無口な女の子とやっちゃうエロSS 四言目

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1名無しさん@ピンキー
無口な女の子をみんなで愛でるスレです。

前スレ
無口な女の子とやっちゃうエロSS 3回目
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1191228499/
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無口な女の子とやっちゃうエロSS 2回目
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1179104634/
初代スレ
【隅っこ】無口な女の子とやっちゃうエロSS【眼鏡】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1155106415/

保管庫
ttp://wiki.livedoor.jp/n18_168/d/FrontPage

・・・次スレは480KBを超えた時点で・・・立ててくれると嬉しい・・・
・・・前スレは無理に・・・消化して欲しく無い・・・かも・・・
・・・ギリギリまでdat落ち・・・して欲しく・・・無い・・・から・・・
2名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 01:25:48 ID:kF5KjtxK
>>1
お疲れ様……です……
3名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 01:40:17 ID:8BLUmzFv
・・・3・・・ゲット
>>1・・・乙
4前スレ604:2007/12/24(月) 01:42:04 ID:mdL8k6lq
>>1
5名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 01:55:11 ID:OS0gWg/F
>>1
がんばったね・・・・・・おつかれさま・・・・・・
6名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 03:45:20 ID:tbE1nzn6

7名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 07:59:00 ID:3jpeC9xO
>>1乙……
7……
スレ立て……ご苦労さま……
即死……回避……?
8名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 08:45:49 ID:IBn4oqzw
…ん。お疲れ。
その……ご、ごほうび…とか…


なっ、何でもないっ………!
9名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 10:46:44 ID:NbQSpePr
……。

ん。
10名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 12:03:33 ID:jHPqtQfv
>>1乙だよ…………
なにか……したいこと……ある?
11名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 14:52:55 ID:pu6ADgN3
えと、あの、その…………、これ……………………。



       | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
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     /     >>1  乙      /  /   /
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12前スレ593:2007/12/24(月) 18:54:32 ID:X55T4Wvf
なんとか一区切りついた・・・・・・
今から投下
次の項目に引っかかる人はスルーよろしく

・ご都合主義全開
・SS初心者による勢いで書いたヘタレSS

では、投下
13「ソラカラノオクリモノ」1:2007/12/24(月) 18:57:19 ID:X55T4Wvf
「はぁ………」
バスから一人降りた若い男は疲れたようにため息をついた。
今日は12月24日、クリスマス。
もう空は黒く夜になっており、星が輝いている。
バスは街の方向へ独特のエンジン音を響かせながら戻っていき、残されたのは一人の男と、
男と同じように寂しく立っているバス停の看板。
男は更にため息を付いた後、トボトボと街とは反対の暗い夜道を歩き始めた。
「何だってクリスマスの日にバイトやったんだろ、俺………ん?」
ブツブツ呟きながら点々と点いている街灯を頼りに、住んでいるアパートに向かっていると、
男は空からちらちらと降ってくる白い物に気が付いた。
「雪かよ・・・・・・ホワイトクリスマスってか。けっ、喜ぶのはカップルだけじゃねーか」
更に肩を落とした男は、バス停から約5分の道のりを足重く歩く。
思えば、安さに目が眩んで住み始めたアパートだったが、住んでからすぐに安かった理由を
思い知らされた。
バスは1時間に1本で乗り遅れれば講義に遅刻は確定。
近くにコンビニなど便利なものは何も無い。
アパートは2階建てで合計10部屋あるうち、自分も含め5部屋しか住んでない。
しかも基本的にお互い不干渉という感じで、引越しの挨拶をしてもそっけなく今は交流すらない。
「彼女でも居れば少しは違うんだろうけどなぁ………」
もやもや(妄想開始)もやもや
「お・か・え・り〜!」
自分の部屋を空ければミニスカサンタ服を着た可愛い女の子が抱きついてくる。
「もう、遅かったじゃない。待ってたんだよ〜?」
「ゴメンゴメン、バイトが長引いてさ」
「むぅ、まぁいいや。帰ってきてくれたんだし。それより早く早く!もう準備できてるよ!」
「わかったわかった」
彼女に急かされて部屋に入れば、そこには豪華な彼女の手料理がせまいテーブルを埋め尽くし、
まるで早く食べてくれと待ち構えているようだ。
「おぉ〜、すごいな」
「腕によりをかけて作ったから。ね、早く食べよう?」
トテトテとテーブルに向かう彼女の後ろ姿。ミニスカと白いニーソの間の絶対領域。
俺は我慢出来なくなって後ろから彼女を抱きしめて、びっくりする彼女が何か言う前に唇を塞ぐ。
「だ、ダメだよぉ………料理冷めちゃうよぉ………あん」
「ゴメン、もう止められない」
俺は真っ赤なサンタ服に手をかけて………
「あぁ、ダメェ………」
もやもや(妄想終了)もやもや
「………うへ、うへへへ」
ここが車すらあまり通らない人気が全く無い道なのが幸いだろう。
暗い夜道の中、一人怪しく笑いながら歩く男は誰がどう見ても立派な変質者だった。
そんな変質者に強い風が吹きつけ、
「うへへ………っくしょん!」
鼻水を垂らすほど大きなクシャミをして、変質者はやっと現実に戻ってきた。
「チクショー………見も心も寒いぜ」
妄想している間が長かったのか、いつの間にかアパートからさほど離れていない自動販売機の
前まで来ていた。男はポケットからサイフを取り出し、ホット缶コーヒーを買う。
「あ゛〜………生き返る」
男の吐く息が更に白くなって吐き出される。
「クリスマスの日に暖めてくれるのは缶コーヒーのみ………クッソー、やっぱ彼女が欲しいぜ」
缶コーヒーを見つめながら一人呟く男。
俗に言う負け組。危ない人。毒男。シングルベル。痛い人。
しかも完全に作ろうと努力しなかった自分のせいだから救えません。
「うっせー!!」
あら、聞こえてました?
「………なんだか誰かに馬鹿にされてたような幻聴が聞こえたぞ、クソ」
更にイライラし始める男。缶コーヒーの中身を一気に飲み干し
「クリスマスの馬鹿野郎〜!!」
14「ソラカラノオクリモノ」2:2007/12/24(月) 18:58:28 ID:X55T4Wvf
一人身のお約束な台詞と共に缶コーヒーを空に投げつけた。NO、ポイ捨て。
カ〜ン!
「………?」
空から空き缶がぶつかる音がした。おかしい、落ちて音が鳴るには早すぎるし、空から聞こえるなんて。
ここには上に何も無いし、あるのは空から落ちてくる雪のみ。時刻はもう19:00を過ぎて
鳥も飛んでいないはずだ、たぶん・・・・・・。
男が不思議に思い空を見上げると
「?!?!?!?!?!」
目の前に赤い何かが落ちてきた。もちろん、平凡な男には漫画の主人公のような
反射神経など皆無な訳で………
「ぐぇっ!」
潰されたヒキガエルのような情けない声をあげてあっけなくそれに押し潰された。
「いってぇー!な、なんなんだ??」
何かに潰され仰向けで道路に倒れた男は、胸の上に乗っているモノを見た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・おんにゃのこ?」
錯乱してるのか言葉がおかしい男は放っておいて・・・・・・
男の胸の上に居たのは、年は女子高生ぐらいの赤いサンタ服を着た女の子だった。
身長は男の身長より約頭1個分、大体150センチぐらいだろうか?小柄な感じだった。
お決まりの赤い三角帽子、セミロングぐらいの長さがあるサラサラな銀髪。気を失っているのか、
瞳の色はわからないが、目を閉じていても美人と言わざるを得ない日本人的な整った顔立ち。
柔らかそうな薄い桃色の唇は微かに動き、肌は男が見ても綺麗でスベスベしてそうだ。
服は男用のサンタ服を着せ、更にスカートも追加し、白い手袋に同じく白いブーツ。
素肌が露出してるのは顔の部分だけという、色気など全く無いという程の厚着。
しかし、身長の割には大きく胸の部分が膨らんでいる。
結論。女の子はとても魅力的な美人だった。
カ〜ン!
「あたっ!」
呆然とする男に空から落ちてきた缶コーヒーが直撃した。空き缶はゴミ箱へ捨てましょう。
コロコロと転がる缶コーヒーと女の子を交互に見つめ、男は・・・・・・
「・・・・・・もしかして、この女の子は俺の願いを缶コーヒーが叶えてくれたのか!」
と、トチ狂った事を言い出しやがった。
「・・・・・・んな訳ねーだろ」
右手で誰も居ない空間に突っ込む。・・・・・・虚しい
よく分らない状況だが、男はとりあえず女の子を起こそうと頬・・・・・・は止めて肩を掴んで
「おい、大丈夫か?起きてくれ」
ゆさゆさと揺さぶる。その際、胸が揺れるのに思わず男の目が釘付けになったのは内緒だ。
「まいったな・・・・・・・・どうしよ?」
女の子はなかなか目を覚まさない。辺りを見回しても自動販売機と道路、後は広がる林のみで、
休める場所はどこにもない。
「・・・・・・仕方ない、アパートまで運ぶしかないか」
このまま放って置く訳にもいかないし、男は仕方なく女の子をおんぶして背負った。
力仕事のバイトをしていたおかげか、女の子は意外と軽かった。
「違うぞ、これはこのままここで介抱するより、家が近くだからそこで介抱したほうがいいからだ。
決して連れ込んで変な事する訳じゃないぞ。背中に胸が当たって気持ちいいのもこうしないと
運べないからだ。決して下心は無いんだからな」
何故か口で必死に言い訳をブツブツ喋る男だったが、意外と大きい女の子の胸の感触で、
顔が知らないうちにニヤけていた・・・・・・そこはやはり童貞の男だった。
15「ソラカラノオクリモノ」3:2007/12/24(月) 18:59:21 ID:X55T4Wvf
〜〜〜アパート205号室〜〜〜
「ふぅ〜」
女の子をベットの上にゆっくり寝かせ、コートを壁にかけてあるハンガーにかけ、
インスタントコーヒーを飲みながら男は一息ついていた。
10畳の程度の部屋にキッチンとバストイレが付いた一人暮らしならば充分なスペース。
部屋の真ん中には小さなテーブルと隅にベッド、多少古いタイプのパソコンとTV、あとは本棚と
タンスだけで綺麗に整理されていた。どうやらこの男はあんまり物を置きたくないタイプのようだ。
「・・・・・・で、どうしよう?とりあえず部屋に連れてきちゃったけど、同意も得てない状態で部屋に
連れ込んだらまるで誘拐じゃないか」
まるでもなく誘拐なんですけどね。男はテーブルの上でしばらく頭を抱え込んだ後、女の子を見た。
「・・・・・・・・・」
女の子はまだ目を覚まさない。胸が僅かに上下している。
男はいつの間にか自分でも気が付かないうちに女の子の前に立っていた。
改めて見れば見るほど女の子は綺麗で可愛かった。胸に視線を移せば、これまた男好みな大きさ。
ゴクリ
知らずに男はつばを飲み込み、手が胸へと伸びる。
天使君(止めるんだ!寝ている女の子を襲うなんて事はしちゃダメだ!)
お、天使君登場。男の目の前に手の平ほどの小さな体全体を使って両手を広げて止めようとしている。
悪魔君(ちょっと胸揉むぐらいいいじゃねぇーか、幸い今は寝てるんだから気が付かねぇよ)
今度は悪魔君登場のご様子です。天使君と同じくらいの大きさで男の耳に甘い罠を囁いてます。
天使君(駄目だ!君は犯罪者になんかなりたくないだろう!)
悪魔君(うるせぇーな!バレなきゃ犯罪になんないんだよ!)
あ、両手で頭を抱えながら男が迷ってます。
天使君(君が!泣くまで!殴るのを!止めない!)
悪魔君(俺は人間(善人)を辞めるぞ!ジョ○ョー!)
天使君(オラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!)
悪魔君(無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!)
天使君と悪魔君の壮絶な拳と拳で語る戦いが始まったようです。なにやら途中で不思議な効果音が
文字つきで現れたりとカオスな状況ですね。
あ、決着が付いたようです。天使君が変な効果音と共に吹っ飛ばされました。
悪魔君(へ、へへへ・・・・・・これで邪魔者は消えたぜ、今の内に揉め、揉んじまえ!)
男(そ、そうだよな?介抱してあげてるんだし、寝てる間にちょっと胸ぐらい揉んでもいいよな)
悪魔の囁きに負けた男は手を伸ばそうと顔を上げ、
「・・・・・・・・・?」
女の子が上半身を起こし、初めて見る銀色の瞳で男を見つめながら首をかしげていた。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・?」
男が呆然として見つめてると、女の子はもう一度首を傾げると、男がやっと動いた。
「うわぁぁぁああああ?!ちょ、ちょっと待て!お願いだから騒がないでくれ!別に何もしてないから!
いや、本当に!お願いだから騒がずに俺の話を聞いてくれ!!」
そのまま2歩程下がり男は土下座しながら一気に喋る。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
お互いに無言。おそるおそる男が顔を上げて女の子を見ると
「・・・・・・(コクリ」
わかっているのかよくわかっていないのか、どこかぼーっとしたまま頷いた。
16「ソラカラノオクリモノ」4:2007/12/24(月) 19:02:42 ID:X55T4Wvf
「えっと・・・・・・コーヒーでよかったら飲む?」
とりあえず、騒がれて犯罪者になる事を免れた男は、湯気がまだ残ってるコップを指差して女の子に
聞いてみた。
ふるふる
女の子は首を振って拒否する。サラサラと銀色の髪が揺れて、思わず触ってみたくなるほどに綺麗だ。
「じゃ、じゃあお茶は?」
ふるふる
これも拒否。
「う・・・・・・暖かい飲み物はそれぐらいしか・・・・・・あ、もしかして飲みたくない?」
ふるふる
どうやらこれも違うらしい。女の子は表情をあまり変えない上に、喋ってくれないのでなかなか
その意図が分りづらい。
「え?じゃあ・・・・・・冷たいの?」
コクリ
頷いた。暖房を入れてるものの、まだ寒いのに冷たいものが飲みたいなんて不思議な子だな、と男は
思いながらも冷蔵庫を空け、
「う、何もねぇじゃねぇか」
冷蔵庫の中にはキムコしか入っていなかった。
「・・・・・・そうだ、買い物しようと思ったんだけど、カップルばかりで買う気力無くしたんだっけか」
そうなると、水ぐらいしか無い訳なのだが、男はふと思い出したように上部分の冷凍庫を開けた。
「・・・・・・アイスでよけりゃ、食べるか?」
夏に買ってそのまま食わずに冷凍庫に放っておいたカップアイスを取り出して、聞いてみた。
まぁ、冷凍品だし、腐ってたりはしないはずだし腹を壊す事はないだろう。この季節に食べると
別の意味で壊しそうだが。
コクリ
頷いた。マジすか?しかもなんか心なしか目が輝いて嬉しそうに見えるんですが(汗
「じゃあ・・・・・・はい」
スプーンと一緒に女の子に渡すと、さっそく蓋を開けて食べ始めた。しかも幸せそうに。ヤバイ、
何故かこっちが寒くなってきた。男は自分の熱いコーヒーを飲み、
(でも、なんか可愛いな・・・・・・)
まるで子供のように一口食べる度に、幸せそうな顔をする女の子を見て男は思わず見とれる。
(銀髪に銀色の瞳、やっぱ外人?・・・・・・の割には顔立ちは日本人っぽいよなぁ。ハーフ?)
色々考えてみるが、やはり聞かなければそこは分らない。とりあえず男は自己紹介をしてみる事にした。
「とりあえず、自己紹介しとこうか。俺は伊東 耕太(いとう こうた)。君は?」
耕太が自己紹介すると、女の子はスプーンの動きを止め、しばらく何かを考えた後、
スプーンを口に咥えたままサンタ服のお腹に手を突っ込み、何やらごそごそと探し始めた。
「???」
喋って教えてくれれば、と耕太は思いながらも訳が分らず、とりあえず女の子の行動を見守る。
女の子はどうやら目的の物が見つかったらしく、女の子はサンタ服から引きずり出すようにして
白い大きな袋を出した。
「え?ちょ、ちょっと待って?どこにそんなもの隠してたの?!」
明らかにおかしい。白い袋は少ししか物が入ってないようだが、もっと詰めればまるで本物のサンタが
背負ってるぐらいの大きさになりそうなほど大きな袋だった。間違いなくそんなのを服の腹の中に
入れてたら妊婦ぐらいの腹の大きさになり、ここに運ぶ時に気が付くはずだ。
女の子は一旦手を止めて耕太を見たが、首を傾げると次に袋の中に右手を入れてごそごそ探し始めた。
「て、手品??」
前にTVで外人の手品師がすごい手品をしていたのを見たし、とりあえず耕太は手品だと思いこむ事にした。
やがて白い袋から女の子が右手を引き抜くと、その手にスケッチブックとペンが握られていた。
耕太はますます訳が分らなくなった。なぜ名前を聞くのにそんなものが出てくるのだ?
女の子は訳が分らない耕太を放っておいて、自分の作業を続ける。表紙をめくり、白い画用紙に
なにやら書き始める。
17「ソラカラノオクリモノ」5:2007/12/24(月) 19:04:47 ID:X55T4Wvf
カキカキ・・・・・・
すぐに書き終えた女の子は、画用紙に書いた二文字の漢字を耕太に見せた。
「・・・・・・小雪?」
コクン。
「えっと、君の名前?」
コクン。
どうやら女の子の名前は小雪と言うらしい。なんで名前をわざわざ書いた教えたのか疑問に思ったが、
耕太はすぐにある可能性に気が付いた。
「・・・・・・もしかして、喋れないの?」
コクン。
なるほど、だからさっきから頷いたり首を振ったりしか出来なかったのか。
小雪はスケッチブックを置いて、アイスをまた食べ始める。
とりあえず耕太は小雪が食べ終わるのを待つことにした。
やがて小雪はアイスを食べ終えると、律儀にきっちりと蓋を閉め、その上にスプーンを置いて
ペコリと耕太に頭を下げた。
(ごちそうさま、って事かな?)
「いや、こんなものしかなくて悪いね」
ふるふる。
(クソ、可愛いじゃねーか。・・・・・・にしても、どう説明したもんか?)
君は空から落ちてきて俺とぶつかり、気を失ってきたからとりあえず俺の部屋に運んだんだ。
これでは完全に耕太が痛い人だ。しかし、これしか説明しようが無い。
とりあえず、なんで暗い夜道のなか、一人でサンタ服を着ていたのか聞いてみるか?
新手の詐欺の可能性もあるかもしれないし、ある程度警戒しておくべきか・・・・・・?
と、耕太が色々と頭を悩ませていると、ふと服をくいくいと引っ張られた。
見ると小雪がいつの間にか耕太の隣まで四つん這いで移動して服を引っ張っている。
「な、なに?」
四つん這いなので小雪の胸が寄せられ、更に大きさを増した胸に思わず目が向いてしまう
耕太がどもりながら聞く。小雪の服装が露出の高いものだったらさぞ絶景だっただろう。
カキカキ・・・・・・
『こーたは私を助けてくれた上に、アイスまでご馳走してくれたいい人。ありがとう』
小雪は微笑む。
「・・・・・・どういたしまして」
(その殺人的な笑顔止めてくれ、理性が!)
カキカキ・・・・・・
『私、これからお仕事にいかなきゃいけないんです。それでもし、こーたがよければ私のお仕事を
手伝ってくれませんか?』
「お仕事?」
(な、何の仕事だ?まさかそうやって詐欺に?にしても、書く姿も可愛いじゃねーか・・・・・・
18「ソラカラノオクリモノ」6:2007/12/24(月) 19:06:42 ID:X55T4Wvf
カキカキ・・・・・・
『子供にプレゼントを渡すお仕事です。私、仕事するのが遅くて、このままだと時間内に配る事が
出来ないんです・・・・・・』
しょぼん、と肩を落とす小雪。
「で、でも、俺そんな仕事した事無いし・・・・・・」
(だーーー!!仕草がいちいち可愛い過ぎるぞコンチクショー!!)
カキカキ・・・・・・
『ダメ、ですか?』
スケッチブックを両手で持ち、恥ずかしそうに口元を隠しながら上目使いで耕太を見上げる小雪。
「うぅっ!」
(落ち着け、落ち着け俺!)
もはや耕太の心は小雪に関する警戒心はボロボロに崩されていく。
「ちょ、ちょっと考えさせてくれ・・・・・・」
とりあえず、自分のコップと小雪の食べていたアイスを片付けようして立ち上がろうとする耕太。
(と、とりあえず、もう一度よく考えよう。彼女は詐欺をするような人間じゃなさそうだし、
そこは信用するとしても、引き受けて失望させるぐらいなら最初から断った方が・・・・・・)
しかし、耕太の思考はそこで小雪の行動に中断された。
小雪はギュッと耕太の服を掴み、上目遣いのまま喋れない口で何かを伝えようと必死で動き、
銀色の不思議な瞳は不安げに揺れながらも耕太を見つめ、やがて小雪は顔を伏せた。
完全にトドメだった。耕太だって女友達と話した事はもちろんあるが、今のは今まで
経験した事のない感情が爆発している。
(これが萌えというやつですか?!先生!!)
「任せろ!俺が手伝ってやる!」
口が勝手に動いていた。もう耕太の心には小雪の警戒心は全くなく、可愛い小雪の為に
手伝ってあげようとしか考えられなかった。
耕太の言葉に小雪は最初に驚き、そして笑顔で抱きついた。
「HAHAHAHAHA!任せなさい!!」
男は単純なものである・・・・・・
「それで、具体的にどうすればいいんだ?」
耕太が小雪に仕事の内容を聞くと、小雪はまた例の白い袋に右手を突っ込んでごそごそし始めた。
こうして二人して立つと、小雪の頭が耕太の胸の部分にあたる。やはり大人っぽい顔立ちにしては
低めの身長で、ますます可愛い印象の方が強くなる。
そんな事を耕太が思っていると、白い袋からまた何かが取り出された。
「サンタ服・・・・・・」
一目でサンタ服と分る赤い衣装は、きっちりと折りたたまれたまま小雪の右手に握られていた。
しかも、白い手袋にブーツ、お決まりの赤い三角帽子、更には白いヒゲ付きで。
「・・・・・・突っ込んだら負けか?」
小雪は不思議そうに首を傾げるだけなので、耕太はもう気にしない事にした。
(まさか21歳にしてサンタのコスプレするとは思ってもいなかったぜ・・・・・・)
とりあえず、サンタ服を今着ている服の上から着込む。大き目のサイズなのでコートみたいな
感覚で着ると、不思議な事にジャストフィットだ。
カキカキ・・・・・・
『似合ってます』
「・・・・・・ありがとう」
乗りかかった船だ、耕太は少し投げやり気味で答えた。
19「ソラカラノオクリモノ」7:2007/12/24(月) 19:07:54 ID:X55T4Wvf
「ところで、どうやって配りまわるんだ?自慢じゃないが、車の免許は持ってるが貧乏な大学生の俺は
車なんて物を持ってないぞ?・・・・・・まさか、この格好のままバスに乗ったりして移動するんじゃないよな?」
ここは街外れだ。徒歩だと街まで時間は掛かるし、さすがにこの格好でバスには乗りたくない。
小雪は大丈夫、と安心させるように微笑んだ後、窓を開けてポケットからホイッスルみたいな物を
取り出し、勢い良く吹いた。
ピィーーーー・・・・・・
音は思ったよりも大きくなかったが、雪の振る夜空に響くように響き渡った。
相変わらず耕太は小雪が何をしようとしてるかが分らない。
(なんで笛を吹く??本当に小雪がしようとしている事がわからん)
何はともあれ小雪のお仕事の手伝いなので、耕太は意味が分らなくても手伝いが必要な部分が
来るまでは小雪に従うしかない。
笛を吹いて10秒ほどが経った頃だろうか?やがて耕太の耳に何かが聞こえてきた。
「・・・・・・鈴の音?」
シャンシャン・・・・・・
鈴の音はだんだんはっきりと聞こえてきた。不思議に思った耕太は小雪の隣まで来て彼女と同じ
方向を見て、
「し、鹿が飛んでるぅ?!」
信じられない事に耕太の目には2匹の鹿がこちらに向かって見えない地面を走るようにして
飛んでいた。鈴の音も鹿が近づくに連れて大きくなる。
カキカキ・・・・・・
『鹿じゃないですよ、トナカイのトナとカイです』
「いや、トナカイなんて見たことないし。・・・・・・てか、名前にネーミングセンスを感じないんだが」
やがて、しk・・・・・・じゃない、トナカイは窓のすぐ傍で空中のまま止まった。良く見ればトナカイの
後ろには木製のソリが有り、手綱と共に繋がれている。
「・・・・・・これじゃ、まんまサンタじゃねーか」
耕太は理解が追いつかず、ぼーぜんとしたまま誰とも無く呟く。
カキカキ・・・・・・
『はい、私はサンタクロースなので子供にプレゼントを配るのがお仕事です。こーたにはソリの
操縦と、私と一緒にプレゼントを配るお手伝いをしてくれませんか?』
「マジっすか・・・・・・」
未だにぼーぜんとする耕太を置いて、小雪は白い袋を持ってソリに乗り込むと、耕太の腕を
クイクイ引っ張る。
「・・・・・・えぇい!もう何でも来いや!」
どうやら理解する前に開き直ったご様子。意を決して耕太はソリに乗り込んだ。
(触れる上にマジで浮いてるよ・・・・・・。サンタって本当に居たのか。しかもこんな美少女が・・・・・・)
ソリは二人座ればもう座れない横幅で、後ろには荷物を載せる空きがある。ソリにはクリスマスらしい
装飾が施されている。よく絵で見かけるタイプの典型的なサンタのソリだ。
耕太は右側に、小雪は左側に座り、手綱を小雪から手渡される。
カキカキカキカキ・・・・・・
『操縦は簡単です。手綱で叩けば前に進みます。左右に曲がるにはその方向に手綱を引っ張って
下さい。上昇は足で1回だけソリをトナとカイが聞こえるように叩いてください。下降は2回です。
止まる時は手綱を自分の方へ引っ張って下さい。』
「・・・・・・OK、覚えた。で、どこに行けばいいんだ?」
小雪がソリの前方にある四角い物を指差す。
「って、カーナビかよ?!ソリにカーナビなんで無駄にハイテクじゃねーか!・・・・・・なんだ、
この右下にある50って数字は?」
ソリには違和感バリバリのカーナビは、目的地らしき場所を矢印で表示している。ところで、
電源はどうなっているんだろうか?
カキカキ・・・・・・
『最近の科学はすごい便利ですね。助かります。右下の数字はプレゼントを渡す子供の数です』
耕太は腕時計を見てみる。時刻は20:54。
「・・・・・・一応聞くが、何時までに配り終えなきゃいけないんだ?」
カキカキ・・・・・・
『今日の24時までです』
「あと3時間しか無いじゃねーか?!あぁもう!行くぞ!!」
耕太は手綱を振って空へと飛び出した。
20「ソラカラノオクリモノ」8:2007/12/24(月) 19:09:05 ID:X55T4Wvf
「おおおおおぉ!すげーー!!」
耕太は思わず歓声をあげる。
誰もが抱いてたであろう「空を飛ぶ」という行為を、ソリとはいえ体験しているのだから
それも仕方が無いだろう。
風を切り、どんどん加速していく。試しに履いたブーツで1回ソリを叩くと、トナとカイは
まるで坂道を駆け上がるかのように力強く、更に空へと近づいた。
シャンシャンシャンシャン・・・・・・
(まるで夢みたいだな!サンタ服着て、更にソリで空飛ぶなんてマジでサンタになった気分だぜ!
しかも、となりには美少女ま・・・・・・あれ?)
ふと、耕太が隣の小雪を見ると、
「・・・・・・(ブルブル」
まるで初めての面接で緊張してしまい、ガチガチに固まってしまったように座っている小雪の姿が。
いつの間にか右手で耕太の服の端っこを掴み、目をぎゅっと閉じて小さく震えていた。
(何だ、寒いのか?・・・・・・いや、この時期に嬉しそうにアイスを食う小雪が寒がる訳無いよなぁ?)
耕太はチラチラと小雪を見るが、小雪は目を閉じたままで全く気が付いていない。
(そういえば・・・・・・こんな寒空の中、風を受けてるのに全然寒くないな、俺?)
確かに寒い風を感じてるのに、体は全然寒くない。反対に暑過ぎでもなく、ちょうどいい感じだ。
(まぁ、それはいいや。とりあえず、寒い以外の理由で震えるのって何だ?)
ふと、景色を見回してみると、もう街のすぐ傍まで飛んでいた事に気が付いた。時計を見ると、
まだ2分しか経っていない。すごい速さだ。
足元にはクリスマスでいつもより一層光り輝く街のネオンがはっきりと見えてきた。
(速っ!もうこんなところまで着たのか。にしても、こんな高さから見る街の明かりって綺麗だな〜。
・・・・・・・・・・・・あ、もしかして)
「・・・・・・小雪、もしかして、高いの苦手?」
耕太が聞いてみると、小雪はビクッと大きく震え、やがて恥ずかしそうにコクリと頷いた。
どうやら図星だったようだ。
「・・・・・・ぷ、あははは!」
耕太は思わず笑い出してしまった。小雪はやっと目を開け、「そんなに笑わなくても」と
ちょっと拗ねながら非難めいた目で耕太を見上げた。
「ゴメンゴメン。馬鹿にした訳じゃないんだ。でも、怖かったらそんな服の端を摑むんじゃなくて
俺に体に摑まったんだっていいんだぞ?」
もちろん冗談だ。しかし、小雪は冗談をまともに受けとるほどの素直だった。
ピト・・・ギュ
(おおおおおおぉ?!)
小雪は耕太に寄り添って、横から両手で抱き締める様にして摑まった。自然と小雪の胸が
耕太の脇腹に押し付けられる。
(サンタってのは全員こんな積極的なのか?!こっちが恥ずかしくなってくるじゃないか・・・・・・
今更冗談だから離れてくれなんて言えないし・・・・・・それにしても、胸、柔らかいなぁ・・・・・・)
いろんな意味で意識が飛びそうな耕太。とにかく、意識が飛ばないように話しかけてみる。
「も、もう怖くないか?」
コクリ
しっかり摑むものが出来て安心したのか、震えは止まって目を開けて前を見ている。
(それにしても、高所恐怖症のサンタか。それで俺に手伝いをお願いしてきた訳ね。
目を開けられないからカーナビも見れない訳だ。でも、それなら低空で・・・・・・)
「・・・・・・あ。」
「・・・・・・?」
21「ソラカラノオクリモノ」9:2007/12/24(月) 19:10:12 ID:X55T4Wvf
突然、耕太が素っ頓狂な声を上げ、小雪が何事かと耕太を見上げた。
「い、いや、何でもない。何でもないぞ?」
明らかに何でもない態度でどもりながら答える耕太。
(ま、まさか小雪が低空で飛んでいた所、偶然にも俺の投げた缶コーヒーが当たって・・・・・・
いや、でもまさかそんな訳・・・・・・でも、そうすると空から落ちてきた理由が一致する訳で・・・・・・)
まさかと思いながらも耕太はおそるおそる聞いてみた。
「と、ところで、何で小雪はあんな所で気を失ってたんだ?」
小雪は少し考え、スケッチブックを耕太の膝の上に置いて書き始める。
カキカキカキカキ・・・・・・
『高いのが怖かったので、低く飛んでいたら突然何かが飛んできて、私の頭にぶつかって来たんです。
それでバランスを失ってソリから落ちちゃったんです。後はこーたのご存知の通りです。』
耕太の背中に暑くない筈なのにダラダラと冷や汗が出てくる。予想的中。
カキカキ・・・・・・
『ご迷惑をおかけしたのに、こうやってお手伝いもしてもらって、本当に感謝してます』
ぺこり、と小雪は頭を下げる。
(言えない・・・・・・その原因を作った張本人が俺だなんて)
「・・・・・・いや、気にしないでくれ。・・・・・・・・・気を失わせたのは俺のせいだし(ボソリ」
耕太の最後の呟きに小雪は聞き取れず、首を傾げた。耕太は慌てて話題を逸らす為、
カーナビを指差して早口にまくし立てた。
「ほ、ほら!1件目に着いたみたいだぜ!あれじゃないか?!」
カーナビの画面に表示された地図が、目的地と思われる場所で点滅している。そちらに目を向けると
そこには住宅街にある2階建てのごく普通の家が見えた。
「なぁ、どうやって入るんだ?」
耕太が聞くと、小雪は2回のベランダを指差した。
「・・・・・・まぁ、今時の家に煙突なんてないしな」
耕太は手綱を軽く引っ張りながら、トナとカイのスピードを落としてベランダの横で止めた。
「ほら」
耕太は先にベランダに降りて、小雪に手を差し伸べる。小雪は耕太の手を摑んでベランダに下りると、
微笑んで頭を下げた。
「ところでさ・・・・・・」
「・・・・・・?」
「俺たち、かなり目立ってないか?トナカイとソリが飛んでるのを見られたらかなりの大騒ぎになると
思うんだが・・・・・・」
耕太が疑問に思ったことを口にした。
カキカキ・・・・・・
『大丈夫です。そのサンタ服は特別で、サンタクロースを信じている小さな子供達にしか
見えないんです』
「と、言う事は、そのソリも同じ?」
コクリ
(まるでご都合主義みたいだな・・・・・・。まぁ、大騒ぎにならないだけマシか)
「じゃ、さっさとプレゼント渡すか。時間も無いし・・・・・・って、やっぱり鍵かかってるじゃん」
耕太がガラス窓を開けようとして手を伸ばしたが、やはり2階とはいえしっかりと戸締りを
していて、開かない。
22「ソラカラノオクリモノ」10:2007/12/24(月) 19:11:07 ID:X55T4Wvf
「どーするんだ?」
耕太が聞くと、小雪は窓の内側にある鍵に向けて手をかざした。すると、
カチャ
鍵がひとりでに動いて、小雪たちを受け入れるように窓が開いた。
「・・・・・・サンタって、すごいな」
耕太は呆れ半分、感心半分で言うと、小雪はちょっとだけ得意げに胸を張った。
窓からカーテンをくぐって中に入ると、そこはちょうど子供部屋らしく、ベッドには
小学校低学年ぐらいの男の子が寝ている。
足音を立てないようにして男の子の近くに寄ると、小雪はあの不可思議な白い袋に手を突っ込んで
またなにやらごそごそし始めた。3秒ほど時間をかけて、目的の物を取り出した。
「・・・・・・戦隊物のロボット?」
白い袋から出てきた物は、日曜日とかにやっている子供向けの番組に出てくる戦隊物のロボットが
白いテープで飾られて、白いメッセージカードが添えられていた。それには、
『メリークリスマス  サンタクロースより』
と、シンプルに2行で書かれていた。
小雪がそっと男の子の枕元に置こうとすると、
「・・・・・・サンタさん?」
男の子の目が開いて俺達を見つめた。
「げ?!」
マズイ、騒がれる!と、耕太は思わずパニックになりかけたが、小雪は冷静だった。
口に人指差しをあて、しー、と子供に合図し、ロボットを渡してあげた。
子供は嬉しそうにそれを受け取り、抱き締めた。小雪も嬉しそうに微笑んで子供の頭を軽く撫でる。
それを見た耕太は、思わず見とれてしまう。
(ヤベェ・・・・・・本当に惚れちまったかも)
自分が居て、隣には小雪が腕の中で小さな子供を抱いて・・・・・・さっきと同じように優しく微笑みながら
幸せに過ごす日々・・・・・・
耕太は出会って数時間しか経ってないはずなのに、小雪と過ごす日々を想像してしまった。
「サンタさん、ありが・・・とう・・・・・・すぅ」
やがて、男の子は小雪にお礼を言い終えると同時に、目を閉じて眠ってしまった。きっと小雪が
さっきのようにサンタの力(?)で寝かしたのだろう。
小雪は起こさないようにそっと男の子にふとんを掛けなおし、立ち上がって耕太に
「1件目、終了です」と教えるように微笑んだ。
また起こさないようにそっと部屋からベランダに出た二人はしっかりと窓を閉め、ソリに乗り込んだ。
「1件目終了、か・・・・・・」
耕太は次の目的を確かめる為にカーナビを見ると、右下の数字が1減って49になっていた。
「よし、この調子でどんどん行こうか!しっかり摑まってろよ!」
コクリ、と小雪は頷いて耕太に摑まり、ソリはまた空へと鈴の音を鳴らしながら飛び出した。
次の日、男の子はサンタは夫婦だったと親に言ったトカ、言わなかったトカ。
それはまた別のお話である。
23「ソラカラノオクリモノ」11:2007/12/24(月) 19:12:25 ID:X55T4Wvf
それからは早かった。
住宅地のおかげで移動は短時間で済み、マンションの所では宅配便を渡すようにポンポン拍子に
渡す事が出来たりと、かなりのハイスペースで渡す事が出来た。
途中、気づかれそうになり、ヒヤヒヤした場面もあったが。
それでも、小雪は子供にプレゼントを渡す時は必ず嬉しそうに笑って、最後に頭を撫でてあげる。
耕太はそれを見るたびに、一緒に手伝えてよかったと思えた。
やがて・・・・・・
「次で最後か・・・・・・」
カーナビに表示された数はついに1になっていた。耕太は腕時計を見てみると時刻は23:00。
「時間が無いと思ってたけど、意外と早く配り終えそうだな。やっぱり空を飛んでの移動だと
回り道とかないから早いぜ」
摑まっていた小雪はふるふると首を振り、
カキカキ・・・・・・
『こーたが手伝ってくれたおかげです。手伝ってくれなかったら間に合いませんでした。』
「ははは、まぁ次で最後だ。気を抜かずにがんばろう」
コクリ、と小雪は頷いて笑った。
最後の目的地へ着いた。
地図を見れば、自分のアパートとは街を挟んでちょうど反対側まで来ていた。
「・・・・・・豪華な家だな」
そこは高級住宅地らしく、他の家も同じように高そうな家ばかりだ。そんな中でも3階建て、
しかも庭も含めた敷地の広さが他の家より2倍はある家が最後の目的地だった。
すっ、と小雪がいつも通り家に入る場所を指差す。耕太はそれに従い、3階の窓へトナとカイを止めた。
小雪が鍵をあけ、二人とも中へと入る。
「・・・・・・すげーな」
耕太は思わず呟く。
部屋の大きさは耕太のアパートの1室ほどの大きさがあり、所々に大小様々なぬいぐるみが並び、
部屋の真ん中には一般家庭用より一際大きいクリスマスツリーが鎮座して、静かに電球が光を
放っている。更に奥へ目を向けると、これまた高価そうなベッドでぬいぐるみを抱きながら
眠る女の子を見つけた。
そっと近づき、小雪が白い袋をごそごそし始めたが、
「・・・・・・?」
「どうした?」
小雪が不思議そうに首をかしげる。どうかしたのかと耕太が聞くと、やがて小雪は白い袋から
何かを取り出した。
「ビン?香水か何かか?・・・・・・そういえば、ラッピングされてない上にカードも付いてないな?」
今までのプレゼントは小さくても必ずラッピングされ、メッセージカードがあったのだが、
今回はそれが無かった。小雪もこんな事は初めてらしく、困惑している。
「どーゆー事だ??・・・・・・ん?」
耕太はベッドにかけられた靴下から、何か紙みたいなのがはみ出してるのに気が付き、それを
取り出して見た。そこには
『いもうとか、おとうとがほしいです』
と、小さな子供らしい拙い字で書かれていた。小雪も紙を覗き込み、困り始めた。
24「ソラカラノオクリモノ」12:2007/12/24(月) 19:13:28 ID:X55T4Wvf
カキカキ・・・・・・
『おかしいですね。何で赤ちゃんが出ないで小瓶が出てきたんでしょう?』
「いやいや、ちょっと待て!出せるのかよ?!」
耕太は突っ込む。もちろん、小声で。
カキカキ・・・・・・
『出せますよ?純粋に望めば』
「いやいやいやいや、物なら別にそんなに問題にならないだろうけど、赤ちゃんはマズイだろ、
常識的に考えて・・・・・・」
朝、目が覚めたら見知らない赤ちゃんがいたら警察沙汰は勿論、家庭崩壊になりかねない。
小雪はよくわかっていないのか、?を浮かべている。
「と、とにかく、ちょっとその小瓶、見せてくれないか?」
小雪は頷いて渡した。耕太はじっくりと小瓶を見る。
色は怪しいほどにピンク色で、なんだか怪しさ臭がプンプンする。ふと、小瓶の下を見てみると、
ラベルが張ってあるのを見つけた。そこには、
『超!強力媚薬スーパーDX  無味無臭』
と、これまた怪しさ全開の文字が踊っていた。
「工エエェェ(´д`)ェェエエ工」
思わずAAな顔になった耕太は、とりあえず続きに書かれた説明文を見る。
『これを飲んだ人間はどんな堅物でも発情します。以上』
「説明文、短っ!」
もはや突っ込みどころ満載の媚薬(?)だが、それ以外何も書かれていない。
カキカキ・・・・・・
『何かわかりました?』
小瓶を見ていた耕太の服をクイクイ引っ張って小雪がスケッチブックを掲げて見せた。
「あー・・・・・・んーと(汗」
(何だよ、これ・・・・・・怪しい上に本当に効くのか?それに女の子の願いに何の関係が・・・・・・あ)
「分ったぞ。コレを使って親に赤ちゃんを作らせるんだ」
カキカキ・・・・・・
『この小瓶を使うんですか?それでどうやって赤ちゃんを作るんですか?』
「いや・・・・・・そりゃ赤ちゃんを作る上で必要な行為を・・・・・・」
(何を言わせるんだ?!もしかして素で聞いてるのか?)
耕太、思わず赤面。さすが童貞、ウブである。
「と、とにかく!この子の両親を探そう。」
小雪は?を浮かべながらも、耕太の言葉に頷いた。その時、
「今、帰ったぞ」
下のほうから渋い男の声が聞こえた。
「ナイスタイミング!さっそく行くぞ」
二人はゆっくりと部屋を出て、1階へと階段を下りていった。
25「ソラカラノオクリモノ」13:2007/12/24(月) 19:14:15 ID:X55T4Wvf
二人はゆっくりと1階のダイニングルームへ入る。
大きさはさっきの子供部屋の倍、TVでしか見たことが無い大きな黒いソファーに父親らしき中年の
男が疲れたように身を沈ませて、これまた大きい液晶TVを見ている。
周りには高価そうな物が綺麗に整理されて置かれている。成金とかにある、ごちゃごちゃと
置いてある感じではなく、見た目にもすっきりさせる為に計算されたて置かれてる様に感じた。
まぁ、耕太のような貧乏学生でも、一目で金持ちの家だと分るぐらいに。
「遅かったわね、あなた」
おっと、奥さん登場。髪を短く切った女性が台所から出てきた。
(う〜〜ん、とても小学生の娘さんが居るとわ思えない美人な奥さんだな。俺の大学の先輩に居ても
おかしくないぞ・・・・・・)
と、どうでもいい感想を浮かべる。
「会議が長引いたんだ、仕方が無いだろう」
「いっつもそればっかりじゃない。今日はクリスマスだって麻奈がとても楽しみにしてあなたの事を
待っていたのよ?」
「仕方ないだろう。仕事しないと生活出来ないんだから」
「仕方ないって・・・・・・!あなたっていつもその言葉で誤魔化してばっかり!」
「疲れてるんだ・・・・・・それに何も食べてないからご飯にしてくれないか?」
「・・・・・・!わかったわよ!」
旦那は終止疲れたように喋り、奥さんはイラだって台所へと戻った。
(うわちゃ〜・・・・・・まるでドラマのように夫婦仲悪いな、こりゃ)
耕太は点を仰いだ。このままだと離婚しそうな雰囲気ですらある。
「・・・・・・」
「・・・・・・小雪?」
小雪が俺の腕を摑み、悲しそうな目で二人の夫婦を見ていた。
(そう、だよな。このまま離婚なんてしちゃったらあの子が悲しいだけだ。そうさせない為にも
この媚薬で夫婦仲を・・・・・・って、イマイチ怪しすぎて信用出来ないんだけど)
「大丈夫だよ、小雪。きっとうまくいく」
耕太はそっと小雪に囁く。小雪は更に耕太の腕に力を込め、静かに頷いた。
「はい、出来たわよ」
奥さんが料理を持ってきて台所から戻ってきた。
「よし。じゃあ行ってくる」
耕太は小雪の腕を優しく振り解き、ゆっくりと二人の座るテーブルへ近づいた。見えてないと
分っていてもやはり、緊張する。それに、音は消せないので慎重に・・・・・・
まるでステルス迷彩を着た某伝説の傭兵になった気分だ。
「なんだ、温め直しただけか」
「あなたが遅かったからでしょう」
「贅沢は言わないが、食べ残しの物を出さなくてもいいだろう?」
「何よそれ!麻奈がどんな気持ちであなたを待っていたと思うの?!あなたと一緒にご飯を
食べるんだって、遅くまで食べずに待ってたのよ?!」
「だから会議で仕方なかったんだ!」
ついに旦那も怒り始め、どんどん言い合いがヒートアップする。
26「ソラカラノオクリモノ」14:2007/12/24(月) 19:16:42 ID:X55T4Wvf
(ヤバイ・・・・・・でも、言い合ってる今のうちなら気づかれずに・・・・・・)
耕太は小瓶の蓋を開け、とりあえず目に付く料理や飲み物に媚薬を振りかけまくった。
(これでよし、と・・・・・・頼むから料理食ってくれよ)
任務を無事に終えた耕太はゆっくりとその場を離れて小雪の元へ戻っていく。小雪はいがみ合う
夫婦を今にも泣き出しそうな顔で見つめていた。耕太は小雪の元へたどり着くと、優しく抱き締め、
「大丈夫、大丈夫だから。泣かないで・・・・・・」
子供をあやす様に頭を撫でると、小雪は小さく頷いた。
(泣かせたくないな・・・・・・小雪はいつでも優しい笑顔で居てほしい)
耕太は心からそう思った。
やがて、二人は無言で席に座りなおした。夜中なのと、子供が寝ているのを思い出したのかもしれない。
旦那は黙って料理を口に運び、奥さんは手元の水を自棄酒を飲むように煽って飲んだ。
無言の中、食事の進む音と、コップがテーブルに置かれる音だけが響く中、耕太たちはじっとそれを
見守った。
3分ほど経った頃だろうか。夫婦に変化が訪れ始めた。
旦那はどこか落ち着かなさ気にチラチラと奥さんを見て、奥さんは顔を伏せてもじもじし始めた。
(効いて来たか・・・・・・?)
「・・・・・・な、なぁ」
「な!何?!」
やがて、痺れを切らしたのか、旦那が奥さんに声を掛けた。
「いや、その・・・・・・」
「・・・・・・何?」
お互い、目を見つめ合ったまま、沈黙。
「その・・・・・・さっきは言い過ぎた。すまん」
「わ、私も・・・・・・感情的になって言いすぎたわ、ごめんなさい・・・・・・」
再び沈黙。耕太たちは静かに見守る。
(いいぞ、そのまま仲直りしろ!)
「か、片付けるわね、食べ終わったみたいだし」
奥さんが料理を片付けようと席を立ち上がる。
(あー!逃げるな!)
耕太、完全におばちゃんモード。
「あ、たまには俺がやるよ」
旦那も立ち上がり、奥さんの手を摑んだ。そしてまたお互いを見つめる。
(いいぞ!そのまま行け!)
「・・・・・・な、何?」
「・・・・・・お前、しばらくまともに顔を見なかったうちに、皺増えてきたな」
「なっ?!なんて事言うのよ!」
(あちゃー、おっさん。そんな事言っちゃ台無しじゃないか・・・・・・)
「スマン・・・・・・俺の知らないところで苦労して疲れていたんだな」
「・・・・・・え?」
「会社で働いてる間、俺はお前が家出のんびりしているものだと思っていた・・・・・・でも、
それは違っていてお前はお前で苦労してたんだな」
旦那はそっと奥さんの目元を撫でる。
(お〜・・・・・・これは予想外。そう繋げるとわ・・・・・・やるじゃないか、おっさん)
「私の方こそ・・・・・・ごめんなさい。いつも会議とかって言って遅くなるあなたに、もしかしたら
浮気してるんじゃないかって疑っちゃって、不安だったの・・・・・・」
瞳を潤わせて、旦那さんが添えた手を握り返す。
(う〜わ〜!奥さん可愛すぎ!その嫉妬心の告白は反則だ!)
やがて、旦那の顔と奥さんの顔が近づき、キスをした。
(いよぉし!逝ったぁ!)
くちゅ・・・ちゅぱ・・・
舌と舌が絡み合い、夫婦の口元から漏れる水音はお子様には刺激の強い大人のキス。
思わず時間を忘れて見入る耕太だったが、ハッと気が付いたように隣に居る小雪を見た。夫婦の
成り行きに夢中になりすぎて、すっかり忘れていた。
白い肌の頬が心なしか赤くなったまま、どこかぽ〜っと意識が飛んでるように夫婦を見ている小雪。
「小雪、小雪」
肩を揺らして小声で呼びかけると、ビクッと驚いて耕太を見た。頬は未だに赤い。
27「ソラカラノオクリモノ」15:2007/12/24(月) 19:18:44 ID:X55T4Wvf
「もう大丈夫だろ。仲直りしたみたいだし」
コクリ、といけない物を見てしまったように、恥ずかしそうに頷く。さすがにもうこれ以上は
あちらからは見えないとは言え、見ていいものではない。
やがて、キスを終えた夫婦は恥ずかしそうに笑った。
耕太たちはゆっくりとダイニングルームから出て、3階へ移動した。
「あぁ・・・・・・駄目、ベッドに・・・・・・」
「スマン、もう我慢出来ない・・・・・・!」
「あぁん、あなたぁ・・・・・・」
なんて声が1階から聞こえて思わず後ろ髪が惹かれた耕太だが、小雪が居る手前、心の中で血涙を
流しながら耐えたのだった・・・・・・
シャンシャンシャン・・・・・・
暗い夜空から未だに降り続ける雪の中、鈴の音が響く。
カーナビは「みっしょんこんぷり〜と☆」の文字が表示され、プレゼントを配るお手伝いは終了した。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
耕太と小雪はお互いに無言。さすがに最後に回った家の夫婦のキスは強烈過ぎた。
耕太としても、アレを見た後で小雪が横で抱きついてると気が気でない。こっちも抱き締めたくなる
衝動を必死で押さえながら自分のアパートへとソリを走らせる。
やがて、二人とも無言のまま、ソリは街の真ん中まで着た。
「・・・・・・綺麗だな」
「・・・・・・(コクリ」
街はまるでこの日を祝うように所々で電飾が輝き、深夜にも関わらず、人が溢れていた。
「これで、お手伝いも終わりか・・・・・・」
耕太は町を見下ろしながら、呟く。
(手伝えた事がうれしい半分、これからお別れで寂しさ半分、か・・・・・・)
偶然とは言え、小雪と出会い、夢のような信じられない出来事の連続。今までの耕太なら
「クリスマスなんてクソ食らえ」だったが、小雪と出会ってクリスマスもいいな、と思えた。
(出来れば、これからも小雪と一緒に・・・・・・)
耕太はそんな事を思いながらチラリと小雪を見る。小雪は安心したように穏やかな顔で耕太に
くっ付きながら、目を閉じていた。
やがて、二人を乗せたソリは街を離れ、耕太のアパートの傍に到着した。
時計を見てみれば時刻は23:55。
「おつかれ、間に合ってよかったな」
アパートの近く、耕太と小雪が出会った自動販売機の前で二人はソリから降りた。
雪は、もうそこそこ積もり始め、足の踝までの高さまで積もっていた。
カキカキ・・・・・・
『本当にありがとうございました。こーたのおかげで私の使命も無事終えることが出来ました』
「いや、俺のほうこそ貴重な体験をさせてもらえて楽しかったよ」
カキカキ・・・・・・
『お礼と言ってはなんですが、欲しいものを言ってください。特別にクリスマスプレゼントとして
好きなものを差し上げます』
「・・・・・・マジで?」
コクリ、と驚く耕太に頷く。
「欲しいもの・・・・・・」
真剣に考える耕太。そして、
「決めた」
耕太は小雪をじっと見つめ、言った。小雪も耕太の1メートル前で白い袋を持って準備している。
耕太はゆっくりと深呼吸して、自分が欲しいものを口にした。
「小雪が、欲しい」
「・・・・・・!」
「もちろん、小雪が迷惑じゃなければだけど。・・・・・・俺色々と考えてみたんだ。何が欲しいのかって、
そしたら真っ先に頭に浮かんできたのが、小雪の笑顔だったんだ。小雪と出逢って1日も
経ってないけど、今までの誰よりもすごく印象に残ってるんだ」
耕太はそこで一度区切り、小雪を見つめる。小雪は驚いたまま動かない。
28「ソラカラノオクリモノ」16:2007/12/24(月) 19:23:15 ID:X55T4Wvf
「俺、欲張りだからさ。小雪の笑顔が出てきたら止まらなくなっちゃって、街に出て一緒に
買い物したり、色んな所にデートしたり、食事したりしたいと思った。ずっと毎日小雪の笑顔を
見ていたい・・・・・・」
耕太の嘘偽りの無い言葉。
「だからもう一度だけ・・・・・・小雪が欲しい」
耕太の純粋な思いだった。
耕太は小雪の反応を見た。年甲斐もなく心臓はドキドキと早鐘を打ち鳴らす。
小雪の瞳から一筋の涙が流れた。
やがて、それは止まらなくなり、ぽろぽろと流れる。
「あぁ?!ゴメン!迷惑だった?」
耕太は慌てた。まさか泣くとは思ってもいなかった。
ふるふる、と小雪は泣きながらも首を振る。
「迷惑じゃない・・・・・・?じゃ、なんで泣いて・・・・・・?」
嫌な予感がした。今まで考えないようにしていた最後。
小雪は、泣きながらスケッチブックに文字を書く。でも、涙で視界が歪むのか、何度も涙を拭いながら
ゆっくりと書く。
『私は サンタクロース です。  私が私で 居られる のは24日 という今日だけ なんです。
24日を過 ぎたら  私は消えて  しまうんです』
今まで綺麗な文字で書かれていたスケッチブックが、涙で所々濡れ、文字も歪んでいる。
「嘘だろ・・・・・・?」
ふるふると、涙を流しながら俺の言葉を否定する。
小雪が、消える。
別れるのではなく、もう2度と会えなくなる。耕太は目の前が真っ暗になりそうだった。
「・・・・・・そんな」
耕太はそれだけしか言えなかった。消えると知らされてショックなのもあったが、これから
消えていく小雪に何と言えばいいのかが浮かんでこない。
それが悔しかった。
だから耕太は、叫んだ。
「嫌だ!俺は小雪と別れたくないんだ!一緒に居たいんだ!一緒に遊んだり、一緒にどこか出かけて
色んな景色を見たり、とにかく色んな事を小雪と一緒にしたいんだ!」
我侭と分っていても叫ばずにはいられなかった。
「・・・・・・だから!お願いだから消えないでくれ!頼む!」
日付が変わるまで、残り時間は5秒・・・・・・
ふわりと小雪が動き、耕太を優しく包むように抱き締めると、目を閉じてそっと唇へキスをした。
触れるだけのキス。耕太は驚いて目を見開く。何故なら小雪の肌に初めて触れた唇は、
まるで氷のように冷たかったからだ。それでも、そのキスは優しさを感じた。
29「ソラカラノオクリモノ」17:2007/12/24(月) 19:24:16 ID:X55T4Wvf
残り、3秒・・・・・・
キスをした途端、何故か耕太の頭の中で小雪といる場面と文字が次々と浮かび上がってくる。
嬉しそうにアイスを食べている小雪。
『美味しかった・・・・・・』
ソリで耕太に抱きついてる小雪。
『とても安心した・・・・・・』
プレゼントを耕太と一緒に配り回る小雪。
『仕事なのに、とても楽しかった・・・・・・』
最後の家で耕太が小雪を優しく抱き締めてくれた時。
『とても優しい人・・・・・・』
最後の仕事を終え、アパートに帰るときの小雪。
『そろそろお別れだと思うととても寂しい・・・・・・でも、せめてその時まではこーたと一緒に
居たいと思った・・・・・・』
耕太は頭に流れ込んだ映像から気が付くと、小雪を見る。
残り、1秒・・・・・・
小雪は、涙を流しながらも優しく微笑み、ゆっくり口が動いた。
ありがとう
喋れないはずなのに、耕太にはそう聞こえた気がした。
「こゆ・・・・・・!」
0。日付が変わり、魔法は解ける・・・・・・。
次の瞬間、耕太の目の前が全て白に変わり、崩れて音を立てた。
「こ・・・・・・ゆき?」
目の前に、誰も居なかった。
「なぁ、嘘だろ?どこに行ったんだよ・・・・・・?」
耕太は辺りを見回す。あるのはあの自動販売機だけだ。
ふと視線を下げると、そこには不自然に盛り上がった雪があった。まるで、そこにあった物が
崩れてしまったかのように・・・・・・
思わず耕太はソリが止まっていた場所に目を向けた。やはりそこにも不自然に雪が
盛り上がっている。
「・・・・・・ははは、冗談だろ?」
もう耕太には訳が分らない。思考がうまく働かない。
(・・・・・・夢。そうだこれは夢だ。俺の妄想が、きっと実際にあった様に勘違いしてたんだ。
・・・・・・そうだ、そうに違いない)
目の前の出来事に、耕太は信じる事が出来ず、そう思うことにした。いや、そうしないと
頭がおかしくなりそうだった。
しかし、耕太は気づいてしまった。目の前の雪から、埋もれるようにしてあのスケッチブックが
あるのを。
耕太は無意識に雪の中からスケッチブックを取り出し、開く。
そこには、小雪が書いた文字が確かに並んでいた。それは紛れもなく、小雪が存在していた証拠と、
数時間足らずの耕太と小雪の思い出。
涙が流れた。流れた涙は頬を伝い顎へ、そしてスケッチブックへと落ちる。
「小雪ーーーーーーーーーー!!」
耕太の叫びは、いつの間にか雪が止んだ夜空へと響き、そして消えていった・・・・・・

                            耕太編 完
30「ソラカラノオクリモノ」:2007/12/24(月) 19:28:40 ID:X55T4Wvf
以上です


とりあえず、色々とゴメンナサイ・・・・・・OTZ
勢いで書いていたものの、最後集中力切れそうでgdgdっぽくなった
しかもマジメに完結してないときた・・・・・・
ちょっと小説を読み直して勉強してくる
31名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 19:42:41 ID:N9fsc13h
>>30
規制でPCから書き込め無いんで携帯からGJ!!
とりあえず続きがあるっぽいのでそれに期待。
32名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 23:57:21 ID:SpA8Vfo6
>>30

無口なサンタ娘にGJ!
続きが気になるなあ…



ちなみに保管庫の作者名は「ふみお」さんでよろしいか?
33名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 07:31:10 ID:Rgm3x69v
>>30
GJ!
久しぶりにエロパロ板で泣きました
34名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 08:17:35 ID:A2F0rCbB
泣いた
35名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 08:30:34 ID:dqB4jJIc
ああ・・・

ここで泣きそうになったの初めてだよ・・・。

執筆お疲れさまでした!
36ふみお:2007/12/25(火) 08:58:34 ID:q6hlQ1QP
>>32さん

私と>>30氏は別人です。
現在、SSの製作の進行状況は難航中。
でも、昼ごろには投下できそうです。


……というか>>30氏GJ!!
素で感動しました。

続編、期待しています!
37ふみお:2007/12/25(火) 18:40:27 ID:kOmgZ3sy
今から投下します。
ご都合主義な展開、駄文がお嫌いな方はスルーを推奨します。
それでは、開始します。
38聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:41:27 ID:kOmgZ3sy
今日の日付を思い出す。
12月25日。
いわゆる『クリスマス』だ。
人々が、赤や緑やプレゼントやケーキに心と体を躍らせる、そんな日だ。
……まぁ、最近は、どちらかというと『クリスマス・イヴ』のほうがもてはやされ、
メインである今日は、なんだか盛り下がった感は否めない。
俺は視線を中空から、前に引き戻す。
汚いこたつの上には、食べかけのケーキがある。
昨日の臨時バイトでもらったものを、酔った勢いで食べ、それが残っているのだ。
……それはいい。
壁にかけてある時計は、すでに朝9時を指している。
目覚めたばかりで、いまだ少し酔いの残る頭は、しかし、すでに覚醒している。
……怠惰だがそれも、まぁ、いい。
問題は、だ。
「………………」
「………………」
俺は愛想笑いを浮かべながら、問題の中心人物を見つめる。
部屋の中心に設置してある、こたつの向こう側に座っている少女。
端々に白いファーがついた、正気を疑うほど真っ赤な服。
それと同色の三角形を崩したような帽子。
この際、格好の是非は問わない。
どんな服装をしようが、それは各個人の自由と言うものだ。
俺は自由を尊重する。
問題なのは服装ではなく、もっと根本的なこと。
「………君は、誰――――」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

カーテンの隙間から差し込んだ光で目を覚ました俺は、時計より先にソレを捉えた。
見たこともない赤い少女が、朝、目を覚ましたら枕元に立っていたのだ。
まだアルコールの抜けていない俺は、直ぐには反応できず、寝ぼけ眼で彼女を見て、とりあえず席を勧めた。
「(あー、寒い寒い、……つーか、軽く頭痛ぇ。こんな姿、誰にも見せられん)」
そして、二度寝しようと体を布団にもぐらせた時、完全に目が覚めた。
「(………え、ちょ、……ちょっと、待ってくれ……。え、ええぇ!?)」
混乱するより前に、血の気が引いた。
………………。
それは昨日のこと。
ケーキ屋でのバイトのあと、(男の)友人同士で行った寂しいクリスマス会。
俺は飲みに飲み、荒れに荒れた。
だからだろう。
アルコールにそれほど抵抗力のない体はそれについていけず、意識は直ぐに飛び、記憶は断片的。
そんな部分的記憶喪失状態の俺の家に、見知らぬ女の子が居たのだ。
俺の貧困な想像力は、絶望的状況を想定した。

……むりやり連れ込んで、『乱暴』してしまったんじゃないか、と。

一度、そう考えてしまったら、もう、そうとしか思えない。
顔面蒼白の俺は、ベッドから飛び降り、彼女の前に跪いた。
そして、その勢いのまま、頭をカーペットにこすり付ける。
「………すいませんでしたぁ!!」
まだ、酔いが残っていたせいもあるのかもしれない。
それでも、俺が考えた唯一の道は、土下座。
ソレしかないと思った。
俺がしたであろうことが、土下座だけで許されるわけがない。
許されるわけはないが、それでも、心底から謝るしか、俺には思いつけなかったのだ。
………………。
朝日が薄く差し込む、仄明るい部屋。
土下座のまま動かない俺と、座ったままの少女。
静寂が場を支配し、時計の針の音だけが、それに逆らっていた。
女は音もなく立ち上がると、玄関の方角へと足を向ける。
39聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:44:24 ID:kOmgZ3sy
………………。
朝日が薄く差し込む、仄明るい部屋。
土下座のまま動かない俺と、座ったままの少女。
静寂が場を支配し、時計の針の音だけが、それに逆らっていた。
………。
…………。
……………。
………………………。
長い沈黙。
暗い未来を自動的に想像する頭を、ほんの少しだけ浮かせ、俺は少女の様子を伺う。
少女は音もなく立ち上がると、玄関の方角へと足を向ける。
「(あぁ、警察にでも駆け込むのか……)」
そんなことを考えながら、俺は体を起こし、少女の行く末を見守る。
このまま行かせていいのか。
彼女を外に出せば、その時点で、俺の人生は終わりを告げるのだぞ。
順風満帆、ではなかったが、それなりの生活を送っていた。
恋人こそいなかったが、友人も少なからずいたし、両親だって健在だ。
知らず知らずのうちに、涙がこみ上げてくる。
友人たちは俺を軽蔑するだろうなぁ。
両親は間違いなく、ろくに表も歩けない人生を送ることになるだろう。
「(……そうだ。彼女をこの部屋から出さなければ)」
そんな思い付きが頭をよぎる。
だが。
「(そんなことしたら、少女の人生はどうなる……! 最低の人間に落ちぶれるつもりか……! 自分!)」
だから俺は、観念した。
さようなら、皆。
こんにちは、最低の人生。最悪の未来予想図。
どうしようもない絶望感が、俺の頭を苛む。
俺はカーペットに突っ伏し、そのまま、それに耐える。
たぶん、そう広くない部屋の中。
彼女はそろそろ玄関に着くに違いない。
そして、俺は聞くだろう。
彼女が出て行く、その音を。
しかし――。

コトン。

――頭を抱えたままの俺が聞いたのは、そんな小さな音。
まるで、こたつの上にコップを置いたような、音。
俺は、恐る恐る、上体を起こし、脇のこたつに視線をやる。
そこには――。
「………落ち着いて」
――水道水をまんま入れたような、透明の液体の入ったコップ。
そして、その向う、こたつの反対側に再び座っている、少女の姿だった。
………………。
さっき、聞こえた蚊のなくような声は、少女が発したのだろうか?
「(いや、俺が喋っていない以上、彼女の声なんだろう)」
そう断定することにする。
「………水を、どうぞ」
蚊の鳴くようなその声は、再び、俺の鼓膜に届いた。
「……はい」
………………。
確かに俺は落ち着いたほうがいい。
目の前に置かれたコップを手に取ると、ゆっくりとその中身を飲み下す。
中身は本当に水道水だったようで、普通に不味かった。
しかし、冬場の冷たい水道水は、頭を冷やすのに一役も、二役も買ってくれた。
俺は、今一度、現状を確認するために、部屋を見回す。
こたつの上には食べかけのケーキ。
昨日の臨時バイトでもらったものを、酔った勢いで食べ、それが残っているのだろう。
壁にかけてある時計は、すでに朝9時を指している。
40聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:45:15 ID:kOmgZ3sy
「………………」
「………………」
俺は愛想笑いを浮かべながら、彼女を見つめる。
部屋の中心に設置してある、こたつの向こう側に座っている少女。
端々に白いファーがついた、正気を疑うほど真っ赤な服。
それと同色の三角形を崩したような帽子。
どんな服装をしようが、それは各個人の自由と言うものだ。
この場合、問題なのは服装ではなく、もっと根本的なこと。
「………君は、誰?」
「………………………」
………………。
答えはない。
うん。それはいいだろう。
よくないけれど、いいことにする。
問題なのは。
若干、震える声で俺は彼女に次の質問、核心に至るであろう質問を投げかける。
「……俺、もしかして、君に、………何か、し、しちゃったのか、な……?」
どうだ、どうなんだ……!
俺は真剣に彼女の瞳を見つめる。
すると――。

コクリ。

――彼女は、小さく頷くじゃないか……!!
やっぱ、やっちまってたかぁ……!!!
俺はなんということをしでかしてしまったんだぁ!!
「(あぁ、もう、駄目だぁ! 灰色の人生は確定され、かくして、俺には絶望しか残されていない……!!)」
あぁ、友人たち、両親たち。
そして何より、目の前にいる少女よ。
本当にゴメンナサイ。
生まれてきて申し訳ない。
生きてきてスミマセン。
「(ハ、ハハ。もう、死のうか……)」
そんなことを考え出し、体を傾かせる俺に届く、少女の声。

「………アナタは、……出しました」

かぁあああああ!!
やっぱり、出しちまってたのかぁ!!
出すといえば、この際、アレしかない。
それでも、俺は、勇気を振り絞って、言った。涙声で言った。
「だ、だだだ、出すというと、やっぱり、あの、し、……白い、アレ? ですか?」
そりゃそうだろう。
この場合出すといえば、白濁色のアレしかない。

彼女は大きく頷いた。

……見間違えようもないほど、ハッキリと頷いたのだ。
俺は、半泣きで頭を下げた。
「……本当に大変な粗相を……!!」

「……可愛かったですよ、とっても」

………………?
………………!!
えぇぇぇぇぇええええええぇぇええええええええぇえ!!
乱暴してしまった少女にそう思われるほど、粗末なものだったのか、My、SUN!!
先程とは違う衝撃を桁外れに受ける。
なんてこった……!!
まさか、可愛いと評されるとは……!!
41聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:46:00 ID:kOmgZ3sy
………。
いや、いやいやいやいや。
問題はそんなところにはない。
確かに、ショックではあったが、……大変、ショックではあったが……!
俺は彼女に、とんでもないことをしでかしてしまっているのだ。
そのほうが、重大な問題だ。
「その、昨日の事に関しては、一生をかけて償い――」

「………可愛かったです。――イラストつきで」

……。
………。
………………………。
………………………は?

イラスト?

「………もう、十年も前の話、です」

………。
なにを、いってるんだろう。このこは。
ぼく、わかんない。
………。
じゃない! じゃない!!
え、えぇ!?
何、何々。何!!
現状を、現状を把握しなければ!!
「俺は出したんですよね……!?」

「………出しました。――十年前、白い“ハガキ”を」

「………………………ハガキ?」
「………サンタ・クロース宛に」
彼女の口から出てきたのは、昨日、嫌というほど見た白ひげの、赤服の、老人の名。
今更気づくが、彼女の格好はまさに。
俺はもう一度、彼女に問う。
「……君は、誰なんだ……?」

「………私の名前は、サンタ・クロース」

「ハ? ハハハ? え、えっと、なんの冗談……?」
混乱の極みにある俺の脳裏が聞いたのは、可憐な少女の、断定的な声。

「………あなたの、十年前の願い事――」

俺は、僕は一体、何を願ったというのか。

「――叶えに来ました」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

俺がサンタの正体に気づいたのは、小学校三年生のときだった。
何故気づいたのか、その時どう思ったのか、なんてことはグダグダ言うつもりはない。
ただ言える事は、俺は毎年出していたサンタへの手紙をその年限りでやめた、ということだ。
『その年限り』。
つまりは、その年には出したということ。
俺はその時、今まで騙してくれていた親を困らせようとしたのかもしれない。
あるいは、単なるイタズラ心だったのかもしれない。
俺がハガキに書いたのは、純粋な願いではなかった。そのことだけは確かだ。
なぜなら、俺がその手紙に書いたのは、親では絶対に用意できない代物だったからだ。
42聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:46:47 ID:kOmgZ3sy
『           サンタさんへ

      ボクは、今は欲しい物はありません。
 でも、大きくなったら、キレイなおよめさんがほしいです。

          ゼッタイ、かなえてね!          』

そんな内容の手紙を、母親に渡した。
それを見た母親はどんな顔をしたのだろうか?
思い出せない。
結局、その年のクリスマス明けの朝。
枕元においてあったのは、その当時大流行した、なんらかの玩具(なんだったかは覚えていない)と、一通の手紙だった。
『○○○くんへ

 およめさんは君が大きくなったら、ちゃんと出会うだろうね。
 だから、それまではリッパな大人になるために
 いっしょうけんめい、べんきょうして、いっぱいあそぼう。
 そうすれば、ステキな人がきっと君の目の前にあらわれるはずだよ。
 がんばってね。             サンタ・クロースより 』
………………。
親としては苦肉の策だったのだろう。
子供心に俺は、親を傷つけてしまったのではないかと、いたたまれない気持ちになった。
俺は、まだサンタを信じている子供を演じ、母親に手紙を見せた。
母親は、手紙に驚いたフリをしていた。
俺は、心の中で、残酷なまねをしたことを謝った。

こうして俺は、一つ、大人への階段を上った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

………………。
でも、よく思い出せ、自分よ。
あのときのあの手紙は、母が書いたには、あまりにも可愛らしい字ではなかったか
(ちなみに、間違いなく父が書いたのではない。そんな器用なまねのできる人間ではない)?
あのとき、驚いているフリをしているだけだと思っていた母親は、本当に“フリ”だったのだろうか?

「………あの」

鈴が鳴るような可憐な声。
耳を澄まさないと聞こえないような、小さな音。
その音が、俺の思考を、過去から現在へと至らせる。
声の主の彼女は、心なしか顔を紅潮させ、俯いたまま言う。
「………あまり、見つめられると……」
「ん、あぁ。ゴメンナサイ」
昔を思い出しながら、彼女の顔をガン見していたようだ。
どうやら、その視線が恥ずかしかったらしい。
……かわいいじゃないか。
っていうか。こういう大人しめ系の娘って――。
………………。
イカンイカン。
今一度、冷静にならなければ。
俺は立ち上がると、コップを手に取り、台所へ向かう。
そして、汚いシンクを見ないようにしながら、蛇口からコップに水を注ぐ。
いい感じに水が溜まると、水を止め、一息に、それを飲み干した。
………………。
よし、冷静になった。
俺は、水切りの中から洗ってあるコップを取り出すと、冷蔵庫を開けた。
ほとんど空っぽの冷蔵庫の中には、賞味期限がそろそろ危ない牛乳が入っていた。
それを、二つのコップに注ぎ、牛乳を使い切ると、彼女の待つこたつにそれを運んだ。
ぼうっと中空を見つめている彼女の目の前に、牛乳の入ったコップを置く。
43聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:47:23 ID:kOmgZ3sy
その音で我に返ったのか、彼女は俺を見上げる。
俺はその視線に気づかないフリをしながら、彼女と対面する席にコップを置き、座った。
……うん。
仕切りなおそう。
「粗茶ですらありませんが、どうぞ」
「………あの、あ、ありがとう……」
何故か赤面しながら礼を言う、自称サンタクロース。
俺は殊更に真面目な顔を造り、頷く。
そして、嬉しそうにコクコクと牛乳を飲む少女に、俺は言った。
「じゃあ、詳しい話を聞かせてくれるかい?」

彼女は、静かに、たどたどしく、舌足らずに語った。
自分は『サンタクロース』であり、十年前の願いを叶えに来たのだ、と。
そもそもサンタとはアンドロイド(?)のようなものであり、世界中に分散して存在する。
人々のサンタを、そしてクリスマスの奇跡を信じる心が、原動力。
十年前の俺が信じていた純粋なココロが、今、奇跡となって此処に顕在したのだ。

「……そう、なんだ」
俺は彼女の時間がかかった割には、数行で済むような説明を聞き終わり、一つの結論に至った。
よし。
やるべきことは決まった。

「(………警察へ、行こう………!)」

どうやら、警察へ駆け込まなければならなかったのは俺のほうだったらしい。
電波系ストーカー。
とりあえず、住居不法侵入でしょっぴいてもらおう。
うん。それがいい。
それが現実的、かつ実際的。
でも。

「(……っていうわけには、いかねぇよなぁ〜……)」

何しろ、俺が十年前に出した、母親にしか見せていない手紙の内容を知っているのだ。
それに、サンタからの返事を諳んじて見せてもくれた。
俺のほうが記憶が定かではないが、それでも、大体合っていた、と思う。
ただの電波ではありえない。
………………。
だが、どうしろというのだ。
俺は無信心の、ただの馬鹿な大学生だ。
それがいきなり、目の前にメルヘンそのものを、デン、と置かれて戸惑わないわけがない。
っていうか、本当、どうしよう。
ため息が出てしまう。
「……ふぅ〜」
それとシンクロするように――

グキュ〜。

――聞こえてきたのは腹の音。
なんとも形容しがたいほど可愛らしいそれは、俺のものじゃない。
俺の視線は生暖かくなり、少女を見つめる。
少女は真っ赤になりながら、俯き、言う。
「………私じゃない」
「いや、君だろ」
「………違う」
「嘘をつくな。別に気にしないから」
「………私じゃ……」
「目を見て、語り合おうぜ」
「………う、うぅ。わ、私です……」
あぁ、本格的にどうするか、の前に、やるべきことは決まった。
44聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:48:12 ID:kOmgZ3sy
………決まってしまった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『うまかっちゃん』
ハウス食品が1979年から九州地方限定で発売しているインスタントラーメン。
基本的にはとんこつ味だが、ごまとんこつ、黒豚とんこつなど風味の異なるシリーズが展開されている。
九州ではかなりポピュラーなインスタントラーメンであり、コンビニやスーパーに行けば、必ずといっていいほどに置いてある。
ばら売りはもちろん、お得な五個パックもある。

俺と彼女の目の前には、それが調理された姿で、器に盛られている。
味は勿論、基本のとんこつだ。
濃厚な香りが、部屋いっぱいに広がっている。
………ん?
『朝からとんこつラーメンかよ』だって?
………喝!!
貧乏学生には、これが精一杯の持て成しなのだ。
よって、『朝からくどいだろ』とか、『いきなり固有名称出されたってわかんねぇよ』などという苦情は一切、受け付けない。
……受け付けないったら、受け付けない!
俺と彼女は、目を合わせ、同時に頷く。
やるべきことは決まっている。
俺たちは手を合わせ、言った。

「「いただきます」」

そして、後は麺を啜り、スープを飲み下すまでだ。
少し固めの麺がほどよい歯ごたえを与え、喉越しが爽やか。
飲み込むときに、鼻をとんこつの香りが刺激するのがたまらない。
思いのほか空腹だった俺は、熱い麺を息で冷ましながら、一気に啜る。
彼女は猫舌なのか、息を吹きかける回数が心なしか多い。
それでも、俺たちは一体となって、ただただ食う。
食い続ける。
……。
………。
………………………。
そして、俺は、スープを最後の一滴まで飲み終えた。
ふ〜。
なかなかの満足感。
最近は貧乏すぎて、インスタント食品でさえ手軽には味わえなくなっているからな。
水を少し飲み、口の中をスッキリさせる。
あぁ、自分でも解る。
息がとんこつ臭い。
でも、そんなのは彼女も同様だろう。気にすることはない。
俺は空の器をそのままに、ベッドに寄りかかる。
テーブルの向うでは、未だに一生懸命、少女がとんこつラーメンと闘っている。
ちゅるるるるる。
彼女が麺を啜る音が、気持ちよく響く。
俺はそれを拝聴しながら、天井を見つめる。
「(さて、どうしよう。この状況)」
ともにラーメンを啜った、自称サンタクロース。
どうやらマジものらしい。
俺の願い『キレイなお嫁さん』になるためにやってきたという彼女。
家にいきなり現れたにもかかわらず、俺は何故か彼女に悪感情を抱けないでいた。
なにしろ、牛乳と、うまかっちゃんでのダブル接待だ。
貧乏学生であるところの俺にできる、今、最上級の持て成しだ。
「(俺は、一体何をしているんだろうな)」
だが、相手はメルヘンだ。
生半可なことでは通用しないだろう。
だから、俺は今できる、最大限の事やるしかない。
時計は、現在、11時を指している。
45聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:49:05 ID:kOmgZ3sy
……うん。
決めた。やるしかない。
見ると、彼女は今、ようやくラーメンを食べ終わったところらしい。
俺と彼女は目を合わせると、姿勢を正し両手を合わせ、言う。

「「ごちそうさまでした」」

再び、俺たちは頷きあう。
「テレビでも見てて」と彼女に進言し、テレビの電源をつけた。
座布団から立ち上がると、空になった二つのどんぶりを台所のシンクに放り込む。
放って置きっぱなしだったケーキの食べ残しをラップに包み、冷蔵庫にしまい込む。
そして、そのまま台所で歯を磨き、顔を洗う。
シンクの中の器は、まだ洗わなくてもいい量だ。
そんなことを考えながら、顔を拭き、箪笥から外出着を取り出した。
「くれぐれもこっちを見ないように」
彼女に忠告すると、そのまま着替える。
なにしろワンルームのボロアパートだ。彼女から隠れて着替える場所などない。
手早く着替え終わった俺はおもむろにコートを羽織る。
携帯の充電を確認。まだまだ、大丈夫だ。
「(準備は万端だ……!)」
さぁ、出かけよう。
俺は、颯爽と玄関から足を踏み出した。
正確には足を踏み出そうとした。
しかし、それは阻まれた。
いつのまにか立ち上がっていた彼女が、俺のコートの端を掴んで離さないのだ。
無言で俺はそれを振り払おうとする。
抵抗する少女。
無音のまま、俺と彼女は互いに全力を出し合う。
………………。
とうとう根負けしたのか、少女が(しかし、手はコートを掴んだまま)言った。
「………どこへ……?」
俺は出来得る限りの真剣な表情を作り、宣言した。

「バイトだよ……!」

「………バ、バイト……?」
「あぁ、そうだ。バイトだ……!!」
そう。
昼から、昨日働いたケーキ屋での売り子のバイトが、今日も入っているのだ。
昨日思い知ったのだが、ケーキ屋での仕事は非常にハードなのだ。
今から気合を入れていかなければならない。
「………わ、私はどうすれば……?」
不安そうな表情の少女。
そりゃそうだろう。
初めての場所に一人取り残されるのだ。
不安なわけがない。
それじゃなくても、自分の身の置き場に困っているだろうし。
だが、それでも――!

「俺は、俺はバイトに行かなくちゃならないんだよぉお!!!」

なにしろ貧乏学生である。
日々の生活に困窮し、日々の成績にも困窮する。
そんなごくありふれた三流大学生なのだ。
目の前にサンタが現れようが、サタンが現れようが、そんなの関係ない。
なにより重要なのは、日々の糧。あるいは留年しない程度の成績。
それだけが命綱なのだ。
相手がメルヘンなら、こっちは現実だ。
それも、抜き差しならないほどに、冷たい現実だ。
俺の魂の叫びに目を丸くした彼女はそれでも、頷いた。
46聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:49:56 ID:kOmgZ3sy
「………本気……?」
「……ああ、俺は行かなくちゃならない」
行って、戦場となるケーキ屋で稼がなければならない。
昨日友人たちと羽目をはずし、バカ騒ぎした分を取り返さなければ。
「………判った……」
彼女は、俺のコートから手を放した。
「判ってくれたか。ありがとう」

「………私も、がんば、る……」

「あぁ、君もがんば……れ、って、え……?」
………………。
いまなんつった、こいつ。
頭の処理が追いつかない。
呆然としたままの俺を置いて彼女はテレビを消すと、俺の手をとった。
小さな手は、子供のように暖かかった。
その暖かさ、柔らかい感触で、俺は我に帰る。
「………さぁ」
「……え、え? あの、君は一体何を……?」

「………私も、行く。バイト」
えぇ?!
「………ところで、“バイト”ってどういう意味?」
えぇぇぇぇぇぇえええええ!?

とりあえず、バイトが軽作業による仕事であることは理解してくれたのだが。
行く行かせないの押し問答を解決してくれたのは、結局、時間だった。
ギリギリの時間になっても、彼女は頑として俺の言うことを聞いてくれないのだ。
本当に時間が危なくなったので、しょうがなく、仕事場まで連れて行くことにする。
だが、こんな素性の知れない娘を連れて行って、雇い主になんと言われるか……。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「あぁら、いいじゃなぁい。とぉっても、カ・ワ・イ・イわ。ウフフ」
雇い主から返ってきたのは、そんな返事。
そのまま、雇い主は続けた。
「っていうかぁ、この子いたら、アナタいらないんじゃなぁい? フフ」
そういって、笑いかけてくる。
今、俺たちがいるのは通称『バック』と呼ばれる店舗裏。
寒空の下、俺と少女は小刻みに震えながら雇い主と話をしている。
自称サンタクロースの少女は雇い主に好評で、曰く、『今日は売り子が何人いても足りないぐらい忙しい』のだそうだ。
なので、バイトをしたいという少女の願いは簡単に聞き入れられた。
吹き荒ぶ寒風など物ともせず、雇い主は平然と俺に言う。
「早速入ってちょうだい。お客様がお待ちよ。仕事着に着替えて」
「……はい」
若干釈然としないが、雇い主の意向なのだ。
従わないわけにはいかない。
店に入ろうとした雇い主は、そこでようやく気づいたように、少女に顔を寄せる。
その動作に怯え、少女は俺の後ろに隠れると、コートの背中を、ぎゅっ、と掴む。
そんな少女の行動には一切構わず、雇い主は少女に向かって口を開いた。
「アナタァ、なんて、お名前なのかしらぁん?」
少女は寒さからなのか、雇い主に怯えているのか、震える声で言う。
「………わ、私は、サンタ――」
っておぉおおい!!
「っこ、こいつの名前は、サンタ、……じゃなくて、く、くろす、黒須聖子です!!」
俺は少女の声に無理やり重ねるように声を張った。
雇い主は、少し不審そうに眉を寄せる。
「アナタに言ったんじゃないんだけれどぉ?」
マズイ。誤魔化さなければ……!
「いや、あの、その。こ、こいつ人見知りなんで。それに俺が一応紹介者だし……」
47聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:50:39 ID:kOmgZ3sy
く、苦しい……! 苦しいぞ、俺!
「ん、んん〜? あら、そう。ふぅーん」
当然のように、納得しかねるような顔の雇い主。
「……にしても、何か彼女言いかけてなかったぁ?」
「き、気のせいでしょう」
まだ怪訝そうな雇い主に、俺は話題のすり替えを試みる。
「あの、ていうか、いいんですか? こんなところで話し込んでいて」
雇い主は、ハッ、と顔色を変える(ニヤリ、計算通り)。
「そうね。そうだったわね。じゃ、アナタはサッサと着替えて、……聖子ちゃんはぁ〜――」
雇い主は、俺の後ろの少女の真っ赤な服をまじまじと見つめる。
「――そうね。そのままのほうがカワイイから、その服装のまま、売り場に立って頂戴」
そして、そのまま俺たちに背を向けると、雇い主(♂)は、その巨大な体を窮屈そうに折り曲げながら店に入っていった。
俺もそれに続こうと、足を踏み出すが、コートを引っ張る少女にまた阻まれた。
「……おいおい、俺たちも早く行かないと――」
「――聖子じゃない」
見ると、少女は思いっきり頬を膨らませ、そっぽを向いていた。
「………私は、サンタ・クロース。黒須聖子じゃない……!」
そんなことに腹を立てていたのか。
雇い主を誤魔化すために適当に言ったのだが、どうやら、少女のお気に召さなかったらしい。
それでも一応、説得を試みる。
「サンタクロースだなんて正直に言ったら、正気を疑われるぞ」
「……でも、『サンタ・クロース』は誇り……!」
『誇り』ときたか。しかし。
「あの人に正気を疑われれば、バイト、できなくなるぞ」
「………あ……」
ようやくそのことに気づいた少女は、それでも、腹を立てていることを訴える様に、頬を膨らませたままだ。
多少、気まずい空気が流れる。
「(っていうか、こんなことしている間にも、客は来ているんだよな)」
他にもバイトはいるだろうが、それでも忙しいに違いない。
それに、少女のプライドを傷つけてしまったことにも、俺は若干、引け目を感じた。
なので。
「解った。悪かった。君の誇りを傷つけたことは謝るよ」
「………許さない……」
『許さない』ときたか。
どうやら俺が思っていた以上に、厄介なことになってしまっているらしい。
こりゃ、相当、機嫌を損ねている。
「じゃ、どうすれば機嫌を直してくれるのかな。サンタ・クロースちゃんは?」
あぁ、っていうか、なんでこんなことを。っていうか、こんな事している時間が惜しい。
しかし、早く仕事に行きたい半面、少女に詫びを入れたい気持ちも本当だ。
少女は、ようやく俺を見ると、何故か真っ赤な顔を、しかし、足元に向けた。
そして、俯いたまま、軽く震えながら、言う。
「………ちゅ……」
「ちゅ?」
「………ちゅう、して……」
はいはい。なんだ。そんなことでいいのか。
OK、OK。じゃあ、さっさとすませて――。
……。
………。
………………………。
――って、えぇええええええええぇぇええぇええぇえぇええ!?
ちゅ、ちゅちゅちゅ、ちゅう〜!?
な、なんじゃそりゃぁあ!!
『Oh!! ヤマトナデシコのぉ、ツツシミはぁ、イマイズコォ』
頭の中のマイケルが、ボブに語りかけました。
ボブは答えます。
『HAHA! いまでワァ、そこらヘンでもぉ、チュッチュ、してますよォ』
マイケルは納得がいきません。
『それデモォ、このジョウキョウで、なんで、イキナリ、チュウやねん、ってハナシやで、ホンマ』
ボブは白い歯を光らせます。
『オンナゴコロは、エイエンニ、おとこにはリカイできないモノさァ、HAHAHA!』
48聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:51:15 ID:kOmgZ3sy
『Oh! ソレモそうやね。HAHAHAHAHA』
『HAHAHAHAHAHA!』
こうして、マイケルとボブは去ってゆきましたとさ。
………………………。
「(ッハ! 俺は今、何を考えていた!?)」
俺は空白だった頭を、ようやく再起動させる。
っていうか、目の前の彼女は。
「…………………」
目を閉じ、俺からのアプローチを待っているではないか。
ど、どどど、どうしよう。どうしよう………!!
『スエゼンくわぬは、オトコのハズィ!!』
何か、頭の中で欧米人が喋りかけてくる。
「(邪念よ、………去れ!!)」
これでようやく、ココロの平静は保たれた。
……ハズもなく。
心臓はバクバクなり、頭まで血が逆流するのを感じる。
彼女に詫びを入れる、早く仕事に入る。
そのためには、彼女の唇を………!!
俺は、震える手を彼女の肩に乗せる。
見た目どおり華奢な肩の感触は、今以上に、心臓に悪い。
「(えぇい!! こうなりゃ自棄だ!!)」
俺は目を閉じ、ゆっくりと、唇を彼女に近づける。
そして、とうとう。

むぎゅ。

ん。
なんというか、唇って柔らかいって聞いていたけれど、意外とそうでもない。
どちらかというと、フワフワって言うより、ゴワゴワしてる。
俺は、恐る恐る目を開ける。
赤。
目の前を、赤い何かが塞いでいる。
……ていうか。
俺は思い切って、頭を離してみる。
すると、状況がよくわかった。
俺の唇が当たったのは、どうやら、彼女のかぶっていた帽子に当たったようだ。
というよりも、彼女は自分のかぶっていた帽子で、俺から唇をガードしたのだ。
「………やっぱ、駄目……」
帽子を再びかぶった彼女は、真っ赤な顔を逸らしながら言った。
「は、はぁ」
俺は、マヌケに頷き、ため息のような返事をした。
未遂に終わったとはいえ、キスをしかけた俺の頭はいまだ冷静になれていない。
どうして、彼女が自分から言い出したことを止めたのか。
解らない。
から、聞こうとしたのだが。

「ちょっとぉ! 早く売り場に入って頂戴!!」

出入り口から顔を覗かせた雇い主の怒声に、一気に現実に戻され、聞く機会を失った。

そして、俺たちは、ケーキ屋で売り子を始めた。
最初、雇い主は見た目のいい彼女に接客を担当させようとしたのだが――。

「あのこのクリスマスケーキをください」
「………………………」
「あの、ちょっと?」
「………………………」
「もしもし、ねぇ、聞いてるの!?」

俯き、真っ赤になった彼女が、視線をうろつかせる。
49聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:51:56 ID:kOmgZ3sy
ようやく、彼女の窮状に気づいた俺は、割り込むように客と彼女の間に入っていった。
「申し訳ございませんでした、お客様」
「だからね。このクリスマス――」

――致命的に向いていないことが判明。
といって入ってもらった会計係も、同様の理由で(結局のところ接客技能が必要なので)駄目だった。
次に与えられたのは、路地でのビラ配り。
しかし。
一時間後、ただ突っ立っているだけの少女を目撃した雇い主は、すぐさま彼女を降板させた。
結局、彼女は服を着替え、厨房に回り、出来上がった予約用のケーキを箱に入れるという単純作業に始終、従事することとなった。
彼女のサンタクロースの衣装も、雇い主の思惑通りには発揮されなかったのだ。
俺はその間、売り場で接客を担当していた。
忍耐と集中が必要とされる作業の中。
それでも、彼女のことが気になり、暇を作っては厨房を覗いた。
少女は、単純作業には向いていたのか、集中し、俺の視線に気づくことはなかった。
……すぐにでも音を上げると思っていたのに。
彼女は文句一つ言わずに、やるべきことをしていた。
俺はその姿を見るたび、気合を入れなおし、売り場に戻った。
こうして、俺たちは閉店9時までこき使われた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あのあと、雪崩れ込むように家に帰り着いた俺たちは、ただただ空腹を満たすために
レトルトカレーを食べつくした。
『ぜんぜんクリスマスらしくない』とか『ロマンのかけらもない』なんていう文句は、圧倒的疲労の前では力を失うしかなかった。
そして、今、蛍光灯が照らす、生活感溢れたワンルーム。
目の前には空になった大皿が二つ。

「「ごちそうさまでした」」

そう言うと、俺たちはなんとはなしに見つめ合う。
すると、直ぐに彼女は俯き、目を逸らす。
「(俺って、嫌われてんのかなぁ……)」
疲れた頭でそんなことを考える。
……キスも拒絶されたし。
そんなことを思っていると、彼女は、何処からかシャンメリーを取り出した。
……っていうか、そんなもの、いつのまに。
と、呆気にとられていると、彼女はそれを開けようと、力を入れる。
……だが。
三分経過しても開かない。しょうがないので。
「貸してみ」
「………う〜……」
自分で開けることが出来なかったのが不服なのか、唸りながらも、彼女は僕にボトルを手渡した。

ポン。

あれほど頑なだった蓋は、俺の力では簡単に開いた。
「(……どんだけ非力なんだよ……)」
そう思いつつ炭酸が吹き零れそうになり、慌てて、俺は中身を自分のコップと、彼女のコップに注ぐ。
二つのコップの中では、薄い琥珀色の液体に、炭酸の泡がごく小さく浮かぶ。
俺は数年ぶりのシャンメリーに内心少し感動し、二人して恐る恐るコップに口をつける。
独特の甘みと、風味。
………?
っていうか、これ。
「アルコール入ってないか?」
シャンメリーではなく、これではただのシャンパンではないか。
彼女のほうを見てみる。
すでに彼女のコップは空っぽで、彼女の視線はどこか中空をさまよっている。
ほんのり赤く染まった頬。とろんとした目。
「おいおい。大丈夫か?」
50聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:52:40 ID:kOmgZ3sy
メルヘンの住人は酒には弱いのだろうか?
そんなことを考え、心配していると、彼女は立ち上がり、ててて、と俺の隣までやってきた。
そして、そのまま座ると、俺の肩に頭を乗せてきた。
それだけに留まらず、全身を寄りかからせてきたではないか。
「………えへへ……」
えへへ、じゃないよ!
イキナリの大胆行為に、俺の心臓は高鳴る。
どうにか彼女の行為から気を逸らそうと、明後日のほうを向きながら口を開く。
「あの、シャンメリー、じゃなかった。シャンパン、どうしたんだ?」
少し、彼女の体温が遠ざかる。
「………てんちょうに、ヒック。……もらった」
「そ、そうか。……いつの間に……」
いいのか、雇い主。
明らかに未成年の少女にシャンパンを渡すなんて。
犯罪じゃないのか?
「(まぁ、もう、飲んでしまった以上、言っても始まらないか……)」
そんなことを考えながら、それでも明後日の方向を向いたままの顔は、火照ったまま。
すると、そんな俺に業を煮やしたのか、少女は俺の頭をがしりと掴むと、無理やり、自分の方向に顔を向けさせた。
「な、なにを」
「………ちゅう、しよ?」
………………。
またかい。
どうせまた、帽子でガードするに違いない。
そうして、男心を弄ぶのだ。
でも。
「……わかった」
俺を見つめる彼女の眼差しは、壊れそうなほど純真で、真摯だった。
「(………あぁ、っていうか。本当に可愛い娘だな、コイツ)」
だったら、彼女だったら弄ばれても、いい。
俺は景気づけにコップの中のシャンパンを一気にあおると、目を瞑る彼女に顔を近づける。
心臓は限界まで高鳴り、手が震える。
俺は、今度こそ失敗しないように、それでも目を瞑り、唇を彼女に寄せた。

ちゅ。

今度は、ゴワゴワしなかった。
驚くほど柔らかい唇は生々しく熱く、そして、シャンパンのせいか、ほんのり甘かった。
俺は恐々と目を開けると、ゆっくりと顔を離した。
自分で自覚できるほど顔が赤い。というよりも、熱い。それを誤魔化すように俺は言った。
「今度は、帽子を使わなかったな」
彼女は少し微笑み、答える。
「………詫び入れでも、ご機嫌取りでもない。本物のちゅうだから」
………………。
あぁ、そうかい。
その『本物のちゅう』のおかげで、今晩は眠れそうにない。
八つ当たり気味に言う。
「君のせいだぞ。今晩、眠れなかったら」
「………? 何の話?」
あまりにも無垢な少女の顔。その唇。
心臓の高鳴りが限界までに達した俺は、これ以上彼女の顔を見れない。
「あ〜、もう、いい!」
大声で心音を打ち消し、強引に立ち上がると、俺は天井を見上げ、宣言した。
「寝る!!」
ビンの中のシャンパンを一気に飲み下し、皿とコップを持つと、台所にそれを置きに行く。
彼女の分も片付けると、俺は勢い良くベッドにダイブした。
未だに心臓がうるさいが、しかし、構うものか。
俺は窓のほうを向くと、わざとらしく寝息を立て始めた。
………………………。
しばらくすると、彼女が電気を消した。
そして、彼女は、もぞもぞと、一人用のベッドに潜り込んでくる。
51聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:53:30 ID:kOmgZ3sy
……あぁ、そうだ、失念していた。
寝るとなると、当然、彼女もベッドを使うことになるだろう、ということを。
それでも、俺は眠ったフリをし続けた。
直ぐ隣に、熱いぐらいの体温を感じる。
「(あぁ、もう!! こんな状態で寝れるか!!)」
しかし、今更、起きるわけにもいかない、という、なんだか訳のわからない強情が、心に巣くう。
「(とりあえず、彼女が寝ているかどうかだけでも確認してみるか?)」
俺は、ゆっくりと体を動かすと、彼女のほうをチラ見する。
「………………」
「………………」
目が合ってしまった。
それでも俺は、
「ぐ〜、ぐ〜」
寝たふりをし続ける。
すると、彼女は、消え入るような声で言った。
「………ねぇ……」
「ぐ〜、ぐ〜」
「………しよ……」
「?」

「………婚前交渉……」

「ブゥッ!!」
思わず噴出してしまった。
っていうか、なんという爆弾発言だ。
俺の思考が止まる。
そして、奴等が……!
『Oh!! ヤマトナデシコのぉ、ツツシミはぁ、イマイズコォ!!』
頭の中のマイケルが、ボブに語りかけました。
ボブは答えます。
『HAHA! セイなるヨルだZE、コンヤはぁ!!』
マイケルは納得がいきません。
『それデモォ、このジョウキョウで、なんでイキナリやねんって、ハナシやでホンマ』
ボブは白い歯を光らせます。
『オンナゴコロは、エイエンニ、おとこにはリカイできないモノさァ、HAHAHA!』
『Oh! ソレモそうやね。HAHAHAHAHA!』
『HAHAHAHAHAHA!』
こうして、マイケルとボブは去ってゆきましたとさ。
「(あぁ〜もう、こいつ等はいいっつうの!!)」
俺は頭の中の、謎の欧米人たちを追い払う。
そして、目を開け、彼女を見つめてみる。
予想外に、近い少女の顔。
先程のキスを思い出し、さらに顔が赤くなる。
あたりには、シャンパンの甘い香りが漂い、外からは外灯が差し込み、薄暗い。
どうしよう。
俺はとりあえず、説得を試みることにする。
「今日はいっぱい働いたよな」
「………うん。働いた……」
「というわけで疲れているよな?」
「………大丈夫……」
「いや、ヘトヘトなハズだ。そうだろ?」
「………平気……」
ち。
朝から思っていたが、こいつ、言い出したら聞かない性格か。
方向性を変更してみることにする。
「なんでいきなり、っこ、婚前交渉、なんだ?」
「………キレイなお嫁さんになるため……」
何の関係が?
そう問いただす前に彼女は静かに言う。
「………契りを交わしたいの……」
52聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:54:33 ID:kOmgZ3sy
「……契り?」
なんのこっちゃ。
「………約束のこと……」
「約束……」
サンタクロースはかくも律儀なものなのか?
十年前の、少年のイタズラなお願いにこうまで固執するとは。
体を張ってまで。
……正直、ちょっと怖いぞ。
そんな俺の内心など知りもしないで、彼女は言った。
「………それに、“今日だけ”だから……」
「? 何が」
「………今日は、クリスマス……」
だからなんだというのだろう。
今日だけ……?
何の話だ。
軽く混乱する俺の目を、彼女は真剣に見つめる。
「………お願いだから、あなたの十年前のお願い、叶えさせて……」
「………………」
あぁ、だめだ。
この目に弱い。
この真剣な眼差し。
混じりっ気のない純粋な眼。
今日会ったばかりだというのに、弱点を攻められている気分だ。
『スエゼンくわぬは、オトコのハズィ!!』
うるさい。解ってるよ。
「(ええい……! どうにでもなれだ……!!)」
俺は覚悟を決め、布団から出ると、彼女に向かって正座をし、頭を下げる。
「不束者ですが、よしなに」
彼女も姿勢を正し、俺に向き直る。
「………こちらこそ……」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「………ユニーク……」
ズボンから露出させた俺のペニスを見た、彼女の一言。
……そう言われてもな。
「他の男の見たこととかないのか?」
「………現実に顕在化した実行体としては、昨日が最初……」
「は?」
「………『サンタ・クロース』というのは集合意識体。最初から実体のあるものではないの……」
「………………」
「………それが、人々のサンタを信じる、クリスマスの奇跡を信じる力が、願い事を実行する力になる……」
「………………」
「………私が、今、存在できるのは、その力のおかげ、なの……」
………………。
意味が解らない。
ので、この発言はスルーすることに。
……まぁ、男性器の形に驚かれたり、引かれたりするよりはマシか。
ちなみに、現在の体勢を説明すると、俺が胡坐をかき、彼女がその前に前のめりに座り込んでいる、という感じ
(ちなみに二人とも、服を着たまま)。
最初、俺はリードしようと、彼女の胸を触ろうとしたのだが、
「………まずは、私のターン……」
という意味不明の俺ターン宣言により、こういう状況になってしまった。
彼女はおずおずと、俺の性器に手を伸ばす。
「………平気? さわっても……?」
「あ、あぁ」
小さな掌が、俺の竿の部分を優しく包む。
柔らかく、そして暖かい感触が、なんともこそばゆい。
そんな俺の感覚など露知らず、彼女は感心するように言った。
53聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:55:16 ID:kOmgZ3sy
「………暖かい……」
「そうかい」
「………それに、硬い……」
「だろうな」
彼女はその手を、軽く上下させる。
その刺激で、俺の性器は、俺の意思に関係なくビクリと震える。
「………痛い?」
「いや、大丈夫だ。……もう少し、強くしても平気だ」
彼女は真剣な顔して、軽く頷く。
どうやら、集中しているようだ。
片手は竿の部分をしごきながら、もう片方の手は性器の先端を弄る。
「………あ、ここは柔らかい……」
「うっ」
電気が走るような感覚に、思わず声が出てしまう。
彼女は、それに驚いたように、両手の運動を止める。
「………ご、ごめんなさい。……痛かった?」
俺は、彼女を安心させるために少し笑いながら、彼女の頭を撫でる。
「大丈夫、大丈夫。ただ、先のほうは敏感なだけだ。そのまま続けても平気だ」
「………うん……」
どうやら安心したらしい彼女が、再び、両手を使ってペニスを弄る。
その動きはやがて激しくなり、ペニスの先端から粘液が漏れ出す。
「………なんか、出てきた……」
「気持ちがいいと、出てくるものなんだ」
出てきたカウパー液で指で濡らすと、彼女は集中的に先端を責めてくる。
その感触に、俺の腰が思わず浮き上がる。
「くっ」
「………あ、もっと出てきた……」
何を思ったのか、彼女は手を動かしながら、ペニスに顔を近づける。
「………やらしい、匂いがする……」
「そりゃあ、悪うございましたね」
気持ちいい事をされているという事実を、誤魔化すように言ったのだが。
「………ううん、この匂い、すき……」
「………………」
そう返されれば、言葉も出ない。
絶句している俺の返事を待たずに、彼女は両手を俺の腰に回すと、ペニスの先端に吸い付いた。
「うくっ、君、な、何を」
余りの快感に声が上ずる。
彼女はそのまま、口を使って、ペニスに奉仕する。
「んんっ、じゅる、じゅるる。………うぶっ、んぶっ!」
「くっ……、ふぅ……」
思わず、吐息のような声が断続的に出てしまう。
少女はそれに気づくと、ペニスから口を離し、言う。
「………あ、いやらしい声、出た……」
「悪かったな」
「………かわいい……」
「うるさいよ」
「………えへへ、んぅ、ちゅ、………れろ、ぴちゃ………」
先端を丁寧に舐めまわし、舌を使い、尿道口から裏筋まで、嬲るようにくすぐる。
熱い舌、滑らかな唾液の感触が一段と、ペニスを刺激し、大きくさせる。
「………ちゅる……、ぴちゅ……っ」
「うぅう!」
彼女が敏感な部分を刺激するたびに、俺は声を上げ、先端からは、もう唾液と区別のつかない程のカウパーを分泌させる。
そのたび、彼女はその透明な液体を吸い上げ、さらに行為に没頭する。
柔らかく熱い、小さな口先が、いやらしく動き、液体を咀嚼していく。
「ちょ、ちょっとまて……!」
俺は彼女の頭を掴むと、強引に奉仕を中断させる。
不思議そうに俺の顔を見上げる彼女。
「………気持ちよく、なかった……?」
「気持ちいいとか、悪いとかじゃなくてだなぁ……」
今日初めての奉仕にしては、いやらしすぎだろう。
54聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:56:06 ID:kOmgZ3sy
っていうか、もうちょっとは恥じらいとかを……。
「………? でも、気持ちいいんでしょ……?」
彼女には俺の戸惑いがわからないようだ。
「ああ、気持ちいいことは気持ちいいんだが、……もうちょっと、さぁ」
俺の意思が通じたのか、彼女は得心が言ったように頷く。
「………もっと、気持ちよくなりたいんだ……ね!」
「………………」
解っちゃいねぇ!! コイツ、全っ然、解ってねぇ!!
しかたなく、説明をしようとする俺を遮るように、彼女は口による行為を再開しだした。
「………ん、ちゅるるっ……れろ、れろっ」
あぁ、クソッ! 気持ちいいなぁ!
俺の意識とは裏腹に、次々に粘液を分泌するペニス。
彼女は舌をいっぱいに伸ばし、それを丁寧に舐めとっては、口の中へと嚥下していく。
「………ぴちゅ、ちゅ、……いっぱい、出てる、ね……」
「ああ! そりゃ、気持ちいいですからね!!」
逆ギレ気味に返す俺。
そんなことには構わず、唾液と先走りでベトつく肉棒を何度も何度も舐め上げて、少女は口をだらしなく汚す。
一瞬も舌を休ませることなく、つたない動きで、しかし、積極的に性器を責める。
「………んぅ、また、おっきくなったよ……?」
「くぅ……、そろそろ出そうだ。動きを……」
「………ちゅるぴ、ちゅぱちゅ、れろれろ……、出る? なに――」
「――だから、口を離せ――」
と、言い終わらないうちに、射精感は昂ぶり、そして――。
「――うっ、で、出るっ……!!」
「………!?」
――俺の制止を聞かなかった彼女の顔に、勢い良く白濁色の精液が降りかかる。
「うっ、うぅ……!」
しばらく、その奔流はとまらず、彼女の額、鼻先から頬までを汚しつくす。
彼女は呆然と、液体を流し続ける性器を眺めていた。
そして、なんともいえない気まずい空気が流れる中で、彼女は口を開く。
「………これ、なに……?」
「精液だよ、精液! だから、動きを止めろと言おうとしたのに……、っておい!」
俺の言葉などに耳を貸さず、彼女は、顔にかかった白濁の液体をペロリと舐めとる。
「………へんな、味……」
そりゃそうだろうよ。
俺はベッドの脇にあるティッシュを取ると、強引に彼女の顔の粘液をふき取る。
予想以上に溜まっていたらしいそれは、なかなかキレイには取れない。
それでも奮闘していると、彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。
「………正直、今は反省している……」
「いや、悪いのは俺だ。もう少し早く、君を止めていれば、汚い目にあわせずに済んだのに」
こんなベトベトした、匂いのきつい汚いもの。
それを顔中にかけるなんて、なんてことをしてしまったのだろう。
「………私は平気。……でも、怒ってる……?」
彼女は俺の顔色を伺ってくる。
「(なんか、お互いに機嫌を伺いあってるな)」
俺はなんだか可笑しくなって、少し吹き出しながら、彼女の両頬をつまんだ。
「怒ってないよ。っていうか、拭き取り辛いから、顔を上げろ」
「………うん」
数分後、何とか顔にかかった精液をふき取り終わった俺たち。
未だに少し怯えている少女を安心させようと、俺は笑顔で言った。
「気持ちよかったよ。ありがとう」
「………うん」
「……さて、こうやって、綺麗になったし――」
「………?」
訝しげな少女。俺は少し照れながら言う。
「――そろそろ、俺のターンだろ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
55聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:56:58 ID:kOmgZ3sy
「………あ、あんまり、Hなのは、だめ……」
暗闇の中、ベッドの上に押し倒した格好の少女は、真っ赤になりながら言った。
つうか、さっき、あれほどいやらしいことをしたのは誰なんだよ。
そんな思いが去来するが、しかし、目の前には小刻みに震える少女。
どうやら本気で、怖がっているらしい。
なので安心させる意味も含めて、俺はなるべく優しく言った。
「……解った。善処する」
「………うん」
「じゃあ、脱がすぞ」
俺は真っ赤な衣装に手をかけると、ワンピースのようなサンタ服を肩口まで捲り上げた。
「………うぅ、は、はずか、しい……」
先程、散々俺のMySUNを弄んだのと、同一人物とは思えない発言。
彼女の初々しい言葉に若干照れを感じながら、俺は少女の体に視線を移す。
白い肌は、薄暗い室内の仄かな光を反射し、滑らかな肌を強調する。
俺は少女のブラジャーを少し手こずりながら外し、そのむき出しの中身を両手で触れる。
「………ふぁぁ、お、おっぱいに触ったぁ……」
「そりゃあ、触るよ」
「………“小さい”って、思った……?」
「いや、むしろ」
着やせするタイプなのか、外見以上にボリュームがある。
「………むしろ?」
「いや、正直、驚いた。柔らかいし、手にちょうど収まっていい感じだ」
俺は回すようにして、リズムよく双丘を揉む。
あまりにも柔らかいそれは、俺の手を吸い込むように捉えて離さない。
掌の中で硬くなり始めた小さな乳首を、指先でかるく摘む。
「………そ、そこ、ダメ。んんっ、ビリってする……」
初めての刺激に戸惑うように、少女は肩をくねらせる。
……ちょっと、おもしろい。
俺は彼女をからかうように、胸を揉むリズムを変えながら、乳首を転がす。
そのたびに彼女は身をよじり、吐息を漏らす。
「………だ、だから、いじっちゃ、んんっ……ダメ……!」
もちろん、そんな意見は聞く耳持たない。
そのまま、しばらく胸を愛撫し続けると、少女の肌が汗ばみ、さらに熱くなる。
そろそろいいかと、俺は次の段階に向かうために、手を少女の足の間に持っていく。
その感触で、少女は全身をビクつかせ、不安そうに俺を見る。
「(っていうか、おれも不安なんだが)」
彼女を気持ちよくすることなど出来るのだろうか?
しかし、俺が怖がっていてもしょうがない。
だから震える声で言うしかない。
「心配するな。出来るだけ優しくするから」
俺の小心を見抜くように彼女は顔を俯かせる。
「………不安……」
「大丈夫だって。……たぶん」
「………でも――んぷっ!」
そろそろ煩いので、唇を奪い黙らせる
(一応、断っておくが、スケコマシではない俺にとっては、この行為だって心臓破裂ものだ)。
そのまま動かずにいると、驚いたことに、少女のほうから舌先を差し入れてきた。
戸惑いながら俺は、それを歓迎し、手厚く舌を絡ませる。
「………ん、んちゅっ。………ぷはっ」
どうやら、息が苦しくなったらしい。
彼女は、しばらく肩で息をすると、俺のほうをじっと見つめる。
「つーか、息、止めてたのか」
可笑しくなり、俺は吹き出す。
そんな俺の唇に、彼女はさらにキスを重ねる。
……キスが好きなんだろうか。
などということを考えながら、俺は思い出したように、秘所に当てた手を動かす。

くちゅっ。

妙に高く水音が響く。
56聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:57:31 ID:kOmgZ3sy
「君、感度いいんだなぁ。もう濡れて――痛たた」
よほど恥ずかしかったのか、彼女は渾身の力をこめて俺の首筋をつねる。
「悪かった、悪かった」
俺は謝りながら、キスをし、そのままの体勢を維持しながら、指先を動かす。
「(たしか、AVとかではこう動かしていたような……)」
そんな今では遠い記憶となりつつ映像を思い出しつつ、俺は震える指で愛撫し続ける。
「………んっ、んんぅっ、……や、ダメ……!」
キスを受け入れながらも、足をよじり俺の手から逃れようとする少女。
しかし、決定的には逃げずに、俺の愛撫を受け入れている。
そのことを確認しつつ、愛液を絡めた指を、敏感な部分ではなく、入り口付近をなぞる。
あまり激しくして、彼女を追い詰めすぎないよう配慮した動きだったのだが――
「………は、んあっ……あ、ふぁぁ。く、くすぐったい……」
――どうやら、成功したらしい。
少女は熱い吐息を漏らしながら、両手で俺の頭を挟み込む。
柔らかく熱い部分をなぞりながら、指は徐々に上にのぼり、より敏感なクリトリスへと辿り付く。
少女が頭を抑えているので定かではないのだが、どうやら少女の見た目どおりに幼いそれは、薄い皮に守られているようだった。
俺は丁寧に包皮をめくり、その中の、小さな蕾を愛撫した。
「………ダ、ダメ! そこ、感じっ、過ぎちゃ………う………!!」
シーツを掴んで喘ぐ少女の嬌態に、俺は昂ぶりを禁じえない。
あくまで、責め立てすぎないように、神経を払いつつ、指の動きを次第に早めていく。
少女の俺の頭を抑える力が弱くなったのをいい事に、俺は、少女の秘所を覗き見る。
すでに蜜口からあふれる愛液で、シーツはグショグショになっていた。
「(やっぱり、よほど感度がいいんだろうなぁ)」
なんてことを口に出さずに考えていると、少女が俺の手に、手を重ねてきた。
「………もう、十分だから。……だから」
「ああ、解った」
俺は、彼女のショーツに手をかけると、一気に脱がせた。
そして、大きく彼女の足を開かせる。
よっぽどその体勢が恥ずかしいのか、彼女は真っ赤な顔をあさっての方向へと向けた。
俺は、そんな彼女を微笑ましく思いながら(まあ、顔が赤いのはお互い様なのだが)、
すでに限界まで反り返っていたペニスを、秘所に押し込んでいく。
亀頭の先端が、熱く濡れた粘液に触れる。
膨張したペニスをゆっくりと沈めていくと、少女の入り口が形を変えていった。
初めて男を迎え入れるのだろうそこは、かなり痛々しく広げられていた。
「………はあっ、はぁ……。入って、来るの……分かる……」
若干苦しそうな様子の彼女。
このまま、腰を押し進めて行くのは躊躇われた。
苦肉の策として、入り口付近を擦るように動かす。
「この辺りだったら、まだ痛くないか?」
「………………ふぁ、あっ、……あん、し、知らない……」
少女は、そっぽを向いたまま、言う。
……どうやら少し気持ちがいいらしい。
侵入させすぎないように注意をしながら、ペニスの先端で粘膜を愛撫し続ける。
腰を前後させるたびに、押し殺した吐息が少女の口から漏れ出る。
………………。
やがて、しだいに部屋の中に音が響くほど、愛液が溢れてきた。
「(そろそろ、頃合か……)」
少女もそれを感じたのか、顔を正面に向け、俺を見つめる。
「本当に、いいんだな?」
俺の言葉に、少女は微笑を返す。
「………『キレイなお嫁さん』に、して、ください……」
そんなことを言いながらも、しかし、不安は隠せないのか、腰を抑える俺の手に、小さな手を重ねてきた。
その手は小刻みに震え、彼女の内心の怯えを俺に伝える。
「じゃあ、いくぞ」
「………一気に、お願い……」
「了解した」
狭い入り口付近から、さらにキツキツの内部にペニスを挿入させる。
熱い粘膜の壁が俺の性器を圧迫する。
しかし――。
「………んんっ……! ん、あああああぁぁッ……!!」
57聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:58:21 ID:kOmgZ3sy
――俺は躊躇せず、一気にそれを貫いた。
初めての痛みに耐える少女の指先が、俺の手に食い込む。
俺と少女の結合部分から、赤い雫が少し零れ落ちる。
「痛いか?」
当たり前のことを、わざわざ聞いてみるあたり、俺は小心者なのだろう。
しかし、少女は強張った顔で無理やり笑みを作ると
「………だいじょう、ぶ……」
強がって見せた。
大丈夫なわけがない。
「しばらく、こうしていようか?」
「………ううん、動いて、いい……」
「いや、そういうわけには――」
「――動いて欲しいの。気持ちよくなってもらいたい、から……」
少女は、かすかに震える声で言う。
俺は頷き、少しずつ、腰を動かし始めた。
鮮血を絡ませた肉棒が、ゆっくりと秘裂のなかに埋まってはまた出てくる。
狭く、みっちりとした感触に、俺は腰を震わせてしまいそうになった。
それでも、快楽に流されないように、俺は自分を保つ。
「………ふっ、はぁあ、………んんっ……!」
膣の内部は、未だに俺の侵入を拒むように締めつけてくる。
結果的に、ペニスを強く締め付けることになり、更なる快感を俺に与えた。
未だに苦しそうな彼女をなんとか感じさせようと、苦し紛れに挿入の角度を変えてみる。
「………ふぁ、そこ……は、ダメ……!んっ」
どうやら、偶発的にも、いい位置に当たったようだ。
俺はその角度を保つために、少し体勢を変えながら、挿入を繰り返す。
少女の声が昂ぶり、甘い色をつけ始めた。
それに呼応するかのように、膣内が活発に動き始める。
今までの拒絶するような締め付けから、一変して、絞り上げるような律動運動に変わっていく。
性器全体を舐め上げられるかのような快感に、思わず声が出る。
「うぅっ、あ……」
「………き、気持ちいいの……? もっと、動いて……!」
やがてほぐれてきたのか、緊張が薄れた膣内はより柔らかくなり、抽挿は一層スムーズになってきた。
俺は、さらに角度を変え、カリの段差を粘液に引っ掛けるようにピストンする。
今までとは違う感触に、少女は敏感に反応し、腰を弾ませた。
「………それ、ダメ……! それゴリゴリさせちゃ……、ふぁああ!」
少女はあごを反らせ、高い嬌声を上げながら、必死にその感覚に耐える。
俺はそれをもっと聞きたくて、ピストンのスピードを上げていく。
中で水溜りにようになっている愛液は、そのたびに溢れ出て、シーツに大きなシミを作っていった。
どうやら、大分馴染んできたようだ。
もう、遠慮せずに腰を動かしても、少女の表情に苦悶はない。
調子に乗った俺は、とうとう、少女の最奥まで腰を一気にうずめる。
「………ぅうん! それ、気持ちいい……!」
「ああ、俺もだ、よ!」
内心、奥のほうまで入れすぎたのではないかと心配していたので、少女の声を聞いて安心した。
再びペースを落とし、膣奥を亀頭で刺激してく。
そのたびに、少女の全身が震え、肌に汗が滲む。
膣の中がさらに脈動し、痙攣に近い刺激がペニスを包み込む。
少女の限界が近いらしい。
「(俺も、そろそろ……!)」
俺はピストンを速める。
強引なほどの速度のそれは、少女と俺をさらに追い詰めていく。
「………ふぁああ! なんか、白いの……きちゃう……!」
「俺も限界、だ……!」
彼女は上気した顔で何度も頷く。
俺は理性を手放し、膣を抉るようにペニスを抽挿させる。
内部のひだの一本一本が、一斉にペニスに絡みつき、締め上げる。
それが引き金となって、俺はとうとう絶頂に達する。
「………くぅうん!! 熱い、よぉ……!!」
直前で中から引き抜いたペニスの先端から、白濁の粘液が彼女の全身に降り注ぐ。
一度出したとは思えないほどの量の精液が、少女の体を汚す。
58聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 18:59:33 ID:kOmgZ3sy
その淫靡な光景に、俺は喉を鳴らす。
少女は陶然とした顔で、胸にかかった精液を指先で拭うと、ペロリと舐めた。
「………やっぱ、変な味」
そりゃそうだろうよ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

その後、綺麗に後片付けをした俺たちは、一も二もなく横になった。
精も根も尽き果てた、という感じだ。
泥のように眠る俺と彼女。
……。
………。
………………………。
俺は、尿意をおぼえ、ふ、と目を覚ました。
目覚まし時計のバックライトで時刻を確認。
もうすぐで日付が変わろうか、という時間だった。
横にいるはずの彼女の顔を覗いてみる。
寝ぼけているのか、暗いからなのか、彼女の顔が見えない。

………………?

というか、寝ている姿がない。
トイレだろうか?
俺は体を起こし、部屋の外にある一つしかないアパートの共同便所に向かう。
……電気がついていない。
それでも俺は、気を利かせてノックをしてみる。

コンコン。

しかし。
中に誰かが入っている気配はない。
思い切ってドアを開けてみると、そこには空っぽの便器があるだけだった。
………………。
とりあえず、スッキリするために、俺は用を足す。
そして、嫌な予感を感じながら、再び、俺の部屋に戻る。
薄暗い部屋。
外灯が差し込み、その光は仄かに寒々しい部屋の様子を映す。
……やっぱり、いない。
何処かに出かけたんだろうか?
俺は急速に冷えていく頭を抱え、それでも冷静になることを自分に強いる。
俺は玄関に、彼女の靴がないことを確認。
そして、一つの結論に至る。
……至ってしまう。

『………それに、今日だけだから……』

彼女は確かにそう言っていた。
『今日だけ』と……。

『………今日は、クリスマス……』

寒さと虚脱感で小刻みに震える体を、そっと、布団の中に差し入れる。
布団を良く見てみると、彼女との行為の後が、生々しく残っていた。
それをなるべく視界に入れないよう気をつけながら横になり、静かに目を閉じた。
……不思議なことなんて何一つ、なかった。
俺は思う。
彼女は正真正銘のサンタクロースだったのだ。
俺の願いが叶ったかどうかは微妙だが、それでも、もうクリスマスは終わったのだ。
クリスマスが終わった街に、サンタクロースは必要ない。
そうだ。
59聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 19:00:32 ID:kOmgZ3sy
サンタクロースがいないことなんて、小学校三年生のときに気づいていたじゃないか。
そんな俺が、サンタクロースがいないことを嘆くなんてなんて滑稽な事だろう。
馬鹿馬鹿しい。
下らない。
どうしようもないほど、下らないじゃないか。
……そうだ。


クリスマスの奇跡は、もう、終わったのだ。


彼女が寝ていたであろう場所に手を伸ばす。
真冬の外気は急速に彼女の痕跡をかき消し、もうソコにはなんの暖かさもなかった。
あるのは、ただ冷たい毛布だけ。
空虚な、空気があるだけ。
俺は、唇をかみ締める。
忘れろ。
忘れるんだ………!

……ああ、それでも。
………………………それでも……!!

俺はたまらなくなり、布団を吹き飛ばすと、全速力で着の身着のまま、部屋を飛び出した。
そして、そのままの勢いで、夜の街をひた走る。
商店街の直ぐ近くにあるアパート付近は、ただただ暗く、何の色彩も感じられない。
俺が探すのは、そんなモノトーンではない。
思い出すのは赤い色。
正気を疑うほどに赤い、彼女の服の色。
小心を確信するほど赤い彼女の顔の色。
水を差し出してくれた彼女の姿。
懸命にラーメンを啜る彼女の姿。
バイトに連れて行けと駄々をこねる彼女の姿。
名前を適当に偽造され、膨れっ面の彼女の姿。
ただの単純作業を真剣に仕事をする彼女の姿。
家へと歩く疲れ果てたよれよれの彼女の姿。

そして、契りが欲しいと、俺に全てを差し出してくれた、彼女の姿。

暗闇の道をただただ闇雲に走り、商店街を突っ切る。
だが。
日頃の運動不足がたたり、息も絶え絶え、町のアーケードの中心に、俺は座り込む。
目の前には何を意味しているのかいまいち理解に苦しむモニュメント。
それを取り囲むように立っているツリーの列。
夜の闇の中で、イルミネーションだけが虚しく点滅する。
俺は肩で息をしながら、次第に滲んでいくその光を睨みつける。

あぁ、畜生……!!


「別れの挨拶ぐらい……。していけよ、馬鹿野郎!!」


俺は天に向かって力いっぱいに叫ぶ。
不思議なことに、天を仰いだままの瞳から熱い雫があふれ出る。
俺はしばらくそのままで、動けなかった。
ああ、もうこの街にはメルヘンなんか一辺も存在しない。
底なしの現実が、そこにはあるだけなのだ。
俺は今日の日のことを忘れないだろう。
十年前の願い事を叶えに来てくれた、律儀で赤面症な少女のことを。
きっと、忘れない。
60聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 19:01:35 ID:kOmgZ3sy
空虚を胸のうちに抱えたまま帰路に着く。
コートのない体は、いつも以上に冷え、俺をさらに虚しくさせた。
「(もう、疲れた……)」
早く、布団の中にもぐりこみたい。
それじゃなくても、明日からは帰省の準備をしなければならないのだから。
早く寝て、すぐにでもこの空虚感を忘れたい。
俺は無用心にも開けっ放しだった玄関を開ける。

……………ん?

部屋の中が明るい。
出かける前に電気なんてつけたっけ?

そして、俺は見た。

物の少ない部屋の中で一際目を引く、色を。
正気を疑うほどに、赤いそれを。
俺は汚い玄関から、部屋の中、それの直ぐとなりに座り込む。

「………おかえり」

赤いそれは――彼女は、少し赤面しながらそう言った。
……言いやがった。

『おまえっ! 何処に行ってたんだあ!!』
とか叫びたいのだけれど、口からは虚しく空気が漏れるだけだ。
しょうがなく、深呼吸。
息を整えると、俺は言う。

「ただいま。……おかえり」

何とか言えるのはそれだけだ。
そして、そのまま倒れこむように彼女に抱きつく。
突然の行為に驚いたのだろう、彼女の体の鼓動が速まる。
腕の中が、熱い。
彼女が耳元でささやく。
「………どこ、いってたの?」
「そりゃ、こっちの台詞だよ……」
彼女はそっと体を離す。暖かい感触が、再び、離れていく。
そして、彼女はテーブルの上に置かれていた紙を見せ付けてきた。

「………私が行ってたのは――」
「行ってたのは?」
「――役場」

「役場?」
俺は、その紙をまじまじと見る。
左上にはこう書かれていた。

『婚姻届』

――『キレイなお嫁さん』という願いを叶えるためには、クリスマス中に婚姻届を出さなければならないのではないか?
そう気づいた彼女は、隣で寝息を立てている俺を起こすのも気が引けて、とりあえず、紙だけでも貰いに行った。
今日という日はもう、そう長くない。
彼女は走った。
そして、役場で念願の紙を手にいれ、その場で自分の分だけ記入。
こんなことなら俺を起こしてくるんだったと、後悔しながら家に戻る。
しかし、ついた家は空っぽ。
寝ていたはずの俺も、何処かに消えてしまった。
彼女は焦った。
61聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 19:02:21 ID:kOmgZ3sy
しかし、迷子になったときの基本は、その場を動かないことだと思い出し、彼女はひたすら俺の帰りを待っていたのだ――

彼女の説明を聞いて、俺は全身が脱力するのを感じた。
「……『今日だけ』とか、意味深に言ってなかったか?」
「………クリスマスは今日だけ、っていう意味……」
「……そこに他意は、ないのかい?」
「………他意?」
「……紛らわしいよ」
本当、紛らわしい。
俺は今まで取った一連の行動に、顔を赤くせざるをえない。

――『別れの挨拶ぐらい……。していけよ、馬鹿野郎!!』

――俺は天に向かって力いっぱいに叫ぶ。
――不思議なことに、天を仰いだままの瞳から熱い雫があふれ出る。
――俺はしばらくそのままで、動けなかった。
――ああ、もうこの街にはメルヘンなんか一辺も存在しない。
――底なしの現実が、そこにはあるだけなのだ。
――俺は今日の日のことを忘れないだろう。
――十年前の願い事を叶えに来てくれた、律儀で赤面症な少女のことを。
――きっと、忘れない。

……なにシリアスぶってたんだ。俺。
馬鹿みたいじゃないか……。
本っ当に、馬鹿みたいじゃないか!!

顔を真っ赤にする俺の心中など知るはずもない彼女は、そっぽを向きながら言う。
「………私は怒ってる……」
「は?」
そう言われ、彼女の顔をまじまじと見つめてみる。
たしかに眉尻が上がり、頬が膨れ、紅潮している。
俺は若干疲れを感じながら訊いた。
「何に怒ってんのさ」
彼女は、キッと俺を睨みつける。
……つうか、睨みつけられても全く怖くないんだが。
「………あなたが、おとなしく待ってなかったせいで――」
「せいで?」
「――日付が変わってしまった……!」

……つまり、十年越しのクリスマスの願いが叶えられなかった――

――ということだろう。
俺は吹き出した。
なんだ、そんなことか。
俺は、抵抗する彼女を強引に抱き寄せた。
そして、なるべく平静を装い、言う。

「だったらさぁ、来年のクリスマスまでここにいればいいじゃん」
「………?」
「来年でも、再来年でもいい――」
「………………」

「――ずっと、一緒にいようぜ」
「……………!!」

どうせ、十年越しの願い事なんだ。
それが十一年越しになろうが、十二年越しになろうが。
大差なんてない。
問題はそんなところじゃない。
ずっと一緒にいられれば、それでいい。
62聖なる夜の小噺:2007/12/25(火) 19:03:31 ID:kOmgZ3sy
……ああ、俺はいつのまにこいつに夢中になっていたんだろうな。
「……返事が欲しいんだけれど? サンタ・クロースちゃん」

そして、真っ赤になりながら彼女は、涙声でこう言った。
「………うん……!」

結局のところ。
これから何があろうとも、俺はこの日を忘れることはないだろう。
今日のこの日を。
聖なる日の、聖なる奇跡を。

そして、全ての人に申し上げる。
Merry Christmas!






























その後の雑記。
「ていうか、君、戸籍あんの?」
自慢げに俺に婚姻届の女性欄を見せ付ける彼女。
そこには。
「黒須、聖子〜!?」
「………(エッヘン!)」
「エッヘンじゃねぇよ。何に勝ち誇ってんだよ!? 偽造戸籍じゃないか!」
「………サンタに不可能はない……!!」
………………………メルヘンって……。
「……つうか。君、アレだけ『黒須聖子』嫌がってたじゃないか。いいのか?」
「………いいの」
「本当か〜? 『サンタ・クロース』は誇りなんだろ? 今からでも変――」
「………アナタがつけてくれた、大切な名前だから……。いい」
「……! 君……」
「………んぶっ……! あぅ、な、何を………」
「……今度は俺のターンからだぜ……!」
「………あぅぅうう………///////」
63ふみお:2007/12/25(火) 19:09:36 ID:kOmgZ3sy
以上です。

途中、投下を失敗したことをお詫び申し上げます。

この部分。

『………………。
朝日が薄く差し込む、仄明るい部屋。
土下座のまま動かない俺と、座ったままの少女。
静寂が場を支配し、時計の針の音だけが、それに逆らっていた。
………。
…………。
……………。
………………………。
長い沈黙。
暗い未来を自動的に想像する頭を、ほんの少しだけ浮かせ、俺は少女の様子を伺う。
少女は音もなく立ち上がると、玄関の方角へと足を向ける。』



『朝日が薄く差し込む、仄明るい部屋。
土下座のまま動かない俺と、座ったままの少女。
静寂が場を支配し、時計の針の音だけが、それに逆らっていた。
女は音もなく立ち上がると、玄関の方角へと足を向ける。』

と投下してしまいました。


読まれていて違和感を感じさせてしまい、失礼をいたしました。

もっとSSの勉強をし、精進したいと思います。


それでは、最後になりましたが、ここまでSSに付き合ってくださった方々、
駄文の垂れ流しを共用してくださった方々。
誠に有難うございました。

それでは、皆様、皆々様方、メリークリスマス!
そして、よいお年を!!
64名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 01:02:20 ID:Dyl6UM1X
これは可愛いサンタですね。GJです。
65名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 02:22:12 ID:zh9bgTCe
GJです。ただ、読んでてひとつ思ったのは・・・




サンタクロースはどこの情報統合思念体ですか?
66名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 03:30:23 ID:T3NFt8pS
GJ!GJ!!

思わず全裸でお神輿を担いでワショーーーイしたくなった

黒須聖子、いい名前じゃん
可愛いよサンタ可愛いよ
67名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 11:03:07 ID:/yVA07wE
いいプレゼントだったぜ……!
68名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 12:54:15 ID:4M64VT4S
GJ!!
イイヨー
読みやすくてテンポもよくて良かったです


>>65
そりゃあこのスレのに決まってるでしょう
69名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 13:30:50 ID:y1JXk7Rj
一瞬『黒柳徹子』に見えたのは俺だけでいい
70名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 14:25:09 ID:hqJkxkuE
ほしゅあげ
71名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 16:08:05 ID:DHO5NH7M
保守だっ!
72名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 20:35:58 ID:aOo2sxg5
お姉ちゃんが喋った…
私も…言わなきゃ…

「保守age」
73さんじゅ:2007/12/26(水) 21:37:28 ID:DZjAuDIP
返事が遅くなって申し訳ない
「ソラカラノオクリモノ」の執筆者です。
 
>>32
では、これから俺は「さんじゅ」と名乗りまふ
 
>>ふみお氏
テンポのいい進め方とギャグが好きです、GJ!
俺はギャグセンスないので見習いたいです・・・・・・OTZ
 
そして、俺のようなヘタレに沢山のGJをくれた皆様
ありがとうごぜーます!
すぐにでもレスしたかったんですが、
「そんな暇あったら読み手様にさっさと続き書いて差し上げろ!
このバカチンがぁっ!」
といふ、デムパを受信したので今の今まで執筆してた所、
つい先ほど完成しました。自分でもびっくりの速さ
でも、さっきから何故か重いのでうまく投下できるかわかりません(汗
 
 

では、次の項目に引っかかる方はスルー対象で夜露死苦
 
・本スレの「ソラカラノオクリモノ」を読んでいない方
・今回もエロ無し   ゴメンナサイ・・・・・・OTZ
 
では、投下
74「ソラカラノオクリモノ(小雪編)」1:2007/12/26(水) 21:40:48 ID:DZjAuDIP
私はサンタクロース。
子供達にプレゼントを与える存在で、それ以外の何者でもない。
今日は12月24日。私がこの世界に存在する事が出来る唯一の、特別な1日。
子供達の純粋なサンタを信じる思いで私達は生まれる。雪で人間の体と服を作り、
雪で作られたソリと共に、この願いを叶えるサンタの袋を使ってプレゼントを配るのが私の使命。
それが私の存在意義。
私が担当する事になった街で、私はあの人に出会いました。
そう、優しいあの人に・・・・・・

目を開けるとそこはどこかの部屋らしく、暗い夜空ではない部屋の天井が見えました。
何でだろう?・・・・・・そうだ。
私は恥ずかしながらも高所恐怖症で、ソリを低空で飛んでいたら、突然何かが私の頭にぶつかってきて、
それでソリから落ちてしまったのです。その後の記憶は無いので、たぶん気絶したのでしょう。
私はベッドに寝かされていました。とりあえず体を起こすと、すぐ近くに男の人が居ました。
何だか頭を抱えながらうんうん唸っています。
きっとこの人が気絶した私を運んで着てくれたのでしょう。私は作り物で、喋る事が出来ないから
男の人が気が付くまで待つことにしました。
しばらく悩んでいた男の人は、やっと顔を上げて私を見ました。けど、すぐ私を見たまま今度は
固まってしまい、動かなくなってしまいます。
どうしたのだろう?私はつい首を傾げました。すると男の人はいきなり慌て始めて、
「うわぁぁぁああああ?!ちょ、ちょっと待て!お願いだから騒がないでくれ!別に何もしてないから!
いや、本当に!お願いだから騒がずに俺の話を聞いてくれ!!」
と、早口にまくし立て、今度は土下座をしてきました。
私のこの人への第一印象は「変な人」でした。
75「ソラカラノオクリモノ(小雪編)」2:2007/12/26(水) 21:42:39 ID:DZjAuDIP
「えっと・・・・・・コーヒーでよかったら飲む?」
男の人は湯気の出ている飲み物を指差して聞いてきました。だけど、熱い物を飲んでしまうと、
私は雪で出来てるので溶けてしまいかねません。
ふるふる、と首を振ってお断りしました。
「じゃ、じゃあお茶は?」
今度は違うものを勧めてきました。なんでここまでしてくれるのでしょう?でも、熱いのは
どうしても飲めません。
ふるふる
「う・・・・・・暖かい飲み物はそれぐらいしか・・・・・・あ、もしかして飲みたくない?」
そういうわけでも無いので今度も首を振ります。
「え?じゃあ・・・・・・冷たいの?」
それなら飲めます。この部屋はこの男の人に合わせてるのか、熱かったので頷きました。
すると男の人は冷蔵庫を開けて何やらぶつぶつ呟いています。やがて、
「・・・・・・アイスでよけりゃ、食べるか?」
と、言ってきました。
アイス。確か甘いものを凍らせて食べるお菓子。知識では知っているが、食べた事はありません。
私は思わず頷いてしまいました。凍った食べ物なら問題無しだし、なによりもどんなものか
知りたかったからです。
「じゃあ・・・・・・はい」
スプーンと一緒にそれを渡されました。私はさっそく蓋を開けて一口食べてみます。
美味しい・・・・・・!
味覚は無いはずなのに、それがとても美味しく感じました。きっと私自身が雪で出来てるから
体に滲んで、美味しく感じているのだろうと思います。
「とりあえず、自己紹介しとこうか。俺は伊東 耕太(いとう こうた)。君は?」
男の人が聞いてきました。
どうしよう?私は喋る事が出来ません。どうしたものかと考える私の目に、本棚が見えました。
そうだ、文字で教えればよいのだ。
私はさっそく服の中にしまっていたサンタの袋を取り出しました。
「え?ちょ、ちょっと待って?どこにそんなもの隠してたの?!」
サンタクロースがサンタの袋を出す事に何を驚いているのでしょう?とにかく、名前を教える為にも
目的の物を出さないといけません。私は袋に手を入れ、望む物をイメージします・・・・・・ありました。
取り出したのはスケッチブックとペン。
私はさっそくスケッチブックに自分の名前を書いて見せます。
「・・・・・・小雪?」
そうです。
「えっと、君の名前?」
だから、そうですよ?
「・・・・・・もしかして、喋れないの?」
あ、気が付いてくれた。私は頷きました。
76「ソラカラノオクリモノ(小雪編)」3:2007/12/26(水) 21:43:20 ID:DZjAuDIP
やっぱりこーたは、とてもいい人でした。
私は高所恐怖症でうまくソリを操れないので、こーたにお願いしてみました。
『手伝ってくれませんか?』
最初は戸惑っていたけど、最後は快く引き受けてくれました。
私はこーたに、サンタを信じる子供達にしか見えないサンタ服を渡して準備してもらいました。
準備が出来た所で、今度はトナとカイを呼ぶ為にポケットから笛を取り出し、吹きました。すぐに
トナとカイが来るはずです。
10秒ほどで空から鈴の音が聞こえてきます。こーたも鈴の音に気づいたらしく、
「・・・・・・鈴の音?」
シャンシャン・・・・・・
鈴の音はだんだんはっきりと聞こえてきました。来た、トナとカイです。こーたも、窓の近くまで
来ると外を見上げ、トナとカイを見つけると、
「し、鹿が飛んでるぅ?!」
また驚いてます。駄目ですよ、鹿とトナカイと間違えるなんて。私はまた文字を書いて、こーたに
鹿じゃなく、トナカイだという事と教えます。もちろん名前も。
「いや、トナカイなんて見たことないし。・・・・・・てか、名前にネーミングセンスを感じないんだが」
そんな事言われても・・・・・・私も困るんですが
「・・・・・・これじゃ、まんまサンタじゃねーか」
あれ、気づいてなかったんですか?
・・・・・・そういえば、私がサンタクロースだと説明した記憶が無いです。
こーたと筆談してたらすっかり忘れていたようです。失敗しました。
私は改めてこーたに私はサンタクロースだという事と、お手伝いしてもらう内容を教えました。
「マジっすか・・・・・・」
本当ですよ?
私はソリに乗り込みました。大丈夫、この高さならまだ怖くありません。呆然としているこーたの腕を
引っ張って、ソリに乗るように案内しました。こーたは何故か叫ぶと、やっとソリに乗ってくれました。
私は色々とソリやトナとカイの操縦方法を教えたり、ソリについたカーナビについて説明しました。
その度にこーたは、怒ってはいないけど、大声で何か叫ばずにはいられなかったようです。
こーたはとても楽しい人ですね。
私が今日の24時までに配り終えなきゃいけないと教えると、こーたは
「あと3時間しか無いじゃねーか?!あぁもう!行くぞ!!」
と叫び、さっそく手綱を操ってソリを飛ばしました。
さあ、ここからが問題です。私はどんどん地上から離れていく景色に怖くなってしまい、
とうとう目を瞑ってしまいました。
隣ではこーたが空を飛ぶ快感に大声を出しながら興奮しています。きっと人間には
体験出来ない事ですから、それはまあいいんですが、こっちは怖いんです・・・・・・
早く最初の子供のところに着かないかなと思っていると、こーたが突然聞いてきました。
「・・・・・・小雪、もしかして、高いの苦手?」
やっぱりバレちゃったようです。私はバツが悪くて小さく頷く事しか出来ませんでした。
「・・・・・・ぷ、あははは!」
あ、笑うなんて酷いです・・・・・・。私はそんなに笑わなくても、と抗議の目でこーたを見ました。
「ゴメンゴメン。馬鹿にした訳じゃないんだ。でも、怖かったらそんな服の端を摑むんじゃなくて
俺に体に摑まったんだっていいんだぞ?」
そう言われて、私はいつの間にかこーたの服の端を摑んでいるのに気がつきました。
そうですね、こーたの言ったとおりこーたの体に摑まればあまり怖くないかも知れません。こーたの
許可も出ているので、私はこーたに寄り添って抱きつきました。
・・・・・・何ででしょう?摑まってるだけなのにもう怖くなくて、とても安心します・・・・・・
「も、もう怖くないか?」
はい。
やっぱりこーたはとてもいい人です。
77「ソラカラノオクリモノ(小雪編)」4:2007/12/26(水) 21:44:05 ID:DZjAuDIP
「なぁ、どうやって入るんだ?」
私達は1件目の家に到着しました。私は家全体を見て子供の位置を確認します。
・・・・・・居ました。2階のベランダの窓からすぐ近くに居るようです。 子供の位置が分らなければ
サンタ失格ですからね。
私は2階のベランダを指差してこーたに教えました。
「・・・・・・まぁ、今時の家に煙突なんてないしな」
そうなんですよね・・・・・・そうすれば楽に入れるのですけど。
耕太は手綱を軽く引っ張りながら、トナとカイのスピードを落としてベランダの横で止めてくれました。
操縦、私よりとても上手いです。少しだけ、その才能に嫉妬しちゃいます。
「ほら」
耕太は先にベランダに降りて、私に手を差し伸べてくれました。言葉遣いは紳士じゃないですけど、
紳士みたいです。 だから私も微笑んで頭を下げました。
「ところでさ・・・・・・」
何でしょう?
「俺たち、かなり目立ってないか?トナカイとソリが飛んでるのを見られたらかなりの大騒ぎになると
思うんだが・・・・・・」
・・・・・・そうでした。またしても説明していませんでした。
私は再度、文字を書いて書いて教えてあげました。
「と、言う事は、そのソリも同じ?」
そうなんです。
こーたは何故か微妙に納得してないようです。
「じゃ、さっさとプレゼント渡すか。時間も無いし・・・・・・って、やっぱり鍵かかってるじゃん。
どーするんだ?」
そこでこのサンタクロースの力です。
私は鍵に向けて手を伸ばし、念じます。この鍵を開けて子供にプレゼントを渡させて下さい、と。
するとどうでしょう。鍵は私に答えてくれて、私達を受け入れるように開けてくれました。
「・・・・・・サンタって、すごいな」
そうなんです。サンタクロースの力は、子供達の純粋な信じる想いが源なんです。信じるからこそ、
私達は生まれ、プレゼントを渡す為に必要な力を与えてくれるのです。
私はつい、関心するこーたに得意げになってしまい、胸を張っちゃいました。
中に入ると、そこは子供部屋になっていて、奥のほうに子供がベッドで寝ていました。
私は音を立てないようにして近づき、さっそくサンタの袋でこの子が望む物を探します。
最初は中身は空っぽで、何もつかめません。しばらく手でぐるぐると回しながら探すと、
手に何かが触れました。きっとこれです。私はそれをつかんでサンタの袋から取り出しました。
「・・・・・・戦隊物のロボット?」
こーたが出てきたものを見て、呟きます。何のことかはよく分りませんでしたが、これがこの子の
欲しい物は間違いありません。
私はそっとソレをこの子の枕元に置こうとすると、突然目が開いて私たちを見ました。
「・・・・・・サンタさん?」
あらら、起きてしまいましたか。
「げ?!」
後ろでこーたが慌てたようですが、大丈夫。
私はこの子にプレゼントをそっと渡し、人差し指を口に当てて「静かにしてね?」と、合図を
しました。この子は嬉しそうにそれを受け取り、抱き締めました。
やっぱりこの瞬間は私も嬉しくなります。サンタクロース冥利に尽きるってやつですね。
私は優しくこの子の頭を撫でて、この子が楽しい夢を見れるようにサンタの力を使いました。
「サンタさん、ありが・・・とう・・・・・・すぅ」
やがて、この子はお礼を言い終えると同時に、目を閉じて眠りました。今頃、楽しい夢を
見ているはずです。
でも、やがてこの子は成長していく途中できっとサンタの存在を信じなくなるでしょう・・・・・・。
この玩具も、きっといつかは捨てられてしまうでしょう。それでも、いつかこの子が大人になって
子供が出来た時、朝起きた時の嬉しさを覚えていたのなら、「サンタクロースは居るよ」と、
言って欲しい。その子供がサンタクロースを信じたならば、きっと次の私が、その子供に
プレゼントを渡しに行くでしょうから・・・・・・。
私はこの子のふとんを掛け直し、こーたに「終わりました」と知らせるために微笑みました。
78「ソラカラノオクリモノ(小雪編)」5:2007/12/26(水) 21:44:46 ID:DZjAuDIP
それからはこーたが手伝ってくれたおかげでお仕事は順調に進みました。
とても楽しい時間でした。
「次で最後か・・・・・・」
そう、次で最後になりました。時間内で配り終えそうなのに、この時間が終わってしまうと
考えると、なんだか寂しい気がします・・・・・・。
「時間が無いと思ってたけど、意外と早く配り終えそうだな。やっぱり空を飛んでの移動だと
回り道とかないから早いぜ」
それは違うと思います。
『こーたが手伝ってくれたおかげです。手伝ってくれなかったら間に合いませんでした。』
「ははは、まぁ次で最後だ。気を抜かずにがんばろう」
そうですね、こーたと一緒に私もがんばりたいと思います。
最後の目的地へ着きました。
私は今までと同じようにサンタの力を使い、子供の場所を見つけると、こーたにその場所を教え、
家の中へと入りました。
「・・・・・・すげーな」
耕太は思わず呟きました。
それもそのはず、今までの子供達と比べ、部屋の大きさが違いましたからね。
部屋の大きさはこーたの部屋ほどの大きさがあり、所々に大小様々なぬいぐるみが並んでいて、
部屋の真ん中には一般家庭用より一際大きいクリスマスツリーが鎮座していました。
差別する訳ではありませんが、お金持ちの子供はサンタクロースをほとんど信じていません。
そのほとんどの理由は、親がサンタは居ないと子供に教えてプレゼントをする事が多いからです・・・・・・。
残念ながら、信じていない子供にはこのサンタの袋からは何も出てこないので、
何かしてあげる事が出来ないのです・・・・・・。
でも、この家の子はサンタクロースを信じてるようです。でなければ、反応しないはずですから。
高価そうなベッドでぬいぐるみを抱きながら眠る女の子の近くに寄り、私はこの子の望むものを
サンタの袋から探しました。
・・・・・・これですね。・・・・・・あれ?今までのプレゼントと何かが違う気がします。
「どうした?」
こーたが私の様子に気づいたようです。私はとりあえず、ソレをサンタの袋から取り出しました。
「ビン?香水か何かか?・・・・・・そういえば、ラッピングされてない上にカードも付いてないな?」
そうなのです。今まではちゃんとラッピングしてメッセージカードも付いていたのに、
何故かそれには付いていませんでした。・・・・・・こんな事、初めてです。
「どーゆー事だ??・・・・・・ん?」
こーたは何かに気が付いたようで、この子の傍でなにやらごそごそとした後、紙切れを
取り出しました。私も何だろうと横から覗いて見ると、
79「ソラカラノオクリモノ(小雪編)」6:2007/12/26(水) 21:45:30 ID:DZjAuDIP
『いもうとか、おとうとがほしいです』
と、子供らしい拙い字でこう書かれていました。この場合、赤ちゃんが出てくるはずなのに
何でこのビンが出てきたんしょう?私は疑問を文字に変えてこーたに見せると、
「いやいや、ちょっと待て!出せるのかよ?!」
こーたはサンタの袋から赤ちゃんが出てこないと思っていたのでしょうか?サンタの袋は
子供の願いを叶える為の物。それが強ければ強いほど何でも出せます。
『出せますよ?純粋に望めば』
「いやいやいやいや、物なら別にそんなに問題にならないだろうけど、赤ちゃんはマズイだろ、
常識的に考えて・・・・・・」
よくわかりませんが、赤ちゃんを出すのはマズイようです。でも、それだとこの子の願いが
叶えられません。
「と、とにかく、ちょっとその小瓶、見せてくれないか?」
そうですね、こーたなら何か分るかも知れません。私は小瓶を渡しました。
しばらくこーたは色んな角度から小瓶を見ていましたが、小瓶の底の方に何かを見つけたようです。
「工エエェェ(´д`)ェェエエ工」
あ、こーたがすごく面白い顔になりました。小瓶の底に何があったんでしょう?
「説明文、短っ!」
私には全然分りません。痺れを切らしてしまった私は、こーたに質問をしました。
『何かわかりました?』
「あー・・・・・・んーと(汗」
何も分らなかったんでしょうか?こーたがしばらく考えるように唸っていると、
「分ったぞ。コレを使って親に赤ちゃんを作らせるんだ」
どういう事でしょう?その小瓶には赤ちゃんを作る為に必要な道具なんでしょうか?私は更に
こーたに質問する。
「いや・・・・・・そりゃ赤ちゃんを作る上で必要な行為を・・・・・・」
必要な行為。つまり、親が何かをする事で赤ちゃんが生まれるという事でしょうか?それには
その小瓶が必要、と・・・・・・なるほど、こーたは物知りなんですね。
・・・・・・ところで、何をすれば赤ちゃんが出来るんでしょうか??
「と、とにかく!この子の両親を探そう。」
あ、聞こうと思ったのに・・・・・・でも、こーたの言うとおりですね。それに赤ちゃんの作る行為は
親を見つければ見れそうですしね。
「今、帰ったぞ」
そう思った時、したの方から男の人の声が聞こえてきました。
「ナイスタイミング!さっそく行くぞ」
私はこーたの言葉に頷いて、その後に付いて行きました。
80「ソラカラノオクリモノ(小雪編)」7:2007/12/26(水) 21:46:25 ID:DZjAuDIP
1階に降りた私達が見たのは、あの子の親が喧嘩する姿でした。
私にはわかりませんでした。
何故、そんな大きな声で言い合うのでしょうか?
何故、そんなに怖い顔で相手を睨むんでしょうか?
私の中の知識では、「夫婦はお互いを好き合い、一緒に暮らしていく二人」となってましたが、
目の前の二人はとてもそうには見えません。
このままだといずれ二人は夫婦ではなくなる・・・・・・そんな確信がありました。
二人は怖い顔のまま更に声が大きくなり、言い合いを続けています。
私は怖くなりました・・・・・・。
すぐにでもこの場から離れたいと思うほどに。
こんな事は早く終わって欲しい。こんな喧嘩をする二人を見続けたくありませんでした。
でもそんな時、こーたは私を優しく抱き締めてくれました。
「大丈夫、大丈夫だから。泣かないで・・・・・・」
なんで、こーたにこう優しく抱き締められると安心出来るんでしょうか・・・・・・?
何でか分りませんが、きっとっこーたがとても優しい人だからなんでしょう・・・・・・。
だから、私はこーたの言葉を信じます。
こーたに抱き締められてる内に、私は落ち着いてきました。そして、こーたと一緒に夫婦の
様子を見守る事にしました。夫婦はいつの間にか静かになり、お互い無言になると、物音だけが
静かに響きました。
それからがとても凄かったです。
お互いに謝罪の言葉が出て、仲直りしてくれたと思ったら、突然キスをし始めました。
唇と唇を重ね合わせる行為がキス。でも、私が見たのはそれ以上のものでした。良く見ると
お互いの口の中を貪るように舌を絡めあい、唾液が絡み合ってくちゅ・・・チャパ・・・と音が
出るのも構わず続ける夫婦の姿。
こ・・・・・・これが赤ちゃんを作るために必要な行為なんでしょうか?
私は見ていて恥ずかしく感じる程、夫婦の二人はお互いを求め合っています。
「小雪、小雪」
こーたの声と共に肩を揺さぶられ、思わずビックリしてしまいました。
「もう大丈夫だろ。仲直りしたみたいだし」
私とした事が恥ずかしいと思いながらも夢中で見てしまっていたようです。
しかも、そんな姿をこーたに見られてしまいました・・・・・・私も恥かしい・・・・・・。
こーたに急かされて、私もこーたの後を追って部屋から出ました。
あれだけ恥かしいキスをしたんですから、きっと赤ちゃんが生まれますね。これであの子の願いを
かなえることが出来ました。
全部、こーたのおかげですね。すごく感謝してます。
81「ソラカラノオクリモノ(小雪編)」8:2007/12/26(水) 21:55:22 ID:B7MvJfty
全ての仕事が終わりました。
ソリはこーたのアパートへ戻る為に街の上を飛び、私はまたこーたの横で抱きつきながら
街を見ていました。もう定位置と呼んでもいいかもしれません。
「・・・・・・綺麗だな」
こーたが街を見下ろしながら呟きました。私も町を見下ろし、頷きます。
とても綺麗でした。例え、今日の本当の意味を理解していなくても、特別な日に特別な人と
一緒にいる時間・・・・・・。それを更に盛り上げるように所々ライトアップされた街・・・・・・。
「これで、お手伝いも終わりか・・・・・・」
ボソリ、とこーたが呟きました。
そうなんですよね・・・・・・。お別れなんですよね・・・・・・。
お仕事が無事全部終わって嬉しいはずなのに、なんでこんなに寂しく感じるんでしょうか・・・・・・。
あの夫婦を見てから私はなんだか変です。
こーたの傍にもっと居たいなんて考えるなんて・・・・・・。
でも、仕方が無いんです。私は今日の24時までしか存在できないサンタクロースなんですから。
だから、せめて別れるまでのこの僅かな時間だけでも、こーたと一緒に居たい。そう思いました。
もう会えないけど、そう思う事ぐらいはいいですよね・・・・・・?
そして、こーたはアパート近くの場所へソリを下ろして止めました。近くには自動販売機という
物が寂しく道路にポツンと立っています。
「おつかれ、間に合ってよかったな」
ソリから降りたこーたは私に声をかけます。
・・・・・・そういえば、こーたに手伝ってくれたお礼をしていませんでした。
『本当にありがとうございました。こーたのおかげで私の使命も無事終えることが出来ました』
「いや、俺のほうこそ貴重な体験をさせてもらえて楽しかったよ」
そうかもしれません。私とこーたは・・・・・・違いますから。でも、これでは手伝ってくれたお礼には
全然足りませんし、何より私の気が済みません。
『お礼と言ってはなんですが、欲しいものを言ってください。特別にクリスマスプレゼントとして
好きなものを差し上げます』
「・・・・・・マジで?」
本当です。・・・・・・本当はやっちゃいけない事ですけどね。
「欲しいもの・・・・・・」
真剣に考えるこーた。時間があまりないので私もサンタの袋を準備します。
「決めた」
さぁ、どうぞ。準備は出来ています。
「小雪が、欲しい」
私は、こーたが何を言ってるのか一瞬分りませんでした。
「もちろん、小雪が迷惑じゃなければだけど。・・・・・・俺色々と考えてみたんだ。何が欲しいのかって、
そしたら真っ先に頭に浮かんできたのが、小雪の笑顔だったんだ。小雪と出逢って1日も
経ってないけど、今までの誰よりもすごく印象に残ってるんだ」
82「ソラカラノオクリモノ(小雪編)」9:2007/12/26(水) 21:56:26 ID:B7MvJfty
そんな事、言わないで下さい・・・・・・。
「俺、欲張りだからさ。小雪の笑顔が出てきたら止まらなくなっちゃって、街に出て一緒に
買い物したり、色んな所にデートしたり、食事したりしたいと思った。ずっと毎日小雪の笑顔を
見ていたい・・・・・・」
止めてください・・・・・・!そんな事言われたら私は・・・・・・!
「だからもう一度だけ・・・・・・小雪が欲しい」
・・・・・・そんなこと言われたら、もう別れたく無くなっちゃうじゃないですか。
もうすぐ私は消えてしまうのに・・・・・・。無理だと分ってるのに。
「あぁ?!ゴメン!迷惑だった?」
こーたが私を見て慌て始めた。そこで私は初めて気が付いた。
自分が、泣いている事に。
なんで、私は泣いてるんでしょうか?
私は雪で出来た人形なのに・・・・・・どうして、こんなに目から涙が出てくるんですか?
なんで、こんなに苦しいんですか?
分らない・・・・・・ワカラナイ!
私は訳が分らなくなって首を振りました。
「迷惑じゃない・・・・・・?じゃ、なんで泣いて・・・・・・?」
こーたの声が聞こえる。
そうだ、私はこーたに教えなければいけません。自分が消えてしまう事を・・・・・・。
目からの涙で視界が歪みます。腕も震えてきました。スケッチブックに文字をうまく書けなくて、
何度も涙を拭いても、決して枯れないかのようにどんどんと溢れてきます・・・・・・
『私は サンタクロース です。  私が私で 居られる のは24日 という今日だけ なんです。
24日を過 ぎたら  私は消えて  しまうんです』
なんとか書けたものはそれは酷いものでした。腕の震えで文字は変に、更に涙がスケッチブックに
落ちて、文字を滲ませて読めるかどうか怪しいものでした。
それでも、こーたには伝わったらしく、
「嘘だろ・・・・・・?」
・・・・・・本当なんです。私は首を振って否定しました・・・・・・。
「・・・・・・そんな」
ごめんなさい・・・・・・こんな事なら、私達は出会わなければよかったですね・・・・・・。
あの時、私が手伝ってと言わなければ、こーたは全て何事もなかったはずなのに・・・・・・。
私が巻き込んでしまった為に、こーたに悲しい思いをさせるなんて・・・・・・最低ですね、私。
83「ソラカラノオクリモノ(小雪編)」10:2007/12/26(水) 22:09:08 ID:hnpw19yL
「嫌だ!俺は小雪と別れたくないんだ!一緒に居たいんだ!一緒に遊んだり、一緒にどこか出かけて
色んな景色を見たり、とにかく色んな事を小雪と一緒にしたいんだ!」
私も一緒に居たいんです!・・・・・・でも仕方ないじゃないですか。
「・・・・・・だから!お願いだから消えないでくれ!頼む!」
日付が変わるまで、残り時間は5秒・・・・・・
あぁ・・・・・・この時ほど喋れないのがもどかしいと思った事はありません。
私はこーたに沢山のものを貰いました。
こーたとの、思い出の数々・・・・・・。
こーたへの、この気持ち・・・・・・。
こーたに伝えたいのに、もう時間がありません。
たくさん、たくさんあるのに伝えられないなんてとても残酷です・・・・・・。
あぁ・・・・・・そうか。これがきっと人の心なんですね。悲しくて、寂しくて、大切な人と別れたくない
この気持ちが・・・・・・。
こーたは泣きそうな顔でした。ごめんなさい、私なんかの為にどうか泣かないで下さい・・・・・・。
残り、3秒・・・・・・
私はこーたを優しく抱き締め、初めてのキスをしました。
どうか、伝わって欲しい。こーたへの、私の全ての気持ちを込めた想いを・・・・・・。

初めてアイスを食べさせてもらった時。
美味しかった・・・・・・

怖がってる私がこーたに抱きつかせてもらった時。
とても安心した・・・・・・

プレゼントをこーたと一緒に配ってる時間。
仕事なのに、とても楽しかった・・・・・・

最後の家でこーたが優しく抱き締めてくれた時。
とても優しい人・・・・・・

最後の仕事を終えて、アパートに帰るとき時間。
そろそろお別れだと思うととても寂しい・・・・・・でも、せめてその時まではこーたと一緒に
居たいと思った・・・・・・

伝わっていると、とても嬉しい。
だから私は、泣きながらもこーたに笑顔をみせる。・・・・・・うまく出来たかな?
残り、1秒・・・・・・
笑顔で最後に伝えます。笑顔じゃないと駄目だから・・・・・・

ありがとう

「こゆ・・・・・・!」

さようなら・・・・・・

0。日付が変わり、魔法は解ける・・・・・・。
私の体は元の雪に戻り、支えきれず地面へと崩れ、私の意識は途切れる・・・・・・。

                            小雪編 完
84さんじゅ:2007/12/26(水) 22:18:50 ID:hnpw19yL
以上です
 
 
耕太編だと訳が分らなかった小雪の行動と考えを中心に書いてみますた。
いかがだったでしょか?
あ、あと
「ここはこうした方が良い」トカ
「ここはこうすべき」トカ
アドバイスがあればどんどん言って下さい。次回から意識して
書くようにしますので
 
さて、年始年末は忙しいので次のSSは年明けのしばらくしてからに
なっちゃいそうです。
 
では最後に次のSSの参考にする為に聞きたい
 
ハッピーエンドは好きですか?
85名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 22:51:12 ID:U1mmnJxS
>>84
大好きです。
砂をリットル単位で掃きそうなくらいに甘いのをお願いします
86名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 22:57:11 ID:aOo2sxg5
GJ!!

俺はハッピーエンドで読みたいな。
87名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 01:18:20 ID:gn8Y8hRQ
…GJで…す…。
お願い…二人を……幸せにしてあげて…
88名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 02:11:29 ID:Bn/PGZ2Q
俺決めた!
今日からサンタクロースを信じる。
89名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 03:06:59 ID:NhJAfbkX
多分…大丈夫…だろうけれど…
…保守…age?
90名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 10:31:43 ID:/uoSRDvg
とりあえず、板全体が緊急事態な訳だし、前スレは保管庫収蔵も無事に終わって、役目を終えたわけだから、
前スレの捕手はやめとこうと提案する。

前スレが残ったかわりに、他のスレが落ちるのは申し訳ないように思う。
91名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 10:36:45 ID:WtPmsHy+
>>90
そうだな。
だから、480KBまで立てないでおこうと言っていたのになぁ。
92さんじゅ:2007/12/28(金) 21:30:43 ID:XDVgpQkV
>>90
>>91
スマン、俺が空気読まずに新スレに方に投下したせいだ・・・・・・OTZ
ちゃんと前スレから投下すべきだった
迷惑かけてゴメン
93名無しさん@ピンキー:2007/12/28(金) 23:26:10 ID:d0s6quOp
>>92
大丈夫だ、容量的に
気にしたら負けー


ってか、前スレと現スレが綺麗に並んでるな……イイッ!!
94名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 13:41:03 ID:vnUsk/US
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
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アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
95名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 13:44:17 ID:vnUsk/US
せっせっせっせああああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!
はっはっはあうおおおおおおおおおお
うおおおおおおおおおおおりゃああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
きょえええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
96名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 16:02:08 ID:xj9zRz99
97名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 18:31:56 ID:PgPpHOmh
はぁ……着物無口娘を想像しながら新年を迎えようか
98名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 20:30:08 ID:xj9zRz99
初めての振袖に頬を赤らめながら
くるりと回って見せて微笑む無口娘
99名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 21:05:47 ID:qrlICCFf
じゃあ、大晦日にパジャマで目を擦りながら0時まで起きてようと頑張る無口はもらった
100名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 21:24:54 ID:A9xSvPZA
無口ちゃんとそばをすするのは俺だ!
101名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 22:17:18 ID:gWt4hToz
「……」
俺の隣には無口な、かわいらしい女の子がいる。
「…?」
俺が見てることに気づくと、ニコッと笑いながら首を傾げる。
さらに今日は初詣。
つまり着物を着ている訳で…
「…」
見とれていると彼女は俺を指差し一言。
「……H…」
そう、俺はHだ。
だから……
「いただきます!!」
「!?」
彼女に飛びかかり、喰ってやることにした。


オチ?ないよ。
エロ?ないよ。
暇だから書いた。
後悔?してるよ。
まぁあとは脳内補完でよろしく。
102名無しさん@ピンキー:2007/12/30(日) 01:30:51 ID:L8HRU77b
オチがないならその無口娘は頂いていくぜ。
返して欲しかったら続きを書いて貰おう。

・・・俺のイメージでは無口娘はロリ体型なんだが、きょぬーの少女はいたのか?
103名無しさん@ピンキー:2007/12/30(日) 19:52:48 ID:7rbtdTcE
>>102
居た……かな

うーん……明確にきょぬーと表示してるやつはないと思った
形がいいとか、バランスがいいとかはあったけど
まぁ、今まで投下された作品できょぬーはいなかった多分
104かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2007/12/30(日) 23:42:19 ID:krJDweVi
前スレ埋めました。
一週間遅れでクリスマスネタ投下。
保管庫の『幼馴染みとエプロンと』の続編にあたります。
エロがないのは埋めネタだからではなく、容量が足りないからです。
だから別にエロ編を投下するかもしれません。年明けにでも。
それではみなさんよい新年を。

>>102
依澄さんは一応豊かな胸を持ってます。和服に巨乳は合わないかもしれませんが。
105名無しさん@ピンキー:2007/12/30(日) 23:47:14 ID:lhZzLdUg
>>104
乙です!!
あ〜んどGJ!!
106名無しさん@ピンキー:2007/12/31(月) 00:01:38 ID:bJTplCuw
かおるさとー氏GJ!!
年の瀬に良いもの読ませてもらった。もう一度GJ!!!!
107名無しさん@ピンキー:2007/12/31(月) 13:01:00 ID:nt04sUQm
>>104
前スレの綺麗な埋め立てっぷりに感動。
いつもながらGJです。ニヤニヤが止まりません。
来年のご活躍にも期待しております。
108名無しさん@ピンキー:2007/12/31(月) 13:29:40 ID:jCUG3A6L
>>104
またしてもGJ!!
これもシリーズ化されるのかな?
でも縁シリーズの番外編も楽しみだし…

なんにせよ次も期待して待ってます!!
109名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 00:01:12 ID:gcMfQHUU
明けまして…おめでとう御座います……
110名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 00:23:51 ID:63zrmKM7
今年も・・・よろしくお願い致します・・・・・・
111名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 02:23:00 ID:ZwNk5nde
謹賀……新年……だよ。

今年も…あの…その…えっと…よろ…しく、ね…
112名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 02:49:21 ID:MeXPi9iF
「・・・」
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

 二人で黙って玄関口に立ち尽くしていてもしょうがない。

 元旦の朝七時。
 アパートのドアを執拗にノックしたのは幼馴染の初子だった。

「・・・・・・振袖」
「・・・・・・(こくり)」
「・・・・・・似合ってるぞ」
「・・・・・・」
 ぶっきらぼうで無表情で無口な初子はそれでもかすかに頬を染める。
 それがなんともじつに可愛らしくて、俺はついぎゅっと抱きしめてしまう。
「・・・・・・着付け」
「あ?」
「着付け、できないから」
「・・・ああ、そうか。ゴメンな」
 着物が乱れても直せないのであんまり強く抱きしめるな、ってことらしい。
 襟元を直した初子のしぐさがなんだかとっても女の子っぽくて、俺はそんなコイツの顔にキスの雨を降らせる。

「初子は可愛いな」
「大好きだぜ初子」
「ああもう、食べちゃいたいぜ初子」

 そんな本気の軽口を浴びせながらキスを繰り返すと、初子はだんだん身体から力が抜けてくる。
 俺の胸にぽすん、と顔を押し付けながら俺を玄関口に押し倒す。

 熱に浮かされたような潤んだ瞳で俺を見つめながら初子は熱っぽく俺に囁く。
「・・・・・・お口でなら」
  




・・・・・・俺の今年の初射精がどんな風だったかはヒミツだ。
 
113ケータイ駄文:2008/01/01(火) 05:33:13 ID:36Zi6X4G
外はまだ暗いまま。日が登る気配も無い。寝返りを打ち横向けになる。
机の方に視線をやる…………
何だ?………誰かいる!
布団をはね退け飛び起きて明かりをつけると、そこには上は白、下は赤い袴という巫女のような恰好をした女の子がいた。

「……誰…だ?」
「…………私は…」
「……」
「……トシガミ」
「…?」

『歳神』
正月にやってきて、家やそこに住む人を守ると言われる神道の神様

彼女曰く、歳神の姿は人間には見えないし触る事もできないらしいが…
「………見えてるが…」
「………稀に…見える人が…」
「……俺は……それだと…」
(こくん)
「…信じられない」
「………」
彼女は急に立ち上がり壁に向かい歩き出す。
すると彼女の身体は壁に飲まれるように消えた。そして今度はドアが開き彼女は何事もなかったかのように部屋に戻って来た。
信じられない。けどこれは俺の目の前で起きた現実だ。
困惑している俺を彼女はじっと見ている。
「……もう一つ」
…何か見せてくれる訳か…
「…いきます…」
呼吸を整えると彼女は俺に向かって飛びかかってきた。
その衝撃で一瞬息がが止まった。長い髪が俺の顔にふりかかる。
「…………」
彼女は予想外な事に呆けている。
どういう事だ?触れられないはずの彼女に今、間違いなく俺は触れている。彼女の体温、匂い、息遣い、それらを感覚している。
…て、まてまて。この状況はかなりヤバい。相手は神様だぞ。








勢いだけで書いた。無口っ娘が表現できてない
続き考えてない本当にスマン
ちょっと獅子舞に噛み殺されてくる
114名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 09:17:38 ID:hJPGou5n
謹賀新年
そうそうにGJ
115名無しさん@ピンキー:2008/01/02(水) 07:13:41 ID:wszZa0lv
116名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 01:14:03 ID:wgN/nnKi
鬼畜なのも読みたい俺ガイル
117名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 04:07:34 ID:1BvVJHOL
そういや獅子舞にガジガジされると縁起が良いって話だ
俺のところにも歳神様来てたのかね
118名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 05:49:36 ID:O+j5RmJG
>>117
残念だがそれたむけんだからw
119名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 07:18:06 ID:7/B4jcxj
>>117
 正月早々獅子舞が俺の部屋にやってきた。
 嘘ではない。ガチッ、ガチッと歯を鳴らして、今現在俺の部屋の真ん中で佇んでいる。
 ベッドの上にいた俺は、手元の漫画本を取り落とした。
 何事か、と目をしばたく。獅子舞はゆっくりと近付いてきた。
 かぷり。
 頭を噛みつかれて、俺はようやく声を出した。呆れた声を。
「……お前なにやってんの?」
 噛みつかれたときに中の人間が一瞬見えた。隣に住んでる幼馴染みの女の子だった。
「普通に入ってこいよ。びっくりしたぞ」
 反応はなく、代わりに歯がガチガチと鳴った。
「わかんねーよ。ちゃんと喋れ……っていつもと同じか」
 普段から口下手なので、ジェスチャーでコミュニケーションを取る彼女。
 しかし今回のはあまりに変化球すぎだ。
 だがまあ、とりあえず、
「あけましておめでとう。今年もよろしく」
 ガチッ、ガチッ。
 音であいさつを返された。
「それ取ってくれよ」
 首を振る獅子。
「顔見れないだろ。お前の顔、ちゃんと見たい」
 動きを停める獅子。
「無理矢理取っちまうぞ。ついでに押し倒してやる」
 焦ったように回れ右をする獅子。
 俺はそんなかわいい獅子を、後ろから抱きかかえた。
 暴れる獅子の体から唐草模様の布を剥ぎ、獅子頭を取ると、よく知る小さな女の子が現れた。
「ようやく会えたな」
「……」
 少女は顔を伏せて目を合わせない。
 俺は実力行使に出た。
 彼女を抱えこむと、そのままベッドに押し倒した。
 やっと正面から顔を合わせる俺たち二人。
 恥ずかしそうに目を瞑ろうとする彼女に、俺は顔を近付け囁いた。
「獅子舞の獅子にガジガジされると縁起がいいらしい。というわけで、いいかな?」
 何が? と眉を寄せる彼女に俺は優しくキスをした。
 体を強張らせた少女は、しかし次第に全身から余計な力を抜いていく。
 噛むことはなかったが、代わりに伸ばされた彼女の舌の先が、俺の口内を甘く溶かした。俺も舌先で彼女の口内を深く深く味わった。

 このかわいい獅子がいれば、今年もいい年になりそうだった。


こうですか?わかr(ry
120名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 07:29:51 ID:i1ZHCgkG
>119
わかってんじゃねーかw

つか、行為を最後まで書け!
121名無しさん@ピンキー:2008/01/04(金) 11:28:05 ID:Pa3i8LdN
>>120
しむらー、形式美形式美

運が良ければ続きもあるかもだし、なんなら君の妄想を書くもよし
122名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 02:52:52 ID:KVDgdWhY
>119
ぴくさす三女で妄想したらおっきした
123名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 04:08:20 ID:hPVfcmeS
無口娘をちょっくら製造してきます
124名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 20:35:20 ID:ldZtEs8a
お年玉と称して自分をプレゼントする無口娘とか
お正月だからほんわか気分で和みつつ話し合う無口娘とその他とか
振袖無口娘を和やかに襲うとか





仕事場でなに考えてんだ俺……
125名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 20:52:13 ID:0gSbO6FM
>>124
仕事場にいてカキコしていいのかと小一時間(ry)

では心楽しくなるような選択
・「お家で無口少女が待っている」
・「会社の同僚無口少女(美女)が仕事帰りに誘ってくる」
・「帰り道無口少女と知り合う」

ちょっと仕事を頑張る気になれば
「・・・嬉しい・・・」
126名無しさん@ピンキー:2008/01/06(日) 09:16:55 ID:Lv3BlLYq
家だと嬉しいな……
「ご飯……?お風呂……?……それとも………………」
127名無しさん@ピンキー:2008/01/06(日) 09:18:13 ID:UorTAnfC
ゲーム?
128名無しさん@ピンキー:2008/01/06(日) 14:08:42 ID:JK+YXuLL
肩叩きだろ?
129名無しさん@ピンキー:2008/01/06(日) 14:59:58 ID:sr7xkqfD
リストラされるのか
130名無しさん@ピンキー:2008/01/06(日) 22:24:48 ID:MEj+8KMw
⊃「無口少女と・・・」

・・・ええ、耳かきを
131名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 00:51:51 ID:EqWsS+m1
>>124
…お仕事……頑張って………
132名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 14:53:54 ID:NQPbQG4y
無口幼j(ry
あれ?誰か来た(ry
133名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 16:12:15 ID:V5npwESX
前スレ500行ってる事に気がつかなくて
今ここに北俺に何か一言
134名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 17:38:37 ID:+agmXkCv
>>133
………
135名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 23:18:22 ID:TyJNQo52
>>133
やらないか
136名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 01:23:08 ID:geO3OiB6
(喫茶店にて)

おや、伊佐見(>>133)君

・・・残念だが、彼女帰っちゃったよ。しばらく粘ってたんだがね。

そうそう君あての手紙を預かってね。・・・これだ。


『おしごとおつかれさま
明日もここでまってる』

・・・いい彼女だね。
言葉少なだが、優しいいい子じゃないか。
大切にしなよ・・・

こうですか?わか(ry)
137名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 01:51:03 ID:AslZZbKa
>>136
俺みたいな安直ネーミングしやがってwww
138名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 11:10:31 ID:i+VTE1aq
いつも瓢々としてて掴みどころのない男に色々アプローチしてなんとか気付いてもらおうとする無口娘という電波が
あと口下手な男と引っ込み思案な無口娘なのでなかなか進展しないカップルというのも受信した
139ふみお:2008/01/09(水) 15:39:13 ID:4Ls8jod9
勢いだけで書いた小ネタを投下します。

「髪を切ろう」

久しぶりに美容院に行ったのは、彼の気を引こうと思ったのか、どうか。
それは自分でも解らない。
けれど、何らかの明確なキッカケがあったわけではないことは確か。
髪が伸びるのが遅いワタシは三ヶ月ぶりの美容院で自分の番を待ち、
そして、いつも切ってもらっている美容師さんに対面した(ワタシは椅子に座っていたし、
美容師はその後ろに立っていたのだから“対面”という単語を使うのはおかしいけど)。

いつも切ってもらっているからといって、ワタシにとって美容師さんは、特別親しくもない他人。
極度の赤面症であるワタシは、鏡の中の美容師さんの顔をまともに見れない。
さらに、人と一対一で対話しなければならない局面というのが、酷く苦手で、頭の中が真っ白になってしまうのだ。
もちろん、美容師さんはそんなワタシの心境など知る由もなく、親しげに話しかけてきた。

「今日は、どうされますか?」
「………………」
どうしよう、ワタシは髪をどうしたいんだっけ?
「あの、お客さん?」
あ、そ、そうだ。
少しだけ、切りに来たんだ。……それを、伝えなければ。
「……あ、ああぁ、あの、その……」
うぅ、思いっきりどもってしまった……。
「はい?」
「……す……少し、………………短く」
勇気を振り絞っていった言葉は、たったそれだけ。美容師さんに伝わったかな……。
「あ、はい。判りました。短くすればいいんですね?」
よかった……。伝わってるみたいだ。
「は、はい」

寝不足だったのは確かだ。
昨日は仕事が忙しく、徹夜したも同然だった。
家に帰ってからも、その緊張感からうまく抜け出せず、熟睡できなかった。
つまり、完全に眠気が取れていなかった、ということ。
だから、ワタシはつい美容院で寝てしまった。
起こされたときには――もう遅かった。

「いかがですか?」
――っこ、これが、ワタシ……?
「ご希望通り、短めに揃えてみたんですけれど」
鏡の中のワタシ。
高校入学以来、背中まで伸ばしていた、私の長髪。
少しだけ、ほんの少しだけ自慢だった、ワタシの髪。
それが今や。
「……み、耳が。出てる……」
つまり、いわゆるショートカット。
「ええ。一応、切るときに何度もお伺いしましたが、そのたびに、『短くしてもいい』とおっしゃられたので……」
………………。
それは……、多分、寝言。
ワタシは床に散らばる、『元ワタシの髪の毛』たちを見つめる。
涙で視界がぼやける。
惨めだ。
どうして、ワタシはこう、失敗ばかりなんだろう。
「あの、お客様?」
ああ、なんということだろう。
でも、美容師さんは悪くない。
だからワタシは、短くなった前髪で瞳を隠しながら、言った。
「……これで、いいです。……ありがとうございました」
涙を誤魔化しつつ会計し、店を足早に去った。
140ふみお:2008/01/09(水) 15:41:02 ID:4Ls8jod9
翌日。
軽くなった頭とは反比例して、重い足取りで職場に向かう。
ワタシを追い越していく皆が、ワタシを笑っているように感じる。
……でも、大丈夫。ワタシは単純なのだ。
仕事に集中すれば、きっと忘れられる。
そう自分を誤魔化し、歩を進める。
すると――

「おっ? ○○○じゃないか」

――瞬間、ワタシの鼓動が早くなる。
動揺を隠し切れないまま、振り返る。
目の前には、くたびれたスーツ姿の男。
……彼だ。
ワタシはどうしようもなく恥ずかしくなる。
こんな姿、彼に見られたくない。
それでも、冷静を装い、挨拶。
「……お、おはようございます」
「おう、おはようさん」
赤面するワタシを凝視する彼。
そこで初めて気がついたように彼は言った。
「お、ずいぶんバッサリ切ったじゃないか。髪」
「は、はい……。でも、あの、その――」
「――なんだぁ? 男にでもふられたのか?」
「ち、ちが……!」
そんなこと。
ほかならぬ彼には思われたくない。
沸騰した頭で、否定しようと息を吸い込んだ、その時。
彼はワタシの頭を豪快に撫でた。
先程とは違う理由で、ワタシの顔はさらに赤くなる。
「今日は、オレの奢りで飲みにつれてってやるから、あんまり気ぃ落とすなよ」
豪快な手の動きとは裏腹の、優しい彼の声。
「それにその髪型も、似合ってるぞ」
そう言うと、ようやく、彼の手はワタシの頭を解放した。
………………。
なんというか、この人は……。
「……約束」
「ん?」
「……約束、ですよ? ……飲みに行くの」
「おう、約束だ」
……本当。この人は。
「オラ。さっさと足を動かせ。遅刻するぞ」
「………はい!」

やっぱりワタシは単純だ。
結局、この日も仕事が忙しくて、飲みに行く暇なんてなかったけれど。
妙に律儀な彼のことだ。
きっと、近いうちに飲みにつれて言ってくれるだろう。
その約束と、彼が褒めてくれたおかげで、少しだけ、この髪のことを好きになれそうだった。



雑記。
「………あの、警部?」
「んぁ?」
「………どうして、髪を切ったのに、後姿でワタシってわかったんです、か?」
「髪型で見分けてるわけじゃねぇんだから、それぐらい判るだろ」
「………もしかして、ワタシだから判った、とか………」
「は? なにブツブツ言ってんだ? 聞こえねぇ」
「い、いや、なんでも………、ないです………///////」
141名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 15:59:22 ID:h7U9agzh
>>140
これはいいwwww
142名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 20:42:30 ID:dGNdumfK
「コレは…シャイな無口ガールを見事表現してまスネ。トレビア〜ン!!」
「……先生……落ち着いて………下さい………」

(インチキ)フランスハーフ教師とその無口教え子では話が進まない…orz
143名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 18:56:59 ID:767F8MGO
貴様…尻の穴をボロボロにされたいようだな
144名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 18:57:57 ID:767F8MGO
誤爆(;^ω^)
145名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 20:59:51 ID:WbHRylBA
バロスwwwwwwwwww
146名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 07:05:44 ID:8xrZvNAq
>>140悲しんでる無口少女が喜ぶのをみるだけで、世界を滅ぼせそうな力が宿る気がする。
GJ!!


>>144どこのだよwwwwwwwwwwwタイミングも合ってるしwwwww
147名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 06:50:58 ID:aV43IrXM
148名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 19:19:48 ID:0kflPNZN
>>147
こらこら、黙ってたらどうしてほしいかわからないだろう?
さあ怒らないから言ってごらん。
149名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 20:21:00 ID:bCye9kK9
>>148
実は…私…>>150さんの………です……
150名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 02:16:33 ID:h4r1eF0u

151名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 22:00:05 ID:M8MEl8/9
>>150
ちょw 空レスで150取るなw
なんかうまいこと書いて150取ろうと思ったけど思いつかなくて断念した俺に謝れw
152名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 22:29:02 ID:vEhd3A2P
>>151
……ばか
153名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 22:31:06 ID:3MopNIFV
>>151
逆に考えるんだ。これは無口×無口フラグだと…!
154名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 23:29:17 ID:h/OOCufR
素直になれない無口娘と素直になれない無口男のカップルって破綻しないか……?
155名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 23:59:30 ID:MIoVX7Gj
どう素直になれないかにもよるかと。
ツンデレ気味なのかネガティブ気味かで相手の反応も変わるだろう、と思う。
156名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 00:39:28 ID:pcXwg/Do
>>153


「…」
「…」
「……」
「……」

別に俺達はにらめっこをしている訳じゃない。
―恋人同士が裸で愛を語り合う―言ってしまえばナニの最中である。
で問題がひとつ。俺も彼女も極端な無口だ。
会話ひとつなくこの状況になっている。


俺は無口ではあるが普通の男性である。惚れた彼女を気持ち良くさせてみたい。
彼女と体の関係が出来てから数度。ナニの最中、口から言葉が出たためしはなく、耳にしたのは微かな息の乱れのみ。
(事後に感想を聞くと顔を赤くして頷いてくれたので満更感じてない訳じゃないらしい)

今日こそは彼女の口から感極まった声を聞いてみたい。
俺はそう意気込むと、僅かに上下する控え目なバストに口を近付けた…



こうですか?凡才にはわかりま(ry)
157名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 00:57:12 ID:cPNQZOQn
>>156
つづき かいて
158名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 01:11:48 ID:0TpI+8Ya
HDD整理してたら、昔行った観光地の写真が出てきて、そこから沸いた妄想を打ち込んでみた。

 エロどころかSS書くの自体初めてだから、嫌な予感がしたらタイトルの「Beautiful sees beautiful」を即NG指定推奨。

 シチュ:無口新妻、蜜月旅行
159「Beautiful sees beautiful」 (1/6):2008/01/18(金) 01:12:21 ID:0TpI+8Ya
「Thank you for choosing American Airways today, the member of the Lone Star Alliance...」
機体が滑走路を外れ、平行誘導路に入ったころ、ようやく彼女に握りしめられていた俺の左手が解放された。

「...have a great day here in Chicago, or wherever your final destination may be...」
 やがて飛行機はスポットに駐機し、機体前方から降機が始まる。俺はオーバーヘッドから、2つのカバンを降ろした。1つは俺の、もう1つはベルトサイン点灯からついさっき迄、ずっと俺の手を握り続けていたこいつのもの。

 こいつのも俺のキャスターバックの上に載せ、開いた片手を差し出す。

 その手は無言のまましっかりと握られ、案の定降機後も離されることはなかった。が、もちろん不快なわけではないことは先に言っておく。なにせ今まで7年近く互いにすぐ近くに居、これからさらに何十年、一生涯を共に過す

パートナーのすることである。
 右手は俺の手を掴みながら、首は左右きょろきょろと初めて見る風景を眺めている。その仕草がどうにも愛らしくて仕方がない。



「……だって…英語……分からないし…」

機内で、来る入国検査を心配してか、彼女に相談を受けた。…とはいっても無口な彼女のことだ。日本語で質問されても、返答は単語最高3つ位までだろうが。
 入国審査で使う英語なんて観光客が特に気に病むほどのことでもないとは思うのだが、そこが彼女の特徴である。
 悪く言えば若干ナーバス、よく言えば繊細。それゆえ過去幾度の行き違いもあったりしたのだが。

「まあ、確か入国も税関も1家族ずつできた筈だから、俺がどうにかするよ。税関カードにいたってはもともと1家族1枚だし。何の問題もないから。」

言って、自分が少し照れてしまった。
 籍は早めに入れておいたが、昨日(あるいは今日か)式を挙げ、その日の最終便に乗って今ここに居る。もちろん自覚してはいたが、互いが夫婦、家族であるとはっきり口にするのは俺にはこれが初めてだった。

やばい。今度は俺が無口になる番だ…
 こうなると、逆に俺の顔を覗き込んでいたずらっぽい笑みを浮かべてくる。

やばい、破壊力ありすぎ……
160「Beautiful sees beautiful」 (2/6):2008/01/18(金) 01:12:49 ID:0TpI+8Ya
俺がその場所を蜜月旅行先として彼女に提案したのはほんの悪戯心だった。
 言葉も出なくなる程の美しい景色を日頃無口な彼女に見せたらどのような反応をするのか実に楽しみだ、という意味である。

……言っておくが、俺は決して彼女をいじめて楽しみたい訳ではないぞ。
 ただ、何年もの間、彼女と友人として、恋人として、婚約者として過ごしてきた訳だが、やはり彼女は俺が今でも知らない表情をたくさん持っている。
 ……その一つひとつを見つける度にいちいちときめいてしまう俺も俺だがorz
 いかにせん、俺にはそれをがどうしても楽しくて、嬉しくて仕方ない訳だ。いまさらだが。

馬鹿なことをセルフナレーションしている間に、オヘアから飛んできた乗継便は最終目的地に到着した。今日の宿はここからレンタカーでおよそ40分、さほど遠くない距離である。
 空港を出、進路を北西に取った。

 途中のガソリンスタンドで、飲み物とスナック、そして俺のひそかな楽しみであるロトくじを買う。アメリカ最大規模のタイプで、昔見たほどジャックポットはたまっていなかったが、それでもその額、年末ジャンボ前後賞付1

0年分を軽く超えている。これさえ出ればこのきれいな嫁と平日・土休日問わず、一緒に居られるんだがなぁorz...

 それを本人に行ってみたら、ちょっとむすっ、とした顔をして、
「…働かなきゃ、だめ」
 とのこと。イエス、オフコース、マム。

 夜も近いので、途上でレストランに寄る。最近日本にも進出してるから、東京なら渋谷や南大沢の人は知っているかもしれない某大手ステーキハウスだ。大阪梅田でも確か見たな。

 450グラム位の大きなステーキを前に唖然とする彼女も見てみたいが、長旅の直後のそれは流石に自重したほうがいいか。
 とりあえず、巨大なタマネギフライの化け物と、真っ赤なチキンの前菜に驚いてもらうことにしよう。
161「Beautiful sees beautiful」 (3/6):2008/01/18(金) 01:13:31 ID:0TpI+8Ya
…………チキンは自重した方がよかったかorz
 はじめ、彼女は運ばれてきたチキン、バッファローチキンと呼ぶが、を俺がタマネギに手を出している間にまっすぐ口に運んでしまった。さすがにそれはつらい。
 口に入れた時点で目に見えて表情が変わったのは言うまでもない。これでは無口な彼女でなくとも、舌の痛みに言葉が出なくなる。
 このバッファローチキンは味付けがとにかく辛いので、ブルーチーズソースをつけてマイルド化しないと、よほど好きな人でないとつらい。
 アイスティーの入ったグラスと、ブルーチーズを付けたピースを差し出した。どうやらこちらはお気に召したらしい。

……辛いのを知っててなぜ先に言ってくれないのかと言われた。悪い。指摘するの忘れてた。スマンorz......


メインに頼んだステーキも、店で一番小さい(といっても200g前後あるが)が肉質が相当にいいもので、食が細くはないとはいえ、彼女でもサイドのジャガイモごとぺろりと平らげてしまった。
 俺も、式中ほとんど食べられず、その後もここまでゆっくり食べる機会がなかったため大分腹が減っており、彼女と同等か少し多いくらいを食べきってしまった。


……いつも思うが、俺たちはここでこうやって何の疑いも無く、しかも俺は骨付きの牛肉を食っている。が、なぜ当局は20ヶ月以下のみが輸入可だったか?の訳の分からない輸入制限をかけてるんだろうか。それを彼女に聞いてみ

たら案の定思考のループにはまってしまったようだった。

 まあ、美味いからいいや。小難しいことは。
162「Beautiful sees beautiful」 (4/6):2008/01/18(金) 01:14:04 ID:0TpI+8Ya
車を走らせ、さらに州間道路を北西に進む。
 国境近くの公園からもそう遠くないホテルのパーキングに車を止めた。運転前に場所は確認したものの、界隈予想以上に一方通行が多く難儀したが…

 トランクから2人分の荷物を取り出し、チェックインを済ます。中層階のダブルルームだ。

カードキーを差し、ドアを開ける。ドア脇の照明スイッチを操作し、部屋の明かりを灯す。
 二名分の荷物といってもスーツケース1個と手荷物程度、を運び入れる。




部屋のドアが閉まる。
 
それは俺からの行動だったか… それとも彼女からだったか。そんなことはどうでもいいがとにかく、ロックがかかる音と同時に俺たちは、唇を合わせていた。
 持っていた手荷物カバンを寝台に放り、彼女の肩を抱く。それを合図に、彼女のほうから深いキスに移行してきた。
 30秒か1分か、時間の感覚をわすれ、互いに相手の口内を楽しむ。両方とも、食後に噛んだガムの香りだ。

やがて、唇同士を離す。そのまま俺は自分のを、彼女から離さず、舌を這わせつつ、顎から首まで滑り降ろす。
 胸元に近づいた途端、彼女は俺の袖を引っ張ってきた。もう片方の手は、そのかわいらしい指でベッドを指している。

 その方向に彼女を、押し倒した。
163「Beautiful sees beautiful」 (5/6):2008/01/18(金) 01:14:38 ID:0TpI+8Ya
蜜月旅行というシチュエーションからか、なんとなく気持ちが焦る。が、なれたもので愛妻を産まれたままの姿にするのにはそうかからなかった。
 あの場所はもうよく濡れている。彼女も同じ気持ちだったらしい。
 彼女のほうも、俺のズボンのベルトに手をかけ、トランクスごと降ろしてきた。下だけ裸というのも何なので、俺も上を脱ぎ捨てた。

再び唇を重ねる。そのまま、手でもう一度彼女の局部に触れてみた。相当濡れているらしく、もうこのまま挿れても問題なさそうだ。
 一言、その旨確認する。微笑み、頷いてくれた。 


7年程付き合って、内6ヶ月は婚約者という関係、その間に一度も欠かずしてきたことは、今日はしない。
 学生のときはもちろんだったが、やはり婚前ということもあり、つい最近の交わりのときも、今まで避妊を欠かしたことはなかった。

が、もう今その必要は無かった。モノを、彼女の入口につける。
 彼女の熱を感じる。彼女はどう感じているのだろうか。聞いてみたが、顔を耳まで真っ赤にして、答えてくれない。
 そのかわいらしさに負けた俺は、一気に挿入した。

ある意味初めての経験に、あとは二人とも流れるままだった。彼女の中が俺のモノに絡みつき、締め上げてくる。ひだのような感覚が凄い。
 彼女も同じなようで、新しい感覚に、普段よりもやや高めの声を上げている。

身体と身体がぶつかる音と、結合部からの湿った音、そして彼女の高いあえぎ声が耳に入る。何度と無く聞いているはずなのに、どれも俺の感覚を高めて仕方が無い。
 ましてや初めての生での挿入である。情けないようだが達するまでにそう時間はかからなかった。

「…っ、そろそろ出るぞっ」

彼女は、あえぎ声のなかに一言、消え入るような細い声ではあったが、確かに「出して」と答えてくれた。

 そして、俺は彼女の最奥に、白濁をぶつけた。

 と、彼女もそれと同時に全身を弛緩させた。



抱いていた肩から腕を離す。
 くてん、とした彼女の隣に俺も寝転がった。まだ少し震えている彼女に声をかける。

「…なるだけ早く出来るといいな。俺たちの子。」

「……できるよ。私たち、だって… すごい相性いいもの…」

久しぶりの長い(?)返答に俺はつい嬉しくなり抱きついてみた。と、同時に下腹部に俺以外の手の感触が。

「……私も、早くあなたとの子供ほしい…」
「つまり…もう一度しよう…と?」

彼女の細い手に握られたモノは、素直にももう硬度を取り戻している。

 もちろん、このあとは1回では済まなかったご様子。念のため。 
164「Beautiful sees beautiful」 (6/6):2008/01/18(金) 01:15:10 ID:0TpI+8Ya
昨晩は早い時間から夜間完全燃焼したのがよかったらしく、図らずとも二人とも深夜過ぎに睡眠に入る、ということになったため、ジェットラグの影響は最小限に済んだ。
 それなりに片付けてから、館内のレストランで朝食をとり、9時過ぎに宿を出た。荷物だけは車に積み、すぐそこの公園まで歩いた。

 二名分の雨合羽を買い求め、エレベータで下の乗船場にでる。船には10分ほどで乗船出来た。

 やがて、船は動き出し、聞こえつつあった轟音の元に近づく。船体進行方向左方に陣取っていたため、それが近づいてくる迫力がすさまじい。

「すごいもんだろ?」
彼女に声をかけてみたが反応は無い。まあ、この300m近くの幅を絶え間なく轟音をたてて水が落下してゆく圧巻さには言葉も出ないだろう。

「この滝はいわゆるアメリカ滝と呼ばれていて…」
船内のアナウンスを適当に訳して聞かせると、彼女は流れ落ちる水の塊を見つめながら頷いた。

やがて、船はもう数百メートル上流側に進んだ。ここでも、彼女の視線の先は固定されている。

「この滝はカナダ滝といわれていて、これがよく写真や映像で見るナイアガラの滝…」
アナウンスとパンフレットから仕入れた知識で告げた。が、相変わらずその視線は流れ落ちる莫大な量の水に注がれている。

 横から、俺は彼女の顔をファインダー越しに覗き込んでみた。


 そのときの写真? HDD、DVD、携帯どれにでも入ってるよ。タイトルは…
165「Beautiful sees beautiful」 (7/6) :2008/01/18(金) 01:15:41 ID:0TpI+8Ya
以上、スレ汚し御免。

 初めて書くSSがエロパロ板というのはハードルが高すぎたといまさら反省。

 ってかエロと比べて何だよ、そこまでのくだりの長さは。無口スレなのに無口さが現れてねえよ ぜんぜんエロくねえよ orz...

 神職人様によるスレ早期浄化と無口娘の幸せを心から祈る。
166名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 01:20:11 ID:QJB8zyZs
>>165
ブラボー……おお、ブラボー……!!
素晴らしいじゃないか、なにを謙遜する必要があるのやら。
GJですぞ!
167名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 01:21:18 ID:cPNQZOQn
>>165
救世主が あらわれた!
168名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 01:30:31 ID:NydNEw92
>>165
ほうほう、君は神が見たいのかね?
つ鏡

つまりはGodJobってことさ。
169名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 03:35:34 ID:C8oz7lMu
>>165
GJ!いいなこういうの。なんつーか、いいよな

>…働かなきゃ、だめ

この言葉に萌えると同時に仕事へのやる気が出てきたのはナイショ
170名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 08:14:34 ID:2XCoN0p2
書き手もわかってるようだが、何故に無口スレ?
新婚スレの方が良いのでは?
作品自体は良いと思うけど、蕎麦屋で美味いラーメン出されたような違和感が...
171名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 08:49:55 ID:KAS0i5Jm
>>165
謙遜するな、GJだよ
ちょっと意見なんだが、文章中にorzはいらないと思うんだ



>>170
オーケー、まずはスレタイを読むんだ

無口以外は指定ないだろ?つまり、無口娘となら何やってもいいのだよ!!

……あれ、なんか間違ってるかな
172名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 11:29:36 ID:y39dbEjl
>>165
これはなんという大瀑布GJ
173名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 13:15:19 ID:QC0mo1Am
>>165
GJ

>>171
作者が言ってるように無口さが現れてないからじゃね。
まあ、エロパロ板は少しでもスレタイに掠ってれば賞賛の嵐になる
暖かな場所だしね。エロさとか、無口さとかは気にしなくてもOK。
174名無しさん@ピンキー:2008/01/19(土) 06:20:45 ID:q6ZhXnmH
175名無しさん@ピンキー:2008/01/19(土) 06:37:50 ID:VunQI01y
176名無しさん@ピンキー:2008/01/19(土) 13:53:14 ID:iN/M42oq
あ?
177名無しさん@ピンキー:2008/01/19(土) 22:13:22 ID:0qcMk4FN
あ??
178名無しさん@ピンキー:2008/01/19(土) 23:33:34 ID:1xXYyb1M
・・・あ・・。
179名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 00:08:19 ID:rzkiYQLw
あ、あのっ…………「あ」だけじゃなくて……その、もっと……しゃべってください……っ。
180名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 01:18:14 ID:d1xwMsi7
>>179
やっと喋ってくれたね
嬉しいよ、無口な君が大好きだけどね
「さっき何か言った?」
 こっちを振り向いて彼が私に尋ねてきた。
 私はなんでもないと首を振る。
「いや、『あ……』とかなんか言いかけたように聞こえたんだけど」
 そう言って彼は右手の缶コーラを一口飲んだ。
 耳がいい。鈍いのか鋭いのかはっきりしてほしい。
 呟いたわよ。呟きましたとも。
 隣を歩きながらなんとか手をつなぎたいと思っていたのに、喉が渇いたからって自販機に走り寄っていっちゃうんだもの。
 思わず声の一つくらい漏らしますとも。
 不満はたくさんある。
 こっちの気も知らない脳天気な目の前のクラスメイトの態度とか。
 そんな彼のことが好きで好きでたまらない自分の気持ちとか。
 好きなのにどうしても一歩が踏み出せない臆病な自分の性格とか。
 こうしていっしょに帰ってるのだって、委員の仕事で遅い私と部活をやっている彼の帰る時間がたまたま合うことが多いだけで。
 私と彼はなんでもない――悲しいくらいになんでもない、ただのクラスメイト同士なのだ。
 ああ、またため息出そう。でも出したら出したで、
「なーんか元気ないな。悩みごとあるなら話せよ? まあおとなしいのはいつもか」
 軽口を叩きながらも優しい声色に、私は嬉しくなる。同時に寂しくなる。
 あなたの普段通りの気配りが、一番私に堪えるのに。
 好きだからこそ、特別扱いされたいのに。
「あ、ヤバい! 急ぐぞ!」
 急に彼が私の左手を掴んだ。
「!?」
 私の驚きなんか少しも考慮せずに、彼はいきなり駆け出した。引きずられそうになりながら、慌てて私もいっしょに走り出す。
 点滅する青信号が赤になるとほとんど同じタイミングで、私たちは横断歩道を渡り切った。
「ふー、間に合った」
 疾走直後の深い息を吐いてから、彼は私に顔を向けてくる。
 そしてとても楽しそうにニカッと笑った。
 気恥ずかしくなった私は反射的に顔を伏せる。
「ワリィ。信号変わりそうだったからつい」
「……別にいい、けど」
 ようやく出た言葉がそれだった。
 私のバカ。もっとマシな言い方あるはずなのに。
「ホントごめんな。委員長運動苦手なのにな」
「……」
 何か言いたいのに、どうしてこういうときに私は何も言い出せないのだろう。
 でも――
「……」
 いまだに握られてる手の感触が、そんな葛藤なんてなしにしてくれそうなくらいに、温かい。
「あれ、委員長機嫌直った?」
「……え?」
「さっきより表情明るいから」
「…………」
 顔が真っ赤になったと思う。走ったのとは関係ない熱さが頭に上り、焼死しそうなほどに恥ずかしくなった。
 って、なに恥ずかしがってるのよ。ちょっとくらいガンバレ私!
 私は恐る恐る顔を上げると、精一杯の笑顔を浮かべて言った。
「走るの……ちょっとだけ、楽しかった……かも」
 その言葉に彼はまたニッコリと笑った。
「悩みごとあっても体動かすとスッキリするしさ、委員長も今度から運動してみたら?」
「……うん」


 それから私たちはぽつぽつと話をしながら帰り道を歩き、駅前のバス停で別れた。
 彼はなんだかいつもより楽しそうだった。
 私も、とても楽しかった。
 精一杯頑張った甲斐があったと思う。
 告白は……さすがにまだできないけど。
182名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 01:55:08 ID:KlhknwlB
すばらしい。
無口少女視点のSSは少ないからそれだけでも新鮮だというのに、さらにそのクオリティが高い。

後に続いても良い話だと思うけど、ここで終わらせる掌編とするのもまたよし。


つまり何がいいたいかというと、GJです、と。
183名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 01:55:31 ID:CE6EUMR9
すばらしいwwwwww
184名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 05:22:06 ID:rBvwwJt2
>181
続きが読みたい
いいんちょがどんなふうに赤面してドキドキしてらぶらぶになるのか知りたいよ
185178:2008/01/20(日) 10:18:30 ID:bz3uwMe1
>>181
GJです!
悪のりで書いた「あ」をこんなにいい作品にしてくれてありがとう!
できれば続けてほしいな・・・。
186名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 12:08:03 ID:+3zZ2lUI
GJ
女の一人称って、他にあったか?
187名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 12:11:16 ID:YBw/25fP
年明けくらいに流れ着いたからよく知らないけど、とりあえず前スレのリレー小説は半分くらい女視点だった希ガス。
あとクリスマスのサンタの奴の後半分。
188名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 15:23:02 ID:VlIRLHhY
>>186
小ネタだけど>>139もじゃね?

189名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 19:45:46 ID:RMr2jlVT
パイパンって破壊力高いよなー
何故だろう
「委員長、ちょっといいかな」
 図書館で本を読んでいると、後ろから声をかけられた。
 振り返ると、席のすぐ後ろに私の片想いの相手が立っていた。
 どきりとする。なんでここに?
「何読んでたの?」
 彼の問いに私は慌てて文庫本を持ち上げ、表紙を見せた。サン=テグジュペリの『夜間飛行』。
「おもしろいの?」
 真っ白な頭で反射的に頷く。えっと、私はおもしろいから頷いていいんだよね。あ、でも彼にはどうなんだろう。
「委員長ってたくさん本読んでるよね」
「え……」
 彼の言葉に私は戸惑った。
 読書は好きだけどそんなにたくさんは読んでない。一ヶ月に十冊も読まないときだってあるし。
「そんな委員長に相談があるんだけど……」
 彼は顔を寄せ、神妙な声で囁いてきた。なんだか恥ずかしい。顔近いよ顔。
「おすすめの本、教えてくれない?」
「……え?」

 現代文の夏休みの課題が読書感想文だったのを思い出したのは、彼が先生に対して文句を並べ始めてからだった。
 宿題の愚かさ、感想文の無意味さ、生徒に対する先生の容赦のなさをひたすら嘆く彼。ちょっとおもしろい。
「でさ、なんかこう楽しく読めるやつない? 感想文書きやすければなおいいんだけど」
 私はしばし考えて、席を立った。
 向かった先は小説コーナー。ハードカバーの小説本がずらりと並んでいる。
 私は一冊の本を手に取ると、ついてきた彼に差し出した。
「『第三の時効』……ってミステリー?」
 私は頷く。横山秀夫は警察小説中心でミステリーというよりはハードボイルドだけど、おもしろいし感想も書きやすいんじゃないかな。
 しかし彼はうーんと悩ましげに唸った。
「ミステリーって頭使いそうだなー。厚い本って長いしちょっと苦手かも」
 ……長いかな? これって400ページあったかな。500はさすがになかったと思うけど。
「もうちょい短いやつないかな」
 そう言う彼を連れて、今度は文庫コーナーに入る。短いやつだから短篇だよね。
 短篇と言えばショートショート。星新一が思い浮かぶ。でも感想文は書きにくそう。それなら、
「『友情』? えっと、昔の本だっけ」
 差し出した本のタイトルに、彼はそう言った。昔と言うほど昔でもないけど。
「……難しかったりしない?」
 私は首を振った。実篤の文は読みやすいはずだ。『友情』は短い話だけど感想文も書きやすいと思う。
 私の否定にほっとする彼。その様子はなんだかかわいい。
「ありがと、委員長。これにするよ」
 笑顔とともに礼を言う彼に、私ははにかんだ。
 私を頼ってくれたことがとても嬉しかった。そして、それに応えられたことが嬉しかった。
「あ」
 不意に彼が思い出したように呟いた。
「さっき委員長が読んでたの、なんだっけ?」
「え……や、夜間飛行」
「それ書いた人のさ、他の本教えてくれない?」
「……?」
「いや、せっかくだから委員長と同じ本読もうかなーって。でもまったく同じっていうのもおもしろくないからさ」
「……」
 驚きとか戸惑いとか、色々よくわからない感情がない混ぜになって、私の心をかき乱した。
 何を思ってそんなことを言うのだろう。対抗? 共感? それとも……
 私は外国作家のコーナーで『星の王子さま』を手に取り、それを彼に渡した。彼はまた笑顔を浮かべてありがと、と言った。
 彼にとっての『いちばん大切なもの』ってなんだろう。やっぱり目に見えないものなんだろうか。

 図書室を出るときに彼が言った。
「今度お礼したいからさ、なんか考えてて。いつでもいいから」
 すっごく驚いたけど、すぐに駆け出したいくらい嬉しくなった。別にお礼なんていらないけど、嬉しかった。
「うん……考えとく」


 彼を想うこの気持ち。
 それが私にとっての『いちばん大切なもの』だ。
191名無しさん@ピンキー:2008/01/21(月) 00:45:31 ID:6FHcUJg8
二行目、図書館じゃなくて図書室だったorz
192名無しさん@ピンキー:2008/01/21(月) 01:06:55 ID:c6zcmjcQ
でかい進学校なら学校の図書館ってのもアリ
ウチもそうだった





男子校だったけどな!


とにかく委員長が読めて嬉しい
もっと調子に乗って書いちゃってくれ!
193名無しさん@ピンキー:2008/01/21(月) 07:58:19 ID:RsQ0RJoM
ケータイからgj
194名無しさん@ピンキー:2008/01/21(月) 10:35:50 ID:7mWYt31G
これはGJとwktkが止まらない
195名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 01:48:57 ID:UwMMjWMh
いまさらながら、保管庫の更新乙です。
196名無しさん@ピンキー:2008/01/24(木) 03:27:25 ID:TSgfRSKY
・・・・・・寒い
197名無しさん@ピンキー:2008/01/24(木) 23:25:33 ID:sHTxo7sm
携帯から星
198名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 04:25:46 ID:Jgdgkibu
・・・眠いけど・・・ほひゅ・・・
199保守替わりに:2008/01/26(土) 10:33:02 ID:kLy+rv84
朝の満員電車。
私はいつも乗る度に憂鬱を感じる。
特に最近に至っては、嫌気すら覚えるようになっている。


学校近くの駅までの20分。
乗って暫くすると…

「…!?」

まただ。私のお尻をなでる手の存在。痴漢されている。

入学した直後2、3度された後は無かったのだが、ここ2週間は電車に乗る度にお尻を触られている。

私にとって不快以外の何者でもない。が人見知りで無口な私には、大声を出して助けを求める事がどうしてもできなかった。
その事が相手を増長させているのを知りながら。
いつもの様に黙って耐えるだけだ。そう考えて身を固くした。

だが

「何やってんだよ!!クソ野郎!!」

電車の中に怒声が響いた。


次の駅で痴漢を駅員に引き渡したは私と同年代の男の子。彼は私に微笑むと走って去ってしまった。
言葉を交わす間も無かった。もっともお礼の言葉すら満足に言える自信は無かった。



電車に乗る度に思い出す。人見知りで無口な私が少し変わるきっかけを。そして大好きな彼との出会いの出来事を。
200名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 12:43:16 ID:21bTEjXK
>>199
続きがすげー気になるんですけど
201名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 13:33:35 ID:16j7GnTX
>>199
やられたあああ!? 温めていたネタをっ!
同じネタを先に書かれるというのがこんなにも悔しいものだとは思わなんだわ。
GJ!
202名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 17:36:10 ID:hYfMfriR
ならば書くんだ
203名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 17:37:39 ID:hYfMfriR
ならば書くんだ
204名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 17:39:52 ID:hYfMfriR
連投しちまった……orz
すまん
205名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 17:46:07 ID:Xwf9HzSb
一人で三連投とは……無口スレにあるまじき暴挙
206名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 18:33:41 ID:8H4FbT+C
>>199
プレリュードとしてはGJ!
さて続きが楽しみだ。

>>201
そう言うときは、
・アプローチの仕方を変えてみる
 (主観をヒロイン、オトコ、第三視点などに変更)
 (性格設定の差別化)
・新しい作風、語り口に変えてみる。
 (シリアス、コミカル、文体の変更)
 (時代設定を少し昔にする、または近未来)
・アニメなどの二次創作に転用する。


などなど、いくらでも活かす道はあります。

とにかく、暖めるだけ暖めたら、ゼヒ書いてみよう。





・もう、このネタは捨てる
 それはそれで潔いかも知れません。
 しかし、後悔はありませんか?
207名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 20:22:11 ID:16j7GnTX
>>202.>>206
助言ありがとう。なんとか頑張ってみるわ。
208名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 13:09:18 ID:wbfFKOcf
実はここまで全部言葉に出してない。
209名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 16:36:23 ID:eX5wajti
>>208それは幼馴染みがテレパス(超能力)を得たが、代償として話せなくなり、結局主人公にしか心を開かなくなるという話を君が書いてくれるって事だな!
 
安心しろ!言葉にしなくても分かるぜ!
210199:2008/01/27(日) 20:08:14 ID:+G0i42HO
>>209
寧ろ君がテレパスだww
>>201
ネタを先に取ってすまない
一回限りの保守ネタのつもりだったが、何とか続編らしき物を作ってみる。
それで勘弁してほしい。
211名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 21:37:20 ID:FDP1RleZ
普段より少しだけよく喋る無口娘に足コキされたい
212名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 22:30:26 ID:DG9uVPSJ
俺が代わりにやってやるよ
213名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 23:37:11 ID:u4LvDjMW
>>211

 彼女が俺に選択肢を投げて寄越してきた。
「穿いたままと穿いてないのと、どっち」
 俺はしばらく考えて、
「……穿いたままで」
「ん」
 彼女は頷くと、ベッドの縁に座った。目の前に座るよう顎で促され、俺は彼女の前、床の上に腰を下ろす。
 俺がズボンを脱ごうとすると、ボタンを外したところで細い脚が伸びてきた。
 黒のニーソックスに包まれた彼女の脚。こちらのズボンを奪い取るように、ゆっくりと脱がしていく。
 脱がしやすいように腰を浮かす。両足がトランクスごとズボンを脱がし、俺のモノが顔を出した。
 半ば硬くなっていた性器が一気に屹立する。彼女の目にさらされたことで反射的に興奮してしまった。
 彼女は薄く笑みを浮かべると、ズボンをさらに俺の足首までずり下ろした。
「開いて」
 短い命令。俺はごくりと唾を呑み、よく見えるように股を広げた。
 彼女の笑みが深まる。両足がつい、と動き、正中線の一番下にある部分に触れてきた。
「う……」
 柔らかくざらつく布の感触に俺は思わず呼気を洩らした。
 右足の親指が肉棒の付け根を押さえ付けてくる。反対の左足はそれを支えに右の側面を足裏で擦りあげてくる。
 右足の指が付け根を細かく撫でた。
「くっ……、うぅっ……」
 ニーソックスに覆われているために指は不自由な状態だ。それでも器用にこちらを刺激してくるその足遣いは、彼女の見事な技だった。
 前を見ると、彼女の顔が楽しげに笑っていた。
 さっきまでの小悪魔的な笑みではなく、どこか嬉しそうな笑み。
 俺が感じていることが嬉しいのかもしれない。俺もちょっと嬉しくなった。
 足の動きが加速する。ミニスカートから伸びる両脚が艶めかしく踊り、スカートの中がこちらを誘惑するかのようにチラチラと覗く。
 両足が棒を挟み込み、上下に強くしごいた。
「うわっ……くうっ」
 ただしごくだけなら手の方が絶対楽なのに、こうして不合理な刺激の方が興奮するのはなぜだろう。
「なぜかしらね」
 彼女が俺の心を読んだかのような言葉をはいた。
 思わず顔を上げると、小首を傾げて彼女は言った。
「穿いたままが気持ちいいなんて……おかしい」
「い、いや、だって」
「そもそも……足でなんて、間違ってる」
 冷淡な言葉と裏腹に、その間にも足は激しく動く。
214名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 23:40:01 ID:u4LvDjMW
 俺は何も言えない。柔らかい足の感触に耐えるので精一杯で、とても返事をする余裕なんてない。
「でも、不合理が気持ちいいというのも――悪くない」
 彼女の右足親指が亀頭を裏からぬらりと撫でた。
「っ……!」
先走る透明な液体が黒い布に絡み、足によって棒全体に塗り込まれていく。
 左足の爪先が裏筋を撫で上げた。
 さらなる快感が襲ってきた。先の方はどうしても敏感だ。それをこんな立て続けに、
「も、もう……やばっ……」
 その瞬間彼女は右足の裏で鈴口を押し潰すように擦り撫でた。
「うっ!」
 それが合図となったかのように、俺はそのニーソックスに向かって勢いよく射精した。
 彼女が驚いたように右足を引く。飛び出した精液は魚のように空中を跳ね、彼女の脚やスカートを汚した。
 俺はそのまま全てを吐き出そうと下腹部に力を込めた。精液は止まることなく次々と溢れ飛び、床にも、俺自身の脚にも降りかかった。
 ようやく全てを出し切り、俺は深い息を吐く。
 彼女の足裏と亀頭の間に白い橋がかかっている。彼女はぼんやりとそれを眺めている。
「すごく……気持ちよかった。ありがとう」
 俺は礼を言うと、テーブルの上のティッシュ箱に手を伸ばそうとし、
「まだ」
 彼女の声に動きを止めた。
「私も、気持ちよくなりたい」
「い、今から?」
 頷く彼女。
「で、でも俺、今のでかなり出し切った感じで」
「ガンバレ」
「……しばらく休ませて」
「ダメ」
 彼女は楽しそうにしながらも、顔を上気させている。スイッチが入ったのかもしれない。
 彼女はミニスカートの端を軽く持ち上げると、小さく微笑み、
「穿いたままと穿いてないのと……どっち」
 薄い水色のショーツが際どく見え隠れする。
「……穿いたままで」
 ため息と共に呟くと、彼女は嬉しげに笑みを深めた。
215名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 23:54:46 ID:u4LvDjMW
>>211のリクエストに応えただけなので続きはありません
本番まで書くと普通の話になるわけで
ちゃんとリクエストに応えられたかどうかはわかりませんがとりあえずこんな感じで
216名無しさん@ピンキー:2008/01/28(月) 00:04:50 ID:EAjsuoaP
>>215
次の内のどれかを選べ

1.また足コキ続きを書け

2.また足コキで続きをぜひ書いてください

3.というか本当にGJだから書いてください

4.GJGJGJ!!
217名無しさん@ピンキー:2008/01/28(月) 00:12:18 ID:8hDY4f8H
>>216
まてまて、
5.で、本番マダー?
を入れてくれはしないだろうか?

つーわけでGJ!
218211:2008/01/28(月) 00:51:34 ID:P8HCrzR7
>>215
あなたが神か

…まさかホントに書いてくれるとは思わなかった。
これで娘の病気も治ります。
219名無しさん@ピンキー:2008/01/28(月) 03:07:44 ID:boco7en+
無口なSっ娘ってイイネ!!
220名無しさん@ピンキー:2008/01/28(月) 13:53:37 ID:6GrbECYP
>>219
ヤってるときだけSに豹変する無口ちゃんの方が好み。
ところで妙なIDだな。
221名無しさん@ピンキー:2008/01/28(月) 14:19:09 ID:yO79RE0v
>>215
GJ!!
積極的な無口っ娘もなかなかいいモンだな
222名無しさん@ピンキー:2008/01/28(月) 22:28:52 ID:EAjsuoaP
>>219
ボコ7円+


なんという……ネタに出来んIDだっ!!

いやまぁ自分もだが
223名無しさん@ピンキー:2008/01/28(月) 23:46:26 ID:yzONjBjc
>>222
いい味っすと土下座してるじゃないか
無口で語るとは…
恐ろしい子…!!
224名無しさん@ピンキー:2008/01/29(火) 23:08:42 ID:kBdgfv5A
>>207
俺は206なんだけどさ、このスレで初期に書いた短編を長編にリファインしてるんだけど、
そのネタをテレビCMにやられちゃったんだよね。大阪にある遊園地のCM。
マイナーすぎて、ネタの逆輸入も出来やしない。
225名無しさん@ピンキー:2008/01/29(火) 23:33:01 ID:WcRvCgPm
昔『〇〇ぱー〇〇ぴー〇〇ぽー』ってCMやってたところ?
226名無しさん@ピンキー:2008/01/29(火) 23:58:56 ID:kBdgfv5A
それ。
227名無しさん@ピンキー:2008/01/31(木) 16:39:25 ID:5JK/Os2z
生まれてからずっと大阪在住だが何処だか分からんorz
228名無しさん@ピンキー:2008/02/02(土) 10:59:16 ID:rX9Kwva3
ひらかたパークか
いつの間にか菊人形やらなくなったな
229ふみお:2008/02/03(日) 12:42:16 ID:+t2sQFWu
節分の小ネタを投下します。

「豆を食おう」

放課後の科学教室。
春うららかな日差しが降り注ぐ、暖かな室内――
――とは、間違ってもいえない冷え切った空気の中、“しゅん、しゅん”とストーブの上のやかんが蒸気を吹き出している。
それと連動するように、“カッ、カッ”という音が連続して混じる。
少女はぼんやりと、その音の出所を見つめている。
彼女の視界には、大きな黒板。そして、その中心には――
「電荷とは、物質や原子・電子が帯びている電気やその量であり、電磁相互作用の大きさを決めるもので――」
――先程から喋り続ける、およそ『科学者』という言葉の繊細なイメージとはかけ離れた、大柄な男の背中(とはいえ、それらしく白衣は着ているが)。
彼の人は、“カッ、カッ”という例の音を立てながら、黒板にチョークで板書きをしている。
いつもなら、それは日常的なことであり、そして、少女にとって至福の時でもあるのだが――
「――単位はC(クーロン)で、これはねじり秤を発明し、それを用いクーロンの法則を発見したシャルル・ド・クーロンに由来している。量は――」
「………せんせー」
――いかんせん、今日は事情が違う。
だから、少女は、見た目に似合わないややハスキーな声で、熱を帯びてきた男の講義を遮った。
その声で少し興が削がれたのか、やや不機嫌そうな態度で男は、声に応じる。
「……なんだね。ここからが重要なのだ。よく聞きたまえ、電荷の量は――」
「――……あ、あの。だから、せんせー……」
またも男の言葉を遮る、気弱げな少女の声。
白衣の男は再び講義を遮られたせいか、不服そうに振り返る。
男の目に映るのは、整然と机の並べれれた、白く、広い室内。
そして、その窓際の隅の席に座る、セーラー服姿の小柄な少女が手を上げている。
それ以外には、何者もこの科学教室内には存在しない。
白衣の男はそんなことには何の関心も無い様で、少女が何故、講義を遮るのか尋ねた。
「……なにか、言いたいことでもあるのかね。○○○君」
少女は、ようやく男の意識を向けられたことに喜びの色を見せるのも束の間、男の真っ直ぐな視線を受け、やや俯き、赤面しながら、言う。
「……か、科学部、今、わたししかいないんですけれど……」
消え入りそうなその言葉を受け、男はさも当然のように頷く。
「ああ。見れば判る」
『だからどうした』といわんばかりの、否、ほとんどいっているのも同じな態度。
少女は、もじもじしながら言葉をつむぐ。
「……わたし、一人のために講義するのは、どうなんでしょ、うか……」
「ふむ」
ようやく得心が行ったように男は大きく、頷く。
「なるほど。君の言いたい事はわかる。しかし、そんな遠慮は無用だ。教師たる僕がいて、生徒たる君がいる。この場合、君さえいれば十分だ」
『君さえいれば十分』などというそれだけ切り取れば情熱的に聞こえる台詞に、少女は顔を赤くする。
いつもなら、ここで顔を紅潮させたまま、『そ、そうですか』とかいって男の講義を再開させるのだろう。
そして、広い教室内で二人きりという状況に、さらに赤顔し、その幸せにひたるのだ。
だが――
「(……きょ、今日しか、チャンスは、ない……!)」
――今日は、彼女には計画があるのだ。
それを遂行するためにも、どうにかして、男の講義を止めさせなければならない。それに、
「……あの、あのあの。……中一のわたしにはすこし難しい、ような……」
いつも以上に、今日の男の講義は少女には理解不能なのだ。
語尾が消えかけるほどに弱気な少女の決死の一言は、しかし――
「大丈夫。すぐに理解できるようになる」
――簡単にスルーされてしまった。
気落ちする少女。冷静にそれを観察する男。
男は、一段落ついた、と判断したのか、再び、黒板に向き直る。
「よし。では、……えっと、どこまで話したかな……」

キラン☆

少女の瞳が鋭く輝き、一流のハンターの目つきになる。
「(……こ、ここだー!!)」
この好機を逃すものかと、少女はしれっと話題のすり替えを試みる。
「……今日は何の日か、って、ところ、です……」
230ふみお:2008/02/03(日) 13:01:12 ID:+t2sQFWu
あれ、書き込めない……orz
231ふみお:2008/02/03(日) 13:02:09 ID:+t2sQFWu
少女のあまりにも強引な誘導。
成功率は著しく低い。だがこれが成功すれば――!
「そうそう。今日は何の日か。つまり今日――」

――難なく成功。

白衣の男は話題があさっての方向に行ったのに気づきもしない。
少女は、いつもは俯きがちな顔を上げ、はにかみながら、男を見る。
「……せんせー。じ、じじじ、じつは――」
男はそんな視線と小声にも気づかず、言葉を続ける。
「――2月3日は『ナンバー2の悲劇の日』ということだね。これは――」
少女の表情が凍りつく。
………………………。
話題のすり替えには成功した。
難しい講義もなくなった。
だが。
しかし、少女の顔色ははにかんだまま、硬直している。
そう。話題が逸れたのは喜ばしいが、今日が『ナンバー2の悲劇の日』だということなど、彼女の計画には何の関係もないのだ。
よって。
少女は少し恨めしそうに、教壇の向うの白衣の背中を見つめつつ、軌道修正を試みる。
「――……もっと、有名な日があり、ます……よ?」
その一言で、男は何事かを思い出したように、天井を見つめ、手を叩く。
ようやく本題に入れると判断したのか、少女の顔に明かりが指す。
「そうか。そうだったな。僕としたことが忘れていたよ」
「……はい。今日は――」
年中行事の一つである、アレ。アレの日だ……!
「――今日は、数学の力学系分野におけるカオス・フラクタル研究の先駆者である山口昌哉氏の誕生日じゃないか……!」

ぷちん。

少女のほうから、何かが切れる音がした。
少女はおもむろに立ち上がると――
「……そうじゃなくて……!! 今日は、せ、せ、節分。です……!!」
――小声で叫ぶという偉業を成し遂げた。
「セツブン? setubun、せつぶん、拙文……?」
少女は、怪訝そうに振り返った男を真正面に見つめ……ることはできず、男の後ろの黒板の文字を見つめながら小声で、叫び続ける。
「……お、おにわそと〜、ふ、ふくわうち〜、とか……! あの、豆を食べたり……するんで、す……!」
「?」
「……あ、あああ、あとは、あの、恵方巻――」

結局、男が彼女の意図を理解したのは、彼女が、自身の言語キャパシティの臨界点を突破しかけた頃だった。

「ああ。今日は節分だったか。独り身だとこういうことを忘れがちだから困る」
教壇をはさんで対面する二人。
「……センセ、マメ、アル。マメ、クウ……」
うつろな目で中空を眺めながら、漫画のロボットのように喋る少女。
「おお、準備がいいじゃないか。年の数だけ食べるんだったね。……それにしても、どうしてカタコトなんだい?」
『大ボケ野朗の白衣の男に節分という日を理解させるためにエネルギーを使いすぎたからだ』
などということを説明する気力すらも、少女からは失われているようだった。
彼女は無言で、カバンから透明のビニール袋に入った豆を取り出し、男に向かって差し出す。
男はそれを受け取ると、渋面をつくる。
「本来なら童心に返り、『鬼は外、福は内』とか言い合いながら豆をぶつけ合うのだろうが……、
いかんせんここでやるには、衛生的ではないね……。我慢して、『年の数だけ豆を食う』に専念するか……」
いささか残念そうに言い、男は几帳面に一粒一粒、豆を食い始める。
少女はそれをぼんやりと、しかし、男の手を追うように視線を動かす。
232ふみお:2008/02/03(日) 13:02:57 ID:+t2sQFWu
数分後。

男はようやく豆を食い終わる。
それを確認すると、少女はさりげなく豆の入った袋を回収する。
「ん? 君は食べないのかい?」
カバンの中に豆の袋を戻そうとしていた少女の体が、ギクリ、と硬直する。
――マズイ。
その、いかにもな少女の挙動不審ぶりに、男は首を傾げる。
「どうかしたのかい?」
「……家、デ、食う……マス……」
どうやら、少し、言語が回復してきた俯きがちの少女を見ながら、男は息をつく。そして――
「あぁ、そう……。ふむ、節分といえば元々、各季節の始まり、立春や、立夏などの前日のことを言うんだ。
つまり、正確に言えば年に4回ある、というわけだね。しかし、江戸時代以降――」
――少女の挙動不審など無かったように、ふたたび、男の独演会が始まる。
少女はそれを聞き流しながら、心の中で『某、自称・新世界の神』の悪役面を作る。

『計算通り』、と。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
帰宅した少女は、制服を脱ぐのももどかしく、袋の中に残っていた件の豆を、きちんと整理整頓された学習机の上に、慎重に拡げていく。
そして、どこからか取り出した手動カウンターで一粒一粒丁寧に数え上げていく。
実は、袋の中には、豆が50粒丁度しか入っていなかった。
そして今、現存する豆の数を50から引けば――。

「……せんせーの年が、……ようやく、わかる……♪」

――つまりは、それだけのこと。
しかし、それだけとはいえ、彼女には難問だった。
かの男にプライベートなことを訊く、というのは内気な彼女からすれば心臓爆発モノなのだ。
それに、『どうして、そんなことを訊くんだい?』などとでも言われた日には……。
少女がどれだけトンチンカンな対応をするのかなど、火を見るより明らか。
だから、こんな遠まわしな方法を使ったのだ。
などといっている間に、少女は豆を数え終えたようだ。
「……○○歳、かぁ。……見た目より、ぜんぜん若い……」
そして、陶然としながら、ぽつりと呟く。
「……わたしとは○○歳差」
結構な年齢差。その事実に、すこしだけ肩を落とす少女。
しかし、その内心は『でも、○○歳差なんてカップル、世界中にはいくらだっている……!』
などと見た目からは想像もつかない程、燃えているのだ。
そして、少女は残った豆をつまみながら、次の作戦、本来ならば主目的である14日に向けて計画を練るのだった。

ああ、若い身空であんな変人に恋焦がれるなんて。
なんという青春の無駄遣い。

しかし、つまるところ、『恋は盲目』この一言につきる、ただそれだけの話――。

233ふみお:2008/02/03(日) 13:06:05 ID:+t2sQFWu
雑記
「……エホウマキ、在る、マスよ……」
「ほう、恵方巻まで持ってきているとは。……しかし、学業にあまり関係のないものばかり持ってくるのはどうかと思うが」
「……うぅ」
「まぁ、準備がイイのはいい事だ、ということにしておこう。恵方を向いて、丸齧りするんだったね? 今年の恵方は……」
「……な、南南東、デス……」
「ふぅむ、つまり北はこっちだから……。……ふん、大体、あっちの方向だね」
「……ドウゾ」
「ああ、ありがとう。では、無言で食べよう」
……。
………。
………………………。
「うむ、なかなか腹に溜まるものだなぁ。今日は晩のご飯は必要ないかもしれない」
「……そう、です、か……」
「ん? 君の分、ちっとも減ってないじゃないか。どうしたんだい?」
「……自分で持っテキテ……、なんなんですが……」
「ふぅむ?」
「……せんせーの前で、丸齧り、ナンテ……。そんな、ハシタナイ……」
「は?」
「……あ、ああ、お、お家で、食べ、マス……です。………////////////」
234ふみお:2008/02/03(日) 13:12:05 ID:+t2sQFWu
すいません。作者です。
途中、御見苦しいところをお見せして申し訳ございませんでした。
何故か、数回、いきなり書き込みが全く反映されないことがあり、
試しに>>230の文を書き込んだら、今度は反映されるという愚かな私には理解不能の事態に陥りました。
『………………………』から始まる文を投下しようとしたのがいけなかったのでしょうか?
とにかく、スレ汚しな行為をしてしまい、大変、失礼いたしました。
心よりお詫び申し上げます。

それでは。
235名無しさん@ピンキー:2008/02/03(日) 13:28:56 ID:JphSMSfX
支援ネタ乙
236名無しさん@ピンキー:2008/02/03(日) 17:26:30 ID:GK1rDAA3
乙。
でも、どっちかというと気の弱い娘が勇気を〜スレ向きな感じ。
237190の続き。委員長と彼、デート編。:2008/02/06(水) 20:59:21 ID:DtWK0bVV
 私は駅前の時計台の下で人を待っていた。
 時刻は午前十時。天気は快晴だ。
 私は自分の身なりを確認する。髪はお気に入りの髪留めでまとめてある。枝毛もない。
 服は薄手のブラウスにロングスカートだけど、変なところはないだろうか。不安だ。
 バッグの中身も確認する。必要なものはちゃんと入っていた。忘れてなくて一安心だ。
 ドキドキする。ああ、早く時間が過ぎてほしいような。でも心の準備なんていつまで経ってもできそうにないからこのまま時が止まってほしいような。
 うわぁ、混乱してるよぉ私……。だってこんなの、
「委員長、お待たせ」
 急にかけられた声に私はびくっ、と体をすくめ、それからおそるおそる後ろを振り向いた。
 クラスメイトの想い人が笑顔で立っていた。
「あ……」
 私は何か言わなきゃと思い、頑張って口を開こうと、
「おはよ。あー……ちょっと遅れたか。委員長結構待ったんじゃないか? ごめんな、こっちから誘ったのに」
 彼の言葉に私は慌てて口を閉じ、首を振った。
 うう、口下手な己が憎らしい。
「そっか。じゃあさっそく行こう」
 促されるままに頷き、私は彼の後に続く。行き先はまず映画館。


 今日彼とこうして待ち合わせをしていたのには事情がある。
 前に読書感想文用の本を私が勧めた際に、彼がお礼をしたいと言ってきたのだ。
 私はそんなものなくていいと思ったけど、彼は納得しなかった。それで私が決めかねていると、彼が言ったのだ。
『じゃあ俺のオゴリでどっか遊びに行こうよ。映画観に行くとか』
 急な提案に私は驚きつつも頷いた。
 思わぬ出来事だったが、こうして私と彼のデートが決定したのだった。


(いや、デート……なのかな?)
 彼は単に約束を果たそうとしているだけじゃないのか。別に私たちは付き合っているわけじゃないし……。
 でも彼の方から誘ってきたんだし、少しは期待していいかもしれない。
 いやいや、私が決めかねているから助け舟を出しただけかも。だったら期待なんてしない方が、
「あのさ」
 彼の声に私はまたびくっ、と反応する。
「隣歩いたら? 後ろだと話もできないって」
「――」
 私は緊張しながらも言われた通りに並ぶ。
 大丈夫。特に変わったことじゃない。並んで歩くなんて一緒に学校から帰ったときもやったし、
 ……でも今は下校途中じゃない。それに、
「初めて見た」
「……?」
「委員長の私服姿。ちょっと新鮮」
「っ」
 ――こんなこと言われて意識するなって方が無理。
 横目で彼をちらりと覗き見る。
 こっちだって、彼の私服姿を見るのは初めてなのだ。
 Tシャツの上にチェックの上着を羽織り、藍色のジーンズを穿いている。
 ラフと言えばそうだけど、似合っていると思う。半袖から伸びる腕は運動部らしく、がっしりとしていた。
238名無しさん@ピンキー:2008/02/06(水) 21:02:19 ID:DtWK0bVV
「ん、どうした?」
 彼がこちらを向く。私はすぐに目を逸らしてなんでもない顔をした。
「おとなしいのはいつもだけど、今日は輪にかけて口数少ないな。何か悩み事?」
 あなたのせいですとは口が裂けても言えない。
 しかしいつまでも黙っているわけにはいかない。ここは頑張って喋ってみる。
「あ、あのっ……」
「ん?」
「映画、とか……よくわからなくて……」
「……ああそういうことか。今ならホラー物とアクション物で面白そうなやつやってる。他には感動系があったかな。恋愛物らしいけど」
 どれにする? 暗にそう言っているのだろう。しかしいまいちピンと来ない。
「よく……わからないよ」
「じゃあ俺が決めていい?」
 頷く。彼が観たいものなら何でもいい。
「じゃあホラーで」
 え?
「夏といえば怪談話だし、観たかったんだよなあ」
「……怖くない?」
「え? ホラーだしそりゃ怖いでしょ」
「……」
 てっきり男の子だからアクション物に行くと思っていたのに。
「ひょっとしてホラーはダメ? やめとく?」
「……いい。別に」
「無理しない方が」
「無理してない。大丈夫」
 ああ、なんで私、こんなところで意地張ってるの……。
 でも彼はホラーが観たいんだから。大丈夫。耐えられる。我慢できる。
 私は彼の横を歩きながら、心の中で何度も気合いを入れた。


『きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
 スピーカーから響く女性の叫び声に、私は心臓の音が停まるかと思った。
 声も驚いたが、それよりスクリーンに映る場面があまりに『キテ』いたので。
 死んだ妹の霊に取り憑かれた姉。周りの鏡やガラスにいつも妹の死に顔が映り、ノイローゼ状態になってしまった彼女。
 家族や友達が心配してくれたのだが、彼らの瞳にさえ妹の死に顔が映り、誰とも顔を合わせられない。
 耐えきれずに彼女は周りから逃げようとするが、どこに行っても『鏡』はある。
 やがて彼女は妹が死んだ湖に辿り着く。彼女の不注意で妹は湖に落ちて死んだ。そのことを謝ろうと姉は水面を覗き込むが、妹の姿はどこにもない。
 よく見ると妹の死に顔は自分の瞳の中にある。そこから水面に反射して映る妹の死に顔。それが自分の瞳に映り、また返す。
 水面と瞳の間で繰り返される無限反射。
 合わせ鏡に映るは、ひたすらに妹の顔、顔、顔……
 スクリーン全体に満ちるように、死に顔の反射が繰り返される場面は圧巻だった。
(ていうかトラウマものだよ……)
 やっぱりやめとけばよかったかも。目をつぶっていればいいのかもしれないけど、暗闇の中で悲鳴だけ聴くのも怖い。耳を塞ぐと何も感じ取れなくて怖い。
 そのとき、私の手に温かい感触が下りた。
(え――?)
 見ると、隣の彼の手が私の手に伸びていた。
 こっそり耳打ちする彼。
「怖いなら握っていて」
 ただのクラスメイトによくそんなことを言えるものだ――とは思わなかった。
 そのときはただひたすらに大きな手の感触が温かくて、すごく安心感を覚えた。
 私は顔を真っ赤にしながらも、硬い手の平をぎゅっ、と握り返した。
239名無しさん@ピンキー:2008/02/06(水) 21:06:17 ID:DtWK0bVV
 映画館を出てから彼は申し訳なさそうに謝ってきた。
「ごめん。委員長怖がってたのに無理に付き合わせちゃって」
 私は気にしないで、と首を振った。
 本当に気にしなくていいのだ。
 彼の温かい手の感触がまだ残っているようで、私はなんだか得をした気分だったのだから。
 時刻は既に午後一時を回っている。彼がごはんどこで食べようかと尋ねてきたので、私は待ってましたとばかりに申し出た。
「あの……」
「え?」
「あのね……お弁当……作ってきたの」
 言えた。小声で、ちゃんと彼に届いたかどうかわからないが、とにかく、
「……ホントに?」
 小さく頷く。
 瞬間、彼の顔が明るく弾けた。
「マジで? うわすげえ、委員長ありがとう! なんか感動した」
「……? あ、あの、」
「マジ嬉しい。家族以外に弁当作ってもらうなんて初めてだよ」
 彼のはしゃいだ様子に私は戸惑う。お弁当がそんなに喜ばれるなんて。
 でも、悪い気はしなかった。


 途中で飲み物を買ってから、私たちは近くの公園に入った。
 芝生の上に腰を下ろして一息ついてから、私はお弁当箱を取り出す。
「おお……」
 彼が感嘆の声を洩らした。
 お弁当箱には唐揚げ、ミニハンバーグ、アスパラのベーコン巻き、玉子焼き、ウインナーなど、定番のおかずばかりが並んでいる。
 とにかく失敗しないように無難なもの、そして思い付く限りのものを詰め込んだのだ。別の箱にもおにぎりを六つ詰めてきた。
 割り箸を彼に渡し、私は手を合わせる。彼も手を合わせて小さく「いただきます」と呟く。
「んじゃまず玉子焼きから」
「……」
 緊張する。時計台や映画館でのものとは違う緊張が私を強く縛る。
 玉子焼きがゆっくりと彼の口に入った。二度、三度口を動かし、噛み砕いて、飲み込んで。
「……おいしい」
 その言葉に私は泣きたいくらい嬉しい気持ちになった。
 嘘ではないだろうか。夢ではないだろうか。疑り深い私の心根が私を不安にさせる。
「うまいよ! うん、うまい。おいしい。あ、唐揚げもいいかな」
 ひょいと唐揚げを口に運ぶ彼。
「……ああ、これもいいなぁ。なんか好きな味ばかりだ」
 そこまで言われてようやく私はほっとした。彼の舌に合ったようでよかった。
 そのとき私のお腹がぐう、と鳴った。
「……!」
 安心したせいだろうか。タイミング悪すぎ――
「あは、委員長も食べようよ。朝からこんなに作って頑張ったみたいだから、お腹も空くよな」
 何のフォローにもならない彼の言葉に、私は身が縮み込む程恥ずかしくなった。
240名無しさん@ピンキー:2008/02/06(水) 21:08:10 ID:DtWK0bVV
 昼食を終えてから、私たちは駅前のショッピングモールをのんびりと歩いた。
 洋服屋や靴屋を冷やかしたり、アクセサリー店を覗いてみたり。
 ファッションのことなんて私にはよくわからないけど、彼と一緒にいろんな所を回るだけでなんだか幸せな気分になる。
 本当にデートしてるみたいだ。いや、私にとっては紛れもないデート。彼がどう思っているか知らないけど。
 ……私は知らない。彼が私をどう思っているか。
 知りたいとは思う。でも、そのためには自分の気持ちを伝えなければならないわけで、私にはその勇気がない。
 今だってそれなりに仲良くやっている。それだけで私は嬉しい。それを壊したくない。
 嫌われるのが、怖い。
 だから私は高望みしない。今のままで構わない……

 本当に?

「委員長?」
 彼の呼び掛けに私は顔を上げた。
「どうした? 気分でも悪い?」
 首を振る。物思いに耽ってぼうっとしていた。
 今は本屋の前だ。入り口の横に受験勉強の参考書を宣伝するポスターが貼ってある。
 受験……
「ひとごとじゃないんだよな俺たちも」
 私の視線の先に気付いたのか、彼がため息をつく。
「あと一年しかないわけだし、きっとすぐに受験とか来ちゃうんだろうな。それが終わったらもう卒業。あっという間だよな」
 卒業。
 それは私にとって、もっとも遠ざけたい現実。
 彼の言う通り、本当に、あっという間にその日は訪れるのだろう。
 それを過ぎれば、もう彼と今みたいに顔を合わせることはなくなってしまう。
 想いを伝えることなく、彼と離れてしまう。それはとても辛い。
 だからといって、簡単に告白できたら苦労はしない。それはとても簡単で難しいことだ。
 タイムリミットは迫っている。ゆっくりと、しかし確実に。
「また考え事か?」
 彼の声がまたも私の意識を現実に戻した。
「真面目な顔の委員長も悪くないけど、せっかく遊びに来てるんだし、もっと笑顔の方がいいよ」
 スマイルスマイル、と微笑む彼に、私は小さくはにかんでみせた。


 夕方。
 時計台下に戻ってきた私たちは、電車の発車時刻を確認する。
 今日は楽しかったという彼。私も楽しかった。とても、楽しかった。
 別れ際に彼が言った。
「休み中にさ、また遊びに行こうよ。今度はホラーはやめるから」
 思わぬ申し出に驚いたが、もちろん断る理由はない。頷き、それから答えた。
「また、お弁当……作っていくから」
 彼は嬉しそうに笑った。


 勝負のときなのだろう。
 勇気を出さないといけない。内気でも、意気地なくても、頑張らないと想いは伝わらない。リミットを迎える前に、勇気を。
 夏休みの間になんとか想いを伝えたい。そう決心して、私は帰路に着いた。
241名無しさん@ピンキー:2008/02/06(水) 21:13:35 ID:QSzp3bvo
>>237-240 GJ!!!!
委員長可愛いよいいんちょ
242名無しさん@ピンキー:2008/02/06(水) 23:03:49 ID:ksShUyMe
おおっGJ
可愛いよ委員長

最後の一文は……続編フラグかなwktk
243名無しさん@ピンキー:2008/02/07(木) 02:56:13 ID:4ycYV/dg
>>240
>「また、お弁当……作っていくから」

なんかもう、可愛すぎてキュンキュンしちまうぜ
骨が甘くなるほどGJ!!!
244名無しさん@ピンキー:2008/02/07(木) 21:29:32 ID:UZE1nuLE
これは良い仕事。
礼賛を送らせてください。
245名無しさん@ピンキー:2008/02/08(金) 02:20:15 ID:IduAII8v
246名無しさん@ピンキー:2008/02/09(土) 15:33:39 ID:lj+DwaGC
…///………ぐっ、じょぶ……です…
……………あぅ///
247名無しさん@ピンキー:2008/02/09(土) 16:53:37 ID:biAJBGLb
恥ずかしがり屋で喋れないんじゃなくて、強気だったり言いたいことをはっきり言うような女の子が
喋れなくなるっていうのはこのスレ的にありかな?
書きながらこのスレに投下しようか別のスレにしようか迷ってる。
248名無しさん@ピンキー:2008/02/09(土) 17:16:34 ID:w0F2d9aT
>>247
風邪をひいたとか喉がかれて声が出なくなったとか
そういうトラブルのために無口になってしまうってこと?
もちろんアリですよ。
元々おしゃべりだったり活発な娘がしゃべれなくなるシチュは前にもあったし
249名無しさん@ピンキー:2008/02/09(土) 17:41:36 ID:biAJBGLb
>>248
そういうこと>風邪〜
ここでも構わないならちょっと頑張って仕上げてみる。
250通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:30:28 ID:ceWSzU19
なんだかこのスレを見てて、何故か猛烈にインスピレーションの湧いた俺が通りますよ………
これから15レスほど投下します

見たくないやい! と言う方は通りすがりをNGにしてください。
251通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:31:22 ID:ceWSzU19
機械的なチャイムの音とぷしーと気の抜けた音と共に、目の前の両開きの引き戸が開かれる。
それと同時に文字通り雪崩込む様にして、人の群れが電車の中の狭い空間へと押し寄せ流れて行く。
その人の群れの中を、僕は激流の中の小船の様に押し流されながらも、
小柄な体を生かして人の群れを上手く摺り抜け、何時もの向かい側のドアの前へと向かう。

……良かった、今日は上手く何時もの位置に陣取れた。
そう思った僕は一人、安堵の溜息を付く。

これがもし、通路のど真ん中とかだったらかなり厳しい事になる。
人の群れに四方八方から揉みくちゃにされて、目的地に着く頃にはヘトヘトになってしまうからだ。
しかし、これがドアの側ならばある程度は押される方向も限定される為、疲労の度合いは大分違ってくる。
おまけに今、僕が目の前にしているドアは、この時間の電車では目的地に着いた時にだけ開くドアなのだ。
だから駅についた時、一々乗る人降りる人に道を譲る必要も無いのだ。

まあ、それでも満員電車である以上は息苦しい事には変わりは無いんだけど、
せめてドアの窓に映る景色を眺めていられるだけ、まだマシだと思おう。

……さて、後は目的地までの約1時間、夕日に沈む車窓を眺めつつ、この満員電車の濁った空気を耐えるだけ。

ほぼ毎日の様に繰り返される、朝夕の登下校時に訪れる軽い試練。
この日の夕方も、僕は何時もの通りに過ごす筈だった……そう、この時までは、

最初に違和感に気付いたのは、乗った駅から三つ目の駅を過ぎた辺りだろうか。

――僕が感じた違和感、それは自分の背中に押し当てられる柔らかい感触だった、

最初は、誰かの持っている革の鞄が押し当てられているのだろうかと僕は思った。
だがしかし、今、僕の背中に押し付けられている物は革の鞄にしてはかなり柔らかい上に、
どう言う訳か、それは中を温かい湯で満たしたような温もりさえあるのだ。
そして当たっている物を意識してわかった事だが、
背中に押し当てられている物体が二つ横に並んだ物である事も分かった。

……はて、これは一体?

僕はそれが一体何なのかが少し気になったのだが、
それを目で確かめようにも、このすし詰めの状況では他の人の身体に遮られて殆ど見る事が出来ない。
ならばと、手で直接確めようとしたのだが、隙間無く押し合い圧し合いする乗客の所為で、ろくに手を動かす事も出来ない、
と言うか、下手に手を動かした所為で痴漢かスリ扱いにされたら、と思うと無理して手を動かそうとする気にもなれなかった。

……僕の意気地なし。
252通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:32:13 ID:ceWSzU19
と、僕が考えている間にも、その柔らかい物体は更にぐいぐいと僕の背中に押し付けられてくる。
もう僕に押し付けている事は分かっている筈だろうに、これを押し付けている人はかなり失礼な人か鈍感な人みたいだ。

そう、僕が心の中で憤慨した矢先、唐突にわき上がった別の違和感を感じ取った。

何やらお尻のあたりがムズムズザワザワとする感覚。
それも一部だけではない、お尻の広い範囲を包む何かに撫で回されている様な……。
――いや、これって本当に撫で回されてる!?

間違い無い、今、誰かの掌が僕のお尻を撫で回している!

ちょ、ちょっと待て、僕は男だぞ? 男のお尻を撫でまわして何が楽しいんだ?
いや、まさかとは思うけど、僕のお尻を撫でているのは「うほっ」な嗜好の人なのでは!?
まあ、自分で言うのもなんだけど学園祭で女装した時、自分でも可愛いと思えるくらいだったけどさぁ……
って、この世の中、それがイイって言う人もいるんだっけ……?
うへぇ……な、何とか逃げださなくては……!

かなり嫌な想像をしてしまった僕は、堪らずお尻を撫でまわす誰かから逃れようとするのだが、
押し合い圧し合いする乗客に阻まれ、逃げ出すどころか無様に身体を捩じらせる事しか出来なかった。
ならばとお尻を撫でている誰かの手を抓ってやろうとしたが、コレも密集する乗客に阻まれ手を後ろに回せない。
無論、止めてくれ!と声を上げようとも思ったのだが、この人が密集する状況では恥かしくて中々声が出せず
痴漢被害に遭った女性の気持ちをなんとなく理解するだけでしかなかった。

……うぼぁー、少なくとも次の駅に到着するまでの間、僕はこの状況を耐えなきゃならないのか?

などと心の中で悲観した矢先、電車はトンネルへ入った。
トンネルの空気を引き裂く轟音と共に、窓の外は一気に闇色に染まる。

それによって、電車の窓硝子が鏡の様に後ろの光景を写したお陰で、
僕は乗客の隙間からだが、背中とお尻に感じる違和感の原因である誰かの正体を知る事が出来た。
253通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:33:12 ID:ceWSzU19
 
その僕の後ろに居る誰か――それはうほっ、な変態さんでもなんでも無く、僕が良く見知った人物だった。
その人物とは、1ヶ月前に僕と同じクラスに転校して来た同級生の少女、深山 皐月(みやま さつき)。
僕と同じくらい低い背にスレンダーな体付き、そして美しく整った顔には少し不釣合いな野暮ったい黒縁眼鏡、
どちらかと言うとお洒落と言うより邪魔にならないように短く切り揃えられた艶やかな黒髪、
勉強は出来るけど無口な所為か人付き合いが苦手で、普段は教室の隅か図書室かで難解な本を読んでいる様な、
それこそ、どこぞのラノベに出てくる零な魔法使いの無口な友人を思わずイメージしてしまう位、
彼女は余り目立たない物静かな少女の筈だった。

だが、今、僕の後ろに立つ彼女は、その印象とは裏腹に如何言う訳か執拗なまでに僕のお尻を撫で回しているのだ。
しかも、よくよく彼女の方に耳を澄ましてみれば、
彼女は興奮しているのかふーっふーっと荒い息を漏らしているのも分かった。

……と言う事は、さっきから僕の背中に押し当てられてるのは……彼女の胸!?
しかも固く小さな物の感触があるって事は……彼女はノーブラなのか!?
うあー、押し付けられて分かったけど、彼女って見た目よりも胸が大きいんだなー…――って、そうじゃなくて!
こ、こんな変な事は早く止めさせないと!

「……ちょ、み、深山さん、何しているのさ……」 

何とか気を取りなおした僕は勇気を振り絞ると、周囲に声が聞こえないよう気を使いつつ
未だに無言で僕の背中に胸を押し付けながら僕のお尻を撫で続ける彼女に向けて声を掛けた。

「…………」

その声が聞こえたのか、ピクリと彼女の身体が震えると同時に、僕のお尻を撫で回す右手が一瞬だけ止まった。
――が、その次の瞬間にはズボンの上から撫で回していただけだった彼女の右手が、
あろう事かズボンの隙間からブリーフの内側へ入り込み、僕のお尻を直に触り始めたのだ。

「………ひっ!?」

ひやりとした彼女の掌の感触に、僕は思わず上擦った声を上げる。
そんな僕の反応に彼女は気を良くしたのか、
更にズボンの中でお尻の割れ目を指でなぞり始め、敏感な部分を刺激し始める。
それだけに飽き足らず、もう片方の手を背後からシャツの隙間に入れ、
僕のわき腹から胸ヘ伸ばし、乳首の周りをいやらしく撫で回してゆく。
254通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:34:10 ID:ceWSzU19
「……ちょ、深山さ…ん……止めて……」
「…………」

背筋がゾワゾワする凄まじい感覚を必死に耐えながら、
僕はまわりに聞こえない様に小さな声で、背後の痴女と化した彼女に向けて懇願するのだが、
彼女は僕の懇願を聞き入れる所か、尻の割れ目を擦っていた右手を下げ、細い指先でお尻の穴を舐る様に弄り始め、
シャツの中で僕の胸を弄っていた左手の指先で、僕の左の乳首を軽く摘み上げくりくりと弄び、行為をエスカレートさせる。
無論の事、この責めに僕のペニスが反応しない筈が無く、むくむくと鎌首をもたげ始めていた。

「……ぐっ、うぅっ!、うぁ……ぁぁ……」

そしてお尻の穴を舐り回していた指先が、ぬぷりとした感触と共に中へ押し込まれ、直腸内を舐り始める。
同時に、彼女が身体を更に密着させる様に僕の背中に身体を寄せ、押し当てた乳房で背中へふにふにと刺激を与え
更に僕の耳元にふぅーっと熱い吐息を吹きかけ、僕の感じる快感の度合いを否が応に高めて行く。

その状況の中、僕と彼女の様子が誰かに気付かれていないかと気になった僕は
快感で顔を赤く染めながら周囲を見回すが、幸いにも、周りの乗客はまだ僕と彼女の様子に気付いていない様子だった。

……しかし、それでも万が一、誰かに気付かれたらと思うと、僕は気が気ではない。

「…………」
「……ちょ、ちょっ…と!……やめっ……ぁぁ……」

僕が周囲に気を配った矢先。不意に胸を弄り回していた彼女の左手が離れ、
そのまま僕の股間の方へ下げるとズボンのチャックを下ろし、其処から露出したブリーフの隙間へ手を差し入れて、
その繊細な指で、痛いほど膨れ上がった僕のペニスを直に握ると、そのまま丹念に弄り始めた。
竿をリズミカルに握ったり、指先で亀頭をスリスリと撫で回したり、掌で袋を優しく揉み回したり、
それと同時に、お尻の穴に突っ込まれた彼女の指がついに前立腺を探り当て、ぐりぐりと舐り始める。
その、お尻とペニスから来る凄まじい感触から逃れようと、僕は思わず身を捩じらせ……

「おいこら、押すんじゃねえよ!」
「―――ひっ! ご、ゴメンナサイっ!」

横合いから掛かったサラリーマンからの怒鳴り声に、彼女は動きを止め。僕は身体をビクリと震わせて思わず謝る。
暫しその様子を見たサラリーマンは、僕と彼女のやっている事に気付かなかったらしく、
舌打ちをすると片手に持った新聞紙へ目を移した。

……危ない危ない、こんな状況で誰かに気付かれたら大変な事になる……。
って、それじゃあ余計に身動きが取れないって事じゃないか!
255通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:35:24 ID:ceWSzU19
 
「…………」
「……ひぅっ!?」

サラリーマンの怒声で冷静に戻りかけた僕の思考は、
再び始まった彼女の責めと、首筋を這い始めた熱くぬめった感触で快感の方へ引き戻されてしまった。
彼女が僕の首筋を舐めてる。しかも満員電車の中でいやらしい事をされている緊張で流れ始めた汗を舐め取ってる。
それもじっくりと僕の汗の味を味わう様に……ああ、気持ち良過ぎる。

「……あ…うっ……くっ……ぅ!」

そのまま彼女は僕の首筋から耳元へと舌を這わせ、
熱い吐息を吹き掛けながらじゅぷじゅぷとわざと僕に音を聞かせる様に耳たぶを唇で咥え、舌で舐ってしゃぶりつく。
無論、僕のペニスを弄る指の動きも激しさを増し、竿をリズミカルに握りながら快感を感じる所を念入りに弄り回し、
更にお尻の穴に突っ込んだ指を二本に増やし直腸内を舐り、前立腺をぐりぐりと刺激する。

あ、ああ……なんか込み上げて―――
256通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:36:42 ID:ceWSzU19
 
『OO市ー、OO市ー 地下鉄線はお乗換えです』

―――電車が駅に着いた!
チャイムと共に僕のいる位置の向かい側のドアが開き、それと同時に周囲の人の群が動きを見せた。
それによって、限界に達しそうだった僕は冷や水を掛けられたかのように一気に冷静に引き戻される。

……今の内に早く彼女から逃げ出さなければ、如何なるか分かったものじゃない。
まだ途中の駅だけど、この際しのごの言っている余裕なんて僕には無い!

「……お、降ります! 降ります!」

僕は何とかぼやけた意識に喝を入れ、人の群れの動きに驚いて動きを止めた彼女を振り払うと
彼女の責めによってすこし乱れた着衣もそのままに声を上げながら人の群を掻き分け、
開いているドアから電車の外へ向かおうとした、

「…………!」
「降りま……―――うあっ!」

――が、外まで後一歩の所で、彼女の手が僕の腕をがっしりと掴まえる。、
それに驚いて僕が動きを止めたと同時に、彼女に少女とは思えぬ力で強引に引き戻され、
その上、更にホームから押し寄せて来た乗客によって、僕は再び元居た位置に押し戻されてしまった!
僕が慌てて開いていたドアの方に顔を向けた時には、チャイムの音と共にドアが閉められる所だった。
無論、ある程度は乗客が降りていたのだが、その降りた乗客以上に多く乗りこんできた乗客の所為で、
僕の周囲がギュウギュウ詰めな状況は全く変わっていなかった。

しまった、これでは元の木阿弥……いや、それ所か……。
257通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:37:25 ID:ceWSzU19
 
「…………」

恐る恐る前の方に視線を戻せば、其処には整った表情を完全に赤らめさせ、
黒縁眼鏡の硝子越しに見える情欲に潤ませた瞳で僕を見つめる彼女の顔があった。
恐らく先程、僕の手を引いたと同時に、彼女は上手く人の群をすりぬけて僕の前へと回ったのだろう。
目の前の彼女は完全に性的な意味で興奮しきった状態なのか、しきりにもじもじと太腿を擦り合わせ
緩みきって半分ほど開いた唇から熱い吐息が漏れ出し、僕の頬を撫で上げる。

「…………」
「あ、あぁ……」

彼女の潤んだ瞳が僕の目をじっと見据える。
教室で本を読んでいる物静かな彼女とは全く違う、妖艶さと情欲に満ちた「ヒト科の雌」の目。
その目に何とも言えぬ物を感じた僕は只、情けない声を口から漏らすしか出来なかった。

「……逃げるの、駄目」

ポツリ、と今日初めて出した、澄んだ声で紡ぎ出された言葉と共に、眼鏡をキラリと光らせた彼女がズイッと僕に迫る。
その迫力に思わず気圧され、後ずさりした僕はそのまま後ろのドアに背を預けてしまう。
最初にも言ったが、僕の背後にあるドアは目的地に着くまで開く事は無い、
そして、この電車の次の停車駅は僕の目的地の駅であり、到着までノンストップでまだ20分以上掛かる。
そう、この時から20分間以上の間、僕の逃げ場は完全に失われてしまったのだ。

こ、こうなれば……何とか説得して止めさせないと……!

「み、深山さん、な、なんだって僕にこんな事を………」
「……き だから……」
「……へ?」
「……好き だから……君が 好き だから……」

僕の掠れた声の問い掛けに、彼女が荒い息を漏らしながらぶつ切りの言葉で応える。

……え、えーっと、これは一体如何言う事でしょうか?
深山さんにいきなり告られた? しかも僕に散々いやらしい事をした後で?
と言うか、なんかやる事の手順が逆じゃないのコレって!?
――って、パニくっているより説得説得!
258通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:39:07 ID:ceWSzU19
 
「い、いや、あの、だからってこんな事……」
「……私、止めない……」
「へ? いや、ちょっと?」
「……前からずっと、チャンス、伺ってた……」
「チャ、チャンスって?」

なんとなく、そう、なんとなくだが僕は彼女の言っている事の意味が分かって来たのだが
それでも言い様の無い不安に駆られ、つい彼女へ聞き返してしまう。

「……君に、こう言う事する チャンス」
「――はうっ!?」

彼女がポツリと返答すると共に、そっと右手を僕のズボンの社会の窓へ伸ばし、依然怒張したままのペニスヘ添える。
先程、限界寸前にまで昇り詰めさせられていた事もあって、唐突に触れた彼女の手の感触に僕は情けない悲鳴を上げた。

うう……さっきので少し漏れちゃったよぉ……。

「な、なんで……僕なんかを……」
「……私が転校した初めての日、校内で迷った私を、君は親切に案内してくれた」
「……そ、それだけ?」
「それだけで 充分」
「……うぁ……あぁぁ……」

何とか冷静さを保とうと更に尋ねる僕に、彼女は欲情しているとは思えない位に淡々と応えると、
空いた左手をシャツの中に入れ、僕の背中の僅かな空間へ回すと、乳房を僕の胸に押し付けるように身体を密着させ、
首筋に顔を寄せて舐め始めると同時に、社会の窓に突っ込んだままの右手で僕のペニスを弄るのを再開する。
それによって再び押し寄せて来た快感に対し、僕は左手で掴まり棒を握り締め、
その場にへたり込みそうな体を支えながら必死に耐える。

「うぅ……でも、深山さん……だからと言って、こんな所で……」
「…………」
「……うぁ…くっ…あぁ……っ!」

それでも僕は何とか彼女を説得しようとするのだが
彼女は何も応えない代わりに、僕のペニスを弄る動きを早め、背中に回した手で背筋をつつぅーっと撫でて行く。

……これは、もう止める気は無い、と言う彼女からの無言の意思表示なのだろうか……?
259通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:41:01 ID:ceWSzU19
 
「……触って」
「へ?……うぁ……!」

不意に、顔を上げた彼女が僕のペニスから手を離すと、僕の右手を掴みスカートの内側へと引っ張る。
そして、そのスカートの内側、そう、彼女の股間の辺りで
僕の指先にぬちゅりと何か熱く濡れた柔らかく複雑な形をした物を感じた。

まさか、コレって……?

「……私のここ、君の所為で 熱くなってる」
「………なっ!?」

や、やっぱり、今、僕の右手が触れているのは……彼女のアソコ!?
と言う事は、彼女は下着を全く着けていないって事なのか!? しかも生えていない!?
うあ……興奮した女性のアソコって、こんなにヌルヌルしてやわかくて……しかも火傷しそうなくらいに熱いのか……
しかも愛液、と言うのだろうか? それが僕の右手をグチャグチャにするぐらいにアソコから溢れ出てくる……

「……セックス、しよう」

初めて触った女性のアソコの感触に驚いている僕の耳元へ、彼女が囁く様に言いつつ、
僕の手を掴んでいた手を離し、そのまま社会の窓へ伸ばしてブリーフの隙間からペニスを引っ張り出す。
散々弄り回された所為か、露出したペニスは今までに無い位に怒張し、ビクンビクンと脈動している事が僕はわかった。

って、こんな満員電車の中でペニスを露出されたこの状況で、もし、誰かに気付かれるなんて事があったら……
も、もう僕は生きていけなくなっちゃうよ……うう……。

「大丈夫、怖くない」
「へ?……ちょ!?止めっ、止めっ!?」

僕がしきりに周囲の目線を気にしていると、彼女は僕が別の意味で怯えていると勘違いしたのか、
励ますように僕の耳元に囁き掛けつつ、密着させていた身体を僅かに離し、
アソコに添えたままの僕の手をどかすと、右手で僕のペニスを調整して彼女のアソコへとあてがう。
忽ち彼女のアソコから溢れ出た愛液が僕のペニスをヌルヌルに濡らしてゆく。

「…………」
「いひゃうあうぁうぁ……」

……いや、怖い怖くない以前の問題で、流石にこんな所では!
と、彼女へ言おうとしたのだが、僕のペニスの亀頭が彼女のアソコにヌチュヌチュと触れる凄まじい感触と、
彼女が再び僕の首筋を舐め始めた感触で、僕の言おうとした事は全く言葉にならなかった。
260通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:42:16 ID:ceWSzU19
 
「そろそろ、入れる……んんっ!」
「……うっ……!」

そして、彼女が身体を密着させると同時に、僕のペニスを彼女のアソコへズプリと突き込ませた。
ズッ、ズッと肉を掻き分ける感触と共に中へ入り込んでゆく僕のペニスを、
彼女の熱く濡れた肉壁が包みこみギュウギュウに締め付ける。

コレが……彼女の中なのか……コレは……気持ち…良過ぎる!

「………っ!………っ!」
「み、深山さん、辛いのなら……止めても……」
「……だ、大丈夫……私は……平気……っ!」

何処か辛そうに表情を歪める彼女に、僕は快感に耐えながらも心配の声を掛けるが、
彼女は途切れ途切れな言葉で答えながら身体をより密着させ、僕のペニスを更にアソコの中へ飲み込ませて行く。

ああ……温かくて、柔らかくて、ぬるぬるしてて……凄過ぎる……!

「……ぁっ……!」
「っ!……全部……入った……」

そして、電車がポイントに入ったのだろうか、
ガクンと車内が揺れた拍子に僕のペニスはぬぶっと根元まで彼女の中に入った。
それを感じ取った彼女はぎゅっと僕を抱き締め、それと同時に僕のペニスを包みこむ肉壁が締め付け蠢き始める

うあぁ……なんか、僕のペニスの全体が……彼女のアソコに揉み立てられて……気持ち良過ぎて……
い、一気に、限界が―――――

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

―――そのまま僕は達し、腰から脳天まで突き抜けるような強烈な快感と共に、
彼女の胎の奥へ大量の精液をドクッドクッと注ぎ込んだ。

「……んん……っ!」

その胎の奥に解き放たれた感触を感じているのか、
彼女はぎゅっと一際強く僕の身体を抱き締め、目を閉じ腰をブルブルと小刻みに震わせる。

ああ……やっちゃったよ……僕……。
261通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:43:46 ID:ceWSzU19
 
「…………」
「え? ……ちょっ!?」

暫く後悔混じりに絶頂の余韻に浸り、僕はこれで彼女の行為も終わりかと思った矢先。
彼女は僕の身体を抱き締めたまま、ゆっくりと腰を前後に揺さぶり、僕に快楽を与え、同時に味わい始める。
それによって、萎び始めていた僕のペニスは再び固さを取り戻してゆく。

……まだ、続ける気なのか、彼女は!?

「み、深山さん……も、もう…離れっ…て……!」
「ん……まだ…く…私は 止めない……」
「そ、そんな……くう……っ!」

快楽でぼやけた始めた意識の中で、僕は何とか止めさせようと彼女を説得するのだが
彼女は何処か嬌声の混じった声で断ると、その腰の動きを早め、更に左右の動きも加える事で、
僕のペニスにギュウギュウに纏わり付く肉襞の動きを複雑にし、僕を否が応に昇り詰めさせて行く。
無論、彼女が動く度、結合部からグチュグチュと水音が周囲に漏れるのだが、
周囲の人は仕事疲れの所為なのか如何かは分からないが、その誰もが僕達に対しては全くもって無関心だった。

……ああ、だから痴漢被害が中々減らないんだな……。

「……んっ……くっ……!」
「うっ、くぅぅぅ……!」

彼女は次第に痛みに慣れてきたのか、何処かぎこちなさを感じた腰の動きがスムーズさを増し、
それに伴って僕のペニスを包みこむ肉襞がポンプの様にペニス全体に吸い付き、射精を促してくる。
再び込み上げてくる物を感じた僕は、掴み棒を握る力を強めて必死に歯を食いしばり、
なんとか射精を耐えようと努力する。

……結局は、我慢していても我慢しなくともやっている事に変わりはないのだが、
それでも僕が我慢してしまうのは、耐えきれずに直ぐに出してしまう事が、
僕の心にほんの少しだけある男のプライドが許さなかった為なのだろう。
262通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:44:34 ID:ceWSzU19
 
「ん……我慢 駄目……はむっ」
「……ぁっ!? 〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」

だが、僕が我慢している事に気付いた彼女が、少し不機嫌に呟くと同時に、
僕の左の耳たぶを唇で咥え、舌をチロチロと這わせる。
無論の事、この彼女の不意打ちによって僕の我慢しようとする意思は、突風に吹かれたか紙切れの様に軽く吹き飛び、
電撃の様な快感で腰をブルブルと震わせながら、彼女の胎の奥へ2度目の射精を解き放ってしまった。

「……んっ……っ!」

その2度目とは思えぬ勢いと量の精液の噴出を、彼女は僕を抱き締めながら胎の中に全て受けとめ。
更に腰を小刻みに揺さぶらせ、僕のペニスに纏わり付いている襞により多くの精液を搾り取らせる。
そのオナニーで出した時とは段違いの気持ち良さに、僕の意識は白く染まりつつあったが………

「…………んっ」
「―――っっ!?」

―――不意に唇に柔らかい感触、
それと同時に口の中ににゅるりと侵入してきた生暖かい柔軟な何かが、
僕の歯茎や頬の内側を撫で上げ舌にねっとりと絡み付いてくる異質な感触によって。
快感でぼやけ始めていた僕の意識は強制的に引き戻された。
気付いて見れば、僕の眼前には快楽と情欲に染め上げた表情の彼女の顔がどアップで其処にあった。

と言う事は……彼女にキスされてる!?
いや、まあ、やる事をやった後とは言え、これは僕にとってのファーストキスである事には間違いないんだけど……
なんだかとっても複雑な気分。

「……んっ……んふっ……」
「んぐぅっ……んっ……んむぅぅ……」

そして、僕の唇を塞いだまま彼女は腰の動きを再開させる。
先程よりも早く、そして複雑に、周囲がギュウギュウ詰めの中で最大限に出来る動きで腰を揺さぶる事で
僕のペニスを包む肉襞の動きを激しくさせ、更にリズミカルに締め付ける事で僕を追い詰めて行く。
犯されている方の僕もまた、無意識の内に彼女の動きに合わせて腰を揺らし、更なる快楽を求める。
グチュグチュといやらしい水音と共に、結合部から溢れ出た精液とも愛液ともつかぬ泡立った液体が垂れ落ち、床を汚す。
しかし、それを気にする余裕なんぞ、意識が快感に染め上げられつつある今の僕には全くと言って程に無かった。
263通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:47:18 ID:ceWSzU19
「……んっ…んじゅっ…んふっ……」
「んぐっ…くっ!?……んんんっ……んんっ!」

更に、彼女は僕の口とペニスを犯したまま左手を僕のお尻の穴まで伸ばし、
その指先をお尻の穴に突っ込むと、僕に追い討ちを掛けるように前立腺を刺激し始める。

ああ……もう、駄目……また、出ちゃ……―――

「――――――――――っっ!!!」
「んんんんっっ!!」

急激な射精感を覚えた僕は何も考えられないまま彼女の奥へ突き込んで絶頂し、
強烈な快感と共に彼女の胎の中へ3度目の精の滾りを叩き込む。
そして彼女もまた、僕が絶頂したと同時に達し、僕の唇から顔を離し
身体をガクガクと震わせながらも僕の身体をぎゅっと抱き締める。

「み、深山さん……もう、これで、良いだろ?」

暫しの間、絶頂の余韻に浸った僕は掠れた声で、未だ荒い息を漏らし続ける彼女に尋ねる。
もう、この時の僕は立て続けの射精でペニスがジンジンと痺れ、辛さを感じ始めており、
早く解放して欲しい気持ちでいっぱいだったからだ。
だが……

「駄目、もっと」

僕の問い掛けに対して、彼女は僕の目を見据えながらきっぱりと断ると再び腰を動かし始める。
もう、この時の僕は彼女の為すがままになるしか他に道は無かった。

この後、電車が目的地に着くまでの10分間が、
僕にとって、今までに無い位にとても長く、濃密に感じられたのは言うまでも無い……。
264通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:49:02 ID:ceWSzU19
「うわ……もうズボンがベトベトだよ……」
「…………」

暫く経って、僕と彼女は駅近くの人気の無い公衆便所の男子トイレの個室で、
お互いの身体や服に付いた行為の残滓をティッシュで拭き取り合っていた。

あれから目的地の駅に到着するなり、僕は快感でぼんやりとした意識の中、
ペニスをズボンにしまうと抜けそうな腰に喝を入れ、彼女の手を引っ張って逃げる様に電車を下り、
無我夢中で改札を抜けて駅を出た後、なんとかこの使われていない公衆便所の男子トイレに掛け込んだのだ。

その時のスリリングさはお化け屋敷やジェットコースターで感じるそれよりも、断然に凄まじかった。
何せこの時の僕と彼女はお互いに愛液と精液で服がべとべとの酷い有様。
おまけに彼女の股からは、白い液体が止めど無く漏れ出していたのだ。

……もし今の姿で、うっかり警察に見つかっていたらと思うと、本当にぞっとする。

「ふう、これで服に付いたのは全部拭き取ったけど……
って、うわ、まだ臭いが残ってるな……はぁ、どうしよ、こんなんじゃ家に帰れないよ……」

服に付いた液を粗方拭き終わった後、
自分の服の臭いを嗅いで、その臭いの凄まじさに思わず溜息混じりに言葉を漏らす。

こんな状態のまま家に帰ったら、母さんに服に付いた臭いの事を聞かれたら、絶対に答えに困るだろう。
それで馬鹿正直に「同級生の少女に犯されてました」なんて言おう物なら、確実に母さんは卒倒する事になる。
はぁ、これから僕は如何するべきか……?

「……私の家、来る?」
「えっ?」

これからの事で僕が一人で頭を悩ませていた矢先、
唐突に彼女が言い放った提案に、僕は訳が分からず思わず聞き返してしまう。

「……私の家、ここの近く」

意外な事実発覚! なんと、彼女は僕と同じ駅から学校に通っていた!
あー、そんな事、全然知らなかったやー……って問題はそうじゃなくて!!
265通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:50:53 ID:ceWSzU19
「い、いや、でも、深山さんのご両親とかを如何やって誤魔化すのさ!?」
「大丈夫、父も母も今は家に居ない……家に居るのは姉だけ」
「なら、その姉さんは如何するのさ?」
「姉は気にしない人……だから大丈夫」
「いや、だからってさ……」
「行くの………嫌なの?」
「――う゛」

散々やった後とは言え、流石に僕は彼女の家に行くのは拙いと思い、なんだかんだと断ろうとする、
……のだが、無表情ながらも何処か泣き出しそうな目で彼女に問い掛けられ、僕は答えに詰まった。

「…………」

彼女がじっと僕の顔を見つめながら返答を待っている。
僕にはもう、答えは一つしか考えられなかった。

「分かったよ、行けば良いんだろ……」
「…………!」

諦めきった調子で僕が答えると、彼女の表情が何処と無く明るくなる。
そして、僕の手をぎゅっと握り締めると

「じゃあ、行こう」

そう言って僕の手をぐいぐいと引っ張りながら歩き始める。

その彼女の強引さに、僕は少しだけ戸惑いつつも彼女と共に歩き始めた。
……まあ、こう言うのも悪くないかな、なんて思いつつ、

その時に僕の掌に感じた彼女の手の温もりは、何処までも心地よく思えた。

―――――――――――――了?――――――――――――――――
266通りすがり ◆/zsiCmwdl. :2008/02/10(日) 01:55:04 ID:ceWSzU19
以上です

なんだか無口の女の事やっちゃうと言うより、無口な女の子にやられちゃう話になっているけど
それは作者の癖と言うか何と言うか………スミマセン、ハイ

とにかく、長々と失礼しました。
267名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 02:00:07 ID:T+MNxqpf
>>266
リアルタイムGJ!
何このむくちじょ。めっちゃエロいんですけど
このあと深山家でさらに体を重ねまくりですか?
268名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 02:05:42 ID:4hCGNxqa
>>266
…………うん。


……じ、じーじぇー……。
269名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 02:08:41 ID:v/QGX7Vr
>>266
イヤッホオォォオォ(ry
270名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 02:42:25 ID:sQV4KshD
>>266
むくちじょの時代きた!w GJ!
271名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 02:58:58 ID:LxdZJKo+
>>266
無口痴女(むくちじょ)恐るべし…
272名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 12:14:06 ID:URhcUYh4
新ジャンル『無口痴女』誕生








小雪たんまだぁ…?
273名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 13:13:11 ID:DPkhZk2q
ナイス無口痴女
274名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 17:24:21 ID:4mc8vwGQ
通りすがりのこの威力w
怖い子……GJです
275名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 17:51:41 ID:DeMCg6Jk
>>266
あなたは本当に逆レが好きですねww
まさかこのスレで見ることになるとは思わなかったぜw
そんなことよりGJっす!!
てか無口痴女吹いたw
276名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 22:57:15 ID:+9khoYK0
>>266
GJです!このまま住み着いちゃってください。
277名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 23:59:49 ID:sRrJpkB0
なんてこったいwwwGJww無口痴女すげえwwww
これからも通り過ぎて下さいw
278名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 03:32:20 ID:aQ1r/o7y
・・・・・・・・
279名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 03:36:34 ID:rTq6V4WJ
>>278
どうしたんだい?こんな夜中に
280ふみお:2008/02/12(火) 17:55:28 ID:ICpziEkg
これから投下します。

一応、バレンタインネタなのですが、容量がハンパではないので、
二回に分けて投下させてもらいます。


タイトルは

『擬似マチュー・ランスベールにおける希少的チョコ』です。


それでは、本文、投下します。
281ふみお:2008/02/12(火) 17:56:36 ID:ICpziEkg
あなたは『未来予知』というものを信じるだろうか?

『未来予知』、つまりは『予知能力』で、『超能力』。
……『超能力』。
あの、今や誰も覚えていないであろう、世紀末を騒がせたあの『予言』と同じように、
持て囃され、使い古され、忘れ去られ、風化してしまった、言葉。
もちろん、あなたはきっと、そんなこと知りもしないだろう。
私だって、本当は、良く知りもしない。そんなこと。
………………。
それでも、私は信じている。
飽かれ、呆れられ、見下されても。
『未来予知』を。

――実は、僕は、未来を予知することが出来るんだ。皆には内緒だよ――

そう言って、笑った、あの人のことを。
なぜなら――

     ◇  ◇  ◇

「………………」
「ははぁ、その顔は、『なんで止めるんですか!』って顔だね」
「………………」
「今度は、『いいから離してください!』だ」
「………………」
「図星当てられたからって、そんな怖い顔しないでよ。せっかくの美人さんなんだからさ。もっと、スマイルスマイル」
「………………」
「まぁ、でも、もうすこし君が落ち着かないと、この手を離すことは出来ないなぁ」
「………………」
「ん? 『十分落ち着いてます!』って顔だ。いや、でもさぁ。まだ、安心は出来ないよね」
「………………」
寒風吹き荒ぶ、その屋上で僕は言った。

「ここから飛び降りて、自殺する。その意思を、君はまだ捨ててはいないでしょ――」

……。
………………。
………………………。

2月14日。
世間一般では、いまでも『バレンタインデイ』などという悪習で色めき立つ、その日。
さらなる悪習、『義理チョコ』の受け渡しが社則で禁止された会社内では、しかし、それでも色めき立つ気配は隠しきれない。
正午を大きく回った現時刻。
残念ながら、そんなものとは今年も無縁だった僕は、使い慣れた、否、使い古した椅子から立ち上がる。
今日は、バレンタインであると同時に、僕にとっても大切な日だった。
立ち上げから関係していた、数年越しのプロジェクトにとうとう一区切りつく。そんな重要な日でもあったのだ。
そして、とうとう、それは終わった。
それを確認した僕は、いまだ慌しい空気のフロアから出る。
一仕事の後の一服でも御機嫌よう、と考えたのだ。
とりあえず足は、喫煙所に向かうが、しかし、途中で僕は踵を返した。
せっかく大きな仕事が終わったのだ。
その記念すべき一服を、“とりあえず”ですませたくなくなったのだ。それに――。
懐のモノを、背広の上から撫でて、確認する。
そして僕は、今では誰も使わない階段を使い、屋上を目指すことにした。
埃っぽい階段を上っていると、壁面に設置されている小さな窓から、たまに青い空がのぞく。
どうやら、一服するには絶好の天候のようだ。
しばらく階段を上り続けていると、次第に息が上がってくる。
三十路を超えると、こんなにも体力というものは衰えていくものなのか。
そんなことを考えながらも、しかし、上る速度は落とさない。
苦しげに、しかし軽快なリズムを刻む、靴と階段。
282ふみお:2008/02/12(火) 17:57:23 ID:ICpziEkg
それに鼓舞されるように、息を弾ませながら、僕はいく。

そして、とうとう屋上へといたる、扉の前についた。
建前、防犯などの理由で施錠がされていることになっているその扉。
しかし、老朽化からか、その鍵はもう壊れて役に立たなくなっているのを知っている。
ので、躊躇無く、僕は扉を大きく開けた。
途端、冷たい2月の風が建物の中に吹き込んでくる。
しかし、我慢できないほどでもない。
視界が三色の景色に染まる。
天高く、雲ひとつ無い澄んだ空の青と、黒ずみ、灰色というよりはダークグレーなコンクリートの床のコントラスト。
錆びて赤茶けた柵がそれに彩を添える。
僕は、とりあえずタバコとライターを出そうと、ポケットの中に指を入れ――
――そこで、僕の体は硬直した。

赤茶けた柵の中央に、それを乗り越えようとしている人影があった。

ここは、老朽化したとはいえ、それなりに高い16階建てのビルジング。
その人影は、ふらふらと揺れながら、次第に柵の上部に上がっていく。
ということは、柵よりさらに外に向かっているということ。
つまり。

「――なにやってんだ!! あんた!!」

僕は叫びながら、すでに走り出していた。
自分でさえ信じられない速度で柵にむかい、必死になって人影にしがみつく。
僕は夢中で、人影の腰らしき部分を捕まえると、強引に床のほうへと引き寄せる。
人影の指が柵にからまり、それに抵抗する。
先程まで階段を上って体力の落ちていた僕は、しかし、自分でも驚くほどの腕力で彼の人影を引き剥がそうとする。
抵抗する人影と、しがみつく僕。
古ぼけたビルの屋上で、滑稽なほど僕は夢中になっていた。
「こんなところから飛び降りたら、死ぬぞ!!」
当たり前だ。彼の人もそれを望んでいる。だからこそ、こんなことをしているのだ。
「あんたはどう思っているか知らないが、あんたが死んだらきっと悲しむ人も居る!!」
僕の説教じみた言葉に、彼の人が反応する。
抵抗が少なくなったんじゃない。
むしろ、逆に抵抗が激しくなった。
腹に後ろ蹴りを何度も食らう。
――そうだ。そんなことを言われたいんじゃない。僕はそれを知っている。
「あんたはそんな人がいないと思っているかもしれない! でも、でも――」
彼の人のことなんて知らないのに、どうしてそんなことが言える? でも、頭が真っ白な僕は、僕は――

「あんたが今、ここで死んだら、僕が悲しむ!! 世界中の誰よりも悲しむ!! その自信がある!!
あんたは、あんたはこの世でまだ必要とされている!! 間違いない!!」

――あとから考えたら、否、いつ考えたって、きっとその言葉は。

そして、とうとう、人影の抵抗が少なくなったのを見計らい、僕は残った全力でかの人を引っ張る。
すると今までの抵抗が嘘だったように、簡単に、柵から引き剥がれた。
そして、僕の引っ張っていた勢いのまま屋上に――

ドタッ、ドタドタ!

――バランスを崩し、僕は、その人影、否、人物を抱きかかえるように屋上へと、倒れこんだ。
僕は、そのまま、腕の力を全力で使い、その人物を拘束する。
今まで、知らないうちに無呼吸になっていたらしい。僕の体が酸素を欲し、あえぐ。
それは、彼の人影も同様だったらしい。
ぜぇぜぇ、いいながら僕はようやっと、理性が追いつく。
色褪せていた世界が、原色の青に染まっていく。
しばらく眺めて、それが空の色だということを、ようやく思い出す。
その頃には、僕は何とか冷静さを取り戻していた。
283ふみお:2008/02/12(火) 17:58:59 ID:ICpziEkg
腕の中の人は、小刻みに震え、なんとか束縛から逃れようと弱弱しい抵抗をしている。
だが、それはうまくいかない。
まぁ、僕だって、一応、さえない中年といっても成人男子だ。それなりに力もある。女子供の抵抗なんて――。
とまで、考えたところで、遅まきながら、僕は気づく。

腕の中の人が、小柄な女性である、ということを。

だが、気づいたところで、いきなり、手を離したりしたら。
「(またさっきの展開に逆戻り、なんてことになりかねないからなぁ……)」
とはいえ、この状況。
誰も来ないであろう屋上で、男が後ろから女を力づくで抱きしめている。
それも寝転がって。
………………………。
どうしよう。
この先、どうすればいいんだろう?
なんてことを考えていると――。

ギリッ。

「痛っ!!」
腕を思いっきり爪を立てて抓られ、反射的に腕の力が緩む。
「(――しまった!)」
と、思ったときには、彼の人――彼女は、僕の腕から逃れて、立ち上がった。
それでも、咄嗟に中腰になり、彼女の腕を掴むことには成功。
そして、ようやく、僕は彼女と初めて対面することになった。
「……………!!」
僕を睨む、彼女。

しかし。

険を含んだその表情。
でも、全然、怖くないんだけれど。
っていうか。

「……中学生?」

思ったことが、知らず口から漏れていた。
その一言で、彼女は余計に瞳を尖らせる。失言だったらしい。
「(いや、まてまて、この制服は……見覚えがあるぞ)」
見覚えがあるというか、うちの女子社員と同じ制服。
ということは。
……同僚?

「嘘だ〜」

またしても、口から漏れる本音。
だって、とても社会人とは思えない童顔。小柄な体格。握った手が伝えてくる、頼りなく細い腕の感触。
いや、冷静になって考えれば、ここはウチの会社のビルで、その屋上にいるんだからここの社員で9割がた間違いない。
それでも、僕は信じられなかった。

「こんな美人。僕が見落とすわけないもん」

去年からの新入社員だとしても、ほぼ一年。じゃなかったら、それ以上。
16階建てのビルを持つそれなりに大きな会社の、地方支社。だとしても。
独身男性の多分に漏れず、女子社員のチェックを欠かさなかった僕が、見落とすわけがない、はずだ。……多分。
そう思って、出た、心からの声。
それを聞いた彼女は、体を少し強張らせ、さらに睨みつけてくる。
しかし、少し顔を赤くした彼女の顔では、何の威嚇にもならなかった。

     ◇  ◇  ◇
284ふみお:2008/02/12(火) 18:00:21 ID:ICpziEkg
私は、目の前の男を睨みつける。
「ははぁ、その顔は、『なんで止めるんですか!』って顔だね」
そうだ、そのとおりだ。でも、それよりも。
「今度は、『いいから離してください!』だ」
……。言い当てられた。腹立たしいことこの上ない。
ので、より目に力を入れる。
「図星当てられたからって、そんな怖い顔しないでよ。せっかくの美人さんなんだからさ。もっと、スマイルスマイル」
また『美人』って言った。
こんな状況で言われても、ちっとも嬉しくなんてない。
嬉しくないんだから、赤くなるな! 顔!!
「まぁ、でも、もうすこし君が落ち着かないと、この手を離すことは出来ないなぁ」
うるさいな!!
私は、十分に落ち着いてる!
「ん? 『十分落ち着いてます!』って顔だ。いや、でもさぁ。まだ、安心は出来ないよね」
………………。
五月蝿い。黙れ。
「ここから飛び降りて、自殺する。その意思を、君はまだ捨ててはいないでしょ?」
………………。



千埜綾音(ちの あやね)。
それが、私の名前だ。
“千埜”なんて珍しい苗字とは裏腹に、普通の一般家庭に生まれ、平凡な人生を歩んできたつもりだ。
一般的な大学を卒業後、運よく、それなりに大きな企業に就職することが出来た。
『花のOL』なんていう言葉に憧れを抱いていたわけではないけれど、それでも、立派な社会人になろうと決意したのは確か。
でも。
現実はそう甘くはなかった。

入社した当初はなんら変哲はなかった。
次第に、実力を認められ、それなりに大きなプロジェクトの一端を担ったまではよかった。
………………………。
だが、それがいけなかったのだろうか。
気づいたときには、昼食や飲み会に誘われなくなっていた。
パソコンのケーブルが何度も抜かれていた。
データのバックアップディスクが粉々に砕かれていた(ご丁寧に、机の上に置かれていた)。
つまるところ。
“イジメ”というものにあっていたのだ。
………………………。
上司には何度も相談した。
しかし、暖簾に腕押し、糠に釘。
『なんとかする、なんとかする』と言って、結局その若い上司は、何もしてくれなかった。
そして、上司に相談するたびに、そのイジメは酷くなった。

それだけでも、辛かった。

耐え難い苦痛の中、それでも仕事を続けた。
………………………。

でも、それだけじゃなかった。

家に帰ったら、私が会社で何をしていたか(例えば、何回お手洗いに行ったか、とか)を、詳細に吹き込んだ留守番メッセージ。
郵便受けの中には、大抵、中身を空けられてる手紙や封筒。白い液体のこびりついた、小瓶。
どんなに鍵を変えても、無意味だった。
夜、誰かがつけてきていることもあった。

たぶん、“ストーカー”というものなのだろう。

会社では無視され、家では何者かに怯え続ける。
警察は、『まだ、事件性が無いから』とかいって、相手にもしてくれない。
285ふみお:2008/02/12(火) 18:01:15 ID:ICpziEkg
私は、次第に追い詰められていった。
夜、眠れなくなり、食欲も減退していった。
それだけじゃない。

気づいたときには、口が利けなくなっていた。
つまり、喋ることができなくなってしまったのだ。

それでも、最後の一線は踏みとどまろうと、心療内科などの扉を開けることはできない。
初めて気づいた、自分の中の偏見。
それでも、一度、躊躇してしまったら、もう二度と。
私は、ただ震えながら、耐え続けるしかなかった。
不幸中の幸いなのか、仕事上で喋ることはあまりなかったし、また、喋りかけてくるものもいなかった。
だから、いつかきっと、報われる日が来ると、こんな毎日はいつか終わると、信じていた。

……信じていたのに。

届いたのは、福音ではなく、訃報。
両親がそろって、交通事故で死んだという、訃報。
一人娘だった私は、混乱したまま、葬式などの準備に追われ、喪主として振舞わなければならなかった。
ショックでか、その時は、少しだけ喋ることができた。
でも。
誰も助けてはくれなかった。
どうしようもない脱力感。無力感。
慌しさの中で、“悲しい”なんていう感情を吐き出す場所も無かった。
そして、それでも葬式が終わって、諸々の後始末をして自宅に帰りついた私を出迎えたのは。

いつものように、封を開けられた手紙。十数件もの無言電話と、不気味な男の声の留守番電話。

全てを聞くことも出来ず、私は震える手で消去ボタンを押した。

私は居場所を求めた。

居場所を求めて、次の日、出社した。
会社になら、苛められようが何だろうが、居場所があると信じていたのだ。
ここまで追い詰められてなお、愚かしいことに、私は、信じていた。
否、“縋っていた”といったほうが正しい。
久しぶりに出社した私を出迎えてくれたのは――

――パスワードを変えられ、アクセスさえできなくなったパソコンと、私の関わっていたプロジェクトの終了の知らせだった。

私なんかいなくても、会社は動くし、事実動いていたし、プロジェクトだって私抜きに終わってしまう。
私の座っている椅子には、私じゃない誰かが座ってたって、別に誰も困りはしないのだ。
それでも雑用は回ってくる。
「……まぁた、千埜が出てきてる」
「あ、本当だ。鬱陶しい顔」
ひそひそと、それでも私に聞こえるように喋る女子社員の声。
私のほうをニヤニヤと見つめている上司の顔。
そんなこととは無関係に、仕事をこなしていく周りの人たち。

「(……もう、いいか)」

そう思った。
「(もう、どうでもいいや)」
私は誰に断ることなく席を立つと、屋上を目指して階段を上った。
誰も私を止めようとはしない。
無関心なのだ、私なんかには。

……だったら、このまま生きていくのは、正直、×××。
286ふみお:2008/02/12(火) 18:02:43 ID:ICpziEkg
重い足取りで、一歩一歩。
階段を踏みしめるように、上っていく。
長い階段に設置された窓からは、私をあざ笑うように、時折、雲ひとつ無い空が覗いていた。
でも、そんなことは、どうでもいい。
やがて、屋上へといたる扉へと辿り付く。
ここでようやく思い至る。

「(もしかしたら鍵がかかっているかも……)」

それは間違いなく、期待であり、生への執着。
ここで鍵に阻まれたら、そしたら私は――。
高鳴る心臓。震える手で、ノブを回す。
しかし――。
――あっけなく、扉は開いた。

なんだ。
もう、本当に、私は――。

ドアを半分無意識に閉めた私は、ふらふらと屋上の風に身をさらす。
何の感触も、感覚もなかった。
私はただただ、外を目指す。
赤茶けた柵にとうとう到達する。
錆びの色が手につくのも構わずに、私はそれを乗り越えようとした。
「(……ああ、そういえば。遺書を用意するのを忘れた)」
遅まきながら気づき、手を止める。だが。
「(でも、まあ、いいか。言い残したいことなんて、何もない)」
そう。この世に未練なんて一つもなかった。
だから、再び、上を目指し、柵に足をかけ――ようとした、その時だった。

「――なにやってんだ!! あんた!!」

後ろから、男の人の怒鳴り声。
すぐさま、その誰かが走り寄ってくる足音が続く。
気づいたときには、その誰かは、私を引きとめようと、私の腰を抱いた。
「こんなところから飛び降りたら、死ぬぞ!!」
男の強い力。
それはストーカーを連想させ、私の肌があわ立つ。
私はそれを振りほどこうと、必死で柵にしがみつく。
すると。

「あんたはどう思っているか知らないが、あんたが死んだらきっと悲しむ人も居る!!」

「(あんたに何がわかるんだっ!!)」

会社にも、社会にも、そして、肉親にさえ見放された私にそんな人がいるもんか!!
怒りがこみ上げてくる。
その怒りを直接、抵抗という形で男にぶつける。
それでも、男は諦めてはくれない。
「あんたはそんな人がいないと思っているかもしれない! でも、でも――」
黙れ!
黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!

黙れよっ!!

「あんたが今、ここで死んだら、僕が悲しむ!! 世界中の誰よりも悲しむ!! その自信がある!!
あんたは、あんたはこの世でまだ必要とされている!! 間違いない!!」
287ふみお:2008/02/12(火) 18:03:33 ID:ICpziEkg
……ああ、そうだ。

イジメは辛かった。ストーカーは怖かった。両親の死は苦しかった。
でも、なによりも。

誰からも必要とされていないことが、誰も私のことを見てくれないことが、助けてくれないことが――何よりも、痛かった。

だから。
そう、自覚してしまったから。
私の、柵を掴む手から力が抜けた。
男の強引な力で引っ張られるままに、床に倒される。
倒れたまま、私はいつの間にか止めていた呼吸を再開する。
たぶん、長い間、無呼吸だったのだろう。
見苦しいほどに、体は酸素を欲していた。
ゼェゼェと、しばらく喘ぐ。
……次第に、頭に酸素が回ってくると、今度は怖くなった。

死のうとした事実。

そして、今、男に抱きとめられているという事実に。
震える体。鳥肌が立つ。
嫌だ。嫌だ嫌だ。怖い。
でも。
私は勇気を出して、男の手を爪を立てて思い切り抓った。

「痛っ!!」

先程の真剣な言葉とはギャップのある、マヌケな声。
それと同時に、私を拘束する力が、瞬間的に抜ける。
私は、すくむ足を必死に動かし、男の抱擁から逃れる。
しかし。
男は咄嗟に、私の腕をつかんできた。
だが、今度は怖くなかった。
なぜなら。
なんで死なせてくれなかったのかという、男への怒りが沸いてきたから。
それはたぶんポーズで、男に対する見栄のようなもの。

『あんたはこの世でまだ必要とされている』。

私が欲しかった言葉を、的確に言い当てた、男に対する理不尽な虚勢。
だから、私は目いっぱい力をこめて、男を睨む。
そこで、初めて男の外見を見た。
くたびれたグレーのスーツ。さえないガラのネクタイ。
そして、なにより。
『頼りない』という言葉をそのまま顔の形にしたような容貌。
つまりは、ただの冴えない中年男性。
男は、なぜだか私の顔を呆けたように見つめている。
そして、一言。

「……中学生?」

腹が立った。
人が気にしていることを……!!
よけいに目に力をこめる。
「嘘だ〜」
何が嘘なものかっ!!
意味不明な発言に、心底腹が立つ。
だが。

「こんな美人。僕が見落とすわけないもん」
288ふみお:2008/02/12(火) 18:04:57 ID:ICpziEkg
………………!
な、なにが『美人』だ。
くそ、こんな男の発言とはいえ、無条件に赤くなる顔が憎たらしい。
誤魔化すように、さらに男を、睨みつけた。
     
     ◇  ◇  ◇

迫力のない彼女の睨みを受け続け、数分が経過した。
いや、本当は数十分かもしれない。
数秒かもしれない。
立ち直ったとはいえ、先程の衝撃的な出会いは、いまだに僕の時間感覚を狂わせているようだ。
とはいえ、このまま、手を掴んだまま呆けていてもしょうがない。
僕は彼女を安心させるために、笑顔を作った。
作った笑顔のはずなのだが、それでも、見知らぬ誰かが生きていてくれている。その事実だけで、僕の頬は自然な笑みを形作った。
どうやら、無意識に、本気で安堵しているらしい。
まぁ、それでも。
「あ〜、なんていうか。そんなに睨まないでよ」
勿論、そんな言葉で、彼女がそれを止めるわけも無く。
「………………」
無言のプレッシャーを発し続ける。
「いやぁ、君みたいな可愛い娘に、そんなに真剣に見つめられると照れちゃうなぁ」
僕の中では、呼吸と同様のほとんど無意味な軽口。
だが、これは効果があったようで、彼女は、僕から視線を外し、下を向く。
「(純情な娘なのかなぁ?)」
こんな人のよさそうな娘が、死ななくて、本当によかった。
心底、そう思う。
でも、何故彼女は――。

「文字通り、決死の覚悟で挑んだんだろう行為を、無理やり、止めてしまったんだなぁ。僕は」
彼女は、下を向いたまま。
「………………」
「まぁ、でも、そのことを謝るつもりは無いよ。……今も、これからも」
その言葉で、再び彼女は僕を睨む。
僕は気にしない。
「『生きていれば、いい事がきっとある』なんてこと、絶対に思わないし、言わないけれど、君みたいな娘が絶望するには早すぎるし、
こんな世界でも、まだ捨てたものじゃないんじゃない?」
「………………」
「ま、君の事情を良く知らない僕が何を言おうと、憎らしく、白々しく聞こえるかもしれないね……」
なにしろ、“決死の行動”を阻止した人物の、説教臭い言葉だ。
憎らしく、白々しい上に、鬱陶しいだろう。
だから。
「僕はこれ以上、説教を重ねることはしないよ。下らないし、無意味だからね」
「………………」
「でも、せめて、できることなら。君の話を聞きたいね。そうすれば、何か力になってあげられるかもしれないし」
彼女の事を全く知らない、今の僕じゃ、彼女の助けにはなれない。
彼女が助けを欲しているかどうかも、僕にはわからないのだから。
だから、訊く。
“人の命の自由”を侵害した、せめてもの罪滅ぼしに。
でも。

「………………」

彼女は無言のまま、床を見つめる。
拒絶なのか、それとも言いよどんでいるだけなのか。
もう一押し、必要かもしれない。
「あ〜。あの、言いたくないんだったら、無理に、とは言わないよ。でも、まぁ、赤の他人のほうが話しやすいこともあるんじゃないかなぁ」
あまり、力押しは出来ない。
289ふみお:2008/02/12(火) 18:05:51 ID:ICpziEkg
僕のあやふやな一押し、彼女は――

「………………」

――それでも、一言も喋らない。
そのまま、彼女の言葉を待つ僕。
無言のまま、固まってしまっている彼女。
2月の冷たい風が頬を撫でる。
彼女の腕を掴んでいる指が、かじかんできた。
この、少し身を起こした状態を維持するもの、結構しんどくなってきた。
このままの体勢を維持し続けることに、別に意味は無い。
しょうがないので僕は、彼女の腕を掴んだまま立ち上がった。
頭の上下関係が反転し、僕は彼女を見下ろすかたちとなった。
この運動が、なんらかのキッカケになるのを少しだけ期待していたのだが……。
「………………」
相変わらずの無言しか返ってこない。

……無性に、一服したくなってきた。

だが、だからといって、彼女を解放していいものかどうか。
「(いや、手を離すのは、さすがにマズイよねぇ)」
まぁ、見た感じ、彼女は完全に落ち着いている。
というか、ずっと下を見ている体勢は、落ち込んでいるようにも見える。
そう見えるからこそ、手を離しがたいのだが。
とはいえ、正直、我慢の限界だ。
僕は、左手を使い、手探りで胸ポケットからタバコを一本取り出そうとする。

……成功。

取り出した一本のタバコを口に咥える。次はライターだ。
ライターを取り出すのは簡単なのだが、どうにも、左手ではうまく着火しない。
なんども、試みる。
だが慣れない左手では無理があるようだ。
とはいえ、ここまでくると意地でも吸いたくなるのが人情だ。
「君……」
彼女がピクリと反応する。
それを応答と勝手に判断し、言葉を続ける。
「僕は、これから、君の腕から手を離す。でも、もう飛び降りようとはしないでよ? いいね?」
「………………」
沈黙。
やっぱり、ダメなのか。
じゃあ、このまま会社内に連行するしかないのか?
「(それでも、一服はしたいなぁ)」
とか、考えていると――

コクリ。

――彼女が、微かではあるが、頷いた。

うん。頷いた。
頷いたはず。頷いたに決まっている。
……頷いたよね?
いや、間違いない。彼女は了承したのだ。
そう、思い込むことにする。
………………。
そして、僕は、ゆっくりと、彼女から手を離す。

………………………。
二人とも、それ以外の動きはピクリともしない。
「(……よし)」
290ふみお:2008/02/12(火) 18:06:43 ID:ICpziEkg
よかった。よかった。これで一服――じゃなかった。一安心することが出来るぞ。
それを記念して、一服することにする。
ライターを左手から、右手に持ち替える。
そうすればもう、こっちのもの。
大学時代からの慣れた動作で、すばやく、タバコに火をつける。
そして、思いっきり、吸い込み――

ぶはぁ。

――紫煙を吐き出す。
やれやれ、ようやく、人心地着いた。
ズボンのポケットから、自然な動作で、携帯灰皿を取り出す。
「ポイ捨てはいかんよ。ポイ捨ては……」
などとひとりごちる。
それが、彼女の耳に届いたのか、彼女が怪訝そうにこっちを見る。
「あぁ、ゴメンゴメン。ただの独り言。なんでもないんだ。っていうかさぁ――」
「………………」
タバコのリラックス効果は素晴らしい。
喫煙しない人も、すればいいのに。
完全に、意識が一本のタバコに集中していた。
だから、ポロリと言葉が出た。
「――おなじ地域に生息するホモサピエンス同士、言葉でコミュニケートしようよ」

「! …………」

その時の彼女の表情を、なんと形容したらいいだろう。
『苦虫を噛み潰す』では深すぎるし、とはいえ『機微』というには、あからさますぎた。
そんな、微妙な変化。
先程から、彼女の顔を監視し続けていた僕にだからこそ、判った、変化(といったら、言いすぎだろうか?)。
僕は、瞬間的に察した。

「君、もしかして、“喋らない”んじゃなくて“喋れない”のかい……?」
「………………」

こんどの表情は、誰にでもわかる。
なにしろ、微かにではあるが、下唇を噛んでいるのだから。
『知られたくない事情を、知られた』時の表情。
つまりは、肯定の、表情。
だったら、僕が取る行動は一つしかない。

「……すまない。デリカシーの無いことを言ってしまったようだね」

僕は、彼女の頭より下に、頭を下げた。
『おなじ地域に生息するホモサピエンス同士、言葉でコミュニケートしようよ』。
……ウェットに溢れた、単なるジョークのつもり、だったのになぁ。
知らなかったとはいえ、彼女を傷つけてしまったかもしれない。
ならば、謝るしかないじゃないか。
数秒頭を下げた後、再び、彼女の顔色をうかがう。
そこにあるのは、少しの気まずさと、多分の怒り。
僕の発言に怒ったんじゃないだろう。
たぶん、それは。
「……“同情するな”ってことかい?」
彼女は頷かない。
でも、その分、表情が物語っていた。
その通りだ、と。
……だから。
僕は、再び、紫煙を吸い込む。
「(やれやれ。これじゃあ、彼女の話を聞きようがないじゃない)」
なにしろ、相手は喋らない。その上、喋れない。
「(筆談、って手もあるけど……)」
291名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 18:10:59 ID:6Eg4cgLz
支援。
292ふみお:2008/02/12(火) 18:12:06 ID:ICpziEkg
彼女が応じるとは思えないし、それに――。
ほんの少し前まで死のうとした人間に、『どうして死のうとしたのか』なんてことを書かせるのはいかがなものか。
言葉だったら、ただ溢れ出すのに任せればいい。
だが、文となると。
彼女は、辛い思いを反芻しなければならなくなるのではないか?
「(いや、どっちだって同じか)」
そう考えると、今まで、自分が何を強要していたのか、を反省したくなる。
だから――

「今日はもう、帰んなさい」

――フィルターギリギリまで吸ったタバコを、灰皿に押し付ける。
気がつくと、変化の早い冬の空は、すでに青から赤へと移り変わろうとしていた。
いい加減、体が冷えてきたし、それは彼女も同様だろう。
それとは対極に、お互い、頭の冷却期間が必要なようだ。
僕の言葉に、彼女の体が強張る。
「(………………)」
僕は財布を取り出すと、そこから一万円札を抜き出し、彼女に突きつけた。
反射的に、彼女はそれを受け取ってしまう。
それを確認すると、僕は彼女の背後に回り、彼女の肩を押し、出入り口の扉へと向かわせる。
彼女は、何がなんだかわからないようだ。
戸惑う彼女を押しながら、僕は言う。
「家に帰りたくなければ、そこらへんの24時間サウナでも使えばいい。職場に戻りたくないんだったら、
そのままの格好でもいいから、タクシーを使って、帰るんだ。君の職場には僕から話をつけておくよ。いいね?」
そして、とうとう扉の前。
僕は、お嬢様をエスコートするセバスチャン(仮称)よろしく、その扉を恭しく開けた。
そして、振り返ると、懐に手を入れ、名刺を一枚取り出す。
「これ、僕の部署と、携帯番号とかが載ってるから。あ、あとメールアドレスも。何かあったら何時でもいいから連絡してよ」
押し付けがましく、鬱陶しいだろうけど、こんなことしか今はできない。

彼女は困惑した表情で、それでも名刺を受け取った。
293ふみお:2008/02/12(火) 18:12:53 ID:ICpziEkg
「じゃあね。気をつけて帰るんだよ。……あっと、その前に」
彼女に向けて手を差し出す。
「君の名刺も貰っとこうか。じゃないと、職場に話のつけようがないし」
途端、不安そうになる彼女。
僕は自分が出来る、最大限の真剣な表情を作る。
「大丈夫。今日の出来事は絶対に他言しない。情報は悪用しない。誓うよ」
それでも、不安げに、下を向いたまま。
「なんだったら、部署名と、君の名前を教えてもらうだけでもいい。それだったら、君も安心かい?」
僕は、いつも携帯している、小さな手帳を取り出し、彼女に向ける。
彼女は躊躇し、しかし、懐から自分の名刺を取り出した。
それを、それでもまだ迷っているように、小さく差し出す。
僕は、ごく自然な動作でそれを受け取った。
まだ、心配そうな彼女。
もしかして。
「大丈夫、大丈夫。僕、これでも以外に偉いんだよ。今のところはね。だから、君は何も心配しなくていいんだ」
そして、軽く、彼女の肩を叩く。
「さぁ、行きたまえ。今は休むことだけを考えるんだ。他の事なんて、気にしなくていいんだ」
「………………」
しばらく、固まったままの彼女だったが、ようやく、トボトボと階段を下りていく。
次第に小さくなっていく背中に、僕は声をかける。
「じゃあ、またね」
「………………」
勿論、それに対する返事なんて無かったけれど。
彼女の姿が視界から消え、彼女の足音も、次第に遠ざかる。
………………………。
そして、彼女の気配が完全に消えた。
「ふぅ〜。行ったか……」
僕は、扉に寄りかかり、タバコを取り出すと、一本、火をつける。
そして、大きく、一服。
「(まぁ、もう戻ってはこないだろうけど)」
それでも、念のため。
終業時間まで、ここに居座ろう。

……サボりじゃないよ?

あくまで、念のため。……念のためだったら、念のため。
「まぁ、どっちでもいいかぁ」
あっという間に、一本吸い終わる。
再び、タバコを取り出そうとして、ようやく、気づく。
「……彼女の職場に連絡、入れなきゃねぇ……」

ま。でも。
そんなのは後回し。
それよりも重要な用事が出来たんだった。

――垣間見えた風景。彼女の原因を取り消せるかもしれない。そして、それを実現するには。

懐から、携帯電話を取り出し、登録されている番号を呼び出す。
何しろ相手は、酒に弱いくせに毎晩、酒屋に繰り出す酒好きだ。
今は仕事中だろうが、だからこそ今のうち、正気のうちに連絡しとかないといけない。
なんて、考えていると――

『はい。もしもし』

――繋がった。
「あ、もしもし。僕、僕」
『ボクボク詐欺なら間に合ってるわ』
「元気そうでなりよりだねぇ」
『今、就業中で忙しいんだから掛けてくんな。つーか、アンタも仕事中でしょ?』
「いやぁ、実は人命救助してたら、それどころじゃなくなって」
294ふみお:2008/02/12(火) 18:13:39 ID:ICpziEkg
『下らないギャグ。どうせまた、屋上で一服してるんでしょ』
「さすがは名弁護士。千里眼でも持っているのかい? あるんだったら貸してよ。試したいことがあるんだ」
『……用がないんなら切るよ』
「おっと、待った待った。……実は頼みがあるんだ――」

     ◇  ◇  ◇

あの男の言うとおりにするのは癪だったが、私は屋上から下る足でそのまま帰った。
『僕、これでも以外に偉いんだよ』だなんて言う、あの男の言葉を信用したわけじゃない。
結構な時間、席を空けていた職場に戻りたくなかっただけだ。
だが、このままあの男に渡された一万円札を使うのは、余計に腹立たしい。
とはいえ、財布はバッグの中だし、そのバッグは更衣室にある。
そして、更衣室は職場のすぐ隣……。
だから、免許証の中に入れている、『もしものときのための千円札』を使ってバスで帰る。
会社の女性社員制服のままだったから、目立って仕方が無かったけれど、仕方が無いので割り切った。
そして辿り付く。
帰りたいけど、安心できない私の借りているアパートに。
郵便受けの中を確認する元気なんてない私は、そのまま階段を上がり、部屋へと入るとすかさず鍵を掛ける。
留守番電話はもうつける必要がなくなったので、つけていない。
だから、私は、モジュラージャックから電話線を引っこ抜いた。
今日は、無言電話なんかの相手はしんどい。
着替えを用意して、シャワーを浴びる。
暖かい温水の雨に打たれていると、今日あった出来事が全部嘘のようだ。
でも、長時間シャワーを浴びると水道代やらが高くなるので、ほどほどに。
一度も染めたことのない黒髪にドライヤーを当てる。
一連の動作で、体はサッパリ、心は少しだけスッキリした。
食欲はいつもどおり無いので、レンジで加熱した冷凍たい焼きを1個食べるだけ。
そして、髪が完全に乾燥したのを確認すると、ベッドに倒れこんだ。
まだ寝るような時間ではない。
でも、体は想像以上に疲労していたようだ。
最近では珍しいほどの眠気が襲ってくる。
私は、それに抗うことなく、意識を落とした。

………。
………………。
………………………。

気がついたら、もう朝になっていた。
というか、目覚ましが鳴ってない。
セットし忘れていたことを、寝起きの頭でぼんやり思い出す。
でも、まだ慌てるような時間ではない。
とりあえず、シャワーを浴び、身支度を整える。
髪の毛を乾かしながら、冷凍庫からたい焼きを取り出すと、レンジの中に放り込んだ。
ふと、テーブルの上を見るとそこには一枚の紙切れ。
白い小さなそれは、昨日、あの男に渡された名刺だった。

昨日の出来事が夢ではなかったという証拠。

自分の空間に、異物があるのが我慢できないわけではないが、それでも、気に入らなかったので、それを手にとって見る。

『 株式会社××××××
  ○○○部 第一企画室 室長  
  竹内 悟(たけうち さとる)』

あとは私用と社用の電話番号とメールアドレス。
………………………。
○○○部、第一企画室、室長。
どうやら、本当にそれなりには偉かったらしい。
冴えない三十代前半男に見えるが、この会社で『室長』ということは、結構、有能な社員なんだろう。
室長、という言葉の重みからはかけ離れた、なんだか変な男だったけれど。
295ふみお:2008/02/12(火) 18:14:25 ID:ICpziEkg
変な男のことを考えているうちに、レンジはメロディを鳴らし、加熱が終わったことを知らせる。
「(この名刺、どうしよう)」
さすがに捨てるのはためらわれる。
そんなことをしているうちにたい焼きが冷めてしまう。
しょうがないので、ハンガーに掛けてある制服の胸ポケットに入れ込んだ。
そして、味気の無い朝食を食べる。
「(まだ、バスの時間には余裕がある、かな?)」
とはいえ、地方都市なので一本乗り過ごすと、遅刻になりかねないのだが。
食事が終わり、制服を紙袋に入れる。
さすがに、朝のラッシュで、制服を着ていく気にはなれない。
そんなことを考えて、ハタと気づく。

「(私、まだ会社に行こうって考えてるんだ)」

あんなことがあったのに。
それでも、会社に行くことに今の今まで、何の疑念も持っていなかった。
また、辛い目にあうかもしれない。否。間違いなく、辛い目にあうだろう。
それでも、行かなければならないのだろうか?
ため息がこぼれる。
でも。

『あんたはこの世でまだ必要とされている』。

………………………。
「(五月蝿い。私のこと、何も知らないくせに。勢いだけの台詞のくせに)」
こうしている間にも、朝の貴重な時間は刻一刻と過ぎていく。
バスの時間を考えると、もう時間の余裕は無い。
私は下唇を軽くかむと、決心した。
「(出社しよう)」
そして、これからのことを今日一日で判断しよう。
辞めるか、どうするか。
そう決心した。
私は、制服の入った紙袋をもって、玄関の扉を開け放った――

「あぁ、おはよう」

――そして、そのまま、閉めた。
「(な、ななな、なんであの変な男が……!?)」
扉ののぞき窓から、外をうかがう。
……間違いない。
昨日と同じようなスーツを着た、あの男が、昨日のように、タバコを吸っている。
男は、一本吸い終わったのか、灰皿に吸殻を入れると、玄関の扉に近づいてきた。

ピンポーン。

マヌケな音で、呼び鈴が鳴る。
いうまでもなく、あの男が鳴らしたのだろう。
「(な、何で住所がばれてるんだろう?)」
そう思いつつ、腕時計を見る。
もう時間があまり無い。
しょうがないので、扉を開ける。
「………………」
「おはようございます」
「………………」
「頷くだけでもいいからさぁ、朝の爽やかな挨拶くらいは交わそうよ」
鬱陶しい。
睨むことで返事の代わりにする。
男は私の視線なんか何処吹く風で、ぬけぬけと言う。
「あ、もしかして住所のこと、不思議に思ってる?」
「………………」
296ふみお:2008/02/12(火) 18:15:41 ID:ICpziEkg
「いやぁ、その真剣な眼差しは男心をくすぐるけど、コミュニケートしようよ。首の動きだけでいいからさぁ」
本当、鬱陶しい。
だが、なぜここのことが判ったのかは気になる。
ので、不承不承、首を傾ける。
男はそれだけのことなのに、満面の笑みを見せる。
……本当、鬱陶しい。
「嬉しいなぁ。これで何度目かのコミュニケートだねぇ。ハッハッハッ」
「………………」
「いや、だから、そんなに睨まないでよ。ハイハイ。なんで住所を知ったのか、だね?」
頷く。
「ん〜。簡単なことだよ。君、あのプロジェクトに少しだけだけど、関わっていたよね?」
プロジェクト。
私が最近関わったプロジェクトは一つしかない。
昨日、私が知らない間に終わってしまった、あのプロジェクトのことだろう。
「で、そのプロジェクトの総元締め? ていうのが、この僕だったわけだねぇ。で、昨日、君の上司に『プロジェクト関係者のリストが欲しい』
っていったら、簡単に君の住所も割れちゃった。ってだけなんだけど。いやぁ、個人情報の漏洩って怖いねぇ」
どの口がそんなことを言うのか。
睨む私を見つめながら、男はぬけぬけと、否、飄々と言い放った。
でも、なんで?
今ここにいるのだろう。
私の当然の疑問を察したのか(ていうか、この男、変に察しがいい)、真剣な表情を作った。
「今日、ここに来たのは他でもない。君に頼みがあってきたんだ」
「………………」
頼み?
こんな朝早くに、堂々と人の住所調べて、待ち伏せするほどの、頼み?
私の疑念が顔に出ていたのか、男は言う。
「……っていうか。不意打ちみたいになってしまったけれど、一応、電話で連絡は取ろうとしたんだよ?」
「………………」
「でも、何の音もしないしねぇ。だから、しょうがなく、こうやって押し掛けたんだけれど」
そうだ。
電話線を抜いたままだった。
そんなことに今更気づく。
少し気まずくなり、男の顔をうかがってみる。
男は、今迄で一番真剣な顔だ。
どうやら、本当に何らかの頼みごとがあるようだ。
それも、本気の。
本意ではないとはいえ、一応、『命の恩人』の頼みだ。聞くだけでも罰は当たらないだろう。
「実は――」
「……………!」

「――僕と“同伴出勤”してくれないかなぁ?」

………………………。
…………………ハイ?
イミガワカリマセンヨ? オッサン?
「あれ? 知らない? 同伴出勤。まぁ、つまり一緒に出勤することなんだけれど……」
そんな事は知ってるんだよ!
なんで、私が、よりにもよって、あんたみたいな冴えない中年とそれをしないといけないのか、を聞きたいんだよ!!
目に殺気がこもるのを感じる。
男もそれを感じ取ったのか、顔が引きつる。
それでも、真剣な表情はそのまま。
「僕は本気だ」
「…………?!」
鏡を見なくても、自分が変な顔をしているだろうことは、容易に想像がつく。
そんな私をよそに、男は頭を下げる。
「一週間だけでいいんだ。その間だけ、君を車で送迎させてくれないかな」
「………………」
何を企んでいるんだろう?
本当に意味不明だから性質が悪い。
297ふみお:2008/02/12(火) 18:16:44 ID:ICpziEkg
「何故、こんなことを提案しているのか、わからないよね? でも、今、それを話しても多分、君は納得しない」
「………………」
「だから、何も言わずに、僕に送迎させてくれないかい?」
「………………」
………………………。
付き合ってられない。
変な男とは思っていたが、本当の変人だったとは。
私は、動かない男を押しのけると、玄関の鍵を閉め、そのまま歩いていこうとした。
「……というか、君は僕の車に乗ることになる」
「………………」
まだ、言ってるのか。
もう放っておこう。

――そこで、気づく。

「……時計を見てご覧」
いわれなくても、時計を見る。
時計が示すのは、バスがとっくの昔に発車した時刻。それが、現時刻だ。
「………………」
「このままじゃ遅刻だねぇ。次のバスは20分後だし。地方都市の中途半端な発展具合が見て取れるね」
「………………」
「そうそう。この辺りでいいタクシー会社を知ってるよ。竹内タクシーっていうんだけれど。
迅速安全。しかも、今なら美人に限り会社まで無料送迎だっていうんだから、お得だよねぇ。……ねぇ?」
そう言って、その男は、竹内悟はにこやかに笑った。

……チクショウ。

     ◇  ◇  ◇

「(とりあえず、第一関門は突破、かな?)」
喫煙所でタバコをふかしながら、物思いにふける。
「(まぁ、後は明日以降のことなんだけれど……、うん、何とかなる。かなぁ?)」
時刻は現在、11時52分。
昼休みまで後、約10分、といったところだ。
別にサボっているわけじゃない。
期を見計らっているのだ。
……本当だよ?
呆けていると、吸っていたタバコが、ただの吸殻に変わる。
もう一本吸おうと、胸ポケットに手が伸びる。
すると。
「あ、室長。またこんなところでサボってるんですか〜?」
部下の女子社員が僕を発見し、言った。
僕は苦笑する。
「“また”ってねぇ……。僕ほど勤勉な人間は第一企画室にはいないよ」
「嘘吐き、発見。さ、行きましょう、ペテン室長」
どうやら、信用されていないらしい。
このままでは仕事場に戻されてしまうので、口だけは動かす。
「実はねぇ、次のプランを練ってたんだ」
「プラン?」
「そうそう」
女子社員は少し気まずげな表情になる。
「でも、室長。次のプロジェクトは小野田さん主導で――」
「――ああ、違う違う」
言いかける彼女を遮った。
不思議そうな顔で女子社員は尋ねてくる。
「じゃあ、何のプランなんですか?」
当然の質問だろう。その答えを、僕は胸を張って言う。
「どうやったら、可愛い人を食事に誘えるか、その口説き文句を考えていたのさ」
「……はぁ?」
怪訝そうな女子社員。
298ふみお:2008/02/12(火) 18:17:29 ID:ICpziEkg
僕は彼女を放っておき、壁掛け時計を見る。
昼休み、三分前。
「おっと、そろそろ時間だね。じゃ、行ってくるから、後のことは小野田君にまかせるよ」
「はぁ」
そのまま、機敏な動作(自己評価)で喫煙所を出て行く。
「っていうか、結局、サボりだったんじゃ……」
背後で、女子社員が呟いたような気がしたけれど、多分、気のせいだろう。

僕のいるフロアは12階。件の彼女がいるのは8階だ。
エレベーターを使うまでもないだろう。
そう判断し、軽快なステップで、階段を下りる。
だが。
「(階段って、上りより、下りのほうが筋肉を使うっていうけど、本当のようだね)」
たった四階分の階段なのに息が上がる。
体力の低下が著しい。
最近は特にそれを感じる。
実は、昨日だって息も絶え絶えだったのだ。
「(それでもよく、彼女を止められたよなぁ……)」
自分でも感心する。
「(まぁ、火事場の馬鹿力とかいうものなのだろうけれど)」

閑話休題。

目的のフロアに到達し、目的の部署があると思しき場所を目指す。
彼女の部署の位置は、昨日、直接乗り込んだので知っている。
そこに差し掛かった頃、その部署から女子社員のグループが出てきた。
多分これから、昼食にでも出かけるのだろう。
僕は笑みを作り、臆することなく彼女たちに話しかけた。

     ◇  ◇  ◇

こんな私にも、話しかけてくれる職場の人はいるわけで。
そのうちの一人である、女子社員の佐藤さん。
人の良さが顔に表れている、糸目の美人さんだ。
そんな佐藤さんが、パソコンに向かう私に声を掛けてくれた。
「(もしかして、お昼に誘ってくれるのかな)」
期待はしない。
それでも、そう思わずにはいられない自分の愚かさに内心苦笑する。
だが、彼女が困惑気味に言った言葉は、彼女以上に私を困惑させた。
「あの、千埜さん。あなたを呼んでくれって、男の人が……」
「……………?」
首を傾げる。
私を知っている男性社員なんて、そうはいないはずだ。
そして、その誰とも知らない人間が、私を呼んでいる?
そこまで考えて、私は硬直する。
もしかして――

「○○○部、第一企画室の竹内さん、っていう人なんだけれど。千埜さんの知ってる人?」

――やっぱりかぁ!
私はとりあえず佐藤さんに頭を下げることで礼の代わりにする。
彼女も事情を知っているので、私の無言を気にすることはない(いや、心配はしてくれているようだが)。
私は立ち上がると、足早に、出入り口に向かう。
そこには――
「やあ、こんにちは」
――当然のように、あの男が立っていた。

……。
………………。
………………………。
299ふみお:2008/02/12(火) 18:18:53 ID:ICpziEkg
何でこんなことになっているんだろう。
がやがやと賑やかな社員食堂。
最近では、昼食が喉を通らないので来たのは久しぶりだ。
目の前の席には、あの男。
「いやぁ、企画室ではB定食派と、C定食派に分かれて激しい論争を繰り広げているんだけれど、
悲しいかな、僕の愛するA定食は、誰も支持してくれないんだよねぇ」
などと、訊いてもいないのにベラベラと喋る男の前には、当然のようにA定食。
そして、私の前には。
――小皿が一つ。
男は当然のように、そこにA定食のトンカツを一切れ置いた。
「食欲がないかもしれないけれど、少しはお腹に入れておきなさい」
……うるさいな。
あんたは私の父親か。
男は飄々とした表情で、備え付けの割り箸を私に差し出してくる。
「さぁ」
「………………」
あぁ、鬱陶しい。
それでも、このままでは埒が明かない。
しょうがないので、それを受け取り、割ると、カツを掴んだ。
「(食欲がない人間にトンカツ勧めるとは、どういう神経してるんだ?)」
とか、自分を誤魔化しながら、震える唇でそれを一齧りした。

「……………!」

「美味しいでしょう。だから、僕はA定食をやめられないんだけれどね」
「………………」

久しぶりに食べたトンカツは、悔しいことに、本当に悔しいことに、……美味しかった。

一口、もう一口。
自然に口が動いている。
なんだか、久しぶりに“空腹”というものを感じた。
男は、満足げに頷くと、もう一切れ、トンカツを小皿に置く。
すると、立ち上がり、カウンターに歩いていった。

十数分後。

私の目の前には少量の、お粥が湯気を立てていた。
「(お粥なんて、メニューにあったっけ?)」
久しぶりに来たので思い出せない。
今日、食券売り場に行ったのも男だけだったし。
それはともかく。
久しぶりのマトモな食事。
腹が立つが、正直、少し、嬉しかった。
「食べられるだけでいいから、少しでも口に入れておくといい」
男の思惑通りにことが進んでいるのが癪だが、お粥の香りが怒りを削いでいく。
私は茶碗をもつと、少しづつ食べ始めた。
お粥なら、少しは食べやすい。
さっき、トンカツなんていうヘビーなものを進めた男とは思えない気配りだ。
啜るように、お粥を飲み下していく。
半分より少し多めに食べた。
すると。

「(………うっ)」

とたん、食欲がなくなり、吐き気がする。
それでも、箸を止められない。
「(…………気持ち悪い)」
300ふみお:2008/02/12(火) 18:19:39 ID:ICpziEkg
その時、私はどんな顔をしていただろうか。
いつの間にか立ち上がっていた男が、私から茶碗を取り上げる。
「無理をしてまで、食べなくてもいいんだよ」
「………………」
……別に無理なんかしていない。
ただ、調子に乗ってしまっただけだ。
知らないうちに呼吸が乱れている。
「これは片付けておくから、そのまま休んでなさい」
そのまま、カウンターのほうに歩いていく男。
憎らしいと思う余裕もなく、ただそれをぼんやりと眺めていた。

……。
………………。
………………………。

「じゃあ、夕方に迎えに来るから。……先に帰っちゃダメだよ」
結局、男の軽口を聞きながら、昼休みは終わってしまった。
今は私の職場の出入り口。
そこを通る人たちの好奇の視線が痛い。
とりあえず、目の前の人物を睨んでおく。
「君みたいな美人に睨まれるのも結構、悪くないものだねぇ。こんなこと考えてしまう僕って、イケナイ子?」
くそぅ。
最初からあまり効果はないとは思っていたが、私の睨む攻撃は、本当に無効化されてしまったようだ。
それでも、それを止めるつもりはないのだが。
「じゃあ、またね」
昨日と同じ、ひねりのない言葉を置いて、男は去っていった。
本気で、先に帰りたいが、あの男の事だ。
どうせ、就業時間前にはここに来ているのだろう。
そんな確信がある。
とはいえ、体調が悪いわけでもないので、早退するのも気が引ける。
「(くそ。あの男の思惑のままか)」
心底、悔しいが、しょうがない。
「(……仕事しよ)」
諦めて、私はデスクに向かった。
その途中、私の上司が、
「あの人、昨日も何か言ってきたけれど、君のコレ?」
親指を立てて訊いてきた。
腹が立ったので、頭だけ下げて無視した。

     ◇  ◇  ◇

会社の前の道路。
僕はそこに車を止め、車体に寄りかかりながらタバコを吸っている。
終業時間の二十分前。
ぼんやりと出入り口を眺めていると――
「あれ、先輩? 何してるんですか?」
――出てきた知り合いが声を掛けてきた。
「あぁ、お疲れ様、工藤君。もう今日は終わりかい?」
「いえ、これから少しだけ外出です。まぁ、そのまま直帰なんですけれど」
「ふぅん」
知り合い――工藤君は僕に近寄り、珍しそうに車と僕を見比べている。
「凄い車に乗ってるんですね。車だけが人生、ってやつですか?」
よくわからない事を言われる。
彼には似つかわしくないジョークというものらしい。
ていうか。
「この車。そんなに凄い車なんだ」
借りるのにそれなりに苦労したが、僕から見て『カッコイイ車』という感想しか抱けない。
工藤君は、苦笑する。
「凄い車も何も。BMWのロードスターじゃないですか」
「……有名?」
301ふみお:2008/02/12(火) 18:20:33 ID:ICpziEkg
「まぁ、それなりに。値段もBMWにしてはそれなりなんじゃないですか? 僕も詳しくはないですけれど」
「車種を言い当てただけでも、十分、詳しいと思うけどね」
僕はBMWだということにも気づかなかったし。
「じゃあ、これ、先輩のじゃないんですね? 道理で」
「道理で?」
「似合わないと思いました」
相変わらずな正直さに、僕は吹き出す。
「ハッハッ。ま、そうだろうね」
「じゃあ、誰のなんです?」
当然の疑問だろう。僕は何のてらいもなく答える。
「今をときめく企業弁護士さ。ちょっとした腐れ縁でね」
「はぁ……。先輩と腐れ縁だなんて、御同情申し上げます、って感じですね」
「そうだねぇ。ハッハッハッ」
笑う僕。
そんな僕を呆れるように見つめる工藤君。
「BMW借りてまで、一体全体、今度は何をやらかそうって言うんですか?」
僕は、出入り口に目をやる。
ちょうど、目当ての人物が出入り口から出てきた。
「人助け……いや、罪滅ぼし、かな?」
「先輩らしいというか、らしくないというか」
「ん、まぁ、そんなとこ。じゃあ、またね」
唐突に会話を区切る。
そんな僕には慣れているのか、工藤君は笑って言った。
「はい。お疲れ様です」
そして、僕たちは分かれる。
一人はタクシー乗り場を目指して。
もう一人は――僕は、彼女を目指して。

そして、僕は彼女の前に立ちはだかった。

「君のことだから、たぶん就業時間前に出てくると思ったよ。迎えに行くといった僕を待たずにね」
「………………」
相変わらず、睨みつけてくる視線は怖くもなんとも無い。
「とはいえ、生真面目そうな君のことだから、いつまでも僕を待っている、なんていう選択肢も考えたりはしたけれど」
「………………」
「さ、路駐とられないうちに、行こうか」
彼女の背後に回り、嫌がる彼女の肩を押し、半ば強引に車に乗せた。
「本日は竹内タクシーをご利用頂き誠に有難うございます。安全のため、シートベルトを必ずご着用ください、ってね」
「………………」
「さてさて、安全迅速がモットーの竹内タクシー、イッキマース」
「………………」
「あ、さっきの“イッキマース”ってアムロ・レイを意識したんだけれど、どうかな?」
「?」
「知らないんならいいや。じゃあ、出発進行〜」
「………………」

     ◇  ◇  ◇

それから数日が経過した。

毎朝、迎えに来る男と、どうにか、それを躱そうとする私。
――試しに、定刻一時間前に玄関を覗いてみた。
……すでに、玄関の前で待っていた。
――朝の5時に起きたとき、試しに覗いてみた。
……さすがにいなかったが、こんな時間に出社しても、会社は開いていないだろう。
あの男は、会社が開く一時間前には、もう私のことを待っているようだ。
「(警察に通報して、しょっ引いてもらおうか)」
なんて考えたけれど、でも、一応、悔しいことに彼は命の恩人だ。
命の恩人にそんなことをしたら、天国の両親に顔向けできない気がする。
自分の融通の利かなさにはうんざりするが、それでも。
302ふみお:2008/02/12(火) 18:21:29 ID:ICpziEkg
……っていうか。この男がストーカーなんじゃないか?

確かに疑わしいが、でも。
そんなそぶりは全く見せないし、私を気遣ってくれるし。
でも、それも演技かもしれないし。
そもそも、あの男の考えていることがわからない。
だからといって、ストーカーだと決め付けるのも……。
「(まぁ、でも一週間だ)」
あの男が決めたリミット。
それが過ぎても、まだまとわりついてくるのなら。
その時は――。

でも、あの男の行動が始まって悪いことだけではなかった。

なんというか。
会社での露骨なイジメが目に見えて減ってきたのだ。

最初は、気のせいかと思った。
でも、パソコンを弄られることもなくなったし、聞こえる陰口も無くなった。
昼食やら飲み会やらの誘いが無いのは相変わらずだったけれど。
男との因果関係が全く見えないから不気味ではあった。
安心は出来ない。
でも。

「(肩の荷が、少しだけ下りたかな……?)」

最近は食欲も少しずつ回復してきたし、睡眠もじっくり取れるようになってきた。
訳はわからないが、ストレス源が減ったのは確か。

もちろん、全部解決したわけではない。むしろ、酷くなったこともある。

『あの男と、別れろ』

あの男に送られて、帰った先。
そう書かれた紙が玄関の扉に張られていた。
生臭いにおいがする。
赤いこの文字は多分、何かの血で書かれているのだろう。
見知らぬ人間の妄執に鳥肌が立った。
怖い。気持ち悪い。怖気が走る。
私はそれを震える手で、思いっきり剥がした。
紙を裂く音が耳に遠い。
吐き気を懸命にこらえながら、震え、定まらない手で鍵を開ける。
薄暗く冷たい部屋が私を出迎える。

そうだ。
まだ、私にはコレがあったのだ。

……ストーカー。

この紙は多分、それが張っていったのだろう。
寒い。
圧倒的な悪意に、体が凍える。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
昼に食べた、お粥が逆流しそうになるのを懸命にこらえる。
……でも、あれは。
あのお粥は。
303ふみお:2008/02/12(火) 18:22:14 ID:ICpziEkg
――『あんたかい? 竹内さんの恋人って』
心外だ。首を振る。
『まぁ、なんでもいいけどさ。感謝しなよ、竹内さんに』
なんで、あんな男なんかに。
『あんないい人、他にはそうそういないよ』
根拠は何だ。
『なにせ――』

あの男が、必死に厨房に頼み込み、特別に作ってもらっていた事を知ってしまったから。

だから、私は必死でこらえた。
胃液が逆流し、口が膨らむ。それをどうにか、飲み下す。
台所に駆け込み、蛇口から直接水を含み、口を漱ぐ。
つかの間の清涼感。
まだ、口の中は気持ち悪いが、少し落ち着いた。
でも、もう今日は何も食べる気がしない。
汚らしい紙を摘んでゴミ箱に捨てる。
「(……シャワーだ。シャワーを浴びよう)」
そうすれば、少しは気分転換になるかもしれない。
体を引きずるようにしながら服を脱ぎ、縋るように浴室に入る。
温水で体を暖めると、少しずつ、気分が落ち着いてくる。
「(あんなことを書いてくる、ってことは。あの男はストーカーじゃ、ないのかも)」
でなければ、本当に意味不明だ。
でも、それでも、あの男がストーカーだったら。
頭が混乱している。
無理やりにでも、あの男を信じる。
信じる分だけ、そうだったら、ということが怖い。
あの情けない顔。くたびれたスーツ。飄々とした態度。
全部演技だったら。
恐い。本当に恐い。
「………………」
助けを呼びたかった。
『お母さん、お父さん。助けて』
一言だけでもいいから、声を発したかった。
でも、憎たらしいことに、私の口からは空気が漏れるだけ。
そして、母も父も、もうこの世にはいない。

助けてくれる人なんて、誰もいないのか。

いや、一人だけいる。

命を助けてくれた、あの男が。
でも。
どうしても、あの男を信じきることが、私には、出来なかった。

     ◇  ◇  ◇

いつものように、玄関先で彼女を待つ。
そろそろ、出社時間だ。
僕がタバコを吸い終わるのを見計らったように、玄関の扉が開いた。
「ああ、おは――」
言い終わらないうちに、指の間に挟みこんだタバコが落ちる。
「………………」
いつものスーツ姿の彼女。しかし。
「――どうしたんだい。一体……」

昨日からは考えられないほど、頬が削げ、目に隈がある、やつれた姿。

「………………」
304ふみお:2008/02/12(火) 18:23:03 ID:ICpziEkg
僕を睨む目も、ずいぶんと弱弱しい。

というか、怯えてる?

よく見ると、体も小刻みに震えている。
それでも、彼女は歩いてきた。
出社しようというのか。
「待ちなさい。そんな状態で仕事なんて――」
彼女を止めようと手を伸ばす。が。

バシッ。

力なく動いた彼女の手で払われた。
それは、今までに無いほど、強力な拒絶。
断絶、といってもいい。

――でも、原因がわかった。

「君、今すぐに家の電話線をつなぐんだ」

彼女は、怯えたように僕を見つめる。
困惑極まる、といった顔。それもそうだろう。
「ちょっと、お邪魔するよ」
彼女を押しのけ、玄関から中へ強引に入り込む。
唖然とした彼女は、僕を止める行為さえできない。
僕は玄関で靴を脱ぎ、電話を求めて部屋を見渡す。
彼女らしい、きちんと整理整頓の行き届いた部屋の中。
……あった。
モジュラージャックから引き抜かれた電話線が。そして、空のモジュラージャックが。
我に返った彼女が僕に追いつき、部屋の中の僕を押しのけようと、肩に手を置く。
でも、怯えた彼女の膂力では、僕を動かすことなど出来るはずも無い。
ためらいもなく、僕は電話線をつないだ。
途端。

プルルルル、プルルルル。

電話機が受信を知らせる。
僕は振り向き、真剣な表情で彼女に言った。
「電話に出るんだ」
「…………!?」
「いいから。これで、多分、とりあえず疑念は晴れると思う」

     ◇  ◇  ◇

あまりといえば、あんまりな男の行動。
今に始まったことではないが、意味不明な行動だ。
「勇気を出して」
あの時と同じ、真剣な表情。
私は気圧されるように、受話器を手に取った。

『はぁ……、はぁ……』

受話器から聞こえてくるのは、嫌というほど聞きなれた、例のストーカーの息遣い。
男を見てみる。
男は“何も持ってない”ことを指し示すように、からの両手を掲げた。

この男じゃなかったのか……?

いや待て。
安心するのはまだ早い。
305ふみお:2008/02/12(火) 18:24:10 ID:ICpziEkg
録音された音を、何らかの機械を使って予約して流しているだけかもしれない。
試しに受話器をコンコン、と叩いてみる。

『ぼ、ぼくに何か言いたいことでもあるのかい……? あ、あぁ、もしかして、あ、愛の告白かい……?』

流れてくるのは、本当に気持ち悪い声だったけれど。
私は勢い良く受話器を叩きつける。
そして、男を見る。
男はいつものように、とらえどころの無い笑顔で頷いている。
そして、またいつものように飄々と言った。
「ね、僕じゃなかった」
「………………」
全身の力が抜け、私は床にへたり込んだ。
「そして、代役などでもない。そのことは、あの息遣いに散々付き合ってきた、君になら判るでしょ」
男が喋りながら、再び鳴り出した電話を遮るように電話線を抜く。

……そうだ。その通りだ。
間違いなかった。

今まで信じても、そして、今から信じてもいいんだ。
この冴えない中年男を。
そう思うと、情けないことに涙が滲んできた。
しかし。
男に見栄を張ることを諦め切れない私は、強引に涙を拭うと、男を睨んだ。
男は、何故だか吹き出す。
「いやぁ、やっぱ、それくらい力のある睨みじゃないと、物足りなくなっちゃったからねぇ。元気があるのはいいことだよ」
男の笑顔を見ながら、ふと気づいた。

……どうして、ストーカーの事知ってたんだろう。
……なんで、今、ストーカーが電話をかけてきていることを知ったんだろう。

「そのことについては、今はまだ言えない。多分信じないだろうからね。ヒントは“プリコグ”。まんまなんだけれどね」

………………………。
意味がわからない。

     ◇  ◇  ◇

約束の一週間が来た。
今日がそのリミット。
僕は事前に、彼女に『今日はバスで行こう』と断っておいた。
でなければ、意味が無いから。
終業時刻10分前。
いつものように、彼女の部署の出入り口で彼女を待つ。
電話の一件以来、少しずつ信頼してくれてきているのか、時間をずらして帰宅するようなことは無くなった。
僕はそのことが単純に嬉しい。
嬉しいが、中で待つ分、タバコを吸えないのが少し心苦しい。
「(いや、少しじゃない、“相当”だ、ねぇ……)」
ニコチン中毒、というわけではないが、なんとなく口が寂しい。
手持ち無沙汰な分、よけいにタバコが恋しいだけなのかもしれないが。
彼女を待つ間はいつも、そんなことを考えている。
そして、そんなことを考えている間に時間は経過し、就業時間になる。
ガヤガヤ、と中から『待ってました』といわんばかりに人が押し寄せてくる。
僕は邪魔にならないように、隅に避け、人ごみをやり過ごす。
そして、いい加減、人の波にうんざりしてきた頃に、
「………………」
彼女が目の前にやってくる。
いつものように僕を睨みながら。
でも、最近はその眼差しが、少し和らいだ気がする。
和らいだ分、加味されたのは、信頼ではない。
306ふみお:2008/02/12(火) 18:25:02 ID:ICpziEkg
むしろ、疑惑の念。

「(『こいつ、何者なんだろう』とか、思われているんだろうなぁ)」
まぁ、人からそんな目で見られるのは慣れている。
ので、僕はいつものように、笑顔で彼女を出迎えた。
「お疲れ様」
「………………」
微かにだが、彼女が頷く。
一週間たって、ようやくコレだけのコミュニケーションが成り立つようになった。
「(屋上の当時から考えると、えらい進歩だ)」
と、自分に勲章を与えたくなる。
それほどに嬉しかった。

でも、今日は。浮かれてばかりもいられない。

「今日が本番だからね。絶対に、しくじらないようにしないと……」
知れず声が出てしまう。
彼女の訝しげな表情を見て、それに気づく。
「……………?」
「いや、なんでもないんだ。ただの独り言」
取り繕うように言い募り、ゆっくりとしたペースで歩き出す。
彼女もそれについてくる。
「あ、そうだ。今日は、バスだからあんまりゆっくりじゃいけないね。少し、急ごうか」
「………………」
彼女が頷くのを見て、僕らは少しだけ歩くペースを上げた。

そして、僕らの乗ったバスは、彼女の家から最寄のバス停に着く。
彼女の家は、ここから歩いて十分のところにある。
「(こうして考えると、結構交通に不便な立地だよねぇ)」
まぁ、ここら辺はギリギリ都会という地方都市で、移動手段はもっぱら車という立地だからしょうがない、といえばしょうがない。
「(ま、今回のことを考えると、それが良かったんだけれど)」
でも、まだ終わってない。
というか、本日のメインはこれからなのだ。
……メイン、ねぇ。
気は進まないが、しょうがない。
最悪、自分はどうなってもいいが彼女だけは。
「守らなくちゃね」
彼女に聞こえないように、小声で呟いた。

     ◇  ◇  ◇

バスから降りた私と男は、バス停に佇んでいる。
というか、この男、が動かないのだ。
「――ええ、そうなんですよ。三十分くらい前から、なんですよ――」
などと、何処かに携帯で電話を掛けている。
いい加減置いていこうかとも考える。
別に、男の送迎など、私には必要ないのだから。
でも。
「(今日が、約束の一週間)」
そう。この事が私の足をもバス停に留まらせている。
ここで降りたほかの乗客たちは、とっくの昔に各々の帰路についている。
「――ですから、出来るだけ早く、お願いします」
そう言って、男はようやく携帯電話を切った。
私はこれ見よがしに、イラついたため息をつく。
男は少し笑いながら、
「いやぁ、ゴメンゴメン。どうしても、必要な電話だからさぁ。勘弁してね」
私にぺこぺこと頭を下げた。
謝られているのだが、この態度だと、全然、誠意を感じられない。
……まぁ、いい。
私は、家に向かって歩き出す。
307ふみお:2008/02/12(火) 18:25:45 ID:ICpziEkg
「あ、ちょっと待ってよ。もうちょっとゆっくり行こうよ、ね?」
「………………」
確かに、あまり早く歩いてもしょうがない。それに――

――最後、なのだから。

そう考えると、チクリ、と胸が痛くなった。
でも、そんなのは気のせいだ、と思う。
そうだ。
明日からは、またいつもどおり、一人で会社に行き、帰るだけだ。
それだけだ。
男の意味不明な、意図不明な行動もこれまでだ。
「(また、一人、か…)」
馬鹿馬鹿しい。
いつもどおりだ。これでいいんだ。
いいに決まってる。
「(……この男は、どう思っているんだろう……)」
隣を歩く男の顔を、チラリ、と見てみる。
相変わらず、情けない顔。飄々とした表情。
でも。
「……………?」
なんだか、少し、強張っている?
気のせいだろうか。
何かに緊張しているような、張り詰めた糸のような、緊迫感がそこはかとなく感じられる。
いつもだったら、私の視線にも直ぐ気づくのに、
「………………」
前を向いたまま、私のマネをしているかのように、無言だ。
「(もしかして、この男も“寂しい”とか感じたりしているんだろうか……?)」
そう考えて、直ぐに否定する。
「(この男“も”ってなんなんだ。私は寂しいなんて思っていない!!)」
心の中で、必死にかぶりを振る。

――そのときだった。

隣を歩いていた男が、私の前に、まるで私を守るように躍り出た。
唐突で意図不明な行動。男は立ち止まり、言う。

「本日のゲスト“ストーカー真犯人”のご登場だ」

私は意味もわからず、前を見る。
それなりに明るく、しかし、全く人気の無い住宅街に、覆面姿のそいつは――

「はぁ……、はぁ……」

――悪夢に出るほどに耳にこびりついている、例の息遣いで、佇んでいた。

     ◇  ◇  ◇

「(さて、ここまでは思ったとおり、かな)」
それでも、背中を伝う冷や汗は隠せない。
なぜなら。
「はぁ……、はぁ……」
生理的嫌悪感を誘発させる息遣いの男は、

ギラリ

と夕日に反射する出刃包丁を構えていたからだ。

「(ま、これも“思ったとおり”なんだけれどね)」
308ふみお:2008/02/12(火) 18:26:38 ID:ICpziEkg
予想通りの時刻。予想通りの登場人物。予想通りの小道具。
予想通りのシチュエーション。と言いたいところだが。
「(最高、の二歩手前、といったところか)」
でも。

「(到着が遅いなぁ)」

期待通りの展開にはならなかった、ということ。
しょうがない。

「いかしたスタイルだねぇ。スーツに覆面だなんて。今、巷で流行っているのかい?」
軽口を叩き、時間を稼いでみる。

「う、うるさい! 全部、お前が悪いんだ。僕と彼女は愛し合っているのに」

しまった。そのつもりは無かったけれど、怒らせてしまったようだ。

「(……マズイなぁ)」
そう思いつつ、軽口は止まらない。
「だ、そうだけれど。僕というものがありながら、彼と愛し合っていたのかい? 千埜君?」
冗談めかして言いながら、顔だけ振り向き、彼女を見る。
顔面を青白く染め、小刻みに震えながら、彼女は思いっきり首を振った。
「……………!」
何かを言いたいのだろうけれど、やっぱり、声は出ないようだ。
「違う、って言ってるみたいだけれどね。というわけで、君の勘違いじゃない?」

「(……まだか。早く、早く……!)」

「僕は彼女が入社したときから、一目見て判ったんだ。前世で愛を誓い合った恋人だと!」
「前世、なんて言い出したら人間の終わりだと思うけどね……」
つい反射的に言ってしまう。
「(マズかったかな?)」
男は、遠目から見てもそれと判るようにブルブルと震えている。

「&#??;$※♂!!!!!!!!!!!!!!!」

意味不明な言葉を叫びながら男が走りよってきた。
反射的に、彼女の前に仁王立ちになる。
鋭い出刃包丁の刃先が――

     ◇  ◇  ◇

――刺さった。
多分、間違いなく。
あの男は、出刃包丁を持ったままの覆面の男の手を、両手で掴んだ。
そのまま、もみあう二人。
私はショックと恐怖で、頭が真っ白になる。

――た、助けを呼ばないと。

「!!!!!!!」

くそっ! 出ろ! 声、声!!

ダメだ。それでも、声は出てくれない。
早くしないと、あの人が、あの人が。

「逃げるんだ!! 千埜君!!」

あの人の怒声が響く。
309ふみお:2008/02/12(火) 18:27:49 ID:ICpziEkg
でも、ダメだ――。

足がすくんで全く、動こうとしない。

恐い。怖い。恐い。怖い。恐い。怖い。恐い。怖い。恐い。怖い。恐い。怖い。

こわい!!

その時――

「――そこで何をしているんだっ!!」

――野太い良く通る男の声。
それが耳に届いたと思ったら、もう目の前には、いた。

制服姿の、警察官が。

警官は覆面の男をあっという間に、地面に押さえつける。
あまりに瞬間的な出来事だったので、私は呆然とするしかない。

「やれやれ。もう、大丈夫、みたいだね」
そう言いながら、あの人が振り向く。

腹に包丁を刺したまま、目の前の人は笑った。

「(大丈夫じゃないだろう)」
貧血になったように頭がくらくらする。
っていうか、痛くないのか?

目の前の男は、平気そうな顔で包丁を両手で持つ。
「おい! 下手に抜こうとするんじゃない。傷が――」
言い募る警察官の言葉を無視して、男は包丁をひょいと抜いた。
「ああ。平気ですよ、お巡りさん。だって」
言いながら、スーツの前ボタンを外し、ワイシャツの腹の部分をめくる。
そこには。

『週間少年ジャン○』

と大きく書かれた、いわゆる漫画雑誌が挟まっていた。
出刃包丁が刺さったことにより小さな穴の開いたそれを、男はズボンから抜き出す。
「いやぁ、久しぶりに買ってみてよかったよ。まさか、こんなところでも役に立つとはね」
私は。

「………………」

開いた口が塞がらない。
男は私を見て、笑いかけてくる。
「ハッハッハッ。ビックリしたかい?」

「(無事、だったのか……)」

下半身から力が抜ける。
へなへなと地面に尻餅をつく。
「おや、腰が抜けちゃったかな。大丈夫かい」

「(この、この大馬鹿野朗!!)」

そう叫びたかったが、当然、声は出ない。
だから。
ギロリ、といつものように睨むだけ。
310ふみお:2008/02/12(火) 18:28:54 ID:ICpziEkg
当然、男にはそんなもの効きはしない。
男は私を安心させるように、静かに微笑んだ。

「もう、大丈夫だよ。千埜君。もう、怯えることは無いんだ。全て、終わったんだから」

その言葉に、その笑顔に。
悔しいが。
本当に、悔しいが。
安心して、心底、安堵して。
涙が目に滲む。

目の前の男は、私の頭に手を置くと、そっと撫でた。
まるで――。
「(――お父さん、みたいだ)」
そして、私の肩を、微かに抱くようにする。
震えるほど凍えていた体が、少しだけ暖かい。

「この男、見覚えがありますか?」

警察官の声。
彼は苦労しながら、組み伏せた男の覆面をはいだ。
そこには――

「ああ、見覚えがありますよ。っていうか。一週間前にも会いましたよねぇ」

――悔しげな表情を浮かべる、私の上司の顔があった。

     ◇  ◇  ◇

「なんで、上司であり“前世の恋人”だった彼が、イジメを解決しようとしなかったのか」
「………………」
「その理由が、苛められて君が追い詰められる姿に興奮していたから、っていうんだから、なんともはや」
「………………」
「まぁ、それにしてもマメな男だったんだねぇ。毎日のように外出の用事を作っては、君のアパートに車で通って、郵便物のチェック。
仕事の暇を見つけては、留守番電話にメッセージを残す、なんてね」
「………………」
「ストーカー被害の9割程度が面識がある者の犯行なんだって。そして、全体の5割が元恋人などの深い関係にあった人物が該当するらしい」
「………………」
「まぁ、彼の場合、前世がどうとか言ってたから、それに該当するかどうかは微妙だね。本人は“元恋人”だと思っていたんだろうけれど」
「………………」
「君は全く気づいていなかったんだろうけれど、彼はそれらしいメッセージを発していたのかもしれないね」
「………………」
「まさか、何十人もいる部署の中の、あんまり親しくも無い上司がストーカーだなんて、思いもしなかった?」
「………………」
「ま、何を言っても今さらだけれどね……。結局、彼の自滅的行為によってようやく警察も動いてくれたようだし」
「………………」
「ひとまず、良かった良かった。一件落着ってね。さ、話はコレで終わりだね。僕は一服してくるとするよ。じゃ――」
「……………!」
「――そ、そんなに睨まないでよ。少し殺気を感じたよ」
「………………」
「はいはい。判った、判りましたよ。ちゃんと種明かしをするよ」
「………………」

     ◇  ◇  ◇
ストーカーによる殺人未遂事件後。

あの日からすでに一週間が過ぎている。
当然、もう、無言電話もイタズラ電話も無い。
郵便物が開けられていることも、汚らしいものが送られてくることも無い。
一週間の間、私は外界の全ての情報をシャットアウトしていた。
311ふみお:2008/02/12(火) 18:30:01 ID:ICpziEkg
なんだか、マスコミがあった出来事を、全て“無臭化”してしまうような気がして。
仕事どころではなかったから、会社も休んだ。
事件はそれなりにセンセーショナルに報道されたらしい。
私の会社のお偉方が頭を下げたりもしたんだとか。
すべて、あの男――彼からの情報だけれど。
なんらかの裏技を発動したらしい彼のおかげで、私のところにマスコミが押し掛けたりもしなかった。
いや、世間的に見れば、そんなに大した事件ではなかった、ということか?
彼は、その間、通い妻のように、私の面倒を見てくれた。
ふぬけたような私を献身的に。

二度も命を助けてくれた。

そのことには純粋に感謝している。
世話を焼いてくれたことも、正直に言おう。嬉しかった。

でも。
だからこそ。

腑に落ちないことが多すぎた。
飄々とした態度で、私の追及を回避し続けた彼(まぁ、追求と言っても、口の聞けない私に大したことは出来なかったけれど)。

でも、納得がいかない。

だから今。
『説明してください』
ノートに文字を書き、説明を要求した。

彼は真面目な目で、私を安心させるような笑みで、開口一番に言った。

「実は、僕は、未来を予知することが出来るんだ。皆には内緒だよ」

パシンッ!

私は、無言で彼の頬を力の限り、ビンタした。
なんだそりゃ。こっちは冗談で言ってるんじゃない。
それに、そんなの何の説明にもなっていない。
……いや、なっている、か?

「信じてくれなくてもいいけれど、これから言うことは全部本当だ」

真剣な顔になり、語りだした彼の言葉を聞く。

     ◇  ◇  ◇

最初に見えたのは、寒風の吹く、あの屋上で。
断片的な映像。
『――全部、お前が悪いんだ。僕と彼女は愛し合ってい――』
――声が聞こえた。
――悲痛な男の声。
――次に見えたのは、取り押さえられる覆面の男。警察官が地面に押し付けている。
『――君。もう、怯えることは無いんだ。全て、終わったん――』
――別人のように聞こえるが、多分、僕の声。
――屋上で、僕を睨みつけていた彼女が、呆然と座り込んでいる。
――僕のその言葉で、彼女の目が滲む。
――場面が飛ぶ。
――どこか知らない、誰かの住居で、僕は新聞を読んでいる。
――日付は2月22日。
初めてのことではないから、道筋は大体わかった。
何を準備すればいいのか。
何に備えればいいのか。
312ふみお:2008/02/12(火) 18:31:14 ID:ICpziEkg
それでも、未来は確定的ではない。
僕が意識的に介入することで、未来が“ゆらぐ”ことがある。
でも。
だからといって、見捨てることは出来ない。
図らずも、屋上で彼女を助けた僕には、その責任がある。
彼女の自殺の原因の全てではないかもしれない。
もしかしたら、より彼女を追い詰めることになるのかもしれない。
それでも。

     ◇  ◇  ◇

「まず、君の傍に男を置く。その男はあたかも恋人のように車で送迎し、昼食も一緒に食べる」
「………………」
「できるだけ、あの男にプレッシャーを掛けるような人間が必要だった。幸い、僕はそれなりにだけど偉いしね」
『あの高級車は?』
「あぁ、アレは効いただろうなぁ。何しろ、BMWだもの。一介の会社員の憧れだよ」
「………………」
そのためだけに用意したのか。BMW。
「ま、たまたま用意できただけなんだけれどね。運が良かったよ」
どういう知り合いに頼めば、BMWなんて用意できるんだろう。
想像もつかない。
「で、一週間後。僕が予知した時間。予知した場所に隙だらけでのこのこ歩いていく」
そうすれば、つけこんで来ると睨んだのか。
「もちろん、危険な目にあわないように準備もした」
『あの漫画雑誌で、ですか?』
彼は文字を見ると吹き出した。
笑顔のまま否定する。
「違う違う。あんなのはただのおふざけ。保険にもならない保険だよ。ま、役には立ったけれどね」
「……………?」
じゃあ、なんなんだろう。
「警察官だよ」
「……………!」
記憶にある。
『――ええ、そうなんですよ。三十分くらい前から、なんですよ――』
『――ですから、出来るだけ早く、お願いします』
あの時、バス停で掛けていた電話。
つごうよく駆けつけた制服警官。
あれらがもしかして。
「男が待ち伏せている間に取り押さえてもらう。それが、一番いいシナリオだったんだけれど……。到着が遅れたよねぇ。焦った焦った」
それでも、ほぼ全て予知どおり、だったのか?
「いやぁ、これだけやって一週間たっても、あの男が動かなかったら、結構やばかったよね」
『そのときは、どうしました』
彼は笑う。
「当然、何やかんや理由をつけて、君を送迎し続けただろうね。それは覚悟していたよ」
『だったら、私はアナタをストーカー認定していたでしょう』
目を丸くする彼。
「あれ? 電話の一件で僕の疑惑は晴れたんじゃなかったの?」
『何か、特殊な機械を使ったんじゃないか、と疑ったでしょう』
それほどまでに追い詰められていた。
あのときの私は。
彼は大げさに天を仰ぐ。
「僕、そんなに信用無いの? 傷つくなぁ」
そういう彼の声色は、しかし、全然、ショックを受けてるようには聞こえない。
思い出したように彼は言う。
「あ、そうそう。僕の未来予知は誰かに触れたときに、見えることが多いんだ」
「……………?」
「電話の一件は、君が僕の手を払ったから見えた、ということさ」
「………………」
「そして、今。君が僕に見舞ったなかなかに強力なビンタ。それで、次の未来が見えたよ」
「……………?」
313ふみお:2008/02/12(火) 18:31:59 ID:ICpziEkg
「書くのが面倒くさいからって、無言で尋ねてこないでよ。……ま、いいけどね」
何が見えたというんだろう。
気になる。
さらに尋ねようとした私を遮るように、彼は大きく背伸びをした。

「さて、僕の与太話はコレでお仕舞い。……信じられないでしょ?」

私は――首を振った。
そして書く。

『信じます』と。

彼は、今までで初めての感情“驚き”を顔に表す。
「嘘でしょ?」
首を振る私。
っていうか。
「(これだけのことを飄々とやっておいて、信じないやつがいるか)」
それに、『未来予知』くらい持ってこないと、説明がつかない。

………………。そう思う私はヘンなんだろうか?

「……今まで、両親にも隠した事柄なんだけれど。君で三人目なんだよねぇ。バラしたの」
『他の二人は?』
「一人は信じなかった。完膚なきまでにね。もう一人は、たぶん偶然か、冗談だと思っているんだろうなぁ」
私は、さっき書いた文字に付け足した。
『信じます』の頭に、『それでも、私は』を。
彼は頭をかいた。
どうやら、真正面からの信用には慣れてないらしい。
彼は、テーブルから立ち上がった。
いつもなら、もう、食事の準備を始める頃だろう。
だから、私は書く。
『一週間。お世話をしてくれてありがとうございました。もう、自分で出来ます』
彼はそれを見ると、玄関へと歩いていく。
帰るんだろうか?
靴を履きながら、彼は言った。
「これから十分後に君の携帯にメールが届く。応じなよ。そして――」
またしても、いつものような意味不明な発言。
でも。

一度、信じるといったから。

私は立ち上がり、玄関まで彼を見送りに行った。
彼は振り返ると、言葉を続けた。
「――許してあげるんだ」

結局、メールが届いたのは、それから二十分後。
未来予知には“ゆらぎ”があるというのは本当らしい。
私は、彼の言うとおり、応じる返事を出した。

……。
………………。
………………………。

「本当に御免なさい」
目の前の人は、床に頭をぶつけるほど勢い良く、頭を下げた。
「………………」
私は――どうすればいいのか、わからない。
314ふみお:2008/02/12(火) 18:33:15 ID:ICpziEkg
メールが届いて、一時間後。
その人は、会社帰りの姿のまま、私の家を訪れた。
小林早苗。
それがこの人の名前。

……彼女が言うには、私をイジメ出した張本人。主犯格なんだという。

彼女は言った。
彼女は例の上司に好意を持っていたらしい。
しかし、例の上司は私のことを想っていた。
彼女にはそれがわかったんだそうだ。
彼女自身、それが思い込みかもしれない、とは思っていたらしいが。
でも、嫉妬の念は彼女を狂わせた。
そして、彼女は周りの人間を巻き込み、私を、イジメ出したのだという。
最初は、単なる嫌がらせのつもりだったらしい。
だが、それでも状況は変わらない。
当然だ。
そんな事ぐらいで変わるほど、大したことはしていないのだから。
だから。
行為はだんだんエスカレートした。
周囲の人間にも、そして彼女自身にも、もはや止められないほどに。

そのせいで私が喋れなくなってしまったこと。

清々したそうだ。

これで、彼も自分に振り向く。
自分勝手にも、そう思っただけだったそうだ。
馬鹿だった。愚かだった。どうしようもないほど。
彼女は自分自身を、そう言った。
でも、妄執は止められなかった。
だが変化が訪れた。

それは、飄々としたあの彼の登場。

彼の人は、私の恋人のように振舞った。
私に恋人がいる、ということは。
イジメを行う必要が薄れたということ。
だから、ことの推移を見極めつつ、彼女は次第にそれを止めていった。
そして、これからどうするか、考え始めた矢先。

例の上司による、殺人未遂事件が発生。

『あんな人とは思わなかった』
とは彼女の弁。
そして、遅まきながら彼女は気づいたのだという。
自分は、私になんということをしてきたんだろう、と。
後悔。
自責の念。
周囲の人間の嘲る声。
自分のやってきた、恐るべき、手段の数々。
私が喋れなくなるまで追い詰めてしまったという、事実。
救われない、救いようの無い、愚かで無様な、事実。
体が震え、食欲がなくなり、眠れなくなった。
彼女は、意識的に、無意識的に自分を責め立てたのだろう。
一週間。
私のいない会社で、家で。
それを続け続けてきたのだろう。
315ふみお:2008/02/12(火) 18:33:52 ID:ICpziEkg
目の前で頭を下げる彼女。
一週間前とは別人と言っていいほどに、変わり果てた姿。
顔面は蒼白。頬の肉が削げ落ち、目は窪み、どす黒い隈が、その下にクッキリと。肌も荒れ放題。真紫の唇が乾燥している。
そして、なにより、目つきが違う。
どうしようもないほど、追い詰められ、自分を追い詰め、人から見放され、見下された目。

「(あのときの私も、同じような顔をしていたのだろうか……)」

全てに見放されたと、信じていた私は。
彼を信じ切れなかった、私は。
「(いや、やっぱり、違うんだろうな)」
私には自責の念なんてものは、なかったのだから。
共通点は一つだけ。

救いを求めている、という一点だけ。

私は、どうすればいいんだろう。
ノートを手に取り、文字を書き、それを彼女に見せた。

『イジメは辛かったです。
本当に、本当に、本当に辛かったんです。
ストーカーのことや、両親の死なんてこともあったから。
だから、よけいに。
一時は、命を捨てようとしたこともありました』
彼女は目を見開く。
「そんなに、私は、私は……」
さらに私は文字を書く。
『正直、頭を下げられても、簡単には許すことは出来ません』
「じゃあ、どうしたら……」
目に涙を浮かべ、喘ぐように、私を見つめる彼女。
『でも。でも――

――二度も命を救ってくれた、人がいます。

私のことを、第一に考えてくれた人です。
私のこれからのことを、真剣に考えてくれる人です。
その彼は、こう言いました。

“許してあげるんだ”、と。

正直、未だに彼の言うとおりに動くのは癪なんですが。
それでも、彼は間違ったことは一度だってしなかった』
だから、というわけではない。
コレは自分で考え、自分で決めたこと。

『私は、あなたを、許したいと思います』

『でも、あくまでも“許したい”と思うだけ。
本当のところ、何処まであなたを信じられるか、許せるか、判りません。
それでも、最大限の譲歩です。
これで、許してくれませんか?』

彼女は、しばらく呆然と、目で文を何度もなぞり、そして――

――大声を上げて、泣き出した。

私は、彼女の背中をゆっくりと撫でる。

「(これでよかったんだろうか……?)」
316ふみお:2008/02/12(火) 18:35:19 ID:ICpziEkg
正直、心情的には、まだ許せない。
私がどれだけ傷ついたか、追い詰められたか。

それでも。

彼女も同じ分だけ傷つき、追い詰められたのだ。
それは彼女を見れば、痛いほどに判る。
『同病相哀れむ』ではないが。
だから、これからは。
今すぐには無理かもしれない。
もしかしたら、数ヶ月。数年。必要かもしれない。
だが、決めたのだ。
“許してあげるんだ”
あの男に言われたからじゃない。あくまで、自分で決めた結果だ。
だから、責任は持つ。

ピロロロ、ピロロロ。

いささか場違いな携帯の呼び出し音。
この音は、彼からのメールだ。
私は、片手で携帯を取ると、操作してメール画面を呼び出す。

『冷凍庫に作り置きのカレーとご飯がある。二人で食べるといい』

相変わらず、お節介で、全てを見通したような態度の男だ。
悔しいので、返信。

『五月蝿いです』

コレを見た彼は、どう思うだろう?
やっぱり、あのつかみどころの無い笑顔で笑うのだろうか。

一時間後。
やっと落ち着いた彼女と私は、スパイスの効いた食物を、お腹一杯食べるのだった。

     ◇  ◇  ◇

「『なんで、ここにいるんですか』って顔だね」
「………………」
「ははぁ、今度は『いちいち五月蝿い』って顔だ」
「………………」
「う〜ん。無口っ娘って、無表情がデフォだと思うんだけれど、君はそうじゃないみたいだね」
「……………?」
「いやぁ、表情がコロコロ変わって面白いって、言ってるんだけれど」
「………………」
「久しぶりだねぇ。睨まれるのも。やっぱりコレはこれで乙なもんだよ、なんてね」

     ◇  ◇  ◇

久しぶりの出社。
さすがに緊張は隠せない。
でも、気合を入れて。
クリーニングしたてのスーツを着込む。
のりの効いたそれは、着るだけで、なんだかやる気が起きてくるようだ。
「(さぁ、時間だ)」
靴をはいた私は、自分を鼓舞するため勢いよく玄関を開けた――

「ああ、おはよう」

――ら、いるはずの無い生物(UMA)が玄関先でタバコを吸っていたのを目撃した。
317ふみお:2008/02/12(火) 18:36:36 ID:ICpziEkg
意味がわからない。
もう、一週間たったはずなのに。
もう、助けは必要ないのに。
「頷くだけでもいいからさぁ、朝の爽やかな挨拶くらいは交わそうよ」
あの時と同じ。初めての時と同じ工夫の無い台詞。
しょうがない。
とりあえず、頭を下げることで挨拶の代わりとした。
でも、戸惑ったままの表情は変わらない。
彼は、そんな私を見て言う。
「『なんで、ここにいるんですか』って顔だね」
図星だ。
っていうか、一々、人の思考をトレースするな。
「ははぁ、今度は『いちいち五月蝿い』って顔だ」
この男。
屋上の一件からもう2週間以上たっているのに、何一つ変わらない。
私の周囲をコレだけ変えたのに。
何故だか、悔しい。
「う〜ん。無口っ娘って、無表情がデフォだと思うんだけれど、君はそうじゃないみたいだね」

いっている意味が全然わからない。
デフォ、ってなんだ?
「いやぁ、表情がコロコロ変わって面白いって、言ってるんだけれど」
! 子供っぽい、とでもいうつもりか!
人がコンプレックスに思っていることを、ねちねちと!
思い切り、彼を睨みつける。
「久しぶりだねぇ。睨まれるのも。やっぱりコレはこれで乙なもんだよ、なんてね」
あぁ、くそ。
コレではいつもどおりじゃないか。
今日から変わるはずだったのに。
この男、自分の中にジャイロコンパスでも持っているんじゃないか?
とりあえず、取り合っていられない。
もう、バスが来る時間なんだ。
私は、彼を無視し、鍵を掛けると、そのまま通り抜けようとした。
「おっとっと。待った待った。まさか、一人で行く気じゃないだろうね」
は?
何を言っているんだ?
当然じゃないか。もう約束の期間は――

「あんな危ない目にあって、それでもバスを使わせるほど。僕は日本の治安を楽観視してはいないよ」
「……………?」
「まぁ、つまり。これからも竹内タクシーをどうかご贔屓に、ってことさ」

――終わったんじゃ、なかった。
そうだ。
私だって知っていたじゃないか。
『私のことを、第一に考えてくれた人です。
私のこれからのことを、真剣に考えてくれる人です』

そんな彼が、私のことを、放って置く、放って置いてくれるはず――

「さ、行こうか。千埜君。安全迅速がモットーの竹内タクシー。ご利用の際は安全のためシートベルトを必ず着用してください、ってね」

――無い。

「ん? どうかしたのかい?」
私は首を振った。
あふれ出てくる涙を誤魔化すために。
そして、私の顔をうかがってくる彼の目を欺くために。

私は、微笑んだ。
318ふみお:2008/02/12(火) 18:42:25 ID:ICpziEkg
前半は以上です。

だらだら長くて申し訳御座いません。



投下前に、
『ご都合主義が嫌いな方、
ハッピーエンドしか認めない方

スルーを推奨します』
と、書くのを忘れていました。

もし、読まれていて不快に思われた方、大変失礼致しました。



後半はバレンタインに投下したいと思っています。

スレ住人の皆様、今しばらく、駄文にお付き合いいただければ幸いです。
319名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 18:56:53 ID:6Eg4cgLz
GJ! 面白かったですよ。続きが待ち遠しいッス。
320名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 19:53:31 ID:T6lBzhno
荒らしでも来ているのかと思った


あってた(俺は独り身のバレンタインなのに……くやしい……でも……的な意味で)
321名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 20:35:57 ID:lfr1JrL2
ちょ、これでまだ前編てww

GJ!読み応えある作品ですな
早く明後日になれー
322名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 22:34:22 ID:oD0VEG3e
GJ!面白かった!
後半が楽しみです!
323名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 23:19:19 ID:X7GJcRMO
なんという長編GJ。これでまだ後編まで出てくるとは…
324名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 01:03:17 ID:p+fy9xqR
バレンタインに楽しみが持てるのは、生まれて初めてかもしれない。

ただ、
『ご都合主義が嫌いな方、
ハッピーエンドしか認めない方
スルーを推奨します』

というのはバッドエンドに進む、という意味なのだろうか?

なんか、クリスマスやバレンタインの前後になるとバッドエンドモノが一転好物になりそうな自分が嫌だ…
325名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 01:08:29 ID:/7p1Sbu5
                      /し, /    _>.
                     / { \レ/,二^ニ′,ハ
                     |'>`ー',' ヽ._,ノ ヽ| 
                     |^ー'⌒l^へ〜っ_と',!
      __             ! u'  |      /
  /´ ̄       `!             ヽ  |   u'  , イ   <>>324
  |  `にこ匸'_ノ            |\_!__.. -'/ /|    僕たちの仲間に入らないか?
  ノ u  {                 _.. -―| :{   ,/ /   \
. / l   | __  / ̄ ̄`>'´   ノ'    ´ {、    \ 
/ |/     {'´    `ヽ. " ̄\ U `ヽ.    __,,.. -‐丶 u  ヽ 
| / ヾ、..  }      u' 〉、    }    `ー''´  /´ ̄ `ヽ '" ̄\
! :}  )「` ノ、     ノ l\"´_,,ニ=-― <´  ヽ{  ノ(   `、  |
l   、_,/j `ー一''"   },  ノ ,  '''''""  \   ヽ ⌒ヾ      v  |
ヽ   _         /   } {. { l ┌n‐く  ヽ/ ``\        ノ
  `¨´    `¨¨¨¨´ ̄`{ 0  `'^┴'ー┘|ヾ    }、 u'   `  --‐r'′

エロのみでいいなら現在執筆中。
326名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 01:39:42 ID:R8bCGPOk
主人公がすごい好みですね。非常に良い仕事を見させてもらいました。
それだけに後編が怖い……どうなることやら。
327名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 02:36:23 ID:kPC3ruH3
バッドエンドは嫌いだけども…
この前半を見てしまったら、後半も見ざるを得ないではないか!


GJ!!
328名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 04:02:30 ID:lZYhu3dP
329名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 11:29:51 ID:YqeLIpap
これは?携帯だけだけど
ttp://courseagain.com
330名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 11:30:48 ID:hr0pdQJo
↑はいはいブラクラブラクラ
331名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 12:24:15 ID:4sT/sr7O
GJ!!
バッドエンドか……ふみおせんせー、考え直しry

どんな終わり方になるかわからんが後編が楽しみだぁっ
332名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 12:45:31 ID:64wLziIj
ふみお氏面白れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ

無口娘にこういう切り口があったかw
333名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 19:00:37 ID:LYK8/Mb4
ケータイからGJ
334名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 15:05:00 ID:bZNawbZq
くそっ!出遅れた!!
GJ過ぎるだろ…、考えなくても…

幸せになって欲しいが、バッドエンドフラグが立ってるのか?
あぁぁぁぁ…。こんなにキャラの安否が気になるのは初めてだ…orz
335ふみお:2008/02/14(木) 19:50:46 ID:zAXvEo8u
これより投下させて頂きます。

前回、書き忘れましたが

・ご都合主義が嫌いな方、

・ハッピーエンドしか認めないという方

・エロ無しということに我慢できない方

スルーを推奨します。

というか、
今回もやたら長い上に、エロ無しです。
申し訳御座いません。

それでも、構わないという方は、片手間にでもお読みいただければ幸いです。

それでは、

『擬似マチュー・ランスベールにおける希少的チョコ』

後編を投下させて頂きます。
336ふみお:2008/02/14(木) 19:51:38 ID:zAXvEo8u
見えたのは、白い空間。
雑多な意味不明の機械たちが置かれている。
そこで彼女は――

――大声を上げて、泣きじゃくっていた。

ともすれば、中学生に見えかねないその外見で泣き喚いていると、まるで、子供が癇癪を起こしているようにも見える。

周りにも誰かがいるようだ。
でも、どの顔もよく見えない。

判るのは彼女の泣き顔だけ。
解るのは彼女の泣き声だけ。

――僕は?
僕は何処にいるんだろう?
見えない。
こんなことは、あまり無いはずなんだけれど。

そこで気づいた。

――ああ、あれと繋がっているのか。
数年前から見えていた、あの事実。あの未来。
彼女が関わったから、彼女と関わっているから。
だから。

彼女が泣く破目になっているのか。
こんなにも、無様に。無体に。
酷い有様だ。
まるで悲劇のヒロインを地でいっているような。そんな画面。
もう、立ち直れないんじゃないかと心配させるほど。

だったら。
――僕は、彼女とは一緒にはいられない。

そう思った。

     ◇  ◇  ◇

「ねぇ、海に行こうよ。海に」
彼の唐突な発言。
まぁ、いつものことなんだけれど。
その発言に反応したのは、
「イキナリですね。先輩……」
彼の隣に座っている美男子だった。
名前は工藤俊(くどう しゅん)さん。
昔、彼が室長になる前に、世話をしたり、世話をされたりの仲なんだったとか。
今では二十代半ばの工藤さんのほうが、立場は上なんだという(竹内談によればだが)。
それでも、『先輩』だなんて慕ってくる工藤さんのことを、彼も悪くは思っていないらしい。

今日は8月6日。
そろそろ来る、お盆休みを含めた一週間の夏休みをまえに会社全体が浮き足立っている。
そんな明るい社内、昼休みの食堂。
夏休みをどう過ごすか、の話題がそこかしこから聞こえてくる。
そんな中、私たち三人は食堂の隅の席に陣取り、周りと同様の会話をしている。
とはいえ、未だに言葉が不十分な私がいるので、もっぱら会話は彼と工藤さんの二人が進めて、私は頷くだけ、みたいな感じなのだが。
『私たち三人』。
そう、私と彼の二人だけの昼食に工藤さんが混じってきたのが、二ヶ月程前。
当初、私と彼が恋人同士だと勘違いしていた工藤さんは、恐縮しきりだった。
けれど、全く持ってそんな事実は存在しない。
337ふみお:2008/02/14(木) 19:52:39 ID:zAXvEo8u
そのことを理解してくれてからは、変な遠慮なんかをすることは無くなった。
むしろ、未だに遠慮しているのは私のほうだ。
生来の人見知り気質が全開、といったところだ。
………………………。
っていうか。
なんで、二人だけじゃダメなんだ。竹内さんよぉ。
私と二人きりはそんなにつまらないのか。
まぁ、いっても、出来るのは頷くことか、筆談くらいだけだから退屈に思われるのかもしれないが。
それにしても……。
………………………。
いや、別に。私がどうしても彼と二人きりがいいというわけではない、んだよ。
うん、そんなことは全然無い。
工藤さんだって、喋れない私によく気を配ってくれるし、フォローを入れたりもしてくれる。
まぁ、いつも突拍子もないことを言い出す、彼をフォローするほうが回数が多いくらいなのだけれど。
そんな中での、先の彼の発言。

『海に行こうよ』

海か……。
もう遠い昔、子供の頃に両親につれていってもらった記憶しかない。
学生のときは、勉強一筋で遊び方も知らなかったし。
……ついでに、友達も居なかったし。
当然、恋人なんかもいなかったし。
だんだん、思考が暗くなっていく。
そんなダウナーな思考の私を置いて、二人の会話は続く。

「まだ、くらげは出てないでしょ? 多分」
「ええ、恐らくは。……微妙ですけれど。でも、人が多いかもしれませんよ」
「それはしょうがないんじゃない? 日本全国、大体休みなんだし」
「そうですねぇ。やっぱ行くなら、○○○浜とかですかねぇ」
「さすがに詳しいね。そっち方面のリサーチは任せるよ」
「ハハ。了解しました」

ここまで話して、工藤さんが私のほうを向く。
何の感情も無いが、整った顔を無防備に向けられると、意味も無く胸が高鳴る。
そんなこと、当然、工藤さんは知りもしないわけで。
「千埜さんは、海に行くの、どう思います?」
屈託無く訊いてきた。
「(別に何の予定もないし、いいか)」
お盆には色々あるから、行くことは出来ないが、その前なら。
私はとりあえず、その旨を書いて提示する。
彼と工藤さんは、その文字を眼で追う。
「あぁ、なるほど。わかりました。じゃ、8月11日くらいでどうですかね」
私は頷く。
後でスケジュール帳を見てみないと正確にはわからないが、それでも、大丈夫だったと思う。
そんなことを考えていると――。

「っていうかさぁ。千埜君、泳げるの?」

――失礼なことを、平然と聞いてきた男が一人。
私は、ソイツを目いっぱい睨む。そして、力強く頷く。
すると、私の怒りなど何処吹く風で、ソイツは小声で、言った。

「あぁ、そう。じゃ、安心だね」

安心?
まぁ、確かに私が泳げれば予定に変更が無い。
海に行くこともやぶさかではない、ということになる。
でも、この男の、こういう言動。
約半年前を、何処と無く連想させる。
338ふみお:2008/02/14(木) 19:53:55 ID:zAXvEo8u
「(なにか、企んでるのか?)」
「そうそう。この工藤君。実はこう見えて水泳の強化選手だったこともあるんだよ」
「(それは凄い)」
優男風の外見からは想像もできないが、そんな事実が。
だから、私の頭の中からは、疑惑の念はかき消され、かわりに工藤さんに対する意外なイメージアップが上書きされた。
当の工藤さんは少し困惑気味だ。
「先輩。別にそんなこと言わなくても……」
いや、困惑、というよりは、少し迷惑そうだ。
何か、嫌な思い出でもあるのだろうか?
彼はそんなことを全く気にする様子は無く、こう続けた。

「まぁ、全く泳げない僕からすれば、天上人のような存在だよね」

衝撃のカミングアウト。
否、“衝撃”というより“笑撃”か?
思わず、噴出しそうになった。
自分から海に行こうと言い出したのに?
いつも飄々と、『何でも出来ますよ〜』みたいな態度の癖に?
泳げない?
とんだ、お笑い種だ。
「(忘れないように、後で手帳にでもメモっておこう)」
そして、心の中だけで笑う。
「あれ? 千埜君。今、君、笑わなかった?」
目ざとい男が訊いてきた。
正直、笑ってしまったが、誤魔化すように首を振る。
「あぁ、そう。ならいいんだけれど……」

そして、詳細は後日、ということで食事が終わる。

仕事が忙しいらしい工藤さんは、先に職場に戻った。
そして、私と彼は、二人して食堂から出る。
その時、彼は私に言った。

「千埜君も二人くらい、連れてきなよ、友達」
「……………!」
コイツ。
私が半年前まで苛められていたことを知っているくせに。
彼は言葉を続ける。
「会社の人じゃなくても、学生時代の友人とかでもいい。社会人になって一緒に遊べる機会も少なくなったでしょ?」
………………………。
学生時代の友達なんて、いない。
一人も。
そんな私の状況を察したのか、彼は言う。
「じゃあ、“彼女”を呼べばいい」
“彼女”。
それは間違いなく、あの人のことで。
「こういうのは歩み寄りが大切だからね。未だに、ギクシャクしているんでしょ?」
「………………」
でも、海に誘ったからと言って。
来てくれるとは限らないし……。それに。
「立場上、彼女からはアプローチを掛けにくいんだと思うよ」
そういうものだろうか。……いや、そうだろう。
「君、根に持ちそうな顔してるもの」
う、五月蝿いな。
でも、そんな顔をしてる、って思われているのか……。彼にも、“彼女”にも。
「まぁ、これは君と“彼女”の問題だからね。僕がこれ以上、とやかく言うのも何だね。でも、考えといてよ」
そして、彼は私の前から足早に去っていった。
どうせ、残り僅かな時間を喫煙スペースで過ごそうとでも考えているのだろう。
私はその背中を見送りながら、知らず、ため息をついた。
「(“彼女”かぁ……)」
339ふみお:2008/02/14(木) 19:54:49 ID:zAXvEo8u
気は重いが、彼の言うとおりかもしれない。
理性面では、もう決着のついている問題。
でも、感情面では……。
「………………」

私はまだ、言葉を取り戻してはいないのだから。

……。
………………。
………………………。

そして、いつものように終業時間。
男性社員は各々の帰路に、女子社員は更衣室へと足早に向かっている。
その足音は、やはり連休が近いためか、踊っているように聞こえる。
そんな雑多な音を聞きながら、私は“彼女”のデスクに歩いていった。
椅子の背もたれに大きく寄りかかりながら、背伸びをしていた“彼女”は、私を見て、凍りついたように動かなくなる。
代わりに動いたのは口。
「あ、ああ。あの、お疲れ、様。千埜、さん」
私は頷く。
“彼女”に――小林早苗さんに向かって。
そして、ノートを見せる。
そこにあらかじめ書かれていたことは。
『お疲れ様です。小林さん。
 実はお話したいことがありまして。
 これから少し、時間、大丈夫ですか?』

周りの女子社員の視線を感じる。
小林さんは慌てたように頷いた。
「え、ええ。じゃ、じゃあ、ここじゃなんだから移動しましょうか?」
頷く私。
彼ではないが、予想通りの展開だ。
ページをめくる。
『じゃあ、飲み屋にでも行きましょうか』
「え……?」
小林さんはその字を、さも意外そうに見つめる。
そして、言い出しにくそうに言う。
「あの、き、喫茶店とかのほうが、静かでいいんじゃない?」
「(あぁ! 喫茶店!)」
そんなお洒落な場所、想像することもできなかった。
私は何度も頷く。
「じゃ、じゃあ、いいところ、知ってるから。そこに行きましょう、か?」
当然、断る理由なんて無かった。

これから私と小林さんの話が始まる。
どういう、展開になるのか。
彼のように、予知は出来なかった。

     ◇  ◇  ◇

「いやぁ、天気予報。外れてよかったねぇ」
僕はハンドルを握りながら言う。
すると――

「私は晴れ女なのよ。ここぞというときはいつも晴れだわ」
――助手席の人が、訊いてもいないことを胸を張りながら、誇った。
「ああ、そう。ちなみに僕も晴れ男なんだよねぇ。ここぞという時は外さないよ」
いつもこんな感じなので、調子を合わせた。
隣の人は言う。
「アンタの晴れなんて、どうせみみっちい曇り空でしょ? この青い空を見れば、私の晴れ女力が勝ったと、直ぐにわかるわ」
「さいで」
340ふみお:2008/02/14(木) 19:55:36 ID:zAXvEo8u
『晴れ女力ってなんだ』とか訊かないのが、彼女との会話のコツだ。

8月11日。
予定通り、僕らは海に向かっている。
メンバーは。
『工藤さんは昔、水泳の強化選手だったんですって』
カリカリとノートに書き込む千埜君。
それを座席の前から覗き込む女子社員。
「へぇ! そうなんですか? 凄いんですね!」
やたらテンションの高い彼女は、千埜君が連れてきた、佐藤さん、という人らしい。
どうやら、彼女はミーハーらしく、隣に座っている工藤君をしきりに褒めたりしている。
当然、工藤君は、
「いや、そんなことはないんですよ。たまたま、その当時、選手の質が悪かったってだけの話なんですよ」
少し困惑しながら、それでもそつなく話している。
「へ、へぇ、そうなん、ですか。そ、それでも、凄いですよね……」
なんとか会話の輪に加わろうとする、最後部座席の小林早苗君。
でも、隣に座っている千埜君の無言のプレッシャー(彼女はそんなつもりは無いのだろうけれど)に押しつぶされそうだ。
そして、運転席の僕。
車は当然、いつものBMWじゃなくて、大型のワゴン車。
持ち主は、僕の隣、助手席に座っている晴れ女。
「悟。あんた、なにブツブツ言ってんの? 気味悪いわ」
訂正。“口の悪い”晴れ女。
「いやぁ、とりあえず、メンバー紹介は基本でしょ? 早いうちにやっておかないと混乱するからねぇ」
「誰に紹介してんのよ……」

僕。
「とりあえず、安全第一だよ。みんな、浮かれすぎないようにね」
工藤君。
「とかいって、浮き輪をもう膨らませて、一番浮かれているのは誰ですか」
千埜君。
「………………」
佐藤さん。
「ハァ……。こんなチャンス、滅多にない……。うまく、活用…ブツブツ」
小林君。
「ち、千埜さん。ジュース、飲む? ……。あ、いらない? そ、そう。ゴメンナサイ」
そして――
「私がBMWのオーナー! この車の持ち主! 今をときめく企業系弁護士よ!」
森下順子。

この六人が、今回の日帰り海水浴ツアーのメンバーだ。

そうこうしている内に、車は目的の海水浴場へ。
とりあえず、所定の駐車場に車を止める。
当然、運転手兼今回のツアーの発案者である僕がお金を払う。

全員、更衣室へと消える。

そして、出てきたときには当然、全員が水着で――

「どう? 私のナイスバディ。まだ衰えてはいない、まだ衰えてはいないわ!」

そんな煩い人の水着なんかに興味はない。そして、僕は見た。

「……スクール水着みたいだねぇ……」

黒いワンピースの水着を着た、小柄で童顔な彼女。
当然僕は、その一言で、彼女から腹に一発“イイの”を貰ったわけで。

浜辺に到着した時刻は11時過ぎ。
各々、好きなことを始めようか、と提案したのだが。
341ふみお:2008/02/14(木) 19:56:39 ID:zAXvEo8u
「私、朝抜いてきたのよねぇ。腹減ったわ」
女王様の託宣。っていうか。
「順子が一人で食べてくればいいじゃない」
なんていう僕の言葉なんて、女王様はお聞きになるはずもなく。
「つーか、どうせ、昼には込むんだから、店が空いているうちに腹ごしらえしときましょ」
そして、周囲の人間をねめつける女王様。
「いいわよね。みんな」
元々、自己主張の少ない面子だ。女王様に逆らうものなど誰一人としていなかった。
反乱分子である僕は、聞こえないように一言。
「……(ボソッ)横暴女王……」
「聞こえてるわよ。さ・と・る!」
女王様は千里眼のほかに、地獄耳をお持ちのようだ。

海の家に入った、僕たち。
広々とした開放的な空間。白い色で統一されている。
が、清潔という言葉からは程遠く。
建物の老朽化であちこちに穴が開いているわ、その穴から砂が入り込んでくるわ、で大変だった。
それでも、思い思いの物を注文し、それを食べる。
「あ、悟。ほっぺたにソースがついてる」
「え、本当?」
「ああ、そっちじゃないわ。いいわ、拭いてあげるから、ジッとして。……はい、とれた」
「いつも、すまないねぇ」
「爺みたいなこと言うな」
そんなやり取りをする僕と順子。
向かいの席に座った千埜君の視線が痛い。
「ち、千埜さん。あ、あのラーメンにそんなに七味を入れたら……」
「……………!」
しょんぼりする千埜君。
すかさず、僕の隣の工藤君が言う。
「僕、辛いの平気ですから。僕のと取り替えましょう」
「………………」
ためらうように首を横に振る千埜君。
「大丈夫です。まだ、口つけてないですから」
そう言う問題ではないのだろう。
でも、千埜君は心持、顔を赤くしながらラーメンを取り替えた。
「(……ふう。なんとか、なりそう。かな?)」
望んだ状況。
予知とは違う世界。
でも、これでいいんだ。
「……寂しいけれど、でも……」
「あ? 何か言った?」
地獄耳の女王様が五月蝿い。
僕は、無言で首を振ると、残った焼きそばを啜った。

会計後、パラソルを立て、各々自由行動に。

     ◇  ◇  ◇

……数時間後。

工藤さんはたまに休憩を入れながら、延々と、凄いスピードで泳ぎ続けている。
最初はついていこうとしていた、佐藤さんだが、結局、ついていけず。
浜辺でうずくまり、“の”の字を書いている。

しばらく泳いでいた私は、パラソルの立っているビニールシートに向かった。

あの二人の姿が見えない。

「(荷物番がどこかにいってどうする)」
いい加減な対応に腹が立つ。
342ふみお:2008/02/14(木) 19:58:16 ID:zAXvEo8u
……っていうか、あの二人何なんだ。
「(じゅんこ〜、さとる〜、だってさ)」
なんだか、余計に腹が立ってきた。
「(恋人か、っつうの!)」

恋人。

そう考えると、なんだか胸が痛い。
とても、痛い。
っていうか。

『あ、悟。ほっぺたにソースがついてる』
『え、本当?』
『ああ、そっちじゃないわ。いいわ、拭いてあげるから、ジッとして。……はい、とれた』

恋人、そのもの、じゃないか……。
再び胸が苦しくなってくる。
立っていられずに、しゃがみこむ。
すると。

「あぁ、ゴメンゴメン。千埜さん、だっけ? 荷物番してくれてたのね」

あの人が、森下さんが歩いてきた。
彼女はバツが悪そうに頭をかいている。
「いやぁ、ビール買いにいってたら、いつのまにか、あの野朗が消えやがってねぇ。どこいったんだか」
「………………」
頷くことで返事の代わりにする。
私の隣に、堂々と座り、缶ビールのプルトップを勢いよくあけると、彼女は豪快にそれを飲みだした。
343ふみお:2008/02/14(木) 19:59:24 ID:zAXvEo8u
ぶはぁ。

およそ、そのモデルのような外見からは想像もつかない程に、オヤジ臭い動作。
「………………」
モデルのような外見。豪放磊落な性格。
全て、私とは正反対だ。
彼とも、付き合いが長いようだし。

……勝ち目なんて、無いじゃないか……。

と、ここまで考えて、私は思い切り首を振る。
いいじゃないか。別に。
あの男が誰と付き合っていようと。関係ないじゃないか、私には。
そうだ。
あの男が、この美人な人と何をしたって……。

……キス、とかもするんだろうか……。

それ以上のことだって、当然。
「(いや、関係ない。関係ないんだ……!)」
必死で否定する。
でも、頭の中から、キスをする二人の映像が、どうしても離れない。

……胸が、痛い……! 苦しい……!

「――あのさぁ。私と悟。アナタの想像するような仲じゃないから」

………………。
今、なんて?

「だからぁ、私と悟は恋人同士とかじゃないから。ただの腐れ縁。勘違いしないでね」

私は隣に座る、美人の顔色を伺う。
彼女は、遠くを見ながら、ビールをあおる。
「アイツはさぁ、線を引いてんじゃないかって思う」
線?
「だから、アイツの引いた線以上には、アイツには踏み込めない」
「………………」
「信用すれば応えてくれる。助けを求めれば応じてくれる。たぶん、縋れば救ってもくれるんだろうけれどね」
彼女はこう続けた。
――したこと無いから、わかんねぇけど――。
「………………」
身に覚えは、ある。
応えてくれた、応じてくれた、――救ってくれた。
でも、それ以上には、ならない。
「アイツはもしかしたら、ずっと独りなんじゃないか、って思う。たぶん、最後の一瞬まで」
誰かを応えるために、応じるために、救うために。
隣に親密な誰かがいたら、その人を傷つけてしまうから。
親密な誰かのために、信用してくれる誰かを、助けを求める誰かを、縋ってくる誰かを。
応えることが、応じることが、救うことが出来ないから。
だから、いつまで経っても。何処まで行っても。
独り。

「なぁんてね! そんなカッコイイ奴じゃ、ないかぁ!!」

今までの雰囲気をぶち壊すように彼女は大声を出した。
「っていうか。見た? あの貧相な体! メタボよりよほど酷いよ」
「………………」
それは私も思った。
……っていうか。あんなに細かったっけ?
344ふみお:2008/02/14(木) 20:00:17 ID:zAXvEo8u
半年前のあの屋上。
私を抱きとめた彼の腕は、もっと太かったような気がする。
私の回想などまるで無視するかのように、彼女は続ける。
「私にも選ぶ権利あるわ。あんな冴えない中年と恋人だなんて、ゾッとしないわ」
さもありなん。
頷く私を見ながら、彼女は笑った。
「でしょ〜? っていうか、ヘビースモーカーだし、車も持ってないし」
「………………」
そのとおりだ。
「それなりに偉いっつっても、所詮、室長どまりだしねぇ」
「………………」
「そして、なによりも情けない、冴えない、どうしようもないの無い無いづくしだものねぇ」
………………。
そこまで言うことないんじゃないか。
タバコを吸うのは個人の自由だし、車だってそうだ。
それに、あの年齢で室長だなんて、やっぱり凄いに決まってる。
だいたい、アナタはあの人の何が解っているって言うんだ。

私を支えてくれた、あの人が。情けないことなんてない。

命を救ってくれたあの人が。どうしようもないことなんてない。

まぁ、冴えないのは、……否定できないけれど。
それでも、私の悩みを解決してくれた彼は、誰よりも――。

「あれ? 怒った?」
「………………」
知らず、私は彼女を睨んでいた。
すぐさまそれに気づき、私は視線を海にやる。
「あれあれ? ……ひょっとして、マジ?」
「………………」
私は首を振り、『怒っていません』と紙に書き、見せた。
「だよねぇ〜。アイツのことを私がどう言おうと、あなたには何にも関係ないもんね〜」
この人。
ケンカ売ってるのか?
だったら――。

「ち、千埜さん。あの、す、少し、浜辺のほうに行ってみない?」

いよいよ、ペンを握る手に力が入った私を止めたのは、不安そうに話しかけてきた小林さんの声だった。

……。
………………。
………………………。

波打ち際。
波が足元の砂を攫っていく感覚。
それが少しこそばゆい。
「………………」
「………………」
五分ほど前から、二人して無言。
私は一応ノートとペンを持ってきてはいるが、別に書くことがない。
楽しそうな子供達の声が聞こえてくる。
若い男女の騒ぐ声が遠くに聞こえる。
二人の沈黙の空間を破ったのは、やはり、彼女からだった。
「ち、千埜さん。今日は誘ってくれて有難う」
私はどういたしまして、というふうに首を振る。
彼女は少し微笑む。
「正直、行くかどうか、朝ギリギリまで悩んでたんだ」
彼女の心情の吐露。
345ふみお:2008/02/14(木) 20:01:12 ID:zAXvEo8u
頷くことで先を促す。
「食事を食べながら、顔を洗いながら、荷物を確認しながら。ずっと、断る言い訳、探してた」
「………………」
「だって、やっぱり、会ったら気を使うしかないじゃない。気まずい思いをするに決まってる。だから――」
その気持ちは分かる。
私だってそうだった。
今日、行くべきか、辞退するべきか。
正直、最後の最後。
全員が集まって、『さあ、行こう』という時でさえ、仮病を使って止めようか、とも考えた。
でも。
彼女は、来てくれたから。
会ったら気を使う。気まずい思いをするに決まっている。
そんなのは容易に想像がつく。
それでも、彼女は、この人は来てくれたから。
だから、裏切れなかった。
それにいい加減――
「(恨む気持ちも、あるんだけれどな)」
――気持ちに決着をつけたかった。

たぶん、理性では許していて。感情でも、許したくて。

だから今日。
逃げなかった。逃げられなかった。逃げることなんて出来なかった。

「楽しいよ、今日。来てよかった、って、本当に思うんだ」

『私は何もしてませんよ?』
彼女は頷く。
「でも、許そうとしてくれていることが、わかるから」
「………………」
「でも、許せないっていうのも、わかるから」
私も頷く。
「だから、今日、千埜さんの顔をいっぱい見れてよかった。千埜さんがまだ私のことを許せないのを見て、決心できた」
「………………」
「私、頑張るから。千埜さんがもっと笑ってくれるように、もっと元気になるように。忘れることは多分、二人とも出来ないと思うけど。それでも、私、頑張るから」
私は大きく頷き、書く。
『私も頑張ります。あなたを早く許せるように』
その文字を見て、彼女は苦笑した。
「千埜さんはもう、半年前にいっぱい頑張ったじゃない。我慢したじゃない」
今度は、私が苦笑する番だ。
頑張ってなんかいない。今だって。
あの時はただ潰れかけた。それを彼が助けてくれただけ。
今は――。

『未だに行ってないんです。病院に』

その文字に、彼女は目を見開く。
「なんで!? だって、もう半年以上、口が利けてないんだよ!? どうして!?」
彼女の大声に、私は口の前に人差し指を一本、立てた。
『静かに』というジェスチャー。
彼女は自分が周囲の注目を集めてしまったことに、恐縮し、しかし、それでも追求をやめない。
「なんでなの? 千埜さん。それじゃ、いつまで経っても……」

『恐いんです。病院が』

正直な感想。
小林さんは困惑するばかりだ。
「そ、そんな子供みたいなことで……?」
私は首を振り、苦笑した。
346ふみお:2008/02/14(木) 20:02:21 ID:zAXvEo8u
『私の両親は、交通事故にあい、病院で死にました。母は顔がありませんでした。父は、全身を粉砕骨折してました』

彼女が息を呑む。
こんな気持ち悪い話を聞いたら、当然の反応だろう。

――最初は偏見だった。
心療内科や、精神科への不信感もあった。
だから、どうしても、そのドアを開けるにはいたらなかった。
それでも、何とかなると信じていたから。
でも。

――両親の姿を見た後、私は、病院がダメになってしまっていた。

ストーカーがいなくなり、イジメがなくなった私は、覚悟を決めて、病院へ行った。

……入り口で吐いた。

病院にいる間中、脂汗と、震えが止まらなかった。
私は逃げるように、病院を後にした。
それ以来、一度も。

コレは彼にも話していないこと。
でも、彼が病院を薦めることはなかった。
彼は私のコレをも、予知しているのだろうか。
私の『失語』を話題にもしないのだから。

『だから、私は頑張っていないんです』

目の前の彼女は、泣いていた。
まるで、私の分を取り返すように。
震えながら、泣いていた。
「そんなに辛いことがあったのに。私、私は……」
私は彼女の肩を抱き、背中を撫でた。
まるで子供をあやすように。
『それでも私は、アナタを、許したい』
「ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ……」
彼女が泣き止んだのは、それからしばらくしてからだった。

     ◇  ◇  ◇

「(やれやれ、今度は君が苛めているのかい?)」
浮き輪でプカプカ浮きながら、僕は浜辺の二人を見ていた。
勿論、会話の内容なんて知るはずもなく。
「っていうか……。工藤君、泳ぎだしたら、人が変わっちゃったねぇ……」
本当だったら、千埜君をエスコートして欲しかったんだけれど。
「(まぁ、他の人も居たからねぇ。あからさま過ぎるのは無理か)」
とはいえ、今回は上出来だろう。
「千埜君と小林君もうまくいったみたいだし」
それに。
予知した世界ではそろそろ。
………………………。
「(工藤君は何処かな? あ、佐藤さんのところか。位置は丁度いいね)」
太陽の位置から考えると、あと三十分くらいだろうか?
「(僕はそろそろ、海から出ておこうか……)」
そう考えたときだった。

「(あれ、浮き輪が物凄くしぼんでるような)」

気づいたときには遅かった。
浮き輪は僕の体重を支えることが出来なくなっており。
347ふみお:2008/02/14(木) 20:03:09 ID:zAXvEo8u
ということは。
泳ぎ方を知らない僕は。

「当然。溺れるよねぇ……」

冷静な言動はコレで最後だった。

     ◇  ◇  ◇

異変に最初に気づいたのは、泣き止んだ小林さんだった。
「? あれ、竹内さん、ですよね……」
彼女の視線の先を追ってみる。
たしかに遠いところ、小さく彼がいる。
でも、様子がおかしい。

――っていうか。

「! あれ、溺れてるよ!!」

「……………!」
小林さんの言葉を最後まで聞くことなく、私は、海に入っていた。
懸命に泳ぐ。
でも、なかなか、前に進まない。

「(早く、速く!!)」

焦れば焦るだけ、体は進まない。

――それでもようやっと、彼のところまで辿り付く。

彼はぐったりとして動かない。

懸命に、でも慎重に、彼を運ぶ。

……。
………………。
………………………。

浜辺に横たわらせた彼。
見知らぬ人が、彼の口に手を当てている。

「この人、息してないぞ!!」

     ◇  ◇  ◇

最初に見えたのは、逆さまの千埜君の顔。
後頭部が柔らかいものに乗っている感触。
どうやら、膝枕されているらしい。
彼女は僕の頭を両手で抱いているようだ。

「え〜と、どうなったんだっけ……」

たしかシナリオでは、千埜君が――。

僕の顔に雫が落ちてくる。
どうやら、彼女の涙らしい。
ん? どうして泣いているんだろう?

とりあえず、安心させるために、僕は微笑んだ。
348ふみお:2008/02/14(木) 20:03:59 ID:zAXvEo8u
「……………!」

逆効果だったらしい。
顔がどんどん濡れていく。
「あ、先輩。気がついたみたいですね」
工藤君の声がする。
とりあえず、訊いてみようか。
「あの、工藤君。一体全体、何がどうしちゃったのかな?」
工藤君は苦笑したような声で言う。
「千埜さんに感謝してくださいよ。彼女がいなければ、今頃、先輩は海の藻屑になっていたところなんですから」
言われて思い出す。

しぼんだ浮き輪。沈む身体。苦しくなる息。
その最後に、懸命に泳いでくる彼女を見た気がする。

「あぁ。僕、溺れたんだね」
『策士、策に溺れる』を地でいったらしい。
ちょっとおもしろい。
「ハハハ。まさかこんなことになろうとは」
予知と全然違うじゃないか。
「“ハハハ”じゃないわよ。アンタ、心臓止まってたんだから」

ふぅん。あぁ、そう。

「……へぇ、そうなんだ?」
「ホントよ、ホント。マジで昇天する5秒前ってやつ?」

『心配したんですから!!』
彼女がノートを見せる。
揶揄するように僕は言った。
「君が、エクストラクエスチョンマーク使うなんて、珍しいねぇ」
彼女がノートに書き込む。
『真面目に聞いてください! 心臓が止まってたんですよ!?』
「それはさっき聞いたよ。いやぁ、青天の霹靂とはこのことだねぇ」
『大丈夫なんですか? 痛むところとかは?』
「平気、平気。これでも、僕、見た目より若いんだよ」
彼女は疑うように僕を見ている。
「本当に、平気だよ」

僕はゆっくりと体を起こした。
まだ、千埜君は泣いている。
っていうか。
僕らの周りに人だかりが出来ている。

僕はなんとなく恥ずかしくなり、周りの人たちに言った。

「いやぁ、皆さん。この可愛い人のおかげで助かったらしいです。ハッハッハッ」

数人だけ、僕のジョークでウケてくれた。

     ◇  ◇  ◇

夕暮れ時、私たちは後片付けをすませ、帰路に着いた。
運転しているのは工藤さん。隣に彼が座っているらしい。
「(今日は疲れた……)」
どうやら、私以外の女性陣は全員眠っているらしい。
そこかしこから、静かな寝息が聞こえる。
っていうか。
「(私も眠い……)」
知らず、舟をこぐ頭。
349ふみお:2008/02/14(木) 20:04:52 ID:zAXvEo8u
遠くのほうで、彼と工藤さんが話しているのが聞こえる。
どうやら、私も眠っていると思っているようだ。
「いやぁ、今日は参ったねぇ」
「死にかけといて、よくも、平然としていられますね……」
断片的な会話。
時間軸がずれているような感覚。
意識が暗く落ちていく。

「っていうか。本当は今日は、千埜君が溺れるはずだったんだ――」
「また、いつものヤツですか? でも、本気だったら、僕は先輩を軽蔑しますよ――」
「だろうねぇ――」
「ええ。千埜さんが危ない目にあうのを判っていて、参加させたなんて――」
「正直に吐露すると、彼女を助けるのは君の役目だった――」
「はぁ――」
「そして、それをキッカケに、二人は親密になる。予定だった――」
「なんで、僕と彼女を――」
「君が適役――」
「答えになって――」

「千埜君は僕といると不幸になる。間違いなく――」

そんな会話が交わされているなんて知りもしないまま。
私は眠っていて、起こされたときには、もうアパートの前だった。

     ◇  ◇  ◇

「ま、当然だよねぇ……」
手には辞令書。
正確に言うと、辞令打診書といったところか。

そろそろ冬の気配を体に感じ始めた、この頃。
それでもなお、しつこいくらいの夏の名残の温風が肌に当たる。
今日は、曇り。
灰色の空。やっぱりダークグレーにしか見えないコンクリートの床。赤茶けた柵。
つまりは、いつかの屋上。
僕は、いつものようにタバコを片手に、そこに佇んでいた。
やはり、ここで吸うタバコはうまい。
それこそ、思い出したいろいろなことを、忘れさせてくれる程度には。
でも。
「(頃合、といえば、頃合だよね)」
いつか来ると思っていた、否、むしろ来るのが遅かったくらいの辞令。
もしかしたら、有能な後輩が何らかの手を回していたのかもしれない。
今となってはどうでもいいが。

考えるのは彼女のこと。
早春、ここから飛び降りようとした彼女のこと。

「いろんなことがあったねぇ……」

彼女はどう思うのだろうか?
できることなら、知ってほしくはないのだけれど。
「ま、そこは工藤君の空気読む力を信じるとしましょうか」
ポケットに入れている携帯が、某レインボーマンの敵軍団のテーマソングを鳴らす。
この音は、かの晴れ女に設定していたはずだ。
そんなことを考えながら、僕は通話ボタンを押した。
「いやぁ、珍しいね。君から掛けてくるなんて」
『……どうせ、またサボってんでしょ?』
「君の予想通り、僕は今屋上だよ。人命救助はしていないけれどね」
そんな僕の軽口には取り合わず、これまた珍しいことに真面目な口調で言った。
『昼休み、空けときなさい』
350ふみお:2008/02/14(木) 20:05:43 ID:zAXvEo8u
「命令かい?」
『命令よ。いいわね。迎えに行くから、会社の前で待ってなさい』
唐突に切れる電話。
「まだ肯定も否定もしてないんだけれどね……」
それに昼休みまで、あと30分といったところだ。
これから車でくるのだろうか?
「考えても仕方ないか」
割り切って、残りの時間を使い、タバコを吸うことにする。

     ◇  ◇  ◇

昼休みになり、私はデスクから立ち上がった。
あの夏の日以来、私と小林さんは一緒にお昼を食べることが多くなった。
でも、今日は小林さんは外出している。昼も外で食べることだろうと言っていた。
だから、私は今日は最近では珍しく、一人で食べることになる。
そう思っていた。

「今日は、先輩の代わりです」

出入り口で待ち構えていた工藤さんを見るまでは。


「一週間ぶりぐらいですか。こうして一緒に食事をするのは」
私は頷く。
いつものように、社員食堂。隅の席。
工藤さんと私はA定食をもって、席に着いた。
「先輩が熱心になるのって、A定食について語るときくらいですよね。だから、つい釣られちゃうっていうか」
「………………」
そのとおりだと思った。
トンカツなんてものをメインに置いた脂っこい食事なのに、なぜかA。なぜか、美味しい。悔しいことに。
そして、A定食を食べるたびに思い出す。
あの日のことを。
小皿に乗せられたトンカツのことを。

……っていうか。

今にして不思議なのだが。
彼はどうして、私が欠食気味だとわかったんだろう?
ストーカーのことは予知できたのだろうけれど。イジメのことは、事件の後で知ったみたいだったし。
「(どうしてなんだろう?)」
そんなことをぼんやりと考え、中空を見つめる。
「あれ? 食欲ないんですか?」
工藤さんが心配そうに聞いてくる。
私は苦笑しつつ、首を振る。
「だったら、いいんですけれど」
頷く私。
「さ、食べましょう」
手を合わせる私たち。
「いただきます」
「………………」
無言になった私たち二人は、黙々と箸を進める。

そして、約三十分後。

「ごちそうさまでした」
「………………」
私たちはA定食を完食した。
「さすが、先輩が一押しするだけのことはありますね」
ふん。
まぁ、確かに。
351ふみお:2008/02/14(木) 20:06:25 ID:zAXvEo8u
でも、それは彼の成果ではなく、食堂で働く人たちの功績だ。
美味しいものを教えてくれたのはありがたいが、そう思う。
そんなことを考えていると、工藤さんは真面目な顔でいった。
「実は、先輩に関して重要なお話があるんです」
「……………?」
なんだろう。
思い当たる節が全くないが。
「実は、先輩は――」

     ◇  ◇  ◇

「――○○○県に移動らしいわね」
僕は驚く。
「……なんで知っているんだい? まだ、辞令が出たばかりなんだけれど」
今をときめく企業系弁護士は――順子は真面目な表情で言う。
「本当なのね……」
「いや、僕の質問に答えてよ」
「あなた、本当にそれでいいわけ?」
「………………」

会社から歩いて約10分の公園。
その前にあるフレンチレストランで僕たちは食事をし終わった後だ。
空の食器をウェイトレスが運んでいく。
禁煙席なので、食後の一服を楽しむことが出来ない。

「これって、人生の重大な欠損だよねぇ……」
「私の質問にちゃんと答えて」
「僕の質問には答えなかったじゃない」
「いいから」
「ま、いつものことだけどね」

僕を睨みつけてくる順子。
どうやら、本気で怒っているらしい。
……怒る?
何で彼女が怒っているんだろう?
訊いてみるか?

「……順子、何で怒ってんのさ」
「こんな大事な話を今まで一度でも言わなかったでしょ……!」
そういえば、こんな会話。
「5年前くらいにも同じ会話をしたよね」
「10年前くらいにもよ」
――5年くらい前は、帰ってくるという連絡をしなかったから。
でも、最終的には飲み会になった。
――10年くらい前は、今と同じ。
僕が移動することになったから。
ここよりももっと都会。この国で一番栄えている場所に。
彼女は怒りながら、泣いていた。
それでも、最後には祝ってくれた。
でも、今回は。
「左遷なんでしょ?」
「………………。本当に千里眼でも持っているのかい? だったら、貸してよ。試したいことがあるんだ」
「ふざけないで!!」
彼女の大声に周りの注目が集まる。
でも興奮した彼女はそれに気づいていない。
しょうがない。

「ちょっと、散歩でもしようか」

     ◇  ◇  ◇
352ふみお:2008/02/14(木) 20:07:18 ID:zAXvEo8u
『左遷?』
私は震える手で書いた字を、工藤さんに見せた。
「ええ。その左遷です」
なんで。
彼は有能な社員ではなかったのか?
「先輩は本当に有能な人間なんですけれどね。でも、完璧な人間ではない」
「……………?」
何がいいたんだろう。
「あの人が有能であれば有能であるほど。やっかみは付いて回るわけで……」
ああ。そういうことか。
私も、痛いほど身に覚えがある。
「それに、少し、大きな問題もありまして」
「……………?」
大きな問題?
何のことだろう?
「先輩は、実は――」

――!

そうか。
そういうことだったのか。
じゃあ、もしかして。


あの時彼が、あの場所に来たのは?


まさかとは思うが、その傾向はあるような気がする。
……直感だけれど。

「思い当たる節があるみたいですね。多分、正解だと思いますよ。僕もそう思いますから」
やっぱりか。
工藤さんはあくまでも真摯に言った。
「ここで選択肢が二つあります。先輩の用意した未来に乗るか。反るか」
「………………」
「今なら、まだギリギリ、僕の力でどうにかなる。でも――」
「………………」
「――先輩のことを、本当の意味で引き止められるのは、あなただけだと思います」
「………………」
「先輩は、一番にあなたのことを考えた。無意識的に選んでるんです、あなたのことを」
「………………」
「あなたの気持ちを見透かすようなことを言っているのは、重々承知しています。それでも、ここがターニングポイントです」
私は、席から立ち上がった。
つまらない意地も、見栄も捨てる。
そして、ノートに書く。
『彼は、今、どこですか?』

     ◇  ◇  ◇

「いやぁ、落ち葉がキレイだねぇ。もう冬ってことかな」
「………………」

公園のベンチに腰掛けた僕と順子。
当然、僕の手には火が付いたタバコがあるわけで。
「あんた、本当にそれでいいの?」
「さっきも似たような台詞を聞いたねぇ」
「はぐらかさないで」
どうやらお気に召さなかったらしい。
僕は無言でタバコをふかす。
「………………」
353ふみお:2008/02/14(木) 20:08:03 ID:zAXvEo8u
「アンタに無口は似合わないわ。ねぇ、答えて。あの娘のことはいいの?」
順子は今、混乱しているのだろう。
それは昔と同じ情景だから。
だから、本来なら『敵』であるところの彼女のことを持ち出したのだ。
……僕が考えるのも、おこがましい話だが。
だから、あえて触れない。それに。
「僕にどうしろって言うのさ」
打診とはいえ。辞令は辞令だ。
「一会社員の悲しいサガだよね。紙切れ一枚で飛ばされる」
「嘘ばっかり」
順子は断定するように言った。
「アンタ、全部知ってる上で、何も手を打たなかったんでしょ?」
そしてそれは。
「大当たり」
「なんで……!?」
信じられないものを見る目。
あの時と、10年くらい前と同じ目。
「彼女は僕といると不幸になるからさ」

バシンッ!!

順子が僕の頬を張る。
「またそれ!? 未来予知!? ふざけんな!!」
「……それも10年くらい前に聞いたよ」

――『君には僕より相応しい人間が現れる』
――『何、言ってんの……!?』
――『単なる未来予知だよ』
――『はぁ!? だから!? まだ、目の前にも現れてない、その人間のために私を置いていくの!?』
――『………………』
――『未来予知!? ふざけんな!!』
――『僕は本当のことしか言わない。信じなくてもいいけどね』
――『ええ。だったら、私は信じないわ。完膚なきまでにね』
――『……そう』
――『あなたは出世のために私を置いていくんだわ。そう考えたほうが清々する』
――『……うん』
――『………………。何を言っても、もう、無駄、なのね……』
――『………………。そういうことになるね』
――『だったら――』
――『?』
――『――せめて、祝わせて。あなたの門出を』

「ねぇ。ウチに来ない?」
10年くらい前にさかのぼった僕の意識を呼び戻す、順子の声。
ウチ。つまり。
「君のいる所の弁護士事務所かい?」
「ええ。秘書だったら、アンタを使ってやってもいいわ」
「………………」
「それだったら彼女と別れることもない。でしょ?」
縋っている。
僅かな希望に、もっともらしい理由をつけて。
そこまで執着してくれるのは有難いが。
でも、順子らしくない。
「魅力的な提案だねぇ。それは」
そうすれば確かに僕と彼女は。

でも、違うんだ。

そんなことで解決できる問題なんかではない。
問題の抜本的解決には至らない。
354ふみお:2008/02/14(木) 20:09:21 ID:zAXvEo8u
むしろ、今。この状況でさえ望ましくない状況なのだ。
人と関われば関わるほど。

“喪失”。

それ自体が問題なのだから。
それに。
「君の秘書の座は空けておいたほうがいいようだから。お断りするよ」
「また、下らない未来予知……? 傲慢だよ。アンタ」
僕はほとんど吸殻になったタバコの最後の一服を大きく吸う。

ぶはぁ。

そして、携帯灰皿にタバコを押し付ける。
「確かに、僕は傲慢だったよ」
「“だった”? ハッ。現在進行形で傲慢よ」
確かにそうだ。
でも、見えてしまった。
そして、僕は忘れていた。

彼女にも選択権があるのだと。

だから。
「いや、過去形で正解だ、と思いたい」
なぜなら、正解を見つけたから。

「重要なのは、不幸な未来に怯えることじゃなかった。問題はそこにいたる道程。何を得るか、何が出来るか、ということ」

「……………?」
訳がわからない風の順子に、僕はきっぱりと言った。
「僕は会社に残るよ。この場所の、この会社にね」
たとえ短い間であったとしても。
僕は、彼女を――。

     ◇  ◇  ◇

見つけた。
工藤さんに言われたとおりの公園。
そのベンチに彼は座っていた。
いつものように、タバコを吸いながら。
「千埜君、奇遇だねぇ。紅葉の映えるいい天気、だ」
私は彼に近づくと、

パシンッ!

その若干赤い頬を、叩いた。
そして――

「………………わ、たしの未来を、かって、に決め付けるな………………!!」

――万感の思いを込めて、言った。

彼が目を見開く。
「君。言葉が……」
息苦しい。
たんが喉に詰まる感覚。全身が総毛立つような寒気。
……鬱陶しい。……気持ち悪い。……イライラする。
そう言われてきた、声。
他人を呪う以上に、自分を呪った、忌まわしい声。
でも。
355ふみお:2008/02/14(木) 20:10:24 ID:zAXvEo8u
それを使わないと、彼には届かない。っていうか――

――届け!

「……助けてくれたのは、いつも、あなた……!」

ストーカーも、イジメも。
彼はまるでなんでもないことのように、綺麗サッパリ片付けてくれた。
お節介にも、鬱陶しいと思われても、命を張ってでも。
そして。

「……あの時、必要だって、私のことが必要だって言ってくれたのは、あなただけ……!」

冷たい風の吹き荒ぶ、あの季節、あの屋上で。
全てから見放され、全てから見下ろされ、全てから見下され。
そして、それ以上に。
全てを見放し、全てを見下ろし、全てを見下し。
達観し、絶望視していた。
あの、どうしようもない私を。
文字通り、繋ぎとめてくれたのは、引き寄せてくれたのは。

『あんたが今、ここで死んだら、僕が悲しむ!! 世界中の誰よりも悲しむ!! その自信がある!!
あんたは、あんたはこの世でまだ必要とされている!! 間違いない!!』

そう言ってくれたのは。
必要としてくれたのは。

「……あなただけ、あなただけなの……」

だからというわけではない。
でも。
ヘビースモーカーで、車も借り物で、飄々としていて、掴みどころのない笑顔で、貧相な体で、冴えない中年。

でも。それでも。

「……私は、あなたが、好き……!!」

それだけは、変わらない事実。
誰がなんと言おうとも。
どんな不幸が待っていようとも。

     ◇  ◇  ◇

僕は、半分以上あるタバコをもみ消した。
そして、大きく息をつく。

「君ってつくづく不器用な娘だよねぇ……」

目の前のこの娘は。
小柄で童顔で、生真面目で無口な、この娘は。
どうしてそう、真っ直ぐにしか進めないのか。

どうしてそう、僕の心を捉えて離さないのか。

「僕といると、不幸になるよ」

彼女は大きく首を振る。
『そんなことはない』と言いたいのだろうか。
でも。
見えているから。多分、ほとんど間違いのない未来が。
356ふみお:2008/02/14(木) 20:11:34 ID:zAXvEo8u
「僕は来年の春頃に、大きな交通事故に巻き込まれる」

彼女の瞳には大粒の涙。
綺麗だな、と場違いにも、そう思った。

「それが電車なのか、車なのか、それとも飛行機なのか。あるいは歩いているだけなのかもしれない。特定は出来てない」

淡々と喋る。
そんなことはどうでもいいことだから。
でも、目の前の彼女には、言っておかなければ。

「僕は、そのときに死ぬ」

数年前から見えていた未来。
回避不能だと確信している未来。
だから、出来る限りのことはしてきた。
人と関わらないように。
それが一番重要で、一番難しかった。
でも。

「………………」

彼女と出会ってしまったから。

……最初は責任感からだった。
命をむりやりこの世に引き止めてしまった咎。
僕には、彼女の重荷が、少しだけ、解っていたから。解っていた筈だから。
でも。
彼女は強かった。
へこたれなかった、曲げなかった、折れなかった。
いつもギリギリで、耐え忍んでいた。
一人きりで、弱音も吐かずに。涙をこらえて。
そんな姿は、間違いなく美しかった。
そんな姿に、僕は魅せられていた。
そして、それらが全て解決した後。

『さ、行こうか。千埜君。安全迅速がモットーの竹内タクシー。ご利用の際は安全のためシートベルトを必ず着用してください、ってね』
『………………』
『ん? どうかしたのかい?』
彼女は首を振った。
たぶん、あふれ出てくる涙を誤魔化すために。
そして、彼女の顔をうかがう僕を誤魔化すために浮かべた、笑顔。
切なげで、儚げで、それでも、弱みを見せようとしない彼女の、笑顔。

年甲斐もなく、ときめいてしまった。
三十路を超えた男が、その女性の笑顔に。

「君は、それでも、僕を、僕といる未来を選択してくれるのかい?」

本当は、こんな質問、するはずじゃなかった。
こんな未来。
本来なら唾棄すべき感情のはずなんだ。
彼女を確実に不幸に陥れる、最悪の質問。
できることなら、彼女には断って欲しい。
断るべきなんだ。
でも。

それでも、彼女が選んでくれるのなら。
僕を、僕といる未来を。
357ふみお:2008/02/14(木) 20:12:19 ID:zAXvEo8u
「…………当たり前…………」

泣きながら彼女が抱きついてくる。
僕は――

――いいのか?
今だって見える未来は、確実に灰色。
揺らぐことは多分ない。
彼女に、喪失を味わわせることになるんだぞ。
深く入り込めば入り込む分。
傷は広がり、深くなる。
ああ、それでも。

傲慢で強欲な僕は、彼女のことを欲しいと思った。

それ以上に――

「…………ありがとう」

――愛しい人が、僕の事を想ってくれる。選んでくれる。

こんなにうれしいことはない。

知らずこみ上げてくる雫を誤魔化すこともなく、僕は、目の前の美しい人に言った。

「キスの一つでも、しようか?」

目の前の人は、真っ赤になりつつ、しかし、ためらうことなく、僕の顔に唇を近づけ、そして――。

     ◇  ◇  ◇

コンコン。

高級感溢れる外観に似合わず、軽い音があたりに木霊する。
男はためらいもせず、その車の助手席に乗り込んだ。
「いやぁ、先輩をうまく誘導してくれて、有難うございました」
運転席でハンドルに突っ伏す、その女に声を掛ける。
「………………」
女は何の返事もしない。
そして、男もそんなことは気にしない。
「もしかして、泣いてるんですか?」
その言葉に反応して、その女は、涙でぐしゃぐしゃの顔を男に向ける。
しかし、男は頓着しない。
「未練たらたらですねぇ」

ギリッ。

女は、歯を噛み締める。
そして、大きく息を吸い込んだ。
「そうよ! 未練よ! 悪い!?」
「先輩のこと、やっぱり好きだったんですね」
「高校の頃からずっとよ!! 大学別になって、アイツが他の女に手を出しても、それでも諦め切れなかった!!
私も他の男で忘れようとした!! でも、全然ダメ!! あんな変な男の事、忘れられるわけないじゃない!!」
「だから、せめて友人でいようとした?」
「そのとおりよ! だって、アイツは誰とも距離を置いていた!! ここ最近は特に!!」
「それでも、諦められなかった?」
「いつか、いつか、私のことを見てくれる。そばに置いてくれるって、信じてた」
「それでも、先輩が選んだのは彼女だった」
「私は、あの子より、アイツの格好いい所、駄目なところ。全部知ってるっていうのに」
「正直、今日という日、今の今に至るまで。先輩があなたを選ばなかった理由がわからない。どうしてなんでしょうね?」
358ふみお:2008/02/14(木) 20:13:15 ID:zAXvEo8u
「…………。私には、アイツよりも“相応しい人間”が現れるそうよ……」
「へぇ、そうなんですか? だったら――

――立候補しようかな?」

「へ?」
「ここからちょっと行った所に、イイ飲み屋があるんですよ。当て馬同士、傷を舐めあいませんか?」
「………………」
「………………」
「………………………それもいいかもね……」
「じゃ、終業時間に迎えに、はダメか。タクシーで行きましょう」
「わかったわ」
「……それにしても」
「?」
「先輩には、今、どんな未来が見えているんでしょうね……」
「アナタもアイツの戯言を信じてるクチ?」
「まさか。だからこそ、こんなことを仕組んだわけです」
「なんだか、やり口がアイツに似てるわ」
「ま、色々仕込まれましたから。先輩には」
「そう。それはお気の毒に」
「ハハハ」
「………………」
「………………」
「そうね。でも、気にはなるわ」
「ですねぇ。本当のところ、あの二人を待っている未来は何色なんだろ――

     ◇  ◇  ◇

「……出張……?」
彼女の部屋。
小さなコタツを囲んでの鍋料理。
雑炊まで食べつくした僕らは、たらふく食べた満足感から、少し、ぼんやりとしていた。
でも、彼女には伝えておかなければならないことがある。
「うん。一週間後、○○○県に2〜3週間くらいかな」
「……なにしに?」
心配げな彼女の声。
ま、心配するなというほうが無理だろうけれど。
「まぁ、研修みたいなものかな。それに向うで立ち上げた、新しい仕事の打ち合わせもあるし」
「………………」
彼女は視線を落とす。
ダウナー系の思考を持つ彼女のことだ。
今、どんなことを考えているのか容易に想像が付く。
僕は立ち上がると、彼女の隣に座り、その細い肩を抱いた。
「大丈夫、大丈夫。乗り物には気をつけるからさ」
「………………」
「それに、まだ時間に猶予はあるよ。……多分」
「………………」
彼女は俯いたままだ。
安心させるために、硬くなっている腕を撫でる。
そのまま、少し無言。
無性にタバコを吸いたくなってくるが、この部屋での喫煙は禁止されている。
「(まぁ、匂いが付くからねぇ)」
しょうがないといえば、しょうがないのだが。
「(もう一回ぐらい、交渉してみようか?)」
多分、否、まず間違いなく否決されるだろうけれど。
そう思いながら、口を開く。
すると。

「……わたしもいく……」
359ふみお:2008/02/14(木) 20:14:12 ID:zAXvEo8u
彼女が意外なことを言い出した。
「行く、って。○○○県にかい?」
頷く彼女。
おいおいおい。
僕は少し呆れてしまう。
「そんなことできるわけないじゃない。君にだって仕事があるだろう?」
「……有給、つかう……」
「そんなの直ぐに無くなっちゃうよ」
「……大丈夫……」
大丈夫なはずないだろう。
僕は彼女の頭を軽く叩いた。
「……いたい……」
「君が聞き分けのないことを言い出すからだよ」
「……でも」
彼女は心配性すぎる。過敏なのだ。
ふぅ。
僕は小さくため息をついた。

こんなことでもダメなのか?
だったら――

――本当のことなんて、なおさら言えないじゃないか。

僕は安心させるために彼女の頭を撫でた。
「大丈夫、大丈夫。たった2〜3週間さ」
「………………」
されるがままの彼女。
それでも心配そうな上目遣いはやめない。
「クリスマスには、何とか間に合うでしょ。だから、勘弁してよ」
「………………」

結局、その日は最後まで納得してくれなかった。
まぁ、それでも、ついていくという発言は撤回させたが。

「(綾音君。ごめんね……。でも、大丈夫だから)」

一週間後、僕は約束どおり、ある場所へと向かった。

「先生。お願いします」

目の前の医者に頭を下げる。
そして、心の中で綾音君にも、頭を下げた。

     ◇  ◇  ◇

彼が出立した、その日。
私は見送りに行くと、何度も訴えたが、あえなく彼に却下された。
なぜなら、その日は平日。
私にも仕事があったからだ。
……そんなこと、気にしなくてもいいのに。
そうは言ったのだが、彼が頑なに拒否するので、諦めた。
……少し、腹が立つ。
「(恋人が見送るって言ってるのに、断るとは何事だ……)」
でも。
彼が安心していいって言ったから。
大丈夫だって、言ってくれたから。

信じるしか、ないじゃないか。

それでも、不安な一週間ちょっとが過ぎた。
360ふみお:2008/02/14(木) 20:14:45 ID:zAXvEo8u
彼とは毎日連絡を取り合っている。
でも、どうしてか通じないことが多い。
基本的に、彼のほうからしかかかって来なかった。
まぁ、お互いに仕事を抱えた身だ。
時間が制約されるのもやむないだろう。
そう思っていた。

でも。事情が変わった。
あの人に伝えなければならないことが出来た。
いまだに若干、震える体を押してまで確認した、事実。

「(そういえば……)」
キーボードに数字を打ち込みながら、気がついた。
「(悟さんの、向うでの連絡先、聞いてない)」
迂闊、といえばあまりにも迂闊だった。
そう言えば、彼は携帯があるからと、しきりに言っていた。
でも。
「(それじゃ、使用料が高くなる)」
お互いに。
そんな不経済なこと、許されないだろう。
別に倹約家ではないが、それでも。
「(お金のことを考えながら、電話したくないし)」
気がついてしまった以上、しょうがない。
もしかしたら工藤さんが知っているかもしれないし。
後で聞いてみることにして、とりあえず、仕事に意識を戻した。
……つもりだったのだが。
どうしても、顔が微笑んでしまうのは隠しようがなかった。
「(あの人は、なんて言うだろう)」

そして、迎えたお昼休み。

昼食に誘ってくれた小林さんと佐藤さんに断りを入れて、とりあえず、工藤さんに電話を掛ける。
………………。
つながらない。
そこまで考えて、思った。
「(そうだ。第一企画室の人なら確実に知っているだろう)」
それならば。
私はエレベーターを使い、彼の人の在籍する階にたどり着く。
第一企画室は、フロアの中心、エレベーターの真ん前に、存在感たっぷりに居座っていた。
知らないフロアの、知らない部署。
当然、すれ違う人たちも知らない人たちばかりで。
生来、人見知りな私は恐縮しつつ、誰か話しかけれそうな人を探す。
すると。

「あれあれあれ? あなたってぇ、ペテン室長の彼女さん、じゃないですか〜?」

一度も会ったことがない丸顔の女子社員が話しかけてきた。
……ペテン室長?
この部署で室長といえば悟さんのことだろうが……。
“ペテン”って。
言いえて妙だが、無礼ではないのだろうか。
軽く腹が立つ。
そんな私の内心を知りもしない彼女は、早口でまくし立ててきた。
「あ、やっぱり〜。っていうか、ちょ〜可愛いんだけど。つーか、マジ犯罪スレスレ? むしろ、スレスレ犯罪?」
褒められているのだろうか。
っていうか、この場合の“可愛い”って、子供に対して言うような“可愛い”なんじゃないか?
初対面のはずなのだが、ちょっと失礼だ。
それでも、向うから話しかけてくれたことはありがたい。
ので、多少、非礼な発言には目を瞑ろう。
361ふみお:2008/02/14(木) 20:15:36 ID:zAXvEo8u
早く、本題に――

「あの室長が年甲斐もなく、浮かれる理由がわかるね〜。年下だわ、清楚だわ、その上、こんな可愛いなんて!!」

――入れない。
目の前の彼女の、マシンガントークを、止めるすべを私は知らない。
呆然と彼女の発言を受け流す。
しばらくすると、彼女は途端に、しおらしくなった。

「――でもぉ、心配ですよね〜。室長、あんなことになっちゃって……」

あんなこと?
ようやく、発言する隙ができた。
「あんなことって……?」

もしかして。

いや、そんなことはないはずだ。
万が一なことがあれば、一番に連絡が来ることになっている。
それに昨日だって、ちゃんと携帯に電話をくれた。

目の前の彼女はさも意外そうな顔をしている。
私が知らないことが信じられないように。

「だって、一週間くらい前から、室長――」

     ◇  ◇  ◇

「(やれやれ)」
とうとう、屋上にも見張りが付いたようだ。
これでは、気持ちのいい一服が出来ないじゃないか。
しょうがないので。
僕は監視の目を誤魔化しつつ、一階に下りた。
そして、そのまま外で一服しようと考えたのだ。
「(高いところが一番気持ちいいんだけれど)」
ま、吸えないよりはましか。
僕は誰にも見咎められないように、外に出た。
「(さて、どこにいこうかな)」
あまり遠くにはいけないし、しょうがないのでこそこそと吸うか。
そんなことを考えたときだった。

「……なに、してるの……?」

ここでは聞こえるはずのない声がした。
聞いてはいけないはずの声が。

目の前に、彼女が、綾音君がいた。

……。
………………。
………………………。

国立総合病院の近くの喫茶店。
綾音君は女子社員の制服のまま。
僕は入院着のパジャマのまま。
「(異色のコンビ、誕生! といったところか……)」
当然、周囲の視線が、少しばかり気になる。
でも、目の前の彼女は珍しいことにそんなこと、気にもしないようで。
真剣に僕の目を見つめている。
否、睨んでいる。
362ふみお:2008/02/14(木) 20:16:34 ID:zAXvEo8u
この喫茶店に入る前から、沈黙を守り、睨み続けている。
まるで、あの頃のように。
あのときの、屋上のように。
僕はポケットからタバコを一本取り出した。
そして、火をつけて、一服。
すると、ウェイターが注文をとりに来た。
無言の彼女に代わり、紅茶を二人分。
注文を聞いたウェイターが去っていく。
僕はなんとなくその後姿を眺めつつ、また一服。
「どこから、話せばいいのかな……」

「……最初から、最後まで……」

そう言ってくると思ったよ。

………………………。
異変に気づいたのは、ほんの二週間ほど前。
夜、インスタントラーメンをかきこんでいる途中。

倒れた。

「目が覚めたら、もう、朝だったよ」
嫌な予感はした。
それでも、未だに借りている車で、彼女を送迎し、そのままの足で病院に向かった。
検査を受け、長い時間を待たされた。
その後、医者が言ってきた言葉。

「すぐさま入院しろ。そう言われたよ」

日本ではそれなりにありふれた病気。
それが、相当まずい具合に、体中に広がっているらしい。

「それでも、手術すれば助かる。医者はそうも言っていた」

僕は、引き止める医者を強引にねじ伏せ、病院を後にした。
一週間後に入院し、手術を受ける旨だけは伝えて。

「だから、君に嘘をついた」

助かるのならば、心配を掛けさせたくなかった。
ただでさえ、過敏になっている彼女に。
でも。

「一昨日、かな。手術をしたのは」

手術を担当した、医者は愕然としたそうだ。
切り取るはずだった部分を切り取ることなく、開けて、閉めただけ。

「“手遅れ”だったんだってさ」

今すぐ、とか、一週間とかいうレベルじゃなかった。
そんな段階は当の昔に超えていた。
病巣は、医者の検分よりはるかに深く、広く、僕の体を蝕んでいた。

「正直、年を越せるかどうかも、微妙らしいよ」

こんなはずじゃなかった。
コレは本音。
こんな未来は、完全に想定外。
363ふみお:2008/02/14(木) 20:17:18 ID:zAXvEo8u
「なまじ予定を立ててた分、動揺したよ」

あと4〜5ヶ月は持つはずだったのに。
僕の命。僕の人生。

でもまぁ、こんなところだろう。

正直な感想。
4〜5ヶ月が、1〜2ヶ月に変更になっただけ。
大したことではない。
でも。
目の前の彼女。
僕の説明を聞きながら、ただただ静かに涙を流すだけの彼女には。

「君には、今日にでも本当のことを話そうとは思っていたんだけれどね」

いつまでも隠し通せることではない。
だったら、出来るだけ長く。
出来るだけ一緒に居たかった。

「僕はもう、一生、病院からは出られない」

もう、体がいうことを利かないから。
自分でも、その事が、嫌というほどわかっているから。
未来予知するまでもなく。

「苦労を掛けるかもしれない。いや、掛けることになるだろう。それでも――」

パシンッ。

頬を張られた。
久しぶりの感覚。
しかし、今までよりも、随分と重い痛みだった。

     ◇  ◇  ◇

「……なんで、一番に言ってくれなかったの……!?」
その答えは、もう聞いている。
……助かるはずだったから。
それ以上に。
私を心配させたくなかったから。
苦しませたくなかったから。
でも。

「……あなたのことだったら、いくらでも心配したい……! 一緒に、苦しみたい……!!」

そんなのは優しさなんかじゃない。
傲慢な独断だ。

「……いのちに関わる、手術だったんでしょ……?!」

そんな重要なこと。
一人で背負って、一人で解決しようとして。
挙句、失敗して。

「……あなたのいのちが掛かった、話なのよ……!?」

それをさも笑い話のように、昔話のように、他人事のように、淡々と。
疑いたくなる。
彼の価値観を。彼の正気を。
364ふみお:2008/02/14(木) 20:17:56 ID:zAXvEo8u
彼にとって。

「……あなたにとって、私は、なに……!?」

あぁ、でも。
そんなこと、聞かなくても判る。
未来予知なんかなくても、判るに決まってる。

「僕にとって、君は命よりも大事な人、だよ」

言うと思った。
だから。

「……私だって、おなじ……!!」

でも、だからこそ許せない。
だって。だって、だって、だって。

「……自分のことを、もっと大切にして……! あなた、あなたは――」

そう言って、私は彼のタバコをもみ消した。
そして、空になった彼の手に、私の両手を重ねる。

彼が目を見開く。

「……見えた? 未来が……」

「君、もしかして、お腹に――」

こんな状況で言うとは思わなかった。
でも、コレぐらいしないと、彼は――。

「……二ヶ月、だって。赤ちゃん……。あなたの子……」

――自分の命を、率先して捨てようとするから。

そして、私の言葉を聞いた彼は――。

……。
………………。
………………………。

不思議と、彼が入院してから、私の『病院アレルギー』は起きなくなった。
それどころではなくなったと、体も判断してくれたらしい。

「――いやぁ、看護師さん。男だったら、こういう強い名前のほうがいいですかね?」
「竹内さん気が早い。まだ、性別もわかってないんですよね?」
「だってさぁ。ん? あぁ、もうこんな時間かぁ」
「あ、可愛い奥さんが来ましたよ」

看護師さんは私の顔を見るなり、さっさと病室から去っていった。
っていうか。

「……なに、してるの……?」

「何って、子供の名前考えてるに決まってるじゃない」
彼はさも当然のように言った。
365ふみお:2008/02/14(木) 20:18:50 ID:zAXvEo8u
今日は、クリスマスイヴ。
街中は何処もかしこも緑と赤で埋め尽くされる日。
もちろん、ここではそんなこと関係ないわけで。

「……きのう、決めたんじゃなかったの……?」
ベッドの脇の椅子に座りながら、呆れる。
「やっぱり、夜、違う名前がいいんじゃないかと思ってね」
ふぅ。
知らず、ため息がこぼれる。
そんな私の様子に気づくことなく、彼は言った。
「ねぇねぇ、やっぱり、これより昨日のほうがいいと思う? ……綾音?」
なんで、彼はこうも。

知らないうちに涙がこみ上げてくる。

あなた、あなたって人は――

「……今日のほうが、いい、と、おもう……」

――明日、生きてないかもしれないのに。

どうして、笑っていられるんだ。
どうして、私をこうも、元気付けてくれるんだ。

しゃくり上げながら泣く私を見て、彼は笑う。
「こんな泣き虫なママで、大丈夫かな?」
「……泣かせてるのは、あなた……」
彼はさらに笑った。
「ちがいない」
そう言いつつ、おなかを撫でる。
「うん。間違いなく、元気に生まれてくるよ」
「……あなたの未来予知は、あてにならない……」
あんなに自信満々に言っていた、自分の死期さえ、読み間違えたのだから。

「また、未来が見えたよ」

日課のような彼の言葉。
「……どんな……?」
日課のように答える私。

「君は綺麗に着飾っている。大きくなった子供を背負って。冬の駅の構内。そこで――」

彼が未来を語る。
どうにも信用性に掛ける未来を。

「………………」

たまに聞くのが辛いことがある。
なぜなら。

彼の語る未来に、彼が登場することが、無いから。

……。
………………。
………………………。

そして、2月14日がきた。

もうほとんど、起きることのなくなった彼。
私は、その傍に座り、文庫本を読んでいる。
366ふみお:2008/02/14(木) 20:19:37 ID:zAXvEo8u
本当は、彼から一時も目を離したくないのだが。

『これ、貸すから。読書感想文を後で書いて、読ませてよ』

彼がそう言って、押し付けてきたから。
たぶん、私が押しつぶされないように。
少しでも、気晴らしになるように。

でも。

彼が身じろぎを起こすたびに、意識が彼に向く。
集中なんて出来るはずがない。

「ん?」

彼の声がした。
すぐさま、彼に目をやる。

「だいぶ、寝たね……。きょう、は――」

「――2月14日、だよ……」
先回りして答える。
彼は反芻するように何度も頷いた。
そして、かすかに笑った。

「君と出会って、丁度、一年、か……」

「……うん……」
「いろんなことが、あった、ねぇ」
「……うん……」
今冬。
病院で、短い時間を二人であっという間に消化し。
秋。
私が選択し、彼が決断し。
夏。
あの海の日。彼のたくらみが脆くも崩れ去り。
春。
私の問題を彼が、命を賭けて解決してくれた。
そして、早春。
絶望した私と、そして彼が、出会った。


ベッドの上の彼は、私の目を見て、言う。
「今だから言うけど、実は僕は。あの日――

――死ぬつもりで、あの屋上に、行ったんだ」

衝撃の告白。
のつもりなのだろう。でも。

「……うん……」

私は、気づいていたから。
諸々の事情を聞いた、あの日に。
私が彼を選び、彼が私を選んでくれた、あの秋の日に。

……。
………………。
………………………。
367ふみお:2008/02/14(木) 20:20:05 ID:zAXvEo8u
曇り空が窓に映る社員食堂、隅の席。
私の目の前には空になった、A定食の容器。
目の前の工藤さんは、あくまで真摯に言った。
「ええ。その左遷です」
「………………」
「先輩は本当に有能な人間なんですけれどね。でも、完璧な人間ではない」
「……………?」
「あの人が有能であれば有能であるほど。やっかみは付いて回るわけで……」
「………………」
「それに、少し、大きな問題もありまして」
「……………?」
「先輩は、実は――自分が近い将来、死ぬと信じているようなんです」
僕の予想ですけれどね。
だから、と工藤さんは続ける。
「“僕といると不幸になる”とかいって、千埜さんを遠ざけようとしたんです」
遠ざけようとした?
そんなの身に覚えが無いが……。
「あの夏の日。先輩が唐突に『海に行こう』と言い出した日です」
ん?
それ、遠ざけることになるのか?
むしろ、彼が溺れることによって……。
……いや、いやいや。
私の中の彼に対する親近感も、親密度も上がってない! 上がってない!!
そんな、私の中の葛藤など知るはずも無い、工藤さんは構わず言う。

「あの時、溺れるのは千埜さん。あなただったらしいですよ?」

「……………!?」
「そして、それを僕が助けるはずだったんだそうです。そして、僕たちは親密になる筈だった、と言ってました」
まさか。
私と工藤さんが?
ちょっと、考えにくい。
「そんな信じ難いものを見る目をしないで下さいよ。僕だって、当て馬扱いされるのは嫌なんですから」
でも。
今にして思えば。
彼が、順子さんに対する態度。
まるで、見せ付けるようではなかったか?
『恋人同士』だと、思い込ませるように。
………………。
考え込みだした私を見て、工藤さんは言う。
「そして、関係ないかもしれませんが……。先輩が、左遷されるのは、2度目なんですよ……」
「……………?」
どういうことだ?

……。
………………。
………………………。

「僕は、そう、5年、位、前かな。都会で、大きなプロジェクトを。立ち上げて、いい気になって、いたんだ」
未来が見える自分には、大きな可能性があると信じていていたのか。
「で、大失敗」
起こりえるはずが無いほどの失敗だった。
そして、そこで。
「その当時、の部下を、部下といって、も、年上の人だったけれ、どね。……一人、殺しちゃったんだ、よねぇ」
自殺だったそうだ。
そのプロジェクトを推進するための、キーとなる人物だったらしい。
しかし、彼の人の家族にはそれは理解されなかったのだそうだ。
あげく、離婚。
彼は、別れた妻を見かえそうとしたのか。
必死で働いたそうだ。
368ふみお:2008/02/14(木) 20:21:19 ID:zAXvEo8u
そして、それは、大きく空回りし。
「自分の首を、絞めちゃったん、だろうね。頑張った分だけ」
そして、竹内悟は、プロジェクト失敗の責任を取る形で故郷の支社に飛ばされた。
「彼の分を、取り返そうと、したのかもしれない、ね」
支社で2年を掛けて、室長まで昇った。
そして、3年の歳月を費やす大きなプロジェクトに立ち上げから関係した。
でも。
「ここ、でも、大失敗」


――――――――
「千埜さん。今年2月に終わった、数年越しの大プロジェクト、覚えてますか?」
当然だ。あれが私と彼を出会わせたキッカケなのだから。
「この支社の命運を掛けたプロジェクトと言っても過言ではなかった」
頷く私。でも、あのプロジェクトは。
「でも、記録的なほどに大失敗してしまった。プロジェクト」
「………………」
「彼はその立ち上げから関係していた。というより、中心人物だった。といってもいい」
『プロジェクトの総元締め? ていうのが、この僕だったわけだねぇ』。
今では遠い昔、そんなことを聞いた気がする。
……もしかして。
「先輩はその責任を問われて、飛ばされそうなんです」
――――――――


そして、あのバレンタインデイに、完全にプロジェクトは終了した。
頓挫、という形で。
その時、彼は。
「思ったんだ、よね。“ああ、もう、疲れちゃったなぁ”って」


――――――――
「先輩は、あんなふうに飄々としているけれど、結構、キていたらしいです」

「前回、都会での失敗もありましたし」

「だから、先輩は。自分はいつ死んでもいい。価値のない人間。“必要のない人間”だと、思い込んでいるんじゃないでしょうか?」

「まぁ、勘なんですけれど……。あの海の日。自分の心臓が止まったと聞いたとき、先輩、表情一つ変えなかった」

「あの時、思ったんです。僕の勘は間違っていないんじゃないか、って」
――――――――


そして。
あの世にいる、元部下に詫びにでも行こうとしたのか。
あの時、あの屋上に行ったのは。
「大仕事が失敗した、その一服のつい、でに、飛び降りよう、としたんだ」
懐に、遺書を持って。
自然と恐くはなかったらしい。
むしろ、足は急くように。
そして、屋上に続く扉は、前もって調べていたとおり、鍵が壊れていた。
で、そこで彼が見たものは。

「まさか、僕と同じタイ、ミングで飛び降りようとした人が、いる、なんて夢にも、思わないよ」

『――なにやってんだ!! あんた!!』

彼は叫びながら、すでに走り出していた。
とてつもない速度で柵にむかい、必死になって私にしがみつく。
369ふみお:2008/02/14(木) 20:22:23 ID:zAXvEo8u
彼は夢中で、私の腰を捕まえると、強引に床のほうへと引き寄せる。
私は指を柵にからませ、それに抵抗する。
先程まで階段を上って体力の落ちていた彼は、しかし、それでも驚くほどの腕力で私を引き剥がそうとする。
抵抗する私と、しがみつく彼。
古ぼけたビルの屋上で、滑稽なほど彼は夢中になっていた。
『こんなところから飛び降りたら、死ぬぞ!!』
当たり前だ。
私はそれを望んでいた。だからこそ、こんなことをしていたのだ。
『あんたはどう思っているか知らないが、あんたが死んだらきっと悲しむ人も居る!!』
彼の説教じみた言葉に、私はむしろ、逆に激しく抵抗した。
彼の腹に後ろ蹴りを何度も食らわせる。


「――そうだ。そんなこと、を、言われたいんじゃ、ない。僕はそれを、知っていた」


『あんたはそんな人がいないと思っているかもしれない! でも、でも――』
私のことなんて知らないのに、どうしてそんなことが言えた? でも、頭が真っ白な彼は――

『あんたが今、ここで死んだら、僕が悲しむ!! 世界中の誰よりも悲しむ!! その自信がある!!
あんたは、あんたはこの世でまだ必要とされている!! 間違いない!!』


「――あと、から考えたら、いや、いつ考えたって、きっとその言葉は。

――自分が言って、ほしかった言葉なんだ」


……。
………………。
………………………。

「君は今でも、僕の、未来予知、を信じるかい?」
私は大きく頷く。
それを見た彼は力なく笑った。
「こう、して大きく予知を、誤った今、では信じられない、かも、しれないけれど」
彼は、苦しげに喋る。
こうしていていいのだろうか?
でも。この機を逃したら。
もう二度と。
そんな予感がした。
だから。
「中学生、くらいの、とき、かな。突然、未来が見える、ようになったんだ」
「……うん」
ただ、聞こう。
彼の話を。彼の独白を。
「今よりもっと、正確に、精密に。その、人が死ぬ、瞬間をね」
「………………」
「ノイローゼに、なった、よ。会う人、会う、人の、死に顔が見えるん、だから。そりゃ、食欲も、なくな、るよね」
どんな世界だったんだろう。
たぶん、想像すらできないほどの壮絶な光景だっただろう、と思う。
「だからか、な。君と会った、とき、君が欠食気味だって直ぐ、にわかった」
“同病相憐れむ”じゃないけれどね。
彼はまた笑う。
自嘲するように。
「命が、軽く、見えた。人の命も、自分の命も。等しく、無価値だって、思ってた」
「…………そう」

「でも、違ったね。なんて、命って、愛おしいもの、なん、だろう。なんて、価値ある、ものな、んだろう」
370ふみお:2008/02/14(木) 20:23:43 ID:zAXvEo8u
……。
………………。
………………………。

「……覚えてる? 今日はバレンタイン……」

――去年の、2月15日。
人で賑わう、社員食堂。
『そういえば、昨日はバレンタインだったよねぇ』
お粥を片付けてきた男は、開口一番に言った。
『………………』
だからなんだ。
鬱陶しい。
目の前の男を、睨みつける。
『見える、見えるよ。恥じらいながら、僕にチョコレートを渡す、君の姿が』
はぁ?
正気を疑う。
なんで、こんなヤツにチョコを渡さなければならないのだ。
というか、この男に渡すくらいならドブに捨てる。
『そんなに睨まないでよ。照れちゃうよ』
馬鹿馬鹿しい。
本当に、馬鹿馬鹿しい男だ。
なんで、こんなのに関わられなければならないのだ。
『いつでも、受け付けるからね。待ってるよ』――

一年も経ってしまったけれど。
「……うけとって、ください。本命チョコ……」
昨日、徹夜で作った、チョコレートを彼に渡す。
371ふみお:2008/02/14(木) 20:24:44 ID:zAXvEo8u
彼は、笑いながら言う。
「いやぁ。待ってた、かいが、あったね。“本命”だなん、てねぇ……」
そして、ラッピングを剥がそうとする。
でも、指に力が入らないのか、なかなか、包装紙が取れない。
私は、ゆっくりとその手伝いをした。
そして、とうとう。
「……食べやすいように、なまチョコ……」
「泣かせ、るねぇ……」
形はいびつだが、味は大丈夫。
味見はしっかりしている。
「あのさぁ、言いにくいん、だけれど……」
「……………?」
なんだ。
言いにくい事って?
まさか、生チョコが嫌いなのだろうか?
「喋り、疲れたから、食べさせて、よ」
ああ。なんだ。そんなことか。
私は、チョコの箱を受け取り、指で摘んで彼の口に押し込もうとする。
でも。
彼は唇と閉ざしたまま、首を振った。
「……………?」
何か言いたいことでもあるのだろうか?
「口で、食べさせて」
クチで?
どういう……。

!!!!

つ、つつつつ、つまり、く、くくく“口移し”、ということか……!?
いくらなんでも、病室でそんな破廉恥な……!!

「いい、じゃない。だれ、も、見て、ないよ」

それはそうだが。
………………。
しかたない。

私は口にチョコを含むと、真っ赤になっているであろう顔を、彼に近づけ――

ちゅ、れろっ。

――そのチョコを彼の唇に押し込んだ。

そして、しばらく、そのまま。

でも、あまりやりすぎると危険なので。
口を離した。
彼は、ゆっくりとチョコレートを咀嚼した。
そして、たっぷり五分間ほど置いて、言った。
「チョコって、こんなに、美味しい、食べ物だったん、だねぇ」
「……もっと、食べる……?」
もう、こんな食べさせ方は恥ずかしすぎるので却下だが。
彼は首を横に振る。
そして、私の目を見ていった。

「千埜君。君の作ったチョコ、美味しいじゃない。店に出せるね」

あの頃に帰ったように。あの時と同じ呼び方で。
「………………」
だから、私も、照れ隠しに、無言で睨んだ。
372ふみお:2008/02/14(木) 20:25:37 ID:zAXvEo8u
彼は笑った。
そして。

「――あぁ、もっと、生きていたいなぁ……!!」

彼は大きな涙を流した。

………………………。

そして、これが、私と彼の最後の会話になった。

     ◇  ◇  ◇

20××年、2月××日、09時××分。

容態が急変。

脳および心臓の活動、停止。

医師らの懸命の救命活動により、一時は蘇生。

しかし、意識を取り戻すことなく、再び、心停止。

そして、その後、脳死が確認された。

その場に駆けつけた近しい人たちに別れを告げれぬまま、

竹内悟は、その3×年の短い生涯を閉じた。

そして――。

     ◇  ◇  ◇

「なんで、止めるんだよぉ!」
「………………」
「手ぇ、離せよ! ×××!!」
「………………」
「もう嫌なんだよぉ……。苦しいんだよぉ……」
「………………」
「ひぐっ、うぅうぅ……」

……。
………………。
………………………。

「この書類に記入して、ポストに投函しといて」

彼がこの世を去ってから、三週間後。

彼のアパート。

遺品整理をしていた私に携帯で連絡が届いた。
相手は――

「よかった。一応、元気そうで」

――そう言って笑う、企業系弁護士の森下順子さん、と

「ね。心配しても杞憂だ、って言ったじゃないですか」
373ふみお:2008/02/14(木) 20:26:35 ID:zAXvEo8u
彼女と一緒に来た、彼の後輩の工藤俊さんだった。

………………………。

「おかまいなく」
と声を合わせて二人は言った。
でも、そういうわけにもいかない。
とりあえず、カップを取り出し、コーヒーを出す。
よかった。
食器類はまだ片付けてなくて。
コーヒーメーカーも作業の合間にでも飲もうと思って、作動させといてよかった。
そんなことに安堵する私を見て、二人は微笑む。
「もう大丈夫みたいね」
「……………?」
大丈夫、とは?
「あのときのあなた、尋常じゃなかったもの」
「………………」
彼が息を引き取ったとき。

覚悟はしていたとはいえ、やはり――。

少し、俯いた私を励ますように、工藤さんは言った。
「いやぁ、今日、元気があってよかったですよ」
ん?
そんなに強調されるほど元気ではないが。
というか、何か言いたいことでもあるのだろうか?
不思議に思う私を見て、二人とも吹き出す。
「いや、あのですね――」
「――今日、あなたの眼が死んでたら、ビンタ一発食らわせるつもりだったのよ」
「………………」
絶句。
「彼に選ばれ、それ以上にあなたが彼を選んだくせに、なに悄気てんのよ、バシーン! 、ってね」
そして、彼女はまるで眩しいものを見るように私を見つめる。
「でも、必要なかった。……あなたは、強いわね」
「…………そんな、こと」
無い。
今だって、遺品をダンボールにしまいながら、何度も手が止まった。

――アレは彼が、あの日に締めていたネクタイ。

――アレは彼が、面白いと言ってしきりに押し付けてきた本。

アレは、アレは――。

そして、それ以上に。
染み付いたタバコの匂い。
部屋に、服に、物に。
彼の香りが、した。
彼がそこにいるんじゃないか、と錯覚させるほど。

思い出に押しつぶされそうだった。
今だって、涙で頬が濡れていることはバレバレだろう。

だから、正直。
「つーか、出してもらってなんだけど、この豆、安物ね。アイツ、こういうところはケチだったものねぇ」
「タバコだけが、唯一の趣味みたいな人でしたからね」
二人が来て、空気が変わって。

助かった、と思った。
374ふみお:2008/02/14(木) 20:27:37 ID:zAXvEo8u
二人を見つめる私の視線に気づいた順子さんが、軽く髪を掻く。
「あぁ、ゴメンゴメン。別にアイツの悪口言ってるわけじゃ、ないのよ」
「………………」
判っている。
二人はやっぱり、友達だったのだろう。
私の知らない昔から、今まで。
それが少し、うらやましかったりもする。
そんな私の内心など知りもしないだろう、順子さんは、持ってきていた大き目のカバンに手を入れた。
そして、彼女が取り出したのは数枚の書類。
「……………?」
順子さんは、真面目な顔で言った。
「これ、アイツの入ってた生命保険の保険金請求申請書。申請すれば結構な金額が手に入るはずよ」
生命保険。
確かに彼は数社と契約していたようだが。
「アイツが生前、私に言ってきたのよ。『彼女は、出て行くお金には執着するくせに、入って来るお金には頓着しない』
とかなんとかいって、私にアナタのそういう方面での世話をしてくれ、って」
「………………」
たしかに、考えもしなかった。
ふん、と順子さんは鼻を鳴らす。
「アイツ、私に頼めること、頼むだけ頼んで、ツケを返してくれないんだものね。本当、ヤなヤツ」
でも、そんなことを言いながら、順子さんの目が潤んできている。
何かを思い出しているのだろうか?
私が彼女を見ていることに気づくと、順子さんは目元を拭い、言った。
「竹内夫人。あなたには保険金を請求する権利がある。ぜひ請求なさい。それに――」
彼女は私のおなかに目をやり、微笑む。
「――子供を育てるのに、いくらお金があっても困らない、と言うしね」


「“未来予知”なんて戯言、絶対に信じないけど」
「………………」
「もし、本当だったら。アイツがこの結末を予想していたのだったら」
「………………」
「だったら――」
「………………」
彼女は力を溜めて言った。
「――ずぃぶんと、がめつい、わよねぇ……」
「………………」
私も、頷くことで同意した。

もし、申請したとおりの保険金が手に入れば。
医者1人を余裕で育ててなお、楽な余生を過ごせるお金になる、と順子さんは言った。

彼女に質問しながら、書類を製作していく。
空の色が青から、赤になる前にそれは終了した。
そして、帰り際。

「もし、保険会社がごねてきたら、直ぐに連絡して。このトップクラスの企業系弁護士が、どんなコネと手を使ってでも、解決するわ」

でも、彼女の出番は結局無かった。

……。
………………。
………………………。

時が過ぎた。

私は元気な赤ちゃんを無事出産し、彼が生前、決めた名前をつけた。
私は仕事を辞め、両親が残してくれた田舎の家に帰った。
あの地方都市にいれば、親しい人がたくさんいる。
でも、あの街には思い出が多すぎた。
375ふみお:2008/02/14(木) 20:28:15 ID:zAXvEo8u
彼の事を昔話にしたくなかったのかもしれない。

私の単なるワガママ。
順子さんや工藤さん、小林さんに佐藤さん。
みんな、最初は反対してたけれど。
最後には納得してくれた。

私は田舎の家で、出来るだけ、子供と一緒の時間を過ごした。

時に叱り、時に甘やかし。

時は瞬く間に過ぎていった。

そして、彼が旅立ってから――


――6年の歳月が経った。


その日、私と子供は、久しぶりにその町を訪れた。
理由は結婚式があったから。
順子さんと、工藤さんの結婚式。
順子さんが仕事上で独立するまで、二人は待ったのだと言う。
工藤さん(夫)は、彼女の秘書として、彼女を支えるのだそうだ。

「もし僕とあなたが、あの海の日にうまくいっていたら」
「………………」
「その未来の、順子のとなりには、誰がいたんでしょうね?」
「………………」
「もしかしたら、僕より相応しい人が隣にいたのかもしれない」
「………………」
「ま、順子にそう思われないように、これからも、日々精進、って感じでしょうか?」

そして、私は引き止める知人たちを後にして、会場を去った。

今日は、一応、大事な日なのだ。

彼の予知が正しければ。

冬の駅構内。
私はそれなりに着飾っている。
背中には、大きくなった子供。
ぐっすり寝ている。

私の住む田舎へと行く列車がゆっくりと駅に進入してきた。

ふらっ。

それに飛び込もうとする、人影が一つ。

でも。
知ってたから。

私はそれを、片手で引き止めた。

もともと、そんなに力を入れていなかったのか、簡単に引き止めることに成功。
そして、その人は言った。

「なんで、止めるんだよぉ!」
「………………」
376ふみお:2008/02/14(木) 20:29:17 ID:zAXvEo8u
「手ぇ、離せよ! ×××!!」
「………………」
「もう嫌なんだよぉ……。苦しいんだよぉ……」
「………………」
「ひぐっ、うぅうぅ……」

私は台詞をそらんじるように、怯える目を見つめながら、彼女に言う。

「あなたはどう思っているかは知らないけれど、あなたが死んだらきっと悲しむ人も居る」

彼女はむずがる子供のように、首を振った。
たぶん、思い当たる人がいるのだろう。
それでも、私は構わず続けた。

「あなたはそんな人がいないと思っているのかもしれない。でも……」

彼が、あのとき、私を救ってくれた言葉を。

「あなたが今、ここで死んだら、私が悲しむ。世界中の誰よりも悲しむ。その自信がある。
あなたは、あなたはこの世でまだ必要とされている。間違いない」

もしかしたら、この言葉たちは、私や彼のような人間にしか通用しないのかもしれない。
それでも、何かのキッカケにでもなればいい。

そう思う。

その人は――彼女は、人目を気にすることなく。大きく泣き出した。

……。
………………。
………………………。

寝ている子を起こさないようにベンチに座らせる。
そして、私は彼女に席を勧めた。
最初、躊躇していた彼女も、根負けしたのか、私の隣に座る。

そのまま、沈黙の30分。
その後。

彼女は訥々と語りだした。
それは世間的に見れば、ありふれた事態の、ありふれた事象だった。

でも、彼女にとっては。
彼女自身にとっては。
それを私はイヤと言うほど知っていたから。

ただ、聞いた。

私は、聖人でも、仙人でもない。
言える様な話も無くはないが、それでも、彼女が求めてはいないだろう。
とりあえず、今のところは。

2時間おきにくる田舎行きの列車が、再び構内にやってくる。

彼女はそれに躊躇しながら乗った。
私は彼女に、私の連絡先と住所の書いた紙を手渡す。

話はいくらでも聞くし、相談だったら出来る範囲、乗ってあげたい。

心からそう思った。
377ふみお:2008/02/14(木) 20:30:10 ID:zAXvEo8u
彼女にそれが通じたかどうかは判らない。

ドアが閉まり、彼女の乗った列車が行く。
それが見えなくなるまで、私は手を振り、見送った。
彼だったら、ここでタバコでも一服するのだろうか――。

「ねぇ、お母さん。ウチにかえるのに、のるでんしゃ、まだ?」

――あ。

そういえば、あの電車、私たちも乗るはずだったんだ。
気づいたときにはもう遅い。
むずがる子供を、もう一度寝かしつける。

これも彼の予知どおりだった。

……。
………………。
………………………。

どうにかこうにか家にたどり着く。
留守番電話が二件。
一件は、出来上がった順子さんの、先に帰った私への恨み節。
そして、もう一件は。

駅の彼女の父親からだった。

泣いている、ようだった。
涙声で何度も、何度も、私に礼を言った。

正式にお礼をしに、都合のいい日に家に来たいらしい。
お礼なんて、別にいらないのに。

でも。

私のときや、彼の場合だったらいなかった、肉親の助け。
彼女にはそれがある。
その事が無条件に嬉しかった。

そして、子供を布団に寝かせる。

仏壇の前に正座をし、心の中で彼に言う。

今日、あなたの予知が当たったよ。
自分のことはてんでダメだったのに、人のことになると、結構、当たるね。
それとも、彼女が美人だったから?
………私というものがありながら。

そして、報告が終わると、もう一度、子供のところへ。

あどけない寝顔を見ながら思う。

あなたは『未来予知』というものを信じるだろうか?
『未来予知』、つまりは『予知能力』で、『超能力』。
……『超能力』。
あの、今や誰も覚えていないであろう、世紀末を騒がせたあの『予言』と同じように、
持て囃され、使い古され、忘れ去られ、風化してしまった、言葉。
もちろん、あなたはきっと、そんなこと知りもしないだろう。
私だって、本当は、良く知りもしない。そんなこと。
………………。
378ふみお:2008/02/14(木) 20:30:59 ID:zAXvEo8u
それでも、私は信じている。
飽かれ、呆れられ、見下されても。
『未来予知』を。

――実は、僕は、未来を予知することが出来るんだ。皆には内緒だよ――

そう言って、笑った、あの人のことを。
なぜなら――

――これはあなたの父親の話。
私が生涯愛した、ただ一人の彼の話だから。

「“生涯愛した、ただ一人の彼”は言いすぎじゃない? 君にだって初恋とかあったでしょ?
それに、これから先、ステキな男性に出会う可能性もあるんじゃない?」

「………………」
五月蝿いな。

私は、心の中の彼を、無言で睨んだ。


でも、誤魔化すことはできなかった。

懐かしい声に、不意に流れた一筋の雫を。


379ふみお:2008/02/14(木) 20:32:37 ID:zAXvEo8u
以上です。

稚拙でやたら長いこのSSに、ここまで付き合ってくださった方々。
駄文の垂れ流しを許容してくださった方々。
あまつさえ感想まで書き込んでくださった方々。

此処までのお付き合い、本当に有難う御座いました。


では、また、いずれ此処か、何処かでお会い致しましょう。
その時まで御機嫌よう。
380名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 20:37:24 ID:Pm5RO7KQ
乙でございます
思ったほど救いのない話じゃなかったのが救いだ
381名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 20:38:10 ID:zAgKo5lH
リアルタイムGJ!

注意書き把握。
……やっぱり、切ないよね。
でも、良い話だったと思う。
また是非ともお願いします。
382名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 20:41:39 ID:qo5plxiF
GJ…………

たまにはこういうトゥルーエンドもいいなぁ……
あれ?目から水分が……
383名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 20:56:54 ID:D2hu9TtC
GJ。せつないなぁ……。
384名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 21:19:36 ID:joIMPg02
GJです。

なんていうか、切ないながらも愛を感じるよ。二人は幸せだったのかな…(´;ω;`)ウッ…
久しぶりに目が潤みました。本当に、ありがとうございました。
そして、またよろしくお願いします!
385名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 21:24:29 ID:OIPBIPfI
あぁ・・・
いいものを読ませていただきました。
ありがとうございます・・・
386名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 22:35:56 ID:LoU51ZyN
GJとか乙とか言いたいけどなんかもう言葉に出来ないっす……
387名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 22:45:05 ID:EiAkqM8F
素晴らしいな…GJなんて言葉じゃ言い表せないくらいGJ!
388名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 22:50:29 ID:iRMKgMiX
……言葉は無粋ですな。
本当に、良いものを見せてもらいました。有難うございました。
389名無しさん@ピンキー:2008/02/15(金) 00:45:47 ID:Hu/qZPZP
。・゚・(ノД`)・゚・。

どうせ予知が最後で外れるんだろ?ハッピーエンドじゃ無いなんて注意書き釣りだろ?
って思ってたのにそっち向きに外れるのかよぉ…
でもGJでした。 つか前後編合わせて書籍化してくれ。買うw
390名無しさん@ピンキー:2008/02/15(金) 01:11:22 ID:saH72KrE
この話を読んで、前に某ライトノベル文庫から発売されていた小説を思い出した。
その話もキーワードが未来予知でちょっと切ない話だった。
その小説は死んだ人(予知能力者)の思い出しか残らなかったけど、
こっちは愛する人の子供が残った分まだ救いがある……様な気がした。

とにかくいい話GJでした!
391名無しさん@ピンキー:2008/02/15(金) 06:49:57 ID:28Wf1bzt
泣けた、主人公を始め登場人物が魅力的だから物語に引き込まれた(つд`)
392名無しさん@ピンキー:2008/02/15(金) 11:09:53 ID:ySBNzWi9
GJ…なのか?
いや、確かに神レベルのSSであり、マイナス要因なんて
かけらほども予知できないではあるんだが…
トゥルーエンド過ぎて泣いた。
綾乃たん…orz
393名無しさん@ピンキー:2008/02/15(金) 12:26:09 ID:24WM4zYZ
GJでtu
なんつーか・・・目が・・潤んで・・
・・・涙が・・・止まら・・あぁッ!!!
394名無しさん@ピンキー:2008/02/15(金) 12:44:07 ID:WVozxJ3X
ふみお氏GJです。さすがです。
前後編共に読む集中力が途絶えることなく物語りに引き込まれました。
ヒロインにも弁護士さんにも魅かれます。
工藤君は良い男です。
主人公は水谷豊に演じてもらってドラマ化したいくらいです。
読むごたえのある作品をありがとうございました。
395名無しさん@ピンキー:2008/02/15(金) 17:58:35 ID:U0V46Ylm
>>水谷豊
それだ
396名無しさん@ピンキー:2008/02/15(金) 19:06:06 ID:iOr0DLcK
とりあえず乙。
また気が向いたら、このスレにも立ち寄ってください。
397名無しさん@ピンキー:2008/02/15(金) 22:45:23 ID:sNTzcV5K
そろそろ容量が寂しくなってきたな・・・。
そういやここの保管庫ってどうなったの?
398名無しさん@ピンキー:2008/02/16(土) 00:06:10 ID:Yt8Yst1B
>>397
>>1を見るのです。>>1
399かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 11:10:00 ID:Yt8Yst1B
以下に投下します
二日遅れのバレンタインネタです
精霊シリーズ(と勝手に呼んでます)三話目ですが、今回もエロ無し
エロは他の話で頑張りますので御容赦を
400かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 11:10:58 ID:Yt8Yst1B
『チョコレートケーキとバレンタインと』



 二月十三日。
 甘利紗枝が橋本家を訪れたのは夜九時過ぎだった。
 橋本風見はとりあえず幼馴染みを中に招き入れようとしたが、紗枝は玄関で立ち止まったまま上がろうとしない。
 怪訝な顔で相手を見ると、彼女はいたずらっぽく笑い、
「私ですよ、風見さま」
 普段の幼馴染みにはありえない言葉を囁いた。
「なんだ冴恵か」
 エプロン精霊の方だった。風見は小さくため息をつく。
「あー、そんなにあからさまにがっかりしないでください」
「ごめん。その恰好だったからわかんなくて」
 風見は冴恵の着ている厚手のコートを指差して言った。
 暖かそうな白いコートは風見が紗枝に贈ったクリスマスプレゼントだ。紗枝は登下校の際に必ずそれを着用していた。
 だからそのコートを着ているときは甘利紗枝であると、風見は思い込んでいたのだ。
 おそらくコートの下にエプロンを着けているのだろう。『冴恵』は、紗枝がそれを着用しているときしか現れない。
「で、こんな時間に何の用? 夕食はもう食べたんだけど」
 いつもどおり世話を焼きに来たのかと尋ねると、冴恵は首を振った。
「いえ、風見さまにチョコレートを差し上げたくて」
 意表を突かれた。別に明日の行事を――全国的な行事を忘れていたわけではないが。
「……バレンタインは明日だけど?」
「明日は無理なので今日参りました」
「無理?」
「明日は紗枝さんが風見さまにチョコレートをプレゼントなさるかと思います。私はお邪魔虫ですよ」
「別に気にしなくても、」
「何をおっしゃるんですか!」
 冴恵は風見にずいっ、と迫り寄った。
「紗枝さんは確実に風見さまに恋慕の情を抱いておいでです。だから明日はチャンスなのですよ」
 思わずのけぞる風見。気圧されながらなんとか言葉を返す。
「チャンスって、誰にとって」
「お二人にとってですっ」
 力強い主張に風見は呑まれるように口をつぐんだ。
「クリスマスのときも何もなかったのでしょう? なぜお二人はお互いに想い合っているにも関わらず、関係を深めようとされないのですか」
「おいおい……」
「イベント事は常に勝負のときたりえます。バレンタインデーですよ? 紗枝さんも気合い入れてました」
「なんでわかるんだよ」
「冷蔵庫にでっかいチョコレートケーキがありました。おそらく明日のためです」
「…………」
 チョコレートケーキ、と聞いて風見はため息をついた。
「どうしましたか?」
「いや、毎年変わらないなと思って」
「変えるのは風見さまですよ! 明日を境にお二人は恋人同士に、」
「わかったから」
 妙にけしかける冴恵に、風見はうんざりした気分になった。
 紗枝の体で、顔で、そんなことを言わないでほしい。
401かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 11:14:29 ID:Yt8Yst1B
 風見は適当にエプロンメイドをあしらうと、もう遅いからと甘利家宅まで送っていった。
 別れ際に渡された箱には綺麗なチョコレートマフィンが入っていて、家に帰ってから風見は一人でそれを食べた。
 控え目な甘さは紗枝の作るそれによく似ていた。
(好き勝手言うなよ……)
 冴恵に対して内心で文句を言う。
(そりゃあきっかけになったらいいなとは思うけど、これまで一度だってそうはならなかったんだぞ)
 誕生日。クリスマス。バレンタインデー。イベント時にはいつだって何かしらの事をやってきた。
 プレゼントもパーティーも恒例で、二人にとって当たり前の過ごし方だった。
 だからといって、それが互いの距離を縮めるとは限らない。
(……バレンタインくらいで何が変わるのさ)
 幼馴染みという関係は本当に厄介なのだ。深い間柄でありながら、いやそれゆえに、想いを伝えるのは難しい。
 それに、彼女の作るチョコレートケーキは、
「……寝よ」
 風見は深いため息とともに自室のベッドに潜り込んだ。

      ◇   ◇   ◇

 翌二月十四日。
 早朝の二年三組の教室で今口翔子は意気込んでいた。
 気合いを入れて作ってきたチョコレート。これをあいつに渡すのだ。
 前から気になる相手ではあったが、いざこうして行動に出るとなると緊張する。
 教室には他に誰もいない。さすがに早く来すぎたか。
 翔子は深呼吸して気持ちを落ち着かせようとした。心臓の音が妙に体内に響いている。
「ほほう、翔子は手作り派かね」
 急に背後で声がして、翔子は椅子から転がり落ちそうになった。
 振り返って見ると、クラスメイトの安川小町(やすかわこまち)がニヤニヤした笑みを浮かべて翔子を見下ろしていた。
「おはよう翔子。勝ち気なキミでも緊張する?」
「な、何のこと?」
「橋本くんにチョコ渡すんでしょ?」
「――」
 翔子は絶句した。
「教室で一人でニヤニヤしているから何かと思ったよ。私が二番目でよかったね」
「……」
 こっそり背後に忍び寄った人間が何を言う。
 翔子は大きく息を吐き出すと、教室を出ようと椅子から立ち上がった。
「どこ行くの?」
「トイレ」
「私も行く」
 ついてこないでよ。
「怒らないでよ。謝るから」
「怒ってない」
「怒ってるよ。いや、怒ってもいいけど、実際どうするの?」
 教室のドアに手をかけようとして、翔子は動きを止めた。
「……どう、って」
「ただ渡すだけなのか、ちゃんと告白するのか、どっちなのかってこと」
「……」
 その問いかけに思わず押し黙る。
 それは――
「……迷ってるの?」
 頷いた。
 小町は肩をすくめる。翔子の代わりにドアを開けて廊下に出た。
 小町に続いて廊下に出ながら、翔子は呟いた。
「……あいつには、他に相手がいるんだよ」
「甘利さんのこと?」
 頷く。翔子は恋敵のことを思い浮かべた。
 誰よりも橋本風見の近くにいる少女、甘利紗枝。
402かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 11:17:29 ID:Yt8Yst1B
 幼馴染みだと風見は言う。しかし翔子には、風見の心が透けて見えるように感じていた。
 橋本風見は、甘利紗枝が好きなのだ。
 風見がそう明言したわけではないが、翔子にはそうとしか見えなかった。
「まあ、橋本くんが甘利さんに何かしらの想いを抱いているのは確かだろうね」
「……小町にもそう見える?」
「まあね。でも、甘利さんはよくわからないかな」
 それは翔子も同感だった。
 甘利紗枝はいつも無口で、何を考えているのかわからないところがある。
 いい人なのだろうというのはわかる。クラスメイトや後輩にも好かれているようで、悪い噂は少しも聞かない。
 だが、特に親しいわけでもない翔子には、彼女の内面を窺い知ることはできなかった。
 廊下を歩きながら、翔子は顔を曇らせる。
「でも、それは関係ないでしょ?」
 不意に小町が言った。
 二人以外誰もいない廊下。早朝の寒々しい空間で、翔子は隣の友人を見つめた。
「翔子が想いを伝えることと、甘利さんは関係ない。翔子の気持ちは誰にも冒せない。伝えたいのなら伝えるべき」
「…………」
 簡単に言ってくれる。それは正論かもしれないが、できるかどうかはまた別のことだ。
「失敗するとわかってて告白するなんて……そんな勇気ないよ」
「失敗するかどうかなんて、まだわからないでしょ」
「勝手なこと言わないで」
「なんで勇気が出ないの?」
 尋ねてくる小町を翔子は睨んだ。
「傷つくことが嫌だからよ! そんなわかりきったこと訊かないでよ!」
 苛立ちとともに翔子は声を荒げた。冷たい廊下の壁に、声の波は吸い込まれて消える。
 今でも充分仲良くやっているのだ。その関係を壊したくないし、傷つくことがわかっていてどうして告白などできるだろう。
 小町にだってそれができるとは思えない。
「傷つくことって、そんなに駄目なこと?」
 しかし小町は、特に気にする風でもなく、そう返してきた。
「え?」
「傷ついて、でもそれが想いを確かにする。傷つくことが自分を強くする。決して悪いことじゃない」
「そ、そんなこと」
「少なくとも私はそうだったよ。現在進行形で今も、そう」
「――」
 翔子は驚いた。これは、今彼女は、かなりプライベートなことを話しているのではないか?
「ストップ! いいよそんなこと言わなくて」
「翔子になら話してもいいけど?」
「私が困るわよそんなこと……」
 どう返せばいいのか言葉に詰まった。
 小町は小さく笑う。
「私たち、これから受験だよ? 一年間そのすっきりしない気持ちを抱えたまま頑張れる?」
「……じゃあどうすればいいのよ」
「わかってるくせに」
「……」
 わかっている。実際、本当に迷っていたのだ。
 手作りのチョコまで持ってきた。義理だと言ってそっけなく渡すことも、冗談交じりに笑って誤魔化すこともできるが、しかし、
「……放課後まで、まだ時間あるよね」
「保留?」
「いや……」
 翔子は呟き、それきり口を閉ざした。
 小町ももう何も言ってこなかった。
 二人はそのままトイレに行き、教室に戻るまで何の言葉も交わさなかった。
403かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 11:25:01 ID:Yt8Yst1B
 そう決意を固めていたのに。
「……」
 屋上に繋がるドアの前で、翔子は目を見張った。
 ドアのガラス窓から覗く屋上には、既に先客がいたのだ。
 制服を着た一組の男女。男の方は背が高く、目の前の女子とは結構な差があった。
(……て、あれ緑野じゃない)
 男子の方は同じクラスの緑野純一だった。風見と親しいので、翔子も比較的よく話す相手だ。
 女の子の方は見覚えがなかった。スリッパ色を見るに下級生、つまり一年生のようだ。
 二人は何事かを話している。女の子は恥ずかしそうにうつ向いているが、やがてポケットから小さな箱を取り出して、純一に差し出した。
 純一がそれを受け取っている。その顔は嬉しげで、教室ではあまり見ない心底からの笑顔のようだった。
(告白……じゃないみたいね。もう付き合ってるのかしら)
 女の子は真面目そうなタイプに見える。堅物で不器用な純一と似ているかもしれない。
 似合いのカップルだと思った。なかなか進展しそうにないが、大きく関係が壊れることもなさそうだ。
(あ……でもこれだと屋上は使えないな)
 まさか邪魔するわけにもいかない。翔子は気付かれないようにドアから離れて、ゆっくりと階段を降りていく。
「今口?」
 下の方から声がした。見ると、踊り場の手前で風見がこちらを見上げていた。
「は、橋本」
「出ないの? 屋上」
 間の悪いことだ。翔子は慌てて手を振り、
「あ……や、やっぱり別の場所にしよ! 屋上風強いし、寒いし」
 急いで風見のところまで駆け寄ると、そこから遠ざけるように風見の背中を押しやった。
「え? どこ行くの?」
「もっと別の場所! どっか教室くらい空いてるでしょ」
 困惑する風見を翔子は無理に押しやる。
 困惑しているのは翔子も同じだった。
(タイミング悪……)
 決心が鈍りそうだ。翔子は風見の後ろでぶんぶんと首を振り、弱気な心を追い払おうとした。


 二人は一階の物理講義室に入った。
 そこは鍵が壊れていて、自由に出入りできるのだ。
 ひょっとしたら誰かいるかもと思ったが、幸いなことに誰の姿もなかった。逢い引きには色気に欠けるためだろうか。
 翔子は安堵の息を吐くと、鞄を机の上に置いた。
「ねえ」
 風見は教壇の前に立ち尽くしている。
「用って、何?」
 その言葉に翔子は少し呆れた。こいつは今日が何の日かわかっているのだろうか。いい加減気付けよ。
 だが、そういうところも『しょうがないな』と思えてしまうということは――やっぱり翔子はそういうものなんだろう。
 やっぱり、こいつのことが好きなんだろう。
 翔子はふう、と息をつくと、鞄から小さな箱を取り出した。
「橋本」
「ん?」
「これ、あんたに」
 そっけない口調だっただろうか。一瞬後悔したが、その方がいつもの自分らしいかも、と翔子は思い直した。
 チェックの包装紙に包まれた小さな箱を、風見は呆けたように見つめる。
「……これは?」
「だから、バレンタインのチョコよ」
「……ぼくに?」
「いらないの?」
 風見は慌てて首を振った。
「い、いや、ちょっと予想外だったから」
「なんで」
「今口って、そういうのに興味ないと思ってた」
「……」
 やっぱりな、と翔子はため息をついた。
 こいつは私をそういう目では見てない。たぶん、他の大勢の知り合いと変わらない程度にしか。
404かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 11:30:43 ID:Yt8Yst1B
 でも、もう決めたから。
「橋本」
「なに?」
 風見がぼんやりと顔を上げる。
 翔子は、

「私ね、あんたのことが好きだよ」

 自分にできる精一杯のことをした。


 風見はぼんやり顔のまま動かなかった。
「……」
 翔子は何も言わない。
 恥ずかしさでショック死することはあるのだろうか。左胸がどくどくとうるさくなる。
「……それって」
 風見はきっと困惑しているだろう。小気味よく感じるのは翔子の軽いいたずら心だ。
 長い沈黙。
 たまらない空白が翔子を襲い、彼女はそれをひたすらに耐える。
 長い長い時間の後、風見は言った。
「……ありがとう」
 ……たぶんその言葉が来ると思っていた。
 風見はきっとこちらの真剣さに気付いただろう。そしてそれに応えられる言葉を、彼は持っていない。
 きっとその言葉の後には、逆接が続くに違いないのだ。
「でもぼくは、」
「ストップ」
 だから、翔子は相手の言葉を遮った。
「ちょっとだけ待って。そのあとの言葉は」
「え?」
「ちゃんと最後まで言い切ってから、聞くから」
 翔子は一つ深呼吸すると、風見の目を見据えた。
「最初は廊下かな、橋本に会ったのは」
 風見の眉が怪訝そうに寄る。
 憶えていないのだろう。苦笑しながら翔子は続ける。
「私は次の授業で使うプリントを運んでいた。でも結構量が多くて、私は床に何枚か落としてしまった」
 憶えてなくて当然かもしれない。翔子も後で気付いたのだから。
「そのときあんたがそれを拾ってくれた。それから教室まで運ぶのを手伝ってくれた」
 そのときは別になんとも思わなかった。親切な人だな、くらいにしか思っていなかった。
「次は二年になったとき。私は屋上でたばこを吸っている男子を見つけた」
 同じクラスになって二ヶ月のことだ。
「私は注意したけど相手は聞く耳持たなかった。そのときあんたが現れた」
 翔子はそのときの風見を場違いだと思ったが。
「あんたは言った。『ここはもうやめた方がいい。教師のチェックが厳しくなってる』って」
 四組の委員長からの情報だ、と付け加えて、翔子は隣のクラスの甘利を思い出した。
「そいつはたばこを吸い終わってからあんたに礼を言った。ここではもう吸わないと」
 こいつもたばこを吸うのかな、と翔子は不審げに風見を見ていた。
「後で私はあんたに訊いた。なんでたばこ自体には注意しなかったのか」
 そのときの風見の顔を、翔子は今でも憶えている。
「あんたは言った。『そんなの楽しくないだろ』って。私は呆れたけど、あんたの笑顔に怒れなかった」
 楽しむ。その感覚は翔子にはなかった感覚だ。
「それから私はあんたの行動を気にするようになった。気付くといつも目で追っていた」
 正直、何が気になったのかはわからない。ただ、そのときから前より学校を楽しめるようになった。
「……楽しかったよ。すごく、楽しかった。なんでだと思う?」
「え……?」
「わからない? 誰かを好きになって、その誰かを想うだけで、嬉しくなったりしない?」
 反面苦しくもなるけれど、その想いを捨てようとは思わない。
「私があんたを好きなのは、つまりそういうことだよ。わけわかんないかもしれないけど、たぶん理由なんかどうでもいいんだ。要は――」
 翔子は吹っ切るように微笑み、言った。

「どうしようもないくらい、あんたに惚れちゃったんだよ」
405かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 11:36:55 ID:Yt8Yst1B
 風見は渡された箱を見つめる。
 綺麗にラッピングされたそれには、翔子の気持ちが詰まっている。
 受け取っていいのだろうか。彼女を拒絶した自分が。
「……」
 風見はしばし悩み、結局鞄に閉まった。
「ありがとう、チョコ」
「どういたしまして」
 嬉しそうに翔子は笑う。
 そんな翔子の姿に、風見は自身を振り返った。
 臆病な自分を変えられるのだろうか。翔子のように、自分は頑張れるだろうか。
 傷ついても、こんなに綺麗に笑えるだろうか。
 そのとき、思考を断ち切るようにチャイムの音が鳴り響いた。
 携帯の時刻を見ると五時だった。窓の外は暗くなりつつある。
「早く帰ろっ。いつまでも残ってたら怒られるよ」
「う、うん」
 二人は急いで講義室を出た。廊下を走り、下駄箱へと向かう。
 靴を履いて、一緒に外に出た。風が強く吹いてきて、風見は肩を震わせた。
 正門を出てから翔子が言った。
「あのさ、来年もチョコ渡していい?」
「……え?」
 聞き間違いかと思って見返すと、翔子は笑っていた。
「いいじゃない。義理チョコくらい」
「……義理?」
「そ。本命と同じくらい重たい義理チョコ作ってあげる」
「それは……ちょっと」
 おかしそうに翔子は笑む。
「嫌なら早く彼女を作ればいいじゃない」
「――」
「別にハッパをかけるつもりじゃないけど、早くすっきりさせた方がいいよ。勝ち目のない私だって頑張れたんだから」
 翔子の言葉は明確で、真摯だった。
 風見は昨夜の出来事を思い出す。
『変えるのは風見さまですよ!』
 エプロン精霊はそんなことをのたまっていた。
 自分から動かなければ何かを変えることはできない。それは翔子がさっき見せてくれたことだ。
(女の子って強いなあ……)
 真っ白なため息をつく。
 冴恵が言うにはイベント事は常にチャンスらしいが、今からでも何かできるだろうか。
「……ちょっとだけ頑張ってみるよ」
 クラスメイトはそれを聞いて、うん、と一つ頷いた。

      ◇   ◇   ◇

 風見が家に帰り着いたのは夜八時を回った頃だった。
 家の鍵は開いていた。たぶん紗枝が開けたのだろう。靴を脱ぐと、そのまま応接室に向かう。
 しかし、応接室には誰の姿もなかった。
 首を傾げる。ダイニングだろうか。それともキッチン?
 どちらでもなかった。寝室にもトイレにもおらず、一階には人の気配すらなかった。
(まさか……)
 風見は階段を上がり、自分の部屋に向かった。
406かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 11:40:13 ID:Yt8Yst1B
 ドアを開けると予想通り、制服姿の幼馴染みがベッドに座っていた。
 小さく安堵する。どこに行ったのかと思った。
 だが、一応文句は言っておこう。
「いくら幼馴染みでも、勝手に人の部屋入るなよ。びっくりするだろ」
「……」
 紗枝はじろりとこちらを睨んできた。
 なんだか怒っているようで、風見は鼻白む。
「ひょっとして、遅くなったことに怒ってる?」
 不機嫌そうな顔のまま、紗枝は頷いた。
 それからおもむろに携帯を取り出す。それを見て風見も、慌てて鞄の中から携帯を取り出した。
 新着メール五件。
「…………気付かなかった。ごめん」
「……」
 紗枝はふい、と顔を逸らす。
 まいった。せっかく決意を固めて戻ってきたのに、こんなところでつまずくなんて。
「あ、ケーキどうだった?」
 話題を変えよう。なんとか機嫌を戻さないと。
 それに紗枝のチョコレートケーキには、風見も思い入れがある。
 クラスメイトにケーキを配る提案をしたのは風見なのだから。
 紗枝は顔を逸らしたまま答えない。
 が、やがて右手だけ少年に向かって突き出すと、そのままぐっ、と親指を立てた。
 それを見て風見は我がことのように喜んだ。
「よかった。うまくいったんだな、今年も」
 紗枝は右手を下ろすと、不機嫌な顔を収めて穏やかに微笑んだ。
 その顔は、風見の大好きな顔だった。昔から知っている、変わらない幼馴染みの笑顔。
 紗枝は枕元に置いてあった箱を手元に寄せると、ゆっくりと両手で差し出してきた。
 例年通り中身はチョコレートケーキだろう。毎年これを貰って、風見のバレンタインデーは終了する。
 しかし、今年は、
 風見は受け取ると、心を落ち着かせるために目をつぶった。
 二度の呼吸を経て、ゆっくりと目を開く。
「……今日、クラスの女子に告白された」
「!」
 紗枝が驚いたように目を剥いた。
「紗枝も知ってる今口だよ。チョコ渡されて、そのあと告白された」
「……」
 紗枝はじっと見つめてくる。
 促されるように風見は続けた。
「ぼくは断った。他に好きな人がいるって言って、はっきり断った」
「……」
「嬉しかったんだ、とても。だからぼくも真剣に答えた」
「……」
「でも、一番真剣にならなきゃいけない相手は、その好きな人に対してだよ」
 風見は鞄を開けると、中から小さな紙箱を取り出した。
 紗枝の表情が変わる。なんとなく意図に気付いたのかもしれない。
「外国ではプレゼントを贈るのに、男女関係ないらしいね、バレンタイン」
 風見ははにかみながらそれを幼馴染みへと差し出す。
「何がいいのか迷ったけど、結局これにしたよ」
 紗枝はおそるおそる受け取ると、丁寧な手つきで箱を開いた。
 中には四角いチョコレートケーキが入っていた。
407かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 11:42:43 ID:Yt8Yst1B
 風見にとって特別なケーキ。
 それは紗枝も同じで、二人はチョコレートケーキが大好きだった。初めて紗枝が作ったときも二人で仲良く食べた。
 とてもおいしかったから、つい紗枝に言ったのだ。
『学校のみんなにも持っていってあげればいいよ』
 幼馴染みの作ったおいしいケーキを、他のみんなにも知ってもらいたかった。
 結果的にそれは大成功で、紗枝は少しずつ友達を増やしていったのだが、今ではもったいないと思っている。
 あのとき変な提案をしなければ、ずっと独り占めできたかもしれないのに。
 あのときからチョコレートケーキは、紗枝にとって友情のアイテムになってしまったのだ。
 だから風見が貰うチョコレートケーキも、おそらくはそういう意味が込められている。
 でも、今風見が渡したケーキには、
「紗枝」
 風見は紗枝の隣に座ると、真剣な表情で幼馴染みを見つめた。
 箱を膝上に乗せたまま、紗枝はその視線を受ける。表情はやや固かった。
 高鳴る心臓。熱くなる体。滲み出る汗。緊張が少年を強く縛る。
 風見は振り払うように、声を振り絞った。

「ぼくは――君が好きだ」

 空白。
 紗枝は何も言わなかった。風見も言葉が続かなかった。
 しかし事態は確かに動いてしまったのだ。少なくとも風見にとっては大事件だ。
 紗枝は、どうなのだろう。
 見ると少女は完全に固まっていた。
 そんなにショックだったのだろうか。風見は紗枝の肩に手を置く。
 瞬間、びくっ、と体が震えた。
 しかし風見は手を離さない。
「紗枝……ぼくと付き合ってほしい」
「……」
「嫌なら首を振って。OKなら、頷いて」
「……」
 紗枝は――動かなかった。
 風見はその様子に困ってしまった。勇気を出したはいいが、返事を貰わないことには終わらないし、始まらない。
「……」
「……」
 沈黙は続く。
 百年経っても先に進まない気がした。
「……」
 両肩に乗せた手から、体の柔らかさが伝わってくる。
 風見はたまらない気持ちになった。おもいきり抱き締めたい衝動に駆られる。
 知らず、紗枝の顔が近くなる。
 間近に見える彼女の唇。
 顔を至近に近づける。目を伏せた幼馴染みの口に、彼は、
「!」
 ばっ、と紗枝が体を離した。
 風見はそこで我に返る。自分は今何を、
 紗枝は携帯とケーキの箱を鞄にしまうと、慌てた様子で立ち上がった。
 逃げるように部屋から出ていく。
 しばらくして玄関ドアの閉まる音がした。
「…………」
 風見は幼馴染みの行動に呆然となり、やがてベッドに倒れ込んだ。
 早まって馬鹿なことをしてしまった。
 答えがなかなか貰えず、焦ってしまったのかもしれない。
 なぜもっと待てなかったのだろう。待てば必ず答えは来たはずだ。なのに、
「……最悪だ」
 自己嫌悪だけが、後には残った。
408かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 11:45:52 ID:Yt8Yst1B
 どれほどの時間が過ぎただろう。
 風見が枕に顔を押し付けて後悔していると、不意に携帯が震えた。
 それどころじゃないと風見は動かなかったが、思い直して携帯を手に取る。
 のろのろと画面を見るとメールだった。受信ボックスを開き、相手を確認する。

『甘利紗枝』

 思わず飛び起きた。
 風見はごくりと息を呑み、メールを開いた。

『さっきはごめんなさい。急な事にびっくりしたものだから。
 別にかざくんのことが嫌いになったわけではありません。それだけはわかってください。
 それで返事なんだけど……
 しばらく保留にさせてください。
 かざくんの気持ち、とても嬉しかったです。でもわたしは、急に結論を出せるほど器用でもないのです。
 一ヶ月、ください。一ヶ月後、あなたに返事をしようと思います。
 それまでは、どうかいつものかざくんでいてください。
 勝手な申し出かもしれないけど、お願いします。真剣にあなたの気持ちに答えたいから。
 それではおやすみなさい。また明日。ケーキおいしかったよ。                    』

「…………」
 風見は――心から安堵した。
 安心感に体の力が抜けた。仰向けに倒れ込み、そのまま天井を見上げる。
 嫌われたわけじゃなかった――そのことがとても嬉しい。
 待ってほしいと彼女は言った。
 いくらでも待とうと思う。彼女が答えを出すまで、いつまでも待つつもりだ。
「一ヶ月か……」
 生まれて初めて風見は、ホワイトデーを待ち遠しく思った。
409かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 11:50:49 ID:Yt8Yst1B
以上で投下終了です。
珍しく10レス以下に収まりました。
次はホワイトデー。遅れないようにしたいです。

でもひょっとしたら、依澄さんの話の方が先かも。
410かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 12:47:10 ID:Yt8Yst1B
あ、あれ?>>402の後の文が抜けてる…

すみません。2レスほど追加します
>>402>>403の間です
411かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 12:51:18 ID:Yt8Yst1B
 緑野純一はクラスメイトの橋本風見と一緒に朝の通学路を歩いていた。
 時間帯が違うので風見とは普段会わないのだが、今日は珍しく時間帯が重なった。事故でバスが遅れたためだ。
 純一は一つ疑問に思い、風見に尋ねた。
「……甘利はどうした?」
 風見の幼馴染みである甘利紗枝の姿が、どこにも見当たらなかったのだ。
 違うクラスの二人だが、家が向かいにあるらしく、朝はいつも一緒に登校してくる。
 それで恋人じゃないというから驚きだが、それよりも今日一緒じゃないことに純一は驚いていた。
「今日は先に行ったよ。日直だからとかなんとか」
「そうなのか?」
「昨日昼にそう言ってた」
 風見は淡々と答える。
「今日はバレンタインだろ。貰わないのか?」
「……紗枝はいつも帰ってからくれるんだよ。学校では素振りも見せない」
「そうか」
 まあ学校では恥ずかしいのかもしれない。紗枝が恥ずかしいという様子を見せるかどうかはおおいに疑問だが。
「純一はどうなの?」
「何が」
「後羽さん。貰えるんでしょ?」
「たぶんな」
「嬉しい?」
「そりゃ、な」
 風見がふっ、と小さく笑みを浮かべた。
「なんだよ」
「うらやましいだけだよ」
「なんだそりゃ。お前も甘利から、」
「違うんだ」
 風見は、強い口調で言った。
 純一はつい気圧される。風見の顔からは一瞬で笑みが消えていた。
「紗枝は、ぼくとは違うんだよ」
 その声はどこか寂しげな響きだった。
 純一にはわけがわからなかった。それは今の風見の表情が、初めて見る類のものだからだろうか。
 落ち込むというよりは、諦めに近い色。
「違うって、何が」
 訊く。しかし風見は首を振るだけで答えなかった。

      ◇   ◇   ◇

 午前の授業中、翔子はずっと考えていた。
 鞄の中にはチョコが入っている。それを二つ前の席の人物に渡すわけだが、どのタイミングで渡せばいいのか、翔子は測りかねていた。
 休み時間の度に、斜め後ろの席から視線が飛んでくるように感じる。からかい混じりの小町の視線だ。
 うっとおしいが、しかし翔子は動かない。今はまだ人目につきすぎる。やはり放課後まで待つべきだろう。
 放課後なら、頑張れる。
(傷つくかも……だけど――)
 想いは本物だ。嘘をつきたくない。誤魔化したくない。
 ならば、やることは一つだ。
 翔子が決心を固めた瞬間、三時間目終了のチャイムが鳴った。
412かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 12:52:04 ID:Yt8Yst1B
 昼休み。
 二年四組の教室には、歓喜の渦が巻いていた。
 喜びの声を上げるのは主に男子だが、女子の声もよく上がっている。
 原因は一人の女子生徒だった。
「甘利さんありがとう!」
「ありがとう甘利」
「紗枝ちゃんスゴいよ!」
 次々とお礼や称賛の言葉が飛ぶ中、甘利紗枝は嬉しげに微笑んでいた。
 クラスメイトたちの手元には綺麗に等分されたチョコレートケーキがある。
 紙皿とプラスチックのフォークまで用意されていて、みんな喜びながらも驚きの顔を紗枝に向けていた。
「これって手作りなんでしょ?」
 紗枝は頷く。四十人近いクラスメイト全員に配るために、直径十八センチのケーキを四つも焼いてきたのだ。
 本当は家庭科室を使いたかったのだが、調理部や他の女子生徒たちが使用していたので冷蔵庫を借りるにとどまった。
 家から運ぶのには苦労した。人の少ない時間帯を選んでいなかったら崩れていたかもしれない。
 みんな喜んでくれているみたいだからそんな苦労もよかったと思える。
「でも、なんでこんなに作ってきたの? バレンタインなら好きな人だけに作ればいいのに」
 一人の女子がそんな質問を投げ掛けてきた。
 紗枝はどう答えようか困った。なんでと訊かれても、
「昔からだもんね、紗枝は」
 小学校からの友人、竹下葉子(たけしたようこ)が代わりに答えた。
「え? 昔からって何?」
「小学生の頃からバレンタインにはケーキ作って学校に持ってきてたよ」
「……それ本当?」
「本当よ。中学でもそうだったもん。ね、紗枝」
 紗枝は頷く。ようちゃんナイスフォロー。
「でも、どうして?」
「ほら、この子無口じゃん。だから昔はクラスで浮いてたの。でも友達の提案でケーキ作ったらみんなに大ウケして。それ以来紗枝の恒例行事になってるわけ」
 へえー、と興味深そうにクラスメイトたちは葉子の話を聞いている。
 バレンタインの恒例行事。
 紗枝にとっては習慣みたいなものだった。最初に提案した幼馴染みも、まさかここまで定着するとは思っていなかっただろう。
 一年間の感謝を込めて、クラスメイトたちに贈るチョコレートケーキ。
 それで喜んでもらえたら紗枝は大満足だ。みんなと過ごす学校生活を、紗枝は何よりも大切にしている。
 かつて幼馴染みに手を引かれ、友達と過ごす楽しさを教えてもらったあのときから。
「めちゃくちゃうめえぞこれ」
「甘利さん、作り方教えて!」
「ああ、幸せなバレンタインになりました……」
 みんなの喜ぶ様子に、紗枝は大満足の笑みを浮かべた。

      ◇   ◇   ◇

 午後の授業が全て終わり、放課後になった。
 翔子は勉強道具を鞄にしまうと、二つ前の席に歩み寄った。
「今口?」
 風見が振り返ってこちらを向いた。
 一瞬ドキリとしたが、動揺を抑えて言う。
「橋本。あんたこのあと時間ある?」
「え? まあ……少しは」
「じゃ、じゃあさ、ちょっと付き合ってくれない? すぐ済むから」
「別にいいけど……何?」
「ここじゃちょっと……屋上まで来てくれる?」
 言った。翔子は心臓の早鐘に押し潰されそうだと思った。
 風見は不思議そうに首を傾げたが、すぐに頷いた。
「わかった。先に行ってて。あとから行くから」
 その返事に翔子は安堵した。必ずね、と言い残して教室をあとにする。
 勝負の場所は屋上だ。
413これは404と405の間に:2008/02/16(土) 12:57:13 ID:Yt8Yst1B
 風見はクラスメイトの笑顔から目を逸らしたくなった。
 だが、できない。それはやってはいけないことだ。
 こんなにも彼女は真剣なのだから。
「橋本……いや、風見」
「……ん?」
「どうか、私と付き合って下さい」
「……」
 初めて呼ばれた下の名前。案外悪い気はしなかった。
 でも、それだけだ。風見はもう答えを決めていた。
 しかし先に口を開いたのは翔子の方だった。
「いいよ、続き」
「え?」
「言いたいことは全部言ったから、後はあんたの答えだけ。後腐れなく、最後まで聞かせて」
 なぜだろう。その言い方だと、翔子はもう諦めているようだ。
 まさか知っているのだろうか、こちらの気持ちを。
 全部わかった上で告白してきたというのか。
「……今口」
「ん?」
「怖くなかった? 楽しかったんだろ。それを壊すかもしれないんだよ?」
「……」
 風見にはできないことだった。今が幸せで、想えるだけで満足で、それを壊してしまうのはとても辛い。
 ましてや、彼女はこちらの気持ちを知っているように見える。ならば結果も見えているはずだ。
 こんな、わざわざ自分から傷つくなんてこと、どうして、
「怖かったよ」
 翔子は笑った。
「怖くて、辛くて、悲しくて、でも――逃げたくなかったの」
「……」
「告白せずにずっと気持ちを隠すことも考えたけど、嫌だった。嘘をついたらきっと後悔するって思ったから」
「……」
「最初は迷ってた。でも小町に言われたんだ。傷つくことも悪くないって。だから、精一杯頑張ってみた」
「……」
 嘘をつきたくないから頑張った。
 たったそれだけのことをやり遂げるために、彼女はどれだけの勇気を振り絞ったのだろう。
 風見は目の前のクラスメイトを心底凄いと思った。
「ねえ」
「え?」
「早く答えを聞かせて。そうじゃないと、きちんと終わらないよ」
 笑顔とともに翔子は促す。
 風見は戸惑い、躊躇した。
 しかし、きちんと言葉にしなければ駄目なのだろう。そうしないと、彼女の頑張りを貶めることになる。
 風見は続きを言った。
「……ぼくは今口とは付き合えない。他に好きな人がいるんだ」
「……そう」
 翔子が顔を伏せる。
 たとえわかっていても、辛いことに変わりはないに違いない。
 知らなかった。人の好意を断るのがこんなにも辛いことだったなんて。
「一つ訊いていい?」
 顔を上げて、翔子が尋ねてきた。
「……何?」
「あんたの好きな人って、甘利?」
 少しだけ答えに窮した。
 だが翔子には言った方がいいだろう。誤魔化す気はなかった。
「うん」
「そっか」
 それ以上は訊いてこなかった。
414かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/16(土) 12:58:40 ID:Yt8Yst1B
すみません。一行目を空けたら弾かれるみたいですね。
バラバラになってしまいました。
次からは気を付けます…
415名無しさん@ピンキー:2008/02/16(土) 14:19:57 ID:WjmGHdz3
おお、GJです!

最初の行が空白だと弾かれるらしいですね……
書き手スレでも以前に上がってました。
416名無しさん@ピンキー:2008/02/16(土) 21:58:05 ID:U6JHB3+P
GJです



次はホワイトデーということは……1ヶ月全裸待機でいいのか
417名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 18:48:36 ID:nVq1kkLw
綾音たんのグッドエンドはないんですか…orz
418名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 22:04:05 ID:VLQgApsa
少し時期を外したけど投下します。

・バレンタインネタ
・風邪引きで喉潰しネタ
・無口スレなのに結構喋る
・面倒な会話形式にしている

以上のことが我慢出来ない人は「バレンタインの頃」をNGNameに入れてください。
ではどうぞ。
419バレンタインの頃:2008/02/17(日) 22:05:13 ID:VLQgApsa
 門扉につけられたチャイムを押し込むと、ポケットの携帯が震えた。
『鍵は植木鉢の下に置いてるから、それで入ってきて。入ってきたら、ちゃんと鍵を閉めておいてね。』
 ディスプレイに光る文字を読んで、僕は言われた通りに彼女の家に入った。

 * * * *

『風邪引いちゃったから、学校休む。』
 朝一番、僕の元にケイから1通のメールが届いた。普段は僕の声を聞きたいからとメールをあまり使いたがら
ない彼女からのメールだったので、僕は慌ててどうしたの?、と返信した。
『喉を潰してしまって声が出ないから。』
 ひどく簡潔にメールが返ってくる。普段からあまり弄らないから長文を打つのは面倒なのだろう。僕はそのメ
ールにお大事に、と返す。
『1つお願いがあるんだけど、少し買い物を頼んでもいい?家に何も無くて、お腹好いた。風邪薬と……』
 買い物リストを僕に送ってくる。几帳面な性格の彼女が誤変換をするほどだ、よほど切羽詰っているのだろう。
僕はそれに学校が終わってからになるからね、と念押しして彼女の頼みを聞いたのだった。

 * * * *

 荷物を1階に置き、風邪薬と水を持って彼女の部屋に上がる。ノックすると携帯がまた鳴った。
『いいから入って。返事出来ないから。』
 扉一枚挟んでのメールのやり取りに滑稽なものを感じつつ扉を引き開けた。彼女がベッドの上に布団を被って
座っている。風邪でフラフラといった様子で、瞳は潤み半開きになった唇が吐息を漏らしていてとても苦しそう
だ。
 ……不謹慎だけど、何だかとても官能的でそそる。
「風邪、大丈夫?」
 内側の動揺を必死に抑え付けながら挨拶をすると、彼女は1つ頷いて僕を手招きする。指示の通り僕がベッド
のへりに腰を下ろすと、彼女は当然のように抱きついてきた。触れ合った肌が熱い。はあはあと彼女が荒い息を
吐き出す度、大きく波打った身体が僕に押し付けられる。
 僕に抱きついたまま、彼女は一生懸命言葉を吐き出す。本当に声を潰してしまったらしく、しゅう、しゅう、と
掠れた声しか出ていなかったけど、耳元で囁いてくれたから何とか聞き取れた。
「…………」
「冷えてて気持ちいいって言われても……ほら、薬飲まないと熱下がらないよ?」
 僕は背中に押し当てられる膨らみにどぎまぎしながら薬とグラスに入った水を手渡そうとした。でも彼女は僕
の身体に抱きついたまま身動き一つしない。
「…………」
 彼女は僕にしか聞き取れないような小さな声で、こうやってサイ(僕は彼女にこう呼ばれている)に抱きつい
てるほうが治りそうな気がする、と囁く。ますます強く抱きしめられる。
 僕はその言葉に一瞬我を忘れそうになった。彼女の家に2人きりで、背中に当たる胸が柔らかくて、どうにか
なりそうだった。でも彼女は身体の調子が悪いのだ。そんなことが出来るはずが無い。
 歯を食いしばって彼女のスキンシップに耐えていると首筋に生暖かいものが押し当てられた。くすぐったい動
きで肌の上を動くそれの正体は、多分彼女の舌。これまでに数度肌を合わせたのだけど、彼女はこうして舐め回
すのが好きで、僕がくすぐったがるのを楽しんでいるようだった。
「ちょっ、何してるん……ひゃっ!」
 耳の裏を舐め上げられて背筋に電気が走る。そんな僕をほぐすように彼女の舌が僕の頬へ移動してくる。
420バレンタインの頃:2008/02/17(日) 22:06:39 ID:VLQgApsa
「ね、ねぇ……」
「…………」
「名前を呼んでくれって、そんなこと今は関係無いでしょ?」
「…………!」
「分かったよ。ほらケイ、風邪引くから……もう引いてるとか言わなくていいから、早く横になって。」
 まだ僕に抱きついている彼女を振り払って無理矢理ベッドに寝かせた。ケイはいやいやをして起き上がろうと
するけど、両肩を手で押さえつける。
 手に当たる彼女の身体が柔らかい。パジャマの襟の間から見える白い肌と鎖骨がとても素敵で、身体が火照っ
ているのが掌から伝わってくる。ようやく消えかかっていた僕の本能にまた火が点いてしまいそうだ。
「…………」
 おいでおいで、と彼女の手がひらひら揺れるので、僕は彼女に耳を寄せる。
「…………?」
「なっ、何を!?」
 彼女の言葉に僕は声が裏返った。我慢しなくてもいいよ、なんて、まるで僕の心の内を覗いているような言い
草じゃないか。その疑問に答えるように、彼女は無言で僕の股間を指差す。指先が指し示した先はテントのよう
に立ち上がっていた。そうか、ここが張りつめているから何を考えているのか分かったのか。自分の身体の正直
さに顔が真っ赤になる。
「ケイにそんな風にくっつかれたら誰だってこうなっちゃうよ。」
「…………?」
「だって、抱きつかれたときに、その、背中に胸が当たってて、柔らかくて。」
「!」
 彼女は珍しくその驚きの感情を隠さなかった。まさかそんなことで反応するとは思っていなかったのだろう。
彼女にとって僕に対するスキンシップは本当にただのスキンシップでしかなかったのだろうけど、僕は彼女の予
想以上にこらえ性が無かったらしい。
「風邪のせいで息が荒くなってるのも、興奮してるみたいでそそるしさ……って何言ってるんだ僕は。」
「…………」
「ダメ、僕が構うから。」
 サイがしたいなら私は構わない、と言ってくれたけど、病人の身体に障るようなことをしてはいけないだろう
。彼女は無言で僕を見上げ、それから――
「…………」
 何事かを早口で呟くと僕を強引に布団の中に引きずり込んだ。僕が目を白黒させていると彼女はもう一度(多
分)同じ言葉を、今度は聞き取れる速さでゆっくりと吐いた。
「――私が、したいの。」
 その告白と同時に僕の上着のボタンに彼女の手がかかった。抵抗することも出来ず制服を剥かれていく。

 彼女は僕を素っ裸にして口元でふふ、と笑う。いきいきとしているように見えるけど、本当に調子が悪いんだ
ろうか?
「ん、寒……」
 彼女が身体を震わせて僕に引っ付く。1人分の布団に2人が入っているから、隙間風が入ったせいで布団の中の
温度が一気に下がってしまったのだ。
「サイ、あったかい。」
 彼女は僕の体温で温まろうとしているのか、少し苦しいくらいに僕を抱きしめる腕の輪を縮めてきた。彼女の
肌と触れ合う面積が大きくなるほど頭が茹だる。それは彼女の体温に中てられているだけじゃない。
「でも、ここだけ……」
 もう十分に大きくなった僕のそれを手に取り軽く握りながら言う。僕は彼女に凝視されて顔を真っ赤にしてし
まった。これだけは何度エッチなことをしても慣れない、とそっぽを向いて我慢していると顎が掴まれた。首を
伸ばすような動きで僕の唇をついばむと、一気に口の中へ侵入してきた。普段よりも熱い肉片が僕の口で踊る。
たっぷり1分以上舌を絡ませてようやく一息吐く。こんなに長いキスは初めてだった。
421バレンタインの頃:2008/02/17(日) 22:07:44 ID:VLQgApsa
 呆けているのか余韻に浸っているのか、彼女はぼうっと僕を見つめていたが、すぐに僕の手を取り自分の股へ
誘う。そこはもうすっかり開ききって、愛液は内股をしとどに濡らしていた。
「準備しなくても、入りそうでしょ? ……だから、ね?」
 僕に身体を起こすように促して正常位の体勢へ。入り口に先端を押し当てると火傷しそうなくらいに熱かった。
多分興奮しているわけではなくて、風邪を引いているからなのだろう。
 腰を押し進めると、僕は頭の芯が真っ白になった。いつも以上に膣のうねりが感じられて何度経験しても飽き
ない快感に包まれる。同時に彼女も声にならない声を上げて腰をくねらせ僕に抱きつき、耳元でどうしてこんな
に気持ちがいいの、と呟いている。
 その呟きで僕は一層燃え上がった。そんなに気持ちがいいなら僕ももっと気持ちよくなりたい。最初から大き
なストロークで身体をぶつける。掠れた声で激しすぎる、と彼女は言うけど嫌がっているようには聞こえない。
あえて無視して何度も子宮口へ鈴口をぶつけると、その度に膣が強く締め付けられた。
「はぁ、ぅ……」
 いつもなら黄色い声で喘いでくれるのだけど、今日はそれは無い。彼女も掠れた声を上げるのが嫌なのか顔を
真っ赤にして声を押し殺している。でも例え掠れていても彼女の声なら聞きたい。そう言うとようやく少しずつ
声を上げはじめた。腰を突き入れる度に声のボリュームが上がっていき、彼女は派手に乱れだす。徐々に大きく
なる彼女の声につられるように僕も声を漏らす。気持ちがよ過ぎて、もうイきそうだ。歯を食いしばって快感に
耐える。
「我慢、しないで、イって? 中に……いいから。」
 情けないことだけど、僕はその言葉に甘えてしまった。本能のまま一番奥に突き入れて射精する。自分の心臓
の鼓動が尿道に直結したみたいに、1つ心臓が脈打つたびに精液が溢れ出て彼女の膣内を汚す。
「……いっぱい、出たね。――でも。」
 繋がったままの腰を一度振る。精液と愛液の混ざったものが肉棒を伝って垂れてくる。
「私、まだなんだ。」
 僕は唇と、今日のセックスの主導権を奪われた。

「…………」
 2度ほど愛しあって少し休んでいると、忘れないうちに、と彼女が言った。
「…………」
「鞄ってあれでいいの?」
 彼女がベッドの隣の学習机の上に置いてある通学鞄を指差すのでそれを引き寄せる。それを彼女に手渡すと、
鞄を開けごそごそやりだした。すぐに目的の物は見つかったらしく、手を鞄の中に突っ込んだままこちらを見る。
「…………」
「バレンタイン? ありがとう。僕、親以外から貰うの初めてだ。」
「…………」
「そんなこと無いよ。君から貰えるんだったら何でもおいしいと思うから。」
 おいしくないかもしれない、と言う彼女にそう言うと、彼女は少しだけ不機嫌な顔をした。頑張って作った甲
斐がない、と睨まれる。
「え、作ったの?」
 ちらりと見えた包装がやけにしっかりしていたから、てっきりどこかで買ってきたものだと思っていたのだ。
そう伝えると、今度はうれしそうに頬を染める。
「…………」
「ありがとう、本当にうれしい。」
 言って彼女に抱きついた。ラッピングも自分で選んで何度も練習したから、なんて言われたらもう堪らない。
鞄を押しのけ彼女の口を吸う。身体を密着させると分身に力が戻ってきた。
「ゴメン、我慢できなくなってきちゃった。」
「…………!」
 もうこれ以上はしんどい、という彼女の叫びを無視して僕は彼女の上に圧し掛かった。

 次の日、彼女が快復した代わりに僕が風邪で寝込んでしまったのは多分自業自得なんだろう。
422名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 22:09:52 ID:VLQgApsa
と以上です。

しかし読み返すたびに無口スレ向きじゃないなあ。ここには初投下なんで何かダメな点があればどんどん突っ込んでください。
423名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 22:31:23 ID:4VWNTjke
GJ!!!
こういうシチュ好きだなぁ
424名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 01:35:15 ID:CICyXXnm
>>421
うん、GJ
和むわぁ


425名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 02:26:57 ID:kUjcJ0HQ
>>422
GJです。これからもここで書いて欲しくなるほどおもしろかったです。

>無口スレ向きじゃない〜
風邪で声が出なくなったのも立派な無口であるのだから問題ないかと思います。
>声を押し殺している。とか >彼女の声なら聞きたい。という無口状態でしかできないシーンがあれば十分だと思います。

ただ、朝一番に「お腹空いた」とメールが来たのに、食料を持っていくのが学校が終わってからになるのは仕方ないとしても、食事の前に3度も(しかも3度目はしんどいと言っているのにもかかわらず無視して)するのは男側に思いやりが足りなく感じました。
なのでおかゆを食べさせてあげる描写などがあったほうがいいのではないでしょうか。
426名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 02:37:35 ID:31tNwUqF
口移しで食べさせてあげる描写とかな。
427名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 05:06:58 ID:IsOglaP8
白濁液によるタンパク質経口投与の描写とかな。
428名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 08:58:15 ID:jEpwxi/H
容量がそろそろ危ない。ただいま476KB
429名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 19:33:43 ID:9zV55czB
もうすぐ五言目が聞けるのか
430名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 19:57:25 ID:CICyXXnm
>>427
それなんてry



しかし、レス数<スレ容量とは……すげぇな
431名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 22:54:25 ID:LEtfq0kx
それにしてもこのままスが続いて五言目、六言目……ってなったら無口っ娘じゃなくなっちゃうな
いやもちろんスレが続くのは大歓迎なんだけどね
432名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 23:33:33 ID:0E7qwfv3
二日間でやっと五言
みたいなのは?
433422:2008/02/18(月) 23:48:30 ID:zWGwkNwd
テンプレそのままでいいなら次スレ挑戦してみましょうか?

>>425
本当はチョコレートを口に含んでお互いの唾液でやり取りとか考えていたんですが、
他所のスレでそのシチュエーションだけで1本書いてしまったんで……
434422:2008/02/18(月) 23:59:50 ID:zWGwkNwd
ちょっと早いけど行ってきました
無口な女の子とやっちゃうエロSS 五言目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1203346690/
435名無しさん@ピンキー:2008/02/19(火) 03:39:45 ID:jiBkIeiX

ところで無口娘が欲しいんですがどこに売ってるんでしょうか?
436名無しさん@ピンキー:2008/02/19(火) 09:37:17 ID:pLBPnvk5
>>435
ゲームショップ
437名無しさん@ピンキー:2008/02/19(火) 11:08:26 ID:ltAf5CPa
>>435
438名無しさん@ピンキー:2008/02/19(火) 12:22:48 ID:9S2M5q/t
>>435
知っていたとしても教える訳には……

ま、根気良く探せ。
意外に身近にはいるし。
439名無しさん@ピンキー:2008/02/19(火) 15:19:53 ID:wS9aGLG8
>>435
つ無ロ娘
440名無しさん@ピンキー:2008/02/19(火) 20:03:54 ID:n866LD+l
>>435
京都府亀岡市に株馬工業所というのが在ってだな。
441名無しさん@ピンキー:2008/02/20(水) 00:00:48 ID:hz5pZIcl
>>435
つ無□娘
442名無しさん@ピンキー:2008/02/20(水) 00:17:22 ID:XEatjPPb
………>>435さん………
人気者です………………




……………………クスン
443名無しさん@ピンキー:2008/02/20(水) 01:27:33 ID:+8f3EDQ0
>>431
さすがに二桁行くころには再考案の必要があるかもな。無口な雰囲気的に。
444名無しさん@ピンキー:2008/02/20(水) 01:29:11 ID:drX5t/zT
沈黙〜〜秒目とかどうだろうか
445名無しさん@ピンキー:2008/02/20(水) 03:08:42 ID:TT02aZDY
初代スレの1の日時からゆっくり増えて来たわけだ。
446名無しさん@ピンキー:2008/02/20(水) 06:10:58 ID:VORkaVsj
>>保管庫管理人さん

いつも…まめな更新乙…なんだよ……
あり…がと……

447かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/21(木) 05:02:34 ID:Yy9llZET
次スレも立ってるし埋めますね。
埋めネタ投下がなんか多いかな…

以下に投下します。
エロあり。
448かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/21(木) 05:06:22 ID:Yy9llZET
『彼女の不安』



 ぼく、日沖耕介(ひおきこうすけ)が青川文花(あおかわふみか)と付き合いだしてから一ヶ月が経った。
 小さくて、無口で、地味な印象を受ける彼女だけど、ぼくにとっては一番の彼女だ。
 青川の方もぼくを好いてくれているみたいで、この一ヶ月、ぼくは幸福感に満たされていた。

      ◇   ◇   ◇

 今日は日曜日。ぼくは初めて青川の家を訪れていた。
 綺麗な煉瓦色の建物は周りの家と比較しても大きかった。
 塀の隙間から覗く向こう側には広い庭が見え、玄関の隣には建物と一体になったガレージがある。
 玄関ドアのベルを鳴らすと、中からぱたぱたと足音が聞こえてきた。
 ドアが開き、青川が顔をひょこ、と出した。
 ぼくはその顔に向かって小さくはにかむ。
「やあ、青川」
「……」
 こくりと頷き、ドアを大きく開ける。中に入ると彼女の全身が窺えた。
 今日の服装はベージュのハイネックセーターに黒のミニスカート。
 いつも通りの簡素な恰好だけど、青川のミニスカ姿は初めて見る。
 青川はぼくを招き入れると、ドアに鍵をかけた。なんとなくいやらしい想像が頭に浮かんだ。
 今日は帰さないとでもいうような……
 もちろん青川がそう考えているかどうかはわからない。
 しかし彼氏を家に呼んでおいて、まさか何もないと思っているわけでもないだろう。彼女は結構積極的だし。
 ぼくだって期待くらいはするわけで。
「えっと、おじゃまします」
 用意されたスリッパを履き、家に上がる。長い廊下が奥まで続いている。
 青川が頭を下げてきた。両手を前に重ね、恭しく礼をする。
「あー……なんか似合うね、そういうの」
 思ったことをそのまま口にすると、青川は首を傾げた。
「いや、この家が洋風だからかな? そういう仕草がしっくりくるというか」
 怪訝な顔をされた。住んでいる本人にはわからないのだろう。
 わからないなら別にいい。本当はメイド服とか着たら完璧だとも思ったけど、それは口には出さなかった。
 代わりに言ったのは別のことだ。
「あの、今日は家族の人は?」
 やっぱり付き合っているのだから、しっかり挨拶したい。
 ところが。
「……」
 青川は小さく首を振った。
「……えっと、ひょっとして」
「……」
 頷く彼女。うっすらと頬が赤いような。
 誰もいないのか、今日。
「もっと早く教えてよ。せっかくおみやげあったのに」
 高校生らしくないかなとも思ったけど、一応買ってきたのだ。
 右手のビニール袋を掲げる。中にはバタークッキー十二枚入りの箱。
449かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/21(木) 05:10:53 ID:Yy9llZET
「……驚かせようと思ったの」
 今日初めて青川が口を開いた。
 上目遣いにこちらを見つめてくる。ごめんなさい、と控え目ながら目で訴えてくる。
 ……なんかかわいい。
「い、いや、別に怒ってるわけじゃないよ。ちょっと残念だっただけで」
「……?」
「やっぱり挨拶したかったから。彼氏です、ってはっきり言いたかったというか」
「――」
 青川の顔が真っ赤になった。
 別に狙って言ったわけじゃないけど。
 こうした反応を見せてくれるようになったということがなんだか嬉しかった。
 それにしても……
「……」
 青川がこっちを見ている。
 広い家に二人っきりという状況に胸が高鳴る。
 一ヶ月前の告白のとき以来、ぼくは彼女を抱いていない。
 期待してもいいんだろうか。
「青川」
 ぼくは青川の名を呼んだ。
「――部屋、見たいな」

      ◇   ◇   ◇

 彼女の部屋は二階にあった。
 八畳間の広い空間。窓側にベッドが置かれ、机は枕元のすぐ横にある。
 本棚はその隣。教科書やノートが上段に、漫画や小説が下段に綺麗に並んでいて、几帳面にさえ映る。
 ベッドを見ると、大きなペンギンのぬいぐるみがあった。ほとんど球体に近いかわいらしいデザインだ。
 抱き枕?
 ベッドに腰を下ろしてしばらく部屋を見回す。
 なんというか、おとなしい部屋だと思った。片付いているせいだろうか。
 ベッドとは反対の側にクローゼットがあった。中には青川の服がたくさんはいっているのだろう。
 ……何か隠していたりするのだろうか。

 コンコン。

「!」
 ノックの音がぼくの意識を引き戻した。慌てて返事をすると、開けて、と小さな声が返ってきた。
 ドアを開けると、お盆を持った青川が立っていた。紅茶の入ったカップが二つ、盆の上に並んでいる。
 青川はお盆を机に置くと、カップの一つを寄越してきた。
「ありがとう。……何してるの?」
 青川はなぜか紅茶そっちのけで、机の中を探り始めた。
 探し物はすぐに見つかったようだ。
「……ああ」
 振り返った彼女の手にはぼくが貸したDVDがあった。
 中には衛生放送で放映された総合格闘技の試合が収められている。
 彼女はこう見えて格闘技が大好きで、本人も柔術をやっている。
 付き合うきっかけになったのもたまたま一緒に観戦した格闘技の大会だった。
 最近は女の子も格闘技を観るらしいけど、青川の目はかなりマニアックなものだと思う。
 KOや一本の動きよりも、足捌きや寝技でのポジショニングを熱心に観る女子高生を、ぼくは他に知らない。
「おもしろかった?」
 尋ねると青川は楽しそうに笑んだ。
「他の大会のもあるから、今度また持ってくるよ」
 こくこく首を縦に振る青川。
450かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/21(木) 05:15:16 ID:Yy9llZET
 紅茶を一口すする。温かく甘い香りが心地好い。
 青川もぼくの隣に座って紅茶を飲む。ベッドの縁に腰を下ろしながら、ぼくらはほう、と一息ついた。
「……」
「……」
 静かな時間。
 何か喋らないと。ぼくは話題を探す。
「!」
 そのとき、青川がぼくの左手に触れてきた。
 そのままもたれかかるように腕を抱き締める。柔らかい胸がむにゅりと上腕に当たった。
「あ、青川?」
「……二人っきりだね」
 囁く声は猫のように甘い。
「……耕介くん」
「な、何?」
「……抱いてくれるよね?」
「え?」
 ぽつぽつと青川は囁く。
「……あの日から抱いてくれなくて……さびしかった」
「青川……」
「今日は……たくさんして」
 溜まった想いを吐き出すように、青川は訴えてくる。
 ぼくはそんな彼女をとても愛おしく思い、体を正対させて優しく抱き締めた。
「青川……」
「……ん」
 彼女の頬に右手を添え、ぼくは顔を近付ける。
 唇が触れた瞬間、青川は身を任せるように目を閉じ、体の力を抜いた。
 脱力した体を抱き締め、ぼくは青川の綺麗な唇を強くむさぼった。
 真横に結ばれた入り口を舌でノックする。あっさりと扉が開き、相手の舌に出会う。
 ぼくは絡ませるように舌をねじ込んだ。まるでナメクジのようにねっとりと、舌同士が絡み合う。
 溢れ出てくる唾液はやたら甘い。錯覚だろうけど、シロップのような甘さを感じた。
 このままベッドに押し倒そう。ぼくは青川の体にゆっくりと体重をかけた。体が傾いで、互いに横に、

 ――ピーンポーン

 ベルの音が玄関から響いてきた。
 ぼくははっとなって動きを止める。
「……誰か来たよ?」
「…………」
 青川の顔が不満そうに曇った。
 ぼくは体を離して彼女と距離をとった。まさか出ないわけにもいかないだろう。目線で青川を促す。
 渋々といった様子で青川は立ち上がった。
 そのまま部屋を出ていく。邪魔をされたことに彼女は少し怒っているようだった。
 そんなにぼくとしたいのだろうか。
「…………」
 手持ち無沙汰になったぼくは机の上のお茶受けに手を伸ばした。
 チョコチップのクッキーは甘いキスの後ではほんのり苦かった。
451かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/21(木) 05:20:06 ID:Yy9llZET
      ◇   ◇   ◇

 五分程経って青川が戻ってきた。
「なんだったの?」
「宅配便」
 簡潔に短く答える。そしてすぐにぼくに抱きついてきた。
「わっ、ととっ」
 なんとか受け止める。構わず青川はぼくの唇を自分ので塞いだ。
「――」
 なんだか焦っている。どうしてだろう。
 唇を離すとぼくは青川に問いかけた。
「そんなに焦ってどうしたの?」
「……」
「ぼくは逃げないよ。だから慌てる必要なんてないんだ」
「……」
「だからその……」
「……怖いの」
 ぽつりと、彼女は呟いた。
「え?」
「耕介くんが……私に飽きたんじゃないか、って……」
「――はあ?」
 何を言っているのだろう、彼女は。
「なんでぼくが青川のことを飽きるんだよ」
「だって……ずっとしてくれなかったから……」
「……」
 抱いてくれなくて不安になった。
 飽きられたのではないかと危惧した。
 だから積極的に迫った。
 なるほど。理由はわかった。でも、
「……ぼくが青川のことを飽きるなんてありえない」
 青川はわかってないのだ。ぼくが、どれだけ君に惚れているか。
「タイミングが合わなくてなかなかできなかっただけだよ。本当は、ずっと君を抱きたかった」
「……」
「どっちかっていうと、ぼくの方が怖かった。下手に迫ったら嫌われるんじゃないか、って」
「……」
「でももう怖がらないよ。だって――青川もぼくと同じ気持ちだったことがわかったから」
「……」
 青川はうつ向き、何事かを呟いた。はっきり聞き取れず、ぼくは彼女の肩を掴んだ。
「何か言った?」
「……」
 青川は答えなかった。ただ再び顔を上げたとき、双眸からうっすらと涙が流れていて、ぼくは軽く息を呑んだ。
 客観性はまったくないかもしれないけど、彼女の泣き顔はとても綺麗だと思った。
 ぼくは彼女の涙を舐めるように、目元に唇を這わせた。
 塩辛い味の涙は温かく、染み込むように口内に広がる。
 ぼくはそのまま彼女の頬にキスをした。くすぐったそうに青川は目を細めた。
 愛しさに突き動かされるようにぼくは青川の唇を奪った。
 吸い付くように強く口唇を重ね合わせると、青川もそれに応えてくれた。舌を絡めながら、ぼくらはベッドに倒れ込んだ。
 体に押されてペンギンが床に落ちる。ぼくは無視した。今はこっちを抱くのが先だ。
 青川の不安を吹き飛ばすくらいに、精一杯愛し抜こう。ぼくは内心でそう決意した。
452かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/21(木) 05:25:23 ID:Yy9llZET
      ◇   ◇   ◇

 セーター越しにやわやわと胸を揉む。それなりに張りのある乳房は服の上からでも柔らかい。
 青川は肩を震わせながら愛撫に耐えている。
 セーターを捲り上げると、水色のブラジャーが露になった。その上から頂点付近に指を這わせる。
 震えが一瞬強くなった。乳首を狙ってぼくはブラジャー越しに吸い付いた。
「……んっ」
 口から呼気が漏れた。敏感に反応する様子がたまらない。
 両手で双房を鷲掴みながら、ブラジャー越しに乳首を舐める。
 直接刺激しないことが逆に情欲を煽り立てるようで、青川は焦れったそうに体をくねらせている。
「んっ……あ……んん……」
 胸から下に顔を移動する。真っ白な腹からへその辺りを丹念に舐めると、青川はぼくの頭を小さく叩いた。
「い……じわるぅ……」
「ちゃんと触ってほしい?」
 弱々しく頷く青川。
 リクエストに応えようと、ぼくはミニスカートに手をかけた。
 短い裾を捲ると上と同じ色のショーツが見えた。
 既に薄い下着は濡れ始めていた。股間から牝の匂いが立ち込める。
 ショーツを脱がすとぬらぬらと濡れすぼった秘唇が露になった。
 指を伸ばす。触れた瞬間青川の体が強張った。
 縦の割れ目に沿ってなぞる。染みだす愛液が指先にまとわりつき、透明な橋を秘所と指先に作った。
 人差し指を中に侵入させてみる。
「あっ!」
 短い悲鳴が上がった。ぼくは反応に気をよくして、さらに奥に差し入れる。
 中はまるで温泉のように熱く、うねうねとナマコのように動いた。
 側面をなぞり上げるとその動きはますます活発になった。
 ぼくはしばらくその感触に酔いしれた。肉壷をぐちゅぐちゅとかき混ぜる。
「あっ……あんっ、やぁんっ、だめ、こ……すけ、く……あぅんっ」
 青川の悩ましげな喘ぎが部屋の壁に反響する。
 これ以上はもたない。青川じゃなく、ぼくが。
 早く繋がりたいと切に思った。
 この愛液でだらしなく弛緩した肉壺に、自分の逸物を突き入れたい。
 ぐちゃぐちゃに突き入れて、彼女を淫らに喘がせたい。
 ぼくはジーンズを一気に脱ぎ下ろし、トランクスから怒張した性器を抜き出した。
 そのまま一気に繋がろうと腰を下ろすと、青川が両手を突き出してきた。
「ダメ……」
 荒い息遣いの中で予想外にはっきりした声だった。ぼくは虚を突かれて固まる。
「服……」
 服?
「脱いで……」
「……」
 ちょっと意表を突かれた。
 でも言いたいことはわかる。このままやったら服はぐしゃぐしゃになるだろうし。
 ぼくは急いでシャツと肌着を脱いだ。トランクスも脱ぎ去り、十秒で全裸になる。
「……」
 次いで彼女の服も脱がせていく。
 こちらはさすがにすぐというわけにはいかず、二分近くかかってようやく全ての衣服を剥ぎ取った。
453かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/21(木) 05:29:30 ID:Yy9llZET
 生まれたままの姿になったぼくらは、ベッドの上で向き合う。
 ジーンズのポケットから用意したコンドームを取り出す。前は着けなかったけど、やっぱりこういうことはしっかりと、
「……着けなくていいよ」
 固まった。
「……それは」
「……ピル飲んでる」
「……っ」
 ぼくは思わず生唾を呑んだ。
 青川の裸体が横たわっている。呼吸の度に胸が上下している。
 コンドームを併用した方が避妊効果は格段に上がる。
 でも青川の申し出は、そんな理性を跡形もなく剥ぎ取ってしまうくらいの威力を持っていた。
 一ヶ月前の感触を思い出す。生で味わった性の快感。
「……今日だけだよ」
 残った理性の欠片で精一杯の返事をすると、青川は見透かすように小さく笑った。


 青川の熱っぽい視線がぼくの体を下からねめつける。
 それから顔の方に視線を固定し、まっすぐぼくの目を見つめてきた。
 ぼくもまっすぐ見返す。想いをぶつけるように、まっすぐ。
 改めて腰を落としていく。逸物を青川の大事な所目がけて、突き出していく。
 亀頭が割れ目にゆっくりと埋まっていく。粘液がくちゅ、と微かな音を立てた。
 性器同士が徐々に合体していく。襞々が剥き出しの肉棒に絡みつき、強烈な刺激を与えてくる。
「んんっ……ああぁっ……!」
 青川のきつそうな声が耳を打つ。まだまだ経験の少ない彼女には辛い行為だろう。
 だからといってやめる気は毛頭ない。
 肉棒が全て膣内に埋まると、ぼくはしばらく動きを止めた。
「きつい?」
 青川は首を振った。
「痛かったりしないの?」
「……気持ち、いい」
「本当に?」
 尋ねると、青川は不思議そうに呟いた。
「こーすけくん……だからかな……?」
「――」
 好きな人だから気持ちいい。
 そんな幸せな感覚が彼女を、そしてぼくを覆っている。
 こんなに満たされた気持ちになるのは、青川とじゃなければありえないと思う。
 それはきっと、青川も同じだ。
「文花……」
 腰を動かしながらぼくは初めて彼女の下の名前を呼んだ。
 青川は――文花は、ひどく驚いた顔でぼくを見つめてきた。
「……愛してる。文花はぼくのものだから。ぼくだけが文花を好きにできるんだ」
「……」
 文花は華やかな笑みを浮かべると、ぼくの背に両手を回してしがみついてきた。
 強く密着し合う体。柔らかい体の感触はどこまでも温かく、酩酊しそうなほど心地好かった。
 激しく腰を叩きつける。文花の真っ白なお尻にぶつかる度に叫声が起こる。
「んっ……んっ、うんっ、あっ、あんっ……」
 膣内の締め付けはとろけそうな程気持ちいい。
 きついのに抵抗がないというのは不思議な感覚だった。
 文花の柔肌がぼくの性欲をむちゃくちゃにかき立てる。
 お互いの性器をいやらしく擦り合わせれば擦り合わせる程、ぼくらの体は悦楽に浸っていく。
454かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/21(木) 05:33:39 ID:Yy9llZET
 手加減なしにひたすら突き入れていると、やがて限界が訪れた。
「……は、あっ……こ……すけく、……んむっ!?」
 悶える文花の唇を不意打ちで奪う。
 唇を、胸を、腰を、全身を密着させて、ぼくは彼女の体の感触を貪った。
 男根の奥からこみ上げる衝動。それをぼくは遠慮なく奥に吐き出した。
「んんっ……や、ああああああ……ん……あっ」
 精液を一番奥に送り込みながら、ぼくは腰をぐい、ぐい、と押し付ける。
 膣内の粘膜に擦りつけるように、精液をどくどくと流し込み続けた。
 絶頂を迎えたのは文花も同じだったようで、体が跳ね上がるように震えていた。
 ぼくの精液を奪うように下から腰を押し付けてくる。ぼくもそれに応えて、互いに下半身を押し付け合った。
 衝動がようやく収まり、脱力感が全身を襲った。ぼくは文花と繋がったまま、体重を彼女に預ける。
「は……」
「……」
 息遣いを間近で感じながら、ぼくは彼女の放心した顔を見つめた。
「耕、介くん……」
 息も絶え絶えにぼくの名を呼ぶ文花。ちょっと重いのだろうか。
 その顔は風邪をひいたように熱っぽく、赤い。潤んだ瞳は宝石のように綺麗だった。
「……大好き」
 小さな呟きがぼくの脳を揺さぶった。
 そんなこと言われると……
「文花」
 ぼくは体を起こし、繋がったままの腰を再び動かした。
「あっ」
 ゆっくりとピストンを再開する。出したばかりなのに、逸物はもう硬さを取り戻していた。
「んん……ダメェ……」
 か細い声で文花が抵抗する。でもぼくに止まる気は全くなかった。
「たくさんしてって言ったのは文花の方だよ?」
「そ、そうだけど……」
「ごめん文花、もう一回だけお願い。あと一回だけだから」
「……」
 黙り込む文花。
 スイッチの入った欲望を止めることなどできなかった。釘を打つようにぼくは男性器を中に突き入れていく。
「……もうっ……ばか」
 諦めたように文花はぼくを抱き締める。
 受け入れてくれた様子を見て、ぼくは心置きなく彼女の体を愛し始めた。
455かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/21(木) 05:37:19 ID:Yy9llZET
      ◇   ◇   ◇

 一時間後。
 ぼくらは青川家のお風呂場にいた。
 お湯の張った浴槽の中で、ぼくらは一緒になって体を沈める。
「温かいね」
「……」
 ぼくは彼女の体を後ろから抱えるような姿勢だ。しっとりと濡れた黒髪が目の前で輝いている。
 ちょっと狭いけど、こうして一緒にいるだけでぼくは嬉しかった。
 文花もどこか嬉しげで、その顔に小さく微笑を湛えている。
 ちょっと意地悪をしてみる。
「ねえ。……ここでしたい、って言ったらどうする?」
「!?」
 文花が驚いたように振り向いた。お湯がその勢いに押されて浴槽から溢れた。
「イヤ?」
「…………」
 のぼせたように真っ赤になる。倒れてしまうんじゃないかと心配になるくらい、彼女は赤面した。
 かわいいな、本当に。ずっとこうして一緒にいたい。
「文花。まだ怖い?」
「……」
 彼女は答えない。
 不安を取り除くことができたのだろうか。ぼくは後ろから文花を抱き締める。
 そのとき、文花が言った。
「……まだちょっとだけ、怖いかも」
「……あー、えっと……」
 そんなことを言われたら、どうすればいいのだろう。
「……まだぼくのこと信用できない?」
 文花は首を振る。
「そうじゃなくて……耕介くんのこと、もっともっと好きになっちゃいそうで……気持ちを抑えられないのが、怖いの」
「…………」
 熱っぽく語る彼女らしからぬ様子に、ぼくはぞくりとした。
 怖いんじゃない。嬉しいんだ。
 ぞくぞくと興奮する程に嬉しいんだ。
「そんなこと言われたらもっと好きになっちゃうよ?」
「……じゃあもっと言う」
 文花は体の向きを変えて、こちらに相対した。
「好き……大好き。耕介くんが、大好き」
 タガが外れっぱなしなのか、文花は何度も言葉を重ねた。
 嬉しすぎて困る。これに応えるにはどうすればいいのだろう。
 ぼくにできることなんて一つくらいしかなかった。
「……じゃあもっと好きになってもらえるように、ずっと一緒にいるよ」
「――」
「そうしたら文花はぼくのこともっと好きになってくれるだろうし、ぼくももっと文花のこと好きになれる」
「……」
「それでどうかな?」
 なんかずいぶん恥ずかしいセリフだけど、これくらいが彼女にはちょうどいいと思う。
「…………」
 うつ向く文花。
 湯けむりの中で、やがて彼女は微かに頷いた。
 顔を上げたときにはもうその目に不安はなく、文花は花のように綺麗な笑顔を咲かせていた。
 そんな彼女に向かって、ぼくは改めて小さく言葉を贈った。


 これからもよろしく――
456かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/02/21(木) 05:41:18 ID:Yy9llZET
えーと、投下終了です。今回は投下失敗してない…よね?
久しぶりに青川さんを書いてみたくなったので書きました
一年ぶりに書いたのでちょっとキャラ変わってるかも…
457名無しさん@ピンキー:2008/02/21(木) 07:29:55 ID:fAkrqBuO
朝から元気が出てきたw
よし、今日も頑張るぞと
458名無しさん@ピンキー:2008/02/21(木) 08:22:56 ID:kXxmH4iI
かおるさとー氏キテター!!
いつもクオリティ高くてGJ!!
459名無しさん@ピンキー:2008/02/21(木) 13:48:26 ID:N0wcUs5Q
うおおおおおおおおおつつおおおですsss
460名無しさん@ピンキー:2008/02/21(木) 20:12:00 ID:Nd8xPNww
容量もレスも500・・・まさかこれがラスト?
461名無しさん@ピンキー:2008/02/21(木) 22:14:25 ID:S7DPa/yz
おしまい……?
また……次の……スレで……逢えるよね………?
………またね。
462名無しさん@ピンキー:2008/02/21(木) 22:18:50 ID:hTt3rhTl
埋め
463名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 00:36:23 ID:uSzWMfos
>>460
みなそう思いつつも、自分がスレを埋めてしまうのではないかと恐れるあまり
それを確かめることもできずだたモニタの前で悶々としているのではなかろうか。
464名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 01:00:32 ID:74bPwPRL
……まだ、埋まって……ないの?
465名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 01:01:46 ID:kO7vuhJi
埋め
466名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 01:18:36 ID:bFvn+Zcx
埋め
467名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 08:51:39 ID:Sua92Z/n
……大好き
468名無しさん@ピンキー
人に思いを伝えるというのは大変である。
自分の考えを性格に言語化するだけでも苦労するし、
口にしたとしてそれが相手に自分の意図したように伝わるのは稀である。
人はとかく面倒なのだ。
特に自分は口が上手くない。
声もあまり通らないので会話をしにくいとよく言われる。
こんな自分がどうすれば彼に自分のこの思いを伝えられるだろうか。
手紙が一番かと思う。しかしやはり正面から言ってみたい。
うん。やはり口頭が一番だ。
ならなんと伝えよう。一から十まで説明すると時間が掛かりすぎる。
それに自分にもできるようにできるだけシンプルにするべきだ。
やっぱりこれが一番だろう。

……大好き