■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
■投稿のお約束
・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー!荒らしに構う人も荒らしです!!
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・スレは作品を評価する場ではありません
>>1乙。お姉ちゃんは、あなたみたいな弟がいて幸せだよ
>>1乙。お兄ちゃん、わたしのこと考えながらスレ立てたでしょ?
早速、投下させていただきます。
9 :
智子のお弁当:2008/02/09(土) 03:38:11 ID:8kQXS1qB
「これっくらいの、おべんとばっこに…」
台所から、愚妹・智子の能天気な歌声が聞こえる。
智子は中学校の制服の上からエプロンを着け、ぼくの弁当を作っている。
「お兄ちゃんっ!まだだよ!まだまだまだ!!」
牛乳を飲もうと、台所に入ろうとするぼくを怒る智子。お弁当はお昼になってのお楽しみらしい。
「えっと、あとは筑前煮を入れておっしまーい」
お弁当を作っている智子は楽しそうだ。ぼくは、居間でテレビを見ながらぼうっとしていた。
もう一度、牛乳を飲もうと台所に入ろうとすると
「まだまだ!今、お弁当をさましてるんだからね!!」
また、怒られた。
「いってきまーす!!」「いってくるよ」
ぼくと智子は一緒に家を出る。智子は中学校、ぼくは大学へ。
途中まで智子といっしょの道を歩く。
「わたしの作ったお弁当はおいしいでしょ?」
「ああ」
妹のお弁当は美味い。
体の弱かった智子はあまり外に出ず、昔からお兄ちゃん子だった。
小さいころから母の料理を手伝っていて、料理センスはなかなかのもの。
ぼくが中学生のころ、小学生だった智子はカレーを初めて作った。
「智子のカレーはうまいなあ」
この言葉がきっかけかどうかは分からないが、彼女の極度のブラコン振りに拍車が掛かったことは間違いない。
夕食の手伝いだけでは飽き足らず、ぼくのお弁当までいつしか作り出した。
10 :
智子のお弁当:2008/02/09(土) 03:38:34 ID:8kQXS1qB
夕方。智子に連れられて、買い物に出る。
智子は庶民的な市場を巡るのが好きで、いつも摘み食いしながら買い物をしている。
とある昔ながらの公設市場。細い路地に食品店がひしめき合っている。
「お肉スキスキ、おなかすきすき♪」
能天気な智子の歌声が響く。
智子はぼくの手首を握りながら、八百屋を物色している。
「おじちゃん!その『みなみうり』一個ちょうだい!」
「へい。おじょうちゃん『カボチャ』ね」
兄として、身内としてこっぱずかしくなった。
「智子。3×5は?」
「えっと、にじゅうご!」
本当に中学生なのか。ぼくは悲しくなる。
公設市場の路地はとても狭い。ましてこのように込む時間帯は人ごみにぶつかる。
「はい、荷物持ちさん!持ってちょうだい」
ぼくに買い物で一杯になったエコバックを渡そうとする智子。人ごみに押され、こけそうになった。
智子の小さな胸がぼくに当たる。髪の毛のやさしいミルクのような香りがぼくの鼻をくすぐる。
頬を桜のように淡い色に染める智子。
「ねえ。智子のキス、試してみる?」
悲しくなるくらいバカな妹だが、そんな妹に一瞬でもドキっとさせられた。
「ふふふ、おにいちゃーん。いま、智子の魅力に、参っちゃったでしょ?」
ニシシと笑いながら、ぼくにもたれかける智子。
どうして、こういうくだらない言葉はすぐ出るんだろう。
11 :
智子のお弁当:2008/02/09(土) 03:38:57 ID:8kQXS1qB
翌日。いつものように智子のお弁当を持って大学に向かう。
午後一時。今日のゼミは一旦終わり。お昼ごはんの時間。
「おーい、彼女の手作り弁当自慢しやがって…」
「ウチの妹が作ったんだよ…」
ぼくのゼミでお昼にお弁当持参の男子は、ぼくぐらいだ。
ましてや実の妹の手作り弁当なんぞ…。
「へえ、妹さんって料理得意なの?」
ゼミで二番目に美人の三宅さんが声をかける。
「いいなあ。わたしってば料理苦手なんだよね」
あんな残念な妹でも、尊敬されるんだ。ほんの少し、妹を自慢に思う。
三宅さんは女の子達とカフェに出かけ、ぼくら男どもは学食に向かう。
一時過ぎの学食は結構空いているので、ぼくもお弁当持参で一緒に食べる。
その日の夕方、ぼくのお弁当箱を洗おうとしている智子が泣いていた。
「お兄ちゃん、誰かにお弁当食べさせちゃったでしょ!!」
「??」
「今日は間違えて、お兄ちゃんの苦手なトマトを入れちゃったんだよ。
なのに、トマトがなくなってる…」
一緒にお昼を食べた友人にトマトを差し上げただけだ。
「お兄ちゃんのバカー!!」
お弁当箱で叩かれた。智子は手を滑らせ、床にお弁当箱を落っことす。
「あーあ…」
ひびの入ったお弁当箱を拾い上げるぼく。台所から飛び出した智子は、居間でふて寝をしている。
12 :
智子のお弁当:2008/02/09(土) 03:39:19 ID:8kQXS1qB
翌日、昨日のことでへそを曲げてるんじゃなかろうか。
そんな不安を抱きつつ、台所を覗く。
「さかなさかなさかなー、さかなーを食べーるとー」
能天気な歌声が聞こえる。
智子は何事もなかったようにぼくのお弁当を作っていた。
「今日は、三色弁当なんだ」
智子は自信満々の笑みで小首をかしげ、ぼくにお弁当を渡した。
なんだ、昨日のことはもう忘れていたのか…。ぼくの杞憂に終わった。
お昼。
「ねえ、一緒にごはん食べない?わたしもお弁当作ってきたんだ」
かわいらしいお弁当箱を見せながら、三宅さんがぼくに誘った。
「…う、うん。いいよ」
マヌケな答えしかできなかったが、キャンパス内の静かな池のほとりで、一緒にお昼を食べることにした。
ぱっとお弁当箱を包む布を開くと、かわいいくまさんのお弁当箱だった。
昨日、智子が今まで使っていたヤツを壊してしまい、彼女が昔使っていたものに、今日はお弁当を詰めたらしい。
横で三宅さんがくすくす笑う。とても不安な気持ちにさせるお弁当箱。
ふたを開ける。三宅さんも、ちょっと期待しているみたい。
きれいな色とりどりのお弁当。料理に関しては、本当に天才的だ。
黄色のいり卵に囲まれて、鳥そぼろで「お兄ちゃん RABU」と書かれていた。
おしまい。
13 :
智子のお弁当:2008/02/09(土) 03:41:50 ID:8kQXS1qB
あんましエロくはないけど、
妹の壊れっぷりを楽しんでいただければ、幸いです。
以上で投下終了です。
GJ!なぜか金朋の声で再生されたwwww
17 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/09(土) 07:47:45 ID:tSsU61hY
RABU→レイブ→レイプ
18 :
ハルとちぃの夢:2008/02/09(土) 10:23:21 ID:7q6Fxnfa
GJ!
当然、続きを書いてくれるんですよね?
投下します。
相変わらず、主人公が気持ち悪いです。
19 :
ハルとちぃの夢:2008/02/09(土) 10:24:58 ID:7q6Fxnfa
その日、遠藤久美は、最悪の気分のまま、学校へと向かっていた。
昨晩、何度も電話を掛けたのだが、あの”兄”が出る事がない。
その都度、久美はあの美しい恋愛をしている姉妹が虐待されているのでは、と不安な想像に駆られる。
最終的には、自分でさえも分からない程の回数のコールをしていた。
その結果として寝不足になり、更には最悪の想像が精神的に不安を煽ったまま、今に至る。
”二人に何か遭ったのかも知れない”
そう思った久美は、二人の家に行こうか、とも考えたが、その必要はなかった。
「久美オハヨー!」
そんな明るい遥の声が久美の耳に届いたからだ。
「お早うございます、遥さん」
遥の姿に多少は安心した久美は、何時もの様に丁寧にお辞儀した挨拶を返す。
そして、遥の姿をじっくりと観察した。
明るく振る舞っているだけ、との可能性もあるからだ。
「な…なに?」
自分を執拗に見つめる同級生に、遥が脅えた様な声を出す。
「いえ、何でもありません…」
遥の顔をじっくりと見ながら、久美が答える。
「鼻の頭、どうなされたのですか?」
遥のその部分が、赤く腫れ上がっているのを見つけて、そう聞いた。
「コレ?」
鼻の頭を摩りながら遥が言う。
「えぇ、それです」
「コレはその、兄貴に…」
「お兄さんに?」
「あっ、ち…違う違う!そ、そう!転んだんだって!」
自分が言いそうになった言葉に気付き、慌てて言い直す遥。
友人相手とは言え、兄の唇を奪おうとしたら失敗した、と言える筈がない。
だが、それによって、久美は違う受け取り方をした。
「お兄さんに…暴力ですか…」
「暴力って…、あの兄貴がそんな事、出来るワケないでしょ」
まるで呟く様に言う久美に、遥が呆れた声で反論する。
その反論を久美が信じる訳はない。
「遥さんはお優しい。そんな相手を庇うとは」
まるで同情するかの様な久美の言葉。
遥は既に溜め息を漏らすしかなかった。
「そんなコトより、久美はどうしたの?顔色悪いよ」
話題を変える為に、遥が気付いた事を聞く。
が、この質問に久美は”使命がありますので”としか答えなかった。
20 :
ハルとちぃの夢:2008/02/09(土) 10:26:53 ID:7q6Fxnfa
その日の昼休み、遥は教室を抜け出し、人気のない体育館裏に来ていた。
昨晩の電話相手について、智佳と相談する為だ。
家ですれば、康彦が帰ってきた時に、聞かれる恐れがある。
いざとなれば、相手を始末する事も視野に入れなければイケない。
そんな会話は絶対に康彦に聞かれる訳にはいかないからだ。
周囲に人がいない事を確認してから、携帯のボタンを押す。
「ちぃちゃん、今、大丈夫?」
朝には一応、昼休みに連絡する事を伝えていたが、智佳が人気のない場所に行けたかは分からない。
「ハル姉、私も大丈夫だよ」
智佳から返ってきた言葉に、遥が安堵の微笑みを見せる。
「朝に言ってた、何度も電話を掛けてくる人がいるって話だよね?」
智佳が先に話を切り出す。
「そう、その事!どうしたもんかねぇ?」
話の早い智佳に、遥が 相談を持ち掛ける。
が、智佳から返って来たのは、遥にしては意外な疑問だった。
「何でハル姉は、その時にかけ直してくれなかったの?」
痕跡を残さない為、かけ直さないのは、普段からの事だ。
「それは…兄貴に知られるワケにはいかないから…」
「ほんとにそれだけ?」
朝の抜け駆けの様な行為で、遥に不信感を抱いた智佳には、それだけの理由とは考えられなくなっていた。
だから、声にもそれが出た。
「ちぃちゃん、私だって怒るよ!」
遥が声を張り上げる。
「今は二人で協力しなきゃイケない時期何だから!」
「それは…うん、そうだね…」
「そう!分かったら、もう少し私を信頼して」
遥にしろ、智佳にしろ、互いの独占欲の強さは良く分かっている。
とは言え、今は互いを信頼し、協力するしか、康彦を守る道はないのだ。
だからこそ、遥は声を張り上げて言った。
その事については、智佳も一応の納得をした。
だが、肝心の部分は結論を出せない。
康彦の知り合いなら、”?”なんて登録はされてない。
康彦の知り合いでないなら、となると、何なのかは良く分からない。
少なくても、康彦にトラウマが出てる間は、恋人候補ではない。
結局、今まで以上に兄の周囲に気を配る、というだけで話は終わった。
21 :
ハルとちぃの夢:2008/02/09(土) 10:28:34 ID:7q6Fxnfa
「やっぱり難しいよねえ」
智佳との相談が不調に終わった為、遥は深い溜め息をついて、携帯を閉じると、教室に戻った。
「やはり、私の勘に狂いはなかったみたいですね」
遥の後ろ姿に、久美が満足そうに呟く。
遥は気付かなかったが、久美は智佳とのやり取りを、全て物影から見ていたのだ。
無論、智佳の声が聞こえた訳ではない。
だが、最初に見せた笑顔、
兄に知られてはイケない、信頼して欲しい等の単語、それらが久美にある事実を語る。
二人が愛の囁きを交わしていた、という事。
そして二人が今、苦境に立たされている、という事。
この二つさえ分かれば 、久美には充分だった。
何せ、人目を避ける様にして、遥が智佳に電話する所を見たのは、始めてではないのだから。
そして、その時に久美は二人の関係に気付いた。
正確には勘違いし始めた。
それは、綺麗な物を見たいという、彼女特有の心理からだったが。
「お二人の幸せの為に、私が協力します」
決意を久美は口にした。
あの兄の処分は自分しか出来ない。
殺害しても良いが、肉親が死ねば二人も悲しむだろう。それは避けたい。
早めに処分を決めなければならない、
その方法について、久美は頭を悩ませ始めた。
22 :
ハルとちぃの夢:2008/02/09(土) 10:30:37 ID:7q6Fxnfa
2
ある喫茶店、早紀が康彦を挑発し、康彦がトラウマを再発させた店。
同じ店に、早紀は鈴と訪れていた。
昨日に康彦と会った事を話し、バイトに行こうとしていた鈴を、半ば強引に誘ってきたのだ。
「そんな事言われても…私だって頑張ってるつもりなのにぃ」
涙目になって訴える鈴に、早紀は溜め息をついた。
あまりにも康彦に脈がなかった為、今まで何をしていたのかを聞いたらこうなった。
「その楓さんって人を真似してみたらよ?」
あまりの鈴の不甲斐なさに、そんな提案をしてみる。
「ムリムリ!絶対にあの人みたくはなれないよぉ」
「そ…そうなの」
勢い良く否定してきた鈴に、早紀が及び腰で返事を返すと、鈴は大きく頷いた。
そして気になった。
「楓さんって、どんな人だったのよ?」
死んだ後も恋人の心に生き続ける様な人間に、興味が湧いた。
「どんな人って言われてもぉ…」
早紀の質問に、鈴は言葉を詰まらせる。
「喋り方とか性格とか何でもイイから、言ってみな」
鈴を促す様に、早紀が言う。
そんな早紀に答えるよう、鈴が”うーん”と唸ってから語り出す。
「何時も先輩と口喧嘩しててぇ、誰と話すトキもスッゴク口が悪いの」
「でも、ストレートでサバサバしてて、みんなから頼りにされてた!」
「それに先輩と二人っきりのトキとかホントに信頼し合ってたかなぁ…私の方が先輩のコト、何倍も好きだったのにぃ!」
最初の内は懐かしそうに、最後の一言には怒りと嫉妬を滲ませて、鈴が語った。
「へええ、そんな人だったんだ」
早紀は鈴の話を聞いて、楓に対して強い人、との印象を受けた。
「そんな人が何で亡くなったの?」
だから、そんな疑問が出た。
「事故だよ、事故!」
「へっ、事故?」
23 :
ハルとちぃの夢:2008/02/09(土) 10:32:38 ID:7q6Fxnfa
鈴の答えが早紀に意外だった。
確かに、事故ならば仕方のない話なのかも知れない。
が、鈴の話を聞いてイメージした限りでは、そんな簡単に事故に遭う程に、鈍い女のイメージが湧かなかったからだ。
そんな早紀の疑問に気付いてか、気付かずか、鈴が言葉を進める。
「満員のホームから押し出されて線路に落っこっちゃったんだよ!」
鈴のそんな言葉に、早紀はますます、不思議に思えた。
そんな事故が起こり得るのか、と言う事、
そんな事故を起こした人間と、鈴が語ったイメージ像が一致しないからだ。
「大変だったんだよぉ!あの事故の後、先輩や先輩の妹さんまで警察に話を聞かれたみたいだしぃ!」
恋人だけならともかく、何故にその妹まで。
そんな疑問が、早紀の頭に浮かんだ。
その疑問が、早紀の妄想を刺激し、自分でも笑える様な考えが頭に浮かび、慌てて首を振った。
「どうしたの、早紀ちゃん?」
早紀の様子に気付いた鈴が、彼女にしては珍しく、率直に聞いてくる。
「何でもない何でもない!」
自分の妄想を打ち消す為に、早紀は業と大きな声て否定した。
「楓さんの話は分かったからさ!」
そこまでの話を終わらせるように早紀が言う。
「鈴と、鈴の先輩とのこれからを話そうか」
話題を変えたくて、思わず早口で言う。
その後、早紀は鈴に、康彦をお祭りに誘うように、と忠告した。
先輩がバイトだ、と渋る鈴に、”バイトが終わった後でいい”と言ってから、”あのお祭りは夜遅い方が盛り上がるから”と、含みを持たせた。
最後に”その日は私も付き合って上げるから”との言葉を言うと、
鈴は”お願いね!”とだけ、答えて、康彦との夜に幸せな妄想に浸り始めた。
楓の話をしている時は、どれほど無我夢中になろうとも、早紀から眼を離さなかったにも関わらず。
そんな鈴の姿を、早紀は溜め息混じりに見守っていた。
24 :
ハルとちぃの夢:2008/02/09(土) 10:33:57 ID:7q6Fxnfa
3
その日の帰り道、康彦は酷く疲れた顔をして、道を歩いていた。
バイト先では、鈴に昨日休んだ事で責められていた。
連絡がなかったです、と怒り、ちゃんと店に電話した事を伝えると、私にはしてくれなかった、と意味不明な事を訴え出した。
バイト前後やその合間には、妹二人の恋仲を主張するあの女子高生からの電話が鳴り止まず、その対応にも頭を悩ませた。
相手いわく、昨日に電話を取らなかったのは、二人の邪魔をしていたのではないか、としつこく言われていた。
体調を崩して寝ていただけだ、
そう答えても、信じる気配すらなく、
遥に暴力を振るったのでは、とまで疑ってきた。
流石にそこは康彦も強い調子で否定したモノの、相手に伝わった様子はない。
結局、一日に一度は康彦から電話をする、日を決めて会う約束をさせられてしまった。
「はああー」
大きな溜め息と共に、康彦は足を止めた。
空を見上げれば、満面の星空が広がっている。
「あの星のどれかが楓なのかなぁ?」
死んだら人は星になる、そんな言葉を思い出して、そう呟く。
「まだ逝く訳にはいかないけど、もう少し待っててくれよ?」
星のどれかに謝るようにして呟いた。
康彦には一つだけ、決めている事がある。
それは楓の死だけでなく、その死の直後から複数の警官や一部の記者から言われた話が原因になっている。
遠藤楓は自殺ではないか、その自殺の原因が佐々木康彦にあるに決まっている、という話。
その話は、康彦に更なるショックと衝撃を与えた。
楓を救えなかった自分を責めさせる要因ともなった。
そして決意した。
妹二人が自立したら、楓の死に責任を取ろう、と。
妹二人の恋愛が本当なら、自分の存在は二人にとって軽くなる、
それなら、自分は自分の責任を果たしても問題はない。
「もうすぐだと思うからさ」
小さく、だが、揺らぎのない声で呟いた。
これが遥にも智佳にも気付かれていない、康彦の本音。
そして、最後に抱いた夢。
25 :
ハルとちぃの夢:2008/02/09(土) 10:34:38 ID:7q6Fxnfa
投下終了です。
GJ!!
様々なすれ違いがたまらんwwwwww
久美ちゃんが最悪にキモいです。
でも康彦にとっては殺される方がいいかもね。
このまま話が進んでも康彦以外の願いは叶いそうにないなぁ。
どうなるんだろう。ワクワクしながら続きを待たせていただきます。GJでした。
帰ってこない。
弟が帰ってこない。
摩季は車の中で震えていた。エンジンを切り車内で待つこと既に六時間、時計の短針は10を指している。外は暗く、人通りもまばらになってきた。
「達哉」
言葉ともに湯気が上がる。揺らいで薄くなっていく白煙。摩季の不安は湯気のように簡単には消えてくれなかった。
「摩季は今度お姉さんになるのよ」
実母は摩季の頭を撫でながら嬉しそうにそう言って数日後、皺くちゃの顔で泣く赤ん坊を残して逝ってしまった。父親の泣き叫ぶ姿を見たのもこの時が初めてだ。それ以来、結局一度も見ていない。
母の葬式の時すら泣かなかった。父親はただただ涙を耐えていた。それを見ているのがどうにも辛くて、抱き上げた弟の顔をずっと見ていた。葬式を終え和室の仏壇に手を合わせていた時、
「父さん、仕事頑張るから。その代わり摩季には達哉の面倒を見てほしいんだ」
父親は摩季にそう言った。
小学校にあがったばかりの娘だ。母親が恋しいに決まっている。それでも摩季は頷いた。もう父親の泣き顔も、泣くのを耐える顔も見たくないから。
―――摩季は今度お姉さんになるのよ―――
仏壇に飾られた母の写真から、声が聞こえたような気がした。
それからは毎日が戦いだった。小学生向けの育児本などあるわけもなく、近所の主婦達に指導してもらいながらの授乳やオムツ換え、夜になれば疲労のあまり黙り込む事の多い父の食事作り。
夜泣きする達哉を一晩中あやして、目の下に隈をたずさえての登校など日常茶飯事であった。
それでも、確かに幸せは彼女の腕の中にあったのだ。弟という名の、達哉という名の幸せが。
あの悪魔達がやってくるまでは。
携帯電話は相変わらず着信も受信も告げてこない。学校は休みの筈だ。何処かに外泊しているということも有り得ない。今日、自分がここをたずねる事は前もって連絡しておいたので向こうも承知しているはず。
月に一度、弟の様子を見にいく。別に両親に強制された訳ではない。強いて言うならば強制したのは自分だ。
達哉の顔、声、匂い、温度、纏う空気。それらを五感に刻み付けておかなければ、自分の精神など砂城の如くあっさりと崩壊してしまうから。
一か月に一度。
それだけで良いのだ。
それだけで自分は今まで通り、「良き姉」でいられる。
しかし心の声は否定する。
そうやって理由をつけては弟に会いに行ったのもまたお前じゃないか、と。
最初は「達哉が高校を卒業するまで」だった。次は「成人になるまで」だった。そして結局、今もこうして弟の帰りを待ちわびているじゃないか。
それだけじゃない。会わなければいい、と屁理屈をこねながら弟を遠くから見ていたのは誰だ?大学からアパートに帰ってくる弟の姿を見るためだけに、車の中で震えていたのは誰だ?
例えば一昨日。
例えば十日前。
そしてよりにもよって弟で自慰をしたのは―――
分かっている。理解している。角倉摩季は救いようもないくらいに角倉達哉に恋をしている。姉としての愛、母代わりとしての愛、二つを差し引いて尚、余りある程に。女として弟を愛している。
だがそれは禁忌だ。決して踏み込んではならない領域だ。例え達哉がどんなに身体を寄り添わせてきても、それは親愛だ。間違ってはならない。絶対に情愛ではない。
そうやって二十年近く耐えてきた。達哉が思春期を迎え、雄としての精神と肉体を構築し始めた頃などは忍耐の限界を幾度も超えかけた。
彼の下着をどんなに嗅ぎたかった事か。ゴミ箱にあるちり紙に何度手を伸ばしかけた事か。
あの双子のように己の心情を爆発させる事が出来れば、どんなに幸せか。
摩季はそれを必死に押さえ付けてきた。自分は姉なのだ、自分は肉親なのだ、と。
血縁とは何と忌々しい鎖なのだろう。決して首を締め付ける事なく、しかしその重みを確実に伝えてくる。普段は沙汰なくそこに在るだけだというのに、禁忌に近付けば途端に甲高い金属音で警告するのだ。断ち切る事は叶わず、解く事は夢のまた夢。
それすらも振り切って想い人に触れようとした事もある。
皮肉にも、そんな時摩季を最後の一線で押し止どめたのは、双子であったのだが。
思考を中断した。
もしかしたら何か急な事情があるのかもしれない。何らかの事故に巻き込まれたのなら実家から連絡があるだろう。無論、そんな最悪の事態があってほしくはないのだけれど。
今日は帰ろう。
殺人の現場検証が二件、それ以外にも山積みの報告書を片付けてきたため体が限界だ。
未練がましくたっぷり十数分、安アパートを見つめた後、エンジンをかけた。車を走らせ、摩季は帰路につく。
繁華街へと入り、大小のネオンが夜とせめぎあう道を抜ける。
もはや見慣れた建物の前でスピードを落とす。
駐車場に車を入れ、マンションのロビーに入る。
入口で部屋番号とパスワードを入力すると、音も無くドアが主を迎え入れた。女性の一人暮らしを主目的に建設されたマンションだ。セキュリティには信頼が置ける。その分、値も張るが。
エレベーターの駆動音に包まれながら、眼鏡を外し目を揉みほぐす。ガラスにぼんやりと映る自分の顔を見て苦笑した。
何とも酷い顔だ。目が充血している。馬鹿馬鹿しいくらい真剣にアパートを見つめたせいだ。
「実際、馬鹿馬鹿しいわよね…」
摩季の呟きは扉の開く音にかき消される。
パスワードを打ち込み、鍵を回す。自室に入り、着の身着のままベットに身を投げ出した。
達哉に…会いたかった…
唇だけ動かしてそう言ってみた。片手をパンツに差し入れ、それはやがて彼女の秘所に到達する。下着越しに指を這わせ、撫で上げる。
「…んッ…たッ…つやぁ…たつやぁ…」
秘所が、それを貪る指が、脳内が液状化していくような錯覚を覚えながら、摩季は考える。明日は実家に帰る事にしよう。両親の顔も見たい。
目に写る全てが、色と形を失っていく。
微かな喘ぎ声とベットの軋む音は、いつまでも部屋に谺していた。
投下終了です。
>>33 GJ
これはいいキモ姉!
感情爆発させたらテラオソロシス
これは重みのあるキモ姉
つってもキモくなるほどの姉妹にはだいたいそれなりの歴史があるかw
しかし弟が置かれている状況を知ったらえらいことだなw
なんと言うキモ姉。双子よりもこっちの方が好きだわ。
頑張って泥棒猫から弟を奪い返してくれ。
投下します。
非エロ。14レス予定。
「なあ。水無都。フロアのレイアウトってこんなもんでいいのか?」
「おー。そんなもんかな。あとは、ドリンクの準備場所との仕切りに、カーテンでも引くか」
「ねーねー。柊さん。フロアの飾り付けに必要なもの、ひととおり洗い出してみたんだけど?」
「あ。うん。ありがとう。それじゃ、こっちで確認して予算を報告するから」
梅雨入り間近の六月。秋巳たちのクラスは、中間考査を終えて次の大きなイベントである文化祭――葵(あおい)祭――を
控えて、喧騒に包まれていた。梅雨時というイベントごとにはあまり向かない季節ではあるが、
秋巳たちの通う高校が進学校という都合もあり、年度の後半は受験生である三年生に配慮されるため、
例年この時期に行われていた。
ホームルームの時間。高校生らしい活気に彩られた教室。その中心にいたのは、
葵祭実行委員である水無都冬真と柊神奈であった。
彼らふたりを中心にクラスでの催し物、それに向けての準備が進められている。
彼らが企画立案したのは、喫茶店。それも店員がある種の嗜好性をもった衣装を身に纏う。いわゆるコスプレ喫茶であった。
発案者は、水無都冬真。
彼が、企画決めの場にて、どこからか用意してきた衣装の案とともに提案し。
女子の普段とは異なる雰囲気を味わえると盛り上がった男子は当然反対する者などなく、
水無都冬真の持参してきた装束のデザインが女子にもなべて好評だったため、あっさりとその案に決まった。
その場で水無都冬真が熱く思いの丈を込めて弁奮う間、彼に誘われ同じ実行委員となった柊神奈は、
多少困ったように笑みを浮かべて、黒板前に飾られたオブジェとなっていた。
「おーい。秋巳。ちょっといいか」
周囲に命じられるまま、はいはいと頷き、あまり他の人がやりたがらない細かい作業をしていた秋巳を呼ぶ水無都冬真。
「ん? なに?」
呼びつけられた秋巳は、人だかりの中心で椅子に腰掛けている水無都冬真の元へ向かう。
「看板とかに使う板材を、運営本部まで取りに行ってくれるか?」
「ああ。うん。いいよ。生徒会準備室だよね?」
「おお。柊ちゃんと一緒にな」
「え? 別にひとりでいけるけど? そんなに大量にあるの?」
「ばっか。おまえ、柊ちゃんに箸より重いものを持たせるわけないだろ。
受取に学祭委員のサインが必要なんだよ」
「じゃあ、冬真が行ったら?」
「ああ。ダメダメ。いま俺は、衣装のスカート丈を膝上何センチにするかで、
非常に緻密で繊細な議論と交渉してるから」
「どこが繊細な議論よ! こんなことで交渉してる自分がバカらしくなるわ」
水無都冬真の向かいに座っており、彼の言う『議論』の相手であろう春日弥生が呆れ声とともに不満を漏らす。
「姐さんが、こっちの要望を呑んでくれれば、即終わるんだけど?」
「呑めるわけないでしょう! なんで制服よりも丈が短いのよ!
っていうか、これじゃ、下着が丸見えじゃない!」
水無都冬真が再び掲示してきた、寸法等も含めた衣装案をバンと机に叩きつける春日弥生。
「いや。だから、そういうコスプレなんだってば。
あの全国的家庭アニメの褐藻類コンブ目ちゃんだって、
おんなしような格好してるんだから。いたって健全。一点の曇りもなし。
ましてや、いやらしい気持ちからじゃないぞ。
純粋にコスプレを楽しもうという意図でだな……」
「あんたとその周りのにやけた顔から、
いやらしい以外のなんの気持ちを読みとれと?」
「おい! 秋巳。俺は恥ずかしいぞ。おまえがそんないやらしい気持ちで、
このコスプレ喫茶を考えてたなんて。
なんだ指名料とか、時間延長とか、オプションとかって」
「どの口がそんなことをほざくのかしら?
いまの言葉も、全部あんたのこの口から洩れてきたんだけど?」
そう言いながら、春日弥生は、水無都冬真の頬を抓り上げる。
「あいひゃひゃ!」
「如月くん、悪いけど、このバカに代わって行ってきてくれる? 神奈!」
水無都冬真の頬を放さないまま春日弥生は、別の群がりを築いていた柊神奈に向かって声を飛ばす。
柊神奈は、周りを取り囲む面々に片手で拝むようにして「ごめんね」と言うと、
急ぎ足でこちらに向かってくる。それは今日、ひっきりなしに見られた光景。
「どうしたの? 弥生。なにか疑問点でもあった?
っていうか、水無都くん涙目になってるよ?」
水無都冬真を指さしながら、おずおずと言う。
「ねえひゃん、ふいまひぇん」
「あら。忘れてた」
心底どうでもよさそうに呟くと、春日弥生はその頬を抓む指をぐりぐりと上下に動かす。
「いひゃいいひゃい!」
「で。そんな些細なことはどうでもいいんだけど。
準備室まで、必要なもの取りに行ってきてくれない?」
「ああ! ごめん。バタバタしてて忘れてたよ!
いまから行ってくるね」
「あ。ちょっと待って。彼が手伝ってくれるから」
慌てて教室を飛び出そうとした柊神奈を呼び止めると、空いたもう一方の手で秋巳の背中を軽く叩く。
「え?」
「冬真が重大案件で手を放せないらしいから」
秋巳がそう理由を付け足す。
「てをはなひぇないほは、ねえひゃんらけど」
「水無都くん、痛そうだよ?」
「いいから! はいはい。さっさとふたりで行ってくる!」
「あ。うん。ごめんね。如月くん。手伝わせちゃって」
「うん。いいよ」
それだけ応えると秋巳は、柊神奈とともに教室を出た。
各教室からは、生徒たちの高揚する気分を表現するかのような陽気なはしゃぎ声、笑い声が届き、
お祭り騒ぎの雰囲気が染み出してくる廊下を、秋巳は柊神奈とふたりで歩く。
「ほんとに、ごめんね。実行委員の仕事なのに手伝わせちゃって」
「いや。別に、一から十まで実行委員がひとりでやらなくちゃ
いけないことじゃないし。生徒みんなで協力することが大前提でしょ?
それに、冬真に頼まれたんだから、
柊さんがそんなにかしこまることないと思うよ」
恐縮する柊神奈に模範的な回答を返す秋巳。
「あはは。それって、私から頼んでたら断られてたのかな?」
悪戯っぽい輝きに彩られている表情で、訊ねる柊神奈。
彼女が告白してから、秋巳たちと一緒にいることが多くなって。
柊神奈は、いい意味で秋巳に対する遠慮や気遣いといったものが、なくなってきていた。
それは本来の彼女の性質に近づいたもの。飾った自分ではなく、素の自分をなるべく出して秋巳に接する。
自分を秋巳に受け入れてもらえるかどうかは、判らなかったが、
それこそ媚びるようにして無理矢理捻じ曲げたキャラクタで秋巳に振り向いてもらっても意味がない、
柊神奈はそう思っていた。
秋巳のことを配慮しないという意味ではない。
彼が嫌がることや、避けるようなことをするつもりなど毛頭ないのだから。
ただ、柊神奈は気づいていなかった。彼女自身にとって、
恋する人のためなら『無理矢理捻じ曲げる』ことなど存在しないことを。
秋巳が目立つことを嫌うなら、それこそ自分も日陰に入り込むことを厭わない。
それは、無理でも我慢でも、自分を抑えつけているわけでもない。
彼がそう願うのなら、そうすることが『素のままの柊神奈』なのである。
彼は自分ひとり特別扱いされることを嫌っていた。彼女自身と同様に。
だから、柊神奈も他の人たち――他の仲の良い友達――と同じように秋巳に接するようにした。
秋巳は、そんな最近の柊神奈に戸惑うことが多々あった。
「う。結構、きついこと訊くね」
「ふうん。否定してくれないんだ」
「いや。別にそういうわけじゃないけど。
もちろん、柊さんから頼まれても、同じだよ。
実行委員に協力するのは生徒の義務だし。
……あ、冬真に頼まれたからやってるのもそういう意味だよ」
「あー! 慌ててる。いいですよー。
どうせ、私が頼んでも個人的に承諾してくれるんじゃなくて、
義務で応えてくれるんだよね」
「柊さん、最近、段々冬真に似てきてない?」
「それって、水無都くんを愛してる如月くんにとって、
私もそういう対象に入れるってこと?」
「え……? いや」
困ったように口篭もる秋巳。
「あはは。冗談だよ、冗談。これ以上やって、如月くんに嫌われたくないしね。
では、あらためて、柊神奈よりお願いです。荷物運び手伝ってくれるかな?」
「かしこまりました。実行委員殿」
そうおどけて返す秋巳に、咲き誇るひまわりのように明るく破顔一笑する柊神奈。
「あははっ! ありがとう!」
弾むような軽やかな声。彼女は、満足だった。徐々に秋巳との距離が近づいている実感を得られて。
柊神奈は秋巳に言わなかったし、彼も気づいていなかったが、秋巳自身彼女に対する態度が、
当初とは変わってきていた。秋巳は相変わらず目立つことを忌避していたが、
それさえなければ柊神奈と相対することを嫌がっていたわけではない。
むしろ心地良ささえ感じるようになってきたといっても大げさではない。
それは、秋巳のなかで無意識にある種の可能性を見出させた。
秋巳自身が怖れていたこと。
かつて水無都冬真に言われたこと。
『あの葡萄は――』
――酸っぱいに違いない。そう思い込んで恋愛ごとを敬遠することではない。
秋巳にとって、それが『酸っぱい』モノでしかないことを突きつけられる。
それこそが秋巳が畏怖していたものなのだから。
人として大切なモノが欠けている不良品の自分は、本気で誰にも恋愛感情を抱けない。
『恋愛ごっこ』をしてその真実に向き合わされる恐怖があるから避けていた。
だが、柊神奈と友達付き合いをすることで、秋巳のなかに芽生えつつある感情があった。
椿と水無都冬真以外に対する好意――それは恋愛感情と呼べるものではなかったが――。
人として、そんなあたりまえの情意を持てるのではないか。
秋巳は無自覚ながらも、そういう希望を抱きつつあった。
「あ、そうそう」
思い出したように、柊神奈が言う。
「さっき言った冗談っていうのは、
如月くんが水無都くんを愛してるって部分だけだからね」
「え?」
彼女の台詞の意味が掴めず、訊き返す秋巳。
「だから、そういうこと!」
柊神奈は、それ以上話すことはないとばかりに打ち切る。
自分が秋巳に好意をもたれる対象になれるか。
秋巳に振り向いてもらえるか。
秋巳に恋心を抱いてもらえるか。
それは、彼女の中で冗談でもなんでもなく、それこそ人生の一大事のごとく真剣なものだったのだから。
* * * * * * * *
そして迎えた葵祭当日。本格的に梅雨入りし、連日続いた雨模様の隙間を縫うかのように、
薄く広がる雲の切れ間から陽光の差し込む週末。
秋巳の通う高校の門前には、年に一度その役割を求められる大きなアーチが建てつけられ。
やはり天候のことを考慮したのであろう、門をくぐって広がる校庭には、
出店の数はちらほらとといった様子ではあるが、それでもこの日ばかりはこの敷地一帯がお祭りの空気を醸しだす。
生徒会役員でもある運営委員を慌しく呼びだすように響く校内放送が、葵祭の開始が近いことを告げ。
秋巳のクラスも様々紆余曲折はあったが、なんとか準備は整っていた。
「さて。諸君! いよいよ決戦の日だ。ここまでよく頑張ってくれた。
ただ、これからが本番だぞ。売上は二の次で文化祭を楽しもう、
なんて建前を言うつもりはない! 結果がでるから楽しいんだ!
売れ! 売って売って売りまくれ!
原価十円のコーヒーを百二十円で売りつけることを躊躇うな!
原価二十円のクッキーを二百円で売りつけることに躊躇するな!
会場の設営費、人件費、女の娘のお色気サービス!
その他もろもろ乗ってのお値打ち価格なんだ!
健全な経済活動なんだ。社会の仕組みなんだ!
女の娘が隣に座って一緒に飲むだけで、
市価の十倍に跳ね上がるなんてあたりまえの市場だ。
資本主義では、カネこそ正義だ! カネが言葉なんだ!
カネは裏切らない! だから、学校一の売上を記録して、
我々の最終防衛線を破った運営委員会のヤツラの頬を
札束で引っ叩いてやろう!」
「おー!」
黒山の人だかりのなか、熱弁する水無都冬真。集まっているのは主にノリのよい体育会系の男子たち。
女子と秋巳を含む一部男子たちは、それを遠巻きに冷めた視線を送っている。
「あいつの言っている最終防衛線って、女子衣装のスカート丈のことでしょ?」
「うん。そうみたいだね。結局最終的に生徒会の人に反対されて、
矯正させられたみたいだから」
呆れた表情で水無都冬真を見やる春日弥生と、それに答える秋巳。
「よくもまぁ、あそこまで固執できるものね。ある意味感心するわ」
「まぁまぁ。水無都くんもお祭りってことを配慮して
雰囲気を盛り上げるためにやってるんだろうし、いいんじゃない?」
フォローをいれる柊神奈。
「そうかしら。私には、欲望に忠実に動いているようにしか見えないけどね」
「あはは……。否定できないけどね……」
柊神奈は、苦笑する。
「いいか! 売れない豚はただのクソ製造機だ!
貴様らのそのクソのもとを詰め込む口から、
薄汚い言葉を吐き出す前と後に『サー』をつけろ!」
「サー、イエッサー!」
「これまでの価値観は捨てろ! おまえたちは掃き溜めにたかるハエ以下だ!
ゴミだ! 無価値! ゼロ円だ! いや、無駄に消費する分、害毒だ!
売上をあげて初めてヒトとして認められるんだ。
おまえらがヒトになれるか、ハエ以下で終わるかは、
この二日間にかかってるんだ!」
「サー、イエッサー!」
ますますヒートアップする水無都冬真。
「あんなこと言いつつ、あいつは、お店の運営に参加しないでしょ。
自分が関わらないからって、好き放題言ってるわね」
自分の言葉が水を差すと自覚しているのだろうか、水無都冬真の方には届かないよう配慮しながら、
春日弥生が呟く。
葵祭実行委員の暗黙の特権。
葵祭当日は、実行委員は基本的にフリーである、ということ。
前日までの準備に関する雑用、運営本部との交渉、委員会への出席、諸々等、
負担が極端に重い実行委員に対する、校内での暗黙の了解事項であった。
それはつまり、柊神奈もフリーであり、衣装を纏う喫茶店のウェイトレスをしないということを意味し、
催しモノが決まったとき多くの男子を失望をさせたのであるが。
「ま。バカはほっとくとして。神奈!
あんたもなんか今日を迎えるにあたって、みんなに言うことはないの?」
「え? ええっ!? 私もあんなこと言うの!? むっ、無理だよ!」
クソだの、ゴミだの、口汚い言葉を罵る水無都冬真を見ながら、思いっきり身を引く柊神奈。
「誰もあんなこと言えなんて言ってないじゃない。
……まぁ、一部の男子どもは喜びそうだけど。
そうじゃなくて、別にあんたの言葉で開始を宣言すればいいのよ」
「え、あ、そ、そうなの?」
「はい、みんな! もうひとりの実行委員である神奈からも、
みんなにひと言あるって」
パンパンと手を叩き、それまで雑談していた女子を中心に注目を集める春日弥生。
それにあわせて、秋巳も彼女たちからすこし距離を取るように後ろに退く。
「ほら、神奈!」
柊神奈は、いきなり振られて、さらに周りの視線が一斉に集中することで戸惑う。
「あ、あの。みんな、今日まで本当に協力してくれてありがとう。
その……、至らないところばかりで迷惑かけたかもしれないけど、
あの、今日、みんなが楽しんでくれたら幸いです。
えーっと、その、あと、なんて言ったらいいのかな……。
と、とにかく、この二日間楽しみましょう!」
「ええ。今日までお疲れさま。神奈」
そう春日弥生が締めくくると、パチパチと拍手が沸く。優等生的な内容だからだろうか、
それとも単に柊神奈だからだろうか、一部女子には面白くないような顔をしているのも見受けられたが。
「さ、それじゃ、みんな最終準備にかかりましょうか」
その春日弥生の号令に従うように、各自ばらばらに散会し、教室は再び喧騒を取り戻す。
「弥生も、本当にありがとうね。弥生がいなかったら、私全然ダメだったよ」
「いいえ。お礼を言われることじゃないわ。
確かに、あのバカの相手は疲れたけどね」
「あと、如月くんも。色々と面倒なことに巻き込んじゃってごめんね。
それと、助けてくれてありがとう」
「あ。いや」
急に秋巳の方を向き、お礼を言う柊神奈が意外だったのか、困惑した表情を見せる。
「僕は、まあ、冬真のサポートをしてただけだし」
それは、事実だった。春日弥生が、ほぼつきっきりで柊神奈の手助けをしていたのと同様に、
秋巳は水無都冬真の指示になにくれとなく従って助けていた。主導権を握っているのは、それぞれ逆だったが。
だから、周囲の目からは、春日弥生は柊神奈を助けていると映っていたが、
秋巳は水無都冬真にいいようにこき使われていると、憐れみの視線を受けていた。
「よ。柊ちゃん。お疲れさん。この二日間は、目一杯楽しもうか」
演説を終えたのであろう水無都冬真が、軽快な足取りで秋巳たちに合流する。
「さて。秋巳も。今日はどっから回る?」
「え?」
一瞬言われた意味が判らず訊き返す。
「え? じゃないって。おまえも今日明日はフリーなんだから、
一緒に色々回ろうぜ」
「な、なんで?」
「なんでって、おまえ、シフト表に入ってないだろう。
それは要するに、自由の身ってことだ」
「それは……」
自分は接客ではなく、あれこれと細かい雑用を言いつけられる係なのでは、と秋巳は考えていた。
「如月くんには、ここでの仕事より重要な使命があるから。
この男の監視を、ね。神奈に変なちょっかいをかけないよう」
水無都冬真を白眼視する春日弥生。
それは、クラス内での合意事項であった。女子に対しては春日弥生が、
男子に対しては水無都冬真がそれぞれ持ちかけ、纏めたのである。
準備段階において、水無都冬真にあれやこれやと顎でこき使われていた秋巳に対し、
同情と憐憫を覚えていたクラスメイトは、とくに反対をしなかった。
これが、水無都冬真や柊神奈であれば、それぞれ反対意見がでたであろう。主に前者は女子から、後者は男子から。
だが、ふたりとも暗黙ルールで優先的に抜ける。
別にいてもいなくてもいい、いれば便利なやつぐらいの認識をもたれている秋巳が抜けようと、女子も男子も構わなかった。
各自の負担がわずかに増えるという不満に関しては、散々いいように使われてきた実績に向けられる憐れみが打ち消した。
「ま、俺が色々と実行委員の手伝いをさせてやった報酬だと思えばいい。
感謝しろよ」
「でも、それを言ったら、春日さんも、じゃない?」
「あら? それって、私を誘ってくれてるの?」
「え? いや、そうじゃないけど」
「素で返さないで欲しいわね……。ま、いいのよ。
私も恩恵を受けてるしね。私の負担の半分は、神奈が受け持ってくれるし」
どうしても自分だけ楽できないという柊神奈の強い要望により、春日弥生が応じた結果である。
それが、いろいろな交渉において男子に対する決定的な取引材料になったのは、思いも寄らない副産物であったが。
「で。まあ、私と神奈が入れ替わりになるから、
この男が神奈にちょっかいかけないよう、
如月くんに見張っててもらいたいわけ」
「姐さん。それは心外ですよ。こういう行事ともなれば、引く手あまたのこの身。
数々の誘惑を振り切って、柊ちゃんと一緒に回りたいって想いを、
そんな言い方されるなんて」
「どうせ、数々の女の娘に声かけて、断られたんでしょ。
それで、強く押されると嫌とはいえない神奈を、
無理矢理連れまわそうってわけね」
「あはは……。別に私は嫌じゃないよ」
そうフォローをいれる柊神奈。
だって、如月秋巳も一緒にいるから。彼と一緒に回れるから。
「さっすが、柊ちゃん! 俺と一緒にいたくて、片時も離れたくないって、
そこまで言わせて断っちゃ男が廃るってもんよ」
「そういうわけで、この変態の見張り、よろしくね」
春日弥生は軽やかに水無都冬真をスルーすると、そうにこやかな表情で、秋巳にウィンクした。
そしてはじまる文化祭。
「さて。いろいろ見て回る前に、ひとり合流する娘がいるんだ」
秋巳と柊神奈、水無都冬真と廊下の一角に陣取って、どこへ回ろうかと相談するにあたって、
水無都冬真が切り出した。
「え? もうひとり?」
訊き返す柊神奈。
「ああ。男ふたりに、女の娘ひとりだとバランス悪いしね。
ひとり声かけてるんだ」
正確には、水無都冬真から誘ったわけではない。向こうから誘われた。萩原睦月に。
そのとき、すでにこの三人で見てまわろうと考えていた水無都冬真は、その申し出に快く応じた。
「ちょい待ってね」
携帯電話を取り出すと、メモリーを呼び出し電話をかける水無都冬真。
「あ。萩原ちゃん。うん。俺おれ。いま、二階の東側階段の前。
そう。いまから来れる?」
水無都冬真の呼びかけで、電話の相手が萩原睦月であることを知る秋巳。
(へぇ……)
椿が萩原睦月を彼に紹介してから、ちょくちょくやり取りをしているのは知っていたが、
ふたりは結構仲良くなっていたんだ。
秋巳はそう感想を抱く。
「如月くんは、知っている娘?」
電話の邪魔にならないよう、柊神奈が秋巳に顔を近づけて囁く。
「うん。後輩の女の娘なんだ」
妹の友達、とは言わない秋巳。
「ふうん」
それだけを返す。
「あ。悪い悪い。いまから来るってさ。ちょっと、待とうか」
電話を終えた水無都冬真は、ふたりにそう声をかける。
「へー。水無都くんも、隅に置けないんだ。
ひょっとして、私たちってお邪魔虫?」
「あれあれ? もしかして、妬いてる?」
「ううん。そんなことないよ」
強がりでもなんでもなく、平然とそう答える柊神奈。
そんな彼女に、水無都冬真も言葉とは裏腹に、残念そうな顔を全然見せることなく言う。
「それは残念。でも、お邪魔虫なのは、どっちなのかなー?」
悪戯な笑みを浮かべて。
「えっ! なっ? そ、そんなことないよ!」
虚をつかれて、慌てふためく柊神奈。
返答に窮する彼女に、図らずも助け舟を出す形で、萩原睦月が人の間を縫うように小走りでやってきた。
「すみません。お待たせしてしまいまして」
そう言って気分を落ち着かせるためか、胸に手を当てる萩原睦月。
「いんや。全然待ってないよ。今日は、よろしくね」
「いいえ! こちらこそ!」
そう恐縮して畏まると、ふと気づいたように、柊神奈の方へ瞳を向ける。
「あの……」
「ああ。お互い初めてだっけ? えっとね、こっちは、柊ちゃんで、俺の嫁」
「ええっ?」
「水無都くん、そういう嘘は冗談でも言わないほうがいいよ。ごめんなさい。
私は、柊神奈、如月くんと水無都くんのクラスメイトなんだ」
「あ。いえ、その、お名前は……」
萩原睦月は聞き知っていた。二年の学年である程度話題に上る、柊神奈の名前は。
それが、なんで、いまここに水無都冬真と一緒にいるのであろう。
ひょっとして――。
嫌な予感が萩原睦月の頭を掠める。
そんな彼女の内心など露知らず、
「あ。……そうなんだ。変な噂とかじゃなきゃいいんだけど」
彼女の反応から、自分の名前くらいは、聞いたことがあるのだろうと察する柊神奈。
「いえ! とんでもないです」
変な噂どころか、二年男子の間で人気を誇る女の娘として。そう耳に入れていたのである。
「すみません。挨拶が遅れました。えっと、あたしは、一年の萩原睦月です。
あと、お兄さんもご無沙汰です」
萩原睦月は、慌てて柊神奈にぺこっと頭をさげると、それから秋巳のほうを見やり挨拶をする。
「うん。久しぶり」
中間テストの時期からだから、約一ヶ月ぶりくらいかな。そう思いながら秋巳が返す。
「お兄さん?」
秋巳をそう呼ぶ萩原睦月に、疑問を呈する柊神奈。
「ああ。こいつの趣味なんだ。年下の女の娘にお兄さんって呼ばせるの」
そう言いながら秋巳のほうを顎でしゃくる。
「そうなんだ。じゃあ、私もお兄さんって呼んだ方がいいのかな?」
「ち、違いますよ! あたしの友達のお兄さんだから、
そう呼んでるんであって……」
いっさい反論しない秋巳に代わり、否定する萩原睦月。
(あー。言わなくてもいいのに……)
秋巳は心の中で呟いた。
まあ、萩原睦月が来る時点で知られないわけにはいかないとは予想していたけど。
「へー。如月くんって、妹さんがいたんだ」
「ええ。柊先輩もびっくりしますよ。きっと。彼女に会ったら」
椿は、決してこの目の前の女の娘に負けてない――。萩原睦月は、そう思いながら。
そんな萩原睦月を見つめながら、水無都冬真が話題を切り替えるように水を向ける。
「そういえば、萩原ちゃんたちのクラスは、なにをするの?」
「え? あたしたちのクラスですか? 演劇なんです。
あ! 聞いてくださいよ! 椿が主役をやるんですよ、主役!
ウチのクラス演劇部が多くて、脚本から自分たちのオリジナルを書き上げて、
舞台装置も演劇部から借り受けている本格的なものなんですよ!」
まるで小学生が百点とったときに親に必死でアピールするように、椿が主役を張ることを嬉しそうに報告する萩原睦月。
「ほう。そいつは、見に行かないとね。ところで、どんな劇?
濡れ場とかあるの?」
「なっ!」
その言葉に反応したのは、萩原睦月ではなく、秋巳であった。
「あはは。あるわけないですよ。でもひとりの女性の悲恋の物語なんです。
って、あ、お話の中身喋っちゃったら詰まらないですよね。
今日は、十時半と三時から上映されるので、一緒に見に行きません?
お兄さんも、椿の雄姿を是非!」
「おお! いかいでか。な、秋巳」
「あ、ああ、うん」
返事の鈍い秋巳。できれば学校で妹と接触を図りたくないという気持ちの表れなのだろう。
ただ、知ってしまった以上、妹の晴れの舞台を見てみたいという思いはあった。
椿に迷惑がかかる恐れがあるかもしれないことを踏まえても。
なにせ、一緒に暮らしていて今日まで椿が主役を演じるということどころか、
彼女のクラスが演劇をやるということすら知らなかったのである。
当然椿は、自分が知る必要もないし、来ても欲しくもないと考えているのであろう。
だから、その葛藤で躊躇った。
「その、椿さんって人が、如月くんの妹さんなの?」
秋巳の心の迷いを知ってか知らずか、訊ねる柊神奈。
「え? あぁ、うん」
「おお。さっき萩原ちゃんも言ってたけど、会ったらきっと吃驚するぞ。
秋巳とはいろんな意味で違うタイプだからな」
「へぇ。なんかそこまで言われると、会うのがちょっと怖くなっちゃうよ」
そう柊神奈は、「ふふふ」と声を潜めて笑った。
結局、萩原睦月と水無都冬真に引きずられる形で、椿のクラスが演じる劇を見に来た秋巳一行。
場所も教室ではなく、体育館の舞台で演劇部との演目と交互にやるという形で、
たしかに萩原睦月の言のとおり、それなりに体裁の整ったものであった。
人の入りは、フロアにきっちりと並べられた座席が半分強埋まっているといった感じで、
閑散とも盛況ともいえない状況であった。
「あ。あそこ、四人分空いてますよ」
舞台近くの一角を指さす萩原睦月。
準備時間のためだろうか、舞台を覆う幕はまだ下りており、
体育館の照明もいつもどおりそのフロアをこうこうと照らしていた。
萩原睦月が見つけた席に、萩原睦月、水無都冬真、秋巳、柊神奈の順に腰をおろす。
「萩原ちゃんは、劇の中身とか全部知ってるの?」
「ええ。あたしが実行委員だったんで、基本的に、劇の練習も含めて出てました。
通しで見るのは、リハーサル時を含めてこれが二回目ですかね。
でも驚きますよ、あの椿があんなに演技が上手いなんて。
ほんとになんでも出来ちゃうんだから」
後半部分は、自分に言い含めるように。
実際、いくら椿でも最初からなんでもなくこなせたわけではない。
演劇部員は原則自分たちの部活動の劇に出るので、配役は振られない。
そのルールの基、主役に抜擢されたのが如月椿であった。
演劇の経験など小学生の学芸会くらいしかない椿は、始めは他の人たちと同様に、やはりかなりぎこちない演技であった。
それを中学時代から経験のある演劇部員や果ては先輩部員までが参加して、
自分たちの練習時間を削って付き合ってくれたため、椿の演技は日に日に上達していった。
それこそ、最後には演劇部員から勧誘されるくらいに。
やるからには、中途半端なものにしたくない。それがクラスメイトたちの大部分の共通した思いであった。
四人が雑談していると、照明がその役目を終えたかのようにゆっくりと落ち、ブザーが鳴る。
「お待たせいたしました。ただいまより――」
開幕のアナウンスだ。
秋巳は兄として、期待と不安の入り混じった視線で、舞台を見つめる。
舞台はあるパーティでふたりの男女が知り合うところから始まる。
「ふぁ、きれい……」
パーティドレスに身を包む椿を見た、柊神奈の口から、自然と零れる。
確かにそのとおりであった。
普段着飾ることをあまりしない椿が、化粧をし、紅を差し、煌びやかな衣装を身に纏うその姿に、
秋巳も同じ感想を抱いた。
そこで知り合った二人は、やがて恋仲になる。
恋人同士のように語らい、触れ合うふたり。
相手役の男の子も、充分ハンサムといって差し支えない顔立ちをしており、まさにお似合いのふたりであった。
「ぐぉー」とか「ぐがー」とか「あかんて」等、隣で水無都冬真が小声で唸り声を洩らし萩原睦月に注意されていたが、
秋巳はいつか本当にそのように触れ合える人が椿に現れたらいいと願った。
劇の方は、淡々と進んでいき、お客に対して明かされるふたりの過去。
その女と男は、生き別れの双子の姉弟。姉は親戚に引き取られ、そこの家族から差別され、虐げられ、
家族の愛というものを知らずに育つ。
一方弟の方は、子供の出来ない裕福な家庭に養子として引き取られ、跡取として期待されて、なに不自由ない生活を送る。
事実、女のほうは、引き取り手がいなかったため、親戚に押し付けられたのだ。
そんな環境で家族愛など得られるはずもない。
女は孤独だった。常にひとりだった。家にいるのは自分を迫害する同居人。学校へ通っても、捨て子と忌み嫌われ。
たったひとりで努力し、のし上がった。誰にも期待せず、誰にも頼らず。そして、誰にも期待されることなく。
孤独に上り詰めた結果として、世間一般的に上流階級と呼ばれる人たちと繋がる機会も増えた。
女は当然そういう人たちであっても、信用したり気を許したりせずに、
単に利用できるかできないかで人付き合いをするのみであった。
ただ、女の心は常に疲弊しきっていた。安らげるときなどないのだから。
そんななか出会った男も、女にとって最初はその他幾百の人間と変わるものではなかった。
だが、男は極端なまでにお人好であった。生き馬の目を抜くこの世界にあって、
この男が生きていけるのは単に生まれたときから『与えられていた』からであると女は考える。
生まれたときからなにも持たなかった自分は、己の居場所を自分で奪い取るしかなかった。
それなのに、この男は、生まれたときから全てを与えられていたため、なにひとつ苦労することなく、
孤独など感じることなく幸せを得ている。
女にとっては、むしろ憎むべき対象であった。
しかし、女はそのとき認めたくなかっただろうが、たしかに惹かれていたのである。その男の持つ純粋さに。
自分にはない純白の心を持つその男に。人の愛を信じられるその真っ直ぐな心持ちに。
それから女は企む。この男の心をめちゃくちゃに壊してやろう。二度と人を信じることなどないよう、
手酷く裏切ってやろう。自分と同じ泥に塗れればいい。
だから、女は男に気のあるふりをして近づいた。
男が段々と自分に惹かれつつあることを実感し、満足した。自分の気持ちに気づかないまま。
男が自分にいよいよ本気であることを感じとり、男から財産も地位もほぼ奪い取ったそのとき。
女は告げる。
「もういいわ」
「え?」
「もういいって言ったの。恋愛ごっこはおしまい。
あなたの利用価値はもうなくなった。
あなたの会社も私がほぼ実権を握ったわ。
あぁ、あなたの老いぼれた両親にすがり付いても多分無駄よ。
明日には取締役会で解任される。だから、もうあなたももう要らない。
目の前から消えてくれるかしら」
女はその台詞を吐きながら戸惑っていた。
「…………」
男の悲しそうに歪む顔。
なんで想像と違う。
あれほど待ち望んでいた瞬間だというのに。なんで気分が高揚しない。
この男が自分と同じところまで堕していくというのに。
「そうか……」
男が呟く。
「ああ。僕は、ダメだったんだね。
とうとう君にちょっとも振り向いてもらえることなく、終わりなんだね」
「なっ!」
女は驚愕する。
「知って……いたの? 私の、目的を。最初から!」
「ああ」と頷く男。
「だったら、なぜっ!」
なぜ財産を奪われるままだった! なぜ地位を奪われるままだった!
「簡単なことだよ。僕が君のことを好きだから。愛しているから。
別に財産や地位なんてどうでもよかったんだ。
だから、君が欲しいなら持っていってくれて構わない。
両親には申し訳ないけど。おそらく僕が君に渡せる最後のものだから」
「なんでなんでなんでっ!」
女は男のことを理解できない。
好きだから? 愛しているから?
だから、構わない?
そんなもの私は知らないっ! 誰も教えてくれなかった! 誰も与えてくれなかった!
だから自分で奪い取ってきた! 己の手で掴みとってきた!
それを全て否定するというのか。この男は!
「どうして? どうして、君が泣いているの?」
男が純朴に問い掛ける。
「――ああ」
それで理解した。判ってしまった。私は愛していたのだ。この男のことを。
羨ましかったのだ。望んでいたのだ。この男の心を。
だから。
だから、女は生まれて初めて心の底からの気持ちを。
「――ごめんなさい」
物語は、そこでハッピーエンドとはいかなかった。
そのふたりが姉弟であるという事実が、ふたりも含めて周囲に発覚したのである。
当然ふたりの縁者たちに猛反発をうける。とくに男の方のそれに。姉のほうは元々利用するだけの人で、
縁者といえるほど縁の深い人間はほとんどいなかった。
姉は全てを投げ打ってでもいいと思っていた。かつての男のように。
たったひとつのものに縋りたかった。事実、姉には男以外ほぼなにも残っていなかった。
地位も利害関係だけで結びついていただけで、姉のほうに利用価値がないとみるや、
周りは手のひらを返したように姉から財産も含めて剥ぎ取っていった。
唯一、男さえ――弟さえ――いればよい。姉は本心からそう思っていた。
むしろ、たったひとり愛した男が、自分と血を分け合っていたことは、姉に喜びをもたらした。
これは運命なのだ、と。
しかし、男の方の関係者に、厄介なのがいた。
男の婚約者――となるはずだった人。
男が姉を見初めてから、一方的に話を破棄され、想い人を奪われ、姉を憎んでいた。
男にしてみれば、周囲が勝手に決めただけであり、お互いの気持ちを無視して結び付けられようとしていた。
そういう認識だった。
だから、気づかなかった。その女もまた男のことを愛していたことに。
その女には、財産も地位も男以上にあった。比べ物にならないくらいに。
そんな女が男に固執する理由は、純粋に情念――愛情――だけであった。
不釣合いな婚約も、すべては女の希望。企み。
そのふたりの対面。
「お願い。お金も地位も他にはなにもいらない!
だから、だからあの人と一緒にいさせて。あの人はどこなの?」
「なにを言っているのかしら。この泥棒猫は。
むしろ、あなた本当に泥棒じゃない!
あの方の財産や地位を奪おうとしたくせに!」
「ぐ……。それは……」
確かにそれは事実である。それを目的として男に近づいたのだから。
「それでなに? こんどは真実の愛に目覚めたから? 実の弟に?
はっ! 穢らわしい」
「お願い……。あの人に会わせてくれるだけで良いから」
「どの口で、そんな恥知らずなお願いができるのかしら。まぁ、いいわ。
一度だけは会わせてあげても。でも、ショックを受けないことね。
あの方も、姉と恋愛していたなんて気持ち悪いって言ってたから。
っていうか、そもそもあの方があなたに会いに来ない時点で
気づきそうなものだけど」
「え……?」
姉の心に亀裂が走る。
おそらくは、この女のハッタリだろう――。姉はそう思い込もうとした。
しかし、奥底に恐怖が潜み始めた。
そして、男と対面したとき、その恐れは真実となる。
「すまない。君とは、一緒にいられない……。
だって、君は姉だろう? それは……できない」
姉は絶望した。
失った――。
すべて失った――。
なにもかも。
姉は知らない。女が裏で男を脅していたことなど。己の地位と権力を利用すれば、
姉の命ひとつなどどうとでもできる、と。
せめて生きていてもらいたいなら、あの姉を引き離せ。
女はもうなりふりなど構っていなかった。
最後の舞台は、断崖絶壁。
姉がひとり立つ。
「ふふ。さようなら。最初で最後に愛した人――」
閉幕。
「椿ー! 凄かったよ! リハーサルとかでも見てきたけどやっぱり違うね!」
萩原睦月に案内されて来た舞台裏。
萩原睦月が、心を打たれたように感嘆の響きを伴って椿に声をかける。
「ありがとう。睦月。それと、兄さんたちも来ていらしたのですね」
「おお! よかったよ、椿ちゃん。
なんどあの弟役のやつを刺してやろうと思ったか」
「ふふ。そうですか。兄さんはどうでしたか。拙い演技で申し訳ないですが」
「あ……。いや、その、すご……かった」
秋巳はなかば放心したように応える。あんな様々な表情の椿を見たのは、初めてだった。
子供の感情じゃない、大人の心情。情動。
「かー! なんだ、おまえそのありきたりの感想は。
椿ちゃんも一生懸命練習したのに、見せ甲斐のないやつだなあ」
「ふふ。いいんですよ。別に。兄さんに見せるために、
練習したわけじゃないですし。ところで、そちらの方は?」
秋巳の隣に付き従う、柊神奈に視線を配り訊ねる椿。
「あ、あのっ! 私、柊神奈で、如月くんのクラスメイトです!」
お見合にでもきたかのように、しゃちほこばった態度で返事をする柊神奈。
「そうですか。いつも兄がお世話になっています」
「いいえ! とんでもないです。普段私の方ばかり、
いろいろ如月くんにお世話になってて!」
柊神奈は、両手を大仰に振って、椿の形式どおりの挨拶にまじめに返す。
「私の方が後輩なんですから、そんなに畏まらないでください」
「あ、あの! ご、ごめんなさい!」
「いやいや。椿ちゃんを前にしたら、誰でも最初はそうなるって」
「それは、どういう意味でしょうか。水無都さん。
私がまるで怖い人間みたいじゃないですか」
「うーん。そこは、私も納得せざるを得ないかな?」
「もう。睦月まで。大体睦月なんて、私に最初に会ったときは、
命令するみたいだったじゃない」
「あわわ……。それは、もう忘れてよ!」
笑い声を上げる三人。水無都冬真は、なんで萩原睦月が慌てているかよく判らないまま、
ふたりにあわせて笑っているのだろう。
「すみません。柊先輩。申し遅れましたが、如月秋巳の妹で、如月椿といいます。
これからよろしくお願いいたしますね」
「こ、こちらこそ。うん! よろしくね! えっと、椿ちゃん、でいいのかな」
「ええ。如月だと兄と一緒になってしまいますので。
兄さんのこともなんなら秋巳と呼んでくださって結構ですよ。ね、兄さん」
呆けたようにしている秋巳に話を振る椿。
「えええ! そ、それは、ちょっと」
まだ早いのではないか。柊神奈は慌てる。
「あら。残念。振られてしまいましたよ、兄さん」
「え?」
心ここにあらずといった感じで流れに全くついていけてない秋巳。
「ち、ちがうよ! 如月くん。そ、そういう意味じゃないから」
「まぁまぁ。それは追々ということで。で、話は戻るけどさ。
椿ちゃんの演技はほんと迫真だったね。
椿ちゃんがあんなに演技がうまいなんて知らなかったよ。
普段から慣れてない人間があそこまでできるなんて」
先ほどからあたふたしている柊神奈を落ち着けるかのごとく、話題を戻す水無都冬真。
「それは……、まあ、演劇部の方たちのご指導の賜物ですかね」
「いやいや、椿ちゃんの才能と努力の賜物だって」
「褒めてもなにもでませんけど」
「さっきの演技が充分の報酬だって。でも、椿ちゃんには、
どうせなら、あの元婚約者の役をやって欲しかったなあ」
「それは、私には嫌な女の役のが似合っていると?」
「だって、あの劇で最後に笑ってるのって、あの元婚約者だけでしょ?
椿ちゃんには是非、その幸せになる役をやってもらいたかったってこと」
「でも、水無都先輩、あれ、幸せって言えるんですか?
無理矢理、好きな男の人を奪っただけで、
その男の人の気持ちは自分に向いていないんですよ」
水無都冬真の言葉に、萩原睦月が自分の思いも込めてだろうか、疑問を投げかける。
「いやいや。少なくとも、男を振り向かせる時間は得られたわけだ。姉を排除して。
だったら、そこから自分に対する愛情を男に抱かせればハッピーじゃん!」
「うーん。それだと、お話としてなんとなく納得いかないような……」
「まあ。お話だからね。でも現実なら、それからも生きている限り
時間は流れていくんだよ。だったら、あのなかで幸せになれるのは、
あの元婚約者だけじゃない?」
「それは違いますよ。水無都さん」
水無都冬真の主張を否定する椿。
「幸せになれるのは、あの元婚約者と弟、のふたりでしょう。その話だと」
そう言うと、椿はいまだ現実に戻ってきていない秋巳を見つめた。
以上。投下終了です。
>>52 一番槍ゲット。今のところキモウト的発言はなし。果たして椿は最後の台詞をどのような気持ちで口にしたんだろう。
早く椿が幸せになりますよーに
>>52 GJ!
量が多くて仕事も早く、質も最高ってどういうことだぎゃ
っお!とうとう椿がキモウトぶりをあらわしてくるのか!?
とりあえずGJ
そして今後にwktk
_ ∩
( ゚∀゚)彡 gj!GJ!
⊂彡
58 :
和田先輩の夢:2008/02/10(日) 20:04:29 ID:pnAH3UYW
GJです!
続きも楽しみです。
投下します。
『ハルとちぃの夢』の番外編になります。
本編では名無しの先輩が主役です。
59 :
和田先輩の夢:2008/02/10(日) 20:05:53 ID:pnAH3UYW
大学での昼休み、康彦はある先輩の相談に乗っていた。
正確に言うと、この先輩、まだ相談内容を話し始めてはいない。
相談がある、と康彦を誘ったにも関わらず、自分の弁当を一口食べては、一人愉悦に浸っている。
「和田先輩、話があるなら、早めにしてくれると有り難いんですけど」
この先輩、和田美奈が話をし始めない為、康彦が促す様に言う。
「あっ、ゴメンね」
和田先輩、一度は康彦に気付いて謝ったもの、 「このお弁当には新ちゃんの色んなモノを入れたから…」
と言うと、グフッフとしか表現しようがない笑いを浮かべ、再び自分の世界へと帰ってしまう。
「新ちゃんの汗…新ちゃんの鼻水、新ちゃんの髪の毛に新ちゃんの耳垢…」
恍惚とした表情で呟く和田先輩に、康彦は”腹を壊さないで下さいね…”としか、言い様がなかった。
この和田先輩、和田美奈さん、おっとりとした美人で、学内でも有数の人気を持つのだが、
弟の新之助君を溺愛しており、二人だけの世界を望んでおられる。
康彦とは、共に両親の不在が多い家の長子、と言う事から気が合い、
康彦も妹達の事で相談したりしているのだが、その趣向にだけは、理解は出来ても、ついていけない。
そんな和田先輩の様子に、康彦は自分の弁当を食べながら、溜め息を付く他になかった。
60 :
和田先輩の夢:2008/02/10(日) 20:07:17 ID:pnAH3UYW
「ヤス君には私の苦労が分からないんだよ!」
康彦の溜め息に気付いたのか、和田先輩が康彦の方に向き直る。
「く…苦労ですか?」
「そうだよ!新ちゃんが協力してくれないから、新ちゃん成分を集めるのに何時も苦しんでんだよ!」
そんな協力ならしたくはないだろう、
そう心中でツッコミを入れる康彦に関係なく、和田先輩が熱弁を繰り出す。
「ある時には新ちゃんが寝ている時にスポイトを使って!」
「別の日には新ちゃんの部屋のゴミ箱を懸命に調べて!」
「新ちゃんが使ったタオルから、新ちゃんの汗だけを採取したコトだってあるの!」
肩で息をしながは話す和田先輩に、康彦はただただ、頷く以外になかった。
「でもイイの」
途端に冷静に戻った和田先輩が言う。
「こうやって新ちゃん成分入りのお弁当を食べれるんだから。それに新ちゃんのお弁当には…」
「私の唾液が、私の蜜が、私の血が…」
そう言うと、和田先輩は再びに、グフッフと幸せそうな笑みを浮かべた。
それを見た康彦は、心の底から新之助君に同情した。
そして、そんなモノが入っていない、美味しい弁当を作ってくれる智佳に感謝した。
製造元が違うだけで、同じ成分が入っている事に、康彦が気付いていないだけだが。
独特の嗅覚で和田先輩がその事に気付き、
だからこそ、康彦にありのままを話している事も、
康彦は知らない。
61 :
和田先輩の夢:2008/02/10(日) 20:08:57 ID:pnAH3UYW
「ヤス君にね、どうしても聞いておきたい事があるんだ」
弁当を食い終わった後、和田先輩がようやく本題に入った。
「何ですか?俺に分かる事なら、何でも答えますけど…」
意外に真剣な和田先輩の表情に、康彦がそう答える。
「実はね…」
真剣に思い詰めた表情を見せる和田先輩。
「何でしょう?」
康彦の声も強張る。
「どうしたら新ちゃんが私を襲って、私を新ちゃんだけの美奈にしてくれると思う?」
「…はあ?」
思わず間抜けな声が康彦から漏れた。
「お風呂上がりに抱き着いたりとか」
「新ちゃんに聞こえる様に新ちゃんの名前呼びながら一人でしてたりしたんだよ!」
「それなのに、新ちゃんは全然襲ってくれなくて…」
語る声は真剣そのものだが、内容については何とも言い難く、
「どうしたらイイと思う?」
と問い掛ける和田先輩に、康彦は答え様がなかった。
「どうしたらって、言われても…」
何と答えるべきか、康彦は首を捻る。
「新ちゃん、少しだけ変なのかな?」
悩む康彦に関係なく、和田先輩が言葉を続ける。
「お姉ちゃんがここまで挑発してるのに、全然欲情してくれないなんて…」
家族ならそれが普通ですよ、との言葉を慌てて飲み込みながら、康彦は和田先輩の話を聞く。
世間から見て禁忌だとしても、和田先輩は一途で真剣なのだ。
その想いを茶化す事はしたくなかった。
「うーん…」
康彦も考え込む。
そして言ってみた。
「いっその事、襲ってみたらどうですか?」
62 :
和田先輩の夢:2008/02/10(日) 20:10:44 ID:pnAH3UYW
「襲うって…新ちゃんを?」
康彦の提案を聞いた和田先輩の声が低くなる。
流石に言い過ぎたか、と思った康彦は、慌ててフォローの言葉を入れようと思ったが、
「そんなの何度も実行しようとしたよ!」
との言葉で、動きが止められた。
「新ちゃんの方が強いんだよ!」
「腕ずくで何とか出来てたのは、10年以上前の話何だから!」
怒りながらも、どこと無く淋しげに言う和田先輩。
「あの時に、もっとちゃんとヤっておけば…」
悔しそうに涙ぐむ和田先輩に、康彦は言葉もなかった。
美人の涙は見たくない、そういった男の性ぐらいなら、康彦にもある。
だから、つい言ってしまった。
「く、薬とかで寝かせてから…とか…」
その康彦の言葉に、和田先輩がもっと辛そうな顔をした。
「新ちゃんには薬が効かないんだよ!」
「前に目薬をたっくさん混ぜたのに、寝てくれなかったし」
「眠れるぐらいに風邪薬を入れた時は飲んでもくれなかったんだ!」
苦しそうに熱弁する和田先輩に、康彦は”それはそうだろう”と心の中で突っ込む。
「最近じゃあ、私が出す飲み物に手ェ付けないし…」
哀しそうな声で言う和田先輩。
「もう寝てる間に縛って下さい!」
康彦はやけくそ気味に叫んだ。
本物の睡眠薬を教えても、和田先輩なら、自分が間違えて飲みそうだ。
それを考えると、それしか手がないと思えたからだ。
「う…上手く行くかなあ?」
和田先輩が不安そうな声を出す。
「相手が熟睡してたら、上手く行きますよ!」
康彦が根拠なく答える。
「そうかな?」
「そうですよ!」
迷う和田先輩に、康彦が力強く頷く。
そして、和田先輩は決意した。
「上手くいけば、起きてからも色々出来るんだよね…」
「私、やる!」
和田先輩は力強くそう言ってから立ち上がると、
「ヤス君、ありがと」
と言ってから、何処かへ走り去っていった。
63 :
和田先輩の夢:2008/02/10(日) 20:11:33 ID:pnAH3UYW
「新之助君とやら…」
「スマン!」
走り去る和田先輩を見送りながら、康彦は頭を下げた。
和田先輩の勢いに乗せられたとはいえ、康彦にとっては、不本意な忠告をしてしまったからた。
”せめて幸せになってくれ”
そう願わずにはいられなかった。
その日、ニヤケた危ない顔でロープを買おうとして、警察に通報されそうになった和田先輩がいた事、
何度もロープ片手に弟の元を訪れ、結局は警戒されて部屋に鍵を掛けられてしまい、泣きながら夜を明かした和田先輩がいた事、
この日以降、弟に近付く事さえも困難になって、更に弟への愛情を深めていく和田先輩がいる事、
これらの事は、康彦は知らない。
これは、康彦があの女子高生、遠藤久美と出会うちょっと前の話。
64 :
和田先輩の夢:2008/02/10(日) 20:12:05 ID:pnAH3UYW
投下終了です。
本編『ハルとちぃの夢』で名前の誤りがありましたので訂正。
誤→遠藤楓
正→横山楓
です。
和田先輩ヌゲー。
そして新ちゃんはもっとヌゲー。
でもなんだかんだで相当怪しいお弁当は食べてくれるんだから和田先輩にも芽はあると思うな。GJ
>>52 劇の脚本とその後の会話がなんか暗示してそうだなぁ
>>64 知らぬは主人公ばかりなり、かww
どちらも激しくGJ!!
>>52 GJっす!
……何となく、秋巳が椿に殺されそうな気がしてきた…
根拠は無いが…
>>64 GJっす!
やっぱり弁当に同じ事されてるのかww
↑犯人はヤス
久しぶりに支援
外出するには、絶好の日和だった。
私は玄関前に立つと、革靴の爪先をトントンとやった。陽が照っていて暖かい。
午前中は陽も照って暖かく、午後になり、陽が落ちると急激に寒くなる。最近で
はそういう日が続いていた。
真仁も玄関から出てきた。九時五十分。清水屋の開店は十時だが、店に着く頃
には十時を回っているだろう。清水屋は、三十分近くはかかる場所にあった。
「姉さん、鍵持ってる?」
ジャケットのファスナーを閉めながら、真仁が言った。真仁は下にジーンズを
穿いていた。腰が細く肩幅があるので、下手なモデルよりもスタイルがいい。
「持ってないけど、どうして?」
「いや、母さんが出かけるかもしれないって言ってたからさ。父さんの方はわか
らないけど」
「シンは鍵持ってるの?」
「一応」
「ならいいよ。どうせ一緒に帰ってくるんだし」
それに、父しかいない家に入るつもりはない。そう思ったが、私は直前で言葉
を呑みこんだ。言っても気分が悪くなるだけだろう。せっかく真仁と一緒なのだ。
真仁のことだけを、考えていればいい。
二人並ぶと、通学路を一本外した道を歩いた。
私は、真仁を横目で見た。真仁の吐く息が白い。気温は十度を下回っていた。
暖かいといっても、それぐらいの暖かさだった。視線を戻す。
清水屋は、場所で言えば高校へ行く電車の、二つ目の駅の近くだった。主に衣
服扱っている百貨店だ。電車に乗れば十六分で着けるが、真仁とは歩いて行くよ
うにしていた。
通学時もそうだが、この時期は電車の中は暖房がかかっている。その暖かさを、
私は好きになれなかった。五分以上あたっていると、なんだか眠くなってしまう
のだ。それは真仁も同じようで、そこまで遠くない距離なら交通機関には乗らな
いようにしている。
歩きながら、私は何気ない仕草を装い、真仁の手に手を伸ばした。掴み損なっ
た。事前に察知したのか、真仁が手を引いていた。怪訝な眼で、私を見てくる。
「ねぇシン。手、寒くない?」
「姉さん手袋してるだろ」
「そうじゃなくて、シンがだよ」
真仁は眼鏡に手をあて、ちょっとずらした。手袋はしていない。珍しく、私の
方が手袋をしていた。家を出る時に、真仁に釘を刺されたのだ。
「俺は別に寒くないよ。寒くても、ポケットに入れてればいいし」
「ポケットに手を入れて歩くのは危ないよ? 手を繋ぐなら危なくないけど」
私は真仁に手を差し出した。
「姉さんは手繋ぐの、恥ずかしくないのか」
「ぜんぜん。だから、ね?」
「やめとくよ。俺は恥ずかしいから」
「えぇ」
「えぇ、って」
「横暴だ」
「なんとでも言ってくれ」
真仁はジャケットに手を突っこむと、先に歩き出した。追った。きょうの真仁
は、意外と強情だった。
途中、真仁の歩調が遅くなった。住宅街にぽつんとある、空き地の前だった。
土地売却の看板が立っていて、その看板も所々剥げ、古びていた。
「そういえば、もう二年だね」
真仁が呟いた。懐かしむような響きがある。
二年前まで、この空き地には一軒の柔道場が門を構えていた。なくなったのは、
道場主が死んだからだ。
細川道場という十人ぐらいしか生徒が集まらない、繁盛してない道場だった。
道場主の細川は、どう考えても『ヤ』のつく自由業の男だった。頬から首にかけ
て傷跡があり、醸し出す雰囲気は一般人のそれではなかった。当時は違ったかも
しれないが、その前は間違いなくそうだっただろう。繁盛しなかった理由は、そ
こにもあったはずだ。
私と真仁は、細川道場に小三から中三まで六年間通った。稽古は厳しかった。
いやに実践的な稽古で、型などはおざなりにしか教わらなかった。ナイフを持っ
た相手にどう対処するか。相手がボクサーの場合の対処法。人体急所の場所や、
その打ち方。そんなことばかり教えられた。基礎を固めなくてもいいのかと言っ
たこともあったが、私服の相手にそんな技通用するか、と一蹴されただけだった。
小学生に言うことではない。
「考えてみれば、めちゃくちゃな人だったな。あの人」
「真面目に人を殺せる急所、教えてたもんね」
「でも、俺はあの人、嫌いじゃなかったよ」
やめていく生徒は、数多くいた。柔道場となっていたが、柔道では反則になる
ようなことしか教えていなかったからだ。入れ替わる生徒の中で、私と真仁は最
初からやめずにずっといた。なくなる寸前までいたのは、私と真仁を含めた三人
だけだった。
他の生徒に比べ、私と真仁は細川に眼をかけられているようだった。お前らな
かなか筋がいいな。細川は、口癖のように言っていた。
「でもニュースで見たときは驚いたよ」
「突然だったもんね。亡くなったの」
通り過ぎた空き地を、真仁は小さく振り返った。
次はヤッパの遣い方教えてやるからな、おまえら。ヤッパさえ遣えれば一人前
だ。拳銃なんてもんは、臆病者の使うもんだよ。憶えておけ。細川は死ぬ前日に、
そう言っていた。その次の日の夜に、ニュースで細川が死んだ事実を知ったのだ。
暴力団組員と遣り合い、幹部三人を殺した挙句に自殺したのだという。
ヤッパというのが何かわからなかったが、後で調べたら匕首のことだった。仁
侠映画でよく見るあれだ。言ったときは、細川はもう死ぬ気だったのだろう。心
の中の化け物が、細川には確かにいたのだ。凶暴な化け物が。あの広くもない道
場で六年も、その化け物は死ぬ機会を静かに窺っていた。そして見事に散ってい
った。あれが、化け物の死に方だ、と私は思った。
しばらく、歩きながら真仁の隙を窺った。ジャケットから手を出そうとしない。
やっと出した時、手に狙いをつけたが避けられた。真仁が私をちらと見る。今日
の真仁はなかなか手強い、と私は思った。
清水屋はちゃんと開店していた。十時二十分前。道路を挟んだ向かい側にみた
らし屋があり、みたらしのこうばしい香りが漂っていた。
清水屋に入ると、エスカレーターで三階まで昇った。五階まであるが、四、五
階は駐車場だった。二、三階に衣料品を扱う店舗が並んでいて、一階は食料品や
生活雑貨が置いてあった。
私は馴染みの店舗に入った。コートを一着選び、スタンドミラーの前で合わせ
た。
「どうかな?」
真仁の前でも合わせた。真仁が、じっと見てくる。真剣な眼だ。絵を描くとき
の眼に似ている。
「うん、いいね。でも、もうちょっと体の線が生きるやつでもいいんじゃないか
な。姉さん、スタイルいいから」
言うと、真仁もコートを漁りはじめた。数着に視線を迷わせ、一着のコートを
抜きだした。
「これとかどうかな。姉さんは、モノトーンの服が多いし」
真仁が、私にコートを合わせながら言った。受け取り、鏡の前で合わせてみる。
私が選んだコートよりも、似合っていた。値段も張っているが、生地もこちらの
方がいい。
真仁は、二着目を選びはじめたようだった。私も持っていたコートを隅に掛け
ると、見ていった。
物にこだわるところが、真仁にはあるようだった。自分の物もそうだが、他人
の物もそうだった。一緒に見て、と言われれば、一緒になって熱心に探してくれ
る。私の服も、何着かは選んでもらったものだった。センスも悪くない。どこか、
母親のような性格を真仁はしていた。
しばらく、二人でコート選びに没頭した。
モノトーン柄に合うもの、デニムに合うもの、ブレザーに合うもの。真仁は、
次から次へと抜き出していった。どれも私に似合っている服ばかりだった。絵描
きとしてもセンスがそうさせるのか、それとも私を知ってくれているからか。ど
ちらにしろ、わたしのことを考えてくれている、ということだろう。
そう思うだけで、胸が熱くなった。私だけの幸せだ、と思えた。
真仁が三着目に選んだコート。これが一番気に入った。ただ、ためらうような
値札が付けてある。どうしようか。束の間悩んだ。
「姉さん、そのコートにするの?」
「うん、でも」
言い終わる前に、真仁は私の腕からひょいとコートを取り上げた。私に背を向
け、レジに向かっていく。
「えっ、シン。ちょっと」
慌てて横に並んだ。真仁は、歩みを止めない。
「一ヶ月早いけど、クリスマスプレゼントでいいよ」
「でも」
「いいの、いいの。たまにはさ」
真仁がこちらを向いて笑った。その笑顔に、私は立ち止まった。
真仁が、レジから戻ってきた。片手に提げた、ベージュのビニール袋を差し出
してくる。
「ありがと、シン」
なんと言っていいか、わからなかった。こういう風にプレゼントされたことは、
いままでにない。
「どういたしまして」
店舗を出た。頬の熱さで、顔が赤くなっているのがわかった。好きな男に服を
選んでもらい、買ってもらう。うれしくないはずがなかった。私はコートを抱き
しめた。浮かされたように、ぼぉっとしている。ビニールの、擦れ合う音がした。
「姉さんは、まだ見るものあるかい」
顔を覗きこむように、真仁が言った。
「あっ、うん、とっ、特にもうないけど」
声が上擦った。しゃんとしろ、と私は自分に言い聞かせた。このままでは女と
しての私を見せるどころか、姉としての立場も危うい。数時間しか違わないが、
私の方がお姉ちゃんなんだ、という意識が、いくつになっても抜けきっていなか
った。
真仁のジャケットを探すことになった。
三階、二階と見て回ったが、結局真仁はなにも買わなかった。私からもプレゼ
ントさせてほしい。そう言ったが、やんわりと断られただけだった。最初から買
うつもりなど、なかったのかもしれない。
一階で雑貨を見ると、真仁と一緒に清水屋を出た。午後一時を少し回っていた。
昼食には、ちょうどいい時間だ。
「シン、コンパルでいいかな」
「どこでも構わないよ」
「昼食代は、私が出すよ」
「気にしなくても、いいんだけどな」
困ったように真仁が言った。
コンパルは、サンドイッチを出す店だった。みたらし屋の数軒隣。入ると、観
葉植物がおいてある窓際の席を取った。私は野菜サンドを、真仁はカツサンドを
注文した。焼き目のついたサンドイッチはサクッとして、おいしかった。
お腹がおさまるまで、コンパルで時間を潰した。真仁は、砂糖を入れないコー
ヒーを飲みながら、コンパルにあった雑誌を読んでいた。コーヒーの湯気で、一
瞬眼鏡が曇る。真仁はジャケットの内ポケットから眼鏡拭きを出すと、それでレ
ンズを拭きはじめた。長いまつ毛がレンズに触れるらしく、他の人よりも拭く回
数は多い。
真仁が、私の視線に気付いた。
「なに?」
「うぅん、なんでも」
不思議そうな顔をしたが、すぐに真仁は雑誌に眼を落とした。コーヒーを口に
含む。真仁の濡れた唇に、私は眼を奪われていた。キスしたい。最近では、そう
思う回数が増えている。
一時間ぐらいで、私と真仁はコンパルを出た。
道路沿いに歩き、一本道を折れると赤い瓦屋根の長屋の間に、細長い雑居ビル
が見えた。
そのまま雑居ビルに入った。木のやさしい香りがする。額縁や、イーゼルのに
おいだ。
画材屋は、老人とアルバイトの女の子が二人いる、こぢんまりとした店だった。
1フロアは狭いが、二階まであるので商品の数は多かった。真仁が言うには、品
揃えがいいらしい。私は絵を描かないので、売り物の善し悪しはわからない。
真仁と、階段で二階に上がった。
心臓が止まるかと思った。後姿でもわかる。久保悠。絵の具のチューブ棚の前
に、立っていた。
「久保さん」
「えっ」
思わず声を出していた。真仁から久保に声をかけるとは夢にも思っていなかっ
たからだ。ただそれは、私の中の真仁でしかない。
「甘利くん」
振り向き、真仁を認めた久保が瞬時に女になった。女の顔になったと言うべき
か。白いコートにチェック柄のスカート。私とは違う、女らしい恰好だ。
「あの、甘利くん。その人」
私に眼を向けると、久保が言った。顔色が少し変わっている。
「姉さんだよ。ほら、隣のクラスの」
「あぁ、そうなんだ」
久保の顔が喜色に染まった。なにを喜んでるんだ、おまえは。こみ上げてくる
言葉を、なんとか喉で押しとどめた。体中が燃えるように熱い。
「はじめまして、お姉さん」
「はじめまして」
なんとか笑みを浮かべた。綻ばせた口内で、私は歯をくいしばった。敬語なの
も腹が立つが、ほっとしている表情も癇に障った。それにこの女は、私を最初か
らお姉さんと言った。
真仁が一歩前に出て、久保の横に並んだ。
「久保さんは何買いに来たの」
「ちょっと、いつも使ってる色が切れちゃって」
「久保さんって、何色がなくなりやすいの?」
「私は青系統かな。青色が一番好きだしね」
「じゃあ同じか」
真仁が、棚のチューブをひとつ取った。
「甘利くんも?」
「海、描くことが多いからね」
顔が近い、そう思った。思うだけで声が出ない。同じ棚を覗きこんでいるので、
肩が触れ合うほどに二人の距離は近かった。
真仁が棚を見ている間、久保は真仁の横顔をじっと見ていた。女の顔。女の眼。
私のひとなんだぞ、なに見てるんだ。やはり声にはならない。
「久保さんが使ってるのって、ホルベインなんだ」
「うん。でも甘利くんって、絵の具とかはあんまり使わないよね」
「そうだね。水彩色鉛筆とか、パステルの方が好きだから」
会話に入っていけないまま、私は後ろで突っ立っていた。絵を描かないので話
題についていけないし、話すきっかけも失っていた。それに真仁の表情も、心な
しかいつもと違うような気がした。私や家族と話す時とは違う、別の顔。不安が、
胸を圧迫してくる。
ビニールの擦れ合う音。無意識に、コートの入った袋を握り締めていた。どう
にかしなきゃいけない。自然と、体が前に出た。
「あのっ、シン」
「あっ、ごめん姉さん。すぐに済ませるから」
「違うの、そうじゃないの。私、用事思い出したから先に帰るね」
自分でも意外な言葉が出ていた。
「そっか、じゃあ俺も帰るよ」
「いいよ、いいよ。シンはまだお買い物してて」
言うと私は背を向け、階段を駈け降りて店の外へ出た。
空気が、やけに冷たかった。雲ひとつなかった空はオレンジに染まり、風も吹
きはじめている。
私は、ぼんやりと歩きはじめた。
不安で、どうにかなってしまいそうだった。叫びだしそうになるのを、私は必
死に抑えた。なんで飛び出してしまったのかさえ見当がつかない。わかったのは、
自分が臆病だということだけだ。
真仁と久保の距離が、思ったより近かった。心の距離だ。真仁も、久保を嫌い
ではないのだろう。それが友達感覚か恋人感覚は、真仁じゃなければわからない。
それでも、まだ私の方が優先順位は上のはずだ。友達感覚か恋人感覚か、どっ
ちだとしても真仁は、久保より私を大事に思ってくれている。久保といたければ、
一緒に帰るなんて言葉は出ないはずだ。しかし、うかうかもしていられなくなっ
ている。
中学までは私が近くにいるだけで、暗に真仁に近づく女を防いでいた。ほかに
も考えられるだけのことはしたと思う。それが年重ねるにつれて、意味のないも
のになりはじめている。血縁の壁が、重くのしかかってきている。まるで、私だ
けが夢を見ているようだった。私だけが、覚めない夢を。
いつの間にか、自宅まで歩いていた。
私は玄関の扉に手をかけた。開かない。母さんが出かけるかもしれないって言
ってたからさ。父さんの方はわからないけど。真仁の言葉が、いまさら甦ってく
る。
しばらくその場で突っ立っていた。風が、私の体をかすめた。体中を、ようや
く憤怒が駈け回りはじめる。
私は周囲に眼を配った。近所に人の気配はない。一歩下がり、思い切り扉を蹴
飛ばした。虚しい音が、あたりに響いた。
支援終了
お姉ちゃんセツナス
>>77物哀しい、切ない、そんな言葉がぴったりな雰囲気ですな。
姉の苦しさがなんとなく伝わって来た。
GJ!続き楽しみに待ってます。
思ったんだけどさ。
別に細川のくだりいらなくない?
>40-49
>46
投下します
私怨
白
白
白
白
白
まっしろな白。
白い天井
白いベット
白い壁
白いカーテン
全てか白かった
体が動かない、特に左に違和感がある
俺の名前は木村陸
普通の高校生で普通の人生を生きてきた、両親、姉の4人の普通の家庭
なぜここにいるかって?
話はいつだろう、一週間ぐらい前にもどる
「なぁ、姉貴最近変じゃね、妙につかかってくるし、くっつこうとしてくるし」
変じゃないよ、私はりっくんと一緒にいたいからしてるだけ」
「前は普通だったのに、なんかあった?」
「いや、なにも」
どこか歯切れがわるい、なんかあったんだ
登校中の普通の光景
―不思議ではあった、普段の姉貴とは思えない、行動を三日前ぐらいからするようになった
普段作らない弁当を俺に作ったり、登校と帰宅は一緒に帰るのを強制したり、一緒に歩きだすと姉貴は腕をくんだり、手を握ってきたりした
いままで、してこなかったスキンシップをしてくるようになった
なにかがあっただが、俺にはわからない、答えを求めて姉貴に聞いても一切喋らず
俺は答えのない問題にあたった気分だった
―いつか、姉貴は話してくれる、そう考えるしかなかった
そして、あの時がくる
詩演
あと、できれば題名をお願いします。
その日も普通の日だった、普通に学校に行き、普通に帰る
―その日はちがった、夜俺が寝ようとすると、扉から「トントン」と音が聞こえた
「りっくん―話できるかな?」
「うん、いいよ」
こんな時間になんだろう、時刻は11時を回った所だった
「実はね、りっくん、私実家に引っ越す事になってね」
「え、なんで姉貴が何かしたの?」
「実はね、りっくんにしていた事がママさんにばれたんだ」
「俺に?」
いったいなにを言うのだろう、それは俺の予想の斜め上をいくものだった
「そう、それは…言うね、りっくんの部屋のゴミ箱のテッシュを集めたり、りっくんの髪の毛を集めたりして、それで◯◯◯をしたりしたんだ」
「そ、そんな事なのか」
びっくりしたが、俺と姉貴を別れさせる原因になるのか?
「うん…けどね、りっくんの貞操が危ないとか、嫁ができなくなるとか、言っておじいちゃんやパパさんを説得させたらしいの」
そこまで、するのか母さん
「だからね、裏でそんな事したけど、表じゃ、りっくんと普通に暮らしていたじゃない、だから私は引っ越しが決まってからは少しでも、一緒にいたかったし、りっくんとの思い出も作りたかった」
そこで姉貴が豹変した
「最後の思い出作りたいなー」
「え?」
一歩
一歩
一歩
近づいてくる
確実に少しずつ
「リックンノカラダノイチブガホシイナー」
「な、なにを言って」
「サイゴノオモイデツクリタイナー」
やばい、姉貴はイカれている、そう言える
だが遅い、もはやにげれない
「大丈夫、左手を貰うだけだから、ね」
「痛くもないし、怖くもないよ」
「 」
俺の意識はもうなかった
投下終了
怖っ…
所々文がおかしい所があったりするな
読み直すときに客観的にみておかしい所直したら吉
まぁGJ
姉貴いいよ姉貴www
>>94 指摘ありがとう
以下修正
>>86 11行目→全てが白かった
18行目→人生を生きてきた。
>>87 2行目→「変
8行目削除→ 登校〜光景
>>89 1行目→普通の日になるはずだった
4行目→りっくん話できる終わり
ミスばっかでスイマセン
96 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/11(月) 20:29:24 ID:NdF810WC
あげてしまった,すまん
書き溜めてからにしような
投下します。
「痛い……かしら、誠二」
誠二を見下ろし、私は赤い液体がしたたるナイフを手にして訊く。
夕焼けが窓から差込まれ、手のひらから血をどろどろ流す誠二は私を見ていない。ただ、刺された自分の手を見ようと首を少しだけ右にずらしている。
大丈夫よ、それぐらいで人間が死ぬわけないじゃない。ただ、時間が経てばどうだかわからないけど……。
「痛い?」
私の声に気付いた誠二は、視線を元に戻す。誠二はもしかしたら今のこの現実は夢の中の出来事みたいに見えているのかもしれないわ。
あらら、姉に刺されるって、そんなに呆然としちゃうこと? ショック受けるようなこと? ニュースでは自分の父や息子を殺しちゃう母親だっていっぱいでてるわよ。
「痛い?」
もう一度、聞く。
こくり、かすかに誠二の首が動いた。
「ふぅん、そう……。でもね、私も痛いの」
「……」
「心と、ここがね……?」
そう言って、私は腰を動かす。ずちゅり、と音を立ててあわ立つ私と誠二の結合部。私の破瓜による赤い血液が流れているそこは、ひりひりとした痛みを私に与えてくる。
弟を犯すという脳内麻薬で少しは軽減されていた痛みだけど、電話後、さすがに一息落ち着いた頃にようやく、私の体中に破瓜の痛みが広がってきたのだ。
「はじめてでも、女の子には優しくしないとダメじゃないの……」
誠二の顎を撫でる。顎骨の形さえも愛しくて、何度も角ばった顎を撫でた。少し伸びた髭が私の指をちくちくする感触もたまらない。
「……」
「私だからいいけどね」
そう。私だから。私だから何をしてあげてもいいのよ? あなたと私は姉と弟で、何事にも変えることの出来ない不変なる関係なのだから。
だから、私は絶対あなたを裏切らない。あなたが私以外の誰かを殺しても、私以外の何人も裏切っても、私はすべて受け入れてあげるんだから。
じゅるり。こんな状態でも萎えない誠二のソレをくわえ込んだまま、私は体をまた上下させる。
「ふふふ、誠二。姉さんを気持ちよくさせなさい」
痛みなんてほとんど関係ない。むしろ、この痛みは私の喜びの証だ。まるでぷちぷちと体の繊維を一本一本ちぎられていくよう。弟に犯される感覚は最高の背徳の快楽だわ。
あああ、いい。いい……。
体の中を行き来する誠二の一本槍の温かさ、そしてそれを受け入れただ呆然と蹂躙されることしかできない誠二の諦めた表情。
体と心、どちらも私の心の中に猛烈に届いていく。ああ、本当に私のものになったのね。誠二! 誠二! 誠二!
押し上げられる、押し上げられる。誠二に、誠二に、誠二に! 誠二に!
ああっ、いいっ! いいのっ! もう! もう! もう!
ああああ! ああああああ! せぇぇじぃぃ! せぇぇぇぇじぃぃぃぃぃ! せぇぇぇじぃぃぃぃぃいいいい!!
「………ふぁぁぁああああああっ……」
私は静かに絶頂に達した。
んんんんんんんんんっ!!
「………はぁ……はぁ……」
アクメって、やつね……。反り返った体で一瞬だけ暗い天井に仰いで、すぐに私の頭は重力によってかくんと下がった。
いい……。いいわ。一人でするより、想像で誠二にした時よりも、何倍も違う。誠二のぼうっとした瞳に目が合う。愛しさをもって誠二に笑いかけた。
誠二のアレは満足していなかった。ぐつぐつと脈動する私の中の誠二はまだがっちがっちに膨らんだまま、私の膣におさまっている。
いま気持ちよくなったのは私だけ。
「どうしたの? ほら、動きなさい。動いて、動いて、私をもっともっともっと悦ばせて」
「………」
私は、自分の下腹部にひねりを加えてあげる。
「別に、出してもいいわよ。素直に気持ちよかったのなら出しなさいよ」
今日は大丈夫な日だから。
「………」
……意識はあるはずなのに、反応は返ってこない。いつまで呆然としているわけ? それともついに耳が聞こえなくなったの?
「出さないのは気持ちよくないから? 姉である私じゃ不満ってこと?」
「………」
そうね。私は性に関しては疎いから……、私なんかじゃ興奮できないってわけかしら。
……つまり、誠二はこう言いたいのね。私が、ヘタクソな女だってこと。
ふーーーーん……、そう。
「誠二。あと20秒以内に射精しなさい」
「……!……」
やっぱり、聞こえてるじゃないの。茫然自失になったフリなんか通用しないの。
「ほら、さっさと出して。もし20秒以内に出せなかったら、右手も潰すわよ」
右手にナイフを突き立てる。このまま少しでも私が力を入れればさくりと手の中に銀色の刃物が埋没してしまうわね。どうするの? 誠二?
「…………うう……ねぇ……さん」
ふふふふ……。
動き出した、動き出した。誠二の腰が私の腰に合わさり、ぶつけるように上下される。下から突かれる感覚に、私は頭の中がピンク色に染まりそう。
どたんどたんどたん!
誠二が頑張って腰を打ち付けるので、床と誠二の尻が物凄い勢いでぶつかった振動で部屋中の家具がぎしぎしと揺れていた。
隣の人に迷惑ねぇ。
「じゅうご、じゅうよん、じゅうさん……」
私のカウントダウンに合わせて、徐々に必死になって腰を上下させる誠二。ほらほら、もっと、もっともっと味わわないと。
ふふふ、もはや弟というより、おもちゃだわ。ただ私のためだけに動く、玩具。どうしようもないわね。どうしようもない弟……、本当……、私の……。
「きゅうっ、はちっ、ななっ……」
うーん、でもね。確かに誠二は激しく打ち付けてるけど。私の快楽には一歩足りてない。勢いは強くなったけど……私の気持ちいいところが疎かになってる。
私の中で初めて性器に誠二を受け入れた時の気持ちよさが薄くなってきて、逆に普段の冷静さが蘇ってくる。
「にぃっ……い……」
跳ね馬に乗ってるみたいだわ。
そう思った瞬間。誠二の腰が小刻みに震えだした。歯を食いしばる誠二。そして。
びゅるるるる……。
「ン……ん……」
湧き水。
私の奥で受け止めた誠二のそれは、私にそんな感想を抱かせるほど、勢いが無いものだった。
「……誠二」
「……?」
「ヘタね」
「……そ……そんな……」
「私もあまり悦ばせてくれなかったし……、姉として恥ずかしいわね。あなたみたいな自己中心的な男に、私以外の女と付き合うなんて無理だわ」
「……ねぇ……さ……」
ふふふふふ。
「高倉先生だって、だいぶ無理してあなたに付き合ってくれてるんでしょうねぇ……」
誠二は「違う」と言いたげに、瞳を燃え上がらせて私を睨みつけるが……しょせん誠二の瞳の炎はマッチ程度。私が息を吹きかければすぐに消えてしまう。
ほぉら。私がフンと鼻を鳴らしただけで、おびえた顔の誠二に戻ったわ。
まったく……。
ドンドンドン
部屋の中に音が響く。
ボロい玄関の戸が、何度も叩かれている。
「……来たようね」
私は、誠二のを引っこ抜き、ぐちゃぐちゃになった股間をハンカチで綺麗に拭く。ぺたぺたとした粘液はハンカチに妙な匂いをつけて気持ち悪くなりそう。
まったく、誠二。こんなものを私の中に出すなんて……。酷いにも程があるわ。ふふふ。
誠二の口に入れていた下着を抜き取る。誠二の唾液でぐっちょりと濡れてるわ。それを躊躇なく履く。
この下着にまぶされた液体は誠二のヨダレだわ。うん、微妙に生温かくて、びちょびちょ。不快だわ。擦り付けるけど……。
さて、そろそろ直接対決ね……。
私はゆっくりと立ち上がる。誠二は相変わらず血まみれの左手をそのままに、だらんと四肢を投げ出したまま、しかし瞳はしっかりとこちらを見ていて………おびえていた。
「………ねぇ……さん……。もぉ……や……」
「黙りなさい」
お腹の上に足をあげると、胃を目掛けてまっすぐに振り落として踏み潰した。誠二はげふぅという声とともに、沈む。
どうせ、やめろとか言うんでしょう? ごめんなさいとか言うんでしょ? おあいにく様。そんな不快で、どうしようもない言葉。もう届かないわ。
「大丈夫、あなたのだぁいすきな高倉良子は私がすぐに殺してあげる」
その後に続きをしてあげるから、高倉良子の死体の目の前でね……。
ゆっくり、ゆっくり、足を滑らす。
ふふふふふふふふふふふふふふふ。
ドアまでの数メートル。
私の心の中に浮かんでは消える、高倉良子の醜い姿。
私から、誠二を奪いさり、なおかつ三者面談という場で私に、私にはらわたが煮えくり返るほどの屈辱を味合わせてくれた、あの憎き女。
あの女、あの女っ、あの女! あの女!! あのおんなぁぁ!!!
コロしたい……。コロしたい…。ころすころす……、殺す、殺す、殺す。
この数メートルだけで、私の中の高倉良子に対する殺意が、Fのメーターをぷちんと振り切った。
ドンドンドン。
ああ、このドアの板を挟んだすぐそこにあの女が居る。
左手で玄関のドアノブを掴み、右手でナイフを大きくふりかぶる。この部屋は珍しく、内側にドアが開くタイプだわ。
つまり、このままいきなりドアを開けば、突然出てきた私に反応できずに……私が振り落としたナイフにぐさり。あとは動きの鈍くなった高倉良子を部屋に引きずり込んで止めを刺すだけ。
そう、はなから対話なんてする気は無い。
誠二は私のものであり、それは何であっても変えることの出来ない不変なる真実なのだから。私が正しいに決まってるのだから。
それに…………もう引くことはできない所まできてしまったのだから。
下腹部に残る誠二の温かさ。もう、戻れないの。
次のノックで、開く。勝負は一瞬。この一瞬で、あたしがイニチアシブを取る。
さぁ、来なさい。高倉良子。
ドンッ
来た!!
瞬間。私は目いっぱいドアを引く。
開くと同時に、私は体を投げる。開かれたドアの目の前に居る憎き女に向かって振りかぶったナイフを突き下ろした。
ざくりっっ!!
相手の懐に体が受け止められる。しかし、腕には硬い肉に突き刺さった感触がしている! 刺さった! 肩に刺さったみたい!
肩じゃ、ダメージは浅いわ。狙うは内臓。早く抜いて二度目の攻撃を…………加えなければ……!!
死ねぇ! 死ねぇ! 死ねぇ!!!
「ぎゃあああああ、痛い! 痛い! 痛い!!」
「おい! 何をする!!」
……え……?
顔をあげると、そこに居たのは見たことのない男。その男の肩に、私のナイフがざっくりと刺さっていた。
なんで? なんで? 高倉良子は!!??
「貴様! それを離せ!」
もう一人居た男が血相を変えて私に掴みかかる。
「え……え……?」
思考がまとまらないまま、私はその男に腕をつかまれ、腕を半回転させられ、ナイフを落とさせられ……、カランとナイフが落ちた音を最後に、私の体は男によって地面へ押さえ付けられていた。
「うぐっっ!!」
………この人らは………一体………。
……まさか……!?
★
KMTニュースの時間です。
本日午後5時5分ごろ、市内の高校に通う女子学生に警察官が刃物で警察官が刺される事件が起きました。
事件が起きたのは市内の高校に勤める教師、高倉良子さん(26)の自宅で、「部屋から異臭がする」という匿名の通報を受けた警察官2人が様子を見に向かったところ、
突如、部屋から刃物を持った女子学生が飛び出し、警察官の肩にナイフを突き刺し、警察官一人に軽症を負わせました。女子学生はすぐさまその場で取り押さえられました。
なお、部屋の中には同じ学校に通う女子学生の弟が、左手から血を流した状態で見つかっており、現在警察では女子学生と弟、そしてこの部屋の借主である教師から事実関係を聞き出しています。
「自分のしたことがどう見えているのかまったくわかってないんだから。千鶴さんったら……。うふふふふ、うふふ、うふふふふふふふふ……」
(続く)
今年一番最初の投下が2月になってしまいました。
皆さん覚えていますでしょうか。時間が無くても書ける方がうらやましいです。
ニュース口調はおかしいところあるかもしれませんが、できれば無視していただきたいです。
三者面談は次ぐらいで最後になります。
超待ってましたぁぁぁぁGJ!!
>>103 GJ!
予想外の展開にwktkして待ってます
gj
うはあGJ。
こうゆうサスペンスかける人、いいなあ。
投下します。
前回、上の方で書いた奴の続編的のようなものです。
「おきろー!朝だー!」
耳元でフライパンの音がガンガンする。
妹の智子がフライパンを麺棒で叩きながら、ぼくを起こしにやってきた。
ぼくはまだ眠い目を擦りながら、布団をかぶったまま立ち上がる。
「怪獣・フトンゴン、敗れたり!!」
智子から麺棒でお尻を叩かれた。
「大学生はいいなあ。寝坊ができて」
「早く、大人になりなさい」
「智子も早く大学に行きたいなあ」
昨夜から両親は、遠い親戚のお通夜に行っており今日は、智子と二人きりの朝ごはん。
今朝は、ハムエッグとトースト。シンプルな料理だが、それだけ作り手の力量が試される。
きれいな黄色と白の卵が美しい。
「兄ちゃんも、昔ハムエッグを作ったことあるけど、黄身が崩れちゃって難しかったよ」
「じゃあ、智子が大きくなったら、お兄ちゃんのメイドさんになって毎日ハムエッグだ!」
「メイドさんは九九ができなきゃいけないんだぞ。4×6は?」
「えっと、にじゅうしち!!」
バカな会話が続く。
大学は今、休みの真っ只中。だけど今日は、ゼミの集まりで登校する。
春休みの間、お弁当が作れず寂しそうにしていた智子は、昨日ぼくが「お弁当がいる」って言っただけで、大喜びをしていた。
一緒に家を出る。今日は家は二人きりなので、先に帰る智子が鍵を持つ。
「いち、にい、さん、しっ、鍵かけてー♪にい、にい、さん、しっ、おっでかっけだー♪」
「なに?ソレ」
「おでかけのうた」
智子の素っ頓狂な歌声が玄関に響く。
「はいっ、お兄ちゃん!お弁当!」
智子はいつもよりニコニコしながらお弁当箱を渡す。
大学に着くとゼミ棟に向かう。朝っぱらから法律のことなどあまり考えたくない。
でも、ゼミを取ってると単位に有利なのだ。兎に角、午前中だけでもゼミに集中しよう。
まとめ役は、ゼミで二番目に美人の三宅さん。テキパキと仕切る。
午後十二時を回る。
「では、お昼にして午後は『未必の故意』についてのまとめに入りましょう」
三宅さんの声でお昼に入る。それぞれみんなは、お昼ごはんに向かう。
「ねえ、聡くん。いっしょに食べよ」
三宅さんが誘ってきた。彼女はこの間から、自分でお弁当を作ってきて、ぼくと一緒に食べるようにしている。
ぼくと三宅さんはキャンパス内の静かな池のほとりに向かった。
「きょうのお弁当、なんだろうな」
三宅さんがぼくのお弁当箱をちらちらと見ながら笑う。
智子は料理に天才的な才能を放つ。三宅さんも毎回、ぼくのお弁当を見るのを楽しみにしている。
池のほとりにハンカチを敷き、ここで食べる事にした。
「あっ、そうだ。飲み物持ってきてなかったな。わたし買ってくるね」
三宅さんはお弁当を置いて、自販機コーナーへ走る。
さて、ぼくのお弁当はどうだか…。楽しみと不安が上手い具合に混ざりながら、お弁当箱のふたを開ける。
「!」
中にはハート型のチョコレートがちらりと見えた。背中に冷たいものを感じ、中の文字を見ないうちに、慌ててふたを閉じる。
「バ、バカタレが…」
「ん?どうしたの?」
いつの間にか、三宅さんが戻ってきた。間一髪、中身は見られなかった。
「…あ、智子のヤツ、お弁当箱を空っぽのヤツ渡しやがったんだよ。ははは」
「ふーん。智子ちゃんも結構うっかり屋さんね」
平気ですごいウソをついた、三宅さんに見透かされたかな。
「それじゃあ、聡くん。わたしのお弁当を有難く半分頂きなさい」
三宅さんはお情けか、小さな手作りおにぎりを一つくれた。白米に海苔を捲いたシンプルなおにぎり。
「ごめんよお」
有難く頂戴する。三宅さんのおにぎりには、塩の味がしなかった。
午後からのゼミはレポートをまとめる。なかなか進まず、時計の針が五時を回った。
あーでもない、こーでもないと判例集や、模範六法を捲りまとめようとするがなかなか上手くいかない。
そんな中、ぼくの携帯が鳴った。
「ちょっと、ごめん」
一同、渋柿を十個も食べたような顔をする。低姿勢でぼくは部屋を抜ける。
電話は智子からだった。
「お兄ちゃん、きょうは遅いの?」
「んー、わかんないな」
「もー!せっかく肉じゃがにしようって思ったのに、冷めちゃうでしょ!なるべく早く帰ってらっしゃい!」
母親みたいな口調で、妹から叱られた。
「それから、二番目の人。…三宅さんって人?その人に騙されちゃいけないからねっ!」
「はあ」
時々、智子に三宅さんの事を話しているから彼女の事は知っている。
しかし、どうやら三宅さんを敵対心の目で見ているらしい。何もないのに。
「だって、お兄ちゃんと三宅さんが一緒になっちゃたら…智子…」
涙ぐむ智子。
「わかったわかった。何もないから!」
智子を黙らせて、無理矢理通話終了。ぼくは、こっそり部屋に戻る。
「ふう、やっと終わったね」
全て終わったのは、夜の七時過ぎだった。
三宅さんは、おじさんみたいな伸びをしながら大あくびをする。
(やっと帰れる…)
ぼくの中でも大あくびをしてみた。
「じゃあ!お先!!」
ぼくはダッシュで、家へ向かった。三宅さんが呼んでいるのにもかかわらず。
「ちょっちょっと!聡くーん!…行っちゃった」
三宅さんは寂しそうに小さな小箱を見つめながらつぶやく。
「せっかく、バレンタインのチョコ作ってきたのに…」
「おかえりなさーい!ご主人…じゃなくってお兄様!」
制服にメイドさんのようなフリフリのエプロン、ヘアタイをつけた智子が、玄関まで迎えにやってきた。
ピョンと跳ね、子犬のように絡みつく。
智子の甘い香りがぼくを包む。どさくさに智子はキスをしようとするが、寸止めされた。
「きょうは寂しかったんだから!もう、朝までお兄ちゃんと一緒だね!」
台所からいいにおいがする。電話で言ってたように、きょうは肉じゃがだ。
カバンを肩にかけたまま台所に入り、くんくんと家庭の匂いを楽しむ。
鍋のふたを開けて、ちょっと摘み食いしようとすると、智子からもみ上げを引っ張られた。
「そうそう、お兄ちゃん。お弁当箱洗うから出して!」
しまった、すっかり忘れていた。きょうのお弁当は食べず、そのまま持って帰ってしまったんだ…。
「そそ、そうだね…。ちょっと待ってくれな…」
「怪しい!!せっかく、智子が作ったチョコレート食べなかったの?」
「いや、いや。おいしかったよ!ハートの形をして、真ん中に『お兄ちゃんへ』って…」
「うそ。お兄ちゃんの名前をおっきく書いたんだよ」
南無三!逃げようとするぼくに、智子がぼくの右足にタックルしてきた。
おもいっきりぼくと智子は倒れ、はずみでぼくのカバンからお弁当箱が飛び出す。
智子がお弁当箱をかっさらう。ぎゅっとお弁当箱を抱えたまま、ぼくを睨みつける。
「ホントは三宅さんの方がいいんだ!」
智子から大粒の涙がこぼれる。どうしよう。
「そんなこと、ないよ…」
「もー!じゃあ、智子のお口でチョコを食べさせてあげる!!」
「え?」
「宇宙一あまーいチョコで、智子の事しか考えられなくしてあげるの!」
智子がお弁当箱を開けると、ハート型のチョコレートがまだ入っていた。
チョコレートには「LOVE 恥兄ちゃん」と書かれていた。
おしまい。
投下終了でございます。
やっぱり、イロモノ系になるなあ。
智子かわいいよ智子
ぐじょぶ
英単語は覚えたのですね。
GJ!!
117 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 06:24:36 ID:62CGvili
恥www
せっかく英単語覚えたのにw
>>103 やっぱり先生の方が一枚上手ですね
次回も楽しみです
>>114 こんなDQNネームあったなあw
>>103 千鶴ざまぁwww
こういう時こそ国家権力に役立ってもらわないと。
次回最終回ですか。経過が酷かった分、オチはあんまりおぞましくないといいなあ。
>>102ニュースがキモウトw
投下します。
「お祭り?」
「そう、土曜にあるお祭りに、私達を連れてって貰いたいの!」
その日の朝、康彦は二人にそんな頼みをされていた。
「けど、アレは兄妹で行くようなモンじゃないだろ?」
土曜のお祭りは、通称”カップル祭”と呼ばれる縁結びのお祭り。
康彦の考えは、至極真っ当なモノだ。
「何?兄貴は私達の良縁を望んでくれないの」
遥が声を荒立てる。
「いや、別にそう言う訳じゃ…」
と、圧倒される康彦に、
「兄ぃ、冷たい」
と、智佳まで落ち込んだフリをした声を出して、遥を援護する。
「別に連れて行くのが嫌な訳じゃないんだが…」
「じゃあ!」
二人のコンビネーションに圧倒され言う康彦に、喜ぶ二人。
だが、
「俺、その日はバイトなんだ」
との康彦の言葉に、二人共、一気にテンションを落とした。
「勤務表じゃあ、休みになってるよ!」
遥が、冷蔵庫に張り出されているバイトのシフト表を、指差しながら怒鳴る。
「あ、そうか、まだ言ってなかったな」
康彦もそれを見ながら言う。
「変わったんだよ、後輩の娘と」
ここしばらく、色々と有りすぎて、康彦自体も忘れかけていた事を、二人に伝える。
「後輩の娘?」
智佳が興味深そうに、康彦の顔をみる。
「そ、後輩に…」
康彦は、一度そこで言葉を切ると、遥の顔を見ながら、
「ハルは知ってると思うけど、鈴ちゃんに頼まれたんだ」
と、言葉を続けた。
確かに鈴の事なら、遥は知っている。
何せ、自分に告白してきた相手なのだから。
「何で変わってあげちゃうの?」
それでも、納得のいかない遥が、康彦に噛み付く。
「何でって言われてもなー」
「あそこまで真剣に切羽詰まった感じで頼まれたら、断れないからな」
その時の様子を思い出しながら康彦が言う。
「鈴ちゃんは良い恋人さんに巡り会えたんだろうな!」
長い付き合いの後輩を祝福する様に言って、
「お陰で今日に休みを貰えたしな」
と、話を閉めた。
康彦の最後の言葉に、何故か二人共、まるで正反対の反応を示した。
「何で…今日休みなんて聞いてないよ!」
と、怒り始めた遥。
「ほんと?ほんとに今日は早くに帰ってきてくれるの!」
と、嬉しそうに言う智佳。
この真逆の反応に康彦は、”シフト変わったからな”としか答え様がなかった。
その後に、
「ちぃちゃん、抜け駆けは…」
と、遥が智佳の顔を見ながら言えば、
「大丈夫!約束は破らないよ」
と、楽しそうに答えた智佳。
このやり取りの意味は、康彦には理解出来なかった。
「兄貴が今日、休みなら私だって…」
何か納得がいかない様に遥が呻く。
そして、
「決めた!」
と大声を出すと、
「お祭りの日に、兄貴の店で高い物を奢って貰う!」
と、康彦に宣言した。
「どんな脈絡があって言ってるんだ…」
「兄貴はその日もバイト何でしょ!」
微妙に困惑する康彦に、遥が食い下がる。
「なら、お祭りの時ぐらい、妹にサービスしても問題ないはず!」
ビシッと康彦を指差しながら言う。
「私、パフェが良いなぁ」
と、智佳も上目使いで康彦をみる。
「あのなー」
怒るに怒れず、呆れた声を出す康彦に、二人が謀った様に声を合わせ、
「お願い、お兄ちゃん!」
と言うのに、康彦も負けて、
「祭の日だけだからな」
と、答えてしまった。
「お祭りの日はよろしくね、兄貴!」
「兄ぃ、ご馳走になります!」
それぞれに喜ぶ二人を見て、康彦も、”まっいいか”と思っていた。
2
その日、学校にいる間も、智佳は終始ご機嫌だった。
康彦のバイトが休み、
だけでなく、遥が部活から帰ってくるまで二人っきりになれるからだ。
普段なら、康彦の休みに合わせて、遥も部活に休みを取っている為、有り得ない事なのだが、
今回の様に、突発的に康彦が休みになった時に、遥は部活を休めない。
こう言った事態を有意義に使いたい、
智佳はそう思う。
かと言って、遥との約束、協定と言った方が正しい、を破るつもりはない。
”兄ぃを迎えに行こう!”
学校から帰宅した智佳はまず、そう思った。
夕飯の買い物を一緒にするのは、問題ない。
手を繋ぐのも大丈夫だろう、3人で買い物する時にやっている。
腕を組むまでも許されるだろう、その時に女を意識させたとしても。
そこまで考えた時、智佳は思わず、自分の胸元を見た。
”まだ、小さいからなあ”
年齢としては平均なのかも知れないが、これで兄に”女”を意識させられるかは、智佳には不安だった。
「成長中成長中!」
自分の不安を取り払う為に、声に出して言う。
「兄ぃに大きくして貰うんだから、問題ない!」
力強く自分に言い聞かせると、康彦の帰ってくる時間に合わせて、智佳は家を出た。
帰宅中、康彦は再び、あの女子高生に捕まっていた。
前日に電話した時に、今日が休みになった事を言ってしまったのかも知れないが、
それでも、特に約束を交わした覚えはない。
「お帰りなさい、お兄さん」
ここに居る事が当然であると言わんばかりに、相手が声を掛けてくる。
「あー、ただいま」
何がただいまなのか、分からないままに、相手に合わせて康彦が答える。
「で、今日は一体、何の用?」
何と答えるか、分かっていながら、康彦が聞く。
「二人の事…、決まっているじゃないですか」
そう答えた相手は、何が嬉しいのか、口許には微笑を浮かべている。
「何度も言ったけど、俺はあの二人が幸せになるなら、それを邪魔する気はないよ!」
「何度も伺っておりますよ」
やや強い調子で言った康彦の言葉にも、相手は微笑をもって受け流す様に答える。
その態度に康彦は軽い溜め息を付きながらも、
「俺は多分、君が思っている以上に、二人の事を大事に考えてるんだぞ!」
と、更に強い調子で、淀みなく相手に伝える。
「なら、私も言っておきましょう」
相手が、そこで一拍置いてから言葉を続ける。
「私はあのお二人の恋愛を成就させる為なら何でも…」
「例え、この身を犠牲にする事さえも出来ます」
淀みなく、どこかに狂気を含んだ言葉を出す。
「君は本当に、アイツとはただの友達?」
相手の狂気の元を探れず、康彦が聞く。
「えぇ、親しいクラスメート、それ以上の気持ちはありませんよ」
「それなら…」
「貴方にはどう説明しようと、分からない事です」
質問を続けようとした康彦を、跳ね退けるかの様に、信念を感じさせる強い口調で相手が答える。
「今日はその事だけをお伝えしたかったので」
茫然とする康彦に、相手が声をかける。
「覚えておいて下さいね」
「私はあの二人の為なら何でも出来る、という事を」
その言葉を捨て台詞に、相手は康彦の答えを待たずに、その場から立ち去って行った。
もはや康彦には相手の本心が分からなかった。
純粋に遥の事を心配しているのか、それとも別の目的があるのか、答えが出ないまま、その場に立ちすくんでいた。
「兄ぃ!」
「うわっわっ!ち、ちぃ…」
突発に現れた智佳に、康彦は不意をつかれた声を出す。
そんな康彦を智佳が不思議そうな目で見守る。
「ちぃ、あんまり脅かさないでくれ…」
「?」
康彦の反応に智佳は首を傾げながらも、聞く。
「兄ぃ、今の人、誰?」
智佳に聞こえたのは、あの二人がどうとか、二人の為なら、とかの断片的な台詞。
だから、聞いてみたのだ。
「うーん、誰って聞かれても…」
康彦は答えに詰まった。
遥の友人だ、と答えれば、自分が二人の関係を知った事を、二人が気付くかもしれない。
それはまだ、避けたかった。
だから、
「俺にとって、とっても大事な二人の事を考えてくれる人だよ」
と、曖昧にぼかす様にして言った。
「ふーん…」
康彦の言葉で智佳は納得した訳ではないが、
康彦の眼に相手の姿が写っていない事や、楓と接していた時のような表情をしていなかった為、
「まぁ、いいや」
と、その場では追求せす、
「兄ぃ、買い物を付き合ってよ!」
と、戸惑う兄の手を引っ張って歩き出した。
3
「兄ぃ、さっきの人、誰だったの?」
三人揃った夕飯の時、智佳がそう切り出した。
あの女性が、遥と同じ学校の制服を着ていたので、遥と協力した方がいい、と考えたからだ。
「さっきの人?」
遥が智佳の話に食いつく。
「そう、ハル姉と同じ学校の制服を着た人」
「私と同じ学校、女の子だね?」
「うん、兄ぃと何か話し込んでた」
「兄貴と、ねぇ」
そこまで話終えると、二人タイミングを合わせて康彦の顔を見る。
「さっきも言った通りに、ある二人の事を真剣に考えてくれる人だよ」
二人の視線を受け止めながら、康彦が答える。
「ある二人…誰の事?
私と同じ学校なら、私も何か出来るかもよ!」
康彦の言葉に、遥が身を乗り出すして、聞き出そうとするが、
「あまり、外野が騒いで良い様な二人じゃないからな」
と、軽く受け流した答えを返される。
「じゃあ、その娘の名前だけでも教えてよ」
遥が食い下がる。
「名前…、知らないんだ。あくまでその二人を通じてしか知らないからな」
康彦は困りながら返す。
事実、康彦は相手の名前を知らない。だから、携帯に登録してある名前も”?”なのだ。
「凄く礼儀正しい感じがした人なのに、教えて貰ってないんだ!」
「ん、まあ、その事自体はたいした事じゃないからだろう」
何か嬉しそうに言う智佳に、康彦はそう答えた。
「よっぽど、その二人ってのが大事なんだ?」
感極まった様に聞く遥に、康彦は頷きだけで返す。
「その二人が早く幸せになれるとイイね!」
智佳が無邪気に言う。
それに康彦は、
「あー」
と、短く答え、
「二人が幸せになってくれさえすれば…」
と、優しい、何か悟った感じがする微笑みを二人に見せた。
二人とも、その微笑みの意味が分からず、顔を見合わせて首を傾げる他になかった。
投下終了です。
生殺し! 生殺し!
超GJ!!
130 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 17:06:44 ID:isUB3akk
>>128 GJ!
ただ俺はどうも第三者までキモくなるのには耐性が無いようだ
つうか久美が一番キメぇwww
>>128 久美きめぇ。
康彦に死亡フラグが立っているような気が…。
>>128GJすぐる!!
監禁トイレ9話投下しやす
「実は結婚を考えている女性がいる」
父から新しい恋人の話を聞かされた時、摩季に反対するいわれは無かった。妻を失って八年間、彼がたゆまぬ努力を続けてきたのをずっと側で見てきたのだ、文句などあろうはずもない。父親の人を見る目にも信用があった。
実際、相手の花苗は人格者だ。実母と似通った雰囲気も持っていた。その頃には親に甘える事を忘れた摩季だったが、この人になら母親になってほしいと思った。
それは同時に、達哉の母親という役目を譲り渡す事でもあった。
未練が無かった、とは言い難い。だが同時にこうも思った。
母親という殻を脱ぎ捨てれば。達哉が自分を一人の女性として見てくれるのではないか。
けれど何も変わらなかった。ただ、弟との繋りが一つ断ち切られただけだった。さらに、ようやく母から姉という本来の存在へと戻った時、達哉の周囲には既に姉が(達哉は何故かそれぞれを姉と妹で区別していたが)二人もいた。
自分の帰るべき場所は知らぬ間に奪い取られ、愛する弟もまた、新しい「姉」達の手中にあった。そして二人の横暴とも言える求愛の中で、摩季の仄かな恋心は埋没していく。
摩季に残されていたのは、弟にとって唯一禁忌の交わりを意識しないでいれる、避難所としての立場だけだった。
おそらくこの殻から抜け出せる事はない。自分は永遠に幼虫のまま、羽化を夢見て死んでいくのだろう。
愛する者の子を宿せる成虫になるには、生まれ持った己が殻はあまりに強固過ぎた。
高速を抜け、しばらく走ると建築物は急激に減少していく。その代わりぽつりぽつりと畑が現れる。
この辺りは駅からも離れているために大した遊び場もない。ゲームセンターや映画館といった若者が集う場所が。だから若者は栄えた街まで出て行くし、子供達は無限の想像力で遊び場を作りだす。
都内と違って、若者の手による近代型の犯罪が少ないのは、田舎の長所ではある。
せっかくの休暇だというのにこんな事を考えてしまう。職業病とは厄介なものだ。つらつらとそんな事を考えながら、摩季は車を走らせた。
今、摩季は実家に帰る途中である。起床してまず弟に連絡を取ってみたものの、電源を切っているらしく機械音声しか返ってこなかった。不安ではあるが事件性を匂わすものがあるわけでもないので、とりあえず達哉からの返事を待つのみである。
予感というものは悪いものほど当たるものらしい。職場のベテラン刑事にそう言われた。「悪い方向に考えちまうと駄目なんだよ。事実が引っ張られてきちまうからなぁ」と。
だから「達哉に限って何かに巻き込まれる訳がない」と自分に言い聞かせる事しか、現段階で出来ることは無い。
視界に褪せた看板が目に入る。看板には海外の野球チームのそれにそっくりなロゴが描かれている。バッティングセンターだ。
弟と何度か来た事がある。贔屓目ではなく、あの頃の達哉には野球の才能があったと思う。あんなに軽々と速球を打ち返してしまうんだから。
ああ、向こうに見えるデパートにも見覚えがある。
達哉が玩具売り場を探して、勝手にふらふらと歩き回るものだから目を離せなかった。最近は実家のすぐそばに大型量販店が出来たらしい。今ではわざわざ、こちらに来ることもないそうだ。
全ての記憶が弟に起因し、弟に帰結する。
結局、私の頭の中には達哉の事しかないのね…。こうやって両親に会いに行っているのに達哉の事しか考えてないんだから…。
自分の情けなさに不意に泣きそうになった。にもかかわらず、下腹部に熱を持ち始める自分にも。
だが涙やその気配を顔に出すわけにはいかない。
自分の育ってきた家がもう目の前に近付いてきていたからだ。家族に、特に父親にこんな姿を見せる訳にはいかない。
父だけは、達哉への恋心を察していたフシがある。自分はやましい事など一つもない、と見せかけなければならない。只でさえ父は、達哉を求める女達に悩まされているのだから。達哉を都内の学校にやったのは当然、双子から引き離す為だ。
だが摩季は思う。
アレは自分への牽制の意味もあったのではないか、と。
そうでなかったとしても、それは摩季を縛り付ける鎖として十二分に効果を発揮した。父を疎ましいと思った事など無い。しかし、父という存在は血縁の象徴であり、鎖の具体像だった。
サイドミラーで顔を確認すると、久々の我が家へ向かう。
ベルを鳴らす。
もう一度鳴らす。
反応が無い。時間を鑑みる限り、寝ている訳ではないと思う。
何かあったのだろうか。突然帰ってきて扉を開けるのもどうかと思い、呼び鈴を押したのだが。
キーケースから鍵を取り出し、穴に差し込み捻った。
「お父さん、お義母さん、ただいま」
返事は無い。玄関には男物と女物の靴が何足かある。どれも若者が履くには地味だ。双子達を連れて何処かへ出かけたのだろうか。
まさか……達哉のところじゃないでしょうね…
有り得ないとは思いつつも、そんな考えが浮かぶ。
ヒールを脱いで廊下へ。真っ直ぐ進んでリビングに向かう。このドアを開ければリビングだ。曇りガラスの向こうからは何の物音もしない。やはり出かけているらしい。
ドアを、
開 け
た。
静かだった。
床には赤い液体がぶちまけられている。ところどころで透明な結晶が光った。
両親の愛用のコーヒーカップ。
和食中心の朝餉。
テーブルに置いてあったワイングラスが無ければ、いつもの朝の光景だっただろう。
さらに父が、
義母が、
死んでいなければ。
日常の光景そのものだっただろうに。
「お、とう、さ…おか、あ…」
どう見ても死んでいた。一目瞭然だろう。
左右の目はちぐはぐの方向へ飛び散っているし、口からは涎を過剰分泌し膨れ上がったナマコが顔を出している。苦悶が顔に塗りたくられている。首には、ロープが巻き付けられていて、本来あるはずのないところにくびれを作っていた。
指は首を締める凶器に引っ掛かったままだ。
二人は昔と変わらず互いに向き合って座っていた。いつものように色違いのカップでコーヒーを飲みながら休日の予定でも立てていたのだろう。
糞尿の臭いを鼻が感知した。
摩季はずるずると床にへたりこみ、再度ぼんやりと両親の死体を眺め、吐いた。
「あ、あ、あ、あ、はは…」
オトウサンガシンデイル。オカアサンモシンデイル。
驚愕。
呆然。
悲嘆。
ようやく涙が流れてきた。嘔吐を繰り返し、嗚咽を吐き出す。
何処かで、鎖の千切れる音がした。
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
悲しいのに。
彼女の口から零れたのは歓喜の笑いだった。
「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
摩季は自分がどれだけ父親を憎悪していたか、この時初めて知った。
投下終了です
>>139 GJ!
やっぱりこのスレにとって両親は泥棒猫と同じぐらい死亡フラグがたちやすいか
前スレをうっかり埋め立ててしまった職人さんはこっちにこないのか?
>>141 すまない。あれで丁度終わりなんだ。
Aにいくとエロがあったんだが、また今度書いて投下することにするよ。
埋めネタに付き合ってくれてありがとう。
>>142 NTRは嫌だからあるんだったら先に注意書してね
NTRとは限らないんじゃないか?
襲おうとしたやつのゴミ処理のために時間がかかったとも考えられる
1があれで終わりで、2が強姦描写だとしたらキモ分が不足しているので
>>139 超GJっす!
俺はこのキモ姉を応援するぜ!
146 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 17:18:05 ID:brta2hXY
GJ!
&さがってきたので
あげ
お姉ちゃんに期待
みんなちょっと俺の話を聞いてくれ
姉貴がやっとできた俺の彼女を殴って追い返しやがった
彼女は泣き顔で俺に「キモいんだよシスコン男!」って怒鳴った
姉貴聞いたら姉弟でセックスしてるとか言ったらしい
何考えてんだあの女は!?
姉貴は全然反省してない。なんとかして姉貴に復習してやる
そうだなぁ。今度ほんとに襲ってやろうかな? 「姉弟でセックス気持ちいい?」 って聞きながら
おっ! ちょうど姉貴が来た! みんな、俺はやるぜ!!
…南無三
|
>>148はキモいんじゃね? | 同意
\ \
 ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∩_
〈〈〈〈 ヽ /  ̄ ̄ ̄ ̄ \
〈⊃ } /、 ヽ
/ ____ヽ|__| |ヘ |―-、 |
| | /, −、, -、l ! ! q -´ 二 ヽ |
| _| -| ・|< || | / ノ_/ー | |
(6 _ー っ-´、} / \ | /
\ ヽ_  ̄ ̄ノノ/ O=====|
/ __ ヽノ / / |
(_|__) / / / |
俺はひとりっ子だから明日は無縁だなァ
今夜お兄ちゃんの部屋に忍び込み
こっそり布団を剥いじゃいます
するとお兄ちゃんは風邪をひき
明日は学校お休みです
だって明日はバレンタイン
お兄ちゃんにチョコを渡すのは
妹のあたし一人で
充分でしょう?
布団を剥くだけで終わる筈がない
兄のパジャマ姿から覗く胸元や脇のチラリズムが持つ魔力の前では、逆に暖めてしまいそうだ、裸で……
そして妹が風邪引いて発熱
「……おにぃちゃん……げほごほ……」
「おまえ俺の部屋で裸でぶっ倒れて何してたんだ?」
兄は仕方なく学校休んでつきっきりの看病
「やれやれ……とんだバレンタインだ……」
(ああ、クラスのA子さんやB子さんからもらえる筈だったかもしれないチョコレートが……)
結果オーライ?
AさんとかBさんとか家に来ちゃったりしてw
>>155ちょwwwお兄さんオワタwwwwwww
ところでキモ姉妹の褐色肌もといチョコレート肌やってくれるネタはまだですか?
投下します。
158 :
姉ぎらい:2008/02/14(木) 06:11:56 ID:vjOmCsbE
サディックは旅立ちを決意しました。姉であるマジェーネの目に余る所業に耐え切れなくなったのです。サディックは小さな頃からマジェーネのことが大嫌いでした。
彼女は自分とたった二つしか違わないのに、お姉ちゃんなのだから、と言ってあれこれ世話を焼きます。それも服の選び方から鼻のかみ方一つまで、いちいちうるさく口を出すのです。
その上、四六時中弟のそばに居ようとしますから鬱陶しくてたまりません。先日、弟の顔を一目見るなり抱きついてきたマジェーネに向かってサディックはぷりぷり怒って言い放ちました。
「べたべたくっつくな。ウザい」
けれどもマジェーネは離れません。大好きな弟の酷い言葉にぐずぐず涙ぐんではいましたが、その小さく真っ白な手でサディックの服の裾を強く掴んで一向に放そうとはしないのです。
お陰で、そんな二人の姿を見つけた下男下女らが慌てふためいて、てんやわんやの大騒ぎとなり、ついにはそのことが両親の耳に入ってサディックはこっぴどく叱られたのでした。
昔から両親は姉の肩ばかり持ちます。彼はそれを大層不服としていましたが、生来反抗的であった自分の気性を省みてそれも仕方ないと心のどこかで理解していました。
けれども、ああして搾られた後、張本人である姉に慰められるとやるせなくなり、自暴自棄でますますとげとげしくなってしまいます。
家を出ることを決めたサディックでしたが、彼のような世間知らずの坊ちゃんが決意を行動に移すとなると、まず、ものを言うのはお金です。しかしサディックにはお金がありません。
両親は子の教育には慎重なほうで、若い時分から遊蕩に耽って将来身を持ち崩すことが無いよう、彼には必要最低限より少し足りないくらいの小遣いしか与えていませんでした。今のサディックの手持ちでは、国境さえ越えられないでしょう。
ちびちび貯金を続けたとしても、纏まった金が手に入るのはいつになるやらわかりません。サディックは今すぐ旅立たねばならないのです。
触るものみな傷つけるサディックにもただ一人気の置けない親友が居ました。女中のネトリーナです。サディックは三日三晩悩みぬいた末、彼女に金を無心することを決めました。
幼い時から彼の教育係として、家族のように、それこそあの姉以上に姉弟のように育ってきた彼女ならばあるいは、と思って、家中の者が寝静まった夜更けに部屋へ来るようこっそり言いつけました。
159 :
姉ぎらい:2008/02/14(木) 06:14:43 ID:vjOmCsbE
約束の時間にネトリーナが訪れて、サディックは廊下に人のけはいが無いのを確認して、静かに扉を閉めて鍵をかけると早速本題に取り掛かりました。
「金を、貸してくれ」
「悪いお友達とお付き合いなされておいででしょうか」
「遊ぶ金が欲しいんじゃない。僕に友人の居ないことは知っているだろう?」
「それならば、旦那さまにお依頼なさればよろしいでしょう? わたくしのような下女に申し付けるなど言語道断です。サディック様はやんごとなき御身分のお方なのですから――」
ネトリーナはサディックを諭し始めました。彼女の化粧は、昼間のそれより心持ち念入りです。サディックには女心がわかりません。このままでは埒が明かぬと、サディックは真剣な表情をして、お説教を続けるネトリーナの肩を掴み言いました。
「僕は、この家から出ようと思っているのだ。そのための金を貸して欲しくて、君を呼び出した。僕には君しか頼れる人がいない。借りる金はここから遠く離れた土地で働いて稼いで返す。
そうでなくとも僕の居なくなった後、サディックがむりやり奪い取ったと言って親父に請求しても良い。色を付けたってかまわない。ともかく、今の僕にはまとまった金が必要だ。一刻も早く旅立たねばならないのだ」
ネトリーナは虚を突かれてしばし口をぽかんと開けていました。そうして見る見るうちに頬を赤くしてあたふた手を振ったかと思うと、今度はさっと顔中を青ざめさせてうつむき、震える指で女中服のスカートを掴み、弱弱しい調子で言葉を発しました。
「わたくしの奉仕に、何か至らぬ点がございましたのでしょうか。愚鈍なりにも精いっぱい尽くしておるつもりでしたけれども、サディック様がそうおっしゃられるのなら、やはり、どこかで粗相をしておりましたのでしょう」
サディックは慌てて弁解しました。
「違う、違うのだ。君の仕事に不満は全くない。ただ僕は、その……」
サディックは口ごもりました。姉さんのことが耐えられなくなった、と彼女に話してしまえば、自分はともかく、姉の名誉まで穢すことになります。けれども幼なじみの悲痛な面持ちを見て、やはり正直に言わねばと決意しました。
「マジェーネ姉さんだ」
ネトリーナがはっと声を漏らして口元を覆いました。
160 :
姉ぎらい:2008/02/14(木) 06:16:15 ID:vjOmCsbE
サディックは続けます。
「この家に居るかぎり、姉さんが僕にべたべた纏わりついてくる。僕にはそれが我慢ならない。なぜかは解らないけれど、姉さんの振舞いは、どうしてか、とても気持ち悪く思えるのだ。姉弟愛ってやつだろうか。
姉さんは、昔から僕の世話を焼きたがって、隅から隅まで口を出す。衣食住のお世話、それはまあ許せる。僕は自分ひとりでは何ひとつ出来ないから誰かが手伝ってやらなければいけない。
そばを離れない、それも結構。僕みたいな人種はいちいち危なっかしくて監視がないと何をやらかすやら。しかし、世話を焼くといったって限度があるさ。
どこの世界に弟の便の世話までやりたがる姉がいる? しょっちゅう抱きついて離れないのはどういうことだ? お陰で僕の服から姉さんの臭いが消えない日はない。
僕は、もう十八だ。姉さんだって、二十歳になった。いつまでもじゃれ合う子供じゃいられない。
ましてや、姉さんは嫁入り前。肉親とはいえ他の男にそんなふるまいをしていたと知れば未来の連れ合いだって良い気分はしないだろう。僕は彼に不誠実な真似をしたくないのだ。だのに、姉さんは今だ僕と一緒に床に着きたがる。
何かがおかしい。姉さんは異常だ。いいや、僕のほうがおかしくなっているのかもしれん。姉さんの、僕への執着。
姉弟愛なんて上等甘美なものではなしに、もっと何か、歪な、おぞましい、肉親の愛情とはいえない……いけない、これ以上は、考えないほうがいいだろう。自意識過剰というやつだ。僕は姉さんの貞淑を疑いたくないし汚したくもない。
わかったろう、ネトリーナ。サディックはありもしないことを考えるほど追い詰められている。姉さんのそばから離れねば、気が違ってしまう。僕はこの家に居てはいけない。
今すぐにでも旅立たねば、姉さんはおろか、この家に関係するもの全ての名誉を汚してしまう。きちがいを出したとなれば家名に傷がつくのだ」
ここまで続けてサディックははたと気が付きました。頬が濡れているのです。
161 :
姉ぎらい:2008/02/14(木) 06:17:48 ID:vjOmCsbE
恥しいやら情けないやら、慌てて後ろを向いて顔を擦りました。湿った袖をズボンで拭い、サディックはネトリーナに向き直ります。
「すまない。今の僕はどうかしている。おそらく、酒に酔っているせいだ。それか疲れているのかもしれない。ネトリーナ、僕が言ったことは忘れておくれ。酔っ払いの戯言なんて、覚えていてほしくない。君に金をたかったことも。
僕のような無用人が家を出るなんて大層なこと出来るわけない。僕はずっと、ここで人の世話になってでしか生きていけない。僕はもう眠るとするよ。手間をかけさせて悪かったね。さ、もう行っておくれ」
サディックはこう言って硬く口を結びベッドに腰掛けてうなだれました。ネトリーナは目を伏せていましたが、やがて、なにやら決意したらしく、手早くスカートの皺を伸ばして、青白い顔でサディックをしっかりと見据えて話し始めました。
「わたくし、いくばくかの蓄えがあります。このお屋敷で奉公を始めて以来、いつか必要になるかもしれないと少しずつですが貯めて参りました。心もとないですけれども、サディック様がお必要なされるのでしたら、御存分にお役立てください」
サディックは顔を上げて、ネトリーナを見つめました。
「本当かい?」
「はい。ですが、一つだけ我侭をお許しください」
「僕に出来ることなら」
「わたくしもお伴させていただきたいのです」
162 :
姉ぎらい:2008/02/14(木) 06:19:11 ID:vjOmCsbE
サディックは故郷の村から十里以上離れたことは一度もありませんでした。今のように列車に揺られることは初めての体験です。慣れない揺れで眠れずにいるサディックは、隣で眠るネトリーナに目をやりました。
見慣れた女中服ではなく質素な平服を着た彼女は、サディックの肩に頭を預けてすうすうと胸を上下させています。屋敷では纏められていた髪は下ろされて、淡黄の河となってサディックの胸まで枝分かれして伸び、朝日に当たり所々金色に輝いています。
このあどけなく眠っていても真っ直ぐ整った顔立ちを崩さない娘がいなかったら、サディックは今こうして列車に乗ることさえ出来なかったでしょう。彼はネトリーナに教えられるまで切符の買い方さえ解らなかった筋金入りの箱入りです。
あの時は反対しましたが、こうして実際外の世界に出てみると、やはり自分一人では何もできないのだなとサディックは痛感しました。
サディックが窓の方を向くと、花盛りを過ぎた菜種畑がうぐいす色のナプキンとなって広がり、その上に明け方の空が続いていました。朝日は列車の進行方向から差し込んでいます。
故郷の方角の空は瑠璃色で、次第次第にそれが山吹色に染まって行くにつれ郷愁の念がこみ上げて、サディックはぐすっと鼻をすすりました。
(とうとう僕は姉さんから離れてしまったのだ)
肩が揺れて、ネトリーナの髪からふわりと甘い香りが漂います。しかしサディックは指で鼻を擦ったきり、これが見納めと薄れて行く瑠璃色の残りかすを眺め続けました。列車は東に進みます。
以上、続きます。
内容は前スレ
>>707を参考にしています。
追撃が楽しみです
あとネーミングワロタ
俺の発言が話になってるw
感謝とともにGJ!
しかしネトリーナなんていう名前にワロタww
GJ
続きが楽しみで楽しみで仕方がない
こーゆーの大好きだ。GJ!!
168 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 11:45:28 ID:vXyLl4Zs
キモウトとブラコンの姉とシスコン(妹に)の兄がいたとします。
〜ここで質問〜 テレッ♪
どんな感じで兄がキモウトとLOVEってたら、ブラコンの姉はキモ姉に進化する事が出来ますか?
サディック=サド
マジェーネ=マゾ
ネトリーナ=寝取り
>>168 一例を挙げてみると…
キモウト(以下キ)「ねぇ、どうしたら私もお姉ちゃんみたいに胸が大きくなる?」
ブラコン姉(以下ブ)「その内大きくなるから気にしないの」
(姉Eに妹ギリB位)
シスコン兄(以下シ)「何の話してんの?」
キ「あ、な、何でもないよ」
ブ「胸がどうしたら大きくなるかだって」
キ「お姉ちゃん!?」
ブ『ふっ。弟は巨乳好きで有ることはリサーチ済。ここでポイントゲットね』
キ『お兄ちゃんの為に大きくしたいのに』
シ「いいよ。そのままで」
キ&ブ「えっ?」
シ「確かに俺は巨乳好きだが…妹よ。お前の魅力は胸の有る無しに関係ない!!
例え一向に成長しない胸でも、俺はお前の胸が一番だ!!」
キ「お兄ちゃん…(ポッ)」
ブ「…………………(認めない、こんな現実認めるものか!!)」
とまぁ本来の自分をまげてでも相手への執着を見せられたら…
バレンタインネタに期待
投下します。
その晩、遥は寝付けずにいた。
康彦と相談しているという、自分と同じ学校に通う人物に心辺りがなく、モヤモヤとしていたからだ。
康彦が名前を知らないのは、相手が名乗らなかったという事で、
”二人”を通じての関係なだけで、気にする必要はない、
そう、自分に言い聞かせてみても、何か得体の知れない不安が消える気配がない。
「礼儀正しい子か…」
智佳が言ったキーワードを頭の中で繰り返す。
遥の通う女子高は私立であり、遥の様な特進組(一定以上の成績が必要だが、学費が公立より免除される)を除けば、小学校からのエスカレーター組が基本であり、
育ちの良いお嬢様が多い。
礼儀正しいと言える生徒も少なくない。
「1番に当て嵌まるのは久美何だけどなあ」
溜め息混じりに遥が同級生の名前を呟く。
同級生相手にも敬語を使い、決して粗野な振る舞いを見せない久美は、確かに、”礼儀正しい”と言う言葉に相応しい。
だが、遥は久美が、自分以外の誰かと親しく喋っているのを見た事がない。
それだけで全てを判断する訳にはいかないだろうが、それでも久美は人付合いの苦手な、内気な人物としか、遥の眼には写っていない。
そんな人物と康彦との接点は自分ぐらいしか思い付かないし、
遥が知る限り、二人が会った事は勿論、久美にしても康彦の事は知らないハズだ。
「あぁ、もう!」
纏まらない思考に、いらつきの声が出る。
兄貴は何時も他人の問題を抱えてくる、
遥はつくづくそう思う。
「もっと、私を…頼って!」
出来れば眼の前で言ってやりたい台詞を口にしてみた。
それを康彦に言ったところで意味がない事は、遥にも良く分かっている。
今回も自分だけで解決するつもりだろう。
せめて、名前の知らない人物が、康彦を狙う泥棒に化けない事を、遥は願う。
「いざとなったら…始末しないとな…」
憂鬱な遥の声が小さく響く。
相手が誰であれ、康彦を狙う人間を許す気はない。
楓を手にかけるその前から、遥の気持ちは後戻りに出来ない所に来ている。
問題はその手段だ。
楓の時は、時間を掛けて、性格から趣向、行動パターンを調べ上げてから実行した。
その間に、康彦と楓の関係を見せ続けられた遥の苦悩は筆舌に尽くし難いものがあった。
だが、その甲斐があったのか、誰に見られる事もなく、人込みに紛れて事を遂行できた。
少なくても遥と智佳はそう考えている。
事実、この事故の件で警察が二人をマークしたり、事情を聞きに来たりする事はなかった。
一度上手くいったとはいえ、この時の事をもう一度繰り返したら、遥は自分が発狂するだろう、と思う。
「早めに手を打たないとダメかな」
今はまだ、康彦は相手の事を気にかけてないし、相手もそうだろう。
今の内に康彦を自分の物にすれば良い。
その為には、不本意であっても智佳の手を借りなくてはならない。
「まだ、私だけの兄貴にはならない…か」
「今は人手に渡らない事を第一に考えるべき」
「何時かは、自分だけの物に出来る」
遥は自信を持って、そう言った。
土曜、お祭りの日。
その日からしばらくは今まで以上に智佳と協力する事になる。
決勝の舞台に立つその日まで。
2
「だーかーら!土曜に決めるコト、決めちゃいなって!」
電話越しに早紀が怒鳴る。
電話相手は無論の事、鈴だ。
「でもぉ…」
「でもぉ…じゃない!
相手の居所が掴めてるのに、何もしない手はないでしょ!」
さっきからの繰り返しになる言葉を、説教する様に鈴に言う。
何度同じ言葉を繰り返そうが、鈴は何かに躊躇するかの様、まるで怯えているかの如くに、中途半端な返事を返す。
「あんた、ホントに先輩のコト、好きなの!」
溜まりかねた早紀が、罵声に似た声で聞く。
「好きだよ!」
間髪入れない鈴の返事。
「二人っきりになりたいし、色々されたい!」
「出来れば最後まで寄り添っていたい!」
「だったら…」
「だからぁ…」
途中までは威勢の良かった鈴の言い方も、最後には萎れていく。
そんな鈴の態度に、早紀は付き合いきれなくなり、
「とにかく、その日は私も付き合って上げるからね!」
とだけ言うと、強引に電話を切った。
電話を切った後に、
「ったく、あの子だけは臆病過ぎるんだから」
と、早紀が愚痴る。
「男なんて単純なモノなんだか…」
「お姉さん、お話しは終わりましたでしょうか?」
「エッ!あ、あぁ…
久美!」
鈴の事で思案に耽っていた早紀は、久美に声をかけられて慌てた。
普段、この妹が自分に話し掛ける事など、殆どないのだから。
「ど、どうしたの?」
慌てる内心を抑えながら早紀が聞く。
「いえ、ご迷惑でなければ、相談に乗って頂きたいのですが…」
「相談?私で分かる事なら聞くよ?」
遠慮がちに言う久美に、早紀は珍しげに答えた。
「で、その兄ってのをどうにかしたいワケね?」
「そうです。あのお兄さんさえ、何とかなれば二人が幸せになれるのですから」
久美の相談は、姉妹恋愛している二人の邪魔をする兄を、どうするべきか、と言うモノ。
「うーん…、どうにかって言われても、ね」
早紀は頭を抱える。
同性愛の上に近親相姦など、早紀の理解の外にある。
「お姉さんなら、男性経験が豊富ですから、良い智恵が浮かぶかと」
どこと無く侮蔑を含んでいるような、久美の言葉に、早紀は憐憫の眼差しで応える。
確かに、早紀は今までに何人かの彼氏がいたコトがあるが、
それは普通の恋愛であり、人に恥じるモノとは考えてないからだ。
逆に出会いそのものがなく、変な妄想に駆られる久美が哀れに思えるからだ。
「普通は、彼女の一人でも出来れば、妹になんか構わなくなるだろうけどね…」
呟く様に言った早紀の一般論、
それに久美が意外な反応を見せた。
「生き贄…ですか」
「はあ?」
飛躍した久美の言葉に、早紀の口から間抜けな声が出た。
そんな早紀を気にするコトもなく、久美は、
「それが良いかもしれませんね…」
と呟くと、
「良い事をお聞きしました」
「吉日を選び、実行しようと思います」
と言ってから、早紀に深々と頭を下げると、小走りで自分の部屋に帰っていった。
「姉妹じゃなかったら…近付きたくないな」
一人残された早紀は、そう呆れる他になかった。
「ふっふふ、その手が合ったんですよね」
部屋に戻った久美が一人、笑いを漏らす。
生け贄、その言葉が久美に興奮をもたらしていた。
あの姉妹の為に、その身を犠牲にする役割は自分しか出来ない、
その事が久美の気持ちを更に高ぶらせる。
そして、その中に久美自体が気付いていない感情がある。
この身を捧げる相手に対しての気持ちだ。
初日に顔を合わせた時に相手は自分の存在を認め、その話を受け止めた。
翌日に電話で話した時には、想像以上に自分をさらけ出し、見せていた。
連絡が通じなくなると、二人の事だけでない不安に襲われていた。
そして今日、その姿を見た時に、安心と喜びを得る事が出来た。
それらが何を意味するか、
久美には分からない。
男女の恋愛を不潔と考える久美は理解しようともしないだろう。
ただ、歪んだ想いが、二人の為と言う大義名分を持って、彼女を突き動かすだけ。
「神前にて、生け贄を捧げるのが筋でしょう」
カレンダーを見ながら、久美が呟く。
それに絶好の事が土曜にある、
その日に久美は自分の考えを実行する事を決意した。
投下終了です。
gj
久美かわいいよ久美
グッジョブ!
最近
風呂の後や着替中に姉がチンコ揉んでくるわ…
就活でイライラしてる俺を和ませようとしてるのかな?
>>183 貴様のチンコなどもぎ取ってくれるわ!(クラウザーさん風に)
チンコもみもみ〜て歌流行ったな
バレンタインなのに、誰からも、チョコがもらえなかった・・・
キモウトかキモ姉がいたら・・・
ちくしょう、ちくしょー!!!!(セルみたく叫ぶ)
セルwwww
妙に青ざめたキモウトからもらったチョコレートは…何故か血の味がしたりするのか
>>180 久美は無自覚泥棒猫か
土曜はマジで目白押しだなぁ
GJ!
全10レス投下します
ぎりぎりバレンタインに冒頭だけ間に合った
(投下終わるのは日付をまたぎますが……)
非エロ、なんだか竜頭蛇尾気味
まあ季節ネタということでご勘弁
午前七時十五分――
部活動の朝練はすでに始まり、一般の生徒が登校して来るには少し早い時刻。
昇降口の二年生の下駄箱の前に、一人の女子生徒の姿があった。
扉付きのボックスの一つ一つに掲げられた使用者の名前を指で追っている。
「……二年B組……おがわ……おがわ……」
ショートボブの艶やかな黒髪。
何かに驚いているみたいな、ぱっちりと大きな眼は生まれつき。
リボン結びにした白いマフラーで、ぷっくらした桜色の唇が見え隠れしている。
美人というより可愛いタイプだが、同じクラスの男子を問い詰めれば最低二人は彼女のファンがいるだろう。
一年A組、小川千代子(おがわ・ちよこ)。
「……おがわ、あった」
自分と同じ『小川』の名前が掲げられたボックスの扉を開ける。
中には薄汚れてくたびれた上履きが一足。
「ふふっ……ふふふふ……」
マフラーの下でほくそ笑む。
同じクラスの男子が見たら確実に「ドンびき」だろう。眼をぎらぎらと輝かせて。
千代子は、ポケットから瞬間接着剤のチューブを出して蓋を開け。
扉の縁(ふち)と、ボックス側の縁に塗りたくった。
「うふふふぅ……これでよし」
ぱたんと扉を閉める。
そして一呼吸置いて、扉の把手に手をかけるが、もう開かない。
「うふふふふ……下駄箱に鍵をかけないお兄ちゃんが悪いんだからね……」
蓋を閉めた瞬間接着剤をポケットに戻し。
いま閉じたばかりの下駄箱のボックスの扉に手を当て。
それを見つめる眼に熱を込め――
顔を近づけ、ちゅっとキスをした。
「うふふふ……グロスの跡、残っちゃったかな? まあいいよね」
下駄箱の前を離れて、
「次は教室……お兄ちゃんの机は窓際だから場所はわかってるよ……外から覗けるものね……ふふふ……」
つぶやきながら、二年生の教室に向かって歩き出した。
午前八時二十五分――
「……ああっ、くそっ! 朝からロクな目に遭わねえっ!」
小川克彦(かつひこ)は教室の自分の机に突っ伏した。
その足元は担任から借りた来客用のスリッパだ。
「久しぶりに一人で気持ちよく目覚めたと思ったら時計が三十分遅れてやがるし」
「ふむふむ」
前の席の桃山記信(ももやま・のりのぶ)が苦笑いで相槌を打って、克彦は髪を掻きむしり、
「こんな日に限って妹のヤツは先に出かけてやがるし」
「ほうほう」
記信が相槌を打ち、ぱたりと克彦は力を抜いた手を投げ出して、
「いつも布団に潜り込んで来たり、濡れた布切れ顔に押し当てたりロクな起こし方しねえくせに」
「それは何で濡れたどんな布切れだろうね」
「知るか。たぶん台所のふきんだろ何か匂ったし。ったく肝心なときに使えない妹だ」
「そうかな? 朝昼晩と料理はするし洗濯も掃除もしてくれるし話を聞く限りよくできた妹さんに思えるけど」
「大掃除とかほざいて勝手に俺の部屋の押入れ漁ったり、晩メシにホットケーキ焼いたりしなけりゃな」
「ホットケーキはべつに悪くないだろう」
「よくねえよ。たっぷり生クリームまで添えやがって」
克彦は顔を上げ、恨みがましい眼で記信を見て、
「それがメインディッシュだぞデザートじゃねえぞ? ちなみにデザートはオレンジムースだ、あり得るか?」
「でもちゃんと食べてあげてるんだろう?」
「食うよ、ほかに食うものねえし食わなきゃもったいねえし」
「いいお兄さんだな克彦は」
記信は克彦の肩を叩いた。
「いつか千代子ちゃんの想いも君に届くだろう」
「そりゃ逆だろ。俺は兄貴として妹が真人間になってほしいと願ってるんだ。いや千代子の話はともかくだ」
「ふむ?」
「ぎりぎりバスに飛び乗って学校に着いたと思ったら下駄箱にイタズラだ。俺いつからイジメられっ子?」
「確かにやりすぎだね、接着剤で扉を開かなくするなんて」
「担任のアホは遅刻遅刻わめいていくら説明しても理解しねえし」
「それはさっき謝りに来たじゃん先生も。職員室に帰りがけに昇降口に寄ったら克彦の言う通りだったって」
「けらけら笑いながらな。バレンタインにとんだプレゼントだなとか何とか……くそっ!」
どんっと克彦は机を叩く。
「どこのクソ野郎だ、ぜってえ許せねえ。俺への嫌がらせ自体はこれが初めてじゃねえけどな」
「そうだっけ? ほかに何かあった?」
「あっただろ一学期の初め頃にはさ、俺が妹にラブラブのシスコンだとか妙な噂が流れたこと」
「それ一年近く前じゃん」
「いや噂自体は二学期まで尾を引いてたぞ、文化祭で一年の知らねえ女子に指差されて変態呼ばわりされたし」
「お気の毒様」
「気の毒ってもんじゃねえぞ。千代子まで巻き込むなんて許しがてえ」
「やっぱりいいお兄さんなんだな克彦は」
よしよし、と頭を撫でてきた記信の手を、克彦は払いのけ、
「いや俺が腹を立ててんのはそういう噂が千代子を調子づかせることだよ、面白がって俺にベタベタしてきて」
「お昼のたびに教室に押しかけて来てたねそういえば。でもそれが有効な反撃だと言ってたんだろう?」
「本当に仲がいいところを見せつければ悪い噂を流したヤツは悔しがるだろうって、どこまで本気なんだか」
「その一件と今回の件が繋がってるのか僕には何も言えないけどね」
記信は言って、鼻をひくつかせ、
「それより何か匂わないかい?」
「……え?」
克彦も辺りを見回しながら、くんくん匂いを嗅いでみる。
「そういや……何だこれ小学校の掃除のときよく匂ったような」
「ちょっとごめん」
記信は克彦の制服の袖を引っぱり、その匂いを嗅いだ。
「克彦のほうから匂うよ。制服じゃないみたいだけど」
「俺がクサいってか? 新手のイジメかそれはまた?」
克彦は自分の周りを見回し続け――
「……ああっ!」
机から何かをつまんで引っぱり出した。びしゃりと湿った音を立て、それが床に落ちる。
記信が眼を丸くして、
「なに、雑巾?」
「牛乳染み込ませた雑巾だ! 匂うわけだよ、くそッ!」
克彦は腹いせに机を蹴りつけた。
午前十時十分――
「……粋なことしてくれるよね先生も」
千代子は、にこにこしながら言った。
「せっかくのバレンタインだから調理実習は手作りチョコに挑戦、なんて」
「溶かして固めるだけで何が調理だか」
桃山千晶(ちあき)は仏頂面で、
「見ろよ男子どものモノ欲しそうな顔。あいつら女子の誰かに試食させてもらえるもんだと期待してやがるぜ」
「クラスの男子なんて男同士で試食し合えばいいのよ」
にこにこ笑顔のまま千代子はきっぱりと言った。
「せっかくの手作りだよ。しかも試食という口実なら恋人未満の本命候補に渡しやすいでしょ?」
「んな相手いねーよ」
「いないならお兄さんに渡せばいいじゃない? きっと喜んでくれるよ可愛い妹からの手作りチョコ」
「勘弁しろ。これ以上、アイツを誤解させてどうすんだ?」
千晶は吐き捨てる。
一、二時限通しの調理実習の時間。
その終わり近く、生徒たちはチョコレートが冷蔵庫で固まるのを待っているところだ。
並んで席に着いている千代子と千晶は、小学校から一緒の親しい友人同士だ。
千晶は塩素で黄色く焼けたベリーショートの髪に、艶やかに日焼けした褐色の肌の水泳部員。
つけられているあだ名は「孫悟空」。
しかし長身で顔立ちは凛々しく異性からも同性からも人気が高い。
「バレンタインなんて去年ので懲りてるんだアタシは」
千晶は苦々しげに言った。
「中学の水泳部の後輩たちからもらったチョコ、アタシ甘いのダメだからアニキにやったら何を勘違いしたか」
「妹からの本命チョコと思って大喜び」
くすくす笑いながら千代子が言って、千晶は眉をしかめる。
「どう誤解したらそう思い込むんだ? アニキと妹だぜ、おかしいだろ? しかも数人分まとめて渡したのに」
「一人でたくさんチョコ渡しちゃうくらい深い愛情と思ったのかな?」
「やめろキモイこと言うの。血迷ったアニキに抱きつかれたときはマジ貞操の危機覚えたぞ」
「……ちっ、あと一息だったのに記信さんってば」
「小声でなに言ってやがんだ千代子テメェ。アタシそういうアブノーマルなネタは受け入れられねーんだ」
「とか言ってBLは大好きなくせに。ウホッなアニキは許せても実のお兄さんはダメなんて記信さん可哀想」
「千代子こそどうするんだ? さっき『LOVE』って書いたやつ試食させるの、やっぱ兄貴に?」
「うちは渡せば素直に食べてくれるからね。その意味でありがたくも物足りなくもあるけど」
「妹のアブナイ冗談を大らかに受け止められるほどオトナってことだろ」
「まっすぐな愛情に気づかない鈍感な子供ってことだよ」
千代子が言ってのけたところで、生活科の教師が手を叩いて生徒たちに呼びかけた。
「そろそろ固まったと思いますので、一斑から順に冷蔵庫にチョコレートを取りに行ってくださーい」
午前十時二十五分――
調理実習室前の廊下で、千代子・千晶たち一年A組の生徒と、克彦・記信たち二年B組の生徒がすれ違う。
「あれえっ、千晶?」
最初に相手に気づいたのは記信だった。大きく手を振り、自分の存在をアピールする。
「おおいっ、千晶ぃ! それにチョコたんも!」
「恥ずかしいだろデカい声出すな記信おまえ……っつうかチョコたん呼ばわりやめろ、ひとの妹を」
「あっ、お兄ちゃん! それに記信さん!」
「ったくバカアニキ……」
ツッコミ入れる者、手を振り返す者、頭痛を感じたように額に手を当てる者。
周りの生徒が二組の兄と妹を見て、くすくす笑う。
「まさかお兄ちゃんたちのクラス、次が調理実習?」
千代子が訊ねて、克彦は仏頂面で頷き、
「チョコレート作りだと。女子は盛り上がってるけど男には空しいぞバレンタインに自分でチョコ作れなんて」
「うちらのクラスの男子は女子の誰に試食させてもらえるかでアホみたいに盛り上がってた」
千晶が言って、記信は朗らかに笑い、
「で、千晶は誰かに試食させたの? まだ残ってるなら僕も味見……」
「全部食べた」
「……え?」
「少し千代子にあげて、あと全部自分で食べた」
「そ……そっか……」
記信は笑顔を引きつらせながら、ちらりと千代子を見た。
千代子は苦笑いで詫びるように片手で拝んでみせる。
「そっか。せっかくの千晶の手作りチョコ、食べたかった男子も大勢いただろうに、残念がってるだろうなあ」
記信は爽やかな笑顔を窓の外の空に向けた。
「僕のチョコは家まで持って帰って、千晶に味見してもらおうかなあ」
「アタシが甘いのダメなの知ってんだろ? 自分のは我慢して食ったけど」
「そっかそうだっけ……あはははは」
記信は顔は窓に向けたまま頭を掻く。
その瞳が潤んでいることに気づいたのは千代子ひとりだ。
「……お兄ちゃん」
千代子は克彦に向き直った。にっこりと笑顔で、
「今朝は先に行っちゃってごめん。でもちゃんとお兄ちゃんのお弁当は千代子が作って持って来てあるから」
「そうなのか? 弁当無しのつもりで昼に学校抜けて牛丼屋に行く約束したぞクラスの奴らと」
「それと同じことやってついでにパチンコ行ったのバレて停学になった人いたでしょ、こないだ」
「俺らはパチンコまで行かねえよ金もねえし」
「でも学校抜け出すだけで疑われるよ」
「わかったよ。牛丼屋はキャンセル。弁当あるなら食わねえともったいねえしな」
「いいお兄さんだなあ……克彦は……」
空を見上げたまま記信がつぶやき、千晶がしかめ面で、
「チョコ断ったアタシに当てつけかよ」
「それと、これ」
と、千代子はアルミホイルに包んだ何かを克彦に手渡した。
「お昼の前におなか空いたらこれ食べて。ほかには間食しちゃダメ。せっかくのお弁当が美味しくなくなるし」
「おまえの作ったチョコ?」
「うん。試食して」
「まさかハート型で『LOVE』とか書いてあんの?」
「『FROM』と『TO』は書いてないから誰かに見られても平気でしょ」
「いや他人の眼も問題だけどそれ以前に妹から『LOVE』なハートチョコもらうなんてどうよ」
「妹以外からは義理チョコさえもらえる見込みのない人は贅沢言わないの」
にこにこ笑顔のまま千代子は言って、克彦は渋い顔になり、
「いやおまえそう言っていつもバカにするけど俺だってなあ……」
「何度かラブレターもらったことあるのは知ってるよ。妹ラブな噂が流れる前の一年生の頃に」
千代子は言って、にっこりとする。
「でも待ち合わせ場所に行ったらすっぽかされたり、ヤンキーの皆さんが待ち構えてたりと全部イタズラ」
「うわあ古傷を抉ってくれるわあ。でも中学の頃は……」
「彼女がいたこともあるけど最後は理由も告げられずに振られたんだよね?」
「傷口に塩まで擦り込みやがりますかこの妹は。チョコにも砂糖の代わりに塩を混ぜてねえかおまえ?」
「心配だったらちゃんとお兄ちゃん自身で試食してね。一人で全部、誰にも分けないで」
「わかったよ。おまえも手作りチョコ渡す本命の相手はいないってことだろうし」
「可哀想に思うならお兄ちゃん本命になってよ。千代子はいつでもオッケーだよ」
「どぎつい冗談マジ勘弁しろ。せっかくシスコンの噂も収まってきたのに」
「じゃあ、またお昼にね」
「あ、待ておまえ、弁当なら俺が取りに行くぞどうせ調理実習の帰りがけだし」
「それだと余計に噂が広まるよシスコン兄貴が妹の教室まで押しかけたって」
「おまえがうちのクラス来ても一緒だろ。というかおまえの目的は俺らと一緒にメシ食うことかもしかして?」
「そうだよだってお兄ちゃんが千代子の教室に来てもお弁当を受けとったらすぐ帰る気でしょ?」
「おまえのそういう行動があらぬ噂を助長するんだぞ」
「千代子はブラコンの噂が立っても困らないのに、どうしてお兄ちゃんばかり後ろ指差されるのかね?」
にっこりとして千代子が言って、克彦は仏頂面で吐き捨てた。
「知るかよ。同じ兄妹で俺だけご先祖様の因縁が祟ってるわけでもねえだろうし」
午後十二時十分――
「そろそろチョコが固まったと思いますので、一斑から順に冷蔵庫に……」
と、生活科の教師が言いかけたところで、教頭の声で校内放送が流れた。
「(ピンポンパンポ〜ン)……二年B組の小川君、小川克彦君。至急職員室まで来て下さい……」
調理実習室じゅうの生徒たちが克彦に注目する。
「えっ……俺?」
克彦は自分の顔を指差しながら席を立った。
その数分後――
「……失礼しまーっす」
と、克彦は職員室に入った。
まだ四時限目の授業が終わっておらず、広い室内に四人ほどの教職員の姿しか見えない。
奥の行事予定記入用の黒板を背にした机に向かっていた教頭が克彦に気づき、手招きした。
「小川君か? きみ宛てに電話が入ってるんだがとりあえずこっちに来てくれないか」
「俺に電話……ですか?」
克彦は教頭のそばへ行く。
電話は受話器が机の上に置かれ、保留メロディーが流れていた。
「きみのお父さんの勤め先の方とおっしゃってるんだが、ご両親はいま海外だったね?」
教頭に訊かれて克彦は頷く。
「商社……っつっても食品専門の小さい会社ですけど、そこに勤めてる親父が長期出張でお袋も連れて」
「電話の相手の方はご家族のことで至急きみと話がしたいとおっしゃってるんだ」
「俺だけですか? 妹には?」
「それは何もおっしゃってない。私も事情を訊ねてみたが相手の方はまずきみと話がしたいと……」
「電話に出てみます。出なきゃしょうがないですもんね」
克彦は受話器をとった。教頭が電話機に手を伸ばし保留解除のボタンを押す。
――つーっ、つーっ、つーっ……
「……電話、切れてますけど……」
「そうかね? 相手は携帯のようだったし声も遠かったから切れてしまったのかな?」
「お袋の携帯にかけてみます。電話借りていいですか?」
克彦はポケットから自分の携帯を出して登録済みの母親の携帯番号を調べ、学校の電話を使ってかけた。
呼び出し音。やがて相手が出た――
午後十二時二十五分――
「……イタズラ電話ぁ?」
記信が眼を丸くした。二年B組の教室。
机に突っ伏した克彦は、頷くようにぴくりと頭を動かし、
「お袋に確認しようと思って電話かけたら大目玉。オペラ鑑賞中だったとか知るかこっちも大迷惑だっての」
「学校まで巻き込むなんて、さすがにやりすぎだよね……」
「下駄箱の件もあるし教頭に真顔で心配されたぜ。きみイジメに遭ってるのか悩みがあれば相談に乗るぞって」
「克彦は何て答えたの?」
「チョコレートコレクターの俺に嫉妬した誰かの嫌がらせでしょうワッハッハ」
「……それ自分で言ってて空しくなかった?」
「イジメられてますとか認めるよりマシだろ。っつうかマジ殺す誰か知らねえけど殺す犯人を」
「その意気込みがあればイジメの標的になることはないだろうね克彦は」
「……だけどわかんねえことがあって」
克彦がつぶやくように言って、記信は訊き返す。
「え?」
「学校に電話して来たの若い女らしいんだ。あとで思えば生徒でもおかしくないくらい若かったって教頭が」
「女が嫌がらせしてるっていうの? 男が誰か知り合いの女に頼んでるのかもよ?」
「あと親父の会社の名前も出してたって。うちの両親が海外にいるのは学校でも知られてるけどさ……」
「親父さんの会社がどこかまでは知らないだろうってか。でもそれは千代子ちゃんルートもあるし」
「千代子が話したのを聞いたって? そしたらそいつは千代子の知り合いだろ。何で俺に嫌がらせ?」
「例えばの話だけど、千代子ちゃんに片想いしてる男が克彦に嫉妬してとか」
「あいつがそんなにモテるのかよ」
「モテないと思い込んでるとしたらそれ克彦の油断だよ。そのうち千代子ちゃん盗られちゃうよ」
「むしろノシ紙つけて差し上げたいくらいだ。そしたらようやく俺の時代だ」
「千代子抜きのお兄ちゃんの時代って、それって氷河期?」
いつの間にかそばに来ていた千代子が言って、克彦は顔を上げた。
「……おう、マイ弁当!」
差し出された克彦の手から、携えて来た弁当の包み(何故だかデカい)を遠ざけて、
「お兄ちゃん、まずチョコの感想は?」
「食ってねえよ食う暇あるわけねえ」
「え?」
眉をしかめた千代子に、記信が笑って、
「学校にイタズラ電話がかかって来て呼び出されたんだよ克彦。四時限目が終わる間際に放送が流れたろう?」
「千代子トイレ行ってたから知らない」
「……トイレ?」
訊き返す克彦に、にっこりと千代子は微笑み、
「女の子の事情だよ。でもなんだお兄ちゃん千代子のチョコも食べなかったんだ?」
「実習の終わりに周りがみんな試食してるとき俺も食おうと思ったんだけどな目立たねえように」
「堂々と食べてくれればいいのに可愛くできた傑作だよ」
「だとしたら余計に恥ずいだろ『LOVE』なハートチョコなんて」
「まあいいか、いまここで食べてもらえば千代子の見ている前で」
にこにこしながら千代子が言って、ぎょっと克彦は眼を剥いた。
「教室でかよそれは勘弁しろ」
「食べてくれないなら晩ご飯抜きだよ。お弁当のあとのデザートでいいからさ、はいこれお弁当」
千代子は克彦の机に弁当を置いた。
包みを広げると中身は三段重ねの重箱だ。
「ちなみに千代子も一緒に食べるからお弁当箱は一緒にしたよ。ごはんはおにぎりだから二人で分け合おうね」
「一緒に食うのは仕方ねえけど弁当箱は別々でいいだろうに」
「それじゃ洗い物が増えるでしょ。家事をする身にもなってよね」
「三段の重箱のほうが洗うの大変じゃねえのか?」
「……あのー、ところで千代子ちゃん」
記信が手を上げながら、恐る恐るといった様子で口を挟む。
「千晶は連れて来てくれなかったの?」
「千代子が教室に帰ったときはいなかった。千代子とお昼一緒じゃないときはいつも水泳部の女子部室だよ」
「あ……そう」
がっくりとうなだれた記信に、くすくす千代子は笑って、
「いまごろ女子部員の仲間からチョコレートのプレゼント攻勢かも。上級生にもファンがいるからね千晶には」
「僕……女の子たちに嫉妬していいかなあ?」
「嫉妬の対象が違うだろ。チョコもらいまくりの千晶ちゃんが羨ましいんじゃなくて?」
克彦が呆れ顔で言った。
午後三時十分――
帰りのホームルームが終わって担任が出て行くと、入れ替わりに千代子が教室を覗き込んで来た。
克彦の姿を見つけて、にこにこして呼びかけてくる。
「お兄ちゃん、帰ろーっ」
「……げっ、あいつ帰りまで押しかけて来やがった」
渋い顔をする克彦に、記信が笑って、
「心配なんだよ、きょうは特に」
「は? きょうはって……」
「いやほら下駄箱のこととか電話のこととかいろいろあったから」
「んなもん千代子に心配されても仕方ねえだろ」
「そう言うなって。お兄さん想いの可愛い妹じゃないか」
「なあ、前から思ったけどおまえやたらと千代子の肩持つよな」
「えっ? そうかな……」
「おまえにお兄さんとか呼ばれるようになるのはくすぐったいけど、千代子に惚れてるなら俺に遠慮すんな」
「いやそれ誤解だから」
「そうだこの際、千代子とつき合って、シスコンの真似して千晶ちゃんからかうのは卒業しろ、なっ!」
にやにや笑う克彦に肩を叩かれて、記信は苦笑いで、
「それも誤解なんだけどなあ……僕のは真似でも何でもなく……まあいいけど……」
「お兄ちゃん、早く早く。いまなら一本早いバスに乗れるよ」
千代子が大きく手招きしてみせ、克彦は手を上げて応えた。
「待ってろ、いま行くから」
鞄を手に立ち上がり、記信の肩をもう一度叩き、
「いまなら千代子、本命チョコ渡す相手もいねえしマジおすすめ。そうだおまえが千代子と一緒に帰れ」
「僕は部活だって」
「ロクに活動してねえ新聞部だろ。いいじゃんサボっちまえ」
「遠慮するよ。千代子ちゃんとお兄さんの水入らずを邪魔するほど野暮じゃないから僕は」
「シスコン系のネタはヤメろ。きょうなら誰か殺せる気分だ」
「わかった悪かった、もう言わないよ千代子ちゃんのお兄さんを殺人犯にしたくないからね」
「テメェッ!」
「お兄ちゃんっ、バス間に合わなくなるよっ!」
千代子が叫び、克彦は叫び返す。
「わかったいま行くからッ! ……記信テメェあした覚えてろよッ!」
言い捨てて、克彦は千代子に駆け寄り、教室を出て行く。
それを見送り、記信は苦笑いでため息をついた。
「やれやれ。鈍感な兄貴で千代子ちゃんも苦労するよねえ……って僕も他人の心配ばかりしてられないけど」
記信はこれからクラブハウス棟にある新聞部の部室へ行くつもりだ。
三年生が引退して部員は自分一人となったが、記信はほぼ毎日、放課後は部室で時間を過ごしていた。
水泳部が活動を休む火曜日を除いて。
冬場でも水泳部はプールサイドで筋力トレーニングを行なっていた。
その様子が新聞部の部室から見渡せるのであった。
つまり記信の目的は、水泳部の――いや水泳部員である妹の千晶の練習風景を観察すること。
さらには千晶の姿を写真に撮ることだった。
千晶本人に知れたら逆上されて半殺しの目に遭うことは必至の記信のライフワークだ。
彼の写真技術は専門誌のコンテストに何度も入選して、写真部から勧誘を受けているほどである。
残念ながらコンテストでの被写体は千晶以外だったが――妹からはモデルになる許可をもらえないから。
鞄を手に教室を出て行きかけた記信は、戸口で一人の女子生徒と鉢合わせた。
「あっ、ごめん」
「いえっ、あのっ、ごめんなさいっ」
ぺこりと頭を下げてから、その女子生徒は教室の中をきょろきょろ見回す。
道を譲ってもらえないので記信は苦笑いだ。彼が温厚なのは克彦や妹の前だけの演技ではない。
女子生徒が、ぴょこんと顔を上げて記信を見上げた。
ずいぶん小柄な子だと記信は思った。髪形もお下げにして地味だが、よく見ると可愛い顔立ちではある。
「……あのっ、小川君はっ?」
「え?」
怪訝に訊き返した記信に、女子生徒は赤くなった顔を伏せ、
「あっ、あのっ、あたし美化委員会で小川君と一緒でっ、委員会の件でちょっと用事がっ……!」
「ああ」
記信は笑って頷いた。
確かこの女子生徒はD組の丘野彩(おかの・あや)とかいう名前だったと思い出す。
しかし美化委員で克彦と一緒だったとは初耳だ。克彦から彩についての話を聞いたこともない。
とはいえバレンタイン当日の放課後にわざわざ彼を訪ねて来るとは……
(泥棒猫、かな。千代子ちゃんに報告してあげないと……)
笑顔は崩さないまま、記信は胸の内でつぶやく。
千代子と記信は志を同じくする盟友だった。
すなわち、近親相姦を禁忌とする社会通念を乗り越えて。
千代子は兄への、記信は妹への、一途な想いを遂げること――
「克彦は妹さんと一緒に帰るって一年の教室に迎えに行ったよ。話があっても、きょうは無理じゃない?」
記信が穏やかな笑顔で言うと、彩は顔を伏せたままでさらに肩を落とした。
「そうですかぁ……失礼しましたぁ……」
ぺこりとお辞儀するように顎を引くとくるりと背を向け、とぼとぼと廊下を歩き去って行く。
(可哀想に……惚れた相手が克彦でさえなければよかったのに……)
できれば早めに彩が克彦を諦めることを、彩自身のために願わずにいられなかった。
午後三時半――
「盟友」と登録された差出人からのメールを読んでいた千代子が、ぱたりと携帯電話を閉じた。
バスの車内。二人掛けの椅子に克彦と並んで腰掛けている。
「友達からか?」
携帯電話のモバイルゲームをしながら克彦が訊ねて、千代子は「うん」と頷き、
「……お兄ちゃんっ!」
兄の腕に抱きついた。
「わあっ、ばか!」
操作をミスしたのだろう、克彦は舌打ちして、
「くそっ最高得点目前で……」
ぶつぶつ言いながら携帯を閉じ、ポケットにしまい込む。
「なあ、おまえ離れろよ」
「周りの目が気になる? お兄ちゃんと千代子が兄妹だと知らなければ普通にカップルだと考えると思うよ」
「兄妹だと知ってたらどう思うよ」
「いまさら何とも思わないよ。仲が良くて微笑ましいなくらい?」
「くそっ。シスコンの噂を広めたの、おまえ自身じゃねえだろうな。だいたいおまえが入学してからだし……」
「さーて何のことかなーっと……ふふっ」
くすくす笑って、千代子は兄の腕に頬ずりする。
「おまえっ、マジ離れろってっ!」
叫びながらも妹を振り払うような乱暴はできない克彦に、
「大きな声出したら余計に注目されるよ。バス降りるまでこのまま我慢……ふふふっ」
抱きついた腕に思う存分、頬ずりを続ける千代子。
家に着けば、そこから先は完全に二人きり。
今年のバレンタインは兄を泥棒猫から守りきって終わることができそうだった。【終わり】
バレンタインの投下に間に合わせるために
途中から駆け足で書いたので……
まあその
お読み頂いた方、ありがとうございました
バレンタインGJ!!
GJ!!すぎるう!!
学園物は大好きなので、続編希望です。
カメラ小僧の「記信」www
これは面白い兄妹w
先が楽しみなので
全裸でチョコバット作りながらwktkしてますね
前から気になってたんだけど、ここって女性とかも見てるのかな?(見てるとしたら、面白いのか面白くないのか…?)
いないだろ〜
男から見て『愛しのカレ☆』に共感しかねる部分があるように、女から見た血縁ヤンデレも
耐え難いものがあるのでは…。
でもやっぱり妹にストーカーされたい
やはりこのスレで角煮は「血縁」はでかいですよねぇ。義理だと普通に結婚してハッピーエンドが出来ちゃうし
義理でもまぁ、『普通』ではないけどね。
血縁・非血縁は好みが別れそうだし、連載中の作品もあるからあんまり…。
キモいほどラブしてくれるシスターズならエニィシング、何でもカモンだぜ!
短いですが投下します。
211 :
姉ぎらい:2008/02/16(土) 11:20:03 ID:bGppsMxG
善良すぎたために厭世主義に染まった男と潔癖でいささか小説趣味の女の夫婦は、生まれた子供たちを善良で幸福な人間に育て上げたいと思いました。彼らにはどのような教育でも実現できる富と地位がありました。
夫は、寄宿学校時代に友人たちから悪い遊びと上手に人を傷つける手管を学んだから、学校には行かせないことにしようと提案しました。
妻は、修道院に入れられていた頃お祈りの楽な仕方と折檻を耐え易くするこつの他に何ひとつ学べることが無かったので、修道院もよろしくありませんと答えました。
二人は悩みに悩んだ挙句子供たちをどこにもやらないで自分たちの手のみで教育することに決めました。そうして子供たちは誰にも知られず、また何ひとつ知らされずに、清らかな、しかし狭く薄暗い世界で育てられたのでした。
マジェーネは静かに目覚めました。悪い夢を見ていた心地がしました。薄ぼやけていた視界が晴れて未だ見慣れない天蓋の刺繍がくっきり現れると、冷え切った瞼がじわりと熱を持ちました。
マジェーネは跳ね起きてクローゼットに駆け出しました。中に掛けられている衣装を掻き抱いて目一杯その匂いを吸い込みました。が、感じたのは自分の香水の匂いばかりでした。
マジェーネは深い嘆息をもらして呼び鈴を鳴らしました。自室にある着替えを持って来させるためです。
朝食はしめやかに行われました。給仕の老僕が無口なのは相変わらずですが、今ではおしゃべりだった母も、口うるさかった父も、食事中朗らかに笑うことが多かったマジェーネでさえ黙々と食べ続けるだけでだれ一人としてものを言う人間はありません。
マジェーネの正面席にはナプキンの掛かった椅子がありました。両親は努めてそれを見まいとしています。
マジェーネは泣きました。この日は物置部屋の柱に傷があるのを見つけたからでした。柱には三本線が目盛のように一定の間隔を空けていくつか刻まれています。
一番下の三本線には上からN、M、Sの順でそれぞれ端に印されています。高くなるにつれてMとSの間が狭まり、真ん中あたりではN、S、Mの順番に変わって、目線ほどの高さになるとS、N、Mの順になっています。そこから上は何も刻まれていません。
212 :
姉ぎらい:2008/02/16(土) 11:22:28 ID:bGppsMxG
マジェーネは身分の差というものをよく理解しています。彼女にはもう一人の家族ともいえる少女がいました。少女とは十四のころから食卓を共にすることがなくなりました。
一緒に遊ぶことさえ禁じられて始めは歯がゆい思いをしましたが、書斎で外国語の書き取りをしていて気晴らしに窓に目をやったとき、少女が洗濯物を抱えて歩いているのを見て、こういうものだと納得したのです。
人間というものは皆同じでないことを知っているマジェーネでしたけれども、また同時にその垣根を越えることは偉業ともてはやされるのをこのごろ見知りました。今日では、弟と少女の二人は使用人たちの英雄です。
歴史学を教える年寄り家庭教師と中年の料理番はこそこそ話し合います。
「わしゃ常々あのサディック坊ちゃんにゃ見所があると思ってたんじゃ。あのお方は昔の豪傑と同じ才気がありよる。旧きよき貴族的風格ってやつよ。あんな思い切りのよさは今時の若いもんにゃ無い」
「ネトリーナ嬢ちゃんもなかなかどうして負けておらん。思い返せば立ち振る舞いにどこか貴婦人然としたとこがあった。あの顔立ちはどっかのお貴族様の血を引いとるやもしれん」
小間使いの女たちはもっとあけすけに物を言います。
「駆け落ちですよ駆け落ち。内気な女中とお堅い坊ちゃんが愛の逃避行ですって」
「ネトリーナも上手くやったわよね。あたしももっと媚売っとけば良かったわ」
「年考えなさい年を。でもこうなっちゃうとわたしらもそのうちネトリーナを様付けしなきゃいけなくなるのかしら」
「さすがにあの子はそこまであつかましくないでしょ」
「いえいえ、ああいった手合いが一番あぶないのよ。もしかしたら初めから」
「ああいやだいやだ。止しなさいよそんなこと。小説で終らせとくのが一番。それにしてもマジェーネ様よ」
「今ではお食事もほとんどお残しになられます。あんなにお痩せになられて、おいたわしや」
「大切な弟様が御逐電なされてしまったんですものね。そういえば、昔からあのお方はサディック様にべったりでしたわ」
「奥様もそれを御心配なされておられましたけれど、今度のことが良い機会かもしれません。そろそろお輿入れなされてもよいお年頃ですし」
屋敷のどこもかしこもそうしたささやきが溢れていますから、いたたまれないマジェーネは屋敷の裏にある人気の無い庭で日中を過ごします。
213 :
姉ぎらい:2008/02/16(土) 11:24:07 ID:bGppsMxG
客間の窓からは影となって見えない場所に植えられた菩提樹の下には一脚のぐあいが良い田舎風の腰掛が置かれています。マジェーネは独りそこに座り、本を読むでもまどろむでもなく、小さな写真を眺めて物思いに耽ります。
父は写真というものが嫌いでそういった類の品は屋敷に一つも置かないようにされているのですが、この色あせた写真はマジェーネがまだ小さなころ若い庭師がこっそり撮ってくれたもので、数少ない宝物の一つでした。
写真には、彼女とサディック、ネトリーナの三人が並んで写っています。小さなマジェーネは両手を後ろに組んで立っています。ネトリーナは愛らしい顔をかちんかちんに固めています。
サディックは不機嫌そうにそっぽを向いていますが、勇気付けるためでしょうか、緊張する隣の少女と手を握り合っています。マジェーネは写真を右手に持ち替えて、空いた左手をスカートの上に乗せました。
つるつるした表面を、親指がなぞります。ほんのり白くかすれて、幾度も擦られたのでしょうある部分は白地がむきだしになるほど薄れています。左手に力が入ります。
かくれんぼの鬼をすると夕暮れまで二人を見つけられないことがたびたびありました。お開きになるのはきまって泣きじゃくる彼女の前に手を繋いだ二人がいそいそ現れたときで、どこに隠れていたのか尋ねても二人は教えてくれませんでした。
熱を持つほど力を込めて指が往復します。白い部分は少しずつ広がって、とうとう亜麻色の髪までぼやけ始めます。左手はスカートをぎゅうぎゅう押さえつけます。
彼女の見ていないところで二人は微笑みあっていました。二人は寄り添って歩き、一度立ち止まって、どこか遠くの国の人と声を交わし、手を繋いでまた歩き出しました。
二人は宿に入って行きました。二人は亭主のからかいに赤らめた顔を見合わせました。二人は床に着き、しばらく黙ってじっとしていたかと思うと、ごそごそ衣擦れの音を響かせ始めました。
マジェーネの脳裏にその場面が現れたとき、澄んだ日差しが菩提樹の葉の隙間から差し込んで手首を照らしました。さっと温かみが差した弾みでマジェーネは自らを汚し終えました。
くたりと垂れた手からこぼれた写真には、手を繋いだ少年と少女のほかに、のっぺらぼうが写っていました。
サディックが危篤に陥ったという手紙が届けられたのは、マジェーネがこの自虐的できちがいじみた一人遊びを覚えてひと月ほど経ったときです。
以上です。
>>214 GJ!
投下直後にたまたまスレを覗けるとは幸運なり
GJです。
この後の3人の展開に期待。
投下します。
街がお祭りで盛り上がる土曜、
そんなお祭りなど無関係に、普段と変わらない時間が流れている店がある。
喫茶店『無銘』
康彦と鈴のバイト先であるこの店は、年輩の客が中心であり、”カップル祭”と呼ばれる今回の祭とは無関係な店だ。
「今日は静かですね」
「この祭とウチの店は関係ないからな」
客足が途切れた時間に呟いた康彦に、マスターが焦る様子もなく答える。
60歳を幾つか越えたこのマスター、見た目は頑固で気難しい感じだが、
周囲に反対されていた康彦の両親にとっては恩人に当たり、
また、家計を少しでも助ける為に、バイトを探していた高校時代の康彦を、色々と優遇しながら働かせてくれたりと、
面倒見の良い人だ。
「ヤス君は良かったのか?」
「何がです?」
マスターの唐突な質問に、康彦が手を止めてそちらを見る。
「今日のお祭りに出れなくてさ」
「出るも何も…」
「俺は相手がいないですから」
苦笑混じりに答える康彦、
そんな康彦の眼を見ながら、マスターは何か言いたかったが、その言葉を慌てて飲み込んだ。
代わりに”まだ、時は流れていないか”と、康彦に聞こえない様に、嘆きの呟きを漏らした。
マスターは康彦の事を良く知っている。
当然、楓という恋人がいた事、その恋人が亡くなった事も知っている。
そして、その死が康彦に深い傷を与え、今も康彦を呪縛している事も気付いている。
この日に康彦をシフトに入れなかったのは、彼なりの不器用なメッセージを込めたつもりだったのだ。
「ヤス君、最近の調子はどうかな?」
話題を変える為に、マスターが聞く。
「最近…ですか?」
「何時もと変わらず、のんびりやってますよ」
康彦が笑顔で答える。
事実、ここしばらくの康彦は、その前までの慌ただしさが嘘の様に、平穏な日々を送っていた。
あの女子高生からの連絡が途切れる事はない。
だが、”もしもし”の代わりに言ってくる、”二人の邪魔をしていませんね”を除けば、回数も内容も控え目だ。
なにより、保護者代理を自認する康彦にとって、遥の学校での様子を窺い知れるのは有意義だ。
もっともそれを聞く為には、この女子高生の愚痴や不満から、その日に感じた事を事細かく聞かされないとイケないのだが。
それでも、前日に電話をした時は、今日にバイトがある事を伝えると、”それは…好都合です”と、早めに電話を切ってくれた。
妹達二人は、もっと静かだ。
時折、二人で話し合いをしている様子はあるが、
以前みたくに、バイトで遅くなった時に多くの文句を言われる事はなくなった。
”二人の仲が順調に進展していて、自分の必要性が無くなってきた”
康彦はそう思う。
それならば、自分自身の責任を果たせるその日も近いのではないか、
そう考えると、康彦の心は今まで以上に穏やかになる。
「ヤス君!」
康彦の思考を遮る様にマスターが声を上げる。
「は、はい」
「何ですか、マスター?」
「あまり馬鹿な事は考えない方がいい」
慌てる康彦に、マスターが静かに言う。
康彦はそんなマスターの言葉の真意が掴めず、その顔を見た。
マスターは完全にではないが、康彦の心を分かりかけている。
康彦が時折に見せる何かを悟った顔、何にも執着を見せない”無欲”な態度、
若くしてそんな境地を見せた友人達がどうしたかを、
マスターは経験をもって、思い知らされているから。
「そ、そうだ!今日は妹達が来るかも知れないんですよ」
今度は、康彦が慌てて話題を変える。
「ほー、それは楽しみだね」
二人の事も知るマスターは目を細めた。
マスターは願う。
人の死の悲しみを知り、妹達を大切に思う彼が、馬鹿な事を考えないように、と。
2
「ちぃちゃん、早くしないと置いていくよ」
佐々木家の自宅、遥の明るい声が響く。
「ハル姉、ちょっと待って!」
智佳が慌てながら、自室から駆け降りてきた。
「ハル姉だけに行かせないから!」
「一人で行かないって!約束でしょ?」
頬を膨らませて抗議する智佳に、遥が笑いながら答えた。
二人とも、自分自身でもっとも気に入っている、”勝負服”に身を包んでいる。
「今日は兄貴を私達だけの物にしていく日、何だから…」
「抜け駆けなんか、しないって!」
遥が笑顔で智佳に、自分に言う。
「そうだよね!その為に今日まで我慢したんだもんね!」
智佳が感慨深く遥に答えた。
縁結びのお祭り、
この日に焦点を合わせた遥は、この日まで兄を疎外する事を決めた。
それは、押して駄目なら引いて見ろ、とでも言うべき作戦で、
それまで淋しがらせる事で兄の気を自分達に向け、当日に一変する事で、兄を自分に向かせようと考ええたのだ。
無論、この作戦は一人では意味がない。
だから遥は智佳に相談し、その協力を仰いだ。
話を聞いた智佳は、最初こそは遥を信用仕切れずに渋っていたが、
兄を独占する為にもっとも効率が良い、と説得されて、ようやく話に乗り始めた。
それから二人は、この日の為に様々な話し合いをした。
兄に、”妹として”だけでなく、”女として”見られなくてはイケないのだから。
その結果、今日に実行するべき、幾つかのハプニングも決まり、
二人は意気揚々と今日と言う日を迎えたのだ。
ただ、二人は気付いていない。
今回に実行してきた作戦は兄にたいした影響を与えず、
むしろ、自分達が兄に関われずにいた、欲求不満に陥ってしまっている事に。
「窓、ちゃんと閉めたよね?」
「大丈夫!戸締まりは万全にしたから」
「じゃあ、早く行こうか!」
遥と智佳は、そう言って家に鍵を閉めると、焦る様にして道を急いだ。
「やはり、智佳ちゃんと参加されるおつもりだったんですね」
二人を遠目に見送りながら、嬉しそうな呟きを漏らした人物がいる。
言うまでもなく、遠藤久美だ。
昨日に二人の兄から、この日はバイトだと聞かされていたが、
多少の不安があり、家の近くで様子を窺っていたのだ。
「幸せそうですね、二人とも…」
久美が安心して呟く。
このまま、二人を見守っていけば、自分にとっての”美しい絵”が見れるかも知れない、
そう考えたが、その前にやらなくてはならない事がある、と思い出し、
二人を追跡する事を断念した。
あの”兄”にこの身を捧げる、
そうする事で二人から切り離し、二人を幸せにする、
躊躇もしたが、幾度もあの”兄”と会話する内に、久美の決意は強固な物へと変わっていた。
”男を受け入れるなど苦しいだけ、と聞きますが…”
身を震わせながら、久美が思う。
”ですが、それだけの効果は上げてくれるでしょう”
そう考えると、自分の恐怖が和らぐ。
男など肉欲だけ、この身を使えば簡単に自分の言いなりになる、
久美の基本理念には常にその発想がある。
自分が決意と覚悟さえ決めれば良いだけの話。
その決意と覚悟を実行するのが、今日という日だ、
暗く燃える瞳で久美は歩き出した。
3
喫茶『無銘』
今のところ、何人かの常連客だけの、静かな時間が流れる。
「少ししたら忙しくなるから、今の内に休んどきな」
マスターのそんな言葉に、康彦は素直に従って店の休憩室に向かった。
少し経てば、娘を盗られた父親達が、マスターに愚痴る為に押し寄せてくるだろう、
そう思うと、その時のマスターの苦労を考え、康彦は苦笑してしまう。
それ以外は特に変わりのない、自分にとっては平穏な一日になるだろう、
せめて、マスターの気苦労だけでもサポート出来れば、
康彦はそんな風に、のんびりと考えていた。
二人が来たとしても、奢る物を奢れば帰るだろうから。
投下終了です。
GJ!
祭りに期待!
>207
>180
なんだこの投下ラッシュはw
GJすぎる!
保管庫をキッカケに知ってまだ少ししか読んでないけど小説のLv高い
前のめりに読ませてもらってますよ
小説読んだ感じだとキモ姉、妹=病んでる姉、妹って印象だったけど
ヤンデレぽくない、例えばオタク趣味の姉、妹小説とかがあったら紹介してほしい
キンモー☆ってかんじのを読んでみたいw
229 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/16(土) 21:05:57 ID:lJtrKudL
わりいあげちまった
ただきんもー☆なら鼻ほじってりゃ終わりだしな
監禁トイレ10話投下します。
摩季は携帯電話を開いた。この場において最も相応しい者の番号を呼び出し、電話をかける。
『はい、こちら徳嶋』
人の良さそうな、落ち着きのある男の声。
「徳嶋さん…」
『おお、お嬢か。せっかくの休暇だってのにこのジジイに電話かけてくるったぁどうしたい?』
この男のいつもの口調だ。摩季が「お嬢」と呼ばれるのを嫌がっていると知っていてわざと呼んでくる。だが、彼には不思議なくらい言葉に棘が無いのだ。
刑事という職業にまるで向かない、他人を和ませ、明るくさせてしまう彼。今も摩季にいつものように注意されるのを待っているはずだ。だが、今の彼女ではその期待に添えない。
「徳嶋さん、おとうさ…両親が…死んでるの」
『……は?お、おい、お嬢』
「死んでるの。お父さんも、お義母さんも、首を、締められて…」
精一杯、つとめて冷静に、状況を説明するつもりだった。しかし口から漏れる言葉は、ほとんど無意味な情報の羅列ばかりだ。焦点の合わない言葉達は、徳嶋の脳内を存分に飛び回り、混乱させているに違いない。
『わ、分かった…!!いいか、今からそっちに警官を寄越す。何もするんじゃないぞ!いいな!絶対に、何もするんじゃないぞ!!』
彼の周りが慌ただしくなったようだ。人がバタバタと駆け回るのが聞こえる。
あぁ…自分の家族のせいでまたみんなを忙しくさせちゃったな…
『いいか!!じっとしてるんだぞ!!すぐにそっちに行くからな!!』
電話が切れた。
摩季はすぐさま別の番号を呼び出す。今度は達哉に電話をかける。
―――この電話は、電波の届かないところにあるか、電源が入っておりません。ピーっという発信―――
やはり達哉は出ない。
摩季は、唐突に立ち上がるとリビングを飛び出し、階段を駈け登る。
「萌ちゃん!?蕾ちゃん!?」
部屋のドアを順繰りに開けながら何度も双子の名前を呼び続けた。
双子がいない。
両親が死んでいる。
達哉がいない。
「まさか…あの二人…」
強盗の線もあった。無差別殺人の線もあった。事故の線だって捨てきれない。
だが摩季の頭に最初に浮かんだ犯人像は、双子達だった。
そんなわけがない。あるはずがない。いくらあの二人でも……
―――悪い予感は当たる。
徳嶋の言葉を思い出す。だからこんな考えはさっさと打ち消さなければ。
何か、証しが欲しい。彼女達ではないという、証しが。
萌の部屋に入り、パソコンを開く。起動音の後、ユーザー選択画面が現れる。マウスを動かし、メインユーザーをクリックした。
パスワード認証。
メインはおそらく双子の姉であろう。ならば、名前か。慣れた手つきでキーを叩く。
違う。
もしや妹か。
違う。
誕生日。
やはり違う。
「もしかしたら…」
はた、と思い付いて打ち込んだ文字は――――――TATSUYA
エンターキーを押すと、しばらくカリカリ、と音が鳴り画面が切り替わった。認証されたのだ。
「何コレ……」
画面の壁紙は、達哉の写真が何枚も組み合わされたものだった。
小さい頃の達哉。
中学に上がってからの達哉。
そして、これはつい最近の達哉。その写真が意味するのは。
彼女達は、五年間、全てを耐えていた訳ではなかったのだ。達哉は、ずっと監視されていた。
双子に。
そして摩季に。
インターネットを繋ぎ、履歴を調べる。
そしてそこには、
「手錠…サバイバルナイフ…睡眠薬に筋弛緩剤…」
様々な、いわゆる「違法性の高い」アイテムの通販サイト。そこで何点かを購入したという、確かな記録が存在した。
悪い予感は、打ち消したはずなのに。最悪の事実が予感の通りに訪れた。いや、最初からコレは予感などでは無かったのだ。
これは確信だ。
それに予感というぼかしを、自分が上塗りしていただけだ。
更に履歴を漁っていき、見つけた。
ここから二時間近くかかる遊園地。
そこへ向かう以外に使いどころの無い、国道の中途に位置するパーキングエリア。
そのマップが画面に表示される。すぐにそれをプリントし、その住所も頭に叩き込む。
玄関へ走り、ドアを開けた。
「連絡を受けてこちらに参りました」
地元の警官がいた。
「ご苦労様、現場の保持をお願いします」
警官達の脇をすり抜けながらそう言う。
「あ、あの…警部はどちらに…!?」
「本庁からの通達がありました。早急に犯人の追跡に入ります。現場で待機し、後続の刑事の指示に従ってください」
当然、嘘だ。この場を切り抜けるためだけの、すぐにばれる嘘。
「了解しました」
『絶対に、何もするんじゃないぞ』
ごめんなさい、徳嶋さん。弟を助けにいきます。
摩季は車のドアに手をかける。
刑事という立場も、姉という立場もかなぐり捨てて。達哉を助けにいきます。
そしてあの悪魔達を――――――
「それと、」
家に入りかけていた若い警官の背中に声をかける。
「一つ、貸してもらいたいんだけれど――――――」
投下終了です。
GJっす。続きが楽しみです。
エロい道具持ってきてもらった姉が弟に性的な意味で発砲とか考えた俺はもう駄目だ・・・
投下します。例の「智子」の続きです。
今回はトリつけてみました。
「ごちそうさま…」
「智子、今日は食欲ないのか?」
「うん…」
今日の夕ごはん、わたしはご飯を残した。大好きな切干大根なんだけど、半分残した。
わたしには、とても気に掛かる事がある。それは「三宅さん」の事。
最近、お兄ちゃんと三宅さんは仲がいいらしい。お兄ちゃんは家でよく三宅さんのことを話す。
わたしにとってはものすごく退屈な事だけど、お兄ちゃんは三宅さんの話のときは、少し嬉しそう。
三宅さんは、一浪していてお兄ちゃんとは学年は同じだけど、年は一つ上。
大人の色香ってやつなのかなあ。十四歳の智子にはまだ、オトナのイロカは出せないなあ。
比べてみれば、智子にはないものを三宅さんは一杯もっている。
智子よりセクシーだし、背も高いし…。
智子がおいしいお料理を100作っても、三宅さんが1の大人の魅力を使うと
お兄ちゃんは三宅さんになびいてしまう。うーん、くやしいな。
いろいろ悩んだ挙句、わたしは、意を決っして三宅さんに直接会う事にした。
お兄ちゃん情報だと、三宅さんは二丁目のお花屋さんでバイトをしているらしい。
バイト中の三宅さんに近づき、お友達になる。だんだん仲良しになって、いい所で三宅さんの秘密を握る。お兄ちゃんに暴露する。お兄ちゃんは三宅さんを嫌う。
お兄ちゃんと三宅さんの仲は壊滅状態。そして、わたしとお兄ちゃんのあまーい生活が取り戻されるのだ。
わたしって頭いいかも、天才だ。
ノーベル賞で「お兄ちゃん」って部門があったら受賞まちがいなし。
さっそく、明日お店に乗り込むぞ。初陣だ。
お店に行くとしたら、このままの姿じゃやっぱりまずいかな。
伊達メガネをかけ、白いニット帽を目深にかぶる。
マフラーにダウンベスト、ハーフパンツに買ったばかりのかわいいブーツ。完璧だ。
とりあえず、傍から見てはわたしって分からないように…。
フラワー・コッコ。
ここが三宅さんの勤めるお花屋さん。屋根には風見鶏が誇らしげに立っている。
何でもないお花屋さんなのに、いざ入るとなると緊張するな。三宅さんはいるのかな。
店頭をちらっと見る。ニワトリのような顔の店長がレジにいる。
ちらっともう一度覗く。
「いらっしゃいませ」
まさしく、三宅さんだ。写メで見るよりちょっと大人びて、ポニーテールにした栗色の髪がきれいなお姉さん。
おっぱいだってちょっと大きい。でも、智子負けないもん。
お兄ちゃんと三宅さんの付き合いはせいぜい一年。わたしとお兄ちゃんとは十四年も一緒だもん。あんな若造に負けるもんか。
「何か、お探しですか?」
三宅さんがわたしに話しかける。
「えっとお…、まだ決めてません!」
(三宅さん、空気読んでよ…)
「ゆっくり、お花を選んでね。お嬢ちゃん」
(あんたの顔を見に来たんだけどね…)
三宅さんと初めて話した。記念すべき第一歩だあ。
わたしは、お花を買いに来た客(のつもり)。くんかくんかと花の匂いとか嗅いでみる。
後ろでは三宅さんがニコニコしながら見ている。
「何かあったら、お気軽に呼んで下さいね」
ホントに呼ぶぞ、意味もなく呼ぶぞ。
「どんなお花をおさがしですか?」
店内には、三宅さん、店長とわたし。
三宅さんの秘密でも弱点でもないかなあ。それでも見つかれば儲けもんなんだよね。
背後からは三宅さん、横からニワトリ店長の視線。
どうしよう。お店から出る雰囲気じゃなくなった。
あんまり無駄遣いをしたくないんだけど、周りの花たちが「金使え」ビームを出してくる。
「これ下さいっ!」
いたたまれなくなったわたしは、思わずそばにあった花を掴む。
「ありがとうね。手、痛くない?」
思わず掴んだのは、バラの花だった。
次の日もフラワー・コッコに向かう。
「あ、あの。先輩にあげる花を探しに来ましたっ!」
思いっきりウソをついてまでこの店にやってきた。誰かわたしを誉めて欲しいな。
「そうねえ。『尊敬』の意味のランなんてどうかしら?」
「じゃあ!それにしますっ!」
「名前を入れられるけど、入れますか?」
「『聡先輩』へってお願いします!」
「お嬢ちゃんの名前も入れてあげよっか?名前はなんていうの?」
「えっと…『さとみ』です!」
思わずわたしの顔が真っ赤になった。「さとみ」だってさ。誰だよ、ソレ。
どこからそんな名前、出たんだろう。わたし、女優になろうかなあ。
そしてまた、わたしのお小遣いが削られる。
この泥棒猫、お兄ちゃんだけでなく、わたしの貴重なお小遣いまで持っていこうとしているらしい。
そう考えると、だんだん腹が立ってきた。
わたしの家に花が増えてくる。お母さんは「どう言う風の吹き回し?」って聞くけど
本当に気まぐれってしか答えられない。
それより、わたしのお小遣いがピンチなのだ。
こんなバカげたことに、貴重なぶたさん貯金箱を割りたくない。
お母さん、お父さんにねだっても無駄なのは分かってる。頼るは、お兄ちゃんしかいない。
元をたどれば、お兄ちゃんのせいで宇宙一かわいい妹が財政難に苦しんでいるんだぞ。
のほほんとテレビを見ながら、くつろぐお兄ちゃんに近づく。
「ねえ、お兄ちゃん。恵まれない妹に愛の手をさしのべない?」
「はあ?」
「いま、智子は黄色いTシャツを着てます。マラソンで100キロ走った所です。さあ、どうする?」
お兄ちゃんは呆れて、居間を出たかと思うと、瓶に百円玉をつめて持ってきた。
「わーい!感動のフィナーレありがとう!本当の主役はお兄ちゃんです!」
勝った。愛はマジックだ。
百円玉のつまった瓶を抱えてわたしの部屋に戻ると、空になったわたしのぶたさん貯金箱の破片が飛び散っていた。
今日は、学校帰りに寄ってみる。
制服に伊達メガネ、ぐるぐるまきのマフラーに、髪の毛をぼさぼさってした「さとみ」になりきってフラワー・コッコにやってきた。
何か、秘密はないかなあ。さすがに、わたしもあせってきたぞ。
「さとみちゃん。いらっしゃい」
三宅さんがやってきた。側にはニワトリ店長もいる。
わたしの後ろ側に、同じ制服姿の娘が野菜の種をしげしげと見ていた。
フラワー・コッコには園芸コーナーもあり、野菜の種も充実している。
すっかり、わたしは「フラワー・コッコ・マスター」だ。
わたしは気にせずに、かわいらしいサボテンばかり見ていた。
「あっ!聡くん?いらっしゃい!」
わたしは、思わずビクっとした。聡くん?
がんばって横目で見たところ、なんとお兄ちゃんだった。
街に買い物に行った帰りか、肩からトートバッグを担ぎ、ふらりとこの店にやってきたのだ。
「聡くんさ、こんなところまで来てくれるなんて、わたし嬉しいな」
三宅さんは事もあろうにも、お兄ちゃんに近づき、擦り寄ってきたじゃないか!
(おいおい、三宅さんよ。仕事中だよ、自重しろ)
お兄ちゃんは楽しそうなのに、わたしはムカムカしてきた。
泥棒猫は尻尾を振る。尻尾を振るのは犬か、泥棒犬め。
わたしが、ワンコだったらまず三宅さんに噛み付く。自慢気なお尻に噛み付いてやる。
『痛い!痛い!やめてよお』って三宅さんはマヌケな声で叫ぶけど、
わたしはもっともっと噛み付いてやるんだ。
そしてお兄ちゃんにくうんくうんって思いっきり甘えたいな。
そして「お兄ちゃん、だーいすきっ」ってイヌ語で言って抱っこしてもらう。
いっぱいキスしてもらって「かわいい。かわいい」って、お兄ちゃんから言ってもらうんだ。
お兄ちゃんは、三宅さんから離れ、並べられている色とりどりの花を眺め始めた。
三宅さんは、奥に戻り他の仕事を始めた。尻尾を捲いて、逃げ出した…と思いたい。
「あっ、ごめん」
お兄ちゃんの声が聞こえた。
思わず、振り向くわたし。なんだ、さっきの制服娘に肩がぶつかったのか。
その制服娘は店から出て行った。
「じゃあ、また」
お兄ちゃんは帰ろうとした瞬間、お兄ちゃんがニワトリ店長に取り押さえられた。
「キミ!待ちたまえ!」
「え?」
「万引きは許さんよ」
「???」
「キミのカバンのポケットに『ダイコンの種』の袋が入ってるんだけどねえ」
「し、知りませんよ?!」
「隠してもだめだよ。さ、奥に行こうか」
一大事だ。お兄ちゃんが犯罪者になってしまう…。
お兄ちゃんは、絶対そんな事はしない。うん、絶対に…。
しかし、わたしはお兄ちゃんを見てたわけでなく、お兄ちゃんの潔白が証明できない。
わたしは今、なんて無力なんだろう。お兄ちゃんを助ける女神にもなれないなんて…。
だんだん目頭が熱くなってきた。
三宅さんが出てきて店長に話しかける。
「店長。この人は…」
「三宅君。私情はいかんよ」
冷徹非情な店長。そのやり取りを聞いていたわたしはたまらなくなった。
「そのひとは、犯人じゃありませんっ!!」
しまった。わたしの声がフラワー・コッコに響く。
全く一部始終を見てもないのに、証人にはなれっこない。バカだ、わたし。
お兄ちゃんも迷子のように立ちすくんでいる。幸いわたしが智子ってことは、気付いていない。
「…ほんとなんですう。信じてください…」
力なく、わたしはつぶやく。しかし、大人たちには遠すぎる。
とうとう、お兄ちゃんは店の奥に連れ去られてしまった。
わたしの瞳から涙がこぼれる。何も言わずに、とぼとぼとフラワー・コッコを後にした。
屋根の風見鶏が冷たそうにわたしを見下ろす。
帰り道、公園に寄った。家に帰りたくない。
お兄ちゃんのいない家なんて、帰りたくないのだ。
わたしは、ブランコに一人寂しく座る。
「ぜったい、うそだ…。ぜったい、うそだ」
どうしよう、涙が止まらない。わたしのスカートに涙とが落ちる。
罰を受けるんだったら、わたしを捕まえてお兄ちゃんを今すぐ自由の身にして欲しい。
遠くでカラスが鳴く。
「うるさーい!!」
カラスに八つ当たりしても、どうしようもないのは分かってる。
でも、今日だけは許して欲しい。
我慢できなくなり、かけている伊達メガネを地面に投げつける。
「ただいま…」
力なく、わたしは家に帰る。智子に戻って、家の玄関を空ける。
ん?奥から、お兄ちゃんの声が聞こえる。
店長さん、許してくれたのかな!?
わたしは、駆け足で声の方に向かう。
「まったく、迷惑なお話なんだよ。これが」
お兄ちゃんは、電話で友達に愚痴っていた。
立ち聞きした話によると、お兄ちゃんは濡れ衣だった。あの時の制服娘が真犯人だったのだ。
その万引き娘は常習犯で、フラワー・コッコでの犯行の後、別の店でも万引きをして捕まった。
そのときにフラワー・コッコでの事を白状したらしい。
万引き娘がフラワー・コッコを出るときに、こっそりお兄ちゃんのバッグのポケットに
『ダイコンの種』の袋を入れて、罪をなすりつけようとしたんだって。
「お兄ちゃん…」
わたしは、どこかの巨人のお姉ちゃんのように、そっとお兄ちゃんを見ていた。
何はともあれ、お兄ちゃんは無実と言う事が証明された。ばんざーい。
「三宅さんと仲良しになって、お兄ちゃんと三宅さんは仲たがいさせよう」作戦は、どっかに吹き飛んでしまった。ちくしょう。
しょうがない。気を取り直して、お買い物にでも行こう。きょうは何にしようかな。
「お兄ちゃん。きょう、何食べたい?」
「何でもいいよー」
「じゃあ…きょうは、あっつあつのおでんにしようかな。まる天入れて、大根入れて…」
「もう、大根は勘弁してくれ」
おしまい。
以上で、投下終了です。
がんばって、ちょっと長くしました。
今回はキモウト目線の流れなんです、構成上。
>空になったわたしのぶたさん貯金箱の破片が飛び散っていた。
兄貴ひでえwww
×決っして→○決して
長文だから誤字脱字仕方ないけど一回くらいは推敲しような
投下します。
非エロ。11レス予定。
その日。いまにも雨が降り出しそうな曇天の下。
椿と萩原睦月は、学校の中庭でふたり向かい合って座り、昼食をとっていた。
なぜこんな天気の悪い日に、外で食事をしているか。それは、人気のないところのが好都合だったから。
椿が萩原睦月に相談事を持ちかけるには。
ふたり以外誰も周囲に見受けられない昼食会にて、雨の到来を感じさせる重く湿った風がふたりの頬を撫でる。
椿と萩原睦月、お互い持参した弁当を手に、箸をつけながら。
「えーっ! あの宇津木(うづき)くんに、告白されたぁ!?」
相談事の内容を切り出した椿に対する萩原睦月の第一声が、それであった。
彼女の言う宇津木とは、椿たちと同じクラスの男子で、一年のなかで水無都冬真と似たようなポジション――いわゆる女子に
人気のある立場――にいる生徒であった。
そして、文化祭での演劇で椿の相方を務めた男子生徒。
「ちょっと、睦月。いくら、周りに人がいないからって大声だしすぎよ」
「あはは。ごめんごめん。ちょっと吃驚しちゃって」
箸から取り落としたおかずを、再度つまみあげながら萩原睦月が謝る。
「いや、それにしてもビックリ。……でもないかぁ。惚れた相手が椿なら」
「そんなお世辞はいらないわよ?」
「いやいや、でも、あの宇津木くんがねぇ」
萩原睦月は、感慨深げにほぅと息をつく。
彼女が、その台詞を口にするのも自然といえた。
宇津木は、女子から「格好良くて、運動もできて、頭も良い」と高い人気を誇る生徒だったにも関わらず、
浮いた噂ひとつなかった。
性格的には水無都冬真とは対照的で、宇津木本人の言動にちゃらちゃらしたところはなく、
女の娘にあまり興味がないようにみえた。そのため、一部女子の間では、オトコノコが好きなのでは、という噂が立ち、
密かに通常とは異なる意味での好評も博していた。
だからこそ、椿の相手役に選ばれたようなものだ。男子女子ともに、彼なら大丈夫だろう、と。
「あの、ってどういう意味なの? なにか問題のある人なの?」
椿が訊ねる。
「あ、ううん。そういう意味じゃないよ。って、まあ、あの噂が真実なら
ある意味問題かもしれないけど。椿に告白したってことは、
それはないってことだし」
ひとり納得したのか、うんうん、と頷く萩原睦月。
椿は知らない。宇津木の噂を。同性愛者なんじゃないかという。
椿の周りで女の娘たちは、異性がらみのそういう噂話をほとんどしなかった。椿自身がそういう話をしなかったし、
興味のある素振りも見せないので、必然的に周囲の女生徒と椿との間の話題には、あまり上らなかったのである。
ただ、彼女の得ている信頼感からか、萩原睦月も含めて、恋愛相談は時折持ちかけられていたが。
「それはないって、なにがないの?」
「ううん。別に椿が気にすることじゃないし。それよりもさ! どうするの?
付きあうの?」
萩原睦月は、まるではじめて雪を見た子供のように好奇心たっぷり興味津々といった様子で、訊いてくる。
「なんで、そんなに楽しそうなのかしら?」
「だって、ねぇ。椿が、あたしに恋愛相談してくれてるんだよ?
嬉しくないわけないじゃない!」
そう喜色満面の表情を見せる。
「あら。だったら、期待を裏切ることになって、ごめんなさい」
「え?」
「だって、恋愛相談じゃないもの」
「ど、どういうこと? だって、宇津木くんに告白されたんでしょ?
で、それについて、あたしに相談してるんでしょ?」
椿のいまの言葉の意味と、相談事の内容が噛みあわず、萩原睦月は戸惑う。
「ええ」
椿は、睦月の質問の内容を肯定する。
「だったら、恋愛相談じゃない」
「まぁ、大枠で括ったらそうなるかもしれないけど。私が相談したいのは、断り方」
「えーっ! 断っちゃうの!?」
萩原睦月は、告白されたことを聞いたときより、一層声を張り上げる。
やっぱり、この場所にして正解だった、椿は改めてそう考える。
「ええ」
「なんでっ!? どうして!?」
「睦月、声のボリュームを落として」
「ごっ、ごめん。でもあの宇津木くんだよ? あれだけ女子に絶大な人気の!
それをそんなにあっさり袖にしちゃうの?」
「あら、睦月は、水無都さんが女子に人気だから好きなの?」
「あ……。そうだよね。別に他の人がどうだからって、関係ないよね」
椿の問いかけに、浮かれすぎた自己を反省したかのか、声のトーンがさがる。
頭を振って、気を取り直すと、萩原睦月は改めて言葉を紡ぐ。
「うん。ごめん。はしゃぎすぎたよね。でもさ、人気があるからってそれだけで
好きにならないのは判るけど、断る理由には直結しないんじゃない?
もうすでに好きな人がいるならともかく」
萩原睦月は、純粋な疑問から訊ねる。
また、言いながら思いついたのか、こう付け加えて。
「そういえば、椿から、誰某が好きとか、一度も聞いたことないよね。
親友としては、それが悲しいなぁ」
「別に、睦月を信頼してないから話さないわけじゃないわよ?
ただ、いまは、まだ、中々そんな気分には、ね」
語尾を濁すようにそう呟いた椿に、萩原睦月は、はっと思い当たる。
「あ……」
椿の過去のことを。
凄惨な出来事のことを。
この街に暮らしていたら、一度は耳にするあの事件を。
そして、仔細に渡ってではないが、一部始終を椿から直接伝え聞いた彼女自身の過去。
(踏んじゃった――)
萩原睦月は、己の頭を殴りつけてやりたくなった。
椿の親友を自負するなら、彼女ことを誰よりも思いやってやらなければならないのに。そう望んでいるくせに。
日頃の椿の態度は、そんな暗い過去を微塵も感じさせないもの故、ついつい頭の片隅に追いやってしまいがちである。
椿も普段からそんな風に気を遣われることを望みはしない。それこそ、そんなことをしたら本当に親友の資格を失ってしまう。
ただ、引かなければならない一線はある。親友として。
「…………」
黙りこんでしまった萩原睦月に対し、その内心を推し量ったのか、椿が彼女を思い遣る言葉をかける。
「もう。そんな、この空模様みたいに暗くならないでよ。睦月にだから言うけど、
私もいつまでも過去にとらわれていたりはしないわよ。これは、まだ、
なんとなくなんだけど、そうね、そう遠くない未来、ううん、
近い将来って言ったほうがいいかな。私も、しがらみを振り払って、
ひとりの女の娘として素直になれる――そんな気がするの」
「え?」
「そんな、予感が、ね」
萩原睦月を元気付けるためか、ゆっくりと瞬きをすると、椿は微笑んだ。
「あ、ああ! うん! うん! あたしも、そのときは椿に協力を惜しまないから!」
椿の言に背中を叩かれ励まされたかのごとく、おおきくこくこくと肯く萩原睦月。
「ええ。だから、頑張ってね」
「え?」
「早く水無都さんとラブラブになって、私も男の子と付き合いたいって羨ましがらせてね」
「あ、う……あぅ」
そう照れたように俯き、うめく萩原睦月であった。
「でもさ。椿の相談ごとって、結局どう断ったらいいかっていうこと?」
頬にあたる雨粒を感じたため、ふたりは慌てて残りのお弁当を黙々とかきこみ、
体育館と校舎をつなぐ屋根のある渡り廊下に場所を移して立ちながら話す。
「うーん。結論から言うと、睦月の許可が欲しいの」
椿は、肩にかかった僅かな水滴を手で振り払いながら、萩原睦月の質問に答える。
「許可?」
まったく意味の判らない萩原睦月。
なぜ、告白を断るのに自分の許可が要るのだろう。
「実は、もう断っているのよ」
「えっ? じゃあ、事後報告?」
「それが、事後にならないの」
椿が憂鬱そうにおおきく溜息をつく。
「それって、つまり、相手が諦めてくれないってこと?」
「ええ、一言でいうと」
「それで、どう言って、諦めさせようかっていう相談?」
それでも萩原睦月の許可がいる、という結論に至る経緯が判らない。
「どう言って、っていうより、言うことは決めてるの。
好きな人がいるからってことにしたいのよ」
「ん? ……あ!」
萩原睦月は、漸く椿の言いたいことを理解する。
要するに、椿は、その『好きな人』を水無都冬真、ということにしたいのであろう。
かつて萩原睦月自身が言ったように、水無都冬真と如月椿は幼馴染である。その上、一般的な範疇でいうところの理想的な
お似合いの美男美女。日常での仲も悪くない、というより、客観的に見て良いであろう。椿が水無都冬真のことが好き、
という『事実』はこれ以上無い説得力があるだろう。普段誰某が好きと吹聴していない椿にとって。
だから、萩原睦月に許可を取りたいと椿は言っているのだ。
(なんて、律儀な……)
萩原睦月は思う。
わざわざこんなことでも、自分に配慮してくれるなんて。
椿が黙っていたとしても、たとえ、それが万が一真実であったとしても、萩原睦月はそれを責めない。責めるつもりなど毛頭ない。
そもそも自分に責める資格など無いのだ。
もし、椿が水無都冬真のことを密かに想っていたとしたのなら、その想いを踏みにじっているのは自分なのだ。
だから、椿がそこまで自分の思慕を尊重してくれる――わずかでも自分の誤解を得たくないと思ってくれている――ということは、
己に対する好意の多寡に比例しているのだと感じ、萩原睦月は嬉しかった。
「ふーん。あたしが嫌って言ったら?」
萩原睦月は、心から湧き上がる感悦を抑えきれずに、軽快な声のリズムに乗せ、それが冗談だと伝えるため
意地悪な笑みを浮かべながら問う。
「そうね。別の手を考えるわよ。私は、同性愛者ですってカミングアウトするとか。
そのときの相手は当然言わなくても判るでしょうけど」
「あははっ。嬉しいね」
「よく考えれば、そちらのほうが私の本意に近いのよね。
信じてもらえるかは別として」
腕を胸の下で交差させながら、こくんとひとつ首を傾けると、どこまでが冗談か判らないことを口にする椿。
「目の前でキスのひとつでもすれば、信じるんじゃない?」
「じゃあ、不自然にならないよう、予行演習でもしときましょうか」
そう言って、組んでいた手を解くと、萩原睦月の肩に手を乗せ、瞳を閉じて顔を彼女に近づける。
「えっ! ちょ、ちょっと、本気?」
「なわけないでしょ。睦月の『初めて』は、水無都さんのもの、だものね」
椿は、いつのまにか姿勢を戻し、動揺した萩原睦月に、目を細めじとっとした視線を向けている。
微かに口の端をつり上げ、からかう様子で。
「あぅ……」
彼女には勝てないと思い知らされる萩原睦月。
結局、萩原睦月は、椿の提案を了承した。というよりは、彼女自身は、そもそも自分が了承するような立場には
ないと自覚していた。いまだ水無都冬真の彼女でもないので。
「あ、でも。私なんかより、直接、水無都さんに了解を取っとかなくていいの?」
「大丈夫でしょう。宇津木くんが言いふらしたりしない限り、
誰にも伝わらないでしょうし」
「もし、宇津木くんが言いふらしたら?」
「睦月、貴方だったら言いふらす? 自分が断られた相手の好きな人を?」
「うーん。あたしだったら、そんな惨めなことはしないけど」
ぽつぽつと地面に作られる水玉を見つめながら、腕組をし唸る萩原睦月。その表情に若干影が差しているのは、
水無都冬真に断られたときのことを考えているのであろうか。そして、その『好きな人』まで思いを馳せているのだろうか。
「でも、恋愛は人を狂わせるからねぇ。可愛さ余って――、でどんな行動に出るか」
萩原睦月は、そう首を振る。
「そうね」
頷きながら思う椿。
確かに、恋愛は人を狂わせるのだろう。
でも、彼――宇津木くん――は、狂ってなどいないでしょう。少なくとも狂うような恋愛はしていない。
だって――。
だって、彼はなにもしていないじゃない――。
椿はそう理解していた。ある種の信念をもって。
「万が一、そうなった場合には、水無都さんにフォロー宜しくね、睦月」
にっこりとそう萩原睦月に微笑みかける。
「ええ? あたしが?」
「ええ。水無都さんとの仲を深めるチャンスをあげる親友に感謝してね」
「あーもう! 椿の意地悪!」
「ふふ」
ぷぅとふくれる萩原睦月を見て、椿は、鈴の音を洩らす。
「ところでさ、興味本位で訊くんだけど、椿はなんて言って断ったの?
宇津木くんの告白」
渡り廊下の屋根を支える柱のひとつに寄りかかりながら、いよいよ本降りなってきた雨を横目に、
萩原睦月は椿に問いかける。
「『ごめんなさい。いまは、そんな気分になれないので』」
「うわ。教科書に載ってるような定型どおりの断り文句だね。
それで、宇津木くんはなんて?」
「『如月さんをそんな気分にさせたいから、友達からとしてでもどうかな?』」
「うーわ! くっさー! まじで? ねえ? ほんとに?
あの宇津木くんがそんな台詞を?」
「ええ」
「はー。人は見かけに寄らないねぇ。あの宇津木くんにそんなこと言わせるなんて、
この男殺し! それでそれで? 椿はそれになんて応えたの?」
「『ごめんなさい。友達として配慮してくれるなら、
そっとしておいてもらえるとありがたいのだけど』」
「くわー! クールだねぇ! っていうか、椿、鬼だよ。情け容赦ないね」
萩原睦月は、自分の太ももをパンと軽く叩き、そう感想を述べる。
「変に期待を持たせる答えをするより、親切だと思うけれど」
「まーそれもそうだけど。それでも、宇津木くんは諦めないわけだ。椿には悪いけど、
なんか、あたし、ちょっと宇津木くんを応援したくなってきちゃったよ。
難攻不落の城塞に竹やり持ってひとりで突入するみたいな」
冗談めかしていったが、萩原睦月のその言葉は、多少本音も混じっていたのだろう。
自らも恋する女の娘なのだから。
「あら。それじゃあ、睦月は、私がいやいや彼と付き合ったらいいと思うの?
それを望むの? 水無都さんに?」
「もう! あたしまで攻撃しないでよぅ。判ってますよ、自分だってそんなことは望まない。
でも、割り切れない気持ちってのもあるんだよ?」
「ええ。重々承知しているわよ。でも、自分を好きになってくれた人の幸せを考えるなら、
次にいけるようするべきだと思うけど。もし、告白されたのが睦月だったら、
どうするの?」
「うーん。椿を好きになるような人が、あたしなんかに告白してくれるとは、
思わないけど。もしっていう仮定の話なら、確かに、あたしも頷くことはできないよ」
そう萩原睦月が椿に同意したところで、予鈴のチャイムが鳴り響く。
「そうでしょう。私も貴方と同じ気持ちよ。さ、戻りましょうか」
そうして、ぴちゃぴちゃとトタン屋根からひっきりなしに滴りおちる雫のなかを、教室へと引き返すふたり。
通用口から校舎内に潜ろうとしている椿を、後を歩く萩原睦月が呼び止める。
「あ。ねえ。椿」
「ん?」
振り返る椿。
「さっき言ってた予感って……、そこには、……水無都先輩が含まれる?」
萩原睦月は恐る恐る訊ねる。
それは、彼女の漠然とした胸裏。
椿がもし恋愛感情を抱くなら――。
「そうね」
椿は即答する。
「そうなんだ……」
「さっきも言ったでしょう。そこには水無都さんも貴方も含まれるわよ。
幸せそうな貴方たちふたりの姿が、ね」
「あ……」
そう呆ける萩原睦月を現実に引きもどすかのごとく、椿は扉を開け、彼女を先に通した。
* * * * *
その日の授業が引けて放課後。日課を終えた生徒たちの開放感に包まれる教室にて、
椿が帰り支度をしていると、声がかかる。
「如月さん」
宇津木であった。
数名の女子がそちらを見てざわつく。
「あのさ。途中まで帰らない?」
そう誘いをかける宇津木。周囲は遠巻きに眺めるだけで、事情を含み知っている萩原睦月も含めて誰も寄ってこない。
「ええ。ちょうど良かった。貴方にお話があったから。すこしお時間いただける?」
教科書をすべて鞄に仕舞い終え、その蓋を閉じると応じる椿。
「あ、ああ! うん。大丈夫だよ」
その椿の言葉をどう受け取ったのか、宇津木の様子からは僅かに喜びが洩れる。
「ええ。行きましょうか」
椿は、萩原睦月に一瞬目配せすると、後ろを見ることなく先に教室を出る。
萩原睦月は複雑な心持だった。
判っている。
恋する人が、誰も彼も幸せになれるわけではないのだ。
だったら、自分は、己の好きな人の幸せを願うのみだ。椿のそれを――。
椿と宇津木が向かった先は、屋上に出るための階段の踊り場。
昼過ぎから降り始めた雨は、梅雨がその存在を知らしめるよう未だ止むことなく、むしろ激しさを増していた。
ざあ、という雨音が、屋上に出るための扉の向こうから伝わってくる。
「あの、少しは考えてくれたと思っていいのかな?」
扉のほうを向いたまま、宇津木に背を向け話を切り出さない椿に、彼が口を開く。
「ええ。いろいろ考えましたよ。どうやったら、貴方に私の思いが伝わるのか」
「はは……。その分だと、君の応えは全く変わらないってことなのかな?」
ある程度予想はしていたのだろう、それでも失望の感情をその声色に隠し切れず、問う宇津木。
「ええ。というより、私が正直に話さなかったのが、原因だと思っているから。
だから、ね。貴方の想いに応えられない本当の理由を伝えるわ」
「……そう。やっぱり、君には好きな人がいるんだね?」
半ば判っていたことであるかのように、宇津木は返す。
「いいえ」
「え?」
「好き、などという言葉では、括れないのです。私のその人に対する想いは」
「そう……か。正直妬ましいな、その人が。君にそれほど想われるなんて」
「貴方も、それほどの想いを誰かに抱けば、いまの私の気持ちは判ってもらえると思うわ」
「それほどの想いを抱いている――つもりなんだけどな。
だから、こんな惨めったらしいことをしてるんだし」
椿は、右足のつま先だけ上げ、リノリウムの床を叩き、たん、と音を鳴らす。
そうして漸く振り向く。
「できれば、私は、貴方のことを嫌いになりたくないのだけど」
椿にしては珍しく苛立った様子を、微かに見せながら。
「これ以上しつこくしたら――ってこと?」
とぼけたような顔でそう訊ねる宇津木に対し、椿は思う。
この男はなにも判っていない――。
私が『なにに』苛立っているのか。この男のしつこさに、ではない。
ただ、この男の執着心、それだけは認めてあげても良い。
ならば――。
「ねえ、宇津木くんは、どうしてここまで冷たくしているのに、めげないの?」
「君が、その想い人に冷たくされたら、それだけで諦められるの?」
「それで、私が貴方のことを好きになる、と?」
「いつかそうなる可能性は、否定できないよね」
「ねぇ。貴方には、邪魔者を排除してでも、手に入れたいと思うものがある?
――あの劇の婚約者のように」
椿は文化祭で演じた芝居のことを持ち出す。奇しくもこのふたりが主役を張ったあの劇の。
「ああ」
宇津木は、迷うところなど一点もなく首肯する。
「そう。それで、貴方はなにをするの?」
「それは――」
宇津木は答えられない。
彼がしているのは、愚直なまでに自分の想いの丈を、その相手にぶつけているということだけなのだから。
「宇津木くんに、ひとつ、訊きたいことがあるわ」
「え?」
「あの婚約者、その後、幸せになったと思う?」
「あ、ああ……。いつかは幸せになると思ってる。少なくともその可能性は」
「彼女ひとり?」
「いいや。あの弟も」
「そう」
それだけ呟くと、話はこれで終わりとばかりに、なんの感慨も見せずに宇津木と擦れ違うように階段を下りる椿。
「こちらも、ひとつだけ、いいかな?」
宇津木の呼び止めに、椿はその足を停める。
「如月さんに、そこまで想われているその幸せな男の名前、
教えてもらうことってできるのかな?」
「二年の水無都冬真さん、よ」
そうしてふたりはいつもの日常に戻った。
宇津木が椿に告白する前の。
* * * * * * * *
「ういーす! 秋みん、椿ちゃん、ご無沙汰ー!
愛しのおねえちゃんが家庭訪問にやって参りましたよー!」
如月家の玄関。
最近、以前にも増して訪れる頻度の高い葉槻透夏が、家のなか全体に響き渡るんじゃないかというほど元気一杯、
活力満載で挨拶をする。
「ええ。透夏さん。いらっしゃい。ご無沙汰してます」
実際、葉槻透夏は三日前にも訪れたばかりなのだが、彼女に倣い挨拶をする椿。
天気予報では、そろそろ梅雨明けの時期の話題が連日上る七月。
葉槻透夏の心を反映したかのように、抜けるような青空が広がった日の午後。
例によって、訪れることをメールで伝えてきた彼女に対して、椿は「お待ちしてます」と返信し。
その約十分後に如月家の呼び鈴を鳴らした葉槻透夏を迎えた。
「あれ? 秋みんは? 愛しのおねえちゃんが両手を広げながらやってきましたよー?」
秋巳が嬉しさのあまり彼女に飛びついてくることでも想像したのか、その言葉どおり両腕を広げて家のなかに呼びかける。
「すみません。透夏さん。今日は、兄さんは、遊びに行くとかで、遅くなるそうです」
椿は、前日に秋巳から聞いていた予定を彼女に伝える。
「え? ど、どいうこと? 遊びに行くって、誰と? 女の娘? そんな!
秋くんが女遊びするような子だったなんて!
そんなに遊びたいならここに相手がいるのに!」
「兄さんは、水無都さんと遊びに行くって言ってましたけどね」
その他に誰がいるかとは聞いてませんけど、椿はそう心の中で付け加える。
「水無都さん? あ、ああ。秋くんの友達だっけ?」
「ええ」
頷く椿。
葉槻透夏は、水無都冬真と直接面識はない。
秋巳と椿が伯父の葉槻栖一の家に世話になっているときに、水無都冬真がそこを訪れたことはなかった。
また、葉槻透夏の方も、秋巳との接触は主に家であったため、水無都冬真と知り合う機会はなかった。
正直なところ、秋巳の親友など気にも留める存在ではなかった、ということもあるが。
彼には自分だけがいれば良いのだ、と思っていたのだから。
ただ、話には何度か聞いていた。それは秋巳の口から直接のこともあったし、いまのように椿から伝え聞くこともあった。
「うーん。秋くんは、友達づきあい中かー」
それでも自分は、秋巳にメールを送っているのだ。いまから行くから、と。
だったら、帰ってきてくれてもいいのに――。
ふるふると首を振り、彼女のなかに刹那駆け巡った良くない考えを払うと、また笑顔に戻る。
「そっかー。秋くんも、お年頃だもんね。友達づきあいはやっぱり大事だよね」
葉槻透夏は、自分を納得させるようにそう呟く。
「ごめんなさい。私だけで」
「ううん。椿ちゃんが謝ることないよ。椿ちゃんに会えただけでも嬉しいしね」
そう言って、つつ、と椿に寄ると彼女を抱きしめる。玄関の段差から、頭ひとつ分高い椿を。
「うん。椿ちゃんは相変わらずいい匂いがするね。その名前に相応しく」
「あら。椿は、ほとんど香りのない花なんですよ」
「ふーん。見た目が麗しいから、香りで鳥とか虫を呼び寄せる必要がないのかな?」
「ふふ。さあ、どうでしょう。でも、私からしたら、そういう透夏さんの方が、ですよ。
私が男だったら、きっとめろめろになってますね」
「うん? そっかなー? 秋くんもめろめろになってくれるかな?」
「ええ。きっと」
きっと――。
なにかを確信するように。透夏の頬をなでる。
「ちょ、ちょっと。椿ちゃん。なんか私たち、百合ユリな雰囲気が漂ってない?」
そんな椿の仕種に、少しあたふたした様子を見せる葉槻透夏。
「そうですか? きっと嫉妬しているのかもしれませんね」
「え?」
「――透夏さんにあまりにも愛されている兄さんに」
ゆっくりと彼女から離れる椿。その香りを彼女に残すように。
「あー……。あ、あのね、つ、椿ちゃんも愛しているよ?」
「そんな女たらしのような言葉は要りません」
「うわ。椿ちゃんがぐれた!」
「ふふ。冗談です。それにしても、透夏さん、最近は随分とご機嫌ですね」
「え? そっかな? そう見える? いやー。そんなことないんだけどなー」
頬を赤らめながら否定しつつも、葉槻透夏は満更ではなさそうだ。
それもそのはずだ。彼女は最近実感してきているのだから。秋巳との仲が、いままでよりも近づいてきている、と。
ただ、それに比例して彼女の心の均衡も、危うさを増していた。
以前は我慢できていたことが、だんだん辛抱ならなくなってきている。
以前なら、満足できていたことでも、徐々にそれだけでは満ち足りなくなってきている。
だから、それまでより強い自制心が必要になってきていた。
彼女自身、それを実感していた。
そして、そのフラストレーションのはけ口は、判りやすい方向にむいていた。人間の三大欲求のうちのひとつ。性欲。
葉槻透夏が、秋巳のことを想い自らの手で、秋巳のものを――後にも先にも、秋巳のものだけを――受け入れるための、
その淫らにぬめる場所を慰める頻度も上がっていた。
自分の手は秋巳の手だ。この指は秋巳の指だ。そう思い込むたびに身体を駆け抜ける痺れが強さを増した。
――今日は、七回彼に触れた手。一昨日は六回触れた指。
自らの手に移った彼の残り香を惜しむかのごとく、ひとり享楽に耽る葉槻透夏。
ここのところそんな淫靡な夜が続いていた。
当然そんなことを秋巳や、椿にも告げることはなかったが。
「ま。椿ちゃんも恋をすれば、判るんじゃないかな? 命短し恋せよ乙女――ってね」
そんな葉槻透夏の心を見透かすかのように、椿はじっとその恋する乙女の瞳を見つめながら。
「そうですね。私にも、いつかそんな日が来ることを、透夏さんも祈っててくれますか?」
「もっちろん! っていうか、椿ちゃんは、いま、好きな男の子とかいないの?」
「ええ。いままでの事情が事情でしたので」
椿と秋巳の事情をこれ以上ないくらい知る葉槻透夏には、萩原睦月と違って、動揺など微塵もない。いやな思いを
掘り起こさせて椿を傷つけてしまったという。全て判っているから。その懐で全てを受け入れているから。
少なくとも彼女はそう信じている。
「うん。秋くんも含めて、ね。でもね。あたしは恋愛だけが人生の幸せだなんて
言うつもりはないし、幸せは人それぞれだって考えてるけど、
それが選択肢にすらあがらないのは、幸福な人生だとは思えないんだ。
だからね、あたしは、ずっと願っているよ。椿ちゃんと秋くんの幸せを」
「ええ。私も同じですよ」
全く同じです――。
椿はその感謝の気持ちを表すかのごとく、穏やかに目を細めた。
支援
その後、葉槻透夏に紅茶を振舞いながら、椿は買い物に一緒に行かないかと提案した。
秋巳も夕飯はいらないと言ってはなかったので、彼に手料理を振舞いませんか、と。
ここ最近、彼女が葉槻透夏をそのように誘うことが多々あった。
特に秋巳が外出して、不在のときに。
葉槻透夏が秋巳を置いては外出しないだろう、と椿は思っていた。葉槻透夏の方も、秋巳がいるのにふたりだけで、
というのは椿が誘いにくいのだろう、ましてや秋巳と三人でというのは椿のなかでありえないのだろう、そう認識していた。
椿の申し出に、葉槻透夏は一も二もなく賛成すると、ふたり一緒に如月家を出て商店街へと向かう。
そこで出会った。
秋巳と水無都冬真、柊神奈、春日弥生の四人組に。
夕刻時を迎え、次第に赤みを滲ませていく天陽に、道路も店も街路樹も赤く染めあげられていき、
買い物に向かう主婦や帰宅する学生で賑わうなか。
最初に声をあげたのは、椿であった。
「あれ? 兄さんじゃありませんか、透夏さん」
車道を挟んで向かいの歩道をあるく、制服に身を包んだ四人組を指さす椿。
「え? どれどれ? あ! ほんとだ! おーい! あっきくーん!」
椿の言葉に、秋巳の姿を認めると、迷うところなどなく頭の上で大きく両手を振って、秋巳に呼びかける葉槻透夏。
一方呼ばれた秋巳は、街中で突然大声をかけられて驚いたのか、ビクッと立ち止まり、声のした方を向く。
「あ……」
自分を呼び止めた人物を視認する。そもそも秋巳のことを『秋くん』と呼ぶ人はひとりしかいないのだが。
「お。あれ、椿ちゃんじゃん? 一緒にいる美人は誰だよ。
おい秋巳、おまえのことを呼んでるぞ?」
水無都冬真も秋巳に倣って声の方に振り向き、彼に話し掛ける。
「あ、ああ。じゃあ、きょうはここまでってことでいいかな?」
そう言ってそそくさと退場しようとする秋巳。
「おい! ちょっと待て! まずは、おまえを『秋くん』と呼ぶあの美人を紹介しろよ。
誰だよ? 俺は知らないぞ」
「あんた……、女の娘と遊びに来ているのに、他の女を紹介しろとかよく言えるわね」
水無都冬真の態度を見て、呆れたきった様子で溜息を洩らす春日弥生。
「じゃあ、今日はここで解散としますか!」
「つまり、帰れ、と? あんた、人を苛立たせる術に関しては、超一流ね」
「まぁまぁ。弥生、そう目くじら立てないでも。
私たちは、友達として遊びにきてるだけなんだし」
柊神奈はそう言いつつも、水無都冬真とは違う意味で元気よく秋巳に呼びかける女性が気になって仕方がない。
心中穏やかでない気持ちを、温和な笑みで無理矢理隠す。
「神奈はどうするの? もう、ここで帰る?」
「え……? 折角だし、その、椿ちゃんに挨拶して行こうよ」
「よっし。じゃあ、全員の合意も取れたところで、あっちに渡るか」
そうして合流する四人と、ふたり。
「はい! 秋くん。こんなところで、会うなんて奇遇よね!」
「透夏さん、できれば、街中であんな大声で呼ばないでいただけると、
ありがたいんですけど」
普段、葉槻透夏のやることにあまり口を出さない、文句を言わない秋巳であったが、このときばかりは、
こう言わずにはいられなかった。口調は丁寧で、下手に出たお願いという形だが。
「あはは。ごめんねー。うん。次からは気をつけるよ」
次回からはそっと忍び寄って、後ろから抱きしめようかな、と考えている葉槻透夏。
「ばっか! 秋巳、おまえ、美人のやることは全部正義なんだよ! 美人に間違いはない!
麗人に過失はない。責めたらいけない。で、椿ちゃん、こちらの方はどちら様?
――っていうか、こちらから名乗らなきゃ失礼ですよね。おれ……あ、いや、ボクは、
水無都冬真。秋巳の無二の親友です。そして、こちらは、ボクの嫁の柊神奈ちゃんと、
友人そのいち、です」
水無都冬真は、自分も含めて柊神奈、春日弥生と順に紹介した。
「…………」
「…………」
柊神奈と春日弥生は、水無都冬真の紹介に、なにもつっこまない。前者は目の前の女の人が気になっていたため、
上の空だったし、後者は、呆れきって喋る気にもならなかった。
「これはこれは。ご丁寧に。うん。あたしはね、葉槻透夏、秋くんのお嫁さん。
いつも主人がお世話になっています」
「ええっ!」
その葉槻透夏の自己紹介に息を呑んだのは、柊神奈だった。
冷静に考えて客観的に判断すれば、水無都冬真が柊神奈を『嫁』と紹介したのにあわせただけなのだと理解できたであろう。
葉槻透夏自身は、冗談のつもりでもなんでもなく本心からの言葉を『冗談』に見せているだけだったが。
だが、柊神奈には、そのときあまり心に余裕がなかったため、純粋に驚いてしまった。
そして、その態度に、葉槻透夏が視線を向けたことも気づかなかった。
「ハイハイ! しつもーん! なんで夫婦なのに、姓が違うんですか?」
必死になって授業中に先生に質問しようとする小学生のような水無都冬真。
「うん。いいところに気づきましたね。水無都くん。あたしたちは、夫婦別姓なの」
「なるほど。ってことは、ボクと柊ちゃんと一緒ってことですね」
「うん。奇遇だねー」
「ねー」
仲良く頷きあう水無都冬真と葉槻透夏。
「ね、ねえ、如月くん……」
そんなふたりを尻目に、秋巳の制服の袖を引っ張る柊神奈。
「こらー! 秋巳。俺の柊ちゃんに、なにを触っとるかー!」
水無都冬真が慌てて秋巳と柊神奈の間に割り込む。彼女を守るように。
「え……? 冬真?」
突然いままでと態度の異なる水無都冬真に若干戸惑う秋巳。普段は、ここまであからさまなそれはとらないのに。
「おまえ、嫁がいるってのに、人妻にまで手を出すつも――っでぃあだ!」
後半声が潰れる。春日弥生が彼の頭の上へ拳骨を落としたからだ。
「で、いつまでこの茶番を続けるわけ。この阿呆は?」
「透夏さんも。そのくらいにしておきましょうよ」
悪ノリした葉槻透夏を嗜める椿。それから改めて話を進める。
「先輩がた。こんにちは。こちらは、私と兄の従姉弟で葉槻透夏さんです。
普段から私たち兄妹が色々とお世話になっている方なんです。
あと、そちらは私も初めてですよね。如月秋巳の妹で、如月椿と申します。
いつも兄がお世話になっています」
そう葉槻透夏を紹介し、春日弥生に挨拶をする。
「はー。こりゃ、よく出来た妹さんだね。私は、春日弥生。で、こっちは、柊神奈です。
当然この娘は、この阿呆の嫁でも彼女でもありませんから」
「あっ、あのっ! 柊神奈です。よろしくおねがいします」
「うん。よろしくね。春日さん、柊さん。秋くんがいつもお世話になってます。
ほら、秋くんも頭を下げて」
そう言って秋巳に並ぶと、肩を抱く葉槻透夏。
「ちょ、ちょっと。透夏さん……」
それを見た柊神奈が、ぴくりと微少に反応する。
それで葉槻透夏は確信した。
ああ、この女は――。
その後、その集団でのおしゃべりがひと段落したところで、銘々分かれることとなった。
秋巳は、椿、葉槻透夏と一緒に買い物へ。
柊神奈と春日弥生は、ともに家路へ。また、別方向である水無都冬真も帰宅の途に。
ひとり分かれることとなった水無都冬真は、秋巳の家の方角へ向かいながらひとりごちる。
「あーあ。柊ちゃんも、あからさまなんだから……」
以上。投下終了です。
>262
ありがと。
>>265 なんというか、加速度をつけて面白くなっていってる・・・
決壊直前のダムを眺めている心境で、次回を待ってます。
268 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 15:31:34 ID:Vc58qQ+R
>>265 超GJっす!
遂に出会ってしまった透夏と神奈・・・
この二人の戦いも見逃せないっす!!
そして椿の愛する人どはいったい・・・・誰なんだろうか?
いい作品だと思うんだが、正直に言うと誰が誰だかわかりずらい。
小説とかと違って、定期的に期間を開けて連載する作品だから、
恋愛関係が複雑だとキャラの区別がつきづらいんじゃないだろうか。
この手の作品の恋愛関係は普通は主人公を中心にして回るシンプルなものだし。
GJ!
>>269 俺も同じようなこと考えてた
人間の記憶力は意外と簡単に呼び起こせるから
テンプレ的な簡単な人物説明を最初に入れてくれると嬉しい
○○→主人公。高校2年生で△△の兄。
…
勝手な要望なのでスルーしてくれておk
焦らすねー
椿が漁夫の利を待ってる家康タイプに見えてきた
>>265 GJ!! 早く椿が病むのがみたいです。
ほぼ週一ペースで投稿して下さるし
漏れは全く問題ないけどなー>人物
横の繋がりの濃い人間関係を把握するのは慣れによるところが大きいかと。
少女漫画とか読み慣れてる人はそういうのが妙に得意だったりする。
ちなみに自分はそういうの大好物です。
面白いけど、倒置が多いのは作者の癖かな?
バーローを思い出したww
俺も問題ないけどなぁ…人物関係
そんなに登場人物も多くないと思うよ
>>265GJです!!週一ペースでこのクオリティは本気ですげえ…
思いついちゃったんだからしょうがない。投下いきます。
一話
山間部の村の外れ、小高い丘に木造家が一件、ぽつんと経っていました。杉の木を組んで作られたその家は、経年劣化で壁がささくれ立っていて、見る者の心までそうさせてしまいそうに黒ずんでいます。
ヘンゼルとグレーテルはそこで貧しいながらも楽しく暮らしていました。
「おしまいだ!!何もかもおしまいだ!!」
もうすぐ辛い辛い冬がやってこようという季節の朝、グレーテルは野太い父の喚き声で目を覚ましました。はっきりいって不愉快です。いつもならヘンゼルお兄ちゃんの優しい声で起きるハズなのに。
二段ベットの梯子を下り、寝ているヘンゼルに目をやると、女の人の裸体が描かれた本を握り締めたまま、ヘンゼルは寝ていました。
どうやらグレーテルが寝た後に一発ぶちまかそうとして、うっかり寝てしまったようです。どうせいじくるのは下半身の極々一部だけなのに、何故かヘンゼルは全裸でした。
でもグレーテルは気にしません。ヘンゼルお兄ちゃんは用を足す時や、自慰をする時必ず全裸になる事を知っていたからです。
ただし、
グレーテル以外の女で性欲を発散させようとするのは、少々、いやかなり許しがたかったのでヘンゼルの乳首をねじりあげておきます。
ヘンゼルは「ひぎぃ…ッ」と声を上げましたが、目を覚ましません。心なしか、その寝顔は満足げでした。握り締めてぐしゃぐしゃになったエロ本をゴミ箱に投げ入れると、グレーテルはさらにヘンゼルお兄ちゃんの体をいじくろうとして手を伸ばしました。
「そこを何とか!!そこを何とかお願いします!!」
本当にうっとおしい声です。一階のリビングからお父さんの声が聞こえてきます。このままではヘンゼルが目覚めてしまいそうなので、グレーテルは仕方なく兄への性的いたずらを中止しました。
「これまでも何とかやってきたじゃないですか!!お願いします!!そこを何とか…」
リビングに行くと、お父さんが電話をしていました。台詞から察するに、受話器の向こうにいる誰かへ何事かを哀願していたのでしょう。お母さんはテーブルに突っ伏して、肩を震わせています。
「おはよう」
グレーテルが声をかけると、二人とも慌ててこちらを向きました。お父さんは口に手を当て、ボソボソと受話器に話しかけます。お母さんは着ているトレーナーの袖で目を擦ると、早足で台所へ向かいます。
その際、テーブルに置いてあった一枚の紙きれを素早く取り上げました。
両目とも視力Aを十五年間、維持し続けているグレーテルの目は、その紙きれの「倒産」という文字を見逃しませんでした。
お母さんが焼いてくれたトーストを囓りながら、グレーテルは考えます。
――――どうやらウチは倒産してしまったらしい。
グレーテルの家は材木の工場を営んでいます。確かに最近は、あまり景気が良くないようでした。自営業というものは、商売の好調、不調がそのまま家庭に反映されるものです。
昔の朝ご飯は毎日ピザトーストにクラムチャウダーだったのに、今ではトースト一枚です。
――――これは困った事になった。
グレーテルが顔をしかめたのは、トーストの焦げの苦さだけではなかったハズです。
「うーす…」
そうこうしているうちに、ヘンゼルが起きてきました。さすがに寒かったのでしょう、洋服を着ていました。でもTシャツは裏返しでした。
「腹減ったー、おふくろー、飯、飯ー」
ヘンゼルは欠伸混じりにそう言いながら、うーん、と伸びをします。時折、左胸を撫でながら首を傾げているのを見て、牛乳を吹き出しそうになりましたが、何とか堪えました。
食器を下げると、グレーテルは毎朝の日課に出かけました。こっそり拝借したパン屑を袋に詰めて、近くの森へと赴きます。
「ボブ!マッケンジー!ドイル!ハマーD!」
袋をかざして、木々に呼び掛けると、騒々しい羽音と共に小鳥達がやってきました。
「ほぉら、ご飯だよー」
鳥達にパン屑を放り投げます。みんな嬉しそうにそれを啄んでいます。
「いつもすまないねえ、グレーテルちゃん」
ボブがお礼を言います。
「本当に有り難いよ、これからの季節は特に餌が取りづらいからなぁ…」
マッケンジーは、大きめのパン屑を探し当てて嬉しそうです。
「おい、落ち着けハマーD!あんまり急ぐと喉に詰まるぞ!!」
ドイルは呆れながらそう言います。
「…」
ハマーDは一心不乱にパン屑を貪り食っています。
そんないつもの光景を見ながら、グレーテルは溜め息をつきました。
「おや、どうしたね、グレーテルちゃん?またヘンゼルお兄ちゃんが何かしたのかい?」
ボブは心配そうに問い掛けます。
「まさか、また例のキャバ嬢に貢いでるのかい?」
マッケンジーも食べる手(実際は嘴ですが)を止めて聞いてきます。
「それともパチンコで有り金吸ったとか?」と、ドイル。
「…」
ハマーDだけは食べ続けています。
「何かね、ウチの工場、倒産しちゃうんだって…。だからこの先、みんなに食べ物分けてあげられるか心配で…」
悲しげな顔でグレーテルは、近況を語ります。
みんなそれを聞いて、「元気をお出し」とか「きっと大丈夫さ」とか「俺達に気を使わなくて良いんだよ」などと、元気づけてくれます。ただ、ハマーDだけはせっせとパン屑を胃袋に溜め込んでいました。
「何か力になれる事があったらいつでも協力するよ」
そう言い残して、小鳥達は飛び立っていきました。
その日の夜のことです。突然、尿意を催したグレーテルは、トイレへと向かいました。すっきりして、ベットに戻ろうとした時、リビングから声が聞こえます。お父さんとお母さんが話をしているようです。きっと、朝の話でしょう。
グレーテルはドアの隙間に耳を差し入れて、会話を聞き取ろうとします。
―――もう駄目だ、ウチはおしまいだ…
―――先方は何て言ってるのよ!?
―――手の平を返したかのように、ご苦労様、だとさ…
―――そんな…せっかくここまで頑張ってきたのに…
―――おい、泣くな。まだ手はあるんだ
―――本当かい!?あんた!!
―――ああ…ただし、俺達は選ばなきゃならない。コレはとても辛い事だし、非人道的で犬畜生にも劣る行為だ…。だが、俺達に残された手はコレしかないんだ!
―――いったい…何をするつもりなんだい…?
―――いいか、先方はウチへの融資を断ったものの、一つだけ教えてくれた。“人買い”の連絡先だ…
―――ひ、人買い!?あんた…まさか…
―――ヘンゼルとグレーテルを売り飛ばそう。あの年頃の子供は高く売れるんだ。それも、この工場が持ち直すくらいに
―――いや、いやよ!!どっちもあたしの大事な子供だよ!!
―――堪えてくれ、母さん!俺達が生き延びるには、それしか無いんだ!!…さぁ、さぁ…泣くのをおやめ。このアーリータイムスでも飲んで少し落ち着くんだ…
―――ほ、ほ、本当にやるつもりなのかい…?
―――もちろんだとも。それしか生き残る方法が無いんだ
―――で、でもどうやってその“人買い”の連中と会うんだい?
―――その点は心配無い。昼間に連絡を取って、手順を決めておいた。いいか…俺達は二人を森に連れて行く。そこで二人を置き去りにしていくんだ。後は森で待機していた連中が、二人を引き取ってくれる
―――お金は!?お金はどうするんだい!?
―――心配いらない、二人の子供を引き取ったら、ウチの口座に金が振り込まれるんだとさ。顔を合わせたりしないから足がつく事もないさ
―――でも…でも…。あたしゃあ…
―――ほら、泣くのをやめるんだ。ほら、もう一杯飲みなさい
―――うぅ…
グレーテルは音を立てずに、ベットに潜り込みました。大変な事になりました。まさか、両親がそこまで考えているとは思ってもみなかったからです。何とかしなくてはなりません。
「お兄ちゃんは、私が守るからね…」
枕に顔を押しつけて、呟きます。枕をヘンゼルお兄ちゃんの胸板に見立てて、頬を擦りつけながら、グレーテルは眠りにつきました。
「おい、グレーテル、起きろ。朝だぞ」
頬を軽く叩かれて、目を覚ましました。
「おはよう、お兄ちゃん」
「おう。飯、出来てるぞ」
ヘンゼルはぶっきらぼうにそう答えると、リビングへと下りていきました。今日はヘンゼルお兄ちゃんに起こしてもらえたので、グレーテルはご機嫌です。部屋を出て行こうとして、ふとゴミ箱に目をやると、昨日のエロ本がありません。
もしや、とヘンゼルの枕を捲ると、しわしわになったエロ本がありました。枕を重しにして皺を伸ばそうとしていたに違いありません。腹が立ったので女の人の顔の部分に落書きをしておきました。
リビングに行くと、家族みんながテーブルに座っています。これはちょっと珍しい光景です。両親は二人とも、いつもは工場の準備があるので、先に朝ご飯を食べてしまいます。
だから今日みたいに、家族みんなで朝ご飯を食べるというのはなかなかある事ではありません。しかも、朝ご飯はピザトーストにクラムチャウダー。これは今日、『何か』があると見ていいでしょう、グレーテルの予想する、『何か』が。
「今日は、お昼からみんなで森へピクニックに出かけよう」
お父さんが提案します。
「それは良いわねえ!あんた達も行くでしょう?」
と、お母さん。
なんという下手な演技なのでしょうか。三文芝居もいいところです。グレーテルは、カップの底についたアサリを、口に入れようとしながら内心苛ついていました。
老い先短い自分達の為に若い命を犠牲にするなんて許しがたい行為です。
「ええー…マジだりーんだけど…」
ヘンゼルは携帯電話をいじりながら答えます。
「大体、あそこ電波はいんねーし…」
ヘンゼルお兄ちゃんは、どうやら誰かにメールを打っているようです。
(あとで確認しとかなきゃ…)
グレーテルは、そう思いながら朝食を平らげると、いつもの友達に会うために、森へと走っていきました。パン屑をあげる他に、今日は相談したい事もあったからです。
「ボブ!マッケンジー!ドイル!ハマーD!」
グレーテルはすぐにやってくるであろう、友達の羽音を待ちました。
投下終了です。
乙!!
なんというNASAチームwwwwww
ハマーD吹いたwwwwwGJ
苦労してるね(´・ω・`)
数日振りに覗いてみたら投下が多くて嬉しいなあ
職人みんな超GJ
ハマーDがGJ!今後のハマーDに超期待www
みんなはこのスレに登場するキモウトの名前が自分の母親と同じ名前だったら、どんな気持ち?
291〉素でオカンの名前が智子な件
>259
ひゃっほーい
携帯から書いてみました。
誤字脱字、理解しがたい点があったらご容赦。
あー風邪引いた〜
今、部屋のコタツで汗掻き治療中。
しばらくして、学校から妹が帰宅。
「ふーん、今日1日、家にいるの、私とお兄ちゃんだけか…」
って呟いた。
なんか…妹の口元が、ビミョーに歪んでたような気がしたけど、まあ汗で視界が歪んだだけだろ。
って事で、半年間、順番待ちで待たせてた男友達とのデートをキャンセルして看病してくれてる。
その姿も知れぬ男友達よ…すまん。
まあ、それはともかく、
妹よ。
傍で、妙に熱っぽい目でニヤニヤしながら、人の顔をジッと見るのはやめれ。
風と発汗の苦しさでボーっとした頭で、そんな事を考えてると…
水が欲しくなってきた。
…「それ」は喉が渇いて、コップに手を伸ばした時だった。
水を飲もうとしたら、いきなり妹にコップを奪われた。
で、わが耳と意識を疑った次の言葉。
「口移しじゃなきゃ飲ませない」
いやいやいやいや。
実の兄妹で、それは洒落にならんだろ。
第一、汗かき治療で水分は必需品。
一刻も早く水が飲みたいのに、妹の冗談に付き合ってなんかられない。
冗談やめろ、って取り替えそうとしたら目を潤ませながら「駄目!」って怒鳴り付けられた。
偉い迫力でビビったけど、また、いつのまにか、何か切なげな甘い目付きに戻った。
まあ、実兄としちゃ、こっちのほうが怖い気もするんだが。
暫く睨み合いだか見つめあいだか、よくわからん時間が過ぎたけど…結局、俺が折れた。
妹は健康体で水持ってるだけ。
俺は風邪引いて、コタツでダラダラ汗流しながらグッタリ状態。 こんな勝負、勝てるわけ無いでしょ。
水を口に含んだ女の子(実の妹)の顔が近づいてきて、特有の甘い匂いが…
しっとり濡れてて、フワフワ柔らかかった。
女の子の唇って、こんな感じなんだ。
で、両頬に妹の柔らかい手がやさしく添えられて、妹の口内から水分注入。
10秒くらいで全部、こっちの口に入って、ようやく離れてくれた。
「じゃ、次、いくよ。」
舌を出しながらの言葉。
…明らかに何か企んでた。
続く…かも。
支援?
>>297 単純に先が未完成なだけです。
気を遣わせちゃってすいません。
GJ!
>「じゃ、次、いくよ。」
って言われたいねえ。
投下します。
今回は、前回書いたもの「『智子の』ヤツ」ばかり書いてましたが
今回は、違うお話に挑戦してみました。
キモ姉ものです。
あと、誤字脱字を以前指摘いただきまして、ありがとうございます。
支援
朝ももう十一時というのに、十九歳になるこまきはまだベッドで眠りこけていた。
「まだ、朝かあ―」
こまきにとっては、午前は苦痛の時間に過ぎない。
学生というわけでもなく、仕事をしているわけでもない。
こまきは、高校を卒業した後、一年程こんな生活をしている。
彼女の意思で何もしていない、早い話がニートである。
一度は、一張羅のスーツを作って「大手企業に就職するんだ」といきこんだが
人見知りのせいで面接を全てはねられてしまい、今やすっかりやる気をなくしてしまった。
「一馬、はやく帰ってこないかなあ」
父親は単身赴任、母親はパートなので日中は家にいない。
弟の一馬が高校から帰ってくるまで、家にはこまき、ただ一人。
「どうしよっかなあ、きょうは」
ごそごそと寝床から起き出すこまき。台所に行き、ボサボサのボブショートの髪を掻きながら、冷蔵庫から牛乳を取り出す。
牛乳が大好物なので、背は168pと女の子としては高い方である。
「そういえば冷蔵庫に、卵が残っていたな。今日こそは頑張って、料理でも作ってみるかあ。弟君のために」
牛乳を飲むとあくびが出そうになった。
「まだ十二時かあ」
パジャマ姿のまま伸びをし、自分の部屋に戻る。
机には「時間はたっぷりあるから」と、先週から編み始めた一馬のために編み始めたセーター。
しかし、編かけで放り出されていた。
「時間はたっぷりあるのよ…」と自分勝手な言い訳をする。
そんなセーターのことなど忘れ、こまきはパソコンの電源を点け、ネットサーフィンを始める。
「一馬、はやく帰ってこないかなあ」
と言いながら、きょうも人様のブログに突っ込みを入れる。
弟が帰ってくるまで、ぼんやり過ごす生産性のない姉。
「ただいま―」
一馬が帰ってきた。こまきは、軽やかな足取りで一馬に駆け寄る。
「おかえりい!」
「姉ちゃん、仕事見つかった?」
「ん―」
「とぼけるのもいい加減にしなよ。姉ちゃんなんて、負け組の中でも負け組なんだからね」
「だって…」
「結局、ハロワにも行ってないんでしょ?」
つい先日、こまきは「これからは、仕事を見つけて一馬のために頑張る」って大見得を張ったのだ。
一日目には張り切って、ハローワークを覗いたもの、元来人ごみの苦手なこまきは
三十分もしないで家に帰ってきてしまい、一馬から説教を食らった所だった。
「だって、一馬がいないと寂しくて何も出来ないんだもん」
「オレがいないと、何も出来ないだけだろ。ねえ、いいかげんパジャマ、着替えたら?」
「……」
一馬はこまきに冷たい一言を浴びせ、そのまま台所に向かう。
冷蔵庫を開けて麦茶をごくごくと飲む。
一馬は牛乳嫌いなので牛乳は一口も飲まない。背は男の子としては低く160pほどしかない。
背の高いこまきは、上から一馬の顔を覗きこんでニコニコしながら話しかける。
「きょうは、学校で何かあった?」
「別に」
「それくらい、教えてよ」
「委員会があった。クラスの美貴ちゃんと資料を印刷してた!以上」
つっけんどんな弟に姉は少し悲しくなった。
「おなか空いたなあ。一馬、晩御飯何だろう」
「きょう、母さん残業だから、姉ちゃんとなにか店屋物でもとれって」
「だめよ、店屋物なんか。栄養が偏るでしょ、きょうはお姉ちゃんが作ってあげるから」
「ムリムリ」
「むー」
こまきは、口をつむった。
夕方六時過ぎ。こまきは台所にいた。一馬は一人でゲームをしている。
パジャマにエプロン姿という不思議な格好で料理をしているこまき。
「小学生のころは『神童』って呼ばれてたんだからね」
卵を割る音が聞こえる。ボールに割った卵を入れてカチャカチャとかき混ぜている。
「姉貴のオムレツはおいしいぞお」
独り言を呟きながら、こまきは次々と卵を割る。
一馬がひょこっと顔を出す。
「何、やってるの?」
「へへへ。今日は特製オムレツだよ。一馬はオムレツ大好きでしょ」
「…姉ちゃんさあ、出来もしない事、始めるのやめようよ」
「なによ。それ」
「姉ちゃんって、なんでも中途半端なんだからさ、出来る事だけやろうよ」
こまきは、すこしムッとしながら卵をかき混ぜる。
「きっと、姉ちゃんのオムレツなんか形にならないじゃね?」
弟の一馬は、器用な方で学校の成績もよい。少しぐうたらな姉をバカにしている気もある。
「なによ、中途半端って。わたしは、一馬のために…」
こまきは続けて卵を割ろうとするが、力が入って潰してしまい、思いっきり殻までボールの中に入れてしまった。
「ほら、オレがいないと姉ちゃんだめなんだからさ…」
あきれた一馬が卵と殻の入ったボールを奪おうとすると、こまきはさっとボールを隠す。
「ほら、姉ちゃん。オレがやるから」
カッとなったこまきは、一馬の額に向けて卵を投げつけた。
一馬の額から黄身が流れる。
「ちょっと…」
一馬が声をかけたときには、こまきは台所を出ていた。
「しょうがないなあ」
顔中卵まみれの一馬は、顔を洗い姉が放ってしまった料理を仕方なく続けた。
その頃こまきは、自分の部屋のベッドでごろんと転がって泣いていた。
ベッドの脇には編みかけのセーターが置いてあった。
弟のためにと思って、オムレツ作ったりセーター編んだりしたけれど、どれも中途半端。
「わたし、姉失格かな…」
小さい頃は、親から「お姉ちゃんだから」って言われてしっかりする事を押し付けられた。
その頃は、不器用でも大人がきちんと見守ってくれた。
しかし、もうすぐ、こまきも大人。そんな事を言っていられる年でもない。
本当は不器用なのに「お姉ちゃん」という役を演じていただけかもしれない。
「一馬がいなかったら、わたしもっとダメになってたかなあ」
枕をぎゅうっと抱いて、一人で呟く。
「姉ちゃん、ご飯できたよ」
下の階から、弟が呼ぶ。こまきはあんまり動く気にならない。
「もー、ご飯だって!」
しびれを切らした一馬が、こまきの部屋に来る。こまきは依然として寝転んだまま。
「はじめから、店屋物にすればよかったんだよ。姉ちゃんが余計な事をするから」
無言で起き上がるこまき。ベッドのふちに腰かけ、一馬を見上げる。
(いつの間にか、一馬って男っぽくなったなあ)
「ご飯冷えるよ」
踵を返した一馬の後ろを見たこまきは、自分も立ち上がり一馬の後を追う。
二階からの階段から降りると、すぐ玄関がある。
玄関のホールでこまきが話しかける。
「わたしはね、不器用かもしれないけど…一馬の事はとっても大好きだよ」
こまきは一馬を後ろから抱きしめ、弟の髪に顔をうずめた。
小柄な一馬は、姉に動きを封じ込められた。
「姉ちゃん―、何言ってるの…」
「小さい頃、こうしてもらうの、大好きだったもんね。ホント、お姉ちゃん子だったんだから」
「やめてよ…」
「何にも出来ない穀潰しのわたしだけど、一馬をオトナにしてあげることぐらいはできるんだよ」
「もう、お姉ちゃんの事バカにしない?」
「バカにしてないよ…」
「ウソ。だって、一馬はモテモテさんだし、何でも出来るもんね。それに比べてわたしは…」
弟に対して劣等感を感じていた姉。いきなりの挙動に驚きを隠せない弟。
「じゃあ、キスしよっ」
次の瞬間こまきが、一馬の耳に熱い息を吹きかける。
「熱い…」
一馬はとろけそうになる。
小さな弟を上から覗き込む姉。姉のさくらんぼのような唇が、弟の唇に優しく触れた。
(生まれてはじめての味がする…)
こまきは、イチゴのような弟の味の余韻をかみ締めた。
「あしたから、お姉ちゃん頑張るから。約束のキスだよ」
「姉ちゃん…」
「わたしも、一馬もほんのちょっとオトナになったかな―」
「…もういいから、ご飯たべようよ」
二人がダイニングに向かうと、あんまり形の良くないオムレツが二つ並んでいた。
翌日、一馬が学校から帰ると姉がふてくされて、自分の部屋のベッドでうつ伏せになっていた。
ベッドの下にはこまきの一張羅のスーツが放り出されている。
「…まったく。姉ちゃん、きょうも仕事探さなかったの?」
「リクルートスーツが入らない…。もうだめ…」
こまきはいつもゆるいパジャマを着ていたので、太った事に気付かなかった。
あきれた弟は、何も言わずに部屋を後にした。
おしまい。
>>302 ありがとうございます。
以上で投下終了です。
キモ姉初挑戦だったんですが、こどもっぽセリフのほうが
自分にはスラスラでるんだなあ。自分がガキだからか。
「こどもっぽセリフ」だって…orz
「こどもっぽいセリフ」でした。
GJ!!うちにもダメ姉来ないかな…
GJ!
俺は姉に甘えたい派
なんというダメ姉…
最高だ!
やばい
キュンキュンした
なんと言う駄目すぎる姉。
うちの嫁になれ
待て!俺が婿入りする!
>>314-315 じゃあうちの姉の嫁に来てくれ。
一年前モロッコに行くまで兄だった女だがな!
お・・・おk・・・・
>>292 俺も同じ…
(何か変な感じだから名前は気にしない事にしてる。)
名前がどうしても駄目な人は
メモ帳にコピーして改名すればいい
ってばっちゃが言ってた
投下します。
越えられない壁、決定的な差の続きです。
俺は今、見知らぬ場所に立っている。
そして、一人の美しい女性が、俺に微笑みかける。
「兄君…」
彼女が俺に微笑みかける。
小柄な体、大人を感じさせる包容力のある笑顔、
何よりも、無駄な自己主張をしない控え目な胸元…、
全てが俺に”女”を感じさせる。
「お姉さん」
気付けば、俺は彼女を抱きしめていた。
華奢な身体から僅かながらに、俺だけが感じられる膨らみ…、これぞ、微乳の醍醐味。
感無量…。
「兄さん…」
俺の抱擁に応えるよう、彼女も俺を抱き返してくれた、
…って、兄さん?
妹じゃないんだから、名前で呼んで欲しいなあとか思うワケで…、
それに気のせいか、胸が膨らんできた気が…、
「兄さん兄さん兄さん兄さん…」
彼女がそう連呼する度に胸が膨らんでる?!
あの控え目だった微乳は…、優しそうだった貧乳はどうなったんだ。
俺の疑問などお構いなしに、胸が膨らみ続けている…
止めて助けて膨らまないで!
このままじゃ、乳に挟まれて潰されて養分にされちまう!
「いぃやだあ!」
俺は、涙ながらに暴れた。もがいた。
そして、目が覚めた。
「夢…だったか」
額から流れ出る汗を拭いながら、俺は一息ついた。
随分と寝起きに暴れたのだろうか、布団は見る影もない程に乱れている。
そして、目を横にやれば、
何故か、そこには妹がいた。
”はぁはぁ”と荒い息を吐きながら、
衣服を乱して。
「兄さん…朝から激し過ぎです…」
潤んだ瞳で俺を見上げてくる妹…、
「待て!俺が何やったと言うのだ!そして、何でお前が此処にいるのだ?」
「私は兄さんを起こして差し上げようと思いまして…」
俺が、寝起きで回らない頭のままに問い詰めると、妹が落ち込んだ声で答えてきた。
こいつに悪意はなく、起こしに来てくれただけなのだろう。
謝ろうと思ったその前に、妹が口を開いた。
「そんな事よりも、兄さんはどんな夢を見てらしたんですか?」
感情を無くした瞳で、俺の目を見据え、
黒いオーラを発生させながら。
「えーと、それはだなあ…」
まずい、この状況はマズすぎだ。
ここで一つでも選択肢を誤れば、俺は川の向こうにいる爺ちゃんの姿を見る事になる。
「何やら”お姉さん”と言っておられたのが、耳に入ったのですが」
ヤバイ。寝言を呟いてしまい、それを聞かれていたらしい。
「それはだな…」
冷静に、冷静になって考えるんだ。
「ゆめ…、そう!ただの夢だったから、良く覚えてないんだ!」
記憶にない、これで通そう。
たかが、夢の話しだ。
妹だって、深くは追求してこないだろう。
「そうですか、覚えていませんか…」
「覚えてないって、たかが夢の話だぜ?」
「そうですね、たかだか夢のお話ですからね」
うん、良い調子だ。
今日の俺は一味も二味も違うのだ。
「夢の中にどんな人が出て来ようとも、記憶には残らないですよね?」
妹は笑顔で言う。
これなら、問題はなくなってきたハズ。
「そうなんだ、覚えてないんだ」
「綺麗な貧乳お姉さんの事なんて、まるで記憶に残ってないんだ」
「やはり、そんな夢を見られていたのですね」
アレ、妹の黒いオーラが復活してる?
俺は何か言ったのか、
記憶にないとしか言ってないハズなんだが…。
3 「私という者がいながら…淫らな夢を」
「よりにもよって、貧乳なお姉さん!の夢などを見るとは…!」
妹がそう言いながら、幽鬼の如く立ち上がる。
待て、何故にお前が俺の夢の内容を知っているんだ。
「私という、絶対的な伴侶がいながら、その様な事を考えるとは…」
落ち着け、
お前は妹だ、伴侶じゃない。
そして、一歩一歩と距離を詰めてくるな、
恐いから。
「朝の貴重な一発目を頂こうと、参上してみれば…」
3 怒りに任せて何を言っているんだ、お前は。
それで、俺の目の前に立って、何をしようというのだ。
「浮気性な兄さんには…」
何故か、大きくタメを作る妹、
そして、
「お仕置きです!」
の言葉と共に、その身を、正確にはその乳を、大きく振った。
俺にクリーンヒットしたその一撃は、俺の脳を揺さぶり、
俺は再び、爺ちゃんに会いに行く事となった。
3 妹よ、俺は一つだけ、お前に聞いておきたい事がある。
お前は俺の身体に、乳の恐怖でも染み込ませたいのか。
夢に出てきた様な、貧乳なお姉さんに慰められたい…。
最後の言葉は、聞いてくれなくて良い。
もう、爺ちゃんに会いに行くのは、当分に先で頼みたい。
投下終了です。
これが伝説のノーブラボイン撃ちかw
328 :
夕食:2008/02/19(火) 14:43:56 ID:TLJaADoC
投下します。
短いです
329 :
夕食:2008/02/19(火) 14:44:22 ID:TLJaADoC
河野透。
―俺の名前だ。
いきなりだが、状態を教える。
場所は自宅の居間に居る。
時刻は夕食の時間の6時だ。
俺は姉貴と2人だ。
親はどこかに行ったらしい。
この現状だと、姉貴と一緒に夕食を作って、食べなければならない。
姉貴は料理が下手ではないが、なぜか、内心の不安もあった。
杞憂であればいいのだが。
「透君との初の共同作業だねっ」
ここは、キッチン。
姉貴と一緒に料理を作っている。
「…聞いてる?私の声が聞こえないのかな?透君」
「返事ないなら、…イタズラしちゃうだからねっ!透君」
……おっと、どっかに、旅だっていたぜ、危ねぇー
「ねぇ、料理出来たら、…あーんとか、口移しとか、やろうよ!」
……俺の内心の心配はこれだ、さすがに、ブラコンすぎねぇか?いや、ブラコン以上な気もする、これをなんて言うのだっけな…思い出せない…
どうでもいいか。
「からかわないでくれよ」
「えー私と透君の仲じゃない、やろうよ!」
どうやら、俺を、からかっているようだ。
姉貴は、引くとしたら、あきれさせるとかだな、だが、それが難しいんだよな、やはり、あーんや口移しをするしかないのだろうか。
330 :
夕食:2008/02/19(火) 14:45:16 ID:TLJaADoC
したく、ないな。
あれ?あーんに口移しって、口移しってある種のキスだよな?俺はキスは、一度もしたことないし、こんな口移しごときで、初めてを失いたくね。
…これは、徹底抗戦してやる。
俺は姉貴には負けねぞ。
自分の貞操は自分で守るんだ。
覚悟は決めた、あとは、姉貴に俺の意思をみせるだけだ。
「姉貴、…それはだめだ」
俺は、料理を作りながら、はっきりと意思を強く持ちながら、言った。
「一回ぐらい、いいじゃない、減るもんじゃないし」
「俺の、…ファーストキスがかかってんだよぉぉ」
「私だって、…ファーストキスだし、問題ないでしょ」
「それに、…透君なら、…初めてをあげても、問題ないの!」
ひるんじゃだめだ。
徹底抗戦するんだろ!冷静に…
「あ、あほな事言わないでさ、料理作ろうぜ」
「ちぇー、話反らさないでよっ!」
まだ言うか。
「私はしたいのぉ!」
ん…なんか、かわいいなw
もっと、遊んでやろうかな。
「……あっ!いま、透君変な事考えたでしょ!!」
かわいいと思う事は変な事かな?
「話を戻すね、互いに初めてなら、…いいよね?」
うっ…いきなり姉貴が顔を本気の表情をし、目をうるませながら言う。
正直反則だよ、罪悪感がでちまうし、断りにくい。
どうしよ・・・俺
331 :
夕食:2008/02/19(火) 14:46:37 ID:TLJaADoC
まてよ…そうだノーカンにすればいいんだ、単なる事故だと。
なら安心だ。
「…しょうがないな」
「え、してくれるんだねっ!!」
「やっぱり、透君は優しいよっ!」
あれ、なんか照れるな///
「さあ出来たから、料理食べましょ」
「はーい」
俺は皿や箸を用意し、料理を皿に盛り付ける。
姉貴も炊いたご飯を茶碗に盛り付ける。
これで食卓の出来あがりだ。
今あるもので作ったが、とても見た目はおいしそうな、肉じゃがに豚汁だ
なぜか肉が多いが気にしないでもない。
姉貴はなぜか、サラダも作っていた、キャベツ等を盛り付けた物だ。
夕食は始まった。
そして、俺は恥ずかしい夕食を体験する。
終わり。
332 :
夕食:2008/02/19(火) 14:47:20 ID:TLJaADoC
投下終了。
ああ…次はヨダレ注入だ…。
いいこと思いついた!
お兄ちゃん、私とセックスしよ
投下します。
屋敷を抜け出した日の夜に旅の支度をしながらサディックは語りました。
「JAPANという国へ行こう。僕はそこのSAMURAIに会ってみたい」
「SAMURAI、ですか」
「子供の頃、ディエムお爺様がよく話してくださった。極東の島国にはSAMURAIという四千年の歴史を持つ民族が住むと。彼らにはNIN‐JUTUという名の技術があるらしい。
水の上を十五メートルも走ったり、こんなふうに両手首を合わせる構えをして手の平から眩い雷を放ったり、まさに奇跡としか言い様が無い技術だ。僕はSAMURAIからそのNIN‐JUTUを学びたいのだ」
「はぁ」
「それに、JAPANでは芸術も盛んだと聞く。OTAKUと呼ばれる芸術家たちが日夜切磋琢磨し、息つく暇なく新たな絵画や文学を生み出しているらしいのだ。どうだい? なかなか楽しそうな国だろう」
「はぁ」
何かが間違っている気がしないでもないネトリーナでしたが、サディックのたいへんなはしゃぎぶりを見て、何千キロも離れたJAPANへ旅するのはさすがに無謀ですとも言い出せず、ご主人様の熱弁に生返事するばかりでした。
鉄道の検問をやり過ごすのはそれほど難しくありませんでした。たいていの場合、検問前の町では密入国の手引きを生業とする闇屋が商売をしていましたので、その都度屋敷からくすねてきた腕時計と引き換えに闇の旅券と切符を手に入れられました。
けれども、気候の変化ばかりは如何ともし難く、それに加えて、山の寒さを甘く見て薄着のまま肩掛け一つしか持ってこなかったため、二人は山脈越えの列車の座席で凍え上がり、がくがくと震えました。
「寒く、ないのか」
「女というものは寒さに強く出来ておりますので、へっちゃらです」
「嘘を言っちゃいかんよ。こんなに冷たくなっているじゃないか。さ、言うことを聞いて肩掛けを使っておくれ。僕は充分温まったから、今度は君の番だ」
「申し訳ありません」
そうしているうちに、自然と二人は互いに寄り添う恰好になりました。肩をくっ付け合い、わずかなぬくもりを交換します。ネトリーナは目を瞑ってサディックの手に自分のそれをそっと重ねました。少しだけ寒さが薄れた気がしました。
次の駅で列車が停車したときに一時間ほど暇があったので二人はみすぼらしい物売りから二着の外套を買い求めました。どちらも粗末なかび臭い外套でしたが、すこしぶかぶかなのを気にしただけで、特に文句も言わずに羽織りました。
人心地ついて、これまで気に止めることが出来なかった車窓からの景色に二人は目を奪われました。野面は白く、荒涼とした雪の峰が切り立って、透き通る蒼穹は大気の膜を映し出し、世界最高峰の威容を見せ付けています。サディックが思わず叫びました。
「ちっぽけだ。ああ、なんてちっぽけなのだろう。この大山脈に比べ僕の煩悶のなんとみみっちいことか。貧乏臭い、つまんないことにウジウジしていた自分が情けなく思えるよ。無粋な饒舌を許しておくれネトリーナ。僕は虚栄心に強いられて黙っていられないのだ。
この光景を姉さんにも見せてあげたい、自らあの人を捨てて逃げたというのに今はそんなことを考えている。大自然の眺望は偉大だ。驚嘆と同時に故郷を恋しく思わせる。だがその望郷の念は断じて軟弱な羨望ではない。
あのせせこましい屋敷で僕の考えていたことといったら、どうにかして姉さんの過ぎた愛情から逃れたい、それだけだった。今は違う。僕は世界というものを見た。初めて見た。知った。今は姉さんの無知を告発してやりたい。
魂の目を開け、この世界の広さを見せ付けてやりたい。サディックにあるのはそんな思い上がった義務感だ。ああ、姉さんがここにいればなあ。きっと外の世界に目を向けてくれるはずなのに。
もの狂わしいよネトリーナ。すぐさま屋敷に戻って姉さんを連れ出したい。けれどもこの先にあるであろう新たな感激も待ち遠しいのだ。畜生め、この優柔不断な卑しい性根が憎たらしい。
ネトリーナ、今は君だけが慰めだ。僕のもう一人の姉よ。血縁がなくとも君を愛している。この旅を共にしてくれてありがとう。君がいたから僕はここまで来ることが出来た。君がそばにいてくれるから僕は先へ進む勇気を持てる」
「いけませんサディック様。わたくしなどに頭を下げては」
「愛する者に礼を言うのは当たり前のことだ。言わせておくれ」
ありがとう、とサディックは言いました。ネトリーナは目を細め、「姉として、ですか」と口の中で呟くと、佇まいを正して、寒さが堪えるのでしょうか、やや震えた声で言いました。
「勿体無いお言葉をいただき、身に余る幸せに存じます」
主従の旅は順調に続きました。千里を結ぶ鉄道で標高五千メートルの山脈を越えて、世界で最も人口の多い国にたどり着きました。サディックの目指すJAPANはもうすぐです。二人は港方面へと向かう長距離バスに乗るために、大きな町へ足を向けました。
遠くからでも聳え立つ煙突が見えるほど大きな工場がある町です。煙突からはもくもくと煙が昇り、そのまま空に溶け入るかと思いきや、雲を灰色に染めて町全体を覆う巨大な傘を作り、ほの暗く陰を落としています。
サディックは列車の時とは別の意味で驚愕しました。
「今にも黒い雨が降りそうだ」
二人は町へと続く道路を歩きます。乱雑な舗装です。大型トラックが地響きを立てて絶え間無く走っています。所々が傷み、ひび割れています。二人は埃っぽい空気にむせて、たびたびハンカチで口元を覆いました。
行き交う車に用心しいしい進んでいますと、ある地点でサディックがおやと声を上げ、道を外れてあさっての方角に駆け出しました。ご主人様の突然の疾走に数秒遅れて、ネトリーナも息を切らせて追いかけます。
サディックが急に立ち止まり、追いついたネトリーナははしたなく見えない程度に静かに息を整えました。サディックはネトリーナに背を向けたまま語り始めました。
「僕には時々、マジェーネ姉さんがとてつもなく美しいと思えることがある。姉さんは確かに美人だよ。けれども、そういった見かけの美しさとはまた違ったそれだ。僕の下劣な本性がそう思わせているのかもしれん。
僕に虐げられた姉さんが悲しむ姿に、心臓を鷲掴まれそれの他何も目に入らなくなる、えたいの知れぬ艶かしさを伴う戦慄を覚えることがあるのだ。棄てばちの小児的惨忍だろうか。
すすり泣きの音色が甘美に聞こえ、頬から伝う涙に花を手折る瞬間のあの何とも言い表せぬ充足を感じてしまう。この河の美しさはそうした美と同じものだ。七色に輝く河。天変地異の前兆とでもいうのか」
二人の目の前に流れる川は、淀んだ日差しを反射して虹色に輝いていました。とってもきれいにきらきらと、シャボン玉などとはまた違った、自然界ではありえない、鮮明すぎる色で彩られています。
背筋がぞっとしたネトリーナは、両手で口元を押さえて息を呑みました。見れば見るほどくらくらする色合いです。
虹色の河をより詳しく観察するためにサディックが身を乗り出しました。
「血の錆色のほうがまだましだ。川底が全く見えんよ。それにしてもこいつはまるで安物の駄菓子――」
続けようとしたところで、やけにぬめった土手のふちの泥が足を捕らえ、あれ、と言ったときにはもう遅く、すってんころりん転がって、あちこち体をぶつけつつ、まっさかさまに落ちて行き、ざぶんと音立て虹色川にサディックは消えてしまいました。
空をつかんだ腕を伸ばしたまま、ネトリーナは絶叫します。サディックさまサディックさまと泣き叫ばんばかりに声を張り上げます。辺りを見渡します。人っ子一人居ません。
大切な人を助けるべくすぐさま川べりへ滑り降ります。手ごろな棒は見つかりません。左手で草を掴んで身体を固定し、右手をあらん限りに差し出します。
「サディックさま。つかまってくださいまし。サディックさま」
しかし、声はむなしく響くばかりです。ぬめったしぶきが指に当たります。思いのほか流れが速いことに気付いたネトリーナは、今度こそ泣きじゃくりながら四つん這いで川べりを進みます。そうしてまた同じ恰好で腕を伸ばし、サディックさまサディックさまと繰り返します。
つんとした異臭が目と鼻を刺激するだけです。五分ほど経ち、潤みすぎたせいで目が利かなくなり始めたときに、川下の方角から声が聞こえました。
「生きてる。サディックはまだ生きてるよ」
目元を拭って見てみれば、ずっと川下のところで川べりにしがみ付いたサディックが手を振っています。
「サディック様? サディック様なのですね?」
「そうとも。ああ、わざわざ来なくとも大丈夫だ。自力で登れるさ。上で待っていてくれ」
ネトリーナは土手を登ってサディックの登る先まで走りました。泥を払うことも忘れて大切な人を見守ります。
「こんなときこそNIN‐JUTUが使えたらなあ――やれやれ、臭いし汚いし重くてきついし、散々だ――こいつは一刻も早くSAMURAIに教えを乞わねば――ぺっ、その上不味い。
なんだろうな、この虹色の川は。水が恐ろしく重いぞ。ヘドロにしてはお上品すぎる。うん、骨か――きれいなお水にお魚さんたちも大喜び、とくらあな」
登り終えたサディックは襟に引っかかった魚の骨を指で弾き飛ばして立ち上がりました。
「ああ大丈夫。興奮してはいるが大したけがは無い。精々擦り剥いた程度さ。それにしてもお互い酷い有り様だ。おおっと、お召し物のお取替えは御自分でやるよ。
先ほど解ったのだがこの汚れは擦ってもなかなか落ちないみたいだ。君の肌に付くといけないから今は触らないでおくれ。ああ、臭い臭い。兎にも角にも風呂に入らねばいかんな。しかしこんな川が流れる土地に体を洗える水があるかどうか。
代わりの服も買わねばならんし――ところでどうしたのだネトリーナ。先ほどから黙っているガッ――」
乾いた音が辺りに響きました。ネトリーナは腕を振り切ったまま、険しい表情をしています。しばらくすると、サディックは頬を押さえて呆然とつぶやきました。
「ぶった」
その言葉にネトリーナは我に返り、自分の右腕がご主人様の頬を打ったことにようやく気が付きました。
「申し訳ありません」
サディックは充血した頬を撫で擦ります。
「ネトリーナが、僕をぶった」
体が勝手に動いてしまったとはいえ、このような不敬を致してしまっては暇を申し渡されても文句は言えません。ネトリーナは頭を下げたまま、サディックの、おそらく叱責でしょう、言葉を待ちました。
「ネトリーナが、この僕を打ったのだ。男子の顔を、女中如きが引っぱたいたのだ」
「もうしわけ、ありません」
「なぜ謝る必要があるネトリーナ。僕は怒ってはいない。むしろ、嬉しい。そうだ、姉さんみたく叱られて喜んでいるのだ」
サディックはからからと笑いました。
「あの屋敷では僕を打つ者が居なくなって久しい。使用人はもちろん、親父や母さんだってとっくにサディックを見捨てちまってる。姉さんはあのざまだ。どんな馬鹿をやってみせても、誰も僕を打ってくれやしない。
ありがとうネトリーナ。そしてすまない、君に心配をかけた。君は正しいことをしたのだ。だから顔を上げておくれ」
ネトリーナは感極まってサディックを見つめました。川の水が服を毒々しい色に染め、肌にまだらの染みを作っていましたが、無邪気に喜ぶ大切な人の姿はとてもいとおしく思えました。ネトリーナはこの旅に出てから初めて微笑みました。
サディックには子供っぽい、おばかなところもあるし、その上鈍感、さらには気取り屋で、やたら語りたがりでもありますけれど、ネトリーナはそんな彼のまっすぐなところが大好きなのでした。サディックは楽しげに続けます。
「君はやはりもう一人の姉さんだよ」
ネトリーナの表情が再び曇りました。異国の河は七色に輝いています。
以上です
ネトリーナかわいいのう
グッジョブ!
中国の描写が酷いな!
GJ
千鳥と七色の川に吹いたwww
もっと!もっとぶっておくれ!
なんか台詞が海外の小説みたいだw
で、姉さんマダー?
>>342演劇調な感じが素敵です。GJ!!
二話目投下しまーす。
二話
「そいつは困ったな…」
グレーテルには鳥の表情など分かりません。でも声の調子から、ボブが同情してくれているのは分かります。
「しかし、最低な親だな!!許せん!!こんな良い娘を…」
マッケンジーは地団太を踏んで憤っています。
「それで、俺達に頼みたい事ってなんだい?」
今なら何だってやってやるぜ、と不敵に笑うドイル。
「…」
ハマーDは地面を見つめ、微動だにしません。きっとミミズでも探しているのでしょう。何にせよ頼もしい限りです。グレーテルは丸い小石を探して、辺りを歩き回りながら、口火を切りました。
「うん、やってもらいたいのはね―――」
「グレーテル!グレーテル!!」
「あ、お兄ちゃんが呼んでる。それじゃみんな、よろしくね!」
ヘンゼルの声を聞くと、グレーテルはガバッと立ち上がり、袋にパン屑の代わりに小石を詰めて、呼び声の主へと駆けていきます。一度、小鳥達に手を振って笑顔を見せると、愛しいお兄ちゃんの下へ、一目散に走っていきました。
残された四羽は、鳴き声で返事をしながら、思ったのです。必ずこの娘を助けてあげよう、と。
「さあ!ピクニックに出かけよう、出発、進行!!」
お父さんが元気良く号令をかけます。
「ほらほら、さっさと歩いた!」
お母さんはお弁当を抱えながらも、二人の子供の背中を押します。
ヘンゼルお兄ちゃんはだりー、だりー、と阿呆の如く繰り返し呟きます。でもグレーテルが左手を差し出すと、しっかり手を繋いでくれました。
四人は、表面上はとても楽しげな様子で、森へと入ります。見事な秋晴れの昼間だというのに、森の中は真っ暗でした。先を行くお父さんとお母さんの背中も、木々の隙間から射す木漏れ日が無ければ、見失ってしまうかもしれません。
―――陽が落ちれば帰り道どころか、自分の足下だって分からないかもしれない…。
グレーテルは右手を後ろで握り込み、一定の時間間隔をおいて、小石を落としていきました。
「駄目だわ、やっぱココ電波入らねえ…。メール送れねえじゃんかよ、有り得ねえー!」
ヘンゼルお兄ちゃんは、朝からずっと携帯電話を操作しています。もしかしたらこないだのミキちゃん(キャバ嬢、24歳)のような、ゴミ虫ビッチと連絡を取っているのかもしれません。
もしそんな事になっていた場合、相手には東京湾に沈んでもらう事にしましょう。
しばらく歩いていると、前方のお父さんとお母さんがぴたりと立ち止まりました。森の中の少し拓けた場所です。
かつては木が密生していたのでしょうが、今は一面、切り株だらけです。
「さて、俺達はちょいとこの辺りを散歩してくるから、遊んでいなさい。あまり遠くへ行くんじゃないぞ?」
お父さんはそう言いながら、お母さんから受け取った弁当箱を差し出します。
「お腹が空いたらコレを食べるんだよ?」
お母さんは目を潤ませながら、そう言いました。
―――泣くくらいなら最初からこんな事するんじゃないわよ。
そう毒づきつつも、グレーテルは弁当箱を受け取ります。
「中身何よ?椎茸入ってないよな?」
ヘンゼルお兄ちゃんは、この先に待ち受ける自分の運命など知らずに、お弁当の中身を気にしています。
「それじゃ、行くからな…」
「仲良くするのよ…」
二人は森の中へ消えていきました。
「何だよ、あれ。これが今生の別れみたいな顔しちゃってさぁ…わろすわろす」
とことん頭の巡りの悪いヘンゼルです。
「お兄ちゃん、とりあえずその辺歩き回ろうよ」
グレーテルは、弁当箱を切り株の上に置いてヘンゼルに言いました。
「おう、そうすっか。デートだデート」
「で、でぇと…そんな…」
グレーテルはさっ、とあらぬ方向を向きました。でも頬に射した赤みは、なかなか消えてくれそうにありません。
その時です。
「お、いたいた!」
森の中から、四人の男が現れました。皆、黒いスーツにサングラス、きっちりオールバック、とお揃いの格好をしています。
―――こいつらが例の“人買い”だな…
聡いグレーテルは、相手のナリを見て瞬時に正体を見破りました。
「お坊ちゃん達、こんな所で何をしているんだい?」
黒服1号が話しかけてきます。
「え?ピクニックっすけど…」
ヘンゼルお兄ちゃんは、相手の格好を見ても怯みません。というかこの馬鹿は、全く状況を把握していないのでしょう。
グレーテルは、気が気ではありません。
「ピクニック…!!こんな所で!!こんな殺風景な所じゃつまらんだろう!?」
黒服2号が身を乗り出してきます。
「っつーか、別にピクニック自体そんなに興味無い的な!?」
ヘンゼルはノリ良く答えます。
「向こうに、もっと良い景色の場所があるぜ?案内しようか?」
黒服3号がニタニタ笑いながら、ヘンゼルに近付きます。
「いや、ここで待ってろって言われてるんすよ、サーセン」
ヘンゼルはあっさりと断ります。
「良いから……来いってんだよおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」
黒服4号の叫び声を合図に、人買い達が飛び掛かってきます。
「ボブ!マッケンジー!ドイル!ハマーD!!出番よ!!」
グレーテルが声を上げます。それと同時に、草むらから影が飛び出してきました。
「な、何だこいつらは!?」
人買い達は、慌てました。小さな影は、物凄いスピードで全身を攻撃してきます。
正体不明の影に目玉を突き破られたり、耳を千切られたりした男達は、阿鼻叫喚の悲鳴を上げて逃げ回ります。
グレーテルも隙を見つけては、隠し持っていた金づちで脛を叩きます。
ヘンゼルだけが、全く状況を読めずポカンとしていました。
あっ!いけません!!
「隙ありぃぃぃぃッ!!」
黒服3号が、胸ポケットからトカレフを取り出しています。
「くらいやがれええぇぇぇぇ!!」
ヘンゼルは、ただただ呆然とするばかりです。
「お兄ちゃんッ―――――!!」
グレーテルは思わず、目を覆いました。
しかし、発砲音は聞こえてきません。
聞こえてきたのは、トカレフが地面を滑る音と、黒服3号の呻き声です。
「ゆ…指が…!俺の指がああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
黒服3号の右手、トカレフの引き金にかかっていた人差し指は、食いちぎられていました。
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫する黒服に、更なる攻撃が浴びせられます。
『それ』は地面スレスレを滑空し、黒服の目の前で急上昇すると、その大きく開けられた口の中に飛び込んでいきました。
次の瞬間、めりっ、という音ともにオールバックの後頭部は爆発し、影が飛び出します。
一度、黒服の頭上を旋回した後、『それ』はヘンゼルの前にふわりと着地しました。
グレーテルは、ありったけの驚きを込めて『それ』の名前を叫びました。
「ハマーD!!」
そう、ヘンゼルを救ったのはハマーDでした。ハマーDはぶるっ、と全身を震わせて、血しぶきを飛ばします。そして、怯えている残りの黒服達を威嚇するように、翼を大きく広げました。
「ひいいいッ…!!」
「逃げろおお!!」
「覚えてやがれ畜生ッ…!!」
それを見た人買い達は、いかにもな台詞を吐いて、退散していきました。
「ふぅ…何とか撃退できたな…」
ボブはほうっ、と溜め息をつきました。
「大丈夫だったかい?グレーテルちゃん」
マッケンジーは、心配そうにグレーテルに問い掛けます。
「へっ…!!人間ごときが俺達に敵うわけないだろ!」
ドイルの脳内は、まだまだアドレナリン分泌中のようです。
「みんな、ありがとう!!」
グレーテルはお礼を言います。
森に行く前に、グレーテルが相談したのはこの事だったのです。一つだけ予想外だったのは、小鳥達の攻撃が思いのほか、えげつなかった事くらいでしょうか。
「それにハマーDも!!お兄ちゃんを助けてくれて本当にありがとう!!」
「…」
グレーテルがハマーDの方を向くと、ハマーDはヘンゼルお兄ちゃんの手の上に乗っかっていました。
「こいつ、ハマーDって言うのか?ハマーD!!ありがとな!!かわいいな、こいつぅ!!」
ヘンゼルお兄ちゃんは、もう一方の手でハマーDを撫でます。
ハマーDも心なしか気持ち良さそうです。
人差し指で、胸辺りを撫でた時、事件は起きました。
「ひゃぁ…そ、そこはらめッ…!らめなのぉぉッ!!」
グレーテルは自分の耳を疑いました。
「な、何なの…?今の声…」
「う、うむ…多分、ヘンゼルお兄ちゃんが撫でた場所が胸だったものだから…」
ボブも呆気に取られた様子です。
「まあ、その、つまり…せ、性感帯を弄られた訳だな…。だからオーガズムに…」
敢えて選んだ言葉が何故か卑猥な、マッケンジー。
「達した…って事は…お、おい…ハマーD……お前…」
ドイルは何故か前かがみの姿勢です。
『 女 だ っ た の か ! ! 』
「いやぁ〜、本当にかわいいな、この鳥!よーしよしよしよし」
「ン、はぁんッ!ら、らめッ!またイッちゃ……あああんッ!!」
鳥と会話出来ないヘンゼルお兄ちゃんは、自分が何をしているのかさっぱり分かっていません。
そうです。
ハマーDは、実は雌でした。ハマーDという名前はあくまでグレーテルがつけたもので、本当は「長澤まさみ」という女の子らしい名前があったのです。
でも、この男尊女卑の鳥社会で生きていくには、雌という性別を隠して生きていくしかなかったのです。
しかし、ひたすら意地を張って雄鳥として振る舞ってきたハマーDも、ヘンゼルのゴットフィンガーの前にはなす術なく、押さえ付けてきた女としての情欲を掻き立てられてしまうのでした。
そして生まれて初めてのオーガズムと共に、ハマーDの奥底からやってきたものは恋心でした。
「ちょっと!!お兄ちゃんッ!!ハマーDが嫌がってるでしょッ!!」
これ以上、ハマーDを愛撫させる訳にはいきません。グレーテルは素早く、兄の手の上の鳥を奪いました。
ハマーDは、快感の余韻に浸ってぐったりしています。
「うわッ…!!力入れすぎたかな!?ごめんな〜…」
ヘンゼルは心底申し訳なさそうな顔で、ハマーDを覗きこみます。
ハマーDはのろのろと顔を上げると、ヘンゼルの頬に頭を擦り寄せ、眠りにつきました。
「おいおい、大丈夫かよ!?」
「心配ないよ、気絶しただけみたい」
イッちゃったせいでね、と心の中で付け加えておきます。
それからみんなでお弁当を食べ、祝杯を上げた後、まだ力の入らないハマーDを担ぎながら小鳥達は、ねぐらへ飛んでいきました。
「しっかしおせーな、おやじ達。あいつら何してんだ?青姦?」
ヘンゼルはどこまでもお下品です。辺りを見回すと、既に日は暮れかけていて、そこらの切り株も闇に溶けつつありました。
それから数時間経ちました。
お父さんもお母さんも一向に帰ってくる気配がありません。
ヘンゼルお兄ちゃんも、少し不安げな様子です。
(そろそろ良いかな…)
グレーテルは頃合を見計らって、立ち上がると言いました。
「あ!!そういえば私、道に迷わないように目印置いていったんだっけ!」
「何!?妹よ、そいつはでかした!!」
森の中、お月様の光を反射して仄かに光る小石たち。
二人はそれを辿って、なんとか家に帰る事が出来ました。
ヘンゼルとグレーテルの姿を見たお母さんは涙を浮かべて、ごめんね、ごめんね、と繰り返しがら二人を抱き締めます。
お父さんは困り顔でしたが、どこか安心したようにも見えました。
こうして、二人は無事に戻ってこれました。
しかし二人を待ち受ける残酷な運命は、まだ序章に過ぎなかったのです。
投下終了です。
GJ!!
ちょwwwwおまwwwwwwハマーDwwwwwwww
ちょwwwっwwwとwwwまwwwてwww
鳥におっぱいはねーよwww でもそんなのどうでもいい! GJ!
長澤まさみワロス
ハマーDwwww長澤まさみかよwwww糞ワラタwwwwGJ!!!!
>>342と
>>354 取り敢えず改行に気をつけようよ
自分らは、ワイド画面PCで一行に収まってるかもしれないが
そうじゃないのは、変なところに句読点が来てたり
おかしな所で改行が入っていたりするぞ
実際問題、掲示板投下形式で改行に関する問題は不可抗力
あらゆるユーザーに対応するのは不可能ってもんさ
そんなこと気にしているより、一秒でも多くキモさに萌えるんだ
GJ!!
黒服→ざわ・・・ ざわ・・・ に変換された
GJ!!長澤まさみ吹いたwww
ハマーDと長澤まさみ全然違うじゃねーかwwwしかもみさくら調かよwwwww
『それ』は地面スレスレを滑空し、黒服の目の前で急上昇すると、その大きく開けられた口の中に飛び込んでいきました。
次の瞬間、めりっ、という音ともにオールバックの後頭部は爆発し、影が飛び出します。
ハマーDが怖すぎるwwwwwww
ハマーD死亡不フラグ
ハマーDかっけぇwww
と思ったらwww
よしこれからはハニーDと呼ぶ事にしよう
アホすぎワロタwww
GJGJ
小鳥強すぎ糞ワロタwwwww
そろそろカッコいい婆ちゃん来ないかなぁ?
じゃあ永遠のしろは俺が貰っていきますね^^
>341
>300
妹がトッピングしたヨーグルトうめえwwwwww
良い妹さんじゃないか
大事にしなよ
>>373 妹をトッピングしたヨーグルトに見えた
妹のヨーグルト和えとか
そのヨーグルトって――
当然兄の子を(内緒で)孕んだ妊娠中のキモウト母乳100%の……
お、お姉ちゃん…
な、なんでそんな物騒な物を持ってるの…
1年後、そこには楽しげに走り回る
>>376の子供の姿が・・・!!
投下します。
ファンタジーモノです。
僕の住んでいる街は、国立の魔法学院を中心としながら方円状に発展した街だった。
その片隅にひっそりと控える家の屋根裏を間借りして、僕は小さいながら仕事をしている。
よく"魔法使い"と言われることで誤解されることがある。
"魔法使い"といえば、優雅に空を飛び回り不恰好な重鎧を着ている兵士の頭上を飛び回り、派手な魔法使いをドンパチしてばっさばっさと薙ぎ倒すといったような英雄談がよく思い浮かばれる。
実際のところは、全くそんなことは無い。
例えば僕みたいに平平凡々とした魔法使いは、それこそ一般人よりかは魔法が使えるというだけの話でしかない。
瑣末な道具の修理、薬の調合、異民族間の書物の翻訳など、地味な仕事を請け負って日銭を稼ぎ、なんとか生活しているだけに過ぎない。
僕も初老の魔法使いに弟子入りし、少なからず期待を受けた。
だからそれなりの自信はあった。
ただし、持ち前の、あまり褒められたものではない愚鈍さのせいか、痺れを切らした師匠に説教をされ、暫くの間、破門というきつい処分を下された。
他の弟子達は、まあ、怒りも収まればまた元通り一緒に教えてくれるだろうと慰めはしたものの、その気配は無く一年は経っている。
慣れは恐ろしいもので、もうそのことを愚痴っても仕方は無いし、この生活にもそこそこ満足はしていた。
僕は目が覚めて窓を見やる。
窓からは光が射している。
もうそんな時間なのか、と頭をかきながらベットから這い上がる。
少し背伸びをして、机の上に貼られた作業内容と必要な材料を確認する。
――今日の作業は、傷薬の調合と杖への魔力補填か。
僕は作業着であるローブを着込んでいると、四角く切り取られた床が開き、一人の少女がけたたましく叫んだ。
「いつまで寝てるの!ご飯冷めちゃうよ!」
ああ、そういえばもうそんな時間だったのか。
僕は階段を揺すりながら部屋へと降りていき、足取りぎこちなく階段を下りていく。
下宿の女将さんが台所でフライパンを洗っている。
机の上には不丁寧に切り取られたパンが皿の上に乗っかっており、キャベツとタマネギが入ったコンソメのスープが添えられている。
僕は台所のほうを向いて、申し訳なさそうに挨拶する。
「ごめんなさい、いつも迷惑をかけてしまって」
女将はこちらを向き、でっぷりとした体を揺すりながら、明るい声で答える。
「なに言ってんだよ、今更なんだい、一人も二人も変わらないよ。むしろ家族が増えて嬉しいくらいなもんだよ」
それは何度も行われている会話ではあるが、その返事を聞く度に、僕はありがたい気持ちになる。
席に座り、今日も食事にありつけることを神に感謝すると、パンを切り取り、湯気を立てているスープに浸す。
目の前には、先ほど起こしに来た少女がまじまじと見つめている。
「えと、僕の食べているところ、珍しいかな?」
少女は、別に、という感じでそっぽを向き、スプーンを持ってスープを音を立てて食べる。
この少女は女将の一人娘であった。
親父のほうはどうか、と言えばここ最近続く戦火に巻き込まれ、勇敢な無名の兵士として国の礎になったという。
女将はエプロンで手を拭き、棚から茶封筒を取り出すと、僕の前に出した。
「なんかね、家先にこんなものが届いてたよ、どうやらあんた宛らしい」
僕は茶封筒を取り、裏表を確認する。
確かにここの住所と僕の名前である「フィロス」は書いてあったが、差出人の名前は何処にも書いてはいなかった。
このような商売だから、別に匿名で依頼を受けることは時折ある。
それはお互い詮索しないことが、暗黙のルールだ。
お金と周囲に迷惑をかけないことだけがはっきりと解ればそれでいい。
僕はパンを口の中で咀嚼しつつ、紙を取り出す。そこにはこう書かれていた。
「貴方ニ至急依頼スル事アリ、今日中ニ参ズル」
それだけがやたら達筆な字で書かれており、何か不安な気持ちにさせる。
しかし、何を考えても仕方が無いので、僕はポケットの中へ突っ込むとごちそうさま、と弱く呟き、皿を流し台に突っ込むと僕は扉を開き、外へと出た。
薄暗い道をうねうねと歩く。
大通りに近づくにつれて段々と騒がしくなっていく。
やっとのことで大通りへと付くと慌しく人が行き来を繰り返している。
さらになだらかな坂を上がっていくと、賑やかな市場へと出た。
そこでは、商人達が大声で自分の商品が如何に素晴らしいかを宣伝しており、また客達は怒鳴り声で値下交渉を行っている。
その騒音は、僕には好きにはなれず、たまに頭を痛ませた。が、僕は我慢する。
何故ならそこでは店頭に並ぶハーブの数々よりも幾分安く手に入るからだ。
そして、経費を抑えようとするならばそこで手に入れるに越した事は無かった。
僕はいつも買出しを行っている髭面の商人に話しかける。
「おお、坊主、商売の様子はどうかね?」
「いえ、相変わらずですね。良くも無く、悪くも無く」
商人は少し笑う。
僕は品物を書いたメモを渡すと、髭面の商品は馴れた手付きで袋へと詰めていく。
その姿を暫くじっと見せると、商品は周囲を振り向き、こっちに手招きをする。
僕は顔を近づけると、商人は少し耳打ちをする。
「おい、お前さん、なんかファンでもいるのか?」
ファン?まさか。僕は心当たりがない。僕は首を振る。
「いやさ、なんかかわいい女の子がね、『この辺にみすぼらしく修理業みたいなのをやっている青年はいませんでした?』と聞いてきたのだよ。
ほら、この街のことだから、そんなのは沢山いるわけだが、特徴なんか聞いているうちにお前のことだ、ってピンときたわけよお。
長身かつ細身、瞳と髪は同じ茶で色白。髪毛は少しパーマがかかっていて手入れしていないからぼさぼさ。
とまー、そんなのはお前さんしかいないからな」
と商人特有の多弁さでまくしたて、そしてかっかっと笑う。
正直、その笑い方には不愉快しか覚えなかったが、いつも良くして貰っているので無下に扱うことも出来ない。
ハーブを詰め終わると、重さをはかる。
僕はその分の料金を払うと、抱えて家へと向かう。
自分の身を嗅ぎ回られる、か……
特段やましいことをしているつもりはなかった。
もしそんなことをしているならばもう少し良い生活が出来るから、恐らくそういうわけではない、と僕は思う。
さすがにいい生活をしていないのに事件に巻き込まれるのも馬鹿馬鹿しい。
あまり考えたくは無いが、一つの可能性があるな、と僕は思った。
それは妹だ。
何故妹なのか、と僕が考える理由には一つある。
それは、妹が僕に対して重度の依存を持っていたことだった。
僕が故郷の片田舎から師匠と一緒に旅に出ると言い出した時のことだった。
妹は泣きながら僕にこう叫んでた。
「捨てないで、捨てないで、悪いところがあったら何でも直すから」
周囲からはまるで恋人のようだな、と苦笑されたが、年齢が上がればそれも直るだろうと楽観していた。
精神が不安定なときは誰かに頼りたくなるもので、それも一過性のものだろうと僕は見ている。
そう考えるとさすがにそれは無いか、と僕は思った。
妹が僕に甘えるたびに「お前は少しは成長しろ」と怒っていたのに、今更こんなことを考えるなんて、僕も妹に依存しているみたいじゃないかと少し自嘲した。
しかし、虫の知らせというのは恐ろしいものだ。
まさか、考えていたことが本当になるとは。
僕が家に帰り、扉を開けると、女将さんと一人の少女がちょこんと座っていた。
女将のやかましい、あの一人娘ではない。
ピンクの色をした服にレースのついたフリルのスカート。
薄暗い部屋にやたらと、少し場違いな形な印象を受けた。明るい花。
僕は直感した。
女将は僕を見ると相変わらず、陽気な調子で言った。
「おお、帰ってきたんだね。このかわいらしい娘はあんたの依頼主――」
そう言うと少女が振り向く、やっぱりそうだ。お前は……
「ああ、ククル、な、なんでお前がここに」
少女はこっちを振り向くと、満面の笑顔で腰に抱きつき、ローブに頬をすりつける。
女将は呆気に取られた顔をしている。
そりゃそうだ。
誰だってこんな姿を急に見たらびっくりするに決まっている。
「あはは、フィロスお兄ちゃん、やっと合えたね」
僕の"妹"は凄く幸せそうな顔をしていた。
一方、僕は固まったまま、どうしようかと考えあぐねていた。
第一話投下終了です。
おつー
いいよいいよ
GJです!
ファンタジーな世界の妹、
大好きです。
投下します。
午後7時過ぎ、喫茶店『無銘』は、祭りの喧騒とは無縁な静けさに包まれていた。
「意外と早くに暇になったな」
マスターが小声で康彦に話し掛ける。
「そうですね」
康彦は苦笑混じりに答えながら、”暇にもなるだろう”とおもった。
その日にもっとも多かったのは、鈴を目当てとした客であり、そんな客の多くは、マスターに一睨みされて、退散していったし、
他の客達は、やけ酒でも飲む前に寄った、そんな雰囲気だったからだ。
今、店内にいる客は、老夫婦と予備校生、中年のサラリーマンに隠居した旦那と、カップル祭とは無縁な客だけだ。
4組共に常連客なだけに、無用な気遣いをする必要もないし、そんな気遣いが逆に仇になる客だけだった。
「いらっしゃ…」
カランコロン、と客の入りを伝える音と共に口にしようとしたマスターの挨拶が、途中で止まった。
常連の中にはマスターの挨拶を、他人行儀だ、と言って、嫌がる人も少なくない為、
康彦は特に気に止める事もなく、洗い物を続けていたが、店内に入ってきた二人連れを見て、そうする訳にもいかなくなった。
遥と智佳の妹二人だったからだ。
「二人とも、いらっしゃい」
「こんばんは、おじさん!」
「今日は兄貴にオゴって貰いに来たんだ!」
マスターのにこやかな挨拶に、二人が明るく答える。
「そうかそうか、ヤス君のオゴりなら、遠慮なく注文した方がいい!」
「「もちろん!!」」
顔を綻ばせたマスターの言葉に、二人が声を合わせて答える。
「ちょっ、マスター!何を言ってるんですか?」
抗議の声を上げた康彦に、マスターは、
「今日ぐらいは良いだろうよ」
と、反論出来ない威圧的な微笑みを見せた。
そんなマスターに圧倒される康彦に関係なく、二人は既にテーブル席に向かっていた。
「店は大丈夫だから、ヤス君は二人の相手をしてやりな」
二人の注文が出揃った時点で、マスターが康彦に言った。
康彦は、”そういう訳には…”と渋る様子を見せたが、
「さっすがマスター!優しいなあ」
「おじさん、大好きだよ!」
という二人の声に背中でも押されたのか、
「ヤス君、今日は兄としての勤めを果たしなさい!」
と、有無を言わせぬ強い調子で、康彦を妹達の元に向かわせた。
「安心しなよ」
「時給からはちゃんと引いておくから」
最後にそう言った時のマスターの笑顔が、康彦には多少以上に恨めしいモノに見えた。
康彦が私服に着替え、遥と智佳のいるテーブル席に座ると、二人はそれまで以上に嬉しそうな笑顔を見せた。
「あんまり食うと太るぞ」
更にオゴらされる事を恐れた康彦は、先手を打つように言う。
既に遥は、ナポリタンにサラダ、フルーツとケーキを平らげ、今は優雅にダージリンの紅茶を飲んでいるし、
智佳は、ピザとサラダにチョコパフェを平らげて、今はフルーツの盛り合わせと格闘している。
「その分、運動するから大丈夫だって!」
遥が笑う。
「成長期成長期!」
苺を食べながら、智佳が言う。
確かに二人とも、どちらかと言えば痩せ型である。
康彦もそうだし、両親も太ってはいないのだから、太りにくい遺伝子でもあるかもしれない。
そんな事を考えてながら二人を見ていた康彦は、二人が”オシャレな恰好”をしているのに気付いた。
「ハルもちぃも、何か用事でもあるんじゃないか?」
康彦が思った事をそのままに口にする。
「ん、どうしたの、急に?」
「いや、綺麗な恰好してるからな」
康彦の返答に、二人は顔を見合わせて、ほくそ笑んだ。
作戦の第一段階、普段とは違う恰好で康彦の気を引く、が成功したからだ。
「この後に大事な用事があるんだ」
「そう、凄く大事で、重要な仕事があるんだ」
そう言って、二人は顔を見合わせて楽しそうな笑い声をあげた。
康彦が思った事をそのままに口にする。
「ん、どうしたの、急に?」
「いや、綺麗な恰好してるからな」
康彦の返答に、二人は顔を見合わせて、ほくそ笑んだ。
作戦の第一段階、普段とは違う恰好で康彦の気を引く、が成功したからだ。
「この後に大事な用事があるんだ」
「そう、凄く大事で、重要な仕事があるんだ」
そう言って、二人は顔を見合わせて楽しそうな笑い声をあげた。
そんな二人の姿に康彦は、
”今日は家に帰るのを遅らせるか、何処かに泊まりに行った方が良いかな”
と、要らない気遣いを考えていた。
どの道、二人が店を出たら、自分はバイトに戻れるだろう、
そんな感覚しか、康彦にはなかった。
2
喫茶店『無銘』、
その店の前で、言い合いをしている女性が二人いた。
早紀と鈴だ。
「ほら、ここまで来たんだから、行くよ!」
早紀が苛立ったように鈴の手を引っ張るが、鈴は、
「だってえ、断られたらって思うて怖いしい、なんて言ったらイイかも分からないんだもん」
と、中々、足を進めようとしない。
「あぁ、もう!」
ストレスが溜まり過ぎた早紀が、鈴の方を向き直って怒鳴る。
「男なんて、フインキ作って迫れば、簡単にオトせるんだから、ウジウジしない!」
自分の経験から来た発言を力強くするが、
それでも鈴は、
「そんな雰囲気なんか分からないし、作れないよお!」
と弱気な発言を繰り返す。
「フインキなんか簡単に作れるのに…」
溜め息混じりに、鈴の顔を見ながら、早紀が言う。
鈴は困った顔をしながら、涙目になっていた。
「分かった分かった」
多少以上に投げやりに早紀が言い出す。
「外から店の様子を見て、それで私が作戦を立てて上げるから!」
それは、早紀が出来る最大限の手助けであり、決断しない鈴への譲歩でもあった。
「それならあ…」
「よし、じゃあ行くよ!」
早紀は、鈴が自分の提案に乗る態度を見せたところをすかさずに捕らえて、店の横まで鈴を引っ張って行った。
二人がこっそりと店内の様子を伺うと、康彦は二人の女の子と楽しそうに話をしていた。
「誰、アレ?」
早紀がそう聞く前に、鈴が声を出す。
「妹さん達…来てたんだ…」
その声には驚きと困惑が篭められていた。
「へぇー、妹さんか」
鈴の声の変化に気付かないまま、早紀が納得の声を出す。
言われれば、確かに3人とも似ていた。
それぞれに違った個性を感じさせながらも、
綺麗な黒髪、はっきりとした二重瞼、高めの鼻と、共通点も多く、知れば納得がいく感じだ。
「ちょうどイイ機会だから、妹にも…」
「私、ちょっとトイレに行ってくる!」
早紀が最後まで言い切る前に、鈴がそう言って走り出していた。
「トイレなら店で…」
「そこのコンビニだから!」
慌てる様に鈴は行ってしまった。
「何考えてんの、あの子は!」
鈴がいなくなった後、早紀が一人、毒づく。
「全く勇気ないんだから!」
愚痴を独り言で言い続ける。
とはいえ、早紀に帰る気はない。
ここに来る途中、何人にもナンパされてきたのだ。
それ自体は問題がないのだが、
その中に好みのタイプがいた事が問題なのだ。
それを断って来たのだから、何の成果も上げずに帰れる訳がなかった。
そんな事を考えていた早紀の目に、自分達と同じ様に中の様子を伺っている人影が、入って来た。
それは妹の久美だ。
久美も、自分の考えを実行する為に、康彦の働く店の前で待機していたのだが、
遥と智佳がこの店に来るという、予想外の出来事が起こってしまった為に、
今、こうして様子を観察しているのだ。
「何やってんの?」
「えっ、お姉さん!」
早紀が声をかけると、久美は飛び上がる様に驚きの声を上げた。
「お、お姉さんこそ、何をやってらっしゃるんですか?」
「アタシは友達の付き合いだよ」
久美の質問に、早紀は普通に答えたのだが、
久美は何か厭味な表情を浮かべながら、
「お友達、ですか」
と、薄ら笑いを浮かべる。
久美が、早紀の男性遍歴を嫌悪している事は、早紀も知っている。
だから、
「残念ながら、”男”じゃないんだよね」
と、嘲る感じで答えた。
「そう、と言う事で考えておきましょう」
そう言う久美の言葉には、毒を感じさせる。
が、早紀にはその毒は通じない。
所詮は男に相手されない女の戯言、そう受け取るからだ。
「で、アンタは何をやってるの?」
「お姉さんには分からない事ですよ」
冷静な声で言う早紀の質問に、久美が冷淡な物言いで答える。
「また、例の姉妹の事でしょう?」
早紀のそんな言葉に、久美は微笑で答えた。
それを肯定と受け取った早紀は、店内にそれらしい客がいるか、探してみた。
が、それに該当しそうなのはは一組だけ、
その一組は、康彦の妹二人だった。
「ひょっとして、あの二人の事?」
早紀が、遥と智佳の二人を指差しながら、久美に聞いて見る。
久美は驚いた様に早紀の顔を見て、頷いた。
”都合が良い”
早紀はそう思った。
妹達から兄を引き離したい久美ならば、鈴と康彦の仲を取り持つのに、協力するだろう、そう思えたからだ。
だが、久美の返事は、早紀の期待を裏切る物だった。
「お断りします」
それは、取り付く暇もない即答だった。
「断るって…、アンタはあの二人の為に、アニキを引き離したいんでしょう!」
「それは事実ですが、その役割を担うのは、私の使命です」
興奮して問い詰める早紀に、久美がにべもない返事を返す。
「使命だか何だか知らないけど、鈴は本気であの男が好きなんだから、イイ相手でしょうが!」
なるべく声を抑えてはいるが、それでも早紀の声は自然と高くなる。
それでも久美は、
「これは私の役目ですので、他の方に譲る気持ちはありません」
と、冷静に返してくる。
「それでも、アンタはアレを好きなワケじゃないでしょうに…」
早紀のそんな質問に、久美は初めて動揺の色を見せた。
そして、一度だけ店内を見ると、目を閉じて、すぐに表情を戻した。
「確かにそう言った事実はありません」
「なら…」
久美の言葉に、早紀が反論しようとしたが、それは叶わなかった。
「それでも、あのお兄さんへの生け贄は、私しか出来ないのです」
それは、誰にも反論する事を許さない、強く力のある一言だった。
早紀は何も言えなくなっていた。
呆れもあったし、それ以上に、自分の妹のハズの久美が、自分の理解が及ばない存在だと思い知らされたからだ。
そんな早紀の気持ちを知ってか知らずか、久美は静かに、
「あの人の心は私が受け持ちます」
「あの人に対して、生け贄になれるのは、私だけです」
と言うと、
「今日は興が冷めました」
とばかりに、早足で早紀の前から姿を消した。
「ワケ分かんないなあー!」
混乱した早紀が、そう怒鳴りながら頭を掻いてる時、
「今の、妹ちゃんだよね?」
と、恐る恐ると言った感じで鈴が声をかけてきた。
「え、あ…、鈴!」
突然の鈴の存在に、早紀は混乱を深めた。
「妹さん、ひょっとして…、先輩の事が好きなの?」
早紀の混乱を気に止める様子もなく、鈴が静かに聞く。
「えっ?」
鈴の言葉の意味が分からず、しばし茫然とした早紀だが、
すぐにその意味を察すると、
「違う違う!それはないから、違うから!」
と、慌てて否定した。
が、鈴はそれを肯定と受け取ったのか、
「そっかあ、早紀ちゃんの妹さんも、先輩のコトが好きなんだあ」
と言うと、
「そう言うワケじゃないから!」
という早紀の悲痛な叫びを聞かず、
「早紀ちゃんの妹さんがそうなら…」
「私は諦めなくちゃいけないよね…」
と呟いて、走って帰っていってしまった。
「あー!」
「なんなのよ、二人して!」
一人残された早紀は、そう叫ぶ他になかった。
「生け贄かあ」
元いた場所から充分に距離をとった鈴が、足を止めてそう呟いた。
あまりにも的を射ている、そう想うと、可笑しくなってしまったからだ。
「あの時は保険のつもりで言っただけなんだけどなあ」
自分の発言を振り返りながら、鈴が言う。
確かにその時の鈴は、聞かれたから答えただけで、
自分に何か遭った時の保険以上の意味合いはなかった。
だが、それが今、別の意味を持つ可能性があった。
「頑張ってね、早紀ちゃん!」
既に姿の見えない”親友”に声をかける。
「妹ちゃんの…」
「かたきうち!」
そう言うと鈴は、堪え切れなくなった笑いを、表に出した。
全てが、自分と康彦の為に動いている、
そう感じる事が出来た。
3
外は少しだけ賑やかになっていたようだが、店内は至って穏やかだ。
口数が多い客は残っていないのと、
康彦達3人にしても、
康彦は元から口数の多い方ではないし、
遥と智佳の二人は、康彦といれる時間に喜んでいて、にこやかな笑顔を浮かべているだけだったからだ。
「ヤス君、二人を何処かに、連れてって上げなよ」
二人の飲み物がなくなった時に、マスターがそう声をかけた。
「何処かに、て言われれても…」
康彦が困惑する。
康彦は、遥と智佳の二人が愛し合っているものだと考えているからだ。
だが二人は、康彦の気遣いに関係なく、
「そうだよ、兄ぃ!何処か連れてってよ!」
「そうそう、たまには兄貴らしい事をした方が良いよ?」
と、呼吸を合わせて言ってくる。
康彦はそれでも悩んでいたが、マスターの、
「行って来なよ、ヤス君」
「店の事は心配いらないから」
という言葉に後押しされて、二人を外に連れ出す事にした。
「この日に兄妹で出掛けても意味ないよ」
中年のサラリーマンがマスターに声をかける。
それにマスターは、
「意味は3人が決める事ですから」
と、静かに答えると、
「妹だって、ヤス君を救えるなら、それでも構わないだろう」
と、呟きを漏らした。
そんなマスターの胸中が分からず、客は首を傾げるだけだった。
「タブーなんて言葉じゃ、人は救えないんだ」
誰にも聞こえないよう、マスターは静かに語った。
康彦と共に、店から出た遥と智佳は、様々な作戦で康彦を感じさせようとした。
お酒に酔ったフリをして、とにかく康彦に抱き付く。
康彦に触りまくり、触らせるように仕向ける。
これは、二人に許されたアルコールが、缶チューハイ一本だけだった事や、二人共に酔っ払った経験がない事が災いし、
見事に失敗した。
人気のない場所でムードを作り、康彦に迫らせようともしたが、
そもそも”3人”いる時点でそんなムードになるワケもなく、
更に言えば、二人が牽制しあっているのだからどうしようもなく、
実行にすら移せていない。
カップルが多い場所に康彦を連れて行き、興奮させる、という作戦もあったが、
康彦の前に自分達が盛り上がってしまい、
肝心の康彦はどんどん冷めていく、という現象が起きただけだった。
「明日から、明日からはもう、何でもやるからね!」
「私だって、兄ぃに女を意識させるんだ!」
帰り道、二人が涙目に成りながら、そんな会話をしていた事は康彦は知らない。
そして二人も知らない。
ずっと自分達の後を尾けていた人間がいた事を。
大人しく家に帰る気になれなかった早紀が、興味本位で様子を伺っていた事を。
4
「アレは違うな」
3人が家に入った事を確認した早紀は、そう呟いた。
久美は、あの二人が恋愛してると言い切っていた。
だが、早紀の眼からはそうは写らなかった。
秘密めいたモノを感じなくはなかったが、それは恋愛とは結びつかなかったのだ。
むしろ、二人が恋している相手が、兄である康彦に思えていた。
妹同士で愛し合っているにしろ、二人が兄を愛してるしろ、
早紀には理解し難い世界だ。
だが、もし、二人が兄を好きだとしたら、
早紀の頭に、鈴の言葉が思い浮かぶ。
鈴は早紀に、楓の事故の時、妹も警察に事情を聞かれたと話した。
鈴がどんな意志があってそんな話をしたのか、早紀には分からないが、
早紀は、楓の死と二人が関係あるように思えてきてしまった。
我ながら馬鹿げた妄想だと早紀は思う。
だが、一度でも考えてしまったモノは、早紀の頭から離れずにいた。
「バカバカしい!」
自分の考えを否定する為に、早紀はわざと声を出した。
そんな妄想よりも、久美や鈴の本心を聞かなくてはいけない。
自分にはやらなくてはならない事がある、
そう思う事で早紀は、自分の考えを掻き消そうとした。
投下終了です。
>>398 どいつもこいつもイカレてやがる! どいつもこいつも頭がおかしい! 超GJ!
唯一マトモなのは早紀だけだけど、それだって『平均的』という意味でのマトモだからなあ。
正義感あふれるとか、倫理観が強いとかの『まっとうな』人種じゃないから、ヤンデレに対する抑止力にはならない。
悲劇的な結末しか見えねえや、楽しすぎる。
>>398 GJ!
キモい連中だぜ…(褒め言葉)
あとチラ裏だが、街中を歩いていたら、『新規受付』が『近親受付』に見えたんだぜ
お兄さん早く死なないかな。
お兄さん自身のためにと言うか、このスレにいながらキモウト二人には絶対に幸せになってほしくないと思ってる俺がいる。
彼女を失ったお兄さんが可哀想過ぎて本気で同情してしまう。
>>385 こういうシチュエーション好きだ
wktkして待ってます
>>398 鈴が何気に策士でワロタw
GJ!
>>385 なんか女将さんの娘の方が気になっちまったよw
>>398 なんかサスペンスな雰囲気が漂ってきた
が、こういうの大好きな俺にはなんの問題もなかった。
みんな超GJ!
>>385 いいところで「続く」かぁ。
俄然、続きが楽しみ。
エロいわけではないのですが、僕の話を聞いてください。
これは事実上の投下宣言みたいなものです。
408 :
悩みの種:2008/02/23(土) 00:42:55 ID:jT1KtTSc
昨日のことです。僕は深夜、妹の部屋に忍び込んだのです。
いえ、夜這いとかいかがわしいことを目的にしたのではありません。
貸していた英語の辞書を返してもらおうと思ったのです。
僕は音も立てずに妹の部屋まで行くとドアをそっと開けて入りました。
妹の寝息が聞こえてきて、とても悪いことをしている気分でした。
でも、辞書を返してもらうためだと、自分に言い聞かせました。
悪いことじゃないでしょ。
それでケータイを開いて、その薄明かりを頼りに室内を見回しました。
けっこう散らかっていて、でも、甘い香りがしました。
きっと香水だと思います。
机の上にあるだろうと思って奥まで行くと、妹が寝返りを打ったりして、ほんとドキドキしました。
物音を立てないよう慎重に探したのですが、見つかりません。
もしかしたら引き出しの中かな、と思って順に引き出しの中を見ていきました。
一番下の引き出しに、辞書はありました。
それと、日記のようなものを見つけてしまいました。
見ちゃいけない。
そう思ったのですが、やっぱり気になってページをめくってしまいました。
これが悩みの種になってしまったのです。
409 :
悩みの種:2008/02/23(土) 00:53:00 ID:jT1KtTSc
ページをめくると、僕の写真が貼ってありました。
僕がほんの子ども、たぶん五才ぐらいのときの写真でした。
横には「カワイイ」とコメントがあって、ハートマークまで。
ふだんは僕に冷たく接する妹がこんなことを書くなんて。
そう、思いました。
僕は中学でも高校でも列で一番前になるようなもやしっ子で、妹には嫌われていると思ってました。
だから、驚きは大きいです。
もう1ページめくると、また、僕の写真が貼ってありました。
きっと小学校の入学式の写真です。めかしこんでましたから。
僕は開いた口がふさがらなくなりました。
なぜか汗がぶわっと出て、ケータイを持つ手が震えました。
僕はノートを引き出しに戻して辞書を抱えると、逃げるように部屋を出ました。
何も見なかった。何も見なかった。何も見なかった。
お経を読むように、心の中で何度も繰り返しました。
悪い夢、と思いたくて、結局、勉強はしないで寝てしまいました。
410 :
悩みの種:2008/02/23(土) 00:54:54 ID:jT1KtTSc
朝になり、朝ごはんを並んで食べていると、
「ねぇ、浩史。昨日あたしの部屋に入ってないでしょうね」
と脅すような口調でたずねてきました。僕は、
「そ、そんなこと、するわけないだろ」と答えました。
「じゃ、なんで借りたはずの辞書がないのよ」
「それは……そのぉ、あっ、寝る前に返してくれただろ。覚えてないのかよ」
思い付きでしたが、意外とうまくいきました。
「そうだっけ」
なんだか納得しないようですが、妹はそれ以上何も言いませんでした。
内心、僕は心臓が止まるかと思ってたわけですが。
411 :
悩みの種:2008/02/23(土) 00:55:46 ID:jT1KtTSc
それで、学校に着くと僕は英語の辞書を開いてみました。
ちょうど英語の授業で辞書が必要だったのもありますし。
――また、です。
また、僕の写真が、今度は挟んでありました。
それも制服姿の僕です。
まるで隠し撮りしたような構図で、僕が校舎へ入っていく写真でした。
いつも僕を兄とも思わないぞんざいな扱いしかいない妹。
僕の写真をノートに貼って「カワイイ」とコメントする妹。
妹のことが分からなくなりました。
家に帰り、この文章を作ってはいるのですが、いまだ頭の中で整理し切れません。
メールが来ました。妹からです。
412 :
悩みの種:2008/02/23(土) 00:56:43 ID:jT1KtTSc
>>辞書に何か挟まってなかった?
本文にはこう書かれています。
どうしよう。
僕は怖くなったので、あの写真は捨ててしまったのです。
……迷いましたが、何もなかったと返信することにします。
あぁ、これから妹とどう接していいのか分かりません。
もし、また何かあったら書き込もうと思います。
あと、何かアドバイスがあれば、いただけると嬉しいです。
最後に、僕の妹は……その、キモウトなのでしょうか。
聞いてくれた方、ありがとうございました。事実上の投下修了宣言です。
ちなみに、僕には年の離れた姉もいるんですよね……
氏園
裏山鹿
>>413 いや、それだったら俺の妹のほうがまだキモいよ。
…だって俺の童貞奪おうとしてたからな。でも、「もう彼女とやっちゃったから…」って言ったらめっさびっくりしてたけどな……ハハハハハハ
>>416でも後ろの穴はまだ未開通だよね・・・・・?オニイチャン・・・・
っく、ドイツもコイツも姉や妹の自慢しやがる・・・・うらやましなんか無いんだからね!!
オレはうらやましいが
血涙流してハンカチ噛みきる位羨ましい…
頭の弱い従姉妹しかいない俺は勝ち組
むう…その昔「いまやキューティーハニーは少女漫画かよ」よ恐れ入ったことがあったが…
暴走し続けてるのね
だから?これがキモウトとでも?
笑止! 兄に欲情する盗人を前にして殺意をたぎらせず何が妹か
これがもしも冷めた目でハイライトが消えた様な
人を殺す覚悟を持った目だったのらばまた違う話だが
臆病者の妹に興味などない。ましてや只のツンデレもどきなど片腹痛いわ!
問題はそこなんだ! ブラコンとキモウトを隔てる溝、これを超えられなくて続きが書けんorz
キスのままパンツ脱ぐくらいじゃないと
この板の住人は納得しないだろ
まぁ漫画読んでないから1シーンだけ見せられても
ブラコンかキモウトかどうかが分からんというのがショージキな話
突然キスくらいのレベルじゃあブラコンの領域だと俺的な見解
キモさが足らねぇ、もっともっと、気持ち悪い程の兄への愛を! ニヤケが止まらなく嗤ってしまう程のキモウトを!
>>1-
>>428 私が貴女を矯正してあげてもいい
>>431 板違いなのはわかってるが聞かざるをえない、kwsk!
>>432 たぶんどこぞの同人のオリジナルだと思う
ツカサブログだな
>>431 これはけしからんな。
さあ詳細を聞かせてもらおうか。
空気読まずに投下します。
不快に感じる方がいるかも知れない表現があります。
あのお祭りの日以降、康彦の苦悩が始まった。
遥と智佳の二人が、お祭りの前日までと正反対に態度を変え、家にいる間は康彦の側から離れようとしなくなったのだ。
これには康彦も戸惑った。
お祭りの一週間程前から、遥も智佳も、自分との無用な接触を避けていたハズなのだ。
それは、二人が反抗期になり自分から離れていくと感じて、それを嬉しさと悲しさをもって見守っていくつもりだったのだが、
今、また二人は自分に甘えてきていた。
それが、以前よりもずっと露骨で大胆になってきているのだ。
二人とも、難しい年齢だと言う事は、康彦にも分からない訳ではないのだが、
それでも、二人の本心が康彦には分からない。
親代わりのつもりでいても、兄であって親ではないのだから、仕方ない事だ、
そう自分に言い聞かせてみると、逆に康彦は肩を落とした。
二人を理解出来る大人でない自分が情けなかった。
もっとも、二人には二人の事情がある。
兄を淋しがらせようとして、業と無視をしたまでは良かったが、
逆に自分達が淋しさに負けてしまい、それまで以上に康彦を欲するようになってしまった。
お祭りの日に、それまでの分を挽回しようとはしたのだが、
無惨な結果に終わっている。
だからこそ、二人は康彦を完全に手に入れる為に、それこそ眼の色を変え始めたのだが、
そんな心情に康彦が気付く事はない。
遥と智佳の行動は、甘えの域を超えている。
兄である康彦に、自分を妹から女として認識させて、関係を進めたいのだから当たり前だ。
しかも、互いに”もう一人の妹”と言う、競争相手がいるのだから、行動もエスカレートする。
遥が康彦の隣に座るようにすれば、智佳は康彦の膝の上を選び、それに遥が更なる対抗心を燃やす。
智佳が康彦に抱き着こうとすれば、遥は自分の胸の谷間に康彦の腕を押し挟み、それが出来る程に成長してない智佳が嫉妬する。
自分を女と意識させる二人の熾烈な戦いは、寸暇も許さずに続けられている。
それこそ、二人が交わした約束がなければ、入浴や就寝している康彦を襲ってもおかしくない程に。
もっともその行為は、康彦に気疲れを感じさせたり、苦悩を植え付けたりしているだけで、
二人の希望とは逆に進んでいるのだが。
康彦の身の回りで変わったのは、遥と智佳の妹二人だけではない。
鈴もあの日から少しだけ変化した。
康彦から距離を置くようになったのだ。
それだけなら、康彦にとって気にする必要のない事なのだが、
問題は、何とも言えない眼で、康彦を見つめている事が多々ある事だ。
「どうした?」
鈴の視線に気付いた康彦がそう聞くものの、
鈴は笑いでごまかすように、
「何でもないです、何もないですう!」
と言うと、逆に、
「先輩こそ、変わりはないですか?」
と、聞いてくる。
康彦が”何もない”と答えると、鈴は”そうですか”と力無く肩を落とした。
こんな鈴の態度に、康彦は首を傾げるだけだったが、鈴には鈴でちゃんとした理由がある。
早紀の妹が何かをしでかすまで、康彦から多少の距離を取らなくてはいけない、そう考えているからだ。
全ての事が終われば、自分の三年間の努力が報われる、
それは分かっているものの、気持ちの制御が出来てないのだ。
”落ち着けえ、今、下手な事をして、あの二人の標的になるワケにいかないんだからあ”
そう鈴は、自分を押さえ付ける。
そんな鈴の葛藤を知らない康彦は、不思議な生き物を観察している気持ちになっていた。
妹二人や鈴も、変わったと言えば変わったのだが、
もっとも変わったと言えば、あの女子高生、久美になるだろう。
元から、その発想な思考、行動力を何処から理解して良いのか、検討が付かない相手ではあったが、
それが更にエスカレートしてきたのだ。
ある電話の時、久美は”名前で呼んで下さい”と、康彦を怒鳴り付けてきた。
康彦が名前を知らない事を告げると、”久美です!私の名前は久美です!”と、必死になって訴えてきた。
その声は、どこか悲壮感や孤独を康彦に感じさせた。
それを聞いた時、康彦の久美に対する感情が少しだけ変わった。
遥の少々変わった友人で、遥の学校での様子を知れる貴重な相手、
その前提に大きな変化はないのだが、それ以外に、
”心のどこかに傷がある弱い人間”
という認識が増えた。
康彦は、自分がそうであるだけに、他人の心の傷を敏感に感じとる事が出来る。
そして、感じとってしまえば、その相手を出来るだけ救いたくなる。
そんな性格だからこそだろう。
その時から康彦は、久美の愚痴や弱音を積極的に聞くようになったし、
それに伴って、久美の電話回数も増えてきた。
とは言え、家にいる間は、常に妹達が近くにいるのだから、電話出来る時間は限られているし、
その事実が何故か久美を不安にさせていた。
「一度会って、しっかりと話をしたい」
久美は康彦にそう頼み込んできた。
妹達の事をもう一度、しっかりと聞いておきたかったり、
久美自身の危うさを感じた康彦は、その頼みを受け入れた。
そして、その約束した日が今日であった。
寂れた工場の廃屋、
そこが久美の指定してきた待ち合わせ場所だ。
”常識に欠けてる”
思わず康彦はそんな事を思った。
その言葉が不適当だと言うなら、危機管理能力がない、としか言いようがない。
今回は康彦が一人であるし、特に何かをしようと言う下心がないから良いようなものの、
こんな場所に呼び出したなら、誰に何をされようとも文句は言えないだろう。
腕っ節に自信があったとしても、愚か過ぎる考えだ。
久美に会ったら、そこは注意しなくてはいけない、
そんな事を考えながら奥に進む康彦に、
「お待ちしていましたよ…」
「康彦さん」
と言う、久美の声が聞こえてきた。
暗さから、しばらくは久美の居場所を特定出来ずにいたが、
声のする方を探りながら、久美の姿を確認できると、康彦は一言、文句を言うべく、久美の元に歩み寄った。
だが、康彦の動きはそこで止まる。
久美が、妖艶と言うべきか何と言うべきかは分からないが、
最初に会った時とはまるで違う、不思議な微笑みを見せていたからだ。
「こんな場所でびっくりされたでしょう?」
康彦の内心を見抜いてか、久美が静かに語り出す。
康彦は、久美の雰囲気に飲まれてしまい、頷く事でしか返答を返せないでいる。
そんな康彦の様子に、久美が嬉しそうに笑う。
「ここはですね」
「私と私のお姉さんとの秘密の場所だったんですよ」
あくまで平淡に、冷静さをなくさずに久美が語る。
「昔はお姉さんも、私の事を愛してくれましたし、私もお姉さんの事を敬愛していたんですけどね」
姉がいる、その事実さえ初耳だった康彦は、何も言えず、ただ黙って久美の話を聞いていた。
「楽しかったですよ、父も母も厳しい人でしたけど、お姉さんといる時間だけは、何物にも変えられない時間でしたし」
その時の情景でも思い出しているのか、遠い眼をしながら、久美は言葉を繋ぎ、そして一度、口を閉じた。
そして、
「あの日、あの事があるまでは、私はお姉さんの事を本当に愛していたんですよ!」
と、初めて感情の高ぶりを見せた。
康彦には、久美が言わんとしている事が今一つ理解出来なかったが、
話の大筋は見えて来ていた。
それでも口を挟まず、久美の語るままを聞く事にした。
「あれは、お姉さんが公立の中学に通い出した時の話ですよ」
久美はなるべく、冷静に語ろうとはしているのだろうが、その声の高まりが押さえられる事はない。
「お姉さんは、私ではない相手…」
「しかも男と、手を繋ぎ、接吻までしていたんですよ!」
当時の状況でも思い出されるのか、久美の声には明らかな憎悪が込められていた。
「私はお姉さんに問い詰めましたよ」
「そしたら、お姉さん、何と答えたと思われます?」
久美の質問に、康彦は分からないと首を横に振る。
「私はあの男の子が好きだから、当たり前の話だって、普通に答えたんですよ!」
嫉妬、それだけではない複雑な感情を吐き出す様に、久美が言う。
「貴方には分からないでしょうね、私の苦しみがどれほどだったか」
康彦に対してか、それとも自分になのか、嘲笑う様にして久美が言う。
確かに康彦には、身内、それも同性を愛する気持ちは理解出来ない。
それでも、久美の一途な気持ちは理解出来る。
愛しい人間を失う苦しみは、身にしみているから。
「あの二人に、私と同じ想いは、味合わせたくはないのですよ」
そう言った久美は、気付けば康彦のすぐ眼の前に来ていた。
康彦は何か久美に言葉をかけて上げたかった。
悲しい恋をし、それに敗れた人間に相応しい言葉は康彦には思い付かない。
それがもし、思い浮かぶならば、康彦自身が既に新しい道を見つけているだろうから、当たり前だが。
「だからこそ、私はあの二人の為に何でもして上げたいのです」
息が掛かる程の距離で久美が言う。
「幸い、康彦さんは、私がこの身を汚しても構わない人ですし」
「それはどう言う…」
最後まで言葉を発する前に、康彦の口は久美の口によって塞がれた。
そして、混乱する暇もなく、康彦の身体から力が抜けていった。
「な…に、を」
「心配しなくても、ただの痺れ薬ですよ」
康彦の言葉に、久美が微笑う。
「少しの間だけ、静かにして欲しいだけですから」
身体の自由が利かない康彦の眼前で、異様とも言える光景が展開されていた。
一枚一枚、まるで自分の意志を確認するかの様に服を脱いでいく久美の姿、
そして、久美は恐怖に震えた手で康彦のズボンをずらす。
当然、それによって、康彦の陰部が曝される。
「これが…男の人の」
唾を飲み込む音と共に久美が呟く。
「ま、ちが…てる」
康彦は薬で上手く回らない口から、久美の暴挙を止める為の言葉を懸命に出そうとした。
「これで…貴方が私の物になれば、私の目的も達成…そう、達成するんです!」
震える声で久美が叫ぶ様に言う。
”そんな事をしても無駄だ”、そう怒鳴り付けたかったが、康彦には、そんな力は残されていなかった。
それからの久美は、様々な手段で、康彦の男性を興奮させようとした。
優しく手で愛撫してみたり、身体全体で康彦に抱き着いたり、舌を絡ませる激しいキスをしてみたり、陰部その物を口にくわえたり…、
それらは本で得た知識ではあったが、それでも充分だと、久美は考えていたのだが、
康彦の男性が、何らかの反応を示す事はなかった。
まるで焦る様にして様々な手段を講じる久美の姿を、康彦は冷ややかな眼で見つめていた。
「もう…良いかな?」
身体の自由が戻り始めてきた康彦が、久美を払い退ける様にして言う。
「なんで…何で反応しないんですか!」
納得がいかない久美が康彦に縋る様に叫ぶ。
康彦は、そんな久美を気に止める事なく、まだ鈍い動きのまま、服を着直すと、
「君も、早く服を着た方が良い。風邪ひくよ」
と、からかう口調で久美に声をかけた。
「何故です!何で何も反応しなかったんですか!」
康彦の顔を見ながら叫ぶ久美の声には、涙が混じっていた。
「こんな方法じゃ、興奮もしないさ」
「それでも、男の人なら、そこだけは反応するハズです!」
眼を反らして言う康彦の言葉に、納得が行く訳もない久美が、更に声のトーンを上げて言う。
何と答えるべきか、康彦は悩んだ。
「私に、私に女性としての魅力がないのですか!」
久美が叫ぶが、それは違う。
久美は平均以上の容姿とスタイルを持っているから、この状況であっても、大概の男は興奮してしまうだろう。
康彦が反応を示さなかったのは、康彦個人の事情からだ。
楓の死、そして、その後の様々なストレスが重なり、康彦の男性は完全に死んでしまっただけの話なのだから。
その事を久美に伝えるつもりは、康彦にはない。
「君が何をしたかったのか、俺には分からないけど…」
ヨロヨロと立ち上がりながら、康彦が久美に言う。
「お姉さんとの話は俺がどうこう言える事でもない」
「だけど、君ならしっかりと思いを伝えれば、相手に届かす事が出来るよ」
茫然と座り込む久美に、優しく語りかけた。
そして、それ以上は何も言わず、まだ上手く動かない身体を引きずる様にして、その場から立ち去った。
「何故…あの人も私を受け入れない…」
一人残された久美が、服を着る事も出来ないまま、呟く。
「何でワタシを見ミナイ愛さナい…」
壊れたテープの様な肉声が、久美の口から吐き出される。
「また諦める?」
「諦めない。それはもう嫌だ…」
「何故?」
「あんな思いしたくない」
「諦めナイ愛させル私を見サせる…」
呟き続ける久美の心は、完全に壊れていった。
薬の影響で、身体の所々に感じる痺れと戦いながら、康彦は何とか家まで辿り着けた。
「ただいま…」
疲れ果てた声で、家に入ると、奥から遥と智佳が駆け寄ってきた。
「兄ぃ、遅いよ!」
「そうだよ、何やってたんだ、兄貴は!」
当たり前の様に康彦に抱き着きながら、二人が抗議をする。
普段ならともかく、今日は勘弁して欲しい、
そんな事を思いながら、康彦は二人になんて話すか、考えていた。
まさか、女の子に襲われていました、とは言える訳がない。
「…臭い」
康彦が悩んでいると、智佳がぽつりと漏らした。
「えっ、臭いか?」
康彦は慌てて自分で自分の臭いを嗅いだ。
「兄貴!お風呂に入ってきなよ!」
困惑する康彦の背中を遥が押す。
「そうだよ、兄ぃ!臭いのダメ!」
智佳も、康彦に顔を見せずに言う。
二人に臭い臭いと言われた康彦は、寂しい背中を見せながら、浴室へと向かった。
「敵…だね」
康彦に聞こえない様、智佳が呟く。
「…だね」
遥が智佳の言葉に頷く。
二人共、その眼には狂気の炎が宿っていた。
「あの匂い、一人だけ心辺りがあるから」
「ほんとに?」
「だから、ちゃんと分かったらね…」
「ちゃんとしないとダメだよね?」
遥の言葉に、智佳が暗い笑顔を見せた。
そして二人は、それ以上に話す事はなかった。
投下終了です。
GJ!
さて、久美に色んなフラグが立ちましたね。
GJ!!いよいよ双子本領発揮ですね。それにしても久美がきめえw
うむ、実にキモくてGJだな。
本命が死んだらインポになるってのは男として実に正しい。
オスとしては大問題だが。
次回が楽しみだGJ!
GJ!しかし妹二人よりも久美や鈴を応援してしまう俺はこのスレの住人失格かも…。
GJ!!
>>454 大丈夫、失格なのはあなただけじゃない
久美を応援している俺がいますよ
どちらかというと康彦が自分の事情をある程度さらけ出して久美を説得
勘違いからの生贄という考えがだんだんと好意に…という展開かと思ってた
まさかここから病み始めるとはw
>>456 結局康彦も自分最優先だからな。
むしろ妹たちに対する義理や感情の方が特例だと思う。
>>454-455 俺なんか妹どころか康彦以外には何の感情移入もしてないぜ!
問題だよなぁ……。
458 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/24(日) 09:35:41 ID:SpUJV/xs
GJ!
でもインポというのはエロパロ的にどうかと・・・
いや、きっと辛い過去ごとインポを克服して精力絶倫な男にパワーアップするんだよ。
ほらあれだ、一度打ちのめされて挫折した主人公が、ヒロインへの思いを胸に立ち上がるっていう王道パターン。
いわゆる燃え展開ってやつ。
戦隊ものでいうと、モデルチェンジ、新商品発売ってこと?
ニトロプラスの作品には格好いい童貞主人公がいるから大丈夫さ!
>>449 今までのバックナンバーを保管庫で再び一気読みしてます。
リアルタイムで読むのと違うわくわくがあって、楽しいです。
長編が書ける方、すごいなあ。自分には気力もないので、短編一話完結で出すしかできねえや。
以前の続きみたいな物で、投下開始させていただきます。
日曜日の午後。長女・こまきは、パジャマ姿でこたつに入り込み昼寝をしていた。
「今日って、何曜日だっけえ?」
寝言のようにこまきが呟く。
こまきは毎日が日曜日。日曜日というより、(本当は大有りだが)明日の不安のない土曜日の午後の気分だった。
そんなこまきを尻目に、弟の一馬は焦った顔をしながら、隣の部屋で出支度をしている。
「えっと、履歴書は持った!カバンもOK。財布も持った!」
こまきは、ウトウトとしながら一馬の足音だけ聞いていた。
一馬がこまきの側にやってくる。目の前を一馬の足が通り過ぎ、こまきは一瞬目が覚める。
「オレさ、これからバイトの面接に行ってくるからね!」
「はーい」
こまきのマヌケな声が返ってきた。
一馬は、春休みで時間的に余裕ができ、その時間をバイトにあてようと考えていた。
「姉ちゃんみたいに、時間を無駄に使いたくないからな」
姉・こまきはニートの上に出不精という絵に描いたようなダメ人間。
そんな姉を見て育った一馬は、こまきの事を反面教師にしていた。
この日、両親はのんきにバスハイクで小旅行に行ってしまい、夜まで帰ってこない。
一馬にとっては少々不安だが、家の留守番はこまきがすることになった。
「姉ちゃん!出かけるときは、ちゃんと鍵掛けてから出かけるんだよ!」
「はいはい」
こまきがちゃんと聞いているのか不安に思いながら、一馬は家を出る。
「一馬ったら、まったく心配性ねえ。そこがかわいいんだよね」
うーんと伸びをしながらこまきは一馬を心配した。
「美貴ちゃん。お待たせ!!」
私鉄線駅前のニワトリ像の前で、肩まで伸びたみどりの黒髪の少女が手を振る。
一馬は、級友の美貴と待ち合わせをしていた。
「美貴ちゃんと一緒に働けるように、面接がんばろうな」
「うん」
一馬と美貴は、同じ100円ショップでバイトの面接のアポを取っていた。
春休み前、美貴はモヤモヤとした高校生活を送っていた。そんな姿を見ていた一馬。
「美貴ちゃんは将来、何になりたいの?」
「…それが、わかんないんだよね」
「ふーん」
「春休みって何したらいいんだろう…」
何もやる事もなく、暇そうにしている美貴。
のんびりした性格の美貴は、一馬の「とりあえず、なにか頑張ってみたら?」の一言で、一馬と一緒にバイトの面接を受ける事にしたのだ。
緊張している美貴を解きほぐそうと、一馬は話しかける。
「そういえば、この漫画。面白かったよ。今度、お礼に何か持ってくるよ」
以前美貴から借りていた漫画を一馬は返す。
「ありがとう。楽しみにしてるね」
黒目がちな目をらんらんとさせながら、美貴は一馬の腕を握る。
二人はデートと勘違いしながら、面接先の店がある商店街へ向かう。
店は、商店街の隅に隠れるようにポツンと建っていた。
日曜の午後というのに、お客は少ない。
「おはようございます」
二人そろってあいさつをする。
店に入ると、小柄だがガッチリとした店長が待っていた。
「あの。雑誌を見て電話をした…」
「ハイハイ、聞いてますよ。ちょっと時間は早いけど、早速面接に入ろうかね」と店長。
まず、美貴が面接に呼ばれ、店内奥の小部屋に入った。一馬は店内でも見ながら待つように店長から指示される。
「姉ちゃんみたいに、ぐうたらな負け組にはなりたくないな」
人間の価値は「金」と信じる一馬。姉のいないところで、姉をバカにする。
十五分後、美貴が面接から帰ってきた。ニッコリと笑っている。
次は一馬の番。不安を背負いながら、小部屋の扉を開く。
その頃、こまきは牛乳をゴクゴク飲んでいた。
「やっぱ、こたつのあとは牛乳だねえ」
ぷるんとした唇に白い牛乳の跡が残る。舌でぺろりと唇を舐める。
「一馬はバイトの面接かあ」
こまきは、時計を見ながら人事のように呟く。
面接の帰り道、一馬と美貴は喫茶店で一息をつく。
「わたし、面接って初めてだから、すっごい緊張したあ!」
「オレだって初めてだよ。でもお店の人もいい人そうでよかったじゃん」
二人で一つのソーダ水を飲みながら、面接のプチ反省会。というよりただ、二人して駄弁っていた。
一馬は自分のビジョンを美貴に話す。
「将来は、いい大学に入って、大手企業に就職して…」
美貴はふんふんと聞いている。
「やっぱ、男は稼いでナンボなんだよ」
「一馬くんって、現実的ね。わたしは、一馬と一緒に楽しく暮らせたらそれでいいな」
(姉ちゃんみたいな事言うなあ)と一馬の頭にこまきの顔がよぎる。
と話しているうちに、一馬の携帯にメールが入った。姉・こまきからだ。嫌な予感がする。
「件名:Re めんせつにおちても おねえちゃんがなぐさめてあげるから あんしんしなさい」
がっくり来た一馬はこう返す。
「件名:うるさい 牛乳でも飲んでろ。放蕩娘」
二分後、こまきからの返信が着たが一馬は無視をする。
その頃、こまきは再びこたつの虜になっていた。
一馬が家に帰ってきたときには、時計は夜七時を回っていた。
美貴と別れたのが午後五時。本屋に寄り道しているうちに遅くなったのだ。
あたりは薄暗くなり、周りの家には明かりが灯る。
「すっかり、遅くなったなあ」
しかし、一馬の家だけは違っていた。周りから浮くように明かりも点かず、ただ一軒暗くなっていた。
「あれ、姉ちゃん出かけたのかな…」
玄関のドアノブに手をかける。簡単に扉が開く。
「まさか、姉ちゃん…有り得るな」
姉のダメさ加減を知り尽くした一馬は、軽い不安な気持ちに包まれた。
やはり、家の中は真っ暗。姉は朝っぱらから寝ているので、いい加減起きているはずだ。
姉の活動時間が始まっているのは重々承知。漆黒に包まれた我が家の廊下を進む。
「ん?姉ちゃんか?」
真っ暗なリビングに姉が体育座りをしているのを発見。一馬の気配には全く気がついていない。
「おーい。姉ちゃーん」
こまきは、全く反応しない。耳を澄ますと、こまきから音楽が聴こえてくる。
「何やってんだよ!」
こまきの耳のステレオイヤホンをひったくる。こまきは、少しビクっとした様子で我に返った。
「あ、おかえり」
「おかえりじゃねえよお、何やってんだよ?」
一馬は呆れた顔で、リビングの蛍光灯を灯す。パジャマ姿のこまきは、MDを聴いていた。
「えへへ。こうやってね、部屋を真っ暗にして両耳にイヤホンしてさ、
らくーにして音楽聴くととっても贅沢な気分になれるんだよ。五感の内の聴覚だけフル活動させてね…」
(オレが必死に稼ごうってしてる時にまったく…)
一馬は姉の奇行に慣れっこの筈。しかし、疲れているからか、さすがに今日は呆れ果ててしまった。
「ね、一馬もやってみない?ちょうど両耳用のイヤホンだからさ、片側に着けて
もう片方の耳は指で塞いでね」
しぶしぶ、姉の言う通りにイヤホンを左耳に入れる。
こまきは、部屋の明かりを再び消し、MDを再生させる。
一馬とこまきは音楽を共有している。誰にも邪魔されず、二人の感覚は聴覚だけの贅沢な時間。
二人が聴いているのは「アドバルーン」という女性シンガーの曲。
一馬は、初めて聴く曲だ。
毎日がつらい。頑張るって何だろう―
前の見えないモヤモヤの中で、答えを出そうとするが―
いつか笑い飛ばせる時がくるんじゃないか―
そんなメッセージをのせた歌声の女性ボーカルが、一馬の左耳に突き刺さる。
こまきは、突然一馬のイヤホンを引っこ抜く。
「ふう!!」
一馬の耳に熱い息を吹きかける。一馬は一瞬何が起こったかわからなかった。
こまきは、ニヤニヤしていた。
「とりあえずさ、一緒におこたに入ろ。それから、今日の夜ご飯考えよっか?」
しかし、一馬は一刻も早く夕飯にありつきたいのだ。こんな事なら、自分だけ牛丼なり食べて帰ればよかったと後悔する。
こまきは、一馬を羽交い絞めにしこたつの中に引きずり込む。
姉の胸が一馬のうなじに当たる。
「おこたは、暖かいぞお」
一馬はこたつに姉と並んで寝転ぶ羽目になった。
「暖かいね」
姉は、相も変わらず幸せそうな顔をしている。
「ふふふ。こんなの夢だったんだ」
のんきなこまきは、一馬の赤くなった顔を見つめながら笑う。
「ねえ、姉ちゃん。オレの面接の事とか聞かないの?」
不思議そうに一馬はこまきに問う。
「んー」
「働くとか、そうゆうの興味が沸かないの?」
「うーん。わたしね、働くとかそういうのなくなっちゃえばいいなあ、って時々思うんだよね」
一馬は絶句した。姉に対して失礼だが、ぶん殴ってやりたい気分だ。
(オレは、これから働くって言うのに姉貴は…)
のほほんとした姉が横にいる。
もともと、楽天家のこまき。「どうにかなる」「なんとかなる」が口癖。
「一馬はいいなあ。甘えられる人がいて」
こまきは、こたつの中で小さな一馬の体を優しく抱きしめた。
「甘えてなんかないよ!」
一馬は強がる。しかし、本音を言えば「なんとかなる」で救われたい。
正直、一馬は今日の面接は不安だった。ちゃんと、自分が認められているのか。
「なんとかなる」で救われるのなら、どんなに楽になるか…
「大丈夫。お姉ちゃんがなんとかしてあげるから―」
そのあと、こまきは何も言わなかった。憂いに満ちた顔をするこまき。
のほほんとした姉しか知らない一馬は、こんな姉を初めて見る。
もしかしたら彼女は内心、一馬に悟られないように焦っているかもしれない。
こたつの魔力に包まれた一馬とこまきは、そのまますやすやと眠りに落ちた。
翌日、面接先から連絡があった。採用だった。
一馬はこぶしを上げて喜んだ。一方、こまきは少し寂しそうな顔をした。
(一馬と一緒にいる時間って、これから先どのくらいあるんだろう…)
内心、春休みは一馬とずっと遊んでいたい。
が、弟の喜びを素直に受け取れない姉は失格じゃないのか、と自問自答を繰り返していた。
「一馬…。よかったね」
一馬には、姉の瞳は潤んでいる様に見えた
と次の瞬間。こまきは、ふうっと一馬の耳に息を吹きかけた。
次の日曜日、一馬と美貴は100円ショップで働いていた。
こまきは、相も変わらずこの日もこたつで寝ていた。
「一馬はちゃんと、働いてるのかねえ」
のんきなのか、心配しているのかわからないこまき。
午後十二時。
「店長。二番入りまーす」
一馬がバイトのお昼休みを取る。狭っ苦しい休憩室には、先に休憩に入った美貴がいる。
休憩時間、美貴は音楽を聴いていた。
「一馬くん、この曲いい曲だね。どこで知ったの?」
「えっと、ネットの書き込みだよ」
美貴が聴いているのは、一馬が貸したMD「アドバルーン」だった。
おしまい。
投下終了です。
非エロになってしまいました。
ちょうど日曜の午後なのでリアルタイムに投下してしまいました。
>>470 GJ!!
ダメ人間だけど憎めない
そんな姉が我が家にも欲しい……
乙。
素朴な疑問なんだが、キモ姉なの?
姉スレでよくね?
>>470 GJ。だけど
>>472の言う通り、キモ姉分がたりないね。
後からでてくるにしても、その兆候ぐらいだしてほしい。
こうゆう短いのも同時に書いてみました。
投下します。
476 :
美咲のへや:2008/02/24(日) 16:26:44 ID:PEp2bEWx
「買い物、付き合ってくれる?」
昼食を取った後の日曜日の午後、美咲は、兄の龍之介に上目遣いで誘った。
「別にいいけど?」
つき合わされたのはインテリアショップ。
「実はね、わたしの部屋をちょっと模様替えしようと思ってるんだ」
デレデレと美咲は頭を龍之介に持たれかけて笑っている。
龍之介は隣の美咲の部屋には、入った事がない。
逆に美咲が龍之介の部屋に来るのはしょっちゅうなこと。
(どんな部屋だったかな…)と思いつつ、一緒に美咲の気に入る小物を探した。
「今日は、荷物持ちだからね」
「はいはい」
龍之介はいつもの事か、と思いつつ店内を一緒に回る。
「コレ、いいんじゃない?コレ」
美咲は、淡い桜色の壁紙を指差した。
「壁紙、替えるの?」
「やるんだったら、思いっきりしないとね」
「親から叱られるぞ」
「平気、平気」
美咲はあっけらかんとしたもの。美咲は自分ひとりで張替えが出来るキットを選んだ。
きっと、龍之介が手伝わされるのだろうか。
この日は、あひるの置物、ねこの貯金箱、レースのカーテンそして桜色の壁紙を買った。
477 :
美咲のへや:2008/02/24(日) 16:27:20 ID:PEp2bEWx
買い物から帰ると早速、美咲が壁紙を二階の自室にとたとたと運んでいった。
「さあ、がんばるぞ」
階段の下から龍之介が呼びかける。
「手伝おうか?」
「いいの!いいの!お兄ちゃんはいいの!」
すこし、焦った様な声で断る美咲。バタムと扉を閉めてしまった。
龍之介が他の小物を運ぼうとすると、美咲の部屋から、地鳴りのような大きな音がした。
小物を下ろし、慌てて階段を駆け上り、美咲の部屋の扉を開く。
龍之介はその光景を見て驚愕する。
「いててて」
床には今日買った壁紙キットが転がっている。
美咲は、前の壁紙を外そうと椅子に乗ったのだが、こけて尻餅をついていた。
さらに驚いた事に前の壁紙には一面、天井から床までに
「龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き
龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き
龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き
龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き 龍之介大好き」
の文字が書かれていた。
投下おわりです
赤いクレヨンw
GJっす!!ダメ姉のキモ化に期待してます!!
投下します。
三話
ヘンゼルとグレーテルが、ちょっとした冒険から帰ってきて、早一週間。
その日、グレーテルは早々に目を覚ましました。普段のグレーテルはとてもお寝坊さんです。
これはきっと「早起きすると良い事があるぞ」という唯一絶対神の御告げだろうと思い、グレーテルは着替え始めました。
髪にブラシをかけながら、ヘンゼルの携帯電話をチェックします。
「よしよし、泥棒猫は出てきていないようね…」
グレーテルはにんまりと笑って携帯電話を閉じました。
とは言っても、当然の事です。一週間前、ヘンゼルとメールをしていた泥棒猫を駆除したばかりなのですから。
キャバクラ「ヴァスコ・ダ・ガマ」で働いていた、あの泥棒猫のメイリンちゃん(自称20歳)は、今ごろ喜望峰辺りを漂流している頃でしょう。
―――しばらくは、平穏な生活が送れるわね…。
そう考えながら、グレーテルの指は知らず知らず、寝ているヘンゼルの乳首をつまんでいました。
「へみんぐうぇぇいッ!?」
妙な声を上げはしたものの、ヘンゼルお兄ちゃんの寝顔はやっぱり満足げでした。
一階のリビングにはまだ誰もいませんでした。
冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップ一杯分をものの数秒で飲み干すと、グレーテルはいつものマッサージを始めました。
ぺったんこの胸に手を当て、円を描くように揉みしだきます。
「スイーツスイーツ…パラレルパラレル、でっかいお乳になぁ〜れ〜…」
決して頭がおかしくなった訳ではありません。この前、コンビニで立ち読みしたCUNCUNという雑誌の『愛され巨乳の作り方』を実践しているだけです。
呪文を唱えながら胸を揉む事で、体内に波紋が通り膨乳するとかしないとかだそうなのです。
これも全ては愛するお兄ちゃんの為、巨乳が大好きなヘンゼルへの一途な愛ゆえなのです。
「おっきくな〜れ〜、おっきくな〜れ〜…激ヤバ、マジモテ、ドキュンドキュン…」
「そんなッ…!!」
グレーテルは慌てました。恥ずかしい場面を見られたのかと思ったからです。しかし、どうやら声は二階から聞こえている様子。
気配を殺しながら、声の発生源へと近付きます。
辿りついた先は、お父さんとお母さんの寝室でした。
グレーテルはドアに顔をくっつけて、耳を澄まします。
―――そんな…!!せっかく助かったのにまた、だなんて…!!
―――落ち着きなさい、母さん…子供達が起きてしまうよ。
―――どうしてッ!!どうしてまたあの子達を犠牲にしようとするのよぉぉ…。
―――仕方ないだろう…二人は戻ってきてしまったし、“人買い”からの金は振り込まれていない。
結局何も変わっていないんだ。せめて食い扶持だけでも減らさなけりゃ、我々みんな飢え死にしてしまうよ。
―――うぅ…。酷いわ、神様ってのはどうしてこんなに残酷なんだい…。
―――とにかく、今日にでも森にあの二人を捨ててこよう…。さあ、母さん…このワンカップ大関でも飲んで落ち着きなさい。
―――うぅ…いただくわ…。それにしても酷いわ。本当に酷いわ。あたしの可愛い子供達…。
「あの男、まだ諦めてなかったのか!!」
ボブはもはや呆れて声も出ません。
「自分さえ助かる為なら、子供の命はどうでもいいのか!最低だ!!」
マッケンジーは怒り狂っています。
「で、どうするんだい、グレーテル?何ならあのオヤジも…」
ドイルの目が怪しく光ります。
「…」
ハマーDは相変わらずパン屑に夢中です。
早朝、グレーテルは小鳥達に餌をやる為、森の入口に来ていました。ついでに今朝の両親のやりとりを四羽に話していたのです。
「私、考えたの…。何度やっても、ウチの工場が倒産している限りまた捨てられる。ならいっそのこと、お兄ちゃんとどこか遠くへ逃げようかな、って」
小鳥達は驚いてグレーテルを見上げます。
「それはいくらなんでも無茶だろう!!いや、無理だ!!」
ボブは考え直すよう、諭します。
「でもここにいても生活は出来ないわ」
「グレーテルちゃんとヘンゼルお兄ちゃんの二人で生活するのは、さすがに難しいよ…だって…ヘンゼルお兄ちゃんはニー…ゴホン、自由を愛するドリーマーだろう?」
マッケンジーも慎重に言葉を選びながら説得します。
「その時は、私が働く。大丈夫、ヘンゼルお兄ちゃんだってやる時はやるわ。いつもそう言ってるもの」
「そういう奴に限って何もしないんだよ!!」
ドイルは忙しなく羽ばたきながら言います。
会話の内容はいつしか、グレーテルを説得することから、ヘンゼルお兄ちゃんを吊しあげることになっていました。
「と、とにかく、この家にはもういられないわ。だから今日はみんなにお別れを言いに来たの」
気を取り直してグレーテルはそう言いました。
『…』
グレーテルの意思が固いことを悟ったのでしょう、小鳥達は黙ってしまいます。
「……私も行くわ…」
唐突に、ハマーDが口を開きました。
「えっ…」
「…私も行くわ…。二人きりじゃ心配だもの…」
驚くグレーテルを見つめ、ハマーDはきっぱりと言いました。
「そういう事なら私も行くぞ!!」
「ぼ、僕もだ!!」
「俺だって!!」
「み、みんなぁ…」
グレーテルは思わず叫びそうになりました。
―――邪魔すんなよ!!
(私とお兄ちゃんの二人きりで暮らそうとしてたのに…。この糞鳥ガラ野郎…!!余計な事言わないでよ!!)
どうやらハマーDは、グレーテルが感動していると思っているようです。怒りのあまり目が潤んでいたのも、ハマーDが誤解するのに一役買いました。
「おーい!グレーテル!」
ヘンゼルお兄ちゃんがこちらに走ってきます。
「あ、お兄ちゃん」
「何かさー、オヤジがまた森に行くんだとよ」
「ふーん…そんな頻繁に行っても楽しくないのにね」
「俺さぁ…、前回といい今回といい、なーんか悪意を感じちゃったり感じなかったりするんだよな…」
ヘンゼルお兄ちゃんもようやく何かに気付いたようです。
「悪意って?」
「ほら、どーも最近ウチの経営やばいみたいだろ?もしかしてオヤジとおふくろ、俺達を捨てようとしてるんじゃないか?」
「またまた〜、考え過ぎだよ、お兄ちゃん!」
グレーテルはヘンゼルの腕を軽く叩きながら言います。
「お父さんもお母さんもそんな事する人じゃないよ!」
しかしヘンゼルお兄ちゃんの表情は晴れません。そしてグレーテルの持つ袋を指差しながら、こう言いました
「万が一…って事もある…。そのパン屑を道に落としていこう」
「それは良い考えだね!!」
グレーテルは相槌を打ちつつ、小鳥達にちら、と視線をやります。四羽は心得た、とばかりに頷きました。
「よし、決まりだな。って…おお!ハマーD!!元気してるか?」
お兄ちゃんが声をかけると、ハマーDは嬉しそうにヘンゼルの肩にとまります。
「相変わらず可愛いな〜!!」
ヘンゼルはハマーDを撫でます。
「お兄ちゃん!!撫でるのは頭だけよ!!頭以外は絶対だめッ!!」
また目の前で壮絶ペッティングをさせる訳にはいきません。グレーテルは強く言いました。
「分かってるって!!しっかしこいつの頭ふわふわだな〜」
愛しのヘンゼルに頭を撫でられて、ハマーDはご満悦です。
「きゅうぅぅん…」
様子から見て、ハマーDはうっとりしているのでしょう。
(まったく…この一週間ずっとこんな調子だわ…)
グレーテルは腹立たしいやら腹立たしいやら腹立たしいやらで、今なら超サイヤ人の壁を超えられると思いました。
最近のグレーテルの悩みは目下、泥棒鳥ことこのハマーDなのです。
鳥とはいえ、ハマーDはあくまで女です。世の中何が起こるか分かりません。鳥が擬人化してヘンゼルお兄ちゃんと恋仲になる事だって有り得ない事ではないのです。
(危険の芽は早いうちに摘み採っておかなきゃね…)
誰にも気付かれないように注意しつつ、グレーテルは静かに殺気を漲らせるのでした。
「よし、そんじゃ行くぞ、グレーテル!オヤジが呼んでるからな!」
ハマーDを丁寧に地面に下ろすと、ヘンゼルは歩きだします。
「あ、私もすぐ行くから先に行ってて!」
「…?…まあいいや。早く来るんだぞー」
ヘンゼルは不思議そうな顔をしましたが、さっさと歩いて帰っていきました。
「それじゃ…みんな、よろしくね?」
グレーテルは小鳥達に念を押します。
「ああ、任せておきなさい。パン屑は、我々が責任を持って処理しておこう」
ボブが重々しく頷きます。
「ヘンゼルお兄ちゃんには申し訳ないが…二人の為だからな、しっかりやるよ」
幾分かの同情を見せながら、マッケンジーも頷きます。
「そんでもって全部片付いたら、みんなで楽しく暮らそうぜ!」
ドイルの顔はまだ見ぬ未来を想像しているのでしょう、楽しそうです。
「……うん。とっても楽しみ…」
ハマーDはすっかり小さくなったヘンゼルの背中を見ながら、言いました。
「よし、みんな!!頑張ろうね!!」
グレーテルは笑顔で言います。
『おう!』
小鳥達は元気良く返事をすると、腹ごなしの運動をするため森へと帰っていったのです。
遠ざかっていく羽音を聞きながら、グレーテルは呟きました。
「ええ、本当に…楽しみね…」
まだ一仕事残っています。お兄ちゃんと過ごす素敵な未来を勝ち取るため、グレーテルは早速行動を開始しました。
目指すは納屋です。
「さんねんめーのうわきくらーいーおおめにみってよー♪」
「ごたくはいいからいますぐおんなのいばしょをおしえなさい♪」
「さんねんめーのうわきくらーいーおおめにみってよー♪」
「わたしにたねつけしてくれないからゆるしてあっげーない♪」
森の中を楽しげな歌声が響き渡ります。
お父さんの後ろで、ヘンゼルとグレーテルは手をつなぎながら歌っていました。そしてヘンゼルのもう一方の手はさり気なくパン屑を落としていきます。
「おやじー、どこまで行くんだよー?」
パン屑の残りも少なくなってきて、焦ったヘンゼルはお父さんの背中に声をかけました。
「もうすぐだ。もう少し頑張りなさい」
お父さんは低い声で答えます。
さらにしばらく歩くと、三人は小さな小川の流れる河原につきました。
「うむ、この辺でいいだろう…」
お父さんは背中の荷物を下ろしながら言います。
「二人はこの辺で釣りでもして待っていなさい。俺はちょっとこの辺を散歩してくるから」
二人に釣竿を渡すと、お父さんは逃げるように森の中へ歩いていきました。
―――せめて道具くらいは置いていって、罪悪感を紛らわそうって事なのかしら…。本当に最低な親だわ…。
荷物を漁ると、釣り道具やフライパン等の調理道具、薄い毛布などが出てきました。
グレーテルは鼻を鳴らして、中身を確認します。
「ぬし釣ろうぜ、ぬし!!」
今朝の杞憂はどこへやら、ヘンゼルお兄ちゃんはノリノリで釣りを始めています。どうせやる事などありません。グレーテルも釣りをする事にしました。
「おい、おい、起きろ。グレーテル」
誰かがグレーテルの肩を揺らします。
「んー……あ、寝ちゃってた…お兄ちゃん…?」
グレーテルが目を開けるとヘンゼルお兄ちゃんが心配そうな顔でこちらを見ています。
気付けば、辺りは暗くなっていて、水面にまんまるのお月様が写っています。
「やっぱり俺達、見捨てられたみたいだ…。オヤジが帰ってこねー…」
ヘンゼルの目は少し潤んでいます。きっと心細いのでしょう。
「大丈夫だよ。そのために目印を置いてきたんじゃない」
それから二人は地面に目を凝らし、パン屑を探して歩き回りました。
三十分ほど歩いたでしょうか、ヘンゼルが「あっ」と小さく叫びます。ヘンゼルの指差す先を見ると、パン屑の列は不自然にそこで途切れています。
「嘘だろ?何でだよ!?」
二人はさらに先を進みますが、歩けど歩けどパン屑は見つかりません。
「お兄ちゃん、あんまり動き回ると本当に迷っちゃうよ。とりあえずさっきの河原に戻ろ?」
グレーテルはそう提案して、二人で来た道を引き返します。
パン屑が途切れた辺りでグレーテルは立ち止まりました。ヘンゼルはそれに気付かず、河原へと向かっています。
見れば、一本の木の影に羽毛が散らばっています。そうっと覗き込むと、四羽の小鳥が折り重なるようにして倒れていました。
グレーテルはその中の一羽をつまみ上げると、それに話しかけます。
「良かったじゃない…。大好きなお兄ちゃんに握られたパンで死ねたんだから…。本望よね…?」
「おーい!グレーテル!!どうした!?何かあったのか!?」
森の奥からヘンゼルの声が聞こえます。
「何でもなーい!!今行くー!!」
小鳥の亡骸を無造作にその辺の茂みへ放り投げると、グレーテルは駆け出します。
「…本当に役に立つものだわ…こんなに効果があるなんて…」
堪え切れず、つい口元に笑みが浮かんでしまうグレーテルです。
まったく、本当に役に立つものです。
青酸カリというものは。
投下終了です。
あと、自分はケータイからの投下なので改行云々は申し訳ないとしか言い様がないです…。
一番槍GJ!
グレーテル、したたかすぎる
。゜(゚´Д`゚)゜。ウァァァン小鳥たちが死んじゃったよー。゜(゚´Д`゚)゜。ウァァァン
ファンタジーなんだかカオスなんだかw
あーあ、小鳥達が……。
は、ハマーD……(泣
いやヘンゼルにあれされた時点で死亡フラグ立ってたけどな……
マジかよ……躊躇なくサクッと鳥たちを殺しよった……
グレーテル…恐ろしい娘っ!
空気仏千切ってすまんが…
今日は___(仮)は来そうにないなぁ…
鳥にまで・・・
容赦ないなホントw
な、「長澤まさみ」が!w
GJ!
なんで青酸カリが家にあるんだww
グレーテル「ば…馬鹿な!お前達は死んだ筈」
ボブ「死んだと思わせておいて、お前が隙を見せるのを待っていたのさ!」
ハワード「知らなかったのか?青酸カリってのは、長時間空気に触れると無害化してしまうんだ」
マッケンジー「青酸カリで毒殺なんてドラマか小説の中だけなんだよ」
ドイル「フグとかトリカブトだったら危なかったけどな。」
ハマーDは、ユリの根やら色とりどりなキノコをかじっている。
キモウトに「浮気浮気ってお前は恋人でもなんでもないだろう!」って言ってみたい
キモ姉「そうよ
>>499ちゃんはお姉ちゃんと付き合ってるんだから。ねー?」
キモウト「姉の…くせにっ!!…この泥棒猫!!」
キモ姉「泥棒猫はあんたよ。あたしは
>>499ちゃんが生まれたときから付き合ってるんだから。
アンタなんかまだ影も形も無い時から結ばれてるのよ!」
弟「姉ちゃん、俺結婚するんだ。幼馴染ちゃんと」
むしろ姉と妹だけでいいんじゃないか? と思ってちょっと書いてみた。
『ごめんなさい、昨日の告白のことは忘れてください』
今しがた届いた短いメールを一読した恵美は、溜息をつきながら携帯電話を机の上に置いた。回転
椅子に座ったまま頬杖をつき、さてどうしたものかと考える。
背後からドアをノックする音が聞こえてきた。
「おねえちゃーん、はいるねー」
一つ下の妹が、勢いよくドアを開けて部屋に入ってくる。こちらの返事を聞くつもりは最初からな
いらしい。椅子を回転させて向き直り、妹を睨みつけてやるが、気にする素振りすら見せなかった。
妹は鼻歌を歌いださんばかりに楽しげな笑顔を浮かべている。弾む足取りでこちらに向かって歩く
たびに、二つ結いにした髪の房が軽やかに揺れる。実に上機嫌な様子だった。
「ねえねえ、お姉ちゃん」
「なにかしら、茜」
恵美は顔がひきつりそうになるのを堪えながら、努めて平静に返す。目の前で立ち止まった茜が、
期待に目を輝かせて、こちらの顔を覗き込んでくる。
「いいこと、あったでしょ」
「あら、いいことって、具体的にはどんな?」
「お姉ちゃんに付きまとう悪い虫が消えた!」
「あんたね」
恵美は額を押さえながらじろりと茜を見やる。
「今度はなにしたの、一体」
「べっつにー。なーんにもしてないよ、なーんにも」
わざとらしくとぼけた声で言いながら、茜がそっぽを向いて舌を出す。いつもどおりのパターンだ、
と恵美はうんざりした。
クラスメイトの男子から、放課後に告白を受けたのがつい昨日のことである。誰にも見られていた
と思うのだが、どうやら茜は早速察知して、彼のところに何らかの愉快な脅しをかけに行ったらしい。
その結果として、さっきのメールが恵美の携帯電話に届いたわけだ。
「そういうことはやめなさいって、何度も何度も言ってるでしょ。別にわたし、付き合うって返事し
たわけでもないのに」
「だってぇ」
茜はまだ幼さの残る顔に、不満げな表情を浮かべた。
「あんなヒョロくてナヨナヨした男がさー、ビーナスみたいに美人で菩薩みたいに性格よくてヤハ
ウェみたいになんでも出来ちゃうお姉ちゃんに告白しようなんて、まさに神を冒涜するに等しい行為
だと思ったんだもん」
「ヒョロくてナヨナヨって……あんた、野球部の小野君がわたしに告白してくれたときは、『あんな
筋肉だるまの汗臭い野郎が〜』とか言ってたでしょうが。要するにどんな人が相手でも不満なんで
しょ、全く……っていうかヤハウェはやめなさい、いろいろ危ないから」
「はーい」
「それと、今後おなじことがあっても、もう二度とこういうことはしないこと。いいわね?」
「はーい」
茜は素直に頷いたが、実際に従うつもりはさらさらないに決まっている。なにせ、こういったやり
取りは、恵美が高校に入学してから既に何度も何度も繰り返されてきたのだから。
(わたしが誰かに告白されるたびに、絶対後から『ごめん忘れて』って言われるんだもんなー。これ
で十……何回目だっけ。もう覚えてないし)
今まで自分に告白してきた男たちの、赤い顔と青い顔のビフォーアフターを思い出しながら、恵美
は深々と溜息をつく。茜がぐっと身を乗り出し、心配そうな顔を近づけてきた。
「大丈夫、お姉ちゃん。あのヒョロ男から変な菌うつされたんじゃない?」
「んなことあるわけないでしょ……っていうかあんた、近い、近いって」
茜の顔がほとんど視界一杯に広がっている。少しでも遠ざかろうと椅子に座ったまま身を引いたが、
妹はその都度じりじり顔を近づけてくる。頬が薄らと上気し、息が荒くなっているのが分かる。
「おねえちゃーん」
甘えるような声と共に、茜が抱きついてきた。小柄で華奢な妹だから、椅子に座ったままでもなん
とか受け止められる。二人揃って椅子ごとひっくり返っては大変なので、恵美は仕方なく妹の体をき
つく抱きしめ返した。腕の中の茜が嬉しそうに身じろぎする。こうなることを狙ってやったのは間違いない。
「こら茜、離れなさいって」
「いやー。えへへ、お姉ちゃん、いい匂い……やわらかおっぱい……」
「普通におっぱいとか言うなコラ」
恵美の胸の谷間に顔を埋めながら、茜がうっとりと息をつく。小さな手が背中を這い回っているの
が分かった。ほんの少し、くすぐったい。
「お姉ちゃん、茜だけのお姉ちゃん……お姉ちゃんはずっとお姉ちゃんだもん、他の奴になんか絶対
渡さないんだから」
ぶつぶつと低い声で呟きながら、茜は恵美の胸に頬を摺り寄せている。言葉の内容が物騒な割に、
表情は至福と言ってもいいほど穏やかで、満ち足りたものだった。
(まあ、別にこうやって抱きつくぐらいなら、わたしだって許さないでもないんだけど)
恵美は眉間に皺が寄るのを自覚しながら言う。
「茜。お姉ちゃんの太股にお股を擦りつけるのはやめなさい。っていうかなんか湿っぽくて気持ち悪
いんだけど」
「えへへ、お姉ちゃんのすべすべのふとももぉ……」
「今すぐ止めないと、もう二度と添い寝してあげないわよ?」
「ごめんなさい」
茜は素直に謝り、さっきから絶え間なく続けていた前後運動をぴたりと止めた。不満そうに唇を尖らせる。
「お姉ちゃんのケチ。姉妹のスキンシップも許してくれないなんて」
「スキンシップってレベルじゃないでしょ今のは」
「じゃあせめて、可愛い妹のために張り型つけて後ろから突いてくれるとか」
「可愛い妹にそんなことする姉は間違いなく変態だって」
「じゃあ変態になってよ! ずるいよわたしばっかり変態にしておいて」
「それはわたしのせいなの、ホントに?」
「お姉ちゃんがエロすぎるのがいけないんだよ! 全くもう、永遠の幼児体型が確定しつつある妹を
ほっぽって、年々いやらしい体つきに成長していくんだから、このエロ姉は」
「どういう言いがかりよそれは。親父かあんたは」
「わたし我慢できなくて、日に三度はお姉ちゃんでオナニーしてるんだからね!」
「そんなこと本人目の前にして言うんじゃない」
軽くデコピンしつつ、まあその程度なら見逃してやってもいいか、と思ってしまう辺り、自分もか
なり毒されてきたなと恵美は少しショックを受ける。
そんな姉の内心を知ってか知らずか、茜はまた恵美の胸に頬を摺り寄せ、うっとりとした微笑を浮
かべている。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なに」
「茜のこと好き?」
「それは妹的な意味で? それとも違う意味で?」
「もちろん性的な意味で」
「じゃあ嫌い」
「酷い!」
「酷くはないでしょ……でも妹的な意味でなら、もちろん好きよ」
「うん。茜もね、お姉ちゃんのこと大好き」
「そう。じゃあお姉ちゃんに人並みの幸せが訪れるように、少しでいいから自重して欲しいんだけど」
「いや。男なんかと一緒になっちゃったらお姉ちゃんが汚れちゃうもん。いいじゃない、お姉ちゃん
は茜が幸せにしてあげるから」
「あ、そう」
あえて素っ気なく言ってやったが、茜は特に気にした風もなく、それどころか「うん、そう」と嬉
しそうに頷いている。
二人はしばらくそのままの姿勢で黙っていたが、ふと気付くと、茜は恵美に抱きついたまま穏やか
な寝息を立て始めていた。無防備な寝顔に、ついつい苦笑が漏れる。
「ったく、毎回毎回こうなるんだもんなあ。これだから、どうもあんまり怒る気になれないんだな、わたし」
一人ごちながら、恵美は茜を起こさないようにそっと立ち上がる。妹の体は自分よりも頭一つ分は
小さく、体重も子供のように軽い。だから、軽々と抱きかかえることが出来る。
恵美は茜の体をベッドの上に横たえた。服が皺になってしまうだろうが、まあそれは仕方のないこ
とだろう。そっと毛布をかけてやると、茜は眠ったままその毛布をぎゅっと引き寄せ、柔らかい布地
に顔を埋めてうっとりと頬を染める。
「お姉ちゃんの匂いだー、ってか? まったく、こいつは寝てても……」
苦笑しながらベッドに頬杖を突き、恵美は茜の寝顔をじっと眺める。
昔から体が小さくて、いつも気弱な表情を浮かべて自分の後ろをついてきていた妹。逆に身長が高
かった自分が、よく近所のいじめっ子たちから守ってやっていたものだ。その頃からもう茜は自分に
べったりだったが、まさかこの年になってもまだ「お姉ちゃんお姉ちゃん」と後ろをついてきている
とは夢にも思っていなかった。しかも最近、姉を見る目がなんだか危ない。
(ま、考えても仕方ないかな。この子はこの子だし)
顔にかかった髪をそっと払ってやると、茜の寝顔に嬉しそうな微笑が浮かぶ。
この顔を見ていると、どんな無茶なことをされても「まあいいかな」とつい許してしまうのだ。自
分もひょっとしたら妹と同じぐらいに問題のある姉なのかもしれない、と少し思わないでもない恵美だった。
このスレに投下するべきものなのかどうか判断がつかなくなったのでとりあえず投下した。
キモ愛情の対象が男である必要はないはずだ! と思ったんだが今は自信がない。
すまない、私にはだめであったようだ
勝手でごめんよ
百合とか801という属性が万人に受け入れられると思ったら大間違いダヨ
>>507 残念ながら、百合は百合板で…………いや、しかしこれは……くぅ……か、可愛いにゃあああ!!!
>>508-509 む、やっぱりそうか。すまんすまん、スレにそぐわんものを投下してしまったようだ。
思いついたら書かずにはいられんかったもんで……勝手ながら以後はスルーで頼む。
>>510 あんがと。行ったことないが次思いついたら百合板でやることにするかな……
禁断のユリモウト?とでも表現するのだろうか。
キモイので俺的にはOKだが…ところで、このお姉ちゃんは
告白翌日に振られても妹に当たらない…ユリモウトの思いは
叶う見込みありかも。
いやキモ成分あるからここでもおkだろ
だがこっちなら百合注意を、あっちならキモ注意を出したほうが無難だな
>>511 すまん、俺はかなりツボった。
始めに百合注意とでも書いておけば別にここでもいい気がするけどね。
ジャンルをまたぐ作品の投下先は悩みますよね。今回は百合と
またいだけどファンタジーやSF的な要素を含むのもどっちのスレに
落とすか考え込んでしまうし。
特にこのスレはお姉さん(いもうと)大好きスレとか、極めて近いスレがあるし。
>>507 GJ!
だが今度からは注意書きも書いてくれれば嬉しいです(´・ω・`)
投下乙であります。
百合分は最初に「百合注意」とでも書いておけばキモウトである以上、
このスレでも平気かと思われます。
私はもちろん百合キモウトは大好物ですが。
>>1に愛しいお兄ちゃん又は弟くんて書いてあるから、やっぱり百合スレになるんじゃないか?
まぁテンプレ変えたら訳ないけど
ぶっちゃけメスメスだとどっちにも自己投影できないから楽しめない
キモウトキモ姉に狂愛される疑似体験ができてなんぼだろ
女キャラにも余裕で自己投影可能な俺は間違いなく勝ち組。
兄妹や姉弟ならキモい行動だろうが、百合ならキモく見えんな
もともと他人は徹底排他+当人達が異常にベタベタするのに違和感ないのが百合だし
むしろこのスレ的には男の俺たちに入る隙がなくて涙目
俺は間違いなく今までで一番好きだ。
まあ、エロパロ板のテンプレなんて遵守されないものだしなあ
百合厨自重しろよ・・・ほんとどこでも沸くな
今回は百合でもキモウトだからスレの範囲内だろう。まあ百合表記は必要だったが、百合自体に噛みつくのは間違いだ。
あのさ、
>>390で途中ダブり部分があるのは演出じゃないと思うんだけど、
wikiでは修正しちゃ…、ダメだよな。作者さんじゃねえんだし。
リンクしてない目次とかあったし、作ったページは動くか確かめようね。
スルーしてくれって言ってるんだからスルーしてやれ
キモウトに背中ピッタリで尋問されたい
そこに前からキモ姉が来て
「背中でいくら無い胸押し当てられても痛いだけよね。
お姉ちゃんの身体の方が気持ち良いもんねぇ。」
ってサンドイッチされたい
・姉さんの大きい胸は最高だ
・(妹の名前)の美乳の感触が堪らない
・二人とも愛してる
⊃・幼馴染みのアイツの乳の方が気持ち良い
敢えて死亡フラグ立てる俺はチャレンジャー
きみが立てたのは、愛する彼女の志望フラグだ…
532 :
マリー書く人:2008/02/27(水) 00:07:58 ID:jqMDalJ0
533 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/27(水) 00:09:44 ID:jqMDalJ0
スマン、誤爆した
朝起きて僕がまずすることは、布団をめくって隣に誰かいないか確認することだ。今日はいちいち
布団をめくらなくても分かった。目を開ける前から、胸に誰かの温もりと重みを感じたからだ。
「この重さ……遥だな」
「せいかーい! おはようお兄ちゃん」
「夜中に僕の布団の中に潜り込むのは止めなさいと毎日のように言っているでしょうが」
「いいじゃない、別に変なことはしてないしー。ホントだよ、抱きつくだけでお兄ちゃんのには指一
本触れてないから」
その割に、遥ががっちり両足を巻きつけている右足の太股辺りに、ぐっしょりと湿っぽい感触があ
る。無言で布団をめくると、何も履いていない妹の下半身が見えて、股の辺りが盛大に濡れている。
「お兄ちゃん」
息を荒げ頬を上気させている遥をやんわり引き剥がし、僕はベッドから降りる。さて、まずはどこ
を探そうか。とりあえず屈みこんでベッドの下を覗くと、闇の中に金色の瞳が見えた。その瞳がすっ
と細まり、ベッドの下に潜んでいた少女が妖しく微笑む。
「……おはよう、兄様……」
「冥、ベッドの下で眠って風邪を引くといけないからやめなさいって何度も言ってるでしょう」
「……大丈夫、愛の力でウイルス皆殺し……」
「そうだね、キモすぎてウイルスが自殺するかもね」
「あふぅ」
小柄な体を抱きしめてぞくぞくと身震いしている冥をとりあえず無視して、僕は壁際に歩み寄る。
そこに備え付けられている大きなクローゼットを開けると、長い黒髪の少女が僕の制服に赤らんだ顔
を埋めているところだった。右手は制服をつかみよせ、左手は寝巻きの中にもぐりこんで絶え間なく
股間をまさぐっている。
「ハァハァ……兄さんの臭い……」
「おはよう楓」
「ああ兄さん、おはよう。ねえ、この制服もらってもいい?」
「ダメ。後で鼻噛んだティッシュあげるからそれで我慢しなさい」
「ああ、兄さんの体液つきティッシュ!」
体をくねらせる楓を放置して、僕は箪笥の一番下の段を引き開ける。詰め込まれた僕の下着に、幼
稚園児ぐらいの女の子が埋もれて夢見るようにうっとりしている。
「兄ちゃまぁ」
「おはよう木霊」
「あ、おはよう兄ちゃま」
「とりあえずトランクスを頭に被るのはやめなさい」
「はーい」
素直かつ元気に返事をしつつ、その場から動こうとはしない木霊をほっぽりだして、僕は机の下を
覗き込む。大人しそうな女の子が膝を抱えて丸くなっていた。僕と目が合った途端に、顔が真っ赤に
なって体が硬直する。
「おおおお、お兄さん」
「おはよう八重」
「あのあのあの、お兄さんが勉強してるときにここにいたら、ずっとお兄さんのたくましい下半身を
眺めていられるなーとかそういう、あのあのあの」
「妄想たくましすぎてキモイよ八重」
「ふはぁ」
半分白目になって涎を垂らし始めた八重から体を引きつつ、僕は机の傍らに置いてある短めの物干
し竿を手に取る。この辺りかな、と目星をつけて天井の一隅を突いてみる。「さすがだね」と声がし
て天井板の一部がくるりと回転し、誰かがひらりと床に降り立った。頭の上で一つに束ねた長い黒髪
と、涼やかな目元が印象的な少女。服装はいつも通りの忍装束だ。
「おはよう兄上」
「おはよう鈴音」
「凄いね、気配は完全に殺してたつもりだったのに」
「気を抜いたら好きなように視姦されると思うとね。どうせ僕が寝てる間に自慰を楽しんだんだろう
から、ちゃんと後始末はしておくようにね。天井裏から変な臭いが漂い出したらたまったもんじゃな
いから」
「ふふ、今日もクールで素敵だよ兄上」
うっとりしている鈴音の横を通り過ぎて、壁の前に立つ。そこだけ何か、微妙に風景がぐにゃりと
歪んでいるような気がする。手を伸ばすと何か柔らかいものに触れて、「あん」と悩ましい声がした。
壁だと思っていたところから、唐突に人影が現れる。起伏激しい体のラインをくっきり浮き上がらせ
る、特殊な素材のスーツに身を包んだ女の子だ。長い金髪と青い瞳。日本人離れした容貌。彼女は舌
を出して悪戯っぽく笑う。
「ばれちゃったねー。おはようブラザー」
「おはようリリィ。風景同化能力とか、こんなしょうもないことに使わないでくれないかな。ヒー
ローだったら悪の組織との戦いとかに使ってよ」
「世界平和よりブラザーの寝顔の方が大事よ」
「うん、死んだらいいと思うよ」
「いやーん、今日もブラザーの毒舌が最高にエクスタシー」
頬に手を添えて身をくねらせるリリィから離れて、僕は部屋の片隅に置いてある冷蔵庫に歩み寄る。
僕の部屋に、本来こんなものは置いていないはずだ。そばでじーっと見ていると、不意に機械的な唸
りを発して、冷蔵庫がガチャガチャと高速で変形し始めた。一秒も経たない内に、そこには青い
ショートヘアーのスレンダーな美少女が立っている。相変わらず謎に満ちた変形機構だ。
「感想を求めます。本日の擬装はいかがでしたか、兄的存在」
「おはようKMS−03.正直言ってあの形態の意図が分からない」
「理解を求めます。兄的存在が料理をしているときに後ろから思うままに臀部を観察するのが目的です」
「一度全パーツ解体してウイルスチェックしてもらうといいと思うよ」
「解体を求めます。兄的存在が直接作業に従事してくださるのなら」
生真面目な表情でバグっているKMS−03から目をそらし、僕は机の上のポットに歩み寄る。い
つもならば紅茶を淹れるために使うポットだが、何故か水位計が真っ青になっている。無言でポット
の蓋を開くと、中が青い粘体に満たされていた。その青い粘体が勢いよく飛び出し、僕の体に絡みつ
く。粘体は女の形を取り、目やら口やらも次々と生成される。
「おはよーあにー。きづかずにぼくをのんでくれなくて、とってもざんねんー」
「挨拶しながら僕のズボンに潜り込もうとするのはやめなさい、スラミー」
「えー、いいじゃんいいじゃん、すげーきもちいーよぼくのからだ」
「オナグッズ使ってるみたいで嫌な気分になるんだよ君の体は」
「いやーん、じんしゅさべつー」
大して傷ついた風でもないスラミーを無理矢理引き剥がし、僕は背後からするすると伸びてきてい
た緑色の触手を踏み潰す。力いっぱい踏みにじりながら部屋の入り口付近を見ると、植物のような緑
色の体をした女が、足の代わりに生えている無数の触手を蠢かして激しく身悶えしているところだった。
「おおう、兄ちゃんったら朝から激しいったらないわもう」
「おはようドリィ。毎朝毎朝触手で僕のお尻を狙うのはやめなさいって何度言ったら分かるの君は」
「怖がらなくてもいいのよ兄ちゃん、痛いのは最初だけなんだから」
「痛いのは君の存在だけでいいよ」
「ひどい! でもそこが大好き!」
一人で興奮しているドリィを触手ごと投げ飛ばしつつ、僕は天井の隅を見ながら短く念仏を唱える。
すると「ぎゃん!」という声がして、空気から溶け出すように半透明の女が現れた。
「念仏プレイって幽霊特有のものよね兄君様」
「おはよう幽子。いい加減成仏してくれないかな君」
「いやー。兄君様を呪い殺して一生地獄で愛し合うのがわたしの未練だもんねー」
「そのキモい妄想を抱いたまま逝け」
「うふふのふー」
わけの分からない笑い声を響かせる幽子に向かってもう一度念仏を唱えつつ、僕は足元を見下ろす。
手の平に乗るぐらいのサイズの小さな女の子が、そろりそろりと近づいてくるところだった。摘み上
げて目の高さまで持ち上げると、小人の妹は舌打ちした。
「ちぇっ、もう少しだったのにー」
「おはようリタ。毎朝毎朝僕の足に上ろうとするのはやめなさいって何度言えば」
「リタの登山日記! すね毛の森を掻き分けて、目指すは山頂、にーやんのおにんにん! 旗を立て
る代わりにオナホールになってあげるよ?」
「悪いけどそういう類のグッズには全く興味がない」
「きもちいいのになー」
頬を膨らませるリタをぽいっと投げ捨てて、僕はようやく一息ついた。それぞれに気持ち悪い表情
を浮かべている妹たちをちらりと見やったあと、無言で部屋を飛び出す。我先にと後に続こうとした
妹たちが、狭い入り口のところで押し合いへし合いしている内に、たったか階段を駆け下りてリビン
グに向かう。父さんがテーブルの前に座って紅茶を飲んでいた。
「おはよう父さん」
「おう、おはよう息子よ。ちゃんと全員見つけられたか?」
「ああもちろん。見つけられなかったら僕はいろんな意味で終わりだ」
「毎朝部屋に忍び込む妹たち。見つけられなかった者は兄を好きにできる」という馬鹿げた取り決
めがなされてから早一年。隠れるつもりがさらさらない妹も多いとは言え、僕の純潔が保たれている
というこの事実は、もはや奇跡に近い。
「って言うか、今さらだけどさ」
「なんだ息子よ」
「多いよね、妹。十二人」
「ある意味常識的な数だぞ」
「どこがさ。しかもなんか人外多いし」
「父さん頑張ったからな」
「どこで誰と頑張ってきたのさ、全く。しかも全員変態ばっかりだし」
「いいじゃないか、兄として愛してもらっていて」
「いや、あれは兄に対する愛し方じゃないと思う」
雑談している間にも、階上からは凄まじい物音と振動が響いてきている。銃撃とか剣戟とかおぞま
しい絶叫とか、そりゃもういろいろだ。部屋がメチャクチャになっていることは想像に難くない。
「でも帰ってくる頃には綺麗に元通りになってるんだもんなあ」
「父さん頑張ってるからな」
「その努力を違う方向に注いでくれ」
会話を続けつつも、手早く朝飯を片付ける。早くしないと本日の勝利者が降りてきて、登校風景が
恐ろしいことになってしまう。
「じゃ、行ってくるね」
「おう、行ってらっしゃい」
のん気な父さんの声と階上からの戦闘音を背に、僕は家の外へ出た。
なんか途中で違うものになった気がしないでもない。
あんまりキモくないしなー……
隠しキャラは隣の家に住む幼馴染。
主人公に唯一与えられた癒しスポットだと思ってたら、
実は父さんと隣の奥さんが不倫した末に出来ちゃった、同い年の妹でしたという。
538 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/27(水) 01:30:03 ID:ttnNhtRa
是非続きを書いてくれ
兄さんクールw
とりあえず隠しキャラの登場を乞い願い奉る!
あー、でもKMS−03.は兄とどこでどうやって血が繋がってるんだ?w
というわけでこんなシチュを勝手ながら妄想してみました……
女科学者「KMS−03.は私たちの愛の結晶よ。あなたの精液とわたしの愛液を潤滑油に混入してあるの」
父さん 「普通の男なら引くだろう君のそのキモさに僕は心惹かれたんだ」
父さんにもそれくらいの趣味嗜好がないと変態な娘ばかり生まれないかと……(汗
素直にグゥレイトォ!!と言う言葉しか出ないな
姉はどこ?
>>542 キモウトが朝なら…
キモ姉は
「12時になるまでに弟の貞操を奪った者が勝者」
の夕方〜夜12時までの来襲と予測する。
当然キモ姉側の隠しキャラは女教師(父ちゃん初恋女性との子)を希望す。
俺、性的欲求が高まったら妹(リアル)を犯す夢を見てしまう・・・
ウチのはキモウトじゃないが、
キモウトからしたら兄にレイプされるのはどんな気分なんだろうな
おにいちゃんやめて…あ…だいすき
>>546 嬉しいのか悲しいのやら複雑な心境?
何しろ最初は痛いからね
>>546 夢としても妹さんを汚すようで傷まし過ぎるから、早く普通のリアル彼女を作れ
夢をSS化することは大歓迎だ
もし俺にキモウトがいて
エッチぃお誘いを受けたら
迷うのはほんの一瞬だけでヤってしまうだろうな欲望に弱いから
でもきっとそこから先が大変
何せキモウトだから
自分が兄のものになったと同時に
兄の全てが自分のものになったと思い込み
携帯覗かれて登録してある女性の知人に「泥棒猫」呼ばわりのイタ電やスパメされたり
野郎同士の飲み会でも合コンを疑われ逆上されたり
卒業アルバムの女の同級生の顔を全てカッターで切り刻まれたり
挙げ句に両親に「子供ができちゃったからお兄ちゃんとの仲を認めて」と要求……
でもそこまで愛されてみたいと思う
キモウト萌えの俺がいる
待っているのは破滅だけだろうけど……
553 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/27(水) 22:05:15 ID:3l0tJx8b
夢のような状況だな
>>554 いやおかしいだろう、と思ったがキモウトをキモ姉に脳内で置き換えると普通になった
姉ニモ負ケズ
(中略)
一人暮ししてると、当然のようにドアの前で待ってて『通い妻みたいですね』とか言って
いつの間にか表札に名前が足されててそういえば隣の人に『いつ籍を入れたんですか』とか聞かれる
そんな弟に私はなりたいようななりたくないような
557 :
気持ち悪い妹:2008/02/27(水) 23:16:10 ID:gRaODouZ
誰かのかすかな喘ぎに、意識が眠りの中から引き戻される。夜の闇の中、一志はそっと薄目を開けた。
窓から差し込む青白い月明かりの中、華奢な人影が浮かび上がっている。妹の綾香だ。一志が寝て
いるベッドのそばに膝を突き、震えながら息を荒げている。
彼女の寝巻きのシャツはボタンが全て外されており、露出した下着も半ばずらされて、小ぶりで形
のいい乳房が白い肌を覗かせていた。細い左手がゆっくりとそれを揉みしだき、右手はズボンの中に
もぐりこんで股間をまさぐっている。
目は閉じられ頬は上気していたが、自分の体を激しく責め立てているにも関わらず声はほとんど漏
れていない。小さな口がはだけた寝巻きの布地をきつく噛み締めているためだ。眉根を寄せた表情は
とても苦しそうだ。声が漏れるのを抑えようと必死に努力しているらしい。
(気付かなきゃよかった)
一志は後悔しながらも、意識を集中して呼吸を規則的に整えた。できれば、起きてしまったことを
綾香に悟られないまま、彼女をやり過ごしたい。
自慰を続ける綾香の喘ぎ声が、少しずつ大きくなってきた。口はまだきつく布地を噛んでいるため、
声はほとんど聞こえてこないが、鼻から漏れる呼気とそこに混じる切なげな呻きは隠しようがない。
額から流れ落ちた一筋の汗が、月明かりを浴びて薄らと光っている。顔の赤みも深くなってきたよう
だ。細められた瞳が潤んでいるのが、闇の中でも見えるような気がする。
そうやって数分ほども自慰を続けたあと、綾香は服の布地から口を離し、両手を自分の体から離し
た。寝巻きを着直しながら、なにか思い悩むように数秒ほど黙り込む。不意に、その顔が真っ直ぐこ
ちらに向いた。先程まで淫靡な興奮に浸っていた顔に、愛しげな微笑みが浮かんでいる。
「お兄ちゃん、起きてるでしょ」
どう答えたものか迷っていると、綾香は微笑んだままで、小さく溜息をついた。
「気を遣わなくてもいいよ。わたし、途中から気付いてたから」
どうやら誤魔化しようはないようだ。一志は仕方なく目を開き、ベッドの上でためらいがちに上半
身を起こした。じっとこちらを見つめている綾香に、軽く片手を上げる。
「すまん、起きるタイミングが分からなくてな」
「あの、お兄ちゃん」
綾香が少し呆れ気味に言う。
「こういうときって、普通わたしが謝るものだと思う」
「そうか?」
「そうだよ。妹が夜中勝手に部屋に忍び込んできて、自分の寝顔を見ながらオナニーしてるんだよ?
普通なら怒鳴るとかしてるよ、絶対」
「そうは言ってもな……俺がお前を怒鳴ったことなんて、あったか?」
「ないけど。でも、迷惑だったら怒鳴ったっていいし……それこそ殴ったっていいんだよ、お兄ちゃん」
「絶対しない……いや、出来ないよ、そんなことは」
断言すると、綾香は少し辛そうに眉をひそめ、うつむいてしまった。いつも以上に小さく見える妹
に、一志もまた何も言えずに黙り込むしかない。
少しずつ、夜気が体を冷やしていくような気がする。一志は掛け布団を捲り上げて、妹を手招きした。
「とりあえず、こっち来い。そんなとこで話してたら、風邪引いちまうよ」
綾香は一瞬ためらうように入り口の方を見てから、またこちらに視線を戻した。そっと立ち上がり、
おそるおそるベッドの端に身を横たえる。一志は苦笑した。
「こら、そんなところにいたんじゃ、遠くて話しづらいだろ」
「でも」
「いいから、もっと近くに来いよ。ちょっと前までは普通にそうしてたじゃないか」
綾香は迷うように視線をさまよわせながら、じりじりとこちらに身を寄せてくる。一志は布団の中
で右腕を伸ばし、妹の体を軽々と抱き寄せた。腕力、体力には自信のある自分と、小柄で華奢な妹の
関係は、昔からこのままで少しも変わらない。
「だ、だめだよ、お兄ちゃん」
腕の仲の綾香が、焦ったようにもがく。
「だめって、なにが?」
「こんな近くだと、わたし、変になっちゃうから」
見上げる瞳に涙が滲んでいたので、そっと指で拭ってやる。不安げな綾香の耳元に、出来る限り柔
らかい声音で囁きかける。
「別に、いいから。遠慮しなくても。何がしたいのか、言いな」
「でも」
「いいから」
綾香は困ったように眉根を寄せながら、一志の顔と胸の間で視線を揺らがせる。その頬が少しずつ
赤くなっていき、小さな唇が固く引き結ばれた。唾を飲み込む音が、かすかに聞こえたような気がする。
558 :
気持ち悪い妹:2008/02/27(水) 23:16:42 ID:gRaODouZ
「あの、ね」
「うん」
「ぎゅってして、ね」
「うん」
「お兄ちゃんの匂い、嗅ぎたい」
恥ずかしそうに俯き、聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で呟いた。一志は黙って笑い、さ
らに強く、妹の体を抱きしめる。わずかな喘ぎを漏らして、綾香の頬が一志の胸にぴったりと寄り
添った。細い腕がおずおずと伸ばされ、兄の体を抱きしめ返す。胸の辺り、服越しに息を感じた。胸
いっぱいに、兄の香りを吸い込んでいるらしい。密着している胸から伝わってくる鼓動が、じょじょ
に小さくなっていくのが分かる。
「落ち着いた?」
「……うん。ごめんね、お兄ちゃん」
「謝らなくていいったら」
「今日は、大丈夫だと思ってたんだけど」
泣きそうな声。
「ベッドの中に入ったら、急に来たの。お兄ちゃんのことしか頭に浮かばなくなって、体が熱くなっ
て……それで、抑えられなくなって」
「ああ。分かってる、分かってるから。大丈夫だよ」
「うん」
頷き、綾香はまた兄の胸に顔を埋める。しばらくして顔を上げ、ぎこちなく笑った。
「ねえお兄ちゃん、本当は、こんなことしちゃダメなんだよ?」
「兄妹が一緒のベッドで寝たって、別におかしくはないだろ」
「ダメだよそれじゃ。ちゃんと怒らなくちゃ」
「綾香は怒るようなことなんか何もしてないよ」
綾香は深く溜息をつきながら目をそらした。寂しそうに笑う。
「ねえお兄ちゃん、多恵さんとはうまくいってる?」
「うまく……まあ、普通だよ。仲良くしてる……と思う」
「多恵さん、たまに家に来るけど、わたし、変に思われてないかな?」
「思ってるわけないよ。多恵はもう綾香のこと、本物の妹みたいに思ってるみたいだからな」
「そっか、よかった」
綾香は安心したようだった。
「わたしのせいで多恵さんがお兄ちゃんのこと嫌いになっちゃったりしたら、どうしようって思ってたんだ」
「あいつはそんな奴じゃないよ」
一志は綾香の頭を撫でてやりながら、多恵の能天気な笑顔を思い出した。
「かずぽんかずぽん、あやちゃんはかわいいねえ。あたしもあんな妹ちゃんがほしかったよ。大人し
そうな子だもんね、二人で一緒に守ってあげようね、ね!」
今日の昼間、目を輝かせてそんなことを言っていた。おそらく、そんな風に思っている小さな女の
子の本当の姿には、まだ気付いていないだろう。もちろん、一志も話していないし、気付かれないよ
うに細心の注意を払っているつもりである。
(多恵なら、きっと理解してくれるんじゃないかって思うんだけどな。こればっかりは、そう迂闊に
話すわけにはいかないよな)
憂鬱な思いが顔に出てしまったのか、綾香が心配そうに顔を曇らせた。
「どうしたの、お兄ちゃん。多恵さんと喧嘩したの?」
「しないよ。仲良すぎだとか、周りの連中にからかわれるぐらいなんだから」
「そう。それならいいんだけど。ねえ、お兄ちゃん」
綾香が真剣な顔でこちらを見上げてきた。
「もしもわたしのせいで多恵さんと変なことになっちゃったりしたら、ちゃんと多恵さんの方を優先
してあげなくちゃだめだからね。わたしのことなんて切り捨てちゃっていいんだから」
「そういう言い方、あんまり好きじゃないな」
「好きじゃなくても。お兄ちゃんみたいな優しい人が、わたしみたいなクズのせいで幸せになれない
なんておかしいもん。お兄ちゃんには絶対、幸せになってもらわなくちゃ」
一生懸命言い聞かせるような綾香の言葉を聞いていると、一志の胸がずきりと痛んだ。
「そうか、ありがとう。でもな綾香」
痛みをこらえて手を伸ばす。愛しい妹の頭にそっと手を触れ、柔らかい髪を梳くように撫でる。
「俺はお前だってずいぶん優しいし、だからこそ幸せになるべきだと思ってるんだからな」
559 :
気持ち悪い妹:2008/02/27(水) 23:17:08 ID:gRaODouZ
綾香が目を見開き、ぎゅっと細めた。滲む涙を隠すように顔を伏せ、黙り込んだまま無理矢理一志
の腕から抜け出してしまう。敢えて止めずに見送る。小さな妹は床に降り立つと、耐え難い苦痛に喘
ぐように深く息を吐き出し、振り返らずに言った。
「わたしには」
声はか細く震えていた。
「わたしには、そんな資格、ないよ。本当は、ここにいる資格だってないのに」
振り返らずに早足で歩き、綾香はドアノブに手をかける。ドアを開ける直前、小さな呟きが聞こえてきた。
「気持ち悪い妹でごめんね、お兄ちゃん。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
綾香は部屋を出て行った。
少し経ってベッドから抜け出した一志は、この部屋と隣にある妹の部屋とを隔てている壁に耳を押
しつけてみた。かすかに、すすり泣きが聞こえてくる。
(かわいそうな綾香)
今すぐ隣の部屋に飛び込み、妹の体を抱きしめて慰めてやりたい衝動に駆られる。綾香が泣くたび
ずっとそうしてきたし、それは兄として正しい行いのはずだった。だが、今はその正しさに自信を持
つことができない。
一志は全身に疲労と痛みを覚えながら、のっそりした足取りでベッドに戻った。天井を見上げ、思い返す。
――お兄ちゃん、ごめんなさい。
突然部屋に入ってきた綾香が、床にカッターを放り捨てて泣き出したのは、もう半年ほども前のことだ。
確か、その当時はまだ友人以上恋人未満、ぐらいの関係だった多恵から、告白を受けた日だった。
こちらとしても彼女のことを憎からず思っていたので、もちろんOKした。夕日に染まった帰り道、
手を繋いで帰ってきたことだとか、お互いに緊張していて上手く話せず、それが面白くて二人で笑い
転げたことだとかを、嬉しさのあまり全部綾香に語って聞かせたのだ。なんて残酷なことをしたんだ
ろうと、今になって思う。
――わたし、普通じゃないの、おかしいの。
昔から、不安そうな顔で自分の後をついてきていた綾香。振り返って微笑んでやると、安心しきっ
た笑顔を見せていた綾香。その妹が、聞く者の胸を抉るような悲痛な悲鳴を絞り出していた。
――お兄ちゃんのことが好きなの。好きで好きでたまらないの。
いつだって守ってやったし、悲しいときは慰めてやった。妹のことなら、なんだって知っているは
ずだった。だが、綾香がずっとひた隠しにして、誰にも言わず、言えずに育ててきた想いのことは、
何一つ知らなかった。一番近くにいながら、その欠片すら見えていなかった。
――多恵さんのことだって大好きで、多恵さんならお兄ちゃんを幸せにしてくれるって、そう思っ
てたのに。気付いたら、こんなの握ってたの。これであの女を殺せたらって、本気で考えてたの。わ
たし、もう駄目。こんなんじゃ、お兄ちゃんのそばにいられないよ。こんなクズがいたら、多恵さん
もお兄ちゃんも不幸になっちゃう……!
床に突っ伏して泣く妹に対して、あのときの一志はかける言葉を見つけることすら出来なかった。
ただ、今までの習慣に従うまま、妹の体を抱きしめて、「大丈夫、大丈夫だよ」と囁いてやることぐ
らいしかできなかった。そんなものが何の助けにもならないことは、分かっていたはずなのに。
半狂乱で死ぬとか出て行くとか言い募る妹を、ただただ必死になだめた。大丈夫だからと、馬鹿み
たいにそれだけしか繰り返せなかった。綾香はなんとか踏みとどまってくれたが、その心は未だに不
安定な状態にある。解決の糸口すら、見出せぬままだ。
――ごめんなさい。普通じゃなくてごめんなさい、普通になれなくてごめんなさい……
すすり泣く綾香の声は、今も時折蘇っては胸の傷を無遠慮に嬲っていく。
「普通じゃなきゃ、ダメなのかよ」
無力感に苛まれながら、負け惜しみのように呟く。
ベッドに横になったまま、窓越しに空を見る。闇の中に浮かんだ月が、嘲笑うようにこちらを見下
ろしていた。
朝はまだ、遠くにある。
こういうのはキモウトに分類されるのだろうかと疑問に思いつつ投下。
みんなの判定が聞きたい。
>>560 GJ!!俺は好きだぜ!!
キモイというより普通に可愛いと思ってしまう俺はもうダメなのかも…
境界線上だな。こういうのもいい。
二昔前の少女漫画の設定だと、こんな感じの「自制心のために辛い想いをする妹」が
近親ネタの限界ラインだった。
こういう分別のある良いキモウトはだな、
兄貴と多恵の二人で愛情を注いで、とことん心身を慰めてやるべきだと思う。
何かきゅんきゅんした。God Job!!
>>560 いい娘だなぁ。
純粋に妹萌えじゃないか、どこが気持ち悪いんだ?
GJ。
GJ!
なんか妹が健気で
何かきっかけでもあれば兄が妹のほうに転ぶこともあり得るんじゃないかと
たとえば、
多恵事故死→落ち込む兄→わたしがついてるからと慰める妹
(事故死の原因はもちろん……)
って、それじゃ普通のキモウトかw
こういうヌカミソ的キモウトは好き
似たタイトルの作品が保管庫にあるけど、同じ人なのかな。
>>568 いや、違うよ。
今日も投下。テーマは「泥棒猫の方が強かった場合」
我が家の広いリビングの片隅、玄関側の廊下に通じる扉の影に、包丁を手にした妹の純子が立っている。
「なあ、いい加減諦めたらどうだ?」
呆れて言ってやる。血走った目で玄関の方を睨みつけたまま、純子は険しい声で返してきた。
「いや、絶対諦めない。あの泥棒女、絶対ブチ殺してやるんだから」
「その台詞聞くのもう何百回目だっけかなあ」
「待っててねお兄ちゃん、あの泥棒女殺したら、あいつの死体のそばでHしましょ」
「しねえよ。っつーかその台詞も千回は聞いたよ」
うっとりしている純子に吐き捨てたとき、廊下の向こうで騒々しい音がした。チャイムもノックも
なしに、玄関が開け放たれたのだ。
「来た!」
妹がぎゅっと包丁を握りなおす。玄関で誰かが適当に靴を脱ぎ散らかす音が聞こえてきた。
「やっほー、浩二、純ちゃん、いるー?」
馬鹿みたいに明るい声と共に、誰かが廊下を歩いてくる。五秒もしない内に、一人の女がリビング
の入り口に姿を現した。隣の家に住んでいる、俺と同い年の幼馴染で、名前は香苗という。長く艶の
ある黒髪と、いつも笑っているように細められた黒い瞳が印象的な女だ。香苗は軽く片手を上げなが
らリビングに踏み込んでくる。
「おーっす、元気にし」
「死ねよやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「てたか若人よ」
挨拶の途中で、純子が包丁を握り締めて香苗に突進した。香苗は純子の方を一瞥すらせずに、足払
いをかけて転ばせる。すれ違い様にちゃんと包丁も奪い取っているので、転んでも特に危険はない。
「よう香苗、どっか出かけてたのか?」
ダッフルコートを見ながら言うと、香苗は楽しそうに頷いた。
「うん、ちょっとCD買おうと思ってさ。ほらDMCのさ、グロ」
「まだまだぁっ!」
「テスクってやつ」
言葉の途中で、復活した純子が二本目の包丁を取り出して勢いよく突き出したが、香苗はやはり刃
を見ることすらなく、その切っ先をやすやすと二本の指で止めて奪い取る。俺は苦笑しながら言った。
「DMCってお前、あの『SATSUGAIせよ!』とか言ってる連中だろ? 相変わらずスゲェ趣味だな」
「なに言ってんのさ、あれはもう芸術だよ芸術。いやー、わたしもクラウザーさんにだったらレイプ
されてもいいね」
「なら豚みたいな男にマワされてろやこの糞女がぁぁっ!」
三度目の正直とでも言うのか、純子がまたも包丁を取り出して、後ろから香苗に切りかかる。いく
つ包丁持ってるんだお前は。
「やー、でもやっぱ冬だよね、外がもう寒いのなんのって」
のん気に喋りつつ、香苗は純子の腕を器用に捻り上げる。悲鳴を上げて包丁を取り落とす妹の背中
にのしかかるように座り、笑顔で雑談を続ける。
「雪降るんじゃないかと思ったね、雪」
「いだいいだいいだいいだいいだい!」
「ほら見てよ、鼻の頭とか赤くなってない、わたし?」
「暴力女に殺されるーっ! 助けてお兄ちゃーん!」
「やっぱこういう日は出かけずにこたつにでも入ってるのが一番」
「なあ香苗」
真っ赤な顔で涙目になって痛がっている純子がさすがに不憫になってきたので、俺はため息混じり
に香苗の話を遮った。
「俺からも謝るからさ、純子のことそろそろ離してやってくれない?」
「えー、どうしようかなー」
「いだいっつってんだろこの糞女! っつーか気安くお兄ちゃんに話しかけるんじゃねえええええ!」
「まだ元気みたいだよ純ちゃん。ほーら、もっと痛くしようねー、どれだけ耐えられるかなー?」
心底楽しそうな香苗の声と共に、極められている純子の腕から軋むような音が響き始めた。
「ぐがああああぁっ、ちょ、折れ、折れる! いだいいだいいだいいだい!」
「あはははは、今までいろんな人の悲鳴聞いてきたけど、やっぱり純ちゃんのが一番だねー。ホント
可愛いねー純ちゃんは。キャンキャン吠える子犬みたい。ほーら、もっといい声で鳴こうねー」
「ぴぎゃああああっ! いだいよぉー! だずげでおにいぢゃーん!」
純子の悲鳴がどんどん悲惨なになっていく。その背に乗った香苗はうっとりと頬を上気させ、息を
荒げていた。黙ってりゃ美人なんだから涎とか垂らすなっての。
「おい香苗、さすがにそろそろ」
「分かってる分かってる。優しいねー浩二は」
けらけらと笑いながら、香苗はあっさりと純子を離す。解放された妹は、泣き叫びながら俺の胸に
飛び込んできた。
「うわーん、いたいよおにいちゃーん」
「最初に手を出したお前が悪い。ったく、なんで懲りねーんだよお前は」
「だって、お兄ちゃんは香苗だけのお兄ちゃんだもん。こんなわけ分かんない女なんかに絶対渡さな
いんだもん」
「うはー、可愛いねー純ちゃん、兄貴冥利に尽きるねー浩二」
「いや、どっちかっつーとキモイんだけど」
俺が正直な感想を言うと、妹は一際高い泣き声を上げた。
「ひどいよお兄ちゃーん! わたしはこんなにお兄ちゃんのこと好きなのにぃ」
「だからそれがキモイんだって」
「あーあ、ひどい兄貴だねー。かわいそうな純ちゃん。ほら、こっちおいで。香苗お姉さんが慰めて
あげよう。主に関節技で」
「うっせー! こっち来んな糞女ーっ! お兄ちゃんがお前なんか好きになるかーっ!」
涙と鼻水で顔をべちゃべちゃにしながら、妹がぶんぶん腕を振り回す。香苗はからかうように避け
ながら、その様をデジカメで撮影していた。頬が赤い、とろけるようなにやけ面だ。
「あー、いいねその表情、ほら、もっとみっともなく鼻水垂らしなよ純ちゃん、今日のオカズにするから」
「黙れバカーッ! キモイんだよこのレズサド女!」
「おー、こりゃあいい負け犬の遠吠えだ。録音したから後でたっぷりリピート再生してあげるね。あ
とわたしバイだから。なんなら兄妹丼もOKですよ?」
「ちくしょおおおおおおおっ! 悔しいよお兄ちゃーん!」
真っ赤な顔で叫びながら、妹が俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。これでまた連敗記録が更新され
たわけだ。ちなみに香苗の方はそんな妹の醜態を嬉々としてデジカメに収めていた。
頼むから俺のいないところでやってくれ、お前ら……。
短いが以上。読んでくれてあんがと。またなんか思いついたら書かせてくれ。
誤字見っけ。
×「だって、お兄ちゃんは香苗だけのお兄ちゃんだもん。こんなわけ分かんない女なんかに絶対渡さな
いんだもん」
○「だって、お兄ちゃんは純子だけのお兄ちゃんだもん。こんなわけ分かんない女なんかに絶対渡さな
いんだもん」
吊ってくるorz
妹「8歳と9歳と10歳の時と、12歳と13歳の時も私はずっと待ってた!」
兄「な、何を…?」
妹「クリスマスプレゼントだろ!!!{性的な意味で)」
ごめん、覚えていない
クインシィ様はガチでキモ姉です
>>573 やべぇこれは良いニヤニヤSS
面白かったGJ!
クインシィは知らんけどクインティのボスがキモ妹っぽかった
>>573 ごめんスレチだけど純子で蟹思い出した
微妙に香苗も姫ぽいしな
>>573GJ!!キモウトが勝利する日は来るのか…w
投下いきます
四話
「駄目だ!全ッ然釣れねえぇぇ!!」
ヘンゼルお兄ちゃんが癇癪を起こして叫びます。
結局、昨日は一日何も釣れずじまいでした。ヘンゼルもグレーテルも今朝から釣糸を垂らしていますが、針には何もかかりません。
昨日食べたライ麦パンの麦粒を口の中で転がしながら、グレーテルは考えます。
(ずっとここにとどまる訳にはいかないわ。冬がやってきたら食糧はますます手に入らなくなるもの…。
お兄ちゃんを説得して何とか山越えを成功させなきゃ。そして何処かの小さな町で、お兄ちゃんと二人…)
「おにいちゃんとふたり…ふひひひひひひ…」
グレーテルの頭の中では夢のような生活、もとい性活が広がっていました。
「お兄ちゃん、もう少し上流に行けば釣れるかもしれないよ?場所移動してみようよ」
しかし、ヘンゼルは渋い顔をするだけでうんとは言いません。
どうやらヘンゼルはまだ両親に未練があるようなのです。
(困った人だわ…)
内心呆れながらも、辺りを不安そうに眺めるヘンゼルが可愛くて、思わず乳首を噛み千切りたくなりましたが、ここは我慢です。
「ほら、この河原には小石がいっぱいあるからコレを目印にすれば良いじゃない。また迷っても、これなら安心でしょ?」
グレーテルの言葉でヘンゼルもようやく決意を固めました。二人は手早く荷物をまとめると、暗い森の中を彷徨います。
小石を落としながら二人は歩きます。
森の中は木の根っこが飛び出ていたり、茂みが道を塞いでいたりで、大変歩きづらいのです。疲労のため、二人の間にも自然と会話は無くなります。
ヘンゼルはもちろん、グレーテルだって不安は感じています。
(やはり計画が性急過ぎたのかしら…。でも、こうでもしなかったら二人きりになんてなれなかったし…)
焦りと不安がグレーテルを迷わせ、後悔の無間地獄へと誘います。
「おい、なんか良い匂いがしないか…?」
ヘンゼルお兄ちゃんが口を開いたのはそんな時でした。
グレーテルも鼻をくんかくんかさせます。確かに、何か良い匂いがします。
スーパーカップ豚キムチ味のようで、カップヌードルシーフード味に近い匂いもします。
二人はその匂いに誘われ、ふらふらと歩きだします。しばらく歩くと、森の奥に明かりが見えます。
「あ、明かりだ…!!」
「よっしゃあ!!行くぞグレーテル!!」
途端にハイテンションになったヘンゼルは光に向かって走り出しました。
「あっ!ま、待ってよお兄ちゃん!!」
グレーテルもその後を追います。
茂みをかき分け突き進むと、そこには一軒の小屋がありました。窓からは暖かそうな光が、ドアからは美味しそうな匂いが漏れています。
小屋の前には看板が立っていて、そこにはこう書いてありました。
『犯しの家』
あなたは意中の人に近付く泥棒猫を煩わしく思った事がありませんか?
想い人がなかなか振り向いてくれない事に苛々した事はありませんか?
ここ、『犯しの家』はそんな一途な女性の恋のお役に立つアイテムを扱っているお店です。
邪魔な腐れ雌豚を排除する為の毒薬から凶器、愛する殿方を籠絡する媚薬まで、何でもございます。
是非、気軽にベルをお鳴らしください。プロの資格を持つスタッフが誠心誠意、応対します。
「何かやたら物騒な事書いてあんな、この看板…」
ヘンゼルお兄ちゃんは若干引き気味です。
「何言ってるの!?とても素敵なお店じゃない!!」
対照的に、グレーテルは目をキラキラさせて看板に見とれています。
グレーテルは迷わずベルを鳴らしました。
――――ピーンポーン
「いらっしゃいませ!!『犯しの家』へようこそ!!」
間髪入れずお店のドアが開き、中から一人の女性が飛び出してきました。
ロングヘアーのクール美人なお姉さんです。たわわに実った巨乳が動きに連動してぽよよんと弾んでいます。
真っ白なエプロンに包まれた腰は、キュッとくびれていて、お尻は丸く上向きについています。
「あ、あの…」
「まあまあ!可愛いお嬢ちゃん!!あなた、そんな可愛い顔してるのに振り向いてもらえないの!?
もしかして相手の殿方はとてもピュアアンドシャイな方なのかしら…?あ!そうか分かったわ!泥棒猫ね!!泥棒猫が邪魔なんでしょう!?
親が勝手に決めた許婚とか、昔はいつも一緒だった幼馴染みとか、ずっと男だと思ってたのに女だったとか、私達は前世で恋人でしたとか言ってくる電波女とか!!
まあ相手が誰だろうと構わないわ。そんなお嬢ちゃんにはコレがオススメよ。
コレは“竜殺しの大剣”って言ってね、ガチムチのゴツい男じゃないと振り回せないんだけど、刀身の四分の三をカットして女の子でも使えるようにしたの。某ゴットハンドだって倒せる凄いアイテムなのよ。
お金は分割も出来るからね。それとも一括?
あ、ここで装備していくかい?」
「あの!!すいません!!」
グレーテルは声を張り上げます。
物凄い勢いで営業トークをしていたお姉さんは我にかえり、改めてグレーテルを、そしてヘンゼルを見ました。
「あのー…実は私達、この森の中で迷ってしまいまして、食べる物も寝る場所も無いんです。一晩だけでも泊めさせていただけないでしょうか?」
兄妹はぺこりと頭を下げます。
「えっと…」
お姉さんはいきなりの事に困っていましたが、二人の疲れ切った顔を見るとお家の中に入れてくれました。
「どんどん食べてね!作りすぎちゃったからちょうど良かったわ!」
暖炉ではあかあかと火が燃え、見ているだけで体が暖まります。テーブルの上には豪華絢爛な食事が並んでいました。
ビーフシチュー、シーザーサラダ、サーモンのマリネ、焼きたてのパン、あと何故かカップ焼きそばの一平ちゃんもありました。
「「美味しそう…」」
二人は思わず呟きました。ただしヘンゼルお兄ちゃんの視線はお姉さんの胸に釘付けだったので、料理の感想だったのかは分かりません。
二人は家でも食べた事のないような、料理を瞬く間に平らげてしまいました。そのうえ、お姉さんはデザートにショートケーキまで用意してくれました。
ヘンゼルもグレーテルも料理を堪能し、幸せ気分いっぱいです。
「お風呂沸かしたからお入りなさい。私は最後で良いから」
お姉さんの言葉に甘えて、二人はお風呂に入る事にしました。
グレーテルはお風呂をヘンゼルに譲り、あてがわれた一人部屋でしばらくくつろぐ事にしました。
「今日は大変な一日だったわ…」
ベットの上で大の字になって、グレーテルは言います。
「明日、あのお姉さんに道を聞いてこの山を越えれば、もう何も心配する事はないわ…」
楽園はもう目の前です。
ヘンゼルお兄ちゃんが呼びにくるまで、グレーテルは笑い続けていたのでした。
ぐつ、ぐつ、ぐつ。
鍋の中で紫色の液体が煮えたぎります。
かき混ぜる手を止め、鍋に取っ手をつけると別の容器に中身を移し替えます。
「やっぱり取っ手のとれるティファールは便利だわ…」
先日、通販で買った新しい器具の使い心地に満足し、呟きます。
(それにしても…)
お姉さんは考えます。さっきは本当にびっくりしました。
『理想のクリスマスの過ごし方in2007』ごっこ(要は二人分の食事を用意して、脳内彼氏とご飯を食べているつもりになりながら
二人分のご飯を食べるという、選ばれし者のみに許された遊びです。)をしようとしていた矢先、迷子がやってくるなんて。
しかも、その迷子の一人はとても素敵な男の子でした。
「…あの人にそっくりだわ…」
目を閉じれば、かつて恋い焦がれた男性の姿が浮かびます。気付かぬうちに、ついつい鼻歌を口ずさんでしまいます。
「いやだわ、私ったら…男の子が来たからってこんなに…」
顔が真っ赤になるのが自分でも分かります。
「あの二人は明日にでも出て行ってしまうのかしら…?」
お姉さんはそれをとても寂しく感じました。お店がお店だけに、お姉さんには仲の良い知り合いがいません。
というか、人間と話したのも久々です。仕事はインターネットでの注文も受け付けていて、主にそちらの方で収入を得ているのです。
でも、お姉さんは思います。いくらお金を稼いでも、本当に大事なものはお金で買えない価値があるものです。
例えば家族であったり、友人であったり、恋人であったり。
お姉さんはとある事情によって、それらを全て失っていました。
(あーあ…あの男の子が私の彼氏になってくれたらなぁ…)
もしそうなれば、それはとても素敵な事です。兄は恋人に、妹は友人に、いっぺんに二つのプライスレスを手に入れる事になるのですから。
「そしてゆくゆくは、家族に…ふひひひひ…ハッ!!いけないわ、私ったらまた変な妄想を…」
孤独の寂しさを紛らわすため、日々妄想に明け暮れていたお姉さんの頭はいつだって先走るのでした。
コンコン。
「お風呂、空きましたけど…」
振り向けば女の子がタオルを首にかけ、こちらを見ていました。
「あ、わざわざありがとう。今日は疲れているだろうから、もうお眠りなさい」
お姉さんはそう言って、紫汁の入った容器を冷蔵庫に入れます。そしてお風呂場へと向かいました。
「びっくりしたぁ…聞かれちゃったかなぁ…。変な女だって思われなきゃ良いけど…」
先程までの独り言が聞かれていたら―――
そう思うと、冷や汗が一気に吹き出します。人間、恥ずかしすぎると死ぬというのは、案外、本当なのかもしれません。
手早く服を脱ぎ、そのわがままぼでぃーを湯船に浸します。水飛沫がランプのぼんやりとした光を反射し、虹色に輝きます。
保湿効果のあるハーブを入れた薬湯は、どこまでも広がる草原のような青色です。その中で寝そべる白馬のごとく、なまめかしい肢体を湯の中に漂わせるお姉さん。
しばらく目を閉じた後パッと開眼し、
「明日、もう少しここにいてもらえるか聞いてみよう…」
そうひとりごちます。
ポジティブシンキングなお姉さんはすぐさま頭を切り換えると、湯船の中で伸びをするのでした。
「ちょっと怪しい雲行きになってきたわね…」
お姉さんの背中を見詰め、グレーテルは呟きます。
「確か…家族に…とかなんとか…」
――――せっかく泥棒鳥を排除したというのに、今度は泥棒牛の登場かしら…。
グレーテルはあくまで独り言の断片しか聞いていないので、実際のところお姉さんが何を考えていたか曖昧ではありましたが、それを見逃す訳にはいきません。
暖炉の炎もそのままの形で凍り付いてしまいそうな視線を向けながら、どうしたものかと考えます。
「悠長な事言ってたらまたハマーDの時みたいになってしまうしね…」
ネガティブシンキングなグレーテルは、いつまでも今後について頭を回転させるのでした。
投下終了です。
>>573 キモウトといい香苗といい
あぶない奴に囲まれてるな主人公……w
GJ!
>>588 病み泥棒牛登場GJ!
>>588 GJ!!
何でもネタに出来るその才能に嫉妬してしまう
>「やっぱり取っ手のとれるティファールは便利だわ…」
こんなところに同志が!
あとGJ!
きっと妹はレミパンで泥棒牛を撲殺するんだよ
593 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/29(金) 18:20:09 ID:XvNF1RWu
お姉さんちょっと病んでるけどいい人っぽいのになあ
やっぱグレーテルに殺られちゃうのかなあ
殺られる前に殺る
597 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/29(金) 23:18:59 ID:1UCZ+MQw
「楽しみだね姉さま、もうすぐお兄様が帰ってくるよ。」
「あァ、本当に楽しみ・・・・」
という会話が頭の中を駆け巡った俺は死んだ方が良いな。
最近キモウト(弟)もいいんじゃないかと考えてしまう俺こそ死ぬべき
>>597 とりあえずどうしてそのシチュを思い付いたか小一時間(ry
もし、キモウトが兄の物件を選んだとしたら、絶対に風呂とトイレはガラス張りなんだろうなぁ…
>>598 あなたがお姉さんならこのスレ的には問題…あるかもしれんな
>>597で何故かトミノの地獄を思い出した
そういや考えようによれば、トミノって
「妹と姦通した弟を激しく責め、地獄に堕ちた後も許そうとしない姉」の話にも見えるよな
「どうして私じゃダメなの? どうしてなのよっ! 血がつながっているだけで、お兄ちゃんは男だし
私は女なのよ。 私がお兄ちゃんに惹かれたって仕方ないじゃないのっ!!!!!!!!!」
(惹かれるっていうか、弾かれそうだしなぁ)
と思ったけど口には出さないでおく。朝青龍似の妹には
>>605 お前は決して侵してはいけない暗黙のルールを…
>>604 小生がいちばん弟くんを愛することができる、この感覚は弟くんが生まれた瞬間から実感としてありました。
弟くんの世話をしてきた二十年で培われた愛情のスキルは伊達ではない、ということです。
…弟を愛さない姉などいません。いないのですが、あえて言わせてもらうならば、いわゆる『キモ姉』と
いう単語に何の意味があるのかと、小生は思ってしまうわけなんですね(笑)。
だから、そのような下劣、下劣と言ってしまいますが、そんな物言いで弟くんとの愛を邪魔しようとする、
そんなあなた方のやり方を、小生は潰したい。そんな泥棒猫はお呼びじゃねーぞ!と(笑)
繰り返しますが、これは断じて家族愛などではありません。愛する弟の子供を産みたい、
これは非常に素直な男女の愛の発露なんだと思います。
>>607 バッキャロー!
少年はこの世で最も美しい存在なんだぞ!
理由は、長い話になるから言わない
最近見始めた某アニメのせいで妹みたいな弟ならありなんじゃないかと思えるようになりました
本当にありがとうございました
外見ショタがキモ姉妹に可愛がられるのが萌える
ショタの話もうやめようぜ・・・
>>612のシチュは大好物だ
というかストライクゾーンど真ん中
流れぶち切るが
キモウトを造るゲームがほしいんだが心当たりある人いる?
ブラコン→キモウト進化形でもプリメ形でも
キモウトを造るゲームが欲しいなぁ。
こんな時間に起きてしまったので申し訳ないですが投下します。
620 :
花言葉:2008/03/02(日) 05:18:52 ID:6lUh/ghE
僕は他の人に比べて体が弱い。
生まれてからずっと弱い訳じゃない、8年前事故にあったのがその原因らしい。
らしいと言うのは僕自身、事故前後の記憶がすっぽりと抜けているからだ。
事故にあった際に両親は僕を庇い事故死し、両親の記憶が残っていると心に影響を及ぼすために自己防衛として記憶障害になったのだと医者は言っていた。
僕の家族は妹の桔梗だけで他にはいない。
体が弱い僕は妹の手伝いがあって初めて日常生活をおくれている状態で、もし妹がいなかった場合まともに生活すら出来なかっただろう。
そんな僕の体を案じた妹が全ての資産を売り払いこの田舎の古屋敷を購入し、そして引っ越してきてから3年になる。
「おはようございます、お兄様」
僕の朝の目覚めは桔梗の起こす声によって始まる。
前に毎朝僕を起こすのしんどいだろうから目覚まし時計で良いよと伝えたら。
あの大きな音は体に障るのでいけませんそれに……毎朝お兄様を起こすのは桔梗の楽しみなので奪わないで下さいと懇願された為に未だ妹に甘えている。
僕はこの軟弱体質が溜め息がでるくらいに嫌いで仕方ない。
この軟弱体質を克服する為にあらゆる方法を試したが一向に効果が現れず、今もこの状況に甘んじている。
「おはよう桔梗」
「おはようございますお兄様」
やんわりと微笑みながら僕の背中に手を入れ、上半身を起こしてくれる。
軟弱体質のせいで朝には極端に弱く、ある程度時間を置かないと一人では体を起こす事さえできない。
全く嫌になる。
「今朝も良い天気です、準備が出来たら大広間までお越し下さい」
そう言い残すと桔梗は腰まである黒髪を揺らしながら部屋を出て行った。
桔梗。
僕の唯一人の肉親で一人では満足に生活出来ない僕を嫌味の一つも言わずに世話してくれる大切な妹。
記憶が欠けている為にどんな幼少時代を過ごしてきたかは分からないが、妹を単語で現すなら100人中100人共こう言うだろう。
大和撫子……と。
腰まである黒髪と控え目に施した化粧は桔梗の魅力を最大限に引き出している。
それに加えて桔梗は学校の制服以外は全て和服という徹底ぶり。
桔梗によれば小さい頃は和服じゃなかったらしい、ならどうして今は和服なのって尋ねた時。
桔梗はとても楽しそうに僕の顔を見て笑っていた。
621 :
花言葉:2008/03/02(日) 05:20:11 ID:6lUh/ghE
服を着替えて部屋を出た僕を待っていたのは古木独特の香りと、所々に飾られているイソトマと言う名前の目が覚めるような美しい紫色の花。
桔梗はこの花が好きらしく良く飾っている。
確か花言葉を以前聞いた気がするのだが思い出す事が出来ない。
元々この屋敷は明治時代の豪商が別荘として使っていた館らしくとにかく無駄に広い。
引っ越して来た当初は自分の部屋さえ分からなくて良く迷っていた記憶がある。
ゆっくりと足元を確かめながら歩く。
軋む床の音と外から聞こえる鳥の囀り。
螺旋階段を降りて右に曲がった場所に目的地の広間がある。
昔は外交の場として使っていたらしく他の部屋の5倍はある大きな部屋なのだが、今は20人は座れるであろう大きなテーブルしかない。
その上座と次席に料理が置いてある。
上座にいつも僕の用意がされており桔梗は次席。
これも全て桔梗が定めた事で僕には反論の余地がないのだが、本当ならば桔梗が上座に座るべきだろう。
「お兄様、お待たせ致しました」
そう言いつつ、湯気が立つ味噌汁を2つ持ってきてくれた。
「いや……僕も今来たとこだから」
今朝の献立は鮭と豆腐の味噌汁それから出汁巻き卵。
インスタント食品は全く使用しておらず、味噌汁に使っている味噌も桔梗の手作り。
「お兄様、そろそろ戴きましょうか?」
「そうだね戴きます」
小さく手を合わせてから出汁巻き卵を口に運ぶ。
少し甘めの味付けが凄くおいしい。
「今日もおいしいよ」
「良かったです」
僕が先に手を付けてから桔梗が少し遅れて食べ始める、これがいつの間にか習慣化していて一種の家訓みたいになっている。
桔梗はいつも僕を立ててくれる出来た妹なのだが、僕しか知らない桔梗の秘密があるのだ。
「どうかしたのですか?味噌汁を飲みながらそのように笑われて」
僕の考えが顔にも現れていたらしい。
訝しそうに桔梗が僕を見つめる。
「桔梗の事考えていたのだよ」
「私の事……ですか?」
「うん、こんなに優秀な妹なのにどうして一人で寝れないのかなってね」
普段冷静な桔梗の顔が一瞬で真っ赤になる。
「なっななななにをっ!!?」
「おおう予想通りの反応」
「も、もしかしてお兄様。桔梗をからかって遊んでますか?」
「うん」
「……お兄様のいぢわる」
622 :
花言葉:2008/03/02(日) 05:21:46 ID:6lUh/ghE
何でもこなす桔梗だが、一人で寝ることは出来ない。
きっと両親が死んでしまった上僕も体が弱いせいか心配なのが起因しているのだろう。
「ねぇ桔梗」
「はいお兄様」
顔から朱が抜けてきた桔梗が改めて僕を見つめる。
「僕は安心してるんだ」
「安心……ですか?」
「うん」
「またどうしてですか?」
「桔梗にも弱いとこあるんだなぁって思うから」
「弱いことはダメだと思います」
桔梗がはっきりとした口調でそう言い切る。
僕は食べ終えた箸を置くと緑茶をゆっくりと啜ると間を置いてから口を開いた。
「弱いところがあるって事は誰かに頼るって事と同義だと思うんだ」
「ですがっ……」
意見を述べようとした桔梗の口を人差し指で優しく抑える。
「僕は桔梗に頼ってるし、桔梗も僕を頼りにしてる」
ゆっくりと湯呑みをテーブルに置く。
「この相互関係は大切だと思うんだ」
「お兄様……」
「だからこれからもよろしくな」
「はいっ」
桔梗の顔が微笑みで溢れる。
僕は叶うのならこの微笑みをずっと見つめたい。
そう願っている。
神様願わくばもう少しだけ2人だけの穏やかな時間をお与え下さい。
これにておしまいです。
正反対の兄妹の構想はまだ出来てないのに、こっちの構想が先に出来てしまいました……。
正反対の兄妹は必ず完成させますのでもう少しお待ちをorz
一番乗り!
GJ!!
正反対の兄妹のほうも楽しみだけどこっちの続きも是非見てみたいな。
二番槍GJ
三番手GJ!
続 き が 読 み た い
>>623 キモ可愛くなる予感。嫁にしたい。
さ、続きを(ry
GJ
なんですが、恥ずかしながら妹の名前の読み方が分かりません。
何方か教えてたもうorz
桔梗は「ききょう」ですね、たぶん。
>>629 ありがとうございます。
もう一回見てきます。
これはゆとりと言わざるをえない
ググるか辞書引こうぜ…
>>612を見て書いた短いネタを投下する。
当然ながらショタ注意ッス。
朝、ベッドの上で体を起こし、ぼんやりした意識のまま、僕は自分の腕を視界の真ん中に持ってく
る。パジャマの袖は今日も大幅に余っていた。
「……この年になっても、三年前に買ったパジャマがまだ着れるんだもんなあ」
ついつい溜息が出てしまう。僕の成長期は一体いつ訪れるんだろう?
そのとき部屋の入り口がノックされた。返事をする暇も与えずに、ドアが盛大に開け放たれる。
「おっはよーう、お兄ちゃん!」
二つ結いにした癖毛を軽やかに揺らしながら、妹の一穂が部屋に飛び込んでくる。
「おはよう、かず……って、ちょっと!?」
僕が止めるよりも早く、一穂は床を蹴った。ベッドの上、僕の目の前にダイブして、避ける間もな
く抱きついてくる。妹は僕と違って長身だ。兄としては情けないことに、力も僕よりずっと強い。だ
から、逃れようともがいてみても無駄なことで、結局は毎朝思う存分ほお擦りされてしまうわけで。
「ハァハァ……お兄ちゃん、今日もとっても可愛い……」
「こ、こら、離れなさい一穂。いつも言ってることだけど、兄さんに向かって可愛いは失礼でしょう」
「可愛いものは可愛いんだもの、仕方ないじゃん。ああもう、食べちゃいたいぐらい」
陶然と呟き、一穂はおもむろに僕の耳を甘噛みした。そのまま、高い水音を立てながら丹念に耳を
舐め回す。気持ち悪いほどのこそばゆさに、背筋が震えてきた。
「ちょ、だ、駄目だよ一穂……! 僕、み、耳は弱い……んぅ……!」
体の芯まで震えてきて、息が詰まる。と思ったら、一穂は僕の耳を舐め回すのをぴたりと止め、体
も離した。機敏な動きでベッドから飛び降る。制服のスカートの裾を翻しながら振り返った一穂は、
満足げに微笑みながらちろっと舌を出した。
「えへへ、今日もごちそうさま。おいしかったよ」
「もう……」
僕は唇を尖らせながら耳に手をやった。肌が唾液でふやけている。
「お兄ちゃんの体って、ホントにどこでも柔らかいよねー。女の子みたい」
最後の言葉に少し傷つきながら、僕は今日こそ一穂に一言言ってやるぞ、と決意を新たにする。兄
の威厳を見せつけてやるのだ。
(最近、二の腕ぷにぷにされたり頬にキスされたり耳たぶ舐められたり、やりたい放題だもんな。こ
こらで一つ、びしっと言ってやらないと)
僕は咳払いをした。
「一穂、いいかい?」
「なあに、お兄ちゃん」
「君は人の耳を舐めるのが好きみたいだけど、そういうのは非常識な行為なんだよ。僕は君のお兄さ
んで、そういう嗜好もある程度は理解してあげられるけど、他の人には絶対しちゃだめだからね、わ
かった?」
出来るだけ厳しい声でそう言うと、一穂は数秒ほど目を瞬いてから、腹を抱えて笑い出した。人が
真剣に話しているというのに、なんて無礼な態度だろう。
「一穂」
「ご、ごめん、お兄ちゃん……でも、だって、あんまりにも……あー、おかしい」
目尻にたまった涙を指で拭いながら、一穂は意地悪げににんまりと笑った。
「うん、でも、お兄ちゃんの言うことはよく分かったよ。仕方ないから、他の人の耳を舐め回すのは
止めておくことにしようかな」
「おお、分かってくれたんだね」
「た、だ、し」
一穂の目が細くなる。
「他の人には止める代わりに、お兄ちゃんの耳は、これからも思う存分舐めさせてもらうからね?」
「ええっ!?」
「だって、さっき自分で言ったじゃない。『僕は君のお兄さんで、そういう嗜好もある程度は理解し
てあげられる』って」
「そ、それはそうだけど」
「それとも、わたしが人の耳を舐めたいっていう欲望を抑えられなくなって、誰彼構わず耳を舐め回
す変態さんになってもいいのかな?」
「そ、それは駄目!」
僕はほとんど反射的に叫んでいた。そんなことになったら、一穂は周りの人みんなに白い目で見ら
れて、ずいぶん辛い人生を送ることになるだろう。
(一穂は僕の妹なんだから、僕が守ってあげなくちゃ)
胸の奥で燃える使命感の命ずるまま、僕は力強く頷いた。
「分かった。じゃあ、僕の耳に関しては好きにしていいよ」
「やったー! あ、それじゃあさ、ついでに二の腕と、太股と、お腹と、あとそれから……」
「ちょ、何言ってるの!?」
「わたしが人の二の腕をぷにぷにしたいっていう欲望を抑えられなくなって、」
「分かった、好きにするといいよ」
僕は不承不承納得した。妹の悪戯を許すのは気が進まないけれど、これもこの子を守るためなんだ
から、我慢しないと。
「ありがとーお兄ちゃん、大好きっ! わたし、部活の朝練があるから、先に行くね!」
そう言い残すと、一穂はひらりと身を翻して部屋を出て行った。階段を駆け下りる音に続いて、
「行ってきまーす!」という元気な声が聞こえてくる。
「……なんだか、大変なことになっちゃったなあ」
明日以降の朝のことを想像して、僕は早くも少しだけ後悔しつつあった。
「あら、おはよう洋ちゃん」
階下に下りると、ダイニングで皿を片付けていた杏姉さんが笑顔で挨拶してきた。長身に長い黒髪、
女の人らしい体つき。本当に僕の姉さんなんだろうかと疑いたくなるような人だ。
「おはよう姉さん」
「お顔洗ったら、一緒に朝ご飯食べましょうね」
姉さんの優しい声を聞きながら、僕は洗面所に向かう。顔を洗って戻ってくると、食卓の前には椅
子が一つしか置かれていなかった。そこに姉さんが座って、にっこり笑いながら僕の方を見ている。
(ああ、やっぱりか)
いつも通りの光景に、僕は少し肩を落としてしまう。それに気付いているのかいないのか、姉さん
がゆっくりと両腕を広げた。
「さ、いらっしゃい、洋ちゃん」
何故だか顔が赤く、少し呼吸が乱れているようだ。どうしてだろう。いつものことながらそれを不
思議に思いながら、僕はなんとか拒否できないものかと抵抗を試みる。
「あの、姉さん、僕の分の椅子も用意してほしいんだけど」
「椅子ならここにあるじゃない。お姉ちゃんの、お膝の上。さ、いらっしゃい」
「いやそうじゃなくてさ。僕も普通の椅子……姉さんとは別の椅子に座って、食べたいんだけど」
そう言うと、姉さんは顔を真っ青にして、両手で口を押さえた。これまたいつも通りだ。
「そんな……洋ちゃん、お姉ちゃんのことが嫌いになっちゃったの!?」
「いや、そんなことないよ!」
「だって、一緒にご飯食べたくないってことは、そういうことなんでしょう? ああ、もう終わりだ
わ。可愛い洋ちゃんに嫌われちゃったら、お姉ちゃん、もう生きていけない……」
姉さんはテーブルに突っ伏して泣き出してしまう。僕は焦った。
(仕事で海外に出張している父さんの代わりに、僕が姉ちゃんを守ってあげなくちゃならないのに!)
毎度のことながらそう思いなおし、僕は結局、今日も椅子の確保を諦めた。
「ごめん、姉さん。やっぱり椅子はいらないや」
「あらそう?」
姉さんはぱっと体を起こすと、再び大きく両腕を広げる。さっきまで泣いていたのが嘘みたいだ。
女の人って転換が早いんだなあ。
「それじゃ、失礼します」
「うん、いらっしゃい、洋ちゃん」
身長差が十分あるので、僕の体は姉さんの膝の上にすっぽり収まってしまう。その悔しさを噛み締
めていると、姉さんが後ろから腕を回してきた。そのまま腕ごと抱きしめられて、動けなくなる。
「姉さん?」
「ハァハァ……とっても可愛い洋ちゃん。柔らかい髪、ぷにぷにのほっぺた……」
姉さんは後ろから僕の顔に鼻を押し付け、くんくんと臭いと嗅いでいる。なんというか、非常にこ
そばゆい。
「や、やめてよ姉さん、くすぐったいよ」
「ハァハァ……ごめんね洋ちゃん。でももうお姉ちゃん、ああ、洋ちゃんの臭いだけで、イッちゃい
そう……!」
「どこに行くの? っていうか、姉さんもなんだか息が荒いよ。一穂もだったけど……二人とも、風邪?」
「違うけど……うふふ、ある意味病気かもしれないわね。洋ちゃん病」
「なにそれ」
「なんでもない。さ、お姉ちゃんと一緒にご飯食べましょうね」
上機嫌に言いながら、姉さんがいつも通り僕の腕を取って、食事をリードしようとする。
「あの、姉さん、僕もう子供じゃないんだし、ここまでしてもらうのはさすがに」
「そんな……洋ちゃん、お姉ちゃんのことが嫌いに」
「うん、姉さんの好きにしてくれていいよ」
僕は早々に諦めることにした。僕は今や、この家にいる唯一の男なのだ。その僕が姉さんを悲しま
せるわけにはいかない。
「さー洋ちゃん、よく噛んで食べましょうねー?」
それにしても、たとえ外見のせいで小学生に間違われることすらあるにしても、もう高校一年生に
なる弟に対してこの態度はどうなんだろう。僕はそう思うのだが、多分口に出してもさっきみたいな
反応を返されるだけだろうと思ったので、黙っていた。
「どう、おいしい?」
「うん、いつも通り、すごくおいしいよ」
「そう。良かった。洋ちゃんは可愛いわねえ」
姉さんが再び僕をぎゅっと抱きしめ、後ろからほお擦りしてくる。くすぐったかったが、なんとか
我慢する。それにしても、
「女の人って、みんなこういう風にするのが好きなのかなあ」
「なんですって?」
背筋がぞくりと震えた。なんだか、今の姉さんの声が異常に怖かった気がする。なにか、まずいこ
とを言ってしまったんだろうか?
「洋ちゃん、お姉ちゃん以外の人にも、こんな風にされること、あるの?」
詰問口調だ。これは怒っているぞ、と僕は身を硬くする。ここは正直に答えておこう。
「うん、そうだよ」
「どこの雌ぶ……じゃなかった、誰が、こういう風にしたがるのかしら?」
「ええと、隣の席の井上さんと、美術部の秋葉先輩と、担任の真弓先生と、保健室の加奈子先生と……」
とりあえず、思い出せる限りの名前を挙げてみる。もっと多かったと思うけど、思い出せない分は
しょうがない。
「ふーん、そうなんだ」
「姉さん? どうかしたの?」
「ううん、なんでもないわ。ねえ洋ちゃん? お姉ちゃん、ちょっと電話しなくちゃならなくなった
から、一人でご飯食べててもらえる?」
僕としては願ったり叶ったりだったので、素直に承諾する。一人で気楽に朝食を食べていると、台
所の方から姉さんの声が聞こえてきた。
「……一穂? ……そう、豚……始末……」
なんだろう、一穂と晩御飯に使う豚肉のことでも話してるのかな?
ともかく、話を終えた姉さんが戻ってきて、また膝の上に逆戻りではたまらない。僕は急いで朝食
を食べ終えて、手早く身支度を済ませて玄関に向かう。
「……なんとかして……秘密裏に……樹海……埋める……東京湾……沈める……」
靴を履いている間にも、姉さんが電話に向かって何か話しているのが聞こえてきていた。何を話し
ているのかはさっぱり分からなかったけど。
「いってきまーす」
一声かけて、僕は玄関の扉を開ける。降り注ぐ日差しが目に眩しい。
世界は今日も平和なようだった。
こんなんで。
638 :
名無しさん@ピンキー:2008/03/03(月) 00:51:08 ID:XV7pnnQI
意外にいいんじゃないか?
俺的には、大丈夫。面白かったぜ。
>>636 GJ
ショタ単体では駄目だ
精神的にも幼くては駄目だ
見た目ショタで中身は押しに弱いけどしっかりしたのが
キモ姉妹に可愛がられるのがいい
そんな俺の好みにストライクだw
>>637 GJ!GJ!
その後学校でクラスメイトや先輩後輩、先生に可愛がられる主人公がみたいw
しかし、キモ姉&キモウトスレにどういった作品を投稿するか悩んでいるんだけどさ
キモ姉が最初からデレモードに入ってたり、妹がちょっとツンデレ風味だけどお兄ちゃん大好き
みたいな作品を書けばスレ内に入るのかな? うーん わからん
少しでもキモ分を匂わせれば、各自脳内保管するから大丈夫だと思うが
逆にキモ分が少しもないと脳内保管は難しいし
まぁ、他の人の意見も聞いてみてくれ
最近、ツンデレの妹が評価されてるけど、曲芸の由夢の影響なのだろうか?
2001年頃の妹ゲーム、シスプリは12人も妹いるのにツンデレキャラが一人もいなかったはずだし
2001年じゃツンデレっていう概念がそもそもメジャーじゃ無かったしな。
まあ流行るべくして流行った印象>ツンデレ妹
暴力女とかDQNとか天邪鬼とか高飛車とか男嫌いのレズとか主人公嫌いとか自閉症とか
あっこらへんをまとめてツンデレと呼ぶようになったから数が増えてると錯覚してるだけじゃね。
見た目がキモイ姉や妹を書いたらどうなるんだろうか?
おねがいだ
ここでくらいファンタジーを見せてくれ
>>645 お前のお姉ちゃんにチクっといたからな。
数年後・・・そこにはキレイになったおねえちゃんに監禁されている
>>645の姿が!
645「As for the confinement, I want you to pardon it though having become beautiful is good.」
広中雅志「綺麗になったのはいいけど、監禁は勘弁してもらいたいね。」
乙
でもさ、実際女のきょうだいって面倒だよなぁ
まあな。
ナチュラルに「死ね」と願うことがザラにあるからな
あと親しき中にも礼儀ありを分かってないよな
社会人になって家出るまで同じ部屋だったから何度も喧嘩になったし
>>655 女きょうだいじゃなくても女全般的に「親しければ何をやってもいい」って考えなんだよな。
やっぱ女は二次元に限る。
けんかするほど仲がいいって言うじゃないか
俺の所はお互い一言も喋らないぞ
理想的じゃん
マジレスさせてもらうけど、
妹とは俺、仲いいんだよ。もちろん一般的な範疇で、だが。
問題は姉だな。もう六年近く口をきいていない。
たぶんあっちは俺のことを空気ぐらいにしか思っていないだろうな
つい最近姉貴に泣き付かれた事あったな。
まぁ金の問題絡みだけど。
生々しいっすね
たぶん帰ってこないだろうね・・・
>>659 腹の中までは読めまい
もしかしたら、姉上はお前さんに惚れているかもしれないだろ?
顔を会わせて言葉を交わしたら想いを押さえきれないとかw
663 :
660:2008/03/05(水) 17:55:24 ID:Zx/mnSbs
返って来なくてもまぁいいやって思ってる。給料袋落として本当に呆然としてたからな。
>>663 おいwてっきり借金かと思ったじゃねぇか。
給料袋落としたって・・・、その程度で泣くのか。
今時、給料袋で渡すってことは姉ちゃんの勤務先は銀行?
妹と喧嘩したとき、このブラコンが!と言われたので、このキモウトが!と言い返したら殴られた
>>664 正確には給料日の日にATMから下ろしてきた金全額を見事に失くしたらしい。
それで助けてくれって泣き付かれて貸したんだ。
………ところでさっきから姉貴が死んだ魚のような目で携帯いじってる俺を見てくるんだが………一体何なんだろ?
まて、ブラコン、シスコンならともかく、キモウトなんて用語に反応できる妹さんって
もしや同好の士?
語感できもいの意だって伝わるだろw
シスコン認定される
>>666は、まずは妹に自らの恋愛感について語るべきだ。
そうすれば、妹は安心してキモウトになれるに違いない。私達はそう考える。
馴れ合いうぜえ
だがキモウトは二次元のが良いと考える
テキストベースは二次元でせうか……?
僕、一万年。
スレ荒らしていいですか?
>>645 それは悲劇だな。
加藤あいと光浦靖子。 比べるのも失礼な位
両者の間には隔たりがあるwwww
月給650円氏はもう来ないのかなぁ?
可苗が気持ち悪くて好きだったんだけどナー…。
年度末はみんな忙しいのかね
淫獣と永遠のしろを待ち続けているうちに2月が終わってしまいました。
まあ気長に待てばいいさ
その間にすばらしい短編も投下されてるし
___(仮)マダー
あー年度末だからか
ニートには考え付かなかったな
_(仮)の人は一定のリズムできちんと投下してたから
体調でもおかしくしたのかと心配してる自分がいる
>>677 永遠のしろは無形氏が規制に巻き込まれてるらしい
たしかそろそろ解除されるはず
無形氏もいいが、そろそろ綾の人の新作も読みたい。
あの二人がいなけりゃ、半ばノリで立てられたこの姉妹スレも
1を埋めずして沈んでたろうな…
今は椿ちゃんだけが楽しみだ
>>685 激しく同意だ
後、監禁トイレも楽しみだよ
もう全部楽しみだ。
誰にも期待されてない身ですが、割と早めに次スレが立ったようですので、ちょっと大型の
埋め草を投下します。テキストで約13kb、4レスほど使う予定です。
突然だが、俺の妹はロボットだった。アンドロイドというのか? まあ、細かい事はどうでも良い。
マッドサイエンティストの両親が「完全な人格形成」の研究のため「本人」にも自分は人間だと
思いこませて育てるという、とんでもない実験をやっていたんだ。
だが、目下の問題は妹……舞が人間じゃなかったってことじゃない。実の兄妹じゃないという事実が、
舞の「とある欲望」を抑え込んでいた箍を爆砕してしまったことなんだ……
まいドール 第2話 「おねがい、ご主人さま」
どすん。
頭上から異音が聞こえた。音源はおそらく舞の部屋だ。無視しろとささやく第六感に逆らって2階に上がる。
「おい、どうした?」
部屋のドアを叩きつつ声をかけるが返事がない。代わりに切れ切れの悲鳴じみた声が漏れてくる。
どうやら非常事態のようだ。
「何事だ?開けるぞ」
部屋のドアに錠はない。一応声をかけてドアを開き…深く後悔した。済まん、我が第六感よ。
お前の忠告が正しかった。
舞の部屋はいわゆる「女の子っぽい」ものではない。本人曰く「物が多いと、片付けられない」とかで、
少々…かなり殺風景だ。
そんな部屋でもさすがに机はあって、机上にはノートパソコンが置かれている。そして部屋の主は机の前で、
椅子ごと床にひっくり返っていた……全裸で。
両手が軽く開いた股間でうごめく都度、色っぽいあえぎ声と共に頤がのけぞり、申し訳程度に膨らんだ胸が
突き出される。指の間から粘りつく水音がする。つまり、その…ええい、妹の恥ずかしい姿を実況するなんて
罰ゲームは勘弁してくれ。
「どうした?、何やってるんだ?」
何をやってるのかは見ればわかるが、聞かずにいられないのが人情ってものだ。いくら兄に懸想する変態妹でも、
この状況で快楽を貪り続けるほど壊れては…いるかも知れんな。
「おにい…ンッ…た、助け…アフゥ…ン…」
前言撤回。どうやら何か事故のようだ。手掛かりを求めて部屋を見回す。
机上のノートパソコンは、ロボットの設定変更やソフトウエアのメンテに使う物で、親父が
「ばれちゃったからには仕方ない。これからは自分の整備はできるだけ自分でするように」
と、もっともなのか無茶なのか判断に苦しむお言葉と共に、舞に与えた物だ。
パソコンの画面を見て状況を把握する。両腕が外部制御、サンプリングした動作を自動反復…動作の内容は…
これか。そう言えばこいつ、ロボットの癖に機械音痴だった。
「両手とも勝手に動く設定にして、止めるに止められなくなったか。愚か者が」
床で悶えている舞を椅子ごと無理やり引き起こす。
舞の左肩、鎖骨あたりの皮膚を引っ張って巧妙に偽装された端子を露出させ、パソコンから伸びた
ケーブルを接続。停止コマンドを打ち込むと、舞はようやく強制自慰から解放された。
「手を動かしてみろ。思い通りに動くか?」
尋ねたら舞のやつ、いきなり力いっぱい抱きついて、あまつさえ俺の腿にその……股間を
擦りつけてきやがった。
「うん、ちゃんと動く。あ、やっぱり本物は良いよぉ」
直ったようだな。頭の中が暴走してるのはいつものことだし、これで良……くない!
「やめんか」
とりあえず舞を引き剥がして床に坐らせる。恍惚とした表情が一気に不機嫌へと変わるのが、
面白いといえば面白い。
「そもそも、なんであんなことを?」
一人遊びなら普通にやれば良いだろう、とはさすがに言えなかった。舞の答えは俺の想像を超えた。
「お兄ちゃんに抱かれてるごっこ。自分でするより、してもらってるつもりの方が気持ち良いかなぁって」
「で、両手とも勝手に動くようにしたら、自分じゃ止められなくなることに気づかなかったと」
「うん、失敗だった。本物のお兄ちゃんの方が気持ち良いし危なくないのに。反省」
爽やかに言い放たれて、俺の気力がまた削り取られた。
「反省する所が違うだろう?ええい、抱きつくな、すりすりすんな」
「細かいこといわないの。というか、この状況なら何も言わずに押し倒すのが礼儀ってもんでしょう!」
こっちが必死に流してやっているのに、こやつは…
「嫁入り前の娘がいうセリフじゃないぞ。それ」
「ロボットをどこへ嫁にやる気よ? 裸で脚まで開いてるのに、一体あたしの何が不足?」
「常識と道徳と自制心と、なにより色気が足らんな。風邪…はひかんかもしれんが、さっさと服を着ろ。
機械は説明書を良く読んでから試すんだぞ」
俺は、再び引き剥がした舞に背を向けて部屋を出た。だから俺は、舞がかなりシリアスな目つきに
なっていることにも、再び自分にケーブルをつないだ事にも気付けなかった。
最初の異変は、翌朝に発生した。舞が俺より先に起きていたのだ。正確には「起きた」というのは
間違いだった。眠らないように設定を変更したのだという。
「ほんとは必要ないのに、寝る時間がもったいないじゃない」
と答える様子に微妙な違和感を感じた。なんだろ?……こいつ、呼吸してない!
「心音もないよ。人間の真似する機能は止めちゃった」
「お前、何考えてるんだ!」
「人間のふりしてたら、お兄ちゃんは『妹』としか見てくれないじゃない。だからあたしは人間をやめる!
…最初から人間じゃなかったけど」
いや、お前が人間だろうとロボットだろうと、妹にしか見えないよ…という前に、背後から声がかかった。
「で、そのロボットちゃんは朝ご飯食べないの?」
お袋、いつの間に後ろを取った?
「うっ……要らないに決まってるじゃない!」
食い気に負けかけたその様を見て、俺もお袋も(大したことない)と思っちまった…甘かった。
それからの舞は、もう24時間俺にくっつきっ放しだった。家にいればのべつ幕無しに抱きついてくるし、
暑苦しいから離れろと言えば離れこそするものの、じっと俺を見つめている。場所を移ってみても、いつの間にか
密着するほどの間近に出現する。体温、心音、呼吸まで止めると気配って消えるもんらしい…気がつくとすぐそばに
舞がいて、驚きのあまり俺の心臓まで止まりそうになったことが3回ほどあった。
まずいことに連休で「学校に行け」とも言えない。こっちが家を出てみたが、きっちりついてきやがる。
無理やり振り切ろうとも考えたが、舞のやつ二輪持参だ。まさかカーチェイスを繰り広げるわけにもいかん。それに
夜になれば俺も家に帰らねばならん。
帰ったらもう、常時密着だ。風呂にまで乱入してきやがる。風呂から逃げ出したら今度は俺の部屋に出現して、
何をするでもなくじっと俺を見つめている。
抱きつかれたり、抱いてくれと迫られるのも困るが、無言で圧力を加え続けられるのも、結構怖いものだと思い知った。
「自分の部屋に帰らないのか?」
「ロボットに部屋なんかいらないじゃない」
「そんなに見つめられると、落ち着かんのだが」
「家電製品の視線なんか、気にしない気にしない」
なら勝手にしろ、と舞を無視して寝たら翌朝には全裸で布団に潜り込んでいたのはもう、お約束と諦めるべきなのか。
そして、最大の危機が訪れたのは、次の夜だった。
ストーカーというのも馬鹿馬鹿しい舞の行いに俺の忍耐が限界に達し、ついに怒鳴りつけちまったんだ。
「人間とかロボット以前に、お前のやってる事は異常だ! 人間なら病院送り、ロボットならプログラム書き換えものだぞ!」
「プログラム書き換え」のところで、舞の表情が変わった。一分に満たないほどの時間、黙って考え込んだ舞は俺に言った
「わかった。これで終わりにするから、ちょっと待ってて」
舞は俺の部屋を出、数分後に戻ってきた…全裸で、自分の端子につながったノートパソコンを抱えて。
「今度はなんだ? それに最近全裸が多いぞ…」
言いかけた俺を舞は手で制した。なにやら解らないが、異様な気迫がこもっている。
「あたしはロボットだよ。だからあたしたちって、本当は兄妹じゃないんだよね。なら本当はあたしたちって何かな?
ずっと考えてたんだ」
「何って兄妹以外の何だと」
「もし、人間だと思いこまされていなければ、あたしはお兄ちゃんの事をこう呼んでいたはずだよ……ご主人様」
「舞、何が言いたい?」
舞は微笑んだ。泣き笑いだった。
「お兄ちゃん。さっきロボットならプログラム書き換えだって言ったよね? あたしもそう思う。こんなのおかしいよね。
でも、駄目だって言われてもやめられないんだよ。ねえ、あたしって壊れたロボットかな? それとも壊れた人間かな?
どっちでもいいや。すぐに直すんだから」
舞はノートパソコンを開いた。既にアプリケーションが起動している。
「今度売り出した、あたしの市販タイプ用のソフトらしいよ。絶対服従する持ち主を設定するんだって。これを使って、
あたしはお兄ちゃんの物になるわ。妹として最後のお願い、実行ボタンを押して」
示された画面を見て、俺は生まれて初めて「背筋が凍る」という体験をした。
「ちょっと待て!」
やばい。所有者登録どころかこいつは初期設定、それも「人格初期化」にチェックが入ってやがる。これを
実行したら舞は、舞というキャラクターは消える。わかってんのか? このメカ音痴。
「恋人になってくれないなら、お願い。あたしだけのご主人様になって」
「ちょっと待て。お前がやりたいことはその画面じゃない。人格初期化するって意味わかってるのか?」
「騙そうったって聞かないからね!」
聞く耳持たんか。どうする? 飛びかかるより舞の指の方が早い。
俺が迷っている間に舞がキーボードを操作すると、色っぽい吐息が漏れ、無毛の股間から粘液が糸を引く。
裸で迫られたことも、一人でしてるのを見たこともあるが、ここまで極端に欲情した姿を見るのは初めてだ。
性器ユニットを直接操作しやがったのか、こんなことだけはしっかり覚えやがって。
なにか策はないか……あった。! 舞が示すディスプレイの片隅に、チャンスを示す表示が。時間を稼ぐんだ…
「ほら、スイッチ一つでこんなにいやらしくなる。わかるでしょ? あたし人形なんだよ!
何したって良い玩具なんだよ!」
興奮して時間に気づかないのは助かるが、妹のこういう姿を見せられると反応に困るな…
「だからお前は妹で玩具じゃないと何度言えばわかるんだ。まずは俺の話を聞けってば」
舞は、俺の説得を完全に無視して、片足を近くの椅子にかけた。大きく開いた陰唇の間に左指を差し込み、粘液をかき回してるところを見せつける。
くそ、残り時間はイヤになるくらいゆっくりと減っていく。
「あたしは妹じゃ嫌なの! だから妹も人間もやめるの!このボタンを押すだけで、あたしはお兄ちゃんに
絶対服従する人形になる。あたしのことが嫌いなら、死んじゃえって命令すればすむんだよ!」
「だから、それをやりたいなら別の画面だと…」
「わかった。お兄ちゃんが押してくれないなら、勝手にやっちゃう。このままずっと妹なら、道具の方が良いもの!」
聞いちゃいねぇ。マウスカーソルが「実行」の上に乗る。あと5秒。なんで1秒ってのはこんなに長いんだ?
4…3……2……1…
「……あれ? なんで? 手がうごか…な…い…」
何とか間に合ったか。俺は残り時間から「バッテリー切れ」の表示に変わったPC画面を目の隅でとらえつつ、
自動シャットダウン機能が働いて倒れこんだ舞を抱き止めた。
通常のアンドロイドなら、バッテリー残量は自前のシステムで常時監視している。だが本人も人間と
誤認するように作られた舞に「電池の残りがわかる感覚」などあるはずもない。パソコンをつないで確認しないと
自分のバッテリー残量が判らないのだ。しかもこいつはこの2日間、眠りもせずにずっと俺にへばりついていた。
充電もせずに一日中バッテリーを浪費し続けていたわけだ。
「どっこいしょっと」
年寄りじみた掛け声をかけて、動かなくなった舞を肩にかつぐ。軽いな。そして柔らかい。あのマッドども、
とんでもないものを作りやがる。
作り物だということを目の前で見せつけられたばかりなのに、こいつが人間じゃないなんて未だに信じ切れん。
そんな気分にまとわりつかれつつ、俺は地下実験室(そう、我が家にはそんな代物があるのだ)に向かった。
「……Peep…整備もーど2デ起動…新規ノでばいすヲ検出シマシタ……って、あたしは何を言ってるのよ?」
ちゃんと再起動できたようだな。
「お兄ちゃん? 一体何をしたのよ?」
「何もしてねぇ、電池が切れただけだ。ロボットごっこしてるのに、充電し忘れてただろ。愚か者」
「ごっこ? あたしは…」
「うちのわがまま娘だな。少しばかり無機分が多いようだが」
「えと…その」
舞は立ち上がろうとしたようだ。無理だけど。
「整備モードになってるから首から下は動かんぞ。ついでにバッテリー残量を認識できるようにしてやるから、
ちょっと待て。下は…」
見るなよ、という前に舞がどでかい悲鳴を上げた。
「いっやあぁあ! お腹にでっかい穴あいてるぅ!死ぬ、これ死ぬ! お腹の中変な機械がいっぱい詰まってるしぃ!!」
「遅かったか。まずは落ち着け、そしてよく考えろ。お前は何だ?」
「ええと…我はロボット……そうか、そうだった」
「そういうことだ。落ち着いたらあと少し待て」
再び腹の中に手を突っ込んで作業を再開する。むう、確かにすごい光景だよな。
「あたしの中をお兄ちゃんが好き勝手にいじり回してる…なんか…ちょっと快感かも」
お前なぁ…どこかに外付け常識パックとか売ってないもんだろうか?
気を取り直してバッテリーメーターと頭脳を接続し、デバイスドライバを登録。これでバッテリーの残りを感じるようになる。
「うう…なんか気持ち悪い…」
「むう。感覚がいきなり増えりゃ無理ないか。慣れろ、街中でいきなり動けなくなったら困るだろ?」
腹を閉じてやりながら、おれは宣告した。
「さて、ここから先はお説教タイムだ。覚悟は良いか?」
「良くない!聞かない!省みない!」
威勢の良いこと?を叫びつつ、首だけでじたばたする舞。逃げようとしてるようだが、動けないと言っただろ?
メカ音痴なメカ妹に、自分が「死ぬ」直前まで行ってたことを説明するところからはじめて、むやみによく分からない
ソフトを使わないと約束させるまで説教したら、3時間以上もかかっちまった…。
そして次の深夜…
どすん。
扉の外で異音がして目が覚めた。音源は舞だ、根拠もなく確信して部屋のドアを開ける。
案の定、廊下で舞が悶えていた…またしても全裸で。お前、今回は「全裸」がテーマなのか?
いうべき言葉が見つからん。無言でかつぎ上げ、舞の部屋に向かう。肩の上で舞は、いろんな体液を垂れ流しながら
ひきつけを起こしてる。急いだ方がよさげだ。
ベッドに舞を放り出して例のノートパソコンをつなぐ。設定確認…性感が感度最大、息を吹きかけても絶頂する
レベルに設定されていた。
とりあえず感度を落として点検プログラムを走らせる。幸い大きな故障は無いようだ。
「で、今度は何をしようとしたんだ?」
「こういう機能があるの見つけた時、これでお兄ちゃんのとこで寝れば、気持ち良いだろうなぁって思いついて」
「で、空気がそよいでも感じちまう設定にしたもんだから、俺の部屋にたどり着くこともできずに挫折したと。
だから説明書を…読んでも無駄なんだろうな」
「うん!」
「さわやかに断言するんじゃない! これじゃいつか壊れ…」
また説教モードに入りかけた俺をさえぎって、舞は言い放った。
「ご主人様になってくれたら、何でも言うこと聞くよ。それが嫌なら、壊れちゃったらメカ音痴の妹を直してね。
お・に・い・ち・ゃ・ん♪」
投下終了です。続かないはずだったんですが、酔った勢いで何故か書いちゃいました。お酒って
怖いですねぇ。皆様も気をつけてくださいね。
書いた本人も予想してなかった埋人形。楽しんでいただけた方がお一人でもいれば幸いです。
こんな長いお話書くの初めてなので、出来はとっても心配です。
では、もしも電波の御加護がありましたら、またスレの埋まる頃お目にかかりましょう。
続編キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
妹型ロボットかぁ〜いいなぁ。俺の子孫なにしてんだろ?早く送りこんでこい!
子孫がキモウトロボットなんて送ってきたら他の女を排除されて結婚なんてできないぞ
そしたら子孫も産まれなかったことになってタイムパラドックス発生だ
いや、未来の技術を持ってすれば、子供すら産める究極キモウトロボが…
妹ロボ可愛すぎGJ!
絶対服従する人形になるとか健気だなあ
まあ、ずっと実の妹と思ってた相手に迫られたら
常識的には主人公のような反応になるのだろうけど
このスレの住人なら、
自傷行為に及んだ妹を説得するのに
「妹ではないただのロボに価値はない! 人形になったら粗大ゴミの日に家から放り出すぞ!」
とか言い出しそうだ
このスレの住人なら、自傷行為まで思いつめさせる暇もなく押し倒して、
あんなことやこんなことや、あまつさえ生身の妹には到底な行為の数々まで…
どちらかというと押し倒されるほうでは?
地下実験室にお兄ちゃんを監禁して、洗脳だ改造だという世界に突入か。
このスレでは少数派?のおとなしい妹でよかったね、お兄ちゃん。
突然だが、舞はいわゆる「つるぺた」だ。
引っ込むべきところは引っ込んでいるが、出るべきところがどうしようもなく不足している。背丈もクラスで一番低いらしい。
サイズは…無乳と呼ばれることだけは免れるかな、多分、きっと…。全裸で迫られた時に知ったが、下もつるつるだ。
これらすべて親どもの設計どおりと知った時、舞は自分の発育不良っぷりを親父に抗議したことがある。
「お父さん! なんであたしはこんなにちっちゃいの? お兄ちゃんに『色気が足りぬ』と言われて返す言葉がなかったじゃない!」
「可愛いと思うんだがなぁ」
「まさかお父さんって、危ない趣味が…」
えらく失礼なことを言われて、さすがに親父の頬が引きつった。
「そこまで言われては仕方ない。実はおまえがその姿なのには、やむをえない事情がある」
不審そうな表情を浮かべる舞に、親父は一枚のプリントアウトを示した。
「おまえのボディの見積もりだ。皮膚の面積単価をみろ」
「なにこれ? 高っ!」
「完全に人間と同じに見える特注品だからな。もうわかっただろう。 コストを抑えるために、皮膚の面積は
できるだけ少なくせねばならん。植毛はさらに高いから、毛も最低限に…というわけだ」
今度は舞の顔が引きつった。
「つまり…あの努力は、日々の牛乳はまったく無駄だった?」
「うむ」
親父のヤツ、無駄に重々しく頷くなぁ。
「ナイスバディになるためには…」
「部品を買い換えるしかないな。先に言っておくが、お前の小遣い程度じゃ話にもならん値段になるぞ」
あ、絶望が宣告された。
「ひどいよぉ」
「その代わり、いくら食べても太らないぞ」
「うっ…」
妹よ、おまえのコンプレックスはわかった。解決法がそれしかないのも理解できる。だがなぁ…
年ごろの娘が目を血走らせてセクサロイドのカタログ見ては溜息つく姿ってのは、人には見せん方がよいと思うぞ。
願ったりかなったり
シスコンでロリコンでメカフェチの三重苦という、業の深い方ですか?
シスコン、ナイチチ派、眼鏡フェチに美脚スキーの俺よりは恵まれているだろう。
うん、業が深いというよりは欲張りなだけorz
>>707 ちょっと違うかもだが、ジュドー・アーシタ思い出した。
>シスコンでロリコンでメカフェチ
しかし妹ロボは、お兄ちゃんをその三冠王に調教せねばならぬのか。
自身が微妙に機械オンチで自傷行為スレスレを繰り返してる、ってのがまたいいな
自傷ギリギリのドジを踏むたびに、お兄ちゃんに修理されたり改造されたり。
「ご主人様になって」といい、お兄ちゃんを三冠王に調教どころか
「ドMなキモウト」への坂を、順調に転がり落ちてるのかも。
俺としては「どSなキモウト」へ登りつめてほしい。
なんだ、こっちまだ埋まってなかったの?
最後の1kbまで遊び倒そう。
弟のために料理を作ってる時に指を包丁で切ってしまったけど
怪我した部分を弟が舐めてくれたことに味を占めて
今度はわざと指を血まみれにしてくるようなそんなキモ姉が欲しいです
「血が出たところを舐めてもらえる」
それを聞いたキモウトが、どこを切ってくるのかも問題だ
月に一度の血をなめてもらいに…さすがにキモすぎるか?
何がキモいかわからない。
絶対に受け付けない人も多いと認識した上で、俺はイケル!
「弟のために料理して流した血」と、「兄のために排卵と内膜剥離で流した血」
どこがどう違うというのだ
一瞬「網膜剥離」とよんでガクブルしたが、読み治して安心した俺は
やはりどこか病んでいる…
中には料理食って食虫毒おこす兄、弟が一人くらいいていいはず
>>724 あえて言おう
その字だと毒虫食わせてる
「虫? 虫って、あんた一体何食べさせたのよ?!」
「私の…虫垂。この間入院した時、切ったの」
・・・わかるでしょ・・言いたいこと・・・恥ずかしい・・
まあ、キモ姉妹の定番にあんな物やこんな物を愛しい人にこっそり食べさせる
あるいは愛しい人の何かを食べるというのがあるけど、お腹壊しそうで心配ではありますね
姉、血などの単語を見ると羊のうたを思い出すな
姉の血を舐めないと駄目な弟と、弟に血を舐めさせる事によって満たされる姉
キモ姉にとってはある種理想の姉弟像だよな
>>731 吸血鬼の弟に「私以外の血を吸うなんて許さないからね!」と凄む姉?
逆なら知ってる
しぶとい前スレだな。つうか次スレより上がってるし。
春の忙しいシーズンに入ったからな
梅ネタでもくればな
桜の下には人の死体が埋まっているといいますが、梅の下には泥棒猫の…
なら桃の木の下には…
とばっちりを受けた名も無き女子生徒が埋まってるのか…
やあねぇ、人間は桜の下に埋まっているって
>>736に書いてあるじゃない。
桃の下は豚よ、大抵の場合はメスらしいわね。
なぜか738がオカマ声に聞こえゆ
ふむ、キモ兄か・・・
いいや、男装が趣味の微乳キモ姉様だ。
うめ
スレが埋まる前にカキコ
>>325 感想少ないけど俺は乳フェチだからこういうの大好きだ
是非シリーズ化してくれ
と思ってらなってたんだな
うーん、兄のふりをするキモ姉・・・ずっと、兄と思っていた弟・・・
十何年も一緒に暮らしていて、兄が姉だと気付かなかったとするか、あるいは
何かの事情で離れて暮らしていた兄が実は…といくか。
その設定しかないか。
小さい頃一緒に風呂へ入って
「お兄ちゃん、どうしてちんちんないの?」
「うるせぇ、そのうち生えて来るんだ!!
弟のくせに生意気だ、お前のよこせ!!」
弟のアレを触っている内にキモ姉の目覚めが…
変化技(というにはありきたりですが)としては、物凄い旧家か何かで兄弟といえど一緒に風呂になど
入ったことがないとか、どちらかが養子または愛人の子で、一緒に住みだしたのはある程度
大きくなってからってのも、あるにはありますな
カップル死すべし
投下
とろとろと流れる粘りを含んだ液体。
糸を引きそうな露は香り高く、口に運ぶと甘やかな芳香と味が伝わります。
ひどく独特の風味は脳髄を痺れさせて疼きを生み、
血と共に全身を流れるもどかしさには、どこか言い知れない、女を虜にする魔性がありました。
「ああっ」
絡めた指を上下させる手から伝わる脈動が、ぴくぴくと私の体までも震わせてしまいます。
ひどく、熱い。
青く、木漏れ日のようにカーテンの隙間を縫った月光に照らされる薄闇が敷かれた室内。
冷めて行く夜気に肌を晒しながら、私は火照った息を吐きました。
ごくりと、早鐘の響きとなった心臓にも劣らぬ大きさで喉が鳴り、
唾液の滑ったそばからまた渇きを訴え始めます。
────蜜を。もっともっと、甘い蜜を。
そう、脳の側から耳の奥へ囁きが聞こえてくるようでした。
否やはありません。
肉と、本能と、意識と。
三者が諸手を挙げてこの飢えを満たすことに賛同し、
私は潤いを求めて十の指を激しく、けれど蜜を出す幹を決して痛めない動きで表皮を撫で擦ります。
時には指だけでなく手の平を添え、更に摩擦の中にも搾り、押し込み、揉む動きを加えて。
世界で最高の甘露を頂く代わりに、せめて少しでもお返しを出来るように。
請い願い、そして感謝する気持ちで奉仕します。
幹は、すぐに応えてくれました。
茂る枝葉の代わりに張られた笠が開き、滲むように透明な樹液が流れます。
それも、今まで一番多い。
手に零れてきそうなそれを見て堪らなくなった私は、
はしたないという言葉を何処か遠くに感じたまま、幹ごとその雫を頬張っていました。
「んんっ!」
本当に、はしたない。
離した腕で姿勢を保ち、口内で舌を回します。
柔らかな笠の表面を撫で回し、反対に硬い幹へと巻きつかせ、上下させては搾り、
蜜が採れたのを感じると掬い取って喉奥に仕舞いこみ。
少しでも多く早く直接に蜜を吸おうと、幹を根元まで、喉に刺さりそうな深さまで迎え入れもしました。
淫ら、と言われても反論は出来ません。
いいえ。そんなことをする必要は忘れてしまいます。
甘露です。この蜜は本当に甘くて、鼻を直接突くと思うほどに香り高くて、狂おしい。
全身が満たされると同時に、すぐにもっともっとと求めてしまう。
愛しさと、感謝と、更なる欲求。
それ以外は、全て焼けそうな熱を帯びた股の間から流れ出す思いでした。
膝にまで濡れた感触がします。
「ちゅっ・・・はむ、んむ・・・ずじゅ・・・」
そんな風にだらしなく汁を零してしまう穴を、この逞しい幹で埋めることが出来たら。
ふと、そんな考えが浮かび、しかし即座に斬って捨てます。
だって。
「れる・・・ぴちゃ・・・・・・っぷは。まだ早い、ですよね────お兄様?」
今、私の前に根と、幹と、笠を雄雄しく漲らせたまま眠っている殿方。
この世で最も愛しいお兄様の胤を宿せる体に、まだ私は育っていません。
幾ら愛するお兄様が相手でも、
婚姻を結ぶ前に処女を散らすような『はしたない』女など、それこそお兄様には相応しくない。
まして眠っている、薬で眠らせた相手の部屋に女が自ら夜這ってなど論外。
今はまだ、愛しければこそ耐え忍ぶ時。
先月の『お返し』を頂くだけに止めなくてはいけません。
今日、三月十四日に相応しい、
白く香り高く、私をどろどろに溶かしてしまう蜜液を頂くだけに。
「くすくす。お兄様がいけないんですよ?
こんなにもお兄様のことを思っている妹に、ヴァレンタインのお返しを忘れてしまうから」
だから、私はお兄様が欲しくて、
でも女の方から求めるようなはしたない真似が出来なくて、ついお薬を盛ってこんなことをしてしまうんです。
「うふふふ」
そう。悪いのはお兄様。
こんなにもお慕い申し上げているのに、いつも理由をつけて私を避けようとしてばかり。
折角、両親もころ────────亡くなって、
親族を黙らせて遺産の相続も終えてゆっくり出来るように差配を終えたのに。
金銭なんて下賎な物に惹かれて酔ってくる低俗な女にばかり目をやって、私を見て下さらないから。
「私はお兄様が欲しいのに。お兄様だけが居て下されば、それでいいのに」
なのに、お兄様は目移りしてばかり。
「ちゅっ」
溢れんばかりの愛しさと、ほんの少しの恨みをこめて、お兄様の分身の先に接吻をします。
それから深く口内へとお迎えして、舌を絡めてから強く長く吸い上げる。
ぞぞぞぞっ、とはしたない音が鳴って頬が震え、お兄様の男根もびくびくと身を揺らしました。
手を伸ばし、根元にある子種の詰まった二つの袋も揉んで差し上げます。
一際強く跳ねたお兄様の先端が歯の裏を叩きました。
事前に十分な刺激を蓄え、考える間にも手で扱くのを怠ってはいません。
脈打つの幹の震え方が変ったのが分かりました。
「〜〜〜〜〜〜っ!」
来る、と思うと何もかもを忘れて、ただ思い切り頬を窄めて吸い上げます。
嘗め回す舌が吊りそうになり、両の頬がぴたりと張り付いてお兄様を包み、
途端に、ぶるりとお兄様の腰から全身へ震えが走りました。
「あは」
びゅうっと、見なくても分かる白い迸りが私の中へ注がれます。
舌に当り、頬に飛び散り、喉奥へ注がれて食道へ、そして胃へと。
耳だけが歳を進めた学友などは、
よくこれを『苦くて生臭くてマズイらしい』と話題にしていますが、とんでもありません。
今まで口にした何よりも甘く、美味しい。
舌に乗ってどろどろと流れる食感の生々しささえ、愛するお兄様が注いでくださったことの証明です。
更に、その心地良い味と感触の一瞬後にはくらくらするようなお兄様の匂いが口内で溢れ返り、
私の鼻を通って室内を満たす闇へと抜けて行きます。
至福の一瞬。
お兄様以外の煩わしい全てを忘れて、
その味と匂いと感触へと、私の意識の全てをお兄様から与えられる感覚の中に沈められる一時。
これ以上の幸せは、きっとお兄様と結ばれる一瞬、そして結ばれてからの日々だけ。
何物にも勝る愛による、何者にも得られない幸福。
集めれば手の平に乗るような少量であってさえ、お兄様の下さる蜜は私を溺れさせてしまいます。
ああ────────何て、愛おしい。
注がれた白濁に誘われて、私の意識までも白く染まって行きます。
お兄様に塗り潰されるように。
私が盛った睡眠薬で深くお眠りになっているお兄様と同じ、夢心地。
もう慣れた目で見ているはずの薄闇がぼやけ、持ち上げる目蓋が甘く沈みそう。
お兄様は、薬のおかげで、明日は遅くまで目をお覚ましにならないはず。
そう考えながら、風邪をお召しにならないよう、何とかお兄様の寝巻と布団だけを戻します。
「・・・・・・あ」
そこが限界でした。
柔らかな布団の上、お兄様へ向けて頭を寝かせます。
一センチあるかないかの距離を隔てた、先程まで触れていたのとはまた異なるお兄様の感触。
その心地良さの傍らで、
満足して冷め始めた肌を晒したままの体が寒さを訴えましたが、もうどうにもなりませんでした。
「風邪を・・・引いたら・・・・・・その時だけは、お兄様が・・・・・・傍に」
それだけを夢見て、意識を手放します。
風邪を引かずに済んだ時は、またお兄様に近付く雌猫の退治を。
最後にそう決めて、私は穏やかに甘い夢の中へと身を沈めて行きました。