◆◆ファンタジー世界総合:女兵士スレpart5◆◆

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1名無しさん@ピンキー
・剣と魔法のファンタジーの世界限定で
・エロは軽いものから陵辱系のものまで何でもあり
(ですが、ひとによって嫌悪感を招くようなシチュの場合はタイトルなどに
注意書きをつけることを推奨します)
・ファンタジー世界ならば女兵士に限らず、女剣士・騎士、冒険者、お姫さま
海賊、魔女、何でもあり。
・種族は問いません。
・オリジナル・版権も問いません。

過去スレ
◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart3◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173497991/
◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart3◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163919665/
◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart2◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1149954951/
◆◆◆ ファンタジー世界の女兵士総合スレ ◆◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1128119104/
2名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 23:23:01 ID:l7z8e8j8
保管庫

お姫様でエロなスレ関連保管庫
ttp://vs8.f-t-s.com/~pinkprincess/index01.html


関連スレ

●中世ファンタジー世界総合エロパロスレ●
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1145096995/

お姫様でエロなスレ6
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1178961024/

男装少女萌え【9】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1178961024/

【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第四章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1174644437/
3名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 23:24:18 ID:l7z8e8j8
スレ立てました。が、実験的にスレタイとテンプレを一部変えてみました。
これなら戦闘員に限らずファンタジーなら何でもおkじゃね?という感じで。
(女兵士スレで「投下していいかな?」という人が結構いた気がしたから)

もしもどうしても嫌だったら次スレからまた元に戻してな。

---ここから業務連絡----

・魔界へ拉致〜スレは見つからなかったので(dat落ち?)
関連スレから外しました。

・URL間違いとか誤字脱字・連絡不足はフォローよろしく。
4名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 23:55:22 ID:89oH2FTf
>>1乙です。
今スレこそ、前スレからの続編を投下しにきます!
5名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 00:50:43 ID:4+262qzL
>>3
ここはファンタジーなら何でもおk、ではなくて
「兵士ほか、戦う意志をもつ女」なら何でもOK、のスレだよ
だから、総合をつける位置が違うのでは?

>(女兵士スレで「投下していいかな?」という人が結構いた気がしたから)
こういうお伺いをする人はどんなタイトルにしても出てくる
次スレを立てるときは元に戻してほしい
6名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 01:49:07 ID:NpUB44Kd
総合なんでもありなんだか女兵士限定なんだかよくわからんタイトルになってしまったな
7名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 06:38:23 ID:aeZHsFhH
一乙、
スレタイは特に気にしてないですよ。
8名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 08:20:07 ID:xd1LmC6f


じゃあ次回のスレタイは【ファンタジー世界で戦う女総合・女兵士スレ】だな。

スレタイに関しては意見がかなり割れてるから【ファンタジー】と【女兵士】さえ入ってれば
スレ立て人の好きにしていいと思う。
9名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 11:58:00 ID:mNKci0LJ
初心者です。
書き込みするといつもエラーになります。
保存のやり方もわかりません。
どうやったら良いんでしょうか?
10名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 13:22:32 ID:JAK7IzwA
11名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 17:43:01 ID:mNKci0LJ
今見たらビックリ
書き込みできてる・・・。何故今までできなかったんだろう?
書いている話を一時保存したいときはどうすれば良いのでしょう?

12名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 20:08:33 ID:njdNvQ87
パソコンならメモ帳
ケータイならメールに書けば編集保存できる
13名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 20:23:35 ID:mNKci0LJ
ありがとうございます。
やってみます。
14名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 00:57:42 ID:hm6sZY9g
とりあえず前スレ埋めようぜ。
あと10KBくらい残ってる。
15名無しさん@ピンキー:2007/10/21(日) 23:47:47 ID:63Y6HcD7
保管庫が完全復旧してない現段階で前スレを埋めると
旧作が読めなくなってしまわないかな。
16保管庫のエロい人:2007/10/22(月) 01:05:28 ID:qnnPAYtG
すいません。
次の日曜にはログだけでも保管しときます。

ちなみにスレが落ちてもみみずんで読めるので、
間に合わなかったら見てみてください。
17名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 21:19:17 ID:mmvT42+h
埋めネタ作ってたらもう埋まったぽい。
もったいないから落とさせて。

エロのみ。凌辱注意。
細かいことはスルー推奨。
18小ネタ:2007/10/22(月) 21:20:47 ID:mmvT42+h
「ああ……っ!ぁっ…ああーーっ」
地下牢に絶声が響いていた。
薄暗い中、一人の女が後ろ手に枷をつけられているのが見える。
その枷は天井から下げられており、女はぐったりと前のめりになっていた。
女は、鎧のようなものをつけていたが、上半身のそれは外され両の乳房があらわになっている。
薄暗い室内でほの白く見える乳房には点々と赤く、ひどく吸われた後がついていた。
女の後ろには男がたっている。
くくられた手首をつかみ、女を自分のそばに引き寄せる。
ジャラン、と鎖が揺れて音が響いた。
「どうした。いまのはひときわ良かったか?」
男はそういってにやにやと笑った。
いかにも陰惨な笑みであった。
その手には張り型が握られている。
「ひ、きょう…な……おかしな薬を使って私を辱めて……」
女は浅い呼吸を繰り返しながらそう呟く。
「あの薬は抜群にきくだろう」
「あっ」
「王侯が購うような高値で取引されているそうだぞ」
「や…め、」
引き寄せた女の足を割り、男は張り型を再度女の秘所にあてがった。
「あ……あぅ」
濡れに濡らされたその場所は女の意志とは裏腹に
ぬぶぬぶと張り型を受け入れていく。
「やっ、いやぁっ……あっ!」
何度めかの絶頂に導かれながら女はそのまま意識を手離した。

***
19名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 21:27:21 ID:mmvT42+h
終わりって入れ忘れた。
つ おしまい

>>16
エロい人いつもありがとう。
20名無しさん@ピンキー:2007/10/24(水) 11:47:01 ID:ymqjG2zb
GJ
女海賊の人またこないかな
21名無しさん@ピンキー:2007/10/24(水) 21:14:18 ID:senXwrNR
ガレーナの人だったらシャフルナーズ書いとる
22オブザーバ 1:2007/10/26(金) 00:40:20 ID:YnQY3eb7
ソロモン王の使う千里眼の魔法使いは二人と決められていて、国中から選抜されるのだった。
王は宮殿に居ながらにして、すべての事象を察知する。王の知るべき諸々のことを、
遠見の術の使い手たちは、地球の裏側から天上の世界まで、霊魂を飛ばして見に行くのだ。

王の使う千里眼の魔法使いは二人と決められている。しかしながら、
魂の旅に出るのは一度に一人。もう一人の術師はその場にあって他を補佐する。

超長距離を飛ぶ霊魂の旅には、常に失敗の危険が伴うという。
一時的に肉体を離れた魂は、いずれにしても帰るべき所に帰らねばならない。
しかし魔法の術によって遠く離れた魂は、帰るべき体を見失うことがあるといった。
そうなると、魂は帰ってこれなくなる。魂の行方は失われ、肉体は死ぬ。
そうならないために、二人。一人は儀式の場に残り、魂の帰路を守る必要があった。

王の千里眼の役には、もっとも有力な魔術師を二人、互いに対立する二人の遠見が招かれた。
預言者サラクヤルと昴の魔女。それぞれ本人は居場所を出でず、その弟子を送ってきた。

二つの流派の術師を置くのは、互いに優劣を競わせるためではない。
同じ術で同じ道をたどれば、同じエラーを起こすだろう。二流派、二人の術師を使うのは、
一方がミスを犯したとき、別の流派の技で補うという意味があった。

とはいえ、べつに術師どうしが仲良くする必要はなかった。
預言者サラクヤルの弟子はエカア。昴の魔女からは、その娘アシュナン。
かれらの師が互いにそうであるように、若いふたりの弟子も、互いに憎悪を隠さなかった。
232:2007/10/26(金) 00:41:22 ID:YnQY3eb7
数十年来、世に洪水も戦争もない。新しい季節の種まきをおえ、聖なる山に雲がかかった。
その日――天空に三つの新星が同時に現れ、激しく輝きを増していった。

と、いう夢を王は見た。夢の話をした。
「すみやかにその場に行き、見定めて、帰れ」
「はい」
召し出されたのは預言者エカアと、魔女アシュナン。ふしぎに美しい若者たちだった。

彼ら魔法使いに与えられた任務は、王の夢の内容を確かめて報告すること。魂の旅が始まる。
地球の周りを巡る宇宙は、王の見た架空の新星の位置まで、距離およそ20万キロメートル。
地上から霊魂を射出し、宇宙空間を探査して、スペースシャトルのように帰還する計画だ。

儀式の前に水で身を清め、エカアとアシュナンは薄い肌衣に着替えていた。
宇宙は魔法使いの晴れ舞台。儀式が始まり、これから一人の術者が魂を宇宙へ飛ばす。
もう一人は地上に残ってバックアップ、むなしく待機する。

他に立ち入るもののない儀式の間で、エカアとアシュナンは今日の役割を決めた。
拳を突き出し、指をいくつ出したかで勝敗を決める。じゃんけんに似ている。
少年は指を一本、少女は五本出して、この場合少年の勝ちとなった。
「北斗星への飛翔は夢だった。王の夢にみたという新星は、昨夜ならまだ燃えてるに違いない。
魂の続くかぎり飛んでくるよ。…見てきてほしいものはある?」

アシュナンは留守番だった。
「じゃんけんで勝っても嬉しいようね。浮かれた軽い魂は、飛び去って再び帰らない」
魔女は冷ややかに笑ってみせた。
「――鳥のように」
「わたしは落ち着いている。きみはただ座っていればいい。石のように」
むっとして、アシュナンは自分の座に尻をつけた。

「喋ってないで早く行くがいい。星々が気に入ったら、帰ってこなくてもいいわ」
「黙って。気が散る」
243:2007/10/26(金) 00:41:57 ID:YnQY3eb7
寝台のようなものはない。冷たい石の床に毛布を敷いて、その上にエカアは身を横たえた。
今から眠りにつく、という様子でしかないが、呼吸を調整している。

灯りを落とした室内は暗く、昼間でも外の光は入ってこない。
火の影は少年の顔に濃い陰影を描いた。
睫毛の下でときおり瞼が動くのは、飛翔へのイメージを描いているのかもしれない。

アシュナンは二メートルほど離れて座り、エカアの様子をじっと見ていた。
ここにいて彼の旅立ちを見守る。
やがて少年は眠りより深く、身体は仮死状態になる。
遠い間隔の呼吸のほかは、まったく動きのない。死体のようになった。

与えられた任務は、エカアを見守り、待つことだった。
座った場所からのそりと起きて、アシュナンはエカアに近く寄った。

膝で寄っていき、上から寝顔を覗き込む。頬をぴたぴた手で打って、呼びかける。
「エカア。……エカア?」
意識はない。少年の魂は、もうはるか遠くへ行ってしまったようだ。
確かめて、少女はひとつため息をついた。

ひとりになった。暗く寒い石の部屋は、まるで牢のように思える。
少年の頬に手をかけて、なめらかな肌を指でなぞる。
うつむいた顔の下で、うすく微笑し、やがてくすくすと笑い出した。

首をかかえるように抱き上げて、アシュナンは眠る少年に――唇を重ねた。
254:2007/10/26(金) 00:43:53 ID:YnQY3eb7
「ん…」
やわらかく重なった唇の間から漏れたのは、どちらの声とも分からない。
少年の寝言かもしれない。息に、すこし笑う息が混じった。

眠っているエカアにキスをする。

アシュナンは、眠っているエカアにいたずらする。
眠っているあいだ、魂のない少年のからだは、アシュナンのものになる。
エカアは知らない。いまが初めてのことではなかった。
はじめはもう半年も前のこと。最初はほんの悪戯のつもりだった。

霊魂が遠い旅に出ているあいだ、魔術師の肉体はその場に残って、何もせず寝ている。
万一魂が迷子になって戻れなくなった場合、それを捜しに行くのが留守番の役目だが、
エカアは若くして腕利きで、一度もそんな失敗はしたことがなかった。
天上まで往復してもおよそ二時間。座っているだけのアシュナンは退屈で、ひまなのだ。

半年まえ。初めてのそのとき――そのときも、
アシュナンは部屋で座って待っていた。エカアの魂はコーカサス山地の辺りを飛んでいた。
待機中の退屈な時間、少年の寝顔を眺めているうちに、思いついたことだ。
エカアが無防備な姿をさらすこのときに、残った肉体に何か悪さしてやろう。

そもそも魔女アシュナンは、このいけ好かない少年預言者に意趣を持っていた。
炭で顔に落書きしてやろうか? いや、証拠を残したり、後で気づかれては面倒だ。

アシュナンはエカアの無防備な寝顔を覗いて、とりあえず、頬に指をつけた。
ただ触れただけでどきどきした…。
265:2007/10/26(金) 00:44:38 ID:YnQY3eb7
初めてエカアに触れて、アシュナンの胸は鳴った。
覚めているときは見えない壁のように、互いに敵意を含んで距離を保っている。
日頃の悪意をたっぷり込めて、頬を思い切りつねってみる。

額にしわが寄って、少年はかすかに呻いた。
アシュナンは驚いて手を引いた。少年は、目覚めたわけではない。

アシュナンは気づいた。いまエカアのからだは自分に預けられ、彼は無力なのだ。
赤くなるまでつねってしまった。自分のしわざに狼狽した。
「ごめん…」
覚めているとき、彼に謝ったことなどない。謝っても、少年は気づかない。
やさしく指で撫でてみる。そこを撫でているうちに、ふと思いついた。

預言者というのが純潔を保つものだということは知っている。
この美少年も、師について、きわめて純粋に育てられてきたはずだ。
美しい顔に顔を近づけてみると、かすかな息づかいが分かった。
自分も目を閉じて、アシュナンはちょんと唇をつけた。

やった…。
エカアは気づかない。体の内から喜びが込み上げてきて、アシュナンはくすくす笑い出した。
やがてエカアが目覚めた後も、預言者の気取ったふうが、今はおかしくてたまらなかった。
アシュナンはすまし顔の下で笑いをこらえた。

宮殿を抜けて、王の庭園まで逃れていく。アシュナンはそこで、ひとりで死ぬほど笑った。
笑い続ける少女の傍らに、空から一羽のカラスが舞い降りた。
「お母さまに伝えて。サラクヤルの弟子を辱めてやったわ!」
カラスはひと声鳴いて翼を広げた。
「待って」

アシュナンは飛び立とうとするカラスを留めた。
「いい。何も伝えないで」
笑いの衝動は引いていった。失望に似て、胸に空虚なものが残った。
276:2007/10/26(金) 00:45:36 ID:YnQY3eb7
今。エカアが魂を飛ばしている間、アシュナンは彼の体を胸に抱いている。
あのときは悪戯のつもりだったが、いまはすこし違う。
最初のはしゃいだ気分はなく、重くしずんでいく心は、これも儀式の一部のようになった。

霊魂が離脱している間、エカアが容易に目覚めないことは分かっていた。
アシュナンは、いまはもっと大胆になった。唇を合わせたままで、体を重ねていく。

彼の霊魂はたぶん今、宇宙にいる。宇宙を飛行する夢を見ている。
エカア――彼はいま水星と金星の軌道の間、星々の世界に至って、
王の夢に出現した新星爆発の痕跡を求め、さまよっているだろう。
そんな遠くから、魂は帰ってこれるのだろうか?

唇を離して寝顔をみる。眠っているエカアは美しい。
魔女アシュナンはおよそ恋というものは知らなかったが、
敵である預言者の弟子でなければ、この少年に恋したかもしれない。
頬を寄せると溶けそうな気持ちになる。帰ってきて。でも、まだ帰ってこないで。

胸を合わせていると相手の鼓動が分かる。パートナーの体を、触れて知ることは必要だ…。
眠る少年に身を重ねて、アシュナンはただ彼の帰りを待った。
じりじりと灯火の音だけが聞こえる。
ここには誰も入ってこないし、誰も知らない。

とつぜん、エカアの体が小刻みに震えはじめた。
アシュナンは顔を上げた。魂の帰還の前触れ。

アシュナンは飛んで離れ、じぶんの座に飛んで戻って口を拭った。
前兆から正確に一分後、霊魂は旅より帰還した。エカアは目を開けた。
「お帰りなさいませ。なにか分かりましたか」
「ああ…」
少年は額を押えて、頭がくらくらすると言った。
287:2007/10/26(金) 00:46:08 ID:YnQY3eb7
帰ってきたエカアは疲労してぐったりしていたが、やはり王のもとに報告に行った。
星々の彼方は想像を絶する世界だ。エカアは見てきた事実を語り、英知の王は深くうなずいた。
王はエカアとアシュナンを平等にねぎらい、二人は礼して退出した。

二人は黙って、大理石の通廊を歩いた。
夕日が差して、少年のくたびれ切って歩くようすに、アシュナンは黙っていなかった。
「お疲れのようね?」

エカアは立ち止まり、振り向いてアシュナンの目を見た。
「なに」
「アシュナン。もしかして、わたしが旅に出ている間に…」
ぎくりと少女は身を堅くした。

「いや。…何でもない」
298:2007/10/26(金) 00:46:43 ID:YnQY3eb7
魔法使いたちに新たな任務は下り、次の魂の旅先は決まった。

「なぜ王は、天上や地下の事象を夢にみるのだろう。夢は地上のできごとの象徴だという。
我々は魂を飛ばしてそれを確認に行くけど、魂の見るその場所は、果たして現実なのか?」
「どうでもいい」
少女は苛ついて遮った。エカアは雄弁になっていたが、アシュナンは混乱し苛立っていた。
水で身を清めた後、エカアとアシュナンは儀式の間で会い、遠見の役を決めていた。

「夢でも現実でも目に見えることは同じよ。
いくら王でも、『地獄を見て来い』なんてひどい。ひどすぎる…」
「ただの永遠の夜の土地だろう? 魔女が地獄を怖がるなんてどうかしている。
じっさい地下の世界はきみに相応しいと思うな。これは運命というか」
「じゃんけんに負けただけよ!」
暗い地の底へ降りていく夢を、王は見た。灰と火の谷間へ。

「いやだ。死ぬ前に地面にもぐるなんていや。きっと暗くて臭い」
「アシュナン。代わろうか…?」
ぱっと目を輝かせて見上げる。エカアは、からかってはいなかった。

「…いい。行くわ」
アシュナンは、死人のように顔に布をかぶって旅立った。
309/9:2007/10/26(金) 00:48:02 ID:YnQY3eb7
アシュナンが仮死状態になったあと、エカアは彼女のそばに寄って顔の布を取った。
あれほど死を怖がったのに、今は安らかに眠っていた。
前髪をよけて、額に、閉じた瞼に触れる。いちど離れて、少女の寝顔をみた。

美しいと思う。眠っていると可愛い。

いきなり唇を合わせるほど、エカアは大胆にはなれなかった。
幾度かためらって、やはりやめた。
ただ――もう少し近くで見たくて、顔を寄せていった。

薄い衣を通して、腕に少女の乳房のさきが触れた。
エカアは慌てて飛びのいた。飛びのいて、そこにうずくまった。

薄暗い儀式の間で、何事もなく時が過ぎた。
「あ……うう、ああ……あ!」
いつも苦しげな、途切れがちの悲鳴は、アシュナンの帰還の前兆だった。
「うああ!」
がばっと身を起こして少女は目覚めた。

エカアは自分の座についていた。
「遅かったな」
何もいわず、少女は息を荒くしていた。エカアを見て、泣くように顔をゆがめた。

何を見てきたのか、いつになく脆く、はかなげに見える。
彼女が眠っている間、エカアは何もしなかったが、すこしの罪悪感をおぼえ、すこし後悔した。
31名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 08:09:23 ID:XsYZvtU6
GJ
32名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 10:08:53 ID:SDJtVVIW
二人の距離感の違いがエロくて良いね
GJでした!
続きあるなら是非読みたいです
33名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 17:34:36 ID:J1JxbGhS
GJ!
でも中世ファンタジー世界の方と誤爆してない?
34名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 21:48:36 ID:9UWdZGic
私もそう思った
スレの名前似ているからかな?
35名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 00:58:54 ID:myJ/gnG/
オレ、向こうとこっちって何の区別も無いのかと思ってた
36名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 15:31:32 ID:G6A6kPpI
>>35
オレも。
37名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 17:26:26 ID:hgAncASe
>>35
確か女兵士というスレタイじゃそれ以外のおにゃのこが投下しづらいって意見の人が
作ったんじゃなかったっけ>中世ファンタジー世界スレ

だから、一応住み分けはされているのだと思うよ
38名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 18:36:23 ID:TwkAdDnM
姫は姫スレ、女兵士はここ、それ以外は総合 という認識だった
39名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 09:26:41 ID:UcBaDLB0
アビゲイルマダー
アリューシアマダー
40名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 10:47:28 ID:p6DSIXQl
催促は我慢してじっと待とうぜ
41名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 22:53:52 ID:eWg7SCCN
初めて投下します。
あまりエロが無いんで・・・。
つまんなかったり、独りよがりだったらすみません。

評判が悪くなかったら続き書きたいと思います。

と、いうより、ちゃんと投下できるかどうかが・・・心配、
 
ドキドキ
42隻眼のアーシャ:2007/10/28(日) 22:55:46 ID:eWg7SCCN
うっそうと茂る森は昼にも関わらず、穏やかな日の光も通さない。
時々、鳥の鳴く声が響くだけで人はおろか獣もいないかのような静寂さだ。
しかし、その静寂さを破る喧騒と草木を無理にかき分ける音がして
女は何事かとその音の方向に向かう。

「やっ、いやーー! 助けてー!! エリック!!」
「イザベルを放してくれ!! 頼む、金なら全部やる!!」
醜悪さが顔に滲み出ている男は仲間らしき、またそいつも、どう生きてきたか
分かるような顔の男にうつ伏せで押さえつけられている若者に言い放つ。
「へっへ、心配すんな。金も後で頂いてくぜ。
───あんたの可愛い子猫ちゃんとたっぷり楽しんでからな。」
と、覆いかぶさるように押さえている女のブラウスを引きちぎった。
派手な音を出してブラウスがちぎれ、たわわに実る二つのふくらみがむき出し
となった。
涙でグチャグチャになった女の顔が引きつり、唇が小刻みに震えている。
「イザベル!!」
若者の叫びも空しく、男は笑いながら女の胸を形が変わる程揉みながら、
締りのない口から長い舌を出し小さく突起した紅色の乳首を舐め回す。

「エリック! ──エリック・・・!!」
大男に押さえられては優男では太刀打ちできない。
身動き一つ出来ないでいる恋人を見て諦めたのか、助けを呼ぶ女の声も
段々と小さいものとなった。
43隻眼のアーシャ:2007/10/28(日) 22:57:54 ID:eWg7SCCN
「俺のモノの方があんたの男より数段上だぜ?」
下品な笑いをし、再び女の胸に顔を埋めたその時

「──────そうか。」
「─────ヴ・・・。」
ひゅんと鋭い音がしたかと思うと、女を襲っていた男の背中から血が吹き出た。
「ひっ・・・!!」
絶命し、なおも覆いかぶさる男から恐々女が逃げる。
「残念だな、もう二度と使えなくて。」
独り言のように絶命した男に話しかける───見事な赤毛の女が一人、剣についた
血を振って落としている。
若者を押さえている男の方は、何が起きたのか一瞬分からないでいたようだが、
片割れの背中から血が流れ、事切れているのが分かると
「てめえ!! 何しやがる!?」
と、剣を片手に赤毛の女に襲い掛かる。
赤毛の女は不敵な笑いを浮かべると、
「やかましい減らず口を閉じさせただけだ。」
男の大振りの一太刀をするりと難なく避け、下から持ち上げるように男を切りつけた。
「・・・・・。」
男は声も上げられずに、そのまま事切れた。


    *   *

「あっ、ありがとうございます。」
恋人の肌けた身体に自分のシャツを掛けながら若者は赤毛の女に礼を述べる。
ホッとしたのか、恋人の方も目を潤ませながら赤毛の女の顔を見た。
「───!?」
しかし、瞬間さっと顔を青ざめ俯いた。
女の顔は端麗であったが、左目に細かい装飾がついた眼帯を付けていた。
一難去ってまた一難とばかりに震えだす恋人を不思議そうに首を傾げる若者。

女の方を見て察したのか、赤毛の女は右手の平を上にしてヒラヒラさせた。
「─────?」
「お金よ!! 早く渡して!!」
訳が分からずますます首を傾げる若者に恋人は怒気した。
若者から金の袋を受け取った女は、それを腰のポーチに詰め込みながら淡々と喋る。。
「大方、愛を語り合おうとこの森に入って来たのだろうが、災難だったな。
─────この森は最近ならず者の隠れ家になっててな・・・死にたくなければ近寄るな。」
女は踵を返しその場から去った。
44隻眼のアーシャ:2007/10/28(日) 22:59:48 ID:eWg7SCCN
「自分こそならず者のくせに・・・。」
「────えっ?今の女性・・・何か・・?」
呟くように吐いた恋人の台詞に若者は驚く。
「知らないの? ほんとに? 
───────隻眼のアーシャよ!」
「あっ!!」
若者も思い出し、震えだす。
「どこの賊にも入らず、孤高を保っている女盗人・・・彼女に掛かったら盗めない物は無い
と言う・・・。」
「・・・あの噂、本当かしら? 
───────どこかの国の王女様を盗んだと言う・・・。」
恋人は思い出したようにぽそりと呟いた。


    *    *

下町の奥の入り組んだ場所にひっそりとある居酒屋。
分かりにくい場所の割には、その一角だけ賑やかだ。
それもそのはず
この居酒屋、国の許可なしで経営している裏の飲み屋で当然
真っ直ぐ日の光に当たって歩けない者達の憩いの場であり、また情報交換の場でもあった。
こう言う居酒屋は、定期的に無くなりまた他の場所で経営すると言うのを繰り返している。
裏ルートがあるのか、ならず者達は大して苦労せずに場所を見つけ出し大いに飲み食いしてい
るのだ。

そのカウンターの一角で、隻眼の女盗人アーシャが一人ちびりちびりとブランデーを口にしていた。
居酒屋で騒いでいる男達は、楽しく酒に食事に舌鼓をうってはいるが、
皆、この女盗人が気になるようでちらちらと視線を彼女に投げかける。

それもそうだろう

波打つ赤毛はランプの灯りに照らされ輝いているようであり
身体付きも、余計な贅肉が付いていないようでスラリとしている。
足を組みなおす度に見え隠れする太股のラインが、女らしい曲線を失っていないことを物語っている。
端麗な顔立ちに眼帯が付いてはいるが、艶やかな刺繍が施されており無骨に見えない。
45隻眼のアーシャ:2007/10/28(日) 23:02:00 ID:eWg7SCCN
女盗人はそんな視線を知ってか知らずか、2杯目のブランデーをバーテンに所望する。
「何か、面白い話は無いか?」
酒を所望ついでに話も催促する。
バーテンは「んー」と、目を上に泳がしながらアーシャの前に2杯目を置く。
「─────そういえば・・・マイケルが『素晴らしい牧場を見つけた』と言ってましたね。」
「牧場・・・?」
「あの男はいつでも盛ってますからね・・・。大方、そっち方面でしょうが・・・。」
バーテンがやや呆れ気味に言う。
バーテンの方はマイケルと言う名の男の話に辟易しているようだ。
アーシャの方も、『牧場』と言う意味を理解したようだ。
「マイケルは今此処に?」
「─────ほら、あそこに・・・。貴方を意識してるようですよ。」
バーテンは顎をしゃくり上げ、仲間と輪を作るように飲んでる細身の男を指す。
確かに、見えているのか分からない位の細い目でしきりにこちらをうかがっている。
不快になるから止めといた方が良い、と言うバーテンの忠告を尻目にアーシャはブランデーを片手に
彼に近づいた。

突然の指名にマイケルは手にしていたウイスキーのグラスを落としそうになる程驚いていたが、
どうにか平静を保ちつつ誘われるまま、宿になっている2階の階段を上る。
下から、冷やかしの掛け声や舌打ちする音が聞こたが
雲の上の人と言っても過言でもないこの美しい盗人に「儲け話がある」と個人的に誘いを受け、
これから起きる甘い期待に心も身体も既に彼女に奪われているようだ。


    *    *

「驚いたな。アーシャさんから儲け話を持ちかけられるなんて・・・。」
嬉しさで興奮し、やや早口で話をするマイケル。
興奮しすぎて飲むウイスキーが口からこぼれる。
アーシャは自分のブランデーを簡素なテーブルに置くと、笑みを浮かべながらマイケルの口元から
こぼれたウイスキーを舐めた。
「ア、アーシャさん・・・?」
アーシャは自分より背がやや高めのマイケルの肩に手を回すと、なぞるように彼の背中をさする。
そしてひとひきりさすると、ゆっくりとマイケルの腰に手を当てた。
その彼女の誘う指の動作にぞくりとした。
期待はしていたが早い展開に頭がぼーっとする。
アーシャはマイケルの耳元に口を寄せるとこう囁いた。
「お前の行きつけの『牧場』は『羊』の買取もしてるのか?」
46隻眼のアーシャ:2007/10/28(日) 23:04:26 ID:eWg7SCCN
それを聞いてマイケルは思い当たったらしく、ニヤリと一物もった表情をする。
そして自分もアーシャの引き締まった腰をなぞり
また、たまにはち切れそうに熟れている尻に触れる。
「───売りたい『羊』は、噂になってる例のですかい・・・・?」
アーシャはその問いに答えず、
「高く買ってくれる所を探していてね・・・。
あんた、その道につてがありそうだから・・・。いい買値を提示してくれる『牧場』を紹介
してくれないか?
──────もちろん仲介料は出すよ。」
と、薄笑いを浮かべた。
マイケルは他の女に無い脳髄をくすぐるようなアーシャの魅力に、もう自分の芯が熱くたぎり
準備を迎えてるのをどうにか堪えながら、冷静さを繕いながら彼女に伝える。
「仲介料・・・か。 たんまり貰えそうで悪くない話だが・・・。
──────俺が三度の飯より好きなもの・・・アーシャさんも聞いてるんじゃないっすか?」

「・・・・一番良い『牧場』教えてくれるかい? ───────そしたら・・・・ 。」
アーシャは自分の腹に熱くたぎっている物が当たっている彼のものを、腹を左右にわざとずらす。
ふいに刺激を与えられて彼は耐え切れず、彼女を簡素なベットに押し倒し彼女のスパッツを
下着ごと下ろす。
赤毛と同じく波打つ恥毛がマイケルの 視界を 思考を それのみにし、彼女の身体の隅々まで
支配したいという欲望にかられ、アーシャが何を自分に質問したのかまったく耳に残らず、
言われるがままに答えた。

アーシャは、自分の股間に顔を埋めている男の髪を触りながら、『牧場』の情報を聞き出す。
(昼間の大男らよりはマシか・・・・。)
心の片隅で自分自身を慰めながら・・・・・。


   *   *

マイケルは好色らしく、アーシャの身体を散々舐め尽し自分の精を彼女の体内にも、意外と滑ら
かだった肌に何度も放ち、いい加減にしろとアーシャに呆れられシャワーを浴びに行ってしまった
ことでようやく情事が終わったかのように見えた。
47隻眼のアーシャ:2007/10/28(日) 23:07:05 ID:eWg7SCCN
しかし彼の方はまだ事足りないらしく、一服済ますとそろりと足を忍ばせながらシャワー室に
向かう。
──────次があるかどうか分からない相手だ。
しっかり彼女の甘く喘ぐ声と、自分の愛撫にのたうつ姿を、細部余すことなく記憶に留めておこう
と───────そう思うだけで再び熱く反り立つ。
他の者より数段気配を感じ取りやすいであろう相手に、悟られぬようシャワー室に近づき、ドアを
開けることが出来るかどうか不安だったが、
いざとなったら無理に押し倒そうと、肌を合わせた気安さと甘さが彼にはあった。
が、しかし、容易にシャワー室のノブに手を掛けることができて拍子抜けした。
音に気を配りながら、そろそろとドアを開ける。

アーシャは壁に寄りかかり全身にたたき付けるように、お湯を浴び瞳を閉じていた。
あまりに強く出しているため、水圧の音で彼がドアを開けたのに気づかなかったらしい。
胸や 腹に 肌に 弾けては落ちる水滴のさまにマイケルはうっとりしながら、眠っているかのよ
うな彼女の顔を間近で見ようとドアから顔を出した。
瞬間、マイケルは驚いて声を出す。

────隻眼────のはず

彼女は若い頃に戦争に巻き込まれ、
受けた傷が元で左目を蝕まれ腐った果実のように落ちたと───────

仲間うちで聞く真しやかな話。

眼帯を外すと、あるはずの物はそこには存在していなく底の無い落とし穴のようだと・・・。

マイケルの驚愕した声に夢から覚めたように彼を見つめる彼女の瞳は
右目と同じ薄い茶の瞳をカッと開けてマイケルを凝視している。

「──────あんた・・・誰なんだ・・・?」
彼のその言葉に、彼女は弾けるようにマイケルを押しのけシャワー室から飛び出ると
床に転がっていた自分の剣を引き抜き、
驚きで半ば腰が抜けている彼の胸を一突きした。

ガバッ───────!!!
マイケルの口から、刺した胸から血が吹く。

白い裸体に返り血を浴び、彼女は震えながら既に絶命している彼に言い訳をする。

「お前が、お前が悪い・・・! 黙って覗くから!!
─────私がアーシャではないと知ったから・・・!!」

ひとしきり絶叫すると、彼女は剣をマイケルの身体から引き抜き倒れるようにしゃがみ込む。


48隻眼のアーシャ:2007/10/28(日) 23:11:54 ID:eWg7SCCN
「・・・・すまない・・・すまない・・・。
まだ私は、アーシャの振りを止める訳にいかないんだ・・・。」

平気で罪を犯して来た者達を、同じ犯罪者の振りをしながら生活し自分も罪を重ね、自分の
正体を知った者はこうして殺めて行った。

もう、全てを投げ出してしまおうか
罪の中に身を投げようか

何度そう思い、悶えたか

しかしその度に脳裏に浮かぶ、屈託無い少女の顔─────

(シルヴィア姫・・・・)

口からでまかせの私の話を純粋に信じ、盗人アーシャに捕らわれた。

人買いに売られれば、平民だろうが姫だろうが関係が無い。
器量が良い者は、仕込まれ、娼婦になりさがる。
まだ、それでも良い方だろう。
姫のような温室育ちには、きっと耐え切れない・・・。

壊れるか
自ら命を絶つか・・・・

王も王妃も、私を決して責めなかった。

─────そして諦めた・・・。

「シルヴィア姫・・・。私は諦めません・・・・。
───────タチアナは、姫を必ずお救い致します。」

もうすぐです
待ってて下さい

身体についた返り血も拭いもせず
止め処も無く流れる涙も拭いもせず
うわ言のように何度も呟いた───────



おわり
49名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 23:14:51 ID:eWg7SCCN
最後が何度か投下失敗してあせりました。

すごい人達からの投下の間、読んで下されば幸いです。
50名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 13:00:34 ID:9BFV1OTc
投下乙

つっても、これピンク板の必要無いんじゃね?この先あるのかもしれんけど。
以下気になるトコロ
・「噂」で隻眼と聞いてたけれど実は両目あったんです、てだけで腰抜かす程驚くだろうか
・わざわざ部屋に行って剣取ってくるてのはちと不自然に感じた。目を潰して殴り殺すなり首絞めるなり
・冒頭で眉一つ動かさず人殺してそれを気にする描写もなかったのにマイケル殺しの時は狼狽しすぎじゃまいか
・もう何人も同じ理由で殺してるぽいのにやっぱり狼狽しすぎじゃまいか

あと「姫」の境遇がよく分からんな
アーシャってのが別にいて姫がそいつに攫われ人買いに売られた、って解釈でOK?
そうだとして、
・一国の王女が攫われといて護衛?を責めもしない王ってのは……
・てかこの描写だと攫われたのを知って即諦めたようにも読める

一話の中で伏線にする部分と説明すべき部分をもうちょいハッキリさせた方がいいと思う
なんにせよ次を読まないと評価しにくいな
51名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 15:44:57 ID:Sjp4HgZF
たしかにここで終わっちゃうのはもったいないね。
52名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 20:17:18 ID:rJ6tIGvI
ご指南ありがとうございます!
確かに指摘された部分読み直すと、話が説明不足が否めないし、
穴だらけだわ・・・・・。
書こうと言う気持ちだけで、あせって書いちゃ駄目ですね。
もっとエロ部分も出したいし
登場人物達のプロットも、もっと掘って今度はじっくり書いてきたいと思います。

続きを懲りずにまた投下しようかと考えてます。
その時はまた懲りずに感想投下して下さい。
53名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 23:59:44 ID:58U3JmOr
(・∀・)マッテルyo!
54名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 07:16:14 ID:beKMjAcT
前スレ落ちたね

てなわけでホシュ
55名無しさん@ピンキー:2007/11/03(土) 19:33:10 ID:DbCbxP/R
週末だぜ保守。
56Princess of Dark Snake 3:2007/11/04(日) 01:58:56 ID:B1zzw6KG
前回から時間が開いてしまいましたが、
蛇姫様の第三話。
しかし、相変わらずエロ以外の展開が酷く長くてすいません。
57Princess of Dark Snake 3:2007/11/04(日) 01:59:36 ID:B1zzw6KG

パルティア王の三男ファルハードの体躯が獅子に例えられるのに対し、
長子バハラームはよく牛や象に例えられる。
三つ違いの弟がある種の優美さを備えた肉体を持つのに比べ、
第一王子の猪首、平たく垢抜けない顔、大柄な骨格と太い手足は、一見鈍そうな印象を抱かされる。
しかし、宮廷に伺候する青年貴族と比べて、頭や体力で特に劣っているという事は無い。
歴代の王族と比較しても、彼は水準以上のものを持っている。
だから、順当に行けば彼は王位に最も近くに居る筈だった。
ただし非常に出来の良い弟さえ居なければだが。

(阿呆だな、アタセルクス。人の倉を焼こうとして自分の家に火が付いては世話ないわ)

先日の巫蟲騒ぎのお陰で、第二王子は父王の信頼を損なった。
バハラームもその様を傍から見ていたが、
事態が予想外にあっけなく失敗に終わった事に逆に驚いたくらいだった。

(あいつはファルハードを罠に掛けようとしたな。
 だが、何かの不具合で失敗して恥をかくこととなったに違いない)

さすがに弟が呪詛をかけさせていた事、弟に魔族の姫が影から力添えしていた事までは
推測出来なかったが、証拠もないのにそのような想像を働かせるのは、
健全な知性の結果というよりは狂気か妄想癖の持主だろう。
彼とアタセルクスはある点で似ているため、事件の裏側をほぼ正確に見抜くことができた。
彼らの共通点は、出来のいい弟ファルハードの存在が
自分が王になるための障害であるという認識である。
違いといえば、第二王子は兄も邪魔者だと考えているが、
第一王子はアタセルクスも邪魔者だと考えている事ぐらいだった。

「そもそも、自分が告発者になって点数を稼ごうとするのが、
 目立ちたがり屋のさもしい発想というものだ」

そうひとりごちながら大皿から鶏の手羽先を摘み、銀の小皿に盛ったソースをつけて口に運ぶ。
柔らかい肉を齧りとり、染み出た汁の旨みに舌鼓を打ちつつ、何度も咀嚼する。
ポロや狩猟に精を出しているお陰でまだ胴回りはそう太くないが、
王宮一の大食漢が、いずれ象から豚に例えが変わるのは、
預言者ではなくても言い当てられる事実だった。

「上の弟が失点を稼いだのだから、下の弟にも恵んでやらねば不公平というものだろう」

そう心を決めると、油塗れの手を叩いて従僕を呼ぶ。
間を置かずに現れた従僕の耳に何やら囁きながら、彼の手はまた大皿に向かった。
象のように食べるバハラームだが、頭の回転は鈍くない。
上の弟とのもう一つの共通点は、彼も同じく陰謀好きだということだった。
だが、弟アタセルクスと違うのは、彼ならば弟を誣告する場合も
自分の手を汚さずに第三者を使っただろう。
『策を巡らすなら、誰にも知られずに、密やかにやらなければ』
それが彼の持論であった。

しかし、第一王子と従僕しかいない筈の部屋に、小さな密偵が潜んでいたことには気が付かなかった。
バハラームたちの密談を聞き終わると、それはスルスルとその細い体を地に這わせ、
主に報告するため王宮内の誰も知らぬ場所へ向かっていった。
そして寝椅子に横になっていた主の耳元で、先端の裂けた舌をチロチロと繰り返し突き出す。
すると、主人はにこやかに笑った。

「ほほう? また面白い事が起こりそうねえ…… ここは本当に退屈しない所だこと」


・・・・・・・・・
58Princess of Dark Snake 3:2007/11/04(日) 02:00:53 ID:B1zzw6KG

パルティアは一夫多妻制の国である。
王族ならずとも、資力があるなら幾人でも妻妾を蓄えることが許される。
もっとも、庶民にとっては一人の妻を養う事で四苦八苦している輩が殆どなのだが。
そうやって囲い込んだ美女達をハレムに納めて、金持ちは誰の目にも触れられぬようにしてしまうのだ。
ただし、集めたはのはいいが、男が全員を毎晩可愛がってやれるほどの精力の持主とは限らない。
宝石の様に収集するだけで満足してしまう者もいるのが現実だった。

「ライラさま、またお手紙が届いておりますよ」
「えっ…… そっそこに置いておきなさい。後で読みますから」

内心の動揺を隠そうとしながら、宮女ライラは使いの宦官にそう言った。

「出来ましたら、お返事を賜りたいのですが?」
「へ、返事? 気が向いたら今度書くわ……」

慌てふためくライラの顔に意味ありげな笑みを向け、宦官は一礼して去っていった。
使いが去ったのを確認すると、すぐさま彼女は文机の上に置かれた封筒を破る。

「嗚呼……」

そこにしたためられた甘い言葉に、胸の奥が焦がれる思いがする。
これは、後宮の女には許されぬ恋。
誰にも知られてはならない関係だった。
手紙には、相手がいかに彼女を想って夜を越しているか、
この思いを悟られないように、日々を過ごす事がどんなに辛く苦しいか、
思いを遂げられるのなら、どんな苦難も乗り越えるつもりであるか、切々と書かれていた。
流麗なパルティア文字の見事さと、洗練された言葉使い。
想い人に捧げる一片の美しい詩となって、恋文は綴られている。

(私に会いたいとあの方は仰るけれど、それは許されない事。
 仮にも私はあの方の父上の物だもの。もし発覚すれば……)

自分にも手紙の書き手にも、重い罰が下される事だろう。
しかし、禁じられている恋ゆえに、一層想いは深まっていく気がする。
ハレムの女たちとて生身の女である。
恋に憧れる事も、危険な熱情に身を委ねたいと想う事もある。
そもそも男の側がそれを望むというのに、女の側を一方的に責めるのは理不尽というものだ。
危険な、だがそれゆえに甘美な熱情に焼かれながら、ライラは手紙をそっと胸に抱き締めるのだった。
59Princess of Dark Snake 3:2007/11/04(日) 02:01:56 ID:B1zzw6KG


ライラが恋文を受け取って、ニ三日した夜のことである。
新月の空は雲に覆われて星明かりも無く、バハラームは楽師が奏でる音楽を聞きながら、
己の植えた陰謀の実をいつ収穫するべきかに思いを馳せていた。
こう見えて、彼は芸術にも造詣が深い。
ただ、彼が音楽にうっとりしている様子は、水牛が牛飼いの吟じる歌に
のんびり聞き入っているかのように見えてしまうのであり、
彼はここでも外見で損をしているのだった。

「……ッ」

楽師が、音を外した。
そこはもっと弦を押さえる指を柔らかく使うべきだった。
あからさまに不機嫌な顔になったバハラームは、掌を叩いて演奏を止めさせると、
手を振って下がるように命じた。
楽師の顔は青くなっている。
もう彼は王宮に出入りすることは難しいだろう。
青い顔になって引き下がる楽師に一瞥さえ呉れず、バハラームは羊の骨付き肋肉揚げに手を伸ばした。

「もっとマシな楽曲を聞かせる者はおらんのか?」

香辛料をふんだんに用いた羊肉に齧り付きながら近習に尋ねると、
主君の性格を心得ている彼は、すぐ次の楽師を連れてくる。
むしろ彼にとって、先に弾かせた楽師は前座だ。
これから見せる者こそ隠し玉である。
(さぞお褒めの言葉を賜れるだろう……)
そう思うと、近侍の顔は自然に緩んだ。

「おっ……?」

ヴェールを被った女が、バハラームの前に畏まる。
見た事の無い女楽師であった。
薄絹で隔てられていてさえ、一目見ていたのならば絶対に忘れる筈がない。
そう思えるほどの美女であった。

「新入りか?」
「はい、お初に御目もじ仕ります。殿下」
「ふーむ……、そちは何を奏する?」
「箏を、あとは唄で生業を立てております」

ヴェール越しだが、透き通るような女の声だった。
小脇に抱えていた年代物の箏を絨毯の上に置くと、白魚の如き指がそっと弦の上に置かれる。
60Princess of Dark Snake 3:2007/11/04(日) 02:03:01 ID:B1zzw6KG

「ほほう? 我は箏にはちとうるさいぞ」
「殿下が歌舞音曲にご精通あそばしておられることは、賤の者どもにまで知れ渡っております」
「はっはっは、それを承知で我が前に来たのならば、よっぽど自身があると見えるな。
 今は機嫌が悪いゆえ、下らぬ音を聞かせおったならタダでは還さぬぞ? ぬははっ」
「精一杯、勤めさせて頂きます」
「では…… そうだな、『チーナの舞姫』でも弾いてみ──」

王子の言葉が終わりきらないうちに、既に女楽師の指は動いていた。
この曲は、姫君たちが踊る恋の舞の躍動感を表現する、飛び切りの難曲だ。
激しさの中に静けさがあり、幸福の内に苦悩、清らかさの内に隠微さが潜まなければならぬ。
一人前の楽師でもニ三人の合奏で弾く代物であり、
独奏では王室付きの楽師たちでさえ怪しいものだ。

どう考えても、新顔にいきなり弾かせる選曲ではない。
それを、何の躊躇も無く女は始めた。
付け爪を嵌めた指が、弦の上を跳ねる。
始まりは静かに、そして次第に速く、さらに緩急自在に。
バハラームは女の指を食い入るように見た。
箏弾きたちの隠語で『二十本指のための曲』と称される複雑な音曲を、
目の前の新顔が全く澱みなく弾いているのだ。
それも一片の破綻も無く。

「……」

部屋に響く箏の調べは、見事の一語に尽きる。
瞳を閉じれば、脳裏に浮かぶのは東方の姫君の舞い踊る姿。
楽曲などに疎い奴僕でさえ、我を忘れて聞き入っている。
だが、バハラームはそうしなかった。
それよりも、箏を弾く女の姿に目を奪われていた。
曲目の如く、弦の上を華麗に舞い踊る白い指。
迷い無く動く指運の巧みさに、ため息さえ出そうになる。

恋に身を焼く舞姫の悲しい結末を表現する最終楽章に至るまで、その場の誰も席を立たなかった。
否、蝋燭の火が燃え尽きていたとしても、誰も気が付かなかったかもしれない。
それほどまでに、女楽師の演奏は絶品であった。
舞姫の最期を表す一音を、寂静の色を込めて掻き鳴らすと、厳かな余韻が室内に満ちた。
指を止めた女楽師は、改めてバハラームに頭を下げる。
61Princess of Dark Snake 3:2007/11/04(日) 02:04:00 ID:B1zzw6KG

「──拙い技、お耳汚しでございました」
「見事!」

膝を打って、バハラームは賞賛した。
その場に居た近侍や奴僕たちも、手を叩いて口々に褒め称える。

「なんと、こんな弾き手がこれまで野に埋もれておったとは! 名はなんと申すのか?」
「名乗るほどの者ではございませぬが、『箏弾きのライラ』と呼ばれております」
「ほう、ライラという名の娘などパルティア中に五万と居るだろうが、
 『箏弾き』の名を冠する価値のある名手はそち一人に違いない」
「過分なお褒めを賜り、恐悦至極に存じます」
「うむうむ!」

主君の満悦そうな顔を見て、侍従の顔も綻ぶ。
彼にとっても、突然売り込みに現れた女楽師を引き立てた甲斐があったというものだ。
楽曲の腕前より別のところで主人の気に召すだろうと考えていたのだが、
まさかこれ程までとは……

「ライラよ、そなたの奏でる音曲をもっと聴きたい喃?」
「御意のままに」
「うむ! 我は妙なる音楽を聴くときは、余人の居らぬ所で音色に浸りたい性分があってなあ。
 宮の奥まで来てもらうが…… 善いな?」
「何処なりとも、箏を弾ける所なら」

意味ありげな笑みが主君の顔に浮かぶと、侍従は皮算用がもう一つ実現しそうな事を悦んだ。
女学士が楽曲だけでなく、別の意味での王子のお気に入りになったとしたら、
彼女を見出した彼に主人は感謝の気持ちを抱くだろう。
ひょっとしたら、それを形のある物品で示そうとしてくれるかもしれない。
さらに、王子のお気に入りに出世した女楽師も、当然自分を引き立ててくれた相手に感謝する筈だ。
彼女もまた、その気持ちを何らかの形で示すべきだ。
笑いをかみ殺すのに苦労しつつ、侍従は女楽師を部屋に誘う。
残念ながら、その目論見は泡と消える定めだとは知らぬままに。


・・・・・・

62Princess of Dark Snake 3:2007/11/04(日) 02:05:27 ID:B1zzw6KG

「では、何をお聞かせしましょうか?」
「それはさておき…… 」

招きよせた自室で、バハラームは箏弾きのライラを手が届くほど近くに坐らせた。
そもそも楽師という稼業は、これほど王族の近くに寄れる身分の者ではない。
恐縮する相手を無理に呼び寄せ、何気ない仕草で彼は手を伸ばした。
太い指が女楽師の細指を握ろうとしたが、すいっと繊手は引っ込められる。

「お戯れを……」
「よいではないか? 」

今度は肩を掴もうとしたが、女はまたするりと身を躱した。
二度も逃げられたばつの悪さたるや相当なものであり、こうなれば彼もむきにならざるを得ない。
両腕で相手を抱き締めてやろうと身を乗り出してかかったが、
その手に掴んだのは、ライラの被っていたヴェールだけだった。
女はどんな体術を使ったか、するすると男の魔手から逃れ王子と距離をとって坐り直していた。

「私めは楽を売るのが生業でございますよ。
 そちらの方をお求めなら、花街よりお呼び寄せなさったらいかが?」
「……ほほぉ」

思わずため息が出るほどの美形である
ヴェールを剥ぐ前からその麗しさは透けてはいたのだが、
改めて見ても、後宮の美女たちなど忘れる程に妖しい魅力を秘めた女だった。

「ふふふ…… そなたに比べれば、王都の花街など萎れた野草を並べているに等しい」
「まあお上手、王家の方々は皆世辞が巧みでらっしゃいますわね」
「いやいや! 我は王の子になるよりも、いっそお前の手鏡か箏になりたかった」
「おほほ、その心は?」
「手鏡なら、毎日お前に見つめてもらえるだろう?
 箏なら、お前の可憐な指先で爪弾いてもらえるではないか」

もはやなりふり構っていられなくなり、バハラームは外聞も憚らず近寄ろうとする。
女も立ち上がって王子から逃げるのだが、扉や窓から逃げるような真似はしない。
まるで追いかけっこを愉しむかの如く、彼女は男の手が伸びる寸前で、ひらりひらりと逃げている。
63Princess of Dark Snake 3:2007/11/04(日) 02:06:11 ID:B1zzw6KG

「あれ、御無体な」
「おのれっ待て待ていっ! 待たぬか!?」

寸でのところで躱されてしまうと、そこに甘く芳しい女の残り香が残っていた。
まるで頭の芯が蕩けて陶然となりそうな、実に摩訶不思議な香りであった。
それを嗅ぐごとに、バハラームはますます女体への熱情が昂ってくる。
もはや見境なく、獣の様に獲物を捕らえようとし始めた王子には、
女楽師の白い手が追いかけっこのどさくさに紛れて、
燭台の灯火を消してしまった事も気にならぬようだった。
むしろ、闇の中で女の気配と匂いを頼りに探すほうが興奮する。

「ぐははっ、どこにいるのかな?」
「おほほ…… こちらですよ」
「そーら、捕まえるぞっ」
「残念、あと少しでございました」

逃げないという事は、口では嫌と言っていても女にその気が無い訳ではないのだ。
これは男を煽る手口の一種だと、バハラームは解釈していた。
今までこんな風に女に手玉に取られた事はないが、大人しく喰われるだけの餌食よりも趣がある。

そんな遣り取りをどれ位続けていた事だろうか?
女楽師の身体から香る匂いの所為で、バハラームにはそれが判らなかった。
自分が部屋のどのあたりに居るかさえ定かで無いまま、
女楽師を押し倒そうと、ただ懸命に追い駆け回った。

「……ええい、今度こそっ」

朦朧とした意識の中で、勢いを付けて飛び掛り、遂に女の身体を抱き締めた。
もう逃すまいと両腕に力が篭る。

「もう離さんぞ、ライラ」
「あっ……」
64Princess of Dark Snake 3:2007/11/04(日) 02:07:15 ID:B1zzw6KG

女の身体は柔らかかった。
蝋燭が消えた所為で顔は良く見えなかったが、
逸る心を抑えきれずにバハラームはその唇を奪う。
とりたてて他の女と違うとも思われぬが、苦労して手に入れた女の身体を確かめるようにきつく抱き締める。
腕の中で、女はやや震えているようであった。
それがまた可愛らしく思えて、バハラームの淫心をくすぐるのだった。

「我に抱かれるのが怖いのか?」
「はい、恐ろしゅうございます……」
「ぬふふ、怖がる事は無い。優しくしてやるぞ」

闇の中、バハラームは急にしおらしくなった女の装束を手探りで脱がしにかかる。
肌は、下々の者にしては実に滑らかだった。
相方の身体から発せられる甘い匂いに鼻をひくつかせながら、唇から頬へ、そして項へと
王子の唇は這い進んで行く。

「ああんっ、殿下! そんなご性急な……」
「ふふふ、これだけ焦らしておいて何を今更?
 我はもう我慢の限界なのだぞ」
「でも……」
「怨むなら、我が心を捉えて離さぬ己の美しさを怨んでくれ」
「そんなっ……あぁっ」

女の身体を逃すまいと締め付けるバハラームの指が、女の股座の間に入っていった。
それを拒むでもなく受け入れる女の身体に、王子の身体も反応せずには居られない。
下穿きを押し上げる男性器の存在を、相手の太腿に押し付けてやる。
その感触に驚いたのか、腰が抜けた様に女は床に崩れ落ちた。

「ぬふふふふ……」

すかさず覆い被さったバハラームは、下卑た笑いをあげながら肌蹴させた胸乳を頬張る。
着痩せする性質なのか、灯りが付いていたときに見えたのよりは、若干小ぶりのようだった。
それでも、女の肌から薫る匂いには相変わらず脳が痺れる思いがする。
下半身を指で嬲りながら、乳に歯型が残るほどにきつく貪り、彼は獲物を味わいつくそうとした。

「やっ、」
「痛いか?」
「は……い、どうかもう少しだけ……優しゅうして下さいませ」
「よしよし、優しくだな」

言葉通り、肌を啜る力を少しだけ弱める。
恐らく肌に吸い跡が残るだろうが、構わず劣情のままに口唇での愛撫は続けられた。
女は嫌がり、不安な素振りを見せながらも、王子の行為を止めはしなかった。
否、男が自分の身体に跡を残してゆくのに悦びを感じているとさえ思えるほどに、
女の肉体は反応していたのだった。
65Princess of Dark Snake 3:2007/11/04(日) 02:08:57 ID:B1zzw6KG

「はうっ、そんなに吸われてっ……誰かに知られたら」
「ぐはははは、構うものかっ」
「ああっん…… そのお言葉、本気ですの?」
「疑うのか?」
「いえっ! 嬉しゅうございます!!」

女の腕が首筋に絡み、今度は相手側から唇を合わせてきた。
舌と舌が蠢き、互いの味を確かめようとするかの如く交わる。
思わぬ積極的な求愛に答えようと、バハラームは股座を弄る指の動きを早めた。
陰核を捏ね繰り回し、その度に震える反応を楽しみつつも、技巧の全てを尽くして責め抜こうとする。
男の指戯に、女陰はしだいに潤いを帯びつつあった。
それを頃合と見てか、野太い腕が割り込むように女の足を開かせる。
拒みもせず、脚は自ずから開いた。
バハラームは、裂け目に猛々しくいきり立った肉塊を衝き立てた。

「ああんっ!?」

甘い声を上げて、女はそれを受け入れた。
処女の硬さは無い。
男を知った女の味だ。
別に不自然とも思わない。
楽師や踊り子など、宴席に侍るものたちが世過ぎの糧として身を売るのは当たり前だからである。
この女楽師は先に『楽は売るが、身は売らない』と言ったのも、
『安売りしない』という意味のありふれた口上なのだ。
だが、仮に本当に生娘であったとしても、
今のバハラームにそれを不審に思えるほどの理性が残っていたかどうか?

「おおっ……」

結合の悦びに呻きながら、一息に奥まで突き入れる。
そして引く。
また刺し貫く。
既に盛りの付いた獣と化したバハラームは、ひたすらにそれを繰り返す。
女が手を繋ぎたがるのに答え、彼は相手の小さな掌を握ってやる。
灯りの中で見たあの白い指が、今自分の手の中に在る。
指からも、先程の甘く痺れる香りが漂っていた。
思わずそれを舌でも味わいたくなり、口元に運んで指を一本一本ねぶる。
不思議な味わいが口中に広がっていくのを感じながら、腰の動きは休まない。
胎内をかき回されるたびに上がる嬌声が、さらに彼を煽る。
女の側も、相方の動きに合わせて腰を使い始めた。
もはや二人を止める物はなく、互いの肉体から存分に歓楽を引き出そうと
呼吸を合わせて男女は番う。
66Princess of Dark Snake 3:2007/11/04(日) 02:09:58 ID:B1zzw6KG

肌と肌がぶつかり合う音が小気味良く室内に響く中、次第にそのリズムは速さを増して来た。
こみ上げる放出を予感し、益々強くバハラームは相手の体を穿ち貫いていく。
歓喜の声を上げながら、快楽に酔いしれる二人は絶頂へと向かい、狂ったように動きあうのだった。

「ライラ、そなたは我のものだ…… 誰にも渡さん」
「ああっ! 嬉しゅうございます! もっと、もっと言って下さいませ。私は殿下の物だと」
「可愛いことを言うではないか? 我のライラ、そなたは我の物だ」
「嬉しいっ! 私は殿下の物ですっ!」

暗がりの中で表情は判らないが、男の手を握る指に力が篭り、女は喜びを表す。
その行為に愛おしさが募り、バハラームは最後の打ち込みを膣奥へ目掛けて仕向ける。

「うおっ、ライラ! 出すぞ!?」
「はい! 私の中に、殿下の精を下さいませ!」
「お、おおぅ」
「あああああぁぁぁーーっ!!」

一番深い場所へ、バハラームは存分に精を放った。
女はそれを受け止めつつ達した。
激しい交合の後の気だるい感覚の中で、荒い息を抑えつつバハラームは女の頬を撫でた。

「はあっ…… はあっ…… ライラ、我はそなたの虜になってしまいそうだぞ」
「嗚呼、なんと嬉しいお言葉でしょう。
 始めにお手紙を頂いた日より、私はもうずっとファルハードさまの虜ですのに」
「なに?」
「えっ?」

その時である。
部屋の外から叫び声が放たれた。

「誰か、誰か衛兵を呼んで!! ライラ様のお部屋に狼藉者が押し入って乱暴を!」
「何と! 国王の後宮に闖入者が!? ええい、宦官どもは何をしておったのだ!
 ものども出合え、出合えぃ! 狼藉者を逃すな!! 逃せば国王から厳しい罰を被るぞ!!」

バハラームには、何事が起きているのか見当も付かぬ。
もし彼の頭が不可思議なる香に惑わされていなかったのなら、
叫び声はあの女楽師の声色に似ていた事に気が付いただろう。
余人の侵入を許さぬ王のハレムはこの晩、火の付いた様な騒ぎとなった。


・・・・・・・・・

67Princess of Dark Snake 3:2007/11/04(日) 02:11:24 ID:B1zzw6KG

「そうお怒りにならなくてもよろしいではありませんか? ファルハードさま。
 そんなにご機嫌が悪くては、わたくしも御前に姿を現せませぬ」
「……」

第三王子宮では、ファルハードが自室でむっつりと押し黙ったまま座に着いていた。
不機嫌そうに腕を組む彼の側には誰の姿も見えぬが、声だけは部屋の何処かから聞こえてくる。

「御義兄さまに、ほんのちょっと箏をお聞かせしただけではありませんか?
 お聞きになりたいのなら、幾らでも御身のために奏でますわよ?」
「……」
「あら、まさか! わたくしと御義兄さまとの間に何かあったとのお勘繰りでございますか?
 それはとんだ誤解でございます。
 御義兄さまには箏をお聞かせしただけ!
 本当に、指一本触れさせはしなかったのですから……」
「そうではない!」

ようやく、ファルハードは口を開いた。
彼も王宮の一員として、宮廷を騒がす事件に無関心ではいられない。
即座に人を遣わして、第一王子と宮女ライラの不祥事について調べさせた。
するとどうだろう、第一王子宮において美しくも妖しい女楽師が現れ、
彼女を連れて兄が自室に篭った後、誰も知らぬまま王子の姿は後宮で発見された。
それも、あられもない姿で。
宮女ライラの方は侍女を遠ざけた上で、何処から手に入れたか周りも知らぬ香水を使っていたなど、
どうも誰かを待っていた様子があるらしい。

「シャフルナーズ、何ゆえお前は我が王家に波風を立てようとする!」
「波風とは?」
「とぼけるな! 兄は後宮に忍び込むような人間ではない。
 今宵の騒ぎは、全てお前が元凶だろうが!?」
「おほほほほ、さすがファルハードさま。
 わたくしの事は何でもお見通しでいらっしゃいますのね」
68Princess of Dark Snake 3:2007/11/04(日) 02:13:07 ID:B1zzw6KG

笑い声と共に、ファルハードの頭上からひらひらと数枚の紙が舞い降りてきた。
思わず天井見上げるが、相変わらず女の姿は見えない。

「これは何だ?」
「わたくしという者がありながら、御身があんな詰まらぬ女に思いを寄せておいでなので、
 ついつい意地悪をしたくなってしまったのですわ」
「我がいつ、父上の側女に思いを寄せたというのだ」
「あら、そのお手紙のご筆跡はファルハードさまの物ではございませんか?」
「確かに我の字に似ているが、こんな物を書いた覚えは無い」

その紙に書かれているパルティア文字の雄渾な筆跡は、自分の字に酷似していた。
十人中九人までが、それを第三王子の手紙だと思うだろう。
その九人の中に、ひょとしたら自分も入るかもしれなかった。
だが、そこにしたためられてある宮女ライラに向けた熱い思いの丈など、
ファルハードは頭の中に浮かんだ事さえも無い。

「偽手紙だぞ、これは」
「おほほ、それではわたくしの早とちりでしたの?
 上の御義兄さまの侍従から使いの宦官に手渡され、宮女の元へ運んでいったものですから、
 あの方の仲立ちで、二人が文の遣り取りをしていたのかと思ってましたわ」
「馬鹿な! 後宮の女に恋文を出すなど……」

言いかけて、ある事に気が付いた。
後宮で取り押さえられた兄が『これは陰謀だ、誰かに陥れられたのだ』と叫んでも、
周りの者たちはそれを信じなかった。
ライラとバハラームの身体に残った確かな情交の跡を見れば、説得力の無い抗弁にしか聞こえまい。
同様に、己でさえ自筆の物と間違えそうな恋文が、
もし誰かの目に触れていたらどうなっていたか?
自分の書いた物ではないと、誰が証明してくれるだろうか?
背筋に悪寒が走った。
69Princess of Dark Snake 3:2007/11/04(日) 02:14:50 ID:B1zzw6KG

「後宮からそれらは全て持ち去って参りましたゆえ、どうかご安心を…… フフフッ」
「シャフルナーズ…… 手紙を渡したのは、兄の手の者だという事は確かか?」
「はい、間違いなく」

ゆるぎなく、確信を込めた声。
そしてそのどこかに、楽しんでいるかのような雰囲気が漂っている。
ファルハードはため息を吐いた。
いかに美しくても、この姫君は邪悪の化身の血を引く娘。
災いと諍いは糧に過ぎぬ。

「そうお気になさらずに。
 先だって、御身は謀反を起こした叔父君をお討ちになられたではありませんの」
「あれはカーウース叔父が悪かった。
 父の治世に何の落ち度も無く、叔父はただ単に王になりたいだけの謀反だった」
「おほほ、奇麗事で語っても所詮は同じ事。
 至尊の座を巡って血で血を洗うのは王家の宿命でございますわ」
「……シャフルナーズよ、お前に頼んでみたい事があるが?」
「ほほほ、何なりと」
「もしこれを叶えてくれるのなら、一晩とは言わぬ。
 我の髪が白くなるまで、ずっとお前の物になってもよい」
「そのためでしたら、例え大海を飲み干せとでも、エルヴの山を削って平地にしろとでも、
 何でもやってみせましょうぞ? おほほほほっ」
「我が王家に、骨肉の争いが起きぬようには出来るか?」
「……嗚呼っ! 期待で乙女心を昂らせた上で、それを弄ぶ憎いお方!」 

ファルハードの問いに、何でもすると言ったはずの姫は恨めしげに答える。

「それはザッハーグ王やカイクバード王でさえ出来ぬ事。
 神々でさえ可能かどうか定かではありませぬ。
 御身は何ゆえ、私め如きにそれをお命じになられますのか……」

その声は後に行くに従って小さくなり、いつの間にか女の気配も部屋から消えていた。
彼女の言葉に誤りは無い。
悪の王ザッハーグは父親を殺して王位を奪い、カイクバードは兄たちに殺されかけた。
さらに、英雄王は己の子供たちが後継者の座を争って血を流すのを見て、嘆きの中で死んだのだ。
シャフルナーズが去り、一人残された部屋の中で改めてファルハードはため息を吐くのだった。


(終)
70投下完了:2007/11/04(日) 02:16:27 ID:B1zzw6KG
新スレ初投下です。
スレタイが若干変更になりましたね。

個人的には間口を広げる意味も含めて
◆◆ファンタジー世界の女兵士と仲間達総合スレ◆◆
でもいいかなと思いましたが、5スレ目も盛り上げて行きましょう。
71名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 02:26:34 ID:dMdlll8O
GJ!!!
今回も楽しませていただきました。
72名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 13:02:57 ID:e1V0fzi8
この姫様ホントいいわ
次も期待して待ってる
73名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 20:30:23 ID:fb/d1I8k
GJ
策士を策に嵌める蛇姫様に惚れるw

ところで1、2話ってもしかして保管庫にはない?
74名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 20:49:21 ID:h0iUWNFd
>>73
補完庫はもう半年以上、ずーっと死にっぱなしじゃない?
75名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 00:39:21 ID:Fl3WxVlQ
>>73
SS単独保管はされてないけど、ログは読めるようになってた。
http://vs8.f-t-s.com/~pinkprincess/female_soldier/04-2.html#500
76名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 06:21:39 ID:esMQGjYo
遅ればせながらGJ!
アル戦一部好きだったから尚更、
細かい情景描写に気を配って雰囲気だしている作者さんに敬服。

なによりこの姫様ほんといいキャラだわー。
なんだいいつつ王子といいカップルだしw

策に利用されちゃっただけの宮女さんは
一番貧乏くじひいちゃって可哀相だったけど。
77名無しさん@ピンキー:2007/11/08(木) 20:27:59 ID:/RnfQ7/K
新作待ち保守
78兵隊さん(凌辱もの):2007/11/11(日) 14:53:03 ID:CB4THNUY
戦争の理由は兵士にとってはあまり重要なものではない。
たとえどんな理由であっても兵士は上官の命令を聞き実行するだけの存在だ。

「全く、せっかく今日も生き残れたっていうのにまだ働かせるっていうのかよ」
ほんの数時間前には戦場だった平原で一人の兵士がぼやく。
彼等はこの日の白兵戦の後、死体処理を命じられていた。
他の部隊の者は勝利を祝い宴を催しているだろう。
「隊長の命令なんだから仕方無いだろ。だいたい人を殺したのを
喜んで騒ぎまくりたいか?」
マスクをつけた兵士が敵兵の死体を引きずりながら言う。
「…別にそうじゃねえけどよ、ヘナポン。なんで俺達だけが
こんなことをいつまでも…」
「僕らが奴隷みたいなものだからだろ」
穴を掘っている兵士が答える。この兵士たちは辺境の部族から徴兵された者たちで、
一般の兵士たちに比べ冷遇され、任期も異常に長く設定されている。
部隊長が無能だったらとっくに全滅している連中だ。
「やれやれ…」
アイズというこの兵士は愚痴を言うのもあきらめ、手頃な死体に近づく。
「あーらら、もったいねえなあ…」
よく見れば美しい少女だった。年の頃は16歳くらい、おそらく高貴な身分だった
のであろう。外傷は見当たらないが煤けているのを見るに爆発魔法に巻き込まれようだ。
鎧は高価だった為か誰かに引き剥がされていたが、珍しく凌辱の跡などはなかった。
これくらいの器量なら死姦する者がいてもおかしくはないが。
少々哀れに思いつつも、穴に投げ入れようと担ぎあげた。
79兵隊さん(凌辱もの):2007/11/11(日) 14:55:19 ID:CB4THNUY
「…っく」
「!!」
突然少女がうめき声をあげたように思えた。心臓に耳を傾けると
わずかだが鼓動が聞こえる。
「おい、どうしたアイズ?」
ヘナポンが声をかける。
「このガキ、まだ生きてやがる。メディック、治してやってくれ。」
「…いいのか?それ」
墓穴を掘っていた兵士は首をかしげる。敵兵を助けるなどもってのほかのことだ。
「別にそんな規則はないし、構わないと思うが。」
ヘナポンが言う。メディック自身も可能なら人を助けたいと思うくらいの良心は
残っている。一般的には邪神とされ、メディックにとっては自然神とされている神に
祈りを捧げその少女を癒す。しばらして少女は目を覚ました。
「キ…」
叫ぼうとする口に慌ててアイズが手をねじ込んで黙らせる。
「馬鹿かお前、今叫び声あげたら飢えたアホどもが押し寄せてくるぞ。」
少女は震えながらゆっくりとあたりを見回し、ようやく現状を理解できたようだ。
「…何故私を助けた。」
震えるような声だが、強い敵意が感じられる。当然と言えば当然だが。
「別に生きてるんだから死ぬことはねえだろ。」
「ふざけるな!!貴様らのような蛮族にこの私が…」
蛮族という言葉に3人ともカチンとくるが、間違いではないので反論はしない。
「…見逃してやるからとっと逃げ…
ドカッ
三人が油断している隙にすでに少女は戦いの準備をしていた。
隠し持っていた短刀はヘナポンの脇腹を貫いた。
80兵隊さん(凌辱もの):2007/11/11(日) 14:57:21 ID:CB4THNUY
「ヘナポン!!てめえ…」
素早く短刀を抜き防戦しようとするが、先にアイズの鉄拳が顔面にめり込む。
怯んだすきに少女に馬乗りになって首に手をかける。
「このガキ…なんのつもりだ。」
「だっ、黙れ、薄汚い蛮族の分際で…!」
少女はもがきながらも、鋭い目つきで睨みつけてくる。何故だ?
どうしてどいつもこいつもここまで偉そうに振る舞うのだ?
ふいにアイズに、この少女に徹底的に屈辱を味わわせてやりたい思いがわきあがった。
左腕だけで少女の首と左腕を押さえつけ、右手を少女の右腕に振り下ろした。
身につけていた籠手の重さは1キロあり、簡単に人体を破壊できる。
「…っ!!」
気管をつぶされている少女は声にならない悲鳴を上げた。
全くもろいものだ。もう抵抗もできないだろう。
そのまま少女の衣服を素手で引きちぎった。繊毛に包まれた秘所があらわになる
「へーきれいじゃねえか、ぴったりと閉じてやがる。」
そう言うと、何の遠慮もなしに少女の秘所に指を突きさし、動かし始めた。
あまりの激痛のためか少女は白目をむいて痙攣するが気にも留めず動かし続ける。
しばらくすると少女が何の反応も示さなくなってきたので引き抜くと、
秘所からは血が滴っていた。
ぐったりとしている少女を引き寄せ、アイズは後ろから自身の性器を荒々しく挿入した。
ぶちぶちっ
「ぎぃいい!!」
あまりの痛みに少女は再び覚醒した。
少女の股間からは血が溢れんばかりに流れているが、アイズは気にせず
強く腰を打ちつける。
その度に絶叫が上がり、少女の小ぶりな乳房がゆらゆらと揺れる。
81兵隊さん(凌辱もの):2007/11/11(日) 15:00:35 ID:CB4THNUY
その様をメディックとヘナポンは止めるでもなく、参加するでもなく眺めている。
「やれやれ、大丈夫か?ヘナポン」
「ああ、あんなちっぽけなナイフで死ぬわけないだろ。しかしまあ…どうする?」
「ぎぃ、ひ、こ、殺せ、いや、助け…」
少女の痛々しい悲鳴が聞こえてくるが、止める義理も無い。
「とっとと、仕事終わらせるか。」
「ああ。」
―どうしてこんなことになったのだろう。
少女は激痛にさいなまれる中そんな考えが浮かんだ。
名門貴族の自分が、帝国騎士の自分が、こんな異郷の地で
蛮族の中でも最も卑しい部族の男に何故こんな目にあわされるのだ?
「へへ、ぶちまけてやる。」
アイズの言葉で少女の意識は現実に戻された。
「な、やめ…」
アイズはさらに強く一物を奥へと打ち込み、果てた。
熱い子種が少女の下腹部を満たしてゆく。
「あ…あ…いや、いやあああ……」
目を見開き、くぐもった悲鳴を上げる。
アイズは射精により冷静さを取り戻したのか、ばつが悪そうに性器を抜き取った。
少女は放心状態のようで、精神が壊れていてもおかしくはない。
ごぽっという音がして、割れ目から精液がこぼれ出た。
…この量では妊娠させてしまったかもしれない。
「おいアイズ、戻るぞ。」
「あ、ああ。」
仲間に呼ばれ慌ててついていく。明日の夕刻にはこの地にも敵兵がくる。
運が良ければあの少女も助かるかもしれない。野営地に行くと、隊長が出迎えた。
「穴掘り穴埋めご苦労。戦績をまとめてやる。」
三人は手帳を取り出し、隊長に手渡す。
手帳には10年分の日付が書かれており、この手帳全てに印を入れられれば
晴れて除隊することができる。
最も除隊したところで戦争が続いていればまた徴用されるだろうし、
補償金も少ないので結局そのまま兵隊であり続けるものがほとんどなのが現状だが。
3人は手帳を受け取るとすぐに床に就いた。
82兵隊さん(凌辱もの):2007/11/11(日) 15:04:30 ID:CB4THNUY
それから数日後、彼等はまた以前のように死体処理を命じられた。
「アイズ…」
ヘナポンは変わり果てた戦友の死体を見つけた。
遺品はないか調べてみたら、彼の手帳が出てきた。
開くときりのよいページでちょうど印が終わっていたため、残りを破いて焼き捨てた。
「ほら、全部埋まったぞ。」
手帳を返してやる。
「…お前、あと何日残っている。」
メディックが語りかけてきた。
「2000日。…なあ、メディック。何で私たちって生きてるんだろうな。
似たような鎧着せられて、水にぬれただけですぐボロボロになるような
革靴をはかされて、ただ人殺しと尻拭いをやらされて。何なんだろ。」
「さて、な。理由なんて必要ないだろ。ただ食って寝て。
まあ、生きた証を残すに越したことはないだろうけどな。」
「生きた証ね…」
不意にヘナポンの頭にアイズに辱められた女騎士がよぎった。
83名無しさん@ピンキー:2007/11/11(日) 15:11:01 ID:CB4THNUY
初投稿の者です。
恵まれている騎士があらゆるものから差別されている下級兵士に凌辱される話に
したかったのですが、改めて思うと兵隊さんたちの方が前面に出て少し板違いな内容に
なってしまいました。申し訳ございません。
84名無しさん@ピンキー:2007/11/11(日) 15:37:07 ID:UXep/7Dp
戦火スレ池
85名無しさん@ピンキー:2007/11/11(日) 15:43:55 ID:w/QSrI66
板違いになってしまいました、と自省できてるのにここに投下したのか
まぁ色々な意味で乙
86名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 22:53:35 ID:tx+09ZPN
もうちょっと練ればいい作品になった気がする。
目のつけどころはいいと思うので、また何か書いてください。
87名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 13:23:18 ID:JvpxXyt1

女騎士アリューシアの話、投下します。
今回は少し長めな話なので前編、中編、後編と3つに分けます。
過去の話を読んでいない方には内容の飲み込めない部分があると思いますが
ご容赦下さい。

では、「蜃気楼」です。
88蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 13:25:31 ID:JvpxXyt1


最初から、どうもこれはまた厄介ごとの匂いがする、という始まりであった。


夜番の同僚に引継ぎを済ませ、一日の勤めを終えた女騎士アリューシアが、
主人──マルゴット第四王女にいとまを告げに行った時である。
姫の寝室を訪ねると、マルゴットは寝椅子に横たわり、手足を侍女に揉ませて
くつろいでいるところであった。
アリューシアを見ると口元に微笑を浮かべ、持っていた扇でちょい、と手招きをする。
「アリューシア。こちらへ」

アリューシアは主のすぐ傍らへと歩み寄る。
マルゴットは今度は人差し指で「もっと側まで」と示した。
勿忘草の花のような青い瞳の目を細め、年下の可憐な王女は甘く緩んだ表情を浮かべている。
就寝前にやわらかく身体をもみ解されて、なんとも機嫌がよさそうであった。

寝椅子の横でアリューシアが慇懃に膝を折ると、マルゴットは上半身を起こして
その肩に手を回した。
耳元にキスをするように、そっと女騎士の亜麻色の髪に唇を押し付ける。
「部屋に戻ったらすぐに読んで。──これは誰にも内緒よ」
小声で囁き、するり、としなやかな指が掌に触れる。

気が付くと、掌の中に一片の紙切れを握らされていた。

忠実な女騎士は言われたとおり、誰の目にも留まらぬように
掌に紙を隠し持ったまま退室し、自室に帰ってすぐに折り畳まれていたそれを開いた。
紙にはこんなことが書かれていた。

 半時間後に、こっそりと中庭の糸巻き小屋に来て。
 部屋を抜け出したことを誰にも気付かれぬよう、
 細心の注意を払うように。

「……………」
目を通したとたんに、アリューシアの顔には渋い表情が浮かんだ。
あの奔放な姫のこと、もうこれだけで胡散臭さ満載である。
89蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 13:27:38 ID:JvpxXyt1

(絶対、姫はまた何か企んでいる……)

心の中で警鐘が鳴る。
君子危うきに近寄らず。
しかし、そうとわかっていても主の手紙を無視する訳にはいかないのが、
従者のつらいところである。
アリューシアは着替えもせぬまま、命じられたようにこっそりと
人目を避けつつ糸巻き小屋へと向かった。



糸巻き小屋とは、中庭にある田園風景を模した一角にひっそりと立つ、
小さな建物のことである。
実際には『糸巻き小屋風』の建築物で、散策の際の休息所として使用している。
内装はそこかしこに田舎風の演出がなされ、質素で素朴なしつらいがなされていた。

中に入ると、そこにはすでにマルゴットが年配の侍女を従え、おとぎ話に
出てきそうな小さな木の椅子に座っていた。
「ちょうど良い時間ね」
マルゴットはにっこりと微笑んだ。
「誰にも見つからずに此処には来られた?」
「はい。……しかし、マルゴット様。これは一体どういうおつもりなのですか?」
アリューシアは姫の前に立つと、訝しげにあたりを見回した。

窓と言う窓はすべて分厚いカーテンで閉じられ、明かりが漏れないようにされている。
扉の向こうの支度部屋からは、複数の人間のざわめきが漏れ聞こえている。
それに……もうとっくに下がっていたはずの、マルゴット専属の衣裳部屋を取り仕切る
侍女長・カーライル夫人が何故こんな夜遅くに彼女の傍らにいるのだろう。

漠然とそう思っていると、マルゴットが件の侍女長にすっと視線を送る。
首のすらりと長い細身の婦人は、落ち着きある仕草で品よく頷いた。
「こちらのほうの準備も万端整ってございます」
「そう」
マルゴットはそう呟くと、獲物を見るような目つきでアリューシアを見定めた。
90蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 13:30:22 ID:JvpxXyt1

男の衛兵と変わらない深緑色のいかつい制服姿。
まだ一仕事あるのかと気を利かせて着替えを控えたのであろう。

生真面目で、骨の髄まで軍人気質のこの女は化粧っ気など皆無で、
同じ年頃の娘が持つたおやかさや装いによる華々しさなどからは程遠い。
しかし、それでも充分に人の目を惹き付けるのは、
彼女が美しい顔立ちと鍛え上げられた均整の取れた肉体の持ち主であるのも
さることながら、
その凛々しい表情が生み出す清冽な印象あるが故であろう。

矯飾とは無縁な彼女の人柄を表す力ある眼差しの深い藍色の瞳は、
涼やかな輝きを湛えて、見る者の目を奪う。


己の所有物である美しい従者を眺めながら、マルゴットは可憐な顔に
にやり、と悪魔の笑みを浮かべた。
そして、
「───やっておしまい」
と、一言。
「ひ、姫?」

応えた侍女長が二度手を叩いた。

その乾いた音が部屋の中に響くやいなや、隣の支度部屋からの扉が勢いよく開かれた。
待機していた侍女達が目をきらきらと輝かせ、一斉になだれ込んでくる。
────手に手にそれぞれの獲物を持って。
疑問を口に出す間も無く、アリューシアはあれよあれよと言う間に、その女達に囲まれて
しまったのであった。



そして現在。
化粧を施し、流行のドレスに身を包んだアリューシアはそのまま馬車に押し込まれ、
マルゴットと共に暗い夜道を進んでいた。

「何故私がこんな格好を……」
「しつこいわねぇ。まだ言っているの? 良いじゃない。似合っているわよ」
91蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 13:31:36 ID:JvpxXyt1

「似合う、似合わないの問題ではありません、姫」
アリューシアは険しい顔で主を見据えた。
しかし、その迫力を削ぐように、耳元でイヤリングが可憐に揺れ動く。

「随伴ならば、制服か、お忍びの場合でも動きやすい服装でよいではありませんか。
このような格好をする意味が解せないといっているのです」
「だって、あそこに一目で護衛だと分かる者を連れて行くなんて無粋なこと
したくないもの。
お前だって、少し考えたらそのくらいは分かるでしょう?」
「……………まあ、それはそうでしょうが…」
口を尖らせたマルゴットに対し、まだ納得いかないという顔で女騎士は呻く。
「……しかし、姫が『蜃気楼』の場所をご存知だったとは」
「驚いた?うふふっ」
「笑い事ではありませんよ」
アリューシアは重い息を吐き、がっくりと崩れ落ちそうになる額を手で支えた。



蜃気楼──
短期間のうちに次々と場所を移し、国の取締りの手を逃れている無認可の賭博場。
この国では賭博場自体は違法ではないが、この蜃気楼は犯罪の温床となり、
地下組織の資金源にもなっている悪質なもので、取締りの対象となっている。

第一王子の指揮の元、憲兵隊が躍起になって場所を突き止めるのだが、
いつもいざその場所に踏み込めば、既にもぬけの殻となっているのである。
手が届いたかと思えば、忽然と消える。
まさにその名の通り蜃気楼。治安を守る者の頭痛の種となっている場所であった。



危険で背徳的な香りがいかにもマルゴット王女の興味を引きそうな代物であるから、
そのような場所へ出入りすることが無いようにと、
護衛を任されているアリューシア達も重ねて注意を受けていた。

常日頃その素行の悪さを心配している一人である兄王子が、直接彼女に蜃気楼と
関わりが無いかを問い正したこともある。
その時にマルゴットがきっぱりと否定したこともあり、
側近一同安堵したのはつい一週間ほど前のことであった。
92蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 13:33:50 ID:JvpxXyt1

どうしてこの人はこうも人の目をすり抜けて何かをやらかすのが上手いのだろう。
今に始まったことではないが、アリューシアは軽い眩暈を覚え、眉間を押さえた。

ちなみに、馬車に乗った直後行き先を知った彼女とマルゴットの間で、
「行ってはだめです」「いいや、行く」という問答は既にたっぷりと繰り返されていて、
結局彼女が根負けする形で決着している。

「仕方ありません。今夜のところはお付き合いしますが、先ほども言ったように、
今夜限りですよ、姫。
私が知った以上、黙っていることは出来ません。
城に戻りしだい殿下に報告し、すぐに摘発の手を向けることになるでしょう。
そのことはご承知下さい。いいですね」
「お前だって知らん顔して楽しめば良いのに。面白いところよ」
半ばからかうように微笑んでマルゴットはアリューシアの顔を覗き込んだ。
「ご冗談を」
アリューシアはむっつりとして顔を背ける。
憤然とした横顔で、透き通った淡黄色の石のイヤリングがきらきらと光を放った。

「お前は本当に頭が固いわねぇ……まあ、いいわ」
マルゴットは鷹揚に扇を煽った。
「お前の好きにしなさい。どうせ私も今夜で最後にするつもりなのだから、構わなくってよ。だたし……」
優雅な仕草で扇を閉じると、すっとアリューシアの胸に突きあてる。
「その軍人丸出しの仕草と言葉遣いをさっさと何とかおし。今から行く場所で
不審がられてもいいの?」
こころもち顎を上げ気迫で己の従者を威圧しつつ、鈴を鳴らすような声を響かせた。
「…………む」
「お前には、私付きになる前に淑女としての宮廷作法も学ばせたはずよ。
貴族の令嬢として完璧に振舞いなさい。
今みたいな勇ましい口調の女が側にいたら、恥をかくのはこの私なのよ」

くぅ、と物言いたげな表情でアリューシアは唇を噛む。
その反応にマルゴットの細い眉がぴくりと吊り上がった。
93蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 13:37:26 ID:JvpxXyt1

「わかったわね?『ローズマリー』」
素性を隠すためにアリューシアはローズマリー、マルゴットはマリア、と
偽名で呼び合うことになっている。
馴染めそうにない名前で呼ばれ、アリューシアは嫌そうに眉根を寄せたが、
結局は逆らわず、しぶしぶと頷いた。

「………わかりました」
その言葉を聞くと、ようやくマルゴットは満足したように柔和に微笑んだ。
「それにしても本当にさっきは見ものだったわね。カーライル女史のあんなに
はつらつとした姿を見たのは初めてかもしれないわ」
そう言って、上機嫌でころころと笑い声を上げる。
「うう……」
返す言葉も無く、アリューシアは居心地の悪そうに視線を泳がした。

美への追求に対し並々ならぬ情熱を注ぐマルゴットの専属の衣装係たちは、
宮廷内でも、もっとも高い技術を誇る美の職人集団と称えられている。
その彼女たちに活き活きと腕を振るわれ、平素は凛々しい姿のアリューシアは今や
見た目だけは何処に出しても恥ずかしくない美しい貴婦人となっていた。

藍色の瞳の色に合わせたような瑠璃色の生地に、金のリボンの縁取りが入った豪華なドレス。
共布の長手袋はわざわざ誂えたかのように、二の腕から指先までを
しっくりと包んでいる。
いつもは下ろしたままの亜麻色の長い髪は、丁寧に結い上げられ
色白なうなじには、後れ毛が柔らかに揺れていた。

ドレスの肩と胸元は大胆に開き、腰はきつく引き絞られているため
身体の曲線はごまかしようも無く、胸なども半分近くその豊かな丸みを晒している。
着る者によっては下品になりかねないのに、決して過度ないやらしさを感じさせないのは、
アリューシア自身が本来備えている凛としたたたずまいのせいであろう。



マルゴットの指示により、街の中で待っていた馬車に乗換え、
辿りついたのは郊外のとあるこぢんまりとした建物だった。

94蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 13:38:35 ID:JvpxXyt1

「ついて来なさい」
「マリア様、此処は………」
お前の言いたいことはわかっている、という顔でマルゴットは頷く。
馬車を降りる前に目の部分だけを隠す仮装用マスクをつけたマルゴットが
落葉の混じった砂利を踏みしめて向かう先。
それは、尖塔に神の印を掲げる何の変哲もない、古ぼけた小さな教会であった。

「扉をノックせよ。そうすれば神の使いがお前を暖かく招き入れるだろう。
欲望の炎を三度振れ。そうすれば悪魔の使いがお前を魅惑の世界へ導くだろう」

教会の門の前に立ち、マルゴットが口にする。
意味を図りかねているアリューシアに向かって、彼女はいたずらっぽく笑った。
「蜃気楼への行き方よ。場所が変われば、言葉も代わるのだけどね。
…………ランプを高く掲げて、三度大きくゆらして頂戴。それが合図になるわ」





聖職者の衣を着た男に案内され地下への階段を下りると、確かに
マルゴットの言葉どおり、そこには別の世界がひろがっていた。

暗闇に浮かび上がった大きな空間には、無数の蝋燭の明かりと人とがひしめき合っていた。
アリューシアはしばし圧倒され、その場に立ち竦む。
教会の地下礼拝堂に隠し作られた、非合法の賭博場。

一攫千金を狙う人々の熱気と、それを楽しむ傍観者達のざわめき。
気だるげな脚捌きで人込みを縫うようにして酒を運ぶ女と、
所々で鋭い目を光らせる男。
揺れ動く炎に炙り出される煙草の煙と歓声と溜息。

全てを囲い込む冷たい石壁には極彩色で彩られた俗物的な模様の垂れ幕がかかり、
毒々しいほどに豪華に装飾されている。
赤い服を着た一人の道化師が、その前で器用にナイフを操り、ジャグリングを
披露していた。
95蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 13:40:37 ID:JvpxXyt1

アリューシアは気づかない事であったが、彼女がその場の全てのものに
目を奪われているように、彼女達もまたその場の注目を集めていた。

華奢な身体にバタフライマスク越しでもわかる愛くるしい顔立ちのマルゴット。
その印象によく合う淡いクリーム色のドレスは、屈託のない天使のような可憐な輝きを
いっそう極めるのはもちろんのこと、周囲の空気までもを明るく染めているようである。
一歩後ろにつき従うアリューシアの対照的な落ち着きのある色彩の装いは、
けっして主を差し置いて主張することなく、それでいて本人の魅力を十分に
引き出していた。
互いに引き立てあうように佇む美しい二人に、人々の視線が集まるのも
無理もないことであった。

やがて一人の恰幅のいい男が身体を揺らしながら人ごみから現れ、マルゴットに向かって
親しげに声をかけた。
「マリア。来たのかね」
つかの間の名を呼ばれ、マルゴットは優雅な仕草でそのほうを向いた。
「ええ、パパ。待っていてくれたの?」
口元に微笑を浮かべ、さも当然であるかのように、
呼びかけた初老の男の脇にするりと入り込む。
「嬉しいわ」

「今日はあの男は一緒じゃないのかい?」
純白の聖衣のでっぷりとした腹に金糸の帯を締めた男は、馴れ馴れしい手つきで
マルゴットの肩を抱き寄せると額に唇を押し付けた。
────これは一体どういう事かと、マルゴットの態度に衝撃を受けている
アリューシアの目の前で。

「ええ。パパが嫌がるから、今日は置いてきちゃった。約束どおりでしょう?」
挨拶のキスが済んでもなお、男はマルゴットを手離そうとはせずにその肩を撫で回す。
太い指にはめられた指輪の大きな黒オパールが動きにあわせ、マルゴットの肩の上で
神秘的な七色の光を煌めかせた。

「では、今日は私がマリアを独り占めできるのかな?」
「もちろんよ。そのつもりで来たんですもの」
「良い子だね、マリア。では、こちらへおいで」
言いながら男はアリューシアの方へと初めて視線を向けた。
色素の薄い好色な目で、じろりと体中を嘗め回す。
「お友達も一緒に……」
96蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 13:42:34 ID:JvpxXyt1

「まあ! パパったら。駄ぁ目」
マルゴットは男の言葉をさえぎる様にその顔を両手で挟みこみ、悪戯っぽい仕草で
強引に自分に向けさせた。
「二人きりでって言ったのはパパのほうよ?
それに、ローズマリーは少しゲームをしたいんですって」
可愛らしく語調を強めて男を制し、
素早くアリューシアには有無を言わせぬ力強さで目配せを送る。
「ね、そうよね、ローズマリー。あなたも楽しんできてね」
男は名残り惜しそうな様子を見せたが、それでもマルゴットに促されると
口元をだらし無く緩ませて彼女の肩を抱き、歩いていった。

「マル…マリア様! 待っ───あぁ」
ひときわ豪華な垂れ幕の掛かった扉の向こうに主が消え、
後を追おうにも追えないアリューシアの声は嘆息に変わった。

(ああ、ほんとうに、あの姫は……!!)

一人取り残された女騎士の心に、主に対する心配よりも先に、
じわじわと怒りがこみ上げる。

確かに、マルゴット様は自分が思っている以上に『しっかりしている』。
最早自分などが心配をする必要が無いほどに、世故に長けているという事もわかっている。
しかし、今のはなんだ。
あんな好淫な目つきのじじいに……。あれではまるで場末の酒注ぎ女ではないか。

塵埃に染まるのにも程がある。
常日頃、たとえ身分を隠して忍び歩きなさる時でも、王族の一員としての誇りと
気品に満ちた振る舞いをなさるようにと、何度も何度も何度も何度も何度も
口をすっぱくして言っているというのに。
────それなのに!

97蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 13:46:21 ID:JvpxXyt1

怒りのあまり辺りの事などすっかり眼中にないまま、扉の向こうに消えた主に
ひたすら恨み節の念を送っているアリューシアのわき腹に、すっと何かが触れた。

「見慣れない顔だね」
「──え?」
声をかけられて初めて、自分のすぐ横に身なりの良い若い紳士が立っているのに気が付く。

親しみのこもった優しい眼差しの碧眼が、息のかかりそうな距離でアリューシアに
向けられていた。

驚き慌てて後ろに身を引こうとしたが、さりげなく腰に回された腕で
それを阻まれているのを知り、その周到さに愕然となる。
「ここは初めて? 名前は?」
「…………ローズマリー」
「素敵な名前だ」
柔らかな金髪の紳士はにこっと微笑んだ。
嫌味のない、実に爽やかな笑顔である。
「初めてなら、僕がここを案内してあげよう」
親切そうな顔で、男はさりげなく耳打ちをする。
「……………ここでは君のような美しい人がいつまでも独りでいるのは危ないよ。
ほら、みんなが君を見ている。君を狙っているんだ。悪い男に捕まってしまうよ?」

アリューシアが辺りを見回すと、男は腰に回した手にぐっと力を込めた。
「心配しなくていい。君には僕がついていてあげる。
ここでは僕に刃向かえる男はいないからね」
引き寄せられて、男に身体を思いっきり押し付けることになってしまい、
ひっ、と悲鳴を上げそうになる。
それを慌てて堪え、アリューシアはただ頬を染めて、自分を抱き寄せる男を
まじまじと見上げた。

男は上品な微笑を浮かべたまま、優雅にアリューシアに視線を絡めた。
「僕の名前はレオンだ。よろしく、ローズマリー」

その様をどう受け取ったのか、アリューシアを注視していた男達が
諦めたような気配と共に、一人、一人と視線を外していった。
「色んなゲームがあるけど、最初は簡単なものからすると良いよ。
さあ、こっちにおいで」
98蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 13:50:13 ID:JvpxXyt1

レオンはあくまで優しく、しかし、社交慣れした紳士特有の強引さで
アリューシアの手を取ると歩き始めた。
人をすり抜けカードゲームのテーブルへと案内すると、アリューシアをそこに座らせて、
その背後に立つ。
後ろから彼女の肩に親しげに片手を添えつつ、もう片方の手で
自分のポケットからコインを出しテーブルの上に乗せた。
──アリューシアの気づかないうちに、さりげなくディーラーに目配せをして。

「あの、コインなら自分で……」
「いいよ。気にしないで」
レオンは気さくに笑って、肩越しにテーブルに一列に並べられたカードを指し示した。
「自分の好きなカードを五枚引いてごらん。
合計した数がディーラーのより高くなればいいんだ。簡単だろ?ほら、引いて」

勧められるままに自分の前に並べられたカードを選び取り、
次いで、ディーラーの引いたものと見比べる。
手持ちのカードの合計は41。
相手は35。
「……………勝った」
「ついてるんじゃない? もう一回やってごらんよ。ほら…」

その後も連続してアリューシアは勝ち、台の上にはみるみるうちに大量のコインが
積み上げられていった。
息つく暇も無く男の調子に乗せられたまま、時間があっという間に過ぎていく。

レオンという男はまるで手品師のように、次から次へと様々な娯楽を
アリューシアの前に差し出して見せた。
この国では、賭博場は貴族の社交の場でもある。
洗練された身のこなしに、気の聞いた会話。非の打ち所のない完璧なエスコート。
彼の態度は、社交界に名を連ねる、または、それに憧れを持つ女性ならば
十分に心を奪われるに値するものであった。

しかし、アリューシアにとっては居心地が悪いばかりである。
くるくるとめまぐるしく他の台にも連れまわされ、同じように勝ちを経験させられ、
淑女としての振る舞いを心がける緊張感も相まってそろそろ疲れた、と感じた頃。
ようやくアリューシアは案内されるがままに低いソファに腰を下ろし、一息をついた。
99蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 13:53:06 ID:JvpxXyt1

改めて人ごみを見渡してみると、なるほど宮廷で見かける顔がちらほらとある。
ここが違法かどうかなどは純粋に賭博を楽しむものにとってはあまり関係が
ないのであろう。
マルゴットのようにマスクをつける等して積極的に身元を隠している者が
意外に少ないのは、ここにいる皆が秘密を共有する共犯者意識があるからか。

「飲む?」
運ばれてきた酒を取り、レオンはアリューシアに差し出した。
「ええ…ありがとう」
唇をつけると、だいぶ強い酒である。
それに気が付き、飲むふりだけにとどめた。

レオンはごく自然にアリューシアの横に腰を下ろしていた。
ずいぶんと馴れ馴れしい男だが、一方で彼といれば場に溶け込むことができ、
その場しのぎにもなる。
こういった社交の場では、こちらが淑女として振舞っている以上、
多少はこのような態度を取られるのは仕方が無あるまい。

ふいに視線があうと、レオンはすぐさま優しげな微笑をアリューシアに返してくる。
(あの男とは正反対のような男だな)
アリューシアはふっと、冷淡な印象を与えさせる薬師の姿を思い浮かべた。

(これほどではなくても、あの男ももう少し愛想よくすればいいのに……)

そんな事を少しだけ考えてから、アリューシアはちら、と視線をある所に向けた。
幸いにも彼女の座る位置からは、先程マルゴットが入っていった部屋の扉がよく見えた。
(ここにいれば、姫が扉の外に出てきた時すぐに分かる)

今までの経験上、自分に目配せをした姫のあの様子なら、側についていなくても
問題は無いはずである。
喜ばしい事かどうかは別にして、あんな中年男の一人くらい、簡単にあしらえるお方だ。
きっと、なにか考えがあってのことなのだろう。
しかし、頭の中では冷静にそう判断していても、やはり気に掛けてはいたい──

「楽しい?」
100蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 13:55:21 ID:JvpxXyt1

「えっ? ──ええ、楽しいわ」
レオンに語り掛けられ、アリューシアは慌てて笑顔を繕った。
「ここは楽園だよ。欲しいものは何でも手に入る」
そう言うとレオンは、するり、とアリューシアの膝に手を伸ばした。

「ねぇ」
アリューシアの横顔を眺め、彼は声を落とした。
「君と一緒に入ってきたあの娘、君の恋人なの?」
「───えっ?」
「さっき、メギンチ卿があの娘を連れて行ったとき、ものすごい怖い顔で睨んでいた。
今も気にしているんだろ」

(私と姫が?……………なんと馬鹿げたことを)

姫にまで及ぶ非礼な憶測に気分を損なうが、もちろん顔に出す訳にはいかない。
アリューシアはあいまいに笑った。
「メギンチ卿……、彼は何者なの?」
「この『蜃気楼』の元締めだよ。彼は前からあのマリアって娘に執着していた。
今までは連れの男がいて、手は出せなかったみたいだけど
あの娘もまんざらじゃないみたいだった。
今日は連れの男はいないようだし、君も諦めたほうがいいよ」

気がつけば、いつの間にか必要以上に男の体が密着してきている。
アリューシアはさりげなく体をずらして距離を取ろうとしたが、レオンもすぐに隙間を
詰めてきた。

「僕なら君を慰めてあげられるよ」
布越しに太腿をなぞりあげられ、アリューシアはびくっと身を竦めた。
その反応に初々しさを感じたのか、レオンは優しく囁いた。
「こうされるのは、慣れていないの?」 
かちかちに固まったアリューシアの身体をほぐす様に、掌でさすり上げていく。
101蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 14:00:33 ID:JvpxXyt1

「意外だな。君みたいな美人が、男を知らないなんて………」
手の中でぎこちなく身を固める小鳥を可愛がるように
楽しそうに身体に触れるレオンに、アリューシアは何も言おうとはしなかった。

──否。
紳士淑女の艶かしい駆け引きなどに免疫の無いお堅い女騎士は、
今までに経験したことの無い事態に、完全に言葉を失っていたのである。

(いったい、どうしたらいいんだ────)

経験も無いのに、咄嗟にいい対処法が浮かぶはずも無い。
剣を向けられるのとは全く異なる種類の危機を前に、頭の中は空白に近かった。

「あの娘のことは、僕が忘れさせてあげよう」
蜘蛛の糸で絡み取るようにねっとりと、レオンは身体を乗り出した。






(蜃気楼 中編へ続く)
102蜃気楼(前編):2007/11/14(水) 14:01:58 ID:JvpxXyt1
前編は以上です。中編も今週中には投下します。

読んでくれた方、どうもありがとう。
103名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 14:11:48 ID:TJbdRp93
アリューシアきた!待ってました!
ていうかこの展開はwwwwwwwwwwww


 た ま ら ん ぜ
104名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 18:47:07 ID:bgJOPiCo
ぬおぉぉぉぉっ!
待ってました!全裸で!

女装キタコレ!GJ!
105名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 19:19:50 ID:dXVr2+a8
待ってました!!!!
GJです!!
106名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 20:31:10 ID:5WzFUi+t
中編! 中編! 中編!
107名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 02:27:04 ID:ppU4iadT
続き! wktk! 続き! wktk!
108名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 09:07:58 ID:tCoAIwMR
「やっておしまい」ワロタw てか14レスもあったんだな。
あっというまに読んでしまって全然気づかなかったよ。
むしろ足りない、読み足りない! 続きなるべくはやく頼む!
109名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 20:34:54 ID:DY15zuzr
アリューシア*:.。..。.:*・゜(n・∀・)nキタワァ
GJ!!マリア様の行方もきになるwktk
110名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 21:37:19 ID:3hL4zlYN
読み返すと笑える レオンぷっ
激しい勘違い
今までマリア様に付いてきた男って・・・もしや・・?
111名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 21:53:14 ID:1nLD5Eyf
次回でグルドフがクルーーー(・∀・)ーーー???
アリューシアってば強い騎士なのに変な所で苛めがいがあって可愛いよな
相変わらず端整な文章かつ面白い展開で嬉しいなぁ
112名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 02:50:33 ID:oWK8pAJM
アリューシアシリーズさえあれば他のなんかいらねーなw

続き!中編!wktk
113名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 05:37:35 ID:13a9zTfu
>>111
>強い騎士なのに変な所で苛めがいがあって可愛い
それこそまさにグルドフがアリューシアらぶになった理由の核心部分ではないかと。
読者総グルドフ化w

ご多分に洩れず自分も続き待ってます。
114名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 08:09:34 ID:5fgjblfR
112さん それは無いよ
ルナシリーズも待ってます(・▽・)

とりあえず支援 続き! 中編! wktk
115名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 13:39:32 ID:7ANLGzXd
続編キテター!
続きwktkしながら待ってます!
116名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 14:11:40 ID:72w85L1I
「蜃気楼」中編を投下します。
117蜃気楼 (中編):2007/11/16(金) 14:14:15 ID:72w85L1I

「ローズマリー」
整った顔に甘い表情を浮かべ、レオンが熱っぽく囁く。
耳元を男の息が掠めた。
アリューシアの身体の横に手をつき、覆いかぶさらんばかりに身体を傾けてくる。

顔の接近をこれ以上は避けようと仰け反るあまり、アリューシアは後ろに
倒れそうになった。
だが、危ういところで後ろ手を付き、なんとか身体を支える。

ここでソファに仰向けに倒れ込んだら女として一貫の終わりだということは、
経験が無くても本能でわかる。

普段の振る舞いが許されるのならば、もうとっくに「ええい! 離れろっ! 破廉恥な!!」
と相手を張り倒しているところである。
いや、そもそも言い寄ってくる男には毅然とした態度で片っ端から追い払い、
相手にこんな状況にさえ持ち込ませないのが、普段のアリューシアだ。
こんな女々しい──淑女の振りなどさえしていなければ──

腰の曲線を探るように撫でられ、アリューシアは震え上がった。

マルゴット様に言わせれば、こういう『戯れ』は社交界での男女の優雅な遊びみたいな
ものであって、それを如才なくこなすのが淑女の嗜みだそうだが、自分には無理だ。
いつもこんな事をされていて、姫はよく平気な顔をしていられる。
しかも、角を立てずにやんわりとあしらえるのだからすごい。

戯れだろうが……いや、戯れだからこそ私には我慢ができない。
────こんな、好きでもない男に身体をべたべた触られるのなんて!

「レオン、待って。あの…………」
アリューシアは困惑の表情を浮かべ、レオンを見上げた。
しかし、美しい貴婦人の弱々しい拒絶の様は、かえって男を悦ばせるばかりである。
うまくいなす言葉も浮かばずただ戸惑い、困ったように身をよじると、
「恥ずかしいのかい? 可愛いね」
男の声はいっそう甘く、濃密になる。
目の前にいる子ウサギをじわじわと追い詰めていく、腹を空かせた優しい狼のように。
118蜃気楼 (中編):2007/11/16(金) 14:16:05 ID:72w85L1I

「でも、恥ずかしがらなくて良いよ。ほら、皆だって愉しんでいるだろう?」
男は悪戯っぽく、あたりを見るように促した。

照明は他よりも一段と低く抑えられて、人々の手にした煙草からは、
ゆらゆらと紫煙がたなびいている。
薬入りの煙草の匂いが立ち込める官能的な空間で、人々は互いにしな垂れかかる様に
低いソファに身を沈めていた。
ある者達はうっとりと頬と頬と寄せ合い、ある者達は身体を密着させて囁き合い。
淫らな戯れに興じる者さえいるようだ。

アリューシアは改めて言葉を失った。
姫のことしか頭になくて、自分がどういう場所で、どういう状況にいるのか
思い至っていなかった甘さにようやく気付く。

「僕達も愉しもう」
レオンの言葉に、アリューシアは総毛立った。
「……こんなこと、困るわ。本当に、もうお止しになって」
「ローズマリー」
「ごめんなさい、レオン」
ついにアリューシアは彼の手を振り払い、するりと立ち上がった。
だが、その手をレオンはすばやく掴み取った。

「逆らうな」
手首をつかむ男の手に、ぎりり、と力が篭もった。
「────人が親切にしてやっているというのに、恩をあだで返す気かい?」

脅しをかけるような低く冷たい声。
優しい微笑の後ろに隠していた、凶暴で強欲な牙が剥き出しになっている。
手首を絞られた痛みに眉根を寄せたアリューシアに、レオンはさらに畳み掛けた。

「僕の機嫌を損ねるような事はしないほうが身の為だ。
僕がその気になれば、君をこの場で奈落の底に突き落とすことも出来るんだよ。
………それがどういう意味ぐらいかは君だって、わかるだろ?
それだけじゃない、僕の親父は王宮憲兵隊の最高責任者だ。
なんなら君の家族を罪人に仕立て上げて、牢屋にぶち込んでやろうか?」

アリューシアは動きを止め、レオンを見下ろした。
119蜃気楼 (中編):2007/11/16(金) 14:18:11 ID:72w85L1I

「…………立派な権力をお持ちなのね」
掴んだ女の手首からは、逃げる力が無くなっている。

反抗の気配が消えたことに満足したのか、レオンはすぐに優しい紳士の顔に戻った。
「そんなに硬くなることはないよ。僕の言う事さえ素直に聞いていれば、
君にはこれからもずっと良い思いをさせてあげる」
アリューシアの腕を引き、再びソファに身体を沈ませる。
その肩から腕を、彼の手は慈しむように撫でた。
「さっきは痛かったかい? 君みたいな綺麗な子には、もうひどい事なんてしないから
安心して」

(まずい事になったな……)
身体を撫でられながら、アリューシアは醒めた気持ちでそう思った。
幸いなことに、手首を掴まれた痛みは、かえって女騎士の落ち着きを取り戻す結果と
なっていた。

どうも自分は随分と厄介な男に関わってしまったらしい。

憲兵隊総大将の子息の一人が、成人しているにも関わらず公の場にもあまり顔を出さない
放蕩息子で手を焼いているという話を聞いたことがあった。
こんなところで親の権力を振りかざして遊んでいるという訳か。

もしかしたら、蜃気楼が摘発の直前にいつも場所を移動して難を逃れているというのも、
この男が情報を流しているからではないか。
アリューシアは、ふと、そんな事を考えた。

従順になったとみたのか、レオンの手は欲望をむき出しにしてドレスの上を
這い登っていく。
膝から太腿を何度も往復し、緩慢な動きで腰の丸みを撫で回した。
背中にじっとりと不快な汗が浮かぶのを感じながら、アリューシアは逡巡する。

どうすればこの局面から逃れられるのか。

自分には拒絶の権利は微塵も与えられていないらしい。
さっき立ち上がった時に気づいたのだが、彼には護衛をかねた従者が一人ついている。
120蜃気楼 (中編):2007/11/16(金) 14:20:12 ID:72w85L1I

腰に下げた剣を見るまでもなく、屈強な体つきの男が少し離れた所から、
常にこちらを見張っている。
逃れるために力ずくでこの男をなぎ倒しでもしようものなら、すぐに走りよって来る
算段になっているのだ。

騒ぎになってしまうのは困る。
目立つような真似をして、万が一姫にも危害が及んだらことだ────



そう考えている間にも、レオンの指が頬を撫でる。
その唇が獲物を狙う蛇のように、ゆっくりと近づいてきた。
もう抗いようが無い。

アリューシアは腹をくくった。

男を見据え、間近に迫ったその唇にすっと指を伸ばす。
そのまま、唇のふちを手袋をはめた指でゆっくりと撫でた。

自分の唇を艶かしく撫でる美しい指に、レオンは目を落とした。
「ねえ、レオン──」
名前を囁かれ、再び女の顔に視線を移す。

その視線を受け止め、アリューシアは微笑を浮かべた。
澄み切った藍色の瞳は涼やかで、媚を売るようには見えない。
だが、形のいい白い歯を微かに覗かせて、紅を塗られた唇が微笑みを作ると
それは本人が思っている以上に妖艶に男の目に映った。
「私が男に溺れるなんてこと、できるのかしら」
深みのある声色は、甘い色香を感じさせる。

女の態度の軟化に、レオンは微かにほくそ笑んだ。
「もちろんさ。男を知れば、女同士の慰め合いなんて馬鹿らしくなる」
唇に触れている手を取ると、その甲に口付けをする。
「男に抱かれる悦びを味わってごらん。
一度火がついたら、あとは燃え盛る一方だ。女はね」
「…………じゃあ、あなたが火をつけて」
微かに掠れる吐息のような声で男に応える。
アリューシアは婀娜めいた言葉を交わしつつ、胸に触れようとした指を絡めとると、
自分の腰に回した。
121蜃気楼 (中編):2007/11/16(金) 14:21:49 ID:72w85L1I

レオンに柔らかな眼差しを向けたまま、猫科の獣のようなすらりとした身体をしならせる。
顔を寄せると、上質な白粉の芳香が誘うように彼の鼻先を掠めた。
「でも、ここでは嫌よ」
男の耳元で、そっと囁く。

「もっと静かな所がいいわ。二人で、──あなたと二人きりで、
ゆっくりと身体を伸ばすことができるような場所………」
「向こうに僕の部屋がある」
レオンは満足げな表情を浮かべた。
飼いならした獣の咽元を撫でるように、アリューシアの白い首筋を指で擽る。
「君は特別だ。そこへ連れて行ってあげよう」
そう告げると、彼はアリューシアの手を引き立ち上がった。

広間を抜け、建物のさらに奥へと歩き始める。
途中、レオンは控えていた護衛に『飲み物を』と手で合図した。
男は無言で頷き、その場を離れた。



レオンは歩廊の先の、とある一室へとアリューシアを案内した。
教会の一室だけに広さはさほどではないが、豪華な調度品がそろえられ、
その中でもひときわ贅を凝らした豪勢な寝台が目に入る。

アリューシアを先に入るよう促し、扉を閉めるとレオンは彼女に語りかけた。
「ここなら満足かい?」
「ええ、そうね」
背中を向けたままでアリューシアは答える。
「こっちを向くんだ。ローズマリー」
レオンは彼女の肩に手を添えた。

アリューシアは逆らわずにゆっくりとレオンの方へと向き直った。
その口元には従順な微笑。
肩に置かれた男の手に、彼女はそっと自分の手を添える。
────かと思われた。
122蜃気楼 (中編):2007/11/16(金) 14:24:09 ID:72w85L1I

だが、突如、その容姿からは信じがたい力がレオンの手首を掴み上げた。

「──細い。鍛えておらぬな」
その力と言葉にレオンはぎょっと目を見張った。
淑女の目には、今までにない射るような力強さが篭っている。

そう察した時にはもう遅かった。

ひゅっと風を切るような速さで、アリューシアは男の脇腹に鋭い拳を叩き込む。
「──ぐっ!」
体に拳がめり込む鈍い音がし、一撃をまともに食らった衝撃にレオンの腰が
前屈みに折れ曲がった。
防御の隙を与えず半歩踏み込み、男の顎を狙って正確に肘打を放つ。

助けを呼ぶこともできず、レオンは苦悶の呻きを漏らし床に崩れ落ちた。
無駄の無い動きでうつ伏せにした男の背を踏みつけると、その足に体重をかけ、
腕を掴んで後ろにひねり上げる。

「女を従わせたいと思うのならば、親の威光を借りずに自身の力量で勝負
されてはどうだ。そのほうが御父上も喜ばれよう」
ドレスについたリボンを解き、痛みに身動きのできなくなっている男の手足を
素早く拘束した後、シーツを引き裂いて作った紐でさらに強固に縛り上げ、猿轡をかませる。

「ぅううっ! うぐ、うぐぅっ!……」
床に転がるレオンは唸りながら拘束された身体を必死でよじるが、
彼にできるのは所詮それだけであった。
顔を真っ赤にして、自分の前に立つアリューシアに目だけで怒りを訴える。

アリューシアはレオンに冷ややかな視線を投げつけた。
「しばらくそうやって頭を冷やしていろ。お前の腕で私を手篭めにしようなど、百年早い」
そう言い放ち、スカートについた皺をぱんっ、と払った。
「二度とその手で私に触れるな。汚らわしい」

姫には悪いがさっさと姫を連れ出しここを去ろう。
遅かれ早かれこの男が見つかるのは時間の問題。
こうなった以上、一刻も早くここを離れたほうがいい。
アリューシアが素早く退散の手順を考えている矢先──
123蜃気楼 (中編):2007/11/16(金) 14:27:00 ID:72w85L1I

「おい!」

突然の叫び声に、アリューシアははじかれた様に声のほうを振り返った。
「これは一体どういう事だ!」

戸口に先ほどの護衛の大男が立っている。
その背後にもう一人。
飲み物を持っていた男がその盆を放り出し、慌てふためいて異変を知らせに
広間に走り去っていく。

(しまった──)

「どういう事だと聞いている! 女!!」
腰の剣を抜き、殺気立った男は一直線にアリューシアに向かって来る。

抜き身の剣のぎらりとした鋼の煌きを見るや、反射的にアリューシアの目に鋭い光が宿った。
一瞬にして闘志みなぎる騎士の顔へと変化する。
スカートの裾を思い切りよく跳ね上げ、太ももに隠し持っていた短剣に
手を伸ばした時──

刹那、男の背後に赤い影が走った。

地に響く衝撃音と共に、男の体が前のめりに弾き飛ばされる。
何かに衝突したように巨体が勢いよく跳ね上がり、アリューシアの足元にどう、と
倒れこんだ。

そのままぴくりとも動く気配が無い。
顔を覗き込むと、男は白目をむいて気絶していた。

アリューシアは視線を戸口に向けた。

寒々とした薄暗い石壁の歩廊に一人、背の高い道化師の姿があった。
菱形模様の赤い服に、口を吊り上げて笑う白い仮面。
目はくりぬかれた暗い洞窟のようで、じっとこちらを向いている。
その手には、先ほど走り去ろうとした男をだらんとぶら下げていた。

「お前は…………」

124蜃気楼 (中編):2007/11/16(金) 14:30:14 ID:72w85L1I

道化師が手を離すと、男はどさりと石の床に崩れ落ちた。
こちらも気絶させられているらしい。
無言のまま道化師は顔に手をやり、ゆっくりと仮面をはずした。

アリューシアはあっと小さく声を上げた。

仮面の下から現れたのは、アリューシアのよく見知っている、冷淡な眼差しの
理知的な男の顔であった。

「こんばんは」
「………グルドフ、お前だったのか」

耳慣れた落ち着いた口調に、アリューシアは安堵の息を漏らした。
緊張にこわばっていた頬が思わず緩む。
「助かった。一時はどうなる事かと」
「災難でしたね」
「全くだ。──ところで、お前はどうしてこんな所にいるんだ。
ここを探るように殿下に頼まれているのか?」
アリューシアの問いかけに、薬師はいいえ、と首を横に振った。
「私がここにいるのは、貴方を捕らえる為ですよ。ローズマリー」

「私を?」
意外な答えに、アリューシアは思わず聞き返す。
「ええ」
グルドフは怜悧なこげ茶色の瞳でアリューシアを見定めたまま、
ゆっくりと彼女に向かって歩き始めた。
「貴方は姫をそそのかして『蜃気楼』に誘い込み、大金を巻き上げようとする
悪い女詐欺師なのでね」




(蜃気楼 後編へ続く)
125蜃気楼 (中編):2007/11/16(金) 14:33:01 ID:72w85L1I

中編は以上です。後編も近いうち(来週辺り)に投下。

読んでくれた方、どうもありがとう。
126名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 18:39:16 ID:ZRYSAijQ
中編見なきゃよかった…。前編より続きが気になって仕方ない…。
127名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 18:53:12 ID:4SvCpqg2
うう、同じく…
128名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 19:29:32 ID:5fgjblfR
道化師姿のグルドフ・・・
すいません 笑っていいですか?
想像すると可笑しい・・・。
129名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 19:51:51 ID:dsDqIZte
>>128
ペイントじゃなくてよかったと思おうぜww
続きたのしみです
130名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 21:03:13 ID:fdg4Dx0w
萌える!すげー続きが楽しみです
131名無しさん@ピンキー:2007/11/17(土) 01:08:51 ID:mMgQhWBG
あぁついにアリューシアが女装!!妄想が現実にっ
職人さん、叶えてくれてありがとう!!!やっぱええなぁwwこのシチュ。
プラス、中編のアリューシアめちゃめちゃかっけ───!これもいいっっ!!
うぉww後編どーなるんだろ??? 続きwktk もう自分の妄想では追っつかないよ。
132名無しさん@ピンキー:2007/11/17(土) 08:52:08 ID:njamUnlK
前編読み直してみたら、道化師グルドフ最初の方に
登場してた・・・。
話作り上手いっす。
133名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 06:00:12 ID:/N5gdARN
ここでアビゲイル待ち保守
134名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 21:34:10 ID:S2YTDqRU
面白い上に萌える
これは素晴らしい
135名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 08:41:22 ID:X+wVvJ1Q
良作ばかりなこのスレに乾杯
136名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 13:01:56 ID:tklYmbtx
乾杯!
137名無しさん@ピンキー:2007/11/20(火) 07:51:50 ID:rZQ1vSH7
つ……続きは
138名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 01:43:21 ID:lgGDPNF8
まだかなまだか
週末まで待つのは辛すぎるぞ
139名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 06:00:01 ID:rhK8eeB8
保管庫更新北!
いつも乙です
140名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 15:21:38 ID:8mPHwnv3
保管庫も更新来てる!
じりじりと補完されてますな
管理人さん乙
141名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 17:03:29 ID:fLBY7XNo
週末まで待つことになりそうだな…
142名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 19:15:07 ID:qZZxRCDa
保管庫管理人さん、いつも乙です。

「蜃気楼」後編を投下します。
甘甘なので苦手な方はなにとぞスルーでお願いします。
143蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:17:20 ID:qZZxRCDa

自分を捕らえに来たという薬師を前に、アリューシアの顔には緊張が走った。
「ちょっと待て。どういうことだ、それは」
目の前の男を見上げ、眉を顰める。
彼の言っていることの意味が分からない。

「────実は、姫に頼まれまして」
薄化粧を施した女の険しい顔を眺めながら、グルドフはゆっくりと口を開いた。
「貴方がほかの誰かに捕らえられてしまう前に、私が貴方を捕らえて
逃がしてやってほしいって」

だが、それだけの説明では、事の子細が掴めるはずもない。
アリューシアがあいもなお怪訝な表情を浮かべているなか、薬師はすっと広間の方向に
視線をやった。
歩廊の先は所々に松明の明かりがあるばかりで、闇に包まれ何も見えない。
「姫のシナリオどおりにいっているのであれば、そろそろ来ると思いますが──ああ、上手く
いっているみたいですね。来ますよ」
闇の先に目を向けたまま一方的にそう話すと、するりとアリューシアに体を寄せた。

「失礼」
他人行儀な態度を崩さない男は事務的な口調でそう断りを入れて、腰に腕を回す。
そして、そのまま荷物のようにぐいっと彼女を肩に担ぎ上げた。

「うわっ。な、何だ?」
「申し訳ないのですが、しばらく気絶したふりでもしておいてください。
ああ、姫はもう保護されていますからご心配なく」
軽々とアリューシアの体を肩に乗せると、グルドフは楽しんでいるような口調で呟いた。
「しかし、うまく化けたものだ。これでは誰も貴方だとは気づかないでしょうね」


姫に頼まれたとは、いったいどういう事なのだろう。
話が呑み込めないが、とにかく、自分の知らないところで姫と薬師の間で
何らかの話が進められていたという事だけは確かなようだ。

そう考えている間にも、歩廊に物々しい靴音が響き、枯草色の憲兵服を身につけた
壮年の男が足早に歩み寄ってきた。
肩には中隊長の位を表す印が付けられている。
「おお、グルドフ。ここにいたか。その女は?」
「ローズマリーだ。抵抗が激しかったので眠らせてあります」
144蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:19:35 ID:qZZxRCDa

「そうか、この女が──」
男は、肩に担がれてだらりと伸びている女の顔を覗き込んだ。

華やかなドレスに身を包んだ女は、瞳は閉じられてはいたが、
それでもなおその美貌は息を呑むほどであった。
整った涼やかな目鼻立ち。うなじから背中にかけての艶やかな陶器のような肌。
恐れ多くも王女をそそのかしたという性悪な女詐欺師の思いもかけない麗容に、
憲兵隊中隊長は一瞬職務を忘れ、言葉を失った。

「そちらの部屋に一人、面白い男がいますよ。重要参考人です」
グルドフはレオンのいる部屋を顎で示し、彼の視線をアリューシアから外すように、
さりげなく体の向きを変える。
すっかり女に見とれていた男がはっと我に返り、慌てて咳払いをした。

「少しこの女から聞き出したい事がある。先に連れて行ってもいいですね」
「う…うむ。わかった。──おい! そこの!」
上官の声に、素早く下位の若い憲兵が二人駆け寄って来る。
男はそれぞれに、よく通る太い声で指示を出した。
「ローズマリーを捕らえたと全隊員に伝えろ。──お前は彼を外まで送ってやるように」

広間に戻ると、そこは先程とはがらりと様相が異なっていた。
大勢の憲兵と、捕らえられた蜃気楼の住人でごった返しており、その雑然とした空気の中で、
客達は酔いから醒めたばかりのような顔で隅に寄せられている。

兵士や客の視線を感じる中、アリューシアは憲兵に誘導されたグルドフに担がれたまま
その広間を通り抜け、外に運び出された。
彼女がようやく自由に動くことを許されたのは、軍用馬車の荷車に荷物のように
乗せられてしばらく後。蜃気楼を抱えた教会が完全に景色から消えた、ひと気の無い
農道にさしかかってからであった。



「これからどうするんだ」
薬師の黒いマントを防寒着代わりに羽織ったアリューシアは荷車から身を乗り出して、
手綱を握る薬師の背中に声をかけた。
「一応、姫の依頼では、貴方をこのまま夜のうちに王城まで送り届ける、
ということなのですがね」
馬を操り、前を向いたまま彼はそっけない口ぶりで答える。
145蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:20:29 ID:qZZxRCDa

「私としては、今からあんな遠いところまでわざわざ貴方を送っていくなんて、
暗いし寒いし面倒臭くて億劫だと思っているんですが」
アリューシアはむっとした顔でこげ茶色の髪の後頭部に視線を投げつけた。
「もう少し気の利いた誘い方はできんのか」
「誘ってなんていませんよ。どうしますか?」

可愛げの無い男の言い草にアリューシアは不満げな表情を浮かべた。
だが、それもやがて消えて、「────そうだな」と広い背中に頬をあてる。

素直じゃない態度とは裏腹に、この背中はいつも優しくて温かい。
寄り添って、愛する男の匂いを嗅いでみる。
「……私も、今から城に帰るのは面倒臭い」
道化師の服を着た男の体は、ほんのりと汗の匂いがした。

背中に身を寄せる美しい貴婦人をちらりと振り返り、
何事も無かったように道化師は再び前を向いた。
夜の闇の中、ひとつのランプだけを下げた馬車が、刈り取りを終えた畑の脇道を進む。
向かう先には、もう薬師の小さな家の影がなだらかな丘の上に見えていた。





「つまり、私は姫の狂言に利用されたという訳だな」
着替えを済ませた薬師から一通りの話を聞いた後、
テーブルにひじを着き、アリューシアは渋い顔で呟いた。

「まあ、そういう事ですね」
「はあっ」
がっくりと肩を落とした彼女の口から、思わず大きなため息が漏れた。

蜃気楼の場所を探る兄王子に繰り返し問い質され、その場所への出入りを
誤魔化しきれなくなったマルゴットは、
『ローズマリーと名乗る貴婦人に誘われて通うようになった』
という話をでっち上げたのだという。
146蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:21:27 ID:qZZxRCDa

しかし、蜃気楼の場所は、ローズマリーが何者であるかと共に決して明かそうとはせず、
代わりに、『後日ローズマリーが誘いに来るから、その時に自分達を尾行したらいい』
と提案したのだ。
そうすれば蜃気楼の場所がわかると同時に、ローズマリーを捕らえることも
できるから、というのが彼女の言い分だった。

もちろん第一王子は難色を示したが、いったん言い出したら聞かない妹の性格に
根負けして、妥協策としてその提案を取り上げた。
ちなみに、この事を知っていたのは第一王子と彼の配下のみ。

アリューシアを始めとした王女の護衛が今回のことを知らされなかったのは、
万が一ローズマリーに情報が漏れる事が無いようにと、ご丁寧にもマルゴットが
兄王子に口止めをしたからである。

勿論、ローズマリーはマルゴットが作り上げた虚偽の人物である。
そこで、彼女はアリューシアに貴婦人の装いをさせ、この世に存在しないはずの
ローズマリーを仕立て上げたと同時に、グルドフに依頼をしたのである。
────憲兵隊に同行し、ローズマリーが実在の人物であると皆が認めたであろう後、
機を見て彼女を助け出してやって欲しいと。



「また姫にいいように使われてしまった……」
虚しい疲労感に襲われつつ、ドレスに身を包んだ女騎士は遠い目で独りごちた。
「貴方も苦労が絶えませんな。主があれでは」

自分の主を『あれ』呼ばわりされ、アリューシアはむっとして不遜な薬師を睨み付けた。
「…………お前はらしくないな。姫の謀に一枚噛むなんて。
しかも、一度捕らえたローズマリーを取り逃がすとなれば、お前の過失になるではないか。
普段は姫の企てなど相手にもしないのに、
そんな分の悪い話をよく引き受ける気になったものだ」

「まあ、その程度の過失なら大目に見てもらえるくらいには
普段働いていますから、構いませんよ」
グルドフは事も無げにそう言うと、肩を竦めた。
「それに、私が断っても他の誰かに頼むつもりのようでしたし。
面白いものが見られると聞いたので、つい、ね」

無表情な男の視線が、大胆に開いた胸の二つのふくらみとその谷間に留まっている。
アリューシアは「何処を見ている」と言いながら慌てて胸元を手で押し隠した。
147蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:22:40 ID:qZZxRCDa

だが、一旦ためらうようなそぶりを見せてから、自信なさげにグルドフを見上げた。

「お…おかしいか?…………この格好」
「いいえ、綺麗ですよ」
その答えを聞き、恥じらいながらも嬉しそうな表情を浮かべたアリューシアを前に、
彼は余計な一言を付け足した。
「馬子にも衣装とはよく言ったものだ。姫の衣装係は腕がいいと定評があるそうですしね」

甘い雰囲気も一転。

アリューシアは荒っぽく、がたん、と大きな音を立てて椅子から立ち上がった。
無言で棚を開け、彼の家に常備しておいてある着替えの服を引っ張り出す。
「何をしているんですか」
「着替えてもう寝る。お前の前でこんなちゃらちゃらした格好をしていても、
何の意味もないからな」
ふんっと鼻を鳴らして、口の悪い男に背中を向ける。
「手伝いましょうか」
「誰がお前なんか。断る」

ぴしゃりと言い放って隣の部屋に移ろうとしたアリューシアの背中に、
薬師は冷静に声をかけた。
「そのドレスは、一人では脱げない作りになっているのでは?」

アリューシアの足がぴたりと止まった。

「……………」
「……………」
たっぷりと沈黙が続いた末、ようやく彼女は憤然とした顔で振り向いた。
「………………………仕方あるまい。手伝え」

「ええ、いいですよ。では此処に座って」
すっかり盛り下がった顔をしながら、しぶしぶ彼のさし示す寝台に腰掛ける。
「腕を出して」
言われたアリューシアは硬く握り締めた右手の拳をぶんっ、と前方に突き出した。

「…………もう少し淑やかな振舞いはできませんかね」
「無理だな。どうせ私は『馬子』だからな」
アリューシアはつん、とそっぽを向く。
148蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:23:50 ID:qZZxRCDa

だが、グルドフは自分に向けられた皮肉を気に留めるでもなく、淡々とした口調で
言葉を続けた。
「まず手袋をはずしてあげますから、指を伸ばして」

無言でアリューシアの指が伸びた。
不貞腐れながらも、素直に言うことに従う女騎士の指にグルドフが指を絡める。
2,3度左右にずらして緩めた後。シュッ、と小気味の良い音を立てて
手袋が滑らかにアリューシアの手から引き抜かれた。

まるで手品のようなその手さばきに、アリューシアは怒りも忘れて目を見張った。
瞬く間に、もう一方の手を取られ、同じように手袋を外される。
実に手馴れた様子で。

「………………」
「──何か?」
唖然として自分を見つめる視線に、グルドフは静かに尋ねた。
「いや、別に──」
そう言いかけたアリューシアだが、次いで彼がしたことを見て、
驚きのあまり言葉を呑みこむ。
────自分の手の甲に、グルドフが唇を押し当てている。

その手に恭しくアリューシアの掌を乗せ、もう一方の手は二の腕の内側を
ふんわりと支えて。

まるで貴婦人にキスを捧げているかのように。

血が体中を逆流したように騒ぎ、かぁっ、と頬が熱くなる。
この男には、今までに一度たりともこんな扱いをうけたことは無い。

「………」
放心状態になったアリューシアが見ている中、グルドフは
剣に慣れた硬い指先を口に含むと、ちゅ、と音を立てて吸い付いた。

「まっ……待て!」
その刺激にはっとわれに返り、アリューシアは慌てふためいて手を振り解いた。
明度の低い瞳が、ゆっくりと彼女を見上げた。
「────何ですか?」
149蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:24:55 ID:qZZxRCDa

「な、何をしているんだっ、いきなり! お前は正気か?! こっぱずかしい!
 とっ、鳥肌が立ちそうじゃないか!!」
「…………そんな綺麗なドレスを着て、その口調は何とかなりませんか。
せっかくのドレスが泣きますよ」
「お…お前がへんなことするからだ!」
「貴方が脱がすのを手伝えと言ったから、しているんですけどね」
「普通に脱がせろ!」
アリューシアは落ち着きなく、キスを受けた片手をもう一方の手で何度もさすった。
「い、い…いつもはもっと、ばっさばっさと脱がしていくじゃないか!
何で今日はそんなことするんだ!」

「いつもは制服ですから。平服も味気ないシャツにズボンだし」
グルドフは表情を変えることもなく、飄々と答えた。
「普通はこうやって脱がせるものですよ。ドレスの場合は」
強引にアリューシアの手をつかむと、再びその手の甲にキスをする。
「オーソドックスなやり方です」

「オ、オーソドックスなものか!でたらめなこと言うな!」
アリューシアが振りほどこうとしても、彼が力を込めると手はびくとも動かない。
「とりあえず私はこの脱がしかたしか知らないんですよ、残念なことに。──ですから」
狼狽するアリューシアを前に、グルドフは淡々と宣告した。
「この方法で脱がせていきますから、いい加減大人しくしてください」

「もういい!」
アリューシアは顔を真っ赤にしたまま、荒っぽく立ち上がった。

「お前なんかにこんな事されたら調子が狂うじゃないかっ。出来るところまで自分で脱ぐ! 
どうしても出来ないところだけ、お前に手伝ってもらうから!」
「情感に欠ける人だな。…………やる気を出せば、あんなに色っぽい振る舞いもできるのに、
私にはそういう態度ですか」

薬師の言葉に、アリューシアはぎくりと身を強張らせた。

まさか、こいつは私とレオンとのやり取りを────

「もしかして、……見たのか?」
恐る恐る聞くと、
「ええ、見てましたよ」
平然と答えられ、アリューシアは顔どころか頭にまで血を上らせた。
150蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:26:11 ID:qZZxRCDa

「見てたのかっ!」
「ええ」
「うわぁっ!!」
恥ずかしさのあまり、彼女は叫んだ。
「何で見てたんだ! 何で助けなかった! 見ていないでさっさと助けろっ、馬鹿者!
こっちは必死だったんだぞっ!」

「貴方がいよいよ音を上げるようでしたら、多少強引な方法であれ手を出そうと
思っていましたが───私の出る幕もなく、貴方は自分で上手に解決してしまったので」
グルドフは平坦な口ぶりながら、可笑しそうにアリューシアを眺めた。
「……正直、貴方があんなにうまく男を捌く方だったとは。驚きましたね」

「うううぅ……」
アリューシアは火照る顔を押さえ、居たたまれずに唸り声を上げた。
穴があったら入りたいとはこのことであろう。

頭の中の冷静な部分では、あの場合、事をせいて広間でグルドフが手を出すまねを
しなかったのは適切だということは理解できる。
それに、なんだかんだ言いながらも、確かに彼の手を借りずとも
自分で何とか切り抜けられた問題であった。
機会をうかがいつつも、出る幕がなかったというのは本当のことなのだろう。
本当の危機が来たときには、彼はすばやく自分に救いの手を差し伸べている。

────それにしても、あんな場面をこの男に見られてしまうとは。
恥ずかしいにも程がある…………

「…………あれは、演技だからな」
アリューシアは弱々しく声を振り絞った。
顔を真っ赤にしたまま俯いたアリューシアの頬に、グルドフの指が触れた。
「結構板についていましたよ」
「う、うるさい」
労わる様に撫でながらも、その声にはからかいが含まれる。
「あれ、私にも言ってくれませんか。『貴方が火をつけて』ってやつ」
「絶対に嫌」
「なんだ、つまらないな」
グルドフは笑いながら再びアリューシアの手を取った。
151蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:27:27 ID:qZZxRCDa

大きな掌がしっかりと手を包み込む。
「じゃあ、もうおしゃべりはおしまい」
アリューシアはまだ何か言いたげな目で見上げるが、グルドフは声を低め、彼女に囁いた。
「大人しくしていて。いいですね」

すっかり勢いを削がれて、うまく言いくるめられたような気がしつつも、
アリューシアはもはや何も異を唱える様なまねはしなかった。
口をつぐんで、照れくさそうにしながらも目を伏せた。

グルドフはアリューシアの人差し指を咥え、柔らかく歯を立てた。
指の付け根を舌でくすぐる様に舐めた時、アリューシアがひくりと身を竦ませた。
その反応をちらりと見上げ、再び彼女の指に視線を落とす。

グルドフは唇で手首から二の腕までをそっとなぞり上げていった。
「…………くっ」
微弱な刺激に、アリューシアは息を詰めた。
触れるか触れないかの繊細な力加減に、背筋をぞくぞくと何かが這い登る。

唇が肩にたどり着くと、グルドフは肩を掌で覆い、ゆっくりと後ろを向かせる。
「背中の紐を解きますよ」
背後からイヤリングを外しながら耳元でそう囁き、耳たぶをやわらかく咥えた。

掌で腰から脇までを緩やかになで上げ、耳からうなじにかけて、
啄ばむようにキスをしていく。
首筋につつと舌を這わせると、
「んっ………」
と、紅を塗った唇から小さく声が漏れた。

素肌に熱い吐息が吹きかかる。
羽で刷くように、唇の感触が背中の線を辿っていく。
「…………っふ、ぁ」
アリューシアはこそばゆさに背中を反らし、身体を半分ひねるとヘッドボードに手をついた。
不確実な感覚に、掴んだ指先に力が篭る。


背中の中ほど辺りで数回、何かで後ろに引っ張られ、体が揺れた。
きつく絞ってあった背中の紐を解いているのだ。
152蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:28:57 ID:qZZxRCDa

しゅっ、しゅっと布の擦れる音がするたびに、胴の締め付けが緩められていく。
開けられた背中から、グルドフはドレスと体の隙間に掌を潜り込ませた。

背後から窮屈な隙間を探るように指先が這い、胸の丸みに触れる。
胸元を手でぐいと引き、肌とドレスの隙間を強引に押し広げる。
できた余裕の中で掌は胸を捕らえると、たわわな重みを持ち上げた。

グルドフはアリューシアの背中に覆いかぶさるように体を密着させた。
亜麻色の髪に鼻先を埋め、加減をしつつも体を押し付けて、重みと温もりを伝える。
掌全体を使って包み込むようにして乳房をさすり、ゆっくりと官能を昂ぶらせていく。
指先が、胸の突起を柔らかく擦り上げた。
「あっ……や…」
「背中から触られるの、こんなに弱かったですかね」
グルドフが声を発すると、その息が耳の裏側に当たる。
それだけでもアリューシアの体には快楽が生まれた。
眩暈がするような刺激に、身が震える。
どうしてこうなってしまうのか、自分でもわからないままに。

「そういえば」
抑揚の無い声がアリューシアの耳を撫でた。
足首に男の冷たい手が伸び、ドレスの裾から中へと侵入していく。
「確か、物騒なものをお持ちでしたよね」
引き締まった細い足首を掴むと、そのままゆっくりとふくらはぎから膝、太腿へと撫で上げ、
ドレスの裾を脚の付け根まで捲り上げた。
光沢のある瑠璃色の布地の下から眩い白い肌と、それを包むレースのあしらわれた
白い清楚な下着が露になった。

身体の向きを変えるように促し、ヘッドボードを背に正面を向かせる。
左の太腿のベルトに、細い短剣がくくり付けられている。
ドレスには不釣合いな無骨なそれを見て、グルドフは口の端を吊り上げて薄く笑った。
身を屈めて太腿に両手を添えると、ベルトの端を咥える。
ゆっくりとした動きで、彼は口を使ってそれを外し始めた。

唇が肌を掠め、息が吹きかかる。
下着の薄布が隠す部分にすぐ指先が届きそうな場所なのに、
触れそうでいて、決して触れることはない。
153名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 19:30:47 ID:GVpJTxtT
連投規制?
援護
154蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:30:55 ID:qZZxRCDa

アリューシアは息を詰めて彼の動きを見守った。

スカートをあられもなく捲り上げられ、脚を大きく広げさせられ、
そこに長身な男が身を屈めている。
太腿を押さえつけ、獣のように口を使ってベルトを外す男の動きは
ひどく緩慢なものに感じられた。
その情景を目にしているだけで身体が火照り、昂ぶっていく自分を
アリューシアは徐々に持て余すようになっていった。

グルドフはそれを知らぬ顔で口で器用にとめ具をはずして、
太腿から短剣を取り去った。
邪魔な物のなくなった滑らかな太腿を撫で、脚を持ち上げる。

膝裏から太腿の内側まで丹念に舌を這わせると、アリューシアはもどかしげに身を捩った。
「うぅん……」

体の奥に生じた熱が、行き場もなく燻っている。
期待を焦らすかのように、グルドフの舌はアリューシアの内股の柔らかな肌を彷徨っていた。
もう、待ちわびているのに、彼はなかなか先に進もうとはしない。
アリューシアは物足りなさに彼の頭をそっと押さえた。

「なに?」
「グルドフ……もう、お願い」
「何が?」
グルドフは動きを止めて身体を起こすと、ゆっくりと聞き直した。
「そんなのじゃなくて……」
アリューシアは言い淀み、切なげな表情をグルドフに向けた。
逞しい腕に触れ、自分に引き寄せる仕草をする。
「……お願いだ。わかって」
紅を塗った唇から、熱の篭った悩ましい吐息が零れ出た。

「いやらしいな」
グルドフはアリューシアを見下ろし、ほっそりとした顎に指をかけると、
揶揄するように呟いた。
「そんな扇情的な態度をとられては、服を脱がせるのもままなりませんね」

155蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:32:34 ID:qZZxRCDa

深みのある瑠璃色のドレスを身に着けた貴婦人は、もはや元の優美で上品な面影を
すっかりと失くしていた。
胸元は緩みきり、豊かな白い乳房は零れんばかりになっている。
裾はくびれた腰の上までたくし上げられ、光沢のある重厚な青い布からは、
若い雌鹿の後ろ足を思わせる引き締まった太腿がむき出しにされている。
艶かしい様で白い脚をすり合わせ、はぁはぁと乱れた呼吸のたびに
上下する胸をしどけなく押さえながら、アリューシアはグルドフを見上げた。

「グルドフ……」
藍色の瞳は濡れたように潤んでいる。
焦らしに焦らされ、はぐらかされるような事を言われた顔はすっかり赤く染まり、
怒ったような表情にも見えた。

「今日のお前は、お前らしくなくて嫌だ」
そうですか?と小首を傾げられ、アリューシアは視線をそらしながら
拗ねた様に呟いた。
「いつもと違って、意地悪だ。普段も意地悪だけど……………こんなふうに、するなんて」
「じゃあ、どうして欲しいんですか」
「どうって………。もう……駄目なんだ」
アリューシアは泣きそうな表情を浮かべた。
「………来て。いつもみたいに」

「いつもみたいに?」
聞き返すグルドフを、懇願するような目が見詰める。
彼は意地悪な顔で、アリューシアを見詰め返した。
「────いつもみたいにして欲しい? いつもみたいに、めちゃくちゃに?」
低い声でなぶるように囁かれ、アリューシアの藍色の瞳が羞恥に揺らいだ。

躊躇いがちに瞼が伏せられたが、再びゆっくりとグルドフの顔を見上げる。
言葉で言えないことを眼差しで哀願して、彼女は小さく頷いた。


「貴方がして欲しい事は、こういう事?」
自分を求める視線を満足そうに見下ろすと、グルドフは膝を掴み、脚を開かせた。
身を屈め、脚の間に頭をもぐりこませる。

下着を片側に寄せ、生暖かい濡れた舌が、こすり上げるように秘裂を舐めた。
肉の裂け目を繰り返しなぞり、厚みのある柔らかな肉の入り口を尖らせた舌でつつく。
「あっ…ああっ!」
突然の強い刺激にアリューシアは甘い悲鳴をあげ、身体をしならせた。
156蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:33:39 ID:qZZxRCDa

あふれ出した蜜を掬い取り、鮮やかな肉色の花弁を舌で撫でる。
小さな突起を舌で舐ると、アリューシアは力なく首を横に振った。
「…グルドフっ………違う、の。────あっ、あんっ、やぁ…」
強すぎる快楽から逃れようとする身体を頑丈な腕で押さえつけ、
グルドフはその場所に愛撫を続けた。

「んっ……ああっ! やっ、いやぁ……グルドフ──あっ、だめっ」
追い詰められたような高い声と同時に、アリューシアはあっけなく絶頂に押し上げられた。
持ち上げられていた白い脚が、小さくひくひくと震えた。



「後ろを向いて」
グルドフは耳元で低く囁いた。
「後ろ……?」
「ドレスが皺にならないほうがいいでしょう? 借り物なら」
まだ虚ろなアリューシアに悪戯っぽくそう言うと、四つん這いの姿勢をとらせた。
腰を突き出させ、ドレスをくびれの所までたくし上げる。

露になった白い肉付きのいい尻を見下ろし、グルドフは背後に膝立ちになると
ズボンの前を開け、アリューシアの蕩けた場所に硬くなっていた自らのものを擦りつけた。
とろりとした蜜が、熱を持った怒張に絡みついていく。

グルドフは何度か鮮やかな肉色の入り口を先端で突くように押し付け、
ゆっくりと狭い中をのめり込ませていった。
「あっ。………ん…」
ようやく待ち望んだ快感に小さく喘ぎ、アリューシアはシーツに頬を擦りつける。

ますます高く突き出された形になった腰を両手で掴み、グルドフは腰を進めた。
「────ふっ、…ぅうん」
奥まで入り込まれ、甘い息が漏れる。

ゆっくりと、快感を伝えるように、大きな動きで引き抜いては押し込める。
めくり上げたドレスから剥き出しにされた腰から尻への艶かしい曲線が、
動きにあわせてぎこちなく揺れた。
滑らかな白い肌はうっすらと紅く上気し、淫靡な様を晒している。

グルドフはその肌に指を食い込ませた。
繰り返し前後に腰を打ち付け、狭い内壁を擦り上げる。
157蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:34:35 ID:qZZxRCDa

「んっ……ん……はぁ、ん。……ぁあ…あ」
陶然とした面持ちでアリューシアは鳴き声をあげた。
快楽に翻弄されているかのように、シーツを掴む指先に時折きゅっと力が入っては、
また緩む。

「────アリューシア」
火照ったものを深く挿入し、ぬるぬるとした胎内の温かさを味わいながら
身体を屈めて名前を呼ぶ。
「グルドフ……」
応える藍色の瞳が、快楽に色っぽく蕩けている。
「や………。気持ちいい…あぁ」
グルドフが前後に身体を揺らすと、アリューシアはうわ言のようにそう喘いだ後、
声を失い、ふるふると身体を小さく痙攣させた。

腰を解放したとたん、アリューシアは全身の力が抜けたようにシーツに肢体を伸ばした。
「グルドフ」
絶頂の余韻の中で気だるげに仰向けになり、のろのろとグルドフに腕を伸ばした。
無言で首に腕を回し、自分に引き寄せる。
「なに?」
「きちんと抱き合いたい。それに……」
目元を紅く染めたまま、アリューシアは甘えるように囁いた。
「………キスがまだだ」

「ああ、そうでしたね」
グルドフは微かに笑うと、身を屈めてアリューシアの唇に自分の唇を重ね合わせた。
つがいの鳥の戯れのように軽く、だんだんと貪るように深く。
舌と舌とを絡める口付けを続けながら、彼はアリューシアの頭に手をやった。
差し込まれていたピンを手探りで次々に抜き取り、結い上げられていた髪に指を入れると、
くしゃくしゃと解していく。

「待って」
グルドフはそう言って身体を起こすと、アリューシアの身体にまだ纏わりついていたものを
残らず引き剥がした。
今度は焦らしもせずに、むしろ、彼自身少し急くように。
158蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:36:53 ID:qZZxRCDa

自分の服も脱ぎ捨て、改めてアリューシアの身体を抱きかかえる。
脚の間にねじ込むように身体を割り入れて肌を密着させると、
アリューシアもふんわりと彼を抱き返した。

反り返るほどに屹立していたグルドフのものが再び入り込んでくる。
それが自分の中に根元まで収まるのを感じると、アリューシアは柔らかに息を吐いた。
男の引き締まった腰に、太腿の内側の肌を擦り付ける。
「こうして素肌で抱き合うのが、一番気持ちがいい………」
呟いて、自分の顔を覗き込んでいる男をうっとりと見上げた。

その眼差しを見る限り、彼も異論はないらしい。
なのに、彼の唇はからかうようにこう囁いた。
「今までも気持ちいい、気持ちいいって言っていましたよ。うわ言で」

「……気持ちいいの種類が違うんだ。馬鹿者」
アリューシアが不服そうにそう答えると、グルドフは面白そうに目を細めた。
再び口付けを交わし、少し身体を起こすと、彼は腰を動かし始めた。

今度は初めから激しく、奥まで突きこむように腰を打ちつける。
────もうわかっている。
これから彼は思う存分本能に身を任せ、欲望をぶつけるつもりでいるのだ。
荒々しさを増したグルドフの動きに身体を委ねると、
アリューシアはゆっくりと瞼を閉じた。

荒い息遣い。汗ばんだ肌の質感と温度。
逞しい身体の重みが伝える大きな存在感と、自分を抱きしめる力強さ。
目を閉じると、彼をより一層強く感じられる。

抱かれて感じるのは、肉体的な快楽ばかりではない。
何かほかの、言葉にはできない満ち足りた歓びに包まれる。
自分の領域に誰かに入り込まれる、この生々しい感覚。
こんなことを彼以外の誰かとなんて考えられない。
彼となら……と思えるからこそ、快感が湧き上がる。
159蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:38:14 ID:qZZxRCDa

「……グルドフ」
「うん?」
「グルドフ…、グルドフっ……」
筋肉の盛り上がった硬い腕に指を絡め、アリューシアは切れ切れに名前を呟く。
その顔には、陶酔の表情が浮かんでいる。
彼女の奥を抉りながら、グルドフはかすかに頬を緩めた。
「もっと?」そう聞いてやると、
「………うん、………もっと…」と答える。

毅然とした普段の声も良いが、追い詰めたときの可愛い声は耳に快い。
快楽に酔い、蕩けるように甘い表情を浮かべる色っぽい顔も、ぞくぞくする。
普段の凛々しい姿からは考えられないようなこんな姿を曝け出しているのは、
彼女が自分に心を許している証だ。

グルドフは上体を起こして、アリューシアの身体を見下ろした。
白い肌はうっすらと淡く染まっている。
艶かしい曲線を描く胸から腹、下腹部へと視線を移し、自分を呑み込む場所に目をやる。

赤く火照った淫猥な花弁は、摩擦のたびにぐちゅぐちゅと音が立つほど蜜にまみれ、
猛った怒張に絡みついている。
べっとりと濡れた自分の奮い立つものが、ひどく乱暴に、美しい騎士の秘めたる場所に
深く浅く出入りを繰り返す。


突き上げるたびに淫らに揺れる乳房に顔を寄せ、硬く尖った淡紅色の乳首を咥えた。
アリューシアの身体を揺すり上げながら、舌を絡めて吸い上げる。

「ああっ!………やっ…ん、ああっ、あっ…」
「こうされるのが、好きですよね」
反応を楽しんでいるような口調でグルドフは囁いた。
「今、中がきゅっとした。こうすると……」
深々と埋め込んだまま、再び胸の頂を口に含んでは、弄びはじめる。
その刺激にアリューシアの中は疼き、グルドフのものを締め上げた。

敏感な粘膜を擦られるたびに、アリューシアは細く甘い鳴き声を上げる。
しなやかな身体を組み敷き、グルドフは抜き差しを続けた。
張り詰めたものは彼女の中で動かす度に快感を引き出し、
腰から背筋を痺れるように走っていく。

「……グルドフっ、もう……あ、ああぁぁぁっ!!」
肉壁の奥を抉るように突き上げる。身体に縋り付いていたアリューシアが、
一際甘く叫んだ。
160蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:39:56 ID:qZZxRCDa

グルドフを包み込んだ胎内が脈打つように締まり、絡みつく。
柔らかくきつい肉にさすり上げられグルドフは低く呻き、アリューシアを抱く腕に力を込めた。
最奥に押しつけたまま、昂ぶりを一気に開放する。

最後まで吐き出すと、グルドフはアリューシアの肩に顔を伏せ、ふう、と息をついた。
余韻の中で深い口付けを交わした後、彼は囁いた。
「いつもより、燃えた?」

「…………変なことを言うな」
アリューシアは力の篭らない目で、横に寝転んだ男を睨んだ。
「このために正装したわけじゃないんだ。別に、いつもより楽しんでなどおらん」
「私は楽しかったですよ」
グルドフは悪びれもせずに答えた。
「………馬子にも衣装とか、思ってるくせに」
「おや、気にしていたんですか」
「……………」
彼はのそりと身体を動かすと、だんまりを決め込んだらしいアリューシアの耳元に
唇を押し当てた。
「可愛かった」

小声でそう囁かれ、アリューシアは顔を赤らめた。
困ったような、怒ったような複雑な顔でグルドフを見上げる。

「………からかってるんだろ」
「からかってなんていませんよ」
「でも、ニヤニヤしている」
その指摘に、薬師はわざとらしい無表情を作ったまま
掌で顔を覆うようにさすった。
「別に、ニヤニヤなんかしてませんけどね」
「────馬鹿者」
アリューシアは照れた顔を隠すように、グルドフの腕の中にうずくまった。


疲労と温もりの心地よさにうつらうつらとなり始めた耳に、
グルドフの声が届いた。
「夜が明ける前に、城に送って行きます。後のことは……」
「ああ、後は適当に取り繕っておけばいいんだな」
「ええ」
それだけの言葉の後には、静寂が訪れた。
安らかな夜の空気が、温もりを分け合う二人を緩やかに包み込んでいった。
161蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:40:59 ID:qZZxRCDa





「もう、あのあとは本当に大変だったわ。お兄様ったら、ずーっとずーっとお説教ばっかり。
しばらく夜の外出も禁止されてしまったし。
ここにだって、お兄様からわざわざお許しをもらって、やっと来れたんだから」
「まあ、仕方ありませんな」
作業台の前に立つお気に入りの薬師の傍に椅子を置き、マルゴットは一方的に
話を続けている。
目の前に王女がいるというのに、薬師は作業台の方を向いたままで、
先程から薬を小袋に取り分けながら素っ気ない口調で返事をしていた。

作業小屋に足を踏み入れるや否や始まった王女の延々と続く愚痴に対し、
薬師は淡々とした態度を崩すことなく対応を続けている。
しかし、そんな冷淡な態度を気にするそぶりも王女の側にもない。

王女に付き従うアリューシアにとっては、一歩下がったところから眺める
いつもどおりの二人の見慣れたやりとりであった。



すでにあの事件から3日が経つ。
『無事に保護』されたマルゴットは、その後、自ら蜃気楼まで出向いた第一王子に
離宮に連れて行かれ、かなりきついお灸をすえられたそうだ。

一方『逃亡中』のローズマリーの捜索は今もなお続いている。
忽然と消えた美しい女詐欺師については様々な憶測が飛び交っているが、
蜃気楼の一員という事以外はわかっておらず、未だ実態は謎に包まれたままである。
手がかりを求めて繰り返しマルゴットの周囲の者達にも聞き込みがなされているが、
たいした成果は得られてはいない。

王女の衣装係達はローズマリーが誰であるかを知っている訳だが、彼女達から
真実がもたらされる事は無いであろう。
162蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:41:55 ID:qZZxRCDa

「かねてから彼女には一度、『真っ当な格好』をさせてみとうございました」と述べた
衣装係の長・カーライル夫人を筆頭に、衣装係十数名は自らの職人としての腕を
存分に振るうための格好の素材──アリューシア──を得るために、
進んでマルゴットの企みに一枚噛んだ節があり、見事なまでの一致団結ぶりで
硬くその秘密を守っている。



散々愚痴をこぼしてようやく気が済んだのか、やがてマルゴットはこそりと
薬師を相手に声を潜めた。
「でも、思惑どおりにことが運んでよかったわ。お前の働きのおかげよ」
「どうも」
「我ながらいい考えが浮かんだものだわ。お前たちも楽しかったでしょ?」
「まさか!私はもうこりごりですからね、姫。
大体殿下もお話しされていたように──」
「ああ、もう止して。お説教はたくさんよ」
背後に控えていたアリューシアが身を乗り出して口を挟もうとすると、
マルゴットは辟易した様子で扇を振った。
「見たでしょう?グルドフ。事あるごとに彼女もずっとこの調子。嫌になるわ」

「しかし姫、今回の夜遊びはずいぶん手の込んだものになりましたね」
いままで聞き役に徹していたグルドフが、おもむろに口を開いた。
「いったい貴女が得たものは何だったのです? そのくらいはここにいる者には
教えてくださってもいいと思うのですが」
「まあ」
ばれていたの?といった感でマルゴットは可笑しそうに笑った。

レオンの話によれば、マルゴットには常に同伴していた男がいたと言う。
兄の追及からその男を庇うために、アリューシアを身代わりに使ったというのは
明白であろう。
たとえマルゴット自身が望んだことであれ、無断で王女を芳しくない場所に
連れ出したとなればそれだけで罪に問われる。
アリューシアが問い質しても、彼女は決してその同伴者の名前を明かそうとは
していない。

しかし、その為だけにこんな手の込んだことをするとも考えにくい。
他にも何か理由があるのでは、ということは薬師同様、アリューシアも
おぼろげに思っていることであった。
163蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:42:59 ID:qZZxRCDa

「お前には本当に隠し事はできないわね。じゃあ、お前たちには内緒で教えてあげるわ。
でも、絶対にお兄様に言っては駄目よ」
そう念を押すとマルゴットは首にそっと指を当てた。
平服用ドレスの控えめな胸の開きから、するするとネックレスの細い鎖を引き出していく。
その鎖の先から、ごろんと男物の太い指輪が現れた。

それが何であるのか、アリューシアにはすぐに分かった。
台座にはめ込まれた大粒の黒い石の、世にも妙なる神秘的な煌き。
強く瞼に焼き付いていて見紛うはずもない。

蜃気楼で、マルゴットの肩を抱いたメギンチ卿の指にあった
七色の光を抱える不思議な漆黒──黒オパールだ。

「私が場所を明かさなくても、遅かれ早かれあの男はお兄様に捕らえられたはず。
そうなったら、この石がどうなってしまうか、わからないでしょう?
だから、私が『助けて』あげたのよ」
うっとりとした表情で石を光にかざすマルゴットを見て、二人は顔を見合わせた。
「罪人から没取した財宝って、どんなにお願いしても私の物にはさせてくれないんですもの。
お兄様って変なところでケチなのよね」

おそらく、マルゴットは偶然遊びに行った蜃気楼でこの石を見出し、それを目当てに
石の持ち主である蜃気楼の元締めに近づいたのだろう。
気のあるそぶりを見せつつ、言葉巧みに石をメギンチ卿から頂戴したのだ。
「その指輪をくれるのなら、パパのものになってあげてもよくってよ」
二人きりになったあの部屋で、それ位は言っているだろう事は想像にたやすい。

遠方交易によってのみもたらされる希少な宝石。
数多の星が瞬く漆黒の宇宙をくり貫いたかのようなそれは、日の光を浴びて息づき、
きらきらと鮮明な輝きで色彩を踊らせた。

「この輝きを見て。素晴らしいわ。
この石さえ手に入れば、もう私は蜃気楼にもあの男にも用はないの。
絶好のタイミングだったわ。私がこれを手に入れて、あの男がいよいよって感じで
迫ってきた時、憲兵達がなだれ込んできたのよ」
マルゴットは楽しそうにころころと笑った。
「でもアリューシア、お前は何も心配しなくてもよかったのよ。
だって、あのおじいちゃん、もう勃たないんですもの」
164蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:45:05 ID:qZZxRCDa

愛くるしい主の口から出た言葉にがっくりと脱力した女騎士にグルドフは呟いた。
「とんだ悪党ですな」
「………無礼な事を申すな。グルドフ」
そう窘めながらも、心の底から強くは否定できない自分が悲しかった。

「そうそう……石っていえば」
石を胸の中に戻しながらふっと何かを思い出したようにマルゴットは呟き、
アリューシアの方を向いた。
「お前、ドレスを返したのはいいけど、宝石箱の中にイヤリングが入っていなかったそうよ。
今朝、カーライル夫人が言っていたわ」
「えっ────」
それを聞くや否や、アリューシアは絶句した。
(そういえば、私はイヤリングをどうしたんだっけ……)
慌てて記憶を辿ってみる。

────まったく覚えていない。

考え込んでいる様子を見て、マルゴットは首をかしげた。
「どうしたの? もしかして、失くしてしまったの?」
「いえ、えっと……その──申し訳ありません。一度探してみます」
「グルドフ、お前は……知らないわよね」
マルゴットに尋ねられた薬師はちらり、とアリューシアを見やった後、
全く表情を変えず肩を竦めた。
「ええ。心当たりはありませんが」
「そうよね」
そう言うと、マルゴットは椅子から立ち上がった。
「まあ、いいわ。見つからないのなら誰かに探させるから。
そろそろ戻りましょうか、アリューシア。
今夜はお兄様達と晩餐をする予定だもの。遅れたりしたら、また機嫌を損ねてしまうわ」

歩き出した王女の先に立ち、アリューシアは主のために扉を開けた。
「じゃあね、グルドフ。また遊びに来るわ」
礼儀よく会釈をして見送るお気に入りの薬師にマルゴットはひらひらと手を振り、
小屋をあとにした。

王女を通し扉を閉めようとした時、小屋の中の薬師の姿が
何気なく、アリューシアの視界の端に入った。
165蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:46:06 ID:qZZxRCDa

マルゴットの目が他を向いているその隙に、彼は小さな何かを頭上に放り投げた。
きらりと空中を舞い、再び音もなく薬師の掌の中に納まったのは、
今しがた話題になったばかりの───


イヤリングをどうしたかを全て鮮明に思い出したアリューシアは、
同時に悲鳴を上げそうになった。


マルゴットのすぐ背後で、ばたんっ!と叩き付けるように扉を閉める。
近くで野茨の赤い実を啄ばんでいた小鳥達がそれに驚いて、チチチッと鳴きながら
慌てふためいて飛び立っていった。

「……………何?」

乱暴な扉の閉め方に、王女はあっけに取られたように女騎士を振り返った。
女騎士は王女の視界を遮るように、扉の前に立ち塞がっている。

「いえ、────なんでもありません。さあ、冷えてまいりましたし、早く馬車にお乗りを」
彼女はそれだけ言うと、後は黙々と、馬車に乗り込むマルゴットの手助けをした。
「そういえば、お前、薬を受け取るのを忘れていたわ」
「あ、ああ、そうでしたね。貰ってまいりましょう」
馬車の中で主のドレスを整え終わると、ぎくしゃくと馬車から降り、
再び作業小屋に戻る。



グルドフは作業台に寄りかかり、彼女が来るのを待っていた。
右手に王女の薬の包み、左手にイヤリングを持って。

「駄目ですよ。忘れたら」
イヤリングの事か、それとも薬の事なのか。
どちらとも受け取れるようなことを言った男の口の端が微かに、意地悪く吊り上っている。

アリューシアは険しい顔でずかずかと歩み寄り、わざわざ肝を冷やすようなまねをする
薬師の手からイヤリングを奪い取ると、それを上着のポケットに突っ込んだ。
「丁寧に扱わないと、痛みますよ」
白々しいその言葉には応えず、女騎士はむっつりとグルドフを見据えた。
166蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:47:17 ID:qZZxRCDa

「…………後で私から姫に返しておく」
「そのほうが無難でしょうね。まあ変に勘ぐられないように、上手くおやりなさい」
「お前が言うな。馬鹿者」
王女の薬を腕に抱え、彼女は足早に作業小屋を後にした。



楓の緋や菩提樹の黄金を、傾いた日差しがより一層暖かな色に照らしている。
アリューシアは馬に跨り、秋色に染まる道の中を馬車の横に付き従がった。

蜃気楼はその実態が暴かれたと同時に儚く崩れ去り、
ローズマリーも二度とその姿を人前に現すことは無い。
とりあえず、これでしばらくは穏やかな日々が送れるだろう、と
冷たさを増した風を首筋に感じながら、王女のお目付け役の女騎士はそう思った。
マルゴット王女の平穏無事、それこそがアリューシアの望みなのである。

しかし、実際どうであるかは神、では無く奔放な主のみぞ知る──のかも知れない。

そろそろ冬の準備の始まる季節での、ひとこまであった。








(蜃気楼  END)

167蜃気楼 (後編):2007/11/22(木) 19:48:27 ID:qZZxRCDa
以上です。

読んでくれた方、どうもありがとう。
感想くれた方、いつも励みになっています。本当にありがとう。
168名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 20:08:32 ID:fLBY7XNo
最高です!!!!!!
GJ!!!!!
169名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 20:12:13 ID:SsNJwGAo
待ってました!
GJGJGJ!
170名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 20:19:50 ID:zvePpnX1
ブラボです!
職人さん!! これからも頑張って下さい!
萌えすぎました!!
ところで、最も多忙なる一日で、アリューシアがグルドフにいつか仕返し
してやると言ってましたが、仕返しするの待ってます!(グルドフ状態)
171名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 20:48:19 ID:/h0nhdjQ
(*´Д`) ムッハー
萌え転がったー!あまあまGJ!!
172名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 20:53:44 ID:s6wgFbBE
この二人いいなぁ!いつもありがとう、GJ
173名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 21:56:23 ID:eiuZZmm7
心の底から愛してる!!
174名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 23:41:17 ID:YVyCqoQe
甘すぎる…いいぞもっとやれ!いや、やってくださいお願いします
175名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 10:31:45 ID:djtCp7xq
口から砂が滝のように流れた
だがそれがいい
176名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 04:37:06 ID:DZjqlSuD
保守
177名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 09:11:22 ID:QpRwcrBo
どう読んでもラブラブです本当にあ(ry
アリューシアの美人可愛いさが素晴らしい。
そんな素晴らしく美人可愛いアリューシアにちょっかい出しまくりなレオンにグスタフは嫉妬したに違いない。
178名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 09:41:01 ID:olwtk71H
いや、アリューシアのあの可愛さはグルドフの前でしか
出してないだろう。
グルドフのちょっかいもアリューシアにしかしてないし
好きな子をいじめたいと言う心境は分かるぞグルドフ
179Princess of Dark Snake 4:2007/11/25(日) 00:27:31 ID:VB/3MK0R
保管庫がここしばらくで一気に更新されてますね。
まことにお疲れ様です。

では蛇姫物の4作目。
申し訳ありませんが、今回シャフルナーズの出番が少ないのでエロなしです。
180Princess of Dark Snake 4:2007/11/25(日) 00:28:37 ID:VB/3MK0R
百官が居並ぶパルティア王宮の大広間に、異国の一団が跪いている。
彼らは東のシンド国からやってきた大使たちだ。
『全ての王たちの王』を自称するアルダシールは昨年、東国へ使者を送った。
その返礼のために訪れたのが彼らだ。
ただし、国と国との威信を賭けた外交戦は、時に詰まらぬ意地の張り合いの様を呈することもある。

「さて繰り返しますが、シンド王よりの貢物は、
 『おぞましく、人に害毒をもたらす物、
 されどその中にあるは、大陸に二つと無き虹の果実』にございまする。
 叡智の誉れ高きパルティアの賢者がたには、遠慮なさらず中身をお当て下されよ」
「うぬぬ……」

持ち込んだ献上品をダシに、大使は謎掛けを仕掛けてきた。
こういった座興は珍しくない。
先年アルダシールがシンドに使者を送った時も、彼らを試す意味で謎掛けを付けて贈った。
贈ったものは、『王侯から貧民まで、誰にも無くてはならぬ物。
そして罪人の如く炎に焼かれたる物。されどその実にあるは、王が王へ送るに相応しき物』だ。
だが仕掛けられる側にとっては、答えられなかったら面目を失う。
特に、周辺国に平素から文知の栄えを誇るパルティアやシンドの様な国にとっては尚更だ。
前回の意趣返しの意味も込めてあるのだろう。
シンドの王はパルティア宮廷に挑戦を仕掛けてきた。

「皆の者遠慮はいらぬ。この謎解けるものが居れば、遠慮なく申し出よ!」

国王アルダシールの声に、やや焦りが見える。
もとよりこうした当て物は、出題者の方が有利なものだ。
だが、前回そうしてシンドに使者を遣って、相手側は見事に答えたという前歴がある。
ここでこちらが答えられなければ、シンドの智恵にパルティアが及ばないということになる。
世界の中心を自認するパルティア人にとって、それは耐え難い屈辱だ。
ざわざわと、近くに坐する者同士で相談する声が大広間を騒がす。
181Princess of Dark Snake 4:2007/11/25(日) 00:29:46 ID:VB/3MK0R

貴族から大臣まで、互いに顔を見合わせてこの謎を解こうとしているが、
一向に回答へたどり着けそうにない。
その様を苦々しげに眺めているアルダシールは、玉座のすぐ下にある王族の席へと目をやった。
本来そこに坐るべき三人の息子のうち、二人は欠席している。
ならば、残った一人に期待をかけてみたいのだが……

「ファルハードよ、答えは見つからぬか?」
「父上、申し訳ございません。未だ皆目見当も付かぬ次第で……」

面目なさそうに、第三王子は頭を下げる。
その様子を見たシンド大使は、すかさず声を発する。

「重ねて申しますが、『簡単に答えてしまっては我らの面子が立たぬだろう』
 などといったご配慮は無用ですぞ!」
「ぬ……」
「しかし、こうして貴顕高官のお歴々にお目通りが叶いましたが、
 他の王子がたのお顔が見えぬのが残念至極ですなあ。
 第一王子殿下は学芸に秀で、第二王子殿下は相当の知恵者と聞き及びますのに」
「……余の二人の王子はちと病でな。こうした場への出席は見合させておる」
「ははあ、それはお気の毒。一日も早いご快癒をお祈り申し上げまする」

深々と頭を下げる大使一行だが、傍から見てもその仕草がわざとらしい。
第一王子の不行跡と、第二王子が父の不興を買ったのを知った上での当て擦りに、
ファルハードは腹の底が煮えた。

大使たちの態度を見るに、シンド王の意向が明らかになってきた。
既にこれは座興ではない。
パルティア王国を貶め、王に恥をかかせようという心算なのだろう。
父はまだ鷹揚に笑って見せているが、自分同様この振る舞いに怒りを覚えている筈だ。
この無礼者どもを切り捨てることなど、近衛兵に一声命じれば済む。
しかし、それで落着するなら父もとっくにそうしている。
そんな事をすれば、謎掛けに答えられなかった愚さと、座興も受け入れることの出来ぬ狭量さを
自ら宣伝するようなものなのだ。
182Princess of Dark Snake 4:2007/11/25(日) 00:30:52 ID:VB/3MK0R

「シンド王は名うての変わり者、一筋縄でいく代物は送ってこないだろう」
「いや、あれは占術狂いの変人と呼ぶ方が妥当さ」
「かなりひねくれた貢物だろうな」
「おまけに昨年の事がある。仕返しにどんな裏をかいた物を送ってきたのやら」

昨年シンド王に送ったのは、パン生地に貴金属や宝石の類を包み、野火で焼いた物であった。
王侯から貧民まで、パンがなければ生きてゆけぬ。
その誰にも必要な代物に、王に相応しき重宝を仕込んでおくという、一風変わった贈り方をしたのだ。
ただし、どうやらその手の諧謔は、シンド王の気に入るところではなかったようだ。

「うーぬ……」

使者の膝の前に置かれている大箱を穴の開くほど見つめるファルハードであったが、
もとより視線で穴が開くことなどないし、透けて見える訳でもない。
それでも何か手がかりが掴めぬかと凝視し、必死に頭を巡らす。
その時であった。
何処からともなく、鈴が鳴るが如き玲瓏とした声が彼に聞こえてきたのは。

(おほほ、お困りですか? 愛しいファルハード様)
「シャフルナーズ?」
「……どうしたファルハード、何か判ったのか?」

思わず、場所柄も弁えず口に出してしまった。
大声でなかったのが幸いだが、隣に坐っていた従兄弟が不思議そうにこちらを見ている。
彼の耳には、その声が聞こえた様子は無かった。

「い、いや…… 何でも無い。やっぱり思い違いだった」
(ほほほほっ、口を覆って小声でお話下さいませ。
 小さな声でもわたくしには聞こえますし、
 シンド人の一行に、唇の動きが読める輩が潜んでおらぬとも限りませぬゆえ……)

慌てて取り繕う彼の耳に、再び女の声が響いてくる。
その言葉に従い、ファルハードは思案する振りをしながら口元を掌で覆った。
183Princess of Dark Snake 4:2007/11/25(日) 00:31:39 ID:VB/3MK0R

『何の用……その前に、何でこんな時に表れるのだ? シャフルナーズ!?』
(何って、わたくしは愛しいお方がお困りの時には、いつ何時であれ参上しますわ)
『ここは謁見の間だぞ!?』
(ふふふっ、天地の間に魔族多しと言えど、
 日の明るいうちから王宮に忍び込める程の者は、世界に五名とおりませぬわよ?)

自慢げに、だがとぼけた答えを返すシャフルナーズの対応に、ファルハードは眉を吊り上げる。
呟きながら何を怒っているのかと、訝しそうに従兄弟が横目で覗いているのに気付きもしない。

(あの高慢なシンド人の鼻を折ってやりたいのでしょう? ファルハード様)
『む!?』
(箱の中身を教えて差し上げましょうか?) 
『判るのか? あやつらの謎掛けの答えが』
(ほほほ…… この程度の知恵比べ、何で判らない事がありましょうや?
 でもその代わり……)
『また我と一晩過ごせと言うつもりか?』
(ご明察、)

眉を顰ませつつ、妖の姫に小声で答える。 

『我の身体は売り物ではないぞ』
(存じておりますが、こうでも言わないとわたくしを可愛がって下さらないでしょう?
 おっほほほほっ……)

時と場所さえ許すなら頭を抱えたくなった第三王子であったが、生憎そんな事が許される場面ではない。
ぶつぶつと一人で何やら喋っている王子を、従兄弟のさらに隣に坐る大臣までが
不思議そうに覗き込み始めた。
この謎掛けの手がかりでも掴みかけているのなら、下手に声を掛けぬ方が良いのだろうが……
そんな王族席の様子を尻目に、使者の口上はさらに熱を帯びてゆく。

「おやおや、皆様どうなされましたかな? 世界の王を称されるアルダシール大王のご宮廷に、
 まさかこの程度の謎々遊びを解ける賢者さえ居らぬとでも?」
「はっはっは…… 使者どのよ、口が過ぎようぞ」
「やっ、これは失言。お許しあれ」

卑屈な態度を見せてそろって床に額づくが、その動作のどこかが芝居がかっている。
184Princess of Dark Snake 4:2007/11/25(日) 00:33:18 ID:VB/3MK0R

『くそっ、調子に乗りおって』
(けれども、奴らの心底が見えぬままでは斬れぬのでしょう?
 非礼を詰って使者を殺すことが、シンド王の策の内であったら……)
『その通り…… 合戦を厭う我ではないが、奴らの思う壺に嵌ってやるのは業腹だ』

貢物を持参した使者を殺す。
これ以上開戦の口実に都合のいい事件も無いだろう。
ファルハードも誇り高きパルティア人である。
平和こそ至上と考えはしないが、敵の罠に引っ掛かるよりはそれを躱すことで見返してやりたい。
これまで父王が我慢をしているのも、きっと自分と同じ考えをしているからだった。
ただし、これから先も使者の侮辱に耐えられるという保証はないのだが。

(ならば、わたくしの智恵をお借りなさいませ)
『先程の言はお前についても同じだ。我がいつまでもお前の目論み通りに動くと思うなよ』
(おほほ…… お聞き届け頂けない時は、諦めて次の機会をお待ちしますわ。
 愛しいファルハード様は英雄の星の下に生まれてきたお方。
 困難と試練には事欠かぬ宿命で御座いますもの)
『ちっ、お前と出会ってしまった以上の苦難がこの世に有るのか、我は本気で疑うな』
(とんでもない、わたくしと出会ったのは大幸運でございますよ)

そんな風に、王子と妖姫が人知れず言葉を交わしている間に、
シンドの使者は左右に並ぶパルティア人たちをねっとりとした目で見回す。

「う〜む、皆様どうやらお分かりにならない様でございますねえ。
 しかたありませぬ。こちらから種明かしをするのは本当に興冷めで御座いますが、
 そろそろ箱を開くと致しましょうか?」

その言い草が、目つきが、実に人を小馬鹿にした雰囲気であったので、
ファルハードの辛抱の糸はぶつりと切れた。

『シャフルナーズ! 箱の中身を教えろ』
(取引に応じて下さるので御座いますか?)
『ああっ! お前を抱くのは一晩の辛抱だが、あの下種をこのままにしておくよりはマシだ!』

「なんともまあ、名高きパルティア王宮の賢者方の智恵がこの程度とは、
 こちらもちと買いかぶっていたようですなあ。
 もう少し簡単な謎掛けを用意してくれば良かったものを…… いや、真に申し訳ない」

列座する貴族高官を見下した言いっぷりで、大使は箱に手を伸ばした。
だが、妖の姫の声はファルハードの耳にまだ届かない。
185Princess of Dark Snake 4:2007/11/25(日) 00:33:59 ID:VB/3MK0R

『どうした? 取引すると言っているのだぞ!?』
(教える前に手付けと言ってはなんですが、「美しい上に賢い、愛しい麗しのシャフルナーズ。
 お前の働きにはいつも感謝に耐えぬ。どうか今日も我を助けると思って箱の中身を教えておくれ……」
 そう仰って頂けませんか?)
『何だと!?』
(わたくしも女の意地というものがありますからねえ。
 『お前を抱くのは一晩の辛抱だ』とか言われては、少々傷いてしまいました)
『ぐぅ……畜生め』
(フフフッ、わたくしの出自は今更言われるまでもありませんことよ?)
『くそっ…… 賢くて美しい麗しのシャフルナーズ…… お前の働きは感謝に耐えぬ。
 今日も我を助けると思って箱の中身を教えてくれ』
(「愛しい」が抜けましたわよ?)
『負けろっ! そのくらいっ!!』

ファルハードの表情が益々険しくなり、呟きもますます要領を得なくなってきているので、
従兄弟や大臣は顔を見合わせて怪しんでいた。
だが、大使の指がするすると箱を封じていた紐を解き始めると、彼らも第三王子の不審な行動など
忘れたように目をそちらに向けた。
大使が箱に手を掛けると、全員固唾を呑んで大広間が静まり返る。

「いやはや、残念至極。ほんの座興がパルティアの叡智が噂ほどでは無いと明らかにしてしまうとは。
 我らが主になんと復命すればいいのやら? 今から頭の痛いことでござる」
「……」
「さて、『おぞましく、人に害毒をもたらす物、されどその中にあるは、大陸に二つと無き虹の果実』
 シンド王よりアルダシール大王に贈りますのは、この宝でござりま──」

まさに開こうとした瞬間であった。

「シンドの大使よ。まさかその中に入っているのは、『蛇に飲ませた大真珠』ではあるまいな!?」

ファルハードの声が、沈黙を破って大広間に響いた。

「!!?」

その場にいる全員の視線が声を発した者へ、ついで箱を開けかけていた大使の方へ向かう。
大使の腕はガクガクと震え、それ以上蓋を持ち上げる事が出来ないでいた。
その僅かに空いた隙間から、するりと這い出したモノがある。
それを認めた瞬間、列座するパルティアの貴顕は一人残らず驚嘆の声をあげた。
ぬるりとした、手足を持たぬ胴体。
大理石の床を這い回るその姿は、紛れも無くシンド南部の密林に生息する大蛇であった。
ただし、その胴体が一部異様に膨らんでいる。
186名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 00:34:46 ID:FOJq40hf
グルドフって薬師の割りにマッチョな体してるし…
オールマイティな皮肉っぽい男で、ちょい不器用で可愛いアリューシアと対照的。
口調も敬語と男言葉だし、コントラストが面白いカップルだな。
しかし毎回、読後感が凄く良いな。GJ!!!
187Princess of Dark Snake 4:2007/11/25(日) 00:36:48 ID:VB/3MK0R

「フム……」

にやりと笑ったアルダシールが顎をしゃくって近衛兵に合図を送ると、
心得たりとばかりに兵士は大蛇に近寄った。
鎌首をもたげて威嚇する蛇であったが、近衛兵は重たい腹の所為で動きの鈍い獲物の首を一刀で刎ねた。
そして胴を割いて、胃袋の中にあった物──大蛇の腹を膨らませていた卵型の物体を取り出す。

「あっ…… あ……」

言葉さえ出せない大使に代わって、近衛兵は血塗れの異物を手に取り、
白く塗られていた外枠の金具(卵に似せて蛇に飲ませると共に、胃酸の対策であろう)を割って、
中身をその手で高く差し上げた。

「オオッー!!」

どよめきが謁見の間に満ちる。
それは少年の頭ほども大きな、浴びた光を虹色に反射する巨大な真珠であった。
これほどの珍品を持つ者は、大陸広しと言えども二人と居まい。
しかし、このどよめきは宝物の見事さに送られた物ではない。
謎を解き、まさに正解を言い当てた第三王子の見識の素晴らしさに向けられた物だった。

「ファハッハッハッハ! まことに素晴らしき献上品であることよ!!
 シンドの大使よ、王によしなに伝えてくれい。
 かような重宝を送られて、アルダシールは実に満足していたと!」
「は、ははーっ……」

大使一行は揃って頭を下げたが、先程までの倣岸な雰囲気は何処へやら、
全員恐れ入った風に額を床に付けた。

パルティア王を怒らせるという彼らの任務は失敗に終わった。
彼らの主君の思惑を実現するためには、『贈答品が大王に相応しくない』という
シンド側に非の有る形で謁見を進めるわけには行かなかったのだ。
そこで彼らの王は、パルティアで忌まれる蛇をわざわざ南方より取り寄せた上、
王宮の秘宝『巨大真珠』を惜しまずに使ったのだが、
策を躱されてみれば、ただ敵に重宝を送り届けただけだった。
任務を遂行できなかった大使一行をどのように扱うかは、シンド王の胸一つであろう。
それはファルハードの心配する領域ではない。

「しかし殿下のご慧眼の見事さよ!」
「うむ、まるで千里眼じゃ」
「武勇に優れた方とは存じておったが、智謀も王国一ではあるまいか?」
「普段は兄君たちにご遠慮なさっておいでだったのだろう」
「こうなると、やはりお世継ぎに相応しいのは……」
「それは気が早い。けれども他のご兄弟より一頭抜けておられるのは間違いあるまい」
188Princess of Dark Snake 4:2007/11/25(日) 00:39:13 ID:VB/3MK0R

廷臣たちのざわめきがまだ大広間に満ちている。
ファルハードにとっても、畏敬と崇拝の視線を集めるのは悪い気はしない。
軽く微笑んで彼らに応えてやるファルハードであったが、
耳元に囁くような可憐な声が彼を現実に引き戻す。

(うふふ、約定お忘れなく…… 愛しい方)
「ぐっ!」
「?、どうなさった、殿下?」
「いや、ちょっとむせただけだ……」

何とか誤魔化そうとするファルハードだが、
従兄弟と大臣は『今、どこにむせる様な要因があったのだ?』と再び顔を見合わせた。
彼らの疑念はさて置いて、第三王子の思考はあの姫君の事へ向かう。

(やれやれ…… 我もあそこに転がる蛇の如く、あの女を一思いに斬ってしまえれば簡単なのだが)

そう思っても、肌を重ねた女を切るというのは中々出来るものではない。
まして怨敵ザッハーグの血を引くとはいえ、あちらが自分に好意を持って──否、
害意を露にしていないことは事実なのだ。
もし斬るとしたら、出会ったあの夜に勢いに任せて殺すべきだった。
こう身体を交えて情が湧くと、なまなかに思い切る事は難しい。
ただ、どうもあちらはわざと此方を煽って、
殺すか殺すまいか煩悶させることに悦びを感じている節がないわけでもないが。

おそらく、ニ三日の内にまたシャフルナーズは忍んで来るだろう。
借りは必ず返す── それがパルティア人である。

(とりあえず、今日の借りは返さねばなるまい。そしてこれを最後にするの…… いや待てよ?)

ふとあることに気が付き、急に険しい顔に変わる。
王子の急転ぶりにももう慣れたのか、従兄弟と大臣は驚きもせず呆れている。

(あいつは我のことを『英雄の星の下に生まれてきた、困難と試練には事欠かぬ宿命』と言った。
 つまり、これから先もあいつに頼らなければならない事態が山のように来るという事か?)

これまで、シャフルナーズはファルハードに嘘を吐いた事が無かった。
英雄の星の下に生まれたと言ってくれるのは有り難いが、
反面、これから先もあの姫に付き纏われるというのは、どうにも心安らげる話ではない。

(今宵は、そちらの件について口を割らせなければなるまいな……)

美姫との閨事を思えば、普通は頬が緩みそうなものだが、
シャフルナーズとの房事の場合は逆に引き締まる。

(全く…… 父祖カイクバードは英雄だが、女で苦労したなどという話は聞いたことがないぞ)

すごすごと王の御前を引き下がるシンドの大使を尻目に、
ファルハードは己の運命に思いを馳せるのであった。


(終わり)

年代記
パルティア王アルダシールの治世十年
シンド王より朝貢の使者あり。王、シンドよりの貢物に大いに満足す。
189名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 01:36:01 ID:+jVjsjIs
GJ!!! 長編大作お疲れ様です。濃厚な描写がたまらなかったっス。
職人さん、オレの妄想を究極な形で叶えてくれて本当にありがとう。
やっぱりこのシリーズは最高!!
190名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 01:48:54 ID:+jVjsjIs
>>189
すまん、更新されてるの気付かないままアリューシアの感想書いてしもた。
蛇の姫の職人さんスンマソ。。。
(でもしっかり読ましていただきました。こちらもGJ!!引き込まれます)
191名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 02:13:08 ID:Q1E/feLB
GJ! 濡れ場も待ってますよ

┌──────────────────────―─┐
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|               人 Y /                  |
|               (_ヽし_)                 |
|                                     |
│             Now Bokkiing. ....               |
│                                     |
│                                     |
│       しばらくちんちん勃ててお待ちください。      |
│                                     |
└───────────────────────―┘
192名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 16:09:32 ID:RDygO2Na
蛇姫乙。二人のやり取りを見てると顔が緩むみます。そして謎掛は2つともまったくわからなかった。
193名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 21:15:42 ID:+spIbEft
GJ!
いつも読み応えあります
194邂逅]U:2007/11/26(月) 22:03:20 ID:0FWZKO+w
しばらくこないうちに、新板は立ってるし、いっぱい投下されてて、うれしい限りです。
読みふけって投下するの忘れておりました;

アビゲイル今回はエロなしでござる
195邂逅]U:2007/11/26(月) 22:04:27 ID:0FWZKO+w
しまった
さげ忘れ;
196邂逅]U1:2007/11/26(月) 22:08:45 ID:0FWZKO+w
腕の中のいとおしい、女。
稚い子供を寝かしつけるように、ゆっくりとリズムをとって、髪をなでる。
まだ少し震えているようだ。身に起こったことを受け入れるのは、簡単なことではないだろう。

女神の存在を民は知らない。
あの存在は、莫大な益を生む。
何百年もかけて、天眼者が自らの利益のため隠し守り通してきたのだ。

地母神も面倒をきらい、おおかた依代となった女の記憶を奪う。
女たちは儀式が終われば普通の生活に戻っていくのだ。

例外は、ある。

女神に深く愛されたものがたまさか、女神の意思で宮城に迎えられてきた。
迎えられた女は国王に供され、女神の気分によっては寝間で国策を囁く。
あるものは国王の子をなし国母として正妃に立てられ、あるものはひっそりと王宮の奥で生を終える。タイロンの母のように。

しかし今回の女神はアビゲイルを後宮に納めよとは言わず、彼女を労れ、と告げるのみであった。
タイロンには女神の真意がわからない。
197邂逅]U2/4:2007/11/26(月) 22:09:50 ID:0FWZKO+w
想定外の事態に、タイロンの考えは定まらなかった。

アビゲイルを、前例に従い、愛されし者として後宮に納めるか。
・・・この逞しく生きる女を、一生宮城から出られない籠の鳥に。
できるわけがない。

アビゲイルに現在まで続く女神と国主との間柄を理解してもらい、納得ずくで王家の共犯者になってもらうか・・・
世界の秘密を垣間見た上で、これまで通り生活することは思った以上に枷になるだろう。
出自がわかった以上、この娘は儀礼の鎧に身を固め、二度と友として見せてきた笑顔を自分に向けてくれることはないに違いない。

全てなかったことにする。
手っ取り早いのはアビゲイルにすべて忘れてもらうことだ。
今夜のこの部屋での出来事を全て忘れてしまえば、気ごころの知れた友に戻れる・・・結局、自分の都合だ。なんという傲慢。

「苦しい・・・タイロン」
アビゲイルが身をよじって抗議の声を上げた。
無意識に手の中のぬくもりを強く抱きしめていたようだ。我に返って、込めていた力を緩めた。

そっとアビゲイルの手がタイロン・ツバイの額に伸びてきて、天眼を包み込む。
「善からぬことを、考えていただろう」
金の天眼が完全に隠れてから、やっとアビゲイルが視線を上にあげ、タイロンに絡ませてきた。
「捕らえて支配下におくか」
瞳にはいつものアビゲイルの理知的な輝きが戻っている。

「すべて忘れろと命ずるか」
198邂逅]U3/4:2007/11/26(月) 22:10:48 ID:0FWZKO+w
その洞察力には頭が下がる。タイロンは黙って目を閉じた。
しばらくのあいだ、二人の間を沈黙が支配する。
「・・・そうするのがアビゲイルにとってもいいと思う」

アビゲイルがそっと天眼にあてていた手をタイロンの頭にまわし、唇を額に当てる。
「・・・大きなものを背負っているんだな」やさしく日向の匂いがタイロンを包み込んだ。
今までとは逆に、アビゲイルがタイロン・ツバイを抱きしめていた。

愛おしい人を手に入れた、充足感。
受け入れられている安心感。

一言忘れろと命じれば、アビゲイルは全て忘れる。
心地よいこの瞬間を、自分の胸の内に綴じ込んで慈しみ、この先を生きていかねばならない・・・
さまざまな感情が押し寄せ、綯交ぜになって正気を失いそうだ。

「これからも、一人で耐えるのか?」
アビゲイルの唇が眼尻に当てられてはじめて、自分が涙を流していることに気がついた。
199邂逅]U4/4:2007/11/26(月) 22:11:25 ID:0FWZKO+w
ただ、滂沱する男を抱き寄せて、むずがる幼子をなだめるように背中をさすってやる。
飄々と立ち回るタイロン・ツバイの人懐こい笑顔の裏には世界の秘密が隠されていた。
この人は黙々と、神との約束を果たして、この国の民の生活を守ってきた。
そのことを、誰も知らない・・・自分だけが知っている・・・

抱き寄せた男に湧く気持ちを何と呼ぶかは、アビゲイルはわからない。
先ほどまで自分の中にいた貴き者は、タイロンのことを愛おしい吾子、と呼んだ。それが近いような気もする。
タイロンの閉じられた瞳から流れ落ちるしずくをていねいに舐めとる。
愛おしい、と思うと胸に暖かい灯火がともったようだった。

「忘れる以外に・・・私にできることはないのか?」
アビゲイルの言葉に、ゆっくりとタイロン・ツバイが眼を開ける。
「アビゲイル」
微笑にさびしげな影がくっきりと浮かぶ。
「ありがとう、充分だ」
その顔が思った以上に穏やかで、かえってアビゲイルの頭の中に危険信号が鳴り響く。

どうすれば、忘れろと命ずることをやめさせることができるのか・・・
200邂逅]Uおしまい:2007/11/26(月) 22:13:03 ID:0FWZKO+w
今日はおしまい。
あとちょっとお付き合いくださいね。
読み返すと手直ししたくなるのです。
201名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 22:52:52 ID:K0uc41nt
アビゲイル待ってた甲斐があった
続きが気になる
202名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 22:56:11 ID:lZuwQ8Xz
アビゲイルの人ありがとう
完結編まで読めないと諦めていたから凄く嬉しい。
最後までついていきます
203名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 23:06:02 ID:lyeWG7+u
アビゲイルもタイロンもとても素敵だ。
書いてくれて本当にありがとう。
204名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 01:11:44 ID:/DmdZwvo
もはや夫婦漫才か痴話喧嘩w
蛇姫様あいかわらず可愛いそして一途ぅ
このカップルもキャラたちまくってて楽しいなあ
立ち位置が特殊なのがまた上手い

作者様GJ!
205名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 05:39:04 ID:iY9v5hpp
待っていましたアビゲイル!
206名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 09:15:52 ID:3F1AHrdc
アビィたんキタ━━(゜∀゜)━━!!
話の風呂敷がどんどん広くなっていっていて、毎回とても楽しみに読んでいましたぜ。
しかし、その風呂敷を畳む時期がきているのかと思うと寂しいぜ。
タイロンもアビィも幸せになって欲しい。
207名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 09:34:23 ID:xp/I9/u/
いや!まだまだアビゲイル様は続いていくはず!!

話よりもむしろ作者様のじらしプレイに(;´Д`)ハァハァしています
どこまでもついていきまする〜
208名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 23:28:17 ID:YMLkDKxh
やっとこさ、まきぞえ規制解除だ。
規制中の投下ラッシュにGJをおくれなくて残念。
職人諸兄、GJでした。
209名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 01:38:44 ID:G2gya/9Q
圧縮回避保守
210名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 11:12:53 ID:huJ+XSz+
>投下ラッシュ
ここって過疎スレなのに投下ラッシュがよく訪れるよね。なんでだ?
基本的にまったりペースで流れているスレだから、
いち読み手としては、先に投下があったら次の職人さんの投下は
もう少し日にちをあけてほしい(連載連続投下は別。むしろ歓迎w)
職人さんにも都合がありから、身勝手な要望とは重々承知しているんだけどさ
欲を言えば一つ一つをじっくり楽しみたいんだよ

毎日来れるわけじゃなくて、レス付けたくても既にほかの作品が投下されていて、
付けそびれたって事が何度かあるもの。
211名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 12:31:21 ID:PhrwkmyJ
同じように職人さんも毎日これるわけではないだろ
投下が続くと一つ一つゆっくり楽しめない、と言う意味がわからん

212名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 13:01:00 ID:huJ+XSz+
うん、だから職人さんにも都合があるのはわかっているって書いた。
わがままを言っているはわかっているよ
あくまでもこういうこと考えているヤツもいるってことで・・・・

投下が続くと一つ一つゆっくり楽しめない、と言う部分に噛み付かれると困るなあ。
だって、一番言いたかったのは
>レス付けたくても既にほかの作品が投下されていて、
>付けそびれたって事が何度かあるもの。
ということなんだもの
でも、この意見があなたの気分を悪くしたのだったらあやまるよ
ごめんね
213名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 13:34:02 ID:PhrwkmyJ
職人さんにも都合があるとわかっていて、
尚且つわがままだとわかっているなら、余計どうかと思うよその意見は
お前さんだって悪気はないだろうよ、だけどな
極端に言えば、
自分がレスつけるまで、投下は待ってくれといっているようなもんなんだよ
「遅くなったけど」と後から注釈をつけてレスすることだって出来るだろ
214名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 16:43:41 ID:JT9+u3/I
レス付けそびれたのを他の作品のせいにされてもなぁ
「ちょっと明日からここチェックできないから投下はしないで!」とでも予告しとけば?
215名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 17:06:34 ID:l9+zqCV/
>>213の言うとおり遅レスでもいいじゃないか
誰もそんなの気にしないよ
そんなことより一人の我儘で職人さんが
自重するようなことになったらどうするんだ!
216名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 18:05:31 ID:G/INiCQ3
早い話が、間に別の話が入っても遠慮なくレス付ければいいんだよ。
遅くなっても気にすることないよ。

だが、その前にここ過疎スレだったの?
ファンタジー系では一番盛況なスレだと思ってたけど。
217名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 18:57:13 ID:4ftgK9O/
このスレになってからのSS投下頻度を見てみたが、
一番間隔が短いときでも40時間以上間が開いてる。
書き手スレでは「直前に投下されたSSからはいちおう24時間ぐらい待ってから投下しよう」
というのが概ね身内のマナーとして扱われてるが、それにも反してない。
ま、感想はいつ付けても構わんと思うよ。
218名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 19:29:54 ID:phPgSnUD
他のスレと比べて、レベルが高い職人さんが多いと思うよ、ここ。
それもあって、なかなか投下できない人もいるんじゃないかな?
下手だと思ってても、内容が似てるかもと思っても、どんどん投下
して盛り上げて欲しいなと思う今日この頃。

219名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 22:10:30 ID:C511caTx
自分はレス番指定してダブルでレスしたことがあるよ。

両方に感想つけるなら、どちらの職人さんにも失礼にならないと思うし。

あと、過疎ってる時を見計らって
「読み返したけど○○が良かったです。続きを楽しみにしてます」
みたいなレスつけてもいいんじゃないかな。
投下直後はとりあえずGJって感もあるから
しばらくたってから感想言われるのも嬉しいんじゃないかと思う。
220名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 13:08:07 ID:mSsdNWBG
新作wktk
221名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 13:53:48 ID:34uARAzC
個人的に水の神殿の続きを待ってる
あれから二人はどうなったのだろうか
222投下準備:2007/11/29(木) 21:24:22 ID:cIJI9FXD
えーっと、前回の投下から一週間も経っておりませんが、
新作が出来たので投下します。

他の職人様たちと同じとは限りませんが、
嵌ると全然作れなくなる反面、波に乗れると一気に書けてしまう性質です。
そして完成したら早めに投下して次作に取り掛かりたい性分なので、
案外マイペースなのかもしれません。
作品感想の後に保守が来たら、自分も投下してもいいかなと一応思っているのですが。

それでは蛇姫五作目をどうぞ。
223Princess of Dark Snake 5:2007/11/29(木) 21:26:57 ID:cIJI9FXD

「兄上、先日の一件が謹慎で済んだ事、まずは祝着……」

はなから弟に皮肉を浴びせられたバハラームは、心中の憤怒を何とか抑えた。
実際は祝着どころではない。
自分は何者かに陥れられて、後宮の女と密通したという濡れ衣を着せられたのだ。
下手をすれば廃嫡追放もありえたのだから、これは軽い処分とも言える。
だが、それも他聞をはばかる事件を隠蔽しようという意向の為であり、
無実が認められた訳では無い。

「あれは誰かに嵌められたのだ! 誰かにな」

ギロリと、その大きな目で睨みつけたバハラームであった。
その瞳は『お前の様な輩がやりそうな事だ』と言っているが、弟も一筋縄でいく人物ではない。
優越感を隠そうともせず、笑いながら切り返す。

「ひょっとしてこの私もお疑いで? まさかまさか!
 敬愛する兄上をお嵌めするなど、天地がひっくり返ってもありえませんよ」
「ふんっ!」

バハラームは心中、『天地という代物は案外簡単に覆りそうだな』と思いつつ鼻息を鳴らした。

「で、こうして離宮に逼塞してる我に何の用だ?」
「ちと、兄上にご相談がありましてな……」

謹慎中の人物と密会するのだから、それなりの事情があるはずだった。
部屋は人払いをしてあるが、アタセルクスの声音が低くなる。

「ファルハードの事ですよ、兄上」
「……」
「どうも、奴を支援している貴族連中の間で、
 王太子に推挙しようとする動きが活発になってきた様子……」
224Princess of Dark Snake 5:2007/11/29(木) 21:27:49 ID:cIJI9FXD

「ほーお」
「驚かれませんのか?」
「我も諜者ぐらい飼っておるわ。今更何を言い出すのかと思えば、そんな事か?」

今度はバハラームが勝ち誇った笑いをあげた。
しかし、その笑いはどこか乾いている。

「我とお前、二人とも父上の目の前でしくじりを犯したからな。
 よっぽどの間抜けでもない限り、誰でも今が好機と思うわ」

落ち着き払って言い捨てる兄に、アタセルクスは詰め寄る。

「ならばこのまま、むざむざと奴に王位を明け渡すつもりで?」
「たわけ、それとこれは話が別だろうが」
「では……」
「こうして謹慎中の身ではそう目だって動きも取れん。
 怒りが解けるまでは……のう?」
「そこはそれ、私が兄上に成り代わって事を運びます」
「ほほう」
「母の一門を始め、私の味方たちも動かします。
 そこに兄上と付き合いのある貴族が加われば、かなりの勢力になりましょうぞ」

さりげなくだが、弟は兄の策略を躱した。
案だけ出して実行は弟にやらせ、失敗した時の責めは彼一人に負わせる腹であった。
だが、弟もさる者。
連合するという名目で兄の後援者も巻き込み、
イザという時に傷を負うのは自分だけでは無いと言う事を明確にする。

「よし、やるか」
「二人力を合わせれば、なんのファルハード如き」

ようやく探り合いが終わり、二人は目を見合わせてニヤリとした。
年齢の近い三人の国王候補、その内一人だけが先んじたとなれば、
残りの二人が手を取り合うことも不自然ではあるまい。
ただし、先行する一人を引きずり落とすまでの臨時共闘だが。

「あいつにも女がらみの醜聞をでっちあげるというのは?」
「いや、金がらみの不始末は?」
「本人を罪に落とすのが難しければ、部下や後援者に失態を演じさせればいい。
 上手くそれに連座するように仕向ける手は?」
「王位を狙って、異国の王と提携しようとしていたという虚言を流せば?」

血を分けた弟を陥れるために、兄達の口からありとあらゆる策謀が講じられてゆく。
もし蛇王が聞けば、法と正義の擁護者を自称したカイクバードが末裔達の堕落を
さぞ嘲ったことであろう。
いつ終わるともしれぬ謀議の末に、どちらかからか一つの案が出された。

「奴をマーザンダラーンへ遠征させてはどうかな?
 しくじって失点を稼げば良し。悪疫にやられてくたばれば尚良しだ」


・・・・・・・・・

225Princess of Dark Snake 5:2007/11/29(木) 21:28:29 ID:cIJI9FXD

「本当に、マーザンダラーンへご出征なさいますの?」
「ああ、昨年の内戦を落ち延びた残党達が逃げ込み、再起を目論んでいるそうなのでな」

白磁の如き指に顎を撫でられながら、ファルハードは答えた。
隣に寝そべる美女へ、その腕を枕代わりに貸しつつ、交合の熱を夜風で冷やしている時だった。
近いうちに、彼は軍を率いて反逆者の鎮定に向かわなければならぬ身だった。
まだ内々の事であり公表もされていないのだが、相方はそれを知っていた。
けれども、今更それを問いただすには、彼はこの妖姫の性質を理解しすぎている。

「マーザンダラーンがどんな土地か、ご存知ない訳でもありますまい?」
「我も一応パルティア人なのでな。とりあえず一通りの知識は有るつもりだ」
「ならばお止しなさいませ。あそこは野獣と妖魔が巣食う、常人の住まぬ荒地。
 あんな所を鎮定しても銀貨一枚の得もありませぬ」
「それでも、王命とあれば行かねばなるまいよ」

ファルハードは嘆息しつつ言った。
マーザンダラーンとは、王都シャーシュタールよりはるか東北の方角、国境線付近にある地方の名である。
対外的には、一応パルティア領とされてはいる。
しかし、他の地方と異なり王都よりの行政官が派遣されていないばかりか、
正確な人口調査さえ行われた例が無い。
いわば、文明国パルティアの中にある異界である。
パルティアの国土の半分以上は荒れ果てた原野であるが、それでも彼の地に比べれば天国だ。

そこがどれほど恐ろしい場所かを理解するのに、判りやすい例がある。
国内で何か罪を犯した者がいたと仮定し、被疑者が逃亡したとする。
その場合、犯人がマーザンダラーンに逃げ込んだ事が明らかであれば、
ほぼ間違いなく容疑者死亡として事件は決着する。
わざわざ捜索の手を出す事はない。
骸骨には名前が書いていないからだ。

ただ、入り込んだ者が全員出てこられない訳ではない為、誰も内情を知らないわけではない。
それはそうだろう。
全員死ぬのなら、どうして恐ろしい場所だと皆が知るだろうか?
偶然に恵まれ生命は助かった幸運な者たちの中には、
人間の言葉を忘れる程の恐怖を味わう前に出てこられた強運の持主も居る。
そんな彼らが語る体験談は幼子を夜眠らせず、
『マーザンダラーンへ捨ててくるよ』と言われれば、相当の聞かん坊でも震える。
それがマーザンダラーンだった。

「敗軍の中で上がっていない首が幾つかあるが、それを放置しておく事も出来ん。
 後々に禍根となるやもしれんからな」
「仮に叔父上の残党が入り込んだとしても、マーザンダラーンですわよ?
 碌に兵も募る事も出来ますまい…… そもそも、本当にそこに残党が居るという証拠がありますの?」
「幾人かの地方官がそれぞれ上奏してきた。加えて廷臣たちの多くが今回の追討に賛成している」
「信用できますの? その地方官と廷臣たちは」
「それは我が判断するべき事ではない。父上が信用できると思ったのなら従うだけだ」
「ふぅ、シャーシュタールの絹のベッドでお眠りの王侯たちには、
 あそこがどんな所が想像さえ出来ないのでしょうね」
226Princess of Dark Snake 5:2007/11/29(木) 21:29:17 ID:cIJI9FXD

呆れた様に、女は逞しい腕枕から頭を擡げる。
そして真剣な目で、魔境へ進軍しようとする第三王子の瞳を見つめた。

「恐らく御身も、彼の地についての伝説を話半分にしか信じておられますまい。
 しかしお生憎様。『マーザンダラーンより風が吹けば百人死ぬ』と怖れられる彼の地。
 その恐ろしさの半分でさえ、生き残りの口からは語られていませんのよ」
「詳しいな、やはり蛇の道は蛇か?」
「はぐらかさないで下さいませ!
 ファルハード様、ここは仮病でも使ってお断りになるのが上策でございますよ」
「嘘は苦手だ」
「それは王者にとって美徳ではなく欠点ですわ」
「おまけに『出来ぬ』、『やるな』と言われると挑戦してみたくなる性分でな」
「このわたくしが言ってもですか?
「お前に言われたのなら尚更だ」
「もうっ! 結局わたくしの忠告などお聞きになる気は無いのですねっ!」

腹を立てたのか、唇を尖らせて女はそっぽを向く。
同時に、彼女の指はファルハードの太腿へ伸びた。

「痛っ、抓るな! シャフルナーズ」
「抓られる位なんですの、人の好意を無下になさって」

しなやかな肢体が、逞しく割れたファルハードの腹筋の上に再び圧し掛かってきた。
柔らかく、温かい女体の重みには苦しさは感じなかった。

「よろしいですわっ、ご自分の心の儘になさいませ。でもわたくしも思う通りにしますから」
「はっ、お前が思い通りにしなかったことが有るのか?」
「ぷんっ、知りませんっ!」

シャフルナーズの赤い唇が、ファルハードのそれを塞いだ。
相手の舌をねぶり、深い深い口付けを交わす。
しばしの内に、男の手がシャフルナーズの背に廻され、優しく彼女を抱き締めた。
彼らの夜は、まだまだ終わらない。
若さと情熱のままに、シャフルナーズは深く熱く相手の体を求めるのであった……


・・・・・・・・・
227Princess of Dark Snake 5:2007/11/29(木) 21:30:24 ID:cIJI9FXD

王宮の丸屋根の上に、一人と一匹が坐っている。
月は傾きかけ、あと一刻もすれば地平線から太陽が姿を現すだろう。
それは彼らの時間の終わりを告げる光。
そこから日没までの半日間、真っ当な人間達の時間が始まるのだ。

「ひい様や、ここは思案のしどころじゃぞ」
「……」
「お悩みなさるのは当然じゃ。
 大海の塩と男女の情は尽きぬ物、一夜の契りは万日の親交に勝るというからの。
 だが、世に星の数ほど男はおる。
 あ奴でなくとも、きっとひい様に相応しい公達も見つかるわえ」

老小鬼が自分に向けて繰り返す忠告を聞いているのかいないのか、シャフルナーズは静かに月を眺めていた。
闇夜に浮かぶ月の輝きは、まるで美女の横顔のようだ。

「よもや、まさか奴のマーザンダラーン入りを助けてやろうという心算ではありますまいの?
 あそこをカヤーニ家の輩に蹂躙させることは、全魔族が許さぬ。
 それこそ草木の一片に潜む小妖でさえ、爪牙を研いで迎え撃つじゃろう」
「……」
「ましてマーザンダラーンを攻めるとなれば、奴に肩入れするのはお父上へ弓を引くに同じじゃ。
 御身のご身分をもう一度考えて見るがよろしい。
 あ奴に身体をお許しになったとて、所詮は我らと奴らは相容れぬ。
 手遅れになる前に見限って、お父上に詫びを入れなされ」

老鬼にしてみれば、これを機に仇敵に何かと肩入れする主に心を入れ替えて貰いたかったに違いない。
蛇王ザッハーグ家とカイクバードの王家は不倶戴天の敵。
このままずるずると関係を続けても姫君に良い事があるはずも無い。
それゆえ彼は、言葉を尽くして生木を裂こうと試みるのだ。

「おーっほっほっほっほっほーーーっ……」
「!?」

だが、そんな守役の赤心をあざ笑うかの如く、妖姫は月夜に響く声で哄笑を上げた。

「爺や。お前は私よりもずっとずっと年嵩の癖に、智恵が全然回らないのねえ…… ほほほっ」
「むぅ?」
「要するに、ファルハード様がマーザンダラーンに攻め込まないようにすれば良いのでしょう?
 そんなのニ三手でひっくり返せる事じゃないの…… 耳をお貸し」

老小鬼の耳元でシャフルナーズが囁くと、途端に守役の顔が渋くなる。
皺だらけの顔を、諦めと呆れで一層歪めながら彼は主に言った。

「ひい様や…… コプトの諺に『小火を消すのにニール河の堤を切る』とゆうのがあるのをご存知かえ?」
「おほほ、ファルハード様のためになら、例え何万人巻き添え食って溺れようが構うものではないわ。
 早速準備に取り掛かるとしましょうか」

屋根を蹴り、暗闇を駆けて行く姫君の背を追うように、老小鬼も背の蝙蝠の翼を羽ばたかせて飛ぶ。
久方ぶりにシャーシュタールの王宮に闇の眷属が存在しなくなったのだが、
それに気が付いた者は誰も居なかった。


・・・・・・・・・
228Princess of Dark Snake 5:2007/11/29(木) 21:31:18 ID:cIJI9FXD

パルティアの西方に、ルームの地はある。
そこに栄えるルーム帝国は、パルティア王国を相手に世界の覇を争う大国であり、
互いに異なる文明を育み、文化の進歩を競い合う好敵手でもある。
ルームの首都、ビュザンティオーンの宮殿はシャーシュタールのそれに勝るとも劣らず、
『両方を目にせずに人間世界の美を語るのはおこがましい』とさえ先人は語ったものだ。

その偉大なる皇宮に設けられた花園を、ルーム皇帝の娘コリーナが侍女たちを連れて散歩している。
貴顕の血筋に生まれた女子としては、そろそろ配偶者を探してもよさそうな年頃なのだが、
皇帝が娘を愛するあまり、彼女を手放すのを嫌がっているのだ。

「本当に今日はいい天気ね」
「左様でございますね、皇女様」

雲一つ無い良い日和である。
見上げた空には、太陽と天空を飛ぶ鳥の姿しかない。
太陽に照らされた草花の芳しい香りが、コリーナにとって心地よかった。

「ねえ? あれは何の鳥でしょうか」

始めに気が付いたのは、侍女の一人だった。
皇宮の上空を廻るように飛ぶ黒いシルエットを、訝しげに指差す。

「鷹……かしら? 小屋から逃げた狩猟鷹かも」
「それにしては形が変じゃない?」
「紐でも引っ掛かっているのかしら? あの尻尾のように見えるのは」

太陽光の所為で、それを見つめ続けることが出来ないでいた侍女たちは、
誰もその正体を言い当てることは出来ないでいた。

「え?」

その姿が、急に大きくなってきた事に気が付いた時には手遅れであった。
小さく見えたのは、そ鳥よりも遥かに高みを飛んでいたからであり、
それは今、まるで獲物を見つけた鷹が急降下をするかの如く地上に舞い降りようとしていたのだ。

「きゃぁああああーーーーーっ!!」

少女達の絶叫が、花園に響いた。
先ほどまで地面に映っていた小粒の様な影が、彼女たちを覆うほどの広さとなって太陽光を遮る。
それは地上に降り立つと同時に、鱗に覆われ鋭い爪の生えた足で皇女の身体を捕らえ、
翼をはためかせて再び天空へと去っていった。

「だっ、誰かーー! 皇女様がっ!!」
「いやぁーーん!!」

怪物から何とか逃れようと身をよじったコリーナであったが、瞬く間に地上は遠く離れ、
慌てふためく侍女たちの姿が遠くなっていく。
生まれて初めて空から地上を眺める彼女には、まるで現実とは思えない光景であった。

「誰か、助けてぇ! お父様ぁぁーーー……」

ルームの皇女コリーナ、ドラゴンに攫われる。
その報を聞いた皇帝は直ちに軍を発し、なんとしてでも娘を救い出すよう厳命を下した。
行き先はドラゴンが飛び去っていった東の方角、パルティア方面である。


・・・・・・・・・

229Princess of Dark Snake 5:2007/11/29(木) 21:33:14 ID:cIJI9FXD

パルティアの北方、そこに広がるのは何処までも続く草原である。
耕作には向かないが、青々と茂る草を家畜に食ませる騎馬民族が興亡を繰り返し、
剽悍な遊牧部族を育んできた土地である。

「エフタウルの諸酋長たちよ、我が皆を集わせたる理由はすでに判っていると思う。
 先月に最初の犠牲者が出て以来、これまで三つの集落が襲われ、民は殺され家畜は奪われた。
 遺骸に残されていたのはパルティア人の鏃、パルティアの箙だ」
「オオゥーー……」
「我らも、天に召された同胞の死を悼む気持ちは皆に等しい。
 だが、悲しむと同時に我らにはすべき事がある。それは何か?」
「報復! 報復! 報復!!」
「その通りだ! 我らを侮り、同胞の血を流させた敵には報復こそ相応しい。
 今こそ我らはパルティアに報復し、奴らに思い知らせてやらねばなるまい。
 我らの血が、如何ほど高くつくかを!」
「その通り! その通り! その通り!!」

エフタウル人の長達を束ねる集会で、まさにパルティアへの報復が決議された。
もしパルティアの賢人のように智恵を思慮を兼ね備えた者が居たのならば、
犠牲者が出た包の側に残された蹄の後が不自然に少なく、
そして襲撃者の姿を見た生き残りが一人も居なかった事へ、何らかの疑問を呈したかもしれない。
しかし、智よりも武を重んじる遊牧民たちにとっては、そのような些事は問題ではない。
パルティア人の得物が残っていたという事だけで、証拠は十分なのだった。

「エフタウルの全ての戦士たちよ、我が旗に集え!
 我らの怒りを敵に知らしめるために! 我らが敵の嘆きで天地を震わせてやる!」
「カーン万歳! カーン万歳! 万々歳!!」

エフタウルの戦士たちの唱和が草原に響く。
彼らが誇る騎馬軍団を率いてパルティアへ侵攻を始めたのは、
この集会より数日後のことであった。


・・・・・・・・・

230Princess of Dark Snake 5:2007/11/29(木) 21:34:45 ID:cIJI9FXD

「皆の者! 朕はパルティアへの親征を決めたぞよ!!」
「だっ、大王?! どうか落ち着き下さいませ。
 パルティア国境は平穏、兵を発するの口実は見出せぬ今、何ゆえ兵を西に向けられますのか?」

朝議が始まっていきなりの勅語に、シンドの大臣たちは度肝を抜かれた。
隣国パルティアへの対抗心に燃える国王の意図は重々承知だが、あまりに唐突な宣言であった。

「昨晩、恐れ多くも朕が枕元に戦女神が立たれたのだ!」
「え?」
「煌く軍装に身を包んだ美しき戦女神が朕に仰せになった事には、
 『パルティアをシンドの領域に加えるは、そなたへ課される天命也。
 諸部族より攻め入られし彼の国が天命は尽きしぞ。遅滞無く兵を催し、彼の地へ入るべし』
 女神はそう仰せであった!」
「陛下、それは余りに……」

都合の良すぎる夢ではないかとの言葉を、大臣たちは飲み込んだ。
忠言の代わりに首を刎ねられては堪らない。
何とかして思いとどまらせる言い方はないかと思案するうちに、重臣の一人が口火を切った。

「大王、諸部族がパルティアへ攻め入るとの事であれば、
 我らはそれを確かめてから侵攻すればよろしいのでは?」
「左様、何も好き好んで我らが余所の軍を助けてやる事はございますまい」

群臣達はなんとかして国王の思い付きとしか思えないこの遠征を遅らせようとするが、
シンド王は地団駄を踏んで諫言を拒絶した。

「朕よりも速く、余所の軍がシャーシュタールを落としたらどうするのだ!!」

こうしてシンドの臣の思いも空しく、国王一人の夢に始まったパルティア遠征が始まるのであった。


・・・・・・・・・

231Princess of Dark Snake 5:2007/11/29(木) 21:40:00 ID:cIJI9FXD
「火急ゆえ、馬上にて御免被る!」

マーザンダラーンへあと数日という場所で、ファルハードは軍使を迎えた。
王子にして軍司令官への礼も省き、王都よりの使者は軍令を彼に差し出した。
それを開き、父の筆跡と勅印を認めた瞬間、余りの大事に彼でさえ震えた。

「ルーム! エフタウル! シンド! 三国がそろって侵攻を開始したというのか?」
「はっ! ルーム国境の烽火塞は、二条の青煙を焚き伝えております!」
「二個軍団か!」
「またエフタウルの来寇により、すでに国境近辺の村落が数箇所攻め落とされました!
 さらに私が王都を出立した時には、シンド王自ら率いる軍勢は国境の大河に集結を完了していたとの由、
 今ごろは東方領域へ侵入しているやも知れませぬ!」

軍使のもたらした報告により、歴戦の幕僚達の顔も青くなる。
まさに今、パルティアは未曾有の国難を迎えているのだった。

「でっ、殿下! かように時を合わせて来寇したということは、
 三国示し合わせての事としか思えませぬぞ?」
「まさしくその通り! つまらぬ内戦の残党狩りなどしている暇はない!」

実際、その三国が連携を取っていたという事実は無い。
その裏に在るのはたった一人の思惑であったのだが、そんなことを理解する方法は彼らに無かった。

「父王よりの指令は『遠征中止、北方辺境へ向かえ』だ。
 全軍、方向を北へ向けよ! 敵はエフタウルのハーカーンぞ!!」
「おおっー!!」

号令に従い、侵攻軍はその向きを変えて北方へと進んでゆく。
もとよりマーザンダラーンなどという異境へ入るのは将兵とても本意ではない。
全軍はむしろ嬉々として方向転換を受け入れる。
その様子を、一人と一匹は岩山の頂から眺めていた。

「ほらご覧、ファルハード様は進軍を取りやめて下さったでしょう?」
「けっ、わざわざ三国も動かして止めさせる程の事だったかのう」

シャフルナーズの目論見どおりに、パルティアはマーザンダラーン遠征を中止した。
しかし、それは遠征を思い留まらせるというより、
もっと甚大な危険を誘発させて緊急停止させるといった方法だったのだが。

「おほほ、ファルハード様は苦労多くして実りの無い遠征から逃れられ、
 妖魔たちは戦の犠牲に捧げられる民や兵士の魂と骸が手に入る…… どちらも損はないでしょう?」
「確かにの…… だがひい様、戦という物は全てが思い通りに行くものではないぞ。
 この戦で御身の思い人がくたばったらどうする心算じゃ?」
「ほほほっ! ファルハード様がこの程度の戦で死ぬような方であるものですか!
 でも、もしこの程度の戦で死ぬようなら、私が愛するに及ばぬ弱い方であったと諦めましょう」
「……やれやれじゃ」
「うふふふふ、おーっほっほっほほほほほほーーーーー……」

「ん!?」
「どうなされた? 殿下」
「いや、空耳だろう……」

荒野にそよぐ風の中に、聞きなれた笑い声が混じっていたかと思ったファルハードであったが、
今の彼にはそれを確かめる余裕は無い。
建国以来未曾有の大難を乗り切るべく、彼はまず北方へと向かわねばならなかった。
ただしまだ誰も知らぬ事ながら、今年はザッハーグ以来のパルティアに降りかかる災悪のなかで
最も酷い年という訳ではなかったのである。


(終わり)
232名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 22:08:16 ID:34uARAzC
蛇姫さま乙!
壮大な振り回され感が楽しくて仕方ないです
233名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 22:14:46 ID:J5SLWNrH
GJ!
234名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 23:49:22 ID:NBlX7Hcs
歴史や文献をすごく研究されてるのが伝わってきて、感動しきりです。
235名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 00:14:49 ID:EJMTWrna
うん、蛇姫の作者様の博識でなければ書けない文章には頭が下がる。
そちら方面の専門家かな、なんて思ったりして。

と言うわけで、GJ!
236名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 18:37:31 ID:eOcaZ/KO
恋する蛇姫様は怖すぎるww
王子も何だかデレてきてる気がしないでもないぜっ
237名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 20:33:02 ID:tjoWTRyI
好みは色々 
238名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 00:37:38 ID:356VrEEZ
やっぱり投下はいいものだね、GJ。
このスレに来て、新作が読めると、見てよかったと思う。
職場で一瞬開いてさ、新作があるとそれだけで早く家かえろうかな、
とか思ったりしてな。

だからさ、どんどん投下は嬉しいよ。
アビゲイル待ってるよ、ルーゼン&シーアも、ルナも、魔王も待ってる。
職人さん、いつもありがとう。
個人的には、ヘタレの魔王とルナの続きを心から待ってる。
239名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 05:28:57 ID:XkFhDvxi
アビゲイル待ち
ルナ待ち
アリューシア待ち
魔王待ち

職人の皆様、
いつも素敵な作品投下ありがとうございます
240名無しさん@ピンキー:2007/12/04(火) 17:26:24 ID:9L4Y5Nkq
アリューシアとグルドフの仲はいつ姫にバレるのだろうかね?
バレるのかバラすのか、それともバラされるのか
勝手に想像しているが、やはり素人には分からない
というか、バレたら終わりそうだ
241名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 12:02:40 ID:9CSyKpoV
後日談みたいな感じで、姫にこっぴどく叱られたってなかったっけ?
242名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 18:28:24 ID:G7CWQ0j/
姫からお叱りとお祝いの言葉を頂いたっうくだりあったけど、
姫にどうバレるかは詳しくはなかったから気になる
243名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 23:09:09 ID:M69CsWxq
マルゴット姫は怒ったら怖そうだよなw
244名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 23:21:33 ID:Xbm+jFuL
怒ったら怖いと思われるマルゴット姫をびびらせる
兄ちゃんの第一王子、やはりイケメンだろうか?
名前が知りたい・・・・。
245名無しさん@ピンキー:2007/12/07(金) 15:34:57 ID:LGKMAxYP
副長の日々待ち
246名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 16:01:46 ID:B6FTVLLO
保守
247名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 22:21:40 ID:uhHL+4bU
投下待ち
248名無しさん@ピンキー:2007/12/15(土) 01:40:00 ID:S0tcu170
年が明ける前にまた作品が読みたいのう
249名無しさん@ピンキー:2007/12/15(土) 21:27:51 ID:rd4Wov8N
職人さんたちも年末進行で忙しいのだろう

保守
250名無しさん@ピンキー:2007/12/20(木) 01:38:09 ID:kWl0Ncx+
ほっすほす
251名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 01:24:40 ID:w0DEiXNH
久しぶりに投下します。
お嫌いな方は、もちろんスルーをお願いします。



保管庫の管理人様、いつもありがとうございます。感謝しております。
復帰作業、本当にご苦労様でした。
252ルナ:2007/12/21(金) 01:27:22 ID:w0DEiXNH

ルナの帰還したときにはもうすっかり深夜になっていて、主人の異変に気がついたのかやたらと唇を鳴らす馬を優しく何度も撫で、厩を後にしたルナは、虫の密やかに鳴く中をどこか弱々しげに、
それでも門にいる兵を睨むように入って無駄に構えたまま歩いていた。
自分に与えられた部屋の前で無意識に息をついたとき、鍵を開けようとして右手の中で弄った鍵を取り落とした、かしゃん、と音を立て落ちたのを拾おうとして、止まる。
視界に影が落ちた、と思うのよりも先に、鍵を拾い上げるものがあった。

「どうした?」

不審げな声を聞いてから、ルナは瞬きをして彼を見、姿を捉え、頭の中の残像と結んだ。
気だるげに言う「ああ、・・・・サクラ」
疲れた体を壁に寄りかからせて、「じゃなかった、リタ中佐」

「何か?」というのに、サクラは、ルナの顔をまじまじと見た。鍵を勝手に差し込んで開けて見せながらも
「お前、どうした?」と訝しげに問う。
ルナは目元をあげ微笑んでいる顔をした「別に、なんでもない」
「顔が、赤いぞ。感昌か?」鍵を返しながら言うのに、
「・・・・・」
背で壁を滑って部屋の中に戻ったルナは、「ありがとう、では」と微笑んだまま目もあわせず扉を閉めた。

サクラ、私を好きだという男。

253ルナ:2007/12/21(金) 01:31:24 ID:w0DEiXNH

日がたっても、あの妓楼での始末を付けても、ルナの中から混迷は消えない。
・・・計画、か。
最初からカイヤは、私を陥れるつもりだったことになる。
ルナはじっと照り返す鈍い光を見つめながら、それを指の中でひっくり返した。
なぜ。
これを私に使う必要がある?
当初の計画ではどこまでの予定だったか、という疑問は身を震わせた。
クウリとカイヤ。
ルナは思い出していた、酒や、酌み交わした茶に、仕込まれていた微かな木苺の味。
昔呑んだことのある味だ。
微かな違和感はこれが原因だった、と今になって納得が行く。
ただ、カイヤ。
なぜ。


では、だせ、と立場に任せルナが凄んだとき、「あなたのような人には必要ないのにね」
カイヤは悔恨でもなく怯えるわけでもなく、見るに攻撃的だった。
「使い方も知らないくせに」ここで、鮮やかな笑みを浮かべて、「覚悟しておくのね」
余裕の笑みを浮かべつつ、何気ないような仕草で、それを出した。
この、薬。
中身はあのときのものと同じだと言う。
思ったより簡単に出された薬を見、ルナはいぶかるが、カイヤの次の言葉で納得する。
「使い方一つ。でも教えない」
ルナは、目元をゆがませた。
「道理で素直に渡すはずだ」


クウリとカイヤ。
二人は繋がっている。

それから、「使い方一つ。」
飲ませる以外にない。
それ以外に、何がある?が、あの余裕、負け惜しみにすがった口任せとも思えない。
はるか過去、なぜ置いていった?それも目に見えるように。
ぐるぐると思いは去来する、
クウリとカイヤ。
教えない、と言ったカイヤ。
余裕の笑みは、頭の中の目に近い部分をかじられるような疑問に繋がる。
大佐、と声にした自分を覚えている。
似ても似つかぬ男に対して、そしてクウリの背中。
思い浮かべて「なぜ」なぜ、同じように欲情するのか。
本当に、ツィツァのときに飲んだ、あれ、と同じものだろうか?
ルナはあごを上げて背後の壁に頭から凭れかけた。
254ルナ:2007/12/21(金) 01:33:18 ID:w0DEiXNH

解らない・・・ルナは顔を立てた膝にうずめて縮こまる。
どちらかというと、ツィツァの眼差しより、指の熱さを覚えているのではないか。
生きていてください、と私は言った。
本気だと思えば思うほど不安は大きくなっていく。
強く想っていた人と間違え、すがったことに自分自身傷ついているのだった。
思えば思うほど不安に飲み込まれる。
何故、楼主やクウリに?
薬のせいだ、と決め付ければ過去の自分を否定し、薬のせいではない、と思えば今の自分を否定することにもなる、どうしようもなく翻弄されている自分が腹立たしい。

試すしかない、
試して、結果を見たい。
言葉ではなく、感情をも動かす他の何かがあるのかもしれない。
指の間の瓶、それを何度か握りなおして、ゆっくりと目の前まで持ち上げた。


「遠征だ」
そうルナは言って、並ぶ兵士を見回してから続ける。
「メリカの近郊に、ただならぬ動きがある。その調査と、最終的には駆逐が目的だ。
駆逐の後はメリカに入城する」
声を張り上げながら、居並ぶ中に無視できない強い視線を感じて、どうにか逸らしながら続ける。
「隊は、サクラ=リタ中佐率いる一隊、その前衛、後衛を私たちが勤めるが、前衛の隊長にリンツ分隊長、
後方から私が指揮する」
賊なら、大体は後方からの奇襲攻撃であるのだから、このとき、選んだ後衛はルナが指揮するのがもっともだった。
ルナは続けて細かな指示を出しながら、リンツに目を合わせた。
255ルナ:2007/12/21(金) 01:34:43 ID:w0DEiXNH

前衛にリンツを選んだのは、彼がクウリの直属であったからだ。

麗しい師弟愛の中、とクウリが表現したとおり、私の下に居れば、二人まとめて狙われる。
私でさえ彼の出自を知らないのだから、リンツはもってのほか、知る由もないはず。
だとしたら・・・これは、賭けだった。
単純すぎることにいささか不安ではあるものの、今は状況を見るしかない。
離れていれば、クウリの言った「一生懸命な名高い」私に庇われることもない、そこで命を落とし、
果たして王妃は納得するのか?
しないだろう、もし是であれば、ルナに知らせないほど狡猾に計画するまでもないからだ。
だから、ルナは、ここでもしクウリを私の元へ、逆に私をクウリの元へ、と画策するものがいれば、
そいつが監視役だ、とめぼしを付ける作戦にでた。
こんなところで負けるか・・・カイヤのあの目つき、「一人勝ちね」
意を決して、ルナは大きく見開いた目で、クウリを射すくめた。
勝ってやる、お望みどおりにね。
一人で、勝ってみせる。
クウリは強い視線を逸らさずにルナを見返したが、祝福に押されたリンツを囲むのにさえぎられ、
人ごみの中に隠れていった。
前に出されたリンツが、思いもよらぬ大役にしり込みしたように、青ざめた顔をしていた。
「私が、前衛の指揮を・・・・?」
ルナは片眉を上げた「何か不満ですか?」
勝ってやるのだ、私一人で。
2列目にいた、クウリの強い視線、怒ったような、すがる様なそれを意識しながら、言った。
「あなたであれば、期待を裏切ることはないと信じています」

256ルナ:2007/12/21(金) 01:37:12 ID:w0DEiXNH

第一王子軍、それは権威ある国内軍に比べ、煌びやかであったが現実味のない、
当人たちの意識は他として、いわばお飾りのようなものである、とは世間の評価であった。
出生こそ難あるものの、王子はれっきとした軍人である、と箔をつけただけに過ぎない。
最高司令官は今をきらめく宰相の末の息子であり、彼は実践を伴うこともない。
王子軍の出陣の際には、無謀な、いや暗殺行為だと騒がれるのを恐れたのか、名のある将軍をその下に置くことによって体裁を整えようと各方面に打診を重ねたらしい。
彼はルナに出会う前、何度も戦勝を上げていた、国王にして「この将軍ならば」と言わせしめた男であり、
この時期は次国王となるべき第二王子の軍を任されていた。

この将軍ならばと続く先には国王の側近という輝かしい未来であったものを、
ツィツァは自ら、犬死軍と嘲笑された第一王子軍にに志願した。
みすみす宝の持ち腐れ、自殺行為と本人を知るものは訝り、
本人を知らず噂を信じたものは、軽々しい風評のままに、彼を、犬死軍の頭に据えた権力を思った。
ツィツァは周囲の予想をはるかに裏切る大勝をあげ、征服したメリカにて、最高司令官として采配を振るっている。
その手腕は見事としか言いようがなく、ひいては第一王子の名声にもつながっていた。

第二王子軍としては、どこかに出陣する、と言うことはルナが入隊してこの方、噂ですらなかった。
ツィツァの後任で今指揮を取るのは、彼の同期生だった。以前にルナが抜擢を足蹴にした男、ジルで、
この男はルナを覚えているのやら、めったに姿を見せず、執務室からの命令のみで業務をこなすゆえに「部屋番」と言われている。
たまに肩書き抜きの命令が来るとき、ルナは自分を覚えているのかもしれない、と思った。


257ルナ:2007/12/21(金) 01:40:37 ID:w0DEiXNH


ノックの音は、静かな廊下に響いた。
ルナは自分の心臓が震えるのを感じ、
扉が開いたと同時に身を滑り込ませるなり「早く」と言った。
サクラはルナを入れると、様子と口調に驚いたように、言われるがまますぐに鍵を閉めながら、
「何があった?」
と他愛のないように聞く。
ルナは答えず、転がるように部屋に入ったまま、自分の上半身を抱きかかえるようにする。
サクラの閉める静かな鍵の音を聞くと、ルナは彼に背を向けたそのまま「遠征だ」と言った。

「お前と一緒に」
「・・・・光栄だ」

言いながら、裏腹にサクラは扉近くでの会話を警戒して、ルナを部屋の中へと誘導する。
ルナには、サクラは微笑んだように見えたが、打ちひしがれた様子のまま、時折小さくため息をつき、
促され座った長椅子にもたれるなり、「サクラ」と呼んで、「何か、飲みたい」と訴えた。
その目が弱々しげで、座り込んで身を縮めた様子は、まるで怯えた猫のようで、
サクラは、「いい酒がある」と言って明るく頷くと身を翻し、飲み物を取りに消えた。

ルナは、肩身を凭れた肘掛の上に顔を伏せた。
踊るような心臓を抱え、自分を鼓舞するが、不安とせめぎあうのにいたたまれないでいる。
やがて葡萄酒のカラフェとグラスを持ってきた彼に「悪いな」と言い、ルナは身を起こした。

「25年物だ。神の酒、いうだけあって痺れるくらい甘い」
座ると落ち着いた声で彼はいい、とろりとした琥珀の濃い液体をそれぞれに注ぐ。柔らかな仕草だった。
が、とがめるように簡素な支度を見ていたルナに、
「つまみは無花果でよろしいかな、マドモワゼル」
サクラは気まずさをつくろって悪戯気に笑い再度席を立とうとした、ルナは笑みをあわせる。

彼はルナにとって都合のいい誤解をした。
ふ、と微笑を浮かべると宮廷の女性を真似て、小首をかしげる「無花果か」
「実をつけるのは花と限らない。実をつけるものと比べても」と気取って、
「よろしくてよ」
サクラは驚いたように目を見張ってみせ「実をつけるもの、それは」大げさにに手を広げる
「マドモワゼル、あんたのことか?」
サクラは大笑いしながら、用意するために席を外れる。
ルナは微笑みを一瞬にして消し去り息を呑むと思い切った、
ポケットに忍ばせていた小瓶を取り出すと、もどかしくコルクを抜く。

神の酒、結構だ。
258ルナ:2007/12/21(金) 01:43:29 ID:w0DEiXNH

とろりとした液体をグラスに傾けると、比重が違うためかそれは何重かの筋になり層を描いていく。
すべて流し込むに、グラスの容量は足りなかった。
カタリ、とサクラのこちらに来る気配がする。
慌てた挙句に思い余って、自分のほうのグラスにルナは、残りを注いだ。
薬を飲まされる彼を、冷静な意識で見たくなかったのかもしれないし、
血迷っただけなのかもしれない、
ただ、自分のグラスに注いだのは、ほんの微量だった。が、ルナの罪悪感をほんの少し軽くした。
本当のところを知りたくない、と防御しただけだったのかもしれない。
真実を知ることこそ必要であるのに。

ルナは背筋を伸ばした、私としたことが、何を弱気になったものか。自分のものにいれるなど。
飲まないでおこう。
二つのグラスに溶けるようでいてあとを残す媚薬を、小瓶を隠しつつルナは眺める。

言葉なのだろうか。
呪文のようなものだろうか。

空の小瓶の入ったポケットを確認しつつグラスを睨んでいたが、
それは底のほうに折りたたまれるように沈殿したままだ。
ルナはただでさえ慌てていたのに、なかなか消えないそれを見て苦々しく舌打ちをした。
「なんだ?マドモワゼル、舌打ちなどなさって」
近づいてくる声に、ルナは慌てて微笑むと、
優雅に「中佐がいらっしゃらない沈黙を埋めて見せただけよ」
と答えた。
マドモワゼル。サクラはこの遊びが気に入ったようだ。
259ルナ:2007/12/21(金) 01:44:54 ID:w0DEiXNH
ゆったりとサクラは座った、
ルナのグラスを持ち上げる仕草に、彼はうなずいてグラスを取り上げた。
グラスは、すっかり元通りの色を取り戻している、ルナは口の端を曲げて、
「乾杯」
中佐に、と彼に比べ位の低いルナは礼儀どおりに言った、サクラは微笑んだだけで何も言わない。
透き通った音を立ててグラスを彼のそれに合わせる。
二人は、小さくグラスを掲げて口をつけた。
その後、どちらからも声はない。


この小瓶一つ飲んだら、その後の快楽は身に染み渡る、はずだ。
多分そこに何かがある。何か鍵がある。

「薬で、私は耐えようとした、ねえ、ルナ。
それでも失敗した私を、笑っちゃうかしらね?」

5分たった。
ルナはサクラの無意識な様子をじっと観察する。
サクラに、変化はない。

260ルナ:2007/12/21(金) 01:47:08 ID:w0DEiXNH

10分。

黙っているだけにいられなくてルナは指を伸ばす。
無花果にナイフをいれると、熟れた果肉が汁を滴らせた。
ルナは上品な仕草で器用に皮を剥いだと思うと、4つに割ったうちの一つを口元に持っていく。
舌で舐め、味を確認すると、小さな口をあけて指で果肉を押し込み吸い込むように味わっていく。
もし音にするなら、ちゅる、と頬を膨らませて、つぼめた唇を指で軽く押さえる。
淡いピンクの唇がつややかに濡れている、
サクラの視線に気がつくと、ゆっくりと咀嚼しながら、
果汁のついた唇を指でぬぐった。上目遣いに微笑む「なに」

「あ・・・いや・・・・」
サクラはグラスを片手にぎこちなく微笑んでみせ、半量ほどをのどに流す。
顔をしかめてグラスを眇めつ「こりゃ、外れだったか?へんなベリー系の苦味がある」
グラスを口元から離して、傾けて凝視してから、大げさな仕草で言う。
ルナは一瞬ばくんとした。
サクラの視線、いたたまれなく
「ベリー系の苦味?」と自分のグラスを持ち上げ、舌にのせると、潤った声で、
「そうかな?私には蜂蜜系に感じるが」と返した。
ベリー系の苦味と当てた、まさか・・・とルナは、グラス越しにサクラを見て、
「この年は確か、乱作が目立った年じゃなかったかな?」と淡く微笑む。
心臓が波打つのを意識した。

「隣で木苺など育てていたのかもしれないな、さすがは中佐」
「いや、確かに蜂蜜だ」
もう一度こくりと飲み干してサクラは神妙に頷くと、片眉を上げ、
「もし刺されるなら蜂よりも花の棘のほうがいい、と思っただけだ」
気づいている?
ルナはなるべく冷静に、と自身に言い聞かせたが、
意識するあまりに逆に饒舌になっていくのを止められない。

「ベリーの花は、小さくて可憐だとやら?
棘は・・・、ない、と聞いた」
動揺を抑え、ルナはぎこちなく足を組んで、目をそらし、
「可憐な花だから、棘は、ないよ。きっと」

261ルナ:2007/12/21(金) 01:50:17 ID:w0DEiXNH

サクラはじっとルナを見つめている。
ルナは無言に耐え切れない、その目の中を探るように見つめ返した「お前は、どう思う」
「棘のある、可憐な花がお好みか?」
艶やかに微笑んでみせる。急にサクラの目が揺らいだ。

いままでとは違う、何か獲りつかれたような目。惑いながら、芯に奥深い闇がある。
彼はルナのグラスを持った手を引き寄せ、強くその唇を求めた。
テーブル越しに舌を吸われて、ルナは応える。
無花果と甘い酒の香りのする舌を絡めとりながら、
「寝室にいかないか」とかすれた声でサクラが誘う。
30分がたっている。
ルナは小さな、成功の始まりを思った。
ここで何か鍵になる言葉を、彼に言えばいい。
彼の欲情は私の選ぶ唯一つの言葉に支配される。
そうであって欲しいような、欲しくないような。
ルナはためらって、のどを鳴らし、彼を見る。
言葉を選び、思い切ったものの、自信はない。小さく告げる。

「私を殺せばいい」

彼女は言った。
サクラがこれから愛する人からは、聴かない言葉。
うかつには決められない一言を彼女は練りに練った、
これならサクラは少なくとも、この先愛する女からは聞かないだろう、
薬の効果に自分を疑うこともないはずだ。

「物騒なことを」彼は言った、ルナは苦笑して左手で両のまぶたをこすった。
寝室に、と促したサクラに頷いて、

「その前に聴きたいことがある」
262ルナ:2007/12/21(金) 01:52:08 ID:w0DEiXNH
ルナは息をつき、二人の間のテーブルをどかして、腕を絡める。
言葉など無かったことのように、まるで続く逢瀬を楽しむように。
「答えてくれる?」
「じらす気かよ?」
もどかしそうにサクラが言うのに、事を起こしてしまったとルナは微笑む。
目的だったはずなのに、限りなく自分が卑怯な気がしてくる。
サクラの目が切なそうで、いたたまれない。
「私が、好きか」
サクラは苦しげにして「ああ」と言った。
「本心か」
薬の効果だろう。軽々しく答えてくれれば、もっと納得できるものを。
わざとらしい。
ルナは薬を仕込んだ自分を責める代わりに、そう思った。
サクラは、黙っていた。

ごまかそうとサクラのシャツの裾をつかんだルナを、抱きしめて、
サクラは眉間にしわを寄せる。

「お前が聞きたいことと、俺の話したいこと、多分同じだよ、ルナ
こんなことしなくても、話すつもりだった」

ルナは目を泳がせた。嫌に冷静、嫌に沈着な言葉。
瞬時に察した。

薬の効果ではない。
263ルナ:2007/12/21(金) 01:57:51 ID:w0DEiXNH

「愛している」
唐突にサクラは言うと、面白がるようにルナの目を覗き込んだ。
「お前は俺に、同じことが言えるか?」
ルナは急にサクラが大きくなったように思えて怯え体を離す、「サクラ・・・」
「言えないだろう」

戸惑っているところを引き寄せられ、ルナはかすかな抵抗をする。
「俺は、本気だ」
真剣な彼の顔にルナは、顔を見上げた「ベリーの味?」と聞いた。
「そうでなくても話す気だったといっただろ。馬鹿にしてるのか」
困惑したまま、目を閉じる。
「馬鹿にしているわけじゃない」
やはりばれていたか、と思う。緊張の糸は切れ、ルナはなぜだか安心する。
さっき、グラスのそこに描かれる模様を見ながら確かに予感がしていた。
つと体を離し、両手を彼の腕にあてたまま、

「ごめん・・・」
言ってルナはうな垂れたが、突然サクラは低く笑い出した。
「すぐに認めやがって、馬鹿」
惑って目を開けるルナをまた引き寄せて「馬鹿だな」

クックッと笑うたびに頬に当たる胸が動き、ルナはうろたえた。暖かいのである。
「はなして」
ルナは言い、もがいて「はなして」と繰り返した。
「わたしには、お前の恋人になる資格は・・・」顔を伏せてサクラの視線をよけようとするのに、
「資格がないから、この作戦か?」
サクラは言って、ルナの頬を両手で押さえる。「ちがうだろ」
「聞きたいんだろ?」
真剣なこげ茶色の瞳に呑まれ、ルナは瞳を震わせた。
そのまま、沈黙に諦めたかのように、すい、と湖のような透明な目になる。
「私は、お前を」声を詰まらせた。
「薬を使って?」
その先を軽々とサクラは言う。
ルナは言葉も無く、見る間に泣きそうな顔をする。
「いいよ、騙されてやる」
眉根を寄せて、ルナの指は彼の上着を握り、ためらってから自分の頬に当てられた指をつかむ。
「どうして」
「話すよ、ルナ」
どうして、そんなに優しいのだ、と問い詰めたくなる。私は、お前を利用しようとしたのだ、
薬の効果を試すと共に、聞き出したいことがあったのだ。
じわりと潤んでいく目で、「サクラ、怒ってくれ」と言う。
「私は、薬を使って・・・」とルナが贖罪しようとしたとき、下から救い上げるようにサクラの唇を感じた。
あたたかい、柔らかくつまむ様にゆっくりとルナのそれを捕らえ、何度も繰り返す。
熱い吐息のまま、
「不器用なマドモワゼル」
言いながら笑ってしまうサクラ、無防備な、自然な態度。
ルナは困惑ながら何も言えなかった、その唇と言葉を、余すところなく受け止める。
「俺が欲しいと思っていた媚薬、それを与えてくれた女神に、感謝を」
わざとらしく大げさに言ったサクラの手のひらは、ルナの肩に落ちた、
温かく、許されている気がした。
「一晩のご慈悲を」笑いながらも彼はいい、ルナを抱き上げる、彼女は目を伏せる。
264ルナ:2007/12/21(金) 02:02:04 ID:w0DEiXNH


「誰に聞いた、クウリのことを」
勢いに任せた行為の余韻を息遣いにのせ、彼は聞く。
ビロードのように暖かくルナを支えるその手、サクラは目を閉じている。
「言えない、か」
続けるのに、ルナは黙ったまま肯定するように、のどの奥に微笑を抑えた。
「言うわけないよな」
彼の口調はいたって真面目だ。
「気になる」
と媚びて聞いて、胸筋に指先を這わせ、おもむろに唇を付け、頬を近づけて、
ルナは、甘い声を意識しながら、
「サクラは誰から聞いた」
とやさしく聞く。
彼は肉厚の唇をきゅっと締めていたが、ルナの柔らかな舌に触れられると反射的に開いて応え、「お前を守ろうとしただけだ」と矛先は避けた。
「誰から?」
他愛無く聞いたはずが、思わぬ強さとなってルナは「自分の身くらいは、守れるよ」と弱く付け足した。
ちらりとルナを見やったサクラの緩やかな腕は、ルナの白い肌に滑り、なだめるように肩を抱きよせた。

「メリカの反派が動きを見せている」
反抗的なクウリ、まるで子供のようにふてくされた顔。
遠征はそのためか。
「メリカの?」
冗談、とルナは軽く言ってみせる。
ルナはクウリの、後ろ盾のなさそうな切羽詰った態度を思い、冗談であっても対応できるような、
口の端を曲げた微笑を真似てみた。
メリカ、反派、動きを見せている。
「そうだ」
サクラに指に一瞬、力が入ったのを肩で感じて、
「反派が・・・何を出来る」
慎重に、意識して微笑を含ませルナは言った「いまさら、覆せぬものを」
暗闇の中で、鋭くルナの目は光る。

265ルナ:2007/12/21(金) 02:04:01 ID:w0DEiXNH

黙ったサクラの口元を眺め、ルナは推測する。
見逃せない兆候があるのか。
覆せるのかもしれない、か。
発端は、クウリ、王子である彼。
この遠征で、それを潰せ、とも、存在ごと、ともか。
おそらく、極秘にサクラへ何か指令が出ているのだろう。
くる時がきた、とルナは思い、すがるように肩に置かれた手に目を細めて指を添え、頬ずりをする。
指示を出しているのは、誰だ。
今の情報源はこいつしかいない、これでは足りないかと思い、指を握ってみせる。
サクラの指は、節々も太く逞しかった、華奢な手を絡ませ利用する自分が、限りなく穢れて思えた。

「私を殺せばいい、のに」
ルナは言って、じっとサクラの目を見た。
最後に試すだけだ、と自分に言い聞かせながら。
舌を指に這わせると、サクラはすぐに応え始めた
身を起こし、ゆっくりと忍ばせた舌をルナの奥深くへ覗かせた後、ゆっくりと自身をうずめる。
今真上に顔を見せた彼は、にじむ汗に目をしばたかせて、
「お前は、それで、いいのか」
眉根を寄せながら悲しそうに目を覗き込んで、呟く「何でお前なんだろうな?」
「なんでお前なんだ」

ルナは聞き逃さず、「わたし?」喘ぎながらも聞く、
どこまで知っているのだ、この男は。
「な、ぜ?」
「なぜ、と聞くのか」
呟くなりサクラは無言になり、両手でルナの上半身を抱え込み、激しく口付ける。
唾液が口から糸を引いて、首筋にたれる。
荒い息切れと狭間の低い声が混じりあい、ルナのため息と共に暗闇に吸い込まれていく。

266ルナ:2007/12/21(金) 02:08:03 ID:w0DEiXNH

「俺にどうしろと」
耳元で息遣いがする、首筋を吸われるのと、奥にねじ込まれるのとが同時になり、ルナは高い声と共に
天井を仰いだ。
どくん、と腰が跳ね、中心から抜かれたかと思うと、代わりに指で、敏感な箇所をいじられながら
乳首を吸われ、熱い指先で耳たぶをいじられる。
流れるようにうつ伏せにされ、足の間に彼の指が置かれ、自分からそこへ押し付ける形になり、
獣のように動く下半身を意識して羞恥する、いつの間にか指は舌に変わっていて、つき抜ける快感に
陶酔しているまもなく、下から突き上げられる指に逃れようとし、体を伸ばした矢先、乳首に彼の舌を感じて、嘆くようにうな垂れる。
掴まれた腰、そこを彼そのものが貫く。不安定な体のまま、うつ伏せた下から舌と歯に弄られ悲鳴を上げそ
うになり唇を指で捻られて、自分の子宮に繋がるそこに襞があり、刺激されるのに夢中になる。
ふと起こされ、膝の上に抱かれる形で抱き寄せられ、奥の泉をつかれて、
ルナは思わず声を上げて腰を捻る。
うめくサクラの声は、内部で膨らむ彼自身と呼応し、ルナを突き上げる。

267ルナ:2007/12/21(金) 02:09:32 ID:w0DEiXNH


薬には効果がなかった、というべきだろう。
我を失うことがなかったサクラ、ほとんど情報は得られていない。

情事のあとすぐそう考える自身にあきれながらも、ルナはもう少し粘るか諦めるか逡巡しながら、
仰向けの彼を横から覗き込んだ。
ルナの見下ろす下で彼は微笑んで、手を伸ばし、ルナの髪をかきあげ、低い声で言った。
「逃げよう、ルナ」

ルナは驚き、
「それは、サクラ・・・」

出来るわけがない、とお互いに知っているのだ。指揮官を失った兵隊などありえない。
自分たちはこの兵に規律、指令を守ること、
それから、最重要なこと、責任を果たすことを、教えてきたのだ。
すべて捨てて二人で逃げることは、出来るわけがなかった。
それでも彼は続ける、うわごとのように、何かを見出すように。

「地の果てまで。馬は何頭いるかな、乗り潰して、国境を越えて」
サクラは仰向いてなぞるように、ルナの後ろの天井を見つめる。
「この国の外は、天国に繋がっている」
ルナは遮って、ふわふわと話すサクラの唇を、自分のそれで覆う。
夢見事を言うようになったら、もうおしまいだ。
これ以上、聞きたくない。

サクラの応える舌にルナは絡ませながら、目尻を濡らした。
眉を寄せて、見えないように額を付ける。
この男を、愛したかったと思った。
サクラの柔らかに重ねた唇は逸れていく。
ゆっくりとルナの耳朶に這い、耳たぶを噛む。
吐息を感じた。
「ルナ、逃げよう、いつか、ふたりで」
湿った息、嘆願するような声に、ルナは小さくまばたきをする。
目元に浮かんでいた涙は流れ、ルナの頬を濡らして、零れ落ちた。
ルナは熱く流れるものを枕に吸わせ、黙る。
頬を付けた布が柔らかに自分の湿気を飲み込んでいく。

268ルナ:2007/12/21(金) 02:26:03 ID:w0DEiXNH
ルナは、振り切るようにして、サクラとの、このまま分かれ行く宿命を、思った。
宿命とは言いすぎか。サクラを動かしている奴がいるだけの話か、
そして、サクラは、きっと忠実に働くだろう。

なんでお前なんだ。
サクラ、充分だ。






あの時結婚していたら、こんな事態にはならなかっただろうか、と考えながら、ルナは合図を送り、
信号兵はゆっくりと旗を揚げる。徐々に隊列を詰めていく独特の圧迫感を背中で感じた。
先を行くサクラのいったいが霞んでき、ルナは目を凝らして時間を計る。

何でお前なんだ。

息切れたサクラの喉、ごつごつとしていた。
単なる呟きとは思えない、あの汗、射るような憎しみの眼。
サクラ、充分だ。
少しだけ核心に近づいた。
お前を愛せたらよかった。

ルナは少し前に出た。
前の馬の蹴り上げる砂埃に目を瞑って、頃合を計ってまぶたを開ける。
一瞬にして城壁の外の光景が、圧倒する勢いで視界に広がった。
逃げ口はいくらでもあるのだ、ルナはあたりを睨んだ。
後戻りは出来ない、と横目に旗を見やって、鞭を振り上げる。
「出発する」
信号兵が勢いよく旗を入れ替え、指示を伝えていく。

行く先はメリカか、望まない師弟愛か。

雨が降りそうだった。

269名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 02:28:02 ID:EM1znZd5
支援
270名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 02:29:05 ID:w0DEiXNH

終了です。
批評感想などいただけたら幸いです。


皆様、よいお年を。
271名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 05:07:28 ID:q7oNiWX1
久しぶりぃぃ!ルナ!
GJです
272名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 18:48:57 ID:cZJZ4rDP
GJです!待ってたよ。

ルナ達は、この先どうなるんだろう??
273名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 02:43:15 ID:jFKXPKYj
GJ!
今回も切なくて良かった。
続きを楽しみにしてる。
274名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 17:03:40 ID:speAIuqM
ho
275名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 17:09:22 ID:oj9h7n7Z
緊急連絡。

ピンクの運営が2chの運営と揉めました。
そんでもって、現在Pinkちゃんねるは一切の規制がかかっていない状態にあります。

(以前の危機のように)いきなりピンクが消えるという心配はありませんが、
スクリプト爆撃で現行スレが皆殺しにされる可能性はあります。
(既に葉鍵板は壊滅しました)
276名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 19:32:49 ID:HEbFwGxH
今なら書き込めるのか?
規制プロバイダから確認しつつ保守
277名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 20:19:26 ID:ajiwsbDT
w
278名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 21:36:03 ID:N+yH0NFh
保守
279名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 21:53:52 ID:91Adz5Am
そういえばこのスレ、鎧娘萌えはどのくらいいるんだ?
280名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 22:09:23 ID:YyX9r29p
鎧娘はいいね
幻想水滸伝3のセシルよかったな
281名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 22:26:16 ID:i5VlTMFu
甲冑着たままのエチィは難しいと思うのだが。
まあ排泄用の穴は空いてるだろうから一応は出来るかな?
シチュが戦火っぽくなるね。
282名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 23:08:29 ID:uQ59VoCv
>>281
下半身もしっかり鎧着てるならそうかも。しかし排泄穴ってあるの?
豊かなボディラインを覆う流線型の装甲板にハァハァ
283名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 23:19:49 ID:i5VlTMFu
いや、鎧下や鎖帷子の部分に開放可能な場所が無いと困るでしょ。
女性の場合は小でも大変だから。

そういえばソードワールドの短編小説に鎧師と女騎士の恋物語があったなあ。
身体のラインを甲冑に反映させるために石膏で裸の型を取らせてもらってたり、
用を足す時のことも考えていたり、今にして思えば凝った設定の良作だった。
284名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 23:40:37 ID:1wwNUSSY
>>283
その良作についてkwsk

……というか、やっぱり考える人はいるものなんだな。
こっちでもそういう案で少しずつ書き貯めてるのがあってね。
だいぶ胸が大きくなってきてしまった少女剣士が、その巨乳を固定・防護してくれるラインを持った鎧を女甲冑師に依頼しにいくが、アッー!
……みたいな、純愛とはほど遠いやつなんだが。
285名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 23:56:10 ID:iqC4Wnha
鎧鍛治は女騎士の恋人で、剣では彼女を護れないから、自分の作った鎧で彼女を護るという考えの持ち主。
実際作中では、彼の作品のおかげで女騎士は命拾いをする。
286名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 01:19:06 ID:yYFdjHq1
いいね。
287名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 01:30:32 ID:FK3Y+an6
スライムが鎧の内側に浸透してきて、鎧のせいでぬぐえないとか、気分が高まって
いるのに大事なところに触れられずに悶えるというのはベタすぎ?
288名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 03:58:20 ID:g9M1RpzA
test
289名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 05:45:11 ID:dtzGJnGM
切羽詰った便意に悶えながら
たどたどしく鎧を外していくのもいいと思うんだ
290名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 20:49:57 ID:KAhArjMR
昨日本屋でみかけた「史上最悪な職業」(タイトルうろ覚え)には、
戦場についていく鎧持ち係というのがあって、
「主人の鎧の一日の汚れや汗や排泄物をふき取りきれいにするのだ」とあった。
作者はイギリスの考古学系のTV番組製作チーム所属。

皆にもショックを与えたくて、何度目かの書き込みトライ。
後悔はしていない。
291名無しさん@ピンキー:2007/12/28(金) 16:14:38 ID:WZ6RYubv
>>290
旧軍の騎兵や砲兵の話でも、馬が便秘だったりするようなときには、当番兵が腕でずっぷり尻穴へ差し込んで、直接掻き出したとか出さなかったとか。
下っぽい話は掘り出せばいくらでも出てくるが、さて、これをどうやってエロへ繋げるかというのが腕の見せどころなわけでしてな……
まあ、単にごくマニアックな趣向に終わる可能性もきわめて大なわけだが。
292名無しさん@ピンキー:2007/12/28(金) 23:13:34 ID:cn1GXgG9
個人的には汚物描写がなければむしろウエルカムなんだが
やっぱり引く人が多いのかね
293名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 00:15:08 ID:Bkz4fKgH
なんで砲兵の話で馬が・・・って、そーいや馬で引いたんだっけか。
当時のトラックなんか、今の戦車並の貴重な装備だったそうだ。

でも、何故か朝鮮人とかの慰安婦の「証言」では皆トラックで慰安婦狩りをしていたそうなw
294名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 00:58:17 ID:m28XZtA0
>>293
兄さん兄さん、砲兵に馬匹はつきもんですがな。
前装砲時代の大砲はいいですな。
機動力には難あれど、霰弾で迫る横列をなぎ倒し、円弾で縦列の奥へ切り刻む。
要地を押さえる鉄の守り……

この前1万円ぐらいのローマ軍団資料本を見たら、弩砲(ボウガンの親玉)に車輪をつけたのがあったような。
刀槍弓などの個人で扱える兵装だけでなく、この手の大型支援兵器を扱う女兵士の話も面白そうかも。
いや、それをどうエロにつなげて行くかが問題なわけだけれど……
295名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 01:08:22 ID:DruBRrtS
>>294
あれだ、
使用済み下着を投石機で敵城壁の中へ投げ込む
半裸の女兵士部隊とか。
296名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 01:14:09 ID:m28XZtA0
それは真剣に不潔な物体として生物戦の効果を狙っているのか、
敵に女の下着を奪い合わせて自壊を誘う戦術なのか、
それとも後で真の使用者は野郎でしたとバラして精神的に取り返しの付かない傷を与える戦術なのか、どれだ。
297名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 01:21:23 ID:DruBRrtS
>>296
いや、何も考えてなかったw
強いて言えば二番目か。だが三番目も捨てがたいなw
298名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 01:24:20 ID:9e8g1FyE
>>290
入浴や下の世話が完全に人任せっていうのは羞恥エロとして成立するな
重武装フルプレートでも
一度着ると脱ぐことのできない呪いのビキニ系でもいけるかもしれない

ツンツン女騎士の鎧持ち係になりてぇ

>>296
ペスト毛布的なアレじゃないか
危機感を覚えた守備側首脳陣の決定によって
投入された使用済み下着に餓えた兵士たちが手を触れないように
城内の女兵士たちから安全でクリーンな使用済み下着が給されようになるんだよ
299名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 01:27:47 ID:m28XZtA0
でも後で冷静になって考えたら、
>>296の戦術って三つとも同時に狙える目的だよな……



意外とアリなのか?
300名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 01:37:21 ID:m28XZtA0
「こ、こら鎧持ち! は、早く私の鎧を脱がせて綺麗にしないよ!
 な、何よ。あんたのためじゃなくて、私が気持ちよく戦いがためだけなんだからね!」

 な典型的ツンデレ女騎士の幻覚が浮かんだ

 しかし↑の光景をまじめに考えると、

1.包囲陣後方の見えない場所で、攻囲軍の男たちが女物の下着を脱ぐ(数日履きっぱなし)
2.それを投石器部隊の女兵士が集めて城内へ打ち込む
3.拾った守備側兵士狂喜乱舞
4.守備側の女兵士が、そこへ物凄く嫌そうな顔で自分たちの下着を配って交換していく

 ということになるのか。
 カオスだな
301名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 01:48:19 ID:9e8g1FyE
守備側兵士A「おおっ!パンツ!パンツ天国やあ〜」

守備側兵士B「待てよ?パンツがここにあるってことは、攻撃側の連中は今ノーパンってことじゃね?!」

守備側兵士A&B「うおお!!門を開けろ!!打って出るぞおお!!」

攻撃側兵士「自分から出てきやがった!城壁を破る手間が省けたぜ」

攻撃側軍師「 計 略 通 り 」
302名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 02:22:59 ID:m28XZtA0
つまりノーガード戦法ということだな

まあ俺は履いてないの良さがわからんのだが……
履いてないより履いてるほうが、軽装よりも重装の方が燃えるぜ
脱がせる楽しみこそ最上なり
それゆえに鎧娘にハァハァもするわけさッッ
303保管庫の中のエロい人:2007/12/29(土) 14:36:41 ID:S2kher7c
保管庫の鯖が飛んでいるみたいですが、
今から帰省しないといけないので年明けに対処します。
落ちっぱなしの場合はご迷惑をおかけしますが
よろしくおねがいします。

それでは良いお年を。
304名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 22:25:18 ID:BRC4Gf5b
>303
いつも乙です。
今年も大変お世話になりました
来年も宜しくお願いします
305Princess of Dark Snake 6:2008/01/01(火) 20:58:12 ID:Q8mgn1aj
諸々の事情により、今回は前後編に分けます。
エロの有る後半は、また近いうちに投下します。

では蛇姫様六作目前半をどうぞ。
306Princess of Dark Snake 6:2008/01/01(火) 20:59:16 ID:Q8mgn1aj
パルティア西方の山岳地帯。
第三王子ファルハードは自軍を離れてそこに居た。
山地の麓には、現在もパルティア軍とルーム軍団がにらみ合っている。

先だって、ファルハード王子はマーザンダラーン遠征軍を率いて、まず北方のエフタウル族を叩いた。
痛烈な反撃を喰らった遊牧戦士たちは、来たときと同じように風の如く退いていった。
平時なれば、再び侵攻する力を奪うためにも追撃戦を仕掛けるところだが、
同時に三国を相手取って戦うパルティアにその余力は無い。
王都へ戻る間もなく、ファルハードは南に進軍方向を変え、対シンド戦に合流した。
シンドの誇る戦象部隊に苦戦を強いられながら、彼の率いる兵は果敢に敵本陣に突撃を繰り返し、
ついにシンド軍を撤退させることに成功する。

だが、それで終わりではない。
最後に残ったルーム軍が、迎撃に出たパルティア勢を破り西方国境を深く踏み越えてきたのだ。
不退転の命令を与えられていたルーム軍は、
『皇女を救出するまでは、いかなる犠牲を払ってでも探索を続ける』として、
パルティア側からの和平案を尽く突っぱねた。
敗れた西方守備軍を吸収してルーム軍と対峙するファルハードには、
最早決戦しか残されて居ないように見えた。
そんなある日の事である。
王子の幕舎に、婀娜めいた美女が密かに訪れたのは……

「あちらの洞窟でございますわ。ファルハードさま」
「間違いないか?」
「わたくしが御身に嘘を吐いたことがありまして? おほほ」

口元を手で覆いつつ、女は笑った。
その軽装は険しい山道を歩くには相応しからぬどころか、
首飾りや足環の如き装飾品までいつもの通り着けていた。

「洞窟に巣くう竜の元に、お探しのコリーナ姫は囚われております」
「ふむ…… どうやって奪い返すべきかな」
307Princess of Dark Snake 6:2008/01/01(火) 21:01:21 ID:Q8mgn1aj

そんな彼の悩みを、シャフルナーズは一笑に付した。

「ファルハードさま? 御身がお持ちの戦鎚は、釘でも打つための道具ですの?」
「戦って取り返せ……か」
「左様でございます。ファルハードさま程の大英雄ならば、
 竜の一匹も屠っておかねば箔が付きませんからねえ」
「簡単に言ってくれるものだ」
「後世の詩人どもは詠うでしょう。『ファルハード王子、苦闘の末に悪竜を倒し皇女を救う』と。
 どんな素晴らしい詩が付けられるのか、今から楽しみですわ! うふふ……」
「ふん、我はもう行くぞ。今日の借りは、またいずれ返す」
「フフフッ、いつも楽しみにしておりますわ。愛しい方…… そしてご武運をお祈りしております」

妖しの姫に見送られ、ファルハードは洞窟の入り口へ向かう。
その背中が闇の中に消えていくと、岩陰から老いた鬼が姿を現す。
彼はまっとうな妖魔の一員として、敵であるカイクバード王家の人間とは馴れ合いたくないのだ。

「相変わらずじゃが、恐ろしい姫さまじゃのう」
「あら、どこがかしら?」
「自分が攫った皇女を大叔父上に押し付け、
 カヤーニ家の奴輩をけしかけて身内を消そうとするのじゃもの。
 その悪辣なる事、大王ザッハーグも呆れるわい」
「ほほほ、邪魔な大叔父を片付けられるのなら、父も悦ぶでしょう?」
「……しかし、大叔父上もザッハーグ王の血脈ぞ?
 いくらマーザンダラーンのお父上と不仲とは言え、
 身内を倒すに仇の片割れを使うというのは気に食わん」
「そんな固いことを考えているから、父はこれまで大叔父をのさばらせてしまったのよ」
「やれやれ」
「親類縁者で殺しあうのは王家の宿命。常人でさえ骨肉相食むものを、ましてや我ら蛇王家の者をや!
 ファルハードさまも、皇女を救出して大戦を止めたとなれば、
 その武勲は両国中に鳴り響きましょうよ!
 此度の策は、どちらにとっても本当に得。おほほほほ……」

楽しそうに言ってのける姫君を、老小鬼は呆れた顔で眺める。
そんな守役の心境など意に介さず、妖姫は微笑んでいた。
308Princess of Dark Snake 6:2008/01/01(火) 21:01:57 ID:Q8mgn1aj

「ところでひい様や。御身の愛しの君は大叔父上に勝てるかの?」
「勝てると思うわ」
「大叔父上はお父上も手を出すのをお控えておられた、ザッハーグの蛇の血を濃く引く方ぞ?」
「ファルハードさまとて、カイクバードの血を引く方よ」
「……」

老小鬼は肩を落とした。
ザッハーグの率いた妖魔の一族とカイクバード家の遺恨を、もう今更繰り返す気力は無い。
自分が扶育した姫君は、そういった事に囚われない奔放な性分の持主なのだ。

グ ォ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ ゥ ッ !!!

洞窟の奥から、地を揺るがすかのような咆哮が轟く。

「始まったのう」
「ええ……」
「儂としては、共倒れになってくれるのが一番いいのじゃが」
「おほほ、そうお前の思い通りにはいかなくてよ?」

シャフルナーズの予言通り、老小鬼の望んだ様に事は運ばなかった。
ファルハードは見事悪竜を屠り、コリーナ姫の救出に成功した。
けれども、森羅万象全てを目論みどおりに進めるなどという事は、神ならぬ身には不可能なことである。

まさか、竜の巣穴から救い出された皇女が、竜殺しの王子に一目惚れするなどとは。
ましてや彼の王子に嫁げないのなら命などいらぬと食を断ち、
娘に根負けしたルーム皇帝がしぶしぶ婚姻を申し入れてくるなどとは。
奸智に長けた妖しの姫も予想しえなかった事態であった。


・・・・・・・・・

309Princess of Dark Snake 6:2008/01/01(火) 21:02:28 ID:Q8mgn1aj

「グワハハハハッ!!」
「オホホ!!」
「にしても目出度い! ルームとパルティアがこうして姻戚となるとは!」
「その通り! これで西方は安泰! アルダシール王の御世も大磐石というものよ」

夕刻前から始まった婚姻の儀は、日が傾きかけてからも続いていた。
王侯貴族、廷臣から庶民に至るまで、王宮の庫から放出された酒や肴に老いも若きも酔いしれている。
掌中の玉とも言うべき皇女を送り出したルーム皇帝の悲嘆とは反対に、
大方のパルティア人は今回の婚姻を大歓迎した。
これで西方国境は一先ず落ち着くだろうと、ほとんどの臣民が安心したのだった。
だが、どんな慶事であろうと必ずしも全員が歓迎する訳ではない。

「くそう、読み誤ったか……」
「そういえば、貴殿はご嫡男を第一王子の側に仕えさせておられたな。
 もし第三王子の側近に仕立てておれば、今頃は……」
「ふん! 今頃は祝宴の真ん中で大笑いしておったわい。
 だが、そちらこそ娘御を第二王子の宮に仕えさせておったと記憶するが?」
「へへへ…… 幸いうちにはもう一人娘が居るのでね。
 あと二三年もすれば年頃になる故、『ファルハード王太子』の宮へ送り込むのに不都合はないさ」
「ちっ! 儂もこんなことなら、無理してでもさらに二三人子を産ませておくべきだった……」

第三王子派以外の勢力、第一・第二王子を支持する貴族達にとっては、
めでたい婚儀も『余計な事をしてくれた』という気持ち以外の代物ではない。
西方の大国ルームの姫君を迎えたとなれば、おのずと宮廷での重みが違ってくる。
舅となるルーム皇帝も、自分の婿が一介の王子で終わるのを承知する筈がない。
パルティア王アルダシールが西方との決裂を覚悟しない限り、
これで次期王太子はほぼ内定したような物だった。
我が世の春の到来を予感する者達と、当てが外れて嘆く者達。
複雑な宮廷模様に彩られたシャーシュタールの宮殿に、婚姻の祝宴は続いていく。
そこにもう一人、今回の慶事を喜べぬ人物がいた。

「……ぷんっ」
「ご機嫌斜めじゃのお? ひい様…… 痛っ」

吹き付けられた葡萄の種が、老小鬼の額に当たった。
普段は辛辣な言葉を放つ紅色の唇から、今は八つ当たりの葡萄種が放たれる。
宴に浮かれ騒ぐ賓客どもの声を下に聞きながら、
シャフルナーズは宮殿の屋根に寝そべり、老侍従と干し葡萄を貪っている。
無論彼らが婚儀へ正式に招待される訳も無く、飲み物と肴は宴席から掠め取っての酒宴であった。

「のほほ、そんなにお怒りにならずとも。
 雄獅子には雌獅子、雌蛇には雄蛇と言うではござらぬか?
 パルティアの王子とルームの皇女、正に似合いのつがいでありましょう…… あ痛っ」

こりない守役に、また種がぶつけられた。

「まさか、こんな事になるとはねえ…… 失策だったわ」
「ヒヒヒッ…… パルティア一の知恵者であられるひい様も、たまには読み間違いをするのじゃのお」
「お前は嬉しそうねえ! 爺や?」
「まさか! ひい様の心中をお察しすると、爺の胸も痛みますわい」
310Princess of Dark Snake 6:2008/01/01(火) 21:03:15 ID:Q8mgn1aj
老小鬼にとってはカヤーニ家の慶事などどうでもよい。
仇敵の祝い事は喜ばしくないが、長い敵対の年月のうちにはそんな事もあるだろうと割り切り、
一々邪魔をする気も起こらない。
むしろ、これを機に主があの王子と手を切ってくれれば、彼にはそちらの方が大慶事なのだ。
反対にシャフルナーズの心中は複雑である。

「そんなにお気に召さずば、あの小娘の首をちょちょいと締めてしまえばよろしゅうに?
 魔族の掟などはなから無視のひい様なれば、それこそ赤子の手を捻るが如しじゃろうが」
(プッ!!)
「あ痛ッ!」
「それが出来ないから、こうして我慢してるんじゃないの!」
「ヘヘヘ…… ここでコリーナ皇女が死ねば、王太子を巡る争いは振り出しに戻るじゃ」
「抜かったわ。攫う相手はルーム皇妃にでもすれば良かった」
「ひょほほほほ。さりとて『同じ攫うならば、詩に美しく映える方が良い』と仰られたであろう?」
「……」
「仰るとおり、娘でなく母の方を攫った方が良かったかものう。
 そして精悍な若武者に恋慕した皇妃を巡って、パルティアとルームの大戦が起こるのじゃ。
 妻の心を奪った色男ファルハードに、皇帝の怒りが降り注ぎ、再び血の河が大地を濡らす。
 それもまた楽しい一大絵巻であったろうが、今となっては空しい想像じゃ…… ひひ!」
「チッ! 本当にそうなれば良かったわ」

忌々しそうに老小鬼の言葉に応じたシャフルナーズであるが、
愛する殿方の未来を思えば余計な手出しも致しかねる。
いかに蛇王の血を引くとはいえ、彼女も男の行く末を守りたいという気持ちがあるのだ。

「まったくルーム皇帝の腰抜けめ! 娘の手綱一つ搾れないのかしら?」
「どこの国も、娘の恋心に親が悩まされるのは同じじゃのお…… 痛っ」
「黙りなさい。ファルハードさまもファルハードさまだわ。
 この私というものがありながら……」
「そりゃあ真っ当な人間ならば、素性の怪しい妖魔の姫よりもルームの皇女を選ぶわな」
「……このままでは済まさないわよ」

シャフルナーズが立ち上がったのを見て、老小鬼の心に不安と期待が膨らむ。
その気になれば何をやらかすか判らない危うさというものが、この姫君にはある。

「一体、何をやらかす積りで?」
「最初に言っておくけど、お前の期待にはそぐえないわよ」

老小鬼にしてみれば、ないがしろにされた事を怨んで敵方に害をなしてくれればいいと思ったのだが、
さすがにそう上手く行くものでは無かった。

「女の恨みの怖ろしさという物を、ファルハードさまにもお教えして差し上げましょう」

それだけ言うと、妖しの姫は屋根を蹴ってその場から消えた。
残された老小鬼といえば、主の恨みの怖ろしさを味わうはずのファルハードに、
雄として僅かに憐憫の情を抱かぬでもなかった。


(続く)
311名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 22:39:02 ID:MQKcQpZ9
新年初の投下乙です。

後半にも期待してます。
312名無しさん@ピンキー:2008/01/02(水) 08:08:08 ID:FNOMmQsh
あけましておめでとうございます

蛇姫さまお待ちしてました!
続き裸足でお待ちしてます
個人的には蛇姫さまvs皇女が見てみたいですが
313名無しさん@ピンキー:2008/01/02(水) 12:38:06 ID:442CMNT3
新年GJ
肝心なところでうっかりさんな蛇姫の可愛さは異常
皇女様を含めた3Pは何時頃の予定でしょうかw
314 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:31:48 ID:ow17S9s7
半年以上間が空いてしまいましたが、「副長の日々」の続編を投下します。
前回の異種姦らしきものから一転して、ややソフトな、少女兵による逆レイプ(?)ものです。
話の都合上、エロが頭でストーリーが後ろ、という変則的な構成になっていますが、どうかご容赦ください。

前編はこちらです。
http://vs8.f-t-s.com/~pinkprincess/female_soldier/0085/
315副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:32:47 ID:ow17S9s7
 つんざくような雨音が、外の世界を満たしている。洞窟の外へ広がる森に鳥や虫たちの声はなく、漆黒の闇の底からは、濁流となった沢の音が聞こえていた。
「これで、最後……っと」
 シャリン、と小さく高い音が鳴る。低すぎず高すぎない位置に細い糸を張り巡らせて、私はそれらを鳴子に連動させながら結びつけていた。
 よく響いたその音に、よし、と私は頷く。この音程ならなんとか、この豪雨の中でも聞こえるだろう。
 従姉妹殿に引きずり回されて、あらかたの悪童遊びに手を染めさせられた幼い日々。その頃に覚えたごく簡単な警報装置だ。こんなものでも、一時凌ぎには無いよりだいぶマシだろう。
 小鬼たちの拠点へ単身で忍び込んで火を放ち、大混乱の中から捕われた部下を救出してから数時間。
 私たち二人はどうにか小鬼たちの追跡をやり過ごしたものの、その途中で豪雨に見舞われ、今は雨露を凌げる洞窟に入っていた。
 逃走の途中で幾筋か沢を渡っていたから、臭いは水で途切れているはずだ。そしてこの豪雨。小鬼たちの嗅覚頼みの追跡も、幾らかは誤魔化せているはずだった。
 しかし敵の追撃が想像以上に激しかったことから、私も退路を当初の予定から大きく変更せざるを得なくなっていた。
 結果として、徒歩で隠密裏に接近するため、小鬼たちの拠点への往路で残置していた馬と装備は回収できておらず、もちろん輜重隊との合流も果たせていない。
 そうして必死の逃避行に息を切らせるうち、私たちは天然の草木で巧妙に隠蔽された洞窟を発見したのだ。
 内部には獣の気配もなく、また水没の心配もない。今夜限りの隠れ家に使うには、絶好の条件が揃っていた。
 こうなった以上はやむを得まい。今夜はいったんここで休息をとり、脱出と合流へ向けた次の本格的な行動はそれから起こす。それが私の計画だった。
 背後に人の気配を感じて、私は振り向きながら問いかけた。
「そっちの仕掛けも、終わったのか?」
「うん……」
 洞窟の闇へ溶けるように、ショートの鮮やかな黒髪が小さく揺れる。
 本来の上衣を破き捨てられたため、寸法の合わない私の上着を羽織ってたたずむ少女が小声で答えた。別方向への仕掛けを頼んでおいたハンナだ。
 いつもはひどく勝ち気で反抗的な、意志の強さをたたえた強い光を宿していた灰色の瞳は今、未だ収まりきらない動揺に揺れていた。
 やむを得ないことだと思う。彼女はまだ14歳の少女なのだ。それがたった一人で小鬼の群れに捕らわれてしまい、半裸に剥かれながらねちねちと辱められ、あまつさえ忌まわしい子種を植えつけられようとしていたのだ。
 救出に成功していなければ、彼女はあのまま小鬼どもの慰みものにされ続け、やがては決して望まぬ魔物の妊娠を強いられていただろう。
 もっともそのおかげで、欲情しきった小鬼どもはこぞって彼女の見物に集まってくれたから、私でもその隙に潜入して火蜥蜴の油での破壊工作を仕掛けることが出来たのだが。
 それでも、救出直後はただ私に手を引かれるだけだった彼女がすぐ、小鬼の追っ手に捉えられそうになる度に真夜中の森で道を示し、最後はこの隠れ家まで見つけてくれたのだ。
 彼女のその凜々しい気丈さを、私は純粋に尊敬した。
 互いの仕掛けた警報装置を一通り確認しあうと、私は彼女に命じた。
「よし。じゃあ今からは交替で見張りをしながら、片方が休もう。最初は私が見張るから、ハンナ、君は奥で休んでいるんだ」
「だ、……大丈夫。最初の見張りは、私がやります。副長こそ、今は休んでください」
「自分の状態を顧みてから、そういう台詞は言うことだね」
 以前の勝ち気さを少し取り戻して、あくまで食い下がろうとする彼女へ、ため息混じりに私は言った。
「君は輜重隊の尖兵をあれだけ長く務めた後、敵の拠点まで一気に潜入してあの戦果を挙げ、そして捕らえられたんだ。普通なら、とっくに倒れていてもおかしくない。いいから今は休んでおくんだ」
「……で、でも」
「でも、じゃない! これは命令だ。休んでおけ、ハンナ!」
「……! は、……はい……」
 ぎゅっ、と悔しげに拳を握りしめ、彼女は洞窟の奥へ下がった。同時にふう、と私の喉からも息が漏れる。
316副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:33:37 ID:ow17S9s7
 内心冷や汗ものだった。輜重隊での行軍中にそうだったように、また徹底的に突っかかってこられたらどうしようと思っていた。
 今回の件は彼女には気の毒だったが、いま直面している非常事態を乗りきるためには好都合な面もある。このまま敵の追跡を振り切って本隊へ合流するには、彼女が素直に私の命令に従ってくれること――集団として意志の統一が容易なことは、大きな救いになってくれるからだ。
「しかし、参ったな……」
 洞窟の岩壁に背を預けながら外界を窺う低い警戒姿勢のまま、私はその合流すべき輜重隊本隊のことを思い返す。
 老練なユゴー伍長に指揮を任せ、後で必ず追いつくと言い含めて予備の迂回路を行かせた彼ら。だが執拗な小鬼の追撃で、こちらはずいぶんと森を迷走してしまった。
 この未開の森の真っ只中では、現在地の特定すらも骨が折れそうだ。さて。この一時の休息後、次はいったいどうしたものか――
 思いに耽るうち、再び気配を感じて私は振り向く。
「どうした? ハンナ」
 羽織った上着の前をはだけながら、ハンナがそこに立っていた。息が荒く、表情はひどく苦しげだ。私は目を眇めた。
「どうした、熱か? 風邪でも引いたのか」
「ううん、違う。違うの……あの時から……あいつに、あの鬼に、服を溶かすおかしな薬を掛けられたときから、ずっと……私の身体、おかしくなっちゃってるの……」
「まさか、……毒か!?」
 さっと表情を引き締めて、私は呻く。私の知っている薬草などほんの数種類だ。一人でまともに解毒できる保証などあろうはずもなかった。
「ううん、……毒じゃない。これは、普通の毒じゃ、なくて――」
「え……?」
 しなやかに鍛えられた少女の腕が、私の肩に伸びてくる。熱に潤んだ瞳が、荒く息づく赤い唇が、ゆっくりと近づいてきた。
 早熟な少女がまとう、ひどく官能的な汗のにおいが鼻孔を満たす。玉のように浮かんだ汗を鮮やかに弾く、まだ幼さを残した健康的なみずみずしい肌を間近に意識して、私は思わず唾を呑んだ。
 そして同時に喉の奥から、何か無意識の警告が迫り上がってくる。
 確かつい最近も、これと似たようなことがあった気が――
「わっ!?」
 次の瞬間、ハンナは獣のように躍動して私を襲った。
 背中が岩場へ打ちつけられ、視界が塞がる。少女の熱と弾力に満ちたみずみずしい肉感が、布地越しに私の顔面を締め上げた。
 いやいやをする子どものように首を振って、ハンナは荒い息づかいのまま私の肩を強く掴む。
 彼女はそのままぴったりと密着しながら、その細腕のどこにあったか分からないような強い力で、私を押し倒しながら地面へ完全に組み敷いた。
 鍛えられてはいても、やはり細い少女の身体と、ひどく熱っぽい体温を肌で感じる。
 そして一枚羽織っただけの上着越しに密着する、堅く張りつめた早熟な乳房の丸みと、ツンと強く尖ったその頂の感触をも。
 ハンナはその肢体を押しつけながら、一気に私の下へ私の胸に額を寄せて、ハンナは熱い吐息とともに呟いた。
「あ、熱いの。か、身体が、……身体が、熱いの……。だから。だから……」
「…………!?」
 あまりの事態に言葉を失う。頭が白い。対応が思いつかない。
 私が何か次の行動を起こすより早く、少女の肢体は蛇のように素早く私の四肢へ絡み付いていた。母親譲りの巧みな体術が、私のすべての動きを殺していく。
 私はただぱくぱくと口を動かしながら、意志に関わりなく少女の秘所を指すように屹立してしまったた己の男性と、熱い吐息で瞳を濡らした彼女を交互に凝視した。
「ずっと……さっきからずっと、私の奧がぐちゃぐちゃなの……。あんな奴らに、あんな奴らなんかに無理矢理犯されそうになっただけなのに、……止まらないの……!」
 震えながら、ハンナは蛇のように足を絡めてくる。少女の股間から溢れる熱い液体が、二人のズボンの布地越しに私の腿を濡らした。
「ああ……っ、……ああぁぁああぁ……っ!!」
 苦悶し、無力な仔兎のようにひどく怯えて戸惑いながらも、ハンナは同時に飢えた狼のように執拗に、私を求めて密着してくる。
 汗ばんだまっすぐな黒髪から漂う少女の匂いと体温に、私の心臓は胸を突き破るように跳ね上がった。
317副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:34:00 ID:ow17S9s7
「ちょ、ちょっ、ちょっと待て! 落ち着け、落ち着くんだハンナ、冷静になれ!!」
 私は叫んで暴れたが、手遅れだった。彼女の冴えた体術と、何よりも全てがまったく予想外の行動に、私は完全に奇襲され、制圧されていた。
「ずっと、ずっと……あれから今まで、必死にずっと我慢してたんだけど、……ダメなの……もう、ダメなのっ!!」
「なっ、なああぁっ!?」
 懇願するように喚いた私の言葉に耳を貸すことなく、ハンナは荒く吐き捨てながら右手を鋭く閃かせた。
 いつも弓や剣を自在に扱うその指先が、容赦なく私の股間をまさぐる。不覚にも堅く大きく勃ち上がっていた男根を捕らえるやベルトを外し、一気に引きずり下ろす。
 そして勢いよく跳ね上がるように飛び出したそれを、少女の五指がぎゅっと掴み取っていた。
 突然の無体な行動に反応する間もなく、ハンナは私の男根を掴んでしごき上げる。
「そう……、これ……これなの……これが、欲しいのぉ……っ」
 さらに彼女は身を乗り出して、肉の張りつめた美しい両腿の間へ、私自身を挟み込んだ。
「はあ、あああっ、……ああ、あああああぁぁっ……!!」
 ひどく切なげに、啜り泣くような声を上げながら、14歳の勝ち気な少女兵はズボン越しに、私の男根を何度も秘所へと擦りつけていく。
 私は唖然としてそれを見ていた。あれほど嫌っていたはずの私を力ずくで組み敷き、その逸物を剥き出しにして、こうも無体な淫行に及んでいる。
 つい今までは想像さえも出来なかった、あまりに常軌を逸した情景がそこに生じていた。
「は、ハンナ……」
 そしてこの期に及んで、私はようやく事態を掌握した。
 あの鬼が、ハンナに対して用いた毒薬。あれはただ単に、彼女の衣服を溶解させるだけの代物ではなかったのだ。
 その正体は、おそらく媚薬。凌辱の前に獲物の性感を高め、普段のただ暴力的な強姦とは異なる趣向でハンナの肉体を楽しもうとしていたのだろう。そして、その本格的な効果がいま現れた。
 だとすれば、すべて説明がつく。
 普段はひどく禁欲的な態度で冷たく振る舞い、同僚の城兵たちが飛ばす下卑た冗談にもまともに取りあわず、時にはそれで激昂して喧嘩騒ぎまで起こしていたハンナ。
 そんな彼女が、あれほど馬鹿にしていた私をこうも淫らに求めてくるという異常さも、これで全て説明できる。
 それでもなお分からないのは、なぜそんな薬を、あの程度の知能しかない鬼が持ち合わせていたのかということなのだが――
「んっ!?」
 思索の海への現実逃避は、男根の違和感で霧消した。
 ズボンの生地越しに肉の張りつめた両腿で挟んで、私の男根への責め苛みに没頭していたハンナが、その責めを中断し――自ら腰のベルトを外し、ズボンを脱ぎ下ろそうとしていたのだ。
「ま、待て。待て、ハンナ! 君は――君はいったい、何をやろうとしているんだ!?」
 心の底ではすでに答えなど分かりきった質問。だが、聞かずにはいられなかったのだ。
「分かんない……分かんないよ……もう私、自分がどうなってるのか、どうすればいいのか、全然分かんないよ……!」
 強い熱を帯びた息を吐き出し、ハンナはズボンを一気に引き下ろした。ためらいもなく下着も脱ぎ下ろし、うっすらと生え揃った黒い茂みと秘裂を剥き出しにする。
「分かんないっ。こんなの、初めてだから、なんにも……なんにも分かんないよう……っ!!」
 幼児がいやいやをするように首を振って、ハンナは潤んだ瞳で組み敷いた私を見下ろしてくる。
「だから、……とにかく……ちょうだい……」
 少女兵の手が、私の陰茎をぎゅうっと捕らえる。
「もう、何でもいいから……何だっていいから、あんたの、これを……私の、中に……ちょうだい……!!」
 求められている。強くしごき上げられるような感覚に、私は不覚にもそれだけで軽く達しかけた。
「わ、分かった……分かったから、少し落ち着け。落ち着くんだ、ハンナ」
 あられもなく発情し、しどけない痴態を晒して迫る部下を前に、私は最後の理性を振り絞って抵抗した。
 少女兵のしなやかな腰へ手をやり、汗を弾く艶やかな肌をそっと愛撫する。指先を少しずつ、優しく、筋肉質な背中の線をなぞるように、ハンナのうなじへと登らせていく。
「あっ……! あっ、ああっ……、あ、ふぅん……!」
 決して女体の扱いに慣れているとは言い難い、私のそれだけの指遣いで、ハンナはあっさりと悦楽の波に揺り動かされた。
 暗い洞窟へ押し殺したように響く少女のはかなげな嬌声が、まるで美しい楽器を奏でているようだ。その敏感な反応にわずかな自信を取り戻して、私は彼女を説得した。
318副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:34:37 ID:ow17S9s7
「ハンナ――君が冒されたのは、あの魔物たちの使った媚薬だ。君は一時的に欲情を高ぶらせられているに過ぎない。大丈夫。こうやって少しずつ、君の火照りを鎮めてあげる。だから――うむうっ!?」
 説得の途中でいきなり、無理矢理に唇を塞がれた。すぐ目の前で上気しきったハンナが両目を閉じて、私の口腔内へ強引に舌をねじ込んできたのだ。
 唾液が混じりあい、舌が舌へと蛇のように絡みつく。ハンナは夢中のままに私の腔内を貪り尽くし、呼吸を止められて危うく死にかけた私を、恐ろしく長い空白ののちにようやく解放した。
「……ぷ、ぷはぁ……っ!!」
「ん……ああっ、んんぅ……っ」
 息を切らせる私の前で、ハンナは糸を引いた二人の唾液を手で切って口許へ寄せ、私の腔内を蹂躙しつくした赤い舌をちろりと見せて舐め取った。
 頭が白い。ああ、そういえば、女性と交わす唇同士の接吻はこれが人生で初めてだったなと思い――童貞を母のライナに、ファーストキスを娘のハンナに奪われるという、私とグレアム母娘との奇妙な関わりが、ぼんやりと頭を白く、熱くした。
 だが、いつまでも少女の唇の余韻に囚われているわけにはいかなかった。
 彼女の上官として、私は、彼女を守らなければならないのだから。
「ハンナ。君がいま感じている情動は、こうして優しく解きほぐしてあげられる。だから、最後までする必要なんて、ないんだ」
「え……?」
 何を言われているのか理解できないというような、とろんと蕩けるように濡れた瞳で、ハンナは私を一心に覗き込んでくる。
 私はこの可憐な少女兵の兄にでもなったような心持ちで、あくまで優しく語りかけた。
「だから……だから今の勢いだけで、私と関係を結んでしまうことはない。君はまだ処女なんだろう? そんな大切なものを好きでもない男のために捧げるなんて、粗末に扱かったりしてはいけない。だから、今は――」
 言葉でハンナを説得し、片手では彼女をなだめるためにみっちりとした肉の詰まった肌を愛撫しながら、私は再び片手で自分の下着とズボンを上げようとした。
「…………!」
 だが、ハンナの視線がそこへ吸い着く。
 腹へ着くほどに堅く怒張したまま、今にもズボンの下へ格納されていこうとしている私の男根へ。
「だ、――」
「え?」
「だめぇっ!!」
「ぶっ!?」
 強烈な体当たりを喰らって、私は背中を岩場へ打ちつけられる。
 ハンナはすがりつくようにして私の五体を組み敷き直しながら、涙混じりに私に請うた。
「ダメなの! そんなのだけじゃ、ダメなの……! まだ、まだ私のここに、あいつが居るみたいなの。あいつ、……あいつ、まだ私を犯してるの……! だから、ダメ……最後まで、ちゃんとやってくれなきゃ、ダメぇ……!!」
「ちゃ、ちゃんと? ちゃんと最後まで、って――」
「ちゃ、ちゃんと――」
 媚薬によって強制された情欲に衝き動かされながらも、ハンナの表情に一瞬の恥じらいが走った。
 だが次の瞬間にはこらえきれなくなり、恐怖と嫌悪感に苛まれた、苦しげな顔で哀願した。
「ちゃんと、最後まで――最後まで、奧までぜんぶ入れてくれなきゃ駄目ぇ! それで、きれいに掻き出して――あんたのそれの太くなってる先っぽで、私のおなかの中から、あいつを全部きれいに掻き出してぇ!!」
「…………」
 あまりの要求に絶句しながら、しかし同時に、脳裏をよぎる記憶があった。
 騎士修業時代、下世話な話が好きな同僚から聞いたことがある。
 男の陽物はその亀頭に、一種のブラシとしての機能も併せ持っているという。自分の前にその女を犯した男が注いだ精液の残滓を掻き出し、その胎へ改めて自分の子種だけを植え付けるために、男根というものはそうした形をしているのだと。
 女のくせにけらけらと笑って、あけっぴろげにそんな話をしていた同僚の顔を苦笑混じりに思い出しながら、私の胸にはあきらめにも似た思いが広がっていった。
 精液よりも先に男根がその身にまとう、いわゆる先走り汁にも子種は含まれているという。あのときハンナが鬼に突き入れられたのは、ほんの入り口までのはずだ。
 だが、何しろ魔物のやることだ。実際どうなってしまうかは分からない。確かにこのままでは、ハンナがあの鬼の子を身ごもらされてしまう可能性もゼロではなかった。
 ――それは、許せない。
319副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:35:11 ID:ow17S9s7
「あぁ……っ!」
 私は己が陽物をハンナの秘裂にあてがう。それを見たハンナの顔に喜悦とわずかな怯え、そして深い安堵が広がっていくのを、私は不思議な満足感とともに見つめていた。
 彼女の腰へしっかりと手をやって支えながら、汗の伝い落ちる耳元へ寄せて囁く。
「分かったよ、ハンナ。そんなに堅くならなくていい。力を抜いて、僕に任せろ」
「わ……私はなにも、堅くなってなんかっ……!」
 精一杯に抗おうとする勝ち気な言葉も、今はなぜだか可愛らしく感じられる。
 奥まで貫かれはしなかったとはいえ、卑しい先走り汁をまとった鬼の男根を宛がわれてしまったそこから、その汚れを拭い取ってやるような気持ちで――私はゆっくりと、しかし腰ごと彼女へ強く押し込みはじめる。
 少女の腰へやった手をゆっくりと抱きかかえるように下ろして、彼女の膣を男根へ被せていく。
「あっ……!」
 再び侵入してきた熱い肉棒に、びくりと首を震わせてハンナが喘いだ。14歳の少女兵の引き締まった体は、怒張した私を最初からきつく締め上げてきた。
 それでもいやいやをするようにせがむ彼女が少しずつ腰を下ろして、狭隘な洞窟の奥へと、私は静かに導かれていく。彼女の奥へ、沈んでいく。
 そして私は、ライナ軍曹のときにはなかった、最初の障害に接触した。
「く……くうぅ……っ……!」
「痛い……?」
 少女の肉をえぐる度に、必死に食いしばられた赤い唇から悔しげな、そして切なげな悲鳴が漏れていた。瞳は潤み、たちまち目尻にしずくを作り上げようとしている。
 ハンナは抑えきれない情欲に溺れながら、同時に身を貫かれるはじめての痛みに耐えて、そしてこれから訪れる体験による、決定的な変化に怯えているように見えた。
 しかし腰の動きを止めた私を、彼女は強い光を込めた瞳でキッと睨みつけてくる。
「な、何よ。私は……私は何も、痛く、なんか……っ」
「じゃあ、……怖い?」
「え……ええ……っ?」
 ゆっくりとした腰の動きを止めて、ハンナが濡れた大きな瞳で、私の真意を質そうとするかのように覗き込んでくる。
「怖いのなら、無理しなくていいんだ。君の胎内を清める方法は、他にもなくはない。君が本当にそうしたいと思うまで、それは大事に取っておけばいい。
 ――いま感じている高ぶりは、他の方法で満たしてあげるから……」
「なっ……」
 熱に浮かされた少女の瞳が、私を見つめる。自分ではどうすることもできない熱の高ぶりの、その中心を貫かれる感覚に身悶えしながら、それでも彼女は精一杯の虚勢を張った。
「な、何、それ……。悪いんだけど、あんたのなんかね、全然細くて小っちゃくって、かわいいんだけど。こんなに粗末なものなんか、三本まとめて来たって怖くなんかあるもんかっ!!」
「傷つくことを言うね……」
 言葉だけでなく実際に少し凹みながら、私は堅く屹立して、今やその尖端を彼女へ埋めた分身に目と手をやった。
 君の母上には、それなりに好評だったはずなのだが……。あれももしかして、私を傷つけないためのライナ軍曹の心遣いだったのだろうか。
 なかなか嫌な想像だったが、あの日の女軍曹との情事が、私にいくらか男としての自信を与えてくれているのは確かだった。
 少女は何かを振り切ろうとするかのように、罵りの言葉を連ねつづける。
「怖いわけなんか、ないじゃない……! そんなことより、あんたの粗末なソレで私の中から、ちゃんとあの鬼の汚い汁を、ぜんぶ綺麗に拭い取れるかどうかのほうを心配をしてなさいよ……っ!」
「そうだね。――でもきっと、君の期待には添えると思うよ」
「何を……っ!」
 ハンナは私の上で歯を剥いて凄んでみせたが、私はいくばくの余裕を持って少女の威嚇を受け流すことができた。
 発情した少女のしなやかな肢体を、改めて舐めまわすように見つめていく。
 健康的に日焼けした肌にはいっぱいに汗が浮かんで、無数の玉を作っている。両手を腰から離して、彼女の胴を登らせた。
 邪魔な上着を跳ね除けると、手のひらにちょうど収まる愛らしい隆起が二つ、その薄桃色の頂を堅く尖らせながら張りつめているのが露わになる。
 それらの汗の水滴を潰して押し広げながら、私の両手は鍛えられた腹筋から這い上がって、左右に連なるふたつの丘を掌中に捉えた。
320副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:35:41 ID:ow17S9s7
「あん……っ!」
 柔らかくも素晴らしい弾力を備えた、革の胸当に守られていた少女兵の乳房。
 ライナ軍曹や従姉妹殿のそれに比べれば、確かに大きさでは見劣りする。
 しかし膨らみはじめて間もない、ひどく若い乳房の味わいは格別だった。
 日焼けのない白い肉がふたつ、手のひらにぴったりと収まってぐにぐにと変形していく。
 その頂でツンと気取ったように堅く上を向いた、色の薄い可愛い乳首を指で挟んでいじめてやる。
「あ……ああッ……!」
 全体を捏ね回されながら、尖端に対しても加えられる攻撃に、ハンナがびくんっ! と背筋を跳ね上げて反応する。
 その仕草のひとつひとつが、たまらなく可愛い。
「やっ、やああっ……。おねがい……」
「ん?」
 愛らしい乳房の肉を集めて揉みながら、いっこうに腰を進めてこようとしない私に、少女は焦れた喘ぎをあげた。
「お、おねがい……お願いだから、もう、じらさないでぇ……限界なの……もう駄目なの……これ以上、そんなところで止められてたら私、ほんとうにぃ、おかしくなっちゃうぅ……っ!」
「ふむ……ん」
 目に涙を溜めながら、意地を捨てての必死の哀願。
 いつか訪れるはずのそのときを待ちきれずに震える少女に、私は穏やかな笑みを浮かべ、そして、率直な思いを答えた。
「可愛いよ。……とても可愛いよ、君は――ハンナ」
「なっ、なに、言ってぇ……っ、ひっ、い、ぃぅやあぁあぁぁぁっっ!!」
「くう……っ」
 その瞬間、少女の大切な部分を守っていた最後の城壁を、私の破城槌が押し貫いた。
「、あ……あ、あああぁぁああぁーーーっ!!」
 怒張した尖端はそこを一気に押し破りながら、さらに城内の奧深くへ向けて進撃していく。
 が、すぐに行き当たる。少女の城内は思いのほかに狭く、私は根元にいくばくの余長を残したまま、ハンナの内部を完全に制圧してしまっていた。
 私もハンナも、二人とも何の力も入れていないのに、彼女の腰は私から少し浮いている。
 ハンナを、貫通した。
「――ほら。いちばん奧まで、入っちゃったね」
「あ、ああ……ああああ……はいっちゃった……わたしの……わたしの、おなかのなか……入れられて……つらぬかれて……いっぱい……いっぱいに、されちゃったよう……」
 くす、と微笑んで、この愛らしい少女の顔を見つめる。
 喪失の絶叫のあと、ハンナはびくっ、びくんっと数度震えて、どこか遠い場所へ視線を飛ばしていた。その目尻が溢れて、幾筋もの熱い涙が滴り落ちる。
 ――ハンナの処女を、奪った。
 勝ち気で峻嶮な少女兵の中は、彼女そのもののようにきつく狭かった。
 初めての痛みに言葉を失い、強靱な意志と私への反抗心までも吹き飛ばされてしまったかのように震える少女の腰を、私は両手でぎゅっと掴んだ。
「さあ。それじゃあ、本題に入ろう。――君の中を、きれいに拭ってあげるとしようか」
「…………、え……? あ、……ひ、うっ!!」
 言いながら、腰から全身に力を溜め、私は力強く腰の往復運動を繰り出した。
 腰を揺らし、胎内から少女の頭へ向けて、貫き通すように叩きつける。
 狭い膣道の中を、陰茎の尖端が何度も繰り返し往復し、跳ねるハンナの身体の上で、彼女の頭と丸い乳房ががくがくと揺れ動いた。
「あんたなんか……あんたなんか、大っ嫌いなんだからぁ……! これは……これは、奴らの妖術のせいなの。私は妖術にたぶらかされて、今だけおかしくなってるだけなんだから。
 妖術で変にされてなかったら、絶対に、あんたなんかと、こんなことなんか……絶対に、しないんだからぁ……っ!!」
「分かってる。分かってるよ、ハンナ。君は強く気高い優秀な戦士で、僕たちの大切な部下だ。それは誰よりも、この僕が知ってる」
 絞り出すように悲痛な声で絶叫しながら、少女は私の上で叩きつけるように激しく腰を振り続けた。
 ハンナの鍛えられた身体は、素晴らしく強い締まりで私の陰茎を責めなぶっていた。
 激しい腰の動きは溢れた水音を熱く淫靡に響きわたらせ、負けじと怒張した私の男根はその内側に吸いつく肉を容赦もなしに抉っていく。
321副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:36:53 ID:ow17S9s7
「ううっ、すごい……」
 その窮屈な締め上げに思わず言葉を漏らしながら、これならきっと、彼女を犯そうとした魔物の汚れも、十二分に拭い取ることが出来ただろうなと、どこか思考の片隅で思う。
 そして私は、この往復運動の限界が近づいてきていることを感じていた。
「うっ……。いっ、いきそうだ……。ハンナ、もう僕のが……僕の子種が出るっ!」
 警告の叫びを発し、私は往復運動の終末点を探った。ハンナを上へ跳ね上げて切っ先までのすべてを抜き取り、外へ射精しなければならない。
 ライナ軍曹の時は彼女の包容力に甘えて不覚を取ったが、まさか、ハンナ相手に同じことを繰り返すわけにはいかないのだ。
「…………! だめ……っ」
 しかしハンナは、私の警告に気づかなかったのか、あるいは、聞こえていても認識できなかったのか――ここに至って何か小声で囁き、むしろ自ら腰の動きを強めてきた。
 さらに全身の力で私を押さえ込み、彼女を跳ね除けようとする試みを封じ込んでくる。
 その私をいっそう強く締め上げる激しい動きが、私の絶頂を加速させた。二人で同じゴールに向けて、凄まじい勢いで、破滅的に加速していく。
「だっ、駄目だっ、駄目だハンナ! 早くっ、早く僕の上から――!!」
「アアァッ……ッッ!!」
「――――ッ!!」
 その快感が全身を突き抜けた最後の瞬間、私は目を見開いてそれを見上げた。
 ハンナは渾身の力で地面へ、私へ向かって腰を打ちつけ、彼女を跳ね除けようとする私の反撃を完全に封殺していた。
 どくっ、どくっ、どくっ……。輸送任務の中で十二分に蓄えられていた大量の白濁は、その最後の一滴に至るまでもが無情にも、ハンナの一番奥の部分を目掛けて注ぎ込まれていった。
「……あっ、ああ……っ……、で、出てる……。わたしの、おなかのなかで……ユアンの濃くて熱いの、いっぱい、いっぱい出てるぅ……っ」
「は……ハンナ……っ」
 そうして身体を折り、私の凶器を呑み込んだままの自分の腹を、いとおしげにそっと何度も撫でながら――力尽きた少女兵は、どさり、と私の上に崩れ落ちた。
322副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:37:13 ID:ow17S9s7
「…………ん、……」
「――気が付いたか?」
 人の気配を感じて、ハンナは洞窟で目を覚ました。
 おかしな熱は去っている。全身は再び借り物の衣服をまとっており、異常は何も見受けられない。
「痛……っ!」
 だが身を起こそうとしたとき、彼女は不意に股間の痛みを感じた。
 手と意識をやれば、確かにそこは混じり合った二人の体液を綺麗に拭き取られてはいた。
 しかし確かに、何か太く逞しいもので奧まで何度も完全に貫き通されてしまった、その残滓のような感覚が残っていた。
「夢じゃ……なかったんだ……」
 その押し広げられた秘裂を指先でなぞるようにして、ハンナはその匂いを嗅いだ。自分のものではない匂いが確かにそこには混ざっていて、少女の心臓を高鳴らせた。
「……具合はどうだ? 大丈夫か……?」
 ひどく心配そうな顔で覗き込んでくるユアンを前に、こくん、とハンナは頷く。無意識のうちに、鍛えられた腹筋をそっと撫で下ろした。
 その仕草を見て、さっとユアンが顔色を変えた。
「あ、……ああ。その……す、済まない! 本当に、済まなかった。完全に、僕の責任だ……君の純潔を奪っただけでなく、あまつさえ……中に、注いでしまうなんて……」
 悔恨の思いに満ちて肩を落とすユアンを前に、しかしハンナの口許には、次第に意地悪そうな笑みが浮かんでいった。
「――バカじゃないんですか?」
「え?」
 うなだれるユアンに背を向けたまま、ふっ、とハンナはいつものように、意地悪そうに笑ってみせた。
「あんなの、あなたの粗末なものだけで、ちゃんと魔物の汚れがきれいに全部落とせるかどうか不安だったから、最後の駄目押しを入れただけです。
 魔物に犯されてもすぐに男と交って精を受ければ、魔物を孕ませられることはないって言うでしょ」
「いや、まあ……確かに、そういう噂や伝承もあるけれど……」
 実証は難しいので、はっきりとした正確な話ではなかったはず、とうろ覚えの知識で反論しかけたユアンを制して、ハンナはいつものさばさばとした傲慢さで言い放った。
「ま、副長どのにしてはよくやってくれたと思います。ちゃんと私の熱を鎮めて、汚らしい鬼の気配もぜんぶ取り除いてくれたわけですし。――ぎりぎり合格点、ですかね」
「それは、……ははは。ありがたいね……」
 以前にも増して歯に衣着せぬ慇懃無礼な言いように、ユアンはもはや苦笑しか浮かべることが出来ない。
 ふふん、と勝ち誇った笑みを浮かべると、ハンナはユアンの剣を引ったくって、彼を洞窟の奧へ押し込んだ。
「ほら、見張り交代交代! さっさと休んでもらわないと、雨上がりからの脱出行で私についてこれなくなっちゃうでしょう? 足手まといになられちゃ困るんですよ!」
「わ、わわっ……!」
 無理矢理ユアンを奧へ押し込むと、ハンナは洞窟の入り口近くに腰掛けた。外の雨足はいくぶん弱まってはいるが、まだ暫く上がってくれそうにない。
「まったく、本当に……。なんで私、初めてがフレア隊長とじゃなくて、あんな奴なんかと……」
 ユアンから借りた上着の布地越しに、そっとしなやかな腹筋を撫でる。そうするとなぜか身を焼くような熱い恥じらいとともに、確かに感じた悦びの記憶が甦ってきて、それが少女の頬を火照らせた。
 つい先ほどまで、確かに二人が繋がっていた場所。
 降りしきる夜の森に視線を巡らせながら、少女はそこへそっと手を伸ばした。
323副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:37:35 ID:ow17S9s7
 私が目覚めたとき、ちょうど雨は上がり、夜も白みはじめたところだった。
 払暁前。私たちは敵の気配を窺いながら手近な高台まで登りつめ、周囲の地形を確認した。そして私は輜重隊主力の行進経路を予測して、それに近づく合流路を選んだ。
 あらかじめ地形を可能な限り頭に叩き込み、鋭敏なハンナの五感にも頼りながら、小鬼たちの包囲網を抜けていくつもりだった。
 正直、今の私たちに戦闘力は無いに等しい。防具はないし、武器といえば私の剣と、小鬼から奪った石斧がひとつという充実ぶりである。
 せめてハンナに必殺の弓矢があればもっと大胆な行動も取れるのだが、そんな贅沢は望むべくもなかった。
 小鬼と遭遇すれば、まともに戦えるのはせいぜい三体ぐらいまでだろうが、追撃に出た敵がそれだけの数で動くはずがない。見つかってしまえば、すぐに仲間を呼んで膨れ上がるだろう。
 だが私たちは、軽装のぶんだけ身軽であるはずだ。このまま捕捉されずに追跡を振り切り、友軍との合流に望みをつなぐしかない。
 だがハンナの報告は、そんな楽観的な望みを易々と断ち切ってくれた。
「――敵の足が、速い……。かなりの大物も、もう、すぐそこまで来てる……このままでは、間もなく追いつかれます」
 静謐なこの場所で地面へ耳を近づけ、微細な振動を聞き取っていたハンナの唇から、情報がもたらされてくる。
「他には? 何か、他に感じ取れた情報はないか?」
「この方向に、物資を満載した馬車の車列……輜重本隊だ。それと……そこに近づく一隊が。間もなく接触します。かなり重量級の馬と、武装した兵員……これは……騎士……?」
「城塞からの友軍か!?」
「おそらく。でも……」
 思わず腰を浮かせた私に、ハンナは身体を起こした。地形を見渡しながら、張りつめた表情で続ける。
「いずれの位置も、いくつも崖や河を隔てた先です。私たちを囲むように近づいてきている敵より、ずっと遠い。この位置関係では合流するより先に、奴らに捕捉されます……!」
 判断と指示を求めるように、ハンナの瞳が私を見つめて揺れている。
 口許を隠すように右手をやり、しばらく考えた後、私は彼女に質問した。
「その接近中の騎士たちは、我々の砦から出てきたのだな?」
「はい。おそらく、それは間違いないと思います」
「と、なると……」
 私の中で、我々を取り巻く現状の諸要素が再配置されていく。いま考えなければならないことは、ただ単純な一点のみ――すなわち、いかにして生き残るか。
「よし。ハンナ」
 出来るだけ落ち着いたように聞こえる声で、私はいま唯一の部下であり、同時に守るべき存在である少女兵に呼びかけた。
 瞳に微かな不安の影を揺らしながら、彼女は私を見返してくる。
「すぐに出発しよう。進行方向は私に任せてもらう。ただ……その前にひとつ、君にやってもらいたいたいことがあるんだ」
「この期に及んで、何だって言うんですか?」
 私はこの高台で、もっとも高く聳える木の幹を見上げる。
「私がやってもいいんだが……身軽な君にやってもらうのが、ずっと早くて正確だろう。頼みたいのは、こういうことだ」
 不審そうに見つめてくるハンナに、私はその案を説明した。
 彼女は最初意外そうな顔をして、その行動の意味と、その作業で果たして意味ある効果が得られるのかに疑問を呈したが、私がもう一押しすると、やがて素直に頷いて従ってくれた。以前なら考えられないことだ。
 だが、もう一刻も無駄には出来ない。ハンナが作業を終えるのを見届けると、私たちは足早にその高台を離れた。
324副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:50:30 ID:ow17S9s7
 私たちは果てしなく続く森を、いくつもの道なき斜面を乗り越えながら進んでいた。軽装とはいえ、かなりの急行軍だ。
 それでもハンナはまだ多少の余裕があるのか、私に先行しながら周囲の気配を窺ってくれている。
 しかし互いに無言のままで言葉は交わさずとも、その表情から、敵との距離がいよいよ詰まりつつあることは理解できた。
 どれほどの距離を稼いだろうか? 左手には険しい崖がそびえ、右手には千尋の谷の下に河が流れる坂道へ入ったとき、ハンナが急に警告を発した。
「――危ない!」
「!?」
 はっとして空を見れば、飛来する礫を視線が捉えた。首を捻って慌ててかわすが、さらに続けて数個、拳大の飛礫が襲ってくる。
「あ痛っ――」
「副長!?」
 避け損ねた一発に無防備な肩を打たれて、思わず間抜けな悲鳴を上げる。それで近づこうとしてきたハンナを手で追いやって、私は周囲を見渡した。
 前後から――それこそ前方にすら待ち伏せていたのか、次々に小鬼の群れが顔を覗かせた。手に手に石斧や投石用の小石を握り、不気味な笑みを浮かべている。
 その数は、実に二十体近く――そして後方から現れた集団の中には、見覚えのある巨体があった。
 捕らえたハンナを辱め、最後は私の仕掛けた火蜥蜴の油で全身を灼かれたあの鬼だ。その毛皮は焼けただれてすっかり炭化し、痛々しい火傷の痕を曝していたが、生憎なことに健在のようだった。
「グッ、グフッ、グゥフフフ……ッ。ようッ、ヤク……ヨウヤク、見つケタゾォォ……!!」
 鬼の濁った双眸は、今や煮えたぎる怒りと獣欲、そして復讐の暗い悦びに震えていた。
「案外早かったな? 追いつくまで、もっとかかるかと思ったが」
「ゲフェフェフェフェ……キサマらなどと一緒にされては、困ルナァ」
 言葉と同時に、鬼は棍棒を地面へ振り下ろした。
 途端に地面が揺れ動き、軽く身体が浮き上がるほどの振動を感じる。私たちの退路を断ち、包囲していくように配下の小鬼たちが動いていく中で、鬼は狂気をたたえた瞳で私たちを見据えていた。
「この男ノ全身の骨を砕キ、生キタマま引き裂きながら、ソの目の前で、この娘を犯シテ孕ませル……! クククッ、良い趣向ダァ……!」
「変態野郎め……!」
 ハンナが石斧を握りしめながら、負けじと睨み返して凄んでみせる。
 しかし、少女の四肢はかすかに震え、瞳は潤みはじめていた。
 あの凌辱を受けてから、まだ一日も経ってはいない。それなのに自分はまた、永遠の絶望の底へ突き落とされようとしている。
「ハンナ」
「――?」
 不意に名前を呼ばれて、彼女は私に振り向いた。
「もういい、演技はそこまでだ。――我々は、もう十分に時間を稼いだ」
「えっ……?」
「ナニ?」
 ハンナと鬼が、私の言葉でほとんど同時に、ほとんど同じ反応を示した。
「――来た」
「えっ……?」
 呟きながら見上げた私の視線の先を、ハンナが思わず倣って見上げる。今にも襲いかかろうとしていた小鬼たちまで、それに釣られて顔を上げた。
 視線の先。切り立った崖の真上に、光があった。
 いや。正確に言うならそれは光ではなく、朝の陽光を跳ね返す装甲板の輝き――馬上にある、一騎の装甲騎士の姿であった。
「き――キッ、騎士ダトッ!?」
「え……? そんな、……まさか……」
 ハンナの瞳が潤んで震え、そして乾きかけた唇が、半信半疑にその名を呼んだ。
「フレア、隊長……!?」
 さすがの鬼と小鬼どもも、度肝を抜かれてうろたえる。
 それはそうだろう。こんな森の奧で、突如として完全武装の装甲騎士が現れるなど、明らかに常軌を逸している。
 だが、それは紛れもない現実だった。
325副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:50:59 ID:ow17S9s7
「ハァッ!」
 装甲板の奧からくぐもった、しかし若い娘の凛とした気合いが響く。
 崖上の装甲騎士は片手に騎槍を掴み、面頬の奧にその表情を隠したまま、臆する様子もなしに拍車をくれて、崖から一気に駆け下りてきた。
「ギッ――」
「ばっ、バカメェ! その急斜面、そんな重装備で降れるものかァ!」
 予想外の敵の出現にうろたえる部下たちを叱咤するかのように、鬼が騎士の無謀をあざ笑う。
 確かに、私ほどの下手くそでなくとも、せいぜい並みの騎士ならそうだろう。あの崖を駆け下りるなど、自殺行為以外の何物でもない。
 だが……並みの騎士ではなかったとしたら?
「ナッ――」
 軍馬は峻嶮な岩場を跳ね回るようにして駆け下りながらうねるように身をこなして、そして小鬼たちが何か思う暇もなく、その内懐へと飛び込んでいた。
 途端に一閃された騎槍が最も手近な一匹を撃ち据えて骨を砕き、さらに一匹を貫いたまま宙空高くへ放り投げる。
「ギヒィッ!!」
「ケプッ!?」
「!?」
 そうして飛来した同胞の骸が、別の一体を薙ぎ倒す。
 驚愕しながらも、たちまち臨戦態勢に入る小鬼たち。だが彼らは私たち二人を包囲するため、散開しすぎていた。
 相互支援もろくに出来ない間合いで、バラバラに立つだけの烏合の衆である小鬼などが、これほどの装甲騎士へまともに立ち向かう手段など、ない。
 森の腐葉土を馬蹄が蹴散らし、血に濡れた騎槍が首をもたげて次の獲物へ狙いを定める。
 その正面で狙われた小鬼が、何事かを絶叫しながら必死に石斧を振り上げた。
「ギィッ! ギッ、ギイィッ、ピギィ!!」
「グッ、グルオオオオ――ギャフ!」
 騎槍の穂先が肉を貫き、長柄が四肢をさんざに打ちのめし、馬蹄が骨もろとも命を砕く。
 呆気にとられたような鬼の眼前で、彼の配下たちは瞬く間に掃討されていく。
 一応の抵抗を試みたものもいたが、無秩序で統一を欠いた足掻きは、ただ一方的に撃破されるだけだった。
「ハンナ! ここでは邪魔になる、敵の向こうへ抜けて下がるぞっ!!」
「え、えっ――はっ、はい!!」
 半ば呆然としてしまっていた彼女の手を引きながら、先導して後方めがけて突っ走る。経路上にいた小鬼と剣を撃ち合ったところで、ハンナの石斧がその首へめり込んだ。蹴り倒す。
 私たちはそのまま包囲網を抜けて、囲まれずに済む安全な位置を確保した。あとはひとまず、足手まといにならないように見守るだけだ。
 十数体いた小鬼どもがほとんど全て騎槍の錆となり果てた頃、騎士は初めて馬を止め、兜の面頬を上げた。
 赤い長髪が幾筋かこぼれ落ち、並外れた怒りにたぎった瞳が、まっすぐに鬼を射貫く。
 我が強く美しき従姉妹殿――守備隊長フレア・ランパートは朝の森で、威風堂々と巨体の鬼に対峙した。
 その唇が、怒りに満ちた言葉を紡ぐ。
「『この男の全身の骨を砕き、その目の前でこの娘を犯して孕ませる』……だったか?」
「ぐ、ぐぬゥッ……!!」
 瞬時に配下を壊滅させられ、しかし同時に退路を馬体で塞がれ、退くも進むもままならずに唸るだけの鬼を、従姉妹殿は冷たい瞳で見下ろしていた。
「下衆め。我が従兄弟殿と部下に、かくも下卑た科白を吐いてくれた罪――この槍にかかってあがなうがいい!」
「くっ、クソガァアアァァッ!!」
 森を震わせるほどの大音量で絶叫し、鬼は巨大な棍棒を振り上げて、迎え撃つように彼女へ走った。小山のような巨体が猛然と躍動し、波打つように地面が揺れる。
 そこへ向かって、トッ、と従姉妹殿が馬腹へ拍車を掛ける。軍馬は彼女と見えない糸で繋がれたように操られ、土を蹴散らしながら突進していく。
 大の男の五人分もあったかという鬼の巨体から、風を巻きながら轟音を放ち、その全力で振り下ろされた棍棒をするりとかわして――従姉妹殿の槍の穂先は騎馬の勢いをそのまま乗せて、分厚い毛皮を貫き通した。
326副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:51:22 ID:ow17S9s7
「ブッ――!」
 胸を突かれて鬼が目を剥く。巨体が一瞬浮き上がり、埋まった穂先が背から飛び出す。
「落ちろ、――下郎が」
 鮮血を噴いてよろぼう鬼の首筋へさらに、従姉妹殿はすれ違いざまに抜き放った長剣を斬りつけていた。
 深くぱっくりと裂けた首筋から、噴水のように鮮血の滝が立ち昇る。十数歩先で手綱を引いて、従姉妹殿はその断末魔を冷たく見送った。
 悲鳴を上げる余裕すらなく、どう、と鬼の巨体が倒れ伏す。
 崖を駆け下りての参戦から、わずか数分足らず。たったそれだけの間で二十の小鬼は骸と化して、戦場の森はもとの静けさを取り戻していた。
 それを見届けてから馬首を巡らし、点々と連なる小鬼の骸の間を近づいてくる。
 従姉妹殿は甲冑の重さを感じさせない軽い動きで、言葉を失った私たちの前に降り立った。小枝を踏み折り、踵の拍車を鳴らしながら近づいてくる。
「私の率いる威力偵察隊は、ユゴー伍長の輜重隊と合流した。現在は城への帰路にある」
「そ、そうですか……それは、良かっ――」
「何も良くなどない、従兄弟殿!!」
 従姉妹殿の強烈な叱責が、私を叩いて背中へ抜けた。
「ユゴー伍長から聞かせてもらったぞ、従兄弟殿。輜重隊の指揮権を伍長に預け、自らはハンナ一人を率いてたった二人で敵の攪乱に向かったそうだな?」
「えっ――」
「ええ。まったく相違ありません」
 従姉妹殿の認識は、私が輜重隊を離れるとき、ユゴー伍長に言い含めたとおりのことだ。
 背後でハンナが身を竦めたが、彼女が何か余計なことを言い出す前に私はずいと進み出て、自分の言葉でそれを封じた。
 部下の不始末を預かるのも、私の責務だからだ。
「兵の命を預かる指揮官の責務を、いったい何と心得ておられるのか! 軽々と輜重隊を手放し、攪乱任務などに自らを投じるなどと……何もなかったから良かったとはいえ、従兄弟殿、この責はどのように負われるつもりかっ」
「覚悟しております。従姉妹殿の――いえ、隊長殿の御意に従います」
 すう、と従姉妹殿の目が細められる。たまらず私は目を閉じた。
 ああ、この女性は今、本当に怒っている。
 今まで十七年間の腐れ縁で、好むと好まざるとに関わらず、無意識化に学習させられていた。
 フレア・ランパートは優秀なる理性の騎士であると同時に、激情の女性でもある。こうなってしまったが最後、もう彼女を止めることなど出来はしない。
 骨の二本や三本で済めばいいが――
 そう思って、かすかに薄目を開けたとき、その光景が飛び込んできた。
 胸を騎槍に貫かれ、首筋を深々と切り裂かれて倒されていた鬼。
 その巨体がゆっくりと起き上がり、再び棍棒を手にしていることに。
 いったんゆらりと沈み込んだ重心から、跳躍への溜めを作って――一足飛びに従姉妹殿を叩き潰さんと、最後の動作へ入ったことに。
 声にならない叫びを発して、私は渾身の力で従姉妹殿へぶち当たった。
「なっ!?」
 虚を突かれたのか、従姉妹殿は私に組み付かれたまま後ろへ吹っ飛ぶ。
 そして先ほどまで彼女がいた場所を、鬼の棍棒が叩き潰した。
「隊長、副長っ!!」
 ハンナが弾かれたように駆け出し、石斧の一撃を鬼の胴へと叩き込むが、分厚い毛皮と肉はたやすくそれをはじき返した。鬼は意にも介さない。
「い、従兄弟殿――」
 肩で突き倒した従姉妹殿の身体は甲冑で守られていて、女性らしい柔らかさとはまったく無縁だった。その重さと頑丈さは私に痛みとなって跳ね返った。
 一瞬だけ押し倒して馬乗りになった彼女から、身を翻して慌てて跳び退く。
「グルォォオオオオッッ! しぃっ、死ィネェェエェェッッッ!!」
 なお執拗に彼女を狙って振り下ろされる棍棒と、腰の剣を抜き払いながら立ち上がろうとする従姉妹殿のどちらが速いのか。
 その決着の瞬間に響いたのは、骨を叩き割る鈍器の湿った炸裂音だった。
327副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:51:43 ID:ow17S9s7
「従姉妹殿っ!?」
 起き上がりながら絶叫する私の視界に、彼女の剣が入ってくる。まだ鞘から抜かれていない。
「あ……」
 遠くなる世界を感じながら、対峙する鬼を見上げた。
 鬼は、笑っていた。
 笑いながら、棍棒を高々と振り上げた姿勢のまま――その脳天に斧槍を生やして、ぴゅうぴゅうと鮮血を噴き上げながら、鬼はゆっくりとのけぞりはじめた。
「か……ゴッ……!!」
「ヨイショッ、と」
 分厚い頭蓋骨に深々と突き刺さった斧槍が引き抜かれると、ぴゅうと真っ赤な血だか脳漿だか分からないものをいっそう激しく噴き出しながら、鬼はさらにとてり、とてりと大きくよろめき――そして最後に足場を踏み外し、千尋の谷へ真っ逆様に転がり落ちていった。
 従姉妹殿の危急を救った斧槍を軽々と肩へ担い直しながら、鬼の背後を襲ったその装甲歩兵は兜のかぶりをいかにもらしく直してみせた。
「ライナ軍曹!」
「……母さん……」
「副長殿にハンナ。うんうん。二人とも、元気そうで何よりです」
 ハンナの母にして守備隊の屋台骨たる歴戦の古参兵、ライナ・グレアム軍曹は不敵に笑ってみせた。
 それから、私たち共通の上官へ向き直ってみせる。
「いやいや、隊長殿。幼馴染みの身内であられる副長殿にも厳正な軍紀をお忘れないとはさすがです。
 兵の上に立つ騎士として、なんとも感動的な場面に水を差すのはまったく申し訳ないのですが――私のほうからもひとつ、よろしいでしょうか」
「――何か、軍曹」
 ライナ軍曹からの呼びかけに応じるとき、怒りに燃える鉄仮面の下に、どこかしら苦手そうな雰囲気が走ったように見えたのは私の気のせいだっただろうか?
 だがハンナの母にして守備隊の屋台骨、ライナ・グレアム軍曹は、どこか陽気そうにも見える顔でその口上を並べ立てた。
「確かに副長殿の、目の前の敵を脅威と捉えるがあまり、自ら囮となって輜重本隊を逃がそうとしたのは問題でしょう。
 ですが、そもそも……『威力偵察』として城塞から出撃したあと、急に進路を変更して輜重隊との合流に向かう、というのは……どうなんでしょうね?」
「そ……それは。集まってきた敵情からたまたま、輜重隊の行軍経路の方向に有力な敵の進出が予想されたからで……」
「まあいいでしょう。ではそれで輜重隊と合流した後、ろくな説明も残さずに単騎でいきなり路外の森へ飛び出していったのは?」
「「…………」」
「…………」
 私とハンナの視線が同時に集中すると、従姉妹殿はどこか遠いところへ視線を逃がした。
 従姉妹殿……。
「わ、……私と従兄弟殿にしか理解できない方法で、高台の樹上に救難信号が作られていたのを見つけたからだ。幼い日に私たち二人が作った、私たちだけの信号で……」
 そう。それは私がハンナに命じて作らせた、簡単な救難信号だ。
 従姉妹殿だけに発見と理解が可能な救難信号を用いることで、迫り来る小鬼たちにはこちらの位置を報せることなく、従姉妹殿だけに位置と状況を教える。
 あとはそこから一心に、従姉妹殿と私ならこうするであろう進路を辿って合流を目指す。従姉妹殿もまたその一点を目指して、必ず追及してきてくれると信じて……。
 見事なぐらいに一から十まで従姉妹殿に頼った方法だったが、これ以外に有望な方法が思いつかなかったのも確かではある。
 ともかく結果として、私たち二人は従姉妹殿に急を報せて迎えを頼みながら、それでいて小鬼たちをギリギリまで振り切って時間と距離を稼いだ。あとの結果はご覧の通り。
 結果だけ見れば成功である。……結果だけ見れば。
「いやはや……しかし、さすがにこれは懲りました。二度とやりたくはありませんな」
「う……うむ。皆、危ないところだった」
「ふむ、ふむ。……まあ……いいでしょう」
328副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:52:15 ID:ow17S9s7
 反省してみせる私たちは、それなりに堪えたように見えたらしい。ライナ軍曹は少し意地悪そうに、満足そうな笑みを浮かべると、急にハンナの方を向いた。
「じゃあ、そういうことで。いいね、ハンナ?」
「えっ……?」
 目を瞬かせて戸惑う娘に、母は笑みを消して言いつけた。
「上官の命令への服従は絶対だけれど、もし上官殿が無茶な命令を出されたときは……それをお諫めするのもまた、部下の務めだ。いいね?」
「母さん……」
「……ま。こんな話、まだまだぺーぺーのあんたにゃ十年早いんだけどね」
 それからライナ軍曹は私に向かって、年甲斐もなく、ぺろりと小さく舌を出してみせた。こういうときの彼女は、本当に同年代の少女のように見えてしまうから恐ろしい。
「さあて。それじゃあ早いところ、帰って本隊に合流するとしますか――待たせてるのが大勢居ますからね」



「……ねえ。母さん……」
「ん?」
 騎士フレアと徒下のユアンの二人を後方に置き、ライナとハンナの二人が前衛となって輜重隊と威力偵察隊の進路へと向かう、道なき道の道中。
 呼ばれて振り向いたライナに、ハンナは胸の前に手をやりながら、問うた。
「私の父さん……どんな人だった?」
「へっ?」
 突拍子もない質問に、さすがの女軍曹も戸惑いの表情を浮かべる。思わず意図を探るように、娘の全身を凝視した。
 しかし次の瞬間には、何か察することでもあったのか――ライナは娘を包み込む、暖かな母のまなざしで微笑んでいた。
「――イイ男だったよ。あんたが欲しくなるぐらいね。……ハンナ?」
「そっか……ううん。何でもない……」
 母の後ろについて、ハンナは再び城を目指す。一度だけ振り向いて、肩越しに二人の若き騎士の姿を見つめた。
 決して入り込めないほど、強い絆を見せつけられた二人の姿を。
「負けるもんか……。いつか必ず、私を認めてもらうんだ」
 ハンナは誰にも聞こえない小声で、しかし力強く呟くと、その口許を引き締めた。
329 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:52:55 ID:ow17S9s7
 以上です。前回は感想ありがとうございました。
 少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
330名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 20:16:12 ID:YuPsa1jj
お久しぶりでGJ!
これは……親子丼で親子孕ませですか?
331名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 23:00:10 ID:3zJlriY0
GJ!!

待ってました
なんか従姉妹殿との関係が、その後どうなるのか考えると
もう、ドキワクですよ

続きも気長に待っています

332Princess of Dark Snake 5:2008/01/13(日) 00:32:51 ID:dHpvDTM9
第六話後編です。
今回の話は、

・長くなる。
・属性拒絶反応があるの人には注意が必要。
・でも今後の展開の為に、コリーナとファルハードの話は読んでおいて欲しかった。

という理由で前後編に分けました。

※WARNING※

本作には特定の属性が嫌いな方にとって
有害な描写が含まれている可能性があります。

少々のことなら平気という方は、このまま蛇姫様の第六作目後半をお楽しみ下さい。

しかし僅かな記述でも気分を害されるという方は、
リアルタイムで読まず先に末尾に書いた注意を確認の上で
スルーするか否か検討する事をお奨めします。
333名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 02:33:57 ID:yyFbLkpb
二時間経過……規制に巻き込まれました?
334名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 07:59:19 ID:bjD1mIKf
そもそも何の属性なのか書いてくれないと検討できない…
335Princess of Dark Snake 6:2008/01/13(日) 08:06:18 ID:dHpvDTM9
投下が遅れて申し訳ありません。
連投ルールを犯しているわけでもないのですが、
突然書き込めなくなりました。
これから再投下してみます。
336名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 08:37:37 ID:SN8a7ZjK
そしてまた、規制(?)かw
結局、何の属性だったんだろう
337名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 08:51:32 ID:pNVH4nRi
アッー!で無い事を祈る
338Princess of Dark Snake 6:2008/01/13(日) 09:11:01 ID:dHpvDTM9
婚儀の誓いを済ませ、コリーナ皇女は第三王子宮に入っていた。
南国の赤い太陽は沈み、涼しい風が窓から入り込んで来る。
だが、この国はルームの地とは空気まで違う。
人も、建物も、植物も、全てが生まれ育った土地とは違う。
それでも彼女は嫁いできた。
彼女は今、自分を悪魔のような巨竜から救い出してくれた愛しい殿方を待っている。
一目で恋に落ちた、絵物語に語られる勇者のように精悍で凛々しいあの若き騎士を、
妻になるなら彼以外に無いと、心に定めた貴公子を待っている。
待つうちに、かすかに肌が震えた。
それは風の冷たさの所為ではなく、新床の儀を迎えようとする乙女の不安のためであった。

「コリーナ姫」

不意に、部屋の中から己を呼ぶ声が聞こえた。
その声は忘れもしない、あの山で自分を救い出してくれたあの騎士の物だった。

「ファルハード様?」
「取次ぎも通さずに、驚かせてしまったかな?」
「いえ、そんな事は……」

男の声が部屋の柱の影から聞こえてくるものの、皇女の坐る位置からは王子の姿は見えていない。
部屋の外には、母国から連れてきた侍女や娘子兵が居るはずだが、
彼女の夫はそれらを通さずに、まるで抜け道でも使ったかの如くこの部屋を訪れた。

「パルティアはお国のルームとは気候も何も異なるゆえ、身も心もさぞ疲れたことだろう」
「あ……、お心遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。
 ファルハード様と一緒になれると思えば、そんな事全然平気です!」
「フフ、嬉しい事を言ってくれる…… だが、姫──」
「どうか、もう婚儀の誓いを済ませたのですから、私のことはコリーナと名前で呼んで下さい」
「──コリーナ、」
「はい、ファルハード様」

名前で呼ばれ、皇女は莞爾と微笑んだ。
まだ少女の雰囲気が抜け切らぬコリーナであるが、花のほころぶようなその笑顔には
誰しもが愛しい気持ちを抱くであろう。
339Princess of Dark Snake 6:2008/01/13(日) 09:12:04 ID:dHpvDTM9
「この国は君たちの国とは習慣やしきたりが違う。
 特に王族の婚姻ともなれば、色々ややこしい習わしがあるのだ……
 悪いが、少しの間目を瞑っていて貰えるかな」
「?」

首をかしげるコリーナであったが、夫になるべき者の言葉に素直に従い、その瞼を閉じた。

「閉じましたよ?」
「うむ、私が良いと言うまで、目を開いてはいけないよ」
「はい、分かりました」

柱の影から、かすかに人の気配が動くのが感じられたが、皇女は約束どおり瞼を開かなかった。
その気配がそっと自分の隣に近付くと、彼女の顔に何やら布地が当てられたのが判った。

「あ……?」
「もう目を開けていい…… と言っても、その目隠しでは周りが見えないだろうが」

厚く重ねられた絹布で視界を覆われ、彼女には目の前に居るはずの新郎の姿さえ見えない。

「これはパルティアのしきたりだ。
 王族の婚姻では、新床で妻は夫の姿を見てはいけない事になっている」
「そうなんですか?」
「もう一つ、新婦は新床での出来事を誰にも喋ってはいけない。
 例えコリーナの侍女や乳母であっても話さないように。無論、話してはいけない事も秘密だ。
 もし誰かに教えたりしたら、婚儀は無効とされる」
「は、はい……」

ずいぶんと変わったしきたりだと、コリーナは思った。
あらかじめパルティアの習俗については宮廷の博士や侍女から聞いてはいたものの、
こんなしきたりは初めてだった。
しかし、そうして人に話さない習慣だからこそ、
乳母たちも自分に教える事が出来なかったのだろうと、自分を納得させた。

「フフッ、怖いかい?」
「……」

目隠しをされたまま、彼女は首を横に振った。
その肩に、男の手がそっと乗せられる。
周りが見えない分だけ、その仕草はなおさら優しく感じられた。
340Princess of Dark Snake 6:2008/01/13(日) 09:13:09 ID:dHpvDTM9
「安心して、我に全てを委ねていればいい」
「ファルハード様……」

皇女の唇に、男はゆっくりと唇を重ねる。
触れ合った瞬間、僅かに皇女は身を震えさせたが、そのまま男の行為を受け入れた。
互いに馴れ合った恋人同士の啜りあうような口付けではなく、
相手に自分の温もりを教えるかの如き優しい接吻。
抱いた皇女の肩から固さが抜けるまで、男はそのまま口付けを続けていた。

「ぁ……ふぁぅ」
「そろそろ目隠しに慣れてきたかな?」
「はい、ファルハード様……」
「我もこんな慣わしは愚かしいと思うのだがな。
 古くから謂れのある慣習なので、我にも如何ともしがたいのだよ」
「昔からなのですか?」
「その通り。
 折角だから、この目隠しの由来も教えてあげよう──

 ずっと昔、パルティアにあまり顔立ちのよろしくない王がいた。
 彼は治世の術に優れ、軍は精強、民は勤勉。
 その威光は遠く海を隔てた国々まで届くほどだったと言う。
 しかし、彼の顔が余りに醜いので、なかなか縁談に応じてくれる姫君がいなかった。
 だけれども、ようやく彼の顔の事を知らない国から姫君を連れてきて、
 なんとか婚姻の儀を行う事が出来たそうだ。
 さて、そうして迎えた花嫁がヴェールを取って、夫の顔を見た瞬間……」
「見た瞬間?」
「夫の余りの醜さに、花嫁は泣き叫びつつ窓から逃げてしまった。
 花嫁に逃げられた王様は、恥ずかしくて二度と妻を娶ろうとしなかったそうだ。
 それ以降、パルティアの王族は初夜の儀が済んで、花嫁が逃げ帰れなくなるまでは、
 新妻に顔を見せてはいけないということになったのだよ」
「うふふふ、面白いお話ですね」

その小さな手を口に当て、コリーナは笑った。
自分の緊張を解そうと、王子が面白い話を聞かせてくれているのだという事が、彼女にも判った。
341Princess of Dark Snake 6:2008/01/13(日) 09:14:25 ID:dHpvDTM9
「そういうことなら、目隠しも仕方ありませんね」
「我も馬鹿らしいとは思うのだがな。
 第一、もうコリーナは我の顔を見知っている訳だし」
「でも、ルームにだって色々慣わしやしきたりがありますもの。
 こうしてパルティアに嫁いできた以上、こちらの習慣に従います」
「いい子だ、コリーナ…… ちゅっ」
「んっ……」

改めて、コリーナは頬に口付けを受けた。
男がいつ何をするのか、視界を塞いだままでは判らない。
まるで、子供の時遊んだ目隠し鬼をしているかのようだ。

「ルームでは、男女が一つの寝床で何をするのか、嫁に行く娘に教えているか?」
「え……! そ、それは……」
「それは?」
「一応、ばあやに聞いています…… けど……
 そっ…… その、詳しい手順などは、夫となる方に従っていれば良いからと……」
「フフフッ」

顔を下に向けて、恥ずかしそうにコリーナは言った。
その身体を抱き締めるように、男は手を彼女の背に回す。

「あっ、ファルハード様……」

不意に抱き締められて、コリーナは思わず身を強張らせる。
彼の腕に抱かれるのは、あの山から助け出された時以来だ。
花婿衣装の所為だろうか?
甲冑を着込んでいたあの時に比べると、今の彼の抱擁はとても柔らかく、優しい。
平たい胸板に顔を埋めていると、心に甘い喜びがとめどなく溢れてくる。
今宵、彼女は愛する殿方の妻になるのだ。
342Princess of Dark Snake 6:2008/01/13(日) 09:15:29 ID:dHpvDTM9
そんな新妻の身体を抱きつつ、一方の手で婚姻用に結い上げられたコリーナの艶やかな髪を、
男の手は優しく撫でる。
そして、彼女の耳元でそっと囁いた。

「では、寝台へ行こうか」
「はい……」

小柄な身体を両腕で抱き上げ、男は初夜の儀を迎えるために整えられた寝台へ花嫁を運ぶ。
最上の綿を純白の絹布で包み、気高い香を放つ花びらを敷き詰めた新婚用のベッドに、
ゆっくりとコリーナの身は降ろされた。
柔らかい寝具に沈んだ花嫁の唇に、もう一度男はキスを与える。

「ぅんっ……」

今度の口付けは、先程よりもほんの少しだけ深かった。
その行為にようやく慣れたのか、もうそれでコリーナの身体が震えることは無かった。
唇と唇が重なり合い、小さく蠢く。
男の口が離れた時、二人の唇の間をほんの僅かに唾液の糸が繋いだ。

「では、コリーナ? 我はこれから君が泣いても国に逃げ戻れなくするのだが、
 心の準備は出来ているかな?」
「で、出来ています……」
「そうか」

花嫁の衣装の帯へ、男の手がかかった。
しゅるしゅるという衣擦れの音が、目隠しをしたコリーナにも聞こえた。
身体を閉めつけていた衣服が緩められると、皇女は目隠しの奥で瞳をきつく閉じた。
蠢く指が手際良く自分を裸にしていく事に、彼女の頬が紅色に染まる。

「恥ずかしいかい?」
「……少し」
「恥ずかしがる必要は無いのだぞ。もう夫婦の誓いを交わしたのだから」
「はい、ファルハード様…… でも」
「でも?」
「その、殿方に…… 肌を見せるのは、はっ初めてなので……」
343Princess of Dark Snake 6:2008/01/13(日) 09:16:37 ID:dHpvDTM9
下穿きだけになったコリーナ姫の、その無垢な戸惑いの様子を愛でながら、
男は己の帯も緩め、しなやかな肉体を晒す。
そして、花嫁のまだ育ちきっていない乳房に掌を乗せると、確かめるように軽く揉んだ。
可愛らしい喘ぎ声が、皇女の口から漏れる。
今宵の事は、全てが初めての体験であった。
胸に置かれた手の平の感触に、彼女は男女の閨事を実感した。
やわやわと、新妻の乳房を揉む手は止まらぬまま、続いてコリーナの首に男の熱い吐息がかかる。
視界を失っている皇女にとって、声と肌に感じる温もりだけが頼りだ。
彼女には、相手が何処に何をしようとしているかさえ知るすべが無い。

「はぅぅ……」

柔らかい肉が、首筋の肌を啄ばんだ。
こそばゆいような口付けに、コリーナは堪らず声を上げた。
音を立てて、男の唇は花嫁の穢れ無き肌を吸い、跡を付けてゆく。
下着をはだけて露になった首筋から、小さな鎖骨を経てその下へ。
皇女の双丘の裾野を唇が侵した瞬間、彼女の手は絹のシーツを握り締めた。

「ファ、ファルハード様ぁ……」

理由もなく、コリーナは夫の名前を呼んだ。
目で見えぬ相手の存在を、言葉で感じようとしたのかもしれない。
男は、彼女の胸乳の上にささやかに膨らんだ乳首に甘噛みを加えることで、花嫁の声に応える。

「ぁん!?」
「痛かったか?」
「いっ、いえ…… 吃驚しただけです」

胸への愛撫に、コリーナは健気に耐えた。
だが、肌を苛む口付けは痛みこそないが、彼女の羞恥心を甘く責め立てる。
そして、彼女の意識が乳房に向いている隙に、男の手は彼女の下半身へ進んでいた。
手は下穿きの中へ潜り、太腿と太腿の間に差し入れられる。
そこは、物心付いてから誰にも触らせた事のない乙女の秘め所であった。
何をされているのか、目隠しをしていても判った。
頭では理解していたものの、それは実に衝撃的な事であった。
皇女は今、他人に自分の性器を触られているのだ。
しかも、これはこれからの行為のための下準備でしかない。
344Princess of Dark Snake 6:2008/01/13(日) 09:17:42 ID:dHpvDTM9
脚を閉じようとするコリーナの抵抗を無視して、男はそこから手を離さない。
繊毛に覆われた秘所の鳥羽口をほぐす様に指が蠢く度、
未だかって味わった事の無いわななきが生まれてくる。

「ひゃわぅぅ!?」

下穿きの奥で、秘裂の頂にある核に指がかかった瞬間、小さな叫びが上がった。
驚きに跳ね上がりそうになった身体を押さえ込み、
はしたない声を出しそうになった自分に恥じ入りながら、コリーナの頬は赤く染まった。

「ぁぅ……恥ずかしいです」

ゆっくりと、捏ねるように陰裂を撫で回す指戯の巧みさに弄ばれる。
次第に皇女の肉体はその行為に慣れつつあった。
そして動揺が収まれば、指のもたらす感触に陶然となりそうになる。
心のどこかで、もっと強い刺激を欲している事に気付き、
それを相手に悟られまいと、彼女はそっと歯を噛み締めた。

そんな中、不意に指が股間から離れた。
目隠しをしているコリーナには、男がどんな行動を取っているのかは把握できない。
だが、彼女にも、ベッドが軋み、クッションが傾く感触から、
男が自分の下半身の方に座る位置を直した事は判った。

「あっ!」

太腿に突如として感じた熱に、コリーナは思わず声を上げる。
男の股間の肉が、彼女の内腿に当たったのだ。

「大丈夫か?」
「おっ、お気遣いなく! 聞いていたよりも熱かったので、驚いてしまっただけです。
 ……本当にそれだけですからっ」

花嫁は新床で泣き叫んではいけないと、コリーナは教えられていたのであろう。
必死に怯えを隠し、気丈に振舞おうとする新妻の頬に、男は優しく口付けした。

「チュッ」
「あ……」
「フフフッ、コリーナは可愛いな」

男はコリーナの腰を持ち上げ、彼女の纏っていた最後の布地を剥ぎ取る。
そして、花嫁の雪のように白い裸体に、己の身体を重ねた。
345Princess of Dark Snake 6:2008/01/13(日) 09:19:17 ID:dHpvDTM9
「力を抜いているように」
「はっ、はい!」

先程腿に当たった熱い肉槐が、股間に宛がわれるのを感じると、
言葉とは裏腹にコリーナの身体は固く強張った。
しかし、最早男の身体は留まろうとはしなかった。

『はうぅぅ!』

身体の一部が千切られる痛み。
それは、彼女が乙女の純潔を捨て、愛しい人の物になった証である。
目隠しの奥で眦をきつく閉じ、唇を噛み締めて、コリーナは泣き叫びそうになるのを堪えた。
ゆっくりと、男は腰を進めていく。
こなれていない秘道は、固い肉塊をもってしても一息に穿ち抜けるものではなかった。
あるいは、必死に耐える花嫁の身体を慮って、あえて急ごうとしなかったのか。
だが、時間を掛けつつも男根は確実にコリーナの中へと入っていく。
初めて異物の侵入を受け入れる彼女には、それがどれほど中に入り込むものなのか想像も出来ない。

「ふぁ、ファルハードさまぁ……」
「痛いか? コリーナ」
「い、痛いですけど、我慢できます。だって、これで私はファルハード様の妻になったのだもの……」
「……では、もう少しだけ我慢してくれ」

破瓜の痛みに耐える新妻を励ますように、男はコリーナにキスをした。
そして、今までよりも強く性器を突き立てた。
コリーナは、抱き締めるように相手の背に両手を回し、その装束をきつく握り締めた。
見えぬ代わりに、そうやって花婿の存在を確かめようと、
渾身の力を込めて彼女は抱き締める。
正面から抱き合うようにして、二人は身体を重ねる。
そして、小さな叫び声がコリーナの唇から漏れた。
もはや彼女の身体では、それ以上深く受け入れることが出来ぬ所まで、
男の肉塊は貫き通していた。
346Princess of Dark Snake 6:2008/01/13(日) 09:20:38 ID:dHpvDTM9
「よく耐えたな。しかし、聞いてはいるだろうが、男女の交わりというものはこれで終わりではない」
「は……い」

コリーナは頷く。
装束を握る指に、一層力が篭った。
彼女の決意を感じ取り、そっと男は身体を動かし始めた。

「ぅ……」

開かれたばかりの女陰が、まだ性の悦楽を味えるほどに成熟している筈が無い。
むしろ、引き裂かれ、押し広げられた痛みに気が遠くなりそうであった。
それでも、コリーナは耐える。
次第に、男の動きは強く激しくなっていったが、彼女はその痛みに必死に耐えた。
肉を肉が弾く小気味よい音が鳴る。
さらに固く、皇女は男の装束を握り締める──
そのか細い腕で、少しでも夫の身体を抱き寄せようとするかの如く。

破瓜の血が男の性器に塗れ、それが潤滑油となって動作を滑らかにする。
一層強く、大きく腰が振られ、花嫁の膣内を衝く。
これまで懸命に耐えてきたコリーナであったが、彼女の肉体にとうとう限界が訪れようとしていた。
時を同じくして、男にも限界が近付いていた。

「うっ……」
「あっ、ああぁんっ!!」

胎の奥で熱い体液が迸るのと、堪えきれずに意識が遠のくのがほぼ同時であった。
コリーナは愛する人と結ばれた至福の悦びを感じつつ、
そのまま引き込まれるように眠りに落ちていった。


・・・・・・・・・

347Princess of Dark Snake 6:2008/01/13(日) 09:21:38 ID:dHpvDTM9
「──コリーナ姫?」
「あ……」

耳元で囁く声に、コリーナはまどろみから目覚めた。
瞼を開けると、そこには愛しい王子が微笑みを浮かべて自分を見つめていた。
眠っている間に目隠しは外されていたらしい。

「ファルハード様?」
「婚姻の儀式が長引いて、疲れていたのか? 気持ち良さそうに眠っていたぞ」
「あっ! 申し訳ございませんっ。こんな時に寝入ってしまうなんて……」
「構わない。同じように我も疲れた」
「あれ?」

ふと気が付けば、いつの間にかコリーナは装束を着直していた。
下穿きまで脱いでいたはずなのに、今は新郎が訪れる前の衣装をきちんと纏っている。
目の前に居る花婿も、衣装を直してベッドに腰を掛けていた。

「ファルハード様も、お召し変えなさったのですね」
「ん? ああ、流石にあのような装束で床入りする訳にはいかないからな」

花嫁の言葉を、ファルハードは儀式の間に着ていた過剰に豪奢な花婿衣装の事だと思ったが、
コリーナの言いたかった意味とは少々異なる。
彼女が言いたかった事は、先程自分が握り締め、
装束を皺だらけにしたのを恥じ入っての事である。

ファルハードの手が、新妻の頭を撫でた。
竜すら屠る戦鎚を振るう、力強く逞しい指だが、花嫁に触る仕草は非常に優しい。

「侍女は起こそうかと言っていたが、姫の寝顔を見てみたいと思ってな。
 直接部屋に入らせて貰った」
「うぅ…… お見苦しい所をお見せしまして……」

顔を赤らめるコリーナに、ファルハードは顔を寄せる。
唇と唇が触れ合ったが、王子は軽く触れ合うだけに止め、花嫁の様子を伺った。
348Princess of Dark Snake 6:2008/01/13(日) 09:23:08 ID:dHpvDTM9
「はう…… やっぱり、こうして見詰め合ってして頂くのが一番嬉しいです」
「?、そうか」

コリーナにとっては、相手の姿を確かめながらする始めてのキスであった。
陶然と微笑む花嫁を、ファルハードはそっと抱き締める。
その熱い胸元に、コリーナは身を預けた。
目隠しをしていないからか、男の逞しさが先程よりもはっきりと感じ取れる。

「コリーナ姫……」

王子の指が、新妻の髪をそっと撫でた。
その仕草は、肌を重ねる前と変わらない。
彼女の耳元で、ファルハードはそっと囁いた。

「そろそろ儀式ではなく、本当の夫婦の契りを交わそうか」
「はい、でも、ファルハード様?」
「何か?」
「二度目の時は、もう目隠しをしなくてもよろしいのですか?」

その問いの意味が、ファルハードには判らなかった。
さっきから、何やら二人の会話が噛み合わない。
だが、彼がふと寝台の上に目をやると、抜け落ちた一本の髪の毛が視界に入る。
艶やかなその髪は、色も質感もコリーナ姫の物とは違う。
彼は、それの持主に心当たりがあった。
否、糸屑一本さえ残さずに整えられていたはずの初夜の新床に忍び入り、
髪の毛を残して去れる人物には、一人しか心当たりが無い。
改めて真白なシーツを見れば、そこには明らかな鮮血の染みがあった。
全ての不審が、この一本の長い髪で繋がった。

「ファルハード様?」
「姫、済まぬがやり残した事があって、我は一度戻らねばならない。
 もう少しだけここで待っていて呉れるか?」
「?、はい。何時まででもお待ちしておりますけど……」
「うむ、直ぐ戻る」

そう言い残して、どこか引き攣った笑いを浮かべつつ振り向くと、
ファルハードは早足で二人の新床を後にする。
内心、パルティア王族の婚姻は色々ややこしいのねと首を傾げつつ、
それでも幸せそうな表情で送り出すコリーナであった。

・・・・・・・・・
349Princess of Dark Snake 6:2008/01/13(日) 09:24:15 ID:dHpvDTM9
怒声が第三王子宮に轟く。

「シャフルナーズ! 出て来いっ!! 居るのは判っているのだぞ!? シャフルナーズ!!?」

祝宴の夜に浮かれる後宮の屋根の上。
老いた小鬼とともにそこへ立つのは、見目麗しき美青年。
誰の目にも写らぬ王宮の死角に潜む彼らであったが、
細身のその姿形は、例え王都広しと言えども累を見ない秀麗さである。
身なりはまるで神々しき糸杉、顔立ちは白玉を名工が入魂の技で彫り抜かいたかの如く、
女たちを一目で虜にしそうな美男子であった。
長く美しい髪を風にたなびかせ、彼は咆える新郎の声を屋根の上で聞いていた。

「愛しの君が、ひい様を呼んでおるが?」
「ハハハッ……爺や、例え恋人同士でも、顔を合わせない方が良い時があるのだよ」
「確かに、あの調子では顔を出した瞬間戦鎚で撃ち殺されそうじゃわい。
 ひい様は、次にどの面下げてあ奴に会うお積りかの?」
「心配は無用。どうせあの方の事だから、直にとてつもない事件や難事に巻き込まれるに決まってる。
 その時お助けするついでに、今回の件も詫びを入れれば良いさ」
「奴もそう簡単に許すかの? なにせ新床の花嫁を寝取ったのじゃもの」
「孕む訳でも無し、そこまでお怒りになるとは限らぬだろうが……
 容易い事ではお許し頂けぬとしたら、再びこの国を揺るがす大事件が起きてもらわねば困るかもな」
「ぺっ、難事が起きなければ、御身様はご自分で奴を大難へ突き落とす腹積もりじゃろ」
「フッ……」

毒づく小鬼の言を、美青年は否定しなかった。
その代わりに彼は、まるでシンド国の身体苦行者の如く身体をよじり、ねじり、ひねり始める。
人の骨格では通常成し得ない程に大きく関節を折り曲げ、かつ筋骨を蠢かす。
350Princess of Dark Snake 6:2008/01/13(日) 09:26:05 ID:dHpvDTM9
「ふっ……んっ」

するとどうだろう。
次第に体格も肉付きもそれまでとは別の形へ変わっていくではないか。
ポキポキと関節が鳴る音に合わせる様に、引っ張られ、寄り合わされて、
あるべきであった所に無かった肉、ありうべからざる所にあった肉が、
見る見るうちに移動していく。
たおやかな肩、引き締まりくびれた胴回り、丸みを帯びた臀部、そしてふくよかな乳房。
雄豹の如くであった青年の肉体は、奇怪な運動とともに変形を遂げ、
先程まで存在した筋肉の逞しさは、今や何処にもない。
服の下に隠れて見えない部分も、本来の形を取り戻していた。
仕上げに首筋に掌を当て、喉仏の膨らみを押し込む。

「ゔん゙…、んー……、あー、あー、おー……」

第三王子の声色に似せるてあった喉の調子を確かめ、いつもの声に戻す。
全てが終わってみれば、そこに残ったのは男装をした絶世の美女の姿だった。

「変化の技は魔族の基本とは言うが…… 変成男子の術、お見事じゃ」
「おほほほほ、小さい頃からお前たちに厳しく教え込まれたものね」
「御身のご性根を厳しゅう撓めて差し上げなんだは、儂が一生の痛恨事じゃがな」
「うふふ、のびのび育てて貰って、本当に感謝していてよ」
「じゃが、先には女楽師に化けて兄を陥れ、今宵は弟に化けて嫁を誑かすとは、
 古今稀に見る悪行ぶりじゃ。蛇王さえ御身の非道には感心するわえ」
「おほほ。何のこれしき、朝飯前にもならないわ。
 むしろ義兄上の時と似たような手管を使ってしまい、我ながら恥ずかしい位よ」
「ひぃえっ! これで朝飯前なら、本気になられたらどんな災悪をもたらす事やら、
 妖魔の身ながら身が震えるわい」
「あらあら気の弱い事、爺も歳を取ったわねえ。
 それに、予めファルハードさまは借りは後で返すと言ってくださっていたでしょうに?
 私は只それを取り立てただけの事よ。おおっほっほっほほほほほーーー!」

夜の王宮で高らかに女は哄笑する。
しかし、宴の参加者たちの喧騒に掻き消されて、ファルハードの耳に入る事は無かった。
この後、第三王子ファルハードは父王アルダシールより正式に王太子に冊立される。


(終わり)
351投下完了:2008/01/13(日) 09:29:26 ID:dHpvDTM9

※※※NTR(寧ろNTか)、TSに拒絶反応をお持ちの方は読むのを控えて下さい!※※※


タネが判ってしまうので前書きでは明かしませんでしたが、
こういう捻った話を書くのが好きなのでご容赦を。


それにしても、目隠し新妻初夜寝取り処女詐取変性男子とは、
我ながら奇怪な話を作るものです。
エロパロ板でエロよりネタの捻りを重視してどうするんだよと、時々自分を叱咤するのですがね。

あと、書き込めない原因は文章の頭に空行があると送信できても書き込めないという新ルールのためでした。
お騒がせしました。
352名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 19:44:59 ID:B2DuLFUu
>副長の日々
母子丼キター。熟女と未熟な少女の穴に子種を注いでしまった副長。
個人的には両方とも芽吹いてしまい、副長があたふたするのを見てみたいですね。


>Princess of Dark Snake 6

いやいや、こうやって趣向を凝らしたエロSSは物凄く得難いと思います。
そして王子様を本気で怒らせてしまったお姫様。
本当に厄介な人に惚れられましたねぇ……過労と減精で早死にしなきゃいいんですが。


353名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 20:57:38 ID:c4S28AHR
GJ!

蛇姫様が寝取ったはずなのに、
清楚可憐なお姫様に王子を寝取られた気がして複雑な気分ですw
何この気持ちwwww
354名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 21:36:17 ID:KlCp3YRP
GJ!!!
ひねったネタも好物。
デキがよければなおの事。
355名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 08:03:08 ID:+8CBUMFq
蛇姫キテター

これはコリーナ姫が事実を知ったら自殺モノですね
というか今回は正直王子の一線を越えてしまったような気がしてならないw
そろそろ王子も踊らされるだけではない英雄っぷりも見せてほしいトコロ
356名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 11:07:33 ID:W6JbCd/3
叔父竜斃して皇女と結婚した辺りは蛇姫の予想を超えた英雄っぷりを見せたじゃないか
問題はその後なんだがまぁ蛇姫様が一枚上手だったと言うわけでwww
357名無しさん@ピンキー:2008/01/16(水) 05:01:13 ID:/OMWe7Z4
NTRはぐぐってわかったけどあとの二つはわからなかった
世の中にはいろいろな言葉があるのだと知った〇歳の冬

コリーナ姫の逆襲もみてみたいが蛇姫様は無敵すぎるか
王子もなんだいってまだコドモコドモした姫より
蛇姫様の方が刺激的で魅力溢れることを自覚したりして
それじゃ姫は単なる当て馬になってしまうかw
358名無しさん@ピンキー:2008/01/16(水) 13:22:18 ID:B/2nfeWv
NTは寝取り、TSはトランスセクシャル=性転換じゃね?
359名無しさん@ピンキー:2008/01/16(水) 23:07:10 ID:D0R2yJuJ
しかし正直なところ王子は蛇姫様やコリーナ姫をどう思っているのだろう
360名無しさん@ピンキー:2008/01/17(木) 01:22:39 ID:9m8EHCIY
>>355
俺としては、英雄ぶりより自省を見せて欲しいというか
もっと思い知って欲しいな。

まだ彼は、自分が無能だと真に自覚して無い。
彼女の掌の上でどれだけ踊ったのかも気づけない、無知で無能な人間。
例えドラゴンを倒せても、シャフルナーズの力添えが無ければ
兄たちの策略でとうに失脚してしまうほど、政や権謀の力は乏しい。
そんなんで一国の王の資格があるのか、ということ。

もっとも、これはそんなまじめな話じゃないけどw
シャフルナーズ応援の俺としては、王子の態度は気に入らん。
万能な人間なんていない、偉大な王は自分だけでできないのを知っている。
だから自分だけで事を成せないから、優秀な部下や味方が必ず居るわけで。
どう考えてもファルハードに欠けたピースにはまる一等はシャフルナーズだぞと
小一時間したい気持ちだ。
(でも、コリーナにはシャフルナーズと互角以上に渡り合って欲しかったり)
361名無しさん@ピンキー:2008/01/17(木) 09:58:21 ID:gcJUlyCy
勘違いしている奴があまりに多いのでいわせてもらう。ファルハード様は孤高。突然スマン。
だがもう我慢ならねえ。ファルハード様、しかも中古に乗ってまだ3年の俺だが、いわずにはいられなかった。

ちょっと忍びに行った荒野や王宮で、よく「ファルハード様いいっすねえ」などといわれる。
俺のは中古だしノーマルだし、別にそうでもないっしょ。でもなんかいわれる頻度が高い。
なんでよ?謎だった。

しかし、この間気付いた。声をかけてくる奴はほぼ100%カイクバードに乗ってるんだよ。
ファルハード様や開祖ジャムシードじゃない。その他のカイクバードな。バハラームとかアタセルクスとか。
ひでえ奴になるとラルゴンとかクルガンとか。あえて「その他のカイクバード」と呼ばせてもらう。

そいつらの「ファルハード様いいっすねえ」の中には「同じカイクバード乗りの仲間ですね」ってニュアンスを感じる
ことに気付いたんだよ。冗談じゃねえって。仲間じゃねえよ。
「俺の男の血筋はファルハード様とつながってるんだぜ」みたいなオーラも感じる。つながってねーよ。
完璧に気のせいだ。ふざけんな。

ファルハード様と他を比べてどっちがいいかなんてことはいうつもりはない。ファルハード様に乗ってる奴はそんなことは
いわない。グルドフに乗ってる奴もそうだろう。タイロンやサクラ乗りでも同じだ。魔王、副長乗りだってそうだろう。
その男が好きで乗ってる奴は他を認めつつも他を羨まない。自分の選択に自信を持ってる。
「その他のカイクバード」に乗ってる奴はそうじゃない。ファルハード様やカイクバードの栄光につかりながら「その他」に乗ってる。きもち悪い。一番手に負えないのが「その他」のアタセルクスに乗ってる奴らだよ。
カイクバードってだけでファルハード様と同列だと思ってる。いや、信じてる。心の底まで信じきってる。
ありえねえ。同列なわけねえだろ。いっしょにするな。死ね。

誤解のないように言っておくが、コリーナ姫には敬意を表してる。コリーナ姫は「その他のカイクバード」乗り
とは違う。ファルハード様の正妻だ。でも寝取らせてもらった。

もう一度いうが、ファルハード様は孤高。
その他のカイクバードとは違うこと、そして明確に区別されるべき存在であることを忘れるな。
362名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 19:38:36 ID:xZnOjSox
カオスな流れだ。

>>360
でも己の弱さを認めつつ周囲の力を借りて…じゃあ、劣化アルスラーンにしかなれないわけで。
単騎で敵将を討ち取れるほどの剛勇で、ドラゴンにだって勝てるけれど、
戦の後に荒野で美女を手篭めにしたら、とんでもない毒蛇でした!ファルハード様、不幸!のほうが
キャラが立って良いんじゃないかと。
363名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 20:22:08 ID:e6jzIrM4
>>362
手篭めにされたんじゃ?
364名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 20:38:44 ID:cV2W4/5Q
てっきり若きアンドラゴラス王が軍師タハミーネ(とは全然キャラ違うな)
と痴話げんかしながら一大帝国を築き上げる話だとばかり……。
つか王子様の脇が甘くないと話が盛り上がらないよね。
365名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 21:12:39 ID:8XyP5q6o
アリューシアが待ち遠しい…
366名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 23:05:59 ID:RUf+alWL
おれは副長の日々が待ち遠しい・・・
367名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 23:38:42 ID:2V3WR9QM
待て、しかして希望せよ。

ところで、今このスレで連載してるSSって
以下の通りでいい?

・アリューシア
・ルナ
・アビゲイル
・副長
・魔王
・シャフルナーズ
368名無しさん@ピンキー:2008/01/24(木) 00:00:17 ID:8XyP5q6o
いいと思う。
369名無しさん@ピンキー:2008/01/24(木) 09:33:42 ID:SSri9i98
ところでどうでもいい話だが、魔王でさ、
女騎士アデラと魔導師の旧友マリガンが久方ぶりに再会する話があったよな。
あれはなぜか俺の脳内では、この二人がこたつに入って、
はんてん着ながらみかん食ってる絵になってるんだが。
……こんな日本の冬みたいな話じゃなかったよな。寒かったからか?
370名無しさん@ピンキー:2008/01/24(木) 21:48:53 ID:P27JmpJB
アデラが審問を受けた当時は、魔王の陣地で雪が降ってた。
魔王軍の再侵攻が始まるのは雪解け後。

だからあの出来事は冬季でいいはずなのだが、
コタツで酒をさしつさされつやってるビジョンはさすがに浮かばん。
371名無しさん@ピンキー:2008/01/25(金) 01:11:34 ID:CyI739+C
あとはティラナがこたつ机の上で丸くなってれば完璧だな
372名無しさん@ピンキー:2008/01/25(金) 01:45:31 ID:E2zBZ6FE
そのコタツは戦車が乗っても大丈夫そうだ
373投下準備:2008/01/25(金) 21:04:17 ID:cWKfmG59
捻った話を書きすぎて頭が疲れてきたので、
リハビリを兼ねて今回は直球勝負でビーンボール気味に仕立ててみました。

では、鈍感系とツンデレ系のすれ違いが、一週ぐるっと廻っていいコンビ。
天才魔法少年と幼馴染魔法少女のお話、『バルタヴィールの塔』です。
374バルタヴィールの塔:2008/01/25(金) 21:05:20 ID:cWKfmG59
「バルタヴィール=モードニアス=エル=シルム! 御前に出ませい!」
「はっ!」

名を呼ばれ、僕は白亜の式典の間をゆっくりと進んでゆく。
目の前に立つ魔法王の横に、僕の師匠を含んだ三十人の大導師が揃っている。
彼らはめったに人前に姿を現すことの無い、世界最高かつ最強の魔法使い達だ。
片膝を着いて王の前に畏まると、肩にずしりと杖が乗せられた。
魔法王のよく通る美声が、式典の間に響く。

『グランドマスター・バルディナが門下、
 バルタヴィール=モードニアス=エル=シルム。

 汝が魔道の発展に尽くした多大なる貢献、
 並びに大導師会が授けしクエストを成し遂げた事により、

 今日ここに汝を、三十一人目のグランドマスターに相応しい力を持つ者として正式に認める』

「はいっ!」
「魔法王国の成立以来、十代半ばでのGM位は例が無い。
 だが、慢心せぬよう精進し大魔道を極め尽くす事を、一先達として望むものである」
「誓って諸先人の偉業を継承し、真理の希求に弛むことなく、グランドマスターの名を穢しませぬ」
「ではグランドマスター・バルタヴィール、これよりは己の目で見、足で立て」

肩に掛かった重みが外され、僕は立ち上がる。
この瞬間、僕は魔道の世界で最高の存在である大導師、
八十年ぶりの、新たなグランドマスターになったのだ。


・・・・・・・・・


それからどんな式典が続いたか、周囲からの祝福を受けたかは、
あまり語る必要がないだろう。
嫌がらせのように長いお披露目や挨拶周りを終えて、
僕は書物のインク臭と瓶詰め標本から漏れる薬品臭のする、
我が懐かしき自室にようやく戻ってこれた。

「……グランドマスター・バルタヴィールか」

改めて自分で口に出してみるが、なかなか響きが良いじゃないか。
師匠のも悪くはないけど、僕の方が数倍良いな。
ペンを握ったまま、思わずにやけてしまう。
短かった下積みの時代ももう終わりだ。
これからは自分の研究の為に、自分の全ての時間を使うのだ。
自然にペンを走らせる手も伸びやかになる。
しかし、そうやって気分が乗っている時には、往々にして邪魔が入る。

「ウィル!? 帰ってきたなら一声掛けなさいよっ!」
375バルタヴィールの塔:2008/01/25(金) 21:06:46 ID:cWKfmG59
いきなりドアを開けて入ってきたのは、同門のリシィだった。
本当はアレクシーナという名なのだが、僕らが七歳の年に同時に弟子入りして以来、
互いにウィル、リシィと呼び合う仲だった。
黙っていれば見た目は可愛い女の子なのだが、騒がしいのが欠点だ。
もう少し落ち着いて勉強すれば、遠からず導師になれる位の才能はあるのに。

「リシィ…… 人の部屋に入るときは、ノックぐらいしようよ」
「なーに? 独りでやらしーことでもシてたら恥ずかしいっての」
「いや、デリカシーの問題としてね……」
「あれ? なによ、認定式が終わったばっかりだっていうのに、もう次の研究に入ってるの?」

相変わらずの事だが、人の話を聞いてない。
許可も得ずにずかずかと入り込んだ挙句、机の上に並べた数々の図面を勝手に摘み上げる。

「なにこれ? 魔法建築の論文でも書く気?」
「……違うよ、それは僕がこれから住むことになる塔の設計図さ」
「えっ?」
「僕はグランドマスターになったんだよ。自分の研究施設くらい持つのが当然じゃないか」
「えええっ!?」

何を今更ビックリしているのかと、こっちが聞きたい。
大導師になってからも師匠のところで部屋住みをしているなど、それこそ前代未聞だ。
まあ僕のように、普通はようやく本格的な修行を始めるような若年で
グランドマスターになったケース自体が存在しないのだけど。

「そっ、それって…… ここから出て行くってこと?」
「そうなるよね」

指をパチリと鳴らし、指先から出た火花を設計図の上に落とす。
すると僕の魔力に呼応して、紙の中に描かれた図面が立体に浮かび上がる。

「塔の基礎部分の直径は二百五十歩。第一段階では地上六十階まで建てる計画だけど、
 将来的には百八十階までの増築が可能なように、魔力炉をかなり大きめに設計してあるんだ」
「そんな資金、どっから手に入れたのよ」
「大導師会が出した試験を解くうちにね、自然とそういった類の物は手に入るんだよ」

僕は伊達にグランドマスターになったわけじゃない。
ある時は実験に使うために竜族の卵を盗み、またある時は密林の奥池に生える希少な植物を探し、
地上とその他の世界においてありとあらゆる冒険を達成したからこそ、
大導師会は自分たちに互する力を持つ魔法使いと認定してくれたのだ。
376バルタヴィールの塔:2008/01/25(金) 21:07:26 ID:cWKfmG59
そうした冒険の最中に集まった貴重な宝物は、師匠に預けたり洞窟に隠したりしているが、
一番いいのは手元に置いておくことだ。
そのためにも、僕は独立した自分の住まいが欲しい。
第一、自分の塔を持つというのは、全ての魔法使いにとって普遍のロマンなのだ。
……と思っていたが、リシィは違うのかな。
なんというか、非常に微妙な顔をしている。
少なくとも、僕が塔を持つのを歓迎してくれてはいないようだ。

「無理に出て行かなくっても、お師匠様のこの塔を引き継げば良いじゃないの」
「あのね、リシィ? 引き継ぐって、師匠がお隠れになるまで、あと何百年かかると思ってるの?」
「うぐっ、」

魔法王国建国時のメンバーであり、数え切れぬ程の齢を重ねた偉大なる大導師バルディナが物故するには、
ひょっとしたらあと数千年紀かかるかもしれない。
先達が残した塔や洞窟を、所蔵物ごと引き継ぐというのは無い話でもないけれど、
そもそも僕はそんなに待つ心算はない。

「……いつ、出てくのよ」
「もう場所は決めてあるし、実は内定を貰ったときから建設の準備は始めてあるから、
 明日から荷物を移していこうと思うんだ」
「でもまだ完成してないんでしょ? そんなに急がなくっても」
「いや、僕は自分の手で直接工事を進めるつもりなんだ。
 誰の力も借りずに、文字通りの僕の塔、『タワー・オブ・バルタヴィール』を建てるのさ」
「……」

指をパチリパチリと鳴らして、内装の図面も立体化させる。
机の上は書斎、実験室、動植物園、宝物庫…… いろんな部屋が形になる。
もうじきこれらを幻像ではなく、実体の有る物にするのだ。
リシィと話してるうちに、何だか『塔持ち』になるんだという実感が湧いて来た。
なんだかんだ言って、やっぱリシィと話すのは楽しいな。

「ふっ、ふーんだっ…… 背伸びして豪勢な塔を設計しても、かえって失敗するんじゃないかしら?
 鳴り物入りでグランドマスターになったは良いけれど、塔が崩れちゃったりしたら大恥かくわよ!」
「お生憎さま、そんなミスはありえないよ。僕が天才だって事忘れてるでしょ?」
「ぷんっ、何よこの寝室は? 童貞の癖に天蓋付きのダブルベッドなんて意味ないんじゃないの?」

リシィが指差したのは、僕が寝起きする予定の寝室の立体図面だった。
そりゃ建ててすぐに誰かと同衾するって訳じゃないけれど、ちょっとした事実誤認があるらしい。
377バルタヴィールの塔:2008/01/25(金) 21:08:52 ID:cWKfmG59
「あれ、言ってなかったっけ?」
「?」
「僕もう童貞じゃないんだよ」
「!!?」

その時のリシィの表情といったら、まるで世界が終わったかのような顔だった。
それとも『ドラゴンの胆汁を舐めたみたいな』と言ったら良いのか、
残念ながらこの僕の語学力でさえも、あの顔を言葉で表現するのは難しい。

「いつ…… したのよ」
「去年の今頃かな」
「誰と!?」
「ミグリファーさんと」

僕とリシィより先に入門していた兄弟子の弟子の弟子だから、
二人にとっては姪孫弟子とでも言うべきなんだろうか?
僕達二人に歳も近いし、リシィも彼女とは仲がいい。
面倒見がいい所が特徴で、サラサラの銀髪を後ろで纏めた髪型が素敵な、なかなかの美人さんだ。
おまけに結構おっぱいが大きい。
彼女は自分の師匠が亡くなったのを機に、大導師バルディナの元に身を寄せることになった。
才能は上の中といった所だけど、魔道士特有の奇矯な性格や偏屈さが無く、
バルディナ一門の導師の中では、一番親しみやすい女性だった。

「好きだったの……? ミグリファーさんの事」
「ううん。冒険に出る前に、女の身体について知ってた方が良いわよって言ってくれたから、
 実地で教えて貰っただけ…… って、何するんだよリシィ!」

いきなりリシィはそこら辺のインク壷や本を手当たり次第に掴んで、僕に投げつけてきた。
慌てて魔法の壁を展開し、それらを凌ぐ。

「バカバカバカバカっ! ウィルのバカ!!」
「何が馬鹿なんだよっ」
「バカだからバカって言ってるのよっ! アンタなんかとっとと出てっちゃえっ!!」

罵るだけ罵って、部屋を荒らせるだけ荒らして、嵐のようにリシィは去っていった。
何だっていうんだよ、一体……
この僕を馬鹿呼ばわりするなんて、今や世界にあいつ一人だぞ?
378バルタヴィールの塔:2008/01/25(金) 21:09:31 ID:cWKfmG59
それから暫くの間、リシィは僕と顔を合わせようとしなかった。
僕の方も、独立の準備が忙しくて彼女を気遣う所ではなかった。
理由も言わずに部屋で暴れた彼女に対して、僕なりに腹も立っていたのだ。
飛竜の背中に荷物を山ほど積んで何回も往復したから、
この部屋に残っているのは、身の回りの物だけになった。
空っぽの本棚と薬棚を見ると、なんだか一抹の寂しさを感じなくも無い。
きっと僕の後にも、誰か新しい弟子がここを使い、魔道士としての研鑽に励んで行くのだろう……
そんな感慨を抱きつつ、椅子に坐っていたときだった。
誰かがドアをノックする音が聞こえ、僕は扉の方へ意識を向ける。

「どうぞー?」
「……」
「珍しいね、ノックして入ってくるなんて」
「良いでしょ別にっ!」

リシィだった。
だが、どうしたことだろう。
ノックも変だけれど、心なしか顔が赤い。
風邪でも引いてるのだろうか?

「あっ、あのねウィル……」
「なーに?」
「この間は、馬鹿なんて言ってご免なさい」
「……わぉ」

正直言って、僕は心底驚いた。
そりゃノックして入ってくるなんていうレベルの椿事じゃない。
彼女が自分から非を認めるなんて……
379バルタヴィールの塔:2008/01/25(金) 21:10:04 ID:cWKfmG59
「で、でもアンタが悪いんだからねっ。
 私に内緒で、好きでもないのにミグリファーさんとえっちな事しちゃうのがいけないんだからっ」

と思ったら、またいつも通り論理が跳躍した。
僕がえっちな事するときには、リシィに一々認定して貰わないといけないのか? それは初耳だ。

「大体、いつもウィルはズルいのよ……
 私が精一杯追いつこうとしても、どんどん手の届かない所に行っちゃうんだもの」
「仕方が無いじゃないか、僕は天才だし」
「……置いていかれるたびに、私がどんな気持ちになるか、考えた事ある?」
「一回も無いよ」
「そこはっ、たとえ無くってもありそうな事を言うべき所でしょ!」
「そうなの?」
「そーよ!」

僕は天才だから、天才以外の人の悩みや苦悩を経験した事が無い。
上手に嘘を吐けと言うのならそれなりにやってみるが、なかなか難しそうだ。
けれども、考えてみればリシィだって歳の割りに昇級は早い。
四十前に導師になれたら立派というこの世界だ。
二十歳までには導師位に手が届きそうな彼女については、同情するまでもないだろうに?
まあ、十三の誕生日を迎える前には導師位を手に入れていた僕とは、最初から比べる事は出来ないけれど。

「……」
「……」

なんというか、話題が切れてしまった。
謝りにきただけならば用事は終わったはずだが、リシィはまだ何か言いたげに壁に背を凭れかけている。

「ねえ、ウィル」
「ん?」
「アンタ、ミグリファーさん以外の女の人と寝た事あるの?」
「うん、地上で何人かと」
「ぐっ……」

冒険を重ねるうちに、そういう事態にめぐり合ったことが何回かあった。
そういう事を見越していたミグリファーさんの先見の明には、今も感謝だ。
だが、僕の女性経験に、リシィは何の興味があるというのだろう?
380バルタヴィールの塔:2008/01/25(金) 21:13:08 ID:cWKfmG59
「じゃ、じゃあ、その中に、し、し…… しょ…… しょ、しょ……」
「しょ?」
「しょ、処女だった娘はいた?」

また不思議な質問をしてくれる。
ヴァンパイアでもあるまいに、生娘か否かなんてあんまり関係ないんじゃなかろうか?
でもまあ、聞かれたからには正直に答えておく。

「ううん、居なかったよ」
「そ、そうなの…… ところでウィル? グランドマスター認定のお祝いを、
 私まだアンタにあげてなかったわよね」

心なしか、安心したかのような表情になったリシィは、またまた話題を変えてきた。
認定式から大分経っているので、本当に今更って感じだ。

「そういえば、貰ってなかったね」
「でも、アンタは私と違って地上のあちこち廻って、色々な物を集めたりしてる訳だから、
 私があげれられる物なんてたかが知れてるわよね」
「気を使わなくっても良いよ、只でさえ荷物は一杯あるんだから」
「う、ウィル?」
「ん?」
「わ、私がアンタと、ねっ、寝てあげるっていうのは、ど……どうかしら?」
「……」
「ウィルは、まだ処女を抱いたこと無いんでしょ? だったら私が…… その、経験させてあげるわよ。
 グランドマスター認定の、ご、ご祝儀にっ!」

つっかえつっかえ、やっと口から言葉を紡いだって感じで話すリシィ。
こんなに吃っていたら、魔法詠唱の実技で落第確実だ。

「かっ、勘違いしないでね。あくまでご祝儀よ、ご祝儀っ。
 それに、アンタは経験してるのに私はまだってのが気に食わないから、その……させてあげるんだからっ」
「ご祝儀にしては、随分贈る側の態度がデカイね」
「うっ、うっさいわね! どうするのよ。私と寝るの? 寝ないの?」
381バルタヴィールの塔:2008/01/25(金) 21:15:41 ID:cWKfmG59
真っ赤に頬を染めた上、顔をこちらから背けつつもリシィは言い放った。
しかしまた突飛な祝儀の申し出だ。
リシィの『処女を抱く体験をさせてくれる』という提案からして、まだ彼女は未経験なのだろう。
僕は、じっと彼女を見詰める。
特にその一部分を。

「……何処見てんのよ?」
「リシィの胸」
「ちょっ! いやらしい目で見ないでよ、バカッ!!」

そんな事言われても、実物を見もしないで寝るか寝ないかを検討するのは難しい。
そもそも、そっちからいやらしい事をしないかと聞いてきたのではないか?
まあ、さておき彼女の胸はかなり平坦な形状をしている。
これが彼女の肉体的成長の遅さからくるものなのか、はたまた今後もこのままなのか、
女体学に造詣が深くない僕には予測できない。
個人的な性的嗜好から言って、胸の大きな女性の方が僕の好みに合致するのだが……

「うん、決めた」
「えっ?」
「ご祝儀して貰うことにする」
「ウィル……」

どんな事であっても、未経験の事象を経験するということは一つの進歩である。
それに躊躇するのは、魔道を志す者としてあるまじき怠慢だ。
第一ここで申し出を断れば、彼女の心意気を無駄にする事になる。
この際胸のことはさておいて、同年代の処女の女の子との性交渉というものに挑戦することにしよう。

「ほっ、本当にいいの?」
「リシィが呉れると言ってきたんじゃないか。嫌なら最初から言わないでよ」
「私が言い出したことだもの、私は勿論オッケーよっ」

さっきまで何故だか不安に怯えているみたいだった彼女だが、
嬉しそうににっこり微笑んでくれた。
僕が断ると思ってたのだろうか?

「じゃあ、早速……」

椅子から降りて、僕はリシィの手を取った。
そして彼女を、これまでは色々な私物に囲まれて密林のようだったが、
今は全てが運び出されてこざっぱりしている僕の寝室へ連れて行く。
彼女の手は、ちょっと汗ばんでいた。

(続く)
382名無しさん@ピンキー:2008/01/25(金) 21:20:32 ID:cWKfmG59
申し訳ありません。
本編は長いので、前後編に分けたのを投下準備で書き忘れてました。
後編は一両日中に投下する予定であります。
383名無しさん@ピンキー:2008/01/25(金) 23:08:45 ID:5G6T5Qv8
GJ!
でもスレ違いではないかしらん?
384名無しさん@ピンキー:2008/01/25(金) 23:31:51 ID:iMckNcgy
今のスレからなんか条件が変わって範囲が広くなったらしいよ。
385名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 01:26:50 ID:ytdHPaKG
女兵士スレ色が薄くなるのは残念だが、
そのおかげでいろんな良作が読めているのも事実。
結局ここがファンタジー総合スレ化しているのか?
女兵士ものを中心としつつ、いろんな作品で盛り上がっていけるスレであり続けてくれるといいね。
ということで後編も待ってます
386名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 02:34:38 ID:E1z0SRBL
話はGJだけど、やっぱりスレ違いじゃない?
ここって女兵士じゃなくても、女性が主人公のスレだと思ってたんだけど、>>382の作品って明らかに
天才魔法少年が主人公だよね?
話もウィル視点だし…。
387名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 02:52:03 ID:E1z0SRBL
すまん386の意見取り消す。
他にも男性主人公作品あったね。
バルタヴィールの塔の続編期待してます。
388名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 13:31:44 ID:bSuyt/js
次からはファンタジー世界のスレと統合するの?
389名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 14:11:04 ID:LHu78wdl
うーん……。385だが、個人的には統合は嫌だな……。
上で言ったこととは矛盾してるかもしれんが、女兵士スレのアイデンティティが失われるのは、ちょっとね。
390バルタヴィールの塔:2008/01/27(日) 16:05:03 ID:HSWlpjCf
「う、ウィル? 私……」
「なあに?」
「わ、私…… あ、あっ…… あっ、あん、あんっ、あんっ、アン……アン……」
「触る前から喘がれても萎えるんだけど」
「ちょっ! 私はっ、アンタのことがっ…… す、すッ…… す……」
「す?」
「……す、好きだってわけじゃないんだかねっ! そこの所をよーく弁えておきなさいよっ!
 これはあくまでもご祝儀なんだからっ!!」
「くどいなあ。一回言えば僕は判るよ」
「……判らないわよ、ウィルには」

何といういわれの無い侮辱だろう。
一を聞いて千を知るという、このグランドマスター・バルタヴィールに向かって。
でも、まあいいや。
リシィと口喧嘩をするために寝室に来たわけじゃないし。
反論する代わりに、僕はそっとリシィに顔を寄せる。
その意図するところを悟って、彼女も瞼を閉じた。
おずおずと差し出された唇に、僕は自分のそれを重ねた。

「ん……」

柔らかい唇だった。
女性の唇というものは、年齢に関わらず皆柔らかいものなのだろうか?
それとも僕がこれまでキスしてきた相手全員が、偶然にもそうだったのか。
なかなか興味深くはある。
機会があったら、また地上で誰かとキスして調べてみよう。
ただし、野郎の唇が柔らかいかどうかを実地で試すのは断固ご免被るが。
そんな事を考えながら、僕はリシィの口を舐る。
391バルタヴィールの塔:2008/01/27(日) 16:05:58 ID:HSWlpjCf
「ん…… んん……」

ついでに舌も入れてみる。

「んんん? ……んんんんん!? んんんんんんんンんーーっ!!?」

唾液の交換とかもやってみようかな?

「ちゅるっ、じゅる?、じゅるるんんんんーーっ!?!?」

ではまた基本に戻って、唇を吸うように…… と思った矢先、
リシィが僕の胸板をドンドンと叩いてきた。
何事かと思い、僕は顔を離す。

「ぷひゃぅ…… て、いつまで続けんのよぉっ!」

口から伝った唾の跡を拭いながら、リシィは抗議してくる。

「私はキスも初めてだったんだからねっ!」
「あっ、そうだったの」
「なのに、ウィルったらあんな…… あんな変な真似して……」
「何言ってるのさ、コレ位普通だよ」
「……ホント?」
「本当だよ。僕が地上でした時なんて、もっと凄い事もしたよ」
「う…… でも、そんなの本に書いてなかったわよ」
「『文字に出来る事は、真理の欠片に過ぎない』、魔法使いの基本だろ?」

彼女が何の本で知識を得たのか知らないが、所詮は紙の上のこと。
魔道書を読んだだけで魔法が使えるのならば、世界は魔道士で溢れてる。
必要なのは、文献に書かれた真実を体感し、体得することなのだ。
392バルタヴィールの塔:2008/01/27(日) 16:07:01 ID:HSWlpjCf
「うっ……」
「これ以上するのは怖くなった?」
「まさかっ…… でも、ちょっとだけ手加減して欲しいかも」
「一応努力はしてみるけどね」
「努力じゃなくって、確約してよ! 天才でしょ!?」

それを言われると弱いなあ。
期待に沿えるように、なるべく優しくやってみるか。
もう一度、彼女と唇を重ねる。
今度はそっと弱めに。
ねぶったり、舌を入れたりは控える。
している時間も、上手く息継ぎの出来ない彼女の為に早めに切り上げた。
口を離すと、今回はリシィから文句は出なかった。
それどころか、潤んだ瞳がどこか嬉しそうで、うっとりとした顔になってる。
キスぐらいで幸せになれるなんて、処女って不思議だ。
しかし、同時にひどく面倒くさいな。
キスだけでこんなに手間取るんだもの。

次のステップに進むために、僕は陶然としている彼女をベッドの上に押し倒した。
緊張した面持ちになるリシィ。
彼女の上に圧し掛かり、その頬にまたキスをする。
唇が触れた瞬間、熱い吐息が彼女の口から漏れて僕の耳に掛かった。
僕も負けずに、リシィの耳元に息を吹きかける。

「ひゃん!」

いい反応が返ってきた。
もう一度吹きかけようとしたら、身をよじってリシィは逃げた。
なかなか面白い。
じゃあ、耳以外の所に息を吹きかけたらどうなるだろうか?
僕は心に浮かんだ素朴な疑問に答えるためにも、彼女の服のベルトに手を伸ばした。
だがリシィの手が、僕の手を遮った。

「お、お願いっ、ウィル」
「何?」
「灯り、消して……」
「どうして?」
「恥ずかしいんだもの」
「うーん……」

僕としては、折角処女を抱かせてくれるというのだから、灯りを最大限に強くして、
じっくりと非処女との違いを検証するつもりだったのに。
だが、彼女の涙に潤んだ瞳にほだされて、僕は指を鳴らす。
パチリという音と同時に、燭台に点してあった魔法の光が翳り、寝室は微かな薄明かりを残すのみとなった。

「これでいい? これ以上弱くすると何にも見えないから」
「うん、」
「それじゃあ……」

僕は改めて彼女の衣服に手を伸ばすが……
393バルタヴィールの塔:2008/01/27(日) 16:07:52 ID:HSWlpjCf
「言っておくけど、暗視の魔法を使ったりしちゃ駄目だからね!」
「……」

マズイ、釘を刺されてしまった。
せめて未通娘特有の身体的特徴とやらを、こっそり拝見しようと思ってたのだが。
しょうがない、処女と非処女の差異を明らかにするのは、またいつか機会を探すとしよう。
諦めて、手探りでベルトを外し、スカートを脱がせた。
続いて上着も。
これで彼女は下着だけになった。
脱がせる時に身体に触ったので判ったが、彼女は震えていた。
僕に裸にされるのが、そんなに怖いのだろうか?
一緒に風呂に入った事もあるし、野原で連れ小便もした仲なのに。

ともかく、彼女は震える以外の抵抗はしなかったので、そこから先もスムーズに進んだ。
こちらも身に纏っている服を手早く脱ぐ。
向こうの下着も脱がす。
久しぶりの、裸と裸のお付き合いだ。
僕はまず、目の前にある(といっても薄暗くてよく見えないが)女性特有の身体的特徴へと手を伸ばす。

ぺたり。

「やんっ?」

声の反応は良い。
しかし、予想以上にささやかなおっぱいだ。
少しは脂肪がついているにしても、これまで揉んできた女性の胸と同じ部分だとは信じがたい。
暗くしておいて良かった。
もし明るかったら、ガッカリした顔をリシィに見られて、また一悶着あっただろうから。
それにしても、僕と同い年とはいえ成人の胸とはここまで違うものだろうか。
ある種の哀しさを覚えた僕は、思わず両手でさわさわとその小さな乳房を撫で回してしまう。

「ぅ、ウィルの手つき、やらしい……」
「そう? 」
「他の女の人に……する時も、こんなにやらしい触り方したの?」
「いや、他の人にしたのは、こんなものじゃなかったよ」
「!…… べっ別にいいのよっ? 私にもそういう事しても」
「ご祝儀だから?」
「そうよっ、ご祝儀だからっ!」
「いいの?」
「え、遠慮はしないで」

持主許可を得たので、僕はこれまで体験してきた行為を実行してみようと思う。
まずは、寄せて上げて……
394バルタヴィールの塔:2008/01/27(日) 16:08:39 ID:HSWlpjCf
「……」

あれ、寄らない。上がらない。
なんて事だ。
胸部の隆起が、ここまで可動性の無いものだとは。
これじゃあおっぱいの谷間に顔を埋める事さえ出来はしない。

(はあ……)

こっそりため息を吐きつつ、僕はリシィの乳房に顔を寄せ、その控えめな乳首を口に含んだ。

「んっ……!」

唇で啄ばみ、舌で転がす。
膨らんではいたものの、小さな突起だった。
赤ん坊が母親の乳を吸うように、乳首に吸い付いてみる。
その瞬間、びくりとリシィの体が震えた。

「あっ、ウィル……」
「痛かった?」
「……ううん、呼んでみただけ」

この期に及んで、なぜ僕の名前を呼んでみたくなるのかは謎だ。
いきなり声を出したので、強く吸い過ぎたかと思ったじゃないか。
仕返しの意味も込めて、ちょっとだけ乳首に歯を立ててみる。
さすがに彼女も押し殺した悲鳴を洩らしたが、なんとか我慢したようだ。
無論、口でおっぱいを弄る最中、僕の手は只遊んでいたわけではない。
空いている方の乳房も揉み、指で乳首を摘み、彼女の若い滑らかな肌の上を僕の五指は這う。

「リシィの肌は、すべすべだね」
「そ、そう?」
「僕が知っている女の人の中でも、一番肌理が細かくて滑らかな肌触りだよ」
「ミグリファーさんよりも?」
「彼女よりも」
「……嬉しい」

僕としては、彼女のおっぱいの唯一の美点を褒めてあげたのだが、
やっぱり褒められれば嬉しいらしい。
まさか、ここで『でも一番小さいよね』と言えば喧嘩になる事確実なので口に出しては言わない。
そうして褒めている間に、僕の手はそのすべすべの肌を愉しみつつ、
胸から腹へ、そして臍の下へと撫で進んで行った。
しゃりしゃりと、かすかな繊毛の手触りを感じた。
395バルタヴィールの塔:2008/01/27(日) 16:10:24 ID:HSWlpjCf
「やっ!?」

脚を閉じて、彼女は手の侵入を妨害する。
指が太腿の間に挟まれてしまった。

「リシィ、そうされると手が動かせないんだけど?」

今更あがく彼女に対して、あえて呆れたような口調で僕が諭すと、
おずおずと両脚に込められていた力が抜けて、手は再び自由を取り戻す。
震える彼女の股間を掴むように、僕はそこに触れた。
裂け目を手の平が覆う。
暗くて互いの顔はよく見えないのにも関わらず、恥ずかしさからか彼女は両手で自分の顔を隠した。

「……ぁ、……ゃ」

弱い力を込めてそこを摩る。
陰裂の周りを、指が縦になぞっていく。
しばらくの間はリシィも耐えていたようだが、顔を隠す指の隙間から次第に熱い吐息が漏れ始めた。
僕と同い年の少女とはいえ、成年女性と同じような反応をみせることが、これで実証できたわけだ。
それを確認し、僕は指で外側の花弁を押し開くと、泌尿孔の上にある場所を触れた。

「はうっ!!」

先ほどの押し殺した悲鳴とは比べ物にならない大きな声を上げ、リシィの体が強張った。

「そんな所、触っちゃ……」
「触っちゃ駄目?」
「ううん…… 駄目じゃないけど、ウィルの手にそこを触られたりしたら、私どうにかなっちゃうかも」
「?、こんな風に?」
「ひゃわぅっ!!」

皮の上からだが、軽く指で刺激を与えると、それだけでまた悲鳴が上がった。

「処女でもここは感じるんだ?」
「そんなこと聞かないでよ……」
「いや、折角リシィに処女の身体を教えてもらえるんだし、はっきりさせておこうと思って」
「ウィルの馬鹿……」
「謂れの無い誹謗はさておき、初めてでもここは感じるものなの?」
「……アンタだって、手すさび位するでしょ」
「それって、普段から自分でここを弄ってるって事?」
「女の子の口から、そんなこと言えるわけないじゃな…… ゃぁっ!」

なるほど、一つ勉強になった。
お礼といっては何だが、ちょっと強めに突起を嬲ってあげた。
複雑な呪印を結ばなければならない魔道士は、総じて指先が器用だ。
いうまでもなく、十代で大導師位に登りつめたこの僕が不器用なはずが無い。
これまで関係を持った女性たちにも、『末恐ろしい子』だとそちらの才能を褒められたものだ。
相手の悶え方を計りながら、少しずつやり方に変化も加え、僕はリシィの陰核を責める。
396バルタヴィールの塔:2008/01/27(日) 16:11:04 ID:HSWlpjCf
「や、ウィル! そんなにされたらアタシ、本当におかしくなっちゃうっ」
「大丈夫でしょ、コレくらいなら」
「あんっ、ウィルの指がっ、本物のウィルの指が私のを触ってる……」
「僕は偽腕や幽手の術を使った事が無いんだから、本物も贋物もないと思うけど」
「違うの、いつも自分でする時には……」
「する時には?」
「……こっちの話だから、それ以上は聞いちゃ駄目」

思わせぶりなことを言っておいて、勝手だなあ。
まあ、そうして彼女の秘所に刺激を与えているうちに、ささやかながら湿り気が溢れだしていた。
ではそろそろ本命の、生娘の身体というものを体験させてもらうとしよう。
僕は彼女の細い脚を開かせて、その間に坐りなおす。

「じゃあリシィ、最後にもう一度聞くけど、覚悟はいい?」
「ぅ……、うん! ウィル、来て……」

彼女の声は震えていたが、決意は揺らいでいないようだ。
僕は幼馴染が呉れる餞を受け取るべく、勃起した男根を彼女の陰裂に押し当てる。
初めて触れる男性器の熱さに、一瞬リシィは驚いた様子だったが、
まだその時は僅かに唇を噛み締めるだけで堪えた。
しかし、行く手を阻む処女膜に男根が突き当たり、それを破こうとすると、
流石のリシィも痛みに悲鳴を上げた。

「い、痛いっ!!」

リシィの入り口は、これまで味わった事のない位に硬く、きつかった。
そこに何とか自分の性器を押し込もうと、僕は苦闘する。

「もうちょっと我慢してね」
「『ちょっと』ってどれ位よ!?」
「知らないよ、僕だって処女膜破くの初めてだし」

もちろん破かれた経験もないので、聞かれても困るのである。
そもそも気休めで言っただけなのだから、一々突っ込まないで欲しい。

「いぎっ、痛いっ! 痛いぃっ!」

苦悶の声を聞きつつも、僕は彼女の中へ進んでゆく。
理論的には、一度裂けてしまえば問題ないはずなのだが、
処女を失うのがこんなにも痛みを伴うものだとは、正直ビックリだ。
やはり聞くと見るのでは大違い。
いい体験をリシィにはさせて貰った。
397バルタヴィールの塔:2008/01/27(日) 16:11:49 ID:HSWlpjCf
そんなこんなで男根を膣へ捻り込んでいくと、侵入者を防いでいた抵抗が不意に弱まる。

「あぅーっ……!!」

同時に、一番強い苦痛の叫びが発せられた。
でも、それを最後にもう彼女の口から悲鳴が漏れることは無かった。
彼女の純潔を守っていた膜は破かれ、その役目を終えたのだ。

「入れたよ、リシィ」
「ウィル、アタ…、…れし……」
「ん? 何か言った」
「ううん、いいの」

小声だったので、彼女が言った後半部分はよく聞き取れなかった。
おまけに、ちょっと涙ぐんでいるようだ。
そこまで痛かったのかと思うと、苦痛に耐えつつ処女の身体を教えてくれた幼馴染に対し、
僕は改めて感謝の念を抱く。

「じゃあ、奥まで挿れるから」
「うん……」

きつくて狭い粘膜に包み込まれて動かしにくいのだが、何とかペニスを進めていく。
ゆっくりととはいえ、リシィも裂かれたばかりの傷口を抉られるのは辛いだろう。
痛み止めのポーションなり、事前に用意しておくべきだった。
今度処女の娘を抱く機会があったらそうしよう。

「んっ、」
「……一番奥まで入ったね」
「うん、ウィルのが、私の一番深い場所を突き上げるのが判った。……ねえウィル」
「?」
「これで、私の初めての人はウィルなのよね」
「そう云う事になるね」
「……ありがと」
「お礼を言うべきなのは、僕の方だと思うけど」
「ううん、いいのよ…… ウィル……、キスしてくれる?」
398バルタヴィールの塔:2008/01/27(日) 16:12:49 ID:HSWlpjCf
その求めに応じて、僕はまた彼女に唇を重ねる。
驚いた事に、今度はあちらの方から吸いついてきた。
なんとも飲み込みが早いな。
女は男を受け入れると、途端に化けるのだろうか?
彼女の腕は僕の頸部をしがみ付くように抱きかかえ、離すまいとする。
それからどれくらい口付けを続けていたか定かではない。
そろそろ良いかなと思って顔を離そうとすると、リシィが何度も引き戻して離さなかったのだ。
考えてみれば、今回の件で彼女が主導的に動くのは初めてだ。
しかたなく僕は、彼女の長い長いキスに付き合った。

でも、キスだけではこちらが詰まらない。
僕は両手でリシィの身体をまさぐる事にした。
破瓜を済ませたばかりの膣で性感を得るのは難しいだろうが、さっきの反応を見るに
他の部分ならリシィも気持ちを高められそうだ。
右手は平らな胸から、わき腹へ、腰からお尻、太腿へ。
左手は彼女の二の腕から腋の下、首筋、耳たぶ、そして背中へ。
五本の指と掌で、なぞり、揉みしだき、撫で回して行く。

「ひゃっ……」

特定の場所に触れると、そこが弱点なのかびくりびくりと震えて面白い。
僕の指はもっと面白い場所はないかと、愛撫を続けて行く。
その度に身悶えするリシィだが、女陰を貫かれたままの上、僕の首をなかなか離さないので逃げようが無い。
否、そもそも逃げるつもりが有るかどうか。
彼女がもらす嗚咽に、苦痛以上の快楽が混じっていることを、僕は承知していた。

性の悦びに咽ぶ彼女の耳元で、僕はそっと囁いた。

「リシィ、僕も動いて良いかな?」
「……、……」

気持ち良すぎて言葉が出せないのか、リシィは無言で頷いた。
もともとリシィが身体を弄られて身悶えするたびに、僕の下半身も擦られていい感じになっていたのだ。
僕はゆっくりと腰を前後に揺すり始める。
その動きに合わせて、僕のベッドはギシギシと軋んだ。
399バルタヴィールの塔:2008/01/27(日) 16:13:48 ID:HSWlpjCf
「ぃ……」
「痛い?」
「大丈夫、気にしないでいいから……」

抱きつかれているので、灯りを暗くしても相手の凡その表情は判る。
それが強がりなのは承知の上だったが、時折漏れる苦しそうな吐息は無視し、
リシィの狭い膣内で抽送を続ける。
今までの女の人よりも細くて未成熟な身体にせよ、締め付けられる圧迫感がとても強い。
動きがスムーズなのは、傷口から流れる血が潤滑を良くしているからだろう。
首っ玉を押さえられている所為で激しく腰は動かせないが、今の僕らには十分だった。

「んっ……、リシィっ……」

そうしてどれほど彼女の胎内を往復しただろうか。
僕は、こみ上げる衝動のままにリシィの子宮めがけて精液を放った。
どくどくと肉棒から走り抜ける法悦は、何時味わっても良いものだ。
大きく息を吐いて、僕は打ちつける動きを止めた。

「おっ、終わった?」
「うん」
「ど……、どうだった?」

リシィが恐る恐る聞いてきた。
不安そうな彼女に、僕は正直に答える。

「気持ち良かったよ、リシィ」

感謝の気持ちを込めて、そう囁いた。
暗くてよく判らなかったが、リシィは何故か嬉しそうな顔をしていた。

「私も、良かった……」
「そう? 男と違って、女性は性行為で快感を感じるのに回数が必要だと仄聞したけど」
「本当よ。ウィルに触って貰えて、抱き締めて貰って…… 嬉しかった」
「ふーん……」

いまいち釈然としない。
でも、喜んでもらえたならそれで良しとしよう。
こっちも気持ちよかったし、いい勉強になった。
処女を抱くのもそう悪くはない── 入れるまでの準備が煩雑なのを何とかできるなら。
そう思って、萎んだまま彼女の中に入っていたモノを、僕は引き抜いた。
400バルタヴィールの塔:2008/01/27(日) 16:15:54 ID:HSWlpjCf
「痛っ……」
「ああっ、ゴメンね」

そういえば、彼女の秘所は破けたばかりだった。
慌てて僕はそこに手をかざすと、呪文を呟くと同時に大気中のエーテルを集める。
淡い光が掌に生まれ、彼女の陰部を照らす。

「じっとしてて」
「ウィル……」

癒しの光が痛みを和らげ、傷口を癒して行く。
グランドマスターともなれば、高度な治療魔法を身に着けていて当然だ。
地上の僧侶の回復術如き、我々にとっては藪医者のインチキ療法に等しい。
彼女の傷口は見る見るうちに塞がり、元通りになった。
痛みが取れた彼女は、照れたようにお礼を言う。

「あ、ありがとね」
「さっきも言ったけど、お礼を言うべきなのは僕の方だよ」
「……」
「リシィ、ありがとう」

素晴らしい贈り物を僕に捧げてくれた幼馴染に、今度は僕の方からありがとうを言った。
そういえば、彼女に対して真剣に感謝の気持ちを抱いたのは何時以来だろう。
七つのときからずっと一緒だったから、思い出が多すぎて思い出せない。
でも、彼女の処女を貰った今日のことは、ずっと忘れないようにしよ……

「あれ?」
「どうしたの、ウィル?」
「いや、なんでもないよ」

何とか誤魔化す僕を、たぶんリシィは不審の目で見ていることだろう。
しまった。
魔法を使って治したら、処女膜まで治っちゃうじゃないか。
おそらく次回も、リシィはあそこが裂ける痛みに耐えるって事になる。
……気付いてないみたいだから、黙っておこう。

「ねえ、ウィル」
「なっ、何かな」
「今夜は、一緒に寝て良いでしょ?」
「あっ、……いいよ。二人で一緒に寝るのって、何年ぶりかな」
「うふふ、十歳ぐらいまでは、同じベッドで寝ることもあったんじゃない?」
「そうなると、そんなに昔の事じゃないよね」
「……ウィル」
「?」
「何でもない、お休み……」

リシィはそのままシーツに潜り込んでしまった。
僕も彼女の横で寝具を被る。
寝場所を定めると、そっと彼女の手が僕の方へ伸びてきた。
それを優しく握って、二人はまるで子供時代の様に、一緒に眠った。


・・・・・・・・・

401バルタヴィールの塔:2008/01/27(日) 16:17:03 ID:HSWlpjCf
それから、僕は全ての荷物を師匠の塔から運び出し、名実共に魔道士として一本立ちした。
ただし僕の塔は、場所は確保してあるとはいえ、まだ地上第一階層の構築が始まったばかりである。
岩山から削りだされてくる石材を運ぶのは、僕が創ったゴーレムたちだが、
実際の建築作業はドワーフや巨人族などを雇っている。
時々起きる彼ら口論や喧嘩を鎮め、鎚や掛矢を振り回しての乱闘を押さえ込まなければ、
何時までたっても作業が進むもんじゃない。
だが、地上に引かれたただの縄張りが、次第に石積みで形を整えられて行くのをみていると、
なんだか楽しい気分になってくる。
今は無き大導師、『建築者』グラニコスは、その生涯で自分の塔だけでも八つは建てたという。
何となく、その気持ちが僕にも判る気がした。

さて、そんなある日の事だった。
バルディナ師の塔に住む魔道士が移動に使う、ワイバーンが僕の塔の予定地にやってきたのは。

「久しぶりね、ウィル」
「……半月前に別れたばっかりじゃないか」

飛竜の背中に大量の荷物を括り付け、やって来たのはリシィだった。
何やら変な成り行きになりそうな予感が、ぷんぷんと漂っている。
ひらりと鞍から飛び降りて、開口一番こう言った。

「お師匠様から許可を貰ったわ。私もここで暮らすから」
「へ?」
「導師試験の学術論文は、魔法建築学で書くことにしたの。
 その参考に、アンタの塔の作業工程を見せてもらうから」
「……」

勿論だが、彼女が許可を取ったのは師匠の塔を出ることについてであり、
自分の作業を見せることを僕が許した憶えは一度も無い。
しかし、あの大量の荷物を見れば判る。
彼女は僕が断るという事を、全く想定していないようだ。

「いいでしょ? 六十階層もあるんだから、私に二三階呉れたって」
「あのね、それは完成してからのことであって、今は木造の仮設塔で寝起きしてるんだよ?」
「そうなの? じゃあ、あの天蓋付きの素敵なダブルベッドは?」
「まだ家具職人に発注したばかりだよ。完成するのは二年後さ」

いやその前に、彼女は僕のベッドを横取りする心算だったのか?
402バルタヴィールの塔:2008/01/27(日) 16:23:37 ID:HSWlpjCf
「なーんだ、じゃあ待つしかないのね。いいわよ、仮設塔でも」
「……まあ部屋にはベッドの他にソファーもあるし、一緒に寝起きするのに不便はないけどね」
「決まりねっ。今後ともよろしくっ」

にっこりと微笑んだリシィの顔は、今も昔も変わらない。
新しい生活を始めようかと思っていたけれど、一つぐらい変わらない物があってもいいか。

「じゃあ飛竜もヘタってるし、荷物を部屋に運んじゃおうか。
 仮住まいだから、本棚やベッドも狭くて参ってるけどね」
「そ、そうなの? べっ、別にアタシは良いのよ? 狭くっても、同じベッドで我慢してあげ……」
「何言ってるのさ。リシィはソファー、僕がベッドだ」
「えっ?」
「当然だろ、ここは僕の塔だ」
「なっ何よそれっ! 年頃の女の子を差し置いて、自分一人でベッドに寝る気!?
 酷いと思わないの! この人でなしっ! ……ウィルの馬鹿っ!」

リシィはあらゆる言葉で僕を罵るが、人の作業現場に押しかけて来るのが悪い。
一日の疲れを癒す最後の砦だけは、僕は断じて譲らないぞ……


とまあ、そんなこんなで僕の塔建築は始まったのだ。
押しかけ同門生がやって来た所為で、時々修行の進み具合も見て上げなきゃならなくなったが、
これもグランドマスターとしての責務の一つ、『後進を育てる』だと思って辛抱した。
タダ飯を食べるは気が引けるのか、リシィも塔の内外に棲まわせるクリーチャーの世話などをしてくれる。
少しずつだが塔は大きくなってゆく。
また、成長期にある僕らの身体も、塔が成長するのと同じように、大人のそれになっていくのだった。

ただ、僕たち二人の仲がこの後どうなっていったかは、
僕の塔作りとはまた別の話になるため、ここでは語らずにおこう。

(終わり)
403投下完了:2008/01/27(日) 16:32:49 ID:HSWlpjCf
バルタヴィールの塔、後編です。

申し訳ありません。
頭を休めようと思いつくままに書いたら、
またスレ違の恐れが強い品になってしまいました。

シャフルナーズの話もそろそろ畳み、
魔王の話を進めようとも考えているので、
バルタヴィールの登場はこれで終わりにしたいと思います。
404名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 22:22:19 ID:5BSZL8R9
一番槍GJ!
欲を言えば二人のその後の仲も読みたいです。
405名無しさん@ピンキー:2008/01/28(月) 01:33:39 ID:xUdEoFHv
やっぱツンデレはいいな。
軽い気持ちで楽しませてもらったよ。
406名無しさん@ピンキー:2008/01/30(水) 21:10:53 ID:/ZHUiP3A
>>404
いえ、私のいつもの癖なのですが、リシィは狂言回し的な位置づけとして、
毎回違うキャラがウィルと絡むという話のプランも浮かんではいたんですよ。

巨乳戦闘用人造生命とか、豊乳年上一番弟子とか、美乳女騎士ガーディアン化とか……
シャフルナーズの話がいよいよ佳境に入ったことですし、
これ以上キャラのたくさん登場する、おまけにスレ違いの疑いも強くなるssを増やしても
収拾つかなくなるので切りますけど。

ちなみに、一応冒頭部分だけは出来てた戦闘用人造生命の話はこんな感じ↓です。
407投下完了:2008/01/30(水) 21:13:42 ID:/ZHUiP3A
アメジストの水槽の中に、彼女は直立した姿で浮かんでいた。
色素の薄い肌と髪は、誕生してから一度も太陽の光に当たった事がないのだろう。
『この魔法羊水に浸かったまま、彼女は一体何世紀過ごしてきたのだろうか?』
そんな感慨に浸っていた僕に、隣で同じく彼女を見つめていたリシィが尋ねてきた。

「なにかしら、これ? アルピノの人体標本?」
「いや、たぶん戦闘用ホムンクルスだ。完全体を実物で見るのは初めてだけど」
「ホムンクルス? こんなに大きいのが?」

リシィが信じられないのも無理はない。
僕もだって、文献と分解された臓器標本でしか見たことが無いのだから。

液体の中で眠り続ける優しげな顔からは、彼女が戦闘用生命だとは想像もできまい。
だが、この遺跡の状況等から推察するに、おそらく間違いはないはずだ。
彼女の水槽の他にも、僕らの周りには同様の培養槽が大小取り混ぜて存在する。
その中に泳いでいるおぞましい姿の生物、魔獣たちは、分類する名前すら存在しうるかどうか怪しい。
この僕でさえ、それらは魔法書の挿絵ですら見た覚えが無いのだ。
まさか、このような魔獣兵器に混じって、家事用の人造生命を作製していたという事とはあるまい。

しかし、魔法で作られた人造生命体は、大概身体のどこかにいびつさが現れてしまう物だが、彼女は違う。
すらりとした骨格。
肌の下の、伸びやかな筋肉。
閉じられた瞳と、整った鼻梁。
形の良い桃色の唇。
人体美の粋を凝縮したかのような、機能性に満ちた均整。
彼女の四肢のバランスの見事さには、僕も感動さえ覚える。

塔の魔力炉を製造するのに必要な、大量の水晶を掘り出そうと思って来てみれば、
またとんでもない代物を見つけてしまったようだ。

「……ウィル、どう思う?」
「うん、おっぱい大きいね」
「どこ見てんのよっ!!」
「リシィ、勘違いしないで欲しいんだけど?
 僕が言いたいのは、本来戦闘に必要の無い── むしろ邪魔にすらなる筈の部分を、
 これほど大きく、形良く、全体との均整を保ちながら造型した事に対し、
 製作者の意図的なものを感じるって事だよ」
「あ…… そういえば、何でかしら?」

首を捻るリシィだが、僕には判る。
つまり、彼女の創造主も、僕と同じおっぱい好きだということだ。


(未完)
408アビゲイル:2008/01/31(木) 22:27:20 ID:NxGNyhwS
まとめて最後まで投下で。
409邂逅 ]V 1/4:2008/01/31(木) 22:30:35 ID:NxGNyhwS
それは本当に突然、タイロンの唇をやわらかく塞いだ。
押し当てられる唇は少し乾いてかさつき、タイロンのそれに引っかかる。
勢いにたじろぐタイロンの目の前には、アビゲイルの閉じた眼を縁取るまつ毛が白い頬に落す影があった。

あわてて身をよじって逃れようとしても、首がすでに彼女の腕に絡めとられて逃げ場がない。
すぐに唇をこじ開けられ、舌がするりと絡みつく。
蠢く唇と舌に何もいうな、という明確な意思が伝わってきて、圧倒された。

どうして、そのような行為にいたったのか。
唇さえふさいでしまえば・・・いささか子供じみているが、アビゲイルは夢中だった。
己の唇でタイロン・ツバイの唇を封じ込め、動こうとする舌を吸い上げ絡めとる。
抵抗を見せていたタイロンの舌が従順になり、彼女の動きに呼応する反応を見せ始めた。
唇をあわせることがこのように心地く、快楽さえ伴うことを、彼女は初めて知った。
やがて当初の言葉を封じるという目的を忘れて、アビゲイルは接吻に没頭しはじめる。

長い長いその口づけの儀式は終わらせるには余りにもせつなく、甘美な一時だった。
410邂逅 ]V 2/4:2008/01/31(木) 22:31:28 ID:NxGNyhwS
どれぐらいそうしていたのだろうか。開いた窓の外は暗いとはいえ、清清しい明け方の気配が漂う。
ゆっくりと、名残惜しげに唇が離れていく。
どちらとはなしに深いため息がもれ、そのため息にはそこはかとなく快楽の種火のようなものが混じっており、お互いに少々気不味い。

アビゲイルがおずおずと、離れたばかりの相手の唇に指をあてた。小さい子に、静かにしていましょうね、と示すしぐさだった。
彼に触れると、じんわりと疼くような暖かさが心に点る。
天眼と言霊による呪縛の影響が大きいが、いままでアビゲイルは異性に心を寄せたことがない。
初めて胸に点るタイロンに対する感情を今、消してしまうのは余りにも惜しいことに感じられる。
「私は」
少し掠れた、しかしはっきりとした口調でアビゲイルは語りかける。
「今夜のことを忘れたくは、ない。」

うれしさに不覚にも満ち足りたなにかがタイロンの内側から溢れ出そうで、目を閉じた。
そろり、と唇の上をアビゲイルの指が行き来する。
「決して口外はしない・・から」泣き出しそうなのは、アビゲイルも同じだった。
タイロンに持った感情は人が異性に持つ好意で、恋とか愛、情などと呼ぶことに彼女自身は気がついてはいない。
411邂逅 ]V 3/4:2008/01/31(木) 22:32:36 ID:NxGNyhwS
そっと、アビゲイルの手をタイロンが握って口付ける。
「・・・そういってくれるなら、奪ったりはしない」
大きく息をつき、もう片方の手で真円に開いた天眼をそっとなでる。
アビゲイルの見ている前で黄金の眼が次第に細くなり、やがてぴったりと閉じられた。

アビゲイルがまじまじと額を眺めている。
「閉じてしまうとここに眼があったようには見えないな」
ぎこちなく、タイロンと視線を合わせて微笑もうとしたが、失敗して頬がひきつった。

「この先、何が起こるか俺にはわからない」
タイロンの声音は真剣で、アビゲイルは秘密の大きさを改めて思い知る。
「・・・誰にだって、何をしていたって、先のことはわからないものじゃないか・・・」
「そりゃそうだ」タイロンの眉間のしわが緩む。
どちらからともなくお互いに腕をまわして、寄り添った。
412邂逅 ]V 4/4:2008/01/31(木) 22:33:47 ID:NxGNyhwS
東の空が白み始め、豪奢な部屋に朝が訪れようとしていた。
もう間もなく城砦都市に生活の喧騒が訪れるだろう。

タイロンがのろのろと寝台から起きだして、女神がむしり取って放り出した着物を集めて身につけ始めた。
そのまま倒れた城主の身支度を手早くととのえ、担ぎあげようとしている。
アビゲイルも作業を手伝おうと起き上がろうとして、下肢の違和感にうめく。
腰から下が重い。まるで水草の密集した小川を渡河しているようだ。

違和感に首を傾げながらひろい寝台の端まで這うようにたどり着くと、鏡の扉に城主を放り込むタイロンから声がかかる。
「横になっとけよ」
城主が流した血を一度着こんだ上着を脱いで拭う背中が、くつくつと笑っている。
「やりすぎなの」普段と変わらない人を喰ったような笑顔を浮かべるタイロンがいる。
アビゲイルはその場でぽかんと男を眺めるしかない。
「激しく抱き合っただろ?」抜けぬけと、片目をつぶってみせた。

頭の中に、長い夜の記憶が次々と浮かび、アビゲイルの顔が見る間に赤く染まった。
タイロンの顔を直視できず、思わず寝台に顔を伏せた。
男が近寄ってくる気配を感じて、身を固くする。

「アビゲイルはそのまま、寝台にいればいい。侍女が身支度をしてくれる」
タイロンが昨晩はアビゲイルの衣裳であった水色の薄布を掻きよせて、掛けてやる。
「お前が城主に無体な真似をされた、と涙してくれるかもしれない」
軽口を叩く口調とは裏腹にそっと触れた手が、優しく髪をすき流していく。

なるほど寝台の上は乱れ、ところどころ湿って色が変わっている。
部屋全体に情交の匂いが立ち込めているような気がしてきた。
気恥ずかしく感じられ、タイロンのほうに目を向けることができなかった。
413邂逅 ]W 1/4:2008/01/31(木) 22:35:14 ID:NxGNyhwS
・・・くる。
二人の兵士の部分が、近寄ってくる気配を感じ取った。
見回りの兵か、侍女か。
白々と夜が明け、城全体が起き上がり、活動が始まる時間になったのだ。

「アビゲイル」
顔をそむけたままの女に語りかけた。ほんのりと赤くなった耳やうなじがかわいらしい。
「やらなくてはならないことが、たくさんある。」
人の気配は刻々と迫ってくる。アビゲイルにあてがわれた侍女が、朝の支度のために部屋を訪れるのだろう。
「次にいつ、お前に会えるかわからない。」
アビゲイルが顔をあげて、タイロンを見た。
紅潮した頬、こちらを見上げる瞳を脳裏に焼き付ける。

「どうか壮健で」

タイロンが触れるだけの接吻を残して本当にあっけなく扉の向こうに姿を消したのと、侍女が扉をたたくのが、同時だった。
414邂逅 ]W 2/4:2008/01/31(木) 22:36:34 ID:NxGNyhwS
城に仕える侍女にとって、中庭付きの豪奢な客間を訪れるのが一番いやな仕事であった。
もちろん、人の情事の後片付けなど、誰にとってもいやなものではある。
なにより前夜、気高くあった貴婦人や、無垢な少女や、不安そうな人妻が、皆一様に表情を失い放心して横たわる様を見るのは、同じ女として居たたまれなかった。
みな、望んでこの部屋に招かれるわけではないことも知っている。
今回の客人は、騎士だと聞いている。
以前もこの部屋に泊まったことあるらしいが、侍女は担当していなかった。
さわやかな笑顔や、一見細身で少年のように見えるりりしさを好ましく思ったがゆえに、朝の身支度の役目は気が重かった。

香木のドアをノックしたが、案の定、返事はない。
できるだけそっと扉をあけた。
部屋には香木の香りと、情事特有の籠った臭いと、微かに血の匂いが混じってる。
・・・ひどく殴られたのかしら。侍女はため息をついた。
ドアが閉じてしまわないように、楔をはさんで固定して部屋に入る。

驚いたことに、客人は外に開いた窓辺にたち、昇る朝日に照らされる山なみに目を細めていた。

その首すじには強く吸った跡が見えているし、乳房には指のあとがくっきりと浮いている。
下半身には体液が乾いてこびりついている。明らかに、凌辱のあとがみえていたいたしい。

普段なら、放心状態の客人の体を拭き、着替えをおいてそっと退室する。
皆、心を手折られて打ちひしがれている。前夜のことを思いだして錯乱してしまい、心を病んだ女性もいたのだ。

迷った末に、勇気をだして声をかけた。
「お支度をお手伝いします。」
「ありがとう」昨日より、穏やかな答えが返ってきた。落ち着いている。
・・・この人は、大丈夫。
城主に犯されはしたのだろうけれど、心の大事な部分は保つことができたのだろう。
その強さを、うらやましく思った。
415邂逅 ]W 3/4:2008/01/31(木) 22:37:01 ID:NxGNyhwS
暁の光のなかなら、火照った頬がごまかせるだろうか。
平静を装いながら素裸のまま窓際に移動する。
相変わらず体はなにかを引きずっているように重い。

・・・あの男には、振り回されてばかりだ。
別れを惜しむまもなかった。

いろいろな感情や思いが次々と浮かんでは消える。首をふって、窓の外に目をやった。

濃密な森の向こうに、赤く輝く尾根。
抜けるような東雲の朝。

世界は変わらず美しい。

思わず見惚れているところに、侍女がおずおずと入室してきた。
素裸で立つアビゲイルにたじろいでいたようだ。

身支度は自分でする、と侍女から湯と綿布を受取り、固く絞って全身を拭う。
背中は侍女が拭いてくれた。何も聞かないでいてくれるのがありがたい。
清潔な衣服に着替えて、やっと人心地つくことができた。
窓辺にすわり、侍女が手早く室内を片付け整えてゆくのを眺めていた。

別の侍女が朝食を運び入れ、二人で退室していく。
礼を述べるアビゲイルに、二人はていねいにお辞儀を返した。
416邂逅 ]W 4/4:2008/01/31(木) 22:37:54 ID:NxGNyhwS
城主が突然の病に倒れ、北城内は多少混乱しているようだ、と教えてくれたのは件の侍女だった。
「お客様が滞在中だということが忘れられているようで」と申し訳なさそうに詫びる。
近日中に退室できるように、上司に働きかけてくれる、と約束してくれた。


結局、アビゲイルが解放されるまでに3日かかった。
侍女たちの配慮で、不自由なく過ごすことができた。
城主の身に起こったことをアビゲイルは承知していたので、大人しくしていた。

城主の在・不在にかかわらず、日常の生活は営まれている。
多少の混乱はあるようだが、巡察正使の采配でクンツは療養のために主都へ送還され、次の城主を迎え入れる準備を終えて、到着を待つばかりとなったようだ。

アビゲイルが開放されて本来の宿舎に戻った日、城内に滞在していた巡察師団は次の目的地、北西城にむけて出立した。
配置された城門の上からタイロン・ツバイの姿を探してみたが、見つけることはできなかった。
やらねばならないこと、のために既に城を去ったのだろう。
隊の帰砦も決まった。小隊長として当面の物資を受け取る作業などで毎日が忙しい。

日々、やるべきことをやる。
世界のどこかで、黙々とそれをする男がいることを知っている。
私も、そうするだけ。
417邂逅 終章:2008/01/31(木) 22:39:14 ID:NxGNyhwS
山の砦に初夏のさわやかな風が吹き抜けていく。
雪渓から流れ出る水も水量が増し、いよいよ夏の到来を感じさせる。

父と慕うロク砦主の片腕として、相変わらず、忙しい日々だ。
麦の収穫期に入り、侵入を試みる山岳民族を追い払うのに苦労している。
弟は訓練所で才を認められ、参謀課程に進み兵法を勉強していると知らせてきた。
今しばらく、軍での生活が続くだろう。それも悪くない、と思い始めていた。

アビゲイルは巣立ったばかりのイワツバメのつたない飛行を目を細めて眺めていた。
大地のたくましさ、美しさ、はかなさを実感するたび、アビゲイルはかつて自分の中に入り込んできた女神と男を思い出す。
そうすると、心の底に暖かい火がともったように感じる。何度も心に火をともし、慈しむのが日課のようなものだ。
それは愛情という名でしっかりと彼女に根差し、陽光を得た花のように彼女自身を開花させたのだが、自覚はない。

「我が国土は本当に美しいよなぁ」
思わずそばにいる部下に同意を求めた。
ほんとうに、と答える部下が胸の内で「あなたは美しい」と続けていることを、彼女は知らない。
418投下終了:2008/01/31(木) 22:40:05 ID:NxGNyhwS
ながながと、ありがとうございました。
ちょっとだけ続きを考えてみたので、書いてみることにします。
気長に待ってやって下さい・・・
419名無しさん@ピンキー:2008/01/31(木) 22:51:48 ID:Hz3WEl7c
アビゲイルキタ━━(゜∀゜)━━!!
待ってました…
心から待ってました…!
そしてアビィが嬉しそうでよかったよー!
相変わらず面白かったです!GJ!
420名無しさん@ピンキー:2008/02/01(金) 00:24:59 ID:0V63cqDc
ん。よかった!
421名無しさん@ピンキー:2008/02/02(土) 23:19:10 ID:fv/qqkOi
>>290
先日東京に遊びに行った際に、
歴史系の棚にその本がないか探したんだけど結局発見できず。
タイトル名とか知ってる方居たらご教授願う。
422名無しさん@ピンキー:2008/02/03(日) 00:29:20 ID:zPJAA93X
アビゲイルの人超GJ!!
二人が幸せに結ばれる日を待ってるよ!
423名無しさん@ピンキー:2008/02/03(日) 10:32:43 ID:5uFwmTDl
>>421
290ではないけど、
おそらく『図説「最悪」の仕事の歴史』ではないかと。
ア○ゾンにあるよ。
424290:2008/02/03(日) 15:23:38 ID:ya33fBuT
タイトルいいかげんすぎてごめん。
423さんのであってます。
これだけではなんなので、
「兵士になった女性たち」という気になるタイトルの本も見つけたことを申し添えておきます。
425名無しさん@ピンキー:2008/02/03(日) 23:12:43 ID:0d0AVEvv
>>423
>>424
thank you
426名無しさん@ピンキー:2008/02/05(火) 19:46:41 ID:DpORpRBe
デュッセルドルフの謝肉祭のニュースを見て、ガレーナの話を思い出した。
427名無しさん@ピンキー:2008/02/09(土) 07:06:05 ID:CtbNRqu9
アビゲイル続き待ってる!

関係ないが、夢でアリューシアとグルドフが出てきた
内容は忘れてしまったけど
428名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 00:29:33 ID:gEWfE4nC
その夢、いいな。
自分もみたい。
429名無しさん@ピンキー:2008/02/11(月) 02:55:35 ID:2/j5DTeC
「グルドフがいつからどのようにアリューシアのことを愛していると
自覚してしまったのか」というSSが読みたい。
430名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 23:16:54 ID:q2YbbAmX
これは?携帯だけだけど
ttp://courseagain.com
431名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 20:56:15 ID:Lkhlar+n
↑これよく見るけどワンクリ業者なので注意
432名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 21:36:48 ID:VJALqzR0
ワンクリ幾ら?
433名無しさん@ピンキー:2008/02/15(金) 15:31:34 ID:YNRIqg/E
女兵士一個小隊が半日雇えるくらい
434投下準備:2008/02/17(日) 23:23:59 ID:oA6cY5yM
いつも感想下さる皆さん、有難うございます。
蛇姫の第7作目です。

既にこのPrincess of Dark Snake も佳境に入り、
最終回が間近となってまいりました。
ラストまでの流れは頭の中にあるので、
あとは文章を組み立てていくだけなのですが……


今回エロなしです。
属性注意ありません。
435Princess of Dark Snake 7:2008/02/17(日) 23:28:26 ID:oA6cY5yM
生暖かい風の吹く夜であった。
こんな晩は、シャーシュタールに住む者は、貴きも貧しきも窓を開けて寝る。
物騒だが仕方が無い。
締め切ったままでは、寝苦しくて仕方が無いのだ。
王宮では噴水や打ち水で気温を下げるため数々の工夫が凝らされているが、
それにしても生暖かい夜だった。

「……ん、」

可愛らしい寝顔を浮かべ、王太子妃コリーナは眠っていた。
ファルハードは、新妻を起こさぬようにそっと寝台を降り、ガウンを羽織る。
静かに寝室を後にした彼は、ついて来ようとする宦官兵を制して一人夜の王太子宮を歩き出した。
人の気配もなく、深夜の宮殿はひっそりと静まり返っている。
聞こえてくるのは庭園の茂みに住む虫の鳴き声と、
篝火の松明が燃え、パチパチと爆ぜる音ぐらいだった。

彼が警邏の兵が立つ廊下を通ると、王太子のいきなりの出現に驚き、兵士達は即座に威儀を正した。
すわ、宮の主人自らが衛士の勤務状況を査察に来たかと、全員緊張した面持ちで彼を迎える。

「……異状はないか?」
「はっ、ございませぬっ!」

慌てた彼らの様子がおかしくて、ファルハードはつい声を掛けてみた。
普段は直接命令を受ける事さえない王太子の謦咳に接し、彼らの大仰な返答ぶりが面白かった。
軽く頷くと、彼らの前をそのまま通り過ぎてゆく。
背中で、兵士達の安堵の吐息を聞いたような気がした。

ファルハードには、夜歩きの癖はない。
今夜の一人歩きは特に意図があった訳ではないが、寝所で目を閉じていても中々寝付けなかったのだ。
ひょっとしたら、彼はこの夜風に含まれていた怪しい気配を、
無意識のうちに感じ取っていたのかも知れない。

(ん……?)

円柱の並び立つ廻廊を歩いていた時だった。
彼はふと、夜空に目を向けた。
兄達の宮殿の丸屋根が、松明の微かな灯りに照らされて薄く浮き上がっていた。
それは、何の変哲も無いいつもの光景のはずだった。
だが、彼の目は宮殿上に舞う四体の影を見逃さなかった。
帯に挿した短剣の存在を手を伸ばして確かめる。
余人であれば、ただ蝙蝠の類が飛んでいるのかと思うだけだろうが、
暗がりの中であっても、ファルハードはそれが何であるかしっかりと認めた。
それは、三匹の鬼と一人の女の姿であった。


・・・・・・・・・

436Princess of Dark Snake 7:2008/02/17(日) 23:31:17 ID:oA6cY5yM
 
(ベッ!)

鬼の口から自分に向かって涎が吐き出されたのを、女はひらりと飛び退いて躱した。
壁に糊の様に貼りついた涎が、不気味な煙を放つ。
白大理石の天井を蹴ったはずなのに、女の身ごなしは物音一つ立てなかった。
しかし、それは三匹の鬼たちも同様だった。
背中から生えた羽で飛び跳ねる際も、爪牙を振り回す際も、もちろん涎を吐き出す際も。
一切の物音を立てぬ、無音の戦いが屋根の上で繰り広げられていた。
三匹の鬼は、一見していずれも同じ顔に見える。
但し、禿げ上がった頭から生えた角の数が、一本から三本までそれぞれ違う。
背は人並みだとしても、一糸纏わぬその裸形は、裏路地で飢え死にしかかった貧民より痩せている。
そんな彼らの指先から伸びた鋭い爪と、唇からはみ出した長い乱杭歯が今、
目の前に居る女を餌食にせんと同時に襲い掛かる。

(フフ……)

微笑を浮かべながら、女は肩に掛けていた領巾の端を掴み、それを彼ら目掛けて振り回した。
すると、三匹はそれに触れるのを怖れるが如く、彼女に近寄る事が出来ない。
飛びかかろうとしても、目の前で音も無く翻るその領巾を前にすると途端に退いていった。
一人と三匹の間に、再び距離が保たれる。

(……)

退かされた三匹が、互いに顔を見合す。
すると一本角の鬼が、女に向かって顎をしゃくって指図した。
それを合図に、二匹は跳んだ。
女の方ではなく、脇の方へ。
保った距離は変わらぬまま、女を中心とした輪に、正三角形になるように宮殿の屋根の上を跳んだ。

おぞましく醜い鬼たちの顔が、必勝を確信した笑いでニタリと歪む。
どちらを向いたとしても、獲物は必ず一匹に背を向けなければならない。
だが、女はただ領巾を構え直しただけで、顔からは微笑みは消えていなかった。
三匹も、爪と牙をむき出しにして構える。
彼らがまさに必殺の攻撃を開始しようとした、その時だった。

「ギャッ!?」

ニ本の角を持つ鬼の背中に、鋭い短剣が突き刺さった。
その叫びを聞き、思わず三本角の鬼が声を出した一瞬だった。

「兄じゃ……グェッ!!」

女の領巾は背後の鬼に襲い掛かっていた。
それまでの数倍の長さに伸びて、矢よりも速く飛来した領巾を避ける事も出来ず、
鬼の首は領巾に巻き付かれた。
だが、次の瞬間には、領巾は鬼の頭から離れる。
三本角の鬼は、そのまま死んだ。
瞬時に引き戻された布地に巻き取られ、首は独楽のように一回転していた。
頚骨を捩じり外された骸は、仰のけに倒れた。
437Princess of Dark Snake 7:2008/02/17(日) 23:33:20 ID:oA6cY5yM
 
その有様を見ていた一本角の鬼であったが、まだ微動だにしなかった。
うかつに動けば自分もやられるという事を知っての事だ。
代わりに、自分の弟達が屠られる様を見せ付けられる事になったが、一本角は耐えた。
三本角の鬼が殺された瞬間、愚かにも二本角の鬼は、
『自分の背中に短剣を投げつけた奴は誰だ』とばかりに、憎しみを込めて振り向いていたのだ。
それが、その鬼が行った最後の動作だった。

(ギ……?)

頭に何かが乗ったのだけは、鬼にも判った。

「ッ!?」

もし手を伸ばしてそれを掴む事が出来たのなら、あの女のサンダルだと二本角の鬼にも判っただろう。
しかし、その時間は与えられなかった。
瞬く間も無く、鬼の身体は潰れた。
まるで路上で踏み潰された蛙の様に、内蔵を撒き散らして二本角の鬼は死んだ。
その平たい骸の上に、女の脚が抛ったサンダルは乗っていた。

鬼の目は、獲物である女から一瞬たりとも離れなかった。
二人角の弟が死んだ刹那、一本角の鬼は女に向かって飛び跳ねていた。
サンダルを抛り飛ばしたため、獲物は体勢を崩している。
既に勝機はここしかないと、鬼は理解していた。

三本角の弟を屠った領巾は、まだ手元に戻りきっていない。
崩れた体勢では、もう一方のサンダルを飛ばすのは無理だ。
捨て身の攻撃が、女を襲う。
鬼は勝利を確信した。
指と顎を限界まで開き、渾身の爪牙で攻撃を放つ。
その速さは隼にも勝る。
一直線に、鬼は女に迫った。

だが二匹を仕留めた女も、一本角の鬼から顔を逸らしていなかった。
鬼は、女の唇から自分に向かって何かが吐き付けられるのを見た。
それが棗椰子の種である事と、種が胸板── 心臓の上にぶつけられた事は知覚できた。
一本角の鬼もそこで死んだ。
両者の動きからより正確に云えば、鬼の身体が棗椰子の種に当たりに行ったのだが。
ぶつかった瞬間、拳ほどの穴が鬼の胸板に穿たれたのだった。
穴から、鬼の背後にある風景が覗いて見えた。
鬼の身体を貫いた種は、宮殿の屋根をころころと音を立てて転がっていった。

438Princess of Dark Snake 7:2008/02/17(日) 23:34:30 ID:oA6cY5yM
背中を刺された二本角の鬼が、沈黙を破って叫び声を上げてより、
三匹を屠るのに女は一瞬づつしか使わなかった。
鬼たちの骸は、見る見るうちに塵となって夜風に攫われて行く。
二本角の鬼を踏み潰したサンダルも、タイルに僅かな皹一本でさえ入れなかった。
宮殿の屋根の上には、何の痕跡も残らない。
この静かな死闘は、一人の目撃者を除いて誰にも知られぬまま消えるのだろう。
女は婀娜めいた笑みを、短剣の主に向けた。

「助太刀かたじけのうございます。ファルハードさま」

薔薇の様に紅い唇を綻ばせて、女── ザッハーグの血を引く妖姫シャフルナーズは微笑んだ。
その声に応じるように、のそりと、暗がりからファルハードの姿が現れた。

「つい短剣を投じてしまったが、はて本当に助けが必要であったかな」
「無論でございますわ。この六本角兄弟鬼は、魔族の中でも名うての強者。
 一匹一匹はそれほどでもありませんが、三兄弟が集まるとなかなか油断の出来ぬ相手になりますの」
「それにしては、随分余裕ありげに見えたが…… おっ!」

女の側に近寄ろうとしていたファルハードだったが、屋根の丸さに足を滑らせた。
すかさず、女の領巾が飛ぶ。
先程は鬼の頚を捩じり外した領巾が、ファルハードの腕に巻きついて彼の身体を支えた。

「お気をつけなさいませ、ここは平地とは違いますのよ」
「……ちっ」

舌打ちの音が暗がりから聞こえる。
だが、その姿は見せない。
残念ながら、彼の主が入れ込む色男が、屋根から落ちてくたばってくれるという幸運は起きないようだ。

「平原で馬を奔らせるのは我も得手だが、夜間王宮の丸屋根の上を飛び跳ねるのは初めてなのでな」
「まあ、そうでしたの?」
「当たり前だ。誰が好き好んでこんな屋根の上に登るものか」
「あらあら、私は高い所は大好きでございますけれども、おほほ……」

夜の宮殿の上に、二人は並び立った。
コリーナ姫が輿入れするきっかけとなった、あの竜の巣穴で別れて以来、暫くぶりの再会だった。
ここ最近、アルダシール王の治世に波乱も無く、妖の姫が訪れるきっかけが無かったためであるが、
シャフルナーズ自身が姿を見せるのを控えていた故もある。
439Princess of Dark Snake 7:2008/02/17(日) 23:35:25 ID:oA6cY5yM
「いつもと立場が逆になりましたわねえ、ファルハードさま。
 今宵こうしてお助けいただいた以上、わたくしから御身にお礼を致さねば……」

男の肩にしな垂れかかろうとしたシャフルナーズの手を、彼はそっけなく払いのけた。
その厳しい眼差しは、まだ女に対する怒りが解けていない事を教えていた。

「生憎と、我は謝礼が欲しくて手を出した訳ではないからな」
「あん、つれないお方……」
「お前が仕出かした事を思えば、短剣の的は鬼の背中にするべきでは無かったかもしれぬ」
「なんと酷いお言葉! 御身を一途に慕う女心を、その短剣よりも冷たく鋭い言葉で苛みますのね。
 ファルハードさまの御為に、わたくしはこうして人知れず危険に身を晒しているというのに……!」

妖姫は悲しみに顔を歪め、両手でその顔を覆った。
これほどの美女が見せる悲哀の姿には、ファルハード以外の人間ならば必ず騙されていただろう。

「嘘泣きは止めろ」
「……お見通しでございましたか?」
「望んでの事ではないが、お前との付き合いも長いからな。いい加減に此方も慣れてくる」
「おほほ……」

既に何度も騙されているので、彼も今更引っ掛かる事はない。
ただし、女の側も相手が引っ掛からないと知ったうえで、こうして空泣きをしてみせたのだが。

「シャフルナーズ、あの鬼どもは一体何者だ? そして何故お前とこんな所で殺し合いを始めた?」
「気になります?」
「先程、我の為に危険に身を晒しているといったな。それはどういう意味なのだ」
「言葉どおりの意味とお取りいただいて結構ですのよ。
 都に来てこのかた、私は御身の一門に害をなしそうな奴輩を、この手で追い出して差し上げているのです」
「何だと?」
「ご存知ないでしょうけれども、シャーシュタールにはあの鬼たち以外にも、妖魔や怪物が色々住み着いておりますのよ?
 闇に紛れて赤ん坊を攫い、婦女を辱め、墓を暴いて屍を貪るのが闇の眷属の生業。
 そんな小さな悪事なら、目こぼししてやらぬ事もありませぬが、王族や国家に災い成すほどの大物どもは、
 残らずわたくしが追い払っていたのです」
「……」
「ほほほ、言わばわたくしは、王都の守護女神の役を果たしておりますのよ。
 あの三匹も一度は都から追い出したのですが、性懲りもなくわたしくしに挑んでまいりましたの」
「……けっ」

闇の奥で、こっそりと老小鬼が毒づいた。
守護女神とは言いも言ったりである。
外面だけ見れば、主の言葉に嘘はない。
確かにシャフルナーズは都や王宮に潜む魔物の類を追い払った。
しかし、その理由は王国の安泰を守るためではない。
単に、自分以外の者が自分の思い人を苦しめるのは許せないのだ。
結果としてそれが王家の為になっているだけであって、恩に着せることでは毛頭ない。
闇の眷属として、利敵行為以外の何物でもない妖姫の所業。
これが主君でないのなら、洗いざらいカヤーニ家の小僧にぶちまけて台無しにしてやりたい所だが、
流石にそんな真似をしたら主の怒りを買ってしまう。
老小鬼は、ただ密かに王宮の屋根に唾を吐くのだった。

440Princess of Dark Snake 7:2008/02/17(日) 23:36:33 ID:oA6cY5yM
「ですから、御身がわたくしを救って頂いたことは、御身にも王国にも善き事でございましたのよ。おほほ……」
「ならば、今宵はその借りの一端を返せたわけだ」
「ああ、お気になさらずに。こちらが勝手にやっている事ですから」
「……では此度は貸し借りなしとして、我は帰るとしよう」

そう言うと、ファルハードは女に背を向けた。
あっさりと地上へ戻ろうとする男に、シャフルナーズは声を掛ける。

「お待ちになって下さいませ。折角の逢瀬、このままお別れするのは寂しゅうございます」
「残念だったな。我はこんな所でお前と睦言を交わすつもりはないのだ」
「あん、こういう所で契りを交わすのも面白うございますのに…… それなら、河岸を変えて致しましょうか?」
「断る」
「ならば、このごろ都を騒がす首なし死体のことについて、お耳に入れておきたい事がございますけれど」
「いらん。それは判官たちが取り扱うべき事だ」
「そうお言い下さいますな。これは王家にも些か関わりが……」
「シャフルナーズ、我はお前を許していないのだぞっ」

振り返り、厳しい顔を緩めぬままファルハードは宣告した。

「あら、何のことでございましょう?」
「とぼけるのも大概にしろ。コリーナの事だ!」
「おほほ、すっかりあの小娘に骨抜きにされてしまいましたのねえ。
 どこにそんな取り得があるとも思えませぬが……」
「舐めるなよ、蛇めがっ! パルティアとルーム、両王家の通婚を汚したお前だ。
 我が戦鎚の錆にせぬだけでもありがたいと思うがいい」
「まあ怖い…… しかしファルハードさま、左様に目くじらを立ててお怒りになる事でございますか?」
「何だと!?」
「事は、しがない女の嫉妬でございます。
 奴隷女も王侯の娘も、男を取られて腹を立てぬ女子は居りません。
 愛しい男に裏切られた女は、顔は天女でも心は邪鬼。
 叶うのならば、憎い恋敵を縊り殺してやりたいと願う女が、今宵の王都にだって何千人いるとお思いですの?
 耐え忍ぶ以外に許されぬ力なき女の無念、殿方には判りますまい。
 そんな彼女達に出来るのは、恋敵へのささやかな復讐ぐらい。
 花嫁衣裳に針を埋め、あるいは花束に蜂を潜ませ、晴れの婚礼を邪魔してやりたい。
 慶事の陰で成される哀れな女の諍い、浅はかなとお怒りなさいますな。
 わたくしどもに出来るのは、所詮その程度なのでございますから……」

一気呵成にまくし立てられて、ファルハードは言葉に詰まった。
彼も口下手な方ではないのだが、この蛇の姫を前にしては相手が悪すぎる。

「しかし、コリーナの……」
「あの姫は、私が御身をお連れしなければ死ぬまで悪竜に囚われていたはずの娘。
 私には、彼女から借りを取り立てる権利があります。
 その分際も弁えずに御身に懸想するなど、看過し得ることではございません。
 白雪の如き肌を蟇の様にしてやっても、再びどこぞの竜の元に連れ去ってやっても宜しかったのですが、
 ファルハードさまのご将来の事を考えて思いとどまったのですわ」
「それでも、神聖な初夜の儀を……」
「あの娘の処女を散らした事をお怒りならば、幾重にもお詫びしましょう。
 でも私の純潔は、既に誰かの所為で失われてしまいましたから、同じものを返すとはいきませぬけれど」
「ぐ……」

441Princess of Dark Snake 7:2008/02/17(日) 23:40:26 ID:oA6cY5yM
言葉の先の先まで読み、先回りするシャフルナーズの能弁に、抗する術もない。
おまけに、自分の過去の過ちを持ち出されると、どうしても弱い。
ファルハードは再び女に背を向け、もはや何も言わずにこの場を去ろうとする。
それを見て、シャフルナーズが再び領巾を飛ばす。
領巾はまるで蔦の様に屋根から壁にと張り付いた。

「お気をつけてお戻りくださいませ、愛しい方。足元が暗うございますからね」
「……」

降りる時に危険が無いように相手が配慮したのは判る。
だが、相手の物言いに言い返せずに帰ろうとした挙句、帰り方にまで気を使われて気分が良かろう筈が無い。
憤然として礼も言わず、ファルハードは領巾を伝って天井から降りていった。

ファルハードがいなくなると、いつの間にか老守役が現れていた。
その染みだらけの老いた身体は、主が屠った鬼たちに比すれば子供のように小さい。
彼は抛り飛ばされたサンダルを拾うと、亡骸の余燼を払い落として主の足元へ差し出した。

「ひい様、お履物を……」
「ご苦労ね、爺や」

シャフルナーズの眼は、王太子宮へ戻るファルハードの背中に注がれている。
建物の陰に隠れて見えなくなるまで、ファルハードは一度もこちらを振り向かなかった。

「……ひい様や、いい加減あいつに愛想尽かしをしたらどうじゃ?」
「何故かしら、あれほどの殿方を?」
「創世の時に人と魔族が別けて創られたのは、身に負う宿命の異なるが為よ。
 奴らの苦しみは儂らの悦び、儂らの悦びは奴らの苦しみ。
 幾ら御身様が思いを注いでも、あ奴らと儂らは生き方が違い過ぎる。
 所詮実らぬ愛なのじゃ。
 魔族の衆にこうして恨みを買ってまで、あ奴に尽くす事は在るまいが」
「爺や、本当に人を好きになるとね、報われるかどうかは関係なくなるのよ」

妖姫は、嫣然と微笑んだ。
その美しさには、守役の老小鬼でさえ圧倒される。
女になってから、主は明らかに変わった。

「……」
「お前の言う報われるという事は、あの方が妻として迎え入れてくれる事でしょう?
 でも私は、私が愛したいようにファルハードさまを愛する。
 私の存在を、あの方の心に刻み付けたい。
 片時も、忘れ得ないようにして差し上げたい。
 喜び、苦しみ、愛、憎悪、肉欲、侮蔑、ありとあらゆる気持ちで想って欲しい。
 私はいつもあの方の側に居る。私が常にあの方の心に居る。誰にも邪魔はさせはしないない。
 それが私の望みだわ」
「ひい様……」

442名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 23:43:59 ID:PeNR0n/w
443Princess of Dark Snake 7:2008/02/17(日) 23:44:53 ID:oA6cY5yM
普段ならば、ここで嘲弄めいた哄笑を上げる筈だったが、何時になく真剣な口調に老守役が戸惑う。
どんあ言葉を掛ければいいか判らぬ老小鬼が、思わず声を掛けた時だった。

「うぐッ……」
「ひぇ? ひい様、いかがなされた?」

急に口元を手で覆い、シャフルナーズはうずくまる。
吐瀉物が、王宮の丸屋根に零れた。

「うぷっ…… げぅ……」
「ま…… まさか……、あの六本角ごときに妙に手こずっておられると思うたが……」
「その、まさかが起きてしまったみたいねえ。
 でも参ったわね…… よりによってこんな時期にとは…… おほほほほ……」

シャフルナーズは口元を拭いつつ、何時になく力なき笑い声を発するのだった。


(終わり)
444名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 00:17:47 ID:73I5l1Zw
蛇姫様きたー(AA略)
もすかしておめでたですか(*'∇'*)

描写量が圧倒的に違うから仕方ないけど、蛇姫様の想いに泣けます。
そういや王子は妃をどう思っているんだろう。
素直でかわいい系みたいだけど、いかんせんまだ子供っぽくて
そういうところが王子の好みなのかなあ。
445名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 04:00:58 ID:C+EOnU3w
ご懐妊か蛇姫様。
幸せになってほしいけどなあ。
446名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 14:22:53 ID:Di18LOon
しばらくぶりに来てみたら、蛇姫様キテター!
姫様の、普通の乙女な心情がGJ!!
力がある分、その恐ろしさも増大してしまうのだがw

このあと、どう展開するのか楽しみだ。
447投下準備:2008/02/27(水) 19:30:28 ID:igqt+jwc
長らくお楽しみいただいた蛇姫ですが、
次回で最終回となります。
今作は、最終回のための前章といった話です。
女キャラは一人も出てきません(でもアーッも有りませんのでご安心を)。

バイオレンスな展開のため、お食事中の方や耐性の無い方はご注意下さい。

では蛇姫8作めをどうぞ。
今回の話を一言で表すと『はらわた』です。
448投下準備:2008/02/27(水) 19:31:36 ID:igqt+jwc
抜き身を下げたまま、ファルハードは夜の王宮の廻廊を走った。
宮廷のしきたりでは、許可無く王宮内で抜剣した者は笞打以上の刑に処せられる。
たとえ王太子であろうと、それは例外ではない。
だが、パルティア王国の歴史を紐解けば、武装した戦士たちがこの廻廊を往来した例は、
両手で数えられる程度に存在する。
それも表ざたになった事件だけでだ。
そういう事例の原因は、ほとんど決まっていた。

「ぁ……、ぁぁ……」

入り口の門扉の前で、王の私室を守る宦官兵たちが腰を抜かして床に坐り込んでいた。
普段なら、『自分の許しなくここを通る事は出来ない』とばかりに
不必要な程に威圧的な態度で扉の脇に直立している輩らだ。
だが今は、まるで瘧に罹ったかの如く震えてうわ言を上げている。

「……」

何事が起こったのか聞き出す事は出来ないと、ファルハードは即座に判断した。
明らかに正気を失っている彼らと話をする暇は、残念ながら彼には無い。
彼らが何を見、何を聞いたのか、それは実際に王の間に足を踏み入れれば判る事だ。
躊躇わずに、ファルハードは王の間に入った。
胸がむかつく程の、腥い臭いが鼻を突いた。

「ぐっ……!?」

軍を束ねる将として、また一人の戦士として、その臭いを知らぬファルハードではない。
にしても、ここまで濃密なものは嗅いだ事がない。
剛勇を持って鳴る王太子ファルハードでさえ、思わず鼻を塞いだ。
撒き散らされた血と、臓の臭いだった。

さしもの彼も、一瞬足を止めたほどの異臭。
まるで、ここは処刑場だ。
ファルハードは、そんな感想を抱いた。
そして、芳しき花溢れる王の後宮において、そんなおぞましい想像を抱いた事実に愕然とする。
改めて臭いの元へと急ごうとしたファルハードだが、幸いな事にその原因は直ぐに突き止められた。
鮮やかなまでに赤一色で塗り替えられた王の私室で、
彼はこの事件の元凶である人物と顔を合わすことができたのだ。

「やあ、遅かったな。ファルハード」
「あ、兄上……」

赤く染まった王のソファーにただ一人腰掛け、父親の金杯で酒を啜りながら、
第二王子アタセルクスは弟に笑いかけた。
ソファーの周りには、切り裂かれた人間の身体が欠片となって散らばっている。
それも、無数に。
夥しい血臭の原因はこれだった。
449Princess of Dark Snake 8:2008/02/27(水) 19:34:08 ID:igqt+jwc
首を刎ねられた女官の骸の隣に、頭蓋骨を割られて脳漿を溢した護衛兵の死体が転がる。
かと思えば、唐竹割りに切り裂かれた宦官の亡骸からは、臓物が床へと盛大に零れている。
両腕を切り落とされ、出血死したであろう侍従の青ざめた死に顔には、驚愕と恐怖が刻まれたままだ。
それでも、衣服や装身具から身元が判りそうな者は、まだ幸いと言うべきであろう。
犠牲者の多くは過剰なまでに斬り刻まれ、死後にニの太刀、三の太刀が加えられたであろう死体さえある。
王の間にいたであろう、少なくとも十数人の男女が無差別に解体されたことは確かだ。
日没までは花と香料の薫りに満たされていたこの部屋を、血で靴を濡らさずに歩むことは不可能だった。
余りに斬り散らかされているため、床に散らばる肢体を繋ぎ合わせても
何人分の遺体を再生できるか定かではない。

この徹底した殺戮の現場で、ファルハードの兄は涼しい顔をして佇んでいた。
彼が、この場に残った只一人の生存者であった。
手酌で葡萄酒の壷を傾け、彼の父親のものであった王家伝来の杯で喉を潤している。
洒落者で通った人物にしては珍しく、布地をだぶつかせた上着を纏う格好はどこか野暮ったい。
ただし、手足と言わず胴も頭も、全身隈なく鮮血にまみれれていれば、
どんな洒落た服でも意味がないであろうが。

「……兄上! 父上は何処に居られるっ?」

語気を強めて、ファルハードは兄に問うた。
それを確かめるため、急を知らされた彼は取るものもとりあえずここに来たのだ。
だが、真剣さが滲む弟の声とは逆に、おどけた態度でアタセルクスは床を一望する。
その視線は、王の間に転がる犠牲者たちの欠片に向けられた。

「父上か? はて……、どれだったかな?」
「貴様……」
「こう散らかっていると、どれが誰の体か判りにくくてなあ…… 後で奴隷に探させようじゃないか。
 それより一杯どうだ? 今宵はこの手でお前に酒を注いでやってもいい位、我は機嫌が良いのだ」

軽く杯を持ち上げるアタセルクスに、ファルハードは剣を突きつけた。

「兄…… いやっ、もう兄とは呼ばぬっ!
 弑逆者アタセルクス! 英雄王の名において、貴様は許しておけぬ!」
「ほう、兄とは呼ばぬと?
 生憎だが、我はとっくの昔ににお前の事を弟とは思わなくなっていたよ」
「剣を取れ。せめて抵抗する権利ぐらいは呉れてやる」
「有り難いことだが、我の方こそお前ご自慢の戦鎚を取ってくる時間ぐらいはやる心算だぞ」

アタセルクスは、静かに立った。
そして足元に転がしてあった剣へ手を伸ばす。
既に数十本の骨肉を斬り割り、穿ち、砕いたその剣は所々に刃毀れが生じていたが、
そんな事は全く意に介さぬかのように、アタセルクスは構える。



450Princess of Dark Snake 8:2008/02/27(水) 19:35:53 ID:igqt+jwc
丁度その時、血の水音を鳴らして数人の将官が入ってきた。
彼らはファルハードの侍衛たちであった。
第二王子の謀反とも、御前での発狂とも錯綜する情報の中で、
王太子を護衛する彼らを置いてファルハードは単身動いた。
それは己がパルティア随一の丈夫であるという実績に基づいた自負ゆえの行動だったが、
護衛が主に遅れをとっては彼らの立つ瀬が無い。
馳せるファルハードの背を追って、ようやく彼らもこの惨劇の場にたどり着いたのだった。

「で、殿下……!? これは……?」
「お前達は手を出すな。アタセルクスは、父祖カイクバードの名を穢す畜生に成り下がった!
 同じ血を引く我の剣で、此奴は仕留める」
「カイクバードだと? とうの昔にくたばった者の名を呼んだところで、何の意味があるのだ?」
「なっ……」
「死人の威光を借りて力が増すというのなら、百万遍でも唱えるが良いっ。
 クククッ…… 我にはそんなものいらぬわ!」

仮にも王家の一員の言とも思えぬアタセルクスの言葉に、ファルハードも侍衛も息を呑む。
聖賢王ジャムシードの娘を娶り、ザッハーグを倒した開国の英雄に対する完全な否定だった。

「アタセルクス、貴様…… 王家の誇りさえ捨てたか?」
「ジャムシードもカイクバードも糞喰らえだ!
 今日からパルティアの臣民達は、新たなる神アタセルクスの名を唱えるのだ!」
「狂ったか…… せめて、これ以上神々と父祖を辱める言葉を吐かぬよう、その舌を切り取って清めてやる」
「纏めてかかって来なくてもいいのか? 我は何人がかりでも構わないぞ?」
「……ほざけっ!」

鋼と鋼がぶつかり、激しい金属音を立てる。
アタセルクスの剣は、軽々と相手の剣を弾いた。
驚愕が、ファルハードに沸き起こった。
力で兄に負けるというなど、夢想もしていなかったのだ。
彼は初手で相手の剣をはたき落してやるつもりで打ち込んだのだが、
逆にあやうく弾き飛ばされそうになった。

「っ!?」
「ハハハ、懐かしいなあファルハード」
「……」
「今でも覚えてるぞ、剣の稽古でお前にぶん殴られた日の屈辱はっ」

弑逆者とはいえ、この惨劇が一人で引き起こされたとは思えず、
事の背後にある物を聞き出そうという気持ちがあった。
彼が武術の鍛錬に参加したのは六歳の時だが、これまで一度も兄に遅れを取ったことはない。
一歳年下の弟を苛めてやろうと無理矢理稽古に誘ったアタセルクスを、
ファルハードは剣を習い始めた初日に打ちのめした。
始めた時点で、既に彼はアタセルクスよりも上手だった。
それが、二人が一緒に稽古をした最初で最後の日になった。

451Princess of Dark Snake 8:2008/02/27(水) 19:36:42 ID:igqt+jwc
「あの頃から、お前は気に食わない奴だった。
 バハラームの下種も気に入らなかったが、お前は遥かに気に入らん。 
 ちょっとばかりの才覚を鼻にかけ、父上の寵愛を盗みおったあげく、この兄を蔑ろにしおって!」

自分が長兄を敬っているかどうかは棚に上げて、アタセルクスは咆える。
今度は、次兄の側から打ち込みを仕掛けてきた。
初太刀の成り行きに衝撃を受けたファルハードだが、戦いの最中に隙を作る未熟者ではない。
訝しい気持ちを覚えつつも、身体は敵の攻撃に対応する。
激しい金属音が、立て続けに鳴った。
そして一太刀ごとに、ファルハードの疑念は増幅されていった。

(馬鹿な? これが兄の剣だというのか!?)

アルダシールの三嫡子のうち、アタセルクスは体格に恵まれた方ではない。
背は高いが、三人並べばその痩身は一目瞭然だった。
誰しもが羨むのはファルハードの偉容だが、
第二王子の痩身よりは、大柄なバハラームの巨躯の方が武勇を尊ぶパルティア人の気風に合った。
おまけに、これまで目だった軍功を上げるどころか、戦場に出たことさえないのだ。
ポロをするのは、手加減の上手な取り巻き立ちとだけ、
狩猟をすれば、あらかじめ下僕が捕まえ、飛び跳ねないよう足を傷つけておいた獲物にさえ矢を外すほどだ。
だからこそ、アタセルクスは武で名を上げることを諦め、政略と権謀で宮廷に地歩を固めようとしてきたのだった。

その兄に、パルティア随一の勇者といわれるファルハードは押されている。
けして巧みとは言えない剣技だが、込められた力が違いすぎる。
一撃受けるごとに、柄を握る掌が痺れた。

「ぐはははっは! いい様だなファルハード!?」
「う……」
「ほらほら、どうした? ご自慢の武芸を見せてみろよ?」

愉しそうに笑いながら、アタセルクスは切り込む。
反対に、ファルハードにはそんな余裕は無い。
いつの間にか、防戦一方に追い込まれていた。
並みの剣士なら闘志を失い、逃げるか加勢を求めてしまう状況だが、ファルハードは冷静に反撃の機を伺う。
そして、機は意外な形で訪れた。

「うおっ?」
「!」

撒き散らされた臓物をアタセルクスが踏み、そのぬめりに足を取られたのだ。
その隙を見逃すファルハードではない。
反射的に放った一閃が、アタセルクスの、今晩だけで十数名の身体を切り刻み、痛みつつあった剣の峰を撃つ。
高く澄んだ音を立てて、剣が根元から折れた。

「うぬ?」
「やぁっ!!」

続けざまに、敵に生じた隙── 肩目掛けて必殺の一撃を見舞う。
決闘を見つめる侍衛たちも、切り込んだ当人も勝敗は決したと思った。

452Princess of Dark Snake 8:2008/02/27(水) 19:38:18 ID:igqt+jwc
「クククッ…… 惜しい惜しい」
「……ばっ、馬鹿な?」

しかし、肩に食い込んだ剣を素手で掴むのを見て、歴戦の彼ら全員が度肝を抜かれた。
ファルハードの剣は、致命傷を与えることはなかった。
鎖帷子で阻まれた感触は無く、彼には確かに肉を斬り、骨を裂いた手応えがあったにも関わらずだ。
いや、いかに防具で防いだとしても、鋼の剣でしたたかに切り込まれれば、衝撃は骨まで響く。
ましてやファルハードの剛剣を喰らって、何食わぬ顔をして抜き身を掴み取るとは。

ファルハードは、咄嗟に剣を引こうとした。
鋭利な刃を素手で握り締めたアタセルクスの指は、それで半ば切り落とされるはずであった。
だが、まるで大木の幹に打ち込んだ斧の様に、彼の剣は微動だにしない。

「ぬ……」
「おっと、逃さぬぞ」

驚きが、ファルハードの判断を歪めた。
武器が自由にならぬとなれば、手を離して敵と距離を取るべきであった。
一瞬だが、剣を引き抜くことに固執したために対処が鈍る。
それに気が付いた時には遅かった。
アタセルクスの手は、まるで襲い掛かる蛇の如くファルハードの首筋へ伸びていた。

「ぐあぅっ……」
「ククククク……」

怪力で喉を締め上げられ、ファルハードは呻く。
それを聞き、実に愉しそうにアタセルクスは嘲った。

「残念だなあファルハード…… 折角父上が呉れた好機だったのになあ」
「……!」

その言葉の意味を悟れず、ファルハードは床に目を向けた。
そして、アタセルクスの足元に転がっている骸が、自分とこの弑逆者共通の父親であった事を知った。
今日の日没までは、大王としてパルティアに君臨し、威勢を隣国にまで轟かせた男だったが、
現在は腰の位置で二等分された哀れな骸となって、臓を床に溢れかえらせている。

「ち、父う……」
「全く糞親父めが。最期の最期まで弟を贔屓しくさるかっ」

片手で弟の首を絞めたまま、アタセルクスは父王の遺骸を足蹴にした。
まるで毬のように、アルダシール王の上半身は壁まで飛ばされる。
暴挙に憤慨したファルハードは、何とかこの腕を振り解こうともがいたが無駄だった。
殴ろうが、蹴ろうが、アタセルクスの身体は痛みを感じないかの様だ。

「このまま縊り殺してやってもいいが……」
「うぐ……」

喉仏が潰れるかと思うほどの力が加わり、ファルハードの呼吸は止まりかけた。
そんな弟の耳元に口を寄せ、アタセルクスは囁く。
453Princess of Dark Snake 8:2008/02/27(水) 19:39:52 ID:igqt+jwc
「知っているか、ファルハード? 人間の脳みそという代物は、奴隷も王子も同じ味なのだぞ……」
「!?」
「だが、父上に愛されて王太子にまでなったお前だ。バハラームとはまた一味違った脳髄をしているかもしれん。
 その頭蓋を割って、瑞瑞しい脳みそを啜ってくれよう……」

おぞましくも信じがたい宣告であったが、本能的にファルハードは兄が本気であると理解できた。
しかし、いかに抵抗しようとも指は喉から外れない。
アタセルクスが纏う衣服の裾から、のたうつ何かが零れ落ちる。
呼吸を絶たれる苦痛の中、彼は兄の両肩を覆う衣の下で何かが蠢いているのを見た。

魔人と化したアタセルクスが、ファルハードの頭蓋を床に叩きつけるべく彼の身体を高く差し上げた、
その時だった。
高窓から一瓶の壷が投げ込まれ、アタセルクスの背にぶつけかる。
薄焼きの瓶が衝撃で割れた瞬間、途端に炎が上がった。

「グォォ!?」

剣で切り裂かれても平然としていた第二王子が、流石に悲鳴を上げる。
パルティアでも僅かな土地でしか湧かない『燃える水』を使った火壷だった。
素焼きの壷の中に厳重に分けて入れられた数種類の薬剤は、混合すると自然発火する。
一瓶に留まらず二つ三つ四つと、続けざまに火壷は投げつけられた。
アタセルクスの背中は、忽ちのうちに炎に包まれた。

「ふんッ!!」

炎熱に気を取られ、締め上げる握力が弱まったこの隙に、渾身の力を込めて兄の胸板を蹴る。
指を振りほどくと、ファルハードは即座に床を転がって距離を取り直す。
流れ落ちた人血で彼の服も朱に染まったが、そんな事を気にしている場合ではない。
獲物を仕留める直前で邪魔をされたアタセルクスが、高窓を睨み据えて怒鳴った。

「おのれぇ! どこの下郎だぁっ!?」

憤怒にいきり立つアタセルクスの誰何だったが、名乗りの声は上がらない。
代わりに高窓から響いたのは、侍衛たちへの叱咤の声だ。

「戯けどもめ! いつまで案山子の如く突っ立っておるのか!? 貴様らの主を助けんのか!?」

声は年を重ねた老人の声だったが、この場の一人を除いて聞き覚えのないものだ。
だが想像もし得なかった事態の連続で、我を忘れたかのように動けなかった侍衛たちが、
その声で我に返りった。

「王太子殿下を守れっ!」

弑逆者アタセルクスとファルハードの間に、彼らは割って入った。
侍衛たちは、火に焼かれつつある敵を半円に取り囲む。
けれども、彼らは自分たちが発した台詞が、アタセルクスの真の激怒を買うものだとは思わなかっただろう。
燃え続ける衣はそのままに、第二王子は弟の忠臣たちを睨む。

「我の前で、そやつを王太子と呼ぶかっ! ゴミめらが!」

一番手近な所に居る、つまり一番敵に近付く勇気のあった侍衛目掛け、アタセルクスは殴りつけた。
無論、侍衛も何の抵抗も見せなかった訳ではなく、敵に一太刀は浴びせた。
しかし勇敢なるその侍衛は、敵に掠り傷を負わせる代償に首をへし折られてしまった。
アタセルクスは侍衛から剣を奪うと、背中に切りつけようとした身の程知らずへとそれを振るう。
二人目は胴で身体を真っ二つに両断された。
彼らとて選りすぐりの腕利きであるが、数人がかりであっても、
この魔人との間の力の差を埋める事は出来ないのだった。
背中に炎を背負いながら、アタセルクスは次々と侍衛たちを片付けてゆく。
454Princess of Dark Snake 8:2008/02/27(水) 19:41:32 ID:igqt+jwc
「……」
「このウスノロっ! とっとと逃げんかっ!」

兄と侍衛との死闘に気を取られているうちに、ファルハードの背中に老いた小鬼が回りこんでいた。
憎憎しげな顔でこちらを見つめる風貌には見覚えがある。
彼に付きまとう蛇姫の、老いた守役であった。

「貴様が子を孕ませたルームの小娘を連れて、今すぐ王都を脱出せよ! あれには絶対勝てんぞ!」
「それはシャフルナーズの指図か?」
「当たり前じゃ! ひい様の命でなくば、何ゆえ貴様らなぞ助けるものか」

言うだけ言えば用は無いとばかりに、老小鬼は飛び去ろうとする。
ファルハードが彼の背中を追って王の間から逃げ出したのは、
最後の侍衛がアタセルクスの手にかかった時であった。

「卑怯者めっ、家臣を殺されておめおめと逃げる気か!?」
「くっ……」
「何しとるっ! 遊んでいる暇はないぞ!」

思わず振り返りそうになる。
罵る敵に背を向ける屈辱に、彼は慣れていない。
だが、歯を食いしばってファルハードは耐えた。

「こっちじゃ!」

王の間を出るなり、老小鬼はファルハードの袖を引いて廻廊から中庭へ出る。
すると、入れ違の形で廻廊の向こう側から一小隊の兵士たちが現れた。
彼らは口々に『逆賊アタセルクスを殺せ! バハラーム様を王位に!』と叫びつつ、王の間へ乱入する。

「貴様の長兄の一派を焚き付けて、アタセルクスに当たらせたのじゃ。
 当人は死んだとも知らず、またどうせ皆殺しになるんじゃろうが、時間稼ぎにはなるわい」
「急場を救って貰い、ありがたいと言うべきかな」
「けッ、礼はひい様に言え。既に輿と馬の手筈は整えさせてある。
 王宮の東口から、シンド門へ抜けろっ。そこは安全じゃ」

背中に生えた蝙蝠の羽根をはためかせ、老小鬼は夜の暗闇に紛れて消えようとした。
抑え切れぬ疑念のあまり、闇に向かってファルハードは叫んだ。

「一つだけ教えろ! 兄は、アタセルクスは一体何になったのだ!?」
「ふん、おのれは史書もよく読まんのか?」

蔑みが含まれた声で、老小鬼は答えた。

「あれは蛇王じゃ!」


(終わり)
455名無しさん@ピンキー:2008/02/27(水) 20:11:12 ID:vUHsdJf8
キター!! GJ!

相変わらず読ませますねえ
映画を見ているように、画像が頭に浮かんだよ
456名無しさん@ピンキー:2008/02/27(水) 20:45:04 ID:+cn1Tsta
GJ!
次回で最終回なんて。。。
寂しいな。
457名無しさん@ピンキー:2008/02/28(木) 20:07:11 ID:YuYZ1dlb
最終回、そんな言葉は聞きたくなかったんだぜ……
何がともあれ続き楽しみにしてます
458名無しさん@ピンキー:2008/02/28(木) 23:11:47 ID:fxgafwkn
ご懐妊はコリーナ姫だったか

いや蛇姫さまは不明なままだけど

どっちにしろ、一夫多妻の時代とはいえ、自分が縁結びしちゃった形の姫が
あっさり懐妊しちゃって、蛇姫さま切ないなー。
前回最後の蛇姫さまの「望み」、ああいうシチュに禿げ萌えする質なんで
どういう結末を迎えるか、楽しみに待ってます。
459名無しさん@ピンキー:2008/02/29(金) 00:29:16 ID:4CpOyLp/
GJ!!
格好いいなぁ、の一言。
今作も最終回が残念で、でも楽しみです。
460名無しさん@ピンキー:2008/02/29(金) 01:12:38 ID:sGBRduNI
蛇姫さまを幸せにしてくれ
461名無しさん@ピンキー:2008/03/01(土) 22:02:09 ID:HKhum855
毎度ながらGJ
さすがにラストの展開は熱いな
しかしついに最終回か……有終の美で迎えられることを確信しつつお待ちしてますぜ
462投下準備:2008/03/02(日) 11:52:28 ID:8Nf/ivZI
皆様ご期待いただいて本当にありがとうございます。
蛇姫の9話目、最終回をお届けします
463投下準備:2008/03/02(日) 11:53:33 ID:8Nf/ivZI
「王太子殿下、コリーナさまが産気付かれました」
「そうか…… 産湯を沸かすための水は足りているか?」
「は、なんとか」
「足りなければ、我の飲み水を使え」
「やっ、それは」
「よい。事ここに至った上で、今更水を惜しんで何になる?」
「殿下……」
「せめて生まれたばかりの我が子には、産湯くらい存分に使わせてやりたい」

頭を下げたまま、侍従はファルハードの前から去った。
寂寥に翳る主君の顔を見るのが、彼としても憚られたからだ。
ここはパルティア東部に建てられた小さな山塞である。
本来ならば、王家の人間が出産を行うような場所ではない。
ファルハードは、自分の初めての子の出産を、このような僻地で迎えようとしていた。

第二王子アタセルクスの弑逆により、パルティアは再び内戦状態に陥った。
アタセルクスの手にかかったのは、父王アルダシールと第一王子バハラームだけに留まらなかった。
父王の側室たちが生んだ庶弟たちと、王家に縁を持つ者を、彼は尽く処刑した。
それを諌める者、助命の嘆願をなす者たちも全員まとめて処刑した。
花の都シャーシュタールは、血生臭い粛清の巷と化した。

シャーシュタールを脱出した唯一の王族、王太子ファルハードは、即座に反アタセルクスの軍を催した。
父王殺しを行った第二王子に人気が集まろう筈も無く、
ファルハードはパルティアの諸侯、豪族のほとんどを糾合し、忽ち敵に数倍する兵を集める。
そこには掲げるべき旗頭を失った旧バハラーム派も参加し、陣容の充実ぶりはアタセルクス軍を圧した。
誰の目にも、王太子軍の勝利は明白に思えた。

だが、そうはならなかったからこそ、彼はここに居る。
アタセルクス軍、否、正確にはアタセルクス個人の怪物じみた武力の前に、ファルハードは敗れた。
ここまで三度、アタセルクス本人が率いる軍と矛を交えたが、三度とも完全に打ち負かされた。
残った兵士は五千に満たない。
山の麓には、アタセルクスが直率する十数万の兵が居る。
蟻の這い出る隙も無く周辺を囲まれ、王太子ファルハードはここに完全に追い詰められていた。
彼がコリーナの陣痛が始まったのを聞いたのは、そんな時だった。

岩場の上から、夥しい数の軍旗がはためく敵軍を眺める。
ひょっとしたら、自軍の戦士の数よりも、敵の軍旗の本数の方が多いかもしれない。
彼の中で覚悟は出来ていた。
ただ心残りなのは、生まれてくる子と妻に逃げる算段を付けてやれなかったことだ。
彼女らの処遇に対し、アタセルクスの慈悲に縋る気は毛頭無かった。
自分の兄であったものの中に、慈悲という感情が存在するとは信じていない。
簒奪の日より、その支配下で行われる暴政の噂だけでそれは判る。
彼は、自分の敗北の意味を知っていた。
それは単なる王家の内戦ではなく、英雄王の遺業の崩壊だ。
アタセルクスの勝利により、この国は再び蛇王を戴く暗黒の国となるのだ。
聞くところによると、現在シャーシュタールでは都人の自殺が絶えないという。
彼らは今のパルティアよりも地獄の方がまだマシだろうと思い、自ら死を選ぶのだ。
 
464Princess of Dark Snake 9:2008/03/02(日) 11:54:32 ID:8Nf/ivZI
 
「……無念だが、もはやこれまでか」

カイクバード家の末裔として、パルティアを守れなかった。
そして生まれてくる子の父親として、その行く末を切り開いてやれなかった。
やるせない思いが心を焦がす。
アタセルクスの正体は知らないまでも、ここまで付き従ってきた部下達は王太子の無念は察していた。
故に、彼が物思いに沈むのを誰も邪魔しようとしない。
戦況を覆す術はなく、糧秣も僅か。
脱走すべき兵はとっくに逃げ去り、残ったのは主君の最後の号令を待つ忠士だけだ。
残された道は、弑逆者軍に向けて最後の抵抗を行い、
正統なる王家の誇りに殉じる者が居た事を後世に知らしめるのみ。
王太子に従う全員の覚悟は、既に決まっていた。

「そうとも限りませぬよ、おほほ……」
「? シャフルナーズ、お前か!」

何の気配も感じぬまま突然背後から話しかけられて、ファルハードは振り向く。
しばらく会うことのなかった顔が、そこに在った。
コリーナとその女官たちを始め、この山塞に女性が居ないわけではないが、
いかんせん戦の最中、それも敵に追われて敗走を続けてきた身である。
華やかな装束に身を纏い、あでやかな化粧を施した姿が、彼の瞳に懐かしかった。

ただ、普段ならその身一つで彼を訪れる彼女にしては、今日はある荷物を抱えていた。
練り絹の布の端を縛り、たすきの様に肩から下げて、そこに丸くて白い荷物を乗せている。
落ちないようにしっかり配慮している事が、その様子から判った。
彼女の抱えるものが、この先々パルティア王国の行く末をあらぬ方向に弾き飛ばす事になるとは、
まだファルハードは知るよしもない。

「左様でございます。御身のシャフルナーズが参上つかまつりました。
 長らくお顔を拝す事ができず、寂しゅうございましたわ」
「来たのか……」

最後に別れた夜には、あれこれ自分の周りをかき乱す妖しの姫へのわだかまりを心中に感じていたが、
こうして死を目前にして再会すれば、今はそれを全くといってよいほど感じなかった。
もしかしたら、不思議な縁によって結ばれたこの女とあのまま永別してしまう事も、
彼にとってどこか心残りであったのかもしれない。

「申し訳ございませぬ。よんどころない事情により、ファルハードさまをお助けする事が叶いませんでした。
 この身さえ万全ならば、御身をここまで追い詰めたりはさせなかったものを……」
「いや、その気持ちだけで十分だ」

実に久しぶりに、ファルハードは女に屈託の無い笑みを浮かべる。
こんな笑顔を向けるのは、シャフルナーズの素性を知った夜以来だ。
それ以降の逢瀬は、いつも一方的に忍び入ってくる女の深情けを、男が持て余す形であった。
故に彼は、女と契るときも機嫌が良かった例がない。
そんな相手の仏頂面に、かえって女は愉しむように口付けをしたものだ。
しかし今は、悲壮な決意に張り詰めた気持ちが、妖しの姫の笑いで解れる。
それにより、いつもと異なる相手の格好を問うだけの余裕がファルハードにも生まれた。
465Princess of Dark Snake 9:2008/03/02(日) 11:55:33 ID:8Nf/ivZI
 
「ところで、シャフルナーズ?」
「はい、なんでございましょうか」
「その…… お前が抱えている『それ』は、一体なんだ?」
「あらまあ、見てお分かりになりませぬか?」

女の抱えるそれは、白くて丸い。
それに似たものならば、彼も何度も手に取った事がある。
パルティアの殆どの民も触れた事のある、至極ありふれた物だ。
だが、仮に彼が知っているものと同じ物体だとするなら、その大きさは尋常ではない。
青きニール河の流れる国、コプト国の南方には、人を乗せて走れる怪鳥が草原を闊歩すると聞く。
その話の証拠として、旅商人が差し出したものを見た経験があるが、
今目の前にあるものは、それよりも遥かに大きい。
ひょっとしたらだが、それは────

「卵でございますけど」
「たま……」
「そう、わたくしとファルハードさまの卵でございます」
「なッ……?」

兜の上から金槌で殴られたような衝撃を覚え、視界が眩む。
ファルハードは気が遠くなりかけた。

「……待て。我とお前が最後に契ったのは、一年以上前の筈だろうが」
「はい、その夜に授かったこの子を、私めが十月十日胎で育みました。
 そして産み落としてから今日まで、この腕にしかと抱いて暖めてまいりましたのよ」
「ぅ……」
「中より殻をコツコツ叩く音が聞こえてきますから、産み月から計算しても
 もう間もなく元気な産声を上げる事でしょう」

気が付けば『自分が卵の父親である』という事に疑問を呈さず、懐妊の日付に口を挟んでしまった事で、
ファルハードはかなり錯乱していると自覚できた。
魔人と化した兄に王国を奪われた現状だけでもあの世で父祖に申し訳が立たぬというのに、
あろうことかザッハーグ家の娘に卵を孕ませたとは。

「そ…… それの父親は、誠に我なのか?」
「まあっ、なんという事を仰いますの! わたくしは御身以外の男に肌を許したことなど一度も有りません!
 この子はまごうことなき、ファルハード様の子でございます!」
「だが、お前の証言以外に純潔だということを明かすものもないわけだし……」
「これまでわたくしが御身に嘘を付いた事はあるでしょうか!?
 私たちを結ぶ共通の祖にして、世の公正を司るジャムシードに誓っても宜しゅうございます」
「いやしかし、我が卵の父親というのは……」
「それ以上恥知らずな言葉を口にするなら、
 私も『コリーナ姫が身篭った子は、ファルハードさまの種ではない』と皆に触れ回りますわよ?」

寝取られ男呼ばわりされて、ファルハードは流石に鼻白む。

「馬鹿な…… 皆の目のある後宮で暮らしていたコリーナが、どうやったら不義の子を身篭れるのだ」
「おほほほほっ、後宮でひっそりと囲っておけば、本当に誰にも手を出されないとお思いですの?
 でしたら、物物しき警護兵に守られていたあの初夜の儀に、私めが忍び込めた事をどう思し召す?
「うっ……」
「今は亡きバハラーム兄の時も、王の宮女と王子の密通を実現させてご覧にいれたでしょう?
 宮人の目を誤魔化すなど、その気になればいと容易い事。
 コリーナ姫の新鉢を破った私ですもの。
 なんなら『実は私が胎の子の父親だ』と名乗り出ても良うございますよ」
「……女が女を孕ませたなどと、誰が信じるものか」
「ファルハード様。御身は女子が女子を孕ませられぬ事は疑わなくとも、
 わたくしがよその男と密通したとは疑うのですか?」
466Princess of Dark Snake 9:2008/03/02(日) 11:57:45 ID:8Nf/ivZI
 
男達がハレムに妻女を閉じ込めるのは、血統に不純物が入らないようにするためだが、
そもそもの話、実際にそういう事をやる人間がいるからこそ、色々智恵を絞って防ごうとするのだ。
後宮に納まるどころか、神出鬼没のシャフルナーズの貞操を疑う資格は確かにファルハードにあるのだが、
相手はその気になれば、王の後宮にさえ現実に出入りしてみせた妖姫である。
彼女を前にすれば、おとなしく後宮に囲われていたという事は貞節の証明にならない。
ハレムに居た事実が嫡出性を保証しないとなれば、
結局腹の子の父親については、最後は女の証言に頼るしかなくなってしまうのだ。

「判った判ったっ! それ以上毒を吐いて我が心を悩ますなっ」
「この子が御身の子だと、正しく認めて下さるのですね?」
「どうせ近日中に命潰える身だ。素性の妖しい庶子が一人居た所で大したことはあるまい……」

先ほどまでは、死を覚悟していても心の中は清澄であった。
だが、そんな落ち着いた気持ちは、この女と話していては何処かへ消滅してしまう。
『どう足掻いても、自分はこの女に最後まで付きまとわれ、そして勝てない運命にあるらしい』
肩を落としてファルハードは自嘲する。
男が自虐的な笑いを浮かべたのに対して、シャフルナーズはいつもの通り高々と笑った。

「おおっほほほほっ! なんとお気の弱いことを!
 このわたくしが、命運尽きた方の元へわざわざ子を認知させにやって来るとでも?」
「?」
「勝負はまだ決しておりませぬ……
 いえ、愛しいファルハードさまの勝ちは揺るぎませぬわっ。おほほほほ!」
「どうやらお前は、我以上の軍略家のようだな」

ファルハードは眼下に雲霞の如く集う包囲軍を指差した。

「あれ程の敵をどう破るというのだ? どこか敵に乗じる隙があるとでも?」
「ございます」
「ほう?」
「アタセルクスが御身に抱く激しい憎悪。そこに付け入るべき隙がございます」

他の誰かが言ったのならば、ファルハードは一笑に付したであろう。
だが、シャフルナーズは断言した。
その顔には確固たる自信が潜んでいる。
彼は思わず、女の次の言葉を固唾を呑んで待った。

「敵軍がなぜ、この程度の山塞に麓を固めたまま動かないのか?
 それは自分を差し置いて王太子の座を奪った憎い弟を、
 アタセルクスが自分のその手で屠りたいからに他なりません」
「……」
「山塞に無理に攻め入っても、観念したファルハードさまに自裁されるかもしれませぬ。
 それよりは、座していても死を迎えるだけの塞を御身が出て、
 部下と共に最後の突撃を仕掛けてくるのを待っているのです。
 そして、のこのこと玉砕しに来たファルハードさまを殺しに、彼は自ら迎え撃つでしょう」
「おそらくその通りだな」
467Princess of Dark Snake 9:2008/03/02(日) 12:00:21 ID:8Nf/ivZI
 
シャフルナーズの状況認識は間違っていない。
なぜなら、彼自身の認識と同じだからだ。
だが、それを承知でなお打つ手は無い。
敵を喜ばせるのは業腹だが、それ以外に無いのだ。

「ならば、敵の望みどおり残余の兵を率いて山を降りなさいませ」
「何?」
「残った兵全てを率い、ゆっくりと敵陣と対峙するのです」

突撃を敢行するにも、相手の意表を衝き、混乱させてこそ敵に打撃を与えられる。
それは兵法上の常識の問題である。
これほど戦力差がある状況で、ゆっくり敵と対峙しろなどとはどういう意味か?
相手に降伏を申し入れるのならともかく、敵に勝つためにそうしろとは。
信じられぬといった面持ちで、ファルハードは女の顔を見つめた。

「それが、お前の言う必勝の策か?」
「その通り。威容を損なわぬ様に、敵が逸って迎撃してこない様に、
 潮の満ちるが如く静かに対峙なさいませ」
「……」
「布陣を済ませたなら、御身様は陣頭に立ってアタセルクスに呼びかけるのです。
 『どちらがパルティアの王となるに相応しいか、一騎打ちで決しよう』と」
「!?」
「この首を賭けても宜しゅうございますが、アタセルクスは絶対に拒みませぬ。
 敵が渇望する御身の身命を、こちらから差し出して見せるのですから」
「そこで、我が勝てば……」
「数こそ多くとも、所詮敵は烏合の衆。
 将士の心は最初からアタセルクスの元にはありませぬ。
 当人さえ死ねば、全員ファルハードさまの足下に頭を垂れるでしょう」
「まあ、そうかもしれんな……」

王位を奪ってから半年ちょっとだというのに、アタセルクスの評判は凄まじく悪い。
ここまで短期間で暴君の名を確立させたパルティア王は、史書を紐解いても例が無い。
彼は敵に対して容赦がないが、その残虐さは味方にも平等に向けられているのだ。
さらに、どんなに機嫌の良い時でも、アタセルクスは一日に最低二人は必ず処刑を行うという。
それも死刑を行うための口実としか思えない行為を責めてだ。

これでは人心が懐こう筈がない。
ここに十数万の兵を集められたのは、ひとえに彼への恐怖心だった。
今日確実に殺されるよりは、明日殺されるかもしれない側に居たいという臆病な心が、
彼をパルティアの王たらしめている。
ここに至れば、アタセルクスを除いてくれるのなら誰だろうと、パルティアの人士は従うだろう。
遥か昔、ザッハーグの苛政から万民を救ったカイクバードに従った様に。
468Princess of Dark Snake 9:2008/03/02(日) 12:01:52 ID:8Nf/ivZI
 
「我がアタセルクスに勝てる可能性があるのなら、悪い話ではないがな」
「自信がございませんか?」
「無い。かっては竜さえ屠った我だが、あれの強さは別格だ」

もしアタセルクスとの一騎打ちで勝敗を決しようとするならば、五千対十数万戦いが一対一になる。
数の上で二十倍を超す戦力差が互角に変わるのだから、挑む価値のある話といえるだろう。
それでもなお、現在のアタセルクスは竜殺しの武勲を持つ彼をして『勝てぬ』と言わしめた。

「確かにアタセルクスには無敵の剛力と不死身の身体がございます。
 しかし、それを承知でわたくしは御身に一騎打ちをお薦めします」
「?」
「アタセルクスは生贄の魂を暗黒神に捧げ、邪悪な呪法を用いてザッハーグと同じ蛇王となりました。
 しかし、まだ倒すすべが失われた訳ではありません。
 それは彼の身体に注がれる暗黒の魔力を絶ち、肩から蛇が生えただけの只の人間にしてしまう事です」
「そんな事が出来るのか?」
「出来ます…… わたくしなら」

ファルハードは目を瞠った。
絶望的に暗い洞穴の中で、出口の明かりを見つけたような気持ちであった。

「もし御身が暗黒の力を失ったアタセルクスに負けるようなら、この策も無意味でございますが?」
「舐めるなよ。一年前のアタセルクスならば、例え千人いようと素手で全滅させてみせるわっ!」

ファルハードの言は、半分程度は壮語であった。
いくら一年前の兄であっても、素手で殺せるのは五百人までであろう。
だが、そんな放言も口に出せるほど、ファルハードの心に光明が差し込んでいた。
希望に満ちた男の笑みに釣られて、シャフルナーズも笑った。
しかし、その微笑みのどこかに翳りがあった事に、ファルハードはずっと後まで気が付かなかった。

「ではファルハードさま。この策を成す前に、御身に求めなければならぬ事がございます」
「何だ? 王家断絶の危機を救う策を出してくれたのだ。
 この身を百度差し出せと言われても拒みはしないぞ」
「左様な事を望みはしませぬ」

シャフルナーズの白く艶かしい手が、抱えた卵を撫でた。

「この子を、コリーナ姫が生んだ御身の嫡子として育てて頂きます」
「なっ?」
「蛇王ザッハーグの血を引く私めが、カイクバード家の王宮に入ることが出来ません。
 そこで、今まさ赤子を産もうとしているコリーナ姫。
 彼女の産んだ子の、双子の兄弟として私の子を育てて頂きます」
「それは……」
469Princess of Dark Snake 9:2008/03/02(日) 12:05:23 ID:8Nf/ivZI
 
言葉を失うファルハードを無視して、シャフルナーズは続けた。
薄い化粧で縁取られた目元が、何時に無い真摯さを帯びていた。
いつもの妖しい微笑の代わりに、厳粛な面持ちで自分を見つめるシャフルナーズの顔。
彼はそれを何時までも忘れる事は無かった。

「これよりわたくしはコリーナ姫の産屋に赴き、彼女たちに術をかけます。
 そして殻を破って生まれて来る私の子を、産婆の手に乗せます。
 彼女たちは、この子をコリーナ姫の股から産まれて来たと信じるでしょう。
 後に残る術は使いませんから、姫にも我が子の異母兄弟になる赤子にも影響はありません」
「我に、コリーナを騙せというのか?」
「騙せとは申しません。黙っていて下さればよいのです」
「……」

それは同じ事だと思ったが、拒絶の言葉はシャフルナーズの真剣な態度に阻まれる。

「いつもなら取引きとして申し出るわたくしですが、今回だけは違います。
 この子の母として、わたくしはファルハード様に父親としての義務の履行を求めます」
「父親としての義務と?」
「暗黒神が力を貸しているアタセルクスに敵対するのは、妖魔を従える身としても些か問題があるのですよ。
 この期に及んで御身に魔族の内輪話をしたりはしませんが、ひょっとしたら……」
「?」
「ひょっとしたら、わたくしは御身にお会いする事が難しくなるやもしれません」

決意の底に憂いを含んだ瞳で、ファルハードは見つめられた。
その顔はこれまで見た以上に美しい。
そんな事を考えている場合ではないと思いながらも、ファルハードは息を呑まざるをえなかった。

「……だから、我とコリーナにこの子を育てろと?」
「はい。赤子には父母が必要ですもの」
「もし、駄目だと言えば?」
「御身への力添えはお断りします。
 アタセルクスはファルハードさまと、コリーナ姫の産む御身の子、
 そして私の産んだこの子を殺すでしょう…… 己の王統を確立し、また燃え盛る憎悪を晴らすために」
「……」

沈黙が、二人の間を流れる。
ファルハードも、シャフルナーズも、あえて相手の言葉を待った。
しかし、その状態を続かせなかったのは、山の麓から轟く敵の鯨波であった。
何時までも降りてこない王太子軍を急かすように、十数万の口が一斉に蛮声を上げる。
空気のみならず、山肌まで震えそうな鬨の声が伝わったのか、
シャフルナーズの抱く卵はピシリッと音を立て、表面にヒビが走った。

「あらっ…… お答えを頂く時間は無いようでございますね」
「……」

そのままシャフルナーズは振り向いて、コリーナ姫の産屋へ歩んでゆく。
止めようと思えば、まだ止められた。
ファルハードはそうしなかった。
彼はただ、その後姿を見つめるだけだった。



・・・・・・・・・


 
470Princess of Dark Snake 9:2008/03/02(日) 12:09:22 ID:8Nf/ivZI
 ホギャアッ!  ホギャアッ!  ホギャアッ!

「おうっ? お生まれになったか!」
「そのようだな。俺は姫君に銀貨二枚賭けたんだが」
「いや、この声では男の子だろう」

産屋の中から響いてくる泣き声で、軍中の誰もが新しい命の誕生を知った。
望みの無いこの状況にあって、その大声は戦士たちの心を和ませる。
たとえ、数日しかこの世に居られないと思ってはいてもだ。
しかし……

フォギャァ! フォギャァッ! フォギャァ! フォギャァッ! フォギャァッ!

「しかし、大きすぎないか? この産声は?」
「あの王太子殿下の御子ゆえ、仕方な……」

耳を劈くような産声を、軍中だれもが聞いた。
あまりに威勢の良い泣きっぷりに、母親の身体に悪いと産屋の外に連れ出されたほどだ。
まるで麓で鯨波を上げる敵に負けじと、一人気を吐いておられるかの様だったと、その場に居た兵は語り伝えた。
この山塞で赤子の産声を聞いたという経歴は、後のパルティア宮廷において非常に重みを持つことになる。
双生児の誕生に立ち会った事実は、カイクバード王家未曾有の苦難にあって
最後まで忠義の心を失わなかった事の証なのだ。

「おめでとうございます。とてもお元気な和子さまにあらせられます」
「産まれたか」
「はい、しかし産婆たちの言う事には、王太子妃殿下のお腹にはもうお一方宿って居られるそうで」
「双子ということか」
「左様にございます。お二人目ももう間もなく……」

侍従がそう言いかけた時、もう一人の侍従が陣屋に駆け込み、勇んでファルハードに報告する。

「おめでとうございます。お二人目は、可愛らしい姫君にあらせられました」
「そうか…… コリーナの様子はどうだ?」
「産婆めの言う事には、双子にはしては珍しいご安産ということで、王太子妃殿下もご無事だということです」
「それは祝着じゃ。殿下、おめでとうございます」
「おめでとうございます!」
「うん」

出産における死亡率は、周りに比べて医学の進んだパルティアにおいても高い。
母子ともに無事だと聞けば、それは夫として喜ぶべき事なのだが、
ファルハードの顔は何故か晴れなかった。
側近達は、無事に生まれて来たとはいえ、長くは生きられまいという悲愴な思いがそうさせたのだと感じたが、
その本当の理由はファルハードともう一人しか知らない。
471Princess of Dark Snake 9:2008/03/02(日) 12:11:18 ID:8Nf/ivZI
 
「殿下、奥方さま御子さまたちとご対面なさいますか?」
「いや…… その前に出陣する」
「!、殿下!?」
「我が子らの為に、今は戦いに赴く。対面はその後だ。
 兵士たちに戦の準備をさせよ」
「……はっ、直ちに」

高らかと銅鑼と喇叭が鳴らされ、にわかに陣中が慌しくなる。
すでに全員準備は出来ていた。
軍馬が厩から引き出され、広場に戦士達が集結する。
彼らを観閲するファルハードの足元に、コリーナの女官が跪いた。

「殿下、ご出陣の前に恐縮でございますが……」
「何だ? 言ってみろ」
「せめて、生まれて来た御子さまたちに、お名前を付けて差し上げて下さいませぬか」
「……」
「戦の前に御子さまたちのお顔を見れば、覚悟が鈍るとお考えかもしれませぬが、
 せめてせめて、お二人にお名前を……」
「娘の名はパリーチェフル。長ずればコリーナの様に愛らしい子になるだろうな」

勘違いしている女官に、ファルハードは答えた。
生まれてくる子の名前は予め考えてあったのだ。
まさか、男女二人分使うとは思ってもいなかったが。
もし両方とも男児、あるいは女子であったなら、また一人分頭を捻らねばならなかった所だ。

「男の方は…… イスファンディアール」

コリーナが男子を産んだ場合に付けようと思っていた名を、彼はその子に与えた。
パルティア史上、最も異彩を放つ事になる王子の名は、こうして定まった。



・・・・・・・・・


 
472Princess of Dark Snake 9:2008/03/02(日) 12:15:11 ID:8Nf/ivZI
王太子軍が粛々と山道を降りて行くのを、山の頂上から一人と一匹が見下ろしていた。

「我が子に相応しい、いい名前を頂いたわね」
「……ひい様、まだお心変わりしませぬのか?」

老いた小鬼の顔は、これまでに無いほどの苦渋に歪んでいた。
シャフルナーズはファルハードに明言しなかったが、老小鬼は知っている。
これから主が行おうとしている行為が、どんな結果をもたらすかを。

「御子を産まれてお弱りになったその身体で、妖魔どもと闇の神に挑めば……」
「たぶん…… この身を現世に保てなくなるわね」
「それをご承知なら、まだ間に合いまする! どうかお止めくだされっ!
 いかに蛇王と化したアタセルクスが強大になっても、天地の全てを手に入れられる訳ではない。
 和子さまを匿える土地は、どこかに必ずある筈じゃ!」

泣きそうな顔をして、老守役は主を止めた。
彼は主君とその御子のためならば、たとえ地の果てであろうと、その先に浮かぶ絶海の孤島であろうと、
必ずや安住の地を見つけ出すつもりであった。

「そうは行かないのよ、爺や。
 アタセルクスにとって、あの子は憎い弟の息子というだけではなく、
 自分の王位を脅かす事になる存在ですもの。
 たとえ地の底に潜んだとしても、あの子を絶対に探し出そうとするでしょう」
「ひい様……」
「聖賢王ジャムシード、英雄王カイクバード、そして蛇王ザッハーグ……
 あの子の身体には、偉大なる三王の血が流れているのよ。
 そんな存在を、アタセルクスは決して見逃さないわ」
「……」
「それにね、考えても御覧なさい。
 私とファルハードさまの子ともあろうものが、敵の目を怖れて辺鄙な土地でこそこそ生きるなんて、
 遍く臣民を使役せず、敵の骸で大地を肥やさず、諸王たちを竦み上がらせぬままにに生きるだなんて、
 私たち二人の子に全然相応しくない生き方じゃないの。
 そんな話はありえないし、あってはならないのよ! おおっほほほほほほほほっ!」

口元を手で覆い、シャフルナーズは哄笑する。
その視線は、いつの間にか沸き出た黒雲によって覆われた天を見つめている。
これ以上の説得は無駄だと、老小鬼は悟らざるをえなかった。
目からは涙が溢れ、皺と染みだらけの頬を流れ落ちる。

「あらあら、鬼に涙は似合わなくてよ?」
「泣きたくもなるわいな。折角今日までお仕え申し上げたというのに……」
「お前には幼い頃から本当に世話になりっぱなしで、感謝の言葉も見つからないわね。
 でももう一つだけ、私のために骨を折って貰いたいのだけど?」
「……皆まで申されますな。
 ひい様の和子となれば、儂のひ孫も同然じゃ。
 この老骨の身が朽ちるまで、ずっと見守って差し上げますわい」
「ありがとう。これで私も心置きなく戦えるわ…… じゃあね、爺や。どうか余命を労わりなさい」

そう言うと、シャフルナーズは大地を蹴って空へと跳んだ。
瞬く間に、その姿は曇天の中に消える。
それに合わせるかのように、空に雷鳴が轟いた。
山塞から、何かを察したかの如くに泣き喚くイスファンディアールの声が響いた。
それらを聞きつつ、涙にくれながら老小鬼はずっと天を見つめていた……


・・・・・・・・・
 
473名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 12:15:29 ID:44LXZoJG
支援必要かな?
474Princess of Dark Snake 9:2008/03/02(日) 12:18:00 ID:8Nf/ivZI
『アルダシールの子アタセルクス、
 父王を弑し王位を簒奪す。
 
 その傲慢さ、神を軽んじ、
 その暴虐、蛇王に比するべし。
 
 アタセルクス、王家に連なる者を鏖殺せんと試みるも、
 王太子ファルハードは危急を脱す。
 
 僭王、三度まで王太子を破るも、
 彼の首を落とす事はあたわざるは天意なり。
 
 最後の戦に、敵に数十倍する兵を集めるも、
 軽率なるアタセルクスは弟と一騎打ちせり。
 
 両雄の撃ち合う数百合に、
 天は揺るぎ、大地は割れぬ。
 
 しかして邪が聖に勝ち得ぬ真理は、
 けして揺るがざるなり。

 撃剣の最中、臆病風に吹かれしアタセルクスは、
 卑怯にもファルハードの足下に跪き、命乞いす。

 神の嘉したもうファルハード、
 僭王の成した悪行を憎みてこれを許さず。

 頭蓋を砕きて僭王を誅せば、
 十万の軍、額づいて降伏す。

 僭王の骸は焼かれ、灰は地に撒かれたり。
 かくして臣民は暴君より救われん。
 
 パルティアの正義が守られしこの日は、
 神の嘉したもう善き日なり。
 
 この輝かしき日を選んで産まれしゆえ、
 コリーナ姫の双子を、人は勝利の御子と呼ぶ。
 
 王都に凱旋せしファルハード、
 歓呼に迎えられつつ玉座に着く。

 げにも、悪の隆盛は一時の夢、
 正義を護る者の栄光は永遠なり……』

  「ファルハード即位の詩」より


( Princess of Dark Snake 完 )
475投下完了:2008/03/02(日) 12:18:50 ID:8Nf/ivZI
以上で蛇姫シャフルナーズとファルハード王子の物語は完結いたします。
「こんな形で終わるなんて許さん!」とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが。

蛇姫の完結により、休んでいた魔王の話に戻ろうと思いますが、
その前に一話だけの外伝「Prince of Dark Snake」を作るつもりです。

これまでご声援、ご感想、本当にありがとうございました。

476名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 12:21:21 ID:44LXZoJG
GJ!

そして、要らぬ支援をしてしまい申し訳ないです。
外伝を投下されるのを期待しております。
477名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 13:59:19 ID:r+qJdPuF
GJ!

蛇姫さまにはもっと幸せになって欲しかったなー。
とても面白かったよ。
478名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 19:10:16 ID:/fhsHzSu
くそう、エロパロ板で涙ぐむとはなんたる不覚。
479名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 21:25:18 ID:/1jxflvQ
テンポ良く、いい読み味でした。GJ!
480名無しさん@ピンキー:2008/03/03(月) 00:41:43 ID:TC+ClwsV
終わってしまった、というのが最初の感想ですかね。正直にいえばもっと読みたかったです。
作者さま、お疲れ様でした。外伝楽しみに待ってます。

地の文の煌びやかさ、蛇姫さまの、強く美しくなにより男を翻弄するキャラがとても魅力的でした。
意地悪な言い方をすると、一度くらいファルハードはんも甲斐性のあるところをみせてほしかった。
愛しの君のピンチに姫が心配ご無用と助太刀し、問題解決でめでたしめでたしばかりだったから。
とはいえいくら英邁な王子様といえども所詮人間の身で妖魔を相手にするのは分が悪いですね。。

てゆーかごめんなさい、まだ蛇姫さまの想いばかりが胸に残っている分、逆にファルハードを
なじってしまいたい気持ちにかられてるよ ウワアアアン。・゚・(ノД`)・゚・。 自分の気持ちから
逃げてんじゃねーのかーとか、ああもううまくまとまらないや、こんなに読み手を気持を
揺さぶる物語を綴ってくれてありがとうー!
481名無しさん@ピンキー:2008/03/03(月) 01:13:02 ID:R+MFc13O
GOD JOB!!!!!
魅力的なキャラクター達の活き活きした動きとか、
文章の格調の高さや滲み出る博識さとか…いろいろ凄すぎます。

蛇姫様、素敵でした。
王子の外伝も魔王の続きも楽しみです。
482名無しさん@ピンキー:2008/03/04(火) 22:52:40 ID:hv5a+LXq
いや、実に素晴らしかった
蛇姫様はいいキャラしてるよ、ホント
483名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 02:34:03 ID:54rHqGuQ
ある意味、蛇姫さまの真の望みは叶うだろうし子供は王子として育ててもらえるから
バッドエンドともいえんわな。(ファルハードにとっては一生の悪夢かもしれんが。)
嫌がるファルハードをおちょくることも蛇姫さまの楽しみだったんだろうから、むしろ本望?
終世寄り添って生きるだけが愛じゃないしね。男女の情って難しー。

ところで卵から生まれた若君の行く末が気になる。順当にいけば父王の後継ぎだけど
ある程度育ったところで出生の秘密を知りさっさと出奔しそう。
484名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 08:16:30 ID:u7UF/KKt
>>483
おいおい、まだ蛇姫様が死んだとは決まってないじゃないか
といってみる。
485名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 15:10:29 ID:5zoHZaBl
486名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 19:45:13 ID:oVYnV/1+
ファルハード王子の二人の子供は、将来近親ソーカンするという電波を受信しました。
487名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 22:48:46 ID:fnegcfzP
もしかして王子だから玉子から生まれるの?
488名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 23:11:58 ID:u7UF/KKt
>>487
蛇姫だからじゃないの?
489名無しさん@ピンキー:2008/03/06(木) 00:01:48 ID:54rHqGuQ
蛇は爬虫類だから卵生だけど、種類によって卵胎生(産むときは子蛇姿、まむしとか)の蛇もいる。

どちらにせよ、美女が大きな卵すりすりって図もなかなかそそられるもんではあるw
父親だとショックでかいだろうけど。全ては先に手を出した男の責任だw
490名無しさん@ピンキー:2008/03/07(金) 03:12:52 ID:gUde2UdB
パルティアってゾロアスター教だっけ。
そうなら近親婚が結構あったはずだから、>>486の電波もあながち、とマジレスしてみる。
491名無しさん@ピンキー:2008/03/12(水) 20:50:05 ID:Z1TPyIdH
あげ
492名無しさん@ピンキー:2008/03/14(金) 20:47:30 ID:RP2hy9Vj
アリューシア様の為にあげとくわ。
493名無しさん@ピンキー:2008/03/14(金) 22:19:06 ID:kTH8ksUB
アビゲイルたんも気長にまってるよ
494名無しさん@ピンキー:2008/03/17(月) 01:15:18 ID:+PPPBYjg
保守
495名無しさん@ピンキー:2008/03/18(火) 22:48:33 ID:w/AS8Xjn
ファンタジーという言葉は概念が広すぎて、
それなりの書き手じゃないと世界観や情景を伝えにくい。

だからここの様に女兵士か何かに機軸を置く(限定とは言わないけど)方が
かえって書きやすい、読みやすいという結果になるのではないかとふと思った。
496名無しさん@ピンキー:2008/03/19(水) 00:49:07 ID:l13Ede9+
過去何度もスレッドタイトル論争・テンプレート改変騒ぎ・他スレッドとの
分離合流問題が頻発したのを知っていてその話を持ち出すのなら

自重しろ
497名無しさん@ピンキー:2008/03/19(水) 21:39:48 ID:mZugUQEK
「今は書き手が多く投下も多いから、当面その議論はやめておこう」
という棚上げの方向へ誘導した上で、
汎用的な類似スレを別個に立てて、ここを変える必要性を薄め、
女兵士の魅力を分からない馬鹿が愚痴っても自重を強いて封じこめ、
現状維持し続ける工作の成功を祝って乾杯であります
498名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 19:26:52 ID:q/mAdhpI
>>495
まあ、同意だな。確かにこれは書きやすくて魅力的なテーマだよ。
今は漠然としたネタだけしかなくて筆が止まっているけど、また書きに来たいね。
499名無しさん@ピンキー:2008/03/21(金) 01:45:33 ID:WMdoarJK
副長はまた半年後なのか・・・・・・。
500投下準備:2008/03/22(土) 20:28:51 ID:8p5xO1bB
蛇姫の外伝、
一話だけとはいえ、十分長いというか詰め込みすぎというか、
相変わらずの物になりました。
なので一話を前後編に分けます。
久しぶりに女兵士のエチ有りです(但し本番は後編で)
狩りのシーンとか長いので、要点だけしか読みたくない方は前半ワープしてください。


色々登場人物たちの葛藤が繰り広げられる話です。
キャッキャウフフのラブラブストーリーを期待される方にはお奨めしません。


単体でも読めなくは無いと思いますが、
先にPrincess of Dark Snake1〜9話を読んで頂かないと話が通じない部分があります。
では、外伝をどうぞ。
501Prince of Dark Snake:2008/03/22(土) 20:31:37 ID:8p5xO1bB
誕生祝いと即位祭を前に、大勢の諸侯や貴族が王都に詰め掛けた。
彼らも参加した狩猟祭は、近年稀に見る盛大なものになった。
それはそうだろう。
未来のパルティア王の名の下に催される、初めての狩猟祭に加わるという栄誉に、
無関心でいられる貴族がいるはずも無い。
痛風で身体が動かぬ老諸侯は、自分の名代に息子達を寄越して顔と名前を売らせようと画策し、
下級貴族は参加名簿に何とか名前を連ねられないかと、密かに賄賂を使う始末。
そうして国中から選りすぐられた千人の貴族、武人を引き連れて、狩猟祭は行われた。

主催者が招かれた者たちと決定的に違うのは、
参加者が狩る立場ならば、主催者は獲物を狩らせる立場であることだ。
それは丁度、戦士と将帥の立場に似る。
主催者は物見を放って獲物の場所を探させ、勢子たちに獲物を追い立てるよう差配し、
腕を鳴らして待ち構えている参加者達にそれを狩らせる。
参加者たちが不平を抱かぬように、猟果はなるべく公平にならなければいけないし、
見事な手腕を見せた者には賞賛の言葉を掛ける。
狩猟が練兵の一環であると言われるのは故無いことではない。
大掛かりな狩猟祭を成功させるのには、人士を率いる器量と才覚が必要だ。
この場で培う連帯感が、戦場での軍事行動を円滑にする。
初めてながら、それらを上手にこなした自信がある。
狩りに慣れた老臣たちに補佐されてだが、順調に進んでいたのだ。
あの時、勢子の列が突如として崩れるまでは。

悲鳴が上がった時、自分の心が浮き立ったことは否定しない。
それは、お付の年寄りたちに言われるがままに指図する立場に退屈していたからでもある。
何よりも、人に狩らせるだけで終わるのはつまらない。
自分も猟果が欲しかった。
別集団に加わって狩りをしている父王に誇れるだけの獲物が。

「し、獅子だぁっ! でかいぞっ!」

その声を聴いた瞬間、思わず従卒の腕から槍をもぎ取り、馬の腹に鐙を当てていた。

「殿下!?」
「お前達は来るなっ!」

風に乗って、唸り声と悲鳴が聞こえる。
勢子が何人か犠牲になったらしい。
彼らは通常武装をしていない。
貴顕の獲物を横取りしないようにだ。
それでも、普通の動物ならば人の気配と声に怯えて追い立てられる。
しかし、稀に人間の存在などに微塵も恐怖を感じない、異質な獣が登場する事がある。
そういう場合、彼ら勢子たちを待つ運命は、大抵悲惨なものになるのだ。
502Prince of Dark Snake:2008/03/22(土) 20:34:11 ID:8p5xO1bB
 
「ギャァァーーーッ!!」

勢子の断末魔が上がる。
巨体が飛び掛り、人間の小さな身体を倒す。
鋭い爪牙によって、柔らかい喉首はたやすく食い破られた。
獅子の口は、赤い血によって染まっていた。
大きい。
ひょっとしたら、王宮で一番大きな獅子の敷皮に匹敵する大きさかも知れない。
鬣を逆立ててこちらを見るその目には、人間に対する怒りこそあれ、恐れや侮りは感じられない。
よろしい、それでこそ自分が狩る価値がある。
槍を握り直し、馬ごと獅子に突撃する。
相手もこちらへ襲い掛かってくる。
その爪の鋭さは、研ぎ澄まされた短剣に劣るまい。
だが、先に攻撃が届くのは長さに勝る槍だ。
肉食獣の威勢に恐れをなし、馬が歩調を乱しそうになったが、巧みにそれを操りながら槍先を合わせる。
大きく開け放たれ鋭い牙が並ぶ獅子の口から、凄まじい咆哮が放たれた。
手の中で柄が強く撓る。
ヒビが走り、折れた。
壊れた得物には執着せず、直ぐに捨てた。
左に逸れる馬体に向かって振り下ろされた爪は、紙一重で手綱を引いて躱させた。
そのまま数十完歩走り抜けさせてから振り向く。
獅子の右眼に、槍の穂先が深々と突き刺さっていた。
賞賛すべき事に、まだその獅子は戦意を失っていなかった。
己に傷を付けた敵を振り返り、激痛に耐えながら睨みすえる。
その姿には感動すら覚えた。
腰から剣を抜く。
これには長さという利点は無い。
もう一度、馬を獅子に向かって駆けさせる。
先程の様な小細工はさせまいと、獅子は真正面から体当たりせんと向かってくる。
今度は手綱を右に引いた。
馬上の騎手は、左側の敵には不利になると言われている。
あえてそうしたのは、右の視界を失った敵の弱点に乗ずるのを良しとしない気持ちもあったが、
馬にのった人間は左にすれ違うという行動を、獅子が知っている様に思えたからだ。
もしかしたら、大獅子はこれまでに何人かパルティアの騎士を喰らってるのかもしれない。
だとしたら、恐るべき老練の強者ということになるだろう。
自分が狩る始めての獅子に、改めて敬意を覚えた。
503Prince of Dark Snake:2008/03/22(土) 20:35:40 ID:8p5xO1bB
 
前方に伸ばされた獅子の前脚が、自分の左足をかすめる。
同時に、相手の頸部に剣を滑らせていた。
肉を切り裂く重い手ごたえがあった。

 グ ァ オ オ オ ォ ォ ゥ・・・

獅子の口から、苦痛の叫びが漏れる。
深手を負い倒れこみそうになるのを、獅子は必死に堪えていた。
勝敗は決した。
最後の力を振り絞った一撃を躱され、さらに痛撃を喰らっては勝機は無い。
それでもなお屈しようとせずにいるのは見事だが、これ以上苦しみを長引かせる心算はなかった。
周りに集まってきていた兵士たちに合図する。
十本近い投げ槍が宙を飛ぶ。
獅子の身体にそれらが突き刺さり、平原の王は地に伏した。
右手に握った、獅子の血に濡れた剣を高々と掲げた。

「イスファンディアール王子、万歳! 古今に類なき技前なり!」

固唾を飲んで両者の戦いを見守っていた老臣、近侍、参加者一同が、若き王子の手腕を讃えた。
あと三日で、パルティア王ファルハードの嫡子イスファンディアールは十四歳になる。
彼の年齢は父王の在位年数と等しい。
これは、いまだ自分が負う宿命を知らぬ、幼き日の彼の記憶であった……


・・・・・・・・・


「お兄様? どちらにいらっしゃるの〜。お兄様〜!?」

妹の声が王子宮から聞こえてくる。
母親に言われて、自分を探しているのだろう。
しかし、姿を見せてやるつもりは無い。
ここは自分の秘密の場所だ。
ここに居れば誰の目に触れる事も無い。
唯一、眼前に立つ塔の窓から覗けば自分が寝転がっているのが見えるだろうが、
そこは女の幽霊が現れると言う話で、ここ十数年封鎖されたままだ。

「明日は、私達の誕生日なのよ!? 主役が居ないと始められないわ〜!」

王宮の壁に跳ね返って、相変わらず妹の声が聞こえてくる。
聞く気は無くても、人一倍耳が良いせいで嫌でも聞こえてしまうのだ。
そう、明日は自分と妹の十四回目の誕生日だ。
そして、現パルティア王の即位記念の日でもある。
厳密に言うと、自分の父親が正式に戴冠式を行った日は二月ほど先である。
しかし、凶悪な弑逆者をその手で殺し、
諸侯将兵から『パルティア王ファルハード万歳!』との歓呼を受けた事実を優先し、
明日が即位の日として定められている。

だから、自分たちの誕生日は毎年即位の祝典と同時に行われる。
二つのめでたい祝い事を一遍にやるのだから、盛大にならない方がおかしい。
都大路には出店が並び、軽業師や芸人たちが腕を競うのだろう。
宮殿に招かれた貴族やその子弟には、パルティア王の勢威を見せ付けるが如き珍味佳肴が振舞われる。
王宮で働く官吏や士族たちには下賜金が与えられるし、
広場に組まれた櫓の上から、庶民たちに花や菓子や貨幣が撒き与えられる。
軽犯罪者に恩赦が与えられるのもこの日だし、重犯罪者もこの日を嫌がる事は決して無い。
恐ろしい獄卒たちもほとんど町に繰り出しているはずなので、拷問も処刑も行われないからだ。
504Prince of Dark Snake:2008/03/22(土) 20:36:45 ID:8p5xO1bB
 
誰もが明日を楽しみにしている筈だ。
去年の今日は、自分も次の日が待ち切れずにやきもきしていた。
本当なら、今年だってそうならなければいけない筈なのに……

『誰が出てってやるものか!』

王宮の屋根の上で、心中呟いた。
たとえ妹がどんなに呼ぼうと、今年の祝祭はすっぽかしてやる、そう決めていた。
妹は残念がるだろうし、母は悲しむだろう。
重要な式典に姿を見せなかったと、父は叱るだろう…… 一昨日みたいに。

「くそったれ…… 初めて狩った獅子だったんだぞっ」

思わず父親を罵ってしまった事に気が付く。
しかし、それだけ腹が立っていた。
王宮の屋根の上からなら、王都の城壁のはるか西方にある平原が望める。
その向こうに広がる狩猟場は、国王の許し無く立ち入る事の出来ない場所だ。
悔しさを噛み締めながら、沈み行く太陽で赤く染まりつつある地平線を見つめた。

こんな気持ちで誕生日を迎える気は全く無かった。
今年で自分は十四になる。
もう子供じゃない。
それを皆に認めさせる誕生日にするつもりだったのに……

右の肩をそっと撫でた。
痛みは無いが、思い出すだけで腹が煮える。
思い出したくもないが、忘れられそうにない。
もう一度、悔しさのあまり呟く。

「くそっ……」
「ヒョヒョヒョ、随分とお腹立ちのようじゃの?」

自分以外は梯子を使わなければ登れない屋根の上で、誰かに話しかけられたのは初めてだった。
丸屋根の陰に誰かが潜んでいるらしい。
思わず声のした方を睨む。

「誰だっ!?」
「ヒョホホホホ…… さて、誰じゃろう?」
「さては、物心ついく前からずっと僕を見張ってた奴だな?」

何時ごろ気が付いたか定かではないが、いつも誰かが自分を見つめている事は判っていた。
それを放っておいたのは、視線に害意を感じなかったためだが、
余りに昔から見られていたので慣れてしまった為でもある。
もともと王族として周りの意識を集める身であるから、
今日までそれを自分の生活の一部と見なしてしまっていた。
505Prince of Dark Snake:2008/03/22(土) 20:37:25 ID:8p5xO1bB
 
「ほほう、儂の気配にお気付きであったかえ」
「見張ってるだけで話し掛けてこないから、てっきり幽霊の類かとも思ったぞ」
「『見張る』だなどとお言い下さるな。
 若君がご誕生になる前から、爺はずーっと見守って差し上げてきたのじゃ」

相手の声はかなり年老いているようだが、聞き覚えは無い。
一体何者なのだろうかと興味を引かれた。
しかし、陰から現れた姿を見て、思わず口から驚きの声を出してしまった。

「へえ、随分としょぼくれた鬼が出てきたなぁ!」

背丈は自分の半分以下だが、頭でっかちな上に腰が曲がっている。
頭と身体の釣り合いが取れていないのは、赤ん坊みたいだが、
肌は浅黒くあちこちシミと皺があるし、酷く醜い生き物だった。
そして、それが人間ではない証に、頭には角が、背中には蝙蝠の羽が生えていた。
これまで自分が見た生き物の中で、一番不思議な部類に入る。
老いた小鬼は、目の前に歩んで来たかと思うと深々と自分に頭を下げた。
突然現れた相手の意図が掴めぬまま、はてどうしたものかと思ってた矢先、
老小鬼の瞳に光るものが溢れた。

「お言葉を交わすのは初めてじゃが…… ご立派に成長あそばされまして、
 爺は…… 爺は嬉しゅうございますぞ! グスッ……」
「鬼が涙ぐむなよ。気色悪いなぁ」

いきなり成長を褒められるのもこそばゆいが、鬼に涙まで流されては居心地悪いことこの上ない。
だが、人外の者と口を聞いているというのに、何故かそれを当たり前の様に受け入れている自分に
この時はまだ気付く事はなかった。

「ひえぃっ、口のお悪い所もそっくりじゃわ」
「誰にだよ? 一昨年卒中で死んだ乳母のドルリにか?」
「ありゃ口が悪いのではなく、頭と性根と素性と食い意地が悪い女じゃ! 若君があんなのに似る訳はないわい」
「へえ、判ってるじゃないか。僕も口うるさいあいつの事は嫌いだった」

小鬼が乳母を罵るのを聞くと、なんとなく相手に親近感が沸いてきた。
妹はそれなりに懐いていたようだが、自分が王宮の屋根に登る度に、蛇や蠍を見つけて遊ぶ度に、
ドルリはすぐ父母に告げ口をする嫌な女だった。
乳母が死んだ日を、自分はこっそり卒中記念日と名付けている。

「どうやら、お前は悪い鬼じゃないらしいな」
「ほう、お分かり頂けたかい」
「うむ。一応僕に敵意は無さそうだと認めてやろう。
 しかし、ずーっと僕を見てた癖に、なんで今になって声を掛けて来たんだ?」
「そこいらの事情は、いろいろとややこしくてのぉ。簡単に話すことは出来ませぬわえ。
 それよりも、宮殿にお戻りになって以来ここにお引き篭もりでは、さぞ喉も渇きましょう。
 よろしければ一口お飲み下されい……」

そう言うと、老小鬼は背負っていた皮水筒を差し出してきた。

「おっ、中々気が利くな」

栓を開けて、躊躇わずに飲み口に唇を当てる。
毒見をさせようとかは全く考えない。
こういう所も、父やドルリには軽はずみだと叱責された所だ。
それとも無意識のうちに、自分を殺せる毒など無いという事に気が付いていたのか。
丁度何かで喉を潤したかった所であり、威勢良く皮水筒を傾ける。
だが、一口含んだだけで吐き出してしまった。
506Prince of Dark Snake:2008/03/22(土) 20:40:34 ID:8p5xO1bB
 
「……ブハッ! こ、これは葡萄酒じゃないかっ!?」
「左様、ルーム皇帝から送られた、彼の国の銘酒じゃわい。
 久しぶりに王家の酒蔵に忍び込んでのう、国王しか飲めない代物をちょろまかして参った」
「げほっ、げほっ…… てっきり薔薇水だと思ったのに……
 僕はまだ酒なんか飲んだことないんだぞっ」
「おひょひょ? 何とまあ、獅子すらその手でお狩りになられる若君が、
 『まだ酒は早い、嗜まれぬ』と仰せか?」
「ぐっ……」
「若はまだ、蜂蜜入りの薔薇水の方がお好みなんじゃの。
 どれ、爺がもうひとっ走りして、厨房から調達して参りましょうか……」
「待てよっ!」
「はいな」
「これ位、僕はもう飲めるっ」

再び皮水筒に口を当て、口の中に零れる液体を思い切って飲み込む。
葡萄酒は冷えていたが、食道から胃に降りてくるあたりが妙に熱い。
それでも息継ぎを重ねながら、中に入っていた液体全てを喉の奥に流し込こむ。
空になった皮水筒を屋根の上に投げ捨てるが、飲み口から葡萄酒は零れなかった。

「げふぅ…… ど、どうだっ!?」
「お見事お見事っ! さすが若君じゃ。もう一人前の男子よのぉ」
「ふん、おだてても何にもやらんぞ」
「かように逞しくお育ちになられたというのに、ファルハードの奴ときたら……」

苦々しそうな顔をした老小鬼が、父親の名を呼ぶ。
こいつはあの事情を既に知っているらしい。
いや、おそらくもう宮廷中の奴らが聞いているだろう。
狩猟祭に参加した千人の貴族たちが、あんな出来事を黙っているはずが無い。

「若君のお腹立ちは当然じゃわ。あれで腹を立てねば男児とは言えぬ」
「そう思うか?」
「うむ、若君が御手で初めて獅子を仕留められたというのに……」

めでたい筈の気分を台無しにされたあの時の屈辱が、老小鬼の言葉で再び蘇る。
今回の狩猟祭では、自分は初めて狩りの主催者となったのだ。
これまでもずっと狩りを主催させて欲しいと父親に頼んできたが、
『お前にはまだ早い』との一点張りで実現しなかった。
自分では早いと思わなかった。
弓や槍の腕は武術師範が舌を巻くほどだし、馬術だって勝てない相手は父だけだ。
十三の誕生日を迎えた時と同じ言葉で断られたため、
母にねだってルームの祖父にまで口添えを依頼した。
外孫のために祖父は直筆の信書を父に送って寄越し、それが功を奏して一昨日の狩猟祭になったのだ。
それなのに……

「若輩者の分際で、一人で獅子に挑むとは軽率な!」

一喝を浴びせられ、肩を鞭で叩かれた。
『世継ぎの王子が御手で大物を仕留めた』
その慶事に浮かれる参加者達を静まり返らせた一言だった。
パルティアで王子に手を上げられるのは一人しかいない。
それは王子の父親、パルティアの国王だ。
507Prince of Dark Snake:2008/03/22(土) 20:42:59 ID:8p5xO1bB
 
「じゃあ、僕は何を狩れって言うんだ!
 このカイクバード家の王子に、ジャッカルでも相手にしていろとでも!?」

いくら嫡子とはいえ、面と向かって王に背く事は許されない。
あの場で言えなかった憤懣が溢れる。
嬉々として猟果を報告に行った自分を迎えたのは、思わぬ父の叱責だった。
確かに、世継ぎの身として危険に身を晒すのは軽率だったかもしれない。
でも、自分には獅子を狩れる自信があったし、事実狩れたではないか。
それなのに、あのように皆の眼がある所で叱らなくても良いではないか。
父親として息子の初めての獲物を喜んで見せてくれても良かったではないか。
目の前にいるのが胡乱な鬼族だという事も忘れ、父王への不満を口走っていた。

「偉大なる三王の血を引くお方を鞭打つとはっ。爺も腹に据えかねておりまする」

老小鬼はそう応じる。
まだこの時は、偉大なる三王という言葉を『ジャムシード』『カイクバード』
そして『ルーム皇帝』の三者と受け取った。
この身体には、地上でもっとも尊貴な血が流れている。
自分は大陸に覇を唱えうる両大国を繋ぐ、たった二人のうちの一人なのだ。
しかし、小鬼の指す三者は、最後の名前だけ違う。
けれども、まだ今日はその事を知る日ではない。

「儂が御身の前に姿をお見せしようと思い立ちましたのは、頃合と考えたからでございます」
「頃合?」
「左様…… 獅子すら屠る若君じゃもの、色々な事をお知りになられてもよい年頃じゃ。
 予想よりもずんと早いですがな」
「なんだよ、お前は僕の教師にでもなるつもりか?」
「ヒョヒョヒョッ…… まあ付いて来なされ」

蝙蝠の翼をはためかせると、老小鬼の身体が宙に浮く。
その手招きに応じたのは、初めて出会った魔族の者が、自分に何を見せようというのか興味があったからだ。
宮殿の上を、一人と一匹は移動した。
小鬼は飛ぶ事ができるが、自分は両脚で屋根から屋根へと跳び回る。
高さはまったく気にならない。
小さい頃から何故か高い所が好きで、ドルリに叱られるのも承知で屋根や塔に登って遊んだ。
どこの屋根から壁の上へ跳び移り、生垣の間を走り抜けて次の屋根によじ登れば良いか、全て判っている。
十四にもなって、こんな真似をしている事が発覚したらまた大目玉だが、
日が沈み夜の帳が降りかけた今、王宮の各所に点るのは仄かな灯りだけだ。
今ならこんな真似をしても誰かに見つかることは無い。
こんな時分に天井の上を駆け回ろうなど、話に聞くチーナの間者でもなければ無理だ。
でも自分には出来る。
並の人間なら足元すら覚束無い薄闇の中でも、次に何処に足を運べば良いかはっきりと見える。
むしろ、なんで妹を含めた周りの人間が出来ないのか不思議だった。
勢いを付けて踏み込んで屋根を蹴るときも、着地する時も音は立てない。
何故かは知らないが、生まれながらに自分はこういう事が出来た。
508Prince of Dark Snake:2008/03/22(土) 20:46:45 ID:8p5xO1bB
 
『おいっ! どっちに向かう気だよ?』

先行する小鬼の背中に、小声で問いただす。
幾ら素早く王宮を駆け回れても、空中を飛べる方が流石に速いので追いつけない。

『そ、そっちは父上の後宮だぞ!?』
『ほう? 後宮への入り方はご存じ無いかえ』
『ていうか、王子が後宮に出入りできるのは子供の頃だけで……』

自分の宮を持つようになった王子は後宮から出る。
それがパルティア宮廷のしきたりだ。
母や妹と会いたい時も取次ぎの者に呼んでもらうのが当然で、直接会いに入るなど思いもよらない。
嫡出の王子であっても例外は無い。
生まれる前に、後宮に王族が忍び込んだ事件があったらしいが、そんなことが発覚したら大問題だ。

『ひょひょひょっ! ご案じ召されるな。まだ若君は「若輩者の青二才」であろうが?
 そんな呼ばれ方をする子供が、ちと忍び込んだ所で咎め立てする筋合いがあろうかの?』
『……』

笑いながら老小鬼は後宮の壁を飛び越えて、敷地の中に潜り込む。
それなりに迷ったが、あの小鬼が何を企んでいるのかという疑念と、
青二才呼ばわりした父への反感が後押しした。
いざとなったら、見つからずに即座に逃げ出せる自信もある。
警護の宦官兵に悟られぬように、廻廊の屋根の上を小走りに走り抜けた。


・・・・・・・・・


パルティアの今上王ファルハードの前に、一人の女が跪いていた。
この国の女性にしては、背の高い部類に入る。
束ねてはいるが、ともすれば弾けて散らばりそうなほど癖の強い巻き毛をしていた。
腰には剣が下げられており、その身に纏うのは皮革の甲であった。
武装した身形りから、彼女が後宮内を警護する娘子兵である事が判る。
それは、ファルハードが立太子される以前にはパルティアになかった物だ。
彼の正妃であるルームの皇女が、母国から持ち込んだ制度だった。

「イスファンディアールの一件、既に聞き及んでいるな」
「はい、些か……」
「宮廷の者どもは、どう言っている?」

敷物の上に胡坐をかきながら、ファルハードは跪く女にそう尋ねた。

「国王陛下がお叱りしたのは、王者としての心構えをお教えするがため。
 誉めそやし、ご機嫌を取るしか能のない貴族連中には及びも付かぬ、ご立派な為さり様だと……」
「リラーよ、お前もそういった貴族連中の一員か?」

王の一言で、女兵士は言葉に詰まった。

「上辺でどう言っているかなどどうでもよい。余の知りたいのはその心底だ」
「……では、恐れながら申し上げます。
 此度の狩猟祭で殿下をお叩きあそばされた事、宮中で訝しまぬ者はございませぬ。
 その…… 海の如きご大度で知られた陛下とも思えぬ…… あ、余りにご狭量ではないかと……」
509Prince of Dark Snake:2008/03/22(土) 20:48:14 ID:8p5xO1bB
 
深く頭を下げながら、リラーは正直に言った。
君主に真実を話すのは、時に危険を伴う。
しかし、自分が仕える相手は、追従よりも真実を好むと知っている。
だから事実を口にする事ができたのだ。

「その他には?」
「イスファンディアール殿下は才気煥発。
 弓を取っても槍を取っても、人後に落ちる事はありませぬ。
 将来のパルティアを背負うに足る、末頼もしき王子であると……」

だんだんと、リラーの声が小さくなる。
公正で寛容な君主だとは知っていても、それに期待し過ぎるべきではない。
全て正直に答えてしまうべきか迷いつつ、彼女は続けた。

「それを、若さ故の大胆無謀な行動とは言え…… 王子の勇敢さをお認めにならず、
 あの様におっ、お叱りになったのは……」
「……」
「だ、大王が…… ご子息に、その……」
「仮にも大王と呼ばれる余が、十四にもならぬ息子の才覚に嫉妬を抱いているからだと?」
「私ではありません。周りの者がそう言っているのを小耳に挟んだだけでございます」
「お前はどう思う」
「はっ?」
「余の振る舞いが、イスファンディアールに対する妬心からだと思うか?」
「……だ、大王の御心を、どうして私め如きが量れましょう」

答えを口に出すべきか判らず、そうはぐらかした。
もとよりパルティアの国王と一娘子兵では、天と地ほどに身分の差が有る。
下手な口の利き方をすれば、不敬の罰は免れない。

「……リラー、面を上げよ」
「はっ」

額が床に着きそうなほど深々と下げていた頭を、ようやくリラーは上げた。
上目遣いに王の顔を窺う。
現在のパルティアを治める偉大な国王の、精悍なる面立ちがそこにあった。
イスファンディアール王子は、どちらかといえば父親似だ。
髪と眼の色を始め、ルーム人の特徴を濃く受け継いだ妹姫と比べて、
王子はパルティア人の特徴を色濃く残している。
やんちゃな子供の頃から、武勇に長けた父方の血のほうが強く出ていた。
それでも、その顔立ちは精悍と言うよりもよりも秀麗と呼んだ方が当てはまる。
その点は母親似とも言えるが、眼や鼻の形は美人として鳴らした父方の祖母に似たのだという話だ。
自分が生まれる前に亡くなっているので、リラーは王の母親を見たことがないが、
成人なされる頃には大層な美男子になられるだろうと、宮廷スズメたちは噂している。

「お前も、イスファンディアールがパルティアの王に相応しいと思うか?」

不自然な言葉だ、リラーはそう思った。
ファルハード王には嫡出庶出を問うまでもなく一人しか男児がいない。
相応しい以前に、王子が跡継ぎとなるのは決定した事項のはずだ。
それでも、王の瞳が自分を観察している。
臣下の虚実を尽く見抜き、偽りを許さぬ厳正な眼だ。
顔を伏せたい気持ちになるが、意に逆らうことは出来ない。
主君の視線を浴びながら、彼女は存念をそのまま述べた。

「殿下のご器量は大王譲り。いずれ玉座を継ぐに不足無しと存じます」
「……そうか」
510Prince of Dark Snake:2008/03/22(土) 20:50:52 ID:8p5xO1bB
 
大王は弱いため息を吐いたかのように見えた。
宮廷人たちが噂するように、息子に嫉妬心を抱いているようには思えないが、
王子の成長を単純に喜んでいる訳でもない事ははっきりしている。

「リラー」
「はっ」
「剣を置け」
「……はい」

命じられるままに、腰に帯びた剣を鞘ごと床に置く。
そして、その命令がどんな意味を含んでいるかは判っていた。
武器を持ってこそ、娘子兵は戦士だ。
『寝ている時でさえ、剣は手放すな』
ルーム人の娘子兵団長は、口が酸っぱくなるほどそう言った。
それがなければ、単なる女と同じになる。

「近う」

手招きされ、王の側近くに進む。
君主の坐る敷物の上まで近寄り膝を着くと、ファルハード王の節くれだった指が首筋を撫でた。

「ぁ……」

リラーは小さな声を上げた。

娘子兵団の設置は、パルティアのお転婆娘たちにある種の恩恵を与えた。
あまりのお転婆振りに、母親から『お嫁の貰い手がなくなるわよ』と言われた少女達も、
『なら後宮に行って娘子兵になるわ!』と反駁できるようになったのだから。
王都育ちのリラーも、男児に混じって裏小路で遊び廻る、非常に活発な少女の一人だった。
一口に後宮勤めと言っても、上は高級女官から下は雑役婦まで沢山ある。
持ち込まれてから歴史が浅く、活動も限定的な娘子兵の位置づけは曖昧な所もあるが、
王妃直属という立場から近衛兵並の給金は貰っている。
その代わり、兵士が宿営地から勝手に出歩けない様に、許可無く後宮を出ることも出来ない。
家族への手紙も検閲される。
何より、除隊するまで男性との接触の機会は殆どない。
娘の婚期を逃したくない両親なら、娘を兵士にはさせたくないだろう。

おそらく、生きていたならリラーの父親も認めなかったはずだ。
母親は今でも手紙で詫びてくる。
しかし、後悔していない。
あの時の家族には、それが必要だった。
西方遠征に従軍した父は戦傷が元で病気がちになり、その治療代、薬代は家の身代を傾けた。
生計を支える為に母と兄姉は懸命になったが、幼い弟妹たちを抱えた家族全員を養うのは困難だった。
父が死んだ時には、隣近所の住人から最後の借金をして葬儀の支度を整えた。
娘子兵の募集があったのは、丁度その頃だ。
ルームから付き従ってきた娘子兵は、帰国したり除隊があったりで欠員が増えた。
そこで、新たにパルティア人からなる隊を編成するとの触れが出されたのを知り、リラーは決心した。
物乞いまでに落ちぶれるよりは、口減らしを図るべきだった。

二人の兄たちは比較的すんなり納得してくれた。
今のままでは、嫁入りの持参金すら作る事が出来ない。
ましてお転婆娘の引き取り先を探すために積む金など、何処にあるというのだろう?
母と姉は反対したが、まがりなりにも家長となった長兄の説得で、泣く泣く承諾した。
自分を見送る事も出来ずに部屋の隅ですすり泣いていた母親のことを、彼女は今でも覚えている。
その後、似たような境遇の応募者たちを相手に選抜戦が行われ、素質の無い応募者が大量にふるい落とされた。
リラーは勝ち残り、見習い兵士として後宮に入ったのだ。
511Prince of Dark Snake:2008/03/22(土) 20:52:52 ID:8p5xO1bB
 
「いつもの事だが、そう堅くなるな」
「でも…… 私めの様な者に……」
「気にすることはない」

逞しい腕が、リラーを抱きすくめる。
ファルハード王は、まだ四十にもならない。
若くしてパルティア随一の勇者と称されたその身体は、王子時代から少しも衰えていない。
絹の布地越しに、リラーは厚く硬い胸板の存在を頬で感じた。
王の指が、自分の髪に触れる。
纏めるのに毎朝一苦労する、我儘な髪だ。
そんな髪質が面白いのか、ファルハード王はそれを弄り回した。

ふと、自分は幸運な存在なのかと感じた。
国王に抱かれたがっている女は、後宮に幾らでもいる。
いや、ファルハード王が国王ではなく、諸侯でも貴族でも、たとえ一騎士であっても、
抱かれたがる女には事欠かぬだろう。
鷲の様に鋭い瞳。
威厳に溢れ、精気に満ちた顔立ち。
そして獅子の如く鍛え上げられた肉体。
ファルハード王の姿こそ、パルティアの壮士の理想像と言っても過言ではない。
リラーも、初めて主君を間近に見たときには驚きを隠せなかった。
国王に比べれば、イスファンディアール王子はまだ子供だった。
そのうち父に似てくるのかもしれないが、父親の身体が獅子ならば彼はまだ猟豹だ。
逆にそれが良いという宮女や趣味人もいるらしいが。
いずれにせよ、国王は男として全く不足の無い人間である。
だが、自分はどうなのか?

「……」
「どうした?」

女の身体が震えたのを悟り、王は問うた。

「……我が身の分際も弁えず、王の御手に触れて頂く事が…… 改めて恐ろしくなりました」

自分には、女としての順応力が足りないのだろうか?
それとも相手の身分に萎縮してしまうのか。
そう思うが、こればかりはいつになっても慣れる事がない。
まさか自分が、王の指に触れられる日がこようとは、夢にも思わなかった。
王の権勢に逆らう事など、パルティア人には出来ない。
けれども最初の一度目の時に、なんとかして逃れるべきではなかったかとも悩むのだ。
後宮では、夢の様な出世物語が起こりうる。
取るに足らぬ奴隷娘がふとした拍子に王のお手つきになり、末には国母になった例もある。
512Prince of Dark Snake:2008/03/22(土) 20:54:19 ID:8p5xO1bB
 
だが、自分は娘子兵だ。
訓練開始前に叩き込まれたことは、『国王の眼に止まろうなどとは、夢にも思うな』だ。
そんな妄想は、いつか国王に見初められて寵を受ける様になり、
意地悪な宮女に扱き使われる日々から脱出したいと願っている、愚かな小間使いどもに任せていればいい。
リラーは、その訓戒をごく自然に受け入れた。
もとより自分の容姿に自惚れを持っていない。
顔は幼い頃からよく少年に間違えられた。
褒めて言えば羚のような身体とも言えるが、筋肉質だと言った方が早かろう。
曲げれば力瘤の盛り上がるニの腕、腹にうっすらと浮き出る筋肉の隆りは、
一般的に言う魅力のあるパルティア女性の像からは少々離れている。
その代わり、何時まで経っても国王に見初めてもらえない宮女や小間使いから
日頃熱っぽい視線を送られており、時折恋文さえ貰う。
それを苦笑いしながら受け取っていた自分が、まさか国王に抱かれる日がこようとは、
本当に夢想だにしなかった事だ。

息が詰まるほど力強く、ファルハード王はリラーを抱き締めた。

「恐れなくてもいい。余は気にしておらぬ」
「しかし、私は娘子兵でございます」
「余の立太子まで、パルティアに娘子兵はいなかった。
 故に、ルームはいざ知らず、この国には娘子兵が王に身を委ねてはならぬという決まりは無い」

ファルハード王はそう諭すと、女の身体を締め付けている革鎧の紐に手をかけた。
結び目が一つ一つ解かれる。
身に纏う鎧が緩むにつれ、リラーは娘子兵としての自分が遠くなるような気がした。

「陛下……」

ファルハード王はリラーの鎧を引き剥がし、床に抛り捨てた。
二人の唇が、そっと重なった。

(続く)
513名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 21:01:24 ID:ch/1JORl
乙です!
番外編、待ってました。
はじめてリアルタイムで遭遇して感激です。

タイトル、Prince of Dark Snakeなんですね。
蛇姫様がいらっしゃらないことに一抹の寂しさが・・。

続き、待ってます!
514名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 21:02:49 ID:cSe5a9Yj
リアル投下ktkr
GJです!
515名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 23:03:07 ID:FP5UG4Ux
後編!後編!
516名無しさん@ピンキー:2008/03/23(日) 01:54:30 ID:30TJG+Vc
番外編楽しみにしてます
がんばってください
517名無しさん@ピンキー:2008/03/25(火) 01:05:30 ID:RcK1Leks
保守
518名無しさん@ピンキー:2008/03/28(金) 15:44:52 ID:JiCjc58R
保守
519名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 13:36:47 ID:R6dqb74f
ほしゅ
520名無しさん@ピンキー:2008/03/30(日) 20:17:20 ID:1nIyxD4Y
年度末で皆忙しいのだろう保守
521名無しさん@ピンキー:2008/04/01(火) 22:42:59 ID:cn4n5tSF
副長のハンナはツンデレ、従姉妹殿はクーデレという認識でおk?
522名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 22:08:04 ID:p6USfmzl
水の神殿続き待ち保守
523名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 22:10:53 ID:ETN5YpoW
自分も読みたい保守
524名無しさん@ピンキー:2008/04/03(木) 02:32:34 ID:/MSrLN8v
結局フィアたんは神様に流されて番になったか気になるので俺も続編読みたい保守
525名無しさん@ピンキー:2008/04/07(月) 02:00:06 ID:Y6sXX+y1
保守
526名無しさん@ピンキー:2008/04/11(金) 13:31:49 ID:ZqP8hgXE
527名無しさん@ピンキー:2008/04/11(金) 18:34:26 ID:RVenqLnn
528名無しさん@ピンキー:2008/04/11(金) 18:42:00 ID:xOOFrtuS
529名無しさん@ピンキー:2008/04/11(金) 21:43:52 ID:N2yW0WQf
530名無しさん@ピンキー:2008/04/12(土) 01:11:41 ID:MdvXs397
531名無しさん@ピンキー:2008/04/12(土) 08:22:05 ID:Ia6c16tY
532名無しさん@ピンキー:2008/04/12(土) 11:15:52 ID:VFTHQHqT
533名無しさん@ピンキー:2008/04/12(土) 12:13:14 ID:jo3jhKJl
534名無しさん@ピンキー:2008/04/12(土) 14:06:18 ID:C64HHacU
535名無しさん@ピンキー:2008/04/13(日) 21:25:25 ID:IhBUyFgb
536名無しさん@ピンキー:2008/04/14(月) 01:56:47 ID:yLwTXIzl
537名無しさん@ピンキー:2008/04/14(月) 14:06:05 ID:e8Vg8Vrf
538名無しさん@ピンキー:2008/04/14(月) 22:03:24 ID:fqd7miG8
あ、よく見たらあと22KBしかない。
539名無しさん@ピンキー:2008/04/18(金) 02:42:35 ID:XMq/OC5u
保守
540名無しさん@ピンキー:2008/04/19(土) 00:21:05 ID:PDd16JSs
そういやゴムの発見されて無い時代の女性用下着(主にパンツ)って紐タイプなんか?それとも褌タイプなんかな?
541名無しさん@ピンキー:2008/04/19(土) 00:29:37 ID:06zJgaMt
分からないが紐の方が萌える
542名無しさん@ピンキー:2008/04/19(土) 00:41:16 ID:59m0z5oH
はいてないに決まってるだろJK
543名無しさん@ピンキー:2008/04/20(日) 02:29:30 ID:UVm6XsqL
保守
544名無しさん@ピンキー:2008/04/24(木) 10:25:41 ID:SCNZmx/j
545名無しさん@ピンキー:2008/04/24(木) 11:21:36 ID:zZte6yGN
そろそろ次スレの準備を
546新スレタイはスレ立て人さんが考えて下さい:2008/04/24(木) 11:32:44 ID:zZte6yGN
・剣と魔法のファンタジーの世界限定で
・エロは軽いものから陵辱系のものまで何でもあり
(ですが、ひとによって嫌悪感を招くようなシチュの場合はタイトルなどに
注意書きをつけることを推奨します)
・ファンタジー世界ならば女兵士に限らず、女剣士・騎士、冒険者、お姫さま
海賊、魔女、何でもあり。
・種族は問いません。
・オリジナル・版権も問いません。

過去スレ
◆◆ファンタジー世界総合:女兵士スレpart5◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1192717229/
◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart4◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173497991/
◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart3◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163919665/
◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart2◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1149954951/
◆◆◆ ファンタジー世界の女兵士総合スレ ◆◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1128119104/
547名無しさん@ピンキー:2008/04/24(木) 22:18:38 ID:hN/5mPaf
◆ファンタジー世界の戦う女(女兵士)総合スレ 6◆
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1209042964/

こんな感じでどうでしょう?
関連のファンタジースレも立派に機能していることだし、
統合ではなく戦闘員女性色を消して欲しくないという意見を採用しました。
ちょっとスレタイのセンス悪いけど。
548名無しさん@ピンキー:2008/04/24(木) 23:00:09 ID:dQr2xxCP
まだ20KBあるんだから、スレタイ変えるなら立てる前に質問してくれたらよかったのに。
まあ乙。
549名無しさん@ピンキー:2008/04/25(金) 01:29:10 ID:bA19ak/H
毎回スレタイで揉めたところで結局は結論出なかった過去の経緯からすると、
>>547さん、迅速な対応GJであります、お疲れ様です。


550名無しさん@ピンキー:2008/04/25(金) 11:24:35 ID:0vaBJpzT
>548
>546でスレタイは立てる人がって言ってんだから
何か意見があるなら。後からどうこう言わずに
>547が立てる前に言えば良かっただろ。十分間はあったんだから
551名無しさん@ピンキー:2008/04/25(金) 19:10:50 ID:jaKmovQm
十分な間はなくね?平日昼間だし。
スレタイはいいと思う。
552名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 00:41:02 ID:garYOzBe
あと22Bと書き込まれてから結構間が合ったよ。
22Bだから何?と言うほど鈍感じゃあるまいよ、充分だと思う。
553名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 00:59:45 ID:hfdCPejC
新スレに投下きてるのでうめー
554名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 10:40:37 ID:O+6kQ+Cb
>552同意。これで揉めることもなくなったわけだし。

555名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 21:56:16 ID:UHgLNxly
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556名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 21:56:54 ID:UHgLNxly
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557名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 21:58:11 ID:UHgLNxly
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558名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 21:58:52 ID:UHgLNxly
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559名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 22:02:24 ID:2RPlG531
     |┃三                ,. - ── ──
     |┃              r'つ)∠───     \  
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 ガラッ. |┃           ,.イ      ,イ    \ヽ,     }
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560名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 22:02:45 ID:UHgLNxly
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om
561名無しさん@ピンキー
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    |    / |. ヽ   .!     Y        ,' |  |
    |     /  | !  ヽ     o |        ,'   !  |
    !   /   ! |  ヽ        |         ,'   !   !
.   !     |l    ',    o |        ,'   | |
   l        ! l     ',      |       ,'    l  i
   |     |i     ',    o !       ,'     | i
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   !      i |     !       }           i
職人さんたちに乾杯!!!!!!
また次スレでね!!!!