気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第8章

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1名無しさん@ピンキー
勝気だったり、高飛車だったり、男勝りだったり、
そんな幼馴染みが、委員長が、お嬢様が、お姫様が、女上司が、
ふとした瞬間に垣間見せる弱々しさ、しおらしさ、素直さ、
そんなギャップに萌えるスレです。

あるいは、レイプされ、屈服させられて従順になってしまう鬼畜展開もOKです。

SSの投下は、オリジナル・二次創作を問わずに大歓迎。

(過去スレ)
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に…
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1065173323/
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第2章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1090474137/
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第3章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1119542810/
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第4章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1133794297/
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第5章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1147086214/
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第6章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1155817189/
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第7章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173661311/

(これまでに投下されたSSの保管場所)
2chエロパロ板SS保管庫
http://sslibrary.arings2.com/
2名無しさん@ピンキー:2007/09/01(土) 01:27:58 ID:HB+mlO0+
逃げて
3名無しさん@ピンキー:2007/09/01(土) 02:07:14 ID:YTM4PR8O
>>1なんという乙
4名無しさん@ピンキー:2007/09/01(土) 08:13:14 ID:j+E/L3Hp
乙です!
5名無しさん@ピンキー:2007/09/01(土) 19:22:21 ID:FueavE6f
乙。続きwktk
6名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 19:15:26 ID:OmIBszT0
乙。
空気も読まず短文投下。

カラテ彼女

「三谷…お前、反省とかしてる?」
「別に何も」
はあ……。
美樹がこうなってしまうと、溜め息をつくしかない。
溜め息つくと幸せが逃げるというが、今日だけで12回は幸せを逃していることになる。
全ては目の前に座っているこの女、三谷美樹のせい……だと思う。
「お前さ、生徒指導室貸し切り状態じゃん。もう放課後じゃん。また俺残業じゃん」
「別に俺には関係無いし」
実に女らしくない…性格や言動が。
しかし男みたいなこの性格が周りから頼られるため、下手な男より女にモテているらしい。
彼女の部活の後輩が目を輝かせながら喋っていたので、ごく一部の話かも知れないが。
性格は完全に男なだけに、その完璧な体がもったいなくてしょうがない。
鍛えられた筋肉、無駄の無い立ち振る舞い……凛とした雰囲気は相手を圧倒する。
「何故俺が殴られなければいけないんだ……」
「先生が勝手に間に割って入ったんでしょう」
「勝手って…止めようとしたのに…しかも暴力沙汰とかで教頭に呼び出されてネチネチネチネチ……ああ、また頭痛がっ」
「バファ●ンならある。優しさ半分厳しさ半分」
「お前の場合優しさなんか入ってないから!」
頭痛も最近酷くなってきた気がする。
「俺じゃなかったら、あっという間に出場停止だぞ?職員室では俺がマゾじゃないかという話もある」
「……後輩の子に、因縁つけてきた不良共だった。止めないと、いけなかったんだ」
「で、止めに入った俺に正拳突きなわけか。まあ殴られたのはいいんだ。しかし今は大会前だぞ?」
「しかし……」
「怪我されたら、顧問の俺も部員の皆も困るんだよ」
「……」
「それとも暴力事件でチャンスを潰したかったのか?」
「そんなわけあるか!俺はっ…勝たないと…いけないんだ…」
顧問をずっとやって来ただけに、そうではないことは伝わってくる。
何もかも、背負ってしまい事も。
三谷は話し終わると、何も言わずに出ていってしまった。
残されたのは、俺一人。
はあ。
本日通算13回目、幸せを逃がしてしまった。
7名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 19:17:36 ID:AgiBPcv9
大会当日。
顧問の俺は、引率という事で大会に着いていった。
まあ地区の高校で毎年やっている実力見せな大会なのだが。
選手の申請やら申し合わせやら色々細々した事をすませると、観客席の後ろで試合を見ていた美樹の所へ行く。
いつにも増して固い表情で会場を見回していた。
「おい三谷、そろそろ下行けよ。時間になるぞ」
「先生…優勝したら、後で少し時間いいですか?」
「お前は俺の時間をどれだけ喰うつもりなんだ……」
「お願いします」
必死な目で見上げられると、どうにも断れない。
俺も男ですから、上目遣いには弱いんですよ。
「はいはい。どうせ俺に自由はありませんよ……」
「ありがとうございます」
ぺこっと頭を下げ、美樹は試合場へと向かった。
思えば、美樹があんな表情をするのも、頭を下げるのも今まで無かった。
時間を欲しい、という願いも、何の為かはわからなかった。

試合は順調に進んでいた。美樹以外の選手は。
美樹は2年とはいえマークされている強豪の内の一人だった。
緒戦の相手は巨漢……一応女子だから語弊があるかも知れないが、大きな体躯の持ち主だ。
前に一度見たところ、実力としては美樹と同程度といった所。
美樹の長所が発揮されれば、勝てるだろうと思った。
だが、負けた。
注意不足だった、とか慢心していた、という言い訳は全く意味を成さない完全な敗北。
精神力で、負けていたのだ。
部員の皆が目を疑った。
あれほど鍛錬を積み重ね、稽古に打ち込んできた彼女に何があったのか。
余りにも呆気ない終わりと、俯いたままの彼女に、俺も皆も何も言えなかった。
俺の前で小声で呟いた後に走り出した彼女を追いかけたのも、俺だけだった。
8名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 19:18:04 ID:jlocVq4d
美樹は廊下の隅で壁に向かって震えていた。
俺は美樹の横の壁に、そっともたれかかった。
「三谷……いや美樹。言いたい事があったら、言ってみな」
「…ッ………」
「いつかこういう事になると思った。皆の期待を受け、頼られて。お前はいつも一人で。
 性格も段々男みたいになって。お前はいつも何かを守ろうとしてたな」
「……」
「俺がいるだろうが。たまには頼ってもいいんだぞ。こんなんでも一応教師だ。泣いてる女の子に胸くらい貸してやるよ」
数秒の間を開けて、軽い感触と共に柔らかい体がもたれかかってきた。
彼女が他人に甘える事は滅多に無いので、よしよし、と頭を撫でてやる。
泣いていた震えもしばらくすると止まり、美樹もようやく落ち着いたようだ。
「これからは俺にも頼ってくれよ。何でも聞いてやるからさ」
「ほんと…か…?」
「嘘は言わん。約束だ」
「じゃあ先生……俺の話聞いてくれる?」
美樹はキョロキョロと周りを確認した後、顔を更に近づけた。
「先生が好きなんだ」
「…………」
9名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 19:21:39 ID:jlocVq4d
何も言えない。
一般人から見れば、男女がくっついているこの状況。どう見ても恋人か何かです。
俺からすれば美樹は女ではなく生徒で……でも体は女……いやいやいやいや
体目的に見えてしまうではないか。
よく考えれば俺がいるとか俺を頼れとか……告白?
美樹を守ってやりたい…これは本心だし…あれ?
「先生はどうなの?やっぱりこんな女じゃ嫌なのかな」
ああ……そんな事言って堕ちない男がいるものですか。
守ってやりたいと思った時点で俺の負けだ。つまりは相当前から。
「お前が好きだよ、美樹。他人の評価なんて関係無い。傍にいれれば、いい」
言った途端、感極まったのか美樹は泣き出してしまった。
「よかった…よかったぁ…好きだよぉ…先生…」
「ほらほら、また服濡れるだろうが。泣かないの」
「…んん…離れたくない……」
ぐはっ。
ダメージがデカすぎる。普段が普段なだけに今の甘えた美樹は可愛すぎる。
これを破るにはより強いショックを…なんて考えていると、既に美樹の顎を上げさせ唇を奪っていた。
美樹の柔らかい唇に自分の唇を押し当て、それから数秒…いや数分?
腕の中の美樹は、完全に思考停止状態だった。
よく聞くと「キス……先生とキス……」とか呟いている。
どうしようか、と考えているうちに空手部の連中が俺達を探す声にハッとなった。
そういえば置き去りにしたままだった……!
俺は焦って固まっている美樹を引きずり、声の方へと無理矢理歩いていくのだった。
10名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 19:23:41 ID:jlocVq4d
このジャンルは難しい……
半年ROMに戻ります。では。
11名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 20:42:13 ID:GDJPteyG
王道GJ!

しかしちょっと王道すぎかも?
12名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 21:49:33 ID:CL4FzWuG
>>11
王道とは「王の道」と書く、つまり最強の道なんだぜ



つまりGJ!wwwwwww
13名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 21:57:41 ID:PoONVnPA
GJ!いいねぇ王道、最高だね!
14NGワード:なおみ:2007/09/02(日) 21:58:43 ID:bWMzCPXM
*姉->弟 虐待系

「なおみ〜、ごめんなさいは?」

姉貴はニヤニヤと笑いながら、捻り上げた俺の腕をギリギリと締め上げる。
この嬉しそうな表情、姉貴は間違いなくサドに違いない。
だが、俺はこんな理不尽な暴力には屈しない!
絶対に屈したりはしないんだっ!

「俺は、悪くない、悪いのは姉ちゃんだろ!?」

痛みを堪え、なんとか言い放つ。
はっきり言ってしまうと状況は最悪だ。
俺は膝立ちの状態で、両の膝裏に足を乗せられ動きを封じられている。

「はい、そんな悪いことを言うお口はどこのお口かな〜?」

一段と極められた腕に力が加わる。
折れるか折れないかの絶妙な力加減。
まだ折れたことはないので、どこで折れるかはわからないが、とにかく痛い。
女性を守るための護身術が、こんなことに使われるなんて!

「いててててっ、ごめんなさい、俺が悪かったです!」

肉体は精神力を凌駕する。
逆化もしれないがもはやどうでもいい。
俺の心はマッチ棒よりも容易く折れていた。
救いのない抵抗よりも、救いのある投降の方がまだマシというものだ。

「よろしい。」

姉貴は俺が屈服したことに満足したのか、手をパッと離した。
俺は床にばったりと倒れこんで、姉貴を睨みつけようと首をひねる。
そこに見えたものから思わず俺は目を逸らしてしまった。

「ね、姉ちゃん、見えてる。」

言ってしまってから、後悔した。
自分の馬鹿さ加減に正直呆れてしまう。
キジも鳴かずば撃たれまい。

「・・・はぁ!?」

一瞬、何を言っているのみたいな顔をした後、姉貴は自分の姿を見た。
キャミソールに短いデニムのスカート。
それ自体に問題はないが、問題は片膝を立てたその姿勢にあった。
健康的な太腿を辿れば、その奥に見える白い布の盛り上がり。
姉貴の顔が真っ赤に染まり身体がプルプルと震えた。

「〜〜〜っ!」

姉貴はすっくと立ちあがると、白のソックスに包まれた足で容赦なく俺をガスガスと踏みつけた。
ストンピングの嵐、不幸にも姉貴のパンツで勃ってしまった俺には地獄の苦しみ。
出る杭は打たれる、とはこのことだ。

「こんの、スケベっ!」

最後にドスっと強烈な一撃を背中に食らわせると、姉貴はノシノシと階段を登っていった。
・・・俺はいろいろな意味でしばらく動くことができなかった。
15名無しさん@ピンキー:2007/09/03(月) 01:37:26 ID:wzq+rISr
ボクっ娘!愛奴調教 再開よろしく〜
16名無しさん@ピンキー:2007/09/03(月) 15:00:11 ID:X1InuVZy
リカとセンセの続きマダ〜?
17名無しさん@ピンキー:2007/09/04(火) 12:48:19 ID:cHv6dnCf
カレーワッフル……
18名無しさん@ピンキー:2007/09/04(火) 19:46:43 ID:ojDPBW8J
もう売り切れですか?
19名無しさん@ピンキー:2007/09/05(水) 03:12:37 ID:fAYkHM+1
腐りました
20名無しさん@ピンキー:2007/09/05(水) 10:23:54 ID:lwB1z7i0
ツクバキター!
21NGワード:なおみ:2007/09/05(水) 18:31:52 ID:TnFoeXVQ
力を入れすぎないように、丁寧に揉みほぐす。
感覚が鋭いのか、過敏なのか、強めに触ると姉貴には痛いらしい。
いつもはうるさい姉貴も、この時ばかりは借りてきた猫のように大人しい。

俺の手に伝わるその感触は、女性らしさを十二分に秘めている。
つまり、白くて、張りがあって、柔らかい。
その肌がうっすらとかいた汗のせいか、かすかに湿り気を帯びていた。

「んっ・・・。」

姉貴は声が大きいので、クッションに顔を埋めている。
そのクッションから時折、くぐもった姉貴の声が洩れてくる。
俺の動きに反応するかのように、ぴくりと姉貴の身体が震えた。

「ここはどう・・・?」

つつっと手を肌を伝うように滑らせる。
指の先にわずかに硬くなった部分が感じられた。
俺はその場所を指先で軽く押さえつける。

「んんっ、そこっ・・・!」

妙に艶っぽい声で姉貴が喘ぐ。
俺はわずかに硬くなっている部分を、こりこりと刺激した。

「あっ、くぅ・・・!?」

びくりっ、と姉貴の身体が仰け反る。
これ以上ないというほどの反応だ。

「ちょっと、強くするよ。」

少し強い目に揉みながら、指を押しつける。
びくびくっと、姉貴の身体が震える。
座布団からは姉貴のくぐもった声が洩れてくる。

姉貴の呼吸は、すっかりと乱れ切っていた。
その額には、汗が滲み、乱れた髪がはりついて、怪し気な淫靡さを醸し出している。
これだけ念入りにやれば、当然といえば当然か。

「もう、いいかな・・・?」

俺はもう我慢できなくなって、姉貴に尋ねていた。
これ以上の奉仕には俺自身が耐えれそうにない。

「う、うん・・・。」

姉貴は少し名残惜しそうに、こくりと頷いた。
もっとして〜、とでも言いたげな表情だ。
俺は立ち上がると、手をぶらぶらさせつつ、首の骨をぽきぽきと鳴らせた。

「なおみ、マッサージだけは本当に上手だよねえ。」

「これからは頼まれても、マッサージしない。」

「あ、嘘、嘘・・・冗談です、なおみさま。」

まったく、こういう時だけ姉貴は調子がいい。
だけど、マッサージは嫌いじゃないし、頼まれればきっと断らないだろう。
そういう関係もまあ、悪くはないと俺は思う。
22名無しさん@ピンキー:2007/09/06(木) 20:38:13 ID:QbGyNi5Y
>>21 GJ!
ガイドラインに紹介してきたよ

---
716 名前:水先案名無い人[sage] 投稿日:2007/09/06(木) 16:37:15 ID:WlD0LbXG0
>>21
1行目の「揉みほぐす」の時点で、
単なるマッサージだと思ってしまった俺は枯れてるのだろうか。

717 名前:水先案名無い人[sage] 投稿日:2007/09/06(木) 16:40:14 ID:syvhBuEb0
ピュアなんだよ

718 名前:水先案名無い人[sage] 投稿日:2007/09/06(木) 18:36:21 ID:mAL9R4n80
なんだ、おれはピュアだったのか。
よかったよかった。

「オチでホモだと」を警戒して素直にコピペにドキドキできないのもピュアだからなんだよな。
高見盛を警戒してコピペの姉に萌えられないのもピュアだからなんだよな。

ありがとう、なんだか安心したよ。
23名無しさん@ピンキー:2007/09/07(金) 03:08:22 ID:EBd+cVDp
前スレあと1KBで落ちます
24名無しさん@ピンキー:2007/09/07(金) 08:06:44 ID:a4ZhUhQy
上位スレにツクバさん発見!
25名無しさん@ピンキー:2007/09/07(金) 11:56:59 ID:EBd+cVDp
前スレ>>889 (前スレ埋まった)
>埋め立てられて落ちちゃったらスレが読めないジャン。
俺が聞いた話だと、前スレを埋めないと板の他のスレが、週に500KB分ぐらい圧縮で消えてしまうらしい(2,3スレほど)
板全体の容量軽減の為に埋めるとの事
26名無しさん@ピンキー:2007/09/07(金) 15:36:54 ID:26Sw2dgZ
>>25
嘘に踊らされてテキトーなこと書いてると叱られるぞw

最近の圧縮頻度は一ヵ月半に一回くらい
で、圧縮が行われると最終書き込みの古いものから順に100スレがdat落ちする
27名無しさん@ピンキー:2007/09/07(金) 16:33:08 ID:a4ZhUhQy
板のスレ数が800を越えたら圧縮始まるんじゃなかったっけ? 
最近は変なシチュスレがよく建つせいで圧縮がよくある。
28名無しさん@ピンキー:2007/09/07(金) 19:14:45 ID:InXfF/ON
>>27
情報室見てみな。クソスレとか面白い新スレとかが結構ある。
29名無しさん@ピンキー:2007/09/08(土) 07:19:36 ID:o9ZlKoi7
保守
30名無しさん@ピンキー:2007/09/09(日) 03:44:00 ID:RsF0ZHjk
さちねえさんはあれでおわりなのかーーー!
31名無しさん@ピンキー:2007/09/12(水) 03:28:03 ID:yG/9Ds9M
そういえば、前スレ埋め立ての時にヤクザっ娘無かったな。
32名無しさん@ピンキー:2007/09/12(水) 09:07:02 ID:EsNnzrh4
AAコピペで埋められたからね
33名無しさん@ピンキー:2007/09/12(水) 18:48:48 ID:EsNnzrh4
作品が投下されなくなったな。職人さん忙しいのかな?
生存確認されてる職人さんって足軽さんとツクバさんだけかな?
34名無しさん@ピンキー:2007/09/13(木) 19:50:33 ID:V0rfIgRM
荒れたからだろ、、、
35なおみくんNG(1/1):2007/09/13(木) 22:55:25 ID:89wiORAa
「姉ちゃん、入るよ?」

ノックをして姉貴の返事を待つ。
姉貴ルールを守らないと俺は後で死ぬほどボコられてしまう。

「な、なおみ!? ちょ、ちょっと待って!」

なぜか、部屋の中でどたばたと姉貴の暴れる音が聞こえる。

「もう、いいよー。」

姉貴はベッドに身体を起こして座っていた。
その服は普段着だ。

「もしかして、今、着替えてた?」

「だって、恥ずかしいし。」

パジャマの何が恥ずかしいのか俺にはよくわからない。
乙女心というやつだろうか。
姉貴の顔は茹蛸の如く真っ赤になっている。

「おかゆ作ってきたんだけど、食べる?」

姉貴はうんうんと頷いていた。
俺は椅子を引っ張って、膝にお盆を乗せて姉貴の横に座る。
そのついでに、姉貴のおでこに手を当てた。
じゅっと音が出そうなぐらい熱い。

「ちょ、なおみっ!」

俺の突然の行動に姉貴はわたわたとしている。

「病人は大人しくしとけって。」

俺はおかゆを蓮華によそって姉貴の前に突き出す。
ぱくっと反射的に姉貴は蓮華を口に咥える。
姉貴は一瞬、罰の悪そうな顔を見せると、口から蓮華を引き抜いた。
俺から視線を逸らすようにして、口をむぐむぐと動かしている。

「どう?」

「おいしい。 けど、あとは自分で食べる。」

姉貴は俺から蓮華とお茶碗をひったくる。
その顔はなぜか、むすっと不機嫌そうな顔になっている。
俺には姉貴が不機嫌になる理由がわからない。

「じゃあ、食べ終わったら椅子に置いといて。」
「後で取りに来るから。」

俺は立ち上がって椅子をベッドに寄せると、そこにお盆を置いた。
それから、ベッドを離れ、ドアノブに手をかける。

「なおみ、ありがとね。」

俺が部屋を出ようとしたとき、姉貴は呟くように言った。
その顔を見て俺はようやく理解した。
姉貴は怒っていたわけじゃなく、照れていたんだと。
36名無しさん@ピンキー:2007/09/13(木) 22:57:20 ID:o4iKqLhB
荒れちゃったもんな。しばらくは来てくれないだろうな
37名無しさん@ピンキー:2007/09/13(木) 23:31:16 ID:/H5yJBAp
っていってるそばからキターーーーーーーーーーーww
38名無しさん@ピンキー:2007/09/14(金) 18:42:46 ID:OnhaZyTe
リカとセンセの続きはまだ〜?
39名無しさん@ピンキー:2007/09/15(土) 09:42:02 ID:dQdcu2HV
保守
40クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/09/16(日) 12:35:55 ID:K3jVPcPP
なんか思いついたんで投下します。
41クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/09/16(日) 12:37:08 ID:1f4Y3Duf
アパートのドアを叩く。
それが俺の仕事。
いくらノックしても返事が返ってこない。
相棒の中田の方を振り向いてみても、呆れた顔で首を振っている。
しょうがない。いつものようにやるしかないのか。
すぅ……と息を吸い込む。
「ゴラァアアアア!!!! 部屋いんのは判ってんだよ!!! 出てこいやあああああああ!!!!」
「姐さん……またですかい……」
「ああああああああ!!!! こちとらテメーの為にわざわざ出向いてんだろが!!! 茶あ出せや!!!!」
3週間分の恨みを晴らすが如く、ドアに渾身のコンボを決めつつ声を張り上げる。
それはもう、周囲の住人も震えあがるような声で何べんも。
中田が止めているのにも気付かずに、ドアを叩き続けた。
全く、最近の奴等は軟弱になりやがって。
金が返せないならマグロでも獲りに行って来い。
そもそも返すあてが無いなら借りないほうがいいのに……
……でもそれだとこっちが儲からなくなっちまうか。
考え事をしながらも手と足は勝手に前にある物を蹴りつける。
手に何かビチャっとしたものが当たって……
ビチャ?
右手の動きが止まる。もちろん後ろから中田に止められてだ。
なんだコイツ、俺を邪魔するってんなら容赦しないぞ。
「姐さん……それはドアじゃない。人です」
何を言ってるんだ。英語の教科書じゃないんだから、まともな日本語を……
ん?この男は人じゃないとかいったな。じゃあ何だって言うんだいボブ?
「あ……ああが……キュー」
(肉塊?フハハハ、コレはチキンだよジェニファー)
ちょっとマズい状態に、頭の中では完全に通販のノリで外人が会話している。
そして、機械音みたいのを立てて部屋の主・綾野充は倒れてしまった。
42クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/09/16(日) 12:37:40 ID:1f4Y3Duf
「うーん…黒い…悪魔が…あく…うう……」
「うなされてるみたいだな。恐ろしい夢でも見てるのか?」
「姐さん。それはあんたの事で…ふぶっ」
鳩尾には真(まこと)の拳がめり込んでいる。
真のポリシーその1、終わった事は気にしない。
中田の意識が薄れていくのにも関わらず、充の顔をまじまじと眺めていた。
包帯やら絆創膏やらを適当に貼っつけただけなのでかなりちぐはぐだが。
というより、ほとんどの部分が見えていないのだ。
(最近男も軟弱化してきたな……こんなんじゃ日本の将来が心配だよ)
本人には自覚が無いが、周りの男達は知っている。
檜山の名がつく者には近づくなと。特に悪意とか危害を加える気が無くてもだ。
黒いスーツに身を包み、同業者からも恐れられる悪魔。
社員は、少し前に中田を専属で付けたので一安心していた。
取り立てられる債権者と付き添いで居る中田、明らかに中田の方がボロボロだが。
その『悪魔』は、目の前で寝ている男の子を見ている。
「ふぅ……とりあえず暴力ってのはまずいし……」
(暴力はまずい……そんな認識があったのか!? ゲバブッ)
「起きて騒がれると困るし……とりあえず帰るか。……ああ、踏んでたんだった」
足をどかすとそこには背中を踏まれていた中田がノびていた。
未だにうなされている包帯男を見やると、真はため息をつき外に出た。
43クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/09/16(日) 12:38:09 ID:1f4Y3Duf
「真ぉ……お前仕事しろよ」
「うるさいなぁ……相手が包帯グルグルでうんうん唸ってるんだぞ?話も聞けねえ」
「中田もその綾野のガキも、お前にやられたらしいじゃねえか」
「オヤジ。終わった事は仕方がない。前を向いて歩けよ」
2人が視線を外さず睨む先、盤上では銀将が王を追い詰めていた。
そして、強烈な一手。
「はい、王手な」
「くそおっ、やられた!こんな屈辱は生まれて初め」
机に突っ伏して頭を抱える真に、コツンと軽い拳骨をかます。
「コレで153戦全勝。ちっとは強くなれよ、真」
「くううぅぅぅ……」
負けた悔しさで悶える女と、余裕で煙草をふかす中年ダンディ。
界隈で恐れられる悪魔が二匹……とは思えない光景だった。
ここは檜山金融の事務所で1人は社長、1人は取立て屋。ついでに言えば、親子。
檜山龍一は真を抑えられる数少ない人間だった。
「真、いい加減結婚してくれねーかな。周りのやつらが恐がっててたまらん」
「……男なんて、いらん」
「いつからこんな風に育っちまったんだ……小2の時勇太君に振られた時か?中学の先輩に……」
言った途端、真の口から飲みかけのお茶がまるで間欠泉の如く勢い良く噴射された。

「てめえええええ!!!なんで知ってんだ!!!!!」
眼鏡にかかったお茶を拭きながら、掴みかかってきた真に笑ってみせる。
「ふふふ……親をなめるなよ。お前の事なんざ筒抜けなんだからな」
「こっ…の……ちくしょ…」
「お前は美代にそっくりだな。怒ると真っ赤になるし」
「………」
「頑固なあたりとかそっくりじゃねえか。はあ。誰かコイツを貰ってくれないかな」
「はいはい。大体、お袋は何でこんなオヤジと……」
「それはもちろんテクニックの勝利だろ。俺のテクとバズーカが合わされば敵う奴なんか……」
「もう聞いた。そして娘の前で言うことじゃないだろうが」
こんなオヤジの血を引いているなんてのは信じられない、と常々真は思っていた。
人に言わせれば十中八九、十くらいは「ソックリデス」と答えるだろう。
2人ともタチが悪いのは誰の目から見ても明らかだったのだ。
その日は結局、龍一に押し付けられた雑務をこなした後に帰ることになった。
44クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/09/16(日) 12:38:44 ID:1f4Y3Duf
「はいはい、綾野さーん。毎度お馴染み檜山さんですよー」
ドアをおずおずと開けて出てきたのは先日散々殴りつけた充。包帯は取れている。
「なんだ。いるじゃねーか。ほれ、金返せ」
玄関先から容赦なく上がりこんでソファにどっかと座り込んだ。
「まあ怪我させておいて言う台詞じゃないんだがな」
「お金は無いです……」
「全く、何に使ったかは知らないけどよ。契約ってのは守らないといけないんだ。親に習わなかったか?」
「親……親はいません……」
なんだ。俯いた顔が結構可愛い。
男らしいのが好みだったが、意外に変化球を食らってしまったな。
誤魔化す為にいつの間にかテーブルに出されていたコーヒーカップを手にする。
コーヒーは熱くて苦かったが、充の顔を見ていたら気にせず飲み干してしまった。
「ま、まあ気にすんなよ。な? 親なんていたってしょうがねーんだから」
「檜山さんの親御さんってどんなひとなんですか?」
「よく聞いてくれた。それがもう酷いのでさー……」
龍一の蛮行を語って聞かせてやると、充は笑ったり驚いたりしていた。
まあ普通の人からすれば理解できなかったり、論理的に無理だったりするし。
喋るのはあまり好きじゃなかったが、愚痴を言うのは結構楽しいものだ。
散々話した後、充の事も色々聞かせてもらった。
どうも似た親みたいで、破天荒な話ばかりだった。
まさか我が親以外に酔っ払って東京タワーに登る奴がいるとは…。
「む、もう5時じゃん。そろそろ帰る。親父がうるさくてな……」
「ああ、真さんの話聞いてたらあっという間だったね」
「じゃあまた来るからな。金用意しとけよ」

45クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/09/16(日) 12:39:49 ID:1f4Y3Duf
「あ、真さん。また来てくれたんですか」
「お前が金返さないから来るハメになったんだぞ」
「いやぁ、そんなに上手くいかないですよ。あ、コーヒー飲みます?」
「いや、金を……まあいいか」
ニコニコと笑う充を見ていると本来の仕事なんて馬鹿らしくなってしまった。
笑顔って銃とか刀より強い武器だと感じた。
コーヒーを啜っていると、予想外に綺麗な室内の様子が目に入ってくる。
前に看病まがいの事をしていた時は頭が回らなかったが。
もう既に何回もここには来たが、入ったのは3度目だし。
というか、この部屋には物が無さ過ぎだ。
家電はほとんど無いし、冷蔵庫とかも……どうやって生活してるんだ。
「食料はカップ麺ばっかりですよ」
視線に気付いたのかキッチンの方を見やって充は言う。
「あるのはコンロとかだけだからレパートリーが無くて……」
「大変だねぇ。今度何かつくってやろうか?」
……? 俺は何を言ってるんだろ。
男の部屋に食事を作りに来る……だと?
確かに気の弱そうな感じで何だか守ってやりたい気がするが…
あれ?何でこんなにすらっと言葉が出たのか?
頭がぐるぐるとしていて良くわからない事になってる。
「え?いいんですか?有難うございます、真さん」
ああ、その笑顔には弱いんだよなぁ……。
頼むから無意識にやるのはやめてくれぇ……。

家に帰ってからも、俺の調子は何だか狂いっぱなしだった。
意味も無く台所をうろうろしてみたり。
何を作ってやろうかなんて事を小一時間考えてみたり。
飯はこぼすし風呂は長くてのぼせるし……
46クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/09/16(日) 12:40:51 ID:1f4Y3Duf
なんなんだこれ。おかしい。
何とか眠ろうとすると充の顔が浮かんでくるし。
なんか胸の辺りがキュンと締め付けられる気がする。
誰かの事をこんなに考える事なんて無かった。
ずっと味わった事の無いような痺れるような感覚。
あれ? ……昔はこんなのがあったような。
いつだっけ? 小学生ん時? 中学生ん時? わからない。
何もかも良くわからなくなってしまった。
畜生。全部充のせいだ。こんなになっちまったのは。
なんか胸が熱い。本当に何なんだ、これ。
胸に手を当てると、いつもより速い鼓動が伝わってくる。
ついでに熱をもった胸の温度も。
熱い。それも特に胸の先端の方に集中している。

ボーっとしてるのは熱のせいだ、なんて考えてると右手が先端に触れる。
「ひゃっ!」
なんだ…今の声…俺の声じゃないみたいな……。
「や…何なんだよぉ…んんっ…んあっ…」
胸を弄るたびにむにゅむにゅ形を変える双乳。
あまり気にしたことは無かったが、形はいい方、だと思う。
「んん…ああ……あんっ…」
熱に浮かされたように、揉む事が頭の中で絶対的な位置を占めていく。
ベッドに突っ伏しながら、声を抑えて。
「…んむ…あ…んあっ…ん……」
指を動かす度、頭に白い波が押し寄せてくる。
他の事が、どんどん頭から抜け落ちていく。
胸の先端から伝わる刺激が、どうしようもなく甘美に頭に響く。
いい。
まるで自分の身体じゃないみたいな感覚。
気付けば声を抑える事も忘れ、こね回すことに夢中になっていた。
「んっ…あ…あ――――!!!!」
そして、一際強い感覚を感じた後、視界が真っ暗になってしまった。
47クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/09/16(日) 12:41:24 ID:c5nPiFIf
そして今。俺は充の部屋の前にいる。
手に持った袋の中身は、散々悩んで選んだ食材の数々だ。
結局悩んだ末に質<数という極論に辿り着き、大量に買い込んでしまった。
あれから毎日夜に充を思い浮かべてしてしまうようになった。
それを思い起こすと恥ずかしくて、今もドアを叩くのをためらってしまう。
手の甲でドアを叩こうとして、やめて。叩こうとして……。
そんな事を30分もやっていただろうか。
ドアが唐突に開けられた。
出て来たのは充ではなく―――女。
全てがすり抜けて落ちていく。
「真、さん?」
奥から充が出てきても。
その笑顔がいつもどおりだったとしても。
その傍らに、女がいたとしても。
何も感じられない。
全て失った気がして、真の身体は勝手に走り出していた。

バカらしい。
一人だけ舞い上がって空回りしていた。
充に彼女がいることなんか気にもせず、俺の前の充だけを信じて。
本当にバカみたいだ。中学のときにもうしないって思ったのに。
またやってしまっていたんだ。
ああ、これであの殺風景な部屋とも、淹れてくれるコーヒーとも。
あの屈託の無い笑顔ともおさらばなんだな。
何回か会って話しただけの関係なのに、恋人まがいの事を再現しようとしていた。
相手にされなくて当然なんだろう。
そう、俺は只の借金取りに戻る。
あいつから金を回収する事だけを考える、悪魔に戻るんだ。
そう割り切ろうとすると、余計に涙が溢れた。
失ってしまったんじゃない。元から無かったんだ。俺の居場所なんて。
それがさらに惨めだった。
泣いていると、後ろに人が立つ気配がした。
48クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/09/16(日) 12:42:34 ID:c5nPiFIf
「真さん」
追ってくるなよ。惨めじゃねえか。
「何で走り出したかわかんないけど、僕が何かしたなら謝るよ」
違う。お前のせいじゃなくてだな……。
「お願い。顔見せて話してよ」
こんな泣き顔見せれる訳ねえだろ馬鹿。
「御飯作ってくれるんでしょ?飯食べずに待ってたのに」
「……飯なら、彼女に作ってもらえればいいだろ」
「? 僕は彼女いない暦更新中なんだけど……」
「はへ?」
変な声がでた。何だそれ? さっきの女はなんだ。
「さっきのは姉なんだけど……」

「上京するから荷物預かってくれって言ってさ」
??
「見つかるとうるさいから真さんが来る前に返そうかとしてたら、真さんが……」
49クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/09/16(日) 12:43:29 ID:K3jVPcPP
俺の勘違い?
しかもなんてベタな。引っかかってしまった自分が恥ずかしい。
何なんだよ畜生! 作者の罠だったのか。
アホなのか俺はああああああああああああ!!!
あーイライラしてきた。
そういや最近人殴ってないな……充を殴って以来?
「真さん? ヘビッ」
「うるさい!お前がまっ、紛らわしいことするから悪いんだ!」
ああ、また殴ってしまった。
充は現状の把握に苦労している。
「え? え?」
「充が女連れ込んだと思って、泣いちゃったじゃねーか!涙返せ!」
「??」
「大体好きな男のトコ行ったら部屋から女が出てくる!!さあ想像しろ!!」
「そりゃあ嫌な…気分に…」
こうなったらヤケだ。ストレス発散してやる。
「そうだろ? 落ち着いて罠だなんて考えられねーだろ!?」
「はぁ……あれ真さん?」
「畜生!! 涙返せえええええ!!! 作者ああああああ!!!!」
「あの……真さん。落ち着いて下さい」
「ああ?なんだこら。殺されたいのか?」
真の横入りに充の笑顔はなんだか引きつり気味だった。
「勘違いが済んだところで……真さんの事が好きですよ、僕」
50クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/09/16(日) 12:45:25 ID:1f4Y3Duf
「……は? え? それってその?」
今日は疑問符がよく出る日だ。
しかし、今の告白は唐突な事でまともに喋れない。
「言ってたじゃないですか、好きな男がどうたらって。両思いじゃないですか」
「え、あ、あれはその……言葉の綾? というかその」
「じゃあ僕の勘違いって事ですか」
「いや違くてその、あの……」
真の顔は真っ赤になってしまう。
「す、すす好きに決まってるだろ」
「本当ですか?」
「ににに二度は言わない、からな」
「大丈夫ですよ。しっかり聞きましたから」
笑顔はいつもと同じ、無邪気な少年のそれだ。
「馬鹿。早く帰るぞ」
「え? もう帰っちゃうんですか? せっかく」
「だから馬鹿。その、料理作ってやるから」
「やった!」
付いて来る彼に何を作ってあげようか。
飯食べて、いつものコーヒーを飲んで。その後……
その後を考えて、思わず赤面してしまう真。
そんな真を笑顔で見つめながら、二人は並んで歩き始めた。
51クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/09/16(日) 12:47:04 ID:c5nPiFIf
取立てとか、遭ったことないんで正直わかんないんです ><
ごめんなさい。
52名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 14:04:54 ID:DYi2nRyq
ある人のほうが少ないと思います><
GJです><
53名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 14:08:03 ID:DYi2nRyq
ある人のほうが少ないと思います><
GJです><
54名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 15:16:39 ID:XZ8pWdR5
自分もないです><
GJです><
55名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 16:46:38 ID:rfRJovKM
自分ちの隣に押しかけて来やがったのなら見た事有ります><
GJです><
56名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 16:54:01 ID:S8MPPlhi
自分ちに来そうになった事ならあります><
GJです><
57名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 17:00:45 ID:409lvIFi
違法なくせに法的手続きをとるとか頭悪いメールを30分毎に送ってくる詐欺業者位しか知りません><
GJです><
58名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 17:14:25 ID:Hz/cyBe6
「その後」の部分は省略ですか?><
GJです><


…こういう流れでOK?w
59名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 17:47:05 ID:ehrXF+4K
いつかカレーワッフルが流れを止めに来るのでOKです><
GJです><
60名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 18:13:36 ID:0PDhRrv5
>>51
読んでてこっ恥ずかしくなるくらいGJです><
61名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 23:54:03 ID:N+9idZea
法的手段に訴えれば逆に勝てる場合が多かったりします
GJです><
62名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 03:22:27 ID:7QZUWoS7
こっちが反撃するだけの知性があると判った途端に逃げ出すから無理です><
GJです><
63名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 03:31:33 ID:GFlemuas
おいしかったですごちそうさま
64名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 23:14:23 ID:G3SJeTyz
>>63
殺してでも奪うです><
65名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 23:27:57 ID:VjbZcZR9
朝○新聞とかN○Kとかの勧誘なら毎月来ます><
GJです><
66名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 04:23:23 ID:GTVp5bPj
今エウレカ見てて思ったんだが、ラストのアネモネっていい感じじゃね?
67名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 13:45:02 ID:iJ/A3/ZU
ドミニクのことかー!
68名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 13:55:04 ID:4EWOl1r+
なんつーか、素敵だよな。
マンガだと、ドミニク(20)死んじゃうんだよ・・・
69名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 17:46:54 ID:2msGRWuT
ACE3でなら知ってる
70名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 17:56:33 ID:YoEswN4K
>>68
え?まじで?ちょっと漫画版買ってくる
71名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 18:08:23 ID:A8/rkyna
>>51
真さんをらきすたに出てきたゴットゥーザ様に置き換えて読んでました><
GJです><
72名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 19:10:26 ID:fuXJ2uIK
エウレカはアニメ版、ノベル版、漫画版と後に行くにつれて主人公ペアとかが・・・
73名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 22:08:44 ID:+nMYdbGG
ドミニクはたちかよ!
74名無しさん@ピンキー:2007/09/19(水) 08:25:29 ID:uRvhXx4K
牡牛座のアルデバランと同じ年齢か・・・
75なおみくんNG(1/1):2007/09/19(水) 19:09:22 ID:QpCTK3Sk
「なっおっみー、起きてる〜?」

コンコンと姉貴が俺の部屋のドアをノックする。

ガチャっとドアを開けて姉貴が入ってくる。
その手に持っているのは間違いなくお盆だった。

「それ、姉ちゃんが・・・?」

姉貴の料理を見たのは久しぶりだ。
結構前に姉貴の料理をまずいって言って以来な気がする。

「紛うことなく、お姉ちゃんの手作りだよ〜ん。」

そう言って見せた、姉貴のお盆に乗っていたのは、おかゆだった。
まあ、普通の料理を作られても今の俺には食える気がしない。
風邪を引いているからだ。
俺の風邪は症状からして、間違いなく姉貴から移ったものだ。
姉貴は一日で全快したというのに、俺は未だに、この風邪から立ち直れないでいる。

俺は姉貴のおかゆを一口食べた。

「おいしい?」

「う、うん。」

とてもお世辞にもおいしいと言える出来ではない。
水っぽいし、塩気も足りてない。
だけど、姉貴の期待に満ちた眼差しを見ると、正直には答えられなかった。

「お姉ちゃんにも一口頂戴。」

姉貴は俺の手から蓮華をひったくると、おかゆもどきを一口食べた。
かちゃんと、力なく滑り落ちた蓮華がお茶碗の中で音を立てた。

「ごめん! ほんっとうにごめんね。」

たしかに、謝らなきゃすまないレベルの料理ではある。
だけど、姉貴にそこまで謝られるのは心苦しい気がした。

「いいよ、食べれないことはないし。」

まずいけれど、食べれないことはない。
それに、一応は、おかゆなんだから栄養的には問題ないだろう。

「ごちそうさまでした。」

おかゆもどきをなんとか食べ終えた俺は、姉貴に手を合わせてそう言った。
俺のために料理を作ってくれた姉貴に感謝を込めて。

「ごめんね、なおみ。 お姉ちゃんもっと料理うまくなるから。」
「明日は、もっとおいしいおかゆを作るからっ。」

姉貴はぽろぽろと涙をこぼしながら言った。
できたら、作らないでほしいとか、俺には言えなかった。

こうなると、天に祈るほかない。
明日までに風邪が治りますように。
それが駄目なら、姉ちゃんの料理が今日よりはましでありますように、と。
76名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 21:01:26 ID:bgMiVG6Y
ほしゅ
77名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 21:33:31 ID:F5wbSJ+w
結構間が空いてしまったのですが、前スレ>>758-760>>806-810を覚えていてくれた方がいらっしゃられたら幸いです。
相も変わらずエロも恋愛もないですが。
78オレンジジュースの憧憬:2007/09/22(土) 21:34:47 ID:F5wbSJ+w
ざわめく教室。
電子音のチャイム。
赤みがかってきた空。
――――その全てが、もうあたしには縁遠くなることだ、なーんて感慨に浸るのはキャラに合わないかな。
……でも、そのキャラに合わない事をしたくなってしまうわけで。

頬杖をついて仰ぎ見る。
…………別に、何をってわけじゃないけど。
ただ、ここで過ごした年月の間に育んだ、幾つかのものとの名残を惜しんだのかもしれないなあ。
……卒業の打ち上げに行かなくちゃならないのは分かってるけど、少しくらいは遅れても大丈夫なはず。
あたしはいてもいなくても特に誰にも惜しまれない。そうなるように暮らしてきたんだから。
教室に残っているのはもうほんの少しだけ。
……この連中とも、もう会うことはないかもしれない。
人間なんて簡単に死ぬ。よく銃弾一発で〜なんて言うけれど、そんなもの持ち出すまでもない。
更に言うなら、交通事故とか不治の病とか、そんなドラマチックなシチュエーションでなくとも死は身近にある。

あたしが望んで、でも、結局手に入れようとすらしなかったもの。
持っていないからこそ、大事にすべき関係。
そんな大切な相手だって結局は同じだ。
もう会えないなんてのは、良くあること。

だから、あたしは納得したい。今の間柄に。
自分が納得して得た結末なら、たとえ第一希望でなくても安心は出来る。
話そう。とにかく話そう。
――――あたしがこいつにコクりさえせずに見送ったという事実を、受け入れる為に。

「や、景気はどうよお二人とも。あんた達は壮行会来ないんでしょ?」
後腐れない気楽な笑いで呼びかける。
目の前の二人の内、一人はあたしの友人だ。
もう一人はそいつの相方。一生涯の、という修飾がつく関係の。
……あたしが、挑戦することさえなく諦めた立場。
友人は相も変わらず不景気そうな顔つきでこっちを向く。

「……ん、ああ……、なんとかやってるな。どうにかこうにかアパートも見つかったし、な」
「……え、えっと…………、こんにちわ……」
友人っていうには付き合いの浅いこの子は、小動物みたいに目の前の友人の後ろに隠れてしまう。
……うん。頼りにされてるみたいでなにより、かな。
積極性に乏しいこいつの事だから、守る対象がそばに居るっていうのはそれだけでいいことだと思う。
こいつにそんな事を思わせられるってだけで、あたしはこの子を認めるにやぶさかじゃない。
あたしには、とてもできないことだから。

そんな思考を顔を出さないようにしながら快活な態度を維持してみれば、
「それよりお前、何でここにいるんだ? 打ち上げに行かないとまずいだろう」
なーんて、面白みも何もないことを言われた。
無愛想。その言葉がこいつに一番合うだろうけど、実の所それだけじゃない。
いや、それくらいしか当てはまらないからこそ、際立つものが一つある。
だから、あたしはこいつのことを気に入ったんだと、そう思う。

「それとも、俺と別れるのが寂しいとかか?」
にやりとした笑い。
…………変わったわね。
こんな冗談言う人間じゃなかったんだけどな。
それだけ余裕が出来たのも、この子のおかげかしらね。
……だったら。
……そんな大切な人にこんな扱いはないでしょうが、全く。

79オレンジジュースの憧憬:2007/09/22(土) 21:38:52 ID:F5wbSJ+w
はあ、と思いっきり溜息を見せ付けて口を開く。
「あーのーねー! そういう冗談はやめときなさいって! もっとその子の事思いやってあげなさいよ、不安にさせてどーすんの!」
腰に手を当てて睨んでやると、バカはそっぽを向いている。……あのさー、ほっぺを掻いたくらいで誤魔化せると思ってんの?
こんな調子じゃこの子に迷惑かけっぱなしになるんじゃないかって心配になるわよ、ったく……。
そんな気遣いをしながらその子の方を見てみれば、
「あの、えっと、わ、私はそんな事ないって信じてるから、大丈夫だから……」
なーんて苦笑いをしてる。
……うん、いい奥さん貰ったわ、あんたも。

それはそうと、とりのあえずは。
「……ま、べっつにちょっとくらい遅れても何とかなるでしょ。あたしがリーダーって訳じゃないしね。そもそもあたしにゃ友達あんまり居ないし」
なにはともあれ軌道修正を。思うままに答えとけばいい。
さて、ここからどんな話をしようかね。もちっと考えてくれば良かったかな。
そんな風な事を考えてたけど、あちらさんは妙な顔でこっちを見てる。
「……お前のどこが友達が少ないって言うんだ。お前ほど誰からも悪感情持たれていない人間なんてそうはいないぞ。
正直、友人として非常に高評価を与えても構わないんだが」

……くっくっく、全く、だーからこいつは……。よくまあ、歯の浮きそうな事を平気で言えるもんだわ。
ま、あたしへの評価はともかく、他はあながち間違ってないかもね。そうなるように頑張ったんだから。
でも、結局それは、
「……顔が広い=友達が多いって訳じゃないわよ。
テキトーに、どうでもいい事でくっちゃべって。別に敵意を持たれない……、そんなだけの関係って、本当に友達って言えるのかって思うんだけどね」

……あー、嫌な人間だなあ、あたし。友達と思ってくれてる人間を、あたしは友達と見なしてもいないって事と同じじゃない。
……みんなの輪の中心にいるって事は、輪にいる誰とも手を繋いでいないって事。
そんな、手と手を取り合えるような関係をあたしは欲しがらなかった。……それだけの話。
でも、目の前のこいつもみんなの輪から外れたところを選んだ人間な訳で。

「……その基準で言うなら、この世の大部分の人間は友人が居ないってことになるんじゃないか?」
「…………。確かに、そうかもね」
少し笑えてくる。ある意味あたしはとても傲慢だから。だけど、それでも。
「でも……」
あたしは幸福だ。だって、
「少なくとも、こんな暴論言えるあんたを、あたしは友達だと思ってるわよ」
……そう、こいつは、誰に対しても不器用だけど、その分自分のスタンスを確立できている人間だ。
誰からも1歩離れた人間だからこそ、本音をこうやって話しても揺らがない。
どちらも人と深い付き合いのない人間ゆえに。逆説的だけど、地に足のついたしっかりとした信頼関係を築けてた。
…………そんな、適度な距離感が心地よくて、結局あたしは踏み込まなかった。

「……光栄な話だな」
そして彼は軽く笑って、とても嬉しい一言を言ってくれる。
「まあ、俺もお前が友人っていうのは悪くないかな」
……うん。あたしにはそれで十分。
これで全部けじめはついた。あとは楽しい話をして、これで終わりにしよう。こいつに、あたし自身に、いい友達だったって言う素敵な関係を残す為に。

「ん……、そりゃあたしもありがたいわね。先輩とかあのシスコンとかも友達だと思ってるけど、やっぱりあんたが一番気楽に話せるわ」
すう、と息を少しだけ強めに吸って、静かに吐き出す。
「……ま、次にいつ会えるか分かんないけどさ」
しっかりと目と目を合わせて、
「一緒にお酒でも飲めるような間柄をさ、ずっと続けられたらいいなって思うわよ」
親指を立ててウィンク。
――――最高の友人に、最大の親愛を。

「………そうだな。また、いつか会いたいな」
目の前のこいつは、そう言って。
「東京に行っても、多分お前は忘れられんだろうしな」
くっくと、何となく皮肉っぽい笑いで別れをした。

……こんな事のできる関係は、やっぱりいいものだなあ。
心の底から、……そう、信じたい。
80オレンジジュースの憧憬:2007/09/22(土) 21:39:38 ID:F5wbSJ+w



そうして、教室を出てさよなら。
次この人たちと会うときは全てが思い出になった後。
……そう思ったんだけど。
――――世の中は、あんまり思う通りには動いてくれないわけで。


校門を出る前に、学校を一周。
そんな事を思い立ったあたしは、躊躇いもなく実行に移す。
……その途中。
誰一人いない裏庭で、後ろから足音がする。
――――あたしの他にも、感傷的な人間がいるのかな。
そんな事を思ったけど、別段気に留めることなくぼうっとしていた。
そうし続けるつもりだったのに、できなかった。

「あ……あの……!」
呼びかける、呼び止める声。聞き覚えのある高めの声は、あたしの苗字を呼んでいた。
……なんでだろう。
疑問は止まらないけれど、自問で世の中が回る試しはない。
何も言えないまま、そのまま後ろを振り向いた先。
そこには、あいつの隣にいるはずのあの子がいた。


はあ、はあ、と、走ってきたのか息を切らせている彼女。
彼は側にいない。ここの所、ずっと一緒にいたはずなのに。
……心配すべき人間が、ここにはいない。
ちょっと心配になったので、近寄って軽く背中をさすってあげる事にした。

「ほらほらちょっと、どーしたのよ一人で。はい、ゆっくり息吸ってー、吐いてー……」
「す、すみませ……、は……は……」
十秒、二十秒、三十秒を数えた辺りで呼吸が落ち着いてきたので、顔を覗き込む。
その瞬間、
「あ……」
びくり、と体を震わせて、彼女は身を引いてしまう。
……ま、しょうがないか。
引っ込み思案な子なのはそんなに接した事のないあたしでも分かる。
無理させたら可哀相だしね。
そんな事を思った瞬間、

「す、すみません! あの、えっと……その……」
ぎゅっと唇を締め、手を握り締めて、あたしの目の前に一歩、踏み出す。
……芯の強い子だな、そう感じた。
この子は、一人でも動ける子なんだ。ただ守られるだけじゃない。
……あたしの目は、結局節穴でしかないって、そう思い知らされた。
自分のことをしっかりこなした上で、相手に尽くしあえる関係。
――――羨ましいなあ、と感じる。

いずれにせよ、追いかけてきたって事はその理由があるはず。
……あたしに、何の用だろう。
…………聞いてみるしかないよね。
そう思って尋ねようと、
「ねえ……、」
話しかけた時。

「あの! ……あなたは、あの人の事が好きなんですか!?」
81オレンジジュースの憧憬:2007/09/22(土) 21:40:17 ID:F5wbSJ+w

――――時間が、止まった気がした。
動けなかったのは何秒だろう。
……多分、実際はコンマ秒単位。
あたしはもう、覚悟をしてた。この想いを隠し通す事への。
長い長い時間に感じられたけど、それでも即座にこう誤魔化すのは凄い楽に出来た。

「あらら、そう見える? いやまあ、確かに友達としては凄い気にってるけどね〜」
口元だけで笑ってみせる。
……うん、いつもの調子だ。軽口レベル。
本気と思われなければそれでいい。あいつの幸せをぶち壊したくなんてない。
ねえ、これで、この答えでいいでしょ? 自分からその幸せを壊しに来てどうすんの。
納得して自分の道を歩いていって、ね?
「変な誤解させちゃったら謝るわよ、ごめんね。
……でも、そんな風に見えた? あたしとあいつの関係」

……そういうそぶりは見せないように努力してきたはずなんだけどな。
鈍感じゃないあいつだって、気づいているかいないか微妙な所のはず。
ほぼ初対面のこの子に分かるとは思えないんだけど。

ふるふる。
やっぱりね。
目の前のこの子は、首の動きだけでそう見えなかったと告げている。
……でも、しっかりと。
口に出して、こう言った。

「……そう見えないから。そんなそぶりがなさすぎるから、おかしいの……!
あんなに仲がいいのに、男の子と女の子でそれだけ仲がいいのに、そういう気持ちが感じられなかったから……」

――――何も言えなかった。
何も言わなかった。
向かい合ってどれだけ経っただろう。
……多分、10分はそのままだった。
事実を否定するなんて、あたしには出来なかったから。

それだけの時間を沈黙でやり過ごし、……どうにかあたしはこれだけを言えた。
「……そんな事を聞いて、どうするの?」
……自分で分かる。涙声だ。
…………みっともないなあ。最後まで、抱えていくつもりだったのに。
やっぱりあたしは弱い。臆病だ。
だからこそ重荷になりたくなくて、それ以上にあいつのそばにいる自信がなくて、こうなる事を選んだのに。
……これじゃあ、あんまりに役立たずじゃない。この子にそんな自分の弱い所を背負わせてどうするのよ。
何の気負いもなく、幸せになってもらいたかったのに。
――――どうして、こんな事を言わないでいることすら出来ないのよ……!
82オレンジジュースの憧憬:2007/09/22(土) 21:40:51 ID:F5wbSJ+w

「……だって、誰かが幸せになれないなんて、悲しいから……!
私は、……そう思うの。
だって、もしあなたがあの人を好きなら、あの人、私じゃなくてあなたを選ぶかもしれないよ?
それだけ仲がいいもん。私には、あんな風に気軽に話なんて出来ないし……。
そうやってあの人が一番幸せになれる道を選んだなら、私はそれでも納得できるの。
……私、あの人の事が好きだから。好きな人が幸せになれるなら、どんな形でも協力したいから。
……あなたが、辛い思いをする必要も無くなるから……」



――――ああ、なんだ。
……よかった。この子になら、あいつを任せられる。
……安心できたなあ。うん、きっと、あたしの想いを託しても大丈夫。
もう泣く必要なんてない。
笑おう。笑って見送ろう。
見ているだけだった未来に、この子なら、この子とあいつなら、きっと辿り着いてくれるから。


「……ねえ、一つ、いいかな」
「……え?」

声色も落ち着いてる。……これなら大丈夫。
目に涙もない。OK、100点の笑みが出来てる。
よし、あたしは最高に幸せだ! 
……だって、

「……返事は次、会ったときでいいからさ。……友達になれないかな、あなたとあたし。
多分だけどさ、きっと仲良くなれるから」
「あ…………、」

――――自分の夢を託せる友達を、二人も持つ事ができたんだから――――


「……はい…………!」



83名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 21:41:51 ID:F5wbSJ+w
というわけで、過去のお話でした。
……なんというか、回りくどすぎて受け付けない人も多いとは思いますが。楽しんでいただけたらこれ幸い。
84名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 00:35:52 ID:VnH2ZsFA
これだけでもとてもいい話
もしかして過去の何かの作品と関連があるんでしょうか?
85名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 01:42:09 ID:nhYCWu4T
>>84
--
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第7章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173661311/758-760,806-810
--

>>83
GJ!
もっとこの人達のお話を読みたくなってきますよ。
二人の今後もだし、今回よりもう少し前の話も。
86名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 01:47:45 ID:eumIkMoc
>>84
>>77にも書いてあるけど、前スレの↓この2作の外伝みたいな感じ。
「ラスティ・ネイルを2杯目に」
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173661311/758-760
「ビールで日常に乾杯を」
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173661311/806-810

>>83
待ってましたー
「ラスティ〜」「ビール〜」の二人が学生だった頃、亡くなった「あいつ」が存命だった頃ですよね。
こういう話があるとメインのお話にも厚みがでるんだよなー
そしてイイハナシだ… GJ!でした。

メインの方の続き、あるんですよね?w
87名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 01:48:38 ID:eumIkMoc
かぶった… リロード… すまんです。
88名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 07:47:37 ID:dbm6zqBe
保守
89名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 11:39:27 ID:gAfQ5yir
ついに桐野と喜多さんを夢にまで見るようになったよ。
結婚後なのか、自宅で家庭菜園を営んでいた。
90名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 12:23:29 ID:GkGCSLFh
ツクバさん、更新されました
91名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 13:32:22 ID:Z1Izrbh9
>90

ありがとう、愛してる
92ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2007/09/24(月) 21:47:35 ID:urD+oL4g
>>83氏、いいですねぇ、自分の気持ちを抑えて笑顔を見せれる、こういう大人な女性、大好きですよ。
是非幸せにしてあげてください!自分もいつかは落ち着いた女性を書いてみたいものです。


自分も1本書けましたので投下したいと思います。
93甘えんぼな彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2007/09/24(月) 21:49:03 ID:urD+oL4g
 フンフフ〜ン、今日は楽しいで・ぇ・と!むっふふふ……朝まで寝させないわ。
今日こそはたっぷりと子宮に出してもらって、既成事実を作るのよ!
二人の愛の結晶を作り……学生結婚よ!今日こそ子宮を俊の愛で満たすのよ!
むふぅ〜!むふぅ〜!失敗は許されないわ!出来る!アナタなら出来るわ!
ラインフォード家の名に賭けて、必ずやるのよ、シーリス!

 服装をチェックするために鏡を見て気合いを入れ、決意を新たに部屋を出る。
今日こそは……この351回目のデートで決めてやるわ!中出し、そして妊娠よ!
決意を新たに部屋を出た午前10時。今日こそはやり遂げてみせるわ!
……午前10時?やばっ!待ち合わせが10時だったわ!急がなきゃ〜!


 アタシ、シーリス・A・ラインフォードと愛しの彼、山薙俊との運命の出会いは、アタシ達がまだ六歳の頃だったわ。
パパの実家に遊びに来ていたアタシは、退屈な大人たちの会話から抜け出して、公園に遊びに行ったの。
アタシの国には日本みたいな公園がないから、すっごく楽しかったわ。
けど楽しかったのは最初だけ。アタシを見た悪ガキどもが言い掛かりをつけつきたの。

「うわっ!へんな色の髪をしたヤツがいるぞ!きっと悪の手下だ!」っていじめてきたの。

 アタシはなぜいじめられるのか理由も分からず、泣くことしか出来なかったわ。

「なんでイジワルするの?アタシ、なにかわるいことしたの?」ってね。

 けどね、そこに現われたの!アタシを助けてくれた正義のナイト様が!
アタシの髪を引っ張ったりしていた悪ガキを蹴散らし、アタシを助けてくれたの!
はぁぁ〜……あの時の俊、すっごくカッコよかったぁ〜。
悪ガキを蹴散らした俊は、泣きじゃくってるアタシの髪を撫でてくれてこう言ったの。

「ぼく、きれいな髪だいすきだよ!すっごくきれいな色してるよ!」ってね。

 知らない男の子に髪を撫でられドキドキが止まらなくなったの。
アタシは訳が分からなくなり走って逃げたしたわ。けどずっとドキドキは納まらなかったの。
納まらないどころか助けてくれた男の子の顔を思い浮べるだけでさらに激しくドキドキしだしたの。
もしかしてヘンな病気になっちゃったんじゃないの?そう思いママに相談したわ。

「アンタ、大変な病気にかかっちゃったわね。その病気は医者じゃ治せないわよ?
明日、その男の子に会いに行きなさい」

 こう言われたの。アタシは訳も分からずママの言うとおりに、公園へ男の子に会いに行ったわ。
あの子に会えると考えただけで、ますますドキドキしだしたの。けど公園にあの子はいなかったわ。
アタシはそんなに広くない公園の中を必死に探したわ。けどいなかったの。
まだ来てないんだ、そう思って待ったわ。何時間も待ったわ。でも夕方になってもあの子は来なかった。
もう会えないんだ……そう考えただけでアタシはわんわん泣いてしまったの。
そんな時、ついにあの男の子が現われたの!

「どうしたの?またイジワルされたの?ぼく、きれいな髪だいすきだよ!」ってね。

 ウフフ……嬉しかったなぁ。「なんで公園にいないのよ!」って泣きながら抱きついちゃったしね。
彼はそんなアタシを励ますために、髪を撫でながら何度も「すっごくきれいだね!」って言ってくれたの。
それから夕日が沈むまでの短い間、アタシたちは公園で遊んだわ。
短い時間だったけど、すっごく楽しかったぁ。けどママが迎えに来ちゃったの。
迎えに来たママが「昨日のお礼はしたの?」って聞いてきたわ。
「まだしてない」って言ったら「じゃあお礼のキスしてあげなさい」って言ってきたの。
アタシは『この子にキスするの?』と考えただけで顔が熱くなり、胸がドキドキでノドがカラカラになったわ。
でも俊が言った言葉で泣きじゃくってしまったのよね。
94甘えんぼな彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2007/09/24(月) 21:50:08 ID:urD+oL4g
「きすってけっこんする人たちがすることだよね?ぼく、けっこんしないからできないよ」ってね。

 俊ったら、あの頃からすっごく真面目だったんだから……真面目な俊、ダイスキよ!
俊に拒否されすっごく悲しくなって、アタシはわんわんと泣いたわ。
泣きじゃくってるアタシを見ておろおろする俊に、ママがこう言ったの。

「これはキスしてあげなきゃ泣き止まないわね。アンタのせいよ?
男の子なんだからキスして責任取りなさい!」

 ……さすがはママね、6歳児を追い込む台詞を言うなんて。
ママに追い込まれた俊は、慌ててアタシの頬にチュッてしてくれたの。
さすがに唇にはしてくれなかったけど、アタシは大満足で泣き止んだわ。そしてこう言ってやったわ。

「アタシにキスしたんだから、せきにんとりなさいよ!」ってね。

 実はママが言ったことを意味も分からずに言っただけなんだけどね。俊も意味も分からずに頷いたわ。
それからはアタシが国に帰るまで毎日遊んで、毎日頬にキスしたわ。
ホントは唇にしてほしかったんだけど『それはけっこんしてからだよ』って俊が言うのよ。
アタシはそんな真面目で素敵な俊に言ってやったわ。

「じゃあ今すぐけっこんするわよ!それでもんくないでしょ?」
「けっこんはおとながすることだよ。ぼくたちはまだ早いよ」
「むぅぅ〜、じゃあおとなになったらアタシとけっこんしなさいよね!」
「うん!ぼく、しーりすちゃんが大好きだからうれしいよ!」

 不覚にもアタシは俊にダイスキと言われて初めて気が付いたのよね。
アタシは俊のことがスキなんだってね。
けどアタシは日本に遊びに来ていただけで、すぐに国に帰らなきゃいけない。でも俊とは離れたくない!
アタシはどうすればいいか分からずに、泣きながらママに相談したの。

「お家に帰りたくない!俊と離れたくないよぉ〜!」ってね。

 そんなアタシにママは冷たく言い放ったわ。

「俊くんと離れるのが辛いでしょ?それが恋の病よ。ママもパパが日本に帰る時すっごく辛かったから分かるわ。
でもね、アンタはまだ子供よ、屋敷に帰らなきゃいけないわ」

 ママの冷たい言葉にアタシはわんわん泣きじゃくったわ。
でもね、さすがはママね。アタシにこう言ってくれたの。

「ママがパパを物にしたのが13歳の時よ。だからアンタも13歳になるまで待ちなさい。
13歳になったら屋敷を出てもいいわ。日本に住むなり好きにしなさい。
ま、その時までアンタが俊くんを好きかどうか分かんないけどね」

 ママの言葉にアタシは飛び上がって喜んだわ。
13歳まで我慢すれば俊と一緒にいられる!ずっと一緒なんだ!ってね。
けど現実は上手くいかないものなのよね。
13歳になり日本に引っ越してきて、俊と同じ学校に転向してきたんだけど、俊はアタシのことを忘れていたの。
……逆に燃えたわ。このアタシを忘れるなんて、いい度胸してるじゃないの!
さすがはアタシの俊ね!絶対に物にしてみせるわ!ってね。
俊と同じ学校に転向してきた日、クラス中に『俊はアタシの物よ!』って宣戦布告したの。
……まさかあんな強烈なライバルがいるなんて、思いもしなかったわ。
それに同じクラスに恐怖の説教鬼がいるなんて……思い出しただけで吐き気がするわ。
でも今では二人ともアタシの大事な親友。ウフフフ、ホントに日本に来てよかったわ!
俊だけじゃなく、親友が二人も出来たんだからね!

 俊との待ち合わせ場所に向かいながら昔を懐かしむ。って懐かしんでる場合じゃないわ、急がなきゃ!
95甘えんぼな彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2007/09/24(月) 21:51:03 ID:urD+oL4g
「ねぇ外人さん、ニコニコしてご機嫌だね?オレたちとどっか遊び行かない?」
「君ってすっげぇ美人だね。もしかしてモデル?綺麗な金髪だね」

 先を急ぐアタシに2匹のバカが声をかけてきたわ。残念ながらバカの相手をしてる暇はないのよ!

「なんで無視すんだよ!ちょっとくらい遊ぼうぜ」
「そうそう、オレらと遊んで気持ちいいことしない?オレら、意外といいもん持ってるぜ?
アンタみたいな金髪ちゃんも大満足出来るって!」

 下品な下ネタを言って、あひゃひゃひゃと笑う害虫2匹。アタシはそんな2匹に警告を出す。

「うっさい!アタシは今からデートなの!……これ以上邪魔するようなら潰すわよ」
「おお〜怖い怖い!オレら潰されちまうの?」
「いいじゃんか、そのデート、オレらとしようぜ。相手はどうせショボい男なんだろ?
満足させてやるか……ギャン!」

 ……ショボい?俊のことをショボいと言ったのか!
俊を貶した害虫の顔面にハイキックをたたき込む!『グシャ!』っと足に感じる会心の一撃!
その瞬間、まるで糸が切れた操り人形のように膝から崩れ落ちる害虫。

「潰すって言ったわよね?感謝しなさい。このシーリス・A・ラインフォードに潰してもらえた幸運を!」

 ピクピクと痙攣してる害虫に対しての決めセリフ。ふっ、決まったわ!
そういえば今のキック、上手く体重移動が出来てたんじゃないの?
今までにない手応えだったわね、忘れないうちにものなしなきゃ!

「そこのアンタ!震えてないでその虫を立たせなさい!」
「は、ははははいぃぃ!」

 ガタガタ震えてる虫がピクピク痙攣してる害虫を無理矢理立たせる。
おし!忘れないために復習行くわよ!セィィィ〜!グチャ!

「ヒ、ヒィィ!隆也が!隆也がぁ!」
「う〜ん、イマイチね。何がいけないんだろ?腰の回転が上手くいってないのかな?
さ、次行くわよ。さっさと立たせなさい!」
「スンマセン!勘弁してください!これ以上やられたら隆也が死んじまう!」
「害虫1匹死ぬのがどうしたの?それがアタシと俊の愛になんか関係あんの?ないでしょうが!
さっさと立たせるのよ!それともアンタがやられたいの?」
「は、はひぃぃ」
「ぐずぐすしてんじゃないわよ!セィィィ!グシャ!」
「ヒィ!隆也が!隆也がぁ!」
「次ぃぃ!さっさと立たせる!そりゃあ〜!グジャ!」
「顔が!隆也の顔がぁぁ!」

 ダメだわ、手応えが違うわ。アタシのキック、何がいけないんだろ?
師匠とどこが違うんだろ?やっぱ体重移動がスムーズにいってないのかな?
う〜ん、分かんないわ。師匠に相談しなきゃいけないわね。
っと、こんなことしてる暇はないんだったわ!急がなきゃ俊に嫌われちゃう!

「アンタ、今日はこれで許してあげるわ。命があるだけ感謝しなさい。
ただし、またアタシの邪魔をしようものなら覚悟しなさいよ?
アンタ達の親、兄弟、親戚……血の繋がりのあるも全てを叩き潰すわ。
約束してあげる。ラインフォードの名にかけて、アンタ達の一族から永遠に平穏という言葉を奪い去ることを」

 ガタガタ震える害虫に忠告をしてその場を去る。マズイわ!つい遊びすぎちゃった!俊、怒ってないかな?
96甘えんぼな彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2007/09/24(月) 21:52:43 ID:urD+oL4g
 駅前の広場、噴水の前がいつもの待ち合わせ場所。害虫駆除してたせいで、約束の時間から一時間遅れちゃった。
俊、怒ってないかな?待っててくれてるのかな?
ドキドキしながら俊を探す。……いたわ!ベンチに腰を掛けて本を読んでるわ!
本を読むその真剣な顔が……カッコイイ!俊!カッコイイのよ!

「しゅん〜!ダイスキ〜!」
「わ!シ、シーリス?ちょっと抱きつかないで……んぷ!」
「ん、ちゅ、すきぃ……俊、だいすきぃ〜!」

 14時間ぶりに会う俊は、カッコよさが三割増しになってる気がするわね。
俊!カッコよすぎなのよ!ダイスキなのよぉぉ〜!
あまりの俊のカッコよさに我慢が出来ず、キスの雨を振らせる。
そんなアタシをやんわりと突き返す俊。なんで?なんでそんなイジワルするのよ!

「こら、人前でキスしちゃダメだと前から言ってるよね?いい加減にしないと……怒るよ?」
「むぅぅ、俊のケチ!キスくらい好きにしていいじゃないの!でも、そんな堅物な俊が……ダイスキ!」

 真っ赤な顔でアタシを叱る俊。
ウフフ、俊の恥ずかしがり屋さん!夜とは全く違うわね。けどそこが魅力の一つなのよね!

「今日はかなり遅いから心配しちゃったよ。寝坊でもしたの?」
「しゅん〜、怖かったのぉ。ヘンな2人に無理やりナンパされちゃったの」
「ええええ?シーリス、変な事とかされなかった?大丈夫?その……相手の2人は大丈夫なの?」

 アタシの言葉に驚いて、心配してくれる優しい俊。そんな優しい俊がダイスキなの!

「もっちろん大丈夫よ!1人を病院送りにしてあげたわ!」
「そ、そうなんだ、病院送りにしちゃったんだ。……それよりそろそろ映画館に行こうよ。
早く行かなきゃシーリスが見たがってた映画、始まっちゃうよ」
「え?まだ時間間に合うの?アタシ、少し遅刻しちゃったからダメかなって諦めてたわ」
「シーリスが遅れてくるのは折り込み済みだよ、だから早めの待ち合わせにしたんだ。
それに……その方が長く一緒にいられるからね」
「し、俊……しゅん〜!うれしいよぉ〜!」
「うわ!だから人前でキスは……んぷ!」

 アタシも俊とずっと一緒にいたいわ!しゅん〜!ダイスキよ〜!
97甘えんぼな彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2007/09/24(月) 21:53:32 ID:urD+oL4g
「面白い映画だったね」
「うん、すっごくカッコよかったぁ〜」

 暗闇の中、真剣な眼差しでスクリーンを見つめる俊。すっごくカッコよかったぁ〜。
正直、俊の横顔に夢中で映画なんて見てないわ。
暗闇の中で見る俊の凛々しい横顔……これぞ芸術よ!お金をいくら払ってでも見ていたいわ!
はぁぁ〜……俊、カッコイイのにも程があるわ。おかげで映画をまったく見れなかったじゃないの!

「次はどうしよう?お昼ご飯でも食べに行く?」
「アタシ、ちょっと疲れちゃった。どこな静かな個室で俊と二人きりでゆっくり休憩したいなぁ」

 俊の腕に抱きつき胸を押しつける。
ゆっくり休憩……いや、激しく宿泊するのよ!アタシの胸に抱かれて眠りなさい!

「えぇ?で、でもまだお昼すぎだよ?」
「愛にお昼なんて関係ないわ!愛は年中無休なの!
……それにね、江口さんが度の入ってない眼鏡をプレゼントしてくれたの。
俊が喜ぶって言ってたから持ってきてるんだけど……使ってみる?」

 江口さんがアタシの誕生日にくれた眼鏡。シンプルなデザインでいかにも安物って感じがするわ。
えっちの時に使ってみろと言ってたけど……これをどう使うのかな?
試しにかけてみる。うん、やっぱり度は入ってないわね。
でも眼鏡なんてかける以外に使い道なんてないでしょ?なんに使うのかな?
あのオヤジ、いい加減なこと言いやがっ……俊が獣の目になったわね。なんでなの?

「シーリス、早く行くよ!確かこの近くにラブホテルがあったはずなんだけど……」

 あたしの手を握り、ズンズンと歩いてホテルを探す俊。
ず、ずいぶんと積極的ね。もしかしたらこんな俊は初めてかも?
眼鏡が効いてるのかな?……なんで眼鏡で積極的になるの?訳が分からないわ。

「し、俊?俊がやる気になってくれてアタシは嬉しいんだけど、眼鏡を何に使う気なの?
眼鏡なんてかける以外に使い道なんてないじゃないの」
「だからかけるんだよ!今日はたくさんぶっかけるからね!」

 『だからかけるんだよ!』ってなに?なんで興奮してるの?……ぶっかける?なにそれ?
って、ちょっと俊!引っ張らないでよ!痛いわ!強引すぎよ!
女の子を強引にホテルへ連れ込むなんて……男らしい!素敵なのよ〜!
何故か眼鏡に興奮しちゃった俊に、ラブホテルへと連れ込まれるアタシ。
今日こそは子宮を満たしてもらうわよ!
98甘えんぼな彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2007/09/24(月) 21:54:42 ID:urD+oL4g
「ん、ん、ん……かは!はぁはぁはぁ、しゅん、気持ちいい?アタシ、上手に出来てるかな?」
「うぅ……すっごく気持ちいいよ。シーリス、もうたまらないよ」
「しゅん……アタシ頑張るから。もっと気持ち良くなって!」

 ラブホテルの一室。部屋に入ってすぐに俊のアソコをパクリと咥える。
口でするのってあまりしたことがないんだけど、俊が咥えてほしいってお願いしてきたの!
今までアタシが口でしてあげるって何度迫っても、断ってきた俊がお願いしてきたんだよ?
あぁ……俊に求められるなんて、すっごく幸せ。アタシ、頑張るから!たくさん気持ち良くなって!
……眼鏡をしたまま咥えてほしいってのが気になるわね。

「ちゅ、ちゅ、ずずずず……あぁスゴイ、どんどん大きくなる、熱くなってるよぉ」
「うぅぅ……シーリス、気持ちいいよ。手で擦ってみてよ。擦りながら僕を見上げ、ペロペロ舐めてみて」
「こう?こうしたら気持ちいいの?しゅん、気持ちいいの?」

 俊を見上げながらアソコを両手で包み、優しく擦りながら先っぽをペロペロと舐める。
時々咥えて溢れ出てるカウパー液を飲み干す。
あぁ、俊がこんなに濡れてるのね。アタシが俊を気持ちよくしてるんだ。
そう思うだけでアタシまで気持ちよくなってきちゃったわ。

「あぁ、シーリス、気持ちいいよ……うぅぅ、もう出そうだ!出すからね!」
「しゅん、出していいよぉ!アタシの口に出して……え?ちょっと俊?どうしたの……きゃ!」

 口の中に出してもらおうと咥えたんだけど、急に引き抜かれて、そのまま顔にかけられちゃった。
いや違うわね。顔というか、正確には眼鏡にかけられちゃったの。
……そうだったのね。俊、眼鏡に興奮してたのは眼鏡に精液をかけれるからだったんだ。
江口さん、俊がこういうことをしたがってるって知ってたからアタシに眼鏡をくれたんだ。
……他にはないのかな?例えば中出しとか、中出しとか、中出しとか。
そんな事を考えてる最中も、ドクドクと眼鏡とアタシの顔を白く染める俊の精液。
すっごく気持ち良さそうな顔で出してるわね。アタシはちょっと複雑な心境なんだけどね!
今日、俊が積極的だったのは、アタシが眼鏡をかけてたからなんだよね?
ということはなに?アタシじゃなくて、眼鏡に興奮してたわけ?なによ、それ!
眼鏡に興奮した、そんな俊にちょっとムカついちゃったアタシ。
その俊は、慌ててティッシュを取り出し、アタシの顔にかかった精液を拭こうとしてくれたわ。

「ゴ、ゴメンね?急に顔に出したりして」
「俊が顔にかけるのが好きなのは前から知ってたけど、眼鏡にかけるのも好きだとは知らなかったわ。
ちょっとショックかな?アタシじゃなくて眼鏡に興奮するなんて」
「……ゴメンなさい」
「なんで眼鏡なんて好きなの?アタシ、よく分かんないんだけど?」

 俊が眼鏡が好きになった理由、話してくれたわ。
なんでも中学時代に相川がエッチなDVDを見せてくれたんだって。
そのDVDって言うのが、メガネをかけた女の子の顔に、何人もの男が精液をぶっかけるDVDだったんだって。
……相川のせいか。アイツが俊をこうしたのか!制裁が必要ね。

「僕たち3人が中学高校と女の子に人気がなくて、付き合ったり出来なかったのは知ってるよね?
だからよく3人で集まってエッチなDVD見てたんだ。
僕たちもいつかは好きな人とこんなことしてみたいねって」

 ……アンタと佐伯は人気がないんじゃなくて、アンタ達が気づかなかっただけでしょうが!
アタシとマヤがどんだけ苦労してたか知ってるの?どんだけ努力してたか知ってるの?この鈍感!
ま、相川だけはホントに人気はなかったけどね。
99甘えんぼな彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2007/09/24(月) 21:56:00 ID:urD+oL4g
「……分かったわ。で、他にしてみたいことってないの?俊、遠慮する事はないのよ?
アタシ、アンタの物なんだから。俊がしたいこと全部していいよ」

 眼鏡に興奮された事もショックだけど、俊がまだアタシの遠慮してる事の方がもっとショックだわ。
いい機会だし、この際俊がしたいこと全部してあげようじゃないの!
……相川のヤツ、ヘンな物見せてないでしょうね?

「え?いいの?でも、シーリスが嫌がることはしたくないし……」
「もう!アタシは俊が求めてくれるだけで嬉しいんだから!」
「シーリス……ありがとう。じゃあお願いしていいかな?
僕、一度でいいからしてみたいことがあったんだよ」
「俊がしたいのなら、一度どころか何度でもしていいわよ。アタシは俊が喜ぶ顔が見たいの」
「ありがとう。じゃあさ、この部屋って大きな鏡があるよね?そこでね……」

 ……そ、そんな恥ずかしい事させる気なの?俊、アンタやっぱり相川の親友ね。
俊でもこんなにえっちなんだから、相川なんてどれだけえっちなんだろ?
一度レイリアに聞かなきゃいけないわね。……うぅぅ、恥ずかしいよぉ〜。
俊は恥ずかしがってるアタシをよそに、嬉しそうにソファーを鏡の前にセッティングしてる。
もう!そんな顔見せられたら我慢するしかないじゃないの!

「シーリス、こっちは準備が出来たよ。早くおいでよ」

 鏡の前にセッティングされたソファーに座り、ニコニコ微笑みアタシを待つ俊。
俊って普段はすっごく真面目なんだけど、2人になるとえっちなのよね。
その証拠にさっき出したばかりなのに、もうおっきくなってる。
へそに当たるんじゃないかって位に反り返り、おっきくなってる俊のアソコ。
アタシは覚悟を決めて全裸になって俊の前で跪き、反り返ってる俊を口に含む。

「はむ、んっく、じゅぶ、んん!」
「あぁ、シーリス、気持ちいいよ。柔らかい舌が最高だよ。シーリスは気持ちいい?」
「ふん!ふぐぅ……ぷはぁ!しゅ、しゅん、足の指で触るなんて反則だよぉ」
「でももうヌルヌルになってるよ?気持ちいいんだ?」

 俊を咥えてるアタシを足の指で器用に攻めてくる俊。
足の指でってのがちょっとイヤだけど、咥えながらイタズラされてるんだって考えただけで、
すっごく濡れてきちゃったの。
こんなことで濡れちゃうなんて、もしかしてアタシ、ちょっとヘンなのかな?

「シーリス、もう咥えなくていいよ。シーリスの準備も出来たみたいだし、そろそろ一つになろうよ」
「ぷは!はぁはぁはぁはぁ……うん、いいよぉ。アタシも俊を感じたいよぉ」

 アタシはふら付く足で立ち上がる。
そして俊のアソコに手を添えてアタシに導きながら、俊に背中を見せて、俊の膝の上に座る。
目の前の鏡には、羞恥と期待から真っ赤に染まった潤んだ瞳のアタシの顔がある。
その後ろに見える俊の顔は嬉しそうにニコニコ微笑んでいる。

「シーリス、鏡越しに見る顔ってすっごくイヤらしく見えるよ」
「もう!しゅんのばかぁ……ん、んん!んあ!」

 耳元でいたずら小僧のような顔で囁き、後ろからアタシの胸に手を回す俊。
俊のイジワル!俊がこんなにイジワルだなんて知らなかったわ!
100甘えんぼな彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2007/09/24(月) 21:56:50 ID:urD+oL4g
「しゅんのばかぁ……なんで苛めるの?」
「あぁ、すっごく興奮するよ。シーリス、ホントに綺麗な髪だよ。僕、シーリスの綺麗な髪が大好きなんだ」

 俊はアタシの抗議が聞こえてないのか、後ろから胸を揉み、アタシの髪の毛に顔を埋める。
俊……アタシの髪が好きって出合った頃にも言ってくれたよね?
俊はあの頃と全然変わってないわ。いいえ、あの頃よりもずっと優しく、素敵になってくれたわ!
俊、大好きよ!俊のせいであの頃よりもずっと俊を好きになったんだからね!責任取ってもらうわよ!
手を添えたままの反り返ってる俊をアタシに導く。そしてアタシに向かい入れるために身体を落とす。
その瞬間、『くちゅ』っと滑った音を出し、俊を飲み込んだアタシ。
俊がアタシをこじ開け、貫きながら奥へと突き進んでくる。
ゆっくりと腰を落としてたんだけど、急に俊が後ろから腰を突き上げたの。

「きゃう!い、いきなりそんな強く突かな……んあああ!」
「シーリス、鏡を見てごらん!ほら!僕を飲み込んでるよ!どうなってるか言ってごらん!」

 アタシの両足を広げて、アタシと俊との結合部が鏡に映るようにする俊。
目の前の大きな鏡には、大きな俊がアタシを目いっぱいに広げ、出たり入ったりしているのが映ってる。
アタシは俊が言うままにその様子を口にしたわ。

「ああ!しゅんが!しゅんがぁ、アタシを貫いてるのぉ!
いっぱい、いっぱい濡れてるアタシを、んん!グチュグチュ音を出しながら、貫いてるよぉ!
奥に当ってるのぉ、アタシの一番奥をトントンってノックしてるのぉぉ!」
「シーリス、よく見てごらん。君の顔、すっごくいやらしい顔をしているよ。
普段の凛々しくて綺麗な顔じゃなく、だらしなく口を開けてよだれを垂らし、喘いでるんだよ」 

 鏡に映ってるアタシは俊の言うとおりにだらしない顔をしているわ。
顔を赤く染め、髪を振り乱しながらよだれを垂らし、必死に腰を振っている。
まるで安い映画に出てくる売春婦のように。

「綺麗だよ……シーリス、とっても綺麗な表情をしているよ!
もっと見て見たい!君の綺麗な顔をもっと見て見たいよ!」

 アタシの胸を激しく揉み、一段と激しく突き上げてきた俊。
アタシは後ろから抱き抱えられるように貫かれ、痛いくらいに胸をもまれたの。
そして耳元で囁くイジワルな俊の声を聞きながら絶頂を迎えてしまったわ。
101甘えんぼな彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2007/09/24(月) 21:58:28 ID:urD+oL4g
「しゅん!しゅんイクよぉ!イッちゃうよぉ〜!」

 激しい突き上げと、頭を痺れさせる甘いイジワルな囁き。
アタシが上り詰めるのには十分すぎる攻撃だったわ。

「イッていいよ!何度でもイカせてあげるからね!」
「しゅん!しゅん!……いやぁぁぁぁ〜〜!!」

 鏡の前で、俊との結合部を見せられて、内臓を抉るように激しく疲れて絶頂に達してしまったアタシ。
身体をビクビク痙攣させながら、絶頂の余韻に浸る。
そんなアタシ耳元で、俊が甘い声で囁いてきたの。

「シーリス、凄くイヤらしい顔でイッたね?次は眼鏡をかけてイッちゃおうね?」

 次?次ってなぁに?イクってどこに行くの?アタシも一緒にイキた……きゃん!

「ほら、シーリス!鏡に両手を付いて自分の顔をよく見てごらん!イヤらしい顔してるだろ?
後ろから貫かれながら、こんなイヤらしい顔をしてるんだよ!」

 いつの間にか眼鏡をかけられたアタシは、まだイッてなかった俊にバックで突かれて声を上げる。
そんなアタシの目の前の鏡には、だらしなく開いた口からはよだれをダラダラと垂らし、
目を見開きながら髪を振り乱し喘いでる、淫乱な女の顔が映っている。
これが……アタシ、なの?アタシ、俊に攻められてこんな顔しているの?
こんな顔してたら嫌われちゃう!そう思い、我慢しようとしたわ。でも無理なの!無理だったのよ!
アタシの考えなんて無視するかのような激しい俊の攻めに、アタシは何も考えられなくなったの。
激しすぎるわ!壊れちゃう!アタシ、壊されちゃうよぉぉ〜!

「はぁはぁはぁ、綺麗だよ!眼鏡をかけて喘いでるシーリスも綺麗だよ!」
「ひぃ!か、はあ!んあ!……いっくぅ、またイクの、またイッちゃうのぉ!」
「いいよ!何度でもイっていいよ!何度でもイカせてあげるよ!う、くぅぅぅ!」

 『ズグン!』

 子宮を壊すんじゃないかというほどの勢いで、アタシを貫いた俊。
その瞬間、アタシは鏡を掻き毟り、さっきとは比べ物にならない快楽に包まれて意識が真っ白になる。
倒れこんだアタシの髪を掴み、顔を持ち上げ何か温かいものをかけてきた俊。
アタシはそれが何なのかを知る前に、再度貫かれて意識は白い海の中に沈んでいったの。
102甘えんぼな彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2007/09/24(月) 22:00:21 ID:urD+oL4g
「さ、アンタ達、早速報告してちょうだい」
「報告って何だよ?」
「正吾、シーリスのことだ、どうせ俊のことだろ?」
「……なんでオレまで呼ばれてんだ?訳が分からんぞ?」

 講義が終わっての帰り道。佐伯と相川と江口さんを喫茶店に呼び出す。
はん!アンタ達ごときがこのアタシと同じ席に座れるのよ?感謝しなさい!
さぁ、アンタ達、俊が子宮を満たしてくれるような、画期的なアイディアを出しなさい!

「この間は江口さんがくれた眼鏡で大満足の結果を得たわ。他には何かないの?俊が獣に変わるアイテムは?」
「江口さん、そんな素敵アイテムを教えたんですか?そんなこと教えたら俊がサルになっちま……ぎゃん!」

 サルだぁ?サルはアンタでしょうが!このヘンタイロリコンがぁぁ!
俊の悪口を言う相川を制裁し、残る2人を睨みつける。

「正吾よ、お前らいっつもこんなアホみたいな集会してるのか?付き合いきれんな、先に帰るわ」
「誰が帰っていいなんて許可したの!江口さん、アンタも相川のように惨めに殺されたい……」
「水着の上にTシャツを着てみろよ。きっと俊、獣になるぜ?」

 え?そんな簡単なことで獣になるの?なんで?
キョトンとしてるアタシを置いて喫茶店から出て行く江口さん。
ホントに獣になるの?そんな簡単に獣になっていいの?

「佐伯、そうなの?俊はそういうのが好きなの?」
「う〜ん、俊に限らず男は全員好きなんじゃないかな?やってみる価値はあると思うな」

 やってみる価値はある、か。ま、物は試しね、一度やってみようかな?
水着だけじゃ不安だから眼鏡もかけてみようかな?俊、喜んでくれるかな?

「そうそう、おまけに両手をタオルか何かで縛ってたら、健一じゃないけど、サルになると思うぞ」
「サルだぁ?俊がサルになるってなによ!アンタも死にたいのね?いいわ、苦しめて殺してあげるわ!」 
「落ち着けって!サルってのは、SEXしだしたら止まらなくなるってことの例えだよ。
お前、日本は長いんだから、そのくらい知っとけよ」

 ……SEXしだしたら止まらなくなる?水着の上にTシャツを着るだけで?

「……採用ね。いいわ、その水着の案、採用してあげるわ。もし失敗したらどうなるか、分ってるわよね?」
「なんで俺に言うんだよ!江口さんの案だろ?江口さんに言えよ」
「イヤよ!だって江口さん、怒ると頭叩いて来るんだもん。アタシは痛いのキライなの!」
 
 作戦が決まればすぐに実行よ!まずは水着とTシャツ、あとは手を縛る紐か何かね!
バカ2人を残して喫茶店を出る。俊、覚悟なさいよ!今度こそアタシの子宮、満たしてもらうわよ!

 沈む夕日にそう誓った、夕日が綺麗な秋の夕暮れ時だったわ。
103ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2007/09/24(月) 22:01:06 ID:urD+oL4g
以上です。
104名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 22:05:52 ID:y04lSUxZ
>>103
あ…あ……
なんといっていいか……これが降臨?
激しくGJ……
105名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 22:47:37 ID:QG6RykEC
うん、













やっぱり江口さんは最高ですね
GJ!!
106名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 11:33:33 ID:G8Amet/e
だな。
江口さんのエロレクチャーは、いつもながら簡潔にして的確で素晴らしいな!

GJ!!
107名無しさん@ピンキー:2007/09/26(水) 18:03:37 ID:2IrMtDPh
GJ!!!
108名無しさん@ピンキー:2007/09/28(金) 03:53:28 ID:o1+Fww1B
GJ!!!!
エロ満載+読みやすいという夢のような作品に会えてよかった。
109名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 21:56:05 ID:mX19vAHT
さて、もう半分諦めてるが10月になったから叫んでおこう


ええい!注文したカレーワッフルはまだか!
110名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 21:57:20 ID:g1K4prci
>>109
これがレスされないと月が替わったって気がしなくなった
111名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 22:27:58 ID:uNEKu8V2
ツクバ屋さん更新
112名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 00:24:22 ID:deIA332P
>111
なに?そんなこと言って誉めて欲しいわけ? 
はん!誰がアンタなんか誉めるもんですか!
113名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 03:34:30 ID:RABtxv3C
でも・・・お礼はイっとかないとね・・・



・・・ありがと///
114クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/10/02(火) 18:44:04 ID:T9G6uaOn
なんか出来たので投下。
115クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/10/02(火) 18:45:59 ID:YOqeLYVP
紅武館道場。
市内でも数ある名門道場であり、門下生は各方面の大会でことごとく入賞を果たす。
師範である赤城統馬は鬼のような人間であり、稽古は恐ろしく厳しい。
そして代理である娘の凛も、父ほどではないが厳しいことで有名だった。
稽古について触れると、門下生達は口を揃えて「アレは…拷問、ですね」と言う。
学校においても、彼女が恐ろしい存在である事は公然の事実であった。

「じゃあ今日は走りこみをします。…500本ね」
「げえええええええええ」
「殺してくれ……」
「ごひゃ…あぎじょいあjぼあぶはあがsmんしpがば」
「うるさい!!!走らないと倍にするわよ!!!」
今日も道場には子供達の悲鳴が響き渡る。
とりあえず道場の周りのコースを500本…師範の統馬ならば「ジャブ」という程度。
普通の人間からすれば……まあ、その。なんというか、地獄……なわけである。
「最期の奴は地獄のメニューXXXプランを御見舞いするわ」
その途端、ぐだぐだ言っていた子供達は門へと殺到した。
これだから地獄度XXX(トリプルエックス)プランの効き目は恐ろしい。
名前を言っただけでこれほど怯えてしまうとは。
それにしても、その存在だけで子供達をまとめていた統馬はすごいとしか言えない。
今は日本全国武者修行の旅と称して兄の悠馬を連れてあっちこっちに殴りこんでいるらしい。
116クロ@枯れゆく花への哀歌 ◆oEKbgAzJcE :2007/10/02(火) 18:46:53 ID:YOqeLYVP

道場の始末やら片付けやらをしていると、もう2時間ほど経っていた。
外がなにやらうるさいので、そろそろ帰ってきたのかもしれない。
「さあ、一番最後の野郎はどいつ……」
「お? 可愛い娘がいるじゃねーか。道場は女人禁制、だったりしないのか?」
入り口にいたのは子供ではなく、見知らぬ男だった。
その成りを見る限り、軽そうな顔と服装はチンピラのようだ。
背後に仲間が数人いて、そいつらの腕には――――
「鉄馬っ!! 陽一!! 友哉!!!」
子供達が大柄な男達にがっしりと掴まれていた。
その手には各々ナイフが握られている。
「お前ら何をしている……」
「おおっと、動くなよ? 道着着てるって事はお前も門下生なんだろ。暴れられたら面倒なんでな」
「くそっ…卑怯な…」
男は歪んだ笑みを浮かべて凛を笑う。
「俺達お前達の師範にボコボコにされちまってよぉ。腹いせにお前らをボコボコにしてやろうかってな」
父はむやみに暴力を振るわないし、一方的な対戦もしない。
という事はこいつら、単に悪いことをしていて止められ、攻撃したら返り討ちになったって所か。
とりあえず相手はナイフを持っている。ここは大人しくする演技をするしかない。
「子供達だけはっ……子供達には手を出さないで下さい…」
「ほお?じゃあ嬢ちゃんが相手してくれるってのか?」
「それは……」
「兄貴ーこのガキ、ボコッちゃっていいすかね?」
「ああ、構わんだろ」
「待って!!!」
「私が……代わりになるから…子供達には手を出さないで……」
男の目が厭らしく光り、凛の身体を這っていく。
「お前が……ねえ。いいだろう。その代わり……」
背後に回った男が道着をはだけさせ、床に無理矢理引き倒す。
「何でもしていいって事だからなあ!!!」
117クロ@枯れゆく花への哀歌 ◆oEKbgAzJcE :2007/10/02(火) 18:47:30 ID:T9G6uaOn
「やめてっ!!」
思わず叫ぶ子供達を、大柄な男が抑えつける。
「おおっと、お前らはこっちで見てるんだ。あの女が汚されるとこをな」
「そんな……」
「大丈夫大丈夫。そのうち先生もアヘアヘ言って腰を振り出すさ」
その男の呟きは、犯されようとしている凛の耳には届かない。
秘所に伸びようとする男の手に、何か軟膏のような物がついている事も気付かなかった。

「何だこりゃ。さらし巻いてんのか?せっかくの胸が台無しじゃねーかよ」
「まぁこんなデカいのが付いてたんじゃ、武道なんざできねーよなあ」
「こっちは汗で蒸れてすげえ事になってんぜ。ほら、半分濡れてるみてーだし」
下卑た笑いと共に、視線が凛の胸と秘部に集中する。
押さえつけていたものが引きちぎられて露わになった双乳は、荒い呼吸に合わせて上下している。
一人の男が手を伸ばし、思いっきりその膨らみを鷲掴みにした。
「ひゃぁっ!!!」
「お? もう感じてんのかよ。ひょっとして虐められて悦ぶタイプ?」
「マジかよ。こんな可愛い顔して、中身はマゾの変態ってか?」
「……そんな事…無い…」
「じゃあこんな事しても感じないんだな?」
男が手を振り上げ……そして打ち下ろした。
「ああああああああああぁっ!!!!」
バチンという音を立てて、締まった尻に赤く痕ができた。
そしてもう一発。
「いやあああああああああああっ!!!」
もう一発。もう一発。もう一発。
男が尻を叩く間、凛は形振り構わずに叫ぶしかなかった。
他の男は胸を揉みこんだり、舌で舐めしゃぶっている。
痛覚と快感。
二つを同時に叩きこまれ、凛は成す術がなかった。
118クロ@枯れゆく花への哀歌 ◆oEKbgAzJcE :2007/10/02(火) 18:48:05 ID:uu8k78OM
「ほら、やっぱり感じてたんじゃねーか」
「はあぁ……はぁぁ……」
激しいスパンキングの後に秘裂を確認すると、そこは確実に蜜をたたえていた。
凛も全く抵抗せずにその指を受け入れている。
「じゃあそろそろ頂きますかね」
「待て待て、俺が最初だろ」
「俺は口な」
凛の与り知らぬ所で、勝手に権利の取り合いをする男達。
もはや凛には全く関係なくなっていた。
そして両壁を押し分けて入ってくる熱い凶器。
「こいつは…すげえ名器じゃねえか……」
男は知らぬうちに感銘の声をあげていた。
「まじかよ…ちっ、譲るんじゃなかったぜ」
「お前には口があるだろうがよ」
仕方ないか、と呟いて股間から立ち上がったモノを締まりをなくして涎を垂らす口に押しこむ。
無意識のうちに舌が動き、男の裏筋を舐めあげる。
「むぐ……んんむ……んぐ……」
抵抗の無くなった凛の身体を、男達は前後から容赦なく突き上げ始めた。
「んぐっ!! んんっ!! むぐうっ!!! んっ んんんっ!!!」
前を突いていた男も、絡みつく舌によって絞り取られるような感覚を受ける。
「こいつ……まじでやべえな。ほんとにっ…変態なんじゃねえか?」
「ああ……初めてじゃないしこの感じ方は……相当男咥えこんでるな」
「ち…くそっ……出すぞ…っ!!」
タイミングを合わせたかのように前後から白濁が注ぎ込まれた。
残った精液まで奥から吸い出されるような感覚に、それを出した男達は惚けている。
そんな男達を横にどけ、見ていた男達が前後の穴を再び塞ぐ。
「んんぁ……また入ってきたぁ……」
119クロ@枯れゆく花への哀歌 ◆oEKbgAzJcE :2007/10/02(火) 18:48:43 ID:YOqeLYVP


「はぁ……はぁ……」
「おい…何かおかしくないか…?」
「あはぁん…もっとぉ…もっと頂戴ぃ……」
3時間が経過し、凛の身体と床は男達と凛の体液でどろどろになっていた。
「ふふ…もっとおちんぽいれへぇ………」
「なんでこの女はこんなに……くそっ、絡みついてきやがるっ」
「ぶっ続けで3時間だぞ…何でこんな……」
凛の顔は変わらずに恍惚としているが、男達の顔は生気を奪われたように暗い。
しかしそれでもなお、凛の2穴は男を咥えこんで離さない。
男達もまたその中の溶かされそうな熱さと、うねり収縮する穴の虜となっている。
「もうだめだ……何も出ねえ……」
そして倒れている男が数人と、その状況にも関わらず動かない子供達。
彼等の目には絶望ではなく、諦めの色が映っていた。
「凛先生…またやっちゃったね…」
「ああなると止められないから…ご愁傷様だね……」
「毎回残りカスも無い位搾り取ってポイ、だからなあ……」
「だいたいナイフとかウチの道場では玩具みたいなもんだしね」
「あの人達、ここがどこだかわかって来たのかな……僕らでも倒せたよ」
「でもまぁ、いつもは僕らを相手にしてるから助かったよねー」
「鉄馬……お前気楽過ぎだろ……」
まだ残っている2人の犠牲者を見て、子供達は一斉にため息を漏らした。
120クロ@枯れゆく花への哀歌 ◆oEKbgAzJcE :2007/10/02(火) 18:49:27 ID:YOqeLYVP
結局、4時間後。
『残りカス』となった男達を子供に始末させ、凛は身体に付いていた汚れを全て落とした。
一度脱がされた道着は選択し、今は普段着に着替えている。
「ふう……あいつらもなかなか濃いのを出してくれたな」
「おい、姉貴。いい加減オヤジや兄貴に男斡旋させて喰うのやめろよ。チンピラとはいえ、河川敷は寒いぜ」
「うるせえ。あいつらも気持ちよくなってたんだからいいじゃん」
鉄馬の手には携帯が握られている。
兄の悠馬からのメールが来ていて、今はオヤジが果し合い中らしい。
この凛の性癖については彼もノーコメントで通している。
「子供達を守るため、犯される美少女……素晴らしいだろ?」
「勝気な姉貴が本心からそんな事するわけないだろ?」
「うるせえ。骨の髄まで搾り取ってやろうってのが本心だ」
はあ……こんな姉貴の被害者に、合掌。死んでないけど、多分。
121クロ ◆oEKbgAzJcE :2007/10/02(火) 18:52:04 ID:YOqeLYVP
【枯れゆく花への哀歌】
という事でさっき書き上げました。
勢いとは恐ろしい。
では。
122名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 20:38:35 ID:qYKeNOOu
スゴッッッツ!!!!
123名無しさん@ピンキー:2007/10/03(水) 21:00:49 ID:L6I7EdNQ
ワロタ
124名無しさん@ピンキー:2007/10/05(金) 01:24:44 ID:X6jO8ths
さちねえさんの人は、また妖怪にいたずらされたのかい?
125名無しさん@ピンキー:2007/10/05(金) 22:42:41 ID:62t5W8Pm
えろい、GJ

でもワロタw
126名無しさん@ピンキー:2007/10/06(土) 03:54:20 ID:0GT4CRN5
保守
127名無しさん@ピンキー:2007/10/06(土) 22:46:39 ID:ANrheiCw
妖怪?
128名無しさん@ピンキー:2007/10/06(土) 22:47:42 ID:ZGsf1hoQ
>>78-82の話の一応続きです。

……もはや、スレタイと関係ないどころかこの板に相応しくないような内容と化していますので、問題だと思った方は遠慮なく言ってください。
129ホットミルクと冬の朝:2007/10/06(土) 22:48:28 ID:ZGsf1hoQ
ちちちちちちちちちち……って、うう、この音大きいよ……。
寒いし、もう少しでいいからこの中にいさせてよぅ……。
ぇ、えーい、や……っ!

……とまった、かな?
はふぅ、ぬくぬくぅ……。
いいよね、このくらい……。
寒いんだもんね、眠いんだもんね、私の部屋なんだもんね……。
ふかふかおふとん、ふんわりゆらり。
……もぉちょっとだけなら、大丈夫だよね。
えへへへへへ……。
気持ち、いーよぉ……。
んー……二度寝っていうんだっけ……。
この前……、お姉ちゃんに……聞いたことば……。
うとうとの……じかん……さいこぉ……だよ……えへへ……ねるー…………。
がっ……こ……なん……か、ど……でも……い………………。


「……全くもー……。
お母さんそっくりなくせに、こういうとこだけあの馬鹿に似てんだから。
はぉ……」

……んあー……。
どっかで……きーた……こえ……。

「……遅刻するわよー。ご飯も冷えるから、起きた方がいいと思うんだけどね」

ごは……おなかへった……。
ここ……ぬくぬくぅ……ぽかぽかぁ……。
ずっと……ここ……。
「このま……たべぅ……」

「こーら、そんなこと言わないの。
……ま、一度癖つくとなかなか戻せないのは分かるんだけど、……経験上」

「ん……ずっと……ここでい……」
あったかくて……おなかいっぱい……なる……。
しゃーわせぇ……。

「……しかたない、かな」

そー……、しかた、ないの……。
ねるのー……。


「……せー、のっ!!」



かあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん……っ!!



「うわひゃぁぁあああああああああっ!!」
130ホットミルクと冬の朝:2007/10/06(土) 22:49:17 ID:ZGsf1hoQ
なななななになになになになになになんなのぉっ!!
び、びび、びっくりしたぁ……。
ばくばくばくばく。どきどきどきどき。
胸に手を当てながらいっきに体を起こす。
すう、はあ。
吸ってー吐いてー吸ってー吐いてー吸ってー吐いてー……。
さいごに思いっきりゆっくりと、吸ってー…………、
「ぷはぁあああ……」

……うん、まだ心臓凄い鳴ってるけど、心は落ち着いた。
おーるおっけー。
うん、だいじょぶ。
ゆっくりゆっくりと周りを見ると、ベッドの脇には家族みたいに大好きな人がいた。

「お、お姉ちゃん、ひどいよぉ……」

お姉ちゃんの片手にはお玉、もう片手にはお鍋のふた。
……古い、古いよお姉ちゃん。
お姉ちゃんの頭の中は何年前から止まってるんだろう、なんて失礼な事を考えて、一瞬言葉が止まってしまった。
ぷっくりふくれっつらをしてみると、お姉ちゃんはくすくすって、困ったような笑い顔。
「文句言ってる時間はないんじゃないの? 急いで食べないと間に合わないかもよ?」

お姉ちゃんのお玉の先を見てみると、そこには地面に落っこちている目覚まし時計。
のそのそってお布団を腰の上に掛けたまま、こっちに引き寄せてみると。

「うわぁ……し、七時半……!?」
ど、どどどど、どうしよう。
パジャマ着替えて、ご飯食べて、お顔洗って、歯を磨いて、教科書用意して……。
えっと、ええっと、まずは着替え、出さないと……。

「はいはいそんなに焦らないの。……OK?」
「う、うん……。」
そ、その通りだけど、でもでもでもでも……っ!

「――――着替えはそこに出しといたし、ご飯も出来てるから、ね?
食べてる間に教科書用意しといてあげるから、ひとつひとつしっかりやればいいの」
「う、うん……。」

……つい今しがたとおんなじ答え方。頭が全然回ってない。
はぁ……。うう、私って駄目だなあ。
いっつもいっつもお姉ちゃんに迷惑かけてばっかりで。
お父さんにもそうだけど、やっぱり私も女の子だからお姉ちゃんじゃなくちゃ頼れないことも多いし。
……家族じゃない人に、こんなに迷惑かけて。
私はお姉ちゃん、大好きだけど。……お姉ちゃんには負担なはず。
私の行動だけじゃない。
いるだけで私は多分、お姉ちゃんの邪魔になっている。
…………だって。

……ううん、これは私が口を出せる問題じゃない。
だけど、……だけど。
どうしても、気にせずにはいられないよ。

――――お姉ちゃんは、私をどう思っているんだろう。




131ホットミルクと冬の朝:2007/10/06(土) 22:51:41 ID:ZGsf1hoQ
「ハンカチとちり紙ー、玄関においてある筈だけどー……わかるー?」
「はいー! 大丈夫ですー!!」

台所から聞こえるお姉ちゃんの声に、こっちも大きな声でお返事。
お世話のお礼言いたいけど、ちょっと時間が無いかも。
急いで靴を履いて、とんとんとつま先で地面を蹴る。
がちゃんとドアを開けて、
「いってきますー!」

「……いってらっしゃい」
台所から顔を出して笑うお姉ちゃんと、
「…………おー……」
ふすまの向こうで気だるげな声のお父さん。

……ちょっと、なさけなくなってくる。
確かにお父さんは小説家だから早起きの必要はないわけだけど、お姉ちゃんがお手伝いに来る日はあまりにもだらけすぎだよー……。

がちゃん、としっかりドアを閉めて確認。
うん、半開きにはなってないよね。
「いっせーのーせ……、」
すう、はあ。
「よーい、どん!」
お口の中で呟いて、れっつ、ごー! かけっこ、かけ足、とにかく急げ!
間に合うかなどうかな、うーちゃん待っててくれてるのかな。
お家の多い狭い道を右右左って曲がってみると、大きな通りに出るんだけど。
そこの床屋さんの前がいつもの待ち合わせ場所。
大丈夫かな、どうかな。角を曲がってきょろきょろ。
……うーちゃんは…………。

「おーそーいーぞー! なにやってるのー!!」

……よかったぁ。いてくれた……。

「ご、ごご、ご、ごめん……なさい……。その……ね、ちょっと、おねぼうしちゃって……」
あわわ、ほんとうにほんとうにごめんなさい……。
「ぷう。本当朝弱いんだなあ、もう……」
「うぅ……、ごめんなさい……」

ぺこぺこ頭を下げると、うーちゃんは半目をやめていつもみたいににかっと笑ってくれる。

「そかそか。そんな気にしてんなら別にいーって。でも次からは気ぃつけてよん」
「……うん」
「そんじゃ、ちょっちダッシュるぞー!!」
「へ……? うわわ、わぁ……!!」

ひ、引っ張らないで、走んないでぇ……。こここ、転んじゃうよう、あぅ……。

「そーそー、ね、姫様。今日もお昼一緒でおっけー?」
「ひ、姫様はやめてよー……。うーちゃんもお父さんもバカ……」
お外で冗談でも姫様なんて呼ばれるの、すっごく恥ずかしいのに。
……お父さんが授業参観の日にそんな風に呼んだせいで、こんなあだ名にされちゃった……。
「あははー、でもでも、姫様って感じはするよ。箱入りっぽいしー」
「やめてってば、うーちゃぁん……! もう、酷いよ……」
「やはは、これは失礼を姫様!」
「…………もー、本当にやなのに……」

はあー、思いっきり溜息。それでも、うーちゃんは私の数少ない友達だから、あんまり強いこといって嫌われるのはやだし……。

「はあー……」
132ホットミルクと冬の朝:2007/10/06(土) 22:52:28 ID:ZGsf1hoQ
……でも、お昼一緒に食べようって言ってくれてるのは嬉しいし。
今日のお昼はお弁当の日だから、好きなとこで食べられる。
屋上とかは寒いだろうけど、気持ちいいかもしれないなぁ。

……あれ?
…………お弁当?

えーと、今日はお姉ちゃんの来てた日だ。
そのお姉ちゃんが来てくれるのは、お弁当の日で。
お姉ちゃんはお料理が得意だから、一週間に2回、来てくれてるんだけど。

……今日は、お弁当、鞄に入れたっけ?

「……ふぇ? 姫様どしたん〜? ぼけ〜っとしちゃって」

ランドセルを下ろしてぱんぱん叩く。
……か、感触がないよ。
それ以前にかなーり軽いような。
…………四次元ポケットの中に入ってるとか。
……そんな事考える私って、バカ?

「…………忘れちゃった……」

あ、あはははははははは…………。
……うう、どうして私ってこうなのかなぁ。

「あらららららー。……まー、一食くらいは食べなくても平気っしょ」
……うーちゃん、他人事すぎだよ。
いや実際他人事だけど、もう少しこっちを慮ってくれるとかしてくれてもいいと思う……。

「うう……」
こんな下らないことでこうなるのはどうかと思うけど、本当に泣きそうになる。
……どうして私ってこうなんだろう。
はじめてあった人とはまともに話せないし、自分の意見を言うことも出来ないし、こうしてポカばっかりやらかすし。
それで、すぐにうじうじするし。
……ほんとのほんとに涙出てきそ。

今から帰ると遅刻間違いなしだし、今日はお昼抜きなのかな……。
……辛いなあ……。

ぐしぐしと目をこすって、弱音を飲み込む。
……うーちゃんの言うとおり、一食くらいへいきのへいざ! ……たぶん、きっと、おそらく。
こんなことで泣いてられるもんか! ……でも、おなかがすくのは嫌だなあ。
あぅ、……どうして私ってこうなんだろう。
そうしてさっきと同じ事を考えた時、


ちりんちりん。


うしろから、そんな音が聞こえた。
……なんだろう。
そう思って振り向いてみると、

「……ふぅ、どーにか間に合ったかな。……はい、忘れ物」

自転車に乗ったお姉ちゃんが、そこにいた。
133ホットミルクと冬の朝:2007/10/06(土) 22:53:16 ID:ZGsf1hoQ
「……え?」
ぼけっとする私に、お姉ちゃんはにっこりと包みを手渡してくれる。
ピンクのチェックの小さな風呂敷で包まれたそれは、間違いなく私のお弁当。
「あ……、」

「もう、急ぐのはいいけどね、あたしがあなたの家に来てるのはこれ作るのが目的なわけでさ……。
忘れられちゃうと、何のためにって事になるんだけど」

言いながら、お姉ちゃんはくっくって声を漏らす。
笑顔だし、口調も怒ってるわけじゃないけど。
……言ってる内容は結構ずんとくる。……もっと気をつけるようにしよう、うん。

……でも、何よりも。
「……その、お姉ちゃん」
「ん? なに?」
「……ありがとう。ほんとにほんとに、ありがとう……」

……いつもいつも、私なんかのために。
そんな想いを込めて言った言葉を聞いて、お姉ちゃんは、
「どーいたしまして。ほらほら、早くしないと遅刻するわよ?」
ぐっと親指を立ててウィンクしてくれる。
……しっかり、私の事を受け止めてくれるこの人が、私は大好き。
…………言動や仕草がいちいち古いけど。

「……えっと、貴方はこの子の友達? 色々と不器用な子だから、助けてくれると嬉しいかな」
「あ……、は、はい、了解っす〜!」
そう返事をするうーちゃんににっこり笑った後、お姉ちゃんは自転車に乗りなおす。
「じゃあ、あたしはこれから仕事だから。それじゃ、学校頑張ってね」
そのまま、お姉ちゃんは自転車に乗って来た道を引き返した。
わざわざこっちまで届けに来てくれたことに、申し訳なさを感じてしまう。
……でも、だけど、やっぱり嬉しいっていう想いが一番。
小さくなっていく後姿を見て、私はそう感じた。

「……あの人、お姉ちゃんって言ってたけど……」
「え? うん、お姉ちゃんがどうしたの?」
んー、なんて唸りながら、うーちゃんはとんとん頭を叩く。
……どうしたんだろう。
「……お姉さんにしては年が離れてるとゆーか、なんとゆーか……。
そもそも姫様の親父っちってかなーり若かったよーな。あんな年の子供がいるのはおかしいぜい」

あ、なるほど。
いつもお姉ちゃんって呼んでるからあんまり気にしてなかったけど、お父さんと同い年なんだよね。
ちょっとおかしかったからくすくす笑いが漏れちゃう。
「えっとね、一応家族みたいに付き合ってるけど、姉妹って訳じゃないの」

「……ホワイ? そんじゃ、どういうカンケイ?」

そんな、うーちゃんの質問で。
……言葉が詰まった。

……私にとって、私とお父さんにとって。
そして、お姉ちゃん自身にとって、私達の関係はなんだろう。

――――家族っていうのはない、と思う。
一緒に暮らしているわけじゃないし、お姉ちゃんがうちに泊まった事だって一度もない。
お父さんの友達……っていうには、距離が近すぎるかも。
週に二回も家に来てくれて、お手伝いをしてくれてるんだし。
もちろんお金のやり取りなんかなくて、お互いに信頼してるみたいだからお手伝いさんって訳でもない。
……一番近いのは、
134ホットミルクと冬の朝:2007/10/06(土) 22:55:37 ID:ZGsf1hoQ
「……お父さんの、恋人……なのかな?」
……でも、しっくりこない。
だって、お姉ちゃんとお父さんは、キスどころか手のひら一つ握ったこともないみたいだし。
二人っきりで出かけた事だって一度もない。
前に聞いた時だって、慌てることもせずに違うって言い切ってた。
嘘かもしれないけど、私にはそうは思えない。そんな事をいう人じゃないし。

「もしもーし。どしたの姫様、黙りこくっちゃって」
……恋人じゃない理由は、いくつかあると思う。
一番に浮かぶ理由は、多分……お母さん。
お姉ちゃんはああ見えて物凄く人に気を使う性格だから、お母さんがもういなくても、絶対にそうなることを気にするだろうし。
ううん、お母さんがもういないからこそ気を使う人だ、お姉ちゃんは。

お父さんにしても、もしお姉ちゃんとそういう関係になったとして、お姉ちゃんに気遣いはさせたくないんだと思う。
……それ以前に、そもそもあんまり自分から動く人じゃないってのもあるけど。

――――何より。
やっぱり、私のせいなのかな。
お姉ちゃんは、私に凄く気を使ってくれている。
…………あたしみたいな他人なんかが家族の中に割り込んだら、いろいろと嫌でしょ? お父さんを取るつもりはないから、安心して。
前に、お父さんと結婚しないのかって聞いた時、お姉ちゃんはそんな風に答えた。
もしかしたらお姉ちゃんは、私がお父さんとお姉ちゃんが仲良くするのを気に入ってないんじゃないかって思ったのかもしれない。

お姉ちゃんもお姉ちゃんのお父さんと二人暮らしだったらしいから、お姉ちゃんの思ってたことを私に重ねたのかな。
――――他の人だったら、そうかもしれない。
でも、お姉ちゃんは、引っ越してきてからの3年間ずっと、私達を助けてくれてきた。
……お姉ちゃんなら、私は構わない。強く強く、そう思う。
お父さんだって、少なくとも再婚するならお姉ちゃんだと思ってはいるはず。

だけど。
…………それをお姉ちゃんに伝えるには、どうすればいいのかな。
お互いが大切にしてるのに、だからこそ家族になれないっていうのは、悲しいと思う。
……でも、私はそんな時、何ができるんだろう。

「こらっ!!」
ばしんっ!!

「ふぇぇえええっ!?」
い、いたぃよぉ……。
「むー、あたしを無視すんなあ!!」
「ご、ごめんね?」
うう……私って本当に要領が悪いなあ……。
はあ……。
溜息をついて横を見ると、平手で私の背中を打ったうーちゃんは、腕を組んでこっちをじっと見てる。
「……どったの?」
「え?」
何を聞いてるんだろう、って、背中をぶたれて一瞬さっきまでの事を忘れちゃったけどすぐに思い出す。
……どうしよう。
こんな事聞いても、迷惑じゃないのかな。そんな風に迷ってる私に、うーちゃんは言ってくれた。

「あたしたち、友達っしょ? こんどはあたしが助けるターンだって」
「……今度?」
聞き返すと、うーちゃんは頬をぽりぽりとかいてそっぽを向く。
「あー……、こっちの話だから。姫様は気づいてなかったろうからいいよ。
勝手にあたしが姫様と会って助かっただけだから」

……うーん、よく分かんないけど。まあ、いいのかな。
……よし、聞いてみよう。
何も変わらないかもしれないけど、それでも何もしないよりはいいだろうから。
135ホットミルクと冬の朝:2007/10/06(土) 22:59:00 ID:ZGsf1hoQ

私の事。
お父さんの事。
お姉ちゃんの事。
お母さんの事。

学校まで歩く時間で、うーちゃんに思ってることを全部話す。
私に気を使ってくれるお姉ちゃん。
でも、だからこそきっと、お父さんと付き合ったり、結婚しようとしないこと。
お母さんへの、お父さんとお姉ちゃんそれぞれの想い。
私の、お姉ちゃんへの想い。

「……どうしたら、いいのかな」
下を向いて、最後をそう締めくくる。……うーちゃんなら、どうするんだろう。

「……いやまー、したいようにするしかないっしょ」
「えぇ……!?」

ちょ、無責任すぎるよ……。
うーちゃんのほうを見てみると、ぼけっとした顔で髪の毛の枝毛を探してる。
……ひどいよ、真剣に話したのに。怒るよりも先に、涙がじわって出てくる。……すごい、みじめになる。

「……だって、さ」
「……何、かな……?」
すごい小さな声で何とか答えるしか出来ない。……私って、弱いなあ。怒ってもいいところなのに。
やっぱり、私なんかに出来ることなんてないのかもしれない。

そのとき、落ち込む私に、うーちゃんの声が、届いてきた。
「……そのお姉さんに、親父さんに、姫っちが考えてること伝えなきゃ始まらないじゃん?
その人たちには、姫様が再婚をどう思ってるか分からないんだからさ。もしかしたら、嫌がってるってさえ思ってるかもしれないわけ。
……だったら、まずそれを姫様がどうにかして伝えないと、何も始まらんと思うんよ」

「あ…………」

――――そう、かぁ。
…………関係がずっと変わらないって言うのは、それが今のところで一番、落ち着く関係だから。
波風を立てないようにする為に。……それが望ましいかどうかは別にして。

だったら――――それを変えたければ、その前提条件を変えなければいけない。
私の考えを、伝えなきゃいけない。まずは、私から始めなきゃいけないんだ。

うーちゃんを見る。
「……その、うーちゃん……」
ありがとう、そう言おうとした私の手を、うーちゃんが掴む。
「あ、え?」
「ほらほら、ナガムダバナシしてる間にもうこんな時間だよん。いそぐいそぐダッシュダッシュ〜!!」
「うわわわ……!」

そうして、うーちゃんは私を引きずって一気に走り出す。……照れくさかったのかな。
確かめたくても、うーちゃんの顔は前を向いて見えない。

「……うーちゃん」
「…………」
返事のないうーちゃんに、だけど、私はしっかりと宣言する。
「……私ね、……頑張ることにしたから。うーちゃんのおかげで、決められたから」

――――思えばこれが、私達一家の関係を変える、始まりだったんだと思う。
うーちゃんには、今でも感謝してもしきれない。
……私にとっても、お父さん達にとっても。
きっと、皆が皆、今を幸せに思っているんだろうから。
136名無しさん@ピンキー:2007/10/06(土) 23:00:07 ID:ZGsf1hoQ
以上、投下終了です。
一応、1話の3年後の話でした。
もし投下が構わないのであれば、多分次回が最後になると思います。
137名無しさん@ピンキー:2007/10/06(土) 23:01:43 ID:JPw077oy
GJ。
板にそぐわないとか次で終わりとか言わないでどんどん投下してくれ。
138名無しさん@ピンキー:2007/10/07(日) 00:19:20 ID:WZtIt7CL
>>136
GJ!
前回過去話だったから、本編はもう終わりかな?と思ってたんで嬉しかったよ。
続きお待ちしてますー
139名無しさん@ピンキー:2007/10/07(日) 13:58:11 ID:1WxSbFID
>>136
 GJ!!!
 皆幸せになれそうで、本当に嬉しい

 途中まで、うーちゃんの事を面倒見の良い男の子かと勘違いして新しいフラグwktk
 ……なんてしてたKY無い阿呆は自分だけよだな、多分……


 ツクバ氏も更新しておられて、幸せな三連休の中日で有る事よのぉー
140名無しさん@ピンキー:2007/10/12(金) 09:30:52 ID:q0yKfdg8
半端ですが出来上がったので投下
エロ無しなんで嫌な人はスルーの方向で
1411/5:2007/10/12(金) 09:32:06 ID:q0yKfdg8
ワタシ・がむしゃら・はい・ジャンプ


「…でさぁ、イズミちゃんみたいに可愛い子を周りもほっとかないっしょ?ハーフだっけ?綺麗な髪してんし。
まず友達からでさぁ、最初は虫除けって考えてくれれば…」

…一体いつまで喋るのか、この男は。
スラッとした身体、身長は180近くあるだろうか。切り揃えられた眉にやや浅黒い肌は、いかにも遊んで
います、といった感じか。長く伸ばした茶髪の奥に隠れる耳には薄く光る物が見える。あれはピアスか。
着崩したシャツとタイの組み合わせ。客観的にみれば男前の部類入るだろう。
しかしだ。昼休みになった途端に教室に入ってきて、延々ダラダラと『愛の告白』をなさって下さっている。
もう10分は経過しただろうか。いい感じにお腹も空いてきて、正直鬱陶しい。
昨日、ちゃんと断ったのを聞いていなかったのか。学校に来る前に病院に行ってもらいたい。
と、益体もない事をボーっと考えている間もベラベラと喋っている。もしかして、呼吸の代わりに喋らなければ
生きていけないのではないか?この…あー…名前は知らない。言われたような気もするが聞いていなかったので、
忘れたより知らないの方が適切だろう。

「俺も今まで何人かと付き合ったんだけど、どーもしっくりこなくてさ。でも君を見た時に感じたんだよね。
運命ってやつ?ハハ、ちょっとクサかったかな?」

……一応先輩なので――ネクタイの色で2つ上だと分かる――我慢していたのだが、流石にもう手が出そうだ。
どうせ、自分は顔が良いから振られる訳がない、なぞと自惚れた考えをしているんだろう。いや、
そーに違いない。うん。

「昨日も言ったと思いますが、あなたとは付き合えません」
「理由を聞きたいな。それじゃ一方的すぎて納得できないし」
しろよ。大体一方的にくっちゃべってんのはアンタだ!
「あ、もしかして恥ずかしがってるとか?」


ブッ殺・す。
正しい殺意を胸に秘めるていると、ガラガラと教室のドアが開く。購買組が帰ってきたのか。その中に
見知った顔を見つけ、ワタシは声を掛けた。

「拓也っ!」
「あー悪い、自販機も混んでて…ん?まだ終わってなかったのか」
こちらに近づいてきた彼の手には2つの紙パックジュース。うんうん。待ち人も来たし早くご飯を食べよう。
完全に用が無くなった目の前の物体を通り過ぎようt

「おい!」

無視された事に腹が立ったのか、先輩Aは眉間に皺をよせて不機嫌さを露わにしている。
出来るなら私の不機嫌っぷりも感じ取ってほしかったが。
苛立ちを向ける対象はワタシではなく、後から来た拓也。

「今俺がイズミちゃんと話してんだけど」
「こっちにはもう話すことはありません」
背後から素早くかぶせる。
「ンだと」
こちらを向いた先輩Aの顔は、怒りで更に歪んでいた。先輩AからチンピラAに進化(退化?)といった
ところか。
「つーか1年があんまチョーシのんなよ」

掴み掛かかりにくるのか、無造作に距離を縮めようとしてくる。まぁ非常に嬉し…いや、残念ではあるが、
護身術の餌食になってもらおう。南無。
一歩踏み出せばワタシの距離。軽く拳を握り、ほんの少し後ろに重心をやり腰を落とす。
足に力を入れようとしたところで――目の前に突然背中が現れた。

「ちょ、ちょっとタンマ」
1422/5:2007/10/12(金) 09:33:01 ID:q0yKfdg8
割って入った拓也はどうやら話し合いで収めたいのか、説得を行おうとする。そんな似非チンピラと
交渉できるのは、サミュエル・L・ジャクソンぐらいのモンだと思うけど…。

「女の子相手に力ずくで何とかしようってのは、どうかと思いますよ?そんな事したら、先輩の評判だって
悪くなるでしょうし…」
もう十二分に最悪だ、というのがこのクラスの総意だと思うけど。あまり関わり合いになりたくないのか、
遠巻きに見物しているクラスメイト達の顔を見ると、どうやら当たりのようだ。
だが、茹で上がったオツムのチンピラAは説得に応じようとはしなかった。
「つかさ、オマエ何なの?カレシじゃねーんなら邪魔しないでくれる?」
怒りで頭のギアがトップになっているのか、やたらと早口でまくし立ててきた。

1人で有害電波を垂れ流す分には問題なかったが、拓也に当り散らすなら話は別だ。とっとと退場して
もらうとしよう。
「理由」
チンピラAに敵意満載の言葉でぶつける。と、すぐさま反応してきた。
「アン?なんだよ」
「聞きたいんでしょ、断る理由。言ってあげるわよ」
「……!」
自分より頭1つ半程小さな、しかも年下の女の子に高圧的に言われ、更にボルテージを上げるチンピラA。
だが聞く気があるのか、それとも口を開くことも出来ないほど怒っているのか、押し黙ったままだった。
どっちでもいいけどね。

「まずデリカシーが無さすぎ。こんな大勢の前で告白とか正気の沙汰じゃないわね。それから、空気も
読めない。相手がどんな気分か理解するつもりがないのなら、人形とでも話してなさいよ。あと香水
がキツすぎ。臭いから近寄らないで」
ワンブレスで一気に告げる。
「な…てめっ…!」
トドメ。
「それに…ワタシの趣味じゃないの、アンタ」

完全にキレたのか、言葉を発せずに突進してくるチンピラA。
今度は拓也が割り込むよりも疾く相手の懐に入る。こちらから踏み込んだので、殴ろうとしていた拳が
行き場を見失い迷う。届くまで余裕が生まれた。
自分より小さな相手に大きく振りかぶるなよ、などと考えながら、横に向けた右足の踵で相手の左足の甲を
思い切り踏み抜く!
「がぁっ!」
ドンッ!と鈍い音が響き、痛みで体を縮めようとする。下がってきた頭に、折り畳んだ腕をフックの要領で
真横に振る。結果、ワタシの右肘が相手のこめかみにヒットし、チンピラAは倒れてしまいましたとさ。

ふぅ。
邪魔者を廊下に捨ててようやく一息。
「さ、早くご飯食べよ」
周りも見慣れた光景なのか、既に昼食を再開していた。
…賭けがどうのと聞こえるのは気のせいだろう。

「泉、やりすぎだよ。こういうの良くないんじゃね?」
ああ、心配してくれるのね拓也。でもまあワタシと拓也の昼食を邪魔したのだ。滅んで当然。
「天誅よ、天誅」
当たり前だ、と自信満々の顔で頷いていると、拓也がジト目でつっこんできた。
「俺には神の雷じゃなくて、泉の肘が炸裂したように見えたけど…」
むぅ、冷静に攻めてきたわね。だがこちらにも言い分がある。
「初めからこっちの話を聞こうとしないんだもん。言ってきかないならってやつよ。それにダラダラと
引き伸ばしても付け上がるだけよ。バッサリいかなくちゃ」
物理的にもバッサリ。

「まぁそうかもしれないけどさ、限度があるだろ。これで2人…だっけ?」
「3人よ。………今週は」
1433/5:2007/10/12(金) 09:34:57 ID:q0yKfdg8
この半年間なにかのキャンペーン期間なのか、1日おきぐらいにこうやって告白を受けては断っているのだった。
酷い時は昼休みと放課後のダブルヘッダー。
イタリア人を母親に持つワタシは地毛が金色で、どうにも目を引くらしい。
手紙だと指定の場所へは来ないと分かったのか、最近は教室に押し掛けてくるようになった。

非常に面倒だと思っている反面、堂々と告白やラブレターを渡してくる彼らを羨ましく思った。
その強さの何分の一かがあれば、今よりも拓也と進んだ関係になっているはずだから…。

DA・GA!それも昨日までの話!
今、ワタシの鞄の中にはこの現状を劇的に変える秘密兵器が眠っている。制作期間1ヶ月、ワタシが泣いた
超大作。――うん、まぁラブレターなんだけどさ。
これを下駄箱に入れることが出来れば、今日登校してきた意味があるというものだ。
いつもは眠気を誘う昼食後の授業も、目的の時間が近づいているためか目蓋は落ちてこなかった。


そもそも何故こんな面倒な事をするのかというと、キッカケは夢だ。

暗いリングの上で目覚めたワタシは、人の気配を感じて振り向いた。そこには仁王立ちで佇む黒い人間。
……なんでブアカーオ・ポー.プラムック?
『泉、お前に伝えることがあル』
さらに何故日本語?大体、時期的にはアンディ・サワーじゃないの?
『うるさい黙れ泣かすゾ』
口に出したつもりはないのだが、どうやら相手には伝わっているらしい。といっても別に驚きはしない。
ここ最近、似たような夢を見ているからだ。出てくる人は毎回違うが。この前はジェット・リーだったし。
そして、続く言葉の内容もある程度予想できた。
『分かっているなら話は早イ。泉ヨ。攻める心を失った戦士は豚ダ。飼い馴らされ、爪と牙を捥がれ枯れてゆク』
他に表現方法はないんかい。
『チャンスを生み出すのも掴むのも自分ダ』
今度は無視して続けるブアカーオ。
…分かってるわよ、そんなこと。

ぶつぶつと悪態をついてる内に目が醒める。
夢というのは本人の願望が見せるものらしい。片思いに決着をつけろ、ということだろう。訳は分からないが
意味は良く分かる夢だ。
それから手紙を書き始め、清書に清書を重ねてようやく出来上がったのだ。長ったらしい文は結局短く纏った。

直接言わないのか、だって?それは…まぁ…アレよ、アレ。ねぇ。
ヘタレとかゆーな。当たってるから。標的の家の前で5時間粘って諦めたのも秘密だ。教えない。
未だに近くにいると緊張するというのに、面と向かって告白するのは難度が高すぎる。
98’のレベルMAX、5ステージ目の大門にパーフェクト勝ちするぐらい難しい。


とゆーワケで、今日ワタシは生まれ変わるのだ!9年目の友人関係に終止符を打ち、過去の自分にグッバイ。
拓也が音楽室の掃除をするのは分かっている。絶好の機会だ!
拓也に先に帰ると告げ、下駄箱へ向かう。人がいなくなるのを見計らって、いざトライ!!
1444/5:2007/10/12(金) 09:42:10 ID:q0yKfdg8
すーー、はーー。
大きく深呼吸を行い、呼吸を整える。乱れた呼吸は精神も乱す。何度か繰り返す内に規則的なリズムに戻った。
大丈夫、落ち着いた。
……この行為も6回目なワケだが。
パンチドランカーの様に震える手も収まり、手紙を潰さないように力を入れていた手も緩める。
よし、今度はいける。目的の位置まで腕を上げ、フタを開けて入れる。簡単だ。
だが時間が止まったかの様に、また動きが止まる。手がカタカタと震え出し、息が荒くなる。
駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!!
こんなんじゃいつもと変わらない!ここでやれなきゃ、これからも無理に決まってる!

さぁ10代、見せてくれ青春と根性!!!
バチィッ!

元気の出る歌の歌詞を心の中で叫び、頬を叩き気合を入れる!
意気込みに反して遅々とした動きだが、確実に腕が上がってゆく。爆発物を取り扱うかのような慎重さで
手紙を靴の上に置き、気が抜ける。

だから、後ろから来ている人物には気付かなかった。

「あれ?泉、先に帰ったんじゃなかったっけ?」

「はえっ!!?」
バンッ!!

さっきまでの自分が嘘だったような高速の動きで閉める。…み、見られてないよね?

「なんか用事あったんじゃないのか?」
グルグルと頭の中が回っている。ヤバい何か答えなきゃ!
「あ、あーっと、ちょっとね。よくよく考えたら大した用事じゃなくて、その…」
出来るだけ平静を装い答える。声は裏返って、目は泳いでるけどねっ!
「それで、今ちょうど帰るところというか、なんというか…」
しどろもどろの見本みたいだな、ワタシ。
「そっか、なら一緒に帰ろうぜ」
深くは追求してこないようだ。た、助かったー…。
1454/5:2007/10/12(金) 09:42:48 ID:q0yKfdg8
いや待て。ここで靴を出されるのはマズイ。目の前で読まれてしまっては、何の為に手紙にしたのか分からない。
けど、ここで下駄箱の前を防ぐのは不自然だ。どうする?Doする!?

よほど変な顔をしていたのか、拓也が怪訝な表情で近付いてくる。
「大丈夫か?顔が真っ赤だぞ、おい。風邪か?」
心配してくれるのは嬉しいが、嬉しさに浸っている場合じゃない!
前門の狼、後門の虎とかいう諺をこんなところで思い知るとは!
そんな下らない事を考えている間にも、拓也は歩みを進める。ヤバイヤバイ!
あ、あれ?ちょ、ちょっと待った。近すぎない?
ワタシが普段保っている距離をアッサリと踏破し、さらに近付く拓也。本当にヤバイって!
焦りと緊張で混乱したワタシは、動けずに立ち尽くしていた。
ふわっ、と前髪を掻き分け、おでこに添えられる温かい掌。首を傾けるだけでキスが出来そうな距離。
「やっぱ熱いな。送ってくから早く帰ろう」
あまり背丈が変わらないため、吐息が顔にかかる。

も う ダ メ だ !

「……う」
「う?」
鸚鵡返しに訊ねてくる拓也。だが理性が死んでいるワタシは、回りが見えない。本能が爆発せよ、と命じるので従う。
「うニャーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
ガスッ!!
「あがっ!?」

内に溜まったエネルギーを放出するため、一番動かし易い器官を最大限に。下がっている腕を全力で振り上げる。
とどのつまりバンザイだ。…進路上にあった拓也の顎を打ち抜きながらの。
拓也が後ろに倒れるが、まだそれを脳が理解しない。
残ったエネルギーが足へと向かうのに抗わず、ワタシは大声を上げながら校門へと走る。


そこからはよく覚えていない。


1465/5:2007/10/12(金) 09:43:18 ID:q0yKfdg8
「い…っつう」
倒れた時にぶつけた後頭部も痛むが、顎の方に比べれば可愛いものだ。ズキズキと痛む顎を押さえながら
立ち上がる。
言い方は悪いが、泉が奇行に走るのは割とよくあることだ。今回はなかなかレベルが高かったが。
走り去った方を見ると薄く砂煙が舞っていた。今からではもう追いつけないだろう。諦めて1人で帰る
ことにする。鞄を拾いながら理由を考えてみる。
(やっぱ無遠慮に触ったからかな?アイツ男嫌いっぽいし)
自分が例外であるとは、微塵も思い付かないようだ。半分的外れな反省をしていると、
カサッ
靴を取ろうとしていつもと違う感触が混じっている事に首を傾げる。
「何だこれ?」



「ワタシの馬鹿野郎…!」
ベッドにつっぷしているので、くぐもった声が耳に響く。気を紛らわす為にかけたイナ戦のCDも、
全く慰めにならない。爆音で流していたので、ママに「もうちょっと女の子らしい曲聴いたら?」などと
言われてしまった。余計なお世話だ。

ギロと机を見る。乱暴に置かれた鞄の横。
白い便箋。………………ラブレターの『中身』だ。

気が滅入ってきたのでまた枕に顔を埋める。
はあぁ〜。
この1ヶ月は何だったんだ…。今更このラブレターを渡す気にはなれない。それはいい。いやよくないが。

それよりも今日の事だ。目的のブツが手元にあるということは、ワタシは全く無意味に拓也を殴った
ということだ。
じわじわと後悔の念が押し寄せてくる。ソレから逃れるため、ベッドの上を転げ回る。
「うあ〜〜〜〜〜」
ゴロゴロゴロゴロゴロ…ドサッ

落ちた。

「………!もうっ!こんなオチいらないって!!!」



その夜、ワタシの部屋から越中詩郎のような雄叫びが響いた。
147名無しさん@ピンキー:2007/10/12(金) 09:51:15 ID:q0yKfdg8
以上です。4が2つあるのは仕様。ゴメン行数考えてなかった…
気の強い娘を書こうとしたら、強い娘が出来てしまった不思議

名前に違和感を感じるのは気のせいです
デジタルな化け物の4作目とは無関係です
名前を考えるのが面倒だとか、和田○司のCDを聞いてたからなどではありません
タイトルもイナ○マ戦隊が好きだからではありません

ほ、ホントなんだからねっ

つーか全然しおらしくないなコイツ…
148名無しさん@ピンキー:2007/10/12(金) 12:00:42 ID:zsN4Gzma
よし
気の強さは十分だ

次はしおらしくなるパートを待ってるぜ
149名無しさん@ピンキー:2007/10/12(金) 12:46:18 ID:96yMEMvF
>>147
GJ!
テンパり具合が可愛いwww
150名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 01:11:44 ID:evszLMqs
病弱スレにいい具合のしおらしい娘がいたお
151名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 00:57:11 ID:m3iZzDFq
明日、アップします。

「生理少女」


152147:2007/10/16(火) 08:49:01 ID:C8EffZkG
続きが出来たんで投下
無駄に長いんで2回にわけます。早ければ今日の夜にでも

やっぱりエロは無いです
1531/11:2007/10/16(火) 08:50:19 ID:C8EffZkG
ワタシ・がむしゃら・はい・ジャンプ 2


「おい!キンパツがきてんぞ!」
「うつるからアッチ行けよなー」
「あはは!」


幼い頃、ワタシは虐められていた。

7歳の時に、ワタシの家族はパパの仕事の関係で日本に引っ越してきた。
パパが日本人で、家の中では日本語を使っていたので話す分には問題無かった。ママも日本がどんな所か
興味があったみたいで乗り気だったようだ。3月の内にこちらに全て荷物を移し、4月から日本の小学校の
2年生として登校する事になった。

2年間で1区切りとするこの学校は、クラス替えをする事無く1年生のメンバーそのままになっていた。
1年間で仲の良いグループが確立されており、クラスの中にワタシの居場所は無かった。
当時のワタシは大人しく内気で、自分の意見を出せないのにも問題があったのだろう。

集団は異端を嫌う。巨大な組織も30人程度の学級もそれは同じ事だった。ママ譲りの金の髪に、ほんの少し
色白い肌。見た目が違うという単純明快な理由で、ほどなくワタシはイジメの対象となった。
1週間しか経っていないが、男子からの嫌がらせと女子からの無視は、弱いワタシを「死にたい」と思わせる
には十分だった。


(…学校、休みたい…)

ママに玄関まで見送られ、仕方なく学校までの道をトボトボ歩く。引っ越して1ヶ月弱のワタシには、この街で
逃げ込む場所に見当がつかない。結局学校にしか行けないのだ。

(なんでママがイタリア人なの?なんで日本に引っ越したの?なんでパパと結婚したの?なんで…)

嫌な考えが次々と浮かび、ワタシはそれを払うように首を振った。

1542/11:2007/10/16(火) 08:51:41 ID:C8EffZkG
どれだけ遅く歩こうとも、目的地が動かない限り辿り着いてしまう。この廊下を進めば自分のクラスだ。

(やだなぁ…)
などと考えていると、

「おれはそーゆーのが大っっキライなんだよっ!!!」

遠くからでは分からなかったが、どうも教室の方が騒がしい。廊下に人だかりができており、中を見物していた。
自分も遠目から覗くと、どうやら男子達がケンカをしているようだった。
と言っても、片方は4、5人でもう片方は1人だったが。
多人数に殴られながらも怯む事無く抵抗していた。

(…あっちはいつもワタシにいやがらせする人たち。こっちは…?)

確かクラスメイトの1人だと思うが、名前が出てこない。印象といえば、いつも怒ったように攣り上がっている
眉毛だろうか。話したことはなかったハズだ。

「いいカッコすんなよなー!」
「こいつキンパツが好きなんだぜ!」
「げー」

囃し立てられている間にも、手近にいた男子を殴り飛ばす彼。

よく分からないがワタシが関係しているらしい。
殴られてヒートアップした彼らは、また攻撃を再開した。が、すぐこの後に先生がやってきて事態は治まった。

1限目を使い、先生はケンカの理由を聞いてきた。
彼――拓也くんの言うには、今日の体育の時間にワタシの洋服を隠すため、その手伝いをしろと言われて
断ったからケンカになったのだそうだ。ワタシを虐めていた連中はそれに反論した。「ウソだ!」「拓也が
先になぐったんだ!」と。
先生はどちらの言い分も信じなければならない、と体のいい言い訳をし、その場を収束させる。


その日からワタシだけでなく、拓也くんもイジメにあうようになった。

1553/11:2007/10/16(火) 08:52:43 ID:C8EffZkG
夕陽が差し込む教室で、鉛筆の音だけが響いている。
ワタシと拓也くんは向かい合わせに座り、お互いの顔を画用紙に描いていた。
会話がなく気まずい雰囲気が漂う。
何故こうなったのか?思い出そうとすると、また涙が出そうになる。


今日の図工の時間は友達の顔を描く、というものだった。
けれどもワタシ達は仲間外れにあい、必然的に2人でペアを組むこととなった。
と言っても最近は似たような場面が多い。2人の間に会話は無く多少の息苦しさはあるものの、そんなに
イヤではなかった。

(どうしよう…)
顔を描こうとすると、どうしても怒り顔になってしまう。今まで彼が笑ったところを見た事がないからだ。
(イヤだよね、やっぱり…)
輪郭は出来上がるが、どうしても顔が描けない。次の時間までに下描きを終わらせなければいけないのに…。
そうこうしている内にチャイムが鳴ってしまった。


ワタシ達のいる班は体育館前の掃除当番になっていたが、他の人達はサボって現れなかった。拓也くんは
「来れないならちゃんと言えよな」と愚痴を溢していたが、素早く掃除を始めた。慌ててワタシも手伝い、
いつもより早く掃除は終わった。

教室に戻ると、前にいた拓也くんが足を停める。
「どうしたの…?」
不安になり尋ねる。視線がやや下の方に向いていたので、後ろから覗き込むようにその先を追った。

そこにあったのはバラバラに破かれた画用紙だった。ワタシと拓也くんの。

「うっ…うう…」
悲しみで涙が滲み、力が入らず膝が折れる。
(…もうやだよぉ)
なんでワタシ達ばかり。いや自分はまだいい。でも拓也くんは…
「泉さん帰ってから何かある?」
唐突に振り向いた拓也くんはそんな事を訊いてきた。
弱々しく首を横に振ると
「下描きしていこう。これじゃ次の時間にまにあわないよ」

1564/11:2007/10/16(火) 08:53:41 ID:C8EffZkG
やっぱり顔の部分で止まってしまう。向こうは描けているのだろうか?少し気になったが、この体勢では
確認のしようがない。
手が動かないと、次第に頭を厭な考えがもたげてくる。

「…どうしてあの人たち、こんなことするんだろう…」
とにかく誰かに聞いて貰いたかった。自分の暗い感情を吐き出し、受け止めてほしかった。同じ境遇にいる
彼なら賛同してくれるだろうと思った。が、

「泉さんはあいつらがしているところを見たの?」

返ってきたのは予想外な答えだった。

「見てないのにきめつけたらダメだよ」

自分勝手な考えだが、味方だと思っていた。その彼に拒絶され、世界が終わったような感覚に襲われる。
彼の表情と合わさって、まるで怒られているようだ。
怒られ…?そうだ。怒っているのではないか?彼は巻き込まれたのだ。弱いワタシが引き摺り込んだ。
彼は全く屈しなかったが、そもそもワタシがいなければこんな目にあっていない。

「………ごめ…ん…なさい」
「あ!ゴメン、そんなつもりで言ったんじゃなくて」
慌てて弁解しようとする彼を遮る。
「ち、違うの…。ううん、それもあるんだけど…。ワタシのせいで拓也くんもイジメにあわせちゃって……」
本当はもっと早く言わなければいけなかったのに…。後悔や情けなさで胸が痛む。
「いいよ。それはアイツらの方が悪いんだし」
強く否定してくれる事にほんの少し安堵する。…最低だワタシ。

でも分からないことがある。何故彼は…
「……なんであの人たちとケンカしたの?」

楽しい事をしていれば笑っていられる筈だ。けれどもこの1週間、ワタシは彼の笑い顔を見た事が無かった。
それはやっぱり辛いからじゃないのか。現にワタシは最近笑った記憶が無い。
イジメに加わらないまでも、無視していれば今よりもずっと楽だったろうに…。
言い難いことなのか、彼は黙ったままだった。

1575/11:2007/10/16(火) 08:54:59 ID:C8EffZkG
意を決したのだろう、ゆっくりと口を開く。

「義を見てせざるは勇無きなり」

「…ぎをみて…え…?」
難しい言葉だ。一体何なのだろうか?

「『悪いことしてるのを見すごすのは弱虫のやることだ』ってイミなんだって。父さんにいつも言われてんだ」

そんな…そんな理由なのか?そんな理由で、毎日頬を腫れ上がらせたり引っ掻き傷を負ったりしているのか?
あんなに大勢とケンカしても平気でいられるのか?

「でっ、でもっ!あの中に友達だっていたんじゃ…!」
1年間学校に通っていたのだ。いない方が不思議だ。
「あんなことして笑ってるヤツラなんか、友達じゃないよ」
口をへの字に曲げ答える彼。
さらに反論しようとするワタシを制し、こう続けた。
「それに友達ならいるし」

…やっぱりそうか。学校で他の誰かと話しているところを見た事はない。ならば学校の外か。結局1人なのは
自分だけ。ジワリと黒い感情が噴出す。
………なんでこんなことしか考えられないんだろう。自分自身に吐き気がする。

「友達なら泉さんがいるからいいよ」

…………………え?
言葉を頭が理解出来ない。今なんと言われたのか?ワタシが……どうして?

「や、やっぱりイヤだった?ごめっ、その泣かせるつもりじゃ…!」

指摘されて気付く。頬に冷たい感触。涙が頬を伝っていた。

1586/11:2007/10/16(火) 08:55:38 ID:C8EffZkG
「うう……!ひっ…えぐっ……!」
1度認識してしまうと止まらなかった。決壊した涙腺は次々と涙を外へと押しやる。

「お、おれがかってに思ってるだけだからっ…!」
嗚咽で上手く喋れない。慌てふためく彼に伝える為、ブルブルと首を振る。
唯々嬉しかった。迷惑ばかりかけていたワタシを友達だと言ってくれた。

「えっと、じゃあ友達になって下さい」
ちゃんと言わなかったのを無礼だと思ったのだろうか、目の前に手を差し出してくる。比喩ではなく、暗い
どん底に蹲っているワタシに差し出された、救いの手だと感じた。それに応えるべく、今まで俯いていた
顔を上げる。


握った手の先。彼の顔は――眉がまだ少し上がったままで、照れているのか頬は薄く赤らんで、にこり
というよりはニカッといった感じだったが――笑っていた。


それから色んな事を教えてもらった。
両親が昔不良で、よく見た目で勘違いされたり濡れ衣を着せられたりしていた為、証拠も無しに人を疑うな
と言われていた事。
自分が生まれると分かってから、猛勉強をして警察官になった父を尊敬している事。
……あまり女の子と話したことが無かったので、顔が強張って怒っているように見えていた事、等々。

出来上がった画は、お世辞にも上手いとはいえない代物。
それを見た彼が「おれこんなに笑ってるかなぁ…」と呟いたのが、何故かとても可笑しかった。



強くなると決めた。
こんなワタシに友達になろうと言ってくれた。
友達ということは同じ立ち位置、対等の立場ということだ。
弱い今のワタシでは、強い彼とは到底つり合わない。
優しい彼は「そんなことない」と言うのだろう。けれどワタシはそうは思えない。
だから、いつかきっと彼と同じ目線で話が出来るように――――。

159147:2007/10/16(火) 08:56:53 ID:C8EffZkG
とりあえずここまで
160名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 13:09:44 ID:j2uHMuEp
>>159
GJ
「義をみてせざるは勇無きや」を見て大神思い出すのは俺だけで十分だ。
161名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 00:07:07 ID:eEfk4oIv
つまりアマテラスは強気なメスで交尾のときは
しおらしくなるって事だな?
162147:2007/10/17(水) 01:49:16 ID:W1/41lXc
続きです
1637/11:2007/10/17(水) 01:50:17 ID:W1/41lXc

はいっ!回想しゅーりょー!

くわっ!と目を開き、足を天井に向けて上げ、下ろす反動を使ってベッドから飛び起きる。
凹んだ時はいつもこの場面を思い出す。戒めと目標の再確認。それからエネルギーの補給も少々。はあ〜、
拓也カッコええわぁー。じゅるり。
…いけない。またトリップしている場合ではない。

あれから拓也と同じ道場に通い、確かに肉体的には強くなった。だんだん自分の意見も出せるようになった
と思う。ママが言うには「口が悪くなっただけなんじゃない?」だそうだ。はは、超余計なお世話。

だけど。だけど!一番伝えたい思いを、一番伝えたい人に、全く伝えていないという事態!
昨日の『プロジェクト・ラブレター』は、諸々の事情により失敗に終わった。
そもそも、渡されたラブレターを目の前で破り捨てているワタシが、誰かにラブレターを渡したとして相手が
納得するだろうか?
否!断じて否!つまりこれは、初めから失敗する運命だったのだ!
…ポジティブシンキングって大事。うん。

やはり直接伝えるのが一番だろう。面と向かって告白するのだ。…す、すすすっ、す…まぁアレだ。
……ええい!頭のなかでも言えないんか、ワタシはっ!

か、顔が見えるのが駄目なら電話で…!いや、それならメール……待て待て。また後ろ向きに前進してる。
これは奥の手も用意しておいた方がいいかもしれない。
寝巻き代わりにしていたタンクトップとホットパンツを脱ぎ、姿見の前に立つ。
流れるような金砂の髪。鍛錬により程好い肉付きと適度に締まった身体。イタリア人の血が成せる業なのか、
標準以上に育ちつつ、ツンと上を向く張りのある乳房。自分で言うのもなんだがかなりの良プロポーション
のハズだ。
お尻はもう少し小さくなってもらいたいところだが……。むに。
ライトグリーンの下着を取り出し身に着ける。ちょっぴりレースの入った、地味過ぎず派手過ぎずの一品。
最終的にはこの身体で色仕掛けを使ってでもっ……!

…ハッ!告白できないヘタレが、色仕掛けなんてできるかっつーの。
……………………ポジティブシンキーーン!!

1648/11:2007/10/17(水) 01:52:00 ID:W1/41lXc
一人コントに見切りをつけ、さっさと学校へと向かう。

告白するならやっぱり2人きりで。場所は?時間はどうする?昼休み?放課後?
机に座っても授業内容そっちのけで考えていた。そうこうしている内に昼休みとなり、アッサリと第1の
チャンスを見逃す。

(悩んでちゃ駄目よね。倒れるにしても前のめりじゃなきゃ)
玉砕するつもりは毛頭ないが。

「……ずみ、泉!」
大声で現実に呼び戻される。
「あ、何?拓也」
「何って、どうしたんだよ今日は。ボーっとしたままでさ」
見ると、拓也は既にご飯を食べ終わっており、暇を持て余しているようだった。ワタシのお弁当にはまだ
半分残っている。
言わなきゃ。こうなったら放課後だ。場所は?…教室にしよう。「放課後、教室で待っててくれる?」よし。
この玉子焼きを食べたら…。
こ、この唐揚げを食べたら……。
ごっ、ご飯を食べ……………終わっちゃったよ。
びびるな!いけ!
「…ほ」
「今日なんか用事あるか?」
「別にないけど」

ワタシの馬鹿野郎!!
パブロフの犬かワタシは!拓也の言う事なら何でもきくのか!きくけど。

「ならさ、掃除が終わったら教室で待っててくれよ」
「うん。あ、でもなんなの?」
「あー、ちょっとな。その時に言うから」
…珍しい。即断即決の拓也が言いよどむとはまたレアな。

1659/11:2007/10/17(水) 01:52:50 ID:W1/41lXc
好機。結果オーライだ。…結局拓也の手を借りてしまう形になってしまい、心が痛む。
ならばこそ、この機会を活かすんだ。拓也にワタシの想いを伝える!

教室の掃除も終わり、残っているのはワタシ1人。太陽が西に傾き赤が差し込んでいる。
今朝の事もあるのか感傷的な気分にさせる。
(あの時は拓也からだった。だから今度はワタシの方から言うんだ…!)

もうすぐ拓也も来るだろう。掃除は週番制で、今日も音楽室の掃除のハズだ。相方の女子は先に帰って来た。
拓也は職員室に鍵を戻しにいっているらしい。
まだ残ってたんだと聞かれ、拓也を待ってると言うと「頑張ってね」と返ってきた。
………バレバレじゃん。

すー、はー。
昨日と同じ様に大きく呼吸し、心を落ち着ける。平常心。平常心だ。

タッタッとこちらに近付く足音。それに合わせて、規則正しかった心音も徐々に速くなってゆく。
ガラッ
「悪い、待たせちゃったな」

………きた!

「ううん。大して待ってないよ」
まるでデートの待ち合わせをするカップルみたいな会話。
デートとかゆって〜〜、てれりこてれりこ。…そんな関係になるかどうかは、この一戦に懸かっている。
絶対に負けられない。
っと、拓也の方から話があるんだっけ。何だろ?

「えっと…、その…あ〜、なんだ」
言い難い事なのか、俯き後頭部を掻きながら言葉を探している彼。
うーん、もうちょっと見ていたい気もする。が、ワタシに言い難い事とは一体何なのか?
はっ。まさか報復?……十分あり得る。昨日の事は言うに及ばず、これまでに何度も拓也を殴ってきている。
照れ隠しの結果なのだが、殴られた拓也はそれで納得できるハズがない。
お仕置きされるのだろうか。………………トキメク響きだ。

16610/11:2007/10/17(水) 01:53:40 ID:W1/41lXc
バチィッ!!

突然の快音に、桃色の妄想がかき消される。見ると拓也が自分の頬を張っていた。
よし、と小さな声が聞こえ、真っ直ぐな視線をコチラに向ける。
射抜かれるとはこういう事か。ワタシは拓也に見つめられ金縛りにあう。体温も上昇しているのか体が熱い。
8ビートを刻む心臓がうるさい。聴こえないよね?

拓也の口が、ゆっくりと開いていく。

「ずっと好きでした。俺と付き合ってください」

…………………え?
言葉を頭が理解出来ない。今なんと言われたのか?ワタシが……どうして?

「あっ!や、やっぱイヤか?泣かせるつもりじゃ…!」

指摘されて気付く。頬に冷たい感触。涙が頬を伝っていた。


同じだ。あの時と。結局ワタシは強くなってなどいなかった。前に進んだ気になって、力一杯その場で
足踏みをしていただけ。愚図で弱虫のまま何も変わっちゃいない。
あの時は嬉しさだったが、今は情けなさで涙が止まらない。

「…ゴメンな」
「…ちがっ、ひくっ……ちが…ぅの…!」
すまなそうに謝る拓也に、違うのだということを懸命に告げようとした。
ぽすっ
と、拓也に抱きしめられる。そのまま何も言わずに頭を撫でてくれた。

「うわああーーーーー!!!」
何かにしがみついていないと立っていられない程不安定だったワタシは、拓也の胸を借りて泣き続けた。

16711/11:2007/10/17(水) 01:54:17 ID:W1/41lXc
暫くして、自分の胸のうちを全て吐露した。

友達だと言ってくれて嬉しかった事。
強くなって、拓也と同じ目線で話せるようになりたかった事。
……あの日からずっと好きだった事。

ワタシから告白して強くなった証拠が欲しかったのだ、と言ったら、

「よかったよ」
「…何が?」
「こういうのは男の方から言いたいじゃんか」

見上げた先には、あの顔で笑う拓也がいた。
…そーゆーの反則だって。

「あんま無理すんなよ」
「え?」
「泉が頑張ってきたのは、ちゃんと知ってるから」
優しく力を込められ、また少し泣いた。拓也の言葉はすんなりと心に響くから不思議だ。

でもこれだけは言わなくちゃ。絶対に有耶無耶にはできない。
拓也から1歩分距離をとる。暖かな感触から離れ強烈な喪失感が襲う。残念がるな。応えるのがワタシの
義務だ。拓也の方へ手を伸ばし言う。

「…こんなワタシでよかったら、喜んで」

―――ちゃんと笑えていただろうか?


それから後はありきたりなお話。熱烈で濃厚なちゅ、ちゅーをして。手を繋いで一緒に帰って。別れ道で
離れたくないと言って。…………その先はトップシークレットだ。聞きたいならワタシを倒してからにしろ。
168147:2007/10/17(水) 01:54:54 ID:W1/41lXc
以上です
169名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 02:09:36 ID:AdvJbiKL
おいおいおいおいおいおいおい

これはGJと言わざるをえない
ていうか、ちゅーだけでも照れるのかよ泉
こんなだったらえっち描写なんかしちゃったら死んじまうなwwww


で、当然あるんだよね?うれしはずかし初えっち編(濃厚)
170名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 03:19:47 ID:si2AK5r8
GJ。
171名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 03:34:30 ID:JpCHsweh
さあ、続きだ。
こんなGJなもん見せられて期待しないではいられない!



てれりこってさ、何のネタだっけ(´д`;)頭から離れん
172名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 04:04:09 ID:viLAszTz
>>168
萌え死にしそう……
173147:2007/10/17(水) 04:15:13 ID:W1/41lXc
>>169-172ありがとう

てれりこは「それは舞い散る桜のように」ってエロゲ
他にもぷじゃけるなとか適当に生きるなとか、名言の多いゲームでした

エロはあるさ!みんなの心の中に…!
…ごめん、エロスキルが俺に無いばっかりに
174名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 13:44:26 ID:Bs7+o1p7
>>173
残念では有るが気に病むな、大丈夫、エロパロ板住人の妄想力は世界一。

しかし一つだけ言わせてもらう!
小町は俺のよ、じゃなくて
個人的にそれ散るの名言は「キミ、スペアリブとポテトのソテー、でもなくて
よくやった!GJ!
175171:2007/10/17(水) 15:55:45 ID:JpCHsweh
あー!それちるかー!
思い出せたよ。ありがとう
176名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 03:55:57 ID:yQPttMJN
>>173み な ぎ っ て き たぁぁぁ!!!
が、このエネルギーは何処に放出したらよいのでしょうか?
もの凄く癒された。鬱物見た後だったから、なおさら幸せになれた。ありがとう。
GJ!

とりあえず余剰エネルギーは俺の妄想で解消させときますね。
177名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 00:24:33 ID:hEyCb3Es
>>173
てゆーか、あれだ。
個人的に言わせて貰うなら、エロが無くても続きが見たかったぜ。
178名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 00:53:54 ID:om3UnWx4
(´_ゝ`)オレモオレモ
179名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 11:09:36 ID:Q18xdJGA
エロなくてもいい、おもしろかった!GJです。

さて、ホットミルクの続編がそろそろ読みたいとか言ってみる。
180名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 22:05:42 ID:kIybZCHk
今書いてる途中です。
とりあえず10月中にはどうにか……。それまで待っていただければ。
181名無しさん@ピンキー:2007/10/21(日) 22:53:04 ID:ZBi/jNE/
>>180
まってるぜー
182名無しさん@ピンキー:2007/10/24(水) 06:47:00 ID:3eCAjXQu
ホットミルク続き待ってる。毎日チェックしてるぜー
183名無しさん@ピンキー:2007/10/24(水) 07:13:07 ID:XUitX7bj
カレーワッフルを待ち続けて毎日(ry
184名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 19:26:23 ID:jxXVyhxb
カレーワッフルはないけど、ツクバ屋さんが更新してたよ
185名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 01:08:27 ID:IRLujB8q
>>184

ありがとう、愛してる
186180 ◆XfvzyYGOPA :2007/10/28(日) 09:20:40 ID:kwFlgqZo
すいません、10月中と言いながらリアルの予定がかなり切羽詰っていて無理そうです……。
同じ時間をかけても、合間合間に書くより一気に書かないと調子が出ないようで。申し訳ないです。
半分しか書けないとは、ほんと自分の未熟さが……。
あと、今更と言えば今更ですが、とりあえずトリを。
187名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 21:58:23 ID:Cq951XP0
「何? ワッフルを食べたことが無いとな」
「ええ、この形は…見たこともありません」
 テレビのCMを見ていた我が幼馴染がそんなことを言い出すので、恋人の身としては作ってやらざるをえない。
「…何してるんですか」
「ふぁふぇふ、はへふぁは」
「口から出して喋って下さい」
「むぅ。せっかく口移しで食べさせてやろうというのに」
 呆れたような顔で見られる。
「また馬鹿な真似を…」
「馬鹿とは何だ馬鹿とは」
「事実です。それ以上でも以下でもありません」
「くそっ、えーいわかった、口うつしは止めだ。何か別の…」
 と言うと、何やら捨てられた子猫のような視線を向けられた。
「…何、勝手に止めてるんですか」
 すすっと手が伸びて来て、Tシャツの端っこをきゅっとつままれる。
「馬鹿って言った」
「…でも、嫌だなんて…一言も…」
「そうか。なるほどお嬢様は口移しワッフルを御所望と見える」
「わ、わたくしが望むのではありませんっ! これは、そ、その…」
「正直に言わないとお預け」
「…う………いじわる……きらい、です」
 ということで二人で食べてみた。大変美味しゅうございました。

 そんな保守。
188名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 22:38:39 ID://qBa8Jx
>>187
思い切り抱き締めながら背中をバシバシ叩いて良いかな?
GJ!
189名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 00:34:18 ID:/DCqJXzT
>>188
GJ
190名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 00:35:23 ID:/DCqJXzT
間違えた
×>>188
>>187
191188:2007/10/29(月) 22:58:39 ID:v5dxGP3p
>>189
俺にGJされても困るぞww
192名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 16:29:16 ID:g76Mhq6G
ええい ! ちゅうもん した かれぇわっふる は まだ こない の か !
193名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 16:43:11 ID:v/qYdxum
>192

このレスを見たら月が変わったんだなって実感するんだよなぁ
194名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 19:46:37 ID:JqoXWC0H
前スレで出た
実際にカレーワッフル作って食べた
やつで妄想すればいい


と思うているのはおれだけ……?
195名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 20:12:09 ID:GUd7k+6s
つーかカレーワッフルの作者もうこのスレにいないかもね
196名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 20:15:30 ID:v/qYdxum
仕方ないな…一つ考えてやるか?
けどカレーワッフルってハードル高いよなぁ……オレには無理かな?
197名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 21:27:25 ID:g76Mhq6G
>>196
今年中に作ってくれ
198196:2007/11/01(木) 23:34:40 ID:v/qYdxum
一応書けたけど、あまりカレーワッフル関係ないわort
もったいないから投下はしてみる。
でもカレーワッフルじゃないと思うから、ダメな人は飛ばしてくれ。
199196:2007/11/01(木) 23:35:53 ID:v/qYdxum
キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン

午前中の退屈な授業も終わり、待ちに待った昼休み。
弁当箱片手に、急いで光晴のクラスに向かう。早く行かなきゃ始まっちまうぞ!
光晴の隣という特等席で、これを見るが楽しみで学校に来ているようなもんだ!
光晴のダチでよかったよ。おかげで毎日退屈せずに済む。

「お〜い、光晴〜!メシ喰おうぜ〜」
「ちょっと待ってくれ。オレのメシがまだ来てない」
「織部、まだ来てないのか?どうせすぐに来るだろ?先に喰ってるぜ」

ふぅ〜、間に合った〜。どうやらまだ始まってないらしいな。
我が校が誇る昼休みの名物、『織部里緒菜手作り弁当試食会』は。
開演に間に合ったことにホッと一息つき、弁当のフタに手を掛けた。
その瞬間、学校に似合わない黒服にサングラスの男達が教室に入ってきた。
その男達は入ってきた扉を閉めて跪く。……仕事とはいえ、この人達も毎日大変だな。
給料がいいから続けてるのかな?いくら貰ってんだろ?今度聞いてみようかな?
そんなことを考えていたら、扉のガラス越しに見えるシルエット。そして女の勝ち誇ったような笑い声。
来た来た来たキター!やって来ましたクッキングドランカー!
我が校一の美女にして、悪夢の舌を持つ女。織部里緒菜の登場だ〜!

「お〜ほっほっほ!武藤光晴!今日こそはワタクシに跪いていただきますわ!
さあ!食しなさい!この織部里緒菜手作りの……カレー弁当を!
そして言うのです!『こんな美味しい料理は初めてです。参りました』とワタクシに屈するのです!
ワタクシの足下に跪き、屈するのです!お〜ほっほっほ!」

右手で大きな弁当箱を光晴に突き出しながら左手の甲を右のアゴに当て、
小指を立てて勝ち誇ったように笑う織部。
しかしその目は笑っておらず、光晴の挙動を真剣に見つめている。
織部から手渡された弁当箱を開ける光晴。
それを見て、ゴクリと唾を飲み込む織部。

200196:2007/11/01(木) 23:36:58 ID:v/qYdxum
「……うん、美味しそうな匂いだ。ジャガイモや人参も均等の大きさに揃ってるし……何より温かい」
「あ、当たり前ですわ!この織部里緒菜が作ったんですのよ?
手が込んでいるのは当たり前。美味しくて当たり前なんですわ!
感謝しなさいな!わざわざ温めてきてあげましたのよ?
このワタクシの女神のような美しさと優しさに、感謝なさい!」

光晴に誉められたのがよほど嬉しいのか、背中を反らしながら『お〜ほっほっほ!』と笑う織部。
う〜ん、いい眺めだ。背中を反らしたら、胸が強調されるからたまらんな!
織部、学校でも一位二位を争う巨乳だからな。……ホントにたまらん!
目の前の立派な膨らみに、下半身を膨らませるオレ。
そんなオレをよそに、カレーを掬い口に運ぶ光晴。
味はどうなんだ?見た目はめちゃくちゃ美味そうなんだけどな。
今日はいつものヤツは入ってなさそうだし……今日のはオレも食いてぇなぁ。

「……ど、どうなんですの?お、美味しいんですの?」
「……うん、味に深みがあって、じっくりと煮込んでいるのが分かる。
それに専門店で食べるような本格的な味だ。
もしかしてルーはスパイスを調合して一から作ったのか?」
「さすがは武藤光晴、よく分かりましたわね。誉めてさしあげますわ。
そのとおりですわ。このワタクシが一から全て作りましたの。
神に感謝しなさいな!このワタクシのカレーを食することができる幸運に!
お〜ほっほっほ!」

光晴に誉められて有頂天になったのか、倒れるんじゃないかというくらいに背中を反らし、胸を張る織部。
あぁ……その見事な胸に、顔を埋めてぇなぁ。挟んでくれねぇかな?

「ルーは美味い。ルーは美味いんだがな、弁当としては……激マズだ」
「お〜ほっほっ…ほ?……なんで不味いんですの!ウソつくんじゃありませんわ!
スプーンを貸しなさい!ワタクシの愛情料理が不味いわけありませんわ!」

織部は光晴からスプーンを奪い、一口カレーを食べた。
次の瞬間、綺麗な織部の顔が、赤くなったり青くなったり、目まぐるしく変化しだした。

「……グボ!か、辛いのと甘いのが、口の中で歪なハーモニーを奏でて……キィィィィ〜!
お、覚えてらっしゃい!明日こそは必ず美味しいと言わせてあげますわ!」

スプーンを握り締め、捨て台詞を残して教室から出ていく織部。
……やっぱりな。あれの上にルーをかけてたのか。やっぱり織部は悪夢の舌を持つ女だな。
なんで毎回あれを使うんだ?あれにカレーをかけても不味いだけだろ?バカじゃないのか?
まぁ不味いと言いながら、毎回残さず全部食う光晴も光晴だかな。
しかし……カレーワッフルか。オレには理解出来ない料理だな。
201196:2007/11/01(木) 23:38:28 ID:v/qYdxum
「お前、カレーワッフルなんてよく食えるな」
「せっかく織部が作ってくれたんだ、残すのはもったいないだろ?」
「ハイハイ、そういう事にしといてやるよ」

カレーワッフル弁当を残さずペロリと平らげた光晴。
コイツは毎日ワッフルが入った弁当を食べている。なんでもワッフルは大好物なんだそうだ。
で、それを知った織部が必ずワッフルを入れた弁当を作ってくる。
高校に入学してからずっとだから……もう半年になるのか。
そろそろ織部の気持ちにも気づいてやれよ。
毎日弁当作ってくるなんて、普段の高慢な口調とは違い、健気でいいヤツじゃねぇか。
小さい頃からの幼なじみで学校に来るのも一緒。家に帰るのも一緒で、休みの日も二人でよく遊びに行っているらしい。
周りから見ればこの二人はどう見ても恋人。オレも最初は二人が付き合っていると思っていた。
けど光晴曰く、『バ、バカ言うなって!腐れ縁なだけだよ!』
織部曰く、『ワ、ワタクシが武藤光晴の恋人?ち、違いますわ!……恋人に見えるのかぁ、ウフフフ』
……二人とも、顔を真っ赤に染めて否定されても、説得力ねぇっつうの!

「しかしなんで毎日ワッフルが入ってるんだ?」
「そりゃオレの大好物だからだろ」
「でもお前、甘いものキライだろ?ケーキとか食わないじゃん」

そう、コイツは甘いものが苦手だ。コイツは辛いものが大好きなんだ。
なのになんでワッフルなんて甘ったるいもんが好きなんだ?

「正確に言うと、『織部里緒菜が作ったワッフル』が大好物なんだ。
昔、アイツが初めて作ってくれた料理がワッフルなんだよ。
アイツが料理を作ってくれたのが嬉しくてな。つい言ってしまったんだ。
『このワッフル、すごく美味い!もっといろんなワッフル料理を食べたい!』ってな。
あれ以来織部はいろんなワッフル料理を作ってくれている。
だが今日のカレーワッフルはもう勘弁してほしいな。正直不味すぎだ」
「は?織部が作ったワッフルが大好物?……やってらんねぇな」

ワッフルよりも甘い惚気を聞かされたオレは教室を出る。
そして廊下で光晴が弁当を食べおわるのを待っている織部にこう言ってやった。

「光晴のヤツ、カレーワッフルが毎日でも食いたいらしいぞ?
なんでも織部が作ったカレーワッフルが大好物なんだそうだ。
織部の作ったカレーワッフルじゃなきゃイヤなんだってよ」

オレの言葉に両手で口を押さえ、嬉しさのあまりに涙目になる織部。
ざまあみろ!これでしばらくてめぇの昼飯はカレーワッフルだ!



……ゴメンな。まさか卒業するまでカレーワッフルが続くなんて思わなかったんだよ。
でもいいだろ?オレがでたらめを言ったおかげで、恋人同士になれたんだからな!


……オレにもカレーワッフルを作ってくれる、美人な子が現れないかなぁ。

ワッフルみたいな甘い生活を送りたいなぁ。
202196:2007/11/01(木) 23:40:08 ID:v/qYdxum
以上で終わり。

オレのカレーワッフルは偽物だ。誰か本物を書いてくれ……
203名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 00:43:00 ID:wQdURO+Z
このカレーワッフルを作ったのはだれだ!

>>196か!!?GJだ!!!
204名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 01:07:53 ID:61lVjoTW
それワッフルカレーじゃね?

何にせよGJ!
205名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 01:32:14 ID:svZzcA46
>>202
このカレーワッフルを作ったやつはお前かぁ!?
けしからん!実にGJだ!
206名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 02:33:11 ID:QaFXWNVo
>195
ここにいるぜ!
そして書けてないぜ!


まあ、みんな好きにカレーワッフルを書いてくれ。
俺も書けるだけ書いてみる・・・
207名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 02:44:44 ID:svZzcA46
>>206
時間は文才ないから読むだけしかできないし、本当はこんなこと言いたくないんだが……




正直時間かけ過ぎじゃないか?
208名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 02:50:19 ID:/OzskXCn
大丈夫だ!
まじで駄目なら外の人に頼めばいいんだ!
じゃあ俺が!いや俺が!
と職人がてをあげはじめて最後に君が「やっぱ俺が」
でどうぞうぞの流れだ!


酒の でて文がおかしいです
209名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 01:36:10 ID:LoyEsdt1
カレーワッフルの人、がんばれ、超がんばれ。
ワッフルカレーの人、GJ。

じゃあ他の職人に先立って書いてやるぜ!
しばらくお待ちください。
210名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 02:46:10 ID:o9zFrYtd
| \
|Д`) ダレモイナイ・・トウカスルナラ イマノウチ
|⊂
|

初投下なので推敲し切れてない部分もあるかと。
ただ勢いが重要かと思ったのでそろそろ投下することにします。

「ツンだとかデレだとかよく解んねぇけど要は萌えられりゃそれでいいんじゃねぇの」

どうぞ。
211ツンデレ萌えいいんじゃねぇの:2007/11/04(日) 02:49:07 ID:o9zFrYtd
「お〜っす。ご飯食べよー」
おお、お前か。一体廊下でどうしたんだ?
「人のセリフを聞きなさい。ご飯食べよって言ったのよ」
おう。でもこの時間じゃ食堂はカオスだからな。マクドでも行こうかと思うんだが。
「確かにこの時間じゃ学食は無理ね。そもそも終わるの遅いんじゃない?」
まあな、あのオッサン勝手に授業脱線して始めた話で爆笑して一人井戸端会議状態だからな。
そのくせ学生の所為にして長引かせるんだから始末悪ぃよ。
「ま、今日は用意してあるから、学食やマック行かれても困るんだけど」
また何か作ってきたのか?
「ちょっと、『また』とか何回もあるように言わないでよ」
何回目だと思ってやがんだ。5回目からは数えてないぞ?その五回目も半年前の出来事だしな。
「人聞きの悪い事言わないでって言ってるの。あたしが料理作ってあげてるみたいじゃないの」
お前の作った料理食ってるのは事実なんだがな。
「ま、いつも金欠状態のアンタに恵んでやってるのよ」
どうでもいいけどそれ、作ってあげてるっていうんだぞ?どーでもいいけどな。
「いちいちうるさいわね。食べるの食べないの死にたいのアンタの答えはどっち?」
死にたくないし勿体無いから食うさ。あとな、選択肢が3つなのにどっちってのはおかしいぞ。
「だからいちいちうるさいのよ」
212ツンデレ萌えいいんじゃねぇの:2007/11/04(日) 02:49:52 ID:o9zFrYtd
「はい、これ」
お〜サンクス。ってワッフル?どうせなら主食系のものを希望したいんだが。それにコレ、なんか厚くないか?
「ま、食べてみなさいって」
食うけどさ。
・・・うん、まあ、とりあえず嫌がらせかどうか聞いておこうか。
「あれ?美味しくなかった?結構自信作だったのに」
幸せそうにおにぎり食ってるお前にはわからんわけだ。味見してないんだろ。食ってみるか?
「い、いらないわよアンタの食べかけなんて!それに味見だってしたわよ。カレーは餡に合うようにルゥから作ったし。ワッフルだってね・・・」
分かった。確かにワッフル齧った時は思わず幸せになったさ。
中のカレーも確かに旨い。下手なカレーパンのよりよっぽどカレーしてるしな。
「ほらみなさい」
だからってな、甘辛対極のものを組み合わせたら不味いだろうが。ベルギーの人とインドの人が手を繋いで仲良く抗議して来るぞ?
「カレーだからインド、ってのはアンタにしては愚直ね。それともインド風カレーって分かったのかしら?」
話逸らすな。
「そもそもインドにはカレーって言う料理はないのよ。単にカレーっていう料理は欧州出身になるわ」
はなしそらすな。
「む〜。うるさいわね。カレー味のパンは美味しいんだから、カレー味のワッフルがあったらもっと美味しいに決まってるじゃないの」
そろそろ現実見ろって。どう考えても不味いぞこれ。
カレーのスパイシーな感じと甘さが見事にミスマッチだ。
「カレーもワッフルもかなり自信作だったのよ?」
お前さん、普通の料理は旨いのに、創作系はホントNG集だよな・・・
「だから、人の料理を食べ慣れたみたいに言わないでよ。誤解されるじゃない」
誤解も何もどうでもいいだろ。お前さん彼氏いるんだろ。俺と二人で飯食ってる状況を気にしろよ。
「なによ?それ。どっから仕入れたの?そんなうそっこ情報」
みんな言ってるぞ?
俺らと違って出来のいい彼氏がいるってな。まあ適当なでっち上げ情報かもしれんがな。
人気者のなんとやらってやつだな。まあ、悪かったな。
「はぁ、大体、彼氏がいるいないでアンタとの付き合い方が変わるわけじゃないわよ。そういうんじゃないでしょ?」
確かにな。
「じゃあ、授業あるから行くわね。あとよろしくー」
おーう。んじゃまたな。


(そうか。彼氏がいたわけじゃないのか。付き合ってるやつ、いないのか・・・)
213ツンデレ萌えいいんじゃねぇのII:2007/11/04(日) 02:51:43 ID:o9zFrYtd
・・・またあのオッサン脱線講義か。何が億千万なんだよいい加減にしろよな、まったく。
「お〜い」
おう。廊下で何やってんだ?
「いい加減アンタも鈍いわね。12時からすることって何よ?」
うきうきウォッチングか?俺は飯にするけどな。
「だからそのご飯よ。どうせ今からじゃ食堂間に合わないでしょ?ちょっと付き合いなさい」
体育館裏は勘弁だぞ。ボコられる以外なら大歓迎だけどな。
「違うわよ。はぁ、何か今日テンションちがくない?」
や、まあ、気のせいだろ。
「そ」
214ツンデレ萌えいいんじゃねぇのII:2007/11/04(日) 02:52:13 ID:o9zFrYtd
今日はなんだ?
「カレーワッフルよ」
またか。またカオスな世界にご招待されるのか。
「ふふふ。まあ食べてみなさいって。食べてあたしの前に跪くのよ!」
足は嘗めないからな。とりあえず貰おうか。
「はい、これ」
おーサンクス。
ん?んーサンドイッチがワッフルで?いやベーグルサンドみたいな・・・
「まあ食べてみなさいって」
・・・むぐむぐごっくん
「ど?」
おーこら旨い。カレー生地のワッフルか。間のハムの味を引き立ててる。ハムも厚手に切ってあってカレーに殺されてないな。
「カレー粉を練りこんだのはいいんだけど、練りこんだだけだと美味しくなくって。生地には苦労したわー」
なるほど。うん、これならカレーワッフルもいいもんだ。
「でしょでしょ?これであたしの勝ちねー」
215ツンデレ萌えいいんじゃねぇのII:2007/11/04(日) 02:52:45 ID:o9zFrYtd
あの、さ。
「え?」もくもく
こないだ、彼氏のいるいないは関係ないって言ったよな?
「言ったわね。確か」
それは俺を対象として見てないってことでいいのか?
「また難しいこと聞くのね。特定の付き合ってる人がいたからって、アンタとの接し方が変わるわけじゃない、って言いたかったんだけど」
ふむ。
「アンタのことを狙ってて友達してるんでもないしね。そういう女じゃないのはさすがに分かるでしょ?」
まあな。そのくらいはわかるさ。
「女引っ掛ける為に生きてるようなのや、妙に馴れ馴れしい男もちょっとね」
お前さん、グーで殴りそうだしな。
「うるさいわね。あたしは彼氏作る為に女してるわけじゃないってこと。いつかできたらいいなーとは思うんだけどさ」
そっか。
「それにしてもアンタにしては珍しいこと聞いてきたわねー」
216ツンデレ萌えいいんじゃねぇのII:2007/11/04(日) 02:54:59 ID:o9zFrYtd
こないだからさ、ずっと頭から離れなかったんだ。
「・・・え?」
お前に彼氏がいないって事。
「え・・・?」
俺もな、その、男女間の友情的ななんとやらみたいな感じだと思ってはいたんだが。
「・・・うん」
どうやら違ってきたみたいなんだわ。
「・・・で?」
・・・良かったらでいいんだが、また飯作ってきてくれな。
「・・・黙ってても勝手に持ってくるかも知れないわよ?」
そうじゃなくてだな。明日とか、明後日とか。どうしても無理な日以外は。
「・・・」
・・・お前が作った料理が好きだ。
お前と一緒に駄弁ってる時間が好きだ。
気楽に話せるお前のことが好きだ。だんだん惚れてったって奴だな。
これからも続いて欲しいし、出来れば独り占めしてみたい。
無理な注文か?
「・・・なんて答えればいいかわからないわよ」
イエスかノーだ。簡単だろ。別に恨みはしないさ。どんな答えでもな。それとも、答えるのもイヤか?
「っ!違うわよ!ただ嬉しくて混乱してただけよ意識してないって言ってもアンタのこと男性として見てないわけじゃないし友人としては好きだったし尊敬もしてるし一緒に話してるのはあたしも楽しいしね」
「でもことそんなこと言われたら意識しちゃうし意識し始めたらもう今までのこととか思い出しちゃってなんて答えたらいいのか全然わからなくって」
・・・とりあえず落ち着け。舌噛むぞ?
「うるさいわね。イエスかノーか二択だったわよね?」
ああ。
「今晩は暇?バイトあったっけ?」
最近バイト辞めたからな。派遣も仕事入れてないからヒマっちゃヒマだ。
「そうだったの?じゃあ今晩はウチに来なさい。晩御飯作ってあげるからっ」
217ツンデレ萌えいいんじゃねぇの 終:2007/11/04(日) 02:56:03 ID:o9zFrYtd
「それにしても休講とはねー」
いいじゃないか。楽だし。
「夜にまた、って言った手前調子狂うのよ」
だから時間つぶしに街歩いてるんだろ?
「それはそうだけど・・・」


―――くいっ

(ん?)

袖引っ張んなって。どうかしたのか?
「ん。なんか嬉しくなってつい」
唐突だな。
「最初から嬉しかったわよ?いやでも後からじわじわくるっていうの?アンタのさっきの台詞がエンドレスリピート」
やめてくれ。
「やーさっきはカッコ良かったわよ♪録音して残しておきたいわー」
・・・やめてくれ。んなことされたら恥ずかしくて悶え死ぬ。
「ならあたしは嬉しくって悶え死ぬわね」
まあいいけど。嬉しがってくれたらこっちとしても男冥利に尽きるって奴だ。
「べ、べつにアンタの為に嬉しがってるわけじゃないわ。アタシの為よ」
へいへい。

ところで晩のメニューはなんだ?決まってるのか?
「もちろん決まってるわ。カレーとワッフルよ!」
カレー『と』ワッフルなんだな?
「美味しくないものは食べさせたくないもの。インドにカレーはないってことを教えてあげるわ!」
よろしく頼む。これからも、ずっと、な。
218ツンデレ萌えいいんじゃねぇの 終:2007/11/04(日) 03:00:41 ID:o9zFrYtd
以上でした。
一回で投下しきるには長かったかも。

訂正をひとつ。
>「美味しくないものは食べさせたくないもの。インドにカレーはないってことを教えてあげるわ!」
を、「美味しくないものは食べさせたくないもの。それに、インドにカレーはないってことを教えてあげるわ!」

失礼しましたー
219名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 04:45:52 ID:QWP379WJ
>218
ナイスカレーワッフル!

ふたりとも可愛いな
読んでてちょっとシアワセな気分になれた。dクス!
220名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 04:46:38 ID:jGZQR1zl
とても美味しゅうございました。




GJ!
221名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 10:59:51 ID:GVXLTHmr
台詞がちょと説明臭くてくどいが、萌えた。
GJ
222名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 22:51:32 ID:ELHwu3wP
カレーワッフル祭りだな!GJ!
223名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 08:06:31 ID:4nVAQqi8
カレー!! カレー!!
ワッフル、ワッフル!!!
224名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 06:35:15 ID:Iv2FutUt
急にたくさん来おったわい…
うん、うまい、うまいのう



そこの君、カレーワッフルとやらのおかわりを頼む
225名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 07:32:01 ID:DbAs9F73
あ、どうも>>211です。

後説明はちとアレなんで、
・説明口調かもしれないのは、会話の繰り返しという形&斜に構えてる風な男、という設定から
・読みにくかったらスマソ
とだけ。
226147:2007/11/07(水) 17:20:39 ID:Zk3T3fnC
なんか出来たんで投下
保守用の小ネタだったんだけどなぁ
2271:2007/11/07(水) 17:21:19 ID:Zk3T3fnC
ワタシ・がむしゃら・はい・ジャンプ  オマケ

煙が空に溶けていく。
目の前の焚き火から送られてくる熱は、適度に空気を暖めてくれる。少し前なら「頭大丈夫?」と訊かれる
光景だが、今ではちらほら見かけるようになった。
猛暑だった今年の夏はある日を境に鳴りをひそめた。昼間はまだ暖かいが日が沈めば肌寒い。早朝には霜が
降りてきていたりする。もう半袖ではいられないだろう。
だがその分服装の種類にも幅ができる。女の子としてはオシャレのしがいがあるというものだ。春だと少し
汗ばんでしまうようなコーディネイトも、この時期ならそう気にならない。2ヶ月ほど前まで、一体何が
起こったのかというくらい暑かったのだが、無事涼しくなってくれて安心した。かなり過ごしやすい。

つまり何が言いたいのかというと
「…早くイモ焼けないかなぁ」
という事だ。


ウチの庭のこの一画は草がほとんど生えていない。昔車庫があったのだが、パパが新しい車を買う為に移築
したのだ。あんまり家にいないのに、車なんか買ってどうするんだか…。
その時の工事の副作用なのかは知らないが、ここではあまり植物が育たない。カッコ悪い…というか不思議
極まりない空間になったが、こういう時には重宝する。あと花火とかにも。

ぼんやり炎を見ていると火の勢いが弱まってきた。燃料、燃料っと。手近に積んでおいたラブレターの束を
投げ入れる。
高校に入ってから溜まりに溜まったモノを見つめる。学校では渡せない輩がウチへと送り届けてきたものだ。
読むのも面倒だったので放置していたら、いい加減邪魔になってきた。それでいい機会とばかりにリサイクル
に勤しんでいるというワケだ。
ゴミも減ってお腹も膨れる。うん、エコロジー。
2282:2007/11/07(水) 17:21:51 ID:Zk3T3fnC
「これも処分しちゃうか」
手に持っていた雑誌を見やる。女性向けの週刊誌だ。別に俳優やアイドルのスクープなぞに興味は無い。
ワタシがこの本を買うに至った理由は、色とりどりの見出しに隠れるように載っている

『男を悦ばせるテクニック10選!』

…このいかがわしさ抜群の一行のせいだ。

ここ最近ワタシは負けがこんでいる。といっても、別にボクシングのランカーに挑戦してたり危険な賭け事に
身を投じているワケではない。
…その……愛し合う2人の帰結とゆーか、健全な男女の辿り着く果てとゆーか……。まぁそんな感じのアレだ。
勝ち負けで判断するような事じゃないって、分かってはいるのだけれど…。それでも毎回失神させられていては
不安にもなる。イかせた回数が想いの強さに比例しているとは思わない。が、結果だけ見れば自分はマグロで、
一方的に愛されている気になってしまうのだ。それは自分の望んだカタチではない。ちゃんと拓也にも気持ちよく
なってもらいたかった。
そこで、藁にもすがる思いでこの雑誌を買ったのだ。

読んだ。読み耽った。ああ読んださ!これならイける!
今やワタシはラッセル・クロウも真っ青の復讐人!ワタシの仇をとる為、ワタシが起ち上がる!
拓也陛下の支配する世は、間もなく終わりを告げます――いざ!!


返り討ちにあいました。


その時の事を思い返し、にやけた頬が熱くなる。
「えへへ」
2293:2007/11/07(水) 17:26:06 ID:etWBHExW
…いや、そーじゃないでしょ。
弛んだ顔を元に戻すと、羞恥心がこみ上げてきた。ほどなく理不尽な怒りへと転化させる。
こんな雑誌に頼ったのがそもそもの間違いだ。大体何だ、このアンケートは。
『行為の最中の「愛してる」は嘘っぽく聞こえる 83人/100人中』って。
メチャ嬉しいっつーの。このライターや回答者達は精神的に充たされておらず、心が貧しいに違いない。
ホチキスを外し炎の中に放り込む。サヨナラ380円。せめておイモを美味しく焼いてね。

…うーん、何がいけないんだろ?
一時期「もしかして拓也って遅いのかしら」と思った事もあったが、どうやらそうではないらしい。意識が
ハッキリしている内に時間を確認したが、平均時間を大きく逸脱してはいなかった。これも雑誌の知識なワケ
だが、まさかこんな事まで嘘情報ではあるまい。
じゃあ自分が敏感すぎる?とも考え付いたが、なんか納得出来ない。1人でするのを凄く気持ちいいと思えた
ことは無かったし、痴漢に遭った時だって、おぞましさで吐き気がしたものだ。お尻を触ってきた方の腕と指は
キッチリと折っておいた。犯罪は高くつくと学んだだろう。治療費的な意味で。

Mの気質なんだろうか。女性上位の技で攻めても、奉仕しているという気持ちが勝ってしまう。そうすると
先にコッチの気分が盛り上がってしまい、結局鳴かされるのはワタシの方だ。拓也だからいいのかなぁなどと
考えてしまう。
いやいや、それでは駄目だから悩んでるんだろワタシ。うむむ。

「別にいいんじゃない?」
そっか。やっぱりいーのかも。

…………待て。誰だ今の合いの手は。
声は背後からしていた。急ぎ振り向くと、キャンプ用品店で購入した椅子に腰掛けている見慣れた人物。

「ママッ!?い、いつからそこにっ!!?」
2304:2007/11/07(水) 17:26:55 ID:etWBHExW
「泉ちゃんが焚き火をし始めてからかしら?」

最初っからかよ!合いの手を入れてきたという事は、独り言をしていたに違いない。…うわ眩暈してきた。
ワタシはどこまで喋っていたんだろうか?
「聞こえてたんなら注意してくれればいいのに…」
完璧にワタシの不注意なのだが、とりあえず愚痴っておく。
「なんだか楽しそうだったから。それより泉ちゃん、痴漢の腕の骨を折ったって言ってたけど?」
にこやかだった顔を止め、真面目な表情を作り訊ねてくる。
あちゃあ、結構喋ってんなワタシ。嘘ではないので頷く。
ママには常日頃から「女の子らしくしなさい」と言われていた。お説教かな、これは。
それに、こんな真面目顔のママは滅多に見れない。

「それじゃあ生温いと思うの」

――滅多に見れないが、往々にしてくだらない事が多いという事を、たった今思い出した。

「相手は犯罪者なんだし。『禍根を断つ』って日本では言うんでしょ?」
…なんとなくママの言わんとしている事を悟る。
「イヤよ。あんなモノ、道具越しでも触りたくないわよ」
当然だ。これでも年頃の女の子だ。何を好き好んで触れなくちゃならんのか。

「でも拓ちゃんのは舐めたりしてるんでしょう?」

「なっ、なななな!ワタシそんな事まで喋ってたの!!!?」
ちょ、ちょっと待ってよ!独り言でそこまでいくと、もう完っ全にビョーキだぞワタシ!

「ううん♪」

……ワ タ シ の 馬 鹿 野 郎 !!!
分かってた!罠だって分かってたのに!!
力なく泣く。地面に突き立てた拳にも力が入らない。
2315:2007/11/07(水) 17:27:46 ID:etWBHExW
…これ以上藪をつつきたくなかったが、可及的速やかにこの話題を止めて欲しかった。自分の親にして貰いたい
話ではない。恥ずかしすぎる。今後の為にも釘をさしておかないと…。
「もうっ!そーゆー事娘に言うのやめてよね!」
だが飄々と切り替えされてしまう。
「だって、泉ちゃんと拓ちゃんの子供早く見たいしー」

……確か1年ぐらい前に、女子中学生の出産をテーマにした社会派ドラマがあってた気がするんだけど。
あれは、母体も胎児も危険だから真似すんなよ、って話じゃなかったか。
いかん。藪かと思ってたけど蛇の塊だ。つつかなくても危険すぎる。

〜〜♪〜♪

どうしたものかと頭を抱えていると、携帯から着メロが鳴った。
これは!
音速のハリネズミにも勝る速度で、携帯を開き通話ボタンを押す。

「もしもし、拓也!ううん大丈夫!」

っと、そういやママが近くにいるんだった。またネタにされては敵わない。ママに背を向け会話を続ける。



「…うん……日本史の?うん…うん。夜にやろうかなって……」

こちらからは見えないが、娘の笑顔が容易に想像できる。あの顔を他の人達にもすれば、この子らも多少は
報われるだろうに。無造作に積まれたラブレターを見る。
そこまで考え、やっぱり違うと首を振る。拓ちゃんだからあんな顔で笑うのだろう。
小学校の時に娘に何があったか分かってはいたが、日本に慣れていない自分は力になってあげれなかった。
拓ちゃんと知り合ってからの娘を見て、我が事の様に喜んだものだ。日本で初めての友達があの子でよかった。

娘の方へ視線を向けると、電話が終わったのか、慌てた様子でこちらに話し掛けてきた。

「今から拓也がウチに来るからっ!イモは勝手に食べちゃって!」

そのまま走り去ってしまう。部屋を片付けて出来るだけオシャレをする娘を想像すると、笑いが込み上げてきた。
後で焼き芋を差し入れする事にしよう。娘には邪険にされそうだけど…。
それを見るのは楽しみだ。

「早くおイモ焼けないかしら?」
232147:2007/11/07(水) 17:29:24 ID:etWBHExW
以上です
233名無しさん@ピンキー:2007/11/07(水) 18:17:17 ID:xwAhvR4X
あんた・・・俺を萌え死にさせる気か・・・

GJ!!!
234名無しさん@ピンキー:2007/11/07(水) 18:35:41 ID:fNDDBGvk
テラモエス
235名無しさん@ピンキー:2007/11/07(水) 18:52:01 ID:RJdKuUVC
寧ろママさんに萌えた
236名無しさん@ピンキー:2007/11/08(木) 02:03:40 ID:nb5Rij68
なにこの萌え母娘。
GJと言うしかねぇ!
237名無しさん@ピンキー:2007/11/08(木) 12:00:25 ID:T1XVvTFK
アカン・・・なにこれ
萌え過ぎなんですけど。
238名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 19:15:23 ID:hJagkukV
ところで、コイツを見てくれ?どう思う?

気の弱い娘が勇気を出す瞬間
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1194602907/
239名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 21:15:51 ID:8YS5unNh
>>238

お前が建てたのかよww
240名無しさん@ピンキー:2007/11/11(日) 06:12:18 ID:Tkw28F83
エロ成分が無くても死ねる
これはエロが来たら、大量虐殺になってしまう
241名無しさん@ピンキー:2007/11/11(日) 15:33:15 ID:bVl6Cev3
こら!あなたたちダメじゃないの!
もう1週間近くも前にツクバさん更新してるって、
なんで誰も言ってくれなかったのよ!



言ってくれなきゃ、わかんないこともあるのよ……?
ばか……
242名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 15:08:34 ID:82/CPsGC
なぁ、このスレの俺達にちょっと聞きたいんだが、
男の名前に「拓」絡みが多いのは仕様なんですかね?
いや別にいいんですけど素朴な疑問。
243名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 16:48:48 ID:u3e+rOpx
主人公たるもの運命を切り拓くから(大嘘)
244名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 18:29:15 ID:Ffp9f7Z8
エロゲ主人公によく使われる字だから、じゃね?
245名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 19:22:06 ID:7gMf8jlC
昭和の終わりぐらいから、拓率が高くなる模様。

ttp://www.meijiyasuda.co.jp/profile/etc/ranking/year_men/
246名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 12:43:56 ID:LzVe07uF
なら俺は託を使うぜ!
247名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 15:21:52 ID:He/VNSX7
平成七年を最後に拓也がきっぱりと消えて拓海に変わってるのが凄いな。
248名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 16:19:04 ID:G1U4hEDH
何の前触れもなく命名ネタ・・・
これは気位が高い女のが、妊娠発覚!
けど彼が嫌がったらどうしようって不安を感じると言う作品を書けという啓示に違いない!


俺?あ、携帯からなんで無理。
249名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 17:10:23 ID:uWp8deej
どちらかというと、妊娠するまでの過程を読ませてくれww
250名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 00:00:35 ID:d26Fhchw
>>249
主人公は気の強い卵子?
251名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 09:56:29 ID:rNRAZHVk
>>250にフイタw
252クロ@強気な彼女と奏鳴曲 ◆oEKbgAzJcE :2007/11/14(水) 21:41:52 ID:xD1w2ZWj
突然ですが投下します。
いつもの事ですがエロも描写もも薄くて申し訳ないです。
253クロ@強気な彼女と奏鳴曲 ◆oEKbgAzJcE :2007/11/14(水) 21:43:46 ID:aJFKi6Pn
「おい女紹介しろ」
「やだ」
にべも無くあしらわれた。
事もあろうに俺の前の男は、女を紹介してくれという切なる願いを断ったのだ。
こいつっ……自分だけ潤ってからにっ!!
「いいじゃんよ吉野。友達紹介するだけなんだからさー」
「お前のような口を開かなければもてそうな男に女なんて紹介できるか、羨ましい」
「そんなこといわずにさー」
そんなこと言われても告白されたのなんか2回だけだぞ。
昼の教室でみっともなく頼み込んでいるのに、この金髪男・吉野信哉(よしのしんや)というやつは……
「頻繁に現実逃避するお前に紹介したってなー」
「お前なら女の伝手くらいいくらでもあるだろー」
「俺も万能じゃないんだぞ?嫌がらせのための化物みたいな女を用意できるかどうか」
「くそっこいつはやく何とかしないと……」
吉野はこの付近ではやたらと顔が広い。
そりゃそうだ、市街で見かけた可愛い女に片っ端から声かけている変人なのだから。
しかも大体携帯のアドレスはきっちり交換してあるし、暇があれば女と遊びに行ってる。
「まあゴジラと素手で戦えそうな女でいいなら探してくるよ」
「おい……いい加減怒って泣いちゃうぞ?俺は」
「そんな事言われてもなー。大体どういうのが好みだっけ?お前」
ふふ……愚問だ。俺にその質問をするだと?
俺の許容範囲は108まであるぜ!!
「とりあえず髪は金髪で」
「金髪……っと」
吉野は携帯弄繰り回して何か打ち込んでいる。
女の容姿を検索する機能でもあるのか、お前の携帯は。
「身長は普通で。俺との身長差が15センチ以内」
「身長…えー…160以上か……」
あれ?なんで人にこんな性癖まがいの事をさらけ出さなければならんのだ?
なんか妄想抱いてるアホな男みたいになってない?
254クロ@強気な彼女と奏鳴曲 ◆oEKbgAzJcE :2007/11/14(水) 21:44:40 ID:aJFKi6Pn
「気にするもんか。あと、胸はC以下だ」
「胸が全てだって言うわけじゃないと思うが……まさかあれか?LoLiiiyyyy」
「それ以上言ったら拳が首に食い込んで骨へし折って脊髄引き抜くぞ?」
断じて俺は犯罪者でも予備軍でもない。
「それで?あとは何か要望は?」
「後は……あんま静かじゃない方がいいかな」
「前の彼女、無口で可愛かったと思うが?」
「お前……意思疎通にどれだけ時間要したか分かってないな?」
半年前まで付き合っていた彼女は極端に無口だったのだ。
とりあえず彼女の挙動から言いたい事を読み取るまでに軽く2ヶ月ほどかかってしまった。
ああいうのもいいが、やはり話してリアクションが返ってこないのはきついのだ。
「じゃあ話題が尽きないような奴……お、あいつがいたか」
「何何?どんな人だよそれ早くアドレスと番号と住所を教えてくれ凸撃するから」
「お前必死すぎ」

隣の女子高に通っている女の子で、名前は佐伯理香というらしい。
とりあえず会わせるということで休日に呼び出して会うことになった。
そもそも何で最初から1対1で会わなきゃならんのだ。
合コンのほうが良かったんじゃね?
そして吉野は物陰から包帯だらけでこちらを見てやがるが、ばれてないとでも思っているのか?
そもそもその仮装はハロウィンか?女の子に悪戯しにいくのか?
(お、早速一人引っ掛けたぞ)
その女を見た瞬間、俺は包帯ぐるぐる男を見た時以上の衝撃を受け、視線が固まってしまった。
目を引いたのは彼女の格好が普通に往来を歩く人たちと大きく異なっていたからだ。
何やら漢字がたくさん書き込まれた白い服。
あれは暴れて走る方々が着ていらっしゃった―――特攻服だッ。
髪を金髪に染めあげ、なにやら棒状のものをぶら下げているが……あれは見なかったことにしよう。
多分剣道部か何かなんだよ。でなきゃ何か巻いた木刀なんて持ってるはず無いもの。
きっと木刀が大切だからコーティングしてるんだ。
胸は押さえつけているのか、それともそのサイズなのか知らないがそれ程大きくない。
顔は綺麗だし身体はスレンダーだし、あれで服さえまともならなぁ……。
「いやー今日はわるいねー」
吉野、近づいたら殺される……とはこの距離では言えないし、多分吉野は尾行を完璧に行っているつもりだ。
どこまでも馬鹿な奴だったが、せめて安らかに眠ってくれ……。
255クロ@強気な彼女と奏鳴曲 ◆oEKbgAzJcE :2007/11/14(水) 21:45:11 ID:aJFKi6Pn
「何の用だ、吉野。岬に言いくるめられて来てしまった」
(あれ?知り合い?)
いやでも俺の待ち合わせ相手とは違うよね。
だってしゃべり方見る限りでは饒舌ってわけじゃないし。
「今日はあそこに座ってるアホ面の男がいるだろ?」
「ん?…………」
聞こえるようにいってるのか?もしかしてあいつは。
黙りこくってじっとこっちを見てる佐伯さん。可愛いなぁ。
「あのアホ面と今日はデートだよ」
「デー…………帰る」
「ええええ、ちょっと待ってって」
「男なんてものに興味はない。失礼する」
「まあいいじゃないか一日くらい」
……どうやら特攻服女が俺の相手だったらしい。
確かに金髪で身長も俺より少し低いくらいという条件を満たしてはいる。
しかしこれはどうなの?
アリか?むしろこれは逆に考えてアリだったりするのか?
でもヤンキーというかその……アリなのか?
むむむ、と俺が考えているところに、吉野はとんでもない事を言ってのけた。
「じゃあお試しで連れてけよ。羆と指一本で張り合う程強いからさ、稽古相手にでも」
「……そうなのか」
佐伯さん、その男の情報を鵜呑みにしたらダメだから!!
この日本の都心にそんな猛獣がうろついてるわけ無いのだから。
どんな世紀末なら起こるんだ、羆との乱闘なんて事が。
頭の中で佐伯さんの世界観について熱く述べている途中、彼女はこちらに歩いてきて胸倉を掴んできた。
「おいお前」
「はっ、はい」
ぐい、と顔同士が近づき、若干煙草の混じった香水の香りが鼻をくすぐる。
ああ、近くで見ると綺麗さも3倍増しだなあ……
見詰め合うこと十数秒。
「お前羆と闘って勝ったらしいじゃないか。少し付き合えよ」
「いや、それは誤解であって……」
「何っ!!五回も勝負したのか!!!」
この人、顔はいいのに頭があれなんじゃないだろうか。
それともあれか?俺のイントネーションがおかしかったのか?
しかも何を考えたのか眼をキラキラさせながら俺を誘ったのだ。
「それは凄いな……では勝負しようか」
256クロ@強気な彼女と奏鳴曲 ◆oEKbgAzJcE :2007/11/14(水) 21:45:43 ID:aJFKi6Pn
「フフフ……ボーリングで負ける気はしない」
「うう…やられたッ!!こんな屈辱生まれて初めてだ!!!」
スコア76点。それが俺の記録。
スコア189点。それが彼女の記録。
なんとか宥めかして当たり障りの無い競技に(拳を使わない方向で)説得したものの……
男としての面子ってものが…体面ってものが…いや、ここまでギタギタにされたらどうでもいいか。
「そもそもボーリングってのが間違ってるよ。俺のハイスコアは108
「じゃあ別の競技でなら勝てると?」
バッティング→大敗
カラオケ→大敗
レースゲーム→大敗
格ゲー→大敗
早食い→大敗
……

もう言葉も出ない。
「それでも男なのか?お前」
「何か一つ…何か一つだけでも……」
「ぶつぶつ言ってるなら置いていくぞ」
「佐伯さん、まだどっか行くの?もう9時になってるんだけど」
佐伯さんは不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
「デートの終わりにはホテルに行くもんだと教わった」
「……」
「吉野が友達に手配しておくと言っていた。何か偽装工作だか何とか」
「……」
もう何か言ったりツッコんだりのはやめにしたい。
何故かと言うと、佐伯さんの思考についていけなくなってしまったからだ。
吉野は何をいったか知らないけど余計なマネを……
「さあ行くぞ」
「佐伯さん?いやあのまずは落ち着いてとりあえずすこし休んでみてから考え」
「慌ててるのはお前だぞ、ホテルは休む為にあるのだ」
「いやまあそうなんだけど」
彼女の異常な腕力が俺の腕をがっしと掴んで話してくれそうに無い。
「じゃあ問題ない。行こうではないか」
「いやあああああぁあああぁぁ」
引き摺られていく姿はきっと水揚げされた魚介類に似ていただろう。
257クロ@強気な彼女と奏鳴曲 ◆oEKbgAzJcE :2007/11/14(水) 21:46:50 ID:aJFKi6Pn
「…あの…お前、じゃなくて…えー…」
「……」
もうブルーだ。もう何も言わないぞ。顔色もきっと青色ダイオードみたいになってるに違いない。
女の子と二人でホテル=密室、しかもなんか佐伯さんも話しかけづらいみたいだ。
鬱だ。さんざん負けた上に女の子ともまともに会話できないとは……
彼女がいた奴の台詞じゃないが、あいつはまた別だ。
しかも何だこの無理やりな展開は?作為を感じるぞ、これは。
多分これも全て吉野の仕掛けた壮大なドッキリだったってオチが一番いいんだけど。
「その……えーっと……」
大体最初の時点からおかしいんだよ。特攻服なんて。
こんな可愛い娘がそんな格好してるなんて似合わないしね。
「…実は…前に見かけた時から…」
いや、これは俺の妄想の産物ということですませるのが一番なんじゃないだろうか?
そうだよ、きっとどこかからの電波が交じり合って今の状態が生まれたんだ。
「というわけで……わ…わたしと…」
多分誰かに張り倒してもらわないとこの幸せな状態は抜け出せそうにないな。
ていうかあれだ、もう夢なんだ、これは。
こうなったら告白して、丸ごといただいちゃうのが筋っていうか大宇宙の意思?
「私t「佐伯さん!!!付き合おう!!俺ら!!!!」
ほら、佐伯さん目丸くしちゃってるよ。
やっぱ引くだろ……と思ったら今度は顔が赤くなっていく。
「えと、あの、つっ…つきあって…も……いいぞ」
赤らめた顔とかもじもじする所とかされると、尚更可愛いなあ。
OKもらえたのもきっと夢だからなんだな。
密室という空間もあってか、俺の顔…いや頭もかなり熱くなってきた。
「佐伯さんっ!!!」
「何…んむっぅっ!!」
可愛さのあまり飛びついて唇を奪ってしまった。
勢いがつきすぎて少し痛かったが、気にせずしばらくそのまま押し付けあう。
佐伯さんの息が苦しそうになっていたのでそっと離した。
「はぁっ……はぁ…」
「つい我慢できなかったよ、佐伯さん可愛いから」
「いい……気にしないで、いい…から…」
俺を連れまわしていた時の強気な態度はどこへやら、今は一転弱弱しかった。
「お詫びにもう一回……ね」
「ん……」
今度はゆっくり、しかも段々と唇を吸ったり舌を使ってみた。
お詫びの気持ちと、彼女の反応が見たいという本能で。
「んぅ……はぁ…ん……ぁん…」
時折口から出る吐息がどうしようもなく艶かしく感じられる。
さすが夢、質感とかも想像以上だぜ!!
ふはは、現実から逃げて狂戦士となった俺を止める者などいない!!
「ん……じゃあ服脱いでくれる……?」
「わかった……」
258クロ@強気な彼女と奏鳴曲 ◆oEKbgAzJcE :2007/11/14(水) 21:47:27 ID:xD1w2ZWj
さっきより顔が朱色なんだけど、大丈夫なのかな。
でも俺が脱がすってのも恥ずかしいだろうしなぁ……
パサリパサリと服を脱いでいくと、透き通った肌が露わになっていく。
染めていて多少痛んだ髪とは対照的に、それはとても滑らかで繊細だった。
その綺麗な裸身を見て、やっぱりここは夢の中だった、そう思う。
「ごめん……あんまり大きくないんだ……」
「女の価値は胸じゃない!!!」
「ひゃっ!?」
小振りだが形が良く張りもある、理想の形だ。
「ぁ、ん……ひぃっ…ぁん……ぅあ…」
とりあえず後ろから両手で軽く揉み、たまに先端に触れる程度の刺激を与える。
この後ろから見たアングルはエロいなー。
それからしばらくは愛撫を続け、彼女の身体をほぐすことに専念する。
「はあぁっ…あぁっ……あ、んぅっ……」
昼間の彼女からは考えられない、ただこちらの責めに耐え忍ぶ姿。
もう俺も何も考えられなくなっていた。
ぐったりとした佐伯さんの足を割り開くと、そこは散々弄った成果が現われていた。
言葉で確認するでもなく、俺と佐伯さんは御互いを見つめ、頷いた。

彼女の反応を見ながらゆっくり、ゆっくり腰を進めていく。
「…!………ッ」
男には想像も出来ないほどの痛みだろう。
何しろ他人が内蔵を押し広げながら入ってくるのだから。
だけど佐伯さんは強かった。
痛いはずなのに、爪が俺の肩に食い込む位痛い筈なのに、耐えようとしていたんだから。
もう夢とか現実とかは問題ではなくなっていた。
目の前の、強気であろうとする彼女が、どうしようもなく愛おしかったから。
最後まで入っとき、彼女が無理に作った笑顔が、脳裏に焼きついている。
あとはなんかムチャクチャだったから覚えていない。
都合がいい記憶だ。何しろ夢なんだから。
259クロ@強気な彼女と奏鳴曲 ◆oEKbgAzJcE :2007/11/14(水) 21:48:05 ID:j28Oowt7
「……ん?」
目覚めると窓から差し込んだ光が顔を照らしていた。
昨日の佐伯さん、あれは結局俺の妄想による夢だったのか……。
「……ん?」
良く見ると部屋の装飾がウチの部屋と異なってる。
ベットもこんな、……あ?
「佐伯……さん?」
佐伯里香。夢の中の恋人。何故ココに?
良く見ると裸で俺の腕の中で寝てる。何が起きた?
「んぅ……ん…………」
あ、やばい、起きそうだ。
とりあえず彼女に何か着せるものを……あれ?
佐伯さんのあの部分からどろっとした白いものが垂れてる……
しかもベッドにのいたるところにも……
……中田氏ヤッチマッター?
ここは起きないうちにエスケープした方が……
「んふふふ…だいすきだよぉ……」
ヤンキーなのにそんな事言うのはやめて欲しい。逃げられなくなった。
しかも良く思い出せば、こちらから告白しちゃったんだよな。
うう。
責任……とるしかないよな。
一緒にいて話題が尽きる事はないだろうな、と思う。多分引っ張りまわされるから。
ああ、起きそうだ。俺の彼女(仮)が。

もう一度告白すると起こられるだろうから、先に謝っておこう。
260クロ@強気な彼女と奏鳴曲 ◆oEKbgAzJcE :2007/11/14(水) 21:49:53 ID:aJFKi6Pn
強気な成分と文章が不足な気がするのでしばらく山に篭ってきます。
261名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 23:41:13 ID:rNRAZHVk
>>260
そんなことはなかったぞ、楽しめた。GJ
262名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 23:58:48 ID:UMNSTISA
ちょっと話を強引に進めすぎかなって思った。
もう少しキャラの描写をすれば更に萌えれたと思う。
263名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 00:18:38 ID:y0RH9ZFr
ギャップの具合がイイネ!
このあとも昼間は強気のままでいてほしいです。
GJ
264名無しさん@ピンキー:2007/11/17(土) 01:23:36 ID:hShjwcUp
言わなくともわかってると思うけど、更新してたよ。ツクバさん。
265名無しさん@ピンキー:2007/11/17(土) 03:31:28 ID:KUK5bC3+
ツクバ屋さん

http://tukuba.free100.tv/
266名無しさん@ピンキー:2007/11/17(土) 07:23:27 ID:pFEB1WAK
>>265
hくらい抜きなさいよ。
ほんとデリカシーって物が……

……え?しばらくHしない?
よくそんな下らない事思い付くわね。

…………
……側にいてくれないなんて嫌。
さっきのは……忘れてあげるからっ
だから今日も……ね?
267名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 08:12:58 ID:RsNOKuTm
268名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 03:19:23 ID:byUjv9RX
age
269名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 14:52:10 ID:Z5/b/Gco
あげ
270名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 20:07:04 ID:QmBNXyMq
一気に過疎ったな、何か余所で祭りでもやって、そこに流れてったのか?
271名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 21:56:04 ID:6Lfi5mDH
しばらく投下がないからなぁ…ある程度過疎になるのは仕方ないでしょ?
272名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 07:21:30 ID:jRq0dEII
ツクバさん更新。
273名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 08:18:28 ID:8l+NjFaT
>272
教えてくれてありがとう。そんな優しい君が好きだ、愛してる。
274名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 11:37:09 ID:sxvc8UlK
あっ!愛し…っ!
そ、そう言うことを気軽に言うから信じられないのよ、あんたは!
もっと、こう……シチュエーションをわきまえなさいよね、バカ。
275名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 16:23:25 ID:hyDDNCmB
>274

今後は気を付けるよ。ゴメン、愛してる。
276名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 01:21:42 ID:G2gya/9Q
保守
277名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 02:03:49 ID:/4tBKESx
ほしゅ
278名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 00:06:09 ID:KMOPNq9P
はぁ?ツクバさんがサイト更新?
そんなのどうだって良いわよ。
最後の句点が怪しいとか知らないんだから。ばか。
279名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 10:04:41 ID:ASs+jfTC
>>278
ありがとう。愛してる。
280名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 00:19:30 ID:egdtG/X/
ええい!最初に注文したカレーワッフルはまだか!
281名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 08:00:13 ID:DbgkBtr4
>>280
このレスを見ると月が替わったと感じるようになったなぁww
282名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 17:44:25 ID:8lsTwuHq
毎月同じ香具師が注文を確認しにきてるのなら、
代わりに作ってあげてもいい気がする。>Kワッフル
283名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 19:37:25 ID:va33N5E0
Curry…
284名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 20:38:31 ID:xBgqRzNt
>>278
いちいちおっしゃって頂けなくとも存じておりましたわよ。
お節介が過ぎるのではなくて。
285名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 21:25:44 ID:egdtG/X/
>>282
少なくとも9月以降のは俺のはずだ
286名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 15:35:37 ID:jR1yhCZx
カレーワッフル、もうでなかったっけか?
287名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 16:51:42 ID:gwG28L+4
俺が書いたのはワッフルカレーだったort
288 ◆XfvzyYGOPA :2007/12/07(金) 02:06:21 ID:kTNmk0s9
なんというか、予定より1月遅れというどうしようもない事態になってますが、どうにか書き終わる目処がついたので投下します。
話がどんどん長くなってしまったので、とりあえず今回は前半だけ。
最後の最後まで相変わらずエロのエの字もないので、受け付けない方はスルーしてください。。
289We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/07(金) 02:08:55 ID:kTNmk0s9
赤く、黄色く染まる道の両側。その真ん中を歩く。
ほんの5分前は街の中だったけど、少し歩けば森の中。山の麓だっていう事は街にいる限り存外気づかないものだ。
……ま、単に田舎だってのが一番なんだろーけど。
少し耳を澄ませば、鳥の声が聞こえる立地条件。別荘地としては合格点。
ほんの数ヶ月前までは蝉が鳴いていたっていうのにねえ。
季節の移り変わりというのはせっかちだなあ、なんて意味のないことを思う。
……時間なんて結局は主観に過ぎない。変わるものは変わってしまうし、失ったものは戻ってこない。
陳腐で使い古されたような文だけど、それはつまりどうしようもなく否定できないからこそ陳腐になるわけで。
諸法無我、諸行無常。色即是空、空即是色。

……キャラに合わないわね。
それでも、まあ。
……あの場所に行くのに考えるテーマとしては、相応しいと思う。
舞い落ちる葉の色は、紅葉を通り越して枯れ葉じみてきてる。
空を仰げば、真っ青な空にいくつかの筋雲がかかって見えた。

「……高いなあ」
手のひらで顔を覆って、指の股から仰ぎ見る。
夏の間には生い茂る葉が空を隠してたから、そうした景色を見ることなんて出来なかった。
空間が広がった分、山頂からの風が一気に吹き抜けてきて、寒い。
「う……、もうちょい厚着してくりゃ良かったか、まずったなあ」
自分の体を軽く抱きしめて、少し震える。
ぶるり。
ほんのちょっぴりの気持ちよさとともに熱を放出して、ゆっくりゆっくり息を吸う。
目を閉じながら、やっぱりゆっくりと息を吐き出して、背後を向く。

目を開けて、さっきまで見ていた方向の後ろを見る。
市街地より少しだけ標高の高くなっているここからは、街の中でも背の高いいくつかの建物を見分けることが出来る。
や、殆どは木に隠れて見えないわけだけど。
赤と黄が、緩やかな風とともに雪のように舞っているのがどことなく郷愁を感じさせてくれる以外はいつも通りだ。
2色以外に見えるのは、樹と地面の茶と影の黒、空の青くらい。
高く遠くを見つめながら、パノラマ視点でじっくり旋回。
そんな光と影のコントラストを作り出す木々の後ろには全体的にオレンジっぽい山がそびえてる。
あらためて前を向きなおしてみれば、目の前には分岐点がある。
街からここに来るのに使った、道。
90度横にそれる小道と、本線とも言えるある程度整備された通り。
……まあ、山道に変わりはないわけで、車も通れないような狭さだけど。
でかい方の道に首ごと視線をやってみれば、こぼれ出る言葉が1つ。
「この道を行けばどうなるものか……」
いやまあ、あっちの山への登山道になっているんだろうけどさ。
ふと浮かんだだけの言葉、意味のないようなことを呟いてみたりも。
290We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/07(金) 02:09:43 ID:kTNmk0s9
……少しだけ、ほんの少しだけ笑って、目立ちにくい小道の方へ。
よくよく見れば道の分かれ目には、朽ち始めた小さな木の看板が矢印とともに小道の先にゃ何があるかを控えめに主張している。
だけど、木肌に墨で書かれただけのそれは正直地味すぎてあんまし役に立ってないような。
ま、そんな千客万来を望むような場所じゃないし、用がある人ならまず所在知ってるだろうからこれでいいのかもしれないけどさ。
と、そんなすぐに忘れるだろうとめどない思考とともに歩き続ける。
それでもまあ、一応は教えてあげた方がいいかもしれないかな、先方に。
数分もすれば忘れてしまうに違いないだろうけど、覚えていたら、程度の強さでそんな事を考えた。

ざくざくざくざく、ざくざくざくざく。
落ちて積もりだしたもみじを踏みしめ、歩く。
この道はあちらさんが毎日掃除をしている筈なんだけど、それでも木の絶対量が多いんだろう。
掃除をやめればあっという間に土が見えなくなるに違いない。
そんな、落ち葉の合間合間に見えるむき出しだけれど固められた地面。申し訳程度に置かれた縁石伝いに数分ほど。
次第に傾斜がきつくなってきて、階段が欲しいな、とちょうど思う頃合に現れるのは、まさしくそれそのもの。
手すりのついた、白い階段。
元々は石段だったものを後からコンクリで舗装しなおしたようで、いくつかの石がコンクリに埋まっているのが見える。
……出っ張ってる石につまづくと危ないと思うんだけどなー。
『毎回毎回』この場所を通るたびに思うことを、今日も思う。
それこそ、いつもの習慣だ。
そんな事を考えながら、体はすでに階段の中ほどに。
時折顔を出している石を踏まないように、足取りは決まったコースを。
あまりに慣れすぎてて、そうしようと考えるまでもなく体は行動に移している。
……そう、いつもの事、だ。

一歩、一歩。
しっかりと大地を踏みしめて、白い階段を上ってゆく。
その度に、ちくりちくりと……とげが心に刺さるような、居心地の悪さが増してゆく。
……それも日課だ。
この感覚を、忘れてはいけない。どんなに季節が移り変わってもこれを感じなくなってはいけない。
慣れるなんてもっての他だ。
……あたしは、これを受け続けることを認めなくてはいけない。

耐えるのでもない。受け入れるのでもない。
……それこそ、失礼というものだから。
耐えるなんておかしい。だって、別に悪意や敵意にさらされてるわけじゃないもの。
受け入れるなんておかしい。それこそ、起きた物事を過去にして踏み躙ろうとすることだもの。
ただただ、この状態にさらされ続けること。
あたしがそういう立場にあることを認めること。
……必要なのは、それだけだ。この感覚をどうこうする訳にはいかない。
たん、たん、たん、たん。
一段一段を踏みしめ、上がってゆく。
思い〜込んだ〜ら、試練の〜道を〜……なーんてね。
……ったく。茶化してどうすんの。
……あはは。でも、だけど、そうでもしないとやってられない。
整地ローラーなんて引いたことすらない。そんなあたしがこう言うと野球やってる子たちに失礼かもしれないけど、心情的にはそれよりもっと重いものを引いてる気分だ。
……自分も含めて、何もかもをも取り繕いながら進む、進む、進み続ける。

…………不意に、視界が開ける。
転ばないよう、下を向いていた目には空の青さがまぶしい。
そこには。そこにあるものは。
――――そこにはいくつもの、いくつもの人間の影が並んでいる。
かつて人間だった人たちの名を刻んだ、ずっしりとした直方体が。

開けた空間に整然と並ぶ、暗い灰色の石。
紅葉に四方を囲まれている分、その原色の少なさはくっきりと印象に残るけど、ところどころには緑や花が添えられている。
……ここは、そう。

お墓――――霊園だ。
291We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/07(金) 02:12:03 ID:kTNmk0s9




「こんにちわー」
すっかり顔馴染みになった霊園の受付の人に軽く体を曲げて挨拶。
毎日お疲れ様、なんて声をかけてくれるお婆さんに悪い意味でなしの愛想笑いを返しながら、お堂の屋根の下に向かう。
まあ、お盆でもお彼岸でもないのに毎日毎日ここへ来る人なんてそうそういないだろうからね。
そんな事に苦笑しているうちに、目的の場所へ。
手桶と柄杓。流石にこれを家から持って来るのは面倒だから、ここで借りる。
外に晒されっぱなしだから、握る手には大分冷えて感じられるそれを適当に引っ掴んで下ろして、そこで気付く。
……そうそう、今日はそろそろ変え時なんだよね。

「すいませーん、しきみ、貰っていきますねー?」
さっきのお婆さんに呼びかけてみれば、どうぞどうぞとのお声。
備え付けられている箱の中にしきみの代金を入れて、ガラスケースの中に並んでいるしきみを桶に入れる。
……そういえば、うちの家系は菊を供えていたんだよね。
宗派の違いって奴かな。
最後に菊を供えたのは、いつだっただろう。
……そんな、わずかな郷愁を抱く。
今の自分の立ち位置は自分で選んだもんだってのに。
たとえ、話をし始めたのはあいつやあいつの娘さんでも、決めたのは自分。
その選択の意味は、そして正否は。
……問い続けていても、答えは出ない。

「……なんにせよ、ね」
桶を掴んで霊園の外周沿いへ。
園内の入り口に植えられてる松の木の下をかいくぐって、墓群を回り込むようにゴー。
高い高い空の下、木の葉の擦れる音を聞きながらそのまままっすぐ半分進む。
時折園内まで張り出した紅葉から、真っ赤な葉がひらひらと。
……うん、こう言っちゃなんだけど、少し風流だなあ。
霊園自体が和テイストな以上、正直単に風景を見ているだけでも色々といいなあと思う。
答えは出ない、か。そんなのは当然だ。
たとえば、この風景に何か感じるものを問われたとしても、それに正解なんてあるはずがない。
要は主観。立ち位置をどう思うかという行為自体に対して、どう思うかって話。
それへの私の答えは、こう答えるしかない。
とにかく、忘れないこと。あの子がいたということを。あの子の想いを。
問い続けることで――――結果的にあたしを苛んでいるとしても、……絶対に、あの子を過去にしない。
それが、あたしのなすべき事だと思う。

息をつけば、そこは水汲み場。
蛇口を捻って水を出す。
こういう所の水ってのは何故か知らないけどやたらに勢いが強いことが多いのよねー……。
と、そんな事を考えてみたら、
「つべたっ!!」

……例に漏れず、妙に激しく噴出した水が桶から跳ね返って袖を濡らした。
何やってんだかなあ、あたしゃ……。
はー……。
気を取り直して、蛇口を軽く閉める。
……今度は勢いが弱くなりすぎた。
……あー、出始めだけ勢い強いパターンな訳ね。なんてーか、空しい。
まあ、そんなこんなを思っているうちに水が溜まったので、きゅきゅっと栓を閉めて、と。

292We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/07(金) 02:12:50 ID:kTNmk0s9

「よ……っ!」
水が入ってそこそこ重くなった桶を片手に、霊園の中の方へと入ることに。
林立する墓石は、どことなく厳かな感じがして、まるで西洋の神殿のような圧迫感があると思う。
実際それに意味合いは近いんだろうけど。
そんな墓石の群れを横目に歩いてしばらく。
お墓もある程度区分けされているから、直交路に従って目的地へ。
「ういのおくやまけふこえて、あさきゆめ、……と」
いろは順に名前を付けられたお墓の列を数え数え、歩を進める。
……いつも風が寒いなあ、この辺りは。
……うん、ちょっと引き返したくなるくらい。
俯いて、……下だけを見て、お墓の番号を確認しながら、一踏み一踏み。
「……め、の32と」
め−32。
唾を飲み込み、顔を上げる。
ここが目的地。
殆ど毎日毎日、あたしがあの日からずっと通い続けている場所。
来るたびに締め付けられるような、切なさと空しさとやるせなさ、そして落ちつかなさの入り混じった感情に襲われる。
それでも、怯えと恐怖を抱きながらも、いくつかの意味で来続けなければならなくて、そして、自分の意志で来ようと決めたそこは――――。
当然、たった一つしかない。
あの子の、……お墓。


さっき水汲み場で湿らせてきた雑巾で軽く表面を拭く。
殆ど汚れなんかはないわけだけど、それでもやっとく。大事なのは行為そのものであって、実際どうなるかなんてのはあんまし意味がない。
上のほうから下の方へ。
戒名の彫られた窪みをなぞって、花入れの周りから家名へと。
線香入れを、中を湿らせないよう外側だけ拭って、ひと段落。

「さて……」
そのまま花生けを手にとって、足早に再度水汲み場へ。
……やっぱり、風が冷たいなあ。
なんどもなんども――――、そんな事を思う。
捻る蛇口の先からほとばしる水量は、さっきとは違って最初から勢いは強くない。
当然の事ながら、さっき使った分の影響だ。
水が冷たいからおっかなびっくりだけど、ゆっくりと手を水に浸して慣らす。
……うあー、寒ー……。
そんな事を考える余裕が出来た所で、ようやく手にとって花生けを洗う……というか磨く。とりあえず、萎れたしきみを取り出して、軽く表面を流す程度に。
考えるような作業じゃない。それこそ体感時間はあっという間だ。
雑巾で水分を取って、戻って備え付ける。
柄杓で水をすくって、花入れに注いだあとにしきみを活ける。
……これで、準備は完了だ。
後はもう、目的を果たすだけ。

――――1歩、下がる。
……小さい。
そして、目立たない。
いくつもいくつも並ぶ墓石の群は、多少色やお供え物に違いはあっても殆どが無個性だ。
いやまあ中には石像じみてたりみょうちきりんな形してたりするものもあるけど、それは置いといて。
……しかし、当事者はなに考えてあんなお墓にしたんだろーか。
死後まであんなんじゃ落ち着かないと思うんだけどなー……って、全然置いておけてないか。
……こほん。
逃避はいい加減になさいってば。誤魔化すな、あたし。
向き合わなきゃ。
……何と?
……あたしの、友達だったかもしれない人と。
…………あたしが、家族になれるかもしれない人たちと。
293We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/07(金) 02:13:37 ID:kTNmk0s9

そう。本当に小さくて目立たなくて、埋もれてる。
人の一生の行き着く先なんて、そんなもので語れるのかと疑わしいほどに、それは存在感がない。
あの子の思ったこと、言ったこと、行動したこと。
……それらが全て、見出せない。面影なんかありゃしない。
あの子がいたという証であるはずなのに――――、あまりにも、あまりにも……。

……駄目だなあ、上手く纏められないや。
……何にせよ、そんな無個性は、更にたくさんの無個性の中のひとつに過ぎない。
あの子の全ては、結局、星の数ほどの人生の1つなのだ。
否定したくても否定できない、それは当然すぎるから。
……あたしも、あいつも、そして……あの、小さなお姫様も。
嬉しいのか悲しいのか、あの子と同じ条件な訳だ。

この限りなく平等な灰色の慰霊碑たちの下には、どれだけの人のどれだけの記憶が眠っているんだろう。
その殆どがあたしには無縁で、どういう人だったのかは一切合切私には分からない。
見渡す限りの無機質な石くれはみんな同じに見える。
それぞれにそれぞれの由来があるにしても、どれもこれもどうしようもなく虚ろだ。

息を大きく大きく吐いて、前を見据える。
そこにあるのは、やはりお墓だ。
他の周りにあるものと何も変わらない、この霊園を訪れる殆どの人にとっては単なる風景の一部でしかない墓石。
……だけど。
その下に埋まっているのは、あの子の残滓。
ちょっと引っ込み思案だけどお人好しで、笑って、泣いて、喜んで。
そんな、私自身のように感情を動かしていた人間だ。
……それが今はもう、誰も彼もが認識できていない。
彼女をここから想起するのは、彼女を知っていた上で、尚且つ彼女の現在を気にかけている人だけだ。
例え昔のあの子を知っていても。
彼女の今に関心を持たなければ、今、あの子がここで眠っているなんて事を知る機会はないんだから。

――――そうして、誰からも認識されず……次第にその存在は記憶からは薄れていく。
あの子がいたというその事実すら、きっと。
故人を知る人の記憶が消えてゆき、そして、その人も故人となれば、完全に。
あの子だけじゃない。
他のお墓の下も、きっとみんな同じ様に……見て、触って、聞いて、嗅いで、味わって、感じて、覚えて、話していた――――人間だったんだろう。
誰も彼もが、その縁者にしか認識されることがなくなって……その果てに、本当の意味での単なる風景と化す。
……ここに、この世界に、確かにいたんだろうに。


……私の決めた事は、だから、それに付け入ることと同じだ。
確かにあった大切な過去、大切な人。
そこにある思いを踏み躙って、我が物顔で居座ろうとする。
例えかつてその場所にいた人がいなくなったからといって、そんな事は許されるんだろうか。
いや、許す許さない以前に、どうしようもなく――――むごい仕打ちだ。
相手は故人。だからこそ、もう思い出を増やしていくことも叶わない人だからこそ、あたしはもう手を引くべきじゃないのか。
何度も何度も考えた。
……だけど、私は今ここにいる。
自分を穢し、彼女を嬲り、その想いを私利私欲のために蹂躙することになると分かっていても。
それでも私は、ここにいる。

だから――――、だから。

私は忘れない。
誰もが忘れても、私は忘れたりはしない。
あの子は、ここにいたのだ。
私がここにいるように。
294We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/07(金) 02:14:34 ID:kTNmk0s9
申し出がたとえあいつからであっても。
娘さんがどれだけそれを望んでくれていたとしても。
それを理由に、あいつの隣にいることを決めたなんて責任転嫁、私が自分に許すもんか。
決めたのは私だ。
あの子の居場所を奪い取り、あの子の想いを踏み躙ると決めたのは、全て私自身だ。
私はあの子を奈落に突き落とす。故人である以上、文字通りの意味で。

罪悪感。
結局はそれだけなのだ。私がこんなに言い訳がましいのは。
こんな風に罪悪感を感じるくらいなら、始めから身を引いているか、あるいは彼女の全てを奪い取って、がははと笑って見せた方がよっぽど故人への侮辱は少ないだろうに。
本当に、私はどうしようもない……咎人だと、そう思う。

だけど。
私は罪悪感に押し潰されることが分かっていても、決めた。
それが赤熱した鉄の茎と釘の茨、刃の葉と鋼糸の蔓、炎の花と酸の蜜によって編み上げられた道だとしても。
……それを進むと決めたのは全て自分なんだから。
恨まれて、呪い殺されてもそれも一つの結末。

私は忘れない。
罪悪感も、あの子の残滓も何もかも背負うと決めた。
あの子を忘れない為に。
それこそが、私にできるあの子への礼儀だと思うから。
例えそれが、忘れ去ってのんきに暮らしてれば幸せが約束されてるとしても、誰も何も得ることのない自己満足でしかないとしても。
……全部、私がそうしていくと決めたのだ。



誰かが望んだ、みんながみんな幸せになれる完全無欠のハッピーエンド。
――――私は、お姉ちゃんとなら家族になれるって信じてる。お父さんも、お姉ちゃんも、幸せって思える家族に、だよ。
そう言う舌足らずな声のリフレイン。
あはは、いいなあ。心の底から思う。
それはどんなに素晴らしいことだろうかと。
……でも、やっぱり幻想は幻想。
子供の想いは純粋で、だけど儚くて。
人の夢と書いてそう読ませるってのを知らないからこその残酷さ。
それを成し遂げるには、ちょっと現実には譲れないものが多すぎる。
この世界には人の想いは、それだけ多くて大きすぎるのだ。
あの子のも、あいつのも、私達の家族のも、私達の友達のも、私たちの同僚のも、私達自身のも。

「……あなたはどうするつもり? こんな泥棒猫のあたしに対して」

――――風が吹く。
さあ、という木の葉の擦れる音。
遠くから聞こえてくる、町の喧騒。
顔を上げた視界に入るのは、空の蒼さと雲の白さと山の赤。
しばれるほどではないけれど、肌寒い朔風払葉の時節の空気。
髪がなびいて、文字通りそこに一枚のもみじが当たった。
そのまましばらく髪に張り付いて……、風が弱まった瞬間、ゆっくりと剥がれて下に落ちていく。
と、
「ひゃ……」
収まったと思ったら、いきなり強く吹き付ける風。木枯らし。
下に舞い落ちていた枯葉は、それに煽られて飛んでいく、私の横へと。
振り向いても、もう見えない。

風が吹く。
風が吹く。
風が――――、

とうとうと、凍々と吹き続ける。
私はひとりで立ちすくむ。
295We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/07(金) 02:16:54 ID:kTNmk0s9
返事はない。呼びかけもない。
故人は応えず、ただまどろみの中で傍観するのみだ。
ここには私しか居ない。
……整然と並ぶ墓石の群は、まるで回廊の様。
その中を、私はひとりで歩いてゆくのだろう。
死者の残滓に絡まり、自傷しながらも。

マッチを擦って、ろうそくに火を近づける。
「あ……」
赤々と燃えるそれはしかし、燃え移る前にあっという間に消えてしまった。
もう一回、新しいマッチを取り出して、繰り返す。
今度はついた。消えそうなくらいに小さな赤は、徐々にだけどそれなりの体裁になっていく。
ぼう、と、ぼんやりとした火は、日の光の中で目立たないながらもしっかりと光っている。
電気の明かりやキャンプファイヤーの炎とは違う輝きだと思う。
……そう言えば、命はよくろうそくの火に喩えられるけど、何が原典なんだろう。
そんな事を思いながら、お線香の包み紙を破った。
折らないように剥がして、緑色の束を取り出してからゆっくりと火に近づける。
そのまま、数秒。
火の中の線香は、その名の通り独特の匂いを持って燃え始めたことを主張する。
そうしてそのまま、お墓の指定位置へと丁寧に。
柔らかな色合いの火は、確実に燃え続けていた。

お数珠を取り出して、一回捻る。
球が三つある方が左手、二つある方が右手。それぞれの中指に……だったかな。
前とはやり方が違うから、未だに慣れない。
そして、合掌。目を閉じる。
想起するのは過去の事、今の事。
そこにあるのは供養の気持ちなんだろうか、それともどうしようもない嫉妬なんだろうか。
あるいは、良心の呵責なんだろうか。
……どれであるのか、分からない。
全部であるような気もするし、いずれでもないのかもしれない。
ただ確実なのは、私はこの子を忘れていないという事だ。
それが幸か不幸かは別にしても。
この子が望むかどうかは別にしても。

物言わない灰色の直方体に、記憶の中の、つまりは都合よく捻じ曲げられたあの子に対して私は話しかける。
「……もし、いつかまた会うことになったら。貴方は私を怨む……、ううん、怨んでくれる? それとも、現在進行形で怨んでる?」

……祟り殺されてもしょうがないとは思う。納得はしている。
だけど、いちいち自問するのは覚悟が無いからだろう。
どうしようもない臆病者だ、私は。こうして逃げ道を作ろうとしている。
そもそも、記憶の中にいるあの子は、私に対して泣きそうな顔をしながら身を引きそうな気がする。
もしくは、笑ってあの子も、あいつも、私も皆で楽しくやっていこうとするかもしれない。

――――そうした、自分に甘い幻想ばかり思い浮かべる自分がこの上なく情けない。
都合のいいことばかりだ。
皆が幸せになるにはこの世には自身も含めて人の想いが多すぎる。
誰にだって譲れないものがある。私だって、あの子だって、他の人だって。
自分の都合で他人の想いをでっち上げるな。
……確かなのは自分の想い。
私は決めた、決めたんだ。
あの子にも、周囲の目にも、自身の良心にだって傷つくことになったとしても。
それでも、あいつとその家族を支えていこうって。
私一人が勝手に決めて、私一人が勝手に進もうとしてるんだから。

「……うん」
よし、どうにか今日の分の覚悟は出来た。
あの子を忘れず、追悼することと、私の意思の確認。
その2つが毎日ここへ来る理由。
……これでいい。
296We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/07(金) 02:17:41 ID:kTNmk0s9
数十秒かけて深呼吸。
1回。
2回。
3回。
冬の始まりの緊迫した空気が肺を満たす。
閉じていた目には、何度目かに見上げた空も更に更に青くしみる。
余計青く感じられるのは、朝の時間の経過もあるかな、たぶん。
感覚だけでなく、実際に青くなってるわけだ。
同時に立ちあがって、腰を伸ばす。
天に向けて両拳をパンチ。
「……くぅ…………っ!」
あたたたたた……、骨や関節がぼきぼきと。
首を回せばごきりと嫌な音。
……まず。少し痛い。
手を首の右側に当てて苦笑い。
「……たはは」

一気にそれで気が緩んだ。
……ふう、すっきり。
シリアスモードはここまで、かな。
これからは日常だ、様々な雑事が私……いや、あたしを待ち受けている。
それは生きてる人たちとのものだ。
地に足が着いてたりくだらなかったりで、あたしたちが生きていく為に必要なやりとり。

肩をぐるぐる回して、真正面からお墓に向き直る。
「……また、来るからね」
それだけを言って、体を翻す。
無数の直方体を視界に捕らえながら、一人で日常へと帰還する。
さて、今日のご飯はどうしようか。
パンは昨日食べたから、今日はご飯食がいいかもしれない。
冷えるから、あったまるおかゆなんかがいいかな。
そんな事を考えて、歩を進める。
……足音が、とてもよく響く気がする。
想起する日常と、現状との乖離がますますそれを強くする。
当たり前だ。
……ここに来るのは、こんな道を選ぶのはあたしだけだから。




……そう、思っていたのに。

「……ここに来てたのか」
「…………え?」

霊園の出口で佇んでいるのは、家でグースカ眠っているはずの面倒臭がり屋だった。



297 ◆XfvzyYGOPA :2007/12/07(金) 02:20:59 ID:kTNmk0s9
今回は以上です。
後編は近日中に、できれば……。

今更ですけれど、>>129-135の話の続き、最終話の予定です。
多分、次回は少しだけ恋愛話できるはず……。おそらくエロまではいけませんが。
自然に濡れ場への流れ書ける人は本当に尊敬できます。
298名無しさん@ピンキー:2007/12/07(金) 21:09:01 ID:GuYJ8Q6G
>>297
続きキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
待ってたぜー GJ!!!

いよいよ最終回か…
299名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 06:54:35 ID:TfzvJWJe
>297
やった!このシリーズずっと待ってました!
エロがなくてもなんだか好きなんだよ。
ヒロインが妙に律儀っていうか頭かたくて。
こんなヒロインでエロまでいってくれたら萌え死に確定だがな。
300 ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:20:31 ID:+g7ATN7F
最終話後編、投下します。
301We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:21:16 ID:+g7ATN7F
寒風吹き荒ぶ参道は、そちらこちらに枯葉を落として単調な墓石群に多少の変化を与えている。
入り口の方で受付の人が暖かい室内でのんびり編み物をしていた他は、誰一人として見えない早朝の山中だ。
……しかし、今日は本当に冷える。家で布団に包まっていてもよかったかもな……。
そんな事を思い、しかしかぶりを振って先へ進む。
連日それの有難みと今の行動とを比較して、今朝方になってようやくこうしている行動の見返りが上回るだろうと判断したからこその現状だ。
流石にここまで来て帰る選択肢などない。それをするなら最初から寝ているべきだったのだから。
まあ、それでもこの寒さはいつもと比べて少し堪える。
ポケットの暖かさが手に嬉しい。このまますっ転んだらあまりにみっともなくはあるが、まあ、その辺りは俺が慎重にしてい、

「……ん?」

気付けば体は前方につんのめっている。
……はて、どうするべきか。こんなときこそ冷静になるべきだ。
まず足を前に踏み出す。体を支える為ではあるが、これだけでは心もとない。
なら必要なのは他の支えだろう。
ポケットに突っ込んだ手を取り出す暇はない。
……なら、体ごと支えられるようにするべきだな。
即座に判断を切り替え、視界の端に捕らえたものを利用することに。
敢えてバランスを右に崩す。倒れる体はその流れの通りに。
自分の右側方にあるのは、当然――――墓石だ。
体を寄りかからせるように墓石に倒れこむ。無論、その程度で傾きはしない。
……罰当たりではあるが。

漸く静止してくれた体。ジャンパーのポケットから手を引っこ抜き、墓石に手をついて体勢を立て直す。
「……見られてはいないな?」
一人ごちて、周囲に目をくばせる。当然誰がいるわけでもない。

……本当は、一人いるはずだ。
俺がここに至る山道の入り口で思い悩んでいた間、躊躇うことなく先へ進んでいた彼女が。
足を進め直し、息をつく。
――――感傷か。
誰も彼もがそれに捕らわれているのか。
それとも俺たちだけなのだろうか。
……後者だろうな。
存外、人間というものは冷淡だ。毎日を生きるのに過去に縛られないのは当然なんだろう。
それでも、彼女はここにいるのだ。
足を止め、前を見据える。
木枯らしの中、林立する灰色の狭間で誰かが一人立ちすくむ、その光景を。
302We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:22:02 ID:+g7ATN7F
――――最初に気付いたのはいつだったか。
そんな昔の事じゃないはずだ。せいぜいが3、4週間前といった所だったか。
いずれにせよ、俺の申し出を受け入れたあいつがうちで暮らし始めてまだ2ヶ月程しか経っていない。
その間ずっと、おそらくは毎日続けていたと仮定すれば、よほどの鈍感でもない限りは気付くだろうとは思う。
仮定が事実かどうかはまた別にしても、少なくともそれなりの頻度である事は実際に確認している。
別にケチをつけるつもりは無い。
一応は一つ屋根の下で暮らしていても、俺は別にあいつの日常を妨げる必要などないのだから。
一緒に暮らし始める前の習慣に散歩でもあったとしても、咎める必要もないし、な。
あいつの意思は最大限に尊重する。何を強制する事もない。
飾ることのない関係だからこその、俺たちの間柄だったはずだ。

……あの年。彼女の死があり、それをきっかけとして逃げ戻ってから来年の春で4年。
俺たちはそれなりに適当に会ったり飲み食いしているうちに、何となく俺の家に来て食事をしたり、家事を手伝ったりしてもらったりするようになっていた。
……別に、口に出して付き合ったり、逢引したりするような事もなく。色気なんてのは存在しなかった。
恋人、なんて甘い言葉とは縁遠い所帯じみた関係だったのは間違いない。
あえてそんな事をする必要も感じなかったからなのだが、文字通り適当だったことだろう。
気の抜けたという意味でも、丁度良い加減と言う意味でも。

何事もなく日々は過ぎ行き日常は順風満帆、平々凡々。
――――そこに来たのが、1年半前の娘の小学校入学と言うイベントだった。
色々あったが、今から考えてみれば変わり始めたのはあれからなのだろう。
幼稚園では馴染めなかったあの子も、人間関係がリセットされることでようやく友人が出来た。
……そうして、大分明るくなったあの子が発端だったのだ。
結果として、今の俺達は同じ家に暮らしている。三人で。

……まあ、あんな関係をだらだら続けていても良かったかどうか、迷ってはいたのだ。
娘も彼女に最初こそ人見知りしていたものの、それなり……いや、とても懐いている。
世間体も考えれば、あまり浮ついた状態は望ましくなかったろう。
それでも、一歩踏み出そうとする考えはさほど強くはなかったのが実情だ。

理由は、……考えるまでもない。
しこりが残るのも当たり前だ。
俺がこの町へ帰ってきたきっかけは、未だに俺を放してくれていなかった。
それだけの、……それだけの話だ。
…………女々しい、という人間もいるだろう。
別にそれで構わない。少なくとも、さっさと別の人間に乗り換えるよりはマシだ。
余談だが、俺は男と言うのはすべからくロマンチストであると思う。だからこそ男の浪漫という言葉があると俺は考えているのだけれども。
要するに、そんな単純に気持ちの切り替えが出来る程に俺はリアリストではなかったのだ。
女性のほうがよっぽど現実的ではあるという事は、俺の様な人付き合いの悪い人間でもよく分かる。

だからこそ世の中には男女の軋轢が生じる訳だが、時折性別と性質が食い違っている人間が存在する。
……男手一人に育てられた為か、どうやらあいつもその口だったようだ。
割り切りのいいさっぱりした人格かと思っていたが、どうやらその逆でとんでもなくサンチマンタリスムに飲み込まれやすい人間だったらしいことが分かったのはつい先刻の事。
表面は笑っていても、内部にどんどん溜め込むタチ。その取り繕い方が上手すぎたのだろう。
少なくとも、俺も含めてあれだけ付き合いのあった高校時代の同級生の誰もがそこに気付いてすらいない。
家事を手伝ってもらってばかりいた2年ですら片鱗も見せなかった。
どれだけ親しくしても友人には分からない側面がある。
……ようやく。ここに至ってようやく、俺はそれを知ることができた。
303We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:22:48 ID:+g7ATN7F
尤も、それが核心になったのはここで、この光景を見てやっとの事。
つい先刻まであったのは、多少の違和感に過ぎない。
毎日を過ごす中での、取り繕ったような表情。特定の事柄に対する不自然な言動、食い違った行動。
……微細な噛み合わせの悪さの累積こそが、その正体だ。
具体的に言うならば、……あいつは、極力俺たちに気を使ってばかりいたのだ。
自分の立場に文句も言わず、それでいて死んだ彼女の事を常に意識し続けて。それを見せようともしない。
おそらくは俺が帰ってきてから、今の今まで。
ずっと一緒にいることで、ようやくそれが顕在化してきたのだろう。
逆に言えば、俺達はそれだけ負担をあいつにかけているということでもある。



――――彼女は一人、立ち尽くしている。
拓けた、荘厳な斎場の真中で一人、風に煽られながらも立ち尽くしている。


舞い落ちる葉、赤と黄の紙吹雪。
空の青、墓石の灰。
彼女以外で目に映るのはそれだけだった。



それは、ほんの一月よりなお近い程に前。
まだ夜が白み始める時間。前夜の執筆の為、床に入ったものの中々寝付けずにいた日の事だ。
作家と言うのは因果なもので、寝る時間が不規則になる。アイデア様が降りてきたときは尚更だ。

――――だから、どうにか寝る為にアルコールを摂取しようとして、部屋を出て。
その時はじめて知ったのだ。
隣室、彼女が寝ているはずの部屋に人の気配がなく。彼女の靴もまた、見当たらなかったことを。

気のせいかと思った。
一眠りしてみれば、いつも通り彼女はそこにいた。
それでも、何となく次の日、同じ時間にこの家と外界との狭間を見てみれば、……期待通りなのか期待はずれなのか。
前日と同じ状況が形成されていた。

次の日も、そうだった。

いくら面倒臭がりの俺でも、気にはなった。自分の知らないところで、彼女が何をしているのか。
……普段、真っ昼間なら意識すらしない事。何を気に留める必要がある。
ああ、それは重々承知はしているさ。それなのに、そのことを四六時中考えているのは何故なのだろう。
……だが、問い詰めるのもどうかと思ったのだ。
そう、彼女は何をしているのだろうか。
散歩かもしれない。まあ、良くある話だ。
アルバイトか? 新聞配達なんてベタすぎる。
……人と、会っているのだろうか。
俺以外の、誰かと。

それに思い至った時は、言いようのない圧迫感に襲われた。
……だが、同時に当然かもしれないという考えも浮かんできていた。
何故なら、俺は彼女をある意味とても都合よい存在として扱っていたのだから。

…………今更関係を変えるのが気恥ずかしかったのだろうか。
それとも、……それとも、今はいない彼女に対して、俺達は…………。
……何にせよ、籍だけは入れても、俺もあいつも今までの付き合いを変えようとはしなかった。
部屋も別々の場所を割り振り、いわゆる夫婦の営みをするどころか、それを匂わせることもしない。
だから、彼女の外出に気付かなかったのだろうか。
俺が表面上だけの関係を続けようとしたから、彼女はこんなことを続けているのだろうか。
304We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:24:22 ID:+g7ATN7F
……考えた。
ああ、それこそ一月近い間考えた。
考え、考え、考え……。
結果として俺は今、ここにいる。
――――どんな光景がそこにあろうと。
それは俺のもたらしたものであるからと、受け入れる覚悟をようやく携えて。
仮に、俺の最も望まない事態であったとしても、俺なんかよりもっと相応な人間がいるのならそいつにあいつを託してもいい。
…………思えば、あまりにもいい加減すぎる付き合いだった。
自らを酒に酔わせ、そんな事を強引に言い聞かせる。
懐に忍ばせたスキットル。ウイスキーフラスコとも呼ばれるそれに頼り、それでもどうにか足を進める。
そうして、自分を納得させて後を追い、辿り着いた場所は……、最も予測しなかった場所でありながら、あいつが行くには最も相応しいと思わせる場所だった。


――――彼女は一人、立ち尽くしている。
拓けた、荘厳な斎場の真中で一人、風に煽られながらも立ち尽くしている。


……俺が避け続けてきた、その場所で。
一人、しっかりと立っていた。

今はいない、かつて俺の側にいた女性。
それ故に、今この時も。……そして死ぬまで俺の中から消えることのないだろう人間。
忘れたくなくても、それ以上にその全てが色濃く残りすぎている。
あえて意識などしなくても、息遣いすら現実の音よりなおはっきりと耳に響く。
……だから、だからこそ。
それが辛くて、法事でもない限りはこんな場所に訪れることはなかった。

後を追う最中、なんとなく分かってきていたのだ。どこに向かっているのか、を。
足が言う事を聞かない。
体が震え、自身を抱きしめる。
それでも。
俺は見届けなくてはいけない、そう思う。
ようやく手が届いたのだ。今まで見ることの叶わなかった、いつもいつも、仮面と厚着で隠し通してきた本心を。
やっと、理解できた。はじめて捉えられた。
俺が、もう一度だけ横に置こうとしている人間の姿形を。


――――ああ、そうか。
あいつは、どこまでも不器用に、全てを受け入れようとしているのか。


……身を隠すことも忘れ、どれくらいの時間が経ったろうか。
気が付けば彼女は全ての所作を終え、帰り路を踏み出そうとしていた。
何もかもの、全ての動作所作が機械じみて感じられる。
現実感の喪失。
しかして、夢心地と言う訳でもない。
強いて言うならば――――虚無感。
どこまでも淡々と、淡々と。

…………そして、邂逅。
当然の帰結。
意味もなくぼうっと突っ立ってたのだから、文字通りに当に然り。

彼女の目に俺が映る。
俺は何もせず、ただ息を吐く。
彼女が口を開く。唐突に、しかし呆然と。

「……なんで、ここにいるの?」

305We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:25:08 ID:+g7ATN7F

言葉とともにようやく、俺の時間が動き出す。
肌を焼く空気の寒さ。
全身を包む日溜りの心地よさ。
吹きすさぶ木枯らし。
目を貫く日差し。
高く筋雲を抱える朝の青空。
体に張り付く枯葉。
高台に上っただけで激しく打ち付ける動悸。
やけに落ち着いた呼気吸気。
服の隙間の汗の蒸し暑さ。
ありとあらゆるものが――――俺を、今、この場所に引き戻した。


「……えっと、寝てたんじゃ……」

……今ならはっきりと分かる。何故、どうして気付かなかったのだろうか。
今まで、彼女がいつも浮かべていた笑み。彼女は今、どうにかそれを作っている。
いや、違う。それを作り上げようとしていたのだ、彼女は。
その笑顔が完成すれば、きっと何かを思う事はない。いつも通りの事だからだ。
……だけど、突貫工事のそれへの俺の感想は。
――――なんて痛々しい作り笑いなんだろう。
それだけだった。

今、彼女の表情に浮かぶのは、怯えだ。
その顔からは、普段のなんでもさらっと受け流す、面倒見のいい性格は伺えない。
単に俺がここにいるというそのこと自体への驚きによるものか、それとも他の原因か。
……不意を突かれて、自分自身の弱みとでも言うべきものを曝したことか。
……最後、だな。
そう判断する。考えてみれば、彼女のこうした感傷的な行動を見ることがはじめてだ。
今までの、こんな事すらなかったあまりにも表面的すぎる関係を憂うべきか、漸くそこまで踏み込めた事を尊ぶべきか。
それはこの際あまり関係ないだろう。
俺は、どうすべきなのだろうか。
向き合うことを怖れ、成り行きに任せるままだった目の前の二人との関係。
かつて失った人と、今からを共に歩もうとする人。
……また、適当に誤魔化すのか。

「……………………」

彼女は、不安げに黙りこくっている。
墓石は当たり前に喋るはずもない。
誤魔化し、逃避、取り繕い、妥協。
そんな選択肢が頭に浮かぶ。
小説や映画なんかでは、絶対に選ばれない方法ではある。

だけど。
――――それでも、別に構わない。
俺は、本心からそう思う。
誤魔化しも、逃避も、取り繕いも、妥協も。
その全てが、必要だからこそ存在する概念であり……行動だ。
何もかもに対して自分の信念を適用し、ひたすらまっすぐに突き進む。
そんな事をしていれば、自分も周囲も結果としてボロボロになるだけだろう。
誤魔化しは事を荒立てない為に行うもの。
逃避は安心できる居場所を求める為のもの。
取り繕いは自分か相手か、もしくは両方に気を使うこと。
妥協は双方の意見をまとめる為の弁証法。
何一つ、蔑まれる謂れはない。生きる為の英知であり、人の誇るべき財産だ。
306We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:26:23 ID:+g7ATN7F

さあ、何を告げるべきだろうか。
目の前のこいつは、対人関係では小細工が上手くて丁寧な取り繕いができる。
だけど、もっと上手くやれるくせに生き方はまるで不器用だ。
……もう少し気楽にいこう。
そんな一言がいいかもしれない。

口を開く。
「…………なあ」
びくり、と、彼女の体がわずかに動く。
……全く、そんな警戒する必要はないと思うんだが。一応、早く帰っていつも通りに飯でも食おうと言いたいだけなんだがな。
もう大分寒くなってきたし、こんなことを続けてると風邪を引くだろう。
別に実利はないんだし、こんなことをする時間をもっと有効に使えるんじゃないか?
……はは、なんにせよあの子もそろそろ起きる時間だしなあ……。
いつも俺はこの時間は寝てばっかりだし、たまには三人で朝餉を囲むのもいい趣向だと思うけどな。
「……俺は、実感がなかったんだ。いや、……今でもないんだろう」
「……え?」

……ん? 何を言ったんだ、俺は。
少し待ってくれるか。ちょっと言うべき言葉を整理する。
「……あいつが死んだのは、本当に、……本当にあまりにも急だったのに、何ていうか、自然すぎてな。
別に何か事故があったわけでもない。思いつめていた訳でもない。
殺人なんてショッキングなことに巻き込まれた訳でもない。
……病気といえば病気だったが、それも何日も何週間も入院するような分かりやすいものじゃなかったんだ」
「……どういうこと? 何で、急にそんな事…………」

おいおい、どうした俺。
何でって俺が聞きたいところなんだが。なあ、俺は一体何を話そうとしているんだ?
……そんな他問にも自問にも答えず、俺はとうとうと話し続けている。
生者ではなく物言わぬ墓を見つめて、話し続けている。

「……普段通りだった。
いつもの様にみんなで食事をして、いつもの様に風呂に浸かって、いつもの様にテレビを見て、いつもの様に布団に入って目を閉じた。
……次の日。
目を、覚ますことはなかった。それだけなんだ」
「…………」

彼女達は何も言わない。
喋るのは俺、只一人だ。

「……だから。
だから、俺は正直、今でもあいつが生きているような気がしてやまない。
死んだって言う実感は、ないんだよな……」

「……そう、なんだ」


……涙ぐむ声。
それを必死に隠そうとして、彼女は歯を食いしばっている。
皺が走るのも構わず、服を握り締めてどうにか自分を保っている。
くそ、何を口走ってる。
前の妻の話をして、それも未練があるなんてことをこうも正直に告げられて心労がないはずはないだろうが。
……俺は一体、何をしようとしていやがるんだ、この屑野郎……!
307We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:27:10 ID:+g7ATN7F

「……ああ。……だから」

だから、何なんだ!
……何なんだよ、……俺は。
俺は……何が、何を、求めている……?
……教えてくれ……。


「もう少し胸を張って構わないんだ、お前は」


「……あ、え?」


…………ああ、そうか。
そういう事だったのか。
要するに、……要するにだ。

「……俺が今ここにこうしているのは、お前のおかげだよ。
お前が、そんな不器用な生き方しているの見てやっとの事、な。
俺も、どうにか向き合えそうな気がしてきたんだ。
……あいつの死と」

目線はさっきからずっと墓石に向いたままだった。
――――そう言えば、こんなにまじまじとこの場所を見たのはこれがはじめてだ。
……三回忌が終わって、漸く、か。
どうしようもない人間だな、俺は。
いや、今は感謝しよう。目の前の人に。ここに連れてきてくれた人間に。

……そうだ。言わなければいけないことがある。
……これを言うというのは、俺は本当に非道な人間であるのかもしれない。
だけど、これは、こればっかりは言っておかないといけない。
……俺にも不器用な生き方が感染したのかね。
口元が歪んだ。
が、すぐにそれを消して、見つめる先を墓石から彼女の方へゆっくりと、しっかりと移動させる。
――――別に、それでいい。

「……そして、だ」

息を吸う。
肺に、冷たい大気を満たしてゆっくり吐き出す。
わずかに目を閉じ、再度吸い込んだ呼気を溜め、真正面から彼女を見据えた。

「……俺は、あいつがまだ生きているような気がしている。
……その上で、だ。……俺は、お前に一緒にいてくれと頼んだんだ。
この意味は、……分かるか?」

「な……そ、れ」

……言ってしまった、か。
正直、俺にも実感はない。
…………だが、論理的に考えればそうなんだ。
……俺は、おそらくこいつの事を、最低でも彼女と同格くらいに大切に思っているのだろう。
俺は、故人は故人と、そこまで割り切れる人間ではないのだから。
308We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:29:03 ID:+g7ATN7F

「……あいつが今も生きていて、俺の隣でずっと支えてくれていたら違っていたのかもしれない。
今頃はもっとあいつの事を大切に思っていたのかもしれない。
だけど、……それは、叶わなかったんだ」

……なんて、無慈悲な言葉だろう。
改めて確認する。俺は地獄行きだろうな。


「……何よ、それ……」
彼女の言葉が震える。
前髪に隠れて見えない目。……きっと、それは怒りに染まっているに違いない。
当然だ。
自分でもその身勝手さに腹が立つのを通り越して呆れかえっている位なのだから。

「……どうして、忘れられるのよ。
あの子がどれだけあんたを好きだったか、分かってんの!?
あんたの言っているのは裏切りだって自覚してんの?
ふざけんじゃないわよ!」

……ああ、分かってるさ。
凄い気迫だ。その圧に押されながらも、心のどこかで、そのことへ感謝する自分がいる。
……彼女は、そういう人間だと言うことへの安堵。
故人への悼みを忘れない人間と出会えたことの嬉しさ。
そしてもう一つ、あいつへの想い。
……あいつは、俺のような理不尽な人間と結婚して不幸だったかもしれない。
だけど、ここまで怒ってくれる人間がいるのは、喜ばしいことだと、そう思った。

俺も、彼女も何も言わない。
吹き抜ける風を間に挟みながらも、ただ向かい合っている。
俺は彼女を見据え、彼女は下を向いて体を震わせる。
太陽の光は大分強くなっているのに、風の冷たさは変わらない。
どこまでも愚直に、自分の感情に正直に。

……太陽に負けた北風は、その後どうしているのだろう。
北風を救う為の物語があってもいい。それが俺の結論だ。
……結局、旅人にできる事なんてのはコートを脱がないよう意固地になるくらいしかないけれど。


……そんな事を考えて悦に入っていた俺は、どうしようもなく愚かだと思い知ることになる。
不意に、うつむいていた彼女の顔がこちらを睨みつける。
――――その顔、目からは、涙が溢れていた。
ぼろぼろ、ぼろぼろと。

……何故?
その二文字が脳に浮かぶ。
……俺は、憎しみすら篭っているかと思っていたのに。
あまりに、――――あまりに、弱々しい。

「……どうして、そんな事を言うのよ……。
あたしは、あんたの事、見損ないたくないのに。
……まだ、あの子の代わりっていってくれたほうが、気が楽だった……」
309We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:30:07 ID:+g7ATN7F
…………俺は馬鹿だ。
何が北風だ。手前の勝手な妄想を現実に押し付けるな。
無知であることを棚に上げて、結局は彼女を捉えようとしていない。
彼女は彼女で、……ずっと、気を張っていたのだ。
自分を納得させるための方便を駆使して、それでも俺の隣にいるために。
……こんな俺なんかをよすがにして、自分を保ち。
自分の役割に過剰な期待をしないことで、押し潰されないようにしていた。
この世界にいるのは俺だけじゃない。
自分勝手な行動原理で、相手の事を全く考えていなかったのだ。

……こんなにも、弱々しいとは思わなかった。
今にもくずおれそうになりながら、どうにか立っている。
――――その姿を、どうしようもなく支えたくなった。
今まで支えてもらっていた分を、返すように。

俺は彼女を抱きしめる。
支えるように、支えあうように。

「――――――――え?
ちょ、やめ……っ!」

離さない。離すものか。
……結局俺は自分勝手だ。それは嫌と言うほど思い知った。
……だったら。
いっその事、それを貫いてやろう。不器用に、どこまでも。

「……見損なってくれて構わないさ。それでも俺はお前を選んだんだ。
だから、ついて来てくれ」

一瞬、ほんの一瞬だけ腕の中の動きが止まる。
――――息を呑む音。
それを聞き終える前に、また彼女は動き出す。
逃げる様に、だけどどことなくこちらを抱き返すように。
……告げる。覚悟は出来た。
一緒に行こう。

「別にどう思われようが気にしないさ。俺の自分勝手さにお前が振り回されるだけだ。
……恨む対象があったほうが、気が楽だろう? 少なくともそれを拠り所にはできる」

……腕の中の彼女は、次第に暴れるのを治めていく。
ゆっくり、ゆっくりと。全身運動を少しずつ。
だけど、完全に動きを止めはしない。
肩をいからせて、しゃくりあげるように。
――――泣いている。それを隠そうともしていない。
……家で眠るあの子よりもなお、小さく感じた。
彼女が俺の肩に目を押し当てる。
表情も何も見させないようにするためか。
震える小さな体躯と長い髪。
ようやく気付く。
……昔と何も変わらない、高校生の頃そのままだ。
――――あの頃は、女の子と意識することもなかった。
310We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:31:41 ID:+g7ATN7F

……ここが、人気のない場所でよかった。
これだけ長い間くっついていても、衆人環視に曝される事はないのだから。
そんな事を考える妙な所で冷静な自分が可笑しくて、ついつい口元が少し綻んでしまう。

「……あんた、馬鹿でしょ。どうしようもない馬鹿」
太陽が一つ分は上にあがった頃。
顔を俺の体に押し当て、表情を隠したまま、はっきりとした声で彼女は呟く。

「まあ……、そうだな」

その通りなので言い返しようもない。
尤も、別に反論の余地があったところでするつもりもないのだが。
……彼女の体が温かくて、それが心地よい。
彼女がここにいて、俺と向かい合っていることを実感する。

「……分かってんならさ、直すつもりは?」
「分かっていて直さないから馬鹿なんだと思うけどな、俺は」
「救えないわね、ほんと」
「直せないじゃなくて直さないという辺りたちが悪い」
「自分で言うんじゃないわよ……、って、人のこと言える訳でもないけどね……」
「ま、お前の言うとおり俺は裏切り者で、ろくでもないだろうさ」
「はあ……、あんたと話してると疲れるわ、正直」
「……はは、それなら見捨てて構わないさ、 お前の人生、お前自身が満足する生き方ができるのならそれが一番ではある」
「…………。分かって言ってるでしょ、あんた」
「分かるものは分かるし分からないものは分からないな。……お前のセンチな一面も知ったばかりだし」
「無視するわよ。……何にせよ、今しがたの言葉はあんた自身にも言えるでしょ」
「ん?」
「あんたの人生、あんたが満足する為にはあたしが側にいた方がいい? ……満足?」
「さっき言ったはずだけどな。お前は3歩歩いて忘れる性格じゃないだろ」
「あのさ、中学以来一度も人を殴ったことのないのが自慢だったんだけど、記録更新停止してもいいかな?」
「気が済むならご自由に。言ってるだろ、お前の好きにしろ。何もかもな」
「…………」
「……どうした?」
「……こっちの台詞よ。あんたはどうしたいの?」
「……そうだな。まあ、とりあえずけじめはつけておきたいな」
「けじめ?」
「ああ。……少し、手伝ってもらえるとありがたい」
「…………。まあ、少しなら」
「……悪いな」
「まったく、もう……。いいわよ、別に。それであたしは何を、」

頭のてっぺんとあごを持っててこの要領で顔を上げさせる。
強引にこちらを向かせた、いまだ潤んでいる赤みがかった目のあるその顔に、

「―――――――――ッ……!」

唇を合わせる。
きっかり3秒、別段工夫もない単なるキス。
……籍まで入れといて今更何だとは思うが、それでもこれが俺とこいつの間でのはじめての男女らしい行動だ。



「な、ななななななな、なぁ……っ!!」
「……悪い、今を逃したらどうにも今後踏ん切りがつかなくなりそうでな……」
311We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:32:28 ID:+g7ATN7F

手を離し、息苦しくない程度に距離を取る。
俺がそんな事を言う間、あちらさんはぱくぱくと意味もなく口を開いては閉じるの繰り返し。
あっという間に顔が真っ赤になり、目を丸く見開く。
……少し急すぎたか?
けれど、こういうのは存外勢いで動かないとどうにもならなかったりするものだ。
それにしても少しオーバーリアクションじゃないだろうか。

「ちょ、い、いいいいきなし何してくれんのこの……スカタン!
あっ、あああろうことか、キ、キ、キ……」

そこまで言うなり、いきなり俯いて急に口を噤まれる。
唇に手を当て、目をそらした彼女が見ているのはどこでもない虚空だ。

「……いやまあ、突然なのは謝るが。
実際このくらいならとうにしていてもおかしくないというか、むしろ今までの方がかえって不自然じゃないか?」

「そ、そりゃそうだけど! ……い、一応はじめてだったんだからしょうがないでしょーが!!」

…………はて。
……いや待て。今なんて言ったんだ?
疑問を正すべく歩み寄ってみれば、先刻とは別の理由で彼女は俯いている。
どう声をかけたものか。……仮にかけても反応できるかどうかも怪しいな。
……まあ、そういう事もありうるか。正直ここまで絶滅危惧種だとは思わなかったが。
俺と同い年だから三十路手前になっても……、いや、考えないでおくとしよう。

「…………だってしょうがないでしょ。こんなド田舎じゃ高校時代の友達はみんな出て行くし新しい出会いもないしウチの会社は親族経営だから下手に就職難になるより頼った方が安心だったし…………」

……中途半端な音量でブツブツ呟かれてもな。正直対応に困る。
俺に聞かせたいのか聞かせたくないのかどっちなのだろうか。
どちらでも別に構わないけど、まあ、お前もお前でそれなりの人生送ってきてたんだな、当然の事ながら。

「……まあ、とりあえず言いたいことがあるならそのうち聞くさ、ゆっくりな。
……なんにせよ、だ」
「うぇっ!? な、なに? どったの?」

……テンパリすぎだ。いい加減落ち着いてもらいたいものだが。
まあ、声が届いただけでもよしとしようか。

「……いや、流石にそろそろ帰らないとまずくないか? 時間が時間だ」
「あ……」

今の今まで妙にコチコチした動きだったが、急激に動きが滑らかになる。
……こういうところは流石だな。切り替えが早い。
だけど。……だけど、俺はそれだけではないことを知った。
何となくだが、こう思う。
きっと、内側では色々葛藤しているのだろう、と。
羞恥心や焦りだけでなく、本当に色々なものを押し込めて。

……俺の手助けできることは何もない。
結局は各々の心の持ちようでしかないからだ。
そしてそれを否定するつもりもない。
じゃあ、こいつにとっての俺の存在意義は?
312We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:33:15 ID:+g7ATN7F

「いい加減体も冷える。……温かいものが欲しいな。
コーンフレークとかよりもご飯の方がいいんじゃないか」
「そう……ね。ま、それならお粥とかって手もあるけど」

大分平常心を取り戻したその顔。
口だけの笑いには、力がある。見慣れた普段のこいつだ。
……これでいい。
俺の存在意義なんて、それこそこいつ自身が決めること。
俺がするのはその判断材料を与えるだけ。
……それで十分だ。

「ん、OK。とりあえず今日の所は帰っときましょうか。
まだまだやることもたくさんあるしね」
「……今日の所? まだ、続けるつもりなのか?」

俺たちにできる事なんてのはとりあえず毎日を過ごすことくらいだ。
適当に支え合い、適当に助け合い、適当に騙し合う、適当に喧嘩し合う。
そうしてどうにか生きていこう、一緒に。

「当たり前でしょ。これはあたしなりの清算方法。あんたの言うけじめ、かな。
……それをほっといてのうのうとしてられない程度に神経質なだけなんだけどね」
「……損な性分だ」
「まーね……。ま、分かってても直すつもりはないけど」
「……同類だな」
「同類ね」

互いに顔を見つめ合って、同時に吹き出す。
いつの間にか日溜りはだいぶ大きくなっていて、風向きも変わっていた。
夜の吹き降ろす風から、昼の吹き上げる風へ。

「……そうだ。先、帰っていてくれるか?」
「ん、いいけど。……なんで?」
「……ここまできて挨拶もなしってのは、な」

それだけで十分通じた。
こくりと頷き、彼女の足は躊躇いなく外へと。
帰り際、すれ違う時の一言が耳に届く。

「……お帰りを言うために待ってる。そのあと、みんなで一緒にご飯でいい?」

返事をしようと後ろを向けば、あちらさんは振り返りもしない。
どんな言葉が返ってくるかというのを確信しているかのように。

「……やれやれ」

苦笑とともに踵を返し、数歩進んでみた先はよく知る名の刻まれた石の影。
軽く天を見上げる。
真っ青な空と筋雲。舞い散る紅葉。
「……高い、な
313We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:34:14 ID:+g7ATN7F

やはりこの季節は寒い。一人になって漸く気付いたが、まあ、冬の寒さに身を引き締ませるのも一興だ。
そんな事を思った折、
びゅう、
と、風が吹き抜けた。
風上は町の方。木々の後ろに隠れて見える市街地は、ここから見てみれば山吹色の山々と比べて大分頼りなく見える。
……山頂からのよりも暖かいだろうにせよ、寒いものは寒い。
厚着をして来れば良かったかもしれないな。

――――そうして、頭の中を空っぽにした上でゆっくりと深呼吸。
体ごと墓に向き直る。

「……何から話したものかな」

……色々言いたい事はある。
けれど、そのどれもが最初にかけるべき言葉とは違う気がする。

……そうだな、まずは言葉じゃなくてもいいか。
懐からスキットルを取り出し、栓を開ける。
内容物は国産のシングルカスクウイスキー、日本という世界で五指に入る名ウイスキー産地の誇る逸品だ。


――――命の水。
そう呼ばれる液体を、水の様に墓石にかける。
……半分飲んだか? 残りは俺の分だ。
……そう言えばお前、案外強かったんだよな。ワイン何本開けてもケロッとしていたのもいい思い出だ。

「いい思い出、か」

……俺の結論は、あいつの言っていた通りにそれを忘れようとする行為なのかもしれない。
忘れたい? そんな筈はないだろう。
……もし忘れたいのなら、とっくにヘラヘラ遊び呆けているだろう、そう信じている。
だけど。
314We will share with uisce beatha ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:35:30 ID:+g7ATN7F

「……なあ」

だけど、それでも俺はこう思ったんだ。

「……恨むならいくらでも恨んでくれていい。それに値するとは分かってる」

もう一人だけ、側に置きたい人間がいる。

「……だけど、それは俺だけにしといてくれ。いつか会うことがあったら、好きなだけ憂さ晴らしに嬲ってくれていい」

向こうは俺をほっとけないみたいでな、どうも頼りなく見えるらしい。

「はは、尤も同じ場所に行けるかどうかは怪しいけどな。キリストやイスラムの教えじゃ姦通罪は重罪だから」

……俺からしてみれば、あっちが危なっかしいんだ。……だから。

「……まあ、それでもそのうち会いに行ってみせるさ。どんな言葉だろうとお前の言葉を聞くために」

こちらではあの子だけじゃなくて、そいつにも付き合ってやりたいんだよ。

「だから、……先に行っててくれ。できるだけ、俺もそっちに行けるようにする」

……俺の寂しさもあるのも否定しないけどな。

「……そうだな。もし許してくれるなら、だが。こうならいいなと思ったんだ」

……できるなら、お前もあいつの事を嫌わないでやってほしい。俺はこう思うんだ。


 もしそっちにみんなが行った後。……みんなで仲良くやれたらって、な。
 俺と、お前と、あいつと。……あの子が連れてくるだろう未来の家族と。



――――墓石は答えない。答えるはずがない。
都合のいい、自分勝手な考えを、そうであってくれと死者に願っているだけだ。
……それでいい。
自分勝手な妄想の中で、お前は確かに笑って受け入れてくれたんだから。
たとえ実際がどうであったとしても、あちらでどんな目に遭おうと覚悟はある。
口元に自己満足の笑いを浮かべ、墓地を後にする。
どこまでも青い空の下、風に煽られながらも俺は一人進む。
家族のいた場所から、家族のいる場所へ。
どこまでも都合のいい考えに満たされながら、容器半分の命の水を誰かと分かち合いながら。
315 ◆XfvzyYGOPA :2007/12/13(木) 19:36:34 ID:+g7ATN7F
以上で完結です。
やたらに長くなった上非常に独りよがりな話でしたが、お付き合いくださった方はありがとうございました。
以下チラシの裏。






元々この話、特に第一話は、いずれ同人ゲームで作ろうとしているシナリオの一編の叩き台として、話の腰の部分だけを抜き出して設定を一部改変、SSに仕立てたものでした。
なので、もしいずれどなたかが似た話のゲームをプレイすることがあったら多分パクリではないので問い詰めないでやってください。
キャラクターの名前が出てきていないのもそのためだったりします。
それでは、こんな所まで読んでいただき本当にありがとうございました。

316名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 19:37:13 ID:KAz2ci5V
すかさず、GJ

感動した
317名無しさん@ピンキー:2007/12/14(金) 03:57:34 ID:jUnXJ3hm
>>315
GJ!!   (;´д⊂ヽヒックヒック  目から汗が…
また何か書いてください。 乙でした!


ゲーム完成したらコッソリ教えてくれw
318 ◆lvKOia/kqg :2007/12/14(金) 07:03:30 ID:cXcwoijS
てすと
319名無しさん@ピンキー:2007/12/14(金) 16:27:06 ID:mmErSqex
うんまぁ。
320名無しさん@ピンキー:2007/12/17(月) 10:28:44 ID:boPFbVmU
あげ
321名無しさん@ピンキー:2007/12/17(月) 12:45:19 ID:k/Pa7sTL
別館見つけたからって嬉しいわけじゃないんだからねっ!
勘違いしないでよっ!
322名無しさん@ピンキー:2007/12/18(火) 00:04:39 ID:Ne5dPCn9
>>321
笑顔で言っても説得力ないよ。

でも、そんな君が好きだ。愛してる
323名無しさん@ピンキー:2007/12/18(火) 21:51:21 ID:LnJko00z
バッバカ・・・そんなんじゃないんだから・・・

こうですかわかりません><
324名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 01:31:35 ID:8BLUmzFv
ふん、ばっかみたい

良い年してさ、ありもしない女の子の話になんかに夢中になって


今日はクリスマスなのよ


・・・・・・ほら、あんたのすぐそばにだって


女の子、それもあんたの事を好きな女の子が居るんだから

早く気付きなさいよ・・・




こうか?違ったか?
325名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 06:32:30 ID:wZisiaf1
イブだから間違いだなw
326324:2007/12/25(火) 01:07:18 ID:eHY9gAwu
>>325
すまん。ならこうか?


あんたって細かいのね
イブかクリスマスかなんて大した違いはないのよ

えっ?女の子はもっと気にしなきゃいけない?

あーそーですか!
だったらそういう女と付き合えばいいじゃない!




ばか・・・
327ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2007/12/25(火) 20:05:49 ID:I2mnjAWd
いちおうクリスマス物のつもりです、投下します。

なおタイトルは特に意味はありません。
「いい、桃子?アンタは余計なこと言わないで黙っときなさいね?
アタシとレイリアで上手くやるから。分かった?」
「……ええ、分かったわ。黙っていればいいのね?」
「そう、黙ってればいいの。アンタも江口さんを喜ばせたいでしょ?」

 江口さんの名前を出した途端に頬を赤く染める桃子。
ぐっ……カワイイじゃないの。ギュッと抱きしめてわきわきしたいわ。

「そうですわ。私も健一様をお喜びさせたいんですの。
自分で考えてもいいんですけど……あの人ならきっとすごい方法を知っているはずですわ」

 同じく頬を染め、身体をくねらせているレイリア。
わが妹ながらちょっと進みすぎてるんじゃないの?
この子、普段は相川とどんなえっちしてるんだろ?一度聞いてみた方が良さそうね。

 クリスマスが迫ってきた寒い日、アタシは桃子の部屋にみんなを呼び出した。
みんなの思いは同じ。……クリスマスにお互いの彼氏を喜ばせたいの。
最初はレイリアとあーでもないこーでもないって話し合ってたんだけど、決めきれなくてね。
どうしようかって困ってたら、レイリアがあることを思い出したの。
『お酒に酔ったあの人ならきっと凄いことを思いつくはずですわ』ってね。
アタシも言われて思い出したわ。
実はアタシ達の中で一番えっちなのはあの子だったって。
前にみんなでお酒を飲んだときに、色々教えてもらったからね。
まぁお酒を飲んでないあの子には、怖くて聞けないけどね。……死にたくないもん。

「お姉さま、お酒はこのくらいで大丈夫ですの?」

 長尾ってお付の大男に、大きな箱を持って来させたレイリア。
その中にはワインやシャンパン。日本酒にブランデー。その他色んなお酒が山ほど入っていたわ。

「うん、こんだけあれば大丈夫ね。アタシが上手く飲ませるから。
桃子とレイリアは何か食べ物を作ってね?……なるべくヤキソバ以外がいいなぁ」
「…ヤキソバは美味しいわ。何故ヤキソバはダメなの?」
「桃子お姉さまとお料理できるなんて嬉しいですわ!
……ヤキソバはちょっとトラウマがあるので御勘弁ですわ」

 ヤキソバ禁止令に不満顔の桃子。
アンタの体は半分くらいヤキソバで出来てるんじゃないの?
レイリアはヤキソバと聞いて何故か震えてるし……なんかこの子、トラウマが年々増えてない?

「おし、みんなよく聞いて!この作戦……失敗は許されないわよ?
もし失敗してアタシ達の企みがバレたら、きっと……すっごい説教されちゃうわ」

 説教という言葉にガタガタ震えだすアタシ達。
桃子は涙目で、レイリアにいたっては歯をガチガチ震わせている。
そういうアタシも手の震えが止まらず、アタシ達は危険な賭けに出ているんだと改めて思ったわ。

「でもね、成功して上手く聞き出せたら……きっとラブラブで甘い、栄光のクリスマスがアタシ達を待ってるわ!
お互いの彼氏との甘いクリスマスの為に……マヤを酔わせてえっちな作戦を聞き出すのよ!」
「「おお〜!」」

 アタシの掛け声で震えを吹き飛ばし、気合を入れなおす桃子にレイリア。
マヤを酔わせて色々教えてもらうわよ!……マヤって酔わないと、えっちな話、してくれないんだもん。

 さぁマヤ!固い絆で結ばれたアタシ達3人相手に、その重い口を閉じ続ける事が出来るかしらね?
今日こそは教えてもらうわよ?……えっちの極意を!
「ただいま〜!桃子〜、ケーキとチキン買ってきたぞ〜。クリスマスだからな、豪勢に祝おう……と、桃子?」

 クリスマス当日、買い物から戻ってきた江口さんはわたしの姿を見て言葉を失ったわ。
それもそのはず、今のわたしはお酒に酔ったマヤから教えてもらった通りの姿をしているから。

『桃子はねぇ〜、ヒック、カワイイからぁ、あまり凝った事しない方がいいのよぉ〜。
そうねぇ……その綺麗な黒髪にぃ、カワイイピンク色のリボンをつけてぇ〜、
『アタシがクリスマスプレゼント。ピルを飲んでいるから好きにしていいわ』
って手ブラとショーツ一枚でいれば江口さん、もうケモノ〜。
んふふふふ〜、とうこぉ〜、チュってしていい?ちょっとだけしていいでしょ?
……チュ!きゃああ〜!カワイイ〜!』

 …マヤ、女同士でキスはおかしいと思うの。その後何故かシーリスにもキスされたわ。……何故?

「…江口さん、わたしがクリスマスのプレゼントなの。ピル飲んでるから好きにしていいわ」

 ショーツ一枚を身につけて胸を両手で隠し、マヤに教えてもらった通りのセリフを言う。
江口さん、これで獣になるって言ってたわ。……獣になるって、なに?

「……そ、そうか。鍵をかけて、携帯を切って、電話線を抜いて……っと」

 わたしの姿を見て、しばらく固まっていた江口さん。
急にドアのチェーンをかけたり、電話線を抜いたりと忙しく動きだしたわ。
江口さん、いったいどうしたの?

「おし、準備完了!っと。……うおををおをを〜!!とうこぉぉぉ〜!」
「きゃ!え、えぐちさ……んぐぅ!」

 急に興奮しだした江口さんに押し倒される。
あまりの出来事に驚いたわたしは声を上げようとしたわ。でも口をふさがれて声を出せなかった。

「んむぅ、え、ぐち、さぁん……んん!ダ、ダメなの、リビングではダメなの。せめてベッドで……んあ!」

 興奮した江口さんはわたしの言うことなど聞いてくれない。
これが、獣なのね?マヤが言ったとおりに獣になったのね?……ひゃ?んん〜!

「そ、そんな広げちゃダメなの!恥ずかし……んん!な、舐めないで……あん!」

 獣になった江口さん、わたしの両足首を掴み、無理やり開脚させてきたわ。
そしてわたしの股間に顔を埋めてきて……んん!そんなに舐めちゃダメ!

「ん、んん!え、ぐちさぁん……えぐちさんえぐちさん!……んん〜!」
「はぁ〜はぁ〜はぁ〜……すっげえ興奮する!桃子、お前もう濡れてるじゃねえか!」
「ダ、ダメ、そんなこと言わないで、恥ずかし……んん!指入れちゃダメぇ!」

 くちゅくちゅくちゅ……ショーツの上からペロペロしていた江口さん。
舐めるのを止めてくれたかと思うと、膣内に指を入れてきたわ。
江口さんの指が動く度、くちゅくちゅと滑った音が出る。
……とても恥ずかしいわ。でも江口さん、恥ずかしがってるわたしを見て、とても嬉しそう。
そうなのね、江口さん、嬉しいのね。喜んでくれているのね?……マヤの言ったとおりね。
「カワイイピンク色のリボンをつけて、手ブラでオレが帰ってくるのを待ってたのか?
桃子もエロくなったなぁ……今日はお前を食べつくしてやるからな!」

 指でクチュクチュわたしを苛めながら、舌でもペロペロと苛めてくる。
指が膣をかき回すたびに声が出て、舌がペロペロする度に体が震える。

「あ、あ、ああ!え、ぐちさぁん……えぐちさぁん、んん!んああ〜!」
「おお〜、もうグッチョグチョだな。そろそろ入れるぞ、今日は生で大丈夫なんだよな?
朝までたっぷりと注いでやるからな……いくぞ!」 
「えぐちさ……んあああ〜!」

 もうダメ!頭の中が真っ白になろうとしたその時、とても熱い江口さんがわたしを貫いたわ。

「うおぉぉ……やはり生は気持ちいいな!おし、ガンガン動いてやるからな?いくぞ!」
「は、は、は……えぐ、さん、わ、たし、もう……んあああ〜!」

 ぐちゅ!ぐちゅ!ぐちゅ!……お腹の奥を突きあげるような江口さんの激しい動き。
その動きにわたしは何度も何度も真っ白になったわ。

「えぐ、さぁん……も、ヤメ……あああ〜!」
「お前はプレゼントなんだろう?だったら好きにしていいんだろうが!」
「もう、もうわたし……また、また白く、んあああ〜!」
「はぁはぁはぁ……桃子、とうこぉぉ〜!」

 わたしは何度も何度も声をあげ、何度も何度も泣き叫んで、何度も何度も真っ白になったわ。
貫かれながら泣き叫び、江口さんの背中に爪を立てる。……まるで野生動物のように。
そう……なのね。わたしも……獣に……なったのね。

「えぐちさぁん、すき、だいすき!あいしてる!」

 獣になったと自覚した瞬間、わたしの中で何かが弾けた。
汗だくでわたしを突き上げている江口さんを抱きしめて唇を奪う。
唇を割って舌を入れて、江口さんの口の中を犯す。
そう、わたしも獣なの。江口さんと同じ獣になれたの。
下半身は江口さんに犯されて、キスではわたしが犯す。
お互いを犯しあうわたし達は獣同士。
しばらくはキスで江口さんを犯していたけど、すぐに犯せなくなった。
激しい江口さんの攻めで、自分が自分でなくなったから。

「あ、あ、ああ!えぐ、さん……も、ダメ、真っ白に、全てが真っ白に……」
「桃子、桃子ぉぉ〜!出すぞ、生で出すからな!好きだ桃子、オレも愛してるぞ!
イクぞ、イクからな!……ん、ぐぅぅ〜、とうこぉぉ〜!」
「え、ぐちさぁん……うれし、愛してる、んああ!まっしろに!体が、全部が真っ白に……んあああ〜!」

 お腹の中で熱い何かが爆発した瞬間、全てが真っ白になったの。
「シーリス〜、言われたとおりに飲み物を買ってきたよ〜。
飲み物はワインを買ってきたんだけど、シーリスも飲むよね?……えええ?」
「ヘンな声を出されて、いったいどうされましたか?外は寒かったでしょう?さぁ、お入りなさい」
「シ、シーリス?いったいその服どうしたの?」
「迷える子羊よ、シーリスではありません。シスターとお呼びなさい」
「シスター?え?えええ?いったいどういうこと?」

 アタシが部屋から追い出す為に頼んだ買い物から帰って来た俊が呆然としている。
それもそのはず、俊が買い物に行ってる間に着替えたんだからね。……今日はアタシ、シスターよ!

『シーリスはねぇ、うぃぃ〜っく、普段の勝気なところをねぇ、消せばいいと思うのよぉ〜。
そうねぇ……シスターなんていいんじゃないのぉ?
ちょうどクリスマスだしぃ、あんた金髪だしぃ、似合うと思うわよぉ?
『わたしの仕事は迷える子羊を救う事……さぁ震える子羊よ、温めてあげます』
とか言って抱きしめてあげたら、山薙君、獣よ、け・も・の!んきゃはははは!』

 ……ちょっとお酒飲ませすぎたかな?最後はマヤ、ちょっと壊れちゃってたもんね。
でもおかげで思いもつかなかった、いい作戦を教えてもらえたし……って俊?ど、どうしたの?

「はぁ〜はぁ〜はぁ〜……き、君が悪いんだ。そんな姿の君が……全部シーリスが悪いんだぁぁ〜!」
「ひゃ?ちょっと俊!いきなり……んぐぅ!」

 玄関先で押し倒され、唇を乱暴に塞がれる。
俊のアソコが大きく膨らんでいるのも分かったわ。
あん!俊ったらアタシでこんなに興奮して……マヤの作戦ってすっごい効果ね。

「こんな服を着て僕を誘うなんて……今日はたっぷりとブッかけるからね!
その綺麗な顔が真っ白になるくらいにブッかけ続けるからね!」
「ん、んん!胸、ちょっとキツイ!あまり強く揉まないでぇ!」

 シスター服に興奮した俊が、アタシの胸を服の上から乱暴に揉み解す。
ん、んん!これってなんだか無理やり犯されてるって感じがして、ちょっといいかも?
そんな事を思っていたら、いつの間にかショーツを下ろされていた。
あん!俊ったら、脱がすのがどんどん上手くなっていくんだから。俊、カッコよすぎるわ!
胸をもまれながら、濡れていないアソコを乱暴に弄られる。
あぁ……俊に好き放題犯されているんだ。俊が我を忘れるほどアタシを求めているんだ。
嬉しいなぁ……シスター服に興奮してるってのが気に喰わないんだけどね。
そんなことを考える余裕があったのも最初だけ。
俊の指が動く度、胸を揉まれる度に何も考えられなくなり、クチュクチュと淫らな音が聞こえ出す。
アタシ、もう濡れちゃったんだ?あぁ、すごいよぉ……俊、気持ちいいよぉ。

「はぁはぁはぁ……さぁ立つんだ。壁に両手を突いてお尻を上げるんだ」

 クチュクチュとアタシを指で犯していた俊は、指を動かすのを止めて、アタシに命令を出す。
アタシは言われるがままにノソノソと立ち上がり、両手を壁につき、お尻を突き上げる。

 あぁ……アタシ、なにをされるの?俊、アタシをどうするの?
「はぁはぁはぁ……引き締まったいいお尻だね。最高のお尻だよ」

 さわさわとシスター服の上からいやらしくお尻を撫でる俊。
触りながら耳元で囁き、時折耳たぶを甘く噛んでくれる。
あん!こんないやらしい触りかた、チカンされた時以来だわ。
……もちろんそのチカンは線路の上に叩き落してやったわよ!

「ん、あん!そんないやらしい触りかた、ダメだよぉ」
「そうかい?触るのがダメなら……舐めてあげるよ。
いやらしく、ヌルヌルになったシーリスを舐めてあげるからね」

 いやらしくてイジワルな俊って素敵よ!
俊はアタシの耳元でそう言って、スカートの中にもぐりこんだわ。
次の瞬間、体中に電流が走るような快楽が貫いたの。

「んああああ〜!俊、スゴイ!スゴイよぉぉ〜!」
 
 ぢゅる、ぢゅぢゅぢゅ……れろ、ちゅぱ……ずずずず、くちゅ……ずずずず!

 ワザと音をたて、アタシを吸い続ける俊。
吸われる度、舌で犯されるたびに電気が走り、膝がガクガクになって立っているのが辛い。

「しゅん〜、立ってられないよぉ。そんなに攻められたらもう立てないよぉ」
「はぁはぁはぁ……スカートの中にシーリスの匂いがこもって最高だよ!
……うん、こんなに濡れたらもう大丈夫だね」

 スカートの中でクンクンと匂いをかいでいた俊。
もう!なんて恥ずかしいことするのよ!いくら俊でも怒るわよ!……え?大丈夫って何?
そう思った瞬間……身体を引き裂かれるんじゃないかというくらいの勢いで、貫かれたわ。

「ひぎゃあ!……あ、あぁぁ……しゅん、あぁん……あん!あん!あん!」

 貫かれた瞬間、頭のてっぺんから爪先まで電流が走る。
そして俊が激しく動き出した瞬間、電流が体中を走り続け、アタシを狂わせる。

 パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!

 壁に両手をついたアタシを背後から犯す俊。
いつもの見つめあい、愛を囁いてのSEXじゃなく、動物的な、犯す為の激しいSEX。
そんな俊の男らしい激しいSEXにアタシは何度も上り詰めたわ。
何度も何度も上り詰め、何度も何度も絶叫する。

「ひぃ!イヤァァ〜!もう無理!もう無理だからぁ〜!イッてぇ〜!しゅん、早くイッて……きゃあああ〜!」

 ズグン!……子宮が壊れるんじゃないかというくらいの激しい突き。
その一突きでアタシは床に崩れ落ちた。そんなアタシの顔に温かいものが降り注ぐ。
これ、なんなんだろ?朦朧とする意識の中、そんな事を思った瞬間、また俊がアタシを貫いた。 

「ひぎぃぃ〜!ぎ、かはぁ……あぁん……しゅん、すきぃ……ぃぃ」

 逞しい俊に貫かれたアタシは耐え切れずに意識を失ったわ。
「うぅ〜寒い寒い。ただいま〜、レイリア帰ったぞ〜。……なんなんだ、このデカイ箱は?」

 玄関を開ける音がして、健一様の甘いお声が聞こえる。
あぁ……その甘いお声でレイリアに愛を囁いてくださいませ!

「レイリア〜?このデカイ箱は一体何なんだ〜?あれ?レイリア?いないのか〜?」

 狭い部屋の中、私を探す健一様。
健一様が私を探してくださっている……そう考えるだけで濡れてきちゃいますわ。
真っ暗な、少しの光すら差し込まない狭い空間で、健一様が見つけてくれることを待っている私。

「まったくどこに行ったんだ?ところでこのデカイ箱、いったいなんなんだ?
……あれ?なんか紙が張ってあるな?なになに……レイリアからのクリスマスプレゼント?
このデカイ箱に入っているのか?……はぁ?お人形?この箱の中身って人形なのか?
こんなデカイ人形をプレゼントって……アイツ、何考えてんだ?」

 健一様、ガサゴソと箱を開け始めましたわ。
うふふふ……健一様、ビックリなされるかしら?今日はレイリアはいませんのよ。
ここにいるのはただのお人形。そう、マヤお姉さまから教わった作戦ですわ。

『レイリアちゃんはねぇ〜……うぷっ、まるでお人形さんみたいにカワイイからお人形さんかなぁ?
何をされても動かないぃ、言葉も話せないお人形さんになればいいんじゃないのぉ?
相川君にされるがままぁ、犯されるがままのお人形さんに……う、ウプ、ちょ、ちょっとトイレ』

 ……シーリスお姉さま、お酒を飲ませすぎですわ。
マヤお姉さま、便器を抱きしめて朝まで眠っていたんですわよ?
けどおかげでいいアイディアを頂きましたわ!

「……おい、レイリア。これは何の冗談だ?……なんだ?なんか書かれた紙が置いてあるな」

 箱を開けられてレイリア人形を見られた健一様。
一瞬驚きで止まっていましたけど、レイリア人形の説明書を見つけ、読み出しましたわ。

「なになに……
『愛する健一様へ。クリスマスプレゼントにレイリアそっくりのお人形をさし上げますわ。
このお人形は、何をしても大丈夫。どんなに激しく犯しても、何度熱い精液を注いでも大丈夫。
健一様がしたいようにえっちが出来る優れものですわ。
この人形は健一様の物……激しく犯して壊してしまってもかまいませんわ』
……なるほど。そういうことか。これは人形なんだな?」

 箱の中からレイリア人形を抱き抱えてベッドへと運ぶ健一様。
あぁ!こんなに近くにお顔があるのにキスが出来ないなんて……人形を演じるのも不便ですわね。

「さぁ〜ってと。どうしよ〜っかなぁ?」

 人形の私をベッドに寝かせ、スカートを捲ったり、胸を軽く揉んだりする健一様。
ショーツの中に手を入れて来ても、胸を強く揉まれても我慢するしか出来ませんわ。
だってレイリアはお人形なんですもの。
レイリアは健一様のお人形……ああ!なんて素敵なシチュエーションなんですの?
さすがはマヤお姉さま!こんなえっちな事を思いつくなんてスゴイですわ!

 胸を揉んだり、ショーツの中でイタズラしたりしてた健一様。
えっちなことをしても、私が言葉を発せずに我慢してた事に満足したのか、
ニヤニヤしながらなにをしようかと考え出しましたわ。

「どうすっかなぁ〜?コイツは人形だからな……とりあえずは咥えさせるか?」

 咥えさせる?あぁ!健一様をしゃぶれるんで……こは!

「お?なかなか具合がいいな、この人形は。喉の奥まで入れても大丈夫だよな?なんせ人形なんだからな」

 熱く滾った健一様自身を無理やり私の口の中にねじ込んできて、
頭を掴み、ガンガンと腰を振ってくる健一様。 
無理やり喉の奥まで突っ込まれ、息もろくに出来ない状態。
でもそんな辛い事をされても、レイリアは嬉しいんですの。
健一様がこんなにも激しくレイリアを求めてくれている……そう考えただけで濡れてしまいましたわ。

「うぉぉ〜、気持ちいいなぁ。おし!そろそろハメるかぁ?
人形の中に出すなんて初めてだから、何度も何度も出してやる。
尻の中にも、膣の中にも、溢れてくるくらいに何度も出してやるからな?」

 あぁ……最高ですわ!レイリアは人形のように乱暴に扱われ、犯され続けるんですのね?
早く……早く犯してくださいませ!レイリアをメチャクチャに犯してくださいませ!

「さぁ〜て、入れるとするかぁ?……おいおいおい、人形にクセにもう濡れ濡れじゃねぇか?
こんなヘンタイ人形は……お仕置きだ!」

 グチュ!躊躇することなく、一気に貫いてきた健一様。
子宮を壊すような勢いで貫かれ、思わず声を上げそうになる。歯を食いしばり、喘ぎ声を抑える私。
けど健一様、そんな私を無視するかのように激しく、逞しく犯してくださいましたの。

 パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!

「……ぅ、ぅぅ……ぁ、ぅぁ……」
「はぁはぁはぁ……なんだか声が聞こえるような気がするなぁ?いったい誰の声だぁ?
この部屋にはおれしかいないのにな。……この淫乱人形の他にはな!」

 そんなイジワルを言いながら、一段と激しく犯してくださる健一様。
あぁ、レイリアは健一様の淫乱人形なんですわね?最高ですわ!

「……ぅん、くぅん……ぁ、ぁん!んん!んんん〜!」
「人形のクセに声を出すなんて生意気だな!そんな生意気な人形には……注いでやる!
一滴残さず受け止めろよ?出すぞ……もう出すからな!」

 激しすぎる健一様の腰使いに耐え切れず、喘ぎ声を上げてしまった私。
健一様、そんなはしたない、淫乱人形の私にお仕置きとして注いでくださいましたの。

「出すぞ、出すからな?……くぅぅ〜レイリア!うっぐぅぅ〜!」
「んんんん〜!……かっはぁ……あぁ、健一様がぁ……溢れてきますわぁぁ」

 ドクドクと注がれる健一様の熱い精液。
その精液が子宮を満たし、溢れていく。あぁ……受け止め切れませんでしたわ。

「はぁはぁはぁ……おいおいおいおい!なに溢れさせてるんだ?
おれは一滴残さず受け止めろって言ったよな?
言う事を聞かない悪い人形には……お仕置きだ!」

 出したばかりだというのに、熱く滾った逞しい健一様に再度犯される。

 結局私は意識を失い、壊されるまで侵され続けましたわ。ああ!健一様!とても逞しくて素敵ですわぁ〜。
 ラブラブで甘〜いクリスマスから3日後、みんなを喫茶店に呼び出して結果報告会。
桃子もレイリアも心はここにあらずって顔してるし……どうやら上手くいったみたいね。
……マヤ、マスクをしているわね。風邪でもひいたのかな?

「で、桃子にレイリア。アンタ達は上手く行ったの?」
「はぁぁ……レイリアは壊されましたわぁ。逞しい健一様に壊されましたのぉ」

 頬を赤く染めて、潤んだ瞳のレイリア。どうやら大成功のようね!

「…わたしは獣。江口さんとなら獣になれるの」

 よく分からないけど……桃子も上手くいったみたいね。……獣ってなによ?

「もちろんアタシも上手く行ったわ!これで全員上手くいったみたいね、作戦大成功ね!」

 アタシの言葉に頷く2人。アンタ達、感謝なさいよ?アタシがマヤを酔わせて聞き出したんだからね!

「ねぇシーリス、さっきから何を言ってるの?訳が分からな……ゴホ!ゴホ!」
「ちょっとマヤ、大丈夫なの?珍しいわね、風邪でも引いたの?」

 顔色も悪いし、もしかしてインフルエンザにでもかかっちゃったのかな?アンタ、外に出て大丈夫なの?

「うん、この間桃子の家に泊まった時、風邪を引いたみたいなのよ。
みんなにうつるといけないから、もう帰るわね。ゴメンね」
「そうなんだ……じゃあクリスマスも寝てたんだ?」
「うん、そうなの。せっかくのクリスマスだったのに……残念だわ」

 あらららら……可哀想ね。でも自己管理がなってないマヤが悪いわね。

「あなた達はクリスマス、素敵に過ごせたの?」
「過ごせましたわ〜」
「…そう、獣なの」

 2人とも、クリスマスを思い出しているのか、夢見心地といった感じでマヤに答えている。
2人とも、そんなにスゴイことされちゃったんだ?

「マヤお姉さまに教えてもらった方法で、私は壊されましたの〜」
「…マヤに聞いた方法で、わたしは獣なの」
「え?私に聞いた方法ってなに?」

 わ!わわわ!アンタ達なに言い出すのよ!マヤにばれたらアタシ達の命が……
「シーリスお姉さまがマヤお姉さまをお酒で酔わせて、えっちな作戦を聞き出そうって言い出しましたのぉ」
「ちょっとレイリア!言いだしっぺはアンタでしょうが!」
「……へぇ?面白い話ね。とても面白そうで興味深い話だわ。
私ね、風邪を引いた理由がね、桃子の部屋で酔っ払ってしまって、トイレで一晩中寝てたからなの。
もしかして……あなた達……私を酔わせて……トイレに……置いてたの?」

 ……椅子を片手で軽々と持ち上げるその姿は、病人とは思えない。……人間とも思えないわ。

「……3人ともフルフル震えてカワイイわぁ。……可愛さ余って憎さ百倍ね!」

 ヒュン!ゴキン!……ドサ。

 ヒュン!ボゴン!……ドサ。

「あ、あぁぁぁああああぁぁあ……あうあうあうあうあうあう」
「うふふふふふふふ……残るは貴女だけ。シーリス、1人だけ残されて寂しいでしょ?」
「あ、あああ、あ、あお、おおお落ちつかない?落ち着いて話せば分かり合えると思うよ?」
「うふふふふふふふふふふふ……ねぇシーリス。長い付き合いなんだから、分かってるわよね?」
「は、はいぃぃぃぃ〜。分かってますぅぅ〜」

 ヒュン!ドゴギャン!……ドサ。グシャ!グシャ!グシャ!

 な、なんでアタシだけ、倒れた後に、3発……も?

「ふぅ〜!ふぅ〜!ふぅ〜!今日はこれで許してあげるけど、次はないからね!
3人とも分かったの!……返事を……しなさいぃぃ〜!」

 ゴスン!

「うげぇぇぇ〜!」

 なんでアタシなのよぉぉ〜!桃子とレイリアは死んだフリしてるわよぉぉ〜!

「ふぅ〜!ふぅ〜!ふぅ〜!……まぁいいわ。次も出来るものならすればいいわ!」

 そう言い残し、喫茶店を出て行くマヤ。
マヤが出て行ってから5分は待って、ノソノソと起き上がる。

「桃子、レイリア……この作戦は今後一生使わないわよ。いいわね!」
「…ええ、使いたくない。死ぬのはイヤなの」
「ク、クリスマスは恐ろしいですわ。怖いんですわ〜!」

 こうしてアタシ達のクリスマスは、3人に新しいトラウマを残して終わったわ。

 ……どうやったらマヤと仲直りできるかな?
337ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2007/12/25(火) 20:13:58 ID:I2mnjAWd
以上です。
338名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 21:43:37 ID:LaedXq7Q
>>337
まいったぜ……独り身の俺には
眩しすぎてGJとしか言えないぜ……




God Job!
339名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 16:04:50 ID:b/eKMGcw
ほしゅう
340名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 23:17:04 ID:7pbRMC9C
保守あげ
341名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 10:37:04 ID:F8VHy0dw
やっぱツクバさんすげーよ…

作品全部読んだが、すべてクオリティたけーし。GJです。
342名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 00:37:11 ID:fQ6BedWu
ツクバさんは毎度面白いからな

女性一人称の語尾「だわ」多用が唯一最大の違和感だが
343名無しさん@ピンキー:2007/12/30(日) 01:16:52 ID:k00Pf5f9
んー、でも「気の強い」っていうとこに重点おくとそうならざる終えないんじゃないか??

気の強いっていうデフォだと表現は限られるしな。まぁ、今まで読んだ作品は職人さんが上手く書いてくれてて、文才のないオレから見るとすべてGJだ。素晴らしいね。
344名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 01:19:12 ID:SCOQYkor
注文した(ry
345名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 19:40:47 ID:omkNmJcX
毎度乙
346名無しさん@ピンキー:2008/01/04(金) 20:21:04 ID:Y07pyihP
>>342
それもあるかもしれないが、俺は一人称で過去形なのが気になる。
三人称過去形や、誰かに語っている一人称過去形ならならそうでもないかもしれない。
まあ、書き手それぞれの文章のクセなんだろうけどな。俺はツクバさんの話好きだし。
347名無しさん@ピンキー:2008/01/06(日) 22:41:37 ID:MEj+8KMw
誰かいないのー?

・・・一人にしないでよ・・・

ばかぁ〜
348名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 01:21:36 ID:+z/qC2zm
いるよ
ワッフル焼いてくれよ
349名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 22:27:10 ID:/WqeL5nd
保守しときます
350名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 12:42:49 ID:geO3OiB6
>>348

いやよ、あたしが作ったっていつも「こんなに食えねぇ」って残すじゃない。

なに?カレー10人前やワッフル50個は多すぎ?

・・・だってあんたにお腹いっぱい食べてほしいんだもん・・・

!!そうだ!!

カレーワッフル15個なら大丈夫よね!


こうしてカレーワッフル伝説は始まった
(嘘、全くのデマです)
351名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 01:37:51 ID:iiSskC/8
量と質の適正値と言うものをわからせてやりたいな
主にベッドの上で
352名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 03:57:04 ID:f8K9SwXI
かくして彼は、数の暴力――
圧倒的なワッフルの奔流に蛮勇と謗られるも覚悟で立ち向かう羽目に陥った。
口をめいいっぱい広げ、目尻に涙を浮かべて。
彼女の思いを受け止めるべく、苦行へ身を挺する。
頬を赤らめソッポを向く少女は、そんな彼の内心の辛苦を知らず、照れ臭さから次々とワッフルを投げ込んでいく。
間断無く。
咀嚼、嚥下の隙をも与えずに、ワッフルは放り込まれていく。
コインロッカーの狭いスペースに旅行の荷物を全て詰めこむかの様な無茶な収納術。
最早、努力という段階を越え、生死の行方を、垂らされた細い蜘蛛の糸に託すかの如く。
ワッフルの奔流に飲み込まれる彼は、しかし、彼女を悲しませたくない一心で不平一つ漏らさない。
耐える。耐え続ける。
無謀であった。そして、余りに自分の命を軽んじていた。
彼の肌の容色が次第に白から青へと転じる様が、彼女の視界に入った。
ばたん、と大の字になって倒れた彼の許に駆け寄り、肩を揺すり幾度と彼の名を呼び続ける。
ワッフルによる呼吸困難――彼女は悟る。
早く応急処置をせねば、彼の命の微かな灯火は吹き消されてしまう。
混乱した思考をまとめるべく、集中の意味合いで、彼女は目蓋を閉じる。
彼女の脳裏に浮かぶのは、心臓マッサージ――そして、人工呼吸。
ぼっと彼女の頭が沸騰した。
そんな! 未だ接吻どころか手を繋いだ事も無いと言うのに。
そもそも、彼女は素直に好意を表現するのが不得手で、
ついつい憎まれ口を叩き、無理難題を押し付けるのが常だった。
だが。彼はいつも厭な顔一つせず、それどころか、彼女がついついまじまじと見惚れてしまう屈託の無い笑顔で快諾する。
そんな彼が好きで好きで堪らない。
でも、口は滑らかに逆の言葉を放ってしまう。
幾度、幾十度、幾百度ち、彼女は自己嫌悪に陥っていた。陥り続けていた。
中でも、今日はとびきりの最悪だ。
自分の不手際で、最愛の彼を生死の境に彷徨わせる結果となったのだから。
よし、と決意の面持ちで目蓋を開けた。
痛い程に高鳴る心音を意識しつつ、彼女は恐る恐るといった具合に唇を寄せていく。
羞恥心と焦燥感に揺れながらも、唇がいざ重ならんとした時――
ブフォッと爆発する様な音がして、彼の口から大量のワッフルが噴出される。
涎の飛沫と共に、それは彼女の顔面に直撃する。
やがて。
全てのワッフルが吐き出されると、ワッフルの残骸と、中身の具材と、唾液塗れの彼女が呆然としていた。
ぽたぽたと落ちるそれらを認識できずに、ただ呆然と倒れる彼を見守っていた。
あ――と彼女は思わず驚きの声を上げる。
それは如何なる奇跡か。
大気に飛散した唾液が太陽光に反射しての作用か、彼の口許から、七色の橋が架かっていた。
つう、と彼女の眼から涙が流れ落ちる。
自然の原理すら曲折させる彼に感動し、秘めた片思いを覆っていた固い殻がぼろぼろと剥がれ落ちる事を示唆するが様に。
自分は何て小さく、そして愚かだったのだろう、と悔やむ。
その後悔は決意を型作るのだ。
彼が目覚めたら――私は自分の思いを打ち明けよう。
そう彼女は固く誓うのだった。
353名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 10:17:59 ID:zGuSD9TM
>>352
どう反応すればいいのか分からんがとりあえず吹いたwwww
354名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 08:24:37 ID:u5Kz8HhF
>>352
なんだこれwwwwww
355名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 16:14:18 ID:69MA53/K
>>352
素晴らしいバカだwww
356名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 17:00:50 ID:6Td0c88Z
>>352
お前頭よすぎてバカだろうwww
357名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 21:17:58 ID:AmED5voJ
保守
358名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 21:05:50 ID:45Z0meiT
>>352
もしやスレ立てした後音信不通となった沙智ねえさんの人ですか?
359名無しさん@ピンキー:2008/01/17(木) 19:55:04 ID:ccFkB1Yl
ちょwwww黄金伝説見てたら『 佃 煮 ワ ッ フ ル 』なるものが出たwwwwww



詳しいことは多分来週見れるんだぜ
360名無しさん@ピンキー:2008/01/17(木) 20:05:04 ID:pLIffy9L
カレーラムネもあったなww

カレーワッフルが発売されるのも近いかもしれんな
361名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 01:26:14 ID:cPNQZOQn
「お…女の方から、言わせる気…?」

 いやまあ、確かに。
 付き合い始めて半年間という時間は長くも短くもあり、ひょっとしたらまあ、一般的にはちょうど
「適度なお付き合い」の長さであるのかもしれなくて。
 そろそろ「そういうこと」にも踏み出してもいいんじゃないかというのは、双方の合意であって。

「…ん。嬉しい」
「ば、バカ、そういう事、真顔で言うなっ」

 がっついてるように見られるのも嫌でなかなか踏ん切りがつかず、そうこうしているうちにお相手
の方は、なんというか痺れを切らしたらしい。

「待たせた?」
「う…うっさい……待ったわよ……」
「ん。ごめん」

 男は追うのでなく追わせるもの。
 女の子の間ではそんな言葉がまことしやかにささやかれているみたいなのだけれども。

「わ、たしが、いっぱい、きもちよくしてあげるんだから…」

 追わせることに失敗すると、女の子はものっそい素直になるものなのかもしれない。




 そんな保守。
362名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 07:40:22 ID:Bfixkur7
カレーラムネはすごく不味い
363名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 14:30:10 ID:/acKPSAi
保管庫見れないんだけど
なんで?
364名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 16:55:11 ID:+l1rr0I6
>>363
普通に見れたよ?
365名無しさん@ピンキー:2008/01/22(火) 22:27:36 ID:uXSjXQ4K
彼女は突然保管庫が不可視となった理由に戸惑いを隠せずにいた。
確かに彼女は、幼馴染であり家族同然の付き合いの保管庫に対し、
会う度に憎まれ口を叩き続けてはいたが、それは好意の裏返し。
すなわち照れ隠しによるものだとは、不特定多数の衆目には一目瞭然の事実だった。
彼女はある日自分が放った軽はずみの発言に思い当たる。
保管庫の優柔不断な曖昧さに腹を立てて、腹立ちのままに

「どこかへ消えてしまえこの莫迦ッ!」

本心とは真逆の、よりにもよって自分の浅慮な発言通り、保管庫は姿を消してしまったのだ。
戸惑いは焦慮に変わり、やがて嘆きへと転じた。
夜な夜な就寝時には布団を被り嗚咽を押し殺す日々が続いた。
彼女の友人達は徐々に憔悴していく様子を見て、心配げに見守るしか無かった。
ある日。
彼女の許に奇妙な噂話が聞こえてくる。
それは、鏡(ミラー)の中に彼の姿を目撃したという、御伽噺さながらで俄かに信じ難い内容であった。
目撃者は合計七名。
性別学年はおろか国籍すら違う者がいたが、総じて同じ外貌を目にしたと告げていた。
彼らは言葉を重ねる。

「あまりに転送量が多すぎたから飛ばされたんだよ」

彼女にはその言葉の意味がよく分からず頭を捻るばかりだったが、
続けて、そろそろ帰ってくる頃だと告げられ、疑心暗鬼ながらも再会へ淡い期待感を抱いた。
戻ってきたら何て告げようか、と彼女は考える。
もし、再び保管庫がいなくなったら? 後悔はしたくない。
結果がどうなろうと、素直に自分の本心を曝け出さねば、もう機会は無いかもしれないのだ。
彼女は七人からまるで魔法の様な言葉も貰っていた。
その言葉を告げれば、保管庫はきっと困った顔をするに違いないと。
私を置いてきぼりにした仕返しだ。だから――
彼女は決然とした表情を浮かべていた。
だから――意地張りはそれでおしまい。
そう考えていると、彼女の前に茫洋とした霧の様なものが一つの形に収束していくのが見えた。
疑問はすぐに氷解し、理解が生み出される。
網膜に映し出されたそれは徐々に人型となるけれども、朦朧としている様に見えるのは、止め処も無く流れ落ちる涙。
ぐぐ、と啜り上げて、彼女は今や慣れ親しんだ姿に戻った保管庫にゆっくりといつもの調子で声を掛けた。

「サーバー増強しなさいよ」
366ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/01/22(火) 23:29:43 ID:bnS4w8Ui
お久しぶりです。
新しく書けましたので投下します。
367不器用な彼女  ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/01/22(火) 23:30:44 ID:bnS4w8Ui
「なぁお前って頭いいんだろ?学校始まって以来の天才っていわれてるんだろ?」
「なんだ、お前は?人が食事中にいきなり話しかけてくるとは、失礼なヤツだな」

 午前中の授業も終わった昼休み。
いつものように1人での昼食を取っていると、話しかけてくる男が1人。
コイツは……毎朝の通学途中で見る顔だな。だが今まで私との接点は他にない。
そんなお前が私にいったいなんの用だ?

「なぁお前、『長宗我部元親』って知ってるか?」
「は?ちょうそ……かべ?なんだ、それは?……そんなもの知らない」

 いきなりなんだ?『ちょうそかべもとちか』だと?なんなんだ?
なんの名前だ?歌人かなにかか?だが、歌人にしては今まで聞いた事もない名前だ。

「だったら『可児才蔵』は?」
「だから知らないと言っているだろうが!」

 今度は『かにさいぞう』だと?
才蔵という響きから想像するに、忍者かなにかか?
マンガかアニメでそういう名前の主人公でもいるのか?
それよりも、そのヘンな名前が私に何か関係あるのか?

「ふ〜ん……お前、こんな事も知らないんだ?お前、意外とバカだな」
「んな!バ、バババ、バカだと?何故私がキサマにバカと言われなければならないんだ!」
「だってお前、長宗我部も可児も知らないんだろ?オレ、知ってるもん。
知らないお前はオレよりバカってことだろ?」

 こ、この私にバカだと?
秀才や天才とは今まで何度も言われたことはあるが、バカなどと侮辱されたのは初めてだ!

「お、お前、私が島津彩だと知って言っているのか?」
「うん、知ってるよ。島津って名前だから聞いてみたんだ。
なんだ、お前、島津義弘の子孫じゃなさそうだな。聞いて損したな」

 しまづよしひろ?一体誰だ?……そ、損した?聞いて損しただと?
わ、私に勝手に話しかけておいて、損をしただと?
勝手なことを言い残し、私の前から去ろうとする男。

「……待て」
「なんだ?思い出したのか?」
「……訂正しろ。この私をバカだと言った事を訂正しろ!」
「なんで?お前、オレが知ってることを知らなかっただろ?だったらオレよりバカだろ?」
「キ、サマァ……死ね!ふん!」

 ドカ!

「うぎゃあ!」

 失礼な男に渾身の右ストレート!もんどりうって倒れる失礼な男。
ざまあみろ!私を侮辱するからだ! 
 
368不器用な彼女  ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/01/22(火) 23:31:34 ID:bnS4w8Ui
「……で、島津。お前は結城をなんで殴ったりしたんだ?」
「……侮辱されたからです」
「侮辱って……はぁぁ〜、そんなことで手を出すなよなぁ。島津はちょっと硬すぎるんだよ。
お前なぁ、もっとこう肩の力を抜いてだな、気楽にしてみないか?」

 私の目の前で肩をグルグルと回す、生活指導の武田先生。
余計なお世話だ、ほっといてくれ!

「で、結城。お前はなんで島津にバカなんて言ったんだ?」
「え?だってオレが知ってること知らなかったんだよ?だったらオレよりバカじゃん」
「島津はお前の知らないことをたくさん知ってるんだぞ?」
「うん、知ってるよ。でも『長宗我部元親』や『可児才蔵』は知らなかった。
だからそこに関してはオレよりバカだろ?」
「はぁぁぁ〜……だいたいお前はなんで島津に戦国武将の事を聞いたんだ?」

 戦国武将?『ちょうそかべ』や『かに』とかいうのは戦国武将だったのか?
徳川や織田、豊臣と違い、初めて聞く名だな。
きっとたいした活躍もしていない、有名な武将じゃないんだろうな。

「名前は知ってるけど、なにをしたか知らないから教えてもらおうと聞いたんだよ。
結構数値が高い武将だから、気になっちゃって」
「……数値?数値とはいったいなんだ?」

 数値?戦国武将に数値?コイツはいったい何を言っているんだ?

「は?そんなのゲームに決まってるだろ?」
「結城、お前勉強もせんでゲームばっかりしてるのか?そのゲームしている時間を少しは勉強に回せよ」

 ……ゲームだと?

「ではなにか?お前はゲームで知った、数値が高い武将の事を私に聞いてきた、と」
「おお、そうだよ」
「で、聞いてきた理由が、『名前はゲームで知っているが、何をした人か知らないから』なんだな?」
「そうなんだよ。ゲームじゃ何をしたかまで分からないんだよなぁ」

 ……ブチン!

「そんな理由で私をバカと言ったのか?キサマはぁぁ〜……死ね!」
「へ?……ぐぎゃあ!」
「お、おい島津!なに蹴り飛ばしてるんだ!」
「はぁはぁはぁ……先生が手を出すのはよくないと言ったので、足を出したまでです!」
「はぁぁぁ〜……お前なぁ、先生を困らせないでくれよぉ。
結城も結城だ。歴史に興味を持つのはいいことだが、分からない事があれば自分で調べてみろ」
「キサマなどには知ってても教えてたまるか!」
「島津!お前もお前だ!大人しい綺麗な子だと思ってたのに……蹴りはないだろうが、蹴りは。
先生は念のため結城を保健室に連れて行くから、島津は教室に帰りなさい。
あと、いくら腹が立ったからって学校での暴力は禁止だからな。
お前、女の子なんだからさ、スカートで蹴りはないだろうが」
「……納得は出来ませんが分かりました。以後気をつけることにします」
「ホントに分かったのか?ま、いい。ほら、いつまで寝てるんだ?保健室行くぞ、さっさと起きんか!」

 軽く小突いてバカを連れて行く先生。ふん!ざまあみろ!私を侮辱するからだ!
369不器用な彼女  ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/01/22(火) 23:32:26 ID:bnS4w8Ui
 私、島津 彩(しまず あや)は両親と弟2人の5人家族で生活をしている17歳の高校2年生。
共働きの両親の負担を軽くする為に、長女である私が幼い頃から弟達の世話をしている。
おかげでどうも言葉遣いが少々荒い……らしい。
言葉遣いだけではなく、その……つい手も出てしまう。
しかしこれはだな、騒がしい弟達を黙らせるのに一番有効な手段なんだ。
今日はつい学校で、その有効な手段を使ってしまっただけだ。
そのおかげで今、私は……入学以来初めての事態に陥っている。

「島津さんてスゴイ人だったんだね。さすがはわが校が誇る天才だね!」
「それにしてもいいパンチだったね。ボクシングでもしてるの?」
「それよりさ、職員室でも結城君を蹴り飛ばしたって聞いたけど、あのバカ何言ってきたの?」
「島津っち、結城って思ったことを口にするバカだから、何言われたか知らないけど、気にしなくていいよ」

 ……あのバカのせいで、せっかくの静かな休み時間が質問攻めだ。
私の机を囲むように群がるクラスメート達。
中には違うクラスの人も混ざっているようだ。
今まで私に話しかけてくることなどなかったくせに、今日に限ってなんなんだ?

「天才などと言わないでほしい。私は特に努力もしていない。ただ記憶力がいいだけだ。
真の天才とは努力を継続して続けることが出来る人だと私は考えている」
「ボクシングもしていない。ただ弟達を黙らせるのに有効な手段として活用しているまでだ」
「蹴り飛ばしたのは自分でもやりすぎたと反省している、足も痛いしな。今度は椅子ででも殴る事にするよ」
「もちろん気になどしていない。しかし、面と向かってバカなどと……もう二度とバカなどと言わせない!」

 全員の質問に答え、これでやっと質問攻めから開放される……そう考えたのは浅はかだった。

「……ぷっ!島津さんって律儀だねぇ。皆の質問に答えてくれたんだ?」
「あはははは!島津さんがこんな面白い人だって知らなかったよ」
「気にしないのはいいことだけど、椅子で殴るのはよくないと思うよ?」

 お、面白い人?私がか?私は漫才など出来ないぞ?

「お、面白いとはどういうことだろう?特に漫才などを勉強してはいないのだが?」

 私の質問に少し驚いた表情を見せ、顔を見合わせる。
どうしたんだ?一体何を驚いている?

「……ぷっ!あっはははは!島津っちサイコー!面白い!」
「なんで今まで黙ってたの?こんな面白い人だって知ってたらほっとかなかったのに!」
「漫才って勉強するものなんだ?じゃあさ、今度勉強してやって見せてよ」

 な、何故だ?何故なんだ?何故皆笑っている?何故私に質問攻めをして来るんだ?

「私が最高とはどういう意味なんだろうか?」
「何故黙っていたと言われても、何が面白いのか意味がよく分からないのだが?」
「ま、漫才をするのは勘弁してほしい。そういうのは苦手なんだ」

 ふぅ〜、質問には全部答えた。これで少しは落ち着いた休み時間を……

「あっはははは!サイコー!島津っちサイコーだよ!」

 また笑われた。何故なんだ? 
370不器用な彼女  ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/01/22(火) 23:33:10 ID:bnS4w8Ui
「……ただいま」
「お帰りなさ〜い。どうしたの?声にいつもの張りがないわよ?」

 クラスメートからの質問攻めで疲れ果てた私は、どうにか自宅へと帰り着き玄関を開ける。
すると誰もいないはずの部屋の中から女性の声が。ママ?何故ママがいるんだ?
私の大好きなママ……名前を島津麗菜(しまづ れいな)という。
なんでも一度、パパとは離婚した事があるらしい。
で、私や弟達の名前は、パパと再婚する前に付き合っていた友人達から取ったと言っていた。
名前の由来がどうであれ、私は彩という名前を気に入っている。
弟達も同じく自分の名前を気に入っているであろう。
パパとママが私達の為につけてくれた名前だ。気に入らないわけがない。
ところで何故ママが家にいるんだ?
まだパートが終わる時間じゃないはずだが?
……あ、そうだった。そういえば今日はパートが休みだったな。

「……今日は疲れた。ママ、今日の夕御飯、お願いしてもいいだろうか?」
「あら、珍しい。彩が学校で疲れるなんて……マラソンでもあったの?」

 今日は精神的に疲れ果てているから、ママに甘えさせてもらおう。
それにしても飽きもせずに、よくもまぁあれだけの質問が出来るものだ。
クラスメート達の勢いに驚かされてしまった。
……もしかしてあれが普通なのか?私がズレているだけなのか?

「夕御飯ならもう作ってあるわよ。今日は彩が大好きなカレーよ」
「……甘口?」
「もちろん甘口よ。疲れてるみたいだから、生卵もつけちゃうわ」

 ゴクリ。カレーに生卵……最高の組み合わせじゃないか!
カレーと御飯をかき混ぜた上に、生卵をポトリと落とす。
黄身だけを落とすという人もいるそうだが、それは邪道だ。白身がもったいないではないか。 
生卵を落としたカレーを更にかき混ぜて生卵と一体化させる。
そしてスプーン一杯にそれをすくい、口の中に放り込む!
あぁ、甘口カレーの程よい辛さを更にマイルドにしてくれて、黄身のまろやかさも追加される。
想像するだけで口いっぱいに唾液が広がる。……あぁ、お腹がすいた。

「こら!女の子がカレーと聞いただけでそんな顔するんじゃありません!」
「……ママ、お代わりはあるの?拓と直樹の分もお代わりはあるのだろうか?」
「もちろんあるわよ。今日は遠慮しないでたくさん食べなさいね。らっきょうもあるわよ」

 ……らっきょう?
あぁ、カレーの辛さを癒してくれる、らっきょうの酸味。
カリカリとたまらない歯ごたえを存分に味わった後に、口の中にかき込むカレーの心地よい辛さ。
その辛さをマイルドに、まろやかにする生卵。あぁ、至福の一時だ。
ダメだ、想像するだけで唾液が止まらなくなる。……今日のノルマは2杯は食べることにしよう。
拓はらっきょうが苦手だから拓の分まで食べてあげるとして、直樹は生卵がダメだったな?
仕方がない。2杯目用として直樹の分の生卵も貰ってあげるとしよう。
姉として弟を思いやるのは当然の話だからな。

「彩、そんな顔してるところ悪いんだけど、パパが帰ってくるまで夕御飯は我慢しなさいね」

 ……パパは今日の夕御飯がカレーだと分かっているのだろうか? 
371不器用な彼女  ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/01/22(火) 23:34:17 ID:bnS4w8Ui
「結城とかいうバカはいるか?」
「おわ!し、島津さん?島津さんがこの教室に来るなんて珍しいね。
結城?結城に何か用なの?アイツなら……あれ?いないな」

 昨晩はカレーをお腹一杯に味わった後、ママのパソコンを借りて戦国武将について調べ上げた。
私は生まれつき記憶力がいいらしく、一度読み書きした物は一言一句間違わずに覚える事が出来る。
徹夜になってしまったが、戦国武将については全て網羅した!……はずだ。
これであのバカにも失礼な口を利かせはしない!

「結城ならさっきまでいたんだけど……売店に飯でも買いに行ったのかな?」
「そうか、ならいい。また後で来る」

 ふむ、残念だな。せっかくあのバカをギャフンと言わせてやろうとしたのに、いないとはな。
まぁいい。戦国武将については網羅したんだ。今度アイツが質問してきたら即答してやろう。
即答して『こんな事を知らないお前はバカだな』と言い切ってやろう。
ふっふっふ……私を侮辱した罰だ!思いっきりバカにしてやる!

「あ!いいところにいた!お前に聞きたいことがあったんだよ」

 私にバカといわれて涙目になっているバカの顔を思い浮かべていると、そのバカの声がした。

「キサマ!昨日はよくも私をバカと言ってくれたな!」
「なぁなぁ、陸遜って何した人なんだ?」
「戦国武将についてはすでに網羅した!何でも聞いてくるが……り、りくそん?」

 『りくそん』なんて武将は知らないぞ?
そんな武将いたのか?どこだ?どこの国の武将なんだ?
……は!ま、まさか、鎌倉時代なのか?それとも室町?
コイツ、そんな時代の武将まで知っているのか?
372不器用な彼女  ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/01/22(火) 23:35:41 ID:bnS4w8Ui
「確か関平ってのは関羽の息子なんだよな?」

 か、かんぺい?そんな武将知らないぞ?お、お笑い芸人じゃないのか?
かんうの息子?かんうとは一体誰なんだ?

「お前、知らないのか?やっぱりお前、バカなんだな」
「んなな!バ、バカだと?またしても私を、バカだと?ぐ、ぐぐぅぅぅ……フン!」

 『ぐちゃ!』
 
「ぎゃう!」
「おわわわ!し、島津さんいきなりハイキックはダメだって!……白かぁ」
「うるさい!こいつが私をバカにしたからだ!」
 
 ま、またしても私を侮辱して……くぅぅぅぅ〜!

「い、いてぇよぉ〜。なにすんだよ!この暴力バカ女が!」
「んな!バ、バババカだとぉぉ!」
「だってお前、陸遜知らないんだろ?関平知らないんだろ?」
「お、お前は知っているのか!その、『りくそん』や『かんぺい』を!」
「お前ホントにバカだろ?なにしたか知ってたら、いちいちお前に聞かないって」

 ま、またバカって言った!バカにバカと言われた!ぐ、ぐぅぅぅ〜!

「う、ぐぐぐ……うがあ!」
「ギャフン!」
「うを!すげぇアッパー……こりゃ完全KOだな」
「ふぅふぅふぅ……私を侮辱するからだ!
明日までに必ずその、『りくそん』や『かんぺい』を覚えて来るからな!覚悟しておけ!」 

 ピクピクと痙攣をしているバカに捨て台詞を吐きその場を去る。
ぐ、ぐぅぅ〜……まさか戦国武将で私が網羅できていなかった人物がいるとは!
明日までに調べ上げて答えてやる!答えてお前をバカにしてやる!


 これが、私の人生を変えることになる、結城修太(ゆうき しゅうた)との出会いだった。
373ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/01/22(火) 23:36:23 ID:bnS4w8Ui
今回は以上です。
374名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 01:34:43 ID:oWncP37t
一番のりGJ!!

やっぱりツクバさんの作品最高!!すべての作品につながりがあって、その登場した人物の名が出てくる度に頬が緩むw


でも、「島津麗奈」なんていう登場人物いたっけ?だれかおしえてください
375374:2008/01/23(水) 01:40:14 ID:oWncP37t
連レスすまん。自己解決した。申し訳ない。
376名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 02:29:42 ID:eviJN8T9
>>373
ああなんて可愛いんだ島津 彩!

今後これ以上可愛くなるんだったらもう犯罪だぞ島津 彩!!!!!
377名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 02:47:12 ID:C+J3iry2
>>ツクバ氏乙

そして犯罪者予備軍>>376
378名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 21:15:49 ID:39jhYDfB
>>373
超蝶超GJ!!


ところで次はジョン・コーウェンやエイバー・シナプスとか
言い始めませんよね?^^
379名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 21:35:46 ID:9qMpK5qv
>>373
乙です。続きが楽しみです

>>378
光栄繋がりで
九紋竜史進とか豹子頭林ちゅう(何故か変換できない)とか言い出すと思ってた
380名無しさん@ピンキー:2008/01/24(木) 01:11:34 ID:fq5jG49L
>>379
ガンダム無双→ギレンの野望
381名無しさん@ピンキー:2008/01/24(木) 09:06:32 ID:EwKX3HPh
最終的にはオプーナについてだな
382名無しさん@ピンキー:2008/01/25(金) 22:06:43 ID:YPSoU7Oa
GJ!コーエーなら提督の決断や蒼き狼もあるな。
383名無しさん@ピンキー:2008/02/01(金) 02:38:51 ID:KrBK+nLH
保守
384名無しさん@ピンキー:2008/02/07(木) 16:18:10 ID:+CFy5BV7
保守
385147:2008/02/07(木) 21:46:59 ID:zSQ/D7tU
『スカート』

ぱたぱた
「あ゛〜、あっつーい〜…。何とかしてよー……」
「俺に言ってもどうにもなんないって。それより、ソレやめろよ」
ぱたぱた
「しょーがないじゃん、暑いんだから」
「見えるぞ」
「あー、なに?変なトコばっか見てんじゃないわよ、すけべ」
「だから注意してんだろ…」
「大体ねぇ、こうやって…」
くいっ
「スパッツはいてるに決まってんでしょ」
「………ピンク」
「…へっ?」
バッッ!
「き


しばらくお待ち下さ以下略


「…………………ちゃんと責任取りなさいよね」



的な保守
386uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/11(月) 10:43:43 ID:zwTXUvds
ご無沙汰しております。

なんの事やらな人はもし宜しければ
http://uni.lolipop.jp/Rock_Frame.html
http://uni.lolipop.jp/Wits_Frame.html
辺りをご参照頂ければと宣伝。
387uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/11(月) 10:59:06 ID:zwTXUvds
[おやすみ]

-*-*-*-*-*-*-

打ちのめされたり疲れはてたりして何もかもが心に重いようなそんな時、
私はただそこで静かに待とうと思う。

君がすぐ側に感じられるようになるまで。

君が支えてくれるから、私は山の頂にだって立てる。
私と一緒にいてくれるなら私は荒れる海だって越えられる。

君の支えだけがきっと、私を強くするのだと思う。
私を支えてくれて、だから私はなんだってできるような、そんな気がするのだと思う。

それを知っているから、だから私は次の時も待とうと思う。
打ちのめされたり疲れはてたりして何もかもが心に重いようなそんな時、
君がすぐ側に来てくれる事を知っているから。
388uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/11(月) 11:03:51 ID:zwTXUvds
@@

「When I am down and, oh my soul, so weary♪」
ご機嫌である。

「When troubles come and my heart burdened be♪」
「ねえ、涼子さん、危なくない?」
熱唱系の歌を歌いながら凄い勢いでキャベツを千切りにするのは。
油物も横にあるし。目も閉じてるし。

「Then, I am still and wait here in the silence♪」
「ねえ、さっきから聞いてるけどさ。涼子さんはホワイトデーのお返し、何が良いのさ。」

「Until you come and sit awhile with me」
駄目だ。サビに入った。

「You raise me up♪, so I can stand on mountains♪」
たんたん。
「You raise me up♪, to walk on stormy seas♪」
たかたん。
「I am strong♪, when I am on your shoulders♪」

「You raise me up... To more than I can be♪」

心行くまで歌った後。
かたんかたんとコロッケを食卓において。

「匠君、ちょっと座りなさい。話がある。」
ふむ、と頷きながら涼子さんは言った。
389uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/11(月) 11:08:13 ID:zwTXUvds
-------
その1 山下準曰く
-------

帰り道は2月頭の冬の最後の寒さが覆っていてなんだか目がしぱしぱとした。
ぐいぐいと手袋をした手で目を擦っていると

「信じられない。」

と来た道を何度か振り返り周囲に人がいないのを確認してから、
すたすたと全く歩調を緩めずに和加葉は呟いた。

珍しく一緒に学校から帰る事になったと思ったらこれだ。

「何がだよ。」
とこちらも声を返す。
はなから部活動というものに全く興味を示さなかった俺が、
怪我をしたりだとか少々問題はあったものの
高校生活を通じてバスケット部のレギュラーの座を不動のものとしていた和加葉と一緒に帰る機会なんて殆どない。
というよりも理由が無い。
高校生にもなったら家が2件隣だからと言う理由で学校から一緒に帰ったりはしないものだ。
それが付き合ってもいない男女であれば尚更。
それが何故今日一緒に帰る事になったかと云うと
珍しく和加葉から一緒に帰ろうと声を掛けてきたからだ。
部活はどうしたと言う質問には答えもせず、
和加葉は俺を引きずる用に学校から連れ出すと、
一直線に俺達の家の方へとすたすたと斜め前を歩いている。
390uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/11(月) 11:15:17 ID:zwTXUvds
「何がって判ってるんでしょ?とぼけてるし。ムカつくし。」
昔ながらの準という俺の名前を淀みなく口にしながら
うううううと噛み付きそうに首だけをこちらを向けてくる。
依然として歩調を緩めずに首だけを横にに向けられるのは運動神経が良いからなんだろう。

まあ和加葉が何を言いたいのかは判っている。あれだろ。

「そうよ。あれよ。何?調子に乗ったわけ。準は。最低だよ。まったく。」
この勢いで歩くと後3分で家についてしまうと気が付いたのだろう。
あと3回左に曲がれば家に着くという坂道で和加葉はぎゅっと立ち止まった。
肩の上に乗っている髪が跳ねる。
顔は依然としてこちらを向けている。
顔をこちらに向けながらすたすた歩くところといいぎゅっと立ち止まるところといい、
ちょっと怖い。
その上和加葉は八重歯がちょっと出ているものだからなんとなくドラキュラっぽい。

和加葉がそのまま動かないので自然と俺も立ち止まる形となった。
横に並ぶ。
俺達が急に立ち止まったので後ろから走ってきていた自転車のおばさんが
おっとっとなどと言いながらふらふらとよろけて追い抜いていく。

「いや調子には乗ってないけどさ。客観的な視線で見たら岸涼子さんが俺にチョコレートの好みを聞いてきた事には違いがない訳じゃん。好みを聞いてくるっていう事は俺にチョコレートをくれるつもりがあるってそういう事だろ。」

ということはつまりはまあそういう事だろ。と言うと
和加葉はぐるりと首を進行方向に向けて坂の下った先の家にある柿の木を見下ろしながら溜息を吐いた。
真っ白の息がふうと和加葉から浮かぶ様がなんだか少し艶かしい。
391uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/11(月) 11:57:45 ID:zwTXUvds
こいつは年々可愛くなってくる。
口を尖らせた和加葉の横顔を見ながら俺はそう思った。
活動的な割りに眦の下がったおっとりした目元は少し幼く見せるけれど
顔立ちは相当可愛い方だろうと思う。
八重歯も子供の頃は気にしていたけれど
最近じゃそのお姫様風の容貌にちょっとついた八重歯っていう傷がむしろ彼女の可憐さに華を添えているのだとは和加葉をお気に入りのクラスメイトの言葉だ。
子供の頃はくしゃくしゃだったおかっぱ頭は今は綺麗なウェーブが掛かった肩までのミディアムヘアーになったし、
痩せっぽちの子供の頃は不健康そうに見えていた元々色素の薄かった真っ白い肌は、スポーツをやって健康そうに見える今は寧ろアンバランスな魅力を見せている。
胸もほんの少しは膨らんできたようで、
最近じゃ体操着の時なんかにクラスの男子の視線を集める事もあるらしい。
昔は本当にぺたんこだったくせに。
クラスのとある男子曰くああいう形は大きさはBでも美乳なんだぜだとか。

クラスでも可愛いと言われているし、
まだ恋人は居るという話は聞いたことがないけれど
部活やらクラスやらでも狙っている男が多くてそういう男から家に電話が掛かってくる事も多いと聞く。
母親もうちの母ちゃんと違って美人だし父親はそこそこ有名なデザイナーさんだ。
専業主婦と公務員の父親を持つ俺とは大分違う。

まあ、そんなこんなを聞くと幼馴染としてはなんだかとても差を付けられている様であんまり面白くはない。
俺が地味だからお前も不細工でいろってのはいくらなんでも無茶苦茶な論理ではあるからそんな事は言わないけれど。。
392uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/11(月) 12:04:51 ID:zwTXUvds
「あのね。準。ようく聞いて。私はどうだっていいんだけど、
本当にどうだっていいんだけど
準が調子に乗ってると可哀相だから言ってあげるよ。」

唇を噛み締めつつ、むむむといった感じでようやくこちらを向くと
和加葉は噛み付きそうな口調で俺に語りかけてくる。
どこがお姫様風なのか、理解に苦しむ。

「あのな。いくらなんでも失礼だろ俺に。」
むっとした声で返すと、和加葉は更に睨みつけてくる。

「うるさいなっ、色々言いたいけど、なんかもう可哀相になってくるから言うけど。
ありえない。
涼子ちゃんが準の事を気に入っているなんて、ありえないの。
そんな夢見ちゃ駄目。日本が次のワールドカップで優勝する位ありえない。
あとカープが優勝する位ありえないの。
準は準なんだから。」
叱り付ける様に早口にそう言うとこちらをびっと指差してくる。
部活での怖い3年生の先輩をやり慣れているのか
口調といい態度といい実に堂に入っている。

「ひでえなお前。そりゃ釣りあいは取れないかもしれない。
それは認めよう。
でも岸さんだって地味目なのが好きとかあるかもしれないだろ?
こういうのは判らないんだぜ?お前みたいなのには判らないかもしれないけれどなっ。」
そりゃ俺は特にきゃあきゃあ言われるような特技はないけれども
地味目だというのも特技の一つだ。多分。

ちっちっち和加葉の顔の前で指を振りながら理性的に応対する俺。
和加葉を相手にして普段ならこうはいかない。
気持ちの余裕がこうさせるのだろう。
393uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/11(月) 12:15:15 ID:zwTXUvds
「ばっ・・・ばばばばっ馬鹿にするなっ!大体準は地味目じゃなくて地味だもん。
目とか言うなごまかすな。それはともかくありえないのっ!
変な希望を持ったら傷つくから親切で言ってあげてるのにっ!」
和加葉は怒鳴った。

「なんでだよ。そもそも今まで殆ど話した事もなかったんだぞ。
それを急にチョコレートの好みはなんだ?とか聞かれたんだ。こりゃあれだろ。」

岸涼子さんはほのかな想いを俺に募らせていたと、そう考えるべきだろ。
ま、お前にはわからない俺の男としての魅力がそうさせたんだよ。ふふん。
とそういうと、 むむむと肩を震わせながら和加葉は叫ぶ。

「ああ、もう!馬鹿じゃないの!?ああ、馬鹿っ!」
そう叫ぶと、
もう、どうしようもない。馬鹿だ。うううううとか唸ってから
和加葉は自分の家の方に全力で走りだした。
ウェーブの掛かった少し淡い色の髪の毛がぴょこぴょこ跳ねながら凄い勢いで遠ざかっていく。

なんだったんだ。
つい最近まで現役だったバスケ部レギュラーの全力疾走に適う訳がないので
俺はぼんやりと見送る事にする。

ここまで一緒に帰ったんだから最後まで一緒に帰りゃいいじゃねえか。
という俺の呟きは当然届く筈もなくて
葉っぱが一枚も付いていない楓の木が立ち並ぶ目の前の坂道に吸い込まれていった。
394uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/11(月) 12:18:38 ID:zwTXUvds
-*-*-*-*-*-*-

一番最初のは「YOU RAISE ME UP」の勝手な和訳及び改変です。
びえらの曲といえば判ってもらえるようなもらえないような。

全部で6話位で。

ノシ
395名無しさん@ピンキー:2008/02/11(月) 12:29:30 ID:BxOgbERR
>>394
なんというGJ。導入だけで既に打ちのめされる。
>あとカープが優勝する位ありえないの。
気を強く持ってくださいw
396名無しさん@ピンキー:2008/02/11(月) 13:12:12 ID:No4lcvrX
>>394
お久ーノシ
相変わらず読んでて引き込まれる文章。続きまっとるだよ

>カープが優勝する位
まだシーズン前だあわてあわあわわわわ
397名無しさん@ピンキー:2008/02/11(月) 13:20:21 ID:c1fAiIPN
カープガンガレ!
398名無しさん@ピンキー:2008/02/11(月) 14:48:08 ID:bv3a1Xql
展開しだいでは、今年もカープ優勝できないじゃね?
399名無しさん@ピンキー:2008/02/11(月) 22:47:13 ID:DkIOzedv
女板前「わ、私が握るのは寿司だけだ!こんなもの…握れるか…!」
ttp://yutori.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1202666481/ (過去ログ)
400名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 01:10:18 ID:ZWYMFz0t
大丈夫、優勝だってできるさ。GWまでの勢いだけは。
401名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 05:06:13 ID:HzCSDI2Y
しかしまともに選手に金払えないのは…
402名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 20:55:04 ID:GrgXLcdc
払えないんじゃない。払わないんだ
403名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 23:12:03 ID:MIIj+jKA
>394
なんかこのネタ思い出したw
ttp://jp.youtube.com/watch?v=2MotHPD-Hgs

下がってるので上げ
404名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 13:19:08 ID:WoI4+MXy
これは?携帯だけだけど
ttp://courseagain.com
405名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 14:27:46 ID:Tlt6Ov+v
>>403
上げるなよ、業者が見てる。
406uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/13(水) 15:23:55 ID:W2hgHoF8
[おやすみ] *2

-*-*-*-*-*-*-

まあ、和加葉の言う事も判らないではない。

そうなのだ。今日までの俺は今の俺とは違ったのだから。
正確には今日の12時25分23秒あたりまでの山下準18歳と今の俺とは。
前の俺にとってバレンタインデーなんてものは他の様々な恋人イベントと同様、
まるで人生に関係ないイベントの一つでしかなかった。
もてない男の常として。

もう一度言う。今日まではだ。
正確には今日の12時25分23秒あたりまでの俺はそんな奴だった。

それまでバレンタインデーっていうのは無駄に親戚が多い俺にとっては
母さんと、ばあちゃんと親戚のおばちゃんからで3つと、
従兄弟の女の子から2つと、それから幼馴染の和加葉から1個。
毎年毎年必ず6個のチョコレートが手渡されるか送られてくるっていう
どっちかっていうとお年玉だとか、 お歳暮なんかに近い内向きで、家庭内の行事だった。
407uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/13(水) 15:26:23 ID:W2hgHoF8

別段他人を羨む事も恨む事もないけれど関係ないものは関係ない。
期待に浮かれているクラスの男達を見て、なんとなく白けるような、
かと言って参加できない自分を恥じる訳でもないんだけど、
かと言って胸も張れないようなそんな何ともいえない気分になる日という位のものだ。

唯一親戚でも家族でもない和加葉は唯一の例外となるのだろうが
それも幼馴染っていうだけの理由だ。
恋愛感情からくるものじゃないのならそんなものは家族から貰うものと一緒だ。
そんなものもうくれなくても良い様なものだが
和加葉は意外と無頓着な所があるから子供の頃の習慣のままに寄越してくれている。
未だに名前で呼んでくるのも子供の頃からの習慣事だ。

しかし大体幼馴染なんてのはこの年になると恥ずかしいもので
こういう恥ずかしさってのは家族に対する恥ずかしさと全く一緒だ。
家族と違うのはこちとら校内でも指折りのもてない男で、
和加葉は人気があるから毎年毎年俺にチョコレートを渡しにくる姿を
事情を知らないクラスメイトは目を丸くして見るって事くらいだ。

そして聞かれる。何故だと。 お前がなぜ和加葉ちゃんからチョコレートを貰うのだと。
少し面白い気もするが、結局説明はめんどくさいし、
しかも説明したら説明したで質問した奴は至極納得した顔をしやがる。

それがなんだか気に喰わない。
何故にあいつが上で俺が下みたいな目で見られるのか。

まあ、そんな訳で俺にとっちゃバレンタインなんてのは
当日蓋が開くまでわからない、なんてそんなドキドキするイベントではなくて、
毎年毎年ものすごく予定調和な一日となる。しかも不愉快な視線付きときたものだ。
今年もそうなるに決まっている。
そう思っていた。
期待も出来ず、いつも通り和加葉からチョコレートを貰って、
そして事情を知らない奴に驚いた顔で問い詰められ、
そして馬鹿にされたような顔で立ち去られるのだ。

408uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/13(水) 15:28:31 ID:W2hgHoF8

-----
2/8 12時25分23秒
-----

まあ、そう。その話。
今日の昼休みの話だ。
いつも通り校内放送からは苛立たしい能天気なjpopなんかが流れていた訳だ。
昼休みの度に思うが、もうちょっとセンスの良いロックなんかを流せないものか。
ZEPとか。
と、これまたいつも通り椅子に座り込んでぼけっと黒板を眺め、
そんな事をつらつらと思っていたら後ろから肩を叩かれたのだ。

「山下くん。」
「はあ?。」
その瞬間、俺はびっくりして声が裏返った。
後ろの席には岸涼子が座っており、
肩を叩かれると同時に呼びかけてきたその声は岸涼子のものだったからだ。
岸涼子から声を掛けられたのは高校3年も終盤になって始めてだった。
まあ3年も終盤になって碌に話もしたこともない奴なんてのは沢山いる訳だけれど岸涼子ときたら話は別だ。
ペットボトルのお茶をがぶ飲みしたばかりだったというのに
驚きのあまり口の中が一瞬でカラカラになって 俺はごくりと唾を鳴らしながら振り返った。

いきなりなんだ。という思いが顔に出ていたのかもしれない。
岸涼子は俺の反応に驚いたように目を丸めた。
そしてごめんというように片手を上げて口を開いた。
「・・・ごめんなさい。驚かせたかな。」
「・・・いや。そんな事ないけど。」
そう。と頷くと岸涼子は俺の目を見つめてこう続けた。

「ん。仕切りなおそう。んん。つかぬ事を聞くのだけれど、
 山下君はチョコレートとか、甘いものは好きなのかな?」
409uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/13(水) 15:33:29 ID:W2hgHoF8

一瞬固まる。
めったに喋らない女の子から聞かれる事にしては非常に珍しい種類の話だし、 今日は2月の8日だ。
その上、何度も言うが相手は岸涼子だ。

岸涼子と言えば図書委員でお嬢様然としていて口調は固いが立ち居振る舞いは柔らかく、
髪は黒く艶めいていて長くそれが又良く似合いスタイルも良く、
その上成績は常に上位を保ち続けているという、岸涼子だ。

見た目を簡単に言うと時代劇で言う花魁とか明治時代で言う良家の子女風味なんていう
形容詞が似合いそうな雰囲気を振りまいているあの岸涼子だ。
花魁と良家の子女では相反しているかもしれないが
婀娜っぽくてかつ真面目そうな所なんかはそう形容するしかない。

無論男子からの評判も非常に良い。
うちのクラスでは岸涼子トップで須永和加葉、
箕郷京子が2番手を争うとの女子ランキングは完全に不動である。

箕郷京子にサッカー部の彼氏がおり、和加葉がバスケに狂っていた以上
現状の未来の理想のお嫁さん候補No1は岸涼子独走状態である。
狙っている身の程知らずは多いと聞く。
しかし大そう声を掛けられているであろうその割には浮いた話一つなく、
高校2年の時には告白してきた野球部のキャプテンに
「スポーツマンよりもロックンローラーの方が私は好きだな。」
などと言い放ったという曰くつきの人物でもある。
野球部のキャプテンも折角告白したのにこんな事を言われたんじゃ形無しだ。
あの時は随分と噂になった。
410uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/13(水) 15:36:07 ID:W2hgHoF8
しかし可愛けりゃ何だって許される我等の年頃。
そんな事位では皆、へこたれない。
そこら辺の伝説は寧ろ程よい障害とみなされ、
彼女は一部の男子には陰で姐さんとも姉御とも呼ばれ、
もはや崇拝の対象ともなっている。

最近では高校1、2年の頃の怖いくらいの凛とした感じも薄れ、
柔らかい物腰の方に磨きがかかったなどの噂もあり、
それもまた何故かと色々な憶測を男子の中で呼んでいたりと、
まあそんなこんな含めて男子が寄って集まりゃあ噂にされる女の子って奴だ。

その岸涼子がじっとこちらを見据えながら俺にチョコレートについて質問してきたという訳だ。
しかも何だか心なしか彼女の頬も紅く染まっている気もしないでもない。
指先も震えているんじゃないか。
少し汗もかいているみたいだ。
ちょっと乱れた髪の毛が幾筋か張り付いている真っ白な首元が眩しい。
そして俺は高鳴る胸を抑え、口を開いた訳だ。

「・・・まあ甘いものは結構好きだけど。」
話すだけで緊張する相手だ。1語1語慎重に言葉を選ぶ。

「そうか。それは良かった。山下君は白いのと黒いのとどっちが好きなのかな?」
うんと頷きながら岸涼子は真剣な顔で質問を続ける。

411uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/13(水) 15:38:09 ID:W2hgHoF8
「白いのと黒いの?」

「ホワイトチョコレートと普通のチョコレートだ。」
何度でも言うが、今日は2月8日だ。2月14日の6日前だ。岸涼子である。
俺は山下準だ。いやいやいやいや。
いや、考えるな。今は心を集中して質問に答える時だ。
そう考えながら言葉を発していく。口が勝手に動いていく。
今話している自分が自分ではないような気がする。

「ん?んん。そ、そうだな。ホワイトチョコレートが好きかな。
口当たりがまろやかな所とかな。」
ビターなのも好きだけど俺は甘党だから。

「口当たりがまろやか?」

「う、あ、ああ。」
そう答えると岸涼子はぽんと手を叩いて嬉しそうな顔をした。

「そうか!そういう視点もあるんだな!山下君はホワイトチョコレートが好きなのか!
とても参考になった。うん。ありがとう。」

そう言って目が糸になるように細めてにっこりととろけるような笑顔をこちらに向けたあと、
岸涼子は彩りばかりを考えても駄目だな。やはり味わいも考慮しなければ。
などとぶつぶつと呟きながらノートを開いて何やらメモをし始めた。

その瞬間、その笑顔を見た俺は自分の身に奇跡が起きた事が信じられなくて完全に固まった。
あんな笑顔の岸涼子を見たことがあるか?
あの笑顔を見た男子がこの学年にいるか?
俺にはいるとは、いたとは思えなかったからだ。
背筋を電流が走ったとはよく言ったものだ。
確かにその時、俺の背筋には電流が走った。
412uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/13(水) 15:40:42 ID:W2hgHoF8

そうだ。
そういう事な訳だ。
いくら鈍い俺でも判るっていうものだ。
つまりそういう事だ。
岸涼子は俺の事が好きなのであろう。
全っ然気が付かなかった。不覚であった。

そういえば、とはたと気が付く。
これまでも教室で何度か和加葉と話している時に
岸涼子がじっと俺と和加葉の事を見て何事かを考えるような仕草をしていた事があった。
あの時はなんだろうと思ったものだが今判った。

嫉妬だ。あれは嫉妬だ。
俺と和加葉の関係を勘違いしたのだ。
何故その時気が付けなかったのか。
和加葉と俺は幼馴染だし、和加葉は昔通り遠慮のしない話し方をするから
もしかしたら他人には必要以上に親しげに見えたのかもしれない。

岸涼子がそんな俺と和加葉を見てどう思ったか。
きっと俺と和加葉が付き合っているのだと思い込み、
密かにDはあるという噂のその胸を痛めたに違いない。
岸涼子の事だ。そんな気持ちを表に出す事をはしたない事だと考え、
できるだけさりげなく何かを考えるようなそぶりをして誤魔化したのに違いない。
そうか。そうだったのか。全てが腑に落ちる。
しかし今までそんな事にも気が付かなかっただなんて、俺は大馬鹿者だ。
自分の愚かさ、鈍さに歯噛みをしたい気分だ。
思わず膝を叩く。

「山下君、どうかしたのか?」
岸涼子がノートから顔を上げ、不思議そうな顔でこちらに問いかけてくる。
そこでやっと俺はずっと自分が岸涼子の顔を見つめながら
考え事をしていた事に気が付いて慌てて前を向いた。
413uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/13(水) 15:46:08 ID:W2hgHoF8
ちなみに岸涼子は名前の通り声が涼やかでつまり、周囲に良く通る。
当然さぞ興味深かったであろう今の俺と岸涼子の会話はクラス中に聞こえていたらしく
前を向くと全男子が俺の方、というか岸涼子さんの方を見ているのに気が付いた。

その視線は険しさというよりも
広島東洋カープマスコットキャラクターのスライリーを見て興奮している
広島ファンの女子高生の女の子を、
野球に興味の無い人が見たような目で見ている。
「キャー!カワイイー!スライリー!キャー!!」
え?嘘だろ。あれ、汚くねえ?汚いよな。カワイイってのは目が大きかったり、
動きがコミカルだったりするものを言うんであって、
ジプシーみたいな汚いぼろ布をぶら下げてのそのそ歩くあれはカワイクないよな。
どうみても。
なんであんなキャーキャー言ってんの?マジで?マジで言ってんの?
という視線で。

あちこちで
え、嘘?ちが、違うよな。馬鹿!落ち着け。
大丈夫大丈夫。お前顔色悪いぞ。大丈夫か?
大丈夫だから。な。勘違いだから。ほら座れよ馬鹿。
泣くなって馬鹿。お前が泣いてるの見てたらお前、お前俺だって悲しくなってくるじゃねえかよ。
な。 ほら。ああ・・ああ、ゴメン。ビックリしただけだから。
ハ、ハンカチ悪いな・・・洗って返すからさ。
ばっか野郎ダチじゃねえかよ俺達。気にすんなよそんな事よ。

といった感じの会話が繰り広げられている。
まあもはや、既に俺にはそんなものは関係ない。
ふっと鼻で笑い飛ばす程度の余裕があった。
放っておけという話だ。
地味でもいい。帰宅部でもいい。
実直に正しく生きていれば、幸せは必ずやってくるのだ。
スライリーだってキャアキャア言われるのだ。
俺だって言われてもおかしくは無いのだ。

そんな一種異常なクラスの雰囲気の中、後ろの席では岸涼子はしきりとメモを書きなぐり、
俺は残りの昼休みの時間、やたらと愛だの夢だの語っているjpopを流すいつもの校内放送を
とても穏やかな顔で頷きながら聞き入り、
その後、俺は一日中にやけ顔が止まらず、
放課後帰り際に何故だか和加葉が怒りの表情で一緒に帰ることを告げてきた訳だ。
414uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/13(水) 15:52:01 ID:W2hgHoF8
-*-*-*-*-*-*-

感想ありがとうございます。
全然意図してなかったカープネタに反応が・・・・
因みに広島市民球場ではとっても美人のお姉さんが
マジでスライリーの登場に狂喜乱舞したり
前田選手がいかに男前かを力説してたりします。

ノシ
415名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 17:03:34 ID:MHxzkWr7
>>414
カープ嫌いになったんですかうにさん。
416名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 17:57:00 ID:oyaRDIj5
>>414
GJ!

ここではかなりアレなキャラになってるけど、スライリーすごいんだぞ。自転車乗ったり、レフトスタンドにしがみついたり。

案外憎めないキャラで好きだwww
417名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 18:01:21 ID:ElzbMdYs
uniさん乙です、

あのセサミストリートにでてきそうなやつスライリーっていうのか…
418uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/13(水) 18:41:20 ID:W2hgHoF8
>415
あ、あ、あ、当たり前じゃない!
ってっていうか、あんな子、別に元々全然好きでもなんでもないんだからねっ!
何で皆、私があいつの事だ、だ、だ、大す、す、好きみたいなそんな事になってるのよ。
あんな奴、甲斐性ないし、全然逞しくないし、喧嘩はいつも負けっぱなしだし家は貧乏だし・・
可哀相だから一緒にいてあげてるだけで私、べ、べ、別にあいつの事なんて・・・
(スライリーのストラップを握り締め、足元に落ちている中國新聞にちらちらと目を落としながら)

ノシ
419名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 20:10:07 ID:MEleULvW
>>418
ワラタwww
420名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 20:11:35 ID:SJsMVP7o
>そう言って目が糸になるように細めてにっこりととろけるような笑顔をこちらに向けたあと
最初から涼子さんを読んでるからかもしれないが射精しそうになった。
421名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 21:28:50 ID:oyaRDIj5
>>418
同志!uniさんとは、うまい酒が飲めそうだ。

今年は市民球場ラストイヤーだから、何回か見に行こうっと。
422名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 23:10:20 ID:+xSDX+VS
>>414
カープファンじゃなくても、侍前田は誰もが男前と認めるだろ。
野球にまったく興味が無い限り。
423名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 23:26:56 ID:Rug9jGa5
GJ!uniさん絶好調だなw
424名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 02:51:39 ID:+o5Hr2DJ
425名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 14:10:31 ID:OueqJ/B4
>>418

そんな事言っちゃ駄目。
小さい時はどんなに強いいじめっ子(巨・神)にでも立ち向かって勝ってきたじゃないか。

強気な広島大好きっ娘が優勝逃した瞬間、しおらしくなるのを見たいね。
426uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/15(金) 20:26:03 ID:KDq71Y9I
[おやすみ] *閑話・須永和加葉

-*-*-*-*-*-*-


そりゃあ、確かに彼は地味だ。

背は低いし、痩せっぽちだしそのくせ声はがらがらだしスポーツは出来ないし
かと言って勉強ができるかといったら精々10人並みって所。
性格だって好きな事にはのめり込むみたいだけれど決してタフではないし
食べ物の好き嫌いも多い。
どちらかというとシャープな顔立ちだとは思うけれども
それだってよくよく見ればといった所。ジャニーズ系とは言いがたい。
ニキビは最近ちょっとましになってきたけれどそれでも部分によってはクレーター並みに酷い。

つまり、あんまりいけてない気がする。
けれど私の好きな人だから、他人にあげるわけにはいかない。
私の幼馴染の山下準の事だ。

彼を好きな子がもしいるんだったら、メリットっていったらライバルがいない。
そんな位しかないんじゃない。まあいないだろうけど。
なんて口の悪い友達なんかは言う。
私の好きな人が彼だなんて事は誰にも伝えていないから
そういう時は私は聞こえなかった振りをする。
427uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/15(金) 20:28:52 ID:KDq71Y9I
でも私が彼を好きである事、それは自分の気持ちだから誰が何と言おうと間違いない。

ユーモアのセンスはあると思うし、それに顔だってまあ、
たしかにジャニーズとは言いがたいんだけれども
ニキビが直ればそこそこカッコいい部類に入るんじゃないだろうか。
ちょっと拗ねた様なものの言い方もほら、かわいい気がする。
それに、優柔不断だけれど誰にでもとても優しい。

そして何よりも私の事を判ってくれている、と、そう思う。

実は、私は別に小さい頃から彼が好きだったわけじゃない。
幼稚園と小学校の低学年まではそれこそ毎日のように遊んだし、
親同士も仲が良いからお稽古事も一緒に通った。

小学校高学年からはそれぞれ同性の友達が増えたから、
段々と疎遠になって中学校にはいった頃には幼馴染で、
時々話をする友達っていうような関係になっていた。
私はバスケットに夢中で、時々準の顔を見る度にニキビを直す為にもっと小まめに顔を洗えば良いのに。
とその位に思うけれど口にはしない、
つまり準は恋愛感情とはまるで関係のない、ただの幼馴染だった。
428uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/15(金) 20:29:54 ID:KDq71Y9I
でも高校1年の時にその気持ちが変わってしまった。
今、彼に持っている気持ちはただの幼馴染のその時のものとは違うし、
そしてその気持ちは、中学生の時にクラスの男子に初めてラブレターを貰って
ちょっと意識した時とも違う気がしている。
それは何かというと、能動的な気持ちだって事だ。
何かをしてあげたいとか一緒にいたいとかそういう気持ちだ。
もしかしたら今、私は本当に初恋をしているのかもしれない。そうであれば良いと思う。
私が掴み取りたい何かが、初恋であり、彼であれば良いと思う。

そんな風に思っているのだ。

自分で言うのもなんだけれど健気である気がする。私。

それなのに奴はなんだか最近私にとても冷たく、
そしてその上涼子ちゃんにめろめろのようなそぶりを見せている。
涼子ちゃんが準に秋波を送るわけがないのに馬鹿な男だ。
まあ、そんな事は関係ない。
涼子ちゃんは涼子ちゃんだ。
とにかく私は腹立たしい。
429uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/15(金) 20:33:43 ID:KDq71Y9I
自慢じゃないけれど私だってそこそこもてるのだ。
最近だって靴箱にラブレターが入っていたし、
映画に行こうと誘われることだって多いし、
男の子から電話が掛かってくる事だって多いのだ。
胸は小さいけれど部活を引退して少し(ほんの少し)体重が増えたら
B(ブラによってはC)になったし、
元々色白だし、お母さんは美人だから将来だって有望なはずだ。多分。
涼子ちゃん程じゃないにしたって馬鹿にしたものじゃないはずなのだ。きっと。

だったらきちんと私の気持ちに気が付くべきであるし、
気が付いたのであれば気が付いたと言うべきであるし、
気が付いたのであれば快くOKと返事を出すべきだ。
それなのに奴は今日、涼子ちゃんにめろめろの様子を隠そうともせず、
それどころかこの2年間、私の気持ちにも気が付かず、
ふらふらとしていて私の方を見ない。

私は不安になるし、悲しくなるし、いらいらするし、腹立たしい事、この上ないのだ。
430uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/15(金) 20:40:06 ID:KDq71Y9I
-*-*-*-*-*-*-

感想ありがとうございます。
閑話です。短めであれですが。

次回は少し時が巻き戻ります。
ケーキ教室で頑張る涼子さんと和加葉に
なんと知らないおじさんがなんかおしゃべりをしたりします。
(何がなんだか)

ノシ
431名無しさん@ピンキー:2008/02/16(土) 00:40:50 ID:yZfGXCZ2
やはり良いねえ・・
432名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 22:53:13 ID:GxT87L4+
gjです
続きが楽しみです
433ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/02/18(月) 01:23:08 ID:6K996WDy
>>367-372の続きが書けましたので投下します。
434不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/02/18(月) 01:23:42 ID:6K996WDy
「……おはよ」
「おはよう彩、朝ごはん出来てるわよ……って、どうしたの、その目?
充血して真っ赤じゃないの!」
「……パパに借りた三国志、読んでたら朝になった。……眠い」

 『りくそん』と『かんぺい』をネットで調べてみたら、昔の中国の武将だと判明した。
バカをバカにするために三国志の情報を調べていたら、パパが三国志の小説本を貸してくれた。
……まさか一睡もせずに読みふけってしまうとは。
とても興味深く、面白い内容だった。……一晩かけて、まだ一巻目しか読んでいない。
まだ『りくそん』も『かんぺい』も出てきてはいないが、ネットで調べた時に二人の知識は覚えた。
他の武将も何人も覚えたし……これでバカをバカに出来る!……あぁ、眠い。

「はぁぁ〜……ほら!シャキッとしなさい!本を読むのに徹夜するなんて……自業自得よ!
眠いから学校を休むなんて許さないわよ」
「それは大丈夫。私をバカにしたバカを、バカにしなければいけないから休まない」
「よく分からない理由ね?まぁいいわ。それより朝ごはんが冷めちゃうわよ?
今日の御飯は、鮭の切り身に、彩が大好きな玉子かけごはんよ」

 ……何?玉子かけごはん?
あぁ……白い、まるで雪のように真っ白な、一粒一粒が立っているアツアツの白ごはんに、
私が毎日スーパーで吟味して仕入れている、新鮮な生卵をポトリと落とす。
器で醤油とかき混ぜてからごはんにかける人もいるそうだが、それは邪道だ。
何故なら器を洗う水がもったいないじゃないか!……容器についたたまごももったいない。
玉子をかき混ぜながら、醤油を適量入れる。もちろん濃い口醤油だ。それ以外は認めない。
そして、玉子とごはん、醤油のコラボレーションが完成したら、口の中にかきこむ。
たまごで温度が下がったとはいえ、アツアツのご飯だ。
ハフハフ言いながら口の中に放り込むと、口いっぱいに広がる、ごはんとたまごと醤油が生み出す芸術的な味。
あぁ……これを至福の時といわなければ、なんと表現すればいいだろうか?
そして、鮭の切り身を口に入れ、その油の乗った味を引き立てる絶妙な塩加減を堪能し、
再びたまごかけごはんをほうばる。
あぁ……何度食べても永遠に続けばいいと思う瞬間だ。

「こら!いつまで想像してるの!早く食べなさい!じゃないとたまご抜きにするわよ」
「そ、それは横暴だ!例えママといえど、そこまでする権利はあるのだろうか?」
「早く食べないと、拓と直樹にあげちゃうわよ?」
「そ、それは困る!では頂きます」
「はいどうぞ、召し上がれ。食べたら拓と直樹を起こしてきてね?」
「はむ、ふぁふぁっは」
「ほら、女の子なんだから、食べながら話さないの!お行儀が悪いわよ?」

 朝からこんな美味しいものを食べられるなんて……今日はいい一日になりそうだ。

 
435不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/02/18(月) 01:24:12 ID:6K996WDy
「島津?お〜い、起きてるか〜?」
「……くぅ」
「ダメだ、起きないな。しかし島津が授業中に寝るなんて今まであったか?初めてだよな?
記念に写真にでも撮っておくか?」

 ふふふふ……バカめ。劉備は関羽と張飛と義兄弟なのだ!
貴様はそんな簡単なことも知らないのか?だからバカなのだ!

「派手にコックリコックリと舟を漕いでるな〜。おい、誰かそろそろ起こしてやれ」

 はっはははは!長宗我部元親が四国統一してすぐに、秀吉に敗れたと知っているのか?
……知らない?だからお前はバカなんだ!

「……くふ、くふふふふ」
「セ、センセー、島津さんが笑ってますけど?」
「お、おう、不気味に笑っているな。どんな夢見てるんだ?」

 ……マ、ママ!そんな無茶はダメだ!
甘口カレーを玉子かけごはんにかけるなんて……贅沢すぎるではないか!
いや、食べないとは言ってない!
しかしだな、いくら私がアイツを叩きのめしたお祝いだといっても、これは豪勢すぎる!
……ゴクリ。今まで想像もしていなかったが……とても美味しそうだ。
本当にこれを食べてもいいのだろうか?……いいの?では、いただきます!

「島津っち!いい加減起きなよ?先生怒ってるよ?」

 スプーン一杯に甘口玉子かけごはんカレーをすくい、口に運ぼうとしたら、邪魔をされる。
人の食事を邪魔するのはマナーが悪い行為だ!いったい誰だ?……せっかくのカレーが冷めてしまうではないか。

「ん……んん?」
「起きた?島津っちが寝るなんて珍しいね?徹夜で勉強でもしてたの?」
「……カレーがない。私のカレーはどこに行ったのだろうか?」

 おかしい。さっきまで目の前にあったのに、『甘口玉子かけごはんカレー』がないではないか?
さては拓と直樹が横取りしたな?人の物を取るとは……説教確定だな。

「カ、カレー?……ぷ、ぷははははは!島津っちサイコー!面白すぎるよ!」
「……ここは、教室?あれ?先ほどまで家にいたはずなのだが……何故学校にいるのだ?」
「くっ、はっははは!島津、カレーは家に帰ってから食べるんだな、残念ながら今は授業中だ。
夢の中では後一歩でカレーを食べられたのか?」

 ……夢?夢だったのか?あれが……夢?甘口玉子かけごはんカレーが……夢?

「セ、センセー……島津さん、これ以上にないって程、落ち込んでますけど?」
「お、おう。ここまで落ち込まれると、起こした事に罪悪感を感じるな」

 ゆ、夢……だった、のか。そう、か。あれは……夢。

「す、すまなかったな、島津。今度からは起こさないから。だから、な?そう落ち込まんでくれ。な?なな?」
「よ、よかったじゃん!これからは授業中、寝放題だよ?だからさ、そんな暗い顔しないでよ」

 後一歩……後一歩で味わえるところだったのに……夢、だったのか。
何故だ……何故人は実現不可能な夢などを見てしまうのだ?何故なのだ?

「セ、センセー……ますます落ち込んでますけど〜?」
「お、おう、落ち込んでるな。……どうしよう?」

 甘口玉子かけごはんカレー……夢ではなく、死ぬまでには一度は食べてみたいものだ。
436不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/02/18(月) 01:24:39 ID:6K996WDy
「なあなあ、お前、授業中にカレーの夢を見てたん……」
「ふん!」
「ぐはあ!」

 昼休み、クラスメートに囲まれて食事を取っていたら、バカが来た。
私が授業中に寝ていたことを聞きつけたバカ。そのことでバカのクセに私をからかってきた。
……だから蹴り飛ばした。私は悪くない。

「初めて見たときは衝撃的だったけど、3日連続で見せられると慣れるものなんだねぇ」
「島津っちはキックが上手いねぇ、なんだかカッコイイよ。キックの練習してるの?」
「カ、カッコイイ?そ、そうだろうか?練習などはした事はないのだが……
ママが格闘技が大好きで、幼い頃に遊びでよく座布団を持ったパパを蹴っていたんだ。
きっとそのおかげだろう」

 そう、ママは格闘技が大好きだ。昔に付き合っていた男の影響で好きになったそうだ。
……そんな話をパパの前で嬉しそうに話すのはいいのだろうか?

「それにしても結城も懲りないねぇ。もしかしてワザと蹴られに来てるのかな?」
「ワザと?それはいったいどういう意味……結城?そうだった、忘れてしまうところだった」

 顔を抑えて床を転がっているバカ。
私が寝不足で授業中に寝てしまったのも、全てはコイツのせいだ。
ふっふっふ……一晩かけて覚えた知識でお前をバカにしてやる!

「おい、起きろ!」

 顔を抑えてゴロゴロと転がっているバカを、足で小突く。さぁ勉強の成果を見せてやる!

「お、お前、蹴り飛ばしといて起きろはないだろうが!」
「お前は昨日、陸遜について訊ねて来たな?」
「聞いたけどお前、知らなかっただろ?」
「ふっふっふっふ……陸遜とは中国の三国時代の呉の武将だ。
若くして君主孫権に認められ、華々しい活躍をした。
だが晩年は空しいもので、主君の孫権に疎まれ、最後は憤死したといわれている。
どうだ?お前はこのようなことを知っていたか?」

 私の言葉にきょとんとした顔を見せるバカ。
ふっふっふっふ、驚いたようだな。これでもう私をバカにはできまい?

「へぇ〜、お前、スゴイなぁ。やっぱり頭いいんだな」
「ふっふっふ、これで分かったか?分かったらもう二度とバカなどと言わないように!」
「昨日は知らなかったのに、たった一晩で覚えたのか?」
「そうだ、三国時代の武将の事はほぼ全て網羅している。
調べたおかげで三国時代に興味が沸き、小説を読んでいるところだ。
そのせいで徹夜をしてしまい、授業中に寝るなどという失態をしてしまったがな」
「へぇ〜!三国志って小説になってるのか!どんな話なんだ?教えてくれよ?」

 三国志が小説になっているのも知らなかったのか?情けない奴め!
ふっふっふ、仕方がないな。バカには私が教えてやろう。三国志の面白さというものを!
437不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/02/18(月) 01:25:03 ID:6K996WDy
「張角が率いる太平道という宗教結社が各地で一斉に蜂起、これが黄巾の乱と呼ばれる反乱だ。
この反乱を抑えるために劉備達は戦ったんだ。そして、反乱は治まった。
しかし次に董卓が権力を握り、悪政をしだしたんだ。だから今度は董卓に対して劉備達は戦いだした。
これが私が徹夜して読んだ第一巻の内容だ」

 口を開け、ポカンとした表情で私を見つめるバカ。
ふっふっふ、どうだ?とても面白く、興味深い内容だっただろう?
実は休み時間に読もうと第二巻を持ってきているのだが、クラスメート達が読ませてくれそうにない。
この人達は何故私につきまとうのだろう?……何故あなた達もポカンと口を開けているんだ?

「ねぇ島津っち、その説明、本気で言ってるの?」
「本気?本気とはいったいどういう意味だろうか?」
「……お前、人に物を教えるのがヘタだなぁ」

 な?なんだと?人に物を聞いておきながら、ヘタとは何だ!

「私の説明のどこがヘタなんだ!」
「じゃあ関羽と張飛は何をしたんだ?」
「もちろん劉備に付き従い、勇敢に戦った!」
「なんで劉備に従うようになったんだ?」
「はぁ?そんなの決まっているだろう?3人は義兄弟だ、一緒に戦うに決まっている!」
「ならなんでそこの話をしないんだ?お前の話を聞いてるだけだと、関羽と張飛はいないことになってるぞ?」

 なに?……言われてみれば、3人が義兄弟とは言っていなかったな。
ふとクラスメートを見てみる。……バカの意見に同意なのか、首をコクコクと頷いている。
ま、まさかバカの言うとおり私は説明がヘタなのか?
い、いや、そんなはずはない!重要事項を的確に説明したはずだ!
きっと皆は分かってくれているはずだ!
私は少し不安になり、クラスメートに尋ねて見た。

「も、もしかして私の話では、三国志の面白さがまったく伝わらなかった……のか?」
「う〜ん、島津っちの話を聞いててもよく分からないし、面白いって全然思えないんだよねぇ。
ちょっと説明を短くしすぎじゃないの?」
「ぐっ……そ、そうだったのか?私は……説明がヘタだったのか」

 ガックリと膝をつき、うな垂れる。
バカに説明がヘタだと指摘されるまで、気がつかなかったなんて……もしかして私はバカなのか?

「ど、どうしよう?島津っち、また落ち込んじゃったよ」
「ちょっと結城!アンタが落ち込ませたんだから、どうにかしなさいよ!」
「ええ?お、オレがぁ?」

 そ、そうだったのか……私は、説明がヘタなバカ女だったのか。
どおりで弟達に何度悪戯をしてはダメだと説明をしても、聞き入れてもらえなかった訳だ。
あの子達が悪いのではなく……私の説明がダメだったのか。
438不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/02/18(月) 01:25:28 ID:6K996WDy
「し、島津っち!結城が色んなお話を聞かせてくれたお礼に、カレー食べさせてくれるんだって!」
「おい!なんで勝手に決めてるんだよ!」

 ……カレー?

「……甘口なのだろうか?」
「もちろん甘口!好きなだけトッピングつけていいんだって!」

 トッピング?トッピングとはいったいなんのことだ?
よく分からないが……カレーといえばアレがなければカレーではない!

「……らっきょうと生卵もいいのだろうか?」
「もちろん何個でもOKだって!」
「お前らなに勝手に言ってるんだよぉ。なんでオレがこんなバカ女に奢らなきゃ……ぎゃふん!」
「うわぁ〜……島津っち、落ち込んでても蹴り飛ばすんだぁ。
でも下着見えちゃうからキックはよくないと思うよ?」

 またバカにバカと言われた!
確かに私は自分で考えていたよりも頭はよくないようだ。三国志の面白さを説明できなかったのだからな。
が、それを貴様に指摘される筋合いはない!
っと、こんなことをしてる場合ではないのだった。
カレーをどのくらいまで食べさせてもらえるのかを確認せねば。そう、せっかくの奢りだ。
どうせなら、夢とはいえ、後一歩で食する事ができた……あの幻のカレーを奢ってもらおう!

「……甘口玉子かけごはんカレーにしてもいいのだろうか?」
「島津っち、まだ落ち込んでるんだ。……甘口玉子かけごはんカレー?なにそれ?」 
「玉子かけごはんに甘口カレーをかけるという、贅沢極まりない一品だ。
一度は食してみたいと、常日頃思っていたのだが……いいのだろうか?」

 そう、後一歩で口に入れることが出来たのだ。
それが例え夢の中でもかまわない。死ぬまでの間、一度でいいから食して見たいのだ!

「……玉子かけごはんにカレーをかけるの?」
「……そうだ、とても豪勢な、夢のような一品だろう?」
「イテテテテ……お前、なんですぐに蹴り飛ばすんだよ!奢ってやらねぇぞ?」
「うるさい!貴様は余計な事を話さずに、私に甘口玉子かけごはんカレーを御馳走すればいいんだ!」
「甘口玉子かけごはんカレー?なんだ、それ?」
「キサマ、私の説明を聞いてなかったのか?だからキサマはバカなのだ!」

 仕方あるまい。その空っぽの頭に叩き込むがいい!
カレーの最高峰!最高の贅沢、甘口玉子かけごはんカレーを!!

「甘口玉子かけごはんカレーとは、キサマが想像すらしたことがないような贅沢なカレーだ。
まず、ごはんが一粒一粒が立っている炊き立ての白ごはんに……もちろんお米は新米だ、それ以外は許さん!
そのごはんに新鮮で、黄身が箸で摘めるようなLサイズの生卵をぽとりと落とすんだ。
そして、ゆっくりと、かつ大胆にかき混ぜて、炊き立て白ごはんと、新鮮な生卵をミックスさせる。
これだけでも御馳走なのに、そこに甘口カレーをたっぷりとかけるのだ!
どうだ?新鮮な玉子と一体化した白ごはんに、程よい辛さの甘口カレーがかけられる。
それをスプーン一杯にすくい、口の中に放り込む!
あぁ……私はいまだ食した事がないから、味を説明する事はできないが、きっと奇跡のような美味しさのはずだ。
あぁ……想像するだけで唾液が止まらなくなる。……あぁ、お腹がすいた」

 私の説明に口を大きく開け、ポカンとしたまま動かないバカ。
やはりキサマのそのバカな頭では、想像すらできなかったようだな!
至福の、甘口玉子かけごはんカレーのことを!
439不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/02/18(月) 01:26:09 ID:6K996WDy
「……なぁ、自信満々のところ悪いんだけど、皆が言わないようだからオレが言うぞ?」
「なんだ?キサマが私になにを言うつもりだ?」

 バカなキサマが私になにを言うつもりなのだ?
どうせ、『すごい美味しそうだ!』とか、
『そのような魅惑の食べ物がこの世の中に存在していいのだろうか?』とか言うつもりなのだろう?
……周りのクラスメート達が、バカに何かを期待する目を向けているような気がするのは、何故だろうか?

「お前が言ってた甘口玉子かけごはんカレーって、カレーに玉子を落とすのと同じじゃないのか?
玉子を落とす順番が先か後か違いだけだろ?なぁ、そうだろ?」

 キサマはなにをバカなことを言っている……い、言われてみれば確かにそうだ。
玉子を先に落とすか、後に落とすか、その違いだけのような気がする。
ま、まさか私以外の皆はこの事に気がついていたのか?
慌てて周りのクラスメートを見てみる。……皆の視線が痛い。
そ、そうか……私だけが気がついていなかったのか。
気がついておらずに、一人で舞い上がり……夢を見ていたのか。

「わ!わわわ!島津っち、また落ち込んじゃったよ!」
「う〜ん、こうしてみると、島津さん、とっても面白い人だったんだねぇ」
「……なぁ、お前らも気がついていると思うけど、コイツ、やっぱりバカだろ?」

 ふ、ふふふふ……やはり私はバカが言うようにバカなのか?…………キサマにだけは言われたくはない!

「ふん!」
「あべし!」
「落ち込んでても島津っちの蹴りはスゴイねぇ。下着、今日も白なんだね」
「う〜ん、島津さんの清純なイメージとピッタリだねぇ」
「でもさ、島津っちって大人っぽいイメージもあるから、黒も似合いそうだよね!」
「そのイメージも、ここ最近の騒動で崩れ去っちゃったけどね。……いい意味でね」
「す、すまないが下着の批評をするのは止めてくれないか?少し恥ずかしいのだが」

 私の下着の事を好き勝手に批評しているクラスメートを窘める。
蹴りは下着を見られてしまうのか……次回からはパンチにしよう。

「それよりさ、放課後、皆でカレー食べに行くんでしょ?ならお昼ごはんはもう止めとかない?」
「そうだね!どうせ結城に奢ってもらうんだから、たくさん食べなきゃね!お腹空かせとこうよ!」

 いつの間にかクラスメートもカレーを奢って貰えるようになっていた。
奢ってもらう立場でなんなのだが……こんなにもの大人数、バカのサイフは大丈夫なのだろうか?

「そ、そうだな。せっかくカレーを御馳走になるんだ。お腹を空かせて美味しく食べないといけない」
「そうそう。『甘口玉子かけごはんカレー』をお腹一杯に、ね」
「ぐぅ……あ、あまり苛めないでほしいのだが」
「アハハハハ!島津っち、赤くなってカワイイ!」
「カ、カワイイ?私が?そのように言われたのは、初めてだ」
 

 結局その日はお昼ご飯を抜いただけあって、カレー専門のチェーン店で美味しくカレーを頂いた。
まさかカレーにチーズを入れると、あそこまで美味しくなるとは……想像すらしていなかった。
カレーとは魔法の食べ物だな。何を載せても美味しくなる、魅惑の食べ物だ。
……クラスメートの分もお金を支払ったバカは、血の涙を流していたが、私には関係ない。
440不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/02/18(月) 01:26:50 ID:6K996WDy
「おはよ〜っす」

 チーズカレーを堪能した次の日、校門を入ったところで声をかけられる。
声をかけてきたのは、昨日血の涙を流していたバカだった。
……なんだ、キサマか。
無視してもかまわないのだろうが、昨日は御馳走になった身だ、お礼の一つも言わねばいけないだろう。

「おはよう。昨日は御馳走になった」
「お前、カレーを前にしたら目がキラキラ輝くんだな。お前、やっぱりメチャクチャ面白いな!」
「ウルサイ!また蹴られたいか!」

 バカのクセに私をからかうとは……今度からは感情を顔に出さないように気をつけねば。

「それよりさ、今度は長宗我部元親について詳しく教えてくれよ」
「またか?お前は自分で勉強するクセをつけた方がいい。でないと何時までたっても頭がよくならないぞ」
「大きなお世話だよ!お前も人に教えるのがヘタだろ?だからオレで練習すると思って教えてくれよぉ」

 むぐぅ!た、確かに私は者を教えるのがヘタだそうだ。弟達にも揃ってそう言われてしまった。
しかしだな、ママ曰く『彩はヘタなんじゃないの、少し不器用なの』だそうだ。
……ヘタと不器用の違いがよく分からないな?

「何故私なんだ?他の人に頼めばいいだろう?」
「だって他のヤツ、戦国時代に興味ないんだよ。お前くらいなんだよ、戦国時代が好きなのって」
「何時私が戦国時代が好きだと言った!」
「まぁまぁ、戦国時代ってメチャクチャ面白いぜ?
そうだ!お前、シュミレーションゲームってしたことあるか?オレ、戦国時代の持ってるから貸してやるよ!」

 むむ?ゲーム?自慢ではないが、我が島津家にはゲーム機というものはない。
だから私は今までゲームというものをしたことがない。……だから、興味があるのは仕方がないと思う。

「ほら、携帯ゲーム機も貸してやるし、ソフトも貸してやるからさぁ。
だからさ、色んな武将のこと、教えてくれよぉ」

 ゲーム機本体も貸してくれる、だと?こ、これはいい提案なんじゃないか?
弟達もゲーム機をほしがっていたし、姉として、借りてきてやったといえば大喜びしてもらえるのではないか?


「あ、島津っちがまた結城と話してるよ?」
「なんかさぁ、あの2人、意外と似合ってない?」
「あ、アタシもそう思ってたんだよねぇ。だって結城くらいしか島津っちに話しかけてこないじゃん」
「そうそう、他の男共はなにやってんだぁ〜!って感じだよねぇ」
「ま、結城が話しかけるまで、話さなかったアタシ達が言っても説得力ないけどねぇ」
「けどまさかあの島津さんがあんなに面白い人だなんて思いもしなかったからね」
「ホント、人って見た目ではわかんないよね〜」
 

「……分かった。では、そのゲーム機を貸してくれるのなら、教えてやらん事もない」
「おし、これで交換条件成立だな。じゃあゲーム機貸してやるから放課後家に来いよ」
「うむ、分かった。ちなみにそのゲーム機で使える他のゲームも貸してもらえるのだろうか?」
「おお、別にいいぞ。じゃあ放課後にな」

 なかなかいい交換条件を結べたな。バカに少し戦国武将について教えてやるだけでゲーム機を借りれるとは。
これで弟達も大喜びだな!姉としての威厳を保てるな!

 あまり深く考えずに、バカの家に行くと言ってしまった私。
そのおかげで、今後の人生で、長くお世話になる2人に出会うことが出来た。
そして、あの辛い出来事があってからも私が生きていく事が出来た、新しい居場所を作る事もできたんだ。
 
441ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/02/18(月) 01:27:42 ID:6K996WDy
今回は以上です。
442名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 01:49:02 ID:u8dm52kV
<<ツクバさんGJ!GJ!>>
443名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 04:01:31 ID:mqz8ZMRN
>>441
中々……やるではないかッ……!
444名無しさん@ピンキー:2008/02/19(火) 08:05:54 ID:HaPzgtp0
保守
445名無しさん@ピンキー:2008/02/19(火) 23:07:31 ID:9S2M5q/t
>>441
GOOD JOB !!

さぁ、一気に畳みかけるんだSSを!
446名無しさん@ピンキー:2008/02/20(水) 20:37:10 ID:MDLJEzmZ
保守
447名無しさん@ピンキー:2008/02/21(木) 02:36:24 ID:iSH0y/k5
>>442
<<ロックオンされてるぞ!!>>
448uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/21(木) 16:22:42 ID:fUSjkTmh
[おやすみ] *3

-*-*-*-*-*-*-

-------
和加葉がいらいらとするそれより少し前 1/31 17時12分58秒頃
--------

駅前商店街の一番駅よりの位置、高校生達の溜まり場でもある
喫茶店フィッツジェリコから4件左の位置に「サウザントクリーム」はある。
客が5人も入れば一杯になる地元密着型の小さな店ではあるが、
田舎町にあるただの菓子屋と侮って貰ってはいけない。
「サウザントクリーム」は田舎町のそんじょそこらにあるただの菓子屋ではないのだ。
まず、客は店内に入るやいなや様々にデコレートされた色鮮やかな沢山のケーキに迎え入れられる事となる。
そのケーキの一つ一つは熟練の職人が腕によりを掛けた光り輝かんばかりの傑作ぞろい。
もしあなたがサウザントクリームの名を知らずにその店に入ったなら清潔な店内とその豊富なケーキの種類とその輝きにただ圧倒される事になるだろう。

サウザントクリームの売りはまずその豊富なメニューにある。

そして毎朝、禿げていて痩せていて革ジャンの似合うロブ・ハルフォード似のヤクザな店主は
店員にこう訓示を垂れる。
「ケーキとは、一人一人が持つ心の輝きを形にしたものだ。」
と。

本来であればお客様一人一人とじっくりと語り合い向き合い、
その人となりを見極めた上で最良のケーキ作る事が本来ケーキ職人に課せられた使命なのだ。
と店主は言う。
下の者にもそう思って仕事に取り組んでもらいたい。
店主のその思いが毎朝のこの訓示であり、
そして開店以来一貫としたサウザントクリームの企業姿勢でもあるのだ。
449uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/21(木) 16:25:18 ID:fUSjkTmh

理想はお客様一人一人のオリジナルなケーキ。
しかし残念ながら理想だけでは商売は成り立たない。
成り立ったとしてもお客様一人一人用に作っていたら一つ一つのケーキの値段は驚くほど高値になり、
かつ完成までに時間も掛かり、手軽に食べられるようなものでは無くなってしまうだろう。
それでは町のケーキ屋である意味が無くなってしまうしケーキが特権階級の食べ物になってしまう。
俺達ケーキ職人にとって最も嬉しいのは地元の子供達の誕生日や楽しい事があった日に自分のケーキを口に運んで貰っていると聞いた時。
大事な人へのプレゼントに持っていくのだと、お客様が店を訪れてにこやかにそう教えてくれた時なのだと店主は思う。

だから店主は苦渋の決断の上で、できるだけ豊富な種類のケーキを
出来るだけ安い値段で提供する事を毎日自分に誓うのだという。
ケーキ職人とはそうやって課せられた使命を果たせない罪深い自分を恥じつつ
毎日店に立ち、お客様に向かい合うべきなのだ、と彼は言う。

豊富なメニューとお手ごろな価格。
他のケーキ屋には大変残念なお知らせだがサウザントクリームの[売り]はそれだけではない。
店内に足を踏み入れたあなたはきっとしばらくしてある違和感を感じるはずだ。
暫く考え、鋭い人なら店内で、普通の人なら店を出て家に帰ってからその違和感に気が付くだろう。
店内には若いカップルや女性ばかりだけではなかった事に。
仕事帰りと思われる40代の男性、高校生位の何かスポーツをやっているような体格の良い男の子、
一人で来ていると思われる初老の男性、
そんな誰かがいや時によっては複数のそんな普通のケーキ屋では見られないお客様が
サウザントクリームには訪れてくれる。

これもサウザントクリームのモットーだ。

毎夕、店主は店員にこう訓示を垂れる。
「ケーキとは女性だけが楽しむべきものではない。
男性にだって、いや性差なんて関係ない。
全ての人に楽しんで貰えるものであり、
ケーキ職人はそれを目指すべきなのだ。」
と。

常日頃自らをフェミニストと自負し、女子供は男がしっかりと守るべきだと
ジェンダーフリー論者とは一線を画す発言を隠さない店主だが、
ことケーキに関してはジェンダーフリー論を強行に唱える。
毎月10日はメンズデーと題して店主お勧めケーキの半額セールを男性客のみに対して行うし
(15日は女性が半額になる)、ビターな味わいの男性用ケーキにも力を入れる。
ケーキ職人とは全ての人に愛されるケーキを作るべきだ。
ケーキ屋とはこれも食べたい、あれも食べたいと何を食べようか迷ってしまう、そんな場所であるべきだ。
その思いが毎夕のこの訓示となる。
450uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/21(木) 16:28:19 ID:fUSjkTmh

そんな店主にとって1月の終盤から2月の中盤、
つまりバレンタインデー前のこの時期は一年で最も仕事に力の入る時期だ。
女性も男性もチョコレートを楽しむ日。
店主はバレンタインデーとは人類が作り上げた最も偉大な記念日であると語る。
日本人の大多数と同じく、宗教に興味を持たない店主だが、
事バレンタインに関してはキリスト教とついでにチョコレートを送るという風習を根付かせた
日本のとあるお菓子メーカーへの賛辞を惜しむつもりはない。

店主は言う。
女性から男性へプレゼントを送る。
これだけでも胸のときめく一大事であるのにそれに加えて送るものがチョコレートである。
送る側の女性にとっても日頃自分達が親しんでいるチョコレートである。
好ましく思っている男性に何を送ろうか、
日頃感謝や愛情の気持ちを伝える事もない家族にどんなチョコレートをあげようか、
その力の入れようたるもの想像に難くない。
送られる男にとっても同じ事が言える。
日頃は口にしないチョコレートを女性が胸に秘めた気持ちと共に受け取って悪い気のしよう筈がない。

チョコレート嫌いなんだよなあなどと口で言ってはいても男とは家で1人、
チョコレートを口に放り込みながら口元を綻ばせるものなのだ。
その口中に蕩ける味覚はその女性から向けられた気持ちと同じようなそう、甘みである。
それを味わいながらお返しは何にしようか、どうお礼を言おうか、どうやって喜ばせてやろうか。
そう考える時間は日頃の疲れを癒し、悩みを吹き飛ばし、心を浮き立たせ明日への活力となるだろう。

いや、明日の活力だけではない。
人によってはその後の人生を変えるようなそんな出会いの、喜びの一つにだってなれるかもしれない。
そんな人生の大イベントが毎年一日必ず、記念日として訪れるのだ。
それを素晴らしいと言わずして何と言うのか。
店主はそんな記念日に関われるチョコレートを誇りに思い、
そして自分の作るケーキがそんな想いを伝えたい人達、
想いを告げられた人達のほんの少しの後押しが自分に出来ればと常に願って止まない。

毎年1月末に行われる【バレンタインデーに向けてサウザントクリームのプロの味を学ぼう!】講習会は店主のそんな気持ちの一つの表れだ。
採算度外視のこの講習会は5年前からスタートした、サウザントクリームのお客様サービス企画だ。

実は店主がこれを思い付いたのはお客様とケーキ職人達のある態度からだった。
バレンタインデーの時期にチョコレートを買っていくお客様に「私は料理が下手だから」とか
「ケーキなんて作った事が無いから」等と言い訳をするように買って行くお客様が多かった事、
そしてどんなコンセプトでケーキを作っていくべきかをケーキ職人達と喧々諤々の打合せをしていた最中の
若いケーキ職人達の顔が紅潮し、
どんなケーキを貰ったら嬉しいかを真剣に論じ合っている事、これらを見て店主は閃いた。

送る側も嬉しい、送られる側も嬉しい。
俺達はそんな素敵なイベントに参加できる喜びを噛み締めていたがそれだけで満足していて良いのか。
バレンタインデーはそれだけではないのじゃないか。
作る楽しみ、そんなものもあるのじゃないか。

もしかしたら作りたくてもノウハウが無い、
そんな理由で心を込めて作りたい何かを諦めている人がいるんじゃないか。
そんな人がいる時、そのノウハウを持っている俺達が楽しみを独占していて良いのかと。

そんな気持ちで始めた【バレンタインデーに向けてサウザントクリームのプロの味を学ぼう!】だったからこそ、
今日のお客様は店主にとって嬉しかった。
451uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/21(木) 16:29:33 ID:fUSjkTmh

@@
目の前では目の覚めるような美少女2人が真剣な顔をして店主の話に聞き入っている。

「じゃあ、まずはチョコレートの溶かし方から教えようか。」

「はい。」
実に真剣だ。最近の高校生は授業を聞かないと聞くが、
こんな風に授業を聞いてくれる生徒なら学校の先生もきっとやりがいがあるのだろうと店主は思った。

無論、主婦のお客様が来てくださるのも嬉しい。
サウザントクリームはお客様を選ばない。
しかし今の若者は気力が無いだとか、料理をしなくなっているとかそういう風潮の中、
何が目的でも良い。
誰かに何かをしてあげる為に学びに来ようという態度が良い。
今日の【バレンタインデーに向けてサウザントクリームのプロの味を学ぼう!】は高校生2人だけの参加ではあったが、
店主はなんとなく嬉しかった。

「和加葉ちゃん。ちょっと火が強すぎるんじゃないか?」

「え、嘘?そうかな。うわうわうわ焦げちゃうかも。」
店主の言葉どおりに動きつつも2人は実に楽しそうに鍋にチョコレートを乗せている。

仲良さそうに楽しくやっているが、
不思議なものでどうもこの2人は同じ高校の簡単な知り合い程度の関係らしい。
2人とも別々に申し込んで来たし、お互いが顔を合わせたなり
ストレートの髪の毛の涼子と言う子はほほうと感心したような顔をし、
和加葉という子はしまったと言う顔をしていた。
示し合わせてきたのでは無い事は明白だが、すぐに仲良く喋りだす辺りは若い女の子だ。

きっと好きな男の子にでもあげる為の練習に来たのだろう。
それとも女の子同士で食べる為だろうか。
最近の高校生はどうなのだろうか、
好きな男の子にあげるような事をするのだろうか。
男の子はチョコレートをもらえるかどうか、胸をときめかせたりするのだろうか。

チョコレートを溶かしながらなにやら楽しそうに話している2人を見ながら店主はそう思った。
誰にあげるのか判らないが実に楽しそうじゃないか。
【バレンタインデーに向けてサウザントクリームのプロの味を学ぼう!】を始めて良かった。
目の前で楽しそうにしている2人を見ながら改めて店主は改めてそう思った。
452uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/21(木) 16:31:15 ID:fUSjkTmh

@@

「涼子ちゃんがそんなに楽しそうな顔するの私、初めてみた。」
しゃかしゃかとメレンゲを泡立てながら涼子ちゃんに声を掛ける。
驚きである。
クラスメイトとして話す事は時たまあったが、
部活にかまけててクラスメイトとそんなに遊んだ事は無かったから
涼子ちゃんに持っている印象は教室の中で見た真面目そうな印象でしかない。
こんなキャラクターだったのだろうか。
男子にも女子にも(特に男子に)人気の彼女だが
男子と親しげに話しているところは見た事が無い。
女子と話していても楽しそうにはするけれどはしゃいだりする事も無く
どちらかというとクールな子なのかなという印象を今までは持っていた。
まさかケーキ教室で会うだなんて思った事も無かった。
まあケーキ教室で会いそうも無い子、
なんてのはバスケに狂ってた私にも言えることかもしれないけれど。

「当たり前じゃないか。私だって女の子だ。」
和加葉ちゃんは私を何だと思っていたんだ。
と涼子ちゃんもしゃかしゃかと実に楽しそうにかき混ぜながらは驚いたようにそう返してきた。

「甘いものは好きだし恋物語だって読む。
 男の子にチョコレートをあげるとなって張り切らない訳が無いじゃないか。」

「ええええ?男の子にあげるの?」
思わず驚いて声を上げる。
てっきり家族とかかと思った。そんな相手がいるのか。

「当たり前じゃないか・・・」
和加葉ちゃんは私を本当に何だと思っているんだ?といいながら涼子ちゃんは溜息をつく。

「しかし、ま、確かにこういうのをあげるのは初めてなんだ。
 何が好きなのかとかそもそも甘いものを食べるのかどうかも良く判らない。」
ま、なんか甘いものは好きそうなんだが。
と言いながら涼子ちゃんは困ったように目を伏せた。
悩んでいる風情も色っぽくて絵になる。
んん。ずるい。
453uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/21(木) 16:32:20 ID:fUSjkTmh

「本命チョコ?」

「・・・うん。」

「付き合ってるの?」

「付き合ってはいない。好きかどうかもわからないのだが、多分好きなのだと思う。」

おおおおおおお。
意外な話の成り行きに胸がどきどきとする。
多分だが私は今非常に重要な情報を得ているような気がする。
スキャンダルを目前にしたジャーナリストの気分とはこういうものだろうか。
多分、今私は非常に珍しい場面に出くわしているのだ。

「だから何をあげていいのか判らないんだ。
 黒いチョコレートよりホワイトチョコレートの方がこう、明るい色で良いんじゃないかな。
 でもホワイトチョコレートは好き嫌いがあるみたいだし。
 とか考えていたら何が良いのか判らなくなってしまった。」
それでせめてまともな物を作れるようにと思ってケーキ教室に来たんだが。と涼子ちゃんは言った。

彼女にチョコレートを貰うという名誉をだれが受けるのかは判らないが、少なくともこれだけは言える。
多分その貰う人は舞い上がってしまってチョコレートの種類なんか絶対に気にしないだろう。
無論味も。

「店長はどっちがおすすめですか?」
先ほどから気持ち悪いほど機嫌の良さそうな店長に振ってみる。
スキンヘッドに鋭い眼光のまるでヤクザな店長だが
機嫌よさげにこちらを見る視線は何とはなしに可愛い。

「俺か?俺は喰うならホワイトチョコレートよりはビターだな。」
私達の話を聞いていたのだろう。そう言うと店長は即座に答えてきた。
私達の話を聞いていたのか。
いやらしい店長だ。

「うーん。匠君はどっちなんだ。
 だいたいチョコレートよりCDとかの方が喜ぶかもしれないし。」
涼子ちゃんに視線を移す。
ほほう。相手は匠君というのか。
クラスメイトではない事は確定した。
それと共に心の中にちょっとだけあった不安感は消え去った。
私と涼子ちゃんはライバルではない。という馬鹿みたいな安心だが。
それにしても匠君。か。
他のクラスにいたかな。としばし考える。
たぶんいない。他の学校だろうか。
454uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/21(木) 16:33:21 ID:fUSjkTmh

「和加葉ちゃんはどうするんだ?どんなのにするんだ?」

「え?あ、ああ、私のは何だっていいの。家族のと一緒にされて食べられるだけだし。」
私に振られるのは困るので慌てて手を振る。
私のほうこそ知られる訳には行かない。
どうせ馬鹿にされてしまうに違いないのだ。
誰かに言うつもりも気づかれるつもりも無かった。
涼子ちゃんは暫く私の言っている意味を考えるようなしぐさをした。
と、その隙を突いたように又店長が口を挟んできた。

「プレゼントなんて何だっていいんだよ。何をあげるかじゃない。
そこに何を込めるかなんだからな。」

む、と私と涼子ちゃんは店長の方を向く。
私も少しひっかかった。プレゼントとはどう喜んでもらえるものを送るかではないのか。
何だっていいって事はないだろう。

「自己満足ではいけないと思う。相手が喜ぶものをチョイスすべきだ。」
「じゃあ、店長はどんなプレゼントを貰った時が一番嬉しかったんですか?」
2人でほぼ同時にそういうと店長は驚いた顔をした。
そしてスキンヘッドの頭をぼりぼりとかいて暫く考えた後、にやりと笑った。

「俺か、俺はなあ・・・金かな。お金を貰った時が一番嬉しかった。」
そう言ってカカカと笑う。
それを聞いた私と涼子ちゃんは呆れたように溜息を吐いた。

「私達は、真面目に話してるのに・・・これだから男の人は・・・」
「匠君はお金は喜ばなさそうだ・・」
2人して同時にそう言うと、店長はにやりと笑う。

「そうだな。そう思うだろう。何をあげたら良いか、喜んでもらえるかって。
ま、それは重要なんだ。重要なんだけどな。
でもな、プレゼントって言うのは実は本当は何をあげるかじゃないんだ。
何を思ってあげるか、貰う方がそこにどんな気持ちが込められているかを理解できるか、
それがあるか無いかで全然違うんだな。
何をあげるかなんてのはプレゼントの本質としては2の次、3の次だ。
お金なんてって思うだろう?
俺はその時、本当に嬉しかったんだよ。あんな嬉しかったプレゼントは無かったんだ。」

と、店長さんはそう言って、机に肘を乗せるとゆっくりと話し始めた。

455uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/21(木) 16:35:31 ID:fUSjkTmh


-------
店長は語る 1/31 18時35分5秒頃
--------

「子供の頃は皆世界が平等で、自分にだってチャンスがあると思っているもんだ。
誰だってそうだ。子供の頃だけじゃないかもしれないな。
大人になったってそうだと思う。
大人と子供が違うのは、自分がどこで平等になれるのか、
チャンスを得られるのかが判っているか判っていないかのそれだけでしかないのかもしれないな。
子供は自分がどこで平等に扱ってもらえるかを判っていないから、
色々な事に悲しんだり絶望したりするんだ。
背の低い両親を見て、自分がバスケットボールの選手にはなれないだろうと思う度に、
眼鏡を掛けている両親を見て、自分は宇宙飛行士にはなれないだろうと思う度にそう思う。

俺もそんな子供だった。
父親が早く死んで母親が仕事をしなくてはいけなかった事。
親戚もいなくてお年玉なんて貰ったためしが無かった事。
他の子供みたいにお菓子が食べられない事。
その全てが不平等だと思った。
世界は平等なはずなのに、自分にチャンスが無い事が悔しかった。」

俺が話し始めると、2人はきょとんとした顔でこちらを見た。そうだろう。
最近の子には判らないはずだ。
こんな話は。

「判らないだろう?今は兎も角、昔は不良って言うのはそういう人間がなったんだ。
俺もそういう事にいちいち絶望していたんだ。
だから俺は不良だった。
高校に行ったって金が掛かるばかりだなんて言って中学の頃から喧嘩三昧で、
結局高校には行かずそういう同じような連中と遊びまわっていた。
今で言う暴走族だ。バイクなんか買えなかったけどな。
でも直ぐに貧乏だと不良も出来ないって事に気がついた。
家があったから寝るには寝れたが遊ぶのには金がかかる。
他人からせしめるほどヤクザじゃなかったし、
泥棒をやるほど器用じゃなかったから直ぐに遊ぶ金に詰まる様になった。

で、ここで働き始めたんだ。
ここと言っても昔はほら、もっと君達がいる高校沿いの方にあった。
そうそう、あの広い道路の今はガラス工場がある所だ。
昔はそっちに店があったからな。
そこに行って住み込みで働かせてくださいとやった訳だ。」
456uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/21(木) 16:36:16 ID:fUSjkTmh

「その頃はこのケーキ屋は曽根崎っていうオヤジがやってた小さなケーキ屋だった。
普通の小さなケーキ屋と違ったのは今みたいにやっぱりその頃も職人が5人もいて、
町のケーキ屋にしちゃ品数が豊富だったって位だった。
よその町のケーキ屋にも商品を卸していたからやっていけたんだろうな。
ま、今で言うフランチャイズなんてものの先駈けのような事をやっていた。」

「今と違ってその頃は掃除一つでもスチームクリーナーなんて便利な機械があるわけじゃない。
クリームの汚れは落ちにくくて、閉店後にショーケースのガラスを綺麗にするまでに
1時間も2時間も磨き続けるなんてのもざらだったが、始めてみれば仕事は楽しかった。
最初は遊ぶ金を作る為に働いていたのがそのうち仕事をする為に働くようになった。
不思議なもので一緒に遊んでた友達も遅かれ早かれ俺と同じような道を辿った。
働かなかった奴はヤクザになったし、
働いた奴は今でもここの商店街の中にいるかサラリーマンをやってる。
最初のうちは掃除しかやらせてもらえなかったが、
リーゼントにしてた髪は商品に髪が入らないように刈り込んだし、
小まめに手を洗うようにして、味覚の邪魔になりそうな気がしたから煙草も止めた。
曽根崎のオヤジは少しでも手を抜くとそりゃあおっかなかったが
自分の仕事にも手を抜かない人だったから辛抱の無い俺でもなんとか我慢してやっていけた。
今で言う労働基準法なんてそれこそクソ喰らえって仕事だったけど
まあ中学出が出来る仕事なんてのはどこの仕事も同じだった。そういう時代だったんだ。

でも俺が間違えて朝の仕込みの真っ最中にショーケースの中のケーキをひっくり返しちまった時は
開店の時間までオヤジも一緒になってショーケースを磨いたし、
オヤジは正月には従業員に小遣いを持たせて家に帰したし、
家が無い奴はオヤジの家でおせちを喰った。
ここはそういう店だった。」
457uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/21(木) 16:37:48 ID:fUSjkTmh

「2年もした頃、立場的には俺の一つ上をやっていた先輩が辞めていった。
地元に親のやっている家業があってそっちを手伝うとか云う理由だったが本当のところは判らん。
実の所その先輩が辞めて俺は嬉しかったんだ。
いい先輩だったがその頃俺は掃除に飽きてきていたし、
その先輩がやっている仕込みの仕事を覚えたくてうずうずしていたからな。
それに俺は暇があるとその先輩を手伝って仕事を覚えるようにしていたし、
だから俺はその先輩の後釜に座る資格があると思ったんだ。」

「俺はオヤジのところに行った。
先輩の仕事をやらせて下さい。自分なら出来ます。ってな。
当然許可されるもんだと思ってた。
他にやる奴はいないし、俺はもう2年間も掃除だけをやってきたからだ。
しかしオヤジはこう言った。
今日から仕込みは俺がやる、それに掃除をする奴も雇った。ってな。」

「俺は言った。じゃあ俺は何をすればいいんですか?オヤジは言った。
お前は学校に行け。そう言って学校の入学案内のチラシを机の引き出しから取り出した。
丁度その時は3月で、4月からこの学校に行けとオヤジは俺にチラシを渡してそう言った。
商業学校でも専門学校でもなく普通の学校のチラシだった。
それからオヤジは金庫の所に行って、中から10万円を取り出して俺に渡してこう言った。
少ないが教科書とかノートを買う金にしろ。
足りない分はお前も少しは貯金してるだろうからそれで賄え。
それでも足りなけりゃ夜にうちでバイトをしろ。ってそう言った。
どうするんですか、この金と聞いた俺に親父はこう言った。
金はいつか返せ。ちゃんと勉強しろ。
そして勉強した後にお前がケーキ屋をやりたいと思ったら、そうしたらうちで働け。
それから最後にこう言った。
入学するには親の承諾が必要だから家に帰って母親の判子を貰って来い。」

「家に帰ってお袋に高校に行くといったらお袋は顔を覆ってしばらく泣いた。
3年間高校に通って、簿記と算盤の資格を取ってから店に行くとオヤジは俺をまた迎え入れてくれた。
今度やらされたのは掃除じゃなくて仕込みの仕事だった。
給料は月3万円で相変わらず仕事はきつかったが、
俺は毎月の給料の中から少しずつオヤジに借金を返した。
オヤジは利子は決して受け取らず、俺は結局2年半掛かって借金を全て返済した。
最後の返済の時、部屋にいるオヤジに封筒に入れた金を持っていくと
オヤジは卒業おめでとうと言って背広を作ってくれた。
オヤジは俺から利子を1円たりとも取らなかった上に、5万円もする本当に上等な背広を作ってくれた。
その頃の5万円だ。今とじゃ10倍も価値が違う頃だ。
背広が出来るとオヤジはそれを俺に着せて一緒に写真を撮った。あの写真だ。」

そう言って調理場の隅を指差す。
そこにはここに店を作ったその時からオヤジと俺が並んで写っている写真が掛けてある。
写真は一枚だけじゃなかった。
オヤジとオヤジに学校を出させてもらった奴らが一緒に写っている写真が
ここには20枚以上もある。
オヤジは立派なケーキ職人であっただけではなかった。
その生涯を通じて真っ当なケーキ職人を何十人も育て上げた人間だった。
俺の話を聞いている目の前の女の子達2人は真剣な顔で写真の方を見た。
458uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/21(木) 16:38:27 ID:fUSjkTmh

「それからすぐ、俺は仕入れ担当になった。
俺はどこにでもそのスーツを着ていって仕事をした。
すぐにスーツはボロボロになったし、
その頃には必要であればスーツを買えるだけの経済状況になっていたが、
大事な時があると俺はいつもそれを着た。
そのスーツは何度も修繕をして、今でも箪笥の奥にしまってある。
オヤジが死んだ時、そのスーツを引っ張り出すと
女房がもっと良い服を着ていけと嫌な顔をしたが、
俺は構わず葬式に着ていった。」

「今でも思う。あの時オヤジが金庫から10万円を出してくれなかったら、
高校へ行く学費を出してくれなかったら俺はどうなっていただろうか。
もしかしたらそんなに変わらなかったかも知れん。
俺はその頃もう仕事が好きだったし、勉強は好きじゃなかった。
あの時オヤジが何もしれくれなかったとしても、
今の俺はいたのかもしれない。
でも俺は不景気の際に仕入れ業者に金が払えなくて頭を下げに行く時に
あの背広を着て行ったし、店が潰れそうになった時はその時だけじゃない。
様々な困難があって、そのどの時もあの背広を着て行った。
どんな時もあの背広は俺に勇気と力を与えてくれた。」

2人はじっと俺の顔を見ている。
つまらない話をして呆れてしまったのだろう。
こんな話をするなんて、久しぶりに若い女の子の前に出て柄にもなく慌てているのか。
昔話をするようじゃ不良も聞いて呆れるじゃないかと思いながら手を振る。
459uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/21(木) 16:39:03 ID:fUSjkTmh

「いや、すまん。ケーキの作り方どころか説教をするようじゃいけないな。
続きを教えようか。」
そういってボウルを手に取った、と、その瞬間
目の前の髪の長い方の子がぱちぱちと手を叩いた。
「素晴らしい!面白かった。目からうろこが落ちた。人に歴史ありだな。」
もう1人の子はきちんと座ってうんうんと頷いている。
面白かった?
この子達は見た目と違って体育会系なのか?

「テクニックだけに頼ってはいけない。
そこにどんな気持ちがこめられているかが重要なのだという事だな。
まさかケーキ作りを教わりに来てこのような事を学ぶ事が出来るとは思わなかった。」

「いやそんなつもりじゃあ。」
ただ昔話をしただけだ。
年を取ると話はしたくてもどんな話をしたらいいかがわからないから、
昔話をするようになるってのは嫌になるほど自分で判っているんだけれどついやってしまう。
持ちネタがそれしかないのだ。

「いや、店主さん判っている。テクニックも大事、気持ちを込める事も大事。
どちらも過不足無く行って初めてプレゼントであるという事か。」

「小手先だけじゃ駄目って事かぁ・・・なるほどね。」

いや、別にただの昔話なんだと口を開きそうになったけれども口を閉じる事にした。
うんうん。と目の前の少女達は頷いている。

「ところで、ケーキの作り方の方なんだが」
と涼子ちゃんと呼ばれている方の子に声を掛けられて我にかえる。

「おお。おお。じゃあ続きをやろう。まずだな。まずはケーキってんはな・・・」
なんとなく気分が沸き立っている。
自分の娘ほどの年の女の子に褒められたからか。
男なんてのは単純なものだ。

今日は気を締めていかないと調子に乗って喋りすぎそうな予感がして、
俺は調理用のマスクをしっかりと被り直した。

460uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/21(木) 16:44:28 ID:fUSjkTmh
-*-*-*-*-*-*-

感想ありがとうございます。

次回閑話で残り3話程度。
一週間以内には。

ノシ
461uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/21(木) 16:44:35 ID:fUSjkTmh
-*-*-*-*-*-*-

感想ありがとうございます。

次回閑話で残り3話程度。
一週間以内には。

ノシ
462名無しさん@ピンキー:2008/02/21(木) 22:55:45 ID:cFg+2PNc
>>460

こういう雰囲気大好き!さすがはuniさん!GJです!!
463名無しさん@ピンキー:2008/02/21(木) 23:21:43 ID:43Qui8yX
さすがはuniさんだぜ…
464名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 03:28:09 ID:UiuFnoBC
ウニ節炸裂ですねw
とてもおもしろかったです
続き楽しみにしてます
465名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 06:45:52 ID:72pNI4Zu
保守
466名無しさん@ピンキー:2008/02/25(月) 08:06:53 ID:Vi/uBepc
保守
467uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/26(火) 11:47:33 ID:EwlEvCfl
[おやすみ] *4

-*-*-*-*-*-*-
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須永和加葉が岸涼子と帰る。
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何だか少々違う感じで盛り上がったケーキ教室が終わって、
私はクラスメイトの岸涼子ちゃんと一緒に帰っている。
あんまり学校で話した事が無かったし、
私はバスケ部で体育会系だから涼子ちゃんのような優等生で腹筋が柔らかそうな
(しかも無駄な肉が付いてなくてぷにぷにとしてそうな)
友達はあんまりいないので最初はちょっと緊張していたのだけれど、
ケーキ教室でもうすっかり打ち解けてしまったから話す内容には事欠かなかった。
店を出てからこの方、喋りっぱなしだ。
女の子は2人でも姦しいのだ。

なんだかんだとクラスの話や部活の話、受験の話などをしながらてくてくと歩いて
八坂神社の手前のあともう少しで別れる所、といった所で
涼子ちゃんはああそうだ。
とちょっと唾を飲み込んでからとんでもない事を言ってきた。

「そういえば和加葉ちゃんは山下君と付き合ってるんだろう?
私は男の子と付き合った事とかがないから判らないんだけれども
その、どういうものなのかな。男の子とお付き合いをするというのは。」
私は意味がわからなくて一瞬うろたえた。
思わず立ち止まる。
468uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/26(火) 11:49:03 ID:EwlEvCfl

「はい?な、な、な何言ってるの?涼子ちゃん」

「いや、一緒に家に帰ったり、その、遊びに行ったりするだろう?
その、男性とはその度にこう付き合っている女性に愛しているとか
そういう事を言ってくれたりするものなのかな。」
私だったらそんな事を言われたら照れてしまうな。
困った、困ったな。と全然困っていない顔で身悶えている。

「ごめん、何言ってるか判らないんだけど。」

「だってチョコレート、山下君にあげるんだろう?今までもあげてるみたいだし。
和加葉ちゃんが山下君の事を好きで、2人は付き合っているんじゃないのか。」
私の焦り様に寧ろ何を言っているんだという風に涼子ちゃんはからりとした感じで声を返す。

「そんな事わ、わ、私一言も言ってないよ。」

「うん。聞いてはいない。そう思っただけだけど違うのか?
和加葉ちゃん位可愛ければもう付き合っているのかと思ったんだけど。
間違っていたならごめん。」
ごめん。と拝むように片手をあげながら言う。

「ち、違わな、ち、違う。ち、違うわないけど」

「どっちなんだ?」

「違わないけど・・・付き合ってはないもん。
な、な、な、なんで涼子ちゃんそんな事いうのよ。えええええ?そんな風に見えるの??」
そう言うと涼子ちゃんは何を言っているという感じに目を丸くした。

469uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/26(火) 11:49:31 ID:EwlEvCfl

「だって、和加葉ちゃんは山下君の事が好きなんだろう?そんな事は見れば判る。」

そんな馬鹿な。
見たって判らないはずだ。
私はビックリしながら疑問を口にした。
「何で?見て判る訳ないもん。私が準の事好きだなんて誰に聞いたの?」

今まで私は誰にも、それこそ部活の親友にだって
準の事を好きだなんて言った事はなかった。
言ったってどうせ馬鹿にされるだけだから。
準は、正直言ってあまりイケてはいない。
背は低いし、痩せっぽちだしそのくせ声はがらがらだしスポーツは出来ないし
かと言って勉強ができるかといったら精々10人並みって所。
性格だって好きな事にはのめり込むみたいだけれど決してタフではないし
食べ物の好き嫌いも多い。
少なくともバスケ部のキャプテンとか、野球部のキャプテンとか
ちょっと不良の人とかよりはイケてないと言える部類に入る。
女子高校生なんていうのは保守的だから
誰かがイケてないといった人を好きになるなんて事はしちゃいけないものなのだ。
準の事を馬鹿にするのは、私が馬鹿にするのは良いけれど
腹が立つからそういう事を聞くのは嫌なのだ。

だからごく普通に自然に対応していたつもりだし、誰にもばれてないようにした。
と思っていたのに。
のぼせる様に血が頭の方に集まって、顔が赤くなっていくのが判る。
恥ずかしさと、何故という困惑とで頭がぐわんぐわんする。
470uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/26(火) 11:54:55 ID:EwlEvCfl

「誰に聞いたもなにも見ていれば判るんじゃないか?
こう、何ていうか好きな人と話す時ってちょっと背筋が伸びたりするじゃないか。
あと喋り方がちょっと変わったり。
和加葉ちゃんも山下君と喋る時は他の男子と喋る時とは違うだろう。
それに和加葉ちゃんと山下君って距離感が近いような気がしたんだ。
なんていうのかな。
例えば私も含めて女性って言うのは普通男の人に急に近づかれたりするととっさに身構えてしまうんだけど
和加葉ちゃん、例えばクラス内で山下君にぎゅっていきなり抱きしめられてもとっさには逃げないような気がする。」
涼子ちゃんは背中に手をやったりしながらのほほんととんでもない事を言う。
私は返答もできない。そうかもしれないと思っている自分もいる事が悔しい。

「まあ、首まで真っ赤になってるし、間違いないな。」

「うう・・・最悪だ・・・。誰かに聞いたんじゃないの?噂になってたり」

「そんな事ないんじゃないかな。少なくとも私は聞いたことがないし。」
さらりと言う。

「しかし、山下君のどこが好きなんだ?和加葉ちゃん」

「・・・」
やっぱりそういう話になるのか。すうと頭が冷えた。
その一言にカチンと来てしまった。
そんなに怒る事ではないのかもしれないけれど。
でも私は頭がぐわんぐわんしていたし顔は真っ赤だし、
ついでに悔しくて、つい大きな声を出してしまった。

471uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/26(火) 11:55:28 ID:EwlEvCfl

「う、う、う、わ、悪い?ほら、涼子ちゃんもそう言うじゃん。
だ、だから嫌なの。ばれるのがいやだったのに!
確かに準はそんなに格好が良くないけど、
馬鹿だしスポーツも出来ないけどでも優しいもん。
私の事を良く知ってるもの。
どこが好きなんて好きになるところなんていっぱいあるもん!
それなのに皆、イケてないとか馬鹿にするし、
準の事好きになる人なんていないなんていうし、
だから嫌なの!準のこと良く知らない人にそういう事言われたくないの!
だから涼子ちゃんも忘れて!」

涼子ちゃんは私の剣幕にビックリしている。
それを見て私も我に返った。
うわ、やってしまった。
ああ、友達になれると思ったのに大失敗だ。

言うだけ言って私の方がビビッていると、涼子ちゃんはにこりと笑った。

「悪いなんていっていないぞ。私の言い方が悪かったみたいだ。ごめんなさい。
私の好きな人だって地味だし馬鹿だし野暮天だ。」

「・・・」
私が黙っていると涼子ちゃんは更に続けた。

「私は良く考えるんだ。なぜその人の事を好きなんだろうって。
私は俳優とかは意外と男臭い人が好きなんだけど好きになった人は全然違う。
でもその人の事をとてもかっこいいと思うし素敵だと思う。
多分、俳優とかよりもカッコいいんじゃないかと思うこともある。」
和加葉ちゃんはそうじゃないか?と聞く。

私は思わず頷いてしまった。
472uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/26(火) 11:57:47 ID:EwlEvCfl

「でも周りの人に聞くとそんな事はないみたいだ。
たく・・私の好きな人を他の人がみるとそうじゃないみたいなんだ。
別にふつーとか言われる。
だから大体、好きな人のかっこよさなんて他人に判る筈がないのかもしれない。
そう思うこともある。」

「・・・うん。」

「でも、そう思うと不安になるんだ。
私の好きっていう気持ちは他の人が男の人に思う好きと違うんじゃないかって。
皆が好きになるような人、カッコいい人をを好きな訳じゃないって事は
皆が言っている好きは私が思う好きとは違うんじゃないかなって思うことがある。」

涼子ちゃんが言っている事は私が昔から考えていた事だった。
学年で一番可愛いとか言われてる涼子ちゃんがそんな事を考えているとは思わなかった。

「だから聞いてみたんだ。和加葉ちゃんが山下君のどんな所が好きか、
それを聞いてみて私ともし一緒だったら
もしかしたら私は和加葉ちゃんと同じ様にた・・好きな人が好きだって自信がもてるかも知れないと思ったんだ。
だから別に山下君の事を悪く思っていたりはしない。
いや、あの好きとかそう言う意味じゃない。興味がない。
興味がないってのもなんか変だな。そうじゃなくて」
しきりに首を捻っている。可愛い。

それを見て、私は自分が勘違いをしていた事に気が付いた。
「ごめん。私も変に大きな声を出しちゃった。」
そう言って頭を下げる。
頭を上げると涼子ちゃんは笑っていた。
473uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/26(火) 11:59:28 ID:EwlEvCfl

「うん。気にしなくて良い。私の聞き方が悪かったんだ。
そうだな。聞いてばかりであれだから、私のほうから悩みを相談すべきだ。
私はたく・・好きな人が」
何も気にしていないようにさっぱりと話を続けてくる。
私は一気に涼子ちゃんの事が好きになっていた。

「匠君でしょ。言っていいよ。」
今度は涼子ちゃんが赤くなる番だ。

「うう・・・」
よし、真っ赤になった。

「う・・匠君が短いスカートが好きだと聞いて、
私はそういう格好が嫌だからいやらしい。と思ったんだ。
でもそれ以降、洋服を買いに行くとミニスカートをちらちらと見ている私がいる。
似合わないんじゃないかなとか、あれなら品良く纏める事もできるかなとか。
そういう事を頭の中で考えたりする。
そしてそういう事を考えたりするのがそう嫌でもなくて、
そういう時に私は匠君の事が好きなのかもしれないと思う。」

「涼子ちゃん、それはその人の事が好きなんだよ。」
私にも判る。そして真っ赤になりながらそんな事を言う涼子ちゃんはからかいたくなる位に可愛い。

「匠くぅん。とか言ってたもんね。さっき。」

「い、言ってない!そんな事!ずるいぞ!私が言ったんだから今度は和加葉ちゃんの番だ!
和加葉ちゃんが内緒の話をする番だ!
和加葉ちゃんはどういう時にそういう風に思うんだ?
あ、そうだ。そもそもどうして山下君の事を好きになったんだ?
そこを教えて欲しい。いつのまにか、とかそういう風に誤魔化しちゃ駄目だぞ!」

「あはは、私があいつを好きになった切欠、ねえ。」
なるほどあいつの事を考えて胸がもやもやするだとか、
ミニスカートを履いてみよっかなと考える事だとか。
まあ後は夜あいつの事を考えてごにょごにょ。の理由。
そうなった切欠。
なんだっけ。
って自分を誤魔化しても無駄だ。
私は、あいつを好きになった瞬間をはっきりと覚えてるのだから。
474uni ◆/pDb2FqpBw :2008/02/26(火) 12:01:51 ID:EwlEvCfl

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いつも感想ありがとうございます。

次回、須永和加葉が野暮天を好きになった理由。
一週間以内には。

ノシ

475名無しさん@ピンキー:2008/02/26(火) 18:28:46 ID:HAG/7wmC
ものすごくGJです

涼子さんは腹筋が柔らかそうなのか…そうか…
476名無しさん@ピンキー:2008/02/27(水) 02:44:09 ID:KnmeiJpS
>474
    _  ∩
  ( ゚∀゚)彡 涼子!さん!涼子!さん!
  (  ⊂彡  ミニ!スカート!ミニ!スカート!!
   |   | 
   し ⌒J
ジョルジュ長岡


    _ _
   ( ゚∀゚ )  リアルでやると三回目ぐらいで顔がニヤけるぞ?
   し  J
   |   |   やる時は後ろをちゃんと確認しろよ?
   し ⌒J


ついでに


    _  ∩
  ( ゚∀゚)彡 和加!葉!和加!葉!
  (  ⊂彡


     _
   ( ; ゚д゚) ハァハァ
   し  J


     _
   (;゚∀゚) ニコッ!
   し  J
477名無しさん@ピンキー:2008/02/27(水) 04:16:26 ID:syaamkVc
流石ウニさん素晴らしいです

続きが気になってしかたないです
楽しみにしてます
478名無しさん@ピンキー:2008/02/28(木) 03:11:45 ID:B9DL6QzY
保守
479名無しさん@ピンキー:2008/03/01(土) 06:29:22 ID:OsOFn6R0
保守
480名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 04:19:45 ID:0AYmGii3
保守
481名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 07:00:45 ID:v7HKr3H+
>>480
ンな頻繁に保守しなくても。
保守だけってのも寂しい話だし、せめて雑談しようぜ。

このジャンルにハマったきっかけはなんだい?
482名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 10:01:05 ID:P1kynJjr
>>481
オイラはuniさんのss読んでハマった。
おかげで1日5回ほどリロードするようになった。
ア、アンタのせいなんだからね?責任取りなさいよね!
483名無しさん@ピンキー:2008/03/03(月) 11:47:35 ID:kRtEGD1L
>>482
あれ?俺いつ書き込んだんだろ・・・
しかし今にして思うと昔好きだった女キャラも傾向が一緒だったりする
484uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:30:44 ID:3famoVno
[おやすみ] *5

-*-*-*-*-*-*-
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東山馳中学校の歴史(女子バスケットボール部)
--------

須永和加葉と山下準が中学生だった時、東山馳中学校に山口美津子という体育教諭がいた。
彼女は須永和加葉と山下準が入学した当時、赴任して5年目の27歳の若い教諭だった。
東山馳中学校では彼女が赴任した当初、
世間では折りしも少年漫画誌でバスケットボールを取り扱った漫画が大ヒットを飛ばしていた為
彼女が高校生の頃には考えられなかったような人数がバスケットボール部に入部しており、
1人の顧問ではとても賄い切れない状態となっていた。

彼女は高校、大学時代を通じて当時まだマイナースポーツであった女子バスケットの部活に入っており、
その頃は試合に出れる5人ぎりぎりで部活をやっていた為に
現在のこの状況を嬉しく思った。
又、自身が体育の教諭でもあったから、男子バスケットボール部と女子バスケット部に分ける事を当時のバスケットボール部の顧問に提案し、
そして自分が女子バスケットボール部の顧問をする事となった。

彼女は教師になったばかりで自身がこれからの教師生活で何を為していくべきかという理想に燃えていたし、
生来真面目な性格だった。
そしてなにより彼女は試合をする為にメンバーを集める必要が無い事や
(それどころか試合に出れるメンバーを選抜する事が出来る程だった)、
生徒達自身がバスケットボールの事を知りたがり、そして上達したがっている事に感激した。
485uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:35:24 ID:3famoVno
更に彼女は若く美人で生徒達と年齢が近く、女生徒達の心を掴むすべを心得ていた。
厳しい走り込みと飽く事のない永遠に続くような基礎練習を課す一方、
気さくに彼女達に語りかけ、
時には女生徒達が一番知りたがるような週末のショッピングの話題やお洒落、
そしてお化粧の仕方等も教えた。
そして彼女は何よりも生徒達にスポーツマンシップの重要さを説いた。
東山馳中学校の女子バスケットボール部の部員は試合中に審判の判断に顔を顰める事も許されなければ
口汚い野次を発する事も決して許されなかった。
彼女は正々堂々と戦う事を教え、試合の勝敗に関わらずそれが為されたと自分が考えた時に生徒達を褒めた。

1年目にはまともにボールの投げ方も判らない集団であった女子バスケットボール部は
2年目にはシュートがゴールに吸い込まれるようになり3年目には戦術を説明出来るようになった。
4年目には市内でも強豪とまでは言われないが練習試合には事欠かない程度の実力が既に付いており、
女子バスケットボール部の生徒は礼儀正しく成績も良いとの評判が地域にて噂され始めていた。

須永和加葉が東山馳中学校の女子バスケットボール部に入部したのは
そんな山口美津子が赴任してから5年目の事だった。
山口美津子は3年目以降、増え続ける女子バスケットボール部の部員を少々持て余していた。
1学年5〜6人もいれば部活としては充分な人数だったが、
その頃既に女子バスケットボール部には毎年15人は入部する様になっていたからだ。
この為、学年でも背の低い方であった須永和加葉は当初山口美津子の目に留まらなかった。
レギュラーになるには明らかに身長が足りなかったし、
なにより痩せていて体力が他の子に比べて劣っていた。
運動能力測定の結果、多少足が早い事が判ったが、その程度だった。
寧ろ少し可憐過ぎるような外見からバスケットボールよりも向いているものがあるのではないかと思った位だった。
但し、練習熱心ではあった。
この為、須永和加葉は特に部活内で目立つ事無く、最初の1年間を過ごした。
この年、初めて東山馳中学校女子バスケットボール部は市大会でベスト8に入った。
486uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:36:15 ID:3famoVno

山口美津子が須永和加葉に目を向けたのは須永和加葉が2年生になって直ぐの頃だった。
補欠組にたまたまさせていた反復横飛びに山口美津子がふと目をやった時、何か違和感があった。
山口美津子は指導者としては若かったが、優秀だった。
その違和感が何であるかは判らなかったが目を逸らさなかった。
最初は須永和加葉が他の生徒より小さく、その上他の目を引くほど
(将来が楽しみになるような)美人に成長しつつあるからだと思った。
しかし暫く生徒達の反復横飛びを眺め続けるうちにある事に気が付いた。
他の生徒がある段階を過ぎると上半身に下半身が付いていかなくなるのに対して
須永和加葉だけは最初から最後まで姿勢が変わらずしかも他の生徒よりスピードが速く、
そして練習後に他の生徒が倒れこむ中、平然としていたのだ。

山口美津子はそれまで声を掛け、おしゃべりをする事はあっても
バスケットの事については殆ど指導していなかった彼女を呼び、ボールを持たせた。
「あなた、ドリブルをするのとシュートをするのどっちが好き?」
須永和加葉は答えた。
「どっちも好きです!ボールを触っているのが大好きだから。」
そして山口美津子はドリブルとシュート練習とを彼女に教え始めた。
更に彼女は他の生徒に比べて腕力に劣っていた彼女に最低限の筋力を付けさせる為のトレーニングを教え、
フェイントのやり方も教えた。
彼女は飲み込みが早く、次々に技術を吸収したが、
山口美津子はある懸念と、そしてある確信を持っていた為に焦りはしなかった。

須永和加葉はレギュラーにならないまま中学2年生の1年間を過ごした。
大抵の同級生は2年生の時には試合に出るようになっていたからこれは遅い方で、
須永和加葉は自分が余り上手ではないのだと思った。
しかしバスケットボールは好きだった。
この年、初めて東山馳中学校女子バスケットボール部は市大会で3位を獲得した。
487uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:37:06 ID:3famoVno

須永和加葉が初めて試合に出たのは中学3年生になってからだった。
ある練習試合の途中、山口美津子は須永和加葉を呼んでこう言った。
「ディフェンスに吹き飛ばされたら黙って立って又走りなさい。
後は練習通りにボールを取ったら、シュートをすればいいわ。」

須永和加葉ははいと答えて山口美津子の言うとおりにした。
その結果、立て続けに相手から15点をもぎ取り、
そしてその試合以降、ついに彼女はレギュラーの座を掴んだ。

彼女は彼女も知らないうちに低い背を更に低くかがめて
信じられないスピードでフェイントを掛けて相手を抜き去り、
そして高い精度でシュートを放つ選手に育っていた。
その後のどの試合でも彼女はパフォーマンスを発揮し、誰も彼女を止められなかった。
山口美津子は次々と強豪チームとの練習試合を組んだ。
決して最初から勝てそうなチームとは試合をしなかった。
この為練習試合には良く負けたが生徒達は強豪チームがどういうものかを身をもって学ぶ事が出来た。

そして須永和加葉の中学3年の最後の大会が始まった。
山口美津子は多くの練習試合の結果、須永和加葉を中心とした強固なチームを作り上げていた。
東山馳中学校女子バスケットボール部のショータイムが始まったのだ。

最初の数試合の弱小チームとの肩慣らしを終えた後、
東山馳中学校女子バスケットボール部と須永和加葉は遂に本領を発揮し始めた。

当初東山馳中学校を同格か若しくは格下と見ていた中堅チーム数校を瞬く間に屠り、
あっという間にベスト4に勝ち上がった頃にようやく他のチームは
今年の東山馳中学校が別物だと言う事を認識し始めたが
その頃には事態は最早手遅れになっていた。
あるチームの顧問は試合中に須永和加葉を2人がかりで止めろと言い、
又別のチームは須永和加葉は放っておいて他の人間に点を取られないようにしろと言ったが
どちらも残念ながら効果が無かった。

須永和加葉は2人掛かりでは止まらず、そして東山馳中学校は須永和加葉以外の選手も鍛え上げられていた。
須永和加葉を放っておいたチームは立て続けに3Pシュートを5本決められた段階で力尽きた。
東山馳中学校は決勝で岡沢西中学を破り初の市大会優勝を勝ち取っただけでなく、
県大会でも2位の成績を勝ち取った。
東山馳中学校ばかりか市役所にも県大会2位の幟が掲げられ、
女子バスケットボール部は地元のヒーローとなった。
須永和加葉はアスリートとして開花した自分の実力を今ひとつ理解していなかったが、
3年生になって試合に出られたことにほっとしており、大会でも良い結果を上げられた事に満足した。
何よりも山口先生が好きで、そしてそれにも増してバスケットボールが大好きだった。
バスケットボール以外の事など、殆ど考えた事もなかった。
488uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:37:48 ID:3famoVno

須永和加葉が地元の高校に入った時、バスケットボール部は彼女を三顧の例を持って迎え入れた。
バスケットボール部だけでなく陸上部も彼女を欲しがったが、彼女は見向きもしなかった。

高校のバスケットボール部のコーチは浅野忠志という50過ぎの教師で
男子女子のバスケットボールだけでなく卓球部の顧問も務めた事があり、
スポーツの指導者としては経験豊かな教師だった。
彼はその前の年から男子バスケット部だけでなく
女子バスケットボール部のコーチも兼任するようになっていた。

丁度女子バスケットボール部の強化をしようとしていた矢先の須永和加葉の入部でもあり、
彼女の入部を彼は事の他喜んだ。
彼女は体こそ小さかったが強力なプレーヤーでその上柔らかく、
地毛が少し茶色い髪はフランス人形のようだったし、
顔立ちは少女から徐々に成長しつつある美しさが放たれていた。
これから強くなってゆくであろう女子バスケットボール部のスタープレーヤーに相応しい選手のように思えたのだ。

彼は指導に熱心であり、知識もあり生徒の事も愛していたから生徒にも人気があった。
しかし女子バスケットの指導を始めたばかりであり、
山口美津子程には須永和加葉が女子である事や体が小さい事を考慮しなかった。

彼は須永和加葉を1年の時からレギュラーにし、どの試合でも彼女を使った。
どの試合でも彼女は要求以上のパフォーマンスを発揮し、コーチである彼は狂喜乱舞した。

しかし須永和加葉はある事に気が付いていた。
中学3年の時よりも1試合1試合がきつくなっているのだ。

理由は歴然としていた。
中学3年で試合に出た時、彼女は平均より小さい身長であったが周囲の選手も中学3年生だった。
しかし高校1年で試合に出た時、彼女の相手は高校の2年生か3年生で身長で言っても10〜20Cm、
体重で言えば10Kg以上離れている選手が大半だったのだ。

それでも彼女はパフォーマンスを発揮した。
背の低さをいかして相手ディフェンダーを抜き去り、シュートを決めた。

コーチが山口美津子であったなら須永和加葉を使うのを高校2年までは我慢しただろう。
彼女の身長が伸びるのを待っただろう。
須永和加葉は中学3年生からの一年間で2cm身長が伸びたし、
少年のように細かった体もスポーツのおかげで寧ろ女性らしく成長してきていたのだから。

しかし須永和加葉は成長しきる前に試合に出続け、
そのうち他のチームからマークされるようになり、
そして、必然的に事故は起こった。
489uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:38:40 ID:3famoVno

-:-:-:-:-:-:-:-:
須永和加葉
-:-:-:-:-:-:-:-:

その日はそこそこ調子がいい日で、私はもう15得点も挙げていたし、
チームも42対30で勝っていて残り時間は後2分だった。
相手は昨年のインターハイ出場チームだったが勝利は目前だった。
コーチは満足げな顔をしており、今日の試合後の練習はもしかしたら少なめにして
早く帰らせてやってもいいかななんて顔をしていた。

私はそれを横目に見ながら、今日の帰りはチームメイトとフィッツジェリコでアイスクリームを舐めながら
オレンジジュースで乾杯でもしようかな、なんて事を考えていた。
まあ結局その望みは叶えられなかったんだけれども。

理由は残り2分を切った丁度その時、すこぶる付きに体の大きな相手チームの守備陣が2人、
私に激突してきたからだ。

何があったのかは覚えていない。
試合の途中、これで17得点目だと思って伸び上がりながらボールを掲げた瞬間、
物凄い衝撃が全身を襲い、目の前が暗転していった事だけを覚えている。

その試合を見ていた人曰く、
私は足元を掬われるように1人に激突され半回転して吹っ飛んだ挙句に
片手で着地をしようとしたところをまた違う一人に激突されて着地に失敗し、
最後には見事に頭から落ちたらしい。
車に轢かれたみたいに吹っ飛んだ。とは後でチームメイトから聞いた言葉だ。

私は小柄だから吹き飛ばされてもそんなに簡単に怪我はしない。
もしそれが私が地面に両足を着けていた時なら吹っ飛ばされても直ぐに立ち上がってまた走り出したのかもしれない。
もしくはせいぜい痛がりながら悶え苦しむくらいで済んだのかもしれない。
でも私の体はボールを持って今シュートをしようとジャンプした時に
違う角度からほぼ同時に激突されても大丈夫な様には出来ていなかった。
490uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:39:04 ID:3famoVno

結局私は意識を失った挙句に
左腕上腕部と肋骨を2本と右鎖骨と左手の小指を骨折、
ついでに右足の腱の断裂と太腿の複雑骨折にしこたま大きなタンコブと
幸い後には残らなかったけれどお母さんを泣かせた額の酷い切り傷と
ムチ打ち症を拵えて病院に担ぎ込まれる事になった。

3ヶ月入院決定の重傷だった。

半日経って、私が目を覚ました時、目の前には泣きはらした顔のお母さんと心配そうに見守るお父さんと、
今まで見たことの無いような顔で私を見ている弟の顔、それにコーチの浅野先生の顔があった。
491uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:39:53 ID:3famoVno
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その4 クリスマスにて
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私(若しくは両親かも知れない)はそこそこ人望があったようで、
沢山の人がお見舞いに来てくれたから、最初のうちは病室はいつも賑やかだった。
浅野先生はそれこそ毎日のように来てくれたし、山口先生も折を見て来てくれた。
親や、コーチの先生は大分気を使ってくれたようで
私の怪我の状況は(きっと誰が言うか散々話し合ったのだろう)山口先生が教えてくれた。
怪我の中で一番恐ろしかったのは肋骨の骨折とムチ打ち症だったが、
バスケットをやる上で致命傷となったのは右足の腱の断裂だった。
命に別状はないが、リハビリは厳しいものになるだろうし、
例えリハビリを充分にしたとしても元のようにはバスケットをする事は出来ないという事だった。

私はベッドの上で先生を見上げながら聞いた。
「もうバスケットをしちゃいけないの?」
「そんな事はないよ。でも前みたいにはプレイが出来ないだろうし、
コートに立つまではとても大変だろうと言う事。」
先生がそう言ったので私はほっとした。

山口先生の隣にいた浅野先生は随分とすまなさそうな顔で私の両親に頭を下げていたけれど
私には怪我は仕方がない事で、バスケットを完全に奪われなかった事は幸運だったように思えた。

私は体が小さいし、それほど自分が上手だとも思ってはいなかった。
ボールを持ち、練習をすることが好きだった。
だから元通りにならないという事はそれなりにショックだったけれど全てを諦める程ではなかった。
「なら大丈夫。頑張ってリハビリして、部活に戻る事にする。」
私はそう答えた。
492uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:40:53 ID:3famoVno

入院中、バスケ部のチームメイトもクラスの人達も沢山来てくれた。
だから最初のうちはそんなに辛くも寂しくも無かった。
勿論センセーショナルなクラスメイトの入院なんてのは最初の数週間が過ぎてしまえば
皆飽きてしまったようで段々皆来なくなったけれども。
それでも仲の良い友人の何人かは決まって毎週遊びに来てくれて、
それはとてもリハビリの励みになった。

でも残念ながら入院生活は楽しい事ばかりではなかった。
リハビリは痛くて苦しくてその辛さは当初の想像を絶していたし、
病院の夜は暗くて寒くて寂しかった。

私はまだ高校一年生で暗闇が怖かったし、
お母さんにおやすみと言わないまま眠りに付くのは苦手だった。
いつまでも折れた足は動かせなかったし夜中には体中が痛んだ。
鎖骨の折れた右肩には痛みだけではなくて変な痺れが残っていて
今後同じようにシュートが打てるようになるどころか、
もう肩より上に上がるようにはならないんじゃないかとも思えた。
私は夜、1人で眠りながら体が変な風にねじくれて動かなくなる夢をよく見た。
汗をかいて起きた時、そういう時には友達や家族はいてくれなかった。

もがく様なリハビリの入院期間の2ヶ月を過ぎて、友達がお見舞いに飽きた頃、
学校が冬休みになり、クリスマスが来た。
493uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:41:22 ID:3famoVno

その日は朝一番にお父さんとお母さんと弟が来てクリスマスプレゼントを置いていってくれた。
私の家では毎年クリスマスにおじいちゃんの家に親戚皆で集まる事になっている。
普段ならプレゼントは皆で丸まんま焼いたチキンを食べた後に弟や従兄弟達と一緒に貰うのだけれど今年、私は参加できないから朝のうちに貰ったのだ。
お母さんは
「参加できなくて残念だねぇ」
と言って、おじいちゃんの家にはお父さんと弟だけが行く事にして、
病院には私が一緒にいようかと言ってくれたけれど
私は貰ったNBAのビデオを見ているから大丈夫とそれを断って笑いながらいってらっしゃいと言った。
弟はまだ中学1年生で素直に育っていて従兄弟達に合うのが楽しみでしょうがないらしく、
おじいちゃんの家でなにをしたいかをしきりに私に喋っていた。

1時間ほど喋って病室から皆を送り出してから、
私はプレゼントしてもらったNBAのビデオを一人で見た。

ジョーダンは凄かったけれど一人で見ているビデオはあまり面白くなくて、
面白くないと思った瞬間、私は急に寂しくなった。
昼食にはクリスマスだからといってローストターキーが出て、
看護婦さんまでなんだか少し浮かれているようだった。

午後も私はビデオを見続けて、そのうちに私は眠ってしまった。
そして浅いまどろむ様な眠りの中で、私は変な夢を見た。
夢ではジョーダンと私が一緒に試合をやっていて
ジョーダンは本気で私にぶつかってきた。
ボールを取られると客席からは失望の声が上がって、
私は焦ってボールを取り返そうとするのだけれど走っても走ってもジョーダンには追いつけなかった。
それどころか水中を歩いているように私の体は動かなくて、
それなのにそんな中をジョーダンは軽々と動いてシュートを決めていった。
私は何度も手を伸ばすのに、下半身が付いてきてくれなくて、軽々と何人ものジョーダンに抜かれていった。
494uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:41:50 ID:3famoVno

ふと目を醒ました時、ベッド脇の椅子に準が座っていた。
窓を見るといつの間にか外は薄暗くなっていた。
準はぼんやりと私の方を見ていた。
「よお。」
私が顔を向けると準は気が付いたようで声を掛けてきた。
私が今見ていた悪夢と現実の区別がつかなくて暫く固まっていると
準は勝手に喋りだした。

「個室かよ。贅沢してるな和加葉。」
私はその言葉で今が夢ではなくて目の前に準がいる事が現実だと言う事に気が付いた。

「これだけの怪我だもん。」
そう言って吊り上げられている足と包帯でぐるぐる巻きの腕を見せると準は頷いた。

「大変そうだな。」
「毎日毎日リハビリ室。ヤになっちゃう。それよりなんで来たの?」

「なんでってお袋がいけいけって煩いから。お前の事だから最初のうちは皆来てるだろ。
そろそろ皆来なくなって暇そうにしてるんじゃないかと思ってさ。」
ビンゴだよ。

「ふうん。おばさん元気?」

「ああ、変わってないよ。しかし、病院までクリスマスかよ。」
そう言って、準は窓の外を指差した。
病院の庭にはでっかいクリスマスツリーがあって派手な飾りが付いている。
それだけじゃない。受付から入ってきた準はナースステーションのクリスマスの飾りつけも見ているだろう。

「そうだよ。病院だってクリスマスはクリスマスだもん。準、プレゼントは持ってきたの?私女の子だよ。」
そうおどけて手を出すと、準はにやりと笑った。

「お前、俺が持ってきてないと思ってるだろ。」

「えええ?あるの?」
そう言うと準はごそごそとバッグから袋を取り出した。
495uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:42:19 ID:3famoVno

「当たり前だ。ほら。」
そう言って準が取り出したのはサウザントクリームのマークが入った紙袋とペットボトルのジュースと
あとタッパーにおかずやら何やらが詰まったものだった。

「うちのお袋が怪我しただけなのに病院食は味気ないだろうってさ。
 俺はサウザントクリーム行ってケーキ買ってきた。」
そういってぱっぱっとベッドサイドからテーブルを取り出して私のベッドの上にケーキやらなにやらを並べていく。

「お前が太ってるようだったら出すのやめようかと思ったけどそんな事は無さそうだな。」
「冗談。むしろ痩せたもの。超マズいんだから病院食って。」
私はそう言ってくすくすと笑った。
それから私は廊下を通りかかった看護婦さんを呼んで、
ベッドの上を見せてから今日は夕食はいらない旨を伝えた。
看護婦さんは良く知っている人だったからベッドの上を見てあら。と目を見張らせてから
食べ過ぎちゃ駄目よ。給食係には私から言っといてあげると言って笑って許してくれた。
きっと今日がクリスマスだから特別に多めに見てくれたのだろう。

そして看護婦さんが出て行った後、私達は2人でジュースで乾杯して、
おばさんの作ってくれたおかずを摘みながらささやかなクリスマスパーティーを始めた。

もぐもぐとローストビーフを摘みながら準が枕元のテレビを付けると、
テレビではプロ野球の巨人VS広島戦が始まっていた。
ちなみに準が広島ファンで私は巨人ファンだ。
「お、勝ってる。」
準の声にテレビを見るとまだ2回表だというのに広島が5対0で大量リードしていた。
ふんだ。と言ってテレビを消す。

「どうせ逆転するよ。絶対。」
あ、なにすんだよ。と消えたテレビ睨みながら準は
「いや、今日は勝つよ。最近打線が調子良いからな。先発が持てば今日は勝ちだな。」
などと適当な事を言う。

「リリーフピッチャーが打たれますー。」
私が面白がってそう言うと
「あーあ、津田がいればなあ。」
と準は天井を仰ぐ。
496uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:43:04 ID:3famoVno

2人していい加減におかずを食い散らかしてから、
私はび。とケーキを指差した。
さっきから気になってしょうがなかったのだ。
地元の女子中高生でサウザントクリームのケーキを知らないなんて子はモグリだ。
「ケーキ。よそって。」
というと準はよしと言ってサウザントクリームの袋を開けた。

「お前チョコレートケーキ好きだっただろ。」
うん。と言うと準は自分用にはモンブラン、私用にチョコレートケーキを紙の皿において
寄越してきた。
その時、ふと私はある事を思い出した。
「準、あれ覚えてる?」
そう言うと準は天を仰いだ。
「うちのお袋のだろ。今日のは絶対あれよりマシだ。」

私達が小学生の頃、おばさんが一時期ヘルシー料理というものにはまっていた頃があった。
兎に角ヘルシー料理というのは油分を少なくするものらしいのだが、
料理好きでかつ冒険心にもあふれているおばさんはそれは様々なものを
ヘルシー料理に仕立て上げた。
そして様々な創作料理の最終段階、おばさんの興味が最高潮に達していた時に作られたものがヘルシー版の手作りケーキだった。
準の小学校3年生の時の誕生日に作成されたそれ。
おじさんとおばさんと私と準と準の妹の桜ちゃんの5人で行われた誕生会のその最後に
出されたケーキはとっても微妙な代物だった。
見た目はとても綺麗だったそのケーキだが
油分を抜き取ったと言うクリームはパサパサとしており、
その上なんだか微妙な甘味だけが口の中に残った。
美味しいケーキを期待していた桜ちゃんは泣き、私と準は顔を見合わせた後
「そこそこイケるよ。」とお世辞を言い、
おじさんは正直にこれは不味いといって夫婦喧嘩になっていた。

「あれは凄かったよね。」
「なんともいえない味だったよな。あの桜の顔がさ・・・」
私達はそう言いあって、それから2人で暫く笑った。
497uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:43:27 ID:3famoVno

ご飯も美味しかったし、ケーキもとても美味しかった。
私はおなかが一杯になってご機嫌で、
それからずっと準とぺちゃぺちゃとおしゃべりをしていた。

そしてもう喋る事も無くなる位喋った頃に

「良かった。元気でたか?和加葉」
準は急にそんな事を口にしてにっこりと笑った。

私は一瞬固まって、それから準の顔を見て、そして思わず私は俯いた。
その言葉がなんだか急に胸を突いたからだ。
不意打ちで涙する姿なんて見せたくなかった。
でもいきなりボロボロと涙が出た。
だって。
だってこんなはずじゃなかったからだ。
私は今、バスケットから見捨てられそうで、
リハビリは痛くて痛くて全然良くならなくて
友達はきっと皆、楽しそうにクリスマスを楽しんでいて、
両親も弟もおじいちゃんの家に行っていて、
皆美味しいものを食べて楽しく過ごしていて
病院の看護婦さんだってなんだか楽しそうで、
それなのに病院は白くて冷たくて寂しくて嫌な事ばかり考えさせられて
その挙句に変な夢まで見た。
私は今日はクリスマスだって云うのにさっきまでこの世界には私は1人しかいないって
私が世界で一番不幸なんだってそんな馬鹿な事を思っていた。
498uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:46:12 ID:3famoVno

泣いている事を隠したくて、私は肩を震わせながら俯いた。
今日さんざん笑って楽しい思いをして、
そして涙が出てみてから初めて私は今までどれだけ自分が不安に思っていたか、
そして悲しかったのかが判った。

「元気でた。楽しかった。」
目を擦りながら私が答えるとそうか、じゃあそろそろ帰るかなと言って準はさっと立ち上がった。
準は手早くタッパーをバックに入れて、それから、

「ゆっくり寝て治せよ。おやすみ。」
まるで風邪引きに掛ける様な言葉が耳に入ってきて、そしてドアが閉まる音がした。

私はその最中ずっと目の前に飴をのばしたようなぐにゃぐにゃが下りていて
俯いていた目の前の布団の柄も全然見えないくらいで、準を見送る事はできなかった。
なぜだか酷く泣けて、私はぐしぐしと鼻をすすった。

準はそんなに気が回る奴じゃないから今思うにきっと、
元気出せって言葉はリハビリの事を言ったんだと思う。
包帯でぐるぐる巻きで歩くのも一苦労、およそ女の子らしくない格好の私を見て
怪我をしているから元気がないんだなって思考で早く元気出せって、
そういうお見舞いの言葉を掛けただけなのかもしれない。

でもその時の私はそうは思わなかった。
私はその時、準は全部わかった上でクリスマスを届けてくれたのだと思った。
中学の途中から殆ど話さなくなったのに準は昔の幼馴染の、
男も女も無かった頃の親友だった時と同じように接してくれたのだ。
準はきっと私が元気が無くなっている事を察して、そして今日私を助けに来てくれたのだ。
499uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:46:45 ID:3famoVno

準が帰ってひとしきり目を擦った後、テレビをつけるとまだ野球の試合をやっていた。
いつのまにか広島が追い上げられていてスコアは7対6、イニングは9回の裏。
しかも場面は巨人の逆転サヨナラの大チャンスだった。
案の定、リリーフピッチャーが打ち込まれたらしい。
1アウトでランナーは2塁と3塁にいて巨人のバッターは
やたらとホームランをかっとばす今年入ってきた外人選手だった。
自信たっぷりにバッターボックスでバットを振り回していて、
マウンドではなんだか自信のなさげなリリーフピッチャーが一生懸命キャッチャーのサインに首を振っている。
なんだ、どうせなら結果を見ていけば良かったのに。
準がいたらきっと大騒ぎしながら広島のリリーフエースの悪口を言っただろうと思って
私は目を擦りながらくすくすと少し笑った。

「津田がいればなあ。」
さっきも言っていたこれは彼の口癖で、小学生の時津田が病気で死んで以来
広島がリリーフに失敗する度に随分と準の口から聞かされた。
小学校6年生の時、生きていたとしたってもう引退しているよ。
そう私が言った時、準はでもさと言いながらこう言った。
「でもきっと広島が負けそうになったら津田は出てきて抑えてくれるよ。
 だって津田は150Kmの球が投げられるんだぜ?誰も打てやしないよ。」

今なら準はなんて言うだろうと私は思った。
多分だけれど、きっと同じような事を言うに違いない。
幼い頃や辛い時に与えられた印象というのは強烈で、一生忘れないものなのかもしれない。
500uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:47:15 ID:3famoVno

もうすぐ試合は終わるだろうけれどなんだか酷く疲れていたし、
そんなに結果に興味を持てなかったから私はテレビを消した。
今日は巨人の負けでもいいやと思った。
津田は出てこないだろうけれど、たまには広島が勝ったって良い。
歯を磨いてからベッドにもぐりこんで、目を瞑って私は眠りに落ちた。

そして私はその日だけじゃなくてその後ずっと、退院するまで変な夢を見る事は無かった。


打ちのめされて、疲れはてて何もかもが心に重かった時に、
準はただそこでぼうっとして何もできなかった私の側に来てくれた。
それも多分、幼い頃と同じようなただの友情から。
だから私は次に同じような大変な事があった時、
その時にも準にそばにいて欲しいと思っている。
彼がそうなった時、私も彼のそういうものになっていたい。
勿論こんな目に遭うのも遭われるのも2度とゴメンだけれど。

私が準を好きになった理由?
その理由は単純で、根拠が無くて、そしてくだらないものだ。
準が広島が負けそうになる度に思う事と同じ事。
9回裏まで頑張って、それでも負けそうになったら津田が出てきて剛速球で相手を三振に取ってくれるのだ。

準はきっと次に私が打ちのめされそうになった時も助けに来てくれる。
来てくれなくたって私はそう思って頑張れる。

そう、何の根拠もないただそれだけの事。
それが私が準を好きになった理由だ。
501uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/03(月) 18:52:04 ID:3famoVno
-*-*-*-*-*-*-

いつも感想ありがとうございます。
2回に分けるよりはと思ったけど長・・・

次回、本シリーズ最終回。
2週間以内には。

ノシ
502名無しさん@ピンキー:2008/03/03(月) 19:22:56 ID:1SHQa2F2
津田か…流石はカープファン。
カープファンはみんなそう言ってたな、『津田がいれば…』

なにわともあれGJ
503名無しさん@ピンキー:2008/03/04(火) 03:24:54 ID:MbShaDgm
しびれる文書ありがとうございます
いや〜ウニさん流石だ〜
続き楽しみにしてます
504名無しさん@ピンキー:2008/03/04(火) 04:57:49 ID:XDJObTY1
暗黒時代の阪神ファンの愚痴「こんなときバースがおったらなあ…」の広島版か

とにかくGJ
和加葉も準も可愛いよ
505名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 11:55:51 ID:FqsuJYJ2
無駄に長い気がするのは俺だけなのか
506名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 19:01:19 ID:ISttkXJ6
>>505
うん。君だけ。
507名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 21:33:14 ID:h9FJjRN3
おれも>>505には同意するよ。十分面白いけどね。
508名無しさん@ピンキー:2008/03/06(木) 19:29:13 ID:7bT5Ip8h
>>505,507
長いとは思うが「無駄」とは思えんな。
クライマックスしかないと胸焼けするだろ。
509名無しさん@ピンキー:2008/03/07(金) 16:34:02 ID:jcxcJzVB
女とヤってお金が貰える♪
まさに男の夢の仕事!
出張ホストっておいしくない?
ttp://rootinghost.com/2ch/01_info.html
510名無しさん@ピンキー:2008/03/07(金) 22:40:25 ID:NW0JtApk
クリスマスにも野球やるのか?
511名無しさん@ピンキー:2008/03/07(金) 23:53:29 ID:BIMbcmAi
そういやそうだなw
気付かなかったけど12月に野球はおかしいなw
あれだよ…マスターズリーグ的なかんじなんだよw
気にしないでおこうぜw
512名無しさん@ピンキー:2008/03/09(日) 16:06:40 ID:t18aSV7a
保守
513ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/10(月) 13:31:21 ID:JMacCaiO
>>367-372
>>434-440 の続きが書けましたので投下します。
514不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/10(月) 13:32:08 ID:JMacCaiO
「お帰り、修太。さっさと着替えてアンタも配送を手伝って……おや?その子は誰なんだい?
……アンタ、まさか何かやったのかい!」

 何かやった?何かやったとは、なんのことだろうか?
お米屋さんの店番をしている人の良さそうなおばさん。この人がバカの母親なのだろうか?

「別になにもやってないって!コイツにはちょっと勉強を教えてもらおうと思ってさ。
オレ、これから勉強するから店の手伝いはできないぞ」
「……は?ア、アンタが勉強?…………あ、あなた〜!修太が!修太がぁぁ〜!」
「……お前が勉強すると天変地異でも起こるのか?それほどの驚きと衝撃を受けていたな」

 学校帰り、約束通りにバカの家へと来た。
さっさと長宗我部元親について教えて、ゲーム機を借りなければ。
……弟達の喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。フフフフ、私はとてもいい姉をしているな。
そのバカはお米屋さんの店番をしていたおばさんに、これから勉強をすると言って驚かせている。
わが子が勉強をするのを驚く母親とは……お前は親からも認められているバカなのか?

「まったく何だってんだよ……かわいい息子が勉強するって言ったくらいで、なんで大騒ぎするんだ?」
「それはお前がバカだからだろう」
「うるせえ!バカがどうした!あぁ、そうさ!オレはバカだ!バカで悪いか!」

 開き直ったのか、堂々と胸を張り、誇らしげな顔をするバカ。
お前はやはりバカだ。バカといわれて胸を張れるのはバカしかいないだろう。

「胸を張って言う事ではないと思うのだが?まぁいい。さっさと用件を済ませ、ゲーム機を貸すんだ」
「分かったよ!勉強場所はオレの部屋でいいか?」
「ああ、かまわない。……ところでお前の家というのはここでいいのか?
まさかとは思うが、家を間違ってたりはしないのか?」
「家を間違うって……お前、オレの事をどんだけバカだと思ってるんだ?」

 バカの家を見上げてみる。
壁には少しくすんだ看板が張り出しており、『結城米穀店』と書かれている。
先ほど、バカの勉強発言に驚いたおばさんが、
車体に『結城米穀店』と書かれた軽トラックへお米を積んでいるおじさんのところで騒いでいる。 
なるほど。あれがこの店の主人か。……ということはこのバカの父親という訳だな?

「お前の家はお米屋さんだったのか」
「そうだ、オレは未来の米屋の社長なんだぜ!」

  新鮮な驚きでバカを見る。どうだ、恐れ入ったかと言いたげな誇らしげな顔をしている。
私にそのような顔をされても困るのだが?

「そうか、ならこの店も長くは続かないな」
「それってどういう意味だよ!」
「こら!修太!お前、勉強するなんてウソをついてなにするつもりだ!
父さんはな、お前がウソをつかない素直な子に育ってる事だけが自慢だったんだ!
それをこんなに綺麗な子を騙して……お前を殺して父さんも死ぬ!」
「ちょ、オヤジ!勘違い……ぐは!」

 『ゴキン!』とバカの顎に入る見事なパンチ。
倒れこんだバカをトドメとばかりに踏みつけるおじさん。
……これはいったいなんなんだろう?
何故勉強をするというだけで、殺人事件が起こりそうになっているんだ?

「アンタ達だけを死なせやしないよ!3人仲良くあの世で暮らすのよ〜!」

 顎にパンチを受け、ピクピクと痙攣しているバカに追い打ちをかけるおばさん。
……何故一家心中に巻き込まれなければいけないのだろうか? 
515不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/10(月) 13:32:33 ID:JMacCaiO
「いやぁ〜、お恥ずかしいところを見せてしまって申し訳ない。島津さん、でしたっけ?
わざわざ勉強を教えに来てくれるなんて……どうもありがとう!」

 大きくてゴツゴツした手で私の手を掴み、ブンブンと握手をしてくるおじさん。
その手はとても大きくて、力仕事をしている男といった手をしている。

「……グスッ。人間頑張って生きてるもんだねぇ。
あの修太が……自分から物を教えてくれなんて言い出すんだからねぇ。……グスッ」

 大きな目いっぱいに涙を溜めて、ひたすら頭を下げるおばさん。
こ、こうまで感謝されると少し悪い気がする。
勉強といえば勉強なのだろうが、学校の授業とは何の関係もない、戦国時代の武将の話をしに来ただけだ。
それもゲーム機目当てで教えるだけなのに……なんだか申し訳ないな。

「このバカ息子が勉強するなんて……まるで夢みたいだ」
「あんたぁ、今までコツコツと真面目に働いててよかったね。きっと神様がくれたご褒美なんだよ」
「あぁ、本当だな。……人間、一生懸命額に汗掻いて働くもんだな。
こんなにも嬉しい事があるなんて……生きててよかった」
「その、大変言いづらいのですが……当の結城君が気絶をしていて、勉強を教えるも何も出来ないのだが?」

 感動に浸っているおじさんとおばさんの隣で寝かされたまま、ピクリともしないバカ。
おじさん達、もしかしたら本気で殺すつもりだったのではないか?

「……このバカ息子が!肝心な時にいつもこれだ!」
「ホントにねぇ、いっつもこんなで困ってるんですよ。学校でもこうなんでしょ?ねぇ島津さん?」
「いや、それはまぁ、なんと言うか……」

 こういう時はどう答えればいいのだ?
まさか『貴方達の息子は学校でもこうです』とでも言えとでもいうのか?
さすがに実の親に対してそんな事は言えない、言えるわけがない。いったいどうすればいいのだろう?

「おっと、こうしてる場合じゃなかった。母さん、ちょっと配達に行ってくるから店を頼むな」
「あなた、事故だけはしないように気をつけてね」
「おう!安全運転でいくから心配すんな!じゃあ島津さん、バカ息子ですがよろしくお願いします」

 おじさんは私にそう言い残し、頭を下げて出て行った。
先ほどの軽トラックでお米の配達に行くのだろう。
……お米屋さんのお米というのは、やはりスーパーで買うよりも高いのだろうか?
美味しさは変わらないのだろうか?気になるな、いったいどうなんだろう?
 
「じゃあ島津さん、おばさんは店番するからゆっくりとしててね」
「いや、ゆっくりも何も……私も店番を手伝います。このままでいても何もすることがなさそうですので」
「あら、そう?悪いわねぇ。じゃあ今日はバイトってことでお願いしようかしらねぇ。
少ないけど、お給料も出させてもらうわね」

 お、お給料?まさかお金をもらえるのか?ということは、夕飯のおかずを一品増やせるのではないか?

「よ、よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくね?島津さん」

 よし!今夜の御飯は鳥のから揚げを追加だ!
弟達の大好物だからな、喜ぶ顔が目に浮かぶ。……本当に私はいい姉だな。
516不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/10(月) 13:32:57 ID:JMacCaiO
「ねぇ島津さん。昨日結城の家に行ったんでしょ?ヘンな事されなかった?」
「ねぇねぇ島津っち。昨日は大丈夫だった?イタズラされたりしなかった?」

 朝、登校すると、クラスメートに囲まれた。
最近は毎日囲まれているような気がする……何故私を囲むのだろうか?もしかして皆、ヒマなのか?

「ヘンな事とはいったい何のことだろうか?昨日はアクシデントがあり、バカは気絶したままだったんだ。
だからバカの家でアルバイトというものを初めてすることになった。
働いて得たお金は、有難みが違うのだな。夕御飯のおかずを増やすつもりだったのだが、使うことが出来なかった」
「イタズラ?先ほども言ったように、バカはアクシデントで気絶したままだった。
だからアイツは何もしてないし、おかげで私は何も教えることが出来なかった。
しかしアルバイトでお金ももらえたし、おじさんが目的の物を譲ってくれたしで結果としては大満足だったな」

 そう、バカから借りる予定だったゲーム機をおじさんが譲ってくれた。
お金の出入りの計算をしただけなのに、すごく感謝された。
おまけに『お米はウチの店で買いなさい。島津さんには儲け度外視で売ってあげるよ』とまで言ってくれた。
……なんていい人なんだ。

「島津っち、目的の物って?なに貰ったの?もしかしてブランド物のバッグとか?
わわ!いいなぁ島津っち。アタシもバッグがほし〜い!」
「アクシデントって……島津っち。女の子がキックとかするのってあまりよくないんだよ?」

 何かを勘違いしているクラスメート達。
ブランド物のバッグなど、欲しいと思ったことは一度もない。
持っていたとしても値段が高すぎて緊張して使えないのではないか?
……何故私が蹴り飛ばしたと思われているのだろう? 

「ブランド物のバッグは欲しいとは思わない。
そんなお金があるのなら、パパやママに弟達、家族みんなで美味しいものを食べたいものだ」
「わ、私が気絶させたのではない!おじさんが気絶させたんだ!
……何故そうしたのだろう?原因はよく分からないな」

 そういえばおじさんは何故殺そうとしたのだろう?
各家庭には色々な事情があるものだ。昨日の一件もその家庭の事情の為なのだろうか?
自分の子供を殺そうとするとは、よほどの事情なのだろうな。
517不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/10(月) 13:33:27 ID:JMacCaiO
「島津っちっていい子だねぇ。いいお母さんになりそうだねぇ」
「ホントだねぇ。アタシが男だったら結婚したい女子NO,1だね!」
「そそ、料理は出来るし、頭もいいし。性格も素直でいい子だし……美味しそうないい身体をしてるしね」

 身体が美味しそう?どういう意味なんだ?
ま、まさか……今朝作ったお弁当のおかずの匂いが染み付いているのか?
制服を着たまま調理したからついてしまったのか?
クラスメートからの指摘が気になって、クンクンと制服の匂いを嗅いでみる。
……微かにから揚げのいい匂いがする気がする。
しかしこんなに微かな匂いに気づくとは……やはりみんなもから揚げが大好きなんだな。

「……ぷっ!あはははは!やっぱり島津っちってサイコーだよ!」
「そうかそうか、島津さんからは美味しい匂いがするんだ?アタシ達にも嗅がせてよ!」

 そう言って抱きついてきたクラスメート達。
髪の匂いを嗅いだり、腕の匂いをかいだり好き勝手にされている。
好き勝手にされているのだが……そんなに嫌な気はしない。何故だ?

「島津はいるかぁ〜!オレのゲーム返せ〜!……ってお前ら何してるんだ?」
「あ、結城おはよ〜。島津さんからは美味しい匂いが出てるという仮説が発表されたんで、調べてるの」
「へぇ〜、そうなのか?どうせカレーの匂いじゃないのか?どれ、オレにも嗅がせてくれよ」

 騒がしく教室に入ってきたバカは、クラスメートの言葉を真に受けて、私の髪を持ち、匂いを嗅ごうとしている。
その瞬間、胸がドキリとした。な、なんだ?この感覚はなんなのだ?
……に、匂いを嗅ぐだと?キサマ、勝手に触るな!何をする〜!

 ヒュン!グチャ!……ドサッ。

「あ、あのさぁ島津っち。さっきも言ったけど、女の子がキックを使うのってとってもまずいと思うよ?」
「そ、そうだね。同級生が泡を吹いて倒れるくらいのキックを蹴れるのはすごいけど、ダメだと思うよ?」
「それよりさ、今日の下着はピンクなんだね。カワイイ色もなかなか似合ってるね」

 ……しまった!また下着を見られてしまった!
キックはやめてパンチにしようと決めていたのに……反省しなければいけないな。

「そ、その……下着の事はあまり口外しないでほしい。その……とても恥ずかしいんだ」
「……カワイイ!照れて真っ赤な顔してる島津っち、カワイイ!」
「島津っち、ちょっと食べてもいい?もう食べちゃいたい!」

 うわ!何故噛み付くんだ?ちょっとみんな、噛まないで!私は食べても美味しくない!
518不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/10(月) 13:34:03 ID:JMacCaiO
「で、なんでお前がまた家に来るんだ?」
「昨日は勉強を教える事ができなかった。それなのにゲーム機を貰ったら約束を違える事になってしまう。
だから今日教えに来たんだ。……それにそろそろ米びつの中も少なくなってきた。
なのでお米も買わなくてはいけないのでな」

 授業も終わり、学校からの帰り道。
バカの隣を歩きながら会話する。……バカに勉強を教えるのはどうでもいい。
目的はお米だ。お米を安く売ってくれるという、おじさんの言葉に甘えさせてもらおう。

「ゲーム機を貰った?……思い出した!お前、勝手にオレのゲームを持って帰っただろ!」
「おじさんとおばさんが私にくれると言った。何台も持っているから一台くらいは大丈夫、と。
強く勧めてくれたから貰ってしまったのだが……もしかして、ダメなのか?」

 だとしたら残念だ。せっかく四国統一したのにな。
弟達が自分達にも貸してほしいとうるさいから、早く全国統一したかったのだが……
そうか、返さなければいけないのか。

「そ、そうか、返さなければいけないのか。……すまなかったな、持ち出したりして」

 こんな事になるのなら、私が遊ばずに弟達にさせてあげればよかった。
……何がいい姉だ。自分が楽しむ為に弟達を後回しにしておいて……何がいい姉だ!

「お、おい、そんな落ち込むなよ。お前が落ち込んだら調子が狂うんだよ」

 そういえば以前、新聞チラシでゲーム機の値段を見たことがある。
確か、数万円の値段がする物もある、高額な品物だった。
おじさんがゲーム機をあげると言ってくれて、簡単に喜んでしまった私が悪いんだ。
バカも……結城もゲーム機を買うために努力してお金を貯めたんだろう。
そんな事も考えずにタダでもらえると喜んでしまうとは……私はバカだ。
結城をバカなどと言えないくらいにバカだ。どうしようもないバカなんだ。
……謝ろう。家に帰ったら弟達に頭を下げよう。頭を下げて許してもらおう。
2人とも、嬉しそうな顔をしていたのに……ダメな姉で悪かった、バカな姉で悪かった。
ぬか喜びなどをさせてしまって……バカな姉を、ダメな姉を許してほしい。

「……だぁぁ〜!分かったよ!やるよ!やればいいんだろ?だからそんな落ち込むなっての!」
「……い、いいのか?あのゲーム機は高いのだろう?そんな物を貰ってもいいのか?」
「いいよ、くれてやるよ。お前が落ち込んでたら、なんでか知らないけどオレまで嫌な気分になるんだよ」
「……い、いいのか?だってゲーム機というものは、高いのだろう?」
「いいよ。オレ、家の手伝いでそれなりにお金貰ってるし、他にも持ってるしな」
「お、お前……いいヤツだったんだな!ありがとう、弟達も喜ぶ。
今まではバカだとしか思っていなかったが、考えを改めることにするよ」
「バ、バカだとしか思っていなかったって……お前、酷いヤツだな」

 弟達に遊ばせてやる為にも早く全国統一をしなければ。
となればこのバカに……いや、結城に早く勉強させて、家に帰らなければいけない。

「よし、結城!早く勉強するぞ!長宗我部元親について知りたいのだったな?
長宗我部元親について私が知っている知識を全てお前に叩き込む。それでいいな?」
「え?いや、叩き込むとかじゃなくて、どんなことをしたのか教えてほしいだけなんだけどな」
「善は急げ、だ。早く結城の家に行き、素早く勉強を終えるぞ!」

 私は結城の手を取り、結城米穀店へと走り出す。
その瞬間、心臓がドキリとする。
まただ……確か今日学校でもあった。これはいったいなんだ?

「お、おい、手を掴むなって!走るなって!」
「ウルサイ!私は忙しいんだ!早く全国統一をして、ゲームを終えねばならないのだ!」

 ……何だ?結城の手を持ったら、何故か鼓動が早くなった。これはいったい何なんだ?  
519不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/10(月) 13:34:27 ID:JMacCaiO
「ね、ねぇ島津っち、いったいどうしたの?
朝から机に突っ伏して、どうしたの?なんかヘンだよ?」
「昨日も結城の家に行ったんだよね?もしかして結城のバカにヘンな事されたの?」

 ……眠い。物凄く眠い。この眠さだと、また授業中に寝てしまいそうだ。
これも全ては……織田信長のせいだ。何故鉄砲隊というものはあそこまで強いのだ?
三段打ちなどというのは反則ではないのか?

「おはよ〜っす。島津はいるか〜?お袋がまたバイトをお願いしたいって言ってるんだけど」
「ああ〜!結城!アンタ島津っちに何したのよ!」
「へ?何したって……何が?」
「島津っちの様子がヘンなのよ!アンタがヘンなイタズラしたんでしょうが!警察に突き出してやるわ!」
「オレ知らねぇよ!」

 門を壊している間に打たれて部隊は全滅。
再度兵を集めて攻め込んでも同じことの繰り返し。……どうすればいいのだ?
やはり四国しか統一できないのか?長宗我部では全国統一は無理なのか?

「言い訳はいいからさっさと来な!先生にチカンしたって突き出してやる!」
「だ、だから知らねぇって!オレ、関係ねぇって!」
「ウルサイ!じゃあなんで島津っちがあんなになってるのよ!
ほら!見てごらんよ!机に突っ伏したまま動かないのよ?島津っちの綺麗な顔に消しゴムがめり込んでるのよ?
それでも動かないなんて、よっぽど酷い事があったのよ!
アンタがしたんでしょうが!」
「だからオレ知らねぇって!人違いだって!」

 いったいどうすればこの窮地を脱出できるのだ?
人材も織田方が有利。物資でも負けている。どうすれば勝てるのだ?
結城は昨日、何度も全国統一を果たしたと言っていた。
結城に出来て私に出来ないとは……やはり私はバカなのか? 
……結城?そうだ!結城にアドバイスをもらえばいいんだ!

「おい!島津!お前からもこいつ等に言ってやれ!オレはヘンな事してないって!」

 この声は結城?なんだ、私のクラスに来ていたのか、ちょうどよかった。
我が長宗我部家の困難な状況の、打開策を教えてもらうとしよう。
520不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/10(月) 13:35:05 ID:JMacCaiO
「結城、織田を攻め落とすのにはどうすればいいのだ?いつも鉄砲隊にやられてしまうんだ。
このままでは全国統一など無理だ。いったいどうすれば織田を攻め滅ぼす事が出来るのだ?
織田を攻め滅ぼす事ができず、昨日は一睡も出来なかった。このままでは今日も眠れそうにない。
どう攻めればいいのかを教えてほしい。結城、教えてくれないか?」

 ママに知られない様にゲームをするというのは難しい。
今日も寝ていないことをすぐに指摘されてしまった。……このままでは取り上げられてしまう!
早く統一をして、次は伊達で統一を目指さねば!

「……えっとぉ、島津っち?もしかして様子がヘンだったのは……一晩中ゲームして、寝てなかったから?」
「……島津っち、顔に消しゴムめり込んだままだよ?とりあえずねぇ……ほっぺたつねっていいかな?」
「アタシもつねりた〜い!結城、アンタもつねれば?」

 な、なんだ?何故みんな私の頬を抓りたがるんだ?……いひゃい。

「あはははは……アタシ達ね、島津っちの様子がヘンだったから、本気で心配してたんだよねぇ〜」
「そうそう、結城が何かしたんじゃないかと疑っちゃったしね。結城、ゴメンね?」

 ええ?わ、私を心配してくれていたのか?……みんな、ありがとう。
だが、頬を抓るのはもう止めてくれないか?本気で痛いんだ。

「いひゃいいひゃい。ひょうひゃめへひょひぃいんひゃは」
「あははははは!島津っちカワイイ〜!ずっとつねってたいね」
「島津っちのほっぺ、柔らかくていい触り心地だねぇ」
「ひょうひゃめへくへひゃいか?」

 クラスメートに頬を抓られている私を見て、結城が口を開く。
結城、もしや助け舟を出してくれるのか?お前、やっぱりいい奴だな。

「お前らもそろそろ気がついただろうけど、オレが言うぞ?なぁ島津、お前……実はバカだろ?」

 …………誰がバカだぁ〜!
 
 ヒュン!ドゴ!……ドサッ。

「き、今日は白に戻ったんだね。やはり島津っちには白色が似合ってるねぇ」
「アタシさ、一日に一度、島津っちのキックを見ないと落ち着かなくなっちゃったんだよねぇ」
「でもさ、ただの寝不足でよかったよ。……結城はご愁傷様だけどね」
「はぁはぁはぁはぁ……ゆ、結城?すまない!ついクセでやってしまった!」

 足元でピクピクと痙攣している結城。これは……死んだかな?


 生還した結城から、おばさんがまたお店の手伝いをしてほしいと言ってきていると聞いた。
なんでも伝票整理や会計を頼みたいんだそうだ。
週に2日ほどでいいと言ってくれているし……お金ももらえてお米も安く買える。
ふむ、断わる理由はないな。
結城米穀店で買ったお米は新米で美味しく、家族みんなも大満足した美味しいお米だった。
断わる理由もなく、私は結城米穀店でアルバイトをすることになった。
そして、この結城米穀店は……私の人生にとってかけがいのない居場所になっていった。
521ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/10(月) 13:35:30 ID:JMacCaiO
今回は以上です。
522名無しさん@ピンキー:2008/03/10(月) 20:08:38 ID:+cXigRgh
>>521
イイヨイイヨー!
523名無しさん@ピンキー:2008/03/10(月) 21:11:23 ID:OsMH3sar
どの信長の野望かしらないが
烈風伝の中では鉄砲三段撃ちは凶器だな
524名無しさん@ピンキー:2008/03/11(火) 06:35:34 ID:dmrHwTF6
続き期待してます!
しかし前回のラストにいっていた辛い出来事とはなんなのかきになりますね
525名無しさん@ピンキー:2008/03/12(水) 06:42:21 ID:qDv9J3Jz
俺も食べてみたい・・・・・・
526uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/13(木) 10:23:40 ID:C97KIi0o

[おやすみ] *6

-*-*-*-*-*-*-

2月も真ん中になると少し暖かくなって来て、もう手袋は要らない位に感じられる。
コートも先週辺りからハーフコートに変更している。
それでもまだ風は冷たくて、春が来るのはまだまだ大分先の事のように思える。

「ねえ、今週の週末どこいく?」

和加葉の声に振り向く。
「どこでもいいよ。」

そう答えると、和加葉は斜に構えて睨みつけてくる
「うわあ・・・初デートなのにおざなりだよ・・最低だ・・」

和加葉に睨まれながら何故だ。と首を捻る。
どうしてこうなっている?

右手には今、紙袋がぶら下がっている。
そしてそこには3つ、チョコレートが入っている。
それぞれ、大きい順から須永和加葉、岸涼子、簔郷京子からの贈り物である。
今までの長い学校生活の中で和加葉以外からはチロルチョコ一つ貰えなかった俺の、今日の戦果である。
今は学校帰りで、そして隣では和加葉がにこにこと笑っている。
2週間ほど前にも同じような事があった気がする。
その時こいつは笑ってはいなかった。

何が起こったのか、何が起こっているのか、自分でも良く判ってはいない。


527uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/13(木) 10:24:31 ID:C97KIi0o

@@

岸涼子にチョコレートを貰えると思っていた俺は2月14日の今日、
いつもより少しだけ身嗜みに気をつけて学校へ行った。
何日か経つうちにいくらか気持ちは冷めていた。
岸涼子が俺にチョコレートをくれる筈が無い。
良く考えてみればあたりまえだ。殆ど喋った事など無いのだから。
今日もきっと予定調和な一日となる。
母さんと、ばあちゃんと親戚のおばちゃんからで3つと、従兄弟の女の子から2つと、それから和加葉から一つ。
ああ、和加葉は怒らせてしまったから今年はきっと5つだろう。

それでも寝癖でぴんぴんと尖る髪をなんとか寝かしつけ、
親父のズボンプレッサーでプレスしたズボンを穿き、ネクタイを真っ直ぐ結んだ。
俺なりの決意表明だった。

岸涼子からチョコレート?俺が?貰える訳がない。なんかの勘違いだろう。
当たり前の話だ。
でもここ数日考えていた。
貰える訳が無いと、自分で決め付けていなかったか。
誰に対しても引け目を持って、自分なんかと思って幼馴染の和加葉にすら引け目を持っている。
俺は昔からそんなに自身の無い奴だっただろうか。

いや、そうじゃなかった。昔はクラスの中でも人を笑わせる方だった。
和加葉をからかったり、先生に悪戯をするのはいつも俺だったというくらいに元気の良い子供だったと思う。

今回、岸涼子に声を掛けられて、そしてクラスメイトに注目されて、その頃を思い出したような気がする。

地味だなあという周囲の評価に、そうだね。としか俺は答えていなかったんじゃないだろうか。
和加葉に学校で声を掛けられる度に誰かに見られているような、笑われているような気分になって
嫌な気持ちになっていたのは何故か。
相応しいとまではいかなくても笑われない程度にはこれから自分を磨かなくてはいけないのかもしれない。
少なくとも誰かに何かをされる事に負い目を感じたりしない位には。

まあそんな事を考えながらもそれでも学校に着くなり、
俺は休み時間毎に胸を高鳴らせながら放課後を待った。
本命へのチョコレートのプレゼントは放課後と相場が決まっている。

もてない男のサガなのだろうけれど男なのだからしようが無い。
だって貰えたら嬉しいのだから。
528uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/13(木) 10:25:07 ID:C97KIi0o

----そして放課後。

放課後になったその瞬間だった。
「山下君、チョコレートだ。受け取って欲しい。山下君の意見は大変参考になった。
さすが山下君だ。和加葉ちゃんにもてているだけある。」
はいこれ。と後ろの席の岸涼子さんから大きな包みをでん。と渡された。

「は?」
思わぬ行動に思わず声が出る。くれるの?マジで?
まあ、無理か。と苦笑いしながら帰る気満々だったので帰って面食らう。
どうすればいいんだ。と顔が赤くなった瞬間、岸涼子が口を開いた。

「義理チョコだが山下君の好きなホワイトチョコレートが入っている。
 相談に乗ってくれたお礼だ。本命のは和加葉に貰え。」

「は?」
義理チョコだが義理チョコだが義理チョコだが・・・
ああ、やっぱりという諦めの気持ちと
貰った瞬間のもしかしてと思っていた気持ちがぐちゃぐちゃと溶けてゆく。

クラスメイト達は何事かとざわざわとざわめきながらこちらを見ている。
何やってるんだ?岸さん?今何か言っていなかったか?和加葉ちゃん?

ざわざわとクラスメイトがざわめく中、慌てて顔を取り繕う。

「あ、ありがとう。」
そう言った瞬間、岸涼子はずいとどぎまぎとする程顔を近づけてきた。
クラスメイトが俺と岸涼子がキスでもしたんじゃないかと疑うくらいに顔が近い。

「この前、和加葉ちゃんから聞いたぞ。君も相当な野暮天のようだな。
 まあいい、私は私の戦いをしにいかなきゃいけない。」
アドバイスは大変助かった。君も頑張れ。幸運を祈る。
と、岸涼子さんはなんだか戦争映画の戦友同士のセリフのような訳の判らない事を言うと、
ぎゅっと俺の手を握ってからくるりと背を向けた。
そのまますたすたと教室を出て行く。
529uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/13(木) 10:25:59 ID:C97KIi0o

岸涼子が教室を出て行ったことで一気に教室の空気が弛緩する。
男子連中が興味深げに近づき、しかし少しビビッた用な感じで俺に声を掛けようとした
その瞬間、今度は教室の隅から簔郷京子がすたすたと歩いてきた。
サッカー部のキャプテンを彼氏に持つ、こちらもクラスじゃ雲の上の美人の一人である。
「涼子、最近楽しそうにしてたよ。涼子の相談に乗ってくれてありがとうね。
これ御礼。あ、勿論義理ね。」
そう言って俺の机にぽんとチョコレートを置く。

その瞬間、男子連中がばっと後ろに後ずさった。
どよめきが起こる。
簔郷京子はそれに構わず「じゃね。」と俺に言うなり、すたすたと足早に教室を出て行った。
きっとこれからサッカー部の彼氏とデートなのだろう。
教室前で「あ、待ってたんだ。」という簔郷京子の声がした。

簔郷京子が出て行ったのを確認した後、再度教室の空気が弛緩する。
暫くして男子連中が恐る恐る俺の机に近づき、
かなりビビッた感じで俺に声を掛けようとしたその瞬間、
和加葉が黒板の方から歩いてきた。

530uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/13(木) 10:26:24 ID:C97KIi0o

「準。これ、チョコレート。」
怒った様に取り出して俺に差し出す。
おおおおおお。どよめく教室。ずざざと後ろに下がる男子連中。
「お、おい。急にな、なんなんだなんなんだよ。」

「受け取りなさい、受け取りなさいよ。」
ぐいぐいと押し付けてくる。

「お、おい。」

「受け取りなさいよ!」
そう言ってバンと机に置く。

「涼子ちゃんにチョコレート貰って、ヘラヘラしてる癖に!私の時に全然喜んでくれないし!
 君なんて大っ嫌いだバカぁ!」

そう叫んでだだだと教室から飛び出す。
男子連中の一人が、恐る恐る廊下を除き、
さらに教室を見渡し、俺の机に近づきそうな女子が教室内にいない事を確認してから近寄ってきた。

531uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/13(木) 10:26:48 ID:C97KIi0o

「お前、すげえな。」
ちなみにこいつともそんなに話したことは無い。

「いや、俺にも何がなんだか・・・」
そういった瞬間、男子連中が爆笑した。

「お前馬鹿、何がなんだかじゃねえよ!いくらなんでも追いかけていけよ。
追いかけてくシチュエーションだろうがこれ。ぼやっとすんな!
モテモテじゃねえか馬鹿野郎!」
そういってバンバンと背中を叩く。

そのうちの一人が自分の席にあった紙袋を持ってきてその中に俺の机の上の3つのチョコレートを詰める。
「ほら、持ってけ、追いかけていけ。」
そう言ってそいつもバンと俺の背中を叩く。

「いや・・・」

「今度話聞かせろ馬鹿野郎お前、なんだあれ。ふざけんな。」

「お前、もう大学決まってたよな。金曜日カラオケ行くぞカラオケ。そこで話聞かせろよ!」
バンバンと背中を叩かれ、教室から追い出される。

いつの間にか俺も笑っていた。
男子連中に手を振り、前方を凄い勢いで歩いていく和加葉を追いかけていく。

532uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/13(木) 10:27:18 ID:C97KIi0o

追いついた瞬間、何なんだよお前と声をかけようとして、思い留まった。
べそべそと和加葉が泣いていたからだ。
和加葉は泣きながら凄い勢いで歩いていく。

おい待てよ。と肩を掴むと和加葉はようやく立ち止まった。

「どうしたんだよ。お前。なんか変だぞ。クラスの奴ら笑ってたぞ。」

「だって、だって私はずっと好きなのに準は全然相手してくれないんだもん。」
和加葉はしゃくりあげながら呟いている。

しばし空気が止まる。そ、そうなのか?というかなんだそれ。

「な、なんだよ急に。お前、別に俺の事なんか」

「ずっとずっと好きだったもの。高校1年から3年間も好きだったのに急に涼子ちゃんにデレデレなんてするなあ!」
えぐえぐとしゃくりあげる。なんだ?なんだこれ?
なんか悪いのか俺。泣いたもん勝ちかこれ。
と思いながら昔を思い出した。
小学校の頃、一緒にしょっちゅう遊んでいた頃。
そういえば昔からこいつはいっつも大人っぽい事を言う割りに良く泣いていたな。

「な、何馬鹿な事言ってるんだよ。幼馴染だろ俺ら。」
そういうと和加葉はぎゅっと立ち止まってこちらに向き直ると、
びしばしと猫パンチのように引っぱたいてきた

「痛、いてえよ。だ、大体俺なんかのどこがいいんだよ。
お前、クラスでの俺の扱い知ってるだろうが。」
そういうと和加葉は手を止めて、しばし黙り込んだ。
両腕を下げて俯く。

533uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/13(木) 10:27:48 ID:C97KIi0o

「う・・・だって準だったら浮気とかしそうにないし。」
下を向いたまま、そう呟く。

はあ、と溜息を吐く。
「あのな、お前、浮気しそうにないからって理由でかっこ悪いやつと付き合ってどうするんだよ。
お前なら他にいるだろう。俺よりもてそうなのが。
俺の親父を見れば判るだろうが将来太るぞ絶対に俺。」

「かっこ悪いなんていってないじゃん。」

「俺がかっこいいわけねえだろ!馬鹿なこと言うな!俺とお前じゃ釣りあわねえんだよ!」

「ふざけてなんかないもん。カッコいいし、優しいし、私が大変だった時、ずっと一緒にいてくれたもん。
これからも一緒にいてくれなきゃいやあ。」
そういってびえびえと泣き出す。

「ば、馬鹿か。泣くな。泣くなって。ど、どうすればいいんだよ。」

「私と付き合って。」

「いやお前」

「私と付き合うのっ!」
びしばしと叩かれる。

付き合うとか付き合わないとか。
こういうのって男が言うんじゃないんだろうか。
俺が押し切られるものなのか?
そう言うと和加葉はバレンタインデーだから良いの。と言った。

そして俺は、なんとなく釈然としない顔で「うん。」と頷いたのだった。

534uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/13(木) 10:28:34 ID:C97KIi0o

思い出してふう、と息を吐く。
本当に今日は、とんでもない日だった。
でも、まああれだ。と思い直す。
そう悪くなかった。
俺が、3つもチョコレート貰った挙句に、和加葉と付き合う事に?
俺が和加葉を追いかけていくとき、男子連中がそんなに不思議そうな顔をしていなかった事を思い出す。
はは、と笑う。
もしかしたらお似合いとか思われてたりして。
そう思いながら隣の和加葉の手を握ると、和加葉もぎゅっと握り返してきた。
さっき泣いたのがなんとやら。にこにことしているこいつは正味間違いなく可愛い。
顔立ちも好みだし、背が低い所も好きだし、性格も合う。

お似合い、ねえ。
まあ、それは無いか。
うん、でも、たとえ俺が地味な奴なのだとしても。
一生に一度位は死ぬほど目立ったっていいのかもしれない。
こういう瞬間が、俺にあってもいいのかもしれない。
俺なんかがいいのかな、俺なんかでいいのかな。じゃなくて
どうよ。俺だって捨てたもんじゃないんだぜ。って。

にこにこと笑っている隣の和加葉を見て、
いちいちこんな事を考える俺は贅沢なんだろうと思った。

桜はまだだけれど、もうすぐ春が来る。
4月になれば和加葉も俺も東京の大学に行く。
その前に、クラスの奴らとカラオケにも行けそうだ。

上を見上げる。空は綺麗に晴れ上がっている。
初めて、春が来るのが待ち遠しい気がする。
横を向くと、和加葉が笑った。
俺は和加葉に、週末は映画でも見に行こうか、とそう声を掛けた。

535uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/13(木) 10:29:39 ID:C97KIi0o

-------------------------------
そして今
-------------------------------


「プレゼントとは何か。相手の事を考えるという行為が楽しく、自分の事を想われるという行為こそが嬉しいものなのだ。と私は考える。」

びしり、と箸をこちらに向けてからそう言って、
涼子さんは返す箸でぱくりとコロッケを咥えた。

「無論、忙しければそういう事をする暇はなくなる。それは良い。良くは無いけれども良い。
でも。今、私達は学生だからそれほどでもないけれどきっと大人になればもっと忙しくなって、
色々な考え方がシステマティックになっていくのだろうと、そう私は思う。
それが悪いとは言わない。大人になるということは世界が見えるようになる事だし、
大きな観点でものを見れば、小さなものが犠牲になるのは仕方の無い事だともいえる。
でもだ。」

「はい。」
と言って箸を置く。

「例えば子供を抱っこしてあげる、という愛情表現一つがその子供の将来を変えるかもしれないように、
手を繋ぐ、思いがけないプレゼントをするなんて事が、恋愛そのものを左右することも・・・」

「はい。」
お説御尤も。手を抜いておりました。

「ないとは言えない。」
明日、駅前のデパートにでも行って来よう。あと、夕食のレストランの予約も。

神妙な顔をしていると、涼子さんはふっと顔を上げて。
「まあ、私はもう匠君にお嫁さんにもらって貰わなくてはいけなくなってしまったのだから
 多少のことでがっかりしたりはしない。」
でも折角のホワイトデーのプレゼントなら私が欲しいものではなく、
匠君が考えてくれたものを貰う方が良いと思うのも確かだ。

とそう言って目を細めて、笑った。



536uni ◆/pDb2FqpBw :2008/03/13(木) 10:44:17 ID:C97KIi0o
-*-*-*-*-*-*-

感想ありがとうございます。


以下言い訳
本当は、8月怪我で9〜10月病院のシーンだったので野球やってた筈でした。でしたー。
クリスマスケーキを食べさせてやろうかと急遽願ったのが。
以上言い訳

ではまたそのうちにお邪魔します。
次回はパイパンの少女がアデランスに!編で。(=゚ω゚)


ノシ
537名無しさん@ピンキー:2008/03/13(木) 12:17:14 ID:tqKPjNGc
うおお。
たまたまよってみたら投下があったとはッ
GJ!
おつかれさまでした。
楽しく読ませてもらいましたー
次回も楽しみに待ってます。
538名無しさん@ピンキー:2008/03/13(木) 17:28:59 ID:LgoXxHnB
GJ!
えぐえぐ泣きが可愛く、周囲の男達のいいやつら振りがとても爽やか。

>私はもう匠君にお嫁さんにもらって貰わなくてはいけなくなってしまった
なんと憎たr…もとい羨ましい。
539名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 09:52:44 ID:/nCyRQMc
GJ
続編期待いたします
540ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/16(日) 10:49:53 ID:97ybNj6V
>>367-372
>>434-440 
>>514-520 の続きが書けましたので投下します。
541不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/16(日) 10:50:27 ID:97ybNj6V
 最近、どうも身体の調子がおかしい。
熱があるとか、お腹が痛い、身体がだるいといった症状ではなく、その、どのように言えばいいのか……

「おう、島津。お袋が今日も来てくれるかって聞いてたぞ」
「あ、ああ、今日も大丈夫だ。また伝票の整理や売り上げの計算をすればいいのだな?」

 原因不明の症状の事を考えながら昼食を取っていると、結城が尋ねて来た。
……まただ。また鼓動が早くなってしまう。
これはいったいなんなのだ?私は何か得体の知れない病気にでもかかってしまったのか?
結城からゲーム機をもらい、早1ヶ月。
この1ヵ月間の間、結城にはゲームの攻略法を聞いたり、結城米穀店でのアルバイトで色々と助けてもらっている。
以前はただのバカという認識しか持っていなかったが、今はその認識も改めた。
結城はなかなか親切で、いいヤツだ。
ゲームのソフトをいらないからとタダで譲ってくれたり、
結城米穀店でのバイト中、接客に慣れていない私を気遣ってくれたりもする。
結城はなかなか優しくて、いいヤツなんだ。
そう、結城がいいヤツだと気がついた辺りから、おかしくなった。
その辺りから、何故か結城と話すと鼓動が早くなってしまうようになったんだ。

「おう、よろしく頼むな。じゃ、また放課後にな。そうだ、今日もいろんな事教えてくれよな」
「あ、ああ、たまには学校の勉強を教えてあげよう。その方がおばさん達も喜ぶ」
「ええ〜!勉強なんか授業だけで十分だぞ。家でまですることはないだろ?」
「その授業で出来ていないから教えてあげようというのだ。このままでは一緒に3年生にはなれないぞ?
そうなるとおじさんが物凄く怒るだろうな」
「……マジか?オヤジに怒られるのは勘弁してほしいな。オヤジ、怒るとすぐ手を出すからな。
オレはまだ、死にたくないっての。オレには叶えたい夢がわんさかあるからな!」

 そう、何故か結城と話している時に症状が出てくるんだ。
鼓動が早くなり、胸が苦しいというか……これはいったいなんなのだろう?

「そ、そうか。なら勉強も頑張るのだな。わ、私が協力をしてあげよう」
「おお、よろしく頼むよ。じゃあ食い物とジュースでも用意してるからな。じゃあまた放課後にな」

 そう言って結城は教室を出て行った。その後姿を見送り、ふぅ〜っと息を吐く。
ふぅぅぅ〜、緊張したな。……緊張した?
何故だ?何故緊張をしていた?何故結城が出て行ったくらいで緊張が解ける?
そういえば心臓の鼓動も元通りに戻ったし……いったい何なのだ?

「エヘヘヘヘ……島津っち〜、どう?緊張した?」
「カワイイねぇ〜。横から見てるとこっちまで照れちゃうねぇ」
「ねぇ島津っち。ギュって抱きしめていい?カミカミしていい?」

 結城との会話を無事に終え、何故緊張をしていたのかを考えていると、クラスメート達に囲まれた。
……は?みんなは何を言っているのだ?

「何故私が緊張をしていたのを知っているのだ?
そうなんだ、何故か結城を前にすると緊張するようになってしまったんだ。
何かおかしな病気にでも罹ってしまったのだろうか?」
「横から見ていると照れるとはいったい何のことだろう?
自分では気がつかなかったが、何かヘンな事でもしていたのだろうか?」
「な、何故抱きしめるのだ?もう噛まれるのは勘弁してもらいたいのだが……その、少し恥ずかしいんだ」

 みんなから見ても私の様子はおかしかったのか。
きっと一目見て分かるような、おかしな態度を取っていたのだろうな。
……結城にもおかしなヤツだと思われてしまったのだろうか?
542不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/16(日) 10:50:51 ID:97ybNj6V
「あはははは!やっぱり気づいてないんだ?島津っちってカワイイ……あれ?な、なんで落ち込んでるの?」
「し、島津っち?ゴメン、もうからかったりしないから!だからそんな落ち込まないでよ」
「ゴ、ゴメンね?結城を前にした島津っちが可愛かったから、つい、苛めたくなったの。
アタシ達、別に悪気があって言ってるんじゃないよ?むしろ島津っちを応援しようと……」

 クラスメート達が何かを言ってきているが耳に入らない。
これは、なんだ?何故こうまで落ち込んでしまう?
結城にヘンな女と思われたくらいで……お、思われているのだろうか?
やはり結城は私の事をヘンな女だと思って……グス。
ヘンな女と思われたかと思うと、嫌われたのではないかと思うと、涙が出てきた。
何故そんな風に思われてしまったのだろう?私のどこがいけなかったのだろう?
……何故私は泣いているのだろう?

「ゴ、ゴメンって!島津っち、泣かないでよ!」
「ゴメン!もうからかったりしないから!だから泣かないで!」
「グス、んぐ、ひぐ……ひっく、何故、ひっく、わだしは泣いでいるのだろう?」

 やはりおかしい。絶対におかしい。
急に鼓動が早くなったり、急に涙が溢れたり。私の身体はいったいどうなってしまったんだ?
原因が分からない奇病にでも罹ってしまったのか?病院に行かなければいけないのか?
余計な出費は家計の負担になるので抑えたいのだが、そうも言っていられない。
こんな私でも島津家の家事を取り仕切っているのだ。
パパやママ、弟達に美味しいご飯を食べてもらう為にも、そう簡単には倒れることなど出来ない。
よし、今日、病院に行こう。行けばこの症状を抑える薬をくれるはず。
その薬を飲んで、安静にして体調を回復させよう。
結城には悪いが、今日のアルバイトは断わらなければ。
……ひっく、何故だ?余計に悲しくなってきた。……悲しい?何故私は悲しいのだ?

「島津っちはきっとこういう気持ちになったのが初めてなんだね」
「初めての相手が結城かぁ。やっぱり島津っちって変わってるよね」
「そうかな?アタシは意外と似合ってると思うけどなぁ。結城って案外ヤツじゃん」
「ひっく、どういう意味なのだろう?ぐす、こういう気持ちとは何のことだろう?」

 病院に行くためには、一度家に保険証を取りに帰らなければいけないなと考えていると、
クラスメートが意味が分からない事を話し出した。
みんなは何を言っているのだろう?
543不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/16(日) 10:51:30 ID:97ybNj6V
「なんで島津っちは泣いてるの?」
「ひっく、分からない。自分でも何故泣いているのかが分からないんだ」
「うん、分からないよね?じゃあさ、泣き出す前は、何を考えてたの?」
「何を?それは確か……そう、結城に私がヘンな女と思われたのではないか、
嫌われたのではないかと考えていたんだ」
「うん、結城に嫌われたと思ったら涙が出てきたんだ?
じゃあさ、島津っちはなんで自分が泣き出したと思う?
結城に嫌われたと思ったら、なんで涙が出てきたと思う?なんで結城の前じゃ緊張すると思う?」

 何故?言われてみたら確かに謎だ。
何故なんだ?何故私は結城に嫌われたと思うだけで涙が出てきたのだ?何故緊張してしまうのだ?

「……分からない。何故なんだろう?何故泣き出してしまったんだ?何故緊張するんだ?」
「うん、まだ分かんないか。島津っち、早く分かるといいね。アタシ達、応援してるからね?」

 応援?この症状は応援されると治るものなのか?変わった病気だな。

「この症状を治す方法はないのだろうか?病院に行けば何の病気か診断してもらえるのだろうか?」
「う〜ん、病院でも無理だと思うよ?昔からこの病気にはつける薬はないって言ってるしね」

 薬がない?そ、そんなバカな!
では何か?私は薬が効かない難病に犯されてしまっているというのか?

「そ、そんな難病なのか?私はそんなに恐ろしい病気に罹ってしまったのか?」
「うん、とってもやっかいな病気だよ。
でもね、その病気の原因が分かっちゃうと、寝ても冷めてもその事だけを考えるようになっちゃうの。
その事だけで頭の中が一杯になっちゃうの。もう、どうにかして〜!ってなっちゃうのよね」

 どういうことだ?話を聞いている限り、みんなも同じ病気に罹ったことがあるように思える。

「みんなも同じ病気に罹った事があるのだろうか?
ならば教えてほしい。この病気が何なのかを。どうすれば治るのかを」
「う〜ん、教えてもいいんだけど……自分で気づきなよ。その方が絶対にいいって!
一生に一度の事なんだから、自分でその気持ちに気づいて、頑張った方がいいって!
アタシ達、応援はするけど、一番努力して頑張んなきゃ行けないのは島津っちなんだから」

 どういうことだ?みんなは私の病気が何かを知っているのに、教えてくれないという事なのか?
544不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/16(日) 10:51:54 ID:97ybNj6V
「イジワルしないで教えてほしい。今、私が罹っている病気は何なのかを。お願いだ、教えてほしい」
「島津っち……そうだねぇ、今日ね、結城の家に行くんだよね?
だったらさ、その時にね、結城と手を繋いでみてよ。そしたら少しは分かるんじゃないかな?」

 結城と手を繋いだら分かる?繋ぐ事に意味があるのか?

「何故結城と手を繋がなければいけないんだ?意味が分からな……ま、まさか、そうなのか?」
「おお?もしかして気がついちゃった?」

 いや、そんなはずはない。結城に限ってそのような事をする訳がないし、する意味もない。
だが、そうでなければ原因不明のこの病気に、説明がつかない。
結城といる時に限って鼓動が早くなり、緊張する。
結城と一緒にいる時に限って症状が出てくる。
何故涙が止まらなくなったのかは分からないが、それにも何かカラクリがあるのだろう。
手を繋げば分かるというのも意味が分からないが、きっと手に塗りこむタイプの物もあるのではないか?
きっとそれを示唆しているのだろう。

「そうか、そうだったのか……納得のいかない点も多々あるが、そう考えなければ説明がつかない」
「おおお?やっと気づいたの、島津っち。で、どうするの?」

 ニコニコと微笑みながら私を見るクラスメート達。
そういえばみんなも同じ病気に罹ったと言っていた。
そうか、だからみんな教えてくれなかったのか。……口止めをされていたのだな?

「そんなもの、決まっている!結城を……」
「おおおお?結城を?」
「……制裁する!」
「……へ?せ、制裁?」
「ああ、制裁だ!いくらゲーム機をもらったと恩があるとはいえ、
いくらアルバイトで世話になっているといえ、ヘンな薬を飲まされる筋合いはない!
何を考えているかは知らないが、今、制裁しなければ結城に更生の道はない!」
「え?ええ?薬?ちょっと島津っち?それ違う……」
「善は急げだ!行ってくる!」
「ちょっと待って!それ絶対に違……」

 怒りに身を任せ、結城の教室へと走る。
そうか、そうだったのか!結城が私に薬を盛っていたのか!
私だけでなく、みんなにも盛っていたようだし……許せん!

「お?島津じゃん、なんかようか?」

 私に薬を盛っておきながら、のほほんと昼食を取っている結城。
今日も売店のパンなのか?栄養が偏る!作ってきてあげることにしよう。
そんな事よりも……制裁だ!

「結城!キサマはぁ〜……制裁!フン!」
「へ?……なぜに!」

 シュ!グチャ!……ドサ 

 綺麗に決まったハイキック。
まるで操り人形の糸が切れたかのように崩れ落ちる結城。
このキックは天罰だ!思い知ったか!

「これに懲りたらもう二度と薬を盛るなどと汚いマネをするな!」 

 足元で痙攣している結城に止めを刺す。
これでもう二度と薬を盛ろうなど考えないだろう。
545不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/16(日) 10:52:20 ID:97ybNj6V
「し、島津っち、早まっちゃいけな……あらららら、結城、ご愁傷様」

 私が結城を制裁したのとほぼ同時に、クラスのみんながやって来た。
みんなも制裁をするつもりなのか?だがそれは待ってほしい。

「みんな、結城はこの通り私が制裁した。
だからみんなに薬を盛った事は許してあげてほしい。もう二度としないように誓わせる。
だから結城を許してあげてくれないか?」
「島津っち……許すも何も、アタシ達は結城には怒ってないし、そもそも誰も薬なんて盛られてないし。
島津っち、あなたも薬なんか盛られてないんだよ?」
「……え?そ、それは本当なのだろうか?」
「うん、ホント。何を勘違いしたのか知らないけど、こんなことやっちゃって……結城、きっと怒るよ?」

 ……え?勘違い?私の勘違いだというのか?
では何か?私は勘違いで結城を……蹴り飛ばしてしまったというのか?

「とりあえず島津っち、正座ね」
「せ、正座をするのか?」
「そ、正座。だってなにも悪くない結城をこんなにしちゃったんだよ?反省しなきゃダメだと思うよ?」

 う、確かにそうだ。何の落ち度もない結城を、私のバカな勘違いで気絶させてしまったんだ。
……ぐす、ますます嫌われてしまったのではないか?

「はいはい、落ち込まないの。正座したら結城を膝枕してあげてね」
「ひ、ひひひ、ひざまくら?な、ななな何故そのようなことをしなければいけないのだ!」

 思わず声が裏返る。何故ひざまくらをしなければいけないのだ!

「だって結城をこのまま寝かしとくの可哀想でしょ?」
「だ、だからといってひざまくらなど……は、恥ずかしいではないか」
「いいからしなさい!……結城が起きるまでしなさいね?」

 クラスメートに怒られて、ひざまくらをすることにする。
床に倒れている結城の隣に正座をし、膝の上に結城の頭を乗せた。
こ、こんな近くで顔を見るのは初めてだ。
……意外と睫毛が長い。これはおばさんに似ているのかな?けど、鼻の形はおじさん似だ。
んん?午前の授業で体育があったのだろうか?少し汗臭いな。
額を少し汗で少しベトついているし……全く困ったヤツだ。
顔くらい洗って軽く汗を流せばいいのに。……どれ、私が汗を拭いてあげよう。
ハンカチを取り出して、額を拭いてあげる。
……ふむ、これで綺麗になった。おや?首筋も汗を掻いているのではないか?
し、仕方がない、ここもふき取ってあげよう。もしかして結城はタオルを持って来ていないのか?
し、仕方がないな、明日から私が持ってきてあげることにしよう。
明日からは結城の分のお弁当にタオルを用意しなければいけないのか。
ふふふ、結城は驚くだろうか?用意したタオルを使ってくれるのだろうか?
お弁当は美味しいと喜んでくれるのだろうか?……迷惑がられたりしないだろうか?
……お、おかしい!やはり私は絶対に何かの病気に罹っている!
な、何故私が結城の分のタオルとお弁当を用意をしなければいけない?
何故用意しなければいけないと考えるだけで嬉しく思う?
それにこの鼓動の速さはなんだ?先ほどから何故視線を外せない?
何故だ?いったい何故なんだ!私はいったいどうなってしまったのだ!

 結局結城はお昼休みの間では起きなかった。
仕方がないので結城を保健室へと連れて行き、保健の先生に後を任せた。
結城、大丈夫なのだろうか?私のせいで授業を欠席させることになってしまった。
……私を許してくれるだろうか?嫌われてしまったのだろうか?
何故結城に嫌われると考えると、泣きたくなるのだろう?
何故こんなにも辛いのだろう?私は……どうなってしまったのだろう?
546不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/16(日) 10:53:16 ID:97ybNj6V
「島津っち。ねぇ島津っちたら。いい加減落ち込むの止めようよ?」
「……何故私は落ち込んでいるのだろう?ずっと考えてても答えが出ない。知恵熱がでそうだ」

 先生達には失礼だが、午後の授業はほとんど聞いていない。授業の間、ずっと考えていた。
何故結城が側にいると緊張するのか。何故結城が側にいると、鼓動が早くなるのか。
何故結城が側にいると、嬉しいのか。何故結城に嫌われると思うと、泣きたくなるのか。
クラスメート達は答えを知っているようだが、何も教えてはくれない。
他人に頼っていてはダメだと分かってはいるのだが、答えを教えてくれないクラスメート達を恨んでしまう。
何故こんなことになってしまったのか。このままでは私はどうなってしまうのだろう?

「あ!島津っち早く起きて!結城が来たよ!」

 ……な、なに?結城が来ただと?

「おう島津。バイトに来てくれるんだろ?一緒に行こうぜ。お前に言いたいこともあるしな」
「あ、ああ、一緒に行くのだな?私は別に構わない、一緒に行こう」

 何故こうまで緊張する?いったいどうなってしまったんだ、私の身体は?

「島津っち、頑張ってね!応援してるからね!」
「明日どうなったか教えてね?結城も鈍感だから攻めていかなきゃいけないよ?」
「そ、それはいったいどういう意味なのだろうか?」

 意味の分からない事を好き勝手に言うクラスメート達。
攻めるとはどういう意味なのだろう?

「お昼に言った事覚えてる?手を繋ぐんだよ?島津っち、分かったね?」
「……ゴクリ。ど、どうしてもしなければいけないのだろうか?」
「島津っちはイヤなの?島津っちがイヤなら繋がなくていいけどね?」
「そ、それはイヤに決まって……いや、イヤではない。むしろ繋ぎたい気がする」
「うん、そうだよね、繋ぎたいよね。なら繋いで帰ったらいいよ。
ちょっと幼い気がするけど、島津っち達にはそれくらいが似合ってるよ」

 似合ってるとはどういう意味なんだろう?
ダメだ、手に汗を掻いてきた。このような手で、手を繋いだら嫌われたりしないだろうか?

「おい島津、早く行こうぜ」
「あ、ああ、すまない。今行く」

 何故か喉がカラカラだ。手も震えだした。緊張しているからだろう。
何故こんな身体になってしまったのだろう?どうして結城の前では緊張するようになったのだ?
私はいったいどうなってしまったのだ?
547不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/16(日) 10:53:41 ID:97ybNj6V
「お前、どうしたんだ?最近様子がヘンだぞ?」
「い、いや、なんでもない。少し疲れているだけだ。気にすることはない」
「そうか?なんか最近様子がヘンだったからさ、気になってたんだよ」

 学校を出て、しばらくの間無言で歩いていたが、沈黙に耐えかねたのか、結城が話しかけてきた。
結城……私を心配してくれていたのか?だから一緒に行こうと誘ってくれたのか?
結城……なんて優しいんだ。ダメだ、感動して泣きたくなってきた。
グッと涙を堪え、結城の横を歩く。……一緒に歩いているだけで何故嬉しく思う?
ダメだ、もう訳が分からない!ママに相談して、この症状を抑える方法を教えてもらおう。
ママは知っているのだろうか?この症状の原因を。
どのようにして相談を持ちかければいいかを考えていると、結城が話しかけてきた。

「お前、だいぶ表情が出てきたな。ちょと前までお前って人形みたいな顔してたんだぞ?
いっつも1人でさ、メシ食うのも1人だっただろ?
オレ、そんなお前が気になっててさ、だから話しかけてみたんだ。
『長宗我部元親って知ってるか?』ってな」
「そ、そうだったのか。あの時は驚いたよ。いきなり話しかけられて意味不明の単語を聞かれたのだからな」
「ははは!そういえばそうだな。いきなり話しかけられたら普通驚くよな?
でもオレも驚いたぜ?まさかぶん殴られるとは思ってなかったよ」
「ぐ、ぐぅ……それはもう時効という事で忘れてほしい」
「忘れるの何も昼も蹴ったじゃねぇか。あれ、すっげぇ痛かったんだぜ?」
「す、すまなかった。あの時の私はどうかしていたんだ」

 ……違う。あの時だけではない。今だってどうかしてる。
その証拠に、結城と並んで歩いているだけで、話しているだけで嬉しくてたまらない。

「お前、気絶してたオレに膝枕してくれてたんだろ?アリガトな」
「い、いや、お礼など言わなくていい。私が勝手にしたことだ、気にする事はない」
「クラスのヤツ等に聞いたんだけど、お前、ハンカチで汗を拭いてくれたんだってな?」
「あ、ああ、少し汗の臭いがしていたからな。体育の後は濡れたタオルで汗を拭き取るといい。
ところで結城はタオルを持ってきていないのか?家には何枚も使っていないタオルがあるんだ。
持ってきてあげようか?貸してあげよう。」
「お?いいのか?」
「あぁ、構わない、結城には世話になりっぱなしだ。
そういえば昼食はいつもパンだな。パンばかりだと栄養が偏ってしまう。
だ、だから、その、あれだ。ゆ、結城さえよければお弁当を作ってきてあげてもいいのだが。
ど、どうだろうか?」

 な、何故だ?何故ここまで緊張する?
ただ単にお弁当を作って持って来ると提案しただけなのに、どうして緊張をしてしまうんだ?

「おおお!マジでか?マジでいいの?」
「あ、ああ、構わない。では明日から作ってきてあげよう」
「おおおお!ありがとう!マジでうれしい!島津、お前はやっぱりいい奴だな!」 

 よほど嬉しいのか、私の手を握り、ブンブンと握手をしてきた結城。
手、手を繋いでしまった!クラスメートは手を繋ぐと何かが分かると言っていたが……ダメだ!
嬉しすぎて訳が分からない!結城にお弁当を作れるのかと思うと、嬉しすぎて考えることが出来なくなる!
……う、嬉しすぎる?な、何故そう思ってしまうんだ?何故嬉しいのだろう?
嬉しさのあまり、働かない頭で考えを巡らせていると、私の手をギュッと握ったままの結城は動かなくなった。
しばらくギュッと手を握っていた結城は真剣な表情をし、手を離した。
いったいどうしたんだ?こんな真剣な顔は初めて見る。……い、意外と男前だったんだな。
548不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/16(日) 10:54:15 ID:97ybNj6V
「島津……情けない話なんだけど、今、気がついちまったよ。
さっきお前に言ったよな?お前の事が気になってたって。
お前とよく話すようになってから、もっと気になりだしたんだよ。
さっきまではお前が面白いヤツだから気になるんだって思ってた」
「お、面白い?私がか?そういえばクラスメートにもそう言われたことがある」

 結城とみんながそう言っているのだから、きっとそうなのだろう。
自分では面白いことなど何もしていないつもりなのだが、私のどういったところが面白いのだろう?

「でも違ってたんだよ。今、気がついた。やっと気がついたよ。
オレな、お前が気になってたんじゃない。お前が好きだったんだ」
「……す、好き?」
「あぁ、好きなんだ。お前、ヘンな勘違いしそうだから言っておくけど、L・O・V・Oの好きだぞ?」

 顔を真っ赤に染め、アルファベットで自分の気持ちを説明する結城。
LOVO?聞いた事のない英単語だな。ロボとでも読むのか?知らないな。だが似たような単語は知っている。
その単語の意味は、愛や愛情、もしくは愛するなど、愛を伝える言葉として使われて……へ?

「ゆ、ゆゆゆ、結城?そ、そそその単語の発音は、ど、どどどどういった発音なんだ?」

 ま、まさか、まさか結城が?まさか結城が私なんかを……そんなはずはない!

「お、お前やっぱりバカだろ?せっかく勇気を振り絞って言ったのに、こんな有名な英語も知らないのか?
……ラブって読むんだよ!何度も言わせんなよ、メチャクチャ恥ずかしいんだからな!
オレはな、お前が好きなんだ!愛してるんだよ!」

 大声で叫んだ結城の言葉が頭の中でグルグルと回る。
え?……好き?愛してる?……ええ?好き?愛してる?…………ええええ?好き?愛してる? 

「いきなりヘンな事言い出してゴメンな?でもな、オレ、バカだから、我慢できなかったんだ。
バカだから好きな子を前にして、自分の気持ちを黙っておく事なんか出来ないんだ。
ゴメンな?迷惑だろうけど、オレ、フラれるのには慣れてるから、思いっきりフッてくれ。
『このバカ!』って、ビンタでもしてくれたら、明日からはまた、今まで通りの付き合いが出来るから。
オレ、バカだから、そういうところは単純に出来てるんだよ。あはははは!」

 ……バカは私だ。言われて初めて気がつくなんて。

「……バカ。それはL・O・V・Oではなく、L・O・V・Eだ」

 ……バカは私だ。ホントにバカだ。バカだから、こんな簡単な英単語も知らないようなバカに……
549不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/16(日) 10:54:49 ID:97ybNj6V
「……結城、早く結城米穀店に行こう。お前がこんな大通りで叫ぶから、私達は注目の的だ」
「へ?うお!ホ、ホントだ。メチャクチャ見られてるぞ」
「まったく……ほら、行くぞ!」

 周りから感じる視線を無視し、結城の手を握る。
結城の手を取り歩き出す。ギュッと強く握り締め、歩き出す。

「結城はホントにバカだな。結城と一緒にいると私までバカだと思われてしまうではないか」
「ぐぅ……ゴメン、よく考えたらそうだよな」
「……結城、みんなに手を繋げば分かるのではないかと言われていたんだ」
「は?なに言ってんだ?なにが分かるんだ?」

 繋いでいた手を離し、結城の腕に手を回す。そしてギュッと抱きしめる。

「ふふふふ、手を繋ぐより、こうした方がより分かる。
手を繋ぐよりもずっとこっちの方がいい。これからはこうして歩くのもいいな。
さ、行こうか。おじさんとおばさんに私たちの関係を説明しなければいけないからな」
「え?ええ?なんで腕を組むんだ?説明ってなんだ?関係ってなんだ?」

 まだ分からないのか?だからバカだというんだ!

「私も結城と同じく、つい今しがた自分の気持ちに気がついたということだ。
簡単に言えば……私も結城のことが好き、愛している。……ということだ」
「……へ?お前、ホンキで言ってるのか?オレの事が好き?お前……やっぱりバカだろ?」
「……ぷっ、あっはははは!そうかもしれないな!結城のような男を好きになったんだ。
きっと結城の言うように私はバカなのだろう。結城はバカな女は嫌いなのか?」

 結城の腕をギュッと強く抱きしめる。
ふふふふ……腕を抱きしめる。ただそれだけなのに、何故こんなにも嬉しく思うのだ?
これがきっと、恋というものなのだろうな。
みんなが言っていた意味がやっと分かった。

『この病気にはつける薬はない』
 
 当たり前だ。こんな素敵な病気に薬など必要ない。必要な物は……今、私の腕の中にある。

「し、島津……お、おお!オレ、バカな女は大好きだぞ!いよっしゃ〜!うおおおおお〜〜!」

 突然大声で叫びだす結城。こら!いくら嬉しいからといって、叫ぶんじゃない!
またジロジロと見られてるではないか!

「こ、こら!急に大声を出すな!私までおかしい目で見られるではないか!」
「お前もバカなんだろ?だったらいいじゃん。嬉しい時は叫んでもいいと思うぜ?」
「……人前でもか?」
「おお、当たり前だ。恥ずかしがってちゃバカの名が廃るってもんだろうが!」
「そ、そういうものなのか?なら私もバカらしくするかな?」

 ニコニコと嬉しそうに微笑んでいる結城の頬に、両手を添える。
私が何をするのかと、驚いている結城。私はそんな結城に顔を近づけて……ん。

「……ん。な、なかなかバカのフリをするというのも、恥ずかしいものだな。
さ、早く行こうか!おじさんやおばさんが待っている。
きちんと紹介するようにな。この人が自分の大事な彼女です、とな」

 驚きで固まっている結城の腕を抱きしめて、引っ張るように歩き出す。
ふふふふ……この『恋』という病気にはつける薬がないのではない、治す必要がないのだ。
こんな素敵な病気を治してしまうのは、もったいないではないか。
550不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/16(日) 10:55:12 ID:97ybNj6V
「島津っち〜、聞いちゃったよ〜。人前での告白&キス、おめでとう!」
「アタシは見たけどね〜。まさかあんな大勢が見てる前で、キスしちゃうなんてね」
「島津っちだいた〜ん。告白してすぐキスなんて、大胆すぎ〜」
「そ、その、昨日のあれは、その……からかわないでくれないだろうか?……とても恥ずかしい」

 結局昨日は、アルバイトにならなかった。
おじさんとおばさんに、2人が付き合うことになったと報告したところ、
おばさんは大喜び、おじさんは号泣してしまい、商売が出来る状態じゃなくなったからだ。
で、その日はそのまま結城とは別れた。家に帰り、ママとパパに報告をしたらおじさん達と同じ反応をした。
ママはとても喜んでくれ、パパは号泣をした。
『娘を……よくも娘を……』とブツブツ言いながら喜んでくれた。……喜んでくれたのだろうか?
で、翌日になって学校に来てみれば……クラスメートに囲まれた。

「いやぁ〜、でもよかったよ。島津っち、おめでとう」
「相手が結城ってのが意外だけど、天才とバカでつりあってるのかな?」
「島津っちは天才というか、天然だけどね〜。ま、友達が幸せになるのは嬉しいことだよ」
「そ、その、みんなありがとう。
クラスメートというだけで、私の相談に乗ってくれたり、心配してくれたりして……
私は今、このクラスでよかったと心から思っている」

 恋をしていると気がついていなかった私を、みんなが励ましてくれたおかげで、
応援してくれたおかげで結城と恋人になることが出来たと思っている。
いくら感謝しても感謝しきれない。本当にありがとう。

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。心配したかいがあるってものね!
おし!じゃあさ、島津っちの恋人出来ちゃった記念で放課後にパ〜ッといかない?」
「お、いいねぇ、パ〜ッといっちゃう?」
「惚気話を聞かせてよ。島津っちの惚気、聞いてみたいなぁ」
「そうそう!結城とキスした感想とかも聞きたいしね!」

 好き勝手にワイワイと騒ぐみんな。とても恥ずかしくて照れてしまうのだが、不思議と嫌な気はしない。

「わ、分かった。放課後にみんなでどこかに遊びに行くのだな?」
「島津っちはどこがいい?好きなところ連れてってあげるよ。
もちろんお祝いしたげるんだから、お金は島津っち持ちね?」

 みんなと遊びに行くなど……小学生低学年の頃以来だ。
小学生高学年の頃になると、みんなが私を特別扱いし、仲良くしてくれなくなった。
記憶力がいいというだけで、天才扱いをし、私を避けていった。
……そうか、だから私は結城に惹かれたのか。
結城が私を特別扱いせずに、普通の女として扱ってくれたから、彼が好きになっていったのか。
人間というものは不思議なものだな。ほんの少しの変化でこうまで変わるのだから。
結城がいなければ、きっと私はこうしてみんなと話すこともなかった。
放課後に遊びに行くこともなかったはずだ。ありがとう、結城。……私がお金を払うのか?
551不器用な彼女 ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/16(日) 10:55:41 ID:97ybNj6V
「そ、そんなバカな?こういう時はご馳走してくれるものじゃないのか?」
「だって島津っち、アタシ達にすっごく心配させてたんだよ?そのくらいしてもらわなきゃ割に合わないよ」
「そうそう、心配料払ってもらいましょうか?別に身体でもいいんですぜ?へっへっへっ」
「奢るのがイヤなら身体で払ってもらいましょうか?ちなみに今日の下着は何色?」
「いや、下着は白だが、その、あまり高いところは払えないので勘弁してほしい。
アルバイト代がいくらかあるから、一人1000円ほどなら払えるのだが」
「おおお!今日は白かぁ。そのうち島津っちも黒レースとかセクシー路線に走るんだろうねぇ」
「1000円かぁ。じゃあさ、カレーハウスでいいんでないかい?島津っちってカレー大好きじゃん」
「お?カレーかぁ、いいかもね。カレーを前にしてのキラキラおめめの島津っちをもう一度見たいもんね」
「じゃ、カレーで決まり!島津っち、ご馳走になりま〜す!」

 その日の放課後、以前に結城にご馳走になったカレーハウスでみんなでカレーを食べた。
色々と聞かれてしまい、とても恥ずかしかったのだが、嫌な気はしなかった。
それに私がお金を払うものだと思っていたのだが、みんながお金を出し合ってご馳走をしてくれた。
私の恋人が出来たお祝いだと、ご馳走してくれたんだ。
みんなの優しさに涙が出そうになった一日だった。
わたしはこの2日間で初めての恋人と、大事な友人達が出来た。
これも全ては結城が私に話しかけてくれたおかげ。……長宗我部元親に感謝だな。
みんなのおかげで美味しいカレーを堪能できたし、何よりもいい情報をたくさん聞けた。
初めては物凄く痛いという意見と、そうでもないという意見があった。
みんながすでに経験しているという事に驚いてしまったが、
私のそのうち絶対に経験すると言われて少々戸惑っている。
……結城は私とえっちをしたいと思っているのだろうか?
私は……どうなのだろう?結城の事は好きだ。これは間違いない。
だが、えっちをするとなると……戸惑ってしまうと思う。
その証拠に、今結城とのえっちを想像すると……ダ、ダメだ!
よく考えたら私はえっちというものを、あまりよく知らない!
性教育で習うくらいしか知識がないんだ。こんな浅い知識で大丈夫なのだろうか?
どうしよう?友人達の話によると、男という生き物は、いつでもえっちをしたがる生き物だと言っていた。
だとすると、近い将来に結城も私を求めてくるに違いない。
それまでにはそれなりの知識をつけておかねば……ママにでも聞いてみるかな?

 家に帰り、ママに聞いてみたら、初めては男に任せるのが一番いいと教えてくれた。
ただし、避妊具は必ずつけること!と念を押されてしまった。
ママは、いざという時の為、財布の中にでも入れて置くようにと、避妊具を数個くれた。
……パパはまた号泣して『……殺す……殺す』と物騒な事を呟いていた。
パパ……私を大事に思っていてくれることは嬉しいが、殺すというのは止めてほしい。
冗談だとは思うが、冗談に見えないパパの顔が少し怖い。
怖いといえば、この避妊具を使う日が来るのだろうか?いや、必ず来るのだろうな。
その時に私は……結城を受け入れることが出来るのだろうか?

 ベッドに横になり、結城からもらった携帯ゲーム機を手に、結城の事を思う。
……明日のお弁当はハンバーグでいいかな?結城、喜んでくれるかな?
結城……早く明日にならないものだろうか?
早く結城に会いたい……声を聞きたいな。

 恋につける薬、やはりあったほうがいいのかもしれない。
今の私には『恋人と会いたい気持ちを抑える薬』が必要なのかもしれない。
結城はどうなのだろうか?結城も私に会いたくて会いたくて仕方がないのだろうか?

 結城もそうであってほしい。そんな事を考えながら目を閉じる。
夢の中で結城と会えることを祈って。……結城も夢で私と会ってくれていれば、嬉しいな。
552ツクバ薪割り  ◆k8fXz6W8GA :2008/03/16(日) 10:56:02 ID:97ybNj6V
今回は以上です。
553名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 11:16:30 ID:RyE3PbNK
GJ!!!
ニヤニヤが止まりませぬ。
554名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 15:15:39 ID:XS2Z3Kas
甘〜〜〜〜っ

いいね
もっともっとやってくれ
555名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 18:56:20 ID:9QbGM+lR
誰かニヤニヤを止めてくれwww


仙台人が多いスレだから知ってる人も多そうだが、仙台駅構内にあった伊達政宗公騎馬像が岩出山に移されたそうな。
556名無しさん@ピンキー:2008/03/18(火) 22:46:01 ID:q+3iWKOk
ヤクザっ娘を…
浮気されて落ち込むヤクザっ娘を…誰か…
557名無しさん@ピンキー:2008/03/18(火) 23:39:49 ID:9cn++axx
それは切なさ乱れうちだ


相手が浮気したと思い込んで落ち込む→誤解が解けてデレパターン。

俺はありきたりな王道の方が好きだな。
558名無しさん@ピンキー:2008/03/19(水) 06:57:22 ID:D2LPevSE
ヤクザっ娘は浮気されたら
本気でどこかの海に沈めそうだな

沈めるなら海より大きな湖の方がいいらしいが
559名無しさん@ピンキー:2008/03/19(水) 22:18:02 ID:F+ZADJnQ
うむ懐かしきヤクザ娘ネタですな。

帰ってきたヤクザ娘リターンズはまだか?
560名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 08:11:55 ID:vuxqDrdK
ってか容量やばいけど次スレ立てなくていいの?
561名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 10:32:38 ID:hqEdEkWR
残りどのくらいなの?携帯からだから分かんないんだわ。
562名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 10:47:25 ID:/FbZaFtQ
あと16kbくらい?この遅さなら残り10kb切ってからでも遅くないと思うが……
563ヤクザ娘 誤解編:2008/03/20(木) 11:05:01 ID:L9xjZFGd
「暇だな……」
あたいは今、一人で街を歩いてる。本当ならあいつと一緒なのだが、どうしてもはずせない用が入ったとかで来れなくなってしまった。
まあ、たまにはいいかなんて思って一人で街に来てみたんだが……
「暇だ……」
正直、退屈死しそうだ。
あいつがいりゃこんなことにはならんかったのに。あたいとのでぇとより大事な用がこの世にあんのか!?そりゃなんだ!!?
………考えてても仕方ないな。退屈死する前に帰るか。
そう思って元来た道を振り返った時。


知らない女と手を繋いだ、あいつが居た。


「……っ!?」
な……なにやってんだあいつ!あたいという女がありながら、う……浮気だと!!
しかも……なんで…そんなに楽しそうに……
こんな……ことが……


そこから先のことは、よく覚えていない。気がついたら家の前にいたみてぇだ。
組のやつらがやたらと「お嬢、大丈夫ですか!」とか言ってた気がするが、適当かわして自室に入った。
そしたら……
「……うぅ……ぇぐ…」
涙が、止まらなくなっちまった。
あいつのあの笑顔。あたいも見たことがないものだった。
それは…つまり…あたいより、あの女の方が……大事ってことなのかな……
564ヤクザ娘 誤解編:2008/03/20(木) 11:06:20 ID:L9xjZFGd
次の日、あたいはあいつを家に呼び出した。
もちろん、昨日の件について問いただすためである。覚悟は決めた。どんな結果だろうが受け止めてやるさ。
「で、話ってなに?緑さん」
「昨日のことについてだ」
きっと睨みつけてやる。
「恋人に嘘ついて浮気とは、いい身分だな」
「浮気?なんのこと?」
ブチン、という音がした気がする。
「とぼけんな!昨日街で見たんだよ!お前がどっかの女と手ぇ繋いで仲良く歩いてんのを見たんだよ!!」
思い出したら猛烈に腹が立ってきた。あたいは浮気野郎の首をつかんでギリギリと締め上げる。
人の気持ちを弄んだ罰だ。たっぷりとくらいやがれ!!
「ちょ…!う…浮気!?あ、もしかして…妹と歩いてたのを見たの?」
………は?
「ごほっ!ごほっ!……あー、昨日一つ下の妹にせがまれて街に行ったんだよ。訳あってたまにしか会えないから。あれ見られてたの?」
…つまりあたいは……一人で勘違いをしてた…いや違う!させられてたんだ!!
「この野郎!勘違いさせやがって!紛らわしいんだよ!」
「はは、ごめんごめん。でもさ」
ん、なんだ?
「嫉妬した緑も、すっごくかわいいね」
……う、うるせぇ!あんまふざけてっと太平よ(ry
565名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 11:08:37 ID:L9xjZFGd
速攻で書いたからいまいちな感じがする
特にオチが
566名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 11:11:50 ID:/FbZaFtQ
>>565
リアルタイムGJ!
まあ一日も経ってないからね。欲を言えば証拠を見せろと迫ったりしてほしかったけど……
567名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 14:22:29 ID:hyijxwfR
ネタの熟成には時間が掛るからな…

今回は住人の希望にすぐ応えた作者様に敬意を表して。

GOOD JOB
568名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 20:48:24 ID:PCV0UK+P
言ってよかった
ありがとう本当に書いてくれてありがとう!
マジでGJだぜ!
やっぱり嫉妬する気の強い娘はいいもんですね
569名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 16:33:13 ID:8fHSqNbm
えー、もう二日もカキコがないようですが…
570名無しさん@ピンキー:2008/03/23(日) 08:59:50 ID:ABlOJijw
では強気っ娘がしおらしくなるシチュでも語るとしよう。
神の降臨まで。


今まで幼馴染みだった隣家の少年に自分の親友が告白したのを知った時。
571名無しさん@ピンキー:2008/03/23(日) 09:12:23 ID:Gs1W3lM6
演劇部の少女。
今まで嫌っていたクラスメイトの男の子がいて、彼を嫌う原因が実は誤解で、
彼こそがいつも自分を励ましてくれていた「紫のバラの人」だったと知ったとき。
572名無しさん@ピンキー:2008/03/23(日) 17:34:07 ID:XeA69Mnc
いつも喧嘩ばかりしている男友達から、
「○○ってやつから告られたんだけど、どうしたらいいかな?俺こういうの初めてでさ。ちょっと意見聞きたいんだけど」
とかいう相談を持ちかけられたとき
……ベターかな?
573名無しさん@ピンキー:2008/03/23(日) 21:17:01 ID:YdeuFLwC
今まで好意の裏返しでいじめてたら
男の子に本気で怒られ嫌われた時
574名無しさん@ピンキー:2008/03/23(日) 21:34:14 ID:mrSYv2Na
>>573
いいシチュだな。
男の側が優しすぎでなければ(すぐには許さないタイプなら)もっといい。w
575名無しさん@ピンキー:2008/03/23(日) 21:34:38 ID:+lhj93KP
好きな男にジャーマンスープレックスを仕掛けるが、カウント2で返された瞬間。
576名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 00:39:07 ID:inD7gQqZ
自分が負わせてしまったケガが原因で男が目標にしてた大会に出れなかったとき
577名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 02:06:41 ID:7DfFEYIU
お借りします。
578名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 02:07:06 ID:7DfFEYIU
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第一話「ココア程度の甘さは必要か」
================

「この馬鹿」

 楓は不機嫌に言った。
 何も僕は間違ったことをしたわけではない。
 五時に迎えに来てと言われたから、健気な犬よろしく愛車のぼろい軽四でぴったり五時に迎えに来たのだ。
 なのに、だ。
 いきなり馬鹿は酷いと思う。
 優しい言葉の一つや二つをくれたりしないのか。
「なんで。時間通り来たじゃないか」
「馬鹿ね。雅紀今日暇だったでしょ。だったら五分前にはもう着いてなさいよ」
 とんでもない理由だ。
「そんな理不尽な……」
 しまったと思ったが、時すでに遅し、助手席の楓はぷうと不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「あ、いや、何でもない」
 あわてて謝るも無駄だ。
「へー、雅紀そんなこと言うんだー」
「いひゃいいひゃい」
 助手席からぎゅぅと左頬をつねられた。
 ただちゃんと手加減だけはされていて、やりすぎるといったことはない。
「痛かった」
「文句を垂れるから」
「全く、うちの楓ちゃんはどうしてこんなにすぐ手が出るのかしらお母さん悲しいわ」
「雅紀に育てられた覚えはない」
 言われながらまたぎゅうとつねられた。今度はかなり痛かった。
579名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 02:11:36 ID:7DfFEYIU
 まず僕が家に帰って最初にすることは夕飯を作ることだった。
 楓は僕に対してあらゆることで理不尽だが料理当番とか掃除当番とかだけは平等である。
もっとも洗濯当番はさすがに楓の下着を扱うのは気が引けるので別だが。食事当番は各曜
日ごとにどちらがやるかが決めてあって、今日は僕の番だった。
「今日」
 冷蔵庫の前にしゃがみ込んでいる僕に楓が話しかけてきた。
「晩ご飯何」
 僕が見ている、ノートの切れ端。冷蔵庫にマグネットで止めてあって、今冷蔵庫に入ってい
るものが書いてある。食材を無駄にしないようにとの楓の知恵だ。
 それを見ながら僕は言った。
「んーとな、シチューかカレーかなあ。どっちがいい?」
「シチューかな。カレーはちょっと前にやったし」
「んじゃカレーな」
「シチューがいいって言ってるじゃない話を聞け」
「冗談だって。……ちょ、そんな叩くな」
 楓はばしばしと遠慮なく僕の頭を叩いた。
580名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 02:13:44 ID:7DfFEYIU
 僕の母親と楓の父親は姉弟で、僕と楓はいわゆるいとこだ。昔は夏休みと正月などに合うだ
けだった。
 僕より二歳年下の楓はほどよく僕に懐いていたように思えるし、僕もそんな楓をほどよくかわ
いがっていた。
 実家は『ど』がつくほどの田舎だった。その分家は大きいが、近所に同世代の子供はいない。
そんなわけで楓の家族がたまに家に来たときは二人でよく遊んだ。二人で裏山を駆け回った。
二人で川で泳いだ。二人でかくれんぼをした。ある程度大きくなると本を読んだり話をしたり、映
画を見たりゲームをしたり。
 どれだけ大きくなっても遊ばなくなったということにはならなかった。
 こき使われるようにはなったが、特に嫌われているわけでもなかったと思う。

 そして受験生になり都会に憧れた僕は、都会の大学を受験し無事受かった。
 当然、自宅から通うことなどができるはずもなく、僕は一人暮らしを始めた。もともと手先が器
用で料理や掃除などは好きだったので、一人暮らしに慣れるのに時間はかからなかった。

 そんな自由で勝手気ままな一人暮らしを満喫している僕の元に楓は転がり込んで来た。

 突然だった。
 近所のスーパーのタイムセールから帰ってくると部屋の前には大きな荷物と楓がいて、不機嫌
そうに「遅い」と僕に言ったのを覚えている。楓の家から今僕が住んでいるところまではかなり遠く、
しかも楓はここに来たことは一度もない。なぜ彼女がここにいるのかわからなかった。
 とりあえずと楓を部屋に入れてここにいる理由を訊ねた。何か大変な理由で家出でもしてきたの
かと僕ははらはらした。
 しかし楓のの言い分はただ一つ、「大学が雅紀と同じだからここに住ませろ」だった。

 色々まずいことがあるのではないか。

 僕はそう楓に言った。一応は男である僕がそのうち変な気を起こすかもしれない。彼氏でも夫でも
なく家族と言うには少し違う男と年頃の女の子が暮らすことは誰がどう見ても問題だ。それに僕の部
屋は六畳の一部屋で、もちろん分割した生活などは到底不可能であり、二人で暮らすとなるとプライ
バシーもクソもないような空間なのだ。というか二人で暮らすような部屋じゃない。
 しかしそういった僕の説得を聞いた後の彼女の返事はただ一言、「そんなもの関係ない」で、僕がど
んなに説得を試みても彼女は頑なに「ここに住む」と言い張った。
 しぶる僕に楓は、彼女の両親と僕の両親の許可はすでに取ってある、もう疲れた寝ると言って勝手
に僕の布団を押し入れから出して五分もしないうちにすやすやと寝息を立て始めたのだ。そのとき僕
はそういえば楓は周りのことなどあまり気にしない性格だったなあとしみじみと思い出した。

 しかし僕は戸惑った。

 当たり前だ。女っ気のなかった僕の生活に「女」という理解不能な生き物が混入してきたのだ。
 目に見えておろおろとする僕に対して楓はいたって自然体であり、それまでと同じように僕に接した。
 何も変わらずに接してくれる楓のおかげで、僕は変に気を張るのも馬鹿らしくなりすぐに二人暮らしに
慣れることができたのかもしれない。

 ――もっとも、多少の色気は欲しい気もしたが。

581名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 02:18:11 ID:7DfFEYIU
「雅紀」
 ホワイトシチューの夕飯を食べ終え、二人交代で風呂に行き、いつものように二人自由な時
間を過ごしているとき。
 ぽちぽちとパソコンのキーを叩く僕に、かりかりとノートにペンを走らす楓は言った。
「コーヒー」
 たった一言。だけどそれは「コーヒーを用意しろ」という楓からの命令であり、僕に断る権限は
ない。
 言われてから切らしているコーヒー豆をまだ買ってきていないことに気付き、その旨を告げる
とがりがりとペンを走らす楓にぐちぐちと文句を言われた。
 代わりにバーゲンであまり飲みもしないのに衝動買いしてしまったココアを用意し、「甘すぎる」
と一蹴された。
「これが俺の楓へ向ける愛の甘さかな」
 ふざけつつ言ってみると、楓は目をまん丸くして僕を見ていた。
「……本気?」
「冗談。……すまん、謝るから、そんな叩くなって」
 ばしばしとそこらに置いてあったぬいぐるみ(ミニチュアダックスフンド・佐藤君。命名者・楓)で叩
かれながらもしてやったりとにやける顔を抑えきれず、その顔を楓に見られてさらに叩かれること
になった。
 叩いて叩いて、楓は急に叩くのをやめた。頭をガードしていた腕の隙間から見えた彼女の目には
憐れみというかなんというか、そういった感情が浮かんでいた。
「はあ……そんなこと言ってるから彼女できないんだよ」
「いんだよ。お前だって彼氏いないだろ」
 そう言うと、楓はつんと唇を尖らした。
「私はいーんですー。雅紀には関係ないんですぅー」
「負け惜しみ。……ちょ、図星だからって叩くな」
「うるさいうるさい、私にだって、私にだって、その気になれば彼氏の一人や二人簡単に」
「俺みたいなんかと暮らしてる時点で無理だって」
「うっさい!」
 何が気に入らなかったのか楓は佐藤君を放り出すと今度はぱちぱちと平手で僕を叩き始めた。
 当然手はぬいぐるみのように柔らかいわけではないのでそこそこに痛い。
「痛い痛い痛い! 手加減手加減!」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿………」
 言いながら楓は叩き続ける。
 部屋の隅に逃げるも部屋は狭い。四つんばいで逃げる僕の尻を同じく四つんばいで追いかけなが
ら楓は叩く。。
 追いつめられてばちばち叩かれること数十秒、楓はぴたりと叩くのをやめた。
「あーっ、すっきりした」
「俺はストレス解消の道具か」
「うん」
「うわぁあっさり言い切ったよ怖いよこの子」
「悪いか独り身」
 楓はにやりと意地の悪い笑みを浮かべている。
「お前もお前も」
「私はできないんじゃなくて作らないんですー」
582名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 02:22:51 ID:7DfFEYIU
「なんでさ」
「雅紀には関係ない」
 言いながら楓はぴしりとデコピンを僕の額に放った。
「痛い」
「それに、雅紀みたいに鈍感な人じゃわからないから」
 ずいといつも保つ距離よりずっと近い位置で顔をのぞき込まれる。真っ黒な瞳が僕の目をまっすぐ
に捉える。楓にまっすぐに目を見られるのはあまり得意ではない。
 軽く身を引きつつ、ふわりと香る楓の匂いにどぎまぎする。
「勝手に言ってろ」
 これ以上は耐えられないと僕は目を逸らした。距離が近すぎた。今の僕と楓のよくわからない関係
にはふさわしくない距離だ。
「あとなあ、楓」
「?」
「お前を彼女にするような物好きは滅多にいない。……いてっ」
 僕をもう一発叩いてから楓ははあと呆れたようにため息をもらす。
「でもね、雅紀」
 ココアの入った楓専用のスヌーピーの描かれたマグカップを手に取って、一口飲む。
「たまにはこんなのもいいと思わない?」

 そう言ってマグカップを床に置き、僕の肩に手を置き目をつむった。
 キスをしろということなのだろうか。


「あー……たまにはな」


 僕はそれだけ言って、ココアの味がする甘い唇にキスを落とした。
 


 ――続く。










 お目汚し失礼。
583名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 13:58:17 ID:ifO6jHSH
GJ!ちょっと最後は急展開だったけど、楽しめた! 

ところでスレの残り容量があとわずかなんで誰かスレ建ておねがいします。 
携帯からなんで建てるの無理っぽいです。
584名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 14:01:14 ID:XoWcs4C1
>>582
つづけーーーーー
585名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 17:47:55 ID:A60R4OKN
おk、立ててくるぜ
586名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 17:56:11 ID:A60R4OKN
なぜ立てられないorz 何もやってないのに
587名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 18:26:35 ID:ifO6jHSH
>>586
無理だったか…俺は今、仕事で出先だから明日にならないと建てれないんたよなぁ。 
明日までに建ってなかったら俺が挑戦してみるよ。
588名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 19:11:57 ID:wVILEcRZ
ちょっと試してくる
589名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 19:15:02 ID:wVILEcRZ
立てれました

気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第9章
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1206353662/
590名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 20:01:16 ID:NOp4viQS
ら抜き言葉に気をつけよう
591名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 20:09:23 ID:ifO6jHSH
>>589
乙!じゃあ俺は今から新スレ用のSS考えてくるよ
592名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 22:01:14 ID:kfQM4B3F
>>589
ぅ乙ッ!
593名無しさん@ピンキー:2008/03/27(木) 00:41:02 ID:T8VfrP0p
なによ、あいつ!!

転校してきた新洲 玲子(しんす れいこ)にばっかり引っ付いて!!

あんたがそのつもりなら、私だって他の男の子と…!!


…無理よね。私あいつにベタ惚れなんだから…。
はぁ、素直に「好き!!」って言いたいのになぁ………



という埋め。
お粗末。
594名無しさん@ピンキー:2008/03/27(木) 08:11:37 ID:qzda8rzV
乙です
595名無しさん@ピンキー:2008/03/28(金) 07:50:09 ID:q6IuDgTg
……何してんの?

えっ?埋めてる?
…見ればわかるわよ。
私が言いたいのはなんで『あんたが一人で』埋めてるのかってこと!!

…みんなが新スレ行って誰もいないから、残った自分がやるべきだ?
はあ…
ほんと、あんたってバカが付く程のお人好しなんだから!!
そんなんだったらこの先苦労するわよ!!


…貸しなさいよ。
一人でやるよりかは、二人でやった方が早いし楽でしょ!!

…あんたとの共同作業も悪くないしね……




埋まってくれ――!!!!!!
596名無しさん@ピンキー:2008/03/28(金) 18:43:32 ID:lXp+jo32
支援しまっす!!
597名無しさん@ピンキー
埋め立て