【ホワイト】メイドさんでSS Part3【ブリム】

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1名無しさん@ピンキー
おかえりなさいませ、ご主人様。
ここは、メイドさんの小説を書いて投稿するためのスレッドです。
SSの投下は、オリジナル・二次創作を問わずに大歓迎です。

■前スレ
【ご主人様】メイドさんでSS Part2【朝ですよ】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1182588881/

■過去スレ
【ご主人様】メイドさんでSS【朝ですよ】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1141580448/
【ご主人様と】メイドさんでエロパロ【呼ばれたい】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1116429800/

■関連スレ
男主人・女従者の主従エロ小説 第二章
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1185629493/
【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第五章
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1200307216/

■関連サイト
2chエロパロ板SS保管庫 → オリジナル・シチュエーションの部屋その7
http://sslibrary.arings2.com/
2名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 07:51:55 ID:Dw14zitp
>>1
おつおつ
3名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 08:44:50 ID:wCSBqzqA
■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は、読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルをお願いします。
 ・長編になる場合は、見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに注意書きをしてください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
4名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 18:34:17 ID:EYZQCmL0
>>1より>>3
5名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 21:14:14 ID:Dw14zitp
>>4
じゃあ、>>4
6名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 22:05:45 ID:EYZQCmL0
>>5

じゃあ、>>7
7名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 23:28:57 ID:/bmHKQn3
1乙
ブリムってあのカチューシャみたいなののことなのな。
変なスレタイだと思って、ぐぐってやっと意味が分かった。


別のSS職人降臨もお待ちしてます
8名無しさん@ピンキー:2008/03/03(月) 00:30:54 ID:NklpYWYT
◆正統派メイド服の各部名称

頭飾り:
Head-dress
("Katjusha","White-brim")
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ,ィ^!^!^!ヽ,
                    ,/゙レ'゙´ ̄`゙'ヽ
襟:.                 i[》《]iノノノ )))〉     半袖: Puff sleeve
Flat collar.             l| |(リ〈i:} i:} ||      .長袖: Leg of mutton sleeve
(Shirt collar.)           l| |!ゝ'' ー_/!   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  /::El〔X〕lヨ⌒ヽ、
衣服:               (:::::El:::::::lヨ:::::::::::i        袖口: Cuffs (Buttoned cuffs)
One-piece dress         /::∧~~~~ヽ;ノヾ;::\_,  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
. ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  /:_/ )、_,,〈__`<´。,ゝ 
               _∠゚_/ ,;i'`〜〜''j;:::: ̄´ゞ''’\_     スカート: Long flared skirt
エプロン:           `つノ /j゙      'j;:::\:::::::::;/´::|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
Apron dress            /;i'        'j;::::::::\/ ::::;/
(Pinafore dress)         /;i'         :j;:ヽ:::/ ;;r'´    アンダースカート: Petticoat
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   /;i'       ,j゙::ヽ/::;r'´    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                 /;i'_,,_,,_,,_,,_,_,_,_,i゙::::;/ /
浅靴: Pumps        ヽ、:::::::::::::::::::::::__;r'´;/            Knee (high) socks
ブーツ: Lace-up boots     `├‐i〜ーヘ,-ヘ'´          靴下: Garterbelt & Stocking
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  i⌒i.'~j   fj⌒j   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
.                   ̄ ̄     ̄

イギリスの正装メイド服の一例
ttp://www.beaulieu.co.uk/beaulieupalace/victorianstaff.cfm

ドレスパーツ用語(ウェディングドレス用だがメイド服とは共通する部分多し)
ttp://www.wedding-dress.co.jp/d-parts/index.html
9名無しさん@ピンキー:2008/03/03(月) 01:27:24 ID:zDM5zz9H
メイドにとって一番重要なものは何?
「ご主人様」というセリフ?
清楚な格好?
いいえ、違います
一番重要なのは「奉仕」する心
心が綺麗な人に奉仕されるからこそ、主人は癒されるのです
10名無しさん@ピンキー:2008/03/03(月) 22:14:11 ID:I3W00r5A
即死判定って何レス未満だったっけ?
1乙
11名無しさん@ピンキー:2008/03/03(月) 23:07:59 ID:hJx+8pJH
即死回避保守
12名無しさん@ピンキー:2008/03/04(火) 01:40:04 ID:GSB4JkPQ
                     _,...,_,,.. ,. -― - 、、
                _,.イ´ ``ヾ;.:'´;..´      !
             r '"      ,.ゞ';:.:.   、、   ゙:、
             !:./         ;:. ;、  \  ヾト、
            ,!'   ,. ´     ,ヘ;:/,ヘ    ヾ、 ヽ、\
           / ...:/    ' /``'' '´ ゙、    ゙、 ヽ ゙ヽ
         .,.',.'..::./   ../ ,イ!     | 、 、  、 `、  ゙!
         .//.:/  ....::/ ,/ / |i       ! |!  、:.  ゙、: |ト |!
        //.:/.:/ ..::./  / /  |!     | !i::. |i::.   !:. !|i |i
        /イ;/.:::!...::::;イ  .,' /_,,. -‐ '' ゙`   !| |:: |!:: ::. !::. | !/
        !| |.i :::|!..:::,'.:! .  i __,ィr::,ヾ_`    /' ,!: /:::::::::/..,イ/'
        ヽヽ;::::!..:::|.:|!:.:. | !``ゞ'´      /:.,.':::::::::,.イ''_/'
          ヾ-、:.、!::::::.. 、 ゙、 ////    ー' ' 、 ー''",!
             `ヾ;._::::...ヽ ヽ、__,ィ'         ,.'         
                `ヾ`T ー ''´     '゙,.`  , '
       _ _       ヾ!::: ...、       /イL,.ィ`ヽ
      (:::::::::.. `iヽ、 rー ''"`!::::::. .::``:...、、 _,.ヘ  /   `ヽ、
    /てヽゝ、:::::::../ ..:. ゝ{,.\.:.ノ:::::::... ..::::.:. :.`| 、 ゙!/  ,..、   ..:ヽ
  _,.{:::...ヽ<::::..__ヽ ..,} :.`ヽ\:::::..   ..   !`ヽ, |ヽ',.イ _,.. -   }
 iヘ、,ノ:::..,..- '' ´::::::::::``´゙`ヽ 、:ト、``ヽ、      |::::::| ゙、 `ビ .. :.,. - ∧
../:::::...`7  ..:::::::::::::::::::::::::::,. -'ィ'ヾ:....  \、  ;. ::..|  ゙、 ゞr''" ...:. ! ヽ
ヾ;::::::.../        .:.::::::::`ー'-、 rゝ,_:::....  \  ,! _  ゙、  ゙、::::.. /   ゙ヽ
  `ヾ/ー- 、  .:  .:  .::::::::ヾ;:、ヽ!:. `|:::::.  ,ィ!ゝ,!´ ス   、... .ヽ !
13名無しさん@ピンキー:2008/03/04(火) 01:40:44 ID:XDJObTY1
>8
ちょーちん袖、パフスリーブがぷっくりしてるのは
エプロンの肩紐がずり落ちてこないように
14名無しさん@ピンキー:2008/03/04(火) 13:15:15 ID:GSB4JkPQ
                ,-
                 _,,,- ll-'i-.,/‐-、,,__
           _,,,,!~ヽ i || //  '/ i ,~''i,,_
             ,,,! v._,,-‐'''ヽY i//-‐'''''‐-,,,v'''i,,     __
             ヽ/,.- ,-  ,-   、-、 ‐、、 \/    /,‐'⌒
          .il .l l l| l l| l| l|l  l |l  .|l |l li   ///'二 ̄`
             il l| l l l| l l| l| l| .|l l .|l | l |l |l l|  ///,‐'⌒
            l|.|l.l|.l|,l|-|-l|、l| l| l| ,|l-|-|l.l、| |l |l l|  i |//"
.            l|.l|.l|'l l|_l⊥l_l| l| l|.l l_⊥|l._l.i|.|l|l l l| //./
.          l|l|.l|l'´i:::::C l| l|.ll '´i´::::Cヽl|.l| l l|ノノノ
                l|.l っ::::l      っ::::::l |l |l).li.--┐
             l| !l  ー' 、    ー‐' |l |l',/=-:::::|>
.              l|.⊂⊃ | ̄ ̄|  ⊂⊃|l.|l_,─,、-:::|     即死回避
            l/lヽ、  ヽ .ノ    /ll/=- |:::i''┘
              /:::| -=`ii ‐ --- ‐ '´ ./=‐_ _!::::|=.i_
               |::::::]‐=il/ヽ:::ノ\/ニ=了「:::::::|-‐i
             |:::::::匚 =il::::/::l|:lヽ::li=‐ ._!┘:::::|ニ''_
                L;;::::L二/::::l:::|:::ヽiニ二」::::::::::/ヽ,,:::ヽ、
               ヽ'ニニコヽ.::::::::::::::::,iヽニニニコ'i  i::::::::`ヽ.
                 |   |//`‐'''‐''''~   |   | | l .|::::::::::::::`ヽ,
             |   |  //.       |   |  l l |::::::::::::::::/
              _|___|_  /     _|___|_ |  l |:::::::::::::/            _     _
                |_ニO|        |_ニO| |l   | |:::::::::i"         / /三三/:!
                /   ̄ヽ,         /   ̄ヽ,   l |:::::::i'            / /三三/:::|
      (l二lニニニl    !ニニニニニl    !ニニニニニニニニニニニ/ /三三/:::/
            `‐''‐''‐i'         `‐''‐''‐''    l‐'::/         / /三三/:::/
                    `'i‐-,,,,,____,,,,,,--‐''''´/         / /三三/:::/
                    `'''─-;-─----、;‐─‐'''´ \        / /三三/:::/
                      `>二-' / /   \   \._       l ̄l三三.|::/
                        `l_,>‐'':,]     ,ヘ_/,ヘ.    l_l三三.l/
15名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 00:36:28 ID:V9/z8byq
保守

春休みで寝坊するお坊ちゃまを、優しく起こしにくる年上メイドなんてどう?
16名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 00:54:49 ID:mSuTyc9n
「ん…む…」
「坊ちゃま。お目覚めください」
「なにー…姉や」
「姉やではございません。わたくしはもう坊ちゃま付きのメイドなのですから、妙、と呼び捨てになさってください」
「んー…姉やは姉やでしょ…」
「姉やではございません! ほかの使用人の方に対して示しがつきません!」
「姉やはうるさいなあ…もうすこしだけ…寝させて」
「坊ちゃま!? わたくしの話を聞いているのですか? お目覚めくださいと申し上げております」
「姉やも一緒に寝ようよ…日なただし、シーツはあったかいし、姉やもふわふわできもちいーよ…」
「なっ!? ぼ、坊ちゃま、な、なにをっ」
「ほら、姉やの身体もこんなに柔らかいしー」
「ぼ、坊ちゃま!? お、お放しください! ぼ、ぼっちゃ――」
「……ん……」
「ふぁっ…んむっ…ふぅっ」
「…ふぅ……姉やの口の中、甘い味がしたよ」
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、坊ちゃま……こ、このようなことは――」



メイドさんが唇をふさがれたまま終わる
17名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 01:12:18 ID:E8u5ADqs
>>16
一時甘々な流れに流されつつも素に戻ったメイドさんに、坊ちゃまが(優しく)折檻されるといいなぁ
18名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 07:30:29 ID:4xSU5jtT
二人して寝付いてメイド長に折檻されるに5000ペソ
19名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 08:10:26 ID:AUEs8EKa
姉やさんもいいなあ。
小さい頃から坊ちゃまと過ごしてきたから、何もかも分かり合った関係ってやつだ。

>>16
その結び文は、もしや百合さんの話を書かれていた御仁ですか?
20 ◆/pDb2FqpBw :2008/03/05(水) 18:24:43 ID:XjglT1PB
新スレ祝いにちょっとだけ
21 ◆/pDb2FqpBw :2008/03/05(水) 18:25:24 ID:XjglT1PB


「これは・・・中々掃除のし甲斐がありそうですね。」
そう咲野は呟いた。
まあそうだろう。玄関先にまで本が積み重ねられ、廊下は埃だらけだ。
窓にはヒビが入り、所々電球は切れ、障子は破れていないものを探す方が難しい。
しかも屋敷は広い。全部で20以上の部屋があり、私の居室以外の全ての部屋がその状態である。

因みに庭は荒れ放題で垣根も所々壊れている。
近所の子供達にお化け屋敷と呼ばれる所以だ。

「そうだろそうだろ。咲野さん。嫌だったら帰って良いんだぞ。御前にはそう言っておくから。」
そう言うと咲野さんは笑って、その美しい黒髪を揺らしながらこう言った。

「咲野のご主人様はご主人様なのですよ。帰る場所などありません。
 帰れ、ではなくてさっさと着替えて掃除をしろ。と仰って下さい。」

何でこんな事になったのか。
それはつい2時間半前頃の事だ。
22 ◆/pDb2FqpBw :2008/03/05(水) 18:26:44 ID:XjglT1PB

*+*+*+*+*+*+*+*+*+

「どれがいい?どれでもいいぞ。」

くい、と御前が首を振る。
目の前にはメイド服姿の伯爵家の使用人が15人ほど並んでいる。
どれも通常、街中にいれば誰もが振り返るような麗しく若い娘達ばかりだ
皆、背筋をピンと伸ばして黙って立っている。

しかし何を言ってんだこの爺さん。
どれがいいと言われてどれと決められる訳が無い。

俺が答えられずに黙っていると伯爵が眉を上げて声を出した。
「なんだ。気に入らんのか。」
そう言ってメイド達をぎろりと睨む。

「いや、気に入らないとかそういう訳じゃあなくって・・。困ったな。
 大体うちにはおイネさんっていう使用人がいる事ですし。」

「だーかーらーだな。拓郎。そのおイネさんは80超えて飯炊き以外に役に立たんのだろう?
一日中台所に篭っているって話じゃないか。
掃除だの何だのの家の中の細々とした事だの庭の手入れだの
そういう事が全然纏まっとらんと稲葉が言っておったぞ。」

「そりゃイネさんに脚立なんか上らせる訳にいかないですから。」
庭の手入れなんかさせたら死んでしまう。

「だろう。だからうちから連れて行けといっているんだ。うちのなら身元も確かだし、
 専門の教育係が躾けているから教育も行き届いている。お前の役に立つだろう。」
そう言ってどれだっていいんだぞ。とメイド達の方を指差す。
23 ◆/pDb2FqpBw :2008/03/05(水) 18:34:34 ID:XjglT1PB

「いやまあ、役には立ってくれるんでしょうが。」
確かに家の事をやってくれるメイドは必要だが
男1人の家にこんな若いメイドなんか入れたら噂になるだろ。
御前の家には50人からの使用人がいるはずだ。
それなのに見せてきたメイドが15人、それも若い女性ばかりのメイドだ。
この爺さんの事だから絶対に碌な事を考えていない。

「それに大体だな。お前もいつまで1人でいるんだ。
男色じゃないのかってもっぱらの噂だぞ。
恥ずかしいと思わんのか。結婚しろとは言わんが若いメイドの1人や2人雇って、手の一つでも付けんか。」

伯爵がそう言うとメイドの1人がくすりと笑った。

ほらそうだ。余計なお世話だ。助平爺め。
と声にこそ出さないものの、視線に込めて答える。

「御前、冗談もいい加減にしてください。そういうのが一番困るんじゃないですか。
 男1人の家に若いメイドを連れて帰ったなんて。すぐに噂になりますよ。」

「だからいいじゃないか。噂なんてさせておけば。お前は新貴族だぞ。
 メイドの1人や2人、誰に憚る事もないだろう。言わせておけ言わせておけ。ほら連れて帰れ誰か1人。」

「そういう事を言っているんじゃないのです。」

「駄目だ!お前も新貴族になったのならそれ相応の構えを持つ必要がある。
新貴族にとって相応の暮らしをするというのは義務だ。お前の我侭で済む問題ではない!」

「でしたらメイドなり使用人なりは雇いましょうとも。でも御前のメイドはご勘弁下さいよ。」

「ならん!」

「なんでですか。」

「ならんと言ったらならん!」
24 ◆/pDb2FqpBw :2008/03/05(水) 18:36:21 ID:XjglT1PB

千日手になりそうだと思ったのだろうか。その時声を上げたメイドがいた。
メイドたちの中央よりやや右にいるどちらかというと背の低い、
凛とした目つきと長い黒髪が印象的なメイドだった。
スカートから伸びた足は真っ白で細く、その痩せている体系にメイド服がばっちりとはまっている、
というのが彼女を見た最初の印象だった。

「拓郎様、ご主人様は拓郎様を気に掛けてらっしゃるのです。
 最近の口入屋は信用ならん。がご主人様の口癖ですから。」
そう言ってくすくすと笑う。

そのきっぱりとした物言いだけでなく、笑った時の花の咲いたような笑顔に引き付けられた。
凛とした目元が笑うとにい、と下がって愛嬌が増す。得な笑顔だ。
年の頃は18歳程度だろうか。少なくとも俺よりは下だろう。
他のメイド達より多少若い感じだ。
しかしその割には今の口の挟み方といい、凛とした感じを放っており、
決して他のメイドに埋もれている感じはしない。

「そうだ。最近の口入屋は信用ならん。条件を釣り上げるだけ釣り上げて、仕事がちょっとでもきついと直ぐに辞めてしまう様な奴ばかり紹介してくる。それに比べたらうちのなら身元も確かだし、教育も行き届いている


「御前が口入屋をなさったら如何です?」
首をすくめながらの俺の言葉にメイド達がくすくすと笑う。

「ああ、もう。お前が決められんのなら俺が決めるぞ。それでいいな!」
「あ、いや、御前そんな。」
ぶんぶんと手を振る俺を遮る様に御前は怒鳴った。
25 ◆/pDb2FqpBw :2008/03/05(水) 18:39:01 ID:XjglT1PB

「咲野!お前はどうだ。こいつの元にいくか!」

答えたのは先ほどのメイドだった。
「はい。ご主人様がそうお決めになられるのでしたら。」

「お前はどうだと聞いているんだ!」
割れ鐘のように怒鳴る。御前は最近少し耳が遠くなったようだ。

断れ断れと視線を送ると咲野と呼ばれたメイドは少し考えた後、御前に答えた。

「拓郎様の事は、何度も屋敷にいらしていた折にお見かけしております。
 優しげな方であると思っておりましたし、お仕えする事に戸惑いはありません。」

「よし、拓郎!こいつは良く働く。頭も回る!連れて行け!」
同時に咲野と呼ばれたメイドが前に進み出て跪いた。
「拓郎様、今後、どうぞ宜しくお願い致します。
すぐに準備をして参ります。少々お待ちくださいませ。」

「いやいやいやいやちょっと待って下さいよ御前!それに咲野さんとか、それでいいのかアンタ。」

俺の言葉が聞こえてないかのように
咲野さんと御前は
「お世話になりました、御前。」
「こいつらとは連絡を取り合い、何かあったら誰でも呼びつけて使え!」
「はい、精一杯ご主人様にお仕え致します。」
等々話している。

「話聞いてくださいよ御前!いい口入屋なら私は知っているんです。
 そこから爺さんの庭師と使用人かなんかを雇えば良いじゃないですか。
 あ、準備してまいりますってアンタそれで良いのか。おい!なあ!なあって!」

それが、2時間半前の事だ。
彼女は本当に直ぐに準備をして、御前はほぼ無理やり彼女を俺に押し付けて俺を帰らせた。
そして、今に至る訳だ。

26 ◆/pDb2FqpBw :2008/03/05(水) 18:40:30 ID:XjglT1PB
*+*+*+*+*+*+*+*+*+

家に着き、おイネさんに挨拶をするなり咲野さんは良く働いた。

何か失敗でもしたら直ぐに追い出すか、きちんと言い含めて帰ってもらおうかと思っていたのだがその俺の決心がかなりぐらつく位に。

メイド服に着替えるなり咲野さんはまず家中の窓を開け、埃を払った。
20以上の部屋数を見て一日で終わらないと直ぐに判ったのであろう。
屋敷内をいくつかに分割してそれぞれ掃除をしなくてはいけません。
今日はとりあえずご主人様の居室周りだけにさせて頂きますと俺に断った後、
咲野さんは積みあがった本を片付け、床を拭き、
そこらじゅうに散乱している服だのゴミだのを片付けに掛かった。

又、目まぐるしく動いている最中のどこに時間を使うのかいつの間にか俺の目の前には入れたてのお茶を置き、
御用聞きにヒビの入った窓ガラスの修理費を見積りや障子の紙と電球の注文、
その全てを夕食までの時間のうちに済ませた。

俺は文句を付けようと思っていた口を閉じ、茶を啜って黙って彼女の動きを見ているしかなかった。

よし、おイネさんが飯を作っている間に帰るように言い含めようと思ったら咲野さんはいつの間にか台所に入っており、
おイネさんとお喋りをしながらご飯の支度をしていた。
いつもより2品ほど多い食卓の中、咲野さんは忠犬のようにじっと俺のそばに控え、
一緒に食べればいいとの言葉には首を振った。
飯はうまかった。

おイネさんが洗い物を片付け、近くの自分の家に帰ると俺は暫く考えた。
咲野さんが働いたのは今日からで、しかも午後の数時間だけだというのに家は綺麗になり、
おイネさんはいつに無く楽しそうにしていた。
メイドとしての能力に疑問の付けようはない。逸材であろう。
口入屋は何人か知っているが、どの口入屋もこれ以上の人材を紹介してくれるとはとても思えなかった。

週に一度程度通ってもらえるようにしたらどうだろうか。
この勢いなら数ヶ月も後にはここも見違えるように綺麗になるだろう。
27 ◆/pDb2FqpBw :2008/03/05(水) 18:41:15 ID:XjglT1PB

そこまで考えてから俺は台所に行った。
台所では咲野さんがご飯を食べていた。
それを見て目を見張る。

「何を食べてるんですか?」
後ろから掛けられた言葉に驚いたのだろう。咲野さんは飛び上がった。

「きゃっ!あっ・・申し訳ございません。何かありましたでしょうか?」
慌てて裾を払って椅子から立ち上がる。

「いや、今咲野さんが食べているそれ。」

「咲野とお呼び捨て下さい。ご主人様。」
それを無視して言葉を繰り返す。
「何を食べているんですか?」

咲野さんは俺の言葉に怯えたように食卓を振り返り、そして言った。

「ご主人様のお残しになったものですが・・・いけなかったでしょうか。」
食卓にはご飯と冷えているだろう味噌汁、
それと俺が残した魚の煮付けの尻尾の部分があった。

「御前の家ではいつもそんなものを?」

そう聞くと咲野さんはこちらを見つめながら言った。
「いえ、御前様の所では私のような住み込みのメイドは メイド用の食事を各自持ち回りで作っておりました。 
しかし御前様の家は使用人だけで60人の大所帯。ご主人様の家は私1人で御座います。
 メイド用の食事を私1人の為に作るなどというのは燃料も材料も無駄で御座います。
 という事情が御座いまして、失礼ながらご主人様の残されたものを頂いていたのですが。」
申し訳ありません、何かいけなかったでしょうか。と言いながらこちらを見てくる。
28 ◆/pDb2FqpBw :2008/03/05(水) 18:42:30 ID:XjglT1PB

「いや、いけなくは無いが・・・味噌汁位、温めて食べれば良いじゃないか。」

そう言うと咲野さんは当たり前の事を答えるかのように答えた。
「ご主人様の為にでしたら温めますが、私の為でしたら不要です。」

それで気持ちが萎えた。
「ああ、くそ。咲野さん、あなた御前の所に未練は無いのか。
 ここだって無い訳じゃないがあそこの方が金はあるし
 今まで働いていた仲間だって一杯いるだろう。」

そう言うと咲野さんは少しだけ笑った。
「ご主人様。私は御前様の所から本日、お暇を出されました身で御座います。
帰るところなんて御座いません。」

すうと息を吸って、咲野さんは言葉を続けた。
「それに、ご主人様は勘違いをなされているようです。
咲野は、いえ、本日あの場にいたメイドは無理やり御前様に連れ出されたわけでは御座いません。
最近、御前様もお年を召されて昔ほどお客様がいらっしゃらないので御前様の家ではあれほどの使用人は必要なくなっていたのです。
ですから御前様は最近では良く私達の身の振り方を心配して下さっていました。
そして本日御前様は私達メイドを呼んでこう言われたのです。
ご主人様にはメイドが必要だ。と。そして行く気がある奴は顔を見せて選ばせるからわしの部屋に来い。と。
御前様の所は仕事や躾はそれは厳しかったですが、
他の家のようにメイドに対して暴力を振るったり怪我をさせたりするような事は決してありませんでした。
その御前様のお言葉でしたから皆、決して間違いなどないと考えてその中でもご主人様にお仕えしたいと考えたものがあの場に集まったのでございます。」

「そういう理由だったのか。」
舌打ちをする。
人手が余ったからって体よく俺に押し付けようとしてたのかあの爺さん。
道理で口入屋みたいな口を聞くと思った。
29 ◆/pDb2FqpBw :2008/03/05(水) 18:43:13 ID:XjglT1PB

「しかし、集まった皆を見て、私は可笑しくなってしまいました。
あそこに集まった皆が皆、ご主人様が御前様の家に来た折に
ご主人様をお見かけしたり、ご主人様にお茶をお出しさせて頂いた事のある若いメイドばかりだったからです。」
そう言って、ご主人様はおもてになるのですよ。と咲野さんはくすくすと笑う。

「ですから、ご主人様がお気になさる事はありません。
あそこにいたのは御前様のお言葉を聞き、
自らの意思でご主人様の所にお仕えしたいと望む者ばかりでした。
今日、御前様の所よりお暇する折、御前様は私にご主人様なら何の心配も要らない。
必死で尽くせと仰られました。」

面映い話をされて顔が赤くなってくるのが判って俺は無理やりに乱暴な口を聞いた。
「大事なのは君がどうだったかという事だ。君はどうなんだ。」

30 ◆/pDb2FqpBw :2008/03/05(水) 18:45:13 ID:XjglT1PB

しかしこれは薮蛇だった。
咲野さんは俺の顔を見てきっぱりと言った。
「私も同じで御座います。
ご主人様はご存じないかもしれませんが、何度か御前様の屋敷でお茶のご用意をさせて頂いたり
上着を預かったりとご主人様のお相手をさせて頂きました。
そして今日、ご主人様の所でお仕えしたいと思ったから手を挙げたのです。
どうか、帰れなどと仰らないで下さい。一生懸命お仕え致します。
咲野はメイドとしての仕事や躾に関しては一通り習っております。
住み込みで働かせて頂ければ、お給金はいくらでも構いません。
決してご迷惑はお掛け致しません。
不束者ですが、どうか、これから宜しくお願い致します。」

そしてすっと頭を下げる。
このメイドは、意外としたたかなのかもしれない。
これを言わせてはならなかった。
ここまでされて、俺が何を言えるか。
言える訳が無かった。
きっと今、俺は苦虫を噛み潰したような顔をしているのだろう。
暫く考え、俺は搾り出すように言葉を出した。

「部屋はどこでも好きなのを使ってくれてかまわない。都合の良い所を選んでくれ。
明日朝は6時半に起きる。7時には家を出るからその様に準備してもらいたい。」

そこまで言って彼女に背を向ける。
はい、承りました。という声が後ろから聞こえる。
台所から出る瞬間、くそっ。言い忘れた事を思い出して舌打ちする。
振り返ると彼女はまだ立ったままでこちらを見ている。
出来るだけ苦虫を噛み潰したような顔をしていない事を心がけてから。
そして言った。

「後、これは約束してもらいたい。これから飯は2人分作れ。」





31 ◆/pDb2FqpBw :2008/03/05(水) 18:52:26 ID:XjglT1PB

---

以上です。では。
ノシ
32名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 18:52:56 ID:4xSU5jtT
どこに行けば咲野さんに会えますかw
お手付き前提のメイドさんとは男の浪漫ですなw
33名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 19:30:02 ID:C3KJyuAC
>>20-31
この後もお話は続くんですよね?
楽しみにしてます。

咲野さんにも会いたいが、御前にも会ってみたくなりました。
34名無しさん@ピンキー:2008/03/09(日) 04:06:02 ID:gnOMPchF
>>31
誰かと思えばうにさんじゃないですか。
御前もなかなか良いキャラですね。惚れた。
35 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/12(水) 07:53:08 ID:1SJXDjMI
>>1乙です。
麻由の話を投下します。
今回は、武視点の話で、後ろ1/5程度が武の自分語り乙な内容です。
うざいと思われる方はあぼーんお願いします。


「媚薬」


「久しぶりだな、遠野」
待たせていた取引先の専務がそう言い、立ち上がった。
大学が同じだったこの男とは、社会人になってもこうして関係が続いている。
相変わらずぞんざいな口の利き方だが、学生時代のよしみがあるから無碍にもできない。
「ああ。元気そうじゃないか」
「まあな。お前みたいに手広くバリバリとやってるわけじゃないがな」
「そうか?そっちの社も結構…」
「俺は、まだ親父の下で見習いだ。抑えつけられて鬱陶しいったらありゃしない」
「そうか」
不満を隠しもしないその顔に苦笑する。
そう言ったところを見ると、こいつなりに頑張っているのかも知れない。


「で、今日の用件は?」
差し迫った重要な案件は無かったはずだ。
「ああ、俺は今回、専務から副社長になることになったんだ。その顔繋ぎってとこかな」
なるほど。
父親である社長が、挨拶の為に息子を寄越したという寸法らしい。
こいつに仕事を段々と任せていく腹なのだろうか。
それなら、今日くらいはかしこまって、形式的な挨拶でもすればいいと思うのだが…。
相手はそんなことには頓着せず、べらべらと話し続けている。
つい先日までアメリカに出張していたこと、ついでに遊んできたカジノのこと、現地の女のこと。
将来が約束されたお坊ちゃんらしく、それなりに遊んでいるようだ。




「ああ、忘れるところだった。お前に土産だ」
去り際、相手がそう言ってカバンから包みを取り出した。
「親父さんからか?」
「まさか。俺からだよ。アメリカで買ってきたんだ」
受け取ったそれは、包装からして菓子か何かのように見えた。
「食べ物なのか?」
「まあな。本当は自分で使うつもりだったんだが、お前になら丁度いいだろう」
「『使う』?」
「媚薬入りのチョコレートだよ」
「えっ?」
思わず、手の中のそれと相手を見比べる。
「『遠野の若社長は、浮いた話の一つも無い』とあちこちで陰口叩かれているぞ。
相変わらず奥手のようだから、これを使って好きな女でも口説いてこいよ」
「馬鹿な。薬を盛るなんて犯罪じゃないか」
不快感を示すが、相手は全く動じる様子が無い。
「それを食って死ぬなら犯罪だろうが、その気にならせるだけだから大丈夫さ」
「『その気』?」
「ああ。どんな女でも求めてくるって言うぜ」
「なっ…」
「だから、試してみろよ。好きな女くらいいるだろう?」
にやりと笑って、からかうように言われた。
「……」
「お前も大変だろうが、仕事ばかりしてたら肩が凝る。ちょっとは遊べよ、じゃ」
そう言って相手は部屋から出て行った。
36 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/12(水) 07:53:54 ID:1SJXDjMI
相変わらず、変な奴だ。
が、本当は僕のことを心配してくれているのだろうかと考えさせるところが、あいつの策略なのかもしれない。
大学時代、コンパだ何だと派手に遊んでいたあいつの武勇伝を、僕はいつも聞く側に回っていた。
自分には麻由がいたから、女漁りをする必要も無い。
だから適当に聞き流しておいたのだが、あいつは、遠野は奥手だから好きな女に手が出せないと勘違いしているままなのかも知れない。
仕事では遠野の立場が上だが、それ以外では自分が上だと兄貴風を吹かせたいのだろうか。


なりゆきで受け取ってしまったが、始末に困る。
別に、狙っている女がいるわけでもない。
媚薬だとは言ったが、もしかしたら危険なものかも知れない。
捨ててしまおうかとゴミ箱のほうに目を遣ったところで、ふと思いついた。


麻由にこれを食べさせたらどんな反応をするだろうか。
あの恥ずかしがり屋の麻由でも、媚薬の力で自分から求めるようになるのだろうか。
関係を持つようになってもう長いが、いまだに少しでも恥ずかしい思いをさせると真っ赤になり、抵抗される。
それをあの手この手で責め立て、恥ずかしさの壁を壊していく過程が楽しいのだが…。
羞恥に震える姿も可愛いが、一度くらいは、最初から求める麻由の姿が見てみたい。


捨てるのをやめ、机の上に置いた。
危険性の無い媚薬なのだろうか。食べて害があるのなら洒落にならない。
包装紙を外し、中のパッケージを見てみる。
どこから見ても普通のチョコレートだ。
箱をスライドさせ、中身を見る。
金色と銀色の紙に包まれたチョコレートが、5個ずつ整然と並んでいた。
上には注意書きらしきカードが乗せられている。
英語で「金色はアルコール入り 銀色は媚薬入り」と書かれている。
流麗な飾り文字で書かれているので、ぱっと見は添付のリーフレットにしか見えない。
注意して読まなければ、気付く者はいないだろうと思われる。
それにしても、ダミーとはいえもう一方がアルコール入りとは、是が非でも相手に何か盛ろうとする男の執念を感じる。
実際、アルコールに弱い女性ならこの程度でも効果があるのだろう。


本当に書いてある通りなのか、調べてみなければならない。
一つづつ取り、紙を外して外見と匂いを確かめる。
特に怪しいところは無い。色も普通だ。
ペーパーナイフを使い、真ん中から二つに割ってみる。
金色の方からは中から液体が出てきた。
指に取って舐めてみたが、ブランデーのようだ。
銀色の方は、中まで一様で、割っても変化が無い。
それが却って不気味に思われた。


好奇心に勝てず、さらに細かくし、一片を口に入れてみた。
食べた途端に吐き出すような不快感は無い。
味も、最近流行のカカオ成分の濃いチョコレートと同じだ。
媚薬の風味をごまかすために、わざとそうなっているのだろうか。
口の中で溶かし、飲み込む。
即効性というわけではないようだ。
37 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/12(水) 07:54:38 ID:1SJXDjMI
待つ間にとしばらく書類に向かっていたが、ふと顔を上げた時、目に入った棚の上のほこりが気になった。
掃除の者がさぼっているのだろうか、置時計の上に少しほこりが積もり、光に照らされている。
溜息をついて立ち上がり、ハンカチを手に取って拭った。
ついでにガラス面の曇りや、いつの間にかついていた指紋も丹念に拭き取る。
ピカピカになったのを見て漸く気が済み、元の場所に置いた。
部屋を見渡し、壁の絵を目に留めて歩いてゆく。
額縁の上をそっと指で触ると、やはり僅かではあるがほこりが付いた。
これも何とかしなければならない。
ハンカチでは拭けないから、秘書に頼んでハタキでも用意してもらおう。


ドアを開け、秘書に頼むと慌てた様子で掃除の女性を呼んできた。
こちらとしてはハタキが欲しいのであって、掃除する者は要らなかったのだが。
可哀相なほど萎縮した彼女が掃除をするのを見ながら、所在無く椅子に戻った。
自分の仕事を取られたようで、面白く無い。
あたふたと掃除を終えた彼女が頭を下げ、詫びの口上を述べてから部屋を出て行った。
何かやり残しはないかと、立ってあちこちを見て回る。


秘書が入室し、置物や書類をせわしなく動かす自分を奇異な目で見つめた。
「社長、どうなさいました?」
「いや、別に」
「何だか、そわそわしていらっしゃるようにお見受けしますが…」
普段は決して無駄口を叩かない秘書が、珍しくこう言った。
「どうもしないよ。あっ…」
瞬間、思い当たることがあり、動きを止める。
「社長?」
「…君のいう通りかも知れない。落ち着くために、茶でも淹れてくれるよう言ってきてくれ」
「はい」
秘書が実直にそう答え、ドアが閉まった。


とりあえず、椅子に腰掛ける。
改めて自分を見直すと、確かにそわそわと落ち着かないのが分かった。
あまりに自然なので、気がつかなかった。
これが、媚薬入りチョコの効果だろうか。
ほんの少ししか食べなかったから、性欲を増進させるところまではいかないのかも知れない。
一つ丸ごと食べたら、きっとそわそわするどころではなく、そちらの方面にてきめんな効果を発揮するのだろう。
茶を持ってきた秘書を下がらせ、それには手も付けずに考える。
どうやら、あいつの持ってきたこのチョコは本物であるらしい。
それなら…試してみる価値はある。


残りの仕事を勢いで終え、いつもの時間に会社を出る。
屋敷に戻り、出迎えた麻由に右手でカバンを渡した。
一瞬頬を染め、恥ずかしそうに下を向く姿に胸が高鳴る。
この企みは、うまくいくだろうか。
疑いを抱かせないように、自然にチョコを勧められるかどうか分からない。
うまくいかなければ、今日は部屋で話をするだけで終わりにしよう。
駄目でも普通にベッドに誘えばよいのだが、その時はそう考えていた。


食事と入浴を終え、彼女が部屋に入ってくるのを待つ。
やっと来た麻由に、お茶を淹れるように申し付けて時間を稼ぎ、その間にチョコの箱を取り出した。
「武様、どうぞ」
「あ、ああ」
カップが前に置かれ、内心の後ろめたさを隠すように一口飲んだ。
38 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/12(水) 07:55:18 ID:1SJXDjMI
「あら、それは?」
麻由の目がチョコの箱を捉え、見ているのが分かる。
こちらから切り出すつもりだったのだが、見つかってしまえばしょうがない。
「ああ、取引先の人間に貰ったんだ。外国のチョコレートだよ」
「まあ」
「沢山貰ったら、皆に配ることもできたんだが。これだけだから、麻由と二人で食べようと思って」
「ありがとうございます」
甘いものが大好きな麻由が微笑む。
素直なその表情に罪悪感が生まれるが、後戻りは出来ない。
「金色の方は洋酒が入っているんだ。こっちは僕が食べるから、麻由は銀色の方を食べるといい」
「はい」
素直に頷き、麻由が媚薬の入った方のチョコを手に取った。
「頂きます」
銀紙を外し、形を眺めてから口に運ぶのを見る。
「あ…」
チョコが彼女の口に消えた瞬間、声が出てしまった。
「?」
僕の声に首を傾げ、チョコを頬張るその姿にまた罪悪感が湧いた。
「美味しい…」
目を細め、口元を綻ばせた麻由がチョコを飲み込むところまでをじっと見守った。
「武様は?お食べにならないのですか?」
「えっ?ああ、食べるよ勿論」
自分も金色の包み紙のほうを手に取り、剥いて口に運んだ。
ブランデーの味が口から鼻に抜け、喉がカッと熱くなる。
予定外だが、景気づけには丁度いい。


味が気に入ったのか、麻由は尚もチョコの箱に目を遣っている。
もう一つ食べたいが、どうしようかと迷っているようだ。
普通のチョコならいいが、媚薬入りのものを二つも食べさせるわけにはいかない。
お茶のお代わりを申しつけ、その間に箱を片付けた。
その後は不自然にならない程度に、話題を変えてしばらく話をする。
麻由は熱心に話し相手になってくれるが、僕は彼女の変化が無いか気になって上の空だ。
具合が悪くなるようなことがあれば、介抱しなければならない。


次第に麻由が無口になっていくことに気付く。
妙にそわそわとあちこちを見回し、姿勢を変えるなどして落ち着きがなくなった。
心なしか、頬がピンクに染まっているようにも思える。
効き目が表れてきたのだろうか。
「麻由」
「えっ?は、はい!」
気もそぞろになって返答する。合わせた目が潤んでいるのが見えた。
「どうしたんだい?」
「え?いえ、何でもございません」
「そうかい?」
「はい。あのっ、か、肩をお揉み致しますっ」
麻由は急に立ち上がり、ソファの背後に回った。
そのまま、ぎこちなく肩に手を遣り、動かし始める。
僕の正面にいることが恥ずかしいのだろうか。


背後に感じる麻由の吐息が、いつもよりも熱いように思えた。
呼吸が早くなったかと思うと、急に溜息のように深くなることもあり、落ち着きが無い。
そのうち、肩に置かれた手の力が段々と弱くなってきた。
「ああ…」
ついに、呻くような声を出して彼女が膝を付く。
「麻由?」
心配になって、振り返った。
自分を抱き締めるように小さくなっている姿がそこにあった。
39 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/12(水) 07:56:01 ID:1SJXDjMI
立ち上がり、麻由の傍に同じように膝を付く。
「武様、あの…」
「どうした?」
「身体が、あの…熱、くて…」
「うん?」
「どうしましょう、私…」
麻由の視線が、僕の下腹部に注がれているのを感じる。
「欲しいのかい?」
「えっ!」
彼女は驚いたようだが、逃げる様子は見せなかった。
不安そうなその表情に、媚薬のことを打ち明けようか迷ったが、まだだと自分を押し止める。
「僕のここをずっと見ているから…」
麻由の手を取り、そっと自分のものの上に導く。
「あ…」
いつもなら顔を真っ赤にして手を引くのに、今日はその様子が無い。
それどころか、軽く撫でるように触り、煽るような手の動きをくり出してきた。


まさか、これほど上手く自分の思惑が達成されるとは。
嬉しさと信じられない気持ちが半々になり、気分が高揚した。
しゃがみ込んだ麻由を抱えるようにして、ソファに再び座る。
「欲しいなら、自分でやってみなさい」
再び触れさせると、麻由はおそるおそるといった様子でガウンに手を掛けた。
腰紐をほどき、合わせを開かれる。
パジャマと下着もずらされ、自分のものが麻由の眼前に晒された。
麻由は潤んだ目でそれを眺めた後、決心したように口を開き、僕のものを飲み込んだ。
「あ…」
口内の柔らかさ、温かさに小さく息が漏れた。
両手で根元を掴み、おそるおそる擦りながら愛撫される。
これを好む男もいるようだが、僕はあまりさせたことがない。
麻由を乱れさせることに心血を注ぐ人間なので、こちらは後回しになってしまうのだ。
本人も、自分があまり上手ではないということが分かっているらしい。
どう扱ったらよいかが今一分からないようで、何をするにも一々迷いながら進めていく。


しかし、今日は僅かに違った。
最初はいつも通りだったのだが、少しずつ大胆になってきたのだ。
深く咥えて喉奥で擦り上げたり、鈴口を舌でしつこいくらいに舐めたりと、妙に積極的に愛撫された。
麻由の頭が前後に動くたび、痺れるような快感が腰から上に登ってくる。
「ほら、こっちも舐めてくれるかい?」
手を裏筋の方に導くと、麻由が上目遣いに見上げてくる。
潤んだその瞳に心臓が跳ねた。
下から上へゆっくりと舐め上げられ、背筋が大きく震えるのを感じた。
「ん…武様…」
口の端に笑みを浮かべ、夢中になって舌を這わせる姿がとんでもなく扇情的に思えた。
滲んだ先走り液を舌で舐め取られる。
やがて舌先の愛撫だけでは飽き足らないのか、再び咥えこみ、吸い付かれた。
「んむっ…ん…ん…」
局部に感じる快感と、麻由の一心に手と口を動かす姿に、僕はあっけなく追い詰められた。
動く頭を押さえ、腰を前後に動かして自分の快感を求める。
「んんんっ…」
苦しそうな声が聞こえるが、それを気遣う余裕など残っていなかった。
「くっ…あ…」
麻由の口の中で達し、身体から力が抜ける。
吐精した後の気だるさが腰にまとわりついた。
「…」
身体を固くしていた麻由が、ゆっくりと僕が出したものを飲み下す。
チュッと音を立てて唇を離され、小さな余韻が局所を走った。
40 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/12(水) 07:56:47 ID:1SJXDjMI
熱っぽい目で見上げてくる麻由を見て、劣情が再び湧いてくるのを感じる。
僕がさっき食べたのは、ただの洋酒入りチョコのはずなのに。
媚薬で欲情している麻由を見て、僕も欲情しているのだ。
「さ、こっちへおいで」
床に座り込んでいた麻由を立たせ、ベッドへと誘う。
シーツの上に横たえ、ぐったりしたその身体を緩く抱き締めた。
はあ、はあと浅く呼吸し、つらそうにしている。
「麻由?」
心配になって呼びかけると、助けを求めるように抱きついてくる。
欲しいと身体中で訴えているようだ。


彼女を抱き締めている腕を片方外し、下へと持っていく。
着衣の上から秘所に触れると、麻由が身体をビクリと震わせた。
「あっ…」
いつもなら腰を引こうとするのに、今日は逃げる気配が無い。
スカートの裾をめくり、今度は下着の上から触れてみた。
「っ…」
指がそこに届き、息を飲んだ。
まだ麻由の身体にほとんど触れていないのに、秘所はすでに洪水のようになっていた。
「凄いね…麻由」
嬲る言葉を聞いても、彼女は反応しない。
むしろ、腰を動かして僕の手にさらに触れようとしてくる。
麻由が求めてくるのは、大抵が絶頂に手の届く寸前の時。
ただ触れただけの今、求めてくるのはついぞありえなかった。


指をさらに動かし、彼女の快感を煽った。
「あっ…ああん…」
下着の上からでも、クリトリスが充血して固くなっているさまが分かる。
そこを狙って撫でてやると、悩ましげな吐息が彼女の口から漏れた。
溝をなぞり、ぷくりと勃起したそれを押し潰すのを繰り返す。
「やぁ…んん…」
麻由が僕の手を掴み、自らの秘所に押し付けた。
「ああ…もっと…ん…んっ…」
ねだるその声に、下半身に熱が集まった。


「ああ!」
しばらくして、麻由が達した。
秘所をヒクヒクと痙攣させ、荒い息をしている。
手で触れただけでこうなることも、今まで殆ど無かった。
最も、触れただけで我慢できないのは僕の方で、すぐ彼女の秘所に顔を埋め、口で愛撫を始めるからなのだが…。


起き上がり、ぐっしょりと濡れた下着を脱がせる。
「ああ、これは僕がプレゼントしたものだね」
先日、海外出張のときに現地で求めたものだ。
普段、土産といえば菓子類かアクセサリーなのだが、たまにこういうものを買ってくることがある。
しかし、派手なものをプレゼントしても、麻由は着てくれない。
「あれを着てくれ」とねだっても、恥ずかしいからと拒まれる。
上品な白いレースの下着なら身につけてくれるかと思い、今回はこれを買ってきたのだ。
「嬉しいよ、麻由」
着用してくれていたことに喜んで言ったが、今の麻由には聞こえているのか定かではない。
41 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/12(水) 07:57:34 ID:1SJXDjMI
「ほら」
麻由の手を掴み、自分の股間に持っていく。
再び僕のものを擦り上げた彼女の手に、更に興奮を覚えた。
立ち上がったそれを握りながら、麻由が周囲を見回す。
「…ああ、そうか」
ヘッドボードからコンドームを取り出し、麻由に手渡す。
「今日は、君がつけてくれるんだね」
からかうように言うが、やはり麻由の耳には入らないらしい。
覚束ない手つきで、時間をかけてどうにか装着を終えた。


「よくできたね。じゃあ、おいで」
手を広げて彼女を呼ぶ。
全部脱がせてからとも思ったが、やはり、一刻も早く彼女の中に入りたい。
脚を伸ばして座った僕に相対して、麻由がベッドに膝を付く。
自分でスカートの裾を持ち上げ、そろそろと僕の腰を跨いだ。
「自分で入れてみなさい」
腰に手を添え、そう申し付ける。
麻由は片手を僕の肩に置き、位置を合わせてゆっくりと体重をかけてきた。
「あ、あ…」
小さく声を漏らしているのが聞こえる。
彼女の中に飲み込まれていく快感に、脳髄が痺れるようになった。


全部入りきったところで、麻由が両手で僕に抱きついてきた。
熱と涙に濡れた瞳で見つめられ、心が歓喜に震える。
「…いいかい?」
頷いた麻由の頬に口づけ、ゆっくりと腰を使い始める。
僕に抱きつく手に力がこもり、麻由は完全に僕に身を預けた。


心なしか、いつもより締め付けがきついような気がする。
このままだとあまり持たないかも知れない。
それでは、麻由の情欲を全て解消してやることができなくなる。
手を後ろに回して、麻由のエプロンの腰紐をほどいた。
外れたそれをベッド下に投げ、ワンピース姿になった麻由のブラジャーのホックを服の上から外した。
おそらく、これも僕がプレゼントしたものだろう。あれは上下セットだったはずだ。
ブラジャーを手探りで押し上げ、ワンピースの上から彼女の胸に触れた。
「あ…ん…」
気持ちよさそうに声を上げる彼女の顔を見つめる。
直接触るのもいいが、服の上から胸を愛撫しても気持ちいいようだ。
下着越しより、下着を取った服の上から触る方が反応がいいことを発見して以来、たまにこうして愛撫することがある。
こうすると麻由の中がキュッと締まることも、直接胸に触れた時と変わらない。


「武様…あん…あ…武様…っ」
麻由がうわ言のようにくり返し僕の名を呼ぶ。
僕を腕全体で引き寄せ、動きに合わせて腰を押し付けてくる。
鮮烈な刺激に、肌が粟立つのを感じた。
快感を堪え、彼女の気持ちいい所を重点的に突く。
麻由を先にイかせなければ、僕の方が負けてしまいそうだ。
「あ…ああ!いや…武様…だめ…んん!」
彼女が白い喉を晒し、恍惚とした声で喘ぐ。
それに見とれながら、さらに責め立てた。
「やあ…あ!もう…だめ…ああっ!」
僕のものを一際強く締め付け、麻由が達した。
危うく僕もつられそうになるが、なんとか踏み止まる。
身体を震わせる麻由の背を、ゆっくりと撫でた。
僕の頬に彼女が頬擦りをし、その感触に心が温かくなった。
42 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/12(水) 07:58:14 ID:1SJXDjMI
窮屈そうに麻由が身をよじるので、ワンピースを脱がせることにする。
背のファスナーを外し、首元の布地を掴んで上に引いた。
同じ高さで向かい合っているので、いささかやりにくい。
僕が引っ張り、麻由が上半身を何度もばたつかせ、やっとワンピースが外れた。
ずり上がっていた下着も取り去り、生まれたままの姿になった麻由を抱き締めた。


肌の温かみをしばらく堪能してから、そっと押し倒す。
大きくゆっくりと突き上げると、麻由が色っぽい吐息を漏らした。
動きに合わせて、彼女の白い胸が揺れるのが目に入る。
見たからには、触れずにいられない。
揉み上げて、ふっくらと柔らかな質感を楽しむ。
胸の間に顔を近づけ、頬擦りをして口づけた。
「ん…」
麻由の吐息が聞こえる。
柔らかな部分に吸い付き、跡をつけると、小さく呻くような声が漏れた。


この声がもっと聞きたい。
舌で膨らみを這い登り、僕を誘うように固くなりかけている乳首を口で包み込んだ。
「あっ!」
麻由の身体がビクリと震える。
「んっ…あんっ…」
反応を見ながら、何度も軽く吸い付いては離す。
「くっ…あ、やっ…」
抗議のつもりなのか、口を離した時に彼女の口から不満気な声が上がった。
ならばと乳首を唇で挟み、舌先で転がして刺激を与える。
「ああ…」
途端に麻由は深く息を吐き、悦びに満ちた表情になった。
「ああん……あん…武様ぁ…」
蕩けるようなその声に、愛おしさがこみ上げる。
そっと顔を上げ、上目遣いに麻由の顔を覗いた。
快楽に濡れた瞳で、こちらを見つめる視線とぶつかる。
「ん…」
頭を抱えられ、自らの胸に手を添えた麻由に再び乳首を含まされる。
「あぁ…」
望みどおりにまた吸い付くと、麻由が安堵したように息をつく。
僕の愛撫をねだるその姿に、例えようも無い幸福感が湧いた。


麻由が脚を持ち上げ、そろそろと僕の腰に回した。
「武様…」
呟き、潤んだ眼でこちらを見ている。
「待ちきれないのかい?」
頬を染めコクリと頷いた麻由の顔を見て、心が煽られた。
43 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/12(水) 07:59:13 ID:1SJXDjMI
麻由の華奢な腰に手を掛け、また動き始める。
ゆっくりと大きく腰を使い、彼女の中を探った。
「あ…はぁん……」
麻由が目を閉じ、気持ちよさそうに声を上げる。
「武様…ぁ…気持ちいい…」
いつもは、なかなか聞けないこの言葉。
素直に彼女の口から聞けたことに、嬉しくなった。
「ん…あん…」
腰に絡んだ麻由の脚に力が入り、さらに密着する。
繋がった部分から発する水音が、思考を段々と奪っていった。
「っは…麻由…麻由っ…」
何も考えられず、ただ麻由の為に動く。
「はぁん…武、様…ああ…」
彼女もそれに応えてくれ、僕にしがみついた。


浅く息をしている彼女の唇を捕らえ、吸い付いた。
喉から発する喘ぎ声を奪い、何度も飲み込む。
「…んっ!」
麻由が逃げようとするが、離してはやらない。
彼女の全ては僕のものだ。
「うんっ…く、はっ…」
彼女が大きく首を振り、唇が外れてしまった。
肩を上下させ、息をするその姿を見て、少し冷静さが戻った。


しばらく待ってから、また麻由を深く突き上げる。
「あ!だめ…そんな…」
麻由の身体が大きくしなり、震えた。
それに構わず、脚を抱え上げて更に深く繋がった。
「んん…」
快感を堪えるような素振りを見て、もっと責め立てたくなる。
彼女の秘所へと指を伸ばし、クリトリスを弄った。
「きゃあ!ああん!いや…ん…っ…」
麻由が、喘ぎながらもジタバタともがく。
指から逃げようと虚しい努力をするが、勿論、そんなのは無駄だ。
「はぁん…あっ!んっ!やぁ!」
ぷくりと固くなったクリトリスを指で挟み、振動を与える。
絶頂が近くなった体が反り返り、中が一層きつく締まった。
「ああ!だめ!もう…イっ…あ…あん…いやぁ!」
「くっ…あ!」
締め付けに耐え切れず、僕のものが精を吐き出した。
「あっあ…んっ…あ…あああっ!」
少し遅れてビクリと大きく身体を跳ねさせ、麻由が達した。
身体中の力が抜け、麻由は事切れたように動かなくなった。


荒い息を整え、麻由の顔を覗き込む。
ぐったりとして、身動き一つしない。
「麻由…?」
心配になり、緩く頬を叩いてみるが、反応が無い。
息はあるから、大事には至ってないはずだが。
「……」
これが、失神するということなのだろうか。
麻由を数え切れないほど抱いてきたが、セックスの後にこうなるのは初めてだ。
そんなに、良かったのだろうか。
口の端が上がるのを抑えられないが、自惚れは禁物だ。
これはあくまでも媚薬のせいで、僕の頑張りではないのだろうから。
無理に目を覚まさせるのをやめ、身体を離す。
後始末をし、彼女の横に寝転んだ。
44 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/12(水) 08:01:06 ID:1SJXDjMI
「ん……」
しばらくして麻由が目を開け、視線をさ迷わせた。
僕の顔を認め、それから自分の身体を見下ろして頬を染めた。
それを隠すように、彼女は僕の胸に顔を埋める。
ギュッと抱き締め、髪に口づけた。


「あの…私…」
麻由がおずおずと口を開く。
「ああ、言いたいことは分かっているよ」
背中を撫で、僕は言った。
「今日の君がいつもと違ったことについて、だろう?」
「はい…」
胸に顔を押し付けたまま、消え入りそうな声で答えが返ってくる。
「さっき、チョコレートを食べただろう?」
「?はい」
「君が食べたあの銀紙の方。あれは、実は媚薬入りのチョコなんだ」
「えっ?」
「媚薬。欲望を煽るための薬さ」


「媚薬…」
呟いたきり、麻由は言葉を失った。
「ああ、大丈夫だよ。僕が事前に食べて、問題ないことを確かめてから使ったから」
麻由が食べたのは1個まるごと。僕が食べたのはその何分の一にしか過ぎないが。
「まあ、何てこと!」
彼女はガバッと身体を起こし、僕を見下ろした。
先程まで気を失っていたのに、恐るべき回復力だと感心する。
「そんなもの、どこで手に入れられたのですか!」
声が高くなり、キッと睨まれる。
責められるのかと、無意識に身体が固くなった。
「妙なものを口にしないで下さいませ!もしものことあったら困りますのに!」
「…あ、ああ」
「今回は何も無かったからよかったものの…」
いや、君にとっては十分「何かあった」と思うが。
どうやら、麻由は媚薬を盛られたことではなく、僕がそれを口にしたことに対して怒っているようだ。
自分の身体を心配してくれていることに、僕は顔を逸らしてにやけた。




「気持ちよかったかい?」
「なっ!」
ストレートにそう問うと、麻由の頬が瞬時に染まった。
「いつもは恥ずかしがってばかりなのに、さっきの麻由はあんなに大胆で、自分から求…」
「きゃあ!きゃあっ!」
麻由は僕が喋るのを阻止しようと、必死に手で口を塞いでくる。
じたばたするその姿に笑いがこみ上げ、話すのをやめた。
にやけている僕を、ムッとした顔で麻由が見つめてくる。
へそを曲げられてしまってはつまらない。
麻由の背に手を回し、抱き締めて髪を撫でる。
「…んっ」
麻由はこうされるのに弱い。
しぶしぶながらも身体の力を抜き、僕に身体を預けてきた。
「妙なものを食べさせてしまったことは謝るよ。済まない」
「もう、二度目はありませんから」
拗ねたように言う姿も可愛い。
「ああ。肝に銘じておくよ」
「それなら、ようございますが」
まだ納得のいかない顔でこちらを見つめてくる。
45 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/12(水) 08:01:57 ID:1SJXDjMI
原因を作ったのは僕自身だ、この反応も甘んじて受けなければならない。
「本当ですね?」
「…約束しよう」
残念だが、ここは素直に従っておく方がよさそうだ。


「さあ、もう寝ようか」
内心を悟られないように、そう提案する。
「はい」
下になった腕を伸ばし、腕枕をしてやる。
ここだけの話だが、麻由はこれにも弱い。
素直に目を閉じたその顔を見入る。
この寝顔が僕だけのものだということに、満足感を覚える。
じっと見つめながら、物思いに耽った。


麻由を一生離したくはない。
出張などで会えない日が続くと、頭の中が麻由のことで一杯になる。
知り合ってもう何年も経つのに、これは一貫して変わらない。
最初はただの一目惚れだったが、年を経るごとに、彼女への執着が強くなってくる。
どうしてこんなに惹かれるのか、理由の一端は分かっている。
麻由の僕に対する気持ちを、本物だと信じているからだ。


僕とて、人並みに愛されて育ってきたはずだ。
両親、祖父母、前のメイド長。
彼らのくれた愛情は嘘偽りの無いものだったと思う。
厳しく教育されたが、しっかりした愛情が裏にあったからこそ、僕はここまで育ってこられた。
しかし、成長していくに従って、僕は様々な人間に会い過ぎた。
お慕いしていますと口では言いながら、残りの人生を贅沢に過ごすことしか考えていない令嬢達。
娘を僕に娶(めあ)わせて、自分の会社に利益をもたらさんとする他社の社長達、その妻達。
良家の出でなくとも、僕を射止めて、玉の輿を狙わんとする庶民育ちの女達。
僕に気に入られることで、出世を目論まんとする者達。
こういう手合いに囲まれて、僕は生きている。


両親も祖父母も亡くなり、前のメイド長も引退して去った。
屋敷を一歩出れば、僕個人ではなく、遠野家の若主人としてしか僕を見ない人間達の中に否応無く入らねばならない。
この家に生まれたからには仕方がないことなのだが、時々、全てが煩わしくなることがある。
麻由は違う。僕個人のことを大切にしてくれるし、支えてくれる。
「初めてお会いした時から、ずっと想い続けておりました」と言ってくれた時の瞳の美しさは、今でも忘れられない。
あの言葉には真実の輝きがあった。
彼女に愛されていると僕が思うのは、決して自惚れでは無いはずだ。


僕は弱い人間だ。
要は、自分を愛してくれる人間を手元に置いておきたいのだ。
麻由を抱く時も、彼女にとって負担になることを強いて、困らせることがよくある。
彼女が受け容れてくれるのを見ることで、自分が愛されているということを確認したいのだ。
情けないが、これが僕という人間の真の姿なのだろうと思う。


しかし、ずっと今のままというわけにもいかない。
そろそろ、麻由に求婚すべきだと考えている。
仕事も軌道に乗ってきたし、僕らの年齢的なものもある。
先日別のメイドが結婚した時に、麻由がそれを寂しそうに見つめている姿を見て、その思いを強くした。
しかし、今はまだベストの時ではない。
46 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/12(水) 08:02:48 ID:1SJXDjMI
もっともっと、麻由を僕に夢中にさせなければならない。
僕が麻由を思う気持ちと、麻由が僕を思ってくれる気持ちの大きさにはまだまだ開きがある。
勿論、彼女は「武様をお慕いしています」と言ってくれる。
可愛い嫉妬もたまにしてくれる。
しかし、僕が麻由を求めるこの狂おしいほどの気持ちとは違う。
彼女の気持ちは、あくまでも常識の範囲内だ。


麻由が僕に向けてくれる愛情のほとんどは、言ってみれば「敬愛」という種類のものだ。
メイドが主人に向ける愛情、これが大部分を占めているのだと思う。
だから、彼女は主人に対してマイナスになるようなことは決してしない。
身を粉にして主人に尽くし、心を配るということで愛情を表現する。
メイドという仕事は、まさに麻由の天職だと言えるだろう。
彼女の思いは嬉しいが、しかしその反面、大いなる僕の不満の根源でもある。
敬われるのもいいが、主人としてだけではなく一人の男として、もっと麻由に愛されたい。
独占欲やわがままなど、そういう強い感情をもっと向けて欲しいのだ。
しかし、滅私奉公的なものを叩き込まれている麻由は、そういうものを殆ど表に出さない。
彼女の中で男女の情愛が占める割合は、それほど多くはないのかも知れないとさえ感じる。
それが彼女に対する唯一にして最大の不満だ。
この不満がひねくれて、麻由に対する渇望となって表れるのだろうと思う。
たまに嫉妬される時は、男としても愛されていると確認することができるのだが。


僕が麻由に抱く愛情は、ほとんどが男女の情愛であると言っていい。
残りは、おおかた愛情に名を借りた独占欲か何かだろう。
最初に抱いた恋心、そして僕を本当に大切にしてくれる女性だという依頼心。
この二つが相乗効果を生み、こんなに長く麻由に惹かれる結果を生んでいると思うのだ。
だから、彼女をいつまでも自分だけのものにしておきたい。
いざとなれば、閉じ込めてでも逃がさない努力をしようと思うだろう。
麻由が僕にくれる静かな愛情と、僕が麻由に抱く滾るような愛情。
相手に対する好意という点では同じだが、その実は全く異なる。
二つの距離が遠いことに、僕は時々歯噛みするほど悔しくなる。


麻由の精神力は、自己を抑制する方面に使われる傾向がある。
だから、僕が結婚を申し込んでも、麻由は断るだろう。
庶民の自分が、名家の奥方など務まらないと彼女は思い込んでいる。
「私では不適格だ、武様にご迷惑をかけるから」といった具合にだ。
自分達は結婚できないと、固く信じているに違いない。
焦って求婚し、自分は武様にふさわしくないと失踪されても困る。
しかし、有無を言わせず妻にしても、何かあった時には同じく逃げられる危険がある。
こんなことなら、両親が亡くなってすぐに求婚するべきだった。
僕も含めて屋敷の皆が不安になり、浮き足立っていたあの頃。
「僕を支えてくれるのは君だけだ。結婚してくれ」と言っていれば。
彼女も承諾してくれ、今頃は子供の一人や二人いたかも知れない。


「武様と私は不釣合いだ」という麻由の固定観念。
冷静なその気持ちを失くすほど、もっと僕に惚れさせる必要がある。
身も心も離れがたく結びついている実感はあるが、まだ足りない。
僕の半分くらいでもいいから、麻由に僕に対する情愛を抱いて欲しい。
求婚に対し、一も二もなく「はい」と返事させるだけの器量が、今の僕には無いのかもしれない。
そんな自分を不甲斐なく思う。
「武様から離れて生きられない」と、彼女が思ってくれるにはどうすればいいのだろうか。
僕を想って多くを望まないのではなく、僕と共に障害を乗り越えようと決意してくれるためには。
最近は、このことばかりを考えている。
周囲の女達には掃いて捨てるほど野心があるのに、どうして麻由には一片の野心も無いのだろうか。
ちらとでも野心があれば、僕と結婚するように説得することは易いのに。
47 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/12(水) 08:04:08 ID:1SJXDjMI
頼りがいのある男になるべく、社を継いでから必死に頑張ってきた。
父の代より仕事の規模も大きくなり、財務状況もよくすることができた。
しかし、僕が社長として頑張るほど、余計に麻由との立ち位置が離れるような気がする。
社が大きくなっても僕は僕なのだが、麻由にとっては違うのかもしれない。
先日、風邪を引いた時、風呂場で避妊をせずに麻由を抱いた。
子供が出来れば、麻由も嫌とは言えずに首を縦に振るかも知れない。
心の底でそう思ったからそうした。単に準備を怠ったからではない。
しかし、その目論見は外れてしまった。
一度くらい避妊をしなかったくらいでは、やはり駄目なのだろう。
後ろめたさもあり、その後はまたきちんと避妊をするようになった。
この手はもう使えないだろう。
性的な快感で離れられないようにするということも考えた。
しかし、それには正直自信が無い。
そちらの技術を磨こうと他を当たろうものなら、瞬時に麻由にばれてしまうだろう。
傷つけて泣かせてしまうから、逆効果になってしまう。
実践の中で色々試して、彼女の反応を見極めるしか無い。


彼女の不安も分かっているつもりだ。
僕と麻由が結婚すれば、間違いなく方々で陰口を叩かれる。
おそらく、その矢面に立つことになるのは麻由だ。
周囲の批判からはもちろん守るが、僕の知らないところで麻由が傷つけられることもあるだろう。
僕としては、彼女が伴侶として共に生きてくれるなら、他はあまり望まない。
しかし、彼女は僕の評判を落とさないために社交面でも頑張ろうとするだろう。
その健気さが、仇になることが時にある。
女同士の付き合いという奴の中で、上流階級に慣れない者は叩かれ、嘲笑されるものだ。
実際、陰で聞くに堪えないほどの誹謗中傷をされている女性の話を何度か聞いたことがある。
金と暇のある人種は、大抵ろくな事をしないから。
麻由の色香に惑わされたのではなく、心底惚れて結ばれるのだから、誰に何を言われるべきことでもない。
しかし、僕が彼女に惚れているのを見せつければ「あの女、どうやって主人をたらし込んだのか」と言われるだろう。
僕が昔から麻由を想っていたと知れても、やはり言われるに違いない。
初恋の女性と結ばれるのだから、むしろ美談だと思うのだが。
こういうことを言うのは、愚かで暇な人間の憂さ晴らしに過ぎないのだが、麻由が傷つくのを見たくは無い。


麻由を一生自分だけのものにしておきたい。
しかし、求婚したら断られるだろう。耐えられない。
一方、今のままの関係をずっと続けていくのも限度がある。
所帯を持てという周囲の圧力が段々と増してきているから。
「武様がご結婚なさらないのは自分がいるからだ」と麻由に誤解されても堪らない。
どちらを選んでも問題があると思い、思考はいつもこのように堂々巡りになる。
48 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/12(水) 08:05:46 ID:1SJXDjMI
結局、麻由自身に、「万難を排して武様と一緒になる」という決意を持ってもらうしかないのだ。
後々、困難にぶち当たっても「あの時そう決めたのだから、辛くても頑張らなきゃ」と思ってくれるような。
自己を抑制するという麻由の性格を、こちらに転化させることができれば一番いい。
そうなれば、僕の方はいつでもいい。明日でもいいと思うくらいだ。
その為にはもっともっと、彼女を僕に夢中にさせなければならない。
どう頑張ればそうなるかを更に深く考えなければと思い、僕も眠りについた。




「ん…」
隣にあるはずの温もりが無いことに気付き、目が覚めた。
時計を見ると、起きるべき時間の少し前だ。
麻由はもう部屋を出たらしい。
一緒に目覚められないことに、一抹の寂しさを覚える。
彼女はメイドなのだから、主人より早く起きるのは当然なのだが…。
まあ、いい。
結婚したら、いやでも同じベッドで寝起きが出来るのだから。
夜に足りなかった分を、朝にもう一度…という目論見もできるだろう。
そうなる日を思い描き、シャワーを浴びて風呂場を出た。
テーブルの上をふと見ると、昨日のチョコの箱がぽつんと乗っている。
手に取り、スライドさせて開けてみた。
3つずつ残っているはずのチョコは、媚薬が入った銀色の方のみが消えていた。
おそらく、麻由が持ち去ったのだろう。
不承不承頷いた僕の本心を見透かされていたのだろうか。
少し残念な気もするが、仕方が無い。
残った金色の方を手に取り、中身を口に含む。
昨日の麻由の痴態を思い出し、頬が緩んだ。
絶対、彼女を妻に迎えてみせる。
今度はどういった手を使おうかを考えながら、着替えを済ませ食事に向かった。

──終わり──



果物売場で旬の苺を見るたび、厨房からくすねた練乳を使って
麻由の身体を堪能する武の姿が頭に浮かんで消えてくれません。
49名無しさん@ピンキー:2008/03/12(水) 08:48:56 ID:MRBDp49R
>>48
GJ!おお、今回は武様視点のお話ですか
武様もいろいろと考えてるんだなあ
麻由視点だとどんどんS度が増すエスカレーター型エロマスターにしか見えないときがあるしw
近くて遠い二人の距離に切なくなりますが、この二人なら乗り越えられるよね?

ラスト一行の妄想力に感服つかまつったw
50名無しさん@ピンキー:2008/03/12(水) 14:07:21 ID:CFxVHh0K
>>48
GJ!
これから武様がどうやって麻由を追い込んでいくのか楽しみです

練乳話も全裸でお待ちしております

51名無しさん@ピンキー:2008/03/12(水) 14:23:28 ID:yBDIZi8L
GJ! 麻由の話待ってました!

そして最後の1行に吹きましたw
是非書いてくださいww
52名無しさん@ピンキー:2008/03/13(木) 02:18:33 ID:4pX0lNxy
相変わらずのGJ!

麻由さん身を引こうとする→武様ヤンデレ化フラグかと一瞬思ったが、
最後の一行でそれはないと思えたwwww
53 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/16(日) 23:43:27 ID:I65OEWuy
48の最後に書いていた、練乳の話がまとまったので投下します。
甘いもの苦手な方は、見るのを控えられるのがよろしいかと。



「風物詩」


「お帰りなさいませ」
今日も、いつも通りに当家の主人であられる遠野武(とおのたける)様のご帰宅を使用人一同でお迎えします。
「ただいま」
車から降りられた武様のカバンを受け取るのはメイド長である私、北岡麻由(きたおかまゆ)のお役目。
「これも頼むよ」
右手のカバンと共に、左手にお持ちだった紙袋も差し出されて受け取りました。
袋から覗くのは、見覚えのあるストロベリーピンクの色をした箱。
「…かしこまりました」
一気に、頬に血が昇るのを感じました。
今年も、この季節がやってきたのですね…。


この箱との出会いは、四年前のこの季節にさかのぼります。
厳密に申し上げれば、その時まだ箱は無地の白でしたが…。
武様がお父上である前社長のご逝去に伴い、ご卒業後まもなく会社を継がれてから一年ほど経った頃。
私は当時、先代のメイド長の下でその他大勢のメイドたちと共にご奉公しておりました。
(武様と男女の関係を持つようになったのはさらにこの三年前…でございますが、これはまた別のお話です。)
ともかく当時、会社からお戻りになった武様がこの箱を私に託されました。
「僕の部屋に置いといてくれたまえ」とのご指示に従い、私はお部屋へ赴き置いて参りました。
ドアを閉め、持ち場へ戻ろうと廊下を歩いていた時、すれ違いざまにその夜のお誘いを受けたのでございます。
「待っているからね」と念を押されてあまつさえ頬に口づけられ、私は大慌てで周囲を見渡しました。
誰に見咎められるとも知れない廊下ですのに、堂々とこんなことをなさる武様を恨めしく思ったのを覚えております。


その日、皆が仕事を終えて引き取り、邸内が静かになるのを待ってからお部屋へと参りました。
「ああ、来たね」
お風呂を済まされ、ガウンをお召しになった武様のお姿を見、胸が急に高鳴りはじめました。
ソファを勧められ、向かい合って座ります。
「ほら。さっきのなんだが…」
武様がお示しになったのは、先ほど持ち帰られたあの箱。
「開けてみなさい」
促され、紙袋から出して箱のふたを開けた私は歓声を上げました。
「まあ!」
思わず満面の笑みを浮かべてしまった理由は、箱の中身にありました。
女性なら、おそらく十中八九は私と同じ反応をしたでしょう。
箱には、紅眩しく芳香薫る、美味しそうなイチゴが一杯に入っていたのですから。


「麻由?」
箱を開けた姿勢のまま、イチゴに目を奪われていた私に武様が呼びかけられました。
「あっ、はい」
慌てて姿勢を戻し、武様の方を向きます。
「君がそんなに興味を示すとは、嬉しいね」
「いえ、あの…」
はしたない振る舞いをしてしまったことに漸く気付き、少し恥ずかしくなりました。
「いいんだよ。むしろ、一般の女性の反応が見られて有意義だった」
「えっ?」
予想外のことを仰る武様のお顔をぽかんと見つめました。
54 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/16(日) 23:44:23 ID:I65OEWuy
箱のふたを持ったまま、武様がご説明下さるのを聞きました。
会社には、通信販売の部門があること。
今回、業績の振るわないそこを大々的にリニューアルすることになり、有望な女性社員を移動させ、受け持たせたこと。
その方がまず手始めに、「贅沢あらかると」という通信販売のシリーズを提案されたこと。
「『贅沢あらかると』というのは、読んで字のごとく、高いものを少しずつ食べ比べ、楽しむというコンセプトらしい。
見てもらうほうが早いと、今日サンプルを寄越されたんだ。これが、そうさ」
指で示され、あらためて箱の中身を見つめました。
よく見ると、箱が十区画に仕切られ、そのマス目一つにつき二つずつイチゴが納まっています。
「これが『とよのか』。こっちが『さがほのか』で、そっちが『アスカルビー』だね」
横に書かれた名前を見ながら、武様が解説して下さいました。
全部で十種、合計二十個のイチゴ。
どれも一様に美味しそうに見えるイチゴですが、こんなに種類があったなんて。
スーパーや八百屋さんで見るものよりも赤味が濃くて大きくて、一目で上質であることが分かります。
これをお食べになる方は、一体どんな上流階級の方なのでしょうか。


「食通と呼ばれる人たちは、こういう『食べ比べ』を仲間内でするそうだよ。
初夏には鮎、冬には牡蠣といった具合に、全国津々浦々から取り寄せ、どれが一番だと議論するらしい」
「まあ」
「そこまでいくと大変だが、これなら手軽に食通気分を味わえるという長所があるとその社員から力説されてね」
なるほど、そうかも知れません。
魚介類なら品質の他にも、調理法や料理の腕など、それだけで通人の議論の種になりそうなことが山積みです。
イチゴなら、一切何もせずに届いたそのままで食べることができますもの。
「気軽に楽しめて、いっぱしの通人の気分が味わえるというこの企画は絶対成功する!と押し切られてね」
「押しの強い方なのですね」
「ああ。『イチゴの嫌いな女性なんていません!周囲の女性にこの企画の話をして、反応を見てください!』とね。
全く、こっちが口を挟むすきを与えないんだよ。参った」
思い出されたのか、武様は苦笑なさいました。
責任者の方が女性だというのを思い出し、私は面白くない気分です。
私以外の女性について武様がお話になるのには、少し嫉妬してしまうのです。
こんなことで、心が狭いと思われてしまうでしょうが…。


「そんなわけでね、麻由の反応を見たかったんだ」
武様がそう仰って、私は先程のことを思い出しました。
「あんなに釘付けになってくれるとは思わなかったなぁ」
さもおかしそうにそう言われてしまい、頬が染まるのが分かりました。
食い意地が張っていると、武様にそう思われたのではないかと思って。


「じゃあ、食べてみようか」
「えっ?」
武様のお言葉に、私はパッと顔を上げてしまいました。
「またそんな、嬉しそうな目をして…」
声を殺して笑われてしまい、私はもう一つ失敗したことに気が付きます。
ますます、食い意地が張っていると思われたに違いありませんもの。
「これほどのイチゴなら、食べ甲斐があるだろう。厨房へ行って、洗ってきてくれるかい?」
「はい」
内心の動揺を誤魔化すように、勢いよく立ち上がりました。
「洗うときに、一緒くたにしないでおくれよ。ちゃんと品種ごとに箱の同じ場所に戻しておくれ。
『食べ比べ』だからね。名と味が一致しないと意味がないと、きつく言われているんだ」
「はい、かしこまりました」
55 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/16(日) 23:46:14 ID:I65OEWuy
音を立てないように厨房へ向かい、イチゴを洗ってお部屋へと戻りました。
二人分のフォーク、お皿、そして冷蔵庫から使いさしの練乳を取り出して一緒に持って行きます。
あれほどのイチゴなら何もつけないでも十分でしょうが、念のためです。
テーブルに箱を置き、お皿とフォークを並べました。
「洗ってから戻すと、箱がヘタるね。これは改善の必要があるな」
「はい」
もっともらしく頷くのですが、私の目にはもうイチゴしか映りません。
洗ったからでしょうか、残った雫がきらきら輝いて、さらに美味しそうに見えるのですもの。
「じゃあ、どれから食べたい?」
「ええと…」
十種類を見渡し、私はそのまま固まりました。
「決められないのかい?」
「いえ!…では、この『女峰』から。宜しいですか?」
「ああ、そうしよう」


同じ種類のイチゴを一つずつ取り、同時に食べてゆきました。
甘みが強いもの、酸味の勝っているもの。
爽やかな後味のもの、濃厚で舌が蕩けそうなもの。
中まで赤いもの、白いもの、中はベージュがかった色で香気の強いもの。
口の中に瑞々しい果汁が迸り、一口ごとに身体の中から綺麗になれるような気がしてまいります。
見るだけでは分かりませんでしたが、種類ごとにこうまで味が違うのかと目をみはりました。
七品種食べ終わったところで、一度休憩します。
私は「さちのか」が気に入りましたと申し上げ、武様は「アイベリー」が気に入ったと仰いました。


「ふう。さすがに、食べ応えがあるね」
「はい」
どれも味が濃く大粒のイチゴですから、そう仰るのも無理はありません。
「ちょっと、気分を変えてみようかな」
武様はそう仰り、練乳のチューブを手に取られました。
イチゴの上にしぼり出し、白く糸を引いたようになったのを口に含まれました。
あ、せっかく農家の方が丹精されたのに…と、少し残念な気持ちになります。
「そのまま食べるのもいいが、やっぱり、これもまたいいな」
口元を綻ばせてそう仰るのを見つめました。


「麻由も食べてご覧」
私の分のイチゴを手に取られ、武様が練乳を掛けてくださいました。
「ほら、あーんして」
ふざけた調子で仰って、口元に近付けられました。
普通の恋人同士のようなその仕草に嬉しくなり、私も応えるべく口を開け、食べさせていただきます。
「んっ…あ…」
差し出されたそれを口に含んだ瞬間、練乳が滴り落ち、私の手の甲に付きました。
「あぁ、勿体ない」
食べさせて頂いたイチゴを飲み込んだあと、手に付いた練乳を舐め取りました。
服に付かなくてよかったと胸をなで下ろしていた私は、その時、武様が急に沈黙なさったのに気が付かなかったのです。


残ったイチゴはあと二種類。
最後はやはり「あまおう」でしょうか。それとも「章姫(あきひめ)」?
どちらにしようかと悩み、箱の中を見つめます。
「麻由」
「はい?…んっ」
武様、次はどれにいたしましょう?
そう言おうとして開いた口を、武様の唇で塞がれました。
最初は、軽く口づけられては離れる、優しいキス。
そして、微かにイチゴの味のする舌が入り込み、私のものと絡みました。
うっとりして、されるがままになります。
イチゴ味のキス。なんて、ロマンチックなんでしょう。
56 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/16(日) 23:47:31 ID:I65OEWuy
唇が離れ、至近距離で見つめ合いました。
いつの間にか、武様はソファのこちら側に回られていたのですね。
イチゴに夢中で、全く気が付きませんでした。
「さあ、麻由」
「何でございましょう?」
余韻冷めやらぬまま、夢見心地で返答します。
「イチゴは、もういいかな。次は、麻由のことが食べたい」
「えっ!」
耳元で囁かれ、心臓が跳ねました。
「いいだろう?」
言葉を探している間に、有無を言わせずベッドへと運ばれてしまいました。
その時、武様がガウンのポケットに、あるものを潜ませていらっしゃったこと。
甘い空気に酔っていた私は、それにも全く気付かなかったのでございます。


ベッドに相対して座り、着衣を脱がせ合いました。
「今日も可愛いね、麻由」
抱き締めてそう仰ってくださるのに、頬が染まりました。
他の誰より、武様に褒めていただくのが一番嬉しいのですもの。
幸福感に浸ったまま、武様に体重をかけられて二人ともベッドに沈み込みました。


「ん…っん…」
首筋や喉元に口づけが何度も降り注いでは、チュッという音を立てて離れました。
まだイチゴの香りが周囲に漂っているようで、私はうっとりと目を閉じておりました。
指を絡められていた手を片方外され、何やらがさごそと音がします。
何かしら…と怪訝に思ったその時。
「キャッ!」
冷たい刺激が胸元に走り、私は飛び起きました。
「こら。大人しくしていなさい」
武様にたしなめられますが、それどころではないのです。
何か液体のようなものが肌に付着し、とろりと流れ落ちる感触がしたのですから。


腕を押さえられ、また組み敷かれました。
「麻由の肌は、これに負けないくらい白いね」
嬉しそうに仰る武様のお顔を、下から見上げました。
「ほら」
じゃーん、と効果音が付きそうなほど得意気に見せられたのは、さっきまでテーブルにあった練乳のチューブ。
なぜそれが今ここにあるのか分からず、何度も瞬きをしました。
言葉を失っている私をこれ幸いと、武様はお手にあるチューブを絞り、私の肌に練乳を垂らされました。
「キャッ!」
さっきと同じような刺激が身体を走ります。
ああ、がさごそというさっきの音は、これをポケットかどこかから取り出されていた音だったのですか。
…えっ、どうして?
57 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/16(日) 23:48:40 ID:I65OEWuy
クチュッという音と共に、武様が私の肌に吸いつかれました。
「ん…あ…」
そのまま、舌を広範囲に使って舐め上げられ、肌が粟立ちました。
なんだか、違うのです。
いつもよりももっと粘着質で、背筋に震えが走るような感触が…。
初めてのことに、私は身を捩りました。
「ああ、甘いね」
熱を帯びた声で武様に囁かれ、我に返りました。
「おやめ下さいませ、このようなこと…」
練乳はイチゴやカキ氷のためのもので、肌につけるものではありません。
食べ物をおもちゃにするのは、教育上よくありませんし。
いえ、別に教育はこの際関係ないですが。
「君が、僕を誘うようなことをするのがいけない」
「えっ?私がいつそんな…」
「手に付いた練乳を舐めただろう?あの時さ」
そう言われても、さっぱり分かりません。
私がそうしたことが、なぜこれに繋がるのでしょう。


武様の舌から逃げようとしますが、がっちりと押さえ込まれているので身動きができません。
じたばたしている間にも、何度も練乳が肌に落ち、武様に舐め取られました。
「なんだか、舐めた後の肌がしっとりしているようだよ?」
練乳が落ちたところとそうでないところ、それぞれに指が這い、確かめるように撫でられました。
肌を滑る指の感触にまた感じてしまい、慌てて声を抑えます。
甘いミルクの香りが濃厚に漂っているのが、自分でも分かりました。


「キャッ!やぁ…」
突然、胸の頂に冷たい感触が走りました。
その正体が何なのかは、申し上げるまでもないでしょう。
「ほら、麻由。ここが赤く尖っているから、これを垂らしたらぴったりだ」
指先で頂をくるくると撫でながら、武様が仰いました。
思わず下方へと視線を遣り、私はまた固まってしまいました。
ぷっくりと立ち上がり、充血した胸の頂にかかる、白い液体。
それがとても卑猥に見えたのです。
「あ…んんっ…」
重みのある液体が胸の先に絡み、何とも言えない刺激を生みました。
武様の指で捏ね上げられ、切ない疼きが走って腰が浮き上がります。
「や…だめ…ですっ…」
身動きが取れませんから、せめて精一杯お顔を見上げて抗議しました。


「そうか、駄目か…」
「はい!」
珍しく素直に聞き入れて下さる素振りを見て、勢い込んで返事をしました。
うむ、と頷かれて動きを止められた武様に、必死でアピールを試みたのです。
「じゃあ、垂らした分を綺麗にしないとね」
「え……あんっ!」
端正なお顔でにやりと微笑まれたかと思うと、武様は私の胸に吸いつかれました。
「や…あん…ひぁん…ん…」
先ほどの指の動きを再現するかのように、舌で胸の先を転がして弄ばれました。
ああ、なんてこと。
先ほど見せられたしおらしい素振りは、こうなさる為の伏線だったのでしょう。
見事に引っかかった自分の浅はかさに、しみじみと情けなくなりました。
「ん…。何だか、すごくいけないことをしている気分だよ」
チュッと音を立てて口を離された武様が、胸の先に唇の触れる距離で仰います。
その微かな刺激にさえ感じてしまい、私は何度も高い声を上げました。
58 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/16(日) 23:49:26 ID:I65OEWuy
抵抗する力を失ったまま、同じようにして反対側の胸も武様に可愛がられました。
悔しいのですが、粘りのある練乳が舐め取られて肌の上から消えると、妙に心地が良いのです。
多めに搾り出され、肌の上に乗ったときなどは特にそう感じました。
べっとりとした感触の心地悪さに、そこから救って下さる武様の舌を待つ自分がいて…。
こうなることも、武様の計算のうちだったのでしょうか。
悔しいのですが、周囲に立ち込めるミルクの甘い香りがますます強くなり、私から思考を奪ってゆきました。


いきなり両脚を持ち上げられ、驚いて息を飲みました。
そのままグッとお尻まで上がり、赤ちゃんがおしめを替えられる時のような体勢にされてしまって。
「えっ?何をなさるんですか!」
慌てて抗議します。
こんな格好を取らされるなど、あんまりです。
「大人しくしなさい」
膝裏をがっちりと押さえ込み、武様がぴしゃりとそう仰いました。
「嫌です!こんな…っ!」
羞恥に耐えられず、お手を押し返そうと試みました。
武様も抵抗され、しばらく無言の攻防が続きました。


「あっ!」
頭を下げられた武様が、私の秘所に舌で触れられました。
「や…あ…んっ…」
輪郭をなぞるように舐め上げられ、身体が震えました。
手の力が抜けてしまい、悔しさに唇を噛みます。
急速に嫌な予感が高まります、高まっ…。
「!」
秘所に先ほどと同じ、冷たい感触が落ちました。
絞り落とされたそれを粘膜に塗り広げるかのように舌が動き、心地悪さに鳥肌の立つような思いがします。
敏感な場所を圧迫するような、どろりと重い質感の液体を乗せられて。
雨に濡れた服が肌にべっとりと貼り付くような、そんな類の不快感でした。


早くこの心地悪さから逃れたくて、身を捩りました。
武様に押さえ込まれていますので、こんなことでは足しにならないのですが、せずにはいられないのです。
「やぁ…」
涙目になりながら、空しく動きました。
「麻由?」
この原因を作られた張本人が、脚の間で私のことを見ておられます。
ますます恥ずかしさが募り、いたたまれなくなりました。


膝裏を押さえる手の力が強くなり、武様の舌が再び秘所に届きました。
「ああ…」
粘っこい液体を舐め取られるのが気持ち良くて、大きく息を吐きました。
決して、愛撫をねだっているわけではないのに…。
こんな格好で秘所を舐められているのを肯定してしまっている自分が嫌いになりそうです。
「頭が痺れるほど甘いな」
一旦口を離された武様のお声が下方から聞こえます。
こんなことをなさるのも、全て、この練乳のせいなのでしょう。
秘所に塗りつけられたこれが粘膜から染み込んでいくような心地がし、身体ごと甘くなっていくような予感にとらわれました。
59 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/16(日) 23:50:31 ID:I65OEWuy
粘り気のある液体が肌の上から消え、ホッと息をつきました。
でもおかしいのです、何だか、その辺りが熱を持っているような…。
「何だか、別のもので麻由のここが濡れてきたようだよ?」
「あっ…ん…」
そこを指で開かれ、敏感な突起に武様の舌が触れました。
「やぁ…あ…ああん…」
秘所に絡み付いていた液体が無くなったことで、舌で舐められる生々しい感触が鮮烈に伝わりました。
「あっ!」
チュッと音を立てて敏感な突起に吸いつかれ、身体が大きく跳ねました。
腰の辺りにもやもやとしたものが溜まり、はけ口を求めてうねっているようです。
「あっ…あ…ん…はんっ…あぁん…」
押さえつけられた格好のままで、口から出るのは短い喘ぎだけ。
「んぅ…あんっ…や…武様、もう…もうっ…」
頭がカッと熱くなり、めまいがするほどの快感が駆け上ってきます。
「いや…あ、ダメ……あああっ!」
ガクガクと腰を震わせ、私は達してしまいました。
武様はそれを見届けられた後、脚をそっと離して下さいました。


余韻に震えながらも、急速に湧いてきた罪悪感のようなものに、私は小さくなっておりました。
「麻由?」
横に寝転がられ、髪を撫でてくださる武様に呼ばれても、視線を合わせる気になれなかったのです。
「…んっ」
顔を覗き込まれましたが、恥ずかしくて目を逸らしてしまいました。
食べ物を使ってあんな風にされてしまったこと、変な格好で秘所に触れられたこと。
この二つがぐるぐると頭を巡り、居たたまれない気持ちになりました。


「良くなかったのかい?」
「えっ…」
問われる武様のお声が沈んだ調子に聞こえ、私は顔を上げました。
良くなかった…わけではないのです、達してしまったのですから。
そうあからさまに言うのは躊躇われ、どう言おうかと他の言葉を探しました。
「あの…練乳の感触が…気持ち悪くて、その…」
この際、命持たざる物のせいにすることにします。
「そうなのかい?」
「ええ。なんだかベタッとしていて、肌に貼り付くようで…」
「そんなに不快だったのかい?」
「…はい」
迷いましたが、正直に返答いたしました。
「僕には分からないな」
「はあ…」
「本当は、とても良かったんじゃないのかい?」
顔を覗き込んでそう仰った武様のお言葉に、私はカッとなりました。
「良いなんて、そんな!武様も、同じ目に会ってみられればきっとお分かりになると思います!」
一気にそう申し上げ、肩で息をしながらお顔を正面から見返しました。


「同じ目、か」
呟かれた武様のお声に、ギクッとしました。
感情に任せて言ってしまいましたが、同じというのはつまり、私がこれを使って…。
何てことを言ってしまったのかと、サーッと血の気が引きました。
「あの、訂正い…」
「じゃあ、麻由の身にもなってみることにしよう」
「え…」
練乳のチューブを手に取られた武様が、私にそれを押し付けられました。
反射的に受け取ってしまい、胸に抱えて呆然とします。
「それを使って、僕を同じ目に会わせておくれ」
60 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/16(日) 23:51:24 ID:I65OEWuy
身体を起こしてベッドに腰掛けられた武様に、振り返って見つめられました。
「あ、あの…」
ピンチに陥ったことに、今更ながら気付きます。
「どうしたんだい?同じ目に会えば分かると言ったのは君だよ」
「……」
この場を切り抜ける方法が見つからないまま、私はのろのろと身体を起こしました。
ベッドから降り、武様の前に膝を付いてしゃがみ込みます。
一体どうしたら…。
「ほら」
武様が私の手を取られ、ご自身のものに触れさせられました。
「っ!」
思わず手を引こうとしますが、武様が私の手ごと握り込まれ、離すことが出来ません。
「存分にやってくれたまえ、麻由」
…また、武様の弄された策に引っ掛かってしまった自分の浅はかさを恨みました。


残り少なくなっていたチューブを傾け、中身を搾り出しました。
武様のものに練乳がとろとろと絡み、低い方へと流れていきます。
床のじゅうたんの上に落ちる前にと、舌を出してそっと舐め取りました。
「あ…」
武様が息を飲まれたのを感じ、お顔を見上げます。
これが肌に付着する心地悪さを、ご自分でもお感じになれば宜しいのです。
「麻由、もっと…」
後頭部を抱えられ、ねだられました。
持っていたチューブを奪われ、武様がご自分でそこに練乳を垂らされます。
高い位置から滴下したそのままの状態で一瞬止まり、その後にとろりと形を失くす白い液体が、何だか色っぽく見えて参りました。
引き込まれるように、私は唇を近づけて武様のものを咥えました。
「んっ…ん…」
ミルクの香りが鼻に抜け、甘い味が頭の奥まで染み込んでくるようです。
その粘り気で口が動かしづらいような、そうでもないような…。
ぎゅっと口を引き結び、目を閉じられている武様のお顔を見上げながらご奉仕をいたしました。


何度か引き抜かれ、武様が練乳を垂らされてまた改めて口内に迎え入れる。
この行為を幾度か繰り返し、武様の吐息が段々と荒くなっていくのを感じました。
ご自身も一段と大きく、固くなって参りました。
私もこうしているうちに気分が高まり、目が潤んでいるのが自分でも分かりました。
「あ、」
口から武様のものが引き抜かれ、またチューブが搾られます。
しかし、今度は一、二滴ほどしか出ず、あとは空気ばかりが出る虚しい音がしました。
「無くなったようだね」
「はい」
指で拭われ、それを口に含まされました。
チューブがベッドサイドに置かれ、ころりと転がるのを見つめます。
「最後は、麻由の中を味わいたいな」
「…はい」


ベッドににじり上がり、武様が準備をなさるのをお待ちしました。
「今日は、どうしたい?」
何を、と問い返そうとしたところで、武様のご意図に気付きました。
首を傾げ、しばらく考えます。
いつものようになら、また足を抱え上げられて先程のひっくり返ったカエルのような姿勢にされてしまうかも知れません。
ベッドに関しての武様を、ご信頼申し上げることはできませんもの。
「あの、こう…」
座って向かい合う姿勢になり、お膝の上へにじり上がりました。
「そうか」
頬に口づけられ、私達は一つになりました。
61 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/16(日) 23:52:16 ID:I65OEWuy
「あ…あ…」
武様のものがゆっくりと私の中を往復します。
いつもより引っ掛かると申しますか、吸い付く感じが強いようで…。
先程の練乳が、まだ私の中に残っているのでしょうか。
「ん…あん…ふっ…ん…」
武様にギュッと抱きつき、体を支えながら動きます。
「麻由…っ…」
腰を支えられ、さらに密着しました。
ぶれていた体が安定して、先程よりも大きく動けるようになりました。
「あぁ…武様…んっ…ん…」
お腹に力を入れ、下から湧き上がってくる快感を堪えます。
「あ…あん…くっ…ん…ん…あっ!」
急に力強く突き上げられ、息を飲みました。
「ふぁっ…あ…んんっ!やんっ!」
腕を突っ張って身を浮かし、快感を逃して息を整えようとします。
「駄目だ」
「キャッ!」
武様のお手が私の背に回り、身体を引き落とすように距離を戻されました。
繋がりが深くなり、喉から呻きにも似た声が漏れました。


抱えられたまま、背中からベッドへ倒されました。
「やぁ…あんっ…ああ!」
特に気持ちの良い所を責められ、すぐにも達してしまいそうになります。
まだいけません、武様と一緒でないと…。
だから堪えなければと必死になり、唇を噛みました。
「麻由…」
武様が優しいキスを下さり、少しだけ口元の力が緩みます。
そのまま舌をこじ入れられ、私のものと絡みました。


快感を堪える術を失い、ますます追い詰められます。
チュッと音を立てて武様の唇が離れた時には、もう声を抑えることができませんでした。
「あんっ!…や…あ…あぁ!…武様、もう…あ…あぁん!」
身体が頂点へと向かって一直線に駆け上っていきます。
「やっ…ん…あ…ダメ、ああああっ!」
大きく身体が震えて、私は達してしまいました。
「麻由…んっ…」
武様が顔をしかめられ、さらに動かれます。
達した後に更に刺激を与えられ、私はもう息をするのもやっとでした。
「はっ…あ…んくっ…」
「…くぅっ!」
一際深く貫かれたその時、武様が絶頂を迎えられたのが分かりました。
何度か緩く腰を使われ、全てを吐き出された後、またしっとりと口づけられました。


余韻に十分浸った後にお風呂場に運ばれ、武様が手ずから私の身体を洗って下さいました。
ボディーソープの泡を流されて、やっとすっきりすることができまして。
ホッと息をつき、忍び寄ってきた眠気と戦います。
「素材そのままを味わうのもいいね」
「あんっ…」
武様のお顔が近付いて再び胸に与えられた快感に、身体がまたその気になりそうです。
でも、今日はもう…。
「ふざけ過ぎたようだね。今日はもうしないよ」
表情を曇らせた私をご覧になり、武様はお手を離されました。
脱衣所へ移動してバスタオルで拭っていただき、再びベッドへと運ばれます。
横たえられ、武様に抱き締められました。
62 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/16(日) 23:54:41 ID:I65OEWuy
顔を向こうへ逸らし、小さく欠伸をしました。
「それで、麻由。あのイチゴの食べ比べセットに対してどう思った?」
いきなり問い掛けられ、目を少し見開きました。
「『身の回りの女性に感想を聞いてみる』というのが、本来の目的だったからね。担当者に感想はどうでしたと尋ねられるかも」
本当に。感想を求められるだけのはずだったのに、なぜこんなことになってしまったのでしょう。
それもこれも、武様が私の仕草をご覧になって、想像をたくましくされたのがいけないのです。
拗ねて返答しないでおきたい気分ですが、社長の周囲の女性は役立たずだとあの責任者の女性に思われても困ります。
「あの、箱のことについてなのですが」
「うん」
「白地というのは、少し寂しい感じがするのです。もう少し色味のある方が良いのではと想うのですが」
「なるほど、そうだね。何色がいいかなあ」
「あまりきつい色ではイチゴの存在感が減りますし…。
そうだわ、ピンク色なんてどうでしょう?」
「ピンク?」
「ええ。少女趣味かも知れませんけれど、そちらの方がロマンチックですもの」
「確かに、目を引きそうだね。白い箱ならカタログの背景と同化するからね」
「あっ!」
名案が思い浮かび、私は武様のお手を握り締めました。
「ストロベリーピンクがいいです!」
「ほう」
「それだとちょっと濃すぎる気も致しますが。ともかく、『ストロベリーピンク』っぽい色がいいと思います!」
「ストロベリーピンクか…」
顎に手を遣られた武様は、少し考え込まれました。


「分かった。担当者にそう伝えておこう」
「はい」
「僕の案じゃないのは丸分かりだな。誰に言われたのかと、通販部門の人間に尋ねられるかもね」
「えっ…」
「その時には、そうだな『僕の大事な人だ』とでも答えるさ」
優しく微笑んで下さった武様のお顔を見て、心が温かくなりました。
大事な人。
武様にそう思われていることがとても幸せだったのです。
「さあ、もう寝よう。明日、部屋を出るときに残りのイチゴを食べてしまって、片付けておくれ」
「えっ?」
あと二種、四個残っていたイチゴ。あれを独り占めできるのでしょうか?
「またそんなに嬉しそうな顔をして…」
だって、実際本当に嬉しいのですもの、仕方がありません。
「お休み、麻由」
「お休みなさいませ」


翌朝、テーブルに残っていたイチゴを食べてしまい、お皿やごみを片付けました。
昨日食べたものと合わせて十種、どれが一番美味しかったかを考えながら、朝食を済ませて仕事につきました。
そしてその日の夕方のこと。
「あれ、おかしいなあ」
「どうなさったんです?」
厨房を通りがかった時、料理長が首を傾げているところに出くわしました。
「今日のデザートに、イチゴを出すつもりなんだけどね。練乳が見当たらないんだ」
「え?」
昨日のことが一気に思い出され、一気に血圧が上がるのを感じました。
武様のお部屋を出るとき、あのチューブは、見つからぬようこっそりと処分していたのでございます。
空のまま冷蔵庫には戻せませんもの。
「麻由ちゃんは知らない、よねぇ?」
「ええ、し、しし知りません!」
声が裏返り、ものすごく不自然な返答になってしまいます。
「うーん、あったと思ったんだが。私の思い違いかも知れないね、多分」
料理長が冷蔵庫を閉めてあちらへ歩いていかれるのを、私は顔から火の出るような思いで見送りました。
63 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/16(日) 23:55:37 ID:I65OEWuy
これが、この箱との出会いに関するあらましでございます。
翌年、「贅沢あらかると」は世の女性達を中心に人気を博し、会社の定番商品となりました。
イチゴだけではなく、季節に応じて柑橘類やぶどうなどの食べ比べセットも発売されたそうです。
上質のものを探すため、これを企画された例の女性社員は現在も日本全国を飛び回っておられます。
カタログを見せていただいた時、企画開発者としてこの方の顔写真が出ておりました。
「種類をただ集めただけでは『詰め合わせ』になってしまいます。
『食べ比べ』に適する食材選びを今後も頑張って参ります」とのコメント付きで。
社内恋愛で結婚し、現在は三児の母として家庭に仕事に頑張っておられるとプロフィール欄に説明がありました。
これを読んだことで、仄かに感じておりましたこの方への嫉妬は解消されたのでございます。


私が述べました意見を採用して頂き、箱の色は白からストロベリーピンクになりました。
練乳もあった方が良い、と武様がご意見なさったこともあり、セットで届けられることに決まったのです。
しかし、二十個のイチゴに対し、練乳のチューブ一本は多いような気が致します。
それを申し上げると「この量がいいんだよ、分かるだろう?」と言われてしまい、私はヤブヘビになったと慌てました。
あの時から、毎年一回、この季節には武様がこれを会社から持ち帰られます。
そして、二人で深夜のデザートを楽しむというのがそれから慣例になったのでございます。
旬のイチゴを堪能し、そしてその後、私はあの時と同じように、武様に…。
あの時から何度か重ねた濃密な時間を思い、甘い予感に身体が震えました。


皆様。食べ物で遊んではいけませんというのは、昔からのれっきとした日本の教えです。
どうしてもというのなら、遊んでそのままにはせず、最後にはきちんと食べてしまうことを約束して下さいませ。
「いえ違います、『私を食べて』という意味ではありません!武様っ!」


──終わり── 
64名無しさん@ピンキー:2008/03/17(月) 00:05:51 ID:TYzQ/BlL
GJ!
エロ杉だよー!
65名無しさん@ピンキー:2008/03/17(月) 00:12:34 ID:QEXYvPGV
えろー。


もっとヤレ。GJ!
66名無しさん@ピンキー:2008/03/17(月) 00:23:49 ID:TQzH7cfo
GJ!!
武様もGJだ〜!
67名無しさん@ピンキー:2008/03/17(月) 10:06:04 ID:05+lwrBp
GJすぎる…文字通り甘酸っぱい話ですね
でも身体中ベトベトになりそうw
68名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 02:43:35 ID:4f+M5cnX
「なぁ由紀、何もキミまで僕を敬わなくてもいいんじゃないか?」
「いえ、西川家は家康公のご執政以来、代々にわたって松本家にお仕えして栄えた家系でございます。おいそれと慣習を変えることは致しかねます」
「しかしなぁ由紀、ボクはまだ高校生で、キミは大学を卒業し、春から立派な社会人になる。いい加減にしがらみは断ち切ったほうが、色々と都合がいいんじゃないか」
「若様。私のことなど関係ありません。これまでどおり、若様のお世話は私が致します」
「ワカサマて。何時代だよ、今頃。僕のことはいいからカレシの1人でも作ってみなっての。普通、大学生活つったら恋人がいてナンボだろ」
「そんなことは、ないです。家政科での授業は大変有意義なものでした」
「ふぅん……寂しいヤツ。若いのに。おばあちゃんみたい」
「……なんだか今日はトゲがありますね、若様」
「別に。もうすぐキミは勤めに出るんだろう。あえて言うなら、僕のことを気にしないですむよう、配慮だよ。配慮」
「……可愛くない」
「別に由紀に可愛いと思ってもらう必要はないさ。僕ももう17歳なんだ。あ、いや、年上のキミの前では“まだまだ”17歳、と言うべきだったね」
「……あーあ、ほんの10年前は若様のお布団、毎日干してあげてたのに。可愛くないの」
「由紀」
「毎日毎日ぬらして汚して、そのたびに私が」
「む、昔のことを言うのは、ひ、卑怯じゃないか」
「いやぁ、若様ったらなかなかおねしょ癖が治らなくて、10年前どころか5年前あたりまで・・・」
「由紀!」
「……どうしたんです、若様」
「どうしたもこうしたも」
「何も無いなら、おばさんの昔話でも続けますか。若様ったら雷の日には怖い怖いって言って泣きじゃくって」
「由紀ィ!!」
「どうしましたんです、若様?」
「あの……」
「なんです?」
「ご、ごめんなさい……由紀となかなかあえなくなるのが寂しくて、生意気いいました……」
「素直でよろしい」







なんかお酒飲んだらこんなんでましたけど
69名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 02:50:49 ID:WIuTTTEA
>>68
よしよし、もっと飲め
70名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 07:23:49 ID:pu0Ot3cr
酒仙誕生
71名無しさん@ピンキー:2008/03/21(金) 19:45:57 ID:MsMy50hy
>>68
酒!飲まさずにはいられない!!
飲むんだッ 元気出るから
っ自家製梅酒
72 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/23(日) 00:11:50 ID:tiprpMhd
麻由の話を投下します。
苦手な方はID等であぼーんお願いします。


「波紋」


4月の声を聞く頃、お屋敷にお客様が訪ねて来られました。
「メイド長?あの、コモリ様と名乗られる方が旦那様を訪ねて来られたそうなのですが…」
「コモリ様?」
門番からの内線を取り次いだメイドに呼ばれ、首を傾げました。
はて、武(たける)様にそんな名前のお知り合いはいらっしゃったかしら。
しばらく考えますが、思い出せるようで思い出せません。
「『メイドの麻由さんを呼んでくれれば分かる』と仰っているようですが…」
「わかったわ。しばらくお待ち頂く様に言って頂戴」
万が一にも大事なお客様だといけませんので、門まで行ってお顔を見ることにしました。


「あの、ごめんくださいませ」
門扉の前まで行き、インタホンの脇にお立ちのその方に呼びかけます。
「ああ、麻由さん。いらっしゃったんですか」
振り返り、ニッコリと笑われたその方のお顔を見て、私はやっと思い出しました。
その方は武様の大学時代のお友達、小守洋一(こもりよういち)様だったのです。


武様と小守様は大学一年のときに知り合われ、卒業の時まで仲の良いお友達でした。
同じゼミにも入られて、その中でも特に気が合ったようで、お屋敷に遊びに来られたことも一度や二度ではございませんでした。
苦学なさっていた小守様は、お食事の時にはそりゃあもう気持ちが良いほどの食べっぷりを発揮されて。
食の細かった先代の旦那様が苦笑いなさるほどだと申し上げれば、その勢いが分かっていただけるでしょうか。
しかし、決して見苦しい食べ方ではなく、きれいにお皿を空にされるのには好感が持てたのを覚えております。


食事をご馳走になったお礼にと、小守様はたまに屋敷の仕事を手伝って下さいました。
武様のお客様なのですから…と断っても、いや何かさせて下さいと食い下がられて。
リネン類の持ち運びなどの力仕事を手伝って頂いたのを覚えております。
武様の自室にお茶をお持ちした時に、ゼミの皆様に配るのを手伝ってくださるのも小守様でした。
カード遊びをなさる時には、人数が足りないと私も呼ばれ、何度かご一緒したこともございます。
ルールを把握しきれずに負けてばかりの私に、丁寧に教えて下さったのもこの方でした。
小守様は大学を卒業後、貿易関係の会社に就職され、武様とは交流が途絶えがちになりました。
先代の旦那様の跡を継がれた武様もお忙しくなられて、以前のようには行き来できなくなったのです。
ですから、私も今回お会いするのはほぼ5年振りという計算になります。


応接室へお通しし、お茶をお出しして座って頂きました。
会社の方へ小守様の来訪を知らせようとしたのですが「突然来たのは僕ですから。遠野が帰るまで待ちますよ」と仰って。
その代わりに話し相手になって欲しいと頼まれ、私は向かいのソファに腰掛けました。
小守様はこの5年余り、自分がどうしていたかをお話になりました。
会社に就職され、コーヒー豆の輸入に関わる部署に配属になった小守様は。
しばらくして南米に駐在員として渡られ、あちらで数年過ごされた後、今回日本にお戻りになったそうでございます。
「独身のうちに海外に遣られるのは、うちの会社の通過儀礼のようなものですよ。
もう、しばらくは日本にいるつもりですから、また遠野に会いたくなって来たんです」
こう仰るのを聞いて、私は嬉しくなりました。
心を許せるお友達とまた交流できるのですから、武様もきっとお喜びになると思いましたから。
73 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/23(日) 00:12:57 ID:tiprpMhd
会社からお帰りになった武様に、小守様の来訪を知らせました。
武様はスーツも脱がぬまますぐに応接室に入られ、小守様と久しぶりの対面をなさいました。
積もる話もあるとのことでしたから、今日はお泊りになるかも知れません。
メイドの一人に来客用寝室の用意をするように申し付け、厨房の方にもその旨知らせました。
夕食の席は、久しぶりに賑やかなものになりました。
執事の山村さんや古株のコックさんなど、学生時代の小守様と面識のある人たちとの再会もあり。
いつもはお一人で食事なさる武様も、よく笑い、朗らかになさっていました。
この夜は二人してお酒を飲まれながら、遅くまで語られていたようでした。


それからも、小守様はちょくちょく屋敷を訪れられるようになりました。
来られるたび、会社で扱っておられるコーヒー豆や、珍しい外国の食べ物を持ってきて下さって。
屋敷の使用人達にも行き渡るようにと気を使ってくださるので、皆感謝しております。
お客様が来られることはあまり無いので、皆、小守様の訪れを楽しみにしているようでした。
小守様がいらっしゃるのは、大抵金曜や祝祭日の前日です。
武様のお帰りが遅い時には、私が話し相手になってお待ち頂きました。
何年も外国にいらっしゃった小守様のお話は、珍しいことばかり。
日本を出たことのない私には、とても刺激的で興味があったのです。
木になっている時のコーヒー豆は赤い色をしているなど、全く知りませんでしたもの。
武様がお帰りになると私は席を外しますが、小守様が引き止めて下さる時があり、3人でお話をすることもありました。


「麻由さん。遠野の誕生日は、そろそろだったと思うんですが…」
数ヶ月経ったある時、小守様がそうお尋ねになりました。
「ええ。8月の18日ですわ」
「あ、そうでしたか。するとまだ少し先ですね」
「はい」
「今年は、何か贈ってやりたいのですが…」
「まあ!ありがとうございます」
思わずお礼を申し上げると、なぜか小守様が笑われます。
「なぜ、麻由さんがお礼を言われるんですか」
「あっ…」
好きな方に親切にしてくださるのに、思わずお礼の言葉が出てしまったのでございます。
差し出がましかったかと、反省いたしました。


「何を買ったらいいか分からないので、プレゼントを買うのに付いて来てくれませんか?」
「えっ?」
突然そう言われ、私は目を瞬かせました。
「メイド長の麻由さんなら、遠野の好みをよく知ってらっしゃるんじゃないかと思って。
お忙しいなら、無理にとは言いませんが」
「はあ…」
顎に手を当て、しばし考えました。
小守様の優しいお心遣いを、無駄にするようなことがあってはいけません。
武様の好みをお教えして、それに叶ったものを選ばれる方がお二人にとって有益ですもの。
「かしこまりました。お付き合い致します」
「頼みましたよ。日にちはまた相談しましょう」
小守様はなぜか目を少し眩しそうに細められ、そう仰いました。


プレゼントを買いに行くのは、お盆の明けた8月下旬に決まりました。
場所は、最近紳士向けのフロアを大々的に増床したデパートです。
13時に噴水の前で待ち合わせをすることになりました。
小守様のお買い物に付き合うついでに、私も武様へのプレゼントを選ぼうと決めていました。
74 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/23(日) 00:13:50 ID:tiprpMhd
当日、小守様と落ち合い、デパートの中に入ります。
目指す紳士向けフロアに入り、案内板の前に立ちました。
「さて、どうしましょうか」
「ええと?」
一面に並ぶ横文字に、頭がくらくらしました。
「男性化粧品や下着類は変ですよね」
「ええ、そうですね」
「スーツや靴も違うし…。ああそうだ、このメンズアクセサリー売り場に行ってみましょうか」
「はい」
移動し、売り場の前に立ちました。
メガネやベルト、帽子、装飾品などがセンス良く並べられ、客の目を誘っています。
二人で並んで、陳列ケースを端から見ていきました。
「麻由さん、これなんかどうですか?」
「えっ?」
大きなテンガロンハットを手に取り、小守様が仰います
「あいつがこれを被ったら、楽しいでしょうね」
さもおかしそうに言われるのを見て、笑みが零れました。
武様がテンガロンハットを…考えただけでミスマッチです。
「じゃあ、こっちはどうですかね」
ハンチング、ニットキャップと小守様が次々と手に取られました。
それを身につけられる武様のお姿を想像し、二人で笑い合いました。


ひとしきり楽しんだ後、別のフロアに行くことにしました。
ビジネスマン向けの文房具、パソコン用品などの売り場へと移動し、品物を見ます。
当初は候補から消した男性化粧品フロアにも行って、香水やシェービング用品、葉巻なども見ました。
「うーん」
一旦エスカレーター横のベンチに座り、腕組みをなさった小守様のお顔を見つめます。
「結構目移りするものですね」
「はい。本当に」
「麻由さんは、どれがいいと思われました?」
「そうですねえ…」
私も、決めかねておりました。
小守様が私を見込んでお買い物の助っ人を頼まれましたのに、情けないことです。
「男性から男性へのプレゼントというのは、難しいものですね」
「そうですか?」
「はい。女性からなら、ネクタイやハンカチでも構いませんが、男性からとなると、ちょっと違うように思えませんか?」
「なるほど。言われてみればそうです」
「困りましたね」
「じゃあ、靴下なんかどうですか?いくつあっても困るものじゃなし、大丈夫そうですが」
「え…と、それはちょっと…」
「駄目ですか?」
「はい。確か、どこかの国では靴下を贈るのは『私を自由にして下さい』という意味になると」
「『自由に』?」
「ええ」
昔、良かれと思って武様に靴下をプレゼントした時、そう教えられたのです。
「麻由は知っていて靴下をくれたんだろう?君を自由にして構わないんだよね」と愉快そうに言われ、目を白黒させたのを覚えております。
ここまでを言う必要はないので、小守様には黙っておきますが。
「それは避けた方が賢明だ。じゃあ別のものを考えないと」
「ええ」
二人で案内板の前に立ち、相談しました。
「小守様、お酒はどうでしょう?」
「酒ですか?」
「ええ。飲んだら無くなってしまう物ですけれど、きっと小守様と一緒に飲まれるなら喜ばれると思います」
「なるほど。そうかも知れませんね」
「はい。ですから、地下に行ってみませんか?」
「そうしましょうか」
75 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/23(日) 00:14:38 ID:tiprpMhd
エスカレーターでデパートの地下へ降り、お酒の売り場へと足を向けました。
「参ったな。これはこれで目移りしますね」
「そうですね。た…ご主人様は、最近は焼酎をよく召し上がられますけれど」
「ああ、僕と飲むときもそうですね。じゃあ先に見てみましょうか」
「はい」
私が先になり、焼酎売り場へ入りました。
昨今のブームもあり、売場面積が広くなっているようです。
丁度、ハッピを着た蔵元の人が試飲サービスをしていました。
「あら…?」
私は、ハッピに白抜きで書かれた焼酎の名前をじっと見つめました。
その文字に見覚えがあったのです。


「麻由さん…?どうかしたんですか?」
「え?あ、はい」
「ちょっと失礼して、試飲させてもらおうと思うんですが」
「ええ、どうぞ」
紙コップを受け取られる小守様の背中を見ながら考え、やっと思い出しました。
一ヶ月ほど前、武様のお部屋で二人で見た雑誌に小さく掲載されていた焼酎の名前だということに。
九州の小さな蔵元で、家族と数人の職人だけで作られており、ほとんど県内で消費される品物で。
通信販売も受け付けず、その土地でしか買えないという入手困難な焼酎だと記事にはありました。
鹿児島や熊本以外でも焼酎の蔵があることを初めて知り、興味深く読んだのを覚えております。
「そこでしか買えないというのがいいね」と武様が仰ったのも思い出しました。


試飲を終えられた小守様にそのことを話し、これをプレゼントなさったらどうかと提案いたしました。
「なるほど、そりゃあいい」と頷かれ、小守様はこれにお決めになりました。
消えものだけでは何だからと、焼酎用のタンブラーもご購入になり、セットで渡されるようです。
「デパートの酒販担当に拝み倒されて、今回だけということで出展したそうです」
会計を終えられた小守様が仰って、私はこの巡り合わせが心から嬉しくなりました。
「麻由さん、あいつが驚くのが見たいから、僕に話したことは内緒にして下さい」
「ええ、かしこまりました」
私も武様の驚かれるお顔が見たいので、その場には是非同席したいものです。


お買い物が終わり、喫茶室に入りました。
フロアをあちこち歩いたので、足が少し疲れましたから。
二人ともコーヒーを注文し、窓際の席で外を歩いている人を見下ろしました。
「人があまりいませんね」
「そうですね。皆、暑いから出歩かないのでしょうか」
「ええ。僕だって、今日は予定が無かったら家でごろ寝していますよ」
「まあ」
武様の為にわざわざ暑い中を出てきて下さったのですから、有難いことです。
「麻由さんも、熱心に見てらっしゃいましたね」
「え?…ええ」
「遠野に何か贈られるんですか?」
「はい。私の誕生日にも、いつも頂いていますから」
「そうなんですか。遠野も隅に置けませんね」
小守様は、武様と私の関係をご存知ではありません。
主人がメイドにプレゼントをするなど、奇妙に思われたのでしょうか。
「麻由さんの誕生日はいつなんですか?」
「10月です」
「何日の、何座ですか?」
「27日の、さそり座ですわ」
「ほお。『さそり座の女』というやつですね」
「え、ええ」
「じゃあ、情熱的なんですね」
「えっ?さあ…」
見つめられ、思わず下を向いてしまいました。
76 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/23(日) 00:15:20 ID:tiprpMhd
「麻由さん、こっちを向いて下さい」
小守様が呼びかけられ、私はしぶしぶ顔を上げました。
「あのー…」
「はい?」
小守様が、少し赤い顔をしていらっしゃいます。
さっき焼酎の試飲をされたせいでしょうか。


「僕と、付き合ってくれませんか?」
「えっ?」
あまりに意外なその言葉に、私は心底驚きました。
「大学の時から、麻由さんのことは気になってたんです。
お屋敷のメイドさんだからと一旦は諦めたんですが。久しぶりに再会して、何度か会っているうちにやっぱり惹かれてしまって…」
小守様がさらにお顔を赤くしながら仰るのを、私は呆然と聞いておりました。
「…麻由さん?」
「あ、えっ?はい!」
呼びかけられ、調子の外れたおかしな声が出てしまいました。
それが恥ずかしくなり、頬に血が昇って、小守様と私は赤い顔で向かい合いました。


「急にこんなことを、済みません」
深呼吸をした小守様が仰います。
「いえ…」
胸の動悸を抑え、短く返答しました。
「いつ言い出そうかと迷っていたんです。麻由さんさえ良ければ、僕と、結婚を前提とした付き合いをして欲しいんです」
結婚。
その二文字が、胸にずしりと重くのしかかりました。
「僕もそろそろ身を固めて、母親を安心させてやりたいし…。
あ、いや同居ってわけじゃないんです、最初は別居で、夫婦水入らず…って何言ってんだろう俺」
慌てたように言い募られる小守様を見ながら、胸に生じた痛みと対峙しました。
私にも、実家に残した父がいます。
老いた父に花嫁姿を見せてあげたいのは、私も同じ。
でも、花婿は…。
そこまで考え、私は暗い穴の中に落ちていくような気分になりました。
花婿は、武様ではないのでしょう。
あの方と私は、夫婦にはなれないのですから。


「今すぐに返事が欲しいんじゃないんです」
暗い顔をした私を見兼ねたのか、小守様がそう言って下さいました。
「僕はそういう気持ちで麻由さんに今後接するということを知ってほしくて」
「…ええ」
「それすら、迷惑ですか?」
否定しようとして、私は口ごもりました。
迷惑なのかそうでないのか、自分でもよく分からないのです。
とても勿体ないお申し出であることは分かるのですが。
「ご主人様に相談してみませんと。私の口からは、あの…」
何と言っていいか分からないまま、ようやく出た返事がこれでした。
「そうですか、じゃあ待ちますから。遠野に聞いてみてください」
小守様はそれ以上押されずに、話を終えられました。


小守様が席をお立ちになり、今日のお礼を仰って喫茶室を出られるのをぼんやりと見ておりました。
結婚。
いきなり思考のど真ん中に飛び込んできたこの言葉に、私はまだ平常心を取り戻せないでおりました。
今まで必死でこの言葉からは逃げておりましたのに。
そのつけが、大きな負債となって覆いかぶさってきたような気分でした。
77 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/23(日) 00:15:59 ID:tiprpMhd
武様との関係が始まった頃は、私も将来について甘い夢を見ることがありました。
この方と一緒になって、子供を産んで、ずっと仲睦まじく暮らすというような。
しかし、年を経るに従い、私は次第にその夢を幾重にも重ねた箱に入れ、心の奥底に仕舞いこむ努力をするようになりました。
現実が見えてきたと申し上げた方が分かりやすいでしょうか。
二人の生い立ち、置かれた立場の大きさの違い。
こういった物が、徐々に形を成して私の周りを取り囲む壁となってくるのを感じておりました。
心は通っていても、武様と私のいる場所はそれらに隔てられています。
時たま、体が触れ合うことでその壁が一時的に無くなったような錯覚をしているだけ。
だから、武様に愛されているといい気になって、深みにはまって溺れてはならない。
自制心を忘れてはいけないと自分に何度も言い聞かせ、日々を過ごして参りました。


「麻由は僕のものだ」というのは、ベッドを共にする時に武様がよく仰る口癖です。
その通り、私は身も心もお捧げしているのですから、これに関しては何も言うことがありません。
でも、反対に「僕は麻由のものだ」と武様は一度も仰ったことはないのです。
武様は、遠野家と経営する会社を統べられる重責にあるお方。
たかがメイド一人如きのものであるはずがありません。
睦言を交わす時にさえこう仰ったことが無いのは、武様なりの思いやりなのでございましょう。
甘い嘘で私の心を縛るのを躊躇されているのだろうと思うのです。


武様に「僕は君のものだ」と言って頂きたい。
言われたら言われたで困るくせに、私は、随分長い間この望みを持ち続けておりました。
武様に優しい言葉を掛けて頂くたび、ベッドで愛されるたび、この望みが一時でも現実となっているかのように思えて。
もたらされる幸福感から逃れきるだけの、冷静な判断力を失くしてしまうのです。
共に生きていくことが叶わない方が、私のことだけをお考えになって今ここにいらっしゃる。
その嬉しさ、抗いがたい夢のようなものが、私を武様から離れられなくさせておりました。


私が世界中で一番愛している男性は武様です。
でも、武様には私などではなく、取引先のご令嬢などと結婚なさる方が御身の為なのです。
高貴な方は、恋愛によって結ばれるのではなく、もっと大きな家や会社というものによって結ばれるのですから。
武様のお母様もお祖母様も、しかるべき名家からこの遠野家に嫁がれてきたと承っております。
富や名声を末永く保つための、上流階級の方達の慣わしなのでしょう。
メイドなど、せいぜい奥様のいらっしゃらない時にベッドのお相手を務めるだけのものです。
そんな者とご当主が一緒になったなら、会社の先行き不安で株価や市場の評価などが大変なことになるかもしれません。
何人おられるかも分からないほど大勢の社員の方たちにもご迷惑をかけるのは必定です。
武様は独身でいらっしゃるから、今の私が唯一の女性のような形になっているだけ。
婚姻かなって奥様となられた方がお屋敷にいらっしゃれば、私の存在など消し飛んでしまうでしょう。
最近、武様と娘を娶(めあ)わせんとする方々の攻勢がとみに激しさを増しております。
「実力が未知数の跡継ぎ」が、お家の危機を見事に乗り越えられ「前途洋洋の企業家」になられたのですから、無理も無いことです。
先代社長が亡くなられた時に、社の未来を悲観して波が引くように去っていかれた方々も戻ってこられました。
武様と縁戚になれれば、きっと多大なメリットがあると皆様も分かっておいでなのでしょう。
パーティーの席などで、綺羅星の如く着飾ったご令嬢方を見るたび、自分との違いを噛み締めておりました。


武様と私は、特に行き着く先のない曖昧な時間をただ貪っているだけなのかも知れません。
今だけしか目に入らず、未来を一切見ていないのですから。
このままでは、二人ともにとって良くないのではないかと思ったのです。
一生遠野家にお仕えするというのは、二人の関係をずっと続けていくこととは違います。
むしろ私がいることが、武様が身をお固めになることの妨げになっているのではないのだろうか。
遠野家と会社の名誉と安定のためには、私はいずれ邪魔になる。
胸が苦しくなり、テーブルに手を付いて俯きました。
78 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/23(日) 00:17:01 ID:tiprpMhd
何も考えたくないのに、心が勝手に暴走し、考えがあちこちに飛びました。
男性は、プライドの高い方が多いと承っております。
友人の「お下がり」に過ぎない女を、小守様は結婚相手として見てくださるでしょうか。
もし、それでもいいと言ってくださるなら、私は…。
頭を振り、妙な考えを追い出そうとしますが、気持ちを切り替えることが出来ません。
いえ、小守様がどうといった問題ではないのでしょう。
武様がしかるべき方とご結婚され、私も身の丈に合った方と一緒になり、それぞれ別の道を歩む方が、結局は…。
そう、結局はそれが全て丸く収まる最善の方法なのです。
自分は一生武様のものだと思っていましたのに。
いつの間にか開いていた心の隙間に、身体ごと飲み込まれたような気分でした。
気分が晴れぬままデパートを出て、いつの間にかお屋敷へと戻っていたことに気付きます。
一人で武様へのプレゼントを吟味しようと考えていたことなど、頭からすっぽりと抜け落ちておりました。
もし帰り道であの喪黒福造さんと出くわしていたら、私はセールストークにまんまと乗せられていたことでしょう。


誰に相談できるわけもなく、日々が過ぎていきました。
自分でも呆れるほどに、武様への気持ちと、平凡で地道な幸せを求めたい気持ちがくるくると入れ替わって。
溜息ばかりで、鬱々とした毎日でした。
すぐに結論を出すだけの強さが、私には無かったのです。
武様のことを本当に思うなら必要な「別れ」という結末。
これが最善だと分かっていても、断ち切りがたい思慕の念が決意を鈍らせるのでした。


遠野家に一生お仕えすると決めたはずなのに。
武様が、誠に「心から大切に思っている」ご自分にふさわしい女性を見つけられ、ご結婚なさったら。
私はその方を「奥様」とお呼びして、お仕えしなければなりません。
武様のことは「旦那様」とお呼びすることになり、もうお名を呼ぶことは叶わなくなります。
やがてお二人の間にお子様が産まれられたなら、先代メイド長のように、私が主幹となってお世話をすることになります。
果たして、自分がそれに耐えられるのかどうか。
他の方と家庭を築かれる武様を、一番近くで見続けられるのか。
あれほど固かった決心があっけないほどに揺らぎ、不安ばかりが募りました。
私は、お屋敷を去ることになるのかも知れません。


悩んでばかりの数日が過ぎて、私はあるとき武様のお部屋におりました。
お仕事から戻られた際に例のお誘いを受け、今こうして抱き締められているのでございます。
武様とベッドを共にするのも、あと何回になることか。
奥様となる方がいらっしゃれば、私はもうこちらで武様に愛して頂くことを止めなければなりませんもの。
「麻由、何を考えている?」
「えっ…」
心中を察されたのかと、背筋がヒヤリとしました。
「今、僕以外のことを考えていただろう?」
「…」
「ほら、答えてみなさい」
武様が仰って、顔を覗き込まれます。
何とか誤魔化さなければなりません。
79 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/23(日) 00:18:00 ID:tiprpMhd
「…あの。武様のお誕生日に何をお贈りしようかと考えておりまして…」
必死で頭を巡らせ、思いついた嘘をつきました。
とても、本当のことを申し上げる勇気が出ません。
「ああ。プレゼントをくれるのかい?」
「はい」
嬉しそうなお顔で話される武様を見て、胸が締め付けられるように痛みました。
ちっともお疑いにならないほど、信用して下さっているのに、私は…。
「僕としては、麻由がくれるなら何でもいいんだけどね」
「いえ、やはりお役に立つものでないとと思いまして…」
「そうか。役立つものならいいんだね?」
「はい」
「じゃあ、僕が今まで買ってきた土産の下着を、全て着てくれるっていうのはどうだい?」
「…は?」
「いくつもあるのに、君は全然着てくれないからね。ファッションショーみたいに、次々来て僕に見せるっていうのは」
「あの、それは…」
武様のあまりにも突飛な案に、言葉を失くしました。
「せっかく買ってきたのに、着てくれないのは寂しいからね。何なら、日替わりでもいいよ?」
「でも、そんなことをプレゼントにするわけには…」
「本人がいいと言っているんだから、いいんだよ」
「…んっ!」
武様が首筋に吸い付かれ、ピリッと痛みが走りました。
「あの黒いのや、左右を紐で留めるのや、ビ…何とかいうのも」
「ビスチェ、でございますか?」
「うん、そんな風に言ったかな。多分そうだ」
「似合いますかどうか…。あんなにセクシーな品は」
「麻由は十分セクシーだよ?本人が、認めようとしないだけさ」
「はあ…」
「さ、もうお喋りはおしまいにしよう」
「ん…」
私の下着姿が、一体何に役立つというのでしょうか。
それをお尋ねしないまま武様に口づけられ、言葉を奪われました。
侵入してきた舌が、私の舌と絡んで水音を立てます。
こうなると、私はもう何も考えることが出来なくなってしまうのです。


力が抜けた私の身体を抱き締め、武様が唇を離されました。
名残惜しくそれを見つめていると、ヘッドドレスを外され、纏めた髪を解かれました。
ほどけた髪を梳かれ、武様が口づけを下さいます。
「さ、僕を脱がせてくれるかい?」
髪をかき上げて囁かれ、体が震えました。


武様の服をお脱がせし、あちらを向いて頂いてから私も脱ぎました。
「こんなに白くて綺麗な肌なんだから、ビスチェもきっと似合うだろう」
指を這わされながら、武様が仰います。
「僕は、あのガーターベルトという奴を、一度外してみたいんだ」
確かに、ビスチェとガーターベルトはセットになっていることが多いですが…。
「あれは男の夢だからね。外して、それから…」
含み笑いをされる武様に、少し引いてしまいました。
殿方が婦人下着について語られるなど、褒められた話ではありませんもの。
それに、ご存知ないのかも知れませんが、それは、厳密にはビスチェではなくスリーインワンというものです。
突っ込みを入れようかと迷いましたが、雰囲気を考えて止めました。
80 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/23(日) 00:18:48 ID:tiprpMhd
ベッドに相対して座り、見つめ合います。
「麻由…大好きだよ」
囁かれ、胸が熱くなりました。
愛する方にこう言われて、歓喜しない女性などいるものでしょうか。
「私も、お慕い申し上げております」
やはり、自分に嘘をつくことはできません。
実を結ばないとしても、これが私の本心です。
これくらいなら、たぶん、言っても支障はないでしょうから。


武様の口づけが、唇から喉、胸元へと何度も降り注ぎました。
「あ…」
強く吸いつかれ、チリッと痛みが走ります。
吸いついた跡を宥めるように舌で撫でられました。
そんなお気遣いはいらないのに。もっと跡をつけて下さっても構わないのに。
もどかしい思いで一杯になりました。
「武様…」
愛しい方を見つめる目が、縋るようなものになっているのが自分でも分かります。
「ん?」
「あの、もっと…」
うまく言葉にできないことが悔しく、唇を噛みました。


「声を我慢するのはやめなさい」
「あっ!」
胸の頂に吸いつかれ、高い声が上がりました。
「んっ…あぁ…」
私が思っているのはこういうことではないのに。
気持ちいい場所を愛撫され、意味のある言葉を発しようとしていた唇からは全く違う声が零れました。
「やぁ…あ…あ…武、様っ…」
舌先で胸の頂を転がされ、押し潰すように舐め上げられて強い快感が走ります。
反対側は指で弄られ、固くなってくるのが自分でも分かりました。


手を武様の肩口に付き、そのまま力を入れて二人でベッドへと倒れこみました。
「麻由…?」
上になった私を、少し驚かれたようなお顔で見つめられています。
姿勢を落とし、武様に口づけました。
そのまま舌を入れ、武様のものとゆっくり絡め合いました。
自分からこうするなど、はしたないことだとは重々承知しております。
しかし、武様を求める気持ちが高まって、私にこうさせるのです。
私が積極的になるのは、武様も悪く思われないはず。
ですから、そのままの姿勢でしばらく深い口づけを味わっておりました。


息苦しくなり、唇を離してしまいました。
至近距離にある武様の唇を見つめ、淋しさに胸が痛みます。
もう一度口づけをしようか、でもいつまでもそればかりでは…。
「麻由」
迷っている私の腰に、武様がお手を回されました。
「今日はこうしたい気分なのかい?」
「…はい」
「そうか」
微笑んでそう仰り、武様は私の背を撫でて下さいました。
81 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/23(日) 00:19:47 ID:tiprpMhd
上になったまま、武様の身体に沿って口づけを落としていきます。
頬、首筋、鎖骨の辺り。
お胸にたどり着き、口づける前にそっと頬を寄せました。
広く逞しいそこに顔を埋め、温もりを味わってから胸の突起を口に含みました。
「あ、」
いつも自分がされているようにすると、武様は短く声を漏らされました。
感じて下さっているのでしょうか。
私の拙いやり方で武様が声をお出しになったことに、喜びが湧きました。


しばらく胸に留まり、吸い付いたり舐めたりとお体を愛撫いたしました。
いつもは散々良いようにされておりますので、今日は仕返しをさせて頂いたのです。
反応があるたびに心が高ぶっていくのが分かります。
唇を走らせながら、脚の間にそっと手を伸ばし、固くなっているものに手を触れました。
「あ、麻由…」
そのままゆるゆると擦り上げると、またお声が聞こえました。
息を飲まれた武様が、とても色っぽく見えます。
私はベッドの足元へ下がり、武様のものを口に含んで愛し始めました。


そのまま、しばらく手と口を動かしておりました。
「麻由…」
武様のお手が髪に掛かり、俯いていた顔を上げられました。
「こっちへ来ておくれ」
そのお言葉に、期待で胸がきゅんとしました。


場所を入れ替え、今度は私が下になります。
ヘッドボードに伸ばされた武様のお手を、そっと絡め取りました。
「麻由?」
首を傾げられるのを見つめ、私は口を開きました。
「武様、今日はこのまま…」
「え?」
「このまま抱いてくださいませ」
「いいのかい?」
「はい」
分別のないことですが、今日は、今日だけは生身のままで武様に愛されたいと思ったのです。


身体を横向けにされ、後ろからゆっくりと武様のものが入ってきました。
「あ…」
何だか繋がりが浅いような気がして、心細くなります。
「このままだと、あまり長く楽しめそうにないからね。今日は、こうしよう」
後ろから私の身体を抱き締めて武様が仰り、思い出しました。
これは確か、以前、無理矢理見せられた四十八手の指南書にあった形です。
窓。窓の…何とかという形だったように思います。
背中全体に感じる武様の温もりに、泣きたいような気分になりました。
82 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/23(日) 00:20:42 ID:tiprpMhd
上になった脚を持ち上げられて、二人の距離が縮まるたび、じわじわとした緩い快感が生まれます。
「あ…ん…あぁ…はっ…」
いつものような強い突き上げではなく、優しくいたわられるような繋がり方に胸が温かくなりました。
乱れていた心を包み込まれているかのような、そんな心持ちにさせられました。
ずっとずっとこのままでいられたら……。
「あ…武様…」
背に感じる温もりにもたれ掛かり、甘えるような声が漏れました。
「ん…もっとかい?」
脚を掴まれていたお手が上へと上り、武様は私の秘所に触れられました。
「あっ!」
繋がっている所を確認するように一撫でされた後、敏感な突起に指が伸ばされました。
そのままぐりぐりと圧迫され、突然の鋭い快感に私は身を捩りました。
「ああ…あ…やっ!あんっ…んっ!」
胸の温もりが快感にねじ伏せられ、どんどんと追い詰められていきます。
まだ、もっとゆったりと武様を感じていたいのに。
性急に高みへと押しやられ、私はそれを拒否するように必死で首を振りました。
「やぁん!ああ…んっ!あああっ…………」
「くっ…」
突起をキュッとつままれた瞬間、私はあっけなく達してしまいました。
一緒にイくことは叶わず、武様はお身体を震わせ、堪えられました。


大きく息を吸い、呼吸を整えます。
秘所の上にある武様のお手にそっと触れました。
せっかちに昇りつめさせられたのを嗜めるように、ギュッと強く握りました。
肩口に口づけられ、繋がっていた体が離れます。
私は体を起こされて、入れ替わりに横になられた武様を見下ろす格好になりました。
「さあ、もう一度おいで?」
首を傾げて仰り、お手が広げられます。
矢も盾もたまらず、私は羞恥も忘れて武様のお体を跨ぎました。
手を添えてゆっくりと腰を下ろし、望んでいた深い繋がりを得て、心地良い圧迫に深い溜息をつきました。
充足感により反り返っていた身体を戻し、元の姿勢に戻ります。
腰の辺りに手を添えて頂きながら、そろそろと自分で動き始めました。
微かに耳に届く湿った音をなるべく聞かないようにしながら、さらに快感を求めました。


「あっ…」
武様のお手が私の身体を上り、胸を包み込みました。
身体が揺れるのに合わせ、持ち上げるようにして揉まれ快感が走ります。
「や…あ……んっ!」
「っ…」
胸の頂に指が這い、円を描くように撫でられました。
切ない疼きが生まれ、お腹の辺りがキュッとなるのが分かりました。
武様は、繋がっている時にこうして私の胸を触られるのがお好きなのです。
こうすると私の中が締まって、それが堪らないのだと仰っていました。
「あっあ……んっ…はっ…ああん…」
触れられて生まれた快感が下半身にまで走るたび、そちらへと意識が集中します。
武様のものを包み込んでいる自分のそこがいまどうなっているのかを思い、恥ずかしくなりました。
「あ…やっ…」
お手が胸を離れ、温もりが遠くなったのに酷く寂しくなります。
行かせてなるものかと、私はお手を捕まえ、胸に強く引き寄せました。
「麻由…」
名前を呼ばれ、嬉しそうに下から微笑まれる武様のお顔を見詰めました。
83 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/23(日) 00:22:08 ID:tiprpMhd
捕まえていたお手が再び肌から離れます。
泣きたいような気持ちで、その動きを目で追いました。
「そんな顔をするんじゃない」
声と共に武様は身体を起こされ、今度は至近距離で見詰め合います。
頷くと、私はそのままゆっくりと身体を反らされ、胸の先を武様の口に含まれました。
「あっ…ああ…んっ…」
柔らかく濡れた刺激に息を飲み、背が大きく震えました。
吸い上げられながら、尖らせた舌先でつつかれたり、ざらりと大きく舐め上げられたりと、様々な形で愛撫を受けます。
先程お手が触れた時よりもさらにお腹がキュッとなるのを自覚して、堪らない気持ちになりました。
私の中がこうやって反応すれば、武様にも気持ちよくなって頂ける。
二人で同じものを共有していることに、例えようも無い幸福感が湧きました。


「武様…」
胸に顔を埋められている愛しい方の髪を梳きながら、お名を呼びました。
愛撫を続けられながら、視線だけでお答えになられて目が合います。
そのお肩に手を置いてそっと押し返しました。
「麻由…?」
距離ができたところで、今度はあべこべに武様のお胸に身体を埋めました。
手をしっかりとお体に回し、きつく抱きつきます。
やっと真正面から感じられた武様の温もりが愛しくて、私は身体を密着させたまま、しばらく動けないでおりました。
ずっとずっとこのままでいられたら、どんなに幸せなことでしょう。


武様のお手が背中を何度も撫でさすりました。
あやして頂いているような、そんな仕草にもっと甘えたくなって。
私は愛しい方の首元に顔を埋め、頬擦りをしました。
「今日の麻由は、甘えん坊だね」
喉の奥だけで笑われた後、武様が嬉しそうなお声で仰いました。
「はい。…もっと、甘やかせて下さいませ」
「ああ」
お手が背に留まり、そのまま抱き締められました。
どれくらいの時間、そのままだったでしょうか。
「麻由、そろそろいいかい?」
背に回ったお手が緩み、顔を覗き込まれました。
「ええ」
頷いて目を閉じ、深く息を吐きました。
優しく口づけられた後、武様は腰を動かし始められました。


「ああっ…ん…んっ…あ…」
武様のものが私の中を往復し、淫靡な水音が辺りに響きます。
二人が繋がっていることを意識させられ、恥ずかしさと共に、それを上回る悦びを感じました。
「ん…あぁ…いい…」
満足感に全身を包まれながら、ゆらゆらと身体が揺れました。
心地良いその場所に留まりたくて、動いていた私の腰がひとりでに止まります。
「休ませないよ、麻由」
「きゃあ!」
弱い所を狙って、急に武様が大きく腰を打ち付けられました。
そのままたたみ掛けるように責められ、押し寄せる快感に息が出来なくなりました。
84 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/23(日) 00:23:22 ID:tiprpMhd
「やぁ…武様…ちょっと、待っ……」
「駄目だ」
「あぁんっ!」
縋るように申し上げた言葉は却下され、急速に追い立てられていきます。
武様に触れていた手に力を入れ、堪えようと空しい努力をしました。
「麻由…っ…ほら、もう一度……」
「あんっ!あ…あぁ…んっ!」
閉じた瞼の裏側が白むように光が見えはじめ、私はとうとう追い詰められてしまいました。
「あぁ…あっ…あっ…やぁ!あ…武様…もう…イっ…ああっ…ああああっ!」
「くっ…あ…麻由、麻由っ!」
一点に集まった白い光がパッと弾けたようになったその瞬間、私は達してしまいました。
同時に中で武様のものが脈打ち、精を吐き出すのを感じました。
いつもとは違う、私の中に残るようなその熱。
愛された証であるその感触をいつまでも覚えていたいと思いました。


お風呂場へと運ばれ、いつものように手ずから洗って頂きました。
宝物を扱うように濡れた身体を丁寧に拭いて頂き、またベッドへと戻ります。
余韻がまだ残る身体で擦り寄り、愛しい方に抱きつきました。
「武様、私は武様のものでございます」
「うん」
「一生、武様だけのものでございますから…」
私だけのものになって下さいとは、とても申し上げることが出来ません。
でも、これくらいなら、言っても許されると思ったのです。
私が形あるものを求めないうちは、まだこうして抱いて頂ける。
離れようとしているはずなのに、まだなお武様を求める気持ちを抑えられない自分を、今日だけは許そうと思いました。
「ああ、分かっている」
涙の浮かんだ目元に、優しい口づけを下さって武様が仰いました。
「さあ、もうお休み」
「はい」
髪を撫でて下さり、先に目を閉じられた愛しい方のお顔を見詰めました。
やはり、今日も私が心の奥底で望んでいる言葉は聞けませんでした。
求めることや望むことは、なるべくしないようにと思っておりましたのに。

──終わり──
急に押し寄せてきた悲しみを押し込め、私は武様のお腕に抱かれながら無理矢理目を閉じました。
85 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/23(日) 00:39:36 ID:tiprpMhd
↑すいません、最終行と「終わり」の文字が入れ替わってました。

急に〜の一文の後に「──終わり──」です。
86名無しさん@ピンキー:2008/03/23(日) 03:33:51 ID:5hqmuVs2
麻由が可愛すぎる!!!!

あーもー
この二人にはずっとシアワセでいて欲しいな

とにかくGJ!>85
87名無しさん@ピンキー:2008/03/23(日) 18:35:11 ID:0kuUUEW4
相変わらずのGJ!!!!!
麻由かわえぇ……

この続き(麻由の苦悩)を読みたい気持ちもあれば、四十八手の指南書を見させられた話も読みたいww
88名無しさん@ピンキー:2008/03/23(日) 19:42:37 ID:G4nqQDHT
麻由の思いにホロッとくる。
エチーも良いが、お互いにお互いの本音を言い合う時間
があると良いね。
と、感情移入してみる。
89名無しさん@ピンキー:2008/03/23(日) 22:08:28 ID:C10xl18F
江戸時代なら、とりあえず身分の低い女の方をそれなりに由緒のある家の名目の養女にして貰って
そこから嫁に出す体裁を取ることで世間的なバランスを取ったりするようなやり方があったんだが……

それって女がモノ扱いされていたから出来た便法で、
このカップルの場合は一応現代の話だから、
あくまで二人ともシリアスに行く末を突き詰めなくちゃならないんだろうなあ。
そこの葛藤に惹かれるとも言えるんだが
90名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 01:48:16 ID:WZrIuVfa
GJ!麻由切ないよ麻由
この展開は今後も目が離せませんなあ。続きを楽しみにしてます
91名無しさん@ピンキー:2008/03/27(木) 01:06:03 ID:WA/MhlRo
基本的なこと聞くけどさ、スレって下がり続けても保守してれば消えないの?
92名無しさん@ピンキー:2008/03/27(木) 02:28:45 ID:QlKVHTfc
多分
93名無しさん@ピンキー:2008/03/27(木) 02:45:08 ID:B7Qkyo3w
当然
94名無しさん@ピンキー:2008/03/27(木) 18:00:12 ID:UMvrCo9B
でも、漏れはそれが心配でならない・・・・
95名無しさん@ピンキー:2008/03/27(木) 23:30:59 ID:xcl9xsfd
一定時間書きこみがなければ消える
その時間は板によって違うな
場所によっては数ヶ月もつところだってあるし
まぁこのスレは心配ないでしょ
96名無しさん@ピンキー:2008/03/28(金) 03:10:07 ID:FEO/+y4j
I know that GOSHUJIN-SAMA・・・
Em・・・, All of me belongs to you , GOSHUJIN-SAMA・・・
97名無しさん@ピンキー:2008/03/28(金) 03:23:47 ID:thWM9R0z
カタコトの日本語で仕えてくれる金髪碧眼メイドさんを幻視したッ!
98名無しさん@ピンキー:2008/03/28(金) 23:34:52 ID:R+tgvSxa
>>97
俺はドラクエ7のエリーを思い出したんだが
99 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/29(土) 09:26:03 ID:4H+ggx/g
麻由の話を投下します。
今回はエロ無しなので、興味ない方はスルーかあぼーんでお願いします。


「諫言」


丹精された生垣を回り、花のアーチをくぐる。
住む人の心栄えが表れたような、美しく整えられた庭へ足を踏み入れる。
あちらを向いてしゃがみ込み、一心にガーデニングに勤しむ人が見えた。
「久しぶりだね」
僕がそう掛けた声に、振り向いたその人が微笑んだ。
「まあ!お久しぶりでございます」
立ち上がって手を揃え、深々とお辞儀をする一連の仕草は昔と全く変わらない。
「近くまで来たから、寄ってみたんだ。上がらせてくれるかい?」
「ええ、すぐにお茶の用意を致します」
急な申し出にも動じることの全く無い、年季の入ったその対応。
僕は今日、先代のメイド長である高根秀子(たかねひでこ)に会いに来た。


彼女は僕の産まれる前から遠野家に仕えており、長年メイド長を務めていた。
自分にも他人にも厳しい人で、メイド達が彼女のしごきに耐えられず何人も辞めていったのを記憶している。
僕自身も幼い頃から生活の全てを監督され、厳格に育てられた。
両親より執事の山村より、はるかに怖いこの人の気に入るような所作を身につけることは大変に難しかった。
しかし、小さい頃に鍛えられたおかげで、現在に至るまで無作法な失敗をせずには済んでいる。
最初に厳しく当られたことが、結果的に良かったと今では思うのだ。


両親が相次いで亡くなり、屋敷が火の消えたように静まり返っていた頃も。
彼女は使用人達をまとめ上げ、社長になったばかりの僕を支えてくれた。
この人がいたからこそ、僕は仕事のことだけを考えていられたのだと感謝している。
そして、僕が25歳を迎える年、彼女はメイド長を退いた。
俄かに降って湧いた僕の社長業も板に付き、これならもう大丈夫だと安心したのだろう。
長年我が家に尽くしてくれたのだからと、退職金の一部として、うちの所有する土地にあった家を与えた。
少し古くはあったが、改築をして庭も整備し、残りの人生をここで過ごしてもらうために。
以後、彼女はここで悠々自適に庭いじり三昧で暮らしている。


居間へと通され、改めて彼女の顔を見た。
屋敷にいた頃は、眉間にしわを寄せたきつい眼差しの彼女しか見たことが無い。
しかし、今僕の前にいる彼女はどうだろう。
別人のように穏やかな優しい表情をし、微笑さえ浮かべて佇んでいる。
出会い際に、何か言われるかもしれないと緊張していた身体の力をそっと抜いた。
100 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/29(土) 09:26:46 ID:4H+ggx/g
それで、今日はどうなさったのですか?」
「ああ、近くまで来たから…」
話を切り出すタイミングを推し量り、適当な言葉でお茶を濁す。
どう言ったらいいものだろうか。
「屋敷の皆さんは、お元気なのですか?」
「うん。何名かメイドは替わったけどね、皆元気にやっているよ」
「それは良うございました」
「メイド長も元気だったかい?」
僕が尋ねると、彼女はこちらを見詰め、苦笑した。
「坊ちゃま、私はもうメイド長ではありません。今のメイド長は麻由さんでしょう?」
「あ、そうだったね」
麻由の名が出てきたことにハッとする。
そうだ、僕が今回ここを訪ねた理由は彼女にあった。
「今の私は、ただのお婆さんですから。メイド長とはお呼びにならないで下さいな」
「ああ、本当だね。じゃあ、何て呼んだらいいのかな」
「そうですねえ。学生時代は、デコちゃんと呼ばれておりましたの。秀子ですから」
「デコ…」
それはいささか、いやかなり問題があるように思うのだが。
眉間にしわを寄せた僕の顔を見て、彼女がクスクスと笑う。
「冗談でございますわ。高根でも秀子でも、お好きな呼び方をなすって宜しいのですよ」
「じゃあ、秀子さんと呼ばせてもらおうか」
「はい」
「僕も、坊ちゃまと呼ばれるのは遠慮したいのだが…」
さすがに、もういい年の大人がそう呼ばれるのは色々ときつい。
いくら、産まれる前からの付き合いだとはいえ…。
「畏まりました。では『ご当主様』と」
「うん」
お互いの呼び名が決まったところで、顔を見合わせて僕らは笑った。


「さて、気分が解れられたところで本当の目的をお聞きしましょうか」
「えっ…」
一瞬にして彼女の顔が引き締まり、真剣な表情になる。
僕は取り残され、笑顔の切れ端を貼り付けたまま、間抜けな顔で彼女を見た。
「坊…ご当主様のことは、よく存じ上げておりますから。
何かお考えになるところがあって、私に相談しようかと思われたのではないですか?」
ずばりと言い当てられて、言葉を失った。
会ってまだ十数分なのに、どうして分かってしまったのだろう。
慧眼というやつか、それとも年の功なのだろうか。
「お茶を入れ直して参りますから、その間に心を整理なさって下さいな」
台所へと歩いていく彼女の後姿を見ながら、僕は今日ここに来た理由を噛み締めた。


「お待たせしました」
座り直した彼女が、座卓にお代わりのお茶を置いてくれる。
そのまま僕が話すのを静かに待ってくれた。
もう主従ではないのに、こういった心遣いを受けるとは有難いことだ。
それに応えるためにも、言いにくいなどと勿体ぶらず、正直に心の内を明かさねばならない。
僕は覚悟を決め、息を吸って口を開いた。


「麻由と結婚しようと思っているんだ」
彼女の方を向き、はっきりとそう告げた。
驚きに目を見開いた彼女が、こちらを見返す。
「現メイド長の、麻由さんですか…?」
「そうだ。北岡麻由のことだ」
確認するように力を込めて言った。
「そうですか…」
視線を伏せ、僅かに考え込む風になった彼女を見た。
101 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/29(土) 09:28:11 ID:4H+ggx/g
黙ってしまった彼女に向かい、僕と麻由の馴れ初めを語った。
13歳で一目惚れしてから、ずっと思い続けていたこと。
20歳の時に心が通じ合い、それから今日に至るまで関係が続いていること。
妻として迎えるのなら、麻由以外に考えられないこと。
今の今まで誰にも秘密にしていたことを、僕は洗いざらい話した。
「…それで、結婚のことは、麻由さんも承知のことなのですか?」
僕の長い話が終わり、入れ替わりに秀子さんが口を開く。
「いや、それが問題なんだ」
この人の話はいつも核心を突く。
「今のままだと、プロポーズしてもきっと断られると思うんだ。
麻由はあの通りの控えめな性格だし、いずれは、僕がどこかの令嬢でも娶るものと思っているらしい」
「ええ」
「結婚したら、きっと彼女にいろんな苦労をさせる。
それでも傍にいて欲しいと思うのは、彼女しか考えられないと思うのは僕のわがままなんだろうか」
「それほどまでに、麻由さんのことを?」
「ああ」
ずっと屋敷にいて、僕のことを「武様」と呼び続けていて欲しい。
嬉しい時も困った時も、怒った時も、恥ずかしい時も。
間に他の女性など挟みたいとはこれっぽっちも思わない。


「良い目をしておいでですね」
「えっ?」
秀子さんが唐突に言い、意外な言葉に虚を突かれた。
「麻由さんのことを一途に思っていらっしゃるというのが、よく分かりましたわ。
亭主に早々と先立たれた婆には、少々刺激が強うございました」
雰囲気を和ませるように、彼女がおどけたように言う。
この人は、結婚して数年で夫君に先立たれ、それから僕の家へと奉公にやってきた。
陰日向なく働き、僕の両親や祖父母の絶大な信頼を得て、メイド長を長年務めるまでになった人だ。
彼女の前で熱くなってしまったことに、少し反省した。


「今私に仰ったようなことを、麻由さんの前で言ってご覧になれば良いのですよ」
きっぱりと言い切った彼女を見詰めた。
「…本当に?」
「ええ。坊ちゃまは、麻由さんのことを考えるあまり、少し及び腰でいらっしゃいます。
拒否されるのが怖いからと、結婚を仄めかすようなことは一切、仰っていないのでしょう?」
「うん」
「不安を持ったまま誰かと話すと、その相手にも不安が伝わるものでございます」
「……」
「女というものは、殿方に守っていただくという安心感が無いと、結婚に踏み切れないものなのですよ。
それを、あなたは『断られたらどうしよう…』とびくびくなさって、一生を共にしたいという思いを隠していらっしゃる」
「…うん」
「要は、押しが足りないのでございます」
「押し…」
「自信が無くていらっしゃるから、今日私にこうして打ち明けられ、味方につけようとお考えなのでしょう?」
「いや、それは…」
「違いますか?」
「……その通りだ」
102 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/29(土) 09:29:10 ID:4H+ggx/g
一々、耳が痛いことを言われる。
だが、もっともなことばかりなので神妙に聞いていた。
「麻由さんを奥様にして、一生お傍にいて欲しいのでございましょう?」
「ああ」
「なら、まずはご自分の思いを包み隠さず仰いませ。
『苦労をかけるかも知れないが、僕が一生守るから』と」
「それで、頷いてくれるのか?」
「まだですよ、気が早うございますわ」
「…済まない」
「麻由さんは、芯はしっかりしていますが、どちらかといえば流されやすい人です。
坊ちゃまが強い信念を持って押しまくられれば、最後には首を縦に振るでしょう」
「本当に!?」
そうならば、夢のようだ。
麻由を妻に迎えて、誰憚ることなく二人でどこへでも行けるし、一生傍にいてもらえる。
秀子さんがいることを忘れ、僕はそうなった日のことを思い浮かべてにやけた。


「ただ」
語調を強め、秀子さんがこちらを睨み付けた。
僕はその迫力に息を飲み、喉がヒュッと鳴った。
「貴方様に、ほんとうに彼女を一生守りぬくという決意がおありなのかどうか」
「え?」
勿論、そのつもりだ。今更この人は何を言うのだろう。
「今、ご結婚なさったあとのバラ色の生活を思い浮かべていらっしゃいましたね」
「…はい」
「そうならない可能性もあるということは、お考えになったことはありますか?」
「えっ?」
「結婚したものの、麻由さんは上流階級の暮らしになじめず、陰口や根拠のない噂を立てられて周囲からは孤立する。
部屋にこもりがちになり、社交の場にもお出にならず、この結婚は失敗であったと考えるようになるということです」
「そんな!」
「『身分違い』とは、時代錯誤な言葉ですから。今風に『格差』と申しましょうか。
坊ちゃまも、遠野家の奥方として不適格な彼女に愛想を尽かされるかも知れません」
「何を言うんだ!」
頭にカッと血が上り、悪いことばかりを言う彼女を睨み付けた。
僕が麻由のことをどれだけ好きかも知らないくせに。
「縁起でもないことを言うのはやめてくれ!いくら前メイド長の君だって許さないよ」
「私は可能性のことを申し上げているのです」
「そんな可能性なんかあるものか!」
怒りに任せ、座卓を拳で叩く。
茶碗と急須が耳障りな音を立て、それにますます冷静さを失っていくのが分かった。


「今私が申し上げたことを、麻由さんは危惧していらっしゃるのではありませんか?」
言い返そうと口を開いたところで、先手を取って秀子さんが問い掛けてきた。
「危惧?」
「結婚には、良い面も悪い面もあるものです。
悪い方に運命が向いてしまった場合、麻由さんは周囲が悪いとは思わず、自分に全て責任があると思うでしょう」
瞬間、心が冷や水を浴びせられたかのようになった。
ああ、そうだ。きっと麻由ならそう思うだろう。
周囲の無理解が悪いとは思わず、受け入れられない自分に責任があると。
自分がいることで僕に迷惑を掛けるなら、いないほうがましだ、とも。
「坊ちゃまはお分かりにならないでしょうが、生まれ育ちの違いというのは、とても大きなものなのです」
「……」
「私も含め、市井に生まれ育った者は、上流の方と席を同じくすると不安と劣等感で一杯になります」
「そうなのか?」
「ええ。同じ場所に立てば自分も上流だと勘違いする馬鹿を除いてですが」
「…うん」
103 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/29(土) 09:30:13 ID:4H+ggx/g
「この不安と劣等感が、おそらく将来、お二人の結婚生活の障害となるでしょう。
何か問題が起こったときに、麻由さんは、自分の氏や育ちが坊ちゃまにふさわしくないと悲観して、気に病むことになります」
秀子さんの言葉が胸に突き刺さった。
氏や育ちなんて、今まで考えたことがなかった。
僕は僕で、麻由は麻由。それだけのことなのに、麻由にとっては違うというのだろうか。
「そうなった場合、僕が彼女の間違いを正して、導けるかということか?」
「ええ」
「そうか…」
自分の浅はかさに愛想がつきる思いだった。
「麻由に結婚を拒否されたら」と、僕は自分の心配しかしていなかった。
もっと大きな不安の中に放り込まれることになる彼女への配慮が著しく欠けていたことに、今更ながらに気付く。
いや、現在もきっと麻由は不安のただ中にいるのだろう。
「結婚なすったら、そりゃあ良いこともたくさんありますでしょう。
今まで誰にも秘密にしていらしたのですから、あれもしたいこれもしたいとお浮かれになるのも分かります。
でも、悪い方に転がってしまった時、どう対処するか。
それをお考えにならないうちは、結婚など百年早うございます」
先程の気勢はどこへやら、僕はいっきにしゅんとなってしまった。
分かっていないのは、秀子さんではなく僕の方だ。


「まあ、私も亭主と一緒になる前は、正直、そこまで考えませんでしたが…」
沈黙した僕を励ましてくれるように、彼女がフォローを入れる。
「恋の力で突っ走るというのは、若いときにしかできないことです。
それを丸ごと否定しているのではないということを、お含みおき下さいましね」
「……ああ」
「私と亭主は、育った環境が似たようなものでしたから、それでも良かったのです。
ただ、坊ちゃまと麻由さんは違います。
最初に突き詰めて考えておおきにならないと、将来行き詰まった時に困ることになるでしょう」
「……」
「私も、お二人が結婚なさるのには、諸手を挙げて賛成というわけには参りません」
「えっ…」
「今のままことを運ばれても、すぐに問題が湧いてくるでしょうから」
秀子さんの言葉にギクリとする。
この人さえ、反対するのだろうか。
将来の暗い見通しを語って、体よく諦めさせようとしているのだろうか。


「ですから、こういう者を納得させずにはいさせないほど、お二人の結びつきを強くなさいませ」
「あ…」
「皆をして、『あんなに愛し合っているのだから仕方がない。他の人の入る隙間が無い』と思わせるほどの。
そうなれば、何かとやかましい方々も口をつぐむでしょう」
私を含めましてね、と秀子さんは片目をつむった。
「今のように、遠慮なすったまま相手の出方を伺っておられるようなことでは、まず無理です。
そんなことではまとまる話もまとまりません」
「うん…」
「お相手は、どうしても麻由さんしか考えられないのでしょう?」
「ああ、勿論だ」
勢い良く頷いた僕を見て、彼女が微笑んだ。
「その気持ちを自分だけのものにせず、麻由さんと共有なされば宜しいのです。
世間の波は予想以上に高うございますよ、ちゃんと手を取っていなければすぐに別れ別れになってしまいます」
想像して、思わず身震いした。
そうなってはなるものか。
「若社長の醜聞として取り扱われるか、愛の力を皆に知らしめられるかは、貴方様のお胸一つにかかっているのです。
それを肝にお銘じになって、しっかりなさいませ」
「分かった」
「そして、私に、気分良くご婚儀に参加させて下さいませ」
「えっ?」
「坊ちゃまが身を固められないうちは、私もおちおち死ねませんもの」
いたずらっぽく秀子さんが言う。
104 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/29(土) 09:31:30 ID:4H+ggx/g
「死ぬなんて、まだ…」
どこから見てもピンピンしているのに、何を言うのだろうか。
「言葉の綾でございますよ。
お生まれになる前から遠野家にお仕えしていた者としては、お屋敷を離れましても、やはり心配なのでございます。
特に、今のままではね」
「うっ…」
「この婆に、愛の力というものを信じさせて下さいな。
遠慮なさらず、いくら見せつけられても構いませんのよ」
「ああ」
愛の力、か。見せ付けるとなると、具体的にはどうすればいいのだろうか。
「ええと…」
「まあ、今はようございます。
これから頑張られて、麻由さんが首を縦に振られたら、それが証明になるのでしょうから」
「そうだろうか…」
「はい。お二人の世界の違いは、結びつきを強めるための試練とお思いになれば宜しいのです。
これを乗り越えられれば、先ほど、だらしないお顔でご想像になっていたような未来が手に入るのでしょうから」
だらしないとは随分な言い草だが、おそらく当っているだけに言い返せない。


「お分かりになりましたね?」
「ああ」
「では、もうそろそろお戻りになられませ。会社を、抜け出しておいでだったのでしょう?」
この人には、何でも分かってしまうらしい。
別にサボっているわけではなく、出先から社へ戻る途中なだけなのだが。
道草を食っていることに変わりは無いので、神妙に聞いていた。
「私の在職中、目を盗んで邸内で密会なさっていらっしゃったであろうことについては、是非とも小言を申し上げたいですが」
いや、それは遠慮しておきたい。この人の説教は長いのだ。
僕は肩をすくめて、続く言葉を待った。
「まあ、7年以上もお付き合いを続けておられるのですから、お気持ちは固いのでしょう?」
「ああ」
「それなら、何も言いますまい。野暮でございますから」
「…うん」
「悪い道にも走られず、男女のことに品行方正であられたのは、麻由さんがいたからこそなのでしょう?」
「そうだ」
「他所の跡継様の行状と比べますと、むしろ、麻由さんがいてくれて良かったのでしょうか」
独り言のように小さく呟く秀子さんを横目で見た。
僕と同じような環境で、派手に遊んでいる奴らのことを言っているのだろうか。
どうやら、小言を言われる気配は無さそうだ。
正直、ホッとした。


この上は早々に退散するかと、今日の礼を述べて玄関で靴を履く。
「今度は、お茶菓子でも持ってきて頂くと助かります」
「うっ…」
最後の最後で、痛いところを突かれてしまった。
確かに、人を訪ねるのには手土産の一つも持ってくるものだ。
これは全面的に僕が悪いから、何も言えずに頷いた。
105 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/29(土) 09:32:23 ID:4H+ggx/g
「手土産を持ってきたら、また、来てもいいかい?」
麻由とのことを相談する相手を、また務めて欲しい。
「そうですねぇ、あまり、思い人以外の女性と二人きりになられるのはまずいのではないですか?」
「えっ…」
確かに、秀子さんも女性には違いないが…。
「おほほ、冗談でございますよ。私も坊ちゃまのお顔が見とうございますから、いつでもいらしてくださいな」
「ああ」
「相談も宜しいですが、なるべく、良い報告やのろけ話のほうが聞きたいですわ」
「そうだね」
本当に、そうなればいいと思う。
「弱音をはかれましたら、遠慮なくきついことも申しますよ」
「ああ」
きっと、この人に言われたのなら気を取り直し、奮起できるだろう。
「僕と麻由が結婚したら、新しいメイド長として返り咲いてはくれないかい?」
麻由が妻になれば、彼女はメイド長を辞めるのだからポストが空く。
秀子さんは厳しいが、監督官としてこれ以上の人材はちょっと見つからない。
「いえいえ、私は今の暮らしが気に入っておりますから。
今更、老体で孫ほどの年のメイド達を束ねるのは、荷が重うございます」
「…そうか。残念だ」
「お心だけ、頂戴いたします。
後進の指導は致しませんが、女心の指南ならいつでも致しますけれど、ね」
お茶目にそういった彼女と目を見合わせ、二人で笑い合った。


軽く抱擁し、別れを告げて玄関を出る。
手入れの行き届いた庭を横切りながら、やはり秀子さんから今の暮らしを奪い、メイド長として再登板してくれと言うのは無理な話だと知った。
彼女は、ここで穏やかに生きていく今の暮らしが心から気に入っているのだろうから。
ところで、僕のことを「ご当主様」と呼ぶと宣言したのに、結局彼女は「坊ちゃま」としか言っていなかったように思う。
彼女からしたら、僕はまだまだ半人前だということの証明かも知れない。
もっと頑張りなさいというプレッシャーだと思って、それに応えようと決意を新たにした。


待たせていた車まで戻り、ドアを開けさせる。
社まで戻るように言い、後部座席のシートに身体を預けた。
帰り道も、やはり麻由のことを考えてしまう。
先日、関係を持ったときの彼女は妙に積極的だった。
いつもは僕がリードして彼女を責め立てるのに、あの日は麻由が主導で事が運んだ。
乳首を口に含まれた時は、どうしていいか分からなくなった。
いつもは散々同じ事を麻由にしているのに、自分がされてみると対処に困ったのだ。
二度目に身体を繋げた時、麻由が背を逸らして露になった胸元のラインの美しさは、言葉にし難いものだった。
堪らずに吸い付き、舌で愛撫してしまったが、もうちょっと鑑賞してからにすればよかったと思う。


そう言えば、いつものようにゴムを付けようとした手を捉えられ、「今日はこのままで」と言われた。
麻由の体のことを思いやって、いつもはきちんと準備をするのに。
そうしないでいいということは、何を意味するのだろう。
彼女は慎重な性格だから、安全な日云々というのは関係ない気がする。
もしかして、僕と共に生きる決心が固まりかけているのだろうか。
僕の子を宿してもいいと思ってくれたのだろうか。
メイド長に「だらしない顔」と言われたのも忘れ、再び考えに耽った。
僕がいない時に小守が屋敷へ来た場合、僕が戻るまで麻由に話し相手をさせている。
通常は、主人の留守中に来客をもてなすのはその屋敷の奥方の役目。
それを任せていることの意味に、彼女は気付いているのだろうか。
106 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/29(土) 09:33:26 ID:4H+ggx/g
麻由に対し、事あるごとに「君は僕のものだ」と言い聞かせている。
彼女が頷いてくれると、それだけで僕の心は浮き立ち、天にも昇る心地になる。
しかし、こうは言っていても、麻由を完全に自分のものにできているとは言いがたい。
慎み深い彼女の心は、触れたと思ってもすぐスルリと手から逃れてしまう。
手中にできないからこそ「君は僕のものだ」と暗示をかけ、そう思い込ませるように働きかけるのだ。
実際には、僕の方がとっくに麻由のものなのに。
まあ、これを今更言うのも面映いし、僕だけが麻由に夢中なようでちょっと悔しい。
だから、「僕は麻由のものだ」とは言葉にして言ったことが無いのだ。
これを言わなければ「武様を私のものにしてみせる」と彼女が発奮してくれるかも知れないという淡い期待を持つから、尚更に。


社に戻って仕事を終え、屋敷へと戻る。
いつものように麻由をこっそりと誘い、部屋へ呼んだ。
夜半、やってきた彼女を出迎える。
「さ、これに着替えなさい」
先程取り出しておいた自分のパジャマを手渡し、申し付けた。
「え…」
受け取った麻由が困惑した表情を浮かべている。
いつもは部屋に入るなり抱き締めたりキスをする僕が、今日は様子が違うから奇妙に思っているのだろうか。
「…では、あちらを向いていて下さいませ」
気を取り直した麻由が言うのに従い、僕は大人しく反対側を向いた。
髪も解く様に言い置いた後、一足先にベッドへと向かう。
身体の隅々まで知り合った仲なのに、いまだに恥らう彼女を心から愛しいと思った。


ベッドへ脚を投げ出して座り、麻由が来るのを待つ。
やがて、着替えた彼女が、おずおずといった様子でこちらへと歩いてきた。
長すぎる袖や裾を折り返し、パジャマを着るというより着られているといった姿に笑みがこぼれる。
「さ、ここへおいで」
傍らを空けて手で叩き、示した。
それに従った彼女を横たえ、自らも寝転んだ。
腕枕をしてやり、麻由の顔に見入った。


漂ってくる良い香りに、心が惑わされる。
入浴を済ませ、僕の求めに応じるべく部屋を訪れた最愛の女性。
本当なら、遮二無二パジャマを剥ぎ取り、その身体を組み敷きたい。
豊かな胸に触れ、身体を開かせ、一つに繋がりたい。
しかし、今日はそうしないと決めたのだ。
欲望を訴える下半身の声に耳を傾けず、僕は口を開いた。


「たまには、こういうのもいいだろう?」
「ええ…」
見詰められるのが恥ずかしいのか、僅かに目を逸らした麻由が頷く。
「今日は、このまま寝よう。僕のパジャマを着た麻由をもっと見ていたいんだ」
「畏まりました」
その返事に、僕の眉が僅かに上がってしまった。
「もうメイドの格好はしていないだろう?その返事はやめてくれないか」
「あ…申し訳ございません」
「ほら、まただ」
「あっ…」
ばつの悪い表情をした彼女を見詰め、額をつっついた。
107 ◆DcbUKoO9G. :2008/03/29(土) 09:35:20 ID:4H+ggx/g
あまりこのことをしつこく言うのは酷かと思い、別の話を切り出す。
今日屋敷であったこと、明日のネクタイの色目についてなど。
そのうちにこうして見詰められるのに慣れたようで、麻由も臆することなく僕と視線を合わせてくれた。
至近距離で愛する人と触れ合っていることに、また僕の欲望が騒ぎ出す。
いや、駄目だ。軽く触れ合うだけで、今日は麻由を抱かないと決めたのだ。
僕という人間が、自分の欲望をぶつけるだけの青二才ではないということを、彼女に分かってもらうためにも。
ただ闇雲に滾る欲求を満たしているのではなく、ちゃんと麻由を愛しているんだということを感じて欲しい。
男の余裕とでもいうか、とにかく、僕が彼女を大切に守る意思があるということを知らしめたいのだ。


空いた手で麻由の髪や肩に触れる。
いつもは快感を呼び起こすために触れる手を、今日はただ慈しむために動かす。
僕のこの気持ちが、手を通して伝わればいいと思いながら。
「武様…」
麻由が僕の手を捉え、頬擦りをした。
辛抱堪らなくなって、僕の名を呟いた唇に口づける。
その頭を抱え込み、深く味わいたいところを、触れるだけの二、三度の軽いものにとどめた。
これ以上してしまったら、またいつもと同じになってしまうと思ったのだ。


顔を離し、僅かに頬を染めた彼女を見詰める。
「麻由、もっとわがままを言ってくれてもいいんだよ」
「え…」
「君は、自制心が強いから、言いたいことも我慢するだろう?」
「…でも、私は、メイドですから……」
「まあ、今はそうだが。でも、君は僕のたった一人の人だ」
その身体を確認するように手で撫で、思いを伝えた。
「ありがとうございます」
僕の胸に顔を埋めた麻由が、くぐもった声で言う。
伝えたい気持ちは、ちゃんと彼女に届いただろうか。
いや、全てをはっきりさせるのには、まだ早いのか。
パジャマ姿でプロポーズするというのも、些か雰囲気に欠けることだし。
僕が心から麻由を思っていると伝えられただけで、今日は良しとするべきなのだろう。
この気持ちが彼女の心に根を下ろし、芽吹くのを待ってから改めて求婚しよう。
秀子さんが言うように、今の僕ではまだ力不足なのだろうから。
自分を鍛え、麻由の不安や迷いを受け止められる度量の深い男に早くなりたい。


「さあ、もう眠ろう」
「はい。お休みなさいませ」
「お休み」
胸の中で、先に目を閉じた彼女を見詰める。
早く、この風景が日常のものになればいい。
身体を求める時以外にも、同じベッドで一緒に眠るというこの状況が。
来るべきプロポーズの時、麻由はどんな表情をするだろうか。
拒否されても説き伏せられるよう、理論武装をしておかなければ。
いや、言い負かすような形になるのは本意ではない。
僕に全てを委ね、ついていこうと自発的に決心してくれるようにするのが一番いい。
頼り甲斐のある男に、早急にならなければと思う。
僕がそうなって、麻由が求婚に応えてくれたなら。
その決意が鈍らないうちに、さっさと指輪をこの白い指に嵌(は)めてやろう。
方々からカタログを取り寄せて、最高のものを決めさせようか。
貴金属店の人間を呼び、ふさわしいものを持ってこさせ、その中から選ばせようか。
いや、ここは二人で買いに行くべきか。
その上で「どれでも好きなものを選びなさい」と言ったほうが、より包容力をアピールできるのか。
それとも、一緒に悩む方が、これから共に生きていく相手としては正しい態度なのか。
何でも似合うに決まっているが、やはり、最高のものを選んでやりたい。
また「だらしない」と言われるに違いない顔で、僕は眠った麻由を見ながらあれこれと考えた。

──続く──
108名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 10:09:57 ID:6ip71q2x
>>107
朝っぱらから何てモノを…!!
GJ!
109名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 11:00:58 ID:Jv8UzDCo
いつもいつもお疲れ様です
GJです

さあさ、他の書き手さんも遠慮はいらないぞー
wktkしてまってるぞー
110名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 11:37:13 ID:LiSjFBOz
なななんともうれしい展開に!
111名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 13:55:45 ID:eEJwl9ET
身分違いの恋はドキドキしますなぁ
この二人は応援したくなるカップル
武様頑張れ。麻由と共に頑張れ
112名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 14:27:48 ID:pOf1NwB7
先生!
秀子さんに惚れてしまいました
113名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 20:10:06 ID:8Utl4tWN
GJ!!

秀子さん…素敵な女性だー
114名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 22:11:45 ID:vkUu5XT9
麻由が求めている言葉を武様は今さら言う必要がないと思ってるなんて
なんて歯痒い二人なんだ、ニヤけっぱなしだぜ
115名無しさん@ピンキー:2008/03/31(月) 23:34:55 ID:k6fnGTO8
保守がてら

百合さーーーん
ゆかりちゃーーーん
水晶さーーーん
リーシェちゃーーーん
薫さーーーん
二宮さーーーん
御咲さーーーん
レベッカさーーーん
雪乃さーーーん
春菜さーーーん
夏希ちゃーーーん
秋深さーーーん
天姫さーーーん
紅葉さーーーん
冬美さーーーん
カムバーーーーーーック!!
116名無しさん@ピンキー:2008/04/01(火) 05:09:00 ID:ceJibSt8
こんな糞みたいな妄想をお褒めの言葉ほしさに必死こいて書いてる姿を想像すると笑えるよなw
117名無しさん@ピンキー:2008/04/01(火) 11:26:56 ID:At1p7OQj
ヒント:つエイプリルフール
118名無しさん@ピンキー:2008/04/01(火) 14:09:55 ID:qP+lt34j
あれ?ここツンデレスレだっけ?ww
119名無しさん@ピンキー:2008/04/01(火) 14:15:25 ID:QHxKUeAx
ツンデレメイド、いいですね
120名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 05:41:26 ID:3KXYb6oR
前ご主人様夫妻が突然の事故で無くなり、没落したご主人様の家
お屋敷を引き払い4畳半のアパートに、最後まで一人残ったメイドさんと住む事に


メイド:「か、勘違いしないでよね!
     ○○家には先祖代々お仕えさせて頂いたご恩があるから
     私だけは最後まで面倒見てあげようと思っただけ
     べ、別にあんたの事なんて、好きでもなんでもないんだからっ!」




こうですか?わかりません><
121名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 07:20:33 ID:7mtiM/On
>>120
続きをkwsk!!

前スレ落ちたな。
122名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 22:39:04 ID:mALb0/HP
どこかで・・・確か軍板の防衛女子校スレで似たような話を読んだ記憶がある。
どこだったかなぁ
123名無しさん@ピンキー:2008/04/03(木) 01:44:28 ID:NtBLMqes
>115
百合さんは「麻由さんの物語」を読みながら頬を染めているところです。
124名無しさん@ピンキー:2008/04/03(木) 07:36:15 ID:7M4T2Xxo
ポーっとしているところへ旦那様が突然現れてドキドキするに違いない
125名無しさん@ピンキー:2008/04/03(木) 19:09:27 ID:tcW8Veeu
それで「いけませんね。春なのに風邪ですか?」なんて言われて
おでことおでこをくっつけられ、更に真っ赤になるんでしょうなあ
126名無しさん@ピンキー:2008/04/04(金) 05:20:36 ID:GnJBB2AR
>>122 過去ログからの甜菜

374 名前: 名無しさん@ピンキー 投稿日: 2007/11/29(木) 02:52:39 ID:MpVGqznD
落剥したご主人様をメイドが働いて養う話が
昔、軍板のスレにあったような。
で、ご主人様が返り咲いて彼女にプロポーズした翌日
姿を消す・・・・・
空港で、相棒に「良いオトコだったじゃない。このまま嫁に行けばいいのに」との問いに
「あんな抜けたヒトは願い下げだわ・・・・あのヒトには可愛い奥さんがお似合い

 任務だったのよ」
溢れる涙

こんな感じだった。誰かもってたらよろしく!

375 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/11/30(金) 07:56:38 ID:J++Iape1
>>374
前スレでも話題になったな

378 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/12/02(日) 11:14:20 ID:FEBex1Kd
前スレの362-365あたりが該当箇所
頑張って探してくれ

最近のココは雑談レスも無いくらい淋しいな
雑談から湧く妄想もあると言うから、メイドさんへの想いを語ろうじゃないか
127名無しさん@ピンキー:2008/04/04(金) 05:24:19 ID:GnJBB2AR
359 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2006/08/18(金) 18:30:15 ID:OP4A+7+1
>>354を読んで、軍板の中高一貫の防衛女子校スレッドのメイド教官物語ネタを連想してしまった・・・

362 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2006/08/19(土) 05:01:00 ID:rppsuWjM
ここね

過去スレデータベース
http://www.geocities.co.jp/Playtown/2330/bojo/index.html
今スレ
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/army/1152537565/

メイド教官とは?
初代スレで書かれたとあるレスがあまりに名作だったため設定が何度か書込まれたが
未だにSSが書かれない幻の作品である

>>121
「私の人生で一番辛く、苦しい時 支えてくれた君以外愛することができない
結婚してくれ」 とご主人様がプロポーズした直後に(その為の裏工作を
色々やっていたのだが)返り咲いた地位を通して任務完了。
翌日、ご主人様が花束と指輪をもって帰宅すると、いつもどおり整頓された
家の中で彼女と彼女の荷物だけがない
テーブルの上には、手紙が1通・・・・
「私はただのメイドにすぎません」で始まるわかれの言葉が
「どうか 私を忘れて」という言葉と共につづってある。

そのころ、彼女は港、もしくは空港で 
「いい男だったじゃない。このまま結婚すれば」という相棒に
「あんな、抜けたひとは願い下げよ・・・・あのひとには可愛いおくさんがお似合い
 ・・・・任務だったのよ」と眼を合わさずに返答
 流れる涙

363 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2006/08/19(土) 05:02:19 ID:rppsuWjM
>>725
そこまで能力が高く可憐で引く手あまたなのに主はただ一人と定めるがごとく
けなげに仕える大和撫子メイド・・・・
任務終了後、その国どころか近隣諸国でも活動できなくなると思われ。

と、いうよりそんな彼女に思いをよせる男性多数・・・
「あいつが振られたそうだ」とうわさは千里を駆け巡り
某国で高級クラブの見習いと言う設定で潜入した直後に
どっかでみたような殿方が彼女目当てに贈り物を持って押し寄せ
行方をくらまさざるえなくなる・・・・が、同様な事態が再発することを
危惧した上層部は彼女に現場からの引退と防女教官としての地位を与えた。

生徒の前ではほとんどジャージの彼女
「あたしは、いい男にもて過ぎて防女に出戻ったのよ」と愚痴をこぼすことも
あるが、それを信じる生徒は皆無である
128名無しさん@ピンキー:2008/04/04(金) 05:26:58 ID:GnJBB2AR
364 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2006/08/19(土) 05:04:07 ID:rppsuWjM
本当は諜報員なのにご主人様に本気で愛されて正妻に納まるくのいちメイドが
続出、裏の花嫁学校の名を欲しいままのする

・・・英語、他一カ国後ネイティブレベル、看護婦並みの医療技術
   (理論、実践共に)、婦人警官並みの護身、格闘術、
   二輪、四輪限定解除、マナー、礼儀作法も修得・・・で、
   国外では子供と間違えられそうな身長150cm台、黒髪、黒眼
   けなげに尽くしまくる やまとなでしこメイドさん
   (任務なのでご主人様がスキャンダルにまみれても、零落しても
    給料が払えなくなっても付いてくる。で、濡れ衣だった、元の  
    地位に返り咲いた、破産前以上の金持ちに・・となった時に
    プロポーズされるが、本人にその気が無い為あくまでも
    身分違い、他の理由を並べ立てて身を引こうとし、任務完了後
    さっさと帰ろうとするのだが、逃げ切れなかった娘が)


365 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2006/08/19(土) 05:12:07 ID:rppsuWjM
その3

194 名前:委員長支持派 [sage] 投稿日: 03/10/13 02:16 ID:???
>>184
意に染まぬ相手の愛人に納まった防女OBですか。
それはいるでしょう。金と女は諜報の基本です。特に防女入学時はともかく
高等部以降は容姿を磨くことが 義務 となっていますし。
元メイド教官も姿をくらます時に涙を流すくらい”ご主人様”に入れ込んでいたの
だし、ま おとなの男と女だし、多分自棄を起こしたご主人様を「慰める」ことも
あったのだろう。
元ご主人様が未だに独身である理由もそこいらへんが絡んでいるだろうし。
落剥か、スキャンダルか、失脚かで何もかも無くしてうらぶれた古アパートの
一室に越してきた二人。もう給料も払えないと使用人全てを解雇したのに
傍らには当然のように黒髪のメイドがいる。”私にもいくらかの蓄えがありますから”と
けなげに無給で仕えてくれる彼女。そして、しばらくたって、彼女がその技能で
毎日働き自分を養ってくれていることを知る。
同じに、その容姿と高い能力に対し数多くの条件の良いオファーが来ていることも・・・
その事をおくびにも出さない彼女に情けなさと、すまなさが入り混じった気持ちで
問いただすご主人様 
          「私が主として仕えるのは貴方だけです」

・・・・いくら任務だとはいえ、こんな男にとっての理想をやったから
    失踪後、ひそかに指をくわえていた紳士たちが殺到したし、
    もう、あそこら辺の国には立ち寄ることもできなくなったのだ
    このばかもん。
    君はしばらく古巣で後進の指導にあたりたまえ。
    現場に復帰するのはほとぼりがさめてからだ

(ココまで)
129名無しさん@ピンキー:2008/04/06(日) 12:17:26 ID:fx9Iw7OX
軍板行け
130名無しさん@ピンキー:2008/04/07(月) 14:08:58 ID:jFtJzf3b
131名無しさん@ピンキー:2008/04/08(火) 19:19:33 ID:2X/j3pTU
>>16
日本或いは日本風の世界が背景だと思うが、姉やとメイドの違いはどんなんだろう?
姉やはめのとごでお姉さん格という設定?
132名無しさん@ピンキー:2008/04/08(火) 21:20:36 ID:+3psy9u7
ttp://www.youtube.com/watch?v=xrnGvR0s0Cw&feature=related

とりあえず俺の戦友置いておきますね
133 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:19:20 ID:rXO4fcUC
麻由の話を投下します。
>>87からの番外編で、長い上に本筋には直接関係ありません。
見られない方はあぼーんお願いします。


「夜の勉強」

二人きりの旅行から帰ってきて、数日経ちました。
夢のようだったその時間を反芻しては、仕事中に笑みを抑えられないでいます。
武(たける)様に膝枕をしたこと、お揃いの浴衣を着てお酌をしたこと、外で手を繋いで頂いたこと。
そして、二度も一緒に露天風呂に入れたこと。
そこでされてしまったことは、今思い出しても頬に血が昇ってしまいます。
拒否しきれなかったのは、やはり、旅先だということで気分が開放的になっていたからなのでしょうか。


二月も半ばとなり、寒いながらも毎日頑張ってお勤めをしています。
昼間、武様とすれ違った時に夜のお誘いを受け、今日も足音を忍ばせてお部屋へと参りました。
小さく3回ノックをし、ドアを開けて入室します。
「ああ、来たね」
待ちかねたように立ち上がり、迎えてくださる愛しい方のお姿に胸がきゅんと高鳴ります。
お傍まで行くと、引き寄せられて優しく啄ばむような口づけを受けました。
「早く夜にならないかと思っていた」
耳元で囁かれ、私と同じことを思って下さっていたことに嬉しくなりました。
ソファを勧められ、言われるままに腰掛けて。
夜、お部屋へ伺ってすぐベッドへ…というわけではなく、大抵はこうやってまずお話をするのです。
武様の大学のこと、お屋敷内で今日あったこと。
立場の違う私達ですから、その隙間を埋めるためにという武様のお心遣いなのでしょう。


「あの櫛は、使ってくれているかい?」
私を座らせたあと、武様はいつもならテーブルを挟んで対面に座られます。
しかし、今日はなぜかソファに並んで腰掛けられました。
「いえ、勿体無くて…」
使うのが惜しくて、あれ以来手を触れるどころか、箱を開けてさえおりません。
本当なら、金庫にでもしまっておきたいくらいなのです。
「大げさだなあ、麻由は」
「せっかく下さった物なのですもの、もし割ってしまったりしたら…」
それこそ、落ち込んだまましばらくは立ち直れそうにありません。
「うん。まあ、そこまで大事に思ってくれるのなら無理して使えとは言わないよ」
武様はクスクスとお笑いになり、纏めた私の髪をそっと撫でて下さいました。
肩にもたれさせて頂き、お互いに何も言わない時がしばらく流れました。
こうしていると、ご主人様とメイドという立場の違いを忘れ、本当の恋人同士のように思えます。


「あら、それは何かの御本ですか?」
書店名入りのカバーが掛かった本がテーブルの隅においてあるのに気付き、尋ねました。
「ん?ああ、君が来るまで読んでいたんだ」
「大学のお勉強の本ですか?」
「いや、そうじゃないんだが…」
言葉を濁されたのが、なぜか気になりました。
「読みたいなら、読んでみるといい」
「宜しいのですか?」
「ああ」
以前も同じようなことがあり、手に取って開いてみるとびっしりと英語だけが書かれた本でした。
今回もどうせ歯が立たないでしょうが、武様と同じものが読んでみたいのです。
私は手を伸ばして本に触れ、えいっとページを開きました。

134 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:20:15 ID:rXO4fcUC
思いに反し、開いたそのページに載っていたのは挿絵でした。
日本髪を結った女性と、町人髷の男性の二人。
何か同じ方向を見ているような形で、寄り添っている構図でした。
それにしても、何だか着物の柄が地味なような気がします。
白い帷子(かたびら)でも着ているのでしょうか、でも襟元の線が描かれていません。
まるで全身タイツを着ているかのような…。
「えっ!」
心臓が跳ね、挿絵を凝視しました。
まさか、これは…。
「やっと分かったかい?」
「あ、あの……」
なぜでしょう、嫌な予感がして武様のお顔を見ることができません。
「それは、春画だよ」
「春画…」
おうむ返しに呟き、あっけに取られてしまいました。


そのままの姿勢で呆けていた私の手から、武様が本を取られました。
「始めに言っておくが、僕がこれを自分で買ってきたわけじゃないよ」
「はあ…」
「麻由と旅行に行く前、僕はゼミの仲間と京都に行ったと言っただろう?」
「はい」
「一日目の夜にビンゴ大会があってね。僕は三等だったんだ」
「ビンゴ大会の、景品というわけですか?」
「そうだ。一等がメンズシェーバー、二等が図書カード五千円分。で、これが三等」
「三等…」
一等も二等もまともな品物なのに、なんでこれが三等なのでしょう。
景品を見繕われた方のセンスを小一時間問い詰めたい気分です。
「たぶん、オチのつもりなんじゃないかな」
表情から私の思ったことを読まれたのか、武様がそう仰いました。


脱力したまま、武様のお話を聞きました。
「三等から後は、何かやらされたんだよ。
皆の前で一曲うなるとか、二人羽織をやった奴もいたかな。
最後の方は、大学に帰ってから教授の部屋を掃除するとか、下級生に三日間敬語で喋るとか、大変そうなことだった」
「それじゃあ、ビンゴしても嬉しくありませんね」
「ああ。でも、最後になるほど悪いことが起こるのは分かっていたから、皆必死だったんだ」
思い出されたのか、おかしそうに笑いながらそう仰いました。
「じゃあ、武様は三等でよかったと?」
「うーん、まあ、そういうことになるかな」
「…そうですか」
私なら、こんなに恥ずかしいものを貰うより、芸でも披露したほうがましに思えます。
「でも、ゲームが終わった後にあれこれ言われてね」
「ゼミの皆様にですか?」
「ああ。ビンゴするのが遅くて、変な罰ゲームを食らった奴にね」
「それはそうでしょうね」
「『お前がそんなの貰って、宝の持ち腐れじゃないか』とか」
「まあ」
「『やってみたいなら、いい店を紹介するよ』と言ってくれた先輩もいた」
何てことを。男所帯のゼミというのは、そういうものなのでしょうか?
武様に変なことを吹き込まないでほしいものです。
135 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:21:11 ID:rXO4fcUC
「多分、僕がまだ女性を知らないと思っているんだろうね」
「……」
「まあ、猥談にも参加しないし、学内を連れ立って歩いたりしないから、しょうがないんだが」
「ええ」
確かに、武様がそんなお話をなさっている姿など想像できません。
学内を他の方と歩かれないというのも…正直ホッと致しました。
私の知らない女性と、大学で会われているのでは…という懸念をすることもありましたから。
「僕が猥談に参加したら、麻由のことを思い出して顔が赤くなってしまうからね」
「えっ?」
「皆の話を、自分と麻由に置き換えて、けしからぬ想像をするだろうから」
「…」
何も言えず、私は俯きました。
もし私も女友達とそういう話になったら、きっと武様とのことを思うのでしょうから。


「僕がそんな風に言われるなんて、君としては悔しくは無いかい?」
「えっ?」
「こんなに可愛い恋人がいるのに、そうは思われていないなんて、さ」
頬に触れられた武様が、芝居がかったきざな科(しな)を作って仰いました。
「か、可愛いだなんて…」
顔から火が出たように熱くなり、私はまた下を向いてしまいました。
そんなふうにからかわれるなんて、武様も人が悪くなられたものです。
照れたまま俯いていると、急に腰に手を回され、グッと引き寄せられました。
「あ、あの…」
驚いて、私は武様のお顔を見上げました。
まさか、今日はここで、このまま…。
抵抗しようかやめようかと、頭の中がぐるぐるとしました。


「読んでみないか」
「?」
葛藤している私の斜め上から、武様のお声が聞こえました。
「せっかく景品で貰ったんだから、全く使わないのも勿体無い。
皆の鼻を明かしてやる為にも、ね?」
首を傾げてそう頼まれるのに、私が異を唱えられるはずがありません。
あの挿絵です、文章も何を書いてあるのか想像が付きそうなものなのに。
私は断ることができず、本を受け取ってしまったのです。


最初は、性風俗というのでしょうか、そういったものの時代による変遷が書かれていました。
通い婚の時代、戦国時代の正室側室のこと、吉原や大奥のこと。
江戸時代のことが特に詳しく書かれており、先程の挿絵も町人文化の一端である春画の参考資料だったのです。
思ったより真面目な内容で、安心しました。
テーマについては一言も二言も申し上げたいですが…。
江戸時代以降については、端折られていました。
これなら、二人で読んでも問題は無いようです。
しかし、章が変わり、その扉ページを武様がめくられた瞬間。
私は危うく悲鳴を上げそうになりました。
136 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:21:51 ID:rXO4fcUC
再び先程のような挿絵が両ページ共に描かれていたのです。
様々な形で交わっている男女が、その…。
高速でページを繰りますが、次々と絵が変わるだけで、文が殆どありません。
これをビンゴゲームの景品に選ばれた方を、もう小一時間ほど問い詰めたい気分になりました。
「ああ、これは四十八手だね」
「えっ?」
この時に聞き流せばよかったのにと気付けなかったのが、私の愚かさでございます。
いわゆる「スルースキル」が、私にはきっと足りなかったのでしょう。
「二人で楽しむときに、どういう形を取ればいいのかの一覧表みたいなものだ」
「…そうですか」
「せっかくだし、見てみようよ」
「えっ!」
これを、武様と一緒に?
「ね、いいだろう?」
頼み込まれ、私はまたしぶしぶ頷く羽目になりました。


挿絵の下に、その形の名前と特色が注釈で書かれています。
ア行から順番に、一ページに一つずつ。
身の置き場の無い心地で、本に見入ることになってしまいました。
「岩清水」「浮橋」「(立ち)花菱」「千鳥」
その名は麗しいのに、挿絵が妙に生々しく、正視することができませんでした。
「ふむ。もうやってしまったのもあるね」
武様が仰った言葉に、思わず挿絵を凝視してしまいました。
確かに、覚えのある形が絵になっています。
伝統にのっとった形を知らぬ間になぞっているのでしょうか。
でも、全く見たことも聞いたことも無い挿絵もありました。
「菊一文字」や「立ち松葉」など。
見ただけで身体の筋や関節があちこち痛くなりそうで、無意識にその辺りを抑えました。


「こういうのは、いいね。季節感がある」
あるページに差し掛かった時、武様が私の手を止めさせて仰いました。
「コタツかがり」
男性の膝の上で女性が座っている、さほど生々しくは無い絵でした。
勿論、絵の男女は一糸まとわぬ姿なのですが…。
「ちょっとやってみようよ」
「えっ…」
「そのままでいいからさ、気分だけでも」
「はあ…」
服を着たままなら、大丈夫かも知れません。
「ほら、おいで。たまにはいちゃいちゃするのもいいさ」
姿勢を直された武様が、自分のお膝をぱたぱたと叩いて促されました。
…「いちゃいちゃ」するのは、やぶさかではありません。
「失礼します」
一旦立ち上がり、お膝の上にあちら向きに座りました。
小さい頃、父の膝の上で絵本を読んでもらった時のようなこの体勢。
少し懐かしくなりました。
「重くありませんか?」
「いや、軽いよ」
全く気にならないという調子で仰って、安心しました。
体重を全て預ける形になって、心配でしたから。
137 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:22:58 ID:rXO4fcUC
「じゃあ、麻由はこの続きを読みなさい」
「えっ!」
私は思わず振り返りました。
「実は、僕はもう一度読破しているんだ。君と泊まった日に、新幹線の中でね」
「……」
これを座席で読まれたというのでしょうか?
カバーはかかっていますが、この絵を覗き込まれたりしなかったのでしょうか。
「二人とも全く同じ条件だったのに、僕だけがこれを読んで君を追い抜かすのは不公平だろう?」
「はあ…」
これは、初めてのとき以降も、私に操を立てて頂いていると喜ぶべきなのでしょうか。
「知識は、共有すべきだからね。特に、こういったものは」
悪びれないお顔でそう仰るのを聞いて、そういうものかと頷きました。


刹那、お尻の下を支えるものがなくなり、私は十センチほど垂直落下しました。
「キャッ!」
すぐ下のソファに着地し、少しバウンドします。
「ほら、こうすれば安定するだろう?温かいし」
武様が腰に手を回され、抱き締めて下さいました。
脚をお開きになって、その間に私のお尻が納まる形になって。
密着度が高まり、気恥ずかしくなります。
開いた脚を閉じられ、お尻から腿にかけてを挟まれては逃げることができませんもの。
この時、恥ずかしさに気を取られていた私は、背後を取られた自分の迂闊さに気付けなかったのです。


後ろの武様になるべく意識をやらないようにしながら、私は本を読み進めました。
覚えのある形が挿絵に出てくると、正視することができません。
目を逸らすと、武様が後ろからくすぐられたりするので、困りました。
「ちゃんと読みなさい」と指示され、私が本に顔を戻すまでやめて下さらないのです。
その項をどうにか読み終え、ホッと息をつきました。
これで解放されるでしょうか。
「麻由、その次の章を見てみなさい」
「はあ…」
また挿絵なのかと気が進みませんが、言いつけに逆らうことはできません。
ぱらりとページをめくると、思いに反して挿絵はありませんでした。
しかし。
「対面男性上位」「対面座位」「後背側位」
生々しいその文字に、私はまた叫びそうになりました。
「『背面女性上位』というところがあるだろう?」
「え…」
見たくないと思いながらも、そう言われると目で探してしまうのが悲しいところです。
「はい」
「そこを、読んでみなさい」
「えっ?」
「忘れてしまったんだ。思い出すから読んでおくれ」

───女性が、座った男性の上に同じ方向を向いて腰を下ろし、抱きかかえられる体位。
電車で子供を膝に座らせる時と同じような体勢です。下半身を責めながら、胸への愛撫も同時にできるという利点があります。
女性の体重がかかるので抽送の速度を保つことはできませんが、逆にその体重を利用して深く貫くことが可能です───
138 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:23:40 ID:rXO4fcUC
これを読めと仰るのでしょうか。これを…。
目で追ったものの、とても口に出すことなどできません。
固まってしまった私を、武様が急かされました。
「ほら、読んでくれないとまたくすぐるよ?」
「キャッ!」
お手が身体の上を這い、さわさわと動くのから逃れようと身を捩りました。
「あ…やっ…」
脇腹を撫でられ、妙な声が出てしまいます。
「ほら」
尚も促され、私はくすぐり責めから逃れたい一心で頷きました。
「じ、女性が、座っ………」
読んでいる間もくすぐられ続け、つっかえながら言葉にする羽目になりました。
たった四行を読むだけなのに、永遠に等しいくらいに長く感じました。


「ありがとう、思い出したよ」
読み終えたところで武様が白々しく仰いました。
利発であられるこの方が、一度読まれたことをお忘れになるはずがないのです。
私をからかって恥ずかしがらせるために、こうなさったのに違いありません。
「もう、宜しいでしょう?離して下さいませ」
いやいやをするように、武様の脚の間で身を捩りました。
「離して欲しいのかい?」
「はい」
「『背面女性上位』の形を取っているのに?」
「え…」
先程読み上げた文章が、頭の中で反復再生されました。
女性が、座った男性の上に同じ方向を向いて…。
「!」
私は、何とはしたないことをしているのでしょう。
武様のお膝に座るとは、こういうことだったのです。
「いえ、ですから、もう降りようと…」
「この形は、嫌いかい?」
「そうではありません、あの…」
「じゃあ、もっと適した形を探すべきだね」
そう仰ったのと同時に、エプロンの腰紐を解かれ、あっけなく奪われてしまいました。
「何をなさいます!」
ソファの背もたれに掛けられたエプロンを見詰めながら、抗議いたしました。
「うーん、何をすると言われてもね。これからするんだけどな」
悪びれずにそう仰るのを聞いて、いよいよ危機感が募りました。


パチンと音がして、ブラのホックが外されました。
「あ…」
胸元が一気に心許なくなり、慌てて押さえました。
「さあ、いよいよ困ったことになったね」
楽しそうに仰って、武様は私の腰を抱えたまま立ち上がられました。
このまま、ベッドへと連行されるのでしょうか?
ソファよりは、まだそちらのほうがましでございますが…。
だまし討ちされたようで、釈然としないのです。
胸を押さえていた手を片方下ろし、腰に巻きついている武様のお手をそっとつねりました。
139 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:24:43 ID:rXO4fcUC
二人でくっ付いたまま、幼児のようなよちよち歩きでソファを後にして。
ベッドの方ではなく、なぜか壁際へと連れて来られてしまいました。
「あ、あの…」
「ん?」
「ベッドは、あちらですが…?」
「そうだね」
要領を得ないお答えに、頭の中に疑問符が飛び交います。
「ええと、どこだったかな…」
ぱらぱらという音がして、武様が本のページをめくられているのを背後に感じました。
ソファからここまで持っていらしたのでしょうか、さっきの本を。
「ああ、これだ」
お声と共に、本が眼前に突き出されます。
「ここを、読んでみなさい」
指差された箇所に目を遣った私は、驚きで固まりました。

───女性を立たせた状態で、背後から挿入します。
不安定な体勢なので、柱や壁など、女性が手を付いて身体を支えられるものがあれば良いでしょう。
野外、オフィスの空き部屋など、ベッドの無い場所でも楽しめます。
男性主導の責めを与えられること、着衣の乱れが少ないことなどが利点です───

武様が示されたのは「後背立位」に関する注釈でした。
立った状態で、前には壁、背後には武様。
自分が本の文章と全く同じ環境にあることに気付き、冷や汗が流れました。
背後を取られるということは、こんなにも危険なことだったのです。
「理解したかい?」
腰に回されていたお手が身体を這い上り、胸にたどり着きました。
服の上からブラを持ち上げられ、膨らみを武様のお手が包み込みました。
「あ…」
その熱さをワンピース1枚隔てて感じ、胸が騒ぎます。
たぷたぷと揺らされ、重みを楽しむようにお手の中で愛でられました。
「麻由、胸が大きくなったような気がするが…」
「えっ?」
「最初の時より、さ。ほら、僕の手の中で弾んでいる」
確かに、初めて抱いて頂いた二十歳の頃よりは、ブラのサイズは上がりました。
触っただけで、知られてしまうものなんでしょうか。
「あ…んっ…」
胸の先が指で挟まれ、くにくにと捏ねるように刺激されました。
「ほら、もう固くなった」
嬉しそうに言われ、顔から火の出る思いでした。
「見てごらんよ、麻由」
ご主人様のお言葉に、反射的に従ってしまうのがメイドの悲しい習性でございます。
壁を見ていた視線が自然に下がり、自分の胸へとたどり着きました。
ワンピースを隔てても分かるほど、頂がぷっくりと立ち上がり、布を押し上げています。
まるで、さらなる愛撫を求めているかのようで…。
ほんの二年弱前には、まだ何も知らなかったのに。
こんなに敏感な身体にさせられてしまった自分が悲しくなりました。
140 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:25:29 ID:rXO4fcUC
武様の指が、尚も胸の頂を刺激しました。
指先を当てて上下に擦られたり、円を描くように周囲を撫でられたり。
羽毛で撫でられるようなあくまでも軽いタッチに、もどかしさを感じます。
もう少し、力を入れられても大丈夫なのに。
いいえ…もっと強い刺激が欲しいのに。
普段のように、お舐めになったり、軽く噛んだりもして欲しい。
触れられるたびに小さく声を上げ、腰を跳ねさせながらそう考えておりました。
「あ…んっ!ああ…」
胸に触れるお手を掴み、ぐっと押し付けました。
「どうした?」
「……もっと…触って下さいませ」
「分かった」
「ああっ!」
指先に力が込められ、胸の先を摘まれました。
もどかしさに悶えていた身体に与えられた、強めの刺激に叫び声を上げました。


武様のもう片方のお手が、後ろからスカートをゆっくりとめくり上げました。
「あ…」
脚が外気に触れ、冷やりとします。
お手が脚のラインをなぞり上がり、下着に触れました。
「やぁ…ん…」
下着の上から秘所に触れられ、ぐりぐりと圧迫されました。
胸のときと同じで、隔てるものがあるのが何とももどかしく。
もっと触ってと、地団駄を踏みそうになりました。
「この上からでも、濡れているのが分かるよ?」
武様の嬉しそうなお言葉に羞恥心が湧きますが、行為を止めてとはもう言えません。
「んっ…武様…?」
「何だい?」
「あの、直接…触って頂きたいのですが…」
「下着の上からじゃなく?」
「…はい」
「仕方ないなあ」
含み笑いをされた後、お手が下着を引き下ろしました。
触って欲しいと自分からねだるなど、普段からはありえないことです。
いつもは武様のリードに身を任せているうち、いつの間にか脱がされているのですから。
それなのに、今日はこんな風にされて、自分からお願いをする羽目になってしまって…。
大学のゼミのお仲間は、揃って目が節穴なのでしょう。
こんな風に私を煽って、求めさせてしまう武様のどこが「女性を知らない」ように見えるのか。
良家のご子息であり、将来の社長様になられる方たちが多いというのに、そんなことで大丈夫なのでしょうか。
完全な八つ当たりなのですが、恥ずかしさと直面したくない私は彼らに怒りを向けました。


クチュッと音を立てて、お指が秘所へと直接届きました。
「やっぱり、とろとろになってるね」
無邪気に感心なさっている武様の呟きが耳に痛いです。
「熱くて、柔らかくって。ずっと触っていたいな」
「んっ…」
お指が溝を何度も往復し、溢れた蜜と絡んで動きます。
時折、ごく浅く指先が突き入れられ、期待感が胸に湧き上がりました。
なのに、肝心な所には直接触れて下さらないのです。
先程下着の上から少し刺激されただけの、敏感な突起が上にあるというのに。
そこを避けてでもいるかのような指遣いに溜息がこぼれました。
もう少し上まで指を動かして下されば、鮮烈な快感が得られるのに。
願い通りに直接触れて下さっているのに、最後の最後でお預けをされている中途半端なこの状態に。
私の身体は不満を訴えて、堪えようとする理性と衝突しました。
141 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:26:48 ID:rXO4fcUC
ジジジと小さな音を立てて、ワンピースのファスナーが下ろされるのを感じました。
開いた身頃とブラが一緒に引き下ろされ、上半身を覆う物が無くなってしまいました。
「いつ見ても、麻由の身体は綺麗だね」
褒めて下さるのが、何だか恥ずかしくって。
お手が外れたのを幸いに、私は胸を抱え込んで隠しました。
「それで、逃げたつもりかい?」
「キャッ!」
再び腰を引き寄せられて、武様のお身体とぶつかりました。
「あ…」
熱を持った武様のものを押し付けられ、息を飲みました。
パジャマを隔ててなお感じられる、その存在感に。
頭にカッと血が昇り、身体が勝手に震えました。
「やぁ…ん…」
押し当てられた武様のものが、角度を変えて何度も私のお尻とぶつかります。
それが納まる場所を探していらっしゃるのか、位置を合わせるように服の上から刺激されて。
淫らな期待感が胸に生まれ、思考を侵していきました。
早く、武様と一つに繋がりたくって。
私の中を満たして欲しくて。
堪えきれなくなった私は、胸を隠していた手を片方下ろしました。
後ろへと回し、押し付けられている武様のものにそっと触れたのです。


力を入れないようにして、指先で何度か擦り上げました。
先程、服の上から胸に触れられた時のことを思い出して。
物足りないほどの触れ方をすれば、「もっと」と武様も思ってくださるかも知れません。
そうすれば、多分きっと……。
自分の望むようになると思ったのでございます。
「誘っているのかい?」
どこか楽しそうなお声で武様が尋ねられました。
その余裕のあるご様子に、悔しくて唇を噛みました。
私はもう我慢ができないのに、この方はまだこんなに…。
ですが「早く欲しい」と言葉にすることが、どうしてもできないのです。
そんなはしたない言葉を、女子がみだりに口に出すものではありませんもの。
どうにか言葉に出さずに、武様にその気になって頂きたくて。
祈るような気持ちで、武様のものに指を這わせ続けました。


しばらく後、一旦元に戻されていたスカートが、再びたくし上げられました。
ああ、やっと。
望むものを得られるという安堵が胸に湧きました。
「ん…あ、なんで…」
しかし、意に反して秘所に届いたのは武様の指だったのです。
先程のように、襞を辿り、時折浅く突き入れられるだけのじれったい刺激。
それは、もうさっき済ませたではありませんか。
お手で触れてくださるのは、もういいのです。
私が欲しいのは……。
いいえ、駄目です。どうしても言えません。
最後の最後まで、羞恥心から逃れることができないのです。
142 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:28:30 ID:rXO4fcUC
「!」
突然、前触れも無く敏感な突起に武様の指が触れました。
熱を持て余していた身体に響いた、鮮烈な快感に。
ひとりでに背中が反り、足の指がギュッと握り込まれました。
「ん…あん…ああん…や…んっ…」
気持ちが良くって、どうにかなってしまいそうでした。
「あっ…あ…もっと…ああんっ!」
さらにと求めれば、武様がそれに応えるように指に力を込めて下さって。
私はもう開いた口を閉じることができず、ただ喘ぎ続けました。
体中の血液が秘所へと集まるような、強く蕩けるような快感に浸って。
意識がフッと飛びそうになり、絶頂が手の届く所に降りてきたのを感じました。
「あっ!…あ…武様っ…もう……っ…」
イく、と言おうとしたその瞬間。
武様のお手が急に止まり、秘所から指が外されてしまいました。


何が起こったのか分かりませんでした。
濡れそぼった秘所から武様のお手が離れて、寒さを感じたところで我に返ります。
「いや…どうしてそんな…」
残り数センチの所まで近寄っていた絶頂が、どんどんとまた遠くなっていってしまいます。
あまりに酷い「お預け」に。
目からは涙がこぼれ、頬をつうっと流れ落ちました。
「済まない、僕ももう限界なんだ」
囁かれた武様が、身体を離されました。
衣擦れの音と、あれの封を切るピッという小さな音。
その二つが耳に届いたかと思うと、私は再び腰を抱えられ、熱く逞しいものを押し当てられました。


「あ…んっ…」
私の中へと、力強く分け入ってくる武様のものに息を飲みました。
イく寸前で止まっていた身体が、新しい刺激に震えます。
武様のものを根元まで飲み込んだ時には、私は壁に爪を立てておりました。
揺り動かされるまでもなく、繋がっただけで十分に気持ちが良かったのです。
「んっ…はぁん…」
「欲しい」と思ってから、こうなるまでどれだけ待ったでしょう。
大きく息を吐き、秘所に意識を集中させて武様のものを感じました。
「麻由、動いてもいいかい?」
「…はい」
律儀に尋ねて下さってから、武様がゆっくりと腰を使われ始めます。
突き上げられるたび、靄(もや)がかかったように視界が白くなり、次第に何も考えられなくなっていきました。
「ん…あ…あん…はっ……ああっ…やっ…はぁん…」
いつもはこの時にも焦らされることがあるのですが、今日は違いました。
普段にも増して力強く、がっちりと腰を抱えて揺すぶられて。
私は一足飛びに快楽の階段を上っていきました。
「あ…あ…武様っ…」
恍惚の中で、先程読んだ本の記述を思い出しました。
「男性主導の責めを与えられる」のがこの体位の特徴であると。
私はいつものように武様に抱きつくことも、お顔を見ることもできません。
完全な受身になって、背後から貫かれているだけ。
でも、まったくそれを不満に感じなかったのです。
「う…く、っ……」
何かを堪えるような武様の呻きが聞こえます。
「あ、キャッ!」
腰を掴んでいた武様のお手が片方、秘所へと降りてきました。
さっき絶頂を迎える寸前まで昇り詰めていた敏感な突起に、再び指が触れて。
突き上げられて身体が揺れるのに合わせ、それを押し潰すような刺激を与えられました。
「はぁ…あ…あぁん…や…あっ!」
ますます身体の熱が高まって、沸騰しそうなほどでした。
武様のものが中を抉るたび、秘所がそれを締め付けるのが分かって。
自分の身体がどれほど貪欲であるかを、思い知らされるかのようで…。
143 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:29:30 ID:rXO4fcUC
でも、まだ足りないのです。
この熱が解放されないうちは、私は…。
「ああ…麻由…うっ…あ…」
武様が身体を大きく震わされ、さらに動きを激しくされました。
「やぁ…あ!あ…武様もう…ああ!」
「くうっ!」
大きな快感が下半身全体に走り、私は全身を震わせて達してしまいました。
それが刺激になったのか、武様もほぼ同時に絶頂を迎えられて。
二人ともの身体から力が抜け、私は壁に頭も凭れて大きく息を吐きました。


身体に回されていた武様のお手が離れ、私は膝を付きました。
「大丈夫かい?」
「…はい」
がっちりと捕まえられ、半ば無理矢理のように身体を繋げた興奮がまだ冷めません。
強引な行為に感じてしまったことに、少しだけ後ろめたい気持ちになりました。
「ほら、おいで」
後始末をなさった武様に身体を支えられ、ベッドまで歩きました。
腰の辺りに留まっていたワンピース、片脚だけ抜いたままだった下着を取り去られ、ベッドへと横たえられました。
「ちょっと悪乗りしてしまったね、済まない」
「いえ…」
武様も服を脱がれ、何も身体に纏う物が無くなった私達は裸で抱き合いました。
肌に感じる温もりに、心が凪いでいきました。
背後から貫かれるのは、身体の密着度が低くて、心細かったのです。
「武様…」
頬をすり寄せ、抱きつく腕に力を込めました。
思いを寄せる方に包み込まれるのは、なんと幸せなことでしょう。


しばらく、私達は何も言わずに抱き合っておりました。
やがて、武様がそろそろとお手を動かされ、私の肌の上を滑らされました。
「麻由、もう一度…いいかい?」
遠慮がちに仰って、顔を覗き込まれました。
私に異論のあるはずがありません。
でも、そうと言葉に出して同意するのは恥ずかしかったので、目だけで頷きました。


武様が身体を起こされ、私を見下ろされる格好になりました。
「さっきのも、あれはあれで良かったが。でも麻由の顔が見られるほうがやっぱりいいね」
仰った言葉を聞いて、微笑が浮かびました。
私も、同じことを考えていましたから。
保守的だと笑われるかも知れませんが、やはり、いつもと同じ形のほうが安心するのです。
軽く口づけられた後、武様はベッドの足元へと少し下がり、私の胸に顔を埋められました。
「あ…」
柔らかい部分に吸いつかれては、チュッと音を立てて離されて。
微かに感じる痛みに、赤い痕を付けられているのが分かりました。
そんなことをなさらなくても、私が他の方に心を移すことなどありませんのに。
でも、独占欲を発揮されているのが何だか嬉しくって。
私は何も言わず、されるがままにいたしました。
144 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:30:20 ID:rXO4fcUC
しばらくたって、お気が済まれたのか武様は吸いつくのを止められました。
「さっきは、直接触れなかったからね。痛かったかい?」
「いいえ」
即座に否定いたしました。
先程は、直接触れてくださることを強く望んでおりましたから。
やっとその思いが叶って、痛みも何のそのだったのです。
それにしても、「触れなかった」と仰いましたが…。
私を高まらせるためとはいえ、武様がご自分の策に自ら引っ掛かられていたなんて。
直接触りたいのに、触れなかったというジレンマを感じていらっしゃったことが。
自分と同じだったことが、とても嬉しかったのです。


「あ…ん…」
胸の頂に舌が這って、そのまま唇で包み込まれました。
啜り上げるように愛撫され、その濡れた刺激に身体の奥から快感が湧き上がって。
堪えようと、私は腕を伸ばし、武様の首元に抱きつきました。
「んっ…あ…あん…や……あ…もっと…」
高ぶる身体を抑えて、少しでも長く感じていたいのに。
さらなる愛撫を求める声が漏れ、自分でもどうしたいのか分からなくなりました。
「あんっ!」
突然、色づいた部分を軽く噛まれて叫びました。
「うっ…あ…あん…」
走った刺激を宥めるかのように、舌でゆっくりと舐められて。
その部分がじんじんと甘く疼き、痛みが快感へと変わっていきました。


唇が離れ、もう片方の胸も同じように愛撫されました。
固くなった胸の頂が舌で弾かれるたび、身体が跳ねて。
私の口からは、もう意味のある言葉など出ませんでした。
武様に胸を可愛がって頂くのが、とてもとても幸せで。
ただ、この時間が少しでも長く続くようにと、それだけを願っておりました。
「あ…あ…武様…っ…やんっ!」
お名を呼ぶと、それに応えるかのように胸の頂が甘噛みされました。
先程と同じに、その後は優しく舌で触れて下さって。
両の胸にもたらされる快感が、体中を駆け巡り、また私を高まらせていきました。
上半身を愛撫されているだけなのに。
きっと、秘所はもうとろとろになっているに違いありません。
今しがた武様と身体を繋げたばかりなのに、また欲しくなってしまったのです。


「んっ…」
息を吐き、武様の髪に指を絡めました。
「麻由…?」
お顔を上げられた武様が、こちらへ視線を遣られました。
「あの…え、と……」
『もう一度抱いて下さいませ』と言いたいのですが。
やっぱり、言葉に出して言うことは難しいのです。
この上は、行動で示すしかありません。
胸を愛撫されていたお手を掴み、秘所へと近付けました。
「あ…」
武様の指がそこへ届いて、ぬるりと滑る感触に、自分の秘所がどうなっているかを思い知りました。
きっと、はしたなく、蜜で滴るほど濡れているに違いないのです。
「凄いね、麻由」
「んっ…」
感嘆なさったようなお声で仰るのに、身の置き場の無い気持ちになりました。
145 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:31:06 ID:rXO4fcUC
蜜を絡められた武様の指が、私をからかうように動きました。
その緩い刺激にさえ感じてしまい、小さな喘ぎが何度も零れました。
「くうっ…あ…」
でもやはり、指で触れられるのでは物足りなくって。
お願いをしようかどうしようかと、頭の中で一人で大会議をいたしました。
「さあ、これからどうする?」
余裕のある口調で、武様が仰います。
また私だけが追い詰められてしまったことに、少し悔しくなりました。
「ん…」
背に腹は変えられません。
私は覚悟を決め、口を開きました。
「武様、もう一度、あの…」
「ん?」
「もう一度、抱いて下さいませ」
顔から火の出るような思いで、何とかお願いを致しました。
「抱いているじゃないか、ほら」
しかし、秘所から指を離された武様は、私の身体に手を回されるのみ。
その「抱く」ではなくって!
もう、焦らされるのはこりごりなのです。
場に不似合いな、怒りのような感情が心に生まれました。
「違います、もう一度入れて頂きたいとお願いをしているのです!」
感情に任せて言ってしまった後、ハッと息を飲みました。


私は、何ということを……。
女性としてあるまじき、ご主人様に対してもあるまじきあのような言葉を…。
切羽詰っていたとはいえ、口に出してしまうなんて。
熱に浮かされていた体が一気に冷えていきました。
「ふむ。今日は、随分大胆だね」
どこか感心なさったような調子で武様が仰いました。
「違います、違うんです。忘れてくださいませ!」
慌てて弁解をしようとするのですが、的確な言葉が思いつきません。
武様のお手を握り締め、言ってしまったことをどうフォローするかに頭を悩ませました。
「忘れるなんて、とんでもない」
こんがらがった頭を立て直そうとする私の耳に、武様のお声が届きました。
「…は?」
「麻由が、そんな嬉しいことを言ってくれたんだからね、忘れるなんてできない相談だ」
「あ…」
どういう意味なのでしょうか、それは。
問い返したいですが、藪ヘビになってしまいそうな予感がひしひしと致します。
「僕を、求めてくれているんだろう?」
「え…ええ」
幾分遠回しの表現で仰ったことに、ホッと致しました。
私も、「武様が欲しいのです」くらいの言い方をすれば良いだけでしたのに。
これなら、何とか良心も痛みませんし…。
146 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:32:05 ID:rXO4fcUC
「『入れて』と頼まれたのなら、叶えないわけにいかないからね」
「っ!」
姿勢を低くなさった武様が、耳元で囁かれた言葉に一気に血圧が上がりました。
さっきホッとした心が一転して動揺し、私は目を白黒させました。
ああ、やはり武様のゼミのお仲間の目は節穴に違いありません。
このように女心をいいように翻弄される方が、女性を知らないなどと思われているなんて。
明後日の方向に恨みを向けていると、武様は私を抱き締められたまま身を起こされました。
ベッドの上に座る格好になり、頭に疑問符が浮かびました。
「さて、と。交代しよう」
入れ替わりに武様が横になられ、微笑まれました。
「あの…」
きょとんとしていた私を見かねてか、武様はまた身を起こされました。
「折角だから、さっきの本を参考にしてみようか」
「えっ?」
いつの間にかベッドサイドに置かれていたあの本が、武様のお手でめくられました。
先程の壁際から、またこちらへ持ってこられたのでしょうか。
本がひとりでに動くわけはありませんから、武様がお持ちになったのに違いありません。
「ああ、これだ」
お示しになったページの挿絵を見た瞬間、また頬に血が昇りました。

──「宝船」
仰向けに横たわった男性の上に女性が腰を下ろし、男性の片脚を持ち上げて抱き込みます。
それを支えにして、女性が自ら腰を動かす体位です──

武様の上に乗りかかるなんて、とんでもありません。
必死に首を振って拒否するのですが、聞き届けて下さる可能性は低そうです。
「たまには、麻由が上になるのもいいと思うんだが」
「いえ、そんな。私はいつも通りで結構ですから…」
何とか思い直して下さるように頑張るのですが、旗色が悪いです。
「さっきは、僕がいいように動いてしまったからね。
今度は、麻由が自分のいいように動きなさい」
言い置かれ、武様はそのまま待ちの姿勢に入られました。
私はちゃんとご辞退申し上げることができず、途方に暮れました。
「ほら、おいで。それとも、もう今日は眠るかい?」
…それは、ちょっと困ります…。
身体の熱はまだ治まっておらず、奥で燻っているのですもの。


結局、私は本の挿絵の通り、武様の片脚を跨ぎ、乗りかかる体勢になってしまいました。
「はい、これを使って」
武様から渡されたものを手に取り、封を切って準備を致しました。
「一度座り込んでから、脚を持ち上げた方がいいんじゃないかな」
そのアドバイスの通りにしようと、腰を持ち上げて位置を合わせました。
秘所を指で開き、武様のものにぴたりとくっ付けて、そして…。
私は腰を落とし、ゆっくりとそれを体内に飲み込みました。
「あ…あ…」
潤っている場所に武様のものが入ってくる感触に、溜息のような声が漏れました。
「っ…凄いね、麻由」
そう仰る声を聞いても、もう動揺は致しませんでした。
望んでいたものがやっと与えられた幸福感が強く、それに完全に浸っていたのです。
冷めかけていた体が、中から熱を発し始めるのを感じました。
その熱に浮かされるように、私は武様の片脚を持ち上げました。
「ん…っふ…」
それに縋りながら、そろそろと腰を動かし始めました。
支えがありますから、身体がぶれることがありません。
時折、秘所の突起が武様の肌に擦れて快感を生みました。
胸の頂も、抱え込んでいる武様の足に擦れ、それがまた気持ち良くって。
感じる部分を余す所無く刺激され、陶然となっていきました。
147 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:32:50 ID:rXO4fcUC
「あ…気持ちいい…んっ…」
夢中になって、武様の上で動きました。
こういう形をとるのは初めてなのですが、その割には上手く動けているような気がします。
武様はどうなのでしょう、気持ち良くおなりなのでしょうか。
気になって、横目でそっとうかがいました。
眉根を寄せてはいらっしゃいますが、私ほど高まってはいらっしゃらないようです。
それでは困ります、同じくらいじゃないと嫌なのです。
武様の脚に縋り直し、下半身に力を入れました。
中が締まるようにと意識して、動きを大きくしたのです。
「っ!」
武様が息を飲まれたのが聞こえ、嬉しくなりました。
もっと、気持ち良くなって頂きたくって。
自分の快感はしばし横へ置いておいて、右側に感じる武様の息遣いに耳を澄ませました。


いつもは、武様にいいようにされている私は結果的に受身になっています。
でも、今日は少し違うところを見せたくって。
私が頑張って、気持ち良くして差し上げたい。
女の意地なのかメイドとしての奉仕精神なのかは不明ですが、とにかくそう思ったのでございます。
とは言いましても、やはり、自分の快感も全く無視はできません。
繋がっている部分、その上の敏感な突起、胸の先。
これらが同時に刺激されているのですから、気持ち良くないわけが無いですから。
ともすれば自分の快感だけに溺れそうになりながらも、自らを奮い立たせて頑張りました。


「麻由…っく…っ…」
押し殺したような武様のお声が聞こえます。
良かった、私と同じくらいになられたみたいです。
自分が武様を気持ちよくして差し上げられたことに喜びが湧きました。
なのに。
「あ…」
武様のお手に肩を抑えられ、動きが止まりました。
一気に不安になり、おそるおそるお顔をうかがいました。
「麻由のいいように動いていいと言ったのに…」
どこか不満気な表情で仰ったことに、ドキリとしました。
一応、いいように動いていたつもりですが…と、言い返すことができずに私は固まりました。
「ほら、一旦離しておくれ」
抱えていた武様の足が下ろされ、私の手を離れました。
腰を持ち上げられ、武様のものが抜かれてしまって寂しくなります。
まさか、この期に及んでお預けを…?


どうしたらいいか分からないまま、動けずにいました。
「麻由?」
肩に手が掛けられ、武様のほうを向かされます。
「どうしたんだい?」
「え…あの…」
私は呆然としたまま、何も言えませんでした。
「君にイかされるのは、何だか悔しいんだ。だから、やっぱり体位を変えることにするよ」
「あっ!」
いきなり抱き締められて、ベッドに押し倒されてしまいました。
上になられた武様が、私を見下ろして満足そうに微笑まれました。
お預けではないのでしょうか…?
148 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:33:40 ID:rXO4fcUC
「あ…ああ…」
組み敷かれた身体に押し入ってくる武様のものに、身体が悦ぶのが分かりました。
「今度は、僕が麻由を気持ちよくさせてやろう」
「あっ!」
そう仰ったかと思うと、武様は大きく腰を使い、私の弱い所を責められました。
「やっ…ああ…んっ!…いやぁ…駄目…あんっ!」
いきなりのことに身構える余裕も無いまま、過ぎるほどの快楽を与えられてしまって。
大きく息が乱れて、呼吸が苦しくなりました。
「あ…あ…武様っ…はぁんっ…待って…待ってくださいませ…」
「駄目だ、君は僕より先にイくんだ」
「あああっ!」
必死の懇願を却下されて、さらに責めをきつくされました。
さっきは同じくらいだったのに、私だけが一気に高みへと押し上げられて。
それが不安で、私はいやいやをするように首を振り、武様を見詰めました。
「あ…私が…んっ!…先は…ぁ…嫌、です…」
「どうして?」
「武様と…あんっ…一緒に…っ…一緒がいいのです…」
乱れる息を整え、切れ切れにそう申しました。


「…そうか」
動きを止めて小さく呟かれた武様が、頬に口づけて下さいました。
私はギュッと閉じていた目を少しだけ開けて、お顔を見詰めました。
「じゃあ、一緒にイこうね」
「あ、あっ…」
腰の動きを再開されて、また息が乱れ始めます。
でも、今度は性急に追い立てられるのではなく、じわじわと緩い責めを与えられました。
ゆっくりでありながらも、絶え間なく突き上げられて陶然となっていきます。
先程とは違い、嫌だの待ってだのという言葉はもう出ませんでした。
「ん…はぁん…あ…あ…んっ…ああんっ!」
武様の動きが、段々と速くなってくるのを感じました。
つられて私の腰も動き、さらなる快楽を求めて力が入ります。
閉じた目の奥が白くなりはじめ、秘所がギュッと収縮しました。
「ああ…あっ!武様、武様…もう…っ…」
「ん…もう駄目かい?」
「んんっ…ぁ…はい……」
頷いて、お体に縋りつきました。
力強さを増した武様の動きが、さらに激しくなっていきます。
「あ!…あ…ダメ…あ…イく…あああんっ!」
一際大きな浮遊感に包まれた後、ゆっくりと落ちていくような絶頂感に襲われて。
足の指先までピンと張り詰めさせながら、私は達してしまいました。
「うっ…あ…麻由…っ!」
痙攣してなお快感を求めるように収縮を繰り返している秘所を、さらに何度も突き上げられて。
少し遅れて、武様が絶頂を迎えられたのが分かりました。
はあはあと息を切らされながら、ぐったりと私の上へ倒れ伏せて来られます。
お顔が見たくて目を開けようとしますが、くっついたように瞼が重くて動きませんでした。
その代わりに、武様に縋りついていた手を動かし、大きく上下するお背を何度か撫でました。

149 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:34:58 ID:rXO4fcUC
「風呂に湯を張ってくるから、待っていなさい」
虚脱したようにしばらく抱き合った後、ようやく目が開いて。
武様がそう言い残してお風呂場へと向かわれるのを見送りました。
戻ってこられた武様は、改めて優しく抱き締めて下さって。
このまま眠りたい思いだったのですが、お風呂のブザーが鳴り、私は脱衣所へと運ばれました。
「タオルを出しておくから、麻由は先に入っていなさい」
言い置かれて、武様が残られました。
それに従うべく浴室のドアを開け、かかり湯をしようと湯桶を手に取ったところであることに気付きました。
お湯に入浴剤が入り、一面に良い香りが漂っていたのです。


ピンク色のお湯に身体を沈め、ホッと息をつきました。
桃の香りを一杯に吸い込み、身体から力が抜けていきました。
「どうだい?」
湯船の縁にもたれたところで、浴室に武様が入ってこられました。
「…ええ、とってもいい香りです」
「それは良かった」
身体を流された武様が、湯船へと入ってこられます。
向かい合う形になり、何だか照れくさくなりました。
お湯に色が付いて、身体が見えにくくて良かったと思いました。
「この入浴剤も、ビンゴゲームの景品なんだよ」
「えっ?」
「多分、事後にこれで恋人の機嫌を取り結べということなんだろう」
「なるほど…」
景品を見繕われた方の気配りということなのでしょうか。
気分が良くなったことは確かです。
その方は、案外、女心の機微に通じていらっしゃるのかも知れません。
このようなことで容易に懐柔されてしまったことが少し悔しいですが…。


いつものように身体を洗って頂き、バスタオルを巻いてお風呂場を出ました。
今日も、また二人抱き合って眠るのです。
武様もお布団に入ってこられ、腕枕をして下さいました。
「実はね、麻由」
「はい?」
「入浴剤は、まだあるんだよ」
「え…」
「さっきのは、桃の香りだっただろう?リンゴやグレープフルーツ、ミルクの香りなんてのもあったんだ」
仰った言葉に、嫌な予感がします。
「あの本、コンドーム1箱、入浴剤が4袋。この3点セットで3千円相当だと、幹事が言っていた」
「はあ…」
「本はまだ活用し切れていないし、後の二つも使いかけだからね」
「……」
「だから、また今日みたいにしてもいいだろう?」
「だっ、駄目です!」
微笑みながら仰るのに、私は慌てて首を振りました。
今日みたいなことは、もうこりごりですもの。
150名無しさん@ピンキー:2008/04/10(木) 07:36:18 ID:6chOaVOZ
この時間帯に投下だと
電車でおっきしたら誤解されるじゃないかw
151 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/10(木) 07:36:54 ID:rXO4fcUC
「そうか。服を着たまま試すというのでも、駄目かな」
まあ、それくらいなら…と一瞬考えましたが、すぐに我に返りました。
「でも、また今日みたいに脱がされてしまうのでしょう?」
「あぁ、ばれてしまったか」
残念そうに仰る武様を睨みつけました。
やっぱり、計略をめぐらせておいでだったのですね。
「私は、あのような本が無くっても、いつも通りで十分幸せですから」
「…そうか」
「はい」
これで、武様が思いとどまって下さるといいのですが。
「僕も、いつも通りで満足していないわけじゃないんだ。
でも、どうせならやったことのない形にも挑戦してみたいし、麻由のことをもっと気持ち良くさせてやりたい」
そう思って頂いているのは嬉しいですが…。
「現に、さっき僕の上に乗っていた君は、とっても気持ち良さ…」
「きゃあっ!それ以上は仰らないで下さいませ」
恥ずかしいことを臆面も無く言われてしまい、私は慌てて武様の口を押さえました。
それ以上言われるのは、耐えられそうにありませんから。
「まあ、君が嫌だというのならしょうがない」
「え、ええ」
「じゃあその代わり、この本を預かっておいてくれたまえ」
「えっ、私が預かるのですか?」
「ああ。僕の部屋にあったのでは、他の使用人に見つかるかも知れないからね」
それは困ります。噂好きなメイド達に、坊ちゃまが妙な本を隠していらっしゃるとあっという間に広まるでしょうから。
「預かるだけでしたら…構いませんが…」
「そうか、ありがとう」
微笑まれた表情に裏があるようで落ち着きませんが、本をこちらに置いておくよりはましでございます。
「さあ、もう寝よう」
「はい。お休みなさいませ」
「お休み、麻由」


翌朝早く、服を調えてあの本を隠し持ち、お部屋を後にしました。
本は自分の部屋の引き出しの奥に仕舞い、上に物を乗せて隠しました。
二度とこれを開くことは無いと思っていたのですが…。
武様と会えない日が続いた時、つい魔が差して本を開いてしまいました。
文章のページを読むだけだから、と自分に言い訳をしますが、やはり…。
気が付くと、あの挿絵のあるページにたどり着いているのです。
描かれている男女を、武様と自分に置き換えては頬を染めて。
こんな風にされてしまったら、私は一体どうなるのでしょう。
おそらく、受け入れてしまうと思うのです。
武様のなさりようが、結局は私の望みでもあるのですから。
今夜は、久しぶりにお部屋に伺う予定になっています。
「前に預かってもらった、あの本を持ってきておくれ」とも申し付けられています。
不安と期待の間を忙しく行き来しながら、私は夜に向けて心の準備を致しました。

──終わり──

前スレで書いた、武の大学時代に二人で旅行をした時の話です。

↑前書きに書き忘れた
152名無しさん@ピンキー:2008/04/10(木) 12:10:44 ID:WRVv5Xu6
GJ!というかビンゴ大会GJww
153名無しさん@ピンキー:2008/04/16(水) 13:13:17 ID:65Pz4tUt
久々に来たら麻由の話来てたー!
本筋はちょっと切ない感じになってるからこんなひたすらいちゃいちゃしてる話は
安心して読めるなあ

もちろん本筋の続きも待ってます
154名無しさん@ピンキー:2008/04/18(金) 03:08:07 ID:5H5M4cDj
GJアゲ
155名無しさん@ピンキー:2008/04/18(金) 03:08:32 ID:5H5M4cDj
スマン上がってなかった
156 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/22(火) 20:06:14 ID:rdZSDYqG
>>107からの続きで、麻由の話を投下します。武(たける)の視点です。
一部、力ずくで行為に及ぶ描写があるので、嫌いな方は避けてください。



「求婚」

そのメールを受け取ったのは、お盆も明けた8月下旬のことだった。
 『9月のお前の誕生日、祝いに行くよ。
  ちょっと早いが15日の祭日に。何か先約はあるか?』
大学時代からの友人、小守洋一が送って寄越したメール。
絵文字や顔文字を使わない、真面目な文面にあいつらしさが出ている。
小守とは、卒業してしばらくは交流がなくなったが、今年になってまた会うようになった。
あいつが南米の支社から日本へ戻ってきて、うちの近くに住みだしたからだ。
社長なんぞをしていると、誕生日を祝ってくれる人間はなかなかいない。
ひいきのクラブなどがあれば、きっと店総出で祝ってくれるのだろうが。
パーティー用の三角帽を被せられ、ホステス達がずらりと並び、クラッカーでも鳴らされて。
あいにく、そういう店には付き合いでしか行かないから機会に恵まれない。
身内や友人との交流が少ない自分を、祝ってくれる人間はこいつくらいだろうか。
屋敷では一応、コックがケーキを焼いてくれるだろうが…。
 『予定は入れないよ。楽しみにしている』
小守にならい、短く返信する。
ようやく普及し始めた携帯電話を持つようになってから、しばらく経つ。
必要に迫られて持つようになったのだが、まだメールには慣れない。
通常、仕事がらみの用件は秘書を通されるから、直接僕に当てて電話が来ることは無い。
何らかの理由で秘書と離れている時、通話に使う程度だから上達しないのだ。
友人と密に連絡を取り合う女子学生のようには中々いかない。


数分の後、またメール着信があった。
 『プレゼントも持って行ってやるからな!
  ところで麻由さんはその日は休みか?』
届いた文面を読んで、頭に疑問符が浮かぶ。
なぜ、あいつが麻由のことを気にするんだろう。
一緒に祝ってやってくれと頼むつもりなのだろうか。
その必要は無い、麻由は毎年僕の誕生日にはプレゼントをくれる。
15日は祭日だが、こういう日はむしろ若いメイドに休みを取らせ、自分は働くだろう。
 『麻由は休みではないはずだ。確認してみないと断言はできないが』
また数分後、返信が来る。
あいつは、ちゃんと真面目に仕事をしているのか?
同じタイミングで返信ができる僕が言うことではないが。
 『そうか、分かった。
  前に言ったことの返事を貰わなければいけないからな。
  もし休みなら、また教えてくれ。じゃあな』
返事とは、一体何のことだろう。
僕に分からないことを二人が話しているのは、正直言って面白くは無いが…。
不機嫌になりかけた自分に気付き、慌てて気持ちを立て直す。
包容力のある男になろうと先日決めたばかりじゃないか。
こんな些細なことで気分を害していては、到底その道は遠い。
自分に活を入れ直し、携帯電話を仕舞って書類に向き直った。
157 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/22(火) 20:07:44 ID:rdZSDYqG
夜になって屋敷へと戻り、使用人達の出迎えを受ける。
麻由に右手でカバンを渡し、目配せをした。
これは、「今晩、部屋で待っている」という僕達だけの秘密の合図だ。
彼女がメイド長になり、僕のカバンを受け取る役目を負ってから二人で相談して決めた。
それ以前には、屋敷ですれ違った時などにこっそりと囁くという形をとっていたので、効率が悪かった。
運良く出くわしても他の使用人がいたり、彼女の持ち場に待ち伏せても空振りだったり。
誘おうにも誘えず、空しく一人寝をした夜は数え切れない。
この合図を考え付いて、本当に良かったと思う。
右手でカバンを渡すと、彼女は一瞬固まった後、恥ずかしげに下を向く。
そのいじらしい仕草を見られるのも、これを考え付いたからこそだ。


部屋へ呼んでも、いつも麻由を抱くわけではない。
ただ話をしたり、軽く触れ合うだけで終る夜もある。
仕事が立て込んで疲れていたりすると、彼女に癒されたいという思いが頭をもたげてくる。
メイドとしてではなく、恋人として接して欲しくなるのだ。
麻由の笑顔を思い出し、だらしなくニヤニヤしていると、ドアを控えめにノックする音が聞こえた。
来たようだ。
表情を取り繕い、彼女を迎え入れる。
腰を下ろすように勧め、向かい側のソファに座った彼女を見詰めた。
そのまま、他愛も無い話をする。
3人のメイドが遅い盆休みを同時に取り、明日から旅行に行くことだとか。
庭師の肩に毛虫が止まっていて、傍を通ったコックの見習いが悲鳴を上げたこととか。
楽しそうに話す彼女の姿は、見ているだけで心がほんのりと温かくなる。


昼間、小守から届いたメールのことをふと思い出した。
「日中、小守からメールが届いたんだ。
僕の誕生日には、祝いに来てくれると書いてあった」
「まあ、それは宜しゅうございました」
話が一段落した所で話題を変えると、麻由が微笑んだ。
「15日が祭日だから、その日に来ると言っていた。
3連休の末日だが、麻由はこの日は休みかい?」
「いいえ、私は普段通りに」
「そうか。他のメイドに休ませるのかい?」
「ええ。若い子は、あれこれと予定もあるでしょうから」
「君も、どこか旅行にでもいけばいいのに」
「そんなわけには参りません。邸内が手薄になるのですから、私が頑張らないと」
きっぱりと言うその姿は、メイド長としての責任感に溢れている。
僕の為に毎日頑張っていてくれると思うと、余計に彼女が愛しくなった。
158 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/22(火) 20:09:48 ID:rdZSDYqG
「そういえば、君に何かの返事を貰わなければいけないと小守がメールに書いていた。約束事でもしたのかい?」
「え…」
何気なく問うた僕の言葉に、麻由の表情が凍り付いた。
一瞬にして顔が青ざめ、そのまま微動だにしなくなる。
どうしたんだ?
尋常ではないその様子に心が騒いだ。
「麻由?」
身を乗り出し、膝の上に行儀良く置かれていた彼女の手に触れた。
落ち着かせるようにゆっくり握ると、彼女はハッと我に返った。
握られた自分の手を見て、僕の顔を見て、また視線を逸らせる。
こんなに動揺させるようなことを言っただろうか…?
「何か、まずいことを言ってしまったかい?」
おそるおそる、探りを入れてみる。
「い、いえ…」
震える唇から小さく返答があった。
否定するにしても、あまりに弱々しい声だ。
「小守が、君に何か言ったのか?」
もしそうなら、友人といえど看過できない。
麻由を困らせるのは、僕だけの特権なのに。


「そんなにうろたえている理由を教えてくれ」
いてもたってもいられなくなって、尋ねる。
「え…」
彼女が眉根を寄せ、苦しげに黙り込んだ。
「何かあったのなら、僕が力になるから」
促すと、彼女は一層泣きそうな表情になった。
僕では役に立たないようなことなのだろうか?
『不安を持ったまま誰かと話すと、相手にその不安が伝わるものでございます』
先日、前メイド長の秀子さんに言われた言葉を思い出し、必死で心を落ち着かせる。
僕が不安になってしまっては、ますます麻由を混乱させる羽目になるから。


手を握り締めたまま、彼女が口を開くのを待つ。
重苦しい空気が立ちこめ、息が詰まった。
長い沈黙の後、麻由はギュッと目をつぶり、決心したように口を開いた。
「…小守様に『結婚を前提に付き合ってくれませんか』と言われたのです」
伏し目がちに彼女が言った言葉に、耳を疑った。
あいつが、そんなことを?
予想だにしていなかった内容に僕は驚き、呆然となった。


「で、君は何と答えたんだ?」
焦燥感に駆られながら尋ねる。
悪い予感が黒雲のように広がり、息を詰めて返答を待った。
「その時には、きちんとお返事ができなくて…。
『私の一存では決めかねるので、ご主人様に相談してみます』と申し上げました」
「どうして、きちんと断らなかったんだ?」
僕は語気を強めて彼女に詰め寄った。
「君と僕は恋人同士なんだから、小守の話は即座に断るべきじゃないか!」
きっぱりとした態度を取らなかった彼女に、苛立ちが湧いた。
僕の存在を軽視しているとしか思えない。
もしかして、麻由は僕ではなく、小守に惹かれつつあるのか?
頭に浮かんだ嫌な想像を払いのけようと、大きくかぶりを振った。
彼女が他の男に心惹かれるなど、あってはならないことだ。
僕に対する裏切りだと言ってもいい。
麻由と小守を二人きりにするんじゃなかった。
こんなことになると分かっていたら、小守の相手は執事の山村にでも頼んだのに。
いや、僕と麻由の関係を小守に打ち明けていれば、あいつもこんな申し出はしなかっただろう。
自分の失策に、頭を壁に打ち付けたい気分になった。
159 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/22(火) 20:10:51 ID:rdZSDYqG
「麻由は僕の妻になるんだ、小守と付き合うなんて絶対に認めない」
どろどろとした不気味な感情に身体を侵されながら、僕はきっぱりと言った。
彼女がそれを聞いて、息を飲んだのを感じる。
驚くようなことではないはずだ。
来るべき時が来たら僕がプロポーズすると、考えたことは無いのだろうか。
将来を共にしたいと思っていたのは、僕一人だったのでもいうのか。
「言いにくいなら、小守には僕から断っておく。
君が僕の大切な人だと明かせば、あいつも諦めてくれるだろう」
言いながら、果たしてそうだろうかと口に出さずに考える。
麻由は魅力的な女だ、小守でなくとも、惹かれる男がいるのに無理は無い。
むしろ、今までこういう問題が起こらなかったことが奇跡的だったと言える。
「君は僕のものだ、伴侶になるんだ。分かったね?」
言葉に力がこもり過ぎたことに気付き、しまったと唇を噛む。
これではまるで脅迫だ。
思い描いていた、麻由の記憶に一生残せるようなプロポーズとは到底言えない。
彼女が気に入るような、ロマンチックな状況とはかけ離れている。
下を向いていた麻由が少しだけ顔を上げた。
どうか、良い答えが返ってくるように。
形の良いその唇が動くのを、祈るような気持ちで見詰めた。


「私は、武様の妻にはなれません」
彼女の言葉を聞いて、感情が急激に乱れた。
「どうしてだ!」
僕は叫ぶように問い詰め、彼女の肩を掴んだ。
「僕が君の事をどんなに思っているか、知っているはずだろう?」
「それは…」
「僕より小守の方が好きなのか?だから、ちゃんと断らなかったのか?」
がくがくと彼女の身体を揺さぶりながら、言い募った。
麻由とずっと一緒にいるために、僕は今まで頑張ってきたのに。
当の本人にこのように言われ、ショックを抑えることができなかった。
彼女が安心して将来を託せるような、懐の深い頼れる男になると決めたはずなのに。
今の僕は、不安に押し潰されてパニックに陥った情けない男だ。
「いいえ、そういうわけではありません。
ただ、小守様にそう言われたことが、現実と向き合うきっかけになっただけでございます」
「現実?」
「はい」
麻由が僕の目を見て、深く頷いた。
「私は、ただのメイドでございます。
そのような者が、武様と結婚するなどとは身の程知らずも甚だしいことでございます。
あなた様には、遠野家と釣り合う名家のご息女こそがふさわしいのです」
諭すような彼女の言葉に、身体から力が抜けた。
抑制の効いた言葉を並べる麻由と、みっともないほど取り乱した自分。
二人の距離の遠さに、僕は言葉を失くしてしまった。
「あの時にすぐお返事できなくて、小守様には申し訳ないことを致しました。
仰ったことについては、お断り申し上げるつもりでございます。
しかし、だからと言って、期待なさっても困ります」
僕達二人の未来など無いと、彼女はそう言っているのだろうか。
喉の奥がからからに乾き、声が出なかった。
「武様、私に執着なさるのは、そろそろお止めになって下さい。
一時の感情に流されず、ご自分の立場をよくお考えになって、妻にする方を決められませ」
彼女の手が僕の手に触れ、そっと肩から退けられる。
はっきりと拒絶されたことに、頭が真っ白になった。
「今日は、これで失礼致します」
深く頭を下げて、彼女が部屋を出るのを呆然と見送った。
情けないことに、この時の僕はどうすることもできなかった。
160 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/22(火) 20:12:31 ID:rdZSDYqG
瞬く間に数日が過ぎていった。
麻由に拒絶されたショックから、僕は未だに立ち直れていない。
彼女の姿を見付けると、辛くて目を逸らしてしまう。
帰宅時に渡していたカバンも、自分で部屋へ運ぶようになってしまった。
心が折れるとは、こういうことを言うのだろうか。
彼女に言葉を掛けたいのに、何を言っていいのか分からない。
言ったとして、また拒絶されたらと思うと恐怖感が心を支配する。
彼女を視界に入れずにいることで、何とか平静を保っていた。
自分がこんなに情けない男だったとは思わなかった。
自己嫌悪にも苛まれ、鬱々としながら時間が流れた。


今のままではいけない。
ここで挫けては、麻由と過ごした年月が全て無駄になってしまう。
何とか、説得する良い手立ては無いものだろうか。
焦りと不安で一杯の頭を振り、必死に考える。
拒絶されても、僕の気持ちが変わらないことを繰り返し伝えれば、分かって貰えるだろうか。
これくらいしか、今の僕にはできそうもない。
縮み上がる心を奮い立たせ、行動に移すことを決めた。


夜更けに、僕は部屋を抜け出して目指す場所へ向かった。
階段を降り、渡り廊下を通って母屋から離れた使用人棟へと。
棟一階の最奥の部屋、そこがメイド長である麻由の自室だ。
音を立てないようにドアノブを回し、そっと部屋へ入る。
電気は消えていて、窓からの薄明かりの中に彼女がベッドに横たわっているのが見えた。
傍まで行き、眠っている麻由の顔に見入る。
夢でも見ているのか、表情が時々微妙に変わっていた。


魅力的なその唇に触れたくて、そっと彼女の上に覆いかぶさった。
恥じらいを込めた声でいつも僕の名を呼ぶ、この唇。
僕だけが味わうことを許されているもの。
小守ならずとも、他の男に渡すことなど絶対にできない。
顔を近づけ、そっと唇を重ねた。
「ん…」
気配に気付いたのか、麻由が身じろいだ。
ぴくりと震えた瞼がゆっくりと持ち上がる。
僕の顔を見たらどんな反応をするか知りたくて、少しだけ彼女との間の距離を広げた。


「!」
僕に焦点を合わせると、麻由は大きく目を見開き、硬直した。
そして、上掛けを抱えたまま壁際に後ずさりをする。
小刻みに震えるその姿に、こっちの方が驚いた。
まさか、僕だと分からないのだろうか。
「麻由?」
落ち着かせるために名前を呼んでみる。
泥棒か何かだと誤解されてもつまらない。
「え…武様?」
「ああ、僕だ」
答えると、彼女はホッとしたように身体の力を抜いた。
が、枕元の照明をつけると、すぐにまた力を入れ直し、こちらをキッと睨み付けた。
161 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/22(火) 20:13:37 ID:rdZSDYqG
「ここで何をしていらっしゃるのです?お部屋にお戻りになられませ」
冷たくそう言われてしまい、息を飲んだ。
恋人が夜中に忍んできているのに、何という言い草だろう。
「何って、麻由に会いに来たんじゃないか」
弁解がましく口にするが、前に一度夜這いをした時に「もうしないから」と約束をしたのを思い出した。
それをあっさりと破ってしまった僕の方に非がある。
しかし。
「今日はカバンを右手でお渡しにならなかったではありませんか。
それに、もう使用人棟にはいらっしゃらないと約束して下さったでしょう?」
彼女が並べる正論に反発する気持ちが湧き上がって。
僕はベッドへ腰掛け、僅かに麻由を見下ろす形をとった。
「気が変わったんだ。それに、君は僕の妻になるんだから、こうして会いに来ることに問題があるとは思えない」
「ですから、それは…」
麻由が唇を噛み、下を向く。
「一度断られたくらいで諦めたりはしないよ。君は僕の妻になるんだ」
思いが伝わればいいと思いながら、力を込めて言い切る。
いい加減に観念して、はいと答えて欲しいものだ。


「そのお話は…先日、お断りしたではありませんか…」
蚊の鳴くような小さい声で彼女が言った。
あくまで拒否しようとするその姿勢に、落ち着かせようとしていた心がまた騒ぎ出す。
「どうして?僕以外に好きな男などいないんだろう?」
「それは、そうですが…」
「僕だって、麻由の他に好きな女はいない。君だってそれを分かっているはずだろう?」
「ですが、私は…」
「それなのに、別の人と結婚しろなどと言うことがどれだけ残酷なことか、分からないのか?」
好きな女にそう言われることが、どれほど心を傷つけるか。
麻由にはそれを知る義務がある。


尚も煮え切らない返事をする彼女を、少し懲らしめるために。
「口で言っても分からないなら、身体に教えるまでだ」
「いやっ!」
上掛けを捲り上げて麻由の上に乗りかかり、その身体をギュッと押さえつけた。
暴れて僕の手を振り解こうとするその態度に、苛立ちが募る。
「僕がどれだけ麻由のことを好きか、思い知らせてやろう」
手の力を強くし、視線を合わせて言い放つ。
ハッとして身体を固くした彼女の首筋に顔を埋め、強く吸い付いた。
「っ…お止め下さいませ…」
いつもならここで麻由は僕に抱き付き、されるがままになる。
しかし、今日は必死に僕の肩を押し返そうとする。
何が違うというんだ?
結婚の二文字が、それほど彼女には負担なのだろうか。
萎えかけた心を奮い起こし、位置を変えて何度も彼女の肌に吸い付く。
それと同期して、パジャマの上から麻由の身体を撫で上げた。
そのうちに、突っ張っていた彼女の腕から力が抜け、がくりとベッドに落ちる。
すかさずパジャマのボタンを外し、前を寛げた。
「んんっ…」
肌が外気に触れて我に返ったのか、また抵抗が始まった。
162 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/22(火) 20:15:38 ID:rdZSDYqG
ブラジャーのホックを外し、その胸に顔を埋めた。
乳首を口に含み、転がすように舐め上げる。
「あっ!あぁ…」
途端に麻由の体が跳ね、甘い声が上がる。
もう一方の乳首を指先で引っかくと、ますます声は高くなった。
「他のメイド達に聞こえるよ?」
「っ!」
耳元で囁くと、彼女は身体を固くした。
慌てて手を口に当て、声を出すまいとする姿が愛しい。
その行動に協力することなく、さらに彼女の胸に触れる。
我慢しきれずに漏れる嬌声は、普通よりさらに色っぽい。
それを聞くために、いつもより丹念に愛撫を施した。
「あ…っん…っ…きゃあ!……ぁ…んっ…はぁん…あん…」
声が次第に蕩けたものになり、聞いている僕も気分が良くなる。
しかし、まだまだ足りない。
もっともっと乱れさせて、僕を求める姿が見たいのだ。


麻由が何度もせわしなく身を捩る。
上半身にだけ触れられ、疼く身体を持て余しているのか。
彼女の腿が震えながら擦り合わされるのが伝わってくる。
狙って僕の股間を押し付けてやると、ビクリとその身体を跳ねさせた。
「欲しい?」
尋ねると、必死に首を振られてしまう。
そんな赤い顔で否定しても、説得力なんて無いのに。


胸を弄っていた指を、小刻みに震える脚の間を目指してゆっくりと移動させた。
「ああ…」
へその上に差し掛かった所で、麻由が安堵したように溜息をつく。
そこに触れるのを待ち望んでいたようで、もう抵抗はしなかった。
下着をめくり、茂みを通り過ぎて目的の場所にたどり着く。
体温の高いそこは、熱く濡れて僕の指を歓迎した。
上下に何度も擦り上げ、羞恥を煽る。
溢れた蜜が絡み付いて、彼女が高まっていることを教えてくれた。
「…凄いね、びしょびしょだ」
胸から唇を離し、驚いた声色を使って耳元で囁く。
こうなっていることは分かっていたが、さらに恥ずかしがらせるために。
案の定、麻由はさらに赤くなった顔でいやいやをするように身を捩った。
指先に力を入れて、襞の中へと入り込む。
「あ…」
彼女が息を飲み、ぴたりと抵抗をやめた。
これほど正直な体をしているのに、逃げようとするなんて。


期待を煽るように、入り口の周りをなぞる。
ますます蜜が溢れて、淫靡な水音を立てた。
柔らかい肉が指に絡まるのに、僕の心も高まる。
早く、ここに自分のものを埋め込みたい。
身体を繋げ、彼女が僕のことしか考えられないようにしてやりたい。
「ん…あ…やぁ…っ…」
緩い刺激が物足りないのか、切ない声が途切れ途切れに聞こえる。
「あ…あぁ!」
クリトリスに触れると、麻由が一際高い声を上げた。
身体を大きくくねらせ、悶える姿にますます煽られる。
もっと彼女を高まらせ、ギリギリまで追い詰めねばならない。
「あん…ん…はぁん…あ…やぁ…」
緩急をつけて刺激を与え、甘く喘ぐ声を堪能した。
麻由は僕だけのものだ、他の誰に渡してもなるものか。
163 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/22(火) 20:16:59 ID:rdZSDYqG
「あぁ…武様…」
情欲に濡れた目で、彼女がこちらをじっと見詰める。
言葉にするのは恥ずかしいから、視線で訴えているのだ。
後戻りできない所まで彼女の官能を呼び覚ませたことに対し、達成感めいたものが心に生まれる。
それは体中を駆け巡り、彼女の中に入るのを待っている僕のものを熱く滾らせた。
すぐさま服を脱ぎ、彼女を貫きたいと喚く本能を無理矢理抑えつける。
まだだ、もう少しの我慢だ。
欲望と理性が綱引きをしている狭間に立ちながら、僕は口を開いた。


「僕の妻になるというなら、イかせてやってもいい」
「そんな…っ…」
縋るような目で見られ、生まれた動揺を必死に覆い隠す。
こうすることが本心なのではない。
彼女が快感に飲み込まれ、絶頂に震える姿を見ることこそが僕の本当の望みだ。
だが、ここでそうしては何にもならない。
真の目的の為には、今、自分の欲望に左右されるわけにはいかない。
「一言『はい』と言いさえすれば、麻由の望む通りにしてやろう。どうだ?」
感情を込めない声色を使い、言葉で追い詰める。
さあ、答えてみろ。


重なっていた身体を離し、脇にあった椅子に腰掛ける。
余裕のある振りをしたくて、そこから彼女を見下ろした。
横たわったままの麻由がギュッと目を瞑ると、涙の粒が光ったのが見えた。
火照った彼女の身体は、僕と繋がることを求めているはずだ。
何年も掛けて、彼女の身体には快楽の味を仕込んでいる、きっとお預けに耐え切れずに折れてくれるに違いない。
そうしたら、焦らしたことを謝ってから、十分に満足するまで彼女を悦ばせよう。
僕は期待を込めて、ベッドの上の彼女を見詰めた。


ゆっくりと寝返りをうち、麻由が壁の方を向いた。
僕の場所からは背中だけしか見えなくなってしまい、もどかしい。
ねだる言葉を探しているのだろうか?
表情が見えなくなって、焦りのようなものが胸に去来した。
「っ…」
シンとした部屋に不意に響く、息を飲む小さな音。
自分のものかと思ったが、違う。
「あ…んっ…」
押し殺した小さな声が、麻由の口から発せられているのだ。
まさか…。
椅子から立ち上がり、壁際へ回って彼女を正面から見る。
麻由は、自分で秘所に指を這わせ、身体を慰めていた。


絶頂の寸前でお預けをされて、我慢できなかったのだろうか。
普段なら僕の前でこんなことは絶対にしないのに。
頬を染め、ギュッと目を閉じたまま快楽に耽る姿が煽情的で。
僕は阿呆のように口を開けたまま、しばらくそれを見詰めていた。
「や…あぁ…ん…」
上掛け越しに彼女の手が動き、それに合わせて小さな喘ぎが生まれる。
二人の時間がとれない時は、、彼女はこうやって自分を慰めているのだろうか。
こうするのは、きっと今日が初めてではないのだろう。
自分でする時もこのように色っぽいとは、麻由は本当に罪な女だと思う。
164 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/22(火) 20:17:58 ID:rdZSDYqG
「ん…あ…武様…ぁ…」
夢うつつの中で、麻由が僕の名を呼んだ。
熱を帯びたその声に、我に返る。
麻由の自慰を鑑賞している場合ではない。
彼女の快感が、僕を通してでないなど認められないことだ。
たとえ本人の指であっても、それを許すことはできない。
ベッドへ手を伸ばし、上掛けを剥ぎ取る。
「キャッ!」
麻由が慌てて胸元に残ったそれを抱き締めるが、僕は更に力を込めて引き抜いた。
ベッドの下へと投げ落とし、露になった麻由の身体を改めて見る。
はだけたパジャマから覗く素肌は紅潮していて、目が釘付けになった。
僕は再びベッドに上がり、麻由の身体を組み敷いた。


「僕の前でそんなことをするとは、いい度胸だ」
彼女の両腕を掴んで押さえつけ、耳元で囁く。
「それとも、ああして僕を誘ったのか?」
麻由がそんなことのできる女ではないことは、僕が一番知っている。
しかし、この時はわざとそう言って責め立てた。
涙を浮かべる彼女の脚の間を膝頭で圧迫してやれば、掠れた悲鳴を上げてその身をくねらせる。
自分の指ではイけなかったらしい。
「そんなに、僕の妻になることが嫌なのか?」
「あ……」
言う言葉が見つからないのか、彼女は表情を歪ませた。
あんなことを僕が見ている前でするなんて。
彼女にすれば切羽詰った挙句のことだろうが、僕にしてみれば挑発以外の何物でもない。
あなたとなど結婚しなくても良いのだからと、口に出して言っているようなものだ。


掛け時計が深夜12時を指し、微かな電子音に僕の注意が少し逸れる。
その隙を突いて、彼女が枕元にずり上がり、逃げ出す素振りを見せた。
僕から逃げおおせるとでも思っているのだろうか?
諦めの悪い麻由の行動が癇に障り、動くためにと浮かせた彼女の腰を掬い上げた。
「きゃあっ!」
四つん這いにさせ、中途半端な位置で止まっていたパジャマと下着を引き下ろす。
腰を高く上げさせて固定し、麻由の秘所に舌を這わせた。
「ああっ!あ…」
悲鳴を上げたその声が、半ばで途切れる。
それでいい。
自分で触るより、僕に愛撫されて声を上げるのが彼女にはふさわしい。


充血して固くなったクリトリスに吸い付くと、彼女がまた悲鳴を上げた。
ここに触れると、彼女はひとたまりもなくなってしまう。
ますます蜜が溢れてきて、彼女が感じていることを僕に告げた。
思い通りになったことに、凶暴な喜びが胸に生まれる。
間髪を入れず、そのまま背後から一気に貫いた。
「きゃあっ!あ…」
逃れようとする腰を抱え、引き寄せる。
激しく突き上げ、彼女の中を蹂躙した。
「いや…ぁ…痛い…」
震えながら涙声で言う哀れな姿を見下ろす。
あれだけ潤んでいても、中を慣らさぬまま貫かれるのは痛かったのか。
無理矢理入り込んだそこはきつく、いつもとは違っていた。
普段はここも十分に愛撫して、彼女の準備が整ってから身体を繋げている。
挿入しても、しばらくはゆっくりと動いて彼女の負担にならぬように心がけている。
しかし、今日の僕にそんな余裕は無かった。
シーツに爪を立て、辛さを我慢している麻由を背後から突き上げながら見詰める。
申し訳なさが心に生まれるが、もうこうなれば途中でやめるわけにはいかない。
165 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/22(火) 20:18:58 ID:rdZSDYqG
麻由とベッドを共にして「痛い」と言われるのは初めてだ。
二十歳のとき、互いの初体験の折にさえ彼女は言わなかった。
事後、シーツには純潔の印が刻み込まれていたから、麻由がそれまで男を知らなかったことに間違いはない。
しかし、彼女は僕を気遣ってか、痛いとは一言も口にしなかった。
僕の余裕がないという点では、あの時も今も変わらないのに。
彼女にこの言葉を口にさせるのは、今日の何なのか。
結婚を断られても諦めの悪い僕が、痛々しいということなのだろうか。
そうかも知れない。
初体験の時は、酷く緊張していながらも、僕は彼女を必死で気遣っていた。
なのに、今の僕は彼女を手放さないために、自分の感情だけで行為に及んでいる。
痛々しいどころか、嫌われても仕方が無いことをしているのだ。


激しい感情で煮えたぎっていた頭に、少しずつ冷静さが戻ってきた。
動くのをぴたりと止め、わが身を振り返る。
自分が何をしているかに気付き、恐ろしさがこみ上げた。
心臓が苦しくなり、僕は慌てて彼女を解放した。
ベッドに仰向けに横たえ、顔を覗き込む。
涙に濡れた目と乱れた髪を見て、さらに僕は動揺した。
「麻由、麻由?」
いたたまれなくなり、彼女の名を呼ぶ。
ぼうっとしていたその目が僕を捉え、視線が合った。
自責の念が一気にこみ上げ、僕は情けないほど取り乱してしまった。


「悪かった。謝るから、何でもするから僕のことを嫌いにならないでくれ」
身も世もなく懇願しながら、僕は彼女にしがみ付いた。
この人に嫌われてしまったら、僕は…。
「嫌わないでくれ、頼む」
目頭が熱くなったかと思うと、至近距離にある彼女の肌に雫が落ちるのが見えた。
ぽたぽたと白い肌を濡らすそれに、自分が泣いていることを知る。
人前で泣くのなど、何年振りのことだろう。
男は滅多なことで泣くのではないと、幼少の頃から教えられてきた。
それを忠実に守り、僕は今まで生きてきた。
泣きそうになっても、グッと堪えることには慣れている。
だが、一旦溢れてしまったこの涙を止める術を僕は知らない。


嗚咽を堪えきれない僕の頬に、麻由の手がそっと触れた。
顔を上げさせられ、彼女の瞳に僕が映ったことを感じる。
みっともなく泣いているこの姿を見て、幻滅されるのではないだろうか。
「え…」
涙でぼやける視界の中で、麻由が微笑んだ。
そのままゆっくりと首を振って、胸元に引き寄せられる。
僕の身体に彼女の腕が回り、抱き締められた。
そして、落ち着かせようとするかのように背を撫でてくれた。
「ご安心くださいませ、私は武様を嫌いになどなりません」
耳元で聞こえる彼女の声に、心が凪いでいくのが分かった。


僕がしたことを許してくれるのだろうか。
申し訳なさと共に、深い感謝の念が心を満たした。
大人の男を目指すなど、聞いて呆れる。
僕なんかより麻由のほうが、よほど器が大きくて懐が深い。
一介のメイドだと麻由は自分を卑下しているが、とんでもないことだ。
それに比べ、社長だ当主だと持ち上げられている僕の、なんと愚かで惨めなことだろう。
166 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/22(火) 20:20:00 ID:rdZSDYqG
彼女の胸に抱かれたまま、嗚咽が止まるまで動かなかった。
何分間そのままだったのか、自分でも分からない。
ようやく気持ちが落ち着き、僕は身体を起こした。
泣き止んだのを分かってもらうため、微笑んで見せた。
うまく笑えたかどうか分からないが、彼女が僕の顔を見て微笑みを返してくれる。
けなげなその表情に胸を突き動かされ、僕は彼女に口づけた。


「ん…あ…」
じっくりと味わってから、名残惜しくその唇を解放する。
彼女の頬に赤みが戻っていたことに、少し安心した。
恥ずかしそうに少しだけ視線を逸らす姿に、また目が奪われる。
意気消沈して、萎えていた自分のものが元気を取り戻すのが分かった。
彼女が喜んだり、恥ずかしがったりする姿を見ることで、僕は簡単にこうなってしまう。
惚れているからとはいえ、あまりに現金なことだと思った。


さっきあんな風にしてしまったから、またすぐに身体を繋げるのはためらわれる。
嫌がられたらすぐやめる気持ちで、そっと麻由の肌に手を滑らせた。
少しでも拒否されたら、ベッドの柵に自分の頭を打ちつけてでも身体を離そう。
大きく残る後悔の中で、僕はそう決意した。
先程のことを罪滅ぼしするように彼女の肌に触れ、官能が高まるようにと願う。
こんなことで帳消しになるとは思わないが、少しでも快感を与え、彼女が感じたであろう苦痛を相殺したい。
手と口を動かしながら、彼女の息遣いに耳を澄ませる。
「ぁ…はっ…ん…」
上目遣いにそっと顔を窺うと、麻由は目を閉じ、短い溜息のような呼吸を繰り返している。
つらそうには見えず、ホッとした。
もう少し続けてみようと思い、彼女の胸に触れる。
「あ…あぁ…」
乳首を口に含み、舌で愛撫した。
刺激で固くなったそれの、僕の舌を押し返すような弾力に、夢中になって吸い付いた。
征服欲に駆られ自分勝手に彼女を追い詰めた、先程とは違うことを分かってもらいたくて。
両の掌を彼女のそれと重ね、指を絡めて握り締めた。
振り解かれることはなく、彼女もキュッと握り返してくれる。
その温かさにまた涙が零れそうになった。
「んっ…あ…あん…ぅん…」
反対側の胸にも同じように舌を這わせると、新しい刺激に彼女が声を上げる。
手がふさがっているので、同時には触れられない。
その分、丹念に愛撫を施した。


「あぁ…武様…」
熱に浮かされた声で、麻由が僕の名を呼んだ。
それに応じて顔を上げると、彼女が物言いたげな目でこちらを見詰めてくる。
「……」
シーツの上で握り合っていた手を、下方へと移動させられた。
そのまま、彼女の腹の上に持ち上げられる。
手の繋がりを解かれ、僕の掌がそこへ押し付けられた。
「…大丈夫なのか?」
求められて喜ぶべきところを、不安になって確認する。
麻由がコクリと頷いたのを見て、僕は覚悟を決めた。
167 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/22(火) 20:21:06 ID:rdZSDYqG
彼女の中に、ゆっくりと指を挿入した。
先程いきなり責め立ててしまったので、同じ失敗はできない。
中を広げるように、指をぐるりと回して反応を見る。
痛そうにしていないのを見て、安堵した。
しばらくそのまま慣らした後、指を一本増やす。
同じように時間を掛けて動かし、負担を減らすようにと心を配る。
まるで、初めて身体を重ねた時のようだ。
あの時の麻由は、指を入れるだけでも唇を噛みしめていた。
当時を思い出し、懐かしさが胸をよぎった。


麻由の腕が、僕の背に回った。
「もう、大丈夫ですから…」
小さな声で呟いて、また恥ずかしげに頬を染める。
「本当に?」
「はい…」
また不安が去来するが、彼女の求めには今度こそ応えなければならない。
「本当に済まなかった。
つらくなったら、途中でもそう言っておくれ」
言い置いてから、彼女の身体に重なり、僕達は一つになった。
「あ…あぁ……」
大きく息を吐き、彼女が身体の力を抜いた。
額に掛かる髪を払ってやり、表情を窺う。
一々確認しなければ、またひどいことをしてしまいそうで、自分に自信がもてない。
麻由の腕に力が入り、さらに引き寄せられる。
それを合図に、僕は腰を動かし始めた。


「ん…はっ…あ…んっ…ん…」
彼女が浅く呼吸しているのが聞こえる。
空いている手で彼女の脚を持ち上げ、繋がりを深くした。
「んんっ…あぁ…あん…」
その声が甘さを帯び、僕の耳に届いた。
脚を固定し、彼女の弱い所に当てるように自身を動かす。
自分の快感もさることながら、まずは彼女を気持ちよくさせてやりたい。
「あ!…やぁ…んっ…ああん!」
声が高くなり、さらに甘さが増した。
それが嬉しくて、同じ場所を重点的に責める。
喘ぎ声が上がるたび、中が締まって僕のものにも快感が走る。
彼女の快感を第一に…と考えていたが、僕もあまり持ちそうにない。
「あ…きゃぁ!」
握り続けていた手を少し緩め、指先で彼女の掌を引っかく。
ここも、麻由の弱い場所だ。
性感帯なのかどうかは分からないが、こうすると彼女の感じる声が上がるので、時々指先で触れることがある。
「やぁ…あ…ん…あん…」
彼女の手がギュッと握り込まれ、僕の手の動きが止められた。
「ん…ぁ…武様、もう…もう…っ…」
切羽詰った声を上げ、彼女が懇願するような目で僕を見た。
「そうか、分かった」
それに応え、さらに動きを速める。
「あ…あ!駄目、もう…イっ…ああんっ!」
身体をガクガクと震わせ、彼女が達した。
それでもなお収縮を繰り返す彼女の中を、更に突き上げる。
済まない、もう少しだけ付き合ってくれ。
内壁に擦り付けるように動かし、自分の快感を求める。
絡みついてくるそれに、僕のものも遂に音を上げた。
「くぅっ…あ…麻由、麻由っ!」
一際強く彼女の手を握り締め、絶頂を迎える。
全てを吐き出し、彼女の上に倒れ込んだ。
168 ◆DcbUKoO9G. :2008/04/22(火) 20:22:53 ID:rdZSDYqG
そのまま、しばらく動けなかった。
ようやく人心地がつき、半分眠りかけている彼女を風呂場へ運んでその身を清めた。
替えの下着が置いてある場所が分からなかったので、タオルで拭ってからまたベッドに横たえ、上掛けを戻す。
規則的な呼吸を繰り返す彼女を見下ろし、後悔の念がこみ上げてきた。
今日のことで、僕はおのれの至らなさ、馬鹿さ加減を思い知った。
この人を妻にすることが、今の僕には果たして可能なのだろうか。
釣り合わないのは麻由ではなく、むしろ僕の方だ。
しかし、どうしても彼女を妻にしたい。
やはり、僕にはこの人しかいないのだと再確認することになった。


翌朝、邸内の者が起き出す前に麻由の部屋を後にする。
いつもは彼女が先に起きて僕の部屋を出るのだが、今日は逆だ。
着衣を整えてベッドへ向き直り、まだ眠りの中にいる彼女を見詰めた。
改めて、昨日した事に対して申し訳なさがこみ上げてくる。
後ろ髪を引かれる思いで、僕は彼女の部屋を後にした。


頑なな彼女の決意を切り崩す手立てが見つからないまま、また毎日が過ぎていった。
求めに応じてはくれるのだから、僕のことを嫌いになっていないことは分かる。
しかし、だからと言って結婚の話を持ち出すと、途端に悲しい顔をされる。
どうすれば、色よい返事を貰えるのだろう。
一ヵ月後の誕生日が来ても、僕の気持ちは晴れなかった。
9月15日には、小守と麻由が並んでいるのを見て、また僕は落ち込んだ。
情けなくも、その夜に僕は彼女を部屋へ呼んだ。
小守にあの答えを言ったのかと尋ねると、彼女は首を縦に振った。
「申し訳なかったのですが、お断り申し上げました」と。
彼女の言葉に、不謹慎な喜びが僕の中に生まれた。
これで、麻由を取られることはないと、小守の気持ちを思いやる前にそう考えてしまったのだ。
自分の小ささを思い知り、また情けなくなった。
友人の失恋を喜ぶなど、人間として最低だ。
麻由の言葉に落胆したに違いないのに、何でもない風で僕を祝ってくれた小守に合わせる顔が無い。
彼より自分の方が劣っていることも、確認する結果になってしまった。
こんなことでは、いつまで経っても麻由に追いつけない。
いっそ、諦めてしまった方がいいのだろうか。
彼女の言葉を聞き入れてやるのが、本当の愛情なのだろうか。
頭の中で本心と理性が入り混じり、心が千々に乱れた。

──続く──


>>73で、武の誕生日が8月18日となっていますが、正しくは9月18日です。
169名無しさん@ピンキー:2008/04/22(火) 23:24:28 ID:Nr5x7FHr
二人とも切なすぎる(;_;)
幸せになってほしいなあ

続きが待ちきれない!
170名無しさん@ピンキー:2008/04/22(火) 23:35:09 ID:vtco+I9N
気がついたら緊張して読んでいた…('A`)
171名無しさん@ピンキー:2008/04/23(水) 04:10:37 ID:Dk1My4GD
>>170
同じく

エロパロ板のSS読んでることを忘れるほど話に引き込まれてたw
GJなんてありきたりなレスをするのが恥ずかしいぐらいだ
172名無しさん@ピンキー:2008/04/23(水) 11:28:53 ID:WKvkF6B1
ヤバい、おもしろすぎです……
次は麻由視点?近くて遠い二人だけど、きっと乗り越えられるはず……いや、絶対、必ず!
ホント次が楽しみです。チェックを欠かさないようにしますね
173名無しさん@ピンキー:2008/04/23(水) 22:37:19 ID:IMUiIMhw
エロ抜きに面白いから困る
174名無しさん@ピンキー:2008/04/24(木) 05:03:00 ID:zHUXybqV
徹夜明けにグッときた
武様があんまりヘタレなら麻由は俺がもらうと伝えといてくれ
175名無しさん@ピンキー:2008/04/25(金) 23:58:52 ID:Wem72ak0
チャンピオン烈でメイド物の新連載。

掲載誌がコレで、作者がいとうえいってところで中身は押して知るべしw
エッチな押し掛けメイドさん。
176名無しさん@ピンキー:2008/04/27(日) 00:40:03 ID:cu4SxjLQ
お気に召すままご主人サマ
177名無しさん@ピンキー:2008/05/02(金) 01:31:02 ID:T72FsFCR
保守
178名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 16:16:27 ID:SUsSja/Q
一夜にして街の住人がゾンビ化する。
お屋敷の住人も、一人又一人とゾンビの毒牙にかかり、襲う側になっていく。
メイド長(メインヒロイン)は、ご主人様を連れて街から脱出出来るか・・・

って感じのホラー?モノを夏くらいに読めるといいかもしれない。
179名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 21:02:41 ID:I/c3E+xF
>>178
期限は八月末までだ、頑張ってくれよ?
180 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:12:12 ID:HQ9cRJA6
こんばんは。
麻由の話を投下します。長いです。



「動揺」

小守様との一件の後、武様と私の間には緊張感が生まれてしまいました。
今までは、将来を考えることに鍵を掛け、ただひたむきに愛しい方へ思いを寄せておりましたのに。
プロポーズをお断りした後は、多大な苦痛の中で毎日を過ごしておりました。
求められる嬉しさと、このままではいけないという理性の間で、身体が二つに引き裂かれるような気持ちになって。
お誘いを受ける度に心を躍らせていた自分がどこかにいってしまったように、武様の自室へ向かう足が重くなっていました。
お屋敷を出ることは許さないと言われておりますので、辞職をするわけにも参りません。
どうすれは良いか分からないまま、ずるずると日々が過ぎてゆくのでした。
しかし、武様と私のことを、他の使用人達に勘付かれるわけにはいきません。
平常心平常心と心で唱えながら、今日も社から戻られた武様のお出迎えを致しました。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
車から降りられた武様は、左手でカバンを持っていらっしゃいます。
良かった、今日はお部屋へ行かなくて済む。
ホッと安堵した私の所まで歩いてこられた武様が、カバンをお渡しになったその時。
ふわっと、甘い香りが鼻を掠めました。
花のような果実のような、でもどこか人工的な趣のある甘い香り。
カバン以外には、何も持っていらっしゃらないというのに。
…まさか、女物の香水?
心臓が大きく動き、早鐘を打ち始めました。


仕事上のお付き合いで、武様が女性のいるクラブに行かれることはままあることです。
そういうお店ではホステスの方が隣に座られるのですから、移り香が残ることもあるでしょう。
実際、今までにもこういうことはありました。
でも、今回は何だか嫌な胸騒ぎがしたのです。
クラブなどからお帰りになったのなら、香水とともに煙草の匂いも混ざっているはずですのに。
先程近付いた時は、甘い香りしかいたしませんでした。
お店ではない場所で、誰かと会われていたのでしょうか。
それも、香りが移るくらいに近い距離で…。
いいえ、きっとどちらかの会社の女社長とお会いになっていたに決まっています。
商談に熱が入り、膝を付き合わせるくらいの距離でお話をなさっていたからに違いありません。


心に浮かんだ不安を押し込めて、その日は部屋で休みました。
しかしそれからも、お帰りになった時に同じ香水の匂いがすることがたまにあるようになりました。
加えて、お戻りの時間が遅くなること、急に外泊なさることが度々になってきたのです。
到着した車を出迎えれば、「社長に『今日は屋敷に戻らないから、君は帰りなさい』と申し付けられました」と、運転手だけが屋敷に戻るようなことも何度かありました。
運転手を帰して向かわれた行き先をご本人に尋ねることもできず、もやもやとした不安だけが募りました。


通常、夜9時を過ぎると、使用人達の一斉出迎えは致しません。
執事の山村さんとメイド長の私だけが、代表して玄関に立ち、お出迎えするのです。
そのような日は、カバンを受け取るときに妙な緊張感が走るようになりました。
ああ、今日も。
10時半を少し回ってからお帰りになった武様のスーツから、あの香りがしました。
もう、希望的観測の余地はありません。
他の女性と、外で会っていらっしゃるのでしょう。
それが証拠に、この香りを残してお帰りになるようになってから、私は夜のお誘いを受けないようになりました。
以前は、少なくとも週に二、三度はお部屋に伺っておりましたのに。

181 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:14:34 ID:HQ9cRJA6
武様のプロポーズを断ったのは、私にとって非常に辛いことでした。
私よりももっとふさわしい方を娶られる方が、御身の為になるはず。
一時の感情に流されず、ご自分の地位や立場をお考えになって、妻となる人を決められませ。
取り乱される武様に、私は精一杯大人ぶってそう申し上げました。
感情を取り繕い、諌める立場を演じ切らなければ自分に負けてしまいそうでしたから。
そして、愛しい方を一人残し、身を切られるような思いでお部屋を去りました。
あれ以上一緒にいると、ぼろが出てしまうのを怖れたからでございます。
それからしばらくは、武様も諦めがつかないご様子で、何度か私をお抱きになりました。
前に夜這いをされた時のように、使用人棟の私の部屋へ押し掛けられて事に及ばれた時もありました。
自分と結婚するよう強硬に主張されたり、泣き落としまがいのこともなさったり。
これほど思って頂いていることに、私は心の奥底で歓喜しておりました。
ですから、武様とベッドを共にすることまでは拒否できなかったのです。
何もかもすっぱりと諦めて、身を引いた方が良いのは分かっているのに。
それができない自分の弱さに、情けなくなりました。


武様に抱かれるたび、この方を愛していることを思い知りながら。
しかし、私は首を縦に振りませんでした。
こうすることが正しいと、固く信じておりましたのに。
いざ、武様に他の女性の影がちらつくようになると、私は急に心が不安定になりました。
どのような方なのでしょうか。年齢は、性格は?どちらのご令嬢なのか…。
気がつくとそればかりを考え、仕事に身が入らなくなってしまうのです。


鬱々としたまま、数週間を過ごしました。
本日も、武様はお帰りが遅いのです。
夜11時を回った頃、やっとお戻りになられました。
「お帰りなさいませ」
執事の山村さんと二人並んで武様をお迎えします。
「え…」
なぜか、今日は右手にカバンを持っていらっしゃいます。
武様と私にしか分からない、秘密の合図。
偶然でしょうか、これから持ち替えられるのでしょうか。
こちらへ歩いてこられる道のりを見ながら、頭の中で考えました。
「ただいま」
「…ぉ、お帰りなさいませ」
そのままカバンを差し出され、僅かに声が震えてしまいました。
「食事は済ませてきた。すぐ部屋へ行くよ」
そう言い置かれ、武様はずんずんと歩いて行かれました。
私はカバンを受け取った体勢のまま、しばらく動くことができませんでした。


武様のお姿が見えなくなり、私はやっと我に返りました。
とりあえず、お部屋へ伺ってみましょう。何か、別のお話があるのかも知れません。
厨房や玄関の戸締りを確認し、電気を消してから階段を上がりました。
他の人間はもう使用人棟へと引き取っておりますので、ひっそりとしておりました。
小さく三回ノックをし、お部屋のドアに手を掛けました。
「ああ、お入り」
武様はソファにお座りになり、洋酒の瓶を片手にそう仰いました。
抱えていたカバンを置いて、お傍へと参ります。
ソファの背に掛かっているスーツのジャケットとネクタイを手に取り、ハンガーに掛けました。
「あ…」
ジャケットからは、またあの香水の匂いが漂って参ります。
心なしか、今日はいつもより強く感じられました。
今日もこの香りを纏った方とお会いになっていたのでしょうか。
きっとお食事もご一緒なさって、それから…。
頭に浮かんだ嫌な想像を、必死になって払いのけようとしました。

182 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:15:53 ID:HQ9cRJA6
同じお部屋に武様がいらっしゃるのに、私の心の内を知られてはいけません。
ジャケットを片付けるべく、クロゼットの方へ向かいました。
扉を開け、ブラシを手にとって丁寧に生地の表面を払います。
ジャケットを仕舞い、胸に手を当てて落ち着けてからソファの方へと戻りました。
武様は、ウイスキーグラスを手の中で弄ばれながら、揺れる液体を見詰めていらっしゃいました。
何をお考えになっているのでしょうか。
気になりますが、明確な理由も無いのにご主人様に声を掛けるわけには参りません。
私はソファの背後に立ったまま、ご用を申し付けられるのを待ちました。


「麻由」
「っ!…はい」
「こっちへおいで」
振り返ってそう呼ばれたのに従い、お傍へと参りました。
「ほら、座りなさい」
「いえ、あの…」
向かい側ではなく、武様のお隣を手で示されたことに動揺します。
そんなに接近するのは久しぶりのことで、心が騒ぐのです。
「早く」
せかされて、慌ててお言葉の通りに致しました。


武様がグラスをお手に持たれたまま、時折口を付けられるのを見詰めました。
この方が洋酒を召し上がるのは、珍しいこと。
割り水もチェイサーも無しで、ストレートで飲まれるのは少し心配です。
厨房からミネラルウォーターでもお持ちしようと、私は腰を浮かせました。
「どこへ行くんだ?」
「あの…お水か氷を持って参ります」
「必要ない。いいからお座り」
「え…はい」
有無を言わせない、強い口調に。
私は逆らえず、またソファへ座りました。


グラスを置かれた武様が、ゆっくりとこちらを向かれました。
じっと私の顔をご覧になるのに、身の置き場の無い心地になりました。
「麻由」
「はい……あっ」
手を取られ、指に口づけられました。
そのまま抱き寄せられ、私は武様のお胸にもたれ掛かる格好になりました。
「今日は、久しぶりに…」
耳たぶに唇がくっ付くほどの距離で、武様がそう囁かれます。
頬が触れたワイシャツから、またあの香りがしました。
甘い中にも上品さのある、つける方の心栄えを表したような香り。
この香水の主と関係を持たれた後「今日は」私も抱くということなのでしょうか?
そう思うと強烈な悪寒が全身を走りました。
私は反射的に武様の肩をドンと突き返し、後ろへと身を引きました。
「麻由?」
首を傾げられた武様が、こちらを見詰めていらっしゃいます。
「他の方に触れられたお手で…私に触れないで下さいませ」
「えっ?」
「今日は、お帰りの前に誰かと会ってらしたのでしょう?」
「……」
「それで、満足できなかったのでございますか?だから、麻由でも抱いておこうかとお考えなのでしょう?」
自分で言いながら、その言葉の持つ意味に戦慄しました。
二十歳の頃からずっと、武様と関係を続けていて。
立場の違いはあれど、自分が愛されていることに疑いを持つことはありませんでした。
将来の無い関係だとしても、今現在、武様のお心に触れられるのは私だけ。
うぬぼれてはいけないと自戒しつつも、女として誇らしくさえ思っておりましたのに……。
他の女性の存在を感じ取った瞬間、私は崖から突き落とされたような心地になったのです。
183 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:17:05 ID:HQ9cRJA6
「そうだと言ったら、どうするんだ?」
「えっ…」
「僕の精力が強いのは、麻由も知っているだろう?
ああ、確かに満足できなかったんだ、だからこうしている」
武様のお言葉に、耳を疑いました。
私の知っているこの方は、そんなことをなさる方ではありません。
それなのに…。
「しばらく触れていないから、君も寂しかったんじゃないか?」
そう仰りながら、ワイシャツのボタンに手を掛けて外される姿を呆然と見詰めました。
ひたひたと恐怖がしのび寄り、身体に纏わりつくのになす術もありませんでした。
「あっ!」
腕をぐいと引かれ、また引き寄せられました。
半ばぶつかるようにして倒れこんだ武様の広い胸。
少し前であれば、甘い予感に酔いしれている状況なのに。
今の私を支配しているのは、落胆と恐怖、そして大きな悲しみだけでした。


押し付けられていた顔を上げると、はだけられたワイシャツの隙間から、鎖骨の脇にある赤い痕が目に入りました。
虫刺されとも打撲の痕とも違う、情を交わすときにしかつかないあの赤い痕。
武様が私をお抱きになる時、よく付けられては私を困らされたもの。
それが武様のここにあることに、目まいがするほどの嫉妬を感じました。
私ではありません、しばらく抱かれていないのですから、このようなものを付けられるはずがありませんもの。
いいえ、そもそも、私は見えやすい所に付けるなどという真似は一度も致しませんでした。
それなのに、今日武様と関係を持たれた方は、大胆にもこんな場所に…。


「いやです、離して下さいませ!」
めちゃくちゃに暴れて、身体を押さえる腕から逃れました。
このままなし崩しに抱かれてなるものですか。
口では何と言っていても、麻由は抱いてしまえば大人しくなる。
そんな風に思われるわけには断じていきませんから。
暴れた時、握り締めた手が武様のお身体にぶつかっても、申し訳ないと思う余裕さえありませんでした。
「どうして逃げるんだ?」
姿勢はそのままに、抑揚の無い声で武様が仰いました。
「僕を振ったのは麻由じゃないか。こうなることが、結局は君の望みだったんだろう?」
「あ…」
その言葉に、全身の血の気が引きました。
確かに、私は「武様にふさわしい方とご結婚なさいませ」と申し上げました。
そうすることが、遠野家の為であり会社の為、ひいては武様ご自身の為にもなるのですからとも。
今日のことは、私が自ら招いた結果であると。
この方はそう仰りたいのでしょうか。


「あの時君が言ったことを、思い出したかい?」
言葉を失って俯く私の耳に、武様のお声が届きました。
「彼女が僕の妻になったら、夜は君と三人で楽しめるかも知れないね」
「何てことを!」
私は絶望的な気持ちで叫びました。
この上、まだ私と関係を続けるお積もりなのでしょうか。
結婚というものを冒涜していらっしゃるとしか思えません。
あまりにも無神経なお言葉に、激しい寒気が背筋を走りました。
このお部屋のベッドで、武様と奥様になられた女性が、私の眼前で睦み合われる。
悪夢のようなその光景を想像して、身体がガタガタと震えだしました。
184 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:18:45 ID:HQ9cRJA6
「いや!他の方のものになどならないで下さいませ!」
大きな混乱の中、身も世もなく私は叫びました。
泣きたくなんてないのに、勝手に涙が溢れ、頬を滑り落ちました。
ですが、もうそれに構っている余裕などありません。
ずっと慕い続けていた方が、別人のような言動をなさることに耐えられなかったのです。
「武様は私のものです、他の方に取られるなんていや…」
嗚咽が止まらず、しゃがみ込んで手で顔を覆いました。
もっと言葉にしたいのに、喉の奥が詰まったように動かず、焦燥感だけが高まりました。
「他の方など見ないで下さいませ、私を、私のことだけを……」
武様の思いを踏みにじった自分が、こんなことを言うのは筋違いだと存じています。
メイドがご主人様に申し上げる言葉としても、やはりありえない事です。
浅慮な馬鹿者だと笑われるかも知れません。
しかし、今まで必死に抑えていた物がたがが外れたように迸り、自分にも抑えられなかったのです。





「その言葉が聞きたかった」
長い沈黙の後、ぽつりと武様が呟かれました。
その言葉…?。
今しがた叫んだことが、脳裏に浮かびます。
どのことを指して仰っているのかが、私の至らない頭では分かりませんでした。
「ああ、僕は麻由だけのものだ。ひどいことを言って済まなかった」
え…。
フッと気配が近付いて、肩を引き寄せられました。
優しく抱き締められ、身体から力が抜けました。
今、武様は何と仰ったのでしょうか。
「僕は麻由のもの」と、確かにそう聞こえました。
何かの間違いなのでしょうか。


ずっとずっと、私が聞きたかったその言葉。
混乱する余り、ついに幻聴まで聞こえてしまったのか。
本当に今の言葉が武様の口から発せられたのか知りたくて、私は顔を上げました。
「こんなに泣かせてしまって、済まない」
頬に口づけられ、涙が拭われていきます。
先程、非情なことを仰った方と同じとは思えないその行動に。
触れられていることに理屈ではない安堵を感じながらも、私の中に新たな混乱が生まれました。


「麻由の本心が聞きたくて、芝居を打ったんだ」
「え……」
お芝居?
今のことが、お芝居だったと仰るのでしょうか。
「ちょっと待っていておくれ」
私を抱き締められた手を緩めて、武様が立ち上がろうとされます。
離されることが耐え難く、慌てて強くしがみ付きました。
満身の力を込めて、二人の間に距離を作るまいときつく密着したのです。
「…そうか。じゃあ、立てるかい?」
頷くと、私の背を支えられながら武様が立ち上がられました。
離さないでいて下さることに、喜びが胸に湧きました。
ぴったりとくっ付いたまま、ドアの方へと歩いて。
私が先程置いたカバンをお手に取られ、武様はそのまま私をソファへと誘われました。
185 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:20:06 ID:HQ9cRJA6
カバンを開けて、武様がごそごそと中を探られました。
「ほら、これを見てご覧」
促され、お胸にくっ付けていた顔を上げました。
テーブルの方を示され、視線がそちらへ向きます。
「あ…」
置かれていたのは、桜色をした可愛らしい小瓶でした。
これは、一体…?
手に取るのが怖くて、見詰めるだけしかできません。
見かねたのか、武様が手に取られ、蓋を開けられました。
瓶はそのままに、蓋の方を顔に近付けられて香りが届きました。
…間違いありません。
あの時から今日まで、何度もかいだあの香り。
反射的に心臓がギュッと縮み、呼吸が苦しくなりました。
「香水は、つけてから香りが段階を踏んで変わるというが…。
必要なら、これを渡すから検証してくれても構わない」
検証…。
「身の潔白を、証明しなくてはいけないからね」
髪を撫でて下さりながら、穏やかなお声でそう仰いました。
先程とは全く違う、私を安心させて下さるようなお声で。
「何が何だか分からないという顔をしているね」
じっと固まったままの私をご覧になり、武様が言葉を続けられました。
「僕には説明責任があるのかも知れない。そのままでいいから、聞いておくれ」
小さく頷き、私はまた武様のお胸に顔を埋めました。


「他の女性の存在をでっち上げることで、麻由の本心を引っ張り出したかったんだ」
髪を撫でるお手を一瞬止められ、述懐なさるのを聞きました。
それは、ということは……。
場違いな期待が胸に生まれ、花が咲くように綻んでいくのを感じました。
「女性用の香水を買い求めて、自分でつけることで君に誤解させた。
わざと帰宅を遅くしたり、君に触れなかったりと、状況証拠めいたものを積み重ねたんだ」
「えっ…」
「麻由がどうしても首を縦に振ってくれないから、僕も段々焦ってきていた。
抱いても抱いても、思うようになって貰えない。
だから、一旦引いたように見せかけて、変化球を投げたというわけだ」
目を伏せられ、苦しそうに仰るのを呆然と聞きました。
では、他の方を好きになられたというのは、私の誤解だったと?
「別の方に、心を移されたのかと思って…」
「いや、そんな人はどこにもいないよ。
だから、安心しておくれ。僕の気持ちは全く変わっていない」
「あ…」
そのお言葉に、目から涙が溢れました。
「僕の気持ちは全く変わっていない」
お慕いする方にこう言われて、嬉しくない女性がいるものでしょうか。


「で、では!その赤い痕はどうなさったのです?」
私はふと気付き、叫ぶように問い詰めました。
鎖骨の脇についた、赤い痣のようなもの。
これは、武様が他の方と睦み合われたことの何よりの証拠ではありませんか。
「これは、自分で付けたんだよ?」
「えっ…」
「腕を引き寄せて首をうんと曲げれば、届かないことはない。試してご覧?」
促され、私は武様のお胸に寄せていた身体を一旦離し、自分の肩口に唇を寄せてみました。
確かに、その辺りに唇が届きます。
試しに吸い付いてみると、痕を残せるくらいの力を入れることができました。
「それぐらいにしておきなさい。首が痛くなるよ?」
必死に首を曲げて奮闘している私を見て、武様が少し苦笑なさいました。
186 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:21:23 ID:HQ9cRJA6
「実は、背中に爪跡も付けたんだ」
「え…」
「ほら」
ワイシャツを捲られた武様が、こちらに背中を向けられました。
幾筋かの白い線が、腰の辺りから短く走っています。
正面から愛される時につけてしまうもので、私にも覚えがありました。
「こうやって、ギュッと…」
爪を立てて実演までして下さるのを、慌ててお止めしました。
自分で自分を傷つけるような真似をなさるのを、黙って見てはおれませんから。
私の為に痛い思いをなさったことに、申し訳なくって唇を噛みました。
ですが、お背に残る跡と、武様が今しがた再現なさった指先の動きがピタリと一致したことに、心のどこかで安堵を感じたのでございます。


ふと、先程聞こえたことを思い出しました。
「僕は麻由のものだ」と、武様が仰ったことを。
あれは、本当に武様の口から仰った言葉なのか、それとも、私の願望が生んだ幻なのか。
混乱の極みにいたあの時の私には、判断がつきませんでした。
「武様、あの…」
「うん?」
「先程、その…。仰った言葉についてなのですが…」
「何だい?」
「もしかして『僕は麻由のものだ』と、そう言って下さいましたか?」
どうか、あの言葉が本当のものでありますように。
願いを込めて、武様のご返答を待ちました。
「ああ、言ったよ」
「え…」
「それが、どうかしたかい?」
何でもないことのように問われ、私は目をみはりました。


「だって、今までそんなことは一言も…」
『麻由は僕のものだ』と仰ったのは、今まで何百回も耳に致しました。
しかし、『僕は麻由のものだ』とは、一度だって口になさったことは無いのに。
「ああ、わざと言わなかったんだよ。
当たり前のことだから、改めて言うまでもないし、僕だけが君に夢中なようで悔しいからね」
「えっ…」
ずっとずっと、私はああ言われるのを待っておりましたのに。
今更であるから言わなかったのだと、こう仰りたいのでしょうか?
「『麻由は僕のものだ』と初めて言ったのは、いつのことか思い出せないが。
僕が君のものになったのは、そのずっと以前のことだ。
多分、庭で初めて会った時からかも知れない」
「え…」
先代の旦那様の運転手をしていた父に連れられ、お屋敷へと足を踏み入れた13歳のあの日。
私はこの方に初めてお会いして、たちまち思い初めたのでございます。
武様も、この時私に一目惚れをなさったと前に話して下さっていましたが…。
「君と初めて身体を重ねたのは、もっと後のことだったけれど。
でも、心はとっくの昔に奪われていたんだよ?」
少し恥ずかしげにそう仰るお声が、心地良く耳に感じられました。
この方を自分だけのものにしたいと、それが私の長きに渡る望みでありましたのに。
それは言葉にされなかっただけで、とっくの昔に達成されていたと、そう仰っているのでしょうか。
「…何か言っておくれよ、麻由」
言葉を失っている私に、焦れたように武様が促されました。
口を開いた途端、全てが泡のように消えてしまいはしないでしょうか。
あまりに自分に都合の良い夢を見ているようで、醒めてしまうのが怖いのです。
187 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:22:24 ID:HQ9cRJA6
武様が、何も言えないままの私の手をお取りになりました。
「あっ!」
そのまま手の甲を軽くつねられ、痛みが走り声が出ます。
「ね、夢じゃないだろう?」
「はい…」
考えていることがばれてしまったのでしょうか。
きまりが悪くなりますが、すぐに大きな喜びが取って代わり、胸を満たしました。
だって、夢ではないのですから。


「さて」
どこか吹っ切れた様子で武様が仰り、私を見詰められました。
「僕が麻由のものだと、君が分かってくれたところで…」
改めて口になさった言葉が、再び心に染み渡りました。
嬉しくて嬉しくて、今すぐ死んでもいいくらいの心持ちでした。
「この先ずっと、僕と共に生きる決心はしてくれたかい?」
「え…」
「さっき混乱してはいたが、君が叫んだことは本心だろう?
僕のことを自分一人のものにしたい、いや僕は自分だけのものなんだと、君はそう言っていた」
「は、はい…」
確かに、その通りです。
武様が他の方に心を移されたと思い込み、感情が高ぶった私はそう叫びました。
「僕を独占して、他の女性に渡したくないと思ってくれたんだろう?
僕も全く同じ気持ちだ、麻由を他の男に取られたくなんかない」
「…はい」
ですが、武様と私では立場が違いすぎます。
本心を申し上げたのは確かですが、それだけで物事が全て丸く収まるとは思えません。
「ですが、私はやはり…」
武様にふさわしいとは、思えないのです。


「麻由が何を不安に思っているのか、聞かせておくれ」
言葉を纏めようと悩んでいる私をご覧になって、武様が仰いました。
「私が、何を思っているか…?」
「そうだ。プロポーズの時から、僕は『結婚してくれ』と言うだけで、なぜ君と結婚したいのかを言わなかった。
今日は、それを言いたいんだ。
だから君も、なぜ結婚できないと思うのか、詳しい理由を言って欲しい」
髪に手を触れられ、そう促されました。
武様と結婚できない理由。
改めて口にするのは、私にとって辛いことです。
でも、勇気を持ってお伝えしなければいけないのでしょう。
私は少し身体を離し、向かい合って口を開きました。
「…武様と私は、ご主人様とメイドという関係で、立場に差がありすぎます。
武様は社長というお立場であられる以上は、取引先のご令嬢などを娶られる方が良いと思うのです」
「それから?」
「どこの馬の骨とも知れない女と結婚されたのでは、周囲の批判を浴びると思うのです。
そのことでお仕事に差し障りでも出たら、申し訳が立ちません」
申し上げながら、胸が痛みました。
188 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:23:29 ID:HQ9cRJA6
「君は馬の骨ではないだろう。僕の大切な人じゃないか」
「えっ…」
私が話し終わるのを待たれてから仰ったその言葉に、心臓が跳ねました。
大切な人。
この方にそう思われていることが、嬉しかったのでございます。
「確かに、僕と君は主人とメイドだ。
でも、大昔じゃあるまいし、そんなことを気にするのはおかしいよ」
「…」
「麻由は僕と同い年だったように記憶しているが。もしかして、君はもっと年上だったのかい?」
「いえ…」
武様と私は確かに同じ年です。誕生日も一ヶ月程度しか違いません。
でも、そういうことを言っているわけではないのですが…。
「中東のどこかの国では、王子が外国のウエイトレスと結婚したというよ。
僕なんかよりもっと自重すべき立場の人でさえそうなんだ、僕が麻由と結婚することに問題があるとは思えない」
「…」
「結婚すれば、僕の関係する付き合いに君を巻き込んでしまうことになる。
パーティーに出たり、夫人同士で会合があったり、そういうことも君の不安の一端になっているんだろう?」
「はい」
私は、夜会服も着たことがない庶民でございます。
ダンスもできませんし、会話の選び方も、良家の方が当然身に付けている立ち居振る舞いも不可能です。
「そういう場で、ちゃんと武様の妻として役割を果たすことが自分にできるとは思えないのです。
いずれ、ご迷惑をかけてしまうのではないかと…」
「それで?」
「……それで、私に失望なさるのではないか、と…」
言いながら、ハッと致しました。
私が武様の妻として不適格であることに気付かれたら、お心が離れてしまうのではないかという危惧。
これが、身分違いという外面的なものに隠れた、第二の大きな理由だったと気付いたのでございます。
社会的立場をお考えになって…などと尤もらしい事を言いながら、その実、私は自分の感情だけに捉われてしまって。
本心をぶつけて下さったあの時の武様に対し、申し訳なくなりました。
いいえ、あの時だけではありません。
あれからも思い悩まれ、ついには先程のような策を講じられるほど、私のことを思ってくださっていた武様。
そのお心に背くようなことをしていた自分に気付き、穴があったら入りたいほど情けない心地になりました。


「なるほど、そういう風に考えていたのか」
武様がそう仰り、私は頷きました。
黙って考え込まれた少しの時間が、とても長く感じられました。
「それくらいのことで、失望したりしないよ。
麻由は、どうやら僕が君に向ける愛情を小さく見積もりすぎているようだね?」
「え…」
「拝み倒して妻になってもらうんだ、多少の不都合など最初から覚悟の上だ。
気が重いというなら、手を尽くして一流の講師を雇う。
君にある程度の自信がつくまで、そういう場に出ろとは言わない」
武様が仰るのを、信じられない思いで聞きました。
そこまで、私のことを思って下さっているなんて。
有難くて有難くて、胸が切なくきしみました。
189 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:24:53 ID:HQ9cRJA6
「麻由」
「はい」
「君なら、ちゃんとした講師について学べばすぐにものになると思う。
いや、例えものにならなくても、それで僕の心が離れることは決して無いんだ、これは誓ってもいい」
「…はい」
「社長令嬢などと結婚すれば、社交はうまくやってくれるだろう、そのように育ってきたんだから。
でも、ただそういう家に産まれただけの人を妻にしたいとは思わない。
それよりも、立場に関係なく、本当に僕のことを愛してくれる人を妻にしたいんだ」
「あ…」
「麻由は、僕のことを愛してくれているだろう?」
そのお言葉に、ハッと致しました。
私は武様のことを愛しています。
だからこそ、身を慎まねばと必死になって、今まで…。
「『慕う』という言葉は使ってほしくない、それだと主従の間の感情と区別がつかないからね。
立場に関係なく、一人の男として、僕のことを愛してくれているんだろう?」
私はもう、自分の気持ちを隠すことをやめにしなければならないのでしょう。
正面から本心をお伝えすることが、愛しい方への誠意というものでしょうから。
「ええ、愛しています」
「そうか。僕も麻由のことを愛している」
武様は噛みしめるようにそう仰って、私の手を取られました。


「愛している」
この短い言葉が、大きな潮流となって私を飲み込みました。
武様に対し、私が抱いているのと同じ感情。
しかし、これがこの方の口から直接私に向けられることは今まで殆どありませんでした。
言葉に出して、きちんと伝えてくださったことがとても嬉しくて。
目から涙が零れて、頬をつうっと流れ落ちました。
その雫を優しく拭って下さりながら、武様が続けられます。
「麻由、会社というものは、社長一人のことでどうこうなるものでもないんだ」
「えっ…」
「確かに、社長の挙動が社の明暗を分けることはある。
でもそれはここ一番の大きなプロジェクトや、食品偽装問題の時など、社全体と密接に関わる時に限ってだ。
社長のプライベートに関しては、君が思うほど影響は無いんだよ」
「……」
「それに、我が社には優秀な社員達や重役もいるんだ。僕一人の会社じゃない。
彼らが頑張ってくれているお陰で、僕はこうやって社長としていられる。
結婚と同時に社の運命が傾くなんてことは、あり得ないと言っていい。
しばらく様子見はされるだろうが、影響が無いと分かれば、取引先も投資家も無碍(むげ)なことはしないさ」
言い聞かせるようにゆっくりと仰って、顔を覗き込まれました。
心に大きく圧し掛かっていた不安が、薄紙を剥ぐように少しずつ取り去られていくように思えました。
期待しても良いのでしょうか。
一度はプロポーズをお断りした身でありながら、不謹慎にも私の心は浮き立ちました。


「それに、結婚によって他社とのつながりを保とうとしても、そんなものはいざという時には役に立たないものだ。
仕事というのは、もっとシビアなものなんだよ。
血縁であろうが何であろうが、助けられないと判断した時には非情にならねばいけないのが経営者というものだ。
なのに、お飾りの妻を貰って、これで安心だと大船に乗った積もりになるのは滑稽なことだ」
「そうなのですか?」
「ああ。そうやって守りの姿勢になるより、君を妻に貰って『麻由を守るために』と頑張る方が、僕には合っている」
「え…」
これでもなお、私を妻にして下さると。
ずっと守ってくださると、そう仰っているのでしょうか。
190 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:26:57 ID:HQ9cRJA6
「勿論、僕は麻由にふさわしい男ではないことくらい分かっているんだ」
「えっ…」
「僕は未熟で、愚かで、懐の小さい人間だからね」
「まあ、何を仰るのですか!」
ご自分を卑下なさる武様のお言葉を、信じられない気持ちで聞きました。
この方は立派な紳士であられます、未熟だなんてとんでもありません。
「麻由のほうがよっぽど大人で、真摯に僕のことを考えてくれている。
だからこそ、僕の将来を思って、諦めようとしてくれたんだろう?」
「はい…」
諦めようとして諦めきれず、先程のように本心を叫んでしまう羽目になりましたが。
武様のお立場を考えていたのは確かでしたので、私は頷きました。
「それでも、僕は、君のことを諦められないんだ。
一生かけて、君に釣り合う男になりたい」
「そんな…」
武様は、私のことを良い目で見過ぎておられます。
私はそんなに立派な人間ではありませんのに。
「だから、僕のことを鍛えてくれ。
麻由を守るために頑張るから、君は、僕が君にふさわしい男になれるように傍で励ましてほしいんだ」
続く言葉は、プロポーズとしてはあまりに弱いものでした。
しかし。
このように言われてしまっては、はねつけるわけにも参りませんでした。
闇雲に「俺について来い」と言われるより、武様の真心が表れているようで心が熱くなって。
ああ、私はやはりこの方には逆らえないのかも知れません。


「さっきのことで、僕が別の人を妻に迎えることが嫌だと君は言ったね」
「はい」
本当に、もうあんな思いはこりごりでございます。
いつか別れが…と漠然と不安を抱いていた時と、いざ他の方が現れたと思った時では天と地の差がありました。
「僕も、麻由を他の男に取られるなんて絶対に嫌だ」
「ええ」
「こんな似たもの同士の二人は、一緒になるのが一番いいと思わないかい?」
いたずらっぽく微笑みながら、武様が首を傾げられました。
「お互い、相手にこんなに執着しているんだ。いっそ、離れられないように結び付けたほうがいいと思うんだ」
「…そうですね」
「もう一度聞く。僕と一生を共にしてくれるね?」
「はい。私を、武様の奥様にして下さいませ」
私は遂に観念したのでございます。
武様と、ずっと一緒に生きていきたい。
他の女性など見ないで欲しい、私だけを愛して頂きたい。
何年も前から芽生えていたこの気持ちを、もはや隠すことはできませんでした。
ご主人様とメイドという、二人の立場の違い。
これが重い蓋になり、心の底に本当の思いを押し込めてしまって。
その蓋の底で逆巻いていた本心が、一気に溢れ出したのでございます。
武様を愛していながらも、妻になるには荷が重いと、責任逃れをするように身を引こうとしておりましたが。
真にこの方を思っているのなら、結婚して、それに付随する義務や責任も引き受けるべきだと。
遠回り致しましたが、やっとそれに気付いたのでございます。
191 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:27:44 ID:HQ9cRJA6
「麻由っ!」
いきなり引き寄せられ、私は武様のお胸に包み込まれました。
ぎゅうぎゅうと力を込めて抱き締められて、体中が愛しい方に密着して。
まだ微かに残っている香水の匂いにも、もう心が騒ぐことはありませんでした。
両腕を武様のお背に回し、私からも抱き付きます。
頬擦りをして、愛しい方の温もりを堪能致しました。
「今言ったことは、本当だね?嘘なら許さないよ」
「いいえ、嘘ではありませんわ。
…申し訳ありませんでした、武様はこんなに私を思って下さっているのに、それを裏切るようなことを言ってしまって」
「いいんだ、もう過ぎたことだ。僕こそ、君をだまして苦しめるような芝居をして悪かった」
「そんな…もとはと言えば私がいけないのですから」
「それ以上は言わなくていい。現にこうして、君はプロポーズを受けてくれたんだから。
よかった…。やっと、君と…」
涙を堪えるように、小さな声で仰って。
「不束者でございますが、宜しくお願い致します」
私がそう申し上げると、武様は何度も頷いて下さいました。


そのままベッドへと運ばれ、あっという間に服を脱がされてしまいました。
一糸纏わぬ姿を久しぶりに愛する方のお目に晒し、恥ずかしくなります。
「さ、僕を脱がせておくれ」
お言葉に従って、私はワイシャツに手を掛けました。
少し震える手でボタンを外し、下もお脱がせしたあとに二人でベッドに倒れ込みました。
力強く抱き締められ、何度も何度もキスをされました。
こんなに満ち足りた気持ちで口づけを受けるのは、幾日ぶりのことでしょう。
武様の唇が触れるたび、歓喜が波のように押し寄せて胸を満たしました。
「君に触れられない間、気が狂いそうだった……」
キスの合間に、呟くように武様が仰いました。
私も同じです。
この方が他の女性に触れられているのかと想像しただけで、心が騒いでどうしようもありませんでした。
今更ながら、自分で自分を苦しめていた愚かさに頭が痛みました。
「この借りは、徐々に返していくからね。覚悟しておいで」
言い置かれてまた口づけられ、するりと舌が忍び込んできました。
借りを返されるなんて、一体どのようにされてしまうのでしょう。
想像しただけで胸が甘く疼いて、それに突き動かされるかのごとく夢中になって舌を絡めました。


武様のお手が、私の身体を辿って動きました。
優しい中にも、甘い予感を煽るような撫で方をされて。
あっけないほど簡単に、欲望が育っていくのを感じました。
やはり、私はこの方無しでは生きていけない。
ずっと一緒にいたいと、改めてそう思ったのでございます。
「ん…」
一旦顔を上げられた武様が、私の胸元に唇を寄せられました。
きつく吸い上げられ、小さな痛みが走ります。
「芝居のためとはいえ、自分の体にこの痕をつけるなんて、馬鹿馬鹿しいと思ったよ。
やっぱり、麻由の肌に付ける方が僕には合っている」
独り言のように仰るのが、堪らなく申し訳なくって。
「今日は、どこにいくら付けられても構いません。お好きなだけ、付けて下さいませ…」
愛しい方を引き寄せて、私は囁きました。
「そうか。じゃあ、麻由が本当に僕のものになってくれた記念に、そうさせてもらおう」
武様は嬉しそうに微笑まれた後、服では隠せない首筋に強く吸い付かれました。
今日のことを忘れないために、この痕が消えねば良いと願いました。
192 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:29:20 ID:HQ9cRJA6
首筋から肩の辺り、鎖骨、胸元と順に口づけられました。
少しの痛みの後に、何とも言えない満足感が生まれ、体に積もっていくようでした。
唇が触れるたび、武様の温かさが肌を通して私の中に染みとおり、心にまでたどり着いて。
ますます、この方を好きになっていくのが分かりました。
「あ…んっ…あん…」
武様の唇が胸の頂を掠め、その柔らかい刺激に声が上がりました。
もっと触れて欲しいという思いが、ねだるような声を生んだのです。


それに気付いて下さったのか、武様はすぐさま胸に顔を埋められ、色づいた部分を唇で包み込んで下さいました。
赤ちゃんのように一心に胸に吸い付かれるのを見て、くすぐったい気分になりました。
お背に腕を回し、そっと撫で擦りました。
「あ…」
そこをねっとりと舐められて、肌が粟立ちました。
腕に力が入ってしまい、お身体を引き寄せるような格好になってしまいます。
「ん…あ…あん…あぁ…」
触れられた途端に固く立ち上がった頂に、武様の舌が絡み刺激されます。
時折チュッと吸い付かれて、唇でやわやわと甘く噛まれて背筋にまで快感が走りました。
もっと触れて頂きたい、ここを愛して欲しい。
その思いが腕に力となって表れ、私はさらに武様のお体を引き寄せました。
「あ…はぁ…あん…んっ…きゃあ!」
吸い付かれていない方の胸の先を、指で弾かれて高い声が出ました。
そのまま指で挟まれ、しごくように弄ばれて。
舌とはまた違う鮮烈な快感に、身体がますます火照っていくのが分かりました。


武様の唇が一旦離れ、手で愛撫なさっていた反対側の胸へと移動しました。
こちらも許しを乞いたくなるほどに可愛がって下さり、さらに息が乱れました。
空いた方はまた指先で刺激され、それもまた気持ち良くって。
濡れた頂の上で武様の指が踊るだけで、どうしようもなく感じてしまい、高い声が出るのでした。
切ない快感が体中を走り、次第に下半身へと集まり始めます。
膝をもじもじと擦り合わせる私に気付かれたのか、武様は胸から顔をお離しになって。
脚を掴んで大きく開かされ、その間に身体を割り込まされました。
熱くぬかるんでいる秘所が晒され、身が竦みました。
自分でも分かるほど、そこが潤っていましたから。
「隠さないで。じっくり見せておくれ?」
恥ずかしさに思わずそこに手を遣った私に、武様が優しくそう仰って。
逆らうことなどできず、私はおずおずと手をどけました。


ほうっと、感嘆なさったように武様が溜息をつかれたのが聞こえました。
「久しぶりに麻由のここを見るからね、僕も些か緊張しているんだ。
もう二度と、こんな風にはできないかと思っていた…」
少し苦しげに呟かれた後、柔らかく濡れたものが秘所へ届きました。
「あっ!」
下から上へゆっくりとそれが這い、私の口からは短い喘ぎが漏れました。
舌で愛撫されていると気付いたその時には、もう声を抑えることができませんでした。
「やっ…あん…ああっ…んっ…」
鼻にかかった甘い声が、堪えきれずに漏れて。
ギュッと閉じた瞼の裏で光が瞬いて、腰が勝手にガクガクと震えました。
脚の間に愛しい方のお顔があるこの状況が、しばらく無かったためにとても恥ずかしくって。
ベッドの上へとずり上がり、脚を閉じようとしたのですが…。
それを逃すまいとするように、武様がお手に力を込められて。
私はあられもない体勢のまま、愛撫を受ける羽目になってしまいました。
193 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:32:02 ID:HQ9cRJA6
「ひぁっ…ああ!」
秘所の敏感な突起に舌が触れ、悲鳴のような声が口をついて出ました。
「あ…やぁ…」
その途端に武様の舌が逃げ、一瞬だけの快感が見る間に遠のいていきます。
「ん…もっと…あんっ!」
我慢できなくなってせがむと、すぐまたそこに触れて下さって。
再び得られた強い快感に、また高い声を上げました。
「あ…あ…はぅ…ん……あぁ…」
秘所に武様が口を付けられるたび、湿った音が耳に届きます。
その水音が段々と高くなってくるように思え、余計に私は追い詰められました。
「やぁ…あ…ん…ああん…」
シーツを握りしめていた私の手を、武様の手が包み込みました。
その熱さにさらに身体がカッとなり、上へ上へと昇っていきます。
「はっ…あぁ…ん…あ…あああっ!」
背を大きく震わせ、腰を浮かせて私は達してしまいました。


熱い余韻が残る秘所から、武様が顔を離されました。
口元を拭われてから、穏やかな表情で私の顔を覗き込まれて。
「可愛かったよ、麻由」
仰った言葉を聞いた瞬間、全身の血が顔に集まったくらいにのぼせてしまいました。
きっと、ゆでダコのように真っ赤になっていたに違いありません。
「そ、そんな…」
久しぶりだから、気分が高まってこんなお戯れを仰っただけ。
本気にしては失礼に当ると自らを叱りつけるのですが、頬の熱は一向に引く気配を見せませんでした。
「嘘じゃないさ。ほら」
手を重ねられたまま持ち上げられ、下の方に運ばれて。
熱く固いものに触れ、びくりと指が震えました。
「あ…」
「ね、こんな風になってしまうくらい、さっきの麻由は可愛かったんだ」
「…」
今度こそ顔から火を噴きそうになっている私の手に、ご自身を握り込まされて。
上下にゆっくりと動かすよう促され、言われるままに従いました。
手が往復するたびに、握り込んでいるものがますます雄々しくなっていくのが分かります。
これが、もうすぐ私の中に入るのです。
潤った粘膜を掻き分け、熱いこれが身を貫く感触を思って胸が震えました。
さっき達したばかりだというのに。
武様のものに触れたら、また欲しくなってしまったなんて。
自分がこんなに淫らな女であったことを久しぶりに思い知らされました。
私の身体をこんな風になさったのはこの方ですから、連帯責任だと言えなくもないですが…。
でも、武様もきっと同じ気持ちでいらっしゃるはずです。


クチュッと音を立てて、私の中に指が一本差し込まれました。
そこを広げるようにぐるりと掻き回され、期待感が膨れ上がって。
思わず手を止めてしまい、愛しい方のものを握りしめる格好になってしまいました。
早く、この熱く逞しいもので貫かれたい。
武様と一つになりたいという欲望を抑えられなくなったのです。
「あの、武様…」
「ん?」
「…早く、下さいませ…」
小さくお願いして、空いた手で顔を覆いました。
自分からねだる言葉を口にするなど、はしたないことなのに。
指ではもう物足りなくて、どうしても我慢できなかったのです。
「その手をどければ、言うことを聞こう」
「…」
目を見てお願いしなければ駄目だということなのでしょうか。
その言葉に逆らえずに手をどけると、くっついてしまうほど近くに愛しい方のお顔がありました。
194 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:33:12 ID:HQ9cRJA6
「欲しいんだね?」
「…はい」
頷くと、私は身体を起こされ、武様のお膝の上に座らされました。
「さ、おいで」
頬に口づけられてそう仰ったのを聞いて、私は促されるままに位置を合わせ、腰を落としました。


「ああ…あ…」
武様のものが私の中にゆっくり入ってくる感触に、声が勝手に漏れました。
その熱さが、秘所から身体の内部に染み渡り、全身へと伝わって。
心も体も満たされて、天にも昇る心地になりました。
「っ…。入れただけなのに、すごく気持ちがいいよ」
「あの、私もすごく…良くって…っ」
「そうかい?」
「ええ、今死んでもいいくらい幸せです」
「それは困るな」
「え…」
「やっと、君を妻にできるのに。今死なれては困るだろう」
「あぁっ!」
武様が緩く腰を動かされ、快感が身体を駆け巡りました。
「ね、今死ぬわけにはいかないだろう?」
「は、はい…」
繋がった場所から水音が立ち、堪らない気持になりました。
でも、仰るとおりです。
今このまま死ぬわけには参りませんもの。


「麻由のいいように動いてみなさい」
武様に促され、私は少しずつ腰を動かしはじめました。
二人の距離が近付くたび、何ともいえない快感が下から湧き上がって。
一旦腰を引き、また愛しい方との繋がりを深くすると、どんどん気持ちよくなっていくのが分かりました。
自分が上になるのは、あまり得意ではないはずなのに。
苦手意識や羞恥心など、そういったものを全て忘れ、私は夢中になって動いていたのです。
「あっ!」
武様に胸の頂を口に含まれ、愛撫されました。
刺激で下腹に力が入り、武様のものを締め付ける格好になって。
その熱さ、形がはっきりと感じられ、頬にカッと血が昇りました。
先程触れられていますので、いつもよりさらに頂が敏感になっています。
それに加え、繋がっている時にそうされるのですから堪りません。
「ああ…んっ!あ…やぁ…あんっ…」
弱い所を二箇所同時に刺激され、喘ぎを止めることができませんでした。
自分の声が次第に大きくなっていくのが分かるのですが、自分でもどうしようもないのです。
「ほら、麻由。腰がおろそかになっているよ?」
チュッと音を立て、胸から唇を離された武様が仰いました。
そうでした、この方は繋がっている時に胸も愛撫なさるのがお好きなのです。
こうすると私の中がキュッと締まって、ご自分のものに絡み付くのが堪らないと以前に仰っていました。
「休まないで。ちゃんと動くんだ」
「きゃぁっ!」
腰に添えて下さっていたお手が移動して、私のお尻へと位置を移しました。
ゆっくりと撫でられてから大きく揉まれて、忘れていた羞恥心がワッと押し寄せました。
「いや…そんな…っ…」
「動かないと、このままだよ?」
愉快そうに仰った後、また武様は胸への愛撫を再開されて。
それに身悶えしながらも、私は心の片隅で安堵していたのです。
武様と心が通じ合い、ただ恋の喜びに打ち震えていた最初の頃。
私はよくこうやって楽しげに責められ、翻弄されておりました。
小守様の一件の後、この方は妙に私を気遣われるようになってしまって。
本来のご趣味と申しますか、私をいいようになさることを遠慮なさっていたように思うのです。
ですから今こうして、武様らしさを取り戻されたことが、とても嬉しかったのでございます。
195 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:35:09 ID:HQ9cRJA6
「んっ…ああ…ぅん…はぁん…あぁ…」
促されるまま、また私は腰を動かし始めました。
お尻に這っていた武様のお手は、再び腰に回されて。
動く私を支えて下さり、身体がぶれないようになりました。
いいえ、もしかすると、私が恥ずかしがって身体を離さないように捕まえられているのかも知れません。
でも、もうどちらでも良いと思うのです。
こうやって触れられていることがとても嬉しくて、胸が一杯になっていたのですから。
「あ…あん…武様っ…ん…っは…」
電流のように駆け巡る快感に身体を震わせながら、さらなる上を目指して動きました。
次第にふわふわとした浮遊感が全身を包み込み、頭の中が白くなっていって。
夢うつつの中で、愛しい方と身体を繋げているという幸福な事実がここにあることに感謝致しました。
「ん…ぁあ…気持ちいい…んっ……」
他のことが何も考えられなくなり、一心に頂点を目指して懸命になって。
私の思うようにさせて下さっていた武様も、次第に腰を動かし始められました。
「ああ!…あ…はぁ…ん…ああんっ!」
力強い突き上げに身体が反って、天を仰ぎました。
「麻由、麻由…っ…」
恍惚とした中に、武様が名を呼んで下さるのが聞こえて。
それが嬉しくて、押し寄せる快感を堪えて身体を戻しました。
「武様…っん…」
身体が反り返りそうになるのを押しとどめるべく、お背に掴まる手に力を込めて。
顔を近付けて、愛しい方の唇を自分のそれと重ねました。
すぐさま舌が侵入してきて、私のものと絡まって。
何もかも吸い尽くされそうになりながら、さらにと求め続けました。
「あん…っはっ…んっ!」
息が苦しくなって離した唇を、またすぐに奪われて。
そのまま押し倒され、ベッドに埋もれさせんとするほどの激しい責めが私を襲いました。
「やぁ!あ…あ…武様…っ…もう…イっ…あんっ!」
息も絶え絶えになりながら、目の前の愛しい方に訴えます。
「ん…そうか…一緒に…くっ…あ…」
額に掛かる髪を払って下さった武様が、さらに動きを大きくなさって。
私達は絶頂への階段を駆け足で昇っていきました。
「ああ…んっ…はっあ…あ…んく…あああぁんっ!」
武様のものが大きく脈打ち、全てを吐き出されたのを中に感じた瞬間。
私は愛しい方に強くしがみついて、絶頂を迎えました。

196 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/04(日) 20:36:15 ID:HQ9cRJA6
抱き合った体勢のまま、武様がごろりとベッドに横になられました。
向かい合ってお互いの顔を見詰めながら、乱れる息を整えて。
今しがた激しく愛し合ったことを思い、余韻に浸っておりました。
「麻由」
「はい」
「イく時、爪跡を付けてくれたね」
「え…」
仰った言葉に心臓が跳ね、慌てて抱擁を解いて身体を起こしました。
横向きに臥しておられる武様のお背に目を遣ると、ご自分でつけたと仰っていた白い筋の脇に、爪が食い込んだ小さなへこみが見えました。
「も、申し訳ございません!」
甘い余韻から覚め、ぺこぺこと頭を下げて許しを乞いました。
プロポーズをお受けした身とはいえ、私達はまだ主従の関係にあります。
ご主人様に痛い思いをさせてしまったことに、胸がギュッと縮みました。
「いや、そんなに謝ってくれなくていいんだ。
僕が自分で付けた爪跡を、上書きして消してくれたんだからね、礼を言いたいくらいだ」
「え…」
お礼だなんて、そんな…。
「君を口説き落とすためとはいえ、自分であんなことをしたのは面映くってね。
だから、君が新しいものをつけてくれて、よかった」
そう言って微笑まれた武様に引き寄せられて、再びお胸に包み込まれました。
「もう二度と、あんなことはしたくない。
僕の背に爪跡をつけてもいいのは麻由だけだ、いいね」
「はい」
「君も、僕以外の男にこうされたりしたら許さないよ」
「勿論です」
そんなことは、想像したくもありません。
私をお抱きになるのは、生涯この方お一人。
武様がそうお望みになる前に、とっくに自分でそう決めていたのですから。
少し脇道に逸れましたが、このことを改めて肝に銘じ、これから押し寄せる世間の荒波に立ち向かおうと思いました。


「僕達には、今まで記念日と呼べるものは無かったけれど。
今日は、誰憚ることなく記念日だと言えるね」
「ええ、本当に」
武様と共に生きることを決意した記念すべき日になりました。
今後、何かにつまづき落ち込んだ時には、今日のことを思い出して、また新たに頑張る原動力にしなければなりません。
「これからは、結納の日、結婚式の日と記念になる日が目白押しになる。
式の日と届けを出す日をずらして、祝う日を増やすのもいいかも知れないね」
「でも、それでは多すぎて、忘れてしまうと思うのですが…」
「えっ、忘れるのかい?ひどいことを言うなぁ麻由は」
「いえ、そういう意味ではありません、その…」
「冗談だよ、照れているだけなんだろう?」
「はい…」
嬉しそうに仰るのを見て、胸が甘く騒いだのもお見通しだったようです。
「さ、もうお休み」
「はい、お休みなさいませ」
「お休み、麻由」
優しく仰って目を閉じられた武様のお顔を見詰めました。
最近見られなかった穏やかな表情で眠りにつかれるのを見て、心が和みます。
天国から地獄という言葉はありますが、今日の私は全く逆で、地獄から天国に引き寄せて頂いたようで。
申し訳ないことをしてしまった分、この方を一生愛し、寄り添って生きようともう一度決意を新たに致しました。
朝はもうそこまで来ていますが、少しぐらいなら眠れるでしょう。
愛しい方に身を寄せ直して、私も満ち足りた思いで目を閉じ、眠りに落ちていきました。

──続く──
197名無しさん@ピンキー:2008/05/04(日) 22:31:15 ID:TGA8ndPT
GJ!!
198名無しさん@ピンキー:2008/05/04(日) 22:37:29 ID:pUopf0f6
ついに!ついに!!
199名無しさん@ピンキー:2008/05/04(日) 23:53:08 ID:duMGjWDs
GJすぎる!
200名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 00:23:41 ID:fleM/XX0
ついに…!
本当によかったね、麻由、武様ー
201名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 02:43:36 ID:a4QqQTG/
GJすぎる……もう自分の持つ言葉では十分に讃えることができないよ

続くということは新婚初夜を描くのか、それとも……
「武様」ではなく「あなた」と呼ぶ麻由に期待
202名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 12:47:57 ID:1SK4moun
GJ!
すばらしすぎてこの板ではじめて書き込んだ!
読んでるこっちも一喜一憂して、最後はほわぁ〜んて幸せになった。
ありがとうと言いたいっす。
203名無しさん@ピンキー:2008/05/07(水) 16:54:18 ID:pEyeij8o
SS読んで思わず右手を握り締めるとかwww
204名無しさん@ピンキー:2008/05/07(水) 19:06:33 ID:/qd6cH1s
次は物わかりの悪い親戚が出て来ると見た!
205名無しさん@ピンキー:2008/05/07(水) 23:52:03 ID:ttYqwikW
前半読んで武様がヤンデレ化したかとあせった。びっくりさせるなよってんだ。
206保守小ネタ:2008/05/10(土) 00:12:06 ID:wpsI0nD2
千春 16歳の新米メイド
広樹 千春が仕えてるご主人様、31歳


「ああっ…んっ!……あん…はぁん…ご主人…様…」
主のベッドに組み敷かれ、着衣を乱して喘ぐ初々しいメイド。
それに覆いかぶさり、たゆまぬ愛撫を続けているその主。
この屋敷の日常的な風景となりつつある行為が寝室でくり広げられていた。
メイドの名は千春。生まれ育った田舎を離れて、広樹の暮らすこの館に女中奉公をしに今春やってきた。
初日に会った時は小柄で垢抜けない、いかにも田舎娘といった風貌の娘であった。
田舎の病気がちな母に楽をさせてやりたいという理由で、中学卒業後この屋敷に奉公に来たと報告を受けていた。
今時なかなか無いその動機に、広樹の印象の中に残った。
少ない給料のほとんどを仕送りしている孝行娘だと、屋敷の使用人達の評判も悪くない。
人格に問題は無いが、その度を越したそそっかしさが上役の頭痛の種になっているようだ。
廊下のぞうきんがけをすれば飾り棚に頭をぶつける、アイロンを持たせればシャツを焦がす、食事の給仕をすればカトラリーをぶちまける。
慣れない屋敷で働くことが緊張を生んでしまって、逆にミスを連発するらしい。

今回の失敗が主である広樹に報告されたのにはわけがある。
千春が割った有田焼の皿は広樹の祖母が存命中に大事にしていたコレクションの中の一つ。
使用人が食事に使う皿なら五、六枚割っても少し小言を言うだけですむのに、なぜこの皿だったのか。
そう嘆くメイド長の声が聞こえてくるようで広樹は苦笑した。
あまり好きではなかった祖母のコレクションなど、よく覚えてもいない。
今回メイド長に報告を受けて初めて、ああそうだったのかと思ったほどで広樹は特に執着してもいない。
しかし、千春は「ご主人様の大切なお皿」を割ったと思い込み、青ざめて身を小さくしている。
おそらく、皿を割っただけで井戸に投げ込まれ殺された有名な怪談のことでも考えているのだろう。
はかなげなその姿を少しからかってやろうというイタズラ心が生まれ、広樹は千春へと近付いた。

その気配に気付いて千春が顔を上げた。
目に涙を浮かべているのを見て、広樹のイタズラ心がますますかきたてられる。
「大変なことをしてくれたね、千春」
わざとらしくため息をついて言った言葉も、違和感なく受け取ってくれたようで千春はますます小さくなった。
「あれは大層高価な品物だ。とてもお前の給料で弁償できるような物ではない」
続く言葉を予感したのか、千春が大きく肩を震わせる。
「クビにしてしまうのは簡単だが…」
「お許しくださいませ、それだけはご勘弁を!」
広樹の言葉をさえぎって千春が大きな声で言った。
「何でもいたしますから、クビだけはお許しください、お願いです…」
ひたすら頭を下げる千春を見て、広樹の口角が上がる。
「そうだな、せっかく雇った人間をクビにするのは早すぎる」
それを聞いて、千春がホッと息を吸い込んだのが分かった。
「ただ、あの皿を割ってお咎めなしというわけにはいかないんだ。君には罰を受けてもらう」
207保守小ネタ:2008/05/10(土) 00:13:06 ID:wpsI0nD2
「え、罰…ですか…?」
「そうだ。黙って受けさえすれば、皿のことはもう不問にしよう」
主人らしく重々しい口調で広樹が言ってやると、千春はいくぶん明るくなった表情で顔を上げた。
「承知いたしました、どんな罰でもお受けいたします」
そっとこちらへ差し出した手をつかみ、寝室へと移動する。
千春をベッドに横たえ、その上から覆いかぶさって顔を覗き込んだ。
使用人の受ける罰といえば、手に主人の鞭を受けることが世間一般の慣わしである。
さっき千春が手を差し出したのもその意味からであった。
広樹も最初はそうしようと思っていたが、うなだれている千春の姿を見ているうちに別の罰を思いついた。

「あの、ご主人様…?」
予想と違ったようで、千春は戸惑った声を上げて目の前の主人の顔を見つめる。
黒目がちな瞳でまっすぐに見返され、広樹のテンションが上がった。
「女の子の手を鞭で打つなんて野蛮なことはしない。その代わりにお前の体を見せてもらう、これが今日の罰だ」
はやる心を抑えて申し渡した広樹には、ある意味もっと野蛮なことをしているというツッコミは不必要だった。
残念ながらここは関西じゃないのだから。
「かしこまりました、謹んでお受けいたします」
そそっかしくて失敗ばかりのこの娘も、言葉遣いだけは合格点だ。
だが、大人の男が自分にかぶさって「体を見せてもらう」と言ってるのに逃げないのはなぜかと広樹の頭に?マークが灯った。
この年齢の少女ならこれから何をされるか分からないわけでもないだろうに。
いや、この千春ならありえるかもしれない。
まあいい、本人がおとなしく罰を受けると言っているんだから願ったり叶ったりだ。

千春の首元に結ばれた朱色のリボンタイをほどき、ブラウスのボタンを外す。
左右に開くと、およそ色気とは縁のない綿の下着が現れた。
下着を内側から大きく押し上げるほどはまだ成長しておらず、控えめなその量感が若さを物語る。
その上から手を重ねるとピクリと体を動かした。
逃げる気配が全くない、これを本当に自分への罰だと信じこんでいるようだ。
気を良くした広樹は下着の止め金を外して、その胸をあらわにする。
予想通り、小さな胸がそれでも健気にふるりと震えて目の前に現れた。
成長途中であることを示すように張りがあり、十分鑑賞に堪えうる胸であった。
広樹は両手で触れ、怖がらせないようにゆっくりと揉みはじめた。
千春の目も口もぎゅっと閉じられたままで、反応は見られない。
引き結ばれた唇から声を上げるのが見たいという思いにかられた広樹は、さらなる愛撫を与えようと考え付いた。
そして、引き寄せられるままにピンク色をしたその先端へと口づけた。
「んっ…」
鼻にかかった声が耳に聞こえてさらに広樹のテンションが上がる。
「我慢するんだ、これは罰なんだから」
こくこくと縦に首を振るのを確認してまた胸に唇を戻す。
男を知らない体に触れるのはひどく気分がよく、征服欲をそそられた。
後腐れのない女ばかりを選び、関係を持ってきた広樹は処女にこうするのは初めてのことだ。
処女は扱いにくくて面倒だと言われているが、いざこうして接してみるとなかなか悪くない。
うら若い少女に欲望を感じるなど自分もオヤジになったのかと嘆く思いは脇に置いて、さらに愛撫を施した。
208保守小ネタ:2008/05/10(土) 00:15:01 ID:wpsI0nD2
「あ…あ…くっ…ふぁっ…ん…あぁ…」
しばらく触れているうち、千春の反応が変わってきたことに広樹は気付いた。
ガチガチに緊張していた体の力がゆるみ、我慢していた声が触れるたびに上がる。
今まで無自覚だった性感帯を刺激されて、驚きより気持ちよさが前に出てきたのだろう、良い傾向だと広樹はにんまりする。
ほっぺたをピンク色に染めて、それでも逃げ出そうとしない千春がだんだんと可愛く思えてきた。
出会った時は田舎者で垢抜けない少女だとしか思っていなかったが。
それなりに扱ってやれば、案外すぐに脱皮して、女の魅力を身につけるようになるのかもしれない。
自分の体の下で声を上げているこの少女への興味をさらに引き立てられた広樹であった。

しかし、一抹の罪悪感が広樹の心に巣食ったまま、消えてくれない。
確かに高価ではあるが、大して大事でもない皿を割った罰だと言ってこのような行為を強いるのは倫理的にどうだろうか。
その気持ちがこれ以上行為を進めるのを躊躇させた。
処女をもらうのは、今日じゃなくともよさそうだと広樹は思えてきた。
さんざん千春の幼さの残る胸を弄び、一息ついたあとに乱した着衣を整え、リボンタイも元通りに結んでやる。
「これからまた失敗をしたら、こういう恥ずかしい目にあうということを覚えておきたまえ」
あくまでもこれは罰だというスタンスで高圧的に言い渡し、部屋からの退出をうながした。
数日のうちにまた機会がめぐってくるだろう、焦ることはないと思えたのだ。


そして、広樹の思ったとおりになってしまった。いや、なってくれたと言うべきだろう。
頭を下げる千春の横で、しでかしたことを使用人代表として謝るメイド長の言葉はもう広樹の耳には入らなかった。
何をしたかというメイド長の説明など、右耳から左耳に抜けてしまったのだ。
一対一で説教をするということを告げてメイド長を下がらせ、二人っきりで向かい合う。
「失敗をしたら罰が待っているのは理解しているね?」
「は、はい……」
消え入りそうに小さな声で返事をする千春の態度が広樹の欲望に火をつけた。
「今日は罰のレベルを上げる。自分で脱ぎなさい」
広樹は冷たい口調で命令し、あごを上げてうながした。
指を震わせながらリボンタイをほどいてブラウスのボタンを外す千春の姿にますますそそられるのを感じていた。
命令どおりに前をはだけた千春におどおどと見つめられ、さてこれからどうしようかと考える。
離れたままでは何もできないと、広樹はまた千春の腕をつかんでベッドへと向かった。
横になるように言って、広樹自身もネクタイをほどいてYシャツのボタンを2つだけ外した。
先日と同じようにまた千春の胸を思うがままに触れ、その反応を楽しんだ。
209保守小ネタ:2008/05/10(土) 00:16:18 ID:wpsI0nD2
若くみずみずしいその体に口づけ、指で刺激するたびに心がはやって止まらない。
「あっ…ぅん…ん、っ…ひゃあん…ああ……」
心なしか最初の時より千春の声に艶が出ているように広樹には感じられた。
まだ「女」ではないこの娘も、このような声を出すようになるのかと不思議になる。
遊びで抱かれる女の演技には慣れている広樹には、千春の反応がまぶしくさえ感じられた。
これはますます、あっさりと頂いてしまうには惜しいと広樹は考えた。
今後も同じ「罰」を与え続けてやれば、千春はどんな反応を見せてどう変わっていくだろう。
ふと思いついた考えに興味がわいて、広樹は再び微笑んだ。
千春はこの屋敷のメイドである。
主人のすることにいやとは言えない立場であるから、楽しみが増えるというものだ。
無理矢理抱くのもそれはそれで楽しかろうが、快楽の味を覚えさせて身も心もトリコにしてから全てを頂くのも悪くはないと広樹は考えた。
とりあえずはまず胸だ、ここを心ゆくまで可愛がってやろうと決めた。
「んん…あっ…ふぁ…ご主人様……」
控えめに上がる声に後押しをされた気になって、広樹は時間をかけて千春に快感を覚えさせた。
それはまるで「奉仕」という言葉がぴったりとくるようなものだった。
主人とメイドという立場がまるで逆になったかのようだったが、夢中になっている広樹はそれに気付かなかった。



その後も何度か機会に恵まれたが、広樹はまだ千春の全てを奪うまでにはいたらなかった。
いっぱしに遊んでいるつもりだった彼も、処女を相手にするのは初めてでどうも決心がつかない。
女の初体験は重要で、一生残るものだからと柄にもなくしり込みしているらしい。
千春が「罰」を受けている最中、以前はギュッと閉じられていた脚の力が抜けて腿や膝がすり合わされているのに気付いていないのか。
この「罰」を本当はいやがっていないという千春の本心にも気付いていないのか。
「今度こそは下半身に触れて『胸よりもっとすごい快感のポイント』があるのを教えてやろう」と息巻いている割には、いざ千春を前にすると思い切れない広樹。
自分の性器に奉仕をさせてみようなどという考えもいまだ実行には至っていない。
ミスをしたメイドの体を思うがままに弄んでいるようで、実はとっくの昔に千春に夢中になっていることにさえ広樹は気付いていなかった。
滑稽な主人の姿は厚い扉に閉ざされ、他の者の目に触れることは決して無い。
210保守小ネタ:2008/05/10(土) 00:20:47 ID:wpsI0nD2
あ、オワリです
落としどころ分かんなかった
211名無しさん@ピンキー:2008/05/10(土) 00:35:12 ID:O920WoaW
>>210
皿を割るたびにお仕置きのことを考えてしまって千春の下着の中が熱くなるんですね?

わかります





ところで本番マダー?
212名無しさん@ピンキー:2008/05/10(土) 01:02:58 ID:Jr1+l4o9
なんてノーマルな若造なんだろう。
深夜の人気のない屋敷の中を、全裸で首輪だけつけて
「雌犬のお散歩」くらいはするべきだろうが!
213名無しさん@ピンキー:2008/05/10(土) 12:05:15 ID:ElxhUQ7R
なあ、このスレってワンピにエプロンのメイドじゃなくて、和服に前掛けの女中さんでも投下おk?
214名無しさん@ピンキー:2008/05/10(土) 12:12:32 ID:Ot6d/G3t
おk。全裸でwktk
215名無しさん@ピンキー:2008/05/10(土) 12:39:40 ID:d2ZcN1f6
女中さんと聞いて思い浮かべたら、
何故かその手にしゃもじが。
腹減ってんのか俺。
216名無しさん@ピンキー:2008/05/10(土) 13:33:00 ID:CNDOH2u9
えーと、まだメイドさんが存在しない時代の日本で、女中さんがマジカルしゃもじで華麗にメイドさんへと変身。



ある日変身後をご主人様に見つかってしまってなんだそのテラモエスな服はーてな勢いで抱いてしまって。


変身もののお約束で正体はなぜかばれていなくて、もともと女中さんに惚れてたご主人様はああ心に決めた女性がいながら勢いで別の女性を抱くなんてと悩み。


ご主人様にメロメロな女中さんは抱いてほしくて夜中に変身してはご主人様の寝所に潜りこみ…。



あとはお前たちに任せた。
217名無しさん@ピンキー:2008/05/10(土) 14:04:40 ID:d2ZcN1f6
マジカルはたきやマジカル洗濯板で状況に応じた変身ですね、わかります
218名無しさん@ピンキー:2008/05/10(土) 20:01:33 ID:7cYDHTSQ
そこに、マジカル☆こみんてるんが攻めてきて、国が一気に共産化
ご主人様は人民の敵として、粛清されるのですね
わかります
219名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 02:52:54 ID:fwYqezYW
>>210
これは保守ネタをはるかに超えているだろ…常考
超乙!
220名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 21:34:22 ID:3F1/+/FS
>>216
マジカル=魔時駆る
まさに、しゃもじの魔法で時を駆ける少女になったメイドさんなんですね!


んで、ある時に女中さんとメイドさんの仕草か何かが同じで、ご主人様は疑念を抱くんですよね。

メイドさん抱いた時にキスマークか噛み跡みたいなのを本人が知らない間につけるんですね。

女中さん姿の女中さん(分かりづらいな)の裸をのぞいて、同じところに自分の付けたあとがあるのを確かめるんですね。
そのままものにして、ああ着物もいいなあと和にも目覚めるんですよね。
ええ、よく分かります。
221名無しさん@ピンキー:2008/05/14(水) 12:20:08 ID:a8gt2gcU
普段は着物に割烹着な女中さんにメイド服を着せる
222名無しさん@ピンキー:2008/05/14(水) 16:10:12 ID:D/476PlO
……琥珀?
223名無しさん@ピンキー:2008/05/14(水) 22:56:49 ID:kuw4IXZd
ある夜の事でした。

ずいぶんお酒を嗜まれ、かなり出来上がりお顔の紅くなったご主人様が「ワカメ酒いいよなぁ。
飲んだことないし」と仰いました。
その時はよく分からなかったので、ニッコリ微笑むだけでやり過ごしましたが
次の日用の脳内お買い物リストに、書き加えておきました。

明くる日、ご主人様をお送りして、邸内の仕事を一通り終えると、お買い物に出かけました。
近所の酒屋に出向き「ワカメ酒置いてますか?」と元気よく尋ねるも、酒屋の男性店員に
「ハァ?」という顔付で、「・・・置いてないんですけどぉ」と言われてしまいます。

少し遠目の大きめの酒屋にまで足を伸ばし、再度探してみたましたがここにもありません。
若くてカワイイ男の子店員さんに尋ねたところ、「置いてません」と俯きがちに言われました。

他にも回りましたが、どこでも答えは一緒で売っておりません。

諦めて家に戻り、(確か昨日の新聞にリカーショップのチラシが入ってた)と思い出し探して
見つけて、電話してみました。
出た女性店員に聞いたところ、何故か「うちでは扱ってません!」と半ギレで対応される始末です。
見つからない上、お客に対してのヒドい接客態度に、悲しくなるやら、腹立たしくなるやらです。

よく考えますと、お酒が好きなご主人様が、今まで飲もうと思っても飲めなかったお酒な訳です。
町内の酒屋程度では入手困難なのかもしれいないと、インターネット通販で取り寄せる事を
思いつき、検索してみました。
そして・・・、真実を知りました。


・・
・・・
もうこの町では恥ずかしくて働けません。
今晩、ご主人様がお帰りになった時にお渡ししようと、辞表を書いています。
224名無しさん@ピンキー:2008/05/16(金) 10:39:47 ID:ggqsGcr0
はやまるな!
225名無しさん@ピンキー:2008/05/16(金) 10:57:24 ID:A9fjF/mS
メイドのくせにわかめ酒を知らないとは
おしおきです
226名無しさん@ピンキー:2008/05/16(金) 12:12:50 ID:qBBrJmpj
この行間の間の取り方……読めた!
227名無しさん@ピンキー:2008/05/16(金) 18:21:45 ID:0QRCnm6f
わかめ酒って、玉子酒みたいな感じで、
風邪の時とか飲んだら利きそうな感じがする
あとご主人様が頭の毛が寂しくなり始めたら、
ヨード分の補充にとか

まぁ、お座敷芸なんだが
228名無しさん@ピンキー:2008/05/17(土) 22:53:46 ID:sl/FRkuR
少しデブじゃないとこぼれる(漏れる)んだよね。あれって。
229名無しさん@ピンキー:2008/05/18(日) 00:45:23 ID:hgNSmk90
わかめ酒をこぼしてしまうとは
おしおきです
230名無しさん@ピンキー:2008/05/18(日) 11:02:16 ID:oZ+piJnA
本当にワカメ酒という酒が売っていてワロタ
ワカメエキス入りwwww
そのままネーミングする勇気がスゲエ
231名無しさん@ピンキー:2008/05/18(日) 23:36:41 ID:K0DmcPZ0
ちんすこうを肴にワカメ酒を飲むんですね、わかります。
232名無しさん@ピンキー:2008/05/19(月) 10:07:22 ID:2UQCGM1L
正確には「わかめ酒(しゅ)」な。

ttp://www.kanoko-sake.co.jp/wakamezake.htm
鳴門海峡 わかめ酒

渦潮か・・・ぐ〜るぐ〜る
わかめエキスで髪が薄くなってきた人にもおすすめかもしらん。

233名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 00:35:43 ID:j0jyXlqp
234名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 12:17:52 ID:B01ylvwp
わかめのお酒だからわかめ酒です
何か問題が?
235名無しさん@ピンキー:2008/05/22(木) 03:26:26 ID:fqdJkyKK
>>213
>>222じゃないが、俺も月姫の琥珀さんみたいの連想した
ttp://www.hobbystock.jp/item/view/goods_img/HBY-GCF-00001357.0.jpg

腹黒キャラでも、清楚キャラでも、ツンデレでも構わない
待ってる


>>221
双子の妹が正統派メイド服のメイドさんで、普段は割烹着な姉が
勝手に妹の服を着て化けてみる
そのまんまで、スマン
236 ◆/pDb2FqpBw :2008/05/22(木) 14:35:53 ID:3z4NLxho
>>21-30の続きです。
237 ◆/pDb2FqpBw :2008/05/22(木) 14:36:19 ID:3z4NLxho
【Hydrangea】


「咲野ですが、御前にお返ししたいのですが。」
俺がそういうと御前ははて。と首を捻った。

「ほう。何か問題でもあったのか?」
とぼけていやがる。

「いえ、大変良く働いて貰ってはいます。」

「なら問題ないではないか。一度受け取ったものを返すなんてそんな野暮な事を言うな。
 一度受け取ったならお前が最後まで責任を持て。」

「最後まで責任を持てって咲野は犬や猫じゃないんですから。そういう事じゃなくてですね。
 もう咲野を家に置いておく訳にいかないんですよ。
 御前。はっきりと申し上げます。
 御前はどういう教育をメイドにされてるんですか。」

「ほう…お前にそれを言われるとは思わなかったな。何かあったのか。」
あごひげを撫でながら目を丸くして口を開く御前の前にずいと歩み寄る。
238 ◆/pDb2FqpBw :2008/05/22(木) 14:36:55 ID:3z4NLxho

「何かあったなんてもんじゃありません!確かに家は綺麗になりました。
 料理もおイネさんに勝るとも劣らない腕前を持っていることは判りました。
 醤油とオカカの味の染みたこんにゃくの煮物なんていうのは昨今の若い女性にはそうそう作れるものじゃない。
 その上掃除に洗濯、目まぐるしく働いてくれてありがたい事この上ない。
 随分と楽になりました。」

「なんだ。何の問題もないじゃないか。」

「ええ、メイドとしては何の問題もない。
 しかし!彼女が風呂場に忍び込んでくるとなると話は別です!」
びしっと御前を指差す。
どうだ。ショックだろう。

「何を言っているんだ。風呂場にメイドが来て何が悪い。寧ろいないほうが困る。
 背中をどうやって流すんだ。」
ショックを受けると期待した俺が馬鹿だった。
平然と答える御前に怒鳴り散らす。

「わ、わ、わ、私がどんな目に遭ったと思っているんです!御前!!
ふ、ふ、風呂に入っていたらか、か、彼女が裸になって」

「ん?メイド服は脱ぐだろうが下着は着ていなかったのか?」
む、と眉を寄せる御前。
239 ◆/pDb2FqpBw :2008/05/22(木) 14:37:23 ID:3z4NLxho

「ああもう、そういう事は問題じゃないでしょう!!
 確かに黒いストッキングと下着は付けていたが、だから何なんです!?」

「ああ良かった。そうだろう?咲野は主人の前で言われもせずに全裸に為るような子じゃあないと思ってたんだ。」
ほうと胸を撫で下ろす御前。
と、横に控えた30そこそこだろうか、御前お気に入りのやたらと艶っぽいメイド長まで
一緒になってほっとしたように息を吐く。
なんなんだ、お前ら。

「なら何の問題もないじゃないか。なあ、由岐乃。」
「そうですよ拓郎様。私、心臓が止まるかと思ってしまいました。
 咲野がそんなはしたない事をしただなんて。」
私の責任になってしまいますわ。とメイド長がいかにも吃驚したという風にエプロンを掴みながら言う。

「・・・ええと、何が違うんです?」

「何を言っている。メイド服と云うのはだな、汚れても良い服ではあるが、汚しても良い服ではない。
 風呂場にて奉仕する際に脱ぐのは当たり前だろう?」

「御前、言っている意味が良く判りません。」

「それはお前の理解が足りないだけだ。まあいい、何を言っているんだ。何の問題もないじゃないか。
それで、背中を流してもらったんだろう?」
240 ◆/pDb2FqpBw :2008/05/22(木) 14:37:53 ID:3z4NLxho

「御前、何を言っているんですか!流してもらう訳にいかないでしょう?そんな。
私は、でも私は頭が真っ白になってしまって、でもそうでしょう?あんな、白い上下の下着に
黒いストッキングだけみたいな格好を見せられたら。だれだってしどろもどろになってしまう。
だからべ、便所に行くと言って彼女の体を出来るだけ見ないようにして外に出ようとしたら御前、
いったい、な、な、何て言ったと思います?彼女が!」

「最近外は寒いからゆばりだったら風呂場でして下さいませとかそんな事だろう。」

「そうです!しかも彼女、跪くなり宜しかったら私の手か口になさいますかとか言って
手をお椀のように広げてってええええええ御前えええええ?」

「当たり前じゃないか。何が悪いんだ。なあ。」
御前の言葉に満足げに頷く艶っぽいメイド長。

「ご主人様に付随するものそれ全て尊いものであることは当然で御座います。
況やご主人様から出されたものなら尚更。
しかし一般的に考えて風呂場でおゆばりを出す事は衛生的に多少問題がある事もしかり。
で、あればメイドがその手か口を使おうとする事は当然と言えば当然。当たり前の事でしょう。」

「いやいやいやいや嘘だ嘘だ嘘だ。」
俺の言葉を無視してメイド長は続ける。

「しかし、教育されたメイドとは言え、事急を要する事態に正しい判断をするというのは中々難しいもの。
とっさのうちにそれだけの判断が出来る用になるとは、」
拓郎様の躾が宜しいからでしょうね。とにこにこと笑うメイド長。
そうだろう、そうだろう。わしの目に間違いはないからな。と目を閉じて頷く御前。

「ありえない、いやいやいやありえないでしょう。いやおかしいでしょう。」
なんだその成長した子供を見るような慈愛に満ちた態度は。
241 ◆/pDb2FqpBw :2008/05/22(木) 14:38:19 ID:3z4NLxho

「で、どうしたんだそれで。」

「慌てて振り切って服を着て飛び出しましたよ。当たり前でしょう?
で、次の日からは私が入っている風呂場へは絶対に入るなときつく申し渡しました。」

「なんだ、つまらん。じゃあ、手を出してないのか。」

「手を出すも出さないも無いですよ!それに、それだけじゃないんです。いいですか、聞いてくださいよ。
その事があって、私は咲野を呼んで懇々と説教をしました。
若い娘が人前で、例え雇い主である私の前ででも独身の男に肌を晒すという事がどういう事か、
男とはいかに危険なものか、若い娘とはそれから身を守る術をいかにして持たなければいけないのかと。
判るような判らないような今一釈然としないような顔をしていましたが、
最後にはご主人様が仰るのならと納得して貰いました。でです、その話の折!」

「どうした。」

「まず始めに、御前には正直にいいますよ。ええ、ええ。確かに。私も正直になります。
確かに私にも下心が無いといったら嘘でした。
御前の言っていた事も全て否定するつもりはありません。
私だって健全な青年です。家のメイドに手をつけたなんて話は珍しい話じゃないですしね。
それに咲野はあの器量です。正直、毒を喰らわば皿までと思わなかった訳でもない。
無論、お互いの気心がしれて、結婚の覚悟がお互いに出来てからですがね。」

「毒じゃないぞ。薬じゃないか。」
ははははは。と何が可笑しいのか御前が笑う。
お戯れ程度なら兎も角、拓郎様とご結婚だなんて、そんな冗談を言われたら咲野が卒倒してしまいますわ。
とメイド長がさも可笑しそうに笑う。
だからこの人たち何処が可笑しいんだ。
外国にいるかのような錯覚を味わう。
242 ◆/pDb2FqpBw :2008/05/22(木) 14:38:42 ID:3z4NLxho

「で す が !話を聞いてください!
正直、確かにそういう気持ちが全く無かったといえば嘘になるんです。
し か し、しかしです!彼女が1 8 歳以下と知れば話は別 で す。
咲野はしっかりしているし凛として体型もそこらの若い娘よりよっぽど大人っぽい。
私はだからてっきり年上だと思っていたのです。もしくは同じ位の年なのかと。
それがなんですか。17歳!彼女は言いましたよ私の前で。自分の年は17歳であると!
御前、ご存知でしたか?咲野は17歳なのですよ!
御前はメイドにどういう教育をされているのか、私は目を疑いましたよ。
そんな、年端もいかぬ若いメイドにふ、風呂場で下着になるだなんてそんなふしだらな真似を・・・」

「風呂場でメイド服を脱ぐのは当たり前じゃないか。ふしだらとは違うだろう。
それに咲野は8つでうちに来て、来月が誕生日だから今はまだ16の筈だ。」
なあ、とメイド長に振る御前。ええ。ご主人様の仰るとおりです。と頷くメイド長。

「うう・・ああ!もう!違う、違う!そういう事を言っているのではありません。
御前は、そういう事を若いメイドにさせているのですか?とそういう事を言っているのです。」

「いいや、ワシはああいう若いのは好かん。風呂場での世話はもっぱらこいつか年長の連中だ。」
やはり女は30辺りにならないと味が出ん。と呟く御前の言葉。
いやですわ。とか言いつつわずかに自慢げに胸を張るメイド長。
何だ?何を言ってるんだこの人たち。

「拓郎様、ご主人様は18歳になるまで決して新人のメイドにはお手を付けられません。」
ずいと前に出ながらメイド長はやや自慢げにこう言い放つ。
18歳になるまでって・・・

「御前、あなた・・・」
今、自分が凄い顔をしている事を自覚しつつも顔が歪むのを止められない。

243 ◆/pDb2FqpBw :2008/05/22(木) 14:39:07 ID:3z4NLxho

「御前、もしや年若いメイド全てに手を付けている訳ではありませんよね。」
「む。馬鹿なことを言うな!」
一喝されてはっと気が付く。

「いや、これは申し訳ありません。失礼な事を申しました。」
失言だった。慌てて頭を下げる。いくらなんでも御前を色情魔扱いして良い訳がなかった。
御前も御一人となって久しい。
稀にメイドの一人や二人に手を付けられるのはそれこそ仕方がない事だろう。
俺がどうこう言っていい話ではなかった。

「全てとは何だ!このワシに向かってなんて言い草だ。
今、由岐乃が言っただろう。18の誕生日までは教育の期間。
それまでは無垢のまま育てるに決まっているだろう。風呂場にも寝室にも上げん!
それに18に為った時に一度手を付けるだけだ。それも成長を確かめる為にだ!
その子達の将来を考えてこその措置だ!
大体ワシのメイドだ!ワシが成長を確認して何が悪い!
そんな色情魔のような言い方をする奴がいるか!」
ワシを何だと思っている!とぷりぷりと怒る御前。

「御前、言っている意味が良く判りません。」
考えたくない。頭を抱える。

244 ◆/pDb2FqpBw :2008/05/22(木) 14:41:42 ID:3z4NLxho

「まったく。まあ、とにかく咲野はお前が引き取ったんだからお前がなんとかせい。」
がっくりと首を折った俺にぷかりとキセルを一回燻らしてみせると、御前は厳しい顔でそう伝えてきた。
と、何かを思いついたようにカンと灰皿をキセルで叩く。

「ああ、そうだ。咲野だがな。お前の言っていたのはそれで全てか?」

「なんです?」
「風呂場だけか、と聞いている。」

「そうですけれど」
そういう事ならいい。と言って御前は手を振った。
今日の面会はこれで終わりだ、という合図だ。
仕事用の書類を片付ける。

由岐乃さんに上着を着せ掛けてもらってから御前に辞去の挨拶をし、
背中を向けると声が追いかけてきた。。
「あれは獨女だ。」
「ひとりご?」
一人っ子という意味か?
「慣れん事もあるだろうが一生懸命やる娘だ。優しくしてやってくれ。」
そう言うと御前はどっかりと椅子に座ったままもう一度手を振った。

245 ◆/pDb2FqpBw :2008/05/22(木) 14:42:27 ID:3z4NLxho

@@
御前の屋敷を出ると、咲野がメイド服姿で庭先のベンチの上にちょこんと座り込む格好で俺を待っていた。
紫陽花の花を眺めている。

「なんだ、そんな所で待ってたのか。仲間がいるんだろう?挨拶はしたのか?」
後ろから声を掛けると、その背中がびくりと震えた。

「ええ、皆には先ほど。」
なんだかもじもじと怯えたように話す咲野に手を伸ばす。

「そうか、俺も仕事は終わった。帰ろう。」
そう言うと咲野はびっくりとした顔をした。
「……宜しいのですか?」

「何が宜しいんだ?帰るぞ。途中で魚屋に寄ろう。今日の飯は刺身にしよう。」

咲野はしばし呆然としたまま俺の顔を見上げた。
その手を持ってぐいとベンチから引き上げる。

「きゃあ!拓郎様っ!」
「ぼんやりするな。帰ると言っているんだ。」
246 ◆/pDb2FqpBw :2008/05/22(木) 14:42:40 ID:3z4NLxho

「…あの、一緒に帰ってもよいのですか?」
聞こえない振りをして歩き出す。
こんな事になり、咲野にこんな顔をさせるのなら、御前の所に戻す等と言わなければ良かった。
先走って一言多く言い過ぎるのが俺の悪い所だ。
今後は黙っておく事にしよう。

「紫陽花、好きなのか?」
後ろをちょこちょこと付いて来た咲野に声を掛ける。
もうこの話は終わりだ。という合図。

咲野は暫く考えたように黙ってからてててと走って横に並んできた。
「はい。紫陽花の淡い紫の色って見ているととても心が落ち着きます。」

「紫陽花はオタクサとも言う。何故だか知っているか?」
「いえ。何故ですか?」

「なんでも江戸時代に日本に来ていた医師のシーボルトという奴が付けたらしい。
日本に来た後、祖国に帰ってから本を書いた。
その中で紫陽花の名前を日本でそう呼ばれているとし、オタクサと名付けたらしいんだが…
実はこれが大嘘でな。日本じゃそんな風には呼ばれていなかった。」

247 ◆/pDb2FqpBw :2008/05/22(木) 14:43:10 ID:3z4NLxho

「じゃあなんでそんな名前を」

「シーボルトが日本にいた時の恋人の名前を付けたのさ。
その名前がお滝さん。でオタクサって訳だ。」

「へえ。そうなんですか。」
ちょっとロマンチックなお話ですね。と言いながら咲野が微笑む。

「好きならうちの庭にも植えればいい。世話はお前がしろよ。」
「え?」
「枯らさないようにしろ。」
命あるものとは一度関わりを持ちめ始めたら、最後まで関わっていかないといけないからな。
そう言うと咲野は慌てたようにはい。とそう答えた。

248 ◆/pDb2FqpBw :2008/05/22(木) 14:43:58 ID:3z4NLxho
---------
感想ありがとうございます。
では。
ノシ
249名無しさん@ピンキー:2008/05/22(木) 15:20:46 ID:wkQc3RwY
>>248
GJです
そりゃあもうどうしようもなく

続き期待してもいいですかいいですよねおねがいします神様
250名無しさん@ピンキー:2008/05/22(木) 18:11:31 ID:Y9tC7sLa
>>248
咲野さんはどこにいますか?
251名無しさん@ピンキー:2008/05/22(木) 19:27:15 ID:wi61V2wH
>>248
GJ

何だろう、御前が足洗邸の味野のダンナと被るw
252名無しさん@ピンキー:2008/05/22(木) 21:40:01 ID:E0xTQebM
アジサイは生命力が強いから、ワンシーズン毎に枝ごとぶった切って丸裸にしないと跡が大変だぞw
253名無しさん@ピンキー:2008/05/23(金) 00:02:57 ID:mjYAzvrX
つまり、咲野さんが1シーズンごとに丸裸にされるということか
254 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 08:56:32 ID:HgP2LlmW
>>180の話の、武(たける)視点のものを投下します。

「計画」

麻由が心に築いた壁を壊せないまま、何日も無駄に過ごした。
結婚の承諾が得られるようないい案が浮かばず、僕は沈んだままだ。
彼女との関係は今まで誰にも秘密にしてきたから、相談しようにも適した相手が思い浮かばない。
前メイド長の秀子さんにも何となく相談するのは憚られ、あの美しい庭のある家にも足を向けられずにいた。
大学時代の友人には、僕のように企業の跡取りになる者が何人もいる。
しかし、彼らの大部分は取引先や名家の令嬢と結婚したり、婚約をする者ばかりで。
職場や合コンなどで知り合った一般の女性と付き合っている者も少数いたが、彼らの誰も、その相手をいずれ妻にとは考えていないようだった。
彼らに相談しても、令嬢を妻にしてそのメイドを愛人にすればよいとでもアドバイスされるに決まっている。
世の中は日々進歩しているが、いわゆる上流階級と呼ばれる人々はまだまだ保守的だ。
社会的に相応でない女性との恋愛は、堕落や女の罠だと見なされ、忌み嫌われている。
実際に、そういう恋愛に溺れ、元いた地位を追われる人の話も無いわけではない。
上流階級の人々にとっては、持てる富や名誉を失うことが最大のタブーだから、それを防ぐために同程度の家から妻を迎えて家の安定をはかるのだが…。
麻由もそう言って勧めたが、僕はどうしてもそんな気にはなれなかった。
僕のことを思うがゆえに、自分の心を押し殺して世間の道を説く彼女。
皮肉なことに、その姿を見ればますます、妻にするなら麻由しかいないと再確認する結果になるのだ。
拒絶されればされるほど気持ちが高まるなんて、もしかして僕はマゾヒストなのかと思ったこともある。


正直、あれから仕事には身が入らない。
社長の椅子に座っている以上はそうも言っていられないので、表面上はきちんとしているが…。
今日も商談をまとめる為に他社へ赴いた。
社で一人きりで仕事をしているとまた落ち込むから、たまの外出だと気分を切り替え、役目を果たした。
無事に商談が終わり、エレベーターへと向かう。
そこの社長秘書見習い(社長の娘らしい)が一緒について来て、ボタン操作をしてくれた。
チンと音がして扉が閉まり、下降が始まる。
ふと、僕の鼻がひくりと動いた。
何だか、妙に甘ったるい匂いがする。
エレベーター内にお菓子でも落ちているのかと見渡したが、そうではないようだ。
狭い密室内を見渡して原因を探し、匂いの源が秘書見習い嬢の香水であることに気付いた。
来た時は正規の秘書が案内してくれたから、この匂いに触れることがなかったのだ。
逃げ場のない場所に匂いが充満するのは正直言ってつらい。
いよいよ辛くなってきたところで、ようやくエレベーターが1階に到着する。
密室から解放され、ホッとした気分で外へ出て車に乗り込んだ。


車内で、先程の商談の資料を取り出し、少しだけ秘書と話した。
詳しくは社に戻ってからだが、移動の時間も効率的に使いたい。
「綺麗な方でしたが、香水が少しきつ過ぎましたね」
会話が一段落したところで、僕の秘書が先程の女性のことを指して小さく呟いた。
「そうだな」
先方の社長は、娘の香水について意見しないのだろうか?
毎日身近で接しているのだから、気付かぬはずはないのだが。
身内に甘いタイプかもしれない、もしそうならこれからの取引についても注意が必要だ。
「これでは、帰宅してから妻に疑われてしまいます」
「どうして?」
「浮気でもしているんじゃないかと問い詰められます」
苦笑する彼を見て、僕も小さく笑う。
なるほど、普段と違う香りを微かにでも身にまとって帰れば不審に思われるだろう。
女性の勘というのは、男性である僕達には想像もつかないほど鋭いらしいから。

255 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 08:57:37 ID:HgP2LlmW
その時、ふとした考えが頭を過ぎった。
僕が香水の匂いを身にまとって帰れば、麻由はどう思うだろう。
男性用トワレもつけたことのない僕が、こういう残り香を服に染み込ませて屋敷に戻ったら…。
他の女性と外で会ってきたと思うのだろうか。
それとも、やり手の女社長と商談でもしたと考えるのだろうか。


友人の小守が、麻由に結婚を前提とした交際を申し込んだと知った時、僕はみっともないほど嫉妬してしまった。
今までにないくらい腹を立て、君を絶対に離さないと彼女に激しく詰め寄った。
その後に彼女の自室に押し掛け、無体な振る舞いに及んだことは思い出したくもないが…。
僕が麻由以外の女性と付き合っているという風に信じ込ませ、立場を替えてあの時と同じ状況を作り出したなら。
麻由も、僕のことを好きなら同じように嫉妬してくれるかもしれない。
慎み深く囲った心から本音が溢れ出して、他の女性に僕を取られたくないと思い、結婚に同意してくれるかも知れない。
秘書に話しかけられぬように目を閉じて眠ったふりをしながら、頭の中で必死に考える。
あまりにも危険すぎる賭けだと思う。
悪くすれば、僕がどこぞの令嬢とうまくいったと思い込み、麻由は自ら身を引くかもしれない。
彼女が自分の本心を押さえ切り、あくまでも使用人としての良識を崩さなければおそらくそうなるだろう。
よしんば彼女が僕と一緒になりたいと言ってくれても、そう言わせるに至った僕の企みがばれてしまったとしたら。
姑息な手段を使って騙すような真似をしたと幻滅されるかも知れない。
しかし、今の僕達のこの状況を打破するには、余程の大きいショックがないと事態は動かない。
どうしようと右往左往するだけよりも、一つ、この策に賭けてみようと僕は決意した。


買いたいものがあるから、帰社の途中にデパートへ寄ってくれと運転手に告げた。
ついてくると言う秘書を押しとどめ、女性達でにぎわう化粧品売場へ一人向かった。
周囲をぐるりと見渡し、とあるブースにあたりを付けてから歩を進める。
フランスの田舎から取り寄せたとかいう惹句で、近年とみに知名度を上げている銘柄のブースだ。
壁際にフレグランスコーナーを見つけ、近寄って手に取ってみる。
ためつすがめつ数種の香水瓶をぐるぐると動かしていると、店員が声を掛けてきた。
猫なで声で接客されるのは好きではないが、こういう不案内な場では逆に有難い。
セールストークに乗った振りをして、陳列された品物を横目で見ながら検討する。
心を惹かれたのは、その店員が一押しだという桜色の瓶に入ったトワレだった。
香りを試すための細長い紙に一吹きされたものを鼻先に近付けられ、これならと頷く。
甘すぎず、きつくもない優しい香りで、先程の秘書嬢のつけていた強めの香水とは違っていた。
小道具とはいえ自分でつけるものだから、あまりに変な匂いのするものは選びたくない。
何となくプレゼント包装を頼み、自分で使わないことをアピールする。
店員にそんなことをしても、どうなるわけでもないのだが。
買ったものをそそくさとカバンに仕舞い、急いで車へと戻る。
社へ帰り、書類にまた向き合う前にその包みを開いた。
美しく整えられた包装を剥がし、香水瓶を出す。
さっきはあまり良く見なかったが、こうするとなかなか可愛らしいものだ。
これを普通にプレゼントすれば、きっと麻由は喜ぶだろう。
甘く優しいこの香りを身にまとった彼女は、きっと途方も無く魅力的に違いない。
そう思ったところでまた気分が暗くなった。
自分はこれから、愛する人を騙そうとしているのだ。
ショック療法的な物とはいえ、やはり良心が痛んでしまう。
嘘は良くないと、真面目な自分が柄にもなく顔を出す。
こういう駆け引きめいたものにはとんと疎く、こちらが何をすれば相手はどう思うかということがよく分からない。
どうか、思うとおりになってくれますように。
祈るような気持ちで目を閉じた。

256 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 08:58:36 ID:HgP2LlmW
社長室を出る前に香水瓶の蓋を取り、つけてから帰ることにする。
一度にどれくらいつければ良いものか分からないので、添付の説明書を読んで調べた。
手首や足首などに少量つければ良いとあるので、その通りにする。
手順を終え、瓶を箱に戻して机の引き出しに仕舞う。
何だか後ろめたくて、箱を書類の下にもぐり込ませ、隠すようにしてから引き出しを閉じた。


帰りの車の中ではそわそわして気分が落ち着かなかった。
この企みはうまくいくだろうか。
香水の香りが消えていないかと、何度も手首を顔に近づけ、匂いをかいでみる。
そうして確認している間に車が屋敷へ戻り、ドアが開けられた。
出迎える使用人達の間をまっすぐ歩き、奥で待つメイド長の麻由の所へと向かう。
そしらぬ振りをしながら左手でカバンを差し出し、彼女の反応を見た。
いつもより低い位置で僕からカバンを受け取った麻由が、一瞬静止したのが見て取れた。
香水をつけた手首が動いたことで、立った香りを感じ取ったのだろうか。
彼女が気付いたかどうか不安になり、足を早めて部屋に戻ってからもう一度手首を鼻に近付けた。
鼻が慣れたのか、あまり香りが立っていないような気がする。
果たして麻由は気付いてくれたのだろうか。


それからも、不自然にならない程度に、数日間隔で香水をつけてから屋敷へと戻った。
つける日とつけない日、それぞれの麻由の反応を気取られぬように観察する。
そうすることを繰り返すうち、香水の匂いのする日は、彼女がカバンに手を掛け受け取る時に一瞬だけ間があることに気付いた。
僕の纏う香りの違いには気付いているらしい。
しかし、これだけでは足りないような気がする。
僕が他の女と付き合っていると誤解してもらうにはどうすればよいだろう。
その架空の女と仕事が終ってから会っているとすれば、映画や食事に行くのだろうから自ずと帰りが遅くなるはずだ。
それならば、あの香水の香りをまとって、いつもより遅く屋敷に戻れば良い。
単純にそう思い至った僕は、わざと会社に居残って時間をやり過ごし、数時間を潰してから帰る日を作った。
カレンダーを睨み、香水をつける日・遅く帰る日の計画を立てている姿などとても人に見せられない。
仕事の時よりよほど熱心で、必死だろうから。
スケジュールをこなすようにその計画通りに動き、また幾日かが過ぎた。
香水をつけて遅く帰宅した日は、大抵は執事の山村とメイド長の麻由だけが僕を出迎える。
他の使用人達に隠れない分、車を降りたときから麻由の様子がはっきりと見て取れるのだ。
俯き加減になって元気のない様子で僕を出迎える彼女を見ると、申し訳ない気持ちで一杯になる。
目的のためとはいえ、他の女と通じて麻由を軽んじているように見せかけることに良心も痛んだ。


自分の心が折れてしまいそうになるのを、何度も寸前で押しとどめた。
ここで自分に負けては元も子もない。
今この計画を中止して、結果的に麻由を手に入れられない方がダメージが大きいのは明白だぞと自分を叱咤して。
決意を新たにしたところで、僕はもう一つ考えを思いついた。
架空の女の存在を信じ込ませるために、麻由をしばらく抱かないことに決めたのだ。
二十歳の頃にお互いの初めてを与えあったとき以来、僕達は人目を忍んで逢瀬を重ねてきた。
彼女がメイド長になってからは、以前よりも仕事を上がる時間が遅くなり、僕の部屋へと訪ねてきやすくなった。
これをぴたりと途絶えさせれば……。
僕が麻由を誘わなくなったのは、他の女と深い仲になったからなのだと誤解してくれるだろう。
幸い、香水をつけるようになった頃と前後して夜の逢瀬は途絶えている。
このまま持続させれば、さらに信憑性は上がるに違いない。

257 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 08:59:47 ID:HgP2LlmW
そしてまた、僕は「屋敷に戻らず外泊する日」を設定することを思いついた。
どんなに忙しくても必ず麻由の待つ屋敷に戻っていた自分が外泊するとなると、きっと不審に思われるだろう。
しかし、仕事が立て込んで会社に泊まったと思われたのでは甲斐がない。
「今日は戻らない」と彼女に宛てて電話をかけようかとも考えたが、一対一で騙し通せるほど僕は役者ではない。
考えた末に、運転手だけを屋敷へ帰すことを思いついた。
いつも行動を共にする運転手を一人で帰らせれば、麻由は、「武様は他人に知られたくないどこかへ行った」のだと思うだろう。
香水のこともあるから、きっと、他の女の所に泊まっているのだと誤解してくれるに違いない。
とはいえ、本当に他所へ行くあてなどは無い。
もっともらしい理由をつけて運転手を帰らせた後も、会社に残って仕事をしているだけだ。
夕食は近くのコンビニエンス・ストアで買い求め、簡単に済ませる。
一人きりの静かな部屋で、ビニール袋や弁当のパッケージをガサガサいわせながらとる食事は物悲しい。
食事を終えてまた仕事に戻り、時間が来てソファで眠る時はもっと侘しかった。
大き目のソファとはいえ、大の男が横になるにはやはり狭苦しい。
屋敷のベッドで、麻由を抱き締めながら幸福に満たされ眠った最後は一体いつだっただろう。
詮無いことを考えながら、半分だけ寝返りを打って目を閉じるのだ。


そうして2ヶ月ほどが過ぎた。
これほど長く麻由とベッドを共にしないのは初めてだ。
遠く離れて住んでいるのなら諦めもできようが、同じ敷地内に起居しているのだから始末が悪い。
朝の見送りと晩の出迎えで彼女の傍に近付くと、その身体に触れたくてたまらなくなる。
屋敷にいる時は、彼女の姿が見えると自然に目が追ってしまい、見えなくなるまで視線を逸らすことができない。
見詰めるだけなんて、まるで中高生の時に片思いしていた頃のようだと思った。
当時は麻由も学生だったから、門を入ると僕の住む母屋ではなく、彼女の父と暮らしていた使用人棟の部屋へ一直線に帰っていた。
だから姿を見ることは稀にしかなく、一回一回がとても貴重なものだった。
中学時代はセーラー服、高校時代はブレザーを着ていた彼女の姿は今も胸に焼き付いている。
それはとても可愛くて、彼女と机を並べられたらと夢想し、それができる彼女の同級生をひどく羨んだ。
彼女が高校を卒業してから、メイドとしてこの屋敷に仕えてくれると知ったときの嬉しさは今でも鮮明に覚えている。
あれほど胸が高鳴ったのは、間違いなくそれまでの人生で一番のことだったからだ。


彼女が結婚を承諾してくれれば、あの時よりもっと大きな喜びが得られるだろう。
身体の関係を持ってもう長いが、やはり名実共に僕だけのものになってくれるのはきっと格別のはずだ。
そう思うと、是が非でも手に入れねばならないと新しい闘志がふつふつと湧いてきた。
その勢いを借り、今後どうするかの計画を立てる。
僕が別の女性と親しくなったという疑念を抱かせるのには成功しているはずだ。
それを火種としてさらに彼女の不安を煽り、いっきに爆発させる必要がある。
耐えて我慢してきたことを全て口にさせなければならない。
その起爆剤になるものは何か。
もっと大きな不安と恐怖を与えること、これが一番いいと考えた。
いよいよ、僕の中の理性が激しく異を唱える。
好きな女性をこれ以上騙すなど男として最低だ、恥知らずなことはやめろ。
そして、心の中の弱い部分が急に発言権を増す。
こんなことをして麻由に愛想を尽かされたらどうするんだ、取り返しのつかないことになるぞ。
二つがタッグを組んで、僕を前後左右から小突き回した。
良くも悪くも、これが最後の手段だ。
吉と出れば彼女を獲得できるが、凶と出れば完全に彼女を失ってしまうことになる。
しかし、もう後には引けない。
自分が意思を持ってやったことなのだから、どちらに転んでも結果を正面から受け止めねばならない。
258 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 09:01:34 ID:HgP2LlmW
計画を行動に移す日を決め、それまではまた数日間隔で香水をつけたり遅く帰ったりと変わらずに過ごした。
そしていよいよその当日、朝の目覚めは妙に良かった。
今日が自分の人生における最良の日になるか、それとも最悪の日になるか。
気分が妙に高揚し、そわそわとしたまま日中を過ごし、また残業をする。
帰り際に一計を案じて小細工をしてから、随分と中身の減った香水瓶を取り出し、少し多めに付けてから会社を後にした。
屋敷に到着したのは夜11時を過ぎていた。
出迎えた麻由に右手でカバンを渡す。
これは、僕達二人だけの秘密の合図だ。
右手で渡す時は、今晩僕の部屋へ来てくれという誘いのサイン。
久しぶりのことだったから、少しぎこちなくなった。
「食事は済ませてきた。すぐ部屋へ行くよ」
心中の不安を押さえ込むように少し大きな声で言い、僕は自室へと入った。
大きく深呼吸をして、これからどう行動するかを頭の中で考える。
酒を小道具に使うことを思いつき、酒瓶とグラスを取ってテーブルに置いた。
普段飲まないウイスキーを僕が飲んでいれば、彼女は訝しく思い、心にわだかまりが生じるだろう。
いつもと違う僕の姿を印象付け、それに不安を感じるように持っていきたい。
麻由が僕のスーツについた香水の香りをはっきりと感じるように、上着を脱いでネクタイと共にソファの背に掛ける。
こうしておけば、彼女はこれらをクローゼットに仕舞う時、その香りに気付くに違いない。
ワイシャツのボタンも二つだけ外し、前を寛げた。
そしてウイスキーをグラスに注いだところでドアをノックする音がし、麻由が来たことに気付く。
部屋に入るように言い、景気付けにグラスの中の酒を一口飲んだ。


こちらへやって来た麻由は、僕がさっき脱いだ上着とネクタイを持ち、背後にあるクロゼットの方へと向かった。
すぐに気付いてくれるあたりが、彼女のメイドとしての資質を表していると思う。
上着に染み込んだ香水の匂いに気付いただろうか。
彼女が衣類用ブラシで上着を払っている物音に耳を澄ませた。
振り返ってその姿を見てみたいが、今そうするわけにはいかない。
心を落ち着けるために、意味もなくグラスを揺すり、中の酒が動くのを見つめた。
クロゼットの扉が閉まる音がし、彼女が近付いてくる。
少し離れて足音が止まり、僕が次に用を申し付けるのを待っているようだ。
ソファに座らせようと思い、麻由をこちらへと呼んだ。
彼女がそれに従い僕の横へ来て、腰を下ろす。
こうやって並んで座るのも、随分久しぶりのことのように思える。
そう思うと緊張してしまい、またウイスキーを一口飲んだ。
勢いよく流し込んでむせ返りそうになり、それを堪えるべくまたグラスに口を付けてごまかした。
そのまましばらく沈黙が続いた。
次の行動に移るタイミングをはかり余裕のない僕の傍らで、座っていた麻由が腰を浮かせたのが見えた。
「どこに行くんだ?」
「あの…お水か氷を持って参ります」
酒を割らずに飲んでいる僕を見て、気を利かせてくれたのか。
有難いことだが、今彼女に逃げられるわけにはいかない。
「必要ない。いいからお座り」
強い口調で申しつけ、また彼女をソファへと戻した。


今だと思い、不要になったグラスをテーブルへ置く。
ここからは、小道具など一切無しで、自分一人の力だけで麻由を口説き落とさねばならない。
覚悟を決め、僕は彼女の方へと向いた。
「今日は、久しぶりに…」
抱き寄せて耳元で囁くと、麻由は全身を硬直させた。
次の瞬間、ドンと肩を押されて僕達二人の間に距離ができる。
女の力だから弱いはずなのに、手の当った部分から痛みのようなものがじわじわと身体に広がった。
「他の方に触れられたお手で…私に触れないで下さいませ」
震える声で彼女が言った。
「今日は、お帰りの前に誰かと会っていらしたのでしょう?」
「…」
259 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 09:03:36 ID:HgP2LlmW
沈黙を肯定と取ったらしく、麻由はさらに悲痛な声を上げた。
「それで、満足できなかったのでございますか?だから、麻由でも抱いておこうかとお考えなのでしょう?」
いいや、僕はそんな恥知らずなことなど絶対にしない。
そう言いたかったが、彼女に誤解を与えて混乱させるという目的があったのを思い出す。
済まない、もう少しだけ架空の女性の存在を信じておくれ。
心の中で謝りながら、僕は一世一代の芝居の幕を開けた。


「そうだと言ったら、どうするんだ?」
だからどうした、とでも言うような平然とした口調で言い返す。
「僕の精力が強いのは、麻由も知っているだろう?
ああ、確かに満足できなかった、だからこうしている」
絶句した彼女に、さらに追い打ちをかける。
腕を引いてもう一度彼女を胸に抱き止め、僕の身体に用意した誤解の種に気付くように図った。
会社を出る前にこっそりと肩口につけた、赤いキスマーク。
自分にこんなものをつけるのは気が咎めたが、計画のためだと思い込み、首を曲げて吸い付いた偽物だ。
胸の中から顔を上げた麻由が、その辺りを見たまま絶句している。
罠にかかってくれた喜びと申し訳なさがない交ぜになり、形容しがたい感情が心を覆った。


「いやです、離してくださいませ!」
我に返った彼女が胸の中でめちゃくちゃに暴れ、僕を突き放した。
初めて見るその姿に、あっけにとられてしまう。
彼女の頬が涙で濡れているのを目で捉え、少し遅れて胸が痛んだ。
「どうして逃げるんだ?」
もうやめろと制止する理性を振り払い、さらに演技を続けた。
「僕を振ったのは麻由じゃないか。こうなることが、結局は君の望みだったんだろう?」
「彼女が僕の妻になったら、夜は君と三人で楽しめるかも知れないね」
言葉を重ね、架空の女性が僕達二人の間に割り込んできたことを強調する。
「武様にふさわしい令嬢を選び、奥様となさいませ」と言った麻由に、それが現実になると思わせるために。
本当に僕のことを好いていてくれるなら、別の女性の存在など認めないと言ってくれるはずだ。
小守との一件で、麻由が他の男とどうにかなるなんて考えただけで耐えられないと僕が思ったように。
これでも、彼女が僕との結婚を拒絶すれば。
今度こそ諦めて、彼女を自由にしてやろう。
できるかも分からないその考えの前で、僕は息を詰めて麻由の言葉を待った。


「いや!他の方のものになどならないで下さいませ!」
悲鳴のような声で麻由が叫んだ。
「武様は私のものです、他の方に取られるなんていや…」
涙を溢れさせた彼女が、むせ返りそうになりながらも必死に訴えかける。
その言葉に、僕は心の中で快哉を叫んだ。
やった、ついに麻由は本心を言ってくれた。
胸が熱くなり、僕の目からも涙がこぼれそうになった。
「その言葉が聞きたかった」
自分の声でないような声が口から漏れ出で、小さく響いた。
麻由が、主人としてではなく、一人の男として僕を愛してくれていることが表れているような先程の言葉に胸が一杯になる。
万感の思いというのは、まさにこのことを言うのだろう。


しゃがみ込み手で顔を覆った麻由は、嗚咽を漏らし続けている。
溢れ出した感情が制御できないのか、哀れなほどに泣きじゃくるばかりのその様子を見て、僕は我に返った。
愛しい人のこんな姿を前にして、暢気に喜んでいる場合ではない。
必要な演技は終ったのだ。
心の中でパンと一つ手を打って、架空の女性と浮気男の面影をまとめて追い出す。
ここからは、元の遠野武に戻って、全力で麻由に謝らなければならない。
回りくどいプロポーズの為に、彼女を深く傷付けて泣かせてしまったのだから。
260 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 09:04:42 ID:HgP2LlmW
「ああ、僕は麻由だけのものだ。ひどいことを言って済まなかった」
落ち着かせるようにゆっくりと言って、彼女の肩を引き寄せる。
怖がらせないように優しく触れ、愛しい人を抱き締めた。
「こんなに泣かせてしまって、済まない」
彼女の頬に口づけ、溢れている涙を何度も拭った。


胸の中から僕を見詰める彼女に、今までのことが全て芝居であったことを話した。
あの香水瓶も見せて説明しようと思い、カバンを取りに行こうとするが彼女に抱きつかれたまま動けない。
数秒のことなのに、今離れたら一生元通りにはなれないとばかりに強くしがみ付かれる。
仕方なく、二人でくっ付いたままカバンを取りに行き、また戻ってくる。
彼女をソファに座らせ、あの桜色の瓶を出して見せた。
一向に手を出そうとしないのを見て、僕が自分で瓶のふたを取り、彼女の鼻先へと持っていく。
その香りをかいだ途端、麻由はギュッと目をつぶり胸を押さえた。
やはり、この香りが彼女にとって相当にショックなものであったことは確かなようだ。
何もかもが自分の計画通りになったわけだが、今彼女のこの反応を見るととても喜ぶどころではなかった。
安心させるために、できるだけ優しく彼女に触れる。
全てを話そうと覚悟を決め、僕は口を開いた。
他の女性と付き合い始めたように見せかけ、彼女が嫉妬してくれるように仕向けたこと。
そのためにこの香水を使い、また遅く帰ったり会社に泊まったりと小細工を弄したこと。
説明の言葉を並べるうち、どんどんと気分が落ち込んでいくのが分かった。
この計画を思いついた時は、画期的だと我ながら満更でもなかったのだ。
しかし、うまくいきすぎた分、今度はこの計画後のことが一気に心配になってきた。
麻由に与えたショックは予想以上に大きく、これで嫌われてしまっても不思議ではないくらいだったから。
「別の方に、心を移されたのかと思って…」
涙の名残のある声で麻由が言ったその言葉を聞き、慌てて否定する。
僕の気持ちは、最初から今まで全く変わっていないから。
肩口についたキスマークについても問い詰められ、自分でやったと正直に白状した。
念のために背中につけた爪跡についても、ついでに種明かしをする。
二つを見比べ、彼女が納得したように少し落ち着いた顔をしたのに安心した。


さっき僕が言った「僕は麻由のものだ」という言葉の真偽については、一転しておずおずと尋ねられた。
その通りなんだから、もっと強く尋ねてくれても良かったのだが。
しかしこれは、今まで言葉にして彼女に言ってやらなかった僕の責任でもあるから仕方がないのか。
「僕が君のものになったのは、多分、初めて庭で会った時からかも知れない」
彼女が信じてくれるようにと願いを込め、そう話した。
もうずっと昔のことのように思えるが、言葉にした瞬間、初めて会った時のことが脳裏によみがえってきた。
僕の父の運転手をしていた麻由の父親に連れられ、彼女が初めてこの屋敷に足を踏み入れた日のことだ。
父親の背中に隠れるようにしてはいたが、彼女のその可愛らしさは僕の心を瞬時に奪った。
実際に身体を重ねたのはもっと後のことだが、初対面のあの時、もう僕は彼女のものになっていたのだろうと思う。
改めて告白するのはとても恥ずかしくて、身の置き場がないような心地になった。


段々と表情が明るくなってきたのを見計らい、話を本題に戻す。
今回の計画のことではなく、僕達の結婚のことだ。
さっき「武様は私のものです」と叫んだのは本心なのだろうと問い詰めると、素直に認めてくれた。
頑なに自分の心を押し隠していた二ヶ月ほど前の彼女からすると、まるで嘘のようだ。
しかし、認めはしたものの、彼女の口調は重い。
ここまでやっと漕ぎ付けたんだから、僕との将来についてもっと真剣に考えてもらいたい。
結婚できない理由を説明してくれるように言って、僕は彼女の言葉を待った。
261 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 09:05:41 ID:HgP2LlmW
戸惑いがちに並べられたその言葉は、やはり僕と彼女の立場の違いについてだった。
主人とメイドが結婚するのは釣り合いが取れないというわけだ。
つらそうにそう告げる彼女の顔を見ていると胸が痛んだ。
話を辛抱強く聞き、合間にこちらからも思ったことを言う。
今までは僕が一方的に求婚するだけだったが、今日は彼女の話を聞いてやりたい。
そのうち、麻由が抱えている別の不安が段々と明らかになってきた。
彼女は、自分が「遠野家の奥方」として不適格であることが知られると、僕に失望されると恐れていたのだ。
そんなことで彼女への気持ちが変わってしまうわけなどないのに。
どうやら、僕の気持ちは何割かしか彼女に伝わっていないらしい。
言葉はともかく、態度には表しているつもりだったが、足りなかったのだろうか。
ダンスも社交もできなくても全く構わないが、そう言うとまた彼女が気に病むといけない。
しばらく考え、専門の講師を雇って学べばよいと提案した。
一流の人間に習って身に付ければ、それが彼女の自信になると考えたのだ。
僕の妻になる自信が無いというのであれば、自信のつくような策を取れば良い。
今は不安でも、僕の隣に立つことがやがて当たり前だと思えるようになるだろうから。
彼女との結婚が、我が社のイメージダウンになると信じていることにも気付き、それも否定する。
一時的な影響はあるかも知れないが、そんなものは時間が解決してくれる。
父の死により僕が若くして会社を継いだとき、潮が引くように多くの者が一斉に離れて行ったことがある。
沈む船から逃げるようにして去った人間達も、僕と社員達が社を立て直し、盛り立てているのを見て戻ってきた。
あの頃は僕も若かったから、そうされたことは仕方がなかったと思う。
だが、僕はもう結婚相手について外野にとやかく言われる筋合いはない。
あの時に社を傾けなかったことで周囲の信用を得ただろうから、今回は心配ないと思いたい。


もう一度、あらためて麻由にプロポーズをした。
彼女は自分を劣ったものと考えているようだが、とんでもないことだ。
僕のことを真剣に考えてくれ、愛してくれる人は彼女しかいない。
「僕が君にふさわしい男になれるように傍で励ましてほしいんだ」
男気のある言葉ではないように思えるが、これが僕の本心だ。
「俺について来い」というような力強い言い方ができないことに歯噛みする。
いずれはそう言えるよう、頼り甲斐のある男になりたいものだ。
先程彼女が取り乱した時の話を持ち出し、僕も全く同じ気持ちだということを強調する。
麻由にも、僕以外の男を夫にするなどという選択肢など無いと思って欲しい。
「お互い、相手にこんなに執着しているんだ。いっそ、離れられないように結び付けたほうがいいと思うんだ」
「…そうですね」
「もう一度聞く。僕と一生を共にしてくれるね?」
「はい。私を、武様の奥様にして下さいませ」
返ってきた言葉は、僕がずっと待っていたものだった。
やっと、彼女を妻にできるのだ。
口説き落とせたという達成感と喜びが一気に胸に満ち溢れ、僕は目を閉じてしばし呆然と立ち尽くした。


「武様?」
動かない僕を見て心配になったのか、彼女がそっと声を掛けてきた。
目を開くと、こちらを覗き込むその顔が至近距離にあった。
「麻由っ!」
我に返るが早いか、僕は彼女を引き寄せて抱き締めた。
腕に力を込めても、逃げることも無く大人しく抱かれてくれている。
僕の背中に彼女が腕を回し、頬擦りをして身をもたせ掛けてきた。
「今言ったことは本当だね?嘘なら許さないよ」
あまりに嬉しくて現実味が無く思え、そう口にした。
嘘ではないと言ってくれ、今までのことを謝られる。
もうそれはいいんだ、現にこうやって麻由は僕の腕の中にいる。
柔らかいその身体を抱き締め直し、彼女の香りを胸一杯に吸い込んだ。
262 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 09:06:45 ID:HgP2LlmW
矢も盾もたまらず、彼女を寝室へと運び込んだ。
気持ちが通じ合った途端にそうなるのかと理性がまた文句をつけるが、もうこれ以上一秒だって待てない。
ずっと我慢していたのだ、彼女が求婚に応じてくれた以上はもういいだろう。
さっさと麻由のワンピースとブリムを奪い、下着も取り去ってしまう。
何もかもを脱がせ、一糸まとわぬ姿になった彼女を正面から見詰めた。
久しぶりだから恥ずかしいのか、頬を染めて俯き加減になっているのが可愛い。
そのまま僕の服を脱がせるように頼み、生まれたままの姿にされたところで二人ともベッドに倒れこんだ。
体中触れていないところが無いくらいに抱き合いながら、彼女の唇を何度も角度を変えて奪う。
口づけるたびにさらに欲しくなり、夢中になって僕達はキスを続けた。
彼女が苦しがって時折声を上げるが、息を整えさせたところでまた唇を奪う。
それでも、彼女を欲する気持ちがどんどんと高まって身体が熱くなった。


ようやく一息つき、唇を離してまた見詰め合った。
まだキスし足りない気分だったので、今度は彼女の胸元に唇を寄せた。
しっとりと柔らかく、唇を離すのが惜しいと思えるようなこの肌。
計画のためとはいえ、これに長いこと触れていなかったのには大損をした気分だ。
自分の肩にキスマークを付けた時のことが不意に思い出され、頭をかきむしりたくなった。
あの感触は思い出したくも無い、なにより馬鹿らしく、恥ずかしい。
麻由がキスマークを付けても構わないと言ってくれたので、お言葉に甘えさせてもらった。
ワンピースの襟では隠せない首筋に吸い付き、赤い痕を残す。
白い肌にくっきりと残ったそれに、僕は非常に満足した。
今までは秘密の関係だったから、この痕を付けるのであれば外から見えない場所にして欲しいと言われていた。
しかし、これからは堂々とどこにでも付けられるのだ。
一つでは足りない気分だったので、少し下にもう一度吸い付き、二個目の痕を残した。
それでもやっぱり足りなかったので、鎖骨の辺りから胸元へと順々に下りるように吸い付いていった。
胸の膨らみにたどり着き、乳首を口に含んで愛撫する。
「あっ…ん…あぁん…はっ…ぅん…あ…」
舌で刺激するたび、彼女が甘い声を上げて身を捩った。
背に回った彼女の腕に力が入り、もっと舐めて欲しいというように僕の身体を引き寄せる。
求められることが嬉しくて、僕はますます気分を良くして彼女の胸を可愛がった。
いつもなら焦らすところだが、今日はとてもそんな余裕は無い。
もっともっと彼女の身体に触れ、快感に喘ぐさまを見たいのだ。
「んっ…あ…きゃあ!」
吸っていない方の乳首を指先で弾いてやると、彼女が高い声を上げて身をくねらせた。
そのまま指で挟み、捏ねるようにさすってやると、また息が荒くなったのが分かった。


思う存分、麻由の胸に触れて堪能する。
久しぶりだからか、以前より一層敏感に反応してくれる。
彼女は何度も高い声を上げ、身を捩り、さらに僕を引き寄せもっとと言うようにせがむ。
白い肌もピンク色に染まり、その高まりを示していた。
そのうち、彼女がもじもじと膝頭を擦り合せていることに気付く。
胸への愛撫だけではもう物足りないのだろうか。
足首をつかんで脚を開かせてみたが、彼女の手が大事な部分を隠してしまった。
さすがに恥ずかしいのだろうが、これでは甲斐が無い。
「隠さないで。じっくり見せておくれ?」
促す言葉に従い、彼女がゆっくりと手をどけた。
濡れそぼった秘所が眼前に晒され、しばし見入ってしまう。
こんなにも熱く潤って、僕と繋がることを欲している彼女のこの部分。
もう、二度と触れられないかと思っていた。
せわしなくその場所を指で押し開き、舌を伸ばして触れる。
「あっ!」
溢れる蜜を舐め取った瞬間、彼女が待ち侘びたように大きく反応した。
大きく腰が跳ね、僕の舌から逃げるようにベッドの上へずり上がられる。
そうはさせじと、手に力を入れてさらに脚を開かせ、また顔を近付けた。
「ひあっ…ああ!」
クリトリスを舐め上げると、麻由は悲鳴のように高い声をあげた。
263 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 09:07:56 ID:HgP2LlmW
弱い場所を愛撫され、抑えが効かなくなったのだろう。
「ん…もっと…あん…」
すぐに舌を離して焦らしてやると、彼女はまたねだるような声を上げた。
求めてくれたのが嬉しくて、僕はお預けを早々にやめ、また彼女の敏感な部分に触れた。
「あ…んっ…はぁ…ああ…あっ…」
熱に浮かされたように喘ぐその声に、彼女がもうすぐ達しそうになっていることを知る。
シーツを握っている麻由の手を上から包み込み、絶頂を迎えさせるべく刺激を強くした。
「や…あぁ…ん…あ…あああっ!」
背中を一際大きく震わせて彼女が達し、大きく息をついた。


「可愛かったよ、麻由」
口元を拭って僕が言った言葉に、彼女は一瞬で真っ赤になった。
「そ、そんな…」
本当のことを言っただけなのに、途端に慌てて挙動不審になっている。
「嘘じゃないさ。ほら」
包み込んでいた彼女の手を取り、自分のものに触れさせた。
彼女の痴態を見て固くなったそれを握らせ、ゆっくりと上下に動かす。
次第に、麻由は自分から手を動かし始めた。
その刺激に僕のものはさらに熱さと固さを増した。
もう待てない、一刻も早く彼女の中に入りたい。
再び彼女の秘所に指で触れ、慣らすために中をゆっくりとかき回す。
潤った粘膜が指先に絡みつき、早く来いとばかりに僕を誘った。
「…早く、下さいませ…」
麻由が小さくそう呟き、顔を覆った。
恥ずかしさより欲望が先に来るほど、僕のことを求めてくれているのか。
可愛らしいその仕草に今すぐに言うことを聞いてやりたくなるが、すんでの所で思いとどまる。
「その手をどければ、言うことを聞こう」
もっともっと、僕のことを欲しいという気持を高まらせたい。
手を出さずに見詰めていると、彼女はゆっくりと手をどけてこちらに視線を合わせてきた。
「欲しいんだね?」
「…はい」
彼女が頷いたのに満足し、その身体を起こしてやり体勢を入れ替える。
「さ、おいで」
あぐらをかいた僕の膝の上に座らせて誘うと、彼女はすぐに言うとおりに身体を沈めてきた。
「ああ…あ…」
ゆっくりと僕のものを体内に飲み込みながら、彼女が深く息を吐く。
熱くぬめっているそこは予想通りに気持ちが良くて、僕も同様に大きくため息をついた。
「入れただけなのに、すごく気持ちがいいよ」
正直な感想を漏らすと、彼女も同意してくれた。
「今死んでもいいくらいに幸せ」と言われ、苦笑してしまう。
まだ僕は達してもいないのに、このままでは死ねたものではない。
それに、やっと長年の思いが叶ったところなのだから。
からかうように緩く突き上げてやると、麻由は目を細めて声を上げた。
「今死ぬわけにはいかないだろう?」
「は、はい…」
僕の肩に頬をつけ、彼女が言った返事は僕をひどく満足させた。


「麻由のいいように動いてみなさい」
しばらくは自由にさせてやろうと思い、そう言った。
座位は彼女が最も望む体位だというのは分かっている。
恥ずかしがり屋のくせに妙な所で大胆な彼女は、この体位で愛し合うときはそれなりに頑張ってくれるのだ。
結婚を拒否された後遺症がまだ残っているのか、今は少しでも多く麻由が僕とのセックスで快感に耽る姿が見たい。
僕の言葉に従い、彼女がゆっくりと腰を動かし始める。
段々と身体を反らせ、快感を求めて一心に頑張っている姿を見て気分が良くなった。
しかし、目の前にある豊かな胸を見ると触れずにはいられないのが男というものだ。
264 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 09:09:16 ID:HgP2LlmW
「あっ!」
誘うように揺れているその乳首にしゃぶりき、さっきのように舌で愛撫する。
彼女が身体を震わせたのに合わせ、中がキュッと締まった。
二箇所を同時に責め立てられるのは羞恥心が煽られるようで、反応も一気に切羽詰ったものになる。
「ああ…んっ!あ…やぁ…あんっ…」
喘ぐ声もその締め付けも段々と鮮やかなものになり、彼女の昂ぶりを告げた。
「ほら、麻由。腰がおろそかになっているよ?」
一旦唇を胸から離してそう言うと、彼女はハッとした表情になった。
胸を責める刺激で中が締まるだけでも十分に気持ちが良いのだが。
「休まないで。ちゃんと動くんだ」
彼女の腰に添えていた手を尻へと移動させ、揉み上げてせかしてやった。
「いや…そんな…っ…」
「動かないと、このままだよ?」
真っ赤な顔でいやいやをするように身を捩る麻由の胸にまた吸い付き、さらに愛撫する。
いちいち満足のいく反応をしてくれる彼女がとても愛しくて、つい調子に乗ってしまった。
最初のプロポーズ以後、こうやって思うままに彼女を翻弄するようなセックスができなくなっていたから。
久しぶりのことに胸が高揚して、やりたいことを全部やってやるとばかりに僕の心は高まっていた。


麻由がまた腰を動かし始めたのに合わせ、手を戻して身体を支えてやる。
「あ…あん…武様っ…ん…っは…」
名を呼ばれただけなのに、それすら嬉しくなって彼女の中を突き上げた。
二人で動くことによって発する湿った音が大きくなり、お互いに快感を与えあった。
「ん…ぁあ…気持ちいい…んっ…」
うわ言のように喘ぐその声が心地良く耳に届き、彼女の身体を支える腕に力がこもった。
何度か強く突き上げると、恍惚とした声が上がってさらに煽られる。
「麻由…麻由っ…」
彼女が乱れるさまを堪能していたはずが、いつの間にか僕も夢中になって腰を動かし、快感を求めていた。
しがみ付く力を一層強くした彼女が顔を近づけ、キスをくれた。
舌を絡めあい、全てを吸い尽くそうとでもいうように求め合う。
もう一切の余裕が消え、僕は体を倒して麻由を組み敷いて激しく責め立てた。
彼女と共に絶頂を迎え、その中に全てを吐き出したい。
ただそれだけを思い、他には何も考えられなくなった。
「やぁ…あ!武様…っ…もう……イっ…あんっ!」
切れ切れに彼女が訴え、涙を湛えた目でこちらを見上げる。
「ん…そうか…」
一緒に達するべく、さらに腰を動かした。
僕ももう寸前まで昇りつめているのだ、これ以上はあまりもたない。
「ああ…んっ…はっあ…あ…あああぁんっ!」
頭の中が白く弾けたようになり、強烈な快感の中で僕は絶頂を迎えて彼女の中に放った。
それを感じ取った瞬間、麻由もまた僕に強くしがみ付き、身体を震わせて達した。
頬に触れるだけのキスをし、身体を絡ませあったままベッドに身体を預ける。
横向きで抱き合い、僕達は荒い息をしばらく整えることができなかった。


ようやく呼吸が落ち着き、二人の視線が絡んだ。
どちらからともなく顔を近づけ、またキスをする。
唇を離し、先程愛し合った余韻にどこかぼうっとした表情の麻由を満足げに見遣った。
「武様…」
ふと呟かれた自分の名前が、言いようの無いほど心地良く耳に響いた。
「イく時、爪跡を付けてくれたね」
胸がじんと熱くなったことに照れくさくなり、言わなくてもいいことを言ってしまう。
起き上がって必死に頭を下げ、彼女が許しを乞うのに申し訳なくなった。
僕が自分で付けた爪跡を消してくれたのだから構わないと慌ててフォローをする。
「もう二度と、あんなことはしたくない。
僕の背に爪跡を付けてもいいのは麻由だけだ、いいね」
本当にそうであってくれればいいと願いながら言った言葉に、彼女も頷いてくれた。
265 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 09:11:13 ID:HgP2LlmW
改めて、彼女を手に入れた幸福を噛み締める。
今日は久しぶりにゆっくりと眠れそうだ。
「さ、もうお休み」
「はい、お休みなさいませ」
「お休み、麻由」
彼女を抱き締め直し、僕は目を閉じた。
今日は今までの人生で一番良い日になった。
最初のプロポーズの日から先程までの辛かった日々がもう遠い昔のように思える。
もう少し時が経てば、最初のプロポーズの苦い思い出が消えて、今日のことだけ思い出すのだろうか。
ふわふわと心地良い幸福感に浸りながら、僕は眠りに落ちていった。



隣にあるはずの温もりが無いことに気付き、翌朝目覚めた。
昨夜の余韻がまだ少しだけ残っている今、彼女が隣にいないことに一抹の寂しさを覚える。
だが、もうすぐ麻由とは共に眠り、共に目覚めることになるのだ。
その日が早く来ればいいと思いながら、起き出して朝の入浴を済ませる。
身支度を整えて部屋を後にする時、テーブルに置いたままの香水瓶が目に入った。
何ともいえない感情が胸に湧き、立ったまましばしそれを見詰める。
これをどうするかは、麻由に決めさせようと思う。
処分するのも取っておくのも、彼女の自由だ。


食堂に入る前、控えていた執事の山村を呼ぶ。
朝の挨拶もそこそこに、麻由と結婚することを告げた。
反対すれば言い争いも辞さない覚悟で山村の返答を待つ。
「左様でございますか」
だが、いつも通り、この男は眉一つ動かさず冷静沈着に答えた。
「反対しないのか?」
「ええ。むしろ、やっとこうなったのかという思いでございますから」
何だって?
「やっと、とは…」
「言葉の通りの意味です」
「もしかして、僕と麻由のことを知って…」
「はい」
涼しい顔で答えられ、逆にこちらが動揺する羽目になった。
「…いつから知っていたんだ?」
「お聞きになりたいのですか?」
「いや…」
真実を知るのが恐ろしく、話そうとする山村を制止した。
麻由とベッドを共にする時、羞恥心を煽るため「屋敷の皆に知れたらどうする?」と言ったことが何度もある。
勿論それは「知れるようなことがあれば」という意味であって「知っていたら」ということではなかった。
…僕の言葉に身を縮め、頬を染めていたあの時の麻由の気持ちが、今なら分かるような気がする。
「名家のご子息は、とかく、素行が悪くなられがちなものでございます。
品行方正を貫いていらっしゃるとなれば、誰か、特定の方を大事になさっていることは自明でございましょう」
「う…」
「邸内での全てを把握するのが、執事の務めでございますから。では」
一礼し、山村が去るのをあっけにとられて見送った。
さすがは、代々うちの家に仕える血筋の男だ。
待てよ、さっき山村は「子息」と言った。「当主」と言わなかったということは…。
いつから知られていたのか、想像するだけで背筋が寒くなる。
ばれていたことを麻由には黙っておこう。
きっと、パニックになるに違いないから。
266 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 09:12:42 ID:HgP2LlmW
早めに帰宅して、夕食が終わった後に屋敷の皆を集めた。
山村だけでなく、他の使用人達にも知らせておこうと思ったからだ。
麻由は、これからメイド長ではなく僕の婚約者として屋敷に住むことになる。
皆がそれをわきまえて恭しく接すれば、彼女もそれにふさわしい振る舞いを身につけるようになるだろう。
食卓のいつもの場所に腰を下ろし、隣に麻由を座らせる。
着替えをしてくるよう言ったので、彼女はいつものメイドの衣装ではなく私服だ。
山村が目配せをしたのを合図に、僕は口を開いた。
「皆に知らせておくことがある。僕と麻由は結婚することに決めた」
一気にそう言い、皆を見渡した。
麻由が身を縮めたのが横目に見えたので、安心させるためにテーブルの下で手を握った。


しばらくの沈黙の後、キャアという歓声が唐突に聞こえた。
それを合図に同じような声が次々に上がる。
食堂内が一気にざわつき、賑やかになった。
騒いでいるのは主にメイド達だ。
庭師やコック達は、後ろで腕組みをしてしきりに頷いている。


山村が咳払いをし、騒ぎが治まった。
しかし後列のメイド達は尚もひそひそと何事か囁きあっている。
「やっと」「ついに」「メイド長が根負けした」など、そういう言葉が断片的に聞こえてきた。
屋敷中が知っていたのかと、唖然とする。
知られないように上手く立ち回っていたつもりだったのは、僕達二人だけだということか。
こうなると、秀子さんに知られていなかったことが奇跡のようだ。
いや、もしかして知っていても知らない振りをしてくれていただけなのか…?
俯いた麻由は、耳まで赤くさせて全身をぷるぷると震わせている。
その姿がとんでもなく愛らしく、思わず抱き締めて口づけたくなったが、堪えた。
そんなことをしたら、皆の前で何をするのかと怒られ、当主としての威厳が保てなくなる。
いや、今この時点では威厳など望むべくもないのだが…。


再び山村が咳払いをし、場を静める。
内心の動揺を抑え、僕は皆に申し渡した。
麻由はこれから僕の妻になるのであるから、そのようにわきまえて接すること。
新しいメイド長は、山村の口から発表する。その者の言うことをよく聞き、従うこと。
それだけを言って、僕は麻由と共に席を立ち、自室に戻った。
山村が話の後を引き継ぎ、今後について細かい指示を出しているのが後ろで聞こえる。
万事、彼が上手くやってくれるだろう。


自室のソファに麻由を座らせる。
放心したようにもたれ掛かる彼女は、さっきのことで相当疲れたようだ。
しばらくそっとしてやりたいが、そうもいかない。
今のうちに、あれこれと言っておかなければならないことがある。
「それで、麻由。いつから母屋に来られる?」
「…は?」
「は、じゃなくて。君は僕の妻になるんだから、もう使用人棟にいる必要は無いだろう?
二人で寝起きするんだから、ここじゃなく、両親が使っていた主寝室に移ってもいい」
あちらにはベッドが二つあったような気もするが、運び出してしまえば済むことだ。
「いえ、あの…」
「何だい?」
「まだ、婚約も済ませていないのですし、一緒のお部屋というのは、ちょっと…」
言いにくそうにしている彼女を見つめる。
「結婚前の男女が一つ屋根の下にいるというのも…。
できれば、私は一旦実家に戻り、婚約期間中はあちらで過ごしたいと…」
「駄目だ!」
話を強引にさえぎり、大きな声で言った。
実家へ帰らせるなど、とんでもない。
267 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 09:13:58 ID:HgP2LlmW
「父親のことが心配なら、屋敷へ呼んで一緒に住めばいい。
彼も昔はこっちに居たんだから、知らぬ土地でもないはずだ」
「…」
「とにかく、屋敷を出るのは許さないよ。
立ち居振る舞いや、ダンスのレッスンもするんだ、お茶や生け花も興味があるならやればいい。
ここならそれに適する場所も道具もある。着物も、母の物があるからそれを使えばいい」
「でも、それは奥様の…」
尚も言い返そうとする麻由の肩に手を置き、正面から見つめた。
「奥様じゃない。『お義母様』だ」
「あっ…」
「分かったかい?」
「はい…」
恥ずかしそうに頷くその様子を見て、彼女を手に入れたという幸福感を噛みしめた。


婚約という煩わしい制度など省略して、今すぐ麻由を妻にしたい。
だが、僕が恋に浮かれて後先考えず結婚したのではないということを周囲に知らしめなければならない。
主人を騙してさっさと妻の座に収まったと、麻由が後ろ指を指されないためにも。
面倒だが、今後の為には必要な期間なのだろう。
それなら、さっさと結納を済ませ、今後の日取りを決めなければならない。
必要なものの手配を山村に命じなければ。
指輪は、二人で買いに行くのだからいい。頼むのは店の選定くらいだろうか。
いや、店は麻由に選ばせてやるのが男としては正しいのだろうか。


「武様?」
急に考え込んだ僕を訝しげに見つめ、麻由が名を呼んでくる。
ああ、これもだ。
「麻由、その呼び名も変えなければね」
「えっ?」
「『武様』はもういい。そうだな、今後は『あなた』とでも」
火がついたかの如く、僕の言葉に一瞬で麻由は真っ赤になった。
「あな、あ…」
「『旦那様』はやめておくれよ。それだと、屋敷の皆と同じになってしまうからね。
様はいらないんだ、これからは主従ではなく、夫婦になるんだからね」
「はい」
「ほら、言ってご覧」
「あ…」
彼女の口から呼んでもらいたくて、促してみる。
婚約もまだなのに「あなた」は変かもしれないが、構うものか。
なかなか言ってくれないのに焦れ、僕は子供にするように一言ずつ区切って手本を見せた。
「あ、な、た」
「………あなた」
「そう、そうだ」
消え入りそうに小さい声ではあったが、麻由は確かに「あなた」と呼んだ。
嬉しくて嬉しくて、僕は小躍りした。
「皆の前では『武様』でいい。
ただ、二人きりの時は『あなた』と呼ぶんだ」
今までは、「武様」と呼ばれるのは二人きりの時だけで、普段は彼女も皆と同じく僕を「ご主人様」と呼んでいた。
これからは、麻由だけが口に出来る僕の呼び名を新しく設定する必要がある。
彼女がここの女主人だということを知らしめる為だ。
さすがに皆の前で「あなた」は早すぎるだろう。要らぬ反感を買わぬとも限らないから、そこまでは望まない。
なに、晴れて結婚したら誰憚ることなく何度でも呼ばせてやる。
268 ◆DcbUKoO9G. :2008/05/24(土) 09:16:49 ID:HgP2LlmW
「いいね?」
「はい…」
「もし間違えたら、お仕置きをするからね、覚えておきなさい」
「お仕置き?」
「そう。分かるだろう?」
肩を抱き、声をひそめて囁く。
身体を固くする麻由を、満足げに見遣った。


「さ、さあ…」
わざとらしく目を逸らし、麻由がとぼける。
「分からないのかい?」
首筋に口づけ、跡を残すように強く吸い付いた。
「キャッ!」
「分からないのなら、しょうがないなあ」
見える所に跡を付けると、屋敷の皆にばれてしまう。
そう言われていたから今までここにはあまり触れなかったが、これからは堂々と跡が付けられる。
「んっ、武様…お止めくださ……」
「ほら、早速だ」
「あっ」
彼女がしまったと息を飲む。
こうも簡単に引っ掛かってくれるなんて、彼女は最高だ。
「じゃあ、一回目のお仕置きといこうか」
「えっ…何をなさいます!」
麻由を抱き上げ、ベッドへと運ぶ。
抱かれている間も、麻由はまた何度も「武様」と呼ぶだろう。
その回数を覚えておかなければと考えながら、じたばたと暴れる彼女をそっとベッドに下ろした。


──終わり──



番外編を書こうとは考えていますが、本編はこれにて完結です。
最後までお付き合い下さった方、本当にありがとうございました。
269名無しさん@ピンキー:2008/05/24(土) 09:28:25 ID:hMZLWXrX
こちらこそありがとう
読み応えのある作品でした
忘れられないメイドさんが一人増えましたよ
270名無しさん@ピンキー:2008/05/24(土) 09:49:53 ID:J9fHH0UD
面白かった
緻密でしっかりしたドラマでエロシーンを別にしてもたっぷり楽しめたよ

武の宣告に全然動じてない山村執事のクールさと
>>266
「知らぬは本人たちばかりなり」な赤面展開が、お約束ながらワロタ
271名無しさん@ピンキー:2008/05/24(土) 14:00:05 ID:QJTPzD0M
GJ!です。
大変楽しく読めました・・・・が、続編が無いとは!
どうか、結婚式までの色々とか周囲の反応とかをお願いします。
272名無しさん@ピンキー:2008/05/24(土) 15:41:44 ID:t5krxc2E
屋敷の人たち見守りすぎwww
初耳のフリした秀子さんもいい人すぎるw


>>268
お疲れ様でした
更新ボタン押したとき投下されててこんなにテンションが上がったシリーズは初めてでした
ホントエロパロというくくりにしておくのがもったいない
完結してちょっと寂しいが番外編も楽しみにしてます
273名無しさん@ピンキー:2008/05/24(土) 21:03:52 ID:E528EK0v
番外編という名のシーズン2が始まるんですねわかります
274名無しさん@ピンキー:2008/05/24(土) 22:47:16 ID:q9dT6QXV
某メイドコミックのように番外編最終話が結婚式なんですねわかります
275名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 00:04:43 ID:myxar5LC
神、と呼ばせてくれ

番外編に期待!!
276名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 05:17:09 ID:IPyPdTwf
素晴らしすぎてもう何度心が震えたことか…
ハッピーエンド最高!二人ともお幸せに

番外編…そうか、結婚式→新婚旅行のコンボか!
277名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 05:27:55 ID:mU7JqpBs
その前に、新郎が上流階級からの色々を身体を張って嫁を護る話を一本。
やっぱ、理解者が多くても反対する人間がいなきゃおかしい

最後には幸せになるんだけどね!
278名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 09:20:19 ID:tsXolL8u
麻由は結婚してからもメイド服着てメイドの仕事してそうな気が。
279名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 09:40:10 ID:0EItRqhX
武様と昔を思い出してのメイド服プレイ

↑こうですか?分かりません!
280名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 03:01:10 ID:i8gXrMSZ
↑いやいや、充分わかります。
281名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 15:00:11 ID:k1uL4qLR
人妻メイド、たまりません><
282名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 14:02:54 ID:Vf3QB4Wa
「お帰りなさい、ご主人様」に「萌え〜」、続々出現する日本風メイド喫茶
ttp://www.recordchina.co.jp/shiten_show.php?gid=141
283名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 19:25:14 ID:O2ebJt0A
ここの住人は三次元のメイドなんて求めてないよw
284名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 20:47:06 ID:+yMRodZS
それはどうかな?3次でもかわいいメイドさんだったらいいよ。
しかし、不細工なメイドはノーサンキュー。
285名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 21:07:28 ID:8LR7gbRj
やだなぁ、メイドさんが本当にメイドさんだったら不細工なはず無いですよ
286名無しさん@ピンキー:2008/05/30(金) 04:19:23 ID:UpPXSu4+
メイドとは献身的な心を持った女性なので顔が微妙でも好きになってしまう
可能性は十分にあります

人に優しくできる人は内面が美しく、内面が美しい人は外見も美しくなっていくのです
287名無しさん@ピンキー:2008/05/30(金) 17:47:32 ID:eqRdTjg+
しかし現実は残酷だな
288名無しさん@ピンキー:2008/05/30(金) 22:31:51 ID:Pin/So+d
リアルのメイドを見たこと有る奴っているのか?
喫茶店とかコスプレとかは格好だけだからメイドとは言わん
289名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 00:54:52 ID:kjC4UURj
あんなのはメイドさんではない。
メードモドキである。
290名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 10:06:35 ID:vA7TfglO
メイド喫茶のメイドってただのウェイトレスと何が違うの?
あんなものはメイドに非ずッ!!
291名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 15:04:09 ID:FrbqEGcf
しかし本物のメイドはブルジョワしか見る事が出来ないから、まがいものにしか頼るほかない。
292名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 15:15:54 ID:p0vEOOeY
リアルでメイドさんありの生活で、萌えメイドさんに当たる事は難しいと思うが、メイドSS書く上で
参考になる事も多そうだ
細部の描写に生きてくる
293名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 15:20:07 ID:Lnxt4rQN
普段は堅いメイドさんが時おり見せる油断した表情とか
頬を赤くする仕草とか
294名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 16:47:08 ID:bOVBeX5z
メイド喫茶のメイドは自分がメイドであることが大事でご主人様はおまけなのでダメです
まぁそんなこといったら本場のメイドさんもお金云々の話になっちゃいそうだけど
295名無しさん@ピンキー:2008/06/01(日) 02:57:27 ID:DTAajHOY
あー、そういえば最近VIPで仕事でマジにメイドやってるって人がスレ立ててたなー
ご主人様の秘書としてスーツ着て働いたりしてるとか、夢はご主人様に玉の輿とか言ってたよ
ちらっと見ただけだからネタなのかマジなのかわかんなかったけど、どっちだったんだろ
296名無しさん@ピンキー:2008/06/01(日) 16:10:39 ID:3psNnLg6
ttp://yutori.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1211969426/

これかな?
読んでないから知らないが、メイド兼秘書ネタいいね
詳細知らないが、凄く有能なイメージを感じる
家事全般率なくこなす上、主家の実際の稼ぎにも貢献
お屋敷でも、職場でも重宝し、こういうメイドさんは、ご主人様の方が手放せない
と、勝手に妄想
297名無しさん@ピンキー:2008/06/01(日) 22:20:02 ID:hqfOulPE
読めないので、うPしてくれるとありがたい
298名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 13:50:17 ID:hchsju6o
遅くなってしまったけど、武様・麻由の作者さんGJ!
凄く好きだ。話はもちろん登場人物も素敵な人ばかりだなぁ。
番外編、楽しみにしています。
299 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/02(月) 21:00:28 ID:lGxLLrEI
>>21-30
>>237-247
の続きです。
300 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/02(月) 21:01:34 ID:lGxLLrEI
【Kiss】

咲野、ちょっとこっちに来てそこに座りなさい。
メイド服に包まれた後姿にそういうと、咲野は抱えていた長い箒と共にびくりと体を振るわせた。

「なんでしょう?」
1秒ほど完全に停止した後、振り向きざまにそう言って咲野がてててと走ってくる。

「まあいいから座りなさい。そこに。」
台所に置いてあるテーブルの対面を指差しながらそう言うと何故か咲野は逡巡したようなそぶりを見せた。
普段なら咲野はそういう仕草はしない。
何かをしろというと咲野は驚くほど従順にそれを行い、疑問点や何かはまずやった後に聞いてくる。
ことメイドの仕事となると咲野は何かをしろとこちらが言った時に絶対に戸惑ったようなそぶりを見せない。
その位の事は最近判るようになっていた。
それがこの逡巡。
やっぱりそうか。

「はい・・・あ、じゃあお茶でも入れて参りま…」
「いいから座りなさい。」
び、と再度テーブルの対面を指差す。
301 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/02(月) 21:02:44 ID:lGxLLrEI
渋々と腰を下ろす咲野に時間を与えないように畳み掛けるように聞く。
「咲野、何をした?」
「……」
「何をした、と聞いている。」
「…………」
咲野は俺の顔を見ながら微動だにしない。すっと切れ長の目をぴたりと俺の口元に向けている。
判ってはいたが中々のタマじゃないか。
大人びて見えるとはいえこれで17歳とはとても思えない。
「咲野、答えなさい。」
「……何の事でしょうか?咲野にはご主人様の仰っている事がさっぱり判りません。」
「ほう、そうくるか。それならこちらにも考えがある。」
とん、と机を叩くと咲野が5度ほど瞬きをした。
視線を逸らさないあたりは流石だが目が微かに泳いでいる。

「最近、といっても1週間前位からのことだ。」
そう話し出すとびくり、と咲野の右腕が震えた。
やっぱりそうだ。

「咲野も知っているだろうが確かに俺は目覚めが悪い。いや悪いという段階にない事は自分で判っている。」
「……」
「毎朝毎朝いつまで経っても起き上がれんし起き上がってからも暫くは身動きがとれない。
自分でも何とかしたいとは思っているんだがこればっかりはどうにもならん。
学生時代からずっとこうだったからな。」
「………」
「それだけじゃない。起きた直後は頭痛がするし視野も狭くなって真っ直ぐ歩けない。
水死体になったかのような気分だ。
俺はあまり酒を飲まんが二日酔いというのはああいう状態をさすんじゃないのかと思っている。
だとしたら酒も飲まんのに毎朝毎朝そういう状態になる俺はなんなんだ、と常々思っていた。」
「…………」
「それがだ。先週末頃からの話だ。ぴたりと目覚めが良くなった。」
「……っ……」
「今までの苦労が何だったのか、という位だ。」
302 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/02(月) 21:03:54 ID:lGxLLrEI

「まあ咲野に起こしてもらっている所は覚えていないのと
部屋が明るくなっている事で何とか覚醒するっていうのは今までと変わっていないんだが
しかし先週から起き上がった後の体調が違う。
ああ、部屋が明るいなあもう起きる時間か・・・などと思ってから体を起こしても
頭痛がしないし真っ直ぐ歩ける。ついでに言えば朝飯も美味い。」

そう言った瞬間、俺を見つめていた咲野の表情がかっと赤く染まる。
やっぱり何かある。疑惑が確信へと変わっていく。
「そ、そ、そ、それは良い事ですね。」
そう言ってついと目を逸らした咲野にび、と指を突きつける。

「何かしているだろう。咲野。」
「……な、何の事でしょうか。さ、咲野にはさっぱり判りません。」
まだ誤魔化すか。

「今日、御前様の所に行った。御前様は嬉しそうな顔でにやにやと俺の顔を見てな。
どうだ?最近は目覚めなんかが良いんじゃないか?なはははははははは、と俺を指差して笑ってくださった。」
「…………あ、あの、私はあの何も…」
「不審に思ったが事実は事実。確かにそう云えばそうですね。何かご存知で?と聞くと
お茶を持ってきたメイドが噴出すわ御前の脇に座ってたメイド長が腹を抱えて震えるわで大騒ぎになった。」

「あ、あの」

「そこで思いついたわけだ。そういえば先週末に咲野は一度御前様の所に行っていたなぁ。と。
そしてその日どうだった?と聞いた俺に咲野は言った。
今日は先輩から色々な事を教わってまいりました。と。」

俺は立ち上がり、咲野の後ろに回った。ぽんと肩に手を置く。
「いいか、観念しろ。喋ったら楽になるぞ。」
そう言うと咲野はがっくりと肩を落とした。
303 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/02(月) 21:04:59 ID:lGxLLrEI
@@

目の前には数冊の本が置かれていた。無論咲野が自分の部屋から持ってきたものだ。
咲野は顔を真っ赤にして俯いている。

1冊を手に取る。
「MaiMaiか・・・メイメイとでも読むのかなこれは。」
「はい…」
ごめんなさい・・・と小さな声で呟く咲野に被せるように声を上げる。
「カワイイ系メイドの5つの約束。モテ系メイドの秘密に迫る…か。何だこれは。」

「それはまだ読んでな・・・」
「そんな事は聞いてない。」
「あのですね。先輩から貰ったんです。信じてください。いつもはそっちじゃない月刊文芸メイドマガジンを買ってるんです。
そっちは本当に真面目なお仕事の特集とかばっかりで、ほらこっちの本なんですけど投稿コーナーの私のご主人様っていうのがとっても面白くて」
ぱたんと本を閉じてもう一冊を手に取る。

「ああああああああああそれはそれはそれは」
304 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/02(月) 21:06:09 ID:lGxLLrEI

「夜の特選メイド・・・随分とけばけばしい表紙だな。ん?
『これで目覚めスッキリ!出来るメイドは夜と朝が違う!夜のお勤めベスト10に、朝のお勤めベスト10!』か。」

「返してください返してください返してください」
ぴょんぴょんと飛び上がりながら本を奪おうとしてくる咲野を避けつつ読み始める。

「メイド服を着ていれば大丈夫、若くて女の子だから自分は平気、そんな風に思っていませんか?
もしあなたがそんな風に考えているのなら、もしかしたら黄色信号かも。と、
そりゃそうだろうな。家事が出来ないと厳しいだろう。その点咲野は大したものじゃないか。
何の心配もないんじゃないか?
夜のお勤めだってマグロじゃ…夜のお勤め?なんだこれ。」

「違うんです違うんです違うんです違うんです」

「事例別特選マル秘テクニック一挙公開。あ、袋とじになってるな。なんだ開いてあるじゃないか。」
「あああ、ああ」

「中々寝てくれない我侭なご主人様にはと・・・・・・・・・えええええええ!凄いなこれ。」
「あああああああああ」

「うわ、いやいやいやちょっとこれはどうだろうな。こんな事を好む奴がこの世の中に・・・御前・・・いやまさか。
俺は御前になんて失礼な。いやちょっと特殊じゃないのかこれ。」

「そのページダメですそのページああああ捲っちゃダメですってご主人様、ああああああ」

305 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/02(月) 21:07:34 ID:lGxLLrEI

「ねぼすけご主人様への朝のご挨拶はこれに決ま…………ん?意外と科学的なことが書いてあるな。
朝起きた時、人間の口内には唾があまりありません。と、
殺菌効果のある唾が少ない事は人間の体内に様々な悪影響を及ぼします。と。」

「掃除に戻ります。」
「ちょっと待て。」
箒を抱えて歩き去ろうとする咲野の襟元をひっつかむ。

「唾が足りない事、その事が体調の悪化を招く事すらあるのです。そこであなたの出番!と。」
「窓も拭かないといけないんでした。」

「咲野・・・?」
「違うんです違うんですご主人様絶対変な感じで思ってるでしょ違うんです。」
「咲野・・・?」
「ぺっとかしてないですよ。ちょっとだけ興味があってそれでそしたら本当にからからだったから
ちょっとだけって思ってでも怒られるかもしれないからって思ってたんだけどどうせならって思って
だから毎日15分くらいだけなんですだってそれでご主人様がスッキリ目覚められたらとってもいいなって
勿論興味がなかった訳じゃないんですけどでもそんなつもり全然無くてご主人様のためにだってだって
それに舌とか出すとご主人様もん、とかいって可愛くてだって」

「ちょっとこっちに来なさい。」
「嫌です絶対怒ってますしご主人様。」

「怒ってるに決まってるだろう?」

「うわああああああん御前様の馬鹿ああああああああ」


306 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/02(月) 21:08:26 ID:lGxLLrEI
---------
感想ありがとうございます。
今回は小ネタですが。では。
ノシ
307名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 21:21:53 ID:qc9SP2B5
>>306
すばらしい。っていうか御前のところの一日がみてみたいなと思う。どんだけカオスなんだろ……
ところで、ここで下のお口でとかなんとか思ってしまった俺はちょっと逝ってくる。
308名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 21:55:28 ID:Dgzk2fKI
おいこらw
咲野さんが可愛いすぎだぞ
309名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 23:38:19 ID:HjdRxe1b
ちょっと作者自重しろや
こんな文章書きやがって

メイドのいる生活がうらやましくなりすぎて今の自分の現実がつらくなったじゃねーか
310名無しさん@ピンキー:2008/06/03(火) 00:18:15 ID:akgfLoq1
>>309 おちつけwww
311名無しさん@ピンキー:2008/06/03(火) 03:06:28 ID:diHQcCIb
GJ!鼻血が…
312名無しさん@ピンキー:2008/06/03(火) 04:39:16 ID:gK7YL6nj
本を取り返そうとぴょんぴょん跳ねてるメイドさんに萌えたー

なんかいい夢みれそうだ

313名無しさん@ピンキー:2008/06/03(火) 08:48:10 ID:4/y8PB3H
>>306
咲野さんかわいいぜ
そして拓郎さまにも萌えたのは内緒だぜ

つまりはGJということだ
小ネタも大変美味しく頂きましたありがとう
314 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/04(水) 20:53:31 ID:+f84TIqS
>>21-30
>>237-247
>>300-305
の続きです。
315 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/04(水) 20:54:19 ID:+f84TIqS
【そのまた1週間位前の話】

「姉さま。由佳姉さま。」
「何よ咲野。」

ぺたんと絨毯の上に座り込んでいる咲野に声を返す。
一番仲の良い後輩だった咲野が拓郎様の所に行ってからもう数ヶ月になるが
咲野は今でも時間があるとこうやって私の所にちょくちょくと遊びに来てくれる。

メイドの仕事は通常考えられているよりも遥かに忙しい。
他の家に行ってしまえば会えるチャンスなど普通は殆ど無いものだ。
それなのに咲野は今もこうやって私の部屋でのんびりとお喋りをする位の時間を貰えたりする。
咲野の顔は柔らかく、そして穏やかなままだ。
咲野は良い所に行ったのだと、そう思う。

「この本、借りていっても良いですか?」
「いいよ。っていうかもう読み終わったからそれあげるよ。」
咲野は私がこの前買ったMaiMaiという雑誌をぱらぱらと捲っている。
私達の仕事は家の中にいる事が多いからちょっとした空き時間なんかの為に雑誌を読む娘が多い。
咲野が読んでいるMaiMaiはちょっとした仕事の工夫の記事だけでなく、
メイド服の着こなし方とかちょっと洒落た礼儀作法についてだとか
ファッション性のある記事なんかも多くて若いメイドに人気の雑誌だ。

咲野はここにいた頃はたしか真面目な月刊メイドマガジンしか買っていなかったはず。
メイド長なんかが好むような伝統的な仕事方法の特集満載の雑誌だ。
辞書みたいな分厚さと辞書みたいな内容に定評があって、ページを開くと辞書みたいに字で埋め尽くされており
辞書みたいに内容が難解だから若いメイドには非常に人気が無い。
その咲野がはーとか興味深げに溜息を吐きながらぱらぱらとファッション記事を捲っている。
そういうのに興味が出てきたかぁ・・・と昔から咲野と付き合っている私には感慨深いものがあった。
私とさほど年齢も変わらないのに今まで咲野は仕事一本やりでこういうものに興味を示す事があまり無かった。
新しい家に行くと考え方も変わるものなのだろうか。
そもそもが化粧っけも殆ど無いのに若手メイドたちの中では群を抜いて美人の咲野だ。
こういった事に興味を持ち始めたら凄いものが出来上がりそうだ。
316 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/04(水) 20:55:05 ID:+f84TIqS

「こんなの良いんじゃない?」
私も一緒に見よう、と思って咲野の脇にぺたんと座り込みながらメイド服をミニにしたモデルの写真を指差すと、
咲野は目を丸くした。

「こんなの穿いたら高い所でお仕事できないじゃないですか。不便です。」
「だって拓郎様のお屋敷ってお客様とかそんなにいらっしゃらないんでしょう?」
「ご主人様がいるじゃないですか。」
「ご主人様になら見せたって良いじゃない。」
「お姉さま言っている意味が良く判りません。」
大体見せても良くないですし、叱られます。と咲野は生真面目な顔をして言う。

「私だってこれくらい短くしてるし、平気じゃない?」
「姉さまは短くしすぎです。お客様、よくちらちらと姉さまの方見てたりするじゃないですか。
姉さま可愛いんですからそう云う所、気をつけないと。」
「そうそう、この前秋良の若様から食事に誘われたの。今度の休日いかがですかって。」
「だからそれが駄目なんじゃないですか。」
「勿論断ったわよ。ご主人様のメイドが他の男と出歩いてるなんて噂になったら大変だもの。」
この場合のご主人様のメイドとは御前様御手つきのメイドを指す。
案の定咲野は顔を赤くした。
メイドはまあお仕えする家によるけれども、少なくともこの家では恋愛をする事は自由だ。
若いメイドが恋愛結婚して家を出るなんていう事も結構ある。
けれどご主人様のメイドとなると違ってくる。
ご主人様の態度も、仕事に求められる質も、そして自分の気持ちそのものもだ。
それに相応しいものを求められるし、自分でもそうあろうとするようになる。
御手付きは通常メイド達の中でも話す事は厳禁とされ、極秘事項となっているのだけれど
残念ながらその秘密が守られる事は殆ど無い。
まあ当たり前といえば当たり前、若いメイドの間でその手の秘密が保たれる訳が無いのだ。
だから私がご主人様の御手付きである事も、若手メイドの中で唯一の御手つきが私だという事も咲野は知っている。
317 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/04(水) 20:57:39 ID:+f84TIqS

「そ、そ、そ、そうですよね。お姉さま、御前様のメイドですもの。」
そこまで言って黙り込む。
ふむ。拓郎様が如何に真面目な方とは言え咲野が拓郎様の家に行ってもう数ヶ月。
特殊な嗜好でもない限り若い貴族様が咲野を見て何も感じないという事はあるまい。
普通ならもう手がついている筈、と思っていたのだけれどこの反応、そうでもないらしい。

「咲野、あなた 拓 郎 様 の メ イ ドになってないのかしら。」
ずばりと聞いてみる。
途端に目を泳がせる咲野を見て思う。やっぱりそうか。
「そ、それはそうですけれど、お仕事はきちんとしていますし、
 というか姉さま、別にそれはお仕事ではないかと思うのですが。」

しどろもどろになってそういう咲野を冷たく突き放してやる。
「そりゃあ、仕事じゃないわよ。でもメイドたるもの常にご主人様の一番側にいる事が仕事でしょう?
ご主人様本人よりもご主人様の事が判っている事。ご主人様の求めるもの以上の絶対の忠誠。
そして必要であれば死をも厭わずなんだって喜んで行う行動力。
特に専属メイドにはこの気持ちが必須じゃない。」

「うう…」
「ま、咲野がお食事と掃除洗濯だけで大満足、というのなら話は別だけれど。
でもそれじゃあ拓郎様もご不便でしょう。
お仕事の調整だとか、生活の全てを任されてこその専属メイドじゃないかしら。」
がっくりと肩を落とす咲野に追い討ちを掛ける。

「私達にとってご主人様は街の食堂で売っている食券とは違うの。
私はご主人様を愛しているし、それは仕事でもあるけれど決して仕事だけではありえない。
ご主人様に気に入られる事も然る事ながら自分達がご主人様を気に入れるかどうか。
それが専属メイドには何よりも大事なのよ。
もし咲野が無理なのなら御前様に言って今からでも変えてもらったらどうかしら。
もし拓郎様が宜しいようだったら私からご主人様に言って他の子でも良いし、お許しがあるなら私だって」
「いやです。だめです。姉さま酷い。」
私にだって判っていますし。と言いながら不安そうに私を見上げてくる。
ふむ、判ってはいた事だが咲野も拓郎様を憎からず思ってはいるのだろう。
でもはっきりと安心は出来ないって所か。
私が御前様に言ったら本当に変えられてしまうかもしれない、そんな風に思っているのだろう。
ここで私が同じ話をされたら薄く笑ってご主人様がそう望まれるのならどうぞ。と答えるだろう。
318 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/04(水) 20:58:28 ID:+f84TIqS

しかしどこまでいっているのだろう。興味はある。
拓郎様が男色、という事もないだろうし
お口で欲望を受け止めて差し上げる、とか体をお見せする位は咲野でもさすがにやっているとは思うのだが。
いや、咲野ならそれだけでも覚悟が決まるかもしれないか。
それとも鈍い所もあるから逆だろうか。
どちらにせよ最後までいっていない事は確実だ。
下世話な話だけれど、専属メイドにとってご主人様に挿れて頂く事は契約と赦しに他ならないのだから。
どんな娘でもそれだけで変わるものだ。
ご主人様が自分を手放したらどうしよう。
そんな事を考える専属メイドなど存在しないのだから。

そんな事をつらつらと考えていると咲野がおずおずと口を開いた。
「そのですね、姉さま、」
「何?」
「その、切欠みたいなのはあったんですか?姉さまの場合。」
「…何の?」
判っているけれどにやにやと笑いながら聞いてみる。
性的嫌がらせかもしれないが、お説教と為になる先輩のお話の御褒美にお礼としてこれ位は良いだろう。

「その、あの、御前様のメイドになった切欠です。」
首筋まで真っ赤になって咲野が呟くように言う。
「咲野はそれを聞いて真似しようという訳ね。」
「いえいえいえいえ違いますよ。そんなんじゃないです。
でもあのそういうんじゃないですけど姉さまの場合、どうだったのかなあーっと思いまして。」

ひょっと床に手をついてから立ち上がる。肩のところで切りそろえた髪が揺れて耳をくすぐる。
髪の色素が薄いところが可愛いとよく他の娘に言われるけれど、個人的には咲野みたいに黒髪でロングにしてみたいなとよく思う。

「しょうがないわね。でもその前にお茶にしましょうか。」
さて、お茶とお菓子と一緒に悩める後輩にアドバイスをしてあげる事としようか。
319 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/04(水) 20:59:04 ID:+f84TIqS

@@

休日がある、というのがこのお屋敷の素晴らしい所の一つだ。
普通メイドに休憩はあってもそうそう定期的な休日なんてものはない。
お皿を洗わないでいい日なんてものが無いからだ。
このお屋敷はメイドの数が多いからこうやって順番にしかも定期的にお休みが貰える。
その上そのお休みが皆に尊重されるという所が素晴らしかった。
メイド服を着ていない限り、ご主人様をはじめ誰も絶対に手を貸して欲しいなどという事は言わない。
まあ見かねてこちらから手伝ってしまう事はあるけれど大抵は無視する。
他の子が休みの時にも休みを満喫して欲しいからだ。

あ、まあ私はご主人様に夜呼ばれる時だけはこのルールは適用しない事にしている。
そんな事はあまりないけれど、
休みの日にもしご主人様が勘違いをされて私を呼ばれた場合、それは嬉しい誤算、というやつだからだ。

とそんな訳で私は堂々とお屋敷の厨房に入りこんで死ぬほど忙しそうにしている同僚を尻目に
私と咲野の分のお菓子を見繕い、お茶の用意をしてくる事が出来るという訳だ。

部屋に戻ってテーブルの上にお菓子とお茶を並べて咲野とそれを囲む。
咲野はすっかり私の話に期待しきって目をきらきらとさせている。

さて、と気合を入れる。
後輩に為になる話をしてあげる事としようか。
煎餅を5分の1に割って口の中に放り込みながら話を始める。

「そうね、さっきの話の続きだったっけ。私の切欠、ね。」
「宜しくお願いします。」
ぺこりと頭を下げられる。

320 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/04(水) 20:59:54 ID:+f84TIqS

「ところで咲野、あなた拓郎様に叱られたりはしないの?」
「…?結構叱られますけど。」
少し考えた後、咲野は急に話を変えた私に対して小首を傾げながら答えてきた。

「その時お尻を叩かれたりはしない?」
「お、お尻っ!そ、そんな事しないですよ。」
「お仕置きといえばご主人様がお尻を叩くものと相場が決まってるじゃない。」
私の言葉にうわうわうわと咲野が慌てる。
「えええええ、お尻ってこう、どうやって叩くんですか?」

「拓郎様に叩かれた事無いの?」
「無いです。小さい頃メイド長に叩かれた事位はありますけど。」
「じゃあ、お仕置きのされ方は知らないのね。」
「知らないです。」
教えてください。と咲野が仕事モードにになって私の言葉に喰らいついてくるのを待ってから、
私は一口お茶を啜って口を開いた。

「しょうがないなあ。まずはこう、下着を脱ぐわよね。」
「ええええええ」
本当ですか、と目を見開いた咲野に頷いてから続ける。
「当たり前じゃない。」
「当たり前なんですか?こうお尻を叩くんですよね。何で下着を脱ぐんですか?」
「下着を着ていたらお尻、叩けないでしょ?」
「……?」
咲野がばっと両手を口に当てる。
「まさか…!」
「まさかも何もそうに決まっているでしょう?」


321 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/04(水) 21:00:45 ID:+f84TIqS

信じられない。という顔の咲野を前に更に話を続ける。
「あ、そうそうあなたまさかご主人様の前で下着を脱ぐ時にご主人様にお尻を向けて脱いだりしてないわよね。」
「まさかもなにも脱いだ事無いです。」
「しょうがないわね。ご主人様を前に下着を脱ぐ時は必ずご主人様の方を向いて脱ぐのよ。」
「そうなんですか?」
頭に?マークを浮かべた咲野に苦笑を浮かべる。

「当たり前よ。ご主人様の顔を見ながらゆっくりとスカートの中に手を入れて下着を下ろすの。
この時不恰好に屈んだりしては駄目。膝まで下ろしたらゆっくりと片足ずつ下着を外すの。私は右足、左足の順番ね。
そのあとはご主人様によるけど、その下着はご主人様に渡すか、たたんで脇においておきなさい。」
「はい。」
「それが終わったらスカートを胸の方まで捲り上げてきちんと下着を脱いだ事をご主人様にお見せするの。」
「えええええ」
「これは昔の武士の作法なのよ。お仕置きを受ける前にこちらが何も武器を持っておらず、
神妙にお仕置きをお受けいたします、という証を見せるという意味ね。」
「そうなんですか。」
へええ、と感心したという感じに咲野が頷く。
「でも、いくらご主人様とはいえ、恥ずかしくないですか?」
そう、ここからが大事な所だ。咲野の言葉に重々しく頷いてから言葉を続ける。

「勿論恥じらいは大事よ。恥ずかしいその事もお仕置きの一つと思いなさい。
だから無表情にお仕事としてこういう事を出来るようになる事は無いわ。
お仕置きをされる身としてご主人様に恥じらいの表情をお見せする事も大事。」

「はい。良かった・・・さすがに私、ご主人様の言いつけとはいえ、淡々とそんな事は出来そうにありません。」
「それでいいのよ。でもご主人様がきちんと確かめられるまで、スカートは下ろしては駄目よ。」
「はい・・・自信、ないですけど。」

「ご主人様がお確かめになられたら、そうしたらスカートを元に戻してご主人様の膝元に進みなさい。
そして椅子に座っているご主人様の脚の部分、太腿の部分におなかの下の部分を当てるようにして
横向きにご主人様の脚に被さるように体を下ろすの。」

322 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/04(水) 21:01:40 ID:+f84TIqS

「そうすると、頭がこう、下に下がっちゃいませんか?」
「それでいいのよ。ご主人様の脚の上にお尻が来るようにしないといけないもの。
だから出来るだけ体を前に倒してこう、手を床に付いて支える位にするの。
手を床に付けてそうして首を持ち上げれば頭が真下に行かないからぼうっとなる事も無いわ。
脚は宙に上げてしまって構わないから出来るだけ前に体を倒しなさい。」

「お尻を高く持ち上げるんですか……」
自信が無い、と云う風に咲野が俯く。

「それだけじゃないわ。そのままだとご主人様がお尻を叩けないじゃない。
手を後ろに回して、スカートを捲くらないと。」
「えええええええええ」
「なにがえええよ。当たり前でしょう?」
「でも、でもええと、その時は下着を脱いでますよね私。」
「しっかりしなさい。きちんとスカートを捲くって、
そうしてようやくご主人様にお仕置きをして頂く為にご挨拶が出来るという訳。」

「ご、ご挨拶って…」
「それはご主人様によるわね。最初のうちはそう、
〔いけない咲野が本当にご主人様の気持ちをお判り出来るようになるまで思い切りお仕置きくださいませ。〕
って所かしら。そうすればご主人様はきっとお仕置きして下さるわ。」

「なんかもうそんな格好でご主人様の膝の上に乗るだなんて叩かれる前に泣いてしまいそうなんですけれど私。」

「泣いては駄目よ。最後にご主人様の足元に接吻するまでがお仕置きだもの。
それまではどんなに厳しくお仕置きされてもそれを受けなくては駄目。」
咲野が眉をひそめる。
「そんなに強く叩かれるんですか?」

323 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/04(水) 21:02:47 ID:+f84TIqS

「それはご主人様のお気持ち次第ね。私のご主人様の場合だと…」
「ご、御前様の場合はど、どうなんですか?」

「そんなに強くはお叩きになられないの。でもゆっくり叩かれるのよ。」
「じゃあ、痛くはないんですね?」
ほっとしたように息を吐く咲野を見ながら話を続ける。

「痛くないから良い、という訳じゃないわ。」
え?と顔を上げる咲野に頷いてみせる。

「ご主人様はゆっくりと叩かれるの。勿論お仕置きをされるのだから部屋の中は静まっている訳。
そんな中ご主人様に横向きに抱かれてお尻を見られている訳でしょう?」

「は、はい。」
咲野は拓郎様に横向きに抱かれている事を想像しているのだろう。
もうはや首筋まで真っ赤にさせている。

「そしてゆっくりとお尻を叩かれるの。叩かれた時はぴしゃりって云う音が自分の耳に聞こえる訳。
思い切り叩かれたのなら痛みで全てを忘れられるかもしれない。でもそうじゃないの。
叩かれたって判るくらいの鈍い痛みと共に叩かれた音が聞こえるだけ。
しかもご主人様は連続して打っては下さらないの。一回打ったら30秒くらいは何も仰らずにそのままなのよ。」

「そうすると叩かれている私は色々な事を考えてしまう訳。
ご主人様に恥ずかしい姿を見せてしまっている上にお仕置きをされている訳じゃない。
もう恥ずかしくて、頭が混乱して、ってそんな時に又叩かれるの。
毎回ちょっとづつ力を変えてそうやっているうちに恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなくて
顔とか首筋まで真っ赤になっているのが自分でもわかるくらい。」

はあーと咲野は息を吐いている。

「でもお仕置きされている時にこちらからご主人様に声を掛けるなんて事は赦されないからお許し下さいとも言えない。
だから部屋の中にはご主人様が私を叩かれる音と、叩かれたその時に出てしまう私のはしたない声だけが響く訳。
そうやってご主人様がお許しくださるまでお仕置きを受けて、反省しなくてはいけないの。
だから寧ろされている時は思い切り叩いて欲しいとすら思うわ。
そうすれば痛みで恥ずかしさはなくなると思うから。」
324 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/04(水) 21:04:08 ID:+f84TIqS

咲野がごくっと唾を飲んだのを確認してから私は口を閉じた。
きっと咲野は拓郎様もご主人様と同じタイプだと考えているのだろう。
私もそう思う。だからこの話をしたのだ。
「そ、それは判りました。す、凄いお話でした。
で、でもこれと御前様と姉さまの切欠とどういう関係が・・・」
「あら、判らないの?鈍い娘ね。私が今まで話した事で、大体判るでしょう?
お仕置きされて見も心もご主人様に委ねている状態、
しかもご主人様はお仕置きの時は少なからず興奮されている訳じゃない。」

「あ。」
と咲野が声を上げるのに合わせて頷いてみせる。
「そ、そうなんですか。」
そういう訳でしたか…と咲野は納得したように何度も首を上下させているのに合わせて私は続けた。

「そうなったらお仕置きのときと同じ。ご主人様の仰る事に全てお任せしていれば良いのよ。
まあ、細かい所は省くけれどね。」
咲野は尊敬しきった目で私を見ている。
中々優越感をくすぐる視線といえる。
先輩の醍醐味だ。

325 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/04(水) 21:05:17 ID:+f84TIqS

「まあ、これは一つの例、と思っておけばいいわ。そうね、咲野に特別なものをあげる。」
咲野の頭をぽんと叩きながら立ち上がると私は本棚から1冊の雑誌を取り出した。
ずい、と咲野の前に置いてやる。
「これも持っていきなさい。」
表紙に夜の特選メイドと書かれている雑誌を咲野は宝物でも見るかのような目で見ている。
「こ、これはなんですか姉さま」

メイドの真面目な仕事に関する記事はほぼ0、もの凄っっくいい加減でかつ扇情的な記事と
非常に偏った方向にとても詳細な説明がされている袋とじ特集が若手メイドに人気の雑誌だ。
これを買っていることを知られるとメイド長にものっ凄く怒られるが、
大抵どのメイドも休みの日にわざわざ遠くまで買いに出たりして1冊は自分の部屋に隠し持っている。

「大事な事が書いてあるわ。咲野の役に立つかもしれない。私の話は私の話。
お仕置きされたときに作法通りにするのは大事だけれど、勿論お仕置きされるのはいけない事よ。
参考程度にしておいて咲野は咲野で拓郎様の専属メイド足りえる実力を身に付けなくては駄目だよ。
例えば…拓郎様は朝が弱いと仰っていたじゃない。
もしかしたら、そういう事のヒントが書いてあるかもしれないわ。
そういう事をきちんとやっていくうちに拓郎様も咲野に全てを任せよう、そう思って下さるかもしれないからね。」

さくやははい。と言いながら瞳を輝かせて雑誌を両手で持ち上げた。
私はいそいそと鞄の中にMaiMaiと夜の特選メイドの2冊をしまう咲野に温かな笑みを浮かべながら、
拓郎様にご迷惑にならないように今日はそろそろ行きなさい、とそう口を開いた。
326 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/04(水) 21:06:33 ID:+f84TIqS
@@

「またいらっしゃい。」
「はい、由佳姉さま、今日は本当にありがとうございました。」

ぺこりと頭を下げてから廊下の絨毯の上を歩いていく咲野を見送る。
ぐぐっと手を天井に伸ばすと息を吐いた。

さて、気合を入れて嘘を吐くのも疲れるものだ。
素直で美人で、可愛くて可愛くてしょうがない後輩にも言えない事だってある。
そのうちに咲野にも判るだろう。
どんなに可愛い後輩にだって話せないこと。
ご主人様と私の事なんて、本当に本当に自分の中にだけ大事にしまっておく、とっておきの秘密に決まっているじゃないか。
そうそう簡単に教えてもらおうだなんて、そうは問屋が卸さないのだ。

ま、嘘を吐いたと言っても本当の初めての時の話をしなかったと云うだけで他はまるっきり嘘という訳ではない事だし。
咲野には我慢してもらおう。

くつくつと笑った。
どちらにせよ、今日のお屋敷での夕食のテーブルの話題は私の独り占めになりそうだ。
さあて、皆にどうやって話してやろうか。
そう思いながら私はもう少し残った休日を楽しむ為に、ゆっくりとドアを閉めた。


327 ◆/pDb2FqpBw :2008/06/04(水) 21:09:28 ID:+f84TIqS
---------
いつも感想ありがとうございます。
では。
ノシ
328名無しさん@ピンキー:2008/06/04(水) 22:45:39 ID:ouMbvZRg
とりあえず、上記の雑誌は何処で買えるのでしょうか?
329名無しさん@ピンキー:2008/06/04(水) 23:24:10 ID:5fIgDG1a
さて、拓郎さまがいつその気になることやら
そこまで描いてくれますよね
お願いしますご主人様

GJGJ
330名無しさん@ピンキー:2008/06/04(水) 23:31:51 ID:ltI5oAso
漏れは咲野のメイドさん責めにじわじわと嬲られ追い詰められてく拓郎様を見たいようなw
331名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 00:17:40 ID:CxV6E0t+
今回は出てこなかったけど
一番かわいいのが拓郎様だってことが許せないw
332名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 03:54:08 ID:4e94CEuZ
>>327

             _,,..::ー-'`^゙ー―‐..、
           .,,.. '"      i     ゙`>、
         ,/      ,._」_、 i / /  (
        /__   _ /    `"´-、 ,.-‐゙‐
       'ー-、     ,)  ,...,.,,,,) (  V"
          \   /  _'ー‐'ノ゙`セ'}〕
            )=、!、  .    ・ノ  |
            f"ゴ.    ,. ----、 !    咲さーーーーん!騙されちゃダメーーーー!!!!!!
            !、(っj    レ―'‐'‐! !     
            `'ィ゙ヽ_    " ̄`''./|         でも騙され編を読みたくて仕方がない俺ガイル
             .!  r‐-r.、  ,,. -! l

333名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 07:35:03 ID:LiFFLQP2
お姉さまのいじわるw
334名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 22:09:21 ID:vKf/k61z
>他はまるっきり嘘という訳ではない

と言うことはあのお仕置きの作法は嘘ではないんだな!?
考えた奴誰だよwww
335名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 22:31:56 ID:J4xSGSJx
ものすごくエロいな。
白い尻の感じとか由佳さんが御前にぺしぺしされてる所とか想像するだけでいける。
336『メイド・初音』:2008/06/07(土) 19:29:46 ID:dxU44BZR
ゼミのコンパから帰ってきて、部屋でくつろごうとすると、ドアがノックされた。
「直之さま。初音でございます」
ぼくが返事をすると、初音はドアを開けた。
なんだろう。
コンパは金曜だけ、門限は12時。
初音の決めたルールは守っているけど。

初音は、ぼくの担当メイドだ。
この家のメイドの中では中堅になる24歳。
かわいい顔のわりに、かなり厳しい。
そうでなくては、次男とはいえ当主の息子の担当メイドは務まらない。
つまり、担当メイドとは教育係を兼ねているのだ。

「なんだよ、文句を言われるようなことはしてないよ」
ぼくは、初音がなにか言う前にけん制した。
「そうではございません」

部屋に入ってきた初音は、朝と変わらず長い髪をきっちりと結い、パリっとしたメイド服で姿勢を崩さない。
「本日は金曜日でございますし、朝のうちにご交流の場所とご参加の皆様のお名前をご報告いただいております。それにちゃんと12時までにご帰宅なさいました」
「…じゃあ、なんだよ。今日は書かなきゃいけないレポートもないし」

ソファにだらしなく座ると、初音はぼくの脱ぎ散らかした上着や放り出したカバンをクローゼットに片付ける。
上着をハンガーにかける前に、そっと顔を押し付けて匂いを確認している。
タバコを吸う参加者はいたが、ぼくは吸っていない。
喫煙はしない、というのが初音の決めた規則だ。

「わたくし、お暇を頂戴することになりました」

ぼくはの後ろに立った初音がいきなりそう言ったので、飛び上がった。
「なんだって?」
表情ひとつ変えず、初音は立ち上がったぼくを見上げる。
「結婚が決まりましたので」
ぼくは口をパクパク動かした。

初音が、結婚…。

ぼくの16歳の誕生日から、初音はぼくの担当メイドになった。
小さな子供のように生活の世話が必要なわけではなく、かといって大人でもない年頃のぼくのお説教係りのようなものだった。
メイド学校を優秀な成績で卒業して、お屋敷勤めで経験を積み、その中から選ばれただけあって初音は完璧だった。
初音は、ぼくが在宅しているかぎり、ぼくのそばから離れなかった。
初音は、ぼくのメイドだったのだ。
ぼくは、初音にどれだけ世話を焼いてもらい、叱られ、甘やかされ、教えられてきたか。

「その、誰だい、相手は」
「三条市武さまでございます」
「いちたけ?!」
大きな声が出た。

確か、うちの会社の系列の社長の三男坊。
パーティなんかでは必ず顔を合わせていた。
まだ30前で、長身でなかなか男前。
いずれ系列会社のひとつを任されるだろうと言われているくらいには優秀。
ぼくだって、それくらいの人間関係は把握している。
だけど、まさか人の家のメイドに手をつけるなんて。
なんて奴だ。

「お話は、去年からいただいておりました。旦那様も良縁だとお許しくださいましたが、お待ちいただきました」
「…なんでだよ」
「直之さまが、二十歳になられるまでは、わたくしが担当メイドでございますから」
337『メイド・初音』:2008/06/07(土) 19:30:27 ID:dxU44BZR
目頭が、ジンと熱くなった。

うちの場合、当主の息子には結婚までに4人の担当メイドがつく。
最初は乳母と子守りのメイド。
小学校に入る頃から、16の誕生日までのメイド。
そして、16から二十歳までのメイド。
一番大事だと言われているのがこの16からのメイドなのだ。

大人になりかかる年頃の男の子を、素行を乱して道を踏み外さぬよう、社会性を身につけられるよう、そして学業を軽んじぬよう、そして…。

ぼくの行動は、この4年間、初音に握られてきたのだ。

警察にお世話になるようなやんちゃをせず、そこそこ学業も修めながらのびのびと遊び、かつ周囲の良い評価をもらえるような人間になれたのは、初音のおかげだ。

ぼくは、目の前にいる初音のまっすぐな視線を受け止めた。
真っ黒い瞳と、長いまつ毛。
白い肌、すっと通った鼻筋。右の頬に小さなほくろが二つ。
そして、唇。

「…初音は、ぼくより三条の市武さんのほうが好きなのかい」
初音はにっこり笑った。
「存じません。直之さまはわたくしのご主人でございます。ほかの殿方と比べることなどできませんから」
「だけど、うちをやめて三条に行くんだろ」
「どのみち、わたくしはもう直之さまの担当メイドではいられませんもの」

そうだ。メイドは、主人が二十歳になると交代する。
経験を積んだ中堅メイドではなく、学校を卒業したてのメイドに。
二十歳になれば、メイドに隅々まで世話されるだけでなく、メイドを教育することも出来るように。
一人前になって仕事が忙しくなる頃までに、完璧に生活をサポートできるメイドを自分で育てるのだ。
担当メイドの作った規則に縛られるのも、二十歳の誕生日までだった。

「…いいよ、ぼくは。ずっと初音で」
「直之さまは、わたくしがお嫌いではないのですか」
ぼくはびっくりした。
「ぼくが?」
「わたくしは…、直之さまにいやなことばかり申しますから」
すっとうつむく。
きれいに櫛目の通った頭頂部。
ぼくが初音を見下ろすようになったのはいつからだろう。
16の時には、まだ初音はぼくより背が高かったかもしれない。

「それは、初音は口うるさかったかもしれないけど、みんなぼくのためじゃないか。それくらいわかってたよ」

それに。

ぼくは、初音の背中に手を回して抱きしめた。
初音はぼくにいろんなことを教えてくれた。
計画的に勉強すること、規則を守ること、相手の立場に応じて世間話をすること、失礼のないように女の人をエスコートすること、簡単な家事や炊事までも。

それに。

「嫌いなわけないじゃないか。…初音は、ぼくの初めての人なのに」
初音は顔を上げた。
唇を重ねると、なじんだ感触。
「…いけません。おやすみになるお時間です」
長いキスの後で、初音はかすれた声で言う。
「二十歳になったら、主人の命令は、絶対だ。規則よりも」
ぼくはまだ、二十歳になっていない。誕生日までには、まだ数日あった。
二十歳におなりになるまでは、規則は規則でございます、という反論はなかった。
初音は小さく頷いた。
338『メイド・初音』:2008/06/07(土) 19:30:52 ID:dxU44BZR
「脱いで。ぼくに見せて」
命令すると、初音はエプロンに手をかけ、メイド服を床に落とした。
ガーターベルトを外すためには下着をとらねばならない。
少しためらってから、初音はぼくの目の前で裸になる。
裸体にきっちりとアップにした髪形が、不似合いだった。
手をいれてピンを外すと、長い髪が波打って肩に落ちる。
やわらかくて形のいい胸は、大きすぎず手の中にすっぽりおさまる。
白くて滑らかな肌。
細い手足、くびれたウエスト、むっちりとしたお尻。
見えるところも見えないところも、全部ぼくは知っている。
初音の全部は、ぼくのものなのに。

「……市武さんとは、もう?」
三条市武の、日に焼けた精悍な顔立ちを思い出す。
聞く人の心を捉える、豊富な話題とユーモア、優秀な仕事ぶり。そしてさりげなく周囲に気を配る、誠実で優しい人柄はぼくも知っている。
市武さんがその話術で初音を口説き、鍛え上げた胸の中に抱きしめるのだ。
この唇を吸い、胸に触れ、そして。

「どうだった?市武さんは」
立ったまま胸を揉まれて、初音は頬を赤らめた。
ぼくは服を着たままだから、まるで大きな人形にいたずらしているかのようだった。
規則にはうるさい初音も、規則外のことではぼくの命令に従順だ。
ぼくだけのものだったこの体が、いつのまに市武さんに奪われていたのだろう。

「脱がせて」
初音が答えないので、ぼくは別のことを頼んだ。
今度は、初音は「かしこまりました」と答えた。
ぼくのシャツのボタンを外し、肩からすべり落とし、洗濯もの用のカゴへ入れる。
ジーンズを脱がせてクローゼットに吊るして風を通す。
トランクスの中で、ぼくはもう半勃ちになっている。
初音がそのトランクスに手をかけ、ぼくはジーンズを脱いだときと同じように交互に足を上げた。
手順は、いつもと変わらなかった。

初音は部屋に付いている小さなバスルームへ行ってバスタブにお湯を入れ、それが溜まるまでの間にぼくの体を洗う。
シャワーで泡を流すと、今度はぼくが初音を洗った。
ただし、初音がぼくを洗ったスポンジは使わない。
泡だけを取って、手で洗う。
首筋も、腕も、胸も、お腹も、背中も、お尻も、脚も。
初音の全部を、ぼくの手が撫で回す。
最初、初音は恐れ多うございますと抵抗したが、ぼくがこうすることを命令した。
初音は黙ってぼくのしたいようにさせてくれる。

どこか、いつもと違うことはないだろうか。
うっかり、初音がぼくとしていたことではなく、市武さんとしていることをしてしまわないかどうか、注意して観察する。
丹念に洗い上げると、初音が甘いため息をついた。
今日は特に太ももの内側や背骨の辺りといった、初音の好きなところをじっくり触れた。
お湯がバスタブからあふれそうになっている。

初音の泡を流して、うっすらとピンク色に染まった体を前から抱き上げるようにして、一緒にバスタブに入る。
両足を抱えるようにして、ぼくの腰に絡めさせる。
向かい合った初音のピンク色の乳首を指先で触れた。
開かせた脚の付け根で、ゆらゆらと陰毛がそよいでいた。
隠してはいけない、と言ってあるから初音は恥ずかしそうに視線をそらしはしても、手で身体を覆ったりはしない。
339『メイド・初音』:2008/06/07(土) 19:31:18 ID:dxU44BZR
「いつ、暇を取るの」
「・・・来週でございます」
「来週のいつ」
「…月曜日でございます」
ぼくの二十歳の誕生日は、火曜だった。
初音は、本当にぼくの担当ではなくなってしまう。
そればかりでなく、この家からもいなくなってしまうんだ。
ぼくはクスンと鼻をすすった。

胸に触れられたまま、初音はぼくの頬を両手で包んだ。
「…いけません。男の子は、人前で泣くものではございませんでしょう」
優しく言われて、目が潤んでしまった。
「初音はメイドじゃないか。初音の前で泣くのはいいだろ」
「はい」
初音はぼくの目元にキスして涙を舐め取ってくれた。
「初音の前でだけでしたら。初音がこうしてさしあげますから」

ああ、あと数日で二十歳になろうという男が、こんなにみっともなく泣くなんて。
「でも、今日だけになさってくださいましね。これから直之さまが、どなたかに非難されるようなお振る舞いをなされたら、それは全部、初音のご教育が至らなかったのだと後ろ指を差されてしまいます」
また、涙が浮かびそうになった。
初音が自分のことを名前で呼ぶのは、ぼくの前だけ、しかも甘い気分になっている時だけだ。
「…わかったよ。誰かに、初音を悪く言わせるようなことはしない。絶対」
初音が、ぼくの唇にキスした。
「ありがとうございます」
「じゃあ、初音とこんなことできるのも、あと二晩だね」
「…はい」
「その後は、市武さんと」
「……」
「後学のために聞くけど、ぼくと市武さんとどっちがいい?」
「……」
「そりゃ、経験値は向こうのほうがずっと高いだろうけどさ」
「……」
「初音は、ぼくで満足してくれてたのかな」
「……」
「初音」
腰を抱いて顔を初音の胸に押し付け、乳首を唇で挟むと、初音はお湯の中でぴくっと震えた。
脚を動かして、初音の股間に押し当てる。

「…直之さま」
「なに」
「初音は、市武さまとはなにもございません」
「なんだって?」

ぼくはまじまじと初音を見る。
ひいき目に見なくても、初音はかなりの美人の部類だ。
優秀なメイドとされるだけあって働き者だし気配りも優れている。
うちで催すパーティや同年代の子女が集まる交流会でも、たくさんいる屋敷のメイドの中で、初音はその容姿でも働きでも目立っていたはずだ。
大物を招いての食事会などで、給仕をする初音の尻を撫でるジジィは数え切れない。
この初音を見初めて、結婚の話をまとめながら、なにもないとはどういうことだ?
市武さんは、もしかしてなにか問題があるのか?
340『メイド・初音』:2008/06/07(土) 19:31:41 ID:dxU44BZR
「おかしいよ。初音になにもしないなんて、男じゃない」
小刻みに脚を動かし続けると、初音が耐えられないというように崩れた。
「直之さま…」
バスタブの中で初音の華奢な体を抱き寄せると、初音はぼくの耳たぶを甘噛みした。
「初音は、お二人の殿方と同時に…そんな女ではございませんもの」

息を吹きかけるように、ささやいてくる。
「悔しゅうございます…」
脚の上で、初音のお尻がもぞもぞと動く。
「初音がひとつずつ直之さまにお教え申し上げたことを、今度は直之さまが、担当メイドにお教えになるかと思うと」

初音。
呼ぶと、初音は潤んだ目でぼくを見つめた。
「初音は、二十歳の直之さまの担当メイドになりとうございました。学校を卒業してすぐ、直之さまにお仕えしたかった…」
メイド学校は、一年で終わる一般コースと、主人の担当メイドになれる二年の特別コースがある。
初音が特別コースを卒業してうちに来た17歳の年に、ぼくが二十歳になっていたら。
ぼくが、初音を躾けることができたら。

きっと、初音はなにからなにまでぼく好みのメイドになっただろう。
もちろん、今も初音はぼく好みだけど。小言を言うとき意外は。
ああ、でもそうしたらずっとずっと手元においておくのに。

三条の三男坊なんかに、渡さなかったのに。

ぼくは初音の唇に自分の唇を重ねた。
もう、ガマンできない。
立ち上がると、初音は先に立ってバスタブを出て、タオルを持って戻ってきた。
ぼくの体を拭こうとするのを抱きしめると、身をよじった。
「いけません。ちゃんと拭かなくては、お風邪を召します」
「小言か?」
初音はくすっと笑った。
細い人差し指を、ぼくの唇に当てる。
「まだ、19でいらっしゃいますでしょう?初音の規則に従ってくださいませね」

初音に体を拭いてもらってから、今度はぼくが初音を拭いた。
そのまま抱き上げてベッドに運ぶ。
仰向けに下ろして、いきなり覆いかぶさると、初音の手がぼくの肩を押した。
「直之さま。初音を悪く言わせないで下さるのではありませんの?」
どういうことだ?
ぼくは手を止めて初音の顔を見た。

色白な頬が湯上りで上気していて、とてもきれいだ。
仕事用の控えめな化粧も落としてしまっているのに、長いまつ毛がくるんと上を向いている。
「女性に、そんな乱暴なお振る舞いをなさってはいけません。将来、直之さまがお嫁様になさるようなお嬢様には」
「優しく抱け、っていうんだろ?」
初音の言葉を遮って、唇をふさいだ。
初めてのときに、初音が教えてくれたとおりにしてやろうか。

指先で触れるか触れないか距離で肌をなぞる愛撫。
舌先で乳首をつつき、手を下げて脚の間にもぐりこませる。
すぐには触らず、指先に柔らかな陰毛を絡める。
両方の乳房を手のひらと舌先でなぶられ、感じるところの近くを触れまわされると、初音のお尻が動いた。
もどかしいのだろう。
341『メイド・初音』:2008/06/07(土) 19:32:05 ID:dxU44BZR
初めて初音を抱いた時は、ぼくも夢中だった。
女の子の身体というものの全てが新鮮だったし、やっと初音を抱けるということもあった。
初音は一生懸命ぼくをセーブさせ、そうではないとか、ここに触れてくれとか指示をした。
それはいつもの、お客様へのご挨拶は歯切れよくなさいませとか、お食事の時間に遅れてはいけませんとか言うような言い方ではなく、耳元で吐息まじりにささやくようなお願いだった。
そして、ぼくを導くように、そこに押し当てた。
不慣れなせいかなかなかうまくいかず、あせるぼくの背中を初音はずっと撫でてくれた。
夢中で終えたときは、抱きしめてくれた。
初音も少し、泣いていた。

お上手でした。
そう言って初音がベッドを降り、手早くシーツを剥ぎ取ろうとした。
交換するのだろう、とぼんやり見ていると、そのシーツに初音の証が染み付いているのを見つけた。
ぼくがシーツを奪い取ろうとすると、初音はメイドらしからぬ抵抗を見せたが、すぐに手を離した。
あんなに一生懸命ぼくを導いてくれた初音が、本当は初めてだったなんて。

悪友たちの見せてくれる雑誌や世間話によれば、初めてのとき女の子はとても痛いと聞く。
初体験の彼女がひどく痛がって、最初はできなかったとか、泣かれてしまったとか、体験談を話す連中もいた。
初音は、痛いなどと一言も言わなかった。
ただ、ぼくがうまくことを運べるよう、男としての階段を上れるよう、一生懸命、一生懸命。
メイド学校ではそんなことも教えるんだろうか。

ぼくは片手でシーツを持ったまま、初音を抱きしめた。
ガールフレンド以上の恋人がいないぼくに、初音は自分の身体を捧げてくれたのだ。

毎日毎日初音を見ていて、欲情したことがないといえば嘘になる。
うちのメイドの制服は実用が重視されているから、身につけているのは膝丈のエプロンドレスに髪を押さえるホワイトブレスというカチューシャくらいだ。
それでも同じデザインの制服は、着るメイドによってずいぶん印象が違う。
最近も学校を出たばかりのメイドが何人か入ってきたけど、とても子供くさく見える。
ベテランの30歳を越えたようなメイドだと落ち着いて見えるし、ときどき色っぽくさえある。

そして、初音のメイド服は、ぼくに見えないはずの胸元や太ももまでも想像させた。
朝から晩までそういうことで頭をいっぱいにしているといってもいい年頃の男に、そんなメイドに世話を焼かれるのはある意味つらい。
とうとうぼくは、初音はぼくの担当メイドなんだし、いろいろと教育するのが仕事なんだからと自分に言い訳してベッドに連れ込んだ。
小言の多いメイドを少しだけ困らせてやれ、という気持ちがなかったとはいえない。

そして、初音がどんなにぼくを思い、ぼくに尽くしてくれているかを思い知らされたのだ。

ぼくの愛撫で感じてしまったらしい初音が、腰を揺らし始めた。
お互い初めてだったあの夜から、ぼくは何度となく初音を抱いてきた。
そして、お互いがお互いを思って、試行錯誤を繰り返し、もう離れられないというほど相性のいい身体になった。
…ぼくは、そう思っていたのに。

初音の中に、指を入れた。
「あ……」
初音は、あまり指で中を激しくされることを好まない。
内壁をなぞるようにそっと動かす。
そのうち、内側のやわらかいところが熱を持ってくる。
初音の切なげな息遣いが聞こえてきた。
「直之さま…」
初音の手が、ぼくのペニスを握った。
「お口にくださいませ」
身体を起こしてぼくを仰向けにする。
ぼくの指が初音の中から抜けた時、初音が小さく声を上げた。
342『メイド・初音』:2008/06/07(土) 19:32:37 ID:dxU44BZR
初音が、ペニスの先端に舌を這わせた。
そのまま舐めまわし、手で竿をしごきだす。
たまらず、ぼくはうめいた。
「殿方が、女の子のような声を出されるのはいかがなのでございましょう」
ちゅぽん、と音を立てて口を離してから、初音が呟いた。
それは声を出してはいけない、というのではなく、一般的に上流家庭の子息としてふさわしい振る舞いなのかという疑問のようだった。
「出ちゃうんだよ、初音がうまいから」
「…ほうひう、ものらのれひょうか」
再びくわえ込み、音を立てて吸い上げる。
「そこ、いい。もっとしてくれ」
言われたとおりに、初音はぼくのペニスをしごき、舐め、吸う。
「く、うう、いいよ、初音」
ぼく好みのこのテクニックを、こんどは市武さんに使うんだろうか。
ペニスがぴくぴくと痙攣し、ぼくは初音の頭をつかんで引き離した。

「上に乗って」
初音は素直にぼくにまたがると、自分から腰を落として中に収めた。
中はもうヌルヌルで、いくらかの抵抗と圧迫のあとで、全部が入った。
この膣の中は、ぼくのサイズなんだ。
ぼく専用なんだ。
それなのに。
初音が腰を前後に動かす。
クリトリスを押し付けるようにしているらしく、はっはっという呼吸になった。
指を入れて触ってやると、後ろに倒れそうになったので慌てて片手をつかんだ。
「初音はここが敏感だよね。自分の好きなように動いてみていいよ」
初音はぼくに片手を取られ、クリトリスをいじられながら腰を振り出した。
奥に深く入れて、押し付けるようにするのが初音は好きだ。
でも、自分で動いてイカせるのは悔しい。
「あ、あん、ああっ」
初音が声を上げ始めたところで、ぼくは下から腰を突き上げるようにして動いた。
「きゃあっ、ああん、すごっ、あっ、ああっ、あああっ」
ぼくが突き上げる動きと、初音がバランスを崩しかけて揺れるのとが合わさって、とてもいい。

「だめだよ、そんな色っぽい声」
「…あ、あんっ、でもっ」
「声を出してもいいけど、ここだけだ。ぼくにだけ聞かせて」
「んっ、はっ、あっ…」
「市武さんに抱かれて、そんな声は出さないって約束しなさい。いいかい」
「え…、あ、ああ……」
「こんなふうに、いい声を出したり、こんなにいやらしく濡らしたり」
「ああ、ああっ、あああ!ああんっ!」
初音の中がぎゅっと締まって、ぼくの精液をしぼりとった。
「く、イク・・・、出す!」
「ああっ、初音も、初音もっ」
ぼくたちは同時に絶頂を向かえ、ぐったりと抱き合った。
「・・・いいかい、市武さんに抱かれてイかないと約束してくれ」
初音が、困ったようにぼくの胸にすがりついた。
「嘘でもいい。だって、初音が市武さんのところに行ったあとのことなんか、ぼくにはわからないから。だから、嘘でもいいから、ぼくに抱かれないと感じないと言って。ぼくだけが初音を気持ちよくさせられると、思わせてくれないか」

初音は小さく、はいと答えた。
343『メイド・初音』:2008/06/07(土) 19:33:28 ID:dxU44BZR
それからもう一度、今度は正常位でぼくは初音を抱いた。
気持ちよくなった顔や、揺れる胸や、上気する肌をじっくり見ながら。
もうすぐ、初音はぼくのものではなくなるんだ。
ぼくは、月曜までに消えてなくならないように強く、初音の肌に赤い跡を刻んだ。

市武さんに、見せるために。

ああ、ごめん、初音。
きみがあれほど、上に立つ人間として器の大きな男になるようにと教育してくれたのに。
ぼくは、小さい男だ。




「直之さまの、二十歳のお誕生日パーティーのお世話が出来ないことが、心残りでございました」

月曜日の朝、そう言って初音はこの屋敷を出て行った。

使用人仲間に花束をもらって、後輩メイドに泣かれて、コックの特製お祝いケーキを抱きかかえて。
ぼくは裏口から出て行く初音を見送ることは出来なかったけど、窓から見下ろしていた。
初音は、門を出て実家からの迎えの車に乗る前に、屋敷を振り返った。
窓の中のぼくが見えるはずはないのに、まちがいなく初音はぼくのいる部屋の窓を見た。

さよなら、初音。
次にどこかで会うとしたら、その時君は、三条市武の夫人なんだね。
市武さんに、かわいがってもらうんだよ。
ぼくの、初音。




誰かが、部屋のドアをノックした。
許可すると、そこに若いメイドが一人立っていた。
今年採用された新人メイドの一人だろうか。見たことがない顔だ。
メイドは、ぎこちなくぴょこんと頭を下げた。
すらりとした細身の肢体に不似合いなしぐさだった。
まだ長さの足りない髪をアップにしているせいだろうか、たくさんのピンを使っているのが子供っぽい。

「小雪でございます。このたび、直之さまの担当メイドを拝命いたしました」
忘れていた。
最後に初音が選んでいった、ぼくの4代目の担当メイド。
ぼくが、自分の手で育てなければいけない、学校を出たばかりの新人メイド。

17歳の小雪は、ぼくを見てにっこり笑った。


――――了――――
344名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 20:27:03 ID:M8QLPGYI
ええい!なんともどかしい展開だ・・・
345名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 20:57:50 ID:h9Vqil0C
GJ!切ないなあ…初音さん、お幸せに



で、小雪さんの話はまだですか?
346名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 22:30:23 ID:S1tIt19C
初音さんを奪回して下さい



でもGJ
347名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 07:42:18 ID:E8SR2Mp5
これは切ない・・
GJ!!
348名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 21:47:24 ID:crWo/Br+
GJ
初音さんでNTRっぽい展開を期待。。。
349 ◆DcbUKoO9G. :2008/06/09(月) 07:59:11 ID:bDBi+Aiq
昔のエピソードを一つ投下します。
2人が関係を持ってまもなく、まだ武の婚約者選びパーティーが行われている頃の話です。


「宿願」

それを思いついたのは全く偶然のことだった。
いつものように麻由を部屋へ呼び、2人きりで会話をしているときのことだ。
彼女が住む使用人棟は、定期的に部屋替えがあるらしい。
1週間後にそれを控え、今は頑張って荷造りをしているのだという話を聞いていた。
数m先の部屋へ移動するだけでも、私物を全て移すというのは大変なのだろう。
手伝ってやりたいが、僕の立場上、残念ながらそうするわけにはいかない。
「引越しの日までに、間に合いそうなのかい?」
「ええ、たぶん大丈夫ですわ。こういう作業も基礎教育の一環なのだと、メイド長が仰っていました」
麻由が微笑み、僕もつられて笑顔になる。
真面目な彼女のことだ、きっと毎晩一生懸命やっているのだろう。
「この際、持ち物に全て目を通して、いらないものは処分することにしたのです。
それが案外多くて、段ボール何箱にもなってしまいました」
「ほう、そうか」
「なぜこんな物を取っておいたのかというものが多くって。
もう持っていない服の共布や、間違えて買ってそのままにしてあった枕カバーなんかが出てきまして」
なるほど、忘れていたり、つい捨てそびれたりした物が引き出しの奥にでも潜っていたのだろう。
僕の机の中にも、探せばきっと似たようながらくたがあるはずだ。
「高校時代の教科書や制服なんかも出てきたんです。
父と住んでいたお部屋から移った時に、持って来たまま忘れてしまっていたんですわ」
「制服?」
「はい」
彼女の言葉に僕のアンテナが反応した。
屋敷に来た当初、麻由は使用人棟の家族部屋で父親と2人で暮らしていた。
当時は彼女の父親が僕の父の運転手をしていたからだ。
高校を卒業後、麻由がメイドとして働き出してから間もなく彼女の父は退職し、もともと住んでいた近郊の家に一人で戻った。
そして、麻由は同じ棟の独身者部屋に移り、そこで住まうことになったのだった。
「確か、君の高校の制服は黒いブレザーだったね」
「はい。よくご存知ですね」
感心したように彼女が言う。
ご存知も何も、当時から彼女に片思いをしていた僕の目には、しっかりとその制服姿が焼きついている。
同じ敷地内に住んでいたのに別の高校に通っていたから、その姿を見ることは稀だった。
学校への行き帰りなどにちらりと見る麻由のことを、どれだけ焦がれながら見詰めていたか。
当時の淡い恋心が思い出され、甘酸っぱい気持ちになった。
「あの制服を処分するのかい?}
「ええ、もう着ることもありませんから」
その言葉にひどく残念な気持ちになる。
僕には初恋の形見でも、彼女にしてみれば制服はもう過去の遺物なのだろう。
着ないのなら貰い受けたいと言いかけ、慌てて口をつぐむ。
こんなことを言ったら、きっと幻滅されてしまうから。


「武様?」
あれこれ考えて黙り込んだ僕を見て、彼女が首を傾げる。
何も疑うことの無い目で見られ、少し動揺した。
「なあ、麻由…」
「はい?何でございましょう」
「制服を捨てるというのなら…、最後に一度だけ、僕の前で着てくれないか?」
もう一度、彼女の制服姿が見たい。
強くそう思い、清水の舞台から飛び降りるような気持ちでそう頼んだ。
しかし。
「まあ、なぜです?」
きょとんとした顔で問い返され、頭を抱えたくなった。
それはそうだ、なぜ今さらと思うのが当然の反応だ。
ここは、冗談だよと笑って誤魔化すしかない。
350 ◆DcbUKoO9G. :2008/06/09(月) 07:59:56 ID:bDBi+Aiq
「…前に、僕は君に初めて会ったときに一目惚れをしたという話をしたことがあったね」
笑い話にするはずが、開いた口からは全く違う言葉が出た。
「え、ええ」
僕の言葉に麻由の頬がピンク色に染まる。
その初々しい反応にグッときたが、そ知らぬ振りをした。
どうやら、僕は自分で思っている以上に彼女の制服姿が見たいらしい。
「…同じ高校に通えなかったから、君の姿を近くで見ることができなかった。
君を部屋の窓から見たり、庭ですれ違うだけであの頃の僕には精一杯だったんだ。
こうやって傍に寄って話せたら、どんなに嬉しいだろうと君を見るたびに思っていた」
話しかけたら、きっと緊張してしどろもどろになってしまう。
そんな確信があったから、会話することを諦めて見詰めるだけだった。
中学生の頃はセーラー服、高校生の時はブレザー。
目を閉じなくても、当時の彼女の姿はたやすく頭に思い浮かべられる。
「一度きりで構わないから、着ておくれ。
あの時の夢を叶えたいんだ、きっと今でも似合うよ」
そう頼むと、麻由は耳まで真っ赤になった。
「に、似合うでしょうか…」
「ああ、間違いない。僕が保証する」
さらに言葉を重ね、傾きかけている彼女の心に揺さぶりをかける。
「一生のお願いだ、いいだろう?}
身を乗り出し、手を合わせて頼んだ。
もっとましな一生のお願いは無いのかと、冷静な自分が文句を付けるが、聞こえない振りをした。
「武様がそう仰るなら…」
彼女がコクリと頷き、赤くなったままの顔を上げる。
承知してもらったことに、僕はソファから飛び上がりたいほど嬉しい気分になった。


すぐ着て貰ってもいいくらいだったが、今から自室に戻って取ってくることには彼女が難色を示した。
無理に頼むのも悪いかと思い、はやる心を抑えてすぐに見るのは諦めた。
引越しをした次の日に来ることを確約してくれ、一安心する。
当時のことを思い出すのはやさしいが、早く実物が見たい。
その日が来るまで僕はずっとそわそわしていたように思う。
当日はいよいよ浮き足立って、生活上の細かいミスを連発する有様だった。
夕食も入浴もさっさと済ませ、皆が寝静まるのを待つ。
一応ソファに座って本など開いてみるが、内容はもちろん頭に入ってこなかった。
夜11時を過ぎた頃、部屋のドアを控えめにノックする音が聞こえた。
心臓が大きく跳ね、喉がごくりと鳴った。
この扉を開ければ、高校時代の麻由がいる。
期待に震える手で僕はドアノブに手を掛けた。


立っていたのは、いつもの紺色のワンピースにエプロン、ブリムを付けたメイド姿のままの彼女だった。
あてが外れてしまい、ひどくがっかりした気分になる。
それを気取られないようにしながら、とりあえず部屋へ招き入れ、ソファに座らせた。
「よく来たね」
「はい…」
彼女が後ろ手に持っていた紙袋を床に置いた。
そうか、使用人棟の自分の部屋で着替えてから来るのはリスクが高いと考えたのだろう。
制服姿で僕以外の誰かに会ったりしたら、何を言われるか分からないだろうから。
「それが制服かい?}
「え、ええ」
彼女が俯き、小さな声で頷いた。
この部屋で着替えるつもりなのだろうか。
「頼みを聞いてくれてありがとう、麻由」
再び騒ぎだした胸を押さえ、笑みを浮かべる。
「…来て早々で悪いが、さっそく頼めるかな」
僕がそう言うと、彼女はゆっくりと頷いた。
351 ◆DcbUKoO9G. :2008/06/09(月) 08:00:42 ID:bDBi+Aiq
紙袋を持って立ち上がった彼女が周囲を見回す。
「あの、着替えはどこですれば宜しいでしょう?」
「僕は別にここでも…」
「そ、それは駄目です!!」
大きな声で拒否した彼女が、ハッとしたように口に手を当てる。
着替え中は大人しく後ろを向いているつもりだったが、僕はそんなに信用が無いのだろうか。
風呂場ですればよいと言いかけたが、僕がさっき入浴したばかりだから床が濡れている。
「僕は壁の方を向いているから、あっちで着替えなさい。
なんなら、クロゼットの扉をつい立ての代わりにしてもいい」
着替えを覗かないことを約束し、二言は無いとばかりに背中を向けた。
「…では、あちらで」
彼女が向こうの壁際へ行き、つくりつけのクロゼットを開ける音が聞こえた。


衣擦れの音がするたび、ついそちらへと関心を向けてしまう。
着替えた彼女の姿を早く見たくて、心がはやってしょうがない。
まだかまだかと膝を叩き、じりじりしながら待ち続けた。
「麻由?」
音がしなくなったので、着替え終わったのかと思って呼びかけてみる。
「もう少しだけ、お待ち下さいませ」
慌てたような声が聞こえ、ガサガサと音がした。
脱いだメイド服を畳んでいるのだろうか?
待ち疲れたところで、やっとクロゼットの扉が閉まる音がし、彼女がこちらへ歩いてきた。
「武様…」
恥じらいを帯びた呼び掛けに振り返ると、初恋の少女がそこに立っていた。


左胸にエンブレムのついたシンプルなブレザーに、白いシャツと光沢のある赤いリボン。
青系のチェック柄のプリーツスカートをはき、足元にはワンポイントのついたハイソックス。
普段まとめている髪は、一旦解いてから三つ編みにされていた。
制服を着崩すことも無い清楚な佇まいで、全く当時のままの姿の麻由がそこにいた。
時間が一気にさかのぼったような錯覚をおぼえ、小さな目まいが僕を襲った。
「武様?」
馬鹿のように突っ立ったままの僕を訝しく思ったのか、彼女がまた名を呼んだ。
「あ、ああ。うん」
挙動不審になりながら、やっとのことで返事をした。
まさか、髪型や靴下まで徹底してくれるとは思わなかった。
予想以上の出来栄えに、まだ胸の動悸が治まらない。


「さ、こっちへおいで」
こわばった喉から声を絞り出し、こちらへと招く。
その言葉に従い、麻由はまた数歩僕の方に近寄った。
「いかがでしょうか…」
自分の姿に自信がもてないのか、おどおどと尋ねてくる。
「…そうだね、とても可愛いよ」
思ったままを言うと、彼女はパッと顔を赤くして俯いた。
「そ、それは良うございました」
蚊の鳴くような声で言うのが耳に届いた。
今度は、僕の方から距離を縮める。
あともう少しで手が届きそうな所で足を止め、恥ずかしそうにしている彼女を見下ろした。
中高生の頃、こんなに近寄ったことはなかったと思う。
窓越しか、庭を隔てて垣間見ることがほとんどだったから。
稀に庭で行き合っても、麻由は僕の姿を認めると道の脇へそれ、両手を前で揃えてお辞儀をするのが常だった。
敬意を払われるのは悪くないが、そんな風にされると話しかけづらい。
運転手の娘だというだけで、彼女自身とは主従の関係に無かったのに、随分律儀な子だと印象を抱いたのを思い出した。
352 ◆DcbUKoO9G. :2008/06/09(月) 08:01:41 ID:bDBi+Aiq
「お気が済みましたか?」
追憶にふけっていたところ、麻由の言葉で我に返った。
「もう宜しいのなら、これで…」
「えっ?」
あちらを向き、僕の前から去ろうとする彼女の腕を反射的に掴む。
「どこへ行くんだ?」
「元の服に着替えて参ります」
「それは駄目だ、もう少しこのままでいておくれ」
もっと麻由の制服姿を見ていたい。
こちらを向かせ、必死なくらいに頼み込むのだが…。
「いえ、もうこれ以上はご勘弁下さい」
珍しく彼女は僕の手に抗い、腕を振って外そうとする。
こんなに似合っているのに、恥ずかしいのだろうか。
向き合って彼女の腕で綱引きをするような格好になった。
これでは、まるで女子高生に迫る質の悪い男のようだ。
埒があかないので、一歩踏み出して暴れる肩を左手で捕まえる。
「あっ!」
一気に引き寄せ、自分の胸にぶつけるようにして彼女を後ろから抱き締めた。
「ん…」
尚も腕の中で身を捩る華奢な肩を抱え込み、手を掴んでいた右手は腹に回す。
息を飲み、彼女は一瞬だけ抵抗をやめた。
肩越しに覗き込むと、僕の左手はブレザーと胸元のリボンに触れ、右手はブレザーの裾とチェックのスカートに触れていた。
夢にまで見た制服姿の麻由を、今自分は腕に抱いている。
身体中の血液が逆流したようになり、頭がかあっと熱くなった。
「離してくださいませ…」
俯いた彼女の耳が赤く染まっている。
「いやだ。離してしまえば、君は着替えるんだろう?」
「…」
無言で肯定され、僕はますます腕の力を強くした。


また身を捩りだした彼女のお下げが揺れ、鎖骨の辺りに回した僕の腕にぱたぱたとぶつかった。
白いうなじが目に入り、反射的に唇を寄せてしまう。
「あ…」
吸い付くと、麻由はびくりと身体を跳ねさせた。
印を残さない程度に軽く吸い付いたつもりだが、心配そうな目で振り返って僕を見た。
「痕はつけなかった」と言おうとした僕の唇は、上目遣いにこちらを見上げる麻由の唇に吸い寄せられるように重なった。
「っ!…ん……」
あごを掴んで固定し、柔らかい唇を堪能する。
次第にこわばっていたその身体から力が抜け、僕の胸にしんなりと寄り添う形になった。
思う存分味わってから唇を離すと、くちゅりという湿った音が静かな部屋に響き、消える。
腹に回していた僕の手を、麻由がキュッと掴んだ。


「武様…」
麻由がぽつりと呼んだ自分の名が、甘く蕩けるような響きを持って耳に届いた。
もし、高校時代に思いを告げていたなら。
今みたいに、この格好で僕の名を呼んでくれたのだろうか。
僕が麻由に一目惚れをしたように、彼女も同じタイミングで僕のことを思い初めたのだと前に話してくれたことがある。
両思いだったのに、同じ敷地内に何年も暮らしていたのに、随分遠回りをしたものだと思う。
僕達が思いを伝え合ってからまだ1年も経っていない。
やり直したくても、あの頃にはもう戻れない。
僕にもう少し勇気があって、あの頃に告白できていたなら。
屋敷の皆や両親の目を盗み、こうして制服を着た麻由を抱き締められたのかも知れない。
巻き戻せないその数年間を思い、しばし目を閉じた。
婚約者が決まってしまえば、僕はもう麻由をこの手に抱くことができなくなるだろう。
この家の跡取りとして、しかるべき人を妻に迎え、愛するための努力をしなければならない。
本当に好きな人との関係を続けたままでは、それができないのは目に見えている。
353 ◆DcbUKoO9G. :2008/06/09(月) 08:02:42 ID:bDBi+Aiq
俯いた麻由の顔を上げさせ、もう一度口づけた。
まだまだ上手いとはいえない動きで舌を絡め、さっきとは違ったやり方で彼女に触れる。
「ん…ん…」
彼女が時折小さく息をつき、鼻にかかった声を上げる。
その微かな反応に煽られ、下半身に熱が集まり始めるのを感じた。
最初は、麻由の制服姿をもう一度だけ見たいと純粋に思い、頼み込んだのに。
こうして彼女を抱き締めてしまうと、別の欲望が頭をもたげてくるのを抑えられない。
キスを交わしながら、麻由の腹に当てていた手を上へと這わせていく。
ブレザーに包まれた胸に触れると、その身体が大きく震えた。
固い生地の上からそこを撫で、線をたどる。
金色のボタンを外し、シャツの上から同じようにまた手を這わせた。
「あっ…ん…」
彼女が唇を離して小さく叫び、身を捩る。
ブレザーの隙間から入り込んだ手を掴まれ、外へ出そうと引っ張られる。
必死になっているようだが、そのくらいの力ではもう僕の手は止まらない。


触れた胸は、いつもより弾力があるように感じられた。
柔らかい肉がシャツの中に窮屈そうに押し込められ、白い布地がぴんと張っている。
「高校生の時と比べて、胸が随分成長したようだね?」
耳元で囁くと、彼女は顔をそむけた。
どうやら図星だったようだ。
この制服を着ていた数年前、彼女の胸はどれくらいの大きさだっただろう。
手を這わせながら思い出そうとするが、明確な記憶が浮かんでこない。
あの頃の僕は、まだそういう場所を注視するような人間ではなかったからなのか。
今から思えば、随分と奥手だったものだ。
しかし、あの頃姿を見るだけでも良いと願った麻由は、今この腕の中にいる。
当時より成長した胸を僕に揉まれて、羞恥に身をくねらせている。
高校時代の自分からすればまさに夢のようなことだ。
「だめです…だめ…」
首を左右に振り、麻由がうわ言のように繰り返す。
そういう言い方は、男のやる気を増大させるようなものだとは知らないのだろう。
男は誰でも、少々強引なシチュエーションに興奮を覚えるものだ。
特に僕は、制服姿の初恋の人を前にしてボルテージが上がりきってしまっている。
メイド長でも連れてこない限りは、今の僕を止めるのは無理だろう。
素肌に直接触れたくなり、シャツを脱がせることにする。
しかし、揺れる麻由の身体を押さえ、片手でシャツのボタンを外すのは難しい。
しばらく格闘してボタンを外すのは諦め、シャツを掴んでスカートから引っ張り出した。
「きゃあ!」
麻由が悲鳴を上げ、更に大きく身を捩る。
しかしそのおかげでシャツが乱れ、労せずにスカートから引っ張り出せた。
裾から手を入れて素肌に這わせると、しっとりと吸い付くように掌に馴染む。
もっともっと触れたくなって、僕は広範囲に手を動かし、柔らかいその感触に酔った。
「ん…武様…」
わき腹やへその辺りに指が届くたび、彼女がいやいやをするように身をくねらせる。
初々しいその仕草は、きっと高校生時代に彼女と触れ合っていてもこうしただろうと思わせた。
自分のボルテージがまた一段上がったのを感じる。
もはや、僕の身体に沸きかえる熱を冷ます方法は一つしかなくなった。
354 ◆DcbUKoO9G. :2008/06/09(月) 08:03:26 ID:bDBi+Aiq
疲れたのか、麻由が静かになった隙を見計らってベッドへと運んだ。
素早く覆いかぶさり、横たわる彼女を上から見詰める。
ブレザーのボタンが外れてリボンも乱れ、シャツがしわになっている。
欲望をかき立てるその姿で、顔を真っ赤にさせた初恋の人が涙目で自分を見詰めている。
これは、襲うなという方が無理だ。
もう一度口づけながら、ブレザーを脱がせる。
相対したことで扱いやすくなったシャツのボタンも外してしまい、左右に広げた。
「っ…」
唇を離すと、彼女は両手で自分の顔を隠してしまった。
少し残念な気もするが、今はやっと目の前に現れた両の膨らみに触れることが先決だ。
背を浮かさせて下着のホックを外し、白いレースで仕立てられたそれをずり上げた。
成長したと僕がさっき評した胸が誘うようにふるりと揺れ、露になった。
堪らず、そこへ顔を埋める。
柔らかく弾む感触を楽しみ、心ゆくまで揉みしだいた。
「あっ…ん…」
外気に晒されて固くなりかけている乳首を口に含むと、耐え切れないのか彼女が声を上げた。
そのまま唇で挟んで扱くようにすると、一層艶を帯びた声が上がり、喘ぎに変わっていった。
「ん…あ…はっ…あん…やぁ…」
顔は手で隠されたままだが、彼女はもはや僕の愛撫を拒否するそぶりは見せなかった。
もっと色っぽい声が聞きたくなり、もう片方の乳首を指先で摘み上げる。
「あんっ!やぁ…ん…」
切羽詰った叫び声が上がり、それにますます煽られる。
さらに彼女を乱れさせたい、あられもない声を上げさせたい。
今摘み上げた方の乳首に舌を這わせて、柔らかく舐め上げる。
強い刺激が温かく濡れた刺激に変わったわけだから、違った快感があるはずだ。
女性の体のことは今もってよく分からないから、確信はないが…。
先程まで舐めていた方の乳首は指先でちょんちょんと触り、捏ねるように弄ぶ。
予想通り、麻由はのけ反り白い喉を露にして甘い声を上げた。
シャツを脱がせる時に外したリボンがシーツの上で揺れている。
白いシャツの袖に包まれた彼女の肘が、堪えきれないように震えた。
「ん…あぁ…んっ…は…」
僕の手と舌の動きに合わせ、上ずった声が彼女の口から漏れた。
そろそろいいだろうか。
片手を下へ持って行き、スカートに手を入れて麻由の下着に触れた。
「!」
彼女が驚いたように呻き、ベッドの上の方へと逃げる。
それを追いかけ、手を伸ばしては逃げられを繰り返し、とうとう麻由の頭はヘッドボードにぶつかった。
視線を上げて窺うと、彼女は泣きそうな顔でギュッと唇を噛んでいた。
これでは、まるで無理強いではないか。
自分が罪深いことをしているような気になるが、同時に、抑え難い胸の高鳴りを感じた。
相反する感情が心の中で交差し、くるくると入れ替わる。
天使と悪魔が囁き合戦をくり広げているようだ。
「麻由…」
無理を強いるのは良くないと主張する天使が優勢になり、おそるおそる声を掛けてみた。
この表情から言って、もしかしたら本気で拒んでいるのかもしれない。
主人のすることだからと嫌悪感を殺しているのなら、そこまでして抱きたくはない。
僕の呼び掛けに、麻由はきつく閉じていた目を開く。
ぼうっとしている瞳が僕を捉え、焦点が合った。
「このままは、嫌なのか?」
深呼吸をし、はやる心を抑えて尋ねる。
嫌だと言われても、もう止められないほど僕のものは熱く猛っているのだが…。
355 ◆DcbUKoO9G. :2008/06/09(月) 08:04:16 ID:bDBi+Aiq
彼女の首が緩く左右に振られた。
いつの間にかシーツの上に落ちていた手が僕に巻きつき、麻由が抱きついてくる。
本気で拒否したいわけではないようだ。
「続けてもいいんだね?」
問うと、麻由は僕にしがみつく力を強めてコクリと頷いた。
あらためて下着に指を伸ばす。
手探りで秘所の部分にたどり着くと、湿った感触が指先に感じられた。
ここをこんな風にするほど、麻由は僕の愛撫に感じてくれていたのか。
一気に嬉しくなり、その部分を何度も指でなぞった。
「あん…や…あぁ…っ…ん…」
胸への愛撫も再開すると、麻由はまた甘い声を上げて悶えた。
ますます濡れた感触が強くなったことに、彼女が高まっていることを知る。
すぐにでも一つになりたいが、もうすこし悦ばせた方がいいのだろう。
女の人は中でイけるとは限らないというから。
実際、挿入しても僕だけが果てて、麻由はイけなかったことも何度かあった。
互いの経験不足のせいだが、せっかく愛し合うんだから気持ちよくさせてやりたい。
好きな女が絶頂を迎える姿を目に焼き付けたいのだ。
そうすれば、この先どこかの令嬢を妻にし、義務的なセックスをしなければならない時にも耐えられるだろう。
いや、反対に麻由が僕に身を任せてくれた時のことを思い、この肌が恋しくなるだろうか。
考えが妙な方向に行きそうになり、あわてて気持ちを立て直す。
今は麻由を気持ちよくさせてやることにだけ集中すべきだ。


手をずらし、下着の腰の部分を掴んで引き下ろす。
脚から抜き去り、覆う物の無くなった下半身にあらためて手を遣った。
プリーツスカートをまくり上げ、開脚させる。
「やぁ…」
麻由が恥ずかしがり、また顔を隠した。
ベッドの足元の方へ移動し、露になった秘所をじっくりと見た。
滴るほどに濡れ、時折ヒクリと動くピンク色の粘膜に顔を近づけ、躊躇無く一気に舐め上げた。
「あっ!あぁ…」
麻由が今日一番の色っぽい声を上げ、僕の肩を押し返そうとする。
この期に及んで拒まれても、もうそれすら駆け引きにしか思えない。
両の太股を開いて押さえ、肩を押す麻由の力に対抗する。
溢れてくる蜜を掬い上げ、彼女の秘所を余す所無く舐めた。
「はっ…あ…武様…」
熱に浮かされた声で名を呼ばれる。
そうだ、麻由が一番感じる所を可愛がってやらねばならない。
肩にある彼女の手を握り締めてから、秘所を指で左右に開く。
顔をのぞかせたクリトリスに舌を伸ばし、押しつぶすように刺激した。
「ひゃあっ!」
悲鳴とともに彼女の腰が浮き上がり、また逃げられそうになる。
相変わらずここが最大の弱点のようだ。
きっちりと着込んでいたはずの制服を乱し、一番敏感な場所を舐められて喘ぐ麻由。
姿は当時のままでも、反応はまぎれも無く大人の女のものだ。
高校生の頃に彼女とこういう関係になっていたら、今と同じに甘く悶えたのだろうか。
もしそうなら、僕の学業は非常におろそかなものになっていただろう。
メイド服を着たいつもの麻由もいいが、制服を乱すというのはまた違った高揚感がある。
これは一度味わっただけでやみつきになっただろうから。
麻由の脚を抱え直し、再びクリトリスを執拗に責めたてた。
イヤだのダメだのといった言葉が途切れ途切れに聞こえるが、無論離してはやらない。
それに、口で言うほど彼女も拒んではいないはずだ。
くねる腰が、時折そこを僕の舌に押し付けるように動いているから。
恥じらいからあんなことを言っていても、身体は快感を求めているのに違いない。
「あぁ…あ…ん…武様…武様…」
麻由が僕の手を握り締め、切羽詰った声を上げる。
356 ◆DcbUKoO9G. :2008/06/09(月) 08:05:12 ID:bDBi+Aiq
もう我慢ができなくなっているのだろう。
一気に畳みかけるように秘所に吸い付き、充血して膨らんだクリトリスを弄った。
「ん…あ…いやああぁ!」
麻由の全身に力が入ったあと、震えながらゆっくりと弛緩していく。
どうやら絶頂を迎えたらしい。
湿った音を立てて秘所から口を離し、痙攣する彼女の身体を抱き締めた。


呼吸が落ち着いたのを見計らい、その手を取った。
早く彼女の中に入りたいと疼いている自分のものに触れさせ、上から押さえつける。
「あっ!」
火傷した時のように麻由は素早く手を引いた。
「駄目だよ」
逃げた手を捕まえ、また触れさせる。
「お許し下さいませ…」
細い指先が震え、彼女が緊張していることが伝わってくる。
自分から僕のものを愛撫するくらいには、まだ至らないのだろう。
少し残念なようにも思うが、初々しいのは可愛いものだ。
そういうことが平気でできるようになられては、下手をすると僕の方が負かされてしまう。
手を動かすのを強要するのはやめ、押し付けるだけにする。
それでも、彼女に触れられていると感じただけで僕のものはさらに固くなった。
麻由に愛撫をせがむのはまた今度にしよう。
彼女の手を解放し、起き上がって服を脱ぐ。
繋がるための準備を済ませ、再び上に覆いかぶさった。
「…」
彼女のことも脱がせた方が良いかと思うが、やめておく。
一糸まとわぬ姿はこれから何度も見られるだろうが、制服姿には今日しかお目にかかれないのだ。
乱れた前髪を直してやり、目元の涙を拭った。
「いいかい?」
短く問うと、彼女は恥ずかしそうに頷いた。
痛がらせないように注意しながら、少しずつ身を沈めていく。
体内に異物が入るのだから、気をつけてやらねばならない。
じりじりと時間を掛けて、全てを彼女の中に納めきったところで大きく息をついた。
温かく濡れた場所に挿入するのはとても心地が良く、すぐに動いては長くもたない。
準備をしてでさえこれだけ気持ちがいいのだから、生身のまま彼女の中に入ればどんなに素晴らしいだろう。
いつか麻由とそういうセックスがしてみたい。
浅い呼吸を繰り返す愛しい彼女を見ながら、強く思った。
腰に手を掛けてゆっくりと動き始める。
彼女がクッと息を吐き、シーツを握り締めた。
「ん…は…あん…」
中に入り込むたび、彼女が溜息のような声を上げる。
内壁に擦り付けると違った快感が走り、鳥肌が立った。
出し入れするだけじゃなく、こういう動きをしても快感が得られるのか。
麻由の腰を抱え込み、少し浮かせながら角度を変えて中を探る。
突き上げる深さにも変化をつけると、締まり方も違うように感じられた。
引っ掛かるように感じられる場所、なめらかな場所、締め付けの強い場所。
それぞれに味わいが異なり、女の身体の不思議さを思い知った。
「武、様っ…ああ…」
いつもと違う僕の動きに影響されたのか、彼女の反応も少々変わったように思える。
僕が自身で変化を感じているように、麻由もまた突かれる場所によって味わいが違うのだろうか。
「あ…そこ…」
上にグッと突き上げた時、彼女が声を上げた。
一際強く中が収縮し、僕の口からも呻きが漏れる。
357 ◆DcbUKoO9G. :2008/06/09(月) 08:10:08 ID:G/WPSq++
「ここが、いい?」
尋ねると、麻由は正直に首を縦に振った。
その場所を重点的に突いてみると、麻由の縋りつく力が強くなった。
「はぁ…あん…ん、んっ…」
快感を逃がすように呼吸を荒くし、ギュッと目をつぶっている。
戯れに大きく突き上げると、彼女の背中が弓のようにしなり、白い喉がむき出しになった。
プリーツスカートの裾がさらにまくれ上がり、僕の腹に擦れる。
半ば脱げかかった白いシャツをさらに乱しながら喘ぐ彼女を見、いよいよ抑えがきかなくなってきた。
いつものように規則的に中を深く突き上げ、自分の快感を求める。
大きく揺さぶりを掛けて一気に責めたてた。
「やぁ…ああ!武様っ…ん…あぁっ!」
彼女が左右に身を捩り、泣きそうな声で喘ぐ。
しかし僕はもう責めを弱めることはせず、そのまま動きを速め、最後の瞬間へと2人で駆け上った。
「あっあ…ん…っは…もう…あっ、んんんんっ!」
「うっ…く…っあ…んうっ!」
ほぼ同時に達し、固く抱き合った。
荒い息を整え、至近距離で見詰め合う。
短くキスを交わし、僕は彼女から身体を離した。


後始末を終えて彼女の横に寝転ぶと心地良い疲労感が眠気となって身体にまとわりついた。
乱れた着衣を申し訳程度に直してやり、布団をかぶせてやる。
事後、あらためてシャツやスカートに手を触れるのは面映かった。
「どうした?」
彼女が物問いたげにこちらを見ているのに気付き、尋ねる。
「…本当に、似合っておりましたか?」
「ああ、似合いすぎて怖いくらいだったよ。昔に戻った気分になった」
賛辞を送ると、麻由は目の下まで布団をかぶった。
本当のことだから、照れなくてもいいと思うのに。
「初恋の人に会わせてくれてありがとう」
本人を前にして言うのはおかしいだろうか。
しかし、これが今の僕の正直な気持ちだ。
「いえ、そんな…」
布団に顔を埋め、麻由がくぐもった声で言う。
いつまでもこの顔を見ていたいが、もう眠らなければ。
明日、皆に見咎められる前に麻由は自室へ制服を戻さなければならないのだから。
「さ、もうお休み」
「はい」
枕元の照明を落とし、目をつぶった。
「あの、武様…」
「うん?」
「私の初恋の人も、武様ですから…」
麻由のその声に、眠る体勢になっていた頭が冴え渡った。
「…そうか」
そっけない返事に万感の思いが込もっていることに、麻由は気付いただろうか。
こんなに可愛いことを言われては、離したくなくなってしまう。
暗闇の中、手探りで彼女を抱き締め、うなじに口づけた。
どうか、一日でも長く麻由と一緒にいられますように。
心からそう祈り、僕は眠りに落ちていった。

──終り──

結婚式と新婚旅行辺りの話を書けと言って下さった方、ありがとうございました。
麻由はもうメイドじゃなくなるので厳密にはスレ違いになりますが、その二つのエピソードをもって完結にしようかと思います。
358名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 09:22:08 ID:+XRWNkfH
GJ!朝っぱらからなんてモノを

もっといろんな2人を見たいな
359名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 10:22:15 ID:DFctgVQM
これほど素晴らしい月曜日の朝は記憶にないな!
360名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 13:12:28 ID:tOiBxubA
うおおおおおGJ!麻由はいくつになってもかわいいなぁ
この頃はまだ武様も結婚までは考えてなかったんですね
結果がわかってると安心w
361名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 21:04:10 ID:KRI44Uc6
咲野さーーーーーん!
362名無しさん@ピンキー:2008/06/10(火) 00:06:16 ID:k1z0rREq
スレ違いにはならないでしょ元メイドなんだし
363名無しさん@ピンキー:2008/06/10(火) 08:42:56 ID:U82Dbwlz
初恋のメイドさんがレベルアップして俺の嫁になる
スレ違いどころか、これ以上ない最高の展開です
364名無しさん@ピンキー:2008/06/10(火) 17:46:36 ID:goBbGHvS
クラスチェンジで上級職業に転職ですね、わかります
365名無しさん@ピンキー:2008/06/10(火) 22:16:15 ID:Dxtd8+O4
アンタ等って人たちはぁぁぁぁ!!!!


なんてGJなんだ!!!!!!!!!!!!!
366名無しさん@ピンキー:2008/06/11(水) 06:58:30 ID:T4B39LAO
咲野さん初音さん麻由さん!!!!!!
正座して待ってる!
367名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 00:18:53 ID:omhfMYPr
百合さん
ゆかりちゃん
水晶さん
リーシェちゃん
薫さん
二宮さん
御咲さん
レベッカさん
雪乃さん
春菜さん
夏希ちゃん
秋深さん
天姫さん
紅葉さん
冬美さん
いつまでも待ってる

そういえば最近読んだエロ漫画で、没落した家の次期当主(ショタ)とメイドさんが安アパートで二人暮らししてて、そのメイドさんが実は主人公の血の繋がった実の母だったってのがあった
メイドさんよりむしろショタがツボにハマってひどく動揺した
俺はショタコンじゃないと何度も自分に言い聞かせたが
368名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 22:58:31 ID:P2Y/sfA8
没落ご主人様とメイドさんで
貧しいながらも楽しい我がアパート
的な作品は好きだ
リアルじゃないというツッコミは置いといて

それはそうと>>367
新しい属性に目覚めてしまったのだな
369名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 23:12:11 ID:nuLX4RTp
麻由さんが、婚約中にクラス会に行ったら
密かに思いを寄せていた男共とかが
旦那様と婚約したのを知って大ショックとか!

久方ぶりに見たら良いオンナになってるのだろうな
370名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 21:33:18 ID:acKMFN47
465KB
371名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 09:29:09 ID:mYLMNXxc
そろそろ次スレ準備かな?
だれか頼む!
372名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 10:13:43 ID:xcPJrDfF
思いのほか容量進んでるのは確かだけど、まだ早いw
もう一本二本ぐらいは投下できると思うぞ
373名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 14:00:00 ID:/VfviPIM
490KBくらいが目安かな?
374名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 19:45:25 ID:3knHCc2H
投下します。
375名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 19:46:00 ID:3knHCc2H

     ごしごしごしごし

 私は力を入れて熱心に窓拭きをしていた。
 日曜の朝のひと時。
 ご主人様達の朝食も終わり、昼食までの間に掃除をあらかた終わらせてしま
おうと思っていた。
 この神林の屋敷は広いので、効率良くやっていかないと夜までに終わらない
のだ。

     じゃぶじゃぶじゃぶ

 雑巾を水に浸して、絞る。
 そして手を前に伸ばして窓拭きを続けようとした時──

     ぺろんっ

 「ひゃっ!?」
 背後から突然にメイド服のスカートをめくり上げられ、私は飛び上がった。
 「やっぱり葵の尻は最高だな」

     つるん、なでなで

 白い下着の上から私のヒップを遠慮なく撫でまわす手。
 「や、やめてくださいっ」
 私は慌てて後ろへ下がると、スカートを引き下ろしながら言った。こんな事
をする人の心当たりは一人しかいなかった。
 私の前にいたのは、まだ幼さの残る少年だった。
376名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 19:46:41 ID:3knHCc2H

 「たまたま通りかかったら、葵がお尻を突き出して誘っていたからさ」
 彼は勝気そうな目をして、そんなことを口にした。
 「誘ってなんかいません! もう、そんな事ばかり言って……。今は勉強の
お時間でしょう?
 家庭教師の先生はどうされたんですか?」
 私は眉を吊り上げ、険しい声で少年に質す。
 「トイレに入りっぱなしだよ」
 少年はいけしゃあしゃあと言った。
 その時、奥のトイレのドアがドンドンと叩かれ、ガチャガチャと鍵を何度も
回す荒っぽい音が聞こえてきた。
 「出しなさいっ!! 坊ちゃま、開けなさいっ!!」
 というヒステリックな声も聞こえる。
 私は呆れ顔になった。
 「またお父様に叱られますよ?」
 「平気さ、慣れてる」
 やんちゃな少年は涼しい顔をしていた。
 「それよりも、葵──」
 少年の目に悪い光が宿った。
 彼は身体を寄せてきて、私の手首を掴む。
 「おまえの尻を見てたら、僕はたまらなくなってしまったんだ」
 少年は私の手を自らの股間へ招き寄せ、その硬直を握らせた。
 「……なあ、いいだろう?」
 顔を近づけてきて囁く少年。
 「ダメですよ。勉強をさぼって私と睦みあっていたのがバレたら、後で私が
お父様に罰を受けてしまいます」
 「ふん、バレやしないよ。それに、もしバレたっておまえに類が及ばないよ
うにかばってやるよ。
 だから──」
 彼は、渋る私を力任せに納屋に引っ張りこんだ。私の背中を壁に押し付け、
唇を私の唇に押し付けてくる。
 「む、んむぅ……」
 少年は私の唇を吸い、舌を入れてくる。そして服の上から乱暴に私の胸を揉
みしだく。
 大ぶりな乳房が形を変え、ブラジャーからすぐにこぼれ出した。
 私は両手で彼の胸を押し返した。
 「毎晩お部屋でご奉仕しているでしょう?」
 諭すように言う。
 「夜までなんて待てるもんか」
 と、我慢のきかない少年は言った。
 「葵の姿を見ていたら、僕はもうおまえが欲しくて仕方なくなったんだ」
 彼は私を強く抱き寄せると、情熱的なキスをした。
 こうなってしまった彼を止められる者など、この屋敷にはいやしない。
 「もう……」
 と私はため息をついた。胸を少年の好きなように任せる。彼はメイド服から
乳房を引っ張り出すと、直接揉み始めた。

 「本当にしょうがないわね、私のご主人様は──」

 神林亮司、15歳。
 わがままできかん気の強い神林家のひとり息子。
 この少年こそが、私のご主人様なのだった。
377名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 19:47:22 ID:3knHCc2H

 私は藤原葵、24歳。
 神林家のメイドである。
 財閥神林家の家族にはひとりひとり専属のメイドがいて、それぞれの身の回
りの世話をするとともに、家事を分担して行っている。

 私が跡取り息子である亮司様の専属として神林家にやってきたのは、6年前。
 このワガママ少年には随分と手こずらされたものだ。
 両親は、晩年に恵まれた一粒種が可愛くて仕方なく、強い調子でのしつけな
ど今更できない。当然使用人達も逆らうことなどできず、しわ寄せの来るよう
な形で私が毎回注意や叱責を行う羽目になるのだった。
 しかし、いつもうるさくつきまとって注意する私に、彼は次第に心を開くよ
うになってきた。
 両親の仕事の関係で、大きな屋敷にひとりでいることの多かった亮司様はも
しかすると寂しかったのかも知れない。
 やんちゃな亮司様と、それを追い掛け回して叱責する私、という図式がいつ
の間にか出来上がっていた。
 それは、主人とメイドというよりもむしろ、姉と弟の関係に似ていた。

 ………………………………………………。

 そうだ。
 数ヶ月前、15歳になったのを機に、私が亮司様の夜伽を始めるようになるま
では。
378名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 19:47:49 ID:3knHCc2H


     にゅう、にゅう、にゅう、にゅう……

 薄暗い納屋の中に、滑らかな摩擦音が響く。
 狭く、湿気のこもった中に、むわっとした淫気が立ち上る。
 私は胸をはだけ、乳房の間にやんちゃなご主人様のペニスを挟んでしごきあ
げていた。
 亮司様はズボンを脱ぎ捨て、仁王立ちになっている。私はその前にひざまづ
いて奉仕をしているのであった。
 「ん、んんっ、ううっ」
 彼は、悶えるような表情で必死に快感に耐えている。
 私が舌を伸ばして少年の鈴口をペロペロと舐め上げると、
 「ぉおおおおおっっっ」
 と亮司様は声を上げる。
 その姿がとても可愛らしく感じられ、私は口を開けて彼のペニスを呑み込ん
でいき、深いピストンをするのであった。
 そして十分に可愛いご主人様のペニスを責めてから、それを吐き出す。
 「いいですか。これが終わったら、ちゃんと家庭教師の先生をトイレから出
して差し上げて、勉強を続けるんですよ?」
 「わ、わかってるよ……」
 荒い息をしながら亮司様は応える。
 「良い子ね、私のご主人様……」
 私は舌を伸ばし、情愛を込めて少年の亀頭を舐めていく。鈴口を吸い、舌を
そのまま這わせていって雁首をほじる。縫い目を舌先でちょんちょんとつつく。
 「あ、葵、もうっ、僕っ」
 亮司様は切羽詰った声を出した。
 「いいわ。おいで、ご主人様」
 私は狭い納屋に仰向けになり、ゆっくりと脚を開いた。
 しかし、亮司様はいつものように私にのしかかってくることをしない。
 「……? どうしたの?」
 「葵、今日は僕、バックでしたい」
 ご主人様は言った。
 「いつも正上位と騎乗位ばかりじゃないか。僕は、バックで葵とエッチがし
たい」
 「亮司様、前にも言ったでしょう?」
 私は言う。
 「後ろからするのだけは無しだって」
 「どうしてだよ?」
 我が主人は、いつものワガママ全開の表情を浮かべる。
 「後ろからつつかれるのって好きではないのです」
 「……じゃあ、葵は一生バックですることはないのか?」
 「そうね」
 と私は言った。
 「もしするとすれば、将来夫になる人物とするくらいでしょうね」
 その時、亮司様はひどく傷ついたような表情をしていた。
 「……ちぇっ、わかったよ」
 としおれたような声を出して、正面から私に覆いかぶさってきた。

 事が終わった後、亮司様はズボンを上げながら、
 「葵、今夜は部屋に来なくていいよ」
 と不機嫌そうに言った。
 こんなことは、初めてであった。
 そして彼は珍しく、言われもしないのに勉強に戻っていった。
379名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 19:48:14 ID:3knHCc2H

 その夜。

 私は、自室のベッドで横になっていた。
 電気を消したものの、なんだか眠れないでいる。
 毎晩若いご主人様の胸に抱かれて眠るのが習慣になっていたから、なんだか
落ち着かない心地がする。
 ひとりの夜って、こんなに心細いものだっただろうか。
 朝のことをふと思い出す。亮司様はずいぶんと機嫌が悪そうだった。
 ワガママな15歳の亮司様のセックスには、繊細さが欠けている。高まる興奮
にまかせて突きまくってくる。それもそれで悪くはないが、無防備な尻を預け
て背後から突かせるのには不安が残った。
 それだけなのに。

 「──ご主人様のばか」

 私の呟きが部屋の暗闇に吸い込まれた時、窓の外で大きな影が揺らめいた。

 「……仮にも主人に向かって、ばかとは失礼だぞ」
 聞きなれた声がして、ガラガラッと窓が開いた。
 そして影は弾みをつけると窓を乗り越え、

     タンッ

 と乾いた音を立てて私の部屋に侵入していた。
 「なっ!?」
 驚きで大口を開けたまま言葉の出て来ない私。
 月明かりに映し出された男はニッと笑った。
 今更見間違うはずもない、私のもっとも愛しいワガママ少年だった。

 ご主人様は、私のベッドサイドに歩み寄ってくると、布団をめくって中に滑
り込んできた。
 私は固まったまま、彼に抱きすくめられて唇を奪われる。
 「〜〜〜〜んんんっ」
 そしてやっと口を解放され、
 「どうして? 今日はしないはずではないんですか?」
 と聞いた。
 「僕はただ、今夜は部屋に来なくていいと言っただけだ。
 ──今夜は、夜這いをかけることにしたんだよ、葵」
 そう言うと、亮司様は私のパジャマを脱がし、身体中にキスを始めたのだっ
た。
380名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 19:48:40 ID:3knHCc2H

 私は、手を伸ばして、亮司様のペニスを握った。
 すでに熱く、硬かった。
 「亮司様、私、お口で奉仕しますわ」
 私がご主人様の股間へ顔を沈めていこうとすると、その顔を掴まれて引き戻
された。
 「……?」
 「夜這いに来たと言っただろう? 今夜は、僕が葵を責めるんだ」
 そう言うと、ご主人様は私の両脚をパッカリと開いて、そこを凝視した。
 「ちょっ、ど、どこをそんなに見ているのですかっ!」
 真っ赤になる私。
 私はいつもメイドとして手や口、胸を駆使して若いご主人様の身体のそこか
しこにご奉仕をしていた。しかし、あまり自分の身体を見せるようなことはな
かった気がする。
 亮司様は私の股間の花弁に向かって吸い付いてきた。

     じゅるじゅる、じゅる、ぺろ……

 湿った水音を立ててご主人様は私の淫らな狭間を舐めしゃぶる。
 私はその強い快感にびくびくと背中を痙攣させ、目を強くつむって耐える。
 亮司様は私の最も感じる肉の芽の皮を剥き、ぞろりと舐め上げた。
 「っっっっっっっ!!!!!」
 私は跳ねるようにのけぞり、両太ももでご主人様の頭を挟みこんだ。
 「や、やめなさいっ」
 と、たまらずに私は声を上げた。
 「亮司様、そんな所を口にしてはいけませんっ!」
 しかし、ご主人様は怯む様子はない。
 「葵だって、僕のチンポをしゃぶるじゃないか。僕のケツの穴や金玉だって
舐めてくれるだろう?」
 面と向かって言われて、私は真っ赤になった。
 「私は、あなたのメイドです。ご奉仕するのがお仕事です!」
 「……仕事だから、仕方なくやってるのか?」
 私はぐっ、と詰まった。
 「そ、そんなわけ──あるわけないじゃないですか。私は、亮司様のことを
愛しく思っているから、どんなご奉仕でもできるのです。
 ……な、何を言わせるのですかっ」
 私の顔は茹でだこのように真っ赤だ。
 「……」
 ご主人様は、しばらくの沈黙の後、ほっとしたような笑顔を浮かべた。
 「そうだろう? 葵は、僕のことが好きだからチンポを舐めてくれるんだろ
う?」
 「な、何度も言わないでくださいっ」
 「──だったら、僕だって同じだ。葵が好きだから、葵のマンコだっていっ
ぱい舐めたいんだ」
 そう言うや、ご主人様は私の股間にむしゃぶりついて、ぞぞぞっっ、と音を
立てて吸いたて始めた。
 私には反論することが大いにあったが、女の弱点を攻め込まれて、それどこ
ろではなかった。
381名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 19:49:06 ID:3knHCc2H

 若きご主人様の愛撫は執拗だった。
 淫芽をペロペロと舐めたかと思うと、舌先を硬く伸ばして、襞の亀裂へと突
き刺していく。すると、舌の表面がざらざらと敏感な粘膜を擦りたて、ぞくぞ
くして魂が抜けるような悦楽が背筋を走るのであった。
 「も、もう十分でしょう? や、やめなさいっ」
 私は息も絶え絶えになりながら言う。気付けば、汗びっしょりになり、身体
中が熱く燃え盛っている。
 「まだまだだよ。もっと舐めて、葵を感じさせる」
 「もう終わり。しまいには──怒りますよッ!!」
 私は、強い口調で言った。
 「怒りますよッ!!」というのは私とご主人様の暗黙のサインのようなもの
だった。普段私の言うことを何も聞かない亮司様だが、この言葉を発した時に
は私が本気だと解釈し、舌打ちしながら言うことを聞くことになっていた。
 だが、今夜に限ってはそれは通用しないようだった。
 「怒るなら怒ればいい」
 とご主人様は言った。
 「僕は、やめない」
 亮司様は、私のヒップを抱え上げると、双丘を割り開いた。
 「あ、バカ。そこは……っ!!」
 止める間もあればこそ。
 ご主人様は何をとち狂ったのか、メイドの尻の穴に舌を伸ばし、ペロペロと
舐め始めた。
 「はうっ、うう……っ!!」
 電流でも通されたかのように私は背筋を何度も屈伸させた。
 「葵は、ケツの穴を舐められるのが好きなんだな」
 亮司様が小さく笑い、私は火が出るほど真っ赤になった。
 「ば、バカッ!! バカッ、バカッ!!」
 理屈も何もない罵りだけが口をついて出る。でも、止めてとは言わなかった。
 「葵も、エロい女の子なんだな」
 追い討ちのように言う亮司様の言葉に、私は「むうっ」と言葉にならない言
葉を洩らした。
382名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 19:49:31 ID:3knHCc2H

 私は、自分のことを貞淑なメイドだと思っていた。
 毎夜淫らな奉仕を続けていたけれども、それは主と慕うただひとりの男性に
だけ捧げるものだった。
 使用人の延長線上として、下半身の世話係という仕事が増えただけだと思っ
ていた。
 だが、今の私はどうだろう。
 ご主人様に肛門を舐められて、股間をぐっしょりと濡らしながらひいひいと
よがっている。
 あまつさえ、気がつけばペニスを求めるように尻まで振っている有様だった。
 メイドの本道を大きく外れ、いつの間にやら明後日の方角へと大爆走してい
るではないか。
 「葵……」
 と亮司様は言った。
 「愛してる」
 私は真っ赤になって尻穴をご主人様に舐められながら、「まぁ、いいか」と
呟いた。
 亮司様は私に対し、時に友人であることを、時に姉であることを望んだ。今
彼は、私にもうひとつの甘い肩書きを望んでいるのかも知れない。
 ご主人様がそれを求めるなら、私は自分の繊細な乙女心だって捧げるつもり
でいた。
 「良いわ、私の愛しいご主人様」
 私は言った。
 「後ろから、私の中に入ってきて」
 四つ這いになり、私は無防備な亀裂を亮司様に差し出したのだった。
383名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 19:49:53 ID:3knHCc2H

     ぬぷっ

 驚くくらいに亮司様のペニスはあっさりと滑り込んだ。
 私の襞肉はもう洪水のようにべとべとになっており、何の抵抗もないようで
あった。
 「……やっと、バックで葵とできる」
 亮司様は、笑った。
 「それだけ、僕に気を許してくれたってことだろう?」
 そんなことを言うご主人様に、私は小さく頷いた。
 私は自ら何もコントロールできない姿勢で、ただ淫部だけを預けている。ま
さに屈服といった態である。
 このわがままな少年に屈服する日が来るなんて、思いもよらなかった。
 でも、それがさらに私を興奮させていく。


 年下のご主人様は、腰を使い始めた。
 初めは小刻みに、次第に深くまで抽迭してくる。
 私の膣からは愛液がとめどもなく流れ出し、ペニスは何の抵抗もなく最奥ま
で迎え入れられていく。
 こんなにも亮司様の剛直で強く突かれたいと思ったのは初めてだった。
 ともすれば乱暴なほどに激しいピストン運動が、この上もなく気持ち良く、
たまらない。
 このまま嵐のような快感に吹き上げられ、ご主人様の胸の中で白く燃え尽き
ていきたいと思った。

     バチッ

 と、前触れもなく頭の奥で火花が散った。
 来る、と思った。
 私は喉元をそらせ、獣のような唸り声を上げる。
 「イクっ、葵っ」
 膣道の奥で、粘ついた液体が何度も爆発するのが感じられた。
 私の意識は遥か上空へ飛び、次いでどこまでも落下した。
384名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 19:50:17 ID:3knHCc2H

 「──満足しましたか、私のご主人様」
 情事が終わり、気だるい空気が流れている。
 私は亮司様の腕に腕を絡め、その胸に甘えていた。こんな事をするのも初め
てだった気がする。
 「うん、満足した!」
 亮司様はにっこりと笑って私にキスした。
 「葵。おまえは朝に、バックでするのは将来夫になる男だけって言ったよ
ね?」
 「そうね……。確かに言いましたわ」
 亮司様の目は輝いていた。
 「それはつまり、葵は僕と結婚するってことだよね!?」
 「え!?」
 私は絶句する。
 「だってそうだろう。僕は葵とバックでしたんだから」
 「わ、私はメイドですよ。そんなの、絶対にダメです!!!」
 「もう決まった!」
 「お、怒りますよッ!!」
 私はもう一度伝家の宝刀を抜いて、険しい目で亮司様を見た。
 しかし、
 「そんなこと言ったって、無駄だよ」
 ご主人様はシーツの上で私の腰を掴むと尻を引き寄せてきて、いつの間にか
硬直したペニスで押し入ってきた。
 「あッ。だ、ダメです、亮司様!」
 私は束の間抵抗したが、すぐに「ぐっ」と声を洩らして力が抜けていく。
 「フフン。僕は、葵に言うことを聞かせる方法を発見したんだから、もう今
までとは違うんだぜ」
 ずぶっ、と襞肉を抉られると、私は逆らう術がなくなる。
 まったく、なんという困ったご主人様なのだ。
 まぁいい。
 確かに、ベッドの上ではもう私は亮司様には逆らえなくなってしまったのだ。
 だが。
 朝を迎え、メイド服に着替えたその時には──

 「覚えてなさいよ、ご主人様!!」
 私は四つ這いで背後から貫かれたまま、強い声で言った。
 誰よりも愛しい愛しい年下のご主人様は、
 「はぁい」
 と、わかっているんだかどうだか、はなはだ怪しい調子の声で返事をしたの
だった。

                            おわり

385名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 19:52:29 ID:3knHCc2H
よろしくお願いします。
386名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 21:31:26 ID:bMhzRK6q
年上女性、専属メイド、夜這い
俺的ツボを突かれまくった
よろしくってことはまだ続くとみていいのか?
とにかくGJ!!
387名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 22:53:01 ID:Q9GiKrNj
エロ坊ちゃまめ!!
GJ!!
388名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 00:13:04 ID:wsvSd6+S
>>375-384
GJにも程がある。
俺の嗜好を熟知しているとは…恐ろしい。

現在483KB。そろそろ次スレの季節です
389名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 00:58:54 ID:g2+KSeiA
いやはや実に乙。

しかし400レスを前に次スレの時期とは。密度が高いスレだったということか。
ところで>>1の過去ログリストを見るとこのスレは4本目で、
だから次はPart5になるんじゃなかろうか、と思ったり。

でも残り17KBってのは中途半端だな。
投下にはちょっと狭そうだし、かといって埋めるにはちと広い。
そこまであわてて立てる必要も無いと思うけど。
390名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 06:05:32 ID:1ltv+c2f
>>375-384
GJ!
これほどの作品が、作品名なしだともったいない気がします
391名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 06:11:48 ID:1ltv+c2f
次スレ用テンプレ案です

【(未定)】メイドさんでSS Part5【(未定)】

おかえりなさいませ、ご主人様。
ここは、メイドさんの小説を書いて投稿するためのスレッドです。
SSの投下は、オリジナル・二次創作を問わずに大歓迎です。

(※)実質通算5スレ目なので、このスレよりPart5と連番を改訂しました。
   「メイドさんでSS Part4」スレはありません。

■前スレ
【ホワイト】メイドさんでSS Part3【ブリム】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1204389730/l50

■過去スレ
【ご主人様】メイドさんでSS Part2【朝ですよ】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1182588881/
【ご主人様】メイドさんでSS【朝ですよ】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1141580448/
【ご主人様と】メイドさんでエロパロ【呼ばれたい】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1116429800/

■関連スレ
男主人・女従者の主従エロ小説 第二章
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1185629493/
【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第五章
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1200307216/

■関連サイト
2chエロパロ板SS保管庫 → オリジナル・シチュエーションの部屋その7
http://red.ribbon.to/~eroparo/contents/original7.html
http://sslibrary.arings2.com/
392名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 14:18:41 ID:0/9Zui38
>>375-384

GJ!!
既に何人も暴露してるが俺のツボにもスマッシュヒットだった
393名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 20:20:53 ID:ZL7bAzB6
咲野さんあたり、そろそろ次作投下あるんじゃないかな?
だから次スレは早いうちのほうがいいと思う。

自分が立てるつもりだったけどホストでエラーが出た。
誰か391氏のテンプレで頼む。
394名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 21:00:27 ID:g2+KSeiA
スレタイの(未定)はどうするの?
てかそれをネタ出ししてれば丁度よく埋まるんじゃ無いかと思ったり。
というわけで
【エプロン】【ドレス】
と思ったけどメイド服≠エプロンドレスだよな・・・
395名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 21:09:43 ID:ydPIwn5R
【ご主人様】【旦那様】
【奉仕】【敬愛】
【美しき】【一輪の花】
【女中でも】【OK】

あんま思いつかんな。
396名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 22:32:13 ID:OhvY6SgG
【貴方のために】【尽くしたい】
【朝の支度から】【夜のご奉仕まで】

……字数制限ってどのくらいだっけ
397名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 23:07:15 ID:g2+KSeiA
>>396
48バイトまで。
メイドさんでSS Part5
で20バイト、【】【】で8バイトだから、
残り20バイト。全角で10文字まで。意外と少ないな。

【優等生も】【ドジっ娘も】
【スカートを】【めくるな!】
【優しく】【厳しく】
【ご主人様】【お嬢様】
【ご主人様】【お茶ですよ】
なかなかいいのが思いつかない。
398名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 00:29:55 ID:lEU11J6Y
【お帰りなさい】メイドさんでSS Part5【ご主人様】

・・・いっそ前半を『これが私n(
399名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 04:37:19 ID:d0Fukqyg
【尽くしたい】【愛されたい】
400名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 07:52:19 ID:oRnO3FHt
> 【ご主人様】【お茶ですよ】

これいいな
なにげない日常のほのぼのが感じられて
401名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 21:23:03 ID:qdYFwC4a
> 【ご主人様】【お茶ですよ】

これに一票
なんかそれっぽいw
402397:2008/06/17(火) 21:53:27 ID:r33QwHxN
>>400-401
個人的には文字数制限に押し込んだせいで微妙なんだよぅ(汗
お茶の準備ができました、とかしたかったんだが。
ちなみに前スレとかの【朝ですよ】から時計を回してみました、といったところ。
お昼ですよ、おやつですよ、と続くのか?w

あ、
【朝ごはんを】【召し上がれ】
とか?
403名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 22:14:09 ID:YZu+ImoC
メイドさんの物腰を重視するなら

【ご主人様】【お茶をどうぞ】

だなあ。でもこれだと文字数4:6でバランス悪い?
404名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 15:24:32 ID:JrLDv0KN
【ご主人様】【召し上がれ】
いっそこれはどうだ
何を召し上がるのかはそれぞれで妄想することにして。
405名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 19:02:32 ID:hknNQTkV
>>404
それだ!
406名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 20:48:34 ID:D2zqQCpY
>>404のいいね
夢と希望とロマンと妄想が詰まってる
主に妄想が主成分だと思うがw
407名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 22:29:21 ID:LCGexRWO
立てられなかった・・・orz
408名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 23:29:33 ID:/YteX1Ye
テンプレは
>>391
>>3
>>8
で良かろうか?
409名無しさん@ピンキー:2008/06/19(木) 00:03:57 ID:qT5n7a8/
おk
410名無しさん@ピンキー:2008/06/19(木) 00:09:04 ID:efJKgTwb
それじゃ行ってきまし。
411名無しさん@ピンキー:2008/06/19(木) 00:12:43 ID:efJKgTwb
【ご主人様】メイドさんでSS Part5【召し上がれ】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1213801833/
412名無しさん@ピンキー:2008/06/19(木) 23:46:34 ID:qT5n7a8/
埋め
413名無しさん@ピンキー:2008/06/19(木) 23:58:55 ID:efJKgTwb
埋めるべか。

「好き嫌いはダメですよ!」って食べさせてくるメイドさんとか、たまりません。
こっそり自分の嫌いなものを押し付けてくるのには、気づいて無い振りです。
414名無しさん@ピンキー:2008/06/20(金) 07:27:53 ID:9ZkOnNxX
年下なのに世話焼きで
「んもう〜、旦那様ったら〜」とか言いつつ喜々として働くメイドさんなら即死できる
415名無しさん@ピンキー:2008/06/20(金) 14:31:26 ID:r7w9nkUi
御主人様とメイドがチェス対戦
勝者にはご褒美が
416名無しさん@ピンキー:2008/06/21(土) 00:29:14 ID:PqwWv7Ca
晩のおかずが一品増えます
417名無しさん@ピンキー:2008/06/21(土) 12:06:22 ID:hSgTDRg2
晩ご飯のおかずの互いに一番好きなおかずを賭けて勝負
418名無しさん@ピンキー:2008/06/21(土) 19:13:35 ID:BXMVqS/w
片方は納豆が大好きなんだけど、もう一方は
「それだけは食えない・・・」な状態での勝負とか
419名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 16:59:42 ID:oH6gbxey
ume
420名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 21:53:24 ID:sm+//TjR
>>413

ニンジンは苦いし、ほうれん草みたいな青臭いモノもどうも苦手。
他にも苦手なものが多く、その好き嫌いのせいで、一番僕が懐いていたメイドさんの
美和子さんが付っきりで食べさせてくれる事になった。

「はい、坊ちゃま、アーンってして下さい。 好き嫌いはダメですよ!」

美和子さんが、そう言って食べさせてくれるので嫌々ながらも食べる。
美和子さんが担当するようになってから、味付けも全体的に僕好みにしてくれて
多少食べやすくなったのもあったけど。

そんな日々のせいで、大分僕の食べられるものが増えてきた。
美和子さんは、僕の食べられるものリストを作って、チェックしてるみたいだ。

ある日、
「大分食べられるものが増えてきましたね。 他にまだ苦手なものはありますか?」
と聞かれた。

「貝類かな? 赤貝って、まだ苦手」と答えたら、美和子さんは「分かりました」と
言って、いきなりスカートをたくし上げパンティを脱ぎ始めた。

「はい、坊ちゃま、アーンってして下さい。 好き嫌いはダメですよ!」
と美和子さんは近づいてきて、僕は


(省略されました。 全てを読むには 埋め埋め と書き込んで下さい。)
421名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 22:00:33 ID:DqeUOGC+
産め!産め!
422名無しさん@ピンキー:2008/06/23(月) 11:44:08 ID:fwmDG+i1
次の次まで立ってるのになんでまだあるんだよwwww
423名無しさん@ピンキー:2008/06/23(月) 15:01:58 ID:NUdoVW1z
梅!梅!

>>422
Part5スレは、次の次じゃない
 
 >>(※)実質通算5スレ目なので、このスレよりPart5と連番を改訂しました。
 >>   「メイドさんでSS Part4」スレはありません。
424名無しさん@ピンキー:2008/06/23(月) 20:57:28 ID:EWbccc7X
メイドさんがくるっと回って!
スカートがふわって!
エプロンがふわって!
ふわあああああああああああああああああああ!!!!!
425名無しさん@ピンキー:2008/06/25(水) 15:58:07 ID:A9+CQnfO
埋めなさい
426名無しさん@ピンキー:2008/06/25(水) 20:12:11 ID:VlXP2RAK
はい旦那様
427旦那様:2008/06/25(水) 22:36:57 ID:kIZz2dNo
・・・私を埋めてどうする。
428名無しさん@ピンキー:2008/06/26(木) 00:40:18 ID:gRhfNoI6
一緒に埋まります
429名無しさん@ピンキー:2008/06/26(木) 07:29:24 ID:tzM59xAc
貴方は永遠に私のもの
430旦那様:2008/06/26(木) 08:16:47 ID:mT00aM0R
メイド君、君の葬式は何教で出せばよいのかね(怒)
431名無しさん@ピンキー:2008/06/27(金) 09:44:43 ID:7/lYmN/W
空飛ぶスパゲティモンスター教です
432名無しさん@ピンキー:2008/06/27(金) 12:31:44 ID:Da8YuSof
実は密教の真言立川流です
さあ、旦那様
私と悟りの境地を目指しませんか?
433名無しさん@ピンキー:2008/06/27(金) 16:40:16 ID:cTgQz4yg
メイドさんの、メイドさんによる、メイドさんの為のメイドさん
434名無しさん@ピンキー:2008/06/27(金) 21:01:54 ID:vWLtYtRy
そこは

メイドさんの、メイドさんによる、メイドさんの為のご主人様
435かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/06/28(土) 21:36:29 ID:gy8t8EvJ
はじめまして。埋めますね
436かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/06/28(土) 21:42:21 ID:gy8t8EvJ
『賭けとご褒美』



「賭けをしないか、希美(のぞみ)」
 ある日、由伸(よしのぶ)様が唐突にそんなことを仰いました。
 今日は学校が創立記念日でお休みだそうで、由伸様はなんだかご機嫌です。私も由伸様と
一緒の時間が増えてとても嬉しいです。
 しかしそのご提案はあまりに急でしたので、私は思わず首を傾げました。
「賭け……ですか?」
「そう。ゲームをして、勝った方が負けた方の言うことを一つだけ、何でも聞くんだ」
「……私と?」
「うん」
 私のご主人様は平然と微笑まれます。とても大好きな笑顔なのですが、なんだか嫌な予感が
します。
「あのう……『何でも』ですか?」
「うん。『何でも』だ。ああ、ただし永久的なことは駄目だよ。『これから一生○○を
しなさい』とかは駄目。頼み事を増やすのも駄目。つまりは一回できちんと終わるリクエスト
なら『何でも』OKだ。まあ可能な範囲で、だけど」
 由伸様はなんだか楽しそうです。
「由伸様のお申し付けでしたら、賭けなどなさらなくとも何でも致しますけど……」
「そう? 代わりに学校行ってくれ、と言ったら君はやってくれる?」
 無茶な事を仰います。
「『可能な範囲』ならやらせていただきます」
「慇懃無礼だなあ。そういうところ、好きだけどね」
 心外です。私はいつだって由伸様のことを第一に考えていますのに。
「わかりました、お付き合い致します」
「本当に? 嬉しいなあ。で、デートはどこに行く?」
「何の話ですか!?」
「ぼくと付き合ってくれるんでしょ。つまり今日から希美はぼくの恋人だ」
「そういう意味のお付き合いではありません! 賭けの話です!」
「そんなに力いっぱい否定されたら悲しいなあ。ぼくは希美のことが大好きなのに」
「…………」
 たまに、ごくたまに、このご主人様を全力で殴打したい気分に駆られます。具体的には
こう、地面にめり込むように鋭角的に殴り抜けたいと言いますか。
 何より腹立たしいのは、由伸様から、たとえお戯れでも「好きだ」というお言葉を
いただけたことを、内心嬉しく思ってしまう自分の弱い心だったりします。
437かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/06/28(土) 21:46:26 ID:gy8t8EvJ
 私はメイドであります。安らぎは受け取りません。
「顔が赤いよ、希美」
「で、肝心のゲームの内容は何ですか?」
「華麗なスルーっぷりに由伸ちょっとヘコんじゃう。……ああ、そんなバールのようなものを
おおきく振りかぶらないで。ちゃんと説明するから。希美は『ナイン』って知ってるかな?」
「ナイン……?」
 ゲームの名前か何かでしょうか。
 私は首を振ります。
「いえ、存じません」
「麻雀漫画は読まないみたいだね。じゃあ簡単に説明するよ」
 由伸様のご説明では、『ナイン』とはトランプや麻雀牌の1から9の数字を使って行う
ゲームなのだそうです。
 互いに1から9の『駒』を持ち、一回に一枚ずつ出していきます。出し合った数字の
大きい方が、互いの数の合計点を獲得します。それを駒数分、つまり九回行い、獲得点の
多かった方が勝ちになる、ということらしいです。
「たとえばぼくが『9』を出して、希美が『5』を出したとするよ? そのときはぼくの
方が数字が大きいから、ぼくが二つの数の合計14点を得ることになる。こんな感じでこれを
九回繰り返していくわけ。数字が同じだったときは引き分け。どちらも点は得られない」
 私は神妙に頷きました。なかなかおもしろそうなゲームです。
「でも、私は別に欲しいものとか頼み事はないんですけど」
「名前に反して欲がないなあ」
「名前は関係ありません」
「まあ、いつかそういうものができたときに権利を使えばいいよ」
「はあ……」
 なんだか私にあまりメリットがないような気がしますが、せっかくの申し出ですので、
私はお受けすることにしました。
 さっそく机と椅子、トランプの用意を致します。トランプの柄は由伸様がスペード、私が
ダイヤです。
「さて、暇潰しとは言っても真剣勝負だからね」
「承知しております。由伸様はきっといやらしいご命令をなさるでしょうから」
「なんという遠慮のない毒舌。ぼくってそんなイメージなの?」
 由伸様に限らず、『何でも言うことを聞く』という条件から性的な考えに到らない殿方など、
この世に存在しないと思います。
「前に仰っていたお風呂プレイを御所望なのでは、と勘繰っています」
「……嫌なの?」
「ぜっっっったいにお断りです」
 そんな恥ずかしいことできるわけないじゃないですか。
「当方に淑女の誇りあり、です」
「でも勝者の権利は絶対だから」
「……負けられませんね」
438かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2008/06/28(土) 21:50:16 ID:gy8t8EvJ
      ◇   ◇   ◇

 私は五枚目のカードを提出しました。
 最強の『9』です。負けは絶対にありえませんが、高得点は由伸様の数字にかかっています。
「オープン」
 カードがめくられます。
 由伸様のカードは『1』。
「う……」
 最悪です。最も実入りの少ない勝ち方をしてしまいました。
 獲得点は10。これで総得点は私が17点。由伸様が27点です。
「……あれ?」
 ひょっとしてこれは、
「私……負けですか?」
「そうなるのかな? 計算速いね」
 私の残りカードは『2』『3』『7』『8』。対する由伸様は『4』『5』『8』『9』。
これではどのような組み合わせでも由伸様の点数を逆転することはできません。
「じゃあぼくの勝ち」
「……」
「希美?」
「……」
 私はまともに顔を上げられませんでした。
 仕方ないじゃないですか。お風呂プレイだなんて、恥ずかしすぎますいくらなんでも。
「さて、じゃあ命令するよ」
 由伸様のお言葉に、私は小さく息を呑みます。
439かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
「今日一日、希美はぼくの側にいること。いいね?」
 しかし賭けは賭け。ご命令には従わないと……え?
「……今、何と?」
「だから、ぼくの側にいろって」
「お風呂プレイは?」
「そんなこと、一言も言ってないよ?」
「……」
 確かにそうです。しかし由伸様のことですから、必ずや変態的なことを要求されると
思っていたのですが。
「ずっと思い込んでたなんて、本当は希美がしたかったんじゃないの? お風呂プレイ」
「な……そんなわけありません!」
「冗談だよ。ぼくはただ、せっかくの休みだから希美といっしょにいたかったんだ」
「……」
 どうしてこのご主人様は不意を突いては私を惑わされるのでしょう。いつもはふざけて
ばかりのお人なのに。
「それともやっぱりお風呂プレイがよかった?」
「何がやっぱりですか! ……わかりました。今日一日、ずっとお側にいます」
 本当は掃除とか洗濯とかやらなければならないことがいろいろあるのですが。
「仕事は他の者に任せればいいよ。桜なら喜んで希美の代わりになってくれるんじゃないか?」
「……なんだか悪いです」
「希美はいつもよく働いているじゃないか。今日くらい休んでもいい」
 それを聞いて私は安心しました。
 ひょっとしたらこの賭けはただのポーズで、私へのご褒美だったのかもしれません。由伸様
なりのサービスというか、回りくどいお気遣いというか。
 本当に、この方は……
「希美」
 いつの間にか由伸様は椅子からベッドの方に移動していました。
「こっちに来て。膝枕してあげるよ」
「ひ、膝枕ですか?」
「君にしてもらったことは何度かあるけど、逆はないからね。一度してやりたかったんだ」
「え、遠慮します! 申し訳ないです!」
「嫌なの?」
 由伸様は残念そうにお顔を曇らせます。
「い、嫌ではありませんけど」
「じゃあいいじゃないか。さあ早く」
 楽しそうに由伸様は微笑まれました。私の大好きな笑顔です。
 私はおずおずと近付き、ベッドの縁に手をかけました。覚悟を決めてえい、と由伸様のお膝に
頭を預けます。
「どう?」
「は、恥ずかしいです」
「かわいいなあ希美は」
 そう仰りながら、由伸様は私の頭を優しく撫でられました。
 恥ずかしくて、でもそれ以上に嬉しくて、私はしばらく放心してしまいました。



 隙を突かれて胸を揉みしだかれました。
 私は跳ね起きて、すかさず鋭角的に殴り抜けました。
 まったく油断ならないお方です。私のご主人様は。