1 :
名無しさん@ピンキー:
このスレでのお約束事
・基本sage進行(メール欄に半角でsage)
・気に入らないカプやシチュ及び荒らしには爽やかにスルーで対応
・パクリ作品駄目絶対
・マターリエロエロやっていきましょう
前スレ663-669のモモハナ(ハナモモ?)の続きを投下します。
あいかわらず花井と百枝(ちょい男性不信)が別人なので、
イメージが合わない方はスルーしてください。視点コロコロ変わってます。
11 :
モモハナ2:2007/11/21(水) 01:53:32 ID:1D2KQtB1
ホテルのベッドの上で、服を着たまま、百枝と花井は抱き合っていた。
「離してください」
そう言ったのは、花井の方だった。
度々、別れ話は出ていた。
切り出すのは必ず百枝で、今回は花井に告白をして断られた同級生が理由だった。
いつもなら適当なところまで聞いて「勝ってる間は付き合う約束ですよ」と、
笑って押し倒すが、頑なに拒まれて話を遮ることが出来なかった。
花井はベッドの上に正座して、百枝の話を聞いた。
名前も顔も曖昧なその女子は、花井に丁寧に断られて前より好きになったらしい。
昨日、おにぎりと一緒に部員たちに配られた焼き菓子はその生徒の手作りで、
監督の百枝が受け取った。
「私は名前もクラスも、聞かなかった。『ウチは本気で甲子園目指してるから、
恋愛は無理かもね』って…」
「俺も似たよーなこと言いましたよ。本当のことだし」
じゃあ、私たちがしていることは?と、百枝の目が訴えていた。
異性を想う気持ちは痛いほど判るから、真摯に対応した。それで少し長話になった。
それだけで、その女子にはこれっぽちも特別な感情はない。
「ウッゼーなぁ。俺と監督の問題だろ……」
ふて腐れた花井を、百枝は静かに睨み返した。
「本気で甲子園狙うなら、恋愛なんて無理だよ」
本当の美人は、怒った時すら見惚れるほど美しい。
花井にとって高嶺の花だからこそ、予定より早い別れの恐怖は常にある。
百枝にすり寄り、その柔らかな身体をぐいと抱き寄せた。
大きな胸が邪魔をして撥ね返されるのは喜ぶべきか悲しむべきか。
「振り払ってください。俺はガキだから、殴るなり握るなり
されなきゃ判んねぇ。……出来んだろ監督なら!」
花井は確かに力を込めてはいたが、女性でも本気を出せば突き飛ばせる程度。
百枝の力ならなおさら容易だった。
12 :
モモハナ2:2007/11/21(水) 01:56:16 ID:1D2KQtB1
いっそのこと、逃げられない程にキツく抱きしめれば、抵抗す
る理由になるのに。
困惑する百枝に、花井は畳み掛けるように言った。
「やめてくれよ。監督みたいなイイ女が、俺のことでヤキモチ妬くなんて、
そんなカッコ悪いことあってたまるか!」
「ヤ、ヤキモチ……?」
自分は花井のためを思って言ったのに!
大人の自分が説き伏せる以上に、正しい別れ方があるなら教えて欲しい。
百枝が目を剥くと、花井は弱々しく笑った。花井は時々こんな顔をする。
ベッドで多少自信をつけさせたつもりなのに。別れが前提の関係のせいだろうか。
「離してください。俺が嫌いになったって、監督が自分の理由で終わらせてくれ」
唇が首筋を這い、思わず声を上げそうになる。
「や、やめなさい。私は間違ったこと…ぁっ」
拒まなきゃいけないと判っているのに、動けなかった。
花井はゆっくりと首筋から胸元に移動しながらキスをして、百枝の胸に顔を埋めた。
吐息が漏れた。思わず自分の腕を伸ばして、もっと強く抱き返したくなる。
その下を、服の上からではなく素肌に触れさせたい欲求に百枝はイラついた。
(そうじゃないでしょ、教えた通りに――ああ馬鹿だ。なに考えてんの私!)
百枝の混乱が、花井に伝わったらしい。百枝の頬に唇が触れる。
目を閉じ応えようと動く百枝をかわすように、花井の顔は離れた。
ほんの少しの身動きでも、その振動で自分の両胸は大きく弾んでしまう。
隠し切れないバツの悪さに目を開くと、同じように困った顔の花井と目が合った。
もし、怒りにまかせて暴力に走る男なら、軽蔑して切り捨てられた。
この優しい腕を拒絶すれば、自分は一生花井を忘れられなくなる。
(ズルイよ、花井くん……)
百枝の心をまるで読んだかのように、花井がふっと笑った。
「ですね。……今まで、すみませんでした」
「花井くん?」
「俺が」
力強く掴まれていた身体が、すっと軽くなるのを感じた。そのまま、するりと離れていく。
13 :
モモハナ2:2007/11/21(水) 01:59:00 ID:1D2KQtB1
「や」
とっさに花井の腕を支え直していた。自分が何をしたいのか、やっと判った。
驚く花井にぐいぐいと胸を押し付ける。我ながらなんてあざとい。
そのままベッドに押し倒して、身動きが取れないように押さえつけた。
「???………ぇぇー?」
一転して組み伏せられパニックになる花井に、百枝は微笑んだ。
「ちょ、ちょっと監督」
花井の顔が蒼白になる。
可愛い。
整った顔。長い手足。自分の思い通りに動く若い肉体。
手を伸ばし、花井のベルトの金具を外す。
「や、止めてください!最後にヤッて誤魔化そうなんて卑怯だ」
「やりたいんでしょ?」
「ふぇっ?いや、あのっ」
「私は、しなくてもいいけど?」
嘘だ。本当は自分が花井が欲しくて仕方ない。
ジッパーを下ろして指を滑り込ませる。
「あらあら」
笑みを浮かべ、硬くなったペニスを確認するように下着の上から撫で上げる。
子宮がウズいた。共鳴するのは、相手が花井だからだ。男なら誰でも良い訳じゃない。
救いを求めるように、花井の目が百枝を見上げていた。
「俺のことなんて、考えなくて良いのに……」
「花井くんのためじゃないよ。私は監督だから」
「え?」
「恋愛の片手間で狙えるほど、甲子園は甘くない」
出来る人も中にはいるんだろうけど、私はそこまで器用じゃないの。
だから今日で最後、と囁いて、百枝は自分のシャツに手をかけた。
14 :
モモハナ2:2007/11/21(水) 02:01:37 ID:1D2KQtB1
いつも、熱を持ちうねり収縮する百枝に、花井はズブズブ呑み込まれる気がした。
大きくてハリのある白い乳房に自分の汗が滴り落ちる。
乳の大きさは当然だが、驚異的なのはウエストの細さだ。この奇跡的に完璧な
百枝の身体を知ってしまうと、どんなに過激なアイドルのグラビアも陳腐に映る。
百枝の方が絶対美人だし、ずっと健康的だ。
揺れ動く、はちきれんばかりの巨乳を揉みしだきながら達する快感は、それまで
さほど大きさにこだわりがなかった花井の認識を変えてしまった。
認識が変わることは、もう1つあった。
途中までは凄く気持ち良いのに、百枝が好む体位に持ち込もうとすると、
その長い脚で、花井の身体をギリギリと締め付けられるのだ。理不尽にも程がある。
「くっ、……は、離し……」
百枝に訴えたくても、絡みつくのに夢中で花井の声は届かない。
この想像を絶する力に動きたくても動けず、怒るわけにも泣く訳にもいかず、
「身体が持たねーよー!なんの負荷トレーニングだよ!」と、
弱音を吐きたくもなる。
とはいえ、そんな百枝ごと惚れてしまったのだから仕方ない。
そして慣れてしまうと「他の女じゃ俺、ダメだよなぁ」と暗い気持ちになった。
本人は奥深くまで挿れさせたくて無意識でやっているらしい。
今まで彼氏にそんなことしなかった、と言うので、自分を離したくない
表れだと喜ぶべきなのだろうが……。
「う」
今度は突然、ぎゅうう、と膣に力が込められ、締め付けられた。
締まりが良すぎて病み付きになる。
「あっ、あぁっ……もっと…かきまわしてッ」
緩めることなく、百枝が喘ぐ。
「カニバサミ解いてから言え!」とキレたくなるが、百枝の表情の
エロさに息を飲み、今までの鬱積やその矛盾すら許せる気になってしまう。
百枝に振り回され果てる自分が、不憫ながらも好きだった。
でも、それも今日で最後になる。
最後……だから、良いよな。
みんなの前で間違えて言いそうだからずっと我慢してたけど。
「…ま、りあさん……」
勇気を出して、初めて百枝の下の名前を口にした。
15 :
モモハナ2:2007/11/21(水) 02:03:37 ID:1D2KQtB1
びくん、と百枝の身体が反応した。締め上げていた脚の力が、すとんと抜けていく。
「ふ、あ……」
驚いた百枝の目を見て、怒ってない?と確認して、改めて名前を呼ぶ。
「ま、り、あ……!」
百枝の指が顔に触れる。人懐っこい笑顔に、花井もつられて微笑み返す。
やっと身体が自由になったので、そのまま百枝の膝を抱え上げた。
百枝がなにか言いかけたが、教えられた通りやってんだろ、と揺らして反論させない。
向かい合って座ると挿入の角度のせいか、さらに気持ち良さそうに、百枝が喘いだ。
「はぁ、い、言って……」
「え?」
「まりあ、って」
恥ずかしそうな表情に胸が高鳴った。顔を赤らめ、潤んだ瞳が花井を見つめていた。
演技ではない、こんな百枝を見るのは初めてかもしれない。
いつもの破壊的な力はなく、甘えるように百枝が優しく首に腕を回す。
たまらなく可愛い。年齢差も吹っ飛ぶくらい。
脚を抱えると、息を荒げながら、百枝は切なそうに訴えた。
「ぁんっ…言って!」
「まりあっ」
顔を上気させ、百枝が幸せそうに笑った。もっといっぱい甘えて欲しかった。
「ね、もっと…」
両腕で顔を引き寄せられ、「この後、身体倒すのが好きなんだろ?」と
思いつつ、言われたとおりにする。
百枝が喜ぶことなら、なんでもしてやりたい。
激しく百枝を揺らし、突き上げる時も耳元で名前を呼び続けた。
「花井くん」と呼ばれた気がして、「くんづけ?」と思ったが、
最後は頭の中が真っ白になってしまった。
16 :
モモハナ2:2007/11/21(水) 02:06:34 ID:1D2KQtB1
百枝は花井に背を向け、余韻を甘受していた。
同じ高校生で会いたかったという無茶な願望があったから、唐突に名前で呼ばれ
心の中が熱くなり、頭がぼぉっとして、年の差とか監督と選手という
関係も忘れ、夢中になってしまった。
(思い出すだけで身体中から力が抜けちゃう……)
と。思った先から花井が、
「ま…」
「きゃーーっっ!」
耳を塞いで叫ぶ百枝に、意味が分からない花井がビビる。
「ゴ、ゴメン。なに?」
「まだ時間、大丈夫なら……」
そう言いながら百枝を仰向けにさせ、名残惜しそうに指で百枝の胸の突起に触れた。
「あ、コラ、もうおしまいだよ」
「だからです」
花井は押しのけようとする百枝を無視して、舌で愛撫する。もう片方の乳房は
指でむにょむにょと押し上げながら揉みまくる。
「……やっぱり、男の子は好きだねー」
「俺だけじゃないでしょ?」という声が聞こえ、百枝は弱いところを突かれて思わず
ぶるん、と身悶えした。
「あっ」
してやったり、とニッと花井が笑う。百枝も負けじと、大人の笑みで返した。
「――いででっ。最後なのに、握るなんてアリかよ!」
「キリないでしょ。さてと、シャワー浴びてくっかー」
百枝は起き上がった。これで本当に終わりだ。花井が下を向いたまま、
「……もう、次はないっすか」
「私の仕事は、野球だから」
「じゃあ、甲子園行ったら……」
以前と同じような展開になり、必死な表情の花井に百枝は苦笑した。
「初代主将だからね。絶対甲子園に出場して、その話をツマミに卒業後、飲もうね」
「それだけ?俺が卒業したら……。しても……アレなのかな」
そう言って、花井は黙り込んでしまった。今2人の関係がバレれば、どれだけ
花井が百枝に本気でも、ゴシップに転落する。その場合、糾弾されるのは大人の百枝だ。
それは、卒業後でも同じなのだろうか?何年経てば、周囲は認めてくれるのだろうか。
年上の百枝を好きな感情は恥じないが、百枝の立場が悪くなるのは嫌だった。
17 :
モモハナ2:2007/11/21(水) 02:09:26 ID:1D2KQtB1
「えーと、私、いくつ上だか知ってるよね?花井くんが大学卒業したら
私、すぐ三十路だよー」
百枝は忘れなさい、というつもりで言ったのに、花井の落ち込みようは
激しかった。がっくりとうなだれて、深い溜め息をつく。
「……こんなイイ女が、それまで独身だなんてありえねーよなぁ」
「へ?」
「長ぇなぁ……」
花井が遠い目をして、再び溜め息をつくのを見て、百枝は呆然とする。
てっきり、セックスだけが目的でゴネていると思ってたのに。
そこまで真剣に考えてたの……?
思わず顔が熱くなった。若さゆえ一直線に暴走しているとはいえ、
女である以上、本気で想われるのは悪い気はしない。
「卒業までの年と、私と花井くんの年の差、まんまだよ?」
「あ!早いです、あっという間です!」
花井は調子良く、大真面目な顔で前言撤回した。
「だから、その。それまで……待っててくれませんか?」
百枝は聞こえなかったフリをして立ち上がった。
泣きそうだった。
もし、約束を投げられたのが今でなければ、たぶん受けていた。
主将の花井のモチベーションが上がれば、それだけ甲子園が近づくから。
問題は、自分なのだ。
このままでは、花井にのめりこんで野球に集中出来ない。
うがいをして、百枝は鏡に映る自分を冷静に眺めた。
高校生に自分が負けるとは髪の毛ほども思わない。6、7年後の自分は、
今よりもっとイイ女になっている自信もある。
約束などせずとも、手元にいる高校生の間はもちろん、卒業したって
よそ見なんて絶対させない。
それにやっぱり、まずは野球だ。
ただのセクハラ監督にならないように、結果を残す必要があった。
(そうじゃなきゃ、今の私は鬱屈した青春を取り戻すために
援交に走るエロオヤジと同じだっつーのー。
それはマズイ。そして、かなりイタイ。私だってまだ若いのに!)
18 :
モモハナ2:2007/11/21(水) 02:12:10 ID:1D2KQtB1
そういえば花井は、自分のコンプレックスや願望のツボを押さえるのが上手い。
三橋の母親をはじめとして、保護者にも凄く評判が良い。
……ひょっとして、花井くんって年上キラー?
もし無意識だとすれば、16歳でこの才能は末恐ろしいよ……。
再び、花井に名前を呼ばれた時の感覚が甦り、百枝の身体に震えが走った。
早くも誘惑に負けそうな自分は情けなかったが、花井も同じだと良いな、と
百枝は思った。
終わりです。しのーかが出ると終わらないので止めました。
花井は結局、最後まで尻に敷かれる好青年で……。
何度も入れ替えて書き直したので、変な流れになってるかも。
前回、レスありがとうございました!
「モモハナ?」と入れたので「モモハナ2」にしましたが、3はないですー。
萌えた!超萌えたあ〜!!
新スレそうそうこんないいモモハナ…。
どっちも可愛かった!
超GJ!
前スレが埋まってしまったので
前スレ
>>786 意見言うのは自由だが単にやり方がヘタクソなんだと思う
ただファビョって叩いてるもしくは批判してるようにしかみえないよ
前から叩く人は定期的にいたと思うんだが
○○はそんなキャラじゃない!原作読んだことあるのか、とかいろいろね…
実際叩いてる奴の方がKYだったり的外れだったりするんだけど、
意見は自由だと思うよ。
職人さんは、そういう意見踏まえて、投下するときに
未然防止として若干注意書きを加えるようにしたらどうかな。
○○が当て馬扱いです、とか○○の扱いがひどいです、とか
叩かれるの全然平気!っていうならそのままでおkですが
新スレにまで持ち込まんでくれ
モモハンGJ!
で、正月の話で姫はじめなんてのは?
初詣の帰りに着物で!
もちろん、下着は着けてない方向で。
ハナモモきた!!
新スレでいきなりハナモモが読めるなんて。
職人さんGJです!!
全国の西広ファンに大変申し訳ないことをした。深くお詫びします。
お詫びの印と言っては語弊があるかも、ですが、西広×篠岡投下します。
付き合ってる設定で、『西広の家で勉強中エロに突入しかけるも妹乱入で寸止め』です。
苦手な人はゲンミツにスルーヨロシク。
試験週間が始まって、最終日の明日は私の苦手な教科。
最後の追い込みを教わろうと、一緒に西広くんの家に向かった。
「さ、どうぞ。」
「お邪魔します・・・。」
西広くんの後について家の中に入ると、しんとしていた。
「散歩にでも行ってるのかな?ま、いいや。どうぞ。篠岡。」
部屋に向かうついでにリビングをこそっと覗いたら、人の気配はなくて。
えっと、ふたりっきりってことよね。うん。
いやいや、今日は勉強しにきたんだから。
明日も試験なんだし。
そんなことを考えながら歩いてたら、西広くんが自分の部屋のドアを開けた途端、大きな声を上げた。
「ああっ!」
「な、何!?」
その声に私もびっくりしちゃって思わず見ると、ドアの取っ手を持ったまま苦笑いしている西広くんと目が合う。
「いや、妹が、また・・・。」
その言葉に、私はドアの隙間から中を覗いたら、かわいらしいぬいぐるみたちが部屋の中に散乱していた。
「か、かわいい!!」
「妹はね・・・。いつもこうやってオレの部屋にお気に入りのおもちゃ、置いてくんだよね。」
西広くんは照れ笑いを浮かべながら部屋に入り、ぬいぐるみを手にとっていく。
私もそれを手伝って西広くんの抱えた上にぬいぐるみを乗せていった。
くまさんや、うさぎや、パンダのぬいぐるみを、腕一杯に抱えてて微笑む西広くんが
なんだかかわいく見えちゃって、思わず私も笑ってしまう。
「ふふっ・・・。妹さん、西広くんのこと大好きなんだね。」
「トシ、離れてるしね、やっぱかわいいね。」
西広くんはそういいながら部屋を出て行った。
さて、勉強の準備しなきゃね。
部屋に置いてあるテーブルに、明日の試験教科の教科書とノートを広げる。
テスト範囲のページをパラパラとめくっていたら、西広くんがお盆に乗せたお茶と共に戻ってきた。
「さて、はじめよっか。篠岡、どこがわからない?」
「あのね・・・・・・。何もかも・・・わかりません。」
恥を忍んで告白すると、西広くんは再び苦笑いして。
そうよね。西広くんからしたら、私ってバカに見えるだろうな。
「じゃあ、ヤマ張るしかないね。一夜漬けで丸暗記したら大丈夫だよ。」
なんてことないことのように言う西広くん。
一夜漬けだってそんな簡単じゃないよね!?
さらっと言うんだから、すごいなあ・・・私、覚えられるかな。
西広くんのノートを見せてもらって、うんうん唸ってたら玄関が開く音がした。
「あ、帰ってきたみたい。」
西広くんがそう言うと、玄関から元気な足音が響いて、問答無用でドアが開き妹さんが飛び込んできて
そのまま、西広くんに突進して、抱きついた。
「おにーちゃー!」
「こ、こら! お客さんがいるんだから。ごめんね?篠岡。」
抱きついてきた妹を抱えながら、西広くんは私に謝るけど、妹さんの気持ちもわかる。
そりゃ、こんなお兄ちゃん、大好きだよね。
「ホラ、こんにちは、は?」
西広くんに窘められた妹さんが、ぱっとこっちを見て目が合った。
そのまま頭をぺこりと下げる。
「こんにちゃー。」
か、かわいい!
「こんにちは。」
私も思わず笑顔になってそう挨拶すると、妹さんも笑顔を見せてくれた。
すると、ドアの向こうから西広くんのお母さんが顔を見せて、慌てたように妹さんを抱きかかえた。
「あらあら、ごめんなさいね。勉強のお邪魔しちゃって。」
「こ、こんにちは。い、いえ! 全然、大丈夫です。ハイ。」
「ゆっくりしていってね。」
西広くんとよく似た笑顔を見せて、おばさんは妹さんを抱えて出て行った。
「ごめんね。篠岡。」
「ええ?全然いいよ。押しかけてるの、私だし。」
それにしても、西広くんの妹の扱い、さすがだったな。
本当に、いいお兄ちゃんなんだろうな。
もしかして、私もあんなふうに扱われてるのかな。
なんか、手のひらで転がされてるような・・・そんな気は、するよね。
いっつも穏やかな笑顔で、怒ったところを見たことがない。
あ、アノ時も余裕しゃくしゃくだし。
西広くんから見て、私ってどんな風に映ってるんだろう?
すると、脳裏にアノ時のことが一気に思い出しちゃって。
頬に一気に血が集まってきちゃって、顔が赤くなってくるのがわかる、ど、どうしよう。
ちらりと西広くんを見ると、ちょうどお茶を飲んでる所で。
ふと目が合った拍子に、西広くんは少し目を見開いて、ふっと笑った。
そのまま座ったまま私に近づいて、私の目をいたずらっぽく覗き込んでくる。
い、嫌な予感。
「篠岡。目がエロくなってるけど、何考えてる?」
「エっエロ!? な、何も考えてないよ!」
何で西広くんは、私が考えてることわかるわけ!?
エスパー!?
「さすがにこの状況じゃ、無理だから。我慢してね?」
「なっ!? 我慢って、な、何? 何もしたくないよ!?」
ますます顔が赤くなってくるのがわかる。
あ、どうしよう、涙まで出てきそう。
西広くんは、困り果てた私をくすくす笑いながら見ている。
ほんっと、余裕しゃくしゃくで、やんなっちゃう!
その時、遠慮がちなノックが響いて、おばさんが再び顔を見せた。
「辰太郎、お母さんちょっと出かけてきてもいいかな? あの子、今昼寝してるから
2時間くらいは平気だと思うんだけど。」
「いいよ。オレ達どこにも行かないし、勉強中だから静かにしてるから。」
西広くんの返答に、おばさんはよろしくねと言った後、そっと部屋のドアを閉めた。
足音もたてずにこっそりでていったみたいで、玄関の扉が僅かに閉まる音が聞こえた。
私は嫌な予感がしっぱなしで、必死に教科書だけを見つめていた。
西広くんが笑みを浮かべて私を見てるのがわかる。
絶対、西広くんの、ほうは、見ない。
私は、勉強、するんだから。
呪文のように脳内で呟きながら、ひたすらじっと教科書を見つめていたら。
西広くんが肩を奮わせながら小声で私に耳打ちしてきた。
「し、篠岡、教科書・・・逆だよ・・・?」
西広くんの言葉に、はっとよく手元を見返すと、本当に逆だった。
「あっ・・・。」
西広くんは床の上にお腹を抱えながら伏せ、震えながら声を立てずに笑っていた。
私はその様子に再び顔が赤くなる。
「ヒ、ヒドイよ!笑いすぎだよ!」
「し、篠岡、シー。」
声をひそめながら西広くんにそういわれて、私もはっと口を手で塞いだ。
妹さん、昼寝中だもんね。静かにしないと。
まだ肩を震わせながら、西広くんがゆっくり身を起こし、潤んだ目で私を見てきた。
そのまま、ずいっと私に寄って来て距離を詰める。
西広くんのその行動に、私が思わずお尻をずらして遠のこうとすると
ひょいと肩に手を回され、ぐっと西広くんの胸の中に引き寄せられた。
「に、西広くん!?」
「シー。篠岡、静かに。」
西広くんの体温を身近に感じてしまい、思わず声を上げると、
囁き声と共に、唇が降ってきて、私は唇を塞がれた。
こっちが身構える間もないその強引な行動に、西広くんの舌が入ってくるのを止めようがなくて。
直接触れ合った彼のの舌に、頭の芯がじんとなる。
頭の中にもやがかかっていく様な快感。
こういう時、本当に西広くんの手のひらで転がされてるな、と思う。
私が声を出さないように、ずっと唇は塞がれてしまって。
息をするのも少し苦しい。
西広くんの手が滑るように私の身体を撫でて、きゅっと胸を揉まれる。
「・・・っふう・・・っ。」
やっと、唇が開放されて、大きく息を吐くと、至近距離で私を覗き込む西広くんと目が合った。
「篠岡・・・。最後まで声、我慢できる?」
「さ、最後・・・まで?わ、わからない・・・。」
声を出さない自信はないけれど、正直ココで止められたら、辛いかも。
「オレも、ちょっと、止まらないかも・・・。いい?」
少し照れくさそうに笑いながら、そんなことを言われたら。
黙って頷くしか、できないよ。
頬に、西広くんがふっと微笑んだ吐息がかかる。
手がそっと私のスカートの裾に下りてきて、私の脚に触れた。
「っひゃっ・・・。」
それだけで声が漏れそうになって、私は慌てて自分の口を両手で塞いだ。
その間にも西広くんの手がどんどん侵入してきて、下着の上から擦られた。
「っ・・・んんっ・・・。」
「声、我慢して?」
西広くんが耳元で囁くから、身体にぎゅっと力を入れて必死に両手で口を塞いで我慢した。
「篠岡、力は抜いて?」
力抜いたら、声がでちゃいそうだから、私は思わず首を勢いよく左右に振った。
そのまま目までぎゅっと瞑っていたら、急に手を掴まれ、ビックリして目を開けたら、
西広くんの顔が至近距離に迫っていた。
そのまま、また唇を塞がれる。
「・・・ん・・・。」
また頭がぼうっとなって、何も考えられなくなっていると。
西広くんの指が、ぐっと私の中に入ってきた。
「んん・・・っ!」
思わず喉の奥から声が響いたけど、唇を塞がれていて、音は漏れない。
身体の奥から何かが湧き出てきて、恥ずかしくてたまらない。
こんなことするのは初めてじゃないのに、全然慣れない。
その刺激に思わず腰を浮かせると、その隙にするっと下着を下げられた。
思わず視線を下に向けると、もう脚から引き抜かれていた。
す、素早い。
「妹、起きるとやばいから、このままでもいい?」
ほんの少し、唇を離して、西広くんがそんなことをいう。
断れるわけ、ないよね。
西広くんが、ぴりっと小さな袋を開ける。
素早く準備した後に、ベッドにもたれる姿勢に移動して、にこっと笑って私を見る。
私はそっとスカートの裾をつまんで、ゆっくり西広くんに跨った。
ひんやりしていた所に、暖かいモノが触れる。
そのままがんばって腰を落とそうとしたら。
「ギャー! ママー!!」
妹さんの絶叫が聞こえてきた。
足音がこっちに向かう音が響いてきて、私は慌てて西広くんから離れようと身体を起こすと。
西広くんもずらしていたズボンを必死にずり上げようとしていて。
そのまま二人であたふたして、私が脚がもつれてこけた瞬間、部屋のドアが開いて、妹さんが姿を見せた。
「ママがー!おにちゃー!!」
涙で顔がぐちゃぐちゃの妹さんは、私をちらりとも見ずに、西広くんに突進して抱きついた。
多分、私は視界には入ってないだろうな。
西広くんの胸に顔を埋めて泣きじゃくる妹さんを気づかれないように、下着を手にとって。
そっとそれを履いていると、妹さんをあやす西広くんと目が合ってしまって。
思わず二人で苦笑いした。
泣きつかれた妹さんが再び眠りについた後、さすがに続きをするわけにもいかず。
二人で真面目に勉強をした。
おかげでテストの成績は過去最高だった。
---終わり---
いろいろ不快な思いをさせてしまったようで、大変申し訳ない。
原因や理由はどうあれ、荒れる一因になったことは深くお詫びします。
以後はマターリエロエロで進めて下さい。お願いします。
GJです!
2人とも可愛い!
>>31 乙。そしてGJ。
まあ、その、なんだ。あまり気にするな。
さてと。おれは行方不明中の職人を全裸で待機する任務に戻る。
早く帰ってきてくれ…。
>>31 西広がどうのって話じゃないんだけどね…
まあ、わかんない人には一生わかんないよね。
乙
>>31 可愛いお話、ごちそうさまでした。GJ!
いろんな人いるけど、気にしないでまた投下してくれたら嬉しい。
乙!また書いてくれて心から嬉しい
荒れたって言っても職人さんに非はないので気にする必要は全くないよ
応援してるのでこれからも頑張って下さい!
職人さんは大人だな
39 :
名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 09:09:38 ID:gHdoT9nV
>>31 超GJ!職人さんのおかげで西広のこともっともっと好きになれたよ。ありがとう!
間違えてageてしまった(´・ω・`)スマソ。
>>34はツンデレか?
職人さんを気にかけてるなら素直に言えばいいのに
三橋の話が読みたいんだ…
と言ってみる
テスト
今晩は。そしてお久しぶりです。303です。
前スレのルリと三橋の話の続きを投下しにきました。
注意事項は
・今回はエロなし
・三橋が普通に話す
・三橋のお母さんがいい性格
の三点ぐらいです。
よろしければ読んでやってください。
それでは投下作業に入ります。
二年後――
私たちは高校三年生となった。レンレンとは私の計画通りに仲良くなることができた。こまめに
電話やメールをして何気ない話をしていく。意中の相手が遠くにいる場合には、こういう普通のことを
自然にできるようにしていくのが大事だって聞いて、そのようにしていた。
お盆や年末年始にこっちに帰省してくるときにはとにかく優しく。それと女の子らしいところ――
おばあちゃんに弟子入りして習い始めた手料理を振舞ってアピールしていった。
廉は結構な食いしん坊だから、これは有効だったみたいだ。
ことは順調に運んでいるはずだった。
しかし、誤算が生じてしまった。それは西浦高校の甲子園出場だ。それも春夏連続出場。
話題にあわせるために、また、一番関心があると思う野球の話を振りやすいように、本を読んでみたり、
インターネットで詳しいルールの勉強をした。
春のセンバツに出場できても、夏の大会になると甲子園に戻ることができない学校のほうが圧倒的に
多いらしい。センバツに出場した学校は、よその学校からマークされるそうで(身近な目標ということかな?)
道半ばで戦いを終えことも珍しくはないとのこと。
春はまだよかった。一応、長期休暇扱いになるけど春休みは短いので部活に一生懸命なレンレンはうちに
帰省しないから。
でも、夏が問題だった。
西浦高校は他校の厳しいマークをものともせずに、順調に勝ち進んでいく。そして、めでたく春夏連続の
甲子園。全国大会になっても西浦は快進撃を続けていった。
これによって試合の日程がお盆と重なってしまって実家(うち)に戻ってくることはなくなってしまった。
高一のころの私は、この時期にはもう引退してしまっていると考えていたので、このときに彼がうちに
来た際に一気にいこうと思っていた。
だけど、実際には私が思うようには上手くいかずにヤキモキしていることしかできなかった。
もともと顔は悪くない、というか、可愛い系のレンレン。一年のころから密かに人気を集めていたらしいけど、
甲子園で活躍した投手というブランド価値もついたため、相当すごいことになっているらしかった。
私が寄せる好意――それも結構あからさまな――に気づいてくれない鈍感な彼は、メールや電話でも
そのことを私に話してくる。困っているような口ぶりだったので少しは安心できたけど、この現状では
いつ他の女に先を越されるかわからない。
いろんな意味で私は限界だった。
二学期に入ってからしばらく経ったある日。連休を利用して私は行動を起こすことにした。
レンレンとそういうことをして既成事実を作る。男子高校生はサルだっていうし、セクシーな格好で
大胆に誘惑すれば、きっと奥手な彼でも襲ってくるはずだ。
――ううん、私から押し倒しちゃってもいいし
結局、夏休みはお互いに都合がつかなくて(私は夏期講習を休むわけにはいかなくて、レンレンは
大学の野球部のセレクションを受けるために)どうしようもなかった。
焦りもあってか、自分がやろうとしていることが相当な捨て身の行為なのだということに気づかないほど、
私は切羽詰っていた。
以前に埼玉へと引っ越した友人に会いに来たついでに寄ってみた――という理由での訪問。
相当な決意をもって臨んできたはずなのに、ここにきて私は二の足を踏んでしまっていた。
廉の家まで来たはいいものの、そこでウロウロウロウロ……。
(どうしよう。今更だけど、緊張してきちゃったよ……)
空もうっすらと暗くなり始める時刻に、個人宅の前にて歩いては立ち止まるを繰り返す女の子。近所の
人に通報されて警察の人からいろいろと事情を聞かれてもおかしくないよとか、頭の片隅にわいてくるけど
気にしている余裕はなかった。
「一応、お土産も買ってきたんだよね……」
旅行鞄と一緒に下げていた菓子折りへと目を向ける。うちの近所で美味しいって評判の和菓子屋さんの
ものだ。
「――あれ? ルリ?」
「うーん。電気も点いているし車も車庫にあるし、おばさんはいると思う……」
うん? 聞いたことがある声が聞こえてくるような……。
そう。私がいつでも聞きたいと思う人のものだ。
――気のせい、だよね
たぶん、空耳だ。そのまま俯いたままで私は考え事に没頭していく。でも、何故なのか空耳は私を
解放してくれなくて。
「ルリ、ルリってば」
(さっきから何なのか知らないけど、ゴチャゴチャと……うるさい)
私があーでもないこーでもないと悩み続けているところを邪魔してくる。
正直、ウザくてイライラしてくる。
「あーっ、もうっ! さっきからなんなのよっ!?」
ダンッとアスファルトの地面を踏みつけて、苛立たしくキッとそこへ顔を向ける。はっきり言って
女の子のすることじゃないと思うけど、つい癇癪を爆発させてしまった。
――そこには、自転車から降りてキョトンとした表情の彼がいた。
言うまでもなく、私が会いに来た人。
自転車の籠の中には部活で使用しているらしい『西浦高校硬式野球部』と刺繍が施されたバッグが
入っている。
――うわっ、またカッコよくなってる
今では私が並んで立っても到底及ばないまでに伸びた身長。よく日に焼けた顔といい、凛々しい印象を
強く受けてしまって。
その、ドキドキが止まらないというか、自然と胸の鼓動が激しくなっていくのを感じる。
「ちょっ、レンレンなんで家の中にいないのよ……っ!?」
ああ、最悪だ。私。久々に会っての第一声がこれだなんて……。逆ギレなんかかましちゃって
どうするのよ……。
「うん。学校のグラウンドまで行って三年の皆と練習してたんだ」
「練習……?」
よかった。特に気を悪くしたってことはないみたい。いつもどおりのどこかのほほんとした受け答えだった。
以前だったら――そう、一年生のころの彼だったら私の剣幕に怯えてオドオドしちゃっていたと思う。
でも、今では決してそんなことはなくて。落ち着いた物腰ではっきりと応えてくれる。野球を通して
自信がついたってことなんだろう。
本音を言えば、その変化を間近で見守ることができなかったことが悔しい。
とりあえず、そのことは置いておいて頭に浮かんだ疑問を口にしていた。
「でもさ、夏の大会で引退しちゃったんじゃないの?」
「それはそうなんだけどさ。三年の皆は卒業後も進路先で野球を続けることになってるから。
田島君はドラフトで指名があるって話がきているんだ」
「田島……。ああ、四番の人?」
「うん、そう。他の皆も進学先とか就職先で野球をやることになっててね。だから、皆で集まって
自主トレしてるんだ。まあ、グラウンドをメインで使うのは下級生だから、
練習量自体はだいぶ少なくなったんだけどね」
そういえば夏の甲子園を終えたあとは、大学の野球部のセレクションを受験するって話だったっけ。
ということは、この話の流れだと合格してもう進路先を決めちゃったってことか。
「それよりも、ルリこそどうしたの?」
「えっ……」
ちょっと呆けていた――レンレンに見入っていた私は言葉が出てこなかった。
「なにか玄関先で騒がしいわねと思えば、ルリちゃんじゃないの」
家から出てきた尚江おばさんによって話は中断となった。
突然、自宅へと押しかけてきたにも関わらず、おばさんは私のことを嫌な素振りを全く見せずに
歓迎してくれた。
ちなみにレンレンは、練習が少し物足りなかったと言ってジャージに着替えてランニングへと
出かけてしまった。
そのまま事情(ウソ)を話した私はリビングへと通されて、おばさんと向かい合って座りお茶を
頂いていた。
お茶請けに出されたのは私が持参してきた和菓子。小皿に載ったようかんを食べながら温かい緑茶をすする。
確かに評判になるだけあって美味しい。少し寒ささえ感じていたためお茶がありがたくて、
まったりとそれらを楽しんでいた。
春と夏の甲子園で私が応援に駆けつけたことへと改めてお礼のことや、うち――三橋の実家の様子の
ことなどを聞かれて答えていっていた。
「――そうそう。ルリちゃん」
「はい?」
改めて神妙な顔をしたおばさん。思わず身構えてしまう。
「本当はなにか別のことがあって、今日は来たんでしょ?」
「えっ……たまたま友達と遊んだついでに寄っただけ……」
「おばさんが当ててあげる。ルリちゃん、廉のこと貰いにきてくれたんでしょ?」
のらりくらりとごまかそうと思ったけど、いきなり核心を突かれて咳き込んでしまっていた。手に持って
いた湯飲みを落としてしまいそうになったものの、どうにか踏み止まる。
それに、表現がちょっと……ストレートすぎるっていうか……。
「やっぱり。いくら仲が良いいとこ同士でも、お金が掛かる甲子園まで欠かさずに応援に来てくれる
わけがないわよね。県大会でも、夏休みに入ってからの終盤はうちに泊まってまでして来てくれたし。
廉に気がないとここまでしてくれないわよね」
「おばさんは反対じゃないの……?」
「うん? なにを反対するの?」
おばさんの口ぶりからだと、私がレンレンに好意を寄せていることはとっくにばれている。それと、
このことを肯定的に見てくれているようにも見える。
「だって、いとこ同士って気持ち悪いとか変に思う人も結構いるみたいだし……」
今更ながらに思うと、こういうしがらみが不安に思えてくる。そのため、私の言葉は尻すぼみに
小さくなっていく。
「別に気にすることはないんじゃないかしら。法的にも認められているわけだし、好きあっている
ふたりがくっ付くのは自然なことよ。むしろ、おばさんは大歓迎よ」
「レンレン、私のこと好きなの……?」
大きくひとつ頷かれる。
「ほら、廉は気が弱いというか消極的なところがあるでしょ。今でこそ昔ほどではないけどね。
野球部で活躍したことで相当もてるようになったらしいんだけど……。でもね、女の子からそういう
誘いを受けても逃げてばかりらしいのよ」
空になっていた湯飲みにお茶が注がれていく。私の分もお代わりをもらって頭をそっと下げる。
「あの子って人見知りしちゃうからね。その点、ルリちゃんは小学生のときからの付き合いで
お互いのことをよく知っている。前々からルリちゃんみたいなタイプの子がいいなって
考えていたのよ」
「私みたいな……?」
「消極的な廉には積極的にグイグイ引っ張っていってくれるルリちゃんがぴったりだってね。
大学に進学が決まったのはいいけど、いろいろと誘惑が多いでしょ。
大学はたくさんの地方から人が集まってくるから、世界が一気に広がるっていうかね。
それに東京だから、悪い女にでも引っかかったりはしないかって心配だったのよ」
(レンレン、東京の学校なんだ……)
話から彼の進学先が東京だということを初めて知った。
「まあ、そんなわけでね。おばさんはルリちゃんの味方ってわけよ」
「……ありがとう」
思いがけずに心強い人が味方となってくれたことで安堵した。それにこれはもう親公認ってことだし。
「そうだ。今日は泊まっていきなさい」
「えっ……?」
「そのつもりで来たんでしょ? 結構な荷物みたいだし」
ソファの脇に置いていた私の旅行バッグを指差しつつ、にこにこしながら一言。ここまできてようやく
理解できた。尚江おばさんは、おそらく、ずっと前からこの日が来るんだって考えていたんだなって。
素直に肯定して緊張しっぱなしだった肩から力を抜き、ソファの背もたれに身体を預けた。
ちょっと待っていてねと、席を立ちリビングから出ておばさんを見送る。思い出したようにして、
ちょっと冷めてしまったお茶を飲みつつお菓子をつつく。
(レンレンは私のことが好きって話は間違いないと思う。おばさんが嘘をつく理由が見当たらないし。
それなら今日はただ泊まって、昔意地悪しちゃってたことを謝って告白をしてそれで終わりに
しといたほうがいいかも)
――私から抱いてって迫ってドン引きされて、やっぱり付き合わないってなったらイヤだし
ずっと切羽詰っていた思考が落ち着いてきたように思う。のんびりしたところのある彼だから、
私たちの関係もゆっくりと進めていくほうが得策なのかもしれない。
ぼんやりと物思いに耽っていた私は、廊下からの足音でおばさんがいなくなっていたことを思い出した。
ギィっとドアが開いて再び入ってきたおばさんへと目を向ける。尚江おばさんは手になにかを
持っている。
綺麗な包装紙で丁寧にラッピングされたものだ。あまり大きなものではないみたいだった。
「はい、これ。おばさんからルリちゃんにプレゼント」
先ほどと同じ場所に腰を下ろして私の目の前にそれを置く。
「プレゼント……? なんだろ、開けていい?」
軽く頷かれたのを確認してガサガサと紙を剥がす。中から出てきたものは横に長い箱だった。
あまり重くはなく、振ってみても音は特にない。表側を見ただけではわからず、ひっくり返して裏側へと
目を向ける。
「……っ!!」
スキン、ゴム、コンドーム……。いろんな呼び方があるらしいけど、私が手にしていたのは正しくそれ。
避妊具だった。
『明るい家族計画の味方』って文字が、その……目に痛い。
私は、羞恥心とか好奇心とか様々なものが混ざってしまって、顔を赤くしたり青くしたりと忙しかった。
私の動揺っぷりを隠せない姿を目にしたおばさんは、相変わらずにこにこにこにこ……。
「いやね。好きあっている男の子と女の子……それもそういうことに興味津々なお年頃の高校生が
同じ屋根の下で一晩を共にするわけだから、間違いがあると思うのよ。むしろ、ないとおかしいかしら」
「…………」
「おばさんはしてはダメとは言わないわ。だって泊まっていきなさいって勧めたわけだしね。でも、
もし赤ちゃんできちゃったら困るでしょ? 廉もルリちゃんも高校生なんだから。ふたりをそそのかして
できちゃった結婚ってことになってしまったら今度こそ本当に勘当されちゃうからね」
できちゃった結婚――。具体的な言葉が出てきてトマトのように顔を赤くしてしまう。
「…………」
「それに、ルリちゃんは三星の跡継ぎなんだから、ちゃんと大学に進学して勉強しないとダメでしょ。
うちの子もせっかく内定した進学の話を無駄にするわけにはいかないから」
「う、うん……」
「そんな顔しなくても大丈夫よー。廉はルリちゃんの言うことはなんでも聞いてくれるから。
『つけて……』
って可愛く迫ればちゃんとしてくれるわよ」
――おばさん、そんなことに絶句しているわけじゃないです
「もしも渋ったりなんかしたら張り倒していいから。赤ちゃんができて一番困るのは女だからね。
女は自分で身を守らないと。最初が肝心だから、強く言ったほうがいいわよ。
まあ、ヤリ逃げなんて絶対にさせないから安心して」
(そ、そりゃ最初はそういうことするつもりで来たわけだけどっ。そういうことするのって夜遅くよ、ね?
ってことは、おじさんも帰ってきてるだろうし……。あーっ、おばさんやおじさんもいるのにできるの、
そーいうことが……っ!?
ロストヴァージンってめちゃくちゃ痛いっていうし、声……絶対出ちゃうよね? ううん。
我慢できるはずないよっ。だって好きな人と初エッチなんだよっ!?)
「さて」
ピンク色の妄想世界にトリップしていた私は、おばさんの声で意識をようやく取り戻した。
「せっかくだから今夜はお父さんと外食に行ってホテルにでも泊まってくるわね。安心して。
若いお二人さんのお邪魔はしないから」
「……っ!」
私の肩をポンっと叩いてきた尚江おばさんは、なんとも意地悪げに微笑んでいた。
こうして、引くに引けなくなり、私の運命は決まってしまった――。
(続く)
今回はこれまでとなります。お粗末さまでした。
えっと、待っていただいていた方がいたようですが、申し訳ないとしか言いようが
ありません。
色々と忙しかったもので二ヶ月ぶりの投下となりました。
今度はできるだけ早く来れるようにします。
次回で完結です。あと一回お付き合いください。
それでは失礼します。
お母さんイイ性格だなw
GJGJ!続き楽しみにしてるよー
うわあああ待ってた甲斐があったー!
続き楽しみにしてます!
レンとルリGJです!
続き楽しみにしています。
カプがかぶってますがレンルリ投下します。
前々スレくらいで投下したレンルリと地味に続いていますが、話自体は独立したものです。
プロローグとエピローグが泉視点、本編はルリ視点です。
注意書きは
・2年生設定
・三橋、阿部キャラ崩壊気味
・相変わらずエロがぬるい。けれど特にストーリーもない
というところでしょうか。
苦手な人はスルーよろしく。
「三橋ー、今日うちに泊まり来ねえ?すっげえいいビデオがあんだよ!」
「う、オ…、今日 は」
「なんだよー、またダメなの?彼女できてから付き合いわりーぞ!」
「えぅ」
田島の非難に三橋の目からはたちまち涙があふれそうになる。あーあ、ったく田島のヤツ。
今日は週に一度のミーティングの日だ。彼女持ちのヤツがこの日を逃す手はない。
「仕方ねーだろ。ただでさえ忙しんだから。これ以上ほっといたら三橋フラれちゃうぜ」
「まーなー、でもさ、遠距離なんだしどうせ電話するだけだろ?そういうのってかえって欲求不満になんねえ?」
田島の言葉に三橋は真っ赤になって何事かうめいた。
オレには解読不能のつぶやきにも田島は動じない。動じないどころか感じ入ったように相槌まで打っている。
「ああ…だよなあ、せっかく付き合ってるのにそれじゃツレーよな。」
田島は何事か考え込むように腕組みすると、突如ひらめいた!というように勢い良く面を上げた。
「じゃーさ、テレフォンセックスすればよくね?」
「テ…?」
「だからあ、電話でオナニーやりあいっこすんだよ!そんでセックスしてるつもりになんだよ!」
「おいっ!でけーよ!声があ」
それまで黙って聞いていた浜田が焦って突っ込みを入れる。
田島の恥じらいのなさには慣れている9組連中も今日ばかりはぎょっとしたようで、何人かがこちらを振り向いた。
そりゃそうだ、オナニーとテレフォンセックス(しかもクラスメートのだ)じゃ全然生々しさが違う。
大抵のことには動じないオレも今日ばかりは三橋に同情したくなった。
大体フツーのもまだのヤツがそんな応用ぽいことできんのか?
いや、できねーだろ。三橋口下手だし。
「田島、くだんねーこと」
田島をたしなめようと口を開いたオレが最後まで言わないうちに、常になくはっきりした声で三橋が言い放った。
「オ オレ、や やってみる よ!」
へ?
三橋、今なんつった?
思わず三橋を見るとやけにキラキラした目で田島を見つめている。
ええ?て、マジかよ?
「田島君 は スゴイ、な!」
「そーか!スゴイか!よし、家でちょっとベンキョーしてけよ!」
「うん!オレベンキョーする よ!」
ああ…マジ、だな。だめだ、こりゃあ。
三橋はやると言ったらやる。それはオレ達が一番良く知っている。
オレは三橋の従妹の顔をちらりと思い浮かべた。
なんつーか、色んなことに慣れてなさそうな初々しい感じの子だったよな。
かわいそーに、とは思うけどこうなったらオレには止めらんねえ。
それに、4種類の変化球を独学でマスターした三橋のことだ。
もしかしたらすっげえ良いってこともあるかもしれねーよな。
59 :
レンルリ 本編:2007/11/24(土) 23:44:19 ID:WJJ7MzhV
ルリは、携帯電話を弄びながら廉に電話をかけようか逡巡していた。
今日は週に一度の野球部のミーティングの日。
いつの間にかこの日に電話をかけるのが二人の暗黙の了解になっている。
レンレン、もう帰ってるよね。
時刻は9時。廉はもう食事もシャワーも済ませている頃だろう。
でも…
携帯を開いてきっちり一週間ごとに並ぶ廉からの着信の記録を確かめる。
やっぱりかかってくるまで待とう。
ルリは携帯をベッドにほうると、自らもベッドに倒れこんで枕をぎゅっと抱きしめた。
電話をかけてきてほしいのは不安があるからだ。
群馬と埼玉と距離がある上、廉は練習で忙しく土日も二人きりでは会えない。
しかも、2年生ながらエースとして活躍する廉に好意を寄せている女子も多いときている。
電話を待つことで、廉の生活の中に自分がいることを確認したかった。
恋人同士、と言える関係になって2ヶ月が過ぎたけれど二人の間に特別な進展はない。
夏大が終わったら三橋の家の別荘に遊びに行こうという約束は折に触れて二人の言葉に上るけれど、変わったことといえば、その時のほんの少しぎこちない空気だけ。
電話をかけてくるのは廉であっても、ルリが一方的に話をして質問をして廉はそれに答えるだけ、というのは以前と変わらなかった。
二人きりで会えたらなあ…
廉のベッドで初めて抱き合った時の、甘い胸の震えを思い出してルリはため息をつく。
レンレンのバカ。ああいう時ばっかり積極的なんだから。
でも、嬉しかったのだ。自分を求める廉の真剣な瞳。あの瞳に魅入られてそのまま流されてしまえば良かった、と離れてしまってからたくさん後悔した。
私が泣かなければ最後までしちゃってたかな?
でも、廉は止めてくれた。そういうところ、とルリは思う。欲しいものをひたむきに必死に求めるのに、その貪欲さと同じくらいに優しくて弱いところ。
ルリは廉のそういうところが一番好きだった。
でも、時々物足りないみたい。
もっと、あの貪欲さを自分に向けてくれたらいいのに。
抱きしめられると見かけよりずっと大きい肩や、投球で鍛えられたたくましい腕、そしてあのまっすぐ射抜くように見つめてくる瞳。そういうもので私をがんじがらめにしてくれればいいのに。私はきっと、逃げないのに。
きっとレンレンにはわからないんだろうな。
ルリがどれほど廉を求めているか、卑屈で弱気な彼には想像すらできないに違いない。3年間を同じ家で暮らしたルリにはそのことがわかり過ぎるほどわかるのだった。
私がもっと素直に、言葉に出せばいいんだよね。
とはいえ、長年続いてきた姉弟的関係におけるポジションを崩すのは容易ではない。
長い間「姉」として接してきたからこそ、素直に恋情を表現することには気恥ずかしさと、ほんの少しの恐怖があった。
けれど、このまま何も進展しないのはじれったい。
今日はほんの少しだけ勇気を出してみよう…かな?
60 :
レンルリ 本編:2007/11/24(土) 23:45:09 ID:WJJ7MzhV
プルルルルルルッ
ルリは慌てて体を起こした。今しがた考えていたことのせいか、ほんの少し緊張する。ディスプレイを確かめるとやはり廉からだった。今日は素直になる!と心の中で念じてから通話ボタンを押す。
「ルリ、寝て た?」
「起きてたよ。どうして?」
「出るの、遅かった から」
ルリはぎくりとしたが慌てて言いつくろった。
「ベッドの上でぼーっとしてたら、携帯がどこにあるかわかんなくなっちゃって。ごめんね?」
「う ううん、い、いい、いまもベッドの上?」
普段、ルリに対してはそれほどでもないどもりがひどい。ルリはいぶかしく思ってたずねた。
「レンレンなんか変じゃない?」
「えええ!そ そんなこと、ない よ!い 今もベッドにいる?」
「いるけど…なんでそんなこと何度も聞くのよ」
「え…ど、どうしてるかな、と思って」
「ふうん?」
明らかに挙動不審ではあるが、いつもルリが話すのを待っているばかりの廉が質問をしてくるのは単純に嬉しい。
「レンレンは何してたの?」
「オ レもベッドにいる よ。そいで、ルリのこと 考えてた」
「え…っ」
ルリは思わず言葉を失った。
どうしたというのだろう。
こんなことを言ってくれるなんて、廉じゃなくて普通の付き合いなれてる男の子みたいだ。
もしかして廉も少しはこの関係を進展させたいとか思っているのだろうか。期待と戸惑いがルリの胸に湧いてくる。
「ルリ、」
「な、なに?」
常になくきっぱりと名を呼ばれて、どぎまぎしてどもってしまった。なんだか立場が逆転している気がする。
「今…どんな 格好?」
「え、え?」
「ふ 服、とか」
「えっと、白いワンピース。前遊びに行ったときと同じの」
自分の服を見下ろしたルリは下着までもがあの日と同じものであることに気づいて顔を赤らめた。電話とはいえ廉とつながった空間であの日のことを思い出すのはひどく恥ずかしい。胸に手を当てると心臓の脈動をはっきりと感じた。
61 :
レンルリ 本編:2007/11/24(土) 23:48:14 ID:WJJ7MzhV
「…どうして?」
「え、ええ?と、そ、想像したいから、だ よ」
「想像?」
「そばにいる、みたいに したい、んだ」
「…今?私のこと想像してる?」
「う うん。目、つむって思い 出してる。あ、あのあの、ときルリ可愛かった…!」
服もにあ、似合ってた し。
ルリは枕にぎゅっとしがみついて、熱くなった頬をシーツに押し当てた。
廉は今あの夜のことを思い返してるだろうか?ルリが今そうしているように。
リネンのひんやりした感触が自らの熱を暴いているようでいたたまれない、と思うのに、そうであればいいと願う気持ちは誤魔化しようのないものだった。
「もっと…言って?」
「え」
自分でも聞いたことのない熱に浮かされたような声。
今までずっとしっかり者の姉然としてきたのにこんな声を廉に聞かせてしまう自分が強烈に恥ずかしい。
けど、この声を廉に聞いて欲しいという欲望のほうが本当はずっと大きいのだ、と今ではもうルリにもわかっていた。
そして、同じだけの熱でこたえてほしい。
「…服、可愛かった よ?」
「…なんで疑問系なのよ?」
「ごっ、ごごごめっ」
「怒ってないってば」
くすくす笑いながらルリが応じると、電話口で廉も笑った気配がした。
62 :
レンルリ 本編:2007/11/24(土) 23:48:57 ID:WJJ7MzhV
「髪が ね、あのとき、」
あのとき、という言葉にドキンとする。
「すごく綺麗 だった。シーツ、白くて ルリの髪は黒い から」
「オレ…触りたく て、」
ルリはあの夜のことを思い返す。廉はルリの髪に触れただろうか?多分、そうする前にルリは泣き出してしまったような気がする。
「レンレン、」
「ん」
「触って…いいよ?」
「触る よ。」
次、会えたとき、とルリは続けようとしたが、廉によってそれは遮られてしまった。
珍しい断定口調。本当に今にも廉の手が伸びてきそうでドキドキする。あの大きな手で髪を撫でられたらどんな気持ちになるだろう。
「なんか今日…いつもと違うね?レンレンぽくないよ〜」
妄想を追い払いたくてからかうような調子の声を出したのに、廉が突きつけた現実はルリの予想を遙かに超えるものだった。
「だって、会いたい んだ。もう我慢できない よ。ルリ、」
「な、なに?」
「抱かして。今、すぐ」
抱きたい、と。いつになく低い声で廉はささやいた。
63 :
レンルリ 本編:2007/11/24(土) 23:49:31 ID:WJJ7MzhV
その声は体の芯に直接響いてくるような強さを持っていた。
腰の奥がジンと痺れて、何か、あたたかいものがとろりと体の奥のほうから流れてくるような甘い感覚がある。声だけでこんなになってしまうのに本当に抱かれたらどうなってしまうかわからない。
本当に、抱かれたら。
あの強い瞳に見下ろされて、あの日のように腕を押さえつけれて。
足を開いて廉を受け入れる自分の姿を想像したら一瞬にして体温が跳ね上がった。
「レンレン、あつい…」
廉がおかしなことを言うせいだと暗に非難を込めたルリの言葉は。
「オレ も、あつい よ?」とあっさりと流されてしまう。
ルリが口を噤んだので廉は焦ったように「い、いや だった?」と聞いてきた。
もちろん嫌ではない。けれど嫌ではない、と伝えるのは嫌なのだった。言いがたいことを真正面からたずねてくる廉をうらめしく思いつつ、ここは流してしまおう、とルリは決意する。
「いやも何も電話じゃない。今すぐとか無理だよ」
「ムリ じゃ ない!できる よ!」
ダイジョブ。オレ、ベンキョーした!と力強く宣告され、ルリは眩暈を覚えた。先程までの甘い気持ちは衝撃の一言のせいでどこかにすっ飛んでしまっていた。
「ちょっと!変なことベンキョーしないでよ!レンレンのくせにっ」
「レ、レンレンてゆーな!そそそれにっ、オ レはっ、好き、だから!」
ル リは、ちちちが うの、と言われてルリはぐっと言葉に詰まった。
64 :
レンルリ 本編:2007/11/24(土) 23:50:12 ID:WJJ7MzhV
「バカ、レンレン」
「へぁっ」
「好きに決まってるでしょ。私だって会いたいよ!大体レンレンがいっつも忙しいから会いたくっても我慢してるんじゃない!」
一息に言ってしまってから後悔する。ルリだって野球を頑張ってることを責めたいわけじゃない。レンレン怒っちゃうかも、というルリの心配はしかし杞憂に終わった。
「ルリ、あ、会いたい?」
少しはずむようなうきうきした声に拍子抜けする。
「えと、オ オレに」
「当たり前でしょ。他に誰がいるのよ」
「じゃ、目つむって」
「へ?」
「ダイジョブ、あ、会える よ!」
これは。
もしかして。
さっき言ってた「ベンキョー」の成果がいま試されようとしちゃっているのだろうか。
ルリがぐるぐるしていると、「目、つむった?」と容赦なく廉が確認してくる。ここから逃げ出したかったが、先程の廉の好きだから、という台詞が思いだされて少しだけなら付き合ってあげてもいいかも、などと考え始めてしまっていた。
「…つむったわよ」
本当はつむっていなかったけれど、とりあえずそう返してみる。
「オレ も、つむったよ。」
「そう」としか言いようがない。
「ルリのこと、思い出してる」
「…」
「ルリ と、キス したときのこと」
「…」
「ルリの口、小さいのにやわらかくて。オレ、び、びっくりし た」
「…」
「舌入れた ときっ、オレ、止まんなくて。最初はびっくりして したけど、ルリも途中からオ」
「レンレンっ」
「な、なに?」
「あんまり変なこと思い出させないでよっ」
「へ、変じゃないっ よ!ル、ルリは 忘れてたの」
「…忘れるわけないじゃない」
「よ、良かっ た!」
恥ずかしさは限界に達していたが、廉の無邪気な喜びようを見ると、ルリはそれ以上強い態度に出るわけにもいかず、仕方なく廉の次の言葉を待った。
65 :
レンルリ 本編:2007/11/24(土) 23:50:45 ID:WJJ7MzhV
「ルリ は、良かった?」
「え?」
「キス、気持ち 良かった?」
「そんなの見てたらわかるでしょ」
「う」
「だから!覚えてるんならわかるでしょ!?」
「あ、あの とき、ルリ濡れてた よね?」
レンレンっ、それは本人に確かめるようなことなの!?
ルリは真っ赤になってわなわな震えながらもどうにかこうにか答えを紡いだ。
「そんなのわかんないわよ。ほ、他に経験とか、ないしっ。じ、自分ではさわってないもん!」
「う、そっか。だ、だいじょぶ。ちゃんと濡れてた よ?」
わかってるなら聞くな!と思ったが何を言っても予想外の反応が返ってきそうで言葉が出てこない。
「い、今は」
嫌な予感。
「濡れてる?」
ルリは現実に耐え切れなくてついに目をつむった。結局、廉の思い通りに。
66 :
レンルリ 本編:2007/11/24(土) 23:51:16 ID:WJJ7MzhV
「…わからない。言ったでしょ。自分じゃわからないって」
それは本当だった。ルリは廉以前に付き合ったことがなかったし、自分でその部分に触れたこともなかった。
「た、確かめて みて」
「絶対いや。自分でそんなことしたくない」
「大丈夫。する のはオレ だよ。目、つむってる?」
「…うん」
「思い 出して」
そう言われて脳裏に浮かぶのはあの夜の記憶だ。首筋にしがみついた時、男の人の匂いがした。帰ってきてから何度も切なく反芻した感触。
「思い出した?」
「…ん」
「服 はそのままでいい、から…下着 とって」
「え」
「前脱がせられなかった から、」
「…見てもつまんないよ。私胸ないし、寸胴だし」
「なくて いいよ…下着の隙間から触れるし」
そう、確かあの日はブラジャーは外さないで、その隙間から廉に胸を舐められたのだ。ルリの胸は小さいからそれでも簡単に乳首に舌が届いて、かたくなったそれを廉の暖かい口腔に包まれたときの痺れるような感覚が唐突によみがえる。
「また、見せて。今度は全部 脱いで」
「いや、恥ずかしい…」
自分の昂ぶりが恥ずかしくて、ささやくようなほんの小さな声しか出せない。
「ルリ…可愛い、」
心なしか廉の声も少し上ずっているような気がする。
ルリは耐え切れなくなって、背をわずかに浮かせてブラジャーを外した。
67 :
レンルリ 本編:2007/11/24(土) 23:51:52 ID:WJJ7MzhV
「レンレン、えっと、外したよ?」
恥ずかしいので何を、とは言わない。
「ん、ルリ、触っていい?」
「…いいよ」
そう言ってルリはこわごわ自分の胸に触れた。目はかたく閉じたまま、柔らかい生地のワンピースの上から指先でそっと乳首の先を撫でる。
「んっ」
思わず声が漏れてしまって、ルリは泣きたくなった。廉の息を呑むような音が電話越しに聞こえる。こんなことをしてレンレンに淫乱だと思われたらどうしよう。
「もういや、レンレン。恥ずかしい…」
「オ レも、恥ずかしい よ」
「本当?」
「本当、だよ。まだ、やめたくない」
きっぱり言い切られて少し安心する。レンレンも同じような状態になっているのかな。
だったらいいのに、とぼんやりした頭で思う。
「下も、脱いだ?」
「ま、まだ」
「…脱いで。もう、おっきくなってる から」
「っ!レンレ…」
「早く…入れ たい」
ルリ、好き、と言われて。もう何でもいいから廉と一つになりたい。恥ずかしくてもいいから、全部見せてしまいたい、とルリはショーツを震える指で脱ぎ捨てた。勇気を振り絞って電話口に告げる。
「レンレン、脱いだ よ」
「ん、濡れ てる?」
「確かめなきゃ、ダメ?」
「濡れてない と、入らない から」
「わ、わかった」
おそるおそる足の間に指を這わせると、ぬるり、と指が滑ってルリは息を呑んだ。
「…どう?」
「大丈夫、みたい」
直接的な言葉を言うのは恥ずかしくてルリは曖昧に告げる。廉はそれ以上追求せず、触って、とルリを促した。
68 :
レンルリ 本編:2007/11/24(土) 23:53:54 ID:WJJ7MzhV
「ど、どうやって触ればいいの?」
「襞が あるから。その間を上下に 撫で上げて。」
ルリは言われた通りに割れ目に沿って指を動かしてみた。途端、今まで感じたことのない甘い痺れを感じて声が出ないようにきゅっと息を止めた。それを繰り返すと自然と苦しくなってハアハアと息が弾む。
「それ から、入り口の上に小さなボタンみたいのがある から、さわって」
息を抑えたまま、指で言われるままに“ボタン”を探す。探り当てたそれを指先で擦るようにすると、電流が駆け抜けるような強い快楽が訪れ、ルリは思わず声をあげた。
「ルリ、気持ち い?も、入れて い?」
廉の息遣いも荒くなっている。答えなければ、と思うのに息が苦しくて恥ずかしくて、言葉が出てこない。やっとの思い出で「ん」と返すと、「入れる よ」と乱れた息の隙間から廉が言うのが聞こえた。
指を動かしていると、断続的に強い快楽が訪れ、その強い刺激に耐えているうち、ルリの中に訳のわからないおそれが生まれてくる。
このままだとどうにかなってしまいそうで怖い。一人でそこにいきたくない。いや!レンレン、レンレン来て!
ルリが廉の名前を叫びかけたとき、廉が「ルリ!」と感極まったように名前を呼んだ。それと同時に体がふわりと浮くような感覚が訪れ、ルリは自分が達したことを知った。
69 :
レンルリ 本編:2007/11/24(土) 23:54:37 ID:WJJ7MzhV
肩を弾ませながら起き上がると、真っ赤になって涙に濡れた自分の顔が鏡に映るのが見えた。それを見てさらに赤くなったルリは「レンレンのバカ!」と思わず叫ぶ。
次、会ったときどんな顔すればいいのよ!?
ていうかこれからどうしよう!?
そう思って携帯を見ると、先程の衝撃で切ってしまっていたらしく、今の呟きは聞かれていなかったとわかった。掛けなおそうか逡巡していると、着信音とともに携帯が震えて、ルリは慌てて通話ボタンを押した。
「ルリ、だ、大丈夫?」
「…何が?」
「え?だ、だって さっき イ」
「わ――――――――!」
先を言わせないよう全力で叫ぶ。
「レンレン、今のなし!忘れて!わかった!?」
「え、や、やだ。ムリ」
「忘れないなら別れるわよ」
「えっ!?や やだ」
「だったら忘れて!わかった?」
「うう…い、いや だ!」
何この頑固者。何でうんって言わないのよ!
「だ、だって!う 嬉しい から。わ、忘れたくない よ」
「…」
「ルリ、好き。会いたい」
「…私だって会いたいわよ」
「そいでちゃんと したい」
「私だって…」と言いかけてはっとする。私、こんなに口下手な男の口車にまんまと乗せられちゃってる!
今日の私、レンレンに振り回されすぎだ。
野球に対する執着心が尋常じゃないのは知っていたけれど、それは人にも発揮されるものだったらしい。けれども、その対象が自分であることが嬉しい、と心のどこかで感じてしまっていて、ルリは末期かも、と小さく呟いた。
朝練が終わって部室に入ると田島と三橋が何やら話し込んでいた。
昨日うまくいったのかな。
自分の下世話な好奇心に半ばうんざりしつつ、二人の会話に耳を傾ける。
「そっか〜。でもやっぱ阿部ってすごいな!」
「う うん!阿部くんはすごい よ」
阿部?何で阿部。
そういや昨日阿部も一緒に田島ん家に行ったんだっけか。阿部もベンキョウ会に参加したんかな。意外だな、と思っていると当の阿部が入ってきた。
それに気づいた三橋が一目散に阿部の元に駆けていく。
「あ、べくん!あ、あの昨日は」
「おー、どうだった?うまくいったか」
「う うん、阿部くんの言うとおりだった よ」
「そっか。てかおまえ割と記憶力いいんじゃん。相手校のデータもあれくらい飲み込み良きゃいいのに」
「へへっ」
「笑って誤魔化すんじゃねえよ」
会話から推察するに昨日のセンセイは主に阿部がつとめたようだ。なんか納得。阿部って言葉で女を追い詰めるのとか異様にうまそうだ。綿密にデータ収集して相手の弱点を突くプレイ。自分の想像にげんなりする。得意げな阿部がはっきり言ってキモい。
でも三橋はそうは思わないみたいだ。
「阿部くんはスゴイよね!」
「オレはいつもやりたいと思ってて…たけど」
「いっつも全然ダメ で、」
「だ、だからっ、あ ありがとう、阿部くん」
純粋な感謝の言葉が次々と繰り出される。阿部もさすがに恥ずかしいらしく「いや、おまえの力だよ」とかなんとか謙遜めいたことをつぶやいている。
そこでひときわ大きく三橋の声が響いた。
「そ、そんなこと ない。阿部くんはスゴイ ひとだ!だ、だって彼女 いたことない のに!」
朝の和やかな空気がピシリと音を立てて固まり、その3秒後阿部のウメボシが発動したのは言うまでもない。
71 :
レンルリ:2007/11/25(日) 00:02:06 ID:LSug+9Cs
投下終わりです。
連載の続きが来るまでの暇つぶしにでもしていただけたら幸いです。
阿部ファンの方で不快になった人がいたらごめんなさい。
GJ!
ほのぼのなのにエロくて良かった!
阿部の妄想力に乾杯ww
レンルリかわいくて大好きだ
GJでした!次回作お待ちしてますb
GJGJ!おもしろかった
また続きを書いてくれると嬉しい!
ぐぐぐぐ G J !!
じわじわ追い詰められていくルリがエロすぐるw
別荘編、超期待してます!
レンルリGJGJ!
ラスト2行目で吹いた=3
前スレ書けなくなっちゃった・・・
読めなくなったの間違い
79 :
名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 16:49:14 ID:wutZpwBP
GJ!
レンルリ癒されましたー
次回作の投下待ってます!
>74、>75
ありがとうございます。
続きは今のとこ考えてないけどこの二人が好きなんでまた何か思いついたら書きたいです。
前誰かが言ってたお見合いネタとかもいいですね。
>76
どうも阿部はネタキャラに見えてしまって。
格好良い阿部でアベモモとか読みたいな〜。
そろそろ落ちる頃合だったけど昨夜に圧縮があったみたいだからな
それで逝ってしまったと・・・
とりあえずマターリと行きましょ
結局誰も保管庫作ってないんだっけ?
以前誰かが言ってた「保管庫ないと廃れる」は本当か?
どうだろうね
以前と比較すると過疎ってきたと思うけど、鳥つけた職人さんが定期的に
やってきてくれるし、レンルリ職人さんみたいに続きを書いて来てくれる人もいるから
一概にそうとは言えないのではないかと
個人的にだけど、細々と平和にマターリとやっていく今の空気は悪くないっていうか、好きだ
そりゃ保管庫欲しいかって聞かれたら欲しいけどね
下手に賑わってもアレだし9巻が出ればそれなりにくるのでは?
今はとりあえずマターリ職人を待ちましょうや
前スレにもあったけど、阿部の誕生日とかクリスマスとかに
合わせて増えると良いな。
新しい職人様も嬉しいけど、書いた方がその気があれば、
過去の作品で続けられるモノとかの12月バージョンが読みたい。
小ネタとか、エロいタジチヨ、イズチヨとか
今日泉の誕生日だぞ。職人こないかな・・・。
そうかすっかり忘れてたぜ
泉SS来るといいな
過疎ってると投下しづらいと書き手スレで言われてたぞ
携帯からだから読みにくいやも。
「篠岡。今日は何の日か知ってる?」
「あ、泉君。ふふっ大丈夫!私マネジだからちゃんと知ってるよー!!泉君!お誕生日おめでとう!!」
「…ありがと。でも他にもあるんだけど。」
「えっ他!?誰か誕生日だった!?」
「ううん。ただ、“いい服の日”ってだけ。」
「なんだ〜びっくりしちゃった。そっかぁ、“いい服の日”かぁ。」
「…うん、だからさ。はい。」
「?これ私に?普通は私があげるんじゃ…」
袋の中身を見てみる篠岡。中にはメイド服、バニーガール、ナースの衣装が…。
「い、泉君?」
「今日俺の誕生日でいい服の日だから。」
「う、うん?」
「 着 て く れ る よ ね」
「!!」
篠岡さんは色んな格好で泉君の要望(半ば強制的)に答えたそうです。
ギリギリ間に合わなかった。おめでとう。変態にしてごめんなさい。
携帯からだから読みにくいやも。
「篠岡。今日は何の日か知ってる?」
「あ、泉君。ふふっ大丈夫!私マネジだからちゃんと知ってるよー!!泉君!お誕生日おめでとう!!」
「…ありがと。でも他にもあるんだけど。」
「えっ他!?誰か誕生日だった!?」
「ううん。ただ、“いい服の日”ってだけ。」
「なんだ〜びっくりしちゃった。そっかぁ、“いい服の日”かぁ。」
「…うん、だからさ。はい。」
「?これ私に?普通は私があげるんじゃ…」
袋の中身を見てみる篠岡。中にはメイド服、バニーガール、ナースの衣装が…。
「い、泉君?」
「今日俺の誕生日でいい服の日だから。」
「う、うん?」
「 着 て く れ る よ ね」
「!!」
篠岡さんは色んな格好で泉君の要望(半ば強制的)に答えたそうです。
ギリギリ間に合わなかった。おめでとう。変態にしてごめんなさい。
2連続スミマセン
着る話も素敵に萌えるが、
脱がせる話はもっと萌えます、神よ!
エロパロだもの、変態は望むところ
端折られた泉君の要望とはなんぞ
前スレで成人の日の大学生イズチヨSSを投下したものです。
後日談として続編を投下します。
注意事項は
・高校卒業後、泉と篠岡は同じ大学に進学。
・泉は理系、篠岡は文系の学部のため、キャンパスは別。
・大学でも泉は野球部に所属、篠岡も同部のマネージャーとして所属。
・泉は大学近くに一人暮らし。
・成人の日から泉と篠岡は順調に交際を続け、本SSはその日より半年経った夏の話。
・バカップル上等
・以上、全てが妄想による捏造で、季節はずれのSSとなっております。
苦手な方はゲンミツにスルーの程、よろしくお願いします。
95 :
イズチヨ:2007/11/30(金) 19:36:35 ID:2HJj7Fz1
篠岡はケータイ片手に少し不安になっていた。泉と連絡がつかない。
学生で賑わう昼休みのキャンパスをのろのろ歩く。
午後の講義が休講になったので、篠岡は思いつきで泉が通う理系キャンパスに来てしまった。
不意打ちで驚かそうと悪戯心半分、泉の部活以外の大学生活を知りたいという好奇心が半分。
部活が休みの今日、会う約束はしていない。
泉から渡されている時間割によると、三限目は泉は空き時間のはずだ。
四限目が始まるまで一緒にいて、泉の講義が終わったら泉の部屋で夕食を作ろうと
篠岡は漠然と思い描いていた。
しかし泉がつかまらないのでは元も子もない。
とりあえず泉が根城としている研究室に行ってみようと思い、
初夏の昼下がりの射るような日差しの中、篠岡は初見のキャンパスを彷徨い歩いた。
泉から電話もメールの返信もないまま、キャンパス敷地内にある校舎の案内図を頼りに
ようやく研究室棟まで辿り着いたときには、昼休みがとうに終わっていた。
入口にある部屋の案内図で場所を確認し、泉の所属する研究室のドアの前に立つ。
中から話し声が聞こえた。篠岡はほうっと安堵のため息をついてドアをノックした。
「はあい」と中から間延びした返事が聞こえて、ドアが開いた。僅かに緊張が走る。
「うおっと、オンナかよ!」
ドアから出てきたのは白衣姿の男、肌蹴た白衣の下はトランクス一枚だった。
「きゃっ・・・!」
思わず篠岡は後ずさりする。
部屋にいた白衣姿の男衆がなんだなんだとわらわらとドアに群がる。
揃いも揃って白衣の下はトランクス一枚という変態集団であった。
「!!!!」
突然の色とりどりのトランクス襲撃に、篠岡は手で顔を覆うことも忘れ、廊下の壁に手をついた。
「・・・篠岡!?」
男衆の中に泉がいた。赤いトランクスだった。
96 :
イズチヨ:2007/11/30(金) 19:38:54 ID:2HJj7Fz1
「オレんとこのゼミはヤローしかいなくてさー、最近研究室の冷房が壊れちゃって
暑くて我慢できねーって」
慌てて着衣した泉は、その男衆の好奇の目に晒されている篠岡を校舎外に連れ出し
木陰になっているベンチに今もなお混乱している篠岡を座らせた。
「実験多いし、なんかあのカッコが定着されてるっつーか、でも実験中は薬品も使うし
危ないから服着てるんだけど」
「・・・あの格好で外、出歩いてないよね?」
泉の抗弁をぴしゃりと切って篠岡は鋭く聞いた。
「ったりめーだ」
短く答えて泉もベンチに腰を下ろした。
実のところ、購買への買い出し程度は白衣の前を留めてそのまま行ってしまうのだが、
事態が急速に悪化しそうなので黙っていた。
「つーかなんでここにいんの?学校、今日あるだろ」
「午後休講になったの・・・電話もメールもしたけど、連絡ないんだもん」
「あ、ごめん。朝からロッカーの鞄の中だ、ケータイ」
「・・・わたしも突然きちゃって、ごめんなさい。あの、会いたくて・・・」
篠岡は顔を上げて、泉の瞳を覗き込んだ。
泉は衝動的に篠岡を抱きしめたくなったが、ぐっと堪えて手だけ握った。
この素直で可愛らしい彼女を独り占めしたい、という衝動が公衆の面前で湧き上がるときは
泉は決まって篠岡の手をぎゅっと握ることにしていた。
「オレ四限あるから、先、部屋行ってて。合鍵持ってるだろ?」
篠岡の手が一瞬ぐっと強張った。
「鍵もらってから使うの、今日がはじめて」
頬が赤くなり、篠岡は泉から視線を外した。
「夕飯の買い出しは一緒に行こうな」
泉は握った手を解き、篠岡の頭を撫でて立ち上がった。
「気をつけて帰れよ」
校舎に戻る泉の後ろ姿は凛としていたが、顔は耳まで赤く、見送る篠岡の頬もさらに赤く染まった。
97 :
イズチヨ:2007/11/30(金) 19:40:36 ID:2HJj7Fz1
篠岡はきょろきょろ辺りを確認し、素早く鍵を開けて泉の部屋に入った。
部屋はむんむんと蒸し暑く、泉の匂いがした。
ヴェランダに続く窓を開けると、夏の風がゆっくり入ってくる。
1Kの部屋を見渡す。相変わらず物が少なく小ざっぱりと片付いている。
机の上には参考書が開きっぱなしで飲みかけのグラスがある。
フローリングの上に直に積まれた参考書、雑誌。
ベッドは朝起きたままの姿だった。取り込んだままの洗濯物がベッドの壁際に追いやられている。
キッチンは自炊している気配がなくきれいだった。
冷蔵庫の中にはペットボトルのウーロン茶と缶ビールが5本、マヨネーズ等の調味料のみ。
喉の渇きを覚え、少し迷って缶ビールを手に取った。
篠岡はベッドに腰を下ろすと、ぷしっと缶ビールを開けて、飲みながら洗濯物を畳みはじめた。
タオル、下着、靴下、野球の練習着・・・全部一緒に洗っていたらちょっといやだな、と思い
ふと手を止めた。白衣が出てきた。
ハンガーに吊るしてみる。先ほどの泉の白衣姿を思い出す。
白衣の肌蹴た隙間から見えた、厚い胸板と見事に割れている腹筋。割れ目をつたう汗。
白衣と相俟って背徳的な独特の色気があった。
篠岡の下半身が疼く。
ハンガーから白衣を取り、そっと胸に抱いてベッドに横になる。
白衣からは薬品の匂いはせず、洗剤のいい香りと泉の匂いが鼻腔をくすぐった。
中心が熱く湿ってきて、篠岡はそこに右手を伸ばそうとしたが途中で止めた。
「・・・早く帰ってこないかなあ・・・」
ビールの酔いもあってか、篠岡は目を閉じると静かに寝息を立てはじめた。
98 :
イズチヨ:2007/11/30(金) 19:43:20 ID:2HJj7Fz1
「ただいま」
玄関から声が聞こえた。
篠岡が目を覚ますと、風にそよぐレースのカーテンから強烈な西日が射していた。
泉は鞄を椅子の上に置き、ベッドに横たわる篠岡を見下ろし、眩しそうに目を細めた。
「あ、おかえりなさい」
むくっと篠岡は身を起した。頭がぼうっとして、寝汗をたくさん掻いていた。
「すげー汗だな。ビール飲んだんだ」
泉は床に置かれた空の缶を手に取った。
「冷房つけなかったのか」
缶を机の上に置き、ベッドに腰掛け、汗で額に張り付いた篠岡の前髪を掬い上げた。
「洗濯物畳んでて、そのまま寝ちゃったみたい」
「オレの白衣を抱き枕にして?」
篠岡が目を落とすと傍らには皺くちゃの白衣があった。
「あ、これは・・・」
篠岡が慌てて言いかけた途端、泉はTシャツとジーパンを手早く脱ぎ捨てた。
トランクス一枚で篠岡を胸に抱き寄せ、ベッドにごろんと横になった。
篠岡の下腹部に泉の硬いモノが当たる。
「なあ。なんかソーゾーした?」
「・・・」
泉は意地悪そうな笑みを浮かべて耳元で囁いた。
びくんと篠岡が反応した。
「・・・なんか、昼間見たとき、お医者さんに見えた」
一呼吸おいて泉が吹き出した。
「下、ハダカだったぜ」
泉は篠岡のうなじに唇を落とした。背筋にぴりっと快感が走った。
「うん、変態医師」
泉はひとしきり笑ったあとで、優しく聞いた。
「で、思い出して、ひとりでやった?」
「・・・してないよ。・・・待ってた」
その答えに泉の体中の血が一点に集まり、ますます硬さを増した。
泉は立ち上がって、皺くちゃの白衣を羽織り、トランクスも脱ぎ捨てた。
篠岡に覆い被さり、右手で篠岡が既にたっぷり濡れているのを確かめた。
「じゃ、診察してやるよ」
とニッと笑い、そのまま深く口付けた。
99 :
イズチヨ:2007/11/30(金) 19:44:52 ID:2HJj7Fz1
舌がお互いの口腔を激しく弄り合った。
篠岡は泉から与えられるまま快楽に溺れ、それに負けじと応えるのに夢中で
泉の舌が篠岡の口を離れたときにはじめて、篠岡はすっかり服も下着も脱がされていた
ことに気付いた。
泉は舌で篠岡の唇を丁寧になぞり、そのまま陸続きと言わんばかりに顎、首、鎖骨にまで
舌を這わせた。
泉の舌は篠岡の右の丘の頂に達し、緩急つけて舐め上げた。
泉の左手は篠岡の左の丘を揉みしだき、中指と薬指の第二関節でその頂を捏ねまわした。
泉の右手は篠岡の中心にあり、親指の腹でぬるぬると粒の肥大化を誘い、中指で柔らかく
篠岡の中を掻きまぜた。ぎゅうぎゅうと泉の指を締め付け、篠岡が敏感に応える。
押し寄せる幾度の快感に、篠岡は背中を仰け反らせ、立てた両膝をがくがく震わせ、
直ぐにでも手放したい理性に必死にしがみついた。
篠岡は泉自身を両手で包み込んだ。
泉の動きが止まった隙を突いて身を起し、泉をゆっくり押し倒し、それを口に咥えた。
白衣姿の泉を西日が照らしている。
吐息が漏れ、顔を歪ませている色っぽい泉を上目遣いに見やり、篠岡は満足した。
どくどくと泉のモノが波打ち、口の中で蠢く。
迸る先走りを丁寧に舌で舐め押さえたところで、篠岡は口を離した。
「・・・ねえ、つけていい?」
泉は少し驚いて目を見開き、篠岡をじっと見つめた。
仰向けのままベットの敷布団の下から小さな袋を取り出し篠岡に手渡した。
篠岡はピっと袋を破き、こんな感じだったかなと泉に装着した。
そして躊躇なく、泉に腰を沈めた。
100 :
イズチヨ:2007/11/30(金) 19:46:16 ID:2HJj7Fz1
篠岡は深く深くゆっくり腰を落とす。
最奥まで到達して小刻みに腰を動かす。激しく打ち付ける。
そして、そろそろと腰を浮かして亀頭のところで止めては、また深くゆっくり貫く。
繰り返し、繰り返し。
泉は下から篠岡の顔を仰ぎ見る。
喘いでいる。髪が汗で首筋に張り付き、形のよい双丘が上下に揺れる。
ただただ快楽に身を委ね、翻弄される篠岡は鬼気迫る美しさがあった。
迫りくる抗えない波にどっぷり呑まれ、動きが加速し、双方いよいよ耐え難くなったとき
泉は呻いた。
「名前、呼んで・・・千代」
「・・・孝介、わ、わたし、もう」
泉は両手で篠岡の腰をがしっと押さえて、篠岡の最奥へとねじ込んだ。
篠岡は仰け反り、体を駆け抜けた余韻を噛み締め、泉の胸へと崩れた。
101 :
イズチヨ:2007/11/30(金) 19:47:26 ID:2HJj7Fz1
汗で揉みくちゃになった白衣とシーツを洗濯機の中に放り込み、篠岡はバスタブに身を沈めた。
先に湯に浸かっていた泉が目を開けた。
「今日、激しかったな」
泉はバスタブに頬杖をついて、にやっと笑った。
「そういうこと言わないでって、いつも言ってるでしょう!」
篠岡は茹蛸のように真っ赤になった。
「なに、あれ、白衣効果?」
「・・・」
「上に乗られるの、はじめてだよなあ」
「・・・」
「これからもいろいろな体位、試していいか?」
「もう、出る!!」
篠岡が怒り心頭といった面持ちで立ち上がろうとした。
泉は咄嗟に篠岡の手首を掴み、体を自分の胸元に手繰り寄せた。
湯が盛大にこぼれた。
「おい、こら、ユニットなんだから気をつけろよ」
「後で拭いておきます!」
篠岡は泉に背を向けた。泉は後ろから篠岡を抱きしめた。両脚で体を挟む。
「わりいわりい、からかい過ぎた」
篠岡は肩を竦めて、背を向けたまま泉に聞いた。
「・・・なんで、名前で呼んでくれないの?」
「は?さっき呼んだぜ」
「・・・ああいうときしか言ってくれないもん」
「なんつーか、篠岡呼びに慣れちゃったんだよな。いきなり変えらんねえんだよ」
ふふっと篠岡が笑った。水面が揺れた。
「わたしも意識しないと泉くんって言っちゃう」
「だろー?まあ、自然と呼べるようになるよ、いつか」
篠岡は顔だけ泉に向けた。
「そういえば、診察結果は?」
「あー、異常なし。あ、うそ、異常あった。篠岡の体、異常な反応示してたぜ」
「今度こそ、お風呂出る!!」
(終わる)
102 :
イズチヨ:2007/11/30(金) 19:49:59 ID:2HJj7Fz1
投下完了です。読んでくれた方、ありがとうございます。
・・・とりあえず、なんだ。
いい風呂の日ってことで、泉ハピバ!
一日遅れてごめんなー
103 :
94:2007/11/30(金) 20:18:21 ID:2HJj7Fz1
ひどい訂正
「いい風呂の日」って11/26だよな・・・
11/29は「いい肉の日」or
>>89氏の「いい服の日」だよな・・・
オチを誤り、書き上げちまったorz
風呂上りに焼肉食べたって補完しておいてください サーセン
イズチヨGJ!!
つい最近ログ読み返してわりと頭に残ってたから素で楽しめた。
1126の日は…まぁどんまい。
白衣来たあああ!
GJ!続き待ってたよ!
いい風呂の日は大胆な補完に思わず笑ったのでおk
イズチヨGJ!最後のやり取りがイイ!!千代カワイイ
白衣プレイwこれぞ11/29(良い服の日)に相応しい!
イズチヨすげー良かった!!
GJでした!!!
GJ!
オチと「いい風呂の日」に笑ったw
レンルリ続きこいこい
この人気のなさは
単行本9巻出るまで待ってるんだよ
単行本はオマケが充実してるのは嬉しいんだけど、間隔が……
って愚痴はスレ違いか
阿部、栄口、篠岡の中学時代がオマケで描かれていたらいいなあ
ログ読み返したら、初めの方はエロ妄想ばっかでわらた
今は過疎だし、そういう雑談もありだと思うんだけどな
モモカンと三橋でエロ妄想したいです先生
>>112 中学時代の栄口&篠岡のイラストが載ってたら
俺の妄想が爆発するぜ
阿部誕生日記念は来るのかな?
アベチヨ投下します。
全スレ706-712の続き。
努力が空回りする篠岡の話。
12月11日 俺の誕生日。
一般的には期末テスト期間。
午前中のテストだけで授業は無いし、もちろん部活も無い!
今日は、午後から篠岡の家でテスト勉強。
篠岡がテスト期間中だけど、ケーキを焼いてくれたらしい!
帰り際、いつも以上ににやけた水谷に呼び止められた。
「阿部、今日篠岡ん家でテスト勉強だろ?」
「来るなよ?」
「行かねーよ。今日誕生日だろ?おめでと、コレ俺からのプレゼントな。」
と、俺の掌に置かれた物は、剥き出しのコンドーさん1包み。
「ばっ!?」
慌てて回りに見つからないようにカバンに突っ込む。
「俺さぁ、篠岡が友達と話してんの聞こえちゃったんだよねぇ。期待しとけ!」
胡散臭い笑顔を浮かべたまま走り去っていった。
別にやましい事は考えていない。
手作りのケーキは有るけど、今日は純粋にテスト勉強だ。
でも、家帰ってからシャワーを浴びといた。
プレゼントは水谷が変なことを言うから、実は少し期待している。
* ****
純粋にテスト勉強の予定だったんだ。
でも、久しぶりに2人きりだったし、コレを逃すと暫くデートは出来ないと思ったら、
我慢できなかった。
篠岡も応えてくれたし、別に悪いことじゃないよな?
でも、凄い事は何も無かった。
誕生日だし、こうリボンを着けてプレゼント!とかは無く、普通だった。
それ自体はよかったんだが、水谷のせいで期待しちまったじゃねーか!
と、ちょっとだけがっかりしていたら、恥かしそうに、
「阿部くん、先にお風呂行ってて?」
プレゼントキター!!
いっしょにお風呂!?
8の字洗いとか、潜望鏡とか!?
期待を胸に、俺は風呂へ向かった。
あったかい浴室に響く水音。
恥かしそうな表情の篠岡。
肌に感じる篠岡の体温。
リズミカルに動く篠岡の手。
「阿部くん、気持ちいい?」
「お、おう。」
俺の返事に嬉しそうな篠岡。
確かに、気持ちいい。
篠岡の指が器用に動いて刺激される。
「わたしも好きなのだ。シてもらうの。」
ニコニコととても嬉しそうだ。
いいよ。確かに、気持ちいい。
気持ち良いけど、何か違う。
なんで、シャンプー?
8の字洗いとか、潜望鏡とかいろいろあるじゃん。
「阿部くん流すよ、眼を瞑ってね。」
泡と一緒に、俺の欲望と涙も排水溝に流されました。
その後、勉強が手につくはずも無く、赤点では無いもの微妙な点を取る事になる。
さらにテスト明け、ニヤついた顔の部員に迎えられるのを、俺はまだ知らない。
終わり。
や、本当に偶然だったんだよね。知ったのはさ。
たまたま花井と阿部は栄口と一緒に部室で打ち合わせしながら、昼飯。
俺はクラスの奴と昼飯食って、幸せいっぱい、腹一杯。
授業が始まるまで自分の机で一眠りしようとしたところで、後ろから、
「水谷だって嬉しいよね?」
と、(篠岡の友達の)クラスの女子に、耳まで真っ赤な篠岡。
話が理解できないでいると、篠岡が、
「その、一般的な話でいいんだけど、水谷くんも、その、やっぱり、嬉しい?」
「え?何が?」
「だからさ、彼女にシてもらうの好きか?って事。」
もう大好きですよ!?
恥かしそうにしながらぎこちない御奉仕とか、嬉しそうに俺の上で腰振る彼女なんて!
言ったら引かれるから言わないけど、なんでさ?
あ!阿部に篠岡が、って事?
もしかして、誕生日?
プレゼントはわたし(はーと)ですかっ!?
真っ赤になっちゃって、篠岡ってば可愛い。
篠岡が上手かったてのは、もしかしてこの友達のおかげだったりする?
つまり、俺の返答次第で篠岡が阿部に御奉仕?
それはそれでムカつくけど、こないだの阿部は面白かった!
「うん。好きだよ。一緒に居れるだけでも嬉しいけど、シてもらえたら幸せだね!」
「幸せ・・・?」
篠岡はそう呟くと、しばらく考えてから、
「わ、わたし頑張る!だから詳しく教えて!!」
阿部に喋るなって口止めされたけど、シャンプーなんて、喋るわけ無いじゃん!
知っちゃたらつまんないよね?
阿部には、喋んないよ。阿部には!
でも、煽るのはありだよね?
頑張れ篠岡。俺らの娯楽の為に。
篠岡の頑張りが実る日はまだ来ない。
終わる。
クソレw
GJ!
娯楽・・・ヒデェw
アベチヨ来てたー!!
GJGJ!
クソレ良いなw
クソレにおちょくられる阿部、新鮮ww
GJ!
阿部、誕生日だったのか。
せっかくなので、遅れたあげくやっつけですがお祝いします。
だけどカップリングは高3バカップルタジチヨ。しかもえろくない。
苦手な方はスルーでお願いします。
「今日阿部くんの誕生日なんだよ。知ってた?」
いつもの昼休み。田島と一緒に弁当を食べていた千代がそう言うと、
田島は食べかけのおにぎりを持ったまま、ぴたりと動きを止めた。
「やっべ、忘れてた。つーか知らなかった!しのーかよく知ってんな!」
「だって元マネジだもん。ねえ、田島くん、お返しはちゃんと用意したの?
誕生日に、阿部くんからもプレゼント貰ったって言ってたでしょ?」
「あー…。」
当然そんなもん用意してるはずがなかった。
だって阿部の誕生日知らなかったし。
でも阿部に貰ったプレゼント、あれは良かった。非常に世話になった…。
田島は頭を抱えて考え出す。
しばらく腕を組んだまま俯いていた田島が、パッと顔を上げて千代を見た。
「そうだよな、ちゃんとお返ししないとダメだよな。篠岡、教えてくれてサンキュ。
阿部にプレゼントすっから、放課後付き合って!」
田島がそう言ってニッと笑う。
いったい何をプレゼントするのだろうか?
田島の笑顔につられて千代も笑った。
「あーべー!!」
放課後、花井と並んで歩く阿部を見つけて、田島は駆け出した。
千代も慌ててその後を追う。
息を弾ませた田島の声に、阿部は足を止めて振り返った。
「なんだよ、もう帰んの?」
「?帰るよ。なんで?」
「いや、お前誕生日じゃん?だからさ。」
田島が横目でチラリと、阿部の隣に立つ花井を見た。
「プレゼントをさ、でも、うーん、花井は違うんだけどなぁ。」
ブツブツと独り言のように喋り続ける田島を、3人が不思議そうに見つめる。
「いいや!花井の次の誕生日もついでに祝ってやるよ!」
「「「はああ?」」」
ワケがわからないと言った表情の3人を無視して、田島が阿部に向き直る。
「一瞬だからな!」
「だから、何が…、」
阿部が言い終わるのを待たずに、田島の手が千代のスカートを豪快に捲り上げた。
すらりと伸びた真っ白な太腿の付け根に、淡いブルーのショーツ。
ローライズなそれの上は、さらに白い平らな腹。
「阿部、誕生日おめでとー!」
一瞬。確かに一瞬だった。
「阿部から貰ったDVD、かなり良かったからな。お返しだ!
でもアレだぞ、篠岡はオレんだからな。抜くのはゲンミツに1回までな!」
呆然として固まる阿部。
いち早く空気を読んで蒼褪める花井。
赤い顔のまま声もない千代。
満足げな田島。
静寂、そして。
「田島くん!!!!」
ビンタを喰らった田島が、千代に引きずられて退場していくのを、阿部と花井はいつまでも見つめていた。
「なに、あれ…。」
先に口を開いたのは花井だった。
阿部はまだ、田島達のいた方を見つめたままでぼそりと呟く。
「田島の誕生日にやったプレゼントのお返し…らしい。」
「はぁ?何やったんだよ?」
「エロDVD…。」
…来年は彼女に祝ってもらえるといいな、と呟いた花井に、お前もな、と阿部は返し、
2人は自転車置き場へ向かった。
背後から小さく聞こえる田島の、ごめんなさいの声は聞かなかったことにして。
終わり。
全くお祝いにならなかった。
盛大に吹いたwww超GJ!
田島のセンススゲーww
最高のプレゼントだろ、コレww
田島なら…田島なら何かやらかしてくれる…
普通にやりそうでワロタwwwGJ!
131 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 20:45:07 ID:NZf3rc9d
何故それをここに貼ったのか知りたい
みんなゲームしてるのかアク禁なのかそれとも飽きたのか…
寂しいですなんか読みたいよ
アク禁です。
飽きてないよ!
あ、書き込み出来た。
パソコンは今月からダメ、携帯もさっきまでダメでした。
途中まで書いてたけど、誕生日もとうに過ぎてしまったし。
投下待ってます
ありがとうございます。
これから最後まで書こうと思います。
年内にパソコンのアク禁解除されますよーに。
9巻出た後とかクリスマスに期待してます。
そういえばもうすぐ9巻発売だなぁ
長かった
OCNだっけ?解除されたようだけど。
前スレでリオチヨSSを投下したものです。
後日談として続編を投下します。
注意事項は
・へタレ利央、リベンジ編です。
・二人がお付き合いしているのは西浦側、桐青側ともに暗黙の了解となっております。
・作中描写の少ない利央(桐青)ですので、ほぼ全てが妄想、捏造となっております。
苦手な方はゲンミツにスルーの程、よろしくお願いします。
143 :
リオチヨ:2007/12/21(金) 20:39:29 ID:f9+9UYQV
【From】仲沢利央
【Sub】今日のお昼は
【本文】学食でハンバーグ定食を食べたよ
弁当は2時間目終わって平らげた
って早弁はいつものことか
千代は今日昼なに食べたの?
午後は生物と数学 今からもう眠い
千代の夢を見たいな
「なんかさあ、篠岡って見るたびケータイいじってんだけど、気のせい?」
「野暮だな、水谷。仲沢だろ?たぶん」
「阿部もそう思う?花井は?」
「遠距離・・・みたいなもんだから、まあマメになるわな、男は」
【From】篠岡千代
【Sub】わたしはパンだよ
【本文】クリームパンとポテトサンド
って寝ちゃだめだよ!起きて!
これから美術室に移動だよー
ジャージに着替えて、エプロンつけて油絵です
午後も頑張ろうね!
「おい利央、古典のノート貸して、っておまえまたメールかよ」
「・・・エプロン姿、かわいいんだろうなあ」
「おい!利央!古典のノート!」
「あ、迅。いい夢見れそう、若妻の千代・・・」
「・・・だめだこりゃ」
144 :
リオチヨ:2007/12/21(金) 20:41:25 ID:f9+9UYQV
利央からのメールは毎日5件届く。
モーニングコール、昼休み、部活前、帰宅後、おやすみメール。
何か特別なことが学校であるとさらに増えるし、帰宅後に電話で話すことも多い。
利央からのメールに千代は必ず返信する。急いでいて短い文になってしまっても。
利央のメールは毎度思わず赤面してしまうような文面で、千代は面喰いながらも、
照れながらも、精一杯の想いを込めて返信する。
写メールのときは千代も写メールで返すようにしている。
利央からクラスメイトの写メを送ってほしい、というメールが届いたことがあった。
水谷と阿部と花井と4人で撮った写メがあることを思い出し、それを送ったらすぐに電話がかかってきて
男と撮った写真は送るな、男と一緒に写真撮るな、と一方的にまくし立てられ少し口論になり、
お互い落ち込んで、反省して、仲直りしたということがあった。
ふたりは会えなくとも『恋愛』の然るべき順序と醍醐味を少しずつ知り、楽しんでいた。
145 :
リオチヨ:2007/12/21(金) 20:43:09 ID:f9+9UYQV
図書館のデートの日から、付き合ってから2ヶ月が経った。
お互い次に会えるのは期末考査の試験週間と考えていたが、今回は試験日程が合わず会えなかった。
「クリスマスとお正月は一緒に過ごしたいなぁ」
「わたしもクリスマスはケーキ作るから、利央くんに食べてもらいたいな」
千代は自室の窓を開けた。凍てつく外気が鋭く部屋に切り込んでくる。
12月の晴れた夜空の遠くに冬の大三角形が瞬く。
息を吸い込む。肺が冷たくてきれいな空気でいっぱいになる。吐息は白い。
だが電話越しの利央の甘い声で、受話器を当てている右耳はじんじんと熱い。
「こっちは24日、部活休みなんだ。監督が家族サービスするらしいよ」
「え?あの監督さんが?」
夏大で見た眼光鋭い桐青の監督を千代は思い出した。
「監督、小さいお子さんのためにサンタクロースの格好をするってウワサがあってさ」
電話の向こう側で利央は堪らず吹き出している。
「練習や試合でお家にいない時間が多いから、その分張り切ってらっしゃるのかもね」
千代は雷親父風サンタクロース想像しようとするが、どうしてもナマハゲになってしまう。
風呂上りの体が湯冷めするのを感じて、千代は窓を静かに閉めた。
濡れた髪が氷のように冷えている。
「わたしも部活、休みだよ」
「え!?ホントに!!?」
「うん。みんな三橋くんのお家でパーティーするって騒いでたよ」
西浦の面々は練習の休憩中に買出しなどの予定を楽しそうに立てていた。
「・・・ねえ、千代もソレ誘われた?」
「ううん、誘われてないよ」
半分真実で、半分嘘だった。
皆が予定を立てているときに、千代は田島に声を掛けられた。
「なー!しのーかもクリスマス一緒に、もがっ!ふがっ!」
慌てて泉が田島の口を塞いで、栄口から
「し、篠岡、何でもないから、気にしないで!」
と早口で言われた。
他の部員たちは雑談を続けていたが、意識は千代の方にぐっと集まった。
利央のことで気を遣われていることを千代は察知し、申し訳ない気持ちになり、
何も言わず、曖昧な笑みだけを返した。
146 :
リオチヨ:2007/12/21(金) 20:44:48 ID:f9+9UYQV
「よかった・・・あの、クリスマスさ、またオレんち来ない?」
千代の回想が止まった。
「あのさ、クリスマス、ウチの両親はホテルのディナー予約してて、兄ちゃんも部活で帰ってこないから」
一拍おいて、
「誰も家にいないんだよ」
と利央は言った。緊張して声が少し上擦ってしまった。
「夜に近くの教会でクリスマス礼拝があるから、一緒に行こう」
千代の脳裏に、利央の胸元で鈍く光る十字架がふと浮かんだ。
千代の反応がなかったので、利央はにわかに不安になり
「・・・ダメ、かな?」
と低い声で呟いた。
「え、あ、もちろん大丈夫!・・・楽しみ。 待ちきれないよ・・・」
千代は続けて囁いた。
「・・・早く、会いたい」
電話を切った後、利央は自室の窓を開けた。血が上った頭と火照った体を冷やすために。
自分に早く会いたい、と言った千代の声はとても切実なものだった。今でも耳に残る。
あの日見た、十分潤って艶やかな千代の口元が利央の頭を離れない。
胸に抱いた華奢な千代の感触はおぼろげで、日毎遠くなりつつある。
見上げた夜空高くに、オリオンが堂々と胸を張っていた。
147 :
リオチヨ:2007/12/21(金) 20:46:17 ID:f9+9UYQV
クリスマス・イヴ当日。
改札から出てきた千代を挨拶もなくさらうように利央は強く抱きしめた。
ネクタイを締めジャケットを着た186cmの利央と千鳥格子のワンピースを着た154cmの
千代。
高校生なりに精一杯のおしゃれをしたふたりの抱擁に、駅を行き交う人々は思わず目を惹かれた。
32cmの身長差というのは、利央の力強い抱擁で千代の足が地面を離れる程であった。
千代は人目の恥ずかしさと胸に顔を埋めた息苦しさとで、利央の中でもがいた。
やっと開放されたと思ったら、利央に唇を奪われていた。
迫るようなキス。
舌まで吸われそうになったところで千代は利央の胸を押しのけた。
囃し立てられるような口笛を耳の端で捉えた千代は、恥ずかしさで失神しそうになった。
「会いたかった」
お構いなしに利央は畳み掛ける。
戸惑いつつも、利央の真摯な眼差しに千代はぐっと胸が詰まり、
「わたしも」
利央の手を優しく握った。
148 :
リオチヨ:2007/12/21(金) 20:47:41 ID:f9+9UYQV
利央は自室に入るなり、身に着けている服をぽんぽんと脱ぎ捨てていった。
ボクサーパンツ一枚になったところで、唖然と立ちすくむ千代の手から
コートとバッグと、千代が自信作と言っていた手作りケーキの箱を取り椅子の上に置き、
千代の両肩を掴み、屈んで額にキスをひとつ落とした。
「て、展開が、速い、よ」
やっとの思いで千代は口を開いた。
「そう? だって、オレ我慢できないもん。もう言葉とか、もどかしいし」
屈んだまま、千代の潤んだ瞳を利央は覗き込んだ。
千代の瞳に自分しか映っていないことに、利央は心から満足した。
千代は頬を赤らめ、目を伏せ、利央の首からかかるクロスに目をとめた。
「あ、ばあちゃん、ちょっとごめん」
クロスを首から外し、軽くキスをして、机の上の陶器製のオルゴールケースの中に閉まった。
オルゴールの澄んだ柔らかい音が短く鳴る。
(あれ、これクリスマスの・・・なんだっけ?)
そのオルゴールの曲の題名を千代は思い出そうとしたが、利央に抱きかかえられて思考が途絶えた。
そのまま利央は千代をベッドに優しく横たえ、上から覆いかぶさった。
149 :
リオチヨ:2007/12/21(金) 20:49:02 ID:f9+9UYQV
利央からくすぐるようなキスの雨が髪、顔、首、胸元に落とされる。
千代はぎゅうっと目を瞑り、利央の手が背中に回ってワンピースのチャックが下ろされるのを
身を硬くして待つ。やがて、するっとワンピースが足から抜き取られた。
「・・・ああ、きれい」
キャミソール姿の千代を上から見下ろして、利央は思わず感嘆の声を漏らした。
千代は堪らず顔を両手で覆ったが、利央にそっと解かれた。
間を置かずにそのまま利央は千代の両手首をしっかり掴み、口を口で塞ぐ。
舌を入れ、たっぷり口腔をなぞり回った後、おずおずと千代の舌がそれに応えだし、
千代の手から抵抗する力が抜けたところで、千代の両手首を放した。
利央の手が千代のキャミソールの下に伸びた。ホックが手際良く外され、腕から下着が抜き取られる。
キャミソールに透けて二点が高鳴りを告げていた。
親指の腹でそっと押さえつけると
「あああ・・・ん」
千代が小さい声で喘いだ。顔は横に背けられた。
利央はキャミソールをたくし上げ、露わになった山の裾野から峰に向けて舌を這わせた。
もうひとつの山は手で包み、親指で山の尾根を撫で、人差し指で峰を捏ねた。
千代の表情を盗み見る。上気した顔で、目はとろんと僅かに開いていた。
「・・・やらしい顔してるよ」
利央は微笑んで囁くと、指を千代の中心にあてがった。
「っやだ・・・!」
千代は弾かれたように身を起し、利央の腕にしがみついた。
「・・・止めないよ」
利央は乱れた千代の後ろ髪を優しく撫ぜながら
「好きだから、止めない」
と千代の耳の背を舌でなぞった。千代の全身に甘い震えが駆け抜けた。
「全部見せて」
「え・・・?」
「あの日見た、千代のカラダ、全部見せて」
「・・・」
頬を赤くするだけで拒否も抵抗もしない千代をベッドにゆっくり押し戻した。
キャミソールを脱がし、最後の下着にも手をかけた。
150 :
リオチヨ:2007/12/21(金) 20:50:41 ID:f9+9UYQV
千代が身をくねらせ、手で体を覆ってしまうのを利央は必死で阻止しつつ、
記憶が薄くなりかけていた千代の輪郭を目でなぞり、細部まで視覚を働かせた。
千代は利央からの熱い視線を受け、中心に溜まっていた出水がいよいよ溢れ出てくるのを感じていた。
恥ずかしい!はしたない!
一方で、
我慢できない!触って!
相反する二つの矛盾した思いに翻弄される。
臀部の谷にまで注がれた出水を、利央が人差し指で伝い、掬いあげた。
千代から嬌声が漏れた。
利央は幾度も繰り返し、中心周辺の隆起部、割れ目にまで注意深く出水で濡れた指を進めた。
千代の声がどんどん深みを帯びる。
中心を捕らえ、恐る恐る指を沈めていくと、第二関節辺りでぐっと締まり進入を拒まれた。
「痛かったら、言ってね」
人差し指で小さく円を描いた。
「んんん!」
千代が応えて更なる進入が許された。
焦らない。
指の付け根まで入ったところで、中指も足した。
焦らない。
言い聞かせるように、千代の呼吸に合わせながら利央は指を中で往復させた。
千代は眉を顰めたり口を歪ませたりすることはあっても、痛いとは言わなかった。
千代のこの表情にさえ欲をかきたてられた利央は、限界まで反り返った自身に装着した。
指の刺激に敏感に反応する頃、小さい呻き声が、次第に喘ぎ声になる。
「入るよ」
短く言って、利央は千代の中に入った。
151 :
リオチヨ:2007/12/21(金) 20:52:05 ID:f9+9UYQV
「っつ!!!ああああ!!!」
千代の腰が沈み、下腹部に力が入った。利央の動きが止まる。
利央は再び向こうの山ふたつに手と舌を伸ばした。
千代の意識がそちらにずれて、下腹部の力がふと緩んだのを利央は見逃さず、一気に貫いた。
何かが裂ける。
声が上がる。
利央は初めて襲われる恍惚感の波に呑まれた。
めくるめく快楽に押し流されそうになり、何度も踏みとどまる。
千代の目じりから涙がこぼれる。歯を食いしばり、息も上がっている。
涙を吸い、千代の頬に優しく手をそえる。
痛いんだろうな。
初めてだもんな。
僅かに残る理性が訴える。それでも、利央は動きを止めなかった。
千代、と何度も名前を呼び、好きだ、と何度も呟いた。
利央が最後に手に入れた快感の渦は、千代への狂おしいまでの愛しさだった。
152 :
リオチヨ:2007/12/21(金) 20:53:57 ID:f9+9UYQV
利央に案内された教会には立派なもみの木があり、昔ながらの柔らかく灯る黄色い電飾と、
たくさんのオーナメントがその光を受け、教会に集う人々に温かさを与えていた。
ふたりはエントランスで歌が載っている式次第と火が点された蝋燭を受け取り、中に入った。
冴えた月光が教会のステンドグラスをほのかに彩る。
照明は暗く落とされ、集う人々の蝋燭の小さな炎が教会内部をぼんやり照らす。
聖夜に相応しく幻想的で、荘厳な空間であった。
年季の入った木製のチャーチチェアに二人は腰を下ろした。
千代は腹部に手をそっと置いた。
「大丈夫?」
利央がその上に手を重ね、優しく聞いた。コトの後、何度も心配されている。
「大丈夫。ありがとう」
本当はずきずき痛んだが、千代は聞かれる度笑顔で返した。利央も微笑んだ。
蝋燭の弱い光を受けた利央は、やはりどことなく日本人離れした面立ちだ。
利央の場所をわきまえない無邪気で大胆な言動や、最中の甘い囁きなどは
クオーターの血のせいかもしれない、と千代は思い、今日あった様々なことを思い返して、
また頬を染めた。利央がニッと笑う。
「あ、今なに考えたのぉ、イ〜ケないんだぞ、もがっ」
千代は咄嗟に利央の口を塞ぎ、もう片方の手で口に人差し指を立てた。
そのとき、パイプオルガンの音とともに、扉からちびっ子聖歌隊が歌いながら入場してきた。
『もーろびとー、こぞーりーてー』
千代の顔がほころんだ。
利央の部屋で響いたオルゴールの曲はこの歌だった。
利央は一緒になって歌いだした。
千代も式次第を開き、歌いだす。
諸人こぞりて むかえまつれ
久しく待ちにし 主は来ませり
主は来ませり 主は 主は 来ませり・・・
毎年一緒にクリスマスを祝うことができますように。
ふたりが心から祈った願いは毎年変わることなく、この場で静かに更新される。
(終わる)
153 :
142:2007/12/21(金) 20:57:32 ID:f9+9UYQV
利央のメール本文ずれた・・・orz
利央がヘタレ返上に失敗しているのは、自分の力量不足です。
長々とすみませんでした。
読んでくださったみなさん。
少し早いですが、メリークリスマス。
154 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 21:08:43 ID:IesUhzSB
ぐっじょおおおおおおおぶ
リオチヨ待ってた!ありがとう!
うおい!クリスマスプレゼント来たあ!
GJ!これからもよろしくお願いします!
うっひょーリオチヨGJ!
二人のメールになごみましたありがとう
すみません、すでにクリスマスで投下されてますが……。
阿部誕が平日書けず、クリスマスまでにはと慌てて書いたので
エロは短文適当、文章グダグダ、視点も途中で変わってよく判らない内容。
阿部と篠岡、付き合って数ヶ月。バカップルです。
苦手な方はスルーしてください。
阿部の誕生日は、試験のど真ん中だった。
この日の試験は終わったが、明日のテストを考えるとちっともハメを外せないという
誕生日に相応しくない迷惑な1日である。
試験の出来の悪さにげっそりして廊下に出ると、見ず知らずの女子生徒に声を掛けられ、
誕生日プレゼントを渡されるというハプニングがあった。
ついでに、という雰囲気でクリスマスの予定を聞かれる。
「部活の後、部員ン家になだれこんで飲み食いする話になってる」
「そーなんだ……」
残念そうに去っていく女子の後姿を見ながら、真冬まで引っ張った野球部のネームバリューを実感した。
居心地の悪さはあるが、男として悪い気はしない。
昇降口に向かうまでに、似たようなことが繰り返され、気づくと両手にプレゼントを抱えていた。
さすがに、ドッキリかなんかじゃねーかと疑いたくなってきたところに、
「あ、阿部くん、お誕生日オメデトウ!」
またかよ、と振り返る前に、声で相手を特定する。と、同時にやっと謎が解けた。
「お前か……っ?」
「ええっ?」
篠岡が身を硬くして目をぱちくりさせていた。
阿部と篠岡が周りに隠れて付き合い始めて数ヶ月。
学校では滅多なことでは2人だけになるようなことはしない。
誕生日のコールなら、篠岡は電話でカウントダウンをしておめでとうを言ってくれた。
メールもくれた。……だから試験勉強が疎かになったというレベルではないが。
本人に直接伝えたかったのだろうその気持ちは嬉しいが、言わずにはいられなかった。
「さっきから、知らねー女から俺の誕生日祝われた理由判らなくて不気味だったんだよ!」
「阿部くんの誕生日を聞かれたから教えたんだけど、迷惑だった?」
不安そうに阿部を見上げる篠岡の瞳は大きくて、小動物のように可愛い。
「いや、俺がその立場だったら教えねーから、最初思いつかなかった」
篠岡は、首を傾げている。意味が通じていないので、阿部は続けた。
「例えば!だけど、俺がプレゼントくれた女になびいたら、どーすんだよ」
少し間があって、篠岡の顔がみるみる蒼白になった。
「わ、私、阿部くんのこと、好きな気持ち凄く判るから、い、一緒に応援……」
大真面目に受け取られてしまい、失言を悟った時には遅すぎた。
「どうしよう、お誕生日なのに私、何も用意してないし……」
篠岡の目にはうっすらと涙の膜が出来、落ち込みモードだ。
「俺がいらねーって言ったから気にすんな。あと絶対、浮気しねーから」
最後は小声になっていた。イベントは苦手だから何もするなと厳しく言ったのは阿部の方で、
篠岡の不備ではない。
正確には、「篠岡がそばにいてくれれば他になにもいらねー」とかなんとか……
我ながら似合わない発言をかました。
篠岡は笑ったりからかったりせず素直に喜んでくれるから、阿部は2人きりの時は
輪をかけて、「若気の至り」の王道を暴走している。
が、篠岡にベタ惚れの自分を部員に知られるくらいなら、舌を噛んで死んだ方がマシだ。
「女ごときで変わってたまるか」という自分自身への見栄もあり、誕生日だろうが
クリスマスだろうが、試験や部活を優先すると阿部は決めていた。
篠岡は表向き、彼氏も好きな男もいない。
昇降口は人目が多いから、このままでは篠岡と付き合っていることがバレてしまう。
「ちょっと移動すっか」
こくり、と篠岡はうなづいた。
試験中の部室は、当然のことながら人気がない。
壁を背に床に腰を下ろす。
阿部は、突っ立ったままの篠岡の手を掴んで、隣に座らせた。
彼女の手の冷たさに驚いて、掴んだまま自分のポケットに突っこむ。
篠岡は一瞬戸惑ったが、おずおすと指を絡ませてきた。
「試験中だから、今日はナシ」
「何が?」
判ってるのかいないのか、おっとりと篠岡が微笑む。
ポケットの中で、ひんやりとした指が阿部の手の甲を撫で、思わず握り返した。
噂で彼女を狙っている男の話を聞くたびに、阿部は優越感よりも罪悪感で複雑になる。
イベント嫌いで、プレゼントもしたことがない自分といて、篠岡は幸せなんだろうか?
指が離れ、篠岡が阿部の足の間に滑り込んできた。
篠岡が阿部に跨るように圧し掛かり、その少し無理な体勢にスカートが捲れ上がった。
阿部の唇がふさがれ、下唇を甘噛みされる。可愛い舌が侵入してきて、歯を刺激した。
舌を絡ませて応えようとして、篠岡なりのプレゼントなんだと気がついた。
激しく情熱的な篠岡が、誕生日のプレゼント。
が、阿部のボタンに指が伸び、さすがに焦った。
「今日はしねーって」
「寒いの……」
「じゃあ、今日はもう…」
「いつも阿部くん、『暖めてやる』って……してくれるでしょ」
「はぁ?」
誰がそんなみっともないこと……って、俺だ!
自分の吐いたセリフの破壊力に、阿部は打ちのめされていた。
穴があったら己を突き落として埋めたいくらい、似合わない。
なにイイ男ぶってんだ、テメー。
「それに、阿部くんと付き合ったら『いつでも気持ちよさ味わわせてやる』って……」
い、言いました。しかもヤッてる最中に耳元でくり返しねちっこく。
篠岡に他の男に目移りされたら嫌なんで、出来心でつい。
「それに、可愛いって私の…」
「言うなっ」
首を絞めたくなる。篠岡じゃなくて、恥ずかしいセリフを言った時の自分の首を。
思い出して悲鳴を上げたくなるほど陶酔した言葉も言ったし、周りが知ったら
引かれるようなこともやった。
恋愛で、女はどんどん綺麗になっていくのに、男の自分は馬鹿になるから焦るのだ。
篠岡のような可愛くて優しい彼女がいたら、男なら舞い上がりもする。
「自分の恋愛沙汰に浸って何が悪い!」と開き直って甘い言葉を囁いてきたとはいえ、
それを確認されるのは……勘弁してほしい。
「そりゃ、俺の部屋ならいーんだよ。ここ底冷えするし、試験中だし」
「私が上げられるの、これくらいしかないから」
そう言って、篠岡はぎゅっと抱きついてきた。甘い香りに決意が揺れそうになる。
「……気持ちだけ、貰っとく」
阿部は泣く泣く答えた。
チクショー、篠岡が乗り気だなんて久々なのに。明日の試験が数学ならツブシが効いたのに!
明日は2つとも暗記物な上に、今日の出来が最悪だったから足掻く必要があるのだ。
「クリスマスの方は断るから」
妥協出来るギリギリのラインを提案してみる。
が、篠岡は下を向いて首を振った。
篠岡は、付き合って初めて迎えるクリスマスを阿部が部員たちと過ごすと言っても、
ゴネたり泣いたりしなかった。普通の女ならキレるのに、さすが野球おたくは理解が
あると感心していたのだが。
「な、そうしよう」
力を込めて篠岡を抱き返した後、おでこ同士を合わせて篠岡の目を見る。
いつもなら、これで機嫌が直る。
が、篠岡は頑なだった。
「そんな阿部くんは、嫌い」
「あぁ?」
反論しようとする阿部の耳に、携帯の呼び出し音が飛び込んできた。
篠岡を睨みつけたまま、携帯を取り出す。名前を確認すると花井だった。
今日が阿部の誕生日だと知って、「帰りに何かコンビニで奢ってやる」と言っていた。
水谷も含め、他の部員も一緒かもしれない。
「……出るぞ?」
阿部は篠岡にディスプレイの表示を見せて言った。
ふっと篠岡の目つきが変わった。阿部から身体を離して、穏やかに微笑む。
マネジの顔だ。
今まで、こうして篠岡に我慢させてきたんだ、と気づかされた。
……電話に出たら、行かなきゃいけない。
ワリぃ、花井。
俺の誕生日だから、今日は篠岡を選ばせてくれ。
阿部は携帯を放り出し、篠岡の手首を握った。
「あ、阿部くん?電話……」
「いーから」
「良くないよ。みんなを優先して」
「俺の誕生日なんだから好きにさせろ」
篠岡が返事をする前に、口をふさいでしまう。
最初は抵抗していた篠岡も、電話の呼び出しが切れ、また鳴り、留守電に切り替わり、
メールの着信に変わり、収まる頃には阿部の動きに反応していた。
「……ここ冷えるから、脱がさねーぞ」
「今日の、特別に可愛いんだよ」
阿部がチ、と舌打ちをする。
ブレザーの下のブラウスのボタンを外して、キャミソールの下から指を滑り込ませた。
阿部は「偏って形が悪くならないように」と言い訳をして乳房を片方ずつ念入りに吸う。
舐め上げられて、冷たい空気に触れたそこはヒンヤリして、篠岡は震えた。
早く暖めて欲しかった。
「……私が、してあげる」
篠岡がファスナーに手をかけると、阿部はそれを遮った。
「え?なんで?」
「冷てーから、篠岡の手」
縮む、と篠岡の手の温度がさらに下がるようなヒドイ言葉を言い放つ。
してあげたいことで頭がいっぱいだった篠岡は、混乱したまま阿部に押し切られてしまった。
篠岡の中は暖かく、ねっとりと吸い付いてきた。
あまりの気持ち良さに、気が遠くなりそうになる。
小さくあえぎながら、篠岡の白い肌が赤く染まっていくのを見るのが好きだった。
もっと暖めてやりたい。
彼女の肌から、甘酸っぱい香りが立ち上った。
充血したペニスと結合した部分が痙攣して、篠岡の身体がビクビクとはねる。
「気持ちイイだろ?」
「はッ、ぁあ!」
「俺じゃなきゃ、満足出来ねー、よな?」
「はッ、うぅ、んッ……ぁあっ」
突き立ててガクガクと腰を打ち付けるように動かすと、篠岡は小さく悲鳴を上げた。
「あ、熱いよ……溶け、ちゃう……っ」
必死でしがみついてくる篠岡が可愛かった。
放出されて、ビリビリと脚から頭にかけて駆け上がる快感の波に、苦しそうに喘ぐ。
好きだ、とか愛してる、とか……勢いで言ってしまったが、本心だからいい。
また後日、篠岡に言われて頭を抱えるかもしれないけど……。
終わってから、動けない篠岡の局部を、阿部はティッシュで拭い取ってやった
女はずるい、と思う。
波が複雑で、長くて、いつまでも身体を震わせて余韻に浸っている。
「あぁ、や、やめ……」
片脚を持ち上げ、膝裏にキスする。弱いのだ。
篠岡はたった今満足したばかりなのに、恥ずかしいポーズを取らされ脈打つ自分をじっと
観察されて、朦朧としながらも涙が出そうだ。
阿部は、嫌がることも弱点も知っていて、わざとやっている。
(阿部くんの馬鹿……)
篠岡の呟きは声にならなかった。
せっかく、可愛い下着を着けてきたのに見てない。
阿部に触られて胸が大きくなったと思うのに、一緒に喜んでくれない。
ダイエットして、コスメに気を使って、他の男で満足出来るか確認する気もないくらい、
阿部しか見てないのに、それすら判ってない。
誕生日だから言うことを聞けなんて言ったけど、いつでも自分勝手だ。
なんでこんな人を好きになったんだろう?
「もう、やめてね」
「ワリぃ。ついイロイロ、篠岡の身体調べたくなって……」
「それもあるけど、阿部くんは野球とみんなのこと、優先しなきゃダメ」
自分がチームメイトとの輪を乱すのは、嫌だった。
本当は、引退までは付き合うなんて考えてなかったのだ。
阿部に巧妙に自分の気持ちを引き出され、言いくるめられ、逃げられなくなってしまった。
彼の捕手としての立ち位置に、似てるかもしれない。
「三橋くんの気持ち、ちょっと判る……」
「あぁ?」
「緻密で、強気で、変態的で……阿部くんナシでは、立っていられないの」
「ヘンタイ?」
阿部は不満そうに言う。が、自覚はあるのでそれ以上は飲み込んだ。
「男はオタクか変態か、その両方」と友達が言ってたけど、阿部以外に男を知らないから
阿部がノーマルなのか篠岡には判らなかった。
自分が阿部に愛されているという実感は強くある。だから、それで良いんだと思う。
篠岡の目線は、阿部が貰ったプレゼントに向いた。それに気づいて阿部が、
「俺は、篠岡からのプレゼントが1番嬉しいから……」
「じゃあ、クリスマスプレゼントは?」
「今度は俺がやるから。篠岡が欲しいもの、教えてくれ。俺、今までなにもして
来なかったし」
篠岡は身を起こして、阿部を見上げた。
「クリスマスは部活だし、その後みんなと過ごすんだもの。今日ちょうだい」
「何を……。え?」
篠岡の表情を見て、阿部はやっと理解した。
阿部は慌てて飛びのく。
「はあぁー?明日もテスト!出来ねーよ!!」
「それは私も一緒だよ。なんなら一緒に追試受ける?」
「テメーと一緒にすんな!追試なんて俺だけだ!」
「阿部くんのお陰で、手もあったかくなったし。ね?」
篠岡の右手が、ぺたりと阿部の頬に触れた。
12月は、阿部くんの誕生日とクリスマスがあって素敵だ。
クリスマスプレゼントの次は、お年玉もねだっちゃおうかな……?
泣き笑いのような阿部の表情に、篠岡はくすりと笑った。
終わりです。
間が悪い上に、中途半端でごめんなさい。
12月の忙しさ舐めてました。
超GJ!
最新刊でアベチヨ再認識したところだから
まじ嬉しかった
超GJ!
最新刊でアベチヨ再認識したところだから
まじ嬉しかった
二重ごめん
GJ!
秘密な感じがいい!
GJ!おもしろかった!
阿部がかっこいいのかへたれなのかよくわからんとこがいい
GJ!千代ちゃん魔性の女www
また書いてくれ〜!
170 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 04:54:27 ID:bviIds7W
下の皿はミスドの景品だな
自分も持ってたw
9巻の阿部を見て、ヘタレだと思った
相手が三橋でも女でもあんな感じかと
うちにもまだあるこの皿
ちと過ぎましたが、クリスマスものでレンルリ投下します。
クリスマスイブは、シガポ家族サービス&モモカン都合により部活は午前中のみだった。
明けて25日の夕方、部活終了後の部室に水谷の声が響いた。
「なんでさぁ、わざわざイブの午後を休みにすっかなぁ?」
「いや、よくね?イブが休みって。」
不思議そうに沖が聞き返せば、
「イブに過ごす相手なんか居ないんだから、休みにされても困るって。
だったら、いっそのこと部活やってた方がマシだっての。」
「彼女作る暇なんか無いしね。」
「右手が恋人ってかぁ?」
水谷のぼやきに栄口・田島が参加してくる。
「沖の恋人は左手だよなっ!?」
「うるさい!」
「1度でいいから、『プレゼントはわ・た・し(はーと)』が欲しい!」
「あ、ソレ昨日のオカズ!」
「マジ?誰でヌいた?」
一気に騒がしくなる部室に、
「オレも、それっ、だった、よ。」
三橋が珍しく会話に参加してきた。
「お!三橋はどんなんよ?」
興奮気味の三橋に驚きながらも、興味津々といった感じで田島が飛びつく。
「オ、オレは、ね・・・」
いつもは話に入ってこないで、聞いているだけの三橋の話に部員一同が食いついた。
ずしっ。
自分の上に感じる重みで、夢の中から現実に引き戻される。
「レンレンっ!おーきーろっ!!」
重い瞼を開ければ、其処には怒ったルリの顔が在った。
・・・怒ったルリ、可愛いな。
「やっと起きた!もー、お昼頃に行くって言ったじゃん!」
寝起きの頭を揺すられる。
「午前中、部活だった、んだ、よ。」
「今日、クリスマスプレゼントあげるって言ったじゃん!」
クリスマス。
だからそんな格好。
胸元と裾に白いファーがついた赤いチューブトップのワンピース。
首には真っ赤なリボン。
「ルリ、可愛い。」
素直に感想を言えば、真っ赤になって、
「レンレンのくせにっ!な、何言ってるのよ!」
怒ったルリも可愛いいけど、照れているルリはもっと可愛い、と思う。
「・・・プレゼントあげる。」
その言葉で完全に目が覚める。
ヤバイ。用意してない。部活ばっかで買いに行く暇が無かった。
何をあげたら喜ぶとか、わかんないけど。
「ご、ゴメン。用意してない。」
「いーよ、今から貰うから。」
何を?と、言う前に押し倒されて唇で口を塞がれた。
「私がプレゼント。だから、レンは私にレンの時間をちょーだい?」
首の真っ赤なリボンをつまんで首を傾げる。
うわ、プレゼントはわ・た・し(はーと)だ。
自分が貰うとは思わなかった。
嬉しいけど、なんてゆーか、恥かしい気がする。
つまり、オレもプレゼントはわ・た・し状態なのか・・・
やっぱり、恥かしい。
顔が赤くなっていくのがわかる。
思わず、ルリから目をそらした。
「じゃーん!1ヶ月前から今日の為にね、コレ飲んでました!」
顔を上げれば、ルリの手には薬?
まったく理解できないオレに、
「ピルだよ。知らない?えっとね、その、ともかく妊娠しない薬だよ。」
ピル?
妊娠しない薬、つまり、それは、ゴム無しでシて、いいの?
「だからね、レンレン。今日は、いっぱいシよ?私にいっぱい、頂戴?」
プレゼント万歳!
ピルって凄い!!
生で、中出し、出来る日が来るなんて!!!
「ルリっ!」
そのまま抱きしめて、身体を入れ替え、服を脱がす。
自分も服を脱いで、キスを交わす。
初めての、生の感覚。
直に感じる、暖かさ。
ルリから流れ出る、自分が出した白濁したモノ。
全てに感動した。
そのまま、ルリを抱えてお風呂に行き、2回戦。
明るい風呂で、マジマジと流れ出るモノを観察して、また感動。
「ルリっ!」
「レンレンっ!」
2人は親が帰ってくるまで、ずっといちゃついていた。
「・・・て、感じ。」
三橋は興奮気味で話した後、チラチラと周りを見ては部員の反応を窺っている。
「三橋すっげぇ、濃いなぁ。」
「設定細かいな。」
次々と感想を言う部員達。
「馬鹿かっ!?おまえ何考えてんだよ?生で中出しなんて!
ピルだって100%じゃねーんだよ!他の方法と併用して100%に近づくんだよ!
3年の夏終わるまでは、生ですんじゃねえっ!」
今まで黙っていた阿部が、いきなり怒り出した。
「そんなに怒らなくたって良いじゃん。たかが、妄想で。」
「そうだよ、しかも3年の夏終わるまでは、ってさぁ。」
大声にびっくりしている三橋に、慌てて沖・栄口がフォローに走るが、
「ゴメン。もう、しないよ!オレ、3年の夏、終わるまでは、我慢する、よ。」
と、力強い返事が返ってきた。
「わかりゃーいいんだよ。」
と、頷く阿部と三橋を見ていて、言いようのない違和感を覚える。
アレ?『もう、しないよ!』?
「あのさ、三橋?その、『もう、しない』ってコトはさ、シたの?」
おずおずと、水谷が勇気を出して質問する。
三橋が質問の意図がわからないままコクリと、頷く。
「「!!」」
質問を肯定したことで、三橋の部員間での順位が一気に上がる。
暫くの間三橋は、阿部以外の部員から敬語で話し掛けられる事になる。
終わる。
「三橋さん、今日寒いっすね」
「三橋さん、彼女、元気ですか?」
そんなん言ってる部員が見えた!w
レンルリもみんなも、なんて可愛い! GJ!
なんか訳の分からん状況みたいだけど
とりあえず
保守
182 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 18:49:31 ID:37giDpt/
保守
183 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 18:59:15 ID:3Df4pxqH
保守
184 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 19:21:30 ID:eoqtpmtv
保守
185 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 21:15:57 ID:1CGVfqat
守る!
なんだなんだ?
187 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 23:43:46 ID:CGEs8X7G
保守
188 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 00:08:53 ID:6iaEQDiL
やばいレンルリで不覚にもワロタwww
また書いてください!
入りにくいんですけど、何かあったんですか?
>>189 コピペだけど
pink規制検討スレで業務連絡をした規制人に誰かが投稿規制についていちゃもんつける
↓
怒った規制人がpinkの管理停止、アク禁や連投規制がフル解除
↓
葉鍵やAA板が爆撃にあい壊滅
↓
その他の板にも飛び火、今の時点では幸いエロパロ板は損害軽微
↓
現在打つ手なし?pink滅亡カウントダウン中
こんな感じらしい
現状は限りなくやばいとか
エロパロ板は今のところ損害軽いらしいが、壊滅状態まで追い込まれているところもあるみたい
そんなわけで早朝だけど
保守
解説ありがとうございます。
早く直りますように……
192 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 13:30:35 ID:vN51Rhwr
今は上げなきゃいけないの?
もう落ち着いたのかと思ってた
とりあえず大丈夫になったんだろ?
じゃあ何事もなかったようにエロイ話をしましょう
モモカンネタこいこい
DVD BOXに水谷ちゃんといてよかったー
篠岡ってどこに載ってたか記憶曖昧で電車通学だと思ってたんだけど、
9巻のカバー下で自転車だったよね?
駅まで自転車で、電車乗って隣駅からまた自転車?
練習後の話を書こうとしてあれ?と思ってしまった。
確かに篠岡は電車通学だって見た気がする。
199 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 15:02:54 ID:k3cOewE8
越智先輩の画像無い?
>>198 篠岡も含むかは知らないけど慣れてきたらみんなチャリ通に変えるって書いてた希ガス
しのーかがみんなと一緒にチャリで帰ってるのは、
学校近くの駐輪場に置きチャリしてるんじゃなかった?
で、途中から電車乗って帰るって設定
2・3巻辺りの付録情報だったと思うが、人に貸してて確認出来ない…
つか、投下楽しみにしてる
過疎っているようなので投下します。崎玉で小ネタ。
捏造設定満載+恋愛要素少なめ+ひねくれイッチャンなので注意。
苦手な方はスルーでお願いします。
長くて退屈な授業が終わり、今日も部活の時間がやって来た。
終礼と掃除もそこそこに、市原は荷物を掴むと一人足早に部室へと向かう。
(あー疲れた疲れた)
崎玉では先週二学期末考査が終わったばかり。試験後の開放感と冬休みを目前に
控えた嬉しさで生徒達は明るく、校内もどことなくウキウキした雰囲気に包まれ
ている。
特にあと一週間もすればクリスマス。そこかしこでカップルやグループがクリス
マスどうするー?と華やいだ声で話すのが聞くに堪えず、ついでに自分にお誘い
が掛からないのも切なくて、市原はいそいそと靴を履きかえて校舎を出た。
(まぁ…野球部なんてこんなもんだよな。練習忙しいの皆知ってるし、誘われた
って行けるかどうか分かんねーし…)
そう自分に言い聞かせ、部室までの道のりをとぼとぼと歩く。別に寂しいとかじ
ゃないし、そもそも他の部員も皆同じだろーし…荷物しか掛けていない肩が何故
だか、凄く、重い。
しばらくすると、前方に男女二人の人影が見えてきて思わず立ち止まった。
大柄な男子と小柄な女子、二人で何事か話し合っている。
(デートの約束かぁ?余所でやれ、余所で)
別に話している事自体は悪くないが、こういう時にこういう光景を見てしまうと
何となくヤサグレた気分になる。
(…チッ。んだよ、どいつもこいつも)
とっとと部室に行こう、と心の中で舌打ちをして歩き出す。すると次の瞬間聞こ
えた言葉に市原は仰天し、その場で踏鞴を踏んだ。
「佐倉君、ずっと前から好きでした!付き合って下さい!」
(んなっ…大地かよ!?)
思わず荷物を取り落としそうになる。
確かに目を凝らしてみれば、長い手足を居心地悪そうに縮めてあーとかえーとか
呟く男子はずばり佐倉大地その人だった。途端に気まずさと焦りが込み上げてき
て、市原は辺りを見回すと慌ててその辺の物影に身を隠した。
(…ヤベーとこ見ちまった…)
「えーっと…そのォ…」
頭をがしがし掻きながら大地は困った様に呟く。
一年生と思しきその女の子は付き合って下さい!から頭を下げたままだったが、
その声を聞いて恐る恐る顔を上げた。
(ははぁ…結構カワイイな)
大地も見た目はいい方だが、その女の子もなかなか可愛い子だった。ああいう子
にずっと前から好かれてたなんて。クリスマスを前に告白なんて。イヤ羨ましい
とかそんなんじゃ無いけど。
驚き半分嫉み半分で先輩からじろじろ観察されているのにも気付かず、大地はし
ばらく逡巡していたが、両手をぱん!と顔の前で合わせるとぺこりと頭を下げた
。
「んっと…ゴメン!無理!俺今彼女とかつくる気ねーから」
(えーーー!!そんなアッサリ振るのかよ!?)
「…部活、忙しいから?」
蚊の鳴く様な声で女の子が尋ねる。
ウン、と大地があっさり頷くと女の子はまた下を向いた。しかし直ぐに顔を上げ
る。
「じゃ、じゃあ、部活引退するまで待つから…!」
「え、駄目」
(即答かよ!!)
大地はまたもやあっさりと答えた。
流石にこれにはショックを受けたらしく固まっている女の子には構わず、そのま
ま言葉を続ける。
「だってー引退するまで待って貰っても、その間に俺が君の事好きになる保証な
んてないじゃん。それまで君がずっと俺の事好きでいる保証もないし。寧ろ待つ
とかの方がお互いにとって負担になるし意味ねーと思うよ、だからそんな不毛な
事するよりも…」
(あっちゃあ…)
女の子が肩をぶるぶる震わせる。どうやら泣いているらしい。が、喋り続ける大
地は気付かない。
「まあ要するに、今は誰ともつきあう気はな…」
「…ごめん!もういい!」
大地が全て言い終える前に、女の子はそんな捨て台詞を残して、顔を覆いながら
向こうの方へと走り去って行った。
一人残された大地は暫くぽかんとしていたが、やがて何が悪かったんだ?と言う
様に首を捻った。
そんな様子を影から眺めながら、市原も驚きのあまり、寧ろそれを通り過ぎて呆
れのあまり女の子と同じく目から汁が溢れそうになるのを堪える。
アイツって、ほんと、モノスゲアタマワルイんだな…
「あーあ、泣かせちゃったよ、大地」
「うわっ!!!?タイさん!?」
「先輩!」
目頭を押さえていると、背後から聞き慣れた声がした。
驚いて振り返ると、三年の小山がニヤニヤしながら隠れている市原の後ろに立っ
ていた。ついでに大地も隠れていた二人に気付いたらしく、ちわす!と元気に頭
を下げる。
「先輩方!何してるんスか」
「イッチャンはねー、大地が誰から告られてんのか気になって、盗み聞きだって
」
「なんでタイさんが答えるんすか!?たまたま居合わせたんだよ、たまたま!!
」
「いや〜でも盗み聞きたくなるのも分かるよ、なんだかんだ言っても羨ましいも
んな」
「羨ましくねっすよ!」
ムキになって答えようとする市原の肩を小山が笑いながら叩く。
いいじゃん俺も告られた事なんか無いよ?だから違いますから!と、先輩二人の
やり取りを大地はきょとんとした顔で眺めていたが、ふと思い出した様に口を開
いた。
「え、さっきの『泣かせた』って何なんすか」
「ハア!?お前気付いてねーの!?」
「さっきの子だよ、大地に告った」
「えーッ!!」
どうやら本当に気付いていなかったらしい。ヤッベェという顔で今更頭を抱える
大地を先輩二人は半ば呆れ顔で見つめた。
「ヤベェっす!!全ッ然気付かなかった!!」
「お前ほんと鈍いのな…」
「ほんと鈍いッス!どうして俺はここまで人の事を考えられないのかッ!!〜〜
〜先輩!俺どうすれば!?」
今から走って土下座でもしてきましょうか!?それで許して貰えるでしょうか!
?とマジ顔で叫ぶ大地に市原は頭が痛くなった。
「まーまー。そこまでしなくてもいんじゃない?あの子もたぶん分かってるって
」
「…ほんとッスか?でも俺こんなにも人付き合いヘタクソだって事はつまり部活
とかでも知らず知らずのうちに先輩方なんかにさっきみたいなヒドイ事してたり
す…」
「落ち着け落ち着け」
暴走しかける大地を市原が慌てて押し止める。
「でも大地の言ってる事は間違ってないと思うよー」
「…そ、そうッスか?」
「うん。恋愛すんなとは言わないけど、部活と両立させる自信無いんならしない
方がいいし。かと言って好きでも無い子を三年も待たせるのだって、お互いにと
って不毛だしね」
「そ…そうッス!俺が言いたかったのはそうゆう事なんス!!やっぱ今は野球
一筋ッスよね〜!!」
ウンウンと神妙な顔で頷く小山を、大地は感動した面持ちで見詰めている。
大地の場合今の時点で既に野球一筋なのだが、それでも周囲からアプローチされ
るのが問題だった。それをキッチリ諭す小山の姿には元主将の貫禄がある。
(やっぱタイさんはスゲエ)
流石一人で後輩だらけのチームを纏めてきただけある…と市原も改めて小山に尊
敬の眼差しを向けた。
「イヤ〜でも面白いモン見れたな。んじゃ俺そろそろ戻るわ、人待たせてるし」
「え、タイさん、何しに来たんすか」
「ん?あぁ、一応部活に顔出しとこうかなーと思って。三年はもう授業ねーから
、次に学校来んの年開けてからだし」
でもお前らの顔見れたからいーや、と笑う小山の顔を見ると、市原の胸に一抹の
寂しさが込み上げてきた。
そうか、あと三年が学校に来るのは三学期の始業式と、何回かの登校日と…卒業
式だけだ。年が開ければ大学受験が始まるし、今みたいにちょくちょく顔を見せ
てくれる事も無くなる…
…そして卒業したら、自分のたった一人の先輩はこの学校から居なくなってしま
うのか…
「…あのさあ、なに一人でしんみりしちゃってんの?イッチャン」
「あ!…イヤ、その…」
ばっちり表情に出ていたらしく、小山が苦笑しながら市原に話し掛ける。市原は
慌てて頭から寂しさを追い出し、精一杯の感謝を込めて小山に頭を下げた。
「えっと…あんまし会えなくなるの、寂しいスけど、勉強頑張って下さい!」
小山が引退してもう大分経つ。
後任の主将も決まり、新しいチームも動き出した。市原も他の二年と共にチーム
を引っ張っていくようになった…なのに、それでも時間と共に小山が部から少し
ずつ疎遠になって行くのが無性に寂しかった。
大地もそんな市原の気持ちを感じ取ったのか、同じ様にしんみりとうなだれてい
たが、市原が頭を下げると慌てて一緒に頭を下げた。
「先輩、俺もっ、勉強頑張って下さいっ!」
「勉強?あーハイハイ頑張るよ。それに年開けてからもまた遊びに行くよ、お前
らにも見せたいし」
「…見せたい?」
何を?顔をッスか?と市原が聞き返そうとすると、後ろから高い声が聞こえた。
「小山くーん!」
「…!?」
まごうことなき女子の声が聞こえる。
後ろを振り返ると、向こうの方で一人の女の子が笑顔でこちらに向かって手をブ
ンブン振っているのが見えた。
驚いて小山の顔を見ると、同じく手をブンブン振りながらごめーん待ったー?な
どと叫び返している。え。何だこの会話。
「…タイさん、あれ…」
「ごめん!俺もう帰るわ。あんま待たせてると拗ねちゃうからネ」
「拗ねっ…て彼女なんすか!?いたんすか!?」
「え、九月くらいからいるけど…」
「はあっ!?で、でも告られた事無いって言ったじゃないすか!!」
「イヤだから俺から告ったんだって…」
「おーやーまーくーん!」
「あ、んじゃもう行くわ!じゃーなっ」
これからクリスマスの予定たてなきゃいけないからさ、部活頑張れよーと笑顔を
振り撒きながら小山は女の子の元へと走って行った。
二人仲良く並んで歩く姿は校内のカップルとまったく同じ、いやそれにも増して
眩しく見えて。市原はまたもや目頭をグッと押さえる羽目になった。
「また来て下さいねー!!…先輩?どうしたんスか?」
「…イヤ…別に……」
「…大地…」
「なんスか?」
「…部活だ。部活行こう」
大地は一瞬顔に?を浮かべたが、部活大好きなので直ぐに笑顔でハイ!と答えた
。
それじゃあ俺荷物取ってきます!と大地が元気に教室に走って行く。おかげで市
原の涙は誰にも見られる事は無かった。
「…野球ってシンドイな…」
でも俺には部活しか無いんだ…改めてその事実を突き付けられると、何だか無性
に切なくなる。
…正確に言えば部活しか無い人間でも、小山しかり大地しかり恋愛しようと思え
ば出来るものだが、自分には全く恋愛の気配も無いのが、ただ、ひたすら、切な
かった。
(…俺、エースなのになぁ…)
十二月の寒空の向こうで、頼れる先輩がドンマイイッチャン!と笑った気がした
…
終わり
以上で終わりです。
単行本派なので本誌と矛盾した点があるかもです、すいません・・・
ところで、ログ保管庫は止まってるの?
5スレ〜このスレまで更新されてないし・・・
GJ!(^▽^
えろじゃないけど面白かったれす!
イッチャンどんまい!
タイさんやるやるぅ!
すっごいありそうだった! GJGJ!
>>207 GJ
こういうのもいいね
>>208 たしか八月だったか?管理人の消息がぷっつりと途絶えてそれっきりだ
何度か新保管庫を立ち上げねーかって話にもなったけど、結局どうにもなってない
今のところは管理人になってくれるやる気のある人募集中ってとこかな
GJ!ついにサキタマが登場したか〜
またこれで色々新しいの投下されるといいな
次はエロいのもお願いします
おお!早速の埼玉GJ!
何気にちょっと質問…
三橋の看護師萌えってどこから来たの?
ここだけ?公式?中の人の発言?
>>213 中の人の発言
ひぐちがいつか使いたいとか言ってたから公式ってことだろうか
あけおめ
職人さん達今年も頑張ってください
あけおめ 運試しで投下します。
小ネタ 巣山×篠岡 付き合ってる設定。
昔よくいわれてた、いわゆるABCのB止まり。
巣山のキャラが崩壊
勝手な捏造が許せない人はスルーorあぼんヨロシク
「千代ってさ。一体彼氏と、どんな話するわけ?」
「はえ? 別にフツーだよ?」
「でもさ。あのカレシでしょう?」
そういって、難しそうな顔で何か想像しているみたい。
悩み続ける様子を無視して、私はさっさとお弁当を食べ終えた。
「じゃねっ。お先!」
「あっ! 千代! こっちの質問終わってない!」
「部の用事あるから! またねぇ!」
停止の声を無視して、私はさっさと教室から出た。
一緒にお弁当を食べてる友達から、突然そんなことを聞かれて、実は正直焦っちゃった。
部の用事なんて何もないのに、思わず逃げ出しちゃった。
まあ、質問したい気もなんとなくわかるような。
確かに、すごく不思議で、謎な人だもんね。
巣山くんて。
まんま野球部ってかんじの外見で、花井くんも坊主だけど、巣山くんとはちょっと違う気がする。
田島くんみたいにふざけた所はないし、冗談言ってるのなんだか想像つかないし。
守備もうまいし、打撃もうまいんだけど。4番にはなれない3番手で。
でも、ちっとも腐らない。
打順が変わっても淡々と仕事する職人って感じ。
そんな所に、私はきっと惹かれたんだと思う。
行くあてもなく教室を出たせいで、どこに行こうか迷う。
こういう時、カレシの教室に行くのが多分フツーの行動なのかもしれないけど。
私達の間にそんなのはない。
みんなの前で、いちゃつ・・・じゃなくて、みんなの前で二人で話すのとか
巣山くんは嫌がりそうで、こんな時顔を見たくなっても私は我慢するしかないかな。
あくまで、みんなの前では・・・なんだけど。
私はふと、先週巣山くんの家に行った時のことを思い出して笑ってしまった。
思わず足を止めて、笑いを収めるために窓の外に視線を向けたら、背後から呼びかけられた。
「篠岡。どうした?そんな所で?」
振り返ると、噂をすればなんとやらで、巣山くんが立っていた。
「や、特に何もないんだけど、なんとなく手持ち無沙汰でぶらぶらしてた所だよ。」
「へえ、珍しいな。」
そのまま、巣山くんは黙ってしまう。
本当に口数が少ないよね。
それでも、立ち去ることなく私の隣で一緒に窓の外を眺め始めた。
珍しい。
校内でこんなこと嫌がる人なはずなのに。
不思議に思って思わずじっと眺めたら、視線に気づかれた。
「何?」
「いや、巣山くんは用事とかないの?」
「オレも、どうしよっかなって思ってた所だ。」
「栄口くんは?」
「委員会の用事でどっかいった。」
「ふうん。」
そのまま、二人で何気なく窓の外を見る。
いつも二人でいるときは沈黙が多いんだけど、学校での沈黙って結構辛い。
なんだか居た堪れなくなって、慌てて用事をひねり出して見る。
「あ、私グランドの整備でも行ってくるよ。暇だし。」
巣山くんを仰ぎ見てそう言い放ち、さっさとその場から離れようとしたら、
巣山くんが無言で着いてきた。
「え〜と?」
「オレも手伝う。暇だし。」
このまま二人でグラウンドまで移動するの?
校内で二人で行動するのすっごく嫌がる人だと思ってたのに。
意外だな。
断る理由もないし、珍しい行動を疑問に思いながらも、二人で移動することにした。
まず部室に寄って、ジャージに着替えようとしたら、巣山くんまで部室に入ってきた。
そのまま机にごく自然に座って、ぼけっとこっちを見ている。
「あの・・・。巣山くん。私着替えたいんだけど。」
「あ、そうか。悪い。」
はっとしたように慌てて机から降りて出ていこうと部室のドアに手をかけた巣山くんは
なぜかそこでこっちを振り向いた。
「っていうか。別によくないか? そのまま着替えても。」
真面目な顔の、不真面目な台詞に、私は羞恥心で真っ赤になった。
「よ、よくないよ! それとコレとは別だよ!?」
慌てて抗議した私を、巣山くんはあっさり無視して、出て行くことなく私に近寄ってきた。
思わずじりっと後さずった私にお構いなくさらによってくる。
「考えたら、今って二人きりなんだな。」
「はえ?」
突然の台詞に、ぽかんと巣山くんを見上げてしまう。
「いや、普段学校いる時って、どっか感覚違う気がするんだけど、今も立派に二人きりだなって思って。」
真面目な顔でとんでもないことを話す巣山くんに私の顔はますます熱くなってくる。
「巣山くん?」
私がそう問いかけたのを合図にしたかのように、私をぎゅっと抱きしめた。
「篠岡、かわいい。」
わざわざ私の耳元に口を寄せ、呟く。
巣山くんのスイッチが完全に【二人きり】モードにはいっちゃった。
そのままだと、巣山くんが辛いのか、抱きしめられたままじりじりと移動させられる。
さっき巣山くんが座ってた机に再び腰掛け、身長差を失くして。
正面から抱きしめられてたのを、くるっと身体を回されて後ろから抱きしめられる。
いつものパターン。
私の髪に顔を埋め、両腕が身体に回されてぎゅうっときつく引き寄せられて。
髪を唇で掻き分けて、うなじに唇を落とされて、私は思わずびくっと震えちゃう。
「篠岡、かわいい。」
「かわいい、篠岡。」
ずっと囁かれるその言葉に、だんだん頭の芯がぼうっとなってきちゃう。
巣山くんはいつもそう。
小動物を可愛がるかのように、二人きりの時はこうやって私を離さない。
普段の会話は全然ないの、この時はずっと何かを呟く。か、かわいいって。
いつもは巣山くんの部屋でしかこの状態にならないのに、今日はどうしちゃったんだろう。
でも巣山くんのスイッチの切り替えは素早い。
部屋でこの状態でも、お母さんがきたら一気に素に戻ってウザそうに追いやるもんね。
で、出て行ったら、またこの状態になる。
そのままぼうっとして、耳元で囁き続ける巣山くんの言葉を聞いていたら。
不意に、巣山くんの手が、私の胸に触れた。
「すっ! 巣山くん!?」
「あ、悪い。つい。」
巣山くんはそう謝るけど、手は一向に胸から離れなくて。
そのまま力を込められてしまった。
大きな手に、服の上からだけどスッポリ包まれて、きゅうっと揉まれた。
途端に、私の身体に電気のような感覚が走りぬける。
膝が震えはじめて、力が抜ける。
背中にかかる巣山くんの体重を支え切れなくなって少しふらつくと
巣山くんの腕が肩から腰に回って、ひょいと抱え上げられた。
机の上に座る巣山くんの、膝の上に座らされた。
至近距離から顔を覗きこまれて、恥ずかしくなってきちゃう。
そんな私を、面白そうな表情で見つめて、ニッと笑った。
「かわいい。篠岡。」
同じ台詞をひたすら繰り返す巣山くん。
普段と、この時とのギャップに私はいつも戸惑っちゃう。
思わずぼうっと巣山くんを眺めてたら、巣山くんの手はどんどん服の中に入ってきて。
「あの、ちょっと。巣山くん!?」
「大丈夫。まだ20分ある。」
「いや、そういう問題じゃなくっ!」
私の抗議を聞く耳もたないと言いたいのか、問答無用で唇を塞がれた。
途切れた私の語尾は巣山くんの身体越しに私にも振動が伝わる。
手がお構いナシに私のいろんな所をまさぐって、理性が飛ばされそう。
ほんの少し巣山くんが唇を離した時に、がんばって文句言わなきゃと力をいれようとしたら
「5分でいけるだろ?」
そう呟いて、私の下着の裾から指を侵入させてきた。
「やっ・・・。んんっ・・・!」
恥ずかしい。
実は抱きしめられた時からずっと期待してたと思われたらどうしよう。
それぐらい、はしたなくなっちゃってると思う。
巣山くんのその言葉どおりに、私の身体はどんどん熱を持っていくようで。
かき回される巣山くんの手は、不思議なくらい私の頭を白くさせていく。
「ここだろ?」
「やっ!! やあんっ・・・!」
その言葉と同時に、私は巣山くんにしがみ付いていた手にぎゅうっと力を込めて。
指から伝わる波が、私の身体を飲み込んでいき。
頭の中で白い火花が弾けた。
「あっ・・・。っはあぁ・・・。」
荒く息をつく私を、巣山くんは引き抜いた手を肩にまわして胸に押し付ける。
「かわいい。篠岡。」
頭の上から響く甘い声に、朦朧としてしまい、身体に力が入らない。
足に当たる暖かい感触に、ふと見上げると、巣山くんは不思議そうに目をくりっと動かした。
「あ、あの。巣山くんは?」
私だけその、気持ちよくなってしまったことにほんの少し罪悪感がわいてくる。
でも、次の巣山くんの返答に、私の目がまんまるになった。
「いや、オレはいい。」
「え? そうなの?」
「いや、半分の状態だし。」
巣山くんは時々よくわからないことを言う。
私がきょとんとしたからか、巣山くんは言葉を続けた。
「半タチの状態だから。ほっとけば収まる。」
よくわからないけど、そういうものなんだろうか。
「っていうか、篠岡スゴイな。」
巣山くんの言葉に、私がますます困惑すると、すっかりスイッチが切り替わった巣山くんがそこにいた。
「ここ、部室なのに。篠岡が抵抗しないことにちょっとびっくりした。
でもって、オレが意外に真面目なことに自分でびっくり。」
「はあっ!?」
巣山くんの言葉に、私の顔に一気に血が集まって羞恥やら怒りやらで手がぶるぶる震えてきちゃいそう。
信じられない!
ま、まるで私がその、い、インラ・・・って言ってるようなものだよね!?
「巣山くん。今自分が何を言ったか気づいてるの?」
「篠岡は結構エロイよなってことだろ?」
あっさり言った普段どおりの巣山くんに、私は言葉を失って口をパクパクさせて。
何か言わなきゃ、何か文句を言わなきゃと思うのに、
何を言いたいのか自分でもわからなくなって。
「巣山くんのバカ! だいっきらい!!」
その言葉に私はカッとなって、慌てて巣山くんの膝の上から飛び降りて
そのまま後ろを振り返らずに部室から飛び出した。
背中に巣山くんの制止する声が聞こえたけど、知らない!
その日の部活は、最初は巣山くんを見るたびに腹がたって仕方なかったけど
終わる頃には、巣山くんの言葉は正しいことを認めなきゃという気分になった。
そういえば私もヒドイ言葉を言ったことを思い出し、謝らなきゃいけないと思い
みんなの終わりを待つことにした。
メールでもいいけど、やっぱりきちんと顔を見て話したほうがいいだろうし。
普段は一緒にあんまり帰らないけど、今日の事情ではしょうがないよね。
みんなが着替えてるのをまんじりと待っていると水谷くんが巣山くんに耳打ちしてるのが見えた。
「巣山さ、篠岡とケンカでもした?」
水谷くん。全然小声じゃないよ・・・。聞こえてるよ。
かといって反応するとそれを認めることになるし、聞こえないふりしなきゃ。
「別に? ケンカなんてしてないぞ?」
でも巣山くんの言葉に、思いっきり反応してしまった。
思わず呆然と巣山くんを真っ直ぐ見てしまい。
周りの視線が私と巣山くんと交互に刺さる。
水谷くんがさらに口を開くのが視界の端に見えた。
「篠岡、見てるよ? 今日篠岡ヘンだったし、巣山、何か怒らしたんじゃないの?」
普段どおりを心がけてたのに、なんで水谷くん気づいてるの?
「いや? 別に怒らせてないぞ。」
それに答えた巣山くんの台詞に、私は今度こそぽかんと口を開けてしまった。
な、何言ってるんだろ?
思わずパクパクと口を動かしてじっと見てると、私の視線に巣山くんが気づいた。
「篠岡は、あれだよな? ツンデレ?って奴。」
ニッと笑って私を見る巣山くんに、私の頭の中は真っ白になった。
ツ、ツンデレ!?
私が!?
あんなこと言って、私が怒ったのが、ツンデレ!?
だったら、だったら巣山くんは!?
「な、何を!だ、だったら! 巣山くんはデレデレじゃない!」
思わず口をついて出た私の言葉に、巣山くん以外全員が頭を抱えてうめき出した。
「うわ〜。想像できねえ!」
「で、デレデレ!? 巣山が!?」
「・・・聞きたくねえ。」
「やめてくれ〜。イメージを壊さないでくれぇ〜。」
「そもそもツンデレってなんだよ?」
「デレデレってもっと何だよ・・・。」
思わず両手で口を塞いだけどもう遅い。
みんなの反応と、一人涼しげに着替えを続ける巣山くんに
私は恥ずかしくて、居た堪れなくなって目尻に涙が浮かんできてしまい。
拭うのもどうしようかと混乱しながら視線を地面に向けてたら、巣山くんに名前を呼ばれた。
「篠岡、帰るか。じゃ、お先ー。」
未だのた打ち回るみんなを尻目に、巣山くんは私の手を引いて歩き出した。
「お、お先でーす!」
手を引かれながらも、まだダメージから戻れないみんなに向かって声を掛け小走りについていく。
グランドを出た頃、巣山くんがくるりとこっちを振り向いた。
少しだけ心配そうなその表情に、ちょっとびっくりする。
「篠岡、昼間のことで怒ったのか?」
「え!? そ、そりゃ・・・。怒ったよ?」
「そうか。それは悪かったな。悪い。」
その初めて見るしょんぼりした雰囲気に、私は何だか笑いがこみ上げてきて。
「あ、あははっ! もう怒ってないよ? 私もキツイこといってごめんね?」
私がそういうと、巣山くんはどこか不思議そうな顔で首をかしげた。
「何か言ったか?」
その返答に、私の顎が見事に落ちたに違いない。
なんだか一人でもんもんしてたのが、本当にばからしくなってくる。
「ホラ、キライって言っちゃったから・・・。」
私がそう言うと、巣山くんが納得した表情になって、うんと頷いた。
「でもソレ、嘘だろ?」
ニッと笑ってそう言い、珍しく私の手を握った巣山くんに。
私も笑顔を返すしかなかった。
---終わり---
あけおめ!そして新年早々スヤチヨ職人さんGJです!
デレデレ巣山かわいいよ巣山w
今年もこのスレが盛り上がる事を祈りつつ…(-人-)
うはwwにやけてしまいました!
GJ!次回作も楽しみに待ってます
新年早々、投下ありがとうー
かわいいよスヤチヨかわいいよ
てか、巣山デレデレかw
スヤチヨ、あんまり数ないから、寂しかったんだ
読みたかったから、すごい嬉しい
今年もここで、いろんな作品が読めますように
225 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/02(水) 04:41:55 ID:uQ5lblOc
スヤチヨ始めて読んだよ職人さんGJ、そしてデレ巣山すげーww
しのーかのキャラが原作っぽくてよかった!ごちでした。
>>226 おおすげー!
保管庫できてまた盛り上がるといいな
GJです!
>>226 GJ!!!!!!!!!!!!
本当にありがとう
団長×三橋ママのエロいのよろしく
>>226 ( ゚д゚) ・・・
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚д゚) 保管庫・・・
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
(;゚ Д゚) 新保管庫・・・!?
というわけで、お年玉ありがとう!
6スレまでまとめ完了。
3スレ目のサカチヨってクロ?グレー?
ログ読み返してもよくわからなかった。
下げたほうがいいかな?
うおおおおまとめ神降臨乙!
これからお世話になります
>>231 すごい勢いで更新乙です!
3スレ目のサカチヨは例のパクリの人っぽいが、どこかからパクられたって報告はなかったんだよね
なのでとりあえずはwiki管の判断でいいと思う
あと、無責任ながら提案してもよろしいだろうか?
元々タイトル付いてるのは、メニューのところに入れてもらえたらわかり易いかなーと思うのですがどうでしょう
悲願の保管庫ktkr!
心から乙、そしてGJ!!
改行も上手くて読みやすいです
細々と投下している者ですがこれからも頑張ります
235 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 21:04:06 ID:18A4DbTr
三橋×千代希望
目次まで凄い!
ありがとうございます!
あとは初代と2スレ目の移植作業だけだな。
240 :
236:2008/01/10(木) 23:34:15 ID:b2aoIX2T
ミハチヨ投下します。
235の本気に答えようと思ったが俺には文才が全くありませんでしたorz
キャラ崩れてるとか以前に急展開、エロなしの駄文です
ある夏の日 で投下します
241 :
ある夏の日:2008/01/10(木) 23:36:31 ID:b2aoIX2T
三橋くんを家まで送るよう監督に言われた私は三橋くんと二人帰路にいた。
「今日の試合すごかったね 三橋くん完封だよ!」
「オレじゃなくて 阿部くんとみんながすごいんだ よっ!」
「みんなもだけど、三橋くんが凄いんだよ?」
「オ レはただ投げるてるだ けだから…」
「そんな事ないよ!すごくかっこよかったもん!」
三橋くんはピクっと反応して歩くのをやめた。
「三橋くん?」
なんだろう…なんか悪いこと言っちゃたかな?
「オレっ 篠 丘…さんに聞いて欲しいこと があるんだっ」
「うん?」
「オ……ッオレはっ篠丘さんがスキだ!!」
「えっ!?」
突然の告白に私は頭の中が真っ白になった。
今私のこと好きって…ど どうしよう。私は三橋くんのことどう思ってる?西浦野球部の一人だよ…ね?ううん違う…それだけじゃない。気付けばいつも目で追ってたし、おにぎり作るときも三橋くんのを作るときだけドキドキしてた。
私もきっと…。
自分の気持ちに気付いたら急に顔が熱くなってきた。
私きっとまっ赤になってる。でも、言わなくちゃ…。
「私も…三橋くんのことスキだよ?」
言った瞬間私は三橋くんに抱き締められていた。
自転車が倒れた音とともに、ジンワリと胸の奥が満たされていくのを感じる。私は目を閉じてそれを受け入れた。
あぁこれが幸せなのかな…。一人幸せに浸っていると三橋くんが唇を重ねてきた…
私今キスしてる!?
好きな人との初めてのキス。嬉しい…本当に嬉しい。気付くと目から涙があふれていた。
「ごッ ゴメン」
三橋くんが慌てて謝ってくる。
「え?」
「……その、嫌だった よねっ? オレ…いきなり きっキスなんて……」
なんか三橋くんらしいな。
「あははは嬉しかったんだよ? 嬉しくて、嬉しすぎて泣いちゃったの!」
「だから…もっとして?」
自分でもびっくりするくらい恥ずかしい事言ってる。
でも…仕方ないよね?
三橋くんはすぐにキスをしてくれた。私は三橋くんをちゃんと感じたくてまた目を閉じる。閉じると同時に三橋くんの舌が入ってきた。
「ん……」
私は不意にきた快感に声を我慢することが出来なかった。
三橋くんの息が荒くなっていく…。
激しく舌が絡められていく。私も必死に三橋くんを求める。お互いの唾液を交換しあい、舌を絡ませあう。私はその行為に夢中になっていたのに…。
「ぁ……?」
三橋くんが突然キスをやめた。
242 :
ある夏の日:2008/01/10(木) 23:36:56 ID:b2aoIX2T
どうしてやめちゃうの?って顔をしているのが自分でもよく分かる。
「篠丘さん な…んか エッチだっ!」
「えぇっ!! そ、そんなことないよ!?」
三橋くんに言われて私は必死に否定する。
けど…そうだよね?エッチな女って思われるよね。どうしよう嫌われちゃったかな?
「篠丘さんは…こ こういうこと、スキなの?」
三橋くんは顔をまっ赤にして聞いてくる。
「んーと…三橋くんとだからだと思う」
私は自分の気持ちを素直に伝える。
「オ……ッオレも篠丘さんとだから よかっ た!」
よかった三橋くんも同じ気持ちだったんだ。私は泣きそうになるのを隠すためうつむく。
「そ、それで 今日…は親が帰ってくるの、おそいん だ!」
そ それって、そういうこと…だよね?
ちょっと怖いけど、三橋くんとなら…。
「三橋くんち入っていいの?」
「うん!大丈夫だ よっ!」 「じゃあ…おじゃまさせてもらおうかな?」
「うん!家、こっちだよ!」
三橋くんは凄く嬉しそうに答えた。
そんな三橋くんを見ながら私は呟く。
「三橋くん大好き…」
マネジとエース ある夏の日
243 :
236:2008/01/10(木) 23:37:42 ID:b2aoIX2T
以上です。本当にスレ汚しすみませんでしたm(_ _)m
この不出来さに耐え兼ねて、ミハチヨ書いてやるか…
と、思ってくれる職人さんが出てくれれば幸いです。
では!
乙
だがしのーかのオカは岡だ
保守
246 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 03:34:31 ID:V3GZuoOO
ほ
あ
レンルリの続きを待っている…
これからエロに突入するんだよな
マターリと待とうじゃまいか。職人さんも忙しいんだよ、きっと。
・・・早く来てほしいけど。
過疎ると書くほうもテンション上がりづらいと思うので
ほどほどに雑談しつつ保守したい
来月バレンタインだね。
そういえば水谷の誕生日はスルーだった。
ミハチヨか…最近めっきり見かけなくなったから新鮮に感じていいね
>>236 勢いでエロ部分も期待したい
252 :
236:2008/01/19(土) 06:36:17 ID:/SbBPzaR
>>244 ご指摘どうもですm(_ _)mなんで気付かなかったんだろうorz
>>251 自分の力量だと時間をかけて書いたとしても、この前の文程度のものしか書けないと思う…。
住人の皆さんもそれは望んでいない事なので他の人に期待しながらROMさせてもらいます。
…変な空気をつくってしまい申し訳ありませんでした。
それでは(>_<)
>>252 なんだなんだww変な空気じゃないぞww
またなんか思いついたら書いてくれ
過疎ってるので需要のないアベチヨで投下します。
長くて偏見ぽい血液型の話が入ってますので、
合わない方はスルーお願いします。
教室で友達と雑誌を見ていたら、水谷くんが「何読んでんの?」と寄ってきた。
「占い特集だよ」と友達が答えると、水谷くんは渋い顔をした。
「人間を4つに分類しようなんて乱暴だよなー。俺、血液型占いは信じねーよ」
「あ、私も!」
思わず同意する。血液型を答えると、引かれるのもイヤ。
とはいえ、水谷くんは
「花井はどうみてもAだよな。阿部はBかぁ?」
と、自分がB型なのに墓穴を掘るようなことを言っている。
そこに調度、阿部くんが通りかかった。
「俺はO型だけど?」
「阿部のどこが、お・お・ら・か・なO型ぁー?ねえ、篠岡ホント?」
「俺がOだって言ってるのになんで篠岡に聞くんだよ!」
私はみんなのプロフィールは頭に入ってるので、全部答えられる。
A型から順に言っていくと、
「ああ、どーりで」
阿部くんが1人で納得していた。
「三橋、ABか。合わねーわけだ」
「え?」
「AB型は天敵だ、俺」
私は、自分がどんな顔をしたのか、覚えていない。
その日のおにぎりを配り終わり片付けようとしたその時、阿部くんに呼び止められた。
その後ろには花井くん、水谷くんたち。
「メールじゃダメだからな」
「ちゃんと謝っとけよ」
「うっせー」
答えた阿部くんに泉くんが一言、
「阿部、最悪」
とトドメを刺して通り過ぎて行った。
花井くんたちは「じゃ、先に行ってる」と言い残して立ち去る。
このやりとりで、阿部くんが何を言うのか予想がつく。
謝られても、困るよ……。
申し訳なさそうに阿部くんが言った。
「ワリぃ、その。花井が7組はバラバラだと覚えてて……」
「うん」
A型が花井くん。B型が水谷くん。O型は阿部くん。私は――AB型。
「あんな言い方されたら、なんとも思ってねーヤツから言われたってムカつくよな」
「別にいいよ。そんなの、気にしないで……」
と言いかけてハッとした。
今、なんて言いました?なんとも思ってない?私が?
そこは、断固訂正を要求したいよ!
なんとも思ってないどころか、阿部くんを前にすると舞い上がってしまうし、
部活を引退したら即、縁が切れそうなほど野球しか共通点なくて
今から心配なくらいだし。
目が泳いでいる私に、阿部くんが首をかしげている。
「篠岡、具合悪いのか?」
「う、ううん!ううん!」
強く首を振りすぎてくらくらした。これじゃ私、怪しくて頭の悪い子だ。
それでも奇跡的に、ずっと気になってたことを思い出した。
「あ、阿部くんは、なんでAB型ダメなの?わ、別れた彼女とか?」
阿部くんは一瞬固まって、怪訝そうに答えた。
「シニアの時組んでた俺様投手がそーだったから、だけど?」
「あ、そ、そうなの」
女の子じゃなくてホッとした。とりあえずその投手、一生恨む。
「タイプは逆なのに、三橋の考えてること理解出来ねーから、やっぱ
相性ワリ……あ、別に篠岡がどーとかじゃなくて」
阿部くんが大真面目な顔で訂正した。
謝ってるんだか喧嘩売ってんだか判らない、そんな大雑把な阿部くんも、私は好きで。
だけど、話す時はいつも部活のことで、2人きりでプライベートな話をする
機会なんてそうはない。というより、記憶にない。
……もしかして、阿部くんにアピールする絶好のチャンス?
「あ、あの……血液型の相性は悪いけど、阿部くんは射手座で、私は牡羊座で、
同じ火の星座だから星占いはバッチリなんだよっ」
コンビニに並んだ占い特集の雑誌が目について、最初に星座の相性を確認して、
凄く嬉しかったから思わず買ったのだ。
「……そりゃ良かった」
一拍置いて、やっと阿部くんが笑ってくれた。
「……阿部くん、嬉しい?」
「部活とクラスが同じで、相性が最悪だったらストレス溜まる」
「そ、そうだねー」
恋愛体質じゃないのは判ってたけど、これほどまでニブい人だとは思わなかった。
どうして私が調べたのかっていう想像力、働かせよーよ!
この人、味覚障害ならぬ、恋愛障害なのかも。
「篠岡、顔色悪いぞ」
「だ、大丈夫……」
本当に相性が悪い気がしてきた。
変な間が出来てしまい、阿部くんは居心地が悪そうに目を逸らした。
「じゃ、引き止めて悪かったな。お疲れ」
「……お先に失礼しますー」
そのまま、阿部くんは背を向けてしまう。
阿部くんの後姿に、思わず私は俯いた。
会話が続けられない自分の頭の悪さに、ため息が漏れそうになったその時。
阿部くんが立ち止まった。目線が私を捕らえる。
「相性、確かめてみっか?」
「確かめるって……?」
この場で出来て、想像することといったら、1つしかないんだけど。
阿部くんって硬派なイメージだったけど、こんなこと言う人なんだ……。
震える両手をぎゅっと握り締め、いつでもどうぞ、と身構える。
きっと顔が真っ赤だと思いつつ目を閉じて固まっていると、
「なにやってんだ?」
不思議そうな阿部くんの声。私は目を開けた。
眉間にシワを寄せて、阿部くんが私を覗き込んでいる。
「……え?」
キ、キスしてくれるのを、待ってるんですけど?
「手ぇ出せ、手」
そう言って阿部くんは私の右手を掴み、ぐっと握った。
「め、瞑想……」
志賀先生の指導でみんなでやるアレだ。1度も隣になったことがないので、
初めての阿部くんの手の感触……なのだけど、そのざらりとした手に触れられていると
考えるだけで、電流が走るように頭の中が痺れた。
自分の勘違いと、触れられている恥ずかしさに、顔が熱くなる。
「……ダメか。全然暖かくなんねーや。マネジだからって、手ぇ抜いてんじゃねーよな」
「ちゃんとやってます!」
これだけ緊張してて、手が暖かくなる訳がない。
阿部くんの手の熱を奪う申し訳なさで胸が痛みつつも、1秒でも長くこうしていたかった。
「そろそろ、戻らねーと」
そう言いながらも、阿部くんは私の手の甲を撫でた。手はそのまま滑り降り、指先に触れる。
「相性とか俺は判らねーけど」
指先をきゅっと握られた。
「野球部のなかった高校に来て、こうして野球やってんだから、篠岡も含めて野球部の連中は
強い縁がある。ま、そうでも思わねーと、三橋と組む自信が揺らぐってのもあるけど」
阿部くんが少し遠い目をして、微笑んだ。きっと、三橋くんのことを考えているに
違いない。
やっぱり、野球に打ち込む阿部くんは素敵で、ますます好きになってしまった。
適当に言葉を交わして今度こそ分かれた後、俺はそっと振り返った。
顔を赤くしたまま、篠岡はぼーっとその場に突っ立っていた。
篠岡は思ってることが、すぐ表情に出る。
俺がわざと気づかないフリをしているのに、いちいちうろたえて面白かった。
マネジが部員の誰かに興味を持ってもおかしくないが、投手とか4番とか主将とかいう
目立つ部員に行かず、捕手の俺なのは野球おたくのこだわりだろうか?
うっかり俺が、「AB型は天敵だ」と言った時の篠岡は引きつっていた。
さすがに篠岡の血液型を知っていたら言わなかったが、結果オーライってことで。
自分の性格や思考は血液型や星座よりも、ポジションの影響が大きいと思う。
相手をじっくり観察して、把握してから攻略したい。
焦って行動したり、特別扱いしない方が、篠岡のようなタイプは落ちるだろうと
俺は読んでいた。
さっきのキスのチャンスは迷った。もちろん、そのつもりで確かめてみるか聞いたが、
誤魔化されると思っていたのに、篠岡は素直に目を閉じた。
俺は見えてないのを良いことに、小さくガッツポーズして、ここは焦らすことにした。
勿体なかったが、機会は今後もあるだろうから後悔しなかった。
意外にも、その機会は早く訪れた。
その日は日曜で部活も休みだったので球場に足を運んだ。
試合自体は期待はずれで、次の打者で最後と考え始めたところで隣のブロックの階段を
上がってくる篠岡が目に入った。
「篠岡ー、帰んのか?」
声をかけると、篠岡がびっくりして立ち止まった。
「阿部くん!」
俺を見つけると、篠岡は嬉しそうにパタパタと人の少ない席を通り抜けてきた。
もし篠岡にアイちゃんのような尻尾があったら光速で振ってるだろう。
「偶然だねー。来てたなんて思わなかった」
「本当はコレに勝った後のカードが見たかったけど、モモカンが観戦を
予定に組んでるか判んなかったから」
「せっかく来たのに、エース温存で残念だね」
普通の女なら、笑う時はニコリとかいう表現だが、篠岡の場合へらっと笑う。
喋る時も大口を開ける。
その口を塞いで、大人しくさせたい願望が疼いた。
篠岡の私服は学校でも見ているが、今日はアクセサリーや踵のある靴が目を引いた。
駅から遠く昇り降りの多い野球場の観戦には、そぐわない気がする。
「帰るトコだったんだろ」
「阿部くんは見て行くの?」
「……一応、9回までは」
ついさっきまで帰る気だったがそう答えた。
もし篠岡に予定があるなら球場を出るだろうし、なければ残るだろう。
案の定、「じゃあ、私も最後まで見ようかな」と言って、篠岡は俺の隣に座った。
「約束とか、あんじゃねーの?」
「ないよ。買い物しようかなって思った程度」
「買い物か……。そーいや、コールドスプレー切れそうだったな。大会始まると
買いに行く時間もねぇし」
コレ終ったら買って帰るかと考えていると、
「あの、あの」
篠岡が両手を握り締めてキョドっていた。
「は?」
「部活の買い物なら、一緒に……」
ああ、その手があったか。
俺は野球くらいしか物欲がないから、部活の備品とは考えずに口にしたのだ。
「自分で買っとくからいーよ」
そう返事すると、篠岡は監督のバイト代を使うからには、同じ品物なら1円でも
安く買いたいから知ってる店で、と言う。耳まで赤くして、本当に判りやすい。
「じゃ、俺も行く」
「い、良いの?」
良いも何も、そのつもりで言ったんだろと苦笑する。
「どーせ暇だし」
じゃあ、せっかくだからいっぱい買っちゃおうと篠岡が嬉しそうに笑った。
締まりのない口元に目が行く。今日中にどうにか出来るか?
試合が終わると、篠岡に言われるままディスカウント店に着いて行き、消耗品を買った。
モノによってはネットの方が安いとか、数を買うならこっちだとか、
マネジとしての篠岡の有能さを再確認する。
荷物はさほど重くはないが、通学時の自転車で運ぶには面倒な嵩になった。
突然、篠岡が口を開いた。
「阿部くん、お腹空いてない?」
「空いてる」
「駅からちょっと歩くけど、良い?」
篠岡が、行きたい店があるらしい。
「渋谷のお店の支店で、すっごく内装も食器もカトラリーも可愛いの」
カトラリーって食えんのか?
個人的には可愛いモノには興味ないし、近い方が嬉しい。
水谷とか花井なら上手く合わせることが出来るんだろうが、俺は理解したいとも思わない。
そういう店は女同士で行けば良いのにと思ったが、篠岡の言うとおりにした。
メルヘンチックな内装と小物、口にするのも恥ずかしいメニュー、圧倒的に女の多い店内。
俺は自他共に認める、場違いな客だった。
スープやサラダが一品ずつ出てきて「全部並べて食わせろ」という言葉が喉まで出かかる。
「阿部くん、迷惑だった?」
渋い顔をする俺に、篠岡は心配そうに尋ねた。
「部活の買い物に迷惑もなにもねーだろ。ま、俺にはこの店の良さは判らねーけど」
「そうなんだけど……。あの、こういうお店知ってると、デートの時に女の子が喜ぶと思うよ?」
探りを入れてきたな、と思った。受け流しておく。
「面倒くさい名前の注文しなきゃなんねーから、いーよ」
「……阿部くん、彼女いるの?」
何気なく聞いたつもりらしいが、篠岡の顔がこわばっているので思わず吹きそうになった。
「は?いたら、1人で野球場に居ねーよ」
「あはは、そうだねぇ。お互い、1人身は辛いねー」
「花井はよく、篠岡に彼氏がいるか聞かれるって言ってたけど?」
「えぇ?」
「告白する前に、マネジを取って良いか主将の花井か学校役員のシガポに確認してくるって」
シガポは「若いんだから当たって砕けるのも良いと思うよ!」と無責任にそそのかし、
花井は「篠岡の自由だから応援も反対もしねーけど」と返事する。
「けど」の後の飲み込んだ言葉は当然、「告白しても無駄だと思う」だ。
篠岡が誰かと付き合っているという噂は聞かないし、相変わらず野球おたくだ。
「私は……」
篠岡が言いかけた時、料理が運ばれてきて、店員が長ったらしい料理の名前を言った。
そんなものはとっくに忘れているし、自分の注文したモノと料理が結びつかない。
篠岡が俺を差して皿が置かれ、もう一方の料理は篠岡の方に置かれた。
「そーいや、9組の連中は『うまそう』やってるらしいぞ」
「阿部くん、ここではやらないでね」
「さっきから食ってるし、こんなとこでメシに集中出来るかっての」
テーブルの小さい花瓶に刺さった花とか、おもちゃみたいなスパイスの瓶とか、
ヒラヒラのクロスとかを顎で示す。具合が悪くなりそうだ。
俺は、細長いパンや香草や、複雑なソースのありがたみは判らない。
ナイフとフォークより箸、質より量、野菜より肉を!
とにかく、さっさと食ってこんな居心地の悪い場所は出ようと決めていた。
が、途中で考えが変わることになった。篠岡の野球の話が面白かったからだ。
ある高校の監督同士が元チームメイトだからチーム作りが似ているとか、
元女子校でもないのに何故あの高校の横断幕はピンクなのかとか、
お約束の応援が意味不明だとか、篠岡はいろんなことをハイテンションで喋る。
殆どがプレーに関係ない雑学だったが、その下らなさが新鮮だった。
野球に関してはうるさいつもりの俺は、時々口を挟むだけで聞いていた。
料理の皿が下げられ、紅茶を飲んでいる時だった。
個別のポットに胸糞悪いカバーがかけられ、俺は篠岡が「このお店は絶対
コーヒーじゃなくて紅茶!」と言い切った意味が判り後悔していた。
篠岡は一通り喋り倒した後、
「他の子と話をすると途中で話題変えられちゃうのに、阿部くんは……」
そこまで言って、ため息をついた。ぐったりして、肩で息をしている。
「どうした?」
「喋りすぎて、あごが痛い……」
馬鹿がいる。愛おしくて抱きしめたくなる程の野球馬鹿が。
もう、この頃には俺も麻痺してどうでも良くなっていて、この珍しい生き物に
雄鶏のカバーを取り去った自分のポットを差し向けた。
「まあ、飲んで落ち着け」
「阿部くん、紅茶ダメだった?」
「どっちかっつーと、なんか食いてーかも」
「じゃあケーキ食べない?阿部くんはこの後の予定……」
「買ったもの、学校に運んどきたい」
この勿体ぶった空間の割には、値段が手ごろなのでケーキを食うのは良しとする。
まあ出費は痛いが、それ以上にこの時間は心地良かったし。
が、その前の手続きを考えると憂鬱だ。苦々しく思いながらメニューに目をやると、
篠岡がそれを取り上げた。
「注文は、阿部くんの分も私がやるから大丈夫」
「え」
「だから、また一緒に来てくれる?」
篠岡がへらっと笑った。
部室に荷物を運び込び、一息ついた。
当然ながら、休日の部室には俺と篠岡以外は誰もいない。
「せっかくだから、掃除して行こうかな」
部屋を見回して、篠岡が言った。
俺は無言で篠岡に近寄り、ロッカーに押し付けた。
そのまま、服の上から胸を擦り、唇を奪い、急かすようにスカートの下に手を潜らせる。
肩のあたりを、無駄な抵抗をする篠岡の手にバタバタと叩かれたが、嫌がって
いないのは判っていた。
下着の上からそっと割れ目を撫でると、ぴくんと篠岡が反応した。
呼吸が深くなるのを隠すように、慌てて俺の手首を掴む。
「あ、阿部くんっ」
「なに今更」
「……い、引退まで、待って」
「なんで?」
「マネジだから、やっぱりダメ……」
さんざん俺を好きだとアピールしておいて、随分勝手だ。
もし篠岡が俺と付き合って、崩れるチームならその程度の関係だと思う。
そんなメンタルの弱い連中のチームが甲子園なんて、とてもじゃないが無理だ。
「その約束、出来ねーよ」
「え?」
「『負けたら篠岡と付き合える』と思ったら、楽な方に逃げる」
正確には「篠岡とやれる」だけど、さすがに自重した。
そんなつもりはなくても炎天下の連日連戦で疲労が溜まり、ある程度の結果が残せていれば、
キツイ場面で配球の組み立てを放棄したくなるかもしれない。
篠岡はみるみるうろたえて、泣きそうになってしまった。
その顎に手をかけて、キスをした。ロッカーに押さえつけるようにして逃がさない。
わざと音を立てて唇を吸う。いつも口角の上がった口が、とまどって引き締められている。
熱っぽい呼吸と、そのギリギリの表情がたまらなかった。
「相性、確かめさせて」
俺は耳元で囁いた。
えっ、と篠岡が口ごもった。恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「だ、だめ……」
「触るだけ」
俺の言葉に大きな瞳が見開かれて、恐る恐る俺を見上げた。
篠岡は押しに弱い。
まして、俺の言葉には逆らわないだろうという計算があった。
わざとすがるように目を覗き込むと、篠岡は小さく頷いた。
長い躊躇はあったが、脱がしてしまえば覚悟が出来たのか、後は簡単だった。
俺は篠岡のキャミソールをたくし上げ、胸の谷間に顔を埋める。
額にネックレス当たった。たった半日のためにマニキュアまでして、
1人で野球場に来るのが女という生き物なんだろうか?
「本当に今日、予定なかったのか?」
「……ないけど、阿部くんに会えないかなってちょっと期待してた」
えへへ、と篠岡は笑う。その唇を見ると、思わず塞ぎたくなってその通りにした。
ブラの中に手を差し入れ、片方の突起をぴちゅ、と口に含むと篠岡が小さく悲鳴を上げた。
「触るだけって…」
「篠岡……美味しい」
俺はその小ぶりな胸を包み込んで、軽く歯を立てる。
変な名前の料理より篠岡の方が美味い。デザートなら、甘くて良い匂いがする篠岡の方が良い。
滑らかな太ももに手を伸ばし、ショーツに手をかけると、篠岡が息を呑んだ。
「あ、阿部く……えっ?」
あぁ、と声が上がり、篠岡の身体が跳ねた。布越しではなく、中に指を潜らせたから。
異物の侵入に、篠岡がパニックを起こした。
「や、阿部く、やだ、……ぁあっ」
逃げないように篠岡の華奢な身体を自分の身体でぐっと床に押さえつける。
蜜がぬめるそこを、優しくかき回した。
「篠岡、自分でやんねーの?」
「んぁ……は、ぁ」
「ここ触るの、俺が初めて?」
ぐにゅりと熱くうねる篠岡の奥深くに、挿れたい欲望が膨れ上がる。
少し乱暴に動かすと、俺の指に反応して、はあ、と熱っぽい息を吐いた。
くっと篠岡の震える指が、俺のシャツをつかんだ。
「……ここか?」
篠岡は、俺の下で顔を背けて「い・や」とかすかな声で抵抗する。
言葉とは反対に、色っぽくて嬉しそうなため息にゾクゾクした。
潤んだ瞳が俺を見る。ここまできたら、篠岡が拒否する訳がない。
自分のベルトに手を掛けると、篠岡の身体に緊張が走った。
いちいち返事を強制する方が、恥をかかせる。
篠岡が目を閉じて唇を噛むのを肯定の意味だと確信して、俺はほくそ笑んだ。
「ご、めんな、さい」
ここで、またも囁くような声。
「……嫌か?」
篠岡はううん、と首を振った。
「私、我慢出来なくて……悪いマネジでごめんね」
一瞬怯んでしまった。
ずっと「高校野球のお兄さん」に憧れていた、理解し難い少女趣味な店が好きな篠岡。
篠岡を打算でたぶらかす自分が、凄く間違った人間に思えた。
そんな俺の葛藤をよそに、辛そうに篠岡が笑う。
篠岡は悪くないのに。今止めれば引き返せるか。恋愛に駆け引きは普通だろ。
捕手の職業病とでもいうべきか、余計なことが頭の中に思い浮かんだ。
が、手は着々とベルトとボタンを外し、「行っとけ!」と叫ぶ本能に従ってしまう。
何より、篠岡の予想を上回る感度の良さに、俺は興奮していた。
今日一緒に過ごして、篠岡と趣味は合わなくともプラトニックでも良い戦友になれると思った。
でもだからこそ、見てるだけで満足したくない。
不安そうな篠岡に、笑いかけた。どれだけ効果があるのかは判らない。
俺が触るだけで、篠岡の身体に電気が走る。元々、感じやすい体質なのかもしれない。
足を押し広げてクリトリスを吸い出して、舌を転がす。
少しずつ篠岡の身体が熱を帯び、俺はさらに奥深く舌を侵入させた。
ガクガクと痙攣しながら、あえぐ可愛い声。
蜜が溢れる。
とうとう我慢出来なくなって、ジッパーを下ろすと、秘裂にペニスを押し当てた。
確認すると一気に奥まで突く。
うくぅ……ぃった……あぁ……キツ……。
助けを求めるかのような、篠岡の弱く鋭い喘ぎも、途中から耳に入らなくなった。
呼吸を合わせたり、痛がる篠岡を気遣ったりする余裕もなく、俺は篠岡の上で荒い息を吐き続ける。
放出した瞬間、恍惚に包まれて、頭の中が真っ白になった。
押し寄せる泥沼のような疲労感に全身がぐったりして、そのまま篠岡に覆いかぶさって、
ただ自分と篠岡の鼓動を体中で感じていた。
小さくて柔らかい篠岡の体温と脈を感じて、気持ち良くて幸せな気持ちになる。
ようやく息がおさまると、俺は上体を浮かせて膝をついた。
ペニスを引き抜いて、一息つく。
「ごめん」
他に言葉が見つからない。
ぐったりとした篠岡のわき腹を撫で、耳朶にキスをした。
余韻に浸っていたらしい篠岡が、ゆっくりと俺の首に腕を回す。
「見てるだけで、良かったのに。……夢みたい」
篠岡の澄んだ目から涙がこぼれ落ちた。心の底から、可愛いと思った。
「緊張してよく判らなかったけど、今は幸せな気持ち」
篠岡も、同じことを感じていたんだ、と判って嬉しさがこみ上げて来た。照れくささもあり、
「俺は……けっこー疲れたな」
すぐ回復するとはいえ、これ程だるさが付きまとうとは思わなかった。
「……そんな感想……」
篠岡はしばらく絶句していたが、ふふっと笑った。いつもの、口を開ける笑い方とどこか違う。
「なに?」
首を振るばかりで言わないのでせっつくと、「友達から聞いた」と言い訳をしてから、
「男の人が、1回する時のエネルギー量って、100メートル全力疾走と同じくらいだって。
阿部くん、走りこみ足りないのかな?」
あれだけ部活で走ってんのに、そんな訳あるか。だいたい篠岡が俺をからかうなんて100万年早い。
篠岡が余計な提案をして、これ以上モモカンに走るメニューを増やされるのも困るな、と思った。
「じゃあ、走りこみの代わりに、協力して?」
俺は篠岡の首筋に唇を這わせる。
「……相性、1回だけじゃ判んねーし」
「ふぇ?」
「何回出来っかな?……現役高校球児ナメんなよ」
さっきから舐めてるのは阿部くんなのに、と訳の判らない理由で篠岡は拒絶しようとする。
「もう、今日は嫌。それに、他の人と瞑想やる時と、阿部くんと手を繋ぐ時は
全然違うから、相性は良いと思うんだけど……」
「へえ」
触れただけで、篠岡を気持ち良くさせられるのは、俺だけなんだ。
誇らしさに思わずニヤリと笑みが漏れてしまい、慌てて言い返す。
「どーだか。篠岡はAB型だから」
「そんなぁ」
篠岡の反応は期待通りで、つい意地悪したくなる。篠岡で遊ぶのは面白い。
阿部くんが立ち上がる気配があった。
しばらくして、ロッカーからタオルを出して「使って」と手渡してくれた。
そうして、部室にある椅子に背を向けて座る。見ないでくれるのは、すごく嬉しい。
いつもはガサツだけど、そういうところが素敵、としみじみしながら身支度を整えていると、
「あー腹減った。帰るか!」
「……え?」
コンビニ寄ろーぜとか言い出す阿部くんに、耳を疑ってしまう。
私はもっと、時間が許す限り今日は一緒にいたい。今日は記念日なんだよ?
私のミーハーな野球の話を、呆れたりちゃかしたりせずに聞いてくれた阿部くん。
話が合いそうとは思ってたけど、阿部くんを独占している自分が信じられなくて、
きっと今日のことはずっと、1人になった時に思い出して悲鳴を上げると思う。
でも時々、阿部くんは私の内面を見透かしているように感じてしまう。
私の困る顔を見て、楽しんでるとしか思えないんだけど……。
「良いキャッチャーは性格が悪いって、本当だね」
精一杯の皮肉のつもりだったのに、阿部くんは平然と、
「逆。捕手やってるうちに『イイ性格』になんだよ」
阿部くん。捕手なら投手をその気にさせるのもお仕事ですよ!
「疲れた」とか「腹減った」とかじゃなくて、女の子を喜ばせる言葉をくれても、
バチは当たらないと思うんだけど?
少し悔しくなった私は、あることを思い出した。
「もし占いの相性が同じなら、別のポジションだと違うのかな」
「同じ相性?」
そう。射手座のO型は、西浦高校野球部に、もう1人いる。
「泉くん。星座と血液型、阿部くんと同じだよ」
1番だから足速いしね、などと付け加える。足の速さは関係ない気がするけど。
いつもは余裕の表情の阿部くんが、珍しく青ざめて引いていた。
「他の男の話する神経、信じらんねぇ!……俺、AB型と理解し合えない運命かよ」
「違うよ。マネジだからだよ」
マネジだから、みんなのこと知ってるの。星座も血液型も関係ない。
衣服の乱れを直しサンダルのつま先をトントン鳴らす私に、阿部くんが近づいてきて
抱きしめられた。
「こーしてて良い?」
「阿部くんは嘘つくもん」
マネジの私は、阿部くんだけ贔屓出来ない。2人の時くらい……って判ってるのに、恥ずかしいから
腰からスカートに下りて来た阿部くんの手を捕まえる。
「なんか、篠岡は判んねー……」
そう呟いた阿部くんの手は冷たくて、今までと違って余裕がないような気がした。
終わりです。
三橋、榛名、篠岡が同じ血液型なので思いついただけで、偏見はありません。
気を悪くされた方がいらしたら申し訳ありません。
GJ!!!過疎ってたから嬉しい!
ふたりのカワイイ駆け引きが良かったよ〜
最後に泉の話を出すしのーかがニクイw
GJ!!
確かにこの年頃って血液型にこだわりだす時期だよな。
リアルな高校生って感じがよかった!
そしてしのーか天然入ってていい感じ。
GJ!最初の方はなんか恥ずかしくてムズムズしたww
かわいらしくてエロくておもしろかった!
GJ!
ニヤニヤしながら読ませてもらった
血液型、星座の共通点なんて気にもしてなかったよ
しのーかがかわいかった!
あべ!きもかっこいいです!
あいつ意外にワルイやつだな。イイネ!
しのーかもかわいい!
えろもかわいいね。
全体的に、恥ずかしくってスゲーよかったです!
GJ!アベチヨいいな。阿部も篠岡もそれっぽい感じですんなり入っていけました。
文章も上手だし、ぜひまた書いてください!
なんだ、意外と人が来てるのだね。
ちょっと安心w
今、何人くらい職人様がいらっしゃるんでしょうか?
女性キャラ少なくて大変だと思いますが、今後も楽しみにしてます!
黒い阿部か、可愛いミハチヨが読みたいです。
タジチヨとイズチヨも読みたいです!
モモカンも忘れないで…
イズチヨサカSSを投下します。
注意事項は
・エロなしです。
・三角関係のドロドロはありません。
・主に篠岡視点からの話です。
・二年生に進級した話で、妄想、捏造が激しくなっております。
苦手な方はゲンミツにスルーの程、よろしくお願いします。
わたしの前の席で、泉くんが頬杖をついて窓の外を退屈そうに見ている。
横では栄口くんが欠伸を噛み殺しながらも、黒板に並ぶ英文をノートに書き写している。
わたしの視線に気付いて栄口くんがにこっと笑う。
そしてノートの端に走り書きして、トンと人差し指で指した。
『泉ノートとってる?』
少し首を伸ばして泉くんのノートを覗いた。
『途中で止まってる もう少しで黒板消されちゃうとこで』
『またノート貸さなきゃ』
思わずクスっと笑ってしまい、泉くんが僅かに振り向いた。
「ひこうきぐも」
泉くんの低い声に誘われて窓に目線を向ける。
五月晴れの青空に飛行機雲がぐんぐん伸びていた。
「いい天気だね」
栄口くんが呟く。
279 :
イズチヨサカ:2008/01/23(水) 19:12:04 ID:m18AnUbo
高校二年生に無事進級した。
クラス替えでわたしは泉くん、栄口くんと同じクラスになった。
クラスで二人は一緒にいることがやっぱり多いけど、
わたしは女友達と一緒にいるから、二人とは挨拶を交わしたり
部の話があるときに話す程度だった。
中間考査が終わった頃、初めての席替えのくじ引きで
わたしは窓際いちばん後ろという最高の席を引き当てた。
全員くじを引き終わり、どやどやと皆一斉に荷物を持って席を移動する。
移動先でしばらく呆然としてしまった。
「すごい偶然だね!」
とにかく驚いたけど、素直に嬉しかった。
「こんなことってあんだなあ」
わたしの前の席で、泉くんが壁に背をもたれて横向きに座っていた。
「よろしくー」
そして横の席には、いつもの笑顔を浮かべた栄口くんが座っていた。
休み時間や昼休みになると、わたしたちの席の周りに自然とクラスの友達が集まるようになった。
二人の友達。わたしの友達。みんなでわいわい話す。友達の輪が広がっていく。
野球部のみんながやってくることも多い。
見事に三人固まった席に、みんな一様に驚いていた。
ここ数日で気がついたこと。
泉くんも栄口くんも、人のことを良く見ていて、話を良く聞いている。
空気読んでいる、って以上に何気なく会話のやりとりに気を遣っていて、とても話しやすい。
泉くんは田島くんと三橋くんの、栄口くんは阿部くんと三橋くんの見守り役っぽい感じなのは
知っていたけど、「自然に」「何気なく」心配りができるのってすごいなあって改めて実感する。
280 :
イズチヨサカ:2008/01/23(水) 19:13:27 ID:m18AnUbo
とある昼休みの出来事。
お昼ご飯を食べた後、外野側の草刈りを少しでも進めておこうとグラウンドへ足を運んだ。
着替える時間が惜しかったからトイレでハーフパンツを制服のスカートの下に穿いて、
部のキャップを被り、軍手をして作業に取り掛かった。
程なくして背後から草を踏み分ける音が近付いてきた。
しゃがんだまま振り返ると泉くんと栄口くんが立っていた。
「なに、着替えないでやってんの?」
泉くんは長袖を肘まで捲くりながら、ぶっきらぼうに言った。
「あ、っとハーフパンツ穿いてるんだ」
わたしも立ち上がった。立ちくらみして、少しよろけた。
「っと、だいじょうぶ?」
栄口くんが肩を支えてくれた。
「ったく、そのカッコ、イロケねーの」
泉くんがやれやれといった感じでフッと笑った。
「オレらも手伝うよ、部室寄って軍手持ってきたんだ、準備いいでしょ」
栄口くんが軍手をはめた両手をパッと胸の前で開いた。
「え、でも」
わたしの言葉を遮って、いいからいいからと泉くんはしゃがんで草をむしりだした。
そうそう、たまにはさー、と栄口くんもぽんぽん草を引き抜く。
「・・・ありがとう」
じんわりとした感動で胸がいっぱいになった。
281 :
イズチヨサカ:2008/01/23(水) 19:15:20 ID:m18AnUbo
「男の子の力ってすごい。ひとりでやる5倍は捗っちゃった、ホントありがと」
「いいっていいって」
「今日こっそりイクラのおにぎりにしてよ」
草を抜いた場所に腰を下ろして、わたしたち三人はマウンドの方に目を遣る。
青々とした草の香りを爽やかな風が運ぶ。
「座ってグラウンド眺めんのって新鮮だな、こうやって外野からさ」
泉くんが気持ち良さそうに伸びをする。
「変な臨場感があるよねー」
栄口くんが制服のズボンについた草をはらう。
「ねえ、打順の一番、二番を任されるってどんな感じ?」
前から興味があったことを聞いてみた。
「んー、泉が出てくれるからけっこうリラックスして打席入れること多いよー」
「で、バント職人の栄口がきっちりオレを送ってくれて」
「それに応えて泉は俊足で塁を進めてくれて」
「栄口はバントじゃなくても打ってくれるから、一番としても気が楽」
二人はお互いの実力を認めていた。そして自分自身の力にも自信がある。
こういう信頼関係っていいなあ、と少し羨ましくなった。
続けて聞いてみる。
「セカンド、センター。ふたりともセンターライン、守備の軸だよね」
「篠岡だって中学ん時はショート守ってたろ、何度か見かけたよー」
「へえ、チーム強かった?」
ひとしきり野球の話に花が咲く。
「たまにね、みんなと野球やりたいって思うんだ」
遠くで予鈴が聞こえた。
わたしたちははじかれたように立ち上がった。お尻に付いた乾いた砂をはらう。
「じゃあ、明日晴れたらキャッチボールでもすっか」
「あ、それうれしい!」
「明日はジャージ着てきなよ、篠岡?」
とても麗らかで、とても優しい午後で、教室になんて戻りたくなかった。
できることなら、時間を止めてずっと三人で話していたかった。
放課後、女友達から聞いた話。
昼休み、学食から帰ってきた泉くんと栄口くんがわたしの居場所を聞いて、
草刈りに行ったことを知った二人は、顔を見合わせてから言葉もなく教室を出て行ったらしい。
「ちよってば大切にされてんじゃん」
友達はからかうようにニヤリと笑った。
わたしは冷やかしの言葉に動揺を隠せなかった。
282 :
イズチヨサカ:2008/01/23(水) 19:16:57 ID:m18AnUbo
とある休み時間の一幕。
前の数学の授業で、何度解いても答えが違ってしまう設問とわたしは格闘していた。
「なに、解けねーの?」
前の席の泉くんが頭上から声をかけてくる。
「うーん、どこが間違ってるのかなあ」
「あー、ここ、ここ」
壁にもたれていた背中を起こして身を少し乗り出し、
泉くんはわたしのノートを覗きこんで、式のある部分を指差した。
泉くんの声が急に近くなったので反射で顔を上げたら、思いの外、間近に泉くんの顔があった。
泉くんの大きい瞳に自分の姿が映る。
わたしは慌ててぱっと身を起こして距離をとった。
咄嗟に耳まで赤くなるのを自覚した。
泉くんはそんなわたしをぽかんと見て、それから頬を赤くした。
「ごめん、近かったな」
と一言おいた後、設問の解き方を丁寧に教えてくれた。
283 :
イズチヨサカ:2008/01/23(水) 19:17:54 ID:m18AnUbo
とある古典の授業中の一幕。
「ごめん、辞書借りていい?」
隣の席から栄口くんが囁く。古語辞典を手渡した。
「さんきゅ」
調べ終わって辞典が返ってくる。栄口くんがノートの端にペンを走らせた。
『まだ腕焼けてないね』
その日は初夏の陽気で、わたしは半袖のシャツを着ていた。
『長袖のジャージ着てるから』
ノート上の静かな会話。
先生は黒板に板書を続けている。カツカツとチョークの音が教室に小さく響く。
にゅっと腕が伸びてきた。
栄口くんの少し焼けた、細いけど筋肉が盛り上がった腕。
反射でわたしも腕を伸ばす。腕をつき合わせる。
不意に自分の腕に栄口くんの視線が注がれているのが恥ずかしくなり、鳥肌がわっと立った。
慌てて腕を引っ込める。
「・・・なんか、ごめん」
そう呟いた栄口くんは、ばつが悪そうに腕をさすっていた。
284 :
イズチヨサカ:2008/01/23(水) 19:19:32 ID:m18AnUbo
とある体育の授業中の会話。
授業に入る前の軽いジョギングで
「なあ、野球の話とかしてっと篠岡が女ってこと、忘れね?」
泉が首をこきこき鳴らしながら走る。
「あるある、で、ふとした瞬間に思い出すんだよなー」
隣を走る栄口が困ったような笑顔をこぼす。
「席替えしてから毎日ずーっとお前らと一緒にいる錯覚に陥るんだよなー」
「そうそう、毎日なんか楽しいよねー」
「もう席替えしたくねえなー」
「なーんか居心地いいんだよねー、あの席」
三人それぞれ恋心を自覚するまでの、瞬く間の幸せな日常風景。
(終わる)
285 :
277:2008/01/23(水) 19:27:15 ID:m18AnUbo
>>278の名前欄に「イズチヨサカ」を入れ忘れました
サーセン
それぞれが恋を自覚する直前な、さわやかさがたまらん!
超ーGJです!!!
GJ!いいね!
この感じだともしかして続きある?
だとしたら楽しみにしてる!
ぜひエロで続きを…!
GJ!和みました。
寝る前に読んだせいかイズチヨサカの3P夢を見た…
その夢を文章にしてください!
292 :
277:2008/01/24(木) 15:47:50 ID:Cq9U6kt9
レスありがとうございます。
>>290 その3Pの夢を創作してもいいですか?
上手いこと妄想できたらイズチヨver.とサカチヨver.と分けて
続編も書いてみようかな、と思っていたんだが
3Pネタも面白そうかなと
290じゃないけど待ってるうううううううううううううう!!
294 :
290:2008/01/24(木) 16:19:37 ID:PkLMDY1b
295 :
277:2008/01/24(木) 16:38:35 ID:Cq9U6kt9
>>290 即レス&承諾いただきありがとうございます。
投下まで時間かかるかもしれないから何か着て
待っててくださいw
泉と栄口の組み合わせって考えたことなかっけど意外に合いますね。
しかし3Pとは・・楽しみにしてます!
まてるよお!!
遅い!
でも、俺なら待てる!
まてっぞ!
レンルリ投下します。
・三橋が群馬から埼玉に帰る前の夜
・どっちかっていえばレン←ルリ
・エロ度は低め
301 :
レン←ルリ:2008/01/26(土) 01:32:54 ID:yd9HfEs2
レンレンは明日、この家を出て行く。
正確には出て行く、のではなくて自分の家に帰る、になるのだけど、
中学三年間ずっとこの家はレンレンの帰るところ。
一番落ち着ける場所だと密やかに信じて疑うことのなかった私にとっては
それは裏切りに近い行為に思えた。
だけど本当は、知っていて知らない振りをずっとしていた私のほうが先に、
レンレンを裏切っていたのかもしれない。
「レンレン、起きてる?」
「ル……リ?」
ノックと一緒にドアを開けたら意味がないとわかっていたけれど、
拒絶されるのが怖くて私はわざとそういう行動に出た。
眠ってはいなかったけれど、ぼんやりと窓の外を眺めていたレンレンは
振り返ってそれは驚いた表情を見せた。
春先の深い夜。ロングキャミ一枚の私は寒そうに見えるのだろうか。
それとも首尾よく私の思い通りのことを、レンレンは思ってくれるのだろうか。
「ルリ、風邪……引くよ」
「引かないよ。だって、……あついもの」
後ろ手にドアを閉めて、私は一歩一歩レンレンとの間にある距離を詰めていく。
近付いていってるはずなのに遠く感じてしまうのはどうしてだろう。
泣き出したい気持ちを隠しながらそれでも私は歩み寄る。
多分これが、最後の夜だとわかっているから。
302 :
レン←ルリ:2008/01/26(土) 01:33:28 ID:yd9HfEs2
暑いって、ルリ。お風呂から上がったばかりなの?」
「違うよ。だけど、あついの」
窓に寄りかかるレンレンに逃げ場はもうない。
困惑する表情を浮かべて私を見つめてくるけれど、逃がしてなんかあげないんだから。
明日になったらもう、私の手の届かないところにレンレンは行ってしまうから。
「本当に、埼玉に行くの?」
「帰る、よ。もう荷物だって全部、送っただろ」
「まだ間に合うよ、レンレン」
止めちゃいなよ。埼玉の学校に進学するのも、引っ越すのも、私の傍から離れちゃうのも。
何もかも止めちゃいなよ、レンレン。
今ならまだ、間に合うから。
「私ね、凄くあついの」
レンレンの手を取る。そして静かに私の心臓の上に重ねた。
「レンレンが、……私欲しいの」
ベッドに押し倒したレンレンのパジャマ代わりのハーフパンツとトランクスを脱がせる。
戸惑いかそれとも恐怖のためか。小さく縮こまったレンレンのそれを私はそっと両手で包み込んだ。
びっくりするくらいに温かいことに驚きながらも、私は迷うことなく口に含む。
303 :
レン←ルリ:2008/01/26(土) 01:33:57 ID:yd9HfEs2
「ル……リ……。だめだよ。汚い、よ」
「お風呂入ったでしょ。レンレン。汚くなんかないよ」
レンレンに汚いところなんて、一つもないんだから。身体も、心も。
「安心して、レンレン」
指先で唇でそして舌で包み込むようにしてレンレンのものを大きくしていく。
どういう風にしたらいいのかなんて雑誌でにわかに仕入れた知識しかない。
先端を吸ってあげて裏筋に舌を這わせて袋の部分を柔らかく握ってあげる。そんなことくらい。
だけどレンレンは気持ち良いのだろう。
戸惑いの表情を浮かべながらも息が徐々に荒くなってきていることに、私は気付いた。
「る、り……」
「私がしてあげてること、気持ちいいのね」
「だめ、だよ。こんなこと」
「だめ? 気持ちいいいのに? レンレンのこと気持ちよくさせてるのは私だよ。ここでやめても、レンレン平気なの?」
どんどん私の指の中でそして口の中で大きくなっていくレンレン。
ここでやめたらつらいのは私じゃなくてレンレンなのに。そんなこと言っちゃうの。
私の全部から離れて行っちゃうくせに、勇気を振り絞った私の行動も、否定するの?
304 :
レン←ルリ:2008/01/26(土) 01:34:32 ID:yd9HfEs2
「……る、りぃ……」
レンレンの指が私の髪に触れる。
撫でてくれようとしているのか、それともどけさせようとしているのか。
力の入らない手の動きからは読み取れない。
ただわかるのは、動きを早めた私にと快楽の強さに戸惑っていること。
何も怖くなんてないんだよ。レンレン。
私が守ってあげるんだから。私が気持ちよくしてあげるんだから。
私の傍にいたら、何も怖いことなんてないんだよ。
だから離れてなんかいかないでよ。レンレン。
レンレンが思っている以上に、レンレンのことを必要としている人間がここにいるんだよ。
ねぇ。どうしてわからないの?
「出して、いいよ」
行かないでよ。
「私の中に」
傍にいてよ。
「あついの、ちょうだい」
レンレンが、大好きなの。
305 :
レン←ルリ:2008/01/26(土) 01:35:27 ID:yd9HfEs2
終わりです。
お目汚しすみませんでした。
以上、名無しに戻ります。ありがとうございました
306 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 15:21:19 ID:YOx661uW
ログ保管庫のミズタニキヨエ読んだが
いいな。確かに水谷に姉がいるから、
高校で出産だとしてもおかしくないかも。
水谷×水谷母の話だと期待してたので
残念ではあったがw
>>305 GJ
とってもレンルリ!
)>306
こらこら
308 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 21:45:25 ID:YOx661uW
>>305 遅くなったがGJです。
切ない感じが(・∀・)イイ!!
>>先端を吸ってあげて裏筋に舌を這わせて
袋の部分を柔らかく握ってあげる。そんなことくらい。
十分知ってるなw
310 :
277:2008/01/27(日) 10:38:12 ID:vvoBzd/g
>>305 レンルリGJ!
ルリの切羽詰った感じがいいですな!
三橋SS書けるのが羨ましい・・・
イズチヨサカSSの続編を投下します。
注意事項は
・今回もエロなしです。・・・エロ編に至るまで時間かかると思います。サーセンorz
・今回も会話主体で、誰の台詞か分かりにくいかもしれません。
・一部の人物設定、学校行事など妄想、捏造が相変わらず激しくなっております。
苦手な方はゲンミツにスルーの程、よろしくお願いします。
311 :
イズチヨサカ:2008/01/27(日) 10:39:45 ID:vvoBzd/g
「おまえも人望あるよな」
「ははは・・・でもみんな行きたいところ、ちゃんと希望出してくれて助かるよ」
「逆に計画立てんの大変なんじゃねーの?ったく、あいつら好き勝手言いやがって」
「まあまあ、泉くん。でも今日部活がミーティングだけで良かったね」
「雨降ったし、室内練もなかったしな」
「栄口くん家おじゃましちゃってホント大丈夫?」
「うん、今日からオヤジ出張だし、姉ちゃんは予備校で帰り遅いし・・・
あ、でも弟帰ってくるけど大人しくさせておくから」
「あ、栄口三兄妹、みんな似てんぜ。弟なんて、まんまチビ栄口」
「近所のオバサンにも言われるよ。阿部んとこも弟、阿部そっくりだよ」
312 :
イズチヨサカ:2008/01/27(日) 10:40:43 ID:vvoBzd/g
雨の降る肌寒い日。吐く息も少し曇る。
六月に入って梅雨前線が日本から動かなくなる。
今月下旬に控えている高校二年生一大イベントの修学旅行。行き先は九州。
長崎でのクラス内の自由行動で泉、栄口の男子友人グループと
篠岡の女子友人グループが一緒の班で行動することになった。
というのも、休み時間や昼休みに三人の席の周りに固まって話すうちに、
その中の男女二人が付き合うようになり、
その二人に自由行動の班を一緒にしてほしいと頼まれたからであった。
その班長を栄口が任されることになった。
自由行動の計画の案をいくつか立てて、みんなに選んでもらうのが一番効率的だろう
ということで、泉と篠岡も栄口をサポートするべく、作戦会議のため栄口の家へ向かっていた。
「あ、篠岡、車道側歩くなよ。泥、跳ねるぜ」
「どもー、じゃ、傘、私差すよ。並んで歩くのに傘ぶつかるし」
「オレの荷物、自転車のカゴん中だから栄口と一緒に入れよ。荷物濡れんのヤダ」
「栄口くんのバッグは・・・今日はリュックなんだね」
「んじゃ、篠岡の傘、畳んでよ。オレの傘のがデカイから」
「わたし学校にチャリ置いてきて正解だったなあ。
自転車じゃ雨の中、三人並んで喋りながら行けないもんね」
まとわりつくような霧雨。こんな雨、普段なら鬱陶しくて仕方ないはずなのに。
学校を離れても一緒にいられる時間ができて嬉しい三人にとっては、
雨の降る道幅狭い歩道であっても、足取りは軽い。
313 :
イズチヨサカ:2008/01/27(日) 10:41:58 ID:vvoBzd/g
「ただいまー、って誰もいないんだった」
「おじゃましまーす」
「おじゃまします」
篠岡は自分のローファーと、泉と栄口が脱いだスニーカーを揃えて玄関の隅に寄せた。
「オレの部屋散らかってっから、下の和室でいい?その部屋、コタツあるんだ」
栄口が客用のスリッパを並べる。
通された和室で泉と篠岡がまず目に留めたもの。立派な仏壇。
供えられた菊の花、果物。
写真には栄口の柔らかい笑顔と同じ笑顔を浮かべている女性。
部屋に漂う線香の香りが、泉と篠岡の胸がきゅっとさせる。
「あ・・・オレの母さん」
栄口が静かに言った。
「ねえ、お線香あげてもいいかな・・・?」
篠岡が優しく聞く。
「もちろん。母さんも喜ぶよ」
栄口が仏壇の蝋燭に火を点けて、仏前の座布団にどうぞ、と手を置いた。
順番に篠岡、泉が線香を立て手を合わせた後、
「ただいま、母さん」
栄口も手を合わせた。
毎日の習慣なんだろうと思うと、泉と篠岡は少しこみ上げてくるものがあった。
314 :
イズチヨサカ:2008/01/27(日) 10:43:00 ID:vvoBzd/g
栄口がコタツ布団を押入れから引っ張り出してきた。
「今日ホント寒いぜ」
「雨で靴下濡れちゃったよー」
「あ、オレも」
「二人とも脱いでコタツん中で干しなよ、オレは着替えてきちゃうから」
「靴下濡れたまんまって気持ちわりいもんな」
「あ、そだよね。ごめ、スリッパも少し染みちゃったかも」
「あー、気にしないで」
ではお言葉に甘えて、と言って二人に背を向けて座り、篠岡は靴下を脱いだ。
篠岡の素足、ほのかにピンクがかった透明のペディキュアに泉と栄口がちらりと目を留める。
栄口が二階の自室に着替えに行き、泉と篠岡はコタツに入る。
伸ばした二人の素足がぶつかった。
「うわ、冷てえ足!」
思わず泉は足の指を篠岡の足の甲に滑らせる。
「泉くんの足もすんごい冷たいよ!」
篠岡も足の指で泉の土踏まずを撫でる。
泉と篠岡の視線が重なる。
気まずい沈黙がおりる。
「お待たせー、ティーパックの紅茶でいい?」
栄口が部屋の襖を開けた。
同時に二人の重なった足がぱっと離れる。
「? どうかした?」
栄口がお盆からマグカップをコタツの上に置く。
「う、ううん、なんでもない。紅茶、ありがと!」
「じゃ、早速やろうぜ」
「? あ、けっこうコタツん中あったまってんね」
栄口の素足も加わる。
315 :
イズチヨサカ:2008/01/27(日) 10:44:05 ID:vvoBzd/g
「んじゃ、候補はこの三つのプランでいっか」
「こん中から多数決で決めるっつーことで」
「自分で決めると行きたいお店選べていいよね」
「つうか食いモンの店ばっかだけどな」
「お土産のカステラも買わないとねえ」
コタツの上には修学旅行のしおりやら学校から渡されているガイドブックやら
紙やらペンやらが散らかっている。
「ただいまあ」
玄関から高い声がした。
「あ、弟だ、ちょっとごめん」
栄口が廊下に出て、おかえりと声をかけた。
え、おきゃくさんきてるの?と幼い声が近付いてきて襖が開く。
「こんちはー、っておんなのひとがいる!」
栄口が瓜二つの弟の頭を優しく小突く。
「こら!失礼だろ!手洗ってうがいしてこい」
「はーい」
栄口の弟は仏壇前にちょこんと座り、おかあさんただいま、と手を合わせてから
小走りで部屋を出て行った。
「ふえー、ホントそっくり!かわいいー!」
「だろー!声も声変わりする前の栄口ってかんじでさ!オレも弟ほしかったぜー」
盛り上がる泉と篠岡に、栄口はそうかなーと笑いかけた。
「じゃ、ちょっとオレ夕飯の米研いでくるから」
「じゃあ、わたしたち、もうそろそろ・・・」
篠岡が腕時計をみると十九時前を指していた。
「外、雨強くなってきたっぽいから、まだゆっくりしてて」
にわかに寂しくなった栄口がやんわりと引き止める。
「んじゃ、オレは一眠りさせてもらうぜ」
コタツって出たくなくなるよなー、とのん気なことを言いながら泉はごろんと横になった。
栄口と篠岡は顔を見合わせて小さく笑った。
栄口がキッチンに向かい、篠岡はコタツの上に散らばるモノを片付け始める。
316 :
イズチヨサカ:2008/01/27(日) 10:45:15 ID:vvoBzd/g
すうっと襖が開く。
「おねえさん、まつりぬいできる?」
栄口の弟がこたつに入ってきた。腕に本と小箱と布を抱えている。
「え?マツリヌイ?」
「うん。きょうカテイカでおそわったんだけど、オレぜんぜんできなくて」
しょんぼりと栄口の弟は布を広げた。がたがたの縫い目が現れた。
「うーん、できると思うけど・・・久しぶりだから。教科書もってる?」
「うん、あるよ!」
篠岡は裁縫箱を開けて針に糸を通す。
教科書を見つつ器用に布を縫い付けていく篠岡の手を見ながら、栄口の弟は聞いた。
「おねえさんは兄ちゃんのカノジョなの?」
篠岡の手が止まる。
泉の肩がぴくりと動く。
「え・・・?ちがうよ・・・」
唐突に、そしてあまりにも無邪気に聞かれたので篠岡は面食らった。
「ふーん、じゃあそっちのおにいさんのカノジョ?」
「・・・ちがうよ」
篠岡は困ったようにはにかむ。
廊下では栄口が部屋に入るタイミングを逃し、じっと二人の声に耳を傾けている。
「ふーん、じゃ、どっちが好き?」
泉は篠岡の方に向けている背中を僅かに強張らせる。
栄口は目を閉じる。
「・・・」
篠岡は布をぎゅっと握った。
「・・・どっちのおにいさんも好きだよ」
「それじゃあさ、どっちのカノジョになりたい」
質問の意味変わってねーよ!と泉と栄口は心の中でつっこむ。
「あ、あのね。カノジョじゃなくても、すごくわたしには大切な人たちなの。ふたりは」
「だからなかよしなの?」
「そうだよ。・・・でも、そのうちおにいさんたちにもカノジョできるよ」
「え?ホント?うちの兄ちゃんにも?」
「そうだと、思う。二人ともカッコイイからね」
篠岡は針と布から手を離し、ゆっくり栄口の弟の目を覗き込んだ。
「お兄ちゃんの野球やってる姿、見たことある?」
栄口の弟が肯いた。
「ふふ。カッコイイでしょ。二人ともきっと可愛い、優しいカノジョができると思うよ」
篠岡は自分の言葉に心がちくりと痛む。
「じゃあさ、そんときおねえさんはどうするの?」
「え?」
「もうさんにんでいっしょにいないの?」
篠岡は言葉の勢いに押され、たじろいだ。
317 :
イズチヨサカ:2008/01/27(日) 10:46:23 ID:vvoBzd/g
廊下立ち尽くしていた栄口が深く息を吸って、襖を開けた。
「お待たせー、っておまえ篠岡になにやらせてんの?!」
「まつりぬい、おしえてもらってんだ」
栄口の弟は唇を尖らす。
「だってさいきん姉ちゃんかえってくんのおそくて、オレもうねちゃってるし」
「んじゃ、兄ちゃんが教えてやるから!」
「えー?!兄ちゃんできんのー?」
もそっと泉が起き上がり、大きな欠伸をひとつして目を擦った。
三人の視線が泉に集まる。
「あん?どうした?」
「・・・あ、起こしちゃった。おはよ、泉くん」
篠岡が声をかける。
「篠岡、ごめんな。弟が・・・」
栄口が頭を掻く。
「ぜ、全然!気にしないで!」
「・・・ホント、ごめん」
何に対しての謝罪なのか、栄口が呟いた。
318 :
イズチヨサカ:2008/01/27(日) 10:47:13 ID:vvoBzd/g
「送らなくて大丈夫?道、分かる?」
「うん、平気。ここら辺、前に住んでたし」
「泉、最寄り駅までよろしくな。帰る方向、間逆で悪いけど」
「おう」
栄口の家の門のところで言葉を交わす。
「じゃ、明日な」
「おじゃましましたー」
「またあそびにきてねー」
栄口の弟がぶんぶん手を振り回す。
「気をつけてな」
二人の背中を見送る栄口はどことなく寂しそうに見えた。
自転車を押す泉、その左隣を篠岡が並んで歩く。
黙々と並んで歩く。
霧雨は止んでいて、夜になり気温もさらに低くなった。
雨上がりの住宅街はひっそりと静まり返り、二人それぞれの思考が深まっていく。
「あ、泉くん、次の角を左で。そしたら真っ直ぐで駅だから、もうここでいいよ」
「なに言ってんだ。駅まで送るぜ」
目抜き通りに入り、その賑やかさで二人の間に流れていた気まずさが少し和らいだ。
駅に着いて、篠岡が切符を買うのを泉は待つ。
「送ってくれてありがとう。泉くん、ここから帰り道わかる?」
「ああ」
「じゃあ、また明日ね」
自動改札に切符を通そうとする篠岡の手を泉が止めた。
「え?どうし・・・」
篠岡が言いかけたそのとき、改札から出てきたスーツ姿の若い男とドンとぶつかる。
「おい、こんなとこで立ち止まってんなよ」
男は捨て台詞を吐き、篠岡がすいません、と謝る。
泉が掴んだ篠岡の手を離した。
「わりい。気をつけて帰れよ」
ホームに上がるエスカレーターで、篠岡は改札口を振り返った。
帰ったと思っていた泉がじっと自分を見守っているのが見えた。
意外なことに思えたが、うれしかった。
篠岡は小さく手を振った。泉が手を上げる。
ホームに降り立ち、篠岡は呟く。
「ふたりにカノジョができたら、わたし、どうすんだろ・・・」
泉との帰り道、ずっと考えていたこの質問に、答えは出せない。
泉は駅の脇に止めていた自転車に跨る。
ふう、と長いため息を吐いた。
「まずは、栄口に話してからだな」
と呟き、自転車を漕ぎ出した。
穏やかで幸せな三人の関係が、静かに終わろうとしている。
(終わる)
319 :
277:2008/01/27(日) 10:48:57 ID:vvoBzd/g
栄口姉→年子で高校三年生
栄口弟→小学生高学年
の設定で書いてみました。違っていたらご容赦ください。
考えている以上に長い話になるかもしれませんorz
イズチヨサカGJ!!
やばいこのシリーズ大好きだよ!
お疲れ様でしたー
栄口弟のKY具合に笑いましたw
>>319 おもしろかった
長い話は読み応えがあって好きなので期待してる
エロのターンまで全裸で正座して待ってます
なんか甘酸っぱい青春って感じがして良かった!
続きも待ってます!!
イズチヨサカおもしろかった!
長い話好きなのでのんびり続きをまってます
3人とも青春だなー
イズチヨサカ面白いです!
続き楽しみにしてる!!
イズチヨサカの雰囲気(・∀・)イイ!!
そういや千代と栄口は同中だっけ
やっぱり中学のときは面識なかったのかな
GJ!!続き楽しみにしてるよ!!!
>>326 どうでもいいことだが、書き込んだ時間が222222!!
次辺りでエロに持ち込んでくれると嬉しいです
329 :
277:2008/01/29(火) 12:37:03 ID:clFyhjfG
イズチヨサカSSの続編を投下します。
注意事項は
・今回もエロなしです。・・・エロ編は次回投下の予定です。
だらだらと続いてしまい、ホント申し訳ない。
・今回も会話主体で、誰の台詞か分かりにくいかもしれません。
・いろいろと妄想、捏造が相も変わらず激しくなっております。
苦手な方はゲンミツにスルーの程、よろしくお願いします。
330 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 12:38:18 ID:clFyhjfG
机に置かれたケータイが震える。
『返信遅くなりました 了解です!今のところ順調です 千代先輩も頑張ってくださいね!』
メールは一年生のマネジからだった。
今日日直の仕事と修学旅行の雑務をしてから部活に行くので、それまで一人で頑張ってね、よろしく、
という旨の、篠岡が送ったメールに対する返信だった。
篠岡はとっくに書き終えている学級日誌を閉じた。
修学旅行の雑務といっても、正式に決定した自由行動の計画表を班別に回収して担任教師に提出する
といった日直の仕事の延長のようなものであり、既に全ての班の計画表が机の上に揃っている。
ホームルームが終わってからしばらく時間が経っていた。
放課後の教室にひとり残っている。廊下の人通りも疎らだ。
なんとなく部に足を運びたくなくて、こうして自分の席からぼんやり窓の外を眺めている。
栄口の家に行ってから三日が経つ。
この三日間、篠岡は「今まで通り」を保つ演技に神経をすり減らしていた。
気を許すと、あの答えが見つからない問いに翻弄され、
カノジョできる云々の前に、いっそのこと二人と一線を引いてしまいたい衝動に駆られる。
331 :
277:2008/01/29(火) 12:54:16 ID:clFyhjfG
テスト
332 :
277:2008/01/29(火) 13:21:09 ID:clFyhjfG
なぜか投下できなくなったのだが・・・
教えてください!エロい人!
333 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 13:51:11 ID:clFyhjfG
ガラリと教室前方のドアが開き、栄口が入ってきた。
「あれ?篠岡、まだ日直の仕事してたの?」
「うん、今終わって職員室に行くところ。栄口くんは?今休憩中?」
口から心臓飛び出そうなくらい驚いたが、篠岡は努めて平然を装った。
「そうそう。オレ教室のロッカーにアンダーの替え、入れっぱなしで部活出ちゃってさー」
栄口はそのまま教室の後ろまで歩き、ロッカーからアンダーシャツの替えを取り出し
自分の席に置いた。
「あー、もう汗びしょびしょ!篠岡、少し窓開けてくれる?」
「あ、うん」
篠岡が窓を開ける。湿った風とともに外の喧騒も教室内に流れ込む。
さんきゅー、と礼を言い、栄口は篠岡に背を向けてアンダーシャツをがばっと脱いだ。
篠岡はその大きな肩甲骨に見入る。
背筋がぴっと伸びていて、シャツを脱ぐ動きに合わせて僧帽筋、広背筋が躍動する。
無駄な肉が一切ない、しなやかな少年の体から、篠岡は目が離せなかった。
334 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 13:54:23 ID:clFyhjfG
窓から突風が入る。
机の上の学級日誌のページが勢いよくぱらぱらと捲られ、数枚の紙が舞った。
篠岡が膝を屈ませ、慌てて床に散らばった紙を集める。
目を上げると、何百本という机と椅子の銀色のパイプ脚が目に飛び込んできた。
「これ、修学旅行の計画表?」
栄口も上半身裸のまま紙を拾うのを手伝う。
栄口の汗の匂いが、篠岡の鼻腔をくすぐる。
床に膝を付いた栄口と目が合う。
篠岡の目線が僅かに下がる。栄口の鎖骨の張り具合を見てから、
硬そうな胸筋が息に合わせて上下しているところまで目を奪われた。
「? おーい篠岡、どうした?」
栄口の喉仏がごろごろと動く。
335 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 13:55:35 ID:clFyhjfG
篠岡は顔を赤らめ、立ち上がり、栄口の机から替えのアンダーシャツを取った。
「ね、シャツ、着て。目のやり場に困るから」
床から膝を上げずにぽかんとしている栄口に渡した。
目の前の篠岡の膝頭に栄口の目が留まる。
スカートから伸びる真っ直ぐな脚。
柔らかそうな太腿。張り詰めた脹ら脛、締まった足首。
栄口もよろよろと立ち上がる。
「拾ってくれて、ありがとう」
栄口が拾い集めた計画表を受け取り、篠岡はぱたぱたと教室から出て行った。
「・・・・・・なんだよ」
今頃になって顔が赤くなってきた栄口はぐいっと新しいシャツを被る。
「・・・・・・そっちこそ、スカート丈、短いじゃん」
336 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 13:56:37 ID:clFyhjfG
篠岡は思い知る。
二人が好き。
どちらがより好きだということではない。
この「好き」は友達の範疇を今、超えようとしていて、
やがて恋心に変わってしまう。
泉のカノジョになりたいわけではない。
栄口のカノジョになりたいわけでもない。
なのに二人を男として意識してしまう。
二人に悟られずに、自分さえこの想いを押し隠せば、今まで通り三人でいられる。
二人に好きな人ができたり、二人にカノジョができたときは、
きっと心から喜べない。
嫉妬したり、羨んだりしてしまうかもしれない。
二人と距離を置いて、
そして、女として選んでもらえなかったことに対して心を痛めるだろう。
次から次へと沸いてくる際限ない感情に、篠岡はひたすら打ちのめされる。
「とにかく、部活に行かなきゃ・・・」
くじけそうな気持ちを奮い立たせて、一先ずは職員室に向かった。
337 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 13:57:32 ID:clFyhjfG
「んじゃー、今からお土産タイムねー。一時間後、ここに集合」
栄口が班のみんなに声をかける。
修学旅行もとうとう長崎に入り、今日は班別の自由行動の日だ。
ここの通りは土産物を商う店が集まっている。
篠岡も女友達とはしゃぎながら、旅行客で賑わう雑踏に紛れて行った。
「よーっす、おつかれー」
「はあ、おつかれー。ここまで予定通りだな。泉、時間管理ありがとな」
「いいって。しっかし路面電車って慣れると便利だよな!」
「な!埼玉では走ってないから、旅行きたーって感じがするよな」
自由行動ということもあり、二人は少し興奮気味に話す。
「栄口はここでなんか買うのか?」
「とりあえず家族に頼まれているのはカステラかな」
「オレもオレも!いろんな種類があるらしいぜ」
「よし、オレらも行くか!」
二人も通りに足を踏み入れた。
338 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 13:58:58 ID:clFyhjfG
有名店のカステラを購入し、泉と栄口は通り沿いのベンチに腰を下ろした。
「この角煮まんじゅうって美味くね?」
「ちょっと高いけどな。出来立てうめー」
二人は店の軒先で売られていたまんじゅうを頬張りつつ、ペットボトルのお茶で休憩を取る。
ぼんやり人通りを眺める。
「オレらみてーな修学旅行生がいっぱいいんなー」
「店ン中とか電車ン中とかでいろんな方言が聞こえるよな」
篠岡が女友達と一緒に、二人の座っているベンチの前のビードロ屋に入っていくのが見えた。
「オンナっつうのはホント買い物好きだよな」
「だな。お、篠岡、あの青いのがほしいのかな」
「なに、あの変なカタチのビードロ」
「あれ、『ぽっぺん』つって息を吹き入れて音を鳴らすガラスの玩具らしいよ」
「ふうん、あれ買ってどうすんの?」
「・・・部屋にでも飾って置くんじゃね?」
「つうかあんな高いところに置いてあんの、篠岡取れねーだろ」
「なんか危なっかしいね、店員呼んだらいいのにな」
339 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 14:00:22 ID:clFyhjfG
篠岡はつま先立ちして手を伸ばすも、気に入った空色の『ぽっぺん』に手が届かない。
仕方ないから店員を呼ぼうと思ったとき
「これ、ほしいのか?」
花井がひょいと取り、ほれ、と篠岡に渡した。
「あ、花井くん!ありがと」
「無理して取ろうとして他の売りモン割りそうだったぞ」
えへへと篠岡は笑う。
「花井くんも買うの?」
「・・・ああ、妹へ土産」
花井の手にはピンク色と黄色の『ぽっぺん』があった。
「あすかちゃんとはるかちゃんにでしょ!優しいなあ、おにいちゃん!」
「うるせえぞー、篠岡ー」
旅行中に偶然会えて嬉しかったのか、篠岡も花井も笑顔で軽口を叩きあう。
「・・・・・・少し歩こうぜ」
泉の提案に、栄口も頷いてベンチから立ち上がる。
340 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 14:01:26 ID:clFyhjfG
「栄口、おまえさ、今身長何センチ?」
「172」
「そっか、オレもおんなじ」
「泉、体重は?」
「62、おまえは?」
「60」
「あんま育ってねーな」
「言うなよ、おまえもだろ」
「・・・・・・オレら、アレ取れたかな」
「ぎりぎりか・・・取れなかったかも、ね」
「花井、軽々だったよな」
「あいつまた伸びて185近くあるって言ってたような・・・」
「ちっ、小まめに牛乳飲んでんのにな」
「オレらもこれからだよ、縦にも、横にも、これからまだまだ伸びるって」
341 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 14:02:39 ID:clFyhjfG
「なあ、今おまえ、好きなやついんの?」
泉の発言に栄口の歩が止まる。
泉も立ち止まり栄口の方を振り返る。
「・・・・・・なに、急に」
二人の間を初夏の風が吹き抜ける。
気がついたら川沿いに出ていた。
やっぱり言わねえか、泉はため息をひとつ吐いた。
「オレは篠岡が好きだ」
栄口を見据える。
「で、おまえは?」
川の水面がきらきら輝く。
栄口が拳をぎゅっと握る。
「オレも篠岡が、好きだよ」
栄口も泉から視線を逸らさない。
342 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 14:03:51 ID:clFyhjfG
二人は川岸のベンチに腰を下ろす。
「泉は・・・その、告ったりすんの?篠岡に」
「いろいろ考えたんだよ」
「・・・・・・」
「でも、なに考えても、とりあえずはおまえに話すことからだと思った」
「・・・・・・」
「要は篠岡の気持ちひとつだろ」
「・・・篠岡、好きなやついんのかな」
「さあな。で、いたとしたら、告んない」
「・・・まあ、そうだよな」
「いるかどうか分かんねえうちも、告んない」
「・・・・・・ああ。」
「少なくとも、今の席で・・・同じクラスにいる以上はウカツなことはできない、って」
「気まずくなんの、やだしな」
「・・・・・・そういうこと」
343 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 14:08:05 ID:clFyhjfG
「なあ、泉」
「オレ、篠岡がおまえのこと好きだとしても」
「多分、篠岡のコト、諦めらんない。 でも」
「おまえらふたりのことは壊さない。 だから」
「だから、今まで通りにしていてくれよな」
ゆったりと流れる川を見つめながら、栄口は途切れ途切れに言い切った。
「・・・・・・オレの台詞とりやがったな」
泉が川面の眩しさに目を細める。
「篠岡にとっても、オレら二人にとっても、今のまま、がイチバンってことだよな」
「ああ。けっこう傷つくこと多いかもだけどな」
344 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 14:08:57 ID:clFyhjfG
泉がポケットからケータイを取り出す。
「さて、そろそろ戻ろうぜ、班長」
「いっけね」
「ありがとな、泉」
一歩前を歩く泉の背中に、栄口は声を掛ける。
「おまえじゃなきゃこうはいかねえだろうけどな」
振り返りもせず、泉が返す。
345 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 14:10:10 ID:clFyhjfG
その夜、夕飯と風呂を済ませた男子部屋。
「さあて、もうそろそろ女来るから、部屋片付けようぜ」
例の仲間内で付き合い始めた男子がパンっと手を叩いた。
「はあ?なんじゃそら」
タオルで髪を拭く泉の手が止まる。
「あー、これから一緒にUNOする約束になってんの」
「それ、聞いてねーぞ」
栄口が眉を顰める。
戸口でコンコンとノックが聞こえる。
「ほら、来た!とりあえずパンツはしまっとけ」
泉は面倒臭そうに風呂のときに替えたトランクスをバッグに放りこんだ。
栄口は自分の布団を折り畳んだ。
「おじゃましまーす」
今日自由行動を共にした女子達が部屋に入ってくる。
篠岡がいない。
「あれ?篠岡は?」
「なんか疲れたとか言って部屋で休んでるよ。あとで顔出すってさ」
仲間内で付き合い始めた女子が答える。
346 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 14:11:27 ID:clFyhjfG
無言で泉と栄口が同時に立ち上がる。
聞きもしないのに女子が自分たちの部屋の場所と、教師たちの見張りポイントを教える。
泉と栄口が出て行った部屋から
「過保護だよなあ」
「あれじゃあ千代、カレシのひとりもできないよ」
友人達の溜息が漏れる。
早足でホテルの館内を二人は歩いた。
「篠岡が一緒に来なくて、ちょっと安心しちゃったよ、オレ」
栄口が呟く。
「な。オレも」
泉が短く同意する。
見張りの先生に見つかることもなく、無事女子部屋に着いた。
栄口がノックをすると、ドアの向こう側から、はーい、と篠岡の返事が聞こえた。
「入るぞ」
泉が篠岡の返事を待たずにドアを開けた。
347 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 14:13:42 ID:clFyhjfG
「い、泉くん・・・と、栄口くん」
篠岡は部屋の一番奥の布団の上に座っていて、力の抜けた声で二人の名前を呼んだ。
篠岡の顔色がさっと変わったのを二人は見逃さなかった。
「お・・・じゃまします」
栄口が声を掛ける。
「体調、悪いの?」
泉が篠岡の正面に座り、胡坐を掻く。
「う、ん。ちょっと疲れたみたい。今日いっぱい歩いたし、暑かったし」
篠岡はおでこに手を当てる。
「だいじょうぶ?」
栄口も泉の隣に座る。
「・・・・・・」
篠岡は俯き、顔を上げない。
348 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 14:17:31 ID:clFyhjfG
隣の部屋のドアを強くノックする音がする。
にわかに廊下が騒然となる。
「やばっ、見回り?!」
小声で栄口が呟く。
泉が部屋の電気を消す。
「布団ン中潜れ!」
三人ぼふっと布団を被る。
ほぼ同時にドアがノックされる。
「入りますよ」
女性教師の声が聞こえて、戸が開いた。
布団の中で団子になる三人。
息を潜める。
心臓の鼓動が早まる。
349 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 14:18:27 ID:clFyhjfG
「・・・? あら、この部屋誰もいないのかしら」
「真っ暗ですね」
もうひとりの女性教師の声が聞こえる。
「ここも男子部屋かしらね!」
「ふふふ。修学旅行の醍醐味ですもんね」
「はあー。どいつもこいつもまったく・・・」
「まあ、いいじゃないですか、まだ消灯前ですし。それより前の部屋の・・・」
女性教師二人の声が次第に遠くなり、ドアがパタンと閉まる。
心臓の鼓動が布団の中でどんどん大きくなっていく。
この音で隠れているのがばれてしまうのではないかというくらいの三人の鼓動。
息を呑む音が三つ。
廊下から完全に気配が消えるまで、三人は身じろぎひとつしなかった。
350 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 14:19:31 ID:clFyhjfG
「・・・もう大丈夫だろ」
泉が布団からもぞもぞと出る。
「うあ、真っ暗。なんも見えねー」
電気のスイッチを栄口が探す。
「・・・・・・電気、つけないで」
か細い声。
やがてすすり泣く声が部屋の空気を震わせた。
「・・・・・・篠岡?」
栄口が名前を呼ぶ。
「どこかぶつけたか?」
泉も心配になる。
篠岡からの返事はない。
夜目が利くようになり、窓から入る明かりでぼんやり部屋の中が浮かび上がる。
篠岡が布団の上で丸くなって声を殺して泣いている。
栄口は部屋の隅に、泉は部屋の中央に立ち、静かに泣き続ける篠岡を黙って見守る。
351 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 14:20:42 ID:clFyhjfG
しばらくして、すすり泣きが小さい笑い声に変わった。
篠岡がむくりと起き上がる。
「・・・・・・わたし、わたしね」
篠岡はくすくすと笑いが止まらない。
「二人が好きなの」
自嘲気味に篠岡が続ける。
「隠し通す自信、あったのに」
ぐすっと鼻を啜る。
「もう、ダメ。わたし、耐えらんない」
篠岡は暗闇に向かって吐露した。
三人が少年少女でいられる時間は、あまりにも短かった。
(終わる)
352 :
イズチヨサカ:2008/01/29(火) 14:22:26 ID:clFyhjfG
自己解決、書き込みできました。
毎度毎度長文すみません。
読んでくれてありがとうございます。
終盤戦も頑張ります。
>>322 風邪引くよ
つカイロ
リアルタイム!!
これはwktkせざるを得ない!!!
職人様お疲れ様です!
ここからR18のターンに入るんでしょうか?
濃厚な展開を裸にカイロ貼り付けて待ってます。b
続ききたー!!!
何か3人もどかしいなー
次はエロターンかな?
楽しみにしてる!
続きキター!!!シチュいいね〜
今晩は、303です。
レンルリの完結編がようやく出来上がったので、投下にやってきました。
それでは投下作業に入ります。
お茶の片付けをしたあと、尚江おばさんは休日出勤のため会社にいるらしいおじさんに、電話で連絡を
とっていた。電話口での口ぶりなので私の想像の域を出ないことだけど、おばさんの様子から察するに
お互いとも嬉しそうだった。
夫婦仲はやっぱりいいみたいだ。
親たちの反対を押し切ってまで一緒になったのだから、当然なのだろうけど、いつまでも仲がいい
というのは素直に憧れてしまう。
そして、電話を終えると夕飯の支度をすると宣言され、私も及ばずながらお手伝いをすると話して、
ふたりでキッチンに並んで立ち、料理に勤しんでいる。
「…………」
「どうしたの? あっ、私、なにかやっちゃったかな?」
包丁で野菜を切っていたところを、手を止めたおばさんからのじーっと熱い視線を感じて作業を中断し、
尋ねていた。
なにかミスでもしてしまったのだろうか。別に今の作業を含めて適当に手を抜いたりはしていない
つもりだ。
「――ん、ルリちゃんって手際がいいわねと感心していたのよ。おばさんは料理はあまり得意じゃないし、
どちらかといえば不器用なほうだからすごいなって見ていたの」
「たくさん練習したの。レンレンって食べるの好きでしょ? だから料理ができたほうが絶対に
いいだろうなって思って、おばあちゃんに習って頑張ってきたの」
褒められたことが嬉しくて、ちょっと得意げに説明する。
「んっふっふー」
「なっ、なに? どうしたの?」
「廉は幸せ者だわ。これだけ深く思ってくれる子って、なかなかいないからね。さて、こんなところ
かしら」
下準備を済ませると、尚江おばさんは部屋へと戻り着替えを済ませ、あとのことは私に任せると言って
車に乗って出かけてしまった。
それを見送ると家のなかに取って返して、ランニングから帰ってきたレンレンが汗を拭けるようにと
脱衣所にいってタオルを用意してきた。
そして、静かに彼の帰りを待つ。そわそわと落ち着きない素振りの私。やはり、緊張してしまう。
(ふたりっきり……か。どこで、するんだろ? レンレンの部屋? それともリビング?
もっ、もしかして私がお風呂に入っているときに無理やり襲われちゃったりとか……っ!?
ああっ、でもでも、好きだけど初めてはやっぱりベッドの上で優しくがいいよっ!)
ちょっと行き過ぎた妄想をしてしまい、赤く染まったほっぺたをぺちぺちと叩いて反省する。
「……っていうか、レンレンから手を出してくれそうなんてないよね」
告白をするのは、彼が野球部を引退してからとは考えていた。
だけど、もし万が一そういうことになっても仕方がない――というふうに計算高く考えてもいた。
長期休暇とかにうちを訪れる際に、薄着で密着したりとか、あからさまに擦り寄ってべたべたしたりとか。
そういう誘惑みたいなものも実行したりもしていた。少しでも女の子として意識してもらいたいという
思いからの行動だった。
まあ、結局は全て空振りに終わったのだけど。レンレンの根性なしとか思ったりもしちゃったけど、
こうやって絶好の機会を得ることができたのだから、これでよかったんだと納得することにする。
「ただいまー」
「えっ!? あっああおかえりなさいっ」
玄関のドアが開いて、私の待ち人が帰ってきた。
「どうしたの? なんか声が裏返ってたけど」
秋も深まり少しずつ寒くなってきていたとはいえ、一時間以上に渡って走ってきたレンレンは大粒の汗を
滴らせて、手の甲で拭おうとしていた。
「あっ、はい、これ」
「うん、ありがと」
床へと腰を下ろしてシューズの靴紐を解いていく彼に、手にしていたタオルを手渡す。
「そういえばさ。お母さん、どこか出かけたの? ガレージに車なかったんだけど」
「んー、おじさんから電話が掛かってきてね。外食のお誘いだったらしくて、嬉しそうに出かけたよ」
「外食? ルリも来てるんだから、四人で行けばいいのに……。どうしたんだろ」
私の説明を聞いても腑に落ちない様子だった。
――まあ、ほとんど嘘だしね
「まあ、別にいいじゃない。夫婦水入らずでラブラブしたいんだよ、きっとね。ほらほら、そんなことは
いいから、さっさとお風呂に入っちゃって」
「ちょっ、そんな押さなくても入るよ」
あまり余計なことを考える時間を与えないようにするため、困惑気味なレンレンの背中を押して室内へと
追い立てていった。
彼が入浴している間に、下ごしらえでストップしていた準備を完了させた。そして、風呂上りでリビングにて
テレビを眺めていたレンレンをキッチンへと呼び寄せる。
二人でテーブルに向かい合った席に腰を下ろして、手を合わせる。
「今日のご飯はさ、ルリが作ってくれたの?」
「う、うん。ほとんどはそうだよ。お泊りさせてもらうんだから、その恩義に報いるためにもね。
頑張ってみたんだけど、どうかな?」
「うん、おいしいよ……って、今日は泊まっていくの?」
忙しなく箸を動かしていたレンレンが一旦それを止めて、こちらを見てくる。
「うん。おばさんからそうしなさいって勧められたの。それに、久しぶりにレンレンとゆっくり
話したいから……ね?」
「そ、そうなんだ」
ちょっとしなを作って上目遣いに微笑んで見せた。
おおっ、少し動揺してるっぽいみたいだ。私もちょっと顔を赤くしていると思うけど、彼は私以上に
真っ赤にしてる。
(レンレンが私を好きってホントみたいだ……)
「ほ、ほら、これなんか自信作なんだよっ。食べてみて」
「う、うん」
ほんの少しだけの沈黙。だけど決して気まずいようなことはなくて、それに浸るのも悪くない――そんな
空気だった。でも、やっぱり気恥ずかしいというか……。
結局、恥ずかしさに負けて空気を換えるため、特に自信のある料理を勧めていくのだった。
二人っきりでの夕飯を終えると、片付けをすることになったのだが、嬉しいことにレンレンが自主的に
手伝いを買って出てくれた。そのため早く終えることができた。
リビングへと入って、私は持ってきたお茶を用意していく。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
テレビの電源を点けてソファに座り、まったりとくつろいでいく。何気ない雑談をしていき、二人で
笑ってはまた別のことを話して……と繰り返していく。
「あっ、あのさ……」
「ん、なに?」
昔の――中学生のころに意地悪していたことを詫びなければならない。
「そ、そういえば、レンレンって将来はどうするの?」
だけど、私の口から出てきたのはまったく別のことだった。レンレンにはヘタレとか根性なしとか思ってた
こともあるけど、これでは私も人のことはいえない。
「将来……? とりあえず来年からは大学生だけど」
「それはもう知ってるってば。ほら、将来の仕事はなにをしたいのかって話だよ」
これも興味のあったことだから、ひとまずこの話題を続けてみることにした。
「あーっ、わかった。まだなにも考えてないんでしょ?」
「そんなことないよ。なれるかはわからないけど、具体的な希望は持っているから」
「へぇー、なに? あっ、わかった。プロ野球選手とか?」
スポーツをしていた人はその競技のプロになりたいものだと思う。今でこそ野球人気の低迷とかって話も
あるけど、なんだかんだで日本で一番関心を持たれているプロスポーツは野球だし。きっと彼も、
なれるものならなりたいはずだと思っていた。
だが、彼の口から出てきたのはは否定の台詞だった。
「ううん。昔はなれたらいいなって考えてた時期もあったけど、今はないよ。別に夢が出来たから」
「そうなの? それで夢って?」
「高校教師になれればいいなって思ってる」
「……はっ? マジ……?」
あまりにも、その……らしくないっていうか。彼がネクタイ締めて教壇に立って高校生たちに授業をしている
というような姿を想像してみたけど……。悪いけど、似合わないような気が……。
「ルリ、似合わねーとか思ってるだろ」
「……へっ? そ、そんなことないよ、うん」
「別にいいよ。これを話したときは野球部の皆も微妙な顔してたから。本当のことを言うと、目的はまったく
別のことなんだけどね」
レンレンは湯飲みを手に持つと、ゆっくりとお茶を飲んでいく。
「別にってなに?」
「オレ、高校野球の指導者になりたいんだ。昔のオレってウジウジして卑屈で周りの顔色を窺ってばかりで……。
そんな自分が嫌いだったんだ。だけど、しょうがない。オレはずっとこのままなんだって、どこか諦めていた
ところもあったんだよね」
「…………」
「だけど、一年のときに監督から半ば強引に野球部に引き入れてもらって、それでなし崩し的に入部して……。
本当はさ、ただ遠くから見てるだけのつもりだったんだ」
「遠くから……?」
「中学のときは、オレのせいでチームメイトに迷惑を掛けて嫌な気分にさせていたからね……」
辛い記憶なので、それを思い出して苦しいらしく、顔を俯けていく。
「高校でもまた繰り返しちゃうんじゃないかって思ってたんだ。だけど、三星と違ってオレは普通の生徒の
一人だから、特別扱いとかそんなことなくて。楽しく――皆からは普通に野球してるだけだって言われたけど、
オレ、野球が楽しかったんだ。
それで練習頑張って、二回も甲子園に行けて活躍もできた。本当に、楽しかったんだ……」
「……そっか」
確かに高校で野球をしているときの彼は、本当にいい表情(かお)をしていたと思う。好きなんだって自覚した
のは中学のころだけど、そのいい笑顔で投げていく姿を見て惚れ直したっけ。
「中学のころの嫌いだった自分が、これで少しは変われた気がするんだ。高校野球のおかげでもあるんだけど、
この大事なきっかけを作ってくれたのは百枝監督なんだよね。監督みたいになれればっていうか、
自分を変えてくれた高校野球に恩返しみたいなことができればって考えてる」
テレビからはなにも聞こえてこなかった。私かレンレンなのかはわからないけど、いつの間にか電源を切って
いたみたいだ。
「監督に相談してみたら、大学で教員免許を取得して高校の先生になるのが一番だって言われてさ。大学って
普通の講義のほかに――教員課程、だっけ? その講義を受ければいいって聞いたから」
私が思っていた以上にちゃんと考えているみたいで驚いた。驚いたんだけど……。胸の奥がちりちりする
というか、痛みのようなものを感じていた。
――私って、レンレンたちの監督さんに嫉妬してるんだ
そう思ったときには遅くて、言葉にしてしまっていた。
「レンレンはさ、監督さんのこと……好きなの?」
「うん」
「そう……お風呂、借りるね」
「男のオレたち以上に男らしいっていうか、尊敬しているって意味で……って、ルリ?」
レンレンはなにか話を続けていたようだけど、ショックで半ば放心状態である私はリビングから逃げるようにして
お風呂場へと足早に向かっていった。
「どういうことなんだろ……。尚江おばさん、レンレンは私のこと好きって言ってたのに。だけど、レンレン、
監督さんのこと好きだって……。私、勝てないよ……。監督さんみたいに美人じゃないし、スタイルもあんなに
よくないし……」
身体を流して髪も洗い、湯船に浸かる。考えるのは先ほどのことばかり。下を向いてお湯をすくい、顔を
洗ってみる。そして、自然と自分の胸の膨らみへと目がいく。
「結構おっきくなったと思うけど、到底監督さんには及ばないよ……」
両手を胸へとやり、ふにふにと触っていく。平均的なサイズには十分に達しているし、形だって悪くないと思う。
部活も頑張り日ごろから節制して太らないように注意していたから、ウエストだって細いほうだし、お尻は大きすぎず、
かといって肉付きが薄いってこともないし。
「んっ……」
お風呂に入っているから体温も高くなっているわけで、ちょっとだけ興奮してしまって胸の先端が固くなって
きていた。
身体の奥のほうが少しずつ疼いてくるのを感じる。
つい先ほどまで、大好きな彼が入っていたお風呂。そう思うだけで、心拍数が上がっていく。そのままに
右手を女の子の部分へと這わせようとしたところで、
「……違う。こんなことしにきたわけじゃない。うん、なにがなんでも私へと向かせてみせる」
頭を振って頬を軽く叩き、気合を入れていった。
しっかりと髪と身体を拭いて下着をつける。持っているなかで一番可愛くてセクシーっぽいものを選んできた。
(これなら、きっと……)
続いてパジャマへと袖を通してリビングへと戻っていった。
「あっ、ルリ。遅かったね」
私がお風呂に行く前と変わらずにリビングでテレビを見ていた彼は、戻ってきた私へと声を掛けてくる。
「そう? 女の子だから、ね」
「そ、そう……」
それ以上はなにも言わずにソファへと腰を下ろして、あからさまに密着していく。やや強引に腕を組んで
胸を押し当てる。
「ど、どうしたのさ……。ルリ、変だよ?」
「私は……レンレンが好き」
「……えっ」
「中学のころからレンレンのことが好きだったの。本当はもっと早く告白したかった。だけど、こっちで
楽しそうにしてるレンレンを邪魔しちゃいけないって我慢してた。だけど、もう限界だよ……」
両肩を掴んで力任せに押し倒してキスする。彼は目を白黒させて驚いている様子だった。
私は、レンレンがうちに来たときに何度もキスをしていた。一度眠ったら朝まで目を覚まさないのをいいことに、
彼が泊まっている部屋へと忍び込んで何度も唇を重ね続けた。
慣れていたはずの行為――なのだけど、本音を言えばやっぱり胸が高鳴っていく。
勢いそのままに舌を口の中へと侵入させていく。顔を赤くしながら空気を求めて口を開いたその隙をついて、
口腔内へと深く押し入り舌と舌を絡ませていく。
「んっ、ちゅっ……ふぅ、はぁ……っ」
「……くっ、ちょっと、ルリ。どうしたんだよ!?」
「だから、好きなのっ。レンレンのことが誰よりも……監督さんにも渡したくないの!」
そう宣言して、もう一度キスを敢行。私から口の中にたまった唾液を啜られていかれ、顔色を目まぐるしく
変化させていった。
「……ちゅっ、んっ。私の身体、触っていいよ……。おっぱいもアソコもお尻もたくさん触って。
おっぱいは監督さんには負けちゃうけど……」
赤く染めていた顔を顰めると、私の肩を掴んでぐいっと押し上げてきた。
「あのさ、なんでさっきから監督が出てくるの?」
「だって、さっきお風呂入る前に話したときに監督さんのこと好きだって言ったじゃないっ」
「そりゃあ、好きか嫌いかって話だったら好きに決まってるよ。それに、恋愛対象としての好きじゃなくて、
尊敬しているって意味での好意だっていっただろ」
「え……っ?」
「最後まで話を聞かずに逃げるようにしてお風呂に行ったんで、なんかおかしいと思ってた」
つまり、私が話を聞かないで勝手に暴走していただけってこと……なのかな? なにしてるんだろ、私……。
「きゃっ」
呆けていたところを力強く抱きしめられていた。
「オレも、ルリのことが好きだよ」
「……ホント?」
「本当だよ。こんな大事なことで嘘なんかつけないし、つきたくない」
「んっ……くぅ」
今度はレンレンから口付けられる。たっぷりと舌をまさぐりあって唾も交換しあって。そっと背中に回された
腕が、ただただ心地よかった。
「そろそろ、寝ようか」
「う、うん」
「えーっと、来客用の寝具セットはっと」
「……?」
客間の和室へと荷物を持って来ると、押入れを開けた彼は布団などの寝具一式を出していき、てきぱきと
それらを敷いていく。
(ここで、するのかな……?)
私がなにも手伝わないことも気にせずに、全てを終えるとこちらへと向いてくる。
「お父さんたち遅いみたいだから、先に寝ておこう。戸締りと火の元を確認してくるから」
「う、うん」
襖を開けて部屋を出て行く彼をそのままに見送る。どうしたものかと困ってしまっていたのだけど、
とりあえず布団の上に正座して待つことにする。
「歯はお風呂のときにもう磨いておいた……。身体はいつも以上に念入りに洗って磨いた……。トイレは
大丈夫かな。あとは、これを」
バッグのなかに突っ込んでおいた、おばさんからもらったコンドームを出しておく。
これで準備は万端、のはずだ。
「まだかな……」
緊張とそれを上回る期待を胸に抱きながら、彼が戻ってくるそのときを静かに待っていた。
和室の柱に掛けられた時計を眺める。時刻は十時半前――。レンレンがこの部屋を出ていってから
三十分あまりが経過していた。なにもせずに待っていたのだけど、戸締りと火の確認にこんなに時間が
かかるとは思えない。
「どうしたんだろ……」
痺れを切らしてしまい、部屋から出て様子を見に行くことにした。
私がいた和室は一階にある。部屋から出てみたところ、辺りは真っ暗だった。一階の照明は全部消されたらしい。
首を捻りつつ、レンレンの部屋がある二階へと行くために階段を上っていった。
ドアの隙間から明かりが漏れている。部屋にいるみたいだ。やや躊躇いがちにそっとドアをノックする。
ほんの少しだけ間を置いて扉が開かれた。私に気付いたレンレンは不思議そうな顔をしていた。
「ルリ、どうしたの? 眠れないの?」
「あっ、ううん……そういうことじゃなくって」
「それじゃあ、なに?」
「…………」
皆まで言わないといけないのか。というよりも、こういうことって普通は男の子がリードしてくれる
ものじゃないのだろうか。ちょっと腹が立ってくる。
「だから、その……えっ……しないのかなって」
「? なに? なにをするの?」
「いや、だ、だから……」
「……?」
「え、えっちなことしないのかって聞いてるのよ……っ!」
とうとう感情が爆発。パジャマの襟元をぐいっと掴んで引き寄せてすごむ。
(私、女の子なのに……。でもこうでもして煽らないといつまでも埒が明かないと思うし……)
「えっ、ええぇぇ……!?」
驚くレンレンの顔は真っ赤か。
「私のこと好きなんでしょ、それなら彼女にしてくれるんでしょ? 私たち付き合うんでしょ?
だったらえっちなこともしたいんでしょ!?」
矢継ぎ早に言葉を並べ立てていく。もちろん、頬を赤く染めながら。
「そ、そりゃ好きだよ……。か、か彼女にもしたいよ、付き合えるなら付き合いたいよ、でも……」
「でもってなによ!? あんた、私の唇奪っておいて責任取らずになにもしないで、群馬に返す
気なの……!?」
先に唇を奪って押し倒していやらしいことを仕掛けたのは私が先――ということは、この際無視する。
「ご、ごめん。オレと付き合ってください……」
「う、うん。か、彼女になってあげるわよ……」
そのままズカズカと部屋に上がりこんで、ベッドに腰掛ける。ちょっと躊躇いつつ、レンレンも隣へと
腰を下ろす。
「あの、ルリ。こういうのって、付き合い始めて時間がしばらく経ってからするもんじゃないの?」
「却下よ。お互いをよく知ってからとか言いたいんでしょ?」
「う、うん。まあ、そんなとこっていうか……」
「あのね、私たちって小学生のころからの付き合いでしょ。そんなことって今更じゃない」
「……まあ」
これだけお膳立てをしてあげているのに、据え膳食わぬは男の恥っていうのに。それにしても火のつき方が
本当に遅い。イライラしてくる。
(しょうがない。ジョーカー切っちゃえ)
「レンレンはさ、本物の女の子よりも下着が好きなの……?」
「……っ!」
下着というところを強調しておく。私たちが中学生のときに、レンレンが私の下着を使ってオナニーして
いたことを知っていると暴露したわけだ。
「あれ、もしかして私が気付いてないとか思ってたの?」
「…………」
室内は少し肌寒ささえ感じるほどだけど、びっしりと脂汗をかいている。
――まあ、そのオナニー済みの下着を使ってオナニーに耽ってた私はもっとヘンタイ、だよね
もちろん、このことはおくびにも出さない。
「これからは下着だけじゃなくて、私のことを自由にしていいんだよ……?」
「……ルリっ」
「きゃっ」
ようやく火がついてくれた様子の彼に、やっと一安心だった。
「――あっ、ごめん! 言わなきゃいけないことがあったの」
そう言って押し止めて、困惑の表情を浮かべる彼にあのことを告げる。
「えっと、その、中学生のころに意地悪しちゃってて、ごめんね」
「……えっ、意地悪……それってなんのこと?」
私の言葉の意味がわからないというように、より困惑の度を深めていく。
「いや、だから、虐めたりとか泣かしちゃったりとか……」
「ルリって昔から変わっていない気がするけど。ほら、小学生のころもあんな感じだったよね」
「……そうだっけ?」
「むしろ、嬉しかった。オレ、学校に行っても修ちゃん以外に友達いなかったから……。あれで
ルリにまで冷たく他人行儀みたいにされてたら、中学の三年間も耐えられなかったと思うからさ……」
レンレンの顔を見詰めつつ、心のなかで言葉を反芻する。
(私ってそんなに怒りっぽいって思われていたのかな……。ってことは、なにも問題なかったって
ことなの?)
などと、内心落ち込んで悩んでいるところを抱きしめられていく。
「きゃっ。ちょっ、そんながっつかなくても……」
そのままベッドに押し倒されて口付けられる。ぴちゃぴちゃといやらしい音が響いていき、
唾を吸われたかと思えば彼からも唾液を流し込まれていく。
「んぐっ、くちゅ……ちゅるっ、や、やだ。そんなとこ舐めちゃダメっ」
パジャマ越しに胸を揉まれながら、今度は耳たぶを唇で弄ばれてた。舐めしゃぶられていくうちに
気持ち悪い気がしていたはずなのに、ぞくぞくとしてきて嬌声を抑え切れなかった。
「いやじゃない、よね? こんなエッチな声出してるんだから」
「くっ、ひぃっ、そんなこと……ないっ、ダメぇ!」
「ほら、こんなに喜んでる」
「ダメぇ……なんで、どうして? はぁあ、耳の穴舐められるの、ふぁあ気持ちいいっ」
パジャマのボタンを開けられてブラをぷちっと外された。
(ああっ、乳首たってる……恥ずかしいよ)
「うわっ、柔らかくてすべすべしてて、可愛い……」
自分で慰めるときと違って遠慮なしに揉み込まれているので少し痛みを感じる。そうだったはずだけど、
乳首を摘まれたり舐められて舌で転がされていくうちに快感が勝ってきた。
「はふっ、ヤだ……そんなにもみもみしちゃイヤぁ……」
「ちゅっ……ルリのおっぱい、可愛い。そんなこと言ってても気持ちいいんだよね?」
悔しいけど、否定できない。撫でられているだけで気持ちよくて、身体がもっともっとってより強い
刺激を求めているのを自覚しているから。
「あっ、ちょっと……そこ触るの!?」
あっさりと下も脱がされてショーツの上からまさぐられていく。
「濡れてる……。オマ○コって本当に濡れるんだ」
咎める台詞はまったく無視されて下着から割れ目に沿って指を這わされていく。くちゅくちゅと粘り気
の強い水音が立てられ、私はだらしない声を上げ続けていった。
(自分でじゃなくて人のされるのが、こんなに気持ちいいだなんて……。パンツ、べとべとで私の
いやらしい愛液でぐっしょりになってる……)
「脱がす、よ……」
「……うん」
ちょっとだけ腰を浮かせてショーツを楽に脱がせられるようにした。するすると下りていき、
小さく丸くなったそれはベッドの脇へと追いやられた。
着ているものはパジャマの上着だけとなった私。熱い眼差しを全身へと感じて身じろぐ。
「その、さ」
「う、うん。なに?」
「レンレンも脱いでよ。私だけ裸なんてずるいよ……」
「わ、わかった」
私へと圧し掛かっていた彼は、上半身を起こして着ているものをさっと脱いで肌を露にしていく。
よく引き締まった体だった。しげしげとそのまま見詰めていき、最後の一枚となった下着も脱いで
男の子の部分が勢いよく現れた。
「……あのときより、おっきくなってる……?」
「えっ?」
「ううん、なんでもないからっ」
中学のとき、うちの脱衣所にて彼が私の下着でオナニーする姿を目撃していた。記憶にあるあのときの
それよりも、一回り、ううん。二回りぐらい大きくなっているような気がする。
「ルリ……」
「う、うん……なに?」
「オレ、ルリのオマ○コみたい」
「お、おま○こって、そんなえっちなこと言わないでよっ。でも、うん……いいよ」
また恥ずかしがってはいけない。たぶん、私がレンレンの体に興味があるのと同じように、彼も私の
身体に興味があるのだろうし。
両膝に手を置かれてぐいっと開かれる。割り開かれた股の間に入り込んできて、私の大事なところを
両手の指で左右に広げられた。
「…………」
(なになに、なんなの? どうして黙ってるの? 形がおかしいとか、もしかして、グロいとかって
思われちゃったりとかしてるの……?)
「ねぇ、どうしたのよ」
努めて声は冷静なふうに装う。
「うん……エロいなって。だけど、綺麗なピンク色をしてて可愛いなって思ったり」
「…………」
怒るべきか、それともなにも言わないべきか。エロいって褒め言葉には聞こえないし、でも、可愛い
っていってもらえたし……。
逡巡している私に新しい刺激が襲ってきた。
「きゃっ、えっ、ちょっと……なに? ああぅ」
私の股間にレンレンが顔を埋めて舐めまわしてきていた。舌をもぞもぞと這わせて私の恥ずかしい
ところを嬲ってくる。
振りほどいてやめさせたいのだけど、丁寧に丹念に愛撫されるうちにどうでもよくなってきた。
むしろ、もっと強い快楽が欲しくなって、下腹部が甘く疼いていく。
「これがオマ○コの穴で、こっちがクリトリス、ってやつかな……」
舌だけでなく今度は指も加わって蹂躙されていく。
「だ、んんんっ、そこは敏感、だか、……ふぅあぁああぁっ!」
執拗な責めを受けて、身体はとうとう限界に達してしまった。
私は軽くイカされてしまって放心状態へと陥ってしまった。気付いたときには、レンレンが手を握って
抱いてくれていた。
「ごめん、ちょっとやりすぎたかもしれないよね。ルリがきつかったら、今夜はもういいから」
「……はい」
照れくさいので、言葉少なにぶっきらぼうにして隠し持ってきていたスキンを手渡して握らせる。
「最後まで、しよ? でも、今度は優しくしてね」
「う、うん。わかった」
スキンを装着する姿をあまり凝視するのはマナー違反な気がして、なるべく見ないようにした。
とはいっても結局、わいてくる好奇心には勝てなくてちらちらと覗いていた。
「さっき触ってたとこでいいはずだから……ここ、だよな?」
右手を添えて私の大事なところに宛がってくる。くちゅっと湿った音が聞こえてきた。少しだけ
私のなかに埋まってきている。ゆっくりとしたスピードながらも徐々に着実に押し広げられていく。
「んっ……くぅっ」
「ごめん、痛いよね。だったら……んっ」
オチ○チンを一気に押し込められたことにより、鈍い痛みを感じて思わず目を閉じてしまっていた。
「……っぅ!」
「は、入ったよ……」
「……ホント?」
「うん……」
恐る恐る目を開けて、私たちが繋がっているところへと視線を向ける。僅かだけど、赤い筋が見える。
「やっぱり、血が出ちゃうものなんだ……」
ぽつりと胸に浮かんだ感想をそのままに口に出す。
「ごめん、女の子は初めてって痛いんだよね?」
「うん。でもさっきはすごく痛かったけど、今は落ち着いてきた……それに……」
「? なに?」
「初めてを、ずっと大好きだった人にあげられて嬉しい……って、や、な、なに?」
ぎゅっと身体を抱きしめられていた。
「ルリ、可愛い……。オレ、我慢できなくなってきたんだけど、動いていい?」
「うん、でも、優しくね?」
私が許可したことで、ゆるゆると探るようにして前後に動いてきた。膣内をゆっくりと気遣うように
擦られることによって、さきほどの痛みとは異なる感覚がわいてきていた。
本当ならもっと激しく乱暴に動いて自分が気持ちよくなりたいはずなのに、懸命になって耐えているレンレンを
とても愛おしく思う。
「ああっ、アアっああぁあっ、だ、ダメぇ……」
「……っ、ルリのオマ○コ、すごい気持ちいいよ、熱くてめちゃくちゃいいっ」
両腕は彼の首筋に、両足は彼の腰へと回して抱きしめる。そんな私に応えてくれたのか、レンレンも同じようにして
私のことを力強く抱きしめてくれた。
「ルリ」
「んっ、ちゅ、っふっうぅん」
唇を奪われて舌を絡められる。
(だめっ、上の口も下の口も犯されて……わたし、もうだめぇ)
「んっ……ルリ、好きだよ、オレ、ルリのこと、大好きだからっ!」
「わたしも、好き……レンレンのこと、これからもずっとだいすき、だよっ!」
何度も何度もアソコを抉られ、とっくに痛みは過ぎ去って、ただ与えられる気持ちよさが
心地よかった。激しくなってきた腰の動きに翻弄されていくばかりだった。
「出る……ルリ、もう出ちゃうよ!」
「いいよ、レンレンの好きにして……っ」
「くうっ、出る、よ!」
お腹の一番奥で私に突き刺さっている彼のモノが大きく震える。
「ふあぁぁっ、すごい、すごいよぉ……っ!」
疲れからか私へと圧し掛かって体が預けられてきた。行為後の余韻に浸りながら、私はその背中を
抱きしめ続けていた。
「ごめん、どくね」
「うん……」
お互いになんだか照れくさくて、どうしても口数が減ってしまう。そのため、オチ○チンも私の
膣内から離れていく。ちょっと名残惜しい気がしたのは気のせいだろうか。
「そ、「あ
二人とも喋ろうとして見事にかぶってしまった。
「ルリから言っていいよ……」
「ううん、レンレンからでいいよ……」
「じゃあ、一緒に言おっか?」
「うん」
呼吸を整える。そして、一言。
「気持ちよかったよ」「気持ちよかった」
私も彼も顔を見合わせて目を丸くして驚き、耐え切れなくて吹き出してしまっていた。
初めてでこんなに気持ちよくていいのかって戸惑っていたところがあった。でも、お互いに気持ちよかった
のなら、そんなことを気にしているのがバカらしくなって、思いっきり笑っていた。
ちらちらとこちらの顔色を窺ってきているのに気付いた。それも顔を真っ赤にして――というか、
目が血走っているって表現のほうが正しいかも。
(……なるほど)
「ねえ、レンレン」
「う、うん。なに……?」
「もう一回、エッチしよっか?」
「いいの!?」
やっぱりだ。考えていたとおりの返事を受けて、ちょっとだけ笑ってしまう。
「うん。私を、また気持ちよくして……」
レンレンへと飛びついて押し倒し、勢いそのままに唇を重ねていった。
二人ともシャワーを浴びて部屋へと戻ってくると、もう深夜といっていい時間帯だった。
エッチはもちろんだけど、時間も忘れていちゃいちゃしてたらこんな時間となっていた。
「――あっ、ほらここに書いてある。『コンドームは一個につき一回限りです。その都度、新しい
コンドームをご使用ください』だって」
「ごめん……」
なにぶん、お互いに初めて同士だったのでこの注意事項を知らなかった。何度も肌を重ねているうちに
気付かないうちにスキンは破れてしまって、手遅れに……という感じだった。
私としては特に気にしていなかった。一応、大丈夫な日ということはちゃんと調べていたからだ。
だけど、ちょっと青くなっているレンレンが可愛くって、さっきから虐めている。
「今日は、安全日ってやつだから大丈夫だよ」
「そうなんだ、よかった……」
「でもね、絶対に大丈夫ってわけじゃないんだよ。知ってた?」
「えっ、そうなの!?」
「だから、もしものときは……よろしくね」
にまっと笑顔を浮かべて更に顔色を悪くしたレンレンに抱きつく。
さてと、聞いておきたいことがあるので、虐め続けてあまり時間を無駄にするわけにもいかない。
「ちょっと聞きたいんだけど、レンレンってどこの大学にいくの?」
「……えっ、どうしたの?」
「せっかく恋人同士になれたんだよ。高校は無理だったけど、大学は一緒の学校にいきたいから」
「そうだね。でも、大丈夫かな……」
ちょっとムッときた。私は進学コースに所属していて成績もそれなりに良い方だ。よっぽどの
高望みをしなければ、たいていの学校なら入れる実力はもっている。
「失礼ねー、言ってみなさいよ。絶対に入ってみせるからっ」
「うん、早應大学だよ」
「はっ? 早應って……あの早應義塾?」
「うん、そうだよ」
思わず耳を疑ってしまう。彼の口から出てきた学校の名前のせいだ。
国内の私立大学でも屈指の名門校で、偏差値も当然ながら相応に高い。確か、一度だけ冗談で模試で
志望校欄に書いていたことがあったけど、そのときの評定はC判定。
『もしかしたら通るかも。でも、落ちる可能性のほうが高いよ』
って評価のC判定だ。
「な、なんで? どうして!? なんでレンレンがそんな頭がいいとこに入れるのよ……っ!?」
首元をつかんで揺すり続ける。めちゃくちゃ失礼なことを言っているのだけど、そのことを
気に留める余裕は一切なかった。
「お、落ち着いてっ。ほら、オレはスポーツ推薦だから、成績はあまり関係ないんだってば!」
「スポーツ推薦……野球」
私につかまれていた喉元を擦りつつ、経緯を説明してくる。
「推薦の話がいくつかきてたんだけど、そのなかでもそこの野球部の監督さんが一番熱心に誘ってくれたんだよ。
入学金や授業料とかその他諸々全部が無料でいいって条件をもらって……」
「はっ、はははっはは……」
まだなにか続けていたようだけど、半ば放心状態だった私は力なく笑うことしかできなかった。
翌年、三月下旬――。
あれから寝る間も惜しんで、とにかく必死に勉強をして、私はなんとか合格を果たすことができた。
四月からは経済学部へと進み、経営学を学ぶことになっている。
そして、埼玉の三橋家――レンレンの家を訪れていた。
『東京って物価が高かったりするでしょ。危ないなところもあるし、一人暮らしも心配だからね。
うちから電車通学できることだし、それに、うちは部屋余っているし。ルリちゃん、うちにいらっしゃい』
という、尚江おばさんの一声により、今日からお世話になることになったのだ。
実家から発送しておいた荷物は、すでに私が使わせてもらう部屋へと運び込まれているそうで、
出迎えてくれたおじさんとおばさんに挨拶する。
続いてきょろきょろと見渡す。再会を待ち望んでいた人物は見当たらなかった。
内心、ため息をつきつつ、おばさんにそのことを聞いてみることにする。
「あの、おばさん……」
「ルリちゃんが来てくれて、本当に良かったわ。お父さんと二人だけじゃ寂しいからね」
「あっ、いいえ……って、二人?」
玄関へと歩いていくなかで、聞き逃せない言葉が耳に入ってきた。
「ほら、廉は野球部の合宿所に入っちゃったから。ルリちゃんが来てくれて本当によかったわー」
「が、合宿所……?」
なんだろう。ものすごく嫌な予感がする。それも、とっておきの最悪なことが。
「うん。野球部員は原則的に合宿所に入らなきゃいけないらしくてね。まあ、これも無料だし、
それにうちから神奈川にある専用グラウンドまで通わせるのも鬼みたいでしょ?」
「かっ、かか神奈川……っ!?」
私が足を止めて驚いている姿を見て、おばさんも立ち止まった。しげしげと私の顔を覗き込んでくると、
ちょっとだけ考える素振りをして首を捻る。
「あれ、うちの子から聞いてない?」
ぶんぶんと首を何度も縦に振る。にまっと笑顔を浮かべた尚江おばさんは、私の肩にポンと
手を載せてくる。
「やーねー、さすがに同棲みたいなことはさせられないわよー」
ばんばんと肩を叩かれていく。ちょっと先に行っていたおじさんは、こっちを見ると苦笑いを
浮かべていた。
「廉とルリちゃんの仲は、三橋の実家でも公認されたようなものだけど、学生で同棲は無理よ。
さて、荷解き手伝うから落ち着いたら家に入ってきてね」
「…………」
すたすたと先に家に入っていくおばさんの姿は目に見えているが、私の頭のなかはまったく別のことで
埋め尽くされていた。
(一緒にいられるんだって思ってたのに……。今度こそ一緒にいるために勉強も必死に頑張ったのに……っ)
キッと神奈川県がある方角へと目を向ける。力いっぱいに拳を握りこんでいく。
そして――、
「レンレンの……レンレンの……レンレンのバカァーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
お腹の底から声を張り上げるのだった。
終焉を迎えたはずだと思っていた遠距離恋愛。しかし、以前よりも更に距離を広げて続行することに
なってしまった。
あと少し続くのですが、連投規制に引っかかるかもしれないので
ここで切ることにします。
ちょっと休憩に入ります。
わー!
お疲れさまっす!今からじっくり読みます!
お茶どうぞっす!つ旦
すごい!wktkして待ってます
うおーレンルリきたあああ!待ってて良かった!
続き待ってます!
それでは続きに入ります。
――エピローグ――
四月上旬――。
だいぶ春らしい気候になってきたはずだったのだけど、季節はずれの寒波が到来したとかで関東地方は
寒さのなかへと逆戻りしていた。
そのため、お布団が恋しい時期も延長となってしまったというか、ここしばらくの私は起きるのが
億劫で仕方がなかった。
「――リ、ほらルリってば。起きなって」
「……うーん、あともうちょっとだけー」
私を起こすような声が聞こえてきたけど、身体が言うことを聞いてくれなくてどうにも起き上がれない。
「ほら、ルリも今日から社会人なんだから……気合入れていかないと」
(あー、そうだったっけ。今日から私は社会人で……って、えっ?)
ほんの少しだけ意識が覚醒する。私の顔を覗き込んできている人を見る。ネクタイを締めてスーツ姿で
ビシッと決めた、私の大好きな人だ。
「……レンレン、今、何時?」
「やっと起きた。七時半前、そろそろ出ないと遅刻だよ。それも新任早々から」
「ちょっ、やだっ! なんでもっと早く起こしてくれないの……!?」
ベッドから跳ね起きてクローゼットへと飛びついて、新品のスーツを引っ張り出す。
「ああっ、メイクしなきゃだし、トイレにもいきたいしシャワーでさっぱりしたい……。
あーっ、もう時間がないよーっ!」
盛大なため息をついたレンレンが部屋から出て行こうとしていく。
「三十分だけ待つから。八時になったら、オレは車出して先行くからね」
「えっ、やだよ。ちょっと待ってってばーっ」
しかし、無情にも彼はドアを閉めて去っていった。
あれから六年が過ぎて、私は三星学園高等部の数学科教諭として四月一日付けて着任した。
この二年前に大学を卒業したレンレンは、一足先に社会科教諭として赴任していた。私が遅れたのは、
大学院まで進学して経営学をばっちりと修めてきたからだ。
それは、もちろん、私がそう遠くない将来にうちを――三星学園を継ぐために他ならない。
ちなみに、レンレンがうちに就職するのを選んだ理由――。
『レンレン、高校野球の指導者になりたいんでしょ? すっごい偶然なんだけどね、とある私立高校が
野球部のコーチポスト付で新規採用を募集しているの。
……えっ、三星だろって? うん、そうだよ。えっ、三星はイヤ? うわーっ、贅沢言っちゃダメだよー。
公立受けるつもりだろうけど、今年の埼玉の競争倍率って知ってる? うん、そうそう。すごいよね。
受けるだけうちも受けようよ。ほら、指導者になりたいんでしょ? 公立だと自分が希望する部活を
受け持つことができるかどうか……。
入ってきたばかりの新任なんて、何年間かずーっと雑用係だよ。野球部を指導できるのは
いつになることやら……。
悪いことは言わないから、うちに来なよ……』
という具合に言いくるめて、うちに連れてきた。もちろん、私と同じく経営者の孫である彼が落ちるなんてわけ
はなく、めでたく採用となった。
「あーあっ、結局ご飯食べられなかった……。朝ご飯は大事なのに……」
うちのガレージを出て学校へと走る車中で、肩を落としてぼやく。
「ルリの自業自得だろ。早く起きなかったルリが悪い」
運転席でハンドルを軽快に操る恋人は果てしなく冷たい。確かにそうといえばそうなんだけど、
もっと優しく構ってくれてもいいだろうに。
「レンレン、冷たいよ。それにレンレンにも責任あるくせに」
「なんでさ」
「だって、レンレンが私をあんなに激しく犯すから」
「……ぶっ! お、犯すってなんだよ。人聞きが悪いな……」
「あんなに夜中まで犯してくるんだもん。あれって一種のレイプだよ」
攻守交替とばかりにして、今度は私が攻勢に出ていくのだった。
「先に誘惑してきたのは……はいはい、オレにも責任がありますよ。ごめんなさい」
「うん、わかればいいよ。でもさ、レンレンって何時に起きてるの?」
赤信号で停車したところで、ちょっと気になったことを質問していった。昨夜寝たのは確か夜中の二時前で、
彼に起こされる朝までぐっすりだった私はまったく気付かなかった。一緒に寝ているのに。
「朝の五時前だよ。うちの部は朝練は自主性に任せているけど、部員たちだけ早起きさせて監督が
ぬくぬく惰眠をむさぼっているようだと示しがつかないだろ。この時間を利用して走りこみやってるから、
オレは健康そのものだよ」
「おおーっ、頑張ってるんだね、監督さん」
信号が切り替わって、アクセルを踏み込んで車を発進させていく。
「若いうちはお手本を見せられるようにトレーニングをやっていこうと思ってるから。口で言うよりも
実際にやってみせたほうが理解しやすいこともあるからね。
それよりもさ、二年前に赴任したときはめちゃくちゃ驚かされたんだけど」
「驚いたって?」
しれっと素知らぬふりをしてとぼけてみせる。
「赴任して初日に部活に出ると、部員全員が整列して『監督、今日からよろしくご指導お願いします』って。
なんのドッキリかと思ったよ」
野球部の前監督は、以前から健康上の問題を抱えておられた。本人から二年ほと前に辞職を願い出られていた
ところを無理をいって続けてもらっていたのだけど、もう限界だからと言われて受理することとなった。
そこで新しい監督を選ぶことになったのだが、微妙な時期だったため人材不足となって難航。
そこで早應大学野球部の監督さんに連絡を取って、レンレンのことを聞いてみることにしたのだ。
監督さんから、勉強熱心で後輩たちへの指導力も的確なものがあり、有望株だという回答をもらって、
レンレンを新監督に迎えることが決定となった。
最初から監督というと、絶対に渋るから彼には赴任するまで厳重に隠しておいたというわけ。
「よし、ついたっと」
「ありがと」
学園の駐車場につき、さっとスペースに止めて二人して車から降りて校門へと向かう。
「なんかおかしい気はしていたんだよな」
「なにが?」
「野球部の話だよ」
ちょっとだけ急ぎ足になる。
「三年の間、遅くても四年の前期までに卒業単位を揃えておくこと。卒論は夏休み中に目処をつけておくこと。
って言われてそのとおりにして、秋のリーグ戦が終わったら前の監督さんから電話がきて、暇だったら
うちにきて指導を始めてくれないかって話を受けて……」
四月に赴任して監督ですって言われても、レンレン本人はもちろん、部員たちも混乱するだろうからって
ことで、監督さんのもとで修行となったわけだ。
「おかしい気はしていたんだけど、まあ暇だからってことで続けていったんだよな。で、しばらくすると
新入生のスカウト活動にもついてきてくれって言われて……」
「親御さんは指導者を信頼して大事な子供を預けるんだから、監督さんが同席していないとまずい
でしょ。それよりも、今年はどうなの?」
「あっ、うん。新三年生はオレと一緒にうちに入ってきた――自分が一から指導してきた最初の代で愛着も
あるけど、そのぶん遠慮なく厳しく鍛え上げてきたよ。そのかいもあってか、去年の秋季大会は
関東大会まで出て甲子園にあと一歩のところまで残れた。
その悔しさを糧にして、更に練習にのめりこんでいって一冬を越した。二年生も力をずいぶんつけたし、
今年は確信を持ってる」
口ぶりからも自信の程が窺える。これは期待してもよさそうだ。野球部には専用グラウンドに合宿所、
強化費用もたっぷりとまわして優遇しているのだから、結果を出してほしいところだ。
甲子園に出場した翌年の受験志願者はすごいことになる。全国ネットで中継されて、学校の名前を宣伝して
もらえるわけで、その効果でおいしい効果がもたらされるというわけだ。
経営者としての視点から見れば、これほどありがたいことはない。
「やっぱり、うちの学校はサクラが綺麗だよねー」
校門前までやってきて、きちんと整備が施された桜並木へと目を向ける。ここしばらくの寒さのせいで、
まだ満開とまではいかないけど、サクラの花びらがひらひらと宙を舞っていく様子に心を
奪われる。
遅刻ぎりぎりとなる時間帯のため、辺りは同僚となる先輩教師はもちろん、生徒の姿は見られなかった。
「ほら、ルリ。いつまでもぼーっとしてないで、早く行かないと……」
「ねえ、レンレン」
袖を掴んで引っ張っていこうとする彼を呼び止める。
誰もいないことだし、そろそろあれを宣言しといてもいいだろう。
「今年の私の誕生日は……レンレンが欲しいな」
「誕生日って、まだ二ヶ月以上先の話で……って、朝から下ネタはやめようよ」
「ううん、そういう意味じゃないよ。私の誕生日は六月、でしょ。英語で六月は?」
「えっと、June(ジュン)だっけ?」
「正解。それで花嫁さんは?」
「確か……、Bride(ブライド)だっけ……って、まさか」
私は満面の笑みでひとつ頷く。
「私をJune Brideにしてほしいなー」
腕を取ってがっちりと組む。
「ええぇえぇえっ!?」
「うわっ、なにそれ? 私にあれだけエッチなことしておいて、責任も取らずに弄ぶだけ弄んで捨てるって
いうの……っ!?」
「そ、そんなことないよっ。いつかはそういうふうにって考えてたから……。でも、ちょっと急じゃない?」
彼は首を真横にぶんぶん振って否定してくる。
「私たち、今年で二十五でしょ。適齢期だよ、適齢期。それにうちの家族はもちろん、おじさんとおばさん
たちも了解済みなんだよ。おじいちゃんたちも喜んでたよ。これで三星も安泰だって」
引き攣った笑みのレンレン。口を開けて唖然とした表情の彼も可愛い。
「もしかして、知らなかったのって……」
「うん、レンレンだけ」
がっくりと肩を落としてうなだれていく。まあ、予想できた反応だし、私は特に気にしない。
というよりも、長年に渡って温めておいた計画をようやく告げることができて、笑顔が止まらなかった。
「プロポーズ、楽しみにしているからね」
ちゅっと不意打ちの口付けをして、手を取り歩いていく。
「わかったよ」
桜並木道を二人で歩いていく。これから訪れる幸せな生活を確信しながら、歩いていく。
高校、大学と遠距離恋愛だったけど、これから先の私たちはずっと一緒だ。
サクラの花びらが舞う青空――。そっと見上げて見入ったその光景。それは、私たちの前途を祝福して
くれているかのようだった。
(終わり)
うおおおおお大作乙であります!
萌えまくったよ!GJ!
以上で投下完了です。
読んでいただいた方、お疲れ様でした。
登場した大学の名前は、特に意味はないです。
単行本のプロフィールを見ていて気付いて、こういう締めにしてみました。ベタベタ感が否めませんけれど。
でも、やっぱりハッピーエンドで。
マネジ(これはオリキャラみたいなものですが)、涼音、モモカン、千代、ルリ……と一通り書いてきて
一周したので、次は涼音で考えてみます。
それから、長らく待っていただいた方、すみませんでした。
それと、今年もよろしくお願いします。
それでは失礼します。
おおー長編乙でした!次回作も楽しみにしてます!
やっぱたくさん投下あるといいねー
また夏みたいに賑わうように職人様方よろしくお願いします!
お疲れっした!
やべー三橋がかっこいー!w
次作も楽しみに待ってます!
じっくり読ませて頂きました!
男前の三橋に感動…そして更に漢なルリに噴いたw
読んでて幸せな気分になりました、ありがとっした!
>>381 乙です!
ところで、鈴音ってだれですか?
単行本派なので分からないのです・・
すみません、涼音でした;
>>386 武蔵野第一高校のマネジ
単行本3巻とかに載ってるんだけど…とりあえず読んでみ
>>387 ありがとうございます! 今から読んできます(=゜ω゜)ノ
イズチヨサカの続き、いつまでも全裸で待ってるんだぜ
カイロもらったからまだ裸で待ってるぜ
ちっとさみいけど
ところで初期にいた職人はどのくらい残ってるかね
ハードな奴も待ってるんだ
イズチヨサカの職人様、
長くなるのはかまわないけど、
今度こそエロ待ってますー!
392 :
277:2008/02/01(金) 16:39:39 ID:HYIHZpiB
イズチヨサカSSの続編を投下します。
注意事項は
・ようやっとエロのターンです。
苦手な方はゲンミツにスルーの程、よろしくお願いします。
393 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 16:40:56 ID:HYIHZpiB
「オレらのこと、好きって・・・」
栄口が沈黙を破った。
「そう。友達としてじゃなく、野球部の仲間としてでもなくて」
「男の子として、二人が好きなの。泉くんも、栄口くんも、好きなの」
「サイテーでしょ。でも仕方ないの。」
篠岡の剣幕に押され、泉と栄口は相槌も打てない。
「二人の間がすごく居心地よくて、三人で過ごす学校がすごく楽しくて」
「でも、それじゃあ満足できなくなっちゃった」
口火を切ってしまうと止まらない。
「教室で栄口くんのハダカ見たときも、触りたくなっちゃったし」
「だから、ごめんなさい・・・・・・いくら考えても、どうしたらいいのか分かんない」
話ながら、篠岡は自分の声がどんどん冷えていくのが分かった。
二人の反応が怖い。
394 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 16:45:10 ID:HYIHZpiB
「この発想はなかったな」
「・・・・・・うん、想定外」
「・・・・・・ソウテイガイ?」
「あのな」
一息ついて、泉は決心したように告げる。
「オレは篠岡のことが好きだ」
篠岡の目が見開かれる。
「オレも、好きだよ。篠岡」
栄口の告白も迷いは一切ない。
「て、ことは・・・・・・結果的に、みんな幸せなんじゃねえか」
泉は顎に手をやる。そういえば、と続けて、
「さっきの、教室で栄口のハダカって、なに?」
心に引っかかっていた質問をする。
「そ、それは・・・・・・」
篠岡が言いよどむ。
「練習の休憩中に教室でアンダー着替えたことがあったんだよ。そんときの事だよね?」
栄口が続けて、篠岡は黙って頷く。
何かがじりっと、泉の心を焦がした。
泉はTシャツを脱いだ。
「オレにも触りたいって思う?」
篠岡の首がかすかに縦に動いた。
395 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 16:46:18 ID:HYIHZpiB
「いいよ、触っても」
心なしか、泉の声が硬い。
しばらくの後、暗闇で影が動いた。
篠岡が立ち上がる。
(だめだ。わたし、抑えらんない・・・)
泉の正面に立ち、おずおずと指を泉の喉仏に添える。
指で喉仏を丸くなぞった後、そのまま鎖骨に這わせ、何度も張りを確かめた。
胸に手を置き胸筋、腹筋の弾力を感じ、手が脇腹を掠め、背中に伸ばされる。
背筋の堀を上下になぞる。
泉は篠岡の体を引き寄せる。篠岡のもう片方の腕が泉の背中に回される。
篠岡は頬を胸に当てる。泉の心臓の鼓動が聞こえる。速い音。
泉は長い睫毛を伏せる。篠岡を抱く腕に力をこめる。
栄口は暗闇にかすかに浮かぶ二人に目を凝らす。
396 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 16:48:18 ID:HYIHZpiB
泉は腕の中で篠岡の感触を十分に確かめた後、篠岡の肩を優しく掴み、自分の体から離した。
そして、直立不動状態の栄口の方に篠岡の背を押した。
栄口はふと我に返る。目の前に篠岡がいる。
「お、やっと顔が見れた」
篠岡の顔を両手で挟み、親指で頬に残る涙をそっと拭き取った。
柔らかい髪に指を通し、柔らかい口唇を指で感じ。
そして、少し屈んでキスをした。
「あっ」
思わず泉が声を漏らす。
栄口が口を離したあと
「・・・・・・今の、わたしの、ファーストキス」
篠岡が口を隠す。
「栄口、てんめえ・・・」
泉は低い声で唸った。
「ごめんな、泉。・・・・・・とまんない」
軽いキスを何度か落とし、舌を口唇の間に滑り込ませる。舌で歯をなぞり、
篠岡の抵抗がないことを知った栄口は、歯を割り、舌を深くねじ込んだ。
(あったかいんだな、口ン中って)
妙な感想が湧く。
篠岡の舌下を捕らえ、絡ませた。
篠岡は全身の力が抜け、その場に崩れそうになった。
栄口は篠岡の腰を支え、そのまま布団に組み敷く。
397 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 16:49:23 ID:HYIHZpiB
かちゃん、と戸口で音がした。
突然の物音に二人は驚き、口を離した。血の気がさあっと引く。
泉が部屋の鍵をかけた。
「え、なに・・・」
「するんだろ。セックス」
泉は二人の傍らに戻り、ジャージーを脱いでトランクス一枚になる。
篠岡と栄口は唖然として泉を見上げた。
「あのな、こうなっちゃったもんは仕方ねえんだよ。逃げんなよ」
泉はどっかり腰を下ろした。
「え?誰と誰が?」
「誰と誰、じゃねえよ。オレと、おまえと、篠岡の三人でだよ」
「だってこんなの」
「間違ってるとか、言うなよ、篠岡。じゃあ、正しいことってなんなんだよ」
「・・・・・・」
「考えても分かんねえし、誰にも聞けねえなら、気持ちに素直になるしかねえだろ」
「・・・・・・」
「これから先のことだってそうだぜ。なるようにしかならねえんだから、
だったら、今のことだけを考えるしかねえんじゃねえのか」
「栄口、おまえはどうなんだよ」
栄口はしばらく黙っていたが、立ち上がり、Tシャツとジャージーを脱いだ。
「・・・・・・まだ、消灯まで時間あるよな」
「ああ。万が一のこと考えて鍵もかけてきた」
「・・・・・・じゃあ、篠岡は?」
398 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 16:50:36 ID:HYIHZpiB
泉くんの言ってることは、間違ってるのかな。
でも、反論する言葉がないや。むしろ、そんなんだろうな、っていう。
好きだって気持ちを抑えるの、胸が焼けそうだったじゃない。
今度は?
好き、の先に行きたくて、今度は体が焼けそうな想いをするのかな。
だって、だって、今ももう・・・・・・
篠岡はまた、蜜が溢れ出すのを感じた。
濡れることですら、こんなに気持ちいいのに、触られたら・・・・・・。
篠岡は立ち上がり、ジャージーを脱ぎ、少しの躊躇いのあと、Tシャツに手を掛けた。
「もう、寝るつもりでいたから」
上の下着は身に着けていなかった。
篠岡は覚悟を決めた。
399 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 16:51:43 ID:HYIHZpiB
窓から入る明かりで篠岡の体が蒼白く光る。
胸の谷、胸の下、腿の付け根の陰影が、少女から女に変わる刹那の体を際立たせる。
泉と栄口は釘付けになった。
「んじゃ、オレはこっちの初めてをもらうぜ」
泉は篠岡の手を引き、布団の上に横たえた。
脚を開かせ、ショーツの上から筋をなぞる。
ああ、と篠岡の口から吐息が漏れる。
「・・・・・・篠岡、もう濡れてんの?」
泉の指に力がこもる。発した自分の言葉に自身が大きく膨らんできた。
「栄口のキス、で?」
吐息が大きくなり、篠岡は手で顔を覆う。
400 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 16:53:13 ID:HYIHZpiB
栄口は篠岡の頸を持ち上げ、胡坐を掻いている自分の片腿の上に乗せた。
顔を覆う篠岡の手を解き、上体を屈めて、深いキスの続きをはじめる。
お互いの唾液が口の中を行き来し、ずずっ、ぐちゅ、と音が漏れる。
収まり切れないものが篠岡の口端から伝い、栄口の腿まで濡らした。
口を離すと銀糸がつうっと伸び、栄口は指で絡め取った。
その粘り気を帯びる指で、篠岡の乳輪に沿って円を描く。
「ん、んあ・・・」
篠岡の頬が上気する。
(そ、そんな顔される、と)
栄口が一気に怒張した。
指を乳首に乗せる。軽く押して、指で挟む、つまむ、引っぱる。
篠岡の肩がびくん、びくんと動く。
栄口は篠岡の頸を支え、片腿を抜いて、側にあった枕を代わりに差し込んだ。
手で片方の乳房を柔らかく包み、揉みしだき、
もう片方の乳首を口に含み、舌や歯を使って出来るだけの刺激を全部与えた。
(尖がってきてんのは、かんじてるってことだよな)
どんどん嬌声が深まる。
栄口が目を移すと泉がショーツの隙間から指を忍び込ませるのが見えた。
401 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 16:54:20 ID:HYIHZpiB
「すげえ・・・」
どんどん溢れる蜜で泉の指の感覚が鈍る。どこを触っているのかが、いまいち分からない。
(もっと・・・ちゃんと見たいぜ)
「下着、汚れるから脱がすぜ」
両側のリボンを解き、篠岡の秘所が露になる。
部屋が暗くて見にくい。
(よし、こうなったら・・・)
泉は口を付けて蜜を吸い上げた。
(どろどろで、あちい。味はあんまねえな)
手の平で薄く茂る陰毛を押さえ、指で花弁を押し開いて、舌を蜜壷に這わす。
指が小さな突起を見つけた。
(これって・・・・・・)
その粒を舐ってみると、篠岡は一際甘い声を上げ、脚を震わせた。
舌で捏ねれば捏ねるほどどんどん柔らかくなり、大きく変化していく。
泉は篠岡の反応に心から満足した。
402 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 16:55:19 ID:HYIHZpiB
「いやああ・・・いずみく・・・汚いよ」
篠岡は首を左右に振るが、本気で制止することはできなかった。
上半身を栄口に預けて、下半身を泉に預ける。
泉と栄口の四つの目に、こんな卑猥な自分の姿を晒しているのかと思うと羞恥心で泣きたくなるが、
何故か背筋がぞくぞくし、鳥肌が立つ。
喘ぎたくとも、誰か来るのではないかという恐怖が胸を過ぎる。
一向に止まない、止むどころかどんどん強まっていく刺激に、どんどん敏感になり、
ただただ、蜜を溢れさせる。
(からだ、あつい・・・)
血が沸いているのではないかと思う。
心も体も何かに向かって昇りつめていく。
(ああ、もっとほしい・・・!)
頭がおかしくなりそうだ。
めくるめく快楽、限界が迫る。
篠岡は身を縮めて、何度かふるふると体を痙攣させた。
403 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 16:56:54 ID:HYIHZpiB
泉はトランクスを脱ぎ捨てた。
「お、おい・・・・・・」
栄口が僅かに咎める。
「だいじょうぶだよ。ちゃんと外に出すから・・・腹、いや、トイレとかで」
「篠岡。たぶん、すんげえいてえと思うけど、声、あげんな」
篠岡のぼんやり潤む目に、怯えの光が射す。
泉は篠岡の蜜壷に自身をあてがう手を、ふと止めた。
「おい、栄口。おまえ口でしてもらえよ」
「な、なに言って」
「声、出したくなったら栄口咥えながら、声出せ」
泉は栄口の言葉を切った。
「おまえも、脱げよ」
栄口は緊張した面持ちでトランクスを脱いだ。
絶頂に達した放心状態の篠岡を、泉は四つん這いにさせる。
「栄口を咬むなよ、篠岡」
泉はニッと悪戯な笑みを浮かべた。
栄口の張りが若干緩む。
「咬まないで、ね」
栄口は跪いて、自身を篠岡の口元まで恐る恐る運んだ。
「・・・・・・今は・・・オレは痛くないようにできないけど」
泉はぽつり呟いた。
「次の・・・・・・栄口のときには、きっと大丈夫だから、栄口に優しくしてもらえ、な」
泉の何気ない「次」の約束を耳にした篠岡は、黙ってこくんと頷き、睫毛を伏せて、
手で栄口の根元を持ち、そのまま呑み込んだ。
泉は二人を確認してから、一瞬の躊躇いのあと、ゆっくり挿入した。
404 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 16:58:36 ID:HYIHZpiB
「うっ、あ・・・」
栄口は堪らず声を上げた。
篠岡の口の中は熱くて、ぬかるんでいた。舌や口の内壁がまとわりつく。
吸われるたびに、今まで味わったことのない快感が体を劈く。
篠岡が苦しそうに口の中で何か叫ぶと、刺激が止んだ。
(い、いやだ!・・・離れないで!)
栄口は篠岡の頭を押さえて、ぐっと引き寄せた。栄口がさらに奥に入る。
篠岡は鼻で息を整えながら、がむしゃらに上下左右に顔と舌を動かした。
「うあああああ・・・」
栄口は迫りくる絶頂の渦に、まだ巻き込まれまいと、必死に抵抗する。
405 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 16:59:17 ID:HYIHZpiB
(焦んな!)
泉は少しずつ挿入を深める。
泉の進入を拒むように、篠岡はぎゅうぎゅうと締め付ける。
「くっ・・・・・きつ・・・・・・」
締め付ける割には、壁の襞はもっともっとと誘うように吸い付く。
(そ、そういや、指いれんの、忘れたか、も)
篠岡の尻が下がりそうになり、泉は両手で抱え込む。
(ま、あ、いいか、こんなに濡れてるし、もう、はいっちまってるし)
泉の篠岡を支える手に力が入り、その最奥に到達する。
篠岡の腰がびくんと動き、白い尻が上に跳ねた。
(やべ、オレ、まだ中で動いてねえのに・・・・・・)
泉もまた、襲い掛かる絶頂への甘い痺れと、必死に戦っていた。
406 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 17:00:17 ID:HYIHZpiB
「ぐっ・・・・ぷ」
栄口を咥えつつも、篠岡の口から声が漏れる。
(いたいいたいいたいいたい、いたいよお!!!!!)
泉が切り開き、張り付いていた肉が裂けていく。
(こわい!くるしい!)
目じりに涙が浮かび、鼻水が出てくる。
口から涎が伝うのも分かる。
体の至るところから体液が迸るのを感じる。
そして生々しい、いやらしい音がする。
(全部、わたしの体が、立てる音だ)
(あ、もう、だめ)
篠岡の体が崩れかけたとき。
407 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 17:01:21 ID:HYIHZpiB
「う・・・オレ、もう・・・!」
泉が篠岡から勢いよく引き抜き、部屋を飛び出して行った。
「ん、・・・・・・いくっ」
栄口は腹を突き出し、篠岡の口内に全てをぶちまけた。
(!なにこれ!!!まずい!!!)
篠岡も口を押さえ、部屋を飛び出して行った。
果てた栄口がその場に手を着く。がくがくと膝が震えている。
はあ、と大きく深呼吸をしてなんとか立ち上がり、二人を追いかけ、戸口脇の小部屋に入る。
そこは浴室だった。ユニットバスになっていた。
洗面台の水がじゃあじゃあと流れていて、ゲホゲホと篠岡がむせている。
泉が篠岡の背中をさすっていた。
「ごめん、オレ、我慢できなくて・・・」
栄口が後ろから篠岡の髪の毛に顔を埋める。
「泉、おまえは・・・?」
泉は黙って便器を指差した。
二人の精液は既に流されていたが、浴室内に少し匂いがこもっていた。
408 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 17:02:54 ID:HYIHZpiB
「だいじょうぶか、篠岡?」
栄口が声を掛けるが、篠岡は俯き、顔を上げない。
泉はぽんと栄口の肩を叩き、浴室から出て行く。
栄口も部屋に戻る。泉が部屋の電気をつけた。
光に目が眩む。
蛍光灯の下に晒された褥が生々しく見えた。
幸いにも、ひどい乱れがあったのは篠岡の布団だけだった。
二人は脱いだ服を身に着け、シーツの皺を伸ばし、枕を戻し、掛け布団を敷いた。
「部屋に戻ろうぜ」
「え、でも篠岡が・・・」
「少しひとりにしておいたほうがいいんじゃねえのか」
「・・・・・・」
「あいつらが帰ってくるかも」
「本来なら」
栄口が口を挟む。
「本来なら、たくさん篠岡の話を聞いてあげて、オレらの話もしなくちゃいけないんだろうけど」
「・・・・・・ああ、そうだな」
泉が頷いた。
409 :
イズチヨサカ:2008/02/01(金) 17:04:22 ID:HYIHZpiB
浴室に行くと、二人に背をむけるようにして、篠岡はバスタブの縁に裸のまま腰を掛けていた。
髪が乱れていた。俯いてじっと浴槽の壁を見ている。
その横顔からはなんの表情も読み取れなかった。
「篠岡、とりあえずここで風呂入れ、な」
「・・・・・・」
「ここ、匂いがまだ少しあっから、髪も、身体も石鹸でよく洗って、匂い取って」
「・・・・・・」
「布団も気になったらシーツやカバーも交換しとけ」
「・・・・・・」
泉の言葉に、篠岡は微動だにしない。
「なあ、篠岡。今は時間取れないから、別の日にゆっくり話そう。三人で」
栄口が優しく声を掛ける。
篠岡の顔が少し上がる。その目に涙が溢れた。
「嫌いにならないで・・・おねがい」
声が掠れる。
後ろから泉が篠岡をそっと抱いた。
「ばあか。いまさらなんだよ」
横から栄口も頬にキスをした。
「泉がもう一回とか言わないうちに、オレら戻るから」
「んだと、コラ」
篠岡はやっといつもの笑顔を見せた。
三人の新しい時間が今、動きだした。
(終わる)
410 :
277:2008/02/01(金) 17:05:35 ID:HYIHZpiB
今回も長文失礼しました。
読んでくれた方、待っていてくれた方、ありがとうございます。
この後、エロなしの後日談をもう少し書こうと思ってます。
投下は早くて来週になると思います。
よかったらまた読んでください。
>>354、
>>390 ちょw低温火傷、大丈夫だった?
遅くなって申し訳なかったぜ
>>それでも全裸待ちしてくださるみなさん
つたくさんのカイロ
290からずっと裸で待ってました!!!
イズチヨサカGJです!後日談も楽しみにしてまーす
412 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/01(金) 19:33:44 ID:Ds/BkvdV
GJ!
正直、過去3回キスどころか下ネタすらなくて
ブログでやれと思ってたけど
これはエロくて良かったっ!
初えちが修学旅行で3Pとはなんとエロパロ向き。
全裸で待ったかいがあったぜ!
後日談も待ってる!エロなくても服着ない!
414 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/01(金) 21:59:02 ID:49Bbp308
でもエロパロだよココ……
>>414 とりあえずsageれ
最初から最後までエロなしなわけじゃないし
今は投下数も少ないんだから厳しくしない方がいいと思うんだけど
まあエロパロだから当然エロありきだとは思うけど、話が面白かったら別に
いいんじゃね?とか思ったり
理想は両方(話・エロ)を両立させているSSだけどね
とにかく批判臭いことはやめようぜ
また過疎っちゃうから
俺…単行本全部読み終わったら…
タジチヨ書くんだ……
絶対417は俺が死なせないから…
>>417 死亡フラグかww
速攻で読んで頑張ってくれ
ミズチヨ投下します。終始水谷視点です。
エロ一応あり。
キャラのずれとか設定ミスが許せない方は
「イヌノメ」でNGもしくはゲンミツにスルーでお願いします。
篠岡の目は、わんこみたいだ。
黒目がちでうるうるしてて。
「ごちそうさまでしたっ。じゃ、行ってきまーす!」
「千代、アンタまだグラウンドの草刈ってんの? しばらく大会ないんじゃないの野球部って」
クラスメイトの声に篠岡はお弁当箱を手早く片付けながら答える。
「秋の大会もあるんだよっ。それに昨日雨だったからまたグラウンドが原っぱになっちゃうもん。
ちゃんときれいにしとかなきゃ。じゃあねー」
机も何もさっと元の位置に戻したかと思えばもう次の瞬間には教室を後にしてる。
朝の身支度がシャワー入れて30分って前に聞いて驚いたけどありゃ本当だな。
「なあ野球部さあ」
オレ達が弁当箱を広げる近くにいた、そんなに頻繁に話すわけでもないヤツが話しかけてきた。
「野球部ってマネジがあそこまですんの当たり前なの?」
「あそこまでって、何」
言葉のトゲを感じたのか、花井が無愛想に聞き返した。
「だってあれだろ、お前らと同じ時間に朝練来て色々準備して昼はグラウンド整備で
放課後はまたお前らと同じくらいの時間まで残ってんだろ?
なんか部活ってよりは奉仕活動っぽくね?」
「オレ達が練習以外のところでやらなきゃいけないことを減らすのもマネジの仕事だ。
篠岡が自分でそう言ってるし、オレ達が見てて無茶なことなら絶対やらせない」
阿部がきっぱり言い切った後こっちを見る。
「なあ、そうだよな水谷」
あ、このヤロウこっちにまで話振りやがった。一蓮托生かよ。まあいいけどね。
「そうだよー」
ちょっとへらっとそいつに笑ってみせる。
「篠岡がいてくれるからおいしいオムスビ食えるし、練習にもやる気が出るってもんで。
雰囲気も柔らかくなるしな」
「柔らかく、って監督だってオンナだろ」
「カントク……モモカンなあ……」
「ありゃ逆に女扱いする方がダメだろう」
「てめえらっ」
やべ、花井に睨まれた。オレより阿部の方が割とひどいこと言ってんのにー。
「とにかく篠岡は好きでやってんだよ。出てく前の顔見たろ?すっげえやる気満々だぜ。
ありゃ止めたらお預け喰らった犬みたいになっちゃうよ」
オレの言葉に花井と阿部がうなずく。
「それに女子だけど篠岡はうちの部員で仲間だから。
仕事にハンデ付けたらそれは逆に篠岡に失礼だ。そこはオレらだってちゃんと踏まえた上でやってんだ。
阿部もさっき言ってたけど無茶なら最初からやらせないし仕事の分担くらいするよ」
はーっ、とヤツがため息をついた。
「野球部のガード固いって本当な」
「「「どういう意味だ?」」」
奇しくもオレ達3人の声が揃う。
どうやら篠岡はうちの学年だけじゃなく上級生にも人気があるらしい。
まあそりゃ篠岡かわいいから当たり前なんだけど、どうもソイツは部の先輩から
それとなく彼氏がいるかどうか探りを入れるべく偵察役を頼まれたらしく。
「空いてそうな時間に話しかけたりしてみたいらしいんだけど、
部活の仕事真っ最中だったり部員と一緒にいたりでなかなか近づけないから、ってさ」
別にみんな特別示し合わせて篠岡をガードしてたわけじゃないし、
篠岡の仕事熱心さがそういう風に見られたんだろうな。
「とりあえず彼氏がいるとかは聞かないなあ」
「彼氏作るより野球のこと考えてる方が今は楽しいんじゃないか?
アイツの取ってきたデータ、すげえ緻密だったよなあ花井」
「おう、カントクもオレ達もびっくりしたぞあれは」
「ま、そゆことでオレ達に聞いてもどうしようもないねー。
多分誰にもそういう風になるつもりないと思うよー?」
オレはのほほんと、ソイツ経由で誰かもわからない先輩とやらに釘を刺してみた。
弁当を食べ終えて、まだ大分時間があったのでグラウンドに行ってみた。
でっかい麦藁帽子が低い位置で校庭の緑とアッシュブラウンの狭間でちんまり揺れている。
「篠岡ー」
声をかけてみると大きな麦藁帽子の下から小さな篠岡が立ち上がった。
「あれ水谷君、どうしたの」
「ん、まあ、なんとなく、ね。休憩中?」
「うん、思ったより草生えてなかったよ」
オレは購買の自販機で買った2つある紙パック飲料の片方を篠岡に投げた。ナイスキャッチ篠岡。
「暑いだろうし、良かったら飲んでよ」
「うわあありがとう、あとでお金払うね」
「や、おごりでいいってこれくらい。いつもがんばってもらってるんだし」
「それはダメ。それに私、自分の仕事してるだけだもん」
篠岡がぷーっと頬を膨らませた。
ほら、な。篠岡はこういうヤツなんだよ。自分でプレイしてなくたって、オレ達に負けないくらい野球が好きで、
そのためにがんばることを誰かのせいにもしないし負担に思ったりもしない。
それがわかんないやつらは、篠岡の長所が1つわかんないってことだからカワイソーだよな。
「じゃ、いっただっきまーす」
ストローを紙パックに挿し、中身を飲み込んだ篠岡の喉がわずかに動いた。
オレはなぜだかわからないけど、唾をごくりと飲み込んだ。
「ひゃー、冷たくておいしー!」
黒目がちの目が喜びに輝く。
「篠岡、かわいいなー。アイちゃんみてー」
カントクの愛犬の名を聞いて、一瞬怪訝そうな顔をする篠岡。
「えーっと、それは喜んでいいの、かな?」
あれ、オレなんかまずいたとえしたっけっか。
「や、なんか好きなことに一生懸命っつーか、ちっちゃいけどよく動くなーとか、その」
しどろもどろになっていると、急に篠岡が笑い出した。
「あはは、水谷君ってばキョドキョドしちゃって、おっかしー」
「あ、チックショー笑ったなー。うー、篠岡、ちょっとその場で回ってみて」
「え?こう?」
「はい、篠岡がターケコープター」
笑いながら校庭に移る影を指差すと、動きを止めた篠岡も影を見てまた笑い出した。
「やだー、本当にタケコプターみたいー!ドラ○もーん!」
2人してそんなくだらないことで笑っているうちに予鈴が鳴った。
「やっべ篠岡、急げ!」
篠岡が部室に麦藁帽子を置いて鍵を閉めるのを確認して、俺は篠岡と一緒に校舎へ走っていった。
「しのーか、おっせーなー」
田島がむーっとした顔で言う。午後練が始まってしばらく経ってて、まだ篠岡はグラウンドにいない。
確かにいつもの時間よりは少々遅い気はする。
「数学準備室で他の先生にとっつかまって世間話してんじゃないの?」
「や、したら適当なところでシガポが止めるだろ」
「クラスで何か呼ばれてるとかじゃないんだよねえ?」
「いや、オレ達が教室出る前にもうとっくに出てったぜ」
沖の推測を栄口が否定し、西広の疑問をオレが否定する。
「いつも時間通り来るから、心配は心配よねえ。……水谷君」
「はいっ?」
いきなりモモカンに呼ばれてオレはなぜかビクッとしながら帽子をかぶり直し、
モモカンの前で気をつけをした。
「悪いんだけどちょっと千代ちゃん迎えに行って。
みんな、しばらく内野特守ねー、花井君泉君西広君はランナー役。はいGO!」
モモカンの号令で、みんな即座に走って各々の位置に付く。
オレは不承不承っぽくグローブをベンチに置いて、篠岡が通りそうなコースを辿ってみる。
他の部活が次々に練習を上がっていくのを横目で見ながら歩いていくと、
特別教室棟と校舎の間の辺りからなんか声が聞こえてきた。
「……なので、私そういうのは困るんです」
篠岡の声だ。
「何も今すぐ付き合ってっていってるわけじゃなくてさー、
時々どこか遊びに行くとかー、たまに部活サボって一緒に帰ろうとか
そういうのをやってみてオレのことどうなのか決めてっていってるじゃん」
「部活をサボるのはやですし、いきなりどうとか言われても」
声がする方へ歩みを進めると、篠岡の背中とその前にいるのは顔を見かけたことのある2年の男子。
「そういう硬い事言うなって、なー。オレだって無理しろって言ってるわけじゃないんだし」
しつこいなあこの人。篠岡困ってるじゃん。かわいそうに。
なんだか手にすごく汗をかいてきたような気がする。
1回深呼吸して2人の方に近づいていった。
「篠岡ー」
「水谷君!」
オレの声を聞いて弾かれたように振り向いた篠岡は泣きそうな顔をしていた。
2年がチッと大きく舌打ちをした。
「あー、ミズタニくんとかいう人さあ、先輩が話し中だからちょっと気ぃ遣おうよ」
「あーすんません、うちのマネジが遅刻してるもんでカントクがご立腹でぇー」
いつもの倍以上へらへらした顔でその2年に頭を下げる。
「うちのカントク怒らせるとおっかないんすよー。
あ、先輩がオレの代わりに頭握られてくれんだったらもうちょっと待ちますけど。
アレすんげえ痛いんすよねー、甘夏素手で潰す握力ですからなんてったって」
「……チッ。もういいや。じゃあね、篠岡さんバイバイ」
バイバイ、のところにいやなアクセントをつけて2年は去って行った。
篠岡がふわぁー、とため息をついてうつむいた。
「ごめんねえ水谷君、私が遅いせいで迷惑かけてカントクまで怒らせて」
「や、心配はしてるけど怒ってないよカントク。オレがちょっとオーバーに言っただけ」
「よかったぁー。遅かったのはちょっと志賀先生と話してたのもあるんだけど、
あの先輩がなかなかわかってくれなくって」
もう1度ふわぁーとため息をついて篠岡は歩き出そうとしたが、
動揺からか足元が怪しくなり身体が傾ぐ。
「おっと」
オレはすかさず篠岡を支えた。よろけた篠岡の髪からふわりといいにおいがした。
「篠岡、困ったことがあったら言ってね。せっかく同じクラスで同じ部活なんだし、
なにかあったらオレだけじゃなくて花井や阿部もいるしさ」
オレがいるから、とは言えずに花井や阿部まで勝手に引き合いに出すオレ。
ああヘタレだなあオレってば。
「うん、でもこれは私がもっとちゃんと断ってれば済む話だよね。
誰と付き合うとかそんなの全然思えないんだもん。だからみんなに迷惑かけられないよ」
さらに篠岡が困った顔をする。
しょんぼり、という文字が漫画みたいに背景に浮かんでそうなほどかわいそうにうなだれて。
えーと、こういう時オレはどうしたらいいんだろう。
いつもならいくらでも出てくるはずの軽口も思いつかない。
「しのおかっ」
気がつけばオレは篠岡の両手を握っていた。
篠岡がびっくりした様子で握られた手を眺め、それから半泣きの潤んだ目でオレの眼をじっと見る。
うわ、どうしようオレ。とっさにしたこととは言え、えっと。
「篠岡、瞑想。目閉じて」
部活モードに入れオレ。
と自分に言い聞かせるみたいに篠岡に言ってオレも目をつぶる。
篠岡がオレの言葉に答えてぎゅっと手を握り返してきた。白く細い指はどれも冷えきっている。
オレは一生懸命心の中でつぶやく。
篠岡にオレの体温を分ける、篠岡にオレの体温を分ける、篠岡にオレの体温を分ける。
しばらくすると篠岡の手が少しずつ温かくなってきた。
目を開けて、もう一度篠岡の手を握る手に力を込めてから手を離す。
「よし、もう大丈夫だろ? みんな待ってるからグラウンド戻ろうよ」
目を開けた篠岡は、それでもいつもよりちょっとだけ弱々しい笑顔を浮かべた。
「うん、もう大丈夫だよ。ありがとう水谷君」
ずきん。
篠岡を助けたはずなのに、なんだかオレが何か篠岡に悪いことをしたような気になってしまう。
篠岡の笑顔がいつもの笑顔じゃなくて、目はまだ半泣きから抜け切ってなくてうるうるしてたから。
そんな目で、見ないで。
目をぎゅっとつぶって、頭を左右にぶるぶるっと振って、それからなるべく優しく篠岡に話しかける。
「今日はジャグ1個持ったげるよ。自転車、取っといで」
「ごめんね、ありがとう。ちょっと待っててね」
篠岡が自転車を取りに走るのを目で追ってから、ふと何気なく特別教室棟の窓に目をやった。
いまいちきれいじゃないガラスには、捨てられた犬みたいな目をしたオレが写っていた。
練習が終わり、着替えているうちに無意識でため息をついてたらしい。
「おー、どうしたんだよため息なんかついちゃって」
泉がひじで小突いてくる。
「ため息をつくと幸せが逃げるんだぞ。運気が下がるからやめとけ」
「にしし、水谷きっと女運下がるんだぜー、ガックーンと」
「元々ねえもんが下がるかよ。心配するなら勝負運にしとけ」
巣山の優しいアドバイスに乗っかって田島と阿部がとんでもないことを言ってくれる。
「あはははは……」
いつもならもっとむきになってるんだろうけど、なんだか力無い笑いしか出ない。
篠岡の言葉が頭の中を回る。
『誰と付き合うとか、そんなの全然無いんだもん』
そっかー、そうだよなー、篠岡が一番大好きなのは野球だもんなー。オレが入る隙間なんて……
あれ? オレなに考えてんだ?
「つかそれより明日から試験休みになるんだから、また1学期みたいに集まって勉強しねえ?」
「田島、オマエ味しめたなー。オレと西広は大変だったんだけどあれ」
「いいじゃん花井、出来るやつはオレ達に教えてくれりゃあさ、なー三橋」
「う、うん、みんな、で、勉強、また、したい、な」
「じゃあとりあえず明日の朝学活前からやるか。朝練よりは遅いから楽だろ」
阿部の提案にみんなでうなずいた。
気がついたら俺はまたあの場所にいた。
西日に照らされて、篠岡の肩で2つに結わえた髪が震えているのが見えた。
「ねえ篠岡さん、昨日のアレなんだけどさあ」
あの2年だ。こりねえ野郎だなあ。
もうこいつのせいで篠岡を困らせたりするもんか。
オレは篠岡に背後から近づいて、右手で右手を握る。
前から見ると、ちょうど腰を抱くように見えるはず。
「すいません先輩、こういうことなんで」
「水谷君!?」
篠岡があわててる。ごめんなびっくりさせて。でもオレは握った手を離さない。
唇だけで微笑を作る。
「申し訳ないですがこいつ手放す気はないんで」
手を握ったまま腕で背中を押して、篠岡を回れ右させて連れて行く。
しばらくオレも篠岡も何も言わずに歩いた。手は汗だくで、やけに喉が渇く。
人気のない校庭をグラウンドに向かって歩いていく。
たとえ人がいたとしても、もうオレの目には篠岡しか入らない。
「あっ、あのっ、水谷くんっ、また、助けてもらってごめんねっ」
ベンチ前で足を止めた篠岡がちょっと息切れしたみたいな声で言う。
ずきん。
別に助けたわけじゃない、と申し訳なさが先に立つ。だってオレは、オレは。
「えっ……?」
篠岡から手を離したオレは、そのまま後ろから篠岡を抱きしめた。
細いけど柔らかい篠岡の身体。女の子って細くてもこんなにやわらかいんだなあ。
「ごめん篠岡。いいヤツじゃないよオレ、篠岡を助けたかったんじゃないんだ」
回した手に力を込めると、篠岡の肩がびくんと震えるのがわかる。
「オレ、本当はずっとこうしたかったんだ。
先輩にも、同級生にも、部の他のやつらだって篠岡を渡したくないんだ」
耳の近くで呟くと、篠岡の髪が震えてオレの鼻先をくすぐる。いいにおい。
「篠岡のこと、ひとり占めしたいんだ。このままさらってきたい」
心臓が暴れまわるみたいに激しく脈を打つ。ゴクリ、と唾を飲み込んで続けた。
「好きだ。篠岡」
後ろから篠岡を抱きしめたまま、そこから言葉も出ず、篠岡も口を開かず、
ただ心臓の鼓動だけが相変わらず響く。オレこのまま壊れちゃうんじゃないか。
……それでもいいや。
「みず、たに、くん」
篠岡がやっと口を開いた。ちょっと声がかすれてる。
「確かに、いい人じゃないよね」
嫌われた? 身構えるオレを待っていたのは思いがけないことだった。
「ここ、当たってる」
篠岡に触られて初めて、今まで自分がガチガチになったモノを篠岡に押し付けていることに気づいた。
立ってることにさえ気づかなかったくらいテンパってたのか、オレ。
「それに、私も、水谷君が思ってるような子じゃないかもよ?」
篠岡の左手がぎこちなくオレの股間をまさぐる。ちょ、ちょっと待って?
あわててオレは篠岡から身体を離し、改めて正面から篠岡を見た。
篠岡の目は潤んでいたけど、それは困ったような犬の目じゃなかった。
「私のこと好きって言ってくれてうれしい」
今度は篠岡が俺の胸にしがみついてきた。
恐る恐る篠岡の肩に手を回すと、篠岡が上目遣いでオレをじっと見つめる。
熱を帯びた、濡れた瞳で。
「水谷君、しよ?」
篠岡の手を引いて部室に入り、鍵を閉めてすぐ篠岡に口付けた。
ついばむように篠岡の唇に何回か触れて、思い切って舌を入れる。篠岡は拒まない。
夢中で舌を絡めたり、口内を舌でなぞると篠岡の喉が鳴るのがわかる。
「はあ……」
唇を離すと、舌と舌の間に唾液が糸を引く。
その糸が切れて、オレは篠岡の頬から耳へ、首筋から鎖骨へ、唇を落としていく。
右手でカーディガンを半脱ぎにさせ、左手はキャミソールの裾から入って
篠岡の身体をさすりながら胸を目指す。
「やっ、くすぐったっ」
身をよじる篠岡を右手で逃がさないように抱き寄せて、ブラの上から篠岡の胸を触る。
布越しの感触がどんどんもどかしくなって、両手を背中に回して悪戦苦闘の末ホックを外し、
直に篠岡の胸に触れる。
手のひらで包み込み、指を動かし、やがて外から内にこねまわすようにしながら揉み、
人差し指で先端をいじると篠岡の声が1トーン跳ね上がった。
「んっ、んあ、あっ」
上を全て脱がし、左手は篠岡の乳房をいじりながらもう片方の先端を口に含む。
右手はスカートの裾をたくし上げ、下着の上からおずおずとその辺りをさする。
「あ、あっ、はぁっ」
胸の先を両方味わいつくしたあと、右手で刺激を与えながら左手でスカートを捲り上げた。
水色の下着は汗とそれ以外の体液で湿り始めている。
「篠岡、直接触るよ」
クロッチの横から指を滑り込ませる。
毛の手触りのあと、ぬるぬるした熱い液体が指に触れる。
「ひゃんっ、あっ、やっ、だ、め、はずかし、いぁぁっ」
前の方にある突起に触れるとさらに声は高く切れ切れになり、奥からどんどん愛液が湧いてくる。
それを指で汲み上げるように掬ってはますます熱く硬くなる篠岡の小さな突起にこすりつけ、
スカートを脱がせ、下着をおろした頃にはもうそこは滴る程に濡れそぼっていた。
篠岡を机に座らせる。
「足、開いて」
恥じらいながらも膝を開く篠岡の中心に顔を近づけて舐め上げる。
「ひゃああああっ」
「篠岡、きれいだよ」
割れ目に舌を入れると、膝がびくんと跳ねた。
「やっ、どうしよう、こわいよ、みずたにくん、みずたにくんっ」
見上げると篠岡はいやいやをするように首を横に振る。顔は上気して桜色。
オレはTシャツを脱いで、ベルトを緩めてジーンズもその場に脱ぎ捨てた。
「オレにも、してくれる?」
篠岡がオレの下腹部を見て、ただ頷いた。
篠岡の両手がオレのをおずおずと触る。
自分でするより握る力は弱いんだけど、それがもどかしいような逆に気持ちいいような。
「気持ち、いい?」
「うん、いいよ、篠岡」
慣れない感覚に視線を上へ逸らすと、しばらくして先端に加えられる刺激が変わった。
「うわっ!?」
篠岡が、オレの、舐めてる。
ちろりちろりと遠慮がちに舐めてから、意を決したように口の中に含んできた。
熱い。さっき触ってた篠岡のあそこと同じくらいの熱さ。
いや、身体を支えるためにオレの太腿に回した手も熱い。
多分、オレのも、オレの身体全体も、熱い。
何もかもが熱く融けてしまいそうな気がして、篠岡の口からオレのモノを抜いた。
「ふあ……」
「篠岡、もう、入れさせて」
脱ぎ捨てた自分のTシャツを机に敷いて、その上に篠岡を横たえる。
「いくよ……」
篠岡の両脚を抱え、先端で入れるべき場所を確かめてから、
蜜が溢れだす場所へ少しずつ埋めていく。
「いっ……!」
篠岡の顔が痛さで歪む。ごめん篠岡。
「痛い? ごめんね」
「だいじょぶ、でも、ゆっくり、して?」
それでも篠岡はけなげに笑いかけてくる。罪悪感と、そうじゃないものが首筋あたりから渦巻く。
オレの顔のすぐ脇に、抱え込んだ篠岡の膝がある。そこにチュッと音を立てて口付けた。
「ひゃっ」
膝が震えて篠岡が声を出すのと同時に、膣内がきゅっと締まる。
「すっげえ、いいよ」
少しずつ腰を動かし、ゆっくり出し入れを始める。
ぎゅっと目をつぶり、痛みをこらえる篠岡の瞼に、頬に、唇にキスの雨を降らせる。
唇を舌で押し開けると、篠岡も舌を絡めてきた。キスしたまま、身体をぐっと密着させる。
オレも篠岡も、身体のどこもかしこも熱くて、触れた場所から融けてっちゃいそうだ。
頭がクラクラする。ボディラインを触りながら胸を吸う。
「ふあ、あ、あ、あ、ああ、あ、あ」
篠岡の喘ぎ声が変わってきたのを聞いて、オレは腰の動きを早めた。
「あ、ああ、あ、あ……ふみ、き」
篠岡が、オレの、下の名前、呼んだ。
「しのおか、しの……ち、よ。オレ、あっ、う」
ヤベえ出る! あわてて篠岡から自分のを引き抜く。
篠岡の腹と腰の右側と太腿に、白濁したものをボタボタ垂らしてオレは肩で息をした。
篠岡の秘所を拭き、オレが垂らしたものもきれいに拭き取って
横たわる篠岡に倒れこむように抱きついた。篠岡は向こう向いてる。
ピピピピピピ、となぜか電子音がして、見ると篠岡が携帯で何か打ち込んでいた。
『文貴、ヘタクソ』
「うわあああああああああああっ!」
自分の叫び声で気がつくと、オレは自宅のベッドの上にいた。
枕元で、目覚まし時計が電子音のアラームを鳴らしている。
「あ、あれ……」
しばらく呆けていると、ドアが開く音がして姉貴が部屋に入ってきた。
「フミキうるさい。大体そんな声出してご近所に迷惑でしょ」
「ああ、わりぃ姉貴」
起き上がろうとして、なぜか身体がいう事を利かずに床に転倒した。あれ?
「なにやってんのもう。……やだ、アンタ熱いよ。熱あるでしょこれ」
おかーさーん体温計ー、と姉貴がバタバタ廊下を走り去っていった。
そういや寒い割に妙にカッカして頭はガンガンするし、パジャマは汗びっちょり。
ふとパジャマのズボンごとパンツを掴んで覗くと、中に白いものがべったり付いていた。
夢精しちゃったかー。っつーか、ありゃ夢だったのか。
そうだよなー、篠岡があんな自分から誘うとかねえよなー。都合良過ぎだよなー。
母親が持ってきた体温計は38度6分を叩き出し、オレは学校を休む羽目になった。
汗をかいたパジャマを着替え、パジャマの間に隠すように汚れたトランクスも洗濯に出して、
オレは布団に潜り込んで花井と阿部にメールを打った。
『篠岡が昨日2年に絡まれてた。気つけてあげて』
昨日の今日で他人任せなんて、なんか本当にヘタレだよなあオレ。
篠岡とどうこうどころか番犬にさえなれないのか。
「わおーん」
遠吠えみたいにつぶやいて、そのうちまた眠りに落ちていった。
今度は、何も夢は見なかった。
終わりです。
規制に引っかかったので携帯から失礼します。
夢オチとは言え篠岡がアレだったりしてすいませんでした。
GJ!
面白かったー!
水谷のヘタレっぷりがなんからしくていい!
GJ!
しかし自分の夢でさけ『ヘタクソ』とは
カワイソウすぎる。しかしそこがいい。
ハマオチとかハナモモとか書いてました。
またハマオチに匹敵するマイナーカプ。応援団吹奏楽員の松田×野々口のエロ無しです。
ちょっと端っこすぎて受け入れてもらえるかどうか…。すいません。
また、勝手に野々口は松田の後輩にしました。性格も妄想でつくりあげました。
本誌ネタバレを嫌う方や捏造すんな!な方はスルーお願いします。
友達がみんな行くから。とついて行った桐青VS西浦の試合。
皆は試合に夢中だったけど、私が夢中になったのはすぐ目の前で応援しているトランペットの先輩でした。
たった二人のドラムとトランペット。
でもその音色は桐青に負けていない。
特に冷たい雨が降る中の彼の後ろ姿は私の中に強く残った。
「あ、あ、あ、あ、あ、あのっ…ままま、まっ!!」
「ん?」
渡り廊下。振り返るTシャツの先輩。
以外とがっしりした肩にドキドキしながら私は渾身の力で話しかける
(屈折16年分の地味な私よ、今こそ蓄えてた勇気を!)
ぱっつん前髪、黒縁眼鏡な私。それでも今日は結構気合入れてきた。
「松田さん!わ、私野々口って言います。あの応援団に入りたいんですけど…」
「ああ、チアガール?じゃぁ浜田に話してみなよ。そしてあのチアガ達に…」
「チ、チアじゃなくて吹奏楽員として…」
「え、本当?」
松田さんの顔がぱぁっと急に明るくなった。
またそこで私はドキドキしてしまう。
「は、はい!中学の時吹奏楽部だったんです。自分のトランペットも持ってます」
「おお!じゃぁ一緒に頑張ろうよ!」
「良いんですか?よろしくお願いします!」
(やった〜〜!)
もう幸せで死にそうだった。
そして練習に練習を重ねた港南戦直後。
「野々口、唇大丈夫か?」
「…痛くて、熱も持ってます…」
1日であんなに長く、しかもめいっぱい音を出したことが無かったので私の唇は見事に腫れあがってしまった。
「俺も最初の試合の後はしばらく泣いたよ」
「あのときの顔は面白かったねぇ〜」
深見先輩がアハハと笑って太鼓を車に積んだ。
深見先輩のお父さんが楽器を学校まで運んでくれるのだ。
「じゃぁ、先に学校いってるからね!」
「おう。またな」
「せんはい。またあとえ〜」
「うん!」
太鼓を載せるともう人は乗れないので私たちは別移動で学校へ向かう。
「ちゃんとリップ塗っとけよ?」
「ふぁい。」
「あとこれで冷やせ」
と手に渡されたのは冷え冷えのスポーツ飲料
「え?」
「俺のオゴリ。深見には内緒な」
「はりはほうほはいはふ」
唇をあまり動かさないで喋る。
「ハハハ!何言ってるかわかんねーよ!」
そういうと先輩はぽんぽんと私頭を撫でた。
「じゃぁ俺たちも戻るか」
(どうしよう…格好良い…)
私はぎゅっと渡された缶を握る。
「はひ…」
(松田さんが言ったように唇大事にしなきゃ…。)
潤い成分たっぷりのリップクリームをぬらぬらと塗りたくり松田の後ろについて行く。
松田さんはしばらく歩いて休場から出ると立ち止まってズボンのポケットを探り小さく『ぁ〜』と言った。
「どーしまひた?」
「いや、リップ落とした。」
「いたんでふか?」
「ちょっとね」
ハハっと笑って松田は唇をひと舐めし再び歩き出す。
「わ、わたひの使いまふ?」
隣に並んで自分のカバンをあさる
「えー、良いよ。」
「…ですよねぇ…。汚いですよねぇ。」
「いや、汚いわけじゃないよ!…ただ人が自分の使うってちょっと嫌だろう?」
「…でふよね…すいまへん。非常ひきでひた…」
(どうしよう、失敗しちゃった…)
しばらくの間の後、松田さんが言った。
「…野々口は良いの?」
「はい?」
「…俺が、じゃなくて野々口は俺がリップ使って嫌じゃないの?」
「え…。」
私は思わず顔を上げる。
「いっつも、半泣きでうつむいてから俺の事苦手なのかなって思ってたんだけど…」
「ち、ちがいます!」
「そう?」
「は、はい!むしろ大好きです!」
(…あ、言っちゃった…)
数秒間の沈黙の後、松田は笑った
「そっか。嫌われてないならいいや。」
(良かった…。気づいてない)
「は、はい。」
「じゃぁ、リップ貸してもらう。本気で痛いし」
「どうぞ!」
カバンに手を入れ探そうとしているとカシャン!と大きな音がした。
先輩の唇が私に触れた。
「唇てらてらにしてるからもらうよ。」
松田さんはそういって笑った。
(…カシャンとなったのは眼鏡と眼鏡がぶつかったからで、私は肩を掴まれて…それでそれで…あ、あれ?)
ぐるぐると思考が駆け巡る。掴まれた肩がとても熱い。唇には痺れが残る。
カバンにつっこんだ手の中でさっきのジュースが少しぬるくなっていた。
以上です。長文失礼しました。
GJ!
なんかこう、隅っこで進行する小さな恋って感じでいいね。
ハマオチも好きだったし、これからもマイナーカプの道を突き進んで下さいw
投下が続いてて嬉しい!
今後ともよろしくお願いします。
亀レススマソだけどイズチヨサカめちゃくちゃ良かったー!!!
文章が上手くて最初のエロなしも楽しく読めたよ。
三角関係なのにドロドロしてなくて、3人とも幸せなエッチに激しく萌えた!!GJでした。
今からミズチヨと松野々も読むぞ〜。
投下多くて幸せです。
451 :
277:2008/02/05(火) 16:50:40 ID:zbmONZ+n
イズチヨサカSSのエピローグを投下します。
注意事項は
・少しエロを入れました。今回で完結です。
・モノローグ仕立て、途中で視点が変わります。
苦手な方はゲンミツにスルーの程、よろしくお願いします。
452 :
イズチヨサカ:2008/02/05(火) 16:51:54 ID:zbmONZ+n
応援や野次や歓声で、体育館がドッと沸く。
二階から柵越しに篠岡を見下ろす。
運動神経が元々いいんだろうな。
パス回しが上手いし、膝も良く使えている。
「なあ、おまえ後悔してる?」
泉が聞いてきた。視線は篠岡から動かさないで。
「してない」
これは嘘じゃない。
あの夜に何度戻ったとしても、オレは篠岡にキスをするだろう。
でも、オレは今のことだけじゃなくて、この先のこともどうしても考えちゃうんだよ。
なあ、泉。
おまえは自分で言ったあの約束、守れる自信、あんのか?
453 :
イズチヨサカ:2008/02/05(火) 16:53:43 ID:zbmONZ+n
一週間ほど前だろうか。
期末考査の試験週間で部の練習が休みに入った初日の午後、オレらは再び体を重ねた。
今度はオレが篠岡の中に入った。
オレのベッドの上に、裸の篠岡と裸の泉がいる状況に漠然とした違和感があったけど、
篠岡の中に入ったらそんなことは忘れて、もう無我夢中で腰を振った。
篠岡の中は、口でしてもらう以上に、そしてオレが想像していた以上の何倍もよかった。
オレもあんまり優しくできなかったかな・・・・・・
篠岡は遮光カーテンを引いてほしいと恥ずかしがったが、
オレと泉はなんとなくごまかして、始めてしまった。
この前は暗くてよく見えなかったし。
でも三人とも初めてだったから、部屋が明るかったら緊張して萎えちゃって、できなかったかも。
とにかく、篠岡の裸をよく見たかったのは、泉も同じだったみたいだ。
終わったあと、篠岡にバスタオルを渡し、シャワーを浴びに行くよう勧めた。
じゃあお言葉に甘えて、と篠岡がバスタオルを身体に巻いて、制服と下着を抱えたときだった。
トランクスだけ穿いた泉がオレのベッドに腰掛けて、きっぱり言った。
「オレ、三人でいるときしか、篠岡に触んねえから」
454 :
イズチヨサカ:2008/02/05(火) 16:56:06 ID:zbmONZ+n
オレは先を結んだ使用済みのコンドームをティッシュと一緒に、スーパーのゴミ袋に入れる手を止めた。
顔を上げると泉がオレをじっと見つめていた。
「じゃ、オレも。約束するよ」
口から勝手に出た言葉だった。
「それじゃあ、わたしは、泣かない」
篠岡が泣きそうな顔で言った。
泉はぷっと吹き出した。
「それは守れねえだろ。泣くならオレらの前で泣け。ひとりでは泣くなよ」
そう言った泉の顔は、オレからは見えなかったけど、きっと優しくて、哀しい顔をしていたんだと思う。
今度、するのはいつだろうな。
夏大後だろう。
甲子園、絶対行こうな!
・・・・・・夏の終わりに、またしたいな。
二学期始まって席替えする前に、一回したい。
なあ、泉。
おまえが言った約束をずっと守ってたら、オレら三人、ずっと一緒にいられんのかな?
だったら、オレ、守るよ。
455 :
イズチヨサカ:2008/02/05(火) 16:58:45 ID:zbmONZ+n
ピーっと笛が鳴った。前半戦が終わった。
この分じゃオレらのクラスの女子バスケは、順当に勝ちあがっていくだろう。
男子サッカーは負けちまったけどな。
まあ、勝ったとしても、オレら夏大始まっから、球技大会、もう出れねえけど。
オレが質問したっきり、栄口が考えこんで動かねえよ。
まあ、きっとこの前のコトとか、いろいろ思い出してんだろうけど。
なあ、栄口。
オレらの関係が壊れるとしたら、いろいろ原因があるんだろうな。
例えば、クラス替えんとき、野球部引退するときとか、高校卒業するときとか。
環境が変わるときだけじゃないぜ。
三人それぞれ好きなヤツが新たにできる・・・とか?
第三者がぶっ壊しにきたり。
それとか、篠岡がどっちか選んだとき・・・・・・。
いや、これはないな。
オレかおまえかどっちか選ぶくらいなら、きっと篠岡はオレら二人とも切るだろう。
それと、オレが言った約束を、オレかおまえかが破るときかな。
456 :
イズチヨサカ:2008/02/05(火) 17:01:23 ID:zbmONZ+n
ハーフタイムがそろそろ終わる頃、篠岡はオレらに気がついた。
目線を上げて、笑顔で元気良く手を振っている。
頑張れよー、とオレらも笑顔で手を振り返す。
小さい身体でバスケットコートを無邪気に駆け回る篠岡を見てると、
ベッドの上でのあの色気を一体どこに隠してるのか・・・すげえ不思議。
篠岡の、白くて、柔らかくて、甘やかな体が脳裏を掠める。
あの日、おまえの部屋でコンドームの箱を手渡したとき、おまえ、数、数えてたな。
このコンドーム、全部使い切るまで一緒にいれんのか、ってのは、
オレも買ったとき、コンビニのレジで思ったぜ。
そして、ひとつずつ袋を破く度、オレもおまえも篠岡もどんな想いでいるのか、って思うと
少しだけ遣り切れなかった。
ずっと三人で、てのはありえないことだって、オレも思う。
終わりはいつかくるんだろう。
いつか、な。
(終わる)
457 :
277:2008/02/05(火) 17:03:31 ID:zbmONZ+n
最後まで読んでくれたみなさん、待っていてくれたみなさん、
本当にありがとうございました。
また長々とエロ無しのターンを書いてスレを消費してしまい、申し訳なかったです。
エロいの思いついたら、また書いてみます!
>>457 乙乙!!おもしろかったよ!
次回作も期待してます!
>>457 お疲れ様でした!
面白かったです!!
次回作楽しみにしてます
GJ!
ミズチヨも凄くヨカッタ!また書いて欲しい!
松田×野々口も可愛くて好き。
461 :
420:2008/02/06(水) 00:28:43 ID:f2wbJVDa
ハナモモ投下します。
・花井は卒業後、モモカンと付き合ってるという設定です
・ストーリーらしきものはありません
そこら辺大丈夫な方以外はゲンミツにスルー願います。
462 :
420:2008/02/06(水) 00:29:10 ID:f2wbJVDa
身体を重ねるようになって何度目かの夜、花井の傍らの女が尋ねた。
「ねえ花井君、そういえばいつから私のこと好きだった?」
事後しばらくしての突然の問いに、彼女にしていた腕枕がびくんと跳ねた。
「な、な、なんすか急に!」
「だって知りたくなったんだもん」
明らかにそわそわする花井を見ながら彼女――百枝まりあはいかにも楽しそうに笑う。
「ねえねえ、いつ?」
「そうっすねえ……」
ファーストコンタクトは、驚愕だった。
とりあえず成績のレベルと通いやすさで選んだ高校。
中学までずっと野球を続けていたとは言え、新設部活でしかも監督は女。
正直オレ野球じゃなくてもそこそこイケるし、と花井梓は見学の時点でため息をついた。
しかしそんな花井を打ちのめしたのもまた、その女監督だった。
ボールの扱い、キレイに上がるキャッチャーフライ、握り潰された甘夏。
入部した後もその指導の的確さや部員の心を掴む天性の人身掌握術、
部の備品その他に自費を注ぎこんで惜しまないその情熱。
「この人は本当に野球が好きなんだ」
尊敬の念で百枝を見るようになるのにそう時間はかからなかった。
「花井君は今日、ヒーローになるよ!」
背中を叩かれたあの日だって、いつもよりなんだか顔が赤くなったのは、
自分を信頼してくれる監督の期待に応えたいと思ったからだった。
少なくともその時は、心からそう思っていた。
そして、尊敬はやがて思慕の情に変わりゆく。
463 :
ハナモモ:2008/02/06(水) 00:29:36 ID:f2wbJVDa
「とかまあ、そんな感じっすよ」
百枝の髪を指で梳きながら、花井が話し終えると同時に百枝に軽く口付けた。
「んっふっふー、そんな前からだったのね。あの時は気づかなかったなあ」
「オレだってまりあさんとこうしてるなんてあの頃は思わなかったっすから」
百枝を下の名前で呼ぶことにまだ慣れない花井は、
照れ隠しのように軽いキスを何度も何度も重ねる。
「じゃあ、オレが好きって言った時OKしてくれたのはなんでですか」
「んー、えっと」
なぜか百枝は言葉を濁しながら目を花井から逸らしていく。
「なんすか、オレにだけ言わせといて自分だけ黙ってようとかそんな魂胆っすか」
完全に仰向けになってしまった百枝を追いかけるように、
花井は自分の方から見える百枝の右耳に触れた。
「ずるいな、まりあさんは」
覆いかぶさってキスをすると、百枝の両腕が花井の肩に回った。
絡めあう舌の感触と身体を撫ぜる花井の指で先ほどの情事を身体が思い出し、
百枝の中が再び蜜で満ちてくる。
「花井君、来て」
潤んだ瞳で訴える百枝に応えて花井が自らの楔を百枝に打ち込む。
464 :
ハナモモ:2008/02/06(水) 00:29:58 ID:f2wbJVDa
そこはさっきと変わらず熱く濡れそぼっていて、花井のものをすんなりと受け入れた。
(いきなりきつく締まるとかってのは、AVとかエロ漫画の中だけだよな)
腰を前後に動かしながら花井はうっすら思う。
(力の強さだけなら自分で握って動かしてる方がよっぽど強い)
(でも、この中の熱さと肌の温かさの分、オナニーよりずっといい!)
強く、奥に腰を打ち込むと、高潮した百枝の顔がさらに快感で歪む。
「ああん、んっ、あっあっあっ」
百枝の背に手を回して上体を起こし、対面座位へ体勢を変える。
腰も前後運動から押し付ける動きに変え、百枝の背を腰から首にかけて撫ぜていく。
「はあぁん」
背中を撫ぜられ身体の奥を擦られて身をよじらせる百枝を繋ぎ止めるように両手を握り、
また花井の舌が百枝の唇を割り開いた。
百枝の豊かな胸が花井の胸板に押し付けられて形を幾度も変えていく。
唇を貪りあい、手をしっかり握り、腰で繋がる二人からは熱が立ちのぼるようだ。
しばらくその体勢のままでいた二人は、そのまま再び百枝を下にしてベッドに沈む。
手を握ったまま、花井の腰の動きが早く強くなった。
「あ、ああ、あっあっあっ」
唇が離れて百枝が漏らす喘ぎも本能の色を増していく。
百枝の息遣いが早くなったのを感じて、花井は一層腰の動きを早めた。
「っはぁっ、あ、あはぁっ、あっ」
奥がキュッと締まって百枝が絶頂に至ったのを認めた後、程無くして花井も果てた。
465 :
ハナモモ:2008/02/06(水) 00:30:27 ID:f2wbJVDa
百枝の中から自らを抜き、ゴムを結んでゴミ箱に放り込むと
花井はようやく息が整った百枝の髪を撫ぜながら再び問いかけた。
「まりあさんは、オレの何をいいと思ったんですか」
百枝は薄く笑うと、自らの髪を撫ぜる花井の手を掴んだ。
「頭撫でてもらうの、好きなの」
花井の手のひらにチュッと口付けて、百枝は続けた。
「それに、してるときに手を繋いでくれるの、花井君が初めてだし」
抱きついてくる百枝をしっかりと抱きしめ、花井は思う。
彼女を高校時代のように7歳上の手の届かない女性とはもう思わなくなった。
確かに自分はそれまで童貞で、百枝はそれまでに何人か経験があったかもしれない。
その事実がわずかに胸に棘を刺すこともあるが、そんなことはもうどうでもいい。
今のオレが、今の彼女に出来ること、したいことをしよう。
そう思って花井は、腕枕の左腕で百枝の肩を抱きながら右手で再び髪を撫ぜた。
「これから何度でも撫でますよ。手も繋ぎますよ。まりあさんがいてくれるなら」
目をつぶって、そういえばちゃんとした答えを聞いてないなあと思いつつも
やがて花井は愛しい女性と共に寝息を立て始めた。
百枝から、引退時に花井の不在を実感してそれから意識し始めた、という話と
「花井君が隣にいると安心して眠れるの」
という言葉を聞いて花井が過去へのわずかな嫉妬と更なる愛しさに心を揺さぶられるのは、
それからもうしばらく経ってからのことになるのだった。
<了>
466 :
ハナモモ:2008/02/06(水) 00:33:40 ID:f2wbJVDa
以上です。462で名前欄変え忘れたorz
お目汚し失礼しました。他職人の皆様に惜しみないGJを。
GJ!
花井のヘタレっぽさを微かに残しつつ、でもちゃんと大人になってるのが良かったよ。
ピロートーク、聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらい甘々だなw
GJ!これってなんかの続編?
甘いなぁ・・・。花井もモモカンもかわいい・・・。
幸せな気分になりました! GJ!
西広誕生日すぎちゃったね
好きなカップリングとシチュエーションてどんなの?
472 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 00:45:59 ID:eT8KBb2V
アベチヨ、タジチヨ、イズチヨが好きです!
アベチヨは切なければ切ないほどいいんだぜ。
カップリングはなんでもいい。自分は雑食だから。女性キャラ少ないから贅沢言ってられんしね。
そんな作品で難しいはずなのにSS書いてきてくれる職人さんたちには
感謝してる。
アベ…チヨ レン ルリが… 好きだ!
サカチヨ スヤチヨ オキチヨ ハナチヨ ミズチヨ ニシチヨ
ミハチヨ 要はなんでもいけるわけだが。
アベモモが読みたい
どっちも相手を振り回しそう
男女カプ好きの総合分析
千代カプ好き
本編くっつかないでいろんな男で妄想したいの多い
ところどころで主張しまくり
モモカン、ルリのカプ好き
ほぼ本命固定カプ好き
本編くっつくまであまり騒がない
総受け厨は私生活もヤリマン
バレンタインは投下あるかなー
バレンタインには今書いてるのが
間に合いそうにないからあきらめてます。
他の職人様のを密かに楽しみにしてます。
来月はホワイトデーと篠岡誕
モモカンとしのーかが一緒にチョコ作るとか。
恋愛脳のしの〜かじゃなく、まともな新マネージャーが登場すればいい
485 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 21:52:38 ID:i7pJkXo1
恋愛目的で作品みるならはじめからそういう漫画みりゃいいのにw
恋愛なし漫画のキャラを無理やり偽造してカプ妄想するなんて
作品キャラそのものをゴミ扱い
名前だけ借りたオリジナルキャラになってる
今晩は、303です。
朝一で出張に行くので本番の十四日での投下が無理なので、フライングになっちゃいますけれど、
今からバレンタインSSを落とします。
注意事項
・設定上は、拙作の榛名と涼音の続編みたいなもの
・エロなし
・組み合わせは、ハルスズ、一応アベチヨ
よろしければ読んでください。
それでは投下作業に入ります。
二月――。プロ野球はシーズンに備えるキャンプの真っ最中である。
二月十四日、世間の男たちをそわそわさせるイベント――バレンタインデー。練習に練習を重ねていく時期では
あるものの、そわそわしつつ期待しているのはプロ野球選手も例外ではない。
榛名元希、二十三歳。プロ六年目を迎える投手で、所属チームの左のエースと称されてきたが、ここ数年、飛躍的な
成長を遂げ素晴らしい成績を記録し続けていることにより、開幕投手の対抗馬としてエースを張る先輩投手としのぎを
削っている最中だ。
その榛名は面白くなかった。キャンプに入ってからというもの機嫌の悪い日々が続いている。調整は順調に進んで
いるのだが、とにかく面白くない。
彼の所属チームがキャンプを張る、九州は南国宮崎県。南国特有の燦燦とした太陽の下にブルペンで投げ込みに
励んでいる。励んでいるのだが……。
両腕を振りかぶり、捕手が構える真新しい青色のミットへと自慢のストレートを投げていく。ボールが突き刺さり、
乾いたミットの音がブルペン中に響き渡る。
榛名は満足げに一つ頷いたところで、
「ナイスボール! 最悪な性格とは違って本当にいい球投げますね」
「ああっ!? なんだと、テメー……」
先輩に臆することもなく、禍々しい毒舌を吐く捕手。榛名が中学のころにバッテリーを組んでいた
阿部隆也である。
そう、榛名が不機嫌な理由だ。
昨年のドラフトで大卒の即戦力として指名され、プロの世界へと入ってきたのだ。そしてなんの因果なのか、
かつて犬猿の仲であった榛名がいるチームへと。
打撃はプロに適応するのに時間がかかるかもしれないが、その捕手としてのセンスに首脳陣が惚れ込んでおり、
開幕一軍はおろか、スタメンさえも勝ち取るのではないかとマスコミにより報道され評価が急上昇している。
(ちっ、冗談じゃねえぞ。隆也が正捕手だ……? オレはこんな生意気なやつなんかとバッテリー組みたく
ねーっての)
中学のころは捕球ミスが目立っていた相手が、今では無難に自分のボールをミットへと収めていく。ストレートも
変化球もしっかりと。それに加えて、捕球技術――投手の気分を良くさせるミットが奏でる音を作り出すのがまた
絶妙に上手い。
この技術だけなら一軍の先輩捕手と遜色はない、というか上かもしれないというのが榛名の神経を更に逆なでする。
更なる舌戦が展開されそうになったところで、二人はそれぞれの直属上司である投手コーチとバッテリーコーチに
怒鳴られ、渋々ながらに矛を下げたのだった。
二月十三日、バレンタインデー前日。
夕方、宿舎の大浴場で二人は顔を合わせていた。相手が嫌なのなら離れた場所で体を洗えばいいのだろうが、
一度目が合うと逸らしたほうが負けとばかりに隣同士で汗を流していた。
性懲りもなく散々にわたって舌戦を繰り広げていたなかで、榛名はニヤリと口を吊り上げて隣の阿部へと向く。
ちなみに、キャンプが始まって十日以上経ったこともあり、この二人のケンカを止める者はいなくなっていた。
『仲がいいほどケンカするっていうし、もう勝手にしやがれ』
……ということらしい。
「なあ、隆也」
「……なんすか?」
「明日はバレンタインだな」
「それがなにか?」
二人ともそれぞれ頭を洗ったり、体を流したりしつつ会話を続けていく。
「勝負しねーか?」
「なにをですか?」
「バレンタインチョコの数だよ」
「はっ、またガキ臭いことを……。そんなもんオレは興味ないですよ、あいつからもらえる分以外はね」
「そうだよな。おまえみたいな陰気臭い入ってきたばっかのひよっこなんかにチョコ恵んでくれる女なんて
いねーよなー」
「……っ」
榛名はわざと皮肉たっぷりに辛らつな言葉を並べ立てて後輩を煽っていく。
「……いいっすよ。その勝負受けて立ちますよ」
「おう」
内心、榛名は笑いが止まらなかった。これでこの生意気な後輩をぎゃふんと言わせてやることができるな、確実にと。
チームを代表する投手とルーキー。その人気の差は明白である。
この夜、自分の勝利を確信して榛名は気分良く眠りについた。
翌日、バレンタインデー当日。
全ての練習を終えて、人影もまばらな夕暮れ時の球場前。榛名と阿部、二人は対峙していた。球団スタッフから榛名に
届けられたのはダンボール一箱分ものチョコレートの山だった。対する阿部へと宛てられたチョコレートは全部で五個。
これをもって勝負は決した。いや、昨日の時点でついていたのだろうが。
「はっはっはっ! どーだ、隆也。自分がどの程度のレベルにいるかってことがわかったかよ」
「…………」
俯いて悔しげに拳を震わせる後輩に、それを目にして勝ち誇る先輩。
実に大人気ない。
「即戦力だかなんだか知らねーが、ペーペーの新人は大人しく先輩に従ってりゃいいんだよ」
「…………」
「なんだ、黙っちまって。モテモテのオレが羨ましすぎるのか?」
榛名は手にしたダンボールを見せびらかしていく。
「……ふっ」
「あん? なにがおかしいんだよ……?」
榛名の背後に現れた人物に気付いた阿部は、不敵な笑みを浮かべていた。
「ふうん? 榛名元希は女性ファンにモテモテでご満悦なのね。それなら、わたしなんかのチョコレートなんて
いらないわよね?」
それは、南国の暖かい空気を瞬時にして凍らせるような声音だった。
(ま、まさか……)
引き攣る頬に、冷や汗が止め処なく背中を伝っていく。ギギギッと錆付いたブリキの玩具のようにぎこちない動作で
背後へと視線を向ける。
そこには、彼の妻である榛名涼音がいた。その彼女は、実に冷たい突き刺すような視線で夫を凍りつかせていた。
手にしていたのはもちろん、バレンタインのチョコレート。包装から察するに、手作りによる力作の代物らしい。
「すっ、すす涼音……っ!? い、いつこっちに……?」
「ついさっき、ね。手作りのチョコレートで激励してあげようと思って来たんだけど、帰るわね。わたしのチョコは
必要ないみたいだから」
背中を向けてその場から足早に離れていく涼音を、ダンボールを抱えた榛名は慌てて追いかけていく。
汚れたユニホーム姿のまま、愛妻のご機嫌を回復するために必死になっている榛名を見送りながら、残された阿部は
練習道具が入ったバッグへ、自分のぶんのチョコレートを突っ込んで宿舎へと歩き出した。
「尻に敷かれまくってるって噂は本当みたいだな。おちょくるためのいいネタができたぜ」
黒い笑みを浮かべつつ、阿部は歩いていく。
宿舎へと届けられているはずの、高校時代から付き合っている恋人からのチョコレートを楽しみにしながら――。
(終わり)
以上で投下完了です。
読んでいただいた方、お疲れ様でした。それとフライング、失礼しました。
どうか平にご容赦を。
たまには三人称もいいですね。
それでは失礼します。
乙乙!!ハルスズ懐かしいなー!
阿部もプロ入りですか!いつも夢があって甘くて和みますね
次回作も期待しております
乙&GJ!
榛名は本当に鈴音には弱いなw
バレンタインアベチヨ投下します。
バレンタイン当日→直後の週末(篠岡視点)→直後の週末(阿部視点)
という感じで話が進みます。
苦手な方はゲンミツにスルー願います。
2月14日。
世間的には愛を伝える日ということになっているが、
実際には男子女子共に水面下で腹の探り合いをする決戦の日でもある。
その日の放課後、西浦高校野球部では。
「チョコ何個もらったかみんなで言い合いっこしようぜー!」
田島の提案に部員たちも乗っかる。
「クラスの女子と委員会一緒の子とで、3つくらいかな」
「オレも」
栄口と巣山の1組勢は誇るでも嘆くでもなく普通の様子。
「オレもそのくらいだけど、西広は10個くらいあるよね」
「いやあ、テスト前のノートコピーのお返しだし、家帰れば妹にも分けなきゃいけないし」
沖・西広の3組勢も特に変わった様子はないようだ。
「オレも10個ー。冬って甘いもの多くていい季節だよねー」
「5個くらいか?でもオレも義理ばっかだよ」
「あー、バッグん中テキトーに入れたし覚えてねーや何個だ?2、3個か?」
水谷・花井・阿部の7組勢は各々結果がばらついているが対応もそれなりの様子。
「まあ、5、6個くらいかな。半分は田島のおこぼれだけどな」
「オ、オレ、オレも、たじまくんの、おかげ、で、チョコ、うれしい!」
クールな泉と食べ物が増えて喜ぶ三橋をよそに、
田島がコンビニのビニール袋いっぱいに入ったチョコを一つ一つ数えていた。
「……いつ、むー、なな、やの、ここ、さーんじゅー!イェーイ、オレトップ!」
ガッツポーズで喜ぶ田島に拍手が起こる。
「え、なになに?田島くんがおめでとうなの?」
「あ、しのーか!チョコくれ!」
現れたマネージャーに向かって田島が右手を突き出す。
「あはは、全員の分あるよー。大きさは同じだけど一人一人の好みに合わせてあるからね。
今数学準備室に置いてあるから、おにぎりタイムの後で持ってくるねー」
「そして私からのチョコは練習終わってからあげるから。さー始めるよー」
「ウス!」
モモカンの号令で部員達は周辺視野パネルを持って各々散っていった。
バレンタインが終わった直後の週末、私は阿部くんの家にいた。
もうすぐ期末試験があるから苦手な数学を教わるつもりだったんだけど、
勉強してちょっと休憩、と思ったら座ったまま阿部くんの腕の中に抱きすくめられて。
「あー久しぶり、この感触」
阿部くんと私は付き合っているけど他のみんなには内緒。
『部の中でイチャイチャされるのも他のヤツらがヤだろうし。少なくともオレはやだ』
って阿部くんが付き合い始めのとき言ったし、
言ってることは間違ってないと思うから私もうなずいた。
もともと阿部くんは野球以外は興味なさそうな顔をしてるし、みんなそう思ってる。
だからこその、秘密。
「ねえ阿部くん、私があげたチョコ、おいしかった?」
「ん、ああ、うまかったよ」
「よかったぁ。『普通に既製品買っとけ!』とか言われたらどうしようかと」
「うまかったっつの」
問答無用、みたいに唇を塞がれた。
「篠岡、チョコ食ってきた?なんかチョコっぽいにおいがする」
「あ、リップがチョコの香りするの。カカオバターが入ってるとか書いてあった」
「ふーん」
興味なさそうに返事をしながらも、阿部くんは今度は舌を絡めてきた。
「ん……」
舌を絡めながら、気持ち良さで頭の裏側が痺れるような感じになる。
セーターの裾から阿部くんの右手が入ってきて、するすると背中をなぞったかと思うと
一発でブラのホックを外した。
右手はそのまま私の左胸を触り、左手が背中を触れるか触れないかくらいに軽くなぞる。
ピアノを弾くみたいに指が一本ずつ背中に触れて、
もともと背中が弱い私は身震いしてしまう。
「んんんっ……んぁっ」
「もっと声出していいぞ、篠岡」
阿部くんの低い声が、私の耳に更に甘やかな痺れを送る。
同時に胸の先端を摘まれて、身体全体がビクンと震えた。
「はあぁっ」
つい大きい声が出ちゃって恥ずかしくなったけど、
阿部くんは予想通りみたいにニヤリと笑って私を裸にした後ベッドに横たえた。
阿部くんの唇は首筋と鎖骨を食むようにしながら胸に降り、
右手は浮かせた背中を、左手は胸とおなかをごく軽く撫で回す。
そのもどかしいほど軽くて、でもすごく丁寧な愛撫に私は身体を捩らせるしかなくて。
「んはっ、あ、あべく、ん」
かすれそうな声で阿部くんを呼び二の腕を掴むと、こちらを覗き込む二つの黒い瞳。
「も、っと、つよく、触って」
再び阿部くんがニヤリと笑い、次の瞬間私の真ん中に阿部くんの右手が触れた。
「ふあぁっ」
するりと指が入るのがわかる。そのくらい濡れていたという事実と、
そこから聞こえる恥ずかしい水音でもっと中から溢れてくるのが自分でもわかった。
ただ阿部くんの首にしがみついて指の動きに耐えようとしたけれど、
ベッドから落ちた左足は刺激に反応して跳ね、腰が動いて新たな刺激が加わる。
恥ずかしい、って思ってるのに私の声も身体ももっと刺激を求めるようにしか動かない。
「入れるぞ」
いつの間にかゴムをつけていた阿部くんが私の中を埋めていく。
「あ、あぁぁ、あっ、あ」
頭のてっぺんまで突き抜ける快感に首を反らすと
首筋に噛み付くみたいに荒々しいキスが届いて、
私は必死に阿部くんにしがみつく。
そんな私を見ながら阿部くんは、「しょうがないなあ」とでも言うような、
すごく優しい笑顔を浮かべると私の唇を貪る。
この笑顔を向けられるのは、この世で私だけ。
大好き、阿部くん、だいすき。
頭の中が真っ白になって意識が弾けるまで、私はずっと繰り返した。
あべくん、だいすき。
試験の勉強を見てやるなんて言ってみたはいいものの、
正直オレだって健康な16歳の男だ。
目の前に彼女がいて家には誰もいなくて二人きり、なんて状況で
指一本も触れないなんて生殺しだ。
だからオレが篠岡を抱きしめるのは当然の結果だろう。
「あー久しぶり、この感触」
オンナって何で出来てるんだろうって、たまに思う。
そりゃ人間だから細胞の組成も何も同じってのはわかってる。
でもなんでこんなに細っけえのに柔らかいんだ?
何回も身体を重ねて、まさに腕の中に抱きしめている今でさえそう思う。
「阿部くん、チョコおいしかった?」
ああおいしかったさ。他のチョコはシュンにやっちまったけどあれだけは譲らなかった。
篠岡にキスするとふわりと甘いにおいがした。
チョコレート味のリップなんて、女にはいろいろな武器があるもんだ。
でも今のオレにはチョコよりももっと食っちまいたいものが目の前にある。
舌を絡めるとそれに応えようと篠岡の舌も動き、鼻にかかった声が漏れる。
「ん……」
チンコに来るってのはこういう声のことなんだろうな。
ブラのホックを外しながら、オレはなぜか何ヶ月前かの選択芸術の授業を思い出した。
『音楽ってねえ、実はなかなか官能的なもんだよ』
30前後の男性教諭がいきなりこう言い出して、音楽室がざわめいていた。
『女子もいるところでこういうことを言うとセクハラ呼ばわりされそうだけど、
楽器を弾く時には恋人を抱くように、ってのは当たり前に言われることでね。
例えばこのテューバ。ユーフォニウムとも言うね』
ラッパみたいな大きな金管楽器を抱えて椅子に座ると更に続けた。
『ほらこうやって、レディを抱っこするようにして演奏するわけだ。
丁寧に扱えば、ちゃんとそれに応えてくれる』
なんでこんなこと思い出したんだか、と思いつつ篠岡の背中を軽く撫でてみる。
触れるか触れないかくらいの位置でゆっくりと。
こらえきれず甘く呻く篠岡にオレは耳元で囁いた。
「もっと声出していいぞ、篠岡」
身をくねらせながら喘ぐ様子を見てつい微笑が漏れる。
篠岡をベッドに横たえて、じらすように軽くゆっくり、
しかし丁寧に唇と手で愛撫を繰り返す。
啼けよ、篠岡。オレの手で楽器みたいに、その可愛い声でさ。
オレの声が聞こえてるみたいに篠岡は快感に打ち震え、嬌声をあげる。
そしてオレの腕を掴むと、涙を溜めてるみたいに潤んだ目でねだってきた。
「も、っと、つよく、触って」
思い通りの反応に思わずまた笑みが漏れてしまう。
下を触ると、予想以上にそこはすっかり濡れていて、
すんなりと埋まった指で内壁を擦ると派手な水音が響く。
篠岡がオレにしがみついてきてちょっと動きが制限されたが、
ベッドからずり落ちた篠岡の左膝がビクンビクンと上下するのが横目で見え、
耳元からの甘さを含んだ喘ぎ声とうねる膣内の感触は
オレをギリギリまで張り詰めさせるのに十分だった。
用意していたゴムを手早くつけ、
「入れるぞ」
とだけ言って篠岡の中に入り込んだ。
根元まで埋めると、篠岡が首筋を反らし、白くオレを誘うかのように見えた。
腰を動かしながら痕を残さない程度に首筋を軽く噛むと、
再び篠岡がしがみついてきて大きく動けなくなる。
仕方ないなあと思いながらもそれすらも幸福感の一部のようで、
篠岡の唇を貪りながらゆっくり膣壁を擦ると甘い息がかかる。
「大好き、阿部くん、だいすき」
いつもみんなのために動く篠岡だけど、この言葉だけはオレにしか向けないもので。
「あべくん、だいすき」
繰り返す篠岡の声が段々切れ切れになっていく。
やがて膣内がヒクヒクと痙攣し、オレも篠岡の中で果てた。
腰を強く打ちつけながら痺れる頭の中で思う。
オマエはオレのもんだ、篠岡。
以上です。
ユーフォニウムをレディを抱っこするように云々は
阿部の中の人がネットラジオに出てた時に言ってたネタをそのまま使いました。
中の人ネタ苦手な人いたら申し訳ない。
>>468 ミズチヨ&ハナモモの人です遅レスですいません。
もともとハナモモの恋の芽生えみたいなものを書きたかったんですけど
うまく書けないのでサイドストーリー(ミズチヨ)と後日談(ハナモモ)を
書いてるうちにまだ本編的なものが進んでないとかそんな感じです。
もし本編的なものが書けたら投下するかもしれません。
GJ!
本筋とは関係ないが田島のチョコの数え方に噴いたw
しのーかは手作りチョコあげたのかな?
それともこっそり阿部のぶんだけ手作り!?
あまあまGJでした!
アベチヨGJ!!
可愛すぎる関係に腹いっぱいになった
アベチヨGJ!
でもユーフォとチューバは違う…ゲンミツに違う楽器…
>>506 ご指摘ありがとうございます。
見たことない楽器だったんで調べたときに
「オーケストラにおいてもテナー・テューバなどとしてスコアに指定される事がある」
という記述を見て勘違いしてました。これから読まれる方は
×テューバ、 ○ユーフォニウム
で脳内校正していただけると助かります。
アベチヨGJ!
ユーフォパートが楽譜に無い曲を演奏するとき、
ユーフォはテナー・チューバと同じパートを吹くんだよー
そのせいかな。
>>255-265の「相性占い」(アベチヨ)の続きですが、タジチヨです。
書きやすかったので繋げましたが、アベチヨがお好きな方には
ブチ壊してしまったので、許せない方はスルーしてください。
長い割りに、エロはありません。申し訳ありません。
――side篠岡――
「しのーかー!」
田島くんが廊下を走ってくる。
いつも私を見つけると、嬉しそうに手を振ってくれる。子犬みたいに目をキラキラさせて。
私の腕を掴んでいた2年生の男子は、慌てて手を離した。
「あっれぇしのーか、今日部活休みかぁー?」
すぐ手前で急停止した田島くんが、不思議そうに聞く。
「ううん、行くよ」
「そっかー良かった!俺、昨日のトレーニングでイチバンだったからさ、
おにぎり、おっきいの頼むなー!」
「おっきいの?」
「うん!2つ分のおにぎり、1個にしてあぐーっと」
想像にヨダレまで垂らして、本当に田島くんは幸せそうだ。
「……どんぶりでやってみるね」
「やりぃ」
じゃーいこうぜー、と田島くんが言って、そこでやっと2年生に顔を向けた。
「あれ?センパイ、しのーかに用っすか?」
ギョロっとした田島くんの目が光る。2年生はビクッとしてぶんぶん首を振った。
「そーっすか。うわヤッベー!遅刻だコリャ。じゃ、失礼しやーすっ」
田島くんに続いて、私も「失礼します」と2年生に頭を下げてから田島くんの背中を追った。
「……ありがとう田島くん」
スルーすることも出来たけど、私はお礼を言いたかった。
「あーいうのはチンコ蹴って逃げりゃいーんだって」
田島くんはニシシと笑った。底抜けに明るい笑顔にホッとする。
私を知っている人は別として、野球部のマネジを私が「男の子目当て」で
やってると見ている人がいるのは知ってた。
今日、部活に行く途中で2年生に呼び止められ、人のいない廊下で告白された。
丁重にお断りすると、「野球部のヤツと付き合ってるのか?」と聞かれ、
「付き合ってません」と答えようとして、動揺してしまった。
今の私は野球部の選手と付き合っているから、嘘をつくことになる。
そして、私の大好きな人は、今日初めて口を利いた2年生とは違い、
「好きだ」とか「付き合って欲しい」とか言ってくれたことがない。
私が固まっているのを見て、迷っていると勘違いしたらしい相手が、
「二股でも構わない」と言って変な笑い方をした。
気持ち悪くて逃げようとしたとたん、肩を掴まれ、引き寄せられた。
大好きな人に触られた時とは正反対に、背筋に怖気が走る。
冗談でも「男好き」だと思われたことがショックで、声も出なかった。
そこに現れたのが、正義の味方の田島くんだった。
田島くんはチームのピンチの時に、必ず助けてくれる頼もしい4番。
こんな時にも私を救ってくれるとは思わなかったけど、涙が出そうになるほど嬉しかった。
「俺、言わねーから」
田島くんがそう言ってくれたのでホッとした。
私の好きな人にこのことを知られたら、絶対心配させてしまう。
「ありがとう田島くん。私ね、チョロいと思われやすいんだって」
現にそう発言した本人に口説かれたことを思い出して、あはは、と笑ってしまう。
が、次の田島くんの言葉に凍りついた。
「それ言ったの、阿部?」
「え?」
「しのーか、阿部と付き合ってんだろ」
私、バレるようなことした……?
記憶をたどる私の顔を、田島くんがあの光る目で見つめていた。
「サッカー部のヤツが、阿部としのーかが休みの日に学校で一緒にいるの見たって」
「休みの日……」
すぐにどの日なのか判った。一瞬で蘇り、慌てて記憶を追い払う。
とっくにバレてるけど、それでも嘘だけは言わないように返事した。
「ぐ、偶然、阿部くんとお休みの日に会って、荷物持ちをやってくれたんだよー」
「阿部、かぁ……」
「え?」
「俺は『野球部のヤツ』って聞いただけ。いつもしのーか、阿部のこと見てっから」
「最近は見ないようにして……」
あ、あ。言っちゃった。焦る私に田島くんは頷いて、
「そーそー、急に避けるよーになって、阿部の方も目を合わさなくなってさー」
「は、あ……」
良く見てるなあ、田島くんは。意識してないフリしてたのに。
阿部くんの場合は、大会が始まって三橋くんのことしか頭にないんだと思うけど。
田島くんは、しばらく俯いた後に、私に向き直った。
「俺、しのーかの味方だかんな。阿部に苛められたら俺に言えよ。怒ってやっから」
「ありがとう。でも、大丈夫だよー」
隠し通せてなかったのは残念だけど、他の人が私が阿部くんを好きだって
知っていることが、こんなに恥ずかしくて嬉しいこととは知らなかった。
ふだんはやんちゃな弟みたいな田島くんに言われるのは、くすぐったい気分だった。
だいたい、パンツだけ、はともかくそれすら脱いでウロつこうという時点で、
私のことは家族同然、女として見ていないのだから、さっきの2年生とは
違って凄く気が楽。……だからって、みんなのパンツを見たい訳じゃないけど。
田島くんの人懐っこさは、5人兄弟の末っ子だからもあると思う。
長女の私には無理。いまだに、阿部くんに上手に甘えられない。
――side田島――
「しのーか、阿部と喧嘩した?」
昼休みの草取りの時間。俺は気になってたことを、しのーかに聞いてみた。
最初はしのーかは、「なんの話?」と笑ってたけど、俺が「阿部がしのーかを見てた」と
言ったら黙ってしまった。
いつもは、きらきらしてふんわり流れてるしのーかの周りの空気が重かった。
部活で今までそっけない態度だった阿部は最近、挨拶したりおにぎりを貰う時に、
ちゃんとしのーかの目を見る。
――まるで、「目を反らしたら負け」ゲームをやってるみたいに。
みんなは気付かなくても、俺にはしのーかの変化は判る。しのーかが目で追う阿部の変化も。
俺って、目が良すぎるんだ。見えてないフリしてたけど、しのーかの控えめな
視線の先は……俺じゃねーんだ。
しのーかは、しばらくうーん、と唸っていたが、
「阿部くん、高校に入って、私と付き合う前に告白した人がいるみたい。その人のこと
問い詰めたら別れようって言われちゃった」
あっけらかんと答えるしのーかに、身体中の力が抜けそうだった。その後に、
しのーかからなら判るけど、阿部がしのーかを振るなんて!と逆上したくなった。
「私が阿部くんのこと好きなの、バレバレだったらしいからねー。私が不憫で、
付き合ってくれる気になったのかも」
言ってることはキツイのに、しのーかはへらっと笑っている。
やっぱりしのーかは可愛いなぁ、と切なくなる。
俺はしのーかが好きだ。もう高校生だから、好きな子を苛める小学生のガキみたいなことは
……ついやっちゃう。困った顔が見たくて、自分をアピールしなきゃ気が済まなくて、
ちょっかい出してしのーかに怒られるのは、すげー嬉しかった。
「阿部くんは、私がマネジを辞めることを気にしてるの。辞めないよって言ったんだけど、
阿部くんは私の考えてること、見抜くのが上手いから」
「……しのーか、マネジ辞めんの?」
しのーかのおにぎりとかドリンクとかなくなったら、どーしていいか判んない。
いや、食い物目当てじゃなくって!俺、しのーかの笑顔がイチバン好きで、見ると疲れなんか
吹っ飛んじゃって、嬉しくてはしゃいじゃうし。……だから、俺じゃダメなのかな。
「進級して1年生のマネジが入ってきて引継ぎ終わったら。新しいマネジが入れば、
そしたら阿部くん、私を見なくなると思う」
「そ、そんなことねーって!しのーかがマネジで、みんな喜んでるんだから」
もちろん俺もそうだ。でも、しのーかは聞こえなかったみたいだ。
「本音を言うと少しだけ、阿部くんが気にかけてくれるの嬉しいよ。身長伸びないかなぁ。
クラス変わって廊下歩いてても、阿部くんに見つけて貰えるように」
しのーかの顔がほんのり赤くなった。
好きな相手を思い浮かべる、その少し悲しそうな表情に胸が締め付けられる。
「そ、そうかぁ。うん、伸びるよゲンミツに!」
チームで1番背の低い俺は、1ミリだってしのーかの身長は伸びて欲しくない。
今のままのしのーかで良いのに。俺は今のしのーかが好きなのに。
「今日、時間あるか?みんなで一緒に帰ろーぜ!阿部とも喋って、な?」
「考えとくね」
しのーかは答えて、もう1つ草を刈って束を作った。
結局、しのーかは先に帰ってしまった。
俺は部外者なんだから口出しちゃいけないって判ってんのに、しのーかの寂しそうな
笑顔が頭から離れない。
その日コンビニで買い物を済ませると、俺は阿部に声をかけた。
「阿部ー、話あんだけど」
阿部はドアの前で、迷いに迷って最後にレジに並んだ三橋を待っていた。
相変わらず過保護だ。三橋は自分が大事にされてると思って、嬉しいらしいけど。
「なんだよ」
「場所変えて、2人で話せねーかな?」
阿部がアイス片手に俺の方に歩いてきた。
「もう遅いし、なんで部室で言わねーんだよ。くだらねー話だったら殴るぞ」
「くだらなくはねーと思うぜ。しのーかの話だから」
「はぁ?」
阿部が大声を出したので、沖や栄口がビビって振り向いた。
「どーした2人とも」
阿部の、怒声とピリピリした表情に不安になった花井が声を掛けてきた。
「あのさ、俺と阿部、これから別行動でいーかな」
「いーけど何する気だ?……俺も立ち会った方が良いか?」
心配そうに花井が阿部に聞く。阿部は首を振って答えた。
「いらねー。捕手会談だから」
ちょっと遠回りして公園まで阿部を誘導した。そりゃ、夜の公園には女の子と来たいし、
いつかしのーかを連れてきたいと思ってる場所もあるけど、今は考えない。
俺が一緒に帰れないと知って、三橋は俺と阿部が喧嘩すると勘違いして泣きそうだった。
三橋は俺じゃなくて、阿部の怪我とかを心配してた。
いつもあんなに阿部にビクビクしてるのに、やっぱりバッテリーなんだと思う。
「話ってなんだよ」
阿部が不機嫌そうに言った。自転車から降りようともしない。
なんで阿部はいつも偉そうなんだよ?
この差って何?俺が阿部に負けるのなんか、捕手と身長と成績くらいだろ!
俺は自転車を止めて、ジャングルジムによじ登った。そうして、阿部を見下ろす。
そうでもしないと、負けそうな気がする。
「しのーか、可哀想だろ。もっとやさしくしてやれよ」
阿部は俺を見上げた。どこまで俺が知ってるか判断しかねてる。だからわざと言う。
「阿部、しのーかと付き合ってたんだろ?」
阿部はチ、と舌打ちした。
「あんだけ秘密にしたがってて、自分が言いふらしてんのかよ……」
「俺が気づいたんだよ。しのーかはよく阿部を見てたから。それが、急に目を合わせ
なくなって、今は阿部がしのーかのこと見てるじゃん」
公園の灯は俺たちから少し遠いところにあった。それでも、阿部の顔が強張って
いるのは判った。血の気が引いているように見える。
「……もしかして田島、篠岡のこと好きなのか?」
「はあぁ?」
言った覚えもねーけど、隠した覚えもねーよ。お前、今まで俺のなに見てたんだ?
てか、三橋しか見てねーんだマジで。なんでこんなヤツをしのーかは好きなんだよ。
うわ、ヤベーよ俺泣きそう。
俺の表情を見て、阿部の方が慌てる。自転車から降りて止めると、
「仕方ねーだろ。俺は部活と篠岡を両立出来るほど器用に出来てなかったんだから」
「野球も恋愛も、1人じゃ出来ねーんだよ!他に好きな女がいんなら、最初から
付き合わなきゃいーだろ!しのーかが可哀想だ!」
阿部が一瞬、不思議そうな顔をした。しばらく間があって、「あ」と呟く。
俺は、阿部がキョドるのを見るのは初めてかもしれない。
「……た、田島には関係ねーだろー」
今までの勢いが消えて、そっぽ向いて吐き捨てる阿部。なんか変だ。
「阿部には興味ねーけど、相手がしのーかだから言ってんだよ。しのーかは
今も阿部のこと好きなんだから……」
だから何……?俺、どうして欲しいんだろう。
しのーかに元気になって欲しいけど、阿部と付き合うのは……ゲンミツに嬉しくない!
「俺に篠岡とやり直せってことか?今度は俺の野球がおろそかになるけど?
捕手は考えることイロイロあっから」
「サードだって考えたりするよ!」
そーいや俺だって控えの捕手なんだよな。身長なら花井、成績なら西広。
だけど、そんな条件を理由にしのーかは人を好きになる訳じゃない気がする。
じゃあ、阿部はどうなんだろう。
「……阿部が、しのーかの前に告ったのってどんな女?」
確かに意外だけど、阿部は身近な女に対する興味が薄いだけで、女嫌いではないと思う。
阿部は不機嫌そうに黙り込んで、うんともすんとも言わなかった。
「しのーかより可愛いくて、性格の良い女の子がそう居るとは思わねー。
阿部がどんな女を好きなのか聞きたいだけだってば」
「……言えねー」
「はぁ?」
言えないよーな女って、どんなの?人に言えないよーな阿部の趣味って?
俺はジャングルジムを降りて、阿部の前に立った。
ちゃんと話せよ、と睨み付けると、阿部は渋々話し出した。
「発端は篠岡が、俺が1度も『好きだ』とか言ってねーとかで喧嘩売ってきたんだよ。
他の男は告白してくんのに、とか……。それでつい『俺だってそれくらい言ったことある』
ってからかったら、面倒なことになって」
「からかう?」
しまった、という顔の阿部。なんなんだよ、さっきから。
「説明する気ねーのかよ」
「ああ、墓場まで持ってく」
「ふーん。どーせ聞いたって無駄だよな。阿部は俺のこと馬鹿にしてるし」
俺は追及するのを諦めた。俺の言葉になぜか、阿部は傷ついたような表情になった。
「少なくとも俺は、田島の野球を馬鹿にした覚えねーけど。そう感じてたなら謝る」
「はぁ?野球だけ?」
「それ以外、どこを尊敬しろと?どこを敬えって?」
「サーセン……」
「嘘だよ。俺、こーいう性格だから、アイツ我慢させてたんだよな」
「え?」
阿部は後ろを向いてしまう。阿部がしのーかの話をする時の顔をもっと見たいような
見なくて済んでホッとするような、複雑な気持ちだった。
「田島は、練習嫌になることねーか?」
「ないよ。朝から夜まで部活でキツイ時はあるけど、楽しーから。まあ、たまに
遊びたい時はあっけど……阿部は嫌なのか?」
「別に。『楽』と『楽しい』は別だから。練習の見返りが試合にあるって
思えるから頑張れる」
確かに、楽な練習の時の部活が楽しいとは限らない。
「篠岡は俺と俺の野球を最優先に考えて、励ましてくれて、言いなりになって。
俺は楽だったし、篠岡に見返りになる優しい言葉もかけなかった。大会始まって
三橋に集中して無視しても、我慢しちゃうんだよ、あの人」
「それで、しのーかの為に別れたのか」
「んな訳あるか。俺、篠岡が何考えてるか大抵のことは読めた。だから、俺のこと
好きなのも、俺に何言わせたがってるかも知ってた。せっかく珍しく甘えてきたのを
俺はからかって傷つけたから、今は篠岡、俺のこと好きじゃねーよ」
「え?で、でもしのーか……」
あんなに一途に、阿部のことが好きなのに。
「篠岡は、純金だと思ってた俺のメッキが剥がれてんのに、それを認めたくねーんだ。
そんな男選んだ自分が許せなくて、今も俺を好きだと思い込んでる」
「……そ、そんなことねーよ。しのーかは……」
「篠岡の為に打てよ。甲子園行けるぜ」
阿部としのーかの話をしていたのに、いつの間にか俺の話になっていた。
「他人を判りきったよーなに言うなよ」
「捕手は目線が1番審判に近いんだ。客観的にもなる」
それだけ自分勝手で、どこが客観だよ!だいたい、しのーかが好きなのは
俺じゃねーもん。嫌いになっても、心のど真ん中に居るのは阿部だ。
「無理。俺じゃ、しのーか好きになってくんねーから」
俺が言うと、阿部は……頷きやがった。
「そりゃ、簡単に乗り換える女じゃねーだろ。俺はクラスも一緒だから、
切り替えは難しいと思う」
自転車に手をかけると、阿部はため息をついた。
「俺だって、いまだに篠岡が俺のどこを好きになったのか判んねーんだから、
アドバイスも出来ねーよ」
次の日はミーティングで、相変わらず阿部としのーかの周りの空気はひんやり
していたけど、気づいたのは俺だけだった。
ノートに書き留めながら、時々しのーかは発言者の方を見るフリをして、その先を
見てたりする。確認しなくても、相手が誰だか判る。
ミーティングが終わって、しのーかはマネジの仕事を片付けてから帰ると言っていた。
俺はちょっとだけみんなと寄り道した。
家に帰ってもやっぱり気になった。どうせ近所だ、と、そのまま学校に戻る。
しのーかはベンチでボールを磨いていた。その横顔に声をかける。
「しのーか!」
しのーかがぴくりとして、俺を見上げた。ゴメン、阿部じゃなくって、と心の中で謝る。
「どうしたの田島くん、忘れ物?」
落胆を隠して、しのーかが笑顔を作る。
「俺も手伝う」
「ありがとう。でも、もう終わったから」
まるで逃げるかのように、篠岡はボールを片付け始めてしまった。
俺がどうしてしのーかにつきまとうのか、バレてるんだと思う。
「昨日俺、阿部と話したよ。しのーかのこと」
しのーかの手からボールがこぼれ落ちた。
「どうしてそんなことするの?阿部くん、困ってたでしょ?」
初めて、しのーかが本気で怒るのを見たと思う。胸が潰れそうに痛む。
俺は邪魔だって判ってる。でも、ちゃんと言いたかった。
「おせっかいでゴメン。でも俺、阿部の告白した相手、判ったかも」
しのーかが目を見開いた。真剣な顔で俺を見る。
「……田島くん、知ってるの?」
「最後まで阿部は言わなかったけど、間違ってないと思う。俺らが知ってて、
名前を口に出せない相手だぜ」
判らない、としのーかが首を振った。
俺は、完全に盲点だったその名前を言う。
「モモカンだよ」
「か、監督……?」
篠岡が目をぱちくりさせた。驚いている。当たり前だ。
俺だって、一晩ないノーミソで一生懸命考えてたどり着いたんだから。
「阿部は栄口と春休みから来てて、俺らより先に会ってる。あの言い方だと
立場もあるしずっと年上だし、冗談半分で告ったのかもしれねー。
でも、モモカンなら、阿部だって名前言いたくても言えねーだろ」
しばらく間があって、しのーかは深く頷いた。
「うん。監督なら……阿部くんが好きになるよね。阿部くん、何もなかった顔して、
部活やってるんだね。私もいつまでも引きずってちゃ、ダメだなぁ」
そう言って、しのーかは少しだけ吹っ切れたように笑った。
「しのーか、阿部が好きなら、諦めんなよ!俺、甲子園行く気だけど、万が一
ダメだったとしてもさ、楽な練習で『やっぱダメだったな』って笑うんじゃなく、
やるだけやって『なんでダメだったんだ?』って泣くんだ!」
俺はゲンミツに、甲子園に行く。野球にもしのーかにも、後で「やっぱりな」なんて
言い訳しないよーに、全力で頑張る。(勉強は最初からやる気ねーけど)
「……だから俺も、しのーかのこと諦めねーから」
「え?」
しのーかの目が、さらに大きくなった。ビックリしすぎて大口を開けて変な顔……。
ちょっと待て!阿部はともかく、しのーかまで俺の気持ち、気づいてなかったの?
これっぽっちも?知ってて避けられたよりも、俺にはその方がショックだよ!
脱力する俺に、しのーかが残酷なトドメを刺した。
「私、田島くんのことは、弟みたいで……家族みたいだから……」
俺は声が出なかった。同級生で俺より小さいしのーかが、弟みたいってなんだよーっ!?
水の中でしのーかの声を聞いてるみたいで、頭がくらぐらした。
「ありがとう。嬉しいけど、今は無理。それに、阿部くんのこと諦めるなって言って、
田島くんを好きになるのは矛盾しまくりでしょ?」
しのーかは無理に笑顔を作って、カクカクぎこちない動作で落ちたボールを拾い上げると、
歩き出してしまった。俺は慌ててその後を追う。
「俺、いくらでも待つから。卒業でも、その先でも!」
そりゃ辛いけど、そう簡単にしのーかが俺を好きになってくれるとは思えねーし。
しどろもどろになる俺を無視して、しのーかはふらふらと部室の鍵を開けて中に入る。
「阿部も、しのーかが忘れるのは時間かかるって言ってたし、焦らねーから」
「阿部くんが?」
しのーかが下を向いてしまった。思い出して、辛いのかもしれない。
「ゴメン俺、無神経で」
「……そう言われると、期待を裏切りたくなるかも」
眉間にシワを寄せて、しのーかが考え込んだ。
阿部の予想を裏切るってことは、もしかして――。
「じゃ、じゃあ、俺と付き合ってくれんのっ?」
恐る恐る顔を覗き込むと、しのーかはきょとんとしていた。
「え?逆だよ。気が変わると思われてるなら、ずーっと阿部くんを好きで…」
「えぇぇー。そりゃないよーっ!おかしいってソレ!」
「うん……。阿部くんは嫌がりそうだから、やめとく」
こんな時にまで、阿部をイチバンに考えるしのーかの健気さに悲しくなってきた。
阿部が羨ましい!ムカツク!俺、阿部になりてーよー!
ふいにしのーかが、俺の顔を指差した。
「田島くん、ヨダレが」
「うぉ、マジ?涙じゃなくてヨダレ?俺、犬か?しつけ中か?そりゃ、ヨダレだって出るよ!
俺、ずーっとしのーかのこと好きだったんだし!」
しのーかが、えへへ、と照れた。ちょっと目が潤んでる。やっぱり笑顔のしのーかが良い。
「ホントだよ。しのーか可愛いし、おにぎり美味いし、優しいし……。さっきは待つって
言ったけど、キスくらいは……してーかも。そしたら俺、大人しくお預けするから!」
カッコ悪いのは判ってるけど、言わずにいられなかった。
しのーかがとうとう吹き出した。
「田島くん、それってお預けじゃないよ」
「なーんでー!しのーか、俺のこと、嫌いじゃないよな?」
しのーかは頷きそうになって……ピタリと固まる。顔が引きつっていた。
「いぃっ?今のなに?」
「頷いたら、何かされそうで恐いから、困る……」
しのーかは苦笑した。困るって、なに。えーと、もしかして?
「しのーか、今セーリ?」
しのーかがポカンとして、顔が白くなった。ああ、やべー。またやっちゃったか?
きっと阿部だったら、こんなこと言わねーんだろーなぁ。
「ゴメン!俺バカだから。下心いっぱいで!待つって言ったのにー」
「うん……。野球部のみんなは同じくらいカッコイイし、好きって意味だったの」
ふにゃりとしのーかが笑った。さっきから俺、しのーかを笑わせてんじゃなくて、
笑われてる。呆れられてる。嫌われたくないのに。
もう帰ろう、と言おうとしのーかを見たら、思いつめたようなしのーかと目が合った。
何か言いかけて止めてしまう。気になって聞きなおすと、かすかに名前を呼ばれた。
「見て貰った方が良いのかも……」
しのーかは部室にあった椅子に近づいて座り、スカートの裾をぎゅっと摘んだ。
吸い寄せられるように、しのーかに近づく。
しのーかは決意すると、椅子の上に片膝を立てる姿勢に座り直した。
震える手で、しのーかが自分でスカートを捲る。
白い太股が露になり、薄ピンクの下着が見えた。グラビアとか、映像じゃない本物。
今まで想像でしかなかったしのーかが、そこにいた。
俺は思わず唾を呑み込んだ。俺……どうしたらいいんだ?
身体の中から熱いものが湧き上がり、心臓だけじゃない音がバクバク煩くなった。
しのーかの肌が眩しかった。触わってみたい。
「しの…」
俺が言いかけると、しのーかは無言で膝を倒した。視線がそこに釘付けになる。
「え…っ」
何だコレ。
太股の内側に、痛々しい痣があった。
清潔な太股の白さが映えて、見てるだけで罪悪感が生まれる。
「コレ、阿部、が……?」
しのーかに暴力振るってたのか?……許さねぇ。
しのーかが首を振った。顔が真っ赤になっている。消え入りそうな声で、
「阿部くん、細いから……フツウに……の、時も、骨が当たる、の。残ってる間は、
他の人のこと、考えられないかも」
想像しそうになって、すぐに頭から打ち消した。
何回2人で、生々しい痣を作ったんだよ?
阿部が付けた傷も痣も、まだしのーかに残ってるんだ。
しのーかは足を下ろして、スカートを元通りに直した。
俺は何か言いたかったけど、なんて声をかけて良いか判らなかった。
しのーかはもう付き合うのは嫌なんだ。
俺が付きまとうと、痣を作る行為を思い出して怖いんだ。
待たれるのも嫌なくらい、俺のこと迷惑なんだ。
「ゴメン、しのーか、もう俺…」
「三橋くんより、自分のこと心配して欲しかったよ」
「もういーから」
「これが消えて、もしも、田島くんが弟に見えなくなったら……考えさせて」
「……!」
しのーかが俺のことを見てくれる?
声が出ない。
信じられなくて、震えながら俺でいいの?と目で聞くと、しのーかが、こくんと頷いた。
「忘れられなくて、やっぱり無理かもしれないけど」
「そんなの、当たり前だろ。いーよ、無理して忘れなくっても!」
嬉しくなって、しのーかに抱きつきたくなったけど、我慢した。
卒業まで待つ?ジョーダンじゃねー!
「俺、しのーかに試合でいっぱいかっけートコ見せる!そしたらすぐ、しのーかは
俺のこと好きになるよ!」
「……うん。いっぱい打ってね」
しのーかが笑う。野球の話をする時のしのーかは、気が遠くなるくらい可愛い。
俺も元気になれる、大好きな笑顔だ。
「しのーか、犬と猫、どっちが好き?」
「え?」
「高い所大丈夫か?」
「う、うん」
「俺、しのーかと一緒に行きたい場所、いっぱいあんだ!」
大きくてタプタプした年寄りの犬と、エリンギみたいな白くて太い前足の猫に
しのーかを会わせたい。
神社の階段から見る気持ち良い景色とか、河川敷から見るライトアップされた橋とか、
しのーかにとっておきの場所をいっぱい教えたい。
それで、いつか俺の犬とか猫とかハムスターにも会わせて、しのーかがまだ会ってない
家族に俺のしのーかを見せるんだ。野球がんばって、いっぱいしのーかの笑顔を見るんだ。
想像するだけで楽しい!
――side篠岡――
田島くんはいろんなことを話してくれた。
正義かどうかは判らないけど、田島くんは私の味方なんだって実感して、心の奥底から
暖かくなる。田島くんはスポーツ万能で明るくて楽しくて、魅力的だと思う。
でも、本音を言えば田島くんを異性として見るのは……今は無理。
私も誰かに甘えたい時もあるのに、田島くんが相手では「お姉ちゃん」になってしまうから。
試合の時の田島くんは頼り甲斐があるけど、普段の田島くんは子供過ぎると思う。
「あ、そーだ。なんで阿部と付き合ってたの、内緒にしたんだ?阿部、気にしてたぞ。
そんなに自分と付き合うのが恥なのかって」
突然、田島くんが言った。
阿部くんの名前が出るたびに心の奥が痛んだけど、前ほどじゃなくなっていた。
「中学が同じだと、阿部くん目当てでマネジになったと思われるでしょ」
だから、誰にも言いたくなかった。私は自分に出来る形で甲子園を目指したかっただけ。
阿部くんに限らず野球部のみんなはカッコイイから、そう思われて当然だけど。
欲しい言葉はくれなかった阿部くんを、今も尊敬している。短期間でも付き合えたのは
幸せだったし、教えてくれた異性の肉体の重み、痛みや悦びは、他の男の子で
埋めたいとはこれっぽっちも思わない。悲しいけど阿部くんの予想通り――。
それにしても、監督だったんだなんて。成長が必要なのは、背の高さだけじゃない。
「しのーかが誰かを好きになるのって、悪いことかぁ?嫌いより、好きの方が良いだろ!
みんなイイヤツだし、阿部はちょっと憎たらしいけど、それでも俺は好きだよ」
田島くんが笑ったので、私も思わずつられて笑ってしまう。
阿部くんに近付きたくてマネジになった訳じゃなくて、マネジになって好きになった。
判ってくれる人はいる。田島くんは、私の味方。
「でも俺、しのーかがイチバン好き。しのーかも、俺をイチバン好きにさせる」
「う、うーん……」
「でさ、やっぱり、チューしていい?」
「えぇっ?ダメだよ」
「お願い!1回だけ!ほっぺでいーから。あ、でもしのーかさえ良ければ……
ねえ、ダメ?俺のこと嫌い?」
これじゃまるで、お菓子売り場で買ってくれるまでダダをこねる子供みたい。
私は「お姉ちゃん」じゃなくて、「お母さん」だ。
アイちゃんの方が、おとなしくお預け出来るだけ、おりこうさんかもしれない。
阿部くんは強引だけど、本気の「イヤ」の時は止めてくれる。
でも、田島くんの場合は……阿部くんの半分も私の気持ちを読むこと無く、本能で来るので
気が抜けない。ペースに巻き込まれて、落ち込んだり悩んだりする暇もなくて、
笑ったり驚いたり、本当に慌しい。面白いけど、楽な方に逃げてる気がしてしまう。
気づいたら目の前に田島くんの顔があって、キラキラの瞳が私を捕らえていた。
何か言われたらしかった。聞き返す間もなく、田島くんが私の唇を塞いだ。
軽く甘噛みして、舌が上唇を舐め優しくこじ開けて侵入してくる。
元気な田島くんのイメージとはかけ離れた、真剣だけど可愛らしいキスで、頭の中が
真っ白になった。力が抜けてしまい、押しのけられない。
ようやく解放され、私はぼーっと田島くんを見つめる。田島くんはニシシ、と破顔した。
「しのーか、可愛い。それに見た目より、おっぱい大きいよなっ」
監督。私、身長よりバストより大人の魅力より、なによりも自力金剛輪を見習いたいです!
どうしよう。痣が消えるまで、拒めるかな――。
目を輝かせて私の顔を覗き込む田島くんに、私は不安になった。
終わりです。前回レスをいただいた方には超蛇足だと思います。
続きなのにタジチヨなので、後味悪くなってしまって。
気分悪くされた方には申し訳ないです。
タジマせつねえええええ!
せつな過ぎて目から汁がとまらないんだぜ。
二人が幸せになるの祈らせてくれ・・・。
っていうか、り二人がきっちり幸せになるところまで読みたいです。
GJ!
前回のかわいいアベチヨもよかったけど
今回の切ないタジチヨもいい!
エロなしとはいえ内股の痣とか光景想像すると普通にえろいな。
GJ!
9巻見ていた気づいたんだが、アフタヌーン編集部は話を溜め込む方針でもあるのかな
06年5月号〜8月号までって・・・
単純計算で単行本2冊から3冊ぐらいは余裕で発行できるやないか!?
がんばれば4冊もいけるやろ!?
なんで溜め込むねん、焦らしプレイが好きなんか!?
保守じゃつまらんから、意味なく関西弁で魂の叫びを代わりに書いてみた
>>526 それにエロスを加えてSSにしてみたらいいじゃない
>>526 ひぐちの修正が追い付かないからだろ
毎回結構な量の修正して、本誌は休みなしだしアニメやらなにやらで忙しかったし、今はそんな短期で出せないよ
SS書いて待ってやれ
おまけも充実してるしな。
しかし、いつまで経っても単行本派から本誌派に移行できない…
話が追いつかないorz
>>528 毎回、修正箇所って結構あるの?
なんとなく今でもスレを覗いてるのは、一度はSS投下経験がある奴らではないかと思った
投下しましたよー
今、少人数で回してるのかな?
続き物多いし。
まあなんにせよ住人がそれなりにいるならそれでいいよ。
投下もあるし過疎っているってわけじゃないんだから。
マターリとやっていこう。
雑談とか妄想とか振ってくれた方がネタにしやすい
>>529 全詳細を知ってるわけじゃないけど、細かいところまで修正してるみたいだよ
隅々まで確認してから単行本化してるならやっぱり結構な時間食うだろうね
>>533 篠岡のチアガ姿に萌える部員。
体育祭とかで?7組希望
3月はホワイトデーやらしのーかの誕生日あるし
そのあたりのネタはどうだろう。
本編設定や性格は完全無視なんだから原作ずっとみなければいい
流行作品の男女カプのように本編で恋愛描写があるわけでなく
よほど原作が気に食わなくて全部偽造してるんだから
恋愛なら素直に少女漫画みてりゃいいものを
わざわざ恋愛なしの漫画選択して無理矢理偽造してるのってバッカじゃん
不利に限らず少年・青年系の漫画読んでる恋愛脳のバカどもは
そのうち本編で気に食わないキャラとくっついたら発狂しキャラ叩きだすに決まってる
いろいろな作品でみた
脳内妄想を本編と思い込んでたウザいカプ厨たちのように
でもある意味うらやましいよ
偽物で満足できる脳みそで
本編で贔屓キャラが相手にされず、カプ相手の男キャラが他の女の子とくっついても
同人あれば満足できる頭らしいし
三橋「ス、スルー・・・」
ホワイトデーかぁ・・・、阿部はどんなものをお返しに選ぶのだろう?w
これ読んでおにぎり勉強しろと「お〇しんぼ」差し出すとか。
おにぎりの話は1巻だったっけかな。
その漫画読んでないんですが、しのーかに?
もっと美味いの作れって意味?酷くない?
篠岡「おにぎりのコツってどんなだろう?料理本に載ってないんだよね。」
阿部「じゃー、コレでも読むか?」
と、阿部はある本を差し出した。
それにはおにぎりの極意が載っていた。
見たいなノリだ。正直すまんかった。忘れてくれ。
>>543 説明ありがとうございました。
漫画の内容に意味があるのかなーと。
ツリじゃないです・・・失礼しました
ホワイトデーってエロいな。
547 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 01:30:38 ID:dmmMWDVj
>>546 そのおっさんみたいな妄想力でSS書けって
という自分の妄想もおっさんみたいだ
ハナモモ好きの自分としては、果たして花井はモモカンにお返しをするのか
それともプレゼントしたい気持ちを抱えながら結局いろいろ考えすぎて
何も用意できず、田島あたりがスルーッとお返ししているのを見て、悶々とするのか
妄想をして楽しんでみる。
それ以前に問題は、モモカンはチョコをあげry
>>549 みんなにあげるだろうよ。プロテイン入りのry
初期にどっかに貼られてた部員×篠岡みたいなの読みたい
>500
むしろココア味のプロテイン…
あれ?普段と同じ?
553 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 11:38:54 ID:eIVTaFfX
三橋×千代を希望です
負けちゃいました
どれも大体、部員×千代だと思うんだが、
551が言いたいのは、そういうことじゃないんだよな?
多分部員複数+千代ってやつじゃない?
保管庫にあったねー
>>555 うん
古い方の保管庫にあるネタのやつ
前に本スレに貼られてた
篠岡じゃなくてもいいんだけど
558 :
555:2008/02/24(日) 23:27:30 ID:7x4iTMWL
保管庫見てきた
確かに最近、部員複数×千代みたいな作品ない気がする
そういうのも、また読みたいね
今月(4月号)のアフタを読んで
イズチヨサカを思い出したのは自分だけでいい
>>559 もう4月号か…
春だなぁとどうでもいいことを思ってみたり
ドエロいのこないかな
561 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/26(火) 18:21:06 ID:EGVBieK3
高校入学前の春休みの練習が気になる。
阿部と栄口は入学前にモモカンに会ってるよな。
初登場の花井のようなこと思わなかったんだろうか。
栄口はルリを見て頬を赤らめてたし
モモカンとの出会いの時に絶対頬を染めたと思うんだ。
563 :
イズチヨ/1:2008/02/28(木) 12:56:44 ID:zDB1rzz5
投下します。
好きになっちゃったら大変なの、止まんないんだよ私。
そう言って篠岡は笑った。日焼けでかさついた唇にリップを塗ったばかりで、
つやつやと光っていた。その隙間から悪戯っぽく舌先が覗く。
「それでね、私、マネジやってる間は絶対誰も好きになんないって決めてたの。
どきどきしたり、本当に全然しなかったわけじゃないんだけどね」
そこまで言って、篠岡はゆっくりと目を伏せた。長い睫毛が頬に影を落とす。
泉と対照的な、明るい色のふわふわした髪を下ろしっ放しにしているのを
見るのは随分と久しぶりだった。鎖骨より少し下で毛先が跳ねている。
触ってみたい、と泉は純粋に思った。髪にも、頬にも、鎖骨にも。
言葉を紡ぐ唇にも。
「でも気付かないフリしてたの。その方が楽だって信じてたから。恋と部活を両立出来る
ほど器用じゃないし、迷惑になったりした日には私がここに来たイミ無くなっちゃう」
でも一番優先しなきゃいけないことが終わっちゃったら、我慢したり気付かない
フリしてる方が辛くなっちゃった。私、泉くんのことが好きだったみたい。
顔を上げて、また朗らかに笑った。いつもの篠岡の笑顔だった。
涙目である以外は、いつもと何ら変わりない。
ぽたりと頬を伝い落ちた涙は、机の上できれいに弾ける。
弾けた瞬間、俊敏な反射神経を最大限に生かした泉が篠岡を頭から抱き込んだ。
「好きになっちゃったの、ごめんね…」
564 :
イズチヨ/1:2008/02/28(木) 13:16:58 ID:zDB1rzz5
「なんで謝んの」
「分かんない。ホントはずっと好きだったから?」
「それをなんで謝んの」
「……部活に恋愛持ち込んだから」
「でもおまえぜんっぜん、今の今までそれ表に出さなかったじゃん」
くぐもった声が腕の中から聞こえる。
そう、…そうかな。ちゃんと普通にしてた?私。
「してたよ。全然気付かなかった。オレばっか好きなんだって思ってた。
でもオレも、絶対部の中おかしくしたくなくて黙ってた」
「そっかぁ。じゃあ同じだったんだね、私たち」
「ああ」
野球に打ち込む篠岡を見ていれば分かる。
選手ではなくマネージャー、絶対に表舞台には出てこない、「感謝」
以外見返りの無い仕事。それを三年間、部員には愚痴も文句も言わずに
笑顔で務め上げてくれた。
それがどれだけ自分たちの支えになったことだろう。
泉より野球が優先されていた三年間、つまりはそういう告白だったのだけど、
泉自身もそうだったから気にはしなかった。むしろ、一緒に三年分のあの濃い
時間を過ごせたことが心底嬉しかった。
「キスしていい?」
「そういうの、オレから言わせろよな」
少しぶっきらぼうな口調で泉が言うと、篠岡はころころと笑った。頬に手を沿え
耳朶の下を少し指先で擽る。唇が薄く開いたのを見計らって顔を近づけた。
メンソレータムのツンとする香り。べたつき一歩手前の濡れた感触。
一度軽く触れて、離れて、またすぐに口付ける。
篠岡の唇は柔らかくてあたたかかった。下唇の真ん中よりも少し左の方、向けた
皮が引っかかる。日焼けで、荒れちゃってて。また唇の離れた隙に小さく呟いた。
「恥ずかしいな。全然、そういう手入れしてる余裕無かったから」
「いいよそんなの」
その薄皮を舐めた。自然な流れで舌が唇を割り、歯列をなぞって奥に入り込んだ。
ん、と篠岡の鼻から息が抜けていったのに気付いてはっとする。
薄く目を開けると赤くなった目元と頬、寄せた眉が飛び込んできて慌てて泉は
体を離そうとした。――のに。
「…!?」
目一杯首の後ろに腕を絡められて驚く。顔が離れても驚くほど至近距離で、篠岡は
照れたようにはにかんだ。
「……止まんないって、私、言ったじゃない」
565 :
イズチヨ/1:2008/02/28(木) 23:44:39 ID:zDB1rzz5
篠岡の、多分同年代の女子に比べれば荒れたかための指先が泉の首から背中に
沿ってゆっくりと落ちていく。背中の産毛が粟立った。
せっつく割にキスはぎこちなく、揺れる薄茶の瞳は篠岡の余裕の無さを示して
余りある。
首筋に鼻をすり寄せられて思わず足がふらついた。重さを支え切れなかった
せいなのではもちろん無く、唇から漏れた呼気が肌をくすぐったからだ。
がたがたとロッカーに背中からぶつかって、大丈夫?、笑み混じりにの声で
篠岡が尋ねる。
(そんなヤワに出来てねーよ)
答える代わりに小さな頭をぐしゃぐしゃと掻き回した。柔らかな細い髪。
――泉の指にこんなにも馴染む。
少し身を屈めて、耳と頬の中間辺りに口付けてみた。篠岡の肩が揺れる。
告白が昨日じゃなくて良かった。襟ぐりの開いた服を着てくれているお陰で、
首筋から鎖骨までを唇で辿るのに何の障りも無い。昨日はインナーが白のター
トルだったから、きっと今みたいにスムーズには行かなかっただろう。
告白したばかりなのにこんなことしちゃっていいのだろうか。自分はとも
かく、篠岡は女の子なのに。
控え目な胸の膨らみに手を置いてみた。セーターとブラジャーのごわごわした
感触越しに、指に押される柔らかさがある。
きれいな鎖骨を舐めて軽く歯を立てる。
「…あ」
篠岡がくたりともたれかかってきた。
てのひらにぐっと胸が押し付けられる。やーらけー…と、どこか呆けたような
泉の声が珍しかったのか、おかしそうにくすくすと笑う。
「…仕方ねぇだろ、初めてなんだから」
「わ、嬉しい。私も初めてだよー」
「だろーなって思った。積極的な割にすげー緊張してんし」
「…やだ、私積極的?やらしい?泉くんそういうの嫌い?」
小さな体で目一杯抱きついて、矢継ぎ早に質問を投げ掛ける篠岡はどこか
こどもっぽくて、こんなことの最中なのにな、とちぐはぐな印象を受けた。
でも可愛い。
日に焼けない肌はしっとりと瑞々しく、初めての感触に泉の体も熱くなっ
てくる。血が指先からどんどん一点に集まり始めるのが分かって、反射的に
身を引くがそんなことはお構い無しに篠岡は体をすり寄せてきた。
深く息を吐き出しながら、掠れた声で囁く。
「考えないようにしてただけで、私ずっと、こうしてみたかったんだと思う…」
だからごめんね、とまた篠岡は謝ってくる。なんで謝んの。悪戦苦闘しな
がら背中のホックを外し、直接触れて改めてその柔らかさに感動していた泉
は少し不機嫌な声で言った。
「また部にレンアイ持ち込んじゃってごめんとか言うつもり?」
「……」
「おまえが三年間頑張ってきたの、オレのため?」
「…ち、がう、よ」
「だろ。オレだっておまえのためだけに甲子園目指してきたわけじゃねーよ」
首筋に額を埋めながら、はっきりとした声音で告げる。泉の頬にぽたりと熱い
雫が落ちてきた。体を起こして目を覗き込む。濡れた色素の薄い瞳が強い視線から
逃げようとするのを、頬を挟み込むようにして視線を合わせた。
「…ちゃんとオレたち、一緒くたにしねーで頑張れてたよ」
「ホントに?」
うわあレスの流れと空気が全く読めてませんでした!
すみません…
>>566 いいから早く続きを投下する仕事に戻るんだ
wktkが止まらん
流れはアレだけど、保管庫もあるから
気にしないで投下しちゃってください!
な、なんという生殺し…
流れってなんだ
どんどんこい
そーだそーだ!全裸でまってるぜ
572 :
名無しさん@ピンキー:2008/03/01(土) 01:05:59 ID:nlsJWNOQ
age
573 :
名無しさん@ピンキー:2008/03/01(土) 14:29:14 ID:0XmMFqQ3
頼むから投下して下さい
続きが気になって服が着れません
皆様方、今晩は。303です。
一本書いたので投下します。以前予告していたように涼音で、相手は榛名です。
注意事項がいくつかあります。
・拙作『榛名と涼音』のなかでの話
・榛名の先輩役としてモブキャラが登場
・今回はエロなし。それは次回から
・3回予定で、本日は1回目
このような感じです。よろしければどうぞ。
それでは投下します。
二十歳――。
それはこの国において、成人したと見なされる年齢であり、また様々な娯楽が解禁となる節目でもある。
例えば、喫煙。例えば、飲酒。
榛名元希。彼は今年でその二十歳となることになる。それにより飲酒をすることとなるのだが、彼のその行為を
めぐって――ちょっとした誤解を呼び、事態はややこしいものへと陥ってしまうこととなる。
榛名は昨年のプロ入り以来、主に一軍にて起用され続け、試合で登板する機会を多く得ていた。
彼が所属する球団は、育成をしながら勝利を目指していくという信念の元に、ペナントレースを戦っている。
そのため、大卒あるいは社会人出身といった即戦力クラスでなくとも、有望株であると首脳陣から認められれば、
一軍での試合に出場するチャンスをもらうことができるというわけである。
榛名は去年、開幕一軍こそ果たしたものの、球種の少なさなどといった未熟な面を早々に露呈してしまい、あっさり
二軍へと降格となってしまった。
ポジティブ思考の榛名も、これにはかなりへこんだらしい。
榛名は即戦力の投手としてプロ入りしたわけではない。だが、キャンプ・オープン戦を通して自己をアピールした
ことにより、プロでやっていけるのではという自信をそれなりに掴んでいた。また、その結果により開幕一軍の切符を
もぎ取れたことで、よりそれを深めていった。
しかしながら、結果は無残なものであった。これにはへこむなというのは無理からぬことだったのかもしれない。
それでも、榛名には一軍に踏み止まらなければならない理由があった。
恋人である宮下涼音とのことだ。
榛名と涼音は、榛名が高三、涼音が大学一年のときに縁あって付き合うこととなった。榛名は高校一年のころより
涼音へと恋焦がれていた。しかしながら、彼女には当時付き合っていた彼氏がいた。
そのため、諦めるしかないと自分へ言い聞かせていた榛名であったのだが、もともと諦めの悪いところがある彼は、
ずっと涼音へと想いを寄せ続けていた。
そんな彼を恋愛の神様は不憫に思ったのかもしれない。いろいろと出来事を重ねて、榛名と涼音は縁あって恋人同士
として付き合うこととなった。
長らくに渡って思慕していた相手が振り向いてくれた。そのため、榛名はその成就した思いを――涼音との関係を
続けていきたかった。
そうはいうものの、涼音が住むのは二人の地元である埼玉。一方の榛名は地方球団に指名されたことにより、そこへと
当然ながら住居を移すこととなった。
このために、榛名が涼音と会うのは、チームが関東に遠征する際に帯同することが絶対条件となった。
二軍戦は、西日本に本拠地を構える球団で、それぞれの所属リーグに関係なく独自のリーグを作っての戦いとなる。
つまり榛名は二軍にいる限りは、涼音と会う機会は完全に絶たれるということになるわけだ。
前述のように、一年目のキャンプ並びにオープン戦でのアピールの末に、榛名は開幕一軍のメンバーへと名を連ねる
ことができた。だが、デビュー早々にしてプロの洗礼とばかりに打ち込まれてしまった。
ちなみに関東での試合であったため、家族と涼音を球場へと招待したのに、その目の前で派手に散るという惨憺たる
デビュー振りであった。
そのいきなりの失態を演じた榛名を待っていたのは、二軍へのスピード降格。
当然のように榛名は落ち込んだ。そのようななかでも、涼音からのメールや電話で叱咤激励されて立ち上がること
となった。
榛名が涼音との会話のなかでの彼女からの言葉。
『元希、わたしに会いたいでしょ? わたしも会いたいよ……。だから、頑張って』
どちらかといえば単純なほうである榛名は、これに奮起した。いや、立ち上がらないわけにはいかなかった。
夏場のオールスター戦のあとに一軍へと再昇格後は、榛名はなにがなんでも一軍から離れなかった。
涼音に会いたい一心。彼女目当てという動機はやや不純なものであったかもしれないが、結果的には一応の成績を
残すことができた。
榛名のプロ一年目は、こうして概ね成功の形で終えることができたのであった。
そして、年が明けて迎えたプロ二年目。
榛名は年末年始を地元で過ごしつつも、母校である武蔵野第一高校や中学のときに所属していた戸田北シニア
などにて自主トレに励み、春季キャンプへと備えていった。
春のキャンプで怪我をすることなく、オープン戦も順調に結果を残してやってきた開幕。
高卒二年目の、まだまだルーキーに毛が生えたようなものではあるものの、貴重な左の先発投手の一人として、
榛名は先発ローテーションの一角を担うこととなった。
期待とそれを上回る緊張を抱えて、三月下旬にシーズンが開幕した。
榛名が登板する試合が、たまたま関東に本拠地を置くチームとばかりに重なったこともあり、月に三回程度は
榛名と涼音の二人は会うことができていた。
榛名が投げる試合へと涼音が観戦に訪れて、時間があれば食事に出かける。もしそれが叶わなければ、先発登板した
翌日は完全オフなため、それを利用してデートを重ねていくという形で、二人の関係は良好なものだった。
涼音は、言いたいことははっきり言うタイプという自分に正直な人間である。榛名が抑えた試合は手放しで賞賛するし、
打たれてしまった日は容赦ないダメだしをしていく。
それを聞かされても榛名は不思議と腹が立たなかった。結構、気の短いところがある彼なのに。
それらの反省すべきところを指摘した涼音が、最後に
『大丈夫。また次、がんばろ?』
こうとびきりの笑顔で締め括ってくるのだ。これを見せられると榛名は弱い。そう、榛名が涼音に惚れ込んでいる
証の一つであるといえよう。
榛名自身としても涼音には喜んでもらいたいし、褒められたい。せっかく二人で一緒の時間を過ごせるのなら、
お互いに楽しいひと時を過ごしたいと考えている。
それが道理だろう。
なにかのために頑張る。思うものがあれば能力以上のものを発揮できるともいう。榛名は涼音を喜ばせるために
投げていった。
四月を終えた時点で、榛名の成績は白星先行。このあとも上々の成績を記録していき、白星を積み重ねていった。
五月二十四日。
この日は、榛名元希の誕生日である。今回で二十回目の記念日で、今年からは飲酒や喫煙といったことが大手を振って
できる年でもある。
榛名は喫煙はともかく、飲酒には興味があった。ちなみに前者に興味がないのは、スポーツ選手にとっての大事な
心肺機能を低下させるため、好ましくない行為であるとプロ入り時に指導を受けたことからによる。
榛名は昨年から先輩の投手たちに試合後など、よく食事へと連れて行ってもらっていた。試合の反省点はもとより、
他愛もないバカ話をやったり、既婚の先輩からは惚気話を聞かされたり、またあるときは愚痴だったり……などなど。
食事を奢ってもらった上に相談に乗ってもらったりと、榛名にとって楽しい充実した時間だった。
その食事の席では当然ながらアルコールの類も多く出てくる。
基本中の基本である生ビールでの乾杯に始まり、焼酎、日本酒、ワイン、ウィスキー、ブランデー……と、
例を挙げればキリがないが、とにかくお酒がいっぱいなわけだ。
先輩たちが酒を呑んで盛り上がっているその姿を見ながらに、榛名の手にはオレンジジュースかウーロン茶。変な姿を、
まあぶっちゃければ不祥事を週刊誌などにキャッチされないために、これだけはきっちりと守っていた。先輩たちも
このことはよく理解してくれていたようで、榛名は決して酒を勧められることはなかった。
しかし、先輩たちのその姿を見ていると、榛名はこう思えてならなかった。
『楽しそうなんだよな……』と。
こういうわけで、榛名はアルコールに興味津々なのであった。
五月二十四日から一週間後の金曜日、つまりは五月最後の日。榛名の所属チームは東京での試合の日だった。
この試合、先発した榛名は八回一失点と好投。最後はリリーフを仰いだものの、勝利投手となることができた。
榛名は試合後に本日のヒーローに選ばれ、そのインタビューを済ませるとロッカールームへと戻り、シャワーで汗を
流して私服へと着替えていた。
そのまま手近な椅子を引いてきて腰を下ろすと、バッグへと入れてある携帯電話を取り出してメールを打ち込んでいく。
相手は涼音だ。
二人は球場の近くにある駅で待ち合わせて食事に出かけるという、いつもながらのデートをすることになっている。
このメールはその予定の確認であるらしい。
なんでも涼音が榛名の一週間遅れとなる誕生祝をしてくれるということで、榛名は結構前から話をもらっていた。
榛名としてもなにも断る理由などはないし、もちろん、以前から楽しみにしていたことであった。
メールを送信してそう経たないうちに、榛名の携帯はメロディーを奏でて着信を知らせてきた。
携帯を開き液晶画面を見て相手を確認していく。榛名は自然と表情を崩していた。その相手からは、何度掛かってきても、
何度話してもそれは変わることはないだろうし、この先も変わることはないだろう。
軽く咳払いをして声を整えて、榛名は通話ボタンを押して電話に出る。
「はい」
『――あっ、元希。今日もカッコよかったよ!』
それは予想できていた反応だった。だけども、ここまで感情をストレートに表現されて喜ばれると、やはり嬉しいもの
である。
「ありがとうございます。涼音さんの目の前で、あまりカッコ悪いところは見せたくないですからね。頑張りましたよ」
『そっか、ありがと。それで、今夜の約束、ちゃんと覚えてくれてるよね?』
「もちろんですよ。お祝いしてもらえるんですからね……」
そのまま二人は五分あまり話し込んでいった。榛名は会話を終えると、バッグを持ってロッカー室から出ようとする。
「おい、榛名」
だが、背後から声を掛けられたため足を止めて振り返っていく。
そこには先輩投手たちがいた。榛名が去年からよくしてもらっている人たちばかりで、件の食事会などによく榛名を
連れていっているのが彼らだ。
昨年の二軍落ちを経験した際に新たに変化球を覚えるに当たって、得意球を教えてもらったり、プロとしての心構えを
説かれたり、アドバイスから何気ない雑談をしたりと、なにかと気が合うためによく一緒に行動させてもらっている
気の良い兄貴分たちといったところである。
「なんだ、愛しい彼女からかー?」
「ぶっ! ちょっ、痛いっすよ……」
にやけた先輩たちから豪快に背中をばんばん叩かれていく榛名。見事なまでの弄られ役である。
「ん、違うのか?」
「いや、そうっすけど……。あの、これから彼女と約束しているんで、いいですか?」
「ああ、悪い。引き止めるつもりじゃなかったんだ。ただ、ちょっとだけ確認しておきたいことがあってな」
「確認ですか。なにかありましたっけ? ……ああ、はい。ちゃんと門限までには宿舎に戻りますよ」
「違う違う。そういう小うるさいことじゃない。明日の予定だよ」
「明日……ですか?」
榛名はざっと思い出していく。明日は先発登板した翌日なため、榛名は完全オフである。それを利用して涼音と
デートに繰り出すという、関東に遠征へ来たときのいつもの休暇の過ごし方をすることとなっている。
ちなみに、涼音もこのことはちゃんと心得ていて、大学での授業などで都合がつかないとき以外は、前もって予定を
空けて榛名に合わせるようにしている。
「忘れたのか? 明日はデイゲームだから試合を終えたあとに、投手会でメシを食うって話だっただろうが」
「えっ……、そうでしたっけ?」
榛名はそう言われて考え込んでいく。早い話、チームの投手陣で集まって宴会をやろうぜってことなのだが、いつそれが
出てきていたのか。榛名は思い出せなかった。
「あのー、パスって……」
一応、ダメもとでそう切り出してみる。
「ダメに決まってるだろーが。せっかくの昼上がりだから夜遅くまで呑める日だってのに、全員集合じゃないと
盛り上がらないだろ。それにおまえも二十歳になって酒呑めるようになったんだし、明日は覚悟しとけよ」
当然のように、返ってきたのは却下という回答だった。
榛名の肩をぽんと叩いて、先輩投手たちはそのままロッカーを後にしていく。
「断れない、よな……。涼音さんにはなんて言えばいいか……」
榛名一人だけとなって閑散としたロッカールーム。そこは、浮かない顔をした男が漏らす不景気なため息が聞こえてくる
ばかりであった。
都内の某所にあるイタリアンレストラン。雑誌などで取り上げられるような有名店などには及ばないものの、
味もよくて落ち着いた内装による品のいい雰囲気と、こじんまりとした店舗のためによるアットホーム的なところが
受けているとのことらしい。
いわゆる、隠れた名店というやつだ。
榛名は涼音と予定通りに球場近くの駅前にて合流すると、彼女にこの店へと連れてこられて個室の席へと入った。
メニューへと目を通すことはなく――というか、涼音から制されてしまっていた。
「今夜は前もってコース料理を予約しているから、選ばなくていいよ」
「そうなんですか。わかりました」
二人が席に着くなりにすぐ女性店員が持ってきたグラスへと、ミネラルウォーターを注いでいく。一礼して去っていく
ウェイトレスに軽く会釈をして、それを手に持ち合わせて乾杯する。
「今日も大活躍だったね。最近は大崩れすることもなく試合を作れる投手だって評価で、存在感が急上昇している
らしいし……」
にこにこと笑顔が眩しい涼音。榛名も努めてその調子へと合わせて明るく振舞おうとするのだが、例の飲み会のことを
考えてしまい、どうしても表情が曇りがちとなってしまっていた。
(ん、どう話したもんかな……)
「……って、元希聞いてる?」
続々と配膳されてくる料理へと手をつけていきつつも、榛名と涼音は会話を続けていた。しかし、榛名の様子が
どこかしらおかしいことに涼音は気付いたようだ。
「えっ、はい……」
「どこか具合でも悪いの?」
涼音はフォークとナイフをそっと置いて、心配げに榛名の顔を覗き込む。そのままに身を乗り出していき、自らの右手を
榛名の額に、左手は自分の額へともっていく。
「――んっ、熱はないみたいだけど。でも、ちょっと顔が赤いかな?」
「……っ」
それが自分がした行為によってのことなのだということを、涼音はわかっていない。
ふわっといい匂いが漂ってくる。リンスの香りであろうか。それによりにやけつきそうな顔を、榛名は引き締める。
心配してもらっているのに失礼だからだ。
そして慌てて否定の台詞を口にしていく。
「あっ、いや、そうじゃないです。疲れは少しだけありますけど」
「そっか、そうだよね。完投じゃないけど、えっと……136球だったかな。もうだいぶ暑くなってきてるし、
球数も結構多かったから疲れてるよね」
せっかくプロの試合を生で観戦するのだからと、涼音は毎回スコアブックをつけている。榛名は試合後に涼音と
会うときは、その場でそれをもらい、関東以外での登板日だと二、三日遅れで榛名が住む選手寮へと郵送してもらっている。
去年、榛名がプロ入りしてから涼音は家でCS放送と契約して、関東以外でも榛名が投げる日は欠かさずにチェック
している。一年目の昨年は、ほとんどが中継ぎでの登板であったので出番がいつかわからないため、最初から最後まで
観戦していたとのことだが、今年から榛名が先発へと配置転換されたことで楽になったと話していた。
もちろん、球団のスコアラーからもっと詳しく分析したデータ集がもらえる。ではあるものの、二人の明確な絆の証
ともいえるものなので、榛名は専用のファイルを作って大切に保管している。
「やっぱり、たいしたことないです。えっと、その……」
どうしたものかと榛名は悩む。だが、これはどうしても言わなければならないことだ。
(ずるずる明日まで引っ張って、ドタキャンよりはマシだよな?)
「明日のことなんですけど……」
「あっ、うん。明日だよね、元希の誕生会の本番。そうだ、久しぶりにテーマパークにでも行く? つい最近に
新しいアトラクションを始めたってテレビでCMやってて、それかなり面白そうだったよ。学校の友達からも
めちゃくちゃいいって評判を聞いてるんだよねー」
「…………」
とてもご機嫌な様子の涼音に、背中に冷や汗が伝うのを感じる榛名。丸一日オフなのだから、まったりと過ごす
のもいいかと、二人はまだ具体的な計画は立てずにいた。
複雑な思いの榛名とは対照的に、涼音は遊び倒す気満々のようだ。
「えっとですね、実は明日……」
「うん?」
涼音は小首を傾げ、微笑をつけて榛名を見詰めていく。これを目にして榛名は思わずくらりときて、たじろぎそうになる。
しかしながら、今日ばかりは屈するわけにはいかない。
「明日って、うちのチームはデイゲームなんですよ。それで、試合を終えた夕方からは皆オフになるわけで……」
「うん、知ってるよ。元希のチームの日程はチェックしているから」
「単刀直入に言います。明日の予定、キャンセルさせてください」
「……えっ?」
榛名からの台詞に涼音は声を失い絶句してしまっていた。榛名はそのままに頭を下げて詫びていく。
「実は明日、先輩たちとメシを食う約束になっていまして……。個人的な誘いだったら断ろうかとも考えたんですけど、
投手会の一軍メンバーは全員参加ってことになってて……」
「…………」
榛名は下げていた頭を少しだけ上げて、ちらっと上目遣いに彼女の端正な顔へと視線を向ける。
大きな瞳は潤み、今にも決壊して大粒の涙を零しそうな様子だった。榛名は、自分がこれを引き起こしてしまったのか
と思うと、気分が沈みうろたえてしまう。
「そ、そうなんだ、しょ、しょうがないよね……。全員参加ってことなら、仕方ないよね……」
涼音の明らかに憔悴して落胆の色を隠せていないその姿。
榛名は心苦しさを感じていた。ここしばらくの涼音との電話での会話やメールの内容は、今晩の食事のことや、
明日になにをするかといったことばかりだった。
四月と五月は、たまたま榛名の登板日が関東での試合ばかりだったため、思っていたよりも会うことができた。
しかし、榛名と涼音の関係は遠距離恋愛である。普段からそうそう会うことができない不便な関係なのだ。それにより、
榛名と涼音は二人で過ごせる時間は可能な限りひねり出して共にするようにしていた。
だが、さすがに今回ばかりはどうしようもない。アマチュアではもちろんであるが、プロも当然ながらに体育会系
特有の縦社会であるため、先輩からの命令を突っぱねることなど不可能だ。
「…………」
「…………」
俯いて沈黙している涼音。それに付き合う形で榛名も言葉を失ってしまっていた。気まずい空気が個室のなかを
満たしていく。
この空気に耐えかねたのだろうか。先に口を開いたのは榛名であった。
「その、午前中から夕方前までだったら遊べますけど……」
「……いいの?」
榛名は妥協案を提示していた。目に見えて落ち込んで憔悴した涼音の姿を見ていて、そう言わずにはいられなかった
ようだ。
涼音同様に、榛名も彼女との時間を大切にしたいことに変わりはないわけだ。
「オレも涼音さんと一緒にいたいですから」
「あ、ありがと……」
先ほどまでのどんよりとした空気は、いつの間にか霧散してしまっていた。あたたかくそして甘い空気が、それに
変わって室内を満たしていく。
榛名と涼音の視線が絡み合う。ほんの数分前の悲しげな顔から、上気して赤く染まっていくそれへと一変した。榛名は
そっと涼音の頬へと手のひらを寄せ、そっと優しげに撫でていく。
うっとりとした面持ちにて榛名の手を、涼音は自らのもので重ねては包み込んだ。
涼音へと口付けをするべく、向かい側の涼音へと身を乗り出そうとしたところで、
「――お待たせしました。こちらが本日のメインディッシュとなります。ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ
〜フィレンツェの気品と矜持〜でございます」
二人が気付かないうちに来訪した女性店員が、カートに載せてきたステーキをそれぞれのもとへと配膳していく。
いつの間にかに個室の扉は開けられていたらしい。ノックもなしに入ってくるとは考えられないので、単純に榛名と
涼音が気付かなかっただけということなのだろう。
榛名は慌てて涼音から手を離すと、グラスに入ったミネラルウォーターをあおっていく。涼音は涼音で、彼氏からキス
されそうになっていたさっきよりも顔を赤くしていた。ほんの少しだけぎこちない笑みを浮かべて、ウエイトレスへと頭を
下げていっていた。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
女性店員はそっとドアを閉めて出て行った。カートが遠ざかる音を聞き届けて、榛名は肩の力を抜いて脱力した。
ウエイトレスがくすっと小さく笑っていたのは、はたして榛名の気のせいであっただろうか。
「全然、気付かなかったね」
「はい。焦りましたね」
二人して顔を見合わせて笑いあう。このあとは特に怪しい雰囲気になることはなくて、いつもの調子を取り戻した
涼音と榛名は楽しい夕食のときを過ごしていった。
『今夜はわたしの奢りよ』とのことで、榛名は涼音からご馳走となった。誕生祝だからということらしい。
榛名は家へと帰る涼音を途中まで送るべく、最寄の駅までついていくことにした。駅までの道をのんびりゆっくりと
別れを惜しむようにして歩きながら、榛名と涼音はなんでもない会話を重ねていた。
榛名が明日の予定の変更を願い出たことにより、一時は落ち込んだ様子を見せていた涼音であったが、いつもの元気な
ところを取り戻したらしく、にこやかな笑顔を終始見せていた。
どれだけゆっくり歩いたとしても目的地へとたどり着かないということはない。
週末のために、多くの人でごった返している駅へと二人はついた。
「今夜はご馳走してもらってありがとうございました。本当に美味かったです」
「そう。いろいろと調べてみてあそこにしてみたんだけど、喜んでもらえてよかった」
榛名は手元の腕時計へと目をやり、時間を確認していく。短針・長針ともに頂点まであと僅かのところ――
午後十一時前を指していた。
(このぶんだと門限にはちょっとギリギリだな)
そう思いつつも自然と涼音へとついていき、なんだかんだでホームまで足を運んでしまった榛名。
金曜日、週末ということもあってか、結構な人数が電車がホームへと滑り込んでくるのを今か今かと待ちかねている。
それらのなかには、榛名と涼音と同じ年頃と思われるカップルの姿も多く目に付いた。これから二人きりでの甘い時間
を過ごそうというところであろうか。
榛名はちょっとだけ……いや、正直かなり羨ましく思えてならなかった。しかしながら、涼音を伴ってどこぞのホテル
へと消えるなどという暴挙――無断外泊なんぞをかまそうものなら、厳しいペナルティーが待っているためにできようが
ないのだが。
「……ねえ」
榛名のすぐ傍にて彼へと寄り添っていた涼音が、彼氏の上着の袖をくいくいと引っ張っていた。おそらく、榛名の
門限のことを心配しているのだろうか。
「あっ、はい。そうですね、ターミナルに戻ってタクシー拾って帰ります。それじゃ、また明日」
「そ、そうじゃなくて……」
「はい?」
若干、頬を染めてもじもじとしている涼音は、少し離れたベンチに座っているカップルへとちらちらと視線を送って
いた。
そこでは、涼音と同じ大学生風の男女が口付けを交わしていた。それも濃厚なやつ、唇を重ねるだけでは飽き足らずに
舌を思いっきり絡ませあっているディープなやつをだ。
「…………」
「…………」
(うわっ、こんなとこでするか、普通? 酒でも入ってんのか? もう夜も遅い時間帯だけど、人多いんだぞ……)
呆れてしまうというかなんというか。完全に自分たちの世界へと入ってしまっているその二人と姿を見ていると、
榛名はある意味で感動のような感情を抱いていた。
そのままにかぶりを振って、頬を染めていた赤らみを飛ばした。そして榛名は、わずかばかりのぎこちなさを感じさせる
笑みを浮かべつつ、袖を握ってきている恋人へと向く。
「なんつーか、よくやりますよね。ホームにいるほとんどの人が見てるってのに。……っと、そろそろヤバいな。
涼音さん、それじゃまた明日に」
「…………」
彼氏が別れを告げてきても、彼女は恋人の腕を掴んだまま離そうとしなかった。その姿はなにかを訴えてきている
ようにも見えるものの、門限が気になってきている榛名はそれを察してあげることができずにいた。
「……もう。元希、鈍いよ」
頬を膨らませるのとため息のコンボで不満を露にする涼音。涼音はそのままに上目遣いに榛名を睨んでいく。
もっとも、その怒っている表情でさえも補正の掛かっている榛名の目には可愛く映っていた。
「鈍い、ですか?」
「今に始まったことじゃないけどね。まあ、今大事なことはこれじゃないか。……んっ」
「はい?」
双眸を閉じて踵を上げ、唇を差し出していく涼音。鈍いと怒られてしまった榛名であるが、さすがにここまでされては
涼音がなにを求めてきているのか理解できた。
「んっ!」
「……っ」
なにぶん、頭一つ分はある身長差のために、涼音は手にしていたバッグを後ろ手に持ち直して、彼氏へとキスをねだる。
(やっぱ、可愛いよなぁ……)
榛名は涼音の華奢な肩を掴んで引き寄せ、自らを誘惑してくるそれへと重ねていく。その柔らかい感触にただひたすら
に酔いしれる。
そのままに続けていたい――人がいなければ、榛名もディープなものへと持ち込んでしまったかもしれない。
だが、電車の到着を知らせるアナウンスがスピーカーからホーム全体へと流れてきて、現実へと引き戻されてしまった。
「……ふぅ」
キスを終えて二人はそれぞれに新鮮な空気を吸い込んでいく。都会特有の汚いというか重い空気ではあるものの、
さきほどまでの行為のために清涼感のようなものを感じていた。
「ありがと……きゃっ」
頬を染めて上気させている涼音を榛名は再び抱き寄せた。
風とともに電車がホームへと入ってくる。榛名はそれを横目で確かめて、もう一度、今度はほんの少しばかり強引に唇を
重ねていった。
「んんっ、ちゅっんんっ」
「それじゃあ、また明日ですね。家に着いたら電話してください。待ってますから」
「あっ、うん……」
別れ際に頬を軽く撫でて足早に階段へと向かっていった。駆け下りて階下へと急ぎつつ、手元を確認する。時間が結構
ヤバいことになっていた。
涼音は涼音で、しばらく呆然と榛名が去った階段へと視線を送っていた。
「ホントにスイッチ入るの遅いんだから。もっとぎゅってしてほしかったな……」
そっと唇を指でなぞる。口では文句を言いつつも、その顔色からは明らかに嬉しいという感情が浮かんでいた。
以上で完了です。お付き合いいただいた方、お疲れ様でした。
一応、今月中の完結を予定しております。
あと2回ですが、今回もお付き合いいただけると幸いです。
それでは失礼します。
303氏乙!続き期待してるよ
イズチヨの続きも全裸で待ってるんだぜ
うっすら思いついたんで西浦小ネタを。
えろくないですすいません。
定期テストが終了し、今回も全員が赤点を免れた。
テスト勉強から逃れて水を得た魚のように生き生きと白球を追う野球部は、
今日も応援団長・浜田が連れてきた数人を仮想ランナーとして守備練習を行っていた。
ベンチ脇に転がっているスポーツバッグの中の1つから着うたが流れてきて、
先ほどアウトになって1塁からてれてれと歩いていた浜田が慌ててバッグに走り寄り電話を取った。
「はい。あ、おつかれさまでーす。えっと、えー、マジっすかー。んー、まあ、はい、大丈夫です。
今からなら、んー、1時間後には入れるかと。はい、じゃあまた」
ふー、と応援中にはつくことのないため息をついた浜田は百枝監督の下に走っていった。
「カントク、すいません急にバイトに穴空いちゃったらしいんで入らなきゃいけなくなりました。
ここで上がらせてください」
頭を下げる浜田に百枝は他人事じゃないとでも言いたげな表情で苦笑する。
「オッケー、おつかれさま。働くのもいいけど身体壊さない程度にねー」
「カントクほどじゃないっすよ。じゃ、失礼しまっす。っと、田島」
浜田がなにやら田島に向かって手振り口ぶりで何かを伝える。
田島の表情がパアッと明るくなり、浜田に向かって満面の笑みで親指を立てた。
「ほぉらよそ見しない!サード強襲!」
監督のノックに瞬時に反応した田島はいつも通りの危なげなさで打球を拾い、
ランナーが1塁に着く前にボールはファーストミットに吸い込まれた。
その日の練習が終わり、篠岡とモモカンが先に帰った後は部室に残るは野球部10人だけ。
「にしし、しばらくオカズに困んねー」
田島がテーブルの上に積んだのは、結構な量のエロ本とDVD。
「え、ちょっとなに、なにこれ」
沖の問いに田島が誇らしげに答える。
「浜田のコレクション!前から貸してって言ってたんだよねー」
「んだよ浜田のやつ、中学の時はそんなもん回してくれなかったのによー」
そう言いながらも何冊も手に取る泉の顔は少々にやけ気味だ。
「みんなに回してもいいってさー。返す時には浜田に返せよー」
田島の声でみんなが山に手を伸ばして品定めを始める。
「いやー、数もあるけどジャンルも色々だねー」
「そりゃー一人暮らしなら隠す気遣いもねえしな」
「センズリ大王浜田様ありがとう!」
西広と巣山が次々に手にとってチェックを始め、
何人かが今頃は仕事に精を出しているであろう浜田に感謝を叫ぶ。
「なんだ三橋、さっきからナースものばっか見てて」
本を中心にピックアップしていた栄口の問いに、三橋はしまりなくにやけながら答えた。
「う、ウヒ。オレ、看護師さん、スキ、だ」
「ねーねーなんで阿部はオムニバスDVDばっかなのー?」
水谷の問いに無表情のまま答える阿部。
「雑誌は肌の部分修正してるのが多くて萎えるしな。
DVDはどうせドラマ部分なんか早送りするんだから少ないに越したことねえだろ」
「えー、台詞棒読みなところがかえってそそるのにー」
「水谷、おまえ意外とマニアックなのな」
「あ、花井ー、こっちに花井の分ちゃんと分けといたから」
田島の声に花井がそちらを見やると、見事なまでに年上巨乳もの一色だった。
「なんだよこれ……」
「何も言わなくてもお前の好みはわかってるって。なあ?」
阿部の言葉に花井以外の全員が含み笑いを隠さない。
『お前の好み』が指す対象は誰もが口には出さないが決まりきっていた。
「お、おまえらなあっ!」
真っ赤になって怒る花井だが、積まれたものに時折目を奪われているのはやむを得ないところ。
しょうがないさ人間だもの。
「みんな自分の分持ったー?持ったー?じゃあ残りオレのー!」
田島が残った山をまとめて自分のバッグに入れた。
全員のスポーツバッグが増えた荷物の分だけ重くなり、いろんな意味で凶器と化した。
「つか、田島はジャンルにこだわりなさ過ぎじゃないか?」
「オレはどんなネタでもカくよ!」
「田島くんは、スゴイ、な!」
巣山の問いに胸を張る田島を尊敬するかのように三橋が見つめ、その様子を阿部がギロリと睨む。
「おい、マスのカキ過ぎで投球できません、なんてことになったら承知しねえからな」
「うおっ、ほっ、ほわっ、はいぃ」
「おーい、もういい加減帰るぞー」
既に部室の外に出ていた花井と栄口の声に、残っていた一同はわらわらと荷物を持って
ようやく部室を後にしようとしていた。
翌日付けの篠岡の部誌にはこう記されていた。
『なんだか今日はいつにも増してみんながひとつにまとまっていたように感じます。
理由はわからないんですがみんな何かあったのでしょうか。
浜田さんがみんなから大王様って呼ばれてたけど関係あるんでしょうか。
とにかくチームがひとつになるのはいいことだと思います。
ちょっと気になったのは、花井くんがピッチャー位置での守備練習の時に
妙にエラーが多かったことです。
マウンドに慣れてないわけじゃないはずだと思いますが、
送球は全然悪くないので打球が追えていなかったのかと思います。
監督の方をちゃんと見ていたら取れる球だと思うんですがどうしちゃったんでしょう。
がんばれ花井くん!』
おわりです。おそまつさまでした。
「センズリ大王浜田様」というフレーズが書きたくてこんなことに。
花井はなんだかんだ言いつつきっちり使ったものだと思われます。
303さんもイズチヨの人も続き待ってます。
浜ちゃん バイト代つぎこんじゃらめえwww
GJ!
303さんGJ!!!!!
この後エロが来るかと思うともう全裸待機しかww
420さん流石の一言に尽きます。原作の雰囲気そのまんまw
あま〜いSS待ってますw
>>255-265の「相性占い」(アベチヨ)と、
>>511-521「正義の味方」(タジチヨ)の続きです。
今回もタジチヨで、視点がコロコロ変わります。ただひたすらやってます。
性格、設定等、かなり捏造しましたので、合わない方はスルー願います。
長いので、途中で容量フルになりませんように。
――side阿部――
最近、田島が「捕手会談」と称して俺を呼び出しては泣きついてくる。
知るか。一生お預けくらってろ、と思う。
最初田島は、
「しのーかにキスしたらぶっ飛ばされた」
と、しょげていた。それも翌日の朝練までで、むしろ充電時間だったのかもしれない。
すぐに持ち直して、篠岡にちょっかい出していた。……まあそれはいつものことか。
それにしても、ここまでバカだとは思わなかった。
俺と篠岡は短期間ながらも付き合っていた。篠岡は、すぐ別の男に乗り換えられる女じゃねーと
忠告しといたのに、速攻で篠岡に言い寄りやがって。
初めて付き合う女だったから、篠岡には思い入れがかなりある。篠岡は田島を選んだのに、
遊びの誘いすら断るのは、まだ自分に気があるからだという期待もあった。
が、「3年間は三橋を最優先」と決めている俺には篠岡に甘えさせる余裕はなく、もし寄りを
戻すにしても同じ過ちを繰り返すのが目に見えていた。
篠岡は、俺の時はぶっ飛ばすどころか、最初からほぼ言いなりだった。
ここまで来ると、篠岡はわざとやってんだろう。田島が不憫過ぎて笑える。
「しのーか〜〜」
ジャングルジムの上で、田島がだらだらしている。まったくうっとおしい。
一応田島に、「俺に篠岡のこと話すのがどんだけ残酷か判ってんのか?」と聞いたことがある。
田島の返事は、
「だって阿部、本命はしのーかじゃねーだろ?」
対抗も大穴もあるか。どーも聞いてると、俺が以前告白した(ことになってる)女を、ずっと
引きずっていると勘違いしているらしい。いる訳ねーのに。
もっとも、告った相手が三橋だなんて口が裂けても言わねーけど。
「田島の方が、手ェ早いと思ってた」
優越感よりも、純粋な疑問だった。狙った場所に打ち返す器用さがあり、打席に立てば
鬼みたいに集中する田島が、篠岡にここまで苦戦しているのは意外だった。
あんまり考えたくねーけど、俺より上手く篠岡を喜ばせるんじゃねーかと思ったり。
なんせ、篠岡と同じAB型の三橋と、バッテリーを組む俺よりも会話が成立するし懐かれてるし。
もし田島の後だったら、篠岡と付き合うのは……かなり勇気が要ると思う。
「……イロイロ、あんだよ。俺は阿部とは違うからさ」
田島は1人、情けない顔をして唸っていた。
あいかわらず、田島は俺が野球しか認めてないよーに感じてるみたいだ。
泉の話では、篠岡が他の女と一緒でも、田島は篠岡しか見てないらしい。
あれだけ目が良い、下ネタ野郎の田島が。かなり本気なんだと思う。
「オナニーのしすぎとか、過激なAVに慣れると、いざって時にダメらしーぞ」
「うぉ、ソレマジか?あ、でも俺の場合はさぁ――」
「テメーのオカズなんか知るか!」
いつ来るか判らないその日のために控えとけ、とアドバイスしたのは意地悪ではない。
でも、俺に報告に来るその日は、出来るだけ遠い日が良いと思った。
――side田島――
台風が来る。シャレにならないんで、部活は途中から中止になった。
早目に自転車で帰るか、止まる前に電車で帰るかをみんなが相談してる。
家族が車で迎えに来るとか、ついでに送って貰うヤツは自然に9組の教室に集まった。
予報では台風は夜には通過することになっていて、「それまで学校で遊んでよーぜ」と言ったら、
阿部に「オメーはどーせ近所だからだろ」と怒られた。
じーちゃんの畑も気になるけど、それよりも明日はしのーかと遊びに行く約束をしていたから、
もし今日の代わりにミーティングを止めて練習になったらと思うと心配だった。
まあ、しのーかが俺の誘いにやっと、「うん」って言ってくれただけでもラッキーか?
いっぱい一緒にいたいけど、しのーかを拘束出来ないから、あまり遠くまで行けねーし。
台風の後は川がにごるからそっちはパスだな、でも、そういう方がしのーか面白がるかな、とか
既に明日のことで頭がぐるぐるしていた。
「田島は残んのか?すぐ近くだろ。なんなら乗せてって、途中で下ろすけど?」
家の人を待っていた花井が声をかけてきた。
「わざとだよ。台風ってワクワクしねぇ?みんな集まってんのに帰るなんてヤだよ!」
「テスト近いし、三橋と田島は勉強したらどーよ?」
阿部が余計なことを言い出した。勉強なんか今からやったって、テストまで覚えてないって!
そこに水谷が、
「西広は俺らと一緒だから、もうすぐ迎え来るよー」
「そーかぁ!残念だなっ!」
「でも、田島がやる気あるなら俺、残ろうか?遅くには止むんだよね?」
「え?イヤイヤイヤっ」
勉強する気になってる西広と、拒否したい必死な俺の顔を三橋が見比べてキョロキョロしていた。
「三橋は、帰るだろ?」
「ウ、ヒ?」
三橋と一緒の方が効率いーよ、とムリヤリ理由を作って西広には諦めさせた。ゴメン三橋。
だらだらと無駄話をしてるうちに女の話になって、「恋愛は男はフォルダ保存、女は上書き保存」
と泉が言い出した。テレビで芸人が言ってたらしい。
しのーかはそうじゃないんだよなぁ。がっちりプロテクトして消去不可だもん、と阿部をチラ見する。
調度ケータイが鳴って、阿部が立ち上がった。弟のついでに拾って貰うらしい。
しばらくすると、他の残ってた連中にもそれぞれ迎えに来て帰っていった。
窓の外は大きな音を立てて、雨と風でかき回されている。
練習出来ないのはイヤだけど、台風は好きだ!
傘なんか差さない。思いっきり濡れて帰って、服はそのまま洗濯機に直行。台風バンザイ!
廊下に出たところで、見るはずの無いモノを見た。しのーかだった。
モモカンに送って貰うとかで、最初に帰ったと思ってたのに。
「しのーかー!なんでいんのー?」
嬉しくなって、叫んでいた。
ラッキー。また、しのーかの顔が見れた!
だけど、しのーかは飛び上がりそうになって、恐る恐る俺を振り返った。
「田島くん。あ、明日のミーティング用にデータ集計やってたの……」
「ふーん?帰んのか?今、雨凄いぞ。俺は濡れて帰る気だからいーけど」
「う、うん……」
「ウチ来るにしても、濡れちゃうだろーし。な、一緒に、通過すんの待たねぇ?
明日ドコ行くか相談したかったし」
しのーかがびくりとした。迷惑だったみたいだ。
泣いたらしのーかがもっと困るから、俺は頑張って笑う。
「あ……。しのーかがイヤなら、もー誘わねーから」
しのーかを1人で残すのは心配だったけど、俺と一緒にいるよりはマシだと思う。
あと何時間かすれば、雨は小降りになるし。
「じゃー、俺帰る」って言って、踏み出そうとした俺の腕を、しのーかが掴んだ。
「田島くん、帰らないで」
しのーかが震えていた。
女の子だから、台風の中に1人で暗い校舎にいるのは恐いんだ、と思った。
「いーよ。ゴメンな。阿部じゃなくて」
「そんなことないよ。それに阿部くんは帰ったし」
なにげなく、しのーかが答えた。
途中で阿部の姿が消えたの、家族が来たからじゃなくて、そーいうことだったんだ。
がっくりした俺を見て、なぜかしのーかが慌てた。
「わ、私が7組にいて、阿部くんは忘れ物取りに寄って。ちょっと話しただけ」
「別に俺、気にしねーよ」
しのーかの隣が辛くて、廊下の窓に寄って外の雨を確認した。
まだ強い。ホントに止むのかな。
今、外に出たらムシャクシャした気持ちも吹き飛ばされてスッキリしそうだった。
「電話、しようと思ってたの」
「阿部に?俺、どっか消えてよーか?」
「田島くんにだよ」
思わずしのーかに振り向いた。しのーかは緊張気味に続けた。
「もうお家に帰ったと思ってて。一応、下駄箱を確認しに行く所だったの」
「俺に話って、なに?」
しのーかは黙ってしまった。雨音が強くなる。
しばらくして、雨音にかき消えそうなしのーかの声がした。
「阿部くん、に、『一緒に台風が通り過ぎるのを待とうか』って、言われて……」
なんだ。もうしのーかとは何でもないって言ってたけど、阿部もフォルダ保存かぁ。
聞きたくなかった。けど、しのーかが話したいと思ってるから、我慢して俺は頷く。
「『家族の迎えを断れば、夜まで一緒にいられるけど』って。でも、私が一緒にいたいのは
田島くんだったから」
「えぇ?」
俺?阿部じゃなくて?
「教室で作業してて、田島くんはきっと台風でも私が『会いたい』って言ったら、来てくれるん
だろうなって思いついて、1人で笑ってたの。田島くんだと、私はお母さんか保母さんみたいに
我慢するんだと思ってたけど、甘えてるのは私の方だって……やっと、気づいて」
「そりゃぁ行くよ?近いからそう思ったんだろーけど、遠くてもしのーかが言うなら俺行く!」
「田島くんが風邪引いたら困るでしょ。『今、声が聞きたいって思うのは田島くんなんだよ』って
言ったら、阿部くん判ってくれた」
しのーかは、阿部にちゃんと言ったんだ。あれだけ好きで、もしかしたら忘れられないかも
しれないって言ってたのに。
しのーかは顔を赤らめながら続ける。
「阿部くん、『アイツなんでとっとと襲わねーんだろ』って田島くんのこと不思議がってたよ。
『そーいう場合はチンコ蹴って逃げろって、田島くんに教えて貰った』って答えたら、阿部くん、
『既にオメー、田島に感化されてんな』って呆れてた」
「はあぁー?」
たしかに言ったけど、なにも阿部に言わなくたって!
それじゃ俺、いつも下ネタ言ってるバカみたいじゃん。
あ。言ってるから、自分が蹴られそうで、我慢してたんだっけ。
俺はしのーかが好きだから、甘えてくれるなら嬉しいけど。甘えられてたのかな。
判ったよーな判らないよーな顔の俺を見て、しのーかがクスリと笑った。
「こんなんでいーなら、いつでも甘えていーからなっ」
「うん。でも、田島くん、私で良いの?」
暴れたくなってきた。俺が悪いの?何百回言ったか、覚えてないくらい好きだって言ったのに。
「怒るぞ。俺、ずっとしのーかを待つって言ってたのに」
「だって、イヤじゃないの?私、今まで……」
しのーかが言いかけて止めた、その表情で意味が判った。
「……あ、そーか。俺、阿部と比べられるんだ!」
「く、比べるなんてそんなっ」
しのーかは真っ赤になって否定する。手をバタバタさせて、
「考えないようにするから」
「うん!俺も負けないよーにがんばっからな!」
ニカッと笑って言うと、「がんばるって……」としのーかが苦笑いした。
「ちゃんと気持ちの整理ついたの。待たせてゴメンね。……好きにして、良いから」
恥ずかしそうに、囁くような声。俺は嬉しすぎて泣きそうだった。
えーと、どうしよう。教室でもいーけど、出来れば……。
「場所、変えよーぜ」
「え?い、今から?」
「好きにしていーんだろ?」
――side篠岡――
田島くんに連れて行かれたのは、先生が帰って無人の保健室だった。なんで?
鍵が掛かってて入れないと思ってたら、ドアから少し離れた上の小窓に田島くんが飛びついて、
スライドさせて開けてしまった。
「ラッキー、締め忘れ」
「……薬品あるのに、物騒だね……」
器用に田島くんが乗り越えて、向こう側に消える。運動神経の良さに改めて感心してしまう。
さっきの田島くんの目。キラキラでおもちゃを目の前にした子供みたいだった。
早くても、明日かと思ってたのに。何をされるんだろう?とちょっと不安になったけど、
初めてじゃないし。多分、大丈夫……と思う。
ロックを外す音がして、ドアが開いた。
中に足を踏み入れると、あのギョロリとした田島くんの目が、私を捕らえていた。
田島くんは鍵をかけると、私の手を引いてベッドに連れて行った。
外はうす暗くて、電気をつける訳にもいかないから、目が慣れるまで手探りになった。
「私が寒そうだったから、保健室に?」
思わず聞いていた。あれだけ待たせた上に気を使わせてしまって、申し訳なくなる。
「うんにゃ、俺のシュミ!」
「シュミ?」
ベッドの上に座らせられて、興奮気味の田島くんが私の胸のリボンをほどき始めた。
自分でやる、と言うのを無視して、ブラウスのボタンも外される。
そのまま押し倒されそうになったので、慌てて靴を脱がせて貰ってベッドに横になった。
田島くんは馬乗りになると、手早く自分で服を脱ぎ始めた。ちょっと鼻息が荒い。
私のブラを取り上げてしまうと、田島くんの目が輝いた。ペロリと舌が上唇をなぞる。
ロコツな下心は苦手だけど、田島くんは自然すぎて、私もつられて笑顔になる。
「田島くん、初めて?」
「うん!キス以上に進もうとすると『怖い』って女の子に泣かれてちゃってさぁ。
俺がスケベだって知ってても、オスな俺はイヤだって」
もし、阿部くんと付き合ってなかったら、私もそうだったかも。明るくて面白い田島くんと、
これからすることを考えると変な気分。今までもあまり想像出来なかったし。
田島くんは両手ですくったり指で胸をプニっと押したり、揉んでみたりに熱中して、
まるで実験をするように私の反応を見ていた。くすぐったくて一緒に笑った。
突起をカプっと咥えられ、ため息が出てしまう。私は田島くんの頭を撫でて、両手を背中に回した。
「時間、あるからゆっくりでいいよ」
「うん。すっげー柔らけー。ふにふにして気持ちいー」
そう言うと、田島くんが胸を持ち上げるように揉みしだきながら、唇を重ねてきた。
舌が入ってきて、優しく弄る。久しぶりだった。夢中で田島くんにしがみついていた。
ふいに唇を離されたので目を開けると、糸を引くのが見えた。
おでこ同士をごつんとつけて、田島くんは真っ直ぐ私を見た。
「しのーか、好きだ!」
判ってる。何度も言ってくれた。「待ってて」と言ったのに。落ち込んでいる暇もないくらい頻繁に。
「私ね、怖かったの……」
「ゴメン。俺、しつこいから」
違うよ、と答えたかったのに、さらに押し付けるような激しいキスをされて、遮られてしまった。
田島くんが上に乗り、赤ちゃんみたいにチュウチュウと音を立てて胸を吸っている。
突然それを止めると、
「なぁ、縛っていい?」
「えっ?」
どこを?どうしてそんなことするの?
私の顔を見て、田島くんがちょっと口を尖らせた。
「しのーか、好きにして良いって言った」
「良いけど……。ちょっと、イヤかも……」
って、聞いてない。田島くんはさっきほどいた私のリボンを手にして、パシンと鳴らした。
手早く私の両手首を結んでしまう。田島くんはとても楽しそうだった。
そうして、手を頭の上にして、ベッドの手すりに縛り付ける。
「た、じま、くん?これ、なに?」
「イチバン最初に見たのが、こーいうのでさ」
「な、なにが?」
ああ、エッチなDVDとか?田島くん、それの真似するつもりなの?
少女漫画でこんなのあったかも。美人主人公じゃない私は、カッコイイ先輩が悪者から助け出して
くれることはないし、ホラー映画なら最初に殺されてる。あ、田島くんが正義の味方だった。
なぜかその田島くんによって、暗い部屋で自由が利かず、外は嵐で不安で涙が出そうになっている。
「すげードキドキして、大人になったらぜってーやるんだって決めてた!」
まだ子供だから無茶しないでって言いたいのに、怖くて声が出なかった。
「ソレが、未だにイミ判んねーんだけど花瓶と花をさ……。ココにねーから、まあいーかぁ」
お花、無くて良かった!でも、お花でなにされるとこだったんだろう……???
田島くんがニカッと笑う。首筋に舌が這い、耳元で言われた。
「心配すんなって。痛いことしねーから」
「ん……」
や。息が止まった。ゾクゾクして、身体の中心が熱くなってきゅうっと力が入る。
胸の先端をれろっと舐め上げられた。
「ゃぅっ!」
ゾワリと快感が走り、声を上げてしまった。ニシシ、と田島くんが笑う。
さっきと同じことをされてるのに、田島くんの舌の動きに反応して、
ガクガクと身体が震えだした。動きたくても、縛られて身動きが取れない。
こんなの、イヤ!
「ほどいて……」
涙声になっていた。自分が自分でないみたいで、怖かった。
気持ち良くて混乱してることを、田島くんに知られたくない。でも……。
「こんなに硬くなってんのに。嫌い……?」
胸の突起を押しつぶすように刺激される。
「あッ、んぁ…」
ヒクヒクと反応して、変な声が漏れてしまう。
ほらねー、と田島くんが嬉しそうに言って、私のスカートを捲り上げた。
田島くんが何を見ているのかは判った。阿部くんに付けられた痣はもう消えている。
その、あった箇所を田島くんが撫でた。身体に緊張が走る。
ゆっくりスカートを下ろされて、震える手で下着も取り払われた。
思わず目を閉じた。触られる、と覚悟していたのに、田島くんは動かなかった。
目を開けると、じっと、光る目で私を見ている田島くんがいた。
「よく見えねぇ。電気、つけちゃダメ?」
きゃー、なに悔しそうに言ってんのーっ!
全力で首を振る。こんな姿の自分をさらけ出すなんてイヤ。絶対イヤ。
むー、と田島くんは子供みたいに拗ねた。
「しのーかがいっぱい見たいのにー」
もう、判って。無言で訴える。
田島くんは「ま、今度でいっかぁ」と、どうにか諦めてくれた。
痣のあった場所をもう1度撫で回すと、おずおずと足を広げていく。
田島くんは1つ息を吐き出して、指で割れ目をなぞり、差し入れてきた。
「や、やだっ」
そんな風に広げないで。見ないで。差しこまないで!
「へー」とか「こんななんだー」とか、田島くんのリアクションが恥ずかしい。
最初は身をよじって抵抗して嫌がってたのに、身体はいいなりになってしまう。
私の反応を確かめているのが判った。いやらしい音をたてて、ヌルヌルとお腹側の
感じる場所をかき乱され、熱に浮かされたように体中が熱くなる。
「んッ、はぁ、ヤ、ヤメ……」
もう、限界だった。
ふいに腕が自由になった。
心配そうに、だけど高揚した田島くんが顔を覗きこんでいる。
「ゴメン」
「なん、で?」
こんなことするの?私のこと、好きじゃなかったの?ヒドイよ田島くん……。
涙で田島くんが歪んで見えた。鼻の頭がツンとなる。
「しのーか、今まで振り向いてくれなかったから、ちょっとイジメたかった」
ほどいたリボンを手に、田島くんが指で涙を拭ってくれた。
「怖かったの……」
「ゴメン、もうしねーから」
私は首を振った。
「違うの。気持ち良すぎて、怖かった……」
前に田島くんにされたキスは、身体の中からトロリとして、頭がおかしくなりそうだった。
自分が変になるのが怖くて、好きだって言ってくれる田島くんから逃げ続けた。
謝るのは、田島くんに甘えてた私の方。
「俺、嫌われてなかったの?」
素直に頷いた。今度は田島くんが泣きそうになる。
野球の時はあんなに強気な田島くんが、ちょっと弱気になってたのが意外な気がした。
「俺、判んねーけど、がんばっからな!」
十分がんばってるから、これ以上張り切らないで欲しいな、と少しだけ私は思った。
田島くんの手がお腹に触れた。
おへその下をキスされる。
足の間に田島くんが顔をうずめて、舌を使って優しく舐め取られる。
信じられないような声が出てしまい、思わず自分で口を塞いだ。
「しのーか、感じてる?」
「しのーか、好きだ」
いっぱい、話しかけてくれる。何度でも言ってくれる。言ってくれなかったあの人とは違って……。
比べちゃダメ――。
笑ってる田島くんも好きだけど、真面目な顔はカッコイイ。言わないけど、野球の時の真剣な男の子は、
凄みが増して独特の色気がある。今の田島くんは、別の意味で色っぽかった。
舌、長いのかな。凄い。こんなトコまで……。
田島くんだけでいっぱいになる。
「もーダメ!挿れさせて……」
そう言うと、田島くんはゴソゴソとやり出した。私は朦朧とした意識の中、保健室の天井を見ていた。
ゴムの、判るかな。手伝って上げたいけど、私も判らないや……。
私は未熟で、教えてあげられることなんてたいしてない。そう思ってた矢先、私の疼くソコに、
田島くんの熱いモノが押し付けられた。腰を浮かせて、正しい場所にそれを導く。
ぐちゅっぐちゅっと音を響かせて、田島くんが激しく腰を揺らした。
「んはぁ、すっげ……ッ、しのーか!しのーか!はッ、やべ、よすぎ……!」
田島くんの高ぶった声と動きに合わせて、ギシギシとベッドが揺れる。
私の身体が反応してガクガク痙攣する。
涙が出てきた。
なんでもっと早く私、こうしなかったんだろう……。
私は薄れゆく意識の中で後悔していた。
気が付くと、田島くんがぎゅっと私を抱きしめていた。頭を撫でてくれる。
「俺、良かった?」
「うん……」
「しのーか、すげぇエロい声出すんだな」
精いっぱい、我慢したつもりだったのに。多分、顔が赤くなったと思う。部屋が暗くて良かった。
「でもさ……。うーん」
そう言って、私を抱き抱えたまま、ぐるんと転がる。私が田島くんの上に圧し掛かる体勢になった。
「今度は、しのーかがやって」
「……え?」
「上になってもう1回戦。ダブルヘッダー。ニシシ」
きゃー、なんてこと言うのーっ!
「も、もう帰らなきゃ……」
「時間、たっぷりあるだろ。俺はダブルでもトリプルでもクアドラブルでも……」
アイススケートのジャンプじゃないんだから、そんなに出来ないよ!
「た、田島くんっ、アスリートは身体が資本だよ。休もうね」
「ダイジョーブ!俺、持久力には自信あっから!」
田島くんの瞳が輝いている。あああ。そうでした。田島くんの運動神経は学校で1番……。
眩暈がした。
「え、えーと……私は自信ないから……」
逃げよう、と決めた。もちろん体力には自信があるけど、壊されそうな気がする。
それを察したのか、田島くんはすかざす私を捕まえた。
「しのーか、ソフトやってたんだろ?な、身体やーらかい?」
「あ?」
「あーもう、やっぱ電気つけてい?見てーよ俺!」
「やめてやめて!」
田島くんは私の言うことも聞かずに、ベッドから跳ね起きた。
しばらくして、部屋の電気がついて明るくなった。軽い足取りで田島くんが引き返してくる。
この間に、私は逃げれば良かったのに。私は田島くんの裸は見慣れてる(?)けど、田島くんは
私を見るのは初めてで。明るさに目を慣らすほんのわずかな隙に、田島くんが飛びついてきた。
「や、やらしいことしたら怒るよ」
「はぁ?この状況で、なに言ってんだよ」
言いながら、私の身体を遠慮なしに見ている。
私は目のやり場に困って、そんな田島くんの表情を見ていた。意外に、真面目な顔。
「しのーかの身体、キレーだな」
「そんなことないよ。変な日焼けしてるし」
「そりゃ、俺の方が凄いって。もっと、見ていい?」
お世辞でも褒められるのは嬉しくて、私はうん、と頷いていた。
田島くんは私を抱きかかえると、胸を隠していた腕をどかして、なぜか右足を持ち上げた。
「た、田島くん?」
なんだか、観察する目じゃない。何かを企んでる目だ。
田島くんは私の足を自分の肩に乗せると……いきなりあてがった。
自分の体勢も信じられないけど、硬くなったものが擦り付けられる感触に悲鳴も掠れてしまう。
「たしかコレ、すっげー奥まで挿れられる体位!」
ちょ、ちょっと待って!なにしてんのっ!
やっていい?と、無邪気に聞いてくる田島くん。ギブギブ、と真っ青になって首を振る私。
絶対無理。回数をこなすより、ゆっくり愛されるのが好きなのに。こんなのイヤ。
一生懸命、田島くんに「怒るよ」と訴える。無理です。許して。お願い。なのに――。
「くはー、我慢できねぇーっ!」
田島くんは叫んで、パンパンに熱くなったものを私に押し当てると、身体をぶつけてきた。
奥深く、ズブズブと呑み込まされ、私には初めての領域に踏み込まれてしまいパニックになる。
「ゃ、あ!なにすん、あッ、んぁ!」
「…かぁ!しのーか!ハァ……クソッ」
グリグリと私の奥を刺激して、激しく突き動かす。今まで感じた事のない快感が身体中に浸透してゆく。
その激しさに翻弄され、私の頭の中は真っ白になった。
私はぼーっとして、ベッドに横になっていた。身体はドクドクと痛みで脈打っていた。
田島くんに背を向けて拒絶する。
見せる顔がなかった。あんなに嫌がってたのに、私……。
田島くんが覆いかぶさるように耳元で話しかけてきた。
「しのーか、イッた?」
「知らない」
さすがにちょっと頭に来たので、田島くんから顔を逸らして別のことを考える。
時間大丈夫かな。もう帰ろう。小雨になってる筈だから。そう思ったけど、だるくて身体が動かない。
「しのーか、ギュウギュウ締め付けて、俺のこと離してくれなかったじゃんー」
その時のことを思い出してしまって、顔が熱くなった。恥ずかしくて消えてしまいたくなる。
「しのーか、俺のこと嫌い?」
心配そうに、田島くんが聞いた。
「――大好き……」
「ホントか?」
うん。今まで言ってくれた「好き」を全部足しても足りないくらい、田島くんが好き。
でも、同じくらい憎たらしくて、枕に顔を押し付けて顔を隠した。
今日はおしまい。少し休んだら、服を着てベッドを整えて、帰らなきゃ。
改めて決意した私は、裸の肩にキスをされて身震いした。
「んん……」
こういうの、好き。終った後に優しくされると、すごく満たされた気持ちになる。
耳たぶを甘噛みされて、背中や腰の周りを唇が這い、頬ずりされる。
余分な力が抜け、くったりと身体がほどけていく。
「しのーか、なんか言ってよ」
わざと逆らうように枕に顔をうずめると、田島くんが「むー」と拗ねた。
ベッドから田島くんが下りる気配があり、すぐ戻ってきた。擦るような音がして、太股が
ティッシュで拭われる。おしりを高く持ち上げられ、膝をつくことになり、足を開かされていた。
田島くんはそこをきれいにすると、この恥ずかしい体勢のまま、指と湿らせた熱い舌を挿し入れた。
「……じま、くん、もう無理……」
一体、なにを田島くんはムキになってるんだろう、と少し不安になった。
田島くんは私の弱いところを完全に把握していて、執拗に固く絞った舌で愛撫する。
変な気持ちになってしまい。これ以上続くなら言おうと口を開きかけたその時。
「……阿部の方が良かった?」
予想外の田島くんの言葉に、耳を疑った。今、なんて?今まで、私を見ててなんでそう感じたの?
「しのーか、俺じゃ気持ち良くなんねーんだ……」
「え?」
「俺、悔しい」
反論しようと顔を上げた。私がやったことがないだけで、こういうやり方もあるんだ、と
気づいた頃には手遅れだった。
「ゴメン……最後だから」
田島くんが分け入ってくる。熱い息を吐きながら、田島くんは私を後ろから何度も突き上げた。
私は、枕に顔を押し付けて声を押し殺し、その新たな快感に耐えた。
私が、田島くんの抱える不満に気づいたのは、全てが終ってからだった。
田島くんは落ち込んでいた。私は怒る気にもなれず、田島くんと向き合う。
「電車の時間もあるから、私、もう帰らないと」
「送ってく……」
本当は、このまま眠ってしまいたいくらい疲れ果てていた。
末っ子の田島くんと、長女の私は相性が良いらしい。でも、歯車が食い違ってたみたい。
私がもっと、素直に甘えられる可愛い性格だったら良かったのに。
なぜ、阿部くんの名前が出たのかを、聞く勇気があれば良かったのに。
気持ち良さや、好きだって気持ちを上手く伝えられない自分がもどかしかった。
くりかえされた質問に、どう答えれば正解だったんだろう、と考えてある可能性に思い当たった。
もしかして、田島くんの見るAVみたいに、私に声を出して欲しくて何度も……?
機会がないからまだ見たことはないけど、友達が「彼氏に『AV女優みたいに喘がれると冷める』って
言われる」と自虐していた。控えめの方が、男の子が喜ぶんだと思ってた。
「あ、あの、私、恥ずかしくて、声出せなくて……」
「へ?」
「気持ち良いから……。ちゃんと『イク』とか?言った方が田島くん嬉しいなら、がんばるけど」
出来れば、はしたないことはしたくない。でも、田島くんが喜んでくれるなら、私が変わらないと。
チラリと田島くんの顔を見上げると、顔をクシャクシャにして田島くんが笑っていた。
まさに、そのことを気にしてたんだ、と判った。
「しのーか、可愛いすぎー!」
私は引き寄せられ、ぎゅうう、と力いっぱい抱きしめられた。苦しくて息が出来ない。
押し倒されて、足の間に割り入れられて、もう1度足を開くことになった。
「た、田島くん、明日!もう、今日は終わり!壊れちゃうからっ」
泣きが入る私の顔を見下ろして、田島くんはニシシ、と笑った。
「わーってるって!」
私の太股の内側に顔を寄せると、ちぅーっと強く吸う。
「上書き!」
こんなことしなくても、もう大丈夫なのに、と呆れつつも嬉しかった。
雨は止んでいた。今なら自転車に乗れる。……辛そうだけど。
手を伸ばす私より先に、田島くんが服を取り上げて後ろ手に隠してしまった。
「な、このまま保健室、泊まっちゃおか」
「は?帰りますって!」
「じゃ、ウチに泊まんなよ!そしたらずーっと一緒にいられるし」
「田島くん……蹴っていい?」
「ひぃっ」
田島くんが真っ青になって飛び退いた。
脱がされたものを身に付けたあと、私はリボンを手にした。
これからは、洋服も気をつけなくちゃと思った。
――side阿部――
教室に向かう廊下で篠岡と一緒になった。
昨日のことを謝るのも、無視も気まずいから、自然に午後のミーティングの話を振った。
篠岡から、昨日教室でまとめてたノートを手渡された時、その異常に気づいた。
「篠岡、手首どーした」
赤くなっている。しかも両手。擦りむいている箇所まであった。
「あ、こ、これはその……」
篠岡は一瞬で耳まで赤くなり、腕を隠してしまった。昨日の返事と、この異様な慌てっぷり。
「……田島か?」
篠岡は縦と横、どっちに首を振って良いか迷って怪しいヤツなっていた。
図星かよ。なんとも残念だが、断ち切るしかない。
固まってる篠岡には、答えなくてもいーよ、と言った。言わなくても判るし。
「アイツ、小道具好きだって自分で言ってたけど」
「な、な、なん……」
「聞かれてもねーのに、他人の性癖教えるヤツがいるか。彼女出来たらいっぱい試すとか
言ってたから、初めての彼女はすげー苦労しそーだなとか、みんなで話してたけど」
田島の妄想語りは度々あった。まさかすべてが本気だとは思ってないが。
篠岡は今度は青くなった。思い当たる節があるらしい。気のせいか、珍しく疲れて見える。
見える場所に痣作らせてんじゃねーよ、とムカついたが、さすがに可哀想になってきた。
「ひと通りやりゃ、満足すんじゃね?小道具ったってなんか塗って舐めるとか突っ込むとかだろ。
コスプレはどーせ脱がすからキョーミねーって……」
言いながら、我ながらなんの慰めにもなってねーな、と思った。
そりゃ、好きなオナニー控えてたんだから、彼女が出来たらその反動は相当なモンだろう。
篠岡が力なく呟いた。
「ひと通りって……7、8個くらいかな」
「んなの本人に聞けよ。あー、ちょっと違うけど48手って聞いたことねーか」
「知ってるよ。相撲でしょ」
「いや、あるんだって。……悪かったな芸がなくて」
俺はそーいう勉強は野球に回して、良く言えばノーマル。悪く言えば……単調、か?
身体の相性は良かったからこそ冒険はあまりせず、少しでも篠岡が不快感を持ったことは避けた。
だいたい、こんな内容の会話自体、篠岡とするのは俺に抵抗があって、今になって
「下ネタ大丈夫な人なんだ」と自分が余計な気を使っていたことに気づいた。
俺とは違い研究熱心であろう田島は、今後もフロンティアスピリッツで嬉々として篠岡を
開拓しそうな気がする。
俺の言葉に篠岡が絶句して、どんどん暗くなっていくのが謎だった。
ココは喜ぶトコなんじゃねーのか?
パタパタと軽い足音がして、噂をすれば、の田島が走って来るのが見えた。
キラキラ目を輝かせて、一直線に篠岡に向かってくる。
「しーのぉかぁーっ!」
人目もはばからず、篠岡に抱きつく田島。当然、避けた俺は視界に入っちゃいない。
「今日、ミーティング終ったら俺ん家な。昨日の続き!出かけんの、今度でいーから」
「た、田島くん、ちょっと!」
「な、約束。ニシシ」
周りの視線を気にして、必死で引き剥がそうとする篠岡に、性欲に支配され舞い上がる田島。
ストレート過ぎて見てるこっちが恥ずかしい。いや、この迷いの無さは清々しくて尊敬に値する。
持て余した篠岡が「蹴るよ」と物騒なことを言い、田島が慌てて手を離した。
すかさず篠岡は鞄に手を伸ばして、
「あ、田島くん、グミ!おいしいよ、食べる?」
「うぉ、くれくれ!」
田島はあっさりとお菓子に意識を奪われていた。単純すぎる。
そこに、食意地の張ったウチのエースが通りかかって、篠岡の取り出した袋に釘付けになる。
母親でも保母さんでもなく、餌付けに成功した調教師の篠岡がそこにいた。
篠岡は田島を、本気では嫌がってなかった。なら、俺が心配するのは余計なお世話になるんだろう。
それにしても、才能があって努力も惜しまない田島には、見習うべき部分が多い。篠岡にも。
篠岡の顔色が冴えない不安はあるが、田島だって珍しがるのは最初だけだろーし。
せめて、篠岡を壊さない程度に励んでくれりゃいーけど。
不思議に、喪失感は殆どなかった。本当の痛みは時間を置いてジワジワ襲って来るのかもしれないが。
それよりも、俺にとって最優先すべき問題はこっちだ、と言い聞かせることにする。
俺もたまには食いモンで釣ってみっか?
ほくほくと変な顔でグミを頬張っている、3年間尽くすと決めた標的を見ながら、俺は思った。
終わりです。
阿部を「単調な人」にしたのは、田島と区別するためです。すみません。
前回レスいただいて(ありがとうございました)「田島救済」のつもりで
書いてたのですが、逆に陥れたような……。
>>607 リアルタイム乙&GJです
途中で支援に入ったほうがいいかなと思ったけど、大丈夫でしたね
容量は500KBちょいまで大丈夫なんで、まだ余裕です
480KB前後までいったら次スレの季節ですな
職人さんたちいつも本当に乙です
おおいっぱい来てる!
今からまとめて読むよ
職人さん達お疲れです!
投下あっても過疎ってんだね・・
これぐらいで過疎っていってたら本当の過去スレ住人に怒られるぞ。
一週間以上経ってやっとGJや感想がつくようなところだってあるんだからさ。
あったかくなるまで待ってくれ
原作一巻の好きだよ!を絶対言わない阿部と勘違いしてる田島と篠岡がおもしろいw
615 :
名無しさん@ピンキー:2008/03/06(木) 08:34:07 ID:gkK3H59u
今晩は。303です。
前回の続きを投下にやってきました。
注意事項は
・長文注意
・榛名の先輩と涼音の友人にモブキャラが登場
・3回の2回目
こんな感じです。容量的にヤバいかもしれませんが、いけるとこまでいってみます。
それでは投下します。
翌日の土曜日。
関東地方は雲一つのない晴天に恵まれていた。もちろん、東京都もだ。
絶好のデート日和であるといえよう。榛名は昨夜の門限になんとかギリギリで間に合うことができた。部屋に戻ると、
涼音からの電話を待っていて、結局のところ長電話へと興じてしまった。
そのためなのか、少しばかり眠そうで起きるのが辛いようだった。睡眠不足とはまた別に昨日のピッチングのために、
左肩にほどよい張りと疲労感を感じつつも、肩をぐるぐるとゆっくり回して筋肉をほぐしながら起床した。
手早く身支度を済ませていく。
ホテルの階下にあるレストランにて朝食を済ませると、その場でチームのマネージャーをつかまえて今日のオフは
自由行動をとりますのでと、しっかりと伝えた。
デートかとからかい混じりながらに了承をもらって、榛名は宿舎を出た。
電車を乗り継いで待ち合わせの場所へと出向く。そこにはすでに涼音の姿があった。榛名に気付くと軽く手を振って
笑顔を見せてきている。
時刻は午前九時半前。二人が交わした約束の時間の三十分前だった。それにも関わらず、涼音はなにごともないかの
ようにしてその場にいた。
榛名は待たせるのは悪いからと、いつも待ち合わせ時間に対して余裕を持って行くようにとしている。だが、涼音より
も先に到着したことはなかった。これは二人の初デートのとき以来変わっていないことだった。
挨拶もそこそこに駐車場へと向かい、涼音の運転で昨日話したとおりにテーマパークへと行くこととなった。
実は自動車免許を取得したばかりの涼音。教習時のエピソードを聞かされていたため、榛名は涼音の運転技術が心配で
ならなかった。
しかしながら、思いのほかに安全運転であったというか。取り立てて気になるようなことはなく、上手にさえ感じられ
ていた。
榛名も昨年のオフに地元へと帰省した際に取る予定だった。だけれども、秋季キャンプにて首脳陣から今年の先発転向
を告げられていたため、念入りに自主トレへと励まなければならなくなった。
そのため、まだ免許は取得できずにいる。
それにより車の運転のことはよくわからない。ではあるものの、安全運転だなということは感じられていた。
榛名はこのことよりも、朝に会ってから涼音の顔色がいまいち優れていないように見えることが気がかりだった。
目的地のテーマパークへと到着すると、早々にフリーパスを購入してアトラクションを次々と制覇していった。榛名が
あまり得意ではない……というか、むしろ遠慮したい絶叫マシン系を主に。
こういうスリルを楽しむ乗り物は及び腰になってしまう榛名なのだが、満面の笑顔で腕を引っ張ってきてリードして
くる涼音にはなにも言えなかった。
なんとか気合でついていき乗り切ることとしたのだった。
園内のレストランにて昼食をとったはいいものの、榛名はさすがに気分が悪くなってきた様子を隠し続けることは
できなかった。
それに気付いた涼音から心配され、それと強引に引っ張りまわしすぎたのかもしれないということを謝られた。
どこか休める場所をと考えていた涼音は、案内板から近くに芝生の広場があるということを知った。そこへと榛名を
連れて行き、芝生へと腰を下ろして足を崩すと自らの太ももをぽんぽんと叩きつつ、
「ほら、膝枕してあげる」
ということで二人は木陰の下で休憩を取っていた。
午前中に乗った乗り物のことや、榛名は自分の生活のなかで受けそうな裏話的なことを話す。涼音は微笑を浮かべて
相槌を打ちつつ、大学でのことやアルバイト先でのことなどを話していた。
六月もまだ始まったばかりにも関わらず、気の早いセミの鳴き声が聞こえてきていた。気温も結構高めであるが、
大きな木の下にいることもあってか暑さはさほど感じられなかった。
「ぁふ……」
「眠くなっちゃった? 眠ってもいいよ」
「でも……」
「昨日は試合で投げたあとなのに、ご飯だけでなくて長電話にまで付き合わせちゃって悪いなって思ってたの。
ごめんね。だからお詫びに膝枕でお昼寝させてあげます。元希、膝枕好きでしょ?」
にまっと笑みを浮かべる涼音に、バツが悪そうな榛名。
結局、恋人からの申し出に榛名は甘えることにした。
夢を見ていた。あのときの夢を。
高校三年の九月。涼音に誘われて遊びに行って、ダメもとで告白したときのことを。
夢のなかでの涼音は変わらずに榛名へと微笑んでくれている。そして彼女からも付き合いたいと告げてくる。
それは、榛名が時折――昨年に涼音と離れ離れとなってから見るようになった夢だった。
「……んっ」
「あっ、目が覚めた?」
夢のなかと変わらずに榛名へと涼音は優しい笑顔を向ける。身も心もなにもかも全てを許してくれている、そういう
雰囲気を榛名は感じ取っていた。
「どれぐらい眠ってましたか?」
「あともうちょっとで一時間ってとこかな。もう少しのんびりしてよっか? ううん、また眠っていいよ」
その言葉に榛名は面食らってしまった。すぐにでも遊びに行こうと言ってくると思っていたのだ。
「えっと、どうして?」
「んー、寝顔が可愛いから」
「……っ」
すっと目を細めて彼氏の顔を見詰めつつ、涼音は自らの膝に乗せた頭を撫でて髪を指で梳いていく。彼氏が顔を完熟
トマトのようにしている姿は目に入っていないらしい。というか、それすらも楽しんでいるという風情だった。
「え、えっと、前から聞きたいことがあったんですけど……。いいですか?」
相も変わらず頬を赤くしつつ榛名が口を開いた。
「うん、なに?」
「涼音さんって、なんでオレのこと好きになってくれたんですか?」
「うーん、そうだね。ちょっと長くなるかもだけど、いい?」
無言でそっと肯定してきた榛名の頭へと両手を寄せつつ、涼音は顔を上げて遠くを見詰めていった。
「最初はね、可愛い後輩だなってぐらいの認識だったかな。あのころは付き合っていた人がいたわけだけど、でも
年下の可愛い男の子から寄せられる純粋な好意には悪い気はしなかったわね」
「……ちょっと待ってください。オレが好きだってこと始めから気付いてたんですか?」
「もちろんだよ。女の子はね、自分に向けられてくる視線には敏感なんだから。というよりも、このことで野球部で
知らないというか気付いてなかったのって、元希ぐらいじゃなかったかな」
「…………」
過去の自分の隠していたというふうに考えていたことが、実は周知の事実だった。そのことを知らされて榛名は、
顔を赤くしたり青くしたりと忙しなかった。
「最初に意識したのは、わたしが三年の夏の最後の試合のあとだったかな。元希、すごい泣いちゃったでしょ。三年の
わたしたち以上に。自分が泣いたことよりも、号泣し続ける元希を慰めて励ましてたって記憶のほうが強いんだよね」
「あの試合に負けたのはオレのせいでしたから……。オレが八十球でマウンドから降りなければ、続投してれば勝負は
まだわからなかったのに」
榛名にとって二度目の夏。
その試合、いつもどおりに先発したのは先輩の加具山だった。予定の三回をなんとか投げきったものの、優勝候補筆頭
と称された対戦相手校の前になんとか土俵際で踏ん張れたという具合であった。
四回からマウンドを引き継いだ榛名は、嫌な予感がするのを拭いきれなかった。相手のエースはプロ注目の好投手。
武蔵野にとっては荷の重すぎる存在だった。事実、試合になっているのは懸命になって投げ込む榛名の孤軍奮闘のおかげ
であった。
そしてそのときは訪れた。
九回表の相手校の攻撃。前の回にて八十球に達していた榛名は迷っていた。自分がまだ投げるべきじゃないのかと。
そんな球数制限とか関係なしに投げなければならない。三年のこの先輩たちと一緒にまだ野球をしていたい。
自分に野球の面白さと楽しさを思い出させてくれた――あたたかい居場所を作ってくれた先輩たちに、自分はまだ
恩返しができていない。
だが、怖い。どうしようもなく怖かったのだ。
怪我が、また故障してしまうのではないか。そう、慎重に慎重を重ねて積み上げてきたものが、今度こそ全てを一気に
崩れ去って、台無しになってしまうような再起不能な怪我を負ってしまうのではないかと。
『オレの出番だな。大丈夫だよ、そんな顔すんなって。おまえのおかげでライトにフライ飛んでこなくて守備機会は
なかったし、十分に休めたから』
青い顔で逡巡する榛名へと、そう気丈に話して再びマウンドへと上った加具山。しかし、三回を終えた時点ですでに消耗
しきっていた。彼の限界はあっというまに訪れて、相手校の猛攻が始まった。その攻撃は止まらなかった。
どう中立的に見ても、形勢逆転は不可能なまでに追い込まれてしまった武蔵野の九回裏の攻撃は、あっさりと三者凡退に
終わった。
こうして、榛名の二度目の、涼音にとっては最後の夏は幕を閉じた。
「何度も何度も謝り続ける元希を見ていて、こう言っちゃったんだよね。あと二回あるチャンスをものにして、甲子園に
絶対行ってってね」
「そうでしたね。スゲー痛いビンタ食らって驚いて涙が止まったんでしたっけ」
「うっ……、覚えてたの?」
涼音は片頬をひきつらせて視線を泳がせる。
「『いい加減にしなさいよっ!? 辛いのはあんただけじゃないんだからね! わたしたちに申し訳ないって思うなら、
あんたがしっかりして新チームを甲子園に連れて行きなさいッ!!』 ……って、胸倉掴まれて豪快に引っ叩かれたん
だから、そりゃ覚えてますよ」
「だ、だっていつまでもメソメソしてるとこなんて見たくなかったし……。頭に血が上ってなにがなんだかわからなく
なってたっていうか……」
当時のことを思い出してしまった涼音が紡いでいく言葉は、尻すぼみに小さくなってしまった。
「でも、あれで目が覚めたんですよ。オレがチームの中心になるんだから、ちゃんとしなきゃって。秋からは球数制限も
取っ払って投げ込んでいって、練習量ももっと増やしていって」
「ときどき様子を見に行っていて、それで思ったんだよね。元希変わったなって。実はかなり前からは大河とは上手く
いかなくなってて、いろいろと考え込んじゃってたんだけど、練習に没頭している元希を見ていて自分も頑張らなきゃ
って思って、受験に集中して乗り切れたんだよ」
ほんのすぐそばでは彼らと同じ客たちによって喧騒が続いている。だがしかし、広場にて休んでいる榛名と涼音の耳には
入ってこなかった。
まるでこの空間が隔絶されてさえいるようでもあった。
「元希のその頑張る姿を目にしているうちに意識しちゃってたんだと思う。大河から別れ話を切り出されてもそんなに
ショックじゃなかった。あんなに好きだったはずなのに。でも、わたしの目は自然と一生懸命に頑張っている後輩へと
向いちゃってたんだよね」
涼音は微笑みながら自分を見上げてくる榛名の頭を優しく撫でていく。
「卒業して大学に進学して、なにか物足りないなって感じてた。高校で野球部のマネジやってるときが一番楽しかった
なとか、元希の練習している姿を見たいなとかそんなことばかり考えちゃってた。
夏になって、家で新聞を見ているときに高校野球の特集記事があってね。そうか、夏がまた来たんだなって思った。
それから組み合わせ表を見て武蔵野の試合日程を確認して、初戦から見に行ってみることにしたの」
「えっ、最初から……ですか?」
「うわっ、なにそれ? 暇人かって思ったでしょ。……まあ、否定できないんだけどね。大学生って基本的に時間が
有り余ってるし」
ジロっと上から睨まれて榛名は体をすくめていた。
「元希の投げている姿を見て素直にカッコいいって思った。それと胸がドキドキするのをはっきりと自覚したよ。
ああ、わたしはこの人が好きなんだってね」
「……っ」
「それで順調に勝ち進んでいって、準決勝ではわたしたちが完膚なきまでに負けちゃったARCも見事に倒しちゃって。
スタンドで応援してて、最後は涙が止まらなかったよ」
「三年になってからはプロ入りも大事だけど、甲子園に行きたいって思いのほうが強かったかもしれません。ARCが
一番の強敵だから、あの夏以来ばりばり意識してましたよ」
「決勝も勝って甲子園行きを決めて、うちの学校って初出場だったから大騒ぎだったでしょ」
涼音の言葉に榛名は黙って首肯した。
甲子園常連校であるARC学園に勝っただけでも一騒動だったのに、甲子園大会に出場できるということで、学校関係者
はおろか近隣の住民をも巻き込んで空前の野球部フィーバーが巻き起こったのだ。
「応援ツアーのお知らせがハガキで来てね、迷わず申し込んだよ。甲子園に行けてホントに感動した。それだけでも感激
させてもらったのに、優勝候補を立て続けに撃破してベスト8まで入っちゃってね。勝つたびにOBの皆で勝利の校歌を
熱唱できて……。ホントに嬉しかった」
にこにこと笑顔を湛えていた涼音の顔が、何故か次第に強張っていく。
それを目にして榛名は戸惑ってしまう。
「それからいろいろ考えてね。ダメだったとしても勇気を出して、この気持ちを伝えなきゃって緊張しながらメールを
送ってはみたはいいけど。どこかのだれかさんは半月以上っていうか一ヶ月近くも無視してくれたのよね……?」
「い、いや、あのときは同じような内容のメールばっかで、返信するのが面倒で……。で、携帯を放っておくことにして。
だから気付けなくて……」
「わたしがその間どんな気持ちで過ごしてたかわかる? メールの着信があるたびに緊張して、でもそれは待っている人
からのものではなくて。一日に何度も携帯を開いたり、新着メールがないかセンター問い合わせをしたり……。
わたしのことなんて忘れちゃったのかなって思ってたんだから」
「本当にすみません」
非があるのは明らかに榛名だった。そのために謝罪の言葉を口にしてお許しを願い出る。
「初めて一緒に遊びにいって、それで告白されて……。もうすっごく嬉しくて、心臓がおかしくなるんじゃないかって
ぐらいに激しくばくばくしてた。それから今まで本当に幸せだったよ。大事にしてもらっている、愛されているなって
何度も感じてきたからね。
でもね、元希のプロ入りが決まってからは不安だった」
「えっ……」
「埼玉を出て遠く離れた場所に行っちゃうから。だからそれが心配で不安で……。いつ別れを切り出されるのかって
怯えちゃってたの。わたしはこんなに好きなのに、元希はどう思ってるのかとか悩んじゃったりしてね」
「…………」
「そんな顔しないで。さっきも言ったけど、今でも幸せだし愛されているってわかってるから。だから、これからも
仲良くしてくれると嬉しいな……ダメかな?」
瞳を潤ませて涼音は榛名の顔を覗き込んでいく。榛名はその端正な顔を手で優しく抱き寄せて口付けていった。
自分の純粋な想いを伝えようと、その行為に全てを託して。
「――ん。もちろんですよ」
「えへへ、ありがと。大好きだよ」
そしてお互い共に笑顔を浮かべていた。晴れ渡った天気に負けないほどに榛名と涼音の笑みは輝いていた。
穏やかな時間を過ごしていた榛名と涼音。穏やかな時間であったはずなのだが……。
彼氏の顔へと注がれていた彼女の視線は、移動したさきのモノへと釘付けとなった。その、立派に勃起してしまって
いる分身へと。
涼音からの熱い視線を感じて、榛名はようやくのことで自らの状態に気付いた。昼寝とはいえ、寝起きである。
つまり、起き上がってしまうものが起き出してきてしまったということだ。二十歳と若い男だし、心底惚れ込んでいる
彼女と甘いトークを展開して最後はキスで仕上げ。これでは勃起しないほうがおかしいというものだろう。
「……ねえ」
沈黙を先に破ったのは涼音だった。視線は変わらずにそちらへと固定されている。
「その、エッチしたいの……?」
「…………」
彼女から放たれた剛速球に彼氏は見事に空振り三振を喫してしまった。榛名はどうしたものかと考えを巡らせていく。
「したいの? それともしたくないの?」
いつにもまして積極的な涼音であった。余計なことを考える時間を与えるつもりはないらしい。
「したい、です……」
「そう。でも、ごめんね」
正直に答えた榛名を待っていたのは、まさかのお断りであった。これには思わず榛名は消沈してしまった。
「あっ、そのイヤとかじゃないのっ。その今朝、あの日が来ちゃって……、それで出来ないっていうか……」
「ああ、はい」
合点がいった。理由もなくイヤだからと拒否されてしまったのかとショックを受けていたものの、そうではなくてほっと
胸を撫で下ろす。
それと、今朝方に会ったときの顔色が悪かったことも納得がいった。女性の月のものは個人差があるという。
以前に涼音から聞いた話では、彼女の場合は結構重たいらしくていつも憂鬱だということだった。
「その、大丈夫ですか? 今日はだいぶはしゃいじゃってましたけど」
「うん。お薬飲んできたから大丈夫だよ。せっかくのデートなんだからたっぷり遊ばないと。それに本格的なのは明日
からだしね。まあ、お薬飲んでればだいぶマシにはなるから心配ないよ。ありがとね。それより……」
「はい?」
「いいことしてあげよっか? エッチはできないけど、その代わりにね」
「……?」
「いいからいいから。ほら立って。膝枕はもうお終い」
上半身をぐいっと起こされて榛名は立ち上がることになった。続いて涼音もそうすると、バッグを持って榛名の手を
引いて歩き出していった。
なにがどうなるのかわからないものの、榛名は淡い期待を抱いて涼音へとついていくことになった。
涼音と榛名の二人は園内を十分ほど歩いていた。決して行き当たりばったりということではなくて、先導していく涼音
はなにかを見極めながら進む方向を決めているようだった。
そのため、榛名はなにも言わずにただ黙って涼音のあとをついていっていたのだが。
「うん。ここなら大丈夫っぽいね」
「……はあ?」
ようやくのことで足を止めた涼音。それにより榛名も当然彼女の横にて立ち止まる。落ち着き払っている涼音とは
対照的に、榛名は戸惑いを隠せなかった。
テーマパーク内の外れに位置するトイレ――。二人がいるのはその施設の前だった。この近場にはアトラクションなど
がないため、二人以外には人気がまったくなく、実に閑散としたものであった。
アメリカに本店を置く外資企業による遊園地ではあるものの、日本を代表する遊園地でもあるここ。
土曜日、つまり週末であるため、たくさんのお客の姿で実にすごいことになっていた。今日も榛名と涼音のように若い
カップルから、小さな子供を連れた家族まで幅広い層の人々が訪れていた。
だが、榛名たちが現在いる地点は人っ子一人として見当たらず、遠くからはちょうど始まったらしいパレードの音楽と、
それに対する見物客たちから沸き起こる歓声が聞こえてくるばかりだった。
「元希、こっち来て」
呆然としている榛名を置いて女子トイレに入っていた涼音が、入り口から顔だけひょっこり出して手招きする。
「…………」
(ちょっと待ってくれよ。女子トイレに入って来いってことだよな? 女子トイレだぞ、女子トイレ……!?
こんなとこ入るなんて変態そのものじゃねーかよッ!!)
うだうだまごまごとしている彼氏を見ていて彼女は苛立ったらしい。ツカツカと榛名へと歩み寄ってくると、有無を
言わせずにそこへと引き込んでいってしまった。
二十年間生きてきて初めて入った女子トイレ――。そこはいつも出入りしている男性用のものとは明らかになにかが
違っていた。
トイレ自体は当然ながら個室だけ。嫌な臭気は一切漂ってこず、鼻腔には良い香りのようなものさえ感じられた。
さすがに世界を股にかけるテーマパークに存在するトイレだけあり、離れた場所に位置するにも関わらず掃除が細かい
ところまでしっかりと行き届いている。不潔だと感じることは一切なかった。
「…………」
図らずも声が出てこずに絶句している榛名の手を引っ張り、涼音は一番奥にある個室へと引っ張っていって、そこへと
彼氏を押し込むと自らも入って鍵を掛けた。
二人だけの空間だった。辺りからは物音一つとして聞こえてこない。まだまだ困惑している様子を隠せていない榛名へと
涼音はにっこりする。
「もう時間も時間だし、今からホテルに行くわけにはいかないでしょ?」
ちらっと手元の腕時計へと目をやる。午後二時過ぎだった。夕方には二人は別れることになっているので、涼音が言う
ように確かに時間に余裕があるとは言いがたい。
「えっと、なにを……?」
誰も入ってくる可能性はほとんどないとはいえ、やっぱり気になるため榛名は声を抑える。
「だから、いいことしてあげるって言ったでしょ。……んっ」
便座へと榛名を座らせると涼音は膝の上へと腰を下ろして唇を重ねていく。榛名の頭を両手で抱え込んでキスしていく。
(誰も来ないだろうし、それなら楽しまなきゃ損か)
腹を括った榛名は、涼音の背中へと腕を回して抱きしめていった。そのままに舌を涼音の口腔内へと入れて熱心に
舐めまわしていく。白い歯、歯茎、そして涼音の舌と絡めあって淫らな音を個室内へと響かせていく。
(んっ、そうそう。やっと火が点いてくれたかな……。もうちょっとわたしのこと可愛がって。さすがに気分が出ないと
恥ずかしいからね)
「んっ、ちゅっ、くちゅン。ふぅっううあぁ」
うっとりと恋人との口付けを楽しむ。榛名からもたらされる快楽で嫌いなものはない。そのなかでもやっぱり一番好きなの
がキスだった。唇を舐めて舐められて、お互いの口内をまさぐりあい、唾液を交換しあってそれをコクンと嚥下していく。
ただそれだけのことなのに、どうしても夢中になってしまう。
(んっんんっ! そう、もっと奥の奥までぺろぺろしてっ。ああン、もうおっぱいなの?)
榛名はキスを続行しつつも、背中へと回していた手でブラのホックをプチッと難なく外した。それにより、涼音の豊かな
乳房が拘束から解放されて自由となった。重力に負けない、関係ないとばかりにツンと上を向く若さに溢れているそれ。
服越しにゆっくりと愛撫されていく。キスのために双眸を閉じていた涼音は、そっと開けると榛名の顔色を窺ってみる。
鼻息荒く、血走った目で揉んできている。相変わらずな彼氏の反応だった。
(ホントにおっぱい好きだよね。もう、子供みたいなんだから)
「んっ、あっああ、おっぱいぞくぞくしちゃうよ……っ」
「本当に感度いいですよね、涼音さんのここ。大きすぎると悪いとかって聞くけど、そんなことないですよね」
「ばっ、ばか。元希がエッチのときにいっつもしつこく揉んでくるからだよ……。んンっ!? ダメ、乳首ぐりぐりしちゃ
だめぇ……ッ」
これ以上好き放題に弄られていると、はしたない声をどれだけ出してしまうかわからない。そのため涼音は榛名の首元へと
腕を伸ばして抱きついて唇を重ねていった。
「んっ、あふぅん、くちゅンっ、ああっ」
自分の太ももへと押し付けられてくる固い感触に満足して、涼音はさらに深い口付けを求めていった。
どれぐらい唇を重ねあっていただろうか。頭のなかにもやがかかってしまったように感じてはっきりしないが、十分
過ぎるほどに感じることができたし、これで大胆なことをする気にもなれた。
涼音は榛名の膝から腰を上げると、便座の奥深くへと腰掛けている榛名をもう少し手前へとくるようにと頼んだ。顔を
赤らめつつも涼音の要求通りに従ってくる。
それを確認して涼音はタイルの床へとペタンと両足を崩して座り込んだ。そう、トイレの床へと。いくら清潔な状態が
キープされているとはいえ、公衆トイレの床へと腰を下ろすのは抵抗があった。
「す、涼音さん。汚いですよ」
「気にしないで。わたしがやりたくてやるんだから」
それでも榛名を悦ばせてあげたくて、涼音は便座へと座っている彼氏の腰元へと手を向ける。カチャカチャと弄るとベルト
を外して、次いでジッパーに手を掛けて引き下ろしていく。
そしてこんもりと盛り上がったボクサーブリーフが現れた。早く解放して空気を吸わせろとでも急かしてきてさえいるよう
でもある。
口のなかに唾が溜まっていくのを涼音は感じた。
下着もジーンズと同じように足首まで追いやる。その結果、早くもいきり立ってきている榛名の分身が涼音の目の前へと
出てきた。
なんとも愛しいモノ。自分を女にしてくれた愛しい男の性器。幾度となくこれに貫かれて、甘美なる快楽を味わわせて
もらったことだろうか。甘く甘く下腹部が疼くのを涼音は感じていた。
「涼音さん……?」
顔面を紅潮させつつ榛名は涼音へと声を掛けた。やや遅れて反応をする。
「あっ、ごめんね。えっと、もうわかっていると思うけど、お口でしてあげる」
「えっ。は、はい」
戸惑いのような表情を榛名は浮かべていた。涼音にはそれがなぜなのかわかっているつもりだ。
榛名はあまりこのような行為――すなわちフェラチオを好んではいない。しかし、これには語弊のようなものがある。
自らのモノを涼音の唇と口内で愛される行為。もちろん、とても気持ちのいいものだ。だけれども、榛名はこう考えて
しまう。
自分の快楽のためだけに相手にそれを強いているように思えてならないと。
肯定的に見ればパートナーに気を使った紳士的な人間ということになるだろうか。もっとも涼音からしてみれば、これ
には不満に近いようなものを感じていた。
涼音は、榛名と肌を合わせるときの前戯においてたっぷりと全身を愛撫されている。二本の手と舌を使われて、それこそ
丁寧にくまなくへと。
この行為のなかには女性器へと愛撫――クンニリングスを含まれる。
丹念にそこへと指で刺激され舌を這わされて、何度も悦楽へと浸ってきた。
涼音はこう考える。自分だけ気持ちよくさせてもらっているのは不公平。お返しに榛名を気持ちよくさせてあげなきゃと。
そう数こそ多くないが、この奉仕自体はしてきた。気持ちよくないわけではないはずだと思う。事実、榛名のモノを舐め
ている最中にちらりと上目遣いに見れば喜悦の表情が確かに浮かんでいるのだから。
(今日こそはイカせてみせるんだから。覚悟しなさいよ?)
可愛い顔をして実は負けず嫌いなところがある涼音は、そそり立つ肉棒へと挑みかかっていった。
「はむ……んっ。ちゅっ、れろン」
口内にたっぷりと溜め込んで準備していた唾液を、ちょっとずつ亀頭から落としてトロトロにさせていく。そのままに
舌で周辺を舐める。赤黒く充血をした分身はピクッと跳ねた。
涼音はこの素直な反応がたまらなく可愛く見える。垂れてきた髪を右手ですくって耳へとかけて、榛名の表情を窺う。
「く……ぅっ」
「ぴちゅ、るるる、アム……ンっ」
(ふふ、可愛い顔しちゃって。いつもわたしばっかりがはしたない声を上げさせられているんだから。もっといい声を
聞かせてよね。あっ、敏感なとこばっか刺激してるとすぐ射精ちゃうよね。じゃあ、今度はこっち)
裏筋を舐めしゃぶっていたところを、今度はちろちろと棒の部分へ舌をゆっくりと上下させていく。先端からは、涼音の
唾液とは異なる薄い白く濁った液が溢れ出てきた。
「す、すずね……さん」
「くちゅ、んレロ……ん」
口からだらしなく声を上げて奉仕してくれている恋人を呼ぶ榛名。あまりの気持ちよさに頭が白くなってきている。
そのためにそれはごく小さいものであった。
(ここも感じるって話だったっけ。こりこりしてて面白い……)
肉棒へは舌で責め続けて、睾丸を揉みこんでいく。腰を浮かせそうになったり、拳をぎゅっと握って腹筋にも力を入れて
なんとか堪えようとしている。
「もう、もう出そう……、出る」
「あむ、んっ……んふ」
口を精一杯大きく開けて涼音は亀頭を飲み込んでいく。そして限界までもっていくと激しく舐めしゃぶっていった。収め
きれなかった下部には右手で上下させて、残った左手は急所の袋へともって行きそのなかで転がせる。
(いいよ、出しなさい……!)
僅かに残せた理性のかけらをかき集めると、榛名は涼音の顔を掴んで股間から引き剥がすことを試みた。さすがに口の
なかに射精してしまうのは憚られたらしい。
しかし、頑強に抵抗する涼音から簡単に振り払われてしまい、そして――。
「あ……っ!?」
「んンっ、……んく、んくっ」
榛名のペニスから放たれてくる欲望の奔流を腰へと抱きついて受け止めていく。口のなかに濃いドロドロとしたゼリー状
の精液が溜まっていく。
やがて射精が止まると涼音は榛名の股間から離れて、頬張っていたものを喉の奥深くへと流し込んだ。
「…………」
「うぅっ、苦い……」
脱力して様子を見守っている榛名を尻目に、涼音は頭に思い浮かんだ感想をそのまま口にした。初めて呑んだ精液は
本当に苦いものであった。話に聞いたことのある、喉に絡み付いてくる独特な感触というのも理解できた。
これには慣れが必要だろう。
若干、涙目になっている涼音を目にして、はっとする。
「すみません。口に出しただけじゃなくて呑ませてしまって……」
「……もう。そんなこと気にしないでよ。わたしがやりたくてやったことなんだから」
トイレの床に座り込んだままだった涼音を引っ張り上げて抱き寄せる。勢いそのままに抱きしめていく。
榛名の胸へと顔を埋めた涼音は視線を上げて顔を見た。
「前も言ったと思うけど、あまりにも気を遣われるのって逆に疲れちゃうんだよ。わたしはしてあげたかったからしたの。
それとも気持ちよくなかった?」
「そ、そんなわけないですよ。すごくよかったです」
「うん。それならいいじゃない。……練習してきたかいがあったな……」
「えっ?」
最後にぼそっと呟かれた台詞を聞き取れなかった榛名は首を捻る。慌ててなんでもないと涼音はごまかしていた。
実は、涼音は以前から自分の部屋でバナナなどを使ってフェラチオの練習をしていた。雑誌を買ってきてみたり、または
成人指定のコミックを購入して(さすがに恥ずかしいので、人の少ない時間帯に他の本と合わせて買った。もちろん、
コミックは一番下にして)研究に研究を重ねてきたのだ。
「わたしは元希だけのものなんだから遠慮しないで……って、あら?」
「……っ」
艶のある笑みで人差し指にてで胸元をすーっとなぞられた榛名は息を呑んだ。下半身に再び血液が集まっていく。そして
力強くまたそれは立ち上がってしまった。
「ああ、さっきの言葉に興奮したの? わたしが元希のものって」
先ほどとは異なる――意地悪げな笑顔を浮かべて見詰めていく。
「……は、はい」
「正直でよろしい。でもね、一つだけ覚えておいて」
「なにをですか?」
「わたしは元希のものだけど、元希はわたしのものでいて。要するに浮気しないでってこと。ちゃんと守れる?」
真剣な表情を作っての涼音の言葉を聞いて、榛名も同様の顔を作ると黙って首肯した。
今までもそのようなことをしたことはない。これからもしない。自分は涼音が好きだから。榛名ははっきりそう誓える。
二人の関係は遠距離恋愛。お互いのことをどれだけ想っていても、どうしても気になってしまうこともある。
涼音は改めて榛名の気持ちを確かめて満足した。これでまた自分は彼のことだけを考えて、信じていけばいいのだと。
それを再確認できた。そう、これでいい。
「ごめん。ちょっと白けちゃったよね。お詫びにもう一回オチ○チン舐めてあげる」
「えっ」
榛名の返答を待つことはなく、また足元へと跪いて愛しい人の分身へと涼音は奉仕を再開していった。
結局、コツを掴んだ涼音から三回も抜いてもらって、榛名は腰に疲労感を感じることとなってしまったのだった。
夕方五時前。
榛名と涼音の二人は朝に待ち合わせていた駅まで戻ってきた。これから榛名は先輩たちとの食事会の席へ。涼音は
自宅へと帰ることになる。
多くの人々で溢れている駅構内。言葉にはしないが、二人の思いは同じだった。
別れたくない、もっと一緒にいたい、と。
ジーンズのポケットへと適当にして突っ込んでおいた携帯が着信を知らせてくる。マナーモードに設定していたため、
バイブレーションでのものだった。
榛名は取り出して開き、確認する。先輩からのものだった。内容はこれからの食事会の細かいことと、今日の試合は
終盤に逆転して連勝を飾ったことなどが書かれていた。
軽く嘆息する。行かなければならない。
「今日は楽しかったです」
「うん。わたしもだよ」
視線が重なる。涼音からのものが痛い。行かないで――。口にして言葉にこそしていないが、そう言いたいということが
はっきりと手に取るようにわかる。
「夜に、何時になるかわからないけど、電話してもいいですか?」
「えっ……、いいの?」
「はい。涼音さんがよければですけど」
涼音は榛名との距離を詰めて抱きついていった。そして逞しい胸板へと頬を寄せていく。
「わかった。待ってるから。絶対してね?」
ぎゅっと抱擁を交わしていく。時折、足を止めて見てくる人もいたが、そんなことは関係なかった。
こうしていつもよりも早いデートを切り上げて、榛名は次の目的地へと向かっていった。正に後ろ髪を引かれる思い
ということを体感しながらも。
チームの投手陣で贔屓にしている行きつけの店……ではなく、メールで指定されてきた場所は、洒落た雰囲気が漂い
洗練された品が感じられる。そんな店だった。
榛名は店に入り応対してきた店員へと告げると、丁寧な物腰のその人から奥の座敷席へと案内された。靴を脱いで
扉を開ける。そこには既に先輩投手たちが勢ぞろいしていた。
二時間前に試合が終わったばかりなのに、いつもはゲームを終えるとのんびりしている人まで来ている。最後に到着した
榛名は、そのことを詫びて末席へと座る。
いつものラフな格好ではなく、どことなく気合の入った服装に見える先輩が多いのは気のせいだろうか。それも独身の
人だけ。既婚の投手はどこか困惑気味に見えるのはなぜなのだろうか。
続いて気付いたのは、席が半分以上空いているということだった。榛名を含めてこの場に来ている投手会の面子は全員で
十四人。この倍以上の席がまだある。グラスも箸もおしぼりも置いてある。空席というわけではないようだ。
(うちの野手陣が来るのか? それともよその球団の人が来るのか?)
榛名は、隣の席に腰を下ろしている今夜の飲み会の幹事を務める先輩へと声を掛けようとした。したところで――。
扉が開いた。そこには涼音と同じ年頃の若い女の子たちがいた。それぞれ満面の笑みを浮かべつつ、遅れてきてしまった
ことを口々に詫びていきながら彼女らは空いている席へとついていった。
(まさか……)
さっと顔を青くした榛名は、テーブルへと置いていた携帯とキシリトールガムを上着のポケットへと突っ込んで立ち上が
った。
いや、正確には立ち上がろうとした。
「……どこへ行く気だ?」
隣にいる幹事の先輩より左腕をがしっと掴まれてしまった。。
「そ、その……、宿舎に忘れ物を」
「おまえ目当てで来てる子も結構いるんだからな。絶対に逃がさないぜ」
顔は笑っているのだが目が笑っていない。その勢いに呑まれて腰を下ろしてしまった。
「ちょっ、これなんなんスか!? 飲み会って話で……」
「ああ、飲み会だよ。合コンという名のな。現役女子大生との合コン! セッティングに苦労したぜ。一ヶ月前から準備
していてな。もう皆して食いついてくるし、二軍の連中も羨ましがってて」
そのまま話を続けていく先輩の口から状況が少しずつ確認できてくる。
「…………」
榛名はようやく理解した。自分はこの合コンを開くためのダシに使われた挙句に、騙されてのこのこと来てしまった。
既婚の先輩たちも榛名と同じようにして騙されていたのだろう。
そうでないと、このテンションの違いに説明がつかない。既婚の先輩と同じように、榛名のテンションも恐ろしく低い。
昼間に、涼音へとこういう裏切る行為はしないと誓ったばかりなのに。それなのに、数時間後にはこういう場へと図らず
ながらも来てしまった。
「お、オレは……」
「なに、彼女には黙っておけば大丈夫だろ。ただ酒を呑むだけ。これなら浮気にはならないだろ? つーか、今から
帰るなんて言い出して場を白けさせるようなバカな真似はするなよ……?」
「…………」
榛名の肩をぽんと叩いてその先輩は席を立つ。視線を感じる。顔を上げて確かめる。そこには気味が悪いまでの笑顔を
した女子大生たちが榛名を見詰めていた。
背中には冷や汗が伝い、顔面は蒼白になっていくのを榛名は自覚した。
一方、涼音は自宅へと帰るべく車を走らせていた。笑顔でカーオーディオから流れてくるお気に入りのアーティストの曲へ
と合わせて歌っている。
機嫌は良いようだ。それも随分。
本当なら今日のデートはキャンセルのはずだった。だが、大好きな彼氏は時間を作ってくれて一緒に遊んでくれた。それに
榛名の気持ちを再確認することもできた。これにより涼音の心は大いに満たされていた。
「〜〜♪ 〜〜♪♪ 〜〜♪♪♪ ……ん?」
助手席に置いてある携帯が着信を告げてきた。メールではなくて電話のほうだった。それに出るべく、ウィンカーを出して
路肩へと寄せて一時停止。続いてハザードランプを点灯させた。
開いて確認する。相手は大学のクラスメイトだった。取り立ててなにも感想を持つことはなく、通話ボタンを押して耳へと
当てる。
『……あっ、涼音?』
「うん。どうしたの?」
『いやね、涼音にいい話があってさ。ぶっちゃけると合コンのお誘いなんだけど』
心のなかで涼音は嘆息を漏らす。この友人は断っても断っても諦めることなくこういう話を持ちかけてくる。
合コン。大学に入りたてのころに一度だけ行ってみたことがある。話に聞いていたその世界どんなものだろうと、興味本位
でのことだった。しかし、想像を絶した場であった。
男たちのギラギラとした下心を隠しきれていない視線。特に自分の胸へとそれが注がれていくのを強く感じた。さりげなさ
を装いつつ、こちらが距離をとっても擦り寄ってくる。挙句の果てには、肩を抱いてこようとさえしてくる。
嫌悪感が胸に充満して、途中で退席をした。それなのに心配だから送るよと、あからさまに嘘だとわかる台詞を吐いて
ついてこようとしてくる。
結果的になんとか撒くことができて事なきを得たのだが、この一件で完全に懲りてしまった。自分には合わないと。
そういうことだと割り切って楽しむのもありだと思うし、真面目に出会いを求めて来ている人間もいるのかもしれない。
でも、自分の肌には合わない。この件以来、毎回誘いを受けても理由をつけて断るようにしている。
『……ねえ、涼音。聞いてる?』
「……あっ、うん。悪いけど……」
そして涼音は、榛名と付き合うようになってからの断り文句である『彼氏がいるから行かない』と告げようとしたのだが。
『だからね、今日の相手はすごいんだって。プロ野球選手だよ、プロ野球選手! 上手くやってけば玉の輿も夢じゃない
んだから!』
テンションが一気に最高潮へと上がった友人。それに対して涼音は、いつか痛い目にあってからじゃ遅いのにと思う。
『それも、涼音がファンのチームの人たちなんだよ』
「……えっ?」
意識せずに眉間に皺が寄っていく。以前の涼音は地元の球団を応援していた。しかし榛名が、彼が所属する球団に指名
されてからはそこへと鞍替えをした。
『ほら、今売り出し中で評判のイケメンエースも来てるんだよ。えっと、なんて言ったかな……左投手のは、は……』
「榛名、元希……?」
『そうそう、ハルナさん! もう一番人気ですごいんだって。それに今日は相手方の奢り……』
「ねえ、その合コン……どこでやってるの?」
『おっ、お堅い涼音もその気になった?』
「――いいから早く教えなさい」
冷淡な涼音の声を聞いて友人はそれに恐れつつも、会場である店の住所をメールで送ると話した。電話を切ってほどなく
して、そのメールが届いた。
さっとチェックすると、来た道を引き返すことにする。
なにかの冗談だ。きっと友人が勘違いしているだけなのだ。榛名は先輩たちと呑んでいるはずだと言い聞かせながらに、
涼音は車をさっきよりも速いスピードで走らせていった。
件の店に着くと出迎えてくれた友人から案内されて奥の座敷席へと向かった。お手洗いに行ってくるからと言い、友人に
先にそこへと入らせた。
(そんなはずないよね? うん、いるはずがないよ。だってお昼に約束してくれたもん。浮気はしないって……)
扉をほんの少しだけ開けて室内を見る。榛名がいないことを祈って、胸の動悸が激しくなるのを感じながら。
「……ぁっ」
宴席のなかに涼音の彼氏はいた。それも顔を紅潮させて両脇に女子大生を侍らせて――。
どうやって家に帰ってきたのか、涼音は思い出せない。気付いたら自分の部屋でベッドに上がって天井を見詰めていた。
「なにかの間違いだよね、うん……わたしの見間違いかな……」
力なく呟く。涼音の視力は小さい頃から少しも落ちたことはない。両目ともに2.0だ。だから見間違いなどではない。
それに、彼氏の姿を見間違えるわけがない。
わたしたちは付き合っているのではなかったか。
わたしは榛名元希の彼女ではないのか。
わたしは、なんなのだろう? 彼女ではないのか。もしかして、彼が付き合っている大勢の女のなかの一人なのか?
一人目の彼女? それとも二人目の彼女? 三人目の彼女? それともそれとも……。
「そうだ。今夜、電話してくれるって……。なにかの間違いだったんだよ。ううん。もし浮気でも正直に話してくれれば、
一回だけなら……」
ようやく室内灯を点して部屋が明るくなった。身体を起こして携帯を持つと、涼音は榛名からの電話を待った。
しかし、夜中になっても日付が変わっても明け方近くになっても、携帯が着信メロディーを奏でることはなかった。
初めての飲酒は散々なものに終わった。群がってくる女子大生を相手にするにはアルコールの力を借りるしかなく、
結果的に過剰に摂取したことにより、強烈な二日酔い特有の頭痛を感じての目覚めであった。
日付が変わる前に先輩に肩を貸してもらって宿舎の部屋へと戻ると、ベッドにダウン。そして、すさまじい痛みを
感じて飛び起きたのが先ほどのことだった。
痛む頭を抱えて階下のレストランに行くと、居合わせたマネージャーに呼び止められた。榛名が理由を話すと、ため息
ながらに二日酔いの薬を差し出してくれた。
これを服用してどうにかマシになってきたと思う。それでも頭は断続的に痛むし、胃がムカムカしてきて食事を受け付け
ることを拒否してくる。
だが、朝食は大事だ。それに、今日から練習は再開となっており次回の登板日に備えなければならない。箸を苦労して
つけていき、なんとか食事を進めていった。
練習に出てきた顔色が悪い榛名に気付いた上司――投手コーチは、呆れつつも酒を呑みすぎた翌日はとにかく走り込むこと。
そうすればアルコールは抜けると助言してくれた。
その言葉に榛名は素直に従って、球場近くにある陸上競技場のトラックで普段の倍となる距離を精力的に走り込んだ。
それが終わると、いつもは打撃投手をしている裏方さん相手に遠投をしていく。フォームを意識しながらのものだ。
仕上げに短距離ダッシュ――三十メートルダッシュを三十本こなして、陸上トレは終了となった。
そして仕上げに室内練習場でウエートトレを軽く行う。
全てを終えると昼が近くなっていた。ほんの少しだが二日酔いもマシになってきたように思う。
榛名は宿舎に帰ると大浴場へと行き汗を流して部屋へと戻った。ベッドに腰掛けて寝そべっていく。
「酒ってきついな……。でもこれからも付き合わされるだろうし、どうなるんだよ。オレ……」
睡眠不足であったため、瞼が重くなってくるのを感じる。昼食はパスして昼寝でもしようかと考えていく。やがてほど
なくして訪れてきた心地よい眠気へと身を委ねようとしたところ。
「ん……電話か?」
脇に放っておかれていた携帯が着信を知らせてきた。専用のメロディーのため、相手が誰だかすぐにわかった。
涼音だ。
そういえば、昨晩は電話をすると言っていたのにしなかった。そのことを謝らなければと思いつつ、榛名は電話へと出る。
『…………』
「もしもし、涼音さん? 昨夜はすみませんでした。宿舎に戻るとそのまま寝ちゃって……」
『…………』
先手必勝と謝罪の言葉を舌に乗せていったのだが、涼音から反応はない。
「涼音さん?」
『……ねえ。昨夜はどこに行っていたの?』
それは感情のない、抑揚がない言葉だった。思わず榛名は戸惑ってしまう。
榛名は一瞬迷った。迷った。迷ってごまかすことにした。合コンに行っていましたなどと馬鹿正直に言えるはずがない
のだから。
「先輩たちと呑んでましたよ。昨日話したましたよね? 酒は呑んでも呑まれるなって話が身に染みてますよ。
今、二日酔いでスゲーきついです」
『……そう。ねえ、本当に先輩たちと呑みに行っていたの?』
「えっ、はい」
『……き』
聞き取れなかった榛名は、携帯を耳から離して電波を確認した。ここは都心にあるホテルだ。当然ながら三本とも
しっかりと立っている。
「涼音さん。今なんて」
『嘘つきって言ったのよ……ッ! ねえ、なんで嘘つくの? どうして嘘をつくの?』
「……えっ」
言葉にならなかった。涼音が合コンに行っていたことを知っている。状況はまだ把握しきれないが、これは間違いない。
『わたし、知ってるんだから。昨夜に元希たちが女子大生と合コンやってたってことを。ねえ、わたしは元希の彼女
じゃなかったの? わたしたちは付き合っているんじゃなかったの?』
「…………」
なにを話せばいいのかわからなくて、榛名は言葉に詰まってしまっていた。それが涼音の神経を逆撫でていく。
『そういえば、電話してくれなかったよね。元希から約束してくれたのに……』
「そ、それは宿舎で寝てて……。本当に」
『それも嘘なんでしょ? 女の子たちの誰かをお持ち帰りってやつをして、いやらしいことしていたんじゃないの?
一人? それとも二人相手に?」
「一人で宿舎で寝てました……。本当です!」
『最低だよ、元希。わたし、信じてたのに。離れていてもずっと仲良くやっていけるって思ってたのに。昨日のお昼に
浮気しないでって言って約束してくれたのに。それなのに、わたしを裏切るの? ほんのちょっとだけしか時間は経って
いないのに。ああ、そう。そうなんだ。わかったよ。わたしは元希にとって都合のいい女ってことなんだね……』
「えっ……」
『こっちに戻ってきたときのセックスフレンドってやつ? それも、大勢いるなかの一人にしか過ぎないってこと
なんでしょ? わたしは真剣に付き合っていると思っていたけど、心のなかでは笑ってバカにしてたんでしょ?
セフレのくせにって』
「…………」
取り返しのつかないことになってしまった。ベッドから飛び降りて、床へと額を擦りつけて土下座をして許しを請う。
「すみませんでした! 確かに昨夜は合コンに行ってました。でも、涼音さんの言うようなことはなにも……」
『遅い、遅いよ……元希。嘘をつかないで最初からちゃんと正直に話してくれれば、水に流してあげるつもりだった
のにね……。平気で嘘をついて裏切るような人は、わたしはもう信じられない」
「すずね、さん……」
『わたしのことは、もういいでしょ? 昨日の合コンで新しいセックスフレンドができたんじゃないの? わたしは、
もうそういうことはしたくない。身体だけを目当てにされる――弄ばれるだけの付き合いなんてできない』
「だから、それは……っ」
『わたしはもう騙されないから。さようなら……』
そして、電話は切れてしまった。
さっさとリダイヤルして釈明しなければならない。いや、涼音の家に出向いて土下座でもなんでもして許しを請わな
ければならない。
だけれども、なにがなんだかわからなくなってしまっていた。
榛名はふと窓へと目を向ける。昨日までの快晴はまるでなかったかのようにして、激しい土砂降りの雨粒がアスファルト
へとぶつかっていっていた。
突然の大雨。それは榛名の今の心情を表現しているかのようでもあった。