって喋るのはあんまり得意じゃない。だから少しは自分の口で喋って欲しいんだ。
それに僕は知ってるよ。
本当は朝妃がよく喋ることを。
徐に朝妃は机から狼のパペットを取り出すとそれを左手にはめた。
『人前で話すなんて…そんな恥ずかしいこと出来るかよ』
狼のパペットが喋った。端から見たらそう勘違いするだろう。初めて聞いた時は僕だってそう思った。
もちろん物が喋る訳がない。喋ったのは朝妃だ。
朝妃の秘密、それは腹話術がとっても上手いということ。本当の朝妃の声は殆ど聞いたことがないけれど、今の狼の声と違うことぐらい分かる。
低い唸るような男声はとても朝妃が出しているとは思えない。
キャラも全然違うし本当に狼というもう一つの人格があるかのようだった。
「でもオオカミさん、僕だって話すのは得意じゃないんだよ」
あまりにも朝妃が喋っているとは思えないから僕は彼をオオカミさんと呼んでいる。
目の前に朝妃がいるというのに僕は彼女の左手に向かって話しかけている、なんだか不思議だけど。
『彼氏たるもの彼女のために尽くすのが筋だろ。違うか?』
そう僕と朝妃は付き合っている。いや、ちゃんと告白したわけじゃないんだけどね。昔から一緒にいるし、お互い好き合っているから世の中的には付き合っていることになるのかな。
「確かにそうだけど…」
一体左手の五本の指をどう動かしているんだろう?オオカミさんは生きているようにしか見えない。
『全く煮え切らない男だな貴様は。だからいまだにキスから先に進まねぇんだよ』
「ちょっ…オオカミさん!それは朝妃と二人で決めたんだから」
実際喋っているのは朝妃なんだけど、面と向かって言われると恥ずかしい。事実なだけに余計にね。
そりゃあ僕だって朝妃とあんなことやこんなことをしたいけどお互い初めてだから決心がついたらって二人で決めたんだ。
大体手を繋ぐ時にお互い顔が真っ赤なるのにキス以上のことなんて…
考えただけで顔が赤くなっちゃうよ…
『もういっそのこと付き合っていると公言してしまえ』
「えぇー!さすがにそれはマズいよ。先生に怒られるよ」
それにそんな恥ずかしいこと出来るわけないし…
『別に大丈夫だろ。ほら貴様の先輩とやらに学校中に知れ渡っている仲睦まじいカップルがいるんだろ?』
僕の頭にポニーテールが印象的な美しい女性と嫌みのない笑顔の男性がよぎった。
確かにそうだ、僕達が通う高校にいる先輩達は学校公認ともいえるカップルだ。いつも一緒にいて二人は誰が見ても幸せそうに見える。
だからといって僕には二人がバカップルに見えない。お互いが深い絆で結ばれている気がするんだ。
僕と朝妃もああいう風になれるといいな、なんてね。
『ともかくさっさバラしちまいな。あの学校なら大丈夫だろうよ』
どうやらオオカミさんは僕達の関係を公言して欲しいらしい。
ん?あれ、待てよ。
別に朝妃は二重人格者ではない。オオカミさんが言うことは朝妃が言っているのと同じだ。
僕はオオカミさんから目を離すと朝妃の方に向き直った。
「オオカミさんじゃなくて朝妃に聞くよ?朝妃は周りのみんなに言いたいの?」
「………」
しばしの沈黙。すると朝妃は左手からオオカミさんを外した。
「……ぅん…」
朝妃は顔を赤くしながら今さっきまでオオカミさんの声を出していたとは思えないほど、か細く消え入るような声で朝妃は言った。
なんでそう思ったのか、顔色からは伺えない。
「う〜ん、わかったよ。朝妃がそこまで言うんだったら…」
問題はどうやって暴露するかだけどそれはまた後で考えよう。
ちょいちょいと顔を赤くしたまま朝妃が手招きをする。
ゴツンッ
だんだん朝妃の顔が近づいてきて…と思った瞬間何を思ったのか朝妃はおでこをぶつけてきた。
「あ、あさひ!?」
「…ご、ごめんね」
赤面したまま今にも泣きそうな顔で朝妃が謝ってくる。
「一体どうしたの?」
おでこをさすりながら僕は聞く。たんこぶにならなきゃいいけど…
「……き…キスしようとしたら…」
え?今キスって言った?あの恥ずかしがり屋の朝妃がキス?
失敗しちゃったけどこの行動には大きな意味がある。
改めて朝妃の方に目をやる。なんか見るのも恥ずかしい…
頭から湯気が出そうなほど茹でダコのように真っ赤な顔からは『私の言うこと聞いてくれてありがとう』というメッセージが伝わってきた。
「どどどういたましてッ」
あまりの緊張に声が上擦って返事が上手く出来なかった。多分僕の顔も真っ赤になってるんだろう。
「……」
ふと朝妃を見るとクスクス笑っていた。でも相変わらず顔は真っ赤だ。
つられて僕も笑う。こんなことで二人して笑い合えることが幸せっていうんだろうな。
結局キス出来なかったのがちょっと残念。まぁ初めてのキスからそう日も経ってないからしょうがない。
それに二人して未だに中学生に見間違えられるくらいなんだし、そんなマセたことしてもダメだ。
あぁ〜もっと背伸びないかな…朝妃もかなり小柄だから似合っているといえば似合っているとは思うけどさ…
まぁなんだかんだ言ってこうやって朝妃と色々なことを共有して笑っていられるだけで僕は充分だよ。
ふと目を横にやると机に置かれたオオカミさんもなんだか嬉しそうな顔をしているように見えた。
以上です。
最後に一つだけ聞きたい。こんな無口っ娘もアリorナシ?やっぱり正統派無口っ娘がいいですかね?
ではまた。
はらしょー!
ぶらぼー!
朝妃も狼もかわいいじゃないか。
ところで正統派無口とはなにをもって正統派なのか。永遠に終わりそうにない議題だ。
黙ってればみんな無口娘ですよ。
無口狼?
無口浪?
無口浪人?
恋姫無双の恋みたいなのも無口キャラか?
無口でさらに無感情だな
頭のあれは二本のアホ毛なのか触覚なのかわからないが、あれを動かして一生懸命意志を伝えようと悪戦苦闘してくれたらだいぶ良い
無口テレパシスト
・普段は全く喋らない
・触れている相手とはテレパシーで会話できる
・テレパシーでの会話はやたら饒舌
子供の頃事故で声が出なくなった女の子が、なにかと自分に良くしてくれている男の子に想いを伝えるため必死でリハビリする
そんな電波
・無口サトラレ(好きな人限定)
彼氏をサトリにした方が早い気がした
無口娘はADとか天職かもなぁとか考えてたら
アナウンサーの主人公に見せるカンペに紛れて告白する妄想が降りてきた
>>171 アナウンサーが本番中にプロポーズした、
って話がノンフィクションであったから、
そういうのもありかもしれないな。
本番中、ADによって発生した予想外のアクシデント、
しかし周りも視聴者も一切気付かない
男がどう対応するか見ものだなw
>>170 幼馴染ものによくある、無口っ子と通訳係兼恋人みたいなのとは違うのか?
それだと
>>155と同じ設定だけど、サトラレだとまた少し違うと思う
話すのが苦手だけど主人公とはコミュニケーションを取りたい
この願いによって手に入れた新能力
『サトラセ』
好きな人に一方的に考えてることを伝えれる
>>176 「………………」
「ちょ……なんだこれ、頭の中に……?」
「………………」
「……これ、お前が考えてる事か?」
「……」(こくり)
「……お前……結構エロかったんだな」
「……っ!」(赤面しながらぶんぶんと首を横に振る)
こんな事故が発生しそうですね。
>>174 好きになった人に一方的に思ってることが伝わってしまう、という点に重きを置けばあるいは。
好きになる→一方的に気持ちが伝わる→気持ち悪がられてフラれる→恋することにビビった無口少女は・・・・
ここのスレ向きじゃない気がしてきた。
176だが説明不足だったようだから補足な
『サトラセ』だから『悟らせれる』。
つまり『悟らせることが出来る』であって強制的に悟らせてしまうわけではない
言いたいけどあと一歩で口が開かない
なら想いだけで伝えることが出来るようになるという能力
>>179 「今日お前の家、誰もいないのか?」
(こくり)
「なら帰りに寄るぞ」
(こくこく)
「もう我慢できないから最初は乱暴になると思うけど勘弁な」
(こくこくこく!)
「…ふう。さて、2ラウンド目の前に一つだけ言わせてくれ」
「?」
「誘いたけりゃ普通に誘え。サイン代わりに、
授業中官能小説を読むんじゃない。
…全く。当てられなかったから良かったものを」
(てれてれ)
「授業中に官能小説丸一冊読むのは恥ずかしくないくせに、
誘うのは恥ずかしいのか…」
こんな電波を受信した
>>180 是非その電波を長文に。
さておき、後編が出来ました。
今回は濡れ場があるせいで長いです。気長に読んでいただければ。
そして、待ちに待った土曜日が来た。
いや、デートの約束を取り付けたのが昨日の夕方だから半日程度しか待っていないのだけれど、昨夜は楽しみで眠れなかったのだ。
寝不足気味ではあったが、何とか何時も通り起床し、朝食を取る。
テーブルの向こう側で黙々とトーストを齧る彼女は何時もと変わらない様に見えた。
相変わらず僕の方を見ているようでそのずっと遠くを見通しているような、茫洋とした目線。
僕は緊張し切り、今日のデートのことで頭がいっぱいなのに、彼女はあくまで自然で、僕に関してなど全く無関心である様に思える。
少なくとも異性としては考えていないのだろう。
果たして彼女はデートの意味を理解しているのだろうか。
そんな一人相撲を延々と続けているうちに、段々と僕の胆も座って来て、よそ行きの服に着替え彼女を待ち受けるべく玄関に向かう頃には、自分の状態を笑える余裕までできていた。
そうさ、彼女が緊張していないと言うなら、それに越したことは無いじゃないか。
その余裕も出発の時間になり着替えた彼女が姿を現した瞬間、あっけなく砕け散ってしまった。
無言で二階から降りてきた彼女は、見違えるようだった。
服装自体は取り立てて派手と言うわけではないが、灰色のチュニックの上に藍色のカーディガンを羽織った姿は彼女の清楚な可憐さを引き立てている。
頭には普段から身に付けている髪飾り。
日頃はしていない化粧もうっすらと見て取れる。
だが、そんなことより、何よりも。
(なんで今さら彼女は"恥ずかしがって"るんだッ!!)
微かに紅潮した頬。
僕を真っ直ぐ見れないかのように、僅かながら揺れる瞳。
そして今まで一度も嗅いだことの無い、ほのかな彼女の"羞恥"の匂い。
まるで媚薬のようだ。頭がくらくらする。
「えーっと。さ、笹川さん。ひょっとして、緊張してる?」
ぴたりと歩みが止まる。
やがて彼女は小さくこくりと頷いた。
やばい、想像以上の破壊力だ。
恥じらう彼女の姿がこれ程に可愛いとは。
言葉を失う僕を見て、袖は不安げな顔を見せる。
「格好、変、ですか?」
僕は慌てて首を振った。
「全然全然! すごく似合ってるし、それ以上に可愛いよ」
彼女は途端に無表情に戻ると「ありがとうございます」とだけ小さく呟く。
嬉しそうな顔も見てみたかったが、それは贅沢と言うものだろう。
「それじゃ、行こうか」
僕はそっと彼女に手を差し伸べる。
袖は躊躇いながらも、それを取ってくれた。
まず、デートの定番と言えば映画だろう。
……貧相な発想しか出来ない僕の頭を謗りたくば謗れ。
彼女の希望を聞いても「お任せします」の一点張りか曖昧な答えしか返ってこないので、無難な選択をするしかなかったのだ。
とは言え、演目までこちらで決定してしまってよいのだろうか。
暴力的なものは除外。恋愛物も気まずくなるので避けたい。コメディは選択肢としてありえるのだろうか?
そんなことを考えながら上映中作品のポスターを前にして唸る。
ちらりと彼女の方を伺うと、無料配布のパンフレットを数枚手にとってぼんやりと眺めている。
僕は彼女の指の動きを目で追っていた。
ふと、パンフレットをめくる彼女の手が止まる。
無関心げに拍子を眺めているだけだった目線が、妙に熱心に文字を追うように動いている。
「それにする?」
「――ひゅっ!?」
珍妙な奇声を上げ跳び退く袖。
そのままパンフレットを閉じてぶんぶんと首を振る。
あくまで判断を僕に委ねる心算のようだが、残念、既に僕は先程彼女の関心をかっていたタイトルを記憶に留めていた。
「これにしよう。僕はこれに決めたよ」
袖は申し訳なさそうに、顔を伏せ、縮こまる。
少し強引だったかもしれないし、彼女にとって単なるお節介にしかならないかもしれない。
それでも僕は袖に、彼女の想いを受け止める人間が存在することを知ってもらいたかった。
何より彼女に今の時間を楽しんでもらいたかった。
袖はへそを曲げて意地を張り通すほど子供ではない。
結局彼女は僕の提案を受け入れてくれた。
僕の意見を率直に申し上げるならば、この映画はさほど面白くなかったと言える。
話の筋は立っており、画面効果や音響は素人目にも中々の出来映えだったが、とにかくストーリーが難解で暗い。
派手な見せ場やアクションは一切無い、所謂芸術系の映画で、少なくとも僕一人で見に行こうとは到底思わないだろう。
更に言うと、僕は映画そのものがそれほど好きではない。
体臭で感情を判別する僕にとっては、スクリーンの向こう側でどれ程感動的な人間ドラマが繰り広げられていても、その匂いがしてこない以上真に迫ってこないのだ。
普段なら全く楽しむことなど出来なかっただろう。
でも、今日は隣に彼女がいた。
彼女がシーンに合わせて、驚いたり、悲しんだり、楽しくなったりする度に、体臭を通してそれが僕に伝わる。
それは普通の人と比べたらほんの僅かな、気をつけていないと感じ取る前に風に紛れて消えてしまう儚いものだったけれど。
何故か彼女の心は、僕の心を隅から隅まで支配してしまい、その結果今回は素直な気持ちで物語に没入することが出来た。
重ねて言おう、この映画は面白くなかった。
登場人物は身勝手だし、主人公は報われないまま死ぬし、最悪だった。
それなのに、何で僕は泣いているんだろう。
映画が終わり、幕が下ろされ劇場が明るくなる。
今までじっと画面に見入っていた袖が僕の方へ顔を向けた。
彼女は、勿論泣いてなんかいない。
それどころか平然とした顔で僕にハンカチを差し出してくる。
やれやれ、普通なら男の役目なのに、情けない。
洗って返すと言ってから、それを受け取り目を拭う僕に、彼女はこんなことを尋ねてきた。
「悲しいんですか?」
違う、悲しいのは、君だよ。
君はそれに自分で気付けていないだけ。
彼女は不思議そうな顔をして、僕を見ていた。
僕は落ち着いてから、袖と共に映画館を出た。
太陽は丁度真南に差し掛かろうというところ。
まずはお昼にしようと言うことで、僕達は持参した弁当の包みを携え川原の公園へ足を運んだ。
冬の公園は人気が少ない。
川沿いの砂利道を進みながら彼女は水面を眺めていた。
カモメが二羽、連れ立って水面すれすれを飛び交っている。
「海鳥……」
袖は下流の方を眺めた。
川の流れは入り組んでいて、高い建造物も多く遠くまでは見渡せない。
彼女はつと視線を戻すと、僕に倣って食事できる場所を見繕い始める。
他に人もいないので座る場所は選びたい放題だが、そのせいでより寒々とした雰囲気が強調されていた。
こんな季節にわざわざ屋外で食事を取ろうとしたのにも理由がある。
(今こそかねてよりの計画を――――!)
適当なベンチを見つけると、隣り合って腰かけ、ウェットテッシュで手を拭って、弁当の包みを開けた。
魔法瓶の蓋に熱い紅茶を注いで、まず僕に渡し、自分の分は自分で注ぐ袖。
彼女は実に品良くものを食べる。
今もコップを傾けている彼女は口も喉も殆ど動かしていない。
いくらなんでも行儀良すぎやしないだろうか。
もうちょっと、むしゃむしゃと、もぐもぐと、食べることを楽しんでほしい。
僕は朝の間に作ったサンドイッチ、ちなみにこれはバジルチキン、を手に取ると、おもむろに彼女の口元へと差し出した。
目を丸くする袖に、僕は己の羞恥心をかなぐり捨てて言葉を搾り出した。
「はい、あーん」
たちまち彼女の頬に朱が差し、羞恥の匂いが漂ってきた。
彼女の恥らう姿を堪能したいところだが、今回の目的は別にある。
「笹川さん、あ――ん」
重ねて餌付けを受け入れることを要求する。
更にサンドイッチを彼女の口の方へと近づけた。
「あの、じ、自分で」
「あ――――――ん」
三度目。
押しの弱い彼女はとうとう折れておずおずと口を開いた。
変態プレイを強要しているみたいで罪悪感も募るが、今は勘弁願いたい。
僕だって顔から火が出るほど恥ずかしいのだ。
少なくとも人目の多い屋内だったらできなかっただろう。
でも、こうすることで、ひょっとすると彼女も強迫観念的な行儀の良さを忘れてくれるかもしれない。
これはひたすら押しに押して、僕の事を気遣う余裕を奪おうと言う算段だ。
硬直している袖の半開きになった小さな口にサンドイッチをそっと押し込む。
彼女はそれを咥えるや否や、さっと顔を背けて口を押さえてしまった。
飲み込み終わるまで待ってから、早速感想を聞いてみる。
「おいしい?」
「……」
返事は無い。
どうやら、逆効果だったようだ。
恥ずかしくて味わう余裕すらなかったらしい。
それでも諦めず、もう一度餌付けてみようと二枚目のサンドイッチに手を伸ばす。
しかしその前に彼女の手が横からさっと伸びて来て、二つあるバスケットの一方を奪われてしまった。
もう、後は自分で食べると言うことだろう。
袖はバスケットを自分の膝の上に置くと、サンドイッチを一つ掴み取った。
だが、それを自分の口には運ぼうとせず、僕のほうに半分差し出すような姿勢で、中途半端なまま静止している。
「?」
受け取っても良いものだろうかと逡巡している間に、何故か彼女の顔がどんどん赤くなっていく。
まだ、恥ずかしがっているのが匂いから判る。
やがて、彼女は意を決したかのように重々しく口を開いた。
「あ、あーん。です」
あ、そうか。
予想外だが、これはこれで嬉しい展開だ。
「ありがとう。いただきます」
彼女ほどの恥じらいを持ち合わせていない僕は、早速差し出された餌に喰い付いた。
彼女の腰が引けているため、身を乗り出し一気に咥え込む。
「ひゃあっ!」
本日二度目の奇妙な悲鳴。
ふと、口に何か違和感を感じる。
何か弾力のあるものが唇の間に挟まっているような。
目の前には彼女の手が。
そこで漸く、僕は勢い余って彼女の人差し指を咥えてしまったことに気付いた。
幸い歯は立てていないが、この状況は流石にまずい。
彼女は目を丸くして硬直したまま。
さっさと指を開放するべきなのだが、何故か僕は口を開ける事ができなかった。
そっと爪先に下を這わせ、ちゅちゅっと音を立てながら指に付いたソースを舐め取る。
口に広がる爽やかな風味は、ソースのせいではないだろう。
「い、い、乾さんっ」
袖は相変わらず真っ赤な顔であたふたとしているが、抵抗する様子はない。
なにやら若干息が荒くなっているような気もするが、気のせいだろう。
そのままゆっくりと、第一関節の所まで飲み込み、指先を舌で弄ぶ。
唇と口腔の動きをフルに使って感触を確かめつつ、舌遣いを蔑ろにする事はしない。
そうして数十秒彼女の指を十全に楽しんでから、漸く我に帰った僕は慌てて口を開いて彼女を解放した。
「え、えーっと……」
「――――〜っ」
袖は俯いて肩を震わせている。
顔が真っ赤なのは恥ずかしさのせいだけではないだろう。
まずい、何か言わなければ。
「ゆ、指にソースが」
「……ばかっ」
聞き取れないようなかすかな声だが、はっきりと罵倒されてしまった。
それから食事が終わるまで、彼女は一言も口を利いてくれなかった。
「うう、反省してます。だから機嫌直してください。おねがいします」
ずんずんと先を歩いていく彼女を追いかけながら、僕は袖に機嫌を直してもらおうと必死だった。
弁当の包みを捨てた後、袖は僕のことなどお構い無しに、ひとりでにどこかしらへと向けて歩いている。
時々ちらりちらりと追いかける僕の方を見ているので、丸きり無視されている訳ではないだろうが。
それにしても、彼女は一体どこに行こうとしているのだろう。
予定では午後は美術館と水族館をまわろうかと考えていたのだが。
人が多く集まる場所は苦手ではあったが、冬のデートコースは屋内にしたほうが良い。
勿論、別に彼女に行きたい場所があるなら、そちらを優先させる。
だけど、せめて行き先くらいは教えてもらいたい。
と、十分ほど歩いたところで急に彼女が足を止め、危うく僕は彼女の背中に追突しそうになった。
僕は彼女と共に目の前の"貸し出し料金表"の掲示板を見上げる。
「レンタサイクル?」
そこは、公営の貸し自転車場だった。
高校生は一日五百円で乗り放題らしい。
袖は、くるりと振り返ると先程までの不機嫌など微塵も見せない何時も通りの無表情でこう言った。
「少し、走りません?」
サイクリングは、少しどころでは済まなかった。
二人で自転車を借りた後、再び行き先も告げずに走り出す彼女を追いかける。
その道行きは、多少ハードなものとなった。
最初は川沿いの舗装されたサイクリングコースを走っていたのだが、途中で何度もわき道に逸れる。
人通りの多い商店街で足止めを食ったり、起伏の激しい住宅地を何度も上り下りしたり、だだっ広い森林公園に迷い込んだり。
そうして三時間はあちこち彷徨っていただろうか。
僕の携帯電話を貸してナビの遣い方を教えてあげると、ようやく順調に進み始めた。
これ以上迷い込まぬように幅の広い国道を選んで走る。
住宅地を抜け、段々と無機質な工場や倉庫が目に付き始めた。
人通りは少ない。
潮の香りが漂ってきた。
目的地に到着すると二人で自転車に施錠し、歩き始める。
袖の長い髪が風になびいている。
季節外れの、穏やかな海面。
雲の無い、ただ青い空を水鳥が舞う。
そこは、何らかの機械部品の倉庫が並ぶ敷地内で、海岸を隔てる柵も何も無く、目の前いっぱいに鉛色の海が広がっていた。
隣で佇む彼女は、言葉も無くそれを眺めている。
「昔」
ぽつり、と彼女は独り言の様に口にした。
「お母さんに一度だけ海に連れて行ってもらったことがあります」
きっとそれは夏の、もっと綺麗な海だったのだろう。
普通海水浴以外の用事で、子供連れが海に行くことは少ない。
その時の光景と今目の前にある東京湾は似ても付かないだろう。
でも、そことこことは確かに同じ海として繋がっているのだ。
ここからはどこへだってゆける、そんな気がする。
「こんなに近くにあったんですね」
水面を映す彼女の瞳が揺れる。
水平線の彼方を見つめる彼女の胸に、どんな想いが込められているのか。
(寂しさ? 恐怖? それでいて安堵している? ……判らないや)
体臭がごちゃごちゃしていて今の袖の感情がつかめない。
僕は彼女に掛ける言葉を失っていた。
目の前の少女が自分の中で何がしかの心の整理をしようとしていることしか判らない。
ふっと、混沌とした体臭が消える。
何時もの無表情な彼女が戻ってきた。
見上げると、空は既に藍色に変じている。
風も段々と強くなってきた。
冬の日は短い。
「帰ろうか、僕達の家に」
僕は袖に手を伸ばす。
彼女は一つ頷くと、その手を受け取った。
「今日は、ありがとうございました」
帰り道の途中、休憩としてシアトル系のカフェでコーヒーをすすっていると、唐突に彼女は礼を言ってきた。
「礼を言われることなんてないよ。僕の方が誘ったんだし、楽しかったよ」
結局彼女に連れまわされて半日過ぎてしまったわけだけど、袖が僕にちゃんと自己主張をしてくれたのが嬉しかったのだ。
不安げな、疑わしげな視線で見つめる彼女に、僕は笑いながら言った。
「笹川さんと一緒だからね」
「!」
少しストレートすぎただろうか。
気まずくなったのか、袖は「少し失礼します」と言うと席を外し、お手洗いの方へ向かっていった。
ああしてペースを乱されている彼女は、何時もと違った意味で可愛いと思う。
どうにも自分は彼女を恥ずかしがらせる事に倒錯的な喜びを見出しているのかもしれない。
少し自重せねば。
僕はぬるくなりつつあるカフェオレを飲み干す。
二分もしないうちに彼女は戻ってきた。
だが、様子が変だ。
顔を青くして、全身から恐怖と不安の匂いを発している。
「先に帰ってください」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
開口一番帰れと告げる彼女を何とか落ち着かせようとする。
「用事が出来たんです。御免なさい」
「用事って何? 僕に出来ることなら……」
袖はただかぶりを振る。
彼女が今冷静さを失っているのは明らかだった。
原因を聞きだそうにも、彼女が素直に口を開いてくれるかどうか怪しい。
僕は落ち着いて彼女の様子を観察する。
一点、彼女が何時もと違う点が目に付いた。
「笹川さん、あの髪飾りは?」
何時も彼女が髪に付けている鼈甲の髪飾りが無い。
彼女は息を飲むと、俯いて黙り込んだ。
「ひょっとして、失くしたの?」
沈黙は肯定を表していた。
「どこでなくしたか、判る?」
「多分……海から戻る途中で」
僕は料金を二人分その場に置くと急いで外に出た。
風が吹いているのを感じる。
太陽はまだ沈んでおらず、空は朱に染め切ってはいない。
風は海から陸地に向かって吹いているはずだ。
僕は目を閉じて、嗅覚に全神経を注ぐ。
潮、排ガス、工場の排煙、夕餉の支度、様々な種類の匂いが僕の鼻を通り抜ける。
その中から彼女の匂いの痕跡を必死に探る。
ここ一週間嗅ぎ続けた匂いだ、間違えるはずは無い。
「?」
怪訝な顔をしている彼女を制し、かすかな匂いを探して、海への道を歩いて戻り始めた。
突然、裾を引っ張られる。
振り向くと、袖は沈痛な顔を浮かべてこう言った。
「ご迷惑は、掛けられません。私の問題ですから、だから」
「大丈夫だよ」
帰ってください、と言おうとする彼女を制する。
「きっと、大丈夫」
なるたけ力強くそう告げると、袖の手を握る。
一瞬の躊躇の後、彼女は僕に手を委ねた。
海への道を、二人で戻っている。
日は既に傾いていた。
隣の袖も周囲を必死に見回しているが、足元は暗く、もう一時間もすれば完全に闇に包まれてしまうだろう。
不安が彼女の体臭から、繋いだ手から、僕に伝わる。
僕は袖の小さな手を握り返した。
街灯もまばらな、無機質な道を歩く。
彼女は最早どの道を通ってきたかなんて憶えてはいないだろう。
でも僕は、残して来た匂いから数時間前に通った道でも正確に辿る事が出来る。
だから大丈夫、心配なんかしなくてもいい。
隣で震える彼女にそれを伝えたくて――――。
(……あれ? 前にもこんなことがあったような)
ふと、既視感を感じる。
あの時も僕は彼女の手を引いて歩いていた。
周りには二人しかいなくて、彼女は泣き出しそうになるのを必死に耐えていて。
記憶の底の光景にかかっていた靄が晴れていく。
「笹川さん、前にも僕達……」
そこまで言いかけて、急に僕は言葉を止めた。
隣を歩く彼女と同じ匂いが、別の方向から漂ってくる。
近い。
僕は袖の手を離すと脇道に入り、雑草の茂みに分け入った。
探し物は、すぐに見つかった。
僕は黒く輝く鼈甲の髪飾りを手にすると、彼女の元へと戻った。
留め具の部分が壊れている。
経年劣化して弾け跳んだのだろう。
「はい」
僕は怪訝げにしている持ち主に落し物を返す。
手の平にシンプルな黒い長方形が置かれる。
袖は髪飾りを手に暫く呆然としていた。
「笹川さん?」
これで間違いないはずだが。
不安になって顔を覗き込む僕に、袖は突然抱きついてきた。
「さ、笹川さん!?」
「……とう」
一人どぎまぎと慌てている僕に構わず、彼女は微かな声で礼を言った。
「ありがとう、ございます」
静かに迸る袖の喜びの匂い。
彼女は今、笑えているんだろうか?
真っ赤に燃え上がる空の中、僕は袖の体をぎゅっと抱き締め返した。
「前にもこんなこと、あったよね」
帰り道、もう道が暗く危ないので自転車と共に水上バスに乗り込み、デッキで僕と袖は対岸の夜景を眺めていた。
「十年位前だったかな。ほら、正月で田舎に親戚一同が集まった時、笹川さんが迷子になって。
僕が最初に見つけたものの、結局一緒に森の中をさ迷い歩いたっけ」
「憶えていたんですね」
彼女は若干嬉しそうだ。
その手には壊れた髪飾りが大切そうに握られている。
思い出したのがついさっきであることは黙っておこう。
心なしか声を弾ませた彼女は何時もよりも饒舌だった。
「あれは、わざとだったんです」
「どういうこと?」
意外な告白に僕は驚く。
「母の注意を引きたくて、困らせてやろうなんて思ったんです。彼女は父との関係が拗れて、心労を溜めていたのに」
馬鹿なことをしました、と言って彼女は自嘲した。
「結局、見付けてくれたのは貴方でしたね。震える私を、連れ帰ってくれたのも」
その思い出を語る彼女は、とても楽しそうだった。
心の内に仕舞いこんだ宝物を大切そうに抱き締める、年頃の少女の姿。
「乾さんはいつも、私の大切なものを見つけてくれます」
「そんな、僕はたいした事をしていないよ。迷子の君を見付けたのも今回の事も偶然じゃない」
何故だろう、僕は今まで周囲に隠し通してきた体質のことをあっさりばらすつもりになっていた。
気味悪がられるかもしれない。今までの様に信頼してもらえなくなるかもしれない。
でも、彼女の想いを欺くような隠し事はしたくなかった。
「犬やネズミは人間の何倍も鼻が利くよね? 僕もそれと同じ。
遺伝子の異常か何かで嗅覚が過敏になってるって、お医者が言ってたよ。
今まで隠してて、ごめん」
彼女は目を丸くして聞いていたが、すぐに理解の色が浮かんだ。
幻想を崩されて残念がる、と言った様子は全くない。
「ええと、気持ち悪くない? 要するに笹川さんの体臭を、ええと、その……」
言葉に窮する僕の手を、袖はそっと握ってくれた。
「貴方は、私のことを、私の存在を、無視しないで感じてくれている」
握られた手が、彼女の胸に導かれる。
「私と乾さんが、様々な物事を通して繋がっている。それが嬉しいんです」
そう言って、少女は蕾の花弁が僅かに綻んで行く様な、そんな初々しい小さな笑顔を浮かべた。
儚く笑う彼女。
袖はこんな綺麗な顔で笑うのだと、初めて知った。
どくん、と僕の心臓が音を立てる。
もう、何も考えられない。
「笹川さん、好きだ」
衝動に任せて、僕はその言葉を口にしてしまう。
呆気に取られる袖。
今さら無かったことには出来ない。
少し冷静になった僕は、重ねて告白の言葉をはっきりと口にした。
「僕は笹川さんの事が好きです。異性として、恋をしています」
県境の川を遡上する水上バスの上。
寒風吹くデッキの上に、僕達以外の人気はない。
僕は袖の手を握り締めたまま、彼女の返事を何分間も待ち続けた。
「あ、あ……」
やがて、袖の両の目から、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ち始める。
胸を押さえ、一歩だけ後ずさり、踏みとどまった。
「わ、私も、わたし、も」
よろめく少女の華奢な背中を支える。
「私も好きです! 乾さんのことが好きです!」
その時、袖の心に掛けられた箍が完全に外れた。
少女は今まで押さえ込んできた感情を爆発させる。
嗚咽を漏らしながら、僕の首に猛然と飛びつく。
彼女を覗き込むように首を下げてあげると、袖は自分の唇を僕の唇へと押し付けた。
勿論、僕にそれを拒む理由は無い。
そのおかげで、ファーストキスから随分濃厚なものとなってしまう。
舌を絡ませ、歯茎をついばみ、唾液を吸い取る。
何度か息継ぎしながら、一分間位はひたすらお互いの唇を求め合っていただろう。
ようやく口を離す頃には、二人ともくたくたになっていた。
「大丈夫? つい調子に乗っちゃったけど」
まだ肩で息をしている彼女は、羞恥と酸欠で顔を真っ赤にしている。
今になってようやく先程自分から仕掛けた行為を自覚したのか、まともに僕の顔が見られないようだ。
「ご、めんなさい。はしたない、まねを」
「僕は嬉しかったよ」
袖の顔を両手で包み込み僕の方へ向き直らせると、今度は額にちょっとだけ唇を付ける。
「大好きだ、袖」
返事の代わりに、彼女は自分の体を僕に預けてきた。
彼女の髪に顔を埋めてみる。
鼻腔いっぱいに彼女の香りが広がり、僕は幸せな気分になれた。
その幸せな気分は、水上バスを降りて自転車を返却し、洋食店でディナーをとってから家に帰ってくるまで、ずっと続いていた。
帰り道で一度、通行人に見咎められないかドキドキしながら再びキスしたのも原因だろう。
帰宅してから風呂に入り、自室のドアに手を掛ける段になっても、僕はまだ夢見心地でいた。
だから、僕の部屋で風呂上りの彼女が所在無げにベッドに腰かけて僕を待っている可能性など全く考えておらず、僕はノブに手を掛けた格好のまま硬直してしまった。
ちょこんと座る寝巻き姿の袖が頬を赤らめ、潤んだ目で僕を見上げる。
『風邪を引くから早く寝なよ』とか『添い寝してあげようか?』とか馬鹿げた言葉を言わずにすんだのは、彼女が全身から放っている淑やかな"女の"香りのおかげだった。
袖は胸に手をあてて一度深呼吸すると、意を決して僕に言った。
「抱いてください」
余りにストレートな言葉によって、逃げ道は完全に塞がれた。
頭がくらくらする。
「ええと、笹川さ、じゃなかった、そ、袖。それって一体」
駄目だ、とても頭の処理が追いつかない。
僕も彼女に倣って一度深呼吸。
冷静さをほんの僅か取り戻した僕は、常識的で倫理的と思われる対応に縋り付いた。
「そういうことは、何年か付き合った上で大人になってからするものじゃないかなって。
イヤなわけじゃないけど、ほら、準備もないし、避妊具とか。
本当にするなら事前に、その、痛めない様に情報を、サイトとかから集めておくべきで」
卑怯な言い草だった。
完全には申し出を断っていないくせに、責任だけは逃れようと言葉を取り繕うとしている。
それを自覚すると、僕はもう一度冷静になるべく深呼吸をした。
自分の中にある恐怖を自覚する。
愛の言葉も、口づけも、覚悟無しで出来るほど軽いものではないはずなのに、僕はどこかで軽く扱っていたのかもしれない。
しかし、セックスと言う行為は、取り返しの付かない結果と言う具体的な代償を伴う。
その行為の是非について、それがもたらす結果について、真剣に向き合うのが恐ろしかった。
「袖……」
僕は支えになる何かを求めて、袖に縋りつく。
彼女は包み込むように僕の背中に腕を回す。
「僕たちは、再会してからまだ一週間しか経ってない」
結局僕の口からこぼれ出るのは、泣き言しかなかった。
情けないが、それしか出来ない。
「僕が君への好意を自覚したのは昨日のことなんだ。
それだって本当に自分の想いと言えるんだろうか。
僕は周囲の人間の感情に容易く流されてしまう。
その場の空気にあてられていなかったかなんて、断言できる訳がない」
あれほど彼女に愛を囁いておきながら、身勝手極まりない言葉だ。
僕は胸の内の恐怖を洗いざらいぶちまける。
「半年後、一年後、数十年後、ずっと君のことを好きでいられるか、自信が持てないんだ」
「私はずっと好きでいます」
覚悟の篭った声に、はっとさせられる。
袖はぎゅっと、僕の背中に回す腕に力を込めた。
「十年前、迷子の私の手を握ってくれた時から、ずっと貴方のことが好きでした。
これからもずっと好きでいます」
彼女の告白に驚かされる。
最初からそんな目で見られていたなんて、全く気付かなかった。
「まさか、今回この家に来たのも、僕がいたから?
君が父さんと母さんに、自分を預けてくれって頼んだの?」
彼女はこくんと頷く。
「そ、そうだったんだ」
袖が両親が戻るより先にこの家に来た理由がようやくわかった。
案外、情緒が不足気味なのは表面だけで、彼女は思うよりずっと情熱的な人間なのかもしれない。
「私も不安です。またあの家に連れ戻されるかもしれない。また会えなくなるかもしれない。
でも、せめて何か証が欲しくて。貴方のものになりたかったから」
震える少女の躯。
もう、震えているのが僕なのか彼女なのかは判らなかった。
「……ご迷惑でしたか?」
恐る恐る、袖が顔を上げる。
僕はその唇を塞いだ。
強張っていた彼女の体が解れて行く。
やがて、ゆっくりと顔を離した。
「覚悟が足りなかったのは、僕だけだったんだな」
苦笑する僕を、袖はきょとんとした目で見ている。
十年後のことも、一年後のこともまだ僕には判らなかったが、彼女の想いと、それに応えたいと想っている自分の心だけは信じることが出来た。
僕は居住まいを直すと、彼女に向き直る。
「袖、君を僕のものにしたい。だから僕も、君のものになる」
彼女は嬉しそうに、僕に抱きついてきた。
ベッドにタオルケットを敷き、熱湯消毒した布巾を用意しただけで準備は終わってしまう。
本来ならもっと用意するべきものがあるはずだが、僕も彼女もここで止めることを望まなかった。
「ええと、多分今日は大丈夫な日です」
「責任は取る」
ベッドの上に座り込んで互いに向き合う。
まずは唇にキスをしながら、彼女の寝巻きを剥いでいく。
暖房をしているとは言え、キャミソール一枚の姿は寒そうだった。
今度は後ろに回りこみ、背後から包み込むように抱きしめる。
「寒くない?」
首を振る彼女の髪に顔を埋める。
振り向いてキスをねだる彼女に応えると、首元に、鎖骨に、胸元に唇を落としていく。
口をつけた所に鼻を押し付けると、そこから燃え上がる様に彼女の香りが立ち昇っているのが判った。
更なる法悦を求めて、彼女の肩にしゃぶりつく。
「あ」
その拍子に肩紐が外れ、キャミソールがずれ落ちた。
真っ白なブラジャーが露になる。
僕はその控えめな膨らみから目を逸らすことが出来なかった。
「触るよ」
沈黙を肯定と受け止め、薄い布越しに彼女の乳房をそっと撫で回す。
背中やら脇やら、あちこちキスしながらも手の動きは休めない。
抵抗が帰って来ないことで気を強めた僕は、そっとブラの布地の下に手を回した。
指先に突起が触れる。
「ん」
彼女はくすぐったそうにしてはいるが、嫌がる素振りは見せない。
僕は乳首を手の平に当て、包み込むようにして胸全体を揉み始めた。
手の平に収まってしまう位の大きさだが、程よい弾力があるために実に揉み応えがある。
中央に寄せたり、押し込んだり、軽く絞ったり、圧力に対する反発がダイレクトに伝わる。
なんだか、とても心地よい。
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみふにょ。
「ひゅっ!」
不意を突いて耳たぶを咥えてみると、効果は絶大。
はむはむと甘噛む程に、殆ど反応を返してこなかった袖が身悶えし始める。
唇で耳朶を挟み込んで揉み食感を楽しんだ後、穴の中に舌を入れた。
同時に胸を弄る手も休めない。
乳首を集中的にせめ立てる。
手の平で転がしたり、指の間で挟んだり、そっと抓ってみたり。
「ふぁ」
快楽からと言うよりは単にくすぐったがっているだけの様に思えるが、程よく緊張が解けてきたようだ。
更に乳房を弄っていると、突然パチンと音がしてブラジャーのホックが外れた。
小ぶりな膨らみが外気に晒される。
僕は体勢を変えて彼女の正面に回ると、耳朶から口を離し、キスをした。
袖の唇から首筋、鎖骨へとキスを下ろして行き、最後にツンと起立している乳首を啄ばむ。
ああ、袖の体には、どこもかしこも袖の味がする。
それから赤ん坊の様に少女の胸をしゃぶり尽くした。
すぐに彼女の両胸は唾液塗れになってしまう。
「ふふ」
袖はそれを見下ろして穏やかに笑っていた。
今すぐにでも挿れてしまいたいほど昂ぶっている僕とは対称的に、彼女に興奮の色は見られない。
袖に感じてもらいたいのに、上手く行っていないみたいだ。
焦りからか、僕は彼女の秘部に手を伸ばしていた。
「!」
さすがにこれには袖も身を硬くする。
「ここも、いいよね」
返事を待たず、僕は下着越しに割れ目を指でなぞった。
何度も往復している内に、じわりと湿り気が出て来る。
強烈な女の匂いが僕の鼻を打った。
「あ、ぅ、ぁ」
未知の感覚に戸惑う彼女。
今までと異なる種の声に、僕の興奮も否応無しに高まる。
乳首を啄ばんだり臍に舌を挿れたりしながら、少しずつ指を押し進めて行く。
もどかしくなって白い布地をずらすと、液を滴らせるクレバスが露になった。
胸を見られてもさほど動じていなかった袖だが、さすがにそこを直接見られるのは恥ずかしいらしい。
体を横に向けて僕の視線から隠そうとするが、既に僕の指は彼女の股間に滑り込んでいた。
「! ……んふぅっ」
薬指と人差し指で裂け目をゆっくりとほぐしながら、中指で少女の内部を探っていく。
やがて中に潜んだ核を探り当てると、中指の腹でそこを拭った。
「んんっ」
少し刺激が強かったようだ。
「痛くない?」
声が漏れでないように口に手を当てて我慢している袖は、健気に首を振った。
僕は彼女の全てを味わいたくなって、そこに口を寄せようとする。
彼女はそっと頭に手を乗せてそれを止めた。
「下着、脱ぎますから」
汚したくなかったのだろうが、もう結構彼女の愛液が染み付いてしまってはいる。
それでも彼女は一旦後ろを向いて、最後に身に纏っていた下着を脱いでいった。
つと透明な液体が糸を引く。
まだ恥ずかしいのか、全裸になった袖は僕の視線から逃げるように横向きに座り込んだ。
僕は痛いほど勃起している男根の存在を意識し、ようやくまだ自分が一枚も脱いでいないことに思い当たった。
「ぼ、僕も脱いだほうがいいかな?」
興味ありげな様子で頷く彼女。
見せるもんでもないけどと言い訳しながら、僕も一枚一枚服を脱いで行く。
さすがに膨れ上がったペニスを彼女の前に晒すのは恥ずかしかった。
袖は真っ赤になりながらも、それを覗きこんで来る。
そっと目の前で起立しているそれに手を伸ばすと、触れる直前に顔を上げて伺うような目線で僕の同意を求めた。
「ど、どうぞ。じゃないや、お願いします」
最初はおずおずと言った感じで赤く充血した先端を指で撫でる。
凄まじい快楽が僕の背を駆け抜けた。
びくりと反応するそれに袖は少し驚いた様子だったが、やがておもむろに竿を掴んだ。
彼女はただ握り締めてその堅さ、熱さ、脈打つ感触を確かめているだけだったが、大好きな女の子にそこを握られていると言う事実だけで僕は達してしまいそうになる。
袖は一分くらいじっと僕の男根を握り締めていたが、突然何を思ったのかそこに口を寄せてきた。
舌で亀頭をひと舐めした後、そこを咥え込む。
「そ、袖っ」
僕は射精感を押さえ込むだけで精一杯だった。
「昼の時の、お返しです」
彼女の指に食い付いてしまった事を言っているのだろう。
だけど指と性器じゃ意味が違いすぎる。
そんなことはお構い無しに、少女の咥内はしきりに僕のペニスを攻め立てた。
カウパーが先端から溢れる。
自分の指でするのとは比較にならない快楽。
もう、いくらも耐えられそうになかった。
技術も何もなく、ひたすら舌と唇で奉仕しながら、袖は上目遣いの目線で僕に感想を求めてくる。
「すごく、気持ちいいよ」
その答えに満足したのか、彼女はストロークを再開した。
もう、オルガズムが近い。
我慢も限界だ。
頭が真っ白になり、何も考えられない。
限界を超えた男根が律動を始めた。
「ぐっ!」
僕は腰を引いて彼女の口からペニスを引き抜くと、枕元のちり紙を数枚掴み上げる。
何とか発射の直前に亀頭を覆うことに成功した。
凄まじい量の精液がティッシュにぶちまけられる。
快感が全身を駆け巡った後、虚脱感がのしかかって来た。
それでも僕の性器は気力を失わず相変わらずそそり立っている。
何はともあれ彼女の顔を汚してしまう事態は避けられた。
袖は目を丸くして僕の痴態を眺めている。
僕は痺れる頭で身を起こすと、彼女に圧し掛かった。
突然の事態に慌てる袖に僕は笑いかける。
「お礼、しないとね」
押し倒した格好のまま唇にキスをしてから、再びキスの位置を下げていく。
今度は乳首を通り過ぎて、脇腹、臍、腰を経た後、先程は舐めることの出来なかった彼女の大事な場所に口を付けた。
鼻腔を彼女の匂いが満たす。
痺れたままの頭では耐えられそうもない。
さっき弄った時から濡れたままのそこは、さしたる抵抗もなく僕の舌を受け入れた。
既に指で見付けていた突起の場所までたどり着くと、下の先端でそこを突付く。
「んぅっ!」
袖の中からとうとうと蜜が溢れてくる。
単なる比喩ではなく、本当に蜜の様に甘い。
そんなことがあるわけもないのに、彼女の愛液に甘味を感じられる僕は、やはりどこか異常なのだろうか。
それでも、止まらない。
袖の香り、袖の味を必死に味わう。
いらんかもしれんが支援
舌の腹で出っ張りを撫でたり、唇で吸い付いたり、指で周囲をなぞったりしている内に、彼女はやがて小刻みに震え始めた。
袖が僕の頭を押してくる。
「駄目っ! 私、へんに、なります。こんなこと、いけない、ことなのに」
「大丈夫」
一旦口を離してキスをすると、僕は彼女に笑いかけた。
「君の全部が見たい。袖の全部を味わいたい。
変になったっていい。僕は、袖のことを嫌いになったりしないから」
「でも」
どうやら彼女は自分のこととなると何でも押さえ込んでしまう性質のようだ。
「そんなこと言ったら、さっきイッちゃった僕の立つ瀬がないんだけど。ちなみに君も共犯」
「あう……」
真っ赤になって引き下がる彼女に再びキスをすると、僕は行為を再開した。
彼女の中に舌を入れ、今度は内部をかき回す。
襞が絡み付いて、僕の舌と一体となる。
「あぁ、ぁ」
袖の中の形を舌で確かめていく。
女の子の中はこれ程複雑な構造をしていることを、僕は初めて知った。
「い、ぬいさ……よーいちさん。わたし」
もう限界が近いのだろう、彼女は濡れた声で僕の名前を呼ぶ。
僕はラストスパートを掛けるべく、再び袖のクリトリスに標的を切り替え、そこを執拗に突付いた。
ベッドを軋ませながら少女の躯が揺れる。
彼女の下半身は既に濡れそぼっていた。
鼻はもうイカれて、脳内信号は飽和している。
唇で吸いながら舌を強くそこに押し当て、ぐりぐりと動かす。
「ッ! ぁ――――」
袖は体を一度大きく震わすと、ぐったりと力を抜いてベッドに沈み込んだ。
蜜が溢れ出し僕の口を満たす。
絶頂したらしい。
荒い息をつきながら彼女は濡れた目で僕を見上げた。
「もう、挿れてください」
「え、でも……」
僅かな躊躇。
汗ばんだ顔で袖が力強く頷く。
確かに達した直後の方が受け入れやすいのかもしれない。
僕は自分の意思を奮い立たせると、奮い立たせるまでもなくガチガチにそそり立つ男根を掴んだ。
彼女を膝の上に座らせ、二人向き合った状態で彼女の下半身を導く。
ずっと充血していたため既に赤黒く変色している己の亀頭が一発では我慢できぬと僕をはやし立てる。
逸る心を静めつつ、僕は慎重に彼女の股間にそれを押し当て、裂け目を探りつつ愛液を塗りたくっていった。
やがてヒクヒクと未だに痙攣している淫唇の前で止まる。
「挿れるよ」
再び頷く彼女を確認して、僕はゆっくりと彼女の腰を掴むと、中へと進入を始めた。
「んあっ」
彼女の肉壁が先端に凄まじい圧力を掛ける。
その度にペニスは更に堅く膨れ上がり、ますます圧力が増す。
さっき一度射精していなければ、早々に達してしまっていただろう。
袖は目をぎゅっと閉じて異物の進入による苦痛を耐えている。
苦痛の匂い。
僕は歯を食いしばってじりじりと彼女の奥へと進めていく。
やがて、先端が何かの壁にぶつかった。
そこから先へは押しても進もうとしない。
僕が一気に押し進めてよいものかと逡巡していると、袖がそっと指を僕の手に触れた。
そのまま両手の指を絡ませる。
「痛い?」
聞くまでもない愚かな問い。
彼女は首を振ろうとして、僕が既に鼻で苦痛を感じ取っていることを悟ると、小さく頷いた。
「我慢しなくていいんだよ。嫌なら止めてもいい……ってのは卑怯な言い分だね。
でも、痛いとか辛いとか、文句は全部ぶつけてほしいから」
袖は濡れた目で僕を見上げる。
こうして向き合っていると、キスをするのに体勢を変える必要がない。
二人してお互いの唇を求め合う。
僕がこのままでいいんじゃないかなどと思い始めた時、突然袖は口を離し深呼吸すると、自分から一気に腰を落としてきた。
ずぶりと何かを突き抜ける感覚と共に、僕の性器が一気に彼女の中に沈み込む。
「ぁ――――――!!」
凄まじい苦痛の声。
彼女の目から涙がこぼれる。
血液の匂いが漂う。
心地よかったのは一瞬だけだった。
袖を泣かせてしまった。
そして彼女の苦痛で興奮してしている自分、己の嗜虐性を自覚するにつれ、僕の頭から熱が引いていく。
「よー、いちさん」
僕が萎えかけているのに気付いたのだろう、彼女は傷みに震えながら声を搾り出した。
僕の体に回す手に、離すまいとするかのように力を込めてくる。
「気遣ってくれるの、うれしい、です。けど、女の子は、だいじょうぶ、なんですよ」
袖は呂律の回らない舌を絡めてきた。
繋がりながらのキス。
彼女の吐息が鼻にかかる。
確かに、彼女は痛がっていた。
けれど同時に、肉体的な快楽ではなく、喜んでいた。
僕と一つになれて嬉しい、そう想ってくれているのが判った。
「全く、敵わないな、君には」
僕は苦笑すると、再び挿入を始めた。
興奮は若干薄れてはいるが、それでもまだ彼女を味わいたいと言う欲が渦巻いている。
「じゃあ、動くよ」
突き刺さった竿をゆっくりと引き抜いていく。
肉壁と擦れ合う感覚によって、先端が出てくる頃には僕のペニスは硬度と大きさを取り戻していた。
再び袖の中へとそれを突き進める。
最初ほどの抵抗はなく、僕は何とか彼女の最奥に侵入を果たした。
「うあ、袖の中、びくびくいってる」
口に出して言うと、より恥ずかしい。
袖は真っ赤になってそっぽを向いた。
そんな彼女が愛しくて、僕は顔を向き直らせるとまたキスをする。
キスしながら、何度もペニスを引き抜いて挿れ、引き抜いては挿れた。
袖にはまだ痛さしか感じられないようで、時々漏らす声にも快楽の色はない。
それでも僕は、もう躊躇はしなかった。
ぬめる彼女の内部と一体化する。
もう、性器の感覚がなくなりかけていた。
幾許もなく射精してしまうだろう。
僕はいっそう深く彼女の中に進むと、小刻みにピストン運動を繰り返す。
脊髄が焼きつき、僕は目の前の少女以外の全てを忘れた。
「そでっ」
下半身が震える感覚。
気付いたときには、僕は彼女の中で精を放っていた。
袖は自分の中に何かが流れ込む感覚に戸惑っていたが、ことが終わったことを悟ると大きく息を吐く。
流石に二回も達した後で勃起を保てるわけもなく、僕のペニスはだらりと力を失い、彼女の中から引き抜かれた。
袖の裂け目から赤と白のマーブル模様が零れ出る。
ふと周りを見るとベッドの上に敷いたタオルケットは皺まみれになっていて、シーツのあちこちに体液が飛び散る惨状が広がっていた。
「……どうしようか?」
「どうしましょう?」
僕と袖は、素裸のままベッドの上で密かに笑いあった。
「中で出たんですね」
「え?」
ことの後、痛みで動けないでいる彼女の代わりに体を拭いて上げていると、袖はポツリと声を出した。
やはり責められているんだろうか。
「でも中で出しても外で出しても避妊には関係ないらしいし」
言い訳をしつつも、僕は少し自己嫌悪に陥っていた。
暫く、彼女は股間がぐじゅぐじゅと粘つく嫌な感覚に悩まされるだろう。
だが、袖は微笑むだけだった。
「まだ、よーいちさんが中にいる気がします」
彼女はそう言って嬉しそうに下腹部に手を当てる。
その仕草に暫く見とれていた僕は、慌てて彼女を拭う仕事を再開した。
「んっ」
そっと袖の傷ついた大事な場所を拭いていると、感覚が戻ってきているのか、彼女は妙に色っぽい声を上げた。
僕の下半身が再び頭をもたげる。
さっきあれほど精を吐いたのに、もう元気を取り戻したようだ。
僕は平静になるよう勤めながら彼女をきれいにしていく。
体を拭い終えると、彼女を抱き上げてソファに移し、汚れたシーツを取り替えて再び彼女を横たえる。
「それじゃ、洗濯して来るけど、袖はどうする」
「……ここにいます」
袖は何とか体を起こすと、脱ぎ捨てた服を手に取った。
僕はキスした後、服を身につけ始める彼女を尻目に部屋を出た。
洗面所に向かうと、シーツタオルケット布巾その他諸々を洗濯機に放り込み、自動ボタンを押す。
ガーガーという唸り声を聞きながら、僕は今日一日を振り返る。
袖に告白をし、結ばれた。
その前の不安が再び脳裏をよぎる。
僕にはまだ、十年後のことも五年後のことも、何も確実ことが言えなかった。
それでも、今現在この胸を焼く、彼女への想いだけは本物だ。
壁にかかる時計を見上げる。
丁度十二時。
今日が終わり、明日が訪れようとしていた。
明日、あさって、一日ずつ確実に、この想いを未来へと繋いで行きたい。
その為の努力を怠らぬことが、人を愛すると言うことなのだろうか。
また袖の顔が見たくなって、僕は洗面所を後にし、自室へと向かう。
「袖――――」
少女はキャミソールを羽織っただけのまま、ベッドに突っ伏している。
近づいて見るとすでにすやすやと寝息を立てていた。
僕の枕に顔を埋め、何かもごもごと寝言を口にしている。
「よーいちさ――――そんなとこ――――なめちゃ……」
一体夢の中で、僕はどんな変態的な真似をしているのだろう。
僕は溜息をついて袖に毛布を掛けようとして、手を止めた。
「いいよね?」
誰に言うでもなく僕はそう呟くと、自らもベッドに入り、彼女を伴って布団に潜り込んだ。
腕の中に、袖がいる。
あたたかい。
「おやすみ、袖」
僕は長い髪に顔を埋め、彼女の匂いに包まれながら目を閉じた。
投下終了です。
>>200氏支援感謝。
初エロに挑戦してみたものの、肝心の無口成分が足りなかったような気も。
次回書く機会があれば、もっと無口な可愛さを表現せねば。
次があるとしたらコメディに戻るべきかシリアスを続けるべきか
超GJ!袖可愛いよ袖
あと、コメディでもシリアスでも好きなほうを書けばいい。つーか書いてください。
>>179 思わず「好きのその先」まで伝えてしまった事に、
相手に指摘されてから気づく、無口で可憐だけどエッチな女の子に、
君は萌えないのか! 俺は萌える! 萌えまくりだ!
というわけで、もう寝ます。
おやすみなさい。
>>207 グッジョォォォヴ!
Hahahaha、ベリベリプリティガールデスね!!
>>207 グッジョーブ!
ナイスワーク!
エクセレーント!
>>207 ええい、連邦(職人)のMS(SS)は化け物かっ!!
GJ!!
そしてこのスレは職人さん達のクオリティが総じて高いわけだ
俺は良いスレに出会ってしまったようだな
保管庫の人ガンガレ、超ガンガレ!
連絡事項の日付とか1スレ目「彼女の趣味」の次話リンクがおかしいけどガンガレ!
615 名前: 名無しさん@ピンキー 投稿日: 2008/04/07(月) 02:29:48 ID:
「……んっ……ちゅ、……んはぁっ」
二度目のキス。
微かに開けられた口に舌をねじ込み、彼女の舌に絡ませる。
くちゅくちゅと鳴る音が、どこかリアルで生々しい。
夢中になっているのか、彼女は時折苦しそうに喘いで空気を求めた。
「んん……、っあ……やあっ」
口を離そうとすると、彼女は小さくいやいやをする様に首を振りながら、更に強く自分の口を押し付けてきた。
―――離れたくない。
いつも以上にべったりとくっつけられた彼女の身体は、普段体温の低い彼女とは信じられない程に熱を持っている。
口付けたまま指で下着にそっと触れると、彼女は切なそうに身を捩じらせた。
「ほし……」
目を潤ませて彼女が呟く。
―――欲しい。
そう聞こえた気がして指を動かすと、彼女は首を振り、俺の耳元でそっと囁いた。
「…………………………ほしゅ」
甜菜元kwsk
ほ
守
護
天
無口
無口お姉ちゃんマダー?
得意技は「何も言わずになでなで」
最近過疎だな
>>225 ほぼ毎日何かしらの書き込みが
ある状況を過疎とは言えまい
神を待つ日々
保守代わりに思いついた小ネタを
"無口棋士娘"
幾十回強豪と対局しながら、彼女のが今まで発した言葉は「王手」のみ
「参りました」の一言を聞くため、今日も俺は戦う
ここまで書いて無口棋士娘には、すでにしおんの王と言う金字塔があったことに気付き断念
>>228 ならばチェスでどうだ?
可愛い無口なあの娘が口を開くのは「チェックメイト」の一言だけ。
彼女の言葉を聞くため、俺は今日も挑み続ける…
しかしルール知らないので俺も断念orz
チェスなら1800くらいの棋力はあるから書きたいけど
無口娘と主人公の棋力をどれくらいにするか
それと専門的な表現を使うか使わないか迷う
1800ってなに?スカウター?
専門用語って何?なんたらオープンみたいな奴?
どちらにしろチェスの描写はそこまで求められてないような。
なんとなく強さがわかればいいんじゃない?
チェスの描写はいい、無口娘を出すんだ。
>>230 無口娘の描写が巧けりゃチェスの描写がなかったりルールが間違ってても批判は来ないが逆は非常にマズい
チェスの描写云々を考える時間を全て無口娘の描写にするんだ
頑張って書くけど微塵も期待しないでくれ
盛り上がっているところ恐縮だが何故か沈黙提督を思い出してしまう
沈黙の艦隊で艦擬人化、という電波が来たけど、
原作知らないしタイトルのイメージだけじゃねえかという事で没。
やまとと海江田が激しくまぐわっている図を想像してワロタw
丁度押し入れの奥にあった沈黙を引っ張り出して読み返してからスレを覗けばこの流れwなんという偶然。
でも、最期は・・・・・・(´;ω;`)
おのれベネットォ!!
つ 沈黙の要塞
なぜか会話はモールス信号の無口っ子が浮かんだ
「ツートツートト ツーツーツートツー ツーツートツート トツートツーツー」
「・・・・・・ごめん、わからない」
「(´・ω・`)」
スケッチブック持ちの方が便利な気がしてきた
>>242 ONEの上月澪しか浮かんでこないんだがw
しかもあの子は無口どころか喋れないからな
エジソンのプロポーズとか?w>トンツー
>>242 解読したらちょっと萌えたw
「ツーツートンツーツー トンツー ツーツートンツートン トンツートンツーツー ツートンツーツートン」
「ああ、俺もだ」
というパターンの方がこのスレ的にはありそうでは
SSでも通訳になってることが多いし
沈黙と聞くと真っ先にセガールを思い出す俺はどうすれば
お前らモールス符号全部覚えてるのか……?
>>246 奴らは万全の計画を立てていた。
だが、その万全の計画は、偶然居合わせた一人の無口娘によって崩壊する……!
死亡フラグか直前の出来事にしか見えない
>>248 奴らの最大の失敗は、男に手を出してしまったことだ
世界は広いな
無口エクソシスト
無口退魔士(普段無口祝詞は京都訛り)
無口化物
無口悪魔
無口妖怪
無口アンデッド
>>255 化物の範囲がわからんが、アンデッド覗いて擬人化されてるなら全部好物だよ!!!
保守がてらに今さらですが
>>222-223へ捧ぐ
〜無口で世話好きな彼女〜
「ね、姉さん。確かに助かるけどさ…」
「……?」
目をぱちくりさせキョトンとした表情を見るに目の前の我が姉は俺の言わんとすることが分かっていないようだ。
「前にも言ったけど、弁当を忘れたくらいでわざわざ教室まで届けに来ないでくれ」
全くこの人は…昔から世話好きなためか今日みたいに俺が弁当を忘れると教室まで一々届けに来るのだ。
小学生の時は毎朝持ち物チェックをし、中学生の時は教科書や体操着を届けにきた。
ただ高校生となった今もこれが続いているのはいささか問題ではないか?
それ以前に姉さん、大学はどうした?
確かに元はといえば忘れ物をする自分が悪い。
でもクラスメートからは変な目で見られ(中には羨望の眼差しを向ける者もいるが)いい気はしない。
『別に弁当を忘れても食堂に行くから。もう届けなくてもいいよ』
そう言おうとして姉さんの方を見直した時
「……」
うわぁ…ものスゴくしょんぼりしている。まるでこの世が終わってしまうかのように暗い顔だ。
「はぁ…とにかく、ありがとう姉さん」
その姿を気の毒に思い、つい思っていたのと違う言葉が口から出る。
「……」
すると姉さんは一転して、語尾に音符マークがきていると分かる程嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべた。
変わり身の早さに驚きつつ、友人曰く天使を思わせる可愛らしい微笑みに思わずドキリとさせられる。
姉さんは一歩俺に近付くと片腕を目一杯伸ばし、俺の頭の上にその小さな手のひらをポンと置いた。
なでなでなでなで
何かあると有無を言わさず頭を撫でる。昔からの姉さんの癖。口数の極端に少ない姉さんなりのスキンシップなのだろう。
恥ずかしいから止めてくれとは言わせない。俺の髪型がクシャクシャになってもお構いなしの姉さんの無言の圧力。
うるさかった教室も何故か静まり返る。
「………」
俺の頭から手を離すと姉さんは瞳を輝かせながら満面の笑みを浮かべ教室を出て行った。
軽くスキップしているように見えたのは多分気のせいだろう、うん絶対にそうだ。
それにしても最近になってふとした姉さんの仕草にドキッとすることが増えた気がする。
弁当を忘れるのも悪くないかもしれないな
ほんの一瞬でも思った自分に何故か腹が立った。
姉弟共に名前未定、続くのかも未定。色々中途半端で申し訳ないです。勢いで書き上げたものですので。
それにしてもこのスレにいると色々な電波が飛んできて困るくらいですね。アンテナの向きでも変えようかな。
ではお目汚し失礼しました。
みごとなSSだ
俺も姉が欲しくなったw
姉萌えのオレにはたまらんです。
ぜひ続きを。
俺のストライクゾーンド真ん中だ。
是非とも続いて欲しい。
最近皆さん無口ですね
無口というより実際住人は少ない方なんじゃないかと
でもそれがいいのかもしれない
無口娘は他の分かりやすい属性よりパンチがないからな
好きな人は好き、知る人ぞ知る属性だ。ここ最近で急激にメジャーになったと思うんだけど。
みなさんおはようございますこんにちわこんばんわ。無口スレだからって無口が過ぎてもアレなんで投下してみるテスト。
>>168辺りからの流れにビビッと来た勢いがスタートラインなので、その辺りの参加者に感謝。
―注意―
基本無口娘の一人称なので結構な量のモノローグがあります。そんなの許さねえ、と思ってる人はNG推奨。
あと個人的にとある語句を使わずに書いた練習作なので、その辺の粗探しも楽しんでもらえれば。
ではどうぞ。
「おーい恵梨、早くしろよ!」
駅のホームに電車が滑り込んできたのを見つけて彼女を急かすと、それまで歩いていたのがようやく走り出し
た。階段を駆け上がり飛び込むようにしてドアの閉まるのを邪魔してやると、少し遅れて恵梨が飛び込んだ。ド
アに足を突っ込んでいた俺も乗車すると、定刻より十数秒遅れで電車が走り出した。
「はぁー、間に合った」
「次のでも良かったけど」
「お前が人酔いするからってこんな中途半端な時間にしたんじゃないか。それに早めに買い物済まさないと、健
児さんのお見舞い行けないぞ」
言った俺を恵梨が睨む。そんなことは分かっているから言わなくてもいい、ということらしい。
「へいへい、いらないこと言いましたね。まあ今日の午前中くらいは健児さんのこと忘れて買い物しようぜ。最
近の恵梨、見てて辛かったから息抜きくらいはさ」
「ありがと、信哉」
彼女が珍しく笑む。忘れたらいいなんて言って怒られるかと思ったけど、笑って流す余裕があれば大丈夫だ。
2ヶ月前、恵梨のお兄さんの健児さんが倒れた。その日、本当に偶然恵梨に用事があって電話をかけたら恵梨
はひたすら泣いていた。会話が成立しないので家に押しかけるとお兄ちゃんが倒れて入院した、と言う。パニッ
クになって身動きが取れなくなっていた彼女を落ち着かせ、入院の為の着替えを鞄に詰め、電話でタクシーを呼
んで、恵梨と入院用の荷物をその後部座席に放り込んだ。
俺と恵梨とは幼馴染で、当然彼女の兄の健児さんとも仲が良くて。その人が倒れたと聞いたときには腰を抜か
しそうになった。でも芯を失って呆然としている彼女を見たらすぐさま動き出せた。心は乱れているのに行動に
迷いが生まれないなんてむず痒くて変な感覚だった。
病院が近くなると彼女は目だけがぎらぎらと光りだし、タクシーが敷地内でドアを開けたと同時に受付へ走り
出していた。タクシーの料金を払っていてもたついたせいで恵梨から結構遅れて病室に入ると、彼女の顔は涙で
ぐちゃぐちゃに濡れていた。こんなに感情を表に出す彼女はここ数年では全然見なかったから、ちょっと面食ら
う。そのせいで健児さんがベッドの上で笑っていることさえ気がつかなかったくらいだ。
ベッドの上で笑っている健児さんはそんなに大事ではなかったらしい。ただ過労で倒れただけだ、と軽く笑っ
て言っていた。言っていたわりに今でも入院していて、しかも手術を受けたというから本当は大事だったんだろ
う。俺はその辺のことを聞かされていないからなんとも言えないけど。
平日朝10時とはいえ流石日本有数の繁華街だ。人混みに特別弱いというわけでもない俺でさえ気後れする人の
量が行き交っている。そんなだから彼女には目の前の光景が地獄の釜の底のように見えるだろう。
「っしゃ、気合入れて行くか」
見ると彼女は既に気分が悪いのか土気色の顔色をしている。
「どっかで休むか?」
「時間とったら、もっと人、多くなる」
まなじりを吊り上げて一歩を踏み出すがすぐによろける。慌ててそれを支えてやって手を繋いた。相当参って
いるみたいで、普段なら格好悪いから止めろと言うところを一睨みしただけで許してくれる。
「じゃあ行くか。人が増える前の方がいいんだろ?」
頷いたのを確認して手を引いていく。一応目的の店の場所は聞いているから迷うことは無いだろう。
繋いだ手が気になって仕方がない。やばい、柔らかい。考えるな考えるな考えるな、そういうことを考えてる
暇があったら安全に彼女を目的地に運んでやれ、このバカ。
小学校からの幼馴染で今まで男女の仲を意識してなかったのに、この間健児さんが倒れたときから意識しっぱ
なしだ。電話の子機を抱えてソファに沈んでいた彼女を見てどうして好きになったんだろう。タイミングもきっ
かけも、全部最悪なのに恵梨のことが頭から離れない。
店の中に入ると相当気分が悪かったのか恵梨が倒れこんだ。
「お、おい!?」
「だい、じょぶ。気が抜けただけ」
駆け寄ってくる店員を手で振り払い自力で立ち上がろうとする。
「無茶するなよ。お前まで倒れたら誰が健児さんのお世話するんだよ」
「お兄ちゃんのことは関係無い」
きつい口調、物凄い目で睨まれて一瞬たじろぐ。しかしそれも体力が無い状態では長続きがしないのか、すぐ
にそっぽを向かれた。
「あー、その、俺がいらないこと言ったのは謝る。ゴメン。でもさ、とりあえずここから動こうぜ。入り口塞い
でたら迷惑だろ?」
「分かった」
恵梨は少しふらつきながらも立ち上がった。数歩歩いたのを確認して胸を撫で下ろす。この足取りならさっき
よりもマシだろう。そう考えていると恵梨が振り返る。
「ゴメン。心配してくれてたのに」
頭を下げて謝ってきた。こういう心遣いが出来るのはこいつの特技だ。
「別に気にしてないって。で、欲しいのどれ?」
こっちとしても怒られて当然のことを言ったと思ってるし、そんなに真剣に謝られても困る。だから軽く流し
て今日の目的を完遂することにした。
* * * * * *
先週の今日、恵梨の家を訪れると彼女は鍵もかけずに眠っていた。物騒だな、と言いながらお邪魔する。恵梨
には『お前が勝手に入ってくる方が物騒だ』と言われそうだけど。
「――んぁ、ふぇ?」
「ああ恵梨、おはよう」
「!」
やっぱり怒られた。せめて玄関のチャイムを鳴らせ、と静かに怒っているけど、こっちとしては数回鳴らして
反応が無かったからドアをガチャガチャやったわけで。健児さんのこともあったし、恵梨まで倒れたらどうしよ
うと思ったんだ。
でも変に心配をかけるのもアレだし俺が失礼をしただけということにしよう。そう思ったときに恵梨が泣き出
した。ギョッとして言葉を失っていると彼女は嗚咽を噛み殺してようやく喋りだす。
「ゴ、メン、疲れてるだけ。だから、心配しないで」
「心配するに決まってるだろ。急に泣き出すし、ここ2ヶ月は病院と家の往復しかしてないし」
健児さんが倒れる前、恵梨は口数こそ少ないだけの普通の女の子だった。服やアクセサリーもこだわったもの
を身につけていたし、それなりに人生を楽しんでいたように思える。
しかし今は少し頬がこけ目の周りは隈が浮いて、服もかわいらしさよりも動きやすさを重視し、アクセサリー
類は邪魔だと全て外していた。
「だから今日はどこか行かないかって誘いに来たんだよ。デートしませんか?」
「そんな暇無い」
「分かってるから約束取り付けに来たの。たまには息抜きしないと、お前まで倒れるぞ」
今の状況で彼女まで倒れたら困る。それは健児さんのお世話をする人がいなくなるという意味もあるけれど、
どれだけ心身ともに参っても決して弱音を吐かない性格をしている彼女が心配なのだ。健児さんは兄として、俺
は友達として、恵梨に倒れてほしくない。
「健児さんには俺に無理矢理誘われたって言えばいいから」
彼女はやっと迷ってくれた。やがて結論が出たのか大きく一つ頷く。
「よし、じゃあ今から1週間後、遊びに行こう。どこか行きたいところある?」
「えっと――」
以前から欲しかったアクセサリーがあると言う。値段を訊くとギリギリ出せる額だ。
「だったら俺がプレゼントしてやるよ」
「そんなことしてもらっても困る」
「気にすんな。俺がお前に贈りたいだけだから」
恵梨はちょっと考えて、それから小さくありがとう、と呟いた。
* * * * * *
倒れてすぐに顔を合わせて以来、2ヶ月ぶりにあった健児さんは痩せこけていた。しかし元気一杯で手を振っ
てみせた彼を見て安心する。体力は落ちていても気力は漲っているみたいだ。
「よお恵梨、久しぶり」
昨日世話をしにきた恵梨にこんな冗談を言ってみせる。大丈夫、健児さんは元気だ。変わっていない。
「お久しぶりッス、って恵梨だけスか? 俺には!?」
「お前みたいな暑苦しいのに振ってやる手なんかねーよ」
「あ、ひっでぇ〜!」
個室だから声が響く。相部屋じゃなくて良かった。笑いながらベッドの近くまで歩み寄ると健児さんが顎で入
り口の方をしゃくる。
「恵梨が笑ってるから静かにしようか、信哉」
「そうッスね。最近滅多に笑わないから、あいつ」
兄が倒れてから彼女が声をあげて笑うのは本当に珍しくなった。そもそも笑顔を見せることがめっきり減った
から、笑い声を聞いたのも本当に久しぶりだ。それが茶化されてるみたいで嫌だったのか、彼女はお茶を汲みに
行くから、と病室を後にした。
彼女がお茶を汲んで戻ってくるまでに一つ訊きたいことがあった。
「健児さん、入院は過労じゃないんスよね?」
「ん。アレから聞いてないのか?」
「訊けないッスよ、恵梨からは」
彼女は俺が家に行ったときには決まって泣いていた。そんな彼女にこれ以上負担をかけたくなかったのだ。
「あー、どうせ家じゃ沈んでるから訊けなかったんだろ?」
「そんなこと無いッスよ。TV観て笑ってます。でも介護で疲れてるときに思い出させるのも悪いッスから」
彼女のことだ、きっと兄の前では一滴も涙を流さないんだろう。だからバレバレでも嘘をついた。恵梨が伝え
たくないんだったら俺がバラしちゃいけない。
そんな俺の考えを知ってか知らずか、健児さんは少し押し黙る。
「えっとな、倒れたこと自体は過労だ。でも一応検査したらその結果が肺癌だった。中期の癌だってさ」
「癌、スか」
「ああ。医者からの告知のときはあいつにも立ち合わせた。家族はあいつだけだからな」
だから2ヶ月も入院してるのか。手術というのも癌を切り取るものだったのか。愕然として言葉を失っている
と健児さんがカカカと笑う。
「お前までそんな顔するなよ。医者の話によれば手術自体は成功したって話だし、今は体力を取り戻すために休
んでるのと変わらないからって。もう少しすれば退院できるとも言ってたぞ」
「はぁー、それならびっくりさせないでくださいよ。」
「びっくりしたのはお前の勝手だろ? それよりもさ、ここの看護婦さんなんだけど――」
話題を逸らされたのを感じて深く追求するのは止めてそれに乗っかる。さっき通ったナースステーションに可
愛い看護婦さんがいたのを思い出す。
お茶を持ってきた恵梨がベッドに渡した簡易机にお椀を2つ置く。俺と健児さんと、同時に手にとってグーッ
と一気飲み。ずっと喋り続けていたから喉がカラカラだ。
「でさあ、担当の看護婦さんが特に可愛いんだ」
「えー、マジッスか!?」
「でも恵梨のほうがかわいいもんなー?」
「何が?」
「看護婦さんが可愛いって話」
「健児さん、シスコンですか?」
「バーカ、兄一人妹一人なんだから溺愛するのは当然だろ」
「そういうのをシスコンって言うんじゃないんスか?」
俺は恵梨が好きだ。こんなに妹思いの人に妹さんと付き合いたい、なんて言えるのだろうか。まだ告白もして
いないのに早計、なんて恵梨には言われるだろうけど。
「じゃあそのシスコン兄貴がお願いしようかな」
健児さんは少し真面目な顔をして居住まいを正す。何の話だろうと考える暇もなく恵梨が叫ぶ。
「やだ! 何、いきなり!」
「恵梨、静かにしろ」
妹とは逆に兄は静かな口調でたしなめる。今までうるさく喋っていた俺が言える筋合いではないが、ここは一
応病院の中だ。それが分かっていない訳が無いだろうに。
「どうしたんだよ、急に怒鳴るなんてらしくないぞ」
「黙ってて」
一言吐き捨てると恵梨は無言で健児さんを睨みつける。嫌な静寂が病室を包み込んだ。恵梨は一体どうしたと
いうんだ。いくら考えても理由が分からない。
助けを求めようと健児さんの方を見ると、恵梨と視線を合わせて外そうとしない。目も真剣そのものだった。
「分かるけど、嫌だよ。」
恵梨がポツリと漏らす。心の奥から絞りだしたような声だった。思わず声をかけてしまう。
「え、恵梨?」
「信哉、黙ってって言ったでしょ」
「黙らなくていい。あのな、信哉――」
彼女はツカツカと歩み寄ると腕を振りぬいて思いっきり兄の頬をビンタした。自分でも怒りのあまり我を忘れ
たという感じで真っ青になってぶるぶる震えている。頬を涙が伝う。
「――信哉、お前にしか言わないからよく聞け。こいつの勘が鋭いのには理由があるんだ。こいつ、超能力者な
んだよ」
「はぇ?」
健児さんの告白に対する第一声としては実に間の抜けたものだった。自分でもそう思う。
「これがいいのか?」
彼にこう問われて私は頷く。『いつものことだけど味気の無い奴だな』と思われた。でも彼は困ったように
笑って自分の心を誤魔化すことも無く、かといってそっけない態度で自分の心を見せないようにすることもなく
て。ただただ自然体で私の言葉に接してくれた。
「ありがと」
「どういたしまして。その代わり、俺の誕生日の時にはもっと豪華なの買ってもらうからな」
店員さんにラッピングしてもらったそれを直接私に渡す。そりゃどうせ私に贈るプレゼントだけど、ちゃんと
した場所で渡してくれればいいのに。こういう不器用なところがあるのが女の子にモテない理由なのだろう。
でも彼に悪気は全く無い。良くも悪くも現実的というかなんというか。そういう性格なのは15年以上付き合っ
てきて表も裏もよく知っている。
私には特別な力がある。読心術だ。
読心術と言っても相手の仕草から心の中を読むものではなくて、近くにいる人の考えていることが頭の中に直
接情報として流れ込んでくる類のもので、もう物心ついた頃から身についている不思議な力だった。
その力は昔やっていたドラマのように手を触れて読み取るという便利なものではなくて、私を中心とした半径
2〜3mの円の中に入り込んできた人の考えが文章となって脳の中を駆け巡るもの。しかも意識的にon・offが出来
ない能力で、人混みに入ってしまうと6人くらいの意識が混線して頭痛がしてくる厄介なものだ。
このことを知っているのは私と両親とお兄ちゃん、つまり私の家族だけだ。親戚にだって知らされていない。
しかもそのうちの両親は既に他界していて、力のことを知っているのは私以外にはお兄ちゃんしかいない。
彼の横に立つと自然と思念が流れ込んでくる。『やっぱり荷物を渡すべきじゃなかったかな』とか『家に帰る
まで荷物を持たせっぱなしは悪いことしたかな』とか。
「あーっと、荷物が重いなら」
彼が全て言い終わる前に左手の紙袋を突き出すと、それがさも当然のように彼の右手に納まった。
「恵梨って昔っから勘がいいよなあ」
「信哉が鈍いだけ」
「なんだ、それなら言えばいいのに。言わなきゃ通じないよ」
彼は『あ、でもそういうこと言わない奴だったっけな。こういうこと面と向かって言ったら怒られるから言わ
ないけど』と心で付け足した。そんなこと思ったらバレちゃうのに。そう思ったときに彼が言葉を発する。
「なんか可笑しいことでもあるの?」
「別に」
「なんだかなあ」
信哉にはこういうときにハッとさせられる。もう人の心を読むのに慣れすぎて誰かの口と心の二枚舌を聞いた
くらいでは動じないはずなんだけど、時々彼にはその動揺がバレてしまうのだ。普通の人なら幼馴染特有の勘の
鋭さだろうと結論付けるのだろうけど、初めて当てられたとき、私は自分の持っている力が彼にもあるんじゃな
いかと心臓が口から出そうになった。
ただ最近はその的中の質や率が下がり始めている。前は私の心を見透かしているかのような的中率だったのだ
けど、ここ2ヶ月くらいは殆ど無い。そしてその理由もはっきりと分かっていた。
「信哉」
「何?」
「ゆっくり歩いて」
「ああごめん。恵梨が人混み嫌いだからさ」『早く突っ切ろうと思った』
そんな風に思われても困る。素早く人と人との間をすり抜けるということは、それだけ素早く大量の思念の切
り替えを要求される。例えるならラジオのチューニングで聴く局を1秒おきに切り替えるようなもので、ようや
く思念の像を結んだと思ったらすぐに次の思念に切り替えさせられるといった感じでとても疲れるし、何より常
に同時に2〜3人の心を聞くせいで気持ちが悪くなってしまう。
それを周りには人酔いしやすい体質と誤魔化しているが、本当に人酔いする人と違って我慢して突っ切れるも
のでもないのだ。信哉なら、事情はともかくそういう体質だってことは分かっているはずなんだけど。
私はお兄ちゃんには隠し事は出来ない。私が力で一方的にお兄ちゃんの考えを『読んで』しまうのに、私の考
えを明かさないのは不公平だからだ。
だから私はお兄ちゃんのことなら何でも知ってるし、お兄ちゃんは私のことを何でも知っている。
「よお恵梨、久しぶり」
ベッドから起き上がったお兄ちゃんは屈託の無い笑顔で子供みたいに手を振る。でもその元気さは私に向けら
れたものじゃなくて、多分隣にいる信哉に向けられたものだ。
「お久しぶりッス、って恵梨だけスか? 俺には!?」
「お前みたいな暑苦しいのに振ってやる手なんかねーよ」
「あ、ひっでぇ〜!」
病院の個室だから声が響く。場違いににぎやかで思わず苦笑してしまう。
「恵梨が笑ってるから静かにしようか、信哉」
「そうッスね。最近滅多に笑わないから、あいつ」
まだ病室の入り口にいた私を、まるで兄弟みたいに仲良く頬を寄せ合って見ている。これだけ離れればぎりぎ
り有効範囲外だ。週に3回来ている私と違って、信哉はお兄ちゃんに2ヶ月ぶりくらいに会ったから積もる話もあ
るだろう。邪魔をするのも悪いから、と一言断って給湯室へお茶を汲みに行く。
本当は2人の心を聞きたくなくて逃げただけだ。
2ヶ月前、仕事中にお兄ちゃんが倒れたという連絡をもらった。たまたま休みだった私は家でその言葉を聞い
て半分パニックになってしまった。何をすればいいのか分からなくてただおろおろしていたところに、偶然信哉
から電話がかかってきた。泣いて言葉尻のはっきりしない私を心配してすぐにウチに飛んできてくれた。
信哉は事情を聞くとすぐに動き出してくれた。入院の必要があるというのは聞いていたからその準備とか保険
証とか全部用意してくれて、力が抜けて足腰の立たない私を抱えるようにしてタクシーに放り込んでくれた。あ
の時の信哉にはすごく感謝している。ただ彼も内心はパニックになっていて、それが私の頭の中に流れ込んでき
たものだから余計に落ち着けなかったのだけど。
病室に駆け込むと、倒れたというのにお兄ちゃんはぴんぴんしていた。笑顔さえ浮かべていた。それを見た私
は柄にも無く大泣きしてしまって周りの信哉や看護婦さんを驚かせたのだけど、本当に泣くのはその後からだっ
た。
検査して分かったお兄ちゃんの病名は、肺癌。検査結果を聞くとき、お医者さんから家族を同席させてほしい
と言われた時点でお兄ちゃんは覚悟を決めていた。
『タバコの吸い過ぎかな。最近喉の調子おかしかったし、何かヤバい病気なのかも』
ポツリと呟くように『思い浮かんだ』言葉が聞こえてきたときにまた泣いてしまった。体調が悪いお兄ちゃん
に慰めさせてしまった。
そんなこんながあって、今は病巣を切り取って徐々に身体を慣らしている段階らしい。日に日に元気になるお
兄ちゃんを見て私は安堵していたけど、心の奥では灼けるような不安が燻っていた。その不安を大きくしたくな
くて、手術からこっち、なるべくお兄ちゃんの心を読まないようにしている。
同じようにお兄ちゃんと一緒にいるときの信哉の心を聞きたくない。お兄ちゃんが倒れた日から、信哉は私を
女性として意識し始めた。最近ではもう私のことばかり考えている。
私も信哉のことは好きだ。でもそれは裏表の少ない、友達の信哉が好きなんであって、彼と恋愛関係を築きた
いとは思えない。いい仲になれば、絶対私の力のことが知れてしまう。
小学校からずっと仲の良い友達なのだ。バレるのが、バレて嫌われるのが怖い。
お茶を汲んで戻ってくるとまだ馬鹿話をしている。ベッドに備え付けられている小さなテーブルに人数分のお
椀を置くと喉が渇いていたのか2人とも一息に飲み干してしまう。
「でさあ、担当の看護婦さんが特に可愛いんだ」
「えー、マジッスか!?」
病み上がりのお兄ちゃんも一気飲みだ。慌てた私が声をかけようとするとお兄ちゃんは心の声で押し止める。
『いいから、大丈夫だから。その証拠に苦しいって思わなかっただろ?』
視線と会話は信哉に向けながら心の声を飛ばしてくる。普通の人は二枚舌が出来てもこういう思考の並列作業
は出来ない。それを平気な顔をして出来るようになったのは近くに私がいたからだ。
「でも恵梨のほうがかわいいもんなー?」
「何が?」
「看護婦さんが可愛いって話」
「健児さんシスコンですか?」
「バーカ、兄一人妹一人なんだから溺愛するのは当然だろ」
「そういうのをシスコンって言うんじゃないんスか?」
信哉は笑って突っ込みを入れているけど内心は穏やかじゃなかった。『こんなに妹思いの人に付き合いたいな
んて言えるのだろうか』なんて考えてる。まだ私に告白してもいないくせに。
私は昔から無口・不機嫌・近付けないで通してきた子供だった。何もしなくてもその人の本心が聞こえてきて
しまって、必要以上に会話をすることも無かったのだから仕方がない。本音が読めるから決定的に嫌われること
はなかったけど、勘が良過ぎると気味悪がられ好かれることもなかった。
それがこの大変な時期に、今まで私の心の癒しだった信哉が私を好きだと『思って』いる。誰かに好意を向け
られるのは初めてだし、しかもそれがよりにもよって信哉だ。今まではお兄ちゃんのことは信哉に頼っていたの
に、今度は信哉のことで悩まされるなんて。一体誰に頼ったらいいのか分からない。
私は今、これまでで一番読心能力を捨てたいと思っている。
「じゃあそのシスコン兄貴がお願いしようかな」
その途端、お兄ちゃんの考えていることが『聞こえた』。
「やだ! 何、いきなり!」
「恵梨、静かにしろ」
「どうしたんだよ、急に怒鳴るなんてらしくないぞ」
「黙ってて」
お兄ちゃんはとんでもないことを考えていた。信哉に能力のことバラすなんて、そんなことを許すわけにはい
かない。お兄ちゃんを無言で睨みつける。嫌な静寂が病室を包み込んだ。
『恵梨、俺はもう長くないなんてことを言うつもりはない。まだ死にたくないから。でも順番で言えば俺の方が
ほんのちょっと先に逝くんだ』
お兄ちゃんが思念で語りかけてくる。信哉の困惑した思念も流れ込んでくるけど今はノイズでしかない。
『だから俺だけに頼っちゃダメなのは分かるよな?』
視線を切り結んでいるお兄ちゃんの目は真剣そのものだ。それだけでも私のことを考えてくれているのが分か
る。分かるけど嫌だ。唯一人の家族から切り離されるみたいで嫌だ。
「分かるけど、嫌だよ。」
それになんでそんな大事なことを勝手に、一人で決めてしまうの? 私に決定権は無いの?
「恵梨?」
「信哉、黙ってって言ったでしょ」
「黙らなくていい。あのな、信哉――」
気づけばお兄ちゃんの顔を引っぱたいていた。そこで私は耐え切れなくなって涙をこぼしてしまう。そんな私
に動じることなく、お兄ちゃんは口を開いた。
「――信哉、お前にしか言わないからよく聞け。こいつの勘が鋭いのには理由があるんだ。こいつはな、超能力
者なんだよ」
もうダメだ、言われてしまった。お終いだ。
「はぇ?」
そんな私の気持ちと遠くの方で、信哉は実に間の抜けた声を出した。
倒れてすぐに顔を合わせて以来、2ヶ月ぶりに信哉に会う。元気な態を装って点滴の痕が無い方の腕を力一杯
振った。腕は、自分でも少し引くくらいの傷跡が残っているからあんまり見せたくない。
「よお恵梨、久しぶり」
恵梨は昨日世話をしにきたのだが、この言葉は隣の信哉に向けたものだ。ちなみに病室に入ってきてから一度
も信哉とは視線を交わしていない。それが不満だったのか信哉が口を開く。
「お久しぶりッス、って恵梨だけスか? 俺には!?」
「お前みたいな暑苦しいのに振ってやる手なんかねーよ」
「あ、ひっでぇ〜!」
久しぶりにこいつのやかましい声を聞いた。2ヶ月前に会ったときは俺がぶっ倒れた後だったから珍しく静か
にしていたからな。
笑いながら信哉が近づいてくるが恵梨は入り口に立ったままクスクスと笑っている。それに気づいていない信
哉に気づかせようと、顎で入り口の方をしゃくった。
「恵梨が笑ってるから静かにしようか、信哉」
「そうッスね。最近滅多に笑わないから、あいつ」
2人して笑ってやるとお茶を汲んでくる、と恵梨は逃げ出した。
妹の能力を知っているのは俺だけだ。俺以外にも俺達の両親は知っていたが、あいつが中学の頃、2人一緒に
事故で死んだ。当時既に成人していた俺は妹を養うために実家に戻ったが、生活がかなり辛かったのを覚えてい
る。
そんな生活の中でも妹は強がった。俺の考えていることなんて筒抜けなのにそれでも俺に負担をかけまいと頑
張り続けた。一度熱を出して倒れたときに俺にだけは嘘を吐くな、と言ったことはあったが、あいつは本当にダ
メなときには誰にも相談しない。しかもそれに自覚がない。
今回のことだってそうだ。俺が倒れてから妹は毎日のように病室に来てはお喋りをしていたが、心の底から笑
うことは殆ど無かった。笑っても顔に貼り付けたような薄い笑みで、あいつのことをよく知らない人から見れば
笑っていると錯覚するかもしれないほどのものだ。しかし俺は実の兄で、見抜く程度の眼力はあると自負してい
る。
あいつのそんな性格はすごく危ういものだ。妹には俺以外にも頼れる存在がいないといけない。今回倒れてよ
く分かった。もし俺が逝ったら、彼女は瞬く間に潰れてしまうだろう。
「健児さん、入院は過労じゃないんスよね?」
それまでアホ面をしていた信哉が入り口の方を探ると、急に真面目な顔つきになる。
「ん。アレから聞いてないのか?」
「訊けないッスよ、恵梨からは」
「あー、どうせ家じゃ沈んでるから訊けなかったんだろ?」
「そんなこと無いッスよ。TV観て笑ってます。でも疲れてるときに話を聞くのも悪いッスから」
信哉は嘘が下手だ。嘘を吐くんだったら相手の目を見て言うのは基本のテクニックだぞ?
しかしやっぱり恵梨は家でも疲れを溜め込んでいたのか。大きく息を吐き出す。
「えっとな、倒れたこと自体は過労だ。でも一応検査したらその結果が肺癌だった。中期の癌だってさ」
「が、癌スか」
「ああ。医者からの告知のときはあいつにも立ち合わせた。家族はあいつだけだからな」
そう、今は恵梨の家族は俺だけだ。でも恵梨は力を持っている以外は極普通の女の子なんだ、いつかは好きな
人が出来て、いつかは結婚をしたいと思うだろう。そして自分の能力を隠して一緒に生活を送れるほど強くもな
いし器用でもない。
診断結果を知らされて沈んだ顔をしている信哉を元気づける様にわざと声のトーンを上げる。1ヶ月くらい前
の俺と同じ顔だ。手術も成功してそんなに沈む必要も無いんだから、手間をかけさせるなよ。
「お前までそんな顔するなよ。医者の話によれば手術自体は成功したって話だし、今は体力を取り戻すために休
んでるのと変わらないからって。もう少しすれば退院できるとも言ってたぞ」
「はぁー、それならびっくりさせないでくださいよ。」
「びっくりしたのはお前の勝手だろ? それよりもさ、ここの看護婦さんなんだけど――」
湿っぽい話は性に合わない。話題を逸らすことにした。
お茶を持ってきた恵梨がベッドに渡した簡易机にお椀を2つ置く。ありがとう、と一言断って一息に飲む。こ
んな当たり前のことも少し前まで出来なかった。
「でさあ、担当の看護婦さんが特に可愛いんだ」
「えー、マジッスか!?」
チラと恵梨の方を見ると心配そうな目でこちらを睨んでいる。病み上がりなんだからゆっくり飲めと言いたい
らしい。
いいから、大丈夫だから。その証拠に苦しいって思わなかっただろ?
「でも恵梨のほうがかわいいもんなー?」
「何が?」
「看護婦さんが可愛いって話」
「健児さん、シスコンですか?」
「バーカ、兄一人妹一人なんだから溺愛するのは当然だろ」
「そういうのをシスコンって言うんじゃないんスか?」
シスコンと言われても家族として愛しているだけで男女の感情は無い。というか十以上も歳が離れていればそ
ういう目で見ることも無い。
でもこいつは違うんだろう。妹と同い年で、近所に住んでいて、こんなに世話をしてくれている。男として女
が好きでなければこんなことはしない。それに妹もまんざらではなさそうだ。本当に嫌ならここには連れて来な
いだろうから。
「じゃあそのシスコン兄貴がお願いしようかな」
バカ話を打ち切って居住まいを正す。妹を任せてもいいのは、今はこいつしか見つからない。
恵梨の超能力のことを信哉に打ち明けよう。ずっと前から考えていたことだしな。
「やだ! 何、いきなり!?」
恵梨が目を見開いて驚いているが知ったことじゃない。言うと決めたのは俺の勝手だ。
「恵梨、静かにしろ」
「どうしたんだよ、急に怒鳴るなんてらしくないぞ」
「黙ってて」
恵梨が突然怒鳴るものだから信哉は狼狽しているが、構っていても仕方がない。これからもっと驚かせること
を言うのだから。
恵梨が泣きそうになっている。笑う以上に泣くことは珍しい。唐突な『告白』なら怒るだけだろう。泣いてい
るのはその相手が信哉だからか?
恵梨、俺はもう長くないなんてことを言うつもりはない。まだ死にたくないから。でも順番で言えば俺の方が
ほんのちょっと先に逝くんだ。だから俺だけに頼っちゃダメなのは分かるよな?
「分かるけど、嫌だよ。」
「恵梨?」
「信哉、黙ってって言ったでしょ」
「黙らなくていい。あのな、信哉――」
言いかけると妹に頬を叩かれた。叩き慣れていないもんだから衝撃が変に残って頭がくらくらする。
「――信哉、お前にしか言わないからよく聞け。こいつの勘が鋭いのには理由があるんだ。こいつはな、超能力
者なんだよ」
言ってやった。ずっと家族で背負ってきた秘密を、ついに外に漏らしたのだ。
本当のところを言うと俺1人で恵梨のフォローをするのは非常に疲れる。しかしこれからは2人で請け負える。
これで俺も少しは楽を出来るかな?
「はぇ?」
俺の安堵を置き去りにして、信哉が情けない声をあげた。
おいおい、一大事を告白したんだからもう少しちゃんとしたリアクションをとってくれよ。びっくりするだ
ろ、普通は。『お前の幼馴染は超能力者なんだ』って言われたんだぞ。
そんな風に憤っている俺に信哉は顔に苦い笑いを貼り付けて呟く。
「あのー、もう帰ったほうがいいッスか?」
「何でだよ」
「いや、超能力とか言われても、その、病院暮らしでお疲れッスか?」
これには俺達兄妹が毒気を抜かれた。こっちは真剣に秘密を告白したのにそんなはぐらかしかたって無いだろ
う。しかし冷静に考えれば信哉の反応の方が正しい。
「本当の話なんだよ、なぁ?」
恵梨に同意を求めるとまだ呆気に取られていた。俺の狼狽と信哉の狼狽が同時に流れ込んでいるせいか、自分
の思考を纏めきれていないらしい。頭痛がして思わず溜息をつく。
「まああれだ、お前もこいつのことが好きならいつかは向き合わないとダメな話だからな。おい恵梨、お前にも
言ってるんだぞ?」
急に矛先を自分に向けられて黙り込んでしまう恵梨と、ようやく話を信じ始めている信哉。奇妙な空気が病室
には流れていた。
「本当に、本当なんスか?」
静かな病室に信哉の声が響く。弾かれたように恵梨が病室から出て行こうとした。はっきりと自分が異常だと
断言されるのが嫌なのだ。
「恵梨!」
「ゴメンお兄ちゃん、帰るね。」
妹は俺の声を無視して出て行く。病室のすぐ外からは駆け出していったのか、リノリウムの床に響く足音がす
ぐに遠ざかっていった。
「逃げるなよ、馬鹿野郎」
「あの――」
完全に置いてけぼりを喰らっている信哉に声をかけられた。
「――俺、行ったほうがいいですかね?」
「いや、いいだろ。それよりもさっきの話の続きだ」
椅子に座らせて一つ一つ説明をしていく。いつ知れたのか、誰が知っていたのか、どんな力なのか。力の内容
を聞いたとき、信哉は息を呑んだ。
「読心術……」
「そうだ。サイコメトリーとかスキャンとか、いろんな呼び方されて創作モノでは題材になってるらしいけど。
ただウチのはそんなに使い勝手のいいもんじゃなくてな」
「?」
「能力の効果範囲に踏み込んだら、あいつの好き嫌いにかかわらず他人の考えてることが全部筒抜けになる。自
分の意思ではスイッチが切れないらしいんだ。強制的に声が響くんだと。だからあいつはいつも他人と自分を
遠ざけようとする。例外は死んだ両親と、俺と――お前くらいだ」
「お、俺スか!?」
「あいつ、嫌なことがあったらはっきり言うタイプだろ? 拒否されることもなくここまで恵梨と一緒に来れた
んだからまず間違いない」
「いや、でも」
「何をグズグズ言ってるんだよ。もしお前があいつの立場だったらどうだ? 嫌いな相手の心を読みながら行動
したいか?」
これだけ条件が揃ってるのに煮え切らない奴だ。男ならたまにはガツンと行け!
俺の言葉を聞き、俯いて暫く何事かを考えていた信哉はやがて顔を上げ口を開いた。
「健児さん、俺――」
最低だ、最低だ、最低だ! あの馬鹿兄、バラした!
次々に驚く人の声が『聞こえて』くるけど、そんなものにいちいち構ってはいられなくなっていた。
顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃに汚しながら我が家のドアに飛び込んですぐに戸締りをする。これで追いかけて
きても話をせずに済む。
『追いかけて』? 誰が追いかけてくるというんだろう。お兄ちゃんはベッドに縛り付けられているのに。
信哉が? ありえない。私のことを好きなのは嫌ってほど『聞いてる』から知ってる。でも読心術について聞
いた後も変わらず好きでいるのだろうか。私みたいな人の心の奥底を勝手に覗き込むような非道い奴、嫌いにな
るに決まってる。
顔を洗うついでだと、ちょっと早い時間だけれどお風呂に入ってしまう。シャワーヘッドから流れ出たお湯が
涙と心のモヤモヤを洗い流していく。
多少すっきりとしてから部屋のベッドに潜り込む。タオルケットを被って目を閉じてもなかなか眠れない。興
奮しすぎて落ち着かないのだ。馬鹿馬鹿馬鹿、と口の中で呟いても心は晴れない。お兄ちゃんのことでイライラ
して、それで寝付けないから更にイライラして、と暫く収まりそうに無い。それでもじっとしていれば眠れるだ
ろう。そう思って何度目かの寝返りを打ったとき、階下からチャイムの音が聞こえてきた。
最初は宅配便か新聞の勧誘だと思っていた。今日は無視しよう。色々あって疲れたし、今日はこれ以上誰かの
心を『聞き』たくない。
でもしつこく鳴り続ける。今度は小学生の悪戯かと思った。それならわざわざ玄関先に顔を出さなくてもその
うち飽きるだろう。というか起き上がって階段を下りていくのが面倒くさい。しかし――
「うるさい」
――どこの小学生だ。もう5分近く鳴らし続けている。しょうがないのでごそごそ起き出して、リビングのイ
ンターホンを受ける。
「はい」
《あ、やっぱりいた》
ひび割れてはいたが間違いなく信哉の声だった。もう成人しているというのに子供っぽいところは相変わらず
だ、じゃなくて。思いもよらない相手に慌てた私は受話器を置く。すぐまたインターホンが鳴り出す。今度は受
話器を取ってすぐに切った。また鳴り出す。そんなことを5回も繰り返して、キレた。受話器を床に叩きつけて2
階の自室に駆け上がる。
嫌がらせだ。嫌がらせに違いない。病室での空気くらい読んでよ。私と違って心の中が読めなくてもなんとな
く分かるでしょ? それともそれも全部分かった上での嫌がらせ?
ダメだ、これ以上相手をしたら私が参ってしまって暫く立ち直れなくなる。お兄ちゃんの世話だって続けてい
かないといけないのに、勝手に潰れる訳にはいかない。私しかいないんだから。
部屋に飛び込んでドアを閉め、タオルケットを頭から被って耳を塞いだ。ついでに携帯電話が光っているので
電池を引っこ抜いて黙らせる。これならいくら頑張っても声は聞こえてこないし、玄関の鍵を閉めているから心
の声も聞こえてくることはない。
目を瞑っているとだんだん眠くなってきた。今日は色々ありすぎた。心身ともに疲労のピーク。さっきのイン
ターホン越しのやり取りでさらに疲労している。
今度こそ寝よう。こんど、こそ。
ガチャン!
異質な金属音で目が覚める。聞き覚えがある音だけど寝ぼけた頭じゃ思い出せなかった。台所に積み上げた何
かが崩れたとか? いや、違う。それなら今聞こえている、この足音は何?
その足音は真っ直ぐ私の部屋の前に来ると、止まった。ドアノブがゆっくり回って、それからドアが開く。
「恵梨。」
やっぱり信哉だ。この家の間取りを知っている人なんて数えるほどしかないんだから、真っ直ぐ階段を上がっ
て来たときには気がついていた。
「ピッキング?」
「違うよ。健児さんから鍵借りてきただけ。」
ベッドの上に座ってる私と入り口に立っている信哉とは目測で4mくらい離れている。そうだよね、そこなら自
分の心の内を聞かれずに済むもんね。私にとってもそっちのほうがありがたいし、出来ればそのまま帰ってほし
いくらいだ。
でも私のそんな気持ちを無視して信哉は部屋の中に入ってきた。後一歩で能力の範囲内。
「信哉」
「何?」
「帰って」
「勝手に家に入ったから?」
「入ろうとしてるから」
「ああ、超能力の範囲ってやつ? そんなの気にしてないよ」
カチンときた。
「そんなの、嘘だよ!」
ああ嫌だ、こんな風に怒鳴ったりしたくないのに。
「誰だって気分が悪いに決まってる!」
「まあちょっとだけ気分は悪いけど」
ほらやっぱり。今まで普通に付き合えてたのに、これで終わりだ。信哉は私の領域に入ってこなくなってしま
うだろう。私が安心して手を繋げるのは信哉だけだったのに。
「ゴメン、今更だけど聞いてくれないかな?」
黙っていると了承のサインと受け取った信哉が話し始める。
「俺、恵梨のことが好きだ。今まで黙ってたけど、好きだ」
だからなんだと言うのだろう。そんなことは勝手に心の中を覗き込んだから知っている。
「だから付き合ってほしい」
以前から馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたけど、やっぱり馬鹿だった。誰が好きで私の能力範囲に入りたがる?
そんなことをするのは馬鹿か物好きしかいない。
家族だって、否が応でも一緒にいないといけないだけだ。お兄ちゃんが私の力のことをいつも考えていたのは
知っている。それがずっと負担になっていたことも、あの歳で結婚を考えない理由になっているのも知ってる。
だって、全部筒抜けだったんだから。
「で? 私には嘘を吐けないよ」
「構わないよ。どうせ小学生の頃から10年以上バレバレだったんだし、あと60年くらいどうってことない」
「60年?」
「うん。俺は恵梨と一生一緒にいて構わない、いや、いてほしいから」
この言葉には唖然とせざるを得なかった。これでは恋人になってほしいという告白ではなくて、結婚してほし
いというプロポーズではないか。
ぽかんと口と目を開いたままだった私の返答を待たずに信哉はさらに喋り続ける。
「実は恵梨が帰った後に健児さんとずっと話してたんだけどさ、最終的にぶん殴ってきちゃった」
何の話だか分からないという顔をしている私へ、信哉は舌を出しておどけて後で謝っておいてほしい、と付け
加えた。
「どうして?」
「恵梨がいないところで恵梨の秘密を喋ったから。少なくとも、お前がいるところで話さないといけないことだ
ろ」
確かに私は怒った。どうして当人に相談せずにそんな大事な話をしてしまうのかって。でもなんで信哉が怒っ
て喧嘩するの?
「俺は秘密があるんなら本人の口から聞きたかった。こんなのは卑怯だよ」
「黙って人の心を読む方が卑怯」
だから私の力は嫌われるんだ。両親だって私のことを気味悪がっていた。お兄ちゃんは私のことを負担に考え
ている。信哉もきっとすぐに私のことを嫌いになる。好かれてから嫌われるなら、いっそ最初から嫌われていれ
ばいい。そっちの方がダメージは少ないから。
「そんな奴のことが好きとか、馬鹿?」
俯いて黙ったままの信哉にさらに言葉を投げかける。
私のことを嫌いになってほしい。散々信哉の心の中を読んでいたくせに自分を傷つけたくなくてこんな言葉を
吐く。馬鹿なのは私の方。最低だ。
「馬鹿で何か問題でもあるのかよ」
「ただ嫌いなだけ」
「じゃあ好きになってほしい」
無茶苦茶を言う。何を考えてるのか分からない。
「何を言ってるのか分からないって顔してるな。それなら――これで分かるだろ?」
デッドラインの手前で立ち止まっていた信哉が、大きく一歩踏み出した。
『恵梨、好きだ』
頭に声が響く。耳を塞いでも聞こえなくなるものじゃないのは分かっているのに、思わず塞いでしまう。
『好きだから、一緒にいたい。好きだから、心を読まれても構わない』
心の声が聞こえる。嫌なノイズが混じらないその『声』は本当に心の底からそう思っているという証拠だ。
『理想論だと自分でも思うよ。それでも一緒にいたい。我侭かな?』
「我侭だよ」
『やっぱりそうか』
「自分のことだけ」
『俺のことだけど、恵梨のことでもあるよ』
「自分勝手」
『確かに』
「こんな力、いいところなんてない」
『あるよ。浮気予防にいい能力じゃないか』
最後の『一言』に私は思わず笑いをこぼしてしまった。確かに嘘をつけないんじゃ浮気なんて出来ないだろう
けど、そういうことじゃなくて。
「私が気にする」
『俺は気にしてない』
「私に嘘は吐けないよ?」
「『嘘じゃないよ』」
口から発せられた声と見事にシンクロした『声』。嘘じゃない。
「恵梨?」
私は肩を震わせて泣いてしまった。力のことを知っても好きでいてくれる人がいるのが、こんなに嬉しいこと
だとは知らなかったのだ。
ただただ涙を流している私に、信哉はなんと声をかけようか迷っていた。葛藤も全部丸『聞こえ』だというの
に、じっとその場から動かず考えている。
「信哉」
「は、はい、何でしょう?」
「別に、肩とか抱いてくれなくていいから」
「んぐっ!」
また私の力のことを忘れていたらしい。顔を真っ赤にしている。そうやってぐるぐる考えてるのも全部バレて
るの、分かってる? ホント馬鹿なんだから。
「いいよ、ありがと」
呆れて涙も止まってしまった。もう笑うしかないくてクスクスと声を漏らす。そんな私の様子を見てなのか、
信哉はようやく安心してくれた。私の座っているベッドの縁に腰掛けて口を開く。
「あのー、落ち着いてからでいいからさ、さっきの答えを聞かせてくれないかな。俺もそれなりに緊張とかした
んだし、さ。」
この言葉に答えかけて、ふと思った。私は信哉のことをどう思っていたんだろう?
「今日はもう帰れって言うんなら帰るよ」
信哉のことは嫌いじゃない。一緒にいたら安心する。私が唯一、心を許せる他人。
「でも答えを出すのは忘れないでほしい」
なら好きなのだろうか。家族以上に心を許せる他人。その存在はありがたいし嬉しい。ありがたい、嬉しいと
いう気持ちは恋愛感情なのかな?
「恵梨、聞いてる?」
ずっと一緒にいたいってことは、男と女なんだから夫婦になるってことで、夫婦になるってことはつまり恋人
になるわけで。
「恵梨さん?」
信哉と恋人同士になりたい? デートしたり、キスしたり、エッチなことしたり――
「恵梨っ!」
「ひゃっ! 何?」
「何って、お前なあ」
信哉は『呼んでも返事しなかったのはお前だろ』と心の中で大きく溜息をつく。
『それに距離が近いんだからもう少し身構えろ。襲いたくなったらどうするんだ。あーヤベ、さっきから唇ばっ
かり見てる。チューしたいかも』
私がちょっと睨むと、すぐに思考を読み取られてるのを思い出した。
「あ、ゴメン」
「大丈夫、慣れてる。それに信哉なら――」
「俺?」
「――してもいいよ」
私も信哉とずっと一緒にいたい。それだけは間違いない。恋愛感情とかよく分からないけど、恋人同士がする
ようなことは、信哉とならやってみる価値はあると思う。
信哉は口をパクパクさせてぐるぐる考えている。意味が分かってないのかな。
「チューしたくない?」
「いや、その、したいとは思ったけど」
「じゃあしよう」
信哉の首を抱きしめるとキーンという『音』が聞こえてきた。突然の出来事に頭が追いついていないらしい。
本当のパニックを起こした、何も考えられない状態の人からこんな『音』を聞いたことがある。
まあいいや。ちょっとチュッてするだけだから信哉もそのうち落ち着くだろう。
目を閉じてゆっくり接近する。信哉のせいで耳鳴りが酷いけど我慢だ。唇をほんの少し触れさせる。薄い唇、
見た目通りにちょっと硬い。
まさかファーストキスを、こんな風に自分から行くとは思っていなかったな。
『え、ええええ、恵梨さんナニやってマスか!?』
「キス」
「んなこたー分かってるって! 何を唐突にって話でしょ! 正気か!?」
「してみたかった」
「してみたいからって、お前」
そういうのは良くない、筋が通ってない、とごにょごにょ語尾を濁す。
「信哉、私もずっと一緒にいたい」
一瞬、何を言われたのか分からないと彼の動きが止まる。私と見つめあって数秒、やっと動き出した。
「ぇえっ!? それってさっきの質問の答えでいいのか?」『こんなにあっさり!?』
「うん、あっさり」
「いや、だってさ」
「答えなかった方が?」
「それは、その、ありがとう」
信哉の混乱が一気に引いていく。『上手く言いくるめられたなあ』じゃないでしょ。大体、まだ私が首に引っ
かかってるのにそれには気をかけてくれないの?
もう一度距離を詰めるとようやく気づいてくれた。首を逸らせて私から逃れようとする。
「ちょ、恵梨!?」
「キス、したい」
『いいのかなあ』
「いいよ」
やれやれと信哉は軽く息を吐くと私に覆いかぶさってきた。さっきと変わらない、ゆっくりとしたキス。違う
のは彼から来てくれていることくらいだ。
『やっぱり柔らかい。うわ、なんかいいにおいしてきた。風呂上り? 髪もしっとり濡れててすげーそそる』
信哉の考えてることが全部流れ込んでくる。こういう思考が流れ込んできても不快にしか感じたことはないの
に、どうして信哉の思考はこんなに心地いいんだろう。
もっと『声』、聞きたいな。
『やばい、キスだけなのに止まらなくなる。舌、入れてみようかな。怒られるかな』
怒らないよ。信哉になら何をされてもいいから。その証拠にほら、私から舌を出してるでしょ?
『う、わ、舌!? ――ああそっか、こういう風に考えてること全部バレバレなんだっけ。恵梨、俺、その気に
なっちゃうよ?』
いいよ。信哉なら、いいよ。
唇の合わせ目を割って口の中に侵入すると信哉の舌が待ち受けていた。生暖かくて唾液でぬめつく肉の塊が舌
の先に触れると、電流が走ったみたいな感覚が全身に走る。本当なら不快に感じる感触なのに、もっともっと欲
しくなる。
『ぐにゅぐにゅですげえ気持ちいい。息は辛いけど恵梨が好きだからかな、やめたくない』
舌に力を入れて尖らせてつつきあう。歯に当たったり歯茎に当たったり舌同士が触れ合ったりすると、その度
に私の頭の中が溶けていく。その中に信哉の思考が流れ込むから彼の色に染められていくみたいだ。
息が苦しくなって信哉の胸板を叩くと、来たときと一緒でゆっくりと離れていった。彼の舌から垂れた唾液が
私の顔に落ちる。
もったいないな、これ。酸欠で揺れている思考に任せて何度も指で掬って口に運ぶ。
「すげ」
「何?」
「いや、そうやって指舐めてるの見るとさあ、その」『フェラしてるみたいでエロい』
もう、信哉も慣れないな。恥ずかしくて言い淀んだんだろうけど、全部『聞こえて』るんだよ? そっちの方
が恥ずかしいよ。もし指摘したら、信哉、どんな顔するのかな?
「してあげようか」
不思議そうな顔をして私を見て、それから顔を赤く染める。一瞬考えただけでも全部通じることをいい加減に
覚えてほしい。
「頼んでもいいのか?」
「うん」
信哉は私と身体を離して膝立ちになる。ベルトに手をかけてズボンを下ろし、パンツも下ろしてしまった。大
きくなったそれが外気に触れた。
すごい、こんなに大きいんだ。それに想像していたよりもごつごつしている。膨らんでるところは血管かな?
触ってみてもいいのかな? フェラって口ですることなんだし、手で触るくらい、いいよね?
手に取ってみて、その熱さに驚いた。人の体の一部とは思えないくらい熱かった。先っぽが特に熱くてしかも
ぶよぶよと柔らかい。珍しくて捏ね回す。どんどん大きくなってくる。
『うわっ! 恵梨の手、冷やっこい。ヤバ過ぎる。気持ちいい』
「気持ち、いいんだ」
「そりゃ恵梨が触ってるから。微妙に慣れてない手つき、気持ちよくて」
普段しないような触り方をされても興奮するんだ、変なの。でも遊んでる知り合いから聞いた、興奮すると大
きくなるっていうのは本当なんだな。
口を近づけて一舐め。まず先端の割れ目の周囲を濡らして、そうしてその範囲を広げていく。ずっとズボンの
中に収まっていて汗をかいていたせいかちょっと汗臭い。おしっこの臭いもする。
『恵梨が、舌で、してくれてる。すぐに出ちゃいそうだ。あ、そこっ!』
彼の身体の表側の、筋になっているところを舌でなぞると『声』のトーンが跳ね上がった。と同時に彼のおち
んちんも跳ねて私の鼻を掠めていく。
上手く口でしてあげられるように押さえないとダメだな。でも手で押さえたら、押さえたところは舐められな
くなっちゃう。どうしたらいいだろう?
そんなことを考えながら先端にキスをしたとき、はた、と気がついた。このまま口で咥えてしまえばいい。そ
うすれば口の中で舐めることも出来る。
そうと決めたら迷いは無かった。口に先端のぶよぶよしたところを咥えて舌を走らせる。気持ちいいという信
哉の心にも気を払って、彼の『声』が一番大きくなるポイントを探っていく。
『く、口の中!? いきなり、そんな、うわぁっ! 先っぽが、裏筋がっ!』
どうもさっきの筋張っているところは裏筋と言うらしい。身体の表側にあるのになあ。
『うわっ、イくっ! ヤバいから、イくから、恵梨っ、離せっ!』
イきたかったらこのままイっていいよ。気持ちいいって証拠だもんね?
そんな私の考えは間違っていることに気がついたのはほんの数秒後だった。信哉のおちんちんが私の口の中で
ひときわ大きくなって、跳ねて、それから精液を吐き出した。
いきなり口の中にぶちまけられては堪ったものじゃない、思いっきりむせて口を離してしまう。そんな私にお
構いなしに射精は続いて、2回目、3回目と飛び散るそれが私の顔と喉の辺りに落ちた。
口の中のどろどろは耐え切れなくて吐き出してしまった。身体に飛んだ精液はゼリーみたいに固まっていて流
れ落ちる気配も無い。
「ゴメン、堪えきれなくて」
「構わない。離さなかったのは私が悪い」
あんなに苦しいものだとは思わなかった。甘く見ていた。信哉が『声』で注意してくれたのに。
「そんなことない。俺、気持ちよくてこのままでもって、どこかで考えちゃってたし」
ホント、馬鹿だな。人の心の移り変わりの記憶なんて後から書き換えることが出来てしまう。だからそのとき
思ったことと後から言うことが食い違うのは本当によくあることだけど、私に気を使ってわざと嘘をつかなくて
いいんだよ? 何度も言ったけど、私に嘘はつけないんだから。
それよりも、信哉が私の身体を触りたがっていることの方が大事。胸とかアソコとか触られちゃうんだ。どう
しよう。自分でしたときよりも痛いのかな? 気持ちいいのかな? 優しくしてくれるかな?
「いいよ、信哉」
正直、自分の大事なところを他人に預けるのは怖い。でも全部打ち明けたんだ。今まで秘密にしてたこと、全
部。エッチくらい、今更、だよね?
「私も気持ちよくなりたい」
「うん。痛かったらすぐ言ってくれよ? 俺、こういうことするの初めてだし、お前と違って相手の心の中身、
分かんないし」
「分かった」
私が頷くと、信哉は掌を優しく私の胸に置いた。
『痛くないように、痛くないように』って気持ちだけで十分だよ、信哉。
信哉の大きなおちんちんが私のアソコを割っていく。さっきまで指で弄ってもらっていたからか痛くない。初
めてのときはすごく痛いなんて聞いていたのに、意外だった。
あ、でもっ!
『キツい。これ以上進めない? いやでも浅すぎないか?』
彼の腰が止まった。それと同時に身を裂かれるような痛みが私を襲う。どうやらほぐれていたのは入り口の部
分だけで、指の届かない部分はまだまだ固かったみたいだ。
『無理矢理進めるか? いやでも痛いだろ。今でも苦しそうなのに、これ以上は、ダメだろ』
「進めて」
「進めてって言われても」
「お願い」
彼の胴体に足を巻きつけて自分で挿れる素振りを見せた。本当は痛くて足に力が入らなかったんだけど、単純
な信哉にはそれだけで十分だった。
「なるべくゆっくりするから。痛かったら突き飛ばしていいから――」
本当は今すぐに全部突っ込みたいって思ってるくせに。『キツいけど気持ちいい』って思ってるのも知ってる
んだからね? それに私も信哉を全部で感じたい。全部で感じて、信哉で満足したい。
「――だから、ゴメン」
謝らないでよ。あなたが上手だったら私も気持ちよくなるはずだし、頑張って。私も頑張るから。
そこまで考えついたとき、彼が私の膜を破った。ぐいっと腰を押し込まれると身体が自然と仰け反る。
「ひぐっ、い、いうぅっ!」
頑張ろう、そう思ったけど我慢できないくらい痛い。かさぶたをめくった後、血の滲んでいるところへ塩を擦
りこまれているみたいだ。信哉が呼吸をして、大きく身体を揺らす度に痛みが走る。
痛い。深夜の身体を受け止められてすごく嬉しいのに、どうして痛いの?
「あ、うあっ、うっくうぅっ、いったいぃ!」
「恵梨!?」
「いいの、信哉は気にしなくて、いいからぁ!」
心配して上体を寄せてきた信哉を抱きしめる。締め上げるように力を込めると痛みが少しだけマシになった。
信哉は優しくて、私が痛くなくなるまで動かないでいる、と言ってくれた。それに甘えてさっきから抱きつい
たままだ。少し汗臭くて広い肩幅。離れない。離れたくない。
ある程度痛みが引いていくと、何か不思議な感覚が身体の中にあることに気がついた。信哉の一部分が入って
いるってことじゃなくて、もっと私の能力に近い、けど違う感覚。その正体が分からない。
「恵梨、もう大丈夫か?」
「うん。まだちょっと痛いけど、多分」
「なら動くよ」
ゆるゆると信哉が腰を引くとまだ痛い。引いた波が返してきて私の一番奥へぶつかる。信哉の動きの強さに比
例して裂ける痛みが響く。
やっぱり、痛いよ。あなたが気を使ってくれているのは伝わってくるのに。なんだか自分が情けないよ。
痛みに浮いた涙が情けなさで押し出された。つつっとこめかみの方へ流れていく。
「恵梨、やっぱりまだ動かないでいようか?」
私は首を横に振る。彼が動いて気持ちよくなってくれるのが一番だ。初めてが痛いのはよく言われることなん
だし、気にかけなくていい。
「信哉が気持ちよくなったら、私も気持ちいいから」
『嘘つけ、顔が引きつってるくせに』
「お願い、動いて」
「知らないからな」
彼は一言そう言うと大きく腰を引いてそれから突き出してきた。まだ痛みは強いけど耐えられないほどじゃな
い。というか、あれ?
『これじゃ優しくするって約束破ってるのと変わらない』
なんか、気持ちよくなってきた。腰がぞくぞくして堪らない。信哉に回した腕に力が入らなくなってきた。胸
板に頬を押し付けて耐える。
おかしいな、すごく痛いのに同じくらい気持ちがいいなんて。まるで――
『だけど、クソ、気持ちいいじゃないか。こんなによかったら止めらんないよ』
――信哉と感覚を共有してるみたいだ。何か気持ちいいところに出入りさせてる感覚が、して!?
『恵梨のマンコの中、キツいけど、うねって』
うねって気持ちいい。私の身体の中の感触なのに、何なの、この感覚は? 初めての痛みはまだ引いていない
のに、エッチして感じてるっ! あっやっ!
「動かないでっ!」
自分では快感をコントロール出来なくて叫んでしまった。
信哉はギクリと腰を止めて私の顔を覗き込む。
「乱暴にしすぎた? ――違う? え、じゃあなんで?」
「分かんない。でも、読心術の一種だと思う」
ますます分からん、と信哉が唇を尖らす。でも説明するの、恥ずかしいなあ。
「信哉の考えてること、全部流れ込んでくるのはいつものこと、なんだけど」
『エッチして感じてるのも、全部バレてるのか』
「それで、その」
「言いにくいこと?」
私は首を横に振る。ここまで来て今更秘密にすることなんてないし、恥ずかしいのは多分信哉も一緒。
「あのね、心だけじゃなくて、感覚も全部伝わってきて、びっくりして」
「感覚?」
「うん。信哉が気持ちいいって思う感覚も、全部伝わってきて」
初めてなのに気持ちよかった。信哉に引っ張られてイくって感覚を初めて体験しそうになった。不安定で仕方
なくて思わず声をかけてしまったけど、あそこから突き抜けていたらどれだけ気持ちがいいんだろう。
「じゃあ俺じゃ気持ちよくなれば、恵梨も気持ちよくなる?」
「うん。だから私の身体で満足して、信哉。」
あとはもうひたすら身体をぶつけ合うだけだった。途中痛みが消えてしまってからは、2人分の快感を受けて
いた私だけがイってばかりだった。
信哉は内心で呆れていたけど、でもすごく気持ちいいし、すごく幸せで。
「もっと、して」
「もっと!?」
「したくないの?」
信哉の『俺、こういうお願いに弱いんだなあ』という嘆きを『聞き』ながら、何度目かのエクスタシーを目指
すことにした。
と以上です。途中何度か名前欄ミスって申し訳ない。
全然エロくなくて(´・ω・`)、つーか喋りすぎだお前。
能力覚醒? ご都合主義だと笑わば笑え!
べ、別に愛撫シーン飛ばしたのは書くのがダルかったってことじゃないんだからね! されるだけの愛撫はこの設定じゃ見せ場無いし。
全国に1人くらいはいるだろう愛撫シーン読みたい人、俺が気が向くまで待っててくれれば30世紀ごろには完成してる予定。
さて問題です。使わなかったのはどんな言葉でしょうか?
>>285 GJ!
で、このあとのいちゃいちゃラブラブ展開も見せてくれるんだろうね?
>>285 GJ!
愛撫シーンはまだ目をつぶるけど、エピローグくらいは欲しかったな。
それまでの話がしっかり書き込まれていたから尚更。
使わなかったのはもしかして、三点リーダ?
GJ!
>>288 おお、言われてみれば確かに使われてないな
ほ
ちょっと聞きたい。
無口ヒロインは何歳ぐらいまでならいい?
20代後半でも仕草や態度によっては萌える
30代だと何故か怖い人とか変わり者に見える
ここのスレタイは女の「子」になってるけど俺は別に何歳でも萌える
三十代未亡人無口でも構わないって思ったけど確かに少し怖いな。
物静かな大和撫子老婆もいいと思うぜ
エロとか抜きで
無口+三十路+未亡人+たれ目+おっとり+ど天然+きょぬー=?
俺の元嫁
というか未亡人の元夫ってことは…
詮索しないのが身のためかと
300 :
名無しさん@ピンキー:2008/10/04(土) 19:25:37 ID:+NAFNFPv
あげるか
>>294 その人は、いつもニコニコと笑っていた。
「ばーちゃ、今日はげんきなの?」
こくりと頷くその笑顔が、彼女のその日の体調の良さを物語っていた。
……とはいえ、体調が良かろうと悪かろうと、今日のように安楽椅子に
腰掛けていようと、床に伏せっていようと、彼女の顔から笑みが耐える
事はないのだけれど。
それでも……それでも、笑顔の質は違う。その日は、無理をしていなかった。
無理して笑顔を作らせてしまう事に、心を痛める程度には、その頃の
俺は物事の機微というのを理解していた……ように、思う。
だから、その日、彼女の体調が良かった事を、俺は喜んだのだった。
「今日はおしゃしん見せてくれるんだよねー」
その頃の俺は、とんでもなくお婆ちゃん子だった。とはいっても、彼女と
俺の間に血のつながりは無い。隣の家に住んでいた、一人暮らしのお婆ちゃん。
それが彼女だったのだ。
俺は暇さえあれば、いつも彼女の家に遊びに行っていた。同じ年頃の
友人と遊ぶよりも、その方がずっと楽しかった。
体調がいい時は、折り紙やお手玉やおはじきや、そんな俺の友達が
誰も知らないような遊びを教えてくれて、俺と一緒にそれに興じてくれた。
病気のせいか否か、彼女は口数は少なかったが、どんな遊びも実践でもって
俺に教えてくれて、俺も彼女からそれを学び取るのが楽しかった。
それが楽しかったから、というのも無論あるだろう。けど、それがなくても、
例えば、彼女が床に伏せっている、その横に座っているだけでも、俺は楽しかった。
もちろん、彼女は病気で、その具合が思わしくなくて伏せっているのだから、
それなのに、その横にいれるだけで嬉しいなんて思ってはいけないのかもしれない。
でも、それでも……俺は嬉しかった。彼女と一緒にいられる事が。
「はやくおしゃしん見せてー!」
俺がせがむと、彼女はにっこりと笑って頷いた。
ゆっくりと、本棚へ歩いていくと、一冊の古びた表紙の本――アルバムを取り出す。
「……すごい、ボロボロのごほんだね?」
当時の俺はまだ子供で、だから思ったままを口にしたが、今考えてみると
随分と酷い事を言ったもんだと思う。彼女の思い出が詰まった大事なアルバムを、
ボロボロのごほんだなんて……。
「そうね」
だが、彼女は気分を害した様子も無く、一言だけそう呟くと、やはり、笑った。
困ったような、だが、何かを懐かしむような顔で。
「気をつけないと、こわれちゃいそうだね」
「ふふっ……」
その言葉に配慮したのか、あるいは実際にバラけてしまいそうだったのか。
彼女はゆっくりとページをめくった。
一枚目。
今とさして変わらない、皺の刻まれた、だが美しい顔をした彼女がそこにいた。
写真はカラーだ。だが今と大きく違うのは、彼女が杖の力を借りずに
地面に立っている事。まだ彼女が病に冒される前の写真――
「これ、北海道?」
彼女の背後には、紫色の花が咲いていた。それがラベンダーという名前の
花である事を、その時の僕はたまたま知っていた。
「ラベンダーでしょ、これ。この前クラスのトシ君が写真見せてくれた。
北海道旅行の写真だ、って言ってた。だからこれ、北海道の写真でしょ!」
推理を得意げに披露する僕を、彼女はニコニコと見つめている。
「……ちがうのかなぁ」
肯定の頷きが無いのを不安に思った俺がしょんぼりし始めたのを見て、
彼女はその写真をボロボロのアルバムから取り出した。
「ごらん」
一言だけ言って、僕に写真の裏側を見せる。
そこには『君江 北海道 ラベンダー畑にて』と書いてあった。
「あっ、やっぱり北海道だ! へへー、僕の思ってた通りだね!」
「ふふっ……」
彼女の手が、俺の頭を撫でてくれたのを、今でも覚えている。
その手の、少し骨ばっていたけれど、柔らかい感触を、今も。
「他にも見せてー! ばーちゃの写真みせてー」
ゆっくりと頷き、ゆっくりと再びアルバムに手を伸ばす。そしてゆっくりと
ページをめくると、何枚か同じようなカラーの写真が見えた。
「ばーちゃ、元気だったんだねー」
そこに居る彼女は、見た目こそ、少しふっくらとしている以外、今と
ほとんど変わらない。だが、子供の目で見ても、そこに当時既に彼女が
失っていた、生気とでも言うべき要素は見て取れた。
故に、俺は口にしたのだろう。
「早くまた元気になれるといいね、ばーちゃ」
残酷な……何も知らないが故に、何もわかっていないが故の言葉を。
「そうね」
だが、彼女は笑った。そう一言だけ言って、笑った。
困ったような、だが、何かを懐かしむような顔で。
もっと、色々な事を知った後の俺なら……子供ではない、今の俺なら、
彼女が俺にアルバムを見せてくれた事を、その意味を、理解できる。
彼女は、知らせたかったのだ。
自分を。自分の全てを。
「あれ?」
ページを繰る手が、俺の漏らした呟きで止まる。
写真が、突然モノクロになったからだ。
「これ、昔のおしゃしん?」
彼女は、俺の疑問に頷く。
「……これ、ばーちゃ?」
再び、彼女は頷く。
そこに写っていたのは、彼女の姿だった。
彼女の、若かりし日の、姿。
「うわぁー」
俺は、子供だった俺は、感嘆した。
子供の目から見ても、若かりし日の彼女の姿は、美しく、輝いて見えた。
写真が白黒でも、随分と昔の物であっても、彼女の姿は全く色あせていなかった。
「キレイだね、昔のばーちゃ!」
これもまた酷い事を言ったものだと思う。これではまるで、その時の
彼女が綺麗ではないかのような物言いだ。
「あ、でも今のばーちゃもキレイだよ?」
流石に、誤解を招きそうな言葉だったと気づいたのか、俺は慌ててそう言い直した。
「ふふっ……ありがとう」
その慌てぶりが面白かったのか、それまでとは違う種類の笑みを、彼女は浮かべた。
何故か、それが妙に恥ずかしかったのは、よく覚えている。
「……けど、昔のばーちゃ、なんか……」
“言葉にできない”―― よく話には聞く言い方ではあるが、その時の
俺はまさにその状態だった。今現在ですらそうだ。子供だから言葉に
できなかったのではなく……本当に、彼女は、彼女の美しさは、言葉に
できない程だった。
改めて“惚れ直す”程に。
そうだ。
その瞬間、ようやくわかったのだ。昔の彼女を知って、彼女の……全てと言うには
まだ足りないけれど、俺の知らなかった彼女の姿を知って、その時ようやくわかったのだ。
俺は、彼女に恋をしていたのだ、と。
年老いて尚、彼女は輝いていた。その魂は、輝いていたのだ。
その輝きに……俺は、魅せられた。焦がれた。惹かれたのだ。
だから、彼女の隣にいられるだけで、それだけで嬉しかったんだ――
「……ばーちゃ」
「なぁに?」
「俺、ばーちゃの旦那さんになれる?」
素直であるが故にした、自分の想いに気づいたが故にした、幼稚な、
子供がするのに相応しい、それはプロポーズだった。
ずっと、彼女の傍にいたい。
だが、彼女は笑みで持ってそれに返した。
悲しく、寂しく、儚げな……今まで見た事も無い笑みで。
「……ごめんなさいね」
俺の初恋は、そうと気づいた瞬間に終わった。
「そっか。ざんねんだなー」
いや――正確には、終わっていた。
終わっていたのだ。
「……ばーちゃ」
黒と白の垂れ幕が、一体何を意味するのか。
それを学ぶ機会が、こうして訪れる事になるなんて……。
「お婆ちゃんに、ちゃんとサヨナラ言ってあげないと……ね?」
母に促され、棺の中を覗き込む。
そこには、彼女がいた。
彼女は……やはり、美しかった。まだ、魂がそこにあるのかと思える程に。
「この前、あんなに元気だったのに……おしゃしんみせてもらったのに……」
聞けば、あの日俺にアルバムを見せた後、床に入り……そして、それっきりだったらしい。
翌日家を訪れた彼女の家族が、冷たくなっている彼女を発見したそうだ。
涙は、何故か出なかった。何となく、あれがお別れだったのだと、そう気づいて
いたからかもしれない。あれは……あの写真を俺に見せてくれたのは、
形見分けのようなものだったのだ。今ならそう……はっきりとわかる。
だから、あの日俺は泣いた。家に帰って、一人になってから、わんわんと。
そして、その日俺は泣かなかった。彼女の姿を目にしても、これぽっちも。
なんとなく、わかっていたのだ……あの時、俺は。
初恋の終わりが悲しくて泣いた。それ以上に――彼女との別れが悲しくて泣いたのだ。
「……ばーちゃ」
棺桶の中の彼女は、もう微笑まない。
だが、目を閉じると、瞼の裏には彼女の微笑があった。
「さよなら」
だから、俺も笑った。
精一杯の笑顔で、お別れを言った。
こうして、俺の初恋は、終わった。
終わっていたのだと、そう気づかされた――
終わり?
ここまで投下です。
無口分が少ないですが、何か思いついたので。
GJだ…アンタスゲーよ。
感動のあまりなんか新たな属性に目覚めそうになった俺涙目。
)、._人_人__,.イ.、._人_人_人
<´ ばぁちゃあああぁぁぁぁぁぁッ! >
⌒ v'⌒ヽr -、_ ,r v'⌒ヽr ' ⌒
// // ///:: < _,ノ`' 、ヽ、_ ノ ;;;ヽ //
///// /:::: (y○')`ヽ) ( ´(y○') ;;| /
// //,|::: ( ( / ヽ) )+ ;| /
/ // |::: + ) )|~ ̄ ̄~.|( ( ;;;|// ////
/// :|:: ( (||||! i: |||! !| |) ) ;;;|// ///
////|:::: + U | |||| !! !!||| :U ;;; ;;;| ///
////|::::: | |!!||l ll|| !! !!| | ;;;;;;| ////
// / ヽ::::: | ! || | ||!!| ;;;;;;/// //
// // ゝ:::::::: : | `ー----−' |__////
俺の守備範囲が一気に5倍になった
308 :
名無しさん@ピンキー:2008/10/05(日) 00:11:35 ID:jp2I9J/w
亀ですまないが
>>156
>ポニーテールが印象的な美しい女性と嫌みのない笑顔の男性
ハルヒとキョン?
>>304 GJ! 乙でした
最近、小劇場の舞台で似たような(近くて遠い)テーマの作品見たのでよけいに↓
子供にパソコンの手ほどきを受けたおばあちゃんが、交際掲示板で知り合った冴えない青年と
=互いに本性を隠しつつ=
それぞれ病に立ち向かう希望・失恋から立ち直るきっかけを掴んで行く、っていう短編。
タイムマシンを開発して過去に戻るのですね、わかります
>>304 すげー!鬱というよりは落日の美みたいなのを感じた。
GJ!
>>310 そして若き日のばーちゃの旦那さんになるわけですね。
「…れきしが…かわった…」
「…たいむぱらどくす?…だ」
いや、既に亡い旦那だった訳だ
ばあちゃんは事情を知っていたが、話すわけにも行かず・・・
>>308 同氏による別作品の主人公である秋葉と雪春だと思う
幼馴染スレだっけ?
……
………
……………………キリトリ
ヤマオリじゃ・・・ヤマオリじゃ駄目なのか!?
>>323 お前折り紙やったことないな?
山折りは-・-・-・-・-・-だよ
>>324 ……?(急に無口になって小首をかしげて誤魔化してみようとするテスト
アレだ、折り紙無口少女だ、主人公と少女が折り紙が
きっかけで付き合いだしてハートがウォーミングなんだ!
無口とツンデレは相性は悪くなさそうだがこのスレじゃ見ないな
ツンは無口で表現しやすいけどデレが思った以上に表現しにくいんだよな
と途中で挫折した俺から一言。でも基本的に無口は万能属性だ
デレは無言でベタベタ甘えてくるでいいんじゃない?
>>329 逆に考えるんだ。
ツンの時は物凄い多弁で罵倒しまくりのSなのに、
デレになると物凄い無口で何されても悦んじゃうMになると、
そう考えるんだ。
>>327 想像したらなんか萌えた
主人公に褒められたりしたときに、真っ赤になって物凄い勢いで折りはじめたり
>>328からの流れに乗って、ツンデレ的小ネタ投下。
小ネタというには長いけど10レス貰います。
店員の挨拶を背に受けながら店を後にする。途端に、俺の前を歩いていた恋人の黒髪ロングストレートがふわりと舞う。
ああ、彼女が振り向いたのだ、と思った次の瞬間なにかずしりとした感覚を感じた。
「……信一先輩、持って」
さて日曜の昼下がり。つまり彩芽の買い物に付き合わされている俺の右手に新たな荷物が追加されたわけだ。
「全部彩芽の買い物なのに何故全部俺が持つのか」
「…………」
氷の眼差しが俺を射ぬく。身長差20cmの為、斜め下からえぐられる感じになる。
「女の子の上目使いは破壊力抜群だと良く聞くけど、全くその通りだなあ」
「今日は延髄切りな気分……」
いや、それ死ぬんじゃないかな、『切り』って。
「ごめんなさい」
俺がいうと彼女は絶対零度な視線を前方に向けてくれた。
「だいたい……男なんだから、自分から『持つよ』ぐらい言うべき」
「いや、紙袋の数が一桁台の時は言ってましたが?」
「……そんな昔の事は忘れた」
「おっ、カサブランカの台詞か」
カサブランカとは一昔前の名作洋画である。
「どうでもいいでしょ。もっと速く歩いて……この後はどうする?」
「そんな先の事はわからないぜ」
「……はっ!」
「ぎゃぼっ!?」
延髄蹴りが決まる。全くもって理不尽である。
「……全くもって理不尽って顔してる」
だってそう思ってるもの。
「……違うよ、信一先輩……先輩は私の、しもべ……躾をするのは当然……」
痛みにうずくまる俺を見下ろしながら女王様はニヤニヤと暗い笑みを浮かべていた。
「あ、彩芽と早瀬先輩!」
公園のベンチに座り(俺が金を出して買った)クレープに二人で食いついていると、何やら明るい声が聞こえてきた。
見ると、何やら活発そうな女の子が近づいてくる。
「君は……」
「ああ、彩芽のクラスメートで高橋って言います、はじめまして」
「はじめまして。……なんで俺の名前を?」
確かに、早瀬というのは俺の苗字なのだが。
「それはまあ……有名ですから。ねえ、彩芽?」
彩芽はモフモフとクレープをかじりながら、不機嫌そうな目をした。
「どういうこと?」
「先輩は結構人気あるんですよ?」
高橋さんが言う。座っていいですかと聞くので許可すると彩芽の隣について、続きを話し出した。
「ほら、先輩は生徒会副会長って事で良く人前に出るじゃないですか。だから顔とか知られてて。
みんな『かっこいいし、人望もあるよね〜』って」
「マジで!?みんながそんな事を!?はっはっ、そうかそう、かはぁっ!」
最後のは彩芽の水平チョップが心臓に当たったための悲鳴である。
「……高橋、あんまり先輩を……調子に乗らせないで」
「げほっげほ……し、嫉妬かい、彩芽?」
「うっ!!……か、勘違いって恐ろしい……私が先輩についてし、嫉妬とかっ、す、するわけない、のにっ」
「やーいツンデレ」
「キッ!」
口で言いなが絶対零度再び。それを見物しながら高橋さんはあははと笑った。
「大丈夫だよ、彩芽。『しかし早瀬先輩はドSな後輩の尻に敷かれている』って、みんな言ってるから」
「……私、Sなんかじゃ……それに、尻に敷くなんてこと、」
「早瀬先輩、そのありえない量の紙袋は全部彩芽の荷物ですよね」
「うん」
「なんか、全部先輩の足元に置いてありますね」
「全部俺が運んでるからな」
「……あは、あはは、敷いてるじゃん!」
「うぅ、高橋ぃぃ……!」
ポコポコとげんこつを繰り出す彩芽の頭を押さえなが爆笑する高橋さん。何だか仲間外れな気持ち、くすん。
仕方がないので近くの自販機でコーヒーを三本買う。
戻ってもまだアニメパンチ状態が続いていた。
「女王様、コーシーにございます」
「……だれが女王様か!」
アッパーをぎりぎりで避けた俺すごい。
「ごめんごめん。ほら、飲めよ」
「ぅう……」
ようやく落ち着いて缶を受け取る彩芽。俺は彩芽様の状態を確認してから、高橋さんにも一本差し出した。
「はい、どうぞ。……あ、コーヒーでよかったかなあ?」
「え?あ、はい!あり、がとうございます……」
受け取った彼女は、ぽーっとこっちを見ている。
「えと……なにか?」
「いや、早瀬先輩って女殺しだな〜って思って」
「え」
「これはモテるのも無理ないですね……私も今やばかったですもん」
「えぇ!?」
「っ!!?」
俺達の反応を見て微笑む明るい後輩は、これまた明るい声で言った。
「じゃあ、先輩に骨を抜かれる前に帰ります。コーヒーごちそうさま……あと、彩芽」
「……ぁによ?」
彩芽の耳にこそこそと喋っている彼女。最初はぶすっとしていた彩芽の顔が……なぜかどんどん青くなっていく。
表情もあわあわ、みたいな感じでなんとも頼りがない。
「じゃあ、先輩、彩芽、さよなら」
「おう」
ピラピラと手を振りかえす。高橋さんがすっかり見えなくなったので隣に目をやる。と、俺の女王はすっかり小さくなっていた。
「おいおい、なにを縮こまっているんだい?まあ、もともと彩芽は149cmしかないがな!」
「…………ごめん」
「あれ」
調子が狂う。いつもの切れが無い。彩芽は泣きたいのを必死に堪えているように見え、それが痛ましい。
「……これ飲んで早く帰ろうぜ」
「……わかってる……」
コーヒーはすっかり冷めていた。
帰り道。なぜか彩芽が紙袋を二つも引き受けてくれたので大分楽になったが、異様に空気が重いのでプラマイゼロ。
「彩芽、どうしたんだよ」
「別にどうもしない……」
ため息つく。さっき高橋さんに何か言われたんだろうけど。なんだろう……まさか、宣戦布告!?
俺を奪い合うための血みどろバトルがっ!?
「ああっ、彩芽!駄目だ、延髄蹴りは女の子相手だと命に関わる!!」
「……?」
「……」
「…………はあ」
ため息をつかれた。流石に放っておけないだろう。出来るだけ優しい声で聞く。
「さっき、高橋さんになに言われたのか解らないけど、あんまり気にするなよ」
「……別に気にしてない……」
「してるじゃん」
「…………」
「もう八年もずっと一緒にいるんだからさ、わかるよ」
「…………先輩には関係ないこと、ほっといて……もらえると、うれ、しい」
いや、明らかに関係あるよな、俺に。そうこうしているうちに彩芽の家に着いた。
彼女の両親は共働きで家に居ないことのほうが多い。今は二人共海外らしく、帰ってくるのは来月だそうだ。
鍵を開けた彼女の小さい背中が、何も言わずに家の中へ。慌てて後を追いかける。
荷物を置いて彩芽の隣へ腰を下ろす。彼女は肩にかけたバッグもおろしていない。帰れともなんとも言わない。
「……彩芽」
「なによ……」
「俺は彩芽の恋人だろ。なんでも話してくれていいじゃないか」
「……だから別に」
「彩芽……」
「なによ!」
ブン、とバッグが振り回される。金具が俺の左肩の辺りを上手い具合に引っ掻いた。
「いつっ……!」
「し、信一せんぱっ……!」
「あ〜、血出てるな」
まずい。まずいのは俺じゃなくて彩芽だ。
「ふ……ぐすっ……あ、あぅぅ」
もう完全に泣き出してしまった恋人を抱きしめてやる。泣いている表情を見られるのが嫌な娘だから、胸に顔を押し付けてきた。
「……ごめん、なさい…………うぅ……」
「……」
俺は八年前を思い出しはじめていた。
小学校の生徒玄関を抜けると酷い雨だった。置き傘しといてよかったな、と考えながら下校する。
といっても家までは徒歩で5分とかからない。友達ともあっという間に道が分かれる。
そして、あとはあの角を曲がれば我が家だというその時に、俺は彼女を見つけた。
とりあえず家に連行してシャワーを浴びさせる。しばらくして俺が貸してやった服を着た女の子が居間にやって来た。
「……で、なんであんな所にいたの?」
あんな所にとは雨の降りしきる屋外の事だ。さすがに、びしょ濡れになり体育座りで泣いている女の子を無視は出来なかった。
「…………ご」
「ご?」
「ごめん、なさい」
「いや……そうじゃなくてさ〜」
「…………」
俺のほうこそ泣きたくなってきた。女子ってわからないな〜。とか言ってもいられず、俺は彼女の頭を撫でてみた。
「!」
父さんにやってもらうと、なんだか嬉しい気持ちになれたから、まあこの娘も元気になるだろうと、そう思っての行動だった。
「え〜と、君何年?」
「…………2年」
「じゃあ俺の一つ下だな。俺は早瀬信一ってんだけど、君は?」
「…………林、彩芽です」
「林さん、ね」
「…………」
「ねえ、なんであんな所にいたのさ?」
同じ質問を返す。と、ぽつぽつと話し始めてくれた。
つまり、鍵をなくして、親が帰ってくるのが夜中で途方にくれていたらしい。
「それで、泣いてたのか」
「…………いや、その……」
「……悩みがあるなら言った方がいいよ」
「っ!?」
「って、父さんが言ってたんだけど」
照れ臭くなって頭をかく。彼女はしばらくポカンとして、ついにはなんと泣きはじめた。
「は、林さん!?」
「……わたじ、わたじ……口下手で……ぐず…………友達も、いないし……」
「…………」
「私が…………雨でビショビショで……すごく寒いのに、ママもパパも……いな、ぐて……
私なんて…………いらない子、なんだあぁ……ひっぐ、ああ」
「……じゃあ、俺が林さんの友達第一号な。友達だから彩芽って呼ぶぞ」
「…………え?」
彩芽は目を丸くする。俺は構わず続けた。
「彩芽は俺の友達だから、いらなくなんかないぞ」
「あ、ああ……」
「よろしくな、彩芽!」
言って手を差し出す。泣きやんではいないが、目の前の彩芽は笑顔になっていたので、俺は満足だった。
「……よろし、く……!」
あれから彩芽はだんだんと口下手なのを克服。今でも無口な方のようだが友達は沢山いるみたいだ。
家が近い事もあり、あれから俺達はいつも一緒にいた。
彩芽はだんだん明るくなり、だんだん強気になり、去年彩芽から告白され、気付けば彼女に振り回される毎日。
「…………高橋が、ね」
彩芽が不意に語りだす。顔はまだ俺の胸元に埋まっていた。
「『自分ならもっと早瀬先輩に尽くすのに』って言ってる人、沢山いるから……しっかりしないと危ないよって」
「……ふ〜ん」
「…………私、いつも素直じゃないし……いや、かなって……」
彩芽の腕に力が入る。
「ごめん……なさい。私、もう、信ちゃんがいないと……駄目、なの。嫌いになんないで……信ちゃ……」
「彩芽」
あごを持ち上げ視線を合わせさせる。
「俺は彩芽のこと好きだから」
「っっっ!!」
彩芽が顔をくしゃっと崩して笑顔を作る。八年のあの日の顔によく似ていた。
「彩芽……」
「ん…………」
今日最初の口づけをした。
「……痛い?信ちゃん?」
彩芽が先程の傷をペロペロ嘗めながら聞いてきた。
「痛くないよ」
空いている方の手で頭を撫でてやると彩芽は嬉しそうに目を細める。
「可愛いな、彩芽」
「…………」
彩芽は頬をますます朱くして舌を動かす。呼び方が先輩から信ちゃんに戻った時は、昔の、今より無口だった頃の彩芽のように甘えてくる。
いつもの凛とした感じからは想像もつかないが、こっちが本来の彩芽だ。口数も、あの頃のレベルまで少なくなるのだ。
「彩芽、もういいよ、ありがとう」
「あ……」
彩芽をベッドに押し倒しキスをする。
「ふん……ふぁ、くちゅ、んむ……ちゅぱっ……じゅ……んぅ……」
歯を開かせ舌で口内を蹂躙する。彩芽は必死に応えてくれる。彼女は俺のシャツを強く掴む。
「ん……ちゅ……ぷ、ふぁ……あ、あ」
唇を離すと、彼女は虚ろな目でこちらを見ていた。
「キス、もっとしてほしい?」
彩芽が素早く首を二回縦に振った。
「…………でもな〜」
「?」
「俺は彩芽のこと大好きなのに、さっきは勝手に自己完結されて悲しかったからな〜」
「はうう……」
ちょっと可哀相に見えるけれど、これは本気で言ってるわけじゃないと彩芽もわかっている。
いうならばお互いに高めあうための儀式だ。彩芽は逡巡し、真っ赤な顔でスカートを自分から捲くり上げた。
「じゃ…………お、しおき、して……」
「なんだって?」
「あ、あやめ、悪い子だったから……お仕置きしてください……」
「……よし。まず、そのままおっぱいを揉んでごらん」
「ぅ、ん…………あ、あ、あ、あ、あ、あ……」
彩芽はスカートをズリ上げた状態で横たわったまま右手で胸を弄りだす。だらし無く開いた口からヨダレが流れ出した。
あられもない幼なじみの姿に堪えられなくなり、俺は彩芽の口へ指を突っ込む。
「むぐぅっ!」
「彩芽、ヨダレ零したらみっともないぞ。栓しといてやるからな」
「ん、ふぁい……」
指を必死にしゃぶりつつ彩芽は右手を休まず動かす。
「く、ふぁ、むぐ……んあ、あう、ちゅ、ぐちゅ……あう、ああう」
美味しそうな顔で俺の指を味わっている。舌がぬるぬると表面を撫で回してくる。そろそろか。俺は彩芽の耳元に口を寄せた。
「彩芽、お仕置きなのに随分嬉しそうだね」
Mっ気がある彩芽がこういう責めが一番好きなことは、よく知っている。
「ん、ふく……あふ……」
「お仕置きなのにパンツ見せて、胸揉んで、それで指を突っ込まれて興奮してるんだろ?」
「んんっ〜〜」
「違うの?」
ああ、俺今、意地悪な顔してるだろうな。しゃぶられていない方の手を彩芽の肩に置く。
ピクンと反応したが自らへの愛撫と指しゃぶりはとまらなかった。
「じゃあ、下がどうなってるか確かめような」
手をそのままパンツの中に滑らせる。
「!」
「あ〜あ、下もヨダレでびちゃびちゃじゃないか」
「あふ、あ、ん!かふぁ!」
彩芽は目を細めながら首をブンブン振った。一回、口から指を抜いてやる
「んあ!……あ……」
「なあ、下の口もヨダレ出ないように栓してやろうか?」
「う…………」
ごくり、と唾を飲む音が聞こえるようだった。しかし、肉欲には負けたのか、ゆっくりと頷く。
「じゃあ、自分でお願いしないと」
「……し、て……」
「…………」
「あう……指で下のお口、栓して……!」
「よく出来ました」
上下同時に指を突っ込む。
「あううううっ!!!うん!んちゅっ!あふ!あふ!あうあ!」
肉壁を引っ掻くようにして中指を曲げるたびに彩芽が身体を震わせる。
「んっ、んっ、んっ、んっ……ぅんん!」
彼女の腕はいつの間にかシーツを強く掴んでいた。激しい刺激にすっかり夢中のようだ。
「……彩芽、そろそろイくんじゃないのか?」
「う〜、ん、ふあ、あう」
首がガクガクと縦に揺れる。
「彩芽、イけっ」
「んーーーーーっ!!」
言葉が引き金になったのか、彩芽は狭いパンティの中で潮を吹いて果てた。指を抜くといやらしい糸を引いた。
「はあ、はあ、はあ……」
ああ!なんて幸せそうな表情をしているんだ!無意識でやっているであろう、俺だけが見れる顔。
「……よく出来たな。じゃあご褒美あげないと……」
「はあ、はあ、んちゅ……ちゅ、くちゅふ、ん、んう……」
もう彩芽は貪るように舌を絡めてきた。身体を抱きしめるとふるふると震えている。小動物的な可愛さに俺はすっかりやられていた。
「ん…………彩芽……入れるよ」
「ふぅ……ふぅ……」
彩芽は期待に濡れた目でこちらを見つめ、頷いた。二人で裸になり、またキスをする。
「ん…………信ちゃん……」
「なに?」
「今日は…………お仕置き、だから……信ちゃんに……おもいっきり激しく……してほしい……」
照れて言う彩芽に俺の胸が高鳴る。
「わかった。俺がどれだけ彩芽のこと好きがわからせてやるよ」
「う、ん……う、ひゃ、ああああいい!」
いきなり突かれて彩芽は叫び声をあげた。腕にぎゅっと抱きしめられる。
「……彩芽。いつもより絞まるよ……乱暴にされて嬉しいんだろ」
「う、んっ……!信ちゃんの女に、されてるって、ん、感じる……すごい!いい、の、あ、ふにゃああああ!」
快楽に蕩けた笑顔で嬉しそうに彩芽が絶叫した。膣内の上を擦るようにして剛直をピストンする。
「ふあっ、あ、あ、そこ、当たってゅ!……あそこが、おち、んちん、ゴリ、ゴリこしゅれてぇ……!」
控え目な胸も弄ってやる。彩芽がヨダレを吹き出した。
「ふうぅんああっ!んああ、おっぱいっ!らめ!らめ!」
「駄目?」
「んは、いぢわりゅ!だめじゃない……気持ち、いあ、んっ、いい〜〜!」
更なる快感を求め、自分から腰を振る彼女のクリトリスを摘んで引っ張る。
「かはあああっ!ああ!ああ!ああ!らめっ!死んじゃ、う、いい、凄いの、凄いのくるっ!」
「いいぞ、いけっ彩芽!」
「あっぐぅうううっ!信ちゃあ、信ちゃあ好きだよ!ああ、信ちゃの熱い!きもひいいの〜!」
そろそろ留めを刺さないとこちらがまずい。俺は今までで1番深くつきこんだ。
「にゃあ、いっちゃう、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ!ああぁぅうううううううううううっ!!!」
彩芽の深い所に吐き出すと、頭じんとするほどに愛しい気持ちになり、華奢な身体を抱きしめた。
「…………信ちゃん、好き」
「ああ、俺もお前にぞっこんだ」
「あ、ふう…………信ちゃん、好きぃ」
後はもうキスをするだけだった。
「じゃ……信一先輩、持って」
さて翌週の日曜。これまた昼下がり。つまり彩芽の買い物に付き合わされ以下略。
「全部彩芽の買い物なのに何故全部俺が持つのか」
「…………いや?」
「そんなふうに首を傾げるのは反則だと思います!」
「今日は…………クレープおごる」
「え?」
「…………お礼」
彩芽はニコリと笑った。
しばらくして、先週と同じベンチで奢られクレープを貪っていると、またまた高橋さんが現れた。
しかも今度は友達らしき人を数名連れている。高橋さんは明るく言った。
「こんにちは!先週もいたからもしかして、と思いましたけど、やっぱり居ましたね!」
「うん、まあ……」
とりあえず愛想笑い。日本人バンザイ。すると、取り巻きが騒ぎ立てる。
『や〜ん早瀬先輩、始めてこんな近くで見た』
『微笑が素敵ですぅ!』
「あ、ははは」
ちらりと横を伺う。俺の彼女は……意外に涼しい顔をしていた。
「早瀬先輩!どうですか?私たちの中から誰かに乗り換えるのなんて」
『私、尽くすタイプだから先輩にやな思いさせませんよ!』
『この際側室でもいいですぅ!』
「いや……俺は」
「……信一先輩は……信ちゃんは、私にぞっこん……」
「え?」
突然に彩芽が言う。と思ったら。
「むぐっ!?」
「あら」
『や〜ん』
『ですぅ!』
いきなり唇を奪われた。彩芽は俺を解放して立ち上がり、歩きだし、言った。笑顔だった。
「じゃ……いこ?」
……こんな顔見せられたら、ぞっこん度も上がるってもんだ。俺は残りのクレープを押し込むと紙袋を持ち上げる。
やるじゃん、とでも言うかのような高橋さんのサムズアップに苦笑いを返し、“しもべ”は女王様の後を追い掛けるのだった。
属性的には無口・ダウナー系ツンデレになるかと思われます。
ありがとうございました。
乙だ。
このスレ初のリアルタイムだ
GGGGGGGJJJJ!
……GJ。
ぐっじょぶだ!
デレたツンデレは無敵だね。
しかし……あぶねー、小ネタだけど被るトコだったよ。
一レスで収めようとしてエラー起こさなかったらやばかった。
少し時間空けるなー。
>>349 そんなことを気にする必要無し。
書きたいものを書くのがエロパロだ!
つっても前の投下から24時間くらい開けるのはマナーだけどなw
>>344 GJ!
だが普段と立ち位置逆転とかあるあるネタ過ぎてちょっと
……ふぅ
>>348は投下が割り込みそうだったと言っていて、
>>349は同じネタを使いそうだったと言っている、
と言ってみる。
>>351 んじゃ、投下は明日にした方がいい?
確かに勢いだけで書き上げたもんだから、少し推敲したいところだし
>>352 別に24時間も開ける必要はないと思うが…
スレの空気を見て、投下できそうなタイミングを見極めるのもまた職人のスキルの一つかと
投下が混ざって1レス毎に別のSSになるのもそれはそれでカオス的に盛り上がる
>>332 「よう、進んでるか?」
「…………………」
いつものように無造作に部屋に入った俺は、アイツの背中に声をかける。
でも、返事がないのもいつもどおり。
アイツはこっちは見向きもせず、一心に折り紙を続けている。
折り紙と言っても、10cmそこら四方のものを折って鶴だのカブトだの作る、あのレベルの話じゃない。
アイツ自身をそっくり隠せるくらいの巨大な紙を、しかしそれ一枚のみを寸たりとも切りもせずに
折って折ってひたすら折って延々折って、それで作り出す職人芸だ。確か、今作ってるのはオロチだったか。
そうして出来上がった「作品」は確かに、とても一枚の紙から折り出したものとは思えないほど精緻で、
躍動感に溢れる。世間で「神の手による」なんて評価がされるくらいだ。
だが、俺にとっちゃあそんな評価はよく判らない。確かにすごいとは思うし、実際にこうして時折
作業工程を覗いてる俺でも、なんで一枚の紙がああも立体的に折りあがるのかさっぱり理解不能なくらい、
常人には及びもつかない技能だって事はわかる。
だけど、俺にはそんなことよりも(そんなこと、だ)大切な事があるわけだ。
「ほれ、メシ作ってきたぞ。今日はお前の好きなおかかのおむすびだ」
「…………………」
相変わらずこちらを振り向きもせず、一心不乱に手は休めないながら……アイツは確かに頷いた。
ちゃんと聞こえてたらしい。集中すると周りの声すら聞こえないし、下手に集中を乱すとどこまで
折ったか判らなくなるとかで、いつも気を使う……と、周りの人間は言う。
俺は知ったこっちゃないけどな。
アイツの作品は、確かにすごい。
つまり、それだけ集中して、時間をかけないと出来上がらない。当然の話だよな。
実際、でかいものだと月単位の作成期間がかかる。
そして、その一日に定めた作業時間を、アイツは天才らしい集中力で一気に折り続ける。時には定めた
作業時間を超過してるのにも気付かずに折り続ける。文字通りの意味で、寝食を忘れて、だ。
実際、作業に集中するあまり、ぶっ倒れた騒ぎだって過去に起こした事もある。
さすがにそれは、幼馴染として寝覚めが悪い。
だからこうして、俺がコイツの作業の間、メシ時のたびにつききりで面倒を見てるって寸法だ。
……正直しんどいし、面倒くさい。だが、なぜだか俺以外の人間が作業中に近寄るのを嫌がるし、
俺が面倒を見なければ本気でぶっ倒れるまで続けるしで、どうにも止めるに止められない情況になってる。
そんなわけで、幼馴染思いの健気な俺は、こうしてメシの世話を焼いているのである、まる。
「ほれ、気をつけて食いな」
「…………………」
手を休めず、手元から目を離さず、アイツは僅かに顔を傾けた。
俺はその口元に、おむすびを差し出す。
あむ、と小さく一口かじりつくアイツ。そのままもむもむとゆっくりとかみ締め、やがてこくんと
小さく喉を鳴らす。それを見届けた俺は、二口目を提供するべく、再びおむすびを口元に寄せる。
その間も、アイツの手は片時も休まない。さすがにメシを食いながらだけに、いつも見てるよりは
スピードは落ちているものの、一折一折、丁寧に作業を続けている。
なんていうか……アイツの白くて細い指が滑らかに動いて、一枚の紙を変幻に変化させていく様は、
よく判らない俺でも見惚れるものはある。
「…………………」
「と、すまねぇ」
アイツの手元に見とれてた俺が、ふとその手が止まったのに気付き顔を上げると、訝しげにこちらを
伺うアイツと目が合った。手元に目を奪われてた俺は、アイツがおむすびを飲み下したのを見逃しちまい、
いつまでたっても次の提供が来ない事に不審がられたようだ。
俺は慌てて、またアイツの口元におむすびを寄せる。
だが――アイツの目は、おむすびにも、折り紙にも向かうことなく、じっと俺の目を見つめたままだ。
咎められてるような気がして、俺は謝った。
「わりぃ、ぼーっとしちまって」
「…………………」
だが、アイツは小さくふるふると首を振った。怒ってる……わけじゃないのか?
だったら、なんだってアイツは……?
妙に焦ってそんなことを考える俺をよそに、アイツは小さく口を開いて。
「…………あたし、迷惑?」
そんなことを聞いてきた。
珍しい、アイツの方から口を開くなんて……どうやら、こいつなりに、俺に面倒見られてることを
気にしてたらしい。
俺は苦笑いした。
「――もう慣れちまったよ」
「…………………」
俺の言葉に、アイツは小さく首をかしげた。
しんどいし、面倒くさい。それは確かに俺の正直な気持ちだ。
でも、それは裏を返せば、見捨てられないって事。そうだよな、本当にイヤなら、止めちまえばいい。
もう何度かぶっ倒れれば、アイツだって改めるだろうし、それで俺もお役御免。
だけど、そうしないのは……やっぱり、俺だってアイツに続けて欲しいからだろう。
そう、それに……。
「――お前の指がきれいに動くとことか集中してる顔とか、眺めんのもわりと嫌いじゃないしな」
「…………………!」
そう。世話はしんどいけど……アイツが折り紙に打ち込んでるのを応援するのは、そんなに嫌でもない。
……ん? ふと気がつくと、なにやらアイツの顔が赤いような……?
「どうした? 顔赤いぞ?」
「…………………!」
俺は、熱でも測ろうかと、アイツの額に手を伸ばす。
だが、アイツは俺の手から逃げるかのようにばっと顔を背けると、俯いて折り紙の方に顔を向けなおし。
「…………………!!」
「お、おい……?」
ものすごい勢いで、折り紙を再開した。
そ、それにしても……なんてスピードだ! しかも手さばきに寸分の狂いもない!
今まで俺が見てた時のは、本気のスピードじゃなかったってのか?!
俺は驚愕しながらも、恐る恐る声をかける。
「おい……メシはもういいのか?」
「…………………」
俺の声に、アイツは応えない。俺は小さくため息をついた。集中モードに入っちまったらしい。
こうなると、もう俺の声は聞こえない。邪魔しちゃ悪いし、退散し時だな。
俺は手早く片付けると、そっと扉を開けて部屋を出て行……。
「…………………ねぇ」
「ん?」
行こうとしたとき、俺はアイツに声をかけられた。
俺は室内を振り返る。アイツはやっぱり、こっちに背中を向けたままだ。
「………………今度は、ツナのサンドイッチがいいな」
「……おう、期待して待っとけ」
「……………ん」
俺は、こんなささやかな一言で自分でもバカらしいくらいにやる気が出てくるのに苦笑いしながら、静かに
部屋を出て扉を閉める。
さぁて、次のメシも、精一杯に腕を振るうとしますかね――!
それにしても……なんだってアイツ、急に本気モードになっちまったのかね?
余談……予定は大幅に前倒しとなり、今回の作品はその日の夜には完成した。
のちにアイツも「自分自身、どう折ったか良く覚えてない」と評したこの「ヤマタノオロチ」は、
その折り紙とは思えぬ精緻さとにじみ出るような迫力で、アイツ自身にも再現不能の幻の
代表作となるわけだが……。
作成中の名前は、単に「オロチ」だった事をアイツと俺だけが知っている。
そんな感じで、面倒見のいいおさんどん男と、子供の頃に彼に折り紙を褒められて熱中するあまり
プロとなってしまった無口折り紙少女でした。
359 :
326:2008/10/14(火) 23:47:16 ID:qiL/JFOj
>>358 スゲーGJ!ここまで細かく言ったこと書いて貰えるとは!
361 :
332:2008/10/15(水) 13:27:35 ID:tX6F8EUO
まさか書いていただけるとはw
感謝感激雨あられGJ!
362 :
名無しさん@ピンキー:2008/10/16(木) 07:19:51 ID:6bMaW1HV
浮上
>>358GJ! おもしろかった。ヤマタノオロチwwwパネェw
エッチの時はマグロだな。男の方が「ここを山折りにして……」とか
言いながらM字開脚させたり、「ここで折り返して……」とか言って
まんぐり返しにしたりするに違いない。えろす。
>>363 お前はアホかwwwww
いいぞもっとやれ
>>363 本当にバカだよ、お前さんは。
脱帽した! 尊敬した!
366 :
352だが、:2008/10/16(木) 23:47:19 ID:nwnhL9ao
むしろヤマタノオロチに363がアホなオチを付けてくれて、禅画で言う「賛」になったからよしとしよう
リベンジには期待
リ
>>358 GJ!
同じく折り紙少女を書いてた俺ととしてショックを隠せないがな!
内容全然違うから構わず書いてるけど。
370です。
>>326で書いてみました。
投下です。
とある放課後、俺は友人に頼まれて図書室に本を返しにきた。
そのついでに図書室の中を回ってみたが漫画専門の俺にはやはりここは無縁の場所のようだ。
利用者も少なく、活字離れが進んでるなぁと自分を棚に上げて真面目ぶった感想を抱いていたら、
数少ない利用者の中に見知った顔があった。
クラスメートの女の子、三上だ。
「よう。なにしてるんだ?」
声をかけながら彼女の正面に座る。間に長テーブルを挟んでいるが話すのに支障をきたす距離ではない。
三上は俺と目が合うとにこりと微笑む。
笑ってないで質問に答えろや。とか言ってるとこいつとはとても友達にはなれん。
三上は無口で大人しい女の子だ。人付き合いは苦手のようだがそれでも彼女を好意的に思う奴は多い。
それは彼女がとても心優しいと皆知っているからだ。
……いや、まぁ……見かけが可愛いってのもあるんだけどな……正直な話。
それはともかく。
「……折り紙に……折ってんのは鶴、か?」
彼女はこくんと頷く。
その姿は実に小動物チックで可愛い。
……だからそういうのは置いとけって、俺。
というか用意されてる折り紙も出来上がった鶴もその数が半端じゃない。
せっかくの放課後になにをやってるんだ、こいつは。と思ったが大量の折り鶴といえば思い浮かぶのが1つ。
「千羽鶴、か?」
またも彼女はこくんと頷く。
よっしゃっ。正解だぜ! と素直には喜べない。
千羽鶴を作っているって事は誰かに贈るつもりなのだろう。その贈られる相手は病気かなにかなんだから喜べるわけがない。
「…………お婆ちゃんにあげるの」
小さくか細い声だったが俺の耳にはしっかりと届いた。
耳だけじゃなくて心にも届いた。
「よっし! 俺も手伝う」
三上は驚いているようだったが折り紙を取る俺を見て、ありがとう。と小さく呟いた。
☆☆
さて今から鶴を折る事になったわけだが…………折り方がわからねぇ。
最初は三角にするんだっけ? それとも四角だっけ?
よくこんなんで手伝うと言えたもんだと我ながら思う。
迷っている俺を見て、三上は自分の手元を見せる。
ゆっくりと始めから折り、俺がもたついても急かさず待っていてくれる。
そうやって何とか出来上がった鶴は三上のピシッとして綺麗な鶴とは違い、よれよれでしわくちゃのみすぼらしい出来だった。
……不器用過ぎないか? 俺。
「わ、悪い。三上。自分から手伝うとか言っといてこんなんで……」
彼女はふるふると首を横に振る。
「…………嬉しい」
俺の作った下手くそな折り鶴を大切そうに持ち、はにかみながらそんな事を言ってくれる。
そんな事をされちゃやる気が出ないはずがない。
俺は新たに折り紙を手に取り、教えてもらったばかりの鶴を折り出した。
「…………」
……まぁやる気だけあっても仕方ないんだが。
丁寧に丁寧にとやると時間がかかるし、それでいてまだまだよれよれだ。
それに比べて三上は俺が1つ作る間に3つ以上は作り、それでいて俺の何倍も綺麗に出来ている。
それでも何個も作っている内に何とか見れるだけの出来にはなってきた。
先にも言った様に三上は無口なので会話といえば俺が質問して三上が端的に答えるくらいなものだったが、
その三上が自ら積極的に喋ったのが彼女の祖母の事だった。
自分はお婆ちゃん子だという事。
お婆ちゃんは凄い優しい人だという事。
折り紙はお婆ちゃんに教えてもらったという事。
物静かに、でもとても嬉しそうに語る三上。彼女がどれだけ祖母の事が大好きなのかが伝わってくる。
三上の声に耳を傾けているとつい手が止まっていることがしばしばあり、彼女がやはり嬉しそうな声色のまま注意してくれた。
そんな彼女の声色が少し落ちる。
「…………お婆ちゃんが先週倒れて……入院したの」
俺は何も言えなかった。
慰めの言葉なんかまるで思い浮かばない。
「私に出来るのは、こんな事だけだから……」
三上は寂しげに出来上がった鶴を撫でる。
そんな顔をしないでほしい。俺は頭の中から何とか言葉を捻り出す。
「……お婆ちゃんは嬉しいと思うよ」
「……そうかな?」
「当然! 可愛い孫の贈り物を喜ばないお婆ちゃんはいないって!」
そうだね。と三上は微笑んでくれた。
☆☆
それから数日間、放課後になると三上と一緒に図書室で鶴を折った。
三上が祖母のお見舞いに行く日は1人で折った。
それを三上は申し分けなさそうにしていたが俺がやりたかったのだ。
彼女の優しい気持ちの手助けを少しでもやりたかった。
そんなある日、三上が学校を休んだ。
担任の教師によると彼女の祖母が亡くなった為だという。
千羽鶴は間に合わなかった。
☆☆
その日の放課後、俺は図書室に向かった。
ここ数日の習慣とはいえ、もう行く意味はないというのに。
感傷に浸りたかったのかもしれない。
或いは見知らぬ折り鶴の送り相手への黙祷の為か。
図書室に入り、いつもの指定席へ視線をやると居てはいけない人物が目に映った。
俺は思わぬ人物の元へ駆け寄った。
「なにやってんだよ!? 三上!」
「…………」
三上は答えず、それどころかこちらを見ようともせず、ただ一心に手を動かしていた。
彼女は――――鶴を折っていた。
「三上っ!」
俺は彼女の肩を掴み、強引にこちらへ振り向かせた。
彼女の表情は悲しみで歪んでいて、俺と目が合うと途端に瞳に涙が溢れ、零れた。
彼女は顔を伏せ、嗚咽を漏らす。
俺は一気に狼狽した。
頭が真っ白になって、何を言えば良いのか全く分からなかった。
祖母が入院したと彼女が言った時、俺は慰めの言葉が浮かばなかった。
そんな俺が大好きな祖母を亡くした彼女にかける言葉があるはずがない。
それでも、それでも彼女の為に何かがしたかった俺は彼女の頭を撫でた。
これが慰めになるか分からないがそれでも俺は彼女が泣きやむまで撫で続けた。
三上が嗚咽と共に漏らした言葉と落ち着いてからの話を総合するとようやく彼女がここにいる理由が分かった。
三上は祖母が亡くなった事を受け入れたくなかったのだ。
大切な人を亡くして、それは仕方ない事だとすぐに受け入れられるほど彼女は大人じゃなかった。
葬式を抜け出して図書室で祖母の為に鶴を折っていればまだ祖母が生きているのだと錯覚出来ると思ったそうだ。
でも、死んだ人間を生きていると思い込めるほど彼女は子供じゃなかった。
むしろ、鶴を折れば折るほど祖母はもういないのだと思いしっていったという。
「……そっか。三上の事情も知らずに怒鳴って悪かった」
「…………」
ふるふると三上は力なく首を振る。
俺の手はもうすでに彼女の頭から離れ、途端に何をすれば良いのか分からなくなる。
「…………ごめんね」
「……なにがだよ?」
「……手伝ってもらったのに…………」
「……気に、すんな」
顔を伏せたまま三上は言う。まだ少し涙声で胸が締め付けられる。
「……間に合わなかった。こんなことならもっと……お見舞いに、いけばよかった……」
「…………」
「ごめん……お……ちゃん…………ごめ……もっと……もっと…………」
「…………」
俺は何を言えばいい。
何を言えば励ませられる。
何を言えば元気付けられる。
「…………」
わからねぇ。
わかんねぇよ!
そんなのわかったら苦労しねぇんだよ!!
「…………もっと、話したかった、よ……。やだ……もっと……」
せっかく落ち着いたというのにまたも嗚咽が交じりだした。
彼女の手にはいつの間にか鶴が握り締められている。
「……こんなの……意味ない…………むだ、だった…………こんなの……」
「そんな事言っちゃ駄目だ」
俺は思わず言葉を被せた。
これが彼女にとって慰めになるのか、元気付ける言葉になるのかは分からない。
それでもこれは否定しなくちゃならない。
彼女の為にも、彼女の祖母の為にも。
「その鶴はお婆ちゃんの為に折ったんだろ。お婆ちゃんが早く直りますようにって願いを込めたんだろ」
「…………」
「そんな想いを込めた三上の『心』そのものだろ?
そんな心の詰まった鶴に意味ないとか言うなよ。無駄とか言わないでくれよ」
「…………」
「お婆ちゃんは絶対嬉しかったはずだ。
千羽鶴だからじゃない。大好きな孫が一生懸命自分の為に折ってくれたものだからだ。
心を込めて折ったんだろ? 大好きなお婆ちゃんの為に折ったんだろ?
だったらそれは大事なもののはずだ。
三上にとっても三上のお婆ちゃんにとっても」
頭に浮かぶ言葉を全部ぶちまける。
口に出せばまるで慰めになってないと気付くが止まらない。
「渡してこいよ、鶴」
「……でも!」
もう、いないんだよ。と図書室の静寂にも掻き消えるくらい小さく三上は呟く。
「それでも、だ」
勢いで喋った自分を落ち着かせ、言葉を選ぶ。
「三上の心が詰まった鶴で、お婆ちゃんを……お婆ちゃんを天国へ連れていってやれ」
「…………」
「お前の優しい心で包まれれば、きっと幸せだと思う」
「……そうかな?」
「当然だ。お前を見てれば分かるよ。お婆ちゃんがどれだけお前の事が好きなのか」
そうだといいな。と三上は微笑んだ。
☆☆
一週間が経った。
葬儀やら何やらを終えて、ようやく三上が学校に出てきた。
クラスの皆の慰めに彼女は微笑んで返した。
俺も一言二言話し、割と元気な様子に安心した。
そして放課後、俺は図書室に向かう。
いつもの指定席に座っていると、前の席に誰かが座る。
視線を向けると予想通り三上だった。
彼女の表情は何かを語りかけたい様だったがそれが中々口までいかないようだった。
祖母の葬式の事。
その場でもやはり泣いてしまった事。
それでも、祖母の為に心から見送った事。
それらを三上が語ったのは結局、後日になってからなわけだが。
今日、この場での会話の一節を語るのならこいつだろう。
俺は三上が休んでいた間の学校での出来事を語っていたが、彼女の注意はいつの間にやら俺の手元に向けられていた。
喋りながらも手を動かせるようになったのは少し自慢だ。
三上は無言のまま、表情で何をしているのか問うてきた。
「あー……元気になってほしいヤツがいてな」
「…………」
「病気ってワケじゃないんだが……落ち込んでるかと思って」
「…………それで、鶴?」
「……あぁ。他に思い付かなくてな」
一週間前のあの日から、俺は鶴を折り始めた。
三上のお婆ちゃんの為ではなく三上の為に。
相変わらず下手くそで1つ作るのにも時間がかかる。
だけど、それでも――――
「…………ありがとう」
――――願いを、心を込めた。
その甲斐はあったみたいだ。
彼女は出来上がった鶴を宝物を扱うかの様に手に取り、本当に嬉しそうに優しく微笑んでくれたから。
終わりです。
出来たのを自分で読んでみると意外に喋ってるぜ、三上さん。
それでは失礼しました。
朝からGJ!
悲しいけどなんだか心温まるぜ。
十分無口な気がするぜ、三上さん。
380 :
326:2008/10/20(月) 09:50:58 ID:MfsmqOoZ
オラァ幸せだぁ…
>>378 GJ!
爽やかですっとする作品ですね!
>>378 GJ!
ばあちゃんネタ弱いから涙目になってしまった
俺のハートがウォーミングだ
よいお話だー
すごいGJ
なんか死んだじいちゃんを思い出したよ
「…………。」
「ミットなんか構えて何してんだ?野球でもするのか?」
「(ふるふる)応援。」
「?そうか。よく分からんがまぁがんばれ。」
「(こくん)」
「あとスカートで脚開いて屈むのやめような。」
「!?」
「……(無口仲間のみやこちゃん(
>>385)はスカートでしゃがむというドジっ娘ぶり…)」
『…』
「……(だが私は違う。体操着にスパッツ、おまけに下着は勝負下着!!)」
『……』
「……(保守女王の称号はこの私のもの!!)」
『……言いにくいんだがそれはミットじゃなくてミトンだからな』
「……orz」
387 :
名無しさん@ピンキー:2008/10/25(土) 23:23:07 ID:uOAtULL9
wwwwwwwwwwwage
ひゅるるるるるるる〜・・・
「ん? なんか変な音が聞こえ」
ドカーン!
「うわらばっ!?」
「……着弾、確認。目標の状況を観測に向かう」
「……」
「……目標観測開始……目標に質問。届いた?」
「……」
「……返事が無い」
「……」
「……じゃあ、もう一発」
チャキッ
「ストップやめろタンマ待ったぁ!」
「あ……」
「なんてもん構えてんだコラ! バズーカか!? バズーカなのかっ!」
「そう」
「死ぬかと思ったぞ! なんで俺を砲撃する!?」
「……届けたかった、から」
「へ?」
「……熱い想い」
「熱い想い?」
「……萌えた?」
「ああ、燃えたな……黒コゲに」
「………………」
「………………」
「国語は……苦手」
「そういう問題かぁぁぁあああっ!?」
真っ赤にもーえたー たーいようだーからー
「今度は自転車の空気入れか」
「……整備は大事」
「確かに、まめな手入れは長持ちさせるコツだな。手伝おうか?」
「……(こくん)押さえてて」
「あいよ」
カチャカチャ
「よしいいぞ」
「…ほっ」
(……)
「……ほっ」
(こ、これは……)
「………ほっ」
(下りてない!体重掛けてるのにピストンが下りていかないッ!)
「…………」
「…………」
「…………(涙目)」
「わかった、代わるから」
神が現れるまでの繋ぎで投下します
一応
>>258と同登場人物、姉弟もの・非エロ
〜無口で世話好きな彼女〜
俺、川越陸斗は両親共に海外にいるため、今は姉さんと二人で暮らしている。
平穏に過ごしているけど、困ったこともある――姉さんの世話好きだ。
「あのさぁ姉さん」
「……?」
夕食の席、問題の我が姉、海澄(みすみ)が箸を止め顔を上げた。
ちなみに姉さんは黙々と(元から無口ではあるが)二人分の魚の骨を取っている最中。
昔から筋金入りの世話好きの姉さんにとって魚の骨取りは氷山の一角だ。
その内自分でやると言わないとな、でも今は保留としておこう。
…とにかく今は弁当のご飯をハートマークで彩るのをやめてもらうのが先決だ
たしかに姉さんのハートは芸術作品とも言える腕前。
けど、昼休みの弁当タイムをこそこそ過ごす日々にさよならしたい気持ちの方が強い。
「姉さん、弁当のことなんだけど…」
「…おいしくなかった?」
…え?いや、そんなはずない。とても美味しかった。料理には俺も自信があるが姉さんには遠く及ばないし
…というか姉さんの声久しぶりに聞いたな。
「………」
首を横に振る俺を見て姉さんはさぞ嬉しそうに笑みを浮かべた。
友人曰く天使を連想させる優しい微笑みに弟である俺までドキドキさせられる。
やっぱり姉さんは可愛いなぁ…っと危ない。また変な考えにいく所だった。
まったく…ここ最近どうかしている。
姉さんの一挙一動に鼓動が速くなるのを感じる。まさか恋じゃないよな…
もしそうだったら俺は最低な人間だ。
「…りっくん?」
呼びかけられ我に帰ると姉さんが心配そうな顔をしていた。
「あ、ああ大丈夫何でもない」
姉さんに見とれてました。なんて言えるはずもなく、なるべく姉さんと目が合わないように答えた。
「……」
安堵のため息をつくと姉さんはテーブル越しに手をのばし、ポンっと俺の頭に乗せる。
そしてその小さい手で撫で始めた。
これは昔っからの姉さんの癖、頭なでなで。無口な姉さんなりのスキンシップだ。
この前なんか学校でやり始めたから後が大変だった。
とはいえ俺もこればっかりは止めさせるつもりはない。
姉さんの掌から伝わる優しさを感じ、心安まる瞬間でもあり心地よいから。
俺は無言になり姉さんに身を任せた。
しばらく経つと姉さんは満足したらしく、ぼさぼさになった俺の頭から手を離し目を細めて笑った。
「……食べよっか?」
通常なら食べてしまう小さな骨まで綺麗に取られた魚を俺に渡し、姉さんは再び箸を手にした。
夕食後も姉さんは上機嫌だった。
一週間に一回聞けるかどうかの声が今日だけで三言も聞けたのがそれを物語っている。
弁当がおいしかったと伝えただけなのに…単純な人だ。
後片付けをし、皿を洗う(俺も手伝うと言ったが拒否された)姉さんに目を向ける。
鼻歌混じりに軽くステップを踏んでいるのは俺の見間違い…か?
とはいえ姉さんには世話になりっぱなしだから、ここまで喜んでもらえるなら俺も嬉しいさ。
弁当の件は結局言えなかったがまた次の機会にしよう。
「…ん?どうした姉さん?」
いつの間にか片づけを終えた姉さんが、エプロンを外しながら袖をクイクイ引っ張ってきた。
「……」
プレゼントを貰う前の子供のように、期待に満ちた姉さんの表情。
言葉はない、けど俺には姉さんの言いたいことがわかってしまった。
『テスト近いから勉強見てあげよっか?』
…………ナンダッテ???
いくら世話好きな姉さんとはいえ何を言い出すんだ?
俺が小中学生の時ですらそんなことは言わなかったぞ。
それに悪いが姉さんに教えてもらわなければならないほど俺はバカじゃない。
自慢じゃないが学年で十番以内に入るくらいだ。
…そりゃ確かに姉さんは三番以内だったけどさ。
「正直言って一人で勉強できるけど――」
いくらなんでも断るしかないだろ。
するとどうだろうか。俺の言葉に呼応して姉さんの期待に満ちていた表情が曇っていく。
喜びでキラキラと輝いていた瞳も今度は涙で光り出しそうな勢いだ…
「――英語が心配だから見てもらおうかな…」
次の瞬間、考えるよりも先に言葉が口を割って出てくる。
後悔しても手遅れ。
しかも何を思ったのか姉さんがギュッと抱きついてきた。
体をピタっとくっつけた姉さんは「ありがとう」と小さく口を動かした。
「あの〜、姉さん?」
このままだと俺の理性が崩壊するんだが。
慌ててパッと離れた姉さんの顔は少し赤くなっている気がする。
「……」
姉さんは満面の笑みを浮かべ、軽くスキップしながら勉強道具を取りに行った。
「やってしまった…」
よりによって英語はテスト期間最終日、それまで姉さんから解放されることはない。
俺の平穏な日々が奪われていくなこりゃ。
でも抱きついてきた姉さんの感触、匂い、押し付けられた柔らかな胸、
そして何より破壊力抜群の天使の微笑みを思うと十二分に元はとったかな。
ちなみに翌日の弁当には過去最大のハートマークでご飯が飾らていた。
投下終了
ちょっと短かすぎたかもしれないな…
お目汚し失礼しました。
/ ̄ ̄ ̄フ\ _ ノ^)
// ̄フ / \ .//\ ./ /
// ∠/ ___\___ __// \ / (___
// ̄ ̄ ̄フ /_ .//_ //_ / \./ (_(__)
// ̄フ / ̄//////////// | (_(__)
/∠_/./ ./∠///∠///∠// ∧ ∧ /) (_(__)
∠___,,,__/ .∠__/∠__/∠__/ (´ー` ( ( (_(___)
\ \ \/ ̄ ̄ ̄フ\ \ \_ \ _ /⌒ `´ 人___ソ
\ \ \フ / ̄\ \ .//\ //\ / 人 l 彡ノ \
\ _ \//___\/∠_ // < Y ヽ ヽ (. \
//\///_ //_ /// 人├'" ヽ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
// //.////////∠/ ヽ-i ヽ__ ヽ
/∠_//./∠///∠// .\\ `リノ ヽ |\ ヽ
∠____/.∠__/∠__/∠フ\.\\ c;_,;....ノ ヾノヽ__ノ
GJ!
りっくん、弱!ww
陸斗はいい弟だな〜
フォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!
gj
399 :
名無しさん@ピンキー:2008/11/03(月) 02:13:16 ID:6hKnEBxr
人形とかぬいぐるみ持った時だけ饒舌になる娘は、無口と言えるのだろうか……。
>>399 腹話術みたいに人形にしゃべらせて饒舌ってことか?
>>400 そうそう。その人形だのぬいぐるみだのになりきって喋るのは問題ないけど、取り上げるととたんに喋れなくなったり。
人形を使う腹話術少女はよくある話だ、もっと別なものにしゃべらせよう。
流れを無視してお邪魔します。
くいくいと制服の袖を引かれて振り返ると、そこには同じクラスの中本が立っていた。
「どうした? 俺の店番は終わったよな?」
文化祭の人込みを避けるように細い腕を取って廊下の隅による。俺の問いに頷いて答えると、
中本は大きめのセーターからかろうじて出ている指でスケッチブックをめくり始めた。
開かれたページにはマジックでひらがなが一文字だけ。
「……『わ』?」
意味が分からず、見えたままを口にした。すると中本はニコニコと嬉しそうに笑ってさらにページをめくる。
次は『た』。俺が音にするまでこちらをじっと見上げてくる。
クラスの女子の中でたぶん一番小さいから、首を伸ばして見てくる様子がハムスターみたいでコミカルだ。
「えーと、読めばいいのか? 『た』」
何がなんだか。頭の中を疑問符が増殖して埋めていく。
ぺらっ。
「『し』」
ぺらっ。
「『は』? じゃなくて、学校は、の『は』?」
助詞の『は』だと俺が気づくと満面の笑みで何度も頷いてくれた。なんか、こういうおもちゃみたいで面白い。
ぺらっ。
「『あ』、『な』、『た』、『が』……」
正月の餅付きみたいに、めくる、読む、めくる、読むという単調な作業を繰り返す。
「『す』、『き』、『で』、『す』、『。』――『わたしはあなたがすきです。』
……『私はあなたが好きです。』っ? ってええ?」
出来上がった音を繰り返して単語にして、文章にする。そして意味を理解して口にした瞬間、
俺はパニックになった。スケッチブックと中本を見比べる。
目が合った途端、中本は俺にスケッチブックを押しつけると、顔を真っ赤にして走り去って行った。
「ちょ、ええーっ? 好きって、ええー?」
こんな告白ってありかよ!
おわり
唐突に降りそそいだ電波に耐え切れず書いた。反省はしているが後悔はしてない。
>>403 それはらめえぇぇ!!
ってのはよく見るんだけど、実際それが何なのか知らない俺w
>>406 この画像の元ネタはエロ漫画
この娘はこの後引き取られた伯父さんの家で…
後はわかるだろ?
そんなことより
>>405の続きを激しく希望する
>>406 知りたいなら教えてもいいけど鬱になるぞ?w
画像みてないけど「やったね!たえちゃん」か?
>>405 一日やるから是非もっと電波をあびてきてくれ
〜電波発信中〜
( ゚∀゚)o彡゜ビビビ
>>409 H_61549.zip
パス:sage
409じゃないけど初めてフルで読んだ。確かに救いのない鬼畜ものだけど、
ロリもののエロってもともと鬼畜レイプ系多いし、伝説になるほどのもんじゃない気がするな
しかしとりあえずこのスレでは単に無口な女の子を陵辱するんじゃなくて、ちゃんと愛でてあげてほしい
>>416の言う通りだと思うぜ…無口で人と馴れにくいから愛してやるのが一番だろ…
いつも袖を掴んでて
初対面の人に話しかけられると後ろに隠れちゃう
>>418 それを「お姉ちゃん」にやられると鼻血モノ
>>419 (*´Д`)人(´Д`*)ハアハアハアハアハアハア・・・・・・
(*´Д`)(*´Д`)ウッ!
無口なお姉ちゃんって良いよな
梶原さんとこの空ちゃんですね。
…珍しい。
姉が怒っている。
いつもと同じで声をあげることはないが、顔を真っ赤にして頬を思いっきり膨らませている。右手の人差指をピンと立て、オレの鼻をふにふにと押している。
『お姉ちゃんは怒ってます!』と、アピールしているのだろうが、迫力なんて欠片もない。
むしろ…、スゴくかわいい…。
そんなことを思っていると、姉の動きがピタリと止まる。
クルリと後ろを向くと、膝をつきハァハァと大きく呼吸し始めた。
…顔が真っ赤だと思ったら、頬を膨らませている時に呼吸も止めていたらしい。
思わず吹き出すと、涙目でコッチを睨んできたので、「ごめんなさい」と言いながら頭を撫でてあげると、姉さんは静かにニコリと微笑んだ。
姉萌えのオレにはたまらんです。
>>423 >右手の人差指をピンと立て、オレの鼻をふにふにと押している。
こんな萌える叱り方が存在するとは思わなかった
停電時の家内で無口娘を発見するのは指南の技か、ずっと一緒にいる相方にとっては楽勝か。
停電の中で無口娘探してたら、無口娘に背後から突然に袖を掴まれるのが至福
抱きしめたらふるふる震えながら
ぎゅって抱き返してくる。
「くそっ!停電かよ」
くいくい
「ギャアアァ!!」
「……みつけた…」
「ってお前か!脅かすなよ」
「…うぅ…ぐすん」
「ああゴメン、ゴメンお前も怖いよな。ほらぎゅってしてやるから」
「…ぎゅうぅぅ〜」
暗闇でいきなり来たらちょっと怖いかもって思った俺はチキン野郎
て、停電だと!?
こここここ怖すぎる!!
落ち着け、こういうときこそクールになれ!
まずは暗くて危ないから転倒しないように地に伏せて、
よし、これなら安心だ。あとは手探りでブレーカーの元へ……
ヒィッ!? なんだこの生暖かい感触は!?
「…………」
布地越しにむにゅむにゅと弾力が伝わってくる!?
縦になったクッション、いや毛布? バカなありえない!!
「……っ」
同じ大きさの棒状のモノが二本……それに高さがかなりあるぞ!?
途中でかすかに膨らんですぐ細まり、固い場所を経て少しずつ太く……。
なんだ!? この布に包まれた物体は!?
避けて進むべきか? しかし、これをどかさないことには前に進めない。
取りあえず高さと重心の位置を確認してから脇にずらすしかない。
そのためには、これを伝って身体を起こさなくては。
「……っ、……っ」
しかし、不思議な弾力のある物体だ……!? なん……だと……!?
二本の棒状のモノが高い場所で繋がっている!!
まったくの想定外の現象に、繋がっている場所に顔を埋めてしまった。
ふにゅりと柔らかな感触が鼻の下と口にぴったりと吸いつく。
「……っ! ……っ!!」
妙な心地良さを感じる。極上のクッションに顔を埋めているような気分だ。
こんなクッションがあった覚えはないが、状況を忘れてしばし堪能したい。
むにゅ……むにゅ……くんくん……すぅー……ふぅー……
「!? ――――! 〜〜〜〜っ!」
ぽかぽかぽかっ!
なんだ!? 妙にぽふぽふした攻撃が頭上から!?
何か落下してきたのか? 地震でもあったというのか!?
くっ、まだ落ちてくるだと!? うおおキャッチ!!
やや冷たくて小さなすべすべした塊を、ガッチリとキャッチする。
まったくいったいなんだったんだ……もう少し上を辿らねば。
両脇から手を添えて、形状を確かめながらゆっくり立ち上がる。
固く膨らみ、少しくびれて、また膨らんでいくライン。
どこかで感じたことのあるその形状に、少しずつ安心感が宿る。
よくわからないが、よく知っているもののようだ。
控えめな膨らみをぽんぽんと触れ、外側に棒状のものが張り出した場所へ到る。
うん、気付いた。これ彼女だ。本当にありがとうございました。
ほかほかとちょっぴり温かいこの場所は脇の下だ。
オレの動きがぴたっと止まる。
「…………」
「…………」
…………あー、安心した。
膝を折って床につき、彼女のお腹をぎゅーっと抱きしめる。
暗闇怖かったよう。未知との遭遇怖かったよう。
うにうにと顔を埋めると、よしよしと頭を撫でられた。
ちくしょう大好きだ。
も、もうちょっとこのままでいさせてあげてもいいんだからねっ!
ぎゅー
なでなで
ぎゅー
なでなでなでなで
「あっ……」
どさっ、…………なでなで
「んっ、あっ……ちゅ……」
おしまい。たまには女さん優勢で保守なんだぜ。
これが保守ネタだと・・・・!?
gj
>>431 gj!!!
停電…なんてシチュ…(*´Д`)ハァハァ
>>431 彼女の腕の感触ぐらいは覚えとけよwww
very good job
「ただいま〜っと……」
「お帰り」
「わっ!?……な、なんだ香織かよ、どうやって家に入った?」
「合い鍵」
「作った覚えねーし!不法侵入だし!」
「…………小さい」
「……何が?」
「…………」ニヤリ
(器かっ!?俺の器が小さいといいたいのか!?)
「…………」
「お、おい、何開けてるんだよそれ?ポッキーか?」
「はふん…………ん」
「……やれ、と言うことか?うれし恥ずかし例のゲームをやれということか?」
「ん………」
「…………ええぃ、ままよ!パクッ!」
「ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリ」
(速っ!ジャガリコじゃねーんだから!)
「ボリボリ……んちゅ」
「むぅっ!?」
「んむ……ちゅ……くふ……んぅ」
「ちゅ……ぷ、ぷは、おい、お前何を」
「…………君の唇、甘い……」
「ポッキーの味だーーーー!!んちゅっ!?」
「♪」
って想像しながらポッキー食う俺
それを軽蔑の眼差しで見てる彼女
そんな彼女持ちに嫉妬の視線を送る俺
・・・にむせび泣く男
の腕にとまった鳩
を手懐ける彼女
の友達の勇気に希望を見た男
はセーブをすると「電源を切る」を選択した
〜〜〜〜完〜〜〜〜〜
そして伝説へ…
翌日、再開しようとROMを挿し電源ON
でんでんでんでーん
「ぼうけんのしょ1は きえてしまいました」
そしてROMをハンマースウィングで彼方に飛ばす無口さん
………………。
それが男の脳天に直撃、
そこから始まる恋もある
>>448-450 お前等が何言ってるか、さっぱりわかんねぇよ。
そこで躊躇っちゃいけない、そこは行くべき場面だろう?
リアル無口が降臨したと聞いて
>>447 このスレはもはやテンプレに関連スレとして加えてもいいぐらい
甘えスレや幼馴染みスレと住人が被っていそうな気が
454 :
名無しさん@ピンキー:2008/11/16(日) 21:50:10 ID:avZ/V5Kh
ん?俺の噂してる?
誰か俺のこと呼んだか?
くしゃみが出るんだが全裸待機のしすぎで風邪でもひいてしまったかなぁ
とりあえずコタツにでも入っとけ。
住人は被ってるかもしれんが、他と比べるとここは進行がまったりだな。そこはやはり「無口」スレということか
458 :
名無しさん@ピンキー:2008/11/16(日) 23:12:11 ID:XjIqgyIV
まんがライフMOMOで連載してる「森田さんは無口」ってここ的にはどう?
せんせいのお時間しかシラネ
ちょっと疑問なんだが
1.精神的ショックで話せない
2.ただ単に口下手で話すのに慣れてないから基本無口
3.あがり性で(ry
4.恋する乙女的に主人公に対してのみろくに話せない
とかのシチュの中でどれがいいんだ?
どれもどんとこい!
5.甘えの一貫としての無口。
親しさ或いは信頼の度合いと非言語コミュニケーションの度合いが比例する。
>>463 台詞の大半が
「…………」
ではなく
「〜〜〜〜♪」
な娘ですね?
必要ないとか面倒とかの理由で話さない
>>466 男「なんで話さないの?」
女「・・・めんどくさい」
男「・・・は?」
女「・・・息をするのも・・・めんど」
>>467 なんという伝承者に秘孔を突かれるフラグ
俺はフジリューの老子を思い出した
口下手で見た目のイメージから怖い人って思われてる純情娘が大好きです
>>471 榊さんも大好きだけど、ビジュアルはなんつーかあむちゃんを目つき険しくしたみたいな感じで。
ていうか榊さんて怖がられてたの最初だけで、あとはクールでカッコイイみたいに思われてたような。
八重さんだろ
新ジャンル『誤解殺気』ですか?
>>474 ぐぐってみたらその通りですたwありがとう超ありがとう
電波が届いたので。
「寒くない?」
パタ
「そう、これ飲む?」
パラパラ、パタ
「ほい。缶熱いから」
「……なぁ、お前らそれでいいの」
俺と中本が昼食後の一時を過ごしているところへ、明宏が口をはさんできた。
「何が?」
「いやいやいやいや、気付いとこ。ここは。な。お前らのそれは会話としてなんかおかしーだろ」
やたらと早口で言われたことに俺らは首をかしげる。何もおかしくはないと思うんだが。
「ちゃんとコミュニケーションが成立してるし」
な。と横にいる中本に同意を求めると、コーンポタージュスープの缶を伸ばしたセーターの袖でくるんだまま何度も頷いた。
もう少し冷ましてから渡すべきだったかな。
「成立とか言ってる時点でアウトだろー。片方が話しかけたのに対する返事がスケッチブックっておかしいだろ」
明宏の主張に中本はスケッチブックの白いページを開き、サラサラとペンを走らせる。
『風邪うつしたくない』丸っこい文字の並びに弛みそうになる頬をおさえた。
いつもより筆談の割合が多いなとは思っていたけど、こんなこと考えていたんだ。
「そうか、俺のためだったんだ。ありがとな、あと気づけなくてごめん」
謝ると中本は笑顔で首を振る。そして唇だけで『ご・め・ん・ね』と言った。
「ストッピーン! お前それで和むなよ!」
「明宏うるさいだまれ」
「ノンブレス!」
ぎゃいぎゃいと文句をつける明宏を叩き黙らせながら、俺は今日の帰りに薬局で良く効く薬を買おうと思った。
おわり
1レスにおさまらなくてすまん
良く効く薬買って、
お粥をあーんで食べさせて、
薬を口移しで飲ませる
なんてことを要求されても断れないな
〜無口で世話好きな彼女〜
「……携帯」
「持った」
「…ハンカチ」
「持った」
「……ティ」
「ティッシュも持ったよ」
まったく…子供じゃないんだから荷物チェックしなくて大丈夫だって。
というか旅行ならまだしも、ただ友達と遊びに行くだけだぞ、しかも日帰りで。
姉さんの世話好きには困ったもんだ。
「……お財布」
やれやれ、そんな大切なもの忘れるわけ……
目の前の姉さんの手にあるのは俺の…財布?。
「ごめん、ありがとう」
何で俺はいつも詰めが甘いんだ。これじゃ姉さんに偉そうなこと言えないじゃないか。
バツが悪そうにする俺の表情を見ると、暖かい笑みを浮かべ、姉さんは俺の頭をなで始めた。
非難したり、バカにしたり、偉ぶったりするわけでも決してない。
俺の世話をするのは姉さんにとって呼吸するのに等しく、ごく当たり前のことなのだろう。
昔からの癖であるこの頭なでなでと同じように。
「じゃあ行ってくる」
玄関先、忘れ物がないことをもう一度確認しカバンを肩にかける。
「………」
返事をする代わりに姉さんはニッコリしながら手を振って、俺を送り出した。
空の満月が神々しい輝きを見せている。あまりの美しさに思わず立ち止まってしまいたくもなる。
でも残念ながら俺にはのんびりと眺めている余裕はなかった。
とにかく早く帰らないとヤバい…!
まさかこんなに遅くなるとは思わなかった。これだと姉さんは間違いなく心配している。
携帯の電池が切れてなければ連絡も出来たし問題なかったのに…やっぱり俺は詰めが甘いみたいだ。
「ん…あれ?ね、姉さんっ!?」
自宅まであと少しという所、前に人影が見えたと思ったらなんとそれは姉さんだった。
姉さんは俺を見るなり大きく息をついてこっちにやって来た。
「………」
無言無表情。友人達から天使と形容される姉さんだが今はその面影はどこにもなかった。
不味いな…完全に怒ってる。そりゃ連絡もなしに遅くまで遊んでたら当然だ、明らかに俺が悪い。
「ごめん、姉さん」
怒ってる姉さんなど見たくない。元の姉さんに戻ってもらうため場所もわきまえず頭を深々と下げた。
「…………してよ」
ポツリと姉さんの声がした。何かと思い頭を上げる。
そこには顔を真っ赤にし、目に大粒の涙を浮かべた姉さんがいた。
「えっ!姉さん!?」
訳がわからない。一体どうしたんだ?
「遅くなるなら連絡してよ!!お姉ちゃんすごく、すごく心配したんだから!」
大粒の涙をボロボロこぼしながら声を荒げて姉さんが叫んだ。
いきなりの出来事に唖然とする俺に構わず、さらに姉さんは続ける。
「りっくんに何かあったんじゃないかと思って…お姉ちゃん気が気じゃなかったんだから!!」
普段からポーカーフェイスとは言い難い姉さんだが、ここまで感情を爆発させるのはいつ以来だろう?
「で、でもりっくんに、なにもなくて、ほ、本当によかっ、た…」
溢れる感情を制御できず、嗚咽混じりで話すのもままならなくなっている。
立っているのも辛いのかそのまま俺の胸に寄れかかってきた。
小さな手で俺の服を掴み、涙と鼻水で濡れた顔を俺の胸元に押しつけてくる。
大学生ともあろう人がこんな道端で激しく泣いている。しかも俺のためにだ。
俺が心配で、ただそれだけの理由で泣いてくれている。そう思うと申し訳ない気持ちで一杯になった。
「…本当にごめん、ごめん」
姉さんを抱きしめながら言うと、涙を拭いながら優しく姉さんは微笑んだ。
いつも通りの暖かい笑顔。顔にキラキラと残る涙の跡が天使の微笑みを飾り立てていた。
「帰ろ…う……」
「姉さん!!?」
最後の一言を言い終わると同時に姉さんの体から力が抜けていった。
地面に倒れ込もうとする姉さんを慌てて支える。
「……ごめんね、お姉ちゃん久しぶりにいっぱいしゃべったから…疲れちゃった」
ああ、そうだ思い出した。あれは確か俺がまだ小学一年生だった時だ。
木登りをする俺が木から落ちた時。あの時姉さんは泣きながら俺を叱った後に倒れたんだよな。
普段無口な分、いざ喋るとなると息継ぎのタイミングがわからず軽く酸欠になってしまうらしい。
あの時は俺もまだ小さくてただ助けを呼ぶことしか出来なかたっけ。
「ほら、姉さん掴まって。おぶってくから」
俺はしゃがんで背中を差し出した。あの時は無理でも今の俺なら姉さの力になれる。
「………」
「姉さん?」
どうしたのか姉さんは一向に動こうとしない。この体勢は疲れるから早くして欲しい。
「…恥ずかしい…」
ボソッと姉さんの口から言葉が漏れ出た。
いや、恥ずかしいも何も自分だって俺の背が姉さんを越すまでおんぶしてたのに。
世話好きだけど、いざ自分が世話されるとなると恥ずかしいのか?
「……」
せかす俺に観念したのか姉さんは俺の背中に体を預けてきた。
今度はのんびりと月明かりの下を歩いている。もちろん姉さんをおんぶしながらだ。
姉さんは一体どんな顔をしてるのかわからないが、耳元にかかる姉さんの吐息は妙に色っぽい。
しかも落ちないよう姉さんが腕の力を込める度、二つの柔らかいものが背中に押し付けられる。
これは嬉しい誤算だ、って姉さん相手に何考えてんだ俺…
「りっくん」
「ハッ、ハイ!?」
まさか邪な考えが伝わってしまったか、と思う俺の心配をよそに姉さんは続けた。
「…重い?」
耳元で言われてようやく聞き取れるほど小さい声で姉さんは恥ずかしそうに聞いた。
やっぱり女の人は体重とか気にするんだな。でもはっきり言って姉さんは想像よりもはるかに軽い。
言うならば、それこそ天使のようにフワフワとしているくらい軽く感じさせる。
「いや、全然重くな――」
……スースー
「ん?」
顔を横にし姉さんの方を見ると可愛い寝息を立てて眠ってしまっていた。
泣き叫んで疲れて寝てしまうなんて子供みたいだな。
美しく、穏やかで、安らかで、とても幸せそうな寝顔。
その昔に友人が姉さんを天使と形容した時はどうかと思ったが、的確な表現だと気づかされた。
そのまま歩くこと数分。我が川越家へと帰り着いた。
「よっと」
姉さんをリビングのソファーにそっと寝かせる。
風邪引かないように、毛布かなんか掛けないと。
いつもは世話されてばかりの俺がこうやって逆の立場になると不思議な気分だ。
毛布を持ってきて起こさないよう慎重に掛ける。この時俺は改めて姉さんの顔をのぞき込んだ。
……やっぱりものすごく可愛い
染めてもいないのに栗色の髪、長いまつげ、綺麗に整った顔立ち。
産まれた時から見続けているのに飽きることがなく、むしろ最近になって見惚れるようになった。
やっぱりどうかしてるのか俺?姉さんも迷惑だよな…
姉弟という超えられない壁。近くて遠い神聖な存在。
「まさに天使か…」
誰に言うでもなく呟いた。
だがそれが思ったより大きい声だったのか姉さんを起こすことになってしまった。
「…ん…りっくん?」
「…あ、いやごめん起こしちゃった?」
マズい…顔をのぞき込んでいたから顔が近いこの状況。これじゃあ何か勘違いされるぞ。
というか目も合っていてやたら気まずい。
「……」
グイっ
「…!!?姉さ、んむむむぅ」
フッと姉さんが笑みを浮かべた、と思ったその瞬間だった。
首に抱きつかれたかと思うと次にはもう俺の唇と姉さんの唇は重なり合っていた。
俺のファーストキス、だが驚きのあまりゆっくり味わうのもままならない。
ただその中でもふっくらといった表現がピッタリの姉さんの柔らかい唇の感触だけは認識できた。
「……ぷはっ」
「…はっはぁっ…はぁ」
先に唇を離したのは姉さんだった。
息継ぎのタイミングを掴み損ねたのか、単に息するのを忘れていたのか、またもや辛そうだ。
でも顔を真っ赤にしながら肩で息をする姿はどこか可愛らしく扇情的だ。
そんな姉さんとキス…うわ、思い出すだけで恥ずかしいな。というか何てことをしてしまったんだ…
「……」
姉さんは嬉しそうに優しく微笑んだ。
何を考えての行動だったのかまったく理解できない。
小さい時にほっぺにチューはよくされた気もするけど口は初めてだ。
「姉さん今のは…?」
「……もう一回?」
相変わらずにこやかに、目を輝かせながら姉さんは言った。
「………」
「……?」
しばらく俺が無言だったため嫌がられたと思ったのか、姉さんは心配そうにこちらを見つめている。
小首を傾げて伺う姉さんの可愛いさに俺の頭はおかしくなりそうだった。
「い、いや、その…あの、また今度にする」
正常に働かない頭ではこう言うのが精一杯だった。
素直に断るのが筋のはずなのに曖昧にしか返せない自分が恨めしい。
「……」
横になっていた姉さんは体を起こすと手を俺の頭の上に乗せる。
いつもなら落ち着くはずの頭なでなでも今の俺には効かない。それどころかかえって鼓動が早まる。
このままだと姉さんに手を出してしまう。
とにかくキスで踏みとどまらないとダメだ。いやそもそもキスも問題か?どちらにせよ早く手を離してくれ!
スッ
理性崩壊のあと一歩といった所で姉さんの手は離れた。
俺は姉さんが浮かべた満面の笑みをまともに見ることなく、逃げるように部屋へと戻った。
「ふぅ、危なかった…」あと数秒姉さんの頭なでなでが続いていたら、考えただけでゾッとする。
今日は色々なことがありすぎだ。出来れば今日という日がなかったことにしてほしい。
それに明日からどう過ごせばいいんだ?姉さんと今まで通り暮らしていけるか不安だ。
心のどこか奥底で何かを期待している自分がいるような気もするが気のせいだろう。
深いため息をつきながら俺はベッドへと倒れ込んだ。
ここまで
今回も非エロで申し訳ない
次こそはエロ入れるようにします。では
GJ!!
ところで世話好き無口姉ってどこに売ってるんですかね?
お姉ちゃんっていいよな・・・
489 :
名無しさん@ピンキー:2008/11/22(土) 16:05:46 ID:qE0FyKfi
>>484 少し遅れたけどGJ!
やっぱりお姉ちゃんはいいなぁ…
いつまでも帰って来ないと思ったら、原住民として暮らす
>>487の姿が発見されました
>>490 487「おお!!今日は何を捕ってきたんだい?」
原住民無口っ娘「…今日は鳥…食べる…?」
こんな感じですか?わかりません><
…いただきます
…貴方を
…性的に
ちょw >487で一本書いてる自分が恐いぜw 書けたら投下する!
>>489だ…一回あげてすまん…
調子こいてamazonとか書いて、一本作ってもらったらマジうれしいわww
495 :
493:2008/11/23(日) 00:53:38 ID:cJOYTMu7
何だかよく分からないけど、とにかくやっつけたw
エロは無いし中途半端だが、突発一発ネタということで許しておくれ。
このSSを>487とこのスレの住人に捧ぐ。
487 :名無しさん@ピンキー:2008/11/22(土) 15:38:45 ID:ZUy9px/x
>>486 ちょっと密林行ってくる
ぶっきら棒な書き込みをスレ住人達に残し、>487は有り金を叩いて航空券を用意すると、
一度も振り返る事無くAmazonの密林へと飛び込んだ……。 そう、>486の言葉だけを胸に、
彼は究極の姉さんヨメ探しへと旅立ったのである。
しかしそこは、彼の想像を遥かに超える過酷な世界だった。
不安定な天候、道なき道、得体の知れない生物たちとの遭遇、そして何より、愛すべき
無口スレとの物理的断絶は、彼の精神と身体に、僅かずつながら確実にダメージを重ねてゆく。
ところが>487は諦めない。昼は小川のきらめきに、ジャングルの木漏れ日に。
夜は星月の瞬きに、見よう見まねでどうにか熾した焚き火の揺らめきに。
そう、彼は光あるところすべてに、まだ見ぬ「世話好き無口姉」との出会いの瞬間を重ねていた。
――どんな姿なんだろう? どんな世話を焼いてくれるんだろう? どんだけ無口なのかな?
――んで……どんな夜をすごせんのかな?
周囲の安全を気にかけながらの、短いまどろみの度に、>487は幸せな笑みを浮かべていた。
その儚い妄想が、孤独と未開の地が隠し持つ、甘美な毒牙である事にも気づかずに。
幾度太陽が昇り、沈んだだろうか。底なしの密林に夢を追い求めるばかりに、>487はついに、
天と地の間に己の場所を知る事が出来なくなってしまったのである。
常人であれば正気を保ってはいられなくなる、生命の危機、まさに極限状態だ。
だが、それが>487にとってどれだけの意味を持っているというのだろうか?
日本を離れてからというもの、彼はまだ、一度も自分の来た道を振り返ってはいないのだ。
この密林の位置口まで道案内をしてくれたコンダクターの静止も聞かず、この旅に挑んで
いるのだ。彼が見つめているのは、生い茂る原生林の向こうにあるはずの彼女の姿のみ。
無我夢中で道なき道を行く>487のヒゲと泥にまみれた顔には、まだ笑顔があった。
頬はこけ、目の下にはクマができていたが、瞳はらんらんと輝いている。
>487は思う。
――この奥に、きっと彼女は待っているんだ!
そう念じて倒木を飛び越えると、大粒の雨が降り始めた。恒例のスコールだ。
全身に打ち付ける水玉はライスシャワー。地面に轟くほどの雨音は祝福の歓声。
白く遮られる視界は、彼女の顔を包む絹のヴェールそのもの。
>487はヴェールへと手を伸ばす。誓いのキスをするために。
だが、突如として視界が地面へと傾き、彼女は急に>487の前から姿を消した。
ぬかるみに足を取られ、>487は泥に顔面から突っ伏してしまったのだ。
――なるほど、ウエディングケーキに突っ込むなんていうサプライズも悪くない……。
降りしきる雨が作り出した泥の川の中、>487は寝返りを打ち、渦巻く雨雲に向け
大の字になった。あまりの雨の勢いに、まぶたを開けていることさえ困難だ。
――その上、ビールかけのある結婚式なんて、前代未聞だぜ……? へへ。
気丈なまでの妄想力とは裏腹に、>487は寝返りを打ったが最後、指一本動かす事が出来ずにいた。
食料と水が尽きたまま、不眠不休で彷徨うこと早三日。どことなく思考が「食」に
傾くのも当然である。「世話好き無口姉」を追い求める情熱だけが支えていた>487の
肉体にも、ついに限界が訪れようとしていた。それでも費える事の無い妄想が生み出す
チャペルには、幼い頃の>487、学生だった頃の>487達まで参列している。
>487はもう悟っていた。恐れは無かった。あるはずも無い。
――これほどに幸せな走馬灯を見られるのは、後にも先にも俺だけだろうな……。
彼の胸を満たしていたのは、>486への感謝だけだった。
>487はもう足掻くことなく、甘い夢の終わりの続きを選ぶ事にした。
黒々とした雨雲が遠ざかる。フェードアウトしてゆく雨音の向こうで、けたたましい
鳥の鳴き声がこだまし、曇天の狭間から一筋の光が差し込んだ。眩しい。まるで、
迎えるべき新婦への道を照らすスポットライトのようだ。
――行き先は、あの雲の向こうに違いない……。そして今度こそ彼女に……!
泥に半ばうずまりかけている身体が、溶かされてゆくような心地よさだった。
一体となりつつある地面を伝って、何かの足音が近付いてくる。密林での生活の中で
いつしか研ぎ澄まされていた野性が、最後の来客の到来を>487に知らせた。
ざっ、ざっ、ざっ……。
規則正しくまっすぐこちらに近付いてくる足音に、ぴくりと>487の頬が動く
。
――ありがてえ。人間だ。どうやら骸だけは……ニッポンに運んでもらえそうだ……。
この無人に近い密林の奥地で、俺は誰にも追い求められない夢を追い、誰にも
真似できない死に方をするのだ。そう思うと、>487は誇らしくさえあった。
あとは気を利かせた誰かが、誰の目にも触れぬままに、PCのHDDを物理的に破壊して
くれればそれで良かった。
足音が止まる。誰かが、>487のすぐ横で。
「……う……」
>487は聞こえないほど小さな声でうめきながら、まぶたを開いた。
そして、自分でも驚くべき強さで「ひゅうっ!」と息を吸っていた。
ずぶ濡れになったシャツの下で冷たく止まりかけていた心臓が、どくんと血液を全身へ
向けて放つ。走馬灯が、チャペルが、一気に思考の向こうへと押し流されてゆく。
「……あ……」
再び、小さなうめき。こびりつく妄想の続き。
――う、ウエディングドレス……?
その幻の正体は、南米の陽光を受けキラキラと輝きながら柔らかく降り注ぐ霧雨だった。
だが>487の目が釘付けになっていたのはそこではない。雨粒の向こうからじっとこちらを
見下ろしている、金色に輝く優しげな女性の瞳だった。
傘を差す事も無く――そもそも傘など知らないだろうが――雨粒に濡れそぼった褐色の肌を彩る、
まばゆい原色の髪留めと大きな首飾り。極端に面積の小さなビキニのような衣服からすらりと
伸びた肢体は>487よりも背が高い印象で、独特のタトゥーで飾られている。その長い脚を折り、
彼女は>487の横に跪くと、そっと彼の薄汚れた顔に指を伸ばし頬を撫ぜた。微笑んでいる。
彫り深く整った顔立ちは、見れば見るほどにびっくりするぐらいの美人だ。
「……ぅ……ひゅうぅ……うぅ」
優しい手を握ることさえできず、声帯を震わせる事も出来ず、か細い呼吸だけで>487は
精一杯彼女に返事をした。
――よもや、ここで自分が無口になってしまうとはッ!?
そんな事を思っていると、彼女は腰帯に挟んでいた木の筒の先を>487の口元に差し向け、
先端のフタをポンと抜いた。雨水と一緒に、木筒から流れ出した甘酸っぱくて少し苦い
果汁のような液体が少しずつ口の中を満たしてゆき――
「ゴボッ、ゴホ!」
>487は盛大にむせた。喉に力が入らず、飲み下せないのだ。赤ワインのような液体が、
口から垂れて情けない。鼻に入ってさらに痛苦しい。
彼女は申し訳無さそうに太めの眉を寄せて、ぐいっと>487の顔に自分の顔を寄せた。
急にクローズアップされた美貌に驚く間もなく、487はその口に、ぽってりした唇を
重ねられた。赤い液体が、すーっと彼女の口へと吸い込まれてゆく。この液体はきっと
何か元気の出る物で、それを失っているにもかかわらず>487が逆にどんどん元気を貰って
いるのは言うまでも無い。
――な、何と言う世話焼き加減かッ――!?
まつ毛が触れ合いそうな距離から彼女は一度身体を起こすと、キュッと手の甲で唇を拭う。
どこと無く勇ましさと頼りがいを感じるその姿と、これから起こり得るであろう展開に、
>487はいよいよ胸の高鳴りを抑えられなかった。
彼女は>487の思惑通り、口の中に液体を溜めたまま、今度は>487の上体を抱きかかえるよう
にして起こした。そしてためらう事無く口移しを始める。
「んっ、んんッ……」
「こきゅ……んくッ……」
柔らかな唇の感触と、微かに触れ合う前歯の間から少量ずつ入ってくるそれを、487は今度こそ
飲み下してゆく。鼻息の感触が、彼女の真剣さを物語っているようだった。
――さっきより甘く感じるのは、ぜってー気のせいじゃない……!
>487はいつしか、生死の境をさ迷っていた事さえ忘れていた。早くも力を取り戻し始めた
右手で、彼女の頬に触れてみる。まだ震えてはいるが、感触ははっきり分かる。鮮やかな
赤のタトゥーが眩しい、雨さえ弾きそうなピチピチの肌。
彼女が何者かは知らない。この先どうなるのかも分からない。
でも、>487にとって彼女は間違いなく女神だった。
妄想ではないこの触れ合いだけが、彼にとっての全てだった。
つぅ……と赤い液体の糸を引き、唇と唇が離れる。彼女の腕の中に抱き寄せられたまま、
>487は右手の親指で、自分の命と希望をつなぎとめてくれた彼女の唇をやさしく労うように
拭い、そして笑顔を投げかけた。言葉の分からない自分の感謝が伝われば……と。
瞬間、金色の瞳をまん丸にした彼女の頬が、タトゥーとは違う朱に染まったような気がし――
口移しの用も無いのに、再び彼女は>487の唇を求めてくるのであった。
〜続かぬ〜
これはいいgj
密林行きの便は成田発ですか?
GJ!!
是非探検隊に俺を入れてくれ!!
集団で言ったら無口無頼漢な感じのアマゾネスが
集団の中に一本の刀を投げ込んでニヤニヤと笑い
夫となる権利をかけたバトルロワイヤルが発生しそう。
小高い丘の上からそれを眺めるアマゾネスは血煙に身体を火照らせ、
勝ち残った男の傷付いた身体を舐めながら自らの秘部を慰め、
男の反り返ったペニスを露出させてから褐色の美脚を開くに違いない。
それと
>>499GJ! ナイスアマゾン!
『幻の無口っ娘を探せ!!秘境探検隊員募集のお知らせ』
地球の歴史が始まってから私達人類は地球上至る所に生活圏を広げてきました。
密林、砂漠、高地、氷原、断崖そして海までも……もはや人のいない地はありません。
しかし今なお地球には人類が踏み入れていない秘境が数多く残されているのもまた事実です。
そして同時にそこには我々の知らない無口っ娘も存在することでしょう。
さぁ今こそ自分好みの無口っ娘を探しに行きませんか?
私達が全力でサポートします。
参加資格:無口っ娘への愛を最低一時間は語ることが出来ること。
集合場所:某掲示板内「無口な女の子とやっちゃうスレ」
〈参加するにあたっての注意事項〉
・スタッフ一同無口なので予め御了承下さい。
・命の危険も十分に予想されます、無口っ娘に命をかけられる覚悟をお持ち下さい。
・必ず自分好みの無口っ娘に会える保証はありません。
ただ新たな無口っ娘と会うことで自分の趣向が変わることは十分考えられます。
・土着化される方はその場をもって終了となります。私達の援助は受けられません。無口っ娘と幸せにお過ごし下さい。
皆様のご参加をお待ちしております。
いざまだ見ぬ無口っ娘の元へ!!
〜無口探検隊一同〜
>>504 参加するしかない!!
甘えん坊で眼鏡な無口に会いに行くんだ!
無口娘に徒労乙と言われようが進むのみよ!
>>504 スタッフも無口ワロタwww
読書家で眼鏡の無口っ娘に会うしかない!!!
>>507 とりあえず坂の上に建ってる
高校の文芸部室からw
>>508 兵庫県だな!!ちょっくら行ってくるわww
皆判ってないな。
無口娘は探すものじゃない。自分で作り出すものだ!
すいません。集合時間はいつですか?
あと、スタッフ待ちがてら投下してもよろしいでしょうか。
>>511 では、9レスほど失礼します。
注意!
1・軽度の陵辱描写があります。苦手な人はお避けください
2・ヤンデレではありません。
ヤンデレをお求めの人はお近くのヤンデレスレ又は修羅場スレをご利用ください
……ねちゃ。
……くちゅり。
下半身に広がる鈍い刺激に、俺は意識を覚醒させた。
まだ、明らかに真夜中。
照明もなく視界がぼやけて周りの状況が良く判らない。
身を起こそうと腹筋に力を込める。
が、腕が何かに引っ張られて起き上がれない。
今度は足を動かそうとしてみるが、こちらも同様。
両手両足とも何かで縛られているらしい。
俺は何とか頭だけ起こして、足元を視界に入れるや愕然とした。
「……何を、やってるんだ、響」
そこには、俺の恋人である白石響がしゃがみこんでいた。
何故か全裸で。
そして何故か、俺の口にすることをはばかられる部分を咥えた状態で。
ちなみに、響、と書いて、きょう、と読むのだが、それは今はどうでもいい。
俺が目を覚ましたことに動じることもなく、響はくちゅりくちゅりと水音を立てながら、口をすぼめたり、舌を肉茎にからめたりしている。
言うまでもなく、そこは完全に勃起していた。
「あのー。響さーん」
返事なし。
言っておくが、彼女との交際はいたって健全なものだ。
勿論彼女と俺が同棲しているなどと言う事実はある訳もなく、付き合い始めて約一年間、肌を重ねたことすら一度もない。
余りに非現実的すぎる。
(ああ、これは、夢か)
実際、これまでも何回か夢の中で彼女を手篭めてしまっていた。
頬をつねって確かめようにも、腕はうんともすんとも動かない。
どうやら粘着テープでベッドの柱に括られているらしく、ちょっとやそっとのことでは剥がれそうもなかった。
余りの事態に思考を放棄した俺は、快楽に身を委ねる。
亀頭が暖かい粘膜に包まれる感覚。
自分の手でするのとは比べ物にならない快楽。
たどたどしいながら一生懸命口で奉仕され、ペニスが否応なく肥大化してしまう。
と、響の歯が敏感な先端に当たり、鋭い痛みが走った。
「痛っ」
「あ、……ごめん」
痛みにより、再びまどろみかけていた意識が完全に覚醒する。
寝巻きを捲り上げられた部分に冷気が吹き込む。
ほぼ間違いなく、現在起こっているこの異常事態は現実のものだった。
俺は起き掛けの上手く働かない頭をフル回転させて、この状況に対する納得の行く説明を考える。
妄想の具現化? 催淫ウィルスの蔓延? 借金苦によるアダルトビデオへの出演?
そんな馬鹿な想像をあれこれ考えている間に、響はおずおずと口による奉仕を再開する。
俺はようやく我に返った。
しえんですよ〜
「響っ! お前何やってんのか判ってんのか?」
響は一旦口を離してなんでもないように言い放った。
「フェラチオ」
ええ、そうですね。
正直僕、君がそんなケガラワシイ言葉知ってるなんて思いませんでした。
「そもそも、どうやって家に入ってきたんだよお前」
「合鍵」
響は床に畳んで置いてある彼女の服のポケットから真新しい鍵を取り出して見せた。
「……そんなもの渡した覚えはないが」
「ツトムの鍵くすねて複写して戻した」
「犯罪だッ!」
響は俺の正当なツッコミを無視し、俺の股間への攻撃を止めようとはしない。
唇と舌で先端を盛んに刺激しながら、両手でそろそろと竿の部分を撫でてくる。
強く握ってはいないのがなんともじれったく、その分刺激の鮮烈さが増す。
俺の背筋にゾクゾクと快楽が込み上げた。
「きゅ、響。マズいって。こんなことしてたら……」
「不味いんだ」
響が顔を伏せる。
心なしか肩が震えているような気がする。
「き、響?」
「恋人の私とこういう事したら、まずいんだ。
やっぱり私よりあの女のほうが良いんだ。
あの女に知られたらまずいと思ってるんだ、そうなんだ……」
「あの女誰!?」
正直言って全く心当たりがありません。
響はギリギリと歯軋りしながら名前を列挙し始めた。
「昨日、矢島さんの図書整理、手伝ってた」
矢島静はクラスメイトで器量も良く男子の人気も高い。
一応俺の幼馴染でもあるので、響の危惧も判るが。
「あいつ彼氏持ちで、仲も円満だぞ。下心なんぞねーよ」
「一昨日、朱美さんに誕生日プレゼントを」
御崎朱美は俺と一つ屋根の下で暮らしている二つ年上の女性である。
歳の割に見た目は小柄で、精神的にも子供っぽい部分があり、良く俺に無邪気にじゃれ付いてくる。
ちなみに、実の姉ですが何か?
「近親相姦はありえんだろ、常識的に考えて」
「一週間前、三谷さんと二人きりで町に買い物に行ってた」
ああ、あいつとは席も隣で仲も良いから、良く一緒に遊びに良くとも。だが――――、
「男だッ! 誓って同性愛のケは無いッ!」
「それにっ! ……付き合い始めて一年になるのに、キス一つしてくれなかった」
響は目を伏せ、搾り出すように言葉を紡いでいく。
「ずっと待ってたんだよ。
恥ずかしくて自分からは言い出せなかったけど、色々研究して、どうすれば喜んでくれるか考えたりして、準備もしてたんだよ。
なのに、デートのときも、誕生日のときも、修学旅行のときも、文化祭のときも、ツトムからは手も握ってくれなかった。
あの時好きだって言ってくれたのは、嘘だったの?
それとも、もう、飽きちゃったの?
どことも貴方と触れ合えない私は、ツトムにとって一体何なの!?」
「それは……」
響の思い詰めた様な言葉に言葉を失う。
ずっと、この手の行為を嫌っているのもとばかり思っていた。
むしろ意図的に避けていたのは、俺の方だ。
白石響は大人しい少女である。
必要以上の自己主張をすることはなく、喋るよりは聞き手にまわるタイプ。
かと言って臆病な性格かと言うとそうではなく、成すべきことがあるなら物怖じせず行動で示す。
クラス委員になろうとはしないが、学校の用事は内申度外視で率先して手伝う。
不言実行、そんな姿勢に俺は前から惹かれていた。
だから彼女の方から好意を告白してくれた時、俺からも好きだと告げ、晴れて恋人同士となった。
それから、特に何があった訳でもなく、今に至っている。
デートは何十回と行ったし、マンネリ化もしていないと思う。
只一緒にいるだけで俺は満足していた。
だが、あれから俺達の関係に何の進展もなかったのは事実だ。
俺は彼女の望みを酌んでやることを怠っていたのだろう。
不満があっても抱え込んで黙ってしまう彼女に、甘えていたのだろうか。
「響、聞いてくれ俺は……」
「もういいよ。私の気持ち、体で判らせるから」
響は俺の言葉を遮り、真っ赤に膨張している亀頭に一舐めすると、身を起こして俺の股間の上を跨ぐ格好で膝立ちになった。
俺の眼下に響の開き切っていない割れ目が晒される。
「まさか……」
響は俺のイチモツをむんずと掴むと、何の躊躇いもなく一気に腰を落とした。
ローションも無しで、処女の入り口に勃起したペニスが簡単に納まる訳もなく、先端と割れ目の肉とが擦れ合いながら、ずるりと滑ってずれる。
「ぐあぁッ!」
「……!」
苦痛とそれを上回る凄まじい快楽に俺は思わず声を上げてしまう。
響も目をぎゅっとつぶって、未知の感覚と痛みに耐えているようだ。
「響っ! 頼むから待って……」
響はまたも俺の言葉を無視して再び体勢を戻すと、俺の肉茎をそこにあてがった。
今度は比較的ゆっくりと腰を落とす。
少しずつ先端が彼女の中にめり込んでいく。
外すまいと竿を握る手に力が込められる。
先端と中央とに同時に与えられる刺激で、俺の男根は更に膨れ上がった。
「ンうっ!」
痛みの声と共に、再び滑ってずれ落ちた。
響は体を折って暫く耐えていたが、身を起こすと三度目の挿入を敢行しようとする。
見ていられなくなって、俺は声を上げた。
「響、もういい! そんなことしてもお前が辛いだけだぞ!」
「辛くったって、いいよ」
響はなおも聞く耳を持たず、俺の先端から溢れる先走りを裂け目に塗りたくっていく。
「ツトムを、無茶苦茶にしてッ……。私も、無茶苦茶にされて……んぁっ! ……孕んで一生逃げられない様にしてッ!」
ズルッ、グチュッ、ミチミチ、グリュッ、ネチャッ。
まだ開き切っていない花弁の奥に剛直が無理矢理押し込まれる。
響は目をぎゅっと瞑って歯を食いしばりながら異物感に耐えていた。
ビクビクと脈打つそれは俺の意思すら無視して暴れ回り、中々彼女の思う位置に定まらない。
またも滑ってずれようとしているペニスを握り締めて固定。
四方からの圧力で、俺のイチモツは限界に差し掛かっていた。
「ぐゥっ!」
そろそろと慣れない手でぎこちなく、それでいて力一杯締め付けてくる響の指の感覚。
先端に感じる、熱く脈打ち、僅かに湿り気を帯びている響の内部の感覚。
俺自身は縛られ何も出来ず、全てを彼女に委ねていると言う屈辱的な状況にすら興奮を覚える。
そしてなけなしの理性で射精を我慢すれば我慢するほど、快楽が募り増していく。
もし戒めが解けたならば、果たしてその時俺はこの欲望の渦に抵抗できるのだろうか。
「やめ、ろ。もう、でる」
何とか、口の上だけでも抵抗を試みる。
それを聞いた響の顔に若干の焦りが浮かんだ。
にじりにじりと、じれったいぐらいゆっくり挿入をしていた響は、腰を捻りながら男根を埋め込んでいく。
口の中に入っていた時とは全く違う、凄まじい締め付けが襲い掛かる。
それでいて咥内と共通している体温の熱さとぬめり。
肉襞と擦れ合う摩擦が凄まじい快楽を呼ぶ。
俺は声を上げることも出来ず、ただ歯を食いしばって射精を我慢することしか出来ない。
ことのスピードが上がり、亀頭が膣内に捻り込まれるが、途中で何かに阻まれて止まる。
こんな状況ですら、頭のどこかで響が処女であることに安堵している自分がいた。
響は俺の上で暫く逡巡していたが、意を決すると己の処女膜を突き破らんとそこに全体重を加えた。
凄まじい力で先端がその壁に押し付けられる。
「――――ッ!!」
余りの痛みに、響は今まで聴いたこともないような叫び声を上げる。
ペニスが一気に引き抜かれ、その動きで俺はあっけなく限界に到達した。
頭が真っ白になり、下半身が振動を始める。
もう止められない。
響の内腿に、臍に、薄い茂みに、白い欲望をぶちまける。
一ヶ月ぶりの射精は中々止まらず、響の下半身は精液まみれになってしまった。
荒い息をつきながら脱力する。
響はぺたんとベッドに腰を落とすと、俯いて肩を振るわせ始めた。
「うまく、いかなかった。ツトムと一つになれなかった……」
何か声をかけてやるべきだった。
気休めだろうがなんだろうが、優しく慰めるべき状況だ。
だが、俺の頭の中には全く異なるモノが渦巻いていた。
ばきんと音を立てて、俺の腕が括り付けられているベッドの支柱が折れる。
開放された手を使い、四肢を縛るガムテープを強引に剥がす。
完全に自由になった俺は、呆気に取られている響の手首を掴んだ。
そのまま毛布の上に転がし、強く押さえ込む。
「ツトム……?」
不安げに揺れる瞳。
俺の中の良心が痛んだ。
「ごめんな」
もう止められない。
俺の指がすっと響の秘部へと導かれる。
そして何の躊躇もなく人差し指と中指を挿しいれた。
「……っ!」
ビクンと体を振るわせる響。
体重をかけて押さえ込み、身を捩ることすら許さない。
ぐちゃぐちゃと音を立ててかき回して行く内に、やがてツンと出っ張った膨らみに行き着く。
そこを俺は、二つの指で挟み、強く捻った。
声にならない絶叫が零れる。
じたばたと暴れる足を尻の下に敷く。
下半身を固定して、剥き出しである響の女精器を容赦なく攻め立てる。
これでもかと言う位中身を掻き混ぜ、クリトリスに爪を立ててまで、ひたすら快楽を与えまくった。
ベッドの上で左右に揺れる響の乳房が俺を誘う。
右手で下半身を弄繰り続けながら、左手でたわわな果実を掴み上げた。
乱暴に、搾り出すように、強く揉みしごき、赤い乳頭を浮き立たせる。
身を乗り出して彼女の胸に顔を寄せると、立ち上がりつつある乳首に歯を立てる。
響が苦痛に喘ぐ声すらもう聞こえない。
歯と歯の間で、うっかり噛み千切ってしまわぬ様注意しながら、出っ張りの食感を楽しむ。
勿論下半身を強く擦り上げるのも忘れてはいない。
もうそこはぐしょぐしょに濡れそぼって、シーツに愛液が滴り落ちていた。
もう良い塩梅になったろう。
それにしても、あつい。
暑くて死にそうだ。
熱に浮かされた頭でそんな事を考えながら、俺は元々半脱ぎになっていた寝巻きを乱暴に脱ぎ捨てる。
未だにギンギンと屹立している己がペニスを握り締めた。
体をくの字に折って悶えている響を背後から抱え起こすと、押しやって壁に手を突かせる。
響は、不安そうな目で背後を見るだけで、抵抗しようとはしない。
それが、妙に俺の癇に障った。
「何か言えよ」
形の良い尻を掴み上げ、そそり立つ剛直をあてがう。
先程の痛みを思い出したのか響の躯は一度びくりと震えたが、目をギュッと瞑って耐える姿勢を維持する。
「まだ録に愉しみも知らないおぼこの癖に、男にいきなり最後まで犯されようとしてるんだぞ!
悔しいだろう。俺が嫌いになっただろう。罵倒してやりたいだろう。
抵抗しろよ! 大声出して助け呼ぶか許しを乞うかしてでも止めさせろよ!」
響は只ふるふると首を振る。
無理をしているのは明らかだった。
「ちょっと挿れただけで泣き喚いてたのが、こんなのに耐えれるわけないだろ。
止めろって言えよ。
呪詛でも懇願でも何でも良いから抵抗して見せろよ!
そうしないと、俺は止めないぞ。
お前が泣こうが喚こうが、止められなくなる。
血イ出そうが失神しようが、欲望の捌け口として使い倒す。
だから、イヤだって言えよ。
こんな俺は嫌いだって言えよ!
黙ってたら、判らないだろう!」
響は、それを聞いても微笑んで見せるだけだった。
「いい、よ。乱暴にしても。
私は、ツトムの欲望が、ほしいから」
その一言で、俺の理性は完全に途切れた。
ヒクヒクと痙攣する大陰唇を思い切りこじ開け、背後から一気にペニスを突き刺す。
思わず仰け反る彼女の体を押さえ付け、ずいずいと腰を推し進めていく。
先程侵入を阻んだ純潔の証も一息に突き破る。
「あ、あア、ア、あ」
響は上体反らしの様な格好で大きく口を開けた。
結合部から垂れる一筋の赤い線。
血の匂いが俺を益々興奮へと掻き立てる。
抵抗が緩くなった膣内を更に押し進め、俺のペニスは完全に彼女の中に進入を果たした。
凄まじいボルテージの快感が俺の脳を焼く。
先端から付け根まで包み込まれた上で、全体がきつく絞られる感覚は格別のものだった。
これだけでも簡単に二度目の射精を誘い得る。
しかしまだまだ楽しみ足りない。
俺は一度入り込んだイチモツを根元まで引き抜いた。
赤い血が棒のいたる所にまとわりついている。
異物が引き抜かれた響が一息ついて脱力した瞬間、俺は一気にペニスを再挿入した。
無理のある摩擦で擦り上げられ、俺の性器にも痛みが走るが、彼女のほうはその比ではない。
体を捩りながら顔をシーツに埋めて悶絶している。
再び根元まで男根を挿れてから、今度は最奥での小刻みなストロークに移る。
陰茎と陰唇が根元で擦れ合う感覚が最高だ。
恍惚としながらも、ふと興味を惹かれて俺は響の乳房を背後から掴み上げ、乳首を弄繰り回してみる。
痛みに身を震わせていた響の口から、僅かに甘い喘ぎがもれ始める。
苦痛のほうが遥かに上とは言え、感じてもいるらしい。
「初めての女がこんなことをされてるってのに……、乳首で感じてるなんていやらしい奴だな!」
言葉で嬲るのも俺のサディスティックな満足感を満たしてくれる。
本来なら女性器の入り口付近を丹念に愛撫したほうが、彼女も楽に快感を感じられるだろうが、そんな事をしてやるつもりはさらさらない。
俺は、俺の快楽と彼女の苦痛に歪む顔だけを求めて動いた。
やがて響は朦朧として来たのか、反応が鈍くなっていく。
だらしなく口を開けて、シーツの上によだれを流し、俺の攻めにも余り反応しなくなっていた。
彼女の声が聞きたいな。
嬌声でも苦痛の声でも良いから、聞きたい。
そんな考えが一瞬浮かんだが、オルガズムを求める欲望のうねりに飲み込まれ、消えた。
丁度俺のほうも限界に差し掛かっていたので、スパートをかけるべく突き上げる勢いを倍増しにする。
小刻みな運動と先端から根元までの大きな往復を交互に繰り返す。
ぐちゃぐちゃと水音が響き渡り、シーツに血と俺の先走りが混ざったものが飛び散る。
同時に乳首を強くつねってやると、反応が鈍っていた響が再びうめき声を上げだす。
「はぁ、う……」
弱々しい声。
その声がもっと聞きたくて、俺は彼女に最大限の苦痛を与える様に、強く亀頭で膣道をすり上げながらの大きなピストン運動に力を入れる。
「いたい、よぉ」
それでも、やめてくれとは絶対に言わない。
苛立ちが募る。
それを打ち消すように、更に強く揺さぶりながら奥の奥まで突き上げる。
心地良い。
彼女の声は、俺の情欲を掻き立ててくれる。
だけど、何かが違う。
本当は、響の喜んだ声が聞きたい。
腰を大きく打ちつけた瞬間、俺は果てた。
長い長い絶頂。
信じられない量の白濁が、つながっている部分から溢れ出る。
彼女の四肢がだらりと垂れ、躯が力を失う。
失神していた。
俺は彼女の体をそっと抱き起こす。
そして俺は気絶中の彼女を――――更に三回犯した。
*****
「あれ……?」
突然、我に返る。
真っ暗だ。
頭が痛い。手首が痛い。足首も痛い。
そして特に下半身が鈍痛を訴えていた。
弱々しくペニスが震え、最後の射精を終える。
彼女の膣の中から自然に押し出され、垂れ下がった。
温い精液が溢れ出る。
もう、破瓜の血は出尽くしていた。
意識が朦朧としていて、今までの出来事についてまともに考えられない。
「響……?」
呼びかけてみる。
返事はない。
段々と俺がしでかしてしまった事の重大さを自覚し始めた。
響の体はだらりと力を失い、俺に組み敷かれたまま毛布の上に横たわっている。
閉じられた瞼の周りに、涙の跡が見えた。
「――響っ!」
彼女を抱き起こして強く揺する。
まさかこのまま目が覚めないんじゃないか。
恐怖で頭が真っ白になる。
「頼む、目を、開けてくれ!
謝りたいんだ。頼むから!」
ぴくぴくと、彼女の瞼が震える。
「ん……、ツトム……?」
目を覚ました響はぼんやりとした眼差しで辺りを見回した。
その視線が彼女の下半身で止まると、嬉しそうに微笑む。
「うまくいったんだ」
俺は響の意識がはっきりしている事に安心すると、そのまま彼女に向かって頭を毛布に打ち付けた。
「響! すまない!
謝ってすむ問題じゃないのはわかってるけど、償えるならなんでもするから!」
響は不思議そうな顔で俺を見返している。
「なんで、謝るの?」
「何でって……」
彼女は自分が何をされたか自覚していないのだろうか。
おもちゃの様に好き勝手犯されていたというのに。
「俺は、お前を欲望の捌け口として踏みにじったんだ」
響は静かに頭を振った。
「私はツトムをレイプしたんだよ。悪いのは、私」
「違う! 元はと言えば俺がお前の気持ちを考えてやらなかったせいで……」
全裸のまま謝罪し合う俺達は、はたから見ればマヌケだったかもしれない。
響はゆっくり身を起こそうとしたが、途中で下腹部の痛みに目をしかめてぽすんと倒れる。
俺が手を貸して抱え起こしてやると、コポリと泡を立てて彼女の膣の中から大量の精液が溢れ出てきた。
俺の精巣のどこに、こんな大量の子種が収められていたのだろうか。
余りの量に両者とも言葉を失う。
響は笑いながら腹をそっと押さえた。
「な、なんだよ」
何故彼女が笑うのか判らなくて、俺は戸惑う。
響は股間の下の水溜りを指で弄りながら呟いた。
「私、ツトムに女の子として見られてないんじゃないかって、心配してた」
「そんなことないよ。むしろお前への、その、性欲を持て余してたくらいで。
けど、俺はどうも一回出すと歯止めが利かなくなるみたいだ」
多くの男性は一回の射精ですぐに萎えてしまうらしいが、俺は何故か逆に燃え上がるタイプらしい。
普段性欲には淡白で自慰も習慣化していない反動なのか、夢精で出した後悶々として眠れず、数回まとめて抜くということもザラにあった。
「そんなだから、お前を壊してしまわないかって考えると、こういうことに中々踏み切れずにいた。
……全部手遅れになったけど」
俺はそっと響を抱え上げた。
「服、着れるか?」
「……わかんない」
まだ動くたびに激痛が走るようで、四肢にも力がない。
俺は自分の責任を感じて胸が痛んだ。
「朝になったら病院に行こう。痛みが酷かったら今からでも構わない」
響は病院と聞いて不思議そうな顔をしていたが、何か別の方向の想像をしたのか、顔が青ざめる。
「初めてじゃ、なかったんだ」
つまり、エイズとか梅毒とか、そういう方向に勘違いしたらしい。
「違う違う! さっきまで童貞だったに決まってるだろ!
俺は膣の裂傷とかそっちの心配をしているんだ!」
響は安堵の溜息をついた。
それでも病院に行くのは乗り気でないらしく、首を縦に振ろうとしない。
「病院はいい」
確かに症状の説明に困るし、何より恥ずかしいだろう。
「気持ちは判るけど、そんなとこ言ってられないだろう。
化膿とかしたらどうするんだ」
響はしばらく逡巡していたが、俺を上目で見ながらこう言った。
「付いてきてくれる?」
「あたりまえだろ」
即答。
彼女は満面の笑みを浮かべると、俺の胸に顔を押したて、頬擦りをする。
「お、おい。だから病院は」
「行かない。ツトムを退学にさせたくない」
確かに学校にこんなことを知られたら、両者の同意の上と主張しても何らかの処分が下るのは間違いないだろう。
多分、そのときは彼女も一緒だ。
「……酷くなったら問答無用でつれてくからな」
俺は彼女の頭を抱きしめ、つややかな髪を後ろから撫でた。
俺達はしばらく無言でそうしていたが、しばらくして何かに気付いた響が顔を上げる。
「薬」
「うん?」
「スカートのポケットにある。とって」
俺は響を寝かしてベッドを降りると、綺麗に畳んで置いてある彼女の制服の中を探った。
「これか?」
白いタブレット状の薬を取り出してみせる。
響はそれを受け取ると、二つほど出して、水もなしに飲み込んだ。
「お前、持病何かあったっけ?」
「ピル」
あ、と今になって思い当たる。
「"孕んでやる"とか言ってたから、避妊は全然してないかと思った」
響は憮然と言い返した。
「ツトムとの子供を、不幸な目に合わせるわけない」
不覚にも目が潤んでしまった。
何だかんだ言いながら、こいつはいい奴だ。
俺は照れ隠しに、響を抱きしめてゆっさゆっさと前後に揺さぶってやった。
なされるがまま幸せそうにまどろんでいる彼女。
その耳元に顔を寄せる。
「出来ること、あったらなんでも言えよ。
こういうことはもう高校出るまでは出来ないけど、埋め合わせは必ずする。
俺はバカだから、お前のこと判ってやれないかもしれない。
それでも理解するよう努力はするから」
しばらく彼女は戸惑っていたが、やがて顔を赤らめるとほんのささやかな願いを告げた。
「……いっぱい、キスしてほしい」
お安い御用だ。
俺達は正面から抱き合うと、朝が来るまでお互いの唇をついばみ合った。
投下終了です。
>>514支援多謝。
またヒロインが喋りすぎたような気も。だが私は謝らない。
"黙ってたら判らないだろう"は無口娘にはNGワード。これを言う主人公は間違いなくヘタレ。
GJ!
こんなヤンデレは確かにいないな
>>523 GJ
なんだかんだで最終的に愛があるのはやっぱりいいものだ。
無口探検隊スタッフマダー?
amazon奥地6500km!
静寂すぎる密林の果てに幻の無口娘の村は実在した!
新年の特番はこれで決まりだな
GJ
いいじゃないですか
無口っ娘に『これって間接キスだよな?』とか言いたい
「・・・・・・///」
最近過疎だな
皆さんが無口なだけでは…
無口な、女の子と(ryと言う電波が…
隣の部屋で親が居ても気づかれないサイレントセックス…
音は肉音と息づかいのみ。どちらも喘がない。
喘ぎ声を抑えるのを無口娘的にどれが似合うんだろう?
1.枕に顔を押し付ける
2.シーツを噛み締める
3.キスで口を塞ぐ
4.声など必要なし、エロい人には(ry
5.その他
>>534 5、ガマンしきれずに時折漏れる声にわびさびがあると思います。
5.で
必死に我慢するけど、最後には我慢しきれない
我慢しきれず、最後にはか細い声で絶頂に達する
その無口娘がどんなタイプかによる
一概には言えない
540 :
名無しさん@ピンキー:2008/11/30(日) 00:59:30 ID:Mqq51nCB
無口っ子とするときって・・・
やっぱ、対面座位?
喘ぎ声抑えつつ頑張って腰振っちゃう対面座位もいいものだ
途中で送信した上に間違えた。騎乗位と書きたかったんだ。
対面座位なら必死に声を抑えてる顔が見れたり
耳をアマガミして声を上げさせれる。
騎乗位なら手を繋いで胸を触ってあげたり指を咥えさせたり。
546 :
彼女の日課:2008/12/02(火) 23:31:52 ID:LyZyO9du
「……また、空保守……」
遅い日曜の朝。モニターを見ていた彼女が、小声でつぶやいたようだった。
僕はキッチンから気の無い返事をしながら、インスタントのコーヒーを作る。
白のマグカップに、柔らかな湯気と香りが立ち上る。そこにミルクを少し。砂糖を一杯。
コーヒーをかき混ぜるティースプーンの音と、マウスのクリックの音だけが、
まだ温まり切らない部屋に心地よい。
マグカップを差し出せば、彼女はにっこり笑って両手で大事に持って、ひとくち、ふたくち。
リスのような可愛らしい仕草でコーヒーをすする。
「何? ぜんぜんカキコ無いの?」
ブラックを飲みながら僕が尋ねると、彼女は黙ってブラウザを閉じた。
空保守じゃあがっかりしてるのだろう――そう思ったけど、彼女は僕がしていたように
カラカラとティースプーンを混ぜて、ちょっと笑った。
「空保守が……これが許されるのも、このスレのフシギなの……」
ひ弱なヒーターがようやく回り始めた。今日も一日が始まる。
>>546 GJです。
1レス分だけの文章なのに、描写が丁寧で雰囲気が十分伝わってきます。
仕草の可愛らしさで十全に悶えさせていただきました。
新参です。
量が多いので、三日に分けて張ります。
どなたかが別に張られた日は自重します。
☆「ラヴ・リンク」一話
1
聖羅高等学校に通う二年生の槍田秀一は、女性とは全く縁のない少年だ。
どう繕おうが中の下がやっとの顔立ちに、本人自体もオタク趣味で三次元の女の子など眼中にない。
性格も、根暗ではないが頭が弱く、不思議といえば聞こえがいい変人たる行動や言動が目立つ人物だ。
そんなものだから、その日の出来事が彼の運命を大きく変えるとは、全く思いもしないことだったのである……
―――
「たっだいまー」
誰もいないというのに、やけに大きい声を上げながら帰宅した青年・槍田秀一。
帰宅部なので、まだ三時を過ぎたばかり。時間はもろもろにある。
「さって、早速コメチェックすっかなー」
自室のPCに向かい、鼻歌をうたいながら自サイトをたちあげる秀一。
彼は、オリジナルの萌えイラストサイトを運営しており、評判もそこそこに良い。
男など眼中にはなく、特に中高生の美少女のイラストが得意な辺り、典型的であるといえる。
まず彼は、昨日アップしたイラストの感想を見ようと、掲示板に足を運ぶ。
下方まで一気にスクロールすると、急に彼の表情が落胆を含んだものに変貌した。
「一件だけかよぉ、つまんね……ん? 新参さんか?」
少し眼を丸くしながら、コメントを寄せてくれた人のHNを見つめる秀一。
名前欄には、「suzutomo」という文字が羅列していた。
始めてみる名である。
「す、ずとも、さんか。『とってもかわいいイラストですね。一分くらいその場で魅入ってしまいました』……うへへ」
端から見たら間違いなくヒかれるであろう忍び笑いを洩らした。
彼はもともと女の子の絵を描くことは好きなのだが、動機はといえば、友人にほめて貰いたかったからなのだ。
中学三年の時、今まで棒人間くらいしか描けなかった彼が、ふいに思い立って真剣に好きな絵師の萌え絵をトレースしたことがある。
彼自身、我ながら巧く描けたと思って友人に見せたら、ものすごい勢いで褒められたのだ。
そういった「ほめられたい」のをモチベーションにぐんぐん腕を磨き、結果自サイトを立ち上げるほどの腕前になったのである。
2
「『私も絵は描くんですけど、女の子は苦手なんですよね……一槍さんみたいに繊細な絵を描けるよう、頑張ります』。女か? 別に……――ん?」
秀一の顔が一変した。
彼は三次元の女性に興味などなく、コメントさえもらえれば男女隔てなく無常の喜びを覚える少年なのだが……
どうにも彼の頭の中に引っかかるものがあるようだ。
「すず、とも………………すずとも。あっ!」
鈴森朋美!
なぜか口には出さず、心の中でその名をつづった。
すずもりともみ。秀一のクラスメイトである。
申し分なく美しい少女なのに、全く男っ気……どころか、人っ子一人寄り付かない生徒だ。
三次元に興味がない秀一でさえ、視界に入るとチラチラ見てしまうほど、彼女の美貌はすこぶる優れたものなのだ。
では何故、彼女の周りには人がいないのか。
理由は数多にあるものの、最も大きいのはその性格だろう。
極めて寡黙で、自分から人に話しかけることはまずない。
こちらから話しかけても、無視されるか冷たい反応ばかりとくれば、孤立しても仕方がない。
「――って、別にこの人があの子だってわけじゃないだろ。なに考えてんだか」
そう考えるのは当然といえた。
ただ姓名の頭を取ってローマ字に置き換えただけと云うハンドルネームが、偶然にも彼女に合わさっただけだ。
秀一はあえてそう考えることにしたが、それはすぐに崩れ去ることとなる……
―――
翌日。
彼が目覚めたのは、八時過ぎだった。
「うぉわっ! やばっ!」
どうやら目覚ましを止めた後、二度寝してしまったらしい。
眠ったのが五時で、しかもその前にオナニーしたとあっては身体が疲弊しているのは当然なのだが、本人には全く自覚がない。
なんで起こしてくれないんだ! と思いつつも、さっさと着替えて家を出た。
点呼は九時。学校までは約四十分。
……冷静に考えたら、そこまで切羽詰るほどの時間ではない。
「……いいか。ゆっくり歩こう」
3
必死になっていた自分が馬鹿馬鹿しくなり、やや落ち込みながらもゆったりと足を運び始める。
――実際ゆっくり歩いても、余裕を持って間に合う時刻の電車に乗ることが出来た。
ふと、昨日の事が頭をよぎり、気になりはじめた。
おかしなものだと思った。
俺は三次元には興味ないはずなのに、鈴森さんには興味あるのか? 面食いとか、最低だぞ……
リアルとバーチャルを分けている彼にとっては、朋美の印象は良くも悪くもなく、薄かった。
確かに眼を引く可愛さではあるが、なにぶん現実なのである。
手の届かないものを気にしたってしょうがない……それが彼の持論だ。
電車を降り、学校へ向かう途中も、中々頭から離れない。
学校には八時五十分についたものの、彼にとってはあっという間に感じたものだった。
「ちっ、ラノベ読めねーじゃん……おっ?」
秀一は下駄箱まで足を運んだところで、目を見張った。
下駄箱で居合わせたクラスメイトは、鈴森朋美その人だったのだ。
美しい顔立ちに、大きな瞳、整った鼻梁、可憐な口元がある。
首元まである流れる黒髪はいつもサラサラで、男女問わず見惚れてしまいそうな質感だ。
そんな絶世の美少女であるにも関わらず、秀一の反応は鈍い。
むしろ、その鈍さが幸運を呼んだのかもしれない。
「ねえ、鈴森さん」
気付かぬうちに、秀一は眼の前の可愛らしい女の子に声をかけていた。
自分でも意外すぎたなと思った、と後から振り返ったのはいうまでもない。
「……なに?」
朋美独特の甘く透き通った声だが、普通の切り返しといっていいだろう。
他のクラスメイトなら、その平凡な反応を意外に思うのかもしれないが、相手は秀一である。
それになんの疑問も抱くことなく、続けて問いを重ねた。
「鈴森さんってさ、二次元イラストサイトとか見てる?」
「え……」
なんとも直球な訊きかたである。
当の鈴森さんも、返す言葉をさがしあぐねたように一瞬固まってしまう。
「あ、いや、見てないなら――」
「見ているわ」
4
固まる鈴森さんを見て慌てて弁明しようとしたものの、突如台詞を遮るように肯定され、全身に静電気を流されたような感覚が走った。
肯定されたのが嬉しかったというのもあるが、やはり原因はそのアニメ声だろう。
その、チョコレイトより甘く、アルプスの雪解け水さながらの透き通った声は、まるで天が自分に遣わした女神を思わせるものだった。
……とは、後日秀一が自サイトの日記に掲載した文だったりする。あいたたた。
「……見てるならさ、一つ訊きたいことがあるんだ」
急に神妙な顔つきになる秀一。
朋美のほうも、普段話したことさえない秀一が自分のことを知っていて、且つここまで真剣に話してくれることに、少なからず感じるところがあるようだ。
周囲に誰もいない下駄箱で、真顔で見つめあうふたり。
「鈴森さんはネット上でのHNが、ローマ字で「suzutomo」だったりする?」
実際は、彼はこれを訊く前から確信していたといっていい。根拠は全くないが。
そして、鈴森さんの反応は見事なものであった。
「槍田くん……まさか」
しぼり出すように発した甘やかな声はふるえていた。
美しい黒髪を飾った小顔を揺らし、怯えるようにこちらを見据えている。
うわっ、かわいー……ん?
自分が心内で呟いたことに、思わず疑いたくなる秀一。
二次元にハマり出す前ならともかく、どっぷり漬かってからは現実の女の子に「可愛い」なんて思ったことはなかった。
「ね、ねえ、槍田くん……なんで……? もしかして……槍田くんが……サイトを、持ってるの?」
やっぱり彼女は話すのが不得手なようである。
所々言葉が途切れたり、声が小さかったり、ゆったりし過ぎていたりと、良い声質が勿体無いと思う。
話すのがあまりにゆっくりな為か、集中力に乏しい秀一の視線は段々と移り変わり、いつのまにか彼女の身体を注視していた。
……眼を疑いたくなるようなプロポーションだった。
以前から遠巻きにチラチラ見ていた時にも思ったが、尋常ではないくらい良い身体の持ち主である。
華奢な肩に不似合いな、豊かな双丘。
なめらかな曲線を描くウエストを、程よくつき出たヒップが引き立てている。
これらが制服の上からでも分かってしまうのだから、脱いだらもっと凄いのだろう。
「え……ねえ……槍田くんってば!」
朋美のよびかけに、ハッとして視線を上げる秀一。
「あぅっ! ごご、ごめっ、別に身体に見とれてたわけじゃっ」
5
言わなくてもいい事をわざわざ口に出してしまうのは、彼の困った悪癖である。
だが、彼女はそのことに気付いていないのか、少なくとも怒っているようには見えない。
余計な詮索をうけないうちに話を進めることにした。
「ってゴメン! どど、どこまで話したっけ?」
「う、うん……槍田くんが、自分のサイトを持って……るんだよね?」
「あ、そうそう。それでさあ、きのう鈴森さん、俺のサイトに来たんじゃないかってハナシなんだよな。俺のHNは「一槍」だけど……」
「やっぱり、そうなんだ……私のHNは「suzutomo」だから……」
口下手なふたりにしては、面白いくらいにトントンと話が進んでゆく。
しかも初めての会話、ましてや普通ならば意識せざるを得ない異性との対話でここまでなのだから、よほど波長が合っているのだろう。
……ちなみに「一槍」とは、秀一のHNだったりする。
「そうかあ。鈴森さんが、絵を描いてたなんて……」
感慨深げに言う秀一である。
彼には、アニメやゲームに興じる友人はいても、一緒に絵を描く者はいない。
いや、皆無というわけではないが、秀一のレベルには全くついてこれないのだ。
それだけに、彼は朋美の絵がどれほどのものなのか、淡い期待と興味を抱いたのである。
同時に、今更ではあるがこうも思った。クラス内での評判なんてアテならないな、と。
「……槍田、くん。もし、よかったら、これからも……その――」
「うんうんわかった。俺も鈴森さんの絵を見たいし、鈴森さんも俺の絵が見たい。ギバンドテイク、ってやつだね!」
朋美のセリフを遮断しつつ、いきなりテンションを上げて珍言を吐く秀一。
眼の前でしどろもどろになりながら話す美少女の気持ちは、残念ながら少年に伝わらなかったようである。
だがこれは、彼が「変人」と嘲笑われる所為の一端に過ぎないのだ。
「じゃ、じゃあ……槍田くんのサイトに、また行っていい……?」
「あったり前田の何とかだよ! お互いガンバろうぜ、鈴森さん!」
「………………う、うん……ありがと、しゅ……槍田くん」
返答にかなりの時間を要したこと。
加えて、彼女が今溢れる歓喜に涙を堪えていることに、秀一は気付いただろうか?
むろん、ニブい彼のこと。気付くはずもなかった……
―――
6
それからというもの、二人はたびたび「ネット上でのみ」交流するようになった。
お互いの家に足を運ぶどころか、クラスでさえも口はきかない。言うまでもなく、周囲の視線をかんがみてである。
それでも、ふたりにとってPCを通じてやり取りすることは、極めて楽しい日々だった。
メールアドレスも交換し合い、端から見ると「親友」のような関係になっていた。
秀一は朋美が美少女であることをなんら気にしなかったし、逆に朋美は秀一の容姿が悪いことになんの不満もなかった。
しかし、ふたりは男と女だった。
いかにかれらが控えめであり、下心がなかろうと、本能を消すことはできない。
親しい友だちという関係は、そう長続きしなかったのである……
―――
「く…………くそっ!」
日をまたいだ頃合いの、槍田秀一の自室。
PCの前で頭を垂れ、右の拳を握りながら罵言を吐く少年の姿があった。
左手はというと、完全にいきりたった男を擦っている。
「取るんじゃ……なかった……!」
これは即ち、鈴森さんの写真のことである。
彼女の提案で、お互いの写真を携帯に入れておこうということになったのだ。
なぜ朋美がそんな提案をしたか疑問に思うより先に、彼は自分の写真写りの悪さの方を心配してゴネたが、彼女がどうしてもというので撮らせてあげた。
朋美は秀一に心配かけまいと理由は言わなかった――顔を見ていないと寂しいなどと、親友と思ってくれている少年には言えない。
そして、彼女は秀一にも自分の写真を持っていてほしいと懇願したのだ。
この頼みを聞く数日前にはもう、彼女の秀一に対する想いは、恋愛感情を多く孕んだものになってしまっていた。
元はといえば、初めて話したあの日からすでにそういった想いを抱いていたように思う。
だが、秀一の方はというと――
「っく…………だ、駄目だ、けど……くっ!」
デスクトップにどんと張りつけられた画像――制服姿の鈴森朋美の全身を撮った写真だ。
彼の目線は主に、顔よりも盛り上がった胸やスカートに覆われた股間を中心にさまよっている。
駄目だと思っていても、抑えられなかった。
鈴森さんの身体を好きにしたい。めちゃくちゃにしたい。
実際にやろうとは思わない彼も、頭の中では彼女を犯す情景を描いている。
彼が現実の少女を想い自涜におよぶのは、初めてだった。
7
「くっ……――がっ!!!」
放精とともに、数秒の快楽にいざなわれる。
だが、あまりにも早く空しい気持ちへと切り替えられ、行為に耽ったことを後悔してしまった。
「………………馬鹿か、俺は。醜すぎだぜ……」
もし鈴森さんがこんな醜態を見ちまったら、相当失望するだろうな……
彼は少なくとも朋美を親友だと思っているし、相手にもそう思われているだろうと考えている。
その相手を脳内で犯すなんて、自分は最低だ……
むしろ、この年頃であればめずらしくもないことなのだが、十代の童貞特有の感覚が、彼を深い罪悪感に苛む原因となっていた……
―――
だが、秀一が自慰に耽っていた同時刻のこと――
「はぁ……はぁ……はぁ……」
朋美も秀一を想いながら、自らを慰め終えたところだった。
全くの裸体を無防備にさらし、横たわって右手を秘所に当ててままの淫らな格好。
虚ろな瞳が潤み、涙が零れ落ちてゆく。
その枕元には、十数個の錠剤が散乱していた…… fin
分割仕方がへたくそなうえ、エロ無しで本当に申し訳ない。
というかこのスレでいいのか小一時ry
グッジョブ!!
>>554 うわああああ滅茶苦茶続きが気になるじゃないかあああああ!!!
今後の二人の関係が楽しみだぜ。GJ!
GJ!……無口属性に興味はないのか秀一
鈴森さんのイラストレベルはどれくらいなんだろ
wktkwktk
まて、その錠剤は一体何なんだ(汗)
強化人間なんだろ
物凄く続き希望!
>>554 gj!!!次に期待
>>560 強化人間wwwww
薬がないと自分を制御できないのか…w
563 :
メガネ+無口:2008/12/04(木) 17:39:43 ID:mIRD2hvz
初SSです。
初めて書いたSSがこのスレでよかったたって思ってます。
では…
564 :
メガネ+無口:2008/12/04(木) 17:40:14 ID:mIRD2hvz
「はぁ…ホントに人が来るんてな…」
とか言ってる俺は高沢…とある掲示板の住人たちでの探検隊に参加してしまった俺だ…
数週間前テレビでこんなニュースが流れた…
「自分好みの異性を探してamazonに行った男」
内容はこうだ、掲示板のスレでこう書いてamazonまで行ったらしい…
487 :名無しさん@ピンキー:2008/11/22(土) 15:38:45 ID:ZUy9px/x
>>486 ちょっと密林行ってくる
詳しくは、
>>496-499を見てくれ。
で話は一気に変わるが…内容の
>>486は俺だったりする…
それからスレでは、住人達が俺らも
>>487同様に無口っ娘を探す探検隊を作って探すんだ!!という話になり…今に至るって訳だ…
「どうも!!私が、集合をかけた600です!!では…皆さん自己紹介お願いします」
という具合に順調に自己紹介が進んでいき…俺の番…
「え〜無口とメガネに弱い、高沢です。」
と、言い少しざわめき終了…
けど…女性の多いもんだな…なんて思いながら、自己紹介が終わったが一人の女性だけ自己紹介をしていなかった。
「あの…自己紹介してn…」
「では!!自己紹介も終わったところで!予定通り、新幹線で日本から周りましょうか!!」
まぁ…仕方ないか…
で、順調に東京から大阪までの道のりを自己紹介をしていない女性と、相席になっていたことに席に着いてから気がついた。
「あ、どうも」
「………」
コクリ
と、彼女は無言でお辞儀を返してくれた。
まぁ誰でも初対面の人だったらこんな感じか…ましてや女性だもんな
そんな感じで、無口っ娘スレ探検隊は東京を離れ大阪を目指すことになった…
565 :
メガネ+無口:2008/12/04(木) 17:40:51 ID:mIRD2hvz
「やっぱり、お姉ちゃんで無口も最高ですよね!!」
なんて会話が飛び交う中、窓側の席の俺は誰とも話さずに景色を眺めていた…
トントン
と、自己紹介をしていない女性から、肩を叩かれた。
「何ですか?」
「席…」
「交換ですか?いいですよ」
コクリ
別に席だってどこでもいい俺だったが、彼女からしたら窓側の方がよかったのかもしれない
「おっと!!高沢さん!!自己紹介の時にメガネっておしゃっていましたよね!!私も好きなんですよ!!メガネが!!」
「そ、そうなんですか…」
「あっちでメガネについて語ってる所なんですよ!!一緒に来てくださいよ!!」
「は、はぁ…」
で、無口っ娘でメガネについてみんなで1時間語り合って戻ってきたが…
「まぁ、みんないい人たちだったな」
こんな気分、修学旅行以来だな…
「よいしょっと…」
「おかえりなさい…高沢…さん…」
「あ、ただいまです…で、申し訳ないんですが…お名前の方は?」
「香苗…」
「香苗さんですか、よろしくお願いします今頃遅いですが」
コクリ
「もう、お昼ですね何か食べますか?」
「ケーキ…」
「分かりました、頼んでおきます」
コクリ
566 :
メガネ+無口:2008/12/04(木) 17:41:25 ID:mIRD2hvz
で、頼んでお昼が届いたわけだが…
「いただきます!!」
さぁ、これ食ったらひと眠りだ!!なんて思いまながらガツガツ食べている
「いただきます…」
パクリ…
数分後…
「あ〜食べた食べた…」
とか言ってもう睡眠タイムに一直線の俺だが、彼女はまだ半分も食べていない…まぁ人それだから気にすることないか
「じゃあ、俺は少し寝るんでもし寄りかかっちゃたりしたら起こしてくれても構わないので」
コクリ
それから少し寝たのだが…すぐに大阪に到着してしまった…
トントン
「うぁ…あれ?」
「着きました…」
「あ…すいません…香苗さんが上にいるんですか?」
俺は盛大に、香苗さんに膝枕してもらっていた…
「あ!!す、すいません!!」
気まずい空気が漂う…
ダッ!
彼女は、顔を真っ赤にして走って行った…
「マズイことしたかな…あ、香苗さん荷物…持っていかないとな…」
567 :
メガネ+無口:2008/12/04(木) 17:41:55 ID:mIRD2hvz
「どこに居るんだろうか…」
「どうしたんですか?高沢さん」
「あ…さっきの、え〜っとあ〜っと」
「杉山です」
「えっと…杉山さん、メガネをかけている女性を見ませんでしたか?」
「さっき、あっちのバス停の方に走って行ったのを見ましたよ」
「どうも!!では…」
どこだ…どこだ…いた!!
「香苗さん…さっきはすいません…膝枕状態になっていたなんて…」
「私も…すいません…起こさなくって…」
「とりあえず、一番悪いのは俺です!!本当にすいません!!」
「膝枕…よかった…?」
「まぁ寝心地は最高…っていきなりどうしたんですか?!」
「気持ち良さそうに寝てた…から…」
「そ、そうですか…」
「………」
「………」
また沈黙か…
「本…」
「本?本がどうかしましたか?」
「電車行っちゃた…」
「あ…そう言えば荷物持ってきていますよ」
「ありがとう…ございます…」
「はい、どうぞ」
そう言って荷物を渡す…
ポト…
リュックサックの中から一冊の本が落ちた…
長門y…
サッ
「………///」
ダッ
また顔を真っ赤にして集合場所の方に行ってしまった…
「ありゃりゃ…けど…さっき長門って見えたな…」
568 :
メガネ+無口:2008/12/04(木) 17:43:57 ID:mIRD2hvz
「では!!!大阪で縁結びの神様のいる神社でお参りをして、無口っ娘を確実に落としましょう!!!」
てな訳で、そこの神社まで行くのにバスで行くことになったが…香苗さんとまた相乗り…
「ま、また一緒ですね〜あはは〜」
コクリ
機嫌悪くさせたかな…
「さっきの本なんですけど…」
「………」
「俺、見てないですからね」
コクリ
「………」
いやいやいや…もっと話しかけろよ俺!!!
「すいません…正直言うと見てます…本当にすいません!!!」
コクリ
「で…さっきの本を…あの…貸してくれませんか?暇なもんで」
コクリ
「どうぞ…」
「怒ってます?」
フリフリ
そう言うと彼女は首を横に振ってくれた…よかった…
そのあと、数分で神社に着いた
「う〜んやっぱり長門は…」
クイクイ
「香苗さんどうしたんですか?」
「着きました…」
「そうですか、じゃあ行きましょうか」
コクリ
俺は、香苗さんと一緒に神社に着いたが香苗さんは止まる気配がない…
「ど、どこに行くんですか?香苗さん」
グイグイ
「………」
香苗さんが連れてきたところは神社の裏だった…そこには一つの石がある…
「どうしたんですか?みんなのところに行きましょうよ」
「あの…その…」
「どうしました?香苗さn…」
その瞬間に、俺と香苗さんの唇が重なり合った…
「ここの…石の前で…キスすると…ずっと一緒…」
「香苗さん…正直言います…」
コクリ
「俺もずっと一緒でいいですよ」
〜おわり〜
569 :
メガネ+無口:2008/12/04(木) 17:45:58 ID:mIRD2hvz
ハッキリ言ってSSど素人です…
皆さんに読んでもらえていることが大変光栄です。
>>563の時に誤字があったことを深くお詫びします。
GJ
バカな。メガネとの複合属性だというのにメガネ分が足りないだと……?
どんな形のメガネだったんだ、ハァハァ。フレームの色は? レンズは!?
似合っていたのかね、ちょっと大きくてズレたのをしきりに直していたのかね?
ビン底なのかね、モノクル型なのかね、外すと可愛かったりするのかね?
前髪はかかっていたのかね、よけられていたのかね。
キスした時は外したのかね? レンズにうっかり皮脂がついたりしたのかね?
メガネを外して拭くシーンはないのかね!? それはさておきGJでした!!
お待たせしました。
一日おきに見たいに書かれてますが、誤字(ということにしてくだry)です。
連投規制が怖いです
☆「ラヴ・リンク」 二話
1
七月に入った。
秀一が朋美と接触したのが五月初めなので、ほぼ二ヶ月経ったことになる。
そんな頃だった。見計らったように、朋美からメールが来たのは。
「……朋美からだ」
彼はもう、朋美を無意識に名前で呼ぶようになっていた。
それほど親しい間柄と見るべきなのか、それとも……
「…………え? ……マジで?!」
彼は本分を見終え、目を丸くしながら大きめの独り言をついた。
内容はこうだ。
「七月に入りましたね。
私たちが付き合ってから、そろそろ二ヶ月が経ちます。
二ヶ月なんて、普通はみじかく思うかもしれないけれど、私にとっては凄い濃密に感じていました。
槍田くんと話せるのは、私にとって最高の楽しみになりました。
だけど、やっぱり直接話したいなって思うんです。
文字だけじゃなくって、槍田くんの姿を見て話し合いたい。
……ですから、もしよければ私の家に遊びに来ませんか?
あさっては親が仕事で帰らないので都合が良いので、槍田くんの都合がつくなら、是非いらっしゃってください。
一緒に絵の談義とかして遊びましょう――suzutomo」
実際どうかはともかく、変人の秀一でさえこれはお誘いにしかみえなかった。
むろん、一緒に寝る、という意味のものである。
「……ど、どうする? …………どうする俺ぇ〜」
2
PCの前で、頭を抱えてうめく秀一。
確かに、彼も本能的には彼女を抱きたいと思っている。
だが理性的に考えるなら、様々な事柄を考慮して親友のままでいたいとも思っているのだ。
「恋人」と「親友」では、やはりその言葉の重さが違いすぎる。
邪推かもしれないが、もし彼女の方から誘われでもしたら、恐らくそのまま床をともにしてしまうような気がする。
でも、やっぱり朋美の身体を好きにできるのは魅力的だ。
理性を本能を天秤にかけ、思慮を重ねた。
――何分たっただろうか。
「…………よっしゃ」
長考し終えて呟くと、秀一は早速行動に移った――
―――
七月二日、三時頃。
聖羅高等学校の制服に身を纏った少女が、とぼとぼと街道を歩いていた。
おそろしいほどの美少女だ。
一流の彫刻家に彫らせたような彫りの深い面差しに、首元までかかる黒髪を飾っている。
スカートの丈は今時の流行と異なり膝下まであるものの、その体つきの良さは制服の上からでも十分に見て取ることができる。
「はぁ…………」
少女――鈴森朋美は暗澹な表情を張りつけながら、ため息をついた。
きのう彼氏(と朋美が意識している)から送られてきたメールの内容を考えれば、致し方ないのかもしれない。
あした一緒に遊ぼうという内容のメールを送ったのに……その日は都合が悪いのだという。
じゃあその次の日は、と送っても、やはり理由をつけて拒否された。
朋美はなんだか怖くなって、とりあえずはあきらめた。
もしかしたら、槍田くんは私になにか含みがあるのかもしれない……そう考えてしまったのである。
実際にはそんなことなど全くないのだが、立て続けに拒まれたとなると、偽って断っているのではないかと勘ぐるのも当然といえば当然だ。
考え事をしながら歩を進めていたからか、あっという間に自宅に着いた。
朋美の住む場所は、大きな一軒家である。
父親が証券会社の重役なので、彼女は裕福な生活を送れるのだ。
……表向きは。
「……ただい――?!」
3
頭を垂れながら玄関の扉を開けたので、彼女はすぐに異変に気付いた。
父親の靴があるのだ。
三時に家にいるなど、普通では考えられないのだが……
「おうおう、ようやっと帰ってきおったか」
やや濁った声と共に異臭が流れてきて、朋美は鼻をつまんだ。
どうやら、こんな昼下がりから酒をあおっているようなのだ。
リビングからのそのそとやって来た肥えた父親の格好は、ひどくだらしなかった。
ありえないことに、パンツとランニングだけの下着姿なのである。
それに、正視したくないが――下半身を膨張させていた。
ぶるっ、と華奢な少女の身体が震えを帯びる。
「まったく、待ちわびたぞ。部下に仕事を押し付けるのも一苦労なんだから、気を利かせて早く帰って来い!」
凄みをきかせて物を言い歩み寄ってくる父親を見て、朋美は完全に硬直してしまっている。
玄関に立ったまま視線は一箇所――父の醜い顔に定められ、動くことができなかった。
帰るのはあさってだって聞いたのに……
朋美のそんな考えを制止するように、父の手が少女の腕を掴み、引き寄せられる。
力ずくで引っ張られ痛みを伴ったが、慣れているのか、声に出すことはなかった。
「まったく……あいつに似ず、本当にいやらしいやつだおまえは!」
「――っ!!」
侮蔑の言葉をつむぎながら、後ろから朋美の豊かな胸を鷲づかみにする父。
朋美は頬を少し紅潮させながらも、歯噛みして恥辱に耐える。
「あいつが堕ろさないとか抜かした時は殴りつけてやったが……まさかお前のような愛玩具ができるとは思わなかったよ」
制服の上から双丘を揉みしだきながら、声で言う醜男。
「あいつ」とは、この男にとっての妻だった人物であり、朋美の母であった女性である。
……彼が部下である彼女を強姦に近い形で手をつけ、朋美が美しく成長した頃、彼女は失踪したのだ。
「……おい、玩具だからって黙ってんじゃねえ! 声出さんかい!」
父は怒声を上げながら制服のすそを取るなり、一気に引き上げる。
朋美はつられるようにして腕を上げ、制服が脱がされると、彼女の上半身が外気に晒された。
高校二年生にしては大きな胸を、淡い緑色のブラが包み込んでいる。
ほっそりした肢体は、程よくくびれた腰やなめらかな肌、華奢な肩など、見る者を十分に魅了するものだった。
――すぐに伸びてくる、太い腕。
4
「!! ぁっ……」
いとけない途息が洩れる。
ブラをずらされ、胸の突起を直接つままれたのだ。
胸を歪ませながら乳首を引っ張り上げ、醜い顔に拍車をかけるような冷笑を、父は浮かべていた。
「ぅっ…………っ……」
生理的な嫌悪感を覚えながらも、でき得る限り声は出さない。
こんな男に感じているなどと思われるのが、甚だしく不愉快だからだ。
しかし、父は朋美のこの反応に憤りを覚えたらしい。
「おい…………てめえ、反抗する気かおらぁ!!」
更なる怒号を飛ばしながら、彼は朋美の身体を真正面に持ってくると――頬を思い切り張った。
パァン、と甲高い音とともに、少女はリビングへ続く廊下の方へ仰向けに倒れこんだ。
「誰が育ててやってると思ってる!? この売女が!」
罵りの言葉を発しつつ、床に寝転がり頬をおさえて涙目になっている朋美にずかずかと近づく。
そんな父親を見据えながら、彼女は悟るように心内でつぶやいた。
もう、何も考えるのはよそう……
スカートをめくられ、足を開かされる感触をおぼえる。
父は更に、なにやら猥雑な単語を連ねながら下着までも脱がし――秘所に刺激を与えた。
「――くはぁ!!」
不意打ちのような形で、最も敏感な突起を舐め上げられたのだ。
ちゅく、ちゅく、と続けて放たれる水音が朋美の耳に入るなり、感じたくはない悦楽まで彼女に襲い掛かってきた。
「……あぁん…………んぅ!! や、はン……」
つい洩れ出てしまうあえぎ声。
眼を閉じて口元に手を置き、もはや抵抗する気も起きなくなっていた。
本能のままにむしゃぶりつくだけの舌技によがるなんて……
劣情と羞恥に染まった表情を虚空に向けながら、彼女は執拗な攻めに対して必死に口をつぐんだ。
だが残念なことに、少女の意思とは裏腹に快楽の波は留まるところを知らない。
「やっ! …………はぁ、あっ、あン……やぁあんっ!!」
5
自らの陰部からぴちゃぴちゃ洩れる淫音。抑えるすべを失くした嬌声。
嫌悪感が少しずつ気持ち良さに変わりつつあるのを知っていながら、自分にはどうすることもできない。
「はっ、ふははっ! いいか、いいのかおら!!」
朋美が頬を赤らめながら可愛い顔を快楽に歪めるのを見て、醜男は濁った声で興奮を露にする。
――男の理性のたがが外れた。
「くく……さて、そろそろ入れるか……」
彼の男根はすでに目一杯に反り返っている。
「…………」
その剛直を虚ろな瞳に映す朋美は、一体何を思うのか。
それが捻じ込まれるのを見届けないまま、彼女は意識を途絶え‘させた’……
―――
朋美が恥辱の時を過ごした、四時間後。
夏とあって、彼女は黄色いTシャツに青のショートパンツに着替えていた。
夕食を終え、八時を回った時計を見ながら、勉強机の中から白い紙製の小袋を取り出す。
そのまま中身を机にぶちまけると、出てきたのは無数の錠剤だった。
――抗うつ剤である。
父は娘がそのようなものを摂取していることなど、つゆと知り得ていない。
朋美が自分の意思で精神科に足を運び、診断を受けた上で薬を処方してもらっているのだ。
「…………」
散乱するパキシルをうつろな眼で眺めていた朋美だったが――
突如、美しい顔を醜く歪ませ、手近にあるペンを引っつかむと、自らの左手首を思い切り突き刺した。
「――あぁああ゛っ!! あぐうぅ…………」
痛みに、整ったおもてを歪ませ、呻き声を発する少女。
腕ごと机の上に突っ伏して、刺した箇所を見つめた。
赤い血が、少しずつ、少しずつ腕をつたい、したたり落ちてゆく。
――朋美は、流れ出る紅い液体を見て、嗤っていた。ひどく暗鬱な、狂気じみた笑みだった。
父に身体を弄ばれたあと、朋美は必ず自傷行為に走る。
それが何を意味するのか。
彼女にとって、この痛みと流れ出る血は生のあかし。
同時に、怒りや不安、寂しさを紛らわすための行為でもあるのだ。
6
「…………秀一、くん……」
会いたいよ――言葉をそこまでつむぐことは叶わなかった。
理由は、分からない……
―――
朝、八時十分ごろ。
「やっば!」
槍田秀一は、時計を見るなり焦り始めた。この時間では、急がないと遅刻だ。
文字通りの即行で着替え終えると、飛ぶように家を出た。
夜更かしやオナニーの所為で万年寝不足の秀一だが、意外にも遅刻は少ない。
彼にとっては学校は楽しく、更にはある目標があるためか、休むわけにはいかないという意志が働いているのかもしれない。
次の電車には乗らなきゃ……
意志を強く持ち、少年は早足で駅へと向かった。
―――
「ふぅ〜……」
秀一はもう普通に歩いていた。
正門の前に来た時点で55分。ギリで間に合った。
欠席も遅刻も滅多にしないとはいえ、遅刻はしたくない。いや、彼にとってはだからこそと言うべきなのかもしれない。
「さーて……ん?」
いつもの様に下駄箱に足を運ぶと、鈴森さんが靴を履き替えているところだった。
これで、最初に会ったとき以来、二ヶ月ぶり二回目である。
どうしたものかな……秀一は迷った。
先日出したメールの所為で、なんとなく顔を合わせづらいのだ。
――こちらを振り向いた朋美と、眼が合った。
「あ……」
7
大きな黒い瞳が驚きに見開かれ、優美な面差しが固まってしまった。
……かわいい。
口に出そうになる言葉を飲み込み、同時に、胸が熱くなるのを感じる秀一。
心臓が脈打つのが分かり、戸惑う。
自分が持つ鈴森さんへの感情は、もう誤魔化しようのないところまできていたのに、なかなか受け入れられずにいた。
「お……おはよ、鈴森さん」
「……………………うん」
ながい間を置いて、微かな返答がかえってくる。
やはり、なんだか気まずい雰囲気が漂っていた。
「……ち、遅刻しちゃうからさっ、急ごう?!」
言うやいなや、脱兎の如く駆け出す秀一。
美しい少女を横切る時、口がパクパク動いていたような気がしたが、思い過ごしだということにしておく。
少女は、少年とは対照的に慌てることはなく、至って落ち着いたように教室への道程を進み始めた。
―――
昼休み。
秀一は、いつも一緒に弁当を食う仲間の蟻屋望[ありや のぞむ]と福高伸幸[ふくたか のぶゆき]と共に昼食をとっていた。
望は痩せていて、眼鏡をかけた一見インテリ風の容貌。
伸幸は反対に肥えており、秀一とは比較にならない可愛そうな容姿の持ち主。
ふたりの中間が秀一といった具合で、極めて分かりやすい三人組であった。
「――でよ、福高はどう思う? おらぁ(おれは)ミナはビッチっぺーからきれー(嫌い)なんだけどよ」
「えぇ? そうかな……あれでそうなら、ユズハはもっと――」
「いや、あらあ(あれは)真性ビッチだろぉ! っつーかビッチじゃねーのなんてユキたんとサヤたんしかいねぇだろぉ」
「え……僕はミナ好きなんだけど、シュウはどう思う?」
返答に困った望は秀一にキラーパスした。
が、その相手があらぬ方を見ていることに気付き、彼も思わずその方向に視線を送ってみた。
男にしては大きな望の瞳に映ったのは、クラス一の美少女・鈴森朋美だった。
独り物憂げな表情で、厚めの文庫本を読んでいる。
「どしたのシュウ? まさか彼女が……」
「槍田ぁっ! まさかリアルに目覚めたんじゃぁあるめぇなぁ!! おぉおれはみとめんぞっ」
8
さっきまでの話はどこへやら、である。
ふたりとも、真顔で鈴森さんを見つめる秀一が心配になったらしい。
「……別に、なんでもねえよ」
素っ気無い、うわ言のような返事だった。
どう考えてもあやしい。
「そういえば、最近よく鈴森さん見てるよね? 可愛いのは分かるけど、シュウはちっちゃい娘好きじゃなかったっけ?」
「俺もだっ! つか槍田っ。あら(ありゃ)どう見繕ってもビッチだぞっ! そんなのを見るんじゃないっ」
二人の助言(?)にも、秀一の反応は乏しかった。
――秀一はというと、ぶっちゃけ二人に構っているヒマなどなかった。
彼女に少し負い目を感じてしまっているのもあるが、それ以上に気になることがあったのだ。
朋美は決まった時間になると、必ず教室を抜け出すのだ。
いったいどこで何をしているのか。邪推かもしれないが、誰かにいじめられてるんじゃないか。
そう思っていたら心配になったのだ。
「……!」
朋美が、いきなり席を立った。ゆっくりと、僅かに不安定な歩き方で、教室を退いた。
それを見届けると、秀一も席を立った。
「ぉ、おい! まさかあの女追うんじゃ――」
「『あの女』はやめてくれよ」
色めきたちそうな伸幸を鋭く制し、続ける。
「せめて『鈴森さん』って呼んでくれ」
伸幸は、もともと細目なのを更に細め、呆気に取られて秀一を見つめた。望も同感らしく、大きな瞳が一段と拡がっていた
とても普段の彼が言うようなセリフではないからである。
「ヤボ用が出来ちまった。悪いけど、ついてこないでくれ」
言い残すと、彼も早々に教室を出て行ってしまった。
心ここにあらず、といった様相だったのはまちがいない。
「…………どうしちゃったんだろ、シュウ」
「おいおいおい! あいつがリアルに目覚めるなんて、認めたくねぇよぉ……」
嘆く伸幸の表情には、何故か憫笑めいたものが張りつけられていた……
9
―――
ストーキング。
彼が行っている所業は、それ以外の何者でもない。
美しい顔立ちに長い黒髪をなびかせ、抜群のプロポーションを有する少女――鈴森朋美を、秀一は追っていた。
こんな時ではあるものの勿体ないなと感じたのは、彼女の歩き方だ。
あまりよろしくない、安定感に欠ける歩み方なのである。
モデル歩きしろとは言わないが、もう少しましな歩み方もあるだろうに。
――なんて推考しているうちに、目的地に辿り着いたらしい。女子トイレである。
なんだ、トイレか。
と一瞬思ったが、すぐに消えた。
それなら、いつも全くの同時刻に赴く理由が見当たらない。思惟し過ぎかもしれないが。
だが、彼女が女子トイレに入ると共に、間もなく彼は眼を剥くこととなる……
「やっときやがったかてめー!」
やけにドスの効いた、女のものと思われる声が、女子トイレから聞こえてきたのだ。
嫌な予感が当たってしまった。
秀一は周囲を見回し、誰にも見られていないことを確認すると、恐る恐る女子トイレを覗き込んだ。
「おらっ、さっさとやれや!」
「淫乱豚なんだからな、しっかりやれよメス豚!」
次々飛んでくる罵詈雑言に、秀一は怒りと不安に胸が締め付けられるほどの不快感をもよおした。
自分でさえこうなのだから、朋美はもっと辛いに違いない。
そう頭に巡らせながら、中を覗き――すぐにやめた。
あれ……………………!!?
幻を見せられた。
そう思いたかった。
だが、彼の願いは、聞こえ来る不穏な声とも音ともつかないものに、すぐにも裏切られることになった――
二話 おわり
またもエロ成分控えめでごめんなさい。
プロットどおりにいかず四話構成になるかもしれないです。
というか本当にこスレでry
つ注意書き
注意書きは必要だな。凌辱描写はこのスレでは特に
だが続きが気になるんだぜ……
これはきつい
読むけど
NTR・・・
なるほど、槍田っていう主人公の苗字は複線だったのか・・・
うむ。これは注意書き必要だな。orz
でも、かなり続きが気になるぜGJ!
うん・・・陵辱は苦手だけど・・・
二人に幸せになってほしいんだぜ・・・
注意書きは書いてね。
あぶねぇ、読んじゃうところだったぜ・・・
おまたせしました。
陵辱描写があるとの忠告を述べず、申し訳ありませんでした。
では……
※注意書き……今回も陵辱描写があります
☆「ラヴ・リンク」 三話
1
朋美を女子トイレで待ち構えていたのは、褐色の肌を持つ三人の女だった。
制服の裾に三本線が走っている。三年生であることを示すものだ。
――彼女達は、裏では密かに「黒い三連性」の異名を取る三人組である。
「やっときやがったかてめー!」
三人のうちのひとり、ウルフカットの女が、訪れた美少女に罵言を浴びせた。
醜い容姿だった。
いや、三人がすべて正視できないような顔といっていいかもしれない。
体系も褒められたものではなく、太っていたり、あるいはやけに小さかったりと、不定形と評するのが適切といえた。
美しい少女に対して病的な劣等感を抱く彼女達は、どこで脱線したのか、それが性癖とすらなっていた。
つまりは、可愛い女の子を蹂躙することに、高揚感を超えた、快感を覚えるようになっていたのである。
「おらっ、さっさとやれや!」
「淫乱豚なんだからな、しっかりやれよメス豚!」
次々放たれる中傷にも、美しい少女は表情を変えなかった。
いや、もともと陰鬱な顔色を、これ以上暗くすることは出来なかったのだろう。
「ほら、さっさと、しろよっ!」
短めのポニーテールを結った黒い女が、少女の程よく張った尻を蹴飛ばした。
声を出すこともなく、開いていた個室に強引に入らされる。
ここからの動作は、少女にとって日常となってしまっていた。
先ず、朋美はゆっくりと制服を脱ぎ始めた。
制服の裾を掴み、腕を伸ばして引き上げる。
陶磁器のようななめらかな肌、薄緑の下着につつまれた豊かな胸が晒される。
「ふ……あははっ! こいつ、何気に興奮しちゃってるよォ!」
「さすが極め付きの痴女! いつものようによがってぇーん!」
2
ウルフカットとポニーテールが、気色悪い声で交互に罵りあった。
実際は真逆だ。
朋美は表情一つ変えないのに対し、どす黒の女ふたりは僅かに頬に紅葉を散らしている。
といっても、肌の色が濃すぎるため、注視しなければ判別できるものではない。
起立したままスカートのホックを外し、するすると下におろして脱ぐ朋美。
これで、少女は下着だけの格好になっていた。
そしてそのまま洋式トイレの便座に腰を落ち着け、股をM字に開く。
男が今の朋美の画像なりを見たならば、何もしなくとも股間に手を伸ばしたくなるような格好だ。
――と、ここまできてようやく少女の頬にうっすらと紅いものが浮かび上がってきた。
むしろ遅すぎるほどだし、ここまでされて羞恥を感じない娘はいないだろうから、言いようによっては淫らなのかもしれない。
「ほらァっ! っく(はやく)しろってんだ!!」
「誰かきたらどうすんだァ!!」
昂ぶりを抑えられず、微かに濁った怒声が飛ぶ。
言われるまでもなく、心を失くして行為に及ぼうとした、その時だった。
「……あ! こらっ、待て!!」
朋美の痴態に見入っていたふたりは、見張り役である短い髪の女の声を聞き入れ、身体を強張らせた。
ふたりが愉しんでいる間、ショートカットの女は誰かがこないよう入り口付近に立っていたのだ。
「どうしたの、ルン!?」
「なにがあった?」
ウルフカットとポニーテールが、口々にショートカット――ルンに訊ねる。
「二年の男子だった。一瞬だったから顔はよく分からなかったけど、たぶんあたしらのやってることなんてバレてるわけないよ」
「ふぅ〜……おどかさないでよ」
どうやらこの三人、仲間内では言葉遣いが穏やかになるらしい。
だが、安堵した反動か、朋美を見る目付きはさらにゆがんだものとなっていた。
「あぁーあ。ビビったせーでムカついてきたぜ。それもこれも……てめーせだらぁっ!!」
滅茶苦茶な屁理屈をこねながら、大柄な体躯を持つウルフカットが、華奢な身体の朋美に歩み寄る。
既に秘所をおおう布地の上に手を置いていた少女だが、よくわからないが凄い剣幕で向かってくる黒い女を見て、全身に微かな震動が走った。
「ホラァ! 脱げよ!!」
言いつつも彼女は自分から朋美のパンツを掴み、ちぎれんばかりの勢いで剥いた。
緑色の下着を放り投げ、肢体をこわばらせて秘所をさらした少女にむけて、右手をうならせた。
「っ! っく!!」
3
濡れてもいないのに指を膣に捻じ込まれ、苦痛の声を吐く朋美。
そしてそのまま、彼女は強引に指を出し入れし始めた。
「……う゛…………あ゛っ……!」
痛みだけの攻めに、朋美は歯を食い縛って耐える。
ある意味、恥辱の攻めより楽かもしれないが、痛いし膣が傷つくのを朋美はよく良く思わなかった。
が、そこは女性器の機能が働き、段々と濡れてきてはいた。
その湿りが少しずつ女性を愉悦へと誘うのだ。
「くふ…………んっ……はぅ」
少女の途息が少しずつ艶やかさを帯びてくる。
腕を頭の上で組み、便座で足を開く姿勢というのは想像以上に大変なのだが、快楽を感じているとなると話は 別になってくる。
――しばらく手で弄んでいるうちに、声も、音も、猥雑さを強調するものへと変貌していた。
「あん! あん! やっ、あっ、はぁああん!!」
朋美の理性はすでに忘却の彼方だった。
気持ちよくなればなるほど、抗したいという意思とは裏腹に声を抑えきれず、本能のままによがってしまうのだ。
そんな朋美の姿を、三人が三人とも黙して見入っている。
せまりくる快感にかわいい顔を歪ませ、欲するようにあえぎ声を上げる朋美を見て興奮を覚えているのだ。
そして、手を使って少女の花弁を穢していたウルフカットが、突然、しゃがみこんだ。
なにか、まるで酒にでも酔った顔つきで朋美の秘所へ近づき――舐め上げた。
「――! っくあぁああ!!」
そのままクリトリスを絶妙な舌使いで弄くられ、途切れることのない気持ちよさに、少女はついに耐え切れなくなった。
「やっ!! だ…………――――っっっ!!!」
少女の全身を、悦楽がつつみこんだ。
黒い女の口内や周辺に愛液を噴き出す。
目をぎゅっと閉ざし、小さな口をめいっぱいに開いているにも関わらず、一切声は出すことがなかった。
朋美は絶頂の前こそ激しくなくものの、昇りつめる瞬間は全く喘がないのだ。
「…………っへ、さすが淫売だな。客を喜ばせる方法を分かってるぜ」
「まったく。肉便器とはこのことだ」
「あーあ、顔よごれちゃったよ。責任取れよなオイ!」
4
口々に捲くし立てる「黒い三連性」だったが、どうやら朋美の耳には行き届いていないらしい。
未だ呼吸は荒く、長い快楽の余韻を愉しんでいるようにすら見える。
ある意味、肝が据わっているのかもしれない。
自分を穢した者達の前で、痴態を晒したうえで享楽に身を委ねているのだから。
「おいこらっ! シカトしてねーでさっさと舐めろよ!!」
「待ってラン! これ撮っとかない?」
少女をイかせた大柄なウルフカット――ランに提案したのは、さきほど見張りをしていた異様に背丈の低いショートカット――ルンだった。
「おっ、それいいね! セーギのやつ喜ぶだろうし」
「はやくしよ。そろそろ時間危ないよ」」
勝手に話が進んでいき、巨体のランが制服からデジカメを取り出した。
便器の上でぐしょ濡れの秘所をさらし、だらしなくよだれを垂らしてうつろな薄目をあらぬ方へ送る朋美に照準を合わせ、シャッターを押した。
「おらてめー。勝手に着替えて戻っとけよ!」
「そのままの状態で見つかったら、いくらあいつでも見捨てられんぞ!」
ぴく、と、わずかにだが少女の身体が動いた。
この場合、見捨てられるというよりは、容赦なく切り捨てられると言ったほうが適切なのかもしれない。
‘彼女達に’目を付けられた少女は、大抵は登校拒否になるか、精神に異常をきたしてしまうか、最悪の場合学校にいられなくなってしまうのだ。
それを鑑みると、朋美が約三ヶ月ものあいだこうした辱めを耐え続けているのは、相当に凄いことなのは間違いない。
褐色肌の三人は、なにやらがやがやと五月蝿く喋りながら、女子トイレを後にした。
「………………はぁ……」
余韻がまだ残っているのか、吐く息が色めいている。
――と、いきなり彼女の瞳が大きく見開かれた。
なぜか、はしたない姿を整えるように着替え始め、そのうえで洋式トイレのうえに座ると――すすり泣き始めた。
「なん、で…………わた、し、ばかり、こん……な……」
学校と自分の家。
朋美の美しい身体は、形はちがえどその両方で欲望のはけ口にされている。
自分でもよく正気を保てるものだと思った。
いや、その理由は分かっている。
だが今は、その拠り所とさえ不穏な空気を挟んでしまっているような気がする。
「秀一くん…………!」
助けてよ……口に出そうとしたが、言えなかった。
今の自分にそんなことを言う権利はない……と悪いほうへと考えてしまうのも、今の彼女が置かれている環境を考えれば無理はなかった……
5
―――
比奈見亜里沙[ひなみ ありさ]。
一年A組において、彼女は密かにアイドル的存在として、あくまでも密かに注目されていた。
ツインテールとメガネという異色ともいえる組み合わせに、小学生とも見紛う程の童顔、スレンダーという言葉ですら足らない、ほっそりした身体。
そういう趣味の者達からすればたまらないはずだが、まず、彼女に近寄ろうとする人間はいなかった。
理由は……あまりにも少女らしからぬ行動・言動だからだ。
いつも眉間にしわを寄せてツンとしており、周囲に「話しかけんな!」オーラをまとっている。
更には、無口・寡黙といった単語でも足らないほど、彼女は口を開かない。
話しかけても、相手をひと睨みで御するさまは、どちらかというと険の深い少年を連想させる。
成績優秀、スポーツ万能であるのを差し引いても、亜里沙の特異性についてこれるものはいなかったのだ。
そう、一人を除いては。
「あ・り・さ♪ お・ひ・さ♪」
午前の授業の間の休み時間に、亜里沙のもとに一人のクラスメイトがやってきた。
先ず、見た目だけで言えば亜里沙と全く対照的であった。
背が高く、有に頭二つぶんほど背丈には差がある。
セミロングの黒髪をかざった面立ちはやや大人びていて、都会に出てきた田舎娘のような振る舞いだった。
「…………なんだ利恵。おれに用か?」
名前の可憐さとあどけない顔から、似合わない口調の言葉がつむぎ出される。
声質こそ悪くはないが、本人が意識しているのか、やや低めに調整された声には圧力があった。
「うんっ! ノート貸してっ♪」
ばばっ、と両手をつき出し、とびきりの笑顔を見せる背の高い少女――利恵。
いつものことなのでさして驚きもせず、はいよと言って数学のノートを手渡してやる。
「あんがとっ!」
「あのさあ、前から思ってたんだけど……」
机に肘をついて顎を掌にのせ、ため息をついて大きな少女を見上げる。
邪さなど微塵にも感じられない破顔を眺めながら、
「……おれのノート……自分で言うのもなんだが見づらいと思うんだ。お前の方が字は綺麗だし……成績もいいんだからいらないだろ?」
「んーん。だって亜里沙の字って凄い力強いんだもん。それになんだかんだいって丁寧に書かれてるから、参考になるなあって思って」
「…………ああそう。別にいいけど……」
6
よく分からないが、褒め言葉と受け取っておくことにした。
見てのとおりだが、亜里沙は利恵に対してだけは殆ど普通に会話できるのだ。
周囲のクラスメイトが聞き耳を立てていることは間違いないが、そんなものを気にする人物ではなかった。
利恵は鷹揚であることに加え、良くも悪くも常人離れしたピントの持ち主だからこそ、亜里沙とはなす事ができるのだろう。。
だが、今日の彼女――亜里沙は、人には言いがたい悩み事を抱えていた。
「……ちょっと悪い。おれトイレ行ってくるわ…………」
「じゃあ私も行く!」
「あっ、いや……ちょっと腹痛くてさ。……授業間に合わないかもしれないから、いいよ」
「えー……」
利恵がついてくると言い出すのは予測がついていた。
亜里沙は即切り返したうえで、利恵が抗議の声を上げる前に席を立って退出してしまった。
「……もぅ〜、亜里沙ったら」
純朴な顔立ちが、不満を表すようにぷく〜っと膨らんだ。
―――
「はぁ…………はぁ…………」
人気のない廊下をゆっくり歩む小さな少女は、浅い喘鳴を繰り返しながら女子トイレへと向かっていた。
童顔に飾られているツインテールの髪を揺らしながら腹をおさえ、レンズの奥の瞳を細めている。
「――くそっ。女ってのは、面倒くさいな……」
誰にともなく一人ごち、いつの間にか女子トイレの入り口に自分がいたことに気付いた。
――彼女をさいなんでいたのは、月の障りだった。
昨夜、ひどく緩慢にやってきた痛みが、亜里沙を未知の感覚へいざなったのだ。
初潮である。
平均して相当遅い時期にきたのは間違いなく、彼女自身「一生来なければいい」とまで思ってはいたが、身体は正直だった。
痛いわ出血するわ……ろくなことがない。男が羨ましいぜ……
その身に女としての感覚をあじわい、少女はあらためて女に生まれたことを呪った。
男は男でまた別の苦労があるのだが、亜里沙にそれを知る由はない。
「…………?」
中に入るなり、細まっていた目がさらに細くなった。
なにやら妙な雰囲気を放つ三人組が、まるで自分をまっていたかのようにこちらを睥睨している。
制服の三本線を見て三年生だと分かったので、一応ぺこりと軽く会釈して、個室に足を運ぼうと――
7
「待て」
「っ!」
いつから移動していたのか、ウルフカットの髪を醜い顔に飾った大柄な上級生の手が、亜里沙の細い手首をがっちり掴んでいた。
まずいっ!!
本能的な拒否反応が亜里沙の身体を跳ね上げ、上級生の手を振り払おうとしたが、叶うはずもなかった。
力いっぱい振りほどこうとしているのに、相手は微動だにしない。
「嬢ちゃん、可愛いねェ」
亜里沙の全身に悪寒がはしり、身を震わせた。
こいつらは、尋常じゃない。
見た時に気付いたのに逃げなかった自分にも非があるかもしれないが、いくらなんでも常軌を逸しているように思う。
先ほどのセリフといいこの歪みきった表情といい……まるで自分を欲しているかのようだった。
――それは突然におこった。
「――っな!!?」
カシャッ、とシャッター音が鳴る。
ものすごい早業だった。
ウルフカットの手が、膝上に合わせたスカートをめくり上げ、少女の下着をカメラに捉えたのだ。
呆然として言葉が出ない亜里沙に、死の宣告でもするかのように口を開き始める。
「――お嬢ちゃん……おどすつもりはないんだけど、私達じつは生徒会長の親友なのよね」
「そうそう。知ってるでしょ? 『セーギ』って呼ばれてるほど熱くて、真面目な人」
「その人ってばね、‘こういうこと’がだぁーいっ嫌いなの」
「言ってること、分かるかな?」
口々に捲くし立てられるも、亜里沙は表面上は平静を装っている。
だが心の中は、それこそ暴走列車でも走らせる勢いで頭を回転させている。
先ほどのカメラが捉えたのは、おそらく下着だけのはず。亜里沙だと判別できるものはない。
この三人は要するに、
「これを生徒会長の手に渡されたくなければ(もしくはばら撒かれたくなかったら)、言うことを聞け」
そう言いたいのだと思った。
だとしたら、とんだ阿呆だ。
「ねえ、分かったでしょ? 優しく……してやるからよっ!!」
8
ウルフカットの口調が、がらりと変わる。
ドスのきいた声と、女とは思えない太い腕が亜里沙の華奢な身体に絡み付いてきた。
予想外だった。
写真を撮って脅すなどと云う回りくどいことをする連中だからもっと慎重に来るかと思ったのに、すぐに実力行使に出るなんて……
ウルフカットが少女を捕らえるのと同時に、ポニーテールが女子トイレの入り口へと向かった。
見張りである。
すでに授業に入ったものの、いつ誰が来るかなど分かりはしない。
もう一人、ショートカットの黒い女も少女を嬲るのを手伝うらしく、側まで足を運んだ。
「く…………やっ……め……」
殆ど組み伏せられている少女は微かな抵抗を試みていたが、ショートカットに両腕を拘束され、全く身動きが取れなくなってしまった。
だが亜里沙は、こんな時でも馬乗りになる巨躯の女を睨みつけ、目を離そうとはしなかった。
「おぉ怖ぁっ! かわいい顔が勿体ねぇな!」
「親からどーいう教育受けてんだよてめーは!」
喜悦の表情を隠そうともしないふたりに、さすがの亜里沙も青ざめかかっていた。
こんなコトに及び、ばれれば長期の停学……いや、退学処分すらありうる。
いや、もしかしたらこいつらは自分が女だから許されると踏まえたうえで、自分を踏みにじろうとしているのかもしれない。
「――! あっ……」
こんな時にも関わらず冷静に思考していたが、制服を脱がされると、思わず頬を紅く染めてしまう。
平坦な胸をつつむ青い下着。
未だ少女であることが抜け切らない、直線的な身体。
さらには、女性であれば誰もがうらやむであろう、なめらかな肌の質。
「けっ! どいつもこいつも、胸糞悪いカラダしやがって!」
自分より三回りは小さい少女に乗って罵言を放ち、青いブラに手をかけ、引き上げる。
微かに盛り上がった胸があらわになる。
双丘の先端に在る紅いつぼみが、妙に艶やかに見えた。
少女はその光景を直視するのを拒み、瞳を閉ざす。
なぜだ……なぜ自分がこんな目に合わなきゃいけないんだ……?
自問自答したが、答えは返ってこない。
代わりに、自らの乳首にはしる衝撃に耐えねばならなかった……
9
―――
他のふたりが亜里沙とお愉しみの最中だった。
――見張っているポニーテールの醜女のもとに、背川正義[せがわ まさよし]が訪れたのは。
「……あら? セーギ、なんでここにいんの?」
ガラにもなくきょとんとした表情を浮かべるポニーテール。
残念ながら、絵にはならない。
「おまえたちに重要な話が合ってな……と言いたいところだが」
ゴホン、とわざとらしく言葉を切る正義。
「オレも混ぜろ。最中なんだろ? 話はその後にしよう」
「う、うん。じゃあはいんなよ」
ちょっと面白くないポニーテールだったが、セーギの頼みとあっては仕方がない。
道を開け、セーギが入るのを見届ける。
「ふふ…………鈴森朋美か……」
つぶやく生徒会長の顔は、普段の彼とは異なる、冷酷で、残忍な色が満面に拡がっていた…… 三話 おわり
自分は構成力皆無だと分かりました。
なんかほんとこのスレry
とにかく始めた以上は終わらせて欲しい。続きも気になるし。
でも次からはもうちょいスレを選んだ方がいいかも…
まあ、無口な女の子を「愛でる」スレでこの展開はちょっときついな
陵辱展開さらに続きそうだし
四話構成と言っていたような……次じゃ終わらんよな、これ
まあ最終的に鈴森さんが救われれば問題ないけど
救われる……よな?
これってここよりもNTRスレが適切じゃないのか?
気分わるくなりそうだからチラッとしか読んでないんだけどそれはそう思った
こういう場合って、別スレに今から移行とかってできないのかな?
向こうのスレ住人からはきっと歓迎されるだろうし。
もう一度イチから貼り直したって、別に構わないだろうし。
勿論、ここから良い展開になるってなら、全然構わんけどね!
>>598 結構いいと思うが・・・
頼むからハッピーエンドにしてくれ・・・
スレの趣旨から外れた、読みたくもないジャンルを読まされる側も、
したくもないのにハッピーエンドにしろと圧力かけられる(想像)側も、
どちらも不幸としか言いようがない。投下するスレは選びましょう。
まあ、でも途中でスレ替えするのは混乱すると思うからやめたほうがいいと思う。
見たくない人は「ラヴ・リンク」をNGワードへ
という一文を最初に付け加えればいいのではないかと。
俺としては続き希望
やはりというかなんというか、スレ趣向から外れてましたね……
申しわけありませんした。
あまりネタバレはしたくないのですが、まず間違いなくハッピーエンドになります。
それと当初は三話構成だったんですが、正直いつ終わるかわからなくなってきました。
とにかくきちんと書ききる所存ですので、最後まで見守っていただけると幸いです
>>607 まあ、いろいろ注文つけてスマンカッタ
自分も楽しみにしてるので続けてもらえるとかなりうれしい
>>607 ハッピーエンドになるなら問題ないよ
続き待ってます
>>607 違ったら申し訳ないがもしかして書きながら投下してる?
分割して投下するにしても作品は完成させてから投下した方がいい。他の書き手さんが投下しにくくなる。
まぁ杞憂かもしれんが…
>>607 無口っ子が出ないならこのスレ向きではないかな?
職人さんはありがたいけど、NTRスレの方が喜ばれると思いますよ?
ハッピーエンドになったらNTRスレじゃ喜ばれないんじゃね
おまたせしました。
☆「ラヴ・リンク」 四話
1
「ああ゛っ……っ、あぅっ! ……くぅっ!」
聖羅高校二階、一年生の教室が中心に置かれているフロアの女子トイレに、嬌艶な旋律がひびき渡っている。
授業中だというのに、トイレの個室の中で情事に耽っている者がいるのだ。
半裸にされて縛られ便座に拘束された哀れな少女――比奈見亜里沙。
ツインテールを揺らし、眼鏡の奥の双眸をうるませながら、自らの身体に出し入れされているモノの痛みと――快楽に耐えている。
悔しかった。
自分が女であることは自覚していたものの、無理矢理生娘を奪われ、そのうえでよがる女がどこにいるというのだ?
眼の前で腰を振るい、冷たい笑みを張りつけている男――背川正義は、普通にしていれば精悍な面差しの少年といってよかった。
亜里沙はそれに惹かれたわけでは断じてない。
だが、口調も性格も少年のそれに近いものの、本質的にはやはり女であったらしい。
それも、とびきり淫乱な、である。
「はぁっ……あっ、はん! …………あぁぁっ!!」
自身も信じられないくらいの、淫楽に溺れる娼婦のようなあえぎ声が洩れ出てくる。
なによりおかしいのは、処女喪失したというのに気持ち良いという事だった。
普通、初体験のときは感じる余裕などなく、殆どが痛みによって費やされるはずなのだ。
ところが何ゆえか、この男に突き入れられる陰茎の感触は、亜里沙に確かな悦楽を与えていたのは間違いなかった。
「あんっ! やぁん!! だ……――――あぁぁあぁあ゛っっ!!!」
快感を制御しきれず、突如として昇りつめてしまう亜里沙。
絶頂をむかえた彼女の顔は、初めて堪能するはげしい恍惚に満たされ、気絶寸前のところまできていた。
肉の棒が引きぬかれると、個室の中に潮が散った。
ありえない事に、その相手は満足――射精していないらしい。
正視したくはない肥大したモノは、未だ萎えようとはしていない。
「…………なかなか良かったが、これじゃない」
普通なら、いきなり何を言い出すのかと訝るところだが、彼女にそんな余裕はない。
たったいま自分の身に降りかかった災難を直視できずにいた。
だが、彼はそんな亜里沙にはもはや何の興味も示していないようだ。
2
「……おいお前。着替え終わったら授業に戻るんだぞ。いいな?」
何事もなかったかのような口調。
いつもの、堂々とした生徒会長然とした雰囲気をまとい、手早く服を着替えてさっさと退出してしまう。
扉の外には、「黒い三連性」が待っていた。
「……どうだった?」
三人のうちのひとり、ウルフカットが尋ねた。どうやら彼女がリーダー格らしい。
「悪くはない。だが違う……」
生徒会長の言葉にやや肩を落とすウルフカット。
そしてついに、彼の口から重大な発言がおこった。
「もう長いこと見つかっていないから、そろそろと思ってな――潮時だ。鈴森朋美を呼び出せ。今日の昼休み、屋上に来いとな」
―――
比奈見亜里沙が蹂躙された、前日の夜のこと。
槍田秀一はいつものように、机に置かれているPCに向かっていた。
なにやら絵を描いているのだが、秀一の暗い表情と同様、手がおぼつかない。
それに、普段の彼が描くとは到底考えられない、冷たく、良くいえばクールな雰囲気の女性を書いている。
長い黒髪をなびかせ、目鼻立ちの整ったりりしい面差し。均整のとれた肢体。
いつもよりシャープに。可憐さより精悍さを。繊細さより豪胆さを。
それを踏まえたうえで朋美を意識して格好良く描いてみたものの……やっぱり慣れないことはするもんじゃないな。
彼自身も、その絵の巧さは萌え方面に特化したものだと分かってはいたものの、今は到底そんな気分じゃあなかった。
言うまでもなく、朋美が女子トイレで辱めに遭っている現場に居合わせてしまったからである。
一度は見張りに見つかってしまったものの、実はその後戻ってきて一部始終をほとんど耳に入れてしまったのだ。
油断したのかしらないが、一度遠くまで逃げた後誰も見張らなくなったので見つからなかったのである。
だが、果たして戻ってきて良かったのかどうか。
自分に問いかけては、頭を抱えるの繰り返しだった。
「なんで……なんであの時助けにいかなかった? 情けねぇ……」
そう……ただ呆然と立ち尽くすだけ――それどころか、高揚さえ覚えていた自分があまりにも腹立たしいのだ。
朋美のあえぎ声をきいて、あげくに自涜に及ぶ彼女を想像して自らの男を硬くするなんて……彼女の友として失格だとさえ思った。
それに、あいつらの口から出てきた言葉……
3
「これ撮っとかない? セーギのやつ喜ぶだろうし」
セーギ――生徒会長である背川正義の愛称だ。
なぜそこで彼の名が出てくるのか。
あの温厚誠実な背川が、少女達が痴態に及ぶ写真を集めている、なんて考えたくもない。
秀一は背川のことなど全く興味はないが、朋美に関わっているとなると話は別になってくる。
いや、むしろ最初になんとかすべきなのは、「黒い三連性」のほうかもしれない。
「……俺に何ができる? 何が出来るっていうんだ! くそっ!」
自分の無力さを呪い、思わず額に掌底を当てた。
歯噛みしながら瞑目し、思考する。
というより、何時間もそのことが頭から離れないのだが、何一つ良い案が浮かばない。
それに、もし浮かんだとしても、自分に実行する勇気があるのか疑問だった。
「……む?」
なんとなくデスクトップを眺めていたら、重大な見落としに気付いた。
なんで今までメールしようと思わなかったんだろ……?
おもえば、朋美の誘いを断って以来、メールでの交流は絶えている。
自分は送っていないし、彼女からも……
「! おぉ……」
秀一は、小さく感嘆の声を発した。
来ていない筈のもの――朋身からのメールが届いていたのである。
早速内容を見た。
「槍田くん、先日は無理なお願いをしてごめんなさい。
でも、また一つ頼みたいことができてしまいました。
――今から私と会ってほしいんです。
もちろん、槍田くんがよければですし……槍田くんも私に頼みたいことがあればなんでも言ってください。
返信まってます――suzutomo」
……。
…………。
「――ぐっっ!! うぅっ!!!」
4
短い本文に目を通し終えた数秒後。
秀一はいきなり胸をぎゅうっとおさえた。
呼吸が荒く、手で眼を覆って何かに耐えている。
……駄目だ……駄目だ! この誘いに乗っちゃいけないんだ!
彼女と会って何しようとしてる俺は!? 何を考えてる俺は!?
いかん……そうだ! 朋美がどんな目に遭ってるか知ってるのかお前はっ!!
それを知ってて……知って、て…………
秀一は段々と、理性が本能に喰われてゆくのに身を任せていた。
今の彼に、そこまで御する程の力は無かったのだ。
「そうだよ……もしかしたら、一緒に寝れば癒されるかもしれないじゃん……」
欲情にのまれた男の思考は、ほぼ全てが、理性と客観性に欠けるもの。
とんでもない台詞を吐く秀一の表情も、性欲抑制を妥協したことを思わせる、冷たい笑みが張りつけられていた……
―――
聖羅公園。
夜になると人気はまばら、どころか皆無になるといっていい。
周囲に木々が並立しているため外部からは園内は見えにくいが、設置物は数個のベンチだけという殺風景な場所だ。
ここを待ち合わせる場所と決めたのは朋美である。
どうやら父親がいるらしく、彼が朋美の外出を許さないので、‘抜け出して’くるというのだ。
一軒家と聞いたので、そう難しいことではないのだろうが……
「! 朋美……」
先にベンチに座って待っていた秀一が、宵闇の中を歩む少女の姿をみとめて呟いた。
……エメラルドグリーンのワンピース一枚。
夏だから別に違和感はないのだが、今の秀一には刺激的過ぎるかもしれない。
淡い光をはなつ街灯が公園の中にまでおよび、あいかわらず不安定な足取りの朋美を照らしていた。
――その整った顔が、くしゃくしゃに歪んでいる。
「……槍田くん…………槍田くん!」
立ち往生してややひきつった顔色の秀一に、全くスピードを緩めずにぶつかりかねない勢いで抱きついた。
秀一も彼女の腰に手を回そうとしたが、震えていてできない。
初めて経験する女の子の身体の感触・ぬくもり(特に胸)に、興奮より先に感動を覚えたのだ。
魂が抜けたような阿呆面を暗闇に向け、やや呆けた調子になってしまっていた。
――ハッ!!
と、彼はようやく‘目覚めた’らしい。
少女が見ていないうちに表情を引き締め、嗚咽をもらす朋美の腰に手を回し、ひしと抱きしめた。
彼にしては奇跡的なまでの動作といっていいだろう。
5
「鈴森、さん…………どうしたの?」
努めて平静を装いながら、優しく問いかける少年。
おそらく、心臓の鼓動はかつてないほど鳴りひびいていた。
相手に伝わってないかと不安になるが、お互いそれどころでは無いように思う。
懸念を表情に出さなかったのは、朋美に不安を抱かせないのと、何より彼自身のプライドのためでもある。
「……………………」
返答はすぐには得られなかった。
むろん、それに苛立ったりするようなことはなく、むしろこうしているのが心地よく感じていた。
朋美の途息。やわらかな肌のぬくもり。性的な意味ではなく身体を重ねあっているこの感覚。
しばらくされるがままもいいかな、と、なにか安寧とした気持ちになっている。
不思議だった。
考えたくもないが、ついさっきまで彼女を手込めにしようなどと思っていたではないか。
それがどうだろう。
別に意識するでもなくそういった邪な欲望が無くなっているのだから、人間の感情とは奇異なものである。
「…………槍田……くん」
どれほどの時間、そうしていたかは分からない。
かわいい声で唐突に呼ばれ、秀一は身体を跳ね上げそうになるほど驚いた。
ほどなくして、ようやく朋美が秀一から離れた。
といっても、一歩にも満たない絶妙な距離間である。
最高に美しい少女の澄んだ瞳が、お世辞にも男前とはいえない少年のおもてを、真っ直ぐに見据えている。
一方、彼の方はというと……彼女の期待に応えきれず、なかなか目を合わす事が叶わない。
たまに合わさってもすぐにそれてしまい、何か気まずげにうつむくのだ。
それは秀一という人間を十二分に表していたが、こんな場面では雰囲気を悪くするだけだ。
――と思われた。
少女の真剣な表情が急にほころんだかと思ったら、
「……くすっ」
という忍び笑いがもれて、さらにはくつくつと微かな笑い声を発し始めたのである。
口元をおさえながら上品な笑声を響かせるところが、なんとも彼女らしかった。
ぽかんとする秀一をよそに、朋美が口を開き始めた。
「槍田くん………………チャック……」
6
少女がその単語を重々しく開くなり、少年はハッとして社会の窓を見た。
――全開だ。
‘実’まで出ていなかったから良かったものの、いや、どちらにせよこんなことで笑ってくれるとは、助かったと思った秀一である。
目線を合わせられずキョドっている自分を見て吹き出したのかと思ったが、とんだお門違いだったらしい。
慌てて窓を閉めてから、ちょっとした恥ずかしさを隠すように言った。
「良かった、鈴森さんが笑ってくれて。もう見れないんじゃないかって、心配してたんだぜ?」
事実である。
常日頃からあんなコトをされているのだと思うと胸を裂かれるし、彼女にとってあれはどれほど辛いものなのか、今はそれが一番気がかりだった。
「………………ごめん、なさい……」
「いや……全然気にしてないよ。寧ろ……」
凄く嬉しかったよ。
俺、朋美のことが好きだから、抱きつかれた時なんかもう、死んでもいいとさえ思ったよ――
などと言える秀一ではなかった。
「……それより、用事って何?」
どうにか別の台詞に切り替えることができた。
ここまで気転がきく自分に感心した少年である。
ふだんの、あるいは以前の自分だったら、どうしたってこんなに口が回るとはおもえない。
……自分も訊きたい事が山ほどあるのだが、相手から用を告げられた以上は、大人しく聞く必要があるだろう。
秀一には、それだけの気遣いを出来る心と、度量の大きさが持ち併さっていた。
だが、朋美の方はと云うと、どうしようかと思案に暮れるはめになっていた。
まさか――彼に抱かれたくて家を飛び出してきた、などと、今の雰囲気となってしまっては言えまい。
「………………あのね……槍田くん、実は……――」
「無理しないで」
極めてゆっくりと喋る朋美の台詞を半ば遮る格好となった。
しかし、朋美の反応はどうだろう。
優しく、諭されたかのようなひと言に、呆気にとられて秀一を見た。
不器量な顔立ちだが、微かな笑みを見せる秀一のおもてには、どこか人を安心させる雰囲気を纏っているようだ。
朋美も例外ではなく、いや、それどころか聖人のような感覚さえ抱かせた。
「あ……いや、ゴメン」
7
突然くだけた感じになって、苦い表情を浮かべる少年。
さっきまでの雰囲気はどこへやら、である。
「……でもさ、こういうのもなんだけど…………俺がいるじゃん?」
朋美はふたたび呆気に取られて……今度は少年の顔を見ることができなかった。
秀一がかすれ声になっているのに気付いていたからかもしれない。
「俺がいる……………………だからさァ……」
いつの間にか、彼が自分の両手を握っていたことに気付く。
乾いた、ざらざらした掌だけど、あったかい。
頭を垂れる秀一を見て――視界が霞んでいた。
恐らく、相手も同じ状況だと思う。
「話してよ…………! 俺って……そんな、に、頼りない奴かぁ……? お願いだよ朋美……」
情けないとは思っていても悲哀の感情は止められず、涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔と声で、言葉をつむぐのもやっとだった。
初めて名前で呼ばれた感慨にふけるより、自分に対しての嘲笑いたい気持ちでいっぱいだった。
たぶん秀一くんは、私がどんな目に遭っているか知ってる。
だからこそこんなに心配してくれていたのに、自分は何を求めて会いに来たのだろう?
涙が白い頬をつたっていくと同時に――朋美は腹をきめた。
揚々にして、全てを話そうと誓ったのである。
―――
ふたりは場所を移動して、ベンチに腰掛けて喋っていた。
夜の闇に落ちた空間の中で朋美が発する透きとおった声は、鱗粉を散らす蝶々のような甘やかさを感じる。
全てを話し終えたとき……少女は息切れを起こしていた。
もともと歯切れは良くないし、話すのも不得手なものだから、どれほどの時間を要したかわからない。
秀一はとぎれとぎれな彼女の言葉を一度もさえぎることなく、ずうっと口を閉ざして聞いていた。
これは半端じゃなく苦行になる。そう思った。
いまや、朋美と寝たいだとか、肌を重ねたいだとか、そういう思いは良い意味で萎えきっていた。
これだけの話を聞かされたら、自分も彼らと同類項に位置するのではないかと思うと、とてもじゃないが彼女に手を出そうとはおもえない。
それよりも、奴らをどうするかの方がよっぽど大事な事柄だ。
とはいえ、一体どうすれば彼らを止められるのか。
極論を言えば、実力行使すればいいだけの話かもしれないが、それは自分の身をも滅ぼすことになる。
かといって行動を起こさないことには何も変わらない。
悩みに悩んだ末に、秀一はこういう結論を出した。
「わかった。俺もついてくよ」
8
堂々きっぱりと宣言した。
「……秀一くん、が?」
もう名前呼びだろうが、違和感など微塵にもない。
「ああ。相手が猛獣ならともかく、言葉が通じるならまだましな部類だ。
それに俺がいるとなっちゃ、眼の前でおま……朋美を踏みにじろうとはできないだろ。いや、俺がそんなことはさせない。絶対に」
確かにそのとおりだった。
無抵抗な美少女ひとりに猛威を揮えても、男も同伴とあっては下手な真似は出来ないはずだ。
実は秀一、身体には自身がある。
喧嘩は小学生以来していないが、一時期筋トレにハマっていたためか、胴長短足のきらいはあるものの体格は立派なものだ。
「だからさ、朋美。安心しろなんて言わないから、無理はしないでほしい……俺がいるんだから、いつでも頼ってくれよ」
まァそこまで頼れる男かは疑問だけど……
とは彼が口に出さずに付け加えた自虐だが、果たしてそれは本当なのか。
――ふと、隣に腰掛ける朋美が、寄り添うように秀一の顔を覗き込んできた。
「……じゃあ、いつでも頼っちゃおうかな。……そうしないと、私の……きゅ、救世主様に怒られちゃうもの」
朋美の歯が浮きそうな弁に少しぼうっとした秀一だったが、すぐに引き締めた。
「おうよ! いつだっていいぜ。その代わり……」
…………。
その代わり――次につづく口上が、喉につっかえて出てこない。
なんとなく、流れからしてあれしかない様な気がするのだが、いざとなるとどうにも口にしづらいものだ。
「…………その代わり――!」
9
言いあぐねる秀一に、衝撃がはしった。
お互いにベンチに座ったまま、身体は深く寄り添い合い――唇が重なり合っていた。
朋美が、半ば強引に自分の方へ向かせ、奪ったのだ。
声に出して狼狽しそうになったが、あいにく塞がれていて叶わない。
しかしすぐに心を落ち着けると、少年も少女に倣い、まなこを下ろした。
正直、おどろいた。彼女がこんなに積極的だとは思わなかったからだ。
俺も俺だ。ファーストキスだってのに、なんでこんなに落ち着いてられるんだろう……
程なくして、お互いの口を遠ざける。
見つめ合うふたりの頬はわずかに紅潮していたものの、色めいている雰囲気はない。
深い接吻ではなかったが、二人にとっては人生において最も濃縮された時間だったのは間違いなかった。
「…………女神さまのキスとあっちゃ、こりゃ頑張らないわけにいかないな」
「まぁ…………秀一くんったら……」
ここまでくるとバカップルもいいところだ。
その代わり……後に続くセリフなど、かれらにとっては暗黙の了解だった。
全てが終わったら、ふたりで――
四話 おわり
焦らしプレイごめんなさい。
今更ですが、本当にこのスレ向きではありませんね……
問題ない。逆転のターンに差し掛かろうとしてるし、続き楽しみ
ヘタレ一直線かと思ったら違ったwなんとか踏みとどまって何よりです
二話で問題解決してラスト一話で結ばれるって感じかなあ
ペースも早いし頑張ってください
だが、残り容量が……
期待している
>>622 なあに、次スレで続行すれば問題あるまい。
……たぶん。
いつ頃立てれば良いんだろ。
490kb到達ぐらいが丁度良いのかしら
480超えると最終書き込みから一定時間で勝手に落ちるから、立てるなら今が立てどき。
「……ぐすん…」
「どうしたの?」
「出来なかった……」
「何が?」
「……スレ立て。私は認められてないのかも…うぅ」
「あぁーもう泣くな、泣くな。可愛い顔が台無しだぞ」
「…ほんとに?」
「お前、感情が顔に出すぎ…」
本当に誰か頼みます…
「……ありが、っつ……ろん」
「ありがろん?」
「うるひゃい」
「噛んだのか」
「……」
「噛んだんだな。急にしゃべるからだ。どうしたんだ?」
「お礼」
「新スレだからか」
「ん」
「そっか……ってイテイテ! 何で殴る!?」
「……なんとなく」
ってなわけでありがろん。
>>627 乙ー
今日、台という字を見た時に「ムくち!?」と思ってしまった
スレが進むほどに口数が増えていくな
「暫し俺の話に付き合ってくれないだろうか。
俺の妹はユカリというんだが、あぁ文字は優しい香りのする里と書いて優香里だ。可愛い名前だろう。
その優香里がだな、本当にいい子で……なんせ生まれたときから夜泣きもしない静かな子だったんだからな!
本当に良くできた妹でこの前も風邪をひいた俺にお粥を作ってくれて、その際に火傷をしたけども心配をかけまいと黙っているようなやつで。
痛みのある指で、これもまた人形のように綺麗なんだな、おっとズレた。
まぁともかくレンゲを持つとふぅふぅと吹き冷まし、微かに聞こえるかどうかの……無論俺は聞き取るが!オルゴールのような声で口を開けるように促して食べさせてくれたんだ。
いやもう何て言うんですか可愛いすぎて抱きしめたくなりますよね。
ですが耐えました。兄ですから。誇らしく悔しながらも兄ですから。
偉いと思いませんか俺は偉いと思います。
ですがそんな俺に新たな試練! いやむしろ神の与えた奇跡! 二人に血の繋がりが無いと、優香里が二十歳になった三日前に親からから伝えられました!!
俺はどうすれば! 悩み続けて徹夜三日目です」
「寝たら……?」
そんなうるさい兄と無口な妹の話が始ま……らない。
634 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/12(金) 11:50:50 ID:gIQ1SSjg
始まっちまえよw 今から全裸待機だよw
裸になることで神が降臨するというのなら喜んで脱ごう。
だが紳士として皮靴とシルクハットだけは許してほしい。
なんという隙のない紳士道……っ!
さっきから既に降臨していたクール系無口っ娘が斜め後ろから
軽蔑するような瞳を向けていることもわかっているに違いない……!!
∧_∧ ∧_∧
ち下さい ( ・∀・) そのままマターリでお待ち下さい ( ・∀・) そのままマターリでお待
( つ つ ( つ つ
∧_∧ ∧_∧
( ・∀・) そのままマターリでお待ち下さい ( ・∀・) そのままマターリでお待ち下さい
( つ つ ( つ つ
∧_∧ ∧_∧
そのままマターリでお待ち下さい ( ・∀・) そのままマターリでお待ち下さい ( ・∀・)
( つ つ ( つ つ
>>633 「寝たら」ワロタwww
続き読みたいなあ
「今年の優香里の誕生日はラッキーなことに三連休の前日。可愛い妹が晴れて酒を飲めるようになるのだから、良いものをと思うのは兄として当然だろう。
プレゼントと酒を持ち有給をもぎとり、東京への新幹線へ乗り込んだ時の気持ちはまるで花畑へ向かうときのようで……来年は花束も買うべきだな。
小さく綺麗と呟く優香里はそれはもう奇跡としかいいようがないのはわかりきっているからこそ見たい!
なんで十月から大阪の本社勤務なんですか部長。
俺がどんなに頑張って優香里が待つ家に早く帰るために作業効率を向上させたと思ってるんだちくしょう。
迫りくる冬がこんなに辛かったことはないぜ、帰宅後、静かに差し出されるコーヒーの旨さが恋しい。
しかしここはエデン。神の住まう地、さぁ皆の者神の御名を叫ぼうではないか!
ああ! ゆーかーりー! オゥマイスィイイイトッ!!
ハァッ! そうか、神か。だからこそ不可侵。しかし背徳の美学が俺を誘う……!
揺れる心はノンストップ。それはまるで優香里の艶やかな髪から香るほのかなシャンプーのように」
「……怖い」
兄の壊れっぷりもノンストップ。
キモイと言わない妹の優しさはプライスレス。
埋めネタにでもなれば。
無口娘にクリスマスプレゼントするとしたら何にする?
という埋めネタ振り
外国語のテキストをあえて贈ってみる
643 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/18(木) 11:07:49 ID:nL/IgIOy
耳元で「好きだよ」と囁く。
>>640 つまり大阪での二人きり生活フラグか。
次スレで全裸で待ってればいいのかな?
__,, -‐'" \_
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ヽlヽ_>'::::ヽ __ ‐'!:::''<レ
く"~:::::::::::::|、_ ' _//:::::::::::::::~>
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……埋め。
さて、メイドロボを徹夜で作り上げたはいい。
AI、体、共に問題はない。
だがこいつには一から感情を教えなければいけない。
感情がないから、いまのこいつはただの人形だ。
さてとどうするかな?
とりあえず胸でも揉んで見るか。
ふに ふに
俺はロボの胸を撫で回す。
ロボは声は出さなかったが少しうつむいていた。
「分かるか?これが嫌だっていう感情だ。」
フルフル
ロボは首を横に振った。
「気持ちいいのか?」
フルフル
また首を横に振った。
「いったい何なんだろうな?」
数日後に分かった話だが俺に揉まれるのだけが嫌じゃなかったらしい。
この分なら感情を教えるのも早く済みそうだ。
647 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/21(日) 12:17:47 ID:ECVczED8
無口ドジッ子メイドロボ。
これでかつる!
次にテレビのお笑いを見せてみる。
ピクリともしない。
なるほど。最近の芸人が顔だけと言うのがよく分かった。
よし。こうなったら奥の手だ。
俺はこのために買っておいたくまのぬいぐるみをロボに与えることにした。
まずはくまのぬいぐるみを見せてみる。
どうやら興味を引くことには成功したらしい。
だが、ちょうだいや貸しての一言がでない。
何か戸惑っている様子であった。
「やるよ。」
俺はロボにぬいぐるみを手渡した。
ロボは恥ずかしそうにしながら何かを言おうとしていた。
声帯の取り付け不良だろうか?
あまり使いたくないのだがやむをえない。
俺はリモコンのスイッチをおした。
「ボイスシステム、システムオールグリーンです。」
ロボは自分の意思とは関係なく喋りだした。
そしてさっきの状態に戻っていく。
どうやら体に異常はないようだ。
「ありがとうだろ?ちゃんと教えたはずなんだがなぁ。」
「あり……がとう……」
そう、蚊の泣くような声で言うとロボは走って逃げ出した。
どうやら恥ずかしがりやのようだ。マシントラブルじゃなくて良かった。
今日はここまで。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄○ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
O 。
, ─ヽ
________ /,/\ヾ\ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|__|__|__|_ __((´∀`\ )< というお話だったのサ
|_|__|__|__ /ノへゝ/''' )ヽ \_________
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|_|_| 从.从从 | \__ ̄ ̄⊂|丿/
|__|| 从人人从. | /\__/::::::|||
|_|_|///ヽヾ\ / ::::::::::::ゝ/||
────────(~〜ヽ::::::::::::|/ = 完 =
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,.-―っ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
人./ノ_ら~ | ・・・と見せかけて!
从 iヽ_)// ∠ 再 開 !!!!
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、_):::::://( (ひ
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______人/ :/´Д`):: ( _ノ _ノ^ヾ_) < へヽ\
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|_|__|_人):/:・:::∵ヽ | )r' ー'/⌒ ̄ て_)~ ̄__ イ
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|_|_| 从.从从:/ |__|::レ:/ ___/ヽ、_/
|__|| 从人人从 ..|__L_/ .( ヽ ::|
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巛ノi
ノ ノ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ノ')/ノ_ら ∧_∧ | いきなり出てくんな!!
、)/:./、 ( ´Д`) | ビックリしたぞゴラァ!!!
)/:./.:.(,. ノ) `';~"`'~,. \ ________
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_____ 从\、,. ,; .,、∴';. ・ ( _ノ~ヾ、ヽ
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─────── ノ (, \/__/__,ノ|__`つ ヽ__/
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O 。
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|__|__|__|_ __((´∀`\ )< というお話だったのサ
|_|__|__|__ /ノへゝ/''' )ヽ \_________
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|_|_| 从.从从 | \__ ̄ ̄⊂|丿/
|__|| 从人人从. | /\__/::::::|||
|_|_|///ヽヾ\ / ::::::::::::ゝ/||
────────(~〜ヽ::::::::::::|/ = 完 =
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人./ノ_ら~ | ・・・と見せかけて!
从 iヽ_)// ∠ 再 開 !!!!
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______人/ :/´Д`):: ( _ノ _ノ^ヾ_) < へヽ\
|__|__|__( (/:∴:::( .n,.-っ⌒ ( ノlll゚∀゚) .(゚Д゚llソ |
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ノ')/ノ_ら ∧_∧ | いきなり出てくんな!!
、)/:./、 ( ´Д`) | ビックリしたぞゴラァ!!!
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_____ 从\、,. ,; .,、∴';. ・ ( _ノ~ヾ、ヽ
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ヽlヽ_>'::::ヽ __ ‐'!:::''<レ
く"~:::::::::::::|、_ ' _//:::::::::::::::~>
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/ :::::::::::::::::::~"フ"/Tヘヘ''"~:::::::::::::::::: ヽ
まだ……こちらは埋まってない……?
どうせならみんなのお気に入りの無口っ子のAAでも貼って埋めたらいいと思う
すみません、埋めネタ書いてるのでしばらくお待ちを
<ヽ. 「:l _ __ />
\`ー-.' :l__l:| 「:l___|::|___//
 ̄ ̄`ヾノ'´~  ̄ ̄ "ヾ-ーー´
/ `,
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(G) ё) ,ё) ,' ___
巛|ゝ J {/ \__
ゝ.し, 'こ' )|/\/ ミー..,,_
/ ̄| 'ヽ..,,____,.ノ`ヽ) `| l//// |\__
{ 'ー|| ー-川\ \ ,| } //|-、ノ\ミ}
ゝ__||_、___,川_\ \L_|\__,..lーヽ_ミ}
『クリスマスレター』
俺の彼女、下園あやめは結構な恥ずかしがりやだ。
口下手でおとなしく、人と触れ合うのが苦手。
手を繋ぐだけで顔を真っ赤にするし、初めてキスしたときなど熱を出して倒れてしまった。
おかげでそれ以来キスはしていない。
初めて言葉を交わしたのは高校に入ってしばらくしてから。
五月のゴールデンウィーク明けに最初の席替えがあって、窓際の最後尾という絶好の
ポジションを獲得した俺の前の席があやめの席だったのだ。
入学から一ヶ月、まだクラスの女子とはそこまで親しくはなかった。せっかく席替えを
したのだしとりあえず近くの女子から友好関係を築こうとあやめに話しかけると、彼女は
途端に真っ赤な顔でうつ向いてしまった。
返事が返ってこない。無視されたと思って俺は鼻白んだが、帰りのホームルーム中に
こっそり小さな紙を渡された。
ノートの切れ端だった。小さいながらもそこには綺麗な文字が書かれていて、首を
傾げながらもとりあえず読んでみた。
『さっきはごめんなさい。
私、ちょっと人と話すの苦手で、あなたに悪いことをしてしまいました。
話しかけてくれてありがとう。これからよろしくです、山口くん。』
なんというか、嬉しかった。
きっと彼女は人見知りするタイプで、このメモを書くのにも勇気がいったに違いない。
そう考えると余計に嬉しかった。俺に対して真摯になってくれたことが嬉しかった。
だから俺も返事を書いた。
『こちらこそよろしく。下園さん。』
渡してからしばらく彼女の後ろ姿を見つめていると、肩がなぜか強張った。耳が真っ赤に
染まっていくのがはっきり見えて、俺はちょっとおもしろいと思った。
後日訊いたところ、嬉しくて、でもちょっと恥ずかしくて、頭の中がわけわかんない
ことになっていたらしい。
俺たちの初めての会話は、声すら出さないそんなやり取りだった。
あやめは見ていて飽きない女の子だった。
とにかく喋るのが苦手で、聞き手役に徹するのが基本スタイル。頑張って何か言おうとは
するものの、大抵何と答えていいのかわからずに真っ赤になってしまう。正直コミュニ
ケーションには困る性質だが、俺は特に苛立ったりはしなかった。
普通の会話の代わりに、メモ用紙でやり取りをしていたからである。
主に授業中、俺たちはこっそりメモを渡し合った。小さな手紙の中の彼女は、普段と
違ってとても雄弁で、いろんなことを教えてくれた。
昨日見たテレビのこと、姉のこと、お店の手伝いのこと。
綺麗な字はとても読みやすく、それにつられるようにこちらも丁寧に文字を書くように
なった。
あやめとのやり取りはなんだかドキドキした。
こんな女の子同士みたいなやり取りが、なぜか妙に楽しい。彼女の手紙を通して、魅了
されていくのが自覚できて、
気付いたら好きになっていた。
教室で授業を受けるとき、ずっと彼女の後ろ姿が視界にある。それだけで幸せな気持ちに
なれた。ショートカットの髪が揺れるのを見る度に思わず見とれ、手紙を渡して手が
触れると胸が高鳴った。友達には気持ち悪いと言われたが。
確かにあまりの純情っぷりに、自分でも困惑した。どこの乙女だ。
でも別の友達には「幸せならいいんじゃないか」とも言われた。それもそうかと思い
直して、俺はあやめとのやり取りを続けた。
……知り合って二ヶ月後、俺はあやめに告白した。
返事は『よろしくお願いします。』という短い文面の手紙だった。
こうして俺たちは付き合うことになった。
幸いなことに想いが冷めることもなく、交際は順調に続いている。
相変わらずあやめは恥ずかしがりやで、デートのときも始終顔を真っ赤に染めている。
たまに不安そうにこちらを見つめてくるので、そんなときはにっこり笑って手を繋ぐことに
している。
そうすると、卒倒しそうになりながらもあやめは嬉しげに握り返してくれるから。
あやめはいつも不安そうにしている。こんな性格だからか、自分に自信が持てないの
だろう。いつか愛想を尽かされるのではないかという恐れを、なんとなく感じられるときが
ある。
もちろんそんなことは有り得ない。俺は出会ったときからあやめに惚れっぱなしだ。
あやめに愛想を尽かされることはあっても、逆はないと確信できる。
不安なのはこちらの方なのだ。
たまに思う。あやめは俺のことなど特に何とも思っていないのではないかと。
俺の告白に流されてしまって、付き合っているのではないかと。
もしもそうなら、俺はもっと頑張らないといけない。あやめが俺を好きになってくれる
ように。
あやめのことが大好きだから。
「殴られたいのアンタ」
店のカウンター内に立ちながら、大村聡子は剣呑な目付きで毒づいた。
聡子は俺やあやめと同じクラスメイトで、特にあやめとは仲がいい。なんでも小学校
からの付き合いで、昔からいろんなところで助けてもらっているとあやめが手紙で言って
いた。
あやめがそういうのだから本当なのだろう。クラスでもムードメイカー的存在だし、
想像しやすい関係だ。
聡子の家は小さな雑貨屋で、クリスマスイブの今日、俺は注文した品を取りに来ていた。
その際に俺が前述の不安を吐露すると、彼女はかなり危険な目付きで俺を睨んできたの
だった。
「アンタ、あやめを馬鹿にしてるの? 流されてるって、そんなわけないでしょ」
「い、いや、あくまで可能性の問題だぞ?」
「ゼロよゼロ! あの子はあんたにもったいないくらいに惚れてるわよ。もったいない」
二度言うな。
「あの子は気弱でおとなしいけど、流されて行動するような馬鹿じゃないわ。あんたの
百兆倍賢いんだから、そんな心配するだけ損よ」
そこまで言うか。
「悪かったよ。ちょっとした気の迷いだ。許せ」
「悪いと思うなら早くプレゼント届けてやることね。喜ばせたいんでしょ?」
聡子は言いながら、小さな箱を差し出してきた。綺麗にラッピングされた、あやめへの
プレゼント。
「業者に頼んでいいやつを取り寄せたから、品質は保証するわよ」
「ありがとな。それじゃまた来年」
なぜか親指を下に向けて突き出されるのを尻目に、俺は店を出た。
その足であやめの家へと向かう。確かここから歩いて五十メートルくらいだったはずだ。
手元に抱えるは小さなプレゼント。
あやめは喜んでくれるだろうか。聡子に相談したら、「アンタにしては悪くない」と
一応合格点をもらっている。一番の友達なのだ。その言葉、信じるぞ。
しばらくして、あやめの家に着いた。
あやめの両親が経営している喫茶店『白雪』は、クリスマスイブということもあってか
大賑わいだった。
イブの夜は普段より遅くまで開けているという。手作りケーキの販売も行っていて、
表の入り口には人だかりができていた。
俺は人だかりを避けて店の裏手に回る。予想以上に忙しそうな感じだ。
果たして会えるだろうか。終わるまで何時間でも待つつもりだが、迷惑なら帰った方が
いいのだろうか。あやめは問題ないと言っていたが……。
「ん?」
裏口の方を窺っていると、髪の長い女性が中から出てきた。すぐにこちらに気付いて
不審の目を向けてくる。
が、女性はすぐにああと頷き、にっこり微笑んだ。
「君があやめの彼氏ね」
「え……あ、はい」
「あの子ならキッチンにいるよ。呼んでこようか?」
「お、お願いします。……あなたは?」
「姉よ」
びっくりした。姉がいるとは聞いていたが、あやめとは全然似てない。
初対面の相手にも動じたところはなく、血が繋がっているとは到底思えなかった。
「ね、一つ訊いていい?」
「なんですか?」
「あやめのどういうところを好きになったの?」
不意打ちだった。急な問いかけに俺は狼狽した。
「あー、その……」
「ん?」
どう答えたものか、俺はしばし悩んだ。
「……ずるい言い方していいですか」
「? どうぞ」
「……全部好きです」
「……全部?」
俺はヤケクソ気味に想いを吐き出した。
「だから全部です。おとなしいのも恥ずかしがりやなのも顔を真っ赤にするのもたまに
笑ってくれるのも全部、好きです」
お姉さんはしばらく呆気に取られたように俺を見つめていた。
それからぷっ、と吹き出し、
「なるほどね、それはずるいなー」
「すいません」
「んーん、いいよ。じゃあ呼んでくるね」
お姉さんはドアの向こうに引っ込んでいく。
それからすぐにあやめが出てきた。
エプロン姿で、白頭巾を被っている。接客が苦手なあやめはキッチンの手伝いに回って
いるという話だった。
俺が話し出さないのを見て、あやめは小首を傾げる。
「浩平、くん?」
「ああ、いや、頑張ってるんだなって」
「──」
恥ずかしそうにうつ向いてしまうあやめ。こういうところは全然変わらない。
そんな彼女に俺は手元の箱を渡す。
「はい、プレゼント」
あやめが恐る恐る顔を上げる。微笑みかけると一気に耳まで上気した。
「気に入ってくれるかわからないけど」
「……わ、私も」
あやめはそう言うと、後ろ手に隠していた紙袋をおずおずと差し出してきた。
「……プレゼント?」
小さく頷くあやめ。
めちゃめちゃ嬉しかった。
「ありがとう、あやめ」
「こ、これもっ」
続けて白い封筒を差し出してくる。
いつもの手紙だ。言葉の代わりに俺たちを繋ぐ大事な架け橋。
「後で読んで……」
「わかった。俺のもいいか?」
交換するように俺も手紙を差し出す。
あやめはびっくりしたように目を丸くした。
「後で読んでくれよ」
「あ……」
「そんなに予想外だったか? いつも渡し合ってるじゃん」
「け、けど……」
あやめはまたうつ向いてしまう。
俺は何も言わずに彼女の言葉を待った。
あやめがゆっくりと顔を上げる。
はっきりとした喜びの笑顔を浮かべて、あやめは言った。
「ありがとう……浩平くん」
その言葉は俺を満足させるのに十分な力を持っていた。
帰りの電車の中で、俺はあやめの手紙を読んでいた。
『メリークリスマス! 浩平くん。
うちは毎年この時期忙しくて、いっしょにはいられないけど、プレゼントを用意しました。
セーターです。一応手編みです。
多少大きめに編んでますが、ちゃんとできてるでしょうか? 似合うといいな。
付き合ってもう半年になるんですね。
夏休み前に浩平くんに告白されたとき、すごく嬉しかったです。きちんと返事をする
ことができなかったけど……。
いつも迷惑かけてごめんなさい。……って言ったら怒られるかな?
聡子ちゃんに言われました。謝られても相手は嬉しくないって。
だから私は自分の気持ちを素直に書きます。
いつもありがとう。大好きです。
P.S.初詣、いっしょに行きましょう。神守神社はどうですか? 後で連絡下さい。』
ぶっちゃけた話、メールを使えばいくらでもやり取りできる内容なのだ。わざわざ手紙を
書く必要など、本当はない。
それでも俺はこっちの方が好きだ。あやめの心が込められた、綺麗な文字の手紙の方が。
(メリークリスマス、あやめ)
俺は心の中で恋人に囁いた。
◇ ◇ ◇
仕事も全て終わり、私はすぐに部屋に戻りました。
ベッドに腰掛けて、浩平くんからのプレゼントを丁寧に開けます。
中には万年筆が入っていました。
白を基調とした綺麗なデザインです。ちょっと意表を突かれました。
手紙には、ちょっと角張った見慣れた字でこう書いてありました。
『メリークリスマス、あやめ。プレゼント見てくれた?
その万年筆、よかったら使ってほしい。大村に選んでもらったやつだけど、気に入って
くれるかな。
そいつで手紙を書いてくれたら、俺はすごく嬉しい。
あやめの手紙が好きだから。
正月は時間あるよな? 楽しみにしてる。』
あまりの嬉しさに胸がドキドキしました。
同時に恥ずかしくなって、思わずベッドに突っ伏してしまいます。ギュッと目をつぶって
嬉しさに身悶えしました。誰かに見られたら死んじゃいそうな自分の姿です。
ようやく落ち着くと、私は贈られた万年筆をまじまじと眺めます。
自然と笑みがこぼれました。
(メリークリスマスです、浩平くん)
心の中で私は小さく呟きました。