【処女】ボーイッシュ五人目【貧乳】

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845:2009/08/10(月) 10:40:43 ID:Cjnsusim
「お前を今まで俺の傍に置いたのは、お前が俺に実によく似ているからだ。
人を人と思わない無関心さに非情さ、冷酷さ、そしてその独特の価値観。
お前は自分の知らない所で、ガキが虐殺されようが、町が焼き払われようが全く自分には関係ないと思っている。
自分の興味のあることは全くもってその両腕の届く範囲のみ」

霧が小さく頷いた。

「だが俺がお前と違うのは、命を無価値だと思っていないことだ。少なくとも俺の両腕の中にある分は。
だから俺は友人を見捨てはしなかった。お前を見捨てはしなかった。
分かるか……? 俺の言いたいことが分かるか」

霧は弱々しく首を横に振った。それからこう呟く。

「どうしてボクを助けた」
「それはお前が俺の腕の中にあるからだ。俺に付いて来い、霧。お前の命は決して無価値じゃない。少なくとも、俺にとっては」
「キミはボクを嫌いだったんだろ?」
「誰が嫌いだなんて言った」

少し語彙が荒くなるのを自分でも感じた。

「誰がお前のことを嫌いだなんて言った!!」

霧の体がびくりと跳ね、俺のことを怯えた目で見つめた。
それは今まで俺が殺してきた奴等に似ているとも言える目つきであり、尚且つ俺が初めて見た霧の感情でもあった。

スコープの反対側に見える怯えた表情の兵士と同じ、一方的な殺しを受ける側の表情だ。

「確かにな、俺はお前のそういう所が大嫌いだよ!
現実を見ない、感情だけで何かをしようとする、殺した相手の表情も見ないだろう、お前は!
 全てが現実じゃないかのように思っている! 俺のガキの頃にそっくりだ。だから頭に来るんだ!」

だが似ているからこそ、なんとかしたいのだ。そう、兄弟のようなものだ。
俺には兄弟はいないが、昔こう言っていた奴がいた。『いくら可愛いペットでも、部屋の真ん中でクソをされたら蹴りたくなるだろ、それと同じだ』と。

846:2009/08/10(月) 10:41:08 ID:Cjnsusim
「俺に付いて来い。思う存分人を殺させてやる。それでいいなら今すぐ荷物をまとめて俺の部屋に来い。いいな」
「ボクは、戦争は出来ない。キミのように軍人にはなれない」
「お前はそこらの新兵よりはよっぽど使える。それは俺が保証してやるよ。それに俺は軍人として行く訳じゃない。強いて言うならば助っ人だ」
「嫌だ。いいんだ、ボクはここで死ぬ。それでいいんだ。どうせ……」

そこまで言った唇をキスで塞いだ。やわらかく華奢なその体を抱擁し、貪るようにキスをした。
最初は抵抗を示した霧もすぐに大人しくなり、俺の腕の中に大人しく収まった。

「俺にはお前が必要だ。だからお前は無価値じゃない。俺と一緒に来てくれ。お願いだ」

霧はぼんやりと目を開け、それからスカートの中へ手を伸ばした。
俺はそれを一瞬早く制し、その腕を掴んだ。

「俺を殺す気か」
「違う。ボクは死ぬ。自分で自分の人生の締めは付ける」
「俺が言えたことじゃないがな、若いんだからそんなことをするのはやめろ?」

霧より一足早く、白く官能的な大股に括りつけられた革のホルスターからP210を抜き、マガジンを抜いて部屋の隅へと滑らせる。

カツン、という金属の響きが部屋に響いた。外ではサイレンの音が鳴り響いている。
そろそろ騒ぎを嗅ぎつけたか。

「無価値な命なら俺に預けてくれ。一生守り切ってみせる」

精一杯の告白だった。

それからしばらくの間、霧は何も言わず、俺の背中をつねり続けた。

「痛い」

たまらず呟く。

「うっさい。ボクを連れていくのなら、これぐらいの痛みには耐えろ」
「じゃあ来てくれるのか」
「ボクの命の価値は、もうキミの価値だ。だからボクはキミについて行く」

847:2009/08/10(月) 10:42:41 ID:Cjnsusim
素直じゃない奴だ。だがそれがなんだかとても愛らしくて、頭を撫でる。

「ぐすっ……初めてボクに触ってくれたね」

胸の中で霧が震えているのが分かる。震え、声を押し殺して泣いている。
俺にとっては愛おしく価値のある命、だがその本人にとっては、価値の無い命。
不思議なものだ。本当に不思議なものだ。俺達はホントに、両極端だな。

「よし、そうと決まれば善は急げだ。俺の知り合いにチバラキ解放同盟の始末屋をやってる奴がいる。
なんでもこの戦争の重大な鍵って奴を手に入れたらしい。この戦争は終わる。絶対にだ」
「戦争を、するの?」

こいつらしくない心配そうな声。なんてことはない、こいつだってただの女の子なのだ。
初めて会った時とは随分印象が違う。
もしかしたら経歴を喋っちまったのだって、さっさと楽になりたかっただけなのかもな。

「そうだ。俺に預けた命だろ、心配せずに預けっぱなしにしとけ」

俺達の親が壊した国は、例え偽善の平和と言われようとも俺達が取り戻してみせる。
それが例え、モニター越しの戦争やら代理戦争から成り立っているとしても。

モニター越しの戦争でいいじゃないか、それの何が悪い。戦争を知らない世代で何が悪い。

それが一番望まれていることじゃないのか。

いや、違う。霧のような可哀想な奴を出さないようにすることが、俺の平和の意味だ。

屋根に登り愛蔵品を下ろそうとしていると、天窓から頭だけ出した霧が、それはなに? と尋ねた。

「これか? これはRT20M1っていう対空砲弾を使う対物ライフルでな。俺の戦友が死んだ時、マックスコーヒーの代償として貰ったんだ」
「なにそれ」

なんでコーヒーなのさ、と霧は笑った。しかしそのすぐ後に、遠くを見つめて一言呟く。

「飲んでみたいなぁ、そのコーヒー」
「まぁ、今から行く町でお前も飲めるさ。味の好みは分かれるけどな」
「ボク達はこれからどこに行くの?」
「あっちの方かな」

廃墟の群れを指さす。既に空は明るい紫色になりつつあり、日の出が近い事を教えている。

「藤色だね」

霧が呟いた。

その瞳には今までのような冷たさも虚脱感もなく、ただ美しい色に出会えた嬉しさがあった。

ただの少女の横顔があった。


勢いだけで書いた。むしゃむしゃした。
色々と後悔もした。投下してから恥ずかしいと思い始めた。
……テディベアになりたい(元ネタの狩られるクマ
848名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 10:58:47 ID:hmDgdLEG
ぐっジョブ。
…この世界、ボーイッシュ少女がわりと溢れてるのか…?なんてうらやましい。
知り合う対価が自分の命になりかねないとしても。
849名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 14:53:31 ID:AQAxONLJ
勢いだけでこれだけのものを書くとは・・・・たいした奴だ・・・GJ
850名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 17:23:01 ID:BaQxgZtM
続きまだ?
851名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 01:01:51 ID:SzLp2CsB
投下する。
未完ですまん。
ボーイッシュ少女とエロ少年
虫が出ます
852名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 01:04:40 ID:SzLp2CsB

マンションの裏手にある非常階段の入り口付近は、めったに人が通らないから、昔から僕たちの秘密基地だった。
一段高くなった土間のようなところに鍵のかかった鉄格子の門がついていて、非常時以外は入れないようになっている。
コンクリートに囲まれたそこは、夏にはひんやりと涼を提供してくれるのだ。
そこに立てひざを立て、いつものようにぼんやりと座っていた少女に、僕はあるものを差し出した。
「ほら、アゲハの幼虫」
「ぎゃあ!」
そういってミドリは僕から飛びのくと、まるで重大な罪を犯した人間を見るような目で僕を見た。
門に体を押し付け、ぎりぎりまで逃げようとする。
マンションの植木には金柑の木があって、毎年アゲハがやってくる。小さいころは、何匹か拾ってきて羽化するまで面倒を見ていた。
ミドリにはものすごく不評だったが。
「ミドリは芋虫だけはだめなんだよなあ。トカゲもクモもゴキブリも平気なのに」
「近寄るなぁっ! その手に持っているものを離せぇ!」
「心外だなぁ。よく見ると結構かわいいじゃないか。この申し訳程度の足とか」
「お前の美的センスはおかしい!」
ミドリは陸上部のロゴが入ったTシャツと、ハーフパンツを履いていた。私服の学校に合格したのをいいことに毎日こんな格好だ。
そんな衣装からすこやかに伸びている手足が僕を避けようとしてあがく。僕はしばらくその光景を眺めた後、
「ミドリ。後ろ向いて」
「うん?」
ミドリは僕に背を向けた。ひょいとTシャツの襟ぐりをつかみ、ミドリの背中があらわになる。
853名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 01:05:23 ID:SzLp2CsB

ぽとり。

「いやああああああ!」
アゲハの幼虫はミドリの服の中に落ちていった。

ミドリは、頭は悪くないくせに肝心なところでは無防備だ。
それは敵が来ているのに、つい立ち止まって追跡者を眺めてしまう猫に似ている。
「気持ちわるいよぉ……」
芋虫が動く感触に身もだえする。
「ひや、いやあっ……」
なんだかアレなあえぎ声みたいだけど、ミドリに言うと怒られるので言わないことにする。
ニヤニヤしている僕に気がついたのか、ミドリは毅然とした表情で僕をにらんだ。
「くそ……こんなことでしかあたしに勝てないモヤシのくせに! 卑怯者! ちゃんとチン毛生えてんのかこの野郎!」
「女の子がチン毛言わないの」
ミドリは何か言い返そうとしたみたいだけど、それどころではなくなったらしく、鉄格子を握って、ずるずると脱力する。
ミドリ。それアダルトビデオとかに出てくるポーズだよ。
「とって欲しい?」
努めて優しく、僕は囁いた。
「う、うん……」
その優しさに若干怒りを解いたのか、力ない答えとともに、涙に滲んだ目で見上げられる。仕方ない。言うこと聞くしかないね。
854名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 01:06:11 ID:SzLp2CsB
僕はそっと、Tシャツの端をめくった。
外に出ている手足と違って、その肌はやさしいクリーム色をしている。
そっとウエストに両手を添えると、一瞬、ミドリの体がびくりと痙攣した。
そのまま上になで上げてみる。
「はっ……早くしろよ!」
「あれ? 見つからないなぁ。どこ行ったのかな」
そう言いながら、右手でハーフパンツのゴムのあたりにうねうねしていた幼虫をひょいと指にのせ、後手でコンクリートの床に下ろしてやった。
左手はわき腹をなでたままだ。
どうでもいい乳繰り合いにつき合わせてすまなかった。と僕は心の中で謝る。
右手をなでるのに復帰させて、今度は腹部に手を這わせる
「ひぁっ。くすぐったいって!」
僕の手が上に行くつれて、Tシャツも大きくめくれあがり、ミドリの体の線があらわになる。
筋肉質だが、長距離走者らしく無駄な筋肉はない。その中にもわずかにやわらかみが感じられて、女の子なのだなぁと実感する。
「変なとこさわるな! って、ひぁ。」
スポーツブラに包まれた胸に届いてしまった。さすってみると、無くはないことがわかった。揉めないほどじゃなかったか。
「ひう、やめろって……」
「ごめんごめん。一応ね」
気のない返事をしながら、ハーフパンツに手をかける。
「ちょっ……」
「上探してもいないからねぇ」
「やだ! それだけはやめろエロモヤシ!」
「自分でできるの?」
こんなとき黙ってしまうミドリが愛しい。僕が何をしようとしてるのかわかっていないのか? 
それとも、わかってるのに許してくれているんだろうか。
855名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 01:08:34 ID:SzLp2CsB
ここまでです。
少なくてごめんなさい。
続……けられるといいな
856名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 12:12:28 ID:MbQXR4a8
>>854
敏感GJ
857名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 13:04:58 ID:1LM5cTJ9
畜生…!勃起しちまった。
858名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 09:08:42 ID:YHDWV4Rm
ドMボーイッシュ
859名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 22:35:13 ID:sZpHXcT+
tst
860:2009/08/13(木) 00:50:04 ID:lUoEDl7D
感想くれた人達、ありがとう。
自分こういう所に投下するのが初めてで、結構ガクブルしてたんだ。
初めてだったので連投してアク禁喰らってビビった。
っていうのは置いといて、マニアックな銃とか出してるがそれが邪魔だと思ってる人いるか?
銃とか嫌いな人もいるし、詳しく解説書かれても物語の邪魔になるだけ、って人がいたらやめようと思うんだが。
861名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 02:30:37 ID:dt9Evxxf
気にすんな。一番大事なボーイッシュのすばらしさが表現できてれば合格だ。
862名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 03:21:11 ID:G1BY8bn/
>>860
マニアックな銃の解説、大好物ですw
シーンやキャラの行動に直結してますし、この位なら適量もイイトコなのでは?
個人的にはもっと細かく解説してくれてもOKな位ですよ。
863名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 12:49:00 ID:sZDfDhXO
善し悪しは分からんが問題ないことは間違いない。
864:2009/08/13(木) 20:02:37 ID:lUoEDl7D
そうですか、了解しました。

そういえばチバラキに一体何が、と書いてくれた人がいましたが……。
詳しいことは俺でもわかんないんで誰か設定考えてくれ。
なんでチバラキがあんなことになってるのか、書いてる本人にもわからねぇんだ。
だってただマッ缶を出してたくてやっただけだからw
865名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 10:17:30 ID:xj7WYb9T
つスクライド
まあアレは神奈川だけど。
866:2009/08/14(金) 23:47:38 ID:QoaDa8Mi
>>865 サンクス。参考になった。
867:2009/08/18(火) 01:28:03 ID:131dLa1f
投下します。
長いです長いですー。ごめんなさい。

「俺のこと好きか?」

突然、本当に突然にコータがボクに聞いてきた。

その時ボクは携帯ゲーム機で遊んでいて、モンスターを狩っている所だった。
けれども突然そんなことを聞いてきたもんだから、頭が真っ白になった挙句、モンスターからの突進を食らってゲームのキャラクターは死んだ。

「ノーミスで行くつもりだったのに」

茫然と呟く。画面には猫に運ばれていくキャラの姿が映っていた。ボクはそれを見ながら、さっきの言葉を反芻した。

「それって……」

緊張のあまり、唾を飲む。

「どういう意味で?」

しばらくの間、部屋をゲーム機の音だけが支配していた。
ボクの吐息とコータの吐息、そういうものが全て煮詰ってどろどろになって、息をしづらくしている気がした。

頭の中は見事なほどに普段の数倍のシミュレーションが爆走していて、ボクがコータに優しく抱かれるシーンからコータにパイルドライバーを掛けられるシーンなどが次々に現れては消えていった。

「付き合うとかそういう話で」

そう言われて、ボクは黙り込むしか無かった。いや、正確には言葉が揃いも揃って凍りつき、喉にくっついて出てこないみたいだった。
ホントは山ほど聞きたいことや言いたいことがあったけど、それは全て氷河の中に埋もれてしまっていた。

「涼花が嫌いならそれでいい」

コータが呟く。何か吹っ切れたような声だ。長年の経験からして、ボクはコータが相当な覚悟で、ボクにこのことを言ったのだと悟った。
今までずっと、兄弟だか恋人だか腐れ縁の悪友だかのように接してきた。だからお互いの気持は大体分かってるはずだった。
ボク達がお互いに好き合ってることなんて、コータにもボクにも、常識みたいによく分かってることだった。

でも、何を今更、と軽々しく言えないのは、コータがそれ相応の覚悟をしてさっきの質問をしたことだった。
言葉の節々から、堅い何かが滲み出ているから。

ゲームの画面から目を離し、コータの方をちらりと盗み見る。

コータはボクの方を見ずに、部屋の窓から頭を出して空を眺めていた。何か厄介なことを考える時のコータの癖だ。

「嫌いじゃない……。けど、なんでそんなこと聞くの?」
「いや、なんとなく、な」

以前として空を眺めたままのコータは、ボクの方を一切見ずにそう言った。
窓から見える空には自衛隊の戦闘機が列を成して飛んでいて、飛行機雲が窓から見える空を寸断していた。

「涼花が俺を好きなら、俺はお前を嫌いになる」

その一言で、頭の中に考えていた全ての思考が吹っ飛んでしまった。

「俺はもうお前とは合わない。一緒に学校に行かない。学校で挨拶もしない。顔も見ない」
「……俺はお前が大っ嫌いだ」

コータの言葉が、やけに遠く感じた。くらくらと現実が陽炎のように思えた。
868:2009/08/18(火) 01:33:12 ID:131dLa1f
ゲーム機の電池がいつの間にか一本になっている。

気付いたら部屋にコータはいなかった。コータがボクの部屋に置いて行った漫画もゲームもそのままあるのに、コータはそこにいなかった。
明るい声も暗い声もなく、ボクはただ空気を噛みしめた。
コータのいない空虚な空気は、なんのぬくもりもなく、それなのにその空気はボクを包んで離さなかった。

春の空気が、やけに冷たかった。

翌日の朝、コータを迎えに家に行くと、コータはもう出たとコータの母さんに聞かされた。
それでもボクの頭の中は、まだ昨日のことが性質の悪い夢だと思っていた。

コータのいない通学路は、やけに淋しかった。周りを歩く人達の声が、遠い出来事のように感じた。夢の中で聞く言葉のように実体がない気がした。

学校に行って靴箱に靴をしまい、コータの下駄箱の中を見る。そこにはきちんとコータの靴があった。

安心して教室に入ると、ちゃんとコータがそこにいた。けどいつものように友達と話もせずに、黙って校庭を見下ろしていた。

「コータ! なんで勝手に先に行くんだよ〜」

すっかり安心しきっていたボクはコータの後ろ姿に気軽に話しかけた。いつも通りに。

でもコータはいつも通りじゃなかった。ふらふらと教室から出て行って、そしてその日はもう教室に戻ってこなかった。

一体ボクが何をしてコータを怒らせているかぐらい教えて欲しかった。教えてくれれば、ボクはコータの為にそれを止めるのに。
まるでボクがそこにいない人間のように扱われてる気がした。
家族より大事なコータにそんなことをされたショックで、ボクはその日中ずっと泣きそうなのを堪えているしかなかった。

図々しくコータの家に上がり込むこともできなくなったボクは、コータの漫画を思いっきり床に叩きつけたり壁に投げつけたりし、そしてコータの物にそんなことをしてしまう自己嫌悪でまた泣いた。

それからは夕飯すら食べずに、ただぼうっとしていた。何も考えないようにして、現実から逃げれるだけ逃げた。

そんな風にボクの数日が虚無に消えていった時、担任の一葉(カズハ)先生から呼び出しを受けた。

もうどうでもよくなっていたボクは、半ばヤケクソに先生の元へと赴いた。元々成績はいい方じゃなかったけど、それに対するお叱りだと思っていたから。
現に今日の英語の授業中、ボクは先生の呼びかけを全て無視してしまっていたからだ。

きっと一葉先生ならボクのことを叱ってくれるだろう。一葉先生はボクにばっかり風当たりが強いから。
今までは怒られる度にコータに愚痴ってすましていたけど、今度はそうも出来ない。
父さん母さんに愚痴ってもきっと気分は晴れないから。

昔から子供をないがしろにする彼らは、きっとボクがどんな扱いを受けていようが知った事じゃないのだ。
一時期は便利だと思ったこともあるけれど、やっぱりコータの家族を見ていると劣等感とか悲しみだとか、そういう感情が溢れて来る。
だからボクも自然と彼らとは距離を置いていた。そんな彼らに、好きな人がボクを嫌うだとか先生が酷いだとか嘆いたとしても、きっと届かないに決まっているから。

869:2009/08/18(火) 01:36:28 ID:131dLa1f
面談室の扉を開けると、渋い顔をした一葉先生が座っていた。一葉先生は体育の教師で男らしい人だ。
さっぱりしたショートカットに、女だとは思えないほどに胸がない。でも一部の男子ではコアなファンがいるらしい。
ボクと先生が似てるなんて言う人も若干いるけど、ボクはまだ少し胸があるから先生とは違う。

ちなみに女なのに男の先生より腕っ節が強いから、ある先生なんかは「助けを求める時は一葉先生を呼びなさい」といって笑いを取っていたくらいだ。

「おー涼花。待ってたぞ」

ボクが入ってくるなり、先生は渋かった顔を急に明るくした。普段とは真逆の反応だ。
それだけで少し怖くなった。重い話を切り出す前に明るく持って行くのは、よくあることだから。

「……なんですか」

先生の顔を真正面から見ることも出来ないほどに疲れていたボクは、早々と話を切り上げて家に帰り、そして自分を憐れんで泣きたかった。

「孝太郎となにがあったん?」

自然と奥歯がぎしぎしと唸った。

「ここんとこ、お前ら仲悪いみたいやからなー。喧嘩でもしたか? ただでさえ悪い成績が谷底まで落ちるぞ」
「先生には……関係ありません」

本当はもっと毅然とした態度で言いたかった。けどやっと言えたそれは、絞り出しているようなものだった。

「関係ないわけあるかー。あたしはお前の教師でお前は生徒なんだぞ。
先生はお前のことをきちっと監督していかなきゃならない義務ってもんがあるんだ。オーケィ?」

お決まりのセリフ。大人になるとこうまで責任とか義務とかをひしひしと感じて生きていかなきゃならないんだろうか。
……下らない。見れば見るほど、大人は成人して自由なはずなのに自由じゃない。
ボクもいつかこんな大人になってしまうんだろうか。生徒の為とか言っておきながら自分の為に説教する大人に。

「涼花の成績が悪くなるのは、涼花の人生に良くない。
自分の為に少しは真面目に授業受けなさい。じゃないとお母さんにお話もしなきゃなんないしさ」

ボクの為? 嘘だ。あなたの為だ。

拳を握り締めたがそれを振り下ろすことはできない。ボクは子供だ。いつも大人に守られなくちゃ生きて生きない。
分かってる。分かってるさ。守られたかったらいい子にしてろってことなんだろ。

反撃の手がない子供をいたぶって楽しんでいる、それがこいつら教師だ。

大人は卑怯だ。親に言うといえば、それでボク達が反抗できないのを知っている。
ボクらに一方的な意見を叩きつけ、それを使って縛り付ける。ボクらが逆らえないことを分かっていてそういうことをする。
対等な眼差しで物差しでボクらを見ようとはせず、その目はボクらを見下すために存在している。

ボクらには力無く泣くか、耐えるしか選択肢がない。

ボクは先生を睨んだが、きっとその目は潤んでいたと思う。先生はそれを嘲るように見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
870:2009/08/18(火) 01:41:15 ID:131dLa1f
「……っていうのは建前だ建前。あー下らない台詞喋っちゃったから舌が痺れる」
「え……?」

そこまで喋って、先生は机の下から突然、缶ビールとおつまみの入ったビニール袋を机の上に置いた。
色々と衝撃的なことが続くので、やはり夢なんじゃないかと思った。

「さっきの建前忘れないでねー。忘れられると先生面倒なことになるからさー」

いやー全く教師ってのは世間体に縛られて言いたいことも言えない難儀な職業だわー、とぶつくさ文句を言いつつ缶ビール4本を机の上に並べ、おつまみナッツの袋を躊躇なく開いた。

ボクはただ茫然とそれを見ていることしか出来なかったが、少なくともさっきまで抱いていた怒りはどこか宇宙の果てへ飛んで行った。
そんなことより突っ込み所が多すぎてどこから突っ込めばいいのか分からない。

さっきまでのボクの怒りはなに?
その缶ビールは何?
そのおつまみは何? なんでアーモンドナッツ?
てかどっから出した?
つーかここ学校!

先生は早々とビールの缶に口を付け、それを傾けた。なんの躊躇もなく喉が動き、それを飲み干していく。

「っぷはぁー! やっぱり学校で飲むビールは最高やねー。ほら、あんたも飲みな」

ずずいとビールの缶をボクの方へ押しやる。やはり躊躇がない。初犯じゃないことは明らかだ。

「でも……」
「泣きたい時は酒に頼るのが一番!」

そう言うと、先生はボクの前に押しやった缶の口を開けた。

「ほら!」

口元まで缶を押し付けられ、ボクは仕方なくそれを受け取った。
有無を言わせずという言葉はこういう時にこそ使うのだろう。口に含むと、舌が痺れるような苦みと変な匂いが喉を抜けて行った。

「もっとごくごく飲んじゃいな。ふっきれ!」
「……もうどうにでもなれ」

呟き、そして一気に喉に流し込んだ。と言っても二口程度だけど、それでも喉を抜けて行く感触は清々しい。
喉に詰まってた嫌な物を流して行ってくれるような、そんな気がした。

「そーそー。人間そうやって流れに身を委ねることも大事だぞー。あっはっは」

いつの間にか気分がすっきりしていて、さっきまで抱いていた下らない嫌悪感はどこかへ飛んで行ってしまっていた。
そういえばボクはこの人のことが嫌いじゃなかったのに、さっきまではどうしてあんなに小煩く感じたのだろうか。とても小さい事で意地を張っていた気がする。

「教師なんてね、社会で働くのが面倒な奴等が集まってるだけよ。そんな奴等が偉そうに教育だとか語ってさ、自己満足してるだけなんよ。
でも考えてもみなよ、ろくに社会に出てない奴が社会の事分かってるわけ無いじゃん! 偏ってんのよ!
あたしはさ、最初は夢も希望もあったんよ。こうさ、高校で人間関係の素晴らしさを説いたりだとかさ、少しは現実ってもんを教えてやりたかったわけなんよ。
悪い奴は更生させたりだとかさ、個性で溢れたお前達を自由にしてやろうとかさ、そういうことを考えて教師になったんよ」
871:2009/08/18(火) 01:41:55 ID:131dLa1f
「……っていうのは建前だ建前。あー下らない台詞喋っちゃったから舌が痺れる」
「え……?」

そこまで喋って、先生は机の下から突然、缶ビールとおつまみの入ったビニール袋を机の上に置いた。
色々と衝撃的なことが続くので、やはり夢なんじゃないかと思った。

「さっきの建前忘れないでねー。忘れられると先生面倒なことになるからさー」

いやー全く教師ってのは世間体に縛られて言いたいことも言えない難儀な職業だわー、とぶつくさ文句を言いつつ缶ビール4本を机の上に並べ、おつまみナッツの袋を躊躇なく開いた。

ボクはただ茫然とそれを見ていることしか出来なかったが、少なくともさっきまで抱いていた怒りはどこか宇宙の果てへ飛んで行った。
そんなことより突っ込み所が多すぎてどこから突っ込めばいいのか分からない。

さっきまでのボクの怒りはなに?
その缶ビールは何?
そのおつまみは何? なんでアーモンドナッツ?
てかどっから出した?
つーかここ学校!

先生は早々とビールの缶に口を付け、それを傾けた。なんの躊躇もなく喉が動き、それを飲み干していく。

「っぷはぁー! やっぱり学校で飲むビールは最高やねー。ほら、あんたも飲みな」

ずずいとビールの缶をボクの方へ押しやる。やはり躊躇がない。初犯じゃないことは明らかだ。

「でも……」
「泣きたい時は酒に頼るのが一番!」

そう言うと、先生はボクの前に押しやった缶の口を開けた。

「ほら!」

口元まで缶を押し付けられ、ボクは仕方なくそれを受け取った。
有無を言わせずという言葉はこういう時にこそ使うのだろう。口に含むと、舌が痺れるような苦みと変な匂いが喉を抜けて行った。

「もっとごくごく飲んじゃいな。ふっきれ!」
「……もうどうにでもなれ」

呟き、そして一気に喉に流し込んだ。と言っても二口程度だけど、それでも喉を抜けて行く感触は清々しい。
喉に詰まってた嫌な物を流して行ってくれるような、そんな気がした。

「そーそー。人間そうやって流れに身を委ねることも大事だぞー。あっはっは」

いつの間にか気分がすっきりしていて、さっきまで抱いていた下らない嫌悪感はどこかへ飛んで行ってしまっていた。
そういえばボクはこの人のことが嫌いじゃなかったのに、さっきまではどうしてあんなに小煩く感じたのだろうか。とても小さい事で意地を張っていた気がする。

「教師なんてね、社会で働くのが面倒な奴等が集まってるだけよ。そんな奴等が偉そうに教育だとか語ってさ、自己満足してるだけなんよ。
でも考えてもみなよ、ろくに社会に出てない奴が社会の事分かってるわけ無いじゃん! 偏ってんのよ!
あたしはさ、最初は夢も希望もあったんよ。こうさ、高校で人間関係の素晴らしさを説いたりだとかさ、少しは現実ってもんを教えてやりたかったわけなんよ。
悪い奴は更生させたりだとかさ、個性で溢れたお前達を自由にしてやろうとかさ、そういうことを考えて教師になったんよ」
872:2009/08/18(火) 01:45:02 ID:131dLa1f
この人が豪傑だとか漢だとか言われる意味がやっとわかった。とても教師とは思えない。
けど、そこらの教師よりは遥かに信頼できる。だって、自分の心の真ん中をしっかり話してくれるから。
普段とは違う本当の姿を垣間見たような気さえする。

「けどね、学校で結局教えたいことってなんだと思う? 何にもないのよ。
時間かけて意味の少ない勉強させて、一番重要な物を学ぶ機会を根こそぎ奪って、使いやすい馬鹿を作るのが学校ってもんなのよ。
個性を地ならしして均等の出来の人間を生産するのが目的なわけよ。いわば工場ね」

先生の口調が淡々としたモノになっていく。感情を含まないものになっていく。

「千葉ら辺で戦争が起こってることも満足に報道しないし、普通の馬鹿は戦争なんて前世紀の遺物だとかそういう目で見るのよ。同じ国で人が死んでるのにね。
外国に代理で戦争させてるようなものなのにね。ただ醜いっていう固定概念だけで視線すら向けようとしないのよ。
知ってる? 千葉はまだ地震の復旧終わってないの。廃墟は廃墟のまんま放置されてるんよ。あんまりにも被害が大きくてお金が回せないなんて言ってね。
回すのはあたしらが住んでる主都ばっかり。それでまぁ暴動だか色々起こってて実際内戦状態!」

だん! と先生が空になった缶を机に叩きつけるように置いた。机の上にこぼれていたナッツが跳ねる。

「あたしはそんなことに加担させられてるのよ! 馬鹿を育てて自分の国の将来も考えられない奴等を作る様なことをさせられてるのよ!
けど、あたしは逆らおうとしても逆らえない。少なくとも今は。それが凄く悔しいの」

はーっ、と長い溜息。

「ほら、あたしは自分の考えてることちゃんと言ったぞ? 涼花も話して楽になんなさい」

もう既に先生は酔っ払ってるみたいだった。涙声になりながらそれらの言葉をボクに向かってばら撒いた。
ボクはどうすればいいのか分からなかったが、それでも真剣にボク達のことを考えている、ということだけは痛いほど伝わった。
今の先生になら、ボクの辛さも話せる気がする。
873:2009/08/18(火) 01:50:10 ID:131dLa1f
「コータが……ボクのことをいきなり嫌いだって言ったんです。今まで喧嘩で言ったことはあるけど、喧嘩じゃない時に突然言われたんです。
それでなんか、なんか、コータがボクと話してくれなくなって、ボクの顔を見ずにどっか行ったりとかするんです。ボクなんにも悪いことしてないのに、いきなりそう言うんです。
気にいらないことがあったらいつもは面と向かって言って来るのに言わないんです。ボクのこと無視するんです」

最初の一言を話しだすと、後は堰を切ったように凄い勢いで流れ出した。

「それで、謝っても許してくれなくて、ずっとボクを無視してるんです。まるでボクがそこにいないかのように振る舞うんです」

胸が段々苦しくなって、息がどんどんし辛くなっていく。涙がぼたぼたと制服のスカートの上に落ちて行く。

「コータはっ、コータがっ……コータがね、ボクから、いなくなっちゃうような、気がするんだっ……」

声はもう言葉にするのも難しくなってきていて、嗚咽が喉を塞いでしまったようになった。ずしりと重い石が胸を圧迫している感じだ。

「ボクはっ、ボクは……コータと……ぐすっ……一緒に居たいのに……!」

遂に泣きだしてしまったその瞬間、頭を優しいぬくもりが撫でまわした。

「涼花はそれを孝太郎に言ったんかい?」

首を横に振る。だって言葉で言わなくたって通じてると思ってるから。

「駄目よ、言わなきゃ。愛ってもんはねぇ、形の無い物なの。だからこそ、言葉にして形にしないといけないんよ?」
「……うん……」
「明日、孝太郎に会ったらきちんと言いなさい。絶対に明日、言いなさい。もしかしたら、明日言わなかったら、男はどっかに消えちゃうことだってあるんやから。
ああいう難しい事ばっか考えてる男は特に、さ。だから女が何をしてでも引き留めなきゃいけないのよ。分かった?」
「うん……うん……!」
「じゃあ今日は帰りなさい。後はあたしが一人で飲むから」

そう言って先生は、ボクのビール缶を一気に飲み干した。さっきまでの酔いはどこへやら、すっきりした顔でボクを送り出してくれた。
もしかしたら先生はあの時、酔っていたからぶちまけてしまったんじゃなくて、ボクに伝えたいことを言いたかったのから、あんな風になってしまったのかもしれない。

ボクには難しいことはよく分からない。

……けど。

先生、ありがとう。ボク、やってみるよ。
874:2009/08/18(火) 01:53:19 ID:131dLa1f
都心から少し離れた廃ビルの屋上。そこに残されたままの錆ついたパイプイスに腰掛けている二人の男女がいた。
薄緑色の整備員のような服を着ており、右手にはプラスティックの工具箱を持っている。
それ以外に特に怪しいことはない。女の方が異常に男らしい事を除けば。野球帽を被り、工具箱を持った腕を肩に回している。

だがその怪しくない工具箱、一見ただの工具箱に見えるが、それは実は工具箱では無い。
中にはグロック18がそのまま入っており、箱を二つに開き、中にあるグロックのグリップを立てればすぐにSMGになるのだ。しかも銃床まで付いており、肩につけて射撃が出来る。FMG-9という代物だ。

傍目にはただの工具箱にしか見えないので、テロには持ってこいの銃である。

「うん、うん。そう、仕方ないわ。いいの、大人の責任はあたし達大人がつけるから」

耳に当てたケータイで、その双眸を細めながら女は話す。その目には母親のような慈愛が簡単に見て取れた。

「じゃ、頑張ってね。未来はあんた達に託すわ。後始末は任せなさい。もしもまた会えたら……そうね、子供の顔を見せてちょうだい。あっはっは!」

それだけ話すと女は電話を切り、思い切り床に叩きつけた。細かな部品が飛び散り、柵を越えて下に落ちて行く。
だが、下には誰もいないので問題はない。何故ならここら一帯は再開発に乗り遅れたせいで、長い間廃墟のまま放置されている地区だからだ。周りには巨大な工場の跡が広がっている。

といっても、工場が動いていないわけではない。政府の知らない所で秘密裏に動いている。
今の政府は国の混乱を抑えることに必死で、たかが不審者が工場に出入りしているなんて情報よりも、大事なことが山ほどあった。

それに、この国の政治家にはレジスタンスという存在が生まれる可能性がある、という危機感が掛けていた。
国民の殆どは、馬鹿で先導しやすい生き物だと思い込んでいる節があるからだ。それは新聞やメディアにすぐ踊らされることを見ても明らかだ。

だが、残りの数%が大人しく黙っているわけもない。今この瞬間もどこかではデモが行われているはずだ。
連日のように繰り出される反戦デモ。そこに殆どのその数%は行っていた。
ペンは剣より強しと思いこんでいる奴等は、そうやって政府の目をある程度引き付けていた。

そして政府はそれを陽動だと感づいてすらいない。
875:2009/08/18(火) 01:56:19 ID:131dLa1f
「いいのか、それで」

しばらく経って、男が呟く。その声には仲間が来ないことへの辛さも悔しさもなく、傍観している者が持つやるせなさが滲み出ている。

「いいのよ。あたしの正体を隠蔽しながら、教え子の後ろから指揮して戦わせるのも嫌だしね」

女は呟き、空を仰ぐ。夏の入道雲がゆっくりと流れて行った。青と白、永遠にどこにでもあるコントラスト。

それを眺めた後、また女がひっそりと呟く。

「はぁ、あたしも青春したかったなぁ」
「一葉……。その、悪かったな。俺のせいで」

男は心底済まなさそうに頭を下げた。今度ばかりは苦虫を噛み潰したような渋い顔をしている。

「……」

女は黙ったまま答えようとしない。上を向いているため表情も伺えない。

「その……なんだ、ありがとうな。待っててくれて」

はにかみながら男が笑いかける。しかしその顔は若干引き攣っていた。女がそれで許してくれるとは思えなかったからだ。
昔のままだったら、多分この場でアキレス腱固めを食らった挙句にフェイスロックで頭蓋骨の繋ぎ目が阿鼻叫喚地獄絵図出血大サービス持ってけ死神安いよ安いよ、状態だろう。
元々がプロレス愛好会だった女だけにその威力は推して知るべし、というか身を以て知っていた。

男は長い間日本中を旅し、国の動向を全て自分の目で確かめていた。
それはまだ高校生の頃の夏に突然初め、友人と家族を全て裏切って走り出したのだ。その時、目の前にいる女も裏切った。
旅の出発を告げたらきっとこの女から逃げ出せなくなると思い、何も告げずに五里霧中へと消えたのだ。

久しぶりに再会して一年、男は今までのことがまるでなかったことのように接し、そして謝らなかった。
言いだすタイミングをずっと見失っていたのだ。逃げていたとも言える。だが、今この時に行っておかなければならないと思ったのだ。
なぜなら、もうゆっくり言葉を交わすことも出来なくなるかもしれないからだ。

「あのさぁ……」

女が男の方を向き直る。女は笑いもせずに、男を睨んでいた。

「一つ約束して。死ぬ時はあたしと一緒、生きててもあたしと一緒って」

女が手を差し出す。一瞬だけ躊躇した後、男はその手を握り返した。

「指きり原爆固め、嘘ついたらハリケーンプレス掛ける」
「まだ覚えてんだな、それ」

学生時代にふざけて言い合ったものだ。長らく耳に届かなかった懐かしい記憶の言葉。
876:2009/08/18(火) 02:01:10 ID:131dLa1f
「もちろんよ。さて、行きますか。そろそろ時間だし」

女はぐぐっと背伸びをし、それから腰に着いた無線機を取り、電源を入れた。
それから数回深呼吸し、心を落ち着ける。

「全員聞こえるー?」

『EMB了解』『EU了解』『ZE了解』『UB了解』

「よし! これより我が部隊マックスコーヒー、略称MC小隊は行動を開始する。
先発部隊は既に行動を開始しており、政府はデモと我らが正義の為す鉄鎚によって混乱している。
我らの目的は陸路を封鎖し、敵の補給線を断つことにある。
敵の補給を断ち、それを奪い、各地に散開している我らが仲間が後方より波状攻撃を行えば戦況は自然と我らが方に傾くであろう!

これから起こす作戦では、敵味方双方が多くの犠牲を被るだろう。
何も知らぬ平和ボケした輩も殺すことになるだろう。だがそれを恐れて銃を下げるな!
撃つことを躊躇うな!

結果が全てを正当化する。勝利者に重罪などという言葉は存在せん!

最後に、言っておくことがある。

世界は残酷である。

このことを忘れ、他所の国に代理戦争をさせ、偽善の心ばかりを植え付け、プログラムで笑うロボットのような政治家、国民!
それらがこの国の大半だ!

だが貴様らは違う!

人間の存在は歴史の中の一行であるとしても、命は銃弾一発以下の値段だとしても、神のいない無慈悲な世界で生きねばらなないにせよ……。

それでもなお、あたしは小隊長として貴様らに命令する。

生きよ!

……作戦開始!!」
877名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 02:06:56 ID:wSS86aI8
支援&リアルタイムktkr!!
878:2009/08/18(火) 02:13:00 ID:131dLa1f
二重投稿されてら。はにゃーすまん。
wktkさせてしまって悪いんだが、これで一応終わりなんだわ。
続きを書いてもいいんだけど、ちょっとこのスレの趣旨からずれる気がするし。
879名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 05:03:02 ID:7HdX26mM
GJ!
構わん続けるんだ
880名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 10:24:16 ID:6kkgIkyu
スレに投下し辛い/迷うSSスレ
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1242308022/l50
エロくない作品スレ
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1199377879/l50

趣旨変わるんだったらこんな場所もあるよ。
まあ参考までに。
881:2009/08/18(火) 19:16:47 ID:131dLa1f
サンクス。
でもある程度ここに投下できる範囲でやっていこうと思う。
エロも少しは入れ……うん……入れられるよね……?
882名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 22:57:47 ID:HmMssjb3
ジブンをシンジテー!

テリーもシンジテー!
883名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 01:00:26 ID:FmSIVXmb
懐かしいwwwwwwww

>>881
ガンガレ!
884名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 01:34:06 ID:FmSIVXmb
気づいたらもう492KB……

ってことで次スレ建ててきたお
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1250612910/
885名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 01:59:16 ID:efVcVZiO
>>882
お〜にぃちゃ〜ん〜
生きてる〜ってな〜ん〜だ〜ろ〜



886名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 07:29:10 ID:MegOwmWt
>>884
887名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 13:01:51 ID:JwQb09nR
>>885
生きてるって何
888:2009/08/19(水) 22:11:38 ID:YyyVa8JM
そういえば↑のSS内にある分隊名って
全部ジョージアコーヒーなんで暇だったら当ててくれ。
889名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 02:11:57 ID:NfXH213H
EMB:エンブレム

EU:ヨーロピアンブレンド

ZE:贅沢エスプレッソ

UB:ウルトラ微糖




こんなとこかな・・・
890名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 02:13:51 ID:NfXH213H
>>887

ぅお〜に〜ぃ〜ちゃ〜ぁ〜ん!!
891名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 10:59:21 ID:36LGofsq
>>890
どうしたテリー!
892名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 12:07:28 ID:Xe/VIPU6
俺が悪かったからテリドリネタはそろそろやめようぜw

>>881
ま、出来る範囲で頑張っておくれ。無理はせんよーになー。
893名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 18:42:47 ID:4bA5YZhT
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894名無しさん@ピンキー
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