【処女】ボーイッシュ三人目【貧乳】

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1名無しさん@ピンキー
女の子なのに、服装、髪型などが男の子っぽい。
また、一人称が『僕』もしくは『俺』な女の子が好きな人の為のスレ。
一人称が『私』でもボーイッシュならそれでよし。

前スレ
【処女】ボーイッシュ【貧乳】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1148561129/
【処女】ボーイッシュ二人目【貧乳】
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『あくまで仮』の保管庫。
http://www27.atwiki.jp/boyish-eroparo/

ウィキがエロ禁止になるかもしれないらしいので、
保管庫を作ってくれる勇者を募集中。

ボーイッシュに萌え!
2名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 02:37:44 ID:02PziXqW
1乙!
少々早い気がしないでもないですが、ご苦労様です。
3690:2007/06/04(月) 03:53:52 ID:f7R9DQ/U
ファンタジー
エセ軍人物
エロ無し

 目覚めた――と言うよりは、意識を取り戻した、という表現の方が正しいだろう。
 クロルは丸太を押しのけるような心境でヴィクターの腕を払いのけ、乱れ切った着衣をのろ
のろと直しながらのっそりと起き上がった。
 ひどい目にあった――というのが、現在の全てである。
 腰が痛い、腕が痛い、足が痛い、喉が痛い、体の奥の方まで鈍く痛い。
 セックスはマッサージなどという戯言は、ヴィクターには通用しない。あれは間違いなく戦
闘だ。しかも、敗北するのは確実にクロルである。
 場所はホテルの一室。時刻は早朝だろうか。
 いつもならパンを焼き、カフェオレをいれて、シャワーを浴び――。
「嘘だろ――まずい! ヴィクター! 遅刻するぞ目ぇ覚ませ!」
 時計の短針を確認するなり、クロルは叫んでヴィクターの横っ面を殴りつけた。
 あぐ、と叫んでヴィクターが目を開く。顔を覆った指の隙間から時計を睨み、ヴィクターは
毛布を引き上げた
「んだよ……まだそんな時間じゃ――」
「こっから基地までどんだけかかると思ってんだ! タクシー拾えなかったら地獄だぞ!」
 怒鳴ってベッドから飛び降りるなり、腰から砕けてへたり込む。
 床に両手を付いたまま動かないクロルを寝ぼけ眼でぼんやりと見つめ、ヴィクターはようや
く起き上がった。
「……何やってんだ?」
 ぶつん、とクロルの意識の中で音がする。
 這うようにして背の低いテーブルににじり寄り、クロルは耐熱ガラス製の重々しい灰皿を手
に取った。
「足腰が――」
 思い切り振りかぶり、狙いも定めずベッドに向かって投げつける。
「立たないんだよ、この化物!」
 ごっ、と、わりといい音がした。
 息を切らせて睨み上げる。
 避けも受け止めもしなかったのか、ヴィクターが額から一筋の血を流し、未だに平然と寝ぼ
けていた。
「あー……」
 痛みも自覚していないのか、眠たげにがりがりと髪を掻き乱す。
「悪い」
「もういいよ馬鹿! とにかく起きろ! 服を着ろ!」
 おう、と答えて、だらだらと血を流しながら立ち上がる。
こうなると既にホラーだな、などと下らない事を思いかけ、クロルは慌てて自身に活を入れ
ると必死になって立ち上がった。――少し、膝が笑う。
「クロル」
「何だよ!」
「ここどこだ?」
 クローゼットがねぇぞ、などと本気でとぼけた事を言う。
 知るか、と一声怒鳴って辛うじて身なりを整えると、クロルはヴィクターを捨てて一人部屋
を飛び出した。

 早朝の繁華街は、クロルの同類で溢れていた。
 仕事を終えて家路へ付く娼婦達である。おかげで、この時間を狙って徘徊するタクシーも少
なく無い。
 クロルは一台のタクシーを止めて行き先を告げると、そそさと後部座席に乗り込んだ。その
窓を、コツコツと叩く物がある。
 無視して車を出させようとして、ふと、クロルは何かを感じて運転手を止めさせた。
 ドアの窓を下ろさせると、男がひょいと顔を覗かせる。ごくり、と喉がなりそうになるのを、クロルは苦労して制した。
「お嬢ちゃん、今夜もここに来るかい?」
 人の良さそうな笑みを浮かべた、白みがかった銀髪の男だった。元軍人か何かだろうか。趣
味で鍛えているにしては、筋肉の付き方が実用的だ。
 この男の事は、資料に無い――だが。
「来るよ。お兄さん、予約?」
4690:2007/06/04(月) 03:54:38 ID:f7R9DQ/U
「そうだ。今夜八時にそこの酒場で待ってろ。――昨晩の客は、常連か?」
「ん、よく来るよ。軍人さんだって。君もいい体してるよね、君も軍人?」
「あぁ、そんなとこだ。必ずいろよ、損はさせない」
「いいよ。じゃあ、今夜」
「あぁ」
 ぐ、と身を乗り出して、男の頬に唇を落とす。これ、サービス、と片目をつむって見せて、
クロルは運転手に車の窓を閉めさせた。
 出して、と命じるように低く言う。
 当たりだ――。
 クロルは内心ほくそ笑んだ。なる程、ヴィクターは餌としてはこの上なく魅力的だ。
 突貫部隊の大隊長――どんな些細な内容でも、この男が洩らした情報の価値は計り知れない。
様子見をする間もなく、食いつかずにはいられなかったのだろう。
 軍人が“昨晩”洩らした情報を、“一週間後”に娼婦が覚えている保証は無い。
 後はあの、名前も知れぬプラチナブロンドの男に取り入って、少しずつからめ取ればいい。
拷問などと無粋な手段を使わなくても、無知で非力なふりをして歩み寄れば、向こうから利用
しにかかってくる。
 ――任務の邪魔だなんて、とんでもない。
 昨晩の事は、全てチャラにしてやってもいい。その上、抱きついてキスしてやりたい心境だ。
あの調子でホテルで寝ぼけ続け、遅刻して来ようと決して責めまい。
 髪を手櫛で整えながら、はっと大切な事を思い出す、クロルは背後を振り返った。
「……カツラ忘れた」
高かったのに小さく零し、クロルは忌々しげに舌打ちした。


***


 自己嫌悪と、鈍く疼くような頭の痛み。気だるい疲労感。それらを覆い尽くすようにじわり
じわりと這い上がり、寂しいホテルの一室を埋め尽くすように広がる――絶望。
 やっちまった。
 やってしまった。
 弾けるような覚醒とは違う、真綿で首を絞めるがごとき緩やかな記憶の復活に、ヴィクター
は今にも頭を抱えて悲鳴を上げそうだった。
 原因不明の頭部の傷からとめどなく血が流れ、乾きかけた血液の上をまた鮮血がたれ流れる。
まずその傷を何とかしろと言わずにはおれない有様だが、今のヴィクターには自分自身に意識
を向ける余裕など欠片も無かった。
 死にたい。
 間違いなく嫌われた。
 最悪、怯えられている可能性さえある。
 顔を合わせた瞬間さっと表情を強張らせ、緊張した面持ちで道を譲られたら立ち直れる自信
が無い。
 そして声をかけるとびくりと肩を震わせて、なんの脈絡もなく『ごめん』などと謝るのだ。
 耐えられない。
 想像しただけで耐えられないのだから、現実に起こったら果たして自分はどうなってしまう
のだろう。
 そんな事を思いながら咆哮のような声をあげ、窓辺の金属格子に思い切り頭を打ち付ける。
5690:2007/06/04(月) 03:55:23 ID:f7R9DQ/U
 じん、と痺れるような痛みがじわじわと全身に染み渡り、ヴィクターはともすれば吹き出し
かねない勢いで溢れ始めた血液を無視し、眩しげに窓の外を眺めた。
 走ろう。
 ここから基地まで、何も考えず全力で走れば数十分で付くはずだ。
 新たに出来た傷から惜しみなく流れる血液をぐいと拭い、ヴィクターは覚束ない足取りでホ
テルの部屋を後にした。

 ***

 誰一人、駆け寄る事は愚か声をかける事も出来なかった。
 恐ろしい大事件の前触れか。もしくは既に起こってしまった惨劇の爪痕か。屈強な軍人達は
ただ遠巻きに固唾を飲んで、息を切らせて廊下を歩く血まみれの大隊長を見送った。
 思いつめた瞳は鋭く、疲労と出血で足取りは覚束ない。
 廊下を曲がり、彼が階段に片足をかけた時、誰かがあ、と叫んだ。
 その声が指差す先を、居合わせた者全員が振り仰ぐ。
 指差された少年――否、少女は愕然と、血まみれの男を見下ろした。男と視線が合うなり、
ひ、と叫んで後ずさる。
 そして、遠巻きに見守る者達をねめつけ、一括した。
「見世物じゃないんだぞ! びびってる暇があったらとっとと医務室に連れて行け!」
 衛生兵、衛生兵、と声を荒げて走り出す。
 ヴィクター少佐とクロル曹長の、微笑ましい日常のワンシーンである。


 出鼻をくじかれた、と言おうか。
 あらゆる発言のタイミングを逸した、と言うべきか。
 医務室から出てきたヴィクターが「頭蓋骨骨折だとよ」と憮然として言った時、クロルは全
ての言葉を失った。
 呆れた――と言うのももちろんあるが、後ろ暗い事がある、というのが大きな原因だろう。
「畜生あの野郎。思いっきり乱暴に扱いやがって」
 頭に包帯をぐるぐる巻きにして、ヴィクターが腹立たしげに吐き捨てた。
 顔面をべったりと汚していた血液は綺麗に拭い去られ、平然と歩く姿はとても怪我人とは思えない。
 長い廊下と階段を経てようやく辿り着いた大隊長室で三人掛けのソファに仰向けに横たわり、
ヴィクターは血まみれのシャツを脱ぎ捨ててゴミ箱に放り込んだ。
 やはり、原因はあの時投げた灰皿だろうか。
 それにしては、傷が多すぎるような気もするが。クロルは内心冷や冷やしながら平静を装って、
ヴィクターの傷をうかがった。
「なんか、妙にくらくらする」
「あたりまえだろ! ったく、頭から血ぃ垂れ流しながらフルマラソンするかね普通。そんな
に目立ちたいわけ?」
「そんなんじゃねぇよ! いや、昨日……お前に、全然優しくして、やれなくてよ……」
 自己嫌悪で、とか、後悔が、とかぶつぶつと口の中で繰り返す。
 鉄格子に思い切り額を叩きつけ、後悔と自責の念を振り切りたくて人目も気にせず走ってき
たのだと視線を反らしたヴィクターに、クロルはほっとすると同時に激しい虚脱感に襲われた。
「純情可憐」
 思い切り責める様な口調で鋭く怒鳴り、クロルはヴィクターが手当てを受けている間に買っ
ておいたスポーツ飲料のペットボトルを投げ渡した。
6690:2007/06/04(月) 03:56:13 ID:f7R9DQ/U
「冷蔵庫に何本か入れてあるから、ちゃんと水分とっとけよ。あと、着替え。制服ここに置い
とくから。今日はトレーニング禁止。いつもトレーニングルームにこもる時間はソファで横に
なってる事。いいね?」
「退屈じゃねぇか」
「訓練生でも雑談相手によこそうか? 目ぇつぶってれば寝られるよ。じゃあ僕、仕事がある
からもう行く。一時間後にまた来るから、その時までに着替えとく事。デスクの書類には全部
目を通しておいて。重要な奴だけ選別してあるから絶対に読んどけよ」
 あぁ、とかおう、とか、聞いているのかどうか怪しくなるような返事を返し、ヴィクターが
ペットボトルを傾ける。
 ほとんど一口で飲みきってこれもゴミ箱に放り捨て、ヴィクターは背を向けかけたクロルを
呼び止めた。
「……怒ってるか?」
 不安げな声色に、クロルが片眉を吊り上げる。
「当たり前だろ! 君は大隊長なんだぞ! 自虐癖だか気合入れだかなんだかしらないけど、
限度って物をわきまえろよな! 頭蓋骨骨折なんてもっての他だ!」
「いや、その事じゃなくてだな」
「まだ何かあるの!? あぁ、やめて聞きたくない。とにかく君は何も考えずに仕事しろ。昼
は外に食べに行くから、勝手に食堂行くなよ。とにかく血の量と濃度元の状態に戻すんだから」
 レバーでも食わせて鉄分なりたんぱく質なりしこたま摂取させてやる、と捨て台詞を吐いて、
クロルはヴィクターを置いて大隊長室を後にした。


***


第二師団における第三特殊編成部隊――情報支援部隊内に設けられた諜報課の一室に、一方
的な重苦しい沈黙が流れていた。
 ふむ、と眉間に深く皺を刻み、デスクに座って書類を睨んでいるのはアルベルト大尉。少し
離れた応接用のソファにふんぞり返り、高級品のクッキーと紅茶を遠慮なくいただいているの
はクロル曹長である。
 アルベルトはクロルからの報告書に目を通し、抱え込んだ心労を少しでも吐き出そうとする
ように、深々と溜息を吐いて天井を仰いだ。
「……芳しくないな。少し、調べさせてみたが」
 撫でるように顔面を覆った指の隙間からクロルを見、書類をデスクに放り捨てる。
「数年前――まぁ、別の支部だが、軍人が小隊規模で退役するというちょっとした騒動があっ
た。その騒動の首謀者は三人。小隊長とその副官、それと一人、参謀的な意味合いで信頼を得
ていた分隊長だ。数時間では写真を手に入れるだけで精一杯だったが――」
 黒髪に近い濃い茶髪に、ひどく投げやりな印象を受ける髪と同色の瞳。これで無精ひげが生
えていたら完璧に、職を失った中年男である。
 しかもそれに一家心中間際の――がつくくたびれっぷりだ。
 口の中でころころとキャンディーを転がしながら、アルベルトは写真を一枚、すいと空中に
滑らせた。
 狙い寸分違わずに、クロルの正面の机に辿り着く。
 そこには、確かに今朝言葉を交わした銀髪の男が、軍服を着て立っていた。
「これがその分隊長だ――君が接触したのはこの男だろう」
「まさか、僕の証言だけで特定したんですか?」
「老人を除けば、この街の住人に銀髪は六人しかいない。うち4人は女性で、残りはでっぷり
と太った中年と年端もいかない少年だ。よって、若く健康で背が高く、よく引き締まっていて
なおかつ銀髪の男はこの街ではすこぶる目立つ」
 ガリ、と音を立て、キャンディーを噛み砕く。透明なキャンディーボックスの中から毒々し
い緑色をした物を選び出し、アルベルトは無造作にそれを空中に跳ね上げた。
 すとん、と口の中に落ちる。
「どこぞの店の防犯カメラに写っていた君の証言と合致する男をちらと調べてみたら、さっき
の集団退役事件に行き当たったと――そういう事だ」
7690:2007/06/04(月) 03:56:58 ID:f7R9DQ/U
「ほん……っとに元軍人かよ……」
「調べる側としては、相手が少数因子である事はありがたい。どこぞの村の農家の息子では、
調べるのに苦労するが、元軍人ならば夜までに大概の調べは付くだろう。どうだ曹長。この男
に間違いないか?」
「間違いありませんよ、この男です」
 そうか、と頷き、腹の上で指を組んで深々と椅子に背を預ける。
「という事はつまり、相手は最低でも小隊規模の軍人という事になる。あぁ、全く芳しくない
な。調べやすいが、攻略しがたい。曹長、君はよく軍人だとばれなかったな」
「はぁ……いや、ばれなかったの……かな?」
 あるいは――。
「ばれたから目を付けられた――か」
 ちら、と死んだ魚のような目がクロルを捕らえる。
 どっと肩に緊張感が圧し掛かった。
「まぁ、大隊長という餌に食いついた可能性も否定しきれん――昨夜、ちゃんと落ち合えたん
だろう?」
 何気なくふられた話題にぎくりとして、クロルは紅茶を傾ける手を止めた。
 そうだった。昨晩、ヴィクターは諜報部隊の誰かを怒鳴ってクロルの居場所を聞いたのだ。
「あの……その節は、ご迷惑を……」
「待ち伏せていた大男に暗がりに連れ込まれ、鬼の形相で“穏やかに”怒鳴られたそうだ。現
場を見に行ったら壁が一部損壊していた。頬の横すれすれに拳を叩きつけられた時、死を覚悟
したらしい。私は情報を洩らした事を責めなかったよ。それ以上情報の保守を続ければ彼は“使
い物にならなく”されていたと私は確信している」
 物理的にか、精神的にかは私にも判断しかねるがな、と独り言のように呟く。
「なに、彼に付いた副官の中で唯一長続きしている貴重な人材だ。彼が君を気にかける気持ち
もよく分かる。――が、あの様子では、例えば諜報活動中の不慮の事故で君が殉職した場合、
私を含む諜報課全員の命が危うい」
「いえ、いくらなんでもそこまでは……」
「大げさだと思うか?」
 疲れきったように呟き、デスクの引き出しから一枚の書類を取り出す。
 それにさらさらとペンを走らせながら、アルベルトは再び飴玉を噛み砕いた。
「今夜君が向かう先は、あるいは敵の罠のど真ん中かもしれん。悪ければ、君はひどい殺され
方をする。保険をかけておいた方がいいが、生憎こちらは人手がたりん」
 最後にさらさらとサインを走らせ、その上から四角い判をおす。
 書類を三つ降りにして封筒に押し込むと、これは投げずに静かにクロルに差し出した。
「ヴィクター少佐に渡してくれ。人手を貸して欲しいという旨が書いてある」
「はぁ……あの、でも、人手だったら第一師団の別の部隊から調達した方が――。こんなもの
見せたら、それこそ大尉の命が危ないですよ」
「それは、それを少佐に見せれば分かる事だ。君はそれをヴィクター少佐に読ませる事だけを
考えてくれればいい。所でこれは個人的な興味から聞くんだが――」
 ぎし、と椅子を軋ませて、アルベルトは椅子の背に全体重を預けてにやりと口角を持ち上げた。
「君とヴィクター少佐がそういう関係とは思いがたい。昨晩、君達は“やった”のか?」
「大尉!」
 咎めるように睨むと、アルベルトは両手を上げておどけて見せた。
「以上だ。曹長。封筒を忘れるなよ」


***

 クロルの管理下にありさえすれば、大隊長室は実に居心地のいい空間だった。
 先日の騒動でデスクの一部が損壊してはいるが、ソファは上質の革張りであり、掃除が行き
届いた室内は広々としていて実に清々しい物である。
8690:2007/06/04(月) 03:57:46 ID:f7R9DQ/U
 いつもならトレーニングルームにこもり汗を流しているこの時間――ヴィクターはソファに
体を投げ出して大人しく書類を読んでいた。
 常識的に考えれば明らかに怠惰だが、ヴィクターを知る者が見れば気を失いかねない勤勉ぶ
りである。
 クロルにあてがわれた書類を全て滞りなく読み終えて、ヴィクターはプレートに挟まった紙
切れに最後のサインを書き込むと、それをテーブルの上に投げ置いた。
 仕事。終わり。
 驚くべき事である。いつも面倒だと思っていた書類仕事が、一時間と経たずに終ってしまった。
これを数時間こなしても終らないほど溜め込む自分に驚愕する。
 副官室は大隊長室の隣にあり、二部屋を隔てる壁には隣室に直結する扉がある。 折角退屈
なのだ。いつもクロルに押し付けている書類をいくらか自分でこなしてもいいだろう。
 ヴィクターはのっそりと立ち上がり、クロルに『本当に用事がある時以外使用禁止』だと釘
を刺されているドアに歩み寄った。
 ノックも声を掛ける事もせずに無遠慮に押し開けると、真っ先に誰もいないデスクが目に入る。
 部屋を見渡して誰もいない事を確認し、ヴィクターは落胆した。
 かといってそのまま戻る事もせず、主のいない部屋に入り込む。
 相変わらず、何もない部屋だった。
 備品の花瓶に無愛想に造花が刺さっているだけで、装飾品の類は一つも無い。無意味にうろ
うろと歩き回り、デスクの上に積み重ねられた分厚い書籍の内の一冊を手に取ってみる。
 古びた戦術教法だ。その他の本を見てみても、クロルが読むには初歩的過ぎるような本ばか
りである。
 訓練生のための教材だろうか。
 クロルが教官を引き受けて、そろそろ二ヶ月になる。
 やりたい、と言うから好きにしろ、と答えたが、考えてみれば副官と教官のダブルワークで
ある。一応交代制という事になっているらしいが、よく続けられるものだと感心する。
 自分は凡人で有能では無い、とクロルは言ったが、やはりヴィクターはそう思わなかった。
 訓練生にも慕われているし、アウラもウィルトスも――何より自分がクロルを認めているで
はないか。
「主の不在に、乙女の仕事場を物色なんて趣味が悪いですよ、少佐」
 驚いてギクリと身が竦み、その表紙に積み上げてあった本を盛大に床にぶちまけられた。
 恐る恐る背後を振り返り、呆れ顔のクロルと対面する。
「わ、悪い……その、つい暇で……」
「何か面白いものは見つかったかい?」
 からかうように言いながら、クロルが床に散らばった本に歩み寄る。
 棒立ちだったヴィクターが慌てて場所を空けると、クロルはしゃがみこんで本を拾い集めた。
「まだ、ここに来てから五分も経ってねぇよ! その……書類、読み終わっちまったからよ、
なんか仕事あるかと思ってよ……」
「へぇ、終らせたの? 偉いじゃん。頭打ってまじめになったの?」
 大きく目を見開いて、想像していた通りのことをクロルが言う。
 再びデスクに本を積みなおし、それじゃあ、とクロルは手に持っていた封筒をヴィクターに
手渡した。
「なんだ、こりゃ」
「うん。アルベルト大尉からの依頼書」
「破いて捨てとけ」
「早とちりするなよ。君宛てだ」
 早速封筒ごと破り捨てようとした所に、クロルの鋭い制止が入る。
 誰が読むか、と吐き捨てようとすると更に鋭く睨むので、ヴィクターは仕方なく封筒から書
類を引っ張り出した。
9690:2007/06/04(月) 03:58:30 ID:f7R9DQ/U
「それ読む前に、隣行こうよ。この部屋応接セット無いんだから」
 立ちっぱなしじゃやりにくい、と大隊長室に押し戻される。
 コーヒーいれるから読んでおけ、と言われて大人しくソファに座り、ヴィクターは字面に目
を走らせた。
「どうも僕の命がかかってるみたいだから、それなり真面目に検討してね。でないと僕、こわ
ーい元軍人さんに慰み者にされて殺されちゃーう」
 洒落になら無い事を冗談ごとの様に言う。
 ヴィクターはコーヒーメーカーが唸る音を聞くとも無く聞きながら、流すように読み終えた
書類を三つ折に戻して封筒に押し込んだ。
「ちょっと急用だ。諜報課行ってくる」
 コーヒーを片手に、クロルが愕然とヴィクターに振り向いた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待った! 早まっちゃだめだ! 大尉は有能な人だから、あの人が死
ぬとこの支部全体に大変な影響があるような気がする!」
「何の話だかわからんが心配すんな、すぐ戻る」
「いやいやいや。今正に人を殺さんとしている上官を黙って行かせるほど僕は臆病じゃないぞ。
いくら命令だって言われてもこればっかりは――!」
「クロル。仕事だ。邪魔すんな」
 う、と唸って、クロルがぴたりと口を閉ざした。
「でも……でも、君、一人で行かせたら絶対何かするだろ?」
「お前の命がかかってるから真面目に検討しろっつったのお前だろうがよ。必要な物が諜報課
にあんだよ。それを借りてくるだけだ」
「じゃあ僕も――」
「付いてくんな。ここにいろ」
 絶対に、何かよからぬ事をするに違いない。
 あからさまに信用していない目つきで、クロルはヴィクターをじっと睨んだ。
「三十分で戻る」
「あ、ちょ、ちょっと待ッ――!」
 クロルの言葉を最後まで聞かず、ヴィクターは絶対付いてくるなと念を押すようにわざと静
かにドアを閉めた。

 
 一人部屋に取り残され、クロルは落ち着かない気持ちでコーヒーを飲み干した。
 怒ってはいなかった――ように思う。
 せめて書類になんと書いてあったか分かれば、ヴィクターの行動の理由も想像がつくだろう
が、生憎書類はご丁寧にヴィクターが持ち去ってしまった。
 三十分後、ヴィクターが返り血を浴びて戻ってきたらどうしよう。
 生きた心地のしないまま、クロルは執務室に戻って書類を弄ったり、無駄に本を開いたりし
てヴィクターの帰還を待った。
 そして三十分が経過した。
 だが、ヴィクターは戻ってこない。
 ヴィクターが戻るが早いか、突如勃発した仲間殺しの大事件に基地全体がひっくり返るのが
先かとクロルが手に汗握り始めた時である。
 何事も無かったような穏やかさで、いつも通りに大隊長室のドアが開かれた。
「お……お帰り」
 かすれた声で消え入りそうな声を出す。
 おう、と答えても部屋には入らず、ヴィクターは顎をしゃくってクロルに退室を促した。
「今日は上がっていいぞ」
「……え?」
「今夜、ターゲットと接触するんだろ。昨日ろくに寝てねぇんだから、帰って寝とけ」
「いや、それはありがたい……けど、でもまだお昼にも……」
10690:2007/06/04(月) 04:01:02 ID:f7R9DQ/U
 珍しく、ヴィクターが上官だった。
 対応に戸惑って時計を睨むと、あぁ、昼か、とヴィクターが呟く。
「じゃ、飯行くか」
「いや、そういう問題じゃ無くて、仕事……」
「今の時期そんなに忙しかねぇだろうが。お前に言われた書類も全部処理したし、俺はお前の
いない一週間を無事に過ごしてる。半日お前が休んだって死なねぇよ」
 行くぞ、と言ってドアを開けけたまま再びクロルに退室を促す。
 何か引っかかる物を感じるが、ヴィクターの言う事はもっともだ。終業時刻からターゲット
との待ち合わせまで、それ程時間的猶予は無い。
半休扱いにしてもらえれば、精神的にも随分楽だ。
「じゃあ……まぁ、そうしよう……かな」
「おう、そうしろ」
 に、と笑うヴィクターの前を通り過ぎて廊下に出る。
 部屋に通じる全てのドアをロックして歩き出し、傷の具合はどうだとか、何処に食べに行こ
うか等と、他愛の無い言葉を交わしながら歩いていると、ふと、ヴィクターが足を止めた。
 つられてクロルも立ち止まり、向かい合う形でヴィクターを見上げる。
「……何してんの?」
「不安か?」
「……はい?」
 突然の問いに、クロルは思い切り怪訝そうに問い返した。
 ヴィクターの視線に真剣さを汲み取って、んー、とわざとらしく考え込む。
「そうだね。今回は、ちょっとね」
 クロルが軍人である事が向こうに知られている場合、相手の行動で考えられるのはクロルに
対する懐柔か、強制か、殺害だ。その他のパターンがあったとしても、無事に何事も無く帰し
てもらえる――というパターンだけは存在しないだろう。
ぽん、と頭を叩かれる。
 何、と問おうとしたクロルの髪を、ヴィクターは子供のようにぐしゃぐしゃと掻き乱した。
「ちょ、ちょ! 何だよいきなり、やめろよ!」
「大丈夫だ。ぜってー守ってやる」
 自信たっぷりに、ヴィクターが笑った。
 唖然として見上げたクロルの頭を、子供にするようにぽんぽんと叩き、何事も無かったよう
に再び歩き出す。
「ちょ……っと待てよ! 何だよそれ! 僕は君になんか守ってもらわなくても、自分の身く
らい自分でちゃんと守れるよ!」
 慌てて追いかけて隣に並び、クロルはヴィクターの失言に声を荒げた。
「あぁ、分かってる」
「嘘だねー! 君、僕の事弱いと思ってるんだ」
「俺に比べればな」
「それは単体の戦闘力だろ! 射撃は僕の方が上手いじゃないか!」
「あぁ、そうだな」
「そうやって聞き分けのいいふりすんのやめろ! ムカツク!」
「そうか、悪い」
「ヴィクター!」
 瞬間、ヴィクターが思い切り吹き出した。
 空を見上げてゲラゲラ笑う上官を顔を真っ赤にして睨み、向こう脛を思い切り蹴りつける。
 巨体が傾いた所に思い切り拳骨を叩き込み、クロルは崩れ落ちたヴィクターを置いて歩き出した。

                          切らせていただきます。
ワードで換算してからバイト数間違ってました。
これなら普通に前スレに投下できたな……申し訳ない。
11名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 09:32:00 ID:G3R6W/Q4
な、なんだってー(AA略

そうか。残り少ないのか。…そうか。
続きが読みたくていてもたってもいられないくらいなんだが
あと少ししかないと思うと終わるのが切なくて読みたくない。
貧乏ゆすりしながら待ってます。
12名無しさん@ピンキー:2007/06/05(火) 17:25:53 ID:l/+AqEAg
ヴィクターがんばってくれ。
13名無しさん@ピンキー:2007/06/06(水) 21:39:21 ID:6L/xsvG3
つ、続きを…
14690:2007/06/07(木) 02:05:47 ID:olpJY1fD
ファンタジー
エセ軍人物
ターゲット×クロル
本番有
やや陵辱
ヴィクター×クロル
寸止め。陵辱気味
投下します。

 時折、考える事がある。
 例えば自分が死んだ時、嘆き悲しむ者が何人いるか。果たして何人の友人が涙を流し、どれ
だけの期間、その人の心に巣食い続けてしまうのか。
 その数は少なければ少ない程いいし、その期間は短ければ短い程気が楽だ。
 故郷にいる家族には、自分の死の報告さえ行かないから構わない。
 ウィルトスはきっと、誰が死のうと悲しんで、誰が死のうと干渉されない。
 訓練生は少し、ショックを受ける事だろう。だが、教官の死という事件によって、軍人であ
ると言う自覚も芽生えるだろう。きっと彼らは強く生きていく。
 何人もの同僚。何人かの友人。みな、関係の薄い友人の死に絶望するほど弱くない。
 最後に、ひどく不安になる男がいた。最も身近な上官。ただ一人の親友。
 やはり、あの男は泣くだろうか。
 あぁ、きっと少女の様に泣くのだろう。あの泣き顔はあまりにも卑怯だ。あんな風に泣かれ
ては、とても冷静ではいられない。
 ジュースのような酒をストローで吸い上げながらクロルはちらりと時計を見た。
 ヴィクターの泣き顔は見たくない。例えこれが罠だとしても、平然と生きて帰って、当たり
前のように笑ってやろう。
 そうして、「ほら、君なんていなくたって僕は自分で自分を守れる」と言い捨ててやるのだ。
 唇を吊り上げて含み笑いを零すと、ふいにカウンター席の隣が埋まった。
 何の気なしに視線を投げる――無意識に、あ、と零していた。
「早いな。娼婦は時間にルーズだと思ってた」
 ブランデーを注文し、カウンターに肩肘をついてクロルを見る。
「んー。かっこいい男の人の予約だから、待ち遠しかったから」
 自分でも寒気がする程上っ面だけの台詞をはいて、クロルは無邪気に笑って見せた。
「名前は聞く方? それとも、お互い全部秘密にするタイプ?」
「両方だ。俺は全部秘密にする。でも、そっちの事は全部知る」
「それって、なんかずるいんじゃない? 不公平って言うんだ、僕はそんなに頭悪くないんだよ?」
 くすくすと笑いながら、ストローを咥える。
 男はブランデーを一息で飲み乾し、立ち上がった。
 手を引かれて立ち上がり、甘やかすように腰を抱かれて歩き出す。
 向かった先はありふれたホテル。部屋を取り階段を上がる途中、クロルは緊張を隠せている
か不安で仕方なかった。
 部屋で男の仲間が待ち伏せていたり、少しでも攻撃されそうな雰囲気を察したら、戦おうな
どと馬鹿な事は考えずに一目散に逃走しよう。
 そして辿り着き、入室を促された部屋は、当然の事だが誰も待ち伏せてはいなかった。
 ベッドが一つ。鏡が沢山。
 壁とベッドに鎖付の手錠があり、ご丁寧に天井にも鏡がある。
「奴隷、できるんだろ?」
 耳元で囁かれ、クロルはぎくりとして肩を震わせた。
「……ご主人様って、呼べばいい?」
 背後から抱きすくめられ、首筋に唇が落ちる。昨晩、ヴィクターが痕を付けたのと同じ所に、
男はわざと唇を落とした。
「っ……ん」
 嫌な気分だ。
 ウィルトスにやられた時は不快ではなかったはずなのに、他の男に奪われる事に激しい苛立
ちを覚える。
 だが、クロルは堪えた。キスを求められ、応じて自ら唇を合わせる。舌を絡めて男の唾液を
飲み下し、瞬間、クロルは突き飛ばされるようにベッドに倒れこんだ。
15690:2007/06/07(木) 02:06:34 ID:olpJY1fD
「痛がらせるの、好きなの?」
「そうじゃない。ただ、身動きできない女ってのに興奮するだけだ。腕上げろ」
 ここで、大人しく自由を奪われるのは危険な気がした。
 何か言い訳を考えて、拘束をかわせないだろうか。
 クロルが戸惑った表情を浮かべると、男はいらだった様子も無く、無言でクロルの腕を束ね
上げて手錠をかけた。
「ねぇ、縛るのって、別料金」
「いくらでも払ってやるよ」
 舌なめずりして自信たっぷりに言い放ち、上半身の衣服を全て脱ぎ捨てる。
 事務的とも言える手際でクロルのスカートと下着を脱がし、最後に上着の前の完全にはだけ
させて値踏みするように目を細めた。
「へぇ……よく引き締まってる。格闘技でもやってんのか?」
 言いながら、胸、腹部、太腿と、確認するように手の平で撫でていく。
 ちょっとだけね、と曖昧に答えると、男はさして興味を持った風もなく、クロルの両足を肩
口まで抱え上げた。
「昨晩は随分激しかったみたいだな……知ってるか? お前の常連さん、軍隊の少佐殿だぞ」
「し……知ってるよ。ぁ……よく、いろいろ、話して……っ」
 昨晩ヴィクターがしたのと同じ場所に、別の男の舌が這い回る。
 不愉快な気分とは裏腹に体は快感に正直で、クロルはわざと演技めいた喘ぎを上げた。
「色々……か。例えば?」
 どうやら、クロルの素性はばれていないようだった。
 当然と言えば、そうだろう。まさか諜報活動の前線に、別部隊の少佐が関わっているとは考
えまい。
 ヴィクターに無駄な心配をさせてしまった事になる。
 例えば、と問われて、クロルは小さく首を左右に振った。
「わかんな……いろいろは、いろいろ……」
「わからないわけ無いだろ。昨日の今日だぞ?」
 面白がるように、男が笑った。
 下腹部がじくじくと疼き、クロルはもどかしげに身を捩った。
「思い出せないか?」
 クロルの両脚を肩に担ぎ上げたまま、男が断りもせず乱暴に中に突き入れる。
 痛みは無かった。十分に濡れている。
 そのまま音を立てて乳首を吸われ、クロルは鎖の音を響かせて全身を引きつらせた。
「そ……そこ、やぁ……!」
「へぇ、ここ。好きなのか」
 ちろちろと舌先でくすぐられ、焦らすように中を浅くかき回される。
 ふと、天井の鏡に映った自分の姿が目に入り、クロルはたまらず目を反らした。
「答えろよ。ほら、それくらい分かるだろ?」
 ぐいと、乱暴に奥まで貫かれる。
 食いしばった歯の隙間から唾液がこぼれ、クロルは激しく首を左右に振った。
「す、好き、なんかじゃ……」
 言った瞬間、前歯で挟むように甘噛みされる。
 がしゃん、と手錠が激しく音を立てた。
「じゃあ、こんな事されても平気だな?」
「や……やめ……っ」
 口と指の両方を使い、左右を同時に責められる。
 自覚するほどきゅうきゅうと膣が締まり、男が面白そうに肩を揺らした。
「素直な体じゃないか。いいなぁ、あいつ。締まりもいいし、何より強情なのがたまんねぇ」
「ふぁ……ッだ、だめ、だめぇ……! か、噛むの、やめ……ッ」
「はは。おいおい、こんなに感じてくれるなんて、ちょっとサービス過剰じゃないか? お前、
誰が相手でもこんな風に感じるのか?」
 半ば呆れたような声色だった。
 胸を離れて鎖骨を通り、首筋を伝って舌が耳たぶに辿り着く。
 クロルが質問に答えずに逃げるように顔を逸らすと、男が飛びっきり、甘やかすような声で
囁いた。
16690:2007/06/07(木) 02:07:19 ID:olpJY1fD
「答えられないか? さすが、秘密主義だな――副官殿は」

 血が凍った。
 愕然とする間もなく、叩きつけるように貫かれる。
 快楽か、怒りか、屈辱か――クロルの口から悲鳴は洩れず、代わりに、引きちぎらんばかり
に鎖が鳴った。
「悪いな、お前が盗聴器つけてないのも調べてあるんだ。そっちも俺達の事は調べてあるんだ
ろ? 所詮は“元”って侮ったか」
 その通りだった。
 単独で諜報活動に当たる者は、申請しない限り特に装備は与えられない。作戦上必須と考え
られた時のみ初期装備として与えられが、基本は全ての状況を自分一人で打開する事を求めら
れる。
「チクショウッ! 殺してやる! てめ、許さなっ……クソッ、あぁ、や……ふぁあ……!」
「そう、怒るなよ……! はは、あぁ、たまんねぇ。後で交渉しよう。情報の、取引だ……! 
悪い話じゃないだろ? なぁ?」
 嫌だ。
 この快楽は欲しくない。
 こんな男相手にいきたくない。
 食いしばった歯が軋んだ。痺れた手首にはもう感覚が無く、ただ、漠然と痛い。

 ヴィクターならこの鎖、平然と引きちぎるんだろうな――。

 ギィン、と、金属の弾ける音がした。
 何、と思う暇もなく、引き剥がされるように男の体温が遠ざかる。
 がは、と空気と共に水っぽいものを吐き出す音がした。
 手錠に体を引き寄せるようにして、ようやっと身を起こす。
 恟然として、クロルは血飛沫が壁に散るのを凝視した。
 拳の一撃で、歯が根元から圧し折れる。倒れた体を無理やり引き立て壁に押し付け、逃れよ
うと突き出された手を掴み、平然と握りつぶした。
 ぎゃぁあ、と、悲鳴が上がる。
 その腕を掴んだまま引きずるようにして歩き、突然の侵入者は男をソファに座らせると自分
もその正面に腰を下ろした。
「ヴィ……クタ……」
「悪いな、今のは特に拷問でも何でもねぇ。ちょっとしたうさばらしだ。怒るなよ」
 ははは、と笑う。
 その声に、クロルはぞっとして口を閉ざした。
「喋れるか?」
「なんで……あんたが出てくる」
 答える代わりに、男がくぐもった声で聞いた。
 口の中に溜まった血液と共に、折れた歯を床に吐き捨てる。ヴィクターは驚いたように眉を
上げ、次いで痛そうに顔を顰めた。
「あぁ、奥歯まで折れただろ。悪い。まったく、顔面殴るなんざどうかしてる。これじゃまる
でド素人だ」
 自身に対する叱責と共に立ち上がり、傷の具合を見るように腰を曲げて男の顔を覗き込む。
 瞬間、再び男が絶叫した。
 ヴィクターは何もしていない。ただ、砕けた腕に体重をかけ、腰を屈めただけである。
「つまりそれくらい、俺は冷静じゃない。立場を間違えるな。質問してるのは俺だ。わかるな?」
「軍人を拷問したって無駄だ。あんたも軍人なら分かるだろう」
「あぁ。人間は間違いなく痛みと恐怖で屈服する。お前も軍人なら分かるだろ?」
 面白がるようにヴィクターが聞いた。
17690:2007/06/07(木) 02:08:07 ID:olpJY1fD
 それは、どんな手を使ってでも痛みと恐怖で屈服させるという宣言だった。男がごくりと息
を飲み、視線を逃がす。
 そして――。
「……何が聞きたい」
 あっけなく、男は屈服した。
 懸命な判断と言えるだろう。肉体的、精神的なダメージを蓄積し、冷静でない頭で口を
割ってしまうよりは、現状のまま情報を小出しにした方がはるかにいい。
 元々、この男はクロルに情報交換を持ちかけに来たのだ。その程度の情報なら、洩らしても
構わないと踏んだのか――。
「どうやったら、お前らの組織を潰せるか」
「俺達は元軍人だぞ……! 司令官がいなくなれば、別の誰かが指揮を取る。全員捕まえるか
殺さなきゃ、幹部だけ捕らえたって無意味――」
「じゃあそのやり方を考えろ。五分やる」
 横暴に言い放って、ヴィクターはクロルに振り向いた。その背中に、男が力なく問いかける。
「俺はどうなる……」
「うまい方法を考え付いたら無罪放免で帰してやるよ。五体満足とはいかねぇかも知れねぇが、
まぁ殺しゃしねぇ。――クロル、平気か?」
 問われても、頷くのがやっとだった。
 そうか、と、安心したように笑い、ヴィクターはベッドサイドに鎖で吊り下げてある鍵を見
つけてクロルを手錠から解放した。
 ぬるりとした感触。
 擦り切れた皮膚から血が滲み、クロルの手首をじっとりと赤く濡らしていた。
「シャワー浴びて来い。後は俺がやっとく」
「……盗聴、してたの?」
「後で話す」
 くしゃりと髪を撫でられて、クロルはのろのろと立ち上がった。命じられるままにバスルー
ムに閉じこもり、蛇口を捻る。
 念入りに髪を荒い、泡を落とさずに目の細かい櫛で髪をすく。一度すくごとに櫛の目を確認
し――ようやく、クロルは見つけた。
「……これ、借りに行ったわけだ」
 普通に髪を洗っても取れない、高性能の小型盗聴器だ。
 溜息と共に、湯船にずるずると座り込む。
 シャワーの滝に打たれながら、クロルは頭を抱えて丸まった。


 ***


 結局、ヴィクターが心配して様子を見に来るまで、クロルはバスルームから出なかった。
 部屋に戻ると男はやはりそこにいて、恐らく、気を失っていた。
 アルベルトにはもう連絡が済んでおり、明日の朝までには全ての用意が整い、多くとも一週
間以内に全てが片付くだろうとヴィクターが教えてくれた。
 それを、クロルは一言も返さずにただ聞いた。

 男を部屋に残してホテルを後にし、二人並んで夜道を歩く。
 アルベルトと相談し、クロルが軍人だと知れていた場合、すぐさま助けに入るというシンプ
ルかつ確実な保険を掛けたのだと言う。
 いつから、と短く問うと、昼前、お前の髪に触った時、とヴィクターも短く答えた。
 それからは無言でタクシーを拾い、二人は基地まで口を利かなかった。
 どちらかというとクロルの雰囲気が、ヴィクターに発言を許さなかった。

 そして、分かれ道に差し掛かる。
 クロルがそれじゃあ、と呟いてヴィクターに背を向けるが、ヴィクターはそれを許さなかった。
18690:2007/06/07(木) 02:08:57 ID:olpJY1fD
「言うと、お前がやりづらいって……大尉と相談して、黙っておく事に決めたんだ」
 盗聴器の事である。
 クロルは歩き出した足を止めて振り返り、平然と頷いた。
「だと思った」
「悪かった」
「何が? 上官が作戦を決めて、僕はそれに従って、それで上手く行ったんだ。一方的な勝利
だよ。君のおかげで助かった」
 これは本心だった。
 自分だけでやっていたら、解決にこぎ付けるまで遥かに長い時間を要し、防げたはずに事件
を防げずにいただろう。
 あの男は交渉をしようと言っていたが、それだけで済んだとも思いがたい。
「ありがとう」
「そんな……上辺の言葉が聞きたいわけじゃねぇよ! じゃあ、なんで怒ってんだよ。なんで
俺から目、反らす」
「やめてよ。ちょっと疲れてるだけだ。僕、二日続けて大柄な軍人の相手してるんだよ? し
かも今回は手錠付き」
 大げさに疲れたようなポーズを取って、おどけた調子で皮肉を言う。
「しかも無意味に媚売ったから精神的にへとへと。っていうかさ、あんなに簡単に解決出来る
なら、僕が突っ込まれる前に助けに来てくれりゃ良かったのに。あ、だめか。あの時点じゃま
だ黒確定ってわけじゃなかったんだもんね」
 それを思えば、僕の働きも無駄じゃあなかったわけだ、と一人納得したように力強く首を振る。
「そうだ。これ、返しとく」
 バスルームで髪からはがした盗聴器である。
 あぁ、と頷き、ヴィクターが差し出されたそれを受け取る。複雑な表情でそれを睨むヴィク
ターに、クロルは再び背を向けた。
「今夜のおかずにもってこいじゃない? 録音機能付いてるでしょ、それ。売れば結構な値が
付くよ。後半なんて陵辱だし」
「クロル!」
「なんだよ。君だって聞いてただろ。他に誰が聞いてたか知らないけどさ。あ、助けに来るの
が遅かったのって、ひょっとして僕のあられもない声に勃っちゃってた?」
 こんな事を言いたいわけではない。
 こんな言い方をして、またヴィクターを傷つけて、自分は一体どうしようと言うのだ。
 それでも、止まらなかった。
「あいつも言ってたけどさ、君もびっくりしたんじゃない? 誰に抱かれてもこうなのかって。
だって所詮マッサージだもん。どんなのが相手だって楽しんだ方が得じゃん。あいつ妙に女慣
れしててさ、まぁ、軍人は割とそうなんだけど、結構楽しめ――」
 背後から乱暴に肩を引かれ、口腔に舌をねじ込まれる。
 一瞬反応が遅れた。ヴィクターに唇を奪われるなど、想像もしていなかったから――。
「ん……んん……っ」
 首と腰をがっちりと抑えられ、逃れようにも身動きすら出来なかった。
 お互いの舌が絡み合い、静まり返った夜に淫猥な水音を響かせる。クロルが嫌がって何度も
肩を殴りつけると、ようやく、しかし名残惜しむようにヴィクターは唇を離した。
「……放してよ」
「楽しんでたのかよ」
 違う。
 そう、はっきりと否定すれば済むことだった。
 この上なく不愉快で、与えられる快楽に吐き気さえ催したと、事実を伝えればそれでいい。
 頭では分かっているはずなのに、責めるような口調のヴィクターを、クロルは無理やり嘲笑
した。
「あの声、聞いてたなら分かるだろ」
「わからねぇ。俺はお前が嫌がってるようにしか聞こえなかった」
「思い込みだよ。なんだよ、まさかやきもちでも焼いたのかい?」
19690:2007/06/07(木) 02:09:51 ID:olpJY1fD
「ああ! 気が狂いそうなほどな。あんな野郎に抱かれて、あんな声出しやがって。あれから
ずっと必死に押さえてた。もうお前を傷つけるのは沢山だって思ったからな。あぁ、でもお前
がそうなら、もういい。我慢なんざしねぇ」
 ぐいと、乱暴に腕を引かれた。
 嫌だ。違う。そうじゃない。
 抗おうと足を踏ん張り、しかし引きずられるようによろめいた。
「なんだよ、放せよ! 大声出すぞ! 嫌だ! 放せ!」
「人に見られるのが好みか? かまわねぇよ。大勢の前で抱いてやる」
 睨まれて、本気だと悟った。
 そのまま宿舎の陰に連れ込まれ、乱暴に突き飛ばされる。
「なん……だよ。まさかこんな所するわけ? ついさっき他の男に抱かれてた女と? なんだ
よ、純情可憐なお坊っちゃんが、随分大胆な事するじゃないか」
「がたがた震えながら強がりか?」
 誇張ではなかった。
 実際クロルは、自分でも分かるほどヴィクターに怯え、震えている。
 それでもまるでお構い無しに、ヴィクターはクロルの服に手をかけた。
「……嫌だ」
「楽しめよ。得意なんだろ、そういうの」
 耳元で低く囁く。
 太腿を撫でる手がゆるゆるとスカートをたくし上げ、下着に触れた。
「ぃ……やだ……ヴィクター……いやだ、いやだ、いやだ……!」
 しぃ、とヴィクターが、相変わらず耳元で言った。
「ここは宿舎の裏だぞ? 意味、分かるな」
 水との温度差に、氷が歪んで砕けるような感覚を覚えた。
 この景色を見た事がある。ここは――この場所は、ウィルトスの部屋の真下ではないのか。
「やめて……やめてよ。ひどい、よ……なんでッ……やぁ、んッ」
 嫌だ。
 ヴィクターの事は好きだ。次の日の朝、どんなにひどい目にあったと身に染みて思っても、
また抱かれたいと思う。
 だが、こんな行為は望んでいない。
 これは対等ではない。
 ヴィクターが本気になれば、クロルなど足元にも及ばない。そんな事はお互いに分かりきっ
ていた。それでもヴィクターは、クロルを力で屈服させようとはしない。
 だから親友でいられたのだ。安心して軽口を叩きあい、子供のように喧嘩をする事ができた
のだ。
 愕然とヴィクターを見る。ひどく意地の悪い表情で、ヴィクターは口角を持ち上げた。
「どうした。助けて教官とでも、叫ぶか?」
 下着の上から確かめるように割れ目をなぞり、布地をずらして、入り口を弄る。
 つぷり、と二本の指が浅く挿入され、クロルはたまらずこぼれた甘いと息に真っ赤になって
俯いた。
 躊躇する気配もなくそのまま奥をかき回され、ヴィクターの肩にしがみ付く。
「や、や……やだぁ……! お願い、やめて……! 謝る、あやま……る、から。ごめ、ごめ
ん……ごめん、ごめん……!」
 堪えきれず、とうとうクロルは懇願した。
 それでも、ヴィクターは止まらない。つ、と涙が頬を伝って落ち、クロルは嗚咽をかみ殺した。
 前触れも無く指が抜き去られ、ぐいと、ヴィクターがクロルの片足を抱え上げる。
20690:2007/06/07(木) 02:10:37 ID:olpJY1fD
「お、ねが……やめて、ヴィクター! いやだ……いやだ! やだぁあぁあ!」
 悲鳴の様な声をあげ、クロルは両手で顔をおおってその場に崩れ落ちた。
 ――崩れ落ちる事が、出来た。
 解放された事に唖然とし、小さくしゃくり上げながら息を乱してヴィクターを見る。
 ヴィクターの苦々しげな表情に、クロルは我に返ってのろのろと立ち上がった。
「満足かよ……」
 ごしごしと涙を拭い、それでも、悔しさで涙が止まらない。
「こうやって、泣かせて……抵抗、なんか、僕には……でき、出来ないからって……! 僕に、
無能だって思い知らせて……! 今日だって、ただあいつに抱かれ、て……僕は、君に助けら
れたっだけで……!」
 まるで子供の八つ当たりだった。
 全て必要な事だったと、頭では理解しているはずなのに――。
「あんなの! 君に、は、見られたく……き、聞かれたく、無かったのに!」
 これ以上は、まともに言葉を紡げそうに無かった。
 悔しくて、情けなくて、泣きやめない自分がみっともなくて、その場から逃げ出すように走
り出す。

 ヴィクターは後を追わなかった。
 荒々しく壁を殴り、吐き捨てるように悪態をつく。
 守るなどと、そんな偉そうな物ではない。ただの自己満足ではないか。その結果クロルは傷
つき、傷を隠そうとして現れた過剰な強がりに苛立って、強がりを暴いて更に深く傷つけた。
 ずっと、クロルのことを分かっているつもりでいた。
 クロルの強い所だけを全てだと信じ、弱さを補うためにどれだけ努力しているか想像もせず、
親友だなどとよく言えたものだ。
 自分勝手な感情を押し付けるばかりで、よく、愛しているなどと――。

「やぁ、お帰りなさい」

 宿舎の廊下や階段に、最早人影は見当たらなかった。皆部屋に引きこもり、就寝前の退屈を
楽しむ時間である。
 ヴィクターの部屋は四階の奥にある。
 ウィルトスの部屋とは非常に近く、廊下で偶然顔を合わせることも少なくは無い。
 だが、ヴィクターが声をかけられたのは自室のドアを開け、確かに消したはずの電気がつい
ている事に疑問を覚えた直後だった。
 部屋を間違えたわけではない。
 間違いなく、ヴィクターの部屋にウィルトスがいるのだ。
 自室から持ち込んだのティーセットを一式テーブルに並べ、この上なくくつろいだ様子である。
「あんた……何やって――」
「見ての通り、就寝前のティータイムです。僕はこの時間をのんびり過ごすのがとても好きだ」
「くつろぐ部屋間違ってんだろうが!」
「換気を――」
 キン、と澄んだ音を響かせて、ウィルトスがカップを置いてヴィクターを見た。
「しようと思ったんです」
 だからなんだ――と、問う事は出来なかった。
 疲れた声でそうか、とだけ呟き、ウィルトスの正面に腰を下ろす。
「もう少し時間が掛かると思ったので、精神衛生上よろしくないのでこの部屋に避難させても
らいました。クロルさんの悲鳴は、聞いていて気分のいいものじゃない。でもその様子だと、
未遂に終ったようですねぇ」
「……随分、暢気なんだな。自分の女が強姦されかけて、助けにも入らねぇのかよ」
「うん。激しい葛藤がありました。でも、クロルさんはナイトを欲していない。それにもしも
君が強姦を完遂させていたなら、君達の関係は決定的に崩壊したでしょう。そうすれば僕は、
何の遠慮も無くクロルさんの世界から君を排除できる」
 いや、どちらかと言うと逆かなと、ウィルトスは自身の発言を口の中で繰り返して首を捻った。
21690:2007/06/07(木) 02:11:33 ID:olpJY1fD
「とにかく、未遂に終ってしまったので、先ほどの事はあまり影響は大きくない。どちらかと
いうと、彼女は君よりも自分を責める。『純情可憐なヴィクターにあんな事をさせるほど、僕は
あいつを怒らせた。なんて嫌な女だろう』と、まぁこんなところでしょう」
「あいつは、そんな殊勝な性格じゃない」
「いいえ、君は気付いてるはずです」
 言われて、ようやく思い至る事がある。
 いつだってクロルは、自分の些細な非を全ての原因だとでも言うように――。
「僕はね、ヴィクター君。彼女はきっと、君を選ぶだろうと思ってました。彼女を君の副官に
推した時から、僕は彼女を諦める準備を始めていた。彼女が君を好きになって、僕の存在がい
らなくなったら、僕は握手を交わして彼女との関係を終わりにしよう、と」
 苛立ちが首をもたげた。
 その程度の感情か。その程度の感情しか持ち合わせていないこの男に、どうして――。
「それが一番、クロルさんにとって幸せなんじゃないかと。そう思っていました。彼女は君の
隣にいる時が、一番安穏として見える」
「あんたが――あいつの幸せを語るのか」
 低く零した声が震えていた。
「だったらなんで、あいつが諜報任務に付くのを止めなかった。知ってたんだろ? 訓練生の
時強姦されて、自棄になってるって思わなかったのかよ! いくら訓練したって平気なわけ無
いって、あんた想像できねぇのかよ!」
 自分は何一つ知らなかった。
 だがだからこそ、知っていながらそれを止めようとしなかったウィルトスに怒りを覚えた。
 ふむ、と頷き、ウィルトスが考えるように虚空を睨む。
「君は、痛い事は好きですか?」
「……あ?」
「僕は嫌いです。どんなに訓練しても一向になれない。しかしそれでも軍人を続けている。ど
うしてでしょう?」
「知らねぇよ! 今はそんな話してるんじゃ――!」
 そんな理由、人それぞれ違う事くらいヴィクターにだって分かる。
 そうです、と頷いて、ウィルトスは笑った。
「君は、僕が軍人を続ける理由を知らない。僕も君が軍人を続ける理由を知りません。しかし、
だからどう――という事は無い。僕たちはお互いを干渉すべきではない。なのに君は、どうし
て僕にクロルさんの仕事に干渉しろと言うんです?」
「それは――!」
「諜報活動は必要な任務だ。その上で、女性という性別は有利に働く事が多い。非力で小柄な
女性が近づくと、男性は少なからず警戒心を解く物だ。故に、女性が諜報任務に付く事は特別
な事でもないし、まして恥じるべき事でもない。しかしそれを任務として割り切れず、嫌悪し
侮蔑する人も少なくない――君のようにね」
 平然と言い放たれたその言葉に、ヴィクターは拳を握り締めて言葉を詰めた。
 食いしばった歯の隙間から、反論は出てこない。
「君は、世の中の物全てを自分の価値観でしか見ない。昔からそうでした。確かに、君の価値
観は正しい事がほとんだ。君のような強者は他者に歪められる事がないから、眩しいほど真っ
直ぐな価値観を持っている。だけど人の価値観という物は、普通、環境に合わせて歪みます」
 絵が幾何学的にねじくれたティースプーンを弄び、ウィルトスは続けた。
「でも、歪むのは決して非難される事ではない。それは適応です。壊れないための自衛手段だ。
歪んだ環境に身を置きながら歪まないでいるには、決して揺るがない絶対的な力が要る。そう
でなければ、歪みに耐えられず砕けるか、周囲に合わせて歪むしかない」
「歪まないでいられる場所に逃がしてやることだって出来るだろう……!」
22690:2007/06/07(木) 02:12:50 ID:olpJY1fD
「そう。多くの場合はそれが通用する。ですがクロルさんの場合、僕が介入した時は既に後戻
りできないレベルまで歪んでいた。そして彼女はその歪みを抱えたまま逃避することを、よし
とするような性格じゃない」
 逃げる。
 あぁ、クロルが最も嫌いな行為だ。
 屈強な男たちが退却を意識し始める局面で、クロルは決して後ろを見ない。呆れるほどクソ
度胸が座った女だ。
「彼女は適応を望みました。だから僕は、それを少し手伝った。だけど君の真っ直ぐな価値観
は、歪んでしまった人の価値観を揺さぶってしまう。周囲に合わせて歪み、適応したその価値
観を、君は小細工無しで真っ直ぐに戻そうとする」
 ウィルトスがくるくると指を回して見せた。
 細い、螺旋を描いた透明な管が見える。その中で同じように螺旋を描くガラスの棒を、力任
せに引く仕草の後、ウィルトスは寂しげに、砕けて落ちて行くガラスを見た。
「既に行ってしまった事。長年行ってきた事。誇りさえ持って臨んできた仕事を、彼女から取
り上げてはいけない。それが“悪い事だ”と烙印を押してしまえば、彼女に罪を背負わせる事
になる。人を形成するのは他人です。周囲が平然としていれば、人はその行為を特別な事だと
気付きもしない。君はクロルさんの任務を否定する事で、彼女自身を否定している」
「俺は……! 俺はただ……!」
「君はただ、駄々をこねているだけだ。あんなにも長い間君の副官を務めて来た、親友とまで
呼ぶ存在に、君は今更になって偏見に満ちた女性像を押し付けている」
 今更――。
 驚くほど、その言葉がしっくり来た。
 ずっと親友だったのだ。今のクロルと。今のままとクロルと。
恐ろしい皮肉屋で、時折ひどく子供っぽく、鬼のような厳しさの中に飛び切りの甘さをちら
つかせる。
 ヴィクターの沈黙を話の区切りと見て、ウィルトスはティーセットを手に立ち上がった。
「僕は今から、クロルさんの部屋に行きます。君に苛められて、きっとひどく泣いている」
きりきりと、胸の奥が痛んだ。
 それじゃあ失礼しますと告げて、ウィルトスは静かにドアノブを握った。廊下に片足を踏み
出し、ふと、ヴィクターを振り返る。
「ヴィクター君。ひとつ、重大な事を伝え忘れました」
 顔を上げると、ウィルトスがにこりと微笑んだ。
「最低」
 ひらひらと手を振り、部屋を去る。
 あぁ、分かっている。
 自分の感情を、価値観を、そうあるはずだと押し付けるばかりで、クロルを理解しようとも
しなかった。
 苦しいはずだ、辛いはずだと。それをクロルに認めさせた所で、今更過去が消えるわけでも
無いのに。苦しませて、悩ませて、土足で踏み荒らした。
 まだ、間に合うだろうか。
 自分はクロルを壊してはいないだろうか。
 あの男は――クロルは癒してはくれるだろうか。

                              切らせていただきます。
23名無しさん@ピンキー:2007/06/07(木) 02:54:09 ID:VKE1/eXj
うあ〜。
続きどうなるの?気になってねむれない。
24名無しさん@ピンキー:2007/06/08(金) 17:12:25 ID:CWv2lzxd
やっぱりヴィクターとクロルにくっついて欲しいと
思うのは少数意見?
25名無しさん@ピンキー:2007/06/08(金) 17:39:33 ID:1FLIJfSh
ウィルトスが出てきた辺りでほぼ読み飛ばすようになった俺としては賛成
26名無しさん@ピンキー:2007/06/08(金) 21:12:58 ID:lO6oNOPw
今までウィルトス苦手だったけど
今回初めて教官らしいこと言ってると思った。
ヴィクター頑張れ。超頑張れ!

>>24
ヴィクター・クロルを望む声は前スレでいっぱいでてるよ。

どんな形の大団円なのかずっとどきどきしてます。
バルスラーの行く末が気になって仕方ないw
27名無しさん@ピンキー:2007/06/09(土) 23:54:27 ID:WuI7sWsg
はぁぁーー気になる!


強姦シーンでのクロルの抵抗に萌えた漏れは最低人間だな。


ほんと超Gj
終わって欲しくないと思う作品に会えたのは久方ぶりだ
28名無しさん@ピンキー:2007/06/10(日) 12:46:56 ID:DA/s8fDx
>>26
ウィルの言ってる事って、「犯されたことが忘れられないなら、開き直れ」ってことでしょ
その場しのぎでしかないんじゃね?
ヴィクターの正論は痛いが正しい
ヘタレないでツッコまんとクロ取られちまうわな
29名無しさん@ピンキー:2007/06/11(月) 03:08:07 ID:ZKb/2ryd
強姦と任務と、好ましい相手とのセックスを分けて考えろってことでは?
クロルが強姦で受けた傷は消えないけど、任務は仕事で開き直りとは違うと思う…。
ウィルはいい上司だ。
だがヴィク萌えなんできれいに身を引いてほしいゾ。
今回クロが可哀相だった…気持ちはわかるがヴィクのバカ!

エセ軍人さん、マジGJ! 
なんか生涯忘れない話になりそうだ。
30名無しさん@ピンキー:2007/06/11(月) 03:34:20 ID:ZKb/2ryd
690さんでした。すみません。
なんだエセ軍人さんて…W
31名無しさん@ピンキー:2007/06/11(月) 21:35:03 ID:fuLPlA3M
臨時保管庫に新保管庫のHTMLファイルがアプロドされたね。
あれって、ウィキの管理してくれてる人がレンタルサーバかりて設立してくれるんかな?
そんな中俺はHTMLファイルをDLだけしてローカル保管庫閲覧してウマーしてる
32臨時保管庫”管理”人:2007/06/12(火) 11:01:25 ID:/OjqIwHk
水面下で活動していてスマン、FC2で借りてアップするつもりだ
サイト移行後のウィキはうpろだ兼避難所的役割にしようと考えている
まとまった時間が取れ次第着手するから待っていてくれ

しかしこのスレの職人はGJすぎる、住人も落ち着いてるしな
html製作者にも感謝、作品書きつつhtmlも書くなんて神すぎるぜ
33690:2007/06/15(金) 04:08:37 ID:vRi5BGhq
ファンタジー
エセ軍人物
ウィルトス×クロル

 泣きながらぬいぐるみを殴る姿とは、きっとはたから見ればヒステリックで、ひどくみっともない物なのだろう。
 殴られすぎてボロボロになった熊のぬいぐるみをかきむしるように抱きしめて、クロルはベ
ッドサイドにうずくまって唸るように嗚咽を押し殺した。 
 あんな男に抱かれてはしたなく喘いだ自分を恥じて、ヴィクターに八つ当たりをして怒らせ
たはずなのに、体の奥が熱を持ってじくじくと疼く。
 ヴィクターの手が触れた所が甘く痺れ、クロルは自己嫌悪に涙してぬいぐるみに噛み付いた。
「やだ……やだ……や……」
 無能な事はもう、随分前に諦めた。
 今更ヴィクターとの能力差を嘆いたりもしない。
 ただヴィクターを傷つけ、幻滅させるのが何よりも嫌だった。
 それなのに、体が快楽に逆らえない。

 ――お前、誰が相手でもこんな風に感じるのか?

 面白がるように囁かれたあの声を、ヴィクターも聞いていた。
 どう想っただろうか。
 拳の一撃で歯を圧し折り、腕の骨を握りつぶしてヴィクターは笑って見せた。それ程に怒っ
ていたのだ――きっとひどく傷ついて、それでもクロルの事を思って堪えていてくれたのに、
クロルはその優しさを八つ当たりで踏みにじった。
 乱暴に扱われて当然だ。あのまま犯されていたって、クロルに怒る資格は無い。
 痛めつけるように突き入れ、奥を掻き乱したヴィクターの指の感触がまだ残っていた。
 体が火照って仕方がない。
 ――嫌だ!
 こんなの、本当にただの淫乱ではないか。
 ぐ、とぬいぐるみを噛む歯に力を込める。

 ふいに、ノックが響いた。

 こんな時間に、一体誰が――。
 クロルは呆然としてドアを凝視した。とても、誰かに会えるような顔ではない。
 眠ってしまった事にして無視しよう――そして、身勝手にドアが開かれた。
「こんばんは」
 ノックを聞いた時よりもはるかに大きな衝撃を受け、クロルは息さえ止めて穏やかな侵入者
を凝視した。
 どうして、どうして。そればかりが頭に浮かんで次の行動を起こせない。
 溜まらず、といった表情で、ウィルトスが困ったように吹き出した。
「気付いてましたか? そうしていると君は、まるで十代の子供のみたいです」
 はっとして、クロルは抱いていた熊のぬいぐるみを背後に隠して赤面した。
「こ……これは、これは……!」
「隠さないで。とても可愛らしいですよ」
 笑いながら、ウィルトスがクロルに歩み寄る。
 泣き顔を何とか取り繕おうとごしごしと顔を拭うクロルの前にしゃがみこみ、ウィルトスは
その両手を取って痛々しい手首を撫でた。
 擦り切れた皮膚が赤く腫れ上がり、熱を持ってひりひりと痛む。
「手当てをしないといけませんね。これではまるで、拷問を受けた犯罪者だ。痛いですか?」
 それでも、クロルは首を横に振った。
 もう誰にも心配などされたくない。
 ふむと、頷き、顎を撫でる。

「嘘吐き」

 ウィルトスが笑った。
 この笑顔に、クロルは弱い。
 全ての虚勢と強がりが、音を立てて崩れていくのを意識した。
34690:2007/06/15(金) 04:09:21 ID:vRi5BGhq
 また、おさまりかけた涙がぼろぼろと溢れてくる。
 うわぁぁん、と子供のように声を上げ、クロルはウィルトスに縋り付いた。
 その体をしっかりと抱きとめて、よしよしと背中をさする。
 しゃくり上げ、嗚咽を飲み下しながら、クロルはぐずぐずと取り留めの無い事を言い連ねた。
 自分が無能な事が辛い。
 長年やって来た諜報任務でさえ、ヴィクターに勝てない事が悔しくて仕方がない。
 自分からばらしておきながらヴィクターに任務の事を知られたくなくて、自分は誰に抱かれ
ても平気なのに、ヴィクターが辛そうにするのが何より嫌だ。
 ヴィクターに“可哀想だ”などと思われたくない。自分は絶望的に弱いけど、それでも強く
いたいのに。
 肯定も否定もせず、ウィルトスは話を聞きながらただ背中をさすり続けた。
 十分か、もっと長い間泣き言を言い続けただろうか。
 激しく乱れた呼吸も穏やかになりはじめ、ウィルトスがそっと体をはなす。
「ソファまで歩けますか? それとも、ここに座っていたい?」
「あ……歩けます」
「だと思いました」
 何でも無い事のようにウィルトスが笑った。
 その笑顔に、いつも安堵させられる。
「教官……」
 立ち上がり、救急箱を取りにその場を離れたウィルトスに、クロルは小さく呼びかけた。
 振り返り、はい、と答える。
「ありがとう……」
「高くつきますよ。覚悟してください」
 その笑顔に、クロルは傍に転がったぬいぐるみを拾い上げて立ち上がった。
 泣いて、思い切り泣き言を言ったら随分と軽くなった気がする。クロルに痛めつけられてボ
ロボロになった可哀想なぬいぐるみを優しく撫でて、クロルは枕元にそれを座らせると自分は
ソファに座り込んだ。
 ティッシュを引き寄せて思い切りはなをかみ、熱く火照った目を押さえる。
 救急箱を持ってクロルの隣に腰を下ろしたウィルトスに、クロルは言われるまま両手首を差
し出した。

「少し、不安に思う事があります」
 手首の傷に消毒液をたらし、垂れた液体をガーゼで丁寧にぬぐいながら、ウィルトスが不意
に切り出した。
「僕は、君が諜報任務に付く時に、止める事をしなかった。もしあの時僕が君を止めていて、
君が諜報任務に付かぬままヴィクター君の副官をしていたら、君はこんなに傷つかずに済んだ
かもしれません」
「……教官?」
「それは確かに、君の主張を、君の誇りを、君の決意を押し込める行為です。君は今よりもっ
とひどく歪んでいたかもしれない。だけどヴィクター君なら、それを直せたかも知れません。
そうして君たちは結ばれて、君は幸福になれたかもしれない」
 ウィルトスが何を言いたいのか分からなかった。
 クロルが困惑した表情を浮かべると、ウィルトスはふと、いつもと変わらぬ穏やかな目でク
ロルを見た。
「君は、僕を恨んでますか?」

 大きく目を見開いて、クロルはウィルトスを凝視した。
 呆然と開いた口からは、ろくに言葉も出てこない。
35690:2007/06/15(金) 04:10:07 ID:vRi5BGhq
「どうして……」
 ようやくそれだけ呟くと、ふいに、ウィルトスが困ったように微笑んだ。
「うん。少し、揺さぶられてしまったみたいです。僕は綺麗な人間じゃないから、純粋で
真っ直ぐな人に責められると、少し揺らぐ」
 すぐに、誰の事だか思い当たった。
 震える声で、恐る恐る口を開く。
「ヴィクターと、何か……」
 ええ、少し、と何でもないふうな様子で答え、ウィルトスは変な事を聞いてすみません、と
謝罪した。
「彼は君を心から愛している。もし僕の存在が無かったら、君も躊躇無く彼を愛せたでしょう。
いや……多分君は、もうとっくに彼を愛してる」
 ずくり、と胸が痛んだ。
 手首に器用に包帯を巻きながら、ウィルトスが続ける。
「僕は君達の関係の障害になってしまった。それは、君の幸福を妨げることに他ならない」
「そんな……! そんな事ない! 僕は――!」
「もう嘘はやめましょう。強がった所で、辛いだけだ。認めてください。君はヴィクター君を
愛してるんでしょう?」
 また、涙が滲んで溢れ出した。
 終ってしまうのだろうか。
 こんなにも心地よい関係が。
 会えないことが寂しくて。会える事が嬉しくて。強がらずに、飾らずに、弱みをさらけ出し
て甘えられる関係が。
 ウィルトスは、これを愛とは認めてくれないのだろうか。

 それでも――。

「好き……です。愛し、て……初めて会った時からずっと……強くて、おっきくて……憧れて
も憧れたりなくて……!」
 否定など出来なかった。
 自分は、なんて嫌な女だろう。
 恋人の前で他の男を愛してると言い、その恋人を失う事を恐れている。
「だけど……だけど……!」
「クロルさん」
 呼ばれて、顔を上げた所に唇が重なった。
 誘うように舌が滑りこみ、クロルは泣きながらそれに答えて自ら舌を絡ませた。
 なだめるように頭を撫でられ、名残惜しむように離した唇からつ、と銀色の糸が走る。
「結婚しましょう」
 この男は、何度人を愕然とさせれば気が済むのだろう。
 にこにこと、今正に他の男を愛していると言った女に、断られるなどと微塵も思っていない
表情で――。
「認めてしまった感情は、諦める事が出来る。だけど一度それを認めなければ、諦める事もで
きません。ごめんなさい。僕は君の幸福を一つ奪ってしまった」
「どうし……だって、だって僕……!」
「愛してます。大好きです。君は、あんなにもヴィクター君に求められても決して僕を捨てよ
うとしなかった。ろくに一緒にいられない、君を困らせてばかりの僕を。事務的な手順を踏ん
で作り上げた愛情を、君は大切にしてくれた」
「それは……だって……!」
「僕の奥さんになってください。それとも、僕なんかとじゃ嫌ですか?」
「ちが……違います! でも、でも僕なんかと、じゃ……ダメだ……! もっと、もっと綺麗
で、上品で……教官にはそういう人が似合うんです……!」
 ヴィクターにだって、本当はアウラが似合う。
 自分なんかと結婚してしまったら、ウィルトスは周囲から侮蔑の視線を浴びるに違いない。
「君は、似合う似合わないで男女関係を決めたがる。でも、そんな周りの評価はどうでもいい
んです。相応しいとか、そうじゃないとか、そんな事に振り回されて破局してしまうカップル
は恋愛小説でも悪い見本にされる。僕はそんなのは大嫌いです」
「でも、でも……!」
36690:2007/06/15(金) 04:10:52 ID:vRi5BGhq
 なおも言い募ろうとするクロルの頬に伝う涙を、ウィルトスは指の腹で拭いながらあっけら
かんと微笑んだ。
「いいんですよ。今すぐにお返事を、なんて無粋な事は言いません。もちろん本当に嫌なら、
断ってくれても構わない。そういえばクロルさん」

 ふと、思い出したようにウィルトスが切り出した。
「実は、お付き合いを始めた当初からずっと待ち続けている事があります」
 ず、と鼻水をすすりあげ、クロルは困惑して首をかしげた。
「ず、随分昔から、待ってますね……」
「はい、長い事待ってるんです」
「あの、なにを……?」
 滑稽な程まじめくさって頷いたウィルトスに、クロルは恐る恐る問い返す。
「名前を呼ばれる日をです」
 きょとんとして、クロルは目を瞬いた。
 名前なら、今までだって何度も呼んだ事がある。
「ウィルトス教官……?」
「名前だけだと?」
 嬉しそうに聞かれて、言葉に詰まった。
 無意識に視線が泳ぐ。
「……じょ、上官を呼び捨てには、できません……」
「嘘はだめです。君が上官を罵れるのは、ヴィクター君で証明済みです」
「でも、あの……あいつは例外で……」
「それはずるい。その例外を作り出しているのは君なんだから、君はいつでも僕を例外に分類
できるはずだ」
「で、でも……」
「名前を呼んで。今日は一回だけで我慢します。でももし僕のプロポーズを受けてくれるなら、
ずっと僕を名前で呼んでください。奥さんに教官、と呼ばれるのは、なんだか凄く滑稽だ」

 恥ずかしくて眩暈がしそうだった。
 ただ名前を呼ぶ事に、恐ろしい抵抗を感じる。
 それでも、笑顔でクロルの言葉を待つウィルトスを見ていると、いつもながら逆らう事など
出来そうも無かった。
 ぐっと拳に力をいれ、泣いている時より顔を赤くして囁くように言う。
「……ウィルトス……さん」
 むっとして、ウィルトスが俯いたクロルの顔を捉えて上向かせた。
 とても目が合わせられるような状態では無いのに、ウィルトスが不満げにクロルを睨む。
「さん、はいりません。もう一度」
「こ、これが精一杯ですよ!」
「だめです!」
「教官だって僕の事さん付けで呼ぶじゃないですか! 同じです!」
「僕は誰に対してもこうですが、君は違う。どちらかと言うと、君の僕に対する態度はひどく
よそよそしい物がある。不満です」
 長い沈黙があった。
 根競べ、といったところだろうか。ウィルトスが折れる気配は無い。
 何度も口を閉じつ開きつした挙句、クロルはようやく覚悟を決めた。
 名前を呼ぶだけでいいんだ。それだけで、ウィルトスは満足してくれる。

「……ウィルトス」
 先ほどよりもずっと小さな声で呼ばれた名に、満面の笑みを浮かべて、はい、と答える。
 尻尾でも振り出しそうなその様子に、しかしクロルは和んでいる余裕を持ち合わせてはいな
かった。
37690:2007/06/15(金) 04:11:35 ID:vRi5BGhq
「クロルさん」
「なんですか……!」
 怒ったように答えるクロルの額に、ウィルトスが唇を落とした。
 瞼と頬、首筋に落とされた唇が、誘うように鎖骨に触れる。クロルはぞくりと這い上がって
くる物を意識した。

 だめだ――!

 ぐっと歯を食いしばり、クロルは力任せにウィルトスを引き剥がした。
「ご……ごめんなさい。今日、僕、だめなんです……そんな風にされると、欲しく……」
 キスをして、抱きしめあって、何もしないでただ眠る。
 そのくすぐったいもどかしさを、クロルは決して嫌いじゃない。だが、今はだめだ。 忘れ
かけていた甘い疼きを、二人の男に蹂躙され、それでも一度も与えられなかった絶頂を、体が
再び求めだす。
「かまいません。いくらでも差し上げましょう」
 気まずさに俯いたクロルの顔を、ウィルトスはその一言で上げさせた。
「あ、いや……そ、そうじゃなくて。僕、今日任務で……」
「知ってます。大変だったでしょう。お疲れ様でした」
「あの、だからですね! 僕今日他の男につっこまれてるんですよ! そりゃ、出されはしな
かったけど……!」
「はぁ……それがなにか?」
 本気で不思議そうにするウィルトスに、クロルはもごもごと口ごもった。
 あまり、言いたい言葉ではない。
「き……汚い……から」

 言いにくそうにようやく搾り出したその言葉に、ウィルトスはなる程、と頷いた。
「確かに、第三者の体液を汚いと感じる事は正常な反応だ。涙にせよ、唾液にせよ、精液にせ
よ、汚いと感じる君は正解です」
「は、はぁ……」
「つまり、綺麗にしないといけないんですね」
「……はい?」
「任せてください。全力で臨みましょう!」
 なんだ、この人。
 出会ってから数年、常に思い続けていた事が再び、ふと頭をよぎった。
 その間にウィルトスはソファから床に移動して、楽しげにクロルの脚を撫でる。それから失
礼します、と一言断り、クロルの両脚を肩に抱え上げてスカートをたくし上げた。

「ちょ……! きょ、教官!?」
「アルコール消毒と言うのは、とても魅力的な響きですが体によくないと聞きます。ならば昔
からまことしやかに囁かれてきた、唾液で消毒――と言うのが、きっと最も適切な対処法だ。クロルさんもそう思うでしょう?」
「お、思いません! 間違いです! 教官間違ってます! 正解じゃありませ――ひゃぁあ!」
 はぐ、と音さえ立てかねない勢いで、ウィルトスがクロルの秘所を下着ごと口に含んだ。
 溜まらず奇妙な声が漏れ、慌てて歯を食いしばる。
 既にそのまま男をくわえ込んでも問題ないほどぬれそぼったそこを、ウィルトスはわざとら
しく音を立てて舐めしゃぶった。
「ぁ……ああ、う……ふ……ひぁッ……あぁ、あ……あ……!」
 きゅうう、と爪先が丸まり、クロルは浅く息をしながら自らの肩を抱きしめた。
 下着の上から割れ目をなぞり、尖らせた舌先が快楽の中心を悪戯につつく。

気持ちよくてとても抵抗などできなかった。
 もっともっととせがむように、無意識に腰が揺れる。
 そんなクロルに気付いているのかいないのか、突然ウィルトスが舌の動きを止めた。
「やだ……きょうか、もっと……」
 休憩――とばかりにウィルトスが口をはなし、ふう、と作業を終えたように小さく息を吐く。
「うん、これだけ溢れてくれば、中の汚れも少しは綺麗になるはずだ。それじゃあ、奥からか
きだしてあげましょうね」
38690:2007/06/15(金) 04:13:11 ID:vRi5BGhq
「あ……あの、教官……」
 上機嫌で足から下着を抜きさるウィルトスに、控えめに声をかける。
 なにか、と顔を上げたウィルトスに、クロルは真っ赤になって胸元のファスナーを引き下ろ
した。
「こ、こっち……も、触って……」
 ください、と消え入りそうな声で呟いて、クロルはあまりの羞恥心に目を閉じて俯いた。
「ふむ、ここも何かされましたか」
「ん……ぁ! そ、それ……つよ……ッ」
 膝立ちになってクロルの顔を覗き込み、とぼけたように聞きながら、きゅう、と立ち上がっ
た先端を優しくつねる。
 そのままくりくりと転がされ、クロルはウィルトスの肩にしがみ付いた。
「な、舐められ……たり、して……あぁ、きょうか……お願い、もっと、もっと……」
「それじゃあ、僕を解放してください。そんな風にしがみ付かれては、非力な僕は動けない」
 優しく諭すように言われ、がっちりとウィルトスの肩を掴んでいた手を必死になって引き剥
がす。
 するとウィルトスは再び腰を落とし、クロルの乳房に赤ん坊のように吸い付いた。
「あ、ぁあぁ! そ、そ……そぇ、あ……や、やぁ、な、なか……入れちゃ……!」
 ちゅうちゅうと音を立ててクロルの乳首を吸いながら、片方の手でもう一方の乳房を嬲り、
空いた手でクロルの下半身を責め立てる。

 誰もがやるような事だが、クロルはウィルトス以上に感じさせる男に出会った事なかった。
 どこが快楽の中心だかも分からない。縋る物を失った手ががりがりとソファを引っかき、ク
ロルはいやいやと髪を振り乱した。
「い、いく……! きょうか、ぼく、ぼくも……いく、いく、いく、いッ――!」
 ぎゅうう、と全身が縮こまるような絶頂に、クロルは苦しげに歯を食いしばった。
 一瞬の間を置いて、全身から力が抜ける。
 ぐったりとソファに背を預けたクロルの顔を覗き込み、ウィルトスは満足そうに頷いた。
「はい、綺麗になりました」
 何を根拠に――と思ったが、クロルはただウィルトスにキスを求めて首筋に絡みついた。
 ウィルトスが欲しい。
 快楽が――ではなく、ただウィルトスを感じたい。
「ください……教官、の……欲しいです」
「うん。僕も随分歳だから、いくらでも――とは言えないけど」
 この期に及んで、ムードと言うものとおよそかけ離れた事を言う。
 立てた両膝に割り込むようにウィルトスが腰を進め、その高ぶりの先端が、遠慮がちにクロ
ルの媚肉に触れた。
 探るように入り口を探し当て、ゆっくり、ゆっくり、焦らすような速度でじりじりと押し入
ってくる。
 もどかしい快楽にビクビクと体が震え、クロルはウィルトスの腰に脚を絡めてぎゅっと目を
閉じた。
「これは、明日はひどい筋肉痛だなぁ」
 ぼんやりといいながら、ず、と腰を大きく引く。
 瞬間、思い切り奥に突き入れられ、クロルは訪れた二度目の絶頂に声も無く喘いだ。
「教官、きょうかん、きょうか……んん!」
39690:2007/06/15(金) 04:14:04 ID:vRi5BGhq
 ふ、とウィルトスが短く息を吐く。
 ぼんやりと霞む視界でウィルトスの表情を伺うと、珍しく、ウィルトスが苦しげに眉を寄せ
て歯を食いしばっていた。
「クロルさん……僕は決して不感症じゃない。君がそんなに頻繁にいってしまうと、僕はその
たびに恐ろしい快楽に耐えることになります。拷問ですか?」
「そんな、の……好きで、いってる……わけじゃ……」
「我慢してください。僕はもっと、君の中を味わっていたい」
「そんな勝手な……!」
 クロルに文句を言わせまいとするように、ウィルトスが再び腰を動かした。
 その途端、再び絶頂を迎えそうになるのを必死に堪える。
 ウィルトスが中で動くたび、クロルは苦痛のような快楽の波にひたすら耐えた。
 いきたい、いきたい。
「い……ぃきた……も、だ、だめぇ……! また、あぁ、きょうか……ごめ――ッ!」

 びくん、と体を震わせると同時に、ぎゅう、とウィルトスを締め付けるのが分かった。
 瞬間、どくん、と大きく脈打って、熱い白濁が吐き出される。
 それがじんわりと下腹部全体に広がっていく感覚に、クロルは恍惚として浸りきった。
 重労働を終えた時のように、ウィルトスが大きく息を吐く。
「これは、僕の方が少し訓練する必要がありますねぇ」
 自慰で激しい刺激を与えると、本番での射精が遅くなるんでしたか――と呟きながらソファ
に座りなおし、ウィルトスは痛そうに腰をさすった。
「い、今のままで十分ですよ! これ以上長持ちされたら、僕気絶しちゃいます」
「それは興味深い。快楽で気絶――なんて、大変に興奮します。その様子を撮影して何度も見
返したいくらいです」
「やめてください!」
 ここで思い切り拒絶しておかないと、ウィルトスは確実に実行に移す。拒絶しても常にチャ
ンスをうかがい続ける男である。
「ヴィクター君にカメラを渡してみようかな……」
「教官!」
「冗談です」
 本気の目をしていたくせに、いけしゃあしゃあと言ってのける。
 クロルの懐疑の視線に晒されて、ウィルトスはくすくすと笑い出した。
 溜息を一つ、そして、つられてクロルも笑い出す。

 あぁ、ウィルトスを愛していると、心からそう思った。
 ヴィクターを諦めれば、自分は簡単に幸福になれる。ヴィクターの副官を諦めて才能の発揮
できる任務をし、そして、ウィルトスと共にあれば――。
「教官」
「はい」
「僕、副官の任を離れて、士官学校に行きます」
 未練がましくあいつの裾を掴む腕を根元から切り落とし、激痛に悶えても構わない。
 忘れようとも思わない。
 大切な人。きっと、いつまでも愛している。
 だけど彼を求めるのは辛いから。どんなに努力しても、自分はヴィクターが望む女にはなれ
ないから――。
「僕を……」
 すぅ、と大きく息を吸う。
「僕をヴィクターから引き剥がしてください」

                                切らせていただきます
40690:2007/06/15(金) 04:16:01 ID:vRi5BGhq
>>32
保管庫設立お疲れ様でした!
大変だとは思いますが、管理の方、無理の無い程度に頑張ってください。

41名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 10:28:10 ID:zQzR5lzB
あ〜。またまたこんな展開になるの〜。
大団円って聞いていても、なんかどきどきする。
42名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 10:30:26 ID:Cx7cjFin
ど、どうしたら良いのか
まったくわからねーぜ・・・・・・
と、とにかく俺は軍人らしく待つぜ!
43名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 14:44:57 ID:GfDPRf6/
>>42
なら全裸で正座だな。
俺はもう脱いでるぜ?
44名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 15:16:58 ID:gVzzFCQP
続ききてた…うう嬉しい。毎日待ってしまった。
が、この展開!?ああ〜どうなるのよう〜。
また毎日待ってしまう。しかし抜け目ねえなウィルトス。
45名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 04:16:45 ID:dY6o9JG5
GJ!
大袈裟なほど読者を揺さぶるドラマの仕立て方、お見事。
46名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 04:19:18 ID:IHVNfGit
もう小説で飯食えるかもわからんね
乙でした!続き待ってます、全裸で
47名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 14:35:16 ID:67F8JIXC
ヴィクター幸せになれるの?
48名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 15:15:03 ID:j5RlWLxT
>>47
>>所で腹が立つくらい大団円にもっていく予定デスヨ。
誰も不幸にならない予定デスヨ。
49名無しさん@ピンキー:2007/06/19(火) 17:11:35 ID:Vlcq42oi
クロルとヴィクターが気になって毎日覗いてしまうw
50名無しさん@ピンキー:2007/06/19(火) 17:37:10 ID:Nx1uC+ic
わかるwwわかるよwww
51名無しさん@ピンキー:2007/06/19(火) 18:40:40 ID:TuDXsmsC
よくわかる、俺も毎日全裸で訪問してるww
52名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 12:27:14 ID:0Ytp32ev
いや、お前は服着とけ。
53664:2007/06/20(水) 14:37:29 ID:ixmDWZiK
前スレより
>>482
ありがとさん、それでいくわ。
>>483
すまんが書く人氏の『薫と優希』の一年後という設定で書く。
メインは勇と歩だけどな。
>>486
ある程度、書いたら次スレに投下するお。
>>488
そして時は動き出す。
54名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 22:45:43 ID:xoiG2Zpj
人の設定使ってオリキャラ書いて楽しいのか?
55名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 22:50:24 ID:e5A0+Rm9
>>54
書く人氏がよしとしてるなら、目くじら立てることでもなかろう。
嫌ならスルーするしかあるまい。
まあ、普通にオリジナルで書いても通用するとは思うが……
56664:2007/06/20(水) 23:04:54 ID:s5HSASVO
原作:書く人氏

『薫と優希』

僕の名前は新夜 勇(あらや いさみ)、東山高校に通う高校一年生。
実は僕には悩みがある。
高校に入った時から一目惚れ。
あの人の一挙一動に心がときめかされます。
あのキリッとした御尊顔を毎朝、拝する度に僕の鼓動が臨界点を突破しちゃいます。WOW!
ああ、あの方と是非、お近づきになりたい。
あわよくば告白したい。
そして恋人になりたい。
そんなあの人の素敵な御名前は

――――東三条 優希――――

『薫と優希外伝 勇ミ歩ム』

「――は?」
新夜 勇の第一声はそれだった。
「いや、だから東三条先輩は付き合ってるよ。」
隣で興味なさ気に発言するのは志摩 歩(しま あゆむ)。
勇にとって幼稚園からの腐れ縁……というお約束的なものはなく、
小学校の時に転校してきたお隣さんというだけだ。
「だだだ誰とだよ!誰と付き合ってるんだよ?」
勇は歩の両肩を掴み、ガクガクと揺さぶった。
「えー……顔とか名前までは知らないけど…クラスの友達が言ってた。」
「マジか…いきなり難問じゃん、僕。」
ガーンと悲壮な顔をして勇は下を向いた。
「難問もなにも…勇…」
「わかっとる。言わんでええわ、アホ!好きなモンはしゃーないやろ?」
「出てるよ。関西弁」
これまた興味なさ気に指摘する歩。
「う、うう……」
勇の欠点の一つがその口調であった。
学校では抑えているが、家ではバリバリの関西弁。
両親共に関西圏内の生まれなので自然とそれが勇にも定着してしまったのだ。
隣に越してきた歩と初めて喋った時、
『キミ、何人?』
と言われた事は今でも鮮明に覚えている。
「……わかったよ。とりあえず今日は作戦会議だから。帰ったらダッシュで僕ん家ね」
「隣だからダッシュしなくてもいいよね」
「あーもう、例えや、例え!わからんやっちゃなぁ!!」
「関西弁……」
「うるさい!」
57664:2007/06/20(水) 23:21:34 ID:s5HSASVO
ピンポーン
「はーい、どうぞ」
「お邪魔します」
「あら、歩ちゃん、いらっしゃ〜い」
歩を出迎えてくれたのは勇の母、新夜 志帆(あらや しほ)であった。
年齢の割に若作りでハキハキしている所から、十分20代後半で通用しそうだ。
幼い頃、歩の憧れでもあった女性である。
勇と歩は10階建てのマンション暮らし。
そして、ここ新夜家と志摩家は808号室と809号室、僅かな距離を隔てて隣であった。
その両人には、あまり意識はないが、そこそこ値の張るマンションであり、両家は裕福な家庭らしい。
「勇と約束で…ちょっと、お邪魔してもかまいませんか?」
「あ、そうなん?ごめんねぇ、いっつもウチの勇が迷惑かけて。」
「いえ、こちらこそ」
歩はぺこりと頭を下げた。
「あ、そうや。歩ちゃんトコはお兄ちゃんだけやろ?今日はお兄ちゃんおるん?」
「あ…ええ、兄は大学の友人の所に泊まると置き手紙が…」
「そうなん、ならウチで晩ご飯食べていかへん?」
「あ…で、でも…」
歩は兄と2人暮らし。
その兄は大学の助教授であり、しばしば大学の研究室に、また友人宅に泊まり込み
帰ってこない。ちなみに両親はというと…
父が海外へ単身赴任中であり、母がその世話をする為に去年から海外へ行っている。
「ええの、ええの。歩ちゃんのお母さんから『お願いします』言われてんねん。気にせんといて
ウチはお父さんと勇と要(かなめ)だけやし。多い方が楽しいやん。」
「いつもいつも…その…本当にすいません。」
実際のところ、家事が苦手な歩にとって新夜家で与る食卓は何よりのごちそうだった。

「ああ、歩?適当に座っとって」
「意外……整理整頓されてるし、ベッドもちゃんとメイクされてる」
「はあ、僕はアホちゃうで?ちゃんと掃除くらいするわ、飲むモン持ってくるから待っとって」
「はいはい……」
そう言って勇は部屋を出て行った。
歩はベッドにちょこんと座り、辺りを見回す。本棚には整頓された教科書やいろんな辞典。
(そう言えば…勇って小説書くのが好きだったな)
机の上には文芸部の発表されたのだろう物語が飾られていた。
【お姉ちゃんとニャンニャン〜一夏のほろ苦い思ひ出〜】
「…………」
特にツッコミたくはなかった。
母校の文芸部も長くはないんだろうと思い、歩はバフっとベッドに倒れ込んだ。
俯せになり、柔らかい生地のシーツに顔を埋める。
(……勇の匂い………いつもここで勇は寝てるんだ……)
58664:2007/06/20(水) 23:23:38 ID:s5HSASVO
枕に頭をのせ、今度は天井をむく。
(勇が東三条先輩のことを考えながら……って、それは考え過ぎか……)
呆然とそんな事を考えていた。そしてふと、後頭部に何か平たいものがあたる感触を感じた。
(枕の下?……)
歩はパッと枕をのけた。
「………」
そこにあったのは、『超ど淫素人娘〜ボーイッシュの魅力〜』と銘打たれた本だった。
「………」
その本を手に取ったと同時に部屋のドアが開いた。
「歩お待た−−−」
「………」
止まる時間、その空間を包む気味が悪いくらいの清寂。
それをやぶったのは勇だった。
「あ、ごめん。今から…だった?」
「いや、欲情はしてないよ」
パフっと枕の下に本を置き、何事もなかったかのように歩は勇の方を向いた。
そして再び止まる時間、その空間を包む気味が悪いくらいの清寂。
それをやぶったのは歩だった。
「……昨日のオカズ?」
どんがらがっしゃん…どば、どばばばばばばばあああ!!……
歩の発言に盛大にこけた勇。
その足がクローゼットを蹴り、無理矢理押し込めていた
ゲームに大量のマンガ、同人誌、雑誌が雪崩のように崩れ落ちてきた。
そして勇を飲み込み、歩の座るベッドの辺りまで来てようやく止まった。
「………あ、このマンガ見ていい?」
勇の頭に乗っている単行本をひょいと摘み、歩は言った。
「…もうええわ…笑えば?勇の掃除って雪崩起こすんだあははははっ…とか」
「勇の掃除って雪崩起こすんだあはははは」
完全な棒読み。
「くっ……ま、まぁええわ。そんなんええから、作戦会議!」
「それだけど…もうあの人に頼むしかないと思うよ」
マンガを読みながら歩が言った。
「あの人?」
「知らない?二年で『師匠』って言われてる人」
「ああ……安田 桃子先輩かぁ……確かにあの人なら知っとぉかもな…」


その頃、お隣の志摩宅では
「ねぇ…ホントによかったの?」
「ん〜何の事?」
ベッドの中でタバコを吹かしながら男が言った。
「んもう、わかってるクセに。歩ちゃんよ、歩ちゃん。絶対、声聞かれたっての」
「構わないよ。あれはあれで聞き分けいい弟だから。それより、それで余計に濡れてたのはどこの誰だっけ?」
男はタバコを灰皿に押しつけると、女の腰を抱き、股間をまさぐった。
「ん……」
女がわずかに身をよじった。
「おお…もうトロトロ。さっきの思い出した、霞?」
「あ…や……ふふ、スイッチはいちゃったら、私、もうとまらないよ、孝(たかし)?」
「そりゃ光栄だ。今日と明日は休講だし、歩はお隣さんとご一緒だ。何も問題なし、いいかね?
大野 霞君?」
「ふふ……ええ、いいわよ。孝先生……ん」
59名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 01:32:51 ID:0SfDZevv
ん?
弟ってことは、歩が男で勇が女?
勇→優希の百合?
60名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 07:14:47 ID:wz0wjpg1
そーいや優希って女子に人気だったよーな…………
そして何気に教授を手玉にとる霞さん。
61名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 12:04:35 ID:WGx9RnPH
一応wktkなんだが・・・
1.イサミとアユムの性別がわかりにくい
2.俺の霞さんがはっちゃけてない
の二点が気にかかる。
62664:2007/06/22(金) 11:08:56 ID:ZuB2b3/m
原作:書く人氏

『薫と優希』



「にゃはは〜ん。はい、孝、あ〜ん」
「あーん」
ニコニコしながら恋人に目玉焼きを食べさせる女性。
「………」
そのデレデレな二人に見向きもせず黙々と箸を進める歩。
今日の朝食は豪勢だった。兄の恋人こと大野 霞が腕によりをかけて作ったらしいのだ。
ご飯に豆腐とワカメの味噌汁、目玉焼きとウィンナー+サラダ。
メニューは至ってシンプルなのだが…………
普段、朝食はコーンフロスト+αで済ませている歩にとっては久しぶりの米飯だ。
「ついでにサラダもあ〜ん」
ぱく、もぐもぐ…
「美味い、さっすが霞。このドレッシングサイコッ!イエスイエスッ」
しきりにガッツポーズをかます兄を尻目に歩はごちそうさまをすると席を立った。
「はい、歩ちゃんもあ〜ん」
「いえ、結構です。兄さん、新夜のおばさんには『兄はいない』って言ってる
あんまりはしゃがないでね。」
「だーいじょーブイブイ!まかせろーい。のほほほ」
霞と甘い朝食を取りながら笑う兄に歩は軽く溜息をついた。
そして
「いってきます」
と短く言って鞄を持つ。孝は振り返り、その後ろ姿を見送りながら手をあげる。
「気を付けて行けよ。」
「うん、大丈夫。」
「ん、いってこい。」
軽く手を振り、歩に手を振る兄、志摩 孝。
パタンとドアが閉まり、歩がマンションの廊下を駆けていく音。
「やっぱり、兄弟っていいわね。」
霞がうふふっと笑った。
「霞だって弟いるだろ…えーと確か…薫君だっけか」
「そ…でもね、やっぱり女である私と男である薫ンとは一線の隔たりがあるの」
「はははは、弟の部屋に入ってエロ本漁ってる姉が言える台詞か?」
「いやん、ばかん、それは言っちゃだめん―――って歩君はそういう事、なさそう…だよね」
ちらりと孝に眼を向ける霞。
「ああ?霞にしちゃ勘が悪りィな……歩は昔から、ただ一人にぞっこんだよ。毎晩のオカズもたぶんな。」
タバコに火をつけながら孝は言った。
「へー…意外だなぁ〜そういう事に興味なさそうなのに、相手は?名前は?」
「―――――名前は」
63664:2007/06/22(金) 11:11:44 ID:ZuB2b3/m
『薫と優希外伝 勇ミ歩ム』

「えーと新夜 勇さん…で貴方が志摩 歩君ね」
昼休み、中庭のベンチで『師匠』こと安田 桃子と約束を取り付けた
勇と歩はゴクリと唾を飲み込んだ。
「それで、相談したい事って言うのは?」
「はははははい、じじじじじつはででですねえええええ」
勇はガチガチになり、今にも素の勇が飛び出しそうだった。
「実は?」
「なななななんともももももうしませうかかかかか」
「ふふ、緊張しないで。だいたい言いたいことはわかるわ」
「へっ?」
にっこり笑って眼鏡っ子先輩はこう言った。
「デキちゃったんでしょ?」
「は?」
勇の眼が点になった。
「隠さなくていいの。パパは歩君?何ヶ月なの?最近、多いのよ。そういう
相談が。でも私は思うの、若い内の誤りだからって隠し通して、中絶なんて。
赤ちゃんがかわいそう、だから、ね、一人で抱え込まないでもっとパパと―」
「え、いや…や、安田先輩?」
勇が一人の世界で身悶えている桃子を遠目に声を掛けた。
「いいの、みなまで言わなくていいのよ。辛いことだもの!でもね―――――」
「勇は妊娠してませんし、父は僕でもありません。相談というのは勇の恋の事です。」
勇に強制的に付き添わされた歩は悶える師匠にきっぱりと言った。
「え…妊娠じゃない?恋の相談?」
「はははい…そ、その実は東三条 優希先輩のことなんですが…」
「優希ちゃんのコト?」
「すす好きや…じゃなくて好きなんです。おおお女の子だけど、ぼぼぼぼ僕、東三条先輩が好きなんです」
勇、一世一代の告白(かみかみ)。
その言葉に桃子はキラリと目を光らせた。
「勇ちゃん…」
「は、はひゃい!」
「勇ちゃんて真性半陰陽者?」
「しんせいはんいんようしゃて何ですか?」
『?』を頭上に三つほど浮かべながら勇は言った。
「あー…えーとフタナリってコト。」
「ふたなり?」
勇の同人属性は純愛ボーイッシュ系なのでそっちの知識はない。
「簡単に言うとオチンチン付いてる?」
めんどくさくなった桃子が直球勝負に出た。
「オチ―――つ、付いてるワケないでしょう!?僕はれっきとした女の子です!」
「そう……それじゃあ無理ね」
桃子はやれやれと言った表情でなにやらメモ帳を取りだした。
64664:2007/06/22(金) 11:15:18 ID:ZuB2b3/m
―――大野 薫―――

「そ、その人が東三条先輩の、か、彼氏なんですか!?」
桃子の手でひらひら揺れる写真を見ながら勇は言った。
「そう。ちなみに優希ちゃんは百合趣味はないし、大野君にべた惚れよ。」
妙に甘ったるい声で桃子は語る。
「そ…そのやっぱ…ヤっちゃたりは…」
引きつった顔でおそるおそる問う勇。
(勇…出てるよ)
臂でこづく歩だったが、勇の耳には届いていないようだ。
「あははは、もちろん毎日ヤりまくりに決まってるじゃない。つい最近まで―――と、ここからは料金割増で」
「はい……」
勇は即金で諭吉さんを出した。
「毎度あり〜。最近までハメ撮りしてた仲なんだよ…はっきり言って勇ちゃんの勝率は“ゼロ”と断言できるわ」
ガガリーン
勇の優希に対する希望が木っ端微塵に碎けた。
さらに桃子はトドメといわんばかりに追い打ちを掛けた。
「しかも優希ちゃんは薫君と結婚まで取り付けてるらしいわ。卒業と同時に籍入れるとか入れないとか…」
「ああ…そんな…なんで…なんでよ…くすん」
勇は大きく肩を落とし、ぐったりとうなだれた。なんとなくイントネーションが関西風。
そんな勇に桃子はポンポンと優しく肩を叩いた。
「安田先輩―――」
「大丈夫よ、勇ちゃん。私は百合も範囲に入ってるわ、貴女のコト、気に入っちゃった。どう、これから―」
何が大丈夫なのかわからなかったが桃子の上気した顔は怖いと勇は思った。
「そうですかありがとうございましたこのコトは他言無用でお願いしますでは」
歩が勇と桃子の間に割って入り、早口でまくし立てると有無を言わせず桃子の手に諭吉を握らせた。
そして、そのまま勇を引きずるようにして去っていく。
「……志摩 歩君に新夜 勇ちゃんね…新生カップル誕生か…」
一人残された桃子はぽつりと呟いた。
65名無しさん@ピンキー:2007/06/22(金) 16:46:11 ID:Ma9ZF4fk
もう少しまとめて投下してもらえるとありがたいんだが……
66名無しさん@ピンキー:2007/06/22(金) 22:34:36 ID:/rX228K2
まあ、さるに引っかからない程度にはまとめてな。
そして地の文は文頭に空白を入れよう。
初等教育を受けたなら理由は分かるな?
67名無しさん@ピンキー:2007/06/22(金) 23:49:21 ID:LQfg7bBZ
ここですか?偉そうな読者がいるスレは^^
68名無しさん@ピンキー:2007/06/23(土) 00:17:47 ID:uiQNkY00
>>67
「偉そうな」とは言うけど、どこでも似たような反応されるさ
実際、小出し投下ってのはどうにも読み辛いし、投下される間隔が広くてもある程度書きあがってからの方が、大多数の人が読み易いと思ってるもんだと思う
69名無しさん@ピンキー:2007/06/23(土) 01:37:40 ID:gukcz91w
確かに指摘するところは多いかもしれない


がその前に

 G J !

の一言くらいあってもいいんジャマイカ?
70名無しさん@ピンキー:2007/06/23(土) 10:17:20 ID:d7qrrYyD
小出し投下が叩かれるのはこの手のスレでは日常茶飯事
そしてそれについての議論も日常茶飯事
71690:2007/06/24(日) 01:59:21 ID:Z+IntZoP
ファンタジー
エセ軍人物
エロ無し

 ヴィクターの得た情報およびアルベルト率いる諜報部隊の調査により、事件の全貌は瞬く間
に明らかになった。
 今回の一連の事件は、全て“起業”のための布石である事。
 最近各地で頻発していると言っていい軍部の“ありえない”失態は、ほぼ全て人為的な事件
である事。
 先日、ヴィクター少佐および訓練生に沈黙させられた“くぐせ”の事件も、仕組まれた事件
の一つである事。
 片田舎の森の奥に生息している災害レベルの害獣を捕獲して市街に放ち、軍の不手際をでっ
ち上げる事で信用を貶める。そうして民間企業に身の安全を求めるようになった非力な市民
に護衛を売りつけ、確実な信頼を得るまでの間軍よりも先に害獣を沈黙させるデキレースを
行う予定だったのだと、捕らえられた者は口を揃えた。
 その過程で人が死のうと、知った事ではない。些細な犠牲で多くを得るのは、軍人の常套手
段だろうと、捉えられた者はみな一様に笑って見せた。

「しょっ引かれて計画もおじゃん。首謀者は終身刑で夢も希望も見出せない結果なのに、随分
余裕なんですね。拷問するまでも無く喋ったって言うじゃないですか――なんか怪しい」
 第二師団の諜報課――アルベルト大尉の執務室である。
 クロルはいつものようにソファに偉そうに腰を下ろし、飛びきり甘いバターケーキをありが
たく頂きながら、唇を尖らせて文句を言うようにアルベルトに訴えた。
 ふむ、と頷き、アルベルトがキャンディーボックスに手を伸ばす。
「怪しい――と、まぁ、最初は私も思った。だが事実だろう。奴らはただ、自分達の受ける被
害を最小限に抑えようとしているに過ぎない。首謀者は死んでも、組織は死なんという考えな
のだろう。驚くほどよく教育されているよ。両手を叩いて賛辞を贈りたい程だ」
「でも、事実上組織は潰れたんですよね。だったら――」
「一からだって、一人でだってやり直すつもりだろう。全員がその心構えを持っている。実際、
奴らの計画は巧妙だ。どれだけ軍が市民に“民間の護衛を雇うな”と呼びかけても、街が危険
ならば市民は安全を金で買う」
「いたちごっこですか……」
「そうなるな――だがまぁ、そう簡単に再建はさせんよ。これはヴィクター少佐が得た情報だ
が、ガウデレの外れに樹海があっただろう。どうもその森の一画を買い取って、なにやら新種
の実験をしていたらしい。それを潰せば、数年の時間稼ぎにはなるはずだ」
 新種ゆえ、軍は即座に駆除できない。しかし自分たちなら容易に駆除できる――そんな生物
の研究をしていたのだろう。なるほど、企業としてそれは大きな売りになる。
「既にウィルトス少佐を含む参謀部が両師団長と今後の行動を話し合っているはずだ。近日中
に第一師団のいずれかの部隊に出動命令が下るだろう」
「この場合、まだ事件を起こしたわけじゃないから、第二連隊の管轄になるのかなぁ……」
「恐らくな――だが知っての通り、正体不明の生物に最も迅速かつ正確に対応できるのは第一
連隊の突貫部隊だ。そのあたりの兼ね合いを上がどうするかは、私にはわからん」
 という事はつまり、ヴィクターが出陣する可能性も、ゼロでは無い。
 遠征の覚悟をしておいた方がいいだろうか。最後に指揮官としてのヴィクターを見る事が出
来るのは嬉しいが、また未練が募りそうである。

「――浮かない顔だな、曹長」
「え……そ、そうですか?」
 突然の鋭い指摘に面食らい、普通にしてるつもりなんだけどなぁ、とぺたぺた顔に触れなが
ら、クロルは不思議そうに首をかしげた、
 その様子に、アルベルトが苦笑する。
「これでも諜報部隊長だ、それくらいの感情の起伏は読める。何かあったのか?」
「いえ……まぁ、そうですね……」
 ちょっと、と曖昧に答えてから数秒を置き、秘密ですよ、と念を押す。
「士官学校の教官に志願することにしたんです。任務の引継ぎとか、やらなきゃいけない事が
結構あるからまだ先になるんですけど……どうかしましたか?」
 唖然。
72690:2007/06/24(日) 02:00:05 ID:Z+IntZoP
 まさにその言葉が当てはまる表情だった。
 言葉の分からぬ赤子に対し、今のアルベルトを指差して「これが唖然としてるって事だよ」と教えれば、綺麗に伝わるに違いない。
「ヴィ……ヴィクター少佐は、その事を……」
「まだ言ってないんです。どうやって伝えようか悩んでて……大尉?」
 先ほど口に入れたばかりの飴玉を盛大に噛み砕き、アルベルトは末期の薬物依存者を彷彿と
させる手つきでキャンディーボックスを引き寄せた。
「いや……いや、そうか。随分と長く続いた方だが――君はずっと彼の副官を続ける物だと思
い込んでいたので、少々度肝を抜かれた」
「うん、なんか皆そう思ってるみたいで……ウィルトス少佐を通して連隊長に移動願いの事を
そこはかとなく伝えてもらったんですけど、泣きそうな顔で飛んできて本気か、って迫られま
した。後任にちゃんとした副官が見つかるまでは続けるって言ったら承諾してくれましたけど」
「後任にあてはあるのか」
 問われて、クロルは自信を持って頷いた。
「あります。僕よりはるかに有能なのが一人」
 そうか、と呟き、アルベルトは見ているだけで具合が悪くなりそうな勢いでキャンディーを
口に放り込み、スナック菓子のようにがりがりと噛み砕いた。
「この支部を離れ、前線から離れるという事は、我々の関係も終わりが近い――という事か」
「わかりません。出来る範囲で続けたいな……とは思うんですけど」
 士官学校の教官は、基地での訓練とは全く異なる方式で教鞭を取る。
 基地で訓練生を育てる場合は、ほぼ全ての教練を一人の教官が担当するが、士官学校では担
当する教科が決まっており、より多くの訓練生を小間切れで教育する通常の学校方式が採用さ
れていた。
 故に、教官として着任しても、時間を多く取れる日も当然ある。その時間を失ってでも、ク
ロルは少しでも前線に触れていたかった。
 今までのように頻繁に手伝うわけにはいかないが、どうしても必要ならば、遠慮なく協力要
請を出して欲しい。
 クロルがそう答えると、アルベルトはそうさせてもらおう、と頷いた。
「それじゃあ僕、そろそろ行きますね。もうすぐ少佐がトレーニング終る頃なんで」
「曹長」
 立ち上がり、立ち去りかけたクロルの背を、アルベルトは静かに呼び止めた。
 振り返ると、ぐったりと疲れたように椅子に体を沈めたアルベルトがにやりと口角を持ち上
げた。
「おまえさんは、間違いなく教官向きだよ。お嬢ちゃん」
 きょとんとして、死んだ魚のような目を見つめ返す。
 くく、と小さく笑いを零し、クロルは片目をつぶって見せた。
「おじさんも早く“向いてる仕事”見つけなよ」
 目下調査中だ、と真面目腐って答えたアルベルトにひらひらと手を振って、クロルは部屋を
後にした。


 ***


 銀髪の男から情報を聞きだして一晩が開け、ヴィクターとクロルは一日中、会議や報告、市
街に残った害獣の駆除への人員の派遣と仕事に走り回っていた。
 落ち着いて仕事以外の事を話している暇など無かったというのも、今まで異動についての報
告が出来ないでいた理由の一つだろう。
 昨日一日、昼食をとる間もなかった。あるいは、お互いが意図的に暇を作らなかったのかも
しれない。
73690:2007/06/24(日) 02:01:10 ID:Z+IntZoP
 わだかまりが残っていた。
 諜報活動でのクロルの痴態や、その後の強姦未遂。ヴィクターが気に病むだろう要素はあま
りに多い。
 クロルはトレーニングルームに向かいながら、少し足が重くなるのを意識した。

 トレーニングルームは、第一師団第二師団それぞれの棟に存在する。棟内では連隊ごとにそ
れぞれ設けられ、利用するのに階級の制限は存在しない。
 それ故、ヴィクターはクロルが副官についたばかりの頃、クロルの細腕をからかって少しは
鍛えろとトレーニングルームに引っ張り込んだ。
 クロルとしては、負荷が基本的に目のくらむような数値に設定されている機器に嫌気がさし
てこの施設を倦厭していたのだが、ヴィクターがどうしてもと言うので仕方なく何度か付き合
った事がある。
 だが、じきにヴィクターもそれを諦めざるを得ない事に気がついた。
 負荷をヴィクターの半分――いや、三分の一の数値に設定しても、クロルには一ミリも動か
す事が出来ないのだ。
 自分が非力な事は自覚しているし、並み居る軍人の中でも飛びぬけて力の強いヴィクターと
比較する事事態が間違っている事も頭では理解しているのだが、それを数値化して見せつけら
れるのはやはり面白い物ではない。
 終始不機嫌顔でただ黙々と走る事に時間を費やすクロルに嫌気が差したか、周囲からからか
いを含んだ口笛が上がるのを不憫にでも思ったか、とにかくヴィクターはクロルをトレーニン
グルームに引きずり込む事を諦めた。

 一階の廊下を歩いていると、かすかにトレーニング機器の重たい金属がぶつかり合う音が聞
こえてくる。
 少し、いつもより騒がしいだろうか。思った瞬間、何処からかわっと歓声が上がった。
 廊下を歩む足を止め、何事かと目を瞬く。
 トレーニングルームの方ではない。誘われるようにグラウンドに面した窓に視線を投げ、ク
ロルは愕然としてへばりついた。
「な……な――!」
 何やってるんだあの馬鹿――!
 心の中で叫んだその言葉は、果たしてどちらに向けられた物か――。

 グラウンドに人だかりが出来ていた。
 その人垣の中心で、ヴィクターとバルスラーが素手で殴り合っているのである。
 バルスラーが生きているという事は、少なくともヴィクターの拳はまともに受けていないと
いう事だろう。
 だが、明らかに激昂していた。まるで周りなど見えていないかのように、闇雲にヴィクター
に突っ込んでいく。
「ばか……ばか、ばか、バカッ! 何勝ちに行ってんだ無理に決まってるだろ!」
 今はまだヴィクターが冷静だからいいだろう。
 だがもし、何かの間違いでヴィクターの闘争心に火をつけてしまったら、一瞬でヴィクター
は豹変する。
 バルスラーが潰される。
 たまらず、クロルは窓を開けてグラウンドに飛び出した。
 真っ直ぐに人垣に走りより、人を掻き分けて前に出る。
 地鳴りのような歓声が上がった。
 嫌な予感に心臓が激しく鼓動する。
 ようやく開けた視界に、クロルは息を呑んで固まった。

 バルスラーの拳がヴィクターの顔面を捉えていた。
 
 一撃で怯んだヴィクターの腹部に、畳み掛けるように拳が入る。
 ヴィクターの表情が変わった。
 怒りでも、闘争心でもない。愕然――と言うべきだろうか。戸惑いを含んだ表情で、ヴィクター
はバルスラーから距離を取った。
74690:2007/06/24(日) 02:01:55 ID:Z+IntZoP
 
 様子がおかしい。
 ヴィクターはあの程度の攻撃で怯む男じゃないはずだ。
 追い討ちを掛けようと、バルスラーが飛び掛る。
 その唇が何事か囁いた。

 ――知って――止めなか――。

 知ってて、どうして止めなかった。
 バルスラーは確かに、ヴィクターにそう言った。
 ヴィクターが何を知っていて、何を止めなかったと言うのだろう。
 バルスラーは何に激怒し、ヴィクターは何故、その怒りに怯むのか――。

 振りかぶった拳が再びヴィクターの頬を捉え、渾身の力を込めて叩きつけられた。
 ヴィクターの膝が揺らぐ。
 止めと言わんばかり形相で襲い掛かるバルスラーの拳を、ヴィクターはようやく捕らえた。
 ヴィクターの瞳から感情の色が消える。
 バルスラーの耳元で、何事か囁いたように見えた――。

 瞬間。

 歓声が吹き上がった。
 ヴィクターの拳が深々とバルスラーの腹に突き刺さり、バルスラーの瞳孔が大きく開く。
 ガクン、と膝を突き、バルスラーはもがくようにうつ伏せに倒れこんだ。
「ば……バルスラー!」
 一声叫び、クロルは石のように固まっていた自分を頭の中で罵りながらバルスラーに駆け寄った。
 野次馬の誰かが水をもってこい、と声を荒げる。
 ぐぅ、と呻いて苦しげに砂をかくバルスラーを助け起こし、クロルは肋骨が全て無事な事に
安堵した。
 様子からして、内蔵も無事だろう。
 無言でバルスラーを見下ろし、何も言わぬまま背を向けたヴィクターを、クロルは慌てて呼
び止めた。
「ありがとうございました」
「……何がだ」
「手加減……してくださったでしょう」
 周囲の目を意識した、部下と上官の会話である。
 ちらと背中越しにクロルを見、ヴィクターは「だれかこいつを木陰にでも運んでやれ」と野
次馬に向かって怒鳴った。
 ちくしょう、とバルスラーが吐き捨てる。
 苦しげに腹部を押さえながらヴィクターの背を真っ直ぐ睨み、バルスラーはちくしょう、ど
うして、と呻き続けた。


 ***


 クロル以外の拳を顔面にもらったのは久々だった。
 と言うより、人間と殴り合いをする事自体久々だ。
 シャワールームで熱湯のようなシャワーを浴びながら、ヴィクターは腫れてきた頬に指を
やって鈍い痛みに目を閉じた。
75690:2007/06/24(日) 02:02:40 ID:Z+IntZoP

 バルスラーに嫌われている事は知っていた。
 理由はよく分からないが、恐らく自分がウィルトスを嫌うのと似たような物だろう。
 だからヴィクターは、唐突に手合わせを申し出たバルスラーの行動を特に不自然だと感じな
かった。
 軽く伸してやれば気が済むだろうと気楽に構え、誘われるままグラウンドに出たのである。
 だがバルスラーは、血気盛んな若者――と言うにはあまりに殺気立っていた。
 しかし記憶の何処を見渡しても、バルスラーを怒らせるような行動をとった覚えが無い。胸
の奥にもやもやと溜まる不快な疑問は、しかしバルスラーの唸るような一言に吹き飛ばされた。

 ――諜報任務って、どういう事だよ。

 瞬間、ヴィクターはバルスラーの怒りを理解した。
 周囲の歓声と野次が消え、バルスラーの言葉だけがやけにはっきりと耳に届く。
 何故止めなかった。どうしてそんな任務をやらせるんだ。
 全て、自分がウィルトスに向けた言葉だった。それを言われる立場になって初めて、その言
葉がいかに残酷か理解する。
 そして、ただ自分が“嫌だ”と主張するだけで、クロルを止められなかった理由さえはっき
りと、ヴィクターは自覚せざるをえなかった。
 仕方なかっただとか、俺がやらせてるんじゃないだとか、そんな言葉は出てこなかった。
 自分がとるべき行動は一つで、言うべき言葉は一つだった。
 それが当然であるように。
 なにも不思議な事では無いように。

 ――それがあいつの仕事だからだ。

 結局自分は、ウィルトスの発言をバルスラーに繰り返しただけだった。
「みっともねぇ……」
 呻くように呟き、壁に腕をついて頭を預ける。
 幼かった。
 バルスラーと同等か、あるいは、それ以上に――。

「長いシャワーだったね」
 てっきりバルスラーの傍に付いているだろうと思ったクロルは、いつも通りにいつもの場所
で、ヴィクターの事を待っていた。
 責めるような視線で睨まれ、気まずさに視線を外す。
「腫れてるよ、頬」
「あぁ……あの野郎、殺すつもりで殴りやがったからな」
「で、歯の一本も折れないんだ」
「口の中は切ったぞ」
 化物め、と言外に罵るクロルにささやかな反論を返し、気まずい雰囲気に沈黙する。
 ヴィクターは深く長い溜息を吐きながら、背を壁に預けてずるずるとその場にしゃがみこんだ。
「バルスラーから話、聞いたか……?」
「うん。ゲーゲー吐きながら物凄い悪態ついてたよ。あいつの頭の中では、君が上官命令で無
理やり僕に諜報任務をやらせてる―って図式が出来上がっちゃったみたい。例えそうじゃない
としても、とにかく君が悪いみたいだよ」
「あぁ……そうなるだろうな」
76690:2007/06/24(日) 02:03:33 ID:Z+IntZoP
 誰かを悪者に仕立てなければ、任務と割り切って男に体を開く女が理解できない。その女に
好意を抱いていればいるほどに、常識や偏見に逃げて現実が見えなくなる。
 数日前――あるいは、ほんの数十分前まで正に自分がそうだったのだ。バルスラーの憤りが
痛いほどよく分かる。
「俺、ウィルトス少佐に土下座したくなってきた」
 よく、平然と構えていられた物だ。
 バルスラーに責められて、自分は気を失うかと思うほどの衝撃を受けたというのに。
 クロルはその言葉に怪訝そうに首をかしげ、ふと思い出したようにヴィクターを見下ろした。
「そういえば君さ……教官に何か言ったの? びっくりするくらい弱気な事言ってたよ」
「弱気?」
「君は僕を恨みますかーって。心臓止まるかと思った」

 あの男が、そんな事を言ったのか。あの、自信の塊のような参謀が。
 ヴィクターは頭を抱えて奇声を発した。
 次からウィルトスにどんな顔をして会えばいいのか分からない。
「俺、お前が諜報任務やってるって聞いてからこっち、馬鹿しかやってねぇ気がする」
「そう? 悪い奴ら捕まえるのに貢献したじゃん」
「そういう話をしてるんじゃねぇだろう!」
 呆れたように声を荒げ、ヴィクターは泰然としているクロルを睨み上げた。
 ふむ、と頷き、クロルがあさっての方向へ視線を投げる。
「僕としては、殺気立った訓練生の無謀な挑戦をほいほい受ける事よりも馬鹿な行動を想像で
きないんだけどね」
「それは……その、なんだ……一応、一瞬でも教官だった身としてはだな……」
 戦闘の手解きを……などと言い訳をしようとするヴィクターを、クロルは再び咎めるような
目つきで睨んだ。
「自分が“プッツン士官”だって事忘れるなよ。君は切れたら訓練生相手だって容赦なく叩き
潰すような超絶危険人物なんだぞ。僕の教え子潰してたら絶交だぞ、本気で」
 思い切り反論したかったが、どこを探しても反論できる材料は見当たらなかった。確かに自
分はプッツン士官で、バルスラーがクロルの諜報任務について触れなければ最後まで冷静でい
られたか分からない。
「……すまん」
「よし」
「あいつ……平気そうか?」
「うん。今アウラが思い切り説教してる。僕の出る幕無さそうだったからこっち来たんだ。君
に説教してやろうと思ってね」
 アウラの説教か。
 あの端整な顔立ちで圧倒的正論をとうとうと説かれたら、クロルにいびられるよりダメージ
が大きそうである。

「あのよ……」
「うん?」
「お、一昨日……の、夜……のよ」
「強姦未遂?」
 ――はっきりと言ってくれるじゃねぇか。
 壁に頭を叩きつけて大量出血と共に失神したい衝動を必死に抑え、ヴィクターは重々しく頷いた。
「悪かった……」
 あはは、と、クロルが困ったように笑って見せる。
「いいよ。あれは僕が君を怒らせたのが原因だし」
 
――彼女は君よりも自分を責める。
 
 正に、ウィルトスの言う通りだった。
 思わず吹き出すと、クロルが咎めるように片眉を吊り上げる。
77690:2007/06/24(日) 02:04:17 ID:Z+IntZoP
「なに?」
「いや……」
 かなわない。
 と言うよりも、最初から土俵が違うのだ。
 クロルがウィルトスに求める物と、ヴィクターに求める物は根本からして違っている。
「お前が悪いはずあるかよ……怒らせたって理由でいちいち俺が力に物言わせてたら、お前俺
に何も言えなくなるだろ」
「鋭い所つくね。でも、あれはただの八つ当たり。正当な事言って君が逆切れしたわけじゃな
いから、非はやっぱり僕にある」
「ねぇよ。八つ当たりくらい誰だってすんだろ」
「強情だなぁ」
 どっちがだよ、吐き捨てると、両方かな、とクロルがふざけて笑って見せた。

「なぁ」
「うん?」
「諜報任務でよ……また何か、一人じゃ危なそうな事あったら……」
「そうそう無いよ、そんな事」
「あったらって話してんだろうが。話を聞けよ」
「はいはい」
「……手伝わせろよな」
 沈黙があった。
 くすり、とクロルが笑う。
 へーぇ、とにやにや唇に笑みを刻み、腰を屈めてヴィクターの顔を覗き込んだ。
「また盗聴器付けて、僕のやらしい声を聞きたいわけだ」
「おまえな……! 人が真剣に――!」
 ちゅ、と耳に心地よい音を立てて、クロルの唇がヴィクターの唇の端に触れた。
 真っ赤になって唇を押さえ、ヴィクターが立ち上がって飛びずさる。
「お、おま……おま、お前……!」
「ありがとう」
 少年のように屈託の無い、少女のように華やかな笑みだった。
 唇を押さえたまま、その笑みに蕩かされる。
「でも、もういいんだ」
 言って、クロルが笑みを曇らせた。
 この表情は好きじゃない。
 クロルはいつも、どんなに無理だと思う事でも限界まで足掻いた。
 足掻いて、足掻いて、諦める時にこうして笑う。
 嫌な予感がした。心拍数が緩やかに上昇する。
「なにが――」
「前線を離れようと思う」

 呼吸が止まった。

 頭の中が真っ白に――とは、よく言ったものである。
 本当に何も考えられなかった。呼吸をする事を忘れ、心音さえ止まったように思えた。ただ、
ひどく冷たい。
78690:2007/06/24(日) 02:05:39 ID:Z+IntZoP
「なんで……」
 零れ落ちるようなその問いに、クロルは困ったようにうん、と小さく頷いた。
「士官学校の教官になる事にしたんだ。連隊長にはもう、一応話は通してある」
 違う。
 そんな事を聞いているわけでは無い。
 半ば無意識に、クロルの腕を掴んでいた。
 だが、言おうとした言葉がどうしても出てこない。
「ヴィクター。そんな顔するなよ。別に今すぐにってわけじゃないんだ。僕の後任も用意しな
きゃいけないし……だからたぶん、一年くらいはかかる」
「クロル……」
「元々僕より向いてる人材が現れるまでって話だったんだ。それに実際に教官やってみて、凄
く楽しいって思う。結構自信あるんだ。人を見る目ある方だと思うし、君と一緒に前線で戦っ
て色んな物を沢山見た。それでさ、僕弱いから、才能が無くてもそれなりに生き残る方法、教
えられると思うんだ。教官もそれは認めてくれてるし、教え子は凄くかわいい」
「クロル!」

 びくりと肩を震わせて、クロルは俯いて口を閉じた。
 掴んだ肩が震えている。
「この支部……離れるのか」
「……うん」
「ウィルトス少佐は……?」
「知ってるよ……賛成してくれてる」
 そうか。
 ああ、俺も応援してる。お前は教官に向いてるよ。
 向こうでもがんばれ。時々は会って、酒でも飲もう。
 言うべき事は数え切れない程あった。
 笑って送り出すべきだ。
 教官ならば命の危険は少ないし、何より、クロルはそれをやりたいと望んでいる。
 だが、聞かずにはいられなかった。

「……俺のせいか」
 愕然とクロルが顔をあげ、驚いたように首を振る。
「違う……言っただろ! 元々、いつかはやめる事に決まってたんだ。優秀な人材が見つかっ
て、今僕が受け持ってる訓練生も、もうすぐ部隊に配属される。僕が異動する準備を始めるの
に、丁度いい時期なんだよ。君との事は関係ない」
「俺がお前を抱いたからかよ」
「ちが……ヴィクター! 話を聞けよ、潮時なんだ!」
「そんな理由で納得できるかよ!」
「いッ――!」
 怒鳴ると同時に、思わずクロルの腕を掴んだ指に力がこもった。
 ごく小さな悲鳴を上げて、クロルが苦痛に顔を歪める。
 はっとして手を放し、ヴィクターは軋むほどきつく奥歯を噛み締めた。
「ヴィクター……ねぇ、今生の別れってわけじゃないんだ。異動なんて、よくある事じゃない
か。支部は変わるけど、いつでも会えるよ」
「戦友だと思ってた……」

 よせ。
 これ以上クロルを困らせるような事を言うな。
 頭の奥でうるさい程に激しく怒鳴る自分の声を聞きながら、ヴィクターは伸ばされたクロル
の手を振り払った。
「お前も……結局俺から逃げるんだな」
79690:2007/06/24(日) 02:07:13 ID:Z+IntZoP
「……なんだよ……それ」
 呆然と、クロルが静かに問い返した。
 ――また、こうやって俺は、自分勝手にクロルのことを傷つけるのか。
「なんでそんな風に……思うんだよ……! なんで――!」
「もういい……仕事に戻るぞ。――曹長」
 クロルが大きく目を見開いた。
 開いた口からかすれた声がかすかに漏れて、しかしそれは言葉にならずに消えて行く。
「了解しました……ヴィクター少佐」


切らせていただきます
80名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 02:18:49 ID:P6t7/KjC
いよっ、待ってました大将!
ああぁぁ……大団円に向かう筈なのにこの進み方……一体どうなる事やら、gkbrwktkでじっと待たせて頂きます
バルスラーが結構良いかもと思ってしまった俺ガイル。若いっていいよなぁ……

兎にも角にもGJ! です
81名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 10:09:45 ID:RrdzrDZn
無意識に読まされる作品で安易にGJでくくりたくないですね。
ヴィクターとクロルはいわゆる戦友から事務的な上官部下の関係になってしまうのか、
今後の展開が非常にきになります。
楽しみにしておりますが、いつでも待ちますので作者様のペースで書き進めて下さい。
82名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 02:02:57 ID:g/183Y4t
誰か俺にほのぼのをくれ(′A‵)
83名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 06:50:42 ID:SksHkBxa
もういやじゃ〜
この胃が痛くなるような展開
ハラハラドキドキワクワクビクビクしながら大団円を待ちます
84名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 19:00:26 ID:dGb3W5R5
GJとしか言えない…
早く大団円を迎えたい、けど終わって欲しくない…
こんな名作に出会えることが出来て、本当に良かった。
690氏ありがとう。
85名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 00:35:23 ID:npZPP3Bm
gj
86名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 01:05:11 ID:npZPP3Bm
ほのぼのじゃないけど、昔書きかけていた幼なじみ設定で
途中まで投下

注、エロ薄の上、修正中の為にエチ前までです。
87名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 02:25:41 ID:Ixg3WnCl
む、規制かな?
とりあえず支援
前スレ>>460辺りからの流れの続きです。
本番描写はありません。
「……ふん、なんだい、これは?」

 少年が着るような半ズボンとシャツに身を包んだ、だが胸の膨らみによって
それとわかる少女は、笑みを浮かべながら言った。

「何って……小説、だけど」

 言葉を浴びせられた男は、身を縮めながら応えた。
 今日もまた、その腕は後ろ手に縛られ、自由を与えられていなかった。

「欲望が丸出しだね」
「げふっ」
「やりたい盛りのガキじゃあるまいし……そんなに溜まってるのかい?」
「……そりゃ、あれから一度も抜いてもらってないし」

 手が自由だったら、男は頭をかいていただろう。
 苦笑しながらの呟きに、少女は目を細めた。

「ひたすらフェラチオしてもらいたいと思いながら、これを書いたんだ?」
「……そ、そうだけど」
「お陰でフェラ描写ばかりになっちゃったんだね?」
「そ、そうだよ」
「前出した精液がそのままかぴかぴになって、凄い匂いがしてるアソコをそのままで?」
「………………」

 男は俯いた。
 今、この瞬間にも、彼の股間からは据えた、生臭い匂いが立ち昇っている。
 その匂いは、決して心地よいものではなかった。むしろ、嫌悪感を覚えていた――男の方は。

「……凄い匂いだよね」

 少女は、棒立ちになっている男に歩み寄る。視線を、下履きを突き上げる男の股間に固定したまま。

「して欲しいなら、お願いして欲しいんだけど」
「えっ、けど……ご褒美って……」
「僕は、別にしたいわけじゃないしね。このまま、またもう一度君を放っておいても構わない」

 そう言いながら、少女の視線は男の股間から……その中心にそそり立つ逸物から、離れない。
 だが、男の方に、それに気付く余裕は、無い。

「……します」
「ん? 聞こえないよ」
「……お願いします……舐めて、下さい」
「何を?」
「ペニス、を……俺の、ペニスと……ペニスに、こびりついた、いやなにおいのする……せいえき、を……」
「……ふふ……そんなに舐めてほしいんだ?」
「お願いしますっ! ご褒美をっ、ご褒美をくださいっ! 舐めてください! 俺のペニスと精液を!」
「そこまで言うなら舐めてあげるよ……思う存分に、ね」

 少女は、男を立たせたまま、その股間に手を伸ばした。
 ファスナーが下ろされ、白っぽい塊がこびりついた剛直が露になる。

「……まず最初は、どうするんだったっけ?」
「え?」
「小説では」

 普段の不敵な――世の中の全てを手中に収めているとでも言わんが如き笑みとは違う、まるで
幼子が悪戯をする時のような少しばかり歪んだ笑みを浮かべながら、少女は男のモノを見つめる。
 見つめるだけで、それ以上は何もしない。
 男の答えを、待っている。

「……取り出したものを、手で、弄びます……」
「ふぅん。じゃ、その通りにやってみようか……君の理想通りに、ね」
「理想通り、って……あっ」

 男が声を漏らす。
 少女の柔らかい手が、男のモノを包んだのだ。

「くっ……あぁ……」
「『わあ、凄い! お兄ちゃんの、ビクビクしてるっ!』」
「っあ!?」

 いつもの少年のような口調とは違う、歳相応――よりは少し下か――の少女の口調。
 男のモノはその声に反応したか、さらに震え、大きくなる。

「……こんな感じだったかな、台詞は?」

 少女の手が、男の竿の部分をゆっくりと動く。
 上に、下にと移動する度、男のモノは震え、腹に届かんばかりにそりあがり、先端からは早くも先走りが滲む。

「『何か出て来たよぉ……? これ何、お兄ちゃん?』」
「や……やめ……あっ」
「『……とろっとしてて、変な匂いする……けど……」
「っ……ぁく……」
「『………………ねぇ』」
「あ……?」

 少女の手の動きが止まる。

「『これ……ペロペロしても、いい?』」

 男の下げた視線が、少女の上目遣いの視線と交わる。
 上気した頬。潤んだ瞳。口唇から漏れる吐息。そして、無垢な、笑顔。
 想像の中にあった、書きながら思い浮かべた、そのもの。

「……うん……いいよ」
「ふふっ……その前に……」

 だが、それが見えたのは一瞬だけだった。

「えっ?」
「まずは、こっちのこびりついたのから、掃除してあげよう。約束だしね……ん」
「あ、え……あっ」

 幻想という名の仮面を脱いだ少女が、男の下腹部に顔を埋め、舌を伸ばす。

「……凄ひ、にほいらね……んむ……ん……」
「ん……っ……」
「変な……味……」

 下腹部から順に、少女は丹念に舌を這わせていく。
 下腹部から、太ももから、白っぽいものが消え去り、代わりに唾液の痕が光を放つ。

「……っ……くぅ……ぁ……」

 下半身にあった気持ち悪さが少女の舌によって拭われる度、頂点には達しない、
だが確実にそこに自らを近づけていく快感が、男の背筋を走る。

「はぁ……んちゅ……」
「あっ……!」

 陰嚢が舌の上でころがされて男が背筋を仰け反らせ――掃除″は終わった。

 
「……凄い匂いに味……なんだかクラクラする……」

 少女の頬は朱に染まり、目はどこか惚けたようにボーっとしている。
 だが、決定的なものではない、だが確かな快感を蓄積させられた男には、やはり、それに気付く余裕は無かった。
 
「はぁ……はぁ……」
「ふふ……そちらはもっとクラクラしてるのかな? では、お待ちかねの、本番フェラと行こうじゃないか」

 少女はそう言って、再び幻想という名の仮面を被った。

「『……じゃあ、行くよ……お兄ちゃん』」

 男の全身がビクリと震える。

「……う、ん」

 真っ白な頭のまま反射的に男が頷くと、少女は先端へと手を、舌を伸ばした。

「っ……」
「『んっ……ん……ん……ここ、ペロペロすると、気持ちいの? ん、ん……ん』」
「気持ち、いぃ……」
「『ん、ん……じゃあ、もっと気持ちよくして、あげるね……あむ』」
「ああっ!」

 温かく、ぬめりを帯びたものが、男のモノの全てを包むこむ。
 少女が自分のモノを口に含んだのだと男が気付いたのは、一瞬遅れての事だった。

「ん……んぅ……んふぁ……」
「っぁ! い……っ……す、すご……」

 少女は口中のモノに舌を絡ませ、口をすぼませ吸い上げ、喉に届きそうな程奥へと招き入れる。

「あっ……っく……ん……っ!」
「『ひらは……んむぁ……膝がガクガクなってるよ、お兄ちゃん』」
「も、もう……イキ……そぅ……」
「『……私の口で、イキそうなんだ?』」
「うん……イキそう……だから、もっと……もっと、してくれない、か……」
「『うん! もっとしてあげるねっ!』」

 少女は再び男のモノを口に含む。

「いぁ……くぅ……ぅぅ……」
「ん……んぅ……ふぅん……んぁ……」

 口に含んだまま、ゆっくり左右に首を振って頬の柔らかい部分で男の先端を優しく刺激する。
 その最中も、少女の舌は男の竿の部分を、裏の筋を刺激する事をやめない。
 少女の口全体が、男のモノに絡みつくようにそれを刺激していく。

「あ……ああ……も、もう……」
「『らひて、ほにいひゃん……わらひのくひのなは』」

 
 その時、それまでされるがままだった男が、腰を突き上げた。

「ああああああっ!!」
「んぐっ!?」

 少女の喉奥を男の先端が突き、暗じていた台詞を遮る。
 その刺激が、男を頂点へと導いた。

「イク……イクよっ! くっっっっぁぁああああ!!!」
「……!? …………!!! ………………!?!?!?!?」

 逃がれようとする少女の動きを上回る速度で男の腰が突き出され、喉の一番奥で男の白濁が吐き出される。
 口をふさがれ、咳き込む事も許されず、目を見開きながら、少女はその白濁を飲み干していく。

「出てる……いっぱい、出てる……」
「……っ………………ん…………ぁ……」

 一瞬とも永劫ともつかない時間、男は腰を震わせ、白濁を少女の喉へと注ぎ込み続けた。

「………………あぁ」

 男は、全てを注ぎ込むと、恍惚の表情で、だらりと力を失ったモノを少女の口から抜き取った。

「……んぐはっ! ゲホッ!ゴホッ! ……あ、いきなり、なんて……ゲホッ!」
「ご、ごめん……あんまり、気持ちよかったから……」
「……凄い、いっぱい……はぁ……全部、僕のお腹の中に……入っちゃったじゃないか……はぁ……はぁ……」

 少女の頬の赤さを、男は怒り故にだと解釈し――言い訳をした。

「……あんまり、気持ちよかったから」
「………………」
「……怒ってる?」
「……当然」

 少女の顔に浮かんだ不敵な笑みと、額の青筋に、男は顔を引きつらせる。

「謝る! ごめん! ゆるして!」
「………………」
「すいませんすいませんホントすいませんすいません」

 少女の表情は、変わらない。
 表情はそのままに、呟くように言った。

「………………せっかく、君の理想通りのフェラチオをしてあげようと思ったのにさ」
「すんませんすんませんホントすんませんすんません……って、え……何か言った、今?」
「っ……なんでもないよっ! ………………とにかく!」

 思わず漏らしてしまった不意の一言を誤魔化すように、少女は表情を怒りへと変える。

「もう一回やり直し! 最初からやるよ!」
「……え、もう一回やるの?」
「……嫌なのかい?」
「いや、むしろこちらとしては大歓迎っていうか……」
「それは良かった……『じゃあ、もう一回しよ、お兄ちゃん?』」
「……普段も、たまにそういう口調で喋ってくれない?」
「はっはっは……御免被る」
「そりゃ残ね……あっ」










 数時間後。



「『んぐ、んぐ……お兄ちゃんの白いの、何度飲んでも美味しいねっ!』
 ……これは……苦いの好きだからかな……それとも――」
「はぁ……はぁ……も、もう出ないぞ……って何か言った?」
「別に。じゃ、もう一回勃たせてくれ」
「も、もう無理だって言ってるだろ!」
「ふぅん……じゃあ、こんな事したらどうかな?」
「あっ、そこは……アッー! 指入れないでぇー!」

 結局――男が都合十五回も搾り取られ、涙を流しながらギブアップするまで、少女の口淫は続いた。

 ――――――――完?
ここまで投下です。

前スレで恵まれすぎだった男をエロ殺してみようかと。
ふふふっ……これで終わったと思うなよ、男!


っていうか、名前欄のイマラチオじゃなくてイラマチオですね。
きゃっ、恥ずかしい(野太い声で
96名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 20:47:46 ID:eOK3g/3V
どうでもいい補足情報

イラマチオ の検索結果 約 419,000 件中 1 - 10 件目 (0.03 秒)
イマラチオ の検索結果 約 131,000 件中 1 - 10 件目 (0.08 秒)

・・・意外と間違ってる人多い? ちょっと安心
97名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 20:57:50 ID:Jma2P5XE
GJ!

だが完といわずに本番も――――
98名無しさん@ピンキー:2007/06/29(金) 13:50:16 ID:XZRpRMnH
GJでした!
なんかもうおまえら心底ラブラブだな……
99名無しさん@ピンキー:2007/06/29(金) 21:52:40 ID:ywP/GmC2
ボーイッシュ攻めの百合作品が読みたいんだが誰か書けないだろうか…
100名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 05:56:08 ID:v3o31sBF
暗いと不平を言うよりも、
進んで明かりを燈しましょう
書け
せめて燃えるシチュを提示すれば、書いてくれる人がいるかもしんない
101664:2007/06/30(土) 13:30:19 ID:nfkzTNQ+
「玉砕覚悟でキメてみたら?」
「…それで僕が登校拒否になったら歩が責任取ってくれるの?」
 結局、昼休みはその話題。文芸部の部室でパックのアップルジュースを飲みながら勇は言った。
「知らないよ。女の子が好きな女の子の心情なんて理解できないもの」
 歩はやめてよねといわんばかりに両手を挙げた。
「歩には理解できんやろーな!ええ、あの東三条先輩の魅力が!」
 けらけらと笑う勇に歩むは小さく「出てるから…」と言った。
「いいじゃない、万歳して木っ端微塵に吹き飛べばいいのよ。」
 突然、部室のドアが開き、無遠慮な声が室内に響き渡った。
「そ、そうかな…えへへ……って美命(みこと)…おわっとっと!?」
「危ない危ないよ、勇。」
 勇が腰掛けていた机から落ちそうになるのを後ろから支える歩を見て少女は言った。
「あら志摩君、また勇のY段につき合わされてたの?」
「誰がY談だよ、誰が!このエロ大魔王!」
「へっぽこ官能小説家に言われたくないわよ、くやしかったら投稿して賞をとってみなさい」
 フンッと鼻を鳴らすのは勇の部活仲間の涼城 美命(すずしろ みこと)。
 高校生とは思えないほど卓越した執筆能力と知識を兼ね備えた小説家志望のクラスメートだ。
 つい先日はソッチの業界に投稿し、賞を取ったらしい。 
「百合(レズ)なんて…バカみたい。どうせ家に帰って同人誌見ながら自慰ばっかしてるんでしょ?
だからそんなのにハマるのよ、このバーカ、バーカ。」
「うるさい!この非処女!アバズレ!万年発情してるクセに!」
 中指を突き立てる勇。その卑猥な言葉の飛び交うデルタ地帯に一人、取り残される歩。
 時々思う、もしかして自分は男として認識されていないのだろうかと…。
 この二人を見てると思う、女性という品種は怖いモノだと………………。
 鮟鱇のオスやオオカマキリのオスの心情とはこんなものだろうかと歩は妙な感慨に耽っていた。
「はん、女の悦びを知らない処女が何言っても始まらないわ。女の尻追いかけたって突っ込む棒すら
持ってないクセに何がレズよ。死ねば?このファッキン・ビッチ!」
102664:2007/06/30(土) 13:34:55 ID:nfkzTNQ+
「うう…いい気になるなよ、僕は絶対、帰ってくる!アイ・シャル・リターンだ!行くよ、歩!」
 美命の卑猥語の量に圧倒され、早々に言い返す言葉という弾丸が底を尽きた勇。
せめて一矢報いる為、ついさっきの授業で習った某陸軍元帥の台詞を吐きながら歩を促した。
「行くって…どこに?」
「一緒に昇天(イク)って意味じゃない?」
 卑猥語爆発、涼城 美命。
「なワケないだろ!二年の教室、呼び出すよ、愛しの君を!」
 もうヤケクソになったのか、はたまた覚悟を決めたのか勇は言い終わると同時にダッシュで
部室を出て行った。
「あーあ…無駄だろうけど…一応…ね。」
 席を立ち上がる歩に美命は言った。
「まだあのバカに言わないの、志摩君?」
「ん…ああ…まだね……」
「ほんと、我慢の武士ねー。徳川 家康もびっくりだわ。でも我慢もほどほどにしときなさいよ。」
「…………うん」
「今夜辺りが勝負と見た、グッドラック。いい喧嘩相手が登校拒否になったら困るしね。」
「ありがと…じゃ。」
103664:2007/06/30(土) 13:38:49 ID:nfkzTNQ+
そして放課後。
学校の屋上で勇は待っていた。既に『師匠』こと安田 桃子を通じて先方には通達済みだ。
誰もいない校舎の屋上。こういうセッティングも受け持っているというから『師匠』の通り名と人脈は半端ではない。
生徒会はおろか、教員の中にも彼女の毛細血管のようなパイプラインが張り巡らされているのだろうか。
「…………」
 キィィ…とドアが軋む音がして、勇は振り返った。
 そして出てきたのは太めの眉に凛々しい顔に意志の強そうな瞳。己の望む愛しの君。
「東三条先輩………」

「…………」
 屋上へと続く階段の入り口で待つ歩。
「落ち着かないのかね?」
 その歩に向かってふいに声が掛けられた。振り向くとそこには一人の男子生徒がいた。
 上履きの色からすると、一つ上の二年生だとわかった。
「…貴方は…確か」
「ふむ。秋田君から聞いている通りであれば、私はユーキが飼っている犬という事になる。
名は大野 薫だ。よろしく」
 訪れる沈黙。
「あの……ひょっとして今の笑う場面ですか?」
 2〜3秒してから言った歩に薫は難しい顔をした。
「時間差だね。君はタイミングを外し過ぎている、本題に入ろう。君が志摩 歩少年か?」
 無理矢理だな…と思いつつ、律儀に答える歩。
「はい、そうです。」
「ユーキは渡さない」
 またしても2〜3秒止まる時間。
「僕は欲しくないんですが…大野先輩、落ち着いて下さい」
 階段の踊り場で南方民族の怪しい舞を披露する薫を歩は制止した。
「あ、ああ…すまない、つい取り乱してしまったようだ。私は今、とてつもなく困惑している。
既に公認の仲だと思っていたユーキに下級生から呼び出しがかかるとはね。」
 薫は眼鏡を上げ、大真面目に言った。
「すいません。その…友人が…」
じーと見つめ合う瞳。控えめに呟く歩の表情からは何も読み取れない。それが常人ならば。
ならば薫は少々、違ったらしい。薫はフッと口元を弛め言った。
「…妬いている…ね。君は」
「いないと言えば、嘘になります。」
「彼女の心中に君はいないと思う故…何も言わない、いや、言えないのかね?」
 眼鏡のレンズの向こうにある瞳は、深淵の色をたたえている。
 まるで何もかも見透かしたような眼だが、不思議と嫌悪を抱かなかった。
 どこかで…見たような…しかし、その思考はすぐ中断された。
「…それは」
「ならば彼女のように玉砕覚悟で挑むのも一つの手かもしれない。予想では後、5秒後に
彼女―――新夜 勇君はここを通る。それも両眼に涙をいっぱい浮かべながらね。」
「…………」
「少年。君はその後を追うつもりか?」
「はい」
「なら、大丈夫だ。根拠のない独断と偏見に満ちた私の見解だがね。」
 そうこうしている内にバタンっと屋上の錆びた扉が勢いよく開き、ダッと足早に
降りてくる一つの影があった。しきりにしゃくり上げ、泣いているのが一目瞭然だ。
 そして脇目を振らず、二人の前を通り過ぎる。
「……勇」
「さぁ、少年、発進シークエンスを始めるぞ。アユム=シマ機、システムオールグ――」
 オペレーター、カオル=オオノの管制を完全に無視し、歩は駆けだした。
104664:2007/06/30(土) 13:41:15 ID:nfkzTNQ+
「ひっく…ひっく…うわああああん…っく…ひっく」
 久しぶりに勇の泣く声を聞いた。それも号泣レベルの。
 ここは歩の部屋。勇が泣き顔を見られたくないと言った為、歩が家に招き入れたのだ。
「…何か飲み物、持ってくるね」
 それだけを言い残して部屋から出てきた歩。
 幸い、兄達は出かけているらしく物音一つ無い。シーンと静まりかえった家の中。
 テーブルの上に何か書き置きがしてある。

親愛なる義弟、歩ンへ
 お兄ちゃん借りていきます。夜、遅くなるので先に寝ててね。
 ご飯は冷蔵庫の中に作っておきました。じゃ、バイ。
                     未来の義姉、霞より
 
それをポケットの中にしまうと、歩は冷蔵庫を開け、アップルジュースをとりだしコップに注ぐと
トレーに乗せ、部屋へと戻った。
部屋に戻ると、泣き腫らした眼のまま勇は座っていた。
「落ち着いた?」
「うん……ありがとう」
「はい、喉乾いたでしょ?」
 歩は優しく言うと、コップを勇に差し出した。
「ありがと……」
 勇は力無く言うと、それを受け取り、口を付けた。そしてぽつりぽつりと言い出した。
「……僕、アホみたいやろ…断られるんわかってて告白して、泣いて…そんで…ホンマ、アホやわ。
美命が言うみたいにどうしょうもないアホや…女が女好きになるなんて」
 グスッと鼻を啜る勇の言葉を歩はベッドに腰掛け、黙って聞いていた。
「歩にまで迷惑駆けて…ホンマ、ごめん。もうちょっとしたら出て行くから…」
「………」
「歩?」
 何も言わない歩に勇は顔を上げた。
「……そ、そんな事ないよ。そんなことはない、勇は断られるってわかってても勇気を出して言ったんだ。
誰も責めはしないよ。そう誰も…」
「歩…」
友人の言葉に勇は安堵した、いつもの歩だ。淡々とした口調、歩なりに気遣ってくれてるのだろう。
それと同時に優希への想いも終わったのだと勇は悟った。
「…歩、ありがと…そろそろ行くわ。」
 立ち上がる勇の手を掴み、歩は言った。
「行かないで」
今までにない歩の悲壮な声。
「ん?」
「行かないで、勇…」
「え…ちょっ…歩…どうした――きゃ!?」
 バランスを崩し、ベッドの上に倒れる勇。零れるジュースも気にせず歩は
その上に覆い被さるような格好になった。
「ちょ…あ、歩……ど、どいて」
「…す、好きなんだ、勇。…ずっと僕は勇が好きだったんだ。勇が引っ越して来た、あの日からずっと――」
「…え?」
 真っ赤になった歩の顔。いつもの口調ではなく、感情のこもった力強い言葉に勇は言葉を失った。
「でも…ずっと…その…言い出せなくて。勇の気持ちはわかってたから…勇とはいつまでも仲良くしていたかったし、僕が言い出して、勇とぎくしゃくする方が嫌だったんだ…だから…いつも…ごめん。」
 今まで堪えてきた心情を吐き出す様に歩は喋りだした。いつも何も興味が無いように振る舞っていたのは、勇に自分の想いを気付かれないようにするためだとか、いつも勇のことを眼で追っていたとか…
それは堰を切ったように止まらなかった。そしてようやく納まった時、最後に『ごめん』と言った。
「あ、歩……」
「…勇…」
 歩はそう言って勇の上から降りた。フラフラとしながら椅子に腰掛ける。
 乱れた制服を直しながら勇は鞄を持ち、足早に出て行こうとする。
 歩の部屋のドアを開けた後、少しだけ立ち止まり言った。
「一晩だけ…考えさせて…今すぐ返事はできひん。」
「……うん」
そして、パタンとドアが閉まる音がした。

105664:2007/06/30(土) 13:46:55 ID:nfkzTNQ+
その夜は二人にとってさんざんだった。勇は母の志帆から絶対何かあっただろうと詰問された。
「歩ちゃんを夕食を誘ったのに断る事なんて今まで一度もなかった」とか
「お母さんに何か隠してるんちゃうん?」とか、「まさか…デキた」とか。
勇はほとほと疲れ、自室へ籠もった。

歩は隣から毎晩のように遊びに来ていた姉妹が、妹の要(かなめ)だけになり、
今まで一度も負けたことのなかった要に惨敗した。
それをというのも要がにやにや笑いながら「お姉ちゃん気持ちええ?どんな具合やった?」とか
「お姉ちゃんて毎晩、同人誌見ながらオナニーしてるんやで」とか
「私、これから歩のこと『義兄さん』って呼ぶわ」とか絶妙のタイミングで振ってくるのだ。
歩はヘトヘトに疲れ、ベッドに倒れ込んだ。

 勇の自慰のオカズは妄想の中の優希か購入したボーイッシュ系の同人誌だった。
 机に座り、同人誌を広げながら秘所を責めるのだ。
 風呂から上がり、髪を乾かせた後、勇は自室の机に座った。
「…ん」
 もはや癖になっているのだろうか…と思うくらいこの時間になると秘所が疼く。
夕方の事があって、少し気が引けたが一度ついた火種は既に消すことのできない業火になり、
勇の身体を覆っていた。いや、むしろ、歩との事があってそれが逆に火種になったかもしれない。
鍵を開けた引き出しから同人誌を引き出すと何冊か並べる。部屋の鍵はもちろん、椅子が濡れないようにタオルも敷いた。
寝間着のボタンを外し、小振りな胸を露出させるとゆっくりと指先で乳首を摘んでみる。
「ふ…ん…」
 ピクンと引きつる身体。そしてズボンを足首まで下げ、シーツを太股まで一気に引き下げた。
 ひんやりとした外気に晒される秘所が、臀部がキュッと引き締まる。
「…は…あ、あかん…も」
 同人誌を見ながら軽く割れ目をなぞり、その敏感な突起を指で刺激する。中指を軽く埋め、
中をくちゅくちゅとかき回すとゾクゾクとしびれるような感覚が腰から脳天まで昇ってくる。
 そして勇は数あるコレクションの中でも特にお気に入りなシーンを開いた。
少年のような面持ちの少女が後ろから、背丈の小さな男の子に責め突かれ、中出しされるシーンだ。
つい昨日まではこれに自分と東三条 優希を重ねていた。
「はっ…くう…んんん…あ、ん」
 中指を深く、ゆっくりと膣の中に埋め、くちゅくちゅと中を弄る。
空いた手で胸を下から、横から、撫で回すように揉み、その先端を抓る。
そしてうっすらと眼を開け、そのページを再び見る。
(…そう言えば……この男の子…歩に似て――――)
そう意識した途端、急にゾクゾクゾクと身体の真から絶頂を告げる電撃が勇の脳天を貫いた。
「あっな、なんで…な―ああんんんんんんんんんっ!」
 今までにない絶頂感に勇の背は海老のように仰け反り、ヒクンヒクンと震えた。
途端にどっと押し寄せる疲労感。タオルはぐしゃぐしゃに濡れ、今も秘所にはねっとりとした粘液が付着している。
「はっ…はぁ…はぁ……なんで…なんでよ…こ、こんな簡単に……イクなんて…私…」
 頬を伝う涙。それは誰の為に流れ出るのだろうか。
 振られた事が悲しいから?歩に告白されたから?それとも、今まで己の中で一番近い存在だった人が
誰なのか気付かなかったから?そんな鈍感な自分をいつまでも待ち続けていた人がいたから?
 「わ…私は…歩の事―――。」

106664:2007/06/30(土) 13:55:14 ID:nfkzTNQ+
その頃の志摩家では――――
「はっはっはっ…んく…い、勇…」
 一人、寝室で激しく己の肉棒を扱く少年がいた。
初めて勇を押し倒した時の胸の高鳴りは今も静まる事はない。あの時の勇の顔
しっとりとした花弁のような唇、日焼けした肌と対極に水着の線を保ったままの白い肌。
スカートからのぞくすらりとした両脚の付け根…その奥は…。
もし、あのままあそこでシテいたら?そんな事を考えたらもう収まりがつかなかった。
「ごめん…ごめん…勇…んんく…」
妄想の中の自分が勇を激しく犯す。
(ああ……いやや!やめて…歩!)
服を剥ぎ、下着をずらして、その格好のまま組み敷き犯す。腰を無理矢理抱え、
そのはね回る尻を掴み込み、思うがままに蹂躙する。
勇の震える小振りな胸、男を知らない桜色の突起。丸みを帯び、きゅっと引き締まった官能的な尻。
そして下着に覆われた勇の未開の秘所。それを妄想の中で激しく貪り尽くす自分。
そんなシュチュエーションが最高に興奮する獣のような自分。
(やめ…な、中で…中だけは…ださんといて…お、お願いやから…か、堪忍して)
実際、あの勇にそんな言葉を吐かれたら……たぶん理性など吹き飛ぶだろう。
そして本能のまま、勇を犯し尽くすだろうと。
「い、勇の胸…勇のお尻…い、勇の…勇の――――」
妄想の中の勇に歩は己の欲望を吐き出した。それと同時に――――。
「勇、勇、勇…ん、んんうっ!」
 ぴゅっと先走り汁が飛び出し、続けてドロッとした白濁液がティッシュの中に吐き出された。
月明かりの中、いつも無関心で素っ気ない少年が唯一その内側をさらけ出し、必死に自らを慰める行為。
そしてティッシュに射精した後は猛烈な自責の念が押し寄せる。
自分は想いを寄せる異性に対して何をしているんだ?と、そしてそんな自分が出来る事は―――――。
「ごめん……勇」
ただ、謝ることだけだった。

エロは次回に持ち越しです。
前置きが長くて申し訳ない。
107名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 14:09:00 ID:GgnOgZS2
リアルタイム乙
108664:2007/06/30(土) 14:57:04 ID:vj2DQKVj
補足
歩が勇の妹の要に負けたというのは格闘ゲームです。
たびたび申し訳ない。
109名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 18:30:44 ID:QPHEdkF7
勇はマゾとロリコンが属性に加われば、某化物語の某駿河さんだな。
110名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 03:41:20 ID:DaTvRDAk
wktk(・∀・)
111名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 12:57:53 ID:e/Hb1Tbb
ワッフルワッフル
112名無しさん@ピンキー:2007/07/02(月) 00:36:00 ID:Qj5ExEJq
・小ネタ
・巨乳ボーイッシュ
・一応ほのぼのを目指してみた



 親父、お袋……死に場所を見つけたよ。
「ボクに謝れ、謝れよちくしょう!」
 ギリギリと首を絞められて、俺――吾妻晋太郎は両親に別れを告げた。
 このばか女、イトコの遥は子供の頃から実家の空手道場で鍛えているため、果
てしなく強い。はっきり言おう、俺じゃ勝てない。しかも加減というものを知ら
ないのだからタチが悪い。
「あのアイスはなあ、ボクが稽古の後に食べようと思って取っといたんだぞ! 
なんで食べちゃうんだよ? なんでだよこのやろう!」
 知るかよ。山があったら登る、アイスがあったら食う。常識だろうが。
 ああ、そろそろ意識が……
 だが俺は負けるわけにはいかん。気合いで意識を繋ぎ止める。
 何故に俺がここまで頑張ってるかというと、ショートの髪も口調も名前も、全
部が男みたいな遥の唯一女らしい部分が俺の後頭部に当たっているからだ。
 つまりは――オッパイだ。
 中々に大きく弾力のあるポヨポヨーン、さらにその上こいつは「窮屈でヤだ」
とか言ってブラジャーを着けていない。最高だ……最高の感触だ。
 俺は負けない。一秒でも長くこの感触を楽しむために。
 うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………ぉぉ……ぉ…………



「ゴメン、ほんっとにゴメン」
「ああ、別にいいって」
 ふざけろクソッタレ飯食って出直してこい、と言いたいが遥が今にも泣き出し
そうなので、ぐっとその言葉を飲み込んでおく。
「ボク、いつもやりすぎだよね……ゴメン……反省してる」
 あの後、落ちてしまった俺が意識を取り戻すと気持悪いくらいに遥がしおらし
くなっていた。
「いいって言ってるだろ? 俺も悪かったしさ」
 我ながら寛大だ。
「うん、そうだよね! あんたも悪かったんだからおあいこだよね!」
 一転して明るい声で言う遥。何だそりゃ。もう一度言うが何だそりゃ。
「……まあ、そうだな」
 俺が言ったことだが、なんか……なんか……
「よし、じゃあ仲直りってことで一緒にアイス食べよう! あんたのおごりで」
「俺? 俺のおごり?」
「だってボクお金無いもん」
「無いもん、じゃねえよ! ふざけろクソッタレ!」「クソッタレェッ? 言ったなこの野郎!」
 遥が跳ぶ。回転しつつ伸ばされた足は正確に俺のミゾオチを捉え――…………



「ゴメン、今度ばっかりは本当の本当にゴメン」
「もういいよ。いいからちょっと休ませてくれ……もう、疲れた……」

おわれ
113名無しさん@ピンキー:2007/07/02(月) 00:39:56 ID:Aom/utjA
おわるなー!男なら最後までヤリ切るんじゃー!!!
114名無しさん@ピンキー:2007/07/02(月) 00:59:16 ID:M1VdfdnC
>112
つづけ
115名無しさん@ピンキー:2007/07/02(月) 01:32:05 ID:kEX4itL6
続かないのは人類が許さない
続くんだ
116名無しさん@ピンキー:2007/07/02(月) 07:40:28 ID:omo+dniR
おわれワロタwwww
117名無しさん@ピンキー:2007/07/03(火) 00:34:09 ID:Nb0ZfquS
>>112
終わるな
続け!
118690:2007/07/03(火) 03:00:59 ID:zmOAwsUr
ファンタジー
エセ軍人物
エロ無し


 勤務時間を過ぎ、既に暗くなりつつあるグラウンドで、ヴィクターは一人黙々と走っていた。
 クロルが異動する――と聞いたのは正に今日のはずなのに、もう随分と前にそれを聞かされ
たような錯覚を覚える。
 それ程に、時間の経過がゆるやか感じられた。
 裏切られた――そう、感じなかったわけではない。
 一言、決める前に相談してくれても良かったのではないか。
 だが、相談を受けた所で、自分が賛成していたとは到底思えない。
 自分にクロルを手放す選択など出来るはずがない事を、ヴィクターはよく分かっていた。

 クロルが副官に着任すると聞いた時、冗談だろうと笑った事を覚えている。
 きっと初陣で根を上げる――そう考えていたヴィクターの侮りを、しかしクロルは粉々に打
ち砕いた。
 腕力を補って余りある知略。身軽さ。思い切り。
 クロルの進言する作戦について、大声で怒鳴りあった事も少なくない。
 だが、いつしか任せるようになっていた。
 副官。参謀。
 クロルを表現する言葉は多い。だが、どれもしっくりこない気がした。
 そんな言葉で表せるほど、凡庸な存在ではない。
 クロルにならば背中を任せて――結果死んでも構わないとさえ思う。
 離れるなんて思っても見なかった。
 共に戦場で生きた。命を預けあってきた。
 これからもずっと、どちらかが戦死するまでずっとそうだと思っていたのに――。

「くそ……!」
 吐き捨てたヴィクターの後ろに、ふと足音が続いた。
 反射的に振り返り、自分でも信じがたい嫌悪感に襲われる。
「俺に何の用だ。殺すぞ――って」
 面白がるように、笑う。
「顔に書いてありますよ」
 ウィルトス少佐だった。
 ヴィクターと同様に軍服の上着とワイシャツを脱ぎさって、ランニングシャツ一枚である。
「……なんすか、一体」
 わざと走るペースを上げて、ウィルトスを見ようともせずに問う。
 するとウィルトスもペースを上げて、ヴィクターと並んで走り出した。
119690:2007/07/03(火) 03:01:48 ID:zmOAwsUr
「ガウデレへ派遣する討伐部隊が決まりました。先日の失態を挽回したいと第二連隊長の強い
希望があったので、少々不安ですが任せてみようかと」
「俺には関係ないでしょう」
「ええ。全く関係ありません。本題は実は、別にある」
「おちょくってるんですか」
「実に楽しい」
 声を上げて笑うウィルトスに押さえ切れない苛立ちを覚え、ヴィクターは更に走るペースを
上げた。
「ヴィクター少佐。僕は君と違って、体力でこの地位についてるわけではない。このペースで
走らされると5分でばてます」
「喋ってたら三分でばてますよ」
「正解です。それは正しい分析だ。なのでヴィクター少佐。ペースを落としてください」
「自分のペースで走りゃいいでしょう」
「それはダメです。僕は君に話さなければならない事がある」
「だったらとっとと言えばいいでしょう!」
 なるほど、その手があったか、などとわざとらしく頷くウィルトスに殺意さえ覚える。

「クロルさんにプロポーズしました」

 一瞬、殺意を含む全ての感情が吹き飛んだ。
 がっくりと走るペースが落ちる。
 負傷した足を引きずるような、ひどくぎこちない動作でヴィクターは立ち止まった。
「……なに?」
「クロルさんにプロポーズしました」
 一言一句そのままに、ウィルトスは繰り返した。
 男と結婚する趣味がおありですか――などというふざけた言葉が喉元まで出掛かって、
ヴィクターは慌てて飲み下した。
 今日は度肝を抜かれる事が多いな、とぼんやりと思う。

 名前を呼ぶ声がした。
 だが、誰を読んでいるのかよく分からない。
「ヴィクター少佐――ヴィクター君?」
 何度目か分からない呼びかけて、ヴィクターはようやく、呼ばれているのが自分だと気が付いた。
 そして、呼んでいるのは――当たり前の事だが――ウィルトスである。
「大丈夫ですか? 立ったまま気を失ったかと思いました」
 魂が抜けてましたよ、と本気で心配そうな表情を浮かべるウィルトスを、ヴィクターは未だ
にぼんやりとしている頭で見下ろした。
「……プロポーズ?」
「はい。クロルさんに」
「あいつは……なんて……」
「自分みたいな女は教官に相応しくないからダメだって言われました。僕にはもっと綺麗で上
品な女性が似合うそうです」
「はぁ……まさかそれで引き下がったんすか」
「そんなわけ無いでしょう。それじゃあただの間抜けです」
 ですよねぇ、などと、間の抜けた声で同意する。
 
 その場に座り込んでしまいそうだった。
 ふらふらと、覚束ない足取りで傍の樹木に手を付いて、ぐったりと背を預ける。
 結婚。
 途方も無い話である。
 クロルが花嫁衣裳を着て、ウィルトスと誓いの口付けを交わすのか。
 エスコートは誰がするのだろう。クロルの両親を式場に呼び寄せるのだろうか。それ以前に、
クロルは無宗教だっただろう。それでも式は挙げるのか。
 純白のドレスにせよ、赤と白の布地を色とりどりの刺繍で飾ったワンピースにせよ、クロル
が大人しく着るとは思えない。だとすると、ウィルトスもクロルも軍服で挙式か――今にも薔
薇の香りが漂ってきそうな絵面である。
120690:2007/07/03(火) 03:02:34 ID:zmOAwsUr
「ヴィクター君。大丈夫ですか?」
 ヴィクター君――。
 そういえば、昔はウィルトスはヴィクターをこう呼んでいた。
 階級をつけて呼ぶようになったのは、一体いつからだっただろうか。
 そして自分は、確かこの男の事を――。
「おっさん」
「なにを突然……君は僕の心の傷を抉るのがそんなに楽しいんですか。残酷ですよ」
 三十二の誕生日を迎えた今、僕に反論の余地はありません。と、ウィルトスが少し寂しそう
に俯いた。
 三十二といえば、クロルとは十歳差という事になる。
 だからどう、という事は無いが、改めて考えると少々驚く物があった。

「十歳下の女と結婚ね……このロリコンが」
「その表現は適切じゃない。クロルさんは幼女と言える年齢ではありません」
 正論で返され、言葉に詰まる。
 座り込んだまま視線を反らしたヴィクターのすぐ横で、ウィルトスはささくれだった木の幹
に背を預けた。
「クロルさんの異動の話を聞いたんでしょう」
「なんでそう思う」
「それで、また駄々をこねて困らせた――と。正解でしょう」
 答えず、ウィルトスが重ねて問う。
 忌々しげに悪態を尽き、それでもヴィクターは吐き捨てるように肯定した。
「僕をおっさんと罵るわりに、君はとんだお子様ですね」
 からかうように笑うウィルトスを睨む気力すら、今はわいてこなかった。
 それに、ウィルトスの言ってる事は事実だ。
 自分の幼さはもう、嫌と言うほど自覚している。

「後任の副官……決まってるんすか」
「はい。公式にはまだ秘密なんですが、クロルさんの推薦がありました」
「クロルの……」
「アウラ二等兵です。実は僕も目をつけていました」
 ――君の副官だって僕より向いてるくらいだ!
 そう、声を荒げたクロルの声が今更になって脳裏を過ぎる。
 ヴィクターはアウラの有能さを知っていた。
 その才能は、否定して目を背けられるほど控えめな物ではない。
 クロルはきっと、アウラを見つけた時から異動を意識しはじめていたのだろう。
「……ずりぃよ。全部、俺の目の前で進んでんのに……」
「頭が悪いと苦労しますね。なんでもかんでも、後戻りできない状態で唐突につきつけられる」
「おちょくってんのか」
「いいえ。馬鹿にしてるんです」
 しゃあしゃあと言ってのける。
 最早溜息しかでなかった。
 くつくつと、ウィルトスが肩を揺らす。
121690:2007/07/03(火) 03:03:24 ID:zmOAwsUr
「知ってますか? 君はどうも諦めムードが漂っていますが、君はまだ負けていない」
 木に預けていた背を難儀そうに引き剥がし、楽しげにウィルトスが言った。
 振り仰いだ先にある表情はどこまでも飄々としており、言葉の真意を探れない。
「三日後、討伐部隊がこの基地を出発します。第二連隊だけでは不安なので、僕は参謀として
付いていく。帰ってきたら、クロルさんからプロポーズのお返事を聞こうと思います」
 この状況で、まだヴィクターが負けていないというのか。
 クロルは副官をやめ、そしてきっと、ウィルトスのプロポーズを受けるだろう。
 そして今日ヴィクターは、クロルとの親友と言う関係を、自分勝手に切ったのだ。
「わけがわからないって顔をしてますね。正解ですか?」
「……っかんねぇよ。じゃあ、勝ちってなんだよ。あいつをあんたから奪って俺のにしたら、
それで俺の勝ちなのかよ。脅してでも無理やり副官に引き止めるのが、俺にとっての勝ちなの
かよ――!」
 そんな勝利ならば、いらない。
 無理にクロルをそばに置いて、それで満足できると思うほどヴィクターは愚かではなかった。
 辛辣な皮肉も、横暴な拳も、清楚さとはかけ離れた、底抜けに明るい笑い声も。無理やり繋
ぎとめれば、きっとそれら全てを失う。それを勝利と言うのなら、自分は敗北で構わない。

 困った人ですね、とでも言うように、ウィルトスが笑って眉根を寄せた。

「ルールの存在しないゲームでの勝敗は、自分自身が決めればいい。どうしたら勝ちかは、君
が決める事だ。決めていないならば、今からだって決めればいい。君の勝利条件はなんですか?」
 言われて、ヴィクターは息を止めた。
 どうしたら、勝ちか。
 それを自分で決められるとするなら――。
「クロルだよ……決まってんだろ! あいつが毎日幸せだって思えて、辛い、嫌だって思う事
なんてしなくてすんで、自信たっぷりに笑ってられりゃあそれでいい」
「嘘はいけません。君はそんなに、利他的な性格じゃない。実際君は、クロルさんの士官学校
行きを拒絶してクロルさんを困らせている」
「俺だって! 笑って……がんばれよって、言いたかったんだ! 俺だって……だけど、あい
つを幸せにしてやれるのが俺のそばじゃ無いって、俺じゃないって……!」
 幸せそうに笑うクロルをずっとそばで見ていたいのに、ヴィクターのそばにいるとクロルは
幸福でいられない。

「……俺が、幸せにしてやりてぇのに……!」

 それが本音だった。
 本当に、心からクロルの幸福を望んでいる。だが、それを与えるのは自分ではなければ嫌だ。
クロルにとって誰よりも身近で、特別な存在でありたいのに――。
 クロルは自分で居場所を見つけ、ヴィクターの手を離れて行く。
 取り残された気分だった。
 君なんて、いらない。そう言われた気さえした。

 ふむ、とウィルトスが頷いた。
「なら、君の手で彼女を幸福にしてあげればいい。方法はいくらでもあるはずだ」
「……なに」
 ひどく間の抜けた声で、ヴィクターは問い返した。
「誰かのそばにいたいなら、無理にそばに置こうとしてはいけない。相手の立場に立って想像
する事です。君は、いつも自分を基準にして考える。間違えて考えがちですが、相手の立場に
立つ――と言うのは、“自分だったら”と想像するのではなく、“あの人だったら”どう思うか
を想像する事です。これは、凄く難しい。だけどヴィクター君」

 君にならできるはずだ――。

 それは、クロルがいつもヴィクターに言う台詞だった。
 思わず、呆然としてウィルトスを見る。
 ウィルトスは笑うと、敵に塩を贈るのはここまでです、と捨て台詞を吐いて宿舎に向かって
歩き出した。
122690:2007/07/03(火) 03:04:15 ID:zmOAwsUr
 その背中を、ヴィクターは慌てて呼び止めた。
「おっさん!」
 さして気分を害した風もなく、ウィルトスが振り返る。
「……あんたの、勝利条件……」
「クロルさんの中で君が思い出になる事です」
 早いところ退官して田舎に引っ込んでください、とウィルトスが笑う。
 その後姿に力ない笑いを返し、ヴィクターは立ち上がった。


 ***


 慢心の月。十八日。
 晴天。
 ウォルンタリア連合国――ガウデレの森。
 概観に変化なし。
 参謀の判断により、携帯食料および水分を含む装備を携え森の奥へと進む。
 五十名編成の小隊を十五名ずつの二分隊を編成し、二十名を残しキャンプを出る。

 地面は腐葉土が積もり、ふかふかと柔らかい。
 五年前に訪れた時は、もっとしっかりとしていたように思うが、気のせいだろうか。

 参謀が動物の死骸がないと言い出した。
 鳥が多い。獣が少ないとブツブツと言っている。

 この森には、少数ながらくぐせが生息しているという。
 だが、狂った獣に出くわす気配は無い。
 参謀の言う通り、獣が少なすぎる気がした。
 森に入ってから、小さなオミジカをちらと見ただけである。

 どこかで悲鳴が聞こえた気がした。
 第二分隊からの連絡が途切れた、と誰かが怒鳴る。
 数秒の沈黙。
 参謀が声を張り上げた。

 ――撤退します。足元に気をつけて。


 ***


 ウィルトスの部隊が基地を出発し、四日が経過しようとしていた。
 本来ならば一日に二度の定期通信が入るはずなのだが、到着の報告を最後にそれが来ない。
 ウィルトス少佐に限って、作戦失敗はあり得ない。連絡が途絶えた翌日の朝、そんな信仰め
いた確信の中、しかし規則にのっとりごく小規模な偵察部隊が編成された。
 基地からガウデレ到着までは、ほぼ丸一日を要する。
 偵察部隊からの定期連絡の予定時刻が、本日の午前。
 正確な時刻を知るのは偵察部隊を出した第二連隊のみである。
123690:2007/07/03(火) 03:04:58 ID:zmOAwsUr
 慢心の月。二十二日。ヒトマルマルマル。
 キャンプが無人であるという報告が基地に届いた。
 部隊の様子を観察していたという少年の話を信じれば、二分隊が森に入った数時間後、
残った者たちも森へと入り、そして帰ってこなかったと言う。
 そして、大勢の悲鳴を聞いたと少年は証言した。

 同日。ヒトサンフタマル。
 偵察部隊による通信により全滅と判断。
 救出は困難であり、少数の生存者のために多くの命を失うわけにはいかないという師団長
及び参謀部の判断により、救出部隊の編成は行わない決定が下された。

 第一師団第二連隊、臨時討伐部隊五十名死亡。

 それが、上層部の下した決断だった。


 ***


 第一師団に所属する大隊長以上の指揮官を対象に、突然の召集があった。
 演習も何もかも、全てを差し置いてとにかく会議室に来いと言う。
 大隊長であるヴィクターも呼ばれるままに会議室に向かい、そして初めて討伐部隊の全滅を
知らされた。
 連絡が途絶え、キャンプは無人。生存者の位置も確認できず、生存者がいるかも定かでは無い。
 すぐに救出部隊を編成しましょう、と息巻く指揮官達をゆっくりと見回し――師団長は沈黙した。
 まさか、と声を上げたのはヴィクターである。
 見殺しにする気か、と零したヴィクターに、参謀部から激しい叱責が飛んだ。
 それを、師団長が静かに制す。

 見殺しにするのでは無い。

 既に全員、死んだんだ。

 その、噛んで含めるような言い方に、ヴィクターは激昂した。
 飛び掛らんばかりの勢いでテーブルに身を乗り出し、声を荒げるヴィクターに、しかし師団
長は冷静だった。
 誰も救出部隊を組まないなら、俺の所から兵を出す。
 猛然と啖呵を切ったヴィクターを静かに見据え、口を開く。

 そうして、多くの兵を殺すのか。
 生きているかも分からない者の救出のために、命を捨てろと命じるのか。
 もしも逆の立場なら、お前はそれを他の仲間に望むのか。
124690:2007/07/03(火) 03:07:09 ID:zmOAwsUr
 ――忘れるな。

 ――お前は千人の部下の命を握っているんだ。

 師団長が解散を宣言しても、ヴィクターはその場を動く事が出来なかった。
 救出活動は不毛だ。
 いるかも分からない生存者のために、今、確実に生きている者が多く死ぬ。
 個人の感情で動いてはいけない。
 部隊全体を意識して――。

 ――クロルさんにプロポーズしました。
 ――今は、ほんとに好きなんだ。

「あんた……そんなに俺を勝たせるのが嫌なのかよ」

 泣き笑いのような声を出し、ヴィクターは奥歯を噛み締めた。



                               切らせていただきます。
                               
もう少しエロ無しが続きます。
い、石を投げないで!
125名無しさん@ピンキー:2007/07/03(火) 03:17:57 ID:1HxOzRBR
グゥレイト!GJ!!!!
126名無しさん@ピンキー:2007/07/03(火) 03:28:09 ID:Txxt4w7L
ああ〜。またまたどうなちゃうの?
続きが気になって^ねむれない。
127名無しさん@ピンキー:2007/07/03(火) 03:39:16 ID:wXh3NAa7
見に来たかいがあった…!GJ!
このシリーズに関してはエロ無しでも全然おっけー!それぞれのキャラがたってるから
何をして何を思い、どう転がるか、それだけで楽しい*:**
続き楽しみにしてるよ!!
128名無しさん@ピンキー:2007/07/03(火) 11:38:56 ID:gplhm9Dx
というか、ウィルが何気に死亡フラグ立ててたの気付かなかった。
129名無しさん@ピンキー:2007/07/03(火) 12:40:46 ID:n4JvPWlx
ヴィクターと聞くとどうしてもブソレンのヴィクターが頭に思い浮かぶ
130名無しさん@ピンキー:2007/07/04(水) 12:03:02 ID:mt4/lkGh
しかし中身はカズキ
131名無しさん@ピンキー:2007/07/04(水) 14:16:30 ID:v08OBaT9
かぁ〜ずきぃ〜
132名無しさん@ピンキー:2007/07/04(水) 19:30:24 ID:tEM6ox3H
 だが俺の脳内ではヴィクターの容姿がディムロス・ティンバーとそっくりに思えてならない。セリフも置鮎龍太郎の声で再生されてしまう。
133名無しさん@ピンキー:2007/07/04(水) 20:20:19 ID:N4NqGRa7
俺の中ではヴィクター=ハンター×ハンターのウボォーギンだ。
134名無しさん@ピンキー:2007/07/04(水) 22:12:27 ID:L3XD5DG4
自分の中では南瓜鋏の世界になっている
135名無しさん@ピンキー:2007/07/05(木) 03:14:13 ID:j7wMhy8H
私の中ではヴィクターの体形はバトーだ。
136名無しさん@ピンキー:2007/07/05(木) 10:04:03 ID:IUzpclRc
ハート、に見えて目を疑った。
137名無しさん@ピンキー:2007/07/05(木) 12:32:10 ID:r914JD5r
肉がぁ〜!

俺の中ではガッツっぽい感じだ。
クロルはなんだろう……猫……? 小熊……?
138名無しさん@ピンキー:2007/07/05(木) 17:10:37 ID:dX/yMJth
クロルは幼少期のキャスカとか?
漏れ的には、時かけの主人公。……真琴だっけ?
139664:2007/07/06(金) 19:13:34 ID:ATkPwEPx
「ん…あ……」
 カーテン越しに朝日が差しこむ部屋の中、そのまぶしさに歩は眼をうっすらと開けた。
 時間は午前7時15分、いつもの時間だ。
「ん…ん……」
 ゴロリと横に寝返りを内、歩は上半身を起こした。
「………朝…か」
歩の朝はいつも単調だった。
兄の恋人の霞から置き手紙があった日の夜は必ずと言って
いいほど帰っては来ない。
大学の研究室に泊まっているかおそらくは霞の自宅に
宿泊しているのであろう。
何かあればケータイに…と言っていたが、今の今まで特に何も
なかったので掛けた試しはない。

原作:書く人氏『薫と優希』

昨晩は霞の手料理があったが、朝は自前で何とかするしかない。歩は面倒くさいと思いつつ、
トーストと冷蔵庫にあった卵とベーコンを焼いて、それに残りもののトマトを出し、朝食にする事にした。
いつもは隣の新夜家にお邪魔するのだがさすがに昨日の今日で…と歩は行く気にはなれなかった。
昨晩の自慰が静まり、落ち着きを取り戻した時、導き出された答えは『絶交』というのが
最悪のパターンで、勇とこれまでと何ら変わりないフレンドリーな関係を取り戻す…という確率は限りなく低い、
もっとも確率が高いであろう答えは『どこかよそよそしい付き合いから疎遠になり、最終的に国交断絶』。
どの道、歩は覚悟していた事であった。勇の返答を聞くまでもない。
それならいっその事、こちらから…などと考え、朝食後の歯磨きを終え、鞄のある自室のドアを開けた。
「……お邪魔してます」
「―――――!?」
 あまりの事に声がでない。制服姿の勇が部屋のベッドに腰掛けていた。
何故?どうして?鍵は掛けてあるのに?そんな心中を見透かしたように勇は
ポケットから鍵を取りだし、くるくると指先で回した。
「スペアキーはいっつも玄関外の自作ポストの中――」
「あ……」
 そうだった鍵は全部で3つ、兄の分。自分の分。そして忘れた時のスペアキー分。
そしてそのスペアキーの場所を知っているのは兄と己と勇だけだった。
「あ…ご、ごめ…今すぐ着替えるから―――」
あたふたとあわてる歩を見て、勇は赤面しつつ意外なことを口にした。
「…歩は学校行くん?ぼ、僕がここにおるのに?」
「は――?」
一瞬、何を言われているのかわからなかった。何も返す言葉が見つからない、
勇の意図している事がわからなかった。
140664:2007/07/06(金) 19:15:31 ID:ATkPwEPx
「もう……フツー女の子には…言わせへんで」
「え?…え?」
 歩は昨夜に考えだされた返答群の中で確率がゼロだったモノが一つある事を思い出した。
「歩…僕は……いや、私は――」
それは―――――――
「勇…」
「昨日は…その…ごめんなさい。先輩の事とかあって…急やったし」
「…い、勇…そ、それって」
「好き…やで。わ、私も歩が好き」

『薫と優希外伝 勇ミ歩ム』

「せ、せやからって…こういう事を…あ、朝からなんて」
「学校なんて…今更だよ。それにサボるって言ったのは勇だし。」
 ベッドの上、制服を着たまま勇に背後から歩は抱きついていた。
「や、やっぱ行こ。健全たる少年少女は勉強せなアカンって――――」
何とか誤魔化そうとした勇だが
「……ごめん、でも、もう我慢できない。昨日、要から聞いたよ。
いっつも夜、一人でシテるって」
「そ…それは…」
 図星なだけに、面と向かって『してるわけないやん。変なコト言わんといて』
といつもの様に返すことができない。とりあえず後で要を1発殴らねばと勇は思った。
「勇の…そんなシテる姿を想像して…何回もしたよ。」
「…そ、そんな…あ、歩…」
「制服じゃ汚れる?大丈夫、クリーニング代は出すよ…せ、制服姿の勇と…なんて…」
 既に上気している歩。いつももの静かな歩が満月の夜に変身する狼男だったとは―。
 朝から言うんじゃなかった…と勇は少し後悔した。
「せ…責任は…取るから」
 歩は小さく呟いた。
「歩?何か言った?」
「ううん。即物的だけど…勇」
 歩は昨日のように勇を押し倒した。
「あ…歩……」
「大好きだ。勇」
141664:2007/07/06(金) 19:18:43 ID:ATkPwEPx
「は…ん…ちゅ」
「あ、歩…ん…は」
お互いの唇を絡み合わせ、身体を密着させるように抱きしめ合う。
 歩は寝間着の上をもどかしく脱ぎ捨てると、勇の唇から首筋へと舌を這わせた。
「ひゃ…」
 未知の感覚に勇はゾクッと身を震わせ、小さい悲鳴を上げた。
「勇…いい、上…」
「あ…ん…ええよ。」
 はぁはぁと荒い息をつきながら、歩は震える手で勇のネクタイをとき、
Yシャツのボタンを外すと前をはだけさせた。
やや日焼けした肌と水着の線に沿って、本来の白い肌を持つ勇の上半身が顕わになった。
小振りな胸部が白いシンプルなブラジャーに覆われている。歩はゴクリと喉を鳴らした。
「ど…どう?僕の身体…日焼けして…ちょっと格好悪いやろ」
 不安気に問う勇に歩は思わず言った。
「き…綺麗だ。」
「へ…?」
「綺麗だよ、勇…想像してたより…ずっと綺麗だ」
 一体、どんな裸体を想像してたんだ?という無粋なツッコミはやめて、
勇は笑った。
「ありがと…嬉しいわ、歩にそう言ってもらって」
「あ…す、吸っていい?」
「ん…ブラ…外すから――きゃ」
 言い終わる前に歩は勇のブラを捲り上げ、間髪入れずにそのピンクの突起に吸い付いた。
「あ…歩、は、激しいって…そんな…んん」
 一心不乱に胸にむしゃぶりつく歩に勇は少し焦ったが、
今の歩には並の言葉では通じないだろう。だから目を覚ます『とっておき』を言ってやる事にした。
「はあ〜…なんかレイプされてるみたいやわ。歩って強姦願望あるん?」
「い――あ、ご、ごめん」
 ビクッとして、歩は我を取り戻すとあわてて、その手を止めた。
「もう……そんなにあせらんでええって。僕は逃げへんよ、だから……ね?」
「あ…う、うん…」
 そう言うと勇はブラのホックを外した。小振りな胸がその反動でぷるっと弾む。Yシャツからのぞく
薄い小麦色の肌と胸部の白雪のような肌のギャップは歩にとって刺激的すぎる光景だった。
「歩…もう…す、吸って…ええで」
 おずおずとYシャツを開き、胸を突き出す勇に歩は近づくと今度は優しく口をつけた。
「あ…あん…」
「ん…ふ…ちゅ…ちゅ…」
 舌で乳首を突き、手で優しく包み込むように揉んでみる。その度にピクッ、ピクッと
反応する勇の声と身体に歩の興奮をさらに高めた。
「ちゅぱ…ん…ちゅ…」
胸に吸い付いたまま、ゆっくりと下腹部の方へ手をやり、スカートの下から秘部へと指を這わせる。
「や…あゆ…ま、まだ…ダメ…あかんって」
 ハッとして身を起こそうとする勇の胸を歩はチュウウッと音が出るほど強く吸った。
「はああっ…んふ…」
142664:2007/07/06(金) 19:21:34 ID:ATkPwEPx
そうしてスカートの中に指を入れ、下着の中に手を入れる。陰毛のザラザラした手触り、
そしてさらに手を下げるとぬるっとした粘着質の液が歩の指先に触れた。
「…ぬ、濡れてる」
「や…いや。そんな恥ずかしい事言わんといてよ…あ…んん」
勇は顔を真っ赤にして、今にも泣きそうな表情をしていた。
歩は手を下着から離すと、下着を一気にはぎ取るようにしてずらした。
勇の股間と下着の間につつーと糸が引かれる。
そして、歩は両腕を太股に回し、閉じれないようにするとその頭を股間に埋めた。
「あ、あかん!歩、そこはあか――――はっ?!」
 歩の舌が股間の割れ目を這う。指でしか触れた事のない勇にとってそれは未知の感覚であった。
(は、はああ…し、舌で…されるのが…こんなに―――んんっ)
 唇が吸い付き、舌でツンツンと膣口を責められる。歩が口を離したかと思えば、
肉豆の皮を舌で剥き舌で舐め潰す。元々、毎晩の自慰で感度の良い勇にとってはもう限界であった。
(あ、歩が…僕のスカートの中に頭…突っ込んで…し、舌で…んっんっ…あ、ああ…)
「あ、歩っ!あ、あかん…あかんっも、もうイッて、イッてまう、や、やはっ…」
「はんっんちゅ…見せて、勇。勇のイッちゃうところ…み、見たいから、イッてよ。」
 歩はそう言うと膣口に口を当て、思い切り吸った。
「あっああ、イ、イクッ…イクうううううっ!ん、んああんんん!!」
 勇が両手で歩の頭を掴み、眉を潜めて甘くわなないた。半裸の勇が頬を染めて、腰を上げ、
ビクンビクンと震える光景は何とも淫らであった。
「あ…はああ…ぼ、僕…自分の指以外でイったん…は、初めて…や」
 荒い息をつきながら呆然と呟く勇の身体に舌を這わせながら歩は言った。
「い…勇…い、いい?も、もう…」
 よく見ると歩の股間部が今にも突き破らんばかりの勢いでいきり勃っていた。
「ん……歩…」
 歩はもどかしくズボンを脱ぎ、次いで下着も脱ぐ、歩の顔立ちが中性的で幼く見える事も
影響しているのか、股間にそそり立つモノは、よりいっそう大きく、また何か別の生物のように見えた。
「あ…歩…歩のって大きいね…」
 勇は異性の性器はこんなにも作りが違うのかと思い、まじまじと見つめた。
「い、勇…お、お尻をこっちに向けて…そ、その四つん這いになってくれる?」
「え…も、もしかして…歩…後ろからなんが好きなん?」
「……否定はしないよ……」
 俯き、ボソっと呟く歩。
「貸し――1つな。」
「……何にする」
「1冊1万の同人誌、3冊。」
「あ、ゴメン…やっぱり…勇の好きな体位で―――」
「僕をバックから犬みたいに犯したいクセに。」
 極めつけの台詞、もう限界だった。
143664:2007/07/06(金) 19:23:01 ID:ATkPwEPx
「……わかった。言う通りにするよ。」
「あはっ、さすが歩や。だ〜い好き、犬みたいにキャンキャンって鳴いてあげる」
 その言葉に歩は覚醒した。
「い、勇!…言葉には責任もってよ!」
「え――あっ、ちょ!?」
 言うが早いか、歩は勇の腰を掴むと俯せにさせ、スカートを捲り上げ、
ふるんと揺れる勇の尻に爆発寸前のペニスを膣口にあてがった。
「ちょっと待って、まだ心のじゅん――あ、んうううううっ!」
―――ズニュウウウ―――
十分に濡れそぼっていた秘所にペニスが飲み込まれていく。
途中にプツという感覚があり、そのまま勇の最奥まで到達した。
「あ…だ、大丈夫…い、勇」
「う…うん…そんなに…痛ないけど…ン…」
 勇は後ろを向き、潤んだ目で声を上げた。
「あ…血が…勇、痛い?」
「だ、大丈夫…心配せんでええから…動いて…歩」
 そう言って微笑む勇に歩は後ろめたさを感じたが、ペニスを締め付ける膣壁の
心地よさには打ち勝つ事はできなかった。
「ご、ごめん…い、行くよ」
 好意を持った異性が初めての相手。勇の肌、腰を突き出すたびに下腹部に当たる尻肉。
歩は自分のモノが勇の尻に出入りする光景に釘付けになり、段々と夢中になり腰を突き出した。
「あっあ…あ、あゆ…ふっ…き、気持ちええ?僕ん中、気持ちええ?」
ベッドのシーツを握りしめ、歩の剣突を受ける勇は歩に問い続ける。
「勇…勇…熱くて…き、気持ちよすぎて…勇、やっと…やっと…勇…」
 勇の名前をただただ繰り返す歩。
「あ…ぼ、僕も…何か…痛いけど…あんっんんっ!はっ、あ、歩!」
 ぐちゅという挿入音と共に飛び散る愛液が歩の陰毛をベトベトにさせ、
 弾け飛ぶ先走り汁が破瓜の血を溶け合って潤滑油となりペニスをくわえる膣をゆるめる。
「あ…いさ…み…もう、もう…で、出る…出ちゃう…ああっ」
「はっ、ええよ…歩、ええよ…だ、出して…歩の初めて…僕の中に…出して」
 歩は勇の言った通り、犬のように背中から覆い被さると、勇の跳ね回る乳房を掴み込み、
腰を今までにない速さで打ちつけた。
「あっ…あっあっあっ…だ、ダメ、出る出る出るっ!い、勇ぃ!」
 ―――どぴゅ…びゅるるるるるるる――― 
歩が吼えると同時に勇の膣内でペニスが爆発した。これまでの自慰で
射精した量とは比較にならない程の精液が子宮の中に叩き込まれる。
「あっ、い、し、痺れ…ぼ、僕も…僕も…歩ので、私もイっちゃううう!」
 キュウウと締め付ける膣口に勇は眉を潜め、歯を食いしばった。
「は…はぁ…はぁ…ん…はあ…い、勇…」
「ん…ふ…は……はあ…あ、歩…」
 背中に折り重なるようにして二人は荒い息を共に果てた。
144664:2007/07/06(金) 19:24:10 ID:ATkPwEPx
「んふふ…どうやった僕の膣内は?」
「ちょっと…ダイレクトすぎるから」
 そしてその後、昼間まで寝ていた二人は空腹と共に目を覚まし、簡単な昼食を取った。
 勇が裸エプロンで調理したため、そのままキッチンで1回。身体を流すために入ったお風呂で1回。
 上がって着替える前にもう1回…そして先程までの1回、若い精力が尽きることはなかった。
「ええやん…こうやって抱き合ってられるんも歩のおかげやんか」
「……気持ちよかった」
「え?何て?もう一回」
「最高に気持ち良くて大変興奮しました…勇、ありがとう」
「んふふ、どういたしまして〜」
 勇は満足気だ。
「それはそうと…今日は大丈夫なの?」
 歩は唐突に言った。
「え、何が?」
「とぼけないでよ。全部…その…中で出したろ?」
「ああ、大丈夫、大丈夫、心配せんでもええって」
「そう…安全日だった?」
 歩はホッとした。が、しかし―――
「え、だってやった後全部、外に出てきたやん。」
「は?」
「いや、だからアレ…全部でてきたやんか」
 歩の血の気がサァーと引いた。真っ青になる歩。
「あ、あのさ…い、勇…子供ってどうやってできるか知ってる?」
 歩は慎重に震える声で言葉を紡ぐ。
「はぁ?僕はアホちゃうで、知っとるわ。アレが子宮の中にある卵子と結合してできるんやろ?
だからでてきたから大丈夫やんか」
 バカにしてんの?といわんばかりに胸を張る勇。
「……勇、卵子は1個しかないけど精子ってあの白い液に何千と含まれてるんだよ?もしかして
アレが全部吸収されて赤ちゃんができると思ってた?」
 歩の言葉に勇は宙を眺め、言った。
「え、そーなん違(ちゃう)うん?」
幸い、その月の生理は予定通り来たので二人は事無きを得たらしい。
END
145名無しさん@ピンキー:2007/07/06(金) 23:37:05 ID:QvSF7+vL
>144
乙ー&GJ
フルボッキだべさ

>「え、そーなん違(ちゃう)うん?」
勇は性教育の時間何をしてたんだww
146名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 01:13:02 ID:E7/Bx736
寝てたんじゃね?www
それはそうとGJ!
147名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 04:48:05 ID:phXH5u4l
>>132
俺はなぜかリウイ
148名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 10:04:44 ID:/I+545pP
リ、リウイ? 全然違うなぁ…
イメージって人それぞれなんだな。
149名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 12:11:18 ID:E7/Bx736
ウリィに見えた
150名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 13:18:58 ID:gkinoRnP
ウィリィィィィィィィィィ 
 
>>144
GJ!
151名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 13:39:46 ID:ejwjq3Ds
ガウリィに見えた
152名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 13:48:11 ID:myIvE/iw
なんで軍人なのに基本的に長髪なんだw

>644氏
完結乙!
やっぱ知識の無さはボーイッシュの醍醐味の一つだな。
だが一つ言わせてもらえば

ズニュウウウワロタ

153名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 14:27:50 ID:KZL5jPPP
俺は武装錬金の戦部と思ってたんだぜ?
154名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 15:31:56 ID:aH9yNm2k
おれは、うたわれのクロウだと思ったんだ
155664:2007/07/07(土) 16:54:37 ID:PDawizeG
感想サンクス、楽しめたようでなにより。
後は書く人氏の再臨を待つのみ。
歩や勇を原作に出してくれたら天に召されます。
156名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 20:30:37 ID:OO1MNpeC
その発言は流石に……

いや、まあ、いいけど。
157名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 21:47:09 ID:E7/Bx736
第三者が言う事じゃぁないな
158名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 00:40:05 ID:3MYB3RE1
ボーイッシュ、スポーツ娘(元気)×委員長(強気)の百合
 
委員長にいつも注意されてる腐れ縁
実はかなり前から委員長は本当はスポーツ娘が好き
スポーツ娘も実は委員長が好き
だが両方片想いだと思ってて告白出来ないでいる。
 
設定しか思い付かないそして文章が書けない
だから誰か文章化してくれるのを高望みしてみる。
159690:2007/07/09(月) 00:50:27 ID:Rk6eKUfu
ファンタジー
エセ軍人物
エロ無し

 ヴィクターの様子がおかしい。
 おかしいというか、妙に普通だ。
 クロルの士官学校行きに憤慨して、あんなにも寒々しい一日を送った翌日に、敬語を使った
瞬間拳骨で殴られた。
 気持ち悪い。よせ。と睨むのだから、この上なく横暴である。
 プロポーズされたんだってな、と唐突に切り出す物だからあわくって否定すると、ヴィクターは
不機嫌そうにクロルを睨み、ウィルトス少佐から聞いたのだから、嘘を付いても無駄だと言った。
 それから数日、恋愛なんぞしてる暇があったとはな、とか、男同士って結婚できるんだった
か、とか子供じみた嫌味は飽きるほど言われたが、そんな事は日常茶飯事で気にするような事
でもない。
 式は挙げるのかと聞くので、まだ結婚するなんて決めていないと答えると、どうせ断らない
くせにと拗ねる姿はどちらかというと可愛くもあった。

 分かってくれた――という事だろうか。
 副官をやめる事を。この基地を離れる事を、認めてくれたという事だろうか。
 そんなに都合よく、話が進んでいいのだろうか。
 いまひとつ釈然としないが、それでも思わず口元が緩んだ。
「何一人で笑ってんだよ、気持ちわりぃな」
 人の上機嫌をわざわざ不機嫌にする利点とは、果たしてどこにあるのだろう。
 挨拶も無しに売られた喧嘩に思い切り不愉快そうな表情を浮かべ、クロルは声の方へと視線
を投げた。
「僕が何処でどんな表情をしてようと僕の勝手だ。なんの用だよ、バルスラー。っていうか、
まだ演習中だろ。また勝手に抜け出してきたわけ?」
「早めに終ったんだよ。重要な話があるとかで、教官が拉致られた」
「重要な……?」
 そんな話は聞いていない。
 なにか事態の急激な変化でもあったのだろうか。
 
「厄介な内容じゃなきゃいいけど……で、用件は?」
 ヴィクターに聞くのが一番手っ取り早いか――そんな事を思いながら用件を促すと、バルス
ラーは一瞬、躊躇するように口ごもった。
「……前によ、俺はその気になればあいつを超えられるって……あんた、言ったよな……」
 あいつ、とはこの場合、ヴィクターを指すと見てまず間違いないだろう。
 アウラとヴィクターを尾行した日の事である。
 確かに、クロルはバルスラーにそう言った。
「うん。その気になれば、もしかしたら」
「可能性はあるんだろ?」
「可能性だけなら、確実にあるね。――どうしたんだい、いきなり」
 思いつめたような表情で真っ直ぐにクロルを見下ろし、バルスラーは拳を握り締めた。
「どうすれば勝てる」
 先日、ヴィクターに負けたのが余程悔しかったのだろう。
 クロルは溜息を一つ吐き、廊下の壁に背を預けて親指の腹で顎を撫でた。
「今すぐには、無理だ。経験も、力も、スピードも、頭の中身さえ今の君はヴィクター少佐に
劣ってる」
「そんな事ぁ分かってるよ! じゃあ、一年後だって五年後だっていい! どんな訓練を続け
て、どんな勉強をすりゃあいつに勝てる!」
 どんな訓練をして、どんな勉強をすれば――。

 あぁ、うらやましいな、とふと思った。

 バルスラーは訓練をして、経験をつみ、勉強をすればヴィクターと並び、そして越える事ができるのだ。
 自分はどんなに訓練しても、経験をつんでも、本を読み漁っても追いつく事すら出来ないあの男に――。
160690:2007/07/09(月) 00:51:31 ID:Rk6eKUfu
「目指し続ければ、いつか」
 それだけだ。
 ただ、目指し続ければそれでいい。
 生まれ持った大きな体。天性のセンス。バルスラーは目指せば目指しただけ強くなる。
「あの人に勝って、それでどうしたいかをはっきりと思い描く事だ。ただ勝ちたいだけじゃ、
その情熱はそのうち消える。目的を作るんだ。君は勤勉な性格じゃないから、目標がなくなれ
ばいくらでも落ちぶれられるよ。軍人やめてどっかの地下賭博でボクサーやってるって末路だって、
思いっきり考えられる」
 目的、と噛み締めるように呟いて、バルスラーは不意にクロルを見た。

「……なに? さすがに目的までは決めてあげられないよ? ん? でもヴィクターを倒して
得られるものって何だろ……これ結構難しいな」
 とん、とクロルのすぐ横の壁にバルスラーが手を突いた。
 なに、と声を上げて見上げると、ひどく不機嫌そうな顔で視線を反らし、何か言いたげに口
をつぐむ。

「……あのさ。この体勢、他の人に見られると間違いなくあらぬ誤解を招くんだけど」
 絵面だけ見れば、間違いなく大男に強引に迫られる――少年である。
 クロルの言葉にますます眉間の皺を深くして、バルスラーは意を決したようにクロルを見た。
「な――」
 なんなんだよ、一体。

 そう聞こうと開きかけた唇に、乱暴に唇が重なった。
 ガチ、と前歯が当たる音がして、クロルは心の中で“下手糞”と罵った。
 強引にねじ込まれる舌を、拒絶せずに受け入れてやる。
 また、ウィルトスの読み通りだ。
 絶対に嫌われていると思っていたのだが、とんだ鈍感女である。

「くそ……! 目、くらい閉じろよな」
 忌々しげに吐き捨てるバルスラーに、純粋にごめん、と謝る。
「君、僕の事好きだったの?」
「ち、ちげぇよ! アホか! 俺はただ……!」
「ただ?」
「……あんた、あいつの女なんだろ」
 なにがどうなって、そういう結論に達したのかはなはだ疑問だが、ここで否定するのはバル
スラーのやる気に関わりそうである。
 しかし肯定するのもどうかと思うので、クロルは何も答えなかった。
「あいつに勝って、あんたを俺の女にする。そんで、あんたのその偉そうな、人を馬鹿にした
ツラ、二度とできねぇようにしてやるのが目的だ……!」
「失礼だな。僕はいつでもこの表情だ」
「女はな! 普通俺にこうされたらびびって泣くもんなんだよ!」
「君程度でびびってたら、僕ヴィクター少佐に会うたびに失神しなきゃいけないじゃん」
 あぁ、もうとバルスラーが地団駄を踏みそうな勢いで髪をかきむしった。
 短気な男である。
「あとねバルスラー」
 ふと、悪戯心がわいた。
161690:2007/07/09(月) 00:52:19 ID:Rk6eKUfu
 バルスラーの襟首を無遠慮に掴み、乱暴に引き寄せる。
 ふわりと唇を合わせ、ねっとりと舌を絡ませると、バルスラーが石像のように固まった。
「キスはこうやってやるんだよ。知ってた?」
 ぺろりと唇を舐めて、にっと笑う。
 怒りでか、羞恥でか、バルスラーは顔を真っ赤に染めて、ちくしょう、見てろよこの女と悪
人のような捨て台詞を残してその場から駆け出した。

「うん……今ちょっと悪女っぽかった。気分いいな、これ」
 ふふ、と笑い、指の腹で唇をなぞる。
 バルスラーが――自分の教え子がヴィクターに勝ったら、さぞ気分がいいだろう。
 アウラが副官に付いたヴィクターは今よりもっと強いだろうが、バルスラーだって、きっと
負けないくらい出世して、負けないくらい強くなる。
 そして意気揚々と報告にきたバルスラーは、その時になってようやく、クロルがウィルトス
と結婚している事を知るのだ。
 泣くだろうか、怒るだろうか。反応が今から楽しみでしょうがない。

 あぁ、自分はもう、ウィルトスのプロポーズを受ける気になっている。
 ふとその事に気が付いて、クロルはあんなにダメだと拒絶した自分の滑稽さに吹き出した。
 ヴィクターと離れるのは、やはり辛い。
 だが、ヴィクターはいつまでも親友で、愛する人がいて、慕ってくれる教え子がいる。
 想像するだけで溢れそうになる幸福に、クロルは胸が一杯だった。
 
「クロル」
 きん、と一瞬にして空気が張り詰めた。
 緊張した声色で名を呼ばれ、何事かと振り返る。
 ヴィクターが少し離れた廊下の角に立っていた。
 バルスラーの言っていた、“重要は話”だろうか。ただ事では無い雰囲気を感じ取り、クロル
は壁にもたせ掛けていた背を浮かせ、すぐさまヴィクターに走り寄った。
「どうしたの、血相変えて。訓練生の訓練を途中で切り上げて、教官も招集されたって――」
「後で話す……部屋に行くぞ」
「歩きながら聞くよ。新しく部隊編成する必要ある? 一体――」
「落ち着ける場所じゃなきゃ話せねぇ」
 嫌な予感が過ぎった。
 ゆっくりと不安が首をもたげ、這うように忍び寄ってくる。

 早足で歩くヴィクターに、クロルは半ば小走りになりながら付いていった。
 大隊長室のドアをくぐり、ソファに座るように促される。
「ねぇ、ちょっとびびらせすぎだよ。どっかの街がモンスターにでも占拠されて、恐怖の軍団
が宣戦布告でもしてきたわけ? 一体何があったんだよ」
「ガウデレへ向かった討伐部隊の事は知ってるな」
 ぞくりと、悪寒が駆け抜けた。
 それは、ウィルトスが参謀として同伴した部隊だ。
 どうしてそんなに緊張した面持ちで、その部隊の事を口にする。

「今日、全滅が確認された」

 舞台に暗幕がひかれるように、視界から光が消えた。
 ほんの一瞬気を失っていたのかもしれない。
162690:2007/07/09(月) 00:53:06 ID:Rk6eKUfu
「うそ」
 そう呟いたのが誰なのかさえも、しばらく理解できなかった。
 ヴィクターがゆっくりと――先日破壊された状態のままのデスクに腰掛ける。
「定期連絡が途絶えて、偵察部隊が編成された。現地に到着してそいつらが見つけたのは、無
人のキャンプだけだったそうだ。現地のガキが森の奥から悲鳴が上がるのを聞いたらしい」
 淡々とした口調だった。
 まるで、遠い過去の事件を話して聞かせるような――。
 ドクン、と脈が乱れるのを意識した。
 心音が妙に早い。息苦しかった。脂汗がにじみ出る。
「捜索隊は――」
「捜索も救出も行われない。上の判断は全滅――つまり、全員死亡だ」

 そんな――。

「そんな馬鹿な! だって、死体の状態からだってターゲットがどんなモンスターかくらい分
かるはずだ。そしたら、なんらかの対策が立てられる。討伐だってできるじゃないか! そし
たら、十人でも、五人でも、誰か助けられるかもしれないじゃないか! 全員分の死体が見つ
かってるわけじゃないんだろ!?」
「死体は一体も確認出来てない。――消えたんだそうだ。完全に」
「消えたって……ご、五十人もいたんだぞ! ただ、探してないだけじゃないか!」
「ガウデレの森は今後軍の管理区域に指定され、一般市民の立ち入りは禁止される。見張りも
何名か出すそうだ。後日、五十人分の葬儀を執り行う――遺体無しでな」
「ふざけんな! 死体も無いのに全滅なんて、どうしてそんな事がわかるんだよ! 死体が見
つかってないなら、全員生きてる可能性だってある! それなのに救出も――遺体の捜索さえ
しないなんて聞いたこと無い! 今すぐ捜索救助部隊を編成して、完全武装で森に突入すべき
だ!」
「ウィルトス少佐の部隊が全滅した――部隊の生死に関わらず、あの人でダメだったんだ。同
じ条件で違う奴を送っても、同じ結果になるだけだ」
「教官だって完璧じゃない。なにか、決定的なミスがあったのかもしれないじゃないか……!」
「ああ。かもしれねぇ。だが、そんな“もしも”で動いても、無駄に人が死ぬだけだ」
「だからって、何もしないで見捨てるのかよ!」

 激昂して叫び、クロルはテーブルを叩いて立ち上がった。
 ヴィクターが何も言わずにクロルを見る。
 聞き分けの無い子供を見るような――手の届かない指揮官の表情で。
「なんで……そんな、平気そうにしてられるんだよ。いつも、いつも一人だって部下が生きて
たら、君は助けに行ったじゃないか……! 部隊全滅の報告があったって、君は必ず全員分の
遺体を捜して、それで、たくさん人を助けたじゃないか……!」
 苛立ったように、ヴィクターが眉間に皺を刻んでクロルを睨んだ。
「状況が違い過ぎる。興奮するのは分かるが、少し冷静になって考えろ。いるかも分からない
生存者のために、数十人、数百人の命を危険に晒す事になるんだぞ!」
「それでも、これが自分の部隊だったら助けに行くだろ。自分の部下だったら、自分の同僚だ
ったら、生死も確認せずに見捨てるなんてことしないはずだ!」
「そりゃそうだろうよ! 死ぬ覚悟で付いて来いって志願者を募っても、仲間のために命賭け
る奴ならざらにいる! だが、別の部隊の知らねぇ奴らが、ウィルトス少佐の指揮下で全滅し
たんだ! そんな状態で、上官命令で死んで来いなんて言えるわけねぇだろう!」
「それでも、上から命令が来たら君は兵を出すじゃないか!」
「当たり前だろ! それが俺達の仕事だ!」
「じゃあ仲間を助けるのは仕事じゃないって言うのかよ! 上から命令があれば、君は見知ら
ぬ人のために命を捨てろって部下に命令出来る。だけど命令がないから、全滅だって――助け
に行くなって命令されたから、同じ基地の、同じ師団の仲間達を、連隊が違う赤の他人だって
切り捨ててる!」
163690:2007/07/09(月) 00:53:56 ID:Rk6eKUfu
「クロル! そういう話をしてるんじゃねぇだろう!」
「だってそうだろ!? どうせ“大隊長としての責任”とかなんとか丸め込まれてきたんだろ
うけど上は、僕達の命なんか気にしちゃいない。救助部隊を編成しても作戦が失敗したとき、
マスコミに叩かれるのが怖いんだ。二次被害も防げない無能な軍人って言われるのが嫌なだけ
だ! でも、助けられるかも知れない仲間を見捨てる事ほど、無能な事なんてないじゃないか!」

 言っても仕方の無い事だった。
 ヴィクターには、大隊長という立場がある。部下の命を預かる責任があるのだ。
 ウィルトスが死んだと、認められないほど子供なわけではない。
 だが、何も出来ない――何か出来るはずなのに何もしないでいるのが何よりも辛かった。
 生きているかもしれないのに。
 助けを待っているかもしれないのに。
 一人では何も出来ない自分がたまらなく無力で――。

「……じゃあ、俺にどうしろって言うんだ。上の命令無視して、状況もわからねえ危険区域に
部隊をやって犠牲を増やせば満足か」
 低く、責めるように言われたヴィクターの言葉に、クロルは愕然と目を見開いた。
「ちがう! そういう事言ってるんじゃなくて、ただ僕は――!」
「そういう事だろうが! 簡単に助けられるなら、誰だってそうしてんだよ! だが、リスク
無視犠牲無視で、作戦なんざ成り立つわけねぇだろうが! お前は俺が負けた化物相手に、訓
練生に戦えって命令できるって言うのかよ!」
「ちが……僕は、僕はただ――!」
 ただ――なんだと言うのだろう。
 ただ、助けたいだけなのか。
 ならば、ウィルトスの死の確認が出来たら、もうそれでいいのだろうか。
 いいや、違う。そうことではない気がする。

 ただ僕は――僕は――。

 張り裂けそうな沈黙の中、ヴィクターが疲れきったように顔を覆って溜息を吐いた。
 吐く息が浅く、妙に湿って熱っぽい。
 溢れた涙が頬を伝い、唇の隙間に滑りこんで口の中を濡らした。嗚咽が洩れるわけでもなく、
ただ涙が止まらない。
「話は終わりだ……今日はもう、帰って休め」
 崩れ落ちて、声を上げて泣き出してしまいたかった。
 子供のように泣きじゃくり、ヴィクターの胸に縋って泣けば、少しはきっと軽くなる。
 折れそうになる膝を、しかしクロルは折らなかった。
 骨が軋む音が聞こえた。
 震えるほどに握り締めた拳から、骨の軋む音がする。
 無言で、クロルは溢れそうになる涙をぐいと拭った。
 敬礼もせずに、ヴィクターに背を向ける。

「クロル」
 呼び止められて、クロルはドアノブに触れかけた手を止めた。
「俺を腰抜けだと思うか」
 腰抜け――。
 それは、命令が無いからと言って何もせず、安全な場所でただ不満を叫ぶだけの自分の事で
はないのか――。
「……君を尊敬してる」
 言って、クロルは敬礼を残して部屋を出た。

 自室に向かう道のりを、何故だか思い出せなかった。
 ただぼんやりと廊下を歩いていると、気が付いたら自分の部屋についていた。
 気が付いたら、貴方の部屋の前にいました――そんな小説の一説が頭に浮かび、クロルは鼻
先でせせら笑った。
164690:2007/07/09(月) 00:54:46 ID:Rk6eKUfu
 自分の帰る場所はこの部屋だ。
 “あなたの腕の中”でも“あなたの部屋”でも、どこでもない。
 部屋に入り、壁を探って電気をつけた。
 無機質な部屋には何も無い。
 本棚には、ウィルトスに与えられた知識の元がぎっちりと詰まっていた。
 本棚に歩み寄り、ぺたり、とその場に座り込む。
 全ての本の内容を覚えていた。
 どういう経緯で渡されたのかも、一冊一冊思い出せる。
「大丈夫……大丈夫、大丈夫……」

 ――おまじないとは、つまり暗示の事です。
 ――暗示ですか?
 ――そうです。これがなかなか馬鹿に出来ない。君も試してみるといい。
 ――いや、僕はそういうのは……
 ――僕が信じられないんですか?
 ――いえ、教官がじゃなくてですね、僕おまじないとか占いとかはあまり……
 ――教え子の信用を得られないなんて……僕はだめな教官です。
 ――ちょ、なんでそうなるんですか! あぁもう! 信じます! 信じますよ!

 くすくすと、クロルは肩を揺らして笑った。
 振り回されてばかりだった。いつか仕返ししてやろうと、ずっと思っていたはずなのに――。
 抜き取った本の表紙に涙が落ちて、クロルは慌てて水滴を拭い去った。
 何も出来ないでは無いか。
 こんなにも多くの物を与えてもらい、幸福さえ与えてくれようとした男に、自分は何一つ返せない。
 古びた本をかき抱いて、クロルは大声を上げて泣き出した。

 あぁ、自分は。

 ただ、無能である事に甘んじるのが嫌なのだ――。


 ***


 朝、始業時刻が過ぎてもクロルは姿を現さなかった。
 部下に様子を見に行かせたが、応答が無く、中で物音もしないという。ヴィクターは奇妙な
焦燥感に駆られ、部下を下がらせて宿舎へと急いだ。
 乱暴にノックをして、三秒と待たずにノブを握る。あっけなく――と言うより、何の抵抗も
無く戸が開いた。
 鍵が掛かっていない。
「クロル。俺だ。入るぞ」
 声を掛けて部屋に足を踏み入れた。
 初めてクロルの部屋を見る。――何も無かった。
 全てがきちんと片付いていて、いつでも別の者が入居できると言ってもいい。
165690:2007/07/09(月) 00:55:30 ID:Rk6eKUfu
人がいる気配は無かった。
そもそも部屋に生活感が無いため、本当に空き部屋に見える。 
 びっしりと本の並んだ本棚から、歯抜けのように数冊だけが欠落していた。
 ざっと部屋を見回して、ヴィクターは妙な違和感を覚えた。
 何かが足りないような――。
 ぞくりと、嫌な予感が駆け抜けた。
 乱暴にクローゼットを開き、予感が確信へと変わる。
「あの馬鹿……どういうつもりだ!」
 吐き捨てて、ヴィクターは壁を殴りつけた。

 軍服が部屋に無い。それも、作戦時に着用する戦闘服が。
 間違いない。
 救出にか、死体捜しか、クロルは一人でガウデレに向かったのだ。
 まさか徒歩で向かう馬鹿では無い。だが、公共機関を使って移動するほどクロルは一般人では無い。
 どこから、なにを、どうやって――。

「ヴィクター少佐」
 開け放してあったドアの向こうから、聞きなれた声が飛んだ。
 アウラとバルスラーである。
「おまえら、何しに……」
「よかった、入れ違いになるかと――。時間になっても教官が訓練に現れないので副官室まで
お伺いしたんですが、大隊長室の前で状況を聞いてこちらに――それで、あの、クロル教官は?」
 失礼します、と断って入室し、アウラは困惑したように表情を曇らせた。
 それには答えず、ヴィクターは沈黙して口元を押さえる。
 
 訓練生――教官。

 思い当たって、ヴィクターは思い切り悪態をついた。
「訓練用のジープか……! くっそ! あのアマ!」
 命令無視、任務の放棄に加えて、部隊装備の無駄持ち出し。軍規違反のオンパレードだ。
 明らかに、もうここに戻ってくる気など無い。
「ジープがなんだって?」
「あの、教官。状況が飲み込めないのですが――」
 ますます混乱する訓練生二人の疑問を無視し、ヴィクターは目頭を押さえた。
 拘束して、連れ戻せと命令する事は簡単だ。
 ガウデレでも、その途中の道のりでも、捕らえる事は可能だろう。

 だが、それでどうする。
 自らの意思で出て行った者を、他者の意思で連れ戻す事は不可能だ。
 クロルは軍人である事を止めた。
 もう、それを選んでしまったのだ。

「ヴィクター! 一体どうしたって言うんですか!」
 アウラに名を叫ばれて、ヴィクターはようやく二人の存在を思い出したように顔を上げた。
 アウラと――特にバルスラーにこの話をしたら、どんな行動を取るだろう。
 クロルが単身ガウデレの森に向かい、そして恐らく――死ぬ気だと話したら。
 きっと、助けに行くと即答するに違いない。

 助けに――。

 その言葉に、ひどく違和感を覚えた。
 違う。クロルは“ナイトを欲していない”。
166690:2007/07/09(月) 00:57:51 ID:Rk6eKUfu
「……クロルがジープをかっぱらって――恐らくだがガウデレの森に向かった」
 アウラが愕然と目を見開いた。
 バルスラーがヴィクターの言葉の意味を理解できずに、小声でアウラに説明を求める。
 しかしアウラはバルスラーを無視して、ヴィクターに掴みかからんばかりの勢いで声を荒げた。
「ど……どういう事ですか! あの人は、だって、そんなに無謀な人じゃない! 確かに今回
の救出放棄は臆病で、恐ろしく俗物的ですが、それでも――無鉄砲する!」
「討伐部隊の指揮を取ってたウィルトス少佐を知ってるだろう」
「ええ、クロル教官の恩師だとか。ですが、だからってあまりにも――!」
「クロルの恋人だ」
 アウラが言葉を失った。
 バルスラーが妙な顔をする。
「……あんたの女じゃなかったのか?」
「何の話だ?」
「いや、だからクロル教官が……」
「お前にここ数週間の事の顛末を聞かせてやりてぇのは山々だが、あいにくと俺もそんなに暇
じゃねぇんだ」
 俺の女が他の男のために命捨てに行ってたまるかと、ごく小さな声で吐き捨てる。

「どうなさるおつもりですか……このままじゃ、教官は犬死です!」
「おい、俺にもわかるように説明しろよ」
「うるさい!」
 アウラに一喝されて、バルスラーが沈黙した。
 一喝と共にテンプルを捉えた拳が利いただけかもしれないが――。
「連れ戻せば……あいつの決断を押し込めることになる」
「だけど――!」
 ――傭兵になりゃよかったのに。
 向いてると思うよ、とクロルの声が聞こえた気がした。
 あぁ、それも悪くない。
「アウラ。バルスラー」
 感情が高ぶるのを意識した。
 枷が外れるような、ぞくぞくする開放感。
「手伝え」
 ヴィクターの短い宣言に、アウラが子供のように目を輝かせた。
 バルスラーがなんで俺が、と文句を言うのを、鳩尾に肘を入れて黙らせる。
「よろこんで!」


切らせていただきます

後二回くらいで終れる予定。
スレ住民の皆さんのヴィクター像がばらばらで面白いですねw
167名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 01:04:21 ID:JymZmoqc
リアルタイム遭遇キタ━━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━!!
テラGJ!
168名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 01:06:47 ID:dRR9PT3S
リアルタイムGJ
169名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 01:59:43 ID:bEaT9wnC
なんだか、ワクワクしてきたよ。
あと、二回で終わるなんて言わないで、もうちょっと続けてくれ。
170名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 21:55:05 ID:GDytVZ/q
ずっとバルスラーは坊主キャラだと思ってたから
「髪生えてるのか」と残念に思ってしまった。
171名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 21:57:57 ID:RUQEcKZO
>>170
あれ?俺がいる
172名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 23:15:29 ID:A/ACYwe5
>>170-171

俺とトリオ結成だな
173名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 23:17:42 ID:lT8hc0NT
漏れの中だと各キャラの外見は

ヴィクター:テツニ尉(最終兵器彼女)

クロル:ファビオラ(ブラックラグーン)

ウィルトス:加持 リョウジ(EVA)

アウラ:小牧 愛佳(To Heart2)

バルスラー:海坊主(シティハンター)

独断と偏見に満ちた妄想です。
690氏神GJ、
「うん……今ちょっと悪女っぽかった。気分いいな、これ」
この台詞にハァハァ
クロルとアウラタンにハァハァ。
しかし森にいるモンスターってどんなのだろ?
ベルセルクの使徒っぽい奴かな?
174名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 00:28:20 ID:pkIYS/gF
>>170-172
剃り込み入ってる超短髪系だと思えばいいんじゃね?
頭皮に刺青入ってたら完璧。
175名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 00:57:57 ID:USvdxxir
モヒカンでもおk
176名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 01:29:02 ID:L9jy261R
い、イヤだーw
177名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 01:45:40 ID:j7+FI4Ie
バルスラーはガイルみたいなのだと思ってた
178名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 07:49:42 ID:82wCEAlB
俺のヴィクター像はからくりサーカスの鳴海かな
他のキャラはこれといったイメージがわかなかったけど
ヴィクターだけはすぐにこれが出てきた
179名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 11:36:36 ID:ly1ox5oI
じゃあ、ウィルはギイか?
180名無しさん@ピンキー:2007/07/12(木) 19:59:48 ID:8ZVOb9eZ
そう言えばほとんど人物描写ないな。
ヴィクターにいたっては髪の色も出てきてないんじゃないか?
181名無しさん@ピンキー:2007/07/12(木) 21:45:28 ID:dntvk3VS
だがそれがいい
182名無しさん@ピンキー:2007/07/12(木) 22:59:05 ID:sr7fNYIZ
>>181
同感。それがいい。

せっかくの「文章」なんだし、各自が好みの容姿を想像できるところがいい。
いや、たまにあるんだよ。すごく好みなのに容姿の属性が地雷で読めなくなることが…
183名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 01:15:02 ID:xsrsO+1h
俺も延々容姿の注釈あるより良いと思うな
184690:2007/07/13(金) 04:31:56 ID:QDclsPEb
ファンタジー
エセ軍人物
ヴィクター×クロル


 連合国南西部――ガウデレの森。
 繁茂した木々の葉に日光が遮られているため昼間でも薄暗く、視界は悪い。
 大型の草食動物が多く生息し、それに寄生する事を目的としたくぐせの生息も確認されてい
るため、町の者が好んで森に入る事はない。
 しかし広大な樹海に生息する分類不能種の種類は千を軽く超えると言われ、未だ生態の解明
されていない分類不能種の調査を目的に森に入り、行方知れずとなるモンスター学者は後を絶
たない――。
 
「最新の資料が十年前の本だからなぁ」
 当てになるのか、これ、と黒いハードカバーの本を閉じ、クロルは溜息と共に昼食の野菜サ
ンドにかぶりついた。
 深夜に基地を出てから走り続けで、ようやく半分の地点まで来た。
 市警団体の詰め所がある街を避けてやや遠回りをしているため、到着には通常よりも数時間
は遅くなるだろう。
 ガウデレに付くのは深夜を大分過ぎそうである。
 ジープのハンドルに乗せていた足をアクセルに戻し、クロルはペットボトルの紅茶を喉の奥
に流し込んだ。
「行くかね、ヴィクター」
 ぽんぽんと、助手席のクマのぬいぐるみの頭を叩く。
「なんだよその顔。自殺行為だとでもいいたいの? いっとくけどね、僕は別に死にたいって
思ってるわけじゃない。恋人が死んだから後を追うなんて、最高に馬鹿げてると思ってるしね。
たださ、じっとしてられない性格なの知ってるだろ?」
 栗色をしたふわふわの体を抱き上げて、プラスチック製のつぶらな瞳を覗き込む。
 ふと思い立ったように、クロルは自分の認識票の鎖を切って、ぬいぐるみの首に巻きつけた。
 戦闘服の襟に刺した階級章のバッジを外し、ぬいぐるみの服に付け替える。
「……なくすなよ。君に持ってて欲しいんだ」
 ちゅ、とぬいぐるみに唇を落とし、丁寧に助手席に座らせる。
 クロルはアクセルを踏み込んだ。


 ***



 ガウデレの町は決して大きい方ではない。
 だが豊かな土壌に恵まれたこの町は、あらゆる果物が飛びきり甘くみずみずしく実る。
 ガウデレ産の果物と言えば庶民には手が出ない高級品で、この町は小さいながらも人々は総
じて豊かだった。
 深夜を過ぎても、町には未だ明かりがある。

 営業中の札を掲げるいくつかの酒場を素通りし、クロルは大型の食料品店で調理する必要の
ない食料をごっそりと買い込んだ。
「軍人さん。除草剤も買ってった方がいいよ」
 会計の時、レジの若い青年が愛想よく笑ってスプレー式の除草剤をクロルに示した。
「悪いけど、園芸に興味ないんだよね」
「そうじゃない。森に行くんだろ? あそこさ、物を食う植物が出るんだよ。ほんの手の平サ
イズなんだけどね。とにかく食物にたかるんだ。よく虫と間違えて殺虫剤を使う人がいるんだ
けど、なんせ植物だからね。断然こっちがオススメ」
「……植物が歩くの?」
 呆れたようにクロルが聞くと、青年が声を上げて笑った。
「メルヘンだろ。ムシカゴって言うんだ。花も咲かすよ」
185690:2007/07/13(金) 04:32:44 ID:QDclsPEb
 家で飼ってる子もいるんだ、と自慢げに笑われて、クロルは除草剤の購入を決定した。
 世の中知らない事だらけである。
「学者さんの論文も売ってるんだ。興味があるなら買わない? この店だけだよ、売ってるの」
「君、商売上手って言われない?」
「店長の座を狙ってるんだ。娘さんが超美人」
 有名な学者の書いた十年前の本よりも、どこの誰かも分からない無名の学者の論文の方が役
に立つ事もあるだろう。
 五種類あると言うので全ての購入を即断し、クロルは紙袋を抱えて店を出た。

 民家がまばらになり始める町外れから更に車を走らせると、森は間近に迫っていた。
 普通に考えて、森に人が入らぬよう暫定的に偵察部隊が見張りに立っているはずだが、キャ
ンプに明かりは点っていない。
 少し離れた所に車を止め、クロルは暗視スコープを覗き込んだ。
「……有刺鉄線?」
 木と木の間を結ぶように、見るからに痛そうな金属の棘が見えた。
 なる程――クロルは口角を持ち上げた。適当な範囲に有刺鉄線を張り、ガウデレの住民に森
に入らぬように釘を刺して撤収したのだ。
 元々森に入りたがらない住民達は、進入禁止を示す鉄線と注意があれば森には入らないと踏
んだのだろう。
 食料品店の青年の言葉を信じれば、最近は学者の調査もないと言う。
 それならば、無人のキャンプを勝手に使わせてもらおうと、クロルはキャンプへとジープを
走らせた。

 人の気配の無いキャンプと言うのは、まるで悪夢の中に取り残されたようで落ち着かない。
 クロルは懐中電灯を片手にキャンプ内を歩き回り、一際大きい会議用テントを発見して早速
内部を物色した。
 目当ては地図と通信機だ。
 通信内容が録音されているはずだから、それを聞けば少しは状況が分かるかもしれない。
 町の子供に荒らされているかと思ったが、そういった痕跡は見られなかった。暗いから分か
らないだけかもしれないが、あるべき所にある物がちゃんとある。
 テーブルに広げられた地図と、通信機に収まっていたディスクメディアを拝借し、ついでに
救護テントの位置を確認してから、クロルはジープに置き去りにした買い物袋とぬいぐるみを
取りにテントを出た。

 暗い、圧迫感のある森だった。
 獣の咆哮も、鳥の声も聞こえない。
 飲み込まれそうな恐怖感を苦労して無視し、クロルはジープへと足を急がせた。
 人員輸送車が二台と、資材トラックが一台。その他に、クロルの乗ってきたものを含めて三
台のジープがある。
 その、一番手前のジープに手をかけた瞬間、突然視界が白く染まったような錯覚に囚われた。
 それが光だと気付く前に、体が光を遮ろうと腕を掲げる。
「そこで何をしてる!」
 ダン、とジープのボンネットに人が飛び移る音がした。
 反射的に飛びのこうとした体が、乱暴に腕を引かれてバランスを崩す。
 ふわりと体が浮いて、クロルは引っ張り上げられるようにジープのボンネットに背を付いた。
「動くな! 抵抗すれば射殺する」
「ちょっとまッ――わかった! わかった、わかったよ!」
 半身を起こしかけた状態で固まったクロルの額に、脅しと共に冷たい銃口が突きつけられた。
撃鉄を上げる音が緊張感を跳ね上げる。
 偵察部隊の連中は、もっと穏やかな性格をしていると思っていたが――。
186690:2007/07/13(金) 04:33:27 ID:QDclsPEb
「なーんつってな」

 す、と額から銃口が離れ、ガチン、と空撃ちする音が聞こえた。
 なに、と口から言葉が出る前に、しゃがみこんだ状態のままこちらを見下ろす男の顔が目に入る。
「びびりすぎなんだよ。っていうかお前、声で気付けよ」
 あんぐりと口をあけて固まったクロルの額を、とん、と男が軽く小突いた。
 ぺしゃりと仰向けに倒れ付し、直後に玩具のように飛び起きる。
 ジープから十分に距離を取ってから懐中電灯で男を照らし、クロルは本気で自分の正気を疑った。
「ヴィ……ヴィ……ヴィク……!」
「おう。俺だ」
 クロルの驚愕が滑稽な程冷静に、ヴィクターがひょいと片手を上げた。
 まるで道端で偶然会っただけだとでも言うような態度である。
「な……なんでここに!」
「いや、普通にジープで」
「誰が移動手段を聞いてるんだよ! そういう事言ってるんじゃないだろ!」
 すっとぼけたヴィクターの返答に、クロルは苛立ちを込めてボンネットに拳を打ち付けた。
 ヴィクターがきょとんとしてクロルを見つめ、そりゃあおまえ、と頬をかく。
「俺の副官を追ってきた」

 副官――。
 その一言でようやく自分の立場を思い出し、クロルはさっと身構えた。
「……僕は戻らないぞ」
「そうか」
 クロルのキッパリとした拒絶の言葉に、ヴィクターは平然と頷いた。
「そうか……って、なんだよ! 僕の意思なんて関係ないって? 力尽くで連れ戻したって無
駄だからな!」
「あぁ、だろうな」
「ふざけるな! じゃあ、分かってるなら何しに来たんだよ!」
 いや、だからな、と頬をかく。
「連れ戻しにきたんじゃなくて、追いかけてきたんだ」
「なんだよ、それ、意味が……」
「軍人やめてきた」

 クロルは言葉を失った。
 一瞬の間を置いて、血の気が引いていく音が聞こえた気がした。
 引きつった表情に無理やり笑みらしき物を浮かべ、震える唇を無理やり開く。
「――なんだって?」
「軍人やめてきた」
 ヴィクターの答えは変わらない。
「馬鹿だろ……君、本当に、頭悪いだろ! 君は将校なんだぞ! 大隊指揮官なんだ! どれ
だけの混乱を招くと思ってる! 軍法会議もんだぞ! 禁固刑で死刑だぞ! 今すぐ帰れ! 
僕にかまうな!」
「うるせぇな、怒鳴るなよ。その指揮官捨てて教官助けに来たくせに」
「そんなの僕の勝手だろ!」
「じゃあこれも俺の勝手だ。つまり誰にも止める権利はねぇってわけだ」
「ちが……立場を考えろって言ってるんだよ! 僕はただの下っ端だけど、君は千人の部下を
統率する大隊長なんだぞ!」
「それを二十時間前に言ってくれりゃあ間に合ったんだがな。あいにくともう、やめちまった」
 お前のせいだ、後悔しろと言わんばかりに、ヴィクターが舌を出す。
 その上な、と口角を持ち上げて、ヴィクターはひょいと隣のジープに移り、荷台の覆いをは
がして見せた。
 その、装備――。
187690:2007/07/13(金) 04:34:19 ID:QDclsPEb
「戦争ができる量の武器弾薬の無断流用だ。普通の死刑で済むかどうかも疑問だな。今頃軍は
大騒ぎだろうよ。今更俺も戻れねぇってわけだ」
 面白そうにヴィクターが笑う。
 そんな、と呟き、クロルはへなへなと座り込んだ。

「戦うんだろ。で、死体だろうがなんだろうが、教官を探すんだろ。そんなおもしれぇ事、お
前一人でやらせるかよ。新種だかなんだかしらねぇが、ぶっ殺して基地に送って師団長に中指
おったてて唾吐いてやる」
 ヴィクターが歯をむき出して凶悪に笑った。
 こういう台詞が、どうしようもなく似合う。
 ばさり、と重々しい音を立てて、ヴィクターがジープの覆いを手放した。
 その音にはっとして、見惚れていた自分に気付く。

 嫌だ。
 この男を巻き込みたくない。
 自分のつまらない意地のために、この男を殺すなんて耐えられない。

 血を吐くような思いで、クロルはヴィクターを思い切り睨み上げた。
「帰れ」
「まだ言うか。強情な女だな」
 平然と言い返し、ヴィクターがジープを飛び降りる。
「帰れって言ってるだろ! 余計なお世話なんだよ!」
 じっとりと重たい土に爪を立て、クロルはわざと大声を上げた。
「これは僕の問題だ。君が関わる必要ない。ヒーロー気取りでいい気分なんだろうけどさ、迷
惑なんだよ! 僕はこんな事頼んでない。君なんかいらないんだ!」
「そうか、いらねぇか」
 まるで取り合っていない様子でオウム返しの相槌をうち、ヴィクターはジープから重たげな
バッグを引っ張り出して肩に担いだ。クロルの乗ってきたジープの座席に身を乗り出し、紙袋
とぬいぐるみを抱えて歩き出す。
 そのヴィクターの行動に、クロルは思い切り狼狽した。
「な、なんだよ。ちょ、話を聞けよ馬鹿! 返せよそれ! 迷惑だって言ってるだろ!」
 慌てて立ち上がり、クロルは早足で歩くヴィクターをいつものように小走りで追いかけた。
 暗くて表情は伺えないが、この際、ヴィクターの機嫌などどうでもいい。
「いい加減にしろよ! ヴィクター! ヴィクター!」
 いらだって正面に回りんで立ち塞がると、ヴィクターはようやく立ち止まった。
 お互い無言で睨み合う。

「おまえさ」
 先に口を開いたのはヴィクターだった。
 なに、と聞き返す前に、ぽんとぬいぐるみを放られる。
「これ、どういうつもりだった」
「なにって……」
「認識票と階級章がつけてあった」
 責めるような口調にぎくりとして、クロルは気まずさに視線を反らした。
 どういうつもりだったかなどと、聞かなくても分かっているに違いない。
「分かってねぇみたいだから言うがな。お前に俺が必要だとかそうじゃねえとか、そんなこた
どうでもいいんだよ。お前が迷惑に思おうが、それこそ俺には関係ねえ」
「なんだよ……それ。だったら、じゃあ、なんなんだよ!」
「俺にお前が必要なんだ。いらねぇからって勝手に捨てんな。たたるぞ」

 ぽかん、と間の抜けた表情を浮かべ、クロルはヴィクターを見返した。
 なんて――恥ずかしい事を真顔で言うのか、この男は。

「……恥ずかしい奴」
 思った事が、思わずそのまま口を出た。
 瞬間、ゴン、と鈍い音がして、それに追従するように鈍痛が頭を襲う。
 たまらず、クロルは頭を押さえてしゃがみ込んだ。
188690:2007/07/13(金) 04:35:03 ID:QDclsPEb
「なんだよもう! だってそうだろ! そんな恥ずかしい事よく言えるな!」
「うるせぇ! お前が俺の事をいらねぇって言うなら構わねぇ。勝手にやるさ。だが意地でも
お前は俺が守るぞ。俺の許可無く勝手に死ぬなんざ許さねぇからな!」
「よ、よせ馬鹿! 聞いてるだけで恥ずかしい! どうしてくれるんだよこの鳥肌!」
 顔を真っ赤にして耳を塞ぎ、クロルがぶんぶんと首を振る。
 この野郎、と低く唸って、ヴィクターはクロルの正面に膝を着いた。
 とてもじゃないが、まともに顔を合わせられる勇気が出なかった。しかしそんな事はお構い
無しに、ヴィクターがクロルの頬を捉えて上向かせる。
 いつの間にか溢れていた涙を指の腹で乱暴に拭われて、クロルは唇を噛んで目を反らした。
「死ぬ時は戦友と戦場で――そうじゃなきゃ惚れた女の腕の中って決めてんだ。一緒に戦らせ
ろよ。仲間だろ? 死ぬにしたってお前一人じゃ死なせねぇ。ましてや他の男のためになんざ
とんでもねぇ」
 どうして、この男はこうもキザな台詞が吐けるのだろう。
 仲間だとか、戦友だとか、暑苦しくて涙が出る。
「くそ……もう、勝手にしろ! 死んだって知らないからな!」
 嬉しそうにおう、と笑うヴィクターから視線を外し、クロルは頬を真っ赤に染めて熊のぬい
ぐるみを抱きしめた。


 ***


 連合国南西部に位置するガウデレの外れには、広大な樹海が存在する。
 この森に生息する分類不能種の中で、近年発見された特に興味深い固体がある。我々がムシ
カゴと呼ぶこの直系数センチ程の分類不能種は、明らかな植物でありながら実に能動的に歩く
のだ。
 我々はこのムシカゴの生態調査を目的として、このガウデレの森に来た。
 我々はまず森の一部にキャンプを――。

                  *

 この森において、火の扱いは十分に注意しなければならない。
 引火性の高い蔓植物が縦横無尽に張り巡らされているため、迂闊に火をつければ我々はたち
まち火にまかれて焼け死んでしまうだろう。
 煮炊きをする場合はまず土を掘って周囲の植物を十分に――。

                  *

「火炎放射器は使えないってさ」
 救護テント内の簡易ベッドに半身を起こして横たわりながら、クロルは食料品店で買った論
文を読み進めていた。
 正面のベッドで装備の整備を進めていたヴィクターが、正に火炎放射器の点火装置を持ちな
がら顔を上げる。
「だめか」
「だめらしいね」
「手榴弾は?」
「火気は危険って書いてある。やめた方がいいんじゃない?」
 めんどくせぇなぁ、と文句を言いながら、手榴弾がきっちりと並べられた木箱を足で横に押
しのける。
 キャンプの資材テントから失敬してきた物である。
 それにしても――と思う。
「それだけの物用意して、よく僕より先に到着できたね」
「あぁ、それはアウラが――」
「アウラ?」
 ガシャン、と物々しい音を立てて、ヴィクターがマシンガンを取り落とした。
 何故、ここで訓練生の名前が出る。
「……いけね」
 まさか――まさかそんな馬鹿な事は無いだろう。
 しかしヴィクターのあからさまな動揺に、クロルはさっと青ざめた。
189690:2007/07/13(金) 04:35:47 ID:QDclsPEb
「ま……まさか……君、訓練生に……」
「ま、まぁ、成り行き上……ちったぁ手伝わせた……かな」
「手伝わせた!? 手伝わせただって! アウラとバルスラーに反逆行為を!? 信じられな
い! 一歩間違えば僕たちはテロリストなんだぞ!? 僕の訓練生になんてことを――!」
「付いてくるっつって聞かねぇのを説得しただけ偉いと思えよ! 元はと言えばお前がいきな
り何もかも放り出して飛び出したのが悪いんじゃねぇか!」
「そういう問題じゃ――!」
「教官が一人で危険地帯に向かったって――そう聞かされた訓練生がどう思うかくらい想像つ
くだろうが! 特にあの二人だ! 何もさせずに追い返したらそれこそ間違いなくここに来て
たぞ!」
 うぐぅ、と妙な呻き声を上げ、クロルは反論を飲み込んだ。
 確かに、あの二人ならばやりかねない。
 特にアウラだ。あの思い切りと行動力には恐れ入る。
 何も出来ない。何か出来るはずなのに、行動を許されない。その、どうしようもない無力感
に耐えられなくて真っ先に軍を飛び出したのは、他ならぬ自分なのだ。

 だけどさ、だとかでもさぁ、だとか、取り留めの無い事をぶつぶつと零すクロルを無視し、
ヴィクターが再び武器の整備に戻る。
 口が上手くなりやがってと内心罵りながら、クロルは再び論文に目を落とした。
「……有能だな。あいつら」
「え?」
 ガリガリと、ヴィクターが髪を掻き乱す。
「お前の訓練生。士官学校での少尉殿よりよっぽど有能だ」
 整備を終えたマシンガンをバッグに戻し、ヴィクターは立ち上がった。
「付いてきてたらそれはそれで、十分な戦力になっただろうよ」
「やめろよ。あいつらには僕達の穴、埋めてもらわないといけないんだから」
「でよ」
「うん」
「これ、終ったらお前どうする?」

 これが、終ったら――?

 クロルは一瞬、どう答えていいか分からなかった。
 普通に考えて、終らずに死ぬだろう。
 もし仮に生き残ったとして――まぁ、死刑だろう。
 だが、ヴィクターが聞いているのはきっとそういう事ではない。
 くすり、と小さく笑いを零し、クロルはぼんやりと天井を見上げた。
「そーだなぁ……」
 論文を放り出し、ベッドに仰向けに寝転る。

「田舎に引っ込んで、寝て暮らそうかな。小さな家を買って、猫でも飼って、毎日ぼうっとし
て暮らす」
「夢のねぇ女だなぁ」
「だって、僕の夢はヒーローだったんだ」
「はぁ?」
 怪訝そうに顔を顰めるヴィクターに、だからさ、と言って起き上がる。
「僕は体も小さくて、力も弱くて、自分じゃ何も出来なかったんだ。周りの男の子達はすいす
い木に登れるのに、僕は上るだけで気が付けば傷だらけだった。お姫様みたいに大事にされて、
守られてばっかり。だめだよクロルは、女の子なんだからそんなに危ない事したら……て。そ
れが嫌で、凄く嫌で……だから、軍人になったんだ」
 ヒーローは孤独だ、とそんな言葉に憧れていた。
 誰にも理解されずに、誰にも正体を明かさずに、誰に褒められるでもなく人々を助けるヒー
ローに、
子供の頃からずっと憧れてきたのだ。
190690:2007/07/13(金) 04:36:33 ID:QDclsPEb
「でも無理だった。軍人になっても僕は結局弱いまま。だからもう夢はいらないんですー」
 ヒーローは必ず、自分の愛しい人を助けられる。
 自分の大切な人を守ってなお、見知らぬ人も助けられる強さがあるから、彼らは無敵のヒーローなのだ。
「戦隊物ならいいんじゃねぇか?」
 クロルが買い込んだ食料品の中からウィスキーの瓶を見つけ出し、口をつけてそのまま煽る。
 なにそれ、と問い返すクロルに瓶を投げ渡し、ヴィクターはだからよ、と人差し指を振りあげた。
「五人揃って真の力を発揮するとか、そういうヒーロー物だよ。しらねぇか?」
「げー。世代の違い感じる。ヒーローは孤独なもんでしょ。だからかっこいい」
「たった六歳で世代の差を感じるな! お前な、ヒーロー達の友情物語を馬鹿にするのはゆる
さねぇぞ。何故か知らんが、あいつら群れると個人の能力も跳ね上がるんだ」
「それって、他人の目がないとやる気にならないって事なんじゃないの?」
「お前はなんでそう歪んだ物の見方をするんだよ!」

 はいはい、どうせ僕は歪んでますよと唇を尖らせて、茶色い瓶を傾ける。
 戦隊物ねぇ、と口の中で呟いて、クロルはふと閃いた。
「それって、ひょっとしてなんたら担当とかあるんじゃない?」
「おー、あるある。たいがい何かのエキスパートだ」
「じゃ、この場合僕って何担当?」
「毒舌」
 思い切り、酒瓶をヴィクターに投げつける。
 中身を零す事無く見事にそれをキャッチして、ヴィクターが声を上げて笑った。
「もういいよ! 馬鹿にして!」
「いや、でも実際そうだぞ。お色気担当とか。ボケ担当とか」
「そんなヒーローやだ! 認めない!」
「みんなの心が一つになった! とか、結構燃えたんだがなぁ」
 それは君が単純だからだよ、とクロルが吐き捨てる。
「そういう君は、これからどうするわけ?」
 俺か、と意外そうに問い返し、そうだなぁ、と顎を撫でる。

「そういえばよ、俺最近恐ろしい事に気付いたんだよ」
「はん?」
「俺が軍人になった理由をよ、ふと思い返してみたんだわ」
「へぇ、なになに? 興味ある」
 聞いて驚け、とヴィクターが胸を張る。
「パン屋を開く資金をためようと思ったんだ――十年前だな」
 一瞬の沈黙の後、二人は揃って思い切り吹き出した。
 言葉も出ない程笑い転げ、ひぃひぃとあたりにある物をやたらと叩く。
「それ、君、馬鹿すぎるだろ! 目的忘れて手段に没頭してたわけ?」
「そーいや毎月、意味も分からず一定の金額別の口座に入れてたんだよなぁ。習慣ってこえー」
 妙にまじめくさって頷く物だから、これまた堪えきれずに腹を抱えて笑い転げる。
 二人してひとしきり笑ってから、ヴィクターはクロルの隣のベッドに寝転がった。
「馬鹿だよなあ。何度も軍人やめるタイミングはあったのによ」
 師団の移動とかな、と急に真剣な声を出すヴィクターに、クロルはうつ伏せに寝転がってに
やにやと笑いかけた。
「じゃー分かった。生きて帰れたら君のパン屋、手伝ってやるよ。カウンターに君みたいなの
が座ってたら、店の前を横切るだけで赤ん坊が泣き出すよ」
191690:2007/07/13(金) 04:37:52 ID:QDclsPEb
「実際、すれ違うだけで泣かれるんだよな……結構傷つくんだぞ、あれ」
「ナイーブなんだね、お兄さん」
 ククク、と肩を揺らすクロルを横目で睨み、忌々しげに悪態をついて背を向ける。

「ねぇヴィクター」
「んだよ」
「……しよっか」
 ぎくりと、ヴィクターが緊張するのが分かった。
 肩に引っ掛けていた戦闘服の上を脱ぎ、ズボンと留め金を外す。
 その音に、ヴィクターは愕然と飛び起きた。
「クロル。よせ」
 ヴィクターの制止を無視し、下着を残して全てを脱ぎ捨てる。
 少し、肌寒いだろうか。
 立ち上がり、体温を求めるようにヴィクターに手を伸ばす。

「服を着ろ……こんな事、しなくていい」
「なんだよ、それ」
「見返りが欲しくて、こんな所まで来たんじゃねぇんだ!」
 ギシ、と簡易ベッドが二人分の体重に悲鳴を上げた。
 ベッドに半身を投げ出したヴィクターにまたがるように圧し掛かり、反らされた唇に唇を重
ね、誘うように舌を絡める。
 押し返そうと肩に添えられたヴィクターの手を無理やり腰に導いて、クロルは絡みつくよう
により深く唇を貪った。
 舌を絡め、甘噛みし、唾液を混ぜて飲み下す。
「動物ってさ、死期が近づくと、子孫を残そうと思って“さかる”んだって」
 悲しげに目を伏せるヴィクターの服に手を掛けて、耳たぶに舌を這わす。
 しかし石のように動かないヴィクターに、クロルは寂しさに似た感情を覚えてゆっくりと体を離した。

「服を着て、ベッドに戻れ」
「……なんで?」
「言っただろう。見返りなんかで……お前を抱きたくない」
「そんなつもりじゃない……そんなんじゃない! なんでわかんないんだよ! 君は、僕が
お礼で……そんなんで誰にでも抱かれるって、思ってるのかよ!」
 怒鳴って、クロルは前触れも無く溢れ出した涙に自分自身が狼狽えた。
 情緒不安定もいい所だ。こんな状態の女、誰だって願い下げだろう。
「ごめん……寝る」
 低く、呻くように謝罪を零し、クロルはヴィクターの肩に体重を預けて立ち上がろうと身を捩った。
 その腕を、ヴィクターが静かに掴む。
 いったん離れた体が再びぴたりと密着し、クロルは心音が跳ね上がるのを意識した。
 背に回された腕に力がこもる。
 息苦しさを覚えて、それでもクロルはヴィクターの胸に濡れた頬を押し付けた。

「……なんだよ。嫌なんじゃなかったのかよ」
「見返りじゃないんだろ」
「現金な奴……!」
「男なんざそんなもんだ」
 息苦しい程の拘束が緩んで、薄いランニングシャツの上からヴィクターの指がくすぐるよう
に乳房を撫でた。
 ぴくりと肩を震わせて、簡単に声がこぼれそうになる唇を噛む。
「わ……すご、もうこんなんなってる」
 そろそろと下半身に滑らせた指先にいきり立った物が触れ、クロルは感嘆として溜息を吐いた。
192690:2007/07/13(金) 04:41:11 ID:QDclsPEb
「つーか、割と前からこうだ」
「それなのにやめろって?」
「男の意地ってのは欲望に勝るんだ。覚えとけ」
「ぁう……! や、そこ……よわぃ……」
 きゅっと乳首をつままれて、思わず背が弓なりに反る。
 そのまま指先でくりくりと転がされ、クロルは唇を噛んでいやいやと首を振った。
「お前ほんとここ弱いのな。これだけでいけるんじゃねぇか?」
 試すか、などと恐ろしい事を言いながら、ヴィクターがシャツをたくし上げて直接乳首に吸
い付いた。
「きゃぅ……ん……ん……ふぁあ! ば、か、かむなぁ……!」
 がくがくと体が震え、クロルはたまらずヴィクターの頭を抱きこむようにしてしがみ付いた。
 とても声が抑えられない。
 尖らせた舌先でつつかれ、吸い付かれて、痛いほどの刺激にくらくらする。
 ぞくりと、這い上がってくるものがあった。
 頭の芯がジンジンと痺れ、意思に反して爪先が縮こまる。
「だ、だめ、だめだヴィクター……! ぼく、い、いつもより……へん……に、感じ……!」
 びくりと肩を震わせて、クロルは喉をそらせて声も無く悲鳴を上げた。
 驚いたように顔を上げ、ヴィクターがクロルを覗き込む。
「まさか、ほんとに胸だけでいったのか」
「や……ち、ちが……!」
 真っ赤になって顔をそらすクロルに追い討ちを掛けるように、ヴィクターがするすると下半
身に指を滑らせる。
 すでにどろどろに蕩けている秘部にいきなり二本の指が突き入れられ、瞬間、クロルは再び
堪えきれずにのけぞった。
「や……やぁ……なんでこんな、ちが……ちが……」
 ぬるりと、中から指が引き抜かれる。
 とろとろと糸を引く指を興味深げに眺めるヴィクターを、クロルは理不尽に怒鳴りつけた。
「も、いいだろ! 十分、濡れてるよ! そんな、わざわざ見せるような事すんなよ!」
「あ……わり、そういうつもりじゃなかったんだが」
「くそ……なんか、変だ。こんなの、ほんとにさかってるみたい……」
「人間も動物だしなぁ……」
 ぼんやりと呟いて、既に用途を果たしていないクロルの下着の局部をずらす。
 誘導するように腰を引かれ、クロルはびくびくと脈打つヴィクターの物の上にゆっくりと腰
を落とした。
「ぅ……あ、ふ……おっき……ぃ、あぁ、や……! なか……こすれ……」
「いちいち実況すんな! 妙な気分になってくる!」
「だ、だって……だって……やぁッ、お、おく……あたって……だめ、だめ、も……」
「おい、クロル……ちょ、まッ……!」
 びくりと体を震わせて、縋るようにヴィクターの肩にしがみ付く。
 挿れただけで達してしまった自分が信じられなくて、クロルは困惑してかぶりを振った。

「これは……やばい。いれただけで出ちまいそう……お前ちったぁ加減しろ」
「ぼ、ぼくのせいじゃないよ! 変な薬でもきまったみたい、で、頭んなかぐちゃぐちゃ……」
「クロル、顔上げろ」
 言われるままに顔を上げる。
 だらしなく開いて荒い息を吐く唇に、ヴィクターが唇を押し当てた。
 首に腕を絡ませて、夢中になって舌を絡ませあう。
193690:2007/07/13(金) 04:42:17 ID:QDclsPEb
 ふいにヴィクターが腰を突き上げて、クロルは唇を合わせたまま快楽に目を見開いた。
「だ、だめ……だめ、だめ、だめ! おく、きちゃ……そんな、うごかな……!」
 下から抱え上げるようにして激しく上下にゆすられて、クロルは目のくらむような快楽から
逃れようとするようにヴィクターの腕に両手を添えて必死に足を突っ張った。
 抉るように奥にヴィクターの物が当たり、そのたびにきゅうきゅうと中が締まる。
「あ、あぁ、ヴィ……ヴィクタぁ、ヴィクター! だ、だめだぼく、ぼく……ぼくも、がまん
できな……!」
 突然、ヴィクターが動きを止めた。
 達しそうになった体が唐突に放り出され、息苦しいような感覚がクロルを襲う。
「や……やだ、なんで……やめるなんて、ひど……」
「クロル……愛してるって言え」
 愕然として、クロルはヴィクターを凝視した。
 どうして――どうして、そんなに辛そうに――。
「なん、だよ……いきなり。どうして……」
「聞きてぇんだ。嘘でいい……」
「ヴィクター、ねぇ、どうしたんだよ。そんな風に言われたら、言えないよ」
 嘘でいいから、と請われてその言葉を与えたら、本当に嘘になってしまう。
 クロルが困惑して首を振ると、ヴィクターは快楽を思い出させるようにひどく揺るやかに腰
をゆすり上げた。
「ヴィクター……や、やだよ、こんなの……君らしくな……!」
「今だけでいいんだ。頼む」
「ヴィク……」
「頼む……」
 ぐっと歯を食いしばり、クロルは苦痛のような快楽を堪えて小さく首を左右に振った。
「そうかよ、嘘でも言えねぇかよ……!」
 クソッ、と短く吐き捨てて、再びヴィクターが乱暴に突き上げた。
「ち、ちが……ちがう! ヴィク、やめ……ま、待って……はな、し、きぃて……ヴィクター! 
ヴィクター!」
「くそ……みっともねぇな。何言ってんだ、俺……あぁ、畜生!」
「びく……たぁ! う、うそ……じゃな……きぃ、ぇ、ぁい……ひぁ、あ、やぁああ!」

 叩きつけるように腰を突き上げられ、瞬間、クロルはガクガクと全身を痙攣させて悲鳴を上げた。
 一瞬遅れて、溢れ出す程大量の、熱く滾った物が吐き出される。
 ぐったりと脱力し、クロルは泣きながらヴィクターにしがみ付いた。
「う、うそじゃな……ほんとに、愛し、て……だ、だから、あんな風に、言われたら、言えなく……!」
「……クロル?」
「好き……好き、だよ。愛し……うそじゃな……!」
 諦めた愛だ。
 ウィルトスだけを愛そうと勝手に決めて――勝手に捨てた愛だ。
 それがどんなに卑怯な行為か、確かに気付いていたはずなのに――。
「来てくれて、嬉かッ……凄く、ほんとは不安で……僕一人、じゃ、何も出来ないって、わかって……! 
でも、君に死んで欲しく無かっ――」
 鳴き声を奪うように、唇が重なった。
 なだめるように優しく背を撫でる手が、たまらなく愛おしい。

「死ぬかよ……馬鹿が。そんな事言われて死ねるかよ」
「ヴィク――」
「おっさんとはよ、まだ勝負が付いてねぇんだ。あの狸が、死んでたらただじゃおかねぇ。
地獄まで追いかけてって俺が直々に殺してやる」
 戦って、勝つぞ。
 そう耳元で宣言され、クロルはぼろぼろと泣きながら何度も何度も頷いた。
194690:2007/07/13(金) 04:49:26 ID:QDclsPEb
 死んでも構わないとは思う。
 だが、死ぬつもりで来たわけではない。
 ウィルトスは有能だ。
 例え部隊が全滅したとしても、何もせずに死ぬほど素直な性格でもない。

 何か出来るはずだ。
 一人なら恐らく――二人ならば、絶対に。


切らせていただきます。
195名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 09:44:03 ID:GIdoVLuh
ああ、ヴィクターかわいくてカッコイイ!

来週の頭ごろ投下だと思ってたけど、覗きにきて良かったー。
196名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 09:56:56 ID:+/z9PNh0
やっべ、なんか切ないのに嬉しくなっちまった。
オレキモスwwww
197名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 10:38:24 ID:C8DhrLKE
>>196
電車の中で携帯覗いて
やばいくらいニヤニヤしてる自分ほどじゃないw

このコンビのエロは元々好きだが今回のが一番萌えた!
ヴィクターがかっこよくなったぶんクロルがやたら可愛いし!
パン屋さんとか少し肌寒いとか
小さなとこが重なってるのも嬉しくてたまらない。
続き死ぬほど楽しみに待ってる。
198名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 14:15:09 ID:3zSIECkS
ていうかヴィクターどんだけドジッ子なんだよ。そんなにアッーな人にモテたいのか。
回が進む度にかっこよくなってくけど同時に萌え属性も増えるヴィクター
199名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 15:35:12 ID:6qGwEXXM
GJ!
 
てかもうヴィクタんは俺の嫁
200名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 16:23:31 ID:jfg+hSZp
GJです、いつも素敵な萌えをありがとうございます!
本業も小説家なのかとすら思ってしまう

>>199
ヴィクターなら俺の横で寝てるぜ?
201名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 16:50:43 ID:7PO14tli
>習慣ってこえー
ヴィクター、お前…(笑)
GJですよ本当に!
次回が最終回なんですっけ?楽しみだけどちょい惜しいなぁ…
202名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 01:59:38 ID:xuEVToM+
>>200
気付けそれは単なる抱き枕や
サボってないで早く梱包作業しろ
 
 
 
 
 
このネタがわかるやつは確実にラノベが好きだ
203名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 03:47:25 ID:pCMVLG7Q
GJ!



微妙に展開が早くなったな
ひとつひとつの描写があっさりしてるっつーか

だがスピード感があってイイ(・∀・)
204名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 03:59:56 ID:8HK9C7ZF
GJっ!!
最高…っ ヴィクター萌えまくり
一行二回ずつ味わうように読んだよ
書いてくれてありがとう!
次が読みたいけど終わって欲しくないジレンマ
205名無しさん@ピンキー:2007/07/15(日) 11:32:40 ID:O2KgfzID
>>200
なら俺はその間にクロルを頂きますよ。
206名無しさん@ピンキー:2007/07/15(日) 23:52:42 ID:cQv8WuKb
ウィルトスにも幸せになってもらいたかった……
207名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 01:05:45 ID:bBTUa2qK
>206
同じく…。
208名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 01:46:04 ID:E+TyyPEJ
>>206
たかった…って、オイ!
どう考えても死んでる訳ねえだろ
あの手のキャラは飄々と生き残るもんです
んで、クロルの為に身を引くもんだが、そこは解らん
クロルがイマイチ読みにくいキャラだから、果たしてどっちに傾くか?
 
今、気付いたが、俺の中でクロル⇒キャスカ、ヴィクター⇒ガッツ、ウィルトス⇒グリフィスでキャストしてた
触のシーンのクロルか…
ハアハア
209名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 01:51:09 ID:RNsXBJOc





 


210名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 12:48:20 ID:WgbwgdRJ
211名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 13:09:00 ID:IGrOL1FN
>>209
そのたて読みは無いw
212690:2007/07/17(火) 00:45:31 ID:23dFtEs+
ファンタジー
エセ軍人物
エロ無し

 第一師団の戦闘服は、遠目で見てもすこぶる目立つ。
 視界の悪い森や洞窟の奥で、身の丈を越す化物と近接して戦う場合、通常対人戦で着用するような目立たない戦闘服を纏っていると、味方同士の誤射が極めて多いためである。
 赤い戦闘服を身にまとい、頭部を完全に覆うヘルメットを被って立てば、百メートル離れて
いてもそれが突貫部隊だと誰でも分かる。
 日が中天に差し掛かり、最も良好な視界を得られるその時間を六十分後に控え、クロルと
ヴィクターは真っ赤な戦闘服に身を包み、地図を広げて救護テントの中にいた。

「通信を聞いた限り、どっちの部隊も最初のランデブー地点まで到着出来てない。第二分隊か
らの通信が途絶えたのがこのあたりで、ここで教官が撤退命令を出してる」
 地面に広げられた地図に書き込まれた、赤いラインと手書きのメモ。クロルはその赤いラインを指先でなぞり、ある一点をとんとんと指で叩いて見せた
 メモ書きから推測するに、赤いラインは各分隊の行軍予定進路だ。それならば、不足の事態
で部隊がこの進路を外れていても、この付近になんらかの痕跡があると考えてまず間違いない。
「で、キャンプに到着できずに消息不明だ。教官は最後の通信で、キャンプに“百二十分後に
戻らなかったら本部に応援を要請”するように指示を出してる。残った奴らは教官の命令を無
視して森に入って全滅したんだ」
 なる程なぁ、と頷いて、ヴィクターは地図から視線を外してがりがりと頭をかいた。
「手柄を焦ったってとこか……まー、陰謀とはいえ最近不手際続きだったからなあ。連隊長に
なんか言われてたんじゃねぇかな」
「だからって命令無視して全滅とか、あり得ないだろ普通! なんでそんな奴らにキャンプ預
けたんだよ……参謀が残るべきだろ、普通」
「あの人に普通を適用してもしょうがねぇだろ。ラインから一キロの地点に拠点置いて捜索を
開始するぞ」
「了解しました。少――」
 言いかけて、クロルが忌々しげに悪態をついた。
「どうかしたか? 曹長」
 からかうように笑うヴィクターを横目で睨み、クロルはその顔面めがけて乱暴にヘルメットを投げつけた。
「時間だ――行こう」
「おう」
 地図を畳んで、立ち上がる。
 ヘルメットをかぶってフェイスマスクを引き下ろし、クロルとヴィクターは拳を合わせて頷きあった。


 ***


「うお。なんだこいつ」
 拠点の確保に成功し、携帯する武器を選別していた時である。
 驚き、面白がるような声をあげ、ヴィクターがその場にしゃがみ込んだ。
「なに?」
「見たことねぇ虫がいる――いや、虫か?」
「うげ。なにそれ」
 一瞬、子供の蛇が絡まり合っているのかと思った。
 だがよく見ればそれには葉や根のような物があり、確かに虫とは言いがたい。しかもその根
が触手のようにうねうね動き、明らかに地面を歩き回っていた。
 言うなればそれはそう――動く植物、である。
 頭の中に浮かんだその表現に、クロルはすぐさまぴんと来た。食料品店の青年と、論文の説
明と確かにぴたりと合致する。
「こ、これがムシカゴ……? どこがメルヘンだ、どこが……」
 どうみてもホラーでしかない。
 挿絵も写真もない論文だったために実際の姿は想像するしかなかったが、まさかこう来ると
は思わなかった。
213690:2007/07/17(火) 00:46:19 ID:23dFtEs+
 これを飼育している者もいると言うのだから、なかなかの強者である。
 だが、確かに少しかわいいかもしれないと思いなおし、クロルはフェイスガードを上げて不
気味な小型モンスターをひょいと摘み上げた。
「うを、もがいてる。気持ちわりぃ」
 ヴィクターがわざとらしく身震いしながら、クロルの手の上でうずくまったムシカゴを覗き込んだ。
 ずんぐりとした丸っこい体から何本もツルが伸び、それが絡まりあってカゴのような物を形成していた。
 そのカゴの中に、何かが入ってるのが見える。

「……果物だ」
「実るのか……?」
 花も咲くというのだから、実がなってもなんら不思議な事では無いが、なんとなく信じたく
ないような、理不尽な嫌さがこみ上げてくる。
 この実があたかも卵のように孵化し、中から小さなムシカゴがうまれてくるのだろうか。
「このツルって解けるのかな」
 興味本位に、カゴを編んでいる弦をつついてみる。
「やめろよ。嫌がってるじゃねぇか」
「脳みそ無いのにどうやって嫌がるんだよ」
「実際暴れてるじゃねぇか」
「こういうのは機械的反射って言うんだよ」
 残酷だ、だとか差別だ、だとか、自分だって恐ろしくえげつない殺し方をするくせにこんな
時ばかり善人ぶる。
 ヴィクターがうるさいので仕方なくムシカゴを解放し、クロルは慌ててその場を逃げ出した
ムシカゴを見送ってのしのしと歩き出した。
 怒るなよ、と肩を竦めて、後からヴィクターが付いてくる。

 大型の草食動物が多く生息していると――十年前の本には書いてあった。
 だが、どう考えても今この森に、大型の獣は生息していない。
 自然に絶滅した――と考えるよりは、天敵が現れたと考える方が妥当だろう。それが、人工
的に生み出された新種のモンスターだとするならば、それがこの付近に生息している可能性は
極めて高い。
「足元、不安定だな」
 1キロ程歩いた所で、不意にヴィクターが呟いた。
 確かに、少しふかふかしているだろうか。足を取られて転倒しないよう注意をする必要がある。
 足元を中心にざっと周囲を見回して、クロルはさっと片手を上げた。
「止まって。植物を払った跡がある。ここが行軍経路だ」
 大勢の人間に踏みしめられた草。
 不自然に刈り取られた木の枝。
 少なくとも、ここまでは順調に行軍していたに違いない。
「撤退の決断をしたのがもう少し進んだ所だ。いったんそこまで行ってから、道をたどってキ
ャンプまで歩いてみよう」
「この道たどって全滅したんだぞ。危ねぇだろ」
「襲ってくるなら何処にいても襲ってくるよ。道は関係ない」
 それなら、歩きやすい道を通った方が視界も利いて安全だろうと主張すると、ヴィクターは
それもそうかと頷いた。
214690:2007/07/17(火) 00:47:23 ID:23dFtEs+
「なぁ、大型のモンスターだったとしてよ」
「うん?」
「どうやって隔離してたんだろうな。森の一定の範囲によ」
 油断無く周囲に注意をはらいつつ、足を止めることなくクロルの前方を進みながら、ヴィクターが疑問を投げた。
「方法は色々あるよ。臭いとか、音とか、そういう物理的な干渉で行動範囲を制限したり、習
性を利用したり――調教する事だって出来たかもしれない」
「施設も設備も無いただの森で調教か?」
「ここはただの牧場って見方も出来る――っていうか、だいたい新種を生み出すにはそれ相応
の設備が要るんだ。要塞らしき物でも見つからない限り、そう考えるのが妥当だと思うよ」
 牧場ねぇ、とぼんやりと呟く。
「イレギュラーだけど、自宅で新種のモンスター作ってる奴らもいるらしいけどね。でも、生
物兵器として使えるレベルのモンスターを作るにはやっぱり広大な実験スペースが必要だって事」
「――首だ」
「なに?」
 立ち止まり、ヴィクターが緊張して呟いた。
 後ろを歩いていたクロルは顔を上げ、ヴィクターの視線の先を覗き込む。
 瞬間、クロルは感情をなくして地面に転がっている“それ”を見た。

「――状態を確認する。ヴィクター。周り見てて」
 了解、と答え、ヴィクターが武器を構える。
 それは――その首は、潅木の陰に隠れるように落ちていた。
 正午の明るさとヴィクターの一言が無ければ、クロルも気付かず見過ごしていたかもしれない。
 不思議と腐敗臭はなかった。真っ直ぐに首に歩み寄り、丁寧にそれを抱え上げる。
「刃物状の物体で切り落とされた物じゃない――組織が潰れて――あぁ、縄かなんかでロール
ケーキ切った感じ」
「くぐせだろうな」
「たぶんそう。――先に進もう」
 一瞬だけ躊躇して、クロルは抱えていた頭部を元の場所に戻して立ち上がった。
 今は、死体は単なる情報源に過ぎない。一つの情報源に長時間かかずらって時間を消費わけ
にはいかないのだ。
 それからほんの十メートル程進んだ地点で、クロル達は再び立ち止まった。
 死体があったわけではない。
 ただ、無数の銃器が落ちていた。
「戦闘の形跡在り。しかし死体は確認できず――なる程な。こりゃ逃げ帰りたくなるわ」

 ぐるりと周囲を見渡して、ヴィクターが低く呟いた。
 戦闘の形跡があり、死体が無い。
 対分類不能種戦においてこの状況は、戦闘を行った結果敗北し、死体を――あるいは、生き
たまま食われた事を意味している。
 クロルは無言でその場を睨み、静かに唇を噛み締めた。
「――平気か。クロル」
 ヴィクターが気遣うように問いかける。
 その気遣いにわざと気付かなかった振りをして、クロルは無言のままゆっくりと周囲を見回した。
「五分調査して、別ルートを通って拠点に戻ろう」
 悲しみに浸りに来たわけではない。
 例え生存者がいなくても、出来る事をするだけだ。
 クロルは散弾銃をヴィクターに預け、落ちている武器やなぎ倒された倒木の状態を調べるた
めにその場をしばし歩き回った。
215690:2007/07/17(火) 00:48:17 ID:23dFtEs+
 倒木に血痕が残っている。
 倒れた木の下敷きになった者がいるはずだが、木の下に死体は無い。
 少し、引きずられた痕跡が残っているだろうか――誰かが助け出したか、あるいは動物かモ
ンスターに骨ごと綺麗に食われたか――。
 ふと、鈍く光る物が目に入った。
 しゃがみ込んで見てみると、それが丸球の連なった銀色のボールチェーンだと分かる。腐葉
土に埋まりこんでいるようで、クロルは鎖を引いて土の中からチェーンを救い出した。
「認識票――」
 首を落とされた者がいるのだ。落ちていてもなんら不思議な事は無い。
 なんと無しに名前を確認し、クロルは一瞬凍りついた。
「なにか見つけたのか?」
 散弾銃を肩に担いで、ヴィクターが問いかける。
 認識票をポケットにしまい込み、クロルは振り返らずに頷いた。
「――教官の認識票」
 分かっていた事だ。
 今更衝撃を受けることじゃない。
 クロルの返事に一瞬の間を置いて、ヴィクターがそうか、とだけ呟いた。
「……なんだこれ。果物と――死骸?」
 認識票の埋まっていた場所に、小さな空洞が出来ていた。
 掘り返して見るとぐずぐずに崩れた果物や、白骨化した小動物の死骸が埋まっており、丁度
落とし穴に落ちたような印象を受けた。
 深さはクロルの手首程と言った所だろう。ふと気にかかる事があり、クロルは少し距離を置
いて他の場所を掘り返してみた。
 ある。
 先ほど見つけたのと同じような空洞が――等間隔に無数にある。
 四つ目に見つけた空洞の中で、何かがもぞもぞと蠢いた。
「うわッ!」
 虫でも湧いているのだろう――その程度にしか思っていなかったクロルは、思わず小さく悲
鳴を上げた。
 鳥だった。そして――まだ生きている。

 ギ、ギ、と声を上げながら蠢く赤い鳥をしばし見つめ、クロルはその体に手を伸ばした。
 もう、どうせ生きられない。その首に指を絡め、クロルは静かに鳥の息の根を止めた。
「行こう」
 立ち上がり、手袋のドロを払うクロルに、ヴィクターがもういいのかと意外そうに聞いた。
「いいんだ。収穫はあった。それとたぶん、神経系の毒を持った奴が生息してるから、足元に
気をつけた方がいい」
「足元?」
「うん。空は飛ばないと思うんだ。土が掘れて、鳥を運搬できるサイズは確実にある」
「毒の程度は分かるか?」
「大して強力じゃ無いと思うよ。小さな鳥が麻痺するくらい」
 それでも、足の指が一本麻痺するだけで戦闘では命取りだ。
 足元ね、と口の中で繰り返すヴィクターからショットガンを受け取って、クロルは無言で進
行方向を示すと歩き出した。
 恐らくは、モンスターが歩いた道――最も荒れている方角である。

「ターゲットには少なくとも、くぐせが一匹寄生してる。残された足跡から推測すると、体長
は……あー、幅が二メートル前後かな。足は円錐形――虫型かな。アンプルガンあったっけ?」
216690:2007/07/17(火) 00:49:25 ID:23dFtEs+
 薬液を封入した弾丸を撃ち込み、内側から対象を殺すための銃である。
 虫などの“にぶい”タイプのモンスターは、足を落としても羽をもいでも、果ては頭を潰し
ても暴れまわる。
 そういった手合いには、薬品を叩き込んで中から殺すのが有効だ。
「あるにはあるが、拠点だな」
「アンプルの中身は?」
「濃硫酸」
 うわぁ、クロルが情けない声を上げる。
「よく持ち出せたね、そんな物」
「間違っても誤射するなよ。一生恨むぞ」
「誤射したらわりとすぐに一生終るからあんまり脅しになってないよ」
「濃硫酸ごときで俺が死ぬと思ってんのか?」
「死なないとさすがにやばいよ。人として」
 やばいか、と呟くヴィクターに対してやばいよ、と繰り返し、クロルは合図と共にモンスター
の移動した跡をたどるのをやめ、拠点へと進路を変えた。

「襲ってこねぇな」
 無言で五分ほど歩いたあたりで、ヴィクターがぼつりと呟いた。
 そうだね、と呟き返し、キラキラと木漏れ日の輝く空を見上げる。
「好都合だよ。遭遇戦よりおびき寄せた方がやりやすい。どっかで餌調達しないとね」
「五十人がもれなく襲われてんのに、妙じゃねえか。たった二人じゃ餌として魅力ねぇってか」
「五十人も平らげて、おなか一杯なんじゃない?」
 平然と言ってのけた自分に対し、クロルは寒気に似た感情を覚えた。
 ヴィクターが口をつぐむ。
 溜息に近い笑いを零し、クロルは小さく首を振った。
「ごめん。ふざけ過ぎた。――多人数だと襲われて、少人数なら大丈夫だったって言う事例も
世の中にはまぁ、あるから。今回もそのたぐいなんじゃないかな」
「クロル」
「だからさ、温度感知とか、声とか、物音とか。群れれば群れるほど――って要素って結構あ
るでしょ? って、君にこんな基本的な話しても仕方な――」
「クロル。止まれ」
 緊張した声色で命じられ、クロルはぎくりとして立ち止まった。
 ヴィクターが武器を構え、木を背にして周囲に視線を走らせる。
 クロルには何も感じられなかった。ヴィクターが何に注意を注いでいるのかも分からない。
 
「……何?」
 聞いた瞬間、びょう、と何かが空を切る音がした。クロルの爪先のギリギリ先で、腐葉土が
弾け飛ぶ。
 一拍遅れて後方に飛びずさり、それを追撃するように腐葉土を舞い上げた攻撃に、クロルは
悪態をついて思い切り地面を転がった。
 銃声が鼓膜を叩く。クロルが立ち上がるより前に、ヴィクターがクロルを担ぎ上げて走り出した。
「見たか! 冗談じゃねぇ! なんだありゃ!」
「見てなかった! 君の視力と一緒にするなよ!」
 怒鳴り合う背後で、ひっきりなしに鞭の唸るような音がする。背の高い木立の陰に滑りこみ、
ヴィクターはショットガンに弾丸を込めて木立から身を乗り出した。
 銃声が轟き、鳥がギャアギャアと喚き立てる。
「五匹だ」
「何が――!」
「くぐせが五匹寄生してるんだよ! それも、今落としたの抜かしてだ!」
 この森にくぐせが生息しているのは分かっていた。
 だが、くぐせの寄生できるような大型の獣は今、この森に生息していない。少なくとも、今
クロル達がいるエリアには一頭もいないだろう。
 そしてただ一種残った大型モンスターにたかり付き、こうなった。クロルが愕然として沈黙
すると、ヴィクターは木立の向こうを伺って極小さく呟いた。
217690:2007/07/17(火) 00:50:27 ID:23dFtEs+
「――見えてない」
「え?」
「俺たちを探してるが――見えてねぇ。目が無いんだ」
 盲目――ならば、視覚以外の感覚器官で獲物を探しているはずだ。
「喋ってるのに襲って来ないって事は音でもないか……温度感知? 知覚範囲が曖昧だな」
 だが、少なくともくぐせは声に反応する。
 触手の攻撃範囲外で木立に隠れている限りは安全だが、“通常の人間”の知覚の外から突如五
本の触手に襲われれば、集団で行動していた討伐部隊はひとたまりもなかっただろう。

「それじゃあ、シューティングゲームといこうか」
 銃弾を装填し、クロルは自分に言い聞かせるように呟いた。
 本体は後回しだ。
 とにかく、くぐせを全て落とさなければ攻略にも入れない。
「お前はここ、俺は向こうだ。死んだら殺すぞ」
「そっちこそ」
 拳を合わせて、ヴィクターが走り出す。
 ザガ、と、土に何かが突き刺さる音がした。
 ぞくりと、背筋を悪寒が走る。
 集団で襲われやすく、少数で襲われにくい理由――。

 ザ、ザガ、ザガザガザガ。

「ヴィクター止まれ! 振動だ!」
 叫びながら木立から身を乗り出し、クロルは猛スピードでヴィクターに突進するモンスター
の姿を凝視した。
 ざらりとした緑色の触手が振り上げられる――くぐせの物ではない。
 半ば反射的に、ヴィクターが発砲した。振り上げられた触手がちぎれ飛ぶ。だが、突進は止
まらなかった。別の触手が空を切り、ヴィクターの腹部を直撃する。
 瞬間、クロルは地面に向けて発砲すると同時に思い切り飛びのいた。
 前も後ろも存在していないのか、方向も変えずにモンスターがそのまま突っ込んでくる。
 矢継ぎ早に、離れた地面に向けて発砲すると、それは急停止も方向転換もせずに真っ直ぐ着
弾ポイントに突進し、大きく触手を伸ばして飛びついた。
 その間に倒れ付したヴィクターに駆け寄り、フェイスガードを引き上げる。
 口の中を切ったようだが、血を吐いてはいなかった。
 だが戦闘服の腹部がざっくりと破け、衝撃で皮膚がそげ落ちている。
「ヴィクター! 意識は!」
「ある――くっそ! ぜってぇ痣になるぞ、今の!」
「痣ですむかよ! 内臓は!」
「薄皮一枚だ! 舐めんな阿呆!」
「なんッ――いや、君の異常性については後で論じよう。動けるかい?」
 くぐせが触手を振り回し、それによる衝撃を追ってモンスターがぐるぐると走り回っていた。
 ヴィクターを促し、這うようにして近くの木立に身を潜める。
 吹き出した脂汗を拭いもせずに、クロルは再びショットガンに弾を込めた。

「あの野郎、痛覚ねぇのかよッ」
 触手一本飛ばされてんだぞ、とヴィクターが舌打ちする。
218690:2007/07/17(火) 00:51:56 ID:23dFtEs+
 狂っているようには見えなかった。
 くぐせに寄生されながら、固体の行動パターンがはっきりと残っている。
 盲目で、痛覚が無く、地面の振動を感知する――。
「植物系だ」
 はっきりとして確信を持って、クロルは低く呟いた。
「なに?」
「植物系モンスターだよ。至近距離で見たけど、足は根っこで触手はツルった。動く植物はム
シカゴしか知らないからそう思うだけかもしれないけど、たぶん、元はムシカゴを使ったんだ
ろ。だからあれに生物的な器官は一つもない。神経も無いから痛覚も無い」
 究極に鈍いタイプだね、と引きつった笑みで結論付けると、ヴィクターはそいつぁ罪悪感が
湧かなくて気が楽だとこの期に及んで偽善者ぶった。
「生物的な器官は無くても人は食うのか」
「触手で掴んで取り込んで、中で腐らせて養分にでもするんじゃない?」
「そんな植物認めねぇ!」
 木立から慎重に身を乗り出し、ヴィクターが発砲する。肉片が弾け飛び、くぐせがぼたりと
地面に落ちた。
 続いて発砲した二発目を見事に外し、ヴィクターは驚いたように自分の腕を見下ろした。
「僕がやるよ。下がってろヘタクソ」
「――頼む」

 一瞬、妙な間が空いた気がした。
 ヴィクターが弾を装填し、ショットガンごとクロルに渡す。
 それを受け取って木立から実を乗り出し、二発、クロルはほぼ同時に引き金を引いた。ヴィクター
から受け取った銃を構え、更に二発。
「お見事」
 ヴィクターが呆れたように肩を竦めて見せた。
「射撃は僕の方が上手いって言ったろ」
「それで、どう殺すよ。ありゃショットガンやマシンガンレベルじゃ死なねぇだろ」
「濃硫酸」
 即答すると、ヴィクターが忌々しげに悪態をついた。
「取りに行くのか」
「全力で走って十五分て所かな。問題は、足音を感知するとあいつがまっしぐらに突っ込んでくる事」
「さっきお前、ショットガンであいつの気、引いただろ。あれで振りきれねぇか」
「二発じゃ無理だよ。一瞬そっちに飛びついても、足音感知して追いかけてくる」
 デコイだな、とヴィクターが溜息を吐いた。
「四発撃つ間全力で走れ。俺が残って気を引く」
「君の方が早い!」
「悪いが足を捻った」
「なんだって!?」
 驚愕して足に触れようとすると、ヴィクターが慌てたようにそれを制した。
 クロルからショットガンを奪い取り、行け、と短く合図する。

219690:2007/07/17(火) 00:52:40 ID:23dFtEs+
「動けないのかい?」
「動けるが、速くは走れねぇ。死にゃしねぇよ、早くいけ」
「……十秒でいい。あいつが個人の足音を知覚出来るのは、せいぜい百メートル程度だ」
「根拠はなんだよ、参謀」
「希望的観測。――頼んだよ」
 あぁ、と頷き、ヴィクターがショットガンを構えた。
 クロルが低く姿勢を構え、指を立ててカウントを取る。
 クロルが一直線に走り出すと同時に、銃声が森に轟いた。

「――十五分か。ちとなげぇな」

 疾走するクロルの背を眺めながら、ヴィクターはひどく重たげにショットガンを構えた。
 二度目の着弾にモンスターが突進する。
 二丁目のショットガンに手を伸ばし、ヴィクターは自身の体を叱責するように軋むほど歯を
食いしばった。


切らせていただきます。

もう一回だけ続きます。
最後までエロ無しだと思いますが、エピローグと思ってご容赦ください
220名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 01:09:26 ID:S9dQomgk
GJ!
うぅ、もうウィルトス生存の希望はないのか?次回wktk
221名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 01:18:02 ID:k3gZwWNf
あー。展開がドキドキするよ。
次回が完結編なのか。     エロもちょと入れてくれ。

      
222名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 01:49:15 ID:ZqdG+1MH
>>221
今の展開だと触手プレイしか思い付かんなww
223名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 05:22:23 ID:gh66/TMj
こ、これはッ……


濃硫酸誤射フラグ?
224名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 09:30:26 ID:dxyL2FDF
>>223
ヴィクたんなら顔射されても生きてそうだwww
225名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 21:04:28 ID:STrTrZ70
ヴィクター無茶苦茶なタフガイだなwwww
226名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 01:14:09 ID:Drw6Om/+
ヴィクターはクロルの下着を脱がさずに、ずらしてするのが好きなのか…

      そんなことより、怪我の具合が心配だ。

227690:2007/07/18(水) 04:06:22 ID:pTD/gdW2
ファンタジー
エセ軍人物
エロ無し
最終話
>>221
すまん無理だった。

 走るのは昔から好きだった。
 木登りも、腕相撲も、周りの男子に勝てた試しは一度も無い。
 だが、走る事には自信があった。森の入り組んだ木々の隙間を、クロルは滑るように走り抜ける。
 息を切らせて走りながら、クロルはヘルメットを脱ぎ捨てた。
 ふかふかとした腐葉土が足に絡んだ。振り払った鋭い枝が、戦闘服や皮膚を裂く。
 地面を這う木の根を飛び、ツルをよけて地を蹴った瞬間、ガクリと体が傾いた。
 なに、と思う間もなく、盛大に転倒する。
「ってぇ……!」
 一瞬、足が沈み込んだような気がした。
 何があったのかと足元を睨むと、戦闘の跡地で見つけたような穴がぽっかりと開いている。
 さして気に留めることもなく、弾みで放り出されたウィルトスの認識票を回収しようと手を
伸ばし、ふと、クロルは視界を横切ったムシカゴを凝視した。
「なんで……」
 カゴのように編み上げたツルの中に――ネズミの死骸。
 では、あれは。あの時見た果実は――。
 クロルが踏み抜き、ぽっかりと口をあけた穴にのしのしと歩み寄り、ムシカゴはツルを解い
てその中にネズミを放り込んだ。
 ジジ、と声を上げ、ネズミが痙攣する。死んでいない。生きている。
 その穴を覆い隠すように、ムシカゴがツルで穴を覆い――根元から切断した。その上から土
をかけ、また悠々と去っていく。

「貯蔵するのか……毒で弱らせて、こうやって隠して……!」
 毒で――?
 どこに――この体の何処に、毒がある。
 手袋を外してムシカゴを引っつかみ、クロルは痛みを覚えてすぐにその体を放り出した。
 ツルに繊毛のような棘がある。指先が毒でビリビリと痛んだ。
「なんだよ……くそ! 動けないんじゃないかあの馬鹿!」
 ヴィクターはくぐせではなく、本体の触手に攻撃されたのだ。
 戦闘服は破け、皮膚が裂けて血が滲んでいた。毒が回っていないはずが無い。
 足に触れようとして拒絶された時に気付くべきだったのだ。ヴィクターは、捻挫などしていない。
「くそ……くそ!」
 このまま戻っても意味は無い。
 座り込んでいる暇はなかった。拠点に向かい、武器を取って戻るのだ。
 唇を噛んで立ち上がり、クロルは再び走り出した。


 ***


 きっとしばらく、ツル性植物は見るのも嫌になるだろうな。
 そんな事を思いながら、かすみ始めた視界に憎憎しげに舌打ちし、ヴィクターは鉛のように
思い腕でショットガンを抱き寄せた。
 クロルはこの場を脱した。動きさえしなければ、あの触手の塊のようなモンスターはこちら
の存在に気付かない。
 なんだ、勝てるじゃねぇか、と口角を持ち上げて、ヴィクターは声を殺して笑い出した。
 体が重く、視界もはっきりしないと言うのに、意識だけははっきりと残っていた。聴覚も生
きている。
 だが、痛覚を含む触覚は完全に麻痺していた。腹部に痛みを感じない。
「……ねみぃ」
 だが、眠るわけにはいかなかった。
228690:2007/07/18(水) 04:07:06 ID:pTD/gdW2
 アンプルガンは、貫通性は高くない。
 巨大なモンスターの体内奥深くに薬品を打ち込むためには、少なくとも数メートルの射程で
発射する必要があった。
 そうでなければ、虫や爬虫類形のモンスターは体の一部が腐るだけで絶命しない。
 今回の相手は、それよりも更に鈍い植物だ。恐らく、同じ事だろう。
 援護射撃ができる程、果たして体が動くだろうか。ヴィクターは軽く手を握り、引き金が引
ける事を確認して安堵した。

 体を動かすたびに、筋肉が軋むようだった。
 苦労して身を捩り、クロルの走り去った方向を伺い見る。
 ふと、ぼやけた視界の中で何かが動いた気がした。
 目を凝らすと、確かに何かが地面を這っている。
 ひゅん、と風を切る音がした。
 全身に緊張が走る。
 ヴィクターは息を呑んだ。確か――確かに、五匹全て殺したはずだ。気絶している固体があった
のか、それとも単なる新手の出現か。
 ヴィクターの見ている前で、地面を這っていた物がムシカゴの化物に取り付いた。
 弧を描くようにして、触手が勢いよく振り回される。

 殺さなければ。
 ショットガンの引き金に指を掛けた瞬間、ヴィクターは反射的に乗り出していた体を引いて
木の陰に身を隠した。
 音だけが、やけにはっきりと脳髄を揺さぶった。
 弾けるような音がして、腐葉土が巻き上げられる。軋む体で地を蹴って地面を転がり、ヴィクターは
ようやく肩の肉を抉られた事に気が付いた。
「痛みが無くてラッキーっつってる場合じゃねぇよな……!」
 くぐせの起こした振動を感知して、モンスターがかすむ視界の向こうから突進してくるのが見えた。
 間近に迫ったムシカゴの表面にへばりついたくぐせにショットガンの照準を合わせ、ほぼ
ゼロ距離で発砲する。
 飛び散ったくぐせの肉片と、ムシカゴに穿たれた穴から溢れ出る緑色に濁った液体を頭から
浴びながら、今度こそヴィクターは動けなかった。
 毒で――と言うよりは、物理的にである。

 ――取り込んで、中で腐らせて養分に――。
 
 四肢を引きちぎらんばかりの勢いで空中に舞い上げられ、ヴィクターは猛烈な眠気の中、生
きたまま食われるのはきつそうだな、とぼんやりと考えた。
 寝るか。
 戦場で戦友のために死ぬのなら――まぁ、一人で死ぬのも悪くない。
「ヴィクター!」
 ――って、死んでる場合じゃねえだろ。アイツの援護するんじゃねぇか。
 一瞬にして覚醒し、ヴィクターはぼやけた視界でも目立つ、真っ赤な戦闘服を凝視した。
 足音を感知して、モンスターがクロルに向かってツルを振り上げる。
 それでも、クロルは止まらなかった。真っ直ぐにこちらに突っ込んでくる。
 ――おいおい、ここはクソ度胸見せる場面じゃねぇだろう。
「テメェ――」
 体が軋んだ。全身を支配する虚脱感は先ほどよりずっと鈍い。
229690:2007/07/18(水) 04:07:50 ID:pTD/gdW2
 だが、だからなんだ。感覚が無いだけで、動けないと思ったら大間違いだ。
 植物の分際で――。
「俺の女に傷つけやがったら許さねぇぞ糞野郎がぁ!」
 猛獣のような叫びを上げて、ヴィクターは力任せに四肢を拘束する触手を引きちぎった。
 振り回された触手を避け、クロルがモンスターの体に取り付いた。それを振り払おうとする
ように振り上げられた触手を、最後に残ったショットガンで根元から撃ち落とす。
 ごつごつとした体を飛ぶように駆け上がり、クロルは緑色の液体を噴き上げる触手の断面に
銃口を突きつけた。
「一発――!」
 ドンっと腹に響く音がして、クロルがアンプルを打ち込んだ。
 ばたばたと暴れる触手を避けながら、器用に次弾を装填する。
「二発――!」
 ヴィクターが引きちぎった触手に飛び移り、完全なゼロ距離で引き金を引く。
「ヴィクター! 手! 掴んで!」
 言われるまま手を伸ばし、その細腕からは信じられない力で思い切り体を引かれた。
 落下するようにモンスターから飛び降りて、止めとばかりにクロルが足の付け根にアンプル
を打ち込む。
 すぐさま、モンスターの体が崩れるように傾いた。
「走るよ――こっち!」
 半ば足を引きずるようにして、ヴィクターはクロルに肩を預けて大木の陰に駆け込んだ。

 瞬間――ボンッ、と、肉厚の風船が弾けるような音がした。
 クロルがぎくりと身を竦め、恐る恐る木の向こう側を伺い見る。

「……なんだ、今の音」
「うん……爆発したの。汁気の多い植物だからね」
 平然と、クロルが答えた。
 あぁ――濃硫酸は、有機物と反応して発熱するんだったか。そんなものを体内に打ち込まれ
れば、水気の多い植物は体液を沸騰させて爆発してもおかしくない。
「えぐいな……」
「凄い事になってる。グロさ爆発――いやギャグじゃなくてね」
 くくく、とクロルが肩を揺らした。
 ヴィクターも力なく笑いを零す。
「生き残っちゃった」
「だな」
「勝っちゃったね」
「だなぁ……」
 ごろりと、クロルがヴィクターの膝に頭を預けて寝転がった。
 は、はは。と途切れ途切れに笑いを零す。
 ヴィクターもつられて笑い、二人は大声を上げて笑い出した。
「馬鹿だ! 絶対馬鹿だ! 何やってんだ僕たち!」
「お前がやりだしたんだろうがよ! どうすんだこれ! 意味がわからねぇ!」
 冗談ではない。
 まさか、『小隊を全滅させたモンスターをたった二人でやっつけました』と基地に連絡を入れるのか。
 あり得ない。デタラメだ。師団長が心臓麻痺で死んだっておかしくない。

 ひぃひぃと笑い転げるクロルの顔の右半分が、やけに赤く染まって見えた。
 額でも切ったのか。そういえば忘れていたが、自分も肩を抉られているのだ。
「満身創痍だな、お互いによ」
「僕はいい。君なんか、毒で仮死状態のはずなんだぞ」
「――気付いてたのか?」
「さっき、武器取りに行く途中にね。ムシカゴの棘に刺されて指先がびりびりした」
230690:2007/07/18(水) 04:09:12 ID:pTD/gdW2
 そうか、と呟き、ずるずると滑るようにして地面に寝転がる。
 視界は未だにぼやけていた。
 だが、空が青いことだけは確かに確認できる。
 随分と長い事、この森にいる錯覚を覚えていた。――まだ、夕方には程遠い時刻である。

「いけね! 浸ってる場合じゃなかった!」
 唐突に叫んで、寝転がっていたクロルが飛び起きた。
「近くの軍なり市警団かなんかに連絡して、人を集めてもらおう。まだ何人かは間に合うかも
しれない」
「間に合う――?」
「そ。僕の予想が正しければ、みんなまとめてどこかに貯蔵されてるはずだから」
 意味深に笑って見せて、クロルは勢いよく立ち上がった。
「キャンプの通信機が使えるはずだから、通信入れてみるよ。市警団なら夕方には来られるは
ずだから、君はここで休んで――」
「いや、いい。俺も歩こう」
 言って、ヴィクターはのろのろと立ち上がった。
 どうやら、この重たい感覚にも慣れたようだ。動けない事は無い。
「……うそでしょ?」
「なにがだ?」
「いや……なにがって君……」
「やばいか。人として」
「やばいね。人として」
 再び堪えきれずに笑い出し、二人はお互いに肩を預けあうように、ガウデレの森を後にした。


 ***


「パン屋だってさ……いいなぁ、おいしそう」
 一枚のはがきを、訓練生が回し読む。
 アウラは深くため息を吐き、隣で渋い顔をしているバルスラーを見た。
「なにが“良くて死刑”だ、あの野郎」
 はき捨てるように言う。

 この作戦に勝機はない。作戦ですらない。正気の沙汰でもない。悪くて犬死、良くて死刑だ。
俺はまだ軍人だが、じきに軍人じゃなくなる。俺は国を守ることを放棄して、親友を選ぶ。女
を選ぶ。だがお前たちは国を選べ。お前たちはクロルがこの基地に残した功績だ。あいつの有
能さの証だ。
 俺を手伝った事を咎められるだろうが、お前たちは上官命令に従っただけだと言えばいい。
お前たちは俺がどこへ何しに行くかも知らなかったと言い通せ。

 一緒に連れて行けと言って聴かない二人に対し、ヴィクターが言った言葉である。
 なんとも感動的では無いか。
 もしこれで常識的に二人が死ねば、実に綺麗な感動話で終ったのだ。
「しょうがないじゃない。ウィルトス少佐の一隊を全滅させたモンスターをたった二人で倒し
た超絶優秀な人材だもの。ゼロだった生存者はわらわら出てくるし。そりゃあ多少の勝手は恩
赦の恩赦よ。恩赦の雨あられよ。上の決定が間違いだった事を口外されないためだったら、な
んだって許すわよ」
 ガウデレの森におけるモンスター討伐任務の完了――その報告を受けて、第一師団はひっく
り返ったような大騒ぎになった。
231690:2007/07/18(水) 04:10:37 ID:pTD/gdW2
 すぐさまガウデレに部隊を派遣し、クロル曹長の指示の元捜索活動が開始された。
 ムシカゴの化物はサンプルとして回収され、そして全滅したはずの五十人の討伐部隊は、三
十人あまりが生還を果たした。
 全員モンスターの毒によって仮死――というよりは冬眠に近い状態になっており、それによ
る死亡率はすこぶる低かったのである。
 もっとも生存の望まれたウィルトスは、結局死体も見つからず、死亡したと断定された。
 そしてクロルとヴィクターは、昇格も勲章も全てを放棄し、この街から姿を消した。 
一度軍人であることを捨てた者が、軍に残ることはできないと、二人は口を揃えたという。
なにより、クロルは片目のほぼ視力を失っていた。
二人がただ一つ要求した物があるとすれば、それはウィルトスの私物だった。
 本来なら親族に戻されるべき物だが、軍はこれを承諾し、軍の施設内に残されていたウィルトスの
私物は全てクロルの所有物となった。
「だけどよ……あぁ、畜生! ずりぃなぁ、あの野郎!」

 表向き、軍が現地に派遣した救助隊は、一個大隊とされている。無論、ヴィクターが大隊長
を務める隊である。
 世間には一人として、救助作戦に臨んだのが、軍人であることを放棄したたった二人の少数
精鋭であった事を知る者はいない。
 二人が退官する事を、軍の上層部も強くは止めなかったという。
 そして半年が経過した。
 明日で訓練期間を終え、各部隊に配属される晴れがましい日の夜である。
 小麦産地で有名な片田舎に小さなパン屋を開いたと二人からの葉書が届き、訓練生たちは思
い切り噴出した。
 エプロン姿でパンを掲げるヴィクターの姿にである。
「この葉書、コピーして全員に配ろうか」
 葉書を掲げてアウラが問うと、全員が声をそろえて賛成した。
 理由の多くとしては、ヴィクターの隣で呆れたような笑顔を見せる、エプロン姿のクロルだろう。

 数年後、どこかの片田舎の町角に、軍が直接依頼を持ち込む程の凄腕の傭兵が経営するパン
屋があるとか、そのパン屋の店員にはすらりとした長身の赤茶けた髪の男がいて、その優しげ
な物腰が女性客を魅了してやまないとか噂が立ったが、それはまた、別の話。


以上です。
長らくお付き合いいただきましてありがとうございました。
232名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 04:46:20 ID:Ylu8YoQi
GOOD JOBではなくGOD JOBと言わせていただこう!
233名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 08:35:19 ID:HvqwoGon
ちゃんと推敲して、どこかの出版社に持ち込め!
ここで垂れ流しじゃもったいない。
234名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 08:38:52 ID:2jvroHDj
終わっ…ちゃった………。・゚・(ノД`)・゚・。
235名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 08:59:25 ID:9Ilsp7D5
最後の長身の男って…



( ゚д゚ )
236名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 09:27:27 ID:1kIlzyJy
こっち見んなw
237名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 10:49:54 ID:mXfXu+RF
予測はしてたが逆ハーレムENDかー
238名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 10:55:49 ID:gfYxKK7B
三人ハッピーエンドか…
こいつらだったらそれもいいよなと、素直に思えるよ

ともあれ、長い間お疲れでした!
239名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 13:46:38 ID:auTUhGcN
ものすごく面白かった!!
作者の方、ありがとうございました!

毎日更新がないかこのスレ見に来てたくらい続きが気になって、気になって・・・。

本当に面白かった!
240名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 14:33:25 ID:O5VdnYcU
全米が泣いた


この板で終わらせるのもったいないからマジで電撃とかドラゴンとかに持ってけって!!
下手なプロより描写上手いしwwwww
241名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 15:56:52 ID:+lrB4Mgr
>>235
一瞬クロルのことかと思たww
242名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 17:57:19 ID:6UY1IgV3
>>241
俺もだw
ヤツは金髪だと思い込んでた
243名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 18:03:31 ID:kHT/bUIa
神クラスというか神だな。
ネタのストックさえあれば、本気でプロになれる文章力と筆速だと思う。

オンライン小説系統は色々読んできたし自分でも書いてるけど、とても敵う気がしない。
掛け合いの描写とか心理描写とか世界観とか、どれも素晴らしすぎる。
……ぶっちゃけプロ含めてもベスト10に入る。個人的に。
244名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 19:34:31 ID:BRivrdN6
ごく普通にクロルが出産して、家族なかよく…でも良かったかも
245名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 22:04:34 ID:gBXUM4iI
長くなってしまった事を先にお詫びします

ロム専でしたが、書かずにはいられないので書き込まさせて頂きます
このような素晴らしい作品に偶然でも出会えて本当に嬉しく思います。続きは書かれていないかと唯一、日参するスレでもありました
終わってしまい日参するスレも無くなって寂しいですが本当にお疲れさまです。素晴らしい作品を読ませて頂きありがとうございました
246名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 23:49:11 ID:9tlasEYf
あえて感想は言わないぜ、態度で示す
遅くなってしまうが……今週中にはまとめられると思うぜ
by wikiとかイジくってるヤツ
247名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 00:13:35 ID:BNSXXP5u
感動し過ぎて、なんて言ったらいいか分からないほどです。
お疲れ様でした。よい作品をありがとうございました
248名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 00:28:38 ID:Sikx3lgx
ありがとう
249名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 05:34:01 ID:3OCdV2lc
携帯から見てたけど…
ベッドの上で感動してたわw(;∞;)
作者様お疲れ様です!!^^
250名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 06:18:22 ID:m//OKuTC
GJすぎてもう何て言ったらいいのか…
ずっとROMってたけど、最初から最後まで楽しませて頂いてました
神様ありがとう!!そしてお疲れ様でした!
251名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 08:13:23 ID:DGxPeGeK
後日談が読みたいと思ったのは俺だけではないハズだ
252名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 09:29:39 ID:onx8KfaZ
3Pが読みたいだと
この、罰当たりめwww
冗談はさておき、後日談でも新作でも、次回作が読みたいです
とにかくお疲れ様
本当にGJ!!!!!
 
>>246氏も乙
253名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 10:41:57 ID:pf/QMn2Y
たしかに「パン屋で傭兵チーム+3P」の物語よみたいなw

作者さん、この約8ヶ月お疲れ様でした。
毎回楽しみによんでました。他のどんなテレビドラマよりも連載小説よりも
たのしめました。どうもありがとうございました。
254名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 17:56:05 ID:UvrRWPCn
パン屋のヴィクター、
帳簿の整理とかほったらかしてクロルに怒られるんだろうか。
255名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 19:42:34 ID:YHm7bYBa
パン捏ねるのは上手そうだが、カウンターに座るとエラいことになりそうだな。
256名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 20:52:22 ID:/BnwSmoN
すげーよかったよ! 長い間おつかれさま。ありがとう。
257名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 21:16:10 ID:iRLBPttR
素晴らしいとしかいいようが無いな・・!
作者GJ そして感動をありがとう
258名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 23:42:57 ID:pnmmUE+E
偶然このスレ見つけられて良かった…
本当に面白かった。ありがとう!
前スレの埋めネタはもうおしまい?
259名無しさん@ピンキー:2007/07/20(金) 00:25:56 ID:fgQDXrAr
作者様お疲れ様です!ずっと楽しく読ませていただきました。ROM専だったのですが一言書きたくて。こんなに続きが楽しみだった作品は初めてでした。ありがとうございます。できれば後日談とかウィルさんの話とかも読んでみたいです。
260名無しさん@ピンキー:2007/07/20(金) 09:29:45 ID:2/Pk3481
ああ、面白かった…っ!この話、一生忘れないよ!
本当に素晴らしい作品をありがとう!!
もっとこのキャラに触れていたい…後日談や外伝を切望します。
261名無しさん@ピンキー:2007/07/20(金) 13:37:21 ID:NMCqPCww
クロルがウィルに1から教えてもらう過程の外伝希望
262名無しさん@ピンキー:2007/07/20(金) 17:47:23 ID:YLSJvqqb
まとめサイト、もう更新されてた。
管理人さんお疲れ様でした。どうもありがとう。
263名無しさん@ピンキー:2007/07/20(金) 17:53:24 ID:YLSJvqqb
>>262
あれれ、ゆっくり読もうと思ったら…
ちょっと変だ…
264名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 03:37:54 ID:fYjFUDgr
このスレの住民は本当にいい人たちだな。
つーか2ちゃんに書かれた創作で、こんなにレスが付いたのを見たのは初めてかもしれん。
マジで乙。
265名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 05:32:16 ID:EpHPgLka
長く続いた大人気の大作だからな
一言、乙言いたい人が多くても、不思議じゃないだろう
感想は嬉しいものだから、次作の気力になればという下心もあるが
266名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 06:38:46 ID:SQU06jXu
GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOD Job !!!
267690:2007/07/22(日) 18:26:48 ID:F8WP3XQX
ファンタジー
傭兵パン屋物……?


 こんにちは。クロルです。
 パン屋を始めて一年が経とうとしています。お客さんも毎日沢山来てくれます。女の子が多
いです。二つとなりの町からパンを買いに来てくれる人もいます。
 そんなに沢山お客さんが来るものだから、割と毎日忙しく過ごしています。
 そちらの様子はどうですか?
 先日、新聞でバルスラーがさんざ叩かれているのを読みました。立派にヴィクター少佐の後
を継いで、マスコミの叩かれ役に収まったみたいですね。彼の行く末が楽しみです。

 追伸:こんど、ヴィクターの焼いたパンを持って遊びに行こうと思います。
    何かリクエストがあるなら、お早めに。
                           

 ***


 パン屋リーベルタースの朝は早い。
 鳥が目覚める前に起き出して、開店のためにパンを焼く。
 とはいっても、これはもっぱらヴィクターの仕事なので、クロルの朝はもう少し遅い。おい
しそうなパンの香りがし始めて、ようやくのっそりと起き出してくるのである。

 早朝にも関わらず、外には早くも開店待ちの客が列を作り始めていた。
 朝一番のクロルの仕事は、窓の外できゃあきゃあとうるさい少女達の声を意識的にシャット
アウトし、クリームやらカスタードやらで喉の奥がひりつくような甘い菓子パンを店頭に並べ
る作業である。
 開店まで三十分と言うところで、この店で最大の集客効果を発揮している店員がパンをかじ
りながらカウンターに現れた。
 その途端、窓の外から黄色い歓声が湧き上がる。
「やぁ、おはようございますクロルさん。今朝のパンは格別に甘いですね。今にも頭痛がして
きそうです」
 にこにこと笑いながら、赤茶けた髪の青年がチョコ生クリームパンを口の中に放り込み、指
についたチョコレートをおいしそうに舐め取った。
 表情と言動に食い違いが発生しているが、店の外から注がれる愛の眼差しを意識しての事だ
ろう。
 ウィルトス――一年前に死亡した、連合国軍参謀。死人ゆえ戸籍は最早存在せず、ただ、中
身の無い墓だけが墓地の一等地に立っている。

「はぁ……教官甘いもの嫌いですからねぇ……」
 食パンとかかじればいいのに、と零すクロルの目の前で、鉄壁の笑顔が凍りついた。
 ぞくり、と背筋に悪寒が走る。
「いま、なんて呼びました?」
 その質問は、果たしてする必要があるのだろうか。
 だが聞かれたからには、素直に答える事などできるはずもない。
「な……何がですか?」
「ほう。とぼける気ですか」
 あははは、と笑うあどけない笑顔に、は、ははは、と引きつった笑いを返す。
 カウンターに入って接客の準備を始めるウィルトスにゆっくりと背を向けて、クロルは全身
をじっとりとぬらす冷や汗を意識しないようにして商品の陳列を再開した。
「四失点ですよ……クロルさん」
 見なくとも、無邪気を装った邪悪な笑みがありありと目に浮かんだ。
 四失点――あと一度でもこの男を教官と呼んでしまったら、地獄の一日奴隷制度が問答無用
でやってくる。
 お願いという形式で下される命令――。拒否すれば罰ゲームと言う名の懲罰である。しかも、
この時ばかりはヴィクターも助けてくれない。
 最近ようやく分かってきたが、ウィルトスとヴィクターの間には何か不可侵の契約めいた物
がある。
268690:2007/07/22(日) 18:27:33 ID:F8WP3XQX
 それがなんなのかクロルには知る由もないし、知りたいとも思わないが、クロルをはめる時
の二人のコンビネーションは正に悪魔的である。
「なんだか気分悪くなってきた……」
「おや、風邪ですか?」
「いっそ病気になりたいです」
 そしたら看病が楽しそうだなぁ、と本気で嬉しそうに言うものだから、おちおち風邪も引い
ていられない。
 クロルはがっくりと肩を落として全てのパンを並べ終え、からからとワゴンを押して店の奥
へと引っ込んだ。

「四失点か……」
 噛み締めるような、同情するような、そんな声を聞き拾い、クロルはギロリと声の方を睨み
つけた。
 コックコートにエプロン姿の、町のチンピラが裸足で逃げ出す店長権パン職人。
「同情するぜ。それ以外の事はしねぇけど」
 変態に好かれると苦労するな、とにやにや笑うヴィクターに対して忌々しげに悪態をつき、
クロルはエプロンを脱ぎ捨ててつかつかと部屋を横切った。
「君だって十分変態じゃないか。人の事言えないだろ。このサディスト」
「つまりお前と相性がいいって事だな。苛めてやろうか?」
「言ってろ馬鹿! 配達行ってくる」
 心持頬を染めてヴィクターを怒鳴り、クロルは壁に引っ掛けてあったジープのキーを奪うよ
うにしてひったくった。
「さっきエリーから電話があったぞ。お前に相談したい事があるとよ」
「内容は?」
「聞いてない。つーか聞いても無駄だった」
 俺、あの女に嫌われてるからな、と心持傷ついた表情を浮かべて笑い、ヴィクターは落ち込
んだように肩を落として遅めの朝食にかじりついた。――無論、これもパンである。

 エリーとは、クロル達が懇意にしている買い付け業者の一人娘である。
 利発で明るく人当たりも抜群で、何よりなかなかの目利きであるため、エリーの所に買い付
けを委託に来る店は多いと聞く。
 自営業の店の主人や、足腰の不自由な老婆の家やらに注文のあったパンを届けて回り、昼時
の近づいた頃、クロルはようやくエリーの家にたどり着いた。
 巨大な倉庫に併設された、赤い屋根と漆喰の壁も愛らしい、二階建ての家である。
 エリーがクロルに個人的な相談を持ち込む時は、倉庫ではなく家の方の呼び鈴を鳴らす事に
なっていた。
 秘密の相談事が多いのよ、と手を合わせたエリーの笑顔があんまりにも可愛くて、クロルは
いつも彼女のお願い事を断る事ができない。
 ジープを降りて呼び鈴に手を掛けると、鳴らす前から乱暴にドアが開かれた。

「――どけ。チビ」
 ビギ、とこめかみが軋む音がした。少なくとも、クロルには確かに聞き取れた。
 鉄壁の笑顔で見上げた先に、見知らぬ男の不機嫌顔。緋色の髪を高い位置で一つに結わえて
バンダナを巻いた姿は、今にもロックでも歌い出しそうである。
「そっちこそどけよ。――馬鹿面」
 男のこめかみに血管が浮き上がった。
 馬鹿と言われるのは嫌いらしい。
269690:2007/07/22(日) 18:28:19 ID:F8WP3XQX
「口の利き方なってねぇ餓鬼だな。何処の餓鬼だ」
「自分の事を棚に上げて他人を批判か。おめでたい頭の中だね。デカい図体に栄養取られて頭
の発育遅れたかい?」
「なんだとてめぇ……」
「脅かす事しかできないの? いよいよ頭の悪い奴だな。喋るたびに君の頭の悪さが露見して
くよ。楽しい? 罵られて喜ぶタイプ?」
 身長差――およそ一尺。ヴィクター並みの身長である。
 猟師と言った所だろうか。この身長と体格があれば、大概の者は怯えて道を譲るだろう。
 一触即発の睨み合いを断ち切ったのは、男の背後から飛んだ利発な少女に聞きなれた声だった。

「ちょっとルーベル! 玄関先でぼーっと突っ立ってないでとっととお使い行ってきてよ! 
早くしないと売り切れちゃうじゃない!」
 うげ、と零して、ルーベルと呼ばれた男が振り返る。ひょいとその向こうを覗き込むと、男
と同じ緋色の髪の可愛らしい女の子が、両手を腰に添えてきぃきぃと怒鳴っていた。
「エリー!」
「やだ! クロル君じゃない!」
 言うなり、エリーはルーベルを押しのけてクロルの手を取り、来てくれてありがとうと飛び跳ねた。
「この野蛮人に酷いことされてない? この馬鹿頭悪いから礼儀がまったくなってないのよ」
「おい、おまえな……!」
「なによ、本当の事でしょう? もう! 力仕事しか出来ること無いんだから早くお使い行っ
てきてよ! ほらほら! きりきり働け居候!」
 居候――。
 最近この家に来たのだろうか。どうりで見ない顔である。
 クロルがちらと見上げると、ルーベルは命拾いしたな、と捨て台詞を吐いて相変わらず不機
嫌そうにクロルの横をすり抜けた。

「ごめんね。従兄弟なの。悪い奴じゃないんだけど、天邪鬼なのよね。入って。相談事がある
の。本当はクロル君が来る前にルーベルにパン買ってきてもらって一緒に食べようと思ったん
だけど……」
「言ってくれれば持ってきたのに」
「だめよそんなの! なんだか立場を利用してますって感じがして嫌じゃない」
「でも、どうせ僕配達帰りだよ?」
「あらそうなの? なーんだ損しちゃった!」
 ちぇっと素直に唇を尖らせる。
 赤い髪を縛るひらひらのリボンも、ふわりと広がるチェックのワンピースも、元気で可愛い
エリーにはよく似合う。
 負けん気が強すぎて――と言う者もいるが、クロルは利発で可愛く、自分の意思をしっかり
持ってるエリーの事が好きだった。
「まぁいいわ。ルーベルには悪いけど、クロル君と二人っきりでお話しできるのはありがたい
し。ねぇ知ってる? この前町外れに引っ越してきた黒髪の貴公子!」
 貴公子――?
 一瞬問い返しかけて、クロルは次の瞬間理解した。
 エリーがこう評するという事は、つまり相当な色男なのだろう。この年頃の少女が好みの男
性につけるあだ名は、クロルにとってはどれもあまりに寒すぎる。

「あ、だめだめ! ウィルトス様には黙っててね。これは浮気じゃないのよ。ただ皆がそう呼
んでるってだけ。私も直接お話した事は無いんだけど、遠くからちらっと見た事があるのよ。
それでね、その人一体何してたと思う?」
 知るかよ。
 ヴィクターが相手だったら間違いなくこう切り捨てている話題だが、相手がエリーではさす
がにそういうわけにもいかない。
「その人ね、すっごく上等なスーツを着てたんだけど、そのまま川原にねっころがって寝ちゃ
ったの! キャー! もう可愛いと思わない?」
「エリー……僕に話しって……それ?」
270690:2007/07/22(日) 18:29:07 ID:F8WP3XQX
 驚いたように、エリーが形の良い眉を上げてクロルを見た。
 あらやだ、と口に手を当てて、違うのよ、私ったらいやね、とくすくす笑う。
 座って、と促されてふわふわのソファに腰を下ろすと、エリーはクロルにオレンジジュース
を勧めてその正面に腰を下ろした。

「ねぇ、ここ一年でね、この町だけじゃなくって、このあたりの治安がすごーく良くなったの。
市警団なんててんでだめ。軍の基地だってここからは遠いでしょ? だからね、クロル君達が
傭兵やっててくれて凄く助かってるの」
「いや……別に傭兵をやってるってわけでもないんだけど……」
 実際、開店当初は傭兵などやる気は無かったのだ。
 ただ近所の人が困っているので、それならば――と力に物を言わせてモンスターやら強盗や
らを討伐していたら、いつの間にか噂が広まってしまい、傭兵扱いされるようになったのだ。
 正式に看板を出しているわけでもないのに、何故か見知らぬ者から依頼が入る。
「それでね、さっきのルーベルなんだけど。あいつ実は隣町で市警団に入っててね。連続強姦
殺人事件の犯人を捜してこの町に来たらしいの」
 嫌な流れだ。
 この流れをこのまま放置すると、妙な事に巻き込まれそうな予感が半ば確信に近い雰囲気で
じわじわと這い上がってくる。
「それでこの前引っ越して来た黒髪の貴公子なんだけど……みんなが怪しいって言うのよ! 
引っ越してきた時期が事件の発生とピッタリで、しかも彼、町の人誰とも喋った事がないの。
挨拶しても無視するし、肉屋さんなんて挨拶しろ! って怒鳴ったら無言のまま三メートルも
蹴っ飛ばされたって!」
 怪しいっていうか、半ば確定だろう、その情報。
 ルーベルとか言ったか。あの馬鹿面、とっととその貴公子様を捉えてこの町から消えてくれ。
 そんな考えはおくびにも出さず、クロルはありがたくオレンジジュースを頂きながら、それ
じゃあ、と会話の主導権を引き継いだ。
「危ないからその人の家には近づかないようにして、市警団に連絡すればいいよ。危ない人が
いるんですーって。肉屋さんが被害届け出せばいいんじゃないかな」
「様子を見て来て」
 ああ、結局こうなるのか。
 クロルはオレンジジュースを飲み干すと、溜息と共に立ち上がった。
「悪いけど、僕はしがないパン屋の経理。緊急事態なら仕方ないって面もあるけど、今回は僕
達の出る幕じゃない。ルーベルって言ったっけ。さっきのバンダナ君に相談しなよ」
「そ、そんな! だめ、だめだめ! だめよあんなの! だって私、もうルーベルに言ったの
よ! なのに証拠が足りないとか、犯人だって決まったわけじゃないとか言ってちっとも取り
合ってくれないの! 肉屋のおじさんが怪我したのよって言っても、それとこれとは別問題だって」
「そりゃまぁ……事件と同じ時期に引っ越して来たってだけで捕らえるのは早計かなぁ……」
「でも、この町で事件が起こってからじゃ遅いのよ!」
 両手で机を叩いて立ち上がり、エリーは縋るようにクロルを見た。
 赤が強い、こげ茶色の瞳にクロルの姿が写りこむ。

「みんな不安がってるわ。クロル君しか頼れる人がいないの。捕まえてって言うんじゃないの
よ、ただ、様子を見に行って欲しいだけ。ルーベルは市警団で、軽率な行動は出来ないんだっ
て……それに、私は市警団よりクロル君の方が信頼出来るの。だからお願いクロル君! 報酬
は弾むから!」
271690:2007/07/22(日) 18:29:53 ID:F8WP3XQX
 報酬の問題ではない。
 エリーの願いを聞き入れた結果、クロルの行動がその男を刺激して、この町で事件を起こす
きっかけになってしまったらと思うと、それが怖い。
「――報酬はもらえない」
 はっと、エリーが息を呑んだ。
 失望したような表情で俯いて、そう、と呟く。
「でも、帰りにパン屋の営業をしてくるよ。新しいお客さんの予感がする」
「――クロル君!」
 うるうると瞳に涙をためて、エリーが胸の前で両手を組み合わせた。
 だん、とテーブルに駆け上がり、そのままの勢いでクロルの首に飛びつく。
 うわぁ、と情けない声を上げて二人してソファに倒れ付し、エリーはクロルの首に絡みつい
たまま頬に何度も唇を落とした。
「ありがとう! やっぱりクロル君って素敵!」
「え、エリー! ちょ! わかった、わかったから!」
 やわらかな乳房がぐいぐいと押し付けられ、溜まらずクロルは赤面した。
 普通の女の子の体とは、こんなに柔らかいものなのか。
「ねぇ、お昼ご飯食べてくでしょ? 待っててね! すぐ用意するから!」
 ダメ押しとばかりにクロルの額に柔らかな唇を押し付けて、エリーは息も絶え絶えなクロル
を残してばたばたと走り去っていった。
「……やわらかい」


 ***


「なんでコイツが、ここにいる」
 従兄弟の家に居候が決まって三日になる。
 調査は順調とは言いがたいが、いい町だし、小うるさい小娘もいるが、それなりに居心地もいい。
 だが、今日は最悪の日だ。最悪の一日だ。今日はこれからも最悪な事が起こるに違いない。
 そんな確信を胸に抱き、ルーベルはごく自然に食卓に座っている少年を指差した。
「ルーベル! お客さんに向かって失礼でしょ! お昼ごはん抜きよ」
「ちょ、ま……意味がわからねぇ! おいてめぇ、エリーの何だ。あ? 恋人気取りか? 女
の家にずうずうしく上がりこみやがって、非常識とかおもわねぇのか」
 華奢な体に、整った顔立ち。見ているだけで無性に腹が立つ部類の男である。
 パン屋の店員のだらしない笑顔も腹が立ったが、こいつの他人を馬鹿にしたような表情はそ
れを数倍上回る。
「ねぇエリー。君は凄く頭いいのにさぁ――」
「無視か! てめぇあったま来たぞ。勝負つけてやる表に出やがれ! びびってんのかコラ」
「なんで君の従兄弟ってこんなに頭悪いわけ?」
 ピキ、と首の後ろで音がなったような気がした。
 じわじわと脳が痺れ、なんだか妙にクラクラする。
 あぁ、これが血管が切れるという事か――と頭の隅で思いながら、ルーベルは次の瞬間、少
年の襟首を掴んで乱暴に引っ立てていた。

 きゃあ、とエリーが悲鳴を上げる。
「ちょっとルーベル! いい加減にしなさいよ! クロル君はおん――」
「頭悪い上に。直情的。お山の大将の俺様タイプか――救いようが無いね。軍に入れなくて市
警団に行った口だろ」
272690:2007/07/22(日) 18:30:37 ID:F8WP3XQX
「クロル君!」
 エリーが咎めるように少年の名を呼んだ。
 まるで茶番だとでも言うように、クロルが眠たげに目を細める。
「可哀想にね……君は無能だった僕よりはるかに――」
 限界だった。
 エリーの前だろうと関係ない。
 ルーベルはクロルの襟首を掴んだまま、思いきり拳を振り上げた。
「弱い」
 瞬間、脳天まで激痛が突き抜けた。
 握り締めた拳を振り下ろせぬまま、クロルを解放して崩れるようにうずくまる。
「ルーベル!」
 脇の下――全く警戒していなかった所を思い切り抉られた。
 駆け寄ってくるエリーをクロルが制す。
「てめぇ……よくもやってくれ――」
 鈍い――鼻の骨がひしゃげるような、妙に鈍い音がした。
 蛇口を捻ったように鼻から血が溢れ出し、慌てて身を引いて鼻を押さえる。
 顔面にもらった。思い切り。足裏を。
「先に言っとくけど、僕が構えてた足に君が突っ込んできただけだから。僕蹴ってないよ」
「わ……私にもそう見えた」
 あちゃあ、と痛そうにエリーが顔を顰める。
「エリー。ガーゼとタオル持ってきて。折れてないとは思うんだけど……」
 ひょいとクロルが屈みこみ、無遠慮にルーベルの鼻をつまむ。
「いででででで! 馬鹿! いてぇ! 離へ!」
「おー、大丈夫だ。折れてない折れてない。でも一応病院行った方がいいかもね。しばらく鼻
血、くせになるよ」
「なんなんらよ! テメェ! そんなんれつへへなんへ反則じゃれーか!」
 なにって、とクロルがとぼけたように頬をかく。
 すい、とルーベルが持ち帰ったパン屋の紙袋を指差し、クロルはただ一言、
「パン屋」
 とだけ答えた。
 パン屋――? に、負けた――のか?
 ルーベルは完全に戦意を無くし、涙さえ浮かべて脱力した。


 ***


「ごめんねクロル君。うちの従兄弟ほんと馬鹿で」
「いいよ。馬鹿は見てて面白いし。うちにも一人馬鹿いるし。それより鼻、ちゃんと病院につ
れてってあげてね。あんな凄い勢いで突っ込んでくるって思わなかったからさ……」
 結局あのまま食事をご馳走になり、雑談に花が咲いてすっかりと長居してしまった。
 玄関先で困ったように笑い合い、クロルは今度、小麦の買い付けに来る事を約束して道端に
止めたジープに飛び乗った。
 エリーが室内に戻るのを確認し、アクセルを踏み込む。

 エリーが言っていた黒髪の貴公子とやらの家は、パン屋とはまるきり正反対の方向にあった。
 水車小屋が近くにある、川沿いのレンガ造りの二階建て。ジープで川沿いを散歩気分で走り
ながら、クロルはエリーの言う通りの建物を見つけてブレーキを踏み込んだ。
「色男で……無愛想で、無口で、問答無用で何の罪も無い肉屋さんに危害を加える危険人物」
 パン屋のチラシを一枚取って、いつも余分に持って出る配達用の食パンと一緒に紙袋に押し込む。
 ふう、と一つ溜息を吐いて、クロルは頭を抱えて悶絶した。
「やっだなぁー……! もう、完全変態系犯罪者タイプじゃん。アブナイ系の。内にこもる感
じの! そりゃもう立つ立つ。悪い噂の一つや二つ」
273690:2007/07/22(日) 18:31:22 ID:F8WP3XQX
 連続強姦殺人犯だろうと、たんなるあぶない犯罪者予備軍だろうと、率先してお近づきにな
りたいタイプで無い事は明らかだ。
 だが、約束してしまったからにはやらねばなるまい。エリーは不安がっているのだ。
 車にキーをさしたまま、パンを持って草むらに下りる。
 とりあえずは様子見だ。
 どのくらい無愛想で、どのくらい無口で、どのくらい危険な男か実際に見るだけでいい。

 近くによって見てみると、レンガ造りのこの家が、元は廃墟であった事が見て取れた。
 買い取って改築したのか、そうでなければしてないか。修繕の跡は辛うじて見られるが、住
める常態なのかどうかも怪しい家である。
「――なんだこのドア。電子ロックだ」
 ドアだけ最先端――だが、窓に穴が開いていたらセキュリティの意味などないだろう。
 一貫性が無い――嫌いなタイプだ。
 呼び鈴は一回。出なかったら退散しよう。
 心に決めて呼び鈴を鳴らすと、ジリリリン、とやけに古風な音がした。電子ロックで、呼び
鈴はアナログなのか――。
 とてつもなく嫌な感じだ。今すぐ逃げ帰りたい。この中身絶対変態だ。間違いない。
 数秒の沈黙を挟み、クロルはすぐさま踵を返した。
 でない。よし。ラッキー。いや、残念。
 頭の中でいいわけと建て前がめまぐるしく駆け回る。
「帰るのか」
 踵を返した正面に、ストライプの黒スーツ。
 ほんの一瞬硬直し、クロルは短く悲鳴を上げて後方に飛びずさった。
 全く気配を感じなかった。いや、あるいはずっと感じていた嫌な雰囲気が、この男の持つ気
配のような物なのだろうか。
 とにかく、簡単に背後を取られた。その距離、ほんの散歩。体温を感じてもおかしくない至
近距離である。

「あ、あの……町の反対側の外れてパン屋を開いてる者なんですが。最近引っ越してきたって
聞いてチラシと試供品をお持ちしました」
 慌てて営業スマイルを張り付かせ、クロルはパンとチラシの詰まった紙袋を遠慮がちに男に
差し出した。
 見上げた先に、どこを見ているのか分からない、妙に虚ろな漆黒の瞳。身長は二メートル近
いのではなかろうか。
 エリーが貴公子と評するだけあって、整った顔立ちをしていた。ただ、クロルの好みでは決
して無い。どちらかというと嫌いなタイプだ。やる気の無さそうなたれ目である。
「三秒で帰るのか……最近のパン屋は」
 顔は正面を向いたまま、瞳だけがぼんやりとクロルを睨みおろした。
 長い前髪が目にかかり、ひどく鬱陶しそうである。切ってやりたい――そんな衝動がクロル
の中に芽生えたが、苦労して押さえ込む。
「い……いらっしゃらないものとばかり……」
「小さいな」
「は……?」
「パン屋か……そうか……よし、食おう」
 名案だ、とでも言わんばかりに、男が怪しげに微笑んだ。
 否。怪しげと言うよりは――危ない感じの笑みである。
「来いよ。コーヒー出してやる。好きか? コーヒー」
「え、ちょ、いや! 結構です! いい! いらないって!」
 腕をつかまれ、問答無用でずるずると引きずられる。
 しかも、何故か眼前のドアではなく、家の裏手の方へ。
「開かないんだ。あのドア」
「……は?」
「中からじゃないと開けられない。本当の入り口はこっちなんだ」
274690:2007/07/22(日) 18:32:13 ID:F8WP3XQX
 言いながら、男はなんの変哲もない煉瓦の壁に手を伸ばした。煉瓦の一部が欠落し、穴が開
いている所に手をかける。
 ぐいとひくと、それはごく平凡なドアのように、がちゃりと音を立てて開かれた。
「ぎ……偽装ドア!? ちょ、そんな徹底して隠してる入り口を初対面のパン屋に晒してどう
する!」
「心配してくれるのか」
「違う! 一貫性が無いのが気に入らないんだ!」
「優しいんだな、パン屋は」
「話を聞けぇ!」
 引きずられるままに屋内に連れ込まれ、無情にも、開かれたドアが閉じられる。
 概観からは信じられない程明るく清潔な廊下しばし呆然として見つめ、クロルは男の浮かべ
たこの上なく無く楽しげな笑顔に抵抗する勇気を失った。


 ***


 応接間に案内されて、コーヒーを勧められて、飲む。
 ごく普通のプロセスだ。何一つ糾弾すべきところは無い。
 問題は、眼前で試供品の食パンを、焼きもせずにそのままかじっているこの家の主である。
しかもなぜか、すぐ隣で。
「……あの、名前……外にネームプレート、出てませんでしたけど……」
「出してないんだ。知らない奴に名前を知られたくない」
「は……はぁ」
「甘いな。パン」
「でんぷんですから……」
「しろくて……ふわふわしてて、おまえみたいだ」
 ぞわ――と、寒気と共に足の爪先まで鳥肌が立った。
 逃げたい。帰りたい。何よりも、殴りたい。
「あの……えぇと、ですね。この前肉屋のおじさんに怪我させたって聞いたんですけど……」
「ああ。むかついたから、蹴った」
 さも当然の事だと言わんばかりの言い方である。
「でもおまえはむかつかない。小さくて、可愛いな。赤い唇。きっとパンより甘い」
 一瞬、クロルはあまりの精神攻撃に失神した。
 吐く。
 たぶん、あと一言でもこの男の声を聞いたら間違いなく嘔吐する。
「よし、食うか」
 いや、食ってるだろう。現在進行形で。
 思いながら内心吐き捨てたクロルの肩に、とん、と男の手が触れた。
 触るな。殴るぞ。
 そんな思いを込めて睨んだ瞬間、唇に柔らかい物が押し付けられた。
 味わうように、舌が口の中を這い回る。角度を変えて更に深く――。
「やっぱり……甘い」
 ぐしゃ。と、不快に水っぽい音がした。
 嬉しそうな笑顔を見せた男の顔面に、クロルの拳がど真ん中に入ったのである。
 感触からして間違いなく、鼻の骨は逝っている。

「次からはキスする相手を考えるんだな、色男」
 だが、引き戻そうとしたクロルの腕を、男ががっちりと掴んで引き戻した。
275690:2007/07/22(日) 18:35:12 ID:F8WP3XQX
「食うぞ。じっくりと味わって、奥の奥まで、お前の蜜を――」
「ふざ……鼻血だらだら流しながら何強がってんだ! 病院行け馬鹿! 手を放せ!」
 唇が首筋を捉え、ねっとりと耳たぶを舐める。
 ぞぞぞ、と背筋に筆舌に尽くしがたい嫌悪感が駆け抜けた。
 生暖かいナメクジが這い回るとでも言うべきか。とてもじゃないが耐えられない。
 再び唇に迫った唇に、クロルは戦慄して思い切り頭突きを食らわせた。
 ぐ、と呻いて引いた体に、鳩尾めがけて抉るように拳を叩き込む。
「意味が――分からない! なんだおまえ! 強姦魔か! ドンピシャか!」
 ソファから飛び降りて走り出そうとした腕を、再び男が掴んでソファの上に引き倒した。
 あぐ、と呻いて逃げ出そうとするクロルに、血まみれの男が覆いかぶさる。
 服の胸倉を無遠慮に引っつかみ――そして、男はクロルの服を乱暴に引き裂いた。
「うわぁあぁ! どんな力してんだ! これカーボン繊維だぞ!」
「あぁ……たまらない。オレの血で飾られた白い肢体。貪ってやる。見てくれ、オレの興奮は
今、絶頂に近い」
 確かに、男の下半身はギンギンにいきり立っていた。
 これ程男の一物をおぞましいと思った事は無い。強姦された時ですら、ここまでの嫌悪感は
覚えなかった。
 駄目だ。この男は、生理的に受け付けない。

 クロルは思い切り歯を食いしばり、欠片ほどの加減もなく男の股間を蹴り上げた。
 ――が、男は怯まない。
「ひ……怯めよぉ! ヴィクターだって悶絶するぞ!」
「オレは今……痛みですら……快楽だ」
「いゃあぁあぁ!」
 少女のような悲鳴を上げて、クロルは渾身の力を込めて男の下あごを蹴り上げた。
 衝撃でのけぞり、男がソファの下に盛大にひっくり返る。
 慌てて立ち上がり、入ってきたドアを目指して走り出すと、その足を掴まれてクロルは床に
叩きつけられた。
 背中に迫るねっとりとした、陰鬱で重苦しいオーラ――。
「い、嫌だ……来るな! あり得ない! 不条理だ! なんで動けるんだ! 痛覚ないのか! 
人型モンスターか!」
 叫びながら半身を起こし、迫り来る男の横っ面に爪先を叩き込む。
 盛大に吹っ飛ぶも、すぐさま起き上がろうとする男の不死身ぶりに絶叫し、クロルは半泣き
になりながら逃げ出した。
 怖い。
 強姦されかけている事実よりも、あの男の存在が恐ろしくて仕方ない。
「待て! もっとおまえを味わいたい!」
 そんな叫びを廊下の彼方に聞きながら、クロルは男の家を飛び出した。
 危険人物だ。すぐにでも捕まえて牢獄に入れて一生出してはいけない存在だ。
 クロルはぐすぐすと涙を拭いながらジープに飛び乗り、全速力でその場を後にした。


切らせていただきます。

感想・GJ本当にアリガトウ。
なんかもう、悪乗りしますよ。悪乗りしましたよ。
お前ら本当にいいヤツですね!

ついでに、この世界観およびキャラクターは解放します。
もし、書きたいけど設定が思いつかないとか、そういう方がいましたら、
適当に利用してください。
オリキャラだろうと新設定だろうと、好き勝手してくださってかまいません。
他の人の作品も読みたいよ!
276名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 20:07:01 ID:PO/fDNcR
本当に素晴らしかったです。毎回更新を楽しみにしてました。
本気で出版社に持っていった方がいいと思った2chのss(まあこれはもうssの域じゃありませんが)は初めてです。
ありがとう。
277名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 20:21:34 ID:1pz/i8cu
外伝ktkr!!!
278名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 21:02:18 ID:pEAoew64
おぉ〜、パン屋さんシリーズ?
続くんですよね?ね、ね?
279名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 22:58:03 ID:Rz2lFRK5
町外れの貴公子が怪しいというのは何かの間違いかと思ってたらホンモノ(ボールド倍角)ですかw
GJ!GJ!GJ!GJ!です。
280664:2007/07/22(日) 23:04:28 ID:fc7VDY/n

パン屋シリーズが始まったー!民間人クロルが見れる日がくるとはGJ!外伝、書いてもいいとな!?クロルの甘々か、アウラの話考えてみます。
281名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 00:13:44 ID:MxTSHLaf
クロルはなんか……関わる男みんなアレだな……

才能か
282名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 00:37:29 ID:vFev3cE5
とりあえず、3P読みたいぞ。
283名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 00:50:48 ID:rXJsjyXq
>>281
なんか、乙一のGOTHにでてくる猟奇殺人鬼牽引体質の子の事思い出した。クロルは“サド変態牽引体質”だけど。
284名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 04:01:42 ID:1UocuvJN
毎度毎度GJです。
期待してるけど負担にならない程度にガンガッテ!!
応援してます。
パン屋クロルは漏れの嫁。
285名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 10:54:16 ID:aLa3rOVa
GJです。続編待ってました!


ごめん。ちょっと気になったんだけど
前に電撃とかドラゴンに持ち込めってあったけど
電撃・ドラゴンにはこんな感じのエロ小説ってあるの?

小説なんて普段読まないから買ってみたい。
286名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 13:49:37 ID:LIVq96O2
・・・ない、と言いきれないのがなぁ。
まあ、基本的には無い。無いんじゃないかな。無いと思うぞ。まあちっとは覚悟しとけ。
287名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 14:32:41 ID:hrnVLX8t
GJ!! パン屋シリーズ楽しみ!

>286
まさし?
288名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 23:58:41 ID:M/lquomv
ウィルトス様にまたお目にかかれるとは
おもっておりませんでした。ああ嬉しい。
289名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 01:46:38 ID:Ux+PSPEQ
GJ!
続編を有難う。
楽しみがまた増えた。
290名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 02:57:41 ID:19RHXTOp
>>275
早速世界観設定借りてしまいました。
貴方の作品を読んで、その勢いのまま書きなぐりました。
初めての投下作品です。素人です。
勢いだけで書いてしまったため、オチもエロもありません。萌えもありません。
けなされることは分かっていますが投下させて下さい。
あと、当方携帯厨のため、パソコンの方には読みにくくなっているかもしれません。
御了承下さい。
291名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 02:58:48 ID:19RHXTOp
 パメラは今、恋をしている。彼のことを想うだけでパメラの小さな胸は苦しくなり、また、その苦しさが心地よくもあった。
 ただ、見ているだけで良かった。男にしては可愛いすぎる笑顔で、毎日パンを配達している姿を遠くから見る、それだけで満足だった。
 しかし、パメラは見てしまった。彼がエリーの家から出てくるところを。別れ際にエリーに抱きつかれていたのを。そして、そのことに満更でもなさそうな彼の姿を。
 パメラは泣いた。こんなにも泣いたのは人生で初めてじゃないかと思う程。
 翌日、パメラは熱をだした。
 まさか自分がこんな状態に陥るとは。まるで、可憐な乙女の様に恋をして、失恋し、ボロボロになっている。
 パメラは自分で自分を笑おうとしたが、それすらままならなかった。
 もう何もしたくない。生きる気力もない。
 パメラはゆっくりと眼を閉じると、やがて眠りに墜ちていった。



 誰かが頭を撫でているのに気が付いた。パメラは自分の気持ちがすごく落ち着いているのを感じた。
 ずっとこうしてて欲しい。
 何故か目を醒ますのをもったいなく感じて、パメラはそのままでいた。
 すると、男の声がした。
292名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 03:00:08 ID:19RHXTOp
「パメラ、もしかして起きてる?」
 その声を聞いてパメラは飛び起きた。
「テ、テメェ!何してやがる!勝手に部屋ん中入ってくんなっつったろ!」
「ごめんよ。でも心配だったから」
 目の前の男はオドオドしながらもそう言った。
 この男はパメラの家の隣に住んでいる、いわゆる幼馴染みというやつだ。パメラよりいくつか年上のはずだが、なんとも頼りない男で、パメラはよくイライラさせられていた。
「何か食べたかい。良かったら、パメラの好きなパン屋さんのパンを買ってきたから――」

バシン!

差し出されたパン入りの紙袋をパメラは叩き落とした。
「余計なことすんなッ!出てけ!」
 幼馴染みの男は紙袋から出て床に転がってしまったメロンパンを静かに見つめていた。そして、ポツリと呟いた。
「失恋、した?」
 パメラは息を呑んだ。
 その様子を見た幼馴染みはおたおたしながらも早口で巻くし立てた。
「気にすることないよ。パメラの良いとこは僕たくさん知ってるよ。性格きつそうに見えて実際は優しいとか、実は家庭的だとか、本当は少女趣味だけど、恥ずかしがってそれを隠してる可愛いとことか。僕はそんなパメラが好――」
293名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 03:01:06 ID:19RHXTOp
「いつから」
「え」
「なんでわかった」
「あぁ。そのことか。見てればわかるよ。パメラ、ここのパン見る時、すごく可愛い顔するから」
 幼馴染みはメロンパンを拾いあげ、パメラに手渡した。
「あの人、かっこいいもんね。背も高いし。パメラが惚れるのも無理ないと思う」
「は?背が高い?」
「僕もウィルトスさんみたいな人になりたかったなぁ…」
 パメラはそれを聞くと何故か無性に腹がたってきた。
 拳を大きく振りかぶるとおもいっきり男をぶん殴った。
「い、痛い!」
「っせぇ!こんタコ!ちげーよ!勘違いすんな!」
 パメラは男を引きずって家の外へと蹴りだした。
 ドアの向こうから何か言っているのが聞こえる。しかし、パメラは気にもしない。
「ありがとう。お前のおかげで元気が出たよ」
 パメラの顔は微笑んでいた。              
294名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 03:05:19 ID:19RHXTOp
投下終わります。
295名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 03:21:24 ID:kp8RFA/r
ちょwww
普通に萌えたwww
GJ!
296名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 08:08:37 ID:99tIuTgT
もうちょっとオチのデレ部分をひっぱれば更に萌えられるのに…っ

って初でこれだけGJなんだから次作に期待してもいいよな?な?
297名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 10:59:19 ID:6oTn9vhx
エプロン姿のヴィクターが魔女宅のパン屋の主人を思い出させた
298名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 18:14:22 ID:19RHXTOp
>>296
責任とれ。馬鹿。
エロなしオチなし萌えもなし
ベッドがあるのに押し倒せないのがチキンクオリティ
299名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 18:15:14 ID:19RHXTOp
「次の患者さん、どうぞー」
 マーティンは医者である。この小さな診療所が彼の仕事場だ。
 待合室の扉が静かに開き、女が入ってきた。そのまま、黙って椅子に座る。
「今日はどうされましたか」
 マーティンは顔もあげず、先程診察した患者の書類を書いていた。
「よぉ」
 だから、愛しい愛しい幼馴染みの声が聞こえてきて心底驚いた。
「パ、パメラ!もう動いて大丈夫なのかい!ね、熱は?」
「下がったよ。どっかの誰かさんがくれた解熱剤のおかげで」
 そう言うとパメラは山盛りのパンが入った紙袋を机の上に置いた。
「今日はそのお礼」
 パンの甘くて芳ばしい香りが診察室に拡がった。
「パン屋に行ってきたのかい」
 マーティンはパメラの顔をおそるおそる窺ったが、予想していたのと違って、パメラの表情はすがすがしかった。
「あぁ」
「ウィルトスさんに会いに?」
「ちげーよ!」
 パメラは溜め息をついた。
「お前の勘違いだ。確かにあたしは失恋したよ。けど、相手はあの男じゃない。大体、あたしはああいうヘラヘラした笑顔を女に振り撒ける男は嫌いだ」
「じゃあ、まさか…。でも、パメラ、マッチョは嫌いだって…」
300名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 18:16:12 ID:19RHXTOp
「言っとくけど、その男でもないぞ。っていうか、あんな見るだけでも恐ろしい男、友達にでもなりたくねーよ」
 ということは。
「パメラ」
 マーティンは唾を呑み込んだ。
「君って、もしかして、レズ?」
 その瞬間マーティンの視界が一転した。
「い、痛いよ」
 マーティンは頭を抱えて抗議した。
「テメェがくだらねぇこと言ってっからだ。あたしはノーマルだ。変態じゃない。どう考えたらそういう発想になるんだよ」
「だ、だって…」
「だっても糞もねーよ。それ以上くだらねぇこと言ったらぶっ殺す」
 マーティンは口を閉じた。
 パメラはそれを見ると紙袋へと手を伸ばし、苺ジャムパンを取り出した。いとおしそうにパンを眺めると、整った口にそれを運んだ。
 マーティンは黙ってその様子を見ていた。
 パメラは美味しそうにパンを食べている。とても幸せそうだ。
 しかし、マーティンはそうでもなかった。
 胸が痛い。先程の頭の痛みよりも、もっと。
「あのさー。あたしさー」
 口の端にジャムをつけながら、パメラが言った。
 舐めたい。いっそのこと食べてしまいたい。
301名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 18:16:52 ID:19RHXTOp
 マーティンがそう思っているのを知ってか知らずか、パメラは自分の舌でジャムを舐めとった。
「諦めきれない。今日、あの人を見て、そう思った。あの人があたしみたいな女を好きになるはずないのは分かってる。でも、ただ、今まで通り見てるだけでいいんだ」
 パメラは少し苦しそうな顔でマーティンを見た。
「こっちが勝手にあの人を好きでいるのは、別に構わないよな?」
「いいと思うよ」
 マーティンは微笑んだ。
 僕も君と同じだから。
 マーティンはパメラと同じような気持ちを共感しているのを少し嬉しく感じて、パンにかじりついた。


投下終わります。
302名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 22:20:37 ID:8YB+Tcek
ヴィクター…びびられてる…
303名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 23:52:34 ID:DqWSCwo9
GJ、しかしパメラ、ボーイッシュっつーより男勝りって感じが…
304名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 05:54:01 ID:h5kZ4iVP
>>285
すまん。それ言ったの俺だわ。
電撃とかドラゴンにはエロメインの小説は今のところないけど、
今後こういうジャンルもいいかもと思って言った。

最近の読んでないけど、エロメインなんてなかったよな?
適当に言ってしまって申し訳ない。
305名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 13:30:30 ID:OZWIWfuo
まあ、俺はふたなり(厳密にいうと違うんだが)でも気にせずくっちまう男なんだぜ、
な主人公がいる比較的エロい描写の多い小説なら読んだことがあるな
あと、ファミ通とかスーパーダッシュとかにもエロスな作品はあるが、直接描写がメインに据えられてるのはなかったはず

いいのか、これ?ってのなら「無限のリヴァイアス」ってのがあるが…アレも別にそれがメインじゃないしなぁ。
306名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 23:13:55 ID:mvu69VbB
まあ、ライトノベルで直接的な描写は基本NG。
小説は年齢制限無いから法的には問題ないけど、社会通念とか倫理とかそういう観点から禁止。

でも、直接的な描写さえしなければ、最近はエロいのはいっぱいあるらしいけどな。
「デビル17」だの「ROOM NO.1301」だの「かのこん」だの。
ラ板を見てると際どい作品の話はけっこう聞く。


まあ、そろそろスレチなんでこのへんで。
307名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 04:48:27 ID:52DHn02N
き・・きわどいのか?

そのものずばりのような気がするのだが
308名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 06:14:19 ID:uXVlfyNQ
いちおう、単語的には気を使ってるらしいぞ。……うん。
まあ、最近の少女マンガよりはマシだろ。
309名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 06:32:22 ID:+YBHRd0i
4文字単語を使わないってことか

それにしても最近の少女漫画はそんなにも・・・・
ちょっとタチ読みしてくる
310名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 11:09:05 ID:i5T//r0g
起ち読みにならんよう気をつけてな
311名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 11:22:23 ID:ppEccOgy
>>303
スレチのようなので移動するよ

GJしてくれた人達ありがとうございました
すごく嬉しかったです
312名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 20:27:28 ID:uXVlfyNQ
>>311
待て待て待て待て! 別に誰もスレチとは言っとらんがなー!!




しかし少女漫画の過激な描写関連で検索かけたら出るわ出るわ。
レイプ、青姦、痴漢、近親相姦……エトセトラ、エトセトラ。

ttp://shrak.blog17.fc2.com/blog-entry-257.html
ttp://retro85.blog33.fc2.com/blog-entry-206.html

こりゃホントに凄いなあ。娘のいる年齢の方々、ご注意をー
……うん、俺がスレチだ。ごめん。
313名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 00:43:10 ID:CTV1icNe
>>312
mjd?もう違うスレに投下しちまったよ。
まぁ、いいか。
314304:2007/07/27(金) 04:02:50 ID:tQKTUHQh
>>304だけども。
みんな色々調べたりしてくれてありがとう。
少女漫画にも性的描写最近多いよなwww

なんだか話題が膨らみすぎて書き手さんにプレッシャー
掛けてるみたいになってたら申し訳ない。
雑誌に投稿とか個人の自由だから気にせず頑張って書いて下さい。
この件で書き手さんが投下しにくい雰囲気になったら
マズイから漏れは名無しに戻りますノシ

>>311
もっと自信持って。
漏れはGJだ。ガンガレ!


このスレ本当に好きだ!
315名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 21:51:07 ID:VIrCgvCS
>>112の者です。
例によって小ネタでエロ無し


 夏。
 海、スイカ、夏休み、水着、避暑……多くの人がそこから連想するのはこん
な所だろう。だが、俺を含む高校球児にとって夏と言えば夏の大会なのだ。
“甲子園”とは言えないあたりが弱小校の哀しいところだ。
「しんたろー、学ラン貸して学ラン。明日それ着て応援するから」
 ところが我がイトコ、ドアホの遥はそんな事実もどこ吹く風、試合に出る俺
本人よりもはしゃいでいる。
「やめとけよ明日も暑くなるし――」
「あはは。サイズでけー」
 人の話を聞け。勝手に人の服を着るな。
 説教の一つでもしてやりたかったが学ラン姿を見た瞬間、一切の言葉を忘れ
てしまった。
 女にしては背の高い遥は、短く切った髪も相俟って不気味なほどに学ランが
似合っていた。
「スゲ、本当に男みたいだ……」
 素直に感動しただけなのだが、「どーゆー意味だッ?」と回し蹴りが飛んで
きた。的確に正中線上を狙ってくるから性質が悪い。
「お前な……エースに怪我させる気か?」
 ミゾオチを押さえて蹲る俺に、高らかな笑い声が降り注ぐ。
「エ、エース……ぷくく……ボクにマウンド奪われたあんたがエース?」
「笑うんじゃねえよ! 俺しか投手できるやつが居ないんだからしょうがない
だろ? 俺が入部するまでピッチャーやってた佐藤先輩なんて去年までショー
トだったんだぞ!」
 総部員11名の我が野球部(内4名が高校から野球を始めた)は満足に投手
も揃えられないのだ。
 おかげでリトルリーグ時代は二番手(エースが遥だったのが何より悔しかっ
た)で、中学時代も『サウスポー』というステータスだけで投手をしていた様
な俺がエースに大抜擢された。
「よしよし、ボクが悪かった。師匠としてしっかり見届けてやるから頑張るん
だぞ」
「誰が師匠だ、アホ」
 悪態で返してやると、しかしながら遥は急に真顔になった。
「頑張るんだぞ」
 ずい、っと顔を近づけられる。俺は真摯な眼差しを受け止めて「おう、任せ
ろよ」と答えた。
316名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 21:52:05 ID:VIrCgvCS
『6番、ピッチャー吾妻くん、背番号1』
 1−3で迎えた9回裏、二死、一三塁にランナー。
 7、8、9番は今日ノーヒットだ。何とかここで二点取らないと……
 バッターボックスに立つと、一塁の佐藤先輩と目が合った。俺なんかにマウ
ンド譲った挙句負けたんじゃ、悔やむに悔やみきれないだろう。絶対追いつい
てやる。
 一球目。外角にストレート。際どい。がストライク。
 コースはいいけど、球威は落ちてる。打てる。
 二球目。低めの変化球。またもギリギリでストライク。
 遊び球は無い、次だ。決め球はストレートだろう。思い切り引っ張って外野
の頭を越せば、佐藤先輩は帰って来れる。やってやる。
 ああ、そういえばライトスタンドにはあいつが居るんだっけ。
 リトルリーグの時はあいつにエースの座も4番の座も奪われて……悔しかっ
たけど、妬ましいとかは全然思わなかったな。ただ単純に「すごい」って思っ
て……ああそうだ、あいつみたいになりたくて練習したんだっけ。
『師匠としてしっかり見届けてやるから、頑張るんだぞ』
 師匠に恥じかかせるわけにはいかないだろ。
 内のストレート。予想通りの球をフルスイングで捉えた。
 ボールは青空高く舞い上がり――ライトのグラブに納まった。
317名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 21:53:11 ID:VIrCgvCS
 家に帰って軽く汗流して、それから後は何をする気にもなれなかった。ベッ
ドに横たわって静かに身体を丸めていた。
 何時間そうしていただろうか、不意にノックの音が重い静寂を破った。
「晋太郎、入るよ?」
 声の主は返事も待たずに部屋に入ってきた。遥だ。
「ご飯。食べよ」
「……」
 声を出すのも億劫だった。数秒、沈黙が二人を包んだが遥はずかずかと俺に
歩み寄ってきた。
「いつまでもウジウジしてんな、バカっ!」
 一喝。胸倉を掴まれ無理やり上体を起こされる。
「あんた力全部出したんだろ? だったら何で――」
「俺のせいで負けたんだぞ。3点取られて最後のチャンスにフライ上げて……」
 『悔いの残らないよう全力で』なんて嘘だ。全力出し切ったって悔いは残る。
佐藤先輩の高校野球は俺が終わらせたんだ。申し訳なさで胸が潰れそうになる。
「あんたのせいじゃないよ」
「そんなこ――」
「いいから聞けっっ!」
 嗚咽の混じった声で、俺の言葉はかき消された。
「あんた一人でなんでもどうにかできるわけじゃないだろ? 自分のせいだ、
なんて調子に乗るなバカ。あんたは頑張ったよ」
「負けたんだぞ、俺? お前の期待、裏切ったんだ」
 何を言ったって、その事実は変わらない。
 だが遥は首を横に振る。
「裏切ってない。あんたは頑張った。ボクは頑張れって言ったけど、勝て、な
んて一言だって言ってない」
「……」
 返す言葉が見つからない。
「あんたが頑張ったの、ボクはわかってる。だから誰にだってあんたのせいだ、
なんて言わせない。そんなこと言うやつ全員殴り倒してやる。あんた本人だっ
てそうだからな!」
 最早ぐうの音も出ない。いや、一つだけ言えることが、言わなきゃいけない
ことがあった。
「遥……」
「ん?」
「ありがとな」
 夏の大会は終わった。
 でも、夏はまだ、始まったばかりだ。
318名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 21:54:11 ID:VIrCgvCS
以上です

ボーイッシュな娘はスポーツが良く似合う……気がする
319名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 22:22:49 ID:M8UUEbjA
胸がキュンとしたからageる
320名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 22:29:11 ID:WD12rlFQ
エッチ入れる努力ぐらいしようや
321名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 23:41:32 ID:jBWwhYiN
322名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 00:22:41 ID:F/oBHqPb
>>318
GJ!続きとゆうか今度はエロが見たい。せめてキス的な付き合うみたいな話
>>320
自重しろ
323690:2007/07/28(土) 04:22:13 ID:MbNchYeI
ファンタジー
267続き
エロ無し
若干グロ描写あり


 本来なら、明日に備えての仕込み作業をしている時間帯である。
 帰ってきたと思ったら突然ヴィクターにしがみ付き、いつになく取り乱した様子で事の顛末を話
すクロルを前に、ヴィクターとウィルトスはしばし言葉を失った。
 ボロボロに破け血に染まった服を見咎めて、怪我をしたのか、と問うと、これは返り血で、自分
は無傷だと声を荒げる。分かったからとにかくシャワーを浴びて着替えて来いとなだめると、クロ
ルは子供のようにぐずりながらも、素直に浴室へと向かった。
 そして、今に至る。

 落ち着きますよ、と言ってウィルトスが用意したミルクティーを熱そうにすすりながら、クロル
は正面に並んで座る二人の元上官を伺い見て沈黙した。
「つまり、エリーから相談を受けたその足で、俺たちに何の連絡もなく怪しげな男の家に様子見に
行って、挙句襲われて逃げてきたと――そういう事だな」
 話の口火を切ったのはヴィクターである。
 眉間に深々と皺を刻み、明らかにクロルの軽率な行動に憤慨している。
 クロルはティーカップを持ったままもごもごと口ごもり、重苦しい沈黙に耐え切れず、小さく
うん、と頷いた。
 ヴィクターが盛大に溜息を吐き、いらだった様子で眉間を押さえる。
 ウィルトスにちらと視線をやると、こちらも渋い表情で考え込むように軽く顎の辺りを撫ぜた。
「……反省してる。軽率だった……」
「反省して済む事じゃねぇだろう……殺されてたかもしれねぇんだぞ!」
「……ごめん」
「それにしても妙ですねぇ。クロルさんは決して、自分の実力を過信するタイプではない。僕達の
中で誰よりも慎重です。そんなクロルさんが何故、危険だと分かっている男の家にみすみす踏み込
んだんでしょう」
 それは、と呟き、もごもごと口ごもる。
「な……流された、というか……抵抗するタイミングがなかったというか……」
 ちらと、ヴィクターの不機嫌顔を伺い見る。
 クロルは唇を噛んでカップを睨み、ごく小さく、囁くように呟いた。
「……竦んでました」
「ほう。怖かったんですか」
 驚いたようにウィルトスが聞いた。
 問われて、ゆっくりと首を縦に振る。
 何か言おうと口を開きかけたヴィクターを静かに制し、ウィルトスは納得したように目を閉じて頷いた。

「クロルさん。大丈夫。ヴィクター君は怒ってるわけじゃありません。ただ、君が帰って来た時の
ヴィクター君の表情は、今にも心配で気を失いそうでした」
「おっさん!」
「おや、恥ずかしいんですか? 僕は心配で今正に発狂しそうです。僕の可愛い教え子を怯えさせ
る程の異常者がこの町にいて、それが僕の教え子に接触した。激しい憤りを覚えます。マジでブチ
切れです。第一、クロルさんは大人で、頭がいい。自分の過ちはよく理解しているはずです。今僕
たちがすべき事は、クロルさんの過ちを責める事ではない」
 真っ赤になって立ち上がり、声を荒げるヴィクターを平然と見上げ、ウィルトスは不安そうに俯
いていたクロルに微笑みかけた。
 ヴィクターがそりゃあ、そうだけどよ、ともごもごと呟き、結局諦めてソファに座りなおす。
「クロル。単刀直入に聞くぞ」
「ん」
「やられたのか」
 ゴガッ、と物々しい音を立てて、クロルがヴィクターにガラス製の灰皿を投げつけた。
 その様子にウィルトスが吹き出し、ヴィクターが痛そうに背を丸める。
324690:2007/07/28(土) 04:23:01 ID:MbNchYeI
「なんで投げる!」
「やられるわけないだろ! なんもされてないよ馬鹿!」
「心配してやってんのに馬鹿とは何だてめぇ! 服破かれてんのに何もねぇわけあるかよ!」
「誰も心配してくれなんて頼んでないだろ!」
「帰ってくるなりピーピー泣きやがったくせによくそんな――!」
「泣いてないよ失礼だな! ちょっとびっくりして取り乱してただけだろ!」
 激昂してテーブルを叩き、立ち上がったクロルの勢いに、ヴィクターが競り負けた。
 確かに、泣いてはいませんでしたねぇ、とのんびりと構えるウィルトスに、あんたどっちの味方
だよ、とヴィクターが吼える。
 どうして僕が君の味方をしないといけないんですか、と逆に問い返されて、ヴィクターは二の句
が次げずにがっくりと肩を落とした。
 全く持って、ごもっともな意見である。

「……キスはされたけど」
「なん――!」
 あんぐりと口をあけたヴィクターの間抜け顔に、クロルは一瞬思い出すような沈黙を挟み、次の
瞬間、ぞぞぞ、と全身を震わせて自らの肩を抱きしめた。
 努めて忘れようとするように、ぶんぶんと首を振る。
「生涯で一番気持ち悪いキスだった……うえ、なんか吐きそう」
 げぇ、と舌を出しながら再び腰をおろしたクロルに対し、ウィルトスがのんびりと首をかしげる。
「ヘタクソだったんですか?」
「テクの問題じゃありません! なんかこう、ねっとりとした雰囲気と言うか……それで僕、我慢
できなくて思いっきり殴ったんです。それなのに、鼻、折れた感触は絶対あったのに、そいつ全然
痛がらなくて……そのあともとにかく急所狙って思いっきりやったのに、全部直撃してるくせに気
絶するどころか余裕で復活してきて……」
「ヴィクター君を上回るタフネスぶりですねぇ……薬物依存患者ですか?」
「いえ……危ない目はしてましたけど、ジャンキーって感じでは……で、でもとにかく危険人物な
んです! 二度と近づきたくないレベルで。明日、朝イチで市警団に連絡してとっつかまえてもら
うべきです!」
 ぐっと拳を握り締めて、クロルは嫌悪感を怒りで誤魔化そうとするように声を荒げた。
 余程ショックだったのだろう。
 襲われた事が――と言うよりは、その非常識な不死身振りが。
 怒りなのか衝撃なのかよく分からない感情で行動不能に陥っているヴィクターを横目で見やり、
ウィルトスはふむ、とわざとらしく困った表情を浮かべて見せた。

「君は、どうも自分の実力を過小評価しすぎていますね。通常の基準から考えれば、君は決して弱
くない。クロルさんが逃げざるを得なかった相手に対し、市警団ごときが何か出来るとは思えません」
「でも、人数が集まれば……!」
「百人の武装した市警団と、完全武装したヴィクター君と、どちらが勝つと思いますか?」
 この質問に、大多数の回答者は市警団が勝つと答えるだろう。
 普通に考えれば、数が多い方が勝つ。
 だが、クロルが出した答えは違っていた。聞くまでもなく答えは分かっていますとでも言うよう
に、ウィルトスは話を続ける。
「この町はもう、その男のテリトリーであると言っても過言ではないでしょう。自らの陣地で獲物
を待っている敵は、フェアな状況で戦うよりも遥かに強い。市警団は軍の末端組織のような物です
から、市警団で手に負えなくなって初めて軍が出てきます。軍が腰を上げれば解決は早いでしょう
が――」
 それまでに多くの犠牲が出るのは確実だ。
 市警団の団員だけで済むかもしれない。だが、あるいは被害は町全体を巻き込むかもしれない。
「事態が大きくなると、それに伴って被害も増大します。今回の一件は、市警団に連絡するのは得
策では無い。あくまで少数勢力でぶつかって、極小規模で全てを収める必要があります」
325690:2007/07/28(土) 04:23:51 ID:MbNchYeI
 その意味が分からないほど、残念ながらクロルは馬鹿ではない。
 それは――それはつまり。
「襲う相手を選ばなければ自らの命を危険に晒すという事を、たっぷりと教育して差し上げましょ
う。傭兵リーベルタースの一員に手を出すとどうなるか――噂を立てておくのも大切な営業活動で
しょう?」
 僕、まだ傭兵になったつもりないんですけど――。
 そんな反論が一瞬頭に浮かんだが、今のヴィクターとウィルトスを前にそんな勇気ある発言が出
来る者はいないだろう。
 大丈夫。決して僕が臆病なわけじゃない。
 クククク、と肩を揺らすウィルトスの楽しそうな笑みに引きつった笑顔を返し、クロルは悪鬼の
ような表情で虚空を睨むヴィクターの存在をあえて無視してすっかり冷めた紅茶を一口飲んだ。


 ***


 クロルは人を殺した事がなかった。
 入隊してからずっと化物の相手をしてきた。初めて人間に銃口を向けたのは、軍をやめて傭兵の
真似事をするようになってからだ。
 足を狙えと命じられ、全力で走る強盗の脚を狙って引き金を引き、当てた。
 化物の断末魔の比ではなかったが、人間の上げる悲鳴はあまり気分のいい物ではない。
 人の命を奪った代償が腕一本や足一本なら安いもんだとヴィクターは平然としていたが、クロル
は自己満足だと理解しつつも武器のカタログを読み漁り、殺傷ではなく沈黙を目的とした武器を手
元に置くようになった。
 ゴム弾を用意した時はゲームじゃねぇんだぞ、とヴィクターが顔を顰めたが、不満を込めて
ヴィクターに発砲すると、激痛にひとしきり悶絶した結果二度とやるなと怒鳴られた。
 その後改めて説明書を読み、至近距離で撃つと骨が砕けるという事実をクロルが知った時、
ヴィクターは痣になったぞと文句を言いながら風呂上りのビールを煽っていた。

 人を殺すのは怖いと思う。
 それは多分、自分が殺されるのは怖いと思うのと同じ事なのだとクロルは思っていた。
 奪う側の人間は、常に奪われる事を覚悟しなければならない。
 誰か一人を殺したら、十人の人間に恨まれる事を覚悟しなければならない。
 十人の人間に命を狙われる事を覚悟しなければならない。
 そしてその十人の内の誰か一人でも殺したら、その人に関わる更に十人の人間に恨まれることを
覚悟しなければならない。
 そして何より、自分の大切な人が奪われる事を覚悟しなければならない。

 クロルには、その覚悟をする勇気がなかった。
 奪われるものか。守ればいいのだ、と開き直るだけの力もなかった。
「今回はクロルさんはお留守番です」
 だからなのだろうか。とクロルは思った。
 覚悟も、勇気も、力もないから、自分は置いていかれるのだろうか。
 ヴィクターは、人を殺した事があると言う。ウィルトスはヴィクターよりも軍歴が長い。一度や
二度、人の命を奪った事もあるだろう。
 綺麗――という表現を使うのには違和感がある。だが、自分だけが人を殺めた事がないというの
は事実だ。
 それが誇るべき事なのか恥じるべき事なのか、クロルには分からなかった。

 闇に乗じて侵入しましょう、とウィルトスが決定を下し、クロルは留守番だと伝えられ、そして、日は完全に地平線の彼方へ落ちた。
「おい、お前本当に大丈夫か?」
「え?」
 リビングルームで他の二人が準備をしている中、当然、留守番を言い渡されたクロルにはやる事
がなかった。
 だからと言ってその輪から外れるのが嫌で、本を読みながらリビングのソファに居座っていた
クロルの顔を、隣に座っていたヴィクターが心配そうに覗き込んだ。
 何が、と問うクロルに対し、ヴィクターがこれだよ、と天井を仰ぐ。
326690:2007/07/28(土) 04:24:40 ID:MbNchYeI
「なんともベタなボケ方ですが――さかさまです」
 テーブルを挟んだ向かいのソファでリストを点検していたウィルトスが、リストから顔を上げて
クロルの手元当たりに視線を投げた。
「……さかさ?」
 おいおい、とヴィクターが半ば怯えに近い声を発する。
 ウィルトスの視線を追ってしがたまで眺めていた字面を見つめ、クロルはようやく言葉の意味を
理解した。
 なるほど、見事に上下逆である。
 ほんとだ、と呟いて本を正しく持ち直し、クロルは再び本の字面に視線を落とした。
 困惑した表情で、ヴィクターがウィルトスと顔を見合わせる。
「おまえ……ほんとにどうした? 熱でもあるか?」
「なんだよそれ。ないよべつに」
「じゃあどこか痛むのか? 襲われた時やっぱり何かされたのか?」
「されてないよ! なんでそういう話になるんだよ!」
「だっておまえ、明らかに調子悪いじゃねぇか! じゃあ他に何かあったのか? 俺か? 俺何か
やったか?」
「なんでもないってば、うるさいなぁ! ただ、ちょっと考え事してるだけだよ。部屋よりここの
方が落ち着くから……」
 ちらと、ウィルトスに視線を投げると、予想外に視線が絡んでしまい、クロルは慌てて目を反らした。
 ふむ、と頷き、ウィルトスがリストをテーブルに放り出す。

「そう言えば、クロルさんが今回お留守番な理由をまだ話していませんでした。気になっていたの
は、それに関連する事ですね?」
 確認するような口調で聞かれ、クロルは否定しようとして口ごもった。
 ウィルトスはもう、確信している。
 白を切ろうとしたとして、どうせ結局は暴かれてしまうだろう。
 クロルの沈黙を肯定と理解して、ウィルトスはどうぞ続きを、と仕草でクロルを促した。
「なんだよ。留守番だからって拗ねてんのか?」
 呆れたような、安堵したような、そんな調子でヴィクターが問う。
「拗ねてない。僕も、あいつには会いたくないし……」
「じゃなんなんだよ!」
「どなるなよもう! ただちょっと……気になるっていうか、ひっかかるっていうか……」
 いつになく歯切れの悪い話し方をするクロルに対し、ヴィクターはいらだって乱暴に溜息を吐いた。
 ヴィクターのその態度を心の中で罵りながら、クロルは唇を尖らせてむっつりと自分の膝のあた
りを睨んだ。
「僕は人、殺した事ないから……いざって時に躊躇して、殺せなくって、それで足、引っ張るだろ
うって……思ってる?」
「……はぁ?」
 クロルの真意を計りかねているのか、単に質問の意味が理解できなかったのか、ヴィクターは首
を前に突き出して問い返した。
「それかさ……僕が例えば人、殺したらさ……取り乱して、精神病んで、もう使い物にならなくな
るとか、そういう風に思ってる?」
「おい待て、なんだそりゃ。つまり何が言いてぇんだ」
「だからさ……! ひ、人を殺した事がないと……傭兵として、半人前で……仲間じゃないのかなって。
人が殺せないのは、悪い事なのかなって……」
327690:2007/07/28(土) 04:25:29 ID:MbNchYeI
 ヴィクターが言葉を失い、唖然としてクロルを見下ろした。
 黙って話を聞いていたウィルトスが、不意に声を上げて笑い出す。
 その笑い声にはっと意識を取り戻し、ヴィクターは手の平で顔を覆ってがっくりと肩を落とした。

「おまえ……時々ほんっととんでもねぇ事考えるな!」
「だ、だって……! だって、なんか、二人にだけ汚れ役押し付けて、自分だけいい子ちゃんして
るみたいで嫌なんだもん! 僕が人殺し嫌いだから……だから、人殺す時はこいつには留守番させ
とこうとか、そういう風にされるのも嫌だし……!」
「誰がいつそんな事言ったよ! 人殺すのに抵抗ない奴がいたら逆に嫌だろ!」
「だけど、殺さなきゃいけない時だってあるじゃないか! そんな時、僕はきっと躊躇するから、
だから今回は留守番させるんだろ!」
「いや、だからなんでそういう話に――」
「クロルさんは、今回僕たちが“殺しにいく”と思ってるんですよ。確かに、少し誤解を生む発言
が多かったかもしれませんねぇ」
 ようやく笑いが収まったのか、ウィルトスが始まりかけた口論に口を挟む。
 するとヴィクターはぎょっとしてウィルトスを振り返り、直後に全てを理解したのかゲラゲラと
笑い出した。
「ち……違うんですか!」
「殺さねぇよ馬鹿! おまえ、防衛行動でもねぇのにたかが傭兵が政府の許可なく殺人を犯したら、
俺たちが犯罪者になるだろうが」
「な、な、なんだよ……! だって、じゃあなんで僕は留守番なんだよ!」
「それはですねぇ、クロルさん」
 困ったような、呆れたような、そんな表情でウィルトスかヴィクターに視線を投げる。
 瞬間、ヴィクターに乱暴に腰を抱き寄せられ、クロルは驚いて悲鳴をあげた。
「お前を襲った野郎の視界にお前が入る事がもう許せねぇ。同じ空気を吸うのも我慢ならん。お前
を連れてくと理性が切れてマジでターゲットを殺しかねねぇから置いていくんだ」
「な……な、なん……!」
「ちなみに、人を殺した経験がどうという話ですが――殺人の経験ならば、喜ばしい事に僕も一度
もありません」
「そうなんですか!?」
 殺さなくても捕らえられるだけの頭があるもので、と笑うウィルトスに、馬鹿で悪かったなと
ヴィクターが吼える。
 
 つまり――それじゃあ、留守番の理由はただの――。
「独占欲が強い男に愛されると苦労しますね」
 同情します。それ以上の事はしませんが――と、ウィルトスがどこかで聞いたような台詞を吐く。
 ヴィクターに膝に抱え上げられ、子供がぬいぐるみにそうするように背後から抱きすくめられな
がら、クロルは全ての事に対するやる気を完全に失ってぐったりと脱力した。


 ***
 

 そう言えば今日、夕方頃かな。水車小屋の方からパン屋さんの車が物凄いスピードで走って来る
のを見たけど、何か急ぎの配達でもあったのかな。
 そう、夕食の席で父が零したその言葉に、エリーは食事中にも関わらず真っ青になって立ち上がった。
 クロルがエリーの願いを聞き入れて男の家に様子を見に行き、そして、きっと何かよからぬ事が
あったのだと直感的に悟ったからである。
 やだ、大変、と叫んで食卓を離れ、エリーは玄関先に置いてある電話へと飛びついた。
 夜はこっちにかけてね、とクロルが教えてくれた電話番号をダイヤルし、早く出て、と祈りを込める。
 そしてクロルの声が受話器を通して鼓膜に届いた瞬間、エリーは今にも泣きそうな声で大丈夫、
怪我してない、と一方的に捲くし立てた。
 なんだかよく分からないけど、僕なら別に平気だよ、とクロルは笑った。
 そして少しの間取りとめの無い雑談をし、今、家に一人だから遊びにこないかと誘われて、
エリーは二つ返事で遊びに行くと甲高く声を張り上げた。
 それが、今からほんの十分前の事である。
328690:2007/07/28(土) 04:26:28 ID:MbNchYeI
「なんであんたがついてくるのよ!」
 車の助手席にお行儀よく座りながら、エリーは運転席のルーベルに向かって拳を振り上げて文句
を言った。
 私が誘われたのよ、とか、あなたクロル君のこと嫌いなんでしょ、とか、ありとあらゆる不平不
満を並べてみても、ルーベルが引き下がる様子はまるでない。
 玄関先で帰ってよねと何度釘を刺しても正にぬかに釘状態で、ルーベルはお前が帰るまで俺も中
で待たせてもらうと言って聞かなかった。
 ルーベルは、クロルのことを男だと思い込んでいる。
 エリーもクロルもその事に気付いていたし、いつでも訂正する事は出来るのだが、クロルは面白
いから自分で気付くまでほうって置こうとエリーに悪戯っぽく笑いかけた。
 その、子供のように無邪気に笑うクロルの笑顔が、エリーはたまらなく愛おしく思う。
 エリーは他の女友達の間で、クロルの事を私の可愛い小悪魔ちゃんと呼んでいた。

 ついたぞ、とぶっきらぼうに言うルーベルを無視して車を降りて、急ぎ足で玄関に向かう。
 クロルの家は、多くの自営業店がそうであるように、一階がテンポスペースになっており、居住
スペースは外付けの階段を上った二階にあった。
「お行儀翼してよね。恥かくのは私なんだから」
「こんな夜中に女を呼び出す野郎に礼儀なんかもてるかよ」
「あのね。私たちはお友達なの。何を勘違いしてるかしらないけど、勝手な詮索はやめてよね」
 つん、と視線を反らして階段を駆け上がり、エリーは「男はみんな狼なんだぞ」と本気で説教を
垂れるルーベルを無視して一度だけ呼び鈴を押した。


 ***


 クロルは寝室から持ち出した枕を抱いてソファの上に寝転がり、そわそわとしながら何度も時計
の指針を確認していたクロルは、部屋に響いた呼び鈴の音に勢いよく立ち上がった。
 クロルにとってエリーとは、可愛い新作の洋服や、愛らしいぬいぐるみの話が出来る唯一の女友達だった。
 ヴィクターに聞かれると馬鹿にされるし、ウィルトスがいるとエリーとまともに会話が出来ない
ため、クロルの家でエリーと長話できる機会はそうそうない。
 取って置きの紅茶も用意したし、エリーが好きなパンも用意した。
 クロルは満面の笑みを浮かべて玄関に走り、何の確認もせずにロックを外して来客者を招きいれた。
「早かったねエリー。まだ三十分も経ってな――」
 白い、小さな花弁の愛らしい、名前も知らない花だった。
 鮮やかなパステルカラーの花々を飾るように、ふわりと広がる雪のような白い花。
 綺麗――と言うよりは、可愛いという表現が妥当だろう。
 そんな花束がドアを開けた瞬間視界いっぱいに飛び込んで、クロルは一瞬、ぽかんとしてその
花束を凝視した。
 その、花束の向こうに見える、見覚えのある黒のストライプ――。
「受け取れ。お前にやる」
 瞬間、クロルは相手の顔も確認せずに叩きつけるようにドアを閉めた。
 だが、最後までしまる前にドアが何かに引っかかる。
 圧倒的な力で再びドアをこじ開けられ、クロルは悲鳴を上げて飛びずさった。
「なんで……なんで……!」
 なんでここが分かった――などと聞くのは馬鹿馬鹿しい。
 何しに来た――などと言う質問は、それより更に馬鹿げている。
 ヴィクターとウィルトスが仕損じるはずがない。ようは単純に、“入れ違い”になったのだ。

「歩いて随分とかかったぞ。本当に正反対の場所にあるんだな。だがパン屋――オレから逃げられ
るなんて思わないほうがいい。オレはもう、お前を食うと、決めたんだ」
 虚ろな瞳で満面の笑みを浮かべ、今にも気を失いそうなクロルを追い詰めるようにゆっくりと
一歩踏み出した。
 ひぃ、と叫んで廊下を走り、リビングルームに駆け戻る。
329690:2007/07/28(土) 04:27:27 ID:MbNchYeI
「お前、他の奴と少し違うな。変わってる。オレはあの後鼻血が止まらなくなって、危うく窒息死
だった。視界もぼやけてぐらぐらしたし、オレは見た事のない世界に踏み込んだ」
 何故、大人しくそのまま死んでくれなかったのだ――!
 クロルはゆっくりと迫りくる巨大な影に、恐怖で膝が笑うのを意識した。
 武器を手に入れなければ。
 素手では絶対に敵わない。
 バサリ、と男が花束を床に投げ捨てた。自室に向かって走り出したクロルの背後で、背広を脱ぎ
捨てネクタイを解く音がする。
 クロルは声の限りに絶叫しそうになるのを全神経を戦闘に集中させる事で必至に堪え、真っ直ぐ
に自室の部屋に飛び込むと内側から鍵をかけた。
 ベッドサイドに置いた戸棚の引き出しに銃がある。
 装填されている弾はゴム弾だが、骨を砕けばさすがに立ち上がってはくるまい。至近距離で撃て
ば皮膚だって突き破る。
 ガチャリ、と、ドアノブが回される音がした。
 ぎくりとして銃を構えて振り返り、乱れた呼吸を意識して整える。
「ここにいるんだな。パン屋」
「入って来るなぁ! 入ってきたら発砲するぞ! 今すぐ僕の家から出ていけ!」
 怒鳴った途端、男の立てる物音が途絶えた。
 嫌な沈黙が数秒流れ、頬を伝う冷や汗にクロルが静かに息を呑む。
 とん、ととん、とリズムをとる音が聞こえた。
 床――足だろうか。ステップを踏むように軽やかに――。
「嘘だろ……うそ。ないない。無理だ。出来るはず無い……」
 ――しまった。このドア、木製だ。
 木製の製品が嫌いになりそうだな、と半ば諦めに近い思考が脳裏を過ぎった。
 衝撃が弾ける。
 ドン、と重々しい音がするのとほぼ同時にめきりと鋭い音がして、ドアの一部が裂けるように
崩壊した。
 貧弱な蝶番がひしゃげてはずれ、あり得ない方向にドアが開く。
「おまえが――」
「ッ――うわぁああ!」
 悲鳴を上げて、クロルは姿を見せた男の脚部めがけて発砲した。
 バチン、とゴムの弾ける音がして、男が怯んだように片膝を崩す。
 だが次の瞬間、戦慄したのはクロルだった。
 持ちこたえた――しかも、痛みを感じていないような笑みである。

「おまえがそれを望むなら、オレを好きなだけ痛めつけていい。オレにとっておまえからの攻撃
は……そう、どんな痛みだろうと最高のスパイスだ! さぁ、一つになろう。オレにお前を味わわ
せてくれ!」
 一発やらせれば満足するのだろうか。この男の言う“食う”という意味が分からない。
 犯されながら殺されるのはごめんだ。しかも、その後本当に死体を食われたらどうしよう。
 いつの間にか肌蹴ていたワイシャツを脱ぎ捨てて、男はクロルにつかみ掛かった。
 手首を捻り上げられ、銃が落ちる。
 そのままの勢いで床に叩きつけられ、クロルは覆いかぶさってきた男と自分自身の間に膝ねじ込
んで渾身の力を込めて突き飛ばした。
 吹っ飛び、本棚に突っ込んだ男の腹に足をかけ、その顔面に拾い上げた銃を突きつける。
「――凄いな。パン屋」
「指一本でも動かしたら撃つぞ。いくらゴム弾でも、さすがに死ぬぞ」
 ぜぇぜぇと息を吐き、クロルは感心したようにこちらを見上げる男の顔を涙を堪えて睨み下ろした。
 次の瞬間にも形勢が逆転していそうな恐怖感。それとは対照的に、銃口を突きつけられている方
は全く恐怖心を抱いていない。
「はぁ……たまらない。これは、まるで新発見だ。未知の領域だ。こうされているだけで、オレは
もう、もうどうにかなっちまいそうだ。いつも以上にたけり狂っている。最高だ、この痛み……
もっと、もっと強く……強くオレを踏んでくれ!」
「いやぁあぁ!」
330690:2007/07/28(土) 04:28:12 ID:MbNchYeI
 腹に置いていた足を振り上げ、クロルは男の顔面を踏みつけた。
 縋るように伸ばされた腕を蹴り払い、床に伸びた腕を踏み砕く。
 それでも怯まず伸ばされたもう一本の腕に超至近距離でゴム弾を発砲し、クロルは飛び散った血
飛沫に怯まずもう一度男の顔面を蹴りつけた。
 死んでもいい。むしろもう、死んでくれた方がいい。

 ようやく動かなくなった男の体を蒼白な表情で見下ろし、次の瞬間、甲高く響いた呼び鈴の音に
クロルは文字通り飛び上がった。
 ――エリー。
 そうだ、エリーを呼んでいたんだった。
 脱力したクロルの手から、重々しい音を立てて銃が落ちる。
「エリー……」
 あの、愛らしく華やかな笑顔に会いたい。
 柔らかな体を抱きしめたい。
 クロルはふらふらと自室を離れ、玄関へと急いだ。
 男が脱ぎ捨てた服が点々と落ちている。
 最後に床に放られた花束を素通りし、クロルはドアを開けるなり来客者を思い切り抱きしめた。
 ふわりとする甘い香り。
 柔らかな体。
「く……クロルくん?」
「てめぇ――!」
 驚いたようなエリーの声にかぶせるように、低くドスの聞いた声がクロルの鼓膜を揺らした。
 間に割って入るようにエリーから引き剥がされ、胸倉を掴んで引き寄せられる。
「なに出会い頭によそ様の大事な一人娘に抱きついてやがる! てめぇ最初っから――」
 憤怒に燃えた表情が、瞬時に驚愕に彩られた。
 怒鳴りつけようと開いた口がぽかんと開き、襟首を掴んだままクロルを見る。
「おまえ……なんだその血」
「苦しい」
 苦しげにせきこみ、かすれた声で訴えると、ルーベルは慌ててクロルを解放した。
 状況が飲み込めずに立ち尽くすルーベルを押しのけて、エリーがクロルの肩を掴む。
「どうしたのクロル君? 一体何があったの? 怪我してるの?」
「ううん。僕は大丈夫。えーと、そうだ。あの――」
 ガタン、と部屋の奥で音がした。
 戦慄し、愕然と室内を振り返る。
 きゃああ、とエリーが悲鳴を上げて後ずさった。

「最高だ……おまえがオレに加える衝撃の一つ一つが、激しい痛みとなってオレをさらに昂ぶらせる」
 腕からだらだらと血が流れ、床に血溜りを形成しつつあった。
 二メートル近い長身を猫背に丸め、不健康で虚ろな瞳が真っ直ぐにクロルだけを見る。
「見てくれ、この傷はおまえがオレに与えた刻印だ。オレは今、かつてない喜びに打ち震えている。
オレに刻印を刻んでくれたのはおまえが初めてだ。痛みという感覚が不快なものだというのなら、
この感覚は正に今日! オレにとって痛みではなくなった!」
「おい、なんだあいつ! すげぇヤバイ目ぇしてるぞ! 完全に頭イッてねぇか!」
「に、逃げよう……だめだ、か、勝てない……!」
「これは快楽だ! さぁ、オレに更なる快楽をくれ! おまえのその身体で、オレを絶頂へと導い
てくれ!」
「嫌だぁああぁ!」
 あまりの恐怖と嫌悪感に悲鳴を上げたクロルの横をすり抜けて、ルーベルが男へとまっしぐらに
殴りかかった。
331690:2007/07/28(土) 04:29:02 ID:MbNchYeI
 男がつまらなそうにルーベルを眺め、振り落とされた拳をかるがると避ける。
 そして、勢いあまってつんのめった体目掛けて鋭い蹴りを叩き込んだ。
「ルーベル!」
 エリーが驚いて悲鳴をあげ、駆け寄ろうと足を踏み出す。
 慌ててエリーを押さえ込んで家の外に押し返し、クロルはルーベルに追い討ちをかけようと脚を
振り上げた男の軸足を思い切り蹴り払った。
 盛大に転倒した男の足を抱え上げ、床から浮いた膝を思い切り踏み下ろす。
 ごぎり、と鈍い音がして、右足の膝骨が鮮やかに折れた。
 その様子を、男が嬉しそうに眺めて笑う。
 失神しそうな恐怖感に半泣きになりながら、テーブルに激突して伸びているルーベルを助け起こす。
「キス、しよう……な? おまえとキスがしたい」
「立つなぁあぁ! 膝が折れてるんだぞ! なんで立てるんだよ!」
「あぁ。何故なんだろうって、オレもずっと考えていた。だが、分かった。オレはようやく気がつ
いたんだ」
 入り口に立ち塞がるようにふらふらと立ち上がり、男は折れた膝を物ともせずに平然とクロルに
歩み寄った。
 自分一人なら、あるいは逃げ出せるかもしれない。
 一人出なくても、恐らくエリーならば連れて逃げられる。
 だが、ルーベルを担ぐだけの力はクロルには無かった。見捨てたら恐らく死ぬだろう。
「これはそう……きっと、これが愛なんだ!」
 瞬間、男の体がなんの前触れも無く、右から左へ高速に吹っ飛んだ。
 スタンドライトをなぎ倒し、部屋が揺れる程の衝撃で壁に叩きつけられる。
 そして、ずるずると崩れ落ち、再び動かなくなった男の姿をぽかんとして見つめ、クロルは再び
正面に視線を戻した。

「何が愛だ。くそったれが」
「盛大に吹っ飛びましたねぇ……あぁ、スタンドライトが割れました」
「ヴィクター! 教官!」
 おう、と答えて、ヴィクターは安心したようにクロルに笑いかけた。
 平気か、と問われて、なんとか、と答える。
「お前の言うとおり、水車小屋の近くの家まで言って中に侵入したんだがよ。家の中に誰もいねぇ
から、無駄足だったかって思ったんだがな」
「ここのチラシが置いてありましたからねぇ……まぁ、ひょっとしたらと思い全力で引き返してき
ましたが、案の定でしたね」
 言いながら、ウィルトスは地面に倒れ付したまま動かない男のもとに歩み寄り、その顔を覗き込
むようにしてしゃがみ込んだ。
 さすがに、ヴィクターの一撃を受けたら復活しては来ないだろう。
 ぐぅ、と呻いてようやくふらふらと起き上がったルーベルは、突然沈静化した事態についていけ
ないのかきょろきょろと周囲を見回した。
「……死人が見えるぞ」
 ごぼ、と水っぽいせきをして、男がぼんやりと呟いた。
 ぎょっとしてヴィクターが男へと振り返る。
 一瞬にして緊張した一同を静かに制し、ウィルトスが静かに立ち上がった。
「俺は死んだのか。ウィルトス……そうか。死んだのか」
 なぜ、この男がウィルトスの名を知っている。
 クロルが疑問と驚愕に彩られた目を向けると、ウィルトスは後で話します、とでも言うように穏
やかに頷いた。
「クロルさん。治療セットを持ってきてください。ヴィクター君。拘束具を。エリーさんと、あと
そこの青年は、噂の市警団の人でしょうか。散らかっていますが、どうぞ適当にくつろいでいてく
ださい。しばらくは何のお構いもできませんが……」
 ウィルトスのその言葉に、クロルとヴィクターは思わず顔を見合わせた。
 だが、ウィルトスがそうしろと言うのなら、きっとそうするのが最善なのだろう。
 めんどくせぇなぁ、と文句を言いながら拘束具をとりに行くヴィクターを見送って、クロルは先
ほど自分が与えた全ての傷の手当をするには、どれだけの包帯と添え木が必要か考えながら、救急
箱と呼ぶには大げさすぎる治療セットを求めてリビングルームを後にした。
332690:2007/07/28(土) 04:34:35 ID:MbNchYeI
切らせていただきます。
次回本番。
3Pは今回は無理だった……
だが次こそは!

>>290
パメラ可愛いよパメラ!
似たような男勝りキャラが前スレにあったので、あながちスレチでもないかもしれません。
しかし、移動先でも読ませていただいてます。
GJ!

>>315
青春ハァハァ
元気で真っ直ぐなスポーツ少女GJ!

333名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 06:41:00 ID:YHfKEMXb
>不満を込めてヴィクターに発泡すると
おいwwwwwww

不審な男マジ怖え。クロル受難続きだな。
そして5失点。3P楽しみにしてます。
3人で仲良くやってる描写に思った以上に萌えたんで
マジ楽しみです。
334名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 07:05:19 ID:2RN1Mpou
なんか、キレてるヴィクターがテラターミネーターな気がしてきた。
頭の中でテーマソングが…、デデンデンデデデン!
335名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 10:27:12 ID:wGY9+irz
いつもながらクロルの心理描写と行動原理が秀逸だなあ。
エロナシでも三人の微妙な関係に萌え萌えですよ☆
でも3P期待っ!
GJ!
336名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 12:17:22 ID:Sp9vU2EB
ついに五度目の教官呼ばわりがwww
337名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 19:28:19 ID:yeP/yq1i
教官は「ドジでノロマなカメ」の枕詞
338名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 20:42:59 ID:YLU5dIpN
>痣になったぞ


ちょwwwwww
339名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 14:01:55 ID:Jl0ve05L
>>332
ルーベルかわいいよルーベル
パメラを書いている者です。
あんな駄文を読んで頂いているなんて、しかも、お世辞でもGJ頂けるなんて、嬉しいやら、恥ずかしいやら、申し訳ないやらでいっぱいいっぱいになっております。
今より、少しでも読めるものになるように精進したいと思っております。


ところで、このスレ優しい人多すぎだろ。性的な意味で。
340名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 19:30:13 ID:DJtPwIyY
至近距離からのゴム弾で痣って…
相変わらず化け物だな
341名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 05:04:44 ID:j5feOgCt
ウィルトスの方も、クロルが教官と呼ぶようしむけてる節があるし。
悪い男だw
342名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 07:37:03 ID:3JcxHZOH
>>292が投下した別スレのヒントとか教えてくれないか?

それとなく検索したが見つからないよーママンorz
343名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 13:06:45 ID:1z17Qn3M
ヴィクターとウィルトスは仲良しですねw
344名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 13:37:24 ID:WBZE+57/
兄弟仲よく、ってね。
345名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 14:03:33 ID:OZ6EnGEJ
穴兄弟か……
開き直れば幸せかもしれんな。
常に適度な嫉妬と優越感の隣り合わせで。

>>342
つ『エロくない』
346664:2007/07/30(月) 16:47:33 ID:ZNwSQEYG
3P話完成したんですが690氏も次回は3P話予定との事なので待った方がいいかな。
347名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 17:27:49 ID:OZ6EnGEJ
なにを躊躇する必要がある!
何も言わずに落とせばいいのだ!

つか、次回って次作って意味じゃなかったの?
348664:2007/07/30(月) 19:58:11 ID:vDYS+/Oa
3P
コスプレ
サンドイッチ



「五失点です、クロルさん」
凄まじいどす黒オーラを纏いながらにこやかに笑う店員の声に
げっ…と思わず口に手を当てた。
「あーあ、ひっかかってやがんの。バカだねー」
にやにやしながら店長のヴィクターが言った。
パン屋『リーベルタース』の地獄の休日が幕を開けた瞬間だった。

『ヴィクター+クロル+ウィルトス=男女男』

「今日は店が休みだから無効――」
クロルが『ですよね?』と苦笑いをしながら後ずさった。
「はい、何やら『無効』などと言う幻聴が聞こえてきましたが…」
とウィルトス。
「『向こう』がどうしたって?向こうに何か見えんのか」
と窓の外を見るヴィクター。
休日だから…とゆったりとお茶を飲んでいた三人。
昔話に花を咲かせていたのだが、ウィルトスの事を――と呼んでしまったのだ。
それはこのリーベルタースでは禁句であり、それが5回重なるとクロルにとって
地獄の一日になる。
「今回は趣向を変えましてこの様な服を用意させてもらいました」
何とも用意のいいことにウィルトスは大きな箱を持ち出すとそれを
開いた。
それを見たヴィクターはヒュ〜と口笛を吹き、クロルはさらに肩を落とした。
「そ…それって…」
ぷるぷると肩を震わせながらクロルは指をさした。
「はい、つい去年までウォルンタリア連合国政府機関の各施設や海外の大使館等で
使用されていました侍女の制服、いわゆるメイド服です」
紺色を基調とした国の正式な侍女服をどうやってこの人が手に入れたかは
いいとしよう…クロルは思った。
「だからってなんでこんなオプションまで付けなきゃならないんですか!」
カチューシャ・伊達眼鏡・フリルエプロン・ガーターベルト・白手・皮靴等の各種アイテム。
349664:2007/07/30(月) 19:59:35 ID:vDYS+/Oa
「ああ、もちろん演出ですよ。臨場感溢れるでしょう?」
「安心しろクロル、俺は気にしねぇから。」
「気にするよ!というか僕はイヤだ!こんな誰が使ったかもしれない物を着て、付けて!」
「安心して下さい、僕が全て使用済みです。」
「………」
「………」
自分から無言で5メートル程離れたヴィクターとクロルを見て
ウィルトスはさわやかに笑いながら言った。
「冗談ですよ。全て新品です、その証拠にほら僕宛に送付されてた請求書です」
ぴらっと4枚ほど連なる長い請求書をみてようやく戻ってきた二人。
「……で、今日はコレを着て…一日メイドでもやれと…」
諦めた顔で服を受け取るクロルの呟き。
「ええ、店長と僕に仕えて下さい。あ、それと下着もコレを」
色艶やかな黒・赤・紫の派手な、それでいて真剣勝負な下着が入った袋を
ウィルトスは手渡した。
「この変態…」
「最高の讃辞をありがとうございます。クロルさん。」
 深々とお辞儀をするウィルトスから袋を奪い取り頬を膨らませながらクロルは奥へと消えた。
「教官殿の趣味はソチラのようで?」
ヴィクターは腕を組み、椅子に腰を下ろしながら言った。
「一度してみたかったんですよ。それにここの常連の若奥様方には飽きてしまいまして。」
 思わず椅子からこけそうになったヴィクターであった。

「ど…どう…これでいい?」
 おずおずと店の奥から出てきたクロルを見て、ヴィクターは思わずドキッ…とした。
カチューシャ・伊達眼鏡・フリルエプロン・ガーターベルト・白手・皮靴を装備し、メインの
連合国御用達の大手メーカーが仕立てたメイド服は完璧だった。
 普段、クロルの格好はジーンズにシャツや実用的な男物ばかり。店に出るときもバンダナを
巻き、配達の服の上からエプロンを付けているだけで一目で『女性』として認識はできない。
またクロルの少年のような口調がその容姿にさらに拍車を掛けていた。常連客ならまだしも毎朝パンを配達する年配方や
たまに来る女性客、男性客には『元気のいい男の子』と思っている者がほとんどだ。
それがどうだろう…ウィルトスが用意した服を着るだけで女性と一目で認識できるのだ。
普段とのギャップにクロルがかもしだす妖艶な魅力にヴィクターの肉棒は痛い程、反応していた。
「グレイト…見事な着こなしです、さすがクロルさん。」
はっはっはと拍手をしながら笑うウィルトスはヴィクターの肩を叩き、小さな声で言った。
(好きにしていいのですよ?僕は後ろしかしませんから…)
「っ……」
 ヴィクターの中から抑え切れない衝動がわき上がってきた。ダメだ、こんなクロルを見せられたら
ビーストモードになってそれこそ本当にクロルを破壊しかねない。
一頻り頭を抱えて呻ったり、クロルに伸びる右手を左手で押さえたり、傍から見ると
意味不明でいてかなり危険な挙動を重ねた。そしてヴィクターは荒い息をつきながら何とか自分を
抑えることに成功したのであった。
「はぁ…はぁ…よ、よく似合ってるじゃねぇか…」
「そんなに鼻息荒くして言われても僕、困るんだけど…しかもコレ絶対、特注品だろ。」
 むすっとして口を尖らせるメイド・クロル。
よくよく見ると服は一回り小さいサイズなのか、やけに身体のラインがはっきりとして見える。
スカートの丈もかなり短く太腿の半ばまでしか伸びておらず、この短さでは少し歩いただけ
でも裾が翻り、ガーターどころかパンティーが覗いてしまう。
膝上までが紺色のストッキングで覆われ、ガーターベルトで引き上げられていた。
まさしくウィルトスがオーダーメイドした特注品に他ならない。
「くぅお…!!」
 ヴィクターがまたしても悶絶し始める。そして命を削るような自重。
「で店長様、何かするんだろ、さっさと僕に命令しなよ」
「あ、ああ…そうだな。それじゃまずそこの棚のパン――」
「いけませんね、我慢は身体に毒ですよ。ヴィクター君」
「あっ!ちょっ……!」
バッとクロルのスカートを捲り上げるウィルトス。そしてヴィクターの眼に焼き付くクロルの太股に
食い込んだガーターベルトと尻に食い込む黒いパンティー。
「パン――ツを俺にもっとよく見せろ。」
 ヴィクター覚醒完了。
350664:2007/07/30(月) 20:00:35 ID:vDYS+/Oa
「何だよ、その滅茶苦茶不自然な修正は!そんなに僕のパンティーが見たいか!この変態!」
がぁ!と怒鳴るクロルだが、背後からウィルトスによって拘束された。
そしてウィルトスがクロルの背後から耳元でそっと囁く。
「まぁまぁ……よくお似合いですよ、クロルさん」
グリュ…
「あ、ちょ、教か……んっ…」
ピクンと引きつるクロルの背中。
「…いい反応です…さすがオナニー大好きなクロルさん」
クロルのパンティーの上から秘所に爪を立てたウィルトスがフフッと笑った。
「あ…や、やめ…ん」
「そうそう…とてもいい反応です。それに僕の指の感覚を覚えていてくれるなんて…」
グリュグリ…
「かはっ…く…」
「二本にしただけでもう濡れてきちゃいました…堪えのない人ですね」
グリグリ、グリュウウゥ
ウィルトスはクロルの秘所に指を二本つき入れ、ゆっくりとかき回した。
クロルは口を横一文字に結び甘い声が漏れないよう必死に堪えた。
「クロルさんも我慢は身体に毒ですよ……遠慮しないで喘いで下さい。」
「ふ…ふざけ―――――」
クロルが思わず口を開きかけた。が次の瞬間
「ん、んんんっー!」
ヴィクターの唇がクロルの口を荒々しく塞いだ。その衝撃で伊達眼鏡がずれるが、
その頬を掴み、さらに舌をねじ込むようにキスを繰り返す。
「…ん……く…あ…」
唇をかみしめるクロルの口から僅かに零れる甘い吐息。
「さぁ、おねだりの時間ですよ。クロルさんはメイドでヴィクター君、つまりご主人様の
大切なお皿を割ってしまいました。そこで許しを請うべくする事と言えば―――――」
 ウィルトスが流れるような口調でシチュエーションを語り出した。
「働いた分のお給金もらって職安に行きます」
「『ご主人様の肉棒をクロルのマンコにぶち込んで下さい。』と気持ちを込めて言ってください。」
「……それは強制ですか?」
クロルの双眸がジト目になりウィルトスを睨んだ。
「いいえ、これは任意です。ですが言ってくれない場合、明日もその格好で前と後ろにバイブを突っ込んだまま、
店番をしなければならない特典がついてきます。」
 とんでもない事をさらっと言うウィルトスを前にクロルの決断は速攻だった。
351664:2007/07/30(月) 20:02:08 ID:vDYS+/Oa
「…ご…主人……さまの…に、肉棒…を…ぼ…僕の…ア、アソコ…に…ぶち込んで…下さい」
凄まじい羞恥が脳天を焼き、それに勝る熱い衝動がクロルの心を覆う、軍にいた頃の諜報任務で
ならさらに過激な事も言った事もあったが、それは任務と割り切っていた……が、これは任務ではない。
自分の意志で言っている事がこんなにも恥ずかしいなんて…とクロルはますます頬を赤く染めた。
「僕じゃなくて『クロル』ですよ?…仕方ありませんね。やはりそこは『クロル』じゃなくて『淫乱メイド・クロル』
と言ってください」
にっこりと天使のように微笑むウィルトス。そして再度クロルの秘所の指を沿わせ、肉豆を摘み上げ
クニッと軽く潰した。
「はっんん……い…淫乱メ…メイド・クロルを…イカせて…く、ください…お…おね…がい…し、しま…す」
「ふふふ…よくできました…多少のアドリブは不問としましょう、クロルさん」
ウィルトスの白い手が大きく開いている背から直に侵入し、ダイレクトに乳首をくりっと摘んだ。
「ん…っ!」
仰け反った反動でメイド服に勃起した乳首の形が浮き上がった。
「ふふ…少し育ちましたか?」
ぐにゅぐにゅと背後から左右の薄い乳肉を揉みくちゃにされ、仰け反る背。
激しい反動にガーターベルトとパンティーがクロルのつきたての餅のような柔尻にぎちぎちと食い込んだ。
汗ばんだ尻肉がスカートから覗きく様は、傍から見れば全裸よりも淫らに見える。
「それじゃ、そろそろ俺も参戦させてもらうか…覚悟しろよ、クロル」
 ずっとお預けを食らっていたご主人様はガチガチに反り返った肉棒をクロルの股間にグリグリと擦りつけながら、
大きな手で執拗にクロルの尻肉を弄んだ。
先走り汁がスカートから覗く股にかかり、テラテラと淫らな輝きを放っていた。
「ん…や…ヴィ、ヴィクターくふ…今はやめ…あうっ!」
背後からのウィルトスの指先でコリコリと左右の乳首を責められ、再度クロルは甘い声を発した。
「僕も我慢できそうにありません、クロルさん」
 ウィルトスがポキッと指を鳴らし、両腕で背後から張りつめた乳房を覆っていたメイド服の胸元を大きく開く
すると瑞々しい双乳がぷるっと飛び出てきた。
 乳首が痛々しい程、ピンと上を向いて勃起し、その白い肌は汗に濡れ妖艶な輝きを放っている。
「や、やだっ!僕は…あっ!」
ウィルトスが後ろからクロルのスカートを跳ね上げ、尻たぶを下から上へと撫でた。
「ひゃ…そ、そんな…り、両方から…」
前では秘所を覆っていたパンティー越しにヴィクターが貪り、ウィルトスは後ろからは尻を撫でたり、
こね回している。
「ん…お前、感度いいな…おとといからシテねーから溜まってんじゃねぇのか?」
「う、うるさいっ!僕はそんなHなっ――はぁ!」
 ヴィクターがパンティーをずりさげ、直に舌で秘所を舐め上げた。
「濡れてまくり。Hだな〜このメイドは」
 そしてヴィクターは淡く茂った陰毛の舌にある肉豆を舌で嬲り始めた。
「あっあああっ!さ、触るな!みるなっ!舐めるなぁ!」
羞恥に頬が染まり、クロルが喚いた。
背後からウィルトスに拘束されている両腕はビクとも動かない。
352664:2007/07/30(月) 20:03:37 ID:vDYS+/Oa
「それではこちらも…クロルさん」
前ではヴィクターが屈み、クロルの股に顔を埋めると舌で軽く肉豆を突き、責めている。
「や…やめ…んっ!ああっ!……く…んっ!」
背後からはウィルトスの軽いキスと指先での乳首責めが交互に、そしてリズミカルに繰り返される。
二人の愛撫によって得られる快感を必死に否定し、逃れようと腰を動かすクロル。が、ヴィクターが
両腕を尻に回し、ぷりっとした張りのいい尻にむにゅと指を食い込ませ、しっかりとホールド
すると間髪入れず、秘所に舌をねじ込み吸い上げた。
「はっ!あっやだ!やああああああ」
ビクンビクンッと下腹部から一気に脳天を突き抜ける絶頂に身体を痙攣させ、クロルは果てた。
「ごちそうさん……」
つーっと秘所と舌先に糸を引くヴィクターの唇。それをぬぐうとヴィクターは言った。
「それじゃ…そろそろ…クロル」
 ヴィクターが立ち上がり、ベルトを弛めた。
「はぁはぁ…ヴィ…ヴィクター」
はっとしたクロルが余韻を振り切り、顔を上げた。
「や…やめて…やめて…よ…二人がかりなんて…僕…」
「クロルさん…いけませんね。君は罪を犯したメイドなんですから…」
「そう言うこと」
 ずれたクロルの伊達眼鏡を直し、ヴィクターはクロルの両脚をその丸太のような腕で抱え、
いわゆる『駅弁』の体位を取る。
 その背後からはウィルトスがクロルの腰を掴み、動かないように固定した。びくん、びくん…と
ヴィクターの股から生えている肉棒に血管が浮かび上がり、震える度に先走り汁を放っている。
 そしてその先端がクロルの濡れそぼった秘所に押し当てられた。
「や…ヴィクター…やめて」
「悪りィ、クロル…俺、もう止まんねーわ。」
ぐちゅううううう
「あああああああっ」
クロルの潤った秘所がヴィクターの肉棒によって、貫かれ電撃のような衝撃がクロルの秘所から
脳天にかけて突き抜けた。
「おぅぅ…き、きついな…クロル!」
「それはよかった…クロルさんは小作りですから、では僕も」
クロルの双乳を握り潰しながらのウィルトス。
それに対してヴィクターは喉を反らせて悦びの声を上げた。
「えっ!?や!後ろ、お尻なんて――」
「開発済み。違うとは言わせませんよ。力を抜いて下さい――んっ」
メリメリメリ…ズブ、ズブブブブ…
「かっ…はあ…く…こ、こんな…苦し…」
 スカートを捲り上げ、ウィルトスはクロルの菊門に一気に突っ込んだ。
間髪入れずに左右に割開かれた尻肉に限界まで腰を沈め、ズンズンズンとウィルトスは腰を振り始めた。
「気持ちいい?気持ちいいですか、クロルさん?」
「あぐッ!はッ…いやああッやめて、動かないで下さ――くううう」
「もっとこっちに気ィ入れてくれ、クロル」
 ズンズンと太い鈍器のようなモノで貫かれている感覚。ヴィクターの容赦ない剣突に
クロルは呻くような声を上げた。両方を同時に責められるのは初めてだが、クロルの身体は二人を
嬉々として受け入れていた。
353664:2007/07/30(月) 20:04:52 ID:vDYS+/Oa
「あ、後で…覚えて…ろ!んはああ!」
涙を散らしながらクロルをいやいやと頭を左右に振った。身体の中心から魂まで引き裂かれるような
快感がクロルを襲っているのだ。
「くっ…締め付けが…クロルさんは本当にセックスがお好きなようで」
ウィルトスはクロルの背後から、首筋に吸い付くようなキスを繰り返す。
そして腰を尻に擦りつけるようにしてピストン運動を繰り返した。
「そうかよ…悪りィけど、こいつは俺のモンだっ!」
ヴィクターの強烈な突きに薄い胸がぷるんぷるんと弾け飛ぶように上下に動く。
その度にクロルの甘い鳴きが店内にこだました。
「あぃ…は!ンぅぅ…!やっ!やああっ!ダメ、ダメェェェッ!」
「ふっふっ…おお…クロル…絡みついて…いい具合だぜっ!」
ヴィクターがチュウウウッとクロルの乳首に歯を立て音を立てて吸い上げる。
そして狂ったようにピストンを繰り返し、腰を叩きつける。その度に床に結合部からぬめった
先走り汁と愛液との混合液が垂れ落ちた。
「あはっはああっ!も、もうダメッ!僕ッ僕ううう!!」
「くっ!?…おお…くぅ!」
 ヴィクターの剣突を受ける度に中が圧迫され、その肉棒がビクビクッと震えているのをクロルは
はっきりと感じ取った。それに呼応してかヴィクターの肉棒を食いちぎらんばかりの勢いで膣口が収縮を
始めた。と同時にウィルトスが眉を僅かにひそめ言った。
「ふふ…イキますよクロルさん…僕の射精。しっかり受け取って下さい。」
「そ、そんなっお、お尻になんて!あっあっあっ、や、やだっダメ!」
「出ますよ、クロルさん――んっ!」
ウィルトスは両腕でクロルを抱きしめ、これ以上ないほど腰と尻を密着させた。
ぶぢゅ、ぶぢゅううううううう!
クロルの菊門に完全に埋没した肉棒から白濁の塊が吐き出された。
354664:2007/07/30(月) 20:05:22 ID:vDYS+/Oa
「い…やあああ!な…っなか、で、出てて…くううんっんっんっ!」
 満ち足りた痙攣を終えたウィルトスだが、クロルが休むことを許されない。
「こ、こっちもだ…だ、出すぜクロル!」
「えっ、や!?そんな!ぼ、僕―――」
「まさしくサンドイッチですね、クロルさん」
ウィルトスはまだクロルの菊門に肉棒を埋め込んだまま、ぴったりと腰を尻に密着させている。
「や…やだ…サ、サンド…イッ…チなん、あっはっんんくうううう」
ヴィクターは目を閉じ、眉間に皺をよせて、食いしばった歯の間から
「うぉおおおおおおっ!!!」
と、野獣のように吠えると同時に、クロルの膣内で猛烈な勢いで射精した。
どぴゅ、ぶりゅううばどばどびゅうう…びゅ……びゅううう
 「は―――あぁ…はぁっ…あ…」
 下腹部が沸騰したように熱くなるのを感じたクロルは首をのけぞらせ、瞳を大きく見開いた。
そして半開きになって涎を垂れ流していた口から不明瞭な声が断続的に漏れた。
引き締まったクロルの腹筋がヴィクターの射精によりビクンビクンと痙攣し、瑞々しい汗が飛び散った。
 ヴィクターは全身をぶるぶると震わせて、子宮口に押し付けた肉棒の先端から溜まりに溜まった
大量の精液を一滴も余すことなくクロルの子宮に放った。
「な…なか……で、出てる…ヴィ…クターの…僕のなか…」
 なおもヴィクターは「うっ、うっ」とくぐもった声でうめきながら、クロルの尻に両手の指を食い込ませ、
断続的に腰を押し込んでは長々と射精を続けている。
 ようやく精液を絞り尽くして射精を終えると、充実した征服感と共に猛烈な後悔の念がわき上がってきた。
店の床の上に倒れ込むクロルの姿はまさしく蹂躙された女であった。
 メイド服のボタンは引きちぎれ、片足に引っかけた体液まみれのパンティーにスカートに飛び散る愛液、
そして尻に、股に飛び散った白濁液。眼鏡のフレームもいつのまにか曲がって、その眼鏡にも精液が付着していた。
クロルが息をつく度にとろとろと前と後ろから垂れる白濁液。
「はぁ…はぁ…も、もう…ダメ…ぼ、僕…これ以上されると…に、妊娠…しちゃう…赤ちゃんできちゃうよ…」

                  *  *  *  *

「しまった…またやっちゃった…」
 暗い自室、机の上で自慰に耽りながらアウラは荒い息をついた。
「また教官でオナニーなんて…私ってやっぱ変態かな…」
 軍を辞して田舎に引きこもったヴィクター元・少佐。それと同時に軍を辞したクロル教官。
一緒にパン屋を開いているというからきっとこんな関係もと思い、アウラは原稿を書き上げた。
ウィルトスが入っているのはご愛嬌だ。
「ヴィクター教官の筋肉、純情な心、ああ…彼がどんなマゾでもサドでも受け入れてあげたのに」
あのたくましい腕で抱きしめられたい、あの人の上で腰を振りたい、何かもうめちゃめちゃにされたい。
きっと…幼児の腕くらいはある剛直で膣をかき回して欲しい。
「ああ…ヴィクター…どうして私じゃなくてクロル教官なの」
 街の玩具屋で購入したテディベアを抱きしめながらアウラは甘い声を出した。
「……もう一回くらい…いいよね?」
 同人誌の出来映えに満足しつつ、挿絵はバルスラーに依頼しよう…と思いつつ
アウラの手は秘所に伸びていった。
「ヴィクター…」
甘い吐息を交えながら囁くアウラは再び自慰に興じた。

FIN
355名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 20:11:57 ID:bs1yj61B
GJ!最後吹いたw
356名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 21:00:35 ID:42yIwV27
気が強い女とつきあう男・気が弱い男とつきあう女↓
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1185332368/1-100
強いもの同士・弱いもの同士は引かれ合わない
つまり↓
http://www.so-net.ne.jp/mc/columns/yohito/040325/index.html
気の強い女性が好きで、自分がリードするのは苦手。寺岡呼人によれば、そんな町田直隆の恋愛関係はミュージシャンの本道らしいんです。
http://blog.so-net.ne.jp/atom_uran/2007-06-05
僕個人は、強い女性が好きです。
僕自身、弱いところもあるので、女性がガンガン強いと、憧れの眼差しで見てしまいます(哀)
http://www.kekkon-j.com/lovetalk/002/index.html
僕はね、自分がダメダメだから、強い女性が好きなんですよ。誉めてくれる人よりは、「ここがよくなかった」と言ってくれる人がいい。
もちろん、誉めてもらうと気持ちはいいけど、それだけじゃあダメで。批判がね、人を成長させてくれると思っているから。
(行定 勲)
http://hikage412.exblog.jp/m2006-04-01/
強い女性が好きなんですね。自分はめちゃめちゃ好きです。強い女性ってどんな人なんだろうって思いましたか?
意見をばんばん言う人。自分の主張ができる人ですねぇ。あくまでも自分の価値感で判断していますので怒らないで下さいね
http://www.yomiuri.co.jp/junior/articles_2003/030303.htm
作家・赤川次郎 ――主人公に元気のいい女の子が多いですね。
自分から一番遠い存在で、書いていて楽しいからでしょうか。ぼくは気が弱いので、引っ張っていってくれる強い女の子が好きです。
それに、家に閉じこもってばかりいる子では、物語が進展しない(笑)。
ぼくが運動音痴(おんち)だったので、運動神経バツグンの主人公を書くなど、自分にできない夢を登場人物に実現してもらっています。

ストーカーに狙われる女性は、男まさりで勝気な女性が多いという。弱い男が強い女性につきまとうといった図だ。
現代の男は、人形のような女性よりハッキリものが言える女性を好むようになってきているのかも知れない。
357名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 22:28:16 ID:Zl4t8NlE
GJ!
…エロもよかったがネタのがワロタのは内緒だ
358名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 00:24:29 ID:JfdZ/VMF
つーか、挿絵担当。それでいいのかw
GJだよー、本編(?)の続きも期待。
359名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 00:44:12 ID:B5PdUGeP
>>354
GJ!!
アウラさん何やってんすか!?w
って言うか、バルスラー実は絵が上手いのか。じゃなきゃ頼もうとは思わないだろう、多分。
360妄想:2007/07/31(火) 13:35:32 ID:3j65ezBc
「ちょっと、バルスラー
なんで二人ともあんたの顔で描かいてんのよ」
「バカヤロー
あいつらのツラなんて描けるか!」
「こないだのウィル×ヴィク本で描いてたじゃない」「ありゃ嫌がらせだ
教官を抱かせる気はねえ」「教官は異常に上手いし
あんた覗きでもしたんじゃないでしょうね」
「ふざけんな
あのアマのガードが緩いんだよ
汗かいたら平気でシャツ脱ぐし、シャワーは一緒だし、野営のときは「寒い」とか吐かして寝袋に入り込んでくるし…」
「とにかく、描き直さないと前の本をパン屋に送るわよ」
「…ナオシマス(ガクブル)」
361名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 17:09:59 ID:6ASRdiio
一蓮托生だなこの二人w
362名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 18:36:36 ID:WcnUhQkX
>>345
ありがとー!
早速行ってくるー!
>>348
GJ!
363名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 00:24:45 ID:ecck7UvJ
サンドイッチいかがっスか〜
364名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 09:57:47 ID:ezafT0b+
バルスラーの書いた三人が見てみたいなw
365名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 10:49:34 ID:dg/CNJRq
クロルだけ無駄に美化されているに違いない
366名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 11:22:24 ID:eFywzzPp
バルスラー×アウラは無しですか
そうですかどうもすいません
367名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 13:18:24 ID:8G6U7xe+
でも、尻に敷かれる具合はクロルとヴィッ君以上です。
368名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 13:48:53 ID:lozc+Rv4
クロにゃん、ヴィッ君
ウィルポン、アウラたんはあはあはあ(*´д`*)しかし、バルスラーだけは…宇宙忍者になってしまうからメーなの
369名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 14:35:29 ID:1pRlPqhW
むしろアウラ×バルスラーかと。
370名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 20:56:49 ID:ACHgBtbP
「ちょっとバルスラー。服脱ぎなさい」
「……は?」
「いいからほら! 早く!」
「ちょ! おま! 何のまねだいったい!」
「性欲処理よ。へぇ、思いの外大きいじゃない」
「よせ! 俺には心に決めた相手が! アッー!!」

 すまん・・・いろいろとすまん・・・
371名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 23:40:02 ID:spNs9l5n
それはちょっと違うと思うが…
372名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 02:26:40 ID:LVuln411
だがそれがいい
373名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 09:28:09 ID:tB/389gs
>>370
エセ軍人モノのエロパロが誕生した瞬間であった。
374690:2007/08/06(月) 11:24:16 ID:mZr/PE7L
ファンタジー
傭兵パン屋物
ヴィクター×クロル
(3Pは次回というか、次作で書きます。毎度紛らわしくて申し訳ありません)

 急すぎる事態の展開は、むしろ人の頭を冷静にさせると思う。
 状況に流される事も出来ずに取り残されるため、物語を見るような客観的な視線をもてるか
らかもしれない。
 どういう流れだったか、最初の方は覚えていなかった。
 ただ、エリーとクロルに支えられてこの部屋に来たのは覚えている。
 飾り気の無い部屋に、ソファとベッドとテーブルだけが事務的に並べてある、実に簡素な客
間である。
 ルーベルはうず高くつまれた沢山の枕に半身を預けるようにして、三人掛けのソファにぐっ
たりと横たわっていた。
 鎮痛剤だよ、と言って渡された錠剤が効いているのか、頭が若干ぼんやりする。肋骨が折れ
てるね、と言って治療してくれたのは、誰あろう憎むべき美少年クロルであった。
 見るからに病院送りが妥当な黒髪の男の治療には、どうやらウィルトスが当たったらしい。
 ウィルトスが男にざっと下した診断はこうだ。右腕の破裂骨折。右足脱臼骨折。鼻骨骨折。
肋骨粉砕骨折。左腕に挫創。顔面に裂傷。全身打撲――。
 聞いているだけで命が縮みそうな重傷である。
 医者を呼んだ方がいいんじゃないの、と不安そうにするエリーに対し、クロルとヴィクター
は口を揃えて必要ないと言い切った。
 クロル曰く、大概の怪我は自分達で治療できるよう訓練されているらしい。
 誰にだ、と問い返そうとした直後、ルーベルは鎮痛剤の効果で意識を失うように眠りに落ちた。

 それからどれくらい時間が経っただろうか。
 暖かな紅茶の香りがしていた。
 覚醒と睡眠を繰り返していたように思う。
 視線だけを動かして時計を探すと、クロルの素っ頓狂な声がルーベルを微睡みから現実へと
引き戻した。
「じょ……情報屋って――じゃあ、犯罪者じゃないんですか!?」
「はぁ、残念ながら……」
 クロルの驚愕に申し訳なさそうに頷くと、ウィルトスは疲れたように肩を揉み解した。
 ひどく場違いな思考だが、クロルが敬語を使っている事が純粋に意外だった。もっと横暴で
横柄で、礼儀の欠片も無い自己中心的な性格だと思っていたからである。
 パン屋の中での序列は、販売員のウィルトスよりも低いのか――。それとも他に理由でもあ
るのだろうか。
 ルーベルは正面のソファで足組みをし、疲れたように肩を揉み解しているウィルトスに視線
を投げた。
「フランシス――と言うのが彼の通称ですが、本名は僕も知りません。実際顔を合わせた事が
あるのも二度程度で、取引は常に電話か代理人を立てて行います。常軌を逸した行動が目立つ
ので敬遠されがちですが、有能さは折り紙つきです。更に付け加えるなら彼に犯罪歴はありま
せん。なぜなら例え罪を犯しても、彼はその事実は隠蔽する事が出来てしまう」
 じゃあ、それじゃあ、とクロルが情けない声を出した。
 エリーが話しについていけず、首をかしげながらもくもくとパンをかじっている。

「“様子を見るだけ”というエリーさんのお願いは達成された事になりますが、彼の危険性がわ
かった所で市警団および軍の介入は望めません。情報屋フランシスの有用性は非常に高い。例
え今、彼を突き出したとしても、色々と理由をつけて釈放されるだけでしょう。単なる民間の
傭兵団体に過ぎない僕達に、彼をどうこうする事はできません」
「でも……でも、それじゃあ放置しろって言うんですか! 今回は襲われたのが僕だったから
いいですけど、エリーや他の――戦う事なんか出来ない人が襲われたら……!」
 立ち上がってクロルが激昂しているのが見なくとも分かった。
 あの男――まじまじと見たわけでは無いが、町外れに越してきた容疑者だろう。
 情報屋だかなんだか知らないが、そんな事は関係の無い。容疑者がいて、事件を起こした。ならばとるべき行動は一つである。
「情報屋だかなんだかしらねえが、安心しろ。そいつは市警団が責任を持って引き取る」
「ルーベル! だめよ、ちゃんと横になってなきゃ!」
375690:2007/08/06(月) 11:25:00 ID:mZr/PE7L
 のっそりと起き上がると、ずぐりと肋骨の辺りが鈍く傷んだ。
 だが、耐えられないほどではない。
 ウィルトスの隣で幸福そうにしていたエリーが、慌ててルーベルに駆け寄り、その体を助け起こした。
 横になってよ、と文句を言うのを片手で制し周囲を見回す。

 ベッドの上に、ギプスと包帯で固められた男がごつい手錠で縛り付けられていた。
 そしてその男のすぐ横に、監視するように人相の悪い男が立っていた。クロルはベッドから
一番離れた位置にある、丸椅子の前である。
「電話貸してもらえるか? 団長に連絡する」 
「はぁ、それは別に構いませんが、先ほどクロルさんにも話した通り、フランシスは情報屋で
す。例え彼を捕らえて拘束しても、どうせ数日のうちに軍から釈放せよとの命令が下ります」
 なので、捕まえても骨折り損ですよ、と断言するウィルトスに、ルーベルはむっとして食い
下がった。
「あいつは連続殺人犯の容疑者だぞ。情報屋ってだけで軍がそんな奴野放しにするかよ」
「それなんですが、どうも君は大きな思い違いをしている」
 どうも、いちいち癇に障る男だった。
 パン屋のカウンターで笑顔を振りまいている姿も気に入らなかったが、こうも平然と、自分
の立場に絶対的な自信を持った態度をとられるのはそれ以上に腹が立つ。
 たかがパン屋の店員風情が、軍の何が分かると言うのか――。
「確かに彼は理不尽の塊で、自分が気に入った相手には手当たりしだい手を出そうとする困り
者ですが、女性に強姦殺人を犯すような人物では決して無い」
 自信がある――と言うよりは、ただそこにある事実を淡々と説明しているような口調だった。
 親友というほどお互いを知っている雰囲気でもなく、またかばっている様子は全く無い。そ
れなのになぜ、こうもはっきりと断言できる。――そう聞かれることを予測していたかのよう
に、ウィルトスは不快そうに、いかにも困り果てたといわんばかりの表情でちらりとクロルを
伺った。

「彼は同性愛者です」

「ど――!」
 ずざ、とフランシスを見張っていた男があからさまに身を引いた。飛びのいた――と言った
方が正しいかもしれない。
「違う! オレはただ、女相手に勃たないだけだ!」
 ベッドの縛りつけられた状態でとても自慢になら無い事を偉そうに叫びながら、フランシス
が不満そうにがちゃがちゃと手錠を鳴らした。
「オレは女のむっちりとした体が好きじゃないだけだ。香水も嫌いだ。化粧も好かん。だから
きっと幼女には勃つ。少年ももちろんだ! 性別の問題じゃない。問題は愛なんだ! 男娼に
はパン屋のような奴はいない! そいつは特別に小さくて、柔らかくて、ふわふわだ! これ
は愛だ! オレは愛に目覚めたんだ!」
「当然です。クロルさんは女性ですから」
 じょ――。
「じょせ――女性だぁ!?」

 盛大に聞き返したのは、フランシスではなくルーベルの方だった。
 愕然とクロルを振り返り、青い顔で男の発言に震えているクロルをまじまじと凝視する。
 タンクトップに、ハーフパンツと言うこの上ない薄着である。にも関わらず、女性的な曲線
は見られない。
「な……なんだよ! なにじろじろ見てんだよ!」
376690:2007/08/06(月) 11:25:44 ID:mZr/PE7L
「だってお前……じゃあ、エリーは……」
「だから、お友達だって言ったでしょ? クロル君は女の子よ」
 また、意識を失ってしまいそうだった。
 こんなに小さい、パン屋の――しかも女に負けたのか。
 そんな馬鹿な事があるものか。自分はそんなに弱くないはずだ。
 ルーベルがくらくらと頭を抱えた瞬間、ベッドの上から激しく金属が軋む音が聞こえた。
「女だと……あぁ、なんて――なんて素晴らしい……! つまりパン屋は、俺が始めて勃起し
た女ということになる! この上なく俺を興奮させた存在が、まさか今まで愛の対象になりえ
なかった女だなんて! ウィルトス、そいつを俺にくれ! 今すぐに愛し合いたい! 毎朝毎
晩隅々まで舌を這わせ、渇きを癒す獣のようにぐちゃぐちゃに貪りあいたい!」
「ヴィクター! そいつ殴って! 黙らせて!」
 ビギ、と金具が弾ける音がして、フランシスが半身を起き上がらせた。悲鳴を上げてクロル
が飛びのく。クロルの絶叫に応じて、ヴィクターと呼ばれた男が動いた。
 そして次の瞬間フランシスは白目を剥き、再びスローモーションのようにベッドへと倒れ付した。

「ルーベル君。被害女性の特徴をお聞きしても?」
 フランシスの異常性をたっぷりと含んだ演説も、その後の一連の流れもなにもかも無視して
質問され、ルーベルは慌てて被害者達の写真を思い返した。
 全員豊満な肉体の、美しい女性達である。
「彼は確かに異常ですが、馬鹿では無い。今回こんなにも事が大きくなったのが、クロルさん
が大人しく体を許す性格でも、例え強姦されたとしても泣き寝入りするタイプじゃなかったか
らです」
 普通の人なら、彼に迫られれば恐怖で硬直しますからねぇ、としみじみと頷く。
 全くもってその通りである。クロルには恐怖と言う感情が存在しないのでは無いかとさえ、
ルーベルは思っていた。
「何よりも、クロルさんはフランシスから逃れられるだけの力を持っていた。一般人がフラン
シスに襲われたら、どんなに負けん気が強くても逃げる事は不可能でしょう。そして思いを遂
げられれば、彼もこんな暴走はしなかったんでしょう」
「そ――それじゃ、僕が悪いっていうんですか! 僕が逃げたのが悪いって……!」
「そうは言ってません。ただ、フランシスの暴走の原因がクロルさんである事は確かです。以
上のことから、軍はフランシスを制御不能な危険因子とはみなさない。実害と実益の差を考え
れば、実益が大きいのは明白です」
 そしてようやく、ルーベルはクロルの激昂に追いついた。
 だったら――だからと言って放置するのか。
 襲われるのが常にクロルならばまだ何とかなるだろう。だがクロル以外の――例え女性が襲
われなかったとしても、少年が襲われたりしたら――。

「あぁよかった。ようやく話が見えてきたわ。つまり、軍も市警団も当てにならないなら、傭
兵に頼んで安全を買うしかないって事ね?」
 ぱん、と嬉しそうに手の平を合わせて、エリーがにこにこと微笑んだ。
 当てにならない――という言い方が癇に障ったが、しかしルーベルに反論できる材料はどこ
にもない。
「さすがエリーさん。正解です。また、僕たちが傭兵である限り、誰かから依頼があればどう
にかしないわけには行きません」
 傭兵――そういえば、先ほどもウィルトスは、傭兵団体がどうのと言っていた。
 パン屋が傭兵というのはにわかには信じ難いが、フランシスを見張っている男の存在と、身
をもって思い知ったクロルの実力――そしてウィルトスの知識の深さと広さが話に信憑性を持
たせている。
「そうね――それじゃあ、毎月継続して依頼料をお支払いするから、その、フランシスさんの
行動を監視して、誰かに被害が出そうだったら助けてあげてくださる? 襲われている人を助
けてくれたら、それとは別に報酬をお支払いするわ。あ、お金なら大丈夫、町の皆に事情を話
せば、みんな少しずつ出してくれると思うから」
「ちょ……ちょっと待ってよ! なに二人で商談すすめてるんだよ! 僕やだよそんな奴の監
視するの!」
 当然の反応だろう。
 今現在、もっとも狙われる可能性が高いのはクロルである。接点など欠片ほども持ちたくな
いはずだ。
377690:2007/08/06(月) 11:26:39 ID:mZr/PE7L
 しかも、あんな鳥肌物の告白を聞かされては――。
「安心してください。クロルさんがフランシスと接点を持つ必要は全く無い。僕に考えがあり
ます。だから心配しないでください」
「で、でも……だけど……」
「だからって放置するのか――と激昂したのは君ですよ? 第一、僕がこの依頼を断ったら君
は僕を怒るでしょう」
「そりゃ、そうですけど……! でも、他の傭兵に頼むとか……」
「どの道、フランシスは殺さない限り今後も君の事を付けねらいます。他の傭兵団体に監視を
任せて、クロルさんに何かあっては困るでしょう。僕たちでやるのが最も確実で、安心だ」
「でも……でも……!」
「それとも、今ここで殺してしまいますか?」
 脅しとか、そういった部類では決して無いウィルトスの問いかけに、ルーベルはぎょっとし
て、その冷静な笑顔を凝視した。
 ベッドの側で、ヴィクターがいつでもいいぞと言わんばかりにクロルを見る。
 その二人の様子を見比べて、クロルは今にも泣きそうな表情でぶんぶんと首を振った。
「では、決まりです。エリーさん。ルーベル君。家までお送りしましょう。ヴィクター君。フ
ランシスを拘束したままジープに運んでください。クロルさんは部屋の修復作業を。僕は彼ら
を送って行くので手伝えませんが、ヴィクター君がすぐ戻ってきますから」
 言いながら、ウィルトスは立ち上がるとエリーを促して部屋を出た。
 ヴィクターが嫌そうにフランシスを抱え上げ、ウィルトスの後を追う。
 取り残される形で部屋に立ち尽くしているクロルを横目で見やり、ルーベルはなんと声をか
けていいのか分からなかった。
「あのよ……俺も、なんか、出来る限りの事は……」
「いいよ。軍が介入できないって聞いた時から、こうなるって予想はしてたから……」
 大丈夫、きっとなんとかなるよ、大丈夫、大丈夫。
 そんな事を言いながら、ベッドの周辺に散乱している治療セットを片付けだす。
 その、哀愁漂う後姿に、ルーベルは同情を覚えずにはいられなかった。
 それ以上の事は、出来ないが――。


 ***


 ルーベルとエリーを家に送り届け、水車小屋へと向かう途中、ジープの貨物スペースに横た
わっていたフランシスは叫び声のような物を上げて飛び起きた。
 ここはどこだ、パン屋はどこだ、と騒ぎ出したフランシスに、あなたの家に向かう途中です、
とウィルトスが答える。
「今すぐ引き返せ。あの女と一緒じゃなきゃ帰らん」
 そう、理不尽極まりない事を言いながら助手席に這い出してきたフランシスを横目で見やり、
ウィルトスはゆっくりと車を止めた。
「フランシス。僕と取引をしませんか?」
「嫌だ。あのパン屋をくれ」
「彼女の名前はクロルです。パン屋でくくるとヴィクター君を押し付けますよ」
「誰だ?」
「君を殴った男です」
「あれは嫌だ。小さいのがいい」
 不満そうに顔を顰め、そうか、クロルか、と口の中で繰り返す。
「残念でも、とくに申し訳なくもありませんが、クロルさんを君にあげる事はできません。大
前提で、彼女は僕の物じゃない。クロルさんが自分の意思で君の所に行くのは構いませんが、
彼女の意思を捻じ曲げて奪う事は許しません」
「許さないとどうなる」
 殺すのか、と問うフランシスに、ウィルトスはふふん、と不適に笑った。
 そんな頭の悪い事はしません、と胸をはる。
378690:2007/08/06(月) 11:27:24 ID:mZr/PE7L
「クロルさんを連れてこの町を出ます。そして一生君から隠して暮らします。君は今後、永遠
にクロルさんの姿を見ることすら出来なくなる」
「それは困る! 絶対にだめだ!」
「そうでしょう。君はクロルさんを愛してしまったんですからね。人は少しでも愛する人の側
にいたいものです」
「その通りだ。俺はクロルを愛してる」
「だけど誰かの側にいるためには、多少なりとも情報が必要だ。誕生日や何かは調べられるで
しょうが、たとえば食べ物の好みや、服の趣味、好きな本、それらの情報は、そうは行かない。
しかしこれらの情報は全て、君にとって有利に働くとは思いませんか?」
 ウィルトスが形の良い唇に笑みを刻む。
 おお、と感動したような声をあげ、フランシスはいくらだ、とウィルトスの話に食いついた。
「いくら払えばいい。いくらでも出す」
「まぁ、そう話を急がないで。例えばこれを見てください」
 す、と懐から一枚の写真を出し、暗い闇の中をひらひらと泳がせる。
 その、満面の笑みを浮かべたクロルの写真を瞳に収め、フランシスは無言でそれに手を伸ばした。
「くれ」
「だめです。ギブアンドテイクです。なぜこの町に来たんですか、フランシス」
「お前が生きてるって噂を確認に来た。そして生きてた。それだけだ」
「誰かが僕を調べてる?」
「噂が立ったから、調べた。それだけだ」
 ぱしっと写真を奪い取り、満足そうにそれを眺める。
 クロルが見たら悲鳴を上げて泣き出しかねないシーンだが、本人がこの取引を永遠に知る事
は無いだろう。
「君は今後もこの町に居座り続けるつもりですか?」
「そうだ。クロルの側にいる。隣に引っ越す」
「やめてください。僕たちも引っ越しますよ」
「何故だ!」
「クロルさんがそれを望むでしょうから――ちなみに、今度無理に襲おうとしても引っ越しま
す。クロルさんが引っ越すって言っても引っ越します」
 ぐううう、とフランシスが獣のような唸り声を上げ、懐に写真をしまいこむ。
「じゃあ、どうすればいい。どうすれば側にいられる」
 その問いに、ウィルトスは唇に刻んだ笑みを更に深め、月明かりに照らされた暗闇のなかひっそり
と囁いた。
「――取引をしましょう。フランシス」


 ***


「そう落ち込むなよ。おっさんだって何か考えがあるんだろうし、俺だってついてる。あんな
野郎に怯える必要ねぇって。な?」
「別に、怯えてるわけじゃないよ! ただ、もっとさ……こう、なんていうかさ……」
 唇を尖らせてぶつぶつと文句を言いながら、すっかり片付いた部屋のソファでコーヒーをが
ぶ飲みする。
 隣に座ってずっと慰めてくれているヴィクターには申し訳ないが、クロルの気分は一向に晴
れそうに無かった。
 フランシスが気持ち悪い。
 その、気持ち悪い男に男と間違えられた挙句に襲われて、女と知れて更に厄介なことになって
しまった。
 その上、嫌だと言うのにウィルトスが監視の仕事を請け負ってしまうし、部屋のドアは壊れ
ているし――。
「もう、最悪の一日だよ! なんもいいことないんだもん!」
「つーか、悪い事しかないなぁ……」
「そーだよ! もう、あいつ! フランシス! 思い出しただけで吐きそう! って、やばい
よ! 思い出しちゃった! あいつのキス……あぁ、くそ! 今日一番最後にキスしたのフラ
ンシスだ!」
379690:2007/08/06(月) 11:28:21 ID:mZr/PE7L
 最悪だよぉ、と泣き言を言うクロルに、ヴィクターが困り果てたように頭をかいた。頭を抱
えて背を丸めたクロルを前に、うーんと唸って、顎を撫でる。

「じゃあ――なんだ、俺と……するか?」
 驚いたように顔を上げ、クロルはヴィクターをまじまじと凝視した。
 照れくさそうに視線を反らしたヴィクターは、やはり妙に可愛いと思う。
「……する。したい」
 素直にそう答えると、ヴィクターはますます照れくさそうに、そうか、とだけ呟いた。
「じゃあ、ここ来い」
 言われるままにヴィクターの足をまたいで向かい合うようにして座り、クロルは首に腕を絡
めて決まりごとの様に目を閉じた。
 始めに軽く、合図のように唇が合わさる。
 それから少しずつ深く唇を舐め合い、舌を絡ませる。
 たっぷりと注がれる唾液を苦しげに飲み下し、クロルはうっとりとしてヴィクターに与えら
れるまま貪った。
 キスは多分、ウィルトスよりもヴィクターの方が上手いと思う。
 上手いと言うよりは、クロルの望むようにしてくれる――と言うべきか。
 もっと触れていたい。もっと、もっと――。
 永遠に終らないのでは無いかと思う程長い口付けを交わしながら、緩やかにヴィクターの手
が動いた。
 タンクトップの中に滑りこみ、すべすべと背を撫でる。
 その大きな手の平が腰をさすり、わき腹をなで、探るように腹を這い上がって来るのを感じ、
クロルは慌てたようにヴィクターの腕に指を絡めた。
 その腕を、押し返そうとする前に指先が小さなふくらみに触れる。
「ん……んん、んぅ……」
 やわやわと揉みしだき、時折、指先がかするように敏感な突起に触れる。
 更に深く絡められる舌を嫌がってクロルが顔を背けると、ヴィクターはようやくクロルの唇
を解放し、しかしすぐさま耳たぶに唇を押し当てた。
「だ……だめ、だめだよヴィクター……! ここ、きょうか、ん……帰って……」
「いいんだよ。今週はまだ、俺の番だ」
「な……んだよ、それ……意味、わかんな………あ、あぁ、ぃ……! だめ、やだ、や……も
っとゆっくり……」
 ぎゅう、とヴィクターの首にしがみ付き、もぞもぞと服の中を這い回る指に意識を奪われぬ
よう必死に別の物に意識を集中させる。
 だが結局そんな抵抗は全て無駄で、気がつくといつも、クロルはヴィクターの指や唇に意識
を奪われ、それを求めて喘いでいた。

 下半身にもどかしい痺れが停滞している。
 もう、早くそこに触れて欲しくて仕方なかった。
 ヴィクターと舌を絡ませながら、自らハーフパンツと下着を脱ぎ捨て、ヴィクターのズボン
のベルトに手をかける。
 もどかしく思いながらも金具を器用に外し、ズボンから引き抜くと、不意にヴィクターがそ
れをおし止めた。
「まてまて、そう焦んな。風情がねぇ奴だな」
「だ、だって……僕もう、欲しいんだもん……! なんだよ、君から仕掛けてきたくせに焦ら
すのかよ……!」
「誰もそんな事言ってねぇだろ。焦るなよ。そんなに我慢できねぇか?」
 瞼や頬、首筋にキスを落としながら、ヴィクターがなだめる様に問う。
「こーいう時、突っ込まないでいちゃつきたがるのって、女がやる事だよ……?」
「そうか?」
「そうだよ」
「じゃあお前もそうだよな?」
「僕は違うもん」
「じゃあ嫌いか?」
「嫌い……」
「なんで」
「だって……!」
380690:2007/08/06(月) 11:29:05 ID:mZr/PE7L
 気持ちよすぎて、ずっとこうしていたくなる。
 もっと触って欲しくて、もっとキスして欲しくて、だけどそうするごとに体の疼きは激しく
なって、終らせたくないのにどうしても我慢できなくて、それがたまらなく苦しくて、辛い。

「もう……なんだよ! もう……!」
「怒るな。可愛いだろ」
「うるさい! そういうこと……言うなよ!」
「なんで? 照れるのか?」
「やめろって! もう! 君最近教官に似てきたぞ!」
「あんまり教官教官言ってると、またあの人の前でそう呼んじまうぞ」
 きゅ、とシャツの上から赤く充血し、立ち上がった乳首をつままれ、たまらず甘ったるい声
がこぼれる。
 嫌がって身を捩るも逃がしてもらえず、クロルは思い通りにならないもどかしさに思い切り
ヴィクターの肩を殴りつけた。
「い……いじわる、しないでよ……」
 お願いだから、と耳元で囁いて、ファスナーを下ろして指を滑りこませる。
 固く張り詰め、びくびくと脈打ってる凶悪な物を引きずり出し、クロルはゆっくりとその上
に腰を落とした。
 入り口に当たり、深呼吸と共に力を抜いて少しずつ腰を落として行く。
 先端が入り口を押し広げ、ぐぷり、と中に納まると、クロルはんん、と呻いていったんそこ
で動きを止めた。
「っは……くるし……」
「平気か? 痛くねぇか?」
 気遣うようにヴィクターが髪を撫でる。
 快楽と、全身を満たす充実感。
 それと同時に激しくせき立てる焦燥感に突き動かされて、クロルは緩やかに腰をふり始めた。
 少し腰を揺らすだけでねちっこく淫猥な水音が鼓膜をくすぐり、時折悪戯に突き上げるヴィ
クターの動きに一際高い悲鳴が上がる。
 だが、足りなかった。
 こんな物では、満足できない。
「や、だぁ……だめ、やだ……いきた、ぃ、のに……なんで……」
 もっと奥を、もっと乱暴に、壊れるくらい激しく突き上げて欲しいのに――。
 どんなに自分で動いても、思うような快楽が得られない。こんなに下手ではなかったはずだ。
昔はもっとちゃんと、自分で快楽を制御できたはずなのに。
「うごぃ……てよぉ。もっと、もっとちゃんと……」
「おいおい、お前、それが人に物を頼む態度かよ」
 意地悪く、だが愛おしそうにヴィクターが笑う。
 こういう下らないことを男に教える本は全て燃やしてしまえば言いと思う。ウィルトスが教
えたのかも知れないが、とにかくろくな事じゃない。
「……動い、て……くださぃ……君の、で僕のなか……ぐちゃぐちゃに、してくださ……」
 言いながら、クロルは情けない気持ちが溢れてきて、堪えきれずにボロボロと泣き出した。
 それでも、ヴィクターは動いてくれない。
 これ以上何を言えと言うのだろう。歯を食いしばって必死に嗚咽をかみ殺すクロルの口に、
ぺたり、とヴィクターの手の平が重なった。
381690:2007/08/06(月) 11:29:51 ID:mZr/PE7L
「……わり。お前、そうだよな……俺が悪かった……」
 恥ずかしい――というよりは悲痛な顔で、ヴィクターが謝罪した。
 意味が分からず見つめ返すと、バツが悪そうに視線をそらされる。
「あのな……ちょっとな、お願いって、言って欲しかっただけでな……そんな事言わせるつも
りじゃなかった……」
「な――」
 なんだよ、それじゃ、言い損かよ。
 そんな打算的な思考が頭を過ぎり、クロルは直後に真っ赤になってヴィクターの顔面を殴り
つけた。
「くそ! なんだよ! もう、君とは絶対しばらくやらないからな!」
「悪かったよ! あぁ、俺が悪かった! だから泣くなよ。な? なんつーか、その泣き方は
嫌いな類の泣き方だ」
「しるかよそんなの! 知らないよ、もう!」
「悪かったって、ほら、な? 機嫌直せよ」
 言いながら、ヴィクターがクロルの涙を拭い、よしよしと背中をさする。
 ずるずると鼻水をすすり、クロルがふて腐れてそっぽを向くと、ヴィクターは困り果てて天
井を仰いだ。
「じゃあ、やめるか? 抜くぞ?」
「だ、やだ……だめ!」
 慌ててヴィクターにしがみ付き、クロルは真っ赤になって俯いた。
 この男は、天然でこういう事をするから救いようが無い。
「……ちゃんと、いかせてくれないと、一生許さない」
「じゃあ、続けていいのか?」
「いちいち聞くなよ! 一回でわかれよ馬鹿! 馬鹿! ちんたらやってて教官が帰って来た
ら絶対に許さないぞ! やってる所誰かに見られるなんて、絶対にやだからな!」
 そんなに怒鳴るなよ、とヴィクターが情けない声を出し、泣きながら怒っているクロルに繰
り返し唇を落とす。
 動くぞと耳元で低く囁く声に、クロルはぎゅっと目を閉じて唇を噛んだ。
 ゆっくりと深く、慣らすように奥のほうまで抉られる。
 どこが感じる――というレベルでなく、とにかく全体をいっぺんに擦り上げられるような感
覚に、クロルは我慢できずに吐息のような嬌声を上げた。
「あぁ、あ、やぁあ……んぅ……! ずるぃ、よ、こんな……ずる、ずるぃ、よぉ……!」

 どうにかなってしまう。
 ヴィクターに抱かれるといつもそう思う。
 クロルは髪を振り乱し、苦痛にもがくようにヴィクターにすがりながら、打ち付けられるよ
うに与えられる快楽に喉をからして喘いだ。
 絶頂がぞくぞくと背筋を這い上がってくる。
「聞こえるか――?」
「ぇあ……? は、ぁ……わかん、な……あぁあぁ!」
「おっさんのジープの音だ――もうすぐ帰って来るな」
 さ、と血の気が引いていくのが分かった。
 クロルにジープの音は知覚出来ない。
 ヴィクターが嘘を言ってクロルをからかっているか、本当に聞こえているのか、クロルには
判断する事が出来なかった。
「そん――な、あぁ……! だ、や、だめ! やだ、だめ、やだ、やだ!」
 何がだめで、何が嫌なのか、機械的に叫びながら、クロルはよく分かっていなかった。
 もう、頭の奥の方がじんじんと痺れて理論的な思考がばらばらに壊されてしまう。
 ただ、とにかくだめで、嫌な気がした。
 だけどヴィクターはやめてくれなくて、言葉とは裏腹に体は絶頂を求めるばかりで。
382690:2007/08/06(月) 11:32:27 ID:mZr/PE7L
「いく……いく、いく、いく……! やだぁ! も、あぁ……あ、あぁあぁ――!」
 思い切り、締め付けるようにヴィクターの首に縋りつき、クロルはぐったりと脱力して支え
られるままヴィクターに体重を預けた。
 繋がった箇所は痙攣が収まらず、熱い液体を吐き出しているヴィクターをきゅうきゅうと締
め付けている。
 ――教官、帰ってくるんだっけ。
 ぼんやりとそう思った。
 身支度を整えて、ちゃんと出迎えて、お疲れ様でしたって、コーヒーでもいれないと――。
 ――疲れた。
 よくよく思い返してみれば、今日は一日、いろんな事がありすぎた気がする。
 だめだ、眠い。
 その時ようやく、クロルの耳にジープのエンジン音が届いた。
 ウィルトスが帰ってくる。
 そして、クロルは眠りに落ちた。

おしまい。

以上でフランシス登場編は完結です。
皆様お付き合いアリガトウございました。

>>664
ちょww
クロルカワイソスww
三人仲良しでクロルが受難な感じがとてつもなく萌えました。
GJ!
アウラとバルスラーワロタw
383名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 14:12:37 ID:/NpRgCoE
おお、真昼間に投下とは…

今回も面白かったです。
384名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 22:15:56 ID:2HPBePXs
うわっほ、GJ!!
クロルとヴィクターバカップルぶりにアてられた。熱中症だ。
しかしウィルトスのクロル溺愛っぷりもイイ。
フランシスの変態っぷりも、何故か萌えた。僕も変態みたいだ。
何もかもイイ。

385名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 22:25:28 ID:2HPBePXs
↑あげちゃった ごめんなさい……
386名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 01:05:52 ID:0hDLM/BA
クロル、ヴィクターにもウィルトスにもバルスラーにも
フランシスにも愛されてウラヤマシス
387名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 02:23:48 ID:Sfyss7oh
バルスラーとフランシスの場合若干毛色が違う気がするが……
バルは教官に対する憧れに近いだろうし、フランシスはこう、思い込みが激しすぎるタイプで、
気がついたら別の奴に入れ込んでそう。

基本的にはヴィクターとクロルのカップルで、ウィルトスが二人をひっくるめて可愛がってる印象があるんだが
388名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 06:10:49 ID:t2wJSydd
萌えすぎて死にそう。
このコンビ、本編ラスト間際でやばいけらい萌えたから
さすがにもうこれ以上はないだろうと思ってたのに…チクショウ
ヴィクター・クロルのエロほんと好きだ。

フランシス登場編てことは
奴はこれから頻繁に出てくるんだろいか。
クロル……哀れな。
389名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 20:50:53 ID:/TyFznxK
毎度GJ!
ラブラブエロはやっぱいいねえ。
また期待してるよ。

個人的にフランシスの頭悪いしゃべり方が(笑)キモおかしい。
なんか誰かと幸せになって欲しい。キャラ立ってるからこいつのエロシーン読みたい。
クロルじゃなくて。アウラ先生はどうだ?
390名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 21:35:59 ID:PsXMQ4CO
なんかルーベルの凡人っぷりがスキだ。
一人だけ空気読めてなくていつもおいてかれてるっぽいとことか。
フランシスを何とかしようって考えるあたり、
責任感あるし臆病でもない、いい男なのになぁ。
391名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 23:06:29 ID:2Rk1U2rp
>370見て、期せずしてルーベルにも「同情はするが〜」のセリフ向けられたのにちょっと笑った。
うまいなぁ、本当に。
392名無しさん@ピンキー:2007/08/08(水) 00:14:04 ID:V+Jg72+C
>>391
すまん、よくわからんので解説プリーズ
393名無しさん@ピンキー:2007/08/08(水) 10:52:37 ID:FqXf4u6r
>>392
前の話でヴィクター・ウィルトスに同じセリフを吐かれ、
更にルーベルにまで同じこといわれるクロルたんテラモエスってことでしょう。


ところで毎度毎度、ホント萌えるなぁ……











フランシスに。
394名無しさん@ピンキー:2007/08/08(水) 12:27:58 ID:V+Jg72+C
>>393
いや、そこまではわかるんだが
それと剥かれるバルスラーにどう関係があるのかなあと。
395名無しさん@ピンキー:2007/08/08(水) 15:52:40 ID:EnxN6bQS
普通にアンカミスでは?
370と377
396名無しさん@ピンキー:2007/08/09(木) 02:31:19 ID:GAwkz5pS
幸せな様子を見ていてふと、クロル不幸エンドってどんなのだったんだろうな……とふと思った。
クロルが不幸だと自動的にヴィクターも不幸になりそうな……想像すると胃が痛くなるが、
パラレルと言う形で読んでみたい気がするのは俺だけか。
397名無しさん@ピンキー:2007/08/09(木) 20:23:13 ID:Mib/cU+0
教官殉職
残されたクロルは、教官への罪悪感からヴィクターとくっつくこともできず
教官の菩提を弔いながら心を閉ざして寂しく暮らす…とかかな

もしくは教官の仇討ちをしようとするが返り討ち?
398名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 14:16:00 ID:5irRM4oE
ヴィク死亡でウィルと生きるが、喪失感に押し潰され精神的に…

だめだだめだ、ウィルはどうでもいいけど、クロルはヴィクと幸せにならなきゃだめだ
399名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 17:32:14 ID:RFQMWH70
このスレはもうクロルの作品しか来ないのかな
400名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 19:33:01 ID:4kN22SmX
黙って別作品投下するのが漢
401名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 20:40:22 ID:Y26UsCpc
別方面で連載抱えてるのが痛いなあ……
中途半端はよくないし、書きたいけど我慢してあっちを終わらせてこないと。
402名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 00:12:05 ID:IHkQdjKW
 彼氏いない暦イコール年齢。
 それの、一体何がいけないのでしょう。
 会うために予定を組んで、会ったらお互いに気を使いまくってデートして、浮気したとかし
ないとか、結婚するとかしないとか、一回やっちゃえばポイだとか、処女じゃない女に興味は
無いだとか、童貞はきもいとか。

「ほんとーに。頭悪いんじゃ無いかと思います。男は馬鹿です。女も馬鹿です。異性相手に腰
を振る事しか出来ないんですかね本当に」
 ごん、とビールの大ジョッキを荒々しくテーブルに叩きつけ、真っ赤な顔で千博が睨む。
 彼氏いない暦二十年のお祝いにとからかい混じりでつれてきた、見知らぬ酔っ払いの笑い声
で喧しい居酒屋のテーブル席である。
「大体ですねー、世の中おかしーんですよ。いーですかぁ? まず生殖と言う物はですねぇ、
快楽を求めて行うのではなくぅ、子孫の繁栄のために行う物であってー、恋人という制度はつ
まり、その相手が自分の繁殖の相手として好ましいかどーかお判断するためのですねぇ、いわ
ゆるオタメシ期間なわけなんですよ。つまりー、そのオタメシ期間中にですねぇ、はんしょく
こーどーを行うと言うのはぁ、動物学的にはなはだおかしいんですよぉ!」
 くどくどと訳の分からない講釈を並べ立てながら、千博が空になったビールジョッキをごん
ごんとテーブルに打ち付ける。
 そうかそうか、全くその通りだな、などと適当に相槌を打ちながら、康介は半ばうんざりと
して焼酎を一口舐めた。
「もーちょっと可愛くなるかと思ったんだがなぁ……」
 あてが外れた、とでもいいたげな口調である。
 そんな康介の呟きが酔っ払いに届くはずもなく、千博は相変わらずビール瓶を振り回して賑
やかに喋り続けている。
 大ジョッキ三杯。焼酎一杯。甘ったるいカクテル二杯。想像以上にザルである。

「だからですねー、つまりですねー、ぼくがいーたいのはですねー……あれ? あー……うん。つまり、そういうことなんです!」
「そーかそーか。いや、わかるよ。よくわかる」
「そーなんれす。うん、こーすけは物分りがよくてよろしい。さすが僕のおとなぃさんだ。えらいぞぅ」
 うんうんと満足げに頷いて、身を乗り出して康介の髪をくしゃくしゃと撫でる。
 お隣さん――と言っても、康介が千博の隣に住んでいたのはもう五年も前の事である。しか
も、お隣さんである事と物分りがいい事に何の関連性もない。
「だからー。ぼくはかれしを作らないだけなんですー。できないんじゃないんですー」
 ごん、と弱々しくジョッキをテーブルに置き、ぐったりと頭を垂れる。
 千博は眠そうに瞼を落としてふるふると頭をふり、康介が舐めていた焼酎に手を伸ばした。
「やめとけ。さっき苦いって文句言ってただろうが」
「いやだぁ、のむー」
「おねーさーん! ちょっとお水もってきてー!」
「なんでぼくはこーすけくんに敬語なんでしょう……?」
「酔ってるからだろ……普通に」
「僕はよってなぁぁあい!」
 声を大にして叫ぶ。
 が、底辺の居酒屋の喧騒の中では、それも微々たる物である。
「よってなーい。よってなーい。酔ってないよぉおお!」
 あぁ、壊れた。
 高らかな絶叫を最後にテーブルに突っ伏した千博を前に、康介は静かに焼酎を飲み干した。


 酔いつぶれた千博を連れての帰り道は、相当に難航した。
 意識を失っては覚醒を繰り返すものだから、暴れたり黙ったりで忙しいことこの上ない。
 何とかタクシーに押し込んで自宅まで連れ帰り、康介は千博をベッドに転がしてやれやれと
溜息を吐いた。
 まぁ、酔いつぶれた男を担いで連れて帰るよりはましかもしれない。
 ううん、と千博が呻き、ごろりと仰向けに転がった。
403名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 00:12:54 ID:IHkQdjKW
 ジーパンのベルトが窮屈なのか、ぼんやりと目を開けてもぞもぞと腰の辺りに指を這わせている。
 とれないー、とれないーと文句を言い出したかと思うと、だめだぁ、とふて腐れて大の字に
手足を投げ出した。
「しょうがねぇやつだなぁ……」
 なんだかんだ言いながらも、溜息一つで何でもやってあげてしまう。そんな自分が実はそん
なに嫌いじゃない。
 康介は仰向けに寝転がってあついあついと文句を言っている千博を無視し、腰のベルトを外
してやった。
「ほら、はずれたぞ」
「脱がされたぁ。おかされるー」
 こわいよう、と呻きながら、もぞもぞと毛布の中に潜り込む。
 誰が犯すか、失礼な、と引きつる康介の前で、今度は汗臭い、暑苦しいと自分勝手な文句を
連ねて被った毛布を蹴飛ばした。
 この女、どうしてくれようと苛立ちを込めて睨み下ろす。
 すると千博はその康介の眼前で、あろうことかTシャツを脱ぎはじめた。
「ちょ……ちょっとお前、馬鹿! なにやってんだ!」
「ぬぐ」
「脱ぐな! 着てろ!」
 叫ぶ康介をまるで知覚していないように、じたばたと暴れながらジーパンを脱ぎ捨てる。
 これでよし、とでもいいたげに再び毛布を被りなおし、千博はすうすうと寝息を立て始めた。
 色気の無い黒のスポーツブラのみ確認した。下はさすがに見る勇気がなかったが、どうせ似
たような物だろう。
 だが、少し見てみたい気もする。
 一人ベッドの上で取り残され、康介はごくりと生唾を飲み込んだ。
「ち……千博……?」
 んー、と呻くも、千博が起きる気配は無い。
「おい……さすがにやばいぞ……女としてやばいぞ」
 言いながら、やばいのはどっちだ、と内心怒鳴る。
 康介は千博の被っている毛布に手をかけ、そろそろと下半身の部分を外気へと晒していった。
 ほっそりとした白い足が露になり、むき出しの太腿に目を奪われる。
 そして完全に毛布の下半身部分を捲られても、千博は身じろぎ一つしなかった。
 こちらも黒だが、想像していたよりずっと愛らしいデザインだった。真ん中よりやや左によった
あたりに、小さな飾りのリボンが揺れている。
「……処女か……」
 ぽつりと、噛み締めるように呟く。
 いかん。処女はいかん。いかんいかん。
 頭の中で繰り返しながら、手が伸びるのは止められない。
 恐る恐る太腿に触れると、酒のせいでじっとりと汗ばんだ肌が吸い付いてきて、康介はたま
らずむにむにと柔らかな太腿をもみしだいた。

 いれなきゃ、いいか――。

 そんな、無理やりな言い訳が康介の思考を支配する。
 康介は一旦千博から手を放すとそそくさと衣服を脱ぎ去り、再び――今度は改めて千博に圧
し掛かった。
404名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 00:13:53 ID:IHkQdjKW
 千博の体は小さく、康介の腕の中にすっぽりと納まってしまう。
 自分の貞操の危機も知らずにぐうぐうと眠りこける千博に罪悪感を覚えないでは無いが、康
介は最早止まらなかった。
 いいのか、俺。こんな形でいいのか、と激しく自問を繰り返しながら、千博の無防備な唇を奪う。
 酒臭いのは覚悟していたから問題ない。
 ふにふにとした柔らかな唇を甘噛みし、舌を入れて口の中を弄ると、千博は息苦しそうに呻
いて顔を背け、眠たそうな目で康介を見た。
「あー……ゆめか……」
「うん。夢だ。だから大人しく寝てなさい」
 よし。助かった。
 なんとも都合のいい展開に心の中で思い切り握りこぶしを作り、康介は会心の笑みでぽんぽ
んと千博の頭を撫でた。
「だめだー。この夢はだめだー」
 夢でも嫌か。当たり前か。
 だめだー、だめだよう、と逃げようとする千博を押さえつける事もせず、耳たぶを噛んだり、
太腿を撫でたりと十分に体を堪能する。
 失礼しますよ、と妙に事務的な台詞を吐きながらスポーツブラを鎖骨辺りまでずり上げると、
ふっくらとした小さな膨らみがいかにも触って欲しそうにふるふると震えていた。
 我慢できず、いきなりその頂にしゃぶりつく。
「きゃぅう……! ぁ、やぁ……こーすけ、は、だめだよぉ」
 なんで俺はだめなんだ。俺限定でだめなのか。
 むっとして、尖らせた舌先でこりこりとした乳首を押しつぶす。
 ひん、と可愛らしい声をあげ、千博は康介の頭にしがみ付くように背を丸めた。
「だめぇー、だめぇー……! ちがうよぉ、こんなこと、したいんじゃ……なぃよお……」
 こんな夢だめなのに、と千博がめそめそ泣き始める。
 ますます苛立ってさらに激しく責め立てると、千博はびくりと肩を震わせ、ふるふると苦し
げに唇を噛んだ。
「千博、触って」
 え、と千博が目を見開く。
 その手を下半身に導くと、千博は見る見る顔を真っ赤にし、いよいよ声を上げて泣き出した。
 泣くほど嫌か。いや、それも当然か。
 だが泣きながらも、千博は指示通り康介の物に指を這わせ、たどたどしい手つきで刺激を与
えようと動いている。
 上手くは無いが、精神的にたまらなく気持ちよかった。
「それじゃあ、俺もお返ししないとな」
 言い訳がましく言いながら、いよいよ下半身に手をかける。
 下着の上からすりすりと割れ目をなぞると、じっとりと下着に染み出してくる物があった。
 いいのか、処女がこんなに濡れて。
「お前、もしかして自分でしてる?」
 かぁ、と今まで以上に真っ赤になって、唐突に千博が拳を振り上げた。
 どんどんと康介の肩を叩き、してない、してないと繰り返す。
「してるんだ……うわ、意外」
 そんな事を言いながら刺激を加え続けると、下着の上からでもくちくちといやらしい音がこ
ぼれ始めた。
 康介が指を動かすたびに、千博の体が面白いくらい素直に跳ねる。
 いよいよ下半身を隠す最後の砦を取り払っても、千博はぐったりとして抵抗しようとはしな
かった。
 これは夢だ、これは夢だ、と繰り返し。
 いれなきゃ大丈夫、と自分に都合のいい言い訳ばかりを並べ立てる。
 千博の両足を纏めて肩に抱え上げ、康介はとろとろとした愛液で光る茂みの中へ、滑らせる
ようにいきり立った物を突き入れた。
405名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 00:14:27 ID:IHkQdjKW
 にゅるりと愛液が絡みつき、動かなかった千博が甘ったるい悲鳴を上げる。
 赤く充血した柔らかな突起が、竿のあたりに触れているのが分かった。
 わざとそこを刺激するようにゆっくりと腰を振る。
 肩を浮かせてのけぞって、千博はいやいやと首を振って必死にシーツにしがみ付いた。
「ぁめ、も、やぁ……! こーすけ、こぅ、すけぇ……!」
「いいよ、千博、すげぇいい」
 ひくひくと、千博の入り口が疼いているのが分かった。
 とめどなく愛液があふれ出し、動かすたびにじゅる、ぐちゅ、と音がする。
 苦しげに、びくびくと千博の足が震えた。もうやめてくれと言うように、千博が康介の肩に
手を突っ張る。
 目のくらむような開放感に全身を震わせて、康介は千博の体に精液をぶちまけた。
「ごめ……こーすけ、ごめ……」
 うわごとのように呟きながら、千博が気を失うように眠りに落ちる。
 しばらくぼんやりとその姿を見つめ、ようやく理性が戻ってきた頃、康介は恐ろしい罪悪感
に頭を抱えて悶絶した。
 とにかく千博の体を綺麗に整え、何事も無かったかのように服を着せる。
 ショーツは洗って感想させてから着せる隠蔽の徹底振りに自分自身呆れたが、千博にばれて
軽蔑されるよりはましである。
 適当に酔わせて「彼氏がほしいんだ」とか言わせて、だったら俺がという王道展開にもって
行こうと思っただけなのに、まさかこんな事になろうとは――。
 康介はその日毛布も被らず、別の部屋の床で寝た。
 最低だ。異性と見れば腰を振るしか能のない頭の悪い馬鹿男である。千博に夢でさえ相手に
したくない男と思われて当然だ。
 後悔と罪悪感に苛まれ、別室で悶絶していた康介の耳に、千博の「ゆめじゃやだ」という寝
言が届く事は永遠に無い。



おしまい
406名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 00:53:22 ID:Kw/ctEiw
グッジョブ!
千博カワイイなぁ。

できればもすこしエチシーンが長いとうれしいな。
407名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 01:01:27 ID:T+QjKCSE
て言うか、続き書いて下さい!
シリーズにできるよこれ!
408名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 08:31:44 ID:Cc/KvbUB
>「ごめ……こーすけ、ごめ……」
夢でしちゃってゴメンってことか。かあいいなぁ。
409名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 11:32:16 ID:FPhN06CZ
GJ!
おしまいにしないで頼むから続けてくれ!
410名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 12:59:25 ID:GYOoLorN
GJ!千博かあいい!!
酔ってないときのこの二人が見たい。続けて!
411名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 16:48:13 ID:8pwI5Bwx
おまいさん、なんてものをッ……!!



ツボを突付かれまくったぜ。GJ!
412名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 20:11:20 ID:fe1FhIFh
ちんこたってきた(AA略

可愛いなぁ・・・こんな可愛い奴を書けたら・・・くぅっ!(涙
投下します。>>95辺りからの続きです。
「『……ふん、なんだい、これは?』」

 少年が着るような半ズボンとシャツに身を包んだ、だが胸の膨らみによって
それとわかる少女――の、普段の口調を真似しながら、男は、笑みを浮かべた。

「……似てないよ」
「あう」

 少女は男の冗談をにべもなく切り捨てた。
 朝早くから、大勢の人間の声が響くその場所は、最近出来た大規模テーマパークだ。
 その入り口で、二人は会話を交わしている。

「……で、なんなんだよ、これは?」
「『何って……デート、だけど』」
「……何か微妙に似てるのが悔しいなぁ……ってデートぉ!?」
「他の何だと思ったんだい?」
「そりゃ……今度は野外プレイなのかぁ、とか」

 今日は手が自由だったので、男は頭を掻いた。
 苦笑しながらの呟きに、少女は目を細める。

「君は……本当にエロいよね」
「お互い様だと思うんですけどー」
「否定はしないよ」

 普段と違う、性別をそのままに示した衣装――可愛らしいブラウスとスカートだ――を
身にまとった少女は、にこやかに笑う。

「ま、今日はそういうのは無しだ。たまには息抜きがしたいという君の希望を叶えよう。
 創作活動には息抜きが必要だろうしね」
「……で、君とデート?」
「……不服ですか?」
「不服は無いッス!」
「よろしい」

 少女は、男の手を取り、言った。

「じゃあ、行こ?」
「……おおせのままに」


 ――そして、三時間後。



「も゙ゔがんべんじで〜」

 男は息も絶え絶えといった様相でテーブルに突っ伏していた。
まあ、絶叫系ばかり三時間ぶっ通しで乗れば、そうなるのも無理はないかもしれない。
 対して、少女の方はというと――

「ふぅ……実はこういった物に乗るのは初めてだったんだけど……
 なかなかに楽しいね」

 ――充実した表情を浮かべていた。

「……な゙んで君゙ば平気な゙んだぁ〜?」
「いやぁ、驚いているんだけどね、自分でも」

 昼を随分と過ぎているせいか、フードコートには二人の他に人影は無かった。

「気分が悪いのかい?」
「え゙え゙〜悪゙い゙でず〜」
「いささか大げさなような気もしないではないけど……はい、こっちおいで」
「ごっ゙ぢっ゙で……え゙?」

引き寄せられ、無理矢理寝かされた男は、頭に柔らかい感触を覚え、目を開いた。
少女の顔が――普段浮かべる不敵な笑みとは百八十度違う、柔らかい微笑みが見える。

「………………」
「……なんだい? 鳩が豆鉄砲食らったような顔して」

 男は、膝枕をされていた。
それに気付いた時には、既に男の身体を何ともいえない心地よさが支配し、
一瞬感じた驚きを拭い去っていた。

「すまなかった……少し、はしゃいでしまったようだ。
 せっかく、君に息抜きしてもらおうと思ったのにね……」
「………………」
「しばらく休んでくれ。気分がよくなったら……今度は、のんびりした乗り物に乗ろう」
「……そう、だな」

 少女の柔らかい掌が、男の額を、髪を、頬を撫で――そして、顎をとらえる。
 何故か赤らめた頬を隠そうともせずに、少女は男の顔を真っ直ぐに見つめた。

「……」
「……どうした?」
「キス、してもいいかい?」
「……なんだそりゃ」
「嫌だって言っても、するけどね」
「……おおせのままに」

 ん、という息を止める音。
 少女の顔が、上気した頬が、軽く突き出された口唇が近づいてくる。
 男は、口唇に柔らかい感触を覚えながら瞳を閉じ、頭と口唇とに感じる心地よさに
さらわれるように眠りに落ちた。

「……んはっ」

 安らかな寝息が聞こえ始めて、ようやく少女は男の口から己の口唇を離した。
 今までしたものとは違う、ただ口唇をあわせるだけの口付け。
 だが、少女は呟くように言った。

「凄く……気持ち良かったな……」

 風が、どこか遠くから歓声を運んでくる。

「……ん」

 歓声を運ぶ風が、少女の短い髪を揺らす。膝の上の男の髪も揺れ、顔にかかった。
 少女はその髪をよけ、男の顔を見た。

「……好き、だよ」

 小さな、とても小さなその呟きは、風に乗る事は無い。
 少女は、男の顔を見つめながら、自らも瞳を閉じ……眠りに落ちた。








「………………」

 男は頭を抱えていた。

「………………まあ、丸三日間、缶詰だったし、な」

 そして、言い訳するように呟き、苦笑した。目の前の紙に書き連ねられた文字列を見つめながら。

「……なかった事に、しよう」

 そういいながら、男はその紙を両の手で引き裂く――つもりだった。
 だが、男の手の動きは止まり……そっとその紙束を引き出しの中に隠し、鍵をかける。

「………………はぁ」

 ため息をつき、座りっぱなしで軽く痛む腰を伸ばしながら、男はまた頭を抱えた。

「……何、考えてんだろうな、俺は」

 小さな、とても小さなその呟きは、部屋から漏れる事はない。
 男は、一人の少女の顔を無意識に思いながら、瞳を閉じ……眠りに落ちた。
ここまで投下です。
418名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 20:48:32 ID:dBovI5fy
GJ!
いつも楽しみにしてます
419名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 02:19:05 ID:+x26k2AJ
フランシスが別スレに出没してるぜ!
420名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 02:39:02 ID:zJ4eHeQd
>>419
どこよ?
421名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 04:37:58 ID:plzz8vXZ
主従スレ
男主人の方
422名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 10:34:03 ID:Q4VCod+F
読んで来た!
フランシスにハゲモエタ!
423名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 07:20:41 ID:WvB8Rkxp
フランシス、誰かに似てると思ったら
坂本ジュリエッタだ
気をつけてないと、種付けされるぞ
424名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 14:44:47 ID:FpmNWGYF
>>423
おまえのせいでもう、そうとしか想像できなく……
425名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 21:56:59 ID:6JCjMOva
>>424
え、みんな口に出さなかっただけで登場の時点から脳内変換住んでいたんじゃないの?
>フランシス=後の坂本ジュリエッタである
426サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/17(金) 22:01:49 ID:sBbfQYY/
変なSF 長くてごめん
途中スレ違いエッチあり注意です
・・・・・・・・・・


 初めまして!
 ボクの名前はアイルハタファビエ・フライクヌフ・ロ−エンギオ・エバム…
 長いって?…まだ続くんだけどな。まあいいや。
 みんなはアイルって呼んでる。
 身長168センチ体重は内緒☆ちょっと細身だけどこの星系では標準くらいじゃない?
 チャームポイントはこのはちみつ色のショートヘア…巻き毛だから短くないと大変なんだ
 …そしてこの尖った 耳・た・ぶ・!

 …びっくりした?ふふ☆
 そう、ボクは今は亡きフェイラ星の生き残り…
 てゆうか、覚えている人もいるんじゃないかな。今から二年前、この星系にフェイラからの親善大使として
やってきた第三王女アイルハタファビエ姫とはボクの事。
 あの頃は今よりぽっちゃりしていたし髪も長くてわからないかもしれないけれど、本物だよ。
 ほら、これ証拠の…ゴソゴソ…王族のネックレス!ね、ここに「王族ローエンギオ第三姫
アイルハタファビエ」って刻印あるだろう?
 だから…あの日はびっくりしたねえ。親善記念式典最中に飛び込んだ、故郷の星「エバムフェイラ星」の爆発ニュース。
 ボクは一瞬にして、帰るところと第三王女の地位を失い、ただの………
 性欲処理用女奴隷になった。

 当時はぎょっとしたけど今から思い出すとおっかしかったなあ〜。
 さっきまで丁寧な対応でボクに恭しく神の言葉を伝えていた祭司達も、警備の兵士も、当然式典参列していた
この星系の王族も、急にボクに襲いかかって…四方八方から伸びたいくつもの手が四肢を押さえて、
身ぐるみ剥がされて。
 その様子は星系生中継で放送され今でも国会図書館なんかで見られるよ。
ぶっちゃけボクを取り合う形になり、ことには至らなかったんだけどね。みんなしてやったもん勝ちと
いうか…そんな気持ちが真っ先に芽生えて襲いかかったらしいけど、すぐに王様の存在に気づき慌てて
ボクを憤慨する王様に差し出した。
 親善大使として来たのにそのときからボクは王様の性奴…正確には性奴候補という賞品になったんだ。
なぜならボクが王様に差し出されてすぐ、王様は殺されたから。
 殺したのは王様の弟。
 すぐさま他の王族が名乗りをあげ、血みどろの王の座を争う骨肉の争いになったよ。


 え?なんでそんなにみんなお前を欲しがったのかって?
 性奴隷にしてはお粗末な身体だって?
 悪かったね、おっぱい無くて!
 だけどじゃあ君は知らないの?この広い宇宙、いろんな星にいろんな特徴を持つ人種がいることを。
ボク、フェイラ星人だけがもつ変身能力を…。
 ボクらフェイラ星人はね、つがうパートナーにとても愛されたい人種なんだ。
身も心も…末永く。だからね。
 一生に一度、初めてエッチする時、相手の思念を読み取って、なんと、
 …  相手の思い描く理想の姿に変身するのだあ!!! …
 貧乳だってブスだって男も女も関係ない。ヤったその相手が一番望む姿になる。つまり。
 ボクを手に入れるということは、男にとって世界一の美女を手に入れるということなのさ。
 王様達はそれでボクを欲しがり、奪い合いになったってわけ。
 なにしろフェイラ星は爆発してしまい、処女の生き残りはボクくらいだろうといわれてたからね。
人権なんてもはやなく、絶滅危惧種の性奴隷ってわけなのさ。

 そういうことで起こった血みどろの戦争は半年ばかり続いたけれど、戦いは治まるどころか他の星系にも
飛び火してけっこうな大混乱になっていた。
 みかねた宇宙連邦の統括皇帝、アンドロギュヌス様が半分強制でボクを引き取るということになり、
ようやく戦争が治まって(王族はしぶしぶだったけどアンドロギュヌス様には誰も逆らえないものね)
ボクは皇帝の住む星に移送されるために、迎えに来たこの宇宙船に乗ったんだ。この…
 宇宙連邦一いやらしい、とされるインデイーズAVレーベル会社の船、
 ピーチドリーム号に…ね!!
427サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/17(金) 22:06:33 ID:sBbfQYY/

・・・・・・・
 画面はシュウッという音とともに宇宙空間に移り、キラキラと輝く発光群の中からいつもの色っぽい声と
ともに、ピーチドリームというロゴが現れ画面を占めた。
 タイトルロール
  最後のフェイラ星人アイルファタハビエ主演 
  魅せます!うわさの王女はじめてのえっち 
      変態してもイイかも 
 シャバダバシャバダバ〜ヒュウイッ(レーベルのテーマ)

 そこで画面は真っ青の何も撮ってない状態になった。
・・・・・・・

「…てな感じで、イントロ作ってみました。セルフ撮影のわりにはいいショット撮れてるだろう?
なにげにパンチラでさ。」

 リモコンでスクリーンを元の外部カメラに切り替えると、見渡す限りの星の海が広がる。
少し離れたところに流星がすぎるのが映った。うん、幸先いいねとアイルは得意げにカウチに座り、
隣で言葉を失っているサウラを斜めに見て言った。
「どう、ボス?宇宙一いやらしいピーチドリームの監督さん!」

「ボツ!!」

 ボスとよばれたほお骨のはった口ひげの男は、きかれたことに大きな声で即答した。
「まず長い!さらに暗い!!今から男が抜こうって時になんでまだ子供の女の不幸顛末記聞かされなきゃ
ならん。しかも自分の星が吹き飛んだ、悲劇の奴隷王女で戦争の原因の、だ!お前あの戦争で何人死んだと
思ってるんだ。まきこまれて死んだ身内のいるやつが見たら、おっ勃つどころか号泣か激怒だぜ?!」
 いっきにまくしたて、そして隣の少女を睨む。

「『うわさの王女はじめてのえっち』…だあ?」
「ひねりなさ過ぎ?」
 違うっ!と大きな声で怒鳴る。この男はもともと地声がでかい。滑舌もいいのでまくしたて怒鳴っても
重低音が響きオペラのようだ、とアイルはいつも思う。
「お〜ま〜え〜が〜主演ってとこだ!誰だこんな企画出したやつ!」
「ボク。」
「お前まだ16だろう!」
「何をいまさら。幼女淫行もの裏で撮ってるくせにボス。」
「あれは五年で一才分しか成長しないロリン星人だからいいんだよ!」
「ボクだってやったら16には見えない巨乳美女に変身するからいいんじゃないの?」
「アイル…」

 ため息まじりに頭をかかえるのは、この宇宙船の船長、つまりAVレーベル社長サウラだ。
連邦皇帝の命を受け、アイルの護送役についている。はじめは命令されて、今は敬意と親しみを込めて
アイルは彼をボスと呼んでいた。

「カムフラージュのためとはいえ、今となってはAVメーカーに護送頼まれてラッキーって感じ?」

 アイルはそういってカウチに横たわり、いつの間にか抱えていたチップスをあポリポリと噛み砕いた。

「とりあえず仕事はあるもんね。」
「お前…前向きだなあアイル。」
 クールな物言いに妙なところで感心する。
428サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/17(金) 22:09:33 ID:sBbfQYY/

「前向きどころかボス、ボクは今初めて自分の人生を踏み出せる喜びに飛び上がって、未来を見ているのさ。」
「お前この事態が嬉しくないのか?」
「嬉しくない訳ないだろう。やっと性奴から解放されたんだ。昨日ボスが言ったんじゃん、
自由にしていいんだろう?だから…」
「だからこの船を降りて好きなところに行けと言ってるんだ。」
「だからその前に恩返しがしたいと言ってるんだ。フェイラ星人は義理堅いんだよ知らないの?」
「だからなんでそれがおまえがAV女優デビューって話になる!」

 抱えていた頭を意を決してぶん、と振り上げ、アイルを睨む。アイルもサウラを見ていており、
久々に目が合って一瞬見とれた。
 澄んだ鳶色の瞳。
 こうして正面から改めてアイルを見ると、今更だがまだ幼い少女だ。短く刈った髪に細く骨張った身体、
わざわざ見るまでもなく、その胸に隆起らしき曲線すら無い。
 そのせいかサウラはずっとアイルに弟のように接して来れた。
 連邦皇帝にこの仕事を命じられたときは、メソメソした没落王女のおもりなどうんざりだと思った。
だが、共に旅して一年半、少々斜にかまえて物事をクールに語るきらいはあるが、先刻語られた彼女の
複雑な生い立ちからは考えられない、アイルは明るい娘だった。
 ただどうしようもないのはその耳だ。
 フェイラ星人独特のその尖った耳たぶは、そのままフェイラ星人独特の変身能力を示す。
 つまりまだ変態以前の処女であり、抱けば自分の理想の女に変身する特別な人種。その証なのだ。

「ボスこそ本気でボクがこの船をおりて、一人で無事にいれると思ってるの?」
 その問いに黙るしかないのがサウラの答えでもあった。
「ボクを…」
 横たわったまま上を向いてチップスのくずを袋からザラザラと口に流し込む。
 行儀の悪い王女だな。とつぶやいたサウラに蹴りがとんだ。足癖も悪い、と笑う。
 アイルも笑った。

「ボクをそんな風に一人の人間として、ボクとして見てくれるのはボスだけだよ。」

 その言葉にサウラの笑いが消える。

「だから追い出さないで。ボクこのままボスとこの船で働きたい。」
「お前を雇う金も余裕もねえよ。」
 知ってるだろう、とサウラは昨夜と同じことを言う。
「アンドロギュヌスが死んだ。依頼主が死んで、俺は別にお前を移送する必要がなくなった。
俺も自分を守ってくれる庇護者を失いお尋ね者に逆戻りだ。」

 サウラがただのAV監督でないことはとっくに知っている。どういった経歴でエロレーベルの社長兼監督をしてるか
しらないが、連邦首長に依頼されるような輝かしい過去があるということだろう。頭の切れる策略家で緻密な計画を練り、
大胆に迷いなく行動する、何より強い。…たぶん元は軍部の上層階級だったんだろう。戦争のさなか、
その争いの種であるアイルを強奪し、宇宙首長の命を伝え従わせつつ、アイルを護送中未練たらたら追って来た
一群を巻きつつ、いろんなことがあった上で、アイルはそう判断している。

429サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/17(金) 22:13:52 ID:sBbfQYY/

「だからボクAV女優になるっていってるんじゃんか。」
 横たえていた身体を腹筋で起こし、サウラの鼻先でにいと笑った。
「売れると思うよ。フェイラ星人の初エッチビデオ。宇宙に一つだもん。すごいお金になるよ。
ボクは戦争起こした有名人だし、恨んでるやつも買うだろうし、エッチなやつも、珍しい動物を好きなやつも、
宇宙中の生物学者も買うだろうよ。ボクはこんなだけど、こんな胸も尻もないボクだからこそ、絶世の巨乳美女に
変身するのって、見せ物として十分面白くない?そのまま元フェイラ王女の巨乳大作戦シリーズで儲けるだろ?
ボクをいまだに狙うやつにボクがもう処女を無くして変態済みと知らせる事にもなって一石二鳥…」
 意気揚々とまくしたてるアイルの鼻をつまんで黙らせる。
「ひとつ訊く。」
「にゃに?」
「お前を絶世の巨乳美女にするためには、絶世の巨乳美女が理想の女って男優がお前を抱く必要が
あるんじゃないか?」
「……」
「誰がお前を抱くんだ?」
「ボス。」
 再び鳶色の目がまっすぐサウラとぶつかって、すぐに少し照れたように瞳が泳ぐ。
「…ボスしかいないじゃん…。」
「…俺が…お前を…」
「ええと…。優しくしてね?」
 この日何度目かの深いため息とともにサウラはまたしても頭をかかえて座り込んだ。

・・・・・・・・

 この船に住んでいるのは二人。サウラとアイルだけだったが、撮影が始まると常時4〜6人が
泊まり込み出入りする。
 先週撮影が終わったばかりの『特撮ヒロイン大集合!シリーズ5 ファイターピンク危機一髪』は
たしか本日配給で、めずらしくすっかりオフのピーチドリーム号だった。

「あっビアンカが明日明後日中に来るって通信はいってたよ。」
 食後のデザートにカスタードのトライフルをガラスボウルによそいつつ、
アイルは思い出したかのように言った。
「ビアンカが?…おい、ちょっとそれ食い過ぎだろう。半分にしろ、半分に。」
 こってりとしたクリームにひたされたスポンジの量に驚いてサウラが止めにはいった。
この子供は甘い物に目がなくて、うっかりすると三食お菓子ですまそうとする。
「このあいだも夜中に吐いてただろう、バカが。…で、ビアンカは何しに?」
「知らないよ。」
 好物の摂取量に規制が入った事に口をとがらせ、アイルはしぶしぶ三分の一戻したトライフルを
大事そうに抱えて食卓に戻って来た。
 半分クリームに溶けたふわふわのスポンジをうまそうに口にいれると、とろけるような顔をして、
おいちいな、とかつぶやいている。アイルは部屋着であるショートパンツからまっすぐ伸びた脚を
折り畳んで隣のいすに引っ掛けて横座り、まことに行儀が悪い。タンクトップの脇からちらちらと
小さな胸を見せながら「給料少ないって文句でも言いにくるんじゃないの?」とつぶやいた。
 ビアンカというのはサウラの二番目の別れた妻で、女優で、ファイターピンクだった。
「おっかねえな…。」
 情けないつぶやきを漏らし、サウラはアイルのトライフルの甘い香りをつまみにブランデーを啜る。
 二人のいつもの食後の風景だった。
430サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/17(金) 22:18:13 ID:sBbfQYY/
 口火を切ったのはサウラだった。
「どこか辺境の星で畑でも耕してのんびり暮らすのがいいんじゃないか?」
 アイルは手を止めずにクリームを口に運び続ける。
「耳さえ隠してればバレやしねえよ。ここに来てる奴らも気づいてないだろ?大丈夫だ。」
「インカム帽かぶったまま畑を耕すの?」
 それに、と続ける。
「バレてないのはフェイラ星人ってことじゃなくて、ボクが女ってことだから。そこんとこ間違えないで
ボス。トビーやクレイブがボクに興味を示さないのは、ボクを下働きの小僧と思っているからだよ。」
「まあ、どう見てもボーイだからな。」
 トビーもクレイブも気のいい男優なのだが、天然にスケベで女と知れば手をだすのが玉にきず。
 女優との間にトラブルは絶えないが、サウラとは長い付き合いで、アイルを親戚の子と聞いてああそうと、
すんなり受け入れておおいにこき使ってくれていた。
「ちなみにあいつらは嫌だからね。ラバーフェチとロリコンなんて。」
 どんな女に変態するかわかったもんじゃない、と毒づく。その点ボスは。
「今までの三人の奥さんを見ても、つまみ食ってる女優を見てもわかるように、グラマーで頭悪そうな
セクシーブロンド巨乳美女がストライクだろ?」
「頭悪そうって…ビアンカがきいたら殺されるぞお前。」
「でも当たりだろ。」
 アイルは鬼の首をとったかのように発見した事実をひけらかす。
 以前スレンダー美人とはめ撮りしてたやつ、やる気無いの見え見えでダレた、と。
 サウラは頭がくらくらしてきた。酔いが回るのは早すぎる…いや、酒が足りねえ。
「おまえ、うちのレーベルのビデオは18禁…。」
「だって処女だもん。勉強しとかなきゃあ。」
 すっかりからになったガラスボウルをテーブルに置き、指についたクリームを丹念に舐めとった。
紅い小さな舌がちらちらとサウラの目に入る。
「そういうのもビデオから覚えたのか?」
 え?とアイルが意外な顔をしたのでサウラは心で舌打ちした。
「今のちょっとえっちかった?そんなつもりじゃなかったけど、嬉しいな、ボクでもクるんだ。」
「こ・ね・え・よ・!!」

 思いがけず大声で否定してしまい、サウラは慌ててかぶりをふった。
「そうとも、俺の好みはセクシーブロンド巨乳美女、阿呆っぽくだらしない感じの女盛りの
三十過ぎくらいがど真ん中ストレートだ。」
 対面のアイルを見て「悪いか。」と開き直る。だから、
「お前のようなガキには勃ちませ…」ん、というかわりに、うおう、声をあげる。
 対面のアイルがテーブル下からサウラの股間に脚を乗せたからだ。いや、乗せたというか、
蹴りつぶしたというか。
「てめえっ!」
「ごっごめん!優しくなで上げるつもりだったんだけどっ…」
 緊張してやら脚が長くてやら足摺岬がやらつぶやいて、アイルはバツが悪そうに俯いている。
 誰だ、こいつにそんないらん知識を教えたやつは。いや、ビデオ学習か。
足摺岬は「愚息昇天!美脚女将の柔らかすぎる〜はあと」その足の裏編に収録されている技で、
そんなくだらないビデオを撮ったのは確か…俺だ。
 サウラは右手でごそごそと息子の位置を直しつつ、そんなアイルを見てげんなりしつつも胸が痛んだ。
 まだ少女なのに…。この子供は…まだ16なのに。
 自由にしてやると聞いても、まっさきに浮かぶ事がそれか。
 サウラは初めてアイルを見たときの、冥い瞳と腰の貞操帯を思い出し、無理も無いが、と思った。

431サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/17(金) 22:21:31 ID:sBbfQYY/

「AV作ってる俺が言うのもなんだけど…。」
 ゆっくりと顔を上げるアイルと本日三度目の目を合わせて、サウラは自嘲しながら言った。

「セックスは好きな男とやるもんだ。」

 アイルの瞳が一瞬潤んだように光り、パチパチと瞬いた。

「おまえの特殊な能力や生い立ちがそんなだから信じろと言っても無理かもしれないが、世界のどこかに
お前が何星人でも、どんな生い立ちのどんな人間でも、今目の前にいるお前を大事に愛してくれる男が
きっといる。処女はそいつに捧げるべきだ。」
 断じて将来AV女優になるためにとか、打算的にセクシー美女になろうと、俺なんかとするべきではない。
 サウラの言葉にアイルの長いまつげが伏せられ瞳に影が落ち曇る。口端をゆがめた嫌な笑いを浮かべていた。
作り笑いかもしれないが。

「…そんなの、…そんな男いないよ。」
「いるさ、必ず。」
 サウラは右手を伸ばしかけ、引っ込めると、わざわざ股間を押さえなかった方の手にかえて、
俯くアイルの小さな頭をくしゃくしゃとなでた。
「このきれいなハチミツ色の髪をパツキンにすることもねえだろう、もったいねえ。」
 それから、来週辺境星系往きの船がでてるギャラクシーポートにつけるから、そこで船を降りろと言った。

「アイル、おまえは自由の身になったんだぜ?それが嬉しく思うなら、自分の人生ってやつに踏み出すのなら、
その特殊変態能力があるということからも自由になって、本当におまえの望む生き方を考えろ。
将来を見据えるそのときに、過去に囚われることはない。」

 そういう自由がおまえにはもうあるのだと、サウラの大きな手が不慣れな手つきで頭をなでる。
アイルはしばらくそのまま俯いて頭を揺さぶられるままでいた。

・・・・・・・・・・

 ハーレーダビッドソンのようなバイク型の小さな船が横付けされたのは、予告通り二日後の午後だった。
 バーンとドアをブーツで蹴り上げ入って来たのは、ピチピチのつなぎを着た巨乳美女、ビアンカだ。
 いつもと同じ登場に今更驚きもせず、自室のベッドに横たわったまま美女を迎える。

「なんだ、全然荒れてないわね、つまんないの。」
「おまえが来るとドアの閉まりが悪くなるのはどういうことかね。」
 自動のはずが閉まらない入り口にげんなりと目をやって、サウラはまた元の読書に戻る。
 締まりが悪いのは今に始まったことじゃねえが。とひとりごち、ビアンカの肘鉄を腹に受ける。
まあ、いつもの会話の切り口だった。ちびっこサムじゃあそう感じるかもしれないわね。
とサウラのジュニアを一瞥しふふんと鼻息で笑う。相変わらずの女だとサウラは思う。元妻だ。
 
「アンドロギュヌス様の国葬に行って来たから、ビデオ見せてあげようと思って。」
「嘘をつけ、連邦本部は何光年先だと思っている。」
「だから隣の銀河の中継葬よ。見たくないの?」
 サウラはビアンカを見上げて、その手にひらひらと小さなデータチップを認めると、
うすら笑って「今はいい。」と答え、そして「ありがとう。」と言った。

432サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/17(金) 22:28:27 ID:sBbfQYY/

「まあ、驚いた!礼を言ったわ、この男!!」
 大げさに驚いてみせるビアンカの優しさに、見ていた本を横に置き身を起こすことにする。
「礼をいわなきゃならねえ事はまだある。初日完売だファイターピンク。ピーチドリームの看板女優は
宇宙で一番たくさんの男を興奮させてる女だぜ。ありがとう。」
「そういう礼は言葉じゃなく、銀行に振り込む数字で示してちょうだい。」
 今の言葉は笑って無視だ。

「何か飲むか?いいブランデーがあるぜ。」
「バスからバイクで来たの。飲酒運転はまずいわ。」
 つなぎの前ファスナーを下まで下げて上半身を脱ぐ。襟に巻き込み入れ込んでいた長い髪が
滝のようにばさりと垂れた。見事なブロンドだった。つなぎの下は下着と言ってもさしつかえない
短いハーフトップ一枚だ。はち切れそうな巨乳を小さい布に納めて深い谷間を強調している。
昔はこの谷間に自分の物を差し入れるのが好きだったと思い出す。若かったなあ、と今は感慨深い。
「飲むならシードルくらいにしとく。酔っぱらってあなたに優しくするのはしゃくだもの。」
 口端で笑って望む女の言う通りに、冷蔵庫から冷えたシードルを二本取り出しビアンカに渡した。
あなたは飲んでいいのに、と促すビアンカに、酔っぱらっておまえに優しくされるのはしゃくだからな、と返す。
二人で笑い合って乾杯した。炭酸の泡が心地よくのどに絡んで降りていく。

「大丈夫?」
 含みをこめてビアンカが言う。ああ、と答えてなんとかと付け足した。
「じじいが死んだのは正直驚いたが、結果としては悪くない。俺はただの連邦犯罪者、お尋ね者という自由の身に
やっとなれた。今後はしたくもない諜報活動や、AVにウイルスをまぜるような外道ななこともしなくていい。」
 俺のビデオで抜こうと喜んで買ってくれた愛すべきエロ青年達を軍事に利用するのは、もう終わりなのだ。
過去に犯した罪の追求から庇護してくれていたアンドロギュヌスには悪いが、サウラはずっとこの日がくるのを
待っていたようにも思った。
 皇帝の…父の死を伝える報を聞いたときは一瞬狼狽したけれど。
 所詮は私生児だ。

「そうね、これから連邦保安局から逃げ続ける生活になるとしても、あなたも……
アイルくんも自由になれたんだもの。よかったのかもしれないわね。」
 ガボッ、とシードルがのどで逆流し、ゲホゲホとむせる。
 サウラは驚きに目を見開いて、おかわりを取りに冷蔵庫へ向かう元妻の背中を凝視した。
「なんでアイル?あいつは関係ねえだろ…」
「ごまかさないでいいわよ。全部知ってる。」
 冷静を装うが、さっきむせたのどがちりいと痛んで声がかすれた。
「全部って、なんだ。」
「全部よ。元妻をなめないで。あなたに親戚なんかいないことくらい知ってる。
それからあの子が女の子ってことも、アンドロギュヌス様の命令で任務でこの船に乗せた事も…」
 シードルを取り出し、冷蔵庫を足で閉めながら振り返ると、すぐ目前にサウラが立っていて、
ビアンカは小さく悲鳴を上げた。

「それから?」
 サウラは笑みを浮かべて元妻に問うた。
 ビアンカはそんなサウラをにやにやと見上げる。
「あの子があの、フェイラ星第三王女、アイルハタファビエって事も。もちろん…」
「ビアンカ…」
「フェイラ星人の特異体質も。」
「それを誰かに言ったかビアンカ。」
 サウラの声は恐ろしく冷たく、もう笑ってはいなかった。
433サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/17(金) 22:31:53 ID:sBbfQYY/
 だがさすがの元妻はひるむことなく、誤解しないでとかぶりを振った。
「あの戦争で私は確かに兄を失ったけど、別にあの子を恨んでなんかいないわ。
悪いのはあの子じゃない、色欲に狂ったバカ男共だもの。誰にも彼女の事は教えてないし、
これからも言う気はないって、さきに言っとくわね。」
 そう言って手に持ったシードルごとサウラの厚い胸を押す。元妻にこの距離は近すぎるわよ、と笑う。
 シードルを受け取り、サウラは息を吐きながら元のベッドに再び座った。ビアンカも後に続いて
サウラのすぐ横に席を同じくし、膝下の長いむっちりした足を組む。
 近すぎると、迫るサウラの距離を責めながらこれだ。あいかわらずだな、色っぽいいい足も、
その悪癖も。とサウラは思う。
 ビアンカは根っからの女王様気質で、日常でもベッドでも、あくまで自分主体でなければ嫌らしい。
結婚していたのはほんの半年だけだが、その間もその前も後も、サウラから迫って情事に至ったことは、
ビデオの中の二回だけだった。そのくせ大変巧みに男を誘う。こちらから押し倒しても絶対やらせねえくせに、
となりで男がじれているのが好きなのだ。まったく悪い癖である。
 別れた今はそんな悪癖の理解は親しさの範疇だ。みせてくれることでサウラは和んだ。
 悪かったと詫びた。それでビアンカも話を進める事を許した。

「私にそれを教えてくれたのは他ならぬアイルくんなのよ。」
「アイルが?そんなバカな…」
「AV女優になりたいんだけどどうしたらいいか、と聞いて来たときに白状させたのよ。」

 サウラは再びシードルをむせて噴いた。あらあら、とばかりにビアンカはサウラの
シャツのボタンを外して脱がしにかかる。
「いい話じゃないの。あの子の言う通り、間違いなく売れるわよ。歴史的な大ヒット間違いなし。」
 その言葉にむっとしてビアンカの手を振り払う。
「まさかお前の入れ知恵かビアンカ!」
「そんなわけないでしょう、あの子がそう聞いてくるまで男の子だと思ってたのよ!?」
 思いがけない怒りを含んだサウラの声に、ちょっとタイプだったのに、いつ手を出そうかと
思ってたのに、とビアンカも声を荒げる。
 そうだこいつは本来ショタだっけ。なんで結婚したんだ、俺と。 

「あなたはさっき私を、ピーチドリームの看板女優で宇宙で一番たくさんの男を興奮させてる女、
とほめてくれたけど。」
 ビアンカの手がシードルでべたついた胸を認めて、顔を寄せるとそれをなめとるように舌をはわせた。
「アイルくんがデビューしたら、男を興奮させるって点では間違いなくアイルくんが一番ね。抱いたら
理想の女になるんでしょう?」
 慣れた手つきでズボンのベルトをはずし、いきなり直に息子をしごく。
「なんで抱かないのサウラ?」
「俺がアイルをか…!」
 元妻の手慣れた刺激にむくりと肉が盛り上がる。されるがままにズボンを降ろされ、
むき身の肉棒が半勃ちのまま、だらしなく半開きの肉厚の唇に納められる。
「あんな子供に勃たねえよ!」
「あなた…鬼畜だからだあいじょうぶよ…ん…。」
 濃密な唾液を絡めじょぶじょぶと口中でしごかれて、サウラのモノはあっという間に固くなり、
くっきりと欠陥を浮き立たす。すっかり屹立させたそれを口から出すと、根元を握ってぶるぶると振って、
ほらね、と誇らしげに見せつける。

 スイッチが入ったのかビアンカは、すっかり女王様然とした笑みを浮かべて脱ぎかけて腰に絡んでいた
つなぎから足を抜くとハーフトップも脱ぎ捨てた。黒いレースの短いボクサーショーツ一枚でブルンと
大きな胸を震わすと、そのままサウラに股がりその谷間に棒を突き入れる。同時に口いっぱい貯めた
唾液をだらりと亀頭にたらし、それを潤滑液に、二つの肉塊を上下させサウラを刺激しはじめた。
「やったらあの子のおっぱいもこんなに大きくなるのかしら。」
 ビアンカはアイルのまったく控えめな、というより男の子と信じて不思議でなかった
揺れもない胸元を思い出して笑った。

434サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/17(金) 22:37:24 ID:sBbfQYY/
「…ならねえよ。やらねえからな。」
 ひさしぶりの刺激にサウラは息を乱していった。
「あなたの好みは十分知ってるけれど…サウラ欲しくないの?自分の理想通りの女よ?
私より輝くブロンドの、私より妖艶な美女で、このおっぱいより…」
 ギュウと両手でおっぱいごと肉棒を締め付けながら、谷から突出したモノのカリのつぎめに舌を当てる。
そのままぺろぺろなめながら、時には鈴口からしみ出した透明な雫をからめとる。
「私も大きさとしっとりした肌障りは、最初の奥さんに負けるけど、アイルくんはそれ以上になるのよ?
おっぱい星人のあんたがそれに食指を動かされないなんてしんじられない。」

「あいつは…アイルは…あの本来の姿のまま自由になるべきなんだ。」

 十分に大きくなったそれをゆっくりとのど奥まで刺し入れ、そこで一度唾液をごくりと飲み込むと
サウラの顔が快楽に少し歪む。
「…でないとあいつの星が吹っ飛んだことや、家族や友人を失った事を悼む事が出来ねえだろう…」

 ビアンカのカタツムリの口は、熱い肉棒を吸い付きながらゆっくりと吐き出す。
「俺はそれは最後の生き残りのフェイラ星人としての権利だと思っている…そしてそれからじゃないと
あいつは自分が巻き込まれ、その特異な体質のため男の肉欲の対象になってることを悲しいと思えないじゃないか。
…みんな死んだが自分は生きてて…もっとひどい扱いをされてる星のやつもいる…だから悲しいなんて言ってられないと
……そんなの…可哀相だろう。」
 今度は大きく舌を出し、それを裏筋側に添えて根元から舐め上げる。さすがのテクニックだった。

「…あいつのフェイラ星人故の運命は変えられねえものだけど、それくらいなら
…悲しむ時間をやるくらいなら俺だってあいつにしてやれるし……おい、ビアンカっ。」
 ビアンカは両の手でやわやわと二つの袋をもみながら、じょぶじょぶと音をさせて顔を上下させはじめた。
慌ててビアンカの頭を引き離す。
「なんだ、今日はずいぶんサービスいいじゃないか。」
「可哀相、は愛の始まりだって、昔私にいったの覚えてる?」
 口端に泡を立ててビアンカは片手で自分の黒いショーツを引き降ろし片足を抜くと、サウラを跨ぐように
膝立ちになり自分で陰部を撫でさすりゆっくりと腰を落としていく。
「サウラ、あんたアイルくんが好きなのね…。」
「そうだな、この一年あいつと暮らしていつのまにか弟みたいに思ってた…。」

 素直に認めてサウラはこの一年を振り返る。ほとんど無口に俯いていた出逢った頃のあいつの痛々しさ…、
はじめて笑わせた日の夜はいいブランデーを一人開けて乾杯した。やもめの夜ににいつしか寄り添うように
甘いスイーツを抱えたアイルの姿が加わり、それを幸せと呼んでいいものだと気づいたのは最近だ。
アイルがフェイラ星人であることも、任務も、忘れていた。昨夜まで。

 亀頭に手を添え、ビアンカは自分で濡れ始めた陰部に押し付けぐりぐりとかきまわした。
「正直親父が死んで、依頼が消えてよかったと思ってる。」
「だったらこのまま一緒に住んでやればいいのに…。あの子にしてみても、フェイラ星人にかぎらず
16やそこらの女の子が知らないところで一人で生きていくのは不安よ。本人が望んでるんだから
抱いてやりなさいよ、こんなふうに…」
 ずちゅう、と一気に突き入れた。びくんと体を震わせ膣内の熱い固まりを堪能して、
ビアンカの目が潤み始める。サウラはしばらくじっとしていたが、思い出したかのように
そろそろと、両手をビアンカの腰に添えた。
「あんたの理想通りの女にしてさ、何作かAVに出てもらってさ、自分で働いて得たお金で
暮らせるようにしてあげるのも優しさよ?…そしたらこの宇宙のどんな環境でもしぶとく
生き抜けようになるんじゃないの?」
「おまえみたいにか、ビアンカ。…突くぞ。」
435サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/17(金) 22:40:38 ID:sBbfQYY/
 くいっと腰を突き上げられビアンカが軽く嬌声をあげた。
「ん…はあっん。ダメよ、動いちゃ…私が…。」
 サウラはビアンカの声を無視して、両手で腰を固定すると、下からずんずんと乱暴に突き上げ始めた。
「ああっ…あん、あん、嫌っ!バカっ!自分で…。」
 ビアンカの体は感じて反応するが、顔は不機嫌さを増していく。
 わかっていた事だ。離婚の原因だ。なのに仕掛けて来たこいつが悪い。俺だって…。
 サウラは心中で毒づく。
 俺だって好きな女が降参するまで感じさせまくるのが好きなのだ。ああ、苛虐嗜好ですとも。
でなきゃあAV監督なんてやんねえよ。

 このへんだったかと、記憶を頼りにビアンカの感じるポイントを的確に突き上げる。
「あっあっ…イク…嫌あっイカされ…んあああっ…!」
 ギュウと中から締め付けがきつくなり、ビアンカはサウラの胸に爪を立て果てた。
 ひくひくとした余韻をしばらく味わい、では、とサウラは身を起こしてビアンカの両足を抱えこんで
対面に座位をとる。大きな張りのある尻肉を掴んであぐらをかいた足の間で円を書くように揺さぶった。
 怒ったような形相で嫌がってたビアンカだが、サウラの手慣れた愛撫に再び高みに持ち上げられる。
「ひあっ…ん…ああっ、ダメ…また…っ。」
 そのままサウラも昂りに身を任せ、ビアンカの熱い膣内に欲望を放った。びゅくびゅくと
中でイク元夫の逞しさに続けてビアンカも身を反らせ痙攣する。ああん、と甘い喘ぎを聞いて、
このときだけは可愛いのだが、とサウラは毎度苦笑する。

 ゆっくりと己を抜き絡み付いた粘液を拭き取りながら、ふと開きっぱなしの部屋の扉に
何かが動いた気がして目を止めた。気配の主に気づいてサウラは硬直した。
 なのにビアンカがはあはあと、まだ肩で息をしながら言ったのだ。
「どうだった?よく見えた?アイルくん。」
 ざあ、と血の気が引いた気がした。
 サウラはビアンカを心で三度はり倒しながらも、その控えめな観覧者がおずおずと
ベッドに近寄ってくるまでになんとかパンツをはいた。

 俺はまあ、いわゆる標準サイズと思うが、今は一仕事終えてささやかに身を横たえているし、
うちのAVはモザイクなしだ。処女があれを見て、うちの人気男優の皆さんの巨根をレギュラーサイズと
思ってたらたまらない。てなことはこの際どうでもいい!

「アイ…-----!!」
 怒鳴りつけてやろうと声を荒げかけ、サウラは絶句した。
「…ごめん、ボス。ボクどうしても見たくて、ビアンカさんに無理言って頼んで…
 ビアンカさんありがとう、な…なんとなく、わかった…よくは見なかったけど…」
 最後にもう一度サウラに向かってごめん、と言って、アイルはきびすを返して部屋を出て行った。
 壊れて開きっぱなしのはずのドアが自動に閉じた。
 部屋にはぽかんと口をあけたまま固まるサウラとビアンカの二人が残された。

「あらやだ、そうだったの…」
「言うなよビアンカ。」
 …あんなアイルは見た事無い。澄んだ鳶色の瞳を真っ赤に腫らして、
涙と鼻水で顔と両手をかぴかぴにし、かすれた声で謝罪をし、傷ついた顔で出て行った。
処女ゆえの潔癖さからだと信じたかった。なのにビアンカが、…言うなと言ったのにビアンカが、
今までの俺とアイルがうやむやにして来た事を、はっきり言葉にしちまった。

「可哀相にあの子、あなたが好きなんだわ。」
 可哀相に、は愛の始まりだぜ?と棒読みでつぶやいてサウラはビアンカに殴られた。

436サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/17(金) 22:46:49 ID:sBbfQYY/

・・・・・・・・・・・
 
「…うぬぼれてたのかな、ボク…。」
 熱めのシャワーを頭からあびながらアイルはつぶやいた。
 
 最後のフェイラ星人だから、男が求めてやまない特異体質だから。
 どこかでサウラが断る分けないとタカをくくっていたのかもしれない。

 …あいつは…アイルは…あの本来の姿のまま自由になるべきなんだ。
 …でないとあいつの星が吹っ飛んだことや、家族や友人を失った事を悼む事が出来ねえだろう…
 
 頭を横から思い切り殴られたように思った。
 サウラの台詞を思い出し自分の愚かさを悔やむ。
 ああ、ボスは…やっぱりボスはすごい…
 胸の奥から沸き出すサウラへのその熱い想いを、今日まで尊敬や憧れだけと思っていた自分の幼さを呪った。

 抱いてくれとボスに頼むのはとても恥ずかしかった。
 だけど手っ取り早い保身のためのいいアイデアだと思ったし。
 最後のフェイラ星人として、自分は有名だし、顔もバレてるし、外の世界で自由に暮らせるなんて
よもや思えなかったし。どうせ身を隠して生きるにしても変身は必要だし。
 処女喪失の変態が逃れられない自分の体質なら、奪われるより望んでそうなりたい。 
どうせならセクシーで巨乳の金髪美女になりたい。
 だからサウラに抱いてもらうのが一番いいんだ。だってそうしたらボクはビアンカみたいに
サウラと組んで仕事ができるし、このままこの船でサウラと暮らせるし、
なによりサウラの最も好みの女になれば…
 
 ボスに愛してもらえるかもしれない。
 そう思ったんだ…。
 バカだ、バカだ…!
 
 シャワーに混じって熱い雫がまた瞳からこぼれだす。
 
 そんなことで女を愛したりしないのがボスなのに、わかってたのに。
 共に航行して寝食を共にして、アイルに指一本触れないどころか、フェイラ星人の特異性に興味も示さない
サウラにアイルは秘かに感謝していた。たとえそれが連邦皇帝のの命令に従っていただけだとしても、
自分を奴隷でも、フェイラ星人としてでもなく、一人のアイルとして扱ってくれたのはボスだけだったのだ。
確かに捕われ人と護送者の関係であるはずなのに、ボスと下働きの小僧という安心できる関係を作ってくれた。
アイルを好いてくれているのを誰よりアイルが知っていた。それは…
 弟みたいに、というサウラの言葉を嬉しく思う。
 同時に悲しくて胸が痛い。

 …俺はそれは最後の生き残りのフェイラ星人としての権利だと思っている…

 フェイラ星人の特異体質より、故郷の喪失に気持ちを寄せてくれるサウラを心から尊敬する。
 特殊な体質より目の前のボクだけを愛してくれる男が必ずいると、そう言った。
 そんな男、いない。探してもいないよ、ボス以外!いらない!
  
 ボスが出演してるAVを観て、目がかすむような混乱を覚えた。
 元妻で今はフレンドリーなセックスパートナーのビアンカに頼んで実際に見て、
アイルは自分の奥底に抱いていた欲望をはっきり自覚して、その浅ましさに泣いたのだ。
  
 ボクはただ、ボスに。普通の女の子と同じように。
 ただ好きな男に抱かれたかったんだ…。

437サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/17(金) 22:52:18 ID:sBbfQYY/
 
 シャワーを出ると卓上のデイスプレイがちかちかとメッセージの受信を知らせていた。
 二通、ビアンカとボスからだ。
 先にビアンカの方を見る。
「おばかなアイルくん、私はあんたの味方よ。泣いても解決しないことはわかってるわね。
女が一人逞しく生きていくための知恵ならいくらでも教えてあげる。でも恋の悩みは…いい女なら
一人で解決するものよ。…また会えるといいわね。」
 サウラのことには一言も触れてない。素敵な人だとアイルは思った。さすがにボスの元妻だ。
 それから時間稼ぎにくしゃくしゃと髪を乾かし、おそるおそるもう一方のメッセージを聞く。
「…アイル。」
 ああ、ボスがボクの名前を呼ぶ。自覚したアイルはそれだけで胸が熱くなる。
「今週の当番はお前だろう。何時だと思ってんだ、バーカ!早く飯にしろ!!」
 いつもと同じく滑舌の良い、歌うような怒鳴り声。
 好きだよ。
・・・・・・・・・・
 
 夕飯はサウラの好きな手打ちのパスタにした。
 手間のようだが、慣れてしまえばゆでる時間も短く、早くテーブルに給仕できる。
 それからカジキを焼いて温かいタルタルを添えて、サラダとオリーブ。
 支度が出来たと呼びにいく前に、良い匂いだと部屋から出て来た。
 いつものように食前酒にシェリーを飲み、今日のパスタの出来を誉め、メインの前にタバコを吸いかけ
アイルに怒られ、食後のコーヒーを飲んでから、ソファーに移動してブランデーを注いだ。
 アイルは昨日食べ忘れていた残りのトライフルを大きなバットごと抱えて、いつものようにサウラの隣に
座った。二人のいつもの夜は、いつもと同じようでいて、まったく違う。

「クリーム系は食卓で食えよ、こぼすだろう。」
「こぼさないよ。」
 二日経ったトライフルは甘い香りもとんで、隣でサウラの飲むブランデーの香りに負けている。
「ボクもそっちにしようかな…。」
「お酒は二十歳をすぎてから。」
「じゃあボクがボスと杯を酌み交わす事は一生無いということか。」

 隣り合う二人の間に沈黙が横たわる。

「…明後日、ギャラクシーポートに船を止める。」
 アイルはまるで聞いてないように相変わらずクリームを口に押し込んでいる。
「だから、その…明日はどこか遊びにいこうか。すぐ先の星緯まで移動遊園地が来てたと
ビアンカが言ってた。おまえ以前行ってみたいと行ってなかったっけ?」
「思い出作りってやつ?」
「アイル…。」

 俯きがちに正面を向いて仏頂面で淡々とスプーンを運ぶ。そんな隣の少女の顔が見れないのは
サウラも同じだった。
「他にしたいことがあれば…。」
「ボスとしたい。」

 頭を抱えて俯くサウラの視界にあぐらをかいたアイルの足が飛び込んだ。ショートパンツの裾が
めくれていてきれいなブルーのショーツが見えている。あわてて目を逸らそうとしたとき、
ちょうどそこに白いクリームが落ちて来たので、ああ、と思わず声をあげた。
「ほら、言わんこっちゃない…」

 何か拭くもの、とダイニングに向かいかけたサウラの腰に、細い腕が巻き付いて引き止めた。
 ズキンと何かに突き刺されたようにサウラの胸が痛みに響いた。

「ボスとしたい…」
438名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 22:56:21 ID:sqNVYNlj
紫煙
439サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/17(金) 22:57:40 ID:sBbfQYY/

 アイルが繰り返す。
 声が震えている。
 腰骨に押し付けられた柔らかい頬に、巻き付いてしがみつく骨張った手に、意識が集中して
サウラは動けなくなった。
 着ていたシャツの布越しに温かい湿りを感じた。
 性奴隷として囚われてたときも、皇帝の命令で移送を告げたときも、
深夜のホラー映画を一緒に見て震えていたときも。今まで涙を見せた事ないおまえなのに、
そんな事で泣くのはずるいぜ、アイル。

 泣きたいのは俺も同じだ、と深いため息をついて、ええい、とアイルの手をほどいて振り返る。
 涙に濡れて大きく見開かれた鳶色の瞳がサウラを射抜いた。それでもう、サウラは自分の本当の気持ちに
気がつかざるを得なかった。
俺は、この少年のような骨張った身体の、はちみつの髪をした少女を。

 …「お前を変えたくない、アイル。」
 変わる姿も見たくない。だからそうだ。
 この姿のまま別れてくれ。誰にも抱かれず、どうかそのまま。
 そうすれば、俺の思い出の中ではそのままで永遠だ。
 こんな事を、言えるものか!!
 
 サウラは仁王立ちのまま少女の涙を拭ってやるのが精一杯だ。手が震えているのを
アイルに気づかれないように、乱暴に頬を拭う。作り笑いを浮かべてそうすることに
懸命になっている自分ががひどく滑稽だった。いくつ歳が違う!?こんな子供に!
「言っただろう…初めては好きな男とする自由が…」
「だからボスとしたいんだ。」
「お前はセクシーブロンド巨乳にそんなになりたいのか!?」
「ボスが抱いてくれるならなんでもいいよ!」
 股間にしがみついてしゃべるのはやめろ!

 小さな頭を両手で掴んで引き離す。痛いと叫んだが知った事か、こっちはそれどころじゃない。

「思い出作ってくれるってんなら、どうかボクを抱いてよボス。
どうせボクを見捨てるならそれくらいの情けをかけてよ。どんな姿になってもいいよ。
明日宇宙に放りだされて、即座に誰かに殺されたって、
好きな男に抱かれる自由を今ここで手にいれられたら、
ボクはボクの人生を可哀相だなんて思わない!」
 振りほどいて逃げるようにドアに向かう。

「あなたが好きなんだ、サウラ!!」

 声を遮るようにドアが締まった。
440サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/17(金) 23:02:25 ID:sBbfQYY/

・・・・・・・・・・・
 
 自室に駆け込み服を着たまま、冷たいシャワーを頭からあびた。
 呆然と身動き一つせず冷たい水を浴びているから、よけいに早鐘のような鼓動にめまいがする。
 俺は、俺は、俺は…っ!

 今まで誰がサウラをこうまで取り乱せただろう。
 女優達のだれよりも、今までの妻の誰よりも、俺を震えさせる誘惑の悪魔。
 わかっている、俺を尊敬の眼差しで見上げ、敬意をを露にボスと呼ぶ。
 お前に手を出さないことでお前の信頼を得て来たのに、今更実は誰よりもその肉体に
みにくい劣情を抱いていたことを知られてたまるか!
  
 落ち着いて、シャワーを止め、びしょぬれの服のままサウラはさっき腰に絡んだ細い腕を思い返して、
今日のビアンカに感謝した。
 一発やってなかったら、己を止められる自信は無かった。
 明日はやはり、移動遊園地に行こう。なにがあっても二人きりにならないように、
何年か後に思い出した時、楽しかったような気に少しでもなるように。


・・・・・・・・・・・・
                 ここまでで半分です。すみません。
                 長いの恥ずかしくなってきた。一度切ります。


441名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 23:15:03 ID:FzYBFUwk
GJ、GJだとも!
アイル可愛いなぁ。
続きはいつですか?
442名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 23:26:07 ID:s0SRLl2Y
泣いた。興奮するとかそれ以前にサウラの漢気にアイルの純愛に。
そして所々散りばめられるギャグ。こんな作品中々ないはずなのに
これが乱立するのがボーイッシュスレクオリティ。

アイルを狙う奴がいたらバルキリーで迎え撃ってう、うわぁぁぁぁぁってなりたい
443名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 23:26:23 ID:cmnLUgct
>440
GJ!
続きが気になるのにお預けなんてそれなんてイケズ?
444名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 04:28:26 ID:JHwMJI9p
GJ!

しかし、ここまで強調されていると、初体験後の姿が想像できてしまう・・・
文章がちゃんとしているのも善し悪しですね。
445名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 06:36:56 ID:1tVEMw0L
この手の変身ネタだと、「敵は海賊」シリーズの神林長平が書いてたかな。
後は外国だと名前忘れた人の「恋人たち」とか。
確か、どちらもアンハッピーエンドだった気がするので、是非ハッピーエンドになって欲しいもんです。
446664:2007/08/18(土) 10:02:23 ID:fMtwBEfx
流れを読まずに投下。
軍人モノ
アウラ、バルスラー、その他
色んなクロル
色んな意味でごめんなさい




俺の名前はバルスラー、俺の部屋は狙われている。

『極上☆軍人サークル』

「おい……お前ら、何で俺の部屋にいやがるんだ」
午後の訓練を終えて自室に戻ったバルスラーは部屋を開けた瞬間、憂鬱になった。
自室のテーブルを囲むようにドッグタッグをぶら下げ、タンクトップに迷彩の長ズボンを
履いた女が三人。 
そいつらがデザートに取っておいた桃の缶詰を勝手に開け完食した挙げ句、その缶を
灰皿代わりにウインストンとキャメルの吸い殻が山のように積み上げられていればもう十分であった。
「いや、何でって言われてもねぇ…」
「はい。」
「です。」
あら、いやだと言わんばかりに顔を見合わせる三人にバルスラーは言った。
「ねぇじゃねーだろアウラ。」
「まーまーいいーじゃないの。バルスラー、明日から休暇なんでしょ」
「そうだよ。テメェらが出て行けば、今日の夜からだよ。」
「溜まってるんですか?」
これも勝手に開けたであろう桃の天然水のボトルを片手に小柄な女性が言った。
「誰がだ!このミニマムボケが!しかも、クキ!俺のモノ勝手に!」
クキと呼ばれた女性、名は九鬼(くき)ミツコ。極東出身者の父に、ウォルンタリア人の母を
持つ二世である。先祖は遠い昔、極東の戦乱時代の『センゴクダイミョウ』であったとか、なかったとか。
「バルスラーさん、クッキーを悪く言わないで下さい。他人の欠点をあけすけ言う人は嫌われますよ。」
 九鬼の隣にいた女性が口を尖らせ言った。こちらの本名は、ティーナ=レコ。
凛とした顔立ちから同性の訓練兵に人気がある。ちなみに衛生兵で、
従兄弟はなんたら医療介護サービスの看護師だとか。
447664:2007/08/18(土) 10:06:30 ID:fMtwBEfx
「むしろ嫌ってくれ、つーか出てけ。」
「私は好きよ。バルたん。」
と九鬼の甘い声。
「だ、誰がっ!」
 顔を真っ赤にして怒るバルスラーに対して明後日の方向を向きながら九鬼は言った。
「冗談よ、このバカ筋肉ダルマ。」
「まぁまぁ…そこまでにしておいて。さて、バルスラー、私達がここにいるのは他でもないわ」
 改まった態度と口調に変わったアウラにさすがのバルスラーも身構えた。
「……な、何だってんだよ」
「そう…他でもない。新たな教官の同人誌を作るための集会を招集したのだ!」
「ハイル・アウラ!ハイル・アウラ!」
「アウラ万歳!万歳!万歳!」
「………」
騒ぐ三人にバルスラーは口から魂が抜けかけていた。
「とゆーワケでぇ…前回に引き続き、教官モノ同人誌の第二弾案をだしてもらいます。」
 何やら場を仕切り始めたアウラに我に戻ったバルスラーはあわてて言った。
「いや、だから…何で俺の部屋でやるんだよ!お前の部屋でやれよ!アウラ!」
「私の部屋ヴィクター教官の写真やグッズがたくさんあるから他人は入れない事にしてるの。
あの部屋の空気を吸っていいのは私とヴィクターだけだから」
平然と言ってのけるアウラにバルスラーはまたも口から魂が抜けかけていた。
「わお♪さすが『ヴィ君大好き狂(教)』の名は伊達じゃありませんね。ちなみにあたしの部屋は
害虫駆除の為に自家製殺人ガスを焚いているからダメです。」
「“自家製”で“人”じゃダメだろ、お前。」
「私の部屋も今はダメだわ」
「アウラやティーナはともかく…なんでテメーの部屋はダメなんだよ」
「友人に貸してるの。有料で。料金は1時間で―――――」
「ラブホかよ」
「いいえ。SMクラブよ、道具も揃えて上官も利用してるからとてもお金になるの」
「……お前らと同期って事にものすごく後悔してる。とにかく俺の部屋はダメだ、帰れ。」
「もちろん無料とは言わないわ。クロル教官のセクシー生写真10枚でどう?」
 アウラは訓練生時代に撮ったクロルの生写真をちらつかせた。
余談だがクロルが収集していた上官・下士官のデータは今はアウラが引き継いでいる。
「よし、暫定的に認める。そして俺も集会に参加する。ジーク・アウラ」

「あたしはクロル教官がSでヴッ君がM。クロル教官が主導権を握り、足コキとかパン屋の休憩時間にやってると思います」
「う〜ん、そうかな…クロル教官を破壊し尽くさんばかりにSなヴィクターの方がしっくりくるんだけど」
 バルスラーが用意したポテチを摘みながらティーナ続いてアウラが言った。
「それは前回やったじゃねーか、しかもウィルトスまで入れてよ。やっぱ純愛ボーイッシュ系だろ」
「前回が3Pだったから今回は異性物孕みバッドエンドか産卵で超鬱エンドがいいわ。はあはあ」
「ちょっと…クッキー、暴走しないで、抑えて、抑えて。」
 アウラが九鬼を宥めながら周囲を見回した。
「とにかくこれじゃ意見がバラバラだわ。とりあえずティーナから順に大まかな内容を話してくれる?
それで決めましょう。」
448664:2007/08/18(土) 10:13:43 ID:fMtwBEfx
「お…あ……ク、クロ…ル」
「ん?何?…どうしたのヴィクター……ふふ」
 今のこの時間、パン屋『リーベルタース』は昼の休み時間だ。表の看板には準備中とある。
その時間は約2時間、本来であれば仕込み、パンを焼く準備と昼食の時間なのだが……。
「いやならいいんだよ?ボクは追いかけもしないし、このままやめてもいい。」
 クロルの着している物はTシャツとショーツのみ、いつも履いているジーンズは脱ぎ捨て
蓋を閉めた洋式トイレの上に又借り、壁に押しつけたヴィクターの肉棒を足の指で挟み込んでいる。
「て…テメェ…卑怯だぞ。戦車牽引用の鉄線なんてどっから…」
 超獣並の力を持つヴィクターもこればかりは簡単には引きちぎれない。
両手をそれでぐるぐる巻きに拘束され、クロルにいいように弄ばれている。
「そんな事はどうでもいいんじゃないかな?ふふ、用はコレだよ」
「くっう!」
 グイと足の指でカリの部分を思いっきり挟まれ、ヴィクターは思わず呻いた。
「ははは、いいね、いいねゾクゾクするよ。この感覚…ボク、クセになっちゃうかも…ん…ふ」
 クロルは身動きが取れないヴィクターの肉棒を両足で責め、自らは手で己の秘所を慰めだした。
「く…クロ…覚えて…や…が…おうう!」
 痛いほどに勃起した肉棒をクロルの両足が這うように前後しだした。
「はっはっは、何だい、その情けない声は?ボクの足コキがそんなにいい?」
 手コキ程早くないにせよ、諜報任務で培われた性技は並ではない。足がまるで生き物のように
ヴィクターの肉棒を這い回り、時には食らいつき、快感とも痛みを交互に与えてくる。
「あ…ぐっク、クロ…おまっ…ぐっ!」
「まだ、まだだよヴィクター…ふふ、ふふははははっ!ヴィクターの主導権をボクが
握ってるなんて…ああ…ダメだ…ボク、ボクもうイッちゃ…ん、んん」
「クッソ…誰の主導権だっ―――!?」
 両眼をつむり、必死に耐えていたヴィクターが片眼を開け、精一杯の強がりを言おうとした
その時
「…舐めろ…ヴィクター」
 目の前には既に濡れそぼり、密を垂らすクロルの秘所があった。クロルがヴィクターの胸の上に
跨り、秘所を見せつけているのだ。上気し、完全に理性が氷解したクロルが上から己を見下ろしている
―――――支配の逆転―――――
普段なら、絶対にありえないシチュエーションにヴィクターもまた胸の鼓動が止まらない。
「舌だけで…ボクをイカせろ…いくら前戯下手なお前でも出来るだろ、それくらい?」
「ク、クロ…お、お前」
「クロル?クロル様の間違いだろ?くく…ははははーはっはっはっは!」
449664:2007/08/18(土) 10:17:34 ID:fMtwBEfx
「はっはっはっは―――――ていう女王様チックなクロル教官なワケです。どうですか皆さん?」
ティーナは皆を見回した。
「あ、終わり?じゃあ次、クッキーお願いね」
 何の検討も、感想もなく、アウラは無情にも九鬼に振った。
「え!?あ、あたしの案はどうなんですか!クロル様×ヴィクター教官の逆転劇は!」
「没よ。現実を素直に受け入れて冷静に対処なさい。」
 くいと桃の天然水を煽り、九鬼は言った。
「だな。俺も女王様系の絵は描く気なんかねェ。」
「そ、そんなぁ〜タイトルはまだだけど、このサークルの名前とかまで考えてたのに〜」
「あ………このサークル、名前とかまだ決めてないわね」
 そういえば…と九鬼が今更ながらに言った。
「いいんじゃねーの、誰も気にしねーよ。マーケットで売るワケじゃねーんだし」
「ティーナ、参考までに聞いておくけど…?」
 多少気になったのかアウラがティーナに向かって言った。

『ウルトラ★満子』

「………」
「………」
「うるとらまんこ?」
 何かこの世に存在してはならないような生命体を見るような目つきで二人はティーナを見た。
バルスラーはあまりわかっていないようである。
「な…何ですかその目は!?断じてあっちの読み方じゃないですよ!クッキーの名前を元に
閃いたんですよ!読み方はクッキーと同じ『ミツコ』です!『ミツコ』!」
「……マ×コ…」
「きっとすごい名器のコトだと皆、思うわね。」
 ボソッとアウラに続いて九鬼が呟いた。
「何ですかその×は!しかも名器ってアレじゃないって言ってるでしょう?」
「いいじゃねーか、うるとらまんこで―――おぼずっ?!」
「だから違うって言ってんだろ!この筋肉ボケ!」
 切れたティーナが救急箱をバルスラーに向かって投擲し、直撃、バルスラーは倒れた。

とりあえずこんな感じで書きたいと思いますが…
孕みとかそーゆーのは…スレチっぽいな…苦手な人多いだろうし…
450名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 10:23:12 ID:XQLofWvA
GGGGGGGGJJJJJJJJJ!!!!!!

朝っぱらからなんつー罪作りなモノをリアルタイム見せ付けるのですか、アナタはーーーーっ!!!
あ、もーイイヤ
書きかけのSSゴミ箱→空にして、ちょっくら自家発電してきまーすノシ
451名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 10:24:20 ID:Jn5Svg7A
孕み云々よりボーイッシュが出てこないからスレ違いかな。
アウラ達三人も、同人誌内のクロルもボーイッシュじゃないしなぁ。
452名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 10:29:54 ID:5MgmV0ss
ああ、何かが崩れる音がする……。
バルスラー、桃好きだったんだ。
九鬼さんとティーナさんが面白すぎる。
アウラさんってこんな人でしたっけ?
ああ、何はともあれGJ!
ちなみに孕みとか触手凌辱とか私は平気です。
ですがやはりスレの趣旨に合わない、もしくは苦手な人も多いと思うので、
触手・怪物に犯されるSS 14匹目
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1187017100/l50

孕ませ/種付/受精/妊娠/妊婦/出産/HRネタ総合【7】
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180199790/l50
に投下した方が良いかもしれません。
453名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 16:27:26 ID:79lv+jvA
GJ!
おバカかげんがちょうどいい
こいつらが坂本フランシスの存在をしったらどうなるか…
>>451-452
クロルの変化形なんだから問題ないでしょ
まあ、妊ませとかは事前に断り入れれば問題ないのでは
454名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 17:42:25 ID:K96HUCMQ
クロルスレでも立てたら?
455名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 19:53:19 ID:eEoYmNVv
モモカンと聞くと、月に一度の爆安缶詰市を頼りに生きてた黒い人を思い出すな
456名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 20:52:06 ID:8t9XNzF1
>>454
それは思ったwww
457名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 21:12:50 ID:k719xfjq
立てた所ですぐ落ちるんじゃね?
猫耳少女スレみたく耳っこ属性で話を広げられるわけでもないし。
明らかに新規参入の書き手さんとかこないだろうし。
読み手だってボーイッシュスレに常駐してた奴以外はわけわからんだろ。

第一スレタイどうするんだ。最早軍人物でもないのにw
458名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 07:23:42 ID:3aZWXZHb
アウラいいなあ
エッチじゃなくてもいいからアウラにもいい目を見させてやってくだせえ
459名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 11:45:34 ID:mkG+eXYn
それをボーイッシュスレで書くのは何かと大変そうだがな。
460名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 22:39:52 ID:kWh6zNI1
実際問題として、住み分けした方がいいかもわからんね。
明らかに他作者さん投下しにくいだろうし。
つーかこの空気だとエセ軍人系も投下しにくいだろ。
461名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 01:41:00 ID:B7JKP952
サウラとアイルの続きを待ってる。
色々読めるほうが嬉しいから、職人さんにはあまり細かいこと気にせずに、投下していただきたいものだ。
462名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 01:47:29 ID:CMtgRqC/
前スレラストの、幼なじみを待つお嬢様の話が読みたい。
あれが未完なんてもったいなさすぎる。
463サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/20(月) 05:33:32 ID:fnFrsRQK
変なSF 長くてごめんね 440からの続きです
途中陵辱気味あり注意です
・・・・・・・・・・・・・

 移動遊園地は星緯30度上方の、惑星パブリック利用可の月にその船を止め、小さな月の半分を
ネオン輝く遊びの園に変えていた。ちなみにもう半分の地味な輝きの建物は、同じく移動カジノと
風俗で、もちろん大人は知ってて子供には伝えないようにしている。
 
「ボクあっちにいきたいなあ〜。」
「あっちはダメだ未成年。」
「女用ヘルスもあるんでしょ。男買って来てサクッと処女捨ててくる。」
「ふざけるな。」

 これが生まれて初めて遊園地に着いた最初の会話なんて記憶から削除だ。
 サウラはげんなりした気分を流し込むように、カップに入れる前から既にもうぬるくなったコーヒーを
一気に飲み干した。
 今朝起きてサウラは生まれて初めてお弁当なんてモノを作った。コーヒーをポットに入れて、
細いフランスパンにハムとチーズとレタスを挟んだだけのものだが、遊園地は大変混んでいて、
お弁当が無かったら二人ははらぺこに耐えかねて、とっくに帰っていたことだろう。
 午前のファストパス分をお互い無言で消化して、今は午後の時間待ちがてら、遊園地を見渡せる丘の広場で
サンドイッチを食べていた。アイルはピーチドリーム号を出たときから不機嫌に口を閉ざし、遊園地に来ても、
コースターに乗っても、フリーフォールなフィニッシュを迎えるお化け屋敷に入っても、一声ももらさず、
ただ黙ってサウラに手を引かれてついて行く。
 だがその様子はまるで拗ねた子供のまんまで、可愛いと思わずにいられない。
 なにしろ二人は今ウサギさんだ。
 遊園地に入ってすぐ、フェイラ星人とバレないように耳までかぶさるウサギの帽子をまず買った。
あご下でボタンで留めるタイプでそうそう脱げないし、ビデオ撮りの他人が来てる時いつもしている
インカム帽よりは、遊園地になじんでる。恥ずかしいと、嫌がったアイルに、俺もするからと白黒そろいで
サウラも買った。いい歳した口ひげのおっさんの方がよりによって白ウサギだ。
 だがサウラは別に恥ずかしくはない。キモイ姿も自分に見えなきゃべつにいいのだ。こちらを見るたび
アイルの口元がプルプル震えて笑いをこらえているのに、サウラは大変満足していた。理由はなんでもいい。
笑ってくれれば。一言も話さないが数度の買い物以外、宇宙船に閉じ込めた一年半だ。土の地面を
歩くだけでも楽しいのだろう、何度も足を踏みしめ俯いてにんまりしてるのにサウラは気がついていた。 
 ここ、丘の広場はサウラ達のようにファミリーでお弁当を食べるように作られた、花や木々を植えた
芝生のコーナーで、もちろんこれも移動遊園地の運んで来た人造の広場だ。だが土の香りがする。目の前で
花が風に揺れる。そのそよ風も人造であると、このほのぼのした景色がアトラクションの一つだと知っていても、
和む事には変わりない。そう思ってつれて来た。実はここが目的だった。サウラの出身である宇宙連邦の
首都の惑星は強い酸性の土地で、ほとんどが強化ステンレスで覆われているが、アイル生まれた
エバムフェイラ星は緑に溢れた辺境の田舎の王国だった。
 楽しいか?俺の黒うさちゃん…。
 心でつぶやいたことに気づき自分にげんなりする。
 おい、おっさん。疲れてるのか、気を抜くな。
 
の人ごみもさることながら、今朝あったことからサウラはすでにくたびれていた。
 部屋から出てこないアイルにしびれを切らせて起こしにいくと、アイルはとっくに起きていて、
なんとベビードールを着てベッドの真ん中に座ってサウラを待っていた。サウラは貧血で倒れそうになった。
もちろん下半身の急速な充血のためである。が、悟られないのが年の功だ。
「おはようさん、朝飯出来てるぜ。」
 普通に無視するとアイルの顔がみるみるふくれて赤くなる。
「似合わないならそう言ってよ。」
 思いがけず似合ってるから何も言いたくないのだが。
「これ、ボスの好みだろ。」
 発色のいい玉虫ブルーのチュールレースに芥子色のリボンが編み込まれている、下はブルマータイプの
ショートドール。俺の好みはそんなにわかりやすいのだろうか、ドンズバだ。
「中身が…」
 最後まで言わせずに枕がとんで来てくれたおかげで、オムレツ冷めるぜ、とその場を切り抜けられた。
 それだけだ。だけれども。
464サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/20(月) 05:37:15 ID:fnFrsRQK

 全くないと思っていた二つの丘の傾斜が頭から離れない。その頂にある小さな赤いポッチが
チュールの間から見えたことを、サウラは一生忘れないだろうと思った。
 可愛い…可愛らしいあのささやかな胸を、***したり****たおしたりする自分の妄想に
取り付かれている。鼻息が自然に荒くなる。隣の黒ウサギの顔が見たいのに見れない。少年か、俺は?
 骨張っているが握ると柔らかい女の子の手を、今朝からずっと握りしめ歩いてる。
「迷子になるなよ。」「今の本当は怖かっただろう。」「親子に割引使えるかな。」なにか話し続けないと、
この手をもっと強く引き寄せてしまいそうなサウラだ。まったくこんなにくたびれる事は無い。
 
 さっきまで同じようにお昼ご飯を食べたり芝生に転がったりしていた家族連れが、いそいそと消えて行く。
午後のアトラクションの時間だろう。だがサウラはここがメインなのでわざわざ夕方の時間をキープしていた。
時間稼ぎが理由でもある。なるべく遅く帰って、即就寝となるように、だ。
 二人きりにはなりたくない。昨夜みたいに誘惑されたら今度こそ、きっと自分を押さえられない。
 広場には小さい赤ちゃんを連れた家族と数組のカップルが楽しそうに話したり、いちゃついたりしている。
 その様子を不機嫌そうに無言で眺めるウサギさんチームだった。が。
 
「もうやめた。」
 お弁当を食べ終えて、黙々とデザートの果物を口に含んでいた黒ウサギは、急に立ち上がりそう言った。
「おい言っとくが、キープしてるパスのアトラクション乗らずには帰らねえぞ。」
 意地でも夜までいるつもりのサウラだ。たとえアイルがどんなに退屈でも…。
「ううん。つまらないふりするのをやめるんだ。」
 耳を疑った。アイルは急にダッと走り出し、丘の緩やかな傾斜をころがるようにおりて行き、
下の花時計の花壇をぐるりとまわると、またサウラのもとに駆け上がってきた。逃げたかと慌てて
後を追おうと立ち上がりかけてたサウラの膝元に、四つん這いに滑り込む。
 ハアハアと息を切らした黒ウサギが、耳を揺らして「わん」と鳴いた。
「ウサギだろう。」
「だってウサギの鳴き声なんて知らないよ。ボス知ってる?」
「…チュウ、とかだったか。」
「あはは、ネズミだよそれ!」
 ぱあ、と花が開くように笑ういつものアイルだった。つられてサウラも笑った。だが心は泣きそうだ。
嬉しくて…愛おしい。 
 はは、は…と笑いが消えていき、鳶色の瞳がつやかに光ってサウラをうつした。
「…チュウ。」
 小さな唇を尖らせてサウラのそれにぶつけてきた。幼いキスに息がとまる。
「…これくらい、いいだろうと思って。」
 言い訳をつぶやきながら、かかか、と顔を紅潮させると、はずかしいのか目を合わさずに、
今度は体をぶつけてきた。今のキスと同じように、緊張に体を尖らせて、サウラの胸に顔を埋める。
鼻先で黒いウサギの耳が揺れている。…俺の黒ウサギ。

 身動き一つ出来ずに固まったままのサウラの胴に、アイルが腕を回し頬ずりする。
「ありがとう、ボス。つれて来てくれて。」
「…楽しいか?」
「うん。」
「そいつはよかった。」
「ボスと一緒ならほんとは何でも、どこでも楽しいんだろうけど。」
「……」
「一番したいのはエッチだったけど。」
「………」
「一番一緒に行きたいところはエバムフェイラだった…。」

465サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/20(月) 05:39:43 ID:fnFrsRQK

 小さい背中に腕を回し肩を抱いてやると、アイルが声を殺して泣き始めた。
「声、殺さなくていいぞ。」
「…同じ事、はめ撮りのときいつも言うね。ツボなの?」
「阿呆。」
 ぽん、と頭を小突き帽子の上から撫でる。耳が邪魔だ、とサウラは思った。
 周りを確かめ、まばらの人影のこちらを見てない様子をたしかめると、サウラは返りをうって
アイルの頭を腕枕をして横抱きにしてやり、周りから隠すようにその身で覆うと、ウサギの帽子をとり、
現れた柔らかい巻き毛をくしゃくしゃとなでた。
 それを合図に、アイルが堰が切れたようにワッと泣き出した。
「…っう、ふっ、…ああっ、ん!」
 お父様、お母様、と小さく聞こえた。
 お兄様、お姉様、下のお姉様、妹達。ああ、第三王女だったっけ。
 弟達!…何人いたんだ兄弟…?
 それから従兄弟、親戚、たくさんの友達の名前を口にする。ああ、友達多そうだよな、こいつ。
 執事に使用人、町のパン屋から、果てはロバや犬猫、それからエバムフェイラの地名を思い出す端から
呪文のように唱える頃には、もう泣いてはいないようだった。
「…え〜と、ギエムホーン…はさっきも言ったっけ。あれ〜、北部の山脈、名前なんだっけ?」
 ボーなんとかッシュなんだけど、と俺に訊かれてもわからねえぞ、とサウラはすっかり泣き止んだ
アイルを見て苦笑する。
 いい子だ。だが、いい子すぎるぜ。俺にまで気を使わなくていいだろうに。
「…へへ、忘れちゃった。終わりっ!」
 赤くくしゃくしゃになった顔でえへへと笑って、ふうーと長い息を吐いた。土の匂いがする、と目を閉じた。

「エバムフェイラにいるみたい。」
「…そうか、俺も今そう思っていた。一緒に来れたな。」
 二人一緒にふふ、と笑った。
「ボクもう、自由の身なんだよね?」
「ああ。」
「この姿のまま、自由の身で、追悼終わったよ。」
「…そんな簡単に終わらすな。」

 横たわったまま二人の目が合った。アイルの顔はもう可哀相な子供のそれではなく、その目は力強かった。
「もちろんこれからも何度もエバムフェイラを悼むよ。故郷を無くした悲しみが、消える日が来るわけないだろう、
ボス。アンドロギュヌス皇帝の隠し子なんだって?」
 サウラが顔をしかめたのでビアンカにきいた、とアイルは続けた。
「お父さん死んじゃったね。悲しくないの?」
「そんな親子関係じゃなかった。」
「それがボクにわからないように、ボクのエバムフェイラを悼む気持ちもボスにはわからない。」
 ああ、この少女は…。サウラは自分の思ったことに、自分で煽られる。
 思った以上に、この娘はすでに大人だ。慌てて否定する。いや、まだ子供だ!
「弟みたいにでもいいんだ。ボクの事、好きでしょうボス?」
「……」
「一緒にいたらどうしてダメなの?どうして別れなきゃいけないの?何が迷惑なの!?」
「……」
「生活費ならボク稼げるって言ってるじゃん。この特殊能力はいい見せ物に…。」
「弟を見せ物になんて出来ない。」
「妻は出来ても!?ビアンカはっ!」
「あいつはもともとが女優だから…!」
「じゃあボク、他のAVで女優デビューして、ボスに売り込みにくる!」
「そんなの許さねえぞ、アイル!」
 二人して、にらみ合う。

466サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/20(月) 05:46:04 ID:fnFrsRQK

「…言ってる事むちゃくちゃだよ、ボス。」
「無茶な事はいってねえ。お前は明日辺境惑星行きの船にのって、別の星でまっとうに幸せな人生を…」
「空港で見知らぬチンピラに犯されて即バッドエンドだよ。」
「それでも可能性はゼロじゃない。このまま俺の船にいたら幸せになれるチャンスもない。」
「ボクがいて…邪魔だった?」
 さすがにあからさまな嘘はつけないと、サウラは首を横に振る。
「楽しかったよ、アイルが来て…。」
「じゃあどうして…。」
「あの船は俺の人生のステージで、お前のじゃないからだ。」
「ふん、変わるのが怖いんだ。意気地なし!自由の身で追悼式しなきゃいけないのはボスの方じゃん!」

 ばっと腕枕を引き抜き身を起こす。急に枕を失いアイルは地面に頭を打った。サウラを見ると顔を青くして
怒りに唇が震えていた。こんな彼を見るのは初めてで、アイルは言ってはいけない事を言ってしまった事を知った。
 サウラはサウラで自分でも驚くほどの動揺に呆然としていた。
「あ…あの、ボク…。」
 風がざあ、と背後からふき、足下に脱ぎ捨てていた黒ウサギの頭が丘を転がりおちていった。
「ボク…拾ってくる……。」
 茫然自失のサウラに背を向け、さっき駆け下りた傾斜を、とぼとぼとおりて行く。サウラはアイルの視線から
逃れると、大きくため息をついてその場に座り込んだ。自分が大人である事を確かめるように口ひげをかりかりと
何度も撫でた。こんなもの、生やしていたって、自立した大人になった事にはならない。

 アイルに追いつめられなくたって、自論が破綻している事くらいわかってる。本当にアイルのことを思うなら、
皇帝に命じられた任務が解かれたところで、このまま一緒に今まで通り暮らせばいいのだ。それこそアイルが
自分から出て行きたいというまで、生活費が増えることなんてなんの言い訳にもならない。
 帽子は花時計の十一時の文字のあたりにとんでいて、それを取ろうとアイルが生け垣を大股開きで飛び越えるのが見えた。
短い髪を午後の陽に光らせて、長い手足がのびのびと動く。少年みたいだ。
 はは、おてんばめ。
 あの自由な四肢を押さえつけ、自分の欲望に拘束し、そのままで魅力的な肢体を、俺の腐った理想の性の対象に
変貌させるなんて耐えられない。変えるのは嫌だ。変わるのも…。
「…そうだ、怖い。俺を縛る血の拘束も、任務も,無くして、自由なお尋ね者になって…それで…。」
 隠して来た事をよりによってアイルに暴かれた。
「それでこれからどう生きればいいのかなんてわからない…!」
 父を恨んで生きて来た。軍の上層部の侵した罪をなすりつけられ、追われるかわりにしたくもない仕事を、
父親の命だからこそやってきた。重ねる罪と恨みが自分と父の絆を深める気がしていた!
 父親に愛されなくて傷ついていた自分を、認めたくない。あまりにも、滑稽だ!
 それに比べてアイルはどうだ。その身の特殊性を認め、受け入れ、自分の新しい人生に踏み出すのに
利用さえする、明日を畏れず欲しい物を叫ぶ。…幼く臆病な子供は俺の方だ。

 帽子を拾って頭に被る。黒いウサギがさっきと同じように生け垣を跳ねる。レンガの柵を越えて
やっと花時計から抜けたアイルがこちらを振り返り、戻ろうと踏み出す足を止め躊躇する。
大丈夫だ、怒ってねえよ、図星を指されてみっともなくて、落ち込んでるだけだと、力なく手を振った。
アイルの顔が安堵にほころび、駆け出そうと倒した体の後ろで、灰色のエアバイクが止まりアイルを抱き上げ荷台に引き入れた。
「アイル……っ!!」
 立ち上がり駆け出した時にはすでにバイクは遊園地の柵を越え、反対の大人の遊園地へ消えて行った。
 油断した…!!今のバイクは…!
 見覚えがあった。二年前、サウラが皇帝の使いでアイルを迎えに来た時に、高額を提示してアイルを捕らえていた
王族に、連邦国からの独立支援を申し出た、独立君主国。その諜報部が使うタイプFの低空走飛行機!
 くそっ、と舌打ちし、サウラはバイクが消えた方角を確かめると、きびすを返してその逆の、
自分の乗って来た移動船を止めてある遊園地のパーキングに走った。
 
467サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/20(月) 05:53:06 ID:fnFrsRQK
 ・・・・・・・・・・・・・

 ほらね、やっぱりこうなるんだ。
 後ろ手に縛られ、帽子の上から猿ぐつわをされたアイルは、背中から押されるように地下のネオン街を
歩かされていた。地味な地上の建物からは想像できない派手なイルミネーションと、騒々しいまでの人の数。
 アイルを捕らえた細い長い蜘蛛のような男が、灰色の目にネオンを映し縛りながら言った台詞はこうだ。
「久しぶりだなお嬢ちゃん。俺様を覚えてるかな、ハニー。」
 覚えているとも。私の…。アイルは絶望に顔を歪めて思い出しかけた記憶を消そうと、何度も強く瞬きした。
「覚えてるようで嬉しいねえ。ファーストキッスの相手だもんなあ。」
 くっくっくっと、肩を揺らし笑うと、さあ歩けと後ろ手をぎりぎり引き締めて誘導する。逃げようとしても
無駄だぜ、どうせおまえの運命は一つ。そう言って片手でアイルの小さな尻に手を這わす。悪寒が背筋を駆け抜け
猿ぐつわを噛み締めた。二年前とまったく同じだった。
 蜘蛛男は大きな広間の脇を通り抜け、その奥の最上段の人だかりにアイルをつれて入って行った。
周りのSPらしき屈強な男達が蜘蛛男に頭を下げる。うやうやしく配された大きなパチンコ台に
夢中になっている男の前にアイル突き出された。男は苛立たしく振り返り、猿ぐつわをされた黒ウサギ帽の
色気も無い少年を興味無さげに一瞥し、またパチンコ台に向かったが、蜘蛛男になにやら耳打ちされて、
おお、とにこやかに振り返る。アイルをまじまじと覗き込み、ウサギ帽子に指を突っ込み秘かに隠れた耳を
確認すると、いやらしい笑いを浮かべて蜘蛛男にでかしたと言った。そのままあごで何やら示唆をして、
またパチンコ台にむかった。玉はまったく出てない様子だった。ひと玉4000もするのに酔狂な…、
やっぱ沼は…。そんな…ざわ…ざわしたざわめきの間を抜け、またネオンの通りに戻る。

「こっちだ。」
 おそらく男の根城になっているのだろう、黒服のSPがまばらに配置をとる小さなテント小屋につれてこられた。
おっさんが帰ってくるまで誰も近寄らせるなと言って、キリムの絨毯敷きの一部屋に乱暴に転がされる。
 重心を乱して一瞬足が大きく開いた。
「たまんねえな…。」
 気づけば男の息が荒い。あわてて閉じる細い足を、足首を持って軽々開き、尻が持ち上がるほど高く掲げられ
股間を凝視される。ハーフパンツの上からとはいえ、その淫猥な視線に鳥肌が立った。
「とっくにやられてると思ってたんだがねえ。」
 そのまま足の間に細腰の体を押し入れ、内股をれろれろと舐め回しながら上がってくる獣に、
アイルは我慢できず身をよじってうめいた。服の上から股間に顔を押し付けて、くんくんと匂いをかがれる。
さすがにしょんべん臭くはもうねえなあ、と下卑た事を言われ、否が応でも二年前の屈辱を思い出す。
にやにやしながら猿ぐつわとウサギの帽子をはぎ取られ、尖った耳たぶをわざわざ露にして、まだ処女とは…!と高らかに笑った。
「さすがにサウラのおっさん、女に不自由してねえな。理想の巨乳美女なんて飽きるほど抱いてるだろうしな。
アンドロギュヌスのじじいもいい人選してくれたぜ。おかげでおまえの賞品価値は二年前のまま、
宇宙一の高額奴隷で、……ひひひっ。」
 男がアイルのシャツのボタンをひとつひとつ、吐き気がするほど丁寧に外していく。
「おお、いい具合に育ったねえ。巨乳が好きなんてマザコン男共の気が知れねえぜ。俺はこのくらいが
一番の好みだね。手に収まる程度にほんのり柔らかく、さきっちょの小さないちごちゃんも…。」
 めくりがてらに布で引っ掛けつんつんと刺激する。顔をしかめるのは感じてるからじゃない、
不愉快だからだ。なのに男は嬉しそうに何度も何度も手も触れず嬲る。細やかな刺激に小さな胸が震えて、
ついに赤い先端が露になった。ひゃほーいと、おおげさに嬌声をあげ、男がすぐさま口にくわえた。
「いやっ…!!」
 思わず拒絶の声を上げてしまった。一声も漏らすものかと、歯をくいしばっていたのに、
アイルはされてる仕打ちより、こらえられなかった自分の失態に泣きたくなった。
 なだらかな胸の傾斜ごとべろべろと舐め上げられ、涎にまみれる胸をささくれた手がこね上げる。
痛々しく尖った乳首が左右交互に口に含まれちゅぱちゅぱ音を立て吸い上げられている。
「…うっ…っく…、…っ。」
 逃れようと身をよじっても、縛られた後ろ手がきしむばかりだ。
468サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/20(月) 05:56:40 ID:fnFrsRQK
「ほおら、ちゅーしておくれよ。セカンドちゅー。」
 両の手で胸をこね回しながら首筋を男の舌が上がってくる。顔を背けて抵抗したがあえなく唇を捕らえられ
気持ち悪いぬめりが無理矢理押し入って来た。噛み切ってやろうと歯を剥いたあごを、片手で固定され
それもかなわず、ぐちゅぐちゅと口中をかきまわされた。二年前もこんな風に初めての口づけを奪われた。
 バーカ、セカンドキスは、ボスとしたよっ!と心で叫んで思わずそんな自分をあわれに思った。

 ううん、こんなのキスじゃない…、さっきした、あれがボクの初めてだ。そう思っていいよね、ボス。

 流し込まれる汚らしい唾液にげほげほと咳き込み、それでも黙して身をよじる程度の抵抗を見せるアイルに、
蜘蛛男は心底嬉しそうに体をすりよせる。固く勃起した彼の欲望が服の上から股間を上下する。
「ああ、たまらん、たまらねえ気の強さだねえ、アイルハタファビエ!おまえはいい、
そのまんまで俺の理想のボーイッシュお姫様だ。まったくフェイラ星人じゃなかったら、
このまま俺の物にするんだが。あいにくお前についた報酬の額は色欲を凌駕して魅力的だからなあ。
だが、まあ、要は入れなきゃ変態しない訳だし、こうして楽しむ分は…」
 ふいにひっくりかえされ下着ごとパンツが引き下ろされ、小さな丸い双丘があらわになった。
その片方にかじりつく。アイルはびくん、と身を縮め、だが同時に聞いた台詞に硬直した。
「…なあ、こっちの穴に入れる分にはどうなんだ?フェイラ星人。」
肉付きもひかえめだがつんと上がった形のいい尻肉を、両手でぐにぐにもむと男はにやあと笑って肉を広げる。
「…やっ!」
悪寒に声を上げ、両足をばたつかせるが、男の体に押さえつけられ逃れられない。
「おいおい、我ながらいい案じゃねえの!?要は処女のままならいいんだろう!?
ケツはいいんだろう!?ああ、お嬢ちゃん…ひくひくしていやらしいぜここ、なあ、誘ってるんだろう…?」
長い舌が伸びてつんつんと菊門をつつく。
「ひい…っ」
 さすがのアイルも戦慄した。そんな…!そんな、そんな、そんなとこ!?ああ、だけど確かにピーチドリームの
ビデオでも…、サウラはしてなかったけどもっぱらトビーが…、ああ、確かに変態はしないかもだけど!
「いやっ!いやいやっ!お願いっやめてーーー!!」
 声を限りの絶叫に興奮していきり立つ蜘蛛男だ。
「いいね、いいね、そうでなくっちゃ!へっへっへっ!」
うつぶせに後ろ向きのまま両足を抱えられ、尻を高く持ち上げられた。肩で体重を支えて
剥き出しの鎖骨が床に擦れた。腰骨を押さえつけられ引き寄せられる。
「あっ…あっ、やだっ、いやだ……っ、いやあ----っ助けて…ボス--------------っ!!」

 アイルの目から涙が吹き出し、光を受け目の前が白んでかすんでいく。
 そこにサウラの姿が一瞬移ったように思った。


469サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/20(月) 06:00:31 ID:fnFrsRQK

 ああ、ボス…
 ほらね。こんなふうに人生は次の瞬間が予想できない
 さっきまで確かにボスとお花畑で幸せだったのに
 ボクのたった一言でボスをなにか怒らせたように
 エバムフェイラが爆発しちゃったように
 変わらない事なんて何も無い
 変わらずにいれる事も本当は何もないんだ
 だからボクは…
 だからボクらのいつものあの夜のささやかな時間の幸せを
 いつもの夜にしてくれたあなたと
 
 いつまでも変わらず一緒にいたい
 そのためならこの身が変わる事も
 そのためならあなた以外に抱かれたって…
 
「そう思ったけど、やっぱりいやだあ----------------っ!!」
 


 ……ーィッッシュッ!  ……ボーィッッシュッ!


 二発。消音した銃の鈍い音がして一瞬空白の時を感じた。
「うゲアアアアアああああっ!!!」
 背後に獣の絶叫を聞いて恐る恐る振り返る。
 精悍な体を仰ぎ見て、見慣れた口ひげに気づくより先にボスだと思った。
 部屋のライトがちょうど逆光でまぶしくてよく見えない。光が目をさすのを気にせず
大きく目を見開いてただその方向を見つめた。
 
 サウラは蜘蛛男の跪いた両の足を、的確に腱を狙って最初の二発を撃ち、アイルが見てる前で
その剥き出しの股間のいちもつにもう一発、失神寸前に絶叫する男の口から舌を引き出し、
口角からそれを引き千切るように最後の一発を撃った。どさりと男は白目をむいて倒れた。
「…やり過ぎじゃないの…?」
 以上を淡々とこなしたサウラにアイルが怯えてそう言った。
「死んでねえよ。再起は不能だろうけれど。」
 倒れた男を足蹴に転がし腰のエアバイクのキーを奪うと、忘れていた、と蜘蛛男の
両手のひらを重ねて撃ち抜いた。
「二年前にこうしてれば、おまえがこんな目に遭うこともなかった。」
 アイルは軽いめまいを覚える。これは…ボクのための制裁か…?
 縛られた後ろ手をナイフではずしてやり、赤く擦り剥けた手首を撫でた。
 アイルは大丈夫だよ、と手首を振り、サウラの視線に気づいて慌てて身を繕う。
「…どうやって…」
 アイルの問いをかき消すようにバラバラとヘリの音がした。ここは地下なのに?
470サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/20(月) 06:06:19 ID:fnFrsRQK
 無言で抱き上げられテントを出ると、賭博の町はもうもうと煙を上げあちこちに炎が見える。
漏電と強引な踏込み捜査のためだろう。あんなにいた人の群れは見当たらず、ネオン街の天井に大きな穴が
あいていてそこから夕陽が見えていた。奪ったキーでバイクが動くのを確かめると、懐にアイルを抱いて
飛び立った。連邦保安局と書かれた大きなヘリが入れ替わるように降りて行く。その窓際にひかえめに敬礼する男が
見えたような気がしたが、無視して飛び去るサウラに、わざわざ聞かないアイルだった。想像でしかないけれども、
連邦保安局に皇帝の…サウラの身内か力になってくれる誰かがいるのだろうと思った。そしておそらくサウラは
自分のために彼らに頭を下げたのだ。…ああ、ボス。
 そのやり取りを想像してアイルは胸が熱くなり、サウラの懐で彼のためにこれだけは言おうと勇気を出して、
伸び上がって耳打ちした。

「ボス…ウサギの片耳焼けてるよ。」

 サウラはものすごい勢いで片手で白い帽子をはぎ取り、夕焼けの空に投げ捨てた。

・・・・・・・・・・・

 そのまま遊園地を後にするものと思ったアイルは、誰もいない柵の端にバイクを乗り捨て、
ずんずん歩いてくサウラの向かう方角を見てあきれたように言った。
「そんなに観覧車に乗りたかったの!?」

 移動遊園地の目玉でもある大きな観覧車のファストパスを握りしめ、長蛇の列を横目に乗り場へ向かう。
「連邦保安局がカジノに一斉取り締まりをしてるんだ。ここから逃げようとしてるやつらとそれを取り締まろうと
保安の連中で港は今ぐちゃぐちゃだ。わざわざ捕まるより、当初の予定通り遊んで帰ろう。」
 見ると今まさに並び始めた客を、保安局員らしき男達が怪しんで取り調べている。
こちらにきそうなところを遊園地の職員が、こちらのお客様は大丈夫です朝一番にとられたパスを
お持ちですから、と助けてくれた。不幸中の幸いだなあ、と二人でゴンドラに乗り込んだ。

 大きな大きな観覧車はゆっくりと空に昇って行く。大きい円なので隣のゴンドラも離れていて
せいぜい人影を認める程度にしか見えない。
 二人は対面に座り合って黙って外を見つめていた。外の観客から見えない位置にまで昇ったのを確認して
アイルはサウラにコーヒーはまだあるか聞いた。サウラは黙ってポットをよこした。
「言い忘れてた。助けてくれてありがとう、ボス。」
 サウラはうん、と言ったきりやはり黙っている。アイルはしばらくもじもじしていたが
意を決したように、あのね、ときりだした。
「ちょっとの間目をつぶっててくれる、ボス?」
「なぜだ、景色が見れないだろう。」
「すぐすむから。」
 そういってもう我慢できないとばかりにシャツのボタンを外し始めた。サウラが慌てて目を逸らす。
「おい、何を…。」
 
 アイルはシャツを脱ぎ捨てて、上半身裸になると、ポケットのハンカチにコーヒーを思い切り浸して、
それでぺちゃぺちゃと体を拭い始めた。
「臭いんだ。あいつの唾液が…。」
 顔を背けて目を閉じていたサウラのこめかみがぴくりと動いた。
「気持ち悪かった…手も口も…。」
 とにかく胸が気持ち悪いのか、何度も何度もごしごしと擦り、思い出したかのように
コーヒーでうがいをする。ぐちゅぐちゅぺっ、という音を三度きいて、耐えきれずサウラがアイルを呼んだ。
471サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/20(月) 06:12:51 ID:fnFrsRQK
「こっちに来い、アイル。」
 目は固く閉じている。それならば、とおずおず近寄り目の前に立つと、腰に手を回って
すんなり膝抱きにされた。見えてるのかと思うくらい必要以上にアイルに触れずにふんわりと腕に抱かれる。
「泣くな。」
 そう言われて泣いてる自分に気がついて、コーヒーで顔を拭く。
「泣いてないよ。」
 見上げたおでこにサウラの唇が触れた。そのまま、まぶたに、頬に、小さな口づけは降りて来て、
尖った耳たぶにとまると、聞こえるか聞こえないかの声で、可哀相にとささやいた。  
「…っん。」
 その声があまりに甘く、優しいので驚いて身を縮めた。アイルは首筋に電気が走ったような気がして、
急にドキドキと胸がなる。その胸が今は剥き出しにさらされてるのが、自分がそうしたくせに
たまらなく恥ずかしくなり、胸を隠して立ち上がる。それを腰に腕を回してサウラが拒み、
また自分の膝上に引き寄せた。目が合った。
「目…目えつぶってって言ったよ…?」
「そうだったか…?」
 ふふ、とサウラが優しく笑い、またこめかみにキスをしてくれたのがアイルは嬉しくて、
でもいたたまれない気持ちに身を震わせた。コーヒーで茶色に染まったハンカチと小さな両手で胸を隠す。
その胸元の鎖骨のすりきずに気づいてサウラは思わずそこをぺろりと舐めた。
「あっ…。」
 急な行為に声を上げ身を固くする。
「あ…。」
 その様子に今度はサウラが声をあげ、苦虫をつぶしたような顔ですまんと言った。
「舐められて気持ち悪いといってるのにな…。」
 そう言って顔を離したサウラの頭を思わず捕らえて抱きしめる。ああ、ハンカチ外しちゃった、と思いながらも
アイルはドキドキと早鐘を打つ自分の小さな胸にサウラの顔を押し付けた。

「舐めて。」
 口をついて出た台詞に自分でびっくりだ。だけど一度発してしまった望みを押さえるつもりは毛頭ない。
「お願い、舐めて…せめて触ってボス…。あいつの手触りとか残すの嫌…。」

 嘘だ…!ただボスに触って欲しいだけのくせに、なんて浅ましいんだボク…!
 恥ずかしい、きっとボスはそんなこと気づいてボクに呆れてる。でも…、でもお願いだ!

「ボ…」
 がぶり、といきなり歯をたてる。
今にも消え入りそうにプルプルとささやかな肉を揺らしていたアイルに、
乞われる以上の積極さでサウラはそれにこたえた。
 両手で柔らかな肉を掴み手のひらでくるくるとかき回す。
 指の間から飛び出た小さな赤い尖りを何度も口に含んで転がした。
「…っあ、あっ、ああっ…っ!」
 高まる欲望にこらえきれずサウラの首筋に腕をまわした。
 顔を上げたサウラと目が合い、どちらからともなく唇をかさねた。
「んん…あっ、…っ」
 アイルは自分から舌を入れたつもりだったが、いつのまにか口中にサウラの大きな舌を感じて戦慄いた。
 ああ、ボス、好きだよ、大好きだ!ずっとずっと、こうしたかった!!

「こんなふうに口を吸われたのか…?」
 サウラが怒りを含んだくぐもった声で訊いた。
「ううん、もっと、もっとぐちゃぐちゃって…っ。」
「こうか…?」
 大きく口を開かされ、上あごから舌の付け根までべろでぐちゃぐちゃにかき回される。
 その間もサウラの手は荒々しく胸をまさぐり、時々思い出したかのように乳首をつまむ。
背中に回されたもう片方の手が腰から尻に降りて行き、柔らかい肉をなであげる。
 目もくらむ快感にアイルは立っていられなくて、座らされた膝から体を反らせてずり落ちた。
それをサウラが引っ張り上げ抱きしめる。
472サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/20(月) 06:16:20 ID:fnFrsRQK
 小さな体がハアハアと息を乱しぐったりとサウラに体を預けるので、この持て余し今にも暴れだしそうな欲望が、
愛情なのか、肉欲なのか、ただの独占欲なのかわからなくなっていた。わかるのはここが観覧車の中で、
下についたら公衆の目があるということと、もう一つ、どうしても今すぐシャブリつきたい場所があるということだった。
サウラは外の景色を見て、やっと半分の頂上付近にいることを確認すると、だいじょうぶだ、やめられるから、と
自分に言い聞かせてアイルのハーフパンツに手をかけた。

 アイルが驚いてその手に自分の手を添える。
「まだあるだろう、あいつに舐められたとこ…。」
 はっとして、アイルがそこはいいと小さく拒んだが、サウラは聞かずに一気にずり下げた。
「やっ…」
 そのまま焦げ茶のショーツも続けて降ろそうとずらすとアイルがいやいやと首を振る。
 有無を言わさず腰を押さえて可愛いお尻を夕日にさらす。きれいな丸みに一瞬うっとり指を這わしたが、
片方の丘に赤く噛み付かれた後を見つけてサウラは苛立った。
 俺のアイルがあんなやつに。やはり殺してしまえばよかった。
 さっき助け出すとき見た光景が思い出されて焼き切れそうに嫉妬する。誰に?
アイルに劣情を向ける世界中の男にだ…!
 赤い跡に噛み付いて強くすいあげた。アイルが声を上げ腰をよじったが抱え込みさらにしゃぶりつく。
 すべすべの尻にいくつも赤い跡をつけ、それからやっと丘を開いてその奥できゅうっと締まる
小さすぎるアヌスを目で捕らえた。
 こんな聖域を侵そうとするなんて信じられない、変態め!
 サウラはわなわなと、震える手で思いきり左右に尻の肉を分け、おそらくあの男がしたであろう通りに、
舌先を尖らせて小さな裂け目を濡らした。

「いやっいやっ、ばかっ、ボス-----っ!!」
 アイルの羞恥の叫びに舌を引っ込めそのまま内股に這わせることにする。いつのまにか向かいのシートに
体を押し付け、アイルは二つ折りにした体をびくびく震わせて、突き出したお尻をサウラに嬲られていた。
それで終わらすつもりだったサウラだが、突き出された臀部側から柔らかそうなピンクの皮肉が光るのを認めて、
そのままそこに口づける。
「んやああんっ…!!」
 アイルがしんじられないほど可愛い声で啼くので、我を忘れて責め立てる。
 暴れる手足を背後から押さえつけて、クチュクチュと陰部を唇ですすりながら舌を伸ばすと、
コリっとした尖りが舌先に触れた。クリトリスだ。
「……ひああっ……っっ!」
 アイルの体がガクガクと震え、秘部からわあっと愛液が溢れて来た、とたん。

 …間もなく、地上、降り口は左側、本日は誠にありがとうございました…

 アナウンスに我に返り、慌ててアイルに服を着せる。アイルももつれる足でパンツをあげて、
帽子の変わりに持って来たバンダナを巻いて耳を隠す。お互い顔は真っ赤だった。
「ありがとうございました。股のお越しを。」
 また、という字が違って聞こえる。絶対バレてるだろうが、よくあることなのだろう、
顔も見ずそっけなく、というサービスで、観覧車の職員は二人を送りだしてくれた。


473サウラとアイル@ピーチドリーム:2007/08/20(月) 06:22:40 ID:fnFrsRQK

・・・・・・・・・・

 帰路は大変に長く感じた。
 当然のごとく何も話さないアイルと、ただ黙々と手を引き歩くサウラ。遊園地を後にすると、
お互い黙って宇宙船に乗っていた。
 二人に訪れた夜は、今朝と同じようでいて、まったく違う。
 
 夕食は帰り際に買ったテイクアウトのお好み焼きとコーラで宇宙船内ですませた。
 ピーチドリームに帰って来た時はもう夜も遅く、疲れたな、とつぶやくと、そうだねと返って来た。
 二人してシャワーを浴びてもう寝る事にする。おやすみ、と言い合ってそれぞれの部屋に消える。
 ブラボー!計画通りだぜ。

 明日も予定通り、朝食を作ってからあいつを起こし、ギャラクシーポートで最後の食事を一緒に取ろう。
それからどの方面に行くか決めさせて、銀行で降ろした選別を渡し、あばよ、達者でなと手を振るのだ。
 それでいい。
 これでいいんだ。

・・・・・・・・・・・

 …本当にいいのか?

 一度はシーツの隙間に身を埋めたサウラだが、予期していたとおりの感情の荒波に、降参して起き上がる。
 
 いや、いいんだ。俺が抱いてあの子を変な金髪女にするくらいなら…。
 他の男にやられちまっても?それを自分が知らないだけで、アイルが本来のアイルのままでいると、
本当にしんじられるのか?

 思考停止。本当は…。
 いやいやこんな夜はとにかく一発抜いてすっきりさせて、答えを出すのはそれからだ。
 だがだめだ、あいつで抜くのはだめだ!
 かといって、ビデオで抜く気にもならない。職業柄あらゆるニーズに応えるだけのライブラリーを
そろえるサウラだが、今日の気分を慰めるジャンルはまったく思いつかない。

 サウラはまるで十代の少年のような自分の夜に、自嘲せざるを得なかった。
 ごまかしても無駄だ。体が今日のアイルを覚えている。
 あの可愛い蜂蜜の頭をかき撫でて、可愛いささやかな胸に妄想通りしゃぶりついた。
可愛いお尻の間から濡れる陰部を見た時は、初めて女性器を見た時みたいに興奮して我を忘れた。
ああん、と戦慄いた、可愛い声。恥ずかしそうに「舐めて」と言って来た時は、自分の妄想が
幻聴を聞かせているのだと思った。口づけると小さな舌を差し入れてきて、ねぶると震える柔らかい唇。
 遊園地につれて来たサウラの思いやりをくんで楽しんでくれた。
 フェイラ星を悼んで泣いた。
 どうしようもない悲しみを歯を食いしばって乗り越える、そんなことをもう知っている。けなげだ。
 俺の幼いごまかしを見抜いて突きつけた、賢い子だ。傷つけたと自分も傷つく、優しい子だ。
 俺を好きだと叫ぶ。…ため息だ。
 …可愛い。
 あいつの何もかもが可愛くて、頭からむしゃむしゃ食べてしまいたい。
 手放したくない。
 誰にも渡したくない。
 変えたくない。
 そのままのお前を、その姿のまま愛している。
 本当は…今はもう、今日の事で嫌われたのではないかとそればかりがただ怖いのだ。

474サウラとアイル@ピーチドリーム

 落ち着くためにブランデーをとりに向かい、グラスに注いで匂いをかいだ。
「ボクにもちょうだい。」
 声に驚いてグラスを落とした。幸い割れずに転がったので甘い匂いが部屋にひろがる。
「あ〜あ。なにしてるの。」
「なにをしてる、はこっちの台詞だ。」
 声の主に振り返り、またくるりと背を向ける。
 このやろう…今朝のベビードールを着てやがる。
 サウラはタオルで床のブランデーを拭き取りそれをシャワールームに放り投げると、冷蔵庫から
シードルを取り出しこれくらいならと、アイルに渡した。
「それを飲んだら帰りなさい。」
「ゆっくり飲んでやる。」
 ポン、とあけた炭酸の小瓶をカチン、とあわせて乾杯した。何に?…二人の夜にだろう。

「待ってたのに来ないから来ちゃった。」
「俺がお前の部屋に行くとでも?」
「今日の事、話し合わなきゃ眠れないでしょ、ボス。」
 全くその通りで苦笑せざるを得ない。
「何を話し合う?」
 ちょっといじわるだが、アイルがどう出るか見てからだって遅くない。
 アイルはベッドの端に座っており、サウラは冷蔵庫の横に立っていた。どちらかが、動かなければ
二人の距離は縮まらない。それは二人の関係や心の距離も同じである。そしてなしくずしに近寄るなんて芸当が
まだ出来ない処女に、この夜の主導権をまかしているサウラは、ちびちびシードルをすすり
言いよどんでるアイルを辛抱強く待った。

 シードルが残り二口程度になっている事に気づいてアイルが慌てている。飲んだら帰れという台詞を
真に受けているのだろうか。全部を飲み干さず床に置いて、意を決したようにくるりとこちらを向いて座る。
「ボス…っ!!」
「うん…?」
「結婚して下さい。」
 ぶわっとサウラはシードルをむせて噴いた。あらあらとばかりにタオルを取って来てサウラの体と
トランクスを拭う。こら、どこを触っている、どこを…!
「おま…何言ってるかわかってんのか!?俺バツ3だぞ!結婚はこりごりだ!!」
「だって、結局まとめるとそうなるんだもん。」
「まとめず順番に言ってみろ。」
「ずっとここに住みたい。」
「なるほどな。」
「AV女優にならなくてもいい。」
「諦めたか。賢明だな。」
「ボスとえっちしたい。」
「……。」
「ボス以外とはしたくない。」
「……。」
「ボスを愛してる…。」
「…それだけか?」

 いじわるだろうか。だが俺は、おそらくおまえ以上に幼い俺は、お前が言った通り変わるのが怖い。
 愛されない恨みからどう生きて行くかのナビがなければ、自分の一歩を踏み出せない。

 見つめ合う二人の間の沈黙の重さが、かえって二人の動きを止めさせていた。
どうしていいかわからず、これ以上何を言えばいいのかわからずアイルは途方に暮れている。
みるみる瞳に涙が浮かぶ。だが泣いてそこで終わるなら諦めた方がいいのだ。だけどそうでないのなら。
おまえの次の言葉をくれと、涙を流して懇願しているのは俺の方だ!