3 :
名無しさん@ピンキー:2008/07/17(木) 01:04:14 ID:Xvq3NgHu
卓上でもぬるぽ
∧_∧
( ・∀・) | | ガッ
と ) | |
Y /ノ 人
/ ) < >__Λ∩
_/し' //. V`Д´)/
(_フ彡 /
>>3
乙〜
そして前スレラストの斬撃の人GJ!
やはり、アレによる生命維持(?)は王道ですよねー
アレッ、もう次スレ!?
1乙。
〉前スレ斬撃サマ
ご安心ください。ぷちべるは信じてたようにイイ子です(笑)。
ていうか、戦闘描写熱い!
緊迫感とかなんか色々、ああもう、うまく言えないけどこういうの憧れるなあ、と。
戦闘シーンをこういう風に書けること、素直に羨ましいです。
エリスのヒロインっぷりも、イイ!
読んでいて、嫁(くれは)の存在忘れたくらい(笑)。
GJでした!続き待ってます!この際もうHがあってもなくてもいいってくらい!
8 :
侵魔奉仕者1/2:2008/07/17(木) 16:07:57 ID:rdlquCZY
「……は、あ……んん……」
――これは誰の声だろう?
少女は熱に浮かされた思考で疑問を浮かべた。
霞む視界の先では、見慣れた輝明学園の制服がはだけ白く艶かしい肌を露出させている。そこに覆い
被さるように蠢く褐色の肢体――三つ編みが揺れる赤い髪、眼鏡の奥には濡れた輝きを放つ青い瞳、そ
してその笑みのこぼれる口から覗く鮮血のように真っ赤な舌は白い肌を這いまわっている。
「あ、あああ、は……っ」
少女はその光景に獲物を捕らえた雌豹がその肉を味わう前に弄っているような――純粋な快楽として
の嗜虐を連想させた。
では、獲物の方はどうなのだろう? 雌豹の両肩に触れた細い左右の手は押し戻そうともがいている
様にも見える。だが、それはあまりにも弱く、ともすれば相手の嗜虐に火をつけようと試みている浅ま
しい行為にも見える。
「は、ああ、だ、め……え……」
雌豹が、不意に少女へと視線を向けた。
唾液の線が尾を引きつつ、獲物の肌から離れた口から言葉が放たれる。
「駄目、なのですか? ご主人様……私の奉仕は、下手だったでしょうか?」
奉仕――先ほどまでの行為をそう呼ぶならば、どんな暴力だって優しい抱擁のようなものだ。
他人からの愛撫の経験もない、一人で慰めた事しかない体に与えられたその快楽は、どんな拷問より
も人間としての尊厳を破壊し、心を残さず蹂躙し尽くす。
だからこそ、少女は――最後の砦であった、傍観者という立場さえ堕とされ、自らの意志で言葉を吐
かされる。
「…………気持ちいい、エイミー……っ」
「――ありがとうございます、ご主人様」
9 :
侵魔奉仕者2/2:2008/07/17(木) 16:08:45 ID:rdlquCZY
侵魔召喚師――少女は、そう呼ばれるウィザードだった。
裏界に住まう魔王たちと契約を交わしその邪悪な力を借りる、かつての偉大なる魔術師サロウォンの
御技を受け継ぎし者である。
少女に思い出せるのは、新たなる契約を交わそうと契約の儀を行った――そこまでだ。
身に付けようとしていたのは誘惑者の奉仕、“誘惑者”エイミーを召喚する魔法だった。
準備は万端だったはずだ。召喚する相手を拘束する魔法陣、契約に必要な呪物、召喚する相手が魔王
であるならなおのこと、一つの過ちもなかったはずだ。
なのに、何故――。
● ● ●
「よくお似合いですわ、ご主人様――」
エイミーの上機嫌な声に、少女は耳まで真っ赤になる。
頭にはフリルのついた髪飾り、黒一色の飾り気のないブラウスとロングのジャンパースカート、それ
に純白のロングエプロン――そして、リードに繋がれた首輪
目の前の“誘惑者”と同じ装いの少女が、そこにいた。
「さあ、参りましょう? 皆様もお待ちしてますわ」
「…………はい、エイミー様」
少女の口を自然とついて出てくる従属の言葉。
それは、人としての尊厳や誇りを快楽に売り渡した、堕ちたウィザードのものだ。
エイミーに引かれてたどり着いた先、裏界の名だたる魔王たちの集う大広間で少女は跪き、懇願する。
「魔王の皆様、どうかこの身の力を存分にお使いくださいませ……そ、そして、どうか、僅かばかりの
ご寵愛を……」
その言葉が終るより先に、少女を引き寄せたのは誰の手だったろう? いくつも伸びる手、淫猥に満
ちた無数の笑い声、絶え間なく与えられる人間を超えた快楽に、少女は溺れていく。
そうして、少女は――侵魔召喚師から、侵魔奉仕者へと堕ちていく……。
10 :
侵魔奉仕者:2008/07/17(木) 16:16:02 ID:rdlquCZY
NW2の“誘惑者”エイミー×クイックスタート侵魔召喚師です。
カッとなって書いてみました、すみません。
一番肝心なところが抜けておる気がプンプンしますが、そこは皆さんの妄想力で補填していただけると、
助かります……駄目ですか?orz
機会があったら、濃厚な調教シーンを書き加えてあげたい……と思います、はい。
お目汚し、失礼いたしました〜。
>>10 さま。
その妄想がSSへの第一歩です(笑)。
では、こちらも妄想に結末を(笑)。
異界の空を覆いつくしていた、膨大な質量の闇が晴れていく。
二つの闇の衝突は一瞬の出来事で、より巨大な闇に駆逐された闇は、大魔王の仮
初めの肉体とともに爆ぜ、このわずかな時間の攻防をすべてのウィザードが、そして
すべてのエミュレイターが、心を奪われたかのように彼方の空を見上げていた。
その放心から真っ先に我を取り戻したのは、ロンギヌスのオペレーターの一人であ
る。
プチベルが大魔王ベール=ゼファーを撤退せしめた直後の戦況が、拡声器によって
いち早く、テラス中に放送される。
「敵残存総数二千八百 ! 敵密集隊形は、ほころび始めています ! 」
歓喜と興奮に声が震えている。
その報告に希望を取り戻し、勝機を見出したロンギヌスたちが、自分のブルームを構
え直し、まとまりを欠いて散り散りになったエミュレイター勢に追い討ちをかけた。
飛び交う魔術、閃く剣閃。戦意を失い、恐怖に駆られた敗残の徒を殲滅するのに、
それほど長い時間がかかるとは思えなかった。上空からゆっくりと、まるで重さなどな
いかのように、ふわふわとテラス目指して降りてくるプチベルも、ロンギヌスの戦闘に
大いなる手助けをしてくれている。いっそ優雅にさえ見える下降。その中途で、プチベ
ルが虚空に手をかざし、そこから新たな闇が産み出されるたびに、百体単位でエミュレ
イターが消滅していくのだ。
「敵残存総数二千 ! 千八百 ! 」
もはや、その報告はエミュレイター軍壊滅のカウントダウンをしているに等しかった。
プチベルの姿が、地上で待っている柊たちの目にもようやくはっきりと見え始めた頃
には、アンゼロット宮殿のロンギヌスたちの半数以下に敵は減っていた。
柊とくれはが、並んで少女の帰還を待つ。背後に控えたロンギヌス・コイズミが、掃
討戦の陣頭指揮を執るためにその場を立ち去ろうと振り返りざま、ぎくりと仰け反った。
「エ、エリス様 !? 」
その声に思わず柊たちも振り返る。息を切らしながら、いまだ血風吹き荒れ死臭漂う
戦場へと、青い髪の少女 ---- 志宝エリスが走り寄ってきていた。燃えるように熱い呼
吸を漏らし、汗で額を濡らしながら。おぼつかない足つきで、何度も転びそうになりなが
ら。瞳にうっすらと涙を浮かべ、必死で走る。
切羽詰った表情に、なにごとか、といぶかしむ間もなく。
「ベルちゃーんっ !! だめっ !! もうそれ以上力を使っちゃだめーっ !! 」
上空のプチベルに向けて声の限りに呼ばわった。
その声には深い悲しみと、喪失の予感がこもっている。柊がプチベルを振り仰いだ。
くれはが、テラスを駆け出した。コイズミが、駆け寄ろうとしてついに転倒しかけたエリ
スの身体をすんでのところで抱きとめる。背後には、皆の気づかぬうちにいつの間にか
テラスへと登ってきていたアンゼロット。
そして。
プチベルが -------- 。
その小さな身体から淡い黄金の輝きを放ちながら。
テラスへと ---- 降り立った。
とん、と爪先がテラスの床に触れる。
重力の束縛から、プラーナの力で逃れていたはずのプチベルの身体。
それが地表へ降り立った瞬間に気が緩んだのか。よろけ、膝をつき、小さな手のひ
らでくず折れる身体を支えようと両手を地につき、しかし懸命に伸ばした肘が折れ、や
はり自身の身体を支えきれず ----
あまりに無様に。あまりに滑稽に。あまりに悲しく。
プチベルは ---- 朽木が倒れるように、床にうつぶせに倒れ伏した。
「ベルーっ !! 」
「はわっ、ベルちゃんっ !? 」
「しっかりして、ベルちゃんッ !! 」
異変は、すでに起きていた。柊が声を張り上げ、くれはが叫び、エリスが涙声で、こ
の小さな小さな、勇敢なる少女の名を同時に呼んだ。
ふるふると、身体が震え。大きなものなど掴めない、そんな子供の手で必死に床を
探り。ともすれば、なにもかも支えを失いそうな全身の関節に鞭打って。
起き上がろうとしていた。ただ起き上がるだけ、という行為に、少女は全身全霊を注
いでいた。
駆け寄ろうとした柊たちの足が ---- なぜかぴたり止まる。
いや ---- なにものかに止められた、といったほうが正確であろうか。
助けなければ。駆け寄って、その身体に手を添えて、助けてやらなければ。
皆が皆、そう思いながらも、手を差し伸べることができなかった。
子供なのに。小さな女の子なのに。倒れたまま、寝ていれば、この場にいる誰もが
手を差し伸べようとするはずんのに。それなのに。自分で起き上がろうとしている。
誰の手も借りずに自分ひとりで起き上がろうとしている。
今さらながらに思い出す。この少女は誇り高く、そして気高いのだ。ただ転んで、起き
上がるだけの行為に ---- たとえ自身が力尽きようとしているときでさえ ---- 人手を
借りることを凄烈に、無言で拒んでいるのだ。
ここで手を差し伸べることは、プチベルの誇りを傷つけること。
無意識に感じたその想いが、柊たちの歩みを止めた。
柊が奥歯を噛み締め、立ち上がろうとする少女を見守る。
くれはが両手を口に当て、こぼれそうになる嗚咽を必死でこらえている。
エリスは涙を隠そうともせず、頬から顎へと伝う熱いものを拭いもしなかった。
アンゼロットは ---- 眩しいものを見るように、プチベルを見つめ続けている。
眩しすぎる光は、それゆえに目をそらしたくなるものだ。だが、この光からは目をそら
してはならない。どんなに眩しくても。その眩しさゆえに両の瞳を焼こうとも。
幾対もの視線の見守る中。
随分と長い時間をかけて、ついにプチベルは立ち上がった。
膝が震えている。重心を失ったように、身体が前後左右に揺れている。見るからに
危なげな立ち姿でも ---- たしかに少女は自分自身の足で。自分自身の足だけで、
その場に立っていた。
湯気が昇るように、上空へふわりふわりと放たれているのは、プチベル自身の持つ
プラーナの輝きであろう。いくら、自らの意志でエミュレイターに戻ったとはいえ、大魔
王の写し身となったとはいえ、本体であるベール=ゼファーの放つ闇を凌駕するほど
の闇を生み出した代償は、確実にプチベルの存在の力を蝕んでいた。
「ありがとう、は ? 」
意外にしっかりとした声で、プチベルが言う。それが自分に向けられた言葉だと気づ
くのに数秒かかって、ようやく柊が、
「なん・・・だって・・・ ? 」
かすれた声でそう訊いた。
アンゼロットが、はっとなる。
執務室でのプチベルとのやり取りが、まざまざと脳裏に甦った。
(・・・おれい、いいなさいっ、て)
(え ? )
(わたしのこと、いろいろかんがえてくれり、まもってくれようとしてるからって。だから、
わたしのためにしてくれるひとにはおれいをいうんだよ、ってひいらぎれんじがいった)
・・・・・・・・・・・。
「柊さんったら。ご自分でこの子に教えたことじゃありませんか。誰かが自分のために
してくれたことには、お礼をきちんと言うこと・・・って、そう言ったんじゃありませんか ? 」
ちょっとおどけて、いつもと変わらぬ口調のままで、アンゼロットが柊をたしなめた。
そうでもしないと、この健気な少女の言葉に、自分が泣き出してしまいそうだった。
だからわざと、ことさら平静を装い、
「助けてくれてありがとうございます、ベルさん。わたくしからもお礼を言いますわ」
深々と頭を下げる形のお辞儀をした。そして ---- その姿勢のまま数秒。普段の、
なんでもない表情の仮面を作り直すのに、アンゼロットがかけなければいけなかった
時間が、彼女のお辞儀の時間であった。
「そ、そうだよな、俺が教えたんだよな。へへ、悪かった。自分で教えといて、お前に
注意されてりゃ、世話ねえな」
鼻の下を人差し指でぐしぐしとこすり。
「アリガトな、ベル。助かったぜ」
柊が微笑みながらプチベルに頭を下げる。
「・・・よし。よくできました、ひいらぎれんじ」
一歩、また一歩。プチベルが震える足で柊に歩み寄った。柊が大きな一歩を踏み出
し、その前に片膝をついた。なにかあれば、プチベルの身体をすぐに抱き止められるよ
うに。
膝をつき、目線の高さを同じくした柊の頭の上に、なにか温かいものが乗せられた。
それは ---- プチベルの ---- 手のひら。
弱々しく。緩慢に。さわ、さわ、と髪を触られる感触。
「よーくできました・・・えらいわね・・・ひいらぎれんじ・・・よし・・・よし・・・」
蚊の泣くような声で。聞き取れないほどの声で。プチベルが精一杯の微笑を浮かべ
ながら ---- 柊の頭を撫でていた。柊を、褒めていた。
子供のとき、なにかいいことをすると、こうやって大人に褒めてもらったっけな ----
ぼんやりと、柊はそんなつまらないことを考えていた。
エリスが肩を震わせながら、そんな二人を見ている。涙でなにも見えないが、それで
もエリスはしっかりと二人を見つめていた。くれはも、もはや涙を流すことに遠慮はして
いなかった。滝のような涙を流しながら、子供のように泣いていた。
「・・・じゃあね・・・ひいらぎれんじ・・・わたし、もういくわ・・・」
ひとしきり柊の頭を撫で、その感触を自分の手に十分に記憶させるように。
その儀式を終えたプチベルが、最後の別れの言葉を紡いだ。
「おいっ、待てよっ、ベル !! 」
「わたし、えみゅれいたーだから。ひいらぎれんじとは、いられないわ。それにちょっと
がんばっちゃったから、もうここにはいられないとおもうの」
プチベルの姿がかすむ。不鮮明な、まるでホログラムの映像を見ているかのように
薄れていく。
「どうにかできねえのかっ、どうにかならねえのかよっ !! 」
それが自分に向けられた言葉であることは嫌というほど分かっているアンゼロットで
ある。しかし、答える言葉を与えることは出来ないのだ。それは、自分だけではなく、
柊も、くれはも、エリスも本当は分かっていること。
エミュレイターであるからウィザードや普通の人間と一緒にいることは出来ない。
これは、覆すことの出来ない真実なのである。
エミュレイターである以上、他者のプラーナを奪わなければ存在できないのは自明の
こと。共存できないのは言うまでもないことなのだ。
でも。
それでもなお。
プチベルは大好きな人たちを守るために、その選択を選んだ。
覚悟をして。すべてを受け入れて。なにもかも、認めた上で。
それは、この小さな女の子が自らの存在を懸けて選んだこと。
優しさ。尊厳。誇り。そして、彼女の愛 ---- そんなものすべてに誓って選択したこと
なのである。
なんとかできるならばしてやりたい。だが、それを願って駄々をこねるようにじたばた
することは、プチベルの覚悟を侮辱することではないだろうか。
だから、アンゼロットは思う。
さっきわたくしがしたように ---- 柊さんがしたように ---- ただこう言えばいい。
「どうも、ありがとう」、と。
泣きじゃくりながら、くれはが、エリスが、口々に「ありがとう、ありがとうね」と、なに
を言っているのか不鮮明な発音で御礼をする。それはきっと涙と嗚咽が混じったせい
であり。
プチベルが、そのお礼の言葉に、鷹揚に頷いた。
柊もアンゼロットも、最後に、
「本当にありがとうございます、ベルさん」
「おう。たいしたガキンチョだぜ、お前・・・・・・ホント、アリガトな・・・」
そう言った。
そのひそやかな別れが終幕を迎えようとしたとき -------- 。
「全隊、整列ーーーーーーっ !! 」
大音声で号令をかけるコイズミの声。
はっと、顔を上げるプチベル。振り返る、柊たち。
そこには。
幾十の。幾百の。ロンギヌスメンバー一同が、横一列に直立不動で立っていた。
さっきまで戦っていたもの。傷つき、血を流しているもの。仲間の肩を借りて、ようやく
立っているもの。
彼らが皆一様に、仮面の下に浮かべているのは畏敬と感謝の気持ちに他ならない。
コイズミが、敬礼の形で手をこめかみに持っていこうとして ---- はたと、それをやめ
た。なにをしようとしているのだ、私は。敬礼などとは無粋千万。やはりこの場に相応し
いのは一糸乱れぬ最敬礼などではなく -------- 。
「ありがとうございます、ベル様 ! 」
コイズミに続いて幾十の、幾百の感謝の言葉がテラスを飛び交う。
「ありがとう」「どうもありがとう」「ありがとうございます」「ありがとう」・・・。
その声たちは、ばらばらでまとまりがなかったが、最敬礼で送るよりもどれほど温か
い別れの言葉であることか。この場にいる全員の感謝の言葉を受けて、プチベルが
うっとりと至福の微笑を浮かべた。
「・・・うふふ・・・あー、いいきもちー・・・うん・・・うん・・・もうじゅーぶん・・・かな・・・」
と、寂寥に満ちた呟き声。
「・・・・・・それじゃあね。ひいらぎれんじ。ばいばい・・・」
霞み、朝霧のように、風に流れ、たなびく細い雲のように。
プチベルの姿が消えていく。
存在を、失って。
時が経てば、この小さな少女のことは忘れ去られてしまうのだろう。プラーナを喪失し
ての消滅とは、そういう意味だ。だからこそ、最後までその瞳に焼き付けよう。
忘れてしまうかもしれない。
でも、できれば。
できることなら忘れないように。
(・・・・・・それじゃあね。ひいらぎれんじ。ばいばい・・・)
その言葉だけが、木霊のように、テラスに残っていた --------- 。
※
※
※
数週間後。
アンゼロット宮殿。
テラスにしつらえられた白い丸テーブルは、この宮殿の主が紅茶の時間を楽しむの
に、よく利用する場所である。香り豊かなジャスミンティーをこくり、と飲みつつ。
「コイズミ〜 ? まだお茶請けの用意は出来ないんですの〜 ? 」
“世界の守護者”という通称の仰々しさ、“真昼の月”という二つ名の麗しさとは縁遠い
だらだら間延びした声で。
アンゼロットは側近のロンギヌス・コイズミに文句を垂れた。
「は、お待たせいたしました ! お喜びください、アンゼロット様。本日はなんと、エリス様
からお届けいただいた、焼きたてのマドレーヌがございます ! 」
「まあっ ! それを早くお言いなさい、コイズミ ! ほんとにもう、気が効きませんわね ! で
も、エリスさんのマドレーヌに免じて許して差し上げますわ ! 」
「はっ ! ありがたき幸せにございます ! 」
主が主なら臣下も臣下。
二人揃って、浮かれに浮かれている。
主は、お茶請けのマドレーヌに舞い上がり、臣下はお菓子を届けてくれたという青い
髪の少女に久しぶりに会えたことで舞い上がっていたのだった。
「さあ、早く用意を・・・ああ、もう、いいですわ ! その箱をこちらへお寄越しなさい、コイ
ズミ ! わたくしが自ら開封しますっ ! 」
コイズミの手からマドレーヌの入った箱を奪い取るアンゼロット。
厚紙に、可愛らしいウサギの絵柄がプリントされたケーキ用の菓子ケース。
うきうきわくわくしながら、その箱を手ずから開けたアンゼロットが、中身を覗きこんで
硬直する。
菓子箱の中にはマドレーヌ。
きちんと並んだキツネ色のお菓子が、十と一個。
整然と並んだ十個のマドレーヌと、その脇に、列からはみ出したようにたった一個の
マドレーヌ。
「い、いつもより一つ多いですね・・・も、もしかして、エリス様・・・私のために・・・ !? 」
「そんなわけありますか」
びしりと突っ込むアンゼロット。
菓子箱の中から、一個余分なマドレーヌを取り出して、アンゼロットは立ち上がる。
どうして、エリスがいつもより一個多くマドレーヌを焼いたのかはアンゼロットにもわか
らない。
だけど ---- でも ----
きっとそうすることが相応しいことのような気がして -------- 。
「ア、アンゼロット様・・・ ? 」
テラスの手摺に手をかけて、アンゼロットはマドレーヌを虚空に投げた。
放物線を描きながら、宮殿を囲む異界の海へと、お菓子がひとつ、落ちていく。
その様子を、しばらくの間アンゼロットは眺め続けていた。
(まどれーぬ、やくそくよ ? )
小さな女の子の声が聞こえたような --------
そんな気がした -------- 。
(了)
いつもよりも短いですが、そこはエンディングということでご容赦いただいて。
最終回でございます。
長らくお付き合いいただいてどうもです。
またネタが浮かびましたら、いつか。
ではでは。
GJ!!
涙目の俺キモス
グッジョブ。
なんと言う誇り高き幼女。
やばい、モニターが霞む…
御達者で。
気高いなぁ・・・すごすぎる
GJ!
ごちそうさまでした
良い一品でした
気高いね、プチベル
それに引き替えポンコツでカスな扱いの本体ときたら
ま、今回の作品ではそれなりにアンゼロットをいじってくれた分マシだけど
>>22 >ポンコツでカスな扱いの本体
プチベルたん時代から延々ヨゴレ役
こんなにスレてしまった本体カワイソス・・・・゚・(ノД`)・゚・
感動をありがとうございますプチベル様
グゥレィトゥGJ! 誇り高き小さな大魔王万歳!
そして……
> 「全隊、整列ーーーーーーっ !! 」
男だぜコイズミ! ロンギヌスの面々もいいなぁ……
コイズミは、産まれた時から男だぜっ!
…多分。
仮面を外すと美女になったりは…
…しないよね?
コイズミ「ウィザードの神秘で仮面をとったら美少女であるという新設定がついたでごわす」
こうですかわかりませry
>>27 セブンフォートレスなら、普通に付きそうな特徴だな。
仮面を取ったら幼女になる呪いをかけられたコイズミだとッ!?
エリスにお風呂に入れて貰ってウハウハですねッ!?
>10
アレだ、大好物なシチュなので是非詳細を頼む。
>>エリスにお風呂に入れて貰ってウハウハ
そのシチュだと『コイズミに呪いをかけた敵に襲撃されて胎児にまで戻されてしまうエリス』を思い浮かべてしまう
>>31 で、その敵はコイズミと知恵比べして負けた挙句、子供に戻っても強かった柊に
殴り倒される、と?wwwww
>>32 それなんていうジョジョ
ところで唐突だか、やっぱりさなえはエロイな(発想的な意味で)
>チビラギが敵をフルボッコ
敵「柊ーッ! お前がウィザードに覚醒したのは二、三年前!!
つまり、子供の頃は月衣を張れなかったって事だ!」
敵「ベル様ッ(仮)! この俺が“神殺し”柊を倒すんです! プラーナは弾んでもらいますぜー!」
ボゴッ
敵「な、何・・・」
柊「やれやれだぜ。こちとら姉貴に散々鍛えられてんだ。
・・・ガキだからって舐めんなよ」
うろ覚えであれだがここまで一気にイメージが思い浮かんだ
>>34 ちびらぎの敵フルボッコ……そんな話あったなぁ、卓上作品スレだっけ?
まぁ、あれは子供に戻った柊じゃなくて子供時代の柊の話で、今出てる設定だといろいろ矛盾が生じるわけだが
>>34 それだったら、
京子お姉さん本人の方が、説得力があるよーな…
>>32 そこはアレだよ、obsんに戻ったアンゼ様が(以下自粛
>36
ソレはどっちかというと幽遊白書だな
第二次ベル VS アンゼロットを読んだんだ
そしてちょっと過去ログを見てたんだ
一桁ベル様に攻めシチュも受けシチュもコンプリートさせたこのスレに驚愕
なんてこった!
エミリアに激しく萌えたわけだが、オーヴァードだから実験で研究者にいたずらされちゃうネタ不可。
対抗種だからオーヴァード同士も無理っぽい。
ちくしょうちくしょう!
ならば一人寂しく自室でこっそりいたしてる妄想をだな!
後は薬物や催眠で正常な認識を阻害して虚ろ目で研究者に弄られたり。
測定の為に羞恥プレイにしか思えない実験をやらされたりだな。
…書けんな…文才とかそういう色んなものがない俺ざまぁorz
ふと、気づいたが…
Xナンバーズって06も出てきてないよな…?
それはともかく。
ニーラムのエミリアへの執着っぷりは結構アレなのでちょっと考えてみた。
…じつは『被虐』の衝動も持ってるとか…
さりげなくスキンシップしては対抗種の力に焼かれてはふんはふんしてたとか。
…なんかまぬけなw
X06はピクシーじゃないかなにやってんだじぶんー!<確認した
えーと、エミリアとアイヴィは顔見知りっぽいし、危機感のないエミリアに苛立った12歳アイヴィの凌辱劇とか、
アイヴィを捕まえる時のオーヴァード部隊による味見とか……
……俺はアイヴィをSにしたいのかMにしたいのかどっちなんだ
>>41 先にゆにばーさるを読んだせいか、ニーラムはヤンデレという妄想が…。
エミリアを連れて帰れてたら、監禁とか軟禁とかしそうなイメージに。
45 :
妄想えくそだす:2008/07/20(日) 16:03:30 ID:Q5uPYY2b
エミリアは幻視する。
自分を取り囲む “世界” のイメージを垣間見る。
世界の中に世界があって、その世界の中にもっと小さな世界がある、という揺ぎ無い
イメージだ。
その “世界たち” の境界線は堅牢であり、決して打ち崩されることはない。広大な
海という世界の中に、絶海の孤島という世界があり、実験棟という世界の中には与え
られたXナンバーズの個室という、これまた小さな世界が存在している。
世界が、より小さな世界を自分の中に押し込め、従属させ、囲い込み、束縛する。
Xナンバーズという囲いに押し込められた自分を、ファントムセルの無機質な建物が
包み込む。少女を捕らえるその鳥篭にしたところで、所詮はこの広大な海という牢獄
に捕らえられた虜囚に過ぎないのだ。
「・・・どーして、もっと自由でいちゃいけないんだろう・・・」
エミリアは独白する。
少女一人が生活するには十分すぎる広さの、個室という “牢獄” で。
互いが互いを束縛しあい、自分と他者の間にすら境界線や砦を築き上げ、がんじが
らめになっていく。ローマにいた頃、母親と暮らしていた頃には、こんなことはなかった
のに。エミリアの、持ち前の明るさ、奔放さをもってしても、この薄暮の闇を思わせるX
島の陰鬱な雰囲気には辟易させられる。
初めて連れてこられたときは、自分に秘められた力を開花させてくれる研究施設が
ここなんだ、って嬉しく思った記憶がある。だけど、そんな思いは最初の二週間で打ち
砕かれてしまった。
繰り返される実験。過酷な戦闘訓練。自分と同じく、連れてこられた人々が、週単位
どころか日単位で現れては消えていく、という言い知れない不安感。他者から容赦なく
浴びせかけられる恐怖の視線。
うんざり。もうこんなところいたくない。ママ。会いたいよ、ママ。
近頃ではそんなことばかりを考えている。
エミリアの、ともすれば沈みがちになってしまう気分を、なんとか普段の快活な彼女
に繋ぎ止めてくれるのは、ここへ来てからできた優しいお姉さん ---- X07、ニーラム
の温かい笑顔や言葉、それにスパイスたっぷりのカレーの味。
それと ---- 。
「マーク・・・・・・・」
この秘密の施設で、自分と同じ年頃のただ一人の少年。とても優しい ---- いや、と
ても “優しかった” 少年だけだった。
初めのうちはとても気さくに話してくれた少年が、どことなく変わってしまったように感
じられるようになったのかは、実はエミリアもよく憶えていない。彼女の天性の明るさを
いつもどことなく眩しそうに見つめながら、エミリアのとりとめもないお喋りを聞いていて
くれた少年の瞳の色には ---- いつしか暗い炎が灯り始めていた。
それが恐怖や嫉妬や激情の、不恰好にごちゃ混ぜになった感情の顕れだ、と気づく
には、エミリアはまだ子供過ぎたし ---- また、天真爛漫すぎた。
一方的にお喋りをするエミリアに微笑んで頷いてくれていたのが、そのうち話を早く
切り上げてそそくさと立ち去ってしまうようになり。声をかけようとする彼女に、わずか
な狼狽の色を見せながら、急ぎの実験があるからと口実を作って話もさせてもらえな
いようになり。エミリアの姿を意図的に見えないふりをしたり、呼びかけても聞こえない
ふりをして。
ついには、あからさまに迷惑そうな、敵意のこもった視線を向けるようにまでなってし
まったのである。
46 :
妄想えくそだす:2008/07/20(日) 16:04:00 ID:Q5uPYY2b
「・・・マーク・・・いつのころからかな・・・あたしのことまた、“08”って呼ぶようになった
の・・・」
人格も、個性もありはしない。無機質で、味気ない呼び名。Xナンバーズと呼ばれる
彼女たちをただ、製造順に識別するだけの個体名。
そんな名前で呼ばれることが、悲しい。プロフェッサー・アマガや研究施設の人間た
ちにいくら番号で呼ばれとしても、マークに番号で呼ばれるのは、少し、辛い。
エミリアが ---- 彼女の常識や観念を吹き飛ばすほどの衝撃的な光景に出くわした
のは、そんな煩悶を抱えていたある夜のことだった。
※
※
※
なんとなく寝苦しい夜だった。
特別なオーヴァードである自分に与えられた広すぎる部屋のベッドの上で、目が冴
えて眠れずにいたエミリアは、幾十回目かの寝返りを打った後で、むくりと起き上がっ
た。ふわり、とサテンの黒がひるがえる。
お気に入りの、レースのたくさんついた黒のネグリジェは、駄々をこねて無理矢理FH
に何着も用意させたもののうちの一着だ。
「喉、渇いたな・・・冷蔵庫 ---- 」
言いかけて、思い出した。個室に備え付けの小型クーラーボックスにストックしてお
いたジュース類を切らしてしまっていたことに。
「もう・・・昼間のうちに言いつけて用意させとけばよかったよ・・・」
最近のエミリアは、日頃蓄積する鬱憤を少しでも和らげるため、この島の研究員たち
は、あたしというお姫様にかしずく召使いなんだ、と思うようにしている。
自分を見て恐れおののくあの人たちのことだもん。ジュース持ってきなさい、って一言
あたしが言えば、すぐに用意してくれるはずだもんね・・・と、エミリアは溜息をつきなが
らベッドから降りる。時刻は何時だろう。少なくとも、外の世界の常識では真夜中といっ
ていい時間であるはずだ。
個室から滑るように抜け出すと、エミリアは廊下に出て息を潜める。
こんな時間に誰がいるわけでもないはずだが、もしかしたら研究員の誰かとか、あの
アマガのことだから巡回用に対オーヴァード用のロボット兵士でも放っているかもしれ
ない。そんなのと真夜中に出くわしていざこざを起こすのは御免だった。
「ぬきあーし・・・さしあーし・・・しのびあしー・・・」
囁くように ---- 見つかりたくなかったら黙っていればいいものを、ついついそんな
ことを言ってしまうのがエミリアという少女の変わったところだった。
ジュースなんてものがこの島に常備してあるとも思えないから、結局は研究員の誰
かを捕まえて用意させることになるのだろう。寝静まっているところを叩き起こして、し
こたま驚かせたところで島の外へ買いに行かせるのも面白いかも ---- すでに目的
がすり替わっているのにも気づかないで、エミリアはなんとなくわくわくした気分になっ
ている。
研究員が暮らす棟には、あのアマガもいるのだろうか ---- そう思うと気が重くなる
のだが、できることなら彼と遭遇することだけは避けて、この小さなミッションを達成し
てやりたいものである。
47 :
妄想えくそだす:2008/07/20(日) 16:04:40 ID:Q5uPYY2b
この、エミリアの小さなほんの気まぐれが ---- 彼女に “その” 光景を目撃させる
ことになってしまったのである。
※
※
※
研究棟の廊下に、明かりが差していた。
こんな時間まで起きている研究熱心な研究者でもいるのかしら、とエミリアは感心す
るのではなく、嫌悪感を抱いてしまう。
あんなくだらない実験に熱心になるなんて、サイテー ! ・・・と。
まーったく、もう ! 誰がこんな時間にろくでもない研究をしているのかしら。顔を見て、
今度廊下ですれ違いでもしたら脅かしちゃおうかな ---- そんな悪戯心を起こして、
廊下の窓の下に身を隠し、顔の上半分だけをひょいっ、と覗かせた時 ---- 。
「・・・・・・っ・・・・・ !! 」
エミリアは息を飲んだ。プロフェッサー・アマガがそこにいたからだ。幸い、アマガは
横を向いており、エミリアには気づいていないようだった。だが、エミリアが息を飲んだ
のは、アマガがいたせいではない。
アマガの他にもう一人 ---- ニーラムが、そこにいたからだ。
いや ---- 。そんなことではない。それくらいでエミリアは驚いたりはしない。
もっと正確に言うならば ----
アマガとニーラムがいて ---- 二人が、一糸纏わぬ全裸であったからだ。
自分の腰に手を当て、ふんぞり返ったアマガの股間の中心に、居丈高にそびえる肉
棒がそそり立っていた。肌色というよりは黒ずんでたくましく、六十歳の老人のものとは
思えぬほどの剛直である。
その足元に、まるでかしずく奴隷のように、ニーラムが跪いている。
美しい褐色の横顔は、普段の温和で理知的な表情をどこかへ置き去りにしたかのよ
うに、熱を帯びて汗にまみれている。
まるで吸い込まれるように、ニーラムの顔が ---- いや、口が大きく開かれてアマガ
の股間へと近づいていき ---- 猛る剛棒を頬張った。
ぶっ、ぼぶっ、じゅっ、ぶぽぽっ。
ぶっ、ぼぶっ、じゅっ、ぶぽぽっ。
頬をすぼめ、音を立て、熱のこもった、しかし虚ろな目で。
ニーラムが顔を激しく前後させた。これが、口腔による男性器への奉仕 ---- フェラ
チオと呼ばれる行為であることも、また、こんな行為が存在することすらも、エミリアは
知る由もない。
ただただ、震えながら、魔法に魅惑されたかのようにこの行為に魅入られている。
「ふむ・・・なかなか上達したの・・・X07・・・こちらの “商品” としての価値も、なかな
かのものじゃ。ほれ、手がお留守じゃぞ。揉み潰せ。まさぐれ」
商品を値踏みする者の視線と口調。アマガの冷酷な指示に従い、ニーラムの手が
動いた。いつも着ているゆったりとした衣類に隠されていた豊満な乳房を、左手で持ち
上げ上下に揺らす。褐色の、張りのある乳房の中心で、ピン、と突き立った乳首だけが
ピンク色だった。すぐに汗ばみ、しっとりと濡れていく素肌が、白く湯気を立たせる。
右手はとうに、開かれた脚の間へと吸い込まれており、激しく己の股間をかき回して
いた。ぐちゅっ、ぐちゅっという水音が濁って聞こえ、エミリアの耳朶を叩く。
48 :
妄想えくそだす:2008/07/20(日) 16:05:09 ID:Q5uPYY2b
エミリアは震えた。まるで、ニーラムの発する水音に、自分の耳が犯されているような
錯覚を感じる。
なにしてるの、ニーラム。なんであんなこと。なんだか不潔だよ。なんだかいやらしい
よ。
心の中で激しくニーラムを責めながら、無意識にエミリアの手がネグリジェの裾を割っ
た。指でそっと、自分の両脚の間にある、その器官へと触れる。
十五歳の少女の股間は。
ねとり。
「うそ・・・・・・」
自身の分泌した得体の知れない粘液によって汚れていた。
同じ音。ニーラムが発している音と同じ、いやらしい音が私のあそこからも聞こえてく
る。背筋を電流のようなものが駆け抜け、エミリアはおもわずネグリジェの裾を掴み、
それを自分の口元へと持っていった。声が漏れないように黒地の布を口に含み、噛み
しめる。声をふさぐことはできたが、ネグリジェが引き上げられて、エミリアの大人になり
きっていない秘密の幼蕾が外気にさらされた。
つつー、ぽた。つつー、ぽた、ぽた。
切りつけた樹木から蜜が滴るように、エミリアは研究棟の床に愛蜜を滴らせる。
指は、いつしか秘裂の筋をなぞるように蠢き、つたない自慰行為を開始している。
研究室ではアマガが呻き声を上げた。
「全部飲むんじゃ。出すぞ、それ。う、うおうぅぅぅっ・・・」
肉棒がびくんびくんと震え、その様が遠目でも分かるほどに激しくわななく。
「ぐ。ん。ぶ、うぅ、うぐんんんんんんっ・・・」
ニーラムは喉を鳴らしながら、渇きを潤すようにアマガの股間から “なにか” を飲み
干した。ごきゅ、ごきゅ、と二度三度。ニーラムの細い喉元が嚥下のためにぐいぐいと
動く。心底、味わうように。甘露を愉しむように。
ちゅ、ちゅうっ、と吸引音が続けざまに起きる。ニーラムは ---- 奉仕の仕上げとして
アマガの男根に残った最後の一滴 ---- 尿道に残留したわずかな精液すらも啜りとろ
うとしていた。
「・・・口のほうはまあまあかの・・・では、次を試すぞ。後ろを向いて四つんばいになる
んじゃ。床に手をつけ。犬のようにな。そして高く高く尻を立て、お前の雌壷をワシに
さらけ出せ」
ちゅっぽん、っと口から男根を引き抜き、ニーラムがアマガの指示に従おうと身をよじ
る。その姿勢の転換の時 ---- ニーラムの目がエミリアに気づいた。
「あ・・・・・」
気づかれた。見ていたことを気づかれちゃった。ううん、それだけじゃないよ。あたし
があそこを濡らして、いじって、気持ちよくなっているところ、ニーラムに気づかれちゃっ
たよ・・・・・・。
激しい羞恥は、さらなる甘美の呼び水となる。
己が痴態を見られたと、エミリアが認識した瞬間、十五歳の少女の肉体は ---- 生
まれて初めての絶頂を味わったのだ。
「〜〜、〜〜、ん、〜〜〜ぐ、〜〜〜っ、ふ、〜〜〜・・・・っ !! 」
黒い布地にふさがれて、幼いオルガスムの悲鳴はくぐもって消えた。ずりずり、と床
にくず折れるエミリアの耳に、アマガとニーラムの声だけが響く。
49 :
妄想えくそだす:2008/07/20(日) 16:05:39 ID:Q5uPYY2b
「X07よ、お前は “商品” じゃ。FH の戦闘員としての価値、慰問婦としての器量、す
べてを兼ね備えてこそのわが作品じゃ。ほれ、今の今までワシのモノをくわえ込んで
いた淫らな口で、男を喜ばせる言葉を吐いてみせよ」
声に続いて聞こえてきたのは、さらなる水音。湿った布を詰め込んだ穴へ、すりこぎ
棒を埋めこみ、ねじ込みでもしたかのような濁音。
ぶじゅる、ぶじゅる、という音に続いて、ニーラムが叫ぶ。
「あっ、おーっ ! プ、プロフェッサーのたくましいモノで、私、貫かれていますーっ!! わ、
私のアソコのお肉を巻き込みながら、ずぶずぶ奥へとねじ込まれて、ひ、ヒイィィッ !? 」
やめて、やめて。言わないで。そんなこと、そんないやらしいこともう言わないでよ。
お願い、ニーラム。優しくて温かくて、あたしのお姉さんみたいなニーラムが、アマガ
とあんなことして、あんなことされて、どうして嬉しそうに叫ぶの。どうしてあんなに気持
ちよさそうにしているの。どうしてあたしの身体まで気持ちよくなっちゃってるの。
エミリアの崩れ落ちた身体が痙攣する。今しがた、味わった絶頂だけではまだ足りない。
もっと欲しい。理性が否定したところで、身体がそれを要求する。エミリアは両手を駆
使し、自分の身体をまさぐった。さっき、アマガに命令されてニーラムがしていたことを
真似るように。
ぶじゅ、ぶじゅる。
ニーラムの発する音。
くちゅくちゅっ、ちゅくちゅく。
これはあたしのあそこの音。
「あひっ、あひぃっ、激しい、激しい、いやあーっ ! 」
「よがれ、もっとよがれ、X07 !! 」
ニーラムも気持ちいいのかな。あんなに凄い声、私も出せるかな。でも、恥ずかしい
から我慢するよ。頑張って歯を喰いしばって、声、出さないようにするから。
「ひっ、い、いや、いく、うっあーーーっ!! 」
「うむ。なかなかの名器に仕上がったぞ !! 」
ニーラム、褒められてる。アマガが、私たちに“愛”の話をするときと同じ口調だから
すぐわかる。あっ。あたしの指、止まんなくなってる。あたし、もっと気持ちよくなってる。
これ、どうしたらいいの。
どうしたら -------- 。
「・・・っ、出すぞ、X07 !! ワシのすべてを受け止めるんじゃ !! 」
アマガが吠えた。
「あ、あーーーーっ !! 出ていますっ、中、出て、イク、ひっ、ひいぃぃぃぃーーーっ !? 」
イクってなに。もしかしてさっきのあたしと同じ感じなのかな。だとしたら、あたしもイク
よ。一緒にイクよ。ニーラムと一緒にイク・・・よぉ・・・・。
50 :
妄想えくそだす:2008/07/20(日) 16:06:29 ID:Q5uPYY2b
※
※
※
エミリアは幻視する。
自分の中にある “世界” のイメージを垣間見る。
この世界は、あたしを押し込め、従属させ、囲い込み、束縛する。
少女を捕らえる鳥篭は、牢獄の堅牢さをもって、エミリアの心身を虜囚にするだろう。
「っ、ア、ア、あぁ、あ、あ、あふぅ・・・・・んんっ・・・」
エミリアが果てる。床に頭をゴツッ、と打ちつけながら、気を失って。
辺り一面飛び散った液体に身を浸しながら、エミリアはいつ果てることなく痙攣し続け
ていた。
十数秒後。研究室から出てきたアマガとニーラムの二人が、裸身をさらしたままで、
倒れ伏したエミリアに歩み寄る。
「ふん・・・対抗種がいっちょまえに色気づきおって・・・。カウンターレネゲイド持ちでは
迂闊に慰安用としても使えんわい」
毒づくアマガに、ニーラムが囁く。
「それでは・・・この子は私が好きに預からせてもらっても・・・ ? 」
その瞳は情欲に煮えたぎり、加虐の光をたたえて濡れている。
アマガは汚物を見るように、ニーラムを一瞥し。
「好きにせい」
ニーラムが。
にんまりと笑み崩れた・・・。
※
※
※
※
※
エクソダス読んで、エミリアの可愛さに思わず発作的に書いてしまったり。
勢いとは恐ろしいものですね(笑)。
この後、加虐衝動のままにエミリアを監禁調教するニーラム・・・とか夢はいろいろと
広がりますが、とりあえずこんなもので(笑)。
>>45ー50
ポップアップで読めるようにしとこう
買い忘れてたゆにばーさる買って久しぶりのこいのぼりに興奮しております。
こいのぼりと綾は、いいわぁ
志村ー
-がーになってるー
>45-50
こうだね。
あと、一応容量の事があるから、>>ではなくて>にしておいた方がベター
さて、ようやく新刊三冊届いたんで、読むぞー。
そしてここのも読むぞー。
ここまでガンドッグネタなし
>>53 リプレイ、特にマリオネットネメシスの方は
かなり面白かった覚えがあるが、いかんせんルールが
いまいち把握しきれてないので・・・。
リプレイ専の弱みだよなぁ。
まあ、こだわらずに書けばいいのかもしれないけどもw
『ゆにばーさる』読んだ。
ケイト×こいのぼりよりも、頸城×こいのぼりとか、あまつさえ頸城×ケイトを思い浮かべてしまった俺を誰か叱ってくれ。
>>56 はんにゃーッ!
…というわけで、その妄想をkwsk語っていくように。
>>56 フィン×隼人を思い浮かべた俺よりはましだ、
というか、フィンがあそこまでいいキャラに化けるとはおもわなかった。
かつて委員長がいないときのダメダメ柳也を投下したものとして、
『エクソダス』の柳也のある意味壮絶な駄目っぷりにはさまざまな妄想をかきたてられるw
頸城とケイトが「どっちがより結紀を気持ちよくさせられるか」で勝負を始めて
こいのぼりがコワれてしまうんですねわかります。
二人がかりだとあっさりジャーム化してしまいそうだな。
>60
そんなエロゲーあったよな、昔。
キュマの巨大なモノで肉体的に責められ
ソラリスのクスリで精神的に責められるんですね
・・・いや、そりゃジャーム化もやむを得ないだろ
首輪もしてるし、ケイトと離れ離れで性欲を持て余す結希に調教される頸城、というビジュアルを幻視した俺は少数派なのか?
俺の脳内では、ゆにばーさるは『昼はメイド喫茶・夜はメイドコス風俗店』という設定ですがなにか?
春日恭二が通って勝ちプレイさせてもらってウサ晴らししてるのを幻視した。
でも昼間は相変わらず負けている。
エンドラインに行っちゃえよもう
エンドラインに行ったからって勝てるようになるワケじゃないだろうw
ケイトはエンドラインの鍵の一つ→安定に必要なのは支えてくれる人?(要はロイス)→プランナーによるケイト誘惑作戦で。
いつの間にか春日恭二は勝ち組に!
つまり春日恭二がケイトを誘惑するんですねわかりたくありません。
…実は春日恭二は両刀だとかだったら本気で嫌だなぁ…
ヒント:春日のシンドロームはエグザイルとキュマイラ
つまり、性別を自在に変化させてるうちに、両方同時に使える形態で両方の性器を
同時に刺激されないと満足できなくなったんですね
>>72 いいから、SCの追い込みとMHEのFAQ作成に戻るんだ
ハッタリ仕事しろっ!!?
そこでパラレルワールドの春日恭子と檜山ケイによる百合展開ですよ
新ステージ:ムーンライトドローン(適当
霧谷雄子を調教するプランナーというのを幻視した。何故か。
ムーンライトドローンでの こいのぼりは
色々ちっさくてかわいい男の子なんだろうなあ とか
なぜかそこでも女のままの頚城さんに手え出されてんだろうなあ とか
つまり、アキバステージの頸城さんは生えてると。
そう仰りたいわけですね。
20時30分ごろから宝玉少女の斬撃舞踏曲 ラストを投下したいのですが、いいでしょうか?
正座して待ってます。
こう暑いと全裸になるのにも躊躇いがなくなるね
俺とりあえず中の人出しとくよ
そろそろ投下します。
全部で28KB(なげえ)エリスがごっつヒロインです。
エロイかどうかは分からない(え?
ご注意を。
ただ好きなのだと少女は泣き叫ぶ。
世界よりも。
誰よりも。
彼が大切で、好きなのだと、少女は叫ぶ。
どこまでも純粋なる想い。
エリスと柊は繋がっていた。
唇で、唾液で、舌で、結合していた。
魔術の概念において、人同士が結合する術は複数ある。
指先を切り裂き、血管を露出した指同士で混じり合う方法。
互いの性器を持って、結合する方法。
そして、その中でもっとも簡単なのが接吻による接続だった。
血の味がする柊の口の中に舌を絡める。息が苦しくなる、それでもエリスは必死に口に舌を入れて、息を吹き込む。
柊の呼吸は虫の息のようで、ほぼ止まりかけていた。
その息が止まれば、彼が確実に死んでしまうと思った。
かつてウィザードだった頃の感覚を必死に思い出す。
あの時、使いこなした力の感覚を必死に再現する。
プラーナを、存在力を、目の前の大好きな青年に注ぎ込む。
キスもろくにしたことがないエリス。
喀血を繰り返し、血生臭い柊の唾液は吐きたくなるほどに不味い。
それでも彼女はキスをする。
「先輩」
柊が窒息しないように何度も唇を離しては、柊の口の中に残る血をエリスは吐き捨てる。
憧れだった男性とのキスの味は血しかしない。
それでもそれは彼女を護るために、柊が流した血だと思えば許容できる。
エリスの口元もまた柊の血で染まるけれど、彼女はそれでも口付けをやめない。
「しなないで」
彼女は柊の頭を抱きしめながら、唇を交える。
吐息が混じり合う。
痺れるような感覚。
粘着質に繋がる舌から痺れるような触感が、体の心が熱にうなされたかのように熱くなる。
プラーナとは存在の力。
そして、存在とは想いそのものだ。
この世は泡沫の夢。
幻のように儚い世界。
けれど、否、だからこそ想いが力になる。
「しなないで!」
想いを込めて唇を重ねる。
血まみれのエリスが、血まみれの柊に口付けする。
好きだという想い。
助かって欲しいという願い。
色んな、色んな願いを、想いを、希望を込めてキスをする。
それはどれだけの想いが篭ったキスなのだろうか。
彼女はもはやウィザードではない。
全身に幾重の刃を突き刺され、少なからずのプラーナを奪われたイノセント。
本来ならば即失神してもおかしくないほどのダメージを受けている。
ウィザードではない少女には耐え切れないほどのダメージ。
それでもエリスは意識を保つ。
己の命ともいえるプラーナを柊に注ぎ込む。エリスと柊、その二人は燐光を帯びる。命の煌き。
エリスの全身に汗が吹き出す。
エリスの喉が喘ぎ出す。
それほど運動をしたわけでもないのに、エリスの露出した肌から滝のような汗が流れていた。
こびりついた血を溶かし、妖艶といえるほどの汗が、額から、顎から、指先から、全身から滴り落ちる。
確実に削れていく生命力。
それでも、彼女は止まらない。喘ぎながら、柊を抱きしめる。想いを注ぎ込む。
「これで」
唾液と血に濡れて、テラテラと糸を引く唇を持って柊に口付けする。
少女の柔らかい唇が、柊の唇と重なって、押し付けられる。
傍から見れば異様な光景だろう。
気が狂っていると形容されても可笑しくないほどの血まみれな二人。
ロマンチックなんてものじゃない。
乙女が抱いている夢も、願望も、願いも何もかも空しい血臭漂う世界。
それでもエリスは目を閉じる。
大好きな人へと捧げる唇。
魂すらも与えても惜しくない、そんな想いと共にプラーナを、命を、心を捧げた。
血まみれの味がする舌を絡みつかせながら、吐息が粘着質な音を立てて入り混じり――
「ごぶっ」
柊が息を吐き出した。
「先輩!?」
慌ててエリスは唇を離す。
柊はごふりと息を吐いて、肺に残る血液を派手に石畳の上に吐き捨てた。
ビチャビチャと湿った音がエリスの耳に響く。
「わ、りぃ……ちょっと、ねて、た、みたいだ、なぁ……」
柊が虚ろに目を見開いていた。
意識が戻っていた。
見れば、ゆがんでいた柊の体がはっきりとしている。
「よ、よかったぁ」
エリスは涙を流す。
何度流したかもわからない涙で、エリスの目元は真っ赤に染まっていた。
「わるいぃな、エリス」
「え?」
「キス、させちまった……だろ」
途切れ途切れの柊の言葉、彼の顔は申し訳なさで染まっていた。
彼は分かっていたのだ。
朦朧としていた意識の中で、エリスがやった行為を。
「気付いて、たんですか?」
「あぁ。うごけなかったけどな、意識はびみょうにあった」
「そう……ですか」
エリスの顔が真っ赤に染まる。
「まじで、わるぃ。俺がこんなことに――あぁぐっ!」
言葉の途中で呻き声に変わる。
脇腹を押さえて、柊の額から脂汗が噴き出した。
絶叫にも似た声が噛み殺しきれずに洩れ出る。
「柊先輩!」
「だ、だいじょうぶだ。悪いが、くれはの家まで連れて行ってくれないか」
治療をするにしても、この場所だと目立ちすぎる。
血痕とかは後でどうにかするにしても、こんな境内で声を上げていれば、通報されかねない。
「は、はい」
エリスが慌てて差し伸べようとするが、カクリと彼女の膝が折れた。
石畳に倒れようとする彼女を、柊の手が抱き留める。
「っぅ〜!」
激痛に柊の口から絶叫が飛び出しかけるものの、辛うじて噛み殺す。
「す、すみません!」
「気にすんな、エリスの体調を考えてなかった、おれが、わりぃ」
エリスは外傷こそ少ないが、プラーナを奪われ、なおかつかなりの量を柊に供給していた。
常時よりも弱っているのはもちろん、柊を抱えられるような真似が出来るわけが無かった。
なんとか柊自身が立ち上がり、よろめきながら足を踏み出す。
それを支える程度にエリスも歩き出した。
「ははは、ずたぼろだなぁ、ぉれたち……」
「そう、ですね」
なんとか玄関まで柊を運び込んだエリスは自分の怪我の治療もそこそこに救急箱を漁っていた。
つい数時間前に柊にまきつけた包帯、消毒薬、そしてさらに何かないのか探す。
「ヒールポーションがどこかにあるはずです」
そう思ったのは柊の言葉からだった。
ウィザードにとってもっとも安心出来るのは自分の日常である自宅であり、一番長く過ごす場所でもある。
万が一の場合に備えて予備の武器を隠すこともあるし、なおかつポーション類や魔道具などの非常時に備えての道具はウィザードならば常に備えておいてあるものだ、と。
どこかにあるはずなのだ。
「どこ、どこ?」
記憶を探るものの、エリスはくれは家にお世話になってから異変などないに等しい。
精々エリスの護衛としてロンギヌス・コイズミが来たぐらいだが、それも短期間であり、灯が戻ってきてからは護衛の任から外れている。
その際には怪我などはしなかったし、したとしてもくれはが居るためにポーションを使う余地は無い。
「一体どこに」
ないという選択肢はないと信じたい。
エリスは必要なものを取った救急箱を仕舞い、部屋を見渡す。
仮にもポーション類は現代科学ではなく、錬金術などのウィザードによるものだ。
迂闊にも一般人が目にしていいものではない。
とすると。
「こっち?」
先ほど仕舞った救急箱とは違う、古めかしい器による救急箱。
古い薬などを仕舞っているものだとエリスは教わっていたし、使い方もくれはなどに教われないと分からないものばかりの箱である。
その棚を開いていくと――あった。
見覚えのある透明なビン。中に薄緑色の薬液が入ったそれは紛れもなく――ヒールポーション。
「ありました!」
それも三本。
慌ててそれを引っつかみ、エリスが玄関に戻る。
すると、柊は壁に寄りかかりながら、荒い息を吐いていた。
血が流れようとする脇腹を手で押さえ、僅かに残っているプラーナで出血を食い止めようとしていた。
「柊先輩! ポーションです」
「あ、ぁあ」
虚ろな手つきで、柊が二本受け取る。
「え? あの、あともう一本」
「それはエリスが飲め。俺は二本で足りる」
「そんな、柊先輩のほうが重傷なんですよ!」
「エリスも怪我してる、だろ?」
そういう柊の目は痛々しく、エリスの傷を見ていた。
足を貫かれ、肌のあちこちに切り傷のあるエリス。その怪我を見つめて、柊は苦悩するかのように顔を歪める。
「わるぃ、護ってやれなくて……」
「そんな……」
柊は十二分すぎるほどに護ってくれたのだ。
謝られる筋合いなんてない。むしろエリスがお礼を言うべきだった。
けれど、柊はそう考えない。
「俺が、エリスを巻き込んじまった……」
彼は自分を責める。
責任は誰なのか、冷酷なまでに考える。
本来エリスは巻き込まれるわけがなかったのだ。考えなしに、柊が赤羽神社に立ち寄ったから巻き込まれた。
それが事実。
揺るがない真実。
「もうエリスは戦わなくていいのにな」
彼女を取り巻く残酷な運命は終わりを告げたのだ。
彼女の前身であった古代神は既になく、彼女を作り上げた神の移し身は既に消失した。
因果はない。
彼女が巻き込まれる必然は存在しない。
だからこそ、柊は責任を感じていた。
けれど。
「先輩。それ以上いうと怒りますよ」
エリスは柊のそんな言葉に、頬を膨らませていた。
「え?」
「柊先輩がそんなこと言ってたら――ありがとうが言えないじゃないですか」
エリスは怒っていた。
必死に助けてくれたのに。
必死に戦ってくれたのに。
彼は自分に責任を感じている。それがどうしても許せなかった。
「胸を張ってください、柊先輩」
エリスは柊の頬を撫でる。
血まみれの顔のまま、血まみれの青年に微笑みかける少女の笑み。
「柊先輩は立派に私を助けてくれました」
とんっと綿を叩くような柔らかい手つきで、エリスは柊の胸を叩いた。
「ありがとう、って言わせてください」
「……ああ」
柊が口元を笑みに変える。
微笑み返す。
エリスがこれだけいっているのだ、そこで笑わなくていつ笑うのだろうか。
柊は笑う。
誰かのために。
大切な仲間――にして大切な少女のために。
「それで、いいです」
ニッコリと柊の笑みを見て、エリスは満開の花が咲き誇るように笑顔を輝かせた。
「じゃあ、治療しましょう。柊先輩」
「ん、あ、いいんだけどな」
エリスの言葉に半ば賛同しながら、不意に柊が呟いた。
「その前にエリス……着替えてこいよ」
「え?」
「ちょっと、その格好のままだと不味いだろ」
ボリボリと頬を掻いて、柊が告げる。
そんなエリスの格好は散々なものだ。
私服は切り刻まれ、胸は露出し、スカートに至っては切り込みだらけの残骸。血に濡れて白い肌は目立たないものの、露出度でいえば下着といい勝負である。
緊急事態故にお互い気にしてなかったが、この時に至ってようやくそれだけの余裕が出来た。
「あ」
エリスが慌てて胸を隠す。
顔を真っ赤に、モジモジと恥らった。
「み、見ました?」
「……す、すまん」
「……エッチです」
ボソリとエリスが呟いた言葉に、ガガンと柊はショックを受ける気持ちだった。
わざとないんだぁと呻く柊に、スクッとエリスは立ち上がり、舌を軽く突き出しながら。
「冗談ですよ。もう柊先輩には裸見られてますし」
それは柊がエリスの護衛をしていた時の頃、風呂場で起きた事故のことだった。
柊が入浴中に、何も知らないエリスが浴室に入ってしまった事件。
悲惨な事故だったと柊は記憶し、半ば忘れていた。
「すぐに着替えてきますね」
柊の傍らに包帯などを置くと、「水とタオルも持ってきます」と言い残してエリスが足早に姿を消す。
エリスもかなり疲れているはずなのに、その気丈な態度には柊は頭が下がる一方だった。
「さてと」
柊は片手でポーションの一本のフタを開けると、そのビン口を口に咥える。
薄緑色をした液体が、生臭い血の味と共に喉を通る。吐き戻しそうになるほど不味い味と臭い。
元々ポーションという薬品に味を求めるほうが愚かだが、血が混じった味は最悪といいたくなるほど不味い。
何度も咳き込み、その度に激痛が走りながらも柊はポーションの中身を飲み干す。
そして、二本目のビンの蓋を開けたところで咳き込んだ。
「が、がほぉっ」
喉に詰まった痰を吐き出し、手についた紅い物体を服に擦り付ける。
手に付けていたフィンガーグローブを歯で咥えて脱がしながら、柊は自らの脇腹から手を離した。
血に染まったTシャツの裾。
鋭利な刃物で刻まれたその隙間から露出した筋繊維が見えている。
「内臓は出てないのが幸いだったな」
ビリビリとシャツの邪魔な部分を引き千切り、柊は生臭い血に染まったフィンガーグローブを歯で噛み締める。
血臭の臭いに吐き戻しそうになりながらも、鼻で息を吸い、フタの開いたポーションを持ちながら覚悟を決めた。
ポーションの中身を脇腹に注ぐ。
「――ッッウ !!!!」
絶叫が零れた。
噛み締めたグローブが噛み砕かれそうなほどに食いしばられて、柊の汗が吹き出し、のたうつように痙攣する。
焼きごてを押し付けられたかのような熱い痛み、激痛、苦痛、衝撃。
「ァ ァ ァ ――!!!」
ジュッと白い煙が上がり、掛けられたポーションが傷口を焼きながら、その液体に含まれた成分が傷口を洗い流し、癒していく。
それは途方もない苦しみだった。
安らかな癒しである回復魔法とは異なり、薬効と保有された魔力による回復を齎すヒールポーション。
それは本来飲んで回復力を高める薬だが、傷口の消毒と即効性を持つために傷口に塗布することも可能。
しかし、それには傷口が大きければ大きいほど苦痛を伴う荒行だった。
それでも柊は耐える。
死なないために、そしてエリスに心配させないためにグローブを噛み締めて、声を殺した。
静かな苦行を終わらせた。
バケツに水を汲み、それに数枚のタオルを入れた。
場所はエリスの私室。
そこで彼女は自らの体を清めていた。濡れたタオルで顔を拭い、乳房を拭い、手を拭い、肌を拭う。ポーションを飲んだことによって新陳代謝が活発化し、吹き出していた汗も濡れタオルで拭う。
それだけでさっぱりした気分になれた。
「何を着ればいいのかな?」
血と汗で汚れた下着を着替え、彼女はショーツだけを穿いた状態でエリスは悩んでいた。
彼女が服装で悩むことなんてあまりない。
少しドジっ子で天然な彼女だが、気の利く彼女は判断力に長けている。服を選ぶ時も大体の目安をつけて、すぐに着替えるのだ。
けれど、今回の彼女には服装を選ぶのに悩む理由があった。
それは彼女の負っている傷が原因だった。
スカートやシャツなど、普通の服を着るにはどうしても傷を刺激してしまうし、時間が掛かる。
となると、洋服はあまり向いていない。
「あ、これでいいかな」
そう考えながらエリスが箪笥からあるものを取り出す。
薄い布地、簡素な染め上げが行われた一枚の布。
それは浴衣と呼ばれるものだった。
エリスは元々一般的な女の子として洋装を多く所有していたが、赤羽家に居候し始めてから幾つもの和装を購入し、或いは譲られていた。
神社の娘にして、生粋の巫女であるくれはが和装を好んで着るように、エリスにも和装を着る機会が多かったのだ。
これなら涼しいし、ブラジャーを着けなくても失礼ではない。
白い素肌の上にエリスは浴衣を羽織る。
前中心で裾を合わせて、背負いが背中の中心に合わさるように気をつけ、くるぶしの高さまで裾を引き上げる。
浴衣の上前を右の腰に合わせ、下前を入れる。
浴衣は普段のパジャマと同じぐらいに寝巻きにして使っているエリスである。
なれた手つきで、腰布を巻き付けた。
傷口を刺激しないように柔らかく結んだそれは少しぶかぶかだったけれど、外出するわけでもないので問題はないだろう。
格好の問題がないことを軽く確認すると、最後にタオルでもう一度軽く顔を拭い、バケツを持って部屋を出る。
そのまま一直線に玄関にエリスは向かった。
「お? エリス着替え終わったか」
そこには上半身裸になって、自分の腹に包帯を巻きつけている柊の姿があった。
全身から汗を吹き出し、どこか艶かしい、けれど凄惨な傷だらけの肉体がそこにあった。
幾重もの実戦のみで鍛え上げられた肉体。
ボディビルダーのように仰々しいものではなく、けれど貧弱とは呼べない肉体。
うっすらとした肉の下に鋼鉄のように編みこまれた繊維が、何匹もの異形を斬り殺すために使われた筋肉。
何度も誰かを助け、護るために傷ついた傷だらけの背中。
つい先ほど切り刻まれた傷口から涙のように血は流れ、赤黒い泡を浮かび上がらせていた。
「ひどい……」
生々しく露出した傷口を見て、エリスが息を飲む。
彼が背負った痛みと怪我の重さを知った。
「あ、大丈夫だ。この程度なら、慣れっこだしな」
エリスの不安を和らげるためだろうが、ニカリとどこか子供っぽい笑みで柊が笑う。
彼は何故笑えるのだろうか。
こんなにも苦しくて、痛くて、辛いはずなのに。
それが、エリスには分からなかった。
「すぐに治療しますね」
バケツを置いて、エリスは濡れタオルを絞る。
血臭がした。
汗臭い男の香りがした。
なれない臭い、けれどそれをエリスは許容する。
誰かを助けるために流した血ならば、汗ならば、彼女は恐れない。
優しく、柊の頬を、腕を、背中を、濡れたタオルで拭う。
血に塗れるタオル。何度も何度もバケツの水が洗う。紅く染まる水。
それでも彼の汚れを取りたくて、彼を綺麗にしたくて、エリスは彼の肌を拭いて、包帯を巻きつける。
「いつつ、もうちょっと優しくしてくれ」
「あ、ご、ごめんなさい」
「あ、いや、冗談だ。これぐらい、平気だからさ」
ニカリと笑う痩せ我慢の笑み。
柊の精一杯の強がり。
「優しくしますから」
エリスもまた微笑む。
彼の心に答えるために、精一杯優しく治療を続ける。
そして、始まる二人の時間。
何度もバケツの水を取り替える。
包帯を用意し、足りなければ白いシーツを切り刻んで簡易包帯に変える。
グルグルグルっとまるで包帯男のようになる。
エリスが笑う。
柊が怒ったふりをして、やっぱり笑う。
包帯を巻き終わる、雑巾で廊下を掃除する。血まみれだった玄関を綺麗に、血臭が取り除かれる。
エリス一人では時間が掛かる。
柊が手伝おうとして、エリスに怒られる。
浴衣の裾をたくし上げて、エリスが必死に拭く、拭く、拭く。
柊が目を覆う。
ブラジャーのないエリスのその姿は目に毒だったから。
彼女は気付かずに掃除を続行。
結局夕方まで掛かった。
カラスが鳴き始めた。
柊の容態が落ち着く。出血は大体納まり、一安心。
エミュレイターの気配もなし。任務完了の通達をしようとして、0−Phoneを出そうとして柊はそれが見事にぶっ壊れていることに気付いた。
あれだけの斬撃の嵐に懐に入れておいたそれは見事に破砕。
月衣の中に放り込んでおくことを失念していた。ため息が出る。
明日最寄のウィザード組織に連絡をつけてもらうことを柊は決めた。
それにエリスは泊まっていくように提案する。
柊、しばし悩んでOKする。
念のため、一日だけでも警戒すべきだろうと思ったから。
食事を取るだけの余裕がないので、柊はお茶を啜り、エリスはそれを見つめて笑っていた。
ゆっくりとした時間の流れ。
そして、夜。
時刻は真夜中。
月が昇る時刻。
「あー疲れたぁ」
毛布を被り、柊は玄関の壁に背を預けて呟いていた。
最初、エリスに客室に布団を用意しましょうかといわれたのだが、柊はそれを断った。
理由は三つある。
一つ目として、万が一のための警戒として布団で寝ると熟睡する可能性があること。
二つ目は、別段硬い床で寝ることに柊が慣れているということ。
そして、三つ目は――
「移動するだけの体力がねえぇんだよなぁ」
情けないことを足元がふらふらしすぎて、今ここでも立ち上がれる気がしない。
客室まで動けるかどうか自信がない。
そんな事実を知られたくない男の意地っ張りである。見栄とも言う。
というわけで、エリスから提供された毛布と枕を共に柊は夜を過ごしていた。
「あー、今日は月が綺麗だな」
紅い月ではない白い月。
丸い、月が玄関の窓から夜の闇の中で輝いていた。
紅い月には散々な目にはあっているが、白い本物のお月様には怨みは無い。
月面にいったことはあるが、あそこから見た地球は壮観だったと三度ほど宇宙空間で魔王と戦った男は思った。
「なんか寒みぃな」
夏の夜だというのに、どこか寒かった。
それが大量に失血したからだということを知らずに、柊は毛布を被って歯を鳴らす。
毛布を巻きつけて、包帯に覆われた手で体を抱きしめた。
呼吸を整える。
歯を噛み締めて、いずれ訪れる眠りに誘われようとして――
「先輩?」
ギィっと板の軋む音と共に聞こえた声に振り返った。
「エリス?」
そこには浴衣姿のエリス。
どこか蠱惑的に、目を細めたエリスが其処に立っていた。
「どうしたんだ?」
「やっぱり寒いんですか」
「え?」
柊の声を無視して、エリスがゆっくりと柊の横に座る。
ポンッと何気ない手つきでエリスは柊の頬に触れた。
「やっぱり体温が低い」
「え、あ、いや」
「沢山血を流すと、寒く感じるって聞いたんですよ」
そう告げて、エリスは触れ合うように柊に持たれかかった。
彼が羽織る毛布の中にごそごそと赤い顔を浮かべて入り込む。
「お、おい、エリス!?」
「大丈夫です! 私、体温高いですから」
「そ、そんな問題じゃないだろっ!?」
もっともなツッコミ。
けれど、そんなのは乙女には通用しないのだ。
「恩返しさせてください」
「え」
「今日は私のこと、抱き枕にしていいですよ」
そう告げるエリスは呆然とするほど可愛かった。
上目遣いに、ただ純粋にそう告げる声音に嘘はなかった。
こつんとエリスの頭が、柊の胸板にぶつかる。
「これが私の恩返しです」
「え、あ、いや、でもなぁ」
「女に恥をかかせる気ですかぁ?」
クスリといたずらっぽい顔でエリスが笑う。
「そんなことしたら、くれはさんに言いつけちゃいますよ?」
「エリス……くれはに悪影響受けてないか?」
「少し、逞しくなったといってください」
エリスの両手で、柊の左手を抱きしめる。
ひんやりとして冷たい手。血が足りない証拠、それを自分の体で暖めようと思った。
浴衣の裾から零れ出る白い素肌が、柊の包帯に覆われた腕を抱き抱えた。
「っ、ぁー……しょうがねぇなあ」
柊は右手でエリスの頭を撫でると、彼女を抱きしめた。
それは恋人の抱擁なんかではなく、兄妹に対する親愛のような抱擁。
けれど、それでもエリスは嬉しかった。
好きな人に抱きしめられて、嬉しくない乙女なんていないのだから。
「ほら、少し冷たくて迷惑だろうけどな」
自分の体温を自覚しているのか、柊がどこかぶっきらぼうに告げる。
「迷惑なんかじゃ、ないです」
抱きしめられた柊の体からは汗の臭いがした、薬の臭いがした、血の臭いがした。
けれど、全部柊の匂いだと思った。
大好きで、たまらなくて、好きな人。
想いを寄せる大切な人。
大好きです。
大好きです。
この身、この心、全部を貴方に助けてもらった時から、大好きです。
世界が敵に回っても、護ってくれるといってくれたあなたが大好きです。
どんなに辛くても諦めないあなたが大好きです。
「せん、ぱい」
私はあなたの役に立っていますか?
私はあなたの支えになれますか?
私は。
あなたの。
傍にいることは出来ますか?
「……きです」
「?」
エリスはすすり泣く。
涙を流す。
「大好きです」
「え? あ、俺も好きだぜ」
違う。
それは私の好きじゃない。
それは、仲間に対する好きでしょう?
「違います」
エリスは告げる。
思いを吐き出す。
「私は、柊先輩が……好き……です。仲間とか、先輩とかじゃなくて、ただ柊先輩。あなたが好きなんです」
「……は?」
柊はどこか呆然とした思いで、それを受け止めた。
「返事はいりません」
エリスは柊に抱きつく。
胸板に顔を被せながら、囁くような声で告げた。
「ただ知って欲しかっただけですから」
夜は更けていく。
沈黙と互いの熱だけが伝わる夜はゆっくりと更けていく。
いつまでも時間が止まっていたような気がした。
夜は変化がわかりにくくて、腕の中の暖かさがいつまでも留まっているような気がした。
腕の中の少女。
エリス。志宝エリス。
彼女は柊にとって大切な仲間だった。
命を賭けて護るべき大切な人、その一人だった。
愛だとか情欲とかそんなのはどうでもよくて、ただ大切だから、護らないといけないから、彼は戦ったのだ。
救おうとしていたのだ。
恋愛など考え事もなかったし、そんな感情を抱かれているなんて夢にも思わなかった。
だからこそ、柊は戸惑っていた。
彼はとても鈍いから。
自分を過小評価しているから。
ただ恋愛だとか、人間関係だとか、そこまで目が付かなくて。
そんな余裕もなかった。
どうすればいいと考える。
腕の中の少女を抱き抱えながら、目を閉じて眠ってしまったらしい、彼が好きだと告げた大切な仲間だったはずの少女に対する対応を考える。
がじがじと唯一自由な右手で頭を掻く。
エミュレイターと戦うほうがまだましだった。
こんな正解も見当たらないような問題よりは遥かにましだ。
断るのか。
それともOKするのか。
柊には分からない。
エリスのことは嫌いじゃない。けれど、恋しているのか。愛しているのか。といわれれば分からないと答えるしかない。
そんな想いではないのだ。
彼にとっての仲間とは。
図れるような、言葉に出来るような、簡単なものじゃない。
だから、だからこそ――
「朝、か」
朝霧が出てきた窓の光景に、柊は目を覚ました。
眠った気がしない。
半ば起きて、虚ろになっていたのかもしれない。
眠気が残る頭を軽く振る。
すると、不意に重みを思い出して、下を見た。
そこにはエリスが眠っていた。甘い匂い、温かい感触。
「はぁ」
静かに息を吐く。
優しく柊は彼女の頭を撫でてやった。
たった数ヶ月前。数ヶ月前まで同じ学園に通っていた少女はいつのまにか成長していた。
どこか大人っぽく、気丈に、そして優しいままで。
自分はどこも成長していないような気がした。
「そう簡単には変われねえよな」
柊は呟く。
言葉を噛み砕き、自分にしか聞こえない言葉で。
エリスの頭を撫でる手を止めて、ゆっくりと傍に置いてあった枕の上に頭を乗せてやる。
毛布をかけて、柊は静かに立ち上がった。
一晩休んだ会があって、それなりに体力は戻っていた。
勝手知ったる他人の家ならぬ幼馴染の家。
台所に足を踏み入れ、コップを借りて水を飲む。まずい東京の水だが、冷たく、美味く感じた。
喉を通る音を聞きながら、柊は軽くコップを洗って置いておく。
頭は多少冷えていた。
眠気もあるが、今の水で多少目が覚めた。
「ふぅ」
答えを考える。
けれど、思いつかない。
だからこそ――思いついた。
「男らしくねえよな」
自嘲げに笑う。
客室に向かう。確か使われていない部屋があったはず。
埃臭い部屋に入り、月衣から取り出した予備の衣服を着る。
一度家に戻ってまた何着か持ってくる必要があるかもしれない。後で家に帰るかと考えた。
まだ痛む足を引きずりながら、柊は玄関へ。
エリスは眠っていた。
答えを告げようと思う気持ちはある。けれど、起こすのは忍びない。
「よく寝てんなぁ」
こつんといたずらっぽくエリスの頬を指で突いた。
うぅんと寝息が立つ。子供っぽい寝顔。
こっちは一晩中眠れない時間を過ごしたのに、告白した張本人は眠っていた。
女は強いな、とつくづく思う。
柊は笑いながら、玄関で靴を履く。
血まみれの靴は月衣に放り込み、新しい靴を取り出す。準備万端憂いなし。
靴を履いて、柊は赤羽家の玄関をがらりと開けた。
「ふぇ?」
瞬間、声がした。
「お? エリス起きたか」
柊が振り返る。
そこにはだらしなく浴衣の裾を乱れさせたエリス。
「あ、せんぱぃ……せんぱい?」
ごしごしと目を擦っていたエリスが、不意に目を見開いた。
「あ、あの、あぁああの!!」
その顔が真っ赤に染まる。
やかんのようだと柊は思った。
一応支援
「えっと、昨日のことなんですけど!」
「ああ」
「あ、あれ気にしないでください! その、あの、寝ぼけてたようなものですから!」
昨日自分が何を告げたのか思い出したのだろうか。
そういえば昨日はいつになく積極的に動いていたなと柊は思う。
慌てるエリスの頭にぽんっと柊は手を置いた。
「んーあー、悪いが、気にしないのは無理だわ」
告白されたのだ。
どうやって気にしないでいられるというのだ。無理がある。
「あぅ」
「だからな」
柊は笑う。
優しくエリスの頭を撫でながら、ふてぶてしい何時もの笑みを浮かべた。
「返事を返すぜ」
「は、はい」
エリスが唾を飲む。
真剣な眼差し。期待と不安が入り混じった瞳。
「そのな、俺も色々考えたんだ」
一晩中ずっと悩んでいた。
どうすればいいだろう。
どれが正しいんだろうか。
悩んで、悩んで、悩みまくって――
「でも、どうしてもな。答えが出ないんだ」
「え?」
エリスの顔が悲しみに歪む。
拒絶されたと思ったのだろうか。それは違うというのに。
「だから、少し時間をくれないか?」
柊は答える。
最適だと思った答えを。
「時間、ですか?」
エリスの顔が困惑に変わる。
「多分、今の俺がどう答えても違うと思うんだ。エリスは嫌いじゃねえ、けれど好きだとかそういう気持ちはあるのかどうかも……俺にはわからねえ」
くれはにさえも柊は恋をしたという感情はなかった。
大切な相棒だと、幼馴染だと思う。
けれど、それが恋なのか、愛なのか。訊ねられると、それは分からないと柊は答えるだろう。
だから、だから。
答えを出すために。
納得出来る時間が欲しいと告げた。
「……」
エリスは沈黙する。
柊は焦る。
どうしょう。最低な答えだったか。
よくよく考えると単なる保留だよなっと遅れて回ってきた回転が追いついてくる。
だらだらと柊の顔に汗が流れ始めるころ、エリスが口を開いた。
「よかった」
「は?」
「私、迷惑だと思ったから」
エリスは笑っていた。
笑いながら泣いていた。
喜んでいた。
「私、柊先輩の横になんかいたら駄目だと思っていたから」
告白する権利なんてないと思っていた。
ウィザードですらない、ただ護られるだけの人間だから。
「それはちげえよ」
柊はそんな彼女の思いを否定した。
「俺は多分、エリスが一緒にいてくれたら幸せだと思える」
感情の答えは分からない。
けれど、確信は出来る。
彼のよく知るエリスなら一緒にいて楽しいと、嬉しいと、幸せだと断言出来る。
「ありがとうございます」
「れ、礼を言うようなことかぁ?」
戸惑いながら、柊は頬を掻いた。
エリスが笑った。楽しげに。
「じゃあ、そろそろ行くわ」
照れ隠しに柊が靴を吐き直す。
外は綺麗に晴れていた、青空。
光差す夏の空。
風はどこまでも吹いていた。
「いってらっしゃい、先輩」
「ああ。エリスも元気でな」
そういって、柊が玄関から足を踏み出そうとした瞬間。
「あ、先輩!」
「ん?」
柊が振り返る。
――柔らかい感触がした。
感触に戸惑い、見てみればそこには真っ赤な顔をした彼女が居た。
「先にこれだけ貰っておきますね」
エリスは笑う。
まるで向日葵のような微笑を。
夏の空の光に照らされて、咲き誇っていた。
それが斬撃舞踏曲の終わりだった。
虚無。
終わりなき地獄。
悪夢、悪夢、悪夢、悪夢――異形。
おぞましい。
嗚呼、嗚呼、絶望せよ。
おぞましい怪物たちに発狂せよ。
「これが、例のミュレイターですか」
正視に堪えないおぞましい生き物。
幾重もの封鎖結界、錬金術と科学による拘束具、それらに捕らえられた化け物。
それを見つめる一人の少女が居た。
美しい月のように輝ける銀髪、月光に照らされた雪原のように真っ白い肌、神の如き腕前を持つ人形師が生涯をかけて作り上げたかのような美貌。
それが世界を護る守護者の姿。
真昼の月 アンゼロット。
「はい。通常のエミュレイターよりも数段、否、別規格の力を備えたイレギュラーです」
それに答えるのは仮面を付けた美青年。
ロンギヌス・コイズミ。
「そして、調査の結果、これは本当に“裏界”からのものではないのですね」
「ええ。このエミュレイター――否、クリーチャーが持つ波長は裏界からの発生物ではなく」
虚無。
闇。
漆黒。
ありとあらゆる怨嗟を練りこめて、心を失い、全て発狂せよとおぞましく声を上げるその怪物は泣き叫ぶ。
「“闇界より這い出るもの”――【冥魔】です」
世界の危機に終わりは無い。
終焉が訪れないことがないように。
世界は狙われていた。
投下終了です。
たった短い短編なのに長々とすみませんでした(謝罪)
こんなの柊じゃねえよ&エリスじゃねえよ、という意見もあるでしょうが、それら全て自分の力不足です。
拙いお話でしたが、少しでも楽しんでもらえれば幸いです。
本格的なエロも書こうと思いましたが、技量が足りないのと、エリスと柊の関係がそれで決定的になってしまいそうなので控えました。
あと雰囲気が壊れてしまいそうでしたので(汗)
あと。ネタバラシをすると、
最初に柊と戦ったエミュレイターは冥魔に喰われ、パワーアップしました。
TV版の後も世界結界が弱まり、冥魔がちらほらとようやく観測され始めたばかりの話つもりです。
アンソロジーの後日談といったところでしょうか。
冥魔が強すぎる気もしますが、下手すると魔王も食うのでこれぐらいが妥当かなっと自己判断です。すみません。
あと、我ながら拙い技量で言い難いのですが。また機会があれば書かせてもらおうと思います。
次回のヒロインはどこぞのポンコツ魔王様の予定ですが、もし他のヒロイン&こんな冥魔と戦って欲しいとか、あのキャラを出せというのも受け付けております。
例えばアルシャードガイアの某錆びたシャード持ちとか、ガイアの病弱男装娘でもおkですw
それではまたのちほど(あったら)レス返しなどをさせていただきます。
ありがとうございました(謝礼)
ぐっじょーぶ。
エリスはヒロイン力高いなぁ。
なにせ、あの柊にフラグを意識させるほどだし!w
> あのキャラを出せというのも受け付けております。
よーし言ったな、後悔するなよ?w
皆きっとここぞとばかりに無茶キャラ要求するぞきっとw
個人的には好きだけど誰も触れない、勇士郎withダブルメイドとか希望してみる。
ベルとちゃんさまで
斬撃の人、完結お疲れ様でした。
まさしくこれこそヒロイン&ヒーローといった感じのエリスと柊、堪能させて頂きました。
エロ成分の少なさはお気になさることはないかと。
むしろ、文章の格調の高さ故か、「エロ」よりも「艶」を感じましたから。
次回予告ではポンコツ様がヒロインということで、こちらも投下を楽しみにしています。
私も拙作「蓮司×くれは」の後日談でベル様ヒロインにした後、
「よーし、今度はポンコツじゃなくて魔王の名に相応しい怖くて冷酷な魔王らしいベルを ! 」
と、「ぷちべる」書いたら、なにをどこで間違えたのか、ベル様ご本人の株を下げる結果に(泣)。
ですので、ぜひ私の代わりにリベンジを ! (笑)
ともあれ、完結お疲れ様でした !
斬劇の方乙です〜
エリスさんのヒロイン底力を見せられたお話でありました〜
>>104 んー?確か流鏑馬弟×ふゆはるネタは旧保管庫にあったよーな……
>>103 ともあれ、お疲れ様でした。
いやいや何をご謙遜を
確かに表現や言葉の取り回し上で首を傾げたくなる点はいくつかありましたが、それを補ってあまりある描写力、雰囲気の構成力でした
すげー、どうやったらこんないびつなもの書き的成長の仕方できるんだ(ほめ言葉)
なにより、です。なによりも、公式以外で、俺は、これほどの、「柊蓮司」を、見たことが、ないっ(断言)!
これだけ二次で柊蓮司を堪能したのははじめてに近いくらいな気がします。
大変いいものを拝ませていただきました。これを原動力に自分も頑張ろうと思います
次回作を期待しています、今からもぅドキドキするーっ!
109 :
名無しさん@ピンキー:2008/07/24(木) 03:16:50 ID:4Na5FqA7
完結お疲れ様でした。そしてありがとうございました。NWアニメからなんで
エリス大好きなんですけど本妻くれはやネタにも使いやすいアンゼロットに
ベルなんかが強くてなかばあきらめかけてたんですがこんなクオリティの高い
作品に出合えるとは本当に感動しました。
ところでガイアの病弱病弱娘というのが気になってしょうがないのでネタが
浮かんだら是非お願いします。
こんなユメを見た。
GM「今度、エンドラインのリプレイやるんですけど。
かわたなさん、やりたいキャラあります?」
かわたな「じゃ、ケイトを…」
GM「結城と戦うケイトですか。いいですね。」
かわたな「…それで、結城を寝とる」
GM「…」
ムーンライトドローンステージネタを読んだおかげで、
薬王寺勇希(男)×檜山ケイ(女)とか、上月姉妹(永子・つかさ)の姉妹モノとか変な妄想が。
隼美「普通っていうなー!(CV:新谷良子)」
隼乃がいいな。女性化するなら。
114 :
斬撃の人:2008/07/24(木) 14:19:20 ID:7urZO5Cn
そろそろ感想が出終わったようですので、レス返しです。
>>104 勇士郎withダブルメイドですかw
ちょいやくぐらいなら次回(書くとしたら)出せるかもしれません。
>>105 ベル様はともかく、ちゃん様まで!?
辺り一帯が焦土と化しますよw(バトル前提で考えている)
でも、あまりメインになるのは少ない気がするから出していいかもしれませんね。
……柊が死なないといいけど。
>>106 いえいや、まだ修練が足りません(汗)
そちらのプチベルと比べて、儚さとか足りない模様です。
出すとしたらポンコツ+カリスマモードを魅せ付けたいですね。
頑張ります。
>>107 エリスはヒロイン。
これは譲れませんw 個人的に好きなヒロインだと、ベルとレンとエリスです。
くれははまあ王道ということでw(マイナースキー)
>>108 出来るだけ柊らしさを出そうと頑張りましたけど、戦闘に関してはかなり好き勝手やってますw
あそこで答えをはっきり出すのは柊らしくないかなーと(優柔不断というよりも優しさです)
お褒めの言葉に恐縮です。
>>109 アニメからの方ですか。
お褒め頂きありがとうございます。自分もエリスが好きなんですが、あまりにエリスとかのSSがないので自分で書きました。
広いネット世界にはまだまだ自分よりも上の方がいるでしょうが、技量を褒めてくださってありがたく思います。
ガイアの病弱男装娘というのは、ファンブックに出てきた柊 レンという柊の平行存在のことです。
個人的には好きなキャラなので、いつかネタが浮かんだら書きたいと思います。
では、多数の感想ありがとうございました。
次回は今回の話の続編予定です。いつになるかは分かりませんが、いつか書きたいタイトル。
【魔王少女の爆撃舞踏曲】です。
>114
……魔王……爆撃……た、高町式交渉術!?
「お話……聞かせて?」(ドカーン)
ようやくエクソダス読了したが、
アィヴィーのエンディングを見て、思わず柳也がアイヴィーとのフラグを立ててしまって、
そしてミナリが嫉妬して、さらにそこにジェラルドが絡んできて、
ドロドロな昼ドラ展開を想像してニヤニヤしていたのは俺だけだろうか。
どう見ても俺だけです。
本当にありがとうございました。
なんかこう、アイヴィーがまどろみから目覚めたら、
柳也が上着とかかけてやってそうな、そんな感じのを連想してしまったんじゃよぉ〜。
そこにセント・ジョージが加われば更に(大惨事的に)完璧だなw
そして新生Xナンバーとして現れる柳也妹であった
むしろスティングがXナンバーのプロトタイプとか
ほらクローンだのフルボーグだの
>スティングとXナンバーズ
真面目な話何らかの技術供与や交換がセル間であった・・・てのは有り得る話かもしれないな
リプでそういう話が出ることは無いだろうけど
今後のサプリでそんな設定が出たら面白いな
・・・ここまで書いたところで、
エクソダス終了後のサプリにネオ・ファントムセルなる組織が収録された光景を幻視した
>>120 (ノエルと白馬の王子を読みながら)
え?携帯マスターファントムやファントムおみやげセットとかのアイテムや
ファントムセル戦闘員、影武者マスターファントムといったエネミーが追加されるって?
ゲル・ファントムセルじゃねぇの?
悪魔的天才からダインスレイフ研究所、ヘルメス、ファントムセルと
DXにマッドサイエンティストは欠かせない要素だな
( ゚∀゚)つ/∪⌒☆ <魔王少女の爆撃舞踏曲 マダー?) チンチン
クエスターは、どのようにして奈落の気配を察知するのか。
答えは簡単である。魔力……マナの欠如が、奈落発生の予兆であり結果である以上、
マナの感じ取れない場所に奈落は存在するという事になる。
本来、ありとあらゆる物体、存在に宿っているはずのマナが、存在しないという事。
その違和感こそを、クエスターは奈落の気配として捉えるのだ。
無論、意志のある奈落はマナの欠如を覆い隠し、自らの存在が露見する事を避けようと、
細工を弄する事もままあり、クエスターであれば奈落を必ず察知できるかというと、
そうは言えない場合もある。
だが……
「……これは」
最早呆けている場合ではない事を、雷火は眼前に広がった光景に教えられた。
「おっ、気づいたか、服部?」
「はい。……変、ですね」
「だよな……」
どこがどうおかしいと言うわけではない。そこにあるのは学校の建物だ。
どこがどうおかしいと言う事ができない。全てが狂った、学校の建物がそこにあった。
「なんなんだ、これ?」
時刻は当に始業時間を越えていて、本来ならば学校は教師の声、生徒の声、その他
もろもろのざわめきに包まれているはずの時間だ。
だが、そこには静寂だけが満ちている。そして、本来満ちていなければおかしいはずのマナが……ない。
「なんで、こんなに……静かなんだ?」
「………………」
正一の疑問に、雷火は答える事ができない。
そこにあるはずのマナが感じられない。それが示すのは、奈落の存在だ。それを雷火は
当然理解できる。だが、それを傍らにいる少年に自らの理解する所を教える事もまた、
当然の如くできない。
「……武田殿」
「なんだ?」
「それがし、様子を見てまいります。ここで待っていて下さい」
「様子って……俺も行くよ」
「駄目です。……危険……そう、危険ですから、それがしが行きます」
雷火の心に焦りが満ちる。まさか、奈落の動きがここまで早いとは。
そして、本来喧騒に包まれているはずの学校が、静寂によって満たされている意味。
「なんだよそれ……危険って……だったら先生とか、親とか、大人に言って……」
「時間がありません。それがしは……行きます!」
(皆……無事であってくださいっ……!)
そう、そこには先生達が……そして、クラスメイト達がいるはずなのだ。
焦燥が、雷火の足を動かす。
「ちょ……服部!?」
正一を校門の前に一人残し、雷火は駆け出した。
クエスターとしての能力を全開にしたその速さに、正一が面食らうのも気にせず。
「は……はえぇ……」
あっという間に豆粒のように小さくなった雷火の背中を呆然と見送りながら、正一は
考えた。一体、何が起こっているのだろうかと。
彼に理解できる範囲では、目の前に起こっているのは異常からは、危険の有無は
わからない。だが、雷火は言った。危険だから、と。
「……じゃあ、お前は危険じゃないのかよ」
彼女は、どうやらこの異常に、何か心当たりがあるらしかった。
自分には、この異常が一体何なのか、皆目見当がつかない。
先生が既に中にいるだろう事を考えれば、大人達もあてにはならないだろう。
「俺、次第……」
何故か心に刻まれたその言葉を、正一は噛み締めた。
「だったら……俺も行かなきゃだめだよな」
記憶の中には既に無いはずの夢に見た光景が、一瞬だけ脳裏をよぎる。
「大丈夫……多分、やれるさ」
そう呟くと、懐の中にあるカードの宝玉が緑色に光った。まるで、呟きに応えるように。
ここまで投下です。
おつ、まってたぜー!
でもやっぱり、もうちょっと読みたいとわがまま抜かす。
続き来たー!
気長に待ってるぜ
ベベベベルたんのお尻の穴あぁぁ!?
アンゼロット様のスジと微乳と困ったような表情がもう辛抱たまらんですたい!もう一生ついていきます!!
ところでこれってやっぱりコラかな?
コラだな、元絵はサイトにあるし。
しかしこのアンゼ様可愛いな。
古本屋に「合わせみこ」が出ていたので買いました。
やらしい夢――巨乳女子高生が毎日、男子高校生の剣(隠語)を胸に差し込まれて熱い液体が飛び散る夢を見るだとか、
81pのパジャマのお尻のラインとか、ベル様の「ふふ……あたしを相手にして、三十秒保ったらほめてあげるわ?」とか、
私なんか五秒持たない自信がありますよ?
こんな妄想↓でスレを汚しても構いませんね!
世界結界の暴走で無力化したベルは、げすなウィザードたちに捕らえられてしまう。
「げひゃひゃひゃ、魔王ベール=ゼファーもこうなっちまったらただの女だなぁ?」
強大な力を誇っていた魔王も魔力を失っては無力な羊に過ぎない。
「ただの女とは失礼ね。とびっきりの美少女、と言って貰えないかしら」
力を失い、拘束され、敵に囲まれているというのにベルの顔には余裕がある。
「けっ、生意気な女だぜ」
いかにも主人公に絡んで瞬殺される町の暴漢といった風情のスキンヘッドの男が舌打ちをしながら、身動きの取れないベルのスカートを捲り上げ、青と白の縞々を顕にする。
「身動きの取れない女の子にこんなことをするなんて、ウィザードの質も随分落ちたものね」
「うるせぇ! 今の手前なんざ、人権もねえただの穴ぽっこなんだよ! おい、準備はできたか」
スキンヘッドが背後を振り返ると、痩せすぎた眼鏡の男が撮影機材の準備を終えたところだった。
「へへ、恥ずかしくて二度と人前に出てこれないような目に合わせてやるぜ」
スキンヘッドがそういいながら、縞々の股を覆う部分を乱暴に右手で掴み、持ち上げる。
正面に置かれた撮影機材にベルの幼い、まだ毛も生えていないツルツルの割れ目が写る。
スキンヘッドは、そのまま持ち上げた布地を左手にもったカッターのような刃物で切り取る。
「貴方、魔剣使いだったの。でも随分とお粗末な獲物ね」
「うるせえ! 俺様の獲物を馬鹿にするな!」
スキンヘッドは、ズボンからすでに起立した男の武器を取り出した。
「じっくりとねぶってやろうと思ってたが、もう止めだ! いきなり突っ込んでやるぜ!」
小さなベルの穴には、とても入りそうに無い肉の凶器。
だが、ベルは余裕を失わない。
「ふふ……あたしを相手にして、三十秒保ったらほめてあげるわ?」
「生意気言いやがって!」
愛撫もなく、荒々しくスキンヘッドがベルの小さな体を押し倒し、その蜜壷に凶器を差し込む。
「う、おおおおおおおおぉぉぉおぉおぉ」
急な挿入に顔をしかめるベル。その小さな体は、だがすんなりと男をくわえ込んでいた。
世界結界の力で封じられたとはいえ、これが魔王の力なのか、ベルの体は男の全ての精を吸い取ろうするかのように広がり、収縮し、蠢き、飲み込んだ。
スキンヘッドは、あっという間に全ての精という精を搾り取られ、至上の快楽の中、何もかもをもベルに捧げた。
仲間が抜け殻となって、地に倒れ伏しても周りの男たちは動かなかった、否、動けなかった。
白濁に染まった女の穴を見せ付けるようにしながら、ベルが微笑む。
「さあ、貴方たちもいらっしゃい。私が食べてあげるわ」
何かに操られるように、男たちが自らの凶器を取り出し、小さな雌に群がる。
小さな体で大勢の男の欲望をぶつけられるベル。しかし、一見捕食者である男たちはその実、被食者。
前の男の白濁汁をたらす穴に突っ込んだ男が、前の男のように全てを奪われた。
ベルの後ろの穴、前よりもさらにきつい場所を求めた男も同様に、ベルの小さな、そして妖艶な唇をわって口膣を味わった男も同様に。
拘束からとかれたベルの白魚のような手は、触手のように絡み付いて同時に二人の男を噴出させた。
ベルの小ぶりな胸に吸い付き、その小さな果実を味わったものも、太ももの張りを頬擦りして味わったものも、黒いニーソックスに自らの凶器をこすりつけたものも、等しく、イってイった。
永遠のようなわずか五分間、その場にいた20をこすウィザードたちは全てをベルの子宮に、体内に捧げていた。
「これだけプラーナを吸収すれば、しばらくは大丈夫ね。でも、私がこんな方法を取らなくちゃいけなくなるなんて……ルー=サイファー覚えてなさいよ。貴方の計画は私がつぶす」
そうしてベルは、向かう。あの忌まわしい計画をつぶしうる力を持った男の元へ、餌では無く敵と認めた男、柊蓮司の居る所へと。
「んっ、声が、壁、薄いのにっ」
狭い、部屋の中、暗闇で絡み合う艶かしい女体。
「なら、我慢すればいい」
そういいながら、灯の指が翠の最も敏感な場所をまさぐる。
「だっ、駄目、ですっ、あっ、んっ、んっ〜〜」
あの事件で500年前の伊那冠命神としての記憶を取り戻した翠。
その記憶は、歴史の闇に埋もれるはずだったある出来事をも含んでいた。
500年前、激しさをますエミュレイターへの対処法として、金色の巫女がもたらした秘儀。
世界結界を暴走させるための魔王ルー=サイファーの一手。
碧き月の神子と紅き月の巫女を魔術的に結びつけるための原始的で、根源に近いゆえに強力な儀式。
女同士の、二人の体の交わり。
そこで味わった快楽は、体だけでなく魂までにも刻み込まれ、よみがえった記憶は、永の年月を自分に仕えた従者であり恋人となった男のことも忘れさせ、翠を灯の元へと導いた。
そして、灯もそれに答えた。
以来、二人は自らの恋人に秘密の逢瀬を何度も重ね――今に至る。
「おかえしですっ!」
必死に手で口を押さえて喘ぐのを耐えていた翠が、今度は灯を攻撃しようと、胸に手を伸ばす。
「っ!」
むにゅっと膨らんだ乳房を鷲づかみにして、その大きさを確かめるように揉んでゆく。
「ふふー、攻めるのは得意でも、攻められるのは弱いんですかー?」
顔を名の通り赤らめながらも灯も翠の胸に手を伸ばす。
「そう、だから攻める」
二人の少女がお互いの指先でその年頃としては豊かな乳房をまさぐり、掌で包みあう。
「また、大きくなっている。時雨に揉まれているの?」
「違っ、んっ、でも食事を奢ってもらったり、ウィザードとしたの仕事で、ご飯食べられるようになったからっ!」
「そう、ならまだ大きくなるかも。楽しみ」
灯はそういいながら、翠のサクランボを口に含み、舌で転がして、歯で甘噛みする。
「ひゃっ、ん、灯さんこそ、恋人さんとどうなんですか?」
灯が翠の乳首から口を離すが、そこはヨダレでベトベトに汚れ、透明の液体が未練がましく灯と翠を繋いでいる。
「……バイトで忙しいって、言ってある。私たちは互いに快楽に溺れて恋人を裏切っている者同士」
灯の身を背徳が、欲情の炎となって焦がす。
「なら、とことん快楽を味わうべき」
仰向けに押し倒した翠のむっちりとした太ももを持ち上げると、灯はそこに抱きつくようにして体の位置をかえ、うつ伏せになって足を差込む。
二人の足の根元、女の最も敏感な場所が重なり合わさる。
そして二人は、汗とヨダレと愛液をベッドに撒き散らしながら激しく、その場所をこすり合わせる。
何度も何度も、尽き果てぬ快楽に身を任せて。
136 :
いやらしい柊:2008/07/26(土) 13:14:52 ID:MQs4m3W8
「柊の腕にぶら下がるようにくっついていた女の子だけど……」
そういって後の言葉を濁し、何か言いたそうに灯を見つめるくれは。
「……毎晩」
「毎晩!?」
「柊自身の分身ともいえる。太くて大きくて硬くて長い獲物を翠の目の前で取り出して」
「なっ!」
くれはの頬が、羞恥と嫉妬で赤く染まる。
「あの大きな胸に差し込んで」
「っ!」
一瞬、自らのささやかな胸を見下ろして拳を握り締めるくれは。
「とびちる熱い液体」
ぎり、ぎり、と歯が軋む音。
「そしてイってしまう翠」
無言で立ち上がり、幽鬼のような形相で部屋から出て行くくれは。
「そんな夢を見ていたそう」
淡々と最早いない相手に言葉を紡ぐ灯。
「人に話を聞いて、途中で席を立つのは無礼」
居なくなったくれはを追おうと立ち上がった灯だが、探すまでも無く、戻ってくるくれは。
「あははは。ちょっと大切な用事が出来たんで出かけてくるけど、わたしはずっとここに居たって証言してくれるカナ、カナ?」
無言でうなずいた灯は、くれはが出て行った後、ぽつりと呟いた。
「でも、包丁を手にもって外に出るのは非常識」
銀河皇帝だとかアルティメット柊とか女柊だとかの元も分からん浅いファンなんで、口調やキャラが違うかもしれんけど許して、親切に教えてくれるがよいさ。
GJ!あかりんと三下エロかわいいな……三下はエロが少ない(つか、はじめて?)から貴重な三下エロ成分を補給できたぜわっほう!
そしてとりあえずゲヒャヒャこと天は色々と自重すべきwww
ゲヒャヒャハルト自重w
約一週間ぶりのご無沙汰です。
「変わらない絆」に引き続いてのヒロインPCエリスもの第二弾、
投下スタートのためやって参りました。
ではでは。
盃に大海の水は注げない。
それは赤子にも自明な理であろう。
広大無辺にも思われる潮の流れるさまを見て、手の内に捧げ持ったたったひとかけ
の盃が、それを満たして余るなどとは、所詮狂人の語る戯言に過ぎない。
されど ---- 。
それを妄言と嘲笑するものこそ、愚かである。
常軌を逸し、狂おしいままに力を振るうものこそが、不可能事を可能にする。
そのことを ---- 私は幾度となくこの目に見てきて知っている。
狂人と呼ばれ、蔑まされるほどに、その者の力はあるべきものを歪に捻じ曲げる。
その者は、狂気の力でただ一本の微細な針をもって山を崩し ----
またある者は、二本の腕を翼代わりにはばたかせて空を舞い ----
そうでない者は、吐き出す息だけであまねく木々をなぎ倒した ---- 。
狂気には狂気の持つ力があり。
狂人には狂人の理論がある。
そして、それを体得した者のみが人知を超え、それを知るもののみが狂気というもの
の恐ろしさを理解するのである。
されば、見よ。
私はこの星に、この星以上のものを降らせてみせる。
この星よりも巨大で強大で、言語に絶する存在を降臨させる。
私が終末の喇叭を吹こう。蒼褪めた馬に跨ろう。
だから、どうかアナタの力を貸してくれ。
かつてすべてを見通すものに創造されたる器の少女よ。
アナタは、破壊の使徒を経て、創造の母となるべきひとだ。
志宝 ---- エリスよ -------- 。
※
※
※
小気味良いテンポでリズムを刻む、包丁とまな板の二重奏。
それを伴奏とするかのように、上機嫌なメロディーを口ずさむ小さな唇。
早朝、いかにも和風といった風情の調理場で。煮立った鍋の噴き上げる湯気の、白
いヴェールの向こう側、一人の少女が軽やかに踊っていた。
そう。それはまさしくダンスを踊るように。
調理場という舞台を縦横無尽に行き来する少女の姿は、料理もひとつの芸術なのだ
ということを改めて思い出させてくれるほどの鮮やかな手際である。
いかにも嬉しそうに野菜を刻み。なんとも愉しげにフライパンを操り。
小皿にすくった煮物の味を見るときの思案顔だけが、どことなく哲学的で。
「みりん、少し足しとこうかな・・・」
つぶやいた声は、真摯そのものである。
また忙しなく動き回りながら、てきぱきと茶碗や小鉢や箸を用意する。みるみるうちに
朝の食卓という芸術品が完成に近づき、こまめに調理場と隣接する居間を行き来する
間、髪を飾るカチューシャのリボンがさざめくように揺れていた。
少女の深い青の髪に合わせたような水色のリボンが、染みひとつない純白のエプロ
ンに映え、美しいコントラストを描く。朝の爽やかな空気に溶け込んだかのような清楚
さと清々しい雰囲気は、少女の持つ特有の資質でもあった。
少女の名を、志宝エリスという。
彼女が朝食の用意に専念しているのは、秋葉原の一角、知る人ぞ知る由緒正しき
赤羽神社の境内裏、いまエリスがお世話になっている赤羽家の母屋であった。
一日置きで任された赤羽家での料理当番。
根っから料理が好きなエリスは、ここぞとばかりに張り切って調理に精を出す。
本当は毎日だって苦にならない。苦にならないどころか、むしろ率先して炊事役を
任されたいのだが、それは居候先のくれはや、くれはの母にこぞって拒絶された。
先の戦い ---- 宝玉戦争と呼ばれる世界中のウィザードや魔王たちを巻き込んだ
大戦が終結を迎え、居所を失くしたエリスが赤羽家の世話になることが決まった当初
は、世話になるのだから、と家事の一手を引き受けようとするエリスに対して、
「エリスちゃん、それはダメだよ〜。こういうのはね、かわりばんこかわりばんこ」
くれはは、あくまで自説を譲らなかった。
世話になるのだからこれくらいのことは、と追いすがるエリスに、
「だめ〜。かっわりばんこ、かっわりばんこ〜。はわわ〜」
両手の人差し指でくるくると空中に輪を描く仕草で、奇妙な節回しの歌を歌いながら
くれはが逃げるようにエリスから遠ざかる。
「ああっ、く、くれはさんっ、どこへ !? 」
エリスの呼びかける声に背を向けたくれはは、どこか音程の微妙にずれた自作の
歌をはわはわと歌いながら、すたたたっ、と廊下を駆けていってしまった。
エリスの ---- 差し伸ばした手が行き場をなくして硬直する。
そんな二人のやり取りを見ていたくれはの母親が、柔らかく笑いながらエリスに向き
直った。髪を短くアップにまとめ、きりりとした和装の「着物美人」という呼び名がしっくり
とくる女性である。もう十歳も若かったら、どんな男性も放っておかないだろうと思える
ほど綺麗なひとだった。
「エリスさん。どうかおかしな娘だって思わないでね。・・・・・・まあ、おかしなところがな
いわけではないんだけれども」
うふふ、と笑う姿が艶っぽくて、エリスでさえもドキリとしてしまう。
遠ざかる娘の背中を見遣って、
「たぶんね・・・気恥ずかしいんだと思うの。あの子、貴女に家事一切を任せるからここ
に置いてやるんだ・・・なんて、そうさせてるみたいで嫌なんじゃないかしら」
「わ、わたし、そんなつもりじゃ・・・」
慌ててそれを否定するエリス。
赤羽くれはが、そんな尊大で、誰かの処遇にそんなつまらない交換条件をつけるよ
うな人間ではないことはエリスが一番よくわかっている。むしろ、そんな駆け引きなどと
はもっとも縁遠い明るさと天真爛漫さがくれはの良い所だ。
「ええ。わかっています。だけど、本当に貴女のほうで、変な引け目を感じたりはしてい
ない ? 」
「・・・あ・・・う」
やんわりと指摘を受けて、エリスが絶句した。
お世話になるんだから。本当はここに居るべきじゃないんだから。せめて自分に出
来ることぐらいは全部私が引き受けよう。みなさんの負担を軽くしよう。だって、私がこ
こにいることは、本当はありえなかったことなんだから ---- 。
そんな想いで口にした、エリスの「炊事当番は私が」という言葉だったのだが、むし
ろそれがくれはの心の何処かに引っかかったのだろう。
「貴女はもう赤羽家の一員なんですからね。家族と同じです」
目で語るように、エリスの顔を見つめて一言一句をゆっくりといって聞かせる。
「くれはもそう思っているから、貴女にそういう気の遣わせかたをさせたくないんだと、
そう思うの。きっと、エリスさんのことを妹ができた、みたいに思っているはずだから」
家族だからこそ気兼ねなど必要ない。誰が “妹” や “娘” に、他人行儀な気遣いな
ど望むだろうか。気遣いなどではなく助け合うこと。手伝ったり、一緒に何かをしたり、
ひとつの想いを共有したり。それが家族の条件であろう。だとすれば、くれはたちの言
う家族の条件を、エリスはすでに満たしていることになる。
「だから、私もエリスさんひとりに炊事当番をお任せすることには反対ですからね ? 」
と、小首を傾げて笑いながら、エリスのことを “娘” と呼んでくれる。
大いに赤面し、また大いに恐縮しながら、エリスはようやく「はい」と言うことができた。
敵わないなあ ---- と心の中で呟いて。
くれはさんにも、おば様にも。この母娘にはどうしても敵わない、と素直に思う。
だけど、その代わりにというわけではないのだけれども、
「境内のお掃除だけは、私、やらせて頂いてもいいですか ? 」
一瞬目を丸くしてエリスの顔をまじまじと見つめたくれはの母が、再び笑み崩れた。
しょうのない娘ね、とでも言いたげに溜息をつき、
「じゃあ、それだけはお願いしちゃおうかしら」
譲歩するようにそう言うと、
「だけどね、本当になんの気兼ねも要らないのよ。くれはのことも私のことも、姉であり
母であると、そう思ってもらいたいの。本当の家族だと思って欲しいのよ。ね ? 」
暖かい手で、エリスの髪を撫でてくれる。はにかみながら頷いたエリスの胸の内に、
言い知れぬ喜びが湧き上がってきた。天涯孤独の造られた存在。利用されるために
産み出され、破滅のために望まれた存在でしかなかった自分を、迎えてくれる人が、
家族と呼んでくれる人がいるということへの喜びであった。
「うん。上出来、上出来」
三度目の味見でようやく満足して、エリスは小皿をぺろりと舐めながら微笑んだ。
赤羽家に来てから、和食のレシピが随分と増えた。秋葉原の高級マンションに住ん
でいたころは洋風の食事が多かったが、やはり神社に住んでいるとなると、作る食事
も自然と和食が中心となる。赤羽家の調度類が、素焼きの小皿や、竹、桜、梅などの
模様入りの小鉢だったりと、いかにもなものが多かったことも影響している。
青い笹模様の丸皿に、ローストビーフを乗せるような真似は、エリスには出来なかっ
たのである。料理とは、食器の見た目も含めて料理である、とエリスは密かに思ってい
るからだ。全体の調和も含めて、料理というものを広範囲的な視野に入れて見たとき、
やはり赤羽家の食卓には和の香りが相応しいような気がする。
お得意のマドレーヌを焼くときだけは、縁の部分が緩やかに波打った形状の、ちょっ
とお洒落な小さな洋風のお皿を特別に用意して、初めてお菓子を作ることが出来る。
とにもかくにも、今朝の赤羽家の食卓は完成した。
朝の定番、脂ののった焼き鮭。生卵に焼き海苔。茄子とミョウガの和え物をサイドメ
ニューに、シジミのお吸い物と里芋と蓮根と人参の煮物が脇を固める。人数分の茶碗
を用意しておしゃもじを手に取ると、まるで見計らったように、くれはが食卓へ現れた。
「おはわー・・・・・・んー・・・いい匂いー・・・」
まだ眠たげな目をこすりながら、くれはが鼻をすんすんと鳴らす。
見事に調理された食材たちがほかほかと湯気を立て、いやがうえにも食欲を誘う。
「おはようございます、くれはさん」
さっそく、くれはの分のご飯をよそってやりながらエリスが挨拶をした。
ことん、と茶碗をテーブルに置いてから立ち上がり、
「く、くれはさん、いくら女の子しかいないからってダメですよ」
くれはに歩み寄ると、起き抜けとはいえあまりにもひどい彼女の着崩れ方に頬を染め
て、寝巻きの乱れを直してやる。普段巫女服姿で和装には馴れているはずなのに、と
てもそうとは思えない姿で、くれはが現れたからである。
薄手の生地で織られた浅黄色の寝巻きは浴衣の形状であるから、着崩れするともう
大惨事であった。帯はほどけて床をずるずると這いずり、襟がくしゃくしゃで左の鎖骨が
露になり、危うく胸元までもが見えそうになっている。当然、帯が帯として機能していな
いわけだから、歩くたびに、本来和服では見えるはずがない太腿までが露出してしまう。
「は、はわわ。ご、ごめんエリスちゃん。たはは、カッコ悪いね、私・・・」
人差し指でぽりぽりと頬をかきながら、くれはが決まり悪そうに笑った。
襟を正してやり、帯を結び直してやる姿は、まるで年下のエリスのほうがくれはの姉
のようにも見える。苦笑しながらエリスが、
「でも、珍しいですね。くれはさん、いつもこんなに寝相悪くないのに・・・」
そう呟くと、
「は、はわわ・・・・そ、そーだね、あはは、どーしちゃったのかなー、私・・・」
なぜか顔を真っ赤にして、だらだらと脂汗をかきながら口ごもるくれはである。
「 ? ? ? ・・・あ、そうだ。昨夜、先輩がお見えになっていたじゃないですか ? 今朝、朝
ごはんをご一緒できるように、たくさんご飯炊いたんで、まだ寝ているようでしたら後で
起こしててきてもらっても・・・」
控えめにくれはにお願いすると。
くれはの顔がそれはそれは色をつけたように紅潮の度合いを増していき。
「ひ、ひーらぎっ !? あ、うん、ひーらぎまだ寝てるよっ ? あいつ寝起きが悪いから起こ
さないできたんだけど・・・・・・は、はわわっ !? 」
なぜか、くれはが「しまった」という顔をする。
エリスはきょとんとくれはを見上げ、
「あ、もう見てきてくださったんですね。でも、今日のご飯は自信作ですよ。柊先輩にも
ぜひ召し上がってもらいたいです」
と、屈託なく笑う。その様子から眩しそうに目をそらし、
「そ、そーだねー・・・あはは・・・後で顔洗ったついでに起こしてきたげるよー・・・」
どこか力なく、くれはがそう言った。寝巻きの乱れをエリスに直してもらい、どことなく
“自己嫌悪” とでも書かれたような顔をして、とぼとぼと居間を出て行く。
「 ? ? ? 」
なんだろう。なにかまずいことでも言ったのだろうか。心底不思議でたまらない、とい
う風にエリスが首を傾げていると、居間から寝室のある棟へと続く渡り廊下のほうから
賑やかな声が届いてきた。
《うおー、ここまで美味そうな匂いが漂ってくるぜー ! あー、腹減ったなー、昨夜は随分
体力使ったから・・・》
《は、はわわーっ !? ば、ばかひーらぎ ! 大声でそんなこと言わないでよっ !? 》
《い、痛えっ !? つねんなっ !? な、なんでお前が怒るんだよっ !? 昨夜、任務から帰って
きたんだぞっ !? 疲れて腹空かせて帰って、なにが悪いんだよっ !? 》
《はわっ・・・ !? そ、そういう意味・・・ !? あ、あはははは・・・ 》
ぽんぽんとよく弾む会話の妙は、幼馴染みで長年連れ立ってきた二人ならではのも
の。軽妙なテンポのやりとりは、居間から出て行ったくれはと、彼女に起こされてきた
柊蓮司のものだった。くすり、と笑い目を細めながら、
「いいなあ・・・」
無意識の言葉をエリスが漏らす。
二人を ---- 羨ましい、と思う。自分にはない、二人だけの時間を育んできたくれは
と柊。二人を結び付けているものは歩んできた時間であり、信頼であり、たぶん友情
ではなく、愛情と呼ぶべきもので。
そんなことを言えばきっと二人は力いっぱい否定するだろうけれど、その絆は絶対
誰にも壊せない、真似できない強固なものなのだろう。だから、エリスは大好きなくれ
はと柊の関係が羨ましくなるときがしょっちゅうで。
頼れる先輩で、女友達で、かつてはともに戦いに身を投じた仲間で、いまは家族の
ような存在のくれは。
自分を気にかけ、護ってくれて、自分のために世界を敵に回してでも戦ってくれた、
エリスの ---- 初恋の人、柊。
二人のことが大好きで、二人にも愛されているエリスが、ほんのちょっぴり寂しい想い
をするのは、いつもこんなときである。
だけど、エリスは首をふるふると軽く打ち振り、心の中のなにかを振り払うように、力
強く微笑んだ。おしゃもじと、一回り大きな茶碗を取り上げると、お腹を空かせた柊のた
めに、山盛りでご飯をよそってあげることにした。
「お、美味そうだなー。食いでがありそうだぜー」
朝から豪快な笑顔を浮かべ、柊が食卓に顔を出す。来客用の浴衣姿が新鮮で、これ
はエリスの贔屓目だろうが、「柊先輩、和服も似合うなー・・・」と改めて彼を見直した。
「おはようございます、柊先輩」
「うぃーっす・・・・・・って、いて、いてててててっ !? くれは、耳引っ張んなっ !? 」
「なーにが、うぃーっすよ。朝の挨拶ぐらいちゃんとしなさいよね、ひーらぎ」
さっき自分が寝惚けて「おはわー」などと挨拶したことは忘れて、くれはが出来の悪
い弟を叱るように柊をたしなめる。続けて自分の茶碗も用意しながら、エリスが二人に
言った。
「さあ、席に着いてくださいね。ご飯もお吸い物も、おかずもたくさん、おかわりあります
から」
その言葉に、くれはが柊の耳から指を離し、二人は揃って従順にエリスに従った。
エリスの作る御飯の前には、歴戦のウィザードである二人も、大人しく従うより外に
ないのであった。
三人揃って「いただきます」を唱和する。真っ先に箸を食卓に走らせたのは当然のよ
うに柊で、食膳と口の間を行き来する二本の箸のスピードが、目で追うのも大変なほど
どである。
「ひーらぎ〜、ちょっと落ち着いて食べたら〜 ? 」
呆れ果てた口調のくれはにしたところで、咀嚼のスピードは相当なものである。
柊にこそ及ぶべくもないが、それでもエリスの倍は早い。
「ばーろー。美味いもんは美味いんだからしょーがねーだろー」
言いながら、里芋を一度に二個も頬張る柊。
「ばーろー。せっかくエリスちゃんの作ってくれた料理、ちゃんと味わいなさいよねー」
くれはも負けじと、スライスされた蓮根を一度に十枚も箸で持ち上げる。
「あ、きたねーぞ、くれはっ !? そんないっぺんに・・・」
「へへーん、蓮根に穴が開いているのは、実はこのためなんだよーだ」
まさかそんな理由で蓮根に穴が開いているわけではないだろうが、くれはは勝ち誇
るように言い切ると、しゃりしゃりと音を立てて、味の良く染み込んだ蓮根の煮物を口に
入れた。
「ふふ。まだまだおかわりたくさんありますから、慌てないで食べてください」
早朝の夫婦漫才に控えめなツッコミを入れる。エリスの至福の時間である。
残念なのは、くれはの母が不在であることで、なんでも「陰陽師どーしの寄り合いー」
と、いたって簡単にくれはが説明をしてくれた。詳しいことは実はくれはも知らないよう
で、どこで集まって、どれくらい家を空けるのかまでは、彼女自身も知らされていない
ようだった。いつもいるはずのくれはの母がいない分、柊がいるので食卓は寂しくは
なく、むしろ普段以上のけたたましい朝を迎えることになったことに、エリスはこっそり
感謝した。
「エリス、おかわりっ」
ずいっ、と目の前に突き出された大きな手に、山盛り御飯を平らげた後の大振りの
茶碗が乗っていた。見れば、まだ口の中でもぐもぐとやりながら、お腹を空かせた柊が
まるで欠食児童のような顔をして、エリスをやけにきらきらした目で見つめている。
餌をねだって甘える大型犬 ---- そんな失礼な連想が頭に浮かんでしまい、思わず
エリスは反省してしまった。お詫びの印に、さっきよりも大盛りでよそってあげようと、そ
の手から茶碗を受け取ろうとしたエリスの身体が、一瞬硬直する。
どくん。
身体の芯を突き抜ける、大きな脈動。
なにか見えない圧力が、確実な質量をもって体内を蝕んでいくような、そんな感覚。
それは譬えるなら、熱。熱の塊のようなものが、エリスの体内に潜り込んでくるような
そんな感覚。じわり、と額に汗が浮かぶ。エリスは久しく感じることのなかったこの感覚
に、背筋が凍るように思った。
あのとき。
宝玉戦争の真っ只中。
エリスが、新しい宝玉を手に入れるたびに感じていた “あの” 感覚が、いま甦っていた。
「エリス・・・・・・ ? どうした、具合でも悪いんじゃねーのか・・・ ? 」
柊の心配そうな表情と声に、はっと我に返る。
「エリスちゃん・・・・・・なんだか顔色がよくないよ ? 」
くれはが気遣わしげに自分の顔を覗き込む。二人に心配をかけたくなくて、エリスは
さもなんでもない風を装って、笑顔を浮かべ。
「あ、なんでもないです。柊先輩の食べる勢いについ圧倒されちゃって。先輩、学校の
屋上でお昼頂いていたときのこと、思い出しちゃいますね」
上手く話をそらせただろうか、と少し心配になる。
相変わらず、二人の真剣な眼差しは自分の顔から離れずに、柊もくれはも無言で
エリスを注視しているのだった。
「・・・・・・本当になんでもねーのか ? 」
柊は、時々すべてを見透かすような目をするときがある。まさに、いまの彼の瞳がそ
んな色を湛えているのだった。
「なんでもないですよ、本当です」
言えるわけがなかった。宝玉の力を得たときと似たような感覚を覚えたなどと、絶対
に言えるわけがなかった。第一、胸の奥、身体の芯で一瞬だけ奇妙な鼓動が脈打っ
ただけなのだ。勘違いかもしれないではないか。いや、勘違いに違いないではないか。
「エリスちゃん。なにかあったら、すぐ話してくれなきゃ、いやだからね ? 」
「くれはさんまで・・・なんでもないですよ、本当に」
ごめんなさい。嘘ついて。でも、なんでもないです。なんでもないに違いないんです。
だから本当に心配しないでください、お二人とも。
差し出されたままの茶碗を柊の手から受け取り、たっぷりと二膳分の御飯をよそって
返す。どことなく納得していないような二人へ、エリスは決して笑顔を崩すことなく応対
して、それ以上の追求を避けるようにした。
(勘違いです。いまの感覚だって、聞こえた声だって、空耳に違いないんです ---- )
脈打つ熱の塊が体内に侵入してくる感じ。
それと同時に耳をかすめた囁き声を、エリスは、もう忘れようと思い込む。
エリスの中に飛び込んできたモノは ---- いや、飛び込んできたものがあるとすれ
ばの話だが ---- こんなことを囁いていたような気がするのだ。
ナンダマダマダハイルジャナイカ --------
と -------- 。
(続)
赤羽弟は?
きっと押入れの中で姉と柊が昨夜何してたか目撃してて、べとべとになって気を失うように眠ってるんじゃないかな。
エルフレア読んでて思ったこと
天使ってショタコンなんだな
空導王を受け止めるザーフィー。
シチュエーションは、知らぬ知らぬ。
えーお久しぶりのゴンザ×ノエルです。
リアルが忙しくてなかなか書く時間がとれなかったんで、ひたすら妄想ばかりしてました。
クライマックス戦闘に入れるかな〜と思ったら話が一向に進まず、とりあえず幕間だけで投稿となります。
ポージング勝負が終わりゴンザレスはノエルを床に降ろして尻からペニスを抜いた。
ノエルは排泄に似た感覚に心地よさと開放感を覚えた。ゴンザレスの剛直が抜けると物足りない感じがした。
尻を丸出しで突き出したポーズのまま突っ伏す。錬金バイブと呪いの効果で股間からはダラダラと汁が垂れている。
ゴンザレスは素早くノエルの服をはだけ、亀甲しばりに使っている縄をほどき、ノエルの股間からバイブを抜き取った。
「はぁんっ……」
先ほどまでノエルを昂ぶらせていてくれた太いものが全て取り払われてしまった。
もの足りない……もっと気持ちよくしてほしい。それがノエルの本心だった。
突っ伏したまま脚を開き、尻を突き上げて、もの欲しそうに股間が開いている。
床からゴンザレスを見上げると目が合った。
「どうしたのかね、ノエル君。次は最後の勝負だ。まずは戦利品のチェックをしたまえ。」
何事もなかったかのように振舞っている。だが、その目はノエルの本心を見抜いているようであった。
(だめっ、立たなきゃっ……)
自分を取り戻して、よろよろと立ち上がるノエル。
(犯して欲しい……自分の股間をあの剛直で思う存分突き上げて欲しい。)
ノエルの肢体はそう言っていた。
「これで全部かな?」
ゴンザレスが返却した武具を揃えている。壊れてしまったもの以外は全て揃っているはずだ。
一緒に鉄格子の中に閉じ込められていたシルヴァは、途中で飽きたのか寝ていた。
この状況で寝られる度胸は凄いと思う。
「シルヴァさん、起きてくださいっ、トランさんを治してくださいっ」
むにょむにょ……
ちょっとした怨みと楽しみを込めて、大きなおっぱいを揉みながら起こしてみる。
「ン……なによ、シグ? あ、ノエルちゃん。ってなにしてるのよ?」
自分のを揉むのも楽しいが、他人のおっぱいを揉むのは気持ちよかった。蹂躙するような優越感を得られる。
「トランさんのパーツが全部あつまったんです。直してください。」
寝ぼけまなこでシルヴァがあたりを見回し、大変な状況だったことを思い出したようだ。
「ノエルちゃん……無事なの?」
ノエルは心配してくれたのが嬉しかった。
「私なら大丈夫ですっ、その、大変な経験でしたが、女性としてレベルアップしたと考えることにしましたっ」
「……そう」
シルヴァはすまなそうに目を伏せた。
「じゃあ、あの人造人間を直さなきゃねっ!」「はいっ!」
二人はトランの修復をはじめた。
「ピー、ピー、ピー、システムエラーです。早急に復旧してください。」
……やばい。直らない。シルヴァは焦った。
外すときは継ぎ目とかあって簡単だったから、スグに直せると思ってホイホイ分解したけど、
繋げてみてもエラーメッセージを口から吐き出すだけだった。
横を見るとノエルが涙目になっている。やばい。どうにかしなくてはっ!
「ゴンザレスさん、錬金術かじってましたよね? これわかります?」矛先をそらしてみる。
「む、私は錬金術の道具を使うだけだが……どれ、やってみよう。」
男は幾つになっても機械弄りとか好きなものだ。上手いこと乗せることができたようだ。
だが、3人でしばらく弄っても結局直らなかった。
「こわれても……ぜったいにかえしてくれるって、約束したのにっ!」
ノエルの悲痛な叫びが会場に響き渡る。
(やばいっ、マジ泣きだっ!)
ゴンザレスは焦った。
女を追い込みヒイヒイ泣かせるのは気にならない。むしろ興奮する性癖だ。
だが、この状況は違う。まるで子供の大切な物を壊してしまったようなものだ。
同じ女を泣かせているはずなのに桁違いの罪悪感が沸き起こる。
会場の観客達も一様に、『あ〜あ、やっちまった』という目でゴンザレスを見ていた。
サクラの部下達も、壊した張本人はずのシルヴァまでゴンザレスを批難の目でみていた。
「わかった、わかったからっ! 直すっ! 直すからちょっと待ってくれ!」
若干理不尽なものを感じながらも必死でノエルをあやす。
「えーと、説明書とかないのか? なんで外した通りにつけて動かんのだこのポンコツは……」
ぶつくさ言いながらトランの体を弄りまわす。色々試すが直る気配はない。
「そうだ、製造元に問い合わせてみよう。なにか連絡方法はないかね?」
「ぐすっ、トランさんは、ひっく、携帯大首領さんと、ひっ、お話してました……」
「これかっ」
腰に吊るさっていた携帯大首領を取り出すと、いくつかボタンがついていた。
「えーと、大首領直通……ではないな。製造部サポートセンター、これだっ!」
ポチッ
ボタンを押すと目がピカピカ光りだす。数秒待つと何者かの声が携帯大首領から聞こえてきた。
「はい、ダイナストカバル・サポートセンターです。」
「えーと、人造人間が動かなくなっちゃったんですけど……」
「様子を詳しく教えてください。」
「五体がバラバラになってまして。いや、まだ生きてます。たぶん。」
「あー、バラしちゃったんですかー。それだと保証は効かないんですよ。」
「いや金なら払いますんで、とにかく治して欲しいんですよ。」
「そういうことでしたら、こちらのほうでスタッフを送ります。深夜ですから明日以降という形になりますが、よろしいですか?」
「早急に、今すぐというわけにはいきませんか?」
「いや〜、流石にこの時間ですとドクトル・セプター寝ちゃってますんで。もう歳だから無理して起こすのもねぇ」
「そうですか、わかりました。では明日お待ちしております。」
「はいっ、では明朝携帯大首領で一度連絡してからお伺いしますので、もうしばらくお待ちください。ご利用ありがとう御座います。」
ピッ
携帯大首領の目から明りが消えた。
「ノエル君、直してもらえるそうだよっ!」
「ほんと? ほんとですか?」ノエルは泣きべそをかきながら確認する。
「明日にはスタッフの人が来てくれるそうだ。ドクトルなんとかという人らしい。」
「トランさん、ピーピーいわないですか?」
「大丈夫だって、金もわたしが出すから、なっ? 泣きやんでくれっ」
「ぐすっ……はいっ……」
ようやっと泣くのをやめてくれたようだ。ゴンザレスは心底ほっとした。
ゴンザレスは気を取り直して話を進めることにした。
「なあ、ノエル君。もう勝負をあきらめたらどうかね? 人造人間の彼のことはすまないと思う。
だが実際問題、ノエル君ひとりで私と戦うことはできまい?」
確かに言われたことも尤もだった。このまま勝負をしても勝ち目は万に一つもないだろう。
そうなれば冒険者をやめ、ゴンザレスの嫁となり、毎晩あの剛直に貫かれて気持ちいい思いをすることになる。
……あれ? けっこういいかも? ノエルは既に思考まで淫乱になっていた。
毎晩、もしかしたら昼間もゴンザレスにエッチな攻めをされて、やがては妊娠、出産して母親になるところまで妄想する。
……母親?
犬のように鳴く義母、そしてまだ見ぬ産みの母を連想する。
(そうだっ、私はお母さんに会うために冒険していたんだっ!)
当初の目的を思い出し、目に光が戻る。こんなところで冒険を止めるわけにはいかないっ!
「いいえっ、まだ諦めませんっ。まだ私にはカラドボルグがありますっ!」
お母さんと繋がる大事な剣。それを取られるわけにはいかなかった。
「ふん、ならばこちらも手加減はしませんぞ。」
ゴンザレスも真剣な目で見返す。
「それなら提案なんだけど、トランの代わりに私じゃダメかな?」
横からシルヴァが声をかける。
「彼を壊しちゃったのは私も同罪だし、ノエルちゃんの助っ人としては適任だと思うけど?」
「む、確かに……いいでしょう。認めます。」
「シルヴァさんっ!」
ノエルは嬉しさのあまりシルヴァに抱きついた。やっぱりおっぱい大きい。
「でも、本当にいいんですか? たぶん、エッチな攻撃とかしてきますよ?」
「う、だ、大丈夫よっ、大人の女だからっ」
シルヴァはその忠告にちょっと引いたが、自分から言い出したからには引っ込めるわけにもいかなかった。
「ノエルちゃん一人よりはよくなったと思うけど、こうなるとヴァルとかいうのが居ないのが痛いわね。」
シルヴァもこれからの戦闘について考えてみる。するとどこからともなく名乗り声が上がった。
「ヴァルならここに居るぜー!」
「なにぃっ!?」
突如上げられた名乗りに驚くゴンザレス。
会場の外壁の上、月光を背に忍者装束を纏った人影が立っていた。
「トウッ!」
忍者は外壁の上から跳躍し、空中で一回転半のひねりを加えながら観客席を越え舞台の上まで到達し、
ズベッ!
着地に失敗して顔から落下した。
「うわぁ……痛そう」
忍者は何事も無かったかのように立ち上がった。首がおかしな方向に曲がっている。
「ふんっ」手で首を持って正しい位置に戻している。あれで直るのだろうか?
ノエルは心配しつつも現われた忍者を見る。
着ているものはいつの間にか無くなっていたヴァルの黒装束だ。
だが、スラリとした体躯はフィルボルのものではない。そもそもどうみても女性だ。
胸は形のいい盛り上がりをみせ、サイズの合っていない黒装束を着てヘソやふとももが丸出しになっている。
頭巾からは犬のような耳が、ズボンは入りきらないのか尻が破れてシッポが見えている。
「ヴァルでござる」
「お前ベネットだろう?」
ゴンザレスが即座につっこんだ。
「……ヴァルでござる!」
ツッコミは受け付けないようだった。
「ベ……ヴァルさん、どうして……?」
とりあえずノエルも話をあわせてみることにする。ベネットもノエルに顔を寄せヒソヒソと話しだす。
「拙者、義によって助太刀いたすでござる。このままヴァルということで話をあわせて欲しいでござる。」
「えーと、ありがたいんですけど、いったい何故助けてくれるんですか? 義理とか特に無いような……
むしろ風呂に沈めたっきりで悪かったと思ってるんですけど……」
「実は拙者も言葉の意味はよくわかってないのでござるが、こういう場合『義によって助太刀いたす』というのがお約束であり、かっこいいのでござる。」
「は、はあ……」
やはりベネットであった。
「と、とにかくヴァルさん無事だったんですね!」
「もちろんでござる!」
バレバレだが、無理やりコレをヴァルだと言い張ってみる。
「ふっふっふ、いやはやヴァル君…プッ…無事だったとは驚いたよ……ぐふっ」
ゴンザレスも笑いながら話をあわせてくれた。やっぱりこの人いい人かもしんない。
「ふふふ、拙者の変装術にかかれば、この程度造作もないでござる。」
どうみてもバレているのにベネットは得意げに腕組みをしてつったっていた。
「……では、最後の勝負といこう。その前にノエル君、仕度を整えたまえ。」
ゴンザレスが指摘する。前の勝負が終わって脱がされたままだった。裸でいることに慣れすぎてスッカリ忘れていた。
フェザーアーマーは壊れてしまったので、先ほど脱いだ踊り子の衣装を着るしかない。ぱんつはピエール先生に盗られたままだけど……
見ると踊り子の衣装の横に見覚えのない袋が置いてあり、手紙が乗っかっている。ピエールからの贈り物だった。
『ミス・ノエル。貴女の素晴らしい健闘を称え、この品を贈らせて戴きます。きっと役に立ってくれるでしょう。』
なんだろう? 包みを開けてみると、出てきたのは白い大きなパンツのような布切れ……おむつだった。
『これなら多い日も安心でーす。呪いの効果もやわらぐことでしょう。』
流石にいい年しておむつをつけるのには抵抗があった。
だが、呪いを押さえる効果があるというのなら試してみるのも手だった。とりあえず履いてみる。
ピリッ クリトリスに軽い電流が流れ、股間に振動が起こり出す。もうこの感覚に慣れてきて気持ちいいだけだった。
股間から流れ出す愛液がおむつに吸収され、ベタつく不快感はない。
呪いの効果は相変わらず気持ちいいが、つけて戦えないほどでもなかった。
(どうしましょう……せっかくの贈り物ですし、使ってみましょうっ)
おむつをつけたままスカートを履き、ブラジャーをつける。踊り子の衣装の装飾品をつけて、護りの指輪をはめる。
愛剣カラドボルグを持ち、装備は完了だ。
スカートの下からは大きなおむつがはみだしてワカメちゃん状態であった。
ダイナストカバルサポートセンターとか勘弁してくれwwwwwwwww
シルヴァとベネット参戦で超wktkしてるのに素直にエロい展開を期待できねえよ!(笑)
どんだけユーザーサポート充実してるんだよダイナストカバル!(笑)
おむつって、どんだけフェチ展開を・・・
そしてクライマックスはエロ戦闘を期待してもう全開ですよ
感じていた違和感はいつしか嘘のように消え去っていた。
熱も、体内の脈動も、霧が晴れるように掻き消えていたし、食事が進むにつれて平
素の彼女自身を取り戻したエリスの姿に一応は安心したのか、くれはも柊も九割の安
堵と一割の不安を抱いたまま、朝食を再開し始めた。
忘れよう、という思いのせいだけでなく ---- 柊が三杯目のおかわりを要求し、顔を
赤らめつつも、くれはが二杯目の茶碗をそっと差し出した頃には、エリスの胸の内から
あの違和感は綺麗さっぱり影を潜めていたし、事実エリス自身がそのことをもう忘れて
いた。
あまりにも自然で。あまりにも日常と変わることなく。
柊もくれはも、ようやく自分たちの思い過ごしに過ぎなかったか、と胸を撫で下ろした
頃、食事の時間も終わりを告げた。
「ふいー、喰った喰った。ご馳走さん、エリス。いやー、三杯飯なんてエリスの料理なら
ではだぜー」
満足げに自分のお腹を撫でながら、柊がエリスの料理の手前を誉めそやす。ぽっ、
と頬を染めながら、エリスが「お粗末さまでした」というのへ、
「ごちそーさまー。やっぱりエリスちゃんの御飯おいしー。うんうん、これで私も安心して
赤羽家の味を後世に伝えることができるってものよ」
湯飲みの番茶をずずーっとすすりながら、こくこくとくれはが頷いた。
「お前は継がねーのかよ !? エリスに継がせてどーすんだ !? っていうか、お前はなにも
伝えてねーだろ、後世にっ !? 」
エリスがここへきて覚えた和食のレシピの多くは、くれはの母から教わったものだ。
つまり、くれは自身はなにもしていないわけである。
「朝からツッコミ飛ばすわねー・・・。でも、別に私はいーんだよーだ。赤羽家の陰陽師
の技術はちゃーんと受け継いでるしね。第一、陰陽の技も料理も両立するのは至難の
業なんだから。だから、代々の赤羽家の味はエリスちゃんが継いでくれることになりま
した」
「ええぇーっ !? そ、そんな責任重大な・・・・・・ !? 」
平然としてとんでもない発言をするくれはに、エリスが慌てふためいた。
助けを求めるようについつい柊のほうを見てしまうのだが、ここぞとばかりに盛大な
ツッコミを入れるかと思いきや、意外と柊はいたって真面目な顔をしている。
「そうか ---- よかったじゃんか、いろいろと」
そう言いながら、エリスを温かい目で見てくれるのである。
「ひ、柊先輩まで・・・きゃっ !? 」
ばふん、と頭の上に柊の大きな手が被さってきて、わしわしと髪を撫でられる。
「エリスー、これから大変だぞお前。あのおばさんの娘ってのはいいとして、こんな手の
かかる姉が出来ちまってよー」
などと言いつつ、本当に嬉しそうに笑うのだ。
ようやく柊の言葉の意味に気がついて、エリスは声を詰まらせる。
おばさまが自分に料理を教えてくれることには、そういう意味もあったのか、と。
赤羽家の一員になった、という実感がじんわりと沸いてくる。確かに、赤の他人だと
思っていれば自分が受け継いできた家庭の味を懇切丁寧には教えまい。
くれはのほうを見れば、柊とエリスのやり取りなど聞こえないふりをするかのように、
あさっての方角を向きながら済ました顔で番茶をすすっているのであった。
目が潤んでしまいそうになるのをぐっとこらえて、
「そんな・・・私嬉しいです。素敵なお母さんとお姉さんが出来て」
エリスが柊へ笑いかける。
「はわ〜。そんな “素敵” だなんて、本当のこといってもなにも出ないよ〜 ? 」
「聞こえてるんじゃねえかっ !? 」
びしっ、と鋭い冴えを見せる柊のツッコミ。
あはは、と笑いながらエリスは実感する。この温かい人たちとの絆や日常が、あの
悲しみと苦しみに満ちた戦いを経て、私が手に入れたささやかな ---- だけど大切な
宝物なのだ、と。もう、なにも憂えることはないもない。わたしはここにいて、くれはさん
や柊先輩や、たくさんの友達や仲間、大切な人たちがここにいる。
このかけがえのない日々を暮らし、いつまでも笑っていられるんだ、と。
いまのエリスは ---- そのことをこれっぽっちも疑ってはいないのだ。
そう。
いま、たったいままでは -------- 。
※
※
※
楽しい時間、充実した時間というものは思っているよりも早く過ぎ去っていくものだ。
朝食を終えたと思ったら、昼食を。昼食を食べたと思ったらもう夕餉の支度。
いま、エリスは夏休みの真っ最中である。
学校に通わなくてもいいこの長い休みの間、多くの学生たちは休暇を満喫している
のであろう。しかし、どれだけの同年代の少年少女が、エリスほどに充実した毎日を
送っていることだろうか。
光陰矢のごとし、という言葉があるが、エリスが感じる時の流れとは、まさしくそういう
類いのものだった。
熱帯夜になることが予想される熱気を大気が孕む今夜、エリスが用意した晩餐は、
きりっと冷やしたソウメンと、ちょっと奮発してうなぎの蒲焼、それに、昼の間から冷蔵
庫で冷やしておいた白玉のデザートである。
暑さが食欲を奪うこの季節、喉越しの良い冷えた麺に、滋養強壮のための鰻、さっ
ぱりした食後の甘味というエリスならではの気配りが垣間見えるメニューだった。
ウィザードとしての力を失くしたエリスには、月衣の特殊な加護はない。
だからこそ、季節や気候の移り変わりにも即したメニューになるというわけである。
風鈴の涼しげな音が縁側から聞こえてくる赤羽家の食卓に、目を輝かせながらくれ
はが飛び込んできて、エリスの作った晩御飯に舌なめずりせんばかりの勢いで畳の上
に滑り込んでくる。
「ミョウガに焼き茄子に紫蘇の葉におろし生姜 ! はわー、薬味も充実してるよ〜」
小皿の上の薬味にすら感激して歓声を上げるくれはと、笑顔でそれに頷くエリス。
差し向かいで座り、歓談しながら夕食を摂る二人の時間が、瞬く間に過ぎていく。
食器を片付け、お風呂に入り、扇風機の風に当たりながらとりとめもないお喋りをし
ているうちに、時計の針がいつの間にか深夜十二時を差していた。
「はわわ〜」
表記するとニュアンスが伝わりにくいが、これはくれはの欠伸である。
さすがに眠気が襲ってきたのか、目に溜めた涙をこすりながら、くれはが席を立つ。
「エリスちゃん、私、もう寝るね」
「あ、はい。私もそろそろ、って思ってました。お休みだからって夜更かししちゃいがち
になるの、よくありませんからね」
自戒を込めて苦笑しつつ、エリスが扇風機の電源をオフにした。
とはいえ、エリスが夜更かししてしまうときは、大抵くれはのお喋りに付き合わされて
のことが多い。その自覚に乏しいくれはが、夜更かしは健康にも美容にもよくないから
ねえ、などと呑気なことを言う。
「おやすみ、エリスちゃん」
「はい。おやすみなさい、くれはさん」
居間や台所の明かりを消して回ると、辺りが夜の闇に包まれる。本棟から続く渡り廊
下へくれはの姿が消えると、エリスは最後に戸締りの確認をしてから、自分も寝室へ
と急いだ。
エリスの部屋は、渡り廊下を歩ききった一番奥。
窓際に大きな神木が木陰を作ってくれる、この時節には涼しげで快適な部屋である。
風が吹けば葉のざわめきが耳に心地よく、枯葉散る季節には紅葉で目を楽しませて
くれるという。
部屋に入り、エアコンのスイッチをオンにし、タイマーをセットして。
薄手の浴衣に手早く着替えると、エリスは布団と毛布を用意した。
夏の暑さが肌で感じられる頃から、浴衣はエリスのお気に入りの寝巻きになってい
る。薄い水色がいっそ爽やかに目に映る、涼しげな浴衣であった。
部屋の電気を消し、布団に身を横たえ、毛布を胸元にかけると、エリスはたちまち
健やかな眠りに落ちていった。
そして。
異変は眠りの後で訪れた ---- 。
※
※
※
暗がりの中。苦しげな、しかしどこか艶めいた呻き声が室内を這いずっている。
エリスの寝室内。と、すれば、この声の主は当然彼女のものである。
うっすらと額には汗が浮かび。ひそめられた眉が切なげで。
半分開かれた唇からは呻きとともに熱い吐息が断続的に漏れて、まるで子供がい
やいやをするように、枕の上に乗せた頭を左右に振っていた。
胸元にかけられた毛布はいつの間にか跳ね除けられて、部屋の隅で打ち捨てられ
たぼろきれのようにうず高く丸められている。
ずずっ、と。
布団をぐしゃりと引きずりながら、エリスの足が動いた。膝を曲げ、浴衣の裾を割り、
水色の布地がはらりとはだけられる。爪先から膝、膝から太腿と、和装を乱して脚を
露にしていく。お尻から腿までのなだらかな曲線が剥き出しになり、扇情的な姿をさら
している様子は、常のエリスからは想像も出来ない有様である。
もう一方の脚も、ゆっくりと曲げられていき、すっかり開脚された両脚の間、身に着け
た下着までが露出される。
帯がほどけ、襟がはだけ。もし室内の明かりが点いていたとしたら、エリスの全身の
肌を汗の珠が浮いているのが見て取れるであろう。
そして。
ぼう、ぼう、ぼう、と鈍い音が立て続けに沸き起こり。
エリスの寝室を、十数もの人影が埋め尽くした。人影 ---- そう、まさしく人の形をし
た影だった。黒く、夜よりも闇よりも黒く。そのシルエットたちは、次第に輪郭を顕してい
き、くっきりとした姿を取り始めた。影ゆえに判別しがたいが、その姿は女性のようで。
年の頃はわからぬが、体格も身長もさまざまの、少女の姿をした影だった。
(志宝 ---- エリスよ -------- )
影のひとつが深い眠りのうちにあるエリスへと呼びかける。
(どうかアナタの力を貸してくれ)
別の影が、眠るエリスの開かれた口元へと唇を寄せるように覆い被さった。
(かつてすべてを見通すものに創造されたる器の少女よ)
それとは別の影が、エリスの浴衣の襟を完全にはだける。
(アナタは、破壊の使徒を経て、創造の母となるべきひとだ)
言いつつ、エリスの両足首を掴み。
(志宝 ---- エリスよ -------- )
すべての影がエリスの名前を唱和した。
十数体もの影の少女たちが、エリスにゆっくりとのしかかる。薄く開いた唇をこじあけ、
影のひとつがエリスの呼吸器を侵略する。胸元に張り付いた影が、肌に染み込むよう
に体内へと沈み込む。強引に開かれた脚の間、するすると下着と肌の隙間を縫って、
エリスの大切な、二つの器官に滑り込んでいった。
「ふあ・・・・うふぅ・・・・ん・・・・」
悩ましげに声を漏らしたエリスが身をよじる。
影たちの体内への侵入が終わり、最後に残った一体が、布団の上のエリスを見下ろ
していた。それは、どうやら最初にエリスに呼びかけた影のようである。
《十五体・・・か・・・まだまだ入りそうですね・・・》
線のか細い少女の声で、影が呟いた。
その声は愉悦と興奮に上ずり、愉しくて仕方がない、といった風である。
《今夜は・・・ここまでにしましょう・・・急激な変化は・・・好ましくありませんから・・・》
いとおしげに、エリスの苦しげな寝顔を見つめた影は、最後に呟く。
《よい悪夢を・・・志宝エリス・・・今夜は始まりの一夜に過ぎませんから・・・》
※
※
※
※
※
※
エリスは夢を見る。
眠りの壁の向こう側、深層意識を捕らわれたまま、エリスは昏い夢を見る。
夢の中の自分は身動きが出来ず、仰向けに寝かされて、ただ十数人の人影に囲ま
れているのだ。
誰ですか。私になにをするつもりですか。
言葉を出すことは、どうやら許されているらしい。エリスは周囲の影たちに必死で呼び
かけた。影たちは、しかし、ただただエリスを見下ろしているばかりである。その姿は、
シルエットから類推するかぎり、妙齢の少女を思わせる体躯であった。
少女たちの影がエリスに近づく。薄っぺらく、細く、まさしく影の形をとった少女たちの
黒い身体が、エリスに覆い被さってきた。
「い、いや、いや、いやいやいやいやいやあぁぁぁぁぁーーーーーーっ !? 」
生理的な嫌悪感に突き動かされて、エリスは悲鳴を上げた。
その口を塞ぐように、影がずるり、と飛び込んでくる。
「んぐうぅぅぅぅぅっ !? 」
喉を塞がれ、呼吸を止められ、エリスは涙を流しながら苦悶の声を上げた。
苦しい。息がつまる。呼吸が出来ない。死んじゃう。
そんな思考がぐるぐると頭の中を激しく巡る。これは夢。夢なんだ。だから死んじゃう
なんてことはないんだ。エリスの中の冷静な部分が彼女自身を落ち着けようと、そう諭
す。でも、この苦しさはなんだろう。夢なのに。
しかし、リアルな夢は、その現実感ゆえに精神を蝕む。いまこの瞬間、エリスが夢現
で感じる苦しみは、確かに本物であった。
別の影がエリスの耳元に唇を寄せる。ぬるり、と真っ黒い舌が突き出され、エリスの
耳の穴を嘗め回した。ぞわぞわと背筋を昇るおぞましさに身を震わせ、頭を振ろうと首
に力を込める。ずるずるずる、と。まるで蛇のように伸びた影がエリスの耳から侵入を
開始し、瞬く間に彼女の脳に到達した。
「ぐ、うぐっ、ふ、ふうっ、ぐ・・・・・・」
灼ける。脳が焼ける。頭が沸騰する。苦しみに流し続ける涙すらも、その熱で乾かして
しまいそうな灼熱が、エリスを蹂躙した。
また別の影がのしかかり。
エリスの襟元をはだけ、脂汗にまみれた肌を露にした。薄っぺらな黒い闇が、べとり
とその胸に張り付く。エリスの裸の胸元に真っ黒な一面の染みをつくり、影がじんわり
と浸透する。
一人が染み込むとまた一人。それが終わると、次の影がまた染み込む。
脳を焼かれ、喉を犯され、肌どころか体内までも蹂躙され。
エリスは恥辱と苦痛に泣いた。
そして ---- 。
最後を締めくくるかのように、残された二体の影がエリスの脚を拡げた。
浴衣の裾をめくられると ---- そこに着けていたはずの下着はなかった。
夢のなせる業か。影の少女たちの世界に取り込まれたとき、邪魔な布切れなど失わ
れてしまったのであろうか。エリスは苦痛に蝕まれた意識の中で、悲痛と驚愕に苛まれ
ていた。
少女が、他のなににもまして護り通したい、隠しおおせたい部分。
それらの箇所が、剥き出しにされる。
いまだ誰の手も触れていない美しい花弁。ひっそりと閉じ、花開くときを待つかのよう
に慎ましく秘められた少女の中心部。そのわずか下には、これもまた美しく密やかに
閉じた器官 ---- たとえ最愛の人が相手であってもさらけ出したくない部分 ---- が
息づいている。
しかし、影たちは容赦をしなかった。
するりするり、と黒い少女の形が細くなり、侵入に適した形へと己が体躯を作り変え
ていく。さしずめそれは、真っ黒な蛇。陵辱の確固たる意志を持った、淫らな蛇のよう
だった。
ぴとり -------- ぴとり -------- 。
影の蛇が、エリスの股間と ---- 菊門にあてがわれ。
そして、間髪いれず同時に。
ずぐ、ずぐずぐっ、ずるるるるっ -------- と。
※
※
※
エリスは夢を見る。
寝汗にまみれて夢を見る。
夢の中に捕らわれながら、びくりびくりと痙攣を続けるエリスの身体を、喜悦とともに
見下ろしながら、影の少女はくるりと背を向け、寝室の壁からするすると戸外へ抜け出
していく。
《よい悪夢のようでなにより・・・志宝エリス・・・今夜のことは目覚めたときには忘れて
います・・・第二夜・・・第三夜・・・さあ・・・あなたの器を満たすのにどれだけの夜を越え
たらいいのか・・・私の想像をぜひ超えてください・・・器の少女よ・・・》
そんな言葉を残して。
影の少女は姿を消した。
背後に、悪夢を見続けるエリスだけを残して。
※
同時刻。
異世界アンゼロット宮殿。
二十四時間体制でファー・ジ・アースの監視を続けるオペレータールームが、にわか
に騒がしくなる。近年、類を見ない有様のエミュレイター反応が観測されたことにより、
エマージェンシーコールが発動され、宮殿内に常駐したロンギヌスが急遽集まったので
ある。
オペレーターたちを見下ろす司令塔の、豪奢な背もたれつき司令官席に座った銀色
の髪の少女が、不機嫌そうに側近の仮面の青年から報告を受けていた。
銀糸を織り成したような長く美しい髪は、彼女の二つ名に相応しく月光の煌きを持ち、
年端もゆかぬ十三、四歳の少女の姿はやはり冴え渡る月の如くに朧麗で。
少女の名こそ、アンゼロット。
ロンギヌスを束ねる司令塔であり、全世界のウィザードたちの精神的支柱であり、か
つ “世界の守護者” 、 “真昼の月” の異名で呼ばれる絶世の美少女であった。
「こんな時刻に叩き起こされて、わたくしは不機嫌ですわ」
アンゼロットがじろりと真横に立つ側近を見上げ、そう愚痴を垂れる。
世界の守護者としての責務はやはり二十四時間体制。とはいえ、寝入りばなの深夜
に起こされては、さすがのアンゼロットも機嫌を損ねるというものだろう。
椅子に腰掛けた姿は、よほど急いだものか寝巻き姿のまま。黒のネグリジェにガウン
を羽織っただけの、まるで火事場から焼け出されてきたかのような装いである。
「はっ。申し訳ありません。ですが、オペレーターの観測したエミュレイター反応が、過去
に前例のない観測のされ方をいたしましたもので、無礼を承知でお越し頂きました」
丁寧に、堅苦しく応じた仮面の青年は、ロンギヌス隊員の一人。
とはいっても、アンゼロット配下の中でも実力は折り紙つき。 “ナンバー持ち” に匹敵
すると噂されるほどの青年。名を、コイズミという。
「やれやれ、ですわ」
溜息とともにそう言ったアンゼロットが、次の瞬間にはもう “守護者” の顔になってい
た。
「それでは、報告させていただきます。時刻はほんの十数分前。秋葉原近辺で複数の
---- 正確に言えば十六体のエミュレイター反応が観測されました。すべて ---- 魔
王級です」
言葉だけを聞けば、ウィザードたちが卒倒しかねない報告であった。
十六体もの魔王級エミュレイターが同時に同一ポイントに出現するとは、只事ではな
いどころか、確かにコイズミの報告するとおり、前例のないことであろう。
アンゼロットの表情が緊張で強張り、こめかみを汗が流れる。これも、アンゼロットに
しては珍しいことであった。
「ガッデム ! なんてことでしょう ! 全ロンギヌスだけでなく、フリーランスのウィザードや
傭兵にも声をかけ、緊急配備をする必要がありますね。手配の準備は、コイズミ ? 」
言われた当のコイズミは ---- 困惑の表情を浮かべて口ごもる。
「どうしました ?_」
「それが・・・出現したエミュレイターたちは、魔王級といえどもすべてがいわゆる “ザコ
魔王” ---- おそらく裏界においては士爵級の弱小魔王ばかりでして」
「馬鹿なことを ! だからといってそれを放置していい理由にはなりませんわよ !? 」
激昂するアンゼロットを慌ててなだめるように、コイズミが言葉を次いだ。
「い、いえ、誤解なさらないでください。相手を弱小魔王と軽んじて手配をしなかったの
ではなく・・・手配が間に合うことなく、観測された反応がすべてロストしてしまったので
す」
「は・・・・・・ ? 」
「ですから、エミュレイターの秋葉原出現までは観測できたのですが・・・出現からわず
か半時間ほどの間に、すべての反応が失われてしまったのです。いま、オペレーター
たちが奔走しているのは、ロストした反応の行方を追っているからでして・・・」
コイズミの説明を受けていたアンゼロットの表情が、みるみるうちに翳りを帯びる。
不可解な事態に遭遇して、胸の内に沸きあがった漠然とした不安感を隠そうともせ
ずに ---- 。
※
同時刻。
裏界帝国。
軋む歯車のオブジェを背に、ゆらめく蝋燭の輝きを浴びながら。
ひとりの少女が不機嫌そうに呟いた。
「・・・・・・どこかの誰かがつまらない悪戯を仕掛けているみたいね、リオン ? 」
ウェーブのかかったくせっ毛。肩口までかかる髪の一部を編みこんで、アクセントに
リボンを結び。大きな吊り目はまるで猫のように悪戯っぽく気まぐれで。
小柄な肢体を輝明学園の制服に包み、肩にはお気に入りのポンチョを羽織った少女
が、椅子に脚を組んで腰掛けていた。
裏界帝国の実力者。あまねく翼持つものを従える美しき蠅の女王。
大魔王、ベール=ゼファーである。
「そのようですね・・・大魔王ベル・・・」
リオンと呼ばれた少女が、その横に腰掛けていた。
額にかかる艶やかな前髪をはらりと垂らし、腰まで届く長い髪はどこまでも闇の色。
ひっそりと囁くような声で応え、視線は腰掛けた己の膝元に落ち、分厚い古書の頁
を飽くことなく追っている。
リオン=グンタ ---- “秘密侯爵” の異名を持つ、裏界の魔王のひとり。
「狙われているのは志宝エリス ---- と、この書物には書いてあり・・・」
「待って、リオン」
さえぎるように言葉を挟むベル。
その瞳が憤りと、そして愉悦に輝いている。
「どこの誰かは知らないけど、この私を差し置いて大きなゲームを始めようとしている
のよ・・・頼まれなくたって、いいえ、拒否されたって参加するわ、私」
「・・・結果は・・・言わないほうがいいのでしょう・・・ ? 」
リオンの問いかけに、我が意を得たりと頷いたベルが言う。
「わかってきたじゃない、リオン。ゲームは結果が分からないからこそ面白いのよ。
さあ、このゲームに乗るか、叩き潰すかは後で決めるとして・・・行くわよ ---- 」
組んでいた脚をほどき、椅子から立ち上がる。
「ファー・ジ・アースへ -------- 」
大魔王が、そう宣言した -------- 。
(続)
※
※
※
休みにかまけてSS書き。ちょっとエリスがひどい目に遭ってしまってますが・・・。
今回、いつもより長くなってしまいそう・・・
最後までお付き合いいただければ幸いです。
ではでは。
エリスきたぁああああ!
エリスのSSはやっぱりいいですねぇ。
本妻くれはもいいけど、はかないエリスがとても好きです。
続きを期待してます!
そして、舌の根も乾かぬうちに続きを投下します。
二十分からです。
今回こそエロイ内容になるはず(予定)。
支配するものとは気高くなくてはならない。
崇めるものが陶酔するように。
従えられるものが陶酔するように。
支配されることは悪ではない。
支配されることが正しいと思えるものこそが正しいのだ。
気高き華のように。
見上げて、声をあげ、称えられよ。
麗しき魔王よ。
紅い世界。
残酷なまでに穢れた世界。
それは紅い。
それは赤黒い。
それは淀んでいる。
腐臭にも満ちた臭いが満ちた世界。湿った音がする。汚れた音がする。ぐちょぐちょと粘着質な音がした。
「ぁあ――」
声がした。
粘着質で、いやらしい雌の声。
紅い世界の中で、何かが蠢いている。
嗚咽にも似た声が響いていた。
「ぃゃあ」
それは悲鳴。
穢れた腐った世界の中で、助けを求める声があった。
それは白い肢体、汚れを知らぬはずの幼い肢体。
艶かしい素肌を、汚物によって穢されていく光景が。
無数の闇に陵辱され、襲われ、貪られた少女がそこにいた。
流す血すらも啜られて、汗を舐められて、流す涙すらも垂れ流される腐汁の中に混じり合い、汚れていく。
四肢を蠢く闇に絡まれ拘束され、一糸纏わぬ身体を無数の闇が、爬虫類の舌にも似たざらついた闇が撫で回し、しゃぶりまわし、貪っていく。
それは犯されていた。
魂すらも汚されて、快楽と苦痛に満ち満ちた悲鳴を歌っていた。
それは侵されていた。
孕まされるかのように、口から、肛門から、膣から突き刺さる闇に絶叫を上げていた。
頭から腐った床に押し付けられ、突き上げた臀部から血のように愛液を垂れ流し、絶望の声を上げていた。
それに遠慮など無い。
その行為に性欲などない。
ただの被害。
一方的な残虐。
何故ならばそれを行う存在に知性は無い。
ただの虚無にして、現象にして、闇にして、悪夢。
悲鳴を上げようとも聞き入れられることなど存在しない。
泣き叫んでも止まる理由なんて存在しない。
絶望する。
終わらない悪夢。
少女は名も無き魔王だった。
支配する側の力を持つ存在だった。
けれど、それは何の意味もたなかった。
よりおぞましい力に。
より醜い存在に。
より恐ろしい闇に。
悪夢に襲われ、食われ、泣き叫ぶ少女に過ぎないのだから――
魔王少女の爆撃舞踏曲
秋葉原には【天使の夢】という喫茶店がある。
二人の可愛い看板娘と一人のナイスバディなお姉さんがいて、おまけのように料理が上手い少年がいる店である。
いわゆるメイド喫茶と呼ばれる店。
そこに一人の似つかわしくない青年が、コーヒーを口に運んでいた。
「あー死ぬー、あー」
ゾンビのような声を上げて、コーヒーを啜る青年。
その名を柊 蓮司というある意味秋葉原でもっとも有名な下がる男である。
その背にはどんより重みが背負われ、死相が浮かんでいた。
「あのー、お客様? い、一応店内で奇声を発するのはやめてほしいんですけどぉ」
そんな柊に勇気あるメイドが話しかけた。
鹿島 はるみ。
絶賛ドジっ子☆メイドとして天使の夢の二大看板娘として活躍している少女である。
「う、す、すまねえ」
少しだけ体勢をよくして、柊がコーヒーを飲み干す。
からんと音を立ててカップを置いた後。
「すまん。1000円のスペシャル・ミルクティーを頼む」
「は、はい」
慌ててはるみが柊の注文を受けて、厨房に向かおうとすると――
ズルっという音が響いた。
なんとそこには何故かバナナの皮が!
「きゃぁんっ!」
ベタンと音を立て、さらには近くに座っていた人のテーブルに頭をぶつけ、がしゃんがしゃんと派手に食器が割れる。
大惨事だった。
「お、おい大丈夫か!?」
慌てて柊が腰を浮かそうとして、次の瞬間上がった歓声に動きを止めた。
「ひゃっほう! またはるみちゃんがドジを踏んだぜ!」
「これがないと始まらないぜ!」
「萌えー!」
酷く手遅れな気がする声だった。
うーと涙目で頭を擦っていたはるみが手馴れた様子で片づけを始める。
柊は伸ばしかけた手を止めて、気まずそうに頬を掻いて座りなおした。
そんな柊の前に、かちゃりと音を立ててカップが置かれた。
「お?」
「どうぞ、ご注文のスペシャル・ミルクティーです」
置かれたカップから視線を上げると、そこにはウェイター服の流鏑馬 勇士郎が立っていた。
「お。勇士郎じゃねえか」
「どうも」
それほど顔を合わせたことのない二人だったが、互いの名声と高い実力を持つウィザードとして互いの顔と名前ぐらいは知っているのが当たり前である。
そして、つい数ヶ月前にはアンゼロットの(脅迫的な)依頼によって簡単な魔王討伐の依頼も受けたことがあり、彼らはそれなりに不幸な互いの境遇に同情して、親しみを覚えていた。
「あれ? なんでお前が給仕なんてやってるんだ?」
「いやー、ふゆみもはるみもあの調子なんで」
そう告げる勇士郎の視線を追うと、はるみは食器を片付けようとしてグラグラとさせている手つきに酔っ払ったように踊っているし、ふゆみは対照的にモクモクと片付け終わったテーブルを布巾で拭いていた。
「忙しい、のか?」
「一応注文は落ち着いてるしな。なんか柊が悩んでいるようだったんで、ちょっとだけ顔出しに来た」
そういって、どかっとイスに座る。
「どうかしたのか? 柊。またアンゼロットにでも依頼を押し付けられたのか?」
「ああ、まあな。っていうか、押し付けられてそれが終わったからここに来たんだよ」
はぁっとため息を吐き「一人でエミュレイターの巣窟の攻略に向かわされたんだよ、最近アンゼロットの奴がますます横暴になってやがる」と愚痴を吐いた。
「た、大変だな」
勇士郎は引き攣った笑みを浮かべた。
もはや同情するしか方法がなかった。ていうか、よく生きてるよなと思うのが本音でもあった。
「まあそんなのはいつものことだからいいんだけどよ……はぁ」
「どうした? まだなんかあるのか」
何時もよりも長い柊のため息。
そして、勇士郎の言葉に、柊は静かに口を開いて――
「なあ、勇士郎――愛ってなんだ?」
「……」
沈黙。
数秒間にも及ぶ長い沈黙だった。
一瞬勇士郎は時が止まったような気がした。エターナルフォースブリザード。一瞬にして大気全てが凍りつき、相手は死ぬ。
そんな解説文が脳内に駆け巡り――
「柊。新手の魔王の呪いか? 今すぐアンゼロット宮殿に行こう、お前やばいぞ!!」
即座に月衣から取り出した0−Phoneを握って、勇士郎が119のボタンを乱打した。
救急車を呼び出そうとする勇士郎の手を、ビシリと突っ込みを入れた柊の手が閉じさせた。
「いや、まて、落ち着け!」
「落ち着けるかぁ! 秋葉原は今日で終わりだ! はるみ、ふゆみ! 俺は世界を救うぞぉお! あと、姉さんは一人で頑張れるさ!!」
「おちつけぇえええ!」
世界最高クラスの魔剣使いと勇者の乱闘が勃発。
しばし、お待ち下さい。
「ふぅふぅ」
「はぁはぁ」
神殺しの魔剣と約束された勝利の剣による激闘は涙目まじりに飛び込んできたはるみの介入によって終わりを告げていた。
音速に迫る常人には捉えきれぬ剣戟は月衣の恩恵によって音も立てずに衝撃破も放つことなく、火花を散らすことのみ。
イノセントであるはずの客たちは降って沸いたショー扱いでとても楽しんでいた。
物凄く駄目な気がするが、気にしたら負けな気がするので二人共気にしなかった。
「んで? なんでそんなこといいだしたんだ?」
世界がマジで終わるかと恐怖していた勇士郎はエクスリカバーを横に置きつつ、残骸になったイスに座る。
「いや、ちょっとな」
柊はズタボロになった顔を掌で拭うと、同じく残骸になったイスに座り、切れ込みの入ったテーブルを立て直した。
「何があったんだ?」
歯切れの悪い柊の返事に、勇士郎が囁くように尋ねた。
そんな質問に柊は困ったように頬を掻いて……ぼそりと告げた。
「……告られた」
「は?」
「知り合いの女に、好きだと言われたんだ……」
そう告げる柊の顔はどこか戸惑っているような気がした。
どうすればいいのか。
何と答えればいいのか。
それらが分からない子供のような顔だった。
「なあ、どうすればいいと思う?」
「ぬー」
それは悩むものだと勇士郎は考えて、腕を組んだ。
数少ない男友達(OO? あれは友人などではない、単なる変人である)の悩みである。
なんとかアドバイスをしたかったが。
「それはまあ、自分の思いを正直に告げるのが一番だろう」
それぐらいしか方法は無い。
安易にOKしろだの、断れだなんて言う資格はない。
それらは勇士郎の世界を賭けた経験からはっきりしていることだった。
「やっぱり、そうか……そうだよなぁ」
「それが一番誰にとっても正しいことだと思う」
「でもなぁ。俺は今一よくわかんねぇ」
ガリガリと柊は頭を掻いて、あーと唸り声を上げる。
心底悩んでいるようだった。
(俺もこんな時があったなぁ)
と勇士郎は自分で入れたスペシャル・ロイヤルミルクティーを啜りつつ、遠い目をした。
今現在にいたってもはるみとふゆみのどちらかを選んでいない自分の優柔不断は捨て置いてだ。
そんな時だった。
『柊さぁ〜ん』
激しく。
そう、激しく嫌な声がした。
「ん?」
「げっ!」
それは拡声器で大きく拡大された聞き覚えのある声。
柊が一瞬にして顔を見上げ、勇士郎が窓の外を見る。
そこには秋葉原の路上の上をホバリングする軍用ヘリ、その中で拡声器を持つ息を飲むほど可憐な美少女――中身はロリババアだが、が居た。
「あ、アンゼロットぉ!?」
「柊……成仏しろよ」
即座に手を合わせる勇士郎。
実に脆い友情だった。
「ちくしょう! 俺には休む暇もねーのか!!」
そんな絶叫を上げる柊に黙祷を続けながら、勇士郎は残ったミルクティーを口に含み。
『柊さぁ〜ん。ついでに丁度いいところにいる、流鏑馬 勇士郎さ〜ん。私のお願いにYESかハイで答えてください』
「ぶーっ!!!」
激しく噴出するミルクティー。
はるみが「あわわ、掃除が大変です」と慌てて、ふゆみが「……店を汚しちゃだめなのに」と呟いた。
「まてぇええええええええ!!!! 俺もかぁあああ!」
他人事だったのが一瞬にして運命共同体である。
「勇士郎。一緒に死のうぜ」
「断る!」
キランと歯を光らせるやけっぱちな柊。
慌てて逃げ出す準備を整える勇士郎。
しかし、その前に天使の夢の扉が激しく蹴り開けられる!
「キルキルキルキルキル!」
「キルキルキルキルキル!」
「キルキルキルキルキル!」
「キルキルキルキルキルー!!!!」
それは覆面を被り、キルキル叫ぶ謎のロンギヌス制服集団だった。
「き、キルキル部隊ぃいいい!!? まだこの時代にもあったのかよ!?!」
「やっぱり昔から趣味が変わってないのか、アンゼロットぉおおお!!」
『さあロンギヌスのみなさ〜ん。柊さんと勇士郎さんを運んでくださーい』
殺到する戦闘員たち。
瞬く間に埋め尽くされ、捕縛され、運ばれていく柊と勇士郎。
「いやだぁあああああ!!」
「俺はこれが嫌で、ロンギヌスを辞めたんだぁあああああ!!」
男二人の絶叫を残して、嵐のように天使の夢から変人達が立ち去っていった。
後に残ったのはどこまでも続く静けさのみだった。
「……えっと、紅茶のお代わりいります?」
はるみが呆然とする客ににこっと微笑んだ。
そして、厨房担当の居なくなった店はいつものように続けられた。
投下完了です。
リクエスト通りに勇士郎+二人のメイド出しました。
予定では柊一人の拉致予定だったのですが、せっかく元勇者様がいるので彼にも地獄を味わってもらいます。
なお、某所に転載していますが、こちらは18禁版としてデラックスに書いて行きますので楽しんでもらえるよう頑張ります。
次回ポンコツ魔王の登場予定です!
読んでくださってありがとうございました!!
キルキルロンギヌスww
うわーもうだめーのやりすぎで絶滅したと思ってたのにw
斬撃の人来てたっ ! っていうか、第二弾のアクション早っ !?
(次からは爆撃の人って呼んだほうがいいんでしょうか !?)
のっけからエロスな展開かと思いきや、プラスアルファ、
前作とは異なるコミカルなフレーバーも好きな雰囲気です。
(柊はどうしても面白くしたくなりますもんね)
エリスSS、喜んでいただいているようでなによりでございます。
実は、エリスものを再び書きたくなったのは「斬撃さま」のおかげです。
斬撃舞踏読んで、思わずアニメのDVD最終巻を見直してしまい、「エリス熱」が
ふつふつと・・・が、新作執筆の動機だったりして(笑)。
というわけで、続きでございます。ではでは。
作者さんぐっじょぶっ!
ところでさっきからアンゼロット様が出刃包丁砥いでいるんだけど…
今は手加減してあげてくださいねアンゼロット様。
続きを書いてもらわなければならないんですから。
「・・・ふい〜〜〜〜・・・・・・」
赤羽神社の境内へと続く長い石段をとぼとぼと登り、その丁度真ん中辺りで大きく息
をつく。両手に持った買い物袋の重さに辟易しながら、柊蓮司は壜類や缶類がみっしり
と詰まった買い物袋を、恨めしげに見下ろした。途中で休憩でも入れないとやっていら
れない、とばかりに石段の上に腰を下ろすと、割れ物ばかりが入った荷物を注意深く
小脇に置いた。
「ったく、くれはのやつ。ここぞとばかりに人をこき使いやがって・・・」
ひとり、愚痴をこぼす。
柊の携帯には、時折くれはから買い物を頼むメールが入ってくる。
不思議と、急ぎの用事 ---- 例えばウィザードとしての任務 ---- がないときを見計
らうように届くメールは、どこかで自分の暇な姿を観察しているのではないか、と柊が
疑うほどに、いつもいいタイミングで送られてくる。いままで、任務の有無に関わらず、
柊が手の放せないときにメールが届いたことはただの一度もなかった。
そして、柊が秋葉原の外に出ているときも、こういうメールは届かない。散歩がてら
歩いてこれる距離にいるときに限って、くれはは連絡を寄越すのである。
そういうとき、大抵頼まれる買い物というのが ---- 運搬に一苦労も二苦労もするよ
うなものばかり、というのも通例だった。今日頼まれたのは、醤油やみりんなどの調味
料、料理で使うお酒を一升瓶で数本。お米も切れそうだから一袋お願い、という追伸
メールに秋葉原郊外で絶望の悲鳴を柊が上げたことなど、くれはは知る由もあるまい。
それにいちいち従順に従うところが、柊もお人よしである。もっとも、これらの食材の
恩恵に自分も預かっていることを考えると、無下にそれを断ることも出来ない。
美味い飯にありつくための苦労だと思えば力も沸いてくるってもんだ ---- 。
内心、そうやって自分の心に折り合いをつけ、柊はどっこいしょ、っと若者らしからぬ
気合の声を入れた。
がさり、と音を立てて重たい買い物袋を持ち直す。振り仰げば、石段を登りきるまで
もう半分。ちょっと、心がくじけそうになる。
「ま、ここまで来てごねたってしゃーねーからな・・・」
苦笑して石段に足をかけた。毎度、くれはからの買出し依頼の度に、同じ石段で同じ
独白をしていることなど、柊はいちいち憶えていない。忘れっぽくもあり、自分の苦労に
いっそ無頓着な柊ならではのことである。
さんざん愚痴をこぼしてはいても、境内に近づくにつれて柊の口元にはあるかなしか
の微笑が浮かんでいた。買出しを頼まれたときは、堂々と赤羽家の食卓にお呼ばれさ
れることができるからである。
姉と二人暮らしの柊は、姉弟揃ってがさつで、ちょっといい加減なところがある二人
なので、食事の用意も自然と手を抜くことになる。というより、姉の京子は、決して料理
が出来ないわけではない(むしろ腕前のほうはなかなかのものであるはずだ)のだが、
その腕前を柊相手に披露することは絶対にないのである。いつだったか、腹を空かせ
て帰ってきた柊を前にして、自作の豪勢なシーフードパスタをぱくつきながら、物欲しそ
うな視線を向ける柊と目が合うと、
「これ、あたしンだからね」
と、冷たい一言を吐いたことがある。俺の分は・・・と言いかけた柊に背を向け、お前
に食わすパスタはない、とでも言うように無言で食事を続け、挙句の果てには五百円
玉を投げてよこすような姉なのだ。
自分のためにつくる料理はあっても、弟ごときに振舞ってはやらぬ。コンビニでパン
でも買って喰うがよい ---- そんな声が聞こえてきそうな背中だったことを、柊はよく
憶えている。
「あれじゃ嫁き遅れるよな、絶対」
姉本人の前では決して言えない一言を吐く。ちょっと性格は男っぽくてがさつだが、
十人並み以上の器量良しの姉なのだ。あばたもえくぼというヤツで、あの性格だって
惚れた相手でもいれば「竹を割ったような姉御肌」とポジティヴな評価をしてくれるかも
しれないではないか ---- と。
そんなつまらないことを考えながら、とうとう石段を登りきり、境内へと到着する。
七月も終わりに近づいた神社の境内は、燦燦と太陽の輝きが降り注いでいる。
それでも、敷地のあちらこちらに立ったご神木やら、そうでないにしても立派な幹の
大木が緑の葉をさわさわと揺らし、所々に涼しげな木陰を作っている。
どこかで蝉の鳴き声が聞こえ、柊は “らしくもなく” 夏の風情に耳を澄ませてみた。
季節を肌で感じ取る ---- などという風流を、珍しく柊が味わっていると、
「あ〜、ひーらぎー、ごくろーさま〜」
くれはのけたたましい呼び声が、風流の邪魔をした。
「ご苦労様です、柊先輩」
後に続くのはエリスの声。二人揃って柊を出迎えた少女たちは、目にも涼しげな純
白の巫女服姿である。赤羽神社の看板娘 ---- 神社で看板娘もどうかという話もあ
るが ---- であるくれは目当ての参拝客も多かったのだが、最近では新しくここの巫
女の手伝いをエリスがするようになって、いままで以上に神社を訪れる者が増えたと
いう噂である。たしかに、(口を開きさえしなければ)長い黒髪の純和風美少女と、控え
めで優しげな、小動物的雰囲気の美少女 ---- と、タイプの違う可愛い巫女さん二人
がいるのである。順当に考えても、赤羽神社に閑古鳥が鳴くことはありえないだろう。
そんな美少女二人に出迎えられた当の柊は、特になんの感慨があるわけでもなく、
「おー、きたぞー」
と、重たい買い物袋ごと手をあげて、普通の挨拶をするのである。
彼にとって見れば、幼馴染みといつでも一緒にいたせいか巫女服姿なんぞ珍しくも
なんともないわけだし、女の子の容姿がどうであれなんということもない、という性質
である。同性から見れば、ある意味、小憎らしい若者であった。
「はわ、重そう。やっぱりこういうとき男手があると便利便利〜」
柊の手の中の荷物を覗き込んで、くれはが目を丸くした。自分で頼んでおいて、重そ
うもなにもないものである。
「ほんとに重そう・・・柊先輩、一個持ちますから渡してください」
申し訳なさそうな顔をしてエリスが手を差し出した。
「ほら見ろ、くれは ! これが人としての普通の反応だぞ !? いつもいつもお前、すげー
買い物頼むけど・・・あ !! そういえば俺、お前が手伝うって言ったの見たことねーっ !! 」
「はわー、ひーらぎってば女の子にそんな荷物持たせようってのー ? さいてー」
会えば始まる夫婦漫才。言葉の上ではひどいことを言っているように聞こえるが、お
互いの口調に相手を罵り、なじる色合いは決してない。エリスの目から見ても、なんだ
か仔犬と仔猫がじゃれあっているようにしかみえないのだから世話がなかった。
「まあまあ、お二人とも。お荷物、随分重たいみたいですから、手分けして家の中に運
んじゃいましょう ? ほら、それで早くお夕食の準備・・・」
言いかけて、柊の右手に持った買い物袋の取ってに手を伸ばしたエリスが ----
ぐらり、と傾いた。
※
「あ・・・れ・・・・・・ ? 」
視界がぼやけ、続いて真っ暗になる。眩暈か、と感じたのは束の間、頭を鈍器で打
ちつけられたような鈍く激しい痛みを感じてその場にうずくまる。いや、うずくまったの
ではない。頬に、じゃりっ、と感じた石の感触は境内の玉砂利 ---- 。
私、倒れたの ---- ?
その疑問が、エリスの頭に浮かんだ最後の言葉。
柊先輩が私の名前を叫んでる。くれはさんが私の名前を呼んでいる。どうしてそんな
遠くから呼んでいるんですか ? 私、すぐここにいるじゃありませんか・・・・ ?
笑おうとして頬が引きつる。もう、顔の筋肉すら満足に動かせない。
力強くなにかに ---- たぶんそれは柊の腕だ ---- 抱きしめられた感触だけが、ひ
どく心地よかった。まるで真綿に包まれているかのような安らぎを、エリスはつたない
意識の頼りにしていた。
(・・・ひ・・・らぎ・・・んぱい・・・く・・・はさ・・・ん・・・)
二人の名前を呼ぼうとして、結局声に出すことは出来ず。
エリスは意識を手放した ---- 。
※
エリスは夢を見る。
眠りの中でだけ思い出せるこの夢は、確か二度目の夢のはずだ。
影の少女たちに体内を侵食されたおぞましい記憶が一気に甦り、エリスは悲鳴を上
げようとする。しかし、その声を押しとどめるものが、自分の身体の中で蠢いた。
それは、あの晩の夢で自分に侵入してきたはずの、黒い少女たちの声。
声は一斉に、呪いの言葉をエリスに吐いた。
騙したのね。身体をくれるって言ったはずよ。それなのに、こんな娘たちと一緒に押
しこめられて。閉じ込められて。ごちゃまぜにされちゃうなんて。ああ、溶けていく。この
身体も意識も蕩けだす。どろどろになる。混ぜられてしまう。真っ黒になって。ひとつに
されちゃう。そうやって次の娘たちも閉じ込めるのね。閉じ込めて自分の中に取り込む
のね。取り込んでも飽き足らず、次の生贄を探すのね。嘘つき。
あの晩の夢で自分を陵辱したはずの十五の影が、十五の言葉で怨嗟を囀る。
そして十五の影の少女が、一斉に唱和した。
---- そうやってわたしたちを “食べる” のね -------- !!
※
※
※
※
違う。違う。違う。私はなにもしてません。
エリスは必死で否定する。
しかし、その否定をさらに否定するのは、内から自分を責める恨みの言葉。
その声たちが次第に ---- くぐもって、不明瞭になり、まるで泥の海に溺れるように
ぶくぶくという音を立て、無理矢理押し込められ、溶解させられ、まるで胃袋の中で食
物が消化されるように ----
ひとつになってエリスの “一部” になった。
「い、や・・・いやあぁぁぁぁぁーーーーっ !? 」
得体の知れないものを喰らい、養分として吸収したと ---- 本能が直感する。
込み上げる悲鳴に、ごぼ、という音が混じった。慌てて両手で口を押さえ、エリスは
必死で吐き気を堪える。一瞬でも気を抜けば、嘔吐してしまいそうな気持ち悪さに、耐
えようとする。ごくり、と、ようやくの思いで唾を飲み込み、荒い呼吸をついた。
そこに、 “あの影” が姿を現した。
《悪夢へようこそ・・・志宝エリス・・・二夜目を待ちきれずに失礼・・・》
どこかで聞いたような声だった。
影は、やはり少女の姿を取っている。
華奢な、小柄な少女のシルエット。
《十五体では物足りず・・・一晩で養分としてしまったのね・・・でも安心して・・・》
影の少女が自分のお腹の部分に自らの両手をずぶずぶと差し込んで。
ずるり、と。
なにかを引きずり出した。
《今日は二十体・・・でも、養分を得たアナタは、もうこれでも一晩保たないかも・・・》
少女に引きずりだされたものは影。彼女の言葉の通り、二十もの影。その影たちは、
やはり女性の輪郭を持っている。しかし、前夜と違うのは。
やめて。ゆるして。たべないで。はなしがちがう。いやよ。こんなのいや。
二十の影の少女たちが、いずれもエリスに許しを乞うていることだった。
前夜のエリスは陵辱されるだけの存在だった。でも、いまは ---- 強靭な牙と溢れ
かえる絶対の力をもって、影を捕食するものだった。
でも、いや。
エリスは叫ぶ。
こんなこと私はしたくない。これは、なにかを犠牲にして力を得る行為だ、と。これは
弱いものを虐げる行為なのだ、と。エリスは直感でそれを悟っていた。エリスの心は優
しさに満ちている。誰かやなにかを犠牲にする行為の空しさや悲しさは、誰よりも知っ
ている。そのことを、エリスの心に刻み付けてくれた人たちが、すぐ側にいるのだから !
《・・・ぬうぅぅぅっ・・・ !? 》
エリスの心に生まれた強靭な意志は、影を圧倒的な力で拒絶する。
影の少女がひるみ、黒々とした深淵の向こう側から、エリスを睨みつけた ---- かの
ように見えた。エリスぅぅぅ・・・と、影の少女が憎々しげに吠える。
やはり ---- どこかで聞いた声だった。
影は濃く、次第に輪郭を整えていき、あやふやだった姿が確かな形を取り始める。
薄紙をはがしていくように闇が薄れていき、その姿をくっきりと現していく。
見てはいけない ---- エリスは思う。しかし、視線を外すことが出来ず、彼女へ呼び
かけた最初の影の少女が正体をさらけ出していく様を、エリスは目の当たりにすること
になった。
《・・・また・・・くるわ・・・》
そう言って口元を歪めて笑った少女の顔は。
「そんな・・・うそ・・・」
聞き覚えのある声なのは当然のこと。
「うそ・・・だよ・・・・・・」
褐色の肌をしてはいたけれども。
「いやああああぁぁぁっ・・・・・・ !? 」
見まごうことなき自分自身----
---- 志宝エリスに、他ならなかった・・・・・・。
※
「ひーらぎー・・・どうしよう・・・エリスちゃん起きないよ・・・」
赤羽家の居間。普段らしからぬ弱々しげな声で、くれはが呟く。
境内で柊を迎えたときには、なんでもなかったはずなのに。急に、なんの前触れもな
く倒れてしまったエリスを運び込むと、とりあえず居間に布団を敷き、その小さな身体
を慎重に横たえ、回復のときをじっと待っていたのである。
「もう、かれこれ一時間か・・・」
エリスの布団の横で胡坐をかいていた柊が、居間の壁掛け時計を見上げて呟く。
柊が赤羽神社を訪れたのは、日の光が降り注ぐお昼時。初めは日射病か熱中症か、
と思っていたのだが、どうにも様子がおかしかった。くれはの話では、自分が来るまで
二人とも縁側でスイカを頬張りながら扇風機の側で涼んでいたのだという。
過剰な日光を浴びていたわけでも、水分不足というわけでもないだろう。
だとすれば・・・
柊が、じっと気遣う視線を眠るエリスに注ぐ。
「なんだよ・・・よく見りゃ、目の下に隈、できてんじゃねーか・・・」
はわ ? とくれはも柊の横にちょこんと座り込み、エリスの寝顔を覗き込む。
「で・・・でも、昨夜は・・・確かにちょっと夜更かししちゃったかもしれないけど・・・エリス
ちゃんと私、同じ時間に寝室に行ったんだよ・・・ ? それに今朝は私が炊事当番だった
から早起きしたのは私のほうで・・・」
くれはが、説明しながらだんだん声を小さくしていく。夜更かしで、寝不足でエリスが
倒れたとしたのなら、もしかして私に責任があるのかな・・・と思っているのがありあり
と見て取れる表情だった。みるみる涙目になり、蚊の鳴くような声で「はわー・・・」と
落ち込んだくれはの頭に、ぽこんと柊が軽くゲンコツをくれた。
「は、はわ・・・いた・・・ひーらぎ・・・」
「馬ー鹿。そんくれーで倒れたりはしねーよ。エリスが結構タフなのは知ってんだろ ?
いまじゃ、イノセントかもしれねーが、俺たちと一緒にあの戦いを潜り抜けてきたんだ。
ちょっとやそっとで倒れるもんか」
ぶっきらぼうな普段の物言い。
「う、うん・・・そーだよね・・・」
自分を気遣っての柊の発言だろうか。それでも、一度「もしかして・・・」と思い込んで
しまったくれはの顔は、いまいち晴れ晴れとしなかった。
だが。
もし、熱さで倒れたのでも寝不足で倒れたのでもないとしたらいったいなんだ。
昨日の朝、朝食のときに感じた違和感を柊は思い出す。
異変がもし、あの時すでに始まっていたのだとしたら、それに気づけなかった ----
いや、気づいていながらそれを深く究明しなかった自分はなんと大馬鹿野郎なんだ。
それならば、責められるべきはくれはじゃない。俺だ。
無意識に、柊が唇を噛み締めた。そんな様子を、横からくれはが窺っている。
そっ ---- と。
くれはの柔らかな右手が、どこか遠慮がちに柊の膝の上に置かれた。
ひーらぎのせいじゃないよ。
無言で、くれはがそう言っているようだった。
その、置かれた手に視線を落とした柊は。
「ここじゃなくて ---- こっち、頼むわ」
布団の隙間から飛び出したエリスの手を優しく取り上げ、くれはの右手にぎゅっ、と
握らせる。
「しばらく、こうしてやっててくれ。ちょっと、出てくる」
「は、はわ・・・どこ行くの、ひーらぎ・・・ ? 」
エリスの手を握り締めたくれはが、立ち上がった柊を不安そうに見上げる。
「ああ・・・ちょっとな・・・」
言葉を濁して立ち上がり、いまを後にする柊の背中が辛そうに見えて。
思わず、くれはが目を伏せた -------- 。
※
※
※
※
「・・・午前十一時に観測されたエミュレイター反応はすべて下級とはいえ魔王級。数は
前夜の観測時よりも増加し、二十体。放出された魔力波から計測する限りにおいては、
昨夜の個体群とは別のものと見受けられます。しかし・・・」
豪奢な内装のリムジン内で、ロンギヌス・コイズミの報告を受けていたアンゼロットが
閉じていた双眸をゆっくりと開く。口ごもるコイズミの後を引き受けるように、
「・・・二十体すべて、昨夜と同様に反応をロストした ---- まさか、そう言うのではない
でしょうね・・・・・・ ? 」
ちろーり、とコイズミを睨みつけ。
主の冷たい視線にさらされた哀れな仮面の青年は、力の限り頭を下げて。
「も、申し訳ございません ! ですが、ご明察の通りでございます、アンゼロットさ・・・ !!
ぐ、ぐわあっ !? 」
「んちょっ、ちょっとコイズミっ !? リムジンの中でオーバーなリアクションをするんじゃあり
ませんっ !? あ、ほら御覧なさい、せっかくの紅茶がこぼれたじゃありませんかっ !? 」
勢いあまったコイズミが、車内にしつらえられたテーブルに額を勢いよくぶつけたせい
でティーカップが倒れたのである。大理石でコーティングされた堅固なテーブルに額を
強打し、コイズミが身悶える。まさに、「仮面がなければ即死」だったというところだろう。
「んもう・・・台無しですわ・・・。で、コイズミ。報告の続きを」
無情にもアンゼロットの要求は容赦ない。
「は・・・はい・・・。出現ポイントはさまざまですが、そのどれもが秋葉原周辺で発生し
ております。不可解なのは、一度ばらばらに出現した反応が、奇妙な動きをしている
点です」
「奇妙な動き ? 」
「はい。まず、二十体のエミュレイター反応は、出現から数分の間に、ひとつのポイント
に向けて移動し、そこでまず第一回目のロストを観測されるのです」
「第一回目のロスト、とは気になる言いかたですね。すると・・・・・・ ? 」
当然といえば至極当然なアンゼロットの疑問にコイズミが答える。
「はい。一度ロストした個体群は、次にごくごく微量な魔力波を発しながら、今度は異
なる場所で二度目の出現を行います。この二度目の出現場所は、ある種の結界に護
られているせいか、特定が困難でして。秋葉原という街のどこか、というところまでしか
計測できません。しかし、この出現はおそらく最初のときとは違って、一斉に二十体が
同時に同一ポイントで出現したものと予測され・・・」
「・・・そして、二度目の出現場所で、二度目のロスト・・・というわけですか」
「はい。昨夜は、二度目のロストを観測した後は、もう完全に見失われてしまいました。
おそらくは、今回も」
うーん・・・と可憐な美少女の風貌には似合わず、腕組みをして考え込むアンゼロット。
主の沈思黙考する様を息を呑んで見つめていたコイズミの胸元で、 0-PHONE が鳴り
響いた。主に一礼してから携帯器を取り出すコイズミ。
「こちらコイ・・・なに、二度目のロストポイントの特定に成功した !? 場所は・・・・・・な、
なにっ !? あ、赤羽神社だとっ !? 」
コイズミが驚愕の表情をアンゼロットに向けて。
世界の守護者は、沈鬱な表情をその幼くも美しい風貌に貼りつけながら、こくりとひ
とつ頷いた。
「 ---- 目的地を赤羽神社に変更なさい。それと・・・有事を慮って、待機中のロンギヌ
ス隊員は、赤羽神社周辺に集結させなさい -------- 」
(続)
やっと規制解除……携帯もPCも両方食らうとは一体どこの誰がバカやったのか……
>>176 乙です、勇士郎は柊の貴重な男友達かいいねぇ!
くれはとはまた別の雰囲気で気の置けない感じがなかなか。
リク主として深く感謝。
>>178 乙です、忍び寄る陰謀の手、どうなるかハラハラです。
柊はどこに向かったのでしょうかねー?
てっきりアンゼロットに渡りをつけるものかと……?
天使の夢の斜向かいにゆにばーさるが。
どうも、斬撃の人というか爆撃の人というか、開き直ってマッドマンです。
え? なんでマッドマンだって?
そりゃあ出刃包丁で刺されても平気だし、今頭の上でぐりぐり踏んでくる女王様に喜びを感じるゲボクですからw
まあさておいて、四十五分から魔王少女の爆撃舞踏曲の続きを投下します。
世界を守護する。
世界を護る。
世界を救世する。
世界を救う。
それらは似たようなことだけど、きっと違う。
救うのには大きな力が必要だ。
そして、世界を護るには流し続ける代償が必要だ。
だから、彼女は代償を払いながら世界を護る。
そこは遥かな蒼き惑星を見下ろせる異空間。
豪奢な宮殿、白き白亜の城。
その名をアンゼロット宮殿という。
「というわけで、これからする私のお願いにハイかYESかで答えてください」
そこに一人の少女が優雅にアールグレーの紅茶を啜り、二人の男がうな垂れていた。
片方はそれはもう険しい顔を浮かべ、もう片方は「何故俺まで……はるみ、ふゆみ。俺無事に帰るから」と呟いていた。
ご存知、柊 蓮司と流鏑馬 勇士郎の二人である。
どうでもいいが片方は私服姿でいいとして、勇士郎はウェイター服のままでとてもシュールだった。
「聞いてます?」
くいっと小首を傾げて訊ねるアンゼロット。
それにダンっと柊がテーブルに手を打ち付けた。
「NOって言っても押し付けるつもりだろうが! 拒否権なんかねえんだろ!?」
「当たり前です♪」
「うわ、開き直ってやがる」
「っていうか、なんで俺まで巻き込まれるんだよ!! 連行するなら柊だけでいいだろうが!」
勇士郎の絶叫。
本音が出ていた。というか、本当にお前らは友人かと疑うような叫びだった。
誰しも自分が可愛いということだった。
「おいまてぇ! なんだその台詞」
「そうですね。本来なら柊さんだけにしようかと思ってたのですが、丁度いいところに勇士郎さんがいらしてたので♪」
「うぉおお! やっぱり俺は巻き込まれたぁ!」
頭を抱えて、勇士郎が叫ぶ。ここに来てから彼の精神は著しく不安定だった、何かトラウマがあるのかもしれない。
絶叫がよく響き渡る空間だった。
しかし、そんな絶叫は慣れているのかアンゼロットは優雅にずぞぞぞと音を立てて紅茶を啜り、傍に控えるロンギヌス・コイズミは表情を変える事無く、待機しているロンギヌスたちもまた冷たい表情を浮かべていた。
「というのはまあ冗談として――本題に入りますね」
紅茶のカップを置いて、告げるアンゼロットの顔は澄んだものに変わっていた。
蒼き惑星の守護者と呼ばれる少女ではなく、大きな力と義務を持った存在の顔に。
それに柊と勇士郎も顔を引き締めた。
「柊さん、それに勇士郎さん。貴方達は――“冥魔”というものを知っていますか?」
「めい、ま?」
「それって確かこの間、俺が報告した奴だったよな?」
勇士郎が首をかしげ、柊が思い出すかのように呟く。
つい半月ほど前、赤羽神社でエリスを護るために戦ったエミュレイター。
それをアンゼロットに報告した結果、冥魔と呼ばれる存在だと教えられたのだ。
詳しい詳細は教えられなかったが、通常のエミュレイターとは違うものだということだけは知っている。
その強さも、おぞましさも。
「この世界、ファージ・アースは志宝 エリスさんを巡る戦い通称マジカル・ウォーフェアの結果、大きく世界結界が弱体化しています。それに伴い侵魔の浸食が激しくなっているのは知っていますね?」
「一応話だけは、姉さんも忙しく任務に出てるみたいだし」
「ああ」
勇士郎はどこか他人事のように、柊は事の張本人にも等しい人物だったので当たり前のように首を縦に振った。
「確かに侵魔が激しい浸食を見せていますが、それと同時に新たな新種のエミュレイターが世界各地で目撃されるようになったのです」
「新種?」
「冥魔と、私たちは名づけました」
そう告げて、紅茶にアンゼロットは口付けた。
まるでこれから喋る内容に酷い渇きを覚えたかのように。
「そして、冥魔とは――エミュレイターとは異なるものです」
「なっ!」
「に!?」
「裏界から来る侵魔ではなく、それとはまったく別の世界。遥か古の時代、古代神たちが作り上げた魔法生物。それらは戦いの終焉と共に闇界よりも下の冥界にまで封じ込められたはずのもの。それらが世界結界の綻びと共に浮上してきたのです」
そう告げて、アンゼロットは二人を見た。
幾多に渡り世界を護ってきた元勇者と何度となく世界を救ってきた魔剣使いを。
「ロンギヌスに所属するウィザードが、異世界にて同種の存在と戦ったことがある経験から証言及び情報の特定が出来ましたが――彼らは危険です」
それは恐れるようなものだった。
それは恐怖を押し殺したような声だった。
それは計り知れない敵に対する憤りだった。
「下手な知性を持つエミュレイターよりもおぞましく、名状することも出来ない形状を持つ彼ら――彼らの大半に知性はありません、ただの虚無です。闇に染まった存在です」
「つまり?」
「ウィザードたちは世界結界の綻びに対応するかのように強力になっています。新たなる力を獲得したものも、今まで表に出なかった勢力もまた冥魔の存在に気付き、台頭してきました。けれど、冥魔は今のウィザードの大半では立ち向かえないでしょう」
「つまり」
「俺たちのようなベテランが立ち向かう必要があるってわけだ?」
柊が、勇士郎が、厳しい目線と戦士の佇まいで答える。
「その通りです。現に柊さん――貴方を追い詰めた冥魔でさえ、おそらくは雑兵の一体に過ぎないのです」
「っ、あれでか!?」
予想はしていたが、あの圧倒的な力を知る柊は思わず声を洩らした。
勇士郎はその力を知らないが、柊の力を知っていた。
「どんな化け物なんだ?」
「最低でも雑魚魔王級と考えてくれれば間違いは無いと思ってください」
「新米が立ち向かえる相手じゃねーな」
「ええ」
おそらくは対抗するための運命を持たない覚醒したてのウィザードでは立ち向かうことすら出来ないだろう。
そうアンゼロットは告げた。
「そして、貴方達には早速ですが冥魔らしき存在が起こした異変の調査に向かってもらいます」
「異変?」
「ええ」
コイズミっとアンゼロットが告げると、ロンギヌス・コイズミがファイル・ケースと共に運んできた数枚の写真と書類をテーブルに置いた。
そこにはどこかの街の風景と住所らしきもの、そして人名のリストだった。
「なんだこりゃ?」
「F県T市、その郊外にある町です」
「そこの住人全てが消失しました」
「しょうっ!?」
「しつ!?」
予想を超える被害に、柊と勇士郎が声を洩らす。
「マリー・セレスト号事件というものを知っていますか?」
「ん? いや、知らねえが」
「確か聞いたことがあるような……」
柊が首を傾げて、勇士郎が思い出すように顎に手を当てる。
「正確にはメアリー・セレストという名称が正しいのですが、コナン・ドイルの書いた小説の所為でこちらの名称のほうが有名でしょう」
「あ、ああ。思い出した! マリー・セレスト号ってあの幽霊船のことか!」
ぽんっと勇士郎が手の平を打った。
「確か二回ぐらい前の前世時代に読んだなぁ。あの頃は本にはまってたし」
「お前、そんなこと軽くいうもんじゃねえだろ」
さらりと転生者ならではの台詞を吐く勇士郎に柊が突っ込む。
どんな時にも突っ込みを忘れないつっこみ芸人の鑑だった。
「知っているのでしたら話は早いですね。その通り、マリー・セレスト号事件と同じく住人が生活の痕跡を残したまま消失してしまったのです」
不幸中の幸いというべきか、プラーナも全て喰われたらしく、誰もその住人の存在も町のことも意識をしていない。
以前起きた望月チハヤの事件で借りを作った国土防衛隊のウィザードの手によって、現在は封鎖しているとアンゼロットは告げた。
「というわけで、お二人に調査に向かってもらいます」
「え、あ、でもよ。俺ら二人共前線だぞ? 後方支援が居ないと厳しいんだが」
「確かに俺も柊も白兵戦だけだからな」
元勇者と魔剣使いが顔を見合わせる。
「ナイトメアとか、灯とかいねえのか?」
「姉さんとか、はるみに連絡を付けたいんだけど」
思い浮かぶ限りの後方支援ウィザードの名を上げるが、アンゼロットは首を横に振った。
「申し訳ありませんが、それは出来ません。今回はお二人だけで向かってもらう“運命”です」
「そうかよ」
そんなアンゼロットの言葉に慣れたように柊がため息を吐き、勇士郎も「やっぱり変わってないな、この女」と嘆きの声を洩らす。
「では、お願いしますね。コイズミ」
「は!」
そういって、いそいそと近寄ってきたコイズミが一つの宝石が散りばめられた箱を持ってくる。
嫌な予感がした。
「ま、まて!」
「それは、まさか!?」
「あら?」
箱をカパリと開ける。
その中にあったのは真っ赤な――ボタン。
「手っ取り早いほうがいいですわよね」
ポチッとな! とアンゼロットが叫んで、ガンとボタンを叩いた。
瞬間、ガパリと音が立つ。
どこから?
当たり前である――柊と勇士郎の足元からだ。
見事な落とし穴が開いていました。
「うぉおおおおおお!!」
「俺もかよぉおおおおお!!」
落下する。
落ちていく。
重力に引かれて、何故か重力を遮断出来る月衣があるのにそれすらも出来ずに二人は自然落下で虚空から地球へと落ちていった。
「頼みましたよ。柊さん、ブルー・アース」
憶えてろよー! アンゼロットー!
こんなやり方はいやだー!
酸素などない空間にも関わらず景気のいい叫び声を上げて、大気摩擦で燃え上がっていく二人を見つめながらアンゼロットはシリアスに呟いた。
ひどく世界は間違っていた。
「ぁああああああああ!!」
「おわぁあああああ!!」
この日、空を見上げたものは真昼間から二つの流れ星を目撃した。
場所はF県T市郊外。
生い茂る森と盛り上がる盆地に囲まれた町からやや外れた森の中に、二つの流星が墜落した。
「へぶしっ!」
「ごふぅつ!」
大量の木をぶち破り、葉枝を砕きながら墜落したそれは柊 蓮司と流鏑馬 勇士郎という。
常識を遮断する月衣がなかったら軽く三十回以上は死んでいる暴挙だった。
「う、ぅうう」
漫画のような人型ポーズで地面にめり込んでいた勇士郎が呻き声を上げながら、がぽっと草と土から顔を引き抜いた。
キョロキョロと周りを見たあと、順次手足を引き抜いていく。
「ぺっぺ! くそ、アンゼロットめ! もうロンギヌスなんか入らないぞ!」
元から辞めている癖に意味のない言葉を吐き出して、勇士郎が顔の泥などを払う。
着ていたウェイター服は同じく土と草まみれになったので、後で着替えるかと考えた。
「そういや、柊は?」
周りを見渡し――ある一点で目が止まる。
にょっきりと地面から生えた二本の脚があった。
犬神家! という言葉が脳裏に響き渡るが、勇士郎はなんとか無視してその足を掴んで引っこ抜いた。
「生きてるか?」
「くそ、死ぬかと思った!」
上半身までめり込んでいて生きているほうが不思議だが、と勇士郎は思ったが何も言わないことにした。
さすがは下がる男だと納得しておくことにする。
「あーくそ、草まみれだ」
ぺっぺと勇士郎と同じように唾を吐き捨てると、柊が周りを見渡した。
「で、ここはどこだ?」
「誘導されただろうから、目的地近くだと思うが」
「確認するか」
そういって、柊が月衣から0−Phoneを取り出す。
ピコピコと指で操作すると、端末画面にマップが映った。
「んーGPSによると、F県T市郊外で間違いねえな」
「ん? 柊、GPS付きの0−Phoneだったのか?」
前、勇士郎が見たとき柊の0−Phoneを古い型番のだったということを思い出して訊ねた。
すると、柊は気まずそうに頬を掻いて呟いた。
「いや、前にちょっとしたことで0−Phoneがぶっ壊れてな。それを言ったらアンゼロットの奴が渡してきたんだ」
「そ、それはよかったな」
「しかし、絶対に発信機とか盗聴器が入っている気がするから、これが終わったら買い換えるけどな」
柊は断言するかのように呟き、「まあ機能は高いからこんな場合だと役立つけどよ」と端末画面を見ながら方角を確認する。
「こっちに町があるな。多分アンゼロットが言っていた町だろう、まだ衛星地図からは消失はしてねえみたいだな」
「住人だけが消えたらしいからな」
そう告げて、勇士郎がおもむろにウェイター服を脱ぎ去って、月衣から取り出した呪錬制服を身に纏う。
ブレザーの制服に、さらに取り出した紅いマントを羽織った。
それはまるで手品のようだった。
「はええ!? 着替えるの早くないか!!」
「ふっ。これでも何百年も戦っていたんだ、寝起きの時、昼飯の時、風呂に入っている時、或いは日記を書いている時とか、何度も何度も襲撃を食らったり、呼び出しを喰らっているうちに着替えるのが早くなったんだ……」
遠い目をする勇士郎。
「そうか」
俺もまだまだだな。真似したくないが、と柊は思った。
「けどよ、派手に墜落したけど国土防衛隊の連中はどうした?」
望月チハヤという後輩が柊に居た。
今は国土防衛を脱退し、元気にウィザードの訓練と明るい学生生活を送っているはずの彼女。
それらにまつわる事件の時、柊は数度となく彼らと闘ったのだ。
しかし、その姿がない。
「話が通っている……なわけないよな」
「自衛隊の、つまりお役所だぜ? そんなに頭が柔らかいとはおもえねーよ」
最低でも確認ぐらいは来るはずだ。
しかし、その気配がない。
嫌な予感がする。
「油断はしないほうがいいな」
「ああ」
柊と勇士郎はゆっくりと歩き始めた。
異変が起きた町に向かって。
しかし、彼らは気付いていない。
彼らの頭上の木の上、そこに捻じ曲がった自衛隊制服の男――すなわち国土防衛のウィザードの死体が、苦悶の表情と人体であったとは思えないねじれた状態で引っかかっていたことに。
既にそこは戦場であり、虐殺のキリング・フィールドであった。
彼らが数十分もしないうちに森を抜ける。
見下ろした先にあったのは、盆地に出来上がった小さな町だった。
「あそこか」
「みたいだな。っていうか、やっぱり人の姿はどこにも見えねえな」
ウィザードとして標準的な2.0の視力で目を凝らすが、人っ子一人見えない。
静寂が満ちている。
完全なゴーストタウンだった。
まるで日本では無いような違和感がある。
「どうする?」
「踏み込むしかないだろう」
そういって、勇士郎はエクスカリバーを引き抜く。
右手に王の剣を、左手には巨大なガンドレットのようでもあり、盾である守りの鞘を顕現させる。
「だな」
柊が手を構える。
月衣を開き、瞬時に魔剣を顕在化させた。
神殺しの魔剣。
約束されし王の剣。
世界でも最高峰の魔剣と遺産がそこに並んでいた。
進んでいく。
彼らは進んでいき――町に足を踏み入れた。
森の土から、アスファルトに一気に足を滑り込ませて――
「ん?」
「なんだ?」
“違和感を覚えた”
一瞬立っている地面が地面では無いような、場所が違う場所のような、寝ている間に別の場所に移されて目を開けたような違和感。
気持ち悪い感覚。
「紅い月は――昇ってねえな」
「だけど、油断しないほうがいい」
歴戦のウィザードの二人が気配を纏う。
如何なる侵魔であろうとも、今の二人に襲い掛かれば瞬時に切り刻まれるであろう刃圏。
剣を頼りに、幾多の異形を殺し尽くした二人が発する警戒。
それらを発しながら、二人は町を進んでいき、
爆音が轟いた。
「なっ!」
それは爆発物よりも遥かにデカイ音。
光の柱が見えた。
魔法の光。
「ウィザードか!?」
「分からん!」
二人が足を速め、現場に向かう。
誰もいない店を横切り、静けさの満ちたビルを潜り抜け、ゴミしか転がっていない路地裏を突き抜けた――
そこには。
「あ、あれは!」
「まさか!」
光を発する少女が居た。
「このぉお!」
魔法の光。
それらに砕かれるのは奇妙な人形。
刃を持ち、斧を持つゴーレムのような異形たち。
それらに追われながら走る少女の姿があった。
そして、それの姿を二人は知っていた。
それは彼らウィザードの敵である。
魔王――ベール・ゼファー。
彼女が走って、逃げ回る姿だった。
魔王の癖に走って逃げてる。
しかも追われて悲鳴を上げていた。
「信じられるか? あれ……魔王なんだぜ」
「マジで? いや、そうだけどさ」
二人が顔を見合わせる。
「こらー!! そこの二人、見てないで援護しなさい!!」
そして、魔王の声が上がった。
助けを求めていた。
魔王の癖に。
「やれやれ」
「しょうがないな!」
二人が走り出す。
魔剣と聖剣を手に、走り出した。
こうして彼らは魔王と出会う。
神殺しの魔剣使い。
蒼き惑星の守護者。
蠅の女王。
ありえなき協奏曲。
世界に名だたる最高峰が戦う相手は。
悪夢そのもの。
投下完了です。
柊と勇士郎のコンビに、ベルが合流しました。
次回からこの一風変わったトリオが頑張ってくれると思います。
柊は何度となく戦った魔王にどう思うのか。
勇士郎は段々下がる男のような不幸属性に打ち勝てるのか。
ベル様はポンコツ属性から抜けれるのか。
敵は強大です。
下手な雑魚魔王なら一人でもぼこせるような面子に大して相応しい敵を用意しています。
あっと驚いく仕掛けを用意しています。
どうぞお楽しみに。
なお、呼びにくいでしょうのでここでのHNはマッドマンで固定させていただきます。
よろしくお願いします。
>200
期待しますぞ、マッドマン殿
> ベル様はポンコツ属性から抜けれるのか。
あぁ、うん……抜けられるといいねぇ
……たぶん無理……
飯食いに離れる前に軽い支援
俺も期待大なんだぜ、マッドマン氏
柊にベルにエリスなんて俺のためにあるSSと言っても過言ではn(キシャー
しかしアレだね。 次からきくたけスレを分離させるべきかなぁ。
きくたけ厨の自分にはサイコーなんだけど、総合スレって雰囲気じゃねぇ希ガス。
そうか?DXとかも結構ある気はするんだが・・・
分離はキリが無くなるからやめた方がいい気がする
ソードワールドが分離してるわけだし、分離でもいーんじゃねーかと思いますが。
向こうはフォーセリアのみならずラクシアも範疇だし。
ところでナイトウィザードをアニメでしか知らない方、挙手願います。
分離すると間違いなく過疎るだろうから、それが怖い。
別ゲームのSSを書いてても、中の人が同じ確率は低くないと思われる。
アニメ効果でNWの投下が多くなってるのは確かだが、むしろこのペースが異常と言える。
他のジャンルで投下しづらいって人も今のところいないと思うし、いいんじゃなかろうか。
SWスレと別れてるのは、向こうは小説展開とかリプレイ展開の体力が凄いからな。
公式PCも小説キャラも多い。その分読者も幅広いだろうし。
今書いてるのが終わったら別のを書こうと考えてる俺。
その台詞が死亡フラグに見えたのは俺だけでいい
そんな簡単に死亡フラグとか言うなよ、縁起でもない……
お前らと一緒にメシなんて食えるか、俺は離れの自分の部屋で(ry
>>210 おいおい、そうツンケンするなよ。
せっかくだからいいワインを開けようと思ったのに。
ちょっと待ってろ、今地下のワインセラーから取って(ry
>>211 お
せ
ち
ワインじゃなくておせち料理を振舞ってくれるんですね、わかります
>>200 >柊は何度となく戦った魔王にどう思うのか。
さらにフラグが立ってゴロンゴロン→nice boat→「柊君が死んじゃう!」by翠
>勇士郎は段々下がる男のような不幸属性に打ち勝てるのか。
ムリ、女の子二人に挟まれてる時点で奴の幸運は尽きた、来世がんばれ〜へっとらーいとーてーるらーいとー
>ベル様はポンコツ属性から抜けれるのか。
中の人がゴトゥーザ様な時点で既にポンコツなのは約束されたものとCDドラマ時代から(ry
柊と勇士郎とベルか、色々期待してしまうな
勇士郎「3人でするのには慣れてる」的問題発言とか
だがそれは女2男1であり男女比が逆なのは現世ではないのだろうか
柊はいい男尻だとぅ!?
>どんな時にも突っ込みを忘れないつっこみ芸人の鑑だった。
芸人言うなっ!
>担当者 「ご予約のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
>あなた 「死の茄子色カブトムシです。」
>担当者 「どのような漢字でしょうか?」
>あなた 「腹上死の死に、茄子オナニーの茄に、腐女子の子に、下着物色の色です。」
>担当者 「・・・。」
別にたいした考えがあったわけじゃない。
自分の手でできるなにかがあったわけでもない。
苦しそうな寝息を立てて目覚めることのない可愛い後輩の姿を。
きっとなんとかしてくれるはずだと期待してすがりついた大切な幼馴染みの姿を。
見ていられなくなって、いたたまれなくなって -------- 。
「・・・逃げてきただけじゃねーかよ・・・俺・・・」
降り注ぐ午後の日差しの中で。柊蓮司は唇を噛み締める。
こんなときどうしたらいいのか ---- 魔剣使いである自分にはさっぱりわからない。
自分にできることは手に握った冷たい鋼を振るうこと。冷えた鋼鉄に熱を注ぎ、迫り
来るものを薙ぎ払うこと。斬り、突き、斃すことはできても、癒し、救い、安んじることは
できないのだろう。
彼の一太刀が世界を救ったと人は言う。
彼の決断が世界の脅威を払ったと人は賞賛する。
だが、和室の居間で昏々と眠る、一人の小さな少女に癒しを与えることぐらいのこと
が、俺にはできないのか、と柊は顔を曇らせた。
神社の境内へなんとなく降り立ち。涼しい木陰を玉砂利の上に投げかける大樹の側
に立つと。柊は、握り固めた拳をその太い樹の幹めがけて叩きつけた。
どすん、と鈍い音がする。
ウィザードである柊が、自分の意志を込めて自分に傷みを与えるために殴りつけた
拳は ---- 骨が砕けたかと思うほどに強烈な痛みを彼自身にもたらした。
「・・・っ・・・痛って〜〜・・・」
これでいい。これは自戒と自罰のための殴打であった。こんなことをしてなにになる、
と人は言うだろう。救うことのできないエリスの苦しみが、こんなことで和らぐわけでも
なければ、その苦しみを共有することができるわけでもない。
柊蓮司は、そんなつまらない偽善的な行動や先の見えない感傷にひたる男ではあ
りえなかった。
己を戒め。己に罰を与え。その儀式が終わると ---- 。
「・・・っ、よっしゃあぁぁぁぁぁーーーーーっ !! 」
トレードマークのグローブごと両の拳を力強く握り、天に向かって柊は吠える。
痛い思いをした。痛い思いをして目が覚めた。
ごめんな、エリス。きっとなんとかする。
ワリい、くれは。お前のこと置いてきちまって。
この拳を痛めたことで、チャラにしてくれとは言わねえが、もうくよくよ考えるのは止め
にすっからよ。やれることしかやれねえ俺だけど、やれることには全力を尽くすぜ。
その、決意を込めた雄叫びである。
一度、心に決めてしまえば行動の迅速さは柊の長所といえる。
胸のポケットから 0-PHONE を取り出すと、手当たり次第にメールを打ち始めた。
「てのあいてるやつはれんらくくれ。たのむ」
漢字変換の手間さえ惜しんだ、短い短いメール。
灯。ナイトメアのおっさん。マユリ。翠。この際、グィードだろうが時雨だろうが、知って
るヤツ全員に連絡取ってやる -------- と。
手が空いているものに限り連絡を求む ---- としたのは、柊なりの気配りである。
事情がはっきりしていないこの一件に、いま現在関わっている仕事を放棄してまで
手伝ってくれ、とは頼めない。それでも、柊が頼めばおそらく皆 ---- 万難を排して、
彼の元へ駆けつけてくれるであろう。だが、それをさせないのが柊であり、それゆえに
皆が柊の求める助けに応えるに違いないのだ。
だから柊は、メールの相手が深刻に受け取らないような文面を、作って送ったつもり
であった。この中の誰かが、エリスの身に起きた異変を解決する糸口をつくってくれる
かもしれない、と淡い期待を胸に抱いて。
他力本願 ? それがどうしたってんだ。俺にできないことはきっと他の誰かができる。
俺にできることは、思いつく限りの可能性を試してみることだけだぜ !
そこで柊は、はた、と思いつく。
まだ、いる。この事態を打開できそうなヤツ。それも、かなり期待できそうなやつが、
まだひとり、いる。真っ先にその相手のことを思い出さなかったのは、柊の心が無意識
にブレーキをかけたからであろうか。
しばし黙考。
じわじわと、その額からは大量の汗が流れ出している。
「・・・背に腹は変えられない・・・ってか」
こういうとき、たぶん一番頼りになるはずの性悪ババアの顔が脳裏に浮かんで、げん
んなりとする。また無理難題押し付けられるんだろうな、と苦笑するも、エリスの身に起
きている異変や彼女の感じているであろう苦しみを思えば、エミュレイター討伐耐久ト
ライアスロンを走破するくらい、なんだというのか。
「よし・・・」
再び 0-PHONE を手に取って。
柊がメールを送信したのは ---- ロンギヌス・コイズミのアドレスだった。
心に根ざした強烈な心的外傷が、メール相手の主に直接連絡を取ることを選ばせな
かった・・・というと大げさに過ぎるだろうか。
同じ文面を送信すると、 0-PHONE を胸元にしまいこむ。
さて、これからどうするか・・・と思いをめぐらして。柊の胸ポケットでメールの着信を
告げる味も素っ気もない電子音が鳴り響いたのは、それからわずか二分後のことで
ある。
「お ! さっそくか ! ん・・・コイズミだな・・・なになに、えーと・・・『いま着きます』・・・ ? 」
いまから行きます、の間違いじゃないのか。あいつも随分慌ててメールを打ったんだ
な・・・と思った柊が、コイズミのメールの文面がまさしくその通りだったことを思い知る
のは、わずか数秒後。
がたごとがたごとどぐわっしゃどぐわっしゃがらがらがら・・・としか形容できない凄まじ
い音が、赤羽神社のふもとから境内を目指すようにこちらへと迫ってくる。
思わず、柊が月衣から愛用の魔剣を引き抜いて、音のする方向へと向き直ったとし
ても、彼を責めることはできまい。とにかくそれほど、凄まじい音だったのだ。
がた、ごとごとごと、ごっとん、ぶるるるるるぉぉぉぉっ !!
一台の黒塗りのリムジンが、この日本という国の道路事情を思えば肩身の狭いロン
グボディを上下前後に震わせながら、境内へ続く長い石段を文字通り “走って登って”
きた。
「な・・・なにしてやがるっ ! てめえ、アンゼロットだなっ !? そうだろ、ええっ !? 」
あまりの非常識ぶりに度肝を抜かれつつも、生来のツッコミ気質はいささかも萎える
ことはなく。しかしそのツッコミは、黒い車体に跳ね返されて夏の青空に空しく響いた。
がたぷし。がたぷし。ぶるぶるるる。ききっ。
さすがは、アンゼロット御用達リムジンブルームである。少々間の抜けた排気音がす
るこを除けば、その車体に傷ひとつ、シミひとつなく。
呆れ果てて口をあんぐりする柊の前に、リムジンのドアを開け、ロンギヌス・コイズミ
が姿を現す。久方ぶりの再会に柊へ向けて一礼をし、続いて、反対側のドアに回ると、
うやうやしくノブを引いた。
そこから姿を現したのは当然の如く ---- 。
「ご無沙汰しておりますわ、柊さん。ご機嫌いかがですか ? 」
「最悪だ、馬鹿野郎っ ! 今回のは極め付けだぞ、アンゼロット ! リムジンで石段登って
くるなんて、なに考えてやがんだっ !? 」
ずかずかと足踏みしながら、コイズミのエスコートで車外に降り立ったアンゼロットに
迫る柊。怒鳴り散らされた本人は、「私悪くありませんもん」とでも言うかのように、柊
から顔を背けた。いかにも「ツーン」という擬音が聞こえてきそうな無視っぷりである。
殺気立つ柊と、お澄まし顔のアンゼロットの間に割って入るように、コイズミが恐縮の
態で頭を下げる。
「申し訳ありません、柊様。リムジンブルーム搭載のホバリング機能が故障しておりま
してやむなく」
「だからってなあっ・・・ ! 」
「柊様からの着信を頂いて、急を要する事態かと、このような無茶をしたのは私の判断
です。お叱りならばどうぞ私を」
ぐぬぬ・・・と柊が唸る。本音を言えば、こうして自分の発信したメールに、すわ一大事
と駆けつけてくれたコイズミの心根は嬉しい限りなのである。経過はどうであれ、この手
の不可解な事件を相談するにあたっての最適任者(柊自身は認めなくとも)である、ア
ンゼロットをも連れてきてくれたわけだから、感謝こそすれこれ以上怒ることはできな
かった。
「・・・あんたの顔を立てるよ」
「ありがとうございます」
「それにしても、アンゼロット。ずいぶんと都合よく、近くにいたんだな」
そう言いながら自分へ視線を向ける柊に、アンゼロットが歩み寄った。
「・・・もともと、わたくしたちの目的地が赤羽神社であったというだけのことですわ。そ
こへ、タイミングよく柊さんからの連絡が入っただけのことです」
しゃく、しゃくと玉砂利を踏みしだきながら、アンゼロットが柊のすぐ手前まで近寄って
くる。その表情はどこか不安げで。世界を憂う守護者の心をかき乱すなにかが、起きて
いることを柊に想起させる。
「柊さん。単刀直入に言いますわ。昨夜から本日にかけて、多数のエミュレイター反応
が秋葉原周辺で観測されています。この二日間で、下級とはいえ四十体近くの魔王
級が出現しているのです」
「はあ ? 」
素っ頓狂な声を上げて、柊が片眉を吊り上げる。アンゼロットの言葉を不審に思うの
も無理からぬこと。ここ二日間の秋葉原は、柊が知る限りでは平穏無事なのだ。
月匣も紅い月も見えない、普段と変わらぬ秋葉原だったのである。
「柊さんの疑問もごもっともですが、聞いてください。魔王たちは、我々が観測できた
かぎりでは、これといった活動をしていないのです。ただ現れ、ただ消える。それだけ
なんです」
なにも活動をしない。出現の痕跡をただ残すだけ。その不気味さたるや、如何ばかり
か。アンゼロットの面差しに深く落ちた陰鬱な影が、その言い知れない恐怖を物語って
いるようだった。
「・・・そして、つい先ほど。出現した二十体もの魔王が、ただそこに居た、という痕跡を
残して姿を消したポイントが ---- この赤羽神社なのです」
「おいおい、いくらなんでもそりゃねえだろう。昨日も、そしていまもここにいるけど、俺
もくれはもそんな気配感じてねえぞ。赤羽神社はいたって平穏無 ---- 」
---- いいや。なにが平穏無事なものか。
柊はその場で硬直する。
「まさか・・・・・さっきエリスがぶっ倒れたのとなにか関係が・・・・・・」
その呟きを聞きとがめ、アンゼロットが眉をひそめる。
「・・・エリスさんが倒れ・・・ ? っ、きゃうんっ !? 」
シリアスな台詞に、間の抜けた悲鳴が取って代わる。
エリスが倒れた、という柊の言葉が終わるか終わらぬかのうちに、がたがたと身を震
わせ、拳を硬く握りしめたコイズミが、
「エーーーーーーリスさまーーーーーーっ !? 」
天地を揺るがす大絶叫を上げて、全速力で駆け出したのである ---- 走行軌道上に
突っ立つ自らの主 ---- アンゼロットを突き飛ばしながら。
「うおっ !? あ、アブねえっ !? 」
コイズミの体当たりをまともに食らったアンゼロットが、両手を左右に広げたままでく
るくると回転するのを、柊が受け止める。不本意なトリプルアクセルを決めるはめとなっ
て、柊の胸の中に抱きとめられたアンゼロットが、臣下の無礼を咎めた。
「ガ、ガッデムっ !? コ、コイズミっ !? ア、アナタなんてことをするんですのーーーっ !? 」
「申し訳ありません、アンゼロット様ーーーーっ !! あとでいくらでも罰はお受けいたしま
すからーーーーーっ !! 」
もはや、コイズミの頭の中を、「エリスの安否」という一事のみが占めていることは明
白であった。呆然とコイズミを見送った柊が、
「はは・・・そうか、そういやアイツ・・・」
苦笑しつつ、改めて気がづいた。
以前、灯の代わりに護衛の任務についてからというもの、コイズミがエリスのことを
ひとりの異性として気にかけているということは、傍目にも明白なのである。
そのことをあまり多くの人間に知られていないと思い込んでいるのはコイズミだけで
あり、その恋心にこれっぽっちも気づいていないのはエリスだけなのだった。
コイズミは、あれであれで好い男だ、と柊は思う。
生真面目な性格はエリスの護衛時のことを見れば一目瞭然だし、アンゼロットなどに
心から臣下の礼を尽くしているくらいだから、義理堅いところもあるとわかる。ロンギヌ
スに所属しているくらいだから腕も立つだろうし、仮面を取ればきっと二枚目なのであ
ろう。それならば ----
「エリスのやつも、もう少しコイズミのこと、男として見てやればいいのになあ」
と、なにげなく呟いた。
人の恋心には鋭敏なくせに、自分に向けられた好意はとことん気づかない柊の、あ
まりといえばあまりな一言 ---- つまり、偉そうなことを言っている割には、エリスが彼
自身に対して抱いていた淡い恋心にはまるで気づいていないのである。
と ---- 。 ぼんやりとコイズミの姿を見送っていた柊のほっぺに、激痛が走った。
むぎゅうううう ---- 。
「い、いでででででっ !? ア、アンゼロット、なにしやがるっ !? 」
コイズミの暴走で突き飛ばされ、柊に助けられたアンゼロットが、抱きとめられた腕の
中から手を伸ばし、柊の頬をつねり上げたのだ。
「ひ・い・ら・ぎ・さ〜ん ? いつまでわたくしの身体を熱烈に抱きしめていらっしゃるんで
すか〜 ? 」
「な、なにが熱烈だ !? 自分で立てるならさっさと立てよっ !? 」
言われて初めて気がついて。柊はアンゼロットの両肩をつかむと、自分から引き剥が
すように押しやった。咄嗟のこととはいえ、倒れそうになったアンゼロットを受け止め、
しばらくその華奢な身体を護るように、がっしりと抱きしめていたことに初めて気づいた
のである。普通ならここで、顔を赤らめてどぎまぎする場面であるはずなのだが、そこ
はそれ。へし折ってきたフラグの数では他の追随を許さない男、柊蓮司の本領発揮で
ある。赤面するどころか、「うわ、こんなもん抱きしめちまった」とでも言うように、慌てて
アンゼロットを押しのけるのだから酷い話である。
「きゃんっ !? ら、乱暴ですわねっ !? 優雅なエスコートなど柊さんに期待などしてはいま
せんでしたけど・・・・・・」
突き返されたアンゼロットが不平を述べながら柊の腕から逃れる。ぱたぱたとスカー
トの埃を払う仕草をしながら、
「いまの台詞、エリスさんの前では言わない方がいいですわよ。これはわたくしからの
忠告です」
憮然とした顔でそう言った。
「いまの・・・ってなんだ ? 」
柊の、ぼけらっ、とした顔を見て天を仰ぎながら。
「エリスさんが、コイズミを男として見てやれば・・・というくだりですわよ。その台詞だけ
は、二度と口にしないことをお勧めします」
「あ・・・ああ・・・まあ、そうだな・・・俺が他人の恋路に口出すなんてらしくねえしな・・・」
間違った納得の仕方をした柊に、深い深い溜息をつく。アンゼロットが、この朴念仁に
説教でもしてやろうかと口を開きかけた瞬間 ---- 。
「伏せろっ !! アンゼロット !! 」
柊の怒鳴り声が聞こえた。え ? と思う暇もなく、大きな影が自分の身体に覆い被さっ
てくるのを、アンゼロットが呆けたように見つめ。次の瞬間には、たくましい腕と厚い胸
に抱きしめられて、自分の身に起きた事態を把握するよりも早く、アンゼロットの身体は
宙を舞っていた。
いや ---- そうではなく。アンゼロットの身体を包み込むようにして抱えた柊が、超人
的な跳躍力をもって、数メートルもの距離をジャンプしたのである。
その、ついさっきまで二人が立っていた地点を ----
---- 一筋の赤い輝きが貫いた。
「うおっ !? 」
「きゃああっ !? 」
柊とアンゼロットが同時に叫ぶ。
夏の大気を切り裂くように走り抜けた赤光は、まるで天を裂く雷光のような軌跡を描
き、二人の立っていた地点を貫いたのである。見れば、境内に敷き詰められた玉砂利
が光を浴びた部分だけ消失し、大地が黒々とした深淵を開いていた。ぶすぶすと、焼け
焦げたような異臭が辺りに漂う。直撃すれば、絶対の死を免れえぬであろう、破滅の
輝きであった。
アンゼロットを抱えたまま跳躍した柊が、境内に放置されたままのリムジンブルーム
の陰に隠れ、次の瞬間また遥かな跳躍を披露した。続けざまに放たれた赤い光は、狙
い過たずリムジンの車体を貫き通し、その強靭なはずのボディに拳大の穴を穿つ。
リムジンが、一瞬の沈黙の後 ---- 爆発炎上した。
「くうっ !? 」
ずざざざざっ、と大地に着地した柊が、抱え上げたアンゼロットの身体を自分の背中
に隠し、攻撃が繰り出された方角を睨みつける。さわさわと、心地よい風が葉を揺らす
大樹 ---- その陰から攻撃が繰り出されたと、柊は見当をつけた。
「出てきやがれっ ! なにもんだっ !? 」
聳え立つ大樹の、さらに後ろに控えているはずの敵に向かって、柊が怒号する。
一秒、二秒の沈黙が、果てしなく長い時間のように思えて柊は息を潜めた。
彼の背中に隠されたアンゼロットが、無意識のうちに柊の服の裾を握り締める。
と -------- 。
樹の陰から覗いたのはほっそりとした少女の脚。
ゆっくりと。焦らすように。
敵であろうはずの少女は樹の陰からゆるゆるとその身を顕した。
「なにものだ・・・って、ひどいじゃありませんか、柊先輩。私です。エリスです・・・志宝
エリス・・・ですよ・・・」
「な・・・んだと・・・ !? 」
現れた敵の姿に、柊は動揺を隠せなかった。
脳裏に甦るのは、そう遠くはない過去の記憶。
輝明学園の校内、伝説の樹の側でキマイラに襲われていたくれはとエリスを助けた
のが、彼らの最初の出会いだった。あの時のエリスの姿がフラッシュバックする。
奇妙な既視感を覚えた理由はすぐに分かった。
白い帽子。転校前に使っていた、白のブレザー。出会ったばかりの頃のエリスが身
に着けていた着衣そのままの服装だったのである。
服装も。声も。顔も。なにもかもが同じ。
ただ二つの相違点は、墨を薄く流したような褐色の肌。そして ---- 。
彼女がエリスであれば、決して宿すはずのない強烈な憎悪と悪意の輝きを、その双
眸に宿している、ということだろう。
「てめえ・・・いったい・・・」
魔剣を構え、エリスの姿をした「モノ」に死の切っ先を突きつける。
唇の片方だけを嘲りの形で吊り上げた黒いエリスが、憎々しげに柊とアンゼロットを
ねめつけた。
「柊先輩だけなら今日は我慢しようと思っていたんですよ・・・ ? でも、アンゼロットさん
も来ちゃいましたから・・・もう我慢が効かなくなっちゃって・・・」
繊手をゆらりと掲げながら ---- 。
「だから、お二人とも殺しちゃいますね ? 」
黒のエリスが ---- 「仇敵」を見つけた者の瞳で二人に死の宣告をした。
※
※
※
“影の” エリスは夢を見る。
昔の夢を。自分が生まれた ---- いや、産み出された頃の夢を。
この世界に誕生し、目覚めたとき。自分の身に着けた真っ白なブレザーと、青いリボ
ンの付いた可愛らしいカチューシャ、四葉のクローバーのマークがワンポイントの白い
帽子が、ひどく自分には似合っていないような気がして気恥ずかしかったのを憶えて
いる。日焼けのせいなどではない、薄闇を流した褐色の肌は不吉な色のような気がし
て。こんな女の子らしい服装が、不似合いな気がして。
これならば。
私の横で眠る女の子のほうがよほどお似合いだと思う。
自分と同じ顔の。透き通るような肌の。まるで自分に生き写しの女の子。
すやすやと眠る寝顔は邪気の欠片もなく、まるで本当の天使のよう。
同じ服装。自分と肌の色だけが違う。
無垢な幼子のように純粋な少女が、ちょっぴり羨ましいと影のエリスは思った。
「 ---- 目覚めたようだね。エリス」
透き通る声が耳朶を打ち、影エリスは振り返る。
ああ。私はこの人をなぜか知っている。産まれたばかりでも、私はこの人のことをよ
く知っている。この人が私の生みの親なのだ。なぜ私が産み出され、なんのためにこ
の世に生を受け、また隣で眠るもう一人の自分がなぜ産み出され、なんのためにこの
世に私と共に居るのかを、私はなぜだか知っている。
「キミの方にはさまざまな知識と、ある程度の力を与えておいたからね。不思議に思う
ことはない」
造物主は、私の心を見透かすようにそう言った。
どこか悲しそうに、でもまるで私を “欠陥品” でも見るように見下ろして。
「でも、それが間違いだった。余計な飾りをつけた分、器としては、足りない。使うなら
やっぱり -------- 」
私の造り主が、私の側で横たわる白い私を愛しげに見つめる。
「そっちの -------- エリスだね」
そんな。いや。いやです。私のほうが貴方のことをよく知っているのに。貴方の理想
を誰より知っているのに。そのために産まれ、貴方のために働けることを、役に立てる
ことを、 “産まれたとき” から理解しているのに。こんな、なにも知らない娘を、貴方は
選ぶというのですか。
「キミのほうは、もしものときの ---- そんなことがあるとは思えないけど ---- 代用品
ということで、一応ストックだけはしておいてあげよう。そのときが来るまで ---- 永遠
来ないとは思うけど ---- じっとしているがいいよ」
右目を、色の薄い金色の髪で隠した美しい少年が、鈴の音を転がすような声音で、
残酷な言葉を吐く。
夢の中で ---- 影エリスは「見捨てられた」という思いに身をよじる。
ああ、愛しい造り主よ。私ではダメなのですか。私は貴方の完全なる信奉者なので
すよ。貴方の与えた力と知識が、私の使い道の妨げになるとはなんという皮肉なので
しょうか。だけどこの力は捨てられない。貴方が、貴方という存在を私の心に刻みこん
でくれたからこそ、貴方を想う私がいるのですから。
ですから、どうか。
どうか -------- 。
「見捨てないで -------- おじさま -------- 」
必死の呼びかけに少年は ---- すべてを見通す者と呼ばれる神のごとき存在は。
ただ、冷笑を残して私に背を向けた -------- 。
※
眼前に魔剣を構える柊蓮司。
その背後にはアンゼロット。
だから ---- “彼女” の仇敵というのなら、まさしく彼らがその最たる二人であった。
いつも見るあの夢を反芻し終えて。
憎悪の炎に油を注いで。
影エリスは ---- 死をもたらす赤い輝きを、その身に纏う。
「 ---- さあ、始めましょう。柊先輩・・・憎い ---- 憎い人 ----」
(続)
ぐっじょぶ!
そういうラインでしたかー。
しかしコイズミは、ホントに出世したなぁ。
単なる背景→単なるモブ→なんか存在感のある脇役→
名前ゲット、今ではアニメオリジナルキャラ扱い→
設定的にもロンギヌスの精鋭中の精鋭、アンゼの副官と言うか懐刀的存在で
性格的にも真面目で一途で義理堅いナイスガイ ←今ココ
GJ。
>>226 ロンギヌス00とかの地位を完全に食ってったな。
00は、ほらベルに突っ込んで自爆する役目が残ってるじゃないか
むむ!俺には見えたぞ仮面の蟹達をラストバトルに送り込むため00が冥魔王の一人に自爆しにいく姿が!そしてエンディングで
「仮面が無かったら即死ry」
関西弁の天使ですね
わかります
え、えと、夜天の主?
今回分を読んでいるちょうど今、WMPが「ゴジラのテーマ」吐き出してるのよ。
……造物主とか、ハッタリ自重しろいやヤンデレいいぞ!?
ロンギヌスH(アッシュ)は相変わらず鈍いというか、無神経というか……
それがかえって修羅場を招いていることに気づいてないのもまた「らしい」というべきか。
235 :
強化(ry:2008/08/01(金) 18:26:57 ID:0tl2fD04
「はーい、じゃあ大公様スタジオ入りまーす!」
「……なにこのセット?」
「いえ、大公様制服じゃないですか。あ、ポンチョは脱いでくださいねー」
「あーはいはい……ったく」
「超公さまー、視線お願いしまーす」
「ベルにまけるわけにはいかないものね! こう?」
「はーいOKです! いいですよースゴクイイ!」
「ふふーん、やっぱりこのパールちゃんがいちばんつよくてかわいいんだから!」
「激写! 激写ボーイ!」
「ところでロケにはきたけど、ここはなんなの?」
「ああ、その、超公さまが可愛さとともに妖艶さをアピールできる場所ですよ!」
「ふーん?」
「……あの」
「なんですか?」
「私の側にいると、その、危険……」
「こちとら撮影に命かけてるんですよ。さ、ポーズお願いします」
「でも……」
「こんなに美しいものを撮らないなんて、美への冒涜ですよ? さ、ポーズおねがいします」
「……うん。ありがとう……」
こうして桃色★ファーサイドが発売されたという
http://www1.axfc.net/uploader/H/so/53368.zip すみませんごめんなさい出来心でした
でもモデル作るのおもすれーっすわコレ
3Dの心得があればポンチョやら制服やら自作するんですが……
236 :
強化(ry:2008/08/01(金) 18:30:50 ID:0tl2fD04
あ、パス忘れてました
kyouka
久しぶりに地下に来た。
まさか今更桃色★ファーサイドなんて名前を見る事になるとは。
覚えて貰えてるもんだなぁ。
しかしみんなそんなに魔王のエロ雑誌読みたいのか。
記憶が正しければ5000v.って書いた気がするぞ俺。
ああ、読みたいさ!
侵魔召喚士になれば購入できそうな2nd世界に万歳
オレのプラーナが吸い尽くされそうなものが投下されとる
ひゃっはー!
3Dカスタム少女とはw。
これは見事、GJせざるをえない。
最近身長の高低を変えるパッチが出たとか何とかあったなぁ。
>>226 あとは下がりさえすれば、ポスト柊の座も夢じゃないな。
OVERDRIVEの抱き枕絵と壁紙があかりん。
あかりんはえろいなあw
なあ、抱き枕相手でも腹上死になるのかな……(ゴクリ)
お前……………… なぜ俺と同じ考えを。もしや貴様は俺か?
久々に抱き枕買ってみるかな。
>235
ちょ、うまいwww
ここまでそっくりにできるもんなのか。
>237
今でもたまに読み返してるぜ。
そしていまだに続編を待っていたりしているぜ。
柊蓮司は憎むべき “仇敵” 。
それならばアンゼロットもまたそうである。
影エリスが虚空にかざした死の右手は五指がすべて開かれ、そのほっそりとしたそ
れぞれの指から、陽炎のごとくに立ち昇った闇色の炎が、ちりちりと空気を灼き焦がし
ている。
指から手のひら。手のひらから右腕そのものへと。黒い炎はまとわりついて、まるで
意志あるもののようにゆらゆらと蠢いていた。
双方の距離はほぼ十メートル。
魔剣使いである柊には少々遠い間合いといえる。
「柊先輩。そんなところに突っ立ったままじゃ、なにもできませんよ ? 」
影エリスが嗤う。手を向けた先には柊と、その背にかくまわれたアンゼロット。
図らずも、この双方の配置は、圧倒的に柊にとって不利な状況となっている。
第一に距離。
これは白兵戦を本領とする柊と、おそらくは魔法による遠距離攻撃を主武器とする影
エリスとの戦いである。
柊が魔剣の届く間合いに入るまでに、何回の攻撃をしのがなければならないのか、
とシミュレーションをする。初めにアンゼロットを抱えて第一撃目を避けてから、第二撃
目がリムジンブルームを破壊するまでの間。おそらく三秒と間は空いていまい。
つまり、わずか一、二秒の間に影エリスの攻撃準備は完了するはずである。
ならば三回。いや、二回。その攻撃をしのぐことが勝利の前提となる。
第二に、護らなければならないアンゼロットという枷の存在。
柊は直感している。
おそらく、影エリスは自分たちを二人とも殺したがっている、と。
自分かアンゼロット、あわよくば双方の息の根を止めたくてうずうずしている ----
そのことは、先ほどの彼女の台詞以上に、自分たちを睨みつける憎悪の眼差しが雄
弁に物語っていた。
もしも間合いを詰めるべく、柊が跳躍したとしたら ---- 。
影エリスの黒炎は、護りを失ったアンゼロットを焼き尽くし、その上で柊をも火葬する
だろう。それがわかっているから動けない。いや、動かなくともやはりなぶり殺しの
目に遭うかもしれないが、そうとわかっていても柊の足は動かなかった。
こめかみを冷たい汗が伝う。
なにかの覚悟を決めたように目を見開いた柊の顔は、不思議と穏やかであった。
「アンゼロット」
「・・・なんですか、柊さん」
「このままお前を護って戦いに突入すれば、たぶん二人揃って真っ黒焦げだ」
冷徹な剣士の判断を迷わず口にする。かすかに、アンゼロットの顔が蒼褪めた。
「で、だ。これからお前は回れ右して、まっすぐ後退しろ。俺の背中からはみ出るんじゃ
ねえぞ」
「柊さんっ !? 」
アンゼロットの声は悲鳴に近く、彼女がついぞ発したことのない驚愕と悲痛な響きを
持っていた。二人とも死ぬくらいなら、アンゼロットは生かそう。世界中のウィザードの
司令塔であり、多くの臣下を抱える彼女にもしものことがあってはならないから。
なに、自分だってみすみす殺されるわけじゃない。あのエリスの攻撃を死に物狂い
でしのぎきって、アンゼロットが無事逃げおおせたとしたら、そのとき初めて後の憂い
を気にせずに、思う存分戦うことができる。
そう ---- 覚悟を決めたのだ。
アンゼロットを逃がし、自分も生き残って勝利を収めるとしたらそれしかないだろう。
そのためには、しばらくの間、影エリスの黒い炎から彼女を護る盾にならなければな
らない。生き残るためには、時として命をも捨てる覚悟が要るのだと ---- 逆説的では
あったが、これも戦いの鉄則のひとつといえた。
「・・・やだ、相変わらずカッコいいこと言うんですね、柊先輩。だけど・・・そんな先輩の
こと・・・・・・・・・大嫌いです」
影エリスが右腕を振り上げ、一息に振り下ろす。
「アンゼロット ! 走れーーーーーっ !! 」
柊の合図の声と同時に、五本の指から放たれた炎が立て続けに柊めがけて襲い掛
かる。アンゼロットは動かない。いや、動くことができなかった。ここで背を向けて柊を
置いて逃げることが、なにかひどく自分の誇りや尊厳に関わることのような気がしたの
だ。この戦いの場に背を向けるということは、なにか別のもっと大事なものに背を向け
るということだ。
「おい、走れって言っただろう !! なにやってんだっ !? 」
怒鳴る柊にアンゼロットが叫び返す。
「でも、わたくしだけ逃げるわけにはいきませんわ ! わたくしにだってできることが・・・」
「バカヤロウっ !! 」
一拍おいて -------- 。
一本の炎が矢と化した。別の炎が一匹の蛇のごとくにうねくった。三番目の炎は縛
する鎖のように大きくたわみ、薬指から四本目の炎が飛来した。最後に放たれた黒い
炎が龍へと姿を変え、柊とアンゼロットの立つ一帯を焼き払おうとする。
腰を落とし、下げ降ろした魔剣を、柊が一呼吸で振り上げる。斜め下から上空へと、
鋭く切り上げるように。
その一振りで、炎で造り上げられた矢をすくい上げる。
魔剣を返すその勢いで、黒蛇の鎌首を断つ。
闇色の縛鎖を、いましめを解く横薙ぎの刃風が打ち払い。
目まぐるしくひるがえる剣の峰で四つ目の灼熱を受け止めると。
突き出された切っ先が、龍の顎を貫いた。
----- 影エリスの五連弾攻撃も凄まじかったが、それをしのいだ柊の剣技をなんと
称するべきか。
剛にして精妙。巧緻にして豪。
当代随一の若き魔剣使いの真髄が、ここに顕現していた。
迫り来る敵をただ迎え撃つだけ。薙ぎ払うべき障害をただ斬り払うだけ。
ただ愚直なまでに戦うその技こそが、いまや “業” 。柊蓮司の到達した領域は、そ
れほどのものであった。
影エリスの波状攻撃を一時しのいで、
「お前、世界の守護者だろう !? ここでなんかあったら責務を果たせねえんじゃねえの
かよっ !? いいから走れっ !? 俺は全然戦えるっ !! 」
ふたたび柊がアンゼロットを叱咤した。
肩越しに振り返った柊の視界に ---- アンゼロットの驚愕の表情が飛び込んでくる。
「柊さんっ !? 次が来ますっ、避けてっ !! 」
「なんだとっ !? 」
ほんの一秒。たかだか二秒。だが、その間を生かしきれなかったのは、戦いには余
計な気遣いのせい。明暗を分けたのは、護るものを常に気にかけていたものと、敵を
殺すことになんの躊躇もしなかったものの差であろうか。
右手の五指から黒炎を放つ間、残る左手で追撃の用意を完了させていた影エリスの
周到さは、ただ柊とアンゼロットを殺すことに腐心していたがゆえの完璧な布石。
「消し炭にしてあげますっ ! ひいぃぃぃぃらぎせんぱあぁぁぁぁぁぁいっ !! 」
初めの不意打ちのときと同じ、赤い煌き。光った、と思ったときにはもう遅く。
朱に染まった稲光のごとく、鋭角的な蛇行の軌跡を描く死の輝きが柊の心臓を目が
けて走り抜けると ---- 突如として天空から降ってきた暗黒の帳に、その赤光は吸い
込まれて消えた。
「なんですってっ !? 」
驚愕に叫んだのは ---- 今度は影エリスのほうである。
戦いに余計なものを持ち込んだのは、今度は彼女の方だった。
空を振り仰ぎ、集中を途切れさせた影エリスは、背後からの囁きを聞き逃してしまっ
たのだから。
「・・・・・・ヴォーティカルショット・・・」
線の細い囁きに続いて、背後で空間の歪む気配。虚空の一角を歪め、凝縮して造り
出された闇の礫が、影エリスの右腕をしたたかに打ち据える。
「くうぅぅっ !? 」
激痛に身をよじり、影エリスが背後からの射手を振り返った。
「・・・・・・うふふ・・・命中・・・・・・」
ひっそりと口元に微かな笑み。黒い漆黒の闇を凝らせたような美しい髪はひどく長く、
腰までをも覆い隠すよう。長い前髪のひとふさがはらりと額に垂れて、青白い肌と絶妙
なコントラストを生み出している。
黒いローブ。黒いスカート。そして、手には一冊の分厚い書物を抱え。
「“秘密侯爵” ・・・リオン=グンタ・・・ !? な、なぜ・・・ !? 」
影エリスの問いには無言で微笑んで。リオンは人差し指を上空に向け、ある一点を
指し示した。私などを見ていていいのですか。あちらに注意をしないともっとひどい目に
遭いますよ。まるでそう言っているかのように。
影エリスだけではなく、柊もアンゼロットも空を振り仰ぐ。
そして三人は ---- 柊を狙った赤光を妨げた、闇の帳をもたらしたものの正体を知っ
たのだった。
なにもない空に黒々とした亀裂を生み出し。
罅割れた空から暗黒の瘴気を従えて。その支配するものに相応しく、自在に天空を
我が物とする侵魔の女王。
飛ぶものはすべて。翼あるものは皆 ---- 彼女に等しく頭を垂れるという。
偉大なる裏界の魔王。美しき蠅の女王。
「くっ・・・・・・大魔王・・・ベール=ゼファー・・・」
千年の憎しみを込めて意外な伏兵に歯噛みする影エリス。
「あらあら。ちょっと見ない間に、ずいぶんとやんちゃになったのね、エリスちゃん ? い
いえ、エリスちゃんのにせものさん・・・かしら・・・ ? 」
くすり、と笑うベール=ゼファーの ---- ベルの言葉に、影エリスが眉を吊り上げる。
「にせものじゃないっ !! にせものなんかじゃないぃぃぃぃっ !! 」
「・・・・・・えっ !? 」
豹変 ---- という言葉が、かくも似合いの変貌が他にあるだろうか。
逆立てた眉が醜く崩れ、つぶらで大きな瞳は険しく細められ、歯を剥き出して呪詛と
憤怒を吐き出す影エリス。別人のようなあまりの変わりようと形相に、さしものベルが
わずかににひるんだ。今度こそ、その隙を見逃すことなく。
「おおぉぉぉぉぉっ !! 」
影エリスの足元から “闇” そのものが沸いた。ぞぶり。ぞぶり、と。
その数 ---- 実に二十体。
「なんだありゃ・・・」
呆然と呟く柊。二十の影は、黒く塗りつぶされ、平面状にペーストされた少女たちの、
奇怪なオブジェであった。苦悶と悲哀と恐怖に歪んだ表情を貼りつけた影の少女たち
は、それでも影の主の意志には逆らうことができず。その紙のように薄っぺらい身体を
うねうねと踊らせ、一斉に大魔王へと襲い掛かる。
ああ。偉大なる蠅の女王よ。
大魔王ベール=ゼファーよ。
畏れ多い。畏れ多い。
ですが私たちは逆らえないのです。
私たちの意志ではないのです。
取り込まれてしまって、どうしようもないのです。
お赦しください。
お慈悲を。お慈悲を。お慈悲を。
二十の影少女たちがベール=ゼファーに赦しを乞う。
この、裏界の偉大なる女王への敵対行為を恐怖しながらも、逆らえぬことの赦しを
乞うている。
「・・・・・・ふん・・・・・・」
ベルの眼前に灼熱の魔方陣が展開した。光り輝く奇怪な幾何学模様に彩られた、
滅びの魔法。
「ディヴァイン・コロナっ !! 」
無慈悲なる一撃が黒い少女たちの一群を薙ぎ払った。千切れ、砕け、散り、掻き消
えていく影たちは、消滅の瞬間、安らぎの言葉を残していった。
ああ。解放に慶びを。滅びに言祝ぎを。
永遠の死を賜って感謝いたします、大魔王ベール=ゼファー -------- 。
二十の影が、甘美なる滅びを受け入れて、消滅する。
爆炎に視界をさえぎられていた境内から砂塵と黒煙が晴れていくと ---- 多勢を相
手取る不利に早急な撤退の判断を下したらしい影エリスの姿はすでに跡形もなく。
ただ、彼女が立っていた場所には、空虚な虚無の残滓がかすかに気配を残している
のみである。
「・・・・・・なーる・・・」
なにかに気づいたような思案顔をして、ベルが地上のリオンを見下ろした。
こくり、と無言で頷くとリオンは眼前の柊たちに歩み寄る。
無論、柊には先ほどまでの油断はない。魔剣の切っ先は、ひとたび本気で振るわれ
れば、裏界の秘密侯爵であろうとも致命傷は免れまいと思われる殺気を帯びていた。
「・・・剣を収めてください。私たちは、貴方がたと敵対するつもりは当面ありません」
リオンがうっすらと、かすかな笑みをこぼしながら囁いた。
当面、ときたもんだ ---- 柊は内心舌打ちをしながら、それでも魔剣をすぐには引け
なかった。このタイミングで裏界の名だたる魔王二人がここに現れたのである。
言われて素直に剣を収めるのは、本物の愚者の行為と言えた。
影のエリスが去っても ---- 大魔王ベール=ゼファーと秘密侯爵リオン=グンタが
次の相手なら ---- 戦局はさっき以上に気が抜けないものになるはずだ。
そんな柊の警戒を、ベルがからかう。
「忘れっぽいのね、柊蓮司。ついこの間、私たちは共闘した仲じゃない ? 」
ふわり、と上空から舞い降りるベール=ゼファー。お馴染みのポンチョが風に翻り、
銀髪が陽光を照り返してきらきらと輝く。音もなく着地すると、
「違ったかしら ? ね、柊蓮司」
十五、六歳の少女の容姿には不似合いなほどの妖艶な微笑みが、その口元にうっ
すらと浮かぶ。無意識であっても籠絡の手管となるほどの、蠱惑的な微笑みだった。
しかし、さすがは柊蓮司である。美少女の微笑も魔王の誘惑も、あまつさえあからさ
まな好意であっても、それが女性から向けられたものであればすべて「完全防御」の
効果を発揮するほどの朴念仁。
ベルの微笑など蚊ほどにも男心をくすぐられないのか、あくまでも憮然とした顔を返
すだけである。
「そりゃ、あのときはな。俺たちにとって共通の大きな敵がいたから、一時的に、一回
こっきりの話だろうが」
不機嫌極まりない声で答えを返す柊に、
「・・・・・・今回も、そうだとしたら・・・ ? 」
一転してシリアスな表情を作り、低い声で問い返すベル。
柊の背中から顔を出したアンゼロットが、それを聞き逃すはずもなく。
「大魔王ベール=ゼファー。まさか、今回の一件 ---- あの、エリスさんが ---- あの
ときと同様の脅威だと言うのですか」
アンゼロットの言うあのときの脅威とは、この場に居た全員が等しく関わった『宝玉
戦争』にまつわる戦いのことであろう。
「・・・まあ、ここへ来てあの黒いエリスちゃんに会うまでは確信していなかったけど。
だけど、アンゼロットに柊蓮司、よく聞きなさい ? もしかしたらこの一件、シャイマール
復活に匹敵するほどの事件かもしれないわよ ? 」
シャイマール !
その名は破壊と暴威の象徴。
裏界に絶対的な力をもって君臨し、ただ一人 “皇帝” の称号を冠した最強の侵魔。
かつて、すべてを見通すものゲイザーが、この世界を灰燼に帰し、新たな世界の創
造をもたらすために、そのシャイマールを、志宝エリスを核として復活させようとした企
みにまつわる一連の戦いが、『宝玉戦争』の顛末である。
柊蓮司が生唾をごくりと飲み込んだ。アンゼロットが顔面蒼白になって身を震わせた。
“皇帝” シャイマールとは ---- 最強ランクの魔剣使いと世界の守護者が、これだけ
の反応を表すほどの名前であった。
「事態の深刻さが少しは伝わったかしら ? 」
歌うように言うベルの額にも、うっすらと汗がにじんでいる。自分の口にしたことの重
大さに、自然と緊張が走るのか。
「・・・場所を変えて話しましょうか、ベール=ゼファー」
「そうしてもらえると助かるわ、アンゼロット。私の説を補強するためには、貴女だけじゃ
なくて ---- エリスちゃんからも話を聞きだす必要がありそうだから」
赤羽神社境内において ---- いまふたたび、世界最強クラスの美少女二人が、共闘
を宣言した瞬間だった。
※
赤羽神社の境内から外れた母屋の居間は、軽いパニック状態に陥っていた。
居間の中央に敷かれた布団には、眠るエリス。
その周りをぐるぐると、「エリス様・・・ああ・・・おいたわしやエリス様・・・」とうわごとの
ように繰り返しながら、ロンギヌス・コイズミが歩き回っている。
さきほどまでしょぼくれていたくれはは、コイズミの登場がアンゼロットの随行である
と察していたから、少しは希望の光が見えたのか、普段の彼女を取り戻し始めており、
落ち着きをなくして狼狽するコイズミに向かって、「ちょっとコイズミさん。うろうろしない
でよ。うるさいってば。エリスちゃんの身体に障るでしょ ? 」とたしなめるだけの気丈さ
は回復している。
「は、はい。申し訳ありません、くれは様」
言われてそのときはピタリと立ち止まるものの、すぐにまたそわそわし始めて、腹を
空かせた動物のようにエリスの周りを歩き回るコイズミと、それを注意するくれは。
そんなことを、もう四、五回ほど繰り返しているのである。
「・・・ああ、もう・・・。ひーらぎ、どこで油売ってるのかな・・・アンゼロット連れて、早く
戻ってきてよ・・・」
ぼそっ、とくれはが呟いた。
そこへタイミングよく柊が帰還を果たし。
「・・・おいおい、別に油売ってたわけじゃねーぞ。・・・でも、ま、遅くなってワリイ」
「おっそーいっ ! どこでなにやってたのよ、ひーら・・・・・・・ぎ・・・ ? 」
顔を上げ、文句を垂れようとしたくれはの表情が凍りつく。
額に汗して戻ってきた柊が、抜き身のままの魔剣を引っ提げたままだったからでは
なく ---- まあ、それにも驚いたのだが ---- 、連れ立ってやってきたアンゼロットの
背後から、さらに二人の珍客が現れたからであった。
「は、はわーーーーーーーーーっ !? 」
「んなっ !? だ、大魔王ベール=ゼファーに秘密侯爵リオン=グンタ !? 」
くれはとコイズミの絶叫が居間に轟き渡る。
そんな二人を柊とアンゼロットが、
「あー、くれはくれは。騒がなくてもいーぞ。今回もとりあえず協力し合うことになったか
らよ」
「コイズミ ! おろおろするんじゃありません ! 見苦しい !! 」
・・・・・・と。それぞれがそれぞれのやり方で二人を落ち着かせる。
「は、はわー・・・・・」
「も、申し訳ありません・・・アンゼロット様・・・」
狼狽するなというほうが無理なこの状況で、すぐさま落ち着きを取り戻したのはさすが
といったところか。溜息をついて柊が、
「とりあえず、二人とも上がってくれ」
魔王二人を手招いた。
「おじゃましまーす」
「・・・おじゃま・・・します・・・」
意外に礼儀正しい裏界魔王たち。
かと思いきや、途端に眉をひそめたベルが、突っ立ったままでいるコイズミをびしりと
指差して、
「ちょっと気が利かないんじゃない !? お客様には座布団くらい出しなさいよね !? 仮面
割るわよっ !? 」
と横暴な台詞を吐くと、続いてリオンが家主であるくれはをじとーっ、と見つめながら、
「・・・お茶くらい・・・出ませんか・・・・・・ ? 」
図々しい催促をした。
「し、失礼しましたっ」
「は、はわわ、番茶しかないけどそれでもよければ・・・」
あわただしく動き始めるくれはとコイズミであった。
以前のエリスの護衛時に赤羽家に居候していたコイズミは、さすがに母屋の間取り
も記憶していたか、ばたばたと隣室へ駆け出すと、すぐさま人数分の座布団を取って
くる。
立場上、まずアンゼロットに座布団を勧め、続いて柊に。最初に座布団を持って来い
と命令したベルの足元へと用意を終えると、最後にリオンのところへと。
そこで。
コイズミが硬直する。
じーーーーっ・・・と無表情な瞳で自分を見つめ続けている、リオン=グンタ。
ごくり。コイズミが唾を飲み込んだ。
「・・・・・・お久しぶりです」
にいっ、と唇を笑いの形に作り、リオンが言った。ベルとリオンが、かつて宝玉戦争の
折、ゲイザーの企みを暴露するためにアンゼロット宮殿へと多少荒っぽい表敬訪問を
したことがある。そのとき、リオンのヴォーティカルショットを喰らってコイズミが吹っ飛ば
されたときのことを言っているのは間違いがなかった。
「・・・・・・・うふ」
背筋に冷たいものを感じたか、コイズミがその場を離れようとするのを、リオンがその
手から、座布団の最後の一枚を奪い取った。
「あっ・・・ ! 」
のんびり、緩慢に見えて、どうやってコイズミから座布団をもぎとったのやら。
しばし、ぼーっ、と立っていたリオンが。
すうっ、とゆっくりその場に正座すると、自分の真横に奪った座布団を置いた。
「う・・・・・・」
「・・・どうぞ・・・」
自分の隣に座れ、ということか。ぎくしゃくとした動きでリオンの横に着席したコイズミ
に、リオンはもう一度、
「・・・・・・・うふ」
と、わざとらしく笑いかけた。ネズミをいたぶる猫の感覚で、からかって愉しんでいる
のは明白である。丁度その頃、くれはが大きなお盆に湯飲みと急須を乗せて、はわ
はわ言いながら戻ってきた。
それを楽しげに眺めていたベルが口火を切る。
「さて。飲み物の用意ができたらそろそろ始めましょうか。材料が揃えば、たとえ憶測
の域とはいえ推理することができるわ。この一件の正体が、ね・・・」
手ごたえのあるゲームに遭遇した子供のような無邪気さで ----
----大魔王がそう言った。
(続)
※
※
※
PCヒロイン寝たままですいません(笑)。
なんだか、「まずい ! 予定のシーンになかなか到達しない ! 」と慌てるゲームマスター
の心境です。まだ、二回目投下のときに微エロがあったくらいで、Hなしで話が進んで
るし・・・。でも、次は少しエロ分補給あると思うので・・・。
当初言ってた「長くなりそう」は本当になりそうです。長丁場になるかもですが、スレ
の合間の閑話休題的に気楽に読んでお暇つぶしに使ってやってくだされば。
ではでは、また。
ウォーハンマーで“いくさ群れ”を作った。
神様が何か言ったようなので、ダイスを振ってみたらスラーネッシュになった。
曰く、『産めよ増やせよ地に満ちよ』という、このスレ向きな啓示を受けた。
>>255 GJ!
ベル様、柊たちの前に登場!
前回暴落したカリスマを取り戻せるか?!(多分無理) リオンに攻められてコイズミピンチだけど、まあいいか(まて)
はてさて、エリスに何が起こっているのか。
その真相が次回明かされるのを楽しみにしてます! 敵が強いといいな!(願望です)
っと、それと。
17時40分から、魔王少女の続きを投下させていただきます。
よろしくお願いします。
>>235が消えとる・・・
誰か持ってる人再うpをー
勇者とはなんだ。
それは勇気のあるもの。
世界を救うもの。
悪を打ち倒すもの。
英雄であり、希望であり、使命を背負いしもの。
幾多の戦いを潜り抜け。
数えるのを忘れるほど世界を救い。
異形を斬り殺した。
どこまでも。
どこまでも。
終わりの果てに、磨耗するほど――
剣閃交錯。
大地を蹴り飛ばしながら、疾走する一組の剣士が疾風の如き速度で交わった。
エンカウント。
異形の集団の群に飛び込み――通過。同時に風に揺れて、散らばる石片。
剣撃は瞬くような速さ。
魔剣と聖剣が、豆腐のように異形の集団を解体し、斬殺する。
見よ。幾多の異形を斬り殺した神殺しの刃を。
身よ。幾多の軍勢を払い除けた王の刃を。
圧倒的な強さで、柊と勇士郎は剣を振るう。
斬、斬、斬。
異形の手が降りかかるよりも早く、その首を刎ね飛ばし。
ねじれた刃で繰り出されるよりも早く、その胴体を貫いて。
久方ぶりに会ったとは思えない動きで、二人の剣士が斬舞を舞い踊る。
グロテスクな残骸を花びらに、切断のための踏み込みを足拍子に、戦い抜くための動きを振り付けに。
見惚れるほどの美しく、荒々しい戦いがそこで狂い咲き――瞬くように散った。
開始から数分と経たずに戦いは幕を引く。
異形の全滅という形で。
「これで終わりか?」
「そうみたいだな」
最後の敵の胴体を袈裟切りに両断し、ぶんっと露払いをするかのように柊が魔剣を振り払う。
勇士郎は紅い外套を翻し、僅かに飛んだ異形のゴーレムたちの欠片を払った。
圧倒的な強さだった。
世界でも最高峰のウィザードである二人の強さは別格である。
並大抵の雑魚魔王ならば瞬殺されるほどに強い。
「んで? なんでこんなところにいるんだよ、ベール・ゼファー」
「答えろ」
魔剣を肩にかけて柊は振り返り、勇士郎もまた剣を手に柊と同じ方角に視線を向ける。
振り返った先、そこにいるのは一人の少女だった。
輝明学園の制服の上にポンチョを纏った、息を飲むほど端正な顔つきをした銀髪の美少女。
誰が知るだろう。
それが侵魔たちの領域である世界の裏側――裏界第二位の座位に就きし魔王、金色の魔王が弱まっている現在においては実質的なナンバー1である大魔王だということを。
幾度となく世界を滅ぼそうとした敵。
柊 蓮司は彼女に何度も対峙した。
流鏑馬 勇士郎も長い戦い歴史において、何度か彼女の陰謀を潰す手助けをしていた。
万が一、彼女がこの場で相対の道を選べば、町は全て灰燼に変わるほどの死闘が始まるだろう。
人知を超えた絶大なる力を大魔王たる彼女は保有し、それらに対抗するだけの強さを持つ二人が揃っているのだから。
そして、魔剣を持つ柊は、聖剣を持つ勇士郎は決して油断はしない。
彼女の一挙一動を見据えて、警戒をしていた。
「あら、物騒」
クスリとベール・ゼファーは微笑んで、両手を組みながらその指を自分の口元に当てる。
あどけない顔に、どこまでも淫靡な仕草。
幼い少女の肢体でありながら、歳を重ねた女性のようなギャップがベール・ゼファーにはある。
まだ未熟なウィザードであれば、その一挙一動で怯え、奮え、魅惑されてしまいそうなほどに。
――ボロボロのポンチョに、どこか煤けた顔でなければだが。
「まだ何もしてないのに、そう牙を剥き出しにするのはやめてほしいわね」
カリスマブレイクしていることに気付いていないのか、それとも取り繕っているのか。
鈴を鳴らすかのような甘い声でベール・ゼファーが告げる。
「無警戒で当たるには前科が多すぎるとは、思わないのか?」
「ていうか、魔王を見て警戒しないほうが阿呆だろうが」
勇士郎と柊はまったく気にする事無く、反論する。
そして、気付いた。
「なあ、ベール・ゼファー」
「なによ?」
「お前……弱くなってないか?」
その一言に、ビシリという音と共にベール・ゼファーの動きが止まった。
凍りついたかのように。
必死で取り繕っていた弱みに気付かれたかのように。
「そういえば、なんか弱いな?」
勇士郎も不意に気付いたかのように眉を歪めた。
出会うたびに感じる威圧感が、昔よりも弱い気がしたのだ。
「っていうか、なんでお前あんな雑魚に追われて逃げてたんだ?」
「っていうか、何故飛ばない?」
口々に柊と勇士郎から質問の言葉が飛んだ。
その度にプルプルとベール・ゼファーの体が震える。
「もしかして、現し身の配分でもケチったのか?」
柊がぽんっと吐き出した言葉。
それにブチッとベール・ゼファーのこめかみから音がした。
「う、うるさいわね!」
きゅぃいいんとその右手に光が宿る。
閃光が迸る。
「うぉおおお!」
「なっ、ちょっ!?」
「リブレイドォオオ!!」
ちゅどーん。
閃光が上がった。
“三人を巻き込んで。”
げふっと煤を吐くような音がした。
「お前……アホだろ。あんな範囲魔法を近距離で撃ったら、自分も巻き込まれるだろうが」
「う、うるさいわね! 柊 蓮司の癖に」
黒焦げの柊の言葉に、同じく焦げ付いたポンチョを纏ったベルが不満そうに告げる。
その様子を見て、守りの鞘で防御した勇士郎はため息を吐き出した。
「とりあえず状況がまったく分からないんだが、ベール・ゼファー。お前はここに何しに来た? 冥魔とでも手を組みに来たのか?」
王の剣を手に、勇士郎が低く響き渡る金属音にも似た鋭い声を発した。
「あら、失礼ね? あんな連中と手を組むほど私は堕ちていないわ」
「どうだか。お前はゲーム感覚で世界を滅ぼそうとする、使えるコマであれば喜んで使うんじゃないか?」
彼女の手口をよく知る勇士郎は言いながら、エクスカリバーの柄を握り直し。
「勇士郎。そこまでにしとけ」
「柊?」
「こいつは嘘を付いてない」
事態を見守っていた柊がある種の確信を込めて呟いた。
「お前も多分何度もあるんだろうが、今までの経験からするとベール・ゼファーは俺たちを騙したことはあっても嘘なんざ滅多に付かない。嘘になったとしても本人すら知らなかったことだけだ」
今までの事件を思い返すと分かるのだが、公平性を取るためか、それとも真実という毒に苦しむ姿を見たいのか嘘はついていない。
真実を言わないことはあっても、偽りは告げないのだ。
そして、今――“あんな連中とは手を組むほど堕ちていない”と告げた。
最低でも協力関係にあるわけではないらしい。
「確かにな。でも、なにか企んでいる可能性もあるぞ?」
「何の疑いもなく信じろって言ってるわけじゃねーよ。ただ今すぐ敵として戦うのはやめとけって思うだけだ」
「賢明ね。柊 蓮司」
くすりとべール・ゼファーは笑う。
あどけない少女の顔に、蠱惑的な笑みを浮かべて、その白い指を頬に当てる。
「それにしても、貴方達の言葉からさっするとアンゼロットもここの連中には気付いたようね? 冥魔――ラース=フェリアでの名称そのものみたいだけど。貴方達は調査ってところかしら?」
「まあな」
隠すことでもないので平然と柊は答える。
「馬鹿なことをしたものね」
「なに?」
「もう、ここは――敵地よ」
そうベール・ゼファーが告げた瞬間、彼女の背後の壁が波紋を広げるように揺らいだ。
柊と勇士郎が瞬時にべール・ゼファーに剣を構え――彼女は振り返りもせずに手を背後に向けた。
「リブレイド」
手に光が宿り、瞬く間に撃ち出される。
迸る光の奔流が、波紋を広げてその中から産み落とされようとしていた異形ごと飲み込んだ。
爆破、閃光。爆風と共にベール・ゼファーのポンチョとスカート、そして銀髪の髪が揺らいだ。
「分かった? 迂闊にここに足を踏み入れるのは馬鹿のすること。だって」
波紋が広がる。
壁が、家が、ビルが、次々とゼリーが震えるかのように振動し、形を変えていく。
つい一瞬前までれっきとした建造物だったものが、水を掛けられた粘土のように姿を変えて、子供が作るような奇妙な形へと成り果てる。
「ここは敵の領域内よ」
そう告げてベール・ゼファーは走り出す。
柊と勇士郎に向かって足を踏み出し、二人の裾を掴んだ。
「え?」
「な?」
「走りなさい!!」
さすが魔王というべきか、少女の体躯でありながらその力は青年二人の身体を引きずるほどに強い。
やむなく柊と勇士郎もまた走り出す。
どこまでも終わらない殺意から逃れるために。
走る、走る、走る。
一人の少女の先導に従って、二人の青年が走っていた。
「どこまで走るんだ!?」
「どこまでもよ! 足を止めれば、すぐに捕捉されるわよ?」
「どういうことだ? そもそもここは月匣なのか?」
紅い月は昇っていない。
月匣特有の空気すらもなく、ただ走る街は無人の空間なだけで、通常通りの世界のはずだ。
能力を用いて、建造物などを砕き、破壊し、操作することは出来るだろう。
けれど、あれほどの大規模なものは単なる能力だけでやるには効率が悪すぎるはず。
「馬鹿ね。もうとっくに貴方達は月匣に足を踏み入れているわ」
「なに?」
「虚構と現実の境目にね。見てみなさい、さっき壊れたはずの建物を」
そう告げられて、柊と勇士郎が振り返る。
振り返った先は先ほど形を変えた建造物たち――それの変わらぬ姿。
「なっ!?」
「どういうことだ、こりゃあ!?」
「足を止めないで!」
勇士郎と柊が驚きに一瞬速度を落としかけたのを、ベール・ゼファーが叱咤する。
「お、おう!」
二人が走り出すのを確認し、ベール・ゼファーもまた速度を戻した。
無人の町並みを三人が走る。
響き渡るのはアスファルトを蹴る三人の足音だけだった。
「で、あれはどういうことだ? 町を再生したわけじゃないだろう?」
「そうね。あれは再生したわけじゃない、元から壊れていない――“現実の建物よ”」
「現実? ということは、さっき変貌したのは幻ということか?」
「幻というよりも、展開されている――“月匣”というべきかしら。今この町の中は薄皮一枚の厚みで虚構と本物が重なっているわ。さっき見えたのは入れ替わった建物よ」
それはあたかもトランプの表と裏のようだとベール・ゼファーは告げる。
今いる町は無数に並べられたカードの絨毯の上のようなものであり、その中の一枚をひっくり返せば瞬く間に月匣という虚構の姿が飛び出てくるのだ。
見かけは同じ以上、それが本物なのか、偽者なのかは瞬時に把握することは不可能。
それが虚構と現実の境目。
「なに?」
「そう、それもある魔王の力によってね」
ベール・ゼファーの言葉に、二人が顔を歪めた。
「魔王ってことは……」
「やっぱりお前も絡んでいるのか?」
「半分正解で半分外れ。確かに絡んでいるけど、この事態を引き起こしたのは私じゃないわ」
「?」
「何かやって、んでミスったのか?」
はぁっとため息を付く。
言いたいことじゃないけれど、渋々言う。
そんなイントネーションで、彼女は二人に告げた。
「この能力を持った魔王は私の部下よ。けど、この町に送り込んでから――帰ってこなかったわ」
「冥魔に、喰われたのか?」
「多分ね」
まったく使えない子ねとあっさりとベール・ゼファーは告げる。
冷酷な魔王としての顔。
部下であろうとも使い捨てる非情とも言える言葉に、柊と勇士郎は答えない。
ただ疑問に思ったことを言葉で発した。
「んで、お前が来たってことは……様子でも見に来たのか?」
「一応正解。まさかあいつの能力まで取り込まれているとは思わなかったから、冥魔がいることすら気付かなかったわ」
おかげでこのざまよと肩を竦める。
マヌケといえばマヌケだが、柊と勇士郎は先ほどの反応で彼女が言わない事実にも気付いていた。
「あーなるほど」
「つまり適当に作った現し身で様子を見にきたら、うっかり冥魔の月匣に捕まって、そのせいで本体からの供給すらも出来ずに逃げ回っていたということか」
「あえてぼかした内容を言わないでよ!」
後ろを走る二人の青年にベール・ゼファーは声を荒げた。
先ほどから何度も言っているように魔王の威厳などこれっぽちも残っていなかった。
ガシャーンという景気のいい音と共に砕け散っている。
「まあそんなことはどうでもいいとしてだ」
「あまりどうでもいいわけじゃないんだけど、なに?」
「ベール・ゼファー。君が先に来ているってことは、俺たちよりも情報は握っているんだろう」
当たり前じゃないと、ベール・ゼファーが呟く。
その顔を柊と勇士郎は走りながら見つめた。
「なに?」
「となれば、選択肢は一つ」
「そうだな――ベール・ゼファー、手を組まねえか?」
柊が告げた言葉に、思わずベール・ゼファーが足を止めた。
続いて柊が、勇士郎も足を止める。走り回っていたことにより、吹き出した汗がいまさらのように流れる。
「……面白い提案ね? 私は魔王よ、貴方達の敵対者」
「普段ならな。でも、今は共通の敵がいる。ベール・ゼファー、君の性格からしてこのままここの冥魔を放置することはないんじゃないか?」
部下を食われ、さらには襲われ、ここまでやられておいて気高き魔王が何もしないわけが無い。
自分のプライドと、そして地位や立場を護るために何が何でもこの冥魔を自分の手で始末しなければ、裏界での顔に泥が塗られるだろう。
それを見越して、勇士郎は告げる。
「そして、俺たちは冥魔を倒すことを任務としていても、大魔王ベール・ゼファーを倒す任務も必要性も持っていない」
「変わったわね、ブルー・アース。しばらく見ないうちに頭でも柔らかくなったのかしら?」
何世代か前の彼の姿を思い出しているのだろうか、ベール・ゼファーは口元に手を当てて、優雅に嘲笑う。
かつての勇者の彼ならば今ここで自分を葬り、冥魔をも倒そうとしていただろう。
頑なに力を通す勝利の聖剣を携えたかつての彼ならば、天地がひっくり返っても言わなかっただろう言葉。
「人は変わるさ。大切なものだけを失わなければ」
「そう」
聖剣を携えた勇者は紅い外套を翻し、静かに告げる。
決意の瞳。燃えるような激しい光を湛えた視線がベール・ゼファーを捉える。
それは見られるだけでゾクゾクと背筋に震えが走りそうな勇者の威圧感。
目の前にいるのは幾多のエミュレイターを退け、裏界魔王72柱の一柱である貪欲の魔王【アー=マイ=モニカ】を葬った戦士なのだ。
このような状況でなければ、彼を巻き込み、この手で苦痛と絶望に歪む姿を見てみたいと思うほど素敵な男。
「それで? 私に何のメリットがあるのかしら?」
けれど、少しだけ自重する。
ベール・ゼファーは気が長いのだ。感情のコントロールぐらいは大抵のことならば融通が利く。
出来ないのはどこぞの超公を名乗る馬鹿を説得するようなプライドを傷つけられるような行為のみ。
素直に頷かないのはただの気まぐれだった。
「メリットはあるだろ」
しかし、そんな空気を読まない馬鹿がいた。
柊 蓮司。
ここ近年で瞬く間に台頭を表し、四度に渡る異変でベール・ゼファーと敵対し、協力もしたことのあるウィザード。
少しだけ面白い玩具。
それが彼女の評価だった。
「メリット?」
「白兵戦もある程度はこなせるだろうが、今のお前じゃ難しいはずだ。魔法メインのお前を護る剣士が二人ってのは魅力的じゃないか?」
「護るといいつつ、グサリとやられるのは嫌よ?」
生きている限り敵対するのが当たり前の立場として告げた言葉。
「するわけないだろ」
しかし、それを即座に柊は否定した。当たり前のように、まるで友達にでも言い返すような気安さで。
その態度に、ベール・ゼファーは肩を竦めた。
「なんだよ?」
不思議そうな顔を浮かべる柊、僅かに呆れている勇士郎は柊の行動の意味を理解している。
これだから、柊 蓮司は困るのだ。
何度も殺し合っているくせに、一度は彼の幼馴染である星の巫女を操られた手助けもして、土星では直接殺しあったこともあるくせに、まるで無警戒。
単なる馬鹿ならば諦めがつくけれど、一度仲間だと思った人間には当たり前のように接する。
彼に怨みという感情はないのだろうか。
立場上手を組むにしても影を引きずるのが普通なのに、彼は、目の前の馬鹿はそれすら考え付きもしない。
頭が痛くなりそうだった。
真面目に考えるのが馬鹿らしくなるほどに。
「しょうがないわね」
「……そんなに不満そうにするなよ」
「当たり前でしょ? この私がウィザードに力を貸してやらないといけないのだから」
その言葉に、柊が分かったようにニヤッと笑う。
その笑みにぴきりとこめかみを動かしながら、ベール・ゼファーは不満そうに告げた。
「協力してあげるわ。流鏑馬 勇士郎、そして柊 蓮司。ありがたく思いなさい? 私のエスコートは並の男じゃ勤まらないわよ」
「安心しろ。荒っぽい魔法使いには慣れてる」
「姉さんよりはマシだろうな」
二人の言葉。
にやりと笑って――同時に聖剣が、魔剣が抜刀される。
まるで姫を護る近衛兵のように左右に散開し、二人は聖剣と魔剣を構えた。
見れば、足を止めていた間に周囲が波打つように波紋を広げ、次々と異形へと成り代わっていく。
無機質な殺意が満ちる。
冥魔の視線だろうか、渇いた虚無の気配。汚物にも似た悪臭の香り。
おぞましい異形たちの震えが、振動が、伝わってくる。
「覚悟しなさい」
その中でベール・ゼファーは両手を広げる。
まるでダンスでも始めるかのように、淡い魔力を迸らせ、その身に纏っていた制服とポンチョの汚れが掻き消える。
新品の如き美しさ、化粧でも整えるかのようにその片手で自らの頬に触れて、薔薇のように紅い唇を指でなぞる。
「これから始まるのは乱暴なダンス」
抜刀。
金属音が響く。
二人の剣士が、地面が圧迫されそうなほどの威圧感を放ち、彼らの纏う月衣がプラーナの光を帯びて輝き出す。
それに当てられて、それに輝かされて、一人の銀髪の麗しい少女が手を伸ばす。
男でも蠱惑するかのように、どこかの愚かな異形を誘うかのように、伸ばした手で身体を抱きしめる。淫らに身体を動かして、魔力を練り上げる。
「悲鳴を上げても、泣き叫んでも、どんなに赦しを請いても赦さない」
町が次々と裏返る。
異形たちが一人の少女を求めるかのように迫り狂う。
おぞましい光景。
殺到する異形。
「さあ」
世界が染まっていく。
ベール・ゼファーの力を帯びて、歪んだプラーナの輝きが、世界を真紅に染め上げる。
紅い月の下で、一人の魔王少女が告げた。
「始めましょう」
歌うように、奏でるように、熱い吐息を吐き出して。
上気した頬で、銀色の輝きの下で見開かれる琥珀の瞳。
劣情を奏で上げるような声で、振り絞るような歌声で告げた。
「絶叫に満ちた舞踏曲を踊りましょう」
投下完了です。
次回からド派手なバトルになる予定です。
魔王が、元勇者が、魔剣使いが盛大に暴れまくるアクションバトルにご期待下さいw
……エロはいつだろう?
乙!
面白かったぜ
どんな展開になるか期待
何故か最後の一言だけが神田理江のアナブラボイスで再生されたw
乙!
さて、ブレイクしたカリスマは戻ってくるのだろうかw
> さて、ブレイクしたカリスマは戻ってくるのだろうかw
うん、無理……かな
>マッドマンさま。
こっちのベルは「カリスマ大暴落魔王」か「超ポンコツ魔王」の悪い両極端・・・。
うう・・・カリスマとか可愛さとかかっこよさとは縁遠いのでしょうか・・・。
で、投下なのですが。
みなさんどうか、「ウソつき ! 」と叱ってやってください・・・。
書いてるうちに解説長くなってしまって、エロ分補給ゼロ !
本気で長丁場です・・・飽きられないでしょうか(汗)。
前書いた通り、読み物的お気楽さで「ふんふん、なるほどね」って感じでお読みいただけ
れば。では、少ししたら投下しまーす。
※
“影の” エリスは夢を見る。
ここではないどこか。もはや存在しない場所。無窮の深淵に閉ざされた、彼女のため
にしか用を成さない黒い棺の中で。
そこがどこかは誰も知らない。彼女が還るただひとつの場所。
赤羽神社から撤退を余儀なくされた影エリスは、彼女の居場所でまどろんでいた。
そう遠くない過去に、想いを馳せながら ---- 。
※
「う・・・う〜ん・・・」
布団の中で寝返りを打つ。いつもの朝を迎えるように覚醒したエリスは、まだ重い瞼
をうっすらと開きながら、自分を覗き込む二つの顔に気がついた。
「え・・・あ・・・あれ・・・ ? 」
まだ眠っているのかな。これは夢でも見ているんじゃないのかな。そう思う。
だって、ここにはいるはずのない二人が、並んで私の寝顔を覗きこんでいるなんて、
どうしたってありえないことなんだもの ---- 。
「あは、起きた起きた。なぁに、まだ寝惚けてるみたいだけど大丈夫なの ? 」
「・・・まだ・・・状況を認識していないようですよ・・・大魔王ベル・・・」
-------- !?
そうだ。ここにいるはずのない、いてはいけない二人 ! 大魔王ベール=ゼファー、そ
して “秘密侯爵” リオン=グンタ !!
「きゃっ・・・・ !? きゃあっ !? きゃあぁああああっ !? 」
ここ二日間の不安定なエリスの神経は、ここへきて即席のパニック状態になったよう
である。かけられた毛布を思いっきり蹴り上げ、思いのほか俊敏な動作で跳ね起きる
と、布団の上を這いずるようにして逃げ出した。ふと、目の前に柊蓮司の姿を見出した
エリスは、
「先輩っ、柊先輩っ、た、助けてください〜〜〜っ !? 」
無我夢中で、胡坐をかいて座る柊の胸の中に迷わず飛び込んだ。
彼の分厚い胸板にしっかりとしがみつき、「先輩、先輩」と何度も柊を呼びながら、そ
の胸に顔をうずめる。もちろん、その横で「む〜〜〜・・・」と口をひん曲げて唸る赤羽
くれはや、サヨナラ満塁ホームランを浴びたマウンド上のピッチャーのようにうなだれる
ロンギヌス・コイズミなど眼中にない。
「お、おいおい。大丈夫だぜ、エリス。ほら、噛み付きゃしねーよ。いまは訳があって、
こいつらと協力することになってるんだ。だから落ち着けよ、な ? 」
怯える子供のようなエリスの青い髪をよしよし、と撫でてやり。震える背中をぽんぽ
ん、と叩く。努めてなにごともないように穏やかな口調で、エリスをなだめてやる柊。
「・・・・・・ひーらぎ・・・めずらしくやさしーんだね・・・」
じっとり、くれはが横目で睨みつけ、そんなことを言う。
「残念なことですが・・・かないません・・・」
落胆と悲嘆がないまぜになった口調で、コイズミが敗北宣言をした。
「な、なんだよお前ら。俺、なんか悪いことしたか !? 」
わかっていない。まるでわかっていない男、柊蓮司。
赤羽家の母屋の居間で突発的に発生した甘酸っぱい寸劇に、
「・・・もしもし。もしもーし」
「・・・・・・・・・この扱いは・・・ないんじゃないでしょうか・・・」
やたらとくぐもった二つの声が、柊たちに呼びかけた。
ベルとリオン。二人の首から上が ---- ない。いや、ただ単にエリスの跳ね飛ばした
毛布が、見事に二人の頭の上に覆い被さっているだけなのだが。
和室の居間に正座しながら、頭から毛布を引っかぶらされた魔王二人 ---- 。
このシュールな映像は、なかなか見られるものではないレアな光景である。
柊にしがみつくエリスをちらりと横目でみながら、こほんとひとつ咳払いをしたアンゼ
ロットが、
「コイズミ。毛布をはがして差し上げなさい」
出来の悪い笑劇にさっさと幕を引きたいのか、棘のある口調でそう言った。
「は、はい・・・・・」
おそるおそる魔王二人の背後に回り、頭を覆う毛布をひっぺがすコイズミ。
「ちょ、いた、いたたっ、髪引っかかってるじゃないっ !? 」
「・・・・・・ヘアースタイルが・・・台無しです・・・」
不平を垂れる魔王たち。見れば確かにベルとリオンの髪はぐしゃぐしゃにされ、二人
の美少女魔王は恨めしげに、コイズミを睨みつけた。
「も、申し訳ありません」
律儀に頭を下げるコイズミへ、
「こちらへ来なさい、コイズミ。謝罪する義理などありませんよ」
つんけんとした物言いでアンゼロットが叱り付ける。
「・・・部下は粗忽、主は無礼。とんだ主従だわね」
ベルの辛辣な一言をじろりと一瞥で跳ね返し、アンゼロットが声を荒げる。
「さあ、今ことに時間を費やしていても仕方ありませんわ。ちゃっちゃと始めてしまいま
しょう」
肩をすくめたベルが、エリスに視線を移す。柊の腕の中で小動物のように震えている
のをからかうように。
「ねえ・・・そろそろ話、始めたいんだけど ? 熱烈な抱擁は後にしてくれないかしら ? 」
言われて初めて己の行為の大胆さに気づいたか、
「ス、スイマセン・・・柊先輩・・・私、なんてこと・・・・」
顔を真っ赤にしながら柊の胸から飛びのいた。
「まあ、気にすんなよ。そりゃびっくりもするって」
わはは、と豪快に笑う柊。彼自身は、エリスに抱きつかれたことにこれっぽっちの気
恥ずかしさも感じてはいないらしく、実に涼しい顔をしている。
「やれやれ、だわ」
呆れ顔のベルがようやく気を取り直して、
「話を整理するためには、アンゼロット。貴女だけじゃなくエリスちゃんにも、この二日
間の異変について話して貰うわよ。敵の思惑、正体、その他諸々を推理するためなん
ですからね」
そう言った。
「エリスさん ? 倒れたとは聞いていましたけど、やはりなにかあったのですか ? 」
「・・・は、はい・・・・・・」
いぶかしげに問うアンゼロットに、エリスが小さく答える。
「やっぱり、あの朝飯のときのことか・・・エリス・・・すまねえ・・・もっと気を配ってやって
いればこんなことには・・・」
苦しげに顔をしかめ、柊がエリスに頭を下げる。
「そ、そんな、柊先輩のせいじゃないです。わ、私あのときお二人に余計な心配させた
くなくって、なんでもないって言っちゃいました。でも、あれは嘘だったんです・・・本当
は、なんでもなく・・・なかったんです・・・」
涙を浮かべしょんぼりとするエリスに、
「水臭いぜエリス。お前は俺の仲間だし、可愛い後輩なんだ。心配とか迷惑とか、気に
すんなよ。お前が頼ってくれるんなら、そんなもん苦になんてするもんか。むしろもっと
頼っていいんだ。お前のためなら、俺はなんだってしてやるからさ」
「ひ・・・柊・・・先輩・・・」
柊の台詞 ---- 聞きようによっては ---- いや、誰が聞いても熱く、そして甘い台詞
ではなかろうか。事実、エリスは柊の「お前のためならなんでもする」という言葉に瞳を
うるうるとさせ、頬を上気させている。が ----
たぶん、柊の言葉に他意はない。きっと、文字通り仲間のために身体を張るぜ、とい
う意味なのだ。
「こほん。おっほん」
見かねたアンゼロットがわざとらしく咳払いをする。
「まったく・・・柊蓮司は・・・」
舌打ち混じりにベルまでもが吐き捨てる。二人揃ってなぜだか顔が赤いのは、エリス
の発する桃色のオーラに当てられたためだろうか。見ればますますくれはが機嫌悪そう
にそっぽを向き、コイズミは畳に両手をついて下を向いて落ち込んでいる。
ただひとり、冷静なのは「あらあら」と楽しそうにこの風景を外枠から眺めているリオン
だけだった。
「もーいーかしらー ? エリスちゃーん ? 」
ことさら大きな声で呼ばわるベルに、
「きゃっ !? は、はい、スイマセン・・・話、話ですよね・・・」
より赤面しながらうつむくエリスである。
「・・・っ、たく・・・。それじゃ、始めるわよ ? まずはエリスちゃん、この二日間に起きた
ことを、まずは話してくれる ? 」
うながされて、ぽつりぽつりとエリスが話し始める。体調の異変、空耳だと思っていた
声、身体に押し込められた黒い少女たち、自分と同じ顔をした褐色の肌のもう一人の
自分のこと ---- さすがに、夢の中で黒い少女たちに侵入されたときの細かい描写は
省いた。まさか、「あんなところ」や、あまつさえ「こんなところ」にまで侵入された夢を見
たなどと、口が裂けても言えるはずがない。
大方の話を終えると、続いてアンゼロットが口火を切る。コイズミの補足・解説も付け
加えながら、この二日間で観測されたエミュレイター反応の不可解な動きについての
事細かな情報 -------- 二人の話そのものは、ものの十五分で終わった。
黙りこくって、瞳を閉じながらベルはじっと動かない。
眠っているのか、と思うほど微動だにしないのである。
「・・・・・・お、おい。ベル、どうしたん・・・もごごごっ !? 」
急に大人しくなったベルに、なんだか心配になった柊が呼びかけると、その口を塞い
だものがある。血の気の少ない、リオンの薄い手のひらだった。
「・・・・・・静かに」
「も、もごっ ? 」
「・・・大魔王ベルの “名探偵モード” です・・・」
どこまで本気か分からないリオンの言葉であった。
しかし、その茫洋とした瞳の色からは、彼女の真意を測り知ることはできそうになく。
しかたなく、ベルが目を開けるのを待つしかない一同なのである。
一分経ち。二分が過ぎ。
すうっ -------- と。
---- ベルの瞳が開かれた。
※
※
※
“影の” エリスは夢を見る。
幾度となく見てきた、あの時の夢である。
そう遠くはない過去。当時こそそんな呼び名はなかったが、いまの世においては『宝
玉戦争』と呼ばれる、あの約一ヶ月にも及ぶ一連の戦いの時代。
もはやいまとなっては存在しない場所で、影エリスはいつも待ち続けていた。
自分と、自分と同じ姿を持った志宝エリスという名の少女を造り上げた、あの人の帰
還を。
最近のあの方 ---- その美しい少年の容貌に似つかわしくなく、影エリスは “おじさ
ま” と呼んでいる ---- は、頻繁にいなくなることが多くなった、と彼女は思う。
ファー・ジ・アースと呼ばれる世界に、あの『白い私』を送り込んで以来、めっきり還っ
てこなくなってしまったようだ。
あの方 ---- “見つめるもの”ゲイザーと名乗るあの人は、いまでは『キリヒト』と名を
変えて、自分の理想と目的のために別の世界で日々働いているのだという。
影エリスは知っている。ゲイザー=キリヒトの絶望を。憤りを。悲しみを。
世界を見つめ続ける永遠の時間、キリヒトがどれだけ悲嘆に暮れていたのかを。
「おじさま・・・・」
物理法則も概念も異質なこの空間で、影エリスはひとり、膝を抱えながら呟いた。
いつも考えているのは、キリヒトの心中である。
あの方は、誰よりも世界を愛している。自分の見つめ続ける世界を、誰よりも平穏で
あれ、と願っている。美しく緑なし、人々は笑い合い、愛し合う。巡る四季を末永く繰り
返し、争いはなく、悲しみもなく。そんな世界であってくれと願うキリヒトの心は、しかし
次第に荒んでいったのだ ---- と影エリスは思う。
キリヒトの心は、世界が腐敗するにつれて疲弊していった。
自分が見つめ続ける世界を愛したいのに ---- 愛することが出来ない。
だってそうではないか。
人々は奪い、人々は殺す。自分たちが造り上げた村々や、都市間や国家において、
その共同体の名の下に戦争という名の理不尽な暴力や虐殺に明け暮れる。
木々を倒し、森を焼き、海を汚し、空を曇らせ、種を絶やし、それでもまだ飽き足りる
ことのない愚者の世界 ---- こんなもの、誰が愛せるというのだ。
それでも、キリヒトは待ち続けたのだ。それこそ何百年、何千年と。
だけど。だけど、人々は変わらなかったではないか。
だからキリヒトは決意した。一度この世界を滅ぼして、一からやり直そうと。
世界を愛しているからこそ、愛したいからこそ、滅ぼそうと。
そのために産み出されたのが、あの少女 ---- 志宝エリスであった。
裏界という異質な世界を、絶対の力で支配した “皇帝” シャイマールを、ファー・ジ・
アースに降臨させるための転生の器として。
破壊と殺戮と暴威の象徴、絶対の滅びをもたらすシャイマールの復活は、文字通り
の世界の終焉を意味している。
そのための、キリヒトの理想を具現化するための、大事な大事な器が、エリスであっ
た。そして影エリスは ---- キリヒトがエリスの予備として造ったに過ぎない、簡易版
の器でしかなかった。それが、彼女にとっては辛い。自分が、おじさまの役に立てない
ことがとても辛い。
影エリスの世界を、不意に輝きが照らす。
抱えていた膝に埋めた顔を上げ、彼女は溢れる喜びを隠そうともしなかった。
あの方の帰還の前兆を、確かに感じ取ったのだ。最近はファー・ジ・アースに入り浸り
で、なかなか還ってこないおじさまの、久しぶりの帰還。
「おじさま・・・・」
世界を照らす光に向けて、影エリスは彼の名を呼んだ ---- 。
※
※
※
赤羽家の居間に不思議な緊張感が流れている。
瞳をゆっくりと開き、人差し指でぴしっと天を指すベルは、ほんのちょっとミステリの
女王を気取った、ポンチョの名探偵である。
思わせぶりで。しかも勿体つけて。静かに歌うように。
「誰が志宝エリスを狙っているのか」
仰々しくも、そう呟いた。
この場、この雰囲気でのこの問いかけは、『誰がクック・ロビンを殺したのか』を想起
させる語調にも聞こえるようで。
「だから、誰なんだよそれは」
まぜっかえす柊に「うっさいわねー」と返してしまうところが、いまいちベルが名探偵
になれないところであろうか。
「いい ? ここで貴方たちも考えてみるといいわ。エリスちゃんにちょっかいを出してきた
ヤツの正体は、なにものなのか」
先ほど柊になだめられてすっかり落ち着きを取り戻したエリスが、固唾を呑んでベル
の言葉を聞いている。ターゲットが自分である、と明確に名指しされているのだから、
当然無関心ではいられないだろう。
「・・・その正体を推測するには、いろいろな道筋がありますが・・・」
リオンが助け舟を出すようにそう言った。
「志宝エリスを狙う理由 ---- そして、狙うことが “出来る” 理由、を推測してみたら
いかがでしょうか・・・ ? 」
狙うことが “出来る” -------- ?
「奇妙な言い回しをしますわね、秘密侯爵リオン=グンタ・・・・・・」
アンゼロットが不敵な笑みを浮かべた。推理合戦の様相を呈してきたこの会合に、
俄然、闘志が沸いたようである。なんといっても、先の宝玉戦争においては、ベルの
「事件の黒幕=ゲイザー」の推理にぐうの音も出なかったのであるから、アンゼロット
が汚名返上とばかりに張り切るのも無理はない。
「エリスさんを狙うものがいるとして・・・その理由は三つ考えられますわね。ひとつは、
ただプラーナを求めるだけのエミュレイターが、無作為に彼女を狙う場合。二つ目は、
彼女を人質に取り、柊さんたちの弱点として利用する場合。三つ目は、エリスさんにな
にかまだ特殊な力が残っていると勝手に思い込み、エリスさん自身を利用しようとする
場合」
「一つ目は却下だろ。エリスは別にプラーナを吸われてねえんだしよ。二つ目も違うん
じゃねーかな ? アイツ、人質に取るどころか正面きって俺とアンゼロットを殺しに来や
がったし」
「はわっ、ひーらぎが冴えてるっ !? 大丈夫 ? 熱でもあるんじゃないの ? 」
「ちょっと柊さん !? 私が言おうとしたことを・・・コホン・・・ま、まあ、いいですわ。三つ目
の理由が、こうしてみると一番もっともらしく思えますが、でもそれにしても引っかかる
ことがあります。それならば、あの黒いエリスさんは、ただ闇雲にエリスさんに力がある
と思い込み、ウィザードとしての力もない彼女に手を出したのでしょうか ? 」
アンゼロットの言葉を、ベルが楽しそうに聞いている。なかなかのものじゃない、と、
そう言っているようだった。
「あ、アンゼロット様。エリス様にウィザードとしての力が残されてはいない、というのは
本当に確実なのでしょうか」
コイズミが、おそるおそる手を挙げて発言する。まるで、黒板の問題の答えが正解か
どうかわからずに、おどおどする小学生のように。
「それは確実です。それならば、彼女の狙いはなんだったのでしょうか ? ウィザードの
力を持たないエリスさんを愚かにも、勘違いで狙いに来たお馬鹿さんなのでしょうか」
挑戦的な瞳をベルに向けるアンゼロット。ふふん、とベルが鼻で笑う。
「志宝エリスのウィザードとしての力は失われている。これが真実だとするならば、こ
こで “四つ目” の理由を見つけなければならないわね。どう、柊蓮司 ? 貴方にはなに
か見当がつく ? 」
「分かるわけねーだろ。第一、そいつはお前らが、もう答えを見つけてるんじゃねーの
か ? 」
ベルの問いかけに憮然と答える柊。
「まあ、エリスがウィザードとしての力を失ってるんだとしても、なにか別の力が残って
りゃ、話は別なんだろーけどな。狙うとしたら、あるのかないのかもわからない、そんな
もんぐれーだろ・・・・・・っ、おいっ !? なんで俺のオデコ触るんだベルっ !? ・・・っ、い、
痛ってえっ !? アーーーンゼロットぉっ !? つねんなっ !? ほっぺたつねんなっ !? 」
正面からベルが、熱を測る仕草で柊の額に触れる。アンゼロットが信じられないもの
でも見たかのような顔で、柊の頬をねじりあげる。
「ひ、柊蓮司 ? 本当に熱あるんじゃないでしょうね ? 」
「柊さんが痛がっている !? するとこれは夢ではないんですのね !? 」
「なんだってんだーーーーーーっ !? 」
ぶんぶんと頭を振り回し、二人の手を払いのける。
「なんなんだお前ら !? 二人揃って俺のこと馬鹿にしてんのかっ !? 」
激昂する柊の服の袖を、横からエリスがきゅっと掴む。
その唇は真っ青で、ふるふると震えており、歯がかちかちと小さく鳴っていた。
「エリス・・・ ? 」
「・・・・・・お二人が驚いているのは・・・柊先輩の言ったことが・・・正解だから・・・です
か・・・ ? ウィザードの力を失くした私が狙われた理由・・・それは、まだ “失くしていな
い力” が私にある・・・そういうことなんでしょうか・・・」
沈黙。
それが、エリスの問いに対するアンゼロットとベルの回答だった。
それの意味するところはすなわち「肯定」。
二人が驚いて、柊をいじり倒したのは、別に彼のことを馬鹿にしたわけではない。
なにげない柊の無意識の一言が、まさに核心をついていたからである。
こくり、とベルとアンゼロットが同時に頷き。リオンの口元に笑みが深まった。
「四つ目の理由・・・敵は、ウィザードの力を失っても、いまだ損なわれることなく残って
いたエリスさんの資質を知っていた。そして・・・それを狙ってエリスさんに接近したと、
わたくしはそう思います」
アンゼロットが唇を引き締めた。
「私に残された資質・・・って・・・」
エリスの真実を希求する言葉に、アンゼロットは一瞬躊躇いを見せた。
これを口に出してもいいものかどうか、迷っているようである。
「言ってください・・・私、受け入れますから」
「エリスさん・・・」
まだ顔色は悪いが、エリスはきっぱり言い切った。その顔に浮かんでいるのは、まぎ
れもなく決意。どんな運命でも、どんな真実でも受け入れてみせるという決意。
ウィザードとしての力は失ったが、こうして自分の身になにかしらの悪意 ---- おそら
くは世界を巻き込もうと暗躍する悪意が襲い掛かるのであれば、毅然とそれに立ち向
かう心の強さが、エリスの心の奥深くに息づいている。
「教えてください。アンゼロットさん。ベルさん。私も戦います !! 」
この場にいる一同の脳裏に、フラッシュバックする “あの” 光景。
魔剣を構えた柊の傍らでアイン・ソフ・オウルを展開しながら、この星を護る力を貸し
てくれと祈った、あのときのエリスと同じ決意の言葉であった。
「・・・・・・あーあ。なんか一本取られた感じだわ。ねえ、アンゼロット ? ここで変に気を
使ったら、それこそエリスちゃんを侮ることになるんじゃない ? 」
それは、おそらく大魔王ベール=ゼファーの最大級の賛辞であっただろう。
ベルは認めている。エリスという少女の心の強さを。ウィザードでなかろうが、力を
失くしていようが関係ない。しばしば人の心の強さは、人の力など比べるべくもないエ
ミュレイターの脅威ですらも凌駕する。そのことを、自らの身をもってよく知るベルだか
らこそ、エリスの心の強さに感じ入るものがあったのであろう。
ようやく、アンゼロットもそれを認めた。
残酷な真実であれ受け入れようとするエリスが、とても神々しくさえ見える。
「わかりました。それでは、わたくしなりに考えたエリスさんの資質がなんであるか、そ
れを明らかにしましょう」
すうっ、と息を吸い込み一息に。
「エリスさんからは、ウィザードとしての力は失われています。もちろん、かつてのシャ
イマールの転生体としてのエリスさんも、です。失礼を承知で言わせてもらいますが、
いまのエリスさんは、ウィザードとしての力とシャイマールとしての力を失くした、抜け殻
のようなものです」
そこで言葉を切ると、アンゼロットはエリスを気遣うように、「ごめんなさい」と小声で
謝罪した。
「い、いえいえ。本当のことですから気にしないでください」
あはは、と笑うエリス。ここで笑えるところが強さなのだろう、と傍で見ていた一同も
得心がいった様子で、彼女のことを見直した。アンゼロットがエリスに軽く目礼する。
その仕草はどこかうやうやしく、エリスに敬意を払っているようにも見えた。
咳払いをひとつして、アンゼロットが言葉をつなぐ。
「では、敵の目的はいったいなんなのでしょうか。敵が目論む、エリスさんの利用価値
とはなんなのでしょうか -------- ここで、わたくしたちは発想を逆転させる必要があ
るのです」
「発想の逆転 ? 」
いぶかしげに問う柊に頷いて。
「ええ。エリスさんの中に存在しない力など、初めから利用できるはずはありません。
ならば、なんのメリットがあって抜け殻のエリスさんを狙うのでしょうか」
横で聞いているベルが、にまにまと人の悪い笑みを浮かべている。アンゼロットの話
が進むに連れ、その笑みは広がっていくようである。自分と同じ思考の筋道を、宿敵
であるアンゼロットも追っている ---- そのことがひどく嬉しいようだった。
「 ---- 力を失った抜け殻は、ふたたび “なにか” で満たされることによって、利用で
きます」
眉をひそめながらアンゼロットが言う。エリスにとって、ひどく残酷な言い方をしている
ことが自分でも分かっているのであろう。それが、とても苦しげであった。
「敵の狙いは、エリスさんをふたたび “力” で満たすこと。かつて、かのシャイマールを
その内に宿していたほどの巨大な器を、それと同等の力によって満たすこと。わたくし
の考えは以上です。シャイマールほどの存在を封じ込めていた器の大きさ ---- それ
こそが、エリスさんの隠された資質である ---- と、わたくしは考えます」
「ブラボー」
人を喰ったような賞賛の言葉と、続いて乾いた拍手の音。
くっ、くっ、と笑いながら、ベルが手を叩いていた。
「やるわね、アンゼロット。徳を積んだみたいね ? 続きは私も加わっていいかしら ? 」
「・・・どうぞ」
「ありがと・・・って、ところまではみんな理解したと思うけど、ここからが本番よ。敵の目
的がはっきりしたところで、その正体まで探っちゃいましょうか ? 」
一同へ向けてウィンクをすると、ベルが全員の顔を見回す。
全員が全員、難しい顔をして考え込んでいた。しかし、それは答えがわからなくて悩
んでいるのではなく、むしろ「漠然とした回答」を全員が頭に浮かべているために、その
真実の重大さ、深刻さを憂えている表情に近い。
「・・・ひとつ。志宝エリスの資質と、その持っている特性を熟知したものでなければ、
今回の陰謀を企むことはできない」
リオン=グンタが口火を切ったのは、「敵」の正体を満たす条件の第一である。
「・・・たしか、その娘、エリスちゃんと同じ顔、してるっていったよね・・・ ? 」
くれはの問いを、ベルが愉しげに「ふたつ」とカウントする。
「そういやアイツ、アンゼロットや俺のことをすげー恨んでるって感じだったな」
みっつ、とリオン。
くすくすと笑い声を立てながら、ベルがいかにも可笑しそうに言う。
「ここまでくれば十分でしょう ? 志宝エリスの “シャイマールの器” としての資質や特
性をよく知っていて、志宝エリスと同じ姿をしていて、なおかつ柊蓮司やアンゼロットを
まるで “親の仇” のように憎んでいる ---- 」
みなが、生唾を飲む。
ベルの一挙手一投足も見逃さない、一言半句も聞き逃さない、といったように。
「私の出した結論 ---- 敵の正体は」
居間の空気が、あまりの緊迫感に凝固する。
「 “器” の特質を知るものは、それを造ったもの以外にはありえない ---- 」
「ゆえに、それは、かの“見通すもの”ゲイザーに連なるものであり ----」
「志宝エリスと同じ姿の彼女がそうだというのなら ---- 」
立て板に水とまくしたてるベルは、やはり一同を集めて推理を披露する名探偵のよ
うである。
「ゲイザーの被造物・・・もう一人の志宝エリス。その目的は、ここにいるエリスちゃん
を、ふたたびシャイマールと同等の力でもって満たすこと・・・柊蓮司とアンゼロットを
“親の仇のように” 憎んでいる様子から、ゲイザーの完全な信奉者と思って間違いな
いでしょうね」
場に緊張が満ちる !
「そして、ゲイザーの信奉者である以上、その最終的な目的は ---- 」
「まさか、キリヒトと同じようにこの世界を完全に一度滅ぼすってんじゃないだろうな !? 」
激昂する柊蓮司を見つめるベルの瞳の色には、いつもの無邪気さや彼をからかう様
子は微塵も感じられず ---- 。
ベルはただ、小さくこくり、と頷いただけであった ---- 。
(続)
>276
この大ウソつきめ
だが、今はこの大ウソが心地いい
ヤッツケでエロいワードを無理矢理挿れられるよりかは
焦らしてくれた分のイロイロな大爆発に期待させてもらうよ?
乙。
謎と舞台が明らかになり、相変わらずのベルとアンゼの詰めの甘さと
柊の空気の読めなさが光るお話でしたw
しかし、いろいろと出ている、NWのSSを読んでると……
以前は「どちらかと言えば小説版のほうが正史」と言う声が大きかった記憶があるが、
今では「コイズミが出ている」の一点を持って、アニメ版が正史と認識されてる気がするw
小説版エリスとアニメ版エリスは声の有無以上の違いがあるし、
性格的にも柊やくれはに絡ませたり、アンゼの依頼を受けるなら
圧倒的にアニメ版エリスの方が動かしやすいのもあるかもな >アニメ版準拠が多い
後、アニメ準拠のアンソロ小説が大幅な補強をしてしまってる
小説版設定で拾いやすいのは
柊の魔剣折れる
スーパーくれはタイム
TIS大活躍
ベル以外の魔王にちゃんと(?)出番アリ
あたり?
>>290 パールちゃんがあっさりやられるのがなんとも…
まあ、きくたけ世界的には小説の方が正史に近いんだろうが、所詮はきくたけワールド
TRPGの設定なんぞ後から幾らでもなかったことに出来るしな
アニメの方が認知度高いし、SS的にはあえてTRPG設定引っ張ってくる必要がなければどうでもいい
アニメ準拠だとエリスが輝冥学園3年で天文部にいるという設定で使えるしな
明るく! 明るく!
アニメ準拠だとくれはが巨乳という設定になるな
>>296 あのな、レギュラーヒロインがひんぬーばっかりでどうするのかと。
突いたら割れると今でも信じてます!
>>297 お前ガンナーズブルームで撃ち殺されるぞ
>294が何を言ってるのかと思ったら。輝冥かよw
まぁ魔王シャイマール様が居られる学園なら輝冥学園でも間違ってない気もするがな
どうでもいいが
輝冥計画ヒイラギマー
とかいう電波が来てしまった
メイ オー
あかりんにつららを挿入するんですね、わかります。
オクタヘドロン製牛乳というものがあってだな(ry
? 貧乳だらけで何か問題でも?
今野先生、仕事してください
しかしよく考えると原作だと貧乳キャラは結構少なかったような
要姉妹とくれはくらいじゃね?
マユリも竜之介もけしからん大きさだし。
>>307 世界の守護者様と大魔王を忘れるとはけしからん
ああ…小さすぎて見えなかったか
ぽんこつ大魔王はその気になれば大きくできるから却下。
ぱーるちゃんさまのことなら同意。
世界の守護者様?
…ノーコメント。ダイヤモンドやすりで削り殺さr(ここで記述が途切れている)
>309
早く過去のタイムゲートをくぐってL・A・L・Aのコマンドを入力する作業にもどるんだ!
>>285 ウ ソ ツ キw
しかし、段々謎が分かってきましたね。
ゲイザーの信奉者ということは使徒か? でも、何故魔王とかを従えているのかが不明ですね。
そちらの話もクライマックスに近づいているようでwktkさせていただきます。
もうそっちだと柊とくれはがくっつているので、エリスとのCPは成立しないんだろうなぁと嘆きつつも次回も楽しみにしています!
頑張ってください。
そして、冥魔は……まだ?(まて)
雷火×武田少年を待ちながら保守
もうじきお盆だな。『「ありがとう」の言葉』を(個人的)筆頭に連載中の作品の
続きや新たな職人さんなどでスレが盛り上がることを期待
そっち受けなのか。
男女の場合は必ずしも攻め受けの順番じゃないけどな
マユリって小さいイメージあるよな
脱ぐとすごいのか
頭の栄養が全部胸に行ってるんですよ
マユリが小さいのは背丈。
乳はあかみこのときからでかい。
けしておむすびを詰めているわけではない。詰めているわけではないぞ?
というか、あかりんといいマユリといい翠といい巨乳が多いよね
みこシリーズの女性陣
キャラデザがネコミミだから
そういえばマユリはサンプル魔術師、あかりんはサンプル強化人間、ナイトメアはサンプル夢使いアレンジ
なのに、命は外見がカニじゃないから仲間はずれっぽいよな。
よく勇者と間違われるのはその辺も原因なのかもしれない。
世界の守護者は、若作りをやめればナイスバディの美熟女になる。
熟女スキーである私のために
だれか、男を取り合っていたころのSSを書いてくれ。
久しぶりにハッタリのふたなりエロパロが見たくなってきたがもはや叶わぬ夢か
歳をくったものだ
>>319 みこシリーズのPC縛りだと、あとはソルトと要姉妹か。ソルトはきょぬーと判定していいな。
要姉妹は小さめ……露出度が高いとけっこーデカく見えるが、やっぱこれはネコミミ先生のせいの予感。
あの人の同人誌はさらに乳がやばいことになってんだよな……
あぁ、確かにベル様の微乳っぷりはやばかったな……このスレ的な意味で
紅巫女のイラストを見ていくと、3話のミナミの島のエピソードからデザインが
サンプル強化人間流用から氷室灯独自のデザインにマイナーチェンジしてるな
>325
だがちょっと待って欲しい。
ソルトが大きいなら黒神子カラー最後的に考えて
にゃふうも大きいことになるぞ。
きくたけが憤死しそうなものを持ってくるなアンタw
>身長171cm 体重52kg
>サイズ B96 W61 H92
面影なさ杉ワロタw
アンゼロット本人が憤死しそうだなw
>>329 三年寝太郎で寝てる内に育ったんだろう。
>>333 一応、エルネイシアにはbefore、afterで載ってるがな
ほんのちょっと間が空きましたが、「エリス」続きです。
今回ようやく微エロが入って、ほんとにもうなんというかようやくエロパロ
らしくなったかな・・・と、胸を撫で下ろしてみたりして。
少ししたら、続き本編投下いたします。
ではでは。
※
“影の” エリスは夢を見る。
彼女の敬愛する “おじさま” が、ファー・ジ・アースでの活動の合間に帰還を ---- ほん
の時々ではあっても ---- 果たす夢を。
最初に帰還したのは、彼が月面で志宝エリスと邂逅を遂げたすぐ後のこと。
シャイマールの器として産みだされたエリスが七徳の宝玉を集めるために、ウィザードと
かいう連中と行動を共にし始めた頃のことだった。
膝を抱えながら、悠久とも思える長い時間を待ち続ける影エリスを、鮮やかな輝きが照ら
す。その神々しい光こそは神の光。後光のように眩い白光を背負った、影エリスの “おじさ
ま” ---- キリヒトが還ってきた証であった。
「おじさま・・・・・っ」
薄暗い世界に閉じこもった、褐色の肌の少女の頬に、このときだけは赤みが差す。
淡い青の瞳に喜色が浮かび、畏敬の念をこめた情熱的な呼びかけでキリヒトを呼び止め
た。しかし ---- キリヒトはその呼び声をまるで無視した。
いや。
そうではない。
無視ならば、まだよかった。
無視というからには、そこには “目を向けたくない” という意志が顕れる。
キリヒトには無視してやろうという意志すら ---- そんな意識すらない。
完全に影エリスの存在に ---- 気を止めていなかった。
存在を認められていないものは、初めから無視すらされないのである。
立ち上がって出迎えた影エリスのすぐ横を、すうっ、とキリヒトが通り過ぎる。
影エリスの笑顔が引きつって硬直し、泣き笑いのまま固まった。そんな彼女に一瞥すら
くれず、キリヒトの苛立たしげな独り言だけが、耳に残った。
「アンゼロットが世界有数の魔剣使いと言ったから期待したけど・・・あの程度の腕前でエリ
スを護れるんだろうね・・・柊・・・蓮司とかいうヤツ・・・・・・幾度も魔王を屠ったという話も、
眉唾ものだよ・・・」
長い独り言に舌打ちが混じる。
柊蓮司 ---- アンゼロット ----
影エリスが二人の名前を、初めて聞いた瞬間であった ---- 。
※
ゲイザー=キリヒトの遺志を継ぐもの ---- !!
ベルやアンゼロットが推理した敵の正体と目的に、一同の間に戦慄が走る。
あの、信仰にも近い滅びへの欲求が、いまだに息づいているのか。
かつての宝玉戦争の引き金となった大粛清の意志が、絶対の悪夢となって現実味を帯
び始める。いまの世界を滅ぼして、見守るに値する世界を創造しなおす ---- 再生のため
の破壊、創生のための終焉などと言葉をいくら飾っても、それは力あるものの傲慢に過ぎ
ない。この腐敗した世界でも、愛すべきものはいる。護るべき価値はある。信じることはで
きる。
その想いをもって戦ったのが柊蓮司であり、彼に護られながらも最後は自らの意志で戦
うことを決意した志宝エリスであり、くれはたちを始めとするウィザードたちである。
ここにいるベルやリオンも、キリヒトの大粛清を阻止するために立ち上がり(もちろん魔王
たちにとっても裏界にとっても危機的状況だったからだが)、ついにはアンゼロットもキリヒト
へ反旗を翻した。
その結果は一同、周知の通りである。
絶対無敵の “神の盾” を誇るキリヒトの護りを、エリスの “すべてを貫く光” が打ち崩し、
柊蓮司の振るった魔剣によって、戦いの幕は下ろされたのだ。
しかし、いま -------- 。
キリヒトの遺志を継ぐものが現れた。
目的は、エリスの持つ巨大な器としての資質を利用し、かつてキリヒトがそうしたように、
エリスを強大な力で満たすこと。それはおそらく、 “皇帝” シャイマールと同等の力をもっ
てこの世界に破壊をもたらすことを意味している。
「でも、シャイマールと同じ力なんて・・・どうやって ? 」
当然の疑問を口にしたのはくれはである。横では柊が、それに同意するように頷いてい
た。裏界を力で統べた皇帝と同様の力などが、いったいどこにあるというのだろうか、と。
「お二人がそう思うのももっともだと思います」
アンゼロットが柊たちを振り向き、口を開いた。
「それを推測するには、やはりエリスさんの見た夢が鍵になるでしょう。エリスさん曰く、影
の少女 ---- おそらくはわたくしと柊さんを襲ったもう一人のエリスさん ---- が、影の形
をした少女たちをエリスさんの体内に押し込めたというくだりです」
瞳を閉じ、ゆっくりと言葉を紡ぎだすアンゼロット。
「影の少女たちは十中八九、裏界の魔王たちです。ここ二日間で観測されたエミュレイター
反応は、士爵級とはいえすべて魔王級。それらが、一度現れては消え、再び現れては消
えるという不可解な動きをしていることは、さきほどうちのコイズミも報告したとおりです」
控え目に一礼をするコイズミ。
「第一夜目にあらわれた魔王たちは影のエリスさん ---- シャドウと仮称しましょう ----
によって、このファー・ジ・アースにおびき寄せられた可能性があります。誘き寄せる餌は
なんでもいいのでしょうが、おそらくは志宝エリスという存在そのもの。エリスさんになにか
まだ利用できる力があるのでは、と短絡的に考えるものもいるでしょうからね」
ベルがアンゼロットの真向かいで肩をすくめた。
「あながちありえない話じゃないわね。志宝エリスって名前は、ある意味裏界でもひとつの
ブランドみたいなものだから。シャイマールの転生の器であったという事実を忘れるものは
いないはずよ」
直接宝玉戦争に参戦せずに蚊帳の外であった弱小な魔王たちは、当然あの戦いの真
実や全貌を知らないはずである。だから、志宝エリスと同じ姿をしたものがエリスの力を利
用できることを示唆すれば、多少の疑いを持ったとしてもシャドウに従うのではないだろう
か。とすれば ----
最初のエミュレイター反応は、シャドウにおびきよせられた魔王たちがこの世界に姿を現
したときのもの。その後、すぐさま反応が消失したのは、シャドウが魔王たちをなんらかの
方法で観測困難な状態にしたためであろう。
「なんらかの方法だと ? 」
柊の問いに答えたのは、リオン=グンタである。
「志宝エリスの見た夢の情景・・・境内での先ほどの戦いの状況・・・おそらくは、かのシャ
ドウも志宝エリスに近い “器” の真似事ができるのでしょう・・・一時的に魔王たちを体内
に収めることができる・・・彼女自身の体内に納められた魔王たちの反応が消失したという
ことは、シャドウの肉体自身がひとつの結界でもあるということ・・・」
「なるほどな。一度は自分の中に、騙して誘い込んだ魔王たちを隠しておけても、目的であ
るエリスの前じや、それを解放しなきゃならねーからな。エミュレイターの反応が、現れたり
消えたりを繰り返していた理由ってのは、それか」
リオンの説明を受けて柊も納得する。
「・・・ところが、シャドウの力がどうやらそれだけじゃなさそうだから、厄介なのよね」
溜息混じりにやれやれ、と首を横に振り、ベルが言う。その台詞の後を引き継ぐように、
アンゼロットが深刻な表情を浮かべて問いかけた。
「・・・それは、さっきの境内での戦いでのことでしょう ? シャドウが撤退するときに使った、
魔王たちの影によるあの攻撃は、確かに彼女に特有の能力のようでしたけど ---- 」
「惜しいわね、アンゼロット。そこまで気がついたなら、もう半歩踏み込んで考えてくれない
と困るわ」
勉強の出来ない困った子、を見るようなベルの視線に、アンゼロットのこめかみがぴくり
とひくついた。どうもこの手の会話になると、いつも主導権をベルのほうに握られているよう
な気がして気分を悪くさせられる。
「厄介なのは、そんな表面上のことじゃないのよ、アンゼロット ? 魔王を騙してエリスちゃん
のところに連れてくるだけなら、それは荷役駄馬の仕事と変わらないわ。でも、シャドウが
この二日間の間にしでかしたこと ---- エリスちゃんの寝室に忍び込み、連れてきた魔王
たちを彼女の “器” の中に押し込めたり、今日に至っては二十人もの魔王 ---- きっとエ
リスちゃんにまた押し付けるつもりで連れてきたはず ---- を、自分の攻撃のために操っ
たのよ ? 」
そのとき、初めてアンゼロットの表情に深い理解の色が浮かび始める。
「まさかシャドウの持つ特有の力というのは -------- 」
「気がついたようね」
ふう、と息を吐きながらベルが解説を再会する。
「シャドウの固有能力とはおそらく ---- 」
一同、固唾を呑んで沈黙する。
「・・・魔王・・・・・・いいえ、魔王であろうがウィザードであろうが、自分という結界に取り込
んだ “存在” そのものを、純粋にただの力へと強制的に転換してしまう能力。転換した力
を他人に譲渡することも、自分のために使うことも自由自在。大きい力を取り込めば取り込
んだだけの力を操ることができるし、エリスちゃんの器に対してしたように他人に与えること
も可能 ---- ねえ、これってすごく厄介な力だ、って思わない ? 」
「・・・横から失礼いたします。ええと、いまの解説を要約して自分なりに簡単に噛み砕いて
考えたのですが。つまり、それは -------- 」
やはり馬鹿丁寧な口調で、発言を求めるためにわざわざ挙手までして。
ロンギヌス・コイズミがベルに尋ねた。
「それはつまり、魔王もウィザードも無差別に、自分や他者のエネルギーとする・・・つまり
は “食べて” 、 “消化して” 、 “養分として” いるということなんでしょうか ? 」
「はわっ !? コ、コイズミさん、気持ち悪い言い方はナシっ ! なんか怖いよその表現っ !? 」
しかし露骨な言い方をすればそれ以外のなにものでもないのが、シャドウの活動行為の
全貌である。
「わかりやすい解説で助かるわ。まさにそう。この後も、おそらくシャドウは世界中から魔王
やエミュレイターを体内結界に押し込めて、変換したその力をエリスちゃんに与えるために
やってくる。エリスちゃんの器が満ちるまで、何十回でも。何百回でも」
おどろおどろしい口調をしてみせるベル。ちろり、と横目でエリスのほうを見ると ---- 。
一連の解説に、かたかたと小刻みにその身を震わせてはいるものの、気丈にもベルの
顔をしっかりと見つめ、「自分も戦う」と言った言葉には微塵の揺らぎも見えない決意の瞳
は変わりなく。もっとも、無意識のうちに隣で胡坐をかいて座る柊の洋服の裾をぎゅっ、と
握り締めているのだが、それはご愛嬌として、ベルは見ないふりをしてやることにする。
ひととおりの事件の解明が済んだところで、アンゼロットが硬い声音で言い放つ。
「コイズミ。ロンギヌス全隊員を緊急招集なさい。赤羽神社に常時五十人・・・いえ、百人の
ロンギヌスを常駐させ、エリスさんの監視と護衛の任務に当たらせること。その他のものは
有事の際にすぐ駆けつけられるよう、秋葉原圏内に常駐させること。いくら予算を使っても
かまいません。秋葉原中のすべてのマンションやアパートを買い占めてでも、極力赤羽神
神社周辺に近い場所を確保するのです !! 」
コイズミが背筋を伸ばして自分の主に最敬礼をする。
大きな戦いの予感が --------
あの宝玉戦争に匹敵する、戦いの始まりを告げていた -------- 。
※
“影の” エリスは夢を見る。
懐かしい ---- でも、いまはもういない、愛しい “おじさま” との邂逅を思い出しながら、
暗黒の棺の中でまどろんでいる。
柊蓮司 ---- アンゼロット ----
二つの名前を聞いた瞬間、影エリスはとても嫌な気分になった。直感的に “おじさま” の
敵のような ---- 敵となる存在のような、そんな気がしたからだった。
「おじさま ! エリスにもなにかお仕事を手伝わせてください ! 私、なんでもします ! おじさま
のお役に立ちたいんです ! 」
必死で、 “おじさま” =ゲイザー=キリヒト・・・の服の裾に取り縋る勢いで影エリスが懇
願する。切ないとさえ聞こえるような叫びに。
ゆっくり。ゆっくりと。
初めてキリヒトが影エリスを見下ろした。
美しい少年の姿は冷酷な神そのもので。前髪に隠されていないほうの瞳が冷徹に、自分
の造った “モノ” を見た。
「さっきからなにか五月蝿いと思ったら、キミか・・・。言ったはずだよ。キミとエリスは、器の
質は同じでも容量が違う、と。だからキミは、少なくとも “いまのままでは” 、エリスの ----
いや、僕の役には立てないんだ、って。だから大人しくしておけ、と言ったはずだけどね」
聞き分けのない子供を諭すように。だけど、わずらわしげに影エリスを拒絶しながら、キリ
ヒトが言い放つ。
「そんな・・・おじさま・・・私のほうが・・・お役に立てます・・・おじさまのことを知らない、あん
な娘なんかよりも・・・私のほうがおじさまの理想を・・・想いを・・・目的を理解しています・・・
だから・・・私のこと・・・捨てないで・・・見捨てないでください・・・」
涙声でキリヒトにすがりつく。少年の姿をした彼が身につけているのは、ファー・ジ・アース
の子供たちが通うという「中学校」という施設の制服・・・というものであるらしい。
その服のズボンの裾にすがり、影エリスは泣き崩れた。
「放してくれないか」
「おじさま・・・お願いです・・・エリスにお仕事させてください・・・お役に立たせてくだ ---- 」
祈りにも似た懇願の言葉は、途中でさえぎられた。
ぎらり、と瞳を鋭く細めたキリヒトの顔の前に、輝く五つの文字 ---- 「GAZER」の五文字
が瞬いたかと思うと、質量を持った光が影エリスを地面に叩きつける。
「はぐうっ・・・ !! 」
身体中の骨が折れたかと錯覚するほどの衝撃に、影エリスがくぐもった苦悶の声を上げ
た。どうして。おじさまはどうしてこんなひどいことをするの。私、おじさまのお役に立ちたい
のに。おじさまのこと ---- こんなに好きなのに。
「放せと言ったはずだよ・・・できそこない」
びくん。
影エリスが身体を震わせる。
できそこない ---- そう言ったキリヒトの声音には、今度こそ明確な意思が感じられた。
それは憎悪。それは侮蔑。
しかし、その感情は影エリスに向けられたものではなかった。不思議かもしれないが、そ
の負の感情が向けられたのは彼女に対してではなかったのだ。影エリスは誰よりもキリヒト
を理解している。だからこそわかる。憎悪も、侮蔑も、キリヒトがキリヒト自身に向けた、自虐
的なものである、と。
そして、その理由も瞬時に彼女は理解した。
影エリスを造り上げたのは ---- 造物主は他の誰でもないキリヒトなのである。
そのキリヒトが、彼曰く「不完全な」できそこないを造り上げてしまった。
神は間違いを犯さない。それなのに、その神自身が産み出した彼女は不完全な代物な
のだ。そのことをキリヒトは悔いている。過ちを犯した自分を憎悪し、侮蔑している。
だからこそ、影エリスこそはキリヒトの「悔悟」の象徴なのである。
彼女が目に入らないように振る舞い、意識の外へと追いやりたくもなるはずであった。
キリヒトの心の動きを理解できて ---- 影エリスは悲しくなった。そして、いままで以上に
彼のことを愛しく思えた。彼の心のひび割れを埋めるには、やはり自分が不完全な存在で
あってはいけないのだ。「完全」なものとして彼の理想にそぐわなければ、彼の目的を果た
せるほどの完全なものにならなければ、「神の誤謬」が証明されてしまう。
影エリスは、繰り返す。
全身を襲う鈍い痛みに耐えながらも繰り返す。
「おじさま・・・お願いです・・・エリスにお仕事させてください・・・お役に立たせてください・・・」
ぎりり、と。
キリヒトが歯噛みする音が聞こえた。
「役立たずのくせに・・・キミが使えるのはせいぜい ---- 」
光の打撃を受けて身動きもままならない影エリスの傍らに、キリヒトが膝をつく。
その手が、不恰好にくず折れた華奢な身体に伸びる。
かざした手のひらが一陣の風を巻き起こし、影エリスを薙いだ。
瞬間 ----
まるで千年を経て風化したように。砂の城が崩れ落ちるように。帽子が。ブレザーが。ネ
クタイが。スカートが。下着一枚残すことなく ---- ぼろぼろと崩れ去る。一糸纏わぬ丸裸
に引き剥かれた彼女の肉体の上に、キリヒトが覆い被さった。
「せいぜい ---- これぐらいのことにしか使えないんだよ」
自由の利かない身体は、露にされた慎ましやかな乳房を、引き締まった小振りな尻を、
まして一番恥ずかしい部分を隠すことさえままならず。羞恥に身をよじったところで、キリヒト
の手によって仰向けに押し倒され、腕を拘束されたいまの影エリスに抗う術はない。
いや ---- 抗うことなど出来なかった。抗うつもりもなかった。
服を奪われ裸をさらされ、女である自分の身体にのしかかられるということがなにを意味
するのか。言われなくても理解できた。ならばどこに彼女が抗う理由があるだろう。
キリヒトは ---- 自分の肉体を欲望の捌け口に選んだ。
この瞬間、 “その意味において” 自分に価値を認めてくれた。
ならば喜んで捧げよう。いや、むしろ自ら進んで -------- 。
「・・・どうぞ・・・おじさま・・・エリスを・・・エリスのここを・・・存分にお使いください・・・」
懸命に。自分から。脚を大きく左右に割り。
褐色の肌の中心で、ただ「その部分」だけが薄桃色をした器官を ---- 影エリスは自ら
押し開いて見せた。
おじさまに抱かれる。おじさまが私を犯してくれる。
期待と歓びに満ちて、少女の細い体躯がうねうねとくねり出し、雄を受け入れるための求
愛の舞踏を踊るかのように淫靡に蠢いた。
「・・・っ、滑稽だね・・・そんなにまで僕の気を引きたいのか・・・この・・・」
キリヒトの顔に浮かんだのは一瞬の躊躇。しかしすぐさま、その表情は侮蔑に満ちたもの
に変貌を遂げる。自らの股間に手を伸ばし、陵辱のための器官をズボンから「ひきずり」出
した。そう。文字通り引きずり出すように露出した。その桁外れのサイズに、思わず影エリス
が目を見張る。
大きい。
肉茎の胴回りは、おそらく影エリスの小さな手ではつかみきれないほど太く。
先端からの長さは、どうやってこれだけのものがズボンの中に納まりきっていたのかとい
ぶかるほどに物差しがあり。
こんなものが、キリヒトのような美しく繊細な少年の股間に存在していること自体がアンバ
ランスでグロテスクであった。
あんなもので。あんな凄いもので私は犯されるのか。規格外のペニス。しかも、まだ勃起
すらしていなくとも、あれだけ凶器としての様相を呈している一物に。
怖い。自分の体内にあんな巨大な異物が侵入してくるという想像に戦慄する。
しかし同時に、その恐怖と同様の、いやそれ以上の興奮が胸の動悸となって現れる。
どうなるの。自分の体内にあんな巨大な異物が侵入してきたら、きっと正気なんて保って
いられないほどに気持ちよくて、どうにかなってしまうのではないだろうか。
焦点を失いかけた瞳が、キリヒトの股間を注視する。
キリヒトの手が自らの陽物を握り締め、ゆっくりとこすり、しごき始めた。
むく。むくむくっ。
女体を壊すためにあるようなペニスが、一回りも二回りもさらに膨れ上がる。
それは凶器。すでに肉の形をした凶器であった。
「・・・あ・・・ああ・・・おじさまのが・・・あんなに・・・」
うわごとのように呟きながら、影エリスは受け入れの準備を開始する。震える両手を自分
の脚の間に持っていき、ぴったりと閉じた処女の花園に指を添える。いまだ固く閉じた花弁
をこじ開けるように肉襞をめくり、その部分を、くっぱり、と開ききった。
「・・・ふん・・・望むままに・・・受け入れるといいよ・・・」
覆い被さってきたキリヒトが、影エリスの指で無理矢理こじ開けられた下の唇を割って、
ペニスの先端を秘部に押し当てる。
「おじさま・・・私を使って・・・私をお役に立てて・・・おじさ・・・・ひゃあぁぁぁぁっ !? 」
ずぐぐっ、みちみちっ、ぷちっ、みぢみぢいいぃぃっ !!
前戯ひとつない、挿入のための挿入。相手の事情など考慮しない乱暴な侵入。
キリヒトの巨大な男根が処女膜を破り、肉壁を押し分けて奥へと分け進み、ごつん、と深
奥部のどんつきにぶちあたる。子宮口まで届いた先端が、さらに奥へと。奥へと目指してい
くようにぐりぐりと動き、影エリスの肉体を破壊していく ---- 。
「あははははっ ! これでも役に立つっていうのかい !? ただ入れただけなのに、もう限界み
たいじゃないかっ !? 」
キリヒトが嘲笑う。嘲笑いながら腰を動かす。自ら創造した少女を蹂躙する。
キリヒトの身体の下では影エリスが ----
破瓜の激痛と体内を壊されていく衝撃とで、意識を喪失していた。
気を失い、壊れた人形のようにだらんだらんと四肢をぶらつかせ。
眼球は裏返り、涙を流し、口からは蟹のように泡を吹きながらも ----
-------- 彼女は笑っていた。
口元に浮かぶ笑みは、聖なる痕を刻み込まれた殉教者のそれである。
さもあろう。
彼女は、彼女の神の望むべく、その身体を差し出したのだから。
自分は神の供物。神の妃。神と肉体的な婚姻を結んだ聖女。その想いが至福の笑みと
なって、影エリスの顔に張り付いていた。
「・・・・・・ふん」
キリヒトが面白くもなさそうに、影エリスの身体を開放した。
ずるうぅぅぅ・・・・と引き抜かれた長大な男根は、処女喪失の出血に赤黒く濡れている。
まるで紙くずでも扱うように。つまらない玩具を投げ出すように少女の身体を放り出し。
「使えないヤツ ---- 」
どさり、と崩れる少女の肢体に目をくれることもなく。
キリヒトはふたたび、何処へとも知れず姿を消した -------- 。
※
“影の” エリスが夢から覚める。
志宝エリスがかつて身につけていたのと同じ白い制服は乱れに乱れ、はだけたブレザー
の下のシャツからは小さな乳房がはみ出している。ミニスカートはぐしゃぐしゃに皺がつき、
片脚に引っかかった白いパンティは、汗と汗以外の液体で重たく湿っていた。
目覚めていないときの彼女は ---- ほとんど “おじさま” の夢を見ている。
愛しい彼女の神の夢を見ながら、無意識のうちに、眠りながらの自慰に耽るのだ。
今日見た夢は、初めて “おじさま” に犯された日の夢だった。
ほううっ・・・と甘い息を吐きながら、夢の中での淫行を反芻する。
あの巨大な凶器で絶頂感を覚えることができたのは、そういえばあの後、六、七回の行
為を経てからようやくのことだったっけ・・・ぼんやりとそんなことを思う。
目覚めた身体の火照りはいまだ収まらない。影エリスは、ふたたびそっと股間に手を伸
ばす。
ぐちゅり。湿り気をたっぷり帯びたままの秘所を両手でまさぐりながら ---- 。
「あふ・・・ふあぁぁぁっ・・・」
仰け反り、指を肉穴に埋めていき、快楽の続きを求めて貪欲に、二つの手が目まぐるしく
動いた。淫売のごとくに股を開き、白く泡立った蜜壷をかき回し、ただただ絶頂を求めるだけ
の浅ましい行為に、褐色の少女は耽り始めた。
くちゅっ。びしゃっ。水音を立てて ---- 。
虚ろな瞳に情欲の炎を点し、影エリスは彼女の世界で絶叫した。
「あ、あ、あ、あ、いっ、イッちゃいます、おじさま、おじさまので、おじさまの凄いのでイッちゃ
いますっ・・・・・ ! 」
かつてのキリヒトとの蜜月を想い、いまここにはいない、永遠に戻ることのない愛しい神の
名を呼び続けながら、影エリスは身悶える。この指はおじさまの指。いま私はおじさまの指で
弄ばれている。その妄想だけで、何倍も快楽は高められていく。
「あっ、ひぃっ、おじさまのお指凄いっ、あ、イク、い、ひうっ、おじしゃま、おじひゃまあっ、お、
おひひゃまあぁぁっっっっ・・・・・・・ !! 」
瞳からは涙を。唇からは涎を。ぽっかりと開かれた秘所からは愛液を。
ありとあらゆる体液を盛大に撒き散らしながら少女は昇りつめ、そして果てる。
「うあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっ !? 」
断末魔の絶叫。
白く焼ききれた脳裏をよぎる、夢の中でのキリヒトの言葉。意識を失いかけた影エリスは、
満面に淫蕩な笑顔を浮かべながら、
《 ---- 言ったはずだよ。キミとエリスは、器の質は同じ(雑音) ---- 》
キリヒトの言葉の断片に過ぎないその言葉を、神からの啓示のごとくに聞いた。
(ああ・・・そうですよね・・・志宝エリスじゃなくても・・・ “私“ が器になってもいいんですよ
ね・・・そうですよね・・・おじ・・・さ・・・ま・・・)
歪んだ笑いに引きつった唇のまま。影エリスは夢の中でだけではなく、もう一度意識を手
放した。志宝エリスの分身ではなく。キリヒトの造った娘でもなく。
ひとりの“怪物”が、産み落とされた瞬間であった -------- 。
※
アンゼロットがロンギヌス召集の緊急発令を行うと、途端に赤羽神社周辺は慌しさを増し
た。赤羽家の監視や護衛には主に女性隊員が割り当てられ、みながカモフラージュのため
に巫女服を着せられたものだから、この監視期間の間は「なにかの祭りか !? 」と参拝客が
どよめいたものだった。エリスの通う輝明学園には、たった一日で「なぜか」百人近い転校
生が現れ、一般生徒の戸惑う中、エリスの護衛を陰日向となって遂行している。
一時的なものではあったが、転校生に扮したロンギヌスの女性隊員が天文部に入部す
ることになり、この深刻な事態に直面させられているはずのエリスが、
「部員がこんなにたくさん・・・えへへ」
と、喜んでいるらしい。
ともあれ、アンゼロットの危惧とは裏腹に、なんの事件も起きない平穏な毎日が過ぎてい
た。エリスの周辺だけではない。エミュレイター出現によるウィザードの任務が、この期間の
一時期、まるでエミュレイターもウィザードも存在などしない、とでもいうかのように一切発生
しなかったのである。
たったの一件も。しかも、それは世界規模で。
そして二週間の時が移り ----
“真の” 世界の危機が表舞台に現れることになる -------- 。
(続)
エリスの人乙。
そして331さまに敬礼。
できればイクスィムさまも見てみたい。
>>344 ぐっじょぶです。ぶっちゃけエロはいらなかったような気がしますが、
嵐の前の静けさって感じが素敵でした。
ところで、柊もロンギヌスと同様に高校に転入したんでしょうか。アンゼロットなら
こんな時でも茶目っ気を見せてくれそうですけど。ついでにベルも転入してきていて、
てんやわんやの大騒ぎを繰り広げていたりしたら面白そうだなぁ、とか思いました。
稀有馬屋を見ていて、エンギアの鬼が角を触れてあれなら、10th-TERRAのル=ティラエもそうなんだろうか……と!
いや、そこまではみんな考えるんだろうけど……
ウォーハンマーのビーストマンは角の感度が良好とか無いだろう!
【角突き合いとかやったらウホッな事に……】
>346さま。
うーん。Hシーンはちょっと尚早でしたか・・・。
おじさまとして、だけじゃなくて最愛の人としてのキリヒトという意味あいをどうしても持
たせたかったので、影エリとキリヒトのHシーン入れてみましたけど・・・。
あと、自分の資質に目覚め、壊れるキッカケとしても欲しい場面だったかなー・・・っと。
うん、やっぱりHシーンって挟むタイミング難しいですね・・・。
で、投下なのですが。346さまのおっしゃるシチュが面白そうなので少し使わせても
らってます(笑)。
あ、今回少し微グロというか微残酷描写(というほどのものじゃないかな ? )らしきもの
が入ってますので、ご注意を。
少ししたら投下いたします。
ではでは。
アンゼロット宮殿のテラスでは、今日も宮殿の主による「一人お茶会」が開催されて
いる。小さな白いティーカップから立ち昇る湯気の香気に、普段なら気分も華やぐはず
なのだが、ここ二、三日のアンゼロットはどうしても気が晴れなかった。
まして、今日などはお茶請けに志宝エリス特製マドレーヌが用意されている。
ロンギヌスの人たちにいつも護ってもらってありがとうございます、とメッセージカード
が封入されたお菓子の箱はいつもよりも一回り大きなサイズで。
一箱十個入りで普段は送られてくるマドレーヌが、いつもより六つも多い。
もちろん、それを誰かに分けてやるつもりなど、アンゼロットには毛頭ないのである。
いつもはゆっくり時間をかけて味わうエリスのマドレーヌを、本日は立て続けに二つ
も胃袋へと放り込んだ。数に余裕がある分、気分がリッチなのだ。
「日々是平穏。お茶も美味しい、お菓子も美味い・・・なのになんなのでしょうか・・・こ
の落ち着かない感じは」
ぽつり、とひとり漏らす。
すぐ側で、ティーポットを捧げ持ったロンギヌス・コイズミが、主の物憂げな表情を気
遣わしげに見つめていた。今日もまた、定例の報告業務を行うべき時間なのだが、な
ぜかそれがためらわれた。ロンギヌスのオペレーター陣、調査班、斥侯部隊のかき集
めて来た報告の内容はどれも簡潔で、どれもが言葉通り受け取るならば素晴らしい内
容のものばかりである。しかし、アンゼロットはそのこと ---- “報告の内容が素晴らし
いこと” がどうやら気に喰わないようなのだ。
今朝一番でコイズミの元に集められた報告資料のまとめは、暗記するまでもなく、む
しろ一言で申し述べることが出来る。それは ----
「アンゼロット様。本日の報告でございますが ---- 」
「・・・・・・聞きましょう」
わずかな沈黙の後、アンゼロットがティーカップをコースターに置きながらコイズミに
向き直る。
「エミュレイターの出現件数ゼロ件。ロンギヌスの出動もなければ、ウィザードの活動
記録も取られてはおりません。ロンギヌス調査班の活動に抜け漏れがないという前提
で考慮するに、これは国内外で共通する “完全な” 平和状態と言えます」
額面どおりに受け取れば、なんという素晴らしい報告内容であろうか。
「一件も ? 」
「はい」
「絶滅社の活動は ? 」
「沈黙しています」
「コスモガードすらも ? 」
「いたって平穏、とのことでございます」
これが、ここ十日間以上も続く報告内容である。判で押したように同じ。当然のことな
がら、聖王庁も世界魔術協会も内閣調査室退魔課も、一切がその活動を停止している
状態であった。いや、というよりも、活動したくても活動できないのである。
エミュレイターが出現しないのであれば、彼らに動く理由はないのだから。
これは一体どういうことなのか。まさか、ある日を境になんの前触れもなく、エミュレイ
ターが存在しなくなってしまった、などということは考えられないであろう。
その証拠に ----
「・・・なお、蛇足ではございますが、世界結界の強度にも変化はありません」
と、コイズミが説明に補足を加えた。
エミュレイターが、このファー・ジ・アースに出現を制限される理由で、第一に考えられ
る最大のものはいつもこうやって否定されてしまうのであった。
「・・・ご苦労でした。下がってよろしい」
溜息と共に臣下の退出を許す。黙礼し、きびすを返すコイズミに、
「あ、コイズミ。そういえば赤羽神社のほうは ---- 」
もうひとつの気がかりを思い出し、呼び止めた。
「・・・同じく、なんの異変も起きてはおりません。赤羽神社は我らがロンギヌスの女性
隊員たちが巫女服姿で徘徊しているせいか、連日参拝客でにぎわっており、輝明学
園においては天文部員の大幅増加により、エリス様のご機嫌もすこぶる良好、との内
容で報告を受けております」
拍子抜けもいいところの、なんの変哲もない日常。これは本来喜ぶべき事柄である
はずだ。しかし、それにしたところで、 “ある契機” があって初めて在り得る平和ではな
いだろうか。
たとえばそれは、「魔王たちとの全面戦争」であったり、「裏界帝国の完全な殲滅」
であったり、そんな劇的で大規模な出来事を通過して初めて成し得ることである。
それがなにもない。なにもないのに、勝手に平和が向こうからやってきて、この世界
に居座っている。第一、志宝エリスを狙うゲイザーの遺志後継者が出現した事実も一
切解消されないまま、どうして無為に平和だけが続くのか。
嵐の前の静けさ。
そんな言葉を思い出し、アンゼロットは我知らず身震いをした。
静かであれば静かな分だけ、後に起こる嵐の猛威は増すものであろうか。
そうであって欲しくはないが、そんな予感がひしひしと迫ってくる。大魔王ベール=ゼ
ファーが赤羽神社の境内で言った、
《もしかしたらこの一件、シャイマール復活に匹敵するほどの事件かもしれないわよ ? 》
という台詞が重くのしかかる。
異界の空を一望するテラスの一角で微動だにせぬまま、
「エリスさん・・・・・・」
世界の守護者は、心にかけた少女の名前をひとり呟いた -------- 。
※
もうひとつの異界。
空は昏く淀み、地は泥濘に埋もれ、ありとあらゆる物理法則を捻じ曲げて凝り固めた
世界。そこは、空はもしかしたら地かもしれず、地は気づかないうちに空へと変じてしま
う場所。生い茂る緑もなく、生命の海もなく、ただ荒廃と腐敗が堆積して構築された空
間である。
裏界帝国。
エミュレイターの棲む、世界の最果てのさらに果て。
この異貌の大地より、ひとりの魔王がファー・ジ・アース侵攻の企てを胸に秘め、飛び
立った。世に知られる魔王たちと同様に、一見あどけない少女の姿。年の頃は十四、
五歳に見えるが、エミュレイターである少女の外見年齢など当てにはなるまい。
つい先頃、フレイへレン ---- 男爵の位を得たばかりの、世に知られていない魔王
である。わずかな配下と小さな城を獲得した少女は、貪欲に ---- 魔王の名に相応し
く貪欲に、さらなる高みを目指す。目的地はファー・ジ・アース。豊潤なプラーナと世界
の破滅を求めて、少女は現世へ通じる門の扉を開いた。
空間の捩れを拠り所に、昇り、降り下り、また昇る。この無限にも思える工程を経て、
二つの異なる世界をつなぐ回廊を行き来すると、ようやく下界への路が開かれるので
ある。
まだ、力がないんですもの。面倒でも、このやり方しかないわ。
魔王の少女はそう自分に言い聞かせる。
自分に力が足りないことの自覚はある。でも、ここからだ。ここから私の道は開かれ
ていくのだ。いまに、見ていなさい。侵略と殺戮を繰り返し、世界を危機に落としいれ、
いずれ私はのし上がるんだわ。いつか私も “大公” と呼ばれるほどの存在になってみ
せるんだから。
その素敵な考えに、少女はチェシャ猫のような微笑を浮かべる。
異界の紅き月を通じて、目指す地に降り立ち ---- 。
無機質なアスファルトに軽いステップで着地をする。この、灰色で冷たい感じのする
人間どもの創造した道路というやつは、どことなく故郷である裏界のくすんだ大地を思
わせて、なんだか好きになれそうだった。
「到着・・・っと」
弾んだ声が深夜の街をかすかに震わせる。真夏の夜の街は、不思議と涼しげですら
あった。見上げれば、空には紅い月。エミュレイターである自分が降臨した証。
誇らしげに鼻を鳴らすと、少女は目を閉じた。アスファルトを、歪んだ石の回廊が覆い
尽くし、少女の庭を作り上げる。縦に、横に、石の廊下は伸びていき、街中の道路という
道路を埋め尽くしていった。
さあ、この街から始めましょう。私の勝利と栄光の戦いを。私の魔力で造り上げた回
廊こそが月匣。この大きな箱庭の中に街を丸ごと飲み込んで、ここに生けとし行けるも
のすべて、私の餌になるといいわ。
びきり、びきりと耳障りな音を立てて、石造りの回廊が展開していく。侵略の歪んだ
喜びに浸っていた少女の視界に、 “異物” が飛び込んできたのはそんなときのことで
ある。
そこに ---- ひとりの少女が立っていた。
外見は、魔王である彼女の見た目よりも一つ二つ年上に見える。
白いブレザー。黄色いシャツ。頭に載せた白い帽子には、四葉のクローバーを象った
ワンポイントのアクセサリー。近づいてくる少女の歩みに合わせるように、青い髪の両
サイドで、大きな水色のリボンが揺れていた。
肌の色は、遠目の暗がりで分かりにくいが、おそらくは褐色。
「なに、貴女 ? もしかして、ウィザード ? たった一人で魔王に挑むなんて正気 ? 」
嘲りの言葉は、魔王である彼女の誇りからくるものだ。たかが人間のウィザード風情
が、自分を討伐できると思い上がっているのは我慢がならなかった。
「私の月匣の中で、ルーラーの私に勝てると ---- 」
ぞぶり。
「 -------- え・・・・・・・・・ ? 」
言葉は、途中で “嫌な” 音にさえぎられた。
呆然と音のした場所に目をやる。自分のすぐ側。右腕のある箇所 ---- いや、すでに
そこは “右腕のあった場所” と呼ぶべきであっただろう ---- に、あったものがない。
あるべきものが存在しない。まるで闇に飲み込まれたようにその部分だけが綺麗さっ
ぱりと消失し、虚ろな断面を作り上げていた。
ごっくん。
青い髪の褐色の肌をした少女が、 “なにかを嚥下するように” 喉を鳴らす音がした。
「・・・ひっ・・・ひぃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁうぁぁぁぁぁぁっ !? 」
魔王にあるまじき少女の絶叫が、回廊に響き渡る。
なにをされたの。私はなにをされたの。腕が。私の右腕が。なくなった。たぶん。よく
わからないけど。たぶん私の腕は “あれ” に喰われた。
「どうしてえぇぇぇっ !? こ、ここは私の月匣なのに、私の造った世界なのに、なんで、な
んでこんなことぉぉぉぉっ !? 」
信じられなかった。自分たちは非常識な存在だとしても、非常識な中にも「常識」は
確固として存在するはずだ。月匣のなかでルーラーの腕を喰うなんて、ありえないこと
だった。
「ふふ・・・ここが貴女の月匣だなんて・・・そう思い込んでるだけじゃありませんか・・・
ここは貴女の月匣じゃなくって -------- 」
青い髪の少女が不気味に言葉を紡ぐ。
ありえない。あれはたぶん、ウィザードなんて生易しいものじゃ、決してない。
「 ---- この街を包む貴女の月匣ごと飲み込んだ、私の結界・・・・・・ですよ・・・ ? 」
信じられない一言に、魔王が愕然とする。思考停止。茫然自失。恐怖。恐怖。恐怖。
ぞぶり。
またあの嫌な音。スローモーションのような動きで魔王の少女がゆっくりと視線を落
とす。左足の膝から先。右足の太腿から下。バランスを失って、魔王の身体が回廊に
べしゃりと、ぼろ雑巾のように倒れこむ。
ぞぶり。ぞぶり。
左肩。背中の肉。
ぞぶり。ぞぶり。ぞぶり。ぞぶり。ぞぶり。
耳朶。左の乳房。肘。鎖骨。そしてもう一方の耳朶。
「い・・・いやあぁぁぁぁぁっ !? いや、いや、こんなのいや、私、こんな目に遭うために来
たんじゃないのにいぃぃぃっ !? 食べないで、食べないで、お願い私を食べないで、助
けて、た/;*@];す %♭2t けwて --------- !! 」
ぞぶり。ごくん。
---- その音を最後に。
静寂が帰ってきた。
こうして ----
今夜も、 “観測されるはずだった” エミュレイター反応は、誰にも知られず、どこの組
織も感知しえず ---- 夜の闇に消えた -------- 。
※
悪夢 ---- 。
もしもそれに相応しい言葉があるとすれば、いまの自分が貶められたこの境遇こそが
それであろう。悪意に満ちた邪悪な陰謀。千の言葉で呪いを吐き、万の涙で悲嘆の海
をつくりあげてみても、まだまだ飽き足らないとはこのことだ。
絶望に満ちた表情で立ち尽くす若者の横で、くたびれた初老の男がチョークを黒板に
走らせる。
『やっぱり三年生。柊蓮司くん』
「う・・・・・・うおぉぉぉっ !! こんちくしょおーーーーーっ !! 」
時はさかのぼって二週間前。
輝明学園の校舎内、とある三年生の教室に、実に数ヶ月ぶりに柊蓮司の野太い絶叫
が響き渡る。すべてのことの始まりは、赤羽家の居間での会話が発端だった ---- 。
※
「ロンギヌス隊員の中から選りすぐりのメンバーを選出いたしました。百名の女性隊員
をここ赤羽神社に、エリス様の学園生活を保障するためにさらに百人。明日からでも
配備可能です」
主の命を受けてロンギヌス・コイズミが迅速に手配した『志宝エリス護衛部隊』の編成
は、ものの一時間ほどで完了したらしい。アンゼロット宮殿内のオペレーターからであろ
う連絡を受け、なんとなく手持ち無沙汰で居間にごろごろしていた一同を見回すと、コイ
ズミがそう報告した。
「はわわっ !? ひゃ、百人も家に来るの !? は、入りきらないんじゃないかな〜・・・」
顔を引きつらせるくれはにうやうやしく頭を下げたコイズミが、
「申し訳ありませんくれは様。ですが、この一件の緊急性の高さからも、我が主アンゼ
ロット様のご判断は的確かと。・・・もし、お許し願えるなら、神社の敷地及びその周辺
に、隊員が住み暮らすためのプレハブの建設をお認めいただければ、と存じます」
申し訳なさそうにそう言った。
「はわわ・・・プレハブ・・・・・・」
そう言われてくれはも考え込んでしまう。
「え、えっと・・・・百人は困るけど・・・家、結構広いし二十人ぐらいならおっけーだと思う
から・・・二十人ずつ日替わり交代で家に寝泊りすればいいと思うよ・・・プレハブ暮らし
は大変だと思うし・・・」
「ありがとうございます。そのお心遣い、感謝いたします」
コイズミが、心から嬉しそうに弾んだ声で礼を言う。確かに百人という大所帯がプレハ
ブで暮らすのは大変そうだ。交代制とはいえ、きちんとした建物で寝泊りできる環境が
あるのとないのとでは大違いのはずだった。これから重大任務にあたることになる部下
たちのことを思うと、くれはの心遣いが有難いのであろう。感謝と感激の意を十二分に
込めて、深々とお辞儀をするコイズミであった。
「・・・コイズミ。輝明学園に潜入するものたちは無理矢理転校生に仕立て上げるとして、
こちらへ住まわせる隊員たちはどうカモフラージュするつもりですか ? 」
アンゼロットの問いに、コイズミが向き直る。
「はっ。その点を考慮いたしまして、赤羽神社の護衛は女性隊員中心の構成で編成を
いたしました。百人分の巫女服を急遽取り揃えまして、彼女たちには神社の巫女見習
いということで潜入をさせるつもりです」
・・・大馬鹿者である。
呆れ果てて開いた口が塞がらない柊蓮司の向かい側で、その報告を受けた世界の
守護者は -------- 。
「コイズミ ! 」
「・・・は、ははっ ! 」
「ぐっじょぶ ! ですわ !! 」
・・・・・・実に、ノリノリであった。
いかにも呆れ果てた感じの溜息がふたつ、やはり向かいから聞こえたので視線を移
せば。
傷ましいものを哀れむように目を伏せる秘密侯爵リオン=グンタと ---- 。
頭痛を堪えるようにこめかみに人差し指を当てて、いまにも胸の前で十字を切りそう
な顔をした大魔王ベール=ゼファーの姿。
悲しいことだが、世界の守護者よりも裏界の魔王たちのほうが、このふざけた展開に
頭を悩ませる常識的配慮というものを持ち合わせているようだった。
「あのなあ・・・いくらなんでもやりすぎだろ・・・前の時だってここまで大げさな警護は
しなかったじゃねーかよ・・・」
ここまで盛り上がってしまったアンゼロットを、たしなめても無駄だとは知りつつも諫め
ずにはいられない柊である。彼の言うとおり、前回の志宝エリス護衛時は、アンゼロット
やロンギヌスの全面支援を得られていたとはいえ、柊蓮司・赤羽くれはと、いまこの場
にはいないが、絶滅社エージェントである緋室灯のたった三人だけで護衛の任に就い
たのである。
それなのに今回は、学校内外で総勢およそ二百人のロンギヌスが投入され、かつ、
いつでも緊急時の対応が可能なように、秋葉原周辺に支援メンバーを集結させるとい
うのだかから只事ではない。
「いいえ。あの時も、もし事態がこれほどの危機を孕んでいると最初に知っていれば、
これくらいのことはやっていましたよ」
一転、真面目な表情でアンゼロット。
たしかに、「裏界皇帝復活」と「ゲイザーの粛清計画発動」という世界規模の危機が
訪れていると知っていれば、これ以上の戦力を投入してもおぼつかないだろうが、あ
のときと違って、いまのアンゼロットに表情の余裕が垣間見えるのは気のせいか。
まあ、今回は状況がはっきりしてる上で動くんだから、アドバンテージも取れるだろう
し、敵の存在も意図も明確だから気持ちの持ちようが違うんだろうな・・・・・・と、柊も
納得する。
だが。
だが柊蓮司はまだ甘かったのである。
アンゼロットの表情にあったのは “余裕” ではなかった。
落ち着きの微笑みと見えたのは、実は久しぶりのお愉しみを見つけたがゆえの半笑
いだ ---- と、彼が気づいたのは、
「柊さん。これからするわたくしのお願いに、 “はい” か “イエス” でお返事してください」
実に久しぶりに、このアンゼロットの台詞を聞かされた後のことであった ---- 。
※
輝明学園にエリスさんの学友として潜入し、彼女の警護にあたってくださいね ---- 。
アンゼロットがにまりと笑った。
「別に学校行く必要はねーだろーがっ !! 」
登下校中、放課後、赤羽神社。自分の出番はむしろそこであるはずだ。なんでいまさ
ら学校に通わなければならないのか。
過去のトラウマからか、依頼をきっぱりと拒絶したにもかかわらず、その三十分後に
は真新しい輝明学園の男子制服が赤羽家の居間に送られてきた。どう足掻いても逃
げられない状況である。なんだかんだで、結局は上手く丸めこまれてしまったのだから、
情けない話で。
しかも、柊を丸め込み、結局のっぴきならない状況に追いかんだのはアンゼロットで
はなく、
「ねー、ひーらぎ。なにがそんなに嫌なのよ ? 」
「普通に依頼受けて、潜入任務なんでしょ ? そんな毛嫌いするようなこと ? 」
「今回に限り・・・別になにかが・・・下がるわけではないと・・・この書物にも書いてあり
ますけど・・・ ? 」
なぜかアンゼロット以外の女性陣が、嫌がる柊を揃って不思議そうに見るのである。
「ぐぬ・・・」
言われてみれば、年齢が下がるわけでも学年が下がるわけでもなく、ただ「学園へ
潜入して護衛対象を護る」任務なのだから、むしろ嫌がる柊のほうがわがままと言われ
ても仕方がない状況だ。しかし、結局この気の進まない任務を、柊が受けざるを得なく
なったのは、最終的にはエリスのこんな一言が決め手となった。
「あ ! それじゃ、また、柊先輩と屋上でお昼、いただけるんですねっ」
うふふ、と顔をくしゃくしゃにして笑うエリスの表情が、これまた実に嬉しそうで。
たぶん、もうその瞬間には、エリスの頭の中に明日のお弁当の献立が出来上がって
いたのは明白であった。
「ぐ・・・ぐぬぬぬぬぬ・・・・」
こうして。
可愛い後輩の、幸せそのものの笑顔にぶつかって。
柊蓮司はめでたく輝明学園再編入を果たしたのであった -------- 。
※
「下がる男」の帰還。
このことが輝明学園にもたらした小さな波紋は、少なからず学園に喧騒の種を撒くこ
とになった。転入早々、柊がなにより辟易したのは、クラスメートたちが遠巻きに自分
のことをこそこそと噂したりちらちらと除き見られること。あちらこちらでカシャ、パシャ、
とかすかな音が聞こえるのは、おそらく携帯で写真でも取られているのであろう。
柊が卒業してから入学した一年生などは、彼らにどんな形で噂が伝わっているのか
知らないが、恐怖の眼差しと畏敬の念とまるでアイドルに声援でも送るかのような黄色
い声がほぼ三等分。あからさまに引きつった顔で、廊下ででくわした柊から逃げていく
生徒もいれば、興奮した表情の男子学生に握手を求められたりもした。
なにより困ったのは、ついこの間まで中学生だったのであろう、あどけない顔をした女
生徒たちに「一緒に写メ撮ってもいーですかあ ? 」と無邪気に迫られることである。
「ま・・・毎日これじゃ疲れちまうぜ・・・」
逃げるように自分の教室(そう、自分の、だ)に逃げ帰ってきた柊を、エリスが出迎え
る。お疲れ様でした、と笑いながら机に突っ伏した柊の真横の席に自分も腰掛けた。
クラスでは、柊とエリスの席は隣り合うように配慮がされていて、加えて柊と同時期に
編入されたロンギヌス女性隊員が二人の席を囲むように席順を決められている。
いまは昼休み。
購買部でヤキソバパンを無事ゲットして帰ってくる途中、悲鳴を上げて逃げる男子生
にげんなりとしていたところである。
「よく考えてみたら学生として潜入する必要ねーんだよな。そうだよ、別に教育実習生
とかでもよかったんじゃねーか !? ・・・・・・・って、そーいや俺が先生の真似事なんて、
できるわけもねーか・・・ちくしょー・・・」
落ち込む柊に、
「ま・・・まあまあ。いいじゃないですか。なかなか経験できることじゃありませんよ ?
卒業した後の高校生活なんて」
図らずも、エリスが追い討ちをかける。
「くそ〜〜・・・こんな任務、役得でもなきゃやってらんねー・・・エリス、頼むぜ」
「え・・・ ? や、役得 ? わたしがですか ? 」
「おう。決まってんじゃねーか。ほら、早く屋上行って弁当食おーぜ。エリスの弁当さえ
ありゃ、どんな任務だって乗り切れるってもんだ」
無意識に、エリスの封印したはずの恋心を刺激する男、柊蓮司。
柊先輩が私のお弁当、こんなに楽しみにしてくれてる・・・そう思うだけで、胸の辺りが
ぽかぽかしてしまうエリスなのである。
「は、はいっ。今日もたくさん作ってきましたから、たくさん食べてくださいねっ」
にこーーーーっ。
表音表記すると、こんな感じのエリスの笑顔。
柊が護衛につくと分かってから、久しぶりにお弁当は重箱仕様である。五段重ねの
弁当箱をスポーツバッグから取り出すと、「お、俺が持つぜ」と柊が横から手を伸ばし
てくるのも、もう何ヶ月も前からそうしていたような、習慣になってしまっている。
二人が昼の準備を始めると、同時に彼らの周囲に着席したロンギヌス女性隊員も、
一斉に起立した。手にはそれぞれ可愛らしいお弁当箱を携えている。
学園内であっても油断は禁物ということであろう。ただ屋上に昼食を食べに行くときで
さえ、彼女たちがエリスの側を離れることはなかった。
「よっしゃ、そんじゃ準備も出来たところでいくとすっか」
「はいっ、行きましょうっ」
ぞろぞろと、柊たちが教室を出て行く姿を、毎度のことながら唖然と見送るクラスメー
トたち。「下がる男」という不名誉な仇名の他に、柊蓮司在学中、彼についてまことしや
かに囁かれていた有名な噂を、彼らは現実に目の当たりにしたわけである。
すなわち、いつでもどこでも美少女を侍らせている、ハーレム男・・・と。
当の柊は、自分がそんな「新たな伝説」を作っていることなど露知らず、さっさと屋上
へ上がっていってしまったのであった ---- 。
※
「おい・・・なんでお前らまでいるんだよ・・・」
日頃の憂さや冷たい視線、たまには生温かい視線 ---- から唯一解放される、学園
内でのささやかなひととき。楽しくて、美味しくて、「わっふう ! 」なランチタイムを根こそぎ
台無しにするかのような顔ぶれが屋上にいるのを見て、柊蓮司はげんなりとする。
「ちゃおー」
「・・・お弁当・・・私たちもご相伴に預かりにきました・・・」
ロンギヌスたちの間にただならぬ緊迫感が走り抜ける。それぞれの月衣からそれぞれ
の獲物を取り出して、戦闘態勢を取ったのは止むを得ないことであっただろう。
大魔王ベール=ゼファー。
秘密侯爵リオン=グンタ。
裏界を代表する二人の魔王と、よりにもよって昼日中から遭遇したのであれば。
「弁当・・・って、お前らなあ・・・」
ウィザード勢で、ただひとり緊迫感の欠落しているのは柊蓮司。魔王二人と遭遇した
にも関わらず、頭をわしわしと掻きながらそちらへと近づいていく。ロンギヌスたちが短
い悲鳴を上げたが、お構いなし。あろうことか、
「あー、そんなに構えんな構えんな。いまのこいつらはなにもしねえから」
そんな台詞を吐く始末。
だが ---- 冷静に考えれば、いまベルたちが余計な陰謀を巡らせる余裕など、確か
に少ないはずである。シャイマール復活にすら匹敵する可能性のある災厄の訪れ。
それを示唆する出来事は、確かに二週間前、赤羽神社の境内で起きているのだ。
ゲイザーの粛清の意志を継ぐもの ---- もし、そんな存在が活動をひとたび開始する
ならば、ファー・ジ・アースどころか裏界をも巻き込む災厄であるはずだから。
ゆえに、この件が解決するまでベルたちは余計なことはしないであろう・・・と ---- 。
それが柊蓮司の考えでもある。
そして、その直感にも似た考えが正鵠を得ていた証拠に ----
ベルとリオンから、魔王の威圧感や恐怖感がすっかり抜け落ちている。
悪巧みはしない、ことによったらウィザードたちと共闘もする。そんなつもりで来ている
せいかもしれないが、二人が『炭酸の抜けたコーラ』みたいになっている最大の理由は、
学園で遭遇を果たしたシチュエーションと、二人の姿にこそあるだろう。
柊たちを待ち構えていたベルとリオン ---- まあ、ベルは普段どおり輝明学園の制服
にポンチョ、というお馴染みのスタイルなのだが、今回はリオンまでもが制服姿を披露し
て、屋上で待機していたのである。
二人が昼時を狙っていたのは明白で、子供の遠足や運動会で使うようなブルーシート
で屋上の一角を占拠し、その上に並んで座りながら、どこから調達してきたのかわから
ないサンドイッチやらコーヒー牛乳を手にしているのだった。
まるっきり、お昼を一緒に食べるために待ち合わせをしていた女子高生。
そんな風情の二人に、魔王としての威厳とかそういう類いのものを期待してはいけな
いのである。
「しゃーねーな・・・積もる話はあるけど、まずは昼飯だ。おい、ベル。お前、もっと左に詰
めろよ。俺たちにもシート使わせろ」
「ちょっと、その手の仕草止めなさいよっ。犬でも追い払うみたいじゃないのっ」
「きゃんきゃん吠えるなよ、うるせーな・・・。お、エリスはこっち。真ん中な。やっぱお昼
の主役は特等席じゃなきゃーな」
お弁当が待ちきれない、とでもいうように柊は満面の笑みでエリスの手を取って。
「きゃっ !? ひ、柊先輩っ !? 」
力強い手で、手を引かれる。男の人らしくごつごつと固くて、エリスの小さな手なんか
包み込んでしまうほど大きくて。でもこんなに力のこもった手のひらなのに、全然痛くな
い。温かくて、優しい。ただ手を握られただけなのに伝わってくるのは、柊先輩は本当に
私のことを護ってくれているんだな、ということ。
握った手が ---- すべてを伝える。
その力強さは戦うことの出来る強さ。
その大きさは護ることのできる包容力。
そのぬくもりと優しさは、柊蓮司という若者の持つ、なによりも大きな魅力。
もう ---- と、エリスは少しだけ、心の中でわざと拗ねてみる。
私、諦めたんですからね。あまり、女の子の心を揺らしちゃダメですよ、と。
内心の呟きに、思わず自分で噴き出してしまいそうになる。ちょっと赤らめた顔のまま、
「柊先輩、あわてなくてもちゃんとお弁当はありますから」
笑いながら、二人の魔王が待ち構えるブルーシートの上に、靴を脱いでお邪魔する。
柊がとっちらかした革靴を丁寧にそろえ、少しためらいながらもシート中央に正座して、
三人 ---- 言うまでもなく柊、ベル、リオンの三人だ ---- が注目する中、五段重ねの
重箱をひとつずつ並べていった。
「お、すげー ! 今回も凝ってんなーっ ! 」
感嘆の声を、柊が上げる。
一重目は、一口サイズの俵おむすびが整然と並んだ「おむすび重」。
定番の海苔おむすびだけでなく、胡麻を振ったもの、紫蘇と梅の桃色で味付けられた
鮮やかな色合いのもの、五目おむすび、焼きおむすび、エトセトラ、エトセトラ。
いろいろな味が、おむすびだけでも楽しめるように一口サイズで握られているのも心
憎い。
続く二重目は「和のおかず」。里芋、人参、椎茸、サヤエンドウなど、さまざまな野菜の
煮物たちのエリアと、これもお弁当には定番の焼き鮭の切り身エリア、口の中をさっぱり
させ、食欲を増進させる酢の物エリアの三つに分かれた古き良き「おふくろの味重」。
こってりたっぷり食べたい柊のような節操なしのためには、「中華風おかず」。
ピリ辛のソースで味付けされた鶏の唐揚げ、白髪葱をたっぷり添えた焼豚のスライス、
春雨や春巻などなどの、いかにも子供が喜びそうな「チャイナ重」。
ちょっとおしゃれな四重目は「洋風のおかず」で、タマネギとサーモンのマリネ、ポテト
サラダなどさっぱり系のメニューで占められた、中華おかずの合間の「箸休め洋風重」
とでもいったところ。
そして最後に「デザート重」。色とりどりのフルーツや、果物を使って作ったシャーベッ
トは、夏の暑さにぴったりな涼しげなもの。
「溶けちゃうと台無しなので、お昼休み直前まではロンギヌスの方に保管しておいても
らいました。こんなときは、月衣がないのが残念ですね」
エリスが言う。
「あー、そっか。前は学校の弁当じゃありえないメニュー、持ってきてたもんなー。月衣
に味噌汁持ってきたりとか」
「あ、お味噌汁ありますよ。あの、スイマセン、よろしくお願いします」
エリスに声をかけられたロンギヌスのひとりが、こくりと頷く。なにもない虚空に手を差
といれると、するりと魔法のようにポットが出現した。おそらく、登下校と学園内での護衛
を任されているのであろう。まさか、お弁当の運搬まで頼まれるとは思っていなかったに
違いない。
「いたれりつくせりだなー。それじゃさっそくいっただきまーす ! 」
購買部で買ってきたヤキソバパン片手に、柊がおかずに手を伸ばす。
「いただきます。あ、よろしかったらみなさんもつまんでいってください。ベルさんも、ええ
と、リオンさんもどうぞ」
エリスが声をかけるまでもなく、
「言われなくてもそのつもりよ」
「・・・つもりよ・・・」
二人の魔王はすでに、エリスの重箱からおかずを強奪しているのであった。
---- なんだか、楽しい。
楽しくて、つい忘れそうになってしまう。いま、なにごともなく日々を過ごしてはいるもの
の、依然として世界は狙われている、ということを。自分と同じ顔をした、もうひとりの志
宝エリス。かつてシャイマールを覚醒させようとしたキリヒトの意志の体現者。
アンゼロットさんやベルさんが言うには、シャイマール復活に等しい力を、私の “器”
を利用して再現しようとしているらしい。エミュレイターや魔王の存在そのものを純粋な
力へと強制的に変換し、私の中に無理矢理押し込めようと画策している・・・と、そんな
ことを言っていたっけ ---- 。
「んで、結局のところ、本当はなにしに来たんだ。ただ弁当食いに来たわけじゃねーん
だろう ? 」
不意に、柊の声に現実世界へ引き戻される。口いっぱいにおかずを頬張りながら、
鋭い質問をぶつけているところは、さすが経験豊富なウィザードである。この牧歌的な
雰囲気の中においても、自分の職分は決して忘れていない。
「はふはわ、ふぃーらひれんひ」
「食いながら喋んな ! なに言ってるかわかんねーよっ ! 」
一瞬シリアスな展開になりそうになったのを、大魔王が台無しにした。
怒鳴られて目を白黒させたベルが、
「んぐ。ん、もぐ・・・・・・・さすがは柊蓮司・・・っ、てゆーか、食べてる最中に話しかける
ほうが悪いんじゃないっ ! 」
咀嚼し、嚥下し終えてから言い直したのだが、いろいろな意味でもう手遅れだった。
「がっつくからだ、馬鹿 ! ・・・・・・で、話の続きだ。ただ弁当食いに来たわけじゃねーな
ら、いったいなんだ ? なにか事態に進展があったか、新しい情報をつかんだかのどっち
かなんだろう ? 」
自分もおかずをぱくつきながら、柊が問いかける。不思議とベル以上に頬張っている
はずなのに、こちらは会話に支障をきたしていないところが凄い。それを見ながら、少し
悔しそうに、
「うー・・・・」
おかずの重箱を物欲しげにちらちらと見ながら、ベルがうなる。それからしぶしぶ、い
かにもしょうがないわね・・・といった感じで話を切り出した。
「ねえ、柊蓮司。この間、赤羽神社で話した後からこの二週間で、なにか変わったこと
とか起きた ? 」
目を細めながら、緊張の面持ちで。台詞回しと真剣な表情が、屋上の空気を一転さ
せる。その問いに対する柊の答えを待つことなく、
「起きていないでしょう ? 起きていないはずよ。エリスちゃんの身の回りだけじゃなく、
エミュレイターや魔王の活動の痕跡が、いっさいない。違う ? それとも、まだそこまで
の情報はアンゼロットから届いていないのかしら ? 」
矢継ぎ早にまくし立てるベル。その横ではリオンが、もくもくと「和のおかず」の咀嚼
に勤しんでいる。こういうとき、無口なキャラは得であった。
「ちょっと、残しときなさいよね、リオン」
「だーーーーっ ! おかずのことはいいからっ ! 続きはどうした続きはっ ! 」
「・・・ちっ」
「舌打ちすんなっ ! 」
柊のツッコミが冴える。話の続きをうながすのは、ベルの切り出した話の中に、ただ
ならぬ気配を感じたからだ。歴戦のウィザードの勘、とでも言ったらいいのか。こういう
タイミングでこういう打ち明け話がされるときは、大抵ろくでもない状況が進行している
ときだ、ということを経験上誰よりもよく知っている。
「結論から言うわよ。あのエリスちゃんのニセモノ ---- シャドウが姿を現してからこの
二週間、魔王もエミュレイターもいっさいファー・ジ・アースでの活動をしていないの。そ
れも世界規模でね。コスモガードもロンギヌスも絶滅社も、一切の戦闘行動を停止して
いるわ・・・戦う相手がいないんですもの、当然よね」
「まったく、一件も、だと ? 」
「ええ、そうよ。たぶん、これは私たちの闘争の歴史で初めてのことじゃないかしら。た
とえ二週間とはいえ、エミュレイターとウィザードの間でいっさいの戦闘がされないなん
て、ね」
言葉を額面どおり受け取れば、なんと素晴らしい話であろうか。束の間とはいえ、双方
の間に訪れた完全なる平和。もっとも、その平和をもたらしたものの裏に、明確な悪意
や陰謀がなければ、の話ではあるのだが。
「その理由を、お前らつかんでるのか ? 」
柊が真剣な面持ちで問いかける。いつの間にか、箸の動きもぴたりと止んで。
「ええ ---- 悔しいけど、私たち完全に裏をかかれたわ。と、いうよりも、 “敵” のほう
が、もうひとつの上手いやり方に気がついたのかもしれないわね」
「どういうことだ」
「 ---- 私たち、狙われているのはエリスちゃんだって思い込みすぎたのよ。赤羽神社
や輝明学園にロンギヌスを投入して、エリスちゃんを狙ってくる敵を自然と待ち構える形
になってしまった。守りを完璧にしたのはいいけれど、逆にこれは敵に時間を与えてしま
うだけの行動だったわ。ま、結果論だけれども、ね」
「俺たちが守りに徹している間、あのエリ・・・いや、シャドウがなにかしでかしたのか」
正体不明の悪寒が背筋を這い登る。敵は停滞していなかった。裏で動き続け、その
目的を遂行するための暗躍を止めてはいなかったのである。その結果が、この二週間
の平穏だとすれば、我々ウィザード勢のなんと呑気であったことだろう。
「・・・シャドウが気づいたのは・・・自らも志宝エリスと同様に造られた存在である、とい
うこと・・・同じ資質を持っている、ということ・・・器としての機能を自らも果たせるので
はないか、ということ -------- 」
ぼそり、とリオンがそう言った。いつの間にか、「和」の重箱が空になっていた。
「おい、そりゃもしかして ---- 」
柊が血相を変えてリオンに詰め寄る。
エミュレイターも魔王も、ただの一体として出現しない完全なる平和。それをもたらし
たものの正体。そしてその方法。加えて、その行為自体がなにを意味していたのか。
二週間の平和を享受することと引き換えに、自分たちがなにを得たのか ---- その
答えは、すでに分かりきっていた。改めて言葉にするまでもないことを、それでもやは
り言葉にする、大魔王ベール=ゼファー。
「あいつ ---- シャドウのヤツ・・・片っ端から “喰って” いるのよ。下級エミュレイター
も魔王も、関係なく。ファー・ジ・アースが平和だった理由はまさしくこれ。私たちは、後
手に回ってアイツが力を蓄えていくのを、放置していたってわけ !! 」
声のトーンが次第に上がっていき、最後にベルは叩きつけるような口調でそう言った。
柊の額に汗が浮かぶ。エリスの顔が蒼褪めていた。
こうして事態は急遽、あまりにも突然に動き出したのである -------- 。
(続)
「さふはね、えりふのひほ(モグモグ)」
やばいなぁ、ベルが可愛いすぎるw
あれ、今回のヒロインってエリスでしたっけ?
ベル? それとも黒エリス? 誰とエチ?
gj!
食われる魔王の描写が怖いヨー。
某黒化した英霊腹ペコの「もっきゅもっきゅ」をイメージしてしまった
俺は多分悪くない。
おーい
>>363、一緒に型月スレに帰ろう
(馬鹿は今時こんな台詞分からねぇよ!と言われそうな言葉を吐いた!)
>>364 その手の映画は学校で見せられる可能性が高いぞ。
小学校で見せられたし、今年は市川監督追悼でBSで放送もされたな
ブルマの勃て事
なぜか>364でルーシアアアアアアアアア!と青河輝さんが叫ぶゲームの1を思い出したおれはきっと異端
なぜ素直にLUNARと書けないのかw
言われてみれば分からなくもなくもなくもない
リプレイシナリオ
「ルナツー〜ブロンズスターストーリー〜」
こうですね、わかります
>>370 なんかホワイトベースやガンダムが封印されたり、ネオジオンに騙し討ちされたりしそうなタイトルだな
もうすぐ最終巻出るっつーことでデモパラ剣神エロなし小ネタ。
基本的に凪憎しの内容w
凪と沙織の関係にリプレイと矛盾が少しあるが目を瞑ってくれ。
大友市御剣家。
淡路島で起こった事件を解決した御剣一家はいつもと変わらない日々を送っていた。
「凪さーん、夕飯出来ましたよー」
「はーい」
階下から幼馴染の月島沙織の声がし、凪は自分の部屋から台所に向かう。
一階には食欲をそそるいい香りが広がっており、テーブルの上には豪勢な料理が広がっていた。
「いつもありがとう。沙織」
「いえ、凪さんの為だったら……それに将来は毎日作らなきゃいけ……」
沙織はもじもじと恥ずかしそうに、しかし、アグレッシブな精神に満ち溢れた返答をするが、途中で凪はそれを遮る。
「じゃあ早速、いっただきまーす。沙織も食べなよー」
この鈍さが凪らしさと言えば凪らしさなのだろう。返事の意図を気づいて貰えない沙織はがっくりと肩を落とし、テーブルに付き、凪と一緒に食事を始めた。
「これ美味しいね。でも、何の肉?」
凪はハンバーグを食べながら、沙織に話しかけた。
「それはマム……ワニの肉です。珍しかったので買っちゃいました」
「(パクパクッ)食べられることは知ってたけど、こんな味がするんだー。(ズーッ)あ、このスープも美味しい」
「それはスッポ……海亀のスープです」
「沙織はきっといいお嫁さんになれるよー」
「え、そんなっ!」
凪の十八番である天然レディキラーが炸裂し、沙織は頬を真っ赤に染める。
「うん。ほんと嵐兄ちゃんかオロシ兄ちゃんと結婚してくれたら、毎日この沙織の料理が食べられて幸せなのになー」
そして、いつもの無邪気さで沙織を幸せの絶頂から奈落の底に叩き落す。
「あれ?沙織どうしたの?急に俯いちゃって」
「(シクシク)……いえ、何でもありません」
そんなこんなで食事は進み、二人はテーブルに並んでいた大量の食事を平らげた。さすが悪魔憑きである。
「ご馳走様ー。今日は、つむじ姉ちゃんは研究が忙しくて帰ってこれないし、
嵐兄ちゃんはよく分かんないけどコミケに徹夜で並ぶとかいって帰ってこないし、
オロシ兄ちゃんは当直らしくて帰ってこれないし、
かえで姉ちゃんはセラフィムの夏休み期間の夜回りがあるらしくて帰ってこれないし。
ほんと沙織が来てくれて助かったよー」
凪は先ほどGMから手渡された状況説明のメモを一気に読み上げる。
「そう言って貰えて嬉しいです」
「……あれ、なんだか、頭がボーっとしてきた。食べ過ぎちゃったのかな?」
悪魔憑きが食べ過ぎで眠くなることなんてあるのだろうか?
「あ、片付けは私がやっときますから、凪さんは自分の部屋で横になってていいですよー」
「……ふぁああ、それは悪いよー。片付けは後で僕がやっとく。沙織はあんまり時間が遅くなるとお母さんが心配するだろうし、先に帰っておいてー。送っていけなくてごめんね」
もう相当に眠気が限界といった様子の凪はまぶたを半分落としながらも沙織に謝る。
「いいんですよ。ゆっくりおやすみになって下さい♪」
意識が落ちる寸前の凪の目に最後に映ったのはそういいながらいつも以上に満面の笑みを浮かべる沙織の姿だった。
数時間後。
凪は不思議な感触と共に自分の部屋の自分のベッドで目を覚ました。
寝てたのだから当然といえば当然だが、いつもとは決定的に違う点が一点だけあった。
ベッドの四方に両手両足が手錠で括り付けられているのである。
これでは大の字のまま身動きが取れない。
状況がまったく理解できずに凪が周囲を見回すと原因は凪のベットの横に立っていた。
「あ、やっと起きられたのですね。凪さん」
もちろん、凪の幼馴染の月島沙織である。
「沙織?え、どゆこと?」
「凪さん、こういうの好きだって嵐お兄さんに聞きましたので」
「え、え!?」
「嵐『凪はドMだから強引にヤっちまえ(親指をグッと立てながら笑顔で)』って」
凪の胸にかつてロドリゲスに感じた以上の怒りが初めて家族に対して湧き上がる。
「そういう事は恋人同士がやるもんであってッ!あと、僕達まだ若すぎるよッ!」
慌てて、沙織の暴走を止めようとするが、その発言は地雷を踏んでしまう。
「そっかぁ。凪さんと私って恋人じゃなかったんだ。あははは、私ってば一人で勘違いしちゃって恥ずかしいですね。そっかぁ、そっかぁ、そっかぁ、そっかぁ、そっかぁ、そっかぁ、そっかぁ、そっかぁ……」
たちまち沙織の目から理性の光が消える。
「いや、そうじゃなくて!とりあえず、その懐から出した包丁しまって!」
「じゃあ、凪さんと私って恋人でしょうか?こういう事してくれますか?」
「恋人かどうかは置いといて!こういう事するには若すぎるよッ!」
「そんなことないですよ、凪さん。15歳でヤった上に彼氏とのプリクラ流出して首になったアイドルもいますし」
「マイナーな時事ネタは腐るからやめようよッ!」
※分からない人ごめんなさい
「と、とにかくこういうやり方には賛成できない!沙織の事信じてたのにッ!」
止まりそうにない沙織の暴走に凪は2回目の地雷を踏む。
「凪さんがドMだって聞いたのに嵐お兄さんに騙された。嵐お兄さんに騙されて、凪さんに嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、キラワレタ、キラワレタ……」
虚ろな瞳で包丁を持ったまま、ふらっと部屋を出て行こうとする沙織に、凪の脳内ではコミケの人ごみの中で包丁を持って嵐を追いかけまわす悪夢が再生される。
「待ってー!」
「じゃあ、凪さんドMなんですか?こういう事されたいんですか?」
どう考えてもその質問はおかしい。
「良かった。私、ネットで凪さんのために色々調べたんです!ほら、道具もこんなにいっぱい♪」
「アッー!」
翌朝。
凪はいつものように自分のベッドで目を覚ました。
夏の爽やかな日差しが窓から差し込んでいる。
寝汗をびっちょりとかいてはいるが体は拘束されてなどいないし、周囲を見渡しても昨夜の出来事の痕跡は少しも見当たらない。
「凪さーん、朝ご飯出来ましたよー」
階下からいつもと変わらない幼馴染の月島沙織の声が聞こえ、一瞬凪はビクッと震える。
(……あれはきっと悪夢だったんだ。あんなことあるわけない)
「はーい」
少しぎこちなくだが返事をし、服を着替えて凪は自分の部屋から台所に向かう。
一階には、当直を終えたオロシと夜回りを終えたかえでが先に朝食をとっていた。
「オロシ兄ちゃん、楓姉ちゃんおはよー」
「凪君、おはよぉ。だが、お兄ちゃんこの朝食食べ終わったら寝るぞぉ」
「おはよー。私も寝るー」
二人とも相当寝不足らしい。凪が降りてくるのとほぼ同時のタイミングで自分の部屋に引っ込んでしまった。
テレビでは朝のニュースをやっている。
騒がしいところを見ると何やら事件があったらしい。
「コミックマーケットで今年より実施された持ち物検査にて大型拳銃が見つかり大混乱が発生した模様です。なお、大型拳銃を所持していた男は現場から逃走しており、警察では現在その男の行方を追っています」
「いやー、世の中物騒になりましたねぇ。日本も世が末ですかねぇ」
「なお、逃走した男の特徴ですが、20代後半で背が高く短髪で無精ひげをはやしており、サングラスを掛けているそうです。また、正式発表ではないのですが片目が虹色だったとの情報もあり、警察では犯人の特定を急いでいます」
凪の頭には誰かの顔が浮かんだ気がしたが、深くは考えないことにした。
凪が焼き鮭と卵焼きに漬物が並んだテーブルに付くと沙織がご飯と味噌汁をよそって持ってきてくれる。
沙織の様子はいつもとまったく変わらない。
凪はやっぱり、あれは悪夢だったんだと思った。
「おはよー、沙織」
「おはようございます、凪さん」
「ねぇ、昨日なんだけど僕が寝た後、沙織何時ごろ帰ったの?」
「あ、あの後すぐ帰りましたよー」
「そっか、だよね!良かったー」
遠まわしに本人の口からも確認を取り、凪はほっと胸を撫で下ろした。
「ええ、ちゃんと両親を心配させないために帰りましたよ……一度」
「……え……一度?」
「(もじもじ)……また、あの声聞かせてくださいね」
夏休みはまだ終わらない。
GJ!剣神キター!!
凪、生きろw
やっぱ死ね
でも生きろ
とにかくGJ
>361さま。
HAHAHA。ナニヲイッテルデスカ。オンナノコハミンナひろいんデスヨ ? (節操なし)
>372さま。
凪×沙織ネタ、実は嬉しい私。「デモパラ」もずっと読んでまして、実は。
ヤンデレ風さおりん好きです(笑)。
で、続きでございます(Hシーンまたなしで。あわわ)。
コミケ帰還後、最初にしたことがSSを書き上げることとは、なんなのでしょう私(笑)。
なんかまだまだ続きますが、できれば見捨てずお付き合いのほどを・・・
ちょっとしたら投下いたします。
ではでは。
成長する。増大する。加速度的に飛躍する。力、存在力、魔力、その他諸々。
当たり前のことだが ---- カウントするごとに数とは増えていくものなのだ。
本日この時、世界の何処か、季節が何時で今の時間が昼なのか夜なのか、もはや
それすら定かならない。
真っ当な世界の裏側、常識の枠の歪んだ側面、紅い月が昇るこの空の下で、中天
を征服するこの紅い月ごと、黒い少女は貪り続ける。
異形の姿をしたモノどもを幾十匹も従えた、魔王と名乗る一人の少女を組み伏して、
彼女 ---- “影の” エリスはほくそ笑む。
自分に押さえつけられて、仰向けに大の字に押し倒されたまま、魔王とかいう仰々し
い名前にちっとも相応しくない矮小なる存在は、恐怖に怯えきった瞳で捕食者の姿を
凝視していた。
瞳孔の開ききった目からは絶望の涙を流し。こちらの耳に五月蝿く響くほどに上下の
歯をガチガチと鳴らし。かみ合わぬ歯の隙間から必死で助命の懇願をしているのだが、
なにを言っているか不鮮明なので、あえて聞いてやらないことにする。
影エリスの周囲には、十数本の影が彼女の足元から放射状に伸び、魔王の従えて
きた異形 ---- エミュレイターとかいうモノたちを絡め取るように拘束していた。言語に
尽くしがたい断末魔の悲鳴が幾十も沸き起こり、影の触手が彼らの “存在そのもの”
を吸い尽くしていく。存在の力を強制的に滋養へと、純粋な力そのものへと変換し、我
がものとする能力 ---- それこそが彼女の最大の力であり資質である。
だが、これは ---- 影エリスが眉をひそめる。
あまり、美味しくない。
これまで数多の存在を啜ってきた彼女は、言うなれば “舌が肥えている” 。
変換する力の源にも、確実に質の良し悪しはあるのだ。やっぱり、食べるのは魔王
級、とかいうのに限りますよね・・・・・・無意識の呟きが魔王の耳にも届いたか、
「・・・・・・やめ・・・て・・・たべなひれ・・・くらひゃ・・・ひ・・・」
滑稽な発音で、ようやくそれだけの言葉を漏らして見せた。
馬鹿な娘。ここまできて、どうして私が貴女の命乞いを聞くとおもうのかしら。
お腹を空かせた者の前にご馳走を並べておいておあずけなんて、そっちのほうが酷
い話だとは思いませんか。ねえ ?
影エリスが泣きじゃくる魔王に顔を近づける。頬をしっかりと両手で押さえ込み、震え
を力づくで止めてやる。舌を突き出し、影エリスが魔王の唇をぬるりと湿らせた。
「ひっ・・・」
舌が。唇を割って。口腔内へと侵入を果たす。ずるり。ずる。ずるずる。おぞましい音
を立てながら、影エリスの舌は止まることを知らぬかのように奥へ、ずっと奥へ、もっと
奥へと伸びていく。見れば、舌と見えたものは長い一本の黒い影。長い、濡れそぼった
影が、魔王の少女の口から喉へ、喉からさらに奥へと無遠慮な侵入を開始しているの
である。
うご・・・ お゛え゛え゛え゛え゛え゛・・・・・・
押さえつけられた手足をじたばたさせながら、少女が濁った悲鳴を上げる。
ほっそりとした喉がぶくんぶくんと蠢き、濡れた雑巾を引き絞るかのように身をよじる。
口の中。喉。食道を通って影はさらに奥へ。数秒後、少女の腹部がみるみるうちに盛
り上がり、全身のもがきはいつしかただの痙攣へと変わっていた。
可愛い顔立ちは恐怖と苦悶とこの世ならぬ “快楽” に引きつり、ぐちゃぐちゃに歪み
切っている。涙と唾液と鼻水でべとべとの顔は、すでに彼女が「壊れ」始めていること
を物語っていた。これは近頃、影エリスが覚えた “食べ方” である。
極限に追い込まれた人間は意外な力を発揮するというが、これに似た現象は魔王と
いう連中にも多少当てはまるらしい。肉体的にも精神的にも徹底的に追い詰めてやる
と、存在力が豊潤さを増す。この状態で吸収してやると、なんだかとても美味しく感じら
れるのだから不思議だった。
おう・・・ごほぉ・・・おご〜っ・・・
びくびくと跳ね回る身体を、自分の身体で押さえつける。影エリスの身体に伝わって
くるその躍動は、生命と存在の最後の足掻きであろう。ずる、ずるる、ずるるるっ、と。
体内へ侵入させた影が、魔王を味わいつくそうと、のたうつ。
少女の瞳が正気の色を失っていく。絶望と恐怖が、その代わりに狂気を注ぎこんだ。
小刻みに震える。眼球が飛び出すほどに眼窩からせりあがる。少女の肉体が歪にひ
しゃげ、光彩を失って色褪せる。まるで写真が古びていくように。カラーがセピア色へ、
そしてモノクロームへと変じていくように、魔王の少女から色そのものが薄れていった。
色は、存在の証でもあったのだろうか。
灰色から白黒へと薄れていく色彩に伴うようにして、その身体がぼろぼろと崩れてい
く。波間にさらわれる砂の城が崩壊するように。枝から落ちた枯葉が地に触れて砕ける
ように -------- うん。やっぱり、魔王は美味しい。
ことに、今回の獲物はグラーフェン ---- 伯爵とか名乗っていたような気がする。
いままで味わったことのない充足感は、記念すべき百体目の魔王 ---- エミュレイ
ターというくくりで言うなら、二千と数体目 ---- に相応しい極上の味わいだった。
すでに塵と化した少女の欠片を、影エリスは服から叩き落とす。
そして、すでに紅い月の掻き消えた空を見上げて嗤うのだ。
盃に大海の水は注げない。
それが赤子にも自明な理と、誰が言ったのか。
広大無辺に思われる潮の流れも、手の内に捧げ持ったたったひとかけの盃を、満た
してまだ足りぬことがあるのだ。
されば ---- 。
それを妄言と嘲笑するものは、目にも見よ。
常軌を逸し、狂おしいままに力を振るうものこそが、不可能事を可能にする。
そのことを ---- 私はすでに知っている。
狂人と呼ばれ、蔑まされたとしても、私の力はあるべきものを歪に捻じ曲げる。
私は、ただ一本の微細な針をもって山を崩し ----
二本の腕を翼代わりにはばたかせて空を舞い ----
吐き出す息だけであまねく木々をなぎ倒すだろう ---- 。
もし、私の想いが ---- あのお方への想いが狂気と呼ばれるものであったなら。
狂気には狂気の持つ力があり ----
狂人には狂人の理論があることを ---- 世人は知ることになるだろう。
されば、見よ。
私はこの星に、この星以上のものとして降り来たる。
この星よりも巨大で強大で、言語に絶する存在となって降臨する。
私が終末の喇叭を吹き ---- 蒼褪めた馬に跨って。
だから、もうアナタの力は必要ないのよ、志宝エリス。
かつてすべてを見通すものに創造されたる器の少女。
だって、私だって同じなんだから。
あのお方に、 “おじさま” に造ってもらったんですから。
私は破壊の使徒を経て、創造の母となるべき存在なんですもの。
「ああ・・・おじさま -------- 」
恍惚とした呟き。
それは彼女の言うとおり、黙示録の到来を告げる喇叭の前奏を奏でるように、美しく
また寒々しく、真夏の夜の空に吸い込まれていった -------- 。
※
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴っても、柊たちはその場から動くことはなかっ
た。いや、正確には動くことが出来なかった、といっていい。大魔王ベール=ゼファー
の告げた真実がもたらした戦慄は、ベテランウィザードである彼の身をも硬直せしめる
ほどのもの。
ベルの言葉を信ずるならば、みすみすシャドウ=影エリスに力を蓄える時間を与えて
いただけの無為な二週間を過ごしたといえる。結果論かもしれないが、この一件に限っ
ては『攻め』に転ずるべきだったのだ。赤羽神社境内での一戦の後、敵の正体も目的
もある程度は分かっていたのだから、ただ待ち続け放置することがどれだけ危険なこ
となのか、誰かがどうして気づけなかったのだろう。
それこそ、アンゼロットの配下でもコネでもなんでも使って、影エリスの棲み家ないし
活動地点の特定を最優先で行うべきであった。あの時は、柊の加勢としてベルとリオ
ンが姿を見せただけで逃げの一手を打つしかなかった影エリスなのである。
居場所の捜索にさえ成功すれば、魔王たちと共闘して容易く追い詰めることができ
たのではなかっただろうか。
柊が、歯軋りをしながら拳を痛いほど握り締める。
だが、それは当然対面にいるベル ---- この報告をもたらした当人も同じ思いのよ
うであった。いや、その表情にこもった暗さと怒りはむしろ柊以上にも見える。
よじよじ、とブルーシートの上を、膝をついたままで柊ににじりよると、
「柊蓮司っ。私と手を組むのよっ。絶対あの娘を叩き潰すんだからっ、いーいっ !? 」
顔と顔がぶつかりそうな勢いで詰め寄った。
思わず仰け反った柊が、唖然とベルの顔を見つめる。共闘の申し出が過去になかっ
たわけではない。しかし、ここまで積極的な態度は珍しい。いぶかしんだ柊が、
「・・・おい。この期に及んでお前までなんか企んでるんじゃねーだろーな・・・ ? 」
思わず言いがかりにも近い発言をしてしまう。
「企んでなんかないわよっ ! なんでそこでそうなるわけっ !? 」
「いや、つーか、お前の方から手を組もうって、そんな躍起になられるとどーも・・・」
あることないこと疑いたくなるのが人間の ---- ウィザードとしての性ってもんだろう
が・・・と柊が言う。その言葉に、「う・・・ぐっ・・・」とばつの悪そうな顔をする大魔王。
頬がちょっぴり赤い。言おうか言うまいか数瞬の逡巡の後で。
「・・・・・・られたのよ・・・」
ぼそっ、とベルがなにごとかを呟いた。
「んあ ? 」
「・・・っ !! 傷つけられたのよ、プライドがっ !! この私が後手に回るなんて、『攻め』より
も『守り』を選んだ結果がこうだなんてっ !! なんであの娘を草の根分けても探して捕ま
えなかったのか、その理由が ------- 」
激情に支配されたようにまくし立て、途中で失言に気がついたのか口をつぐむ。
唇をきゅっ、と噛み締めながら。柊の顔から目を背けて。
大魔王ベール=ゼファーともあろうものが、『攻め』ではなく『守り』を選んだその理由
が ---- なんとなくそれが分かってしまって、柊も黙り込んでしまった。
それは柊自身、一切疑問を抱くことなく護衛としての日々を(結果として)怠惰に過ごし
ていたからこそ、理解できたことである。結局、ベルも柊も、そしておそらくはアンゼロッ
トも同様の理由で『攻め』というアクションを起こさなかったのだ。
それは取りも直さず、敵の企みの巨大さに慎重になりすぎていたためである。
悪くすれば、慎重さなどというものは容易く “臆病さ” へとすり替わる。
いまはもう存在しないゲイザー(すなわちキリヒト)や、いまだ不確定な話に過ぎない
シャイマールと同様の災厄という言葉に、我々は必要以上に尻込みしてはいなかった
だろうか。裏界の実質的最高実力者としての矜持を、ベルが常に心中に秘めているの
であるとすれば、『まだ現れてもいないシャイマールの影に怯えて二の足を踏んだ』よ
うな形で敵に裏をかかれたことは ---- 彼女の自尊心をどれだけそこなったことであ
ろうか。
「んー・・・まあ・・・その、なんだ。結局、俺たち全員がちょこーっとずつしくじってるんだ。
気にするこたぁねえかんな」
「なによそれっ !? な、慰めてるとか言ったら、しょ、承知しないんだからっ !! 」
余計、火に油を注いでしまう柊であった。
「めんどくせーなー・・・もー・・・」
八つ当たり気味にきーきーわめくベルにうんざりした面持ちで柊が背後を振り返る。
「わりぃ。いまの話、アンゼロットのヤツに伝えてもらえるか ? 」
背後のロンギヌス隊員に声をかける。努めて冷静さを保とうとしてはいるが、いくぶん
血の気を失った顔でリーダー格の少女が頷いた。ポケットから0 - PHONE を取り出し、
おそらくはアンゼロット宮殿に通じるホットラインに回線をつなげる。
わずか数回、短いようで長いやり取りの後で、
「柊様。大変申し訳ありませんが、午後の授業は受けられないことになりそうです」
「な、なんだとうっ !? 」
ロンギヌスの言葉に、おもわず “かつての癖” で怒鳴り返してしまい、柊が我に返る。
そういえば、もう卒業の心配をする必要はないのであった。
「あ、いや、なんでもねえ。・・・アンゼロットはなんて言ってたんだ ? 」
「はい。これから大至急、赤羽神社へいらっしゃるとのことでした。柊様、エリス様も、
早退扱いということで。これからすぐに赤羽神社へ急行していただきたく」
「エリスもか ? まあ、しょうがねえっていやあしょうがねえけど・・・エリス、大丈夫か ? 」
不本意ながら午後の授業をサボらせることになってしまいそうだ。一応、気遣ってエリ
スに声をかける。しかし、柊が心配する必要はまるっきりなかったといって良かった。
こういうとき、実は思い切りがいいのもエリスの持ち味のひとつである。
かつて、世界を救うために宝玉探しを手伝ってくれ、とアンゼロットに言われたときと
同様の反射神経の良さで、
「大丈夫ですっ。私、いきますっ」
むんっ、と両手を握り拳の形にして、可愛らしいガッツ・ポーズを取る。
「・・・一回や二回授業出なくても大丈夫か。エリスは真面目でイイ子だもんな」
「あ、いや、真面目とかそんな・・・でも、これくらい大丈夫ですよ。柊先輩に比べたら、
全然平気です。在学中、学生とウィザードを立派に両立させて卒業されたんですもん
ねっ。だから私だってこのくらい ---- 」
「・・・エリス・・・それ、褒められてる気がしねーんだが・・・」
がくりと肩を落としながら柊が言う。
「そうよね・・・柊蓮司が卒業できたんですもの、エリスちゃんなら二、三週間学校行か
なくても・・・」
「・・・学校側が謹んで卒業証書を送りつけて・・・くるかも・・・」
いつのまにか落ち着きを取り戻していたベルと、いつでも落ち着き払ったリオン。
魔王二人の連携による精神攻撃である。
「ち、ちちちち違いますよっ !? そういう意味で言ったんじゃないですよっ !? も、もう、べ
ルさんもリオンさんも変なこと言っちゃダメですっ」
わたわたと両手をばたつかせ、エリス、必死の弁明。
「はは・・・んなこたいーっていーって。それよりも、学校のほうはお前らに頼んじまって
いいのか ? 」
「お任せください。エリス様の出席日数には支障が出ないよう、主が学園側に働きかけ
てくださるとのことですので」
ロンギヌスが力強く確約する。俺のときには、そんなはからいなかったよなー・・・と柊
がぼやく。まあ、過ぎたことをとやかくは言うまい ---- と、柊は顔を上げ。
「さ、行こうぜエリス。どうやら、俺たちも気合入れてかからなきゃいけなくなっちまった
みたいだからよ」
歴戦のウィザードの頼もしい表情をする。わずかに瞳を見開いたエリスが、ふふ、と笑
い、次いで目を細めた。
「なんだか、懐かしい気がします・・・ついこの間のことなのに・・・変ですね」
「あん ? なんのことだ ? 」
「柊先輩のいまのお顔・・・。もう、私はウィザードじゃありませんから、先輩のそういうお
顔を見ること、すっかりなくなっちゃいました・・・いまの柊先輩、戦う男の人の顔、してま
したよ・・・ ? 」
どこか寂しそうなエリスの声。彼女はもう、力を失ったイノセント。かつての戦いの記
憶はそのままに、平穏な日々を送る普通の女の子。柊が護ってくれた日常、絶望から
救いだしてもらったいまの自分、そんなすべてをひっくるめて自分にくれた柊蓮司という
青年と過ごした一ヶ月の記憶。楽しく過ごした毎日、自らの過去と出自への苦悩、それ
でもお前のことは俺が護る、と言ってくれた力強い言葉。
そんな記憶のすべてが、いまこのとき、一息に甦ってくる。
記憶が呼び覚まされれば当然のように、閉じ込めたはずの想いまでもが顔を覗かせ
てしまう。言わなくてもいい言葉までもが、口をついて出てしまう。
「とてもカッコよくって・・・私の大好きな柊先輩の・・・お顔です・・・」
さあっ・・・・と ---- 風が、吹いた。
背の高い柊の顔を、自然とエリスが見上げる形となる。二対の瞳が、見つめあった。
背後ではロンギヌスの少女たちが石化したように硬直し、大魔王ベール=ゼファー
ですらが、居心地悪そうに慌てて視線を泳がせる。ただひとり平静を保っているリオン
も、この空気を壊さぬように配慮したのか、自身の気配を殺して彫像のように静止した。
一秒、二秒 ---- 時が刻まれて。
ちょうど三秒目にして、エリスの顔色が激変した。つまり ----
---- 真っ赤になった。
「あうっ ! いえその私、やだっ、変なこと言って、す、すいませんっ !! 」
もしも空気というものが色つきで見ることができるものならば ----
その桃色空間を支配した沈黙を破ったのは、当のエリスであった。
場の緊張が一気にほぐれ、ロンギヌスたちまでもが熱気に当てられたように顔をパタ
パタと手で仰ぎ、ベルも思わず手の甲で額の汗を拭っている。ひとり、リオンだけが口
元にあるかなしかの笑み ---- その微笑がなにを意味するかは分からないが ----
を浮かべ、余裕の表情を保っていた。
いや -------- 。
もうひとり、いる。余裕綽々の態度を決して崩さないものが、もうひとりいる。
それこそ誰あろう、柊蓮司その人である。
聞きようによっては ---- いや、どう聞いても「秘めた想いを告白した後輩の女の子」
の控え目な愛の表現としか思えないエリスの台詞に、なんとまるっきり動じていない。
平静。平然。平素。普段どおり変わらぬ、ぼけらっとした顔であった。
(どう切り返すのっ !? ある意味直球なエリスちゃんの言葉、どうやったって回避不可っ
て感じよ、ねえ、リオン !? )
ぼそぼそっ、と隣のリオンに囁きかける様は、どこから見てもクラスメートの恋の行く
末を好奇心丸出しで注目する高校生女子、と言った風情の大魔王ベル。
(・・・・・・ここから先が・・・おそらくは柊蓮司の・・・真価が発揮されるとき・・・)
意味ありげな、リオンの呟きであった。
魔王二人とロンギヌス。女性陣が見守る中 ---- エリスは顔を真っ赤にしてうつむき、
両手をスカートの前で合わせてもじもじとしている。なんだか、告白の返事を待つような
そんな感じであった。
どう返す。どう切り抜ける、柊蓮司。
「いやー・・・戦ってるときの顔なんて、かなり殺気立ってると思うけどなー・・・」
・・・・・・・・・。
なんだか少しおかしい。会話がコンマ数ミリの単位で噛みあっていない。
「え、あの、あ・・・はい・・・ ? 」
「だけど、そんな顔が好き、ってお前もちょっと変わってるなー」
苦笑いひとつで済ませてしまう柊蓮司。
「・・・・・・・・」。これはベルの沈黙。
「・・・・・・・・」。そしてこれがロンギヌス。
「・・・柊蓮司・・・これこそが彼の真髄・・・」
リオンの言葉に、程度の差こそあれ、数瞬の後には全員が理解した。
『とてもカッコよくって私の大好きな柊先輩のお顔です』というエリスの言葉を ----
柊は脳内で自分に都合よく分解・切断・補填して再結合している、ということを。
いや、そんな大げさな言い回しは必要ない。
おそらく、エリスの言葉の中から『柊先輩』という単語がぼやけたままで、彼の頭の
中では再構築されているのだ。すなわち、先ほどのエリスの告白じみた台詞は、
『戦う男の人の顔ってカッコいいですね。私は大好きです』
と、彼の頭の中では解釈されているのであろう。『大好きな』という修飾語が、自分の
名前にかかっているなどとは思いもよらない。これこそが数々の少女を泣かせ、いまだ
くれはでさえも時には泣かされるという柊蓮司の朴念仁力。恐ろしいまでの鈍感っぷり
であった。
「あ・・・あはは・・・そ、そうですか・・・私、変わってますか・・・」
そんな切り替えしをされたらこう応えるしかないだろう。
エリスの頬に、心なしか瞳の幅と同じ太さの涙の川が流れているような ---- そんな
錯覚すら覚えてしまう。
(でもよかった・・・柊先輩に気づかれなくて・・・)
エリスは思う。これでいい、と。この結果が、最良なのだ、と。
さっきのは、ただの自分の失言。これで柊が変に気の回る男だったとしたら、とても
気まずい思いをすることになったであろう。たぶん、『私を貴方の恋人にしてください』、
とでも言わない限り、柊が誰かの想いに気づくことはきっとない。いや、状況次第では
それすらもスルーしかねない男なのである。
結果として、柊の鈍感さに救われた。
エリスは胸を撫で下ろす。
(柊先輩にはくれはさんがいるもの。誰よりも深く、なによりも強い絆で結ばれた二人な
んだもの。分かってる。だからこの想いも捨てたんだよね・・・。二人のこと、大好きで、
大切な人たちだから、それでいいんだって吹っ切れたんだよね)
だから、いまさらこんな、心の一番奥にしまいこんだ気持ちを持ち出すことはない。
それでも、これは大事な気持ちだから、ずっと心の何処かにしまっておく。そして生涯
を通じて、決して表には出さないでおこうと決めた、ちょっぴり淡くてほろ苦い気持ちな
のだ ---- 。
「 ---- そうですね」
エリスは殊更に笑顔を見せて。
「私、ちょっと変わってるかもしれません」
だけど、これは。この想いは誇り。くれはさんと同じ男性を好きになれたこと。柊蓮司
というちょっと不器用で、だけどとても素晴らしい男の人を好きになれたこと。
ふふ、ともう一度笑うエリスの顔を、柊が「んあ ? 」と不思議なものを見るように見つ
め -------- 。
「・・・ねえ。そろそろいいかしら・・・ ? 」
「きゃっ !? 」
「うおっ !? なんだ、まだいたのかよ、ベル !? 」
「なによそれっ !? ずっといたわよっ !? ずっとあんたたちの甘ったるいイチャイチャっぷ
りを・・・・・・むごっ、もごごっ !? 」
ベルの言葉を遮ったのは、なんとエリスの手のひらだった。見るものが目を疑うような
電光石火の早業でベルに飛びつくと、「きゃー、きゃー」と叫びながら、その口が致命的
な一言を吐き出す前に無理矢理押しとどめる。
「・・・っ、む、ぐ・・・・・・ぷっはあっ !! ちょ、ちょっとなにっ !? 殺す気っ !? 」
「ご、ごめんなさい、つい・・・」
エリスを渾身の力で押しのけたベルの顔が真っ赤である。言葉どころか呼吸までも
奪う勢いであったのだろうか、ぜーぜーと息を切らした大魔王は、なんだか涙目になっ
ていた。
「そーいや、こんなところで道草食ってる場合じゃなかったっけな」
柊が瞬時に表情を引き締める。赤羽神社へ集合せよ、というアンゼロットの連絡を聞
いてから、もう無駄に時間が過ぎていた。そういえば、昼休み終了のチャイムが鳴った
のは随分前だったかもしれない。
「・・・道草を食ったのは・・・正解だったかもしれません・・・」
「なに ? 」
うっすらと笑みを浮かべるリオンの言葉の意味は、すぐに知れた。
屋上のフェンス越しに、もうお馴染みの飛行物体 ---- アンゼロット御用達のリムジ
ンブルームが、こちらを目指して空を走ってくるのが見える。
「痺れ切らしやがったか・・・ったく、まだ連絡つけて四、五分ってところだろうに」
ほいほい転移魔法で移動できるお前とは違うんだぞ、とこの場にいない世界の守護
者に文句をつける。だが、歩いて学校から赤羽神社まで行くよりはずっと楽だし、ずっと
速い。
「柊蓮司。私たちも先行して赤羽神社に言ってるわ」
「あ ? お前らも来るのか ? 」
そういえば自分と手を組めと言っていたか。
「わかった。たぶんお前らのほうが早いんだろうが・・・向こうに着いてもアンゼロットと
もめるんじゃねえぞ」
一応、釘を刺しておく。
「失礼ね。そんな躾のなってない犬じゃあるまいし。向こうが噛み付いてこなければ、私
だっておとなしくしてるわよ」
ふふん、と鼻を鳴らして笑うと、ベルとリオンの姿が同時に掻き消えた。
それが心配なんだよ、俺は ---- という柊に、
「きっと大丈夫ですよ。いまのベルさん、大魔王ぽくないですし」
エリスが ---- きっと悪気はないのだろうが ---- 物凄い発言をした。この場に当の
大魔王がいたら、地団駄踏んできーきー喚き散らすところだろう。
はは、と短く乾いた笑いを返すと、柊が飛んでくるリムジンに視線を移す。
ウィザード、大魔王、世界の守護者、そして事件の渦中にある少女、エリス。
再び一同が、時と場所を同じくして邂逅する。それは取りも直さず、事態が新たな局
面を迎えていることを、いやでも予感させるものであった ---- 。
※
赤羽神社 ---- 赤羽家居間。
アンゼロットの寄越したリムジンブルームで柊たちが到着した時、そこにはすでに不
穏な空気が漂っていた。玄関から上がりこんだ二人が居間へ向かう途中で、
「柊先輩・・・なんだか、人の気配はするのに・・・話し声とか全然聞こえませんね・・・」
敏感にそれと察したエリスが、ひそひそと話しかけてきた。
「ああ・・・なんの声も音も・・・って、いや待て・・・なんだあの音・・・」
耳を澄ました柊が、エリスに答えて。言われて歩みを止め、息を殺しながら居間の方
角を窺うと、
ぼり・ぼり・ぼり・・・。
そんな音だけが聞こえてくる。
依然、人の気配だけはある。だが、やはりその音だけで声がしない。
意を決して頷きあう柊とエリス。
ゆっくり、なんとなく足音を忍ばせるように歩んでしまうのは仕方のないことであった
かもしれない。かすかな緊張を抱きつつ、廊下からおそるおそる居間を覗き込む。
柊たちのその気配を、居間の中にいたものたちはすぐに知ったのであろうか ----
中にいたうちの “二人だけ” がくるりと振り向きざま ----
「はわ〜〜〜。やっと来た〜〜〜。もう、遅いよ、ひいらぎ〜〜〜」
「お、お待ちしておりました柊様、エリス様、わ、私はもうどうしたらいいかと・・・」
突然泣き言を吐いた。
柊たちの姿を見とめたくれはとロンギヌス・コイズミが、まるでなにかから逃げてくるよ
うに取りすがってくる。居間の中央に目をやって、異様なまでの沈黙と漂う不穏な空気
の理由、そして、ぼり・ぼり・ぼり・・・の音の正体がやっとわかった。
テーブルに、なぜか一定の距離を置いて並びながら、今回の招集をかけたアンゼロッ
トと、柊たちに先行して赤羽神社にやってきていたベルの二人が座っている。
二人とも、こめかみに「怒」マークを貼りつけながら一触即発の空気を醸し出し、無言
で延々と、(おそらく、くれはが出したのであろう)醤油せんべいを齧っているのだ。
ぼり・ぼり・ぼり・・・と。
輝明学園の屋上からベルが出立し、柊たちがここへ到着するまでのタイムラグは、
わずか五分ほどである。たった五分すら保たなかったというのかコイツらは・・・と、柊
が嘆息した。くれはとコイズミに申し訳なさそうな顔をして、
「やっぱ俺たちに同行させたほうが良かったんだな・・・飼い主もいない犬と猿を、同じ
檻に入れたのはまずかったか」
と、言うやいなや、
「どっちが犬でっ ---- !! 」
「 ---- どっちが猿だと言うおつもりなんですのっ !? 」
自分に文句を言うときに限って息がぴったりなのはどういうわけなのだ、この二人。
「どっちでもいいっつーのっ !! だいたいなんだお前ら、俺たちが着くまでのたった五分
も仲良くできねーのかっ !? ベルっ !! 俺たちと手を組むって言ったのを自分で台無しに
するつもりかっ !? アンゼロットっ、お前もいちいち突っかかるなよっ !! 共通の敵と戦う
前に内輪もめしてたらそれこそ世界を護るなんて出来ねえぞっ !! 世界の守護者って
いうんなら、わきまえてくれっ !! 」
居間中を揺るがす大声で、柊が怒鳴りつけた。
後ろでエリスが硬直している。くれはが目を丸くして、「はわ」の「は」の形で口をぽか
んと開けたまま二の句も告げずにいた。ロンギヌス・コイズミは、主が怒鳴られたのを、
まるで自分が叱られたかのように萎縮し -------- 。
怒鳴りつけられたアンゼロットとベルは、食べかけの醤油せんべいを手にした状態で
目を丸くしていた。
本気で ---- 珍しく本気で柊が怒っている。いや、柊が怒ることが珍しいのではない。
二人のこんなつまらない小競り合いぐらいなら、呆れてやれやれと、いつもなら済ま
すはずの彼が ---- この程度のことで声を荒げたりするはずもない柊が ----
憤っていた。
だからこそ、エリスやくれはたちだけではなく、アンゼロットやベルまでもが、その怒り
に言葉を失ってしまったのである。柊の苛立ちの理由は、すぐ知れた。
「協力するんだよ。しなきゃならねえほどの相手なんだろうが。しかも・・・・・・エリスが
巻き込まれてるんだぞっ・・・・・・ !! 」
これである。
柊の、抑えていた怒りの源はこれである。
かつてシャイマールの転生の器として運命を弄ばれた少女。彼女がようやく手に入
れた平穏を、再びかき乱そうとするものへの怒り。しかも、かつての古傷に塩でもすり
こむかのように、キリヒト=ゲイザーの影がちらつく陰謀なのである。
相手がそれほどのものならば、目的は言うまでもなく “この世界の破壊” 。
しかも、ベルが言うには魔王を食って力を増し続ける怪物が相手なのだ。この二週間
で、敵がどれほど強大な力を得たのか、それすらも計り知れない。
姿形は志宝エリスと同じ、 “成長し続ける” 怪物・・・・・・。
確かに、つまらないことでいがみ合って、時間を浪費している余裕はないのである。
すでに、二週間という後れを取っている以上は。
「ひ、柊先輩・・・私のことは、大丈夫ですよ・・・お二人を叱らないであげてください・・・」
くいくいっ、と柊の服の袖を引きながら、エリスがアンゼロットとベルをかばった。
自分のことで柊先輩が怒ってくれるのは、不謹慎かもしれないけどとても嬉しい。
だけど、柊先輩の怒っている顔は見たくはない・・・エリスは、そう思う。
だから、もう怒らないでください。いつものお二人にするように、いつもの柊先輩でい
てください・・・と。
「 ---- エリス・・・すまねえ。冷静さを失くしてたのは俺だったな・・・気づかせてくれて、
サンキュ」
柊が恥ずかしそうに鼻の頭をかいた。苦笑いは、いつもの柊の、ちょっとばつの悪そ
うな笑顔で。えへへ、と、こちらも笑顔でエリスが返す。その様子をただひとり冷静な目
で見つめていたのは ---- 他でもない、秘密侯爵リオン=グンタであった。
気配を消して無言で座っていただけで、ちゃんと居間にいたのである。柊の怒りが、
ようやく収まったかと見ると、
「・・・大魔王ベル・・・共闘の約束を・・・反故にするおつもりはないんでしょう・・・ ? そし
てこの申し出を拒むつもりも・・・アンゼロット・・・ ? 」
静かな物言いが、ぐっさりと突き刺さる。
「・・・・・・う・・・わ、私も大人げなかったわよ・・・」
「た、たしかに世界の守護者としては・・・私情を差し挟むべきではありませんね・・・」
もごもごと口の中で言い訳をする二人。柊の勢いにびっくりさせられた挙句に、上手く
リオンに誘導されたような形であった。
とりあえずは、一時的共闘に差し支えのない形に持ってくることができればそれでい
い。二人の喧嘩の原因はなんだったのかが気になるところではあるが、あえて柊たち
もそれには触れなかった。たぶん、聞けばとてもくだらないことのような気がしたからで
ある。小さく咳払いをひとつして、アンゼロットが居間に揃った一同を見回した。
「さて・・・さきほどの報告で、敵 ---- シャドウの現在の狙いがエリスさんから、エミュ
レイターたちへと変わり、この二週間で自身の力を増大させている、ということは認識
しました。結果として、わたくしたちは後手に回り、早急な対応を迫られているわけです
が ---- 」
ひとつ、ここで問題が発生してしまいました ---- アンゼロットが眉をひそめながらそ
う言った。
「この二週間、わたくしたちがエミュレイターの存在を感知できなかったのは、それより
も早く、敵が出現場所を察知し、先回りをするようにエミュレイターを捕食 ---- という
言い方が適当かどうかはわかりませんが ---- していたため、とのことでしたね」
アンゼロットがベルに確認するように尋ねる。
「ええ。私もそれに気がついたのはほんの十数分前のことよ。私の配下の魔王の一人
が “食べられた” からわかったようなものだけど、ね」
歯噛みしながらベルが答える。
「で、問題ってのはなんなんだよ ? 」
柊の問いには、アンゼロットに目配せされてコイズミが説明をするよう促された。
「敵の行動がいくら迅速とはいえ、エミュレイターも月匣も検知できないということはま
ずありえない、ということです。我らロンギヌスの対エミュレイター用索敵システムを上
回る速さで捕食行動を行うということは ---- 通常で考えれば不可能です」
「 ---- それこそ、このファー・ジ・アース全域に及ぶ結界でもない限りは不可能、とい
うことか」
柊にこくりと頷いてから、コイズミが解説を続ける。
「まず、常識的に言ってそのような強力な結界を張ること自体が不可能だと考えられ
ます。我々の索敵より先んじるならば、エミュレイターと、その展開する月匣ごとを自身
の結界で封印しなければなりませんから。それだけの強力な結界を、ましてや世界規
模で展開するなど、とても考えられません」
「とはいえ、現実に、敵は不可能を可能にしているわけか・・・」
世界中で出現するエミュレイターの出現を予測し、出現と同時に瞬時にそれを封印す
る結界 ---- たしかに、規模が大きすぎて現実味がない。ロンギヌスにエミュレイター
索敵システムというものがあるのなら、せいぜい世界規模で可能なのはそれに準ずる
もの ---- 索敵のための結界、ぐらいのものであろうか ---- 。
コイズミがそこまで解説し終えると、その場にいる全員が考え込んでしまう。
シャドウ ---- 影エリスの用いた不可能を可能にするルールに、一同が首をひねって
思案顔になる。
すると ---- 。
「なあ、アンゼロット ---- 前の戦いのとき、お前、学園ごとキリヒトを宮殿近くに転移さ
せたこと、あったよな」
影エリスの張った結界の謎に、みなが眉根を寄せてうんうん呻っている時、「そういえ
ばさ」というような言い方で柊がぼそりと呟く。
「なんですの、こんな時に」
「いやさ、コイズミがいま、索敵の結界なら世界規模で張れるっていっただろ ? もし、ロ
ンギヌスの索敵システムより、ちょっと上等な索敵結界を張るとしたら、それって難しい
ことなのか ? 」
「ちょ、ちょっと柊蓮司、話が飛んだわよ。転移魔法の話がどうして索敵結界の話に飛
躍するわけ ? 」
ベルが要領を得ない柊の話に突っ込みを入れ ---- 「ああっ ! 」と、次の瞬間には
叫んでいた。
「いや、だからさ。ロンギヌスよりも早くエミュレイターを見つけたいんなら、ちょっとそれ
よりましなシステムがありゃいいんだろ ? んで、そんな索敵結界・・・みたいなもんに、
例の転移魔法を付け加えることなんてできたりすんのかな・・・って思っただけなんだ
が・・・」
数秒おいて ----- 全員が全員、「あああああっ !! 」と同時に叫ぶ。
柊の言葉の意味を理解して、
「それですわっ !! それなら世界規模で、『エミュレイターと月匣を包む結界』なんて大掛
かりな代物、必要ありませんものっ !! 」
「見つけて、転移させるだけならば、転移先の『捕食結界』はひとつでいい、というわけ
でございますねっ !! さ、さすがです、柊様っ !! 」
「はわわわっ、ひーらぎ、ほんとにどうしちゃったのォッ !? 」
「・・・っ、ていうか、あんたホントに柊蓮司ッ !? 」
柊の言葉の補足やら、彼を褒め称える賛辞やら、はたまた心配する台詞やら。
「あー、あんまりお前らが世界規模でそんなことは不可能だー、なんて言ってるからさ。
不可能なんだったら、きっと出来ねーんだろうなぁ・・・って、よ。だったら、その結界と
やらはひとつしかねえって考えたらどうかな、ぐらいの気持ちだったんだが・・・おいっ !
なんで急に黙り込むんだよ、お前らっ ! その目はなんだっ !? あ、くれはっ、中腰で逃げ
る姿勢はよせっ ! ニセモンじゃねえってっ !! 」
結局、一番単純な頭をした男の、ひどく単純な考えが一番筋が通りそうな説明であ
る ---- ということで結論が落ち着いた。ただし、柊の説を正しいとしたとしても、やは
り問題の解決にはなっていない。
「コイズミ。対エミュレイター用索敵システムのヴァージョン・アップにはどれくらいの日数
がかかりますか ? 」
「精度、感度ともにランクをあげるだけでも最低三、四日は。システムそのものを改廃す
るのであれば、二週間は見ていただかなくては・・・」
影エリスの索敵をまず上回るだけでも、それだけの日数がかかるという。これ以上、
敵が力を増大させるのを黙って見ているわけにはいかないとはいう、それではやはり
後手に回る結果になりそうである。
ふたたび、長いシンキング・タイムが始まろうか、というところで ---- 。
「ふふん・・・ねえ、アンゼロット。なんのために私がここにいると思っているのかしら ? 」
得意げに言い放ったのは、他でもない大魔王ベール=ゼファーである。
「といいますと ? 」
「簡単なことよ。敵のやり方がわかったのなら、あとは敵の選択の幅を狭めてやるだけ
でいいんじゃない ? 」
くふふ、と愉しそうに笑いながら。
「ねえ、リオン。裏界中に布告して。いまから三日・・・いいえ、布告が解除されるまで、
ファー・ジ・アースへの侵略行為をストップするようにって。私と貴女の配下の魔王はも
ちろん、エミュレイターの一体一体にいたるまで、ね」
「そんなこと、できんのかよっ !? 」
柊が驚いて叫ぶ。
「ま、言うこと聞かないヤツは食べられちゃえばいいのよ。私たちの配下じゃない、他の
魔王たちがどう出るかはわからないけど、事情さえ飲み込めば余計なはかりごとを考え
るお邪魔虫が現れない限り、この布告はほぼ守られるわ・・・つまり ---- 」
「・・・なるほど・・・ “兵糧攻め” ・・・というわけですね、大魔王ベル」
リオンの言葉に頷いて。
「そうよ、リオン。エミュレイターを食べられなくなったシャドウは、絶対に引っかかるは
ずよ。しびれを切らした頃を見計らって、この私が月匣を展開する。きっと、食いついて
くるわ。そしてシャドウは後悔するの」
そこで一瞬言葉を切ると、
「裏界の大公を捕食しようとした、自分の愚かさをね !! 」
大魔王が、ついに攻め手に回ることを宣言した ---- !
たしかに、敵の先手を取ることが出来ない以上、攻勢に出るにはこれがもっとも効果
的な手段であろう。シャドウと接触することに成功しさえすれば、ベルの膨大な魔力で
結界を突破し、そこをロンギヌスが索敵システムで検知すればいい。座標軸が特定さ
れれば、アンゼロット宮殿から柊たちウィザードを転移魔法で送り込み、魔王・ウィザー
ド連合軍で、一息にかたをつける ---- 敵のやり方を逆手に取るわけだ。
「この私が囮みたいな役回りってのが気に入らないといえば気に入らないけど」
くすくす、と笑ってアンゼロットに、
「どうかしら、この作戦 ? 」
とベルが言う。しばし苦虫を噛み潰していたような顔をしていたが、とうとうアンゼロット
もそれしか早急に打てる手はないと判断したようで、
「・・・しかたありません。手段を選んでいられる場合じゃなさそうですからね」
作戦の有効性を認めざるを得なてようだった。
「それじゃ、作戦開始といきましょうか。細かい打ち合わせをしましょう、アンゼロット ?
いつまでもゲイザーの亡霊に振り回されているわけにはいかないもの、ね? 」
『シャドウ捕獲殲滅作戦』 ---- 開始である ---- !!
(続)
一気に投下されたな。
乙!
乙です。
ん?ベル様その作戦じゃ、ちょっと犯されちまうんじゃね?
GJです ><
ん? ベルが可愛いすぎね? もう、オレ落とし子やっちゃうよ?
朦朧とする意識。
靄がかかったかのように霞む視界。
「……あ、れ……?」
気だるい身体は、いくら力を入れても言う事を聞かず、首をめぐらせる事も、頭を
振って意識をはっきりさせる事もできず、ただ、雷火は眼前の黒をぼんやりと見つめた。
「えっと……」
はっきりとしない意識で考える。
一体自分は、今どこにいて、どういった状況にあるのかを。
「……それがしは……皆……探して……」
そう。異変の起きた学校に到着し、雷火は異変に巻き込まれたであろう先生や生徒、
級友達を探し、教室や職員室を走り回った。
だがそこには、本来賑やかに授業を行っているはずの生徒達は、次の授業に備えて
準備をしている先生達は、誰一人として存在しなかった。
残された、人のいる可能性のある唯一の空間。
体育館。
そう……彼女はそこに足を踏み入れて……そして――
「そこで……それがしは意識を……?」
――そこで、記憶は途切れている。
意識が朦朧としているから思い出せないのか、それともそこで意識を断たれたのか。
どちらかはわからないが、状況から考えて、体育館に何らかの、この異変を起こした
存在……恐らくは奈落がいたと考えて間違い無いだろうと、そう雷火は判断した。
「……まずい……」
だとすれば、この状況は……意識が朦朧とし、自らが置かれた状況を把握しきれない
この状況は、まずいというほかなかった。
こんな状況に追い込んだ相手が、そのまま雷火を捨て置くわけが無いのだから。
「おやおや……目を覚まされたのかしら? ……不思議だわ……」
そして、その懸案は次の瞬間には現実の物となる。
頭上から聞こえる、鈴の音のように流麗で、それでいてまるで刃物を喉元に
突きつけられたかのような寒気を覚える声。
その声に、雷火は聞き覚えがあった。
そう……それは、二度と聞くはずの無かった声。
「……劫火の……黒狐!?」
その衝撃に、雷火の意識の一部は急速に覚醒する。
動かぬ身体を何とか叱咤し、声のする方を見やると、そこには片目をその長い黒髪で
覆い隠した和装の女の姿。それは紛れもなく、あの時千景丸の弱さと共に滅んだ黒い狐、
その写し身の姿だった。
「劫火の黒狐……貴方が私の事をそう呼ばれるのでしたら、私はそう呼ばれる存在
なのでしょうね……ふふふ」
「……冥土から迷い出たのですか」
「私には落ちるべき冥土。あるのは孤独だけ。だから復讐させていただく事にしました」
「……復讐?」
理由のわからない微妙な違和感を覚えながら、雷火はその言葉を繰り返していた。
復讐という、聞き捨てならない言葉を。
「ええ。皆さんには眠ってもらいました。そして眠りの中で私と同じ孤独を味わいながら、
そうと気付かぬ甘美な夢を見て……ゆっくりと……ゆっくりと……ふふふ……」
覚醒した意識と女の言葉が、周囲の状況を報せる。
視界の端で、生徒達が、先生達が、そして級友が倒れているのを雷火は捉えた。
皆一様に青ざめた苦悶の表情を浮かべ、呼吸も弱々しい。生気そのものを奪われ、
命を保つ為に無理矢理眠っているようなものだ。影を奪われてこそいないようだが、
状況はより深刻であると言える。
そして、同時に雷火は自らが置かれた状況にも気付いた。黒い、ただひたすらに黒い
縛めが、自らの身体を捕らえていて、それが故に身動きが取れないのだという事に。
「……皆の生気を奪って……一体何のつもりですか」
「眠って頂いているだけです……永劫に続く眠りですけれど。私が味合わされた
それと同じ、ね。目覚めた時には全てを失って……ふふふ」
またしても、微妙な違和感を覚えながら、雷火は言う。
復讐……それはつまり、自らが倒された事に対する物であろうと考えながら。
「復讐ならば……それがしにだけ手をかければそれで済むはず。皆をこのような目に
遭わせる道理はどこにある?」
「ん……どうやら"私"には、貴方に対して"復讐"しなければならない理由が、何か
存在するようですね」
三度の違和感。
「何を言っている……?」
「それに……私の夢に抗う事ができるという事は……貴女もあの"狐"達と同じという事」
雷火には意味を図りかねる言葉を、独り、女は紡ぐ。そして――
「そうとわかれば……他の方々よりもずっと辛く……そして、甘い、甘い夢を……
貴方にはお見せする必要があるようですね!」
それまでの、殺気を感じさせながらどこかのんびりとしていた声が鋭さを増す。
「おやすみなさい……良い夢を」
その鋭い声に切り裂かれるように、雷火は再び意識を失った。
「ん……うぅ……」
気付けば、雷火は教室の入り口に立っていた。
「……え?」
まるで、その瞬間まで何か夢でも見ていたかのように、頭の芯にもやもやとした
何かが残っていた。だが、その感覚も、響くチャイムの音が消していく。
「あ……もう、予鈴が……」
何か考えなければならない事があったような、何かしなければならない事があった
ような……そんな小さな焦燥も、一瞬だけ浮かんですぐに消えていく。
――とにかく今は、朝のホームルームに備えなければ。
雷火は目の前の扉を開け、中へ入った。扉の先……教室の中には、当たり前の話だが、
級友達がいる。
級友……クラスメイト達を本当の意味でそう呼べるようになったのは、本当につい最近
になってからだと、雷火は思った。
それまでは、単に一緒に授業を受けるだけの存在だった。関りを持とうとも思わず、
皆が楽しそうに何かの雑談に興じている時も、別にどうと想う事もなく、次の授業の
準備をしていたりした。
曰く、そんな雷火を級友達は『近寄り難くて怖い』と思っていたそうだ。
だが、今ではもうそんな風には思っていないとも、級友達は言ってくれる。
「おはようございます、皆さん」
笑顔で挨拶をすれば、皆挨拶を返してくれる。
朝のホームルームまでの僅かな時間、授業の合い間の休み時間、給食を食べている間、
お腹いっぱいになった昼休み……様々な場所で、他愛の無い、だけれども楽しい話を
できるようになった。
それもこれも、全ては彼のお陰だ。
――だが。
『………………』
「……?」
挨拶に返ってきたのは、冷たい視線。
級友達が、皆一様に、笑顔を浮かべる雷火に冷たい視線を送っている。
「ど、どうされたのです……皆さん?」
「わたしが苦しい想いをしてるのに……服部さん、楽しそう」
クラスメイトの一人が口を開く。
「おれたち……もう、今にも死にそうなのに」
それに続くように、もう一人が……
「なんで、服部だけ平気なんだ……?」
「なんで? どうして?」
「ぼくらと同じ目に……あってよ!」
「そうだ! そうだ!」
……視線だけでなく、浴びせられるもまた、冷たい。
雷火は、戸惑う事しかできなかった。
「な……何を、言って……皆、いったい……?」
「おい、皆! やっちまおうぜ!」
その言葉が、合図だった。
「ちょっと……何を……きゃぁっ!?」
一斉に、クラスメイト達が飛び掛ってきて、雷火は瞬く間に床へと組み伏せられる。
「やめ……皆、やめてくださいっ」
振りほどこうとしたが、何故か力が入らず、両手両足を押さえつけられ、無理矢理
大の字にさせられる。
「……何故……っ!?」
どうしてクラスメイト達がこんな事をするのか。
何故自分がこんな事をされなければならないのか。
どうして振り払う事すらできないのか。
何故……どうして……何故……グルグルと、雷火の頭の中を疑問が巡る。
だが、それに答える者は、誰もいない。
「服部だけ楽しいのはずるいよな、皆!」
「おれだって楽しみたいよ」
「ぼくもぼくもー」
「わたしだって!」
皆の瞳に、おかしな色が宿る。
怒りでもない。哀しみでもない。妬みでも、寂しさでもない。
それは喜悦の色だった。その年頃の少年少女が浮かべるはずのない、淫らで、淫靡な、
性の悦びを求める、そんな色。
「……な、なにを……」
雷火の声が震える。
久方ぶりに覚えたその感情に、身体全体を走る震えを抑える事ができない。
忍びとしての座学で、"そういった事"に関する知識が、雷火にはあった。歳相応よりは
随分と進んだ知識が。
故に、彼女は恐怖した。知識としては知っている"そういった事"が、これから自らの
身体へと降りかかってくるのだから。それも、ようやく親しくなれた級友達の手によって、
何故そんな事をされるのかもわからないまま。
「やめ……て……やめてくださいっ」
自分の声がこんなにも弱々しいものだったかと、雷火は愕然とした。
当然、そんな弱々しい懇願を、情欲に狂った級友達が受け入れようはずもない。
いや……たとえそれがいつもの凛としたよく通る雷火の声であったとしても、
叶わなかっただろう。それほどまでに彼らは狂っていた。何が狂わせたのかはわからない。
だが、彼らが狂っているという現実は、目の前に厳然として存在している。
最早、この教室に入ってきた時に向けられた冷たい視線は誰も向けていない。
熱に浮かされた、熱い視線が、雷火の全身を四方から貫く。
「そんなこといってるけど……期待してるんでしょ、服部さんも」
「これから何されるか、ばっちりわかってるんだな……ひひひ」
「服部はマセてるな、あはははっ」
「いや……いやです……やめて……やめて……ひっ!」
笑いながら、級友達が雷火の身体に手を伸ばす。
太腿を撫でる手を感じ、雷火は身を固くした。
「すべすべしてる……気持ちいい」
「あー、いいなー。おれも触ろうっと」
「いっ……いやぁ……やめてくだ……さいっ」
懇願の声が空しく響く。
身体を固くしても力は入らないまま。雷火はされるがままに身を任せるしかなかった。
「くっ……なぜ……皆……」
自らの身体を這い回るおぞましい感覚。思考が乱され、考えが上手くまとめられない
まま、『何故』という疑問だけが脳裏を何度も往復する。
「なんでかって?」
「そんなの決まってるじゃん」
「あなたが望んだからよ、服部さん」
「……そ、それがしが……?」
級友達の声が、その『何故』に答えをもたらす。
自分が……雷火がそれを望んでいるから、という答えを。
「それがしは……それがしはこんな事、望んでは……」
「ウソね」
「正直になった方がいいよ、服部さん」
「素直になれよー」
「ウソでは……な……ひっ!?」
否定の言葉を遮るように、おぞましい感覚が次第に太腿から上へと移動してくる。
「おれこっちもさわろうっと」
「あ、ぼくもぼくもー」
「あ、やっ……! やめ……」
スカートをたくし上げられ、ショーツのすぐ近くを弄られる感覚。
それに思わず瞳をつむると、今度は上半身に同じような感覚が生じる。
「やめて……やめてくださいっ!」
小さな、まだ丘と呼べるほどには盛り上がっていない胸を、級友達の手が弄んでいる。
シャツの上からではあったが、雷火はその状況に今までに無い程の危機感を覚え、
思わず叫んでいた。
「なんでやめてほしいの? 服部がしてほしいからしてるのに」
「そ、それがしはそんなっ……!」
「皆と一緒になりたいんでしょう?」
「……え……」
「皆とちがうのはイヤなんでしょう?」
「同じじゃないとイヤなんだよね?」
「自分だけちがうのはイヤなんだろ?」
「………………」
――皆と、同じ?
「そう、皆と同じ」
「……おな、じ……」
「受け入れればいいんだよ、服部さん。ぼく達と一緒に気持ちよくなろう」
「わたし達と一緒に気持ちよくなりましょう」
「おれ達と一緒に気持ちよくなろうぜ」
――そうか……受け入れれば、それがしは、皆と、同じになれるのか。
雷火の心に浮かぶ、二つの想い。
それは、大きな羨望と、小さな嫉妬。
「わたし達みたいになりたい……その、あなた自身も気付いていなかった想いは、
今、ここで……叶う」
「君が、この気持ちよさを受け入れれば、それで叶うんだよ、服部さん」
「おれ達と一緒に……おれ達を受け入れてくれよ、服部」
「受け入れ……たら……気持ちよく……なったら……」
――そうすれば、それがしは……いつまでも、彼と一緒にいられるのだろうか?
そう考えた瞬間、
「……ふぁっ!?」
身体を這い回る感触が、一変した。
それまでのおぞましいものから、心地よい、むず痒さを覚える物に。
知らずあがった声は、雷火自身驚く程に、艶を含んでいた。
「あっ……へ、へんな感じがして……きまし……た」
「いいぞ。そのまま、その感じを受け入れて」
「受け入れ……んぁっ!」
誰かに肌を触られるという事が、これ程までに心地の良いものだったのかと、
雷火はその感触に驚き、鼻にかかった声を漏らしていた。
「まだ直接ふれてもいないのに、そんなに感じててだいじょうぶ?」
「感じる……?」
知識にはある。男女を問わず、人は他人と肌を触れさせる事で、性的な快楽を感じる
のだという知識は、ある。
――それがしの感じているこれが……そうなのか?
知識はあれど、それを活用した事が無い雷火にとって、今味わっている感覚が快楽
なのかそうでないのかは、判別のつかないものだった。
故に……彼女はそれに溺れ始めていた。
「じゃあ、直接触ってあげるね」
「おれおれ、おれ一番乗り!」
「あ、ずるいぞー」
「まあまあ。皆で服部さんを気持ちよくしてあげましょう」
「あ……あ……」
一枚、また一枚と、雷火の肌を覆う衣服が、脱がされていく。
「……んっ」
キャミソールとショーツ。上と下、それぞれ最後の一枚となった所で、雷火は無意識に
脱がされまいと身体をよじらせた。
蕩けつつある頭の中で、最後に残った何か――それは忍びとしての直感か、あるいは
女としての本能か――が、このままでは不味いと警鐘を鳴らしている。
「どうして逃げるの、服部さん?」
「ちゃんと受け入れないと駄目だよ」
「怖がらなくても大丈夫……さあ、皆で一つに……」
「……あ、う……」
皆は、笑顔を浮かべ口々に言う。
だがしかし、最後に残った何かを、雷火は捨てさる事が出来なかった。
それを捨てる事が出来なかった理由は……そこに、彼がいなかったからだ。
「……」
雷火は、辺りを見回した。
そこには皆がいる。笑顔で、とても幸せそうに、その幸せを雷火にも分け与えんと
構えている、皆がいる。
だが……その中に、一人だけ、皆がいるのならそこにいて当然なはずの、彼の姿が
見えなかった。皆の中心にいて、皆と自分の橋となってくれて、戦いながらでも、
日常の中に身を置く事はできるのだと、そう教えてくれた彼の姿が。
彼がいないのに、皆と……普通の人と同じになって、何の意味がある?
それに……彼の為にこそ、自分は日常を守ると決意したのではなかったか。
白い暗闇に覆われつつあった雷火の中に、誓いという名の一条の光が差す。
その光は、かすみに覆われようとしていた雷火の心を導く、灯火となる。
「……仮に、共にいられない時が訪れるのだとしても……」
蕩けかけていた頭が、次第にはっきりしてくる。
「それでも……それがしは、戦う」
――そうだ。それがしは……その為にこそ日常と絆を結ぶのだから。
「へ? 何言ってんの、服部」
「戦わなくてもいいのよ。わたし達と同じに……普通になってしまえば」
「だから、一緒に気持ちよくなろうよ、服部さん?」
もう、雷火は迷わなかった。
再び霞みをかけようとしてくる言葉を振り払い、彼女はそれを口にした。
このまやかしを打ち破る、鍵となる言葉を。
「武田、正一」
「へ?」
「……武田殿は、どこにいるのですか」
「武田……?」
「武田は……どこ行ったっけ?」
「……さあ?」
いるべきはずの彼がいない。
それが意味する所はただ一つ。これが、"現実ではない"という事!
雷火は、大きく息を吸って、彼の名を叫んだ。自らの身に何かがあったら自分を呼んで
くれという、彼の言葉そのままに。
「武田殿!」
繰り返し、
「武田殿っ!」
繰り返し、
「武田殿ぉっ!」
彼の名を呼ぶ度に、自分の身体に力が戻ってくるのを感じながら。
「………………」
「………………」
「………………」
その様を、険しい表情を浮かべ、級友達が……いや、級友達の姿をしたまやかしが
見つめている。だが、その視線に、薄布一枚の姿を晒しても、雷火の心は最早挫ける事も、
惑わされる事も無かった。
「武田殿……正一殿ぉぉっっ!!」
あらん限りの力を込めた叫び。
その瞬間、世界が、ガラスの割れるような音をたてて、壊れた。
「………………」
雷火を見つめていた数多の険しい視線は、一つを残し消え去った。
級友達の姿も、学校の教室すらも、消え去った。
雷火の視界の中には、一人の女と、青ざめた顔で意識を失っている無数の人が映る。
「……黒、狐」
先ほどまでの光景が、全て黒狐の……女の仕掛けたまやかしであった事を、改めて
雷火は悟った。不敵な笑みを浮かべ、女の姿を見やる。
「まやかしで、それがしの心を捕えようとしたようですが……無駄でしたね」
「……ふん。……ふふっ」
一瞬憮然とした表情を浮かべた女だったが、すぐに気を取り直したように笑う。
「無駄なのは、あなたの抵抗の方ではないでしょうか? あのまま、夢の中で快楽に
身を任せていれば、乱暴に扱われる痛みも、破瓜の痛みすらも快感へとすり替え、
無上の悦びを永遠に感じる事ができたと言うのに……」
「それがし……諦めの悪い方なので」
雷火も、その事には気付いていた。いまだ彼女の身体は黒い影によって拘束され、
身動き一つとる事ができない。そして、夢の中……まやかしの中と同じく、いつの間にか
薄布一枚にまで衣服を剥がれている。まやかしの中と同じような事を、現実でもする
つもりだったのだろう。
このままでは不味いと思いながらも、雷火は不敵な笑みを浮かべ続けた。
相手の焦燥を誘うくらいしか、現状を打開する手段は思いつかなかった。
「……貴方は自らの諦めの悪さを恨む事になるでしょう……ふふふっ」
女が笑みを漏らすと同時に、黒い影が蠢き始めた。
「くっ……」
衣の裂ける音がして、最後に残った薄布が剥ぎ取られる。
まだ僅かでしかない膨らみと、一筋の線のような無毛の秘所が空気に触れる感触に、
雷火は思わず顔をしかめた。
「あら、可愛らしい……ふふふっ」
「ぬぅ……」
嘲りに対する羞恥と怒りで、雷火の頬は赤く染まる。
その姿に、女は暗い悦びを湛えた視線を注ぐ。
「蒼い果実を手折る快感……たまりませぬわ」
「……っぅ」
黒い影が、雷火の肌を這う。
まやかしの中で僅かに覚えていた快感は消え去り、おぞましさに背筋が震えた。
「……っ、ぅ……くぅ……」
何とか、事態を打開する方法を……そう思いながらも、その切っ掛けすらも雷火は
つかめないでいた。焦燥を誘おうと強がってはみたものの、逆にこちらばかりが
焦燥を誘われ、相手は余裕綽綽だ。
――何か、何か……何か無いか!?
「っぁ!?」
肌を這う黒い影が、薄っすらと膨らんだ胸の頂点に吸い付く。
「ぅく……うぅ……」
強く吸い上げられ、まだ未発達の身体に強い痛みが走る。
まやかしの中では快楽に蕩けさせられていた頭が、その思考が、現実では感じた事の
無い類いの痛みによって散漫にさせられる。
「……好きな人に捧げるはずの処女を、こんな歳で、こんな所で、こんな形で……
失う事になるなんて……哀れです事……ふふふっ」
「ひっ!?」
下半身をまさぐっていた黒い影が、秘所へと辿り着く。
雷火は身を固め、膝を閉じて妨げようとしたが、身体を抑える黒い影が無理矢理雷火の
身体を開き、秘所を隠させようとしない。
「いや……いやぁ……」
どうすれば現状を打開できるか。
最早そんなことを考えている余裕は、露ほども残っていなかった。
「では……貫通式を行いましょうか」
このままでは、こんな形で処女を失う事になってしまう。
それだけは、女としても、服部雷火個人としても、どうしても……嫌だった。
「せめて、好きな人の顔でも思い浮かべておきなさい……そうすれば、もう一度夢に
落としてさしあげますわ」
――好きな人……。
雷火の脳裏に、一人の少年が浮かぶ。
自らと日常を繋ぐ橋となってくれた彼。
まやかしを打ち破る力をくれた彼。
自分のことを――大事だと言ってくれた、彼。
「正一殿ぉぉぉぉぉっっっっ!!!!」
再び、まやかしの中でそうしたように、雷火は叫んだ。彼の名を。
自らの身に何かがあったら自分を呼んでくれという、彼の言葉そのままに。
彼の名を叫んで……彼の名を呼んでどうにかなるかどうかなんて、わからなかった。
だが、それでも……最後の最後の光が、雷火にとっては彼の名前だった。
果たして――
「服部ぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
光は、現れた。体育館の扉を蹴り開けて。
ここまで投下です。
>401
乙。
素晴らしいタイミングで出やがってコンチクショー!
キタ━━━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)人(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━━━!!!!
GJ!
武田少年、なんという漢…
女の子が放ってはおかない好少年だ……
GJでござる。倍化の法に期待するでござる。
>>389 >>余計なはかりごとを考えるお邪魔虫
パールちゃん様のことかー!
ボクのチンコが、ちゃん様の謀のせいで侵略されそうです><
武田少年GJすぐる……だが、だが快楽堕ちも見たかったっ!!
ついに名前呼びまでいったー!
雷火と正一の中学校生活も見てみたい…
本スレで面子まで出てるしカラー口絵でわかる程度の情報だから言わせて貰うぜ
アリアンサガリプのベネットのクラス見て真っ先に“犬コロストリッパー”と浮かびましたどうしたらいいですかわかりまs
すまん、マジすまんかった
(馬鹿は全裸待機を開始した後、なんともいえない表情でクロスボーンガンダム鋼鉄の七人をそっと本棚にしまった)
>401
おっしゃ待ってた。GJだ。
ここにきて一段と雷火が可愛いな、しかし。
>408
そこは同意せざるを得ない(ぇ
>>411 同士よ!!(待て
あれだ、今まで子供に責められる大人シチュが好きだったんだが、同年代に集団で襲われる子供シチュもいいもんだな!
なんか妙に無邪気な「僕いっちばーん」とか無邪気なくせにエロ……無邪気なくせにリンカーン……くぁ、いいっ!
残る問題は、武田少年が性的な意味でも男前かどうかということだな。
武田少年、いいタイミングだ! 少年誌的な意味合いでは!
青年誌的タイミングだともっとよかったな!
さすがに成人誌的タイミングとはイワンが!
>>413 これからお互いに鍛練を重ねるに決まってるだろう!
きちんと避妊もしてな!!
>>410 さっき買ってきて口絵を確かめたぜ、あんたのいうとおりだった。
まったく 性的 だ !
「さあ、あたしを縛ってくださいっ」は反則だと思った。
ピィたんは絶対ステラ姉に手ぇ出されてるよね!よね!
そしてステラ姉はしゃちょーに問題出されて悩んでいるうちに色々性的に仕込まれたんですね、わかります!
いや性的にしこまれたのは、ヤンヤンだ
やめてーヤンヤン!らめぇー
「そんなこといいながら…ここは、いやがってませんぞ」
>>420 文脈上正しい解釈だとこうなる気が……
「くぅ……頼む、ピアニィっ!もう、限界っ―――くああああぁぁぁっ!?」
「ふふふ……ヤンヤンってばもうおしまい?まだまだいっぱいやりたいことあるのになぁ(笑顔)」
「……後生、だ。もう、解放、してくれ」
剣神最終巻読了〜。色々やりすぎだw
此処向けのネタとしてはやはり沙織×凪とか明日香×かえでとかだろうかー?
つむじ姉ちゃんだけカップリングが無いのはちと可哀相な気もしたけどなー。
…ポッキー?ダレデスカソレハ?
>>422 ナニもポッキーサイズで、バナナ好きのかえでに捨てられたんですね。
わかります。
悪魔化したら極太バナナになる
けどアフロ
そんで悩む楓
そんな電波が
剣神読んだ
期待してたほのぼのした日常部分が詰め込みすぎで単なるフラグ立てになってたのが残念(涙)
4巻終了時点でのネタ考える作業に戻ります
ポッキー×楓とか需要あるんだろうか、みんなネタで言ってるだけの気がするw
>>425 ノシ
いや…しかし2巻の連れ去られてワゴンに押し込まれた楓も捨てがたい…
あの時、楓が悪魔犬に犯られた妄想をしてハァハァしてたのは俺だけじゃないはず!
ああ、あの縛られてバナナで犬で涙目な2巻ですね! わかります!
ああ、あの楓が頬を染めて見得をはったポーズで「いまこそみせます乙女の神秘!」と煽られる2巻ですね! わかります!
ポチ×かえで・・・と想像した俺は異端ですかそうですか。
>>430 触手ネタかっ!?…いや冗談だけど。
かえでに相手にされない(というかてきとーにあしらわれる)ポッキーに
ついつい手を出しちゃったつむじ姉ちゃんというのありかなーなしかなー?
あるよ!
カオスフレア2ndの新たな敵テオスはクローン軍団を作っていると聞き
信長やいるるん、エニアのコピーを好き放題に出来ると考えたが
別に今までと変わらなかったぜ
>>434 信長、いるるん、エニアが同盟でゆりんゆりんなネタしか思いつかんぜ
故あって全裸待機でゴザル
予想が外れたら自家発電するでヤンス
建造物も、草木の一本すらも存在しない広大な大地。
見渡す限りの地平はどこまでも黒く、閑散としている。
辺り一面の足元を覆うのは、荒れ果てた土でも、人工的なコンクリートでもなくただの
影。いや、影そのものを濃縮し、溶解し、煮固めたような歪な大地である。それは時折、
まるで意志や生命を持つかのごとくわずかに波打ち、また心臓が鼓動を刻むかのように
蠢動を繰り返す。
喩えるなら、黒い泥で埋め尽くされた無人の荒野。
いや ---- ただひとつ人影が、あった。
闇色の土に膝まで埋まり、直立する人影は、その双眸を静かに閉じている。
白いブレザー。黄色いシャツ。頭に載せた白い帽子には、四葉のクローバーを象った
ワンポイントのアクセサリー。海の色を思わせる青い髪には、両サイドに大きな水色の
リボンがあしらわれたカチューシャ。鮮やかな色の装いに反して、ただ肌の色だけが、
褐色である。
影エリス ---- あるいは、シャドウ。
ここはいずこか、はたまたいまはいつなのか。空間と時空を歪めて創生された、彼女
特有の “捕食結界” にあっては、そのいずれもが無意味である。結界を形作る暗黒の
大地に立ち尽くし、影エリスはその瞳を見開いた。
青い瞳の奥に揺らめくのは渇望の炎。なにかを求め、求めたものを得てもまだ満たさ
れることのない、飢餓の苛立ち。仄暗い情念の揺らめきは、ここ数日の『狩り』の成果
が満足のいかないものであることを如実に物語っている。
百体目の魔王 ---- 伯爵クラスだった ---- を取り込んでから、ぷっつりとエミュレイ
ターの捕獲が困難になった。ときおり、彼女の網にかかるものがいるかと思えば、それ
は彼女の言葉も解せぬような低級の小物ばかり。いってみれば、なんの “腹の足し”
にもならない屑みたいな連中であった。
彼女が目指す高みは目前である。
分かるのだ。自分の器がもうすぐ満たされようとしていることが。それなのにここへき
て、その「あと数歩」が歩み出せない。歩みを、止められてしまっている。
ゆえに、苛立つ。
苛立ちは彼女の足元の大地にも伝わるのか、瞳が焦燥と怒りのために色を変えるた
び、ぐらぐらと煮え立つようにグロテスクな歪みを産み出す。
「・・・あともう少しなのに・・・こんなことじゃ、またおじさまに見捨てられちゃう・・・」
結界内の瘴気を揺らめかせる悲しげな呟き。その声は母親を恋う幼子のように純粋
で、彼女が魔王やエミュレイターを喰らうものだなどとは、とても信じられない無垢な嘆
きに満ち満ちていた。
「おじさま -------- 」
薄暮に染まった虚空を見上げ、影エリスが、愛しいものの名を呼んだ ---- 。
※
一週間前に、『シャドウ捕獲殲滅作戦』の概要が主要メンバーの間で話し合われ、赤
羽神社での待機をアンゼロットに申し付けられたエリスは、決して護られることに甘んじ
ていたわけではない。むしろ、この一週間というもの、馬車馬のように働いたといってい
い。即席の作戦会議が終了し、一同が解散した後で、
「あの、アンゼロットさんっ」
席を立って宮殿へ帰還しようとするアンゼロットを呼び止めたエリスは、ひとつの決意
を胸に秘めていた。
「なんです、エリスさん ? なにか不明な点でもありましたか ? 」
エリスの呼びとめに振り返ったアンゼロットは、自分を見つめる彼女の力強い視線に、
なにかただならぬ覚悟を感じ取ったようで、すぐさま表情を強張らせた。
「エリスさん。貴女のお気持ちは、わずかですがわたくしにも分かります。貴女が仰った、
自分も戦うという言葉・・・それをないがしろにするつもりはありませんが、いまの貴女
ができることは ---- 」
ウィザードとしての力を持たないエリスには、なにもすることはないのである。
はっきりとそう申し渡すのがはばかられ、アンゼロットは口をつぐんだ。どうか、わたく
しの言いたいことを汲んで欲しい、と無言のアピールである。
「はい、分かってますっ。私、戦うなんて言いましたけど、本当に戦うことはできないと
思いますっ。みなさんの言うように、きっといまの私には器としての資質がまだ残って
いるだけで、魔法も使えないし、柊先輩みたいに武器を取ることもできませんっ」
「・・・・・・分かっているのなら、エリスさん ---- 」
「だけどっ、なにもできることがないからってなにもしないのは嫌ですっ !! 」
きっぱり、はっきり、とても力強く、聞くものが聞けば呆れる他はない大胆な宣言をす
るエリスであった。事実、アンゼロットが目をぱちくりさせ、次いで口をぽかんと開け、し
ばらくしてから深い深い溜息をつき、額に手を当てながらやれやれと首を振ったくらい
なのである。
「矛盾したことを仰いますね、エリスさん・・・戦う術がないのは分かっているけど、戦え
ないのは嫌だなんて、わたくしにどうしろと・・・いえ、貴女はなにをどうしたいと仰るんで
すか・・・ ? 」
無茶なことを言って駄々をこねるのはやめて欲しい、とでも言いたげなアンゼロットに、
きらきらと輝く青い瞳を無心に向けながら、エリスが言う。
「私は、戦うことはできませんけど、だからって “私ができること” までやめたくないんで
すっ。だから、私のできることをするために、アンゼロットさんにお願いがありますっ」
ずずずいっ。
アンゼロットの手を両手で包みこむように握り締め、ぶつかるほどの勢いでエリスが
迫る。目は真剣そのもの。自分の願いをアンゼロットが聞いてくれることを期待して、
根拠もなく生き生きとしている。
「なん、なん、なんですかっ」
両手を取られて半ば身動きを封じられた形のアンゼロットは、後に、「あの時はエリス
さんに押し倒されるかと思いました」と述懐する。冗談交じりではあるだろうが、とにかく
このときのエリスには、アンゼロットの心胆寒からしめる勢いがあったのだ。
「私のお願いというのは ---- 」
エリスの言葉を聞くうちに、引きつっていたアンゼロットの顔がふたたび呆れたものに
なり、そして次第に笑顔へと変わっていった。そして、息を止めながら返事を待つエリス
の手を親しげに握り返すと、
「それくらいお安い御用ですわ。どうぞ、存分に腕を振るってくださいな、エリスさん」
エリスの “お願い” を二つ返事で快諾したのであった ---- 。
※
赤羽神社の境内に配備されたロンギヌス警備隊は、アンゼロットの命により特別に
腕前を見込まれたものたちが選抜され、魔王級との交戦経験を持つ三十人ほどで組
織された。当初、エリスの警護に回っていた百名と入れ替えられた、文字通りの精鋭
部隊である。ロンギヌス・コイズミが臨時の警備隊隊長に就任し、二十四時間態勢の
警護を行う。そして、警備隊の切り札として特に外部のウィザード ---- 絶滅社から、
緋室灯が参陣し、さっそく作戦会議の翌日から、エリスと寝食を共にする警護態勢が
完成したのである。
そして、警護隊の常に中心にはエリスの姿があり ----
彼女は、アンゼロットに手筈を整えてもらって用意した己の武器を、この一週間縦横
無尽に振るい続けていた。
それは、エリス自身の ---- エリスにしかできない “戦い” だった。
※
「みなさーん、ちょっと休憩入れませんかー ? 」
夏の陽光を浴びて陽炎が立ち昇る神社の境内。その熱気を払拭するように、エリス
の声が涼しげに響き渡る。ロンギヌスの女性隊員が扮していた “百人巫女軍団” はと
うに撤退し、ロンギヌスの中でも精鋭中の精鋭たち三十人が常駐する赤羽神社は、い
まや物々しい厳戒態勢を敷かれているはずであった。
そこへエリスの声がかかると、張り詰めていた空気が一瞬和やかなものになり、ぞろ
ぞろと仮面の男たちが集まってくる。
神社の境内や裏庭、はたまた母屋の一角から姿を現し、一斉に集まってきたロンギ
ヌスたちを待つエリスの表情はにこやかである。縁側に降り立ったエリスの側には折り
畳み式のテーブルがあり、その上に大きな白いキッチンクロスを被せられたお皿が何
十枚も所狭しと並べられていた。テーブル中央には寸胴鍋 ---- 家庭で扱うような代
物ではなく、おそらくは業務用 ---- が、どしんと二つ。エリスはにこにこと笑いながら
手におたまを持ち、
「ちょっと簡単ですけど、お昼にしましょう。おかわりもたくさんありますから」
そう言いつつ、鍋の蓋をもう開け始めていた。
見れば、エリスの姿は輝明学園の制服の上から割烹着を着込み、頭には三角巾を
被った給食当番スタイル。人数分のお椀に次々と、おたまで鍋からよそっているのは、
白い湯気の立ったけんちん汁のようだった。ごぼう、人参、里芋、と野菜たっぷりの、
エリス特製である。母屋からいそいそとロンギヌス・コイズミが現れ、手に持ったトレイ
をテーブルへ置いた。これまた人数分のコップと、烏龍茶の特大ペットボトルが二本。
三十人分のコップに手際よく烏龍茶を注ぎ入れる姿が無駄に優雅であるのは、普段
からアンゼロットの給仕役を仰せつかっているせいかもしれない。
いまのコイズミは、警備隊長でもなんでもなく、給食当番エリスのお手伝いに過ぎな
かった。テーブル周辺に集まって並んだ最初のロンギヌスに、熱々のお椀を手渡すと、
「あ、そちらにおむすびもありますからどうぞ。すいませんが、キッチンクロスを外して
もらえますか ? 」
エリスが言う。王から賜り物を下賜される臣下もかくや、というほどのうやうやしさで
けんちん入りのお椀を受け取るロンギヌス。言われたとおりにテーブル上のクロスをめ
くると、たしかにそこには何十個ものおむすびが整然とお皿に並んでいる。
「熱いですから気をつけてくださいね・・・あ・・・この炎天下でけんちん汁なんて、おかし
かったでしょうか・・・・・・ ? 」
初めてそのことに気がついたように、エリスが表情を曇らせた。
「いえ、我々には月衣がありますので外気の寒暖など気になりません。ですからむしろ
こういう “普通の” 食事がとても有難いのです」
コイズミが、エリスを安心させるようにそう言った。よかった、と胸を撫で下ろし、俄然
張り切っておたまを手にするエリス。待ち遠しそうに自分の順番が回ってくるのを、ロン
ギヌスたちがそわそわと待ってくれているのも、なんだかとても嬉しい。
全員にけんちん汁が行き渡ったところで、コイズミと自分の食事する分も用意する。
「それじゃ・・・いただきます」
エリスが言う後に続いて、コイズミを筆頭に三十人の仮面の男たちが「いただきます」
を一斉に唱和する光景が、なんとなくシュールであった。食前の挨拶が終われば、後は
バイキング形式となるのが慣例である。みな、思い思いにおむすびを頬張り、けんちん
汁を勝手におかわりし、コップに飲み物を注いでいくのだった。
「あ、灯ちゃんもこっちにきてお昼にしよ ? 」
エリスが、境内のご神木の陰から現れた人影に真っ先に気づいて、声をかける。
たなびく髪は長く、赤く。瞳の色も朱の色彩。
輝明学園の制服に身を包んだ少女は、その脇に己の箒 ---- ガンナーズブルーム
を油断なく構えたまま、ただ真っ直ぐにエリスを見つめ、脇目も振らずに歩いてくる。
測ったように均等な歩幅で、規則正しく交差する二本の長い脚。
目的まで最短距離を最速で歩む姿は、まるで人ではなく機械のよう。
ざざ、ざざ、と直進してくる赤い髪の少女は、エリスの一歩手前でぴたりと立ち止まる
と --------
「・・・・・・・・けんちん・・・・大盛り・・・・」
抑揚のない声でそんな催促をした。
緋室灯。
絶滅社の誇る、最強クラスの強化人間。かつての宝玉戦争にも深く関わった歴戦の
ウィザードにしてエリスの級友。そして、彼女の大の親友でもある。笑いながら灯のた
めのお椀にたっぷりと具を盛り、エリスが「はい」と差し出すと、灯は無言でそれを受け
取った。手始めに、星型に型抜きされた人参を口にいれると、
「・・・・・・うん」
おそらくは彼女と付き合いの長いものにしか分からない、満足の微笑を浮かべる。
それからは、とにかく規則的な動作とスピードで箸を動かし、咀嚼を開始する。以外
と、健啖家なのであった。
「それにしても ---- 」
コイズミが感慨深げに呟いた。
「これだけの調理器具や食材を見事に使いこなされるのですね。私、エリス様の技量
には毎度のことながら感服いたします」
ぐるり、と境内を見回すコイズミ。
エリスや灯、それに自分が率いる警備隊も含めて実に三十人分以上の食事を賄う
というのは、口で言うほど容易いことではあるまい。
「・・・そんなことないですよ。私、皆さんと違ってこんなことしかできませんから。せめて
自分にできることで少しでも皆さんの疲れが癒せたら・・・って、そう思ってるだけです」
コイズミの賛辞に、頬を赤らめてエリスが言う。
エリスができること。エリスの武器、そしてエリスの戦い。
それが、これなのだ。
アンゼロットに頼んで用意してもらったものは、大人数用の調理器具、食器や食材、
その他諸々。長期的な警護という緊張の中で、もし自分がこの戦いに参加できるとし
たら、前線で戦ってくれる人たちに安らげる時間と場所を提供することでしかない、と
彼女は結論したのである。
部下たちの任務のスムーズな遂行のためなら、アンゼロットの言う通り、「それくらい
お安い御用ですわ」であり、エリスがこの戦いに自分なりの参戦をしたいという想いに
応えるならば、それを叶えてやろうとアンゼロットも思ったのだろう。だからこそ、「存分
に腕を振るってくださいな」と激励もできたのである。
自分になにができるのか。この戦いのためにどんなことで役に立てるのか ---- 。
あの作戦会議のときから、エリスはこのことだけを必死で考えていたのである。
エリスが自分の考えを告げ、アンゼロットがそれを快諾した後で、いかにも感慨深げ
にアンゼロットが言ったものだった。
「本当に・・・今さらですけど、惜しいことをしました」
「え ? 」
「エリスさんが、ウィザードとしての力を失ったことが、ですよ。貴女のような、人のため
になにができるのかをいつも考え、人のためにできることを進んで行うことができて、
そんな人にこそ、この世界を護る力があって欲しい・・・わたくしはそう思います。エリス
さんが、あの戦いの後もウィザードであり続けていたとしたら・・・ロンギヌスにスカウト
して、わたくしの側に置いていたかもしれません」
それはとても冗談めかした口調であったが、半ばアンゼロットの本心だったかもしれ
なかった。ともあれ、それが彼女の最大級の賛辞であることだけは間違いはない。
「私も残念です。もしそうなら、いつでも美味しいお紅茶、頂けたのに」
エリスも、彼女にしては珍しく、冗談でそう答えたものだった。
ともあれエリスの望みは叶えられ、彼女が望むときに望むだけ、コイズミを介して欲し
い器具や食材を届けてもらえることになったのである。
こうして、警護開始エリスの奮闘が始まった。
人数が人数だけにあまり芸の細かいことはできないにせよ、毎日三食の食事はエリ
スの手で賄われ、時にはおやつ、時にはお茶を出す。交代で寝ずの番を行う隊員には、
簡単な夜食の差し入れまで行っていた。
少し考えてみれば、それがどれだけ大変なことかはすぐに分かるであろう。
三十人分以上の食事を三食(夜食も含めれば四食)、毎日用意する。食事と食事の
合間には、小休止用のお茶やお茶菓子をみんなに配る。おまけに食事の後片付けま
で一手に引き受けているのだから、いまのエリスは決して誇張ではなく、赤羽家の台
所からほとんど離れることはなかった。
コイズミを始めとする隊員たちも、気を使って手伝いを申し出るのだが、
「みなさんはみなさんのお仕事があるんですから、私のことでこれ以上お手を煩わせる
ことはできませんよ」
エリスは決まって、そう言うのだった。
アンゼロットがそれを見越してエリスの願いを快諾したかどうかは定かではないが、
結果としてロンギヌスたちの士気はやたらと高まっている。エリスに淡い恋心を抱くコ
イズミは、エリスの優しさや健気さ、はたまた気配りや料理の腕前に改めて彼女に惚
れ直し、エリスのことを「宝玉戦争の中心人物」だったとしてしか知らなかった他の隊
員たちも、コイズミ同様に彼女を護るモチベーションを上げに上げている。
知らず知らずのうちに、エリスは自分を命がけで守護するナイトを、一度に三十人も
獲得したというわけだ。柊とは別の意味で、異性に対して罪作りな少女である、と言え
ようか。事実、隊員たちのエリスを見守る視線には、護衛対象への義務感よりも、もっ
と深い庇護欲のような温かみが窺える。
「エリス・・・ごちそうさま」
誰よりも遅く食事にありついた割には、誰よりも早く食べ終えて灯が言う。綺麗に中
身を平らげて空になったお椀に箸を乗せて運び、簡易テーブルの上にそれを置いた。
「おそまつさまでした」
エリスが微笑みながらそれに応じると、灯が無言で頷きながら居間の縁側に腰をか
ける。傍らにガンナーズブルームを立て掛け両腕で抱え込むと、空を向いた銃口が陽
光に煌いて、鈍く光た。ただでさえ無口な灯は、赤羽神社に着任し、エリスの護衛を開
始したときから、常よりもさらに寡黙さを増している。
アンゼロットからの要請を受けた灯は、今回の陰謀のあらましを当然聞かされていた。
魔王すら喰らい己が力とする、もう一人の黒いエリス。
かのゲイザーと同じ意志を持ち、世界に滅びをもたらすもの。
言うまでもなくその存在は、未曾有の危機を孕んでいるに違いない。
かつての戦いに想いを馳せてか、その表情は普段よりもずっと固いものである。その
変化は、付き合いの長いものや、エリスのように灯と心を通わせた友でなければ気づ
かないほどの微々たるものであった。エリスはそれと瞬時に悟ったのか、
「ね、灯ちゃん。隣、いい ? 」
少しためらいつつも縁側に歩み寄ると、灯の横に腰を下ろす。もしものときのために、
灯が構えたガンナーズブルームのあるほうとは反対側に座ると、
「・・・ごめんね」
なにに対してなのかよくわからなかったが、エリスの口を謝罪の言葉がついて出た。
自分を護衛をさせていることについて。自分がこの戦いには直接貢献できないこと
について。それとも ----
「・・・エリスは頑張ってる。たぶん、私たちと同じか、それ以上」
灯の心をエリスが感じ取るなら、灯もまたエリスの心の機微を感じ取れる。
エリスの内心にくすぶる想いの正体には気づけなくても、彼女がいま、とても苦しんで
いることはすぐに知れる。たぶん、それは “罪の意識” に似ていた。
かつて自分が世界を滅ぼすための道具として産み出され、造られたこと。
あのときの罪の意識が、エリスの心にかすかな影をいまだに落としているのだろうか。
自分と同様にゲイザー=キリヒトに造られたのであろう黒いエリス。敵であり、世界を
滅ぼす存在でありながらも、エリスはどうしてもあの褐色の肌の少女を積極的に敵だ
と認めることができないでいる。
だって、あの娘は私と同じだから。
同じ存在に同じような目的で産み出され、世界を滅ぼすための力や素質を付与され
たもの。私とあの娘の違いは、世界を愛しているか、抹消の対象として見ているかの
違いと ---- そう、肌の色だけ。
胸中の複雑な想いを、エリスは無理矢理心の奥底に閉じ込めているだけだった。
灯が、ガンナーズブルームを抱えた両腕の片方をほどく。自由になった腕が、傍らの
エリスの小さな肩を抱きしめた。
「灯ちゃん・・・」
雛を護る親鳥の翼のように、大らかに抱きしめる腕。灯の手が、エリスの青い髪を撫
でるように優しく動き続けている。
「あのときのことを思い出しているなら・・・気持ちをしっかり持って・・・大丈夫・・・あの
ときと同じ状況なら・・・結末も同じように、すべて上手くいく・・・いいえ、いかせてみせ
るから・・・」
とても静かで、しかしこれ以上ないくらい力強い、確約の言葉。
灯の腕の中でぴくりとエリスが震える。戦う人の癒しになりたい、と始めたエリス自身
の戦いのはずなのに ---- いつしか私のほうが支えられるほうになっちゃってるなあ、
と。うっすらと瞳に涙が浮かぶ。涙は、己の不甲斐なさを悔いる気持ちの証。しかし、そ
れよりも灯の気遣いが嬉しくて ---- 自分のために戦ってくれる人たちがいるというこ
とが嬉しくて、浮かべた涙であった。
「うん・・・ありがと・・・」
灯に身を預けるようにして、エリスが小さく呟いた。
その様を、わずかに離れて微笑ましく見つめていたロンギヌス・コイズミが、輝く空を
ふと見上げる。
時間は昼食時。
作戦決行は本日正午であったはずだ。
(上手くいっていればいいが ---- )
次元の狭間の異界にそびえる宮殿へと意識を向け、コイズミは我知らず表情を引き
締めていた -------- 。
※
アンゼロット宮殿テラス。緊張の面持ちで主の指示を待っていたロンギヌス隊員たち
のひとりが、テラス中央の白い丸テーブルに駆け寄って、アンゼロットにすべての準備
が整ったことを告げる。
対エミュレイター索敵システムと転移魔方陣の設置完了。そして、遠く日本海海上で
準備完了の連絡を待つ、大魔王ベール=ゼファーとの魔法による通信回線の配備。
とどこおりなく作戦の開始が可能である旨を報告すると、重々しくアンゼロットが頷い
た。テーブルに同席しているのは言うまでもなく、この作戦においてベール=ゼファー
と共同戦線を張ることができる実力を持った世界有数のウィザードたちである。
すなわち柊蓮司。そして、赤羽くれは。
本来ならば、彼らとチームを組んだ経験のある絶滅社の強化人間・緋室灯も同伴さ
せたかったのだが、今回は “もしも” の事態を想定して、あえてこの作戦の中心に彼
女を据えることはしなかった。彼女が配置されたのは赤羽神社 ---- 志宝エリスの護
衛態勢をより完璧なものにするために、ロンギヌスたちと同様、待機・護衛任務に徹す
ることになったのだ。
その代わりというわけではないが ---- 本作戦行動における、影エリスの結界突入
という危険な役割にあたって、秘密侯爵リオン=グンタが直接戦闘行動に参加するポ
ジションを割り当てられるという、実に稀有な状況が展開されている。彼女自身、さきほ
どから静謐な面持ちでテーブルにつき、無言で供された紅茶のカップを口元へ運んでい
るのだった。
「日本海海上で待機中の、大魔王ベール=ゼファーと回線をつなぎます」
ロンギヌスの女性オペレーターが告げた。テラスのどこからでも中継画像が見られる
ような巨大スクリーンが、日本海の大海原の映像を映し出す。海上に浮かんだ孤影を
カメラが捕らえ、次第にその姿をズームアップさせていくと、腕を組み、唇には不敵な笑
みを浮かべた大魔王ベール=ゼファーの姿が鮮明になった。
やる気充実、気合十分なのが傍目にもそれと分かるのは、いまの彼女がいつもの輝
明学園の制服ではなく、黒のレース地にマントという、 “あの” 戦闘服に身を包んでい
るせいだったかもしれない。
潮風に銀色の髪をなびかせ、作戦行動開始の秒読みを待っている姿は、放たれるこ
とを待ち望んで引き絞られた弓の如くに、その内に勢いを秘めているようだった。
敵としては厄介この上ない相手だが、味方につけて共闘できるならばなんと頼もしい
相手であることか、と否応なしに思わせる威風堂々たる立ち姿である。
スクリーンを確認してアンゼロットが力強く頷いた。
「こちらアンゼロットです。聞こえますか、ベール=ゼファー」
作戦の最終確認のために、ベルに向かって呼びかける。
「ええ、感度良好よ。こっちはとっくに準備できてるわ」
腕組みの姿勢のまま不動。海上をじっと見据えて、いまは見えない敵を睨みつけるよ
うな力のこもった視線であった。
「結構です。では、打ち合わせの通りに作戦を開始します。あれからさらに一週間が経
過していますが、貴女が裏界に流した情報と、戒厳令が効果を発揮しているとするなら
ば、敵もそろそろ痺れを切らしてくるはずです」
「食べるものがなくなって焦っていることでしょうね」
ベルの笑い声はとことん意地悪な響きを持っている。敵の意図と事情がどうであれ、
ベルは影エリスに “虚仮にされた” と感じているらしく、リオンが言うところの『兵糧攻
め』が功を奏していると想像するだけでも、愉しいようだった。
「ええ。貴女たちの言うとおり、そこが今回の作戦の要となります。周囲に及ぼす影響
を最小に抑えるため、海上で月匣を展開していただきます。それを察知した敵は、おそ
らくは無条件に、貴女を月匣ごと自身の “捕食結界” に転移させるはずです。その中
心には当然、敵本体もいることでしょう。そこで貴女は、敵結界を全力で破壊してくださ
い。作戦開始時より、ロンギヌスたちには世界規模での対エミュレイター索敵を行わせ
ていますから、結界さえ破壊できれば、我々の索敵システムに貴女の反応が確認でき
るはずです」
「・・・で、確認した私の反応で、私とシャドウの現在地を特定し、ウィザード部隊を転移
させる、でしょ ? 分かってるわよ」
もはや、ベルの脳裏には今後の展開がインプットされているようである。アンゼロット
の説明の先を行くように言葉を先取りすると、
「さあ、始めましょうか」
ベル自身が作戦の号令を下す。
海原にさざなみが立ち、それは次第に大きな波と化してベルを中心に渦を巻いた。
足元から染み出すように、鮮血の赤を思わせる魔力の奔流がほとばしる。
それは放射状に拡散する魔力であった。それが産み出す力場に海面までもがぐにゃ
りとひしゃげ、泡立つ波は赤潮のように染め上げられる。
スクリーンが映し出す情景は、まるで黄昏時のように朱色の景色に切り替わり、天空
に妖しく輝きを放つのは、言わずと知れた赤い月。
ベール=ゼファーが、月匣を展開したのである。
その瞬間 ---- 画面の映像が溶けた飴のようにどろりといびつに歪み、海上に拡が
る赤を侵食してもまだあまりある、夜の闇色が辺り一体を覆いつくした。
「敵の転移結界 ---- !! 」
アンゼロットが叫んだ次の一瞬、すでに巨大な暗黒が、赤い月も、月匣も ---- そし
て大魔王ベール=ゼファーの姿すらも飲み込んだ。エミュレイター索敵と転移システム
を連結した、シャドウ・オリジナルの強制捕獲魔法である。
アンゼロットや柊たちが息を飲んでスクリーンを見守る。画面を暗黒のカーテンが隠し
ていたのはわずか数秒のこと。霧が晴れるように闇が薄れていくと、そこにはただ青い
波が飛沫を上げる海の映像しか映ってはいなかった。
「はわ・・・消えちゃった・・・ね、ねえ、ひーらぎ・・・ベル、大丈夫かなぁ・・・」
共闘関係とはいえ、本来は敵であるはずの魔王の安否を気遣うところが、なんとなく
可笑しい。苦笑いを浮かべた柊が、そんなくれはを見遣り、
「大魔王だー、って、いつも威張ってんだから、そう簡単に失敗はしねえだろ」
くれはを安堵させるようにそう言った。一応はアンゼロットも頷きつつ、
「いままで、柊さんを始めとするウィザードたちが、何度彼女を撃退したと思います ? 殺
しても死ぬタイプには見えませんわ」
褒めているのか貶しているのか分からない物言いをする。
「うん・・・だといいんだけど・・・・・・」
どことなく不安げな表情をするくれは。しかし、泣いても笑っても作戦は開始されてし
まったのである。あとは、自ら結界に捕らわれたベルが、敵の位置を知らせてくれるの
を待つしかないのだった。
「心配すんなって。それより、気持ち切り替えていくぞ。転移してすぐに結界を破壊する
手はずなんだから、俺たちも急いで準備しねえとな」
テーブルから勢い良く席を立つと、柊はテラスに緊急設置された転移装置に視線を
送る。二メートル四方の台座に何本もの魔力供給ケーブルが接続されたそれは、以前
エリスたちと宝玉探しをしていたときに使っていた転移装置の簡易版のようだった。
「うん。わかったよ、ひーらぎ。こうなったら、やるしかないもんねっ」
むん、と両手を握り締め、続いてくれはも席をたった。
二人が連れ立って転移装置の台座に立ち、エミュレイター索敵システムを操作する、
ロンギヌス隊員からの指示を待つ。しかし --------
五分経ち、十分が経ち。十五分が経過する頃になると ---- テラスを別種の緊張が
支配した。遅すぎる。あまりにも遅すぎるではないか。転移魔法による捕食結界への
移動など、まさにまばたきひとつの時間しかかからないはずだ。それなのに、十五分
もの時間が過ぎてもなんの音沙汰ひとつもないというのは ---- あまりにも遅すぎる。
「・・・まさか」
アンゼロットの呟きに被せるように、ロンギヌス・オペレーターが報告をする。
その声は重々しく、沈痛な響きを持っていた。
「 -------- 依然、反応は感知できません。大魔王ベール=ゼファー ---- 結界の破
壊に失敗した可能性、大であります -------- 」
(続)
※
※
※
次回、ラスボス戦の「前哨戦」ともいえる「ベル VS 影エリス」となります。
ようやくここまで漕ぎ着けました。後に最終戦などが控えていることを考えると、
どんだけ長い話なのか、と。
それでは、また次回にお会いするときまで。
ではでは。
>445
乙彼&GJ
これだけボリュームのある面白い作品を拝見できるのは幸せなことです
おさんどんエリスかわいいよエリス
次回にも期待いたします
さぁて、どんな風に敗北するんだポンコツ魔王様ぁ?
最高の負け犬っぷりを見せてくれよぉ
>>445 ベル様―――っ!?
まあ、黒エリスはシャイマールまであと一歩な感じでしたし、相手にするのはきついでしょうが。
それでも、完全体(小説版のシャイマール)相手に戦えたベール・ゼファーを完封とは…げに恐るべしは女の情念といったところですな。
エリスの戦いもよかったです。自分にできることをする。簡単そうに見えて、なんて大変なことか。
みんなを支え、みんなに支えられているエリスをすごく上手に表現できていると思いました。
さて、次回よりいよいよ終盤戦(前)に突入。黒エリスのキレっぷりに期待しつつ、次回も楽しみに待たせていただきます。
そっかエリスってきくたけヒロインには珍しく料理上手なんだったな
回復アイテムになるほどの腕前です
命とか菊田先輩とかメイド喫茶店員とか
菊田先輩は色欲外道な振る舞いに偽装して、普通な外道行為を行おうとしてた人だったなあ
結構きくたけの常套手段だよな、奇人変人の振りして実は極悪非道って
前に何処かで語られてた
「(笑)は警戒心下げる」
って言い得て妙だと思う
453 :
強化(ry:2008/08/25(月) 19:47:46 ID:nPZ5Ja2u
学生ウィザード「魔王パール! オマエは本当にダメダメだな!」
パールちゃん「な、なによう! 失礼な奴ね消し炭に――」
学「まあ待て。【女として】ベルを見返したくはないか? このままでは負けたままだが」
パ「! ……方法が、あるの?」
学「ああ」
パ「教えなさい。じゃないとアンタこの場で」
学「フッ」
パ「な、なにがおかしいのよ!」
学「俺に任せろ! 俺がオマエを可愛い女に、彼女にしたい魔王ナンバー1に鍛えてやる!」
パ「に、人間なんかに教えを請えと?!」
学「なんばーわん、ですよ? ベルはおろかルーだってその分野じゃ追いつけないほどですよ?」
パ「のった」
学「違ーう! 振り向くときはもっと可憐に! 点描トーンで花を散らして!」
ぱ「はいっ! コーチ!」
学「そうじゃない! 笑うときは支配者の顔は捨てる! もっと儚げに!」
ぱ「はいっ! コーチ!」
学「よーし! よく今日まで頑張った!」
ぱ「ありがとうございますコーチ!」
学「あとは実践! 仕上げだ! 今まで体得した技術で以って男の好感度を上げ、最後に告白+体の関係まで突っ走れ!」
ぱ「……」
学「その際写し身は処女のものを使用するように……って、どうした?」
ぱ「その、あの……」
学「?」
ぱ「最初は……は、はじめては、コーチが……い、いいです……」
きくたけの短編読んでたらこんなプロットが降臨なさったんだが
俺、アタマ腐ってるのかな
アンタ、最高に馬鹿だ!【褒め言葉】
あんた、最高の馬鹿ね。【そのままの意味で】
もちろん続きは書いていただけるんでしょうね!?
・・・っていうか、写し身処女も熟女も自由自在かー。
便利だなー。いいなー写し身ー。一家に一台魔王の写し身ー。
相当腐ってんな
もっとやれ
ふとここで唐突にべるぐるみ思い出した
おいっすって手を上げてるやつ
あれ久しぶりに見たくなってきたなぁ
学(鍛えすぎた…ッ!!)
>>451 正確に黒幕が追加されれば完全再現出来るな、変態のふりをして、じつは黒幕である。
>>453 よし、俺のプラーナを渡すから完成させるんだ!
クエスト【思いついたアイデアでSSを仕上げる】をプレゼントだ
>>453 AGPを君に!
絆:作品の続き(期待)
唐突にガイアで残デレいずみんネタを書いてみたくなったりした。
一応いずみ×勇者候補生で
>>453 『パ』から『ぱ』に変わってる辺り芸が細かいなwww
ところで、黒エリス……クロエリス……くろりす……クロリス?!
そうか、『おじさま』って泥棒の事だったんだ! カリオストロ!
【馬鹿は意味不明なあだ名を言い触らした】
結婚式に乗り込んで花嫁奪取なんてイベント起こしたあげくフラグはスルーしてなんか良い台詞吐いて逃げた某三世か……
あれ柊に入れ替えても違和感無ぇw
良いセリフに関しては、その直後に別の人に吐かれてるためか、あんまり印象に残らない
むしろあのシーンの手の動きが最高。
アンゼロット城で厳かに執り行われる結婚式
グィード「病める時もォ、健やかなる時もォ、共に助けあい生きていくことを誓いますかァ?」
???「誓いま……」
誓いの言葉が交わされんとしたその瞬間、式場に一人の乱入者が!
くれは「ひーらぎーーーーー!!」
そして二人は手に手をとって、ブロンズスター相当の路線バスに乗って逃げ出した
なんか知らんが、こんなのが幻視された
>>467 グィードが立ち会い人だったら、誰が乱入しようと十字架で粉砕して
「さて、どこまで述べたかな……ああそうだ」
と平然と式を続行する気がしないでもない
>>468 いや、この場合乱入してきたのが柊なんだから・・・・・・。
ああ、愛ゆえに打ち倒すかも知れないな。
え?ちょっと待って?連れて逃げられる花嫁が柊だと思ってたよ、俺・・・・・・うん、まあいいか。
471 :
467:2008/08/26(火) 23:04:49 ID:iI4lxR8o
ごめん、柊の結婚式のつもりで書いてたけど、上手く伝わらなかったようだ
やはりくれはが式場の窓ガラスを叩くシーンをちゃんと入れるべきだったか
いや、元ネタの映画ちゃんと見たことないけど
>>466 あれは「格好良い台詞を言ったPC1」を「さらに格好良く〆たPC4」が喰うという稀有なシーンだからな
アスガルドに到達したと思ったらダブルクロスストライク
こんな夢を見た俺の脳は間違いなく腐ってる
>471
こう、つかつかと柊が窓の傍まで近寄り、
「ガラスを叩くと割れるから、壁にしてくれないか?」
まで見えた。
どんなイッパツマンだ。
「……ねえフェルシア、火ぃ持ってない?」
「――ファイアボルト」
とか見えた。
遅ればせながら、ARA「戦プリ」やっと読了。
ピアニィが地下スレ的にハイスペックなヒロインだと確信した。
ノーマルカプ(アル×ピィ)や姉妹レズ(ステラ×ピィ)は勿論のこと、
獣姦(ヤンヤン×ピィ)のみならず鬼畜展開(暴徒化レジスタンスのみなさん×ピィ)等々、
様々なシチュエーションに対応可能!これはきっと職人サマたちの創作意欲をそそるに違いないぜ!
(何かを期待する目で)
なんでその中でピィ×ベネがないのか
三下犬娘に初めて現れた対等なお友達候補なんだぞ!
ベネットの台詞にちょっとほろりとした。
ベネ×アルで(多分)童貞のアルをハニートラップに掛かってしまうことのないよう
軍師殿がベネットに一服盛って発情させ、逆レイプで処理させるのはどうだろうか
そんな事言われるとピィがヤンヤンをベネットにけしかけて楽しむどす黒い娘だという
妄想が沸きあがってしまうじゃないですかどうしてくれますか。
>>479 そんなピアニィなら一生ついていく。
オールハーイルファリタァニアァァァァッ!
>>480が「オールハーイルフタナリアァァァァッ!」に見えた、氏のう。
ハッタリ仕事(ry
らめぇぇぇ! ふぁんぶる、ふぁんぶるでひゃうのぉぉぉぉぉ!!
こうで(ry
なんでもいいけどもう476KBですかい
すっげぇ密度
カオスフレアSC届いた。
各章はじめのセリフを全てピロートークだと思って読んでみるアソビを
敢行したが、P214の劉蒼月で挫折。
あれは下手くそな風俗嬢をに檄をとばしているんじゃないの?
聖女のちょっとした受難読了。
此処向けのネタを考えてみる…
アンジー「うーん。あの下男、ちょっと言うこと聞かないわねー」
ルーン「お姉ちゃん、いい加減下男呼ばわりはやめてあげようよ」
ア「!良い事思いついたわ!ルーン!」
ル「ん?」
ア「ちょっとしゃぶってあげなさい」
ル「…は?」
…あれ?なんかアンジーことデブラがただの鬼畜外道になってしまったぞ?
これはどうしたことだ?
…なんだ、なんの問題も無いじゃないか!
ええい、誰かあの鬼畜外道をただのツンデレと主張する猛者はおらんのか!
No Thank You
小ネタ。アルシャードガイアサンプルキャラ。
WikiのALS学園見てたら書きたくなってきたので投げておく。
――午後の授業があんまりにもダルいもんだから、保健室で寝ることにする。
部屋の主――ホム子の視線をズバッとぶった切って無視。俺の指定席である窓際のベッドに寝転がる。
ふと、外に視線を向ける。
候補生の奴がスゲェ勢いで走ってるのが見える。
体育の授業かと思ったがそうでもないらしい。制服姿だ。
ちら、と視線をずらしてやれば――ああなるほど。ありゃあガンスリ子に土下座の奴か。
やれやれ、いつもの光景か。よくもまァ飽きないもんだ。
候補生の視線が一瞬こっちを向いた。
助けを乞うような目をしている。まァいい、お幸せに、とカーテンを閉じてやることにした。
「そういやァよ」
「どうした、不良学生」
部屋の主に声をかければ、返ってくるのは鋭い視線。普通の不良ならここでたじろいで何もいえなくなるところだろうが、
これまで幾度となく奈落の罠に打ち勝ってきたサイキョーの魔剣使いである俺様にとっちゃなんともないぜ。
「ホム子センセって、恋人いんの? 」
「いない。人より自分の心配をしたらどうだ、剣。恋路よりも成績のな」
「うげッ」
なんという鉄壁防御。ちくしょう、アンタ《ティール》も《ヘイムダル》も持ってねえだろうが。
俺の弱点をあまりにも的確に突かれたものだから、言い返すこともなく俺は眉間にしわを寄せる。
「……さて、そろそろ4時か。魔剣、悪いが私はこれから用事がある。
代わりに狩人先生がくるから説教をくらう前に退散した方がいいぞ」
俺が黙っている間にホム子はさっさと机の上を片付けて部屋を出て行く。
保健室には俺だけが残された。
それからすぐに廊下から慌しい物音が聞こえてくる。叩きつけるような勢いで扉を開けてきたのは――
守護者の奴と狩人先生だ。
「なんだ、魔剣じゃないか。またサボってたのか、しょうがない奴だな」
「奈落が出たと言っては授業を抜け出すお前が言えたことじゃないだろう」
「うぐ、ッ……!だ、だけどそれよりも世界の平和を……」
「ヘッヘッヘッ、そろそろ4浪なんだってなァ」
「魔剣、お前も単位不足だ」
「うげッ」
「まったく、しょうがない奴だな!」
「お前もだ」
保健室はにわかに騒がしくなりやがった。
こううるさくなっちゃァおちおち昼寝もしていられねェ。見ると、廊下から狩人先生のファンの(腐)婦女子どもが目を輝かせて様子を伺っている。
「おい、守護者。お前どーせヒマだろ。ちょっと今からツラ貸せよ」
テーピングが終わった頃を見計らって、守護者の奴に声をかける。
二人が何か言いかけたが、俺は返事を待たずに外に出た。
俺が廊下に出た途端、女子の連中が保健室に押し入っていくのが見えたが――。まぁ、気にすることじゃないだろう。
校門を出て少ししたところで、守護者の奴が追いついてきた。
「それで、また何かつまらないことでも思いついたのか?」
「なァに、ちょっとしたチテキコーキシンのタンキューって奴だよ。お前、ホム子センセのカレシって見てみたくね?」
にやりと笑って言ってやる。「な、なんだってー!?」と、守護者の奴は目を丸くして大げさに驚いていた。
「あァ、間ァ違いねェ。あんなタノシソーにオメカシして行きやがって。ありゃデートに決まってら」
「……しかし、どこに行ったのかわかるのか?」
「なに、探す手段なんて……ほれ、あれがある」
校舎の影から顔を出して周囲を伺う人影を目ざとくみつけた俺はズバッとそいつに近づいて首根っこをつかんでやる。
候補生だ。大方また誰かから逃げ隠れしてたンだろう。
「……で、あの。なんですかいきなり」
「だから、《運命の予感》使えっつってんだろーがよ!《運命の予感》!三回まで使えンだろ!」
「魔剣、たった三回だぞ!?こんなところで貴重なリソースを使わせて……」
「いいんだよシナリオじゃねえんだから!」
「僕の意思は!?」
「答えは聞いてねェ!」
「だ、駄目だ魔剣!強要するなんて正義じゃない!」
――そんなこんなで、紆余曲折を経て。
候補生を仲間に加えた俺たち3人は、現在N市の外れの方にある小さい公園にたどり着いた。
「マジでここなんだろうな」
「はい。GMが……じゃなくて、ガイアが僕にそうささやいてくれました」
「……マジかよ。公園デートとは、顔に似合わずほのぼの趣味ってか?」
「二人とも見るんだ。あれじゃないか?」
一人だけ知覚判定に成功したらしい守護者が一点を指差す。
なるほど、たしかにそこにはホム子がいた。……近くにいたのは、子供だ。サモナー小僧……とは違う。あいつと同年代かそれより小さいくらいだ。
大人しそうな顔をした、いいところの坊ちゃん、といった風情。まあ、どっからどう見てもショタだ。
俺達は木の陰に身を隠しながら二人を見張ることにした。
「「「……ショタ趣味?」」」
俺達は顔を見合わせて一斉に首をかしげる。
「いや待て候補生。おかしいぞ。それならお前に食いついてこねェはずが……」
「どういう意味ですかそれ!?」
「二人ともちょっと待つんだ。……デートにしてはちょっと様子が……」
守護者が立てた人差し指を口元にもってくる。物音を立てないように注意しながら、俺達は二人の会話を聞き取ろうと努力することにした。
「……もーすぐだよ、さっき向かってきてるところだって言ってたから」
「そうか、それは楽しみだな」
「うん、あっちもすごくわくわくしてたみたいだからねー」
「早く来るといいな」
「うん!」
二人の会話を聞きながら、俺達は考えあぐねた。
二人のセリフから察するに、誰かが来るのを待っているということらしい。おそらくそれがホム子の奴のデートの相手なんだろうと俺は見当をつけた。
「……わかった、ありゃ不倫だな。相手の子供にちがいねェ」
「い、いや、弟さんくらいじゃないのか……?」
「……あ、誰か来たみたいだけど」
車のエンジン音がだんだん近づいてきて、公園の前で止まる。
青いボディのシャープなボディ。高級車じゃあないが、よく手入れの行き届いていそうな上等な車だ。
あれに相手が乗っているのかと思い、俺達はそれぞれ運転席の内側を遠目に見ようとしたが――
「……あれ、誰も乗ってませんよね?」
「あ、ああ……」
「まさか……」
戦慄する俺達とは裏腹に、公園の前に車が止まったのを見つけるとホム子と子供はベンチから立ち上がって嬉しそうに駆け寄ってゆく。
「勇者ー!」
『戦友、ホム子。待たせてすまなかった』
「いや、これくらいでは苦にならん。お陰で君の小さな戦友から愉快な話をたくさん聞かせてもらったぞ」
『これはお恥ずかしい。戦友、今日はどんなお話をしたんだい』
「えへへ、それはねー、こないだの勇者が……」
「……車と」
「……喋って」
「……いる」
――いったい何が起こっているのか俺にはまるでわからなかった。
い、今起こったことをありのままに――と饒舌に語りだしたくなるくらい俺の頭は混乱に陥っていた。
いや待て、一番おかしいのはむしろ車が喋ったとか、むしろあれだ。車が勝手に動いてるとか、そういうことじゃねぇ。
ホム子がその車を見る熱っぽい瞳は、明らかに恋する乙女のものだった、ということだ。
「さ、それじゃあドライブとでも洒落込むとしようか」
『その前に、私の小さき戦友を家に送り届けてからだよ。親御さんが心配してしまう』
「うーん、本当はもっと遊びたかったんだけど、ごめんね」
「気にしなくていい。子供はもう家に帰る時間だ」
『明日の朝までには家に帰るから、心配はしないでいいぞ』
「はーい」
俺達が呆然としている間に、二人は車に乗り込んでさっさと走り出してしまう。
去り際に、「早く私のために《タイプ:ヒューマン》を取得してくれ」というホム子の言葉が耳に入ってきた――。
「……なんだよあのオチはよォ!?」
「まさか、ああ来るとは予想外だったな……」
「あの、僕もう帰っていいですか?」
――その後、俺達三人の間ではホム子の恋愛沙汰の話題は禁句となった。
タイプ:ヒューマンだけが、最後の良心だなw
ホム子は生い立ちが不幸だから、父性が強い人に弱いんだろうな。
で、この後車×ホム子という禁断の交わりがっ
想像できた自らの脳髄を呪う!
ち、畜生、排気管プレイだなんて……。
>>498 排気管だったのか、俺はてっきり座席からちんこが生えてくるのかと…
14時で帰れるはずが17時までの残業になりむしゃくしゃして書いた。
推敲は一切していない。
今は反省している。
……Wikiで一切言及されてないマシンヘッドがかわいそうでつい……。
サイドブレーキじゃあだめですか!?
運転席から生えた専用ギアでコントロールですね?
こういうのもカーセックスと言うのだろうか
カー(と)セックス
カオスフレアSCのサンプルが妙に性的な件について
あとエニアのおっぱいは凶器
よーし、じゃあ性的な放浪魔王たんでハァハァして…あれ、落丁かな?ハハハしかたないなあ明日取り替えて来よう
>>505 万魔の獣王の下半身が気になるわけですねわかります
皆さんに質問です
オドオドしたツルペタようじょアゼルとか
やけに自信ありげに無い胸を反らすようじょカミーユ=カイムンとか
ランドセ……いや赤い革の鞄を背負った委員長にしか見えないようじょアニー=ハポリュウとか
頭身がいつもより一つくらい下がったベルとかちゃん様とか
年齢下げるだけでなんかもういけないイタズラ気分になれるレビュアータちゃんとか
そんなロリコンパラダイスな裏界はアリでしょうか
ナシでしょうか
アリです
逆に、ナヴァールにクイズでやりこめられたあげくいろいろされちゃうステラとか
任意の誰かに「貴方はいつも私のプランを崩すのね…」といいつつめろめろにされちゃうプランナーとか
そういう年齢層高めの需要はないのかね。
無いのか…。
……プランナーにお仕置きされるディアボロスとな!?
メイドディアボロスですね、分かります
マスターファントムによる言葉責めじゃね?
ナヴァールとステラはこのままクイズを恒例イベントにして
ラスト辺りで答えが告白になるようなクイズとか出してもらえるとたまらん
プランナーは一見めろめろにされちゃってるところまでプランっぽいのがなあ
プランナー「・・・なにを言っても、しても、『プランナーだからなにかのプランなんだろう』と思われがちなマイナスイメージを払拭するプランを考案しました」
春日恭二「して、そのプランとは・・・?」
プランナー「今日から私は『ぷらんにゃー』と名乗ります」
春日恭二「・・・・・・は?」
ぷらんにゃー「猫耳も必要ですね・・・ふふ」
DX2のGMをきくたけがやったら、そんな『ぽんこつづききょーか』の登場も夢ではないと妄想してみたり。
実はDXスレの過去ログ見てたら
「プランナーは霧谷さんに結婚詐欺でもやられたんじゃないか」
とかいう書き込みがあって
それ以来リヴァイアサン×プランナーという妄想が
…何か書いてたら恥ずかしくなってきたからやめとくよorz
>>516 ああやばいぞくせいちょくげき
これは プランナー の わな だ
表面上女王様とうだつの上がらない下っ端ーだけど
裏では奴隷とご主人様とな?
ハッタリが仕事をした
アリアンロッドに新種族「ふたなり」が追加された
む?ハッタリの…仕事だと!?
数あるステージの中には、春日恭二がおにゃのこの世界もあんのかな?
性別逆転世界はそういうのじゃかなりの頻度である世界じゃね?
NWでもあったし
> 性別逆転世界
無印2巻のラスボスが超☆熟女に…
アンゼロットですね、わかr
…あれ、コイズミさんどうしました?小包なんて珍し(記録は此処で途切れている…
>>505 カオスフレアSCはぱっつんぱっつん多すぎ
たくしあげエニアのSSはまだか
ストライクを性別反転させると実にアレな世界になりそうだぜ
まあ元からアレって突っ込みは(ry
富嶽はもう、なんか言い訳のしようもないくらいにTSの園らしいと聞いたな。
それはもう、宝永に住むしかないな!
我々はついに桃源郷にたどり着いたようだな。
付属のヒロインのチェレスタ姫の微妙な年増ぶりがとてもツボった。
〉春日恭二がおにゃのこの世界
春日恭子「わ、わたしはFHのエリートなんだから!『でぃあぼろす』なんですからねっ!?」
という感じの、プライド(だけ)高いドジ眼鏡っ子として、
ベル様同様DXプレイヤーたちに末長く愛される名NPCに・・・というところまで妄想した。
533 :
508:2008/09/01(月) 08:51:24 ID:Eg3MZpdC
やあ (´・ω・`)
ようこそ、強化人間劇場へ。
この温泉魔王のバスタオルの搾り汁はサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。
うん、「508=強化(ry」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、あのキーワードを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
児ポ法とか殺伐とした世の中で、そういうペドい気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、あのキーワードを作ったんだ。
じゃあ、注文を聞こうか。
〜めにう〜
・いいから前のプロットと今回のロリネタでSSを書け。
・いいから前のプロットと今回のロリネタで漫画描け、大晦日の祭りまでに。
・SSも漫画も両方作れ!俺のロリ魂ははちきれそうな程にめがっさヒィトゥアップゥしてるぜ!
・いい加減おっぱいの大きいものも書け。命令。苦手とか言って逃げるなこのアホ助。
・むしろサイモンの作ったホムンクルス2人がだな、ご主人様にご奉仕する様をだな、詳細にだな(ry
・ゲームに使うから魔王マーカー早よ出せやゴルァ。
・マスター、搾り汁おかわり。いや、次はシアースの吹いた笛から採取した純露にしようかな。
・やはり美少女魔王には魔王棒が生えて無いといけないでござるよニンニン。
・やはり美少女魔王には魔王棒が生えて無いといけないでござるよニンニン。
つ 3Dパールちゃんの完成度を高める
>>532 それはただのエルキュールじゃないのか。
・SSも漫画も両方作れ!俺のロリ魂ははちきれそうな程にめがっさヒィトゥアップゥしてるぜ!
・俺の上司のふぅ姉様をどうか形にしてやってくんさい、アニキ
・やはり美少女魔王には魔王棒が生えて無いといけないでござるよニンニン。
それはともかくアリアンロッドで種類:ふたなりが登場したという情報はたしかなのかね?
・マスター、搾り汁おかわり。いや、次はシアースの吹いた笛から採取した純露にしようかな。
・マスター、ロリ百合で一丁
(漆黒の夜空の如く、全てを吸い込みそうな深い眼差しで)
・全部くれ。
すみませんすみませんごめんなさい
在庫全部もってこい!
メニューの端から端まで。
>>532 どう考えても登場時には高笑いですね。
>>533 マスター、この「うらめぬう」って何ですか?
>>536 違うよ、全然違うよ。
パークマンサーとマークパンサーくらい違うよ。
あまり違わないとか言わないでよ。
えるたんはあんまり高飛車な感じじゃないと思うんだ。
まあ、高飛車ではあるんだろうけど、なんかこう突き抜けた感じが
春日恭二程無い。同じへっぽこに分類されるとしても、へっぽこ課真面目目に
類されるのではないかと思うのですよ。んで、春日恭二はへっぽこ課ギャグ目。
・・・なんで俺はこんなに熱く春日恭二とえるたんの
違いについて語っているんだろう?
リクとかすんな
荒れる原因になるんだよクズが
俺1番で
まずはスレを立ててからにしろよ
俺はやらんが。
おっと、容量が確かに。
じゃあ立ててくる。
>533
マスター、あえてマスターの苦手なおっぱいモノを所望しようか
いや、別に他意はないんだ、もだえるマスターが見たいとか、な?うん
)549
乙
んじゃまあ〆として…
Aの魔方陣:ガンパレード・マーチ編を買った。
Aまほ関係は初めててにするんだが三輪があんなに酷いキャラを作るとは思わなかったw
…もしかして恒例なのか?
「あれはひどい」が基本の人だぞ
カオスフレアを作ってハッタリの相棒でリアル魔法使いなカイザーが、
あの程度出来ないはず無かろう。
うん、リオフレード魔法学院を思い出したよ。確かにありゃひどかったw。
にしてもマーヤの時よりもいきいきしてたように見えたんだが…ウマが合うのか?無名世界観と。
…って、感想だけでもなんだな。とりあえずガンパレード世界はヤっても出来ない世界観なので
ひたすらエロス方面に突っ走れるな。カップリング的にはやはりリョウ×たけちゃんか?
Aマホの三輪のキャラの中では一番まともだよな今回。
カイザーのキャラは大輪一族とマーヤと部長しか思いだせんのだが、それ以上に酷いのとかいるの?
>>556 あとはオープニングで死ぬ主人公とエリオットとガトリングメイドかな
>>558 確かブライトストリングだったかの主人公だな。
京暁生
>>559 あいつカイザーだっけ
あ、ブライトストリングの主人公が滝だってずっと思ってたw
サラが性格的に地味だからか、滝の記憶ばかり残るな、確かに
後アレ、N◎VAの…なんてゆったっけ、子煩悩で愛妻家の悪魔。アレもそうだってゆってた。
火炎公アイムか。
カイザーがFEARの仕事するようになってから、
FEARの著作物がやたらと本格的なオカルトを前面に押し出すようになったよな。
火炎公様はカイザーだったのか。アルドラとのやり取りは圧巻だった。でも撃たれたら普通に死ぬw
あれはマジカッコいいし、それが本当だったらカイザーに関するイメージが変転するな。
ところでクロイツェルとアルドラのSSをだれか書いてはくれぬかえ?
カイザー、ガチで現代の魔術師だからな。マジシャンとかじゃなく。
あのやりとりとか、そもそも72柱の悪魔の中じゃマイナーなアイムを出してくる辺り、
俺はなるほどカイザーなら納得という感じ
ガチの魔術師の一般呼称は「マジシャン」ですよ、と一応w
,-――-――‐.、
_「': : : :,; : : : : : : ̄i:ヽ.
/: : : : :《 : : : : : : : : :ヽi
j: : : : ,ハ: `ヽ: : ;ヘ、 : : : : }
く\. i: :{: :j ⌒VWi/ `ヽ} : : /|
<□\\ ヽ小{. ○ ○ .ルレ': i は〜わ〜♪
<◇ \\ .|: l@ r―-┐@|: :|): :!
<◇ ヽ/⌒ヽ.|: | 、 .| | |: :|:/⌒i
<◇ \ / `ヽ._ .、L___|イ、|: :|' /
<◇ / ハ. ヽ/ ,.|: :ト._∧
{ ゝ j ヽ / / |: :| ヽ
「| ,へ ‐'´ ̄ ̄`へ、
. . |.|/〉 / / ヽ ヽ i\
|// //, '/ { リトヽハ. f 、 ヽ
|Y 〃 {_{ノ ヽノ ノ }ヽリ| l │ |
| | レxヾl○ ○ 从x、i|
| | .8|l.@ r―-┐ @レ8|ノ ゝ ぽこんっ
/⌒ヽソ|ヘ_ | | j /⌒i !
\ /:::::ゝ__、L___|, イァ/ /
. /:::::/ ≫≪ '、__∧
`ヽ< ≫介≪ ヾ:::彡'
とりあえず産めとこうか
妊娠はらめぇ!
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妊娠、孕めぇ?
とりゃ
もいっちょ