【異形化】人外への変身スレ第二話【蟲化】

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1名無しさん@ピンキー
落ちていたので立ててみた。

前スレ
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1136653189/

関連スレ
[獣化]人間が人外に変身しちゃうスレ5[異形]
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/ascii2d/1174286564/
【亜人】人外の者達の絡み【異形】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1098260654/
【獣人】亜人の少年少女の絡み5【獣化】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1167835685/
おにゃのこ改造 BYアダルト7
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1175864672/
2名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 01:08:12 ID:OAegQ3xc
乙。

前スレって、>>857まで?
3名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 01:29:04 ID:/BJ0C4Go
587ではないかと。
4名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 01:35:06 ID:OAegQ3xc
ああ、素で間違えた……orz
5名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 02:07:58 ID:Vk6XtNX4
>>1に激しく乙と言いたい
6『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/05/01(火) 18:05:26 ID:uqDZe94l
ユベールへの指示は、ジェラールの意識を二分するため。
まともにやれば、ジェラールが駆け寄ってイヴォンヌを倒しておしまい。だから彼女は
ユベールを、羽を焼かれて飛べないわたしへと差し向けた。
わたしを守るために戦おうとしているジェラール。そんな彼が、わたしへの危険を
無視するわけがない。魔法使いはそう読んだのだろう。
そしてそれは正しかった。
ジェラールを避けるように大回りしながら剣を構えてわたしを狙うユベール。けど
その前に屈強な戦士が立ち塞がる。
振るわれた斧が巻き起こす一陣の旋風。
わたしに向けて突き出されようとした剣が、断ち落とされた腕ごと地面に落ちた。
「ひ、ひいいいぃっ!!」
うろたえて傷口を押さえるユベールを蹴り倒して気絶させると、ジェラールはわたしに
向き直って軽く笑いかける。
でも、そんな余裕があるんだろうか。
「つくづく馬鹿ね、ジェラール! 大事な蠅と一緒に黒焦げになるがいいわ!!」
イヴォンヌの声に視線を向ける。
複眼の捉える無数で一人の魔術師が、胸の前に構えた両手の中から今にも弾けんばかりの
巨大な電光を発生させていた。わたしが見たことのない魔術。半年あれば技量が上達
していてもおかしくないし、昨夜は手の内を晒してなかったということだろう。
たぶんあれは、話に聞いた魔術師の高位呪文『雷の奔流』。長射程と高威力を誇り、
わたしはもちろんジェラールでもまともに喰らったらただでは済まないはず。
敵の視線はわたしに据えられていた。わたしを狙えば自動的にジェラールが庇うことを
確信しているのだろう。
逃げようにも空は飛べない。蠅の貧弱な肢で地面をよたよた這っても、絶好の的には
変わりない。
ただ自分が攻撃されるだけならまだしも、ジェラールを巻き込むなんて最悪だ。なのに
今のわたしにはそれを打開する方途が思い浮かばない。
声をかけるのもためらわれ、無言でジェラールを見上げる。蠅なんかに顔を向けられても
いい迷惑だろうけど。
でも、彼は優しく微笑んでくれた。
「しくじったら回復呪文頼むぜ」
気軽にそう言うと、わたしを背後に置く形でイヴォンヌに向かって迫っていく。
けれども間に合うわけはなく、丸太のように巨大な電光がジェラール目がけて迸った。
7 ◆eJPIfaQmes :2007/05/01(火) 18:18:14 ID:uqDZe94l
>1
ありがとうございます。


>拙作を読んでくださっている方々へ
前スレでちゃんと終わらせることができなくてすみません。
この後は、ラストまで書き溜めてから一気に投下しようと思います。
まだもう少し時間がかかりそうで重ね重ね申し訳ございませんが、
お待ちいただければ幸いです。
8名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 19:51:17 ID:p5+URL2z
>>6,7
待ってました!
お待ちしてます!!
9名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 06:56:56 ID:2cmq94ig
うお、投稿きとるし!


前スレの保守し切れなかったのが悔やまれるぜ……orz
10名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 21:50:20 ID:P4xLmQfn
保守
11名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 00:49:42 ID:XcQOV4El
頑なに保守
12名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 00:43:14 ID:dmypq/we
保守
13名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 21:10:50 ID:EZewLx2w
保守
14名無しさん@ピンキー:2007/05/08(火) 00:03:10 ID:KUSlT75G
hosyu
15名無しさん@ピンキー:2007/05/09(水) 03:49:26 ID:pTKOxYjj
保守
16名無しさん@ピンキー:2007/05/11(金) 03:00:40 ID:JHmChOn1
ほしゅ
17名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 02:35:06 ID:sbGRdLlj
ホッシュ
18名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 10:48:18 ID:pEJna6ir
ほしゅ
19名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 21:47:32 ID:7xM4+DJw
ほっしゅ
20名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 09:24:33 ID:bPA+7IhI
保守
21名無しさん@ピンキー:2007/05/22(火) 12:46:18 ID:BUS9uFTv
22名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 11:32:41 ID:hDdKgi35
しゅ
23名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 08:05:33 ID:f5Zi6Ovi
全裸でワクテカ保守
24『アステリオスの裔』 ◆eJPIfaQmes :2007/05/25(金) 16:40:58 ID:z9POdTMW
襲ってきた吸血コウモリを斬り伏せると、部屋を見回す余裕ができた。
奥の一隅に、埃にまみれた宝箱。
「テッド、よろしくね」
「はいはい」
戦闘中は撹乱が主な役目だったテッドだが、盗賊の真骨頂は罠の解除。
反対に魔法剣士の私は手持ち無沙汰になる。一応レイピアを構えて警戒はするけど、
片田舎の幽霊屋敷なんて住み着いてる魔物も低レベルと相場は決まってる。
「開いたよー。中身はしょぼいけど」
テッドの後ろから箱の中を覗き込むと、古ぼけた巨大な斧が入っていた。
「……武骨一辺倒。魔力もこもってない。どこからどう見ても、金にはならなさそうね」
商人でも学者でもない私たち二人にも、そのくらいはわかる。
「シルヴィアの予備の武器にしたら?」
「こんな重くて大きな斧、持ち運ぶのが面倒よ」
腕力に任せて武器を振るう戦士と違い、剣士はもっとスマートに戦うものである。
戦闘でやや乱れた髪を整えながら、私はテッドに提案した。
「奥まで調べて、余裕があったら帰り道で回収しましょ」
放っておこうと言えないのが貧乏な駆け出し冒険者のなさけないところ。

私とテッドは幼なじみ。ともにヒューマンの十六歳。二ヶ月前に訓練所を卒業して、
冒険者として生計を立てている。
と言っても、私たちの住んでいる平凡な地方都市は平和そのもの。名をあげるための
大事件も、腕を磨くための大冒険も、暮らしを楽にする大財宝も、とんと縁遠い。
大きな都市や危険な迷宮へ行こうにも、そのための充分な旅費も実力もない。
結果、私たちは、近隣の町村へ向かう商人の護衛などのような地道な日雇い仕事や、
今回の幽霊屋敷みたいに他の冒険者が着目しない(=実入りの期待できそうにない)
場所の落穂拾いじみた探索で、こつこつ路銀と経験値を貯めているところだった。
25『アステリオスの裔』 ◆eJPIfaQmes :2007/05/25(金) 16:42:08 ID:z9POdTMW
空気の淀んだ廊下を歩きながら、ついつい愚痴をこぼしてしまう。
「世の中不公平よね。名の売れた冒険者は色んな依頼があちこちから舞い込んできたり
有力なパーティに加入したりしてますます高度な経験を積んで強くなっていけるのに、
無名な冒険者は半端仕事ばかりでいつまで経っても低レベルなまま」
一度不利な状況に陥ると、不利な度合いはそこに留まってくれはしない。坂を転げ落ちる
ように、ますます物事は悪化していきがちだ。
これは経験に基づく実感でもある。八年前に父が再婚して以来、唯一の連れ子たる私の
家庭内での立場は見る見る悪化していったものである。
「まあまあ」
隣を歩くテッドは、私をなだめるように声をかけてくる。子供の頃から何度となく
繰り返されてきた、いつものやり取り。
「だからこうして一発逆転を狙ってるんでしょ?」
「……うん」
この屋敷は、実は単なる場末の探索地とも言いきれない。
ここの主は百年前に寿命を全うした偉大な魔術師だ。ゆえに、もし未発表の研究記録や
アイテムが見つかったら、魔術師学会が高値で買い取ってくれること間違いなし。さらに
歴史的な発見ともなれば、名を売るのにも役立つだろう。
ここは彼が晩年を過ごしていた別宅で、没後何度となく家捜しはなされている。けれど
誰も何も見つけられず、その頃の彼はボケが進んでいたという証言も多くて、いつしか
すっかり見捨てられるようになっていた。
でも、もしかしたら、何かが隠されているかもしれない。誰も何も見つけていない以上、
秘密の研究室みたいなものが発見されたら、そこはすなわち宝の山だろう。
そんな一縷の望みにかけて、私は仕事のないここ数日を利用し、この屋敷の探索に
乗り出したのである。
ちなみに『変化の導師』と呼ばれたその魔術師は、人間の変化に強い関心を持ち続け、
様々な魔法のアイテムを作っていた。若返りや加齢をもたらす指輪。異性に変わる薬。
また冒険者の職業を変える腕輪に、初心者を一瞬で熟練の冒険者に成長させる護符……。
ある意味、この『熟練の護符』が二つ見つかってくれれば、未知の研究やアイテムよりも
私たちには直接的にありがたいのだが。
26『アステリオスの裔』 ◆eJPIfaQmes :2007/05/25(金) 16:43:20 ID:z9POdTMW
次に入った部屋は、何の変哲もない書庫に見えた。
棚には本が並ぶが、すでに先達に漁り尽くされている。今でも本屋で買えるありきたりな
小説本(登場人物が変身する話がやたらと多い)や、百年の間に学説が改められて今では
役に立たない学術書などが、虚しく埃をかぶっている。
「テッド、どうしたの? 奥に行くわよ」
隠し部屋などがあるとしたら、屋敷の構造上、一番怪しいとされている最奥部の寝室。
そちらへ向かおうとした私だが、テッドがしきりに本棚を眺めている。
「テッド?」
「……これを捻って……こっちを動かして……」
そのうち部屋中をちょこまかと動き回り、本棚の天板や側板に施された彫刻をせっせと
弄り始めた。
短期の仕事で一緒になった流れの冒険者から聞いたことがある。手先の器用さや身軽さ
以上に盗賊に求められるのは、独特の勘だと。
彼の話はそこから「けど一番欠かせないのは運だよな」と、同じ宝石を五回も盗む
羽目になった不運な盗賊の笑い話へシフトしていったのだが、私は何だかテッドを
褒めてもらえたようで凄く嬉しくて、本題の笑い話以上にその前振りを今でもよく
覚えている。
そして今、テッドの独特の勘は百年間見過ごされてきた大当たりを引き当てた。
彼が各所の彫刻を動かし終えると、壁際の本棚が掻き消すように消え去った。
そして台所との間を隔てている、薄いはずの壁に、ぽっかりと穴が開いたのだ。
27『アステリオスの裔』 ◆eJPIfaQmes :2007/05/25(金) 16:44:24 ID:z9POdTMW
「異空間を使った隠し部屋……『変化の導師』ってよほど強力な敵にでも狙われていた
のかしら。それともそんなに用心したくなるほど凄い研究をしてたの?」
百年間、恐らくは誰も訪れなかった部屋に足を踏み入れながら、私は呟いた。
「うーん……単純に恥ずかしかったんじゃないかな」
私より少し先行しながら部屋のあちこちを探っていたテッドが、目を通していた数冊の
本を私に差し出す。絵物語のようだ。
全裸の美女が狂える魔術師の実験によっておぞましいキメラに姿を変えられる物語。
清楚な美少女がクラーケンに襲われ、触手に犯され、やがて自らの姿もクラーケンに
変わっていく物語。邪龍に国を滅ぼされ囚われた王女が、呪いによって次第に身も心も
凶悪な龍になっていき、最後には邪龍と交わる物語。騎士と王女の魂が入れ替わったまま
元に戻れず、最終的には本来の自分の身体と交わる物語。エトセトラ、エトセトラ……。
「……『変化の導師』って、要するに変態だったのね」
数々の研究も、ただ自分の歪んだ趣味を本業に反映させていただけだったのか。
「必死に隠そうとしてた気持ちは理解できたでしょ」
「まあね」
百年前に天に召された相手の性的嗜好をどうこう言っても始まらない。気を取り直して
部屋の探索を手伝う。
と、あるアイテムを引き出しから見つけた。
28『アステリオスの裔』 ◆eJPIfaQmes :2007/05/25(金) 16:45:05 ID:z9POdTMW
「これって……『熟練の護符』かしら?」
職業訓練の際、魔法の習得のために通っていた魔術師学会。その所蔵本に載っていた
『熟練の護符』の絵と、今ここにある二つの護符はかなり似通っている。
「身に着けて力を解放すればいきなりベテラン冒険者になれるっていう、あれ?」
「ええ。……ただ、彫り込んである字や図形がいくらか違ってるみたい」
古代語は基礎の基礎しか習っていない。見知らぬ単語が出てきてはお手上げだ。
「試作品? それとも形だけ似てる別の何か?」
「私には判断がつかないわ。この場で使うのはやめといた方が良さそうね」
いずれにせよ貴重な発見であることは確実だろう。テッドと一つずつ分け合って、
しっかりと懐にしまい込んだ。
「あ、向こうにも部屋がありそうだね」
テッドの言う通り、机や棚の陰に隠れて見えにくかったが、ドアがある。
「どうしようか?」
「もちろん調べるわよ。ここまで来た以上、覗かないわけないでしょ」
何か勘が働いていたのかわざわざ伺いを立てるテッドに対し、私は無造作に答えた。
……それが私の一生を大きく狂わせる選択だとも知らずに。
29『アステリオスの裔』 ◆eJPIfaQmes :2007/05/25(金) 16:46:42 ID:z9POdTMW
ドアを開けた瞬間、目指す部屋から重々しい地響きがした。誰もいないはずの部屋の中、
うずくまっていた巨大な人型の影が、すっくと立ち上がってこちらへと歩き始めた。
「え……?」
一瞬予想外の光景にぼんやりしてしまった私の腕を引き、テッドが鋭い口調で言う。
「シルヴィア、しくじった。逃げよう」
その言葉に遅ればせながら後退する。と、ほんのわずかに遅れて、私のいた空間を
巨大な拳が通過した。
ストーンゴーレム。魔術師によってかりそめの命を吹き込まれた石人形。主の命令を
自身が壊れるまでいつまでも忠実に守り続ける番兵。
それなりに経験を積んだ冒険者がやっと倒せるかどうかというモンスター。
ひよっこに過ぎない私とテッドでは、絶対に勝てるわけのない相手。

私の足はそれほど遅くないが、とりたてて速いわけでもない。
なのに相手のストーンゴーレムは特殊な改良でもされているのか、巨体なのに鈍重
どころかかなり身軽な足運び。はっきり言って、私より速い。
百年目の初仕事に張り切る敵をまるで振り切れないまま、私たちは追い立てられていた。
脱出方向に先回りしたゴーレムの強烈な蹴りを辛うじてかわす。
ゴーレムに短刀を投げつけて牽制するテッド。多少は撹乱になっているけれど、もちろん
倒すことなど期待できない。
一か八か、膝の関節を狙ってレイピアを突き出してみた。しかし渾身の一撃は簡単に
弾かれ、おまけにレイピアは折れてしまった。
「くっ……!」
「さっきの斧!」
いつの間にかあの宝箱の部屋までは戻っていたらしい。私は蓋を蹴り開けるとごつい斧を
取り上げて構えた。それでも、慣れない武器と月並みな筋力ではストーンゴーレムに
手傷を負わせるのは難しそうだ。
30『アステリオスの裔』 ◆eJPIfaQmes :2007/05/25(金) 16:47:36 ID:z9POdTMW
「テッド、あなただけでも逃げて助けを呼んで!」
隣の書斎に走りながら、私は叫んだ。まだ屋敷の中央部ではあるけれど、テッドが自分のことだけ考えればきっと逃げられる。私が食い止めれば、必ず逃がすことはできる。
「そりゃ無理な話だよ。この近所に高レベルの冒険者がいるわけないじゃない」
なのに彼は、床や机の上に転がるガラクタを手当たり次第に投げつけ、ゴーレムの足止めを図るばかり。
「だけどこのままじゃ、あなたまで無駄死にするだけよ!!」
そんなのは絶対に嫌だ。
人付き合いが下手くそで「家族」からも隣近所からも疎まれていた私と、たった一人
普通に接してくれたテッド。
自分が死ぬのは諦めもするけど、優しい彼まで巻き添えにするわけにはいかない。
「それならそれで本望だけどね」
テッドが私には聞こえない小声で何か呟いた。
「え?」
「何でもないよ。それよりさっきのあれ、使ってみない?」
「この護符?」
懐に収めた『熟練の護符』らしきアイテムの感覚を意識しながら、私は問い返した。
「それくらいしか対抗手段なさそうだしね。駄目なら駄目で、その時になってまた考える
ってことで!」
言いながら、彼は物がなくなって軽くなった床の上の絨毯をひっぺがす。その先にあった
机がさらに本棚をも巻き込んで倒れ、ゴーレムと私たちの間に一瞬の壁を作り出した。
逃げきる余裕はないけれど、護符を使う時間の猶予くらいは得られる壁を。
他にできることは何もない。
私とテッドはそれぞれ護符を握り、その秘められた力を解放した。
31『アステリオスの裔』 ◆eJPIfaQmes :2007/05/25(金) 16:48:34 ID:z9POdTMW
その瞬間、私の全身を圧倒的な力が駆け抜けた。
溢れんばかりの活力。湧き出す生命力。そしてまた、純粋なまでの筋力。これが成長の
感覚なのだろうか。
恍惚感に囚われ、私は危機的状況にありながらも思わず目をつぶっていた。
みなぎる力は私の全身を包んでいた安物の装備を弾き飛ばす。全裸になった自分を
恥ずかしいと思うよりも、解放感の心地好さが上回る。
そして私は、自分の身体が大きく広がっていく快感を味わった。力強く床を踏みしめる
充実感。握りしめた拳に、力を込めた腕に、エネルギーが蓄えられていく。
不意に、私の胸が殴られた。
目を開けるとストーンゴーレム。無防備に立ち尽くしていた私に攻撃を加えたのだろう。
しかしその打撃は、さっきまで死にもの狂いで回避していたのが嘘のように、貧弱で
情けない代物だった。私をよろめかせることすらできない。
いや、いくらレベルアップしたとしても、これはおかしくないだろうか。
私の身体はどうなってしまったのだろう。なぜあの巨大なストーンゴーレムと視線の
高さがほぼ同じになってしまっているのだろう。
「ああ、こういうことだったんだ」
私の耳のすぐそばで、高い澄んだ声がした。
顔を向けると、可愛らしい少女めいた小さな妖精が、蝶のような羽を広げて飛んでいた。
「あなたは、誰?」
自分が発した声にうろたえる。いつもの私の声とは違う、低く重たい声。
「説明は後。それよりさっさとゴーレムやっつけちゃってよ」
妙に馴れ馴れしい口調だが、とにかく言われて我に返る。手にした斧は、さっきまでより
はるかに軽く感じた。
「こ、このおっ!!」
振りかぶって無造作に叩きつけた斧は、一撃でストーンゴーレムを粉砕した。
32『アステリオスの裔』 ◆eJPIfaQmes :2007/05/25(金) 16:49:21 ID:z9POdTMW
「お疲れさま、シルヴィア」
小さな妖精はそう言うと、私の周りを軽やかに飛んだ。
私は周囲を見回す。さっきまでテッドがいた場所には、彼の装備と服装が乱雑に転がって
いた。まるで、彼の身体だけが空気に蒸発したかのように。
「あなた……もしかして、テッド?」
「ご名答」
妖精は優雅に一礼する。顔も声も身体の大きさも変わってしまったけれど、おどけた
仕草と口調はテッドそのものだった。
「あの『護符』は……つまり……」
「使用者の種族を変える効果があったみたいだね。僕の場合は、盗賊としての技術も
感覚も鈍っていない。職業とレベルはそのままっぽいよ」
それは、まあいい。
「まあ、妖精になったのが僕でよかったね。この小さな身体なら、普通のサイズの罠は
すごく簡単に外せるようになるはずだから」
問題は。
「テッド……あの……私の『種族』は……」
ストーンゴーレムに匹敵する身体の大きさ。その石像を一撃で破壊する腕力。低い声。
そして視界に入る、今までは見ないふりをしていた、前に突き出た鼻と両顎。
どう考えてもこの身体は、ヒューマンのものではなくて……。
「…………向こうの部屋に、鏡あったよ」
気まずそうに目を逸らして、テッドが言った。
鏡を見た私は、壁が壊れそうな勢いで絶叫した。
33『アステリオスの裔』 ◆eJPIfaQmes :2007/05/25(金) 16:50:49 ID:z9POdTMW
「子供が見たら泣くね」
私の肩に乗ったテッドが、耳元に囁きかけた。今は妖精向けに作られた小さな服を
きちんと着ている。いかにも女の子向けのワンピースだが、今の自分にはこれが一番
似合うからと、臆する様子もなく着こなしている。うらやましい。
「もう泣かせてるわよ」
かなり遠くにいながらも、ズタ袋のような覆面をかぶる私を恐怖の眼差しで見つめて
泣き叫ぶ幼い子。でもこの覆面を取ったらもっと激しく泣かれるに決まってるから
やむをえない。
私はつい足を速める。子供に泣かれるなんて、慣れてない。

ストーンゴーレムが守っていたものは、あの『種族変化の護符』などに関する未知の
研究成果だった。だが町の魔術師学会に提出しても、高度すぎて解析不可能と匙を
投げられた。
私たちが元に戻るには、首都かあるいは他国の、もっと進んだ研究施設に持ち込む他
ない。その役目は私たちが自分で引き受けることにした。
テッドはともかく、この姿になった私は地元で暮らすことなんてとてもできやしない。
マントに包んだ巨躯。それは屈強な男の身体。だがそれは本質的な話じゃない。その
程度の変化なら、身元をごまかせばまだ済む話だ。
強い風が吹き、覆面が飛ばされそうになる。
だが覆面は、頭から生えた角に引っかかって止まった。
猛牛の頭を有するミノタウロス。それが今の私。市民権を得ている妖精はともかく、
私がこの素顔で暮らしていたら討伐されること間違いなしだ。
「まあ、なっちゃったものはしかたないしね。元に戻れるまでは気楽に行くしかないよ」
「ほんと、テッドは呑気なんだから」
それでも彼の言うことは間違っていない。
テッドがついてきてくれることに内心で感謝しつつ、私は俯きそうになる顔を上げ、
首都へ続く道を大股で歩き始めた。
34 ◆eJPIfaQmes :2007/05/25(金) 16:55:47 ID:z9POdTMW
保守ばかりしていただくのも心苦しく、以前書きかけて放置していた話を最後まで
書いてみました(展開はラストまで固まってるからすぐ終わるかと思っていたら
意外に長くなり、これではベルゼブブを終わらせた方が早かったかもしれませんが)。
35名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 03:33:19 ID:ZLJ+RG0H
>>34
乙ですー!
割りとライトな乗りの話でしたが
よくよく考えてみると二人とも人外に変身してしまった上に
性別まで変えられてしまってるんですよね。
特にミノタウロスに変身してしまったシルヴィア嬢なんかは
旅の途中や街中で突発的な生理現象が起ってしまった場合の性欲の沈めかたとか妄想してしまいます。
突然勃起してしまったペニスを前にうろたえるシルヴィア嬢とか萌えです。
ちなみにシルヴィア嬢のマントの下は全裸ですか?
それともドラクエ3のカンダタみたいなパンツ着用?
36名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 07:49:09 ID:xCTx3AIk
>>34
ぐっじょぶ!!
百年前の変態な魔術師様にぐっじょぶ!!(笑
37名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 21:06:17 ID:F/w8VYqv
GJ!
38名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 20:18:03 ID:lcsiXVsA
ttp://www.inazuma.jp/code/
変身しまくる本。
39名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 12:48:48 ID:KoAOLqvl
新作GJ
40名無しさん@ピンキー:2007/05/31(木) 16:19:11 ID:8di3GXgL
GJ!新作も素晴らしくGJ!
41名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 08:29:42 ID:rCw/GqR0
新作ktkr
GJでした!
42名無しさん@ピンキー:2007/06/08(金) 07:00:21 ID:tdg4isaH
hoshu
43名無しさん@ピンキー:2007/06/12(火) 12:50:31 ID:oPLE9zv7
ほっすー
44名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 00:03:17 ID:k5byLLl9
蝿待ち保守
45名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 21:36:44 ID:lIn+uxc2
ほす
46名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 23:46:26 ID:jXcRiJFt
【フリークス(1)】
 
 京樹(けいき)は、一糸まとわぬ姿で手術台に横たわる真魚(まお)を、感慨深く眺めた。
 彼女は、「人間の女としては」完璧に近い美しさをもっていた。
 すらりとした長身、色白できめ細やかな肌。
 艶やかな黒髪が、裸の背の下に孔雀の羽根のように広がっている。
 整った目鼻立ちに、小ぶりだがぷっくらした愛らしい唇。
 横になっていても形の崩れない張りのある乳房の頂には、淡い桜色の蕾のような乳頭が添えられている。
 ウエストは細く締まり、下腹部のごく限られた部分を覆う恥毛は色こそ違うが真綿のような繊細さ。
 しなやかに伸びた手足もまた、指の一本一本から爪の先に至るまで美しい。
「――どうしたの?」
 真魚が、照れたように笑ってたずねた。
「いや……」
 京樹もまた、照れ隠しに笑って首を振り、
「君が、あまりに綺麗だからさ。これは本気で言ってるんだけど」
「あなたの口から、そんな言葉が出ると思わなかった」
 真魚は、くすくす笑った。
「もっと以前に言われていたら、私、あなたのことを誤解していたでしょうね。自分に都合いいように」
 京樹は、ただ微笑んでいる。
 真魚は言った。
「あなたは英雄よ、京樹。遺伝子工学の天才、再生治療の魔術師。多くの人があなたを尊敬し、感謝している。
手足を骨肉腫に侵されたベラルーシの少女、両眼を喪ったカンボジアの少年。数え上げれば、きりがない」
「だが、その正体は、ただの異常者だ」
 京樹は答えて言った。
47名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 23:47:51 ID:jXcRiJFt
【フリークス(2)】
 
「僕は、誰が見ても美しいと思うはずの君を、外科的措置はもちろん遺伝子レベルの改変など必要のない君を、
僕の思い通りの《フリーク》に創り変えようとしている」
「つまり私は、あなたの理想の存在になる。――でしょ?」
「そうだね……」
 悪戯っぽく笑う真魚に、京樹も笑みを返す。
「だが、その価値を認めるのは僕だけだろう。君がこれから『なる』モノは、僕だけの理想の存在だ」
「そう『なる』ことが、私の理想なのよ」
「そうだったね……」
 京樹は微笑み、真魚の髪に触れた。
 それをゆっくりと、撫で梳いてやる。
 真魚は、心地よさそうに眼を閉じた。京樹の優しい指の感触に、しばし身を委ねる。
「……ねえ」
 真魚は言った。
「こんなことをお願いしたら、あなたは幻滅するかもしれないけど」
「なんだい? 脅かすみたいに」
 苦笑いして問い返す京樹の顔を、眼を開けた真魚は、じっと見つめて、
「英雄のあなたが、私の理想の存在だったの。いまは、私が『人間』でいられる最後の時間。お別れの挨拶を
してもらえると、嬉しいのだけど」
「……僕だって、君の気持ちには気づいていたよ」
 京樹は真魚の瞳を見つめ返して言う。
「それに応えられないことは、心苦しかった。君は優秀な医師で、最高のパートナーだ。僕が正常な人間なら、
間違いなく人生のパートナーにも君を選んでいた」
48名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 23:49:42 ID:jXcRiJFt
【フリークス(3)】
 
「だけどね」
 京樹は言葉を続けて、
「もし僕が、誰か人間を愛するとすれば、それは、その人間を『人間』でなくしてしまいたいと思うときだ。
僕の理想の存在は、ただの《フリーク》――怪物ではない。それは、僕の最愛の人が生まれ変わったモノで
なければならないんだ。そうでないなら、犬でも猫でも創り変えてしまえばいいのだからね。だが、そんな
ものに価値はないんだ」
「つまり……これから《フリーク》になる私は、あなたに選ばれたいうことね」
「僕は、君を選んだんだ」
 京樹は、腰をかがめて、ゆっくりと真魚に顔を近づける。
 眼を閉じた真魚の唇に、唇を重ねた。
 長く、静かな、しかし一生分の愛を誓い合う口づけ――
 やがて、京樹は唇を離した。
「愛しているよ、真魚」
 真魚は眼を開けて、男の顔を見上げる。男は、もう一度、繰り返した。
「愛している、真魚。だから、君を……僕の《フリーク》にする」
「愛しているわ、京樹。だから、私を……あなたの理想の存在にして」
 京樹はもう一度、真魚と唇を重ねる。
 
 
 そして――彼女を理想の存在にするための措置にとりかかった。
 
【終わり】
49名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 03:56:28 ID:bWkAnkH4
意味がわかりません><
50名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 04:51:11 ID:9/N9P6yB
終わるのかよっ!wwwWwww
51名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 21:07:27 ID:2flgnEKh
ワッホー! ワッホー!
52名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 01:03:32 ID:mkZGXzxc
改造シーン書いてクレクレェェェェェェェェェェ
53名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 11:20:05 ID:2tS1b158
わっふるわっふる。
54名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 23:38:01 ID:9Fveg9yv
期待でビンビンだったのに最後の一行で萎えたwww
55名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 23:33:15 ID:uW2OfcbI
お、俺のwktkをどうしてくれるんだ!
56名無しさん@ピンキー:2007/06/18(月) 12:01:20 ID:yiOp5OUA
流れを切って質問。ここって蟲そのものに変化させなくてもいいんだっけ?
例えば蜘蛛女とか。
57名無しさん@ピンキー:2007/06/18(月) 15:52:03 ID:NTwLJTmI
いやいやいや質問なんかすんなよ
オマイは今まさにこのスレのパイオニアになろうとしてんだぜ?
58名無しさん@ピンキー:2007/06/19(火) 12:03:29 ID:kg7GLbus
>>56
蜘蛛女期待
ガンガレー
59名無しさん@ピンキー:2007/06/19(火) 17:12:44 ID:PIKR2G7+
下半身が化け物(蜘蛛や蛇・百足等)で上半身は女の子がすげぇツボ!
6056改め牧島みにむ:2007/06/19(火) 17:53:21 ID:gwysGhKs
では、拙い作品ながら投下させていただきます。携帯打ちなので、下手したらかなり時間と容量ががかかってるかもしれませんが、ご了承くださいな。
61牧島みにむ:2007/06/19(火) 17:54:44 ID:gwysGhKs
『moonlit lunartic』

「気が付いた?」
女の人の声で、あたし――白池ゆいなは目を醒ました。これが母親か姉か妹なら、あるいは気の知れた友人なら安心できるところなんだろう――けど。
「―――」
残念なことに相手は母親でも姉妹でもない。そしてあたしに友人などいない。そもそも姉妹などいないし、母親も三年前から綺麗に蒸発中だ。
結論。どこをどう行き着いても安心できる筈がない。
「………気分はどう?」
そんなあたしの家庭事情を知ってか知らずか、目の前の女は『目が覚めた対象に語りかけるマニュアル』の定石に則った台詞であたしに話しかける。
「………最悪」
実際、寝起きは最悪だった。人の声で強引に起こされるのは、誰しも気分が悪くなるもの――。

――で、あれ?あたし、何で寝てたっけ?しかも今、何処に――

風が吹いた。この時期にしては少し冷たい風に、あたしは思わず腕を組もうとして――その腕が動かないことに気付いた。動かそうとすると、何かが反対方向へと引っ張ろうとするのだ。
あたしはそちらに視界をやろうとして――固まった。

「―――!」
本当に驚いた時、人は叫び声すらでなくなるらしい。
あたしは、服を全て脱がされ、全てさらけ出した状態で寝かされていた――だけならまだ良かった――いや、良くないか、やっぱし。
あたしの両足首は、何か糸状のものが巻き付いていて、あたしの脚を大きく開かせていた。多分、手首にも同じものが巻き付いているだろう。さらに、あたしの背中にも、同じ糸がべったりと張り付いて、その糸も放射状に広がっていて――!
信じたくはなかった。でも、今の状況を適当に表す言葉があたしの中に浮かんだ。

――蜘蛛の巣に、あたし、張り付けられてる!?――

「………あの、少しは返事してもらえるかしら?」
目の前の女性はパニクっているあたしに、少し戸惑い気味の声で話しかけてくる。でもあたしにそんな精神的余裕はない。
「え!ちょ、何よこれぇっ!何であたしは縛られてるのよ!」
あたしはじたばたともがこうとした。でも動くのは背中だけ。しかもその背中すら、蜘蛛の糸がだんだん貼り付いていき、次第に動きが鈍くなっていく。
あたしの頭は、この状況をもっとも現実としてありうる形に変換しようとしていた。
62牧島みにむ:2007/06/19(火) 17:57:05 ID:gwysGhKs
『そうよ――これは、これは怪獣映画のエクストラ――はやらないわよこんな芝居!』
失敗したのでもう一回。当然前の女性が何をしようとしているのか、最早目に入っていない。
『そうよ――これは夢n』

ちゅ………

「ふぐぅっ!?

現実逃避しようとしていたあたしは、このままではラチがあかないとあたしに迫ってきた女の人の動向に気付かず、結果――。
「んんっ!んむうんっ!」
――見ず知らずの女の人に唇を奪われてしまうことになってしまった。しかもそれだけでは終らなくて――。
「んふんんむふんんっ!」
あたしの歯の間をすり抜けて、女の舌があたしの口に入り込んできた!あたしは舌を追い出そうとしたけど、動きは相手の方が何枚も上手だった。突き出した舌は、そのまま彼女の口の中に招かれ、歯で軽く噛まれながら――

ぢゅうううううっ!

「んふむんんん〜〜〜っ!」

表面についた唾液が全て吸い取られてしまいそうな程の、強烈な舌の吸引に、あたしは全身の力が抜けてしまった。そのまま彼女はあたしの口の中を思うままに這いずり回っている。
二人の唾液が撹拌され、混ざり合っていく――。
「………ぷは」
女が口を離した時、あたしは身動きする元気も、疑問を持つ元気すらも使い果たしていた。幽かに視界がぼやけている………。
「………」
ぼんやりと、あたしは目の前の、服を着ていない女性を眺めた。20代前半〜中盤くらいの若々しい女性で、肌もきめ細やかな白磁、胸は大きく突き出して、腰はくびれて――!
下半身に目を移した瞬間、あたしは逃れられない運命と言うものがあるんだ、と絶望した。

彼女の下半身は、巨大な蜘蛛だった。

「………やっと気付いたのね」
今更、というニュアンスが伝わる口調で、目の前の蜘蛛女は呆れたように呟いた。
そもそも、あたしは縛られている状態で、どうして目の前に女性がいるのか、疑問を持っても良かったはずなのに――。
巣に捕えられた虫のようなものである自分は、動く元気すら使いきってしまった自分は、この目の前にいる蜘蛛女に食べられてしまうのだろう。何の抵抗も出来ずに。そう考えると、死にたくないと言う思いが、あたしの瞳に涙を呼び起こした。少し遅れて、しゃくり声も。
「?………どうして泣く必要があるの?」
63牧島みにむ:2007/06/19(火) 17:59:01 ID:gwysGhKs
「っく………そんなこと………ぃぐっ………ったり前じゃない………ぅ………死ぬのが………っくっ………嫌だからよぉ………」
お願いだから、食べないで。
あたしの願いは、言う事も出来ずに大量の涙に掻き消された。
蜘蛛女は、その様子を困ったように眺めていたが、やがて――

ふみ

あたしの口に何か、柔らかいものが押し当てられた。涙でかすんでいたが、白磁色をして見えた、弾力性と柔軟性を兼ね備えていたそれは、多分――あたしが憧れているものの一つだろう。
ぽんぽん、と優しく頭を叩かれ、撫でられる感触がした。ふぁ………と安らかな森の香りが漂ってくる。
「怖がらないの。私は貴女を食べるつもりなんか無いんだから」
その声が聞こえた瞬間、あたしの口の中に何かが、ぴゅ、と発射された。
不思議な味のする液体だった。甘いのに、どこか苦くて――それでいてずっと飲んでいたくなるような゛
「んぶっ!んぶっ!」
液体が器官支に入り、あたしは咳き込んだ――けど、蜘蛛女の乳は私の顔から離れることなく、どんどん液体を私の中に流し込んでいく。
――蜘蛛女のさっきの発言、食べるつもりはない、その事について頭を働かせようとしたけど、どうにも思うようにいかなかった。
咳き込む苦しさ、不思議な味、そして何故か感じた――温もり。それらがあたしの心を一ヶ所に置かず、様々に散らして脳内ジグソーパズルの完成を妨げていた。
頭を気持よく撫でられるうち、あたしは、
「んふふ―――」
蜘蛛女は、そんなあたしの様子を見て笑っていた。それは決して、獲物を捕えた目ではない。もっと、何だろう、昔私が見ていたような――。

「――さぁ。ゆっくり休んで」

――あぁ、もう何も考えられない。どこか気持いい。まるで赤ん坊に戻ったみたいな――。


あたしの意識はここで途切れた。
64牧島みにむ:2007/06/19(火) 18:00:54 ID:gwysGhKs
「――ふふっ、可愛いわね。」
自分の胸の中で眠るゆいなに、蜘蛛女はさっきと同じ微笑みを向け、ゆいなの唇を再び奪った。と同時に、自らの秘部とゆいなのそれを合わせた。そして――何かを送り込んでいく。ゆっくりと。ゆいなが何も反応しないぐらいに。
十分ほど経った頃だろうか。蜘蛛女はゆいなから離れると、蜘蛛の臀部を彼女の体に標準を合わせ―――

しゅるるるるぅ〜〜〜〜〜っ!

大量の糸をゆいなへと放った!白銀色をしたそれは、ゆいなの体のあちこちに絡み付き、あるいは取り巻き、顔と秘部以外のほぼ全てを覆ってしまった。
「食べちゃうわけないじゃない。中々いないわよ、こんなに――」
蜘蛛女は脚を糸にひっかけ、丁寧に折り込み、ゆいなを糸で包み込んで行く――。顔が糸で覆われる直前のゆいなの表情は、どこか安らいでいた――。
脚を動かすのをやめたとき、そこには巨大な繭が、巣の真ん中に横たわっていた。その完成を満足げに眺めながら、蜘蛛女は言葉の続きを呟く。
「――こんなに、私達に近い娘は」


繭の中、あたしは夢見心地でいた………。
どこか体がふわふわして、まるで繭があたしのからだみたいに………。
とくん………とくん………
繭の中に、反響しているこの音は………あたし?それとも――

繭の中、あたしはあたしが少しずつ変わっていく事を感じた。
恐怖心は、繭を満たす微香に掻き消され、代わりにあたしの心を、何か別のものが満たしていった――。
何かが溶かされ、その中から何かが産まれ、作り出されていく――。
体が――溶かされてそこから新たに組み変えられていく――。
お尻が突き出ていき、そこから新しい脚が生えていく――。
あたしの下半身が、何か別の物へと変わっていく――。
腰がくびれ、胸が突き出ていく――。
手の爪が、指そのものが鋭く、固くなっていく――。
肌全体が、顔の形が、新しい物へと変化していく――。
そして――。


――モウ、イカナクチャ。


月夜。
望月の夜。
それはゆっくりと破られた。

滴り落ちる液体は、甘美な芳香を用いて生物を誘き寄せる。
我先にと群がる生物達は、数刻後、自らの体が全く動かせないことに気付くだろう。
そして――。

「ゴチソウサマ♪」

赫い瞳を持ち、人の美を越えた体を上半身に、巨大な蜘蛛の体を下半身に持つ生物は、産まれたての体を月に怪しく照らさせながら、飢えを満たすための食事を、腹を満たすまで全て味わっていた――。
65牧島みにむ:2007/06/19(火) 18:02:58 ID:gwysGhKs
………まだ続きます………が、暫くお待ちいただけたら嬉しいです。
66名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 00:19:53 ID:Lo5jU9Ex
>>65
GJ!続きを期待して待ってます!
67名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 00:36:17 ID:BzkC4RPM
>>65
wktk
68名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 02:59:56 ID:Tz+8+RVs
>>65

死ね
69名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 06:42:08 ID:v1MXU8Pd
みんな、鰈にスルーだ!
70牧島みにむ:2007/06/21(木) 13:45:39 ID:bDtz8bqm
では、続きを投下したいと思います。
暫くかかると思うので、ご了承のほどを。
71『moonlit lunartic』by牧島みにむ:2007/06/21(木) 13:47:31 ID:bDtz8bqm
――朝。
目を醒ましたあたしの目の前に広がっていたのは、いつもと何ら変わらない、電灯の紐がゆらゆら揺れている家の風景だった。
一つ伸びをしてから、あたしは今日の予定と、昨日の記憶を手繰り寄せる。
朝。
いつも通りに生活費稼ぎのコンビニバイトへ。
昼。
廃棄弁当で昼食。
夕方。
仕事終了。もう一つのバイトである夜間ファミレスへ。
そして夜。
仕事終了し、賄い飯を食べた後にそのまま帰宅――。
――頭の中に一瞬何かが引っ掛かったけど、思い出せない。
まぁ、大した事ではないだろうからと思い直して、あたしは着替え始めた。
違和感の事など、頭の中からすぐに抜け落ちてしまった。


『会社員男性、謎の失踪!?現場には、液体に濡れた服が散乱』
『類似事件多発!警察は同一犯と見て捜査を――』


気付いたら、バイトを二つともクビになっていた。
あたしは、事もあろうに一週間の無断欠勤を働いていたらしい。
――どういうこと?改めて携帯を見直すと、そこには自分の目でも信じられない内容が――。

曜日こそ一緒だが、日付が頭にある数字と7違っていた。
あたしはどうやら、一週間まるまる寝てしまっていたらしい。
そこまで疲れるような仕事じゃない――それ以前に、一週間も寝続けるなんて、おとぎ話じゃないんだから――。
………また頭の中を何かがかすめた。一体何なんだろう。あたし、何か重要なことを忘れているような――。

バイト先の店長に何度も謝り、働いた分の給料だけを手に、あたしはコンビニを出た。
不思議だと思う前に、あたしは苛立っていた。これから生活が苦しくなることは言わずとも分かる。
何で一週間も寝てしまったのか、それは自己責任なのは分かってる。
でも、苛立つ心は周りにも(タベチャイタイ)同じ感情を抱いてしまうから不思議だ。
見ているだけで、つい(タベチャイタイ)八つ当たりしたくなってくる。そして苛立つと体力も使うから(オナカガヘル)お腹が空いてくるわけで。
朝御飯をろくに食べていなかった私は、(タベタイ)近くの焼き肉店に向かった。
今は、ただ(ニクヲ)食べたかった。ヤケ食いしたかった。

「………お腹すいた……」
もらった給料を全て注ぎ込んで焼き肉を頼み、全て平らげた後でも、あたしのお腹は空腹を訴え続けた。
さっき食べた量だけでも、今までのあたしに比べて何倍もの量、いや、食べ盛りの青年でもここまでは食べはしないだろう量だった。
72『moonlit lunartic』by牧島みにむ:2007/06/21(木) 13:49:50 ID:bDtz8bqm
くきゅう………。
小動物が悲しげに鳴くように、あたしのお腹は食後十回目の悲鳴をあげた。(モットタベタイ)早くお腹を満たさないと(ハヤクタベタイ)もう、我慢できなくなりそう。

そう、町の人混みに出た時。

(オイシソウ………)

「おいしそう………?」
あたしの前には、色々なレストラン、ファーストフードの店が、ビルに混じって乱立している。
けど、あたしが見ていたのはそんなものじゃなくて――。

(コッチニキテ………)

その後ろ姿を見た瞬間、

(ネェ………)

あたしの意識は、

(オイシソウ、ハヤク!ハヤクキテ!)

完全に


(ハヤクッ!)


吹き飛ばされた。


男にとってその行動のきっかけは、何と無くだった。
ただ何と無く、向こうの裏路地が気になっただけだった。
この人混みの中、あの地帯だけが何故か人が誰もいない。
誰もその場所に気付いていない。
不思議で、どこか心惹かれた男は、何かの糸に引かれるように、その裏路地へとふらり、ふらりと引き寄せられていった………。

入れば入るほどに、男は奥に引き寄せられていった。単調な景色、自分の足音しか響かない空間を一定のリズムで、ただ前を見つめて歩く男。
一種の催眠状態に陥りながら、男はただ前に進んでいた。
男は気付かなかった。
自分が何のために前に進んでいるか、最早自分自身も気付いていないという奇妙な事態に。
男は気付かなかった。
いつの間にか両手両腕が銀色の糸で絡まれ、囚人のように歩かされていることに。
男は気付かなかった。
いつの間にか脚すらも絡まれ、宙に体が固定されていることに。

そして男は気付かなかった。
自分のこれからの運命が、自らの手で決定されてしまったことに――。

「ウフフフフ…………」
蜘蛛の巣に貼り付けられたまま、依然としてぼんやりとしている男に、ゆいなはゆっくりと、周り込むように近付いていった。
73『moonlit lunartic』by牧島みにむ:2007/06/21(木) 13:51:02 ID:bDtz8bqm
「ウフフッ………サテ♪」
ゆいなは変化した指と蜘蛛の脚で、糸ごと男の服を切り裂いていく。切り裂かれた場所には糸つぼから糸を発射し、巣に巻き付けていく。
二分も経たないうちに、男は急所となる下半身と、首から上以外は全て糸にくるまれてしまっていた。
「ン〜〜ソロソロネ♪」
男の全身を下敷にするような体勢をとり、目線を男に合わせると、ゆいなはパチン、と指を鳴らした。
乾いた音と同時、男の瞳に光が戻り――!

「なぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

男は、今自分がおかれている状況に愕然とした。
下半身蜘蛛の化け物が、自分を蜘蛛の巣にくくりつけ、迫ってきている。その目的を、男は本能的に悟った。悟ってしまっていた。

「い、嫌だ、ま、まだ、死にたくない、た、助けてくれ……」

必死にもがきながら、ゆいなに懇願する男に、ゆいなは笑顔を守ったまま、顔を男に近付けていき――。

ちゅ………――
こしょこしょこしょ……――

「んむむむむむむむむむぅっ!」
両手で男の顔を固定し、唇を強引に塞ぐと、蜘蛛の腹を体に擦りつけ始めた!
柔らかな刺激毛がびっしりと生え揃っている腹部は、少し動かすだけで生身の体にこそばゆい感触を送り込んでいく――!
その上、擽ったさに耐えきれず半開きになった口に、ゆいなの舌が容赦なく入り込み、男の口を蹂躪していく………。
互いの唾液を撹拌しながら、男の舌に、口内粘膜にねっとりと塗り付けていく………。
そして男の舌自体にも、絡み付き、吸い付き、締め付け……――!

くしゅくしゅくしゅ………
さわさわさわ………

ちゅば、ちゅゆ、ぴちゃ………
ちゅる、ぢゅう、ちゅる………

「んむんっ!んむむむむむぅっ!」

ゆいなによる責めが続くなか、男の分身は徐々にぴく、ぴく、と脈動し始め、その存在を示そうと膨張していた。

「………アン♪」
男から唇を離したゆいなが、艶っぽい声をあげた。どうやら、成長した男の逸物が、蜘蛛の下半身を突き上げたらしい。
ゆいなは体を擦りつけながら、男の逸物の方へ体を下げ始めた。
さわさわした刺激毛から、つるつるもちもちとした人間の肌へと感触が変化し、それが逸物を擦る度、男は快感のあまりびくびくと振動した。
やがて男のピストルがゆいなの顔に標準を定められるまでに下降すると――。

はむっ。

「あぁああぁあうあぁうっ!!!!!!」

ゆいなは陰嚢ごと男のペニスを加え込んだ!さらに――、
74『moonlit lunartic』by牧島みにむ:2007/06/21(木) 13:54:45 ID:bDtz8bqm
こぉり、こり、くちゅっ――
ぐに、ちゅば、ちゅる――

「ぉぉぉぉぉああああああぉあぅあぅあっ!」

陰嚢を舐め回し、精巣をこねくり回し、肉製発射台をもみくちゃにしていくゆいな。男の抵抗力は、その瞬間、根刮ぎ奪われた――。

びゅるるるるぅ〜っ!びゅくっ!

「ン――――♪プハッ♪」
ゆいなの口の中に、男の精が大量に発射された!その全てを飲み干そうとするも、飲みきれなかった分が口の端から溢れ落ちて、地面へと白い雨を降らしていく――。
「アハァァ………オイシ♪」
ゆいなは底知れぬ喜びを、お腹の底から感じていた。どんなに肉を食べても満たされなかった体が、だんだんと満たされていく、そんな感覚。それは同時に、新たな欲求を産み出していった。
「ンフフ………ッ♪」
ゆいなは、男の逸物を口から外すと、

がぷっ!

「!!キ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!!」

男の陰嚢に、鋭くなった犬歯を刺し込んだ!そのまま、男の体に何かを流し込んでいく!
激痛と下半身の違和感の中、次第に男の陰嚢は皺が伸ばされていき、いつしか、拳大に膨れ上がっていた。
それを確認すると、ゆいなは犬歯を抜き、糸で傷口を塞いだ。
にちゅうっ!

糸つぼの少し下の辺りにある生殖孔、それを露出させ、拡大した。痛みのあまりに、ゆいなの方に意識が行くことがない男は、次の瞬間、

ずにゅりゅゅうっ!

何もかもが奪われる恐怖を本能が察して、断末魔の叫び声をあげることになった。


「………ぁぁぁぁぁぁぁああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!」


生殖孔の中は、無数の肉襞がやわやわと蠢き、蜘蛛糸の原料ともなりうる蜘蛛女の体液でぬらぬらと濡れ、それがペニスや袋に塗られると、糸状化してねばねばと絡み付く!
さらに襞一枚一枚が独立な意思を持ったかのように動き、蛭のように吸い付き、舌のように舐め、ハケのように体液を塗り込んでいく……!
孔自体も、締め付け、揉み込むように動き、まるで男の逸物を一切千切り取ってしまうかのように圧し、吸い込んでいく――!

さらに、
にゅじゅじゅじゅじゅジュジュジジジジジッ!
「ア゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ッ!」
人間では再現不可能な速度で腰が動かされる!あまりに暴力的な勢いで、ペニスが多方向から一気に扱かれていく―――!
75『moonlit lunartic』by牧島みにむ:2007/06/21(木) 13:58:24 ID:bDtz8bqm
人間の生身で耐えられる快楽の限界を遥か越え、精神が完全に壊れるだけの快楽を一気に叩き付けられた男は、


びゅるるるびゅびゅびゅるるるぅびゅびっびゅぅ〜〜〜〜っ!


袋に溜っていたありったけの精と、その魂を全て、ゆいなの中へと叩き込んだ……………。


「ウフフフフ………♪」
驚愕の表情のまま事切れた男を眺めながら、ゆいなはその首筋に顔を近付けた。そして――

がぷっ!ぢゅうううう〜っ!

噛みつき、犬歯から溶解液を流し始めた。溶かした肉を、少しずつゆいなは飲み干していく……。
男の肉体が、びくん、びくんと震えながら、徐々に痩せ細っていく………。
骨すら溶かされながら、男の体は収縮を続けていき――。

「…………プハ♪」

全てを吸い終ったゆいなの手には、今や皮だけになった男が握られていた。
そしてゆいなは、その皮を口に入れ――全て飲み込んでしまった。


気付いたら、あたしの体が動かせず、それどころかあたしの体は、下半身が蜘蛛の化け物に変わっていた。
その化け物の瞳からあたしが目にしていた風景。それは、あたしが男の人の首筋に噛みついて――。
そのまま何かを注ぎながら、首から何かを吸い取っていって――。
口の中に、甘い肉の香りが広がっていって――。
――気が付いたら、ぺらぺらの皮になった男の人を、もしゃもしゃと飲み込んでいた――。

あ、あはは………。
あたし、人を、食べ、ちゃ、た、だ…………。


その瞬間、あたしの中にあの日の帰り道と、この一週間の記憶が、人の体の中に閉ざされてきた記憶が一気に蘇ってきた。
仕事の帰り道、道端で綺麗な女性――あの蜘蛛女が人間に化けた姿――が通りすぎていくのを見た直後、急に意識を失って――。
蜘蛛女によって作られた繭から産まれてきたあたシは、町の中に蜘蛛の糸を張り巡らせ、触れた人間を捕えては食べていた。犯シテ、噛ンデ、溶カシテ――。


「……………………あ」
あたしの心の中で、

「………………あはは」
何かが完全に、

「…………あはははは」
音を立てて壊れた。

76『moonlit lunartic』by牧島みにむ:2007/06/21(木) 14:00:41 ID:bDtz8bqm
そしてそれは、壊れた瞬間に別の形に急速に再構成されていく。
アたしの本能と言う地盤に、蜘蛛の糸で繋ぎ合わせて。

「あはははハはははははハハはははハはは………」


「………アハ、オイシ♪」


流れるような黒髪は、月光を反射して怪しく艶めく。
あたシの汗と、あタしが食べた人――エもノ――の血が、白磁色の胸元で混じりあい、アたシの肌に、焼きゴテのような模様を刻みつけ、それも月によってなまめかしく輝く。
途端、額が割ける感覚がしたと同時に、あタシの視界が広がった。目が、新たに増えたのだ。
――視界に慣れると、アタしは蜘蛛の脚を使って、目の前を四角く切り裂いた。
かぽ、と音がして、何かが外れるのと一緒に、切り取られた場所の向こうに、緑に囲まれた空間が広がっているのが見えた。
アタシは、糸で開いた穴を仮止めすると、そのままその中に体を滑らせ――外に一本糸を垂らして、仮止めを外した………。


もう、ここにあたしはいない。
いるのは、アタシ――。


アタシが産まれた森に着くと、アタシは手頃な空間を見付け、巣作りを始めた。木に登っては糸を繰りつけ、他の木に糸を飛ばす。
それを繰り返して外枠をつくり、対角線上に糸を飛ばす。次に、内側に少しずつ糸を張り巡らせていくと、十分もしないうちに巣は完成した。
もご、もご。
アタシのお腹が、少し動いた。それも、内側から圧迫されるように。
アタシは巣の真ん中へ急いだ。その間もお腹はもご、もごと形を様々に変えている。少し痛み始めた。
我慢も、このまま行くと危ない。
そして、巣の真ん中についた瞬間、

「アハァァァァァァァァァ……♪」

こと、ぽこ、ぽここ……

蜘蛛の腹から、一個ずつ出てくる、アタシの卵。それは糸の粘液にくるまりながら、アタシの巣に一個一個、その体を固定させていく。
「アッ♪アアッ♪ア♪アアッ♪」
一個卵を産む度に、アタシの中に母親になった喜びが渦巻いていく。
そして、全て産み終り、巣の上がいくつもの卵で埋め尽されたとき、アタシは至福の表情を浮かべていた。
「ウフフ…………♪」
77『moonlit lunartic』by牧島みにむ:2007/06/21(木) 14:02:09 ID:bDtz8bqm
いずれこの子達は、産まれた後で互いに襲いあうでしょう。
そして、一番最後まで残った子は、アタシと同じように巣を作り、男を襲い、そして―――。

「―――ア♪」
アタシの糸が反応した。どうやら誰かにくっついたらしい。
アタシは、新たな食事の味を想像して一人笑みながら、その糸を辿っていった……。


空には満月。
その曇りない静かなる姿は、逆に人を闇のものと関わらせる。
そして――時としてそれは、人ならざる者へと変えてしまう事もあるのだ。



END
78牧島みにむ:2007/06/21(木) 14:14:42 ID:bDtz8bqm
これにて終了です。
最初は月と関わらせようと思ったのですが、見事失敗………orz

また何か浮かんだら、こちらに送らせてもらいますね。
では〜。
79名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 01:02:11 ID:SacNtcHT
保守age
80名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 20:02:47 ID:eMU9wi/F
>>78
81名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 21:27:23 ID:PtPEn6U9
そういやここってまとめサイト無いのかな?
82名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 23:24:58 ID:f8aU4tWV
今のところだれも作ってないな。
83名無しさん@ピンキー:2007/07/02(月) 19:12:26 ID:Um6xZ4Dh
wktk保守
84名無しさん@ピンキー:2007/07/02(月) 23:07:40 ID:2Uuchw4i
保守
85名無しさん@ピンキー:2007/07/05(木) 13:41:32 ID:RGsnJJSQ
じゃ俺も保守っとくか
86名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 20:51:30 ID:jvWuaqYn
保守
87名無しさん@ピンキー:2007/07/08(日) 00:15:13 ID:lAqz0Ywp
ほしゅ
88名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 00:53:05 ID:fIGY336d
作品投下マダー?
89名無しさん@ピンキー:2007/07/15(日) 04:49:18 ID:FSK7Ljxo
ほしゅ
90名無しさん@ピンキー:2007/07/15(日) 09:21:58 ID:wqWRF8bF
窓からの光が、室内の塵に反射して瞬く。無機質で、どこか寒々しい病室。
そこに、ルパンがいた。
薄水色の病院服の上に赤いジャケットを羽織り、ベッドの上に腰掛けていた。
大きく息を吐くと、銭型は病室へと足を踏み入れた。ルパンを、逮捕するために。
捕まえる? この今にも死にそうな病人を?
長年夢見てきた事だというのに、銭型にとってそれは既に無価値だった。
「よく来たなぁ、とっつぁん」
人を食ったような態度でルパンが声をかける。
掠れきった声、扱けた頬、体中に繋がれたチューブは心電図へと繋がっている。
かつての面影は、ほとんど残っていない。
そこにいるのは、死を目前に控えた一人の病人だった。
「ルパン、何で貴様がこんな……」
「天下の大泥棒にも、勝てない物があったってことさ」
「一生をかけて追い続けて来て、こんな幕切れとはな」
「そんなら見逃してくれよ、とっつぁん」
「そればかりは出来ん相談だな。ルパン、貴様を……貴様を逮捕する」
「ごめんだね。俺ぁ逃げるぜ」
「今の貴様に何が出来る」
銭型の言葉に、ルパンはにやりと笑った。
「どうかな?」
ジャケットから取り出したのは、ワルサーP38。それを自らのコメカミに押し付けて言った。
「あばよ、とっつぁん」
銃声がコンクリートの壁に反響する。急激に乱れた心電図は、数刻の間にフラットとなった。
してやったり。
銭型の脳裏に焼きついたルパンの最期は、そんな、いつも通りの彼の姿だった。
「ルパンめ……まんまと逃げおった……」
銭型は、失われた何かが再び燃焼し始めるのを感じていた。
コートからガバメントを抜き、セーフティを解除する。

「逃がすものか。どこへ行こうが必ず捕まえてやるぞ、ルパン」
91名無しさん@ピンキー:2007/07/15(日) 21:24:23 ID:ihJizw3b
ごば…く…?
92名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 14:22:36 ID:CTIO2MXu
93名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 06:04:20 ID:y6FgRzqD
>>92
それじゃないです
94名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 13:54:00 ID:nhVLyy98
牧島みにむ氏GJ!
95名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 20:01:23 ID:ewOQqUut
hos
96名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 08:47:59 ID:m3savDRs
ほっしゅ
97名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 23:30:10 ID:XlR5dgS9
前スレ、過去ログ保存している人いらっしゃいますか?
98名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 21:10:55 ID:M3bcDD+2
いらっしゃいますよ。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org0584.dat.html
パスはこのスレのタイトル。
9997:2007/07/26(木) 00:28:34 ID:eUyQORcl
>>98
ありがとうございます!
100名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 01:38:31 ID:08M/lKVT
圧縮前ほーしゅ。
101名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 23:01:45 ID:H1o/blrY
ニャ━━━━ヽ(゚∀゚)ノ━━━━ン!!
102名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 20:11:27 ID:o1x5sAb/
>>101
つまり………猫変身ストーリーか?
103名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 17:27:28 ID:6lPQNBRv
ほーしゅ。
104名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 14:10:17 ID:aZnTbCYy
ここの住人は………どの辺りが好みなのかな?

1.容姿性格完全変化
2.容姿完全性格不完全変化
3.容姿不完全性格完全変化
4.容姿性格不完全変化
105名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 14:20:23 ID:F/KdNEgV
>>104
1
106名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 16:42:47 ID:3SHZjnoZ
全部おk
性格的か肉体的変化なしもバッチ来いだし
動物程度の思考になったり人の形をまったくしてなくてもおk。
107名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 18:23:23 ID:VeBikENs
108名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 18:53:59 ID:aZnTbCYy
>>107
寄生スレの、乙×風氏の作品ですね。
109名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 20:34:26 ID:/VBLxvhO
ところでここのみんなは普段どういうゲームやってるの?
おいらはFFTでモルボル菌ぶっかけてるけど
こういうことのできるゲームって少なそうで…
110名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 03:52:50 ID:JmdL0W4s
漏れはツクール系だな。TFを作ろうと思えばメッセージだけでいいのなら作れるし。
でもついつい細かく作ってしまうんだよな(汗
111名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 06:02:00 ID:39x2VJzM
SFC系のゲーム引っ張り出してる。
FF4でシルフの洞窟のトーディウィッチとの戦闘で放置したり。
ゲコゲコ おなき!
112名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 23:13:36 ID:QefX/37P
SFCといえばグランヒストリアかなぁ。小ネタだけど。
小説版が出る予定だったのにいつの間にか無かったことにされたんだよね…。
113名無しさん@ピンキー:2007/08/09(木) 01:13:15 ID:8B/y3ao4
鬼の話
http://academy6.2ch.net/test/read.cgi/min/1001911816/

獣人スレに誤爆されて貼られていたが、鬼に変化するのはこちらのスレが専門だと思われるので。
114名無しさん@ピンキー:2007/08/09(木) 16:59:38 ID:LOUig3nV
『仮面ライダーSPIRITS』をアニメ化するならこういうテイストでお願いしたい 。
但し参考作品は衛星放送有料枠低予算アニメなのでこの3倍は動かして欲しい!!

http://www.youtube.com/watch?v=Aj_OPaY4WNI&mode=related&search=

115名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 14:15:41 ID:6y/1GUoO
>>107
これは素晴らしいですね!完璧!まさに見本のような作品です。
116名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 18:19:46 ID:TN3gGz3O
いきなりだが、メスのクモを萌え化したキャラを探しているのだが、知らないか?
117名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 18:21:53 ID:TN3gGz3O
って>>61からあったのか。
118名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 18:23:53 ID:TN3gGz3O
あーそうか。スパイダーウーマンっぽいのがあればいいのか。
119名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 18:37:15 ID:TN3gGz3O
足は普通の人間で、髪がクモの足みたいに散らばってる感じで、黒髪。
クモの女王ならばゴスロリドレス着てても良い。
120名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 18:45:57 ID:TN3gGz3O
詳しくすると、左右の手に鎌を持っており、クモの8つ目をしたバイザーを頭に
装着して、髪に後ろに4本のポニーテールあたりだろう。
121名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 19:15:41 ID:TN3gGz3O
>>119-120のキャラが主人公で
魔法少女リリカルあやかインセクターズ
なるエロゲの構想を思い浮かんでしまった……。妄想爆走命がけ
122名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 16:34:41 ID:mC3rt/qj
とりあえず1レスに纏めろ
123名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 23:02:50 ID:YEh/L359
フェチ板の女性を化け物に変えちゃうスレで
特殊メイクで女子アナが化け物にされちゃう小説を書いたので
よかったらみてね
124名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 08:18:18 ID:znOxq31g
ほしゅ
125名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 05:28:19 ID:G71I81NR
逃走晒しage
126名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 20:07:19 ID:PNVafu7D
◆eJPIfaQmes氏の文章が纏めて見れる場所はないかな?
取っておいた奴がパソコンとともに吹っ飛んだ。
127名無しさん@ピンキー:2007/08/25(土) 02:43:42 ID:uEiylncy
>>126
何という俺…orz
128 ◆eJPIfaQmes :2007/08/25(土) 04:33:11 ID:gPQXBoL+
長らくご無沙汰しております。なかなか続きを書けなくてすみません。

>126
>127
今のところホームページ等は作っておりません。
とりあえず、「[email protected].」にメール欄後半をつなげてメールを送っていただければ
(面倒ですみません。普通にメール欄に書いたら、アドレスが長すぎると言われ……)
テキスト形式ですが送信いたします。
129126:2007/08/27(月) 22:21:12 ID:ZMFkPsxv
>>128
無事届きました。
どうもありがとうございました。
今後も頑張って下さい。
130名無しさん@ピンキー:2007/08/29(水) 23:25:12 ID:CYKHowFV
ふとキャリオンクロウラー娘というものを考えた。
しかし唯の捕食ってのは捕食スレよりこっちむきだよなーと考える今日この頃。
このスレでもスレ違いかな?
131名無しさん@ピンキー:2007/08/31(金) 22:09:43 ID:c2Qgx81A
そこまで捕食描写に力を入れてなければ、こちらでも構わないかと。
――一先ず投稿されてはいかがでしょう?
132名無しさん@ピンキー:2007/08/31(金) 23:55:25 ID:qpicZ7hZ
女がただ捕食するのはスレ違い
女が捕食するようになるってのがこのスレの主旨
133名無しさん@ピンキー:2007/09/01(土) 15:04:30 ID:WSi1lqBW
せっかく捕食スレがあるんだから
そっち使えばいいじゃない
134130:2007/09/01(土) 19:04:54 ID:KtMEXMPS
いや、向こうは女性が捕食されるのを楽しむ方、って思っているわけですけども。
キャリオンクロウラーに改造されて、捕食するしかない女性、
というのはこっち向きかな、と思ったんですが。
135名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 01:18:08 ID:3YLw6yRz
人外に至るまでの肉体的・心理的描写があるなら十分と思われ。
136名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 19:58:49 ID:nqxiFXIz
>>134
その改造シーンを詳しく書いてくれれば俺的にはおk
137名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 20:16:44 ID:NNarvATP
そうそう、身体的にも精神的にも変化していく過程が大事
138名無しさん@ピンキー:2007/09/03(月) 00:13:29 ID:q04JymJ1
精神面でも完全に変化し切れないというのもありだろう
139名無しさん@ピンキー:2007/09/03(月) 07:02:19 ID:DH1t3F6K
>>138
貴殿とは良い酒が飲めそうだ。
140名無しさん@ピンキー:2007/09/03(月) 07:17:07 ID:WIsyPN1n
>>138
いいね
141名無しさん@ピンキー:2007/09/03(月) 15:01:21 ID:GDRu7mhV
ぬ〜べ〜の女郎蜘蛛の回で色々目覚めた。
142名無しさん@ピンキー:2007/09/04(火) 00:57:54 ID:+hg5bdK6
アウターゾーンの半魚人になる娘もいいぞ
143名無しさん@ピンキー:2007/09/08(土) 01:04:13 ID:kA7GBLXP
>>142のは魚食べまくって両親に「見ないで!」とか言ったり
描写もよかった気がする。
1話の悪魔化するママとか、交通事故から甦ったゾンビママとかもいたなあ
144名無しさん@ピンキー:2007/09/13(木) 07:52:33 ID:M2yckRkU
ほしゅ。
145名無しさん@ピンキー:2007/09/14(金) 00:06:14 ID:SRHrQWNL
ほしゅ
146名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 00:18:49 ID:QvgUIUSb
hos
147名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 03:28:04 ID:ED22kAox BE:537858645-2BP(0)
ヘタレ作者逃亡晒しage
148名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 02:19:19 ID:q3+0zG4E BE:430286944-2BP(0)
>>147 ageんなカス死ね
149名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 02:31:18 ID:0VC3et8P
うわぁ……
150牧島みにむ:2007/09/22(土) 21:17:20 ID:NDJuHoZc
現在SS創作中ですが………。
中々筆が進まず済みません。
151名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 15:16:16 ID:4OCJgJE+
一々反応するな
152名無しさん@ピンキー:2007/09/27(木) 07:55:58 ID:V3VruCS+
あげ
153名無しさん@ピンキー:2007/09/28(金) 21:41:32 ID:w8zzmnKL
ほしゅ
154名無しさん@ピンキー:2007/10/03(水) 15:25:41 ID:sOFBU9Te
保守
155名無しさん@ピンキー:2007/10/06(土) 10:01:29 ID:PcUEDA0F
ほしゅー
156名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 01:05:06 ID:x6tO9fTi
ほしゆ
157http://FL1-125-199-112-29.ehm.mesh.ad.jp.2ch.net/:2007/10/09(火) 01:22:24 ID:0/QaxHEs
guest guest 
158名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 20:07:34 ID:vod/1m1U
裏2ch乙ww
159名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 21:02:19 ID:vn87Y+jG
今どきwww
160名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 00:03:45 ID:unVaqln+
フイタw
161名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 19:27:28 ID:+CJt7BIq
hosyu
162名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 23:13:10 ID:g18x6Nl2
っていうかなんで唐突にw
163名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 02:06:40 ID:l+2IXXPx BE:242036633-2BP(32)
(^o^)ノ<死ねクズども〜
164『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:18:52 ID:NdHMJINC
ジェラールが、何かを呟きながら、手にした斧を振るった。
もちろん、迫り来る電光をただの斧で弾き返せるわけはない。
けど彼が眼前に描く斧の軌跡は……
「ヘキサゴン!?」
製図したように完璧な、魔術的な守護の象徴たる六芒星が描き出されていた。
そこに炸裂する電光。空間が透明なカーテンのように大きくたわみ、破れ、その奔流は
ジェラールを包んだ。
でもその威力は大きく減じられていて、彼を死に至らしめるほどではない。射線上に
位置していたわたしのもとにまでは届きもしなかった。
「あいたたた……」
痺れと痛みが全身を包んでいるのだろう、ジェラールが呻く。しかし彼は着実な足取りで
女魔術師へと歩んでいく。
「あなた……防御魔法が使えたの?!」
奥の手を凌ぎきられたイヴォンヌが、悲鳴のように叫んだ。
「『使う』ってほど上等なもんじゃないさ。半年近く前に会った旅の賢者に教わった
その通りのことを、理屈も何もわかってないままただ真似してるだけだからな」
律儀に応じると、言い足した。
「もっとも、まだ真似すらもできてないみたいだ。完璧にやれれば俺の乏しい魔力でも、
ケルベロスの炎ぐらい防げるはずなんだが……」
ケルベロス。半年近く前。わたしと同じことに気づいたのか、イヴォンヌが笑った。
「ははっ、フローランスの仇討ちを考えて、慣れない魔法の修行までこっそりやってた
ってことか。でもよかったじゃないの、フローランスが生きていて。あいにく醜い蠅に
なっちゃったけどね!」
「元に戻すだけさ」
捨て台詞を聞き流すと、戦士は魔術師を一撃で昏倒させた。
165『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:19:49 ID:NdHMJINC
強張っていた身体から力が抜けるのを感じた。
利き腕を失ったユベールに、最強の呪文を防がれたイヴォンヌ。二人とも気を失っていて
こちらに襲い掛かっては来ない。
と、ジェラールが片膝を突いた。
「ジェラール?!」
「さ、さすがに『雷の奔流』は効いたな……。フローランス、呪文頼むわ」
さっきまでは気力で持ちこたえていたのだろう、その場に座り込んだ彼は、もはや一歩も
動けそうにない。
「え、ええ」
六本の肢を動かして、わたしはジェラールへと近づいていった。
地面を這うその速度が遅い。わたし自身羽を焼かれていたり、細かい傷を負っている
せいだろう。でも自分より、死闘を乗りきったジェラールを治す方が優先に決まってる。
近づくごとに彼の背中が大きくなっていく。力強い、愛しい背中。
と、ジェラールがこちらへ振り向きそうになった。
「見ないで」
今のわたしはあまりにも醜い、人間ですらない存在。
「今さら何言ってんだよ」
口ではそう言いながらも、わたしの言葉に従って、まだこちらを見ないでいてくれる。
「でも……」
「惚れた女に笑いかけるくらい、したっていいだろ?」
その飾り気のない力強い声は、わたしの中に残っていた最後の不安を拭い去ってくれた。
ジェラールがそばにいてくれるなら、きっと大丈夫。わたしは人間に戻れるし、どんな
敵が来ても……たとえそれがあのベルゼブブでも……怖くない。
「そ、そうね」
わたしの曖昧な答えから、それでも承諾の気持ちを汲んでくれたジェラールは、ゆっくり
首を回してわたしを見下ろそうとして……
突然弾かれたように立ち上がって飛び出すと、わたしの上に覆いかぶさった。
166『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:20:24 ID:NdHMJINC
鈍い打撃音。
わたしの目の前で、ジェラールの膝が力を失い崩れ落ちる。それでもわたしの上に
倒れ込んだわけではない。膝と肘で彼は身体を辛うじて支えているようだ。
何が起きたかまだよくわからないが、回復呪文を唱えれば済むこと。
「すべての傷を癒せ!!」
わたしが使える最高の呪文をすぐさま唱えた。ほとんどあらゆる状態から回復できる、
とっておきの呪文だ。
なのに。
「傷を癒せ! 目覚めよ! 意識を取り戻せ!」
頭上からは、コゼットの悲鳴のような呪文詠唱。負傷回復、覚醒、混乱からの復帰の
三種の呪文を立て続けに唱え、どうやら対象はジェラールらしい。
それなのに。
ジェラールは、身じろぎ一つしようとしない。
夏の盛りだというのに、全身を寒気が走った。頭部から肢の先まで、身体中の毛が逆立つ
ような不安に囚われた。
肢を動かし、ジェラールの下から這い出す。
「傷を癒せ! 目覚めよ!」
わたしたちが、正確にはジェラールが、ユベールやイヴォンヌと戦い始める前、
コゼットはすべてを拒絶するようにしゃがみ込んで呆然としていた。そんな彼女が先刻、
わたしとほぼ同時に回復呪文を唱えられたのはどうしてだろう。
ジェラールのさっきの動きは、たぶんわたしを庇おうとしたものだ。なら、彼は何から
わたしを庇ったのだろう。
その何かに対して、コゼットはなぜ悲鳴も警告も発しなかったのだろう。たとえ最初に
襲われようとしていたわたしを救う気がなかったのだとしても、もしジェラールがその
何かに気づけば必ずわたしを守ろうとすることは、さっきの戦いからはっきりしていた
はずなのに。
もし人間だったら、全身から汗が噴き出していたはずだけど、蠅になっているわたしは
汗をかかない。
わたしは頭を巡らせてジェラールを見た。
167『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:21:04 ID:NdHMJINC
クリティカルヒットと俗に呼ばれる攻撃がある。技の名前などではない。単なる結果を
示す言葉。
狙ってできるものではない、偶然とか、攻撃側の幸運とか、防御側の不運とか、そんな
表現でしか説明しようのない結果に対する呼称。
……例えば、駆け出しで筋力に乏しい僧侶の少女が、練達の戦士の脳天を一撃で
打ち砕いてしまった場合など、そうとでも呼ぶ他はないだろう。
コゼットの脇に放り出されているモーニングスター。そこにこびりついている脳漿。
わたしをかばうように四肢を伸ばしたまま、事切れているジェラール。
唱え続ける呪文の効果がないことを悟ったか、コゼットが呆然とした表情で膝をついた。
ぼんやりと周囲をさまよう視線が、わたしに止まる。
と、その顔が怒りに染まった。
「この、化け物ッッッ!!」
半年前までわたしに懐いていた幼い少女は、わたしにすべての憤怒と憎悪を叩きつける
ように叫んだ。その表情は、半年前まで、いや、つい先刻までと比べて、ひどく艶かしく
女らしいものにも見えた。
その表情で、彼女の心理を少し理解できた気がした。
「あんたが急に現れたりしなければ、みんな今まで通りにやっていけたのに! あんたが
今さら出てこなければジェラールさんがイヴォンヌさんやユベールさんと殺し合うことも
なかったのに! あんたがせめて虫なんかになってなければ諦められたのに! あんたが
化け物じゃなければ祝福することだってできたかもしれないのに! 醜い蠅のあんたが
いなければ」
「あなたが、恋してるジェラールを誤って殺してしまうこともなかった」
先回りすると、完全に図星だったのか、コゼットの言葉が止まった。
沸騰する彼女の頭に水を差せたかと、一瞬だけ期待した。
彼女がわたしをどう思ってるかはとりあえずどうでもいい。彼女がわたしを殺そうとした
ことも、ひとまずどうでもいい。
ジェラールを蘇生させるためには、他の二人の手が借りられない以上、コゼットの協力を
取りつけなければならないのだ。教会へ運び、防腐処置を施し……蘇生費用の工面は後で
考える。
168『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:21:41 ID:NdHMJINC
しかし、コゼットはわたしの望みを裏切った。
「わかってるのなら、死んでよっ!!!!!」
素早くモーニングスターを掴むと、わたしの身体に打ち付ける。蠅の身体のわたしは
大きく吹き飛ばされ、立ち木に激突した。
やはりレベルが低いから、わたしを死に至らしめるほど強い打撃ではない。けれど心と
体力が参っているこの状況では、何発も喰らっていいものでもない。
だからわたしは、無駄かもと思いつつ声を上げた。
「ジェラールを蘇生させなくちゃいけないわ。一人で死体を抱えて山を降りる気なの?」
わたしは彼を運ぶ役には立てないが、コゼットの疲労回復はできる。もしモンスターや
意識を取り戻した二人に襲われた場合、呪文での攻撃は彼女より優れているし、盾役にも
なれるだろう。
しかし、やっぱり無駄だった。
「ジェラールさんを生き返らせるなんて無理に決まってるじゃない! わたしにはそんな
お金ないもの!」
ある意味、現実的な答え、とは言えるだろう。
だがその瞬間、わたしは深く激しい怒りの感情に包まれた。ユベールやイヴォンヌに
嘲られ殺されそうになった時よりも、はるかに深く。
あなたのジェラールに対する気持ちは、金銭的な問題で覆るようなものだったのか、と。
169『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:22:14 ID:NdHMJINC
こうしてわたしを殺そうとしているというのも、ただの腹いせではないだろう。後で
イヴォンヌとユベールを治して三人で街へ帰る算段と考えられる。
結局のところ、彼女の熱はジェラールを死なせてしまったその時点から、急降下する
ように冷めてしまったのかもしれない。憎いわたしを自力で殺そうとするくらいには
まだ熱く、しかし恋する相手を甦らせる気力は萎えるほどに。
でも、わたしはそんな相手にみすみす殺されたくはない。こんなみっともない娘に
殺されるなんて冗談じゃない。
何よりわたしは、ジェラールを生き返らせたい。わたしを守り抜いて命を落とした、
愛しい人を。
「傷を癒せ!」
呪文でどうにか体力と羽を回復させる。このまま飛んで街の近くへ行き、姿を見せずに
物陰から助けを呼ぶ。成功率がどれほどのものかは定かでないが、今のわたしにできる
最善の手段のはず。
けれど。
「逃げるなよ」
いつもの落ち着いた口調とは違う、恨みのこもったユベールの声。
真後ろから不意を突かれたわたしは、羽と胴体ごと地面に縫い止められた。
170『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:22:55 ID:NdHMJINC
「こっちについてくれたのね、コゼット。賢明な判断よ」
気絶から覚めたイヴォンヌが、回復呪文を唱えてくれているコゼットに言った。
「…………」
返事をしないコゼットだが、その行動がすべてを雄弁に語っている。
わたしは依然、胴体にサーベルを突き立てられたままである。
「三本目、っと」
切断された右腕をいち早くコゼットの呪文で回復してもらったユベールが、まだ
神経質そうに一度断ち切られた部分をさすりながら、わたしの左前肢に手をかける。
そして今度は、最初に二枚の羽をもいだ時のように、勢いよく引きちぎった。
痛いことは痛い。しかしそれは、人間の時なら髪の毛を十本ほど引き抜かれる程度の
痛み。子供の頃に近所の男の子たちが捕まえて振り回していた昆虫も、簡単に肢が
もげてるのに痛がったりはしなかったように覚えている。
痛覚が鈍いのは、蠅の身体で唯一ありがたいことだ。わたしは空虚になりがちな心の
片隅で、そんなことをぼんやり考えた。
ケルベロスに大怪我を負わされ死に掛けていた時のことを思い出す。ジェラールたちが
逃げ、ベルゼブブが現れるまでの、絶望と両脚の激痛以外に何も感じられなかった時間。
あの時に比べれば、まだしもと言うべきだろう。
わたしが悲鳴を上げるのを期待しながら肢を一本一本もぎ取っているユベールは、
わたしが大きな反応を示さない様子を見て、つまらなそうに言った。
「本当に虫になっちまったんだな。やっぱりおまえは化け物だよ」
そうかもしれない。今のわたしは人間だった時とは大きくかけ離れた存在だ。
でも、わたしには、彼ら三人の方がよほど化け物に思えてならなかった。
金を失いたくないから。金を得たいから。恋する相手を奪われたくないから。そうした
理由でかつての仲間や先輩に当たる人間を簡単に殺そうとする人間たち。わたしがかつて
見たことのなかった醜さをさらけ出した人間たち。
それともこれが普通なのだろうか。人間の姿を失ったものは、人間として扱うに値しない
ものなのだろうか。
いや、ジェラールはわたしをわたしとして扱ってくれた。わたしをフローランス・ベルと
して見てくれて、守ってくれて、戦ってくれた。
でも、そのジェラールはもういない。
171『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:23:36 ID:NdHMJINC
「こっちの方がまだ効果的かね」
ユベールはそう言うと、ジェラールの死体をわたしの真正面に引きずってきた。
「ああ、痛かったなあ、さっきの一撃はよ」
わたしに聞かせるように大声でぼやくと、ジェラールが愛用していた斧を振り上げた。
「やめて!」
わたしの声を無視して振り下ろされる斧。断ち切られる左腕。
「おっと、間違えちまった」
「いや! そんなことしないで! ジェラールにそれ以上ひどいことしないで!!!!」
今度は右腕。さらにその次は、死体を嬲るように、小刻みに切り刻まれていく右足。
自分が殺されることは、まだ耐えられる気がしていた。ジェラールがいなくなった以上、
こんなところに未練なんてない。
でも彼の死体を辱められるのは我慢ならなかった。
果てしない喪失感と、肉体的精神的苦痛。しかもそれを加えてくるのは、かつて大切な
人たちと信じていた人間たち。
ケルベロスに殺されかけた時よりも、よほど惨い。
叫びながら、止めてくれることを期待してコゼットに目をやる。なのに彼女は、目を瞑り
耳を塞いでいた。まるでそうすれば、周りのすべての出来事から無縁でいられるとでも
言うように。
「こんなの嫌、殺して、わたしを殺して……」
叫ぶのに疲れ果て、呻くように繰り返すことしかできなくなる。
と、刺さっていたサーベルが引き抜かれた。
「前にあんなこと言ってたあなたがそこまで言うとはね」
頭上から聞こえるイヴォンヌの声。オークかコボルドに新種の呪文の威力を試してみる
時の声に、よく似ている。
「なら私もそろそろ飽きてきたし、お望み通り殺してやってもいいわよ。ジェラールと
一緒にね」
そう言うと、ゆっくりと呪文を詠唱し始める。彼女の掌の上、炎球が次第に大きく
膨らんでいく。
「今からジェラールごと火葬にしてあげるわ。ほら、まだ歩くくらいできるでしょ。
愛しの彼の元に駆け寄っていきなさいよ」
挑発するように言われ、わたしは身を竦ませた。
172『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:25:35 ID:NdHMJINC
心は前へ進めと命じている。ジェラールとともに死ねるなら本望だと思っている。
頭もそれを否定しない。逃げようにも、回復呪文を唱えなければ飛ぶことはできない。
そんな猶予を彼らは決して与えない。それなら愛した人の傍で死ぬのがせめてもの
慰めになるのではないかと考える。額の紋章の件があるからわたしを焼き尽くしてしまう
わけがないとも考えられるが、それならなおさらジェラールの盾になるべきだろうとも。
なのに。
身体は硬く強張り、動こうとしない。
死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
ぴくりとも前へ進み出せないわたしを見下ろして、イヴォンヌが嘲るように言った。
「前に散々きこしめした時、言ってたわよね。『死にたくない』って。冒険者のくせに
臆病なこと」
ユベールとコゼットにも聞かせるつもりなのだろう。あるいはそれは、わたしの醜さを
顕わにすることで、自分たちの罪悪感を減らそうという計算もあったのかもしれない。
「まあ、しかたないわよ。死を恐れるのは生物の本能、まして悪魔の下等なしもべに
成り下がった今のあなたじゃ、人間だった時以上に本能の虜になっていることでしょう
しね」
心に突き刺さる嘲弄の矢。けれどそれは、たぶん事実。
わたしは醜い。わたしは浅ましい。わたしはいぎたない。わたしは穢れている。
こんな醜いわたしは……しょせん、ジェラールのそばにいる資格がない。
そんなくだらない合理化で今の自分を正当化し、わたしは全身の力を抜いた。
死にもの狂いでやれば、ここからでも誰か一人くらいは道連れにできるかもしれない。
でも無意味だ。死ぬのはやっぱり嫌だからとことん逃げる。ただそれだけを考えることに
しよう。
心の中で荒れ狂っていた感情が静まり、凪のような平静な気分が訪れた。
あるいはこれは、東方の宗教で言う「悟り」のようなものなのだろうか。
「さてと、ユベール、いいかげんに終わらせましょ」
「了解」
イヴォンヌが離れ、今度はユベールがこちらへ迫る。やはりまだわたしの首には利用
価値があると考えているのだろう。
まずは彼の初太刀をかわす。うまくいったら呪文で回復。その後はイヴォンヌの出方
次第で対応を即座に変えて……。
そんな風に思考を巡らせていると。
「今の君の心理状態は、私にとっては面白くないね。『収穫』はここまでとしようか」
聞き覚えのある声がどこからともなく響き、次の瞬間にはわたしを庇うように人影が
立っていた。
173『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:26:26 ID:NdHMJINC
古めかしくも上品で豪奢な装束。一分の隙もない身のこなし。今わたしには見えないが、
その顔立ちはやはり気品あるものなのだろう。
わたしの姿を変えた元凶。わたしの命を救った悪魔。
地上に出たわたしに賭けを持ちかけた、ベルゼブブ。
「賭けは君の負けだ」
わたしへの宣告。しかしそれは、受け止める他ない事実。
「な、何者だ、貴様!?」
ユベールが声を張り上げながら、ベルゼブブに斬りかかった。今回の一件は、彼から
すっかり冷静沈着な印象を拭い去ってしまった。普段のあれはよくできた演技に
過ぎなかったのだろうか。
くだらないことを考えてしまうのは、この後の成り行きが予想できてしまうから。
ベルゼブブが、近づきつつあるユベールに対し、蠅を払うように手を横に一振りした。
それだけで、腕の立つ洒落者の剣士は人形のように吹っ飛ぶと、立ち木に全身を
めり込ませた。お気に入りのサーベルは、酸を浴びたようにボロボロになっていた。
「ユ、ユベール!」
イヴォンヌが声をかけるが、ユベールは木に貼りついたまま。あの勢いでは全身の骨が
砕けていそうだ。ベルゼブブが戦う姿は初めて見たが、肉弾戦もこなせるらしい。
「…………」
「くっ!!」
ベルゼブブは無言でイヴォンヌとコゼットを見つめている。モーニングスターを構えは
したが、コゼットはもう問題外。一方のイヴォンヌは、沈黙に耐えきれず呪文を
唱え出した。『雷の奔流』だ。
「無駄なのに」
思わず、ぽつりと漏らす。
わたしたちは、すでに詰んでいる。もはやこの場にいる誰も、この悪魔の意向からは
逃れられない。
「喰らいなさい!!!」
イヴォンヌが呪文の詠唱を完了させ、じっと待ち構えていたベルゼブブに放つ。
再び手先での軽い、今度は縦の一振り。
強烈な雷光の束は、蝋燭の火よりも簡単に消し去られ、イヴォンヌの全身は巨大な手で
押さえつけられたように大地に潰れた。
その様を見たコゼットは、腰を抜かしてへたり込んでいる。
さっきまでわたしの命を脅かしていた人間たちは、あっという間に無力化された。
174『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:27:24 ID:NdHMJINC
イヴォンヌとユベール、コゼットの三人は魔力で拘束されていた。気を失った二人も
意識を取り戻しはしたが、何を企む気力もないのか呆然とベルゼブブを眺めている。
「惜しいところまで行ったが、負けは負けだ。君は今後、私の元で暮らしてもらい、
できれば協力もしてもらいたい。ああ、別に主従関係というわけではないよ。君は
私の同族だからね。保護はするが、君個人の判断はなるべく尊重しよう」
ベルゼブブはわたしの前に膝をつき、手ずから呪文でわたしの傷を癒し、近い目線から
語りかけてきた。
「同族?」
「君は自分がただの巨大な蠅だとでも思っていたのかい? 君のその身体は魔族だよ。
修練を積み魔力を伸ばせば、私のように人の姿を取ることもできる」
新しい事実を教えられたが、別にうれしくはない。今日経験した人間不信はかなり根深い
ものらしい。
「あの三人は、どうするのですか?」
後肢を擦り合わせながら、わたしはベルゼブブに訊ねた。無礼かもしれないが、マナーに
反していたら指摘してくれるだろう。
「君の妹や弟にしようかとも考えていたが……特に剣士と魔術師は、感情の動き方が
獣めいていてね。あれは傍においていてもつまらない。だからこうすることにした」
わたしの肢の動きは咎めずにベルゼブブはそう答えると、二人に視線を向けた。
「君たちは面白いことを言っていたね。公共の福祉のためにはフローランスが死ぬのは
当然だとか、冒険者のくせに死ぬのが怖い臆病者とか」
「じ、事実だろう」
「そこで君たちには、公共の福祉や秩序のために尊い自己犠牲の精神を発揮する機会を
与えよう」
言いながら、ベルゼブブの手には黒く小さな光球が生じていた。それらが二人の身体に
吸い込まれる。
「ガッ?! ウ、ガァァァァァ!!!」
「ヒィッ?! アウ、アウバウ、ワブ……ブビィッ?!!」
175『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:27:59 ID:NdHMJINC
二人の衣服が塵となり、身体も変化していく。
ユベールは犬めいた低級な獣人……コボルドに。
そしてイヴォンヌは豚めいた下等な獣人……オークに。
「まあ落ち着いて、黙りたまえ」
ベルゼブブがそう言って指を鳴らすと、とたんに二匹の獣人は騒ぐのを止めた。いや、
声を発しようとしているのだが、出せないようだ。
「呪いによって少々姿を変えさせてもらったが、人間としての意識は保っているかね?
よろしい。そんな君たちには人間に戻れるチャンスがある。何、人間だった時の体力も
剣技も魔術も持ち合わせている勇敢な君たちには、簡単なことさ」
絶望と恐怖から期待へと眼の色を変え懇願するように仰ぎ見る二匹に、悪魔は告げる。
「先ほど君たちがフローランスに要求したように、人間に無抵抗で殺される。それだけで
呪いは完全に解除される」
二匹の顔色が劇的に変化した。
「では今から特別に君たちの住む街の近くの森の中へ送ってあげよう。ああ、一つ忠告
しておくが、人間としての意識は時間が経つほどに薄れていき、一年ほどで完全な獣人の
それになってしまう。そうなってしまえば殺されても元には戻れない。それまでに
人間らしい勇気を示すことを祈っているよ」
そう言ったベルゼブブは、すがるように手を伸ばす二匹の姿を無視して、軽く二言三言
呟いた。それだけで二匹は人間大の球形に包まれると、街の方向へ飛んで行った。
ただのコボルドとオークなら一撃で死ぬこともできるだろうに。なまじ強い冒険者で
ある彼女らが、ひたすら攻撃を受け続けるなど、よほど強固な意志がなければできない
相談だ。
もちろん、それらを百も承知で悪魔は呪いを設定したのだろうが。
176『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:28:37 ID:NdHMJINC
「さて、こちらの小娘だが……君への贈り物としよう。好きなように加工して使い魔と
すればいい」
ベルゼブブはそう言うと、今度はもう少し長く呪文めいた言葉を唱えた。
「使い魔、ですか」
へたりこんだ股間から湯気を立ち昇らせるコゼットを、わたしは見つめた。半年前まで
神に仕える僧侶として仲の良い先輩後輩だったわたしたちが、今では蠅の姿の魔族とその
使い魔になるとは。
コゼットが口を開きそうになる。その表情を見れば、何を叫ぶ気かだいたいわかる。
絶望と恐怖と混乱の悲鳴、あるいはせいぜいわたしに救いを求める嘆願といったところ。
どちらも煩わしくて、わたしは何も聞きたくないと感じた。
するとコゼットは、先ほどの二人同様、口を開いても声を出せなくなる。
「……もしかして、わたしがこの子を弄れるわけですか?」
「その通り。やはり君は賢いね。君と彼女をつなげたので、能力と姿形を君の望むように
変えることができる。君自身の魔族としての能力に制限されるから、極端に強くしたりは
できないけれどね」
「別に、強くしたりするつもりはないです」
憎み、弄ぶ対象を与えられてしまった。新米の仲間に対する悪魔なりの歓待の手法と
いうことか。
まあ、拒む理由もない。
「わたしの居室の隣、あの底に送っておいてもらえないでしょうか? 手を加えるのは、
帰ってからにします」
「わけもない」
ベルゼブブが優雅な仕草でコゼットを指差すと、彼女の姿はかき消すように失せた。
たぶんこの瞬間には糞尿の悪臭で気絶していることだろう。
177『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:29:08 ID:NdHMJINC
余分な登場人物は次々と退場していく。残るはベルゼブブとわたしと、彼の亡骸。
傾き始めた太陽が、わたしたちを照らしている。
「最後は彼だが……君はどうしたい?」
ベルゼブブは再び膝をつくと、わたしを見つめた。もうここで埋葬するくらいしかないと
思っていたわたしは一瞬呆気に取られたが、言わんとしていることをすぐに察した。
「わたしは……」
言いよどむわたしに、悪魔は口を開く。
「私は彼に君と同じ立場を与えたいと思っている。私の能力をもってすれば、今なら
十二分に間に合う」
わたしの予想通り、ジェラールを生き返らせることができると、悪魔は言っている。
けれどそれは、ジェラールをわたしと同じ目に遭わせるということ。わたしと同じ、
醜い蠅の身体をあてがうということ。
それぐらいなら、ジェラールは死を選ぶことだろう。ならばここで弔うのがよっぽど
彼の意に沿ったことになるのではないか。
でも彼がわたしと同じ身体で生き返れば、わたしたちは一緒にいられるだろう。いつか
冒険者に滅ぼされるまで、たぶん普通の人間よりはよっぽど長い時間を、同じ立場で、
一緒に。
「………………………………わたしは、」
陽が沈みそうになるまで考え、悩み、わたしは希望を口にした。
178『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:29:39 ID:NdHMJINC
「あの選択肢は一番可能性が低いと思っていたがね」
洞窟の底の居城の奥のあの部屋に戻ったわたしに、ベルゼブブは語りかけた。
「予想はしていたんですね」
「似たような状況で、稀にその選択をする者がいるのでね。簡単に堕してしまわない、
優れて気高い心の持ち主がそういう決断をしがちだ」
「それは買いかぶりだと思います」
蠅の習性が強まっているのか、わたしは部屋のあちこちを飛び回ってしまう。壁や天井に
止まり、せっせと肢を擦る。
そんなわたしを見つめる悪魔の視線は優しい。わたしが蛆になっていたあの時と似た、
小さい子の歩みを見守るような表情。
「君はもちろん覚悟の上だろうが……彼が生き返れない可能性もあるだろうね」
ジェラールをここへ連れて来ない。あの場所に埋葬もしてしまわない。その代わり、
わたしは悪魔に頼んで彼の遺骸を街のすぐ近くに運んでもらった。蘇生費用をまかなって
おつりが来るほどの宝石と、一通の手紙とともに。
「どちらでも、構いません。ジェラールが生き返ってくれればもちろん一番いいですが、
あの宝を街の人間が着服してジェラールを見捨てたなら、わたしは人間に対してより深い
嫌悪感を抱くことができますから」
そうなれば今以上に、人ならぬ身となった現状を肯定することもできるだろう。
「生き返った彼は、私を追ってくるかもしれないね。囚われの姫君を救わんとする勇敢な
ナイトとして」
179『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:30:11 ID:NdHMJINC
「彼にそれほどの力はありません」
「そうとも限らないさ。魔術の心得のない者が普通、六芒星の盾を半年で使えるもの
じゃない。彼が研鑽を怠らず幸運にも恵まれれば、いずれ私を脅かすかもしれない」
「……仮にそうなった場合、わたしはあなたとともに逃げます」
わたしはこの悪魔に頼みごとをした。ジェラールが生き返れるよう手を打ってもらった。
その借りを返さなければならない。
それにわたしは、ジェラールに顔を合わせる資格もない。あの時、自分の死に恐怖して
彼の傍に近寄れなかったわたしには。
「ふむ。私にとっては最良の回答だね。君にとって最善の選択かは不明だが」
露骨に皮肉を匂わせた口調で言うと、ベルゼブブは天井のわたしを見上げる。
「もうじき夕食だが、人の姿を取るつもりはないのだね?」
「はい」
わたしはもはや人ではない。だから人のふりをするつもりもない。
「ならばメニューは以前と同じだ。厨房に伝えてくるとしよう」
踵を返そうとした悪魔は、ドアの近くで振り返った。
「ああ、君の食料庫にはまだあの娘がいるよ。逃げ出す気遣いはなかろうが、トロールや
オーガにいちいち殺すなと指示を出すのも面倒なのでね、近いうちに処理を済ませて
もらえると助かる」
「なら、今すぐ行きます」
わたしは悪魔に使い魔を「弄る」能力の詳細を聞き出すと、部屋を出た。
些細だが、初めての仕事。魔族としてのわたしの、初めての仕事。
180『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:32:31 ID:NdHMJINC
「開け」
屋敷の中は蠅の姿でい続けるわたしに合わせてすぐさま改造され、わたしの声に応じて
ドアが開くようになっている。
その途端に嗅覚を刺激する臭い。今のわたしにとっては食欲をそそる心地好い臭気。
だがもちろん人間にとってはそうではない。
わたしの部屋の隣を含め、屋敷のあちこちにある便所。その底で糞尿を受け止める巨大な
貯蔵庫。床や壁に降り立って肢を汚さぬよう気をつけながら、わたしは宙を飛んで奥へ
進む。
床一面を埋め尽くす糞尿の中、それでも比較的堆積が少なく、また上から降り注ぐことの
ない場所を選んで、コゼットは座り込んでいた。
ドアの開く音に反応して、汚物と涙と吐瀉物で汚れきった顔をこちらへ向ける。声を
上げようとしないのは、わたしがさっき地上で思った「声を発するな」という指示が
効果を失っていないため。
わたしを見つめる眼差しは相変わらず恐怖に満ちている。両腕で身体を抱く姿は、安い
悲劇のヒロインめいていた。
自分は何も悪くないとでも言いたげに。
時間を置いて少しは冷静になれたかと思ったが、そんな姿を見ているとやはりわたしは
怒りをこみ上げさせずにはいられない。ひどく残酷な衝動がわたしを支配する。
「あなたのおかげでジェラールは死に、わたしはここに逆戻りよ。人間に戻るどころか、
ずっと化け物蠅のまま」
わたしが言うと、身を縮める。しかしそこには、ジェラールを死なせたことへの悔恨は
見えず、微妙に喜悦の色も混じっていたような。しくじったわたしをざまあみろとでも
思っているのだろう。
あるいはその観察は、コゼットを断罪したがっているわたしの目が歪んでいるためか。
わからない以上、感情に身を任せるのが一番な気がした。
181『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:33:09 ID:NdHMJINC
「まあ、あなたにもずっと付き合ってもらうわ。わたしと同じ姿で」
ぽかんとした表情が嫌悪と恐怖に歪むより早く、わたしは思い描いていた中でも最悪の
イメージを彼女に照射した。
瞬時に形を失い、はらりと床に広がる僧衣。
同時に巻き起こる無数の羽音。こちらの想定に従って、わたしの餌を採取するトロールの
邪魔にはならないよう、奥まったエリアへ移動していく。
「最初はただの蠅。でも魔物の糞を食べているうちに次第に魔力を蓄えるようになるわ。
百年も経てばいっぱしの魔族になれるかもね」
間違いなく混乱しているであろうコゼット「たち」に向けて、わたしは言葉を続ける。
「でも普通の蠅の寿命なんて短すぎるでしょ? だからちょっと操作させてもらったの。
今あなたの周りを飛んでいる蠅は、すべてあなた。そしてあなたが産む卵もそこから孵る
蛆も、すべてあなた。個々の経験は全体の知識となり、全部のあなたが死に絶えない限り
いつまでもコゼットの意識は保ち続けられるという仕組み。ある意味、あなたはわたし
以上に不死に近い存在になれたんじゃないかしら?」
相変わらずうろたえている何万何十万の蠅の群れ。でも何千匹かはすでに床に降り立ち、
早くも糞をむさぼっている。虫の本能にあっさり支配されているわけだ。
そして何十匹かはすでに……。
「雄と雌の比率は半々。自分同士でまぐわうってどんな気分なのかしら。いずれその
暮らしに慣れたら、教えてちょうだいね」
そこまで言うと、わたしはコゼットの群れを後にして貯蔵庫を出た。
今の自分はどこからどう見ても完全な魔族だなと自嘲しながら。
182『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:34:06 ID:NdHMJINC
この屋敷に篭もってから一年が過ぎた。
わたしは日夜、図書館の本を人間の言葉に翻訳している。
それらは製本されて図書館の新たな一員となるのだが、その際に一部あるいは大部分が
欠損した状態で書き写され、人間の世界へと流出されるという。それら不完全な魔道書を
弄ぶ智者気取りはしばしば人の世に混乱を巻き起こすのだと、悪魔が楽しげに語らった
ことがある。そんな人間たちの混乱こそは、悪魔たちの最高の糧となるのだ。
もっとも、わたしはいまだに人の感情なるものを食したことはないが。
(お食事でございますお食事でございますああおいしそうな糞あたしも食べたい憎い
いえいえそんな失敬なことはいたしませんお食事でございます食べたい食べたい恨めしい
犯したい犯されたいお食事でございます死にかけてる苦しい気持ちいいおいしい痛い)
コゼットのうちの数匹が飛んできてわたしに告げる。そうしている間にもよその場所で
食い交わり殺されいまだにわたしを憎んでいる別の彼女らの思念が混ざりこむ。なかなか
煩わしいが、一年も経つとずいぶん慣れた。
わたしは蠅の肢に合うように作られたペンを机に置くと、食堂へ飛んでいった。
183『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:35:10 ID:NdHMJINC
「フローランス」
いつものように口吻を突き立てて糞と腐肉の盛り合わせを喰らうわたしに、ベルゼブブが
話しかけてきた。
「わたしをその名前で呼ばないでください」
かつての『わたし』の名残を唯一残す、声を発する。本当はこれも消し去りたいくらい
だが、さすがにそれでは不便すぎるのでやむをえない。
「君もなかなか強情だね。魔力はすでに高まっているのに、君は一向に人間の姿に戻ろう
としない」
「わたしは人間ではありませんから」
九ヶ月ほど前から何度となく繰り返されてきた問答を、いつもの言葉で締めくくる。
ベルゼブブはしばし黙ってワインを味わうと、声の調子を変えた。
「アスタロトに聞いた話だが、エルスバーグの一行に斧を得物とする凄腕の戦士が
加わったらしい」
餌をむさぼっていた身体が思わず固まった。それに気づいているだろうに無視して、
知り合いの悪魔から得た情報をベルゼブブは語り続ける。
「今は南方の邪神たちと戦っているそうだが、いずれここへも来るだろうね。何せ彼は
ここにいるものの正体を知っている。今は力も身につけた。来ない理由がない」
「……申し訳ございません」
「侵略者に背中を見せるのは不愉快だが、ここには貴重な文物が多い。君の手になる
翻訳書などは、激しい戦闘の混乱で失われていいようなものじゃない。ゆえに私は、
彼らがここへ攻め込みそうになったら撤退の準備を開始する。蠅の情報網を駆使すれば、
彼らを出し抜くことは可能だろう」
「……はい」
話の行方が見えず、わたしは不得要領な相槌を打つ。
「半年後か一年後かはわからないが、その際のしんがりは君に任せたいと思っている」
184『ベルゼブブの娘』 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:36:29 ID:NdHMJINC
「ああ……。かしこまりました」
わたしに今の身体を授けた悪魔の考えていることを理解し、わたしはジェラールが
生きていたことにまだ動揺しつつも、ひとまず肯った。
そんなわたしに、悪魔は唇を歪めて笑いかける。
「この一年間で一番大きく君の心が揺らいだね。一日中熱心に翻訳に取り組んでいる君を
見ていると、ここが修道院にでもなったのかとしばしば錯覚させられたものだったが」
そして、わたしの予想とまったく同じことを付け加えようとする。
「前にも言ったが、私は同族である君に命じない。殿軍の意味をどのように受け取って
もらっても構わない。むしろ」
「どんな行動を取るか悩みに悩んでもらいたいくらいだ、でしょうか?」
わたしを救うためにやって来たジェラールと戦うのか、徹底的に彼から逃げ続けるように
振る舞うのか、過去一年間の所業を泣いて詫びてエルスバーグの勇者たちに慈悲を乞う
のか、事前にジェラールと示し合わせておいて二人でどこかへ逃げるのか。
今この瞬間だけでも選択肢は次々と思いつく。わたしのこれからの日々は、悪魔好みな
起伏の激しい感情に左右されるものとなるだろう。
「ご名答」
ベルゼブブは、悪魔の名に恥じぬ邪悪な笑みを浮かべてみせた。
185 ◆eJPIfaQmes :2007/10/25(木) 02:42:15 ID:NdHMJINC
『ベルゼブブの娘』はこれにて完結といたします。
途中でずいぶん長く中断してしまいまして、本当にすみませんでした。
諦めてスレを覗くのをやめてしまった方々には申し訳ない気持ちでいっぱいです。
そして最後まで読んでくださった皆様には、お待たせしたことをお詫びするとともに、
深く感謝いたします。
186名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 02:59:32 ID:idCisKlC
おもろかった

待った甲斐はあった

187名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 03:01:26 ID:mwz172FL
俺に言えるのはただ一言
GJ

待った甲斐あったよ!
188名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 05:44:37 ID:CpQOCvx8 BE:47420922-2BP(1)
最後いっきに加速していって面白かったわwwww
まじGJ!感謝ですわ
189名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 12:17:13 ID:f4O8lBnh
GJGJ!!
ただもう、すげえ! と唸らされました

コゼットへの復讐の仕方は予想外でした
すごい発想だ>フローランス&作者様

最後にフローランスがどんな選択をするかは気がかりですが、
ここで完結にするのが「粋(いき)」というものですね

愉しませて頂きました m(_ _)m
190名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 19:36:37 ID:p5j292Fc
キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!

今から読む
191名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 23:16:02 ID:p5j292Fc
読んだGJ!コゼットみたいなラストは新しくてよかったわー
ダークサイドに落ちた主人公の心情の変化も自然でよかった!
たださー、これ完結しちゃったらもう保守されなくなって
落ちちゃいそうだよねこのスレ(´・ω・`)
192名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 23:24:09 ID:c98n0dxa
いつぞやの蜘蛛化小説とか良作が
ほかにも投下されてたから
そう簡単に落とさせはしない、ぞ。
193名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 00:11:15 ID:6Iw3kuID
こんな良作があるのに保管庫がない
194名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 10:00:31 ID:Z9DjO24y
本当にGJ!!
長い間ずっと待ったかいがあったよ!!
他の作品も読みたいけど、HPとか持ってないのかなぁ

195名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 11:08:23 ID:Jvaz6dUO
なんというGJ、見ただけでwktkしてしまった。
お疲れさまです
196名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 22:06:00 ID:tsDRcRQT
ほぼ毎日巡回し続けた甲斐があったぜww
本当にお疲れ様でした。
197名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 22:06:57 ID:bYW/TvjM
冨樫より歓迎されているな
198名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 05:02:51 ID:4SqKzlIi
誰か最初から持ってる人いません?
以前は過去ログ残してたんだけど初期化した時に間違って消しちゃって…
199名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 00:20:37 ID:TxwS5uFJ
>>164
ご苦労様でした。
200名無しさん@ピンキー:2007/10/31(水) 16:53:27 ID:XFw4rRAT
面白かった。せっかくだから本にまとめてほしい(同人でも可)
どこかに持ち込めば単行本にしてくれるんじゃないの?
201名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 00:20:00 ID:za5mG/YE
すごく楽しかった、これはいい良作
202名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 01:08:42 ID:2hI1S6sK
次週からスライム女の連載が始まりますのでお楽しみに!
203名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 02:35:00 ID:fTKM8luB
<<202
スレチか良く分からないけど、期待して待ってます。
204名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 12:52:58 ID:FKgQFIP7
保守
205名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 18:09:08 ID:4ViDxf4j
面白かった。お疲れ様です。
206名無しさん@ピンキー:2007/11/11(日) 01:56:44 ID:8/vC+4BF
フローランスのその後というのも色々と想像を呼び起こさせるが、
途方に暮れてさまよってたイヴォンヌが野生のオークの集団に捕まって
毎日犯されて段々と身も心も堕ちていく話、なんてのも妄想しがいがあるな
207名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 15:51:51 ID:+J3Qbgt8
あげてみる
208名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 17:07:47 ID:tMIXlY/9
うおっ、しまった。
完結してたのか……。

とりあえず、GJ。
これから前スレ含めて読み返してきます。
209名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 12:22:12 ID:A6Gx+M47
保守。
210名無しさん@ピンキー:2007/11/20(火) 18:57:57 ID:XmKNIsE6
保守しても未来はないよ・・・

保守。
211名無しさん@ピンキー:2007/11/20(火) 20:47:07 ID:p5+vIhuY
◆eJPIfaQmes様、今しがた通読させて頂きました。感動!
212maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/11/21(水) 18:36:11 ID:DN5f/Lfj
 「おにゃのこを改造」スレから来ました。良スレ保守として拙作投下させて下さい。
元ネタは、フレドリック・ブラウン「雪女」(原題"Abominable")という、
四ページ強のSS(創元SF文庫『未来世界から来た男』所収)。
 だいたいこんな筋です――ローラ・ガブラルディはデビュー作一作で
全世界の男を虜にした映画女優。彼女はデビュー作出演後、ヒマラヤの奥地で
「雪男(イエティ)にさらわれた」という目撃情報を最後に姿を消す。
金持ちのプレイボーイ、チョーンシイ・アサートン卿はローラの生存を信じ、
イエティからローラを救出し、ローラとイイ仲になろう、と考えて
ヒマラヤへ向かう。そしてイエティを一匹しとめるが、直後に別の
イエティに背後から抱きすくめられてしまう。
 イエティの話では、自分たちは何世紀か前に秘薬によって姿を変え、
寒冷な高山で暮らし始めた人間なのだという。だが仲間の数が減ってきた
ため、登山者をさらっては秘薬を飲ませて仲間にしているのだと。
そして先ほどチョーンシイが撃ち殺したイエティこそローラであり、
仲間を殺した仕返しをする気はないが、代わりに仲間になって
自分と結婚しろ、と迫る。背後のイエティは雪男ならぬ雪女だった、
というオチ(訳者はタイトルでSSのオチをばらすという
信じがたいことをやっていますが、原題は「おぞましいもの」とか、
「あぼーん確定」とか、多分そういう意味で、ネタバレではない筈)。

…で、大昔、高校のときにこれを友人に借りて読んでから、ローラや
チョーンシイ卿がイエティ化する過程を何度となく夢想しました。
そして、今になってそれを形にしてみたいと思った次第です。
 予め言っておくと、SSである、という点と設定が同じという点以外、
原作のドライでスマートな雰囲気に似たものははありません。ご了承を。
 ――以上、前置き長くてすみません。全部で三話くらい考えていますが
とりあえず7レスで終わります。
213"Abominable"妄想・ローラ編(1/7):2007/11/21(水) 18:37:32 ID:DN5f/Lfj
 わたしはヒマラヤの奥地・オブリモフ山で、突如醜悪な毛むくじゃらで
巨大な生き物にさらわれてしまった。けだものは身長8フィート。
人間のように二足で歩いているが、毛だらけで筋肉質のその姿はむしろ
ゴリラかオランウータンに近い。雪男とかビッグフットとか言われる、
雪山に出没するという噂の怪物だとすぐにわかった。
 わたしを抱えて歩く雪男の腕は太く強力で、その中のわたしは身動き
一つできない状態だった。この腕を振り払って逃げ出すのがまず
できないことは明らかだった。こうして運ばれるまま、どこかに連れて
行かれるのを甘んじて受け入れるしかないようだった。ただし、凶暴さや
敵意は感じられなかった。厚い毛に覆われたその胸は暖かかった。
ゴリラがそうであるように、恐ろしげな外見と裏腹の、優しい動物なので
あろうと思われた。わたしを食べたりするわけではなさそうだ、という
ことだけは直感的に分かった。諦念と疲労感と温かい胸の感覚は睡魔を
呼び寄せ、わたしはそのまま眠りについた。

 目覚めたとき、わたしは薄暗い穴ぐらの中にいた。日光の差し込まない
穴だが、壁のあちこちが強く光っていて、周囲の様子がわかる程度には
明るい。多分、ヒカリゴケとかいう発光植物の仲間が生えているのだろう。
 やはりわたしは雪男に抱かれていたが、先ほどとははっきりと違う感触に
気がついた。全身の皮膚に、直接雪男の柔らかく長い体毛を感じる。
…つまり、わたしは衣服をすべて剥がされているのだ――スキーウェアや
シャツはもちろん、下着の一枚すら残さずに。
214"Abominable"妄想・ローラ編(2/7):2007/11/21(水) 18:38:33 ID:DN5f/Lfj
 わたしはほとんど本能的に悲鳴を上げた。この醜悪な化け物が発していた
「好意」のおぞましい正体が分かったような気がしたのだ。つまり、この
化け物はわたしをメスとして犯そうとしていたに違いない。ことによると、
わたしが眠っている内に、すでにそのありうべからざる欲望が満たされて
しまっている可能性すらあった。
 悲鳴を上げながら逃れようとするわたしに雪男が気づいたらしかった。
雪男はわたしが逃げないように腕に力を込めた。軽い圧迫感でわたしは
息苦しくなったが、その力はわたしの息の根を止めてしまうほどの強さでは
なかった。そして、信じられないことに、雪男は流暢な英語でわたしに
話しかけてきた。
「心配することはない。あんたを取って食べたりする気はないし、あんたの
意向を無視して、強引にあんたと交わろうというつもりもない――まあ、
あんたがその気になったとしたらこっちは大歓迎だが。だが俺としては
あんたがこのまま生き永らえてくれさえすれば、まずは満足なんだ」
 そう言うと雪男は部屋中に生えているヒカリゴケをはがすと、それを
わたしの口に運んだ。
「食べな。身体が温まり力が湧く。どうしてもこれを食べて生き延びる
つもりがないなら、悪いがあんたには外で凍死してもらうことになる」
 励ましなのか、脅しなのか、よく分からない言葉をかけてくる雪男に、
わたしは従わないわけにはいかなかった。長い時間意識を失っていたに
違いないわたしは、猛烈な空腹感を感じていたのだ。わたしはたまらず
その光る植物を口の中に入れた。
 ヒカリゴケは猛烈に甘く、くどかった。空腹だったにもかかわらず、
わたしは軽い胸焼けを感じた。恐らくとてつもない高カロリー食品だと
いうことがわかった。わたしは雪男が水代わりに差し出した雪玉で
喉の渇きをいやしつつ、その甘ったるい植物を夢中で食べ続けた。
215"Abominable"妄想・ローラ編(3/7):2007/11/21(水) 18:39:33 ID:DN5f/Lfj
 やがてコケが喉から胃に、そして腸に下りてくるに従い、猛烈な熱が
わたしの中に発生した。穴ぐらの中の温度は零度前後だったはずで、
雪男の腕の中ですら空気に触れる頬や素肌にはひんやりとしたものを
感じていたのに、今やわたしは、全身からだらだらと汗を流し、
とめどもなく湧き上がる体内の熱をもて余していた。
「ああ、熱い!熱い!雪をちょうだい!もっと!もっと!!」
 わたしは雪男にそう求め、雪男がもってきた純白の粒の細かい雪を
大量に頬張った。
「そろそろ、俺が温めなくとも大丈夫かな」
 そう言うと、雪男はわたしを、部屋の隅に大量に盛ってある雪の山の前に
下ろした。たしかにもう寒くはなかった。喉の渇きが収まらないわたしは、
なりふりも構わず、全裸でその山に飛びつき、思う存分雪を食べた。
「じゃあ、俺はこれで退散する。いずれまた、外で会おう」
そう言うと雪男は穴ぐらの出口に向かい、出口をふさいでいる巨大な岩を
信じられない力で横に動かし、外に出ると、再びその岩を動かして出口を
ふさぎ始めた。
「待って!閉じこめないで!」
 だがわたしの身体はコケの副作用か、しびれ始め、思うように動かなく
なっていた。そしてまた強烈な睡魔が訪れ、わたしは眠りについた。

 どれぐらい眠ったのか、わたしは目を覚まし、ヒマラヤ山中のどことも
知れぬ穴ぐらの中に全裸で閉じこめられている、というあまりに異常な状況が、
決して夢ではなくて現実そのものであることを改めて確認した。雪男が
軽々と動かしていた岩の扉をどうにか動かせないものかと試みたが、
無駄な努力だった。もっとも、仮に動かせて外に出られても、こんな全裸の
状態では一瞬で凍死してしまうのがおちだっただろうが。
216"Abominable"妄想・ローラ編(4/7):2007/11/21(水) 18:40:40 ID:DN5f/Lfj
 部屋の天井はわたしの背よりも少し高い程度。横幅は五メートルほど、
奥行きは十メートル以上あるだろうか。入り口近くの大量の雪の山と、
部屋中に繁茂するヒカリゴケ以外には何もない空間だ。部屋の一番奥には
やや深い穴が掘ってあり、上に木片がかぶせてある。おそらくこれを
トイレとして使うのだろう。部屋の中央には、長さ三メートル弱、
幅二メートルの長方形の区画に、干からびたヒカリゴケがマットのように
敷き詰めてあった。雪男用のベッドなのだろうと思えた。
 扉を調べた後で最初にわたしがしたのは食事だった。目覚めて間もなく、
猛烈な空腹感が戻ってきていた。そしてあの濃厚なヒカリゴケの味がすでに
忘れがたくわたしの脳裏に焼き付き、食欲を煽っていた。わたしは雪と
ヒカリゴケを交互に食べ、食欲を満たし、それから排泄をした。満ち足りた
わたしは、先ほどの固く冷たい地面の上にではなく、ふかふかの雪男用ベッド
の上に、ゆったりと身体を横たえた。頭がしびれ、あまり複雑なことは
考えられなくなっていた。先ほど起きたばかりだというのに、もうまぶたが
重くなってきた。あの猛烈な熱がまたもや襲ってきて、雪が溶けないほどの
寒い部屋の中でも、軽く汗ばむほどだった。
 わたしは眠りに落ちながら、手の甲を額にあてて汗をぬぐった。
ぞりぞりという奇妙な感触を額に感じたが、その意味を突き止める間もなく、
わたしの意識は薄れていった。
217"Abominable"妄想・ローラ編(5/7):2007/11/21(水) 18:41:41 ID:DN5f/Lfj
 異変をはっきりと自覚したのは次に目覚めたときだ。立ち上がり、
喉の渇きを癒すために雪を食べようと歩き出したとき、わたしは自分の頭が
天井に当たることに気づいた。目覚める前は、部屋の端から端まで歩いても
こんなことはなかった。しかし今は部屋のどこに移動しても頭がつかえるのだ。
 考えられる理由は二つだけ。天井が低くなったか、わたしの背が急激に
高くなったかのいずれかである。最初考えたのは天井が低くなったという
可能性だ。ありがちなサスペンス映画に「吊り天井」に囚われてピンチに
なる美女、というシーンがある。あんな具合に、柔和そうなふりをして
実は残酷な雪男が、わたしをじわじわと押し潰そうとしているのでは
ないか、そんな想像をしたのだ。
 だが、わたしは間もなく、もう一つの、ある意味ではもっとずっと
恐ろしい可能性の方が真実に近いらしい、と気づかざるを得なかった。
それは薄暗い部屋の中で、自分の手足をじっと見つめ、そしてそれに
触れてみる中で、否応なく認めねばならない事実だった。
 ――つまり、いつの間にかわたしの手足、それに腹部や背中には、
濃い体毛がみっしりと生え始めていたのである。手の甲から肩、そして
乳房を除く腹部一面が、毛深い男性のすねのように黒々とした毛に覆われて
いる。そして陰部の毛はその範囲を拡げ、足の付け根から腰の横にまで、
その「三角地帯」の範囲を拡げていた。
 変化は体毛だけではなかった。足、腕、それにあごなどの筋肉がひとまわり
強靱に成長し、犬歯も以前よりも長くなっていた。皮下脂肪もその量を
増しているようだった。明らかにわたしの身体は、あの醜悪な雪男の肉体に、
そして雪山の中で裸体でも生きていける肉体に、変貌しつつあるのだった。
218"Abominable"妄想・ローラ編(6/7):2007/11/21(水) 18:42:42 ID:DN5f/Lfj
 そして、最も信じべからざることなのだが、わたしはこんな恐ろしい
変化が自分に生じていることを認めながら、当然感じねばならない
はずの恐怖心や絶望のような感情がほとんど湧いてこないことに気づいた。
そして、この変化をもたらした元凶に違いないあのヒカリゴケを、
それでも食べ続けたい、という猛烈な欲求をこらえきれなくなっている
自分を見いだした。しかもその欲求は単なる食欲でもなく、あるいは、
麻薬に対する禁断症状のような衝動的なものでもなく、むしろはっきりと
自覚された「雪女になりたい」という欲求である、ということを
自分自身に認めねばならなかった。
 そう。わたしはこのコケをもっと食べて、早くあの生き物の仲間に
生まれ変わりたくなっていたのだ。人間のか弱い肉体を捨て、温かな体毛を
身にまとい、たくましい筋力をふるって雪山で生き続ける、あの美しい
生き物の一族に、早く溶け込みたい、そんなイメージをはっきりと伴った
強い欲望がわたしの中に生まれていたのである。わたしはその願望を早く
実現しようと、ヒカリゴケを存分に食べ、水分を補給し、そして眠りについた。
 
 目覚めたとき、わたしの肉体の変貌はほぼ完了していた。「雪男用ベッド」
は今やわたしの身体に丁度いい大きさだった。全身の体毛はその量と長さを
増し、ごわごわした剛毛ではなく、ふわふわした厚い毛皮になった。
その下には寒さを寄せ付けない暑い皮下脂肪と強靱な筋肉の層が発達していた。
この、雪山という世界に適応した機能的な肉体のどの辺に、人間だったときの
わたしは醜さを感じていたのか、わたし自身がすでに分からなくなりかけていた。
そればかりか、人間だったときの思い出そのものが、遠い異国の別な生き物の
物語のように、疎遠なものになっていた。
219"Abominable"妄想・ローラ編(7/7):2007/11/21(水) 18:43:54 ID:DN5f/Lfj
 わたしはこの穴の中での最後の食事と排泄を済ませた。そして、本能の
命じるまま、自分の溜めた排泄物を壁に塗っていった。こうしてヒカリゴケに
養分を与え、やがて来るであろう新しい仲間を迎え入れるための準備をする
ことが、この部屋を去る者の務めであることを、本能が教えてくれたのだ。
 わたしは出口の扉に手をかけた。あのときとは異なり、岩は易々と動いた。
 外に出たわたしを待っていたのは、沢山の仲間たちの祝福の声だった。
「おめでとう!新しい仲間の誕生だ!」
雪男と雪女たちが口々にそう言ってわたしの手を取り、肩をたたいた。
「ありがとう!ありがとう!こんな風になれて、とてもうれしい!」
わたしは涙を流しながらその声に答えた。
 そして、他の仲間から少し距離を置いて、あの人が立っていた。
「おめでとう!…あんたはとても素敵だ。どうかな…俺と、その、結婚しては
くれないだろうか?」
 目の前の雪男は強いセックスアピールを放っていた。その下腹部の
ものが明らかにわたしを求めていることを、彼は隠そうともしなかった。
あの映画以来急に増えたどんな求婚者よりも魅力的な姿がそこにはあった。
わたしを抱えて雪山を疾走した、あのたくましい腕の感触が脳裏に甦った。
そして、今のこの自分がこの人に抱きすくめられている情景を想像し、
わたしの性器もじっとりと湿ってきた。
「もちろんよ!」
 幸福感に包まれたわたしは、愛しい人の胸にまっすぐ飛び込んでいった。
<了>
220maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/11/21(水) 18:49:00 ID:DN5f/Lfj
以上、お粗末でした。このスレの職人さんの作品と比べて、なんだか薄くてすみません。

なお、同じ短編集には「他人を動物に変身させる魔術」だけを覚えた男が
熊のオリに落ちた妻を助けるために妻を熊に変身させたはいいが、
妻がオス熊に犯されて妊娠してしまう話(「熊の可能性」)とか、
有名な、人魚が体外受精する生き物だと知らずに、美女に誘われて
人魚になってしまう男の話(「人魚」)とか、古典的なイイネタが他にもあります。
これを書くためにウン年ぶりに読み返しました。

それでは…
221名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 20:36:40 ID:Q7wxWjV9
GJ!描写が丁寧で良かったです。
222名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 20:37:58 ID:Q/58qHsA BE:860572984-2BP(33)
おちんちんきもちいいお(´;ω;`)きもちいいお(´;ω;`)
223名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 22:05:45 ID:U8ApErGz
いや、GJだ

改造スレは改造後がほとんどだし好みじゃなかったんだが
いや、こんな達人がいたとは
224maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/11/22(木) 20:41:56 ID:dNrMQnwj
ウケて頂いてありがとうございます。
保守投下、昨日の続きの第二弾行きます。
フレデリック・ブラウン、関係なくなってきてます。
ちなみに雪女が少女だというの脳内設定です。
今回は4レスで終わります。
225"Abominable"妄想2・チョーンシー卿編(1/4):2007/11/22(木) 20:44:53 ID:dNrMQnwj
 気絶した私が気付いたとき、わたしはまだ雪女の腕の中だった。
雪女は私を抱きすくめたまま、長い山道を進み、山の岩肌の小さな
洞窟に入っていった。そして洞窟の中で、すさまじい力で私の防寒着を
下着ごとむしり取り、びりびりに引き裂いた。そして素っ裸に剥かれた
わたしの肉体を、雪女はその豊満な乳房に押しつけ、抱きすくめた。
「さあ、ここにあるヒカリゴケが例の秘薬よ。これを食べれば
あんたはあたしたちの仲間になれるんだよ!」
 雪女は嬉しそうにそう話しかけた。
 この雪女の少女がいわば善意のかたまりであること、やや強引だが
私への愛情に満ちているらしいことは確かそうだった。ただ、その愛の
表現があまりに歪んだ、人間離れした発想に支えられていることが問題
なのだ。多分この少女の頭の中では、雪男としてこの山で暮らすという
ことはとても幸福なことなのだ。私がその選択肢を喜んで選ぶに違いない
と思いこんでいるから、人間を雪男に作りかえる恐ろしい秘薬の秘密を
屈託無く私に話したのだ。
 きっと、雪男や雪女になってしまうと、外見だけではなく心そのものも
人間とは別の生き物になってしまうのだろう。普通の人間はこんな姿に
変えられることを、そしてこんな姿になって雪山の中で動物を捕まえたり
コケを食べたりして細々と生きていくことを拒み、恐れる。そんな人間の
当たり前の心理の働きが、ひとたび雪女になってしまうと、きっと理解
できなくなってしまうのだ。
 人口難という話だったから、この少女だって、もとは人間だった
可能性が大きい。だが、そうだとすると、この少女はそんな悲惨な運命に
巻き込まれてからまだ日が浅いに違いない。人間を雪男や雪女に変えようと
すれば十中八九激しい抵抗に遭う。そんな経験を積んだ雪男や雪女ならば、
秘薬であるコケを食べさせるためにもっと巧妙な手を使うのではないか。
この少女は多分、そんな経験をまだ一度もしていないに違いないのだ。
226"Abominable"妄想2・チョーンシー卿編(2/4):2007/11/22(木) 20:46:10 ID:dNrMQnwj
 ――この推測は、目の前の恐ろしい運命を回避するための一縷の
望みに結びついた。少女が生まれついての雪女である可能性はある。
だがもし、少女が雪女になって日が浅い元人間であれば、人間の心を
取り戻す可能性だってなくはない。それに賭けることができるかもしれない。
「なあ、君も以前は僕と同じ人間だったんじゃないのか?そして
雪女なんか、なりたくてなったのではないんじゃないのか?」
「そうよ。わたし、人間のときは雪女なんて知らなかったし、なりたくも
なかったわ。わたしは将来看護婦さんになるのが夢だったの」
「…ならば僕の今の気持ちだってわかるだろう?僕は雪男なんかに
なりたくないんだ。人間社会に戻って、人間として生きていきたいんだ。
雪女にされてしまった君は哀れだと思う。だけど君と同じ犠牲者を
これ以上増やさないでおくれ。僕だけじゃない。他の人間もだ」
「よくわからない!雪女になってからは、ここでの生活が一番幸せ。
人間の気持ちなんてもう思い出せないわ。あなただって雪男になれば
すぐにわかるようになる。さあ、早くコケを食べて!」
「頼む、わかってくれ!いやなんだ。雪男なんか!」
「…忘れていたわ。薬の秘密を明かすと、人間はコケを食べることに
抵抗するんだって仲間から言われていた。わたしにはさっぱりわけが
分からなかったけど、本当だったのね。困ったなあ…」
 少女は人間ならばとても可愛らしく見えるはずの、首を傾げるポーズを
とった。いや、雪女とはいえ、たしかに少女のその仕草は可愛らしかった。
227"Abominable"妄想2・チョーンシー卿編(3/4):2007/11/22(木) 20:48:12 ID:dNrMQnwj
 少女はゴリラのような頑健な肉体をもち、その犬歯は長く、顎はヒヒの
ように無骨だが、鼻から上は人間のままのといっていい面立ちだった。
博物館で見た、下顎だけがサルの骨に入れ替えられた贋物の化石、
ピルトダウン人が本当にいたらこんな感じだっただろう。そしてその
つぶらな瞳は、ローラのような成熟した女性の魅力とはまた別の、
初々しい魅力を感じさせるものだった。豊満な乳房に身体を押し当てられ
ながらその目で見られているうち、私は妙な気分になりそうになった。
「仕方ないわ。コケよりも効率が悪いけど、こっちにする」
 そう言うと雪女の少女は私の口をこじ開け、母親が赤子にそうするように、
口に自分の乳首を押し込んだ。そして自らの乳房をぐいと圧迫した。
大量の母乳が私の口を満たし、鼻からあふれ出た。息ができなくなった。
「飲んで!お願い。飲まないと窒息するわよ」
――飲むわけにはいかなかった。しかし母乳は容赦なく注ぎ込まれた。
 そして母乳は単に量と勢いの力だけではなく、その魅力的な味と香りに
よっても、私の中に入り込もうという圧迫を加えた。その甘くかぐわしい
香りは、疲れ切った私の肉体に、最上の癒しを提供してくれることを
はっきりと約束していたのだ。しかしまた、ただの一口、その一口で、
私の人間としての人生は終わってしまう、そうに違いない――そんな予感も
はっきりとあった。困惑した私はふと上を見上げた。この上なく愛らしい
少女の目が、心からの情愛を込めて、心配そうに私を見守っていた。
 ――その目を見たとき、私は決意を固めた。

 予感は当たった。運命の一口を飲み込んだとき、私の世界は一変した。
人間社会の思い出が急激に色あせ、自分が抱かれている少女の姿まるごとが、
この上もなく美しいものであることに突然気付かされた。ひ弱なままの自分の
肉体がとても恥ずかしくみじめなものに思えてきた。そしてその美しい少女の
温かな皮膚に密着している自分の性器が、自分でも信じられない固さと大きさに
肥大してきたのを感じた。
228"Abominable"妄想2・チョーンシー卿編(4/4):2007/11/22(木) 20:50:42 ID:dNrMQnwj
「あらま、気が早いわね。本当は何日かかけてちゃんと身体を作って
からじゃないと、わたしが満足できないんだけど、でも、いいわ!
ここでわたしの大事なものをあげる。わたしのダーリン!」
 少女は私を腹の上に乗せたまま、その八フィートの美しい巨体を床に
横たえ、両足を開いた。私は夢中で彼女の腹部を下に移動した。彼女の
胴体は海のように広く、私は這っても這ってもなかなか目的地に
着けなかった。だがやがて、わたしの局部にねっとりした粘膜が触れた。
私は幅が十センチ以上はありそうな大きな開口部を目で確認してから、
そこに自分のものを挿入した。どこまでも続く粘膜の壁にわたしの陰茎は
柔らかく包まれた。わたしはあまりにも小さい自分の分身に歯がゆさを
覚えながら、遂には陰嚢までをも膣内に挿入した。感じたことのない快感が
全身を走り、次の瞬間私は果ててしまった。
「…ごめん。分かっていたことだけど、とてもじゃないが今の僕では
まだ君のつれあいとしての役目を果たせないみたいだ…」
「いいのよ!ちょっと待てばすぐにあなたも一人前になれるわ。わたしは
ほんのちょっと我慢すればいいの。お腹を壊さない程度に、コケを
たっぷり食べて、早く大きくなってね。人間だったときの思い出も、
すぐにどうでもよくなっていくはずよ」
「そうするよ!」
 そういって私はまた少女の乳房をくわえた。
「いやねえ。コケを食べた方が成長は早いのに…」
 そう言いながらも少女はくすくすと笑うのだった。
<了>
229maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/11/22(木) 20:54:49 ID:dNrMQnwj
お粗末です。ちょっとあっさりし過ぎ、というか
展開早すぎな気もしました。すみません。

そう言えば昨日の分でメートルとフィートがごっちゃになっていましたが
どっちかに統一した方が自然でした。

あともう一つ、チョーンシイ卿の妹が兄を追ってヒマラヤに来る、という
すでに原作とは完全に無関係の続編を、来週くらいには投下したいです。

それでは…
230 ◆eJPIfaQmes :2007/11/23(金) 00:23:25 ID:9xCNfDPc
ご感想をくださった皆さん、好意的なご意見の数々ありがとうございます。
別の短めで軽い話を考えつきましたので、来月くらいにはお見せできるくらいまとめられれば
と思ってます。

>>198さん
連絡をいただければテキストファイルをお送りいたします(>>128)。
明日ちょっと家を空けますので返信は土曜の晩以降になりますが。


>maledictR18さん
どちらも堪能させていただきました。秘薬の解釈がいいですね(ローラが養分を与える
ところとか、とどめの一撃という感じでした)。精神の変わりようも、あの設定ならこうなる
だろうなと大いに納得させられました。
妹編も楽しみにしております。
ブラウンは高校時代にちょっと読みました。「熊の可能性」、変身が一時的だったため
あくまで「可能性」なところがラストシーンの不安を醸し出していていいですよね(そこが
変身ものとしてはやや残念でもあるわけですが)。
231maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/11/24(土) 15:44:32 ID:Ja9Klxzc
>>230◆eJPIfaQmes様
すごい職人さんから好意的なコメントを頂けてうれしいです。
(ちなみに>>211は自分でした)

「熊の可能性」はよくこんなこと思いついたなという上質のSSですよね。
「他にどうしようもなかった」という悲劇的状況へのもってきかたがうまいと思いました。
このへんとか↓
「二人は顔面蒼白、ガタガタふるえながらタクシーで家に帰った。家に着くと、二人は、
二度とこの話をしないことを約束し合った。彼としても、ああする以外には妻の命を
救う手段がなかったのだ」
ただ、あまりにきれいに完結しているので、これをさらに拡げるのは難しそうですね。
せいぜい、熊に変身する娘が生まれるとか、そのくらいかな
232名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 17:15:45 ID:8tkTFf7U
熊のままでいいさ
233maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/11/28(水) 15:40:40 ID:3qJVTBex
>>232様、なんか、つきぬけてますね

スレ保守用・イエティ妄想話の第三話です。今回は15レス分とやや長いです。
チョーンシー卿にビオレッタという妹がいたという設定を脳内で作りました。
向こうの人の名付けの慣習とかにはさっぱりなので、検索で見つけた
下記資料をもとに、実在した「チョーンシー」さんの妹の名を勝手に借りました。
ttp://www.rootsweb.com/~nyoswego/military/csmith.html
なおPINKBBSなので"R18"付きのHNで投下しますが、
直接エロいシーンは多くありません。ご了承を
234"Abominable"妄想・ビオレッタ編(1/15):2007/11/28(水) 15:41:56 ID:3qJVTBex
 兄がヒマラヤの奥地で消息を絶ってから十日あまり。兄自身が行方不明の
映画女優を捜索するといって飛び出していったあげくの遭難だ。
「ミイラ取りがミイラに」。そんな不吉な言葉は、兄の捜索を決意した
私自身にはね返ってくる。自分自身も「ミイラ」になってしまうかも
しれない、という漠然とした不安をぬぐえないまま、わたしは旅路に着いた。

 例の女優や兄が遭難した地域に関しては妙な噂が聞こえてきた。
曰く、その地域には半人半獣の怪物が生息している。女優はその怪物に
連れ去られて消息を絶った。あるいはさらに、行方不明者は皆、
何らかの仕方でその怪物の仲間へと肉体と精神を変貌させられ、
怪物たちとの間で子孫を作り生きながらえているのだ、等々。
 わたしは生理学を専攻した後、神話学や民族学のフィールドワークに
進んだ、というちょっと変わった経歴の学者だ。そして、神話や民話に
登場する変身譚の少なくともいくつかには、何らかの生理学的な説明が
つくのではないか、という、文系の学者からも、理科系の学者からも
ろくに相手にされない異端の学説を何とか論証しよう、という課題に
数年来取り組んでいる。当家の財力だけを頼りにした孤独な研究だ。
「金持ちの道楽」という冷たい目だけがわたしに注がれていた。
 実のところ、今回の捜索行に参加した背後に、奇怪な噂に対して
学者としての好奇心をかき立てられた、という動機がなかったと言えば
嘘になってしまう。しかし兄の身の上を案じる気持ちがないわけでは
ない。むしろその気持ちが強いからこそ、自分が同行せねばならない
という強い義務感を覚えたのである。噂が本当で、女優や兄や他の
犠牲者たちが人外の怪物に変わってしまった、というのが万一事実で
あるとしたら、学者としてその原因を探り、科学知識を駆使して彼らを
救い、どうにかして元の人間に戻すことができるかもしれないのは――
少なくともそれに最も近い立場にあるのは――誰をおいても自分しか
いないはずだ、という使命感があったのだ。
235"Abominable"妄想・ビオレッタ編(2/15):2007/11/28(水) 15:43:00 ID:3qJVTBex
 捜索隊は、小規模だが整然と組織立てられたチームを編成して、
該当地域の系統的な調査を始めた。調査法の考案と実質的な指揮は
わたしが行っていた。気象が不安定でただでさえ道に迷いやすい地域
だったので、用心深く、念入りで、確実な結果の出る方法が必要だと
思われたのだ。仮にこの地域が怪物の生息地域だとしたら、この網に
何かは引っかかるはずだ。そしてそこから怪物の棲み処を絞り込めれば、
やがて兄や例の女優が発見されるかも知れない。調査隊の誰にも
表だっては言わなかったが、わたしにはそのような見通しがあった。
 だが、綿密に張り巡らされた網に、兄や女優の足どりはもちろん、
怪物の痕跡すらまるで引っかからなかった。もちろん、実のところ、
ネス湖の怪物にしろ他の地域の雪男にせよ、これは「よくあること」
だった。恐らくこの地域の噂も単なる噂に過ぎず、女優の誘拐は熊か
何かの見間違い、兄は悪天候によるごく普通の遭難に巻き込まれた
だけで、二人とも今頃は命を落としているだろう、というのが多分
現実なのだ。わたしは「夢想」が「現実」に裏切られる、何度目かの
苦い思いを味わいつつあった。ただ、今回のそれは兄の命と
結びついていた「夢想」であるだけに、ショックは大きかった。

 異変は、捜索の打ち切りも間近に迫った頃に起きた。ごく穏やかな、
この地域には珍しい天候の日に、捜索隊の人間が一人、忽然と姿を
消したのだ。そしてその翌日には、同じような晴天の下、捜索隊の
メンバーの四分の三分が、ほぼ同時に消息を絶った。
 そしてそのさらに翌日、遂に私自身が彼らと同じ運命をたどることに
なった。ほぼ最後になる区画を自ら調査していた私は、毛むくじゃらの
奇怪な生物に捕らわれてしまったのである。
236"Abominable"妄想・ビオレッタ編(3/15):2007/11/28(水) 15:44:04 ID:3qJVTBex
「この場所はあんたのお仲間に聞いたんだ。そいつは俺たちの仲間に
なってすぐに、あんたらの行動の予定を教えてくれた。実はそいつを
捕まえるまでは、俺たちはあんたらから隠れ続けるつもりだった。
なんだか危なそうな気配を感じたからな。でもそいつの話を聞いて、
これは一挙に仲間を増やすチャンスじゃないかということになったんだ。
あんたもすぐに俺たちの仲間にしてやるよ」
 雪男は嬉しそうに、そしてわたしへの善意に満ちた声でそう話しかけて
きた。「仲間にする」とはつまり、私を雪女にするつもりだ、という
意味なのだろう――他のメンバーがそうされたらしいように。それを
理解したわたしは激しく怯えた。
 しかしまたわたしは、雪男の話し方に何となく聞き覚えがあることに
気付いた。わたしはまさかという気持ちと共に、どうにか首をひねって
雪男を見上げ、そして慄然として思わず叫び声をあげた。
「兄さん!?チョーンシイ兄さん!」
「ん?誰だ?」
「ビオレッタよ!兄さんの妹の!」
「…ああ、そういえば、おまえか。懐かしいな。また兄弟二人で一緒に
暮らせるのか。ちょっとうれしいな。実は俺が殺してしまった雪女の
つれあいになってくれる女を探していていたところなんだ。おまえなら
ぴったりだ。ぜひ紹介したい。あいつも喜ぶと思うよ」
「やめて!兄さん、どうしちゃったの?あんなに野心家で、いい趣味じゃ
ないけど、大プレイボーイの兄さんが、人間の女性が一人もいない、
こんな山奥でひっそり暮らして、それでいいの?」
「…?…なんだかよく分からないな…?」
「お願い!山を下りて、病院に行って調べてもらって!私も協力する。
私がその身体を元に戻してあげる!」
237"Abominable"妄想・ビオレッタ編(4/15):2007/11/28(水) 15:45:16 ID:3qJVTBex
「よく分からん。なんで病院に行く必要がある?この身体のどこが
悪いんだい?」
「いや!元の兄さんに戻ってよ!私を雪女にするなんて言わないで!
…じゃなければ、せめて私を降ろして!わたしは雪女になんて
なりたくないの!放して!降ろして!」
 わたしは絶望し、せめて自分だけは人間のまま山を下りたい、という
気持ちを兄に伝えようとした。だが、その気持ちは今の兄にはまったく
理解できない様子だった。それが分かったわたしは激しく抵抗を始めた。
何とか、怪物になってしまった兄から逃げだし、キャンプに戻らねば
ならない。そう思った。
 わたしが容易に抵抗をやめないと察したらしい兄は強引な手段に
出た。わたしの衣服をびりびりに破き、わたしを自分の胸に密着
させてこう言ったのだ。
「さあ、もうこれでもうおまえは俺から逃げ出せない。俺から離れたら
一瞬で凍死しちまうからな。おとなしく俺たちの棲み処に来て、仲間に
なるんだ。仲間になりさえすれば、おまえもきっと満足するよ」
 きれいに全裸に剥かれてしまったわたしは、兄の言うなりになるしか
なかった。命が惜しかったし、脱出のチャンスはまだあったからだ。
――そう、一か八かの切り札がわたしには残されていたのだ…。
238"Abominable"妄想・ビオレッタ編(5/15):2007/11/28(水) 15:46:17 ID:3qJVTBex
 怪物は岩肌に開いた大きな洞窟にわたしを連れて行った。本当は
もっと狭い洞窟で一人一人「生まれ変わり」の儀式を行うのが作法
なのだが、今回あまりに「新参者」が多く、少し変則的な対応に
なっている、ということだった。
 中には大勢の雪男や雪女たちが円をなして立っており、その中央には
わたし同様全裸に剥かれた捜索隊のメンバーが座らされていた。
捜索隊のメンバーのほとんどが男性だが、大学院生の女性も数人いる。
ほとんどの者が、すでに体毛が濃くなり、巨大化を始めていた。そして
うつろな目をしながら、何か発光する物質と雪玉を無心に口に運んで
いた。ただし、一人だけ、人間の姿のまま雪男に抱きすくめられ、
枯れてかすれた声で抵抗を続けている後輩の大学院生がいた。
「いやあ!こんな怪物になるのはいや!死んだ方がましよ!殺して!
いいから、わたしを雪山に放り出してちょうだい!」
 自分の美貌にだいぶ自信のありそうな女の子だった。わたしは、この子
ならば当然の抵抗かもしれないな、と思って彼女を見た。わたしと
目のあった彼女はこう話しかけてきた。
「あ、ビオレッタ!とうとうあなたも捕まっちゃったの?あなたも
そのコケだけは食べちゃ駄目よ!食べると雪女になってしまうわ。
 みんな、食べないと外に放り出す、と脅された。最初は命が惜しくて
しぶしぶ従った。でも、一口でも食べてしまうと、止まらなくなって
しまうらしいの。完全にイエティになってしまうまで、コケを食べずには
いられなくなるようなの。それどころか、自分がイエティになることを
待ち望むようになってしまうのよ!
239"Abominable"妄想・ビオレッタ編(6/15):2007/11/28(水) 15:47:35 ID:3qJVTBex
 そこのポールとパティだけは最後まで抵抗していた。でも結局
食べ始めたわ。『二人でイエティになるなら、きっと幸せよ』って
パティが泣きながら言ったの。でも、わたしはいや!雪女になんて
なりたくない!絶対にならない!」
 兄は辛そうな顔をして言った。
「困るんだよな。俺たちは優しい種族だ。どういうわけかコケを拒む
人間に、やむを得ず、裸で雪山に放り出すぞと脅すんだが、本当を言うと
そんな残酷なことはできないんだ。この様子じゃ多分母乳も飲んで
くれないだろうし、下手をすると窒息死しかねない。困った。
あれをやるしかないのかなあ…」
 兄は仲間と目配せをした。それを受けた一人の雪男がコケを自分の
口に運んで、それをよく噛んだ。そして、彼女を抱えているもう一体の
雪男と手分けして、泣きわめいている彼女を四つんばいの状態にして、
肛門を開き、そこに口を当てた。どうやら、口の中のものを
中に吹き込んだ様子だった。
「ひいっ!やだ!!やだぁ!!」
彼女は羞恥心で顔を真っ赤にして、全力をふりしぼって抵抗しようと
したが、イエティの万力じみた腕の力で抑え込まれた。
「やだぁ!!!やだ!!やだ!やだ。や…だ…」
彼女の抵抗心が萎え始めてきたことが、はた目にも手に取るように
わかった。そして眠そうな目になり、先程まで自分を拘束していた
雪男に自らしがみつき、そしてそのまま眠ってしまった。
240"Abominable"妄想・ビオレッタ編(7/15):2007/11/28(水) 15:48:41 ID:3qJVTBex
 兄はそれを見届けてからこう言った。
「多分これで、目が覚めれば他の連中と同じになってくれるはずだ。
俺たちとしても、この方法には抵抗があるんだが、仕方がなかった。
そうそう、紹介しておこう。さっきあの人間の尻にコケを吹き込んだ
あの雪男がおまえのお相手だ。どうだい、いい男だろう?」
 兄同様、自分には単なる「毛むくじゃらの怪物」にしか思えなかった。
困惑と恐れに包まれているわたしの目を兄は見すえ、こう続けた。
「…さて、どうするね?と言っても、おまえに選択肢はないんだが…」
 そう言うと、兄はヒカリゴケを差し出した。兄の言うとおり、わたしに
選択肢はなかった。わたしは無言でそれを受け取り、口に運んだ。

 一口でわたしの世界は一変した。沸き上がる熱い塊がわたしの肉体を
変貌させ、同時にわたしの知性と感情の構造を急激に作り変えていった。
目に映る人間やイエティの姿が、コケを口にする前とは全く違った
ものに見え始めた。
「ああ…熱い!…熱い!…」
それを聞いた兄はわたしを、イエティの作る輪の中央にある雪の山の前に
運び、降ろした。わたしは夢中で雪を頬張り、火照った身体を冷まそうと
した。間もなく急激な睡魔に襲われ、わたしは眠りに落ちた。
 翌日も、翌々日も、わたしは洞窟の中でひたすらヒカリゴケを食べた。
わたしの体毛はどんどん濃くなり、肉体は大きく、頑強なものへと
変貌していった。そしてわたしを取り囲むイエティたちの優しさや
仲間意識を敏感に聞き取ることのできる「心の耳」のようなものが
生まれ、日増しに育ってきたのを感じた。そして、今やわたしは
早く一人前の雪女になりたい。なってあの人と結婚したい、という
強い願望に衝き動かされていた。人間だった頃の思い出は急速に
色あせていった。
241"Abominable"妄想・ビオレッタ編(8/15):2007/11/28(水) 15:49:44 ID:3qJVTBex
 わたしが一人前の雪女として皆に迎え入れられる日が来た。最後まで
抵抗したあの女の子とわたしを、すでに成熟した捜索隊のメンバーを
含むイエティたちが囲み、祝福した。それからそれぞれの配偶者が
前に出て、婚姻の誓いを結び、そのまま「初夜」の契りに向かう、
そういう段取りだった。
 わたしはそのとき、これから永久に雪女として生きていくことへの
喜びに包まれていた。しかし突如、わたしの心に人間としての意志が
舞い戻った。わたしはイエティたちを振り払い、貴重な研究材料である
あのヒカリゴケをひとつかみ握りしめると、そのまま逃走した。
イエティたちは唖然としていたが、わたしを無理に追いかけることは
しなかった。彼らからは「仲間への信頼」の感情が伝わってきた。
わたしはその感情に奇妙な罪悪感を感じながらも、頭の中の調査用の
地図を頼りに、兄がわたしを捕らえた地点へ、そしてキャンプへと
駆けていった。

 兄に捕らえられたとき、わたしは兄に気付かれないように、
ある「切り札」を使っていたのだった。
 わたしは人類学のフィールドワークを進めるかたわらで、人体の
「変身」に関する生理学の研究も続けていた。
 わたしの仮説は、古代より伝わる人間の「変身」の背後には、人類の
染色体上にある未知の遺伝形質の発現が関与しているのではないか、
というものだった。仮説に基づいて、わたしは「変身」の生理学的
メカニズムと、それを左右する脳内の分泌線を、あくまでも一つの
ブラックボックスとしてではあるが、特定し、その部位に作用する
「逆変身薬」とでも言うべきものの試作品を完成させていた。
予測通りの効果が現れれば、この薬は変身してしまった人間を元の
人間へと逆向きに「変身」させる働きがある。もし未変身の段階で服用
した場合、完全に「変身」が終わった瞬間から「逆変身」が始まる。
242"Abominable"妄想・ビオレッタ編(9/15):2007/11/28(水) 15:51:15 ID:3qJVTBex
 変身した人間がいない以上、そして「変身」そのものを引き起こす
すべを欠いていた以上、この薬の効能を検証する手段はなかった。しかし
今回の捜索にこの薬が役に立つに違いないと考えたわたしは、この薬を
何があっても安全な場所に収めて調査に向かった――すなわち
わたしは、薬を入れた容器を秘部の中に忍ばせていたのである。
 わたしは当初、兄に対してこの薬を投与するつもりだった。だが、
兄の変貌を思い知らされ、そして、それなりに「幸せそうな」兄の
姿を見てから、わたしは自分自身でそれを服用して、来るべき「変身」
に備えることに決めた。そうしてわたしは、わたしを抱えて疾走する
兄に気付かれないようそっと膣内の薬びんを取り出し、服用したのだった。
 人間の心は「未来」を志向し、先取りする。ひとたび肉体が
イエティの心に向かい始めると、体より先に心が未来を先取りする。
同様に、イエティの心にひとたび人間の心が戻り始めると、まだ
心が十分に人間の頃と同じ状態に戻るはるか以前から、心全体が
人間としてふるまうようになる。――わたしの二度の急激な「転心」は
多分そんな風に説明できるだろう。
 山を疾走し、キャンプに戻る途中で、わたしの肉体は急速に人間の
体に戻りつつあった。体毛が減り、肉体の矮小化が進んだ。変身の
ための「経路」が一度切り開かれているため、進行が早まったのだろう
と思えた。そして肉体の変貌と共に体内の熱が奪われ、恐ろしい寒さが
わたしを包み始めた。筋力が減り、駆ける足の速度も遅くなってきた。
ようやくキャンプが見えたとき、わたしの意識は朦朧としていた。
どさりとテントに倒れ込んだ全裸のわたしに、残り少ない調査隊の
メンバーが気付いたらしく、飛び出してきた。仲間に抱えられながら
わたしは意識を失った。
243"Abominable"妄想・ビオレッタ編(10/15):2007/11/28(水) 15:52:27 ID:3qJVTBex
 わたしが捜索隊唯一の生き残りとして生還して、もうじき一年が経つ。
この間わたしは、実質上わたしが「相続」する形になったアサートン家
当主である兄の財産の整理と、生化学と人類学に属する、小さな論文の
作成に追われていた。だがいずれの作業もようやく終わりを迎えた。
 わたしは何通かの招待状を書き、それから旅支度を始めた。
二通は生理学と人類学の指導教官で、二人ともその分野の権威である。
いずれも最初はわたしを高く評価し、可愛がってくれたが、わたしが
異端的な研究を始めて以来、距離を置かれるようになり、数年間連絡が
途絶えていた。わたしも、もはや彼らを尊敬などしていなかったが、
今のわたしには彼らの社会的地位が必要だったのだ。わたしは彼らに、
わたしの招待自体を部外秘にすること、旅費と滞在費はすべてわたしが
もつこと、さらにそれ以上の報酬も約束すること、を招待状で告げた。
社会的名声の割に不遇をかこっている彼らが乗ってくるに違いない
金額だった。もう一通は政界にも顔の利く世界的な製菓会社のオーナーで、兄の友人だった。懇意にしていたし、兄の死の真相を現地で知らせたい、
と伝えたら、すぐにオーケーの返事が来た。
 一週間後、わたしは三人の招待客と共に、オブリモフ山の中でも
比較的アクセスしやすい地域にある山小屋にいた。そこでわたしは
自分の計画を彼らに話した。
244"Abominable"妄想・ビオレッタ編(11/15):2007/11/28(水) 15:53:33 ID:3qJVTBex
「今回のこの旅行の真の目的について、わたしは皆様にお話ししない
ままここまで来ました。これからそれをお話ししたいと思います。
 一年前の事故で、わたしは唯一の生存者として帰還しました。そして
ローラさんと兄の遺体を発見した後、悪天候の中、私以外捜索隊全員が
クレバスに転落し死亡したという報告をしました。囁かれてきた
イエティの存在に関しては一貫して沈黙を守ってきました。しかし、
今こそ沈黙を破り、皆様には虚言の罪を懺悔せねばなりません。実は、
不幸な事故に巻き込まれたローラさんを除けば、兄も、捜索隊の内の
誰も死んでなどいません。彼らはイエティに変貌してこの山の奥地で
生き続けています」
 兄の友人の顔には困惑が、教授たちの顔には嘲笑の色が浮かんだ。
わたしは構わず続けた。
「わたしはイエティの集落で暮らし、何体かのイエティをインフォーマント
として、ごく簡略な人類学的調査を行いました。さらにイエティの生理学の
秘密に迫る、特殊な生化学的物質の入手に成功しました。驚くべきことに、
彼らの祖先はその物質によって寒冷な高地に適した肉体に変貌した人間
であり、そしてその集落の成員の多くは、近年になって同じ物質によって
イエティ化した登山者だったのです。英語によって簡単に意思疎通できた
のも、それが理由です。
 現在、捜索隊のメンバーはみなイエティとしての生活に満足し幸福を
感じています。…そして、それは近い未来の人類の姿になるはずなのです。
わたしもそれを選ぼうと思っています。ただ、わたしには、人類すべてを
イエティ化させるための準備の時間が必要でした。そのため、未来の
仲間に一年間の暇乞いをし、人間社会に戻り各方面での準備を整えました」
245"Abominable"妄想・ビオレッタ編(12/15):2007/11/28(水) 15:54:38 ID:3qJVTBex
 わたしは、誘拐による強制的なイエティ化、という実態には
触れなかった。それは、人類のイエティへのいわれのない抵抗感
さえなければ、本来は必要ない、やむを得ぬ措置に過ぎないからだ。
同じ理由で、キャンプに残っていた捜索隊のメンバーを、わたしが
自分の排泄物で栽培したコケによって、本人の同意を得ないまま
イエティ化させ、イエティの集落へ導いたことにも触れなかった。
彼らは結局、イエティ化した後、わたしの処置に深く感謝したからだ。
そしてわたしは、わたしが一度イエティ化した後に人間に戻ったこと
にも触れなかった。そのようなことが可能である、という知識自体を
なるべく隠しておく必要があったからだ。だから「逆変身薬」の
研究データと試薬すべても、とうの昔に処分しておいた。
 わたしは話の核心に入った。
「気象学者の共通見解によれば、地球はそう遠くない未来、再び
氷河期に見舞われます。わたしの尊敬する気象学者の研究では、その
時期は予想されているよりもはるかに早く、十年以内に到来し、そして
その期間は二畳紀の大氷河期に匹敵する長く厳しいものになるのだそう
です。人類はなんらかの手だてを講じねばなりません。そしてわたしの
見るところ、イエティ化のみがおそらく唯一の賢明な選択肢なのです」
 三人は困惑も嘲笑も通り越し、唖然とした顔でわたしを見ている。
「ここに、人間をイエティ化させる物質の分析結果をまとめた論文と、
イエティの精神生活に関する論文があります。もうじきイエティになる
わたしには、理解できなくなる文書です。これをもとに、皆様には、
ある事業に加わってもらいます」
246"Abominable"妄想・ビオレッタ編(13/15):2007/11/28(水) 15:55:39 ID:3qJVTBex
 わたしの言葉に反応した生理学者が、ようやく言葉を発した。
「『もうじき理解できなくなる』とはつまり、イエティになると知能が
低下する、ということかね?君は…よくわからないがそんな猿みたいな
ものに変わることが人類の幸福だというのかね?しかも君自身が、
喜んでそんなものになろうと、そう言うのかね?」
「知能が低下するのではありません。知能の質が変化するのです。
イエティはたしかに複雑な科学技術の理解、あるいは理論的思考全般
を不得手とします。しかし彼らには、それを補って余りある豊かで
すぐれた倫理的素質があります。イエティは揺るぎない同胞意識に
よって結びつきあい、そして罪を憎んで人を憎まない、卓抜な公平さと
倫理的分別を持ち合わせています。それは現在の人類には決して
見いだされない、素晴らしい徳性です。
 私見では、先の戦争での核兵器の登場に象徴されるように、科学技術の
これ以上の進歩は人類に不幸しかもたらしません。氷河期に抵抗しようと
して、科学技術に頼り、有限な化石燃料を燃やしたり、危険な核反応を
利用したりしても、人類の未来はそう長いものではないでしょう。
 だからわたしは、アサートン家の財力をつぎ込み、今のうちに人類を
総イエティ化するための計画の青写真を、この一年で完成させました。
先生のお二人にはそれぞれ、技術部門と世間への啓蒙活動の部門の
責任者になって頂き、社長さんには政策面と実働部門を担当して頂いて、
計画を推進してもらいます。詳しい内容は三つ目の文書に記して
あります。計画自体は我ながら周到なものだと思います。皆様はただ
その社会的な影響力を利用し、計画を実行して頂ければよろしいのです」
247"Abominable"妄想・ビオレッタ編(14/15):2007/11/28(水) 15:56:42 ID:3qJVTBex
 言うべきことを伝え終えるとわたしはドアの前に進み、衣服を脱ぎ
始めた。三人の男性の反応に、もはや興味はなかった。そして全裸に
なると例のコケから抽出した文字通りの「秘薬」を口にした。あの
懐かしい熱が発生し、すでに「経路」のできているわたしの肉体は急激に
イエティ化の道を戻り始めた。用意しておいたカロリー補給用の食用油と
水とを交互に飲みながら、わたしはかつての恩師に別れを告げた。
「それでは、わたしは懐かしい仲間の元に帰ります。お二方の飲んだ
コーヒーには、この秘薬を薄め、調整したものを混ぜさせてもらい
ました。心身の変化は緩慢に、一年ほどかけて進みますが、「同胞愛」
だけは急速に芽生えるはずです。そろそろお二方も、人類のためではなく、
イエティの利益のために行動したくなってきているはずです。
同じ方法で仲間を増やし、速やかに計画を進めて下さい。一年しか
ありませんからね。――それではまた、いつか、氷河期の世界で、
お会いしましょう!」
 いつの間にか穏やかな仲間意識を湛えた目でわたしを見始めていた
三人の男性はわたしの依頼を快諾し、涙を流してわたしを見送ってくれた。
わたしは豊かな毛に覆われた太い足で雪を踏みしめ、兄と愛しい婚約者の
待つ、あの集落へ全速で駆けだした。
248"Abominable"妄想・ビオレッタ編(15/15):2007/11/28(水) 15:57:46 ID:3qJVTBex
 ――二十一世紀に生きる読者諸氏には周知のように、その後氷河期は
到来せず、地球はむしろ温暖化に向かっているという。
 ビオレッタの計画が成功していたならばどうなっていただろう?
総イエティ化した人類は、生命を脅かす温暖化に抗する科学技術を失い、
緩やかな滅亡の道を歩んだだろうか?それとも、科学技術を失った時点で、
温暖化自体が発生せず、むしろビオレッタが尊敬していた気象学者の
言うとおり、地球はイエティに好都合な環境に向かっていたのだろうか?
 それは誰にも分からない。なぜなら、人類を救う使命を胸に秘めた
三人の男性は、帰路の飛行機の墜落によって帰らぬ人となり、ビオレッタの
準備した計画も、日の目を見ないまま埋もれていったからである。
 だが、これらの問い自体、雪女となったビオレッタにはもうどうでも
いいことだっただろう。イエティはそのような遠い未来のことや
「もしも」の可能性には気をもまない生き物なのである。イエティ化に
よる人類救済、という計画も、たしかに人間ビオレッタには大きな
関心事であったが、雪女となったビオレッタには何の関心もひかない
ものに変じたはずである。そして彼女は、兄や兄の嫁や愛しい夫と共に、
オブリモフ山の片隅で子をもうけ、ときに登山者を誘拐しながら、
ほんの少しの仲間を増やしつつ、幸福に生きたに違いない。
<了>
249maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/11/28(水) 15:59:27 ID:3qJVTBex
…以上、お目汚し失礼いたしました。
もう完全にブラウンじゃないですね。
むしろ細野不二彦の『バイオハンター』とかその辺みたいな話になってしまいました。
あと、最後の方のビオレッタの行動が何となくショッカー怪人じみているのは、
書き手が特撮板出身だということでご容赦下さい。

それでは…
250maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/11/28(水) 17:03:29 ID:3qJVTBex
追記。最初、最後の場面の「兄の友人」がいなかった関係で、
「三人」が「二人」になっているところがあります(>>247と、
もしかしたら他にも)。すみませんが訂正しながら読んで下さい。
251名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 06:10:24 ID:CPUisHy/
GJ!
温暖化に備えて、高温に強い生物に、人類総TFしないかなぁ、と思った。
そんな動物、思い付かないけど。
252名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 10:36:18 ID:9e4C3u1+
高温ね
爬虫類系かな?トカゲとか蛇
253名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 15:53:06 ID:FODBCrn5
虫も強そうだな。
254名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 19:23:57 ID:lu2QZdDk
恐竜時代への回帰ってのはどうだ? なお、ゲッター線の照射はご遠慮ください
255名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 01:03:44 ID:A8YjOI7o
じゃあゲッターにあてられて進化する人間でw
256名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 02:07:34 ID:916X6SK5
>>255
「ゲッター線」じゃなくてゲッター(というかケン・イシカワ)にアテられてどうにかなるとw
257名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 09:27:05 ID:e+lh1hPo
そりゃあもう、究極の異形化ともいうべきゲッター艦隊への道を…
258名無しさん@ピンキー:2007/12/04(火) 01:59:10 ID:2oOLiUCo
ストラトスフィアの日記絵が実に良い感じだった
259名無しさん@ピンキー:2007/12/04(火) 02:03:16 ID:DvzqMWNH
遅ればせながらイエティ小説三部作見させてもらいましたが
なんかもう普通に金出せるレベルなんですけどw
260名無しさん@ピンキー:2007/12/04(火) 06:07:25 ID:kLTqK76J
蝿といいイエティといい、このスレはレベル高いよな。
でも自分もやってみようと試しに書いてみても、何かの二番煎じになっちゃうから困る。
261名無しさん@ピンキー:2007/12/04(火) 15:20:17 ID:DvzqMWNH
>>260
YOU書いちゃいなYO!
262maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/12/04(火) 18:51:50 ID:ykVHXiZ3
>>259様、>>260様、好意的なコメントありがとうございます。
あと、>>260様は>>261様に同意です。それ気にすると何も書けないかと(爆

で、また一つ投下させて頂きます。前のレスから間が空かず、
あまり「保守用」にならないのですがご容赦下さい。
 前から妄想のネタだった「猿神退治」のSSです。
 ちょっと調べたら猿神退治の伝説には何パターンかあって、
大きく分けてしっぺい太郎という犬(狼)が猿を退治するバージョンと、
侍が退治するバージョンとがあるようですが、ここでは後者をベースに、
色々な話が混ざったものになりました。一番参考にしたのは下記のリライトと、
ttp://pleasuremind.jp/COLUMN/COLUM063.html
上記リライトが出典としている『今昔』と『宇治拾遺』の三つの話
(上記リライトは二番目の話がもと)です。
 『今昔物語集』巻二十六第七(美作国神依漁師謀止生贄語第七)
 『今昔物語集』巻二十六第八(飛騨国猿神止生贄語第八)
 『宇治拾遺物語』第百十九(吾妻人、生贄をとどむる事)
元ネタとして上記リライト版を予めお読み頂くといいかもしれません。
(なお原典と読み比べてみると上記リライトは結構脚色して
あるようですが、下記SSはそのリライト版の解釈に
乗っかって書いてしまっているところがいくつかあります)
あと、萌えるシチュエーションなのでひょっとすると優れた先人のSSが
あるかもと思ったのですが、よく調べていません。

なお、自分は別に猿に特別萌えるというわけではないです。
猿化が続いたのはたまたまです。(改造ネタではハチとかホヤとか
サザエとかカツオとかの怪人への改造も書いています。)

分量は16レス分、だいたい10000字くらいです。長めですみません。
263猿神退治異聞(1/16):2007/12/04(火) 18:52:55 ID:ykVHXiZ3
 今は昔。男がいた。男はもと武士であったが都で食い詰め、
生きる道を求めて旅に出たのだが、旅の途中道に迷い、見知らぬ村に
迷い着いたのだった。
 村のある家で男はなぜか盛大な歓待を受け、やがてその家の美しい
一人娘の婿になることを勧められる。娘の器量に惚れた男は、彼女と
結婚しこの地に骨を埋めることを選ぶ。周囲がお膳立てした婚姻で
あるとはいえ、二人はたちまち相思相愛の仲睦まじい夫婦となる。
 二人が結婚してから二ヶ月。二人の情愛が日増しに深くなりつつ
あった頃、妻は夫に奇妙な願いをする。
「もと武士のあなたに、一つお願いがあります。皆が寝静まった深夜、
わたしに刀の稽古をつけて頂きたいの。誰にも気付かれずに」
 夫は首を傾げながらも妻の言うことを聞き、武術の訓練を施した。
妻の熟達はめざましく、夫自身の技量を越える勢いだった。
 さらに数ヶ月が過ぎた。夫婦を取り囲む周囲の目が、どことなく
ぎこちないものに変わってきた。そして妻の顔には日増しに憂いの
色が濃くなっていた。辛そうな妻の様子を放っておけなくなった夫は、
妻に訳を聞いた。妻はこの村の恐ろしいしきたり、そして二人の婚姻の
背後にある恐るべき秘密について語り出した。
「この村は恐ろしい氏神様を祀っています。神様は年に一度、若く美しい
生娘のいる家に『白羽の矢』を立てます。その家の娘はその日が来ると
山にある祠に人身御供として差し出されます。娘はそこで神様に
ばりばりと食べられてしまうそうです。実際、翌日見に行ってみると
娘を入れた細長い櫃が血まみれになって残されているだけで、娘は
どこにもいなくなっているのです。
 昔、このしきたりを破ったとき、天変地異が生じ、生娘を三人も
差し出さなければ収まらなかったそうです。それ以来、このしきたりを
破る家はどこにもいません。
264猿神退治異聞(2/16):2007/12/04(火) 18:54:08 ID:ykVHXiZ3
 そして今年「白羽の矢」がこの家に立ちました。うちの父はなんとか
わたしを救いたいと思い、しきたりを破らずにわたしを救うための手を
あれこれと考えていました。そのとき、あなたが現れたのです。父は
わたしがもはや生娘でなくなるならば、白羽の矢は別の家に立つのでは
ないか、と考え、あなたとの縁談を進めました。さらに父には、新たな
白羽の矢がどこにも立たなければ、わたしの代わりにあなたを人身御供
として差し出すつもりもありました。詭弁ですが『未だ男を知らざる
その家の者』というしきたりに、あなたならば当てはまると考えての
ことです。結婚前にあなたが男色家ではないかとあれほど念を押した
のはそのためです。未だ新たな矢は立たず、父はあなたを人身御供に
差し出すつもりになっています。
 わたしは当初父の提案に従うつもりでした。わたし自身の命が惜しい
からというより、わたしが死ぬことで父を悲しませたくない、という
理由からです。しかしわたしはあなたを愛してしまいました。あなたに
死んで欲しくありません。だからわたしは決意をしたのです。わたしは
人身御供として櫃に籠もり祠に向かいます。とはいえわたしはむざむざと
食べられるつもりはありません。人を食う恐ろしい氏神様など、
いつまでも崇め奉るものではないのです。わたしは櫃に刀を持って
入り、お教え頂いた武術で、氏神様を退治することに決めたのです。
 …万一、この村を天変地異が襲ったら、二人で村の外へ逃げましょう」
 気性の荒い妻だった。夫は、妻の言い分はもっともであると深く同意
したが(妻の思想に影響を与えたのは異郷人たる夫その人であった)、
そのような仕事は男の仕事である、わしが人身御供となり氏神と称する
怪物を退治してやる、と食い下がった。ならば武術で勝負致しましょう、
と妻。そして二人は武術の腕比べをし、結果妻が勝った。
265猿神退治異聞(3/16):2007/12/04(火) 18:55:12 ID:ykVHXiZ3
 娘は刀のことは内緒にしながら、夫に情が移ったので自分が約束通り
人身御供となるとの旨を父に告げた。父ははもちろん大反対し婿殿を
なじりさえしたが、娘の決意は変わらなかった。娘が、
「あのような詭弁が神様に通りますか!予定どおりわたしが人身御供に
なれば村は救われるのです」
と「正論」を吐くと、父は沈黙せざるを得なかった。新たな白羽の矢が
どこにも立っていない以上、たとえ娘がもはや生娘でないとしても、
娘を差し出すことが氏神の意向であることは明らかだった。
今のところ天変地異の生じる気配のないことが、生娘でない女を
差し出す、という前代未聞の対応に承認を与えているとも解釈された。

 人身御供の晩が来た。男の妻は衣服をすべて脱ぎ、櫃の中に入った。
股の間に一振りの刀を忍ばせているのは彼女と夫のみが知る秘密だった。
 妻を祠まで運んだ村の者が大あわてで退散し、夜も更けてきた。
 櫃の中で耳をすませている妻に、村の者の足音とははっきり異質な
大勢の生き物の足音が響いてきた。大勢の生き物の中に、ひときわ
大きな足音が混じっており、その巨大な足の持ち主こそ「氏神様」
と称されている怪物に違いない、と妻は思った。
 やがて櫃のふたが開かれ、月夜に照らされた異形の影が姿を現した。
それは白い毛むくじゃらの巨大な猿のような生き物だった。
 ふたが開くまで、妻の心には村を因習で縛り、理不尽な人身御供を
強要する怪物への怒りが支配していた。だが、いざその恐ろしい姿を
目にするや、彼女の心に怯えが生まれた。あるいはその怯えは、
異郷人である夫にならば生じなかった筈の、幼い頃から無意識に
植え付けられていた宗教的な畏怖の感情だったのかもしれない。
266猿神退治異聞(4/16):2007/12/04(火) 18:56:15 ID:ykVHXiZ3
 股に挟んだ刀に手をかけるタイミングを逸してしまった妻に、怪物が
襲いかかった。だが、言い伝え通り、頭からばりばりと食われることを
覚悟した妻を襲ったのは、怪物による強烈な接吻であった。そして
怪物は妻にのしかかり、妻の乳房と秘部にその無骨な指を伸ばし始めた。
 ――まだ勝機はある!――妻は気を取り直し、恐怖心の薄らいだ心で
反撃の機会を窺い始めた。――この怪物はすぐにわたしを食らう気は
ないらしい。わたしを犯し、もてあそんでから食らう気なのだろう。
…あるいは、もしかするとこれまでの生娘たちも食われたわけではなく、
ただこの氏神の正体であろう山猿の棲み処へ攫われただけであって、
彼女たちが残した血は、乙女が始めてのときに出す血だったのかも
知れない――そう考えつつ、妻は股の刀をそっと背中に移動させた。
 だが、妻のそのような冷静な思考はごく短時間で中断させられた。
大猿が、その無骨な指と舌からは想像できないほど繊細で巧みな技を
繰り出してきたからである。
「ああ!あああ!ああああ!あぁあぁあぁ!!」
頓狂なあえぎ声を上げて身をくねらせる自分を、妻は自分自身で
どうすることもできなかった。彼女の脳中は真っ白となり、次いで
薄赤色のもやに包まれた。強烈な快楽の奔流に流されること以外、
何もできず、何も考えられない状態になった。やがて両足が開かれ、
淫液でどろどろになり、信じられないほど柔らかくなった陰門に
巨大な魔羅が挿入された。その並外れた太さにも拘わらず、通常なら
生じるはずの痛みはまるで生じなかった。いや、痛みはたしかに生じて
いたのだが、その痛みは絶大な快楽を増幅するための「薬味」にしか
ならなかったのである。そして怪物が腰を動かすたびに妻の正気は
かき消え、淫猥なる情欲の塊がその隙間を埋めた。怪物の動きに
応じて妻は身をよじった。頭の中で見る間に増大していく淫猥さの
塊が、今や主導権を握り、彼女の肉体を動かしているのだった。
267猿神退治異聞(5/16):2007/12/04(火) 18:57:21 ID:ykVHXiZ3
 だが、妻の最後の正気がまさに失われんとするとき、妻の脳裏に
夫の優しい顔が浮かんだ。そしてそれが妻の反撃の始まりだった。
妻の心の中で、どこか頼りない夫を愛おしむ気持ちが増大し始めた。
自分の操は夫に捧げたのである、という事実を無理にでも思い出した。
その操を暴力によって踏みにじられている、という自分の姿の口惜しさ、
恥ずかしさをどうにか思い起こそうとした。たとえ肉体は弄ばれても、
心まで犯されてはなるものか、と決意した。罪悪感と夫への申し訳なさが
湧き上がり、涙があふれてきた。そうして冷静に醒め始めた目で、
妻は大猿の動きを見すえた。
 大猿はまさに果てようとするところだった。息が荒くなり、目の玉が
裏返った。
 ――今だ!――
大猿が果て、妻の胎内に大量の精液と、それ以外のさらに大量の
「何か」が放出され、妻の秘部の穴より奇怪な色の液体がどくどくと
溢れ始めたのと、妻が刀を大猿ののど笛に突き刺し、頸椎の後ろまで
一気に刺し貫いたのとは、まったく同時だった。大猿は刺された勢いで、
喉に刀を刺したまま櫃の外側に倒れ、絶命した。絶命と共に、急速に
萎縮を始めたその魔羅も秘部の穴から離れた。
 極度の緊張と興奮から解放された妻、虚脱状態に陥ったようで、
仰向けの態勢から容易に動くことができなかった。自分でも危険である
ことはよく自覚していた。大猿は倒したが、その手下である無数の
異形のモノどもが櫃のまわりを取り巻いている。奴らが親玉の復讐を
果たしに、いつ自分に襲いかかってもおかしくない。しかも、今の
自分の手許には頼みの刀も残されていないのである。
268猿神退治異聞(6/16):2007/12/04(火) 18:58:25 ID:ykVHXiZ3
 しかし、いくら身体を動かそうとしても、思うように動いてくれない。
このしびれは、単なる緊張状態の反動ではなく、もっと別の原因に
よるものではないか、と妻は気付いた。そして、精液と共に大量に
注入された「何か」の存在に思い当たり、慄然とした。
 やがてなすすべもなく横たわる妻を収めた櫃の周囲を、異形のモノ
どもがぐるりと囲み、中を覗き込んだ。
 月明かりに照らされた異形のモノどもは、人間よりもひとまわり大きな、
白猿と人間を足したような生き物だった。そして奇妙なことに、その
どれもに、なんとなく見覚えがあった。いずれも、猿に似た顔立ちの中に
そこはかとない気品と色香が感じられた。先ほどの凶暴なオス猿とは
異なり、みなメスであろうと思えた。
 一匹の、一番親しみを感じさせる異形が口を開いたとき、妻はそれが
誰であるか、あるいは、正確に言えば「かつて誰であったのか」を
思い出した。それは――否――彼女は、一歳年上の、去年人身御供に
供された、隣家の娘だったのである。
「よくやってくれたわ!おかげで、わたしたちはこの卑猥な古猿の呪縛
から解放された!古い因習は断ち切られたの!これから、新しい
わたしたちの時代が始まるのよ!」
 猿娘の言葉は、聞いたところ、妻と夫が人身御供の因習に対して
抱いていた思想を代弁しているように思えた。
「わたしたち…去年わたしが加わった、わたしたち野人族は、
とてもか弱い種族。わたしたちだけの力で種族を増やすことが
できない。メスの野人が産むのはオスの野人だけ。種族を永らえさせる
には、定期的に女の人間を取り込まねばならない。人間の里から女を
招き入れ、女をメスの野人に作りかえて、その女に子をもうけさせねば
ならないの。
269猿神退治異聞(7/16):2007/12/04(火) 18:59:30 ID:ykVHXiZ3
 いつの頃からか「氏神の人身御供」が、野人族が人間の女を迎え入れる
ための仕組みとして定着し、長い年月の間、わたしたちと人間の里は
その仕組みを通じて共存してきた。そして年月を経る内に、人間の
側にも、わたしたちの側にも、根拠のない迷信が広まっていった。
 人身御供を差し出さないと天変地異が起こる、というのも迷信の一つ。
百年ほど前にそういうことはたしかにあった。でもそれはただの偶然。
その偶然のおかげで、わたしたちの種族は滅亡の危機から救われた。
でも、その事件はわたしたちの種族にも不幸な迷信と、この凶悪な
古猿の暴力的な支配をもたらした。
 この古猿は百年前の事件の頃から生きながらえ『人身御供は美人の
生娘に限る』という勝手な掟をでっちあげ、さらに、野人化した女が
せっかく産んだオスの野人のほとんどを殺し、メスを独り占めした。
こいつの熟練した性技は女とメスの正気を失わせ、こいつに服従させる
魔力をもっている。特に経験のない生娘はひとたまりもなかった。
わたしだってそう。こいつのせいで幼い息子を奪われたわたしは、
それでも、こいつの前では従順なメスになるしかなかった。
 でもあなたがその時代を終わらせてくれた!古猿を倒したあなたは、
きっとわたしたちを率いて、野人族に新たな時代を切り開く、新しい
親方になってくれるはず。古い因習から逃れ、野人族がもっと積極的に
人間の里に進出する、そんな新しい時代があなたから始まるのよ!」
 櫃の中の妻は、猿娘の話が変な方に向かっているのを感じていた。
「古猿の呪縛を逃れた」と言っても、このメスの野人は人間の姿に戻れる
というわけではなさそうだし、それを望んですらいない。それどころか、
自分を野人の親方にまつり上げようとしている。意味がよく分からない。
「ねえ、どういうこと?わたしは人間よ!なんで人間のわたしが
野人の親方にならなきゃいけないの?」
270猿神退治異聞(8/16):2007/12/04(火) 19:00:31 ID:ykVHXiZ3
「…あなた、まだ自分が人間だと思いこんでいるの?古猿の精液と共に
『勢液』をたっぷり注がれたあなたは、もうわたしたちの仲間に
なりかけているのよ」
 そう言うと猿娘は櫃の中に入り、麻痺した妻の手を取って、妻に
自分の身体を触らせた。腹や太ももに、ゴワゴワした毛が生え始めて
いることに妻は気付かされた。
「足を立てないと櫃からはみ出してしまうことにも気付いたかしら?
背丈も伸び始めているのよ」
 妻は先程までとは全く異質の恐怖にとらわれ、叫び声を上げた。
「いやあ!野人なんていや!元に戻して!戻して!!」
 猿娘は女の立てた膝を開き、上にのしかかりながら言った。
「あらあら、心がまだ人間のままなのね。仕上げをしてあげないと
いけないようね」
 凄みのある、しかし艶やかな声でそう言った猿娘は、麻痺したまま
櫃の中に横たわる女の上で、その肉体を優しく、巧みに愛撫し始めた。
妻は先ほどの荒々しい責めとは全く異質の快楽に、もはや抗することが
できなかった。快楽の波が容赦なく襲いかかり、信じられない速さで
妻は頂点に向かって快楽の山を登っていった。そして妻がこらえきれず
とうとう達したとき、妻の中で何か大事なものが粉々に弾け飛んだ。
 嬌声をあげる妻の肉体から急速に白い毛が伸び、骨格が見る間に変容し、
太い犬歯が生えて、身の丈がさらに増した。同時に妻の中から「人間の心」
が失われ、野人の一員としての、しかもその親方としての強い自覚が生まれた。
 白猿と化した妻が立ち上がったとき、その顔立ちはかつての妻の特徴を
とどめていたものの、その狂気をはらんだ目の中に、かつての優しげな光は
もうどこにも見あたらなくなっていた。
271猿神退治異聞(9/16):2007/12/04(火) 19:01:32 ID:ykVHXiZ3
 翌朝、夜明けと共に、誰よりも先に祠に駆けつけた夫が見たのは、
首に刀を突き立てて絶命している、白い毛の巨大な半人半獣の怪物と、
櫃の中で全裸のまま静かに手を組んで横たわっている彼の妻だった。
夫が声をかけると妻はぱちりと目を開け、にっこりと微笑んで言った。
「あなた!大猿を討ち果たしました!人身御供の因習はなくなったわ!」
その笑みがあまりに妖艶で夫はぞくりとしたのだが、妻の命が無事で、
しかも村の悪習がこれで絶ち切られたらしいことを知ると大いに喜んだ。
夫は朗報を村に触れ回り、妻は夫が持参した着物を身につけ、夫を待った。
天変地異の兆しもない晴天の中、神社関係者も含む村の者一同は
「氏神様」の邪悪な正体を目にし、人身御供の悪習と決別できたことを
喜び、夫婦の勇敢さを称えた。妻の配慮で、体面上は、櫃に潜み、
化け猿を討ち果たしたのは夫だった、ということになった。
 その日はそのまま宴会となり、夫婦の家は夜遅くまで大賑わいだったが
深夜も過ぎるとそれも収まり、人々は寝静まった。その時分――
「あなた、あなた、あ・な・た!」
 いささか酔った夫を妻が艶めかしい声で誘う。九死に一生を得た妻の
当然の欲求であろう。そう考えた夫は多少無理をして妻を抱き寄せ、
その寝間着をまくり愛撫を始めようとした。
 だが手のひらに触れるざらざらした感触に、夫の酔いは一瞬で醒めた。
「な、何やつ!俺の妻ではないのか!?妖怪変化が妻に化けたか?」
刀を手にしようとした男の手を、化け猿と化した妻の強力な手が押さえる。
「ふ、ふ、ふ。わたしはあなたの妻よ。だけどゆうべ、野人族の女に
生まれ変わったの。この村が新しい時代を迎えるように、わたしたち
野人族も新しい時代を迎えるのよ。
 隣家の姉さんの予測が正しければ、わたしたちメスも『勢液』を
分泌して男の人間を獣化させることができる筈なの。それを試させて
もらうわ」
272猿神退治異聞(10/16):2007/12/04(火) 19:02:34 ID:ykVHXiZ3
 夫は巨大な野人族と化した妻に、か弱い乙女のように手込めにされ、
強制的に媾わされた。風穴のような吸引力に精を吸い出された夫の魔羅に、
妻だった生き物から分泌された「勢液」が浸透した。夫の心の中から
人間として大事な何かが失われ、その代わりに注ぎ込まれた禍々しい力が
体内で荒れ狂い始めた。そうして夫もまた、たしかに「妖怪変化」と
呼んで差し支えのない巨猿へと、心身共に急激に変貌を遂げた。
「気分はどう?あなた」
「最高だ!早く村の衆にも『勢液』を注ぎ込んでやらなければ…ああ…
…仲間を増やしたい!もっともっと増やしたいぃぃ!!」
 二人の中には解き放たれた野人族の繁殖本能、すなわち「仲間を
増やせ」という衝動が猛烈に脈打っていた。これまで野人族を縛ってきた
数々の因習によって巧妙に制御され枠をはめられていた衝動が、掟の崩壊
と共に暴走を始めたのである。
「あまり気を急いては駄目。まずはこの家の人間を少しずつ仲間に変えて
いくの。それから村全体に拡げていきましょう。少し経ったら、山から
人身御供に供された女たちも来るわ。知っていた?みんな食べられて
なんていなかったのよ。山の片隅で野人族に生まれ変わってひっそり
生きていたの。いつかこんな日が来ることを夢見てね。降りてきたら、
みんなで協力して村人の獣化を始める手はずになっているわ。
 この村の人間をみんな野人の仲間にしたら、次は村の外に出て、
都を目指しましょうね!」
273猿神退治異聞(11/16):2007/12/04(火) 19:03:35 ID:ykVHXiZ3
 ――それから千年の時が過ぎた。
 見たところ千年前と大差ない文化水準の家屋が並ぶ小さな村。
この百人程度の小さな村で、今年十六を迎える娘が家族との涙の別れを
終え、着衣を脱ぎ、人身御供のための櫃に身を横たえようとしていた。
娘の背中には光り輝く白い羽根が生えていた。氏神に選ばれし娘は
どこからともなく発せられる光の矢に撃たれ、背中からこのような、
手で触れることのできない光の羽根が生える。村人はそれを「白羽の
矢に射られる」と呼び、恐れていた。「白羽の矢に射られ」るのは
例外なく女で、但し通常は何人か子をもうけた女であることが多い。
このように生娘が射られることは稀である。このような生娘を妻として
選ぶのは位の高い神様である、という噂がどこからともなく流れていた。
 村の周縁に位置する祠に娘は置き去りにされた。この祠は文字通り
村の末端に位置する。村は丸い目に見えない壁に囲まれており、村人は
誰もその壁を越えて外へ行くことができないまま、この村で生まれ、
そして死んでいくのだ。しかし娘は間もなく、祠の反対側に現れる
氏神の使いによって、壁の外の世界に永久に連れ去られるのである。

 深夜、祠の反対側に円盤型飛行艇が着陸し、エネルギーバリア越しに
櫃の内容物を点検する。原種個体が正常な健康体であり、危険な武器等を
隠し持っていないことが確認されると、エネルギーバリアが局所的に
解除され、機械の腕が櫃の中の少女に伸び、少女を拘束し、回収する。
274猿神退治異聞(12/16):2007/12/04(火) 19:04:36 ID:ykVHXiZ3
 原種種族が「白羽の矢」と呼ぶ獣化用個体識別シグナルは、円盤内に
娘が回収されるとすぐに解除された。娘は機械の腕に拘束され、その
腕に動かされるまま、全裸の大の字の姿勢で手術台のようなベッドに
寝かされ、ベルトで手足を拘束された。
 やがて扉が開き、全身白い毛に覆われた異形のモノが姿を現した。
娘はその姿に本能的な恐れを感じ悲鳴を上げた。
 巨大な体躯、発達した犬歯といった恐ろしげな外見に怯えただけでは
ない。娘は野人族を初めて見るだけでなく、猿類という動物を見ること
自体が初めてであった。しかしそれゆえにこそ猿類という動物に対して
人類が抱く恐怖心を、何ら薄められない原液で浴びせられたのである
――すなわち、猿類とは、人間の肉体を変形させ、人間を獣類・犬畜生の
類に近づけたとしたらかくなる姿になるであろう、という想像をまさに
具体化した姿をしている。人類が進化の過程で祖先から分岐した際に
決別したはずの獣性を見せられるゆえに、人類は猿に対する独特の
嫌悪感と恐怖を抱くのである。娘の恐怖はそれだった。
 異形のモノは口を開き、見た目からは想像もつかない知的な内容を、
しかしまた、見た目通りの野卑で粗暴な口調で、語り出した。
「怯えることはない。おまえはこれから『勢液』と呼ばれる獣化物質の
投与を受け、我が弟の妻にふさわしい存在へと心身共に生まれ変わる。
虚弱でみじめな原種であることをやめ、この惑星の優越種族の一員と
なるのだ」
 聡明な娘は、耳慣れない単語を多く含む難解な話を、しかしその
核心部分に関してはほぼ正確に理解した。原種としての当然の反応
として、娘の顔は、野人の言葉とは裏腹に、怯えの色をさらに
濃くした。しかし気丈にも、娘は毅然として抵抗の意志を示した。
「やだ!そんなのいやだ!やめて!」
275猿神退治異聞(13/16):2007/12/04(火) 19:05:38 ID:ykVHXiZ3
 野人は興味深げな、そしてサディスティックな笑みを浮かべて言った、
「ほほう。たしかに原種にしては知的レベルが高そうだ。意志の力も
強い。我が妻よ、おまえはなかなかよい鑑識眼をもっているな」
 その言葉を合図とするようにメスの野人が部屋に入ってきた。娘は
今度こそ絶望的な悲鳴を上げ、涙を流し始めた。メスの野人は猿類への
変形を蒙っていたが、一年前「神の嫁」として村から姿を消した、
娘が慕っていた隣家の次女の面影をはっきり残していたからである。
「お久しぶりね。あなたももうじきわたしたちの同族になれるのよ。
あっはははは」
 その残忍で娘を嬲るような口調からは、かつての優しい情愛や
繊細な気配りなどは完全に消失していた。娘は「神の嫁」として
生まれ変わるということの意味を直観的に理解し、優しかった隣家の
次女の変貌への悲しみに、そして来るべき自分の姿への絶望のために、
涙を流し続けた。
 二体の野人は憐れみと嘲笑の目でそんな娘を見つめ、語り始めた。
「みじめな原種の娘よ。我が種族の偉大なる歴史と、お前たち原種の
真の存在意義を教えてやろう。
 わが種族は長い期間、この地の山奥に棲む滅亡寸前の希少種だった。
だが千年前、偉大なるおん母上のなした革命により、我が種族はわずか
数十年でこの島国の原種を獣化し、続く二百年の間にこの惑星全土に
その版図を拡げた。知力体力に優れ、不合理な感傷に妨げられない
行動力をもつ我が種族は、お前ら原種であれば何百年も要したであろう
経済制度と科学技術の革新を短期間で成し遂げ、偉大なるおん母上の
眷属を頂点とする、強大な帝国を築き上げたのだ」
276猿神退治異聞(14/16):2007/12/04(火) 19:06:43 ID:ykVHXiZ3
「だけどわが種族は繁殖のためのお前たち原種への依存をどうしても
克服できなかったの。度重なる遺伝子操作の試みも、我が種族のメスに
メスの個体を産ませることだけはできなかった。メスの個体の確保の
ためには、どうしても一定数のメス原種の確保が必要だった。そして
それがわが種族の発展を妨げる大きな影としていつもつきまとったの」
「この惑星の全土制圧後、オス原種の獣化は禁じられた。オス原種の
獣化はわが種族の版図拡大に絶大な貢献をなしたが、制圧後はむしろ
人口比の歪みを増すだけの余分な行為となったのだ。その後、原種の
厳重な包囲が始まった後でも、原種とわが種族の人口比の調整問題は、
恒常的な課題として我々を悩ませた。原種が増え、力をつければ反乱の
危機が生まれる。原種が存続の危機にさらされれば、わが種族も滅びの
道へ向かう。――ほぼ理想的と言うべき原種管理の体制が整ったのは、
せいぜい百年ほど前なのだ。その頃からわが種族は定常型経済を採用して
産業の成長を停止し、人口を数億程度に安定させることに成功した。
同時に、原種を惑星全土に散りばめられたエネルギーバリア内に
分散させて、千年前の文化水準に留め置かれた状態で、相互の交通を
遮断して居住させ、一定数を維持する、という管理体制も確立した」
「都合のいいことに、この環境に投げ込まれた原種は、なぜかバリアの
外側に出ることを拒み、バリア内での他個体との共存に激しく執着
するの。わたしにもそんな奇妙な本能があったらしいけど、もう忘れて
しまったわ」
「おまえのその無根拠な抵抗感も、原種特有の意味のない感傷に
過ぎない。『勢液』の投与と共に跡形もなく溶けてなくなるだろう」
277猿神退治異聞(15/16):2007/12/04(火) 19:08:14 ID:ykVHXiZ3
「…あなたには多分まだちょっと難しい話だったわね。でもね、実は
わたしたちは今のあなたに話しかけているわけではないの。『勢液』
によってあなたの知力は向上する。そして物心ついてからこの部屋で
わたしたちのレクチュアを受け、『勢液』を投与される直前までの
自分の生涯を、まったく新しい目でたどりなおし、その真の意味を知る。
それによってわが『帝国』の偉大さへの強烈な帰依の感情が生まれる。
わたしたちは少し未来のあなたがそうやって理想的で従順な帝国の一員に
なるためのお手伝いをしたのよ」
「心理面の準備が済んだので儀式に取りかかる。我々はそろそろ
退散するとしよう。…わが弟よ!婚礼の儀式をとり行う。入室せよ!」
 二体の野人が退室し、兄よりも一回り大きい、娘の夫となるべき
野人が、淫猥そのものの笑みを浮かべながら入ってきた。

 娘は野人たちが考えている以上に、いやある意味ではそれ以上に
野人たちの話を理解していた。
 ――違う!「奇妙なホンノウ」でも「意味のない感傷」でもない!
わたしのこの気持ちは人間として失ってはならない大事な気持ち。
この大事な心と引き替えにこの国をのっとったケダモノの「帝国」
なんて、空っぽの国に決まっている!そんなやつらの仲間にされるの
なんて、絶対にいや!――
 娘の抵抗の感情はいつしか言葉となってほとばしっていた。
「やだ!ケダモノになるのはいや!村に帰して!わたしは人間で
いたい!人間でいたいの!人間のままでいたいのよ!!」
278猿神退治異聞(16/16):2007/12/04(火) 19:10:17 ID:ykVHXiZ3
 娘は絶叫し無益な抵抗を始めた。だがのしかかった野人の
指と舌は娘の理性とあらゆる人間的感情を麻痺させた。そして、
やがて忘我のまま嬌声を発し始めた娘の中に押し入った野人から、
大量の精液および「勢液」が放出され、それは同時に娘の脳内に、
粗暴で、合理的で、そして冷酷な本能を注ぎ込んでいった。娘の
肉体は急速に獣化し、その心からは郷土愛や村の仲間への情愛を
始め、人としての大事なものがことごくかき消えていった…。

 ――数年後、ふとしたきっかけで人間の良心を取り戻した娘が
この惑星全土を揺るがす第四次原種反乱の引き金を引くのであるが、
それはまた別の話である。
    *    *    *    *
 千年前のあの日、もし夫が武術勝負で勝ってさえいれば、伝説通り
夫が大猿退治を行っただろう。そして夫による野人族の大量殺戮と
人身御供の廃止によって、危険な亜種は滅亡の道をたどり、それゆえ
「おん母上の革命」も起きず、結果、現在我々の知るとおりの人類史が
つづられたことだろう。

 この話は、運命の歯車が少しだけ狂った、別の時空の物語である。
<了>
279maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/12/04(火) 19:16:37 ID:ykVHXiZ3
 …以上です。お粗末様でした。

妻への猿娘の能書きと「未来編」がだらだらしてしまったかもしれません。
事前にヒロインの精神的恐怖をさんざん煽ってから
おもむろに改造…もとい、TFとMCというパターンが好きなのと、
色々辻褄を合わせようとしたのとで、つい書き込んでしまいました。
 肝心の「いいところ」を色々端折ってしまった気もするので、
できればいずれ、村や日本や世界に野人族が「勢力」を伸ばしていく過程や、
その前後の「普通の人身御供の場面」での獣化模様あれこれを
単発的に書いてみたい気もしています。

それでは…
280名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 00:21:27 ID:L23BDO4x
こんな感想はアレかもしれんが、何か手○や藤○といった巨匠の火○鳥とか短編集とかが頭をよぎった。
とにかくGJ。
281名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 06:15:30 ID:OQaG6ey3
GJ!勝ったのに変身する羽目になる、というのが良い。

自分でも書いてみるかな。あまり期待しないでもらえると幸い。
282名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 23:44:48 ID:pGddN0lU
プレッシャーかける気は毛頭ないのだけど、期待してしまう…
283名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 00:58:31 ID:mbSfNnYE
さあ!さあ!
284maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/12/08(土) 08:19:25 ID:BBlvBWn7
年内中くらいに、自分が「おにゃのこ改造」スレとこちらに投下したSSをまとめて公開する
ページを作ろうかと思って準備中なのですが、関連するスレッドの過去ログ置き場も
作ろうかと思っています。それで、当スレの一スレ目も置かせて頂きたいのですが
住人の皆さんよろしいでしょうか?
(拙作そっちのけでそちらに人が集まりそうな気もして不安ですが)

>>280様、>>281様、ありがとうございます
ちょっと古めかしい感じがあったかもしれないですね

>>281様、どうぞ肩の力を抜いて…
285名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 11:05:02 ID:cdjhtebq
>>284

俺は見れたら嬉しいけど、作品の保管とか、よく分からないな。

ぼちぼち書いてるけどTFするまで長いし冗長かも。あとグロいかもしれない。
286maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/12/09(日) 16:43:26 ID:qKctRfMO
>>285
自分的に納得した手順を踏んでからでないと萌えないならば
前段階が長いのもやむを得ないのではないかと
あと、グロいの弱い人はそもそもこの種の趣味に走らないのでは、
とも思うけど、案外そうでもないんですかね…

>>284の件、
「おにゃのこ改造」のスレだと、かなり以前、精力的な職人さんが
自分のSSと過去ログとその時期までに投稿されていたSSを抽出して
自分のサイトにアップしていました。その後職人さんは引退して
更新も止まったのですが、アダルト板の有志の方がwikiを借りて
そこに過去ログと抽出したSSを掲載しています。

自分が予定しているのは、自分があちこちに投下したSSのみまとめて載せ、
過去ログはスレッドを見てdatを持ち帰れるようにだけする、という
形態です(他の職人さんのSS抽出はとりあえずしない)

それでも、もしかして、簡単に見られないままになっている方を
望む著者の人もいらっしゃるでしょうか…

以上、長くてすみません。
287名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 20:24:58 ID:ldJXL0mT
>>286
あなたの作品には興味がありますしもっと見てみたいので
まとめを立ち上げるのは賛成です
というかあなたみたいな人がいないとこのスレ自然消滅しそうだし
288maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/12/10(月) 22:02:50 ID:oeJYtYzu
>>287
では、早いか遅いかはともかく、開設時、このスレの前スレの過去ログは置くことにします
他にもこのスレのまとめとしてのコンテンツを増やしていけるのならそうします。

「あちこち」と言いましたが実は今のところここ入れて計三つのスレに書いただけで、
>>286のまとめで読める分で8割以上カバーしているのでした。
この先、長いものでも好きに書ける場所を自分で作っておきたかったのが大きいです。

大昔、学生時代に短い小説を二三本書いて以降、二ヶ月ほど前急に思い立って
書き始めるまで、小説は全然書かずに過ごしてきたので…
289maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/12/11(火) 20:32:19 ID:7qQzbbvw
立ち上げてみました。一応直リンクは外して貼っておきます。
ttp://book.geocities.jp/maledictarum/
「一時間でできるホームページ」と「みんなのタグ辞書」くらいしか
見ずに作っているので見栄えよくないです。
読みにくかったらお知らせ下さい

「リンクはトップページに」と書いてしまいましたが、次スレ等で
過去ログに直接リンク貼れるようにした方がいいですね。考えます。
290maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/12/11(火) 21:23:02 ID:7qQzbbvw
>>289
考えてみたらPINKちゃんねるに投下した内容が18禁だから
一般向けの警告文を貼ったに過ぎず、このスレから中身にリンク貼ることに
何の問題もないですね。自分でわけわからなくなっていました。
貼っておきます。ここで前スレ見られます。
http://book.geocities.jp/maledictarum/kakolog/1136653189.html
291名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 22:30:13 ID:AsjGYiPn
おめでとうございます。これからちょくちょく見させていただきます
新作も構想があれば是非投下してくださいね
292名無しさん@ピンキー:2007/12/12(水) 05:58:59 ID:EG9F0+dN
>>288

乙!思わずベルゼブブを一気読みしてしまった。やっぱり名作だなあと思った。
HTMLなら出来るんで、何かあったら手伝えるかも。今は専ら携帯だから、出来ることは限られるけど。

小説の方もやってます。TF直前で既に一万文字越えてるけど、とりあえず書いてから削る予定。
293名無しさん@ピンキー:2007/12/12(水) 22:22:44 ID:1Ulh5CQo
保管庫乙です
294maledictR18 ◆sOlCVh8kZw :2007/12/14(金) 01:51:50 ID:93umIIWm
>>292
ベルゼブブだけ抜き出して読めるようにすれば
お客さんがいっぱい来るかなあ、と思う気持ちと
なんかそれは寂しい、と思う気持ちと半々だったりします

とはいえ、ベルゼブブとか女王蟲とか妹蟲とか
自分の好きな作品を読みやすい形で置いておくのも
いいなあという気持ちもそれなりに強いです(繰り返すと
「おにゃのこ改造」の方にはそういうまとめサイトがあるのです)
ただ、これは著者の皆様の了解も必要ですね

TFが早ければいいというものでもないでしょう。ねっとりじっくり準備して、
…というのも萌えるのではと。

それから>>293様もありがとうございます
295 ◆eJPIfaQmes :2007/12/16(日) 17:51:35 ID:08P3XGCQ
maledict様に触発されて、ブログをこしらえてみました。
ttp://girltf.blog22.fc2.com/
『ベルゼブブの娘』と『アステリオスの裔』に若干手を入れて掲載してます。
過去に書き上げたものの他にも、TF・TS関連のものが完成したら、修正の上、
順次ここにまとめようかと思っています。
296maledict ◆sOlCVh8kZw :2007/12/16(日) 21:40:31 ID:EI7ZDXHE
>>295◆eJPIfaQmes様
やった!乙です!
297名無しさん@ピンキー:2007/12/19(水) 01:33:49 ID:BUTyxtfM
保守
298名無しさん@ピンキー:2007/12/19(水) 05:34:58 ID:LeQYdAc2
>>294

一応TFまでは書いた。今週中には完成する予定。
グロ要素は抜けて百合っぽくなった上にTGも入った。

>>295

乙!新しい作品楽しみにしてます。
299名無しさん@ピンキー:2007/12/19(水) 09:32:19 ID:IlGi0hvg
>>295
乙です。
もう一度読み直しちゃいました。
新作期待してます。
300名無しさん@ピンキー:2007/12/19(水) 15:36:53 ID:tNb+m0uf
ドラクエ4の実写CMに大きい蝿をコラしてみたい
301名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 09:26:22 ID:fKZshbdw
>>298wkwktktk
302名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 15:16:00 ID:8I+woUcw
わーい出来たよー。長いし百合注意。
初めてなのでやさしくしてね。でもなんかあったら言って下さい。

>>294
なんか298で常体と敬体が使い分けられてるけど他意はないです。
不快に思われたらすみません。

>>301
やめてー。
303名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 15:43:37 ID:8I+woUcw
the_rained_mantle

「『ワーフォール』まではあとどれくらいかしら?」
姫の不安げな声が、単調なリズムの中で輝いて聞こえた。
「止まらずに行けば丸一日で着くでしょう」
背を向けたまま会話するのは失礼に当たるのでは、と思いつつ、
振り向いている余裕は無かった。馬に乗っているのだ。
霧が立ち込める絶壁の縁、強風の吹き荒れる難所で。
「でも、何処かで休憩を取るんでしょう?」
勿論、ハイキングに来ているのではない。そんな悠長に出来る場所は、とうに通り過ぎた。
もしハイキングであったら、どれだけ良かっただろう。かつての平穏を回顧すれば、厳しい現状が胸に痛んだ。
私たちは、亡命するために、馬を走らせているのだ。
「はい。ここを超えたら林に入り、そこで一時間ほど休みましょう」
急ぐ必要があった。だが、私一人ではないし、姫は騎士ではなさらない。
それどころか、一般の市民よりも遥かにか弱い、そういうお方である。
可能ならば半日ぐらいの休憩を取らせてやりたかったが、生憎追っ手は待ってくれない。
ギャアギャア、と鳥の鳴き声がする。ここら辺に住む魔物だ。
ここで襲われたらかなり不利だろう、そう思いながら、馬の足を速めた。
304名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 15:45:50 ID:8I+woUcw
白樺の林は静まり返っていた。
相変わらず霧は濃いが、その方が隠れる身としては好都合だった。
しばらく奥まったら馬を止めて休憩するつもりだ。
この霧なら焚き火をしても問題ないだろう。久しぶりに暖かい物が食べられる、そう思った矢先だった。
突然馬が転倒する。何かに躓いた様だったが、そんな悠長な転び方ではない。
「姫!奴らです、待ち伏せられました!」
馬の足に矢が命中したのだ。足だけでなく、長い首にも二本、頭に一本突き刺さっていた。
隠れるのに有利なのはこちらだけでは無かったのだ。
すぐに馬から離れ、木陰に隠れる。姫もそれに習って、すぐそばの木に張り付いていた。
連なって放たれた矢が過ぎり、その何本かは倒れた馬に突き刺さった。
乱れる白い息が、霧の中に紛れる。相手の出方を待ちながら、馬はもう助からないだろう、そう思った。
ここまでの旅路で汚れてしまったが、美しい毛並みの白馬だ。
生々しい赤色が、そこから生えているような矢の根元からこぼれていた。
軍馬として調教こそされていなかったが、いい馬だった。
「……ごめんね、ポーラ」姫はその白馬を見つめながら、そう呟きなさった。
姫の、幼少からの愛馬だったのだ。馬は身を横たえ、荒げている呼気が苦しそうだった。
来た方から馬の足音が聞こえる。それと同時に、矢の方向からも足音。
こちらは人間だ。私は剣を抜いて、姫に声を抑えて言った。
「姫、魔力はまだありますね。ここで一戦交えます」
逃げ切れるはずもないし、何れにせよ、馬がなければ第二、第三の追っ手がやってくる。
それならば、ここで少々無理をしておいた方がいい。
「姫の身に指一本触れさせないつもりですが、万が一のことがあります。すぐに障壁を展開できるよう、用意しておいてください」
霧の中から五頭の馬が飛び出した。それらに騎乗するのは、赤の勲章を持つ騎士だった。
馬を下りるためか、一旦私の横を通り過ぎてから再度やって来た。
一応交渉をするつもりらしく、すぐには襲って来なかった。
林に伏せていた者と合わせて九人、私達の周りを取り囲んだ。
「手短に申し上げます。アルトリア皇女。私達は『盟友の証』をお預かりに参りました」
 赤の騎士はそう言って、一歩踏み寄る。「すぐに出してくだされば、貴女の邪魔するつもりはありません」
 それに姫は答えなさる。日頃のあどけなさとは打って変わって、凛々しい、皇女に相応しい受け答えだった。
「お断りします。我が父、故オルディウス九世は、最期までレナンティウス殿に皇帝の位は譲らない、と仰っていました。
 私はその遺志を受け継ぎ、またそれを貫こうと思っております」
「正式に位を譲れ、とは申しておりません。私らはただ――」赤の騎士の言葉途中、姫は遮って言った。
「戴冠の際に、盟友の証も受け継ぐのはご存知でしょう。盟友の証は、同盟国ワーフォールとの親交を誓ったもの。
 それが無くして、我が国は存在たりえず、また、それを受け継がなければ、真に皇帝となったとは言えません。
 我が国は、貿易で成り立っているのですから」
「それでは、少々手荒な真似をしてでも、お預かりしなければなりませんね」
そういって赤の騎士らが抜刀したため、私は姫と奴らの間に割って入った。
「皇女様に何たる無礼!礼儀を欠いた者に、騎士を名乗る資格は無い!」
「……“元”王家親衛隊隊長のレイン=グロリオサとか言ったかな。
 この状況の中、無事逃げ遂せると思っているのか?」騎士はそう言って、剣を構えた。
「逃げ遂せる?身のほど知らずめ。我が聖剣技を思い知れ!」
305名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 15:46:50 ID:8I+woUcw
戦いはすぐに決着がついた。無論、負けるはずは無かった。多少の痛手は負ったが、それでも軽い方だ。
「姫、怪我はないでしょうか?」
しかし、やられ際、奴らは笛を吹いた。離れた所にいる馬に合図したのだ。
そのせいで、馬を奪い取ることが出来なかった。思いのほか、一応の覚悟は出来ていたわけだ。
「大丈夫。レインは?」
アルトリア皇女は、自分の家臣にもこうした声を掛けなさる、優しいお方だ。
そんな姫に数多の敵が出来てしまったことが、唐突に悲しく思えた。本来なら、幾多の人々に守られて然るべきお方なのに。
「問題ありません」
辺りを見回す。霧は相変わらず濃い。敵の気配はしない。
しばらく周囲を散策したが、やはり馬は逃げてしまっていた。
途中、焚き火の跡を見かけたが、何も残っていなかった。
幸い荷物は無事なので、そこで火を起こした。これから徒歩で進むため、十分に休んでおく必要があった。

この逃避行は、二日前から始まった。いや、実際には三ヶ月ほど前から始まっていた、と考えるべきだろう。
三ヶ月前、前皇帝であるオルディウス九世とその皇后が、病により急死した。
毒殺であると囁かれていたが、遂にはその証拠が得られず、真実は暴かれなかった。
それを機に、かねてから前皇帝と対立していて、またその弟であったレナンティウスが急に勢力を伸ばし、
空位となった皇帝の位の後継者である、と名乗り始めた。
一人残されたアルトリア皇女はそれを否定するも、女帝の前例が無い上、まだあまりにもお若かった。
そのため、レナンティウスは議会がまとまらない隙に、半ば謀反の形で強引に即位し、戴冠した。それが先月。
即位してすぐ、議会の意を無視しての増税やら、近隣国への侵略を企てたりといった行為に、国民の反対の声は高まりつつあるが、
そうした声に対してはあの赤の騎士を差し向けて武力による弾圧をする、という暴君ぶりは、とどまることを知らない。
しかし、主な貿易相手であるワーフォールとの国交を保つには、盟友の証が必要不可欠。
年に一度の、親睦を確かめ合うためにパーティが設けられているが、その際にお互いの証を提示しあうこととなっている。
それが間近になってきたためか、初めは穏便に譲渡を請求したが、次第に暴力に訴えるようになり、
遂に身の危険を感じた皇女は、直接の親交もあるワーフォールに助けを求めるために、亡命を決意なさった。
私も王家親衛隊隊長の座を捨て、その亡命の手助けをした――
という顛末である。
パチパチ、と枝が爆ぜる。焙ったパン、ソーセージや干し肉という、王家の人間が召されるような食事ではなかったが、
姫は嫌がるどころか、美味しそうに召し上がっていた。
姫曰く、「いつもと違うものが食べれて嬉しい」とのこと。
確かに日頃から、「たまには所謂“庶民の味”みたいなのも食べてみたい」と仰っていた、と思い出す。
殺伐とした日常は、こういった些細な出来事で維持されていた。
306名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 15:53:06 ID:8I+woUcw
腹ごしらえが終わったので、出発することになった。レインはあまり食べていなかった。
多分、ポーラが殺されてしまった分、歩く時間が増えたからだろう。
私の分も減らすべき、そのことを指摘したとしても、恐らく従わないであろうから言わないでおいた。
家臣の中で、実は一番言う事を聞かないのはレインではないか、最近そう思い始めている。
林の中を進んでいく。
あまり深い林ではない、そうレインは言っていたが、いくら歩いても外に出ない。
方位磁針は正確に方向を示しているから、同じところを周回しているわけではなさそうだった。
歩くのがどれだけ遅いかを知った。何事も経験してみるものだ。
「姫、大丈夫でしょうか?足は痛くないでしょうか?」長時間歩いていると、何度も確認された。
「大丈夫」と言いつつ、根を踏み越えるときに足を滑らせた。
幸い転ばなかったが、レインはそれに見兼ねてか、「おんぶしましょう」等と言う。
あえて口を利いてやらなかった。
レインとは物心がついた頃から主従関係にあった。
私とは六つ離れている。一つ前の王家親衛隊の隊長の娘だとかで、
私が生まれるよりも大分前から、剣術を習っているらしい。
私がまだ十歳にも満たない頃からすでに、大人の出る大会に出ていたし、
そこで入賞までしていたのだから、相当の腕前なのだろう。
先程だって、あんな大人数を、あっと言う間に倒してしまった。
「林はまだ終わらないの?」また足が痛くなったのか、と聞かれると思ったが、
いくら何でも歩き過ぎだ、という疑問が先行した。
「いや、普通ならとっくに抜けているはずです。
 何かがおかしいですが、しかし、歩く他ないでしょう」そう言って、歩み続ける。
止めはしなかったが、若干歩調を遅めてくれた。
日が傾き始める。
一向に終わりは見えない。薄い暗闇と霧の中、不気味な雰囲気だった。
絶えない白樺の木々が、次第に化け物のように見えてくるほどに不安を覚える。
今は亡命や使命といったことよりも、一刻も早くこの林を抜けたい、そう思っていた。
日が落ちる。
レインは松明に明かりを点けて、歩く速度を落とした。
これまで、一度も魔物に出会わなかった。
出たら出たで困るのだけれども、ここまで静かだと逆に怖い。
もしかしたら、一生この森から出れないかもしれない、
そう一度連想してしまうと、その考えは頭の中一杯に広がって、恐怖を振りまいた。
いても立ってもいられなくなって、私はレインに言った。
「手を繋いでも、いい?」離れると危ないから、そう付け加えると、
レインは「お捕まりください」と左手と松明を差し出した。
レインの代わりに松明を持って、その手を強く握る。両手が塞がっては剣を持てないからだろう。
それからは若干恐怖が和らいだ。繋げた手から暖かさが伝わってくる。
レインがいるのだ。きっと何とかなるだろう、そう何度も心の中で繰り返した。
307名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 16:06:13 ID:8I+woUcw
そろそろ休憩の時間にしよう、そう思ってまもないときだ。白樺も濃霧も絶え、開けた場所に出た。
霧が薄く晴れた目の前には、全く予想だにしていなかった物が現れた。
古城である。かなり大きく、一地方の城よりも大きいぐらいだった。
勿論、こんなところに城があるとは聞いていなかった。
満月が尖塔に掛かっていて、妖艶な――不適切な表現だが――雰囲気だった。
喜んでいいのか分からなかった。
既に追っ手は根回ししていて、訪ねれば包囲されるかもしれなかったし、
こんな得体の知れない城、何が住んでいるか分からない。
だが、このまま歩いてワーフォールに到達する気がしなかった。
あの白樺の林は、どうもおかしいのだ。野生動物はおろか、魔物すら生息していなかった。
ここ一体の山々は、岩肌が露出していて、動植物が少ない。
そんな中での林というものは、格好の住処であるはずだ。
推測してみるに、何らかの呪いが掛かっているのかもしれない。
すぐ思いつくのは、一度入れば二度と出れない、という結界や、
空間的に捩れていて、一方向に進んでいるのにも関わらず、
同じところを繰り返している、というものだ。
しかし、そういった痕跡はまるでなかった。
一つの林にまるまる封印を掛けるとなると、それなりの媒体が必要になる。
それの手がかりに成り得るものが、全く無かったのだ――この城を除いて。
言うまでも無く、魔法等掛かっていない可能性も十分ある。
そうであったとしても、やはり姫をこのまま歩かせるのは心苦しい。
気丈に振舞っていなさるが、何日も続けば流石に辛かろう。休める時間も限られている。
姫が倒れてしまって、私だけがワーフォールについたところで、何の意味も成さないのだ。
308名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 16:06:57 ID:8I+woUcw
「人間だなんて珍しいわ」
どう出ようか考えあぐねていると、そこに第三者の声が飛び込んできた。
その声の主は前方に現れ、まるで初めからそこにいたかのように、目の前に立っていた。
全く気配すらなかったのだから、テレポートの魔法でも駆使したのだろう。
その声の主は女性だった。
冷え込む夜であるのに、その女性は豊満な胸の所が広く露出したイブニング・ドレスを纏って、

唾の広い帽子を被っていた。黒紫の装いは、夜の暗がりによく溶け込んでいた。
纏うものと彼女の黒髪は、白く滑らかな肌と対照的で、また赤色の口紅と虹彩ともよく映え、
その類にはまるで疎い私にも、彼女が美人であるのが分かる。香水の香りも僅かにした。
「すみません、私達、道に迷ってしまいまして」そう言って姫は頭を下げなさる。
言うまでも無く極秘の亡命であるから、名前は出せない。
いくら無礼な振る舞いをされても仕方が無いだろう、そういう覚悟で姫の交渉を見守っていた。
彼女が人ならざる者である可能性は否定できなかったが、いずれにせよ城に入る必要がある。
「どうしましょうか――」彼女はしばらく考えていた。
だが、どうも様子がおかしく、一人の世界に没入しているようだった。
ぶつぶつと何か呟いている。「……ああ、でも、たまには遊んでも――」
「申し訳ないのですが、馬を貸していただけますか」
話し掛け辛かったが、あまり深くは関わりたくないな、
とも思ったので、早めに本題を切り出した。「必ずお礼をしますので」
「いいでしょう。馬なら好きなだけ貸します。
 ですが、条件があります。貴女、武芸をやっているようね。
 ちょっと私の相手をして下さると、嬉しいんですけど」
彼女は微笑みながらそう言った。
「剣術ですか。私は構いませんが」
しかし不安だった。彼女がただの淑女だとは、どうしても思えなかったのだ。
少し嗜んだ、というレベルの魔法ではないし、
この森を牛耳っている魔物が、こうした人間の姿を取っている、
というのも十分にありえる。
だが、どうしても馬を借りる必要があったし、
異変の原因が城にある確率は、危険な試みをする価値があるほどに高いからだ。
「そう、良かったわ。じゃあ、賭けをしましょう。
 貴女が勝ったら、好きにしていいわ。馬はあげますし、
 なんでしたら泊まっていっても構いません。部屋はありますからね」
彼女はにっこりと笑う。随分自信のあるようだ。
「その代わり、私が勝ったら、私の頼みごとを聞いてくださります?」
「構いませんが、私達は急ぎの旅をしております。
 遅くても、明日の朝にはここを出発できるよう配慮してくだされば、
 問題ありません。それと、あくまでも頼みごとを聞くのは、私ということで」
「ふふ、そんな必要ありませんのに。大丈夫ですわ」
意味の取れない返答をしつつ、彼女は手を高く掲げた。
空を掴んだ、かと思うと、その手にはレイピアが握られていた。
綺麗な彫り物が施された、美しい代物だったが、
それを一目見るだけで全身に悪寒の走るほどの、冷たさを孕んでいた。
「さあ、始めましょう」
「ここでやるのですか?」私はたじろぎながら剣を抜いた。
ことがあまりにも急だったし、折角城があるのだ、
わざわざこんな所でやる必要もない、そう思った。
姫にあまり負担を掛けたくない、というのもあった。随分と冷え込んでいるからだ。
309名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 16:13:07 ID:8I+woUcw
「ああ、それもそうね。丁度良いところがあります」
彼女は、門の方へと歩み寄り、暖炉に魔法で火を掛けた。
いつの間にか周囲は立派なホールになっていた。
こんなにも自在にテレポート魔法が使えるものなのか、と思いつつ、
その周囲に目をやり、様子を確認する。
豪華なシャンデリアや、ピアノ、立派な絵画と彫像といった美術作品も数点見られた。
どれも古めかしい様式だったが、それがこの城の歴史を物語っている。
こんな辺鄙な場所に、このような場所があるとは、思っていなかった。
薄廃れた古城ならまだしも、ここまで豪華であるとますます疑わしい。
ここまで来ると、何かの間違いで冥府の森にでも迷い込んでしまった、そうとすら思える。
「お嬢様はこちらにお座りになるといいですわ」
彼女はレイピアを片手にしたまま、イスを暖炉の傍にセットした。
近くにはテーブルもあって、ホールで並べるイスとテーブルの組が、一つだけあるようだった。
「ありがとうございます」姫はそう仰って、お座りになられた。
「そろそろ始めましょうか。私、こう見えてもかなりの自信がありますの。
 あまりがっかりさせないでくださいね」
彼女は先程の笑みを見せながら、帽子を取って投げた。
ふわりと宙を舞って、帽子はテーブルに載った。
彼女はそれを見届けずに構える。重心の浮いた、得体の知れない構えだった。
私も荷物を置いてから、剣を構える。
林の呪いについて訊ねたかったが、そんな余裕はなさそうだ。
「なかなか仰る。私も負けないつもりです」
間合いは遠いぐらいで、お互いの攻撃は届かない距離だった。
だが、彼女のテレポート魔法を考慮すると、油断出来る間合いなど一切無かった。
「では、行きます」そう言うなり、彼女は一気に駆け寄り、突きを繰り出す。
まだまだ命中のしないはずの間合いだったが、私は間髪入れず身を翻し、反撃に剣を振るった。
案の定彼女はテレポートをし、一瞬に間合いを詰めた。
テレポートが無くても通用するほどの恐ろしく早い刺突は、私の靡いた髪を掠った。
私の反撃も、引っ込めたレイピアの鍔で、軽々と受け止められた。
油断はしていなかったが、予想以上の動きだった。
恐らくあの強烈な一撃は、私の聖別された鎧ですら、
クラッカーであるかのように打ち抜くだろう。
急所を突かれれば、鎧の上からでも一撃でやられてしまうはずだ。
私は更なる攻撃を加えようと剣を振るったが、彼女はテレポートで遠方まで退避してしまった。
「ふふ、いい動きだわ。よく訓練なさってますのね」ゆっくりとこちらに歩いてくる。
心底楽しいのだろう、指揮棒のようにレイピアを小刻みに動かしている。
「でも、まだまだ遅い。鎧を外す時間を与えましょう」
「……では、そのご好意に甘えましょう」
鎧で防げないと分かっている今、鎧はただの荷物でしかなかった。
篭手やら脛当てやらも全て取り外し、ホールの片隅に片付けた。
姫は私に、心配そうな眼差しを向けなさっていた。負けるわけにはいかない。
先程の攻撃は、確実に殺すつもりの一撃だった。
つまりは、これは死に直結する戦いであり、私は、ここで死ぬわけにはいかないのだ。
正直を言えば、私は相手の実力を見誤った。
如何なる事情があってもこれは私のミスだし、
だからこそ、私は私の責務を果たさなければならない、そう自戒する。
「再開しましょう」
310名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 16:16:29 ID:8I+woUcw

気が気ではなかった。
レインが押されているところなど、ここ最近になって見たことがなかったからだ。
鎧を脱いだところで五分の相手だったが、それもレインが本調子のときだ。
随分と長い時間、一進一退の激戦を繰り広げていた。
だが、相手は人間ではない。高等魔法であるテレポートを、詠唱もなしに何度も、
しかも剣を振るいながらやってのける人間など、聞いたことが無かったからだ。
疲れている様子も無く、また魔力が無くなる様子もなかった。
次第にレインは押され始めた。疲労が重荷になり始めたのだ。
長旅の分もある。辛そうにしているレインを見ていると、心が締め付けられるようだった。
レイピアを持った彼女は、途中、何か喋っていた。
よく聞き取れなかったが、随分と嬉しそうにしているのは確かで、
どうやらレインの技に感動しているようだ。
今も、「面白い」やら「よく避けた」やら口走っている。
ちらりちらりと見える赤い瞳が、狂っているように見えた。
レインは殺されやしないだろうか、そう心配にさえなってくる。

ふと、レインが死んだらどうなるのだろう、と思った。
私はワーフォールに着けるのだろうか。
もしワーフォールに着いても、ちゃんとやっていけるだろうか。
盟友の証があれば、ワーフォールの皇帝が後ろ盾になってくれるだろうから、
レナンティウスを失脚するまでは何とかなるだろう。
しかし、その後は?
私にはもう、父上も母上もいない。乳母は二年前に病死してしまった。
きっと、多くの人間が私を慕ってくれているし、きっと手を貸してくれるだろう。
だが、今では本当に心から頼れるのはレインだけなのだ。
彼女は私と同じくして王宮内で育った。ほとんど姉のようなものだ。
剣の稽古をしていないときはいつも傍にいて、一緒に遊んだり、勉強を教えてくれたりもした。
私が王宮の飾り物を壊したりしたときも、一緒に謝ってくれたのを思い出す。
でもそのときは、一緒に叱られるのではなくて、逆にレインに一番叱られた記憶がある。
だが、私が馬に乗れるようになったとき、一番喜んでくれたのもレインだった。
馬に乗って、二人だけで(何人もの護衛が隠れていたけれど)ハイキングに行ったのも覚えている。
そんなレインが死んだとしたら、どうなるのだろう。私は何を頼っていけばいいのだろう。
レインは、私が亡命を決意したときに、強くなったと私のことを褒めてくれた。
だが、それはレインがいたからだ。私を誰よりも理解している大切な家族であり、
誰よりも強く守ってくれる、私だけの騎士であるレインがいたからこそ、父の遺志を貫き、
レナンティウスに屈することも無かったのだ。
そう、全てはレインがいたからこそ、なのだ。
311名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 16:23:10 ID:8I+woUcw
突然、視界が狭くなる。
左目には鋭い痛みが走り、何が起きたのか分からなかった。私は思わず左目を袖で拭った。
「!!」
袖には血がついていた。私の血ではない。血が目に入ったのだ。
私は痛みを忘れて、レインの姿を確認した。
「あ、あ……」
レインの肩を貫く、細長い剣。
「いやぁあああ!」
レインの肩は赤く濡れていた。
その飛沫は真っ直ぐ伸びていて、その直線上には私がいた。
私はそれを辿るようにして、レインに駆け寄った。
「残念ね、貴女の騎士様が負けてしまって」女が剣を引き抜くと、出血はより酷くなった。
レインは傷口に手を当て、それを確認する。
ゆっくりと、レインの持つ剣は手を滑って、音を立てて落ちた。
「レインっ!レイン!」
私は立ち尽くしているレインに後ろからしがみ付いた。
レインははっとして、体を捻って私の頭を撫でながら、言った。
「すまない姫。負けてしまった」
「そんなの、そんなのどうでもいい……」
私は涙を止めることが出来なかった。嗚咽も、うわ言のように口から出る言葉も。
私は、強くも何ともないのだと、改めて思った。
「でも、なかなか面白かったわ。本当は殺しちゃうつもりだったんだけど」
くすくすと笑う声が聞こえる。「そんな勿体無いこと、やめますわ。良かったわねぇ、お姫様?」
レインに抱きついた腕が、強引に引き剥がされて、次に強い衝撃が私の左半身を叩き付けた。
ふら付く頭を右手で抑えながら目を開けると、強い力で横に放られたようだった。
レインの姿が遠くに見える。左足、左腕が酷く痛んだ。
引き剥がされてから背中が壁に当たるまでの短い瞬間に、
「姫!」と叫ぶ声が聞こえた気がした。
「貴様、姫には手を出すな!」レインが落ちた剣を拾う動作が、ぼやけて見えた。
剣を左手で持って、あの女と対峙していた。肩を貫かれた右腕は、使い物にならなくなっているのだろう。
312名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 16:24:06 ID:8I+woUcw

「あまり興奮すると、出血が酷くなりますわ。
 それに、右腕が使えないのに、その剣でどうしようというのかしら。
 でも大丈夫よ。貴女の大切な人には、もう何もしないわ」
ふふふ、と笑う女の声。小さい声なのに、それは私にも聞こえてきた。
ゾッとするような、恐ろしい笑い声。「ええ、“私は”何もしませんわ」
視界は徐々に落ち着いてきて、ハッキリとレインの表情が見てて取れるようになった。
貫かれた右肩が痛むのだろう、辛そうだった。
レインは剣を鞘に収め、左手を肩に当てて、小さく呟いた。
回復魔法を唱えたのであろうが、気休めにもなっていないだろう。
血を止めることさえ出来ていないようだった。
「さて、貴女は私に負けました。
 先程言ったとおり、貴女は私の言うことを聞かなければいけません」
レイピアがふっ、と無くなった。彼女は相変わらず笑みを浮かべている。
「ですから、こちらへ来てもらえますか」
「翌朝にはここから発てるのですね?」レインはそう確認しながら、彼女の方へと進んだ。
足取りは重そうだったし、ふら付いていた。
「ふふ、大丈夫です。でも、その前に――」
お互いの手が届く距離になると、その女は自分の付けた傷をまじまじと覗き込んだ。
肩を抑えて、顔を近づけている。「肩の傷を治してあげましょう」
「っ!何をする!」レインは飛びのくように腕を引いて、数歩後ろに下がった。
何かされたのだろうが、レインの丁度左側にいる私には、よく見えなかった。
「ちょっとばかり舐めただけなのに、大げさですわ」女はゆっくりと歩み寄る。
「御覧なさい、少し治っていますのに。続けますよ」
レインは逃げず、その女が傷を舐めるのを許していた。
私にはそれが信じられなかった。肩を抑えられていたが、時々痙攣しているかのように動いた。
「どうでしょう?治りましたわ」女は顔を持ち上げて肩を離した。
彼女の口の周りは赤く汚れていた。話に聞く吸血鬼のようで、酷くおぞましかった。
その様子が、ではなく、レインが吸血鬼になってしまうと考えると。
「ああ、お願い事ですね。忘れてました」女は口の周りを指先で拭った。
赤い口紅を落とさないよう、丁寧に拭っているようだった。「お願いは――」
拭った血液を、舌先で舐め取る。
「私と今夜、交わってもらいましょう」
313名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 16:34:49 ID:8I+woUcw
一瞬意味が分からなかった。
私は女性であるし、彼女も然りだ。普通、性交とは男女が行うものではないか。
いや、世の中には同姓で行うという性癖の者もいると聞く。
そう言う事を言っているのか、と認識するまで、しばらくの時間が空いた。
それから赤面した。私は『聖騎士』という、神に仕える身である。
そんな女性と女性の、言うまでも無く婚前の性交が、許されるのだろうか?
それだけではない。彼女は人間ではないのだ。
彼女が私の肩を修復したときに、その邪悪な魔力を感じ取った。
つまりは私の体にそれは入り込んでしまったわけだが、
右腕が動かなければ抗うことも出来ないから黙って受け入れたのだ。
しかし、それが性交となれば、話は違う。
戒律以前の問題であるし、信仰云々は兎も角として、私の授かった神の加護は失い、
神聖なる力を用いた剣技が、今後使えなくなるかもしれない、そういう実害もあった。
だが、私に否定する権利は無い。私は負けたのだ。断っても無駄だろうし、
テレポートが使え、この林に住んでいる彼女から、逃げ切れるとは到底思えない。
姫も連れている。姫を危険に晒すぐらいならば、彼女の申し出を受け入れた方がマシ、というものだ。約束を破るのだって

、騎士道に背くことだ、と正当化する。
私は、気後れは止まないが、覚悟を決めた。「分かりました。やりましょう」
「そうとなれば、早速」彼女はそう言って服を破り捨た。
戦いの途中で乱れたイブニング・ドレスは、宙に放られて床に接触するまでの一瞬の内に焼失する。
彼女は下着と靴だけの姿になり、白く滑らかな肉体をさらけ出す。
私は急な展開にどうすればいいか分からず、ただ眺めていた。
こんな場所でするなどとは、夢にも思っていなかったのだ。
不意に、彼女は膝をついてうなだれた。
彼女の艶やかな黒髪は前に掛かり、うなじと背中が見えた。
私は何となく嫌な感覚に苛まれて、数歩退く。
それからその感覚が、彼女の持つ邪悪な力であるというのに気づいた。
彼女は臆面もなく、喘ぎ声を上げる。それは苦しんでいるようにも、喜んでいるようにも見えた。
314名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 16:36:15 ID:8I+woUcw

そして、彼女の体に変化が訪れる。
背中の所々が隆起して、瘤のようなものが複数現れたのだ。
それは彼女のブラジャーが裂けて取れるほどであったが、
それでもその瘤は肥大化し続け、突然それは破けた。
そこからは触手、と表現すべき、植物の蔦に似た器官が飛び出し、急激に伸びた。
全ての瘤から飛び出したそれは、背中一面から生えていた。
それらは全て、彼女の纏っていたイブニング・ドレスと同じ色、黒紫色であり、
血管であろうか、血赤色の筋が何本も通っているのが見て取れる。
粘液を分泌しているのか、てらてらと潤沢を帯びていた。
それに紛れて、彼女の尾骨が長く伸び始めているのも分かる。
それも触手と同様に長く伸びたが、若干形状が異なっているようだった。
恐らくそれは、彼女の尻尾に当たるのだろう。
尻尾が生える際に、ショーツとガーターベルトは破れ、
また尻尾は器用にその先端を動かして、両足のストッキングと靴を取り払う。
それらも燻りながら、燃えてなくなった。
尻尾が出来かけの頃から、彼女の背中から染み渡るように、白い肌は黒紫に変わり始めた。
まるでタールを背中から垂らしているようで、それは全身に行き渡り、
淑女のようだった彼女の姿は、遂に余すところなく魔物となった。
爪は鋭く尖り、全身を奔走する赤い筋と同じ色だった。
艶やかな黒髪の頭には、同じく血の色を呈した角が生える。
ぐるり巻かれた牡羊の角と同じような、立派な角が生え終わると、
目に見える変化はそれで終わったようだった。
彼女は起き上がって、私に微笑みを投げかけた。
先程と変わらない形の唇には、犬歯が肥大化したのだろう、僅かに白がはみでていた。
315名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 16:36:50 ID:8I+woUcw

「お待たせしました。これが私の本当の姿ですの。驚かれました?」
しかし、彼女のボディや四肢の形は、殆ど変わっていなかった。
大きくも小さくもない乳房や、括れたウエストライン。
肌の色を別にすれば、案外見れたものかも知れない、そう思った。
そう思うと、一糸纏わぬ姿というのも、おかしいように思えて
――いや、性交前に服を脱ぐのも当たり前か。
だが、姿を変えている最中は、本当の姿はもう少し獣染みた姿であると想定していた。
私が切り伏せてきた魔物とは、やはり異なる容姿である。
獣の方がいい、とは決して思わないが、それとはまた別な覚悟が要される。
しかし、彼女はこれが本当の姿であると言ったが、いささか疑わしい。
触手は数メートルはあろうか、という巨大さで、明らかに彼女の肉体との比率もおかしい。
そう思っていると、彼女は私の精神を読み取っているのか、こう言った。
「ふふ、殺されたくないでしょう?
 昔、羽目を外し過ぎて人間を殺してしまったことがありまして。
 それから少し、自粛しようと思いましたの」
私はその言葉に身震いした。恐らく嘘ではないし、先程の彼女の剣捌きも本気ではないとすると、
それではまるで蟷螂の斧でないか、と、私は自分の愚かに震えた。
彼女は突然、触手を私に伸ばしてくる。
私が反射的に避けると、「あら、覚悟がついたのではなくて?」とそれを咎めた。

敵にやすやすと捕縛される、とは屈辱的だったが、仕方がなくそれに従った。
それらは私の四肢に巻き付いて、宙に持ち上げられた。
それでも有り余っている触手は、私の体を支えるように全身に絡みついた。
絡み付いても、形を整えているのか、安定せずに私の体を揺すぶった。
それに揺すぶられていると、一瞬、姫の姿が目に飛び込んだ。
それと同時に、
「お姫様にも見せてあげましょう。貴女の、まるで獣の乱れる様を」と囁く。
やはり、精神を読み取っているのだ、と思いつつ、
こうして彼女と交わることに、強い後悔を抱いた。
姫にそんな姿を見せるなど、一生の恥だ。それだけは駄目だ。
それをやめることが出来るなら、私はどんな拷問を受けてもいい、そうとまで思える。
「駄目だ!姫の面前で、そんな――」私は精一杯の抵抗をして、それから抜け出そうとした。
「あらあら、恥ずかしいのね。でも約束は約束。今更後悔したところで遅いわ」
手足をきつく締めて、私を絡ませたまま、姫のすぐ傍にテレポートした。
姫はすぐ傍で心配そうに見上げている、守護者であるのに、俎上の魚である私を。
「さて、始める前にもう一つ。貴女に面白いものを見せてあげましょう」
そう言って、魔物は滑らかな指先で、私の額をトン、と叩いた。
何が起きたかはすぐには理解出来なかったが、瞬きをしても視界が残っているのに気が付いた。
その視界には、幾多の触手に絡まれた、惨めな女性――私の姿。
その視界は姫のものだ、と直感的に理解すると、すぐに何をされたかを把握した。
『共視』の魔法。
名前の通り、誰かの視覚を共有する、そういう魔法だ。
本来は鳥や何かに掛けて、遠方の偵察に利用するといった魔法だが、
この魔物は私を辱めるために利用するのだ。
私が姫に見られていること、私がいかになる醜態を晒しているか、ということを自覚させることで。
316名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 16:41:48 ID:8I+woUcw
戸惑いを隠せずにいる私は引き寄せられて、装いを一つ一つ剥がれていった。
魔物はその度に、「ブーツ、グローブ――」と、取り払うものの名前を読み上げて、
脱がされていることを強調する。
服はどれも破られて、抵抗の甲斐なく、衣服は瞬く間に失われていった。
「スカート」傷だらけの体は露出し、「姫!お願いです!どうか終わるまで!」
「ブラジャー」私の胸がはだけ、「私の姿を、見ないでください」
「ショーツ」陰部も晒され、「お願いです」
「ガーターベルトと、ストッキング」
全てを、誰にも見せたことのない全てを、姫に見られてしまった。
「姫……お願いします」
姫は呆然と見上げていて、それからしばらくして気が付いたのか、
慌てて俯いて目を固く閉じた。第二の視界も暗転する。
「お姫様はご存知のようね」魔物は愉悦の声で喋った。
「立派なホーリーナイト様が、よりによってこんな魔物と淫らなことをしようとしているということが」
「黙れ、貴様に何が分かる……!」声が震えた。自棄的な衝動が私を叫ばせようと、
絶望的な羞恥が、私に押し黙らせようとした。「姫に、こんな……!」
「誰よりも大事なお姫様の前だものね。格好つけたいのも分かるわ。
でも、そんな貴女に、こんなこともしちゃう」
「あんっ!」全身に得体の知れない感覚が生じた。何が起きたのか分からなかったが、
されたこと以上に、自分から出た、女々しい声に虫唾が走る。
「可愛らしい声ね」彼女は声を出して笑う。
酷い屈辱を覚えたが、それに憤慨している余裕はなかった。
「このまま一回、イかせちゃいましょう」
「だめ、あ、あっ、はぁっ――」
再度同様の感覚が全身を駆け巡り、今度は止まらずに連続して続けられた。
はしたない嬌声は止め処なくこぼれて、全身の痙攣は抑えられなかった。
何をされているのかも分からないまま、私はその感覚に溺れた。
この感覚は――そう、認めたくはなかったが、紛れもなく――快感だったのだ。
「いやぁああーーっ!……」
快感が高まりに高まったとき、頭の中で何かが切れるような感覚がした。
それは恐怖を伴って、今まで以上の快感が全身を包み込んだ。
体はまるで死にかけているようにぐったりとして、頭の中の静寂に漂う快楽の残り香をかみ締めていた。
ぼやける視界には姫が映ったが、思考が復旧するまで、何も考える気にはならなかった。
しばらくして、自分は、ぬるぬると粘液を分泌する触手で、乳房を揉まれたり、
全身を愛撫されたりしている光景を思い出す。
姫の瞼は開いて、今思い出した光景と同じものを見ていたのだ。
その光景の中の私は、愛撫によって感じて、絶頂に達したのだろう。
(兵卒のしていた猥談で、そういった表現を使うと耳にしたことがある)
そして、それが酷く淫らなものだと分かって、姫の視界の私は、耳まで高潮していた。
姫は私を見ていた。涙に濡れている目が、何を示しているのか分からなかった。
憐れみか、蔑みか、恐れか。姫のぼやけた視界を覗こうとも、姫の思考を覗けはしない。
死んでしまいたかった。こんな醜態を晒すならば、いっその事死んでしまいたかった。
317名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 16:46:23 ID:8I+woUcw
だが、そんな私の心情を差し置いて、行為は一方的に続いた。
「やっ、んんっ――」
突然私の両足が強引に開かれたかと思うと、今度は私の入り口を撫でられた。
水っぽいくちゅくちゅと音を立てて、かき混ぜながら、魔物が喋り始める。
「私が身体を撫でただけで、こんなに股を濡らして、いやらしいですわ。ねぇ、お姫様?」
姫は何も言わない。口に手を当てて、耳まで顔を真っ赤にしているだけだった。
私はそんな姫を目にしながらも、口から漏れ出る色声を、踊る肉体を止めることは出来なかった。
ぼやける私の視界は自分の涙のせいだったが、その涙の理由は、
恥辱から来る嫌悪感か、愛撫から来る官能の、どちらだろう?
「それじゃあ“せい”騎士様、挿入して差し上げましょうか」
彼女の嗜虐的な微笑みが目に浮かんだ。血赤色の口紅。
「入れて欲しくなったら、すぐ言ってくださいね」
「だ、誰がそんなことを言――っ!あぅっ!」
再度、全身の触手は蠢き始めた。それだけでなく、陰部を何か軟らかいもの、恐らく舌で舐められた。
チロチロと掠めるそれは快感に変わり、私の腰部ががくがくと震えた。
触手は私の胸を同じ様に嬲り、私がイきそうになると、動きは全く静止するかと思えば、
頃合いを見計らって、また私の身体を弄び始めるのだ。それはほとんど拷問だった。
達する寸前で行為を止められる度に、挿入を要求しようとする自分が、即ち、その快楽を欲する、
彼女の言う通りの、「性欲に乱れる獣」である、と認識する羽目になり、酷く自己嫌悪に陥った。
私は耐えに耐えた。悶々とする体を抑えようと、全身全霊を掛けた。
ここで耐え切れなかったら終わりだと、そう何度も自分に言い聞かせた。
姫の面前で、心までは乱れるわけにはいかないと叱咤した。
いくら身を捩じらせても、声を上げても、最後の砦だけは死守する必要があった。
それでもこれは、あまりにも分の悪い戦いだった。
「入れて……」
遂に理性の剣は折れた。私を突き動かすものは、快楽と、自暴自棄の二つだけ。
「聞こえませんわ。もっとはっきり言わないと」
今の私は、聖なる力を剣術に宿らせる、王家を守るための騎士ではない。
「入れて!この獣をイかせて!」
性欲に自己を抑えられない、ただの淫乱な獣なのだ。
318名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 16:49:28 ID:8I+woUcw
レインが何をされているのか。それは確かに分かっていた。
それを甘んじて受け入れているのも、
そして恥辱で気が狂いそうであるのも私のせいである、
ということを私は知っていた。
目を瞑れば良かったのかもしれない。耳を塞げば良かったのかもしれない。
そうすれば、レインの心を痛めることはなかったのかもしれない。でも、私は、それを見ていたかった。
レインだけに、そんな辛い思いをさせるわけにはいかない、そういう思いがあった。
私がそれを見ることで、何か――例えば痛みとか、苦しみとか――を共有出来ると思っていた。
レインが私の亡命を手伝ってくれているように。実際、私の心には、酷い傷が残った。
現実と理想の食い違いや喪失感、何故か強烈なジェラシーが私の中で赤熱して、様々な情懐を焼き焦がした。

私は達すると共に、体の中に何か熱いものを注がれた。
絶頂の余韻の中、私の拘束は解かれ、床に横たえられた。
私はただ呆然としていて、その空虚の中に、次々と感情が浮かび上がってくるのが分かった。
私はそれに溺れて、息が出来なくなる。喪失感、開放感、自己嫌悪、羞恥、後ろめたさ、後悔――
不意に何かが、私の裸体にのしかかる。何か喋っているようだった。
私はそれに手をやると、髪の毛に手が触れて、それをそのまま撫でた。
私が撫でているのは姫だった。姫は泣きじゃくりながら、私の名前を何度も呼んだ。
それを聞く度に、複雑な感情の混合物は、安らぎを帯びて振動した。
だが、何故だろう。
この高揚感は。
クールダウンしていくはずの体は、また発熱し始めた。心臓は強く脈打ち、高潮する。
様々な負の感情は、ぶら下げた安らぎを連れたまま、フェードアウトしていく。
代わりに沸々と、そう、高揚感が湧出してくる。その高揚感は、性的なものばかりではない。
強敵と対峙したときの破壊的な衝動さえ孕んでいたのだ。
不意に頭を過ぎる、あの魔物の微笑み。意味深長で、陰を抱き、生命を嘲笑するような笑み。
焼け付いて離れない唇の形、その赤は、ゆっくりと形を変えて、言葉を発した。
「これでお終いと思って?」
319名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 16:55:14 ID:8I+woUcw
「くうっ、はぁん、何、これ……」私の全身は震え、姫は驚いて身を退いた。
それと共に、精神と肉体の高ぶりは、遂に自己の熱で熔融を始める。
両腕は私の頭を抱えて背を丸め、足も折り曲げた。
全身を粘液まみれになりながら体を縮こまらせている様子は、まるで胎児のようだった。
その胎児の口からは、湿り気を帯びた喘ぎ声が漏れている。
犯されているような快感が、熱に呼び覚まされて再発していた。
性器から湧く粘液が、まるで熱湯のように沸いていて、それが肌を伝って広がっていくようだった。
裸体を撫でるように焦がしていく。姫の視界の中で、私の体に変化が起きているのが分かる。
初めは蹲った体で見えづらかったが、変化が進むにつれ、それは顕著になっていった。
茶色の体毛が生え始めたのだ。
その変化は陰毛から始まったのであろうが、じわじわとその範囲を広げていく。
その変化が快感と高熱をもたらしているのだ。また、全体的に図体が巨大化しつつある。
変化はそれだけではなく、お尻から何かが生え始めているようだった。
その新たに生まれつつある部位にもやはり感覚はあった。それは紛れもない尻尾であった。
獣が持つはずのそれが、私の身体から生えている。
「うう……いや、こんなの……」
体を溶かし尽くすような変化が私の乳房を覆い始め、それが私の腕をチクチクと刺した始めたときには、
姫の視界では、私の脚に変化が見えた。大腿の筋肉は肥大し、またほとんどが胴体の一部になりつつあった。
またくるぶしより下の足は、徐々に人ならざるものの足へと形を変えていく。伸びているようだった。
骨が歪む音からも、これは錯視ではないようだった。
それら変化は、体毛の生える変化よりも遥かに熱く、また淫らだった。息を整えることすら、ままならない。
「酷い……私の、体、が……」
「レイン、これは何?どうしちゃったの?ねぇ、レイン!」姫の声が聞こえるが、私には返答出来なかった。
大丈夫、そう一言呟くことさえ。このおぞましい光景を信じられなかったのは、私の方だったのだから。
私の下半身は完全に獣になってしまった。
ライオンのそれと同じ様に、地面を這い回るための形。
ごわごわとした茶色い毛で覆われて、お尻からは立派な尻尾が垂れていた。
もう私は、二本足で屹立することも出来ない。
世間に顔は見せられない、そういってひざまづいている、いびつな自分の姿が、頭の中に浮かんだ。
目からは止め処もなく涙が溢れた。それを止めようとする気力すら、残されていない。
320名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 17:02:40 ID:8I+woUcw
「やめ、て、お願い……」
腕も脚部と同様に、上腕の筋肉が肥大化すると共に胴体に癒着し、
また手の平も足と同じように鈍い音を立てて長くなった。
骨格が変化する一方で、腕にも毛が生え始めていた。
腕に生える毛は、哺乳類のそれとは異なり、羽毛であると気づいた。
いや、胴体は確かに毛皮のようだったが、両腕は鳥類と思わしきものに変化していった。
気付けば指の一部は退化していたし、手からは鱗の生え、節くれ立った鈎爪になっていた。
ふと動かせば、その鈎爪は空を掴むように握る。紛れもなく私の腕だ。
でも、もう剣は握れないし、文字を綴ることも出来ない。
人生のほとんどを費やして磨いた剣技は、こんなところで断たれるのだと思うと、空しさが抑えられなかった。
「お願い、私を、私を怪物に、しな、いで……」
私はただ、快感に苛みながら、変化に対してうわ言を発するばかりだった。
俎上の魚は跳ねることすら出来なくなり、ぱくぱくと口を開閉し、悲しみにくれるだけ。
それとは相反して、異様な高揚感と体温は、身を悶えさせていた。
腕の変化が終わろうとしたとき、一度変化を終えた私の背中に、再度高熱が帯びる。
レイピアで貫かれた所よりもやや内側、肩と背の間だった。
そこで何が生じるか、という推測は正しく、やはり翼が生えた。
今は重たげに横たえているだけだが、恐らく羽ばたけばこの巨体を舞い上がらせるのだろう。
これだって、人間が背負うものでは決してない。
翼は天使が背負うもの?いや、堕天使だって背負っているし、この姿のどこが天使なのだろう。
地に這いつくばって唸っている天使など、私は聞いたこと無いし、信仰したこともない。
「なりたく、ない、なりたくない、のに……」
頭部もまた変化しつつあった。首は伸びて、骨格の変化を追いかけるように羽毛が生えていく。
首筋には、そろりと舌が這っているような感覚が通る。
「私は人、げん、なノニ……」
私は変化の途中ながら、横たえたを持ち上げ、四足で立とうとした。
姫は一歩だけ退いた。慣れない体でもがいていると、あの魔物がすぐ傍に佇んでいるに気付いた。
姿を人間のものに戻し、焼失したはずのイブニング・ドレスを纏っている。
まるで自分は人間であり、人間とはこういった姿なのだ、と見せ付けるように。
立ち上がるだけのことに苦心しているのを見て、「ああ、可哀想ねえ」と、わざとらしく言い放つ。
私はやっとのこと思いで立ち上がったが、すらりと直立する、美しい魔物には、まだ見下ろされたままだった。
「ウア、ア、モトニ、モドシテ」それでも私は乞うことしか出来なかった。
声帯は変化しきって、既に醜く濁った声しか出せなくなっていても。
その間変化は続いている。
羽毛が骨格の変化に後から追いつくように生え揃うと、そのまま私の頭部を覆い始めた。
羽毛が一本、一本と生えていくにつれて、私の頭髪は抜け落ちる。
その光景は、私の身体は失われ、新たな身体が生まれているということを強く自覚させた。
「ふふ、貴女が獣の言うことに耳を貸したことがあって?」
彼女はそう言って、彼女は私の目の前で立ち、しゃがんだ。
私の今、変化しようとしている顔を覗き込んで、彼女は笑っていた。
321名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 17:06:14 ID:8I+woUcw


「イヤ、ア、ア……」私は前肢で身体を支えるのをやめて、地面に突っ伏した。
空いた前肢を本能的に動かして、私は自分の顔を覆った。自分の手の感触は、以前のそれとはまるで違っていた。
肉の無い鈎爪は、まだ木の枝を当てていると考えた方が、よっぽどしっくりとくるような肌触りだった。
私の顔の骨は前に突き出ようとしていた。
私はそれを抑えても、まるで意味は無く、鼻や唇を飲み込んで、嘴を形成していくのが分かった。
皮膚は薄く延びて硬化し、震える私の鈎爪が接触する度に、カチカチと音を立てた。
「ウグ、ギ――」同期を取るべき唇も無いのに、今でも喋ろうとする舌は、
その異形の口腔に合わせるようにして、ぶくぶくと膨れていった。
その厚みに邪魔されて、次第にその舌も働かなくなる。「ギ、ギャ、ギャアァ……」
私は言葉を発そうとしても、ギャアギャアと鳥めいた鳴き声しか発することが出来なくなってしまった。
いつも通り喋ろうとしても、ゆっくりと意識して声を出そうとしても、
挙句には、ただ咳払いをしようとしても、嘴からは魔物の鳴き声ばかり。
私は辱めを受け、純潔を奪われ、二本足で立つことを奪われ、剣を、筆を奪われ、遂には話すことさえ奪われた。
私は何から何まで奪われて、後はこの醜い体と、糧を失った生命だけだった。
それなのに、魔物は言う。
「じゃあ聞きましょう」
うずくまる私の頭に手を置いた。そして、私に訊ねた。
「貴女は人間ですか?」
私は答えようとした。答えようとはした。自分の声で、「私は人間だ」と主張しようとした。
だが空しくも、怪物の鳴き声しか発することが出来なかった。
私の声は、人間であることを主張するどころか、獣であることを証明していたのだ。
私は、グリフォン、そう、鷹とライオンの合いの子に、成り下がってしまったのだ。
私は以前の自分が秀麗だったとは思っていないが、それでもそれなりに愛着があった。
だが、今ではもう、全身を毛で覆われた、まさに獣なのだ。性欲に負けて獣になり、
遂には肉体も獣になってしまった。服を纏わず、尻を臆面もなく突き上げて、荒野を闊歩する獣。
私はそれと、同列の存在なのだ。唯一残された理性なんて、それこそ無くなってしまえばいい、
そうとすら思った。そうすれば、この屈辱に、押しつぶされることもなかったからだ。
だが、こんな姿を姫に見せたくない、という思いを、変化が終わってからようやく抱き始めた。
既にボロ雑巾のような私のプライドが、少しだけ形を持ち直したのだ。
そして私は、こんな魔物に助けを乞うばかりであった自分を恥じた。
322名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 17:15:48 ID:8I+woUcw
「そう、貴女はグリフォン」私の心を抉るように、魔物の女は高笑いをする。
「貴女は人間じゃないし、人間にもなれない。獣として、交尾したり、獣を狩ったりして生きていくの。
 火の通っていない肉を美味しそうに喰らってたりして。
 ときには人間を狩って、最後は昔のお友達に殺されてしまうの。
 獣は貴女が殺してきたものだけど、今は貴女が獣。貴女が殺されてしまうのよ」
その魔物は、私の頭を撫でるので、私はその手を振り払った。
「私は貴様のペットじゃない」そう言いたかったが、私は言葉を紡がない。
その代わりに、私は喉を鳴らして人外染みた唸り声を上げる。野生のグリフォンが威嚇するように。
その瞬間、彼女の言葉は、ただ闇雲に私を貶めているのではなく、事実なのだと認識した。
口から漏れた唸り声は、私が意図したものではなかったからだ。
「一つ良いことを教えてあげましょう」次は毛並みを確かめるかの如く、私の首をさすった。
獣染みた自身の行動に面食らっていた私は、されるがままにしていた。
「貴女の変化はまだ、終わりきっていないのよ」
彼女の、あの微笑。薄れかけた脳裏の焼印は、色濃く蘇る。
とたんに精神は高揚して、体が熱くなる。私は嬌声の代わりに、甲高い鳴き声を上げた。
魔物が私の首から手を離すと同時に、姫は私の長い首に姫は抱きついて、「レイン!どうしたの?」と呼んでくれる。
私は人間ではなくなってしまったが、まだレインではあるのだ、そう思った矢先だった。
強烈な性欲が、私の陰部から脳天を突き上げた。何か変化が起きている。
むくむくと、私の性器の一部が肥大化し、何かを形作り始めた。訳が分からなかった。
体はもう、認めたくないが、グリフォンになってしまったはずだ。
だが、変化は実際に起きていた。
また、性器からの快感ですぐに気付かなかったが、変化は私の胸部にも起きていた。
思わず私は、前脚で自分の乳房を触る。それで気がついた。信じがたいが、それしかありえなかった。
乳房は縮小し、無くなってしまった。元々大きくはなかったが、それでも確かにあったのだ。
鎧を作るときだって、しっかりとその大きさを寸法に入れた。
だが今では、その脂肪分は消失し、羽毛に硬い筋肉しか触れることが出来なかった。
陰部の変化が終わると、そこには何かがぶら下がっていた。それはあの熱を孕み、怒張していた。
私は恥ずかしくなって、思わず足を畳んで座り込む。
それは私の腹に当たって、毛皮越しに温度を伝えた。一連の動作に姫は不思議だ、
とでも言いたげな顔をしていらしたが、今の私には言葉を伝える術がなかったし、
伝えるには卑猥過ぎる内容だった。
323名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 17:16:58 ID:8I+woUcw
新たな性器に滞ったままの熱は、いくら分散してもそこに存在した。
私の、一度きりしか――しかもこんな魔物によって――使われなかった女性性器に代わって。
私は女性らしく振舞うように育てられなかったし、また、時に女性であることを恨みもした。
だが、それでも私は女性だった。
不慣れでも、鎧を纏わぬときにはそれなりのお洒落をしていたつもりだったし、化粧だってする。
それに、貞操だって、しっかりと守ってきたのだ。
なのに。
なのに、私の身体は男性になってしまった。確かにもうこんな、醜い怪物の姿かもしれない。
それでも、私は女性でいたかった。
女性としてではなく、聖騎士として育てられた私は、
最後の最後に穢されただけで、女性的な楽しみ等ほとんど味わうことなく、雄になってしまった。
持ち直したプライドによってせき止められていた涙は、歪んだ嗚咽に変わって溢れた。
そしてその嗚咽さえ、私を虐げる。お前は人間ではないのだ、と。
「どう?新しい身体、気に入ってくれたかしら?私なりに、貴方に似合った身体にしてあげようと思って」
魔物は私の周りをうろうろと歩きながら喋る。私を惨めだと言いたいのか、嬉々としていた。
「やろうと思えば豚とかイモリとかでも良かったのよ、感謝なさい。
 ああ、そういえば貴方は馬が欲しいって言ってたから、馬にすればよかったかしら。
 でももう変えられないわ。それじゃあ、お姫様を馬に、しちゃいましょうか。
 そうすれば、貴方のナニもすっぽり入るわね」
ギリギリと締め付ける万力に、感情のるつぼは砕けた。
多種多様のネガティブな感情が、姫に対する防衛という形をとった怒りになった。
私はその瞬間、反射的にその魔物に飛び掛かる。
突発的な衝動は首に抱きついていた姫のことを省みず、
理性が歯止めを掛けようとしたのは飛び出した後だった。
姫の悲鳴に振り向くことすら出来ず、姫を振り落とすように残した。小さく耳に飛び込むのは、そのかすかな悲鳴。
魔物はテレポートをし、私の身体を空を過ぎった。
そして姫の安否を確認しようとするも、それより先に魔物を追っかけている自分がいた。
身体の高ぶりが押さえられない。挑発が口火を切ったのだ。
奴を殺さなければいけない、という妄執が、今や私の身体を動かしていた。
何度飛び掛るも、魔物はテレポートを駆使して避けた。飛び掛りは消え、飛び掛りは消えを何度も繰り返す。
その度に奴の嘲笑が私を駆り立て、その度により奮起して飛び掛った。止められなかった。
闇雲に敵を追っかけているだけで私は充足していた。猫じゃらしで翻弄される猫と同じ、
これが今の私の本能だ、という事実を、否定出来るものなら否定したかった。
「惨めなものね」高笑いがホールに響く。「節制すら失うなんて」
私は飛び掛る。今度は身体に何かがぶつかった。それは悲鳴を上げ、押し倒された。
テレポートをしなかったのだろうか、という疑問を抱いたまま、捕らえた獲物の上に、踏み潰さないよう着地する。
「レインっ!私よ!」私の巨体の下から聞こえてくる声は、姫のものだった。
「これじゃあ、手懐けられた家畜の方が、よっぽど人間に近いわ」どこからともなく聞こえてくる声。
あの魔物は、姿を消し、ホールには姿が見られない。獲物を見失った私は、ようやく主導権を取り戻した。
先程の躍動しているときとは大違いで、身体はぎこちなく動いた。
人間では手の平や足の甲だった部分が、グリフォンでは脛的な部位であり、
人間で言えば脛だった部分が、グリフォンでは腿なのだな、等と、わざわざ確認する必要があった。
そうしながら私は、数歩後ろに下がった。
「レイン、しっかりして!」仰向けになって横たわり、こちらを見上げなさっている姫と目が合った。
姫は、私がまだ闘争本能に駆られていると思われているのか、何度も呼びかけなさる。
私は身体をどかそうとした。だが、そう必死になっている姫を見ていると、
ある高ぶりが、身体の中で火をつけた。
私はそれを止めようとしたが無理だった。
理性の支配は束の間で、再度、暴力的な本能が、私の身体を支配し始めたのだ。
そのときの無力感は、剣技で負けたときより、犯されているときより、
姿を変えられているときよりも遥かに強く、そして、私に絶望を与えたのだ。
324名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 17:26:31 ID:8I+woUcw

レインの様子は明らかにおかしかった。
私の呼びかける声は一向に届かず、レインは左手で私の腕を押さえ、また後ろに下がった。
長い首を下ろし始めたとき、レインは私に噛み付こうとしているのだ、と思い、「食べないで!」と叫んだ。
レインは私の身体を噛み付きはしなかったが、それは多分、私の声が届いたわけではないだろう。
嘴は、私の服を咥え、破ろうとしたのだ。右足の爪で服を裂いて、同時に身体を押さえつける。
硬い爪が私の胸に押し当たった。何枚も重ねていた服は、二、三度で全部破かれて、ブラも器用にちぎられた。
そして、嘴から出された舌が、私の胸を舐める。暖かく、ぬるぬるとしていた。
気持ちいい、思わず声が出て、恥ずかしくなる。
鋭い嘴が刺さらないか、ということだけが心配だったが、相手はレインなのだと思うと、自然と安心出来た。
私は目を瞑り、力を抜いて、レインに身体を委ねた。

私は嵐のような欲求を抑えられず、姫の服を破り去ったばかりか、あろうことか、姫のことを舐めてしまった。
私は守るべき存在の姫を、私自身が攻めてしまったのだ。
姫は何もかも諦めなさったのか、抵抗の素振りも見せない。
そうだろう、こんな獣に襲われているのだ、そう自嘲し、同情した。
私は抑えられず、分厚い舌で何度も舐めた。
まだ発育途中の乳房ばかりでなく、至る所を舐めたし、そこかしこを嘴で軽く噛んだりもした。
その度に上げなさる姫の声は、私の官能を刺激して高まった。
私の師でもあり、親衛隊の前隊長でもあった父に、いつも私を信頼してくださった皇帝と后様に、
そして何よりも、姫に、申し訳ないと思った。全ては自分の力不足であり、これはその結果です、と。
次に私は身体の向きを変えて、姫のスカート等を剥ごうとしていた。
姫は抑えられていた腕を開放しても逃げる素振りはなく、私の意に反して滞りなく進んだ。
私は姫の召し物の、何から何まで破いた。そして今度は、姫の股に舌を伸ばしたのだ。
私は目を瞑った。
共視の魔法も既に解けていたから、そうすればこの現実から少しでも逃避出来るだろう、そう思って目を瞑った。
だが、私の舌から伝わってくる感触や味覚、濡れた音、姫の喘ぎ声は、
私の心の中で反響して、現実から逃れることが出来ない。
軟らかい舌触りは確かに気持ちよかった。姫に対しての性欲も偽者ではない。
無常にもそう認識させられた後は、それらは私に与えられた雄としての肉体のせいだ、
そう考えることで、私は行動を正当化しようとした。そこに、声が聞こえてくる。あの魔物の声だ。
「貴方、本当にそう思っているのかしら」
咄嗟に耳を塞ごう、と思ったが、身体は自由に動かないし、そもそも耳がどこにあるか、分からなかった。
「私は貴方の欲求そのものは、変えてないわ。私が変えたのは、貴方の身体だけ。
 そして私はあくまでも、普通のグリフォンに変えたわ。
 決して人間とセックスするような、変態染みたグリフォンにはしてないわ。
 いい?今の貴方の行動は、貴方の欲求なのよ。人のせいにするなんて、騎士のすることじゃないわ」
どうしようもなくなってしまった。
目の前には受け入れがたい事実が、逃避、正当化の術も無くなって、ただ立ちはだかっていた。
その事実のせいで、今まで築き上げてきたものが全て瓦解していくような気がした。
守り抜いた意味が、台無しになってしまった。
作り上げたトランプの塔を、最後は自身の手で崩すように、
最後まで残しておいた好物を食べるように、私は姫の身を守り抜いてきたのは、
こうして、その身を犯すためにあった、そう言われているのと同じことだった。
私は初めから獣だったのだ。
325名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 17:36:17 ID:8I+woUcw
私は、嘴から出した舌で性器を舐めながら、尻尾で彼女の頭の角度を変えた。
調整し終えると、尻尾はしっかりと頭を捕縛した。
元の身体にはなかった部分の触覚に驚きつつも、嫌な予感がして、そしてそれはその通りだった。
尻尾とは別の、元の身体にはなかった器官から、快感が迸ったのだ。
私の喉奥からは高い鳴き声が小さく漏れ、身を捩じらせた。
私は陰茎を、彼女の口に押し込んでいた。罰としてそのまま噛み千切って欲しい、そう思った。
だが、その思いとは裏腹に、彼女はそれに歯が当たらないように咥えて、あろうことか、私の陰茎を舐っていた。
私は遂に彼女を狂わせてしまったかと思いつつ、その気持ちよさで、罪悪感さえ霞んでしまそうだった。

初めは驚いたが、すぐにそれがどういう意図なのかが分かった。
私は尻尾にされるがままになって、それが私の口に入るのを待った。
私は思っていたよりも大きな生殖器を前に、若干しり込みしつつ、私はそれを受け入れた。
傷つけないようにそっと咥えて、そうしている最中も、レインは私のものを舐めていたから、
そうすると気持ちいいのだろうと考えて、それに対してとても小さな舌で舐めた。
既にそれは濡れていて、しょっぱい味がした。レインに喜んで貰える、そう思って私は精一杯奉仕した。

しばらくして、私は我慢出来ずに射精してしまった。
陰茎を抜くことも出来ず、そのまま姫の口の中に注がれた。
下品な鳴き声を発しながら、快感が思考を満たし、去り際に罪の意識を残していった。
長い縁がなくとも、年端もいかない子供にこんなことをさせているだけでも非道であるのに。
精を放った陰茎を、姫の舌は丁寧に拭いなさっているのを感じて、罪の意識と愛欲は、一層高まっていく。

口の中に精液を出された。溢れそうになるそれを、私はこぼさないように飲んだ。
美味しくはなかったが、吐き捨てるのは躊躇われた。飲み干しても、自分の口の中が、生臭い匂いで一杯だった。
そうしてから、精液を放出した生殖器を舌で舐めて掃除をする。
射精した生殖器は、勃起を解いて小さくなる、そう教えられたが、硬く強張ったまま、それは抜き取られた。
それと共に、私は理解する。まだ本番ではないのだと。既に私は、レインに全てを捧げる覚悟が出来ていた。
もう私の身体は、子供を作れるようになっていたから、拒む理由も無い。
そしてレインの舌が止まり、尻尾が緩んだのを確認すると、私はうつ伏せになってから四つん這いになって、
更に身体の向きを変えた。レインと同じ格好になって、そのときを待った。

私が行為を緩めると、姫は積極的に体位を変えた。
私の身体は動こうとしたのをやめて、その体位に合わせた。
私が姫の貞操を乱して狂わせてしまったのか、それとも、
姫は私に食い殺されまいとして、私の本能の意に従い行動しているのか、分からなかった。
だが、この行為は、姫の身体に一生の傷を付けることになるのだ。
結局、自分の深層心理に抗う術が無いまま、ここまで来てしまった。
そしてまだ、その罪を償う術も思いつかないまま、身体は動いた。
私の腹が姫の背中に接触している、と今更なことに気を掛けつつ、私は姫の処女膜を破った。
獣である割にはゆっくりと、負担を掛けないように突いた。
それだけが、私の悪しき本能の、唯一許せる点だった。
私は、私を包み込む姫の中があまりにも気持ちよくて、声にならない声を上げていた。

鋭い痛みを絶えながら、私はその行為が終わるのを待った。静かなホールには、私とレインの息と、水音だけだった。
その水音は、きっと私が淫らだからだろう、とか、私も怪物になってしまうのだろうか、とか考えていた。
きっと私の身体では、レインのものは最後まで入らないだろう、そうも思った。
思った通り、まだ途中であるのに、それは最深部まで到達した。私はふと思い出して、魔法を唱えた。
鎮痛の魔法である。奥まっていくにつれて、身体をこじ開けるような痛みが、耐え難かったからだ。
不得手な魔法はさして効果を示さなかったが、気休め以上の働きはしてくれた。
ほとんど気持ちよさというものを感じることが出来なかったが、不満は無かったし、それどころが十分に満ち足りていた。

最後にレインの精液が私の胎内に放出されて、行為は終わった。
326名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 17:39:13 ID:8I+woUcw
私は、姫の身体を犯しながら、性感で霞みかけた意識を駆使し、二つのことを考えていた。
今までのことと、これからのことだ。
今までのこと、つまりこの行為を、どう評価すればいいのか、ということだ。
この行為を私は、一生許すつもりは無い。それはいいとして、この行為は、私にとって苦痛だったのか?
いや、違う。
苦痛ではなかった。
出すものを出しておいて苦痛だったと思うなど、そこまで落ちぶれた人間ではないし、
これは私の本心が、私の気付かない内の本心が、望んでやったことなのだ。
開き直るわけではないが、毒を喰らわば皿まで、そう思いながら、
私は自分の意思で、ゆっくりと、そしてぎこちなく腰を振った。
もう一つは、姫は私のように、姿が代わってしまうのか、という疑問だった。
仮にそうであれば、私は彼女の処女を奪ってしまったこと以上の罪を犯してしまうことになる。
だが、もしそうであれば、彼女はどんな生物に堕ちておしまいになるのか。
魔物は私を、意図的にこの姿に変えた、と述べていたが、もし私が念じれば、姫はその姿を取られるのだろうか。
もし私が、姫はそのままでおなりになることを念じれば、その通りになるのだろうか。
分からなかった。姫も否応が無くグリフォンになってしまうのかもしれないし、
もしくは姫に似合った生物が、選ばれるかもしれない。
あれやこれや、と考える。人畜無害な姫のことだから、そのような動物におなりになるのだろうか。
だが姫は運動能力に欠けなさる。草食動物とはどれもすばしっこいものだが、姫はどれも妥当に思えない。
だが活発だ。淑やかでもおありだ。勇気も存分にお持ちだし、人並み以上に知性はあるし、何より優しいお方だ。
お后様に似て美人でなさる。その気持ちも分からぬわけではないが、色目を使う輩もいる位だ。
大衆には人気もあるし、ああ、あと――
私は果てた。結局私は答えを出すことが出来ず、心の何処かで人間であることを願いながら果てた。
私は抑えることなく声を上げた。そして萎え始めた陰茎を挿入したまま、射精の余韻に浸って、しばらくそのままでいた。ありとあらゆる負の感情は、勿論拭い去れない。
しかし、気持ちよかった、私は欲求を発散したと、正直に認めよう、そんなことを考えていた。
しばらくして、私は自分の身体を自分で動かすことが出来ることに気付いた。
今ではもう、完全に雄になったのだな、と、一抹の羞恥を抱きながら、陰茎を引き抜いた。
引き抜くと共に、唐突に私は眠気を覚えた。
体中をぐしょぐしょにしている粘液やら汗のせいかもしれないが、身体も非常に重く感じる。
ここのところずっとまともに眠っていなかったし、身体を休める時間さえろくに無かった上で、大勢と戦ってきた。
だがそれ以上に身に堪えたのは、この城での出来事だろう、そう思いながら、ざっと一連の出来事を改めて振り返った。

生殖器が抜かれ、レインが私から離れたとき、私は寒気を感じた。
全身は汗でびしょびしょだったが、それは行為による興奮と、何より毛皮のあるレインに抱かれていたからだった。
胎内にある精液だけがやたらと熱かったが、それだけを保温の拠り所には出来ない。
服はレインに破られてしまったし、レインの服だってそうだった。
痛む膣に、もう一度鎮痛の魔法を掛けながら、私はふらふらと立ち上がる。
その寒さを和らげるために、傍らで座っていたレインの首を抱いて、その羽と羽の間に身体を滑り込ませた。
レインは驚いたのか、可愛い鳴き声を上げたが、暴れずに大人しくしていた。
濡れていたし、チクチクするが、思った通り暖かかった。
毛皮からは動物独特の匂いがするし、私の身体を全部寝かせても、身体ははみ出ないほど身体は大きかったが、
こうして触れ合えることが、即ちレインである証拠なんだ、と思った。
それでも、毛皮に触れていない背中が寒かったので、私はレインに「暖炉に当たろうよ」と囁いた。
レインはおぼつかないだけでなく、のっそりとした挙動で、暖炉の前まで移動した。
したかと思うと、すぐに座り込んだかと思えば肢を投げ出して、首を真っ直ぐに伸ばし、眠り込んでしまった。
私はレインに乗ったまま、レインがクークーと寝息を立てて、気持ちよ

さそうに眠っているのを眺めていたが、私も次第に眠くなってきた。
夢うつつにまどろむ中、私はどんな獣になるのだろう、ぼんやりと想像しながら、
今にも高鳴りそうな体のまま、私は安らかな眠りに落ちた。
暴君レナンティウスへの怒りも、脅威に晒されている、愛する国民への憐れみも、抱え込むことなく――
327名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 17:47:50 ID:8I+woUcw
以上です。長いのに読んで下さった方ありがとうございます。
読まなかった方、スレ汚しすみませんでした。

本当はバッドエンドを書くつもりだったのが、
雨降って地、固まる的な話になってしまいました。

文章力に相まって、レインと皇女の視点の二つで書いているので、
今は誰の視点なのか分かり辛かったかも知れません。
とりあえず、お互いの呼び名で判断出来る、と思いますが、
ここに書いても遅いですね。

また機会があったら、書いてみます。
328maledict ◆sOlCVh8kZw :2007/12/22(土) 19:59:41 ID:fKZshbdw
>>303-326様、乙です!盛りだくさんでごちそうさまでした!!
ガードの堅そうな「せい」騎士さんが乱れていく過程と
TFシーンの絶望感は、ぞくぞくしました
TF始まる!というポイントのここ↓が特によかったと思いました
「それと共に、精神と肉体の高ぶりは、遂に自己の熱で熔融を始める。」

で、色々あっても騎士さんを思いやる姫様のまっすぐな思いも泣けました
ラストの、姫様が何となくすべてを甘んじて受け入れた感じでTFを待ち受ける、
けだるいような安らかなような雰囲気もよかったです
この後の二人も気になるけどここで終わるのもいいのでしょうね

…なんか散漫な感想ですみませんがまたイイのを是非お願いします
329名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 20:01:02 ID:DLchHaRK
そういえばジョジョの6部にも
ヘビーウェザーのやつのがあるよね
330 ◆eJPIfaQmes :2007/12/22(土) 22:57:26 ID:vTAVppw+
>>327
力作お疲れ様です。グリフォン変身ばかりかTS、さらに交わりまであって、
満喫させていただきました。
途中まではスレの趣旨も忘れて二人の逃避行を読み耽ってしまいましたが、
魔族の登場以降は斜面を滑り落ちるようにどうしようもない状況に落ち込んで
いきましたね。
敗北・陵辱・変身と立て続けに精神的なダメージを受けてどこかが壊れてしまった
レイン。それをただ見つめることしかできず、せめてとばかりに彼女を受け入れた姫。
二人の目が覚めた後どんな物語が待ち受けているのか、不安と緊張を孕みつつも
しばしの安らぎを描くところで終わった結末もよかったです。
331名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 11:38:17 ID:YYcsAdpF
>>327
守るための剣、その剣での敗北ときて
最後には人生を注いだ剣技を支えた人間の腕まで失ったという流れが見事で
レインが切なすぎて泣きそうになった。
(腕を無くしたのではなくて腕はあるけど剣を振るうものではないというところが、なおさら…)
でも、その描写が強烈に頭に残り過ぎて、正直に言うと
そっから先はwktkのない消化試合だった…。
なんというか騎士としてのレインに感情移入出来すぎて
ある種のやり投げ(だって獣だし)パートであるグリフォン化以降
読んでる自分もやり投げ(後は良くある異種姦ね)になってしまった。
まぁ楽しんだけどw
332名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 23:33:45 ID:qjnit9Pm
うおおこんなに感想が来てる!全体的に喜んで貰えて、スレに貢献出来て良かったです。
(もしあれば)是非次に生かしたいと思います。感想ありがとうございました。

>>328
そう言って貰えるとレトリックに時間をかなり割いた甲斐があって良かったです。
というかシンプルに書けないだけかもしれませんが。
あの描写は原子炉のメルトダウンを意識しました。変身の原因が胎内の精だと示すにも丁度いいかな、と思って。

>>330
本当は姫を強引に犯す予定だったんだけど、あまりにも(レインが)可哀想になったのであんな平和な終わり方になりました。
他にも肉食獣としての食事とか排泄とかに対しての戸惑いとか書きたかったんですが、流れ的に無理でした。

>>331
こんなこと言うのもなんですが、書いている本人にとっても変身後が消化試合でした。
上で述べた通り、あまりにレインが可哀想な展開は避けたかったので和姦&姫が変身を受け入れる展開になったのですが、
自分の趣味は強制TFだし和姦もあまり興奮しないせいで、何を書けばいいのか分からなくなる、というジレンマにハマってしまいました。
指摘される通り、描写量的にも投げやり感が否めないですね。皇女に喋らせればもう少し変わったかもしれません。
それにしてもグリフォンって動かしづらいです。人間とか触手とかに比べて出来ることがちょっとしかない。やっぱり性交しない方が良かったかな…。
次は最後までwktkさせられるよう頑張ります。

>>329
蝸牛でしたっけ。あとは植物化もあったはず。
333名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 00:27:02 ID:vSSwE49b
334名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 06:14:49 ID:oKKXCSDt
レイン読ませてもらいました乙です
よかったですけどできれば姫魔物化もぜひ〜
335maledict ◆sOlCVh8kZw :2007/12/24(月) 16:38:19 ID:o63R2f5N
>>333
特撮板の「おにゃのこが改造されるシーン」(この板の「おにゃのこ改造」の
母体になったスレ)でも話題になっていました。自分は注文したけど
まだ入手していません。
336名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 23:04:50 ID:yZgP7QdX
>>333
世界制服ってなってるのは誤字?
337名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 16:00:16 ID:kXWi09FJ
保守
338名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 16:36:48 ID:6YUsmvSq
>>334

どうもです。
今は他の書いているんで分かりませんが、
もしかしたら続きなり書くかもしれません。
339名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 21:27:56 ID:4XWyc2xv
>>338
どうお呼びしたらいいですかね。「281さん」?「レインの作者さん」?
340clown:2007/12/26(水) 21:44:28 ID:6YUsmvSq
>>339
一応名前つけてました。普段は名無しの姿勢で。
BBSPINKの雲行が怪しいから、もう使う機会ないかもですが…。
341maledict ◆sOlCVh8kZw :2007/12/30(日) 13:38:19 ID:zpA9uGYR
年内は新作投下無理そうですが来月中には一本投下します
なんか急に忙しくなったんですがもうじき一段落するので

>>340
最近また雲行きあやしいんですか?
342名無しさん@ピンキー:2007/12/30(日) 19:40:15 ID:KNzIGqCu
>>341
年末は忙しいもんねぇ〜
343名無しさん@ピンキー:2007/12/30(日) 21:09:04 ID:41A0LVfL
>>341
運営みたらひろゆききたりしてごたごたしてた。
今も根本的解決はしてないとかなんとか。

俺も来月には。
でも多分次投下したらしばらくは忙しくなって書けなさそうです。
344名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 19:43:40 ID:9U5ziYcV
ほしゅ☆
345名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 07:32:26 ID:eqpbylTC
最近寄生スレにもTF表現があるのに気付いた。
割と堕ちるのが早いから、ここよりも改造スレに近いかもだけど。
346名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 21:27:49 ID:il+eRg9u
ほす
347clown:2008/01/09(水) 06:13:07 ID:mzkSlEJB
レインの人です。
今週中に投下します。というか今週中に投下しないと次に投下するチャンスがないです。
幸いあと2割位なので、週末に掛らないで投下出来ると思いますが…。
どうぞよしなに。
348maledict ◆sOlCVh8kZw :2008/01/09(水) 18:14:46 ID:60YRdsGX
>>345
もし過去ログが流れているなら保存しようかとおもったのですが
ちゃんと月光蝶様という方がていねいに保存してるんですね
ttp://www.geocities.jp/obbs0036/log/torituki/torituki.html

>>347
期待!

自分はなんだか時間がとれなくてなかなかSS書きに戻れません。
早く書きたいんですが…
349名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 19:36:43 ID:pglqbv30
全力で期待
350clown:2008/01/09(水) 22:44:05 ID:mzkSlEJB
>>349
どうも。期待に沿えられるか分かりませんが、最悪でも投下はしたいです。
今回はエロくないっぽいです。
351clown:2008/01/10(木) 06:46:33 ID:o6lZT/Oe
アンカーを一緒に振ったと思ってたのに振れてなかった…。連レス失礼。
>>348
期待してます。
色々と読みましたがストーリーがしっかりしていて凄いなぁと尊敬します。
お互い頑張りましょう。
352maledict ◆sOlCVh8kZw :2008/01/10(木) 21:35:17 ID:2WqgGhJ6
>>351clown様
恐縮です。頑張りましょうね。
板があるうちに最低でも一本は投下します

そう言えば特撮板でも書いたけど、岩波文庫のこれ、
このスレの皆さん的にはどんな感じなんでしょう
ttp://www.amazon.co.jp/%E7%8B%90%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F%E5%A5%A5%E6%A7%98-%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88/dp/4003229711/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1199968218&sr=8-1
353 ◆eJPIfaQmes :2008/01/11(金) 01:40:26 ID:rTZ5BDTG
お久しぶりです、こちらでお見せするはずのものが停滞していてすみません。

>>352
『狐になった奥様』は昔読みましたが、なかなかいいと思いますよ。
変貌していく妻の姿を隣で目撃させられる夫の視点で一貫してるので、
当人の心理とかは想像するしかないわけですが。
狐になった最初のうちはまだ服を着て料理を食べて屋敷で暮らしていた妻が、
次第に服を嫌がり生のものに食欲を示すようになり……という一連の流れは
妄想のし甲斐があります。
354clown:2008/01/11(金) 21:00:44 ID:Ma+8s5cU
書きおわったのはいいんですが、現在は携帯とオフラインのパソコンしか使えず投下出来ません。
期待していた方には申し訳ないのですが、明日投下します…。

>>352
アマゾンのレビューに同族な匂いを感じる……。(犬より狐派だけど)
地元の本屋にあったら、買ってみようと思います。

>>353
妻視点がないのは痛いですが、次第に…の下りだけでかなり食指が…。
355名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 08:54:50 ID:2ehjp/nA
グロに耐性あるなら富士見ファンタジアのストレイトジャケットがこのスレ的にお奨め。
かなりの確立で異形化時の内面描写が入るし、女子供関係なく異形化する。
異形化後は気持ちいいぐらいに狂った言動吐いてくれるし、そのほとんどが救いようの無いラストを迎える。
中でもいじめられっ子の女の子が異形化して、いじめっ子本人はおろかその家族すらも惨殺していく話はいろいろと黒すぎ。
356clown:2008/01/12(土) 16:01:37 ID:IWxBI1wJ
>>355
バッドエンドいいなぁ。グロも食えるしチェックしておこう。

一日遅れましたが投下します。
357clown:2008/01/12(土) 16:03:35 ID:IWxBI1wJ
like_a_heavy_metal


気付いたときには、古ぼけた洋館の大広間にいた。
明かりといえばカーテンを透過する月の光ぐらいで、すぐにはそれがどこなのかは分からなかった。
だが、目を凝らしてみれば、積もった埃や、蜘蛛の巣まみれの燭台、
美しいのに、ゾッとするような絵画といったものが、薄っすらと伺える。
ああ、これはあのお化け屋敷か――、とクロエは思うと共に、恐ろしくなって身を強張らせた。

住んでいる町の外れに、今では誰も住んでいない洋館があった。
数十年か前に、この町がニュータウンとして山を切り開かれて作られた時からそこは空き家であり、
またかなり広い敷地であるのに、そこを潰して新しい建物を建てたりもされず、
空き家としても売り出されてはいないようだった。
にも関わらず、その立派な洋館からは時たま、何かの叫びが聞こえてくる、
という噂が広まっていた。黒江はその叫び声を直接聞いたことはなかったし、
きっとその噂も、洋館の雰囲気によって生み出されたデマなのだろう、そう考えていた。
連休に入り、クロエは二人の友人と共にその洋館を探索することにした。
格子状の門は既に錆だらけで脆くなっているのか、その一部が欠損しているのを知っていたので、
三人はそこを潜り、初めてその中に入り込んだ。
「うわ、やばそうだよ……」と、最初に足を踏み入れたカズミは呟く。
屋敷前の庭園には、酷く荒れた装飾庭園やら、酸性雨で溶けかけた石像、
緑色に濁り、得体の知れない液体が溜まったようにも見える噴水などが散見出来る。
屋外で、しかも太陽の照る昼間であるのに、それらの様子は不気味で、今にも何かが動き出しそうだった。
「確かに何か出そうね」と、カズミの言葉にクロエは頷いた。
三人の内一番乗り気ではなかったアイは、既に何かを見てしまったかのように、引きつった表情で押し黙っている。
正面からまじまじと見上げてみると、その洋館はより立派で、かつ一層異様なものに見えた。
ガラス一つ割れていないようだったし、何よりも誰かが住んでそうな雰囲気だったのだ。
暗くなれば、その閉ざされたカーテンからは明かりが漏れていてもおかしくはない、
そんな印象を持つと共に、そこに人が住んでいる、という想像は、全く出来ないのだ。
でも所詮雰囲気、ここで気おされたら、デマの噂を流す奴らと同レベルだわ、そう自身を奮い立たせた。
カズミは正面の扉に手を掛けた。
どうせ開かないだろう、そう踏んでのことだったが、それは予想を反してあっさり開いた。
本当は洋館の周りをぐるりと散策して、さっさと切り上げる予定だったし、
折角の休日を肝試しに費やすなんて馬鹿馬鹿しい、クロエはそう思っていたが、
その扉は思いのほか、すんなりと開いてしまった。
軋む音は、あるいはこの館の呼び鈴であるかのように響き、
その薄暗闇が溜息を吐いたかのように、冷気がカビと埃の臭いを孕んで通り抜ける。
三人は息を呑んだ。
クロエは、そして恐らくカズミも、予想外の事態でリアクション出来なかったし、
またアイは、恐怖が限界を突破したのか、クロエの羽織る上着の裾を、ギュッと握り締めた。
一息ついて、「どうする?」とカズミは訊ねる。
そう訊ねてはいたが、きっと入りたくて仕方がなさそうだった。
カズミはクロエと違い、その噂を信じていたが、それに対しては恐怖というよりも、
好奇心を強く抱いているようだった。いい年して懐中電灯やら絆創膏やらといった品々を、
ハイキングで使ったようなナップザックに詰めているなんてカズミぐらいだったし、
話を持ち出したのはクロエだったが、結局ここに来ると決めたのはカズミだったからだ。
だが、さっさと切り上げたい反面、自分のプライドがあった。
ここでやめると言えば、まるで逃げたみたいではないか、そう思って、クロエは「入ろう」と返答した。
アイはそれに「危ないよ」とか、「何か出るよ」とか口々に言っていたが、
クロエは可哀想に思いながらも、「大丈夫、何も無いって」と、
懐中電灯片手に入って行くカズミに続いた。アイもまた、裾を掴んだまま、クロエに追従した。
358clown:2008/01/12(土) 16:13:27 ID:IWxBI1wJ
クロエは外に出ようとドアを開けようとしたが、そのドアは硬く閉ざされていた。
周囲には誰もおらずたった一人で、懐中電灯もなく心許なかったが、クロエは進むことにした。
昼間三人で見て回ったときは何も出なかったのだし、何よりこれは夢なのだ。
いやにリアルだが、そうでなければ、寝て起きてみれば洋館だった、なんてどうかしている。
無論私は夢遊病ではないし、強く印象に残ったことが夢に出るなんて良くあること。
だから、たとえ夢で何かに襲われたとしても、勿論現実には何も影響しない、そう思い至って、
クロエは恐怖を押し殺して進んだ。
怖いことは怖いが、吹き抜けのだだっ広いホールで目が醒めるのを待つよりは、
うろうろしていた方が目が醒めやすいだろう、そう思ってのことだった。
ただびくびくと目が覚めるのを待つなんて癪だ、という考えもあったが、またその反面、
ただの夢、醒めてしまえばそれでおしまい――、それを何度、頭の中で呟いていた。
どれぐらい散策したか、立派な書斎に出た。
見覚えの無い部屋で、扉を潜ってから、あの開かなかった扉だ、と気付いた。
ホールから続く一階の廊下の一番奥、昼間探索したときはしっかりと施錠されていて、
カズミが思いっきり蹴飛ばしても、ビクともしなかった扉であった。
夢なのだから、現実と齟齬が合ってもおかしくない。さして気にすることなく、私は奥へと進んだ。
左右の壁を覆うように聳え立つ本棚。この部屋もホールと同様に吹き抜けになっているらしく、
本棚は上の階の天井まで続いていて、階段や梯子等も掛かっていた。
目の前には大きなデスクがあり、インク瓶やら羽ペンが置いてあったり、分厚い本が三冊程積まれていたり。
その背後には縦に長い、巨大な窓がついていた。まるで大聖堂のステンドグラスのような窓だったが、
装飾も無い上に、カーテンが下ろされていて、そのような華やかな様子はまるで無い。
部屋の一角には大きな振り子時計があって、孤独に時間を重ねていた。黒光りする木材に年季を感じる。
まるで映画のセットのような光景で、強い非現実感を抱いた。
それに、違和感がする。非現実感を増幅させる――
と、クロエは周囲をもう一度見渡して、その理由に気付いた。
この部屋は、汚れていないのだ。
今までの部屋は、蜘蛛の巣やカビだらけで、まともな状態の本など数える程だったが、
この部屋はどの本も綺麗だったし、埃やカビなど全く見られない。
整理されたデスクもまるで今でも使っているかのようだし、螺子巻き式の時計もまだ動いてる。
普通ならば生活感とか、人間の存在が伺えたならば、安心することだろう。
だが、このときは違った。あからさまに館の中でこの部屋だけが異質であり、
生活感こそが異質さそのものであり、この館に掛けられた疑惑の、そもそもの原因なのだ。
「これは夢、これは夢よ……」クロエは実際に口にしながら、乾いた上唇を舐める。
だが、そのかき消し切れない焦燥に油を注ぐように、バタン、と、開きっぱなしだった扉が閉じる。
クロエは驚いて振り返った、と共に――
カチャリ、と、閉め切られた扉からの音。音は書斎に響き渡り、そして沈黙。
ドアが閉まる前と後に変化は無いにも関わらず、空気は冷灰のようになった。
クロエは慌ててそのドアノブを掴み、回そうとする。
だが、いくら力を入れてもドアノブは動かず、何度揺すっても、ドアは軋みすらしなかった。
クロエは遂にパニックになって、ドンドンと扉を叩いたり、「ここから出して!」と叫んだり、
また体当たりをしたりと散々暴れた。既にこの世界が夢だ、という考えは忘れて、
本当に閉じ込められてしまったのだ、そう思い込んだ。
359clown:2008/01/12(土) 16:15:06 ID:IWxBI1wJ
朝。
暖かい毛布、僅かに開いたカーテンの隙間からは、緩やかな陽光。
いつもは喧しい、と叩く目覚まし時計も今日は休日、静かにしていた。
短針は9を指していて、少し早いなぁ、と思いつつ、クロエはそのままじっとしていた。
夢か現かの、幸せな暖かさの中、今日は何をしようか、と考えていた。
昨日は例の屋敷を探索して、その一日をほとんど費やしてしまったし、
結局出てきたときには夕方で、そのまま解散してどこにも寄らなかったから、
今日こそは二人と映画でも見に行こう、そう思った。
そう結論付けてから、もう一眠り、と眠りにつく寸前に、
クロエはあることを思い出して、ハッとした。
昨日の探検のせいで、外出用の洋服が、埃やらで汚れている、ということに。
クロエは二度寝を諦めて、ベッドから飛び起きた。
今から綺麗にするか、別の洋服にするか。服が決まらないまま遊ぶ約束をするなんて、
世話がないことは出来ない。急いで適当に選んだ服で出掛けるなんて、
仮にそれがベストチョイスであったとしても、居心地が悪すぎる。

目の前には、古ぼけた感じの扉。
社会科見学で行ったことのある、国会議事堂にあったドアと似た感じで、
これ一枚で普通のドアを十枚は買えるんじゃないか、という程の、仰々しい扉。
周りを見渡してみると、見上げる程の本棚や、小奇麗なデスクがある。
暗い部屋で、それらを視認するのに時間が掛かった。
それからこの部屋に対する既視感を抱いて、そしてそれが錯覚ではないと気付くまで、
大した時間を要さなかった。記憶は忘却の濃霧の中から、絶叫を手土産に帰ってきた。
「きゃぁあああああ!」
夢の続き。起きている間はそのことをまるで忘れていたが、
改めてあの夢に戻ってみると、全てのことが手に取るように呼び覚まされた。
クロエは頭を抱えてしゃがみ込み、泣いた。本当に閉じ込められてしまったのだと絶望した。
目が覚めるまでの長い時間、またこの部屋にいないといけない、そう思うだけで気が狂いそうだったが、
クロエはしばらくそのままジッとしてから、跳ね回る心臓を押さえ、涙を拭い、ゆっくりと立ち上がった。
何処かに出口があるかもしれない、そう思った。
まだ焦燥や恐怖を払いきれないなりに、理性の決断に縋るしかなかったのだ。
手探りに、本だらけの書斎を漁りまわった。二階の書架も見た。
窓ははめ殺しだったし、格子もついていたので割っても意味が無い。
鍵でもないか、と机の中を見ても、ペンやインク、便箋やら封印、辞書やらといったものばかり。
マッチ箱を見つけたが、中は空っぽだった。それを最後に、デスクの中はあらかた調べつくした。
鍵は見つからず、途方にくれて、クロエはデスクに備えられたイスに座り、ボーっとしていた。
そのとき、ひゅうひゅうと風の抜ける音に、気がついた。
窓は開いていないから、ファンタジーよろしく、何処かに隠し通路でもあるのでは、
クロエは諦め半分で、闇雲に床やら本棚やらを丁寧に調べて回った。
暗闇の中で二時間ほど探索しただろうか、風の通る音が部屋の隅のタイルから出ていて、
しかもそのタイルだけ、剥がせるようになっているのに気がついた。
クロエはデスクにおいてあった、銀製のペーパーナイフを隙間に差し込んで、てこの原理でそれを抉じ開ける。
なかなか上手く引っかからなかったが、五回ほどの試行でそれは持ち上がり、タイルの下にある空洞が露になった。
真っ暗闇の空間には、梯子らしきものがついているのは分かるのだが、クロエはそれを純粋には喜べない。
今以上に暗く、異様な空間なのだ。何が潜んでいるか分からないし、
今みたいに閉じ込められでもしたら、今度こそどうしようもない。
だが、自分でも進まなければならない、というのは分かっていた。
夢を見る度にこの書斎を訪れれば、いつか絶対に地下へと進まざるを得なくなるのだ。
いずれ覚悟を決める必要がある、ならば決着は早いほうがいいのだ。
クロエは梯子に足を掛けて、黒色の寒気に包まれながら、階段をゆっくりと、ゆっくりと降りていった。
実際にはほんの数メートルだったが、クロエにはそれが永遠に感じられた。
一歩降りるたびに、ぼんやりとした月光はより遠くなり、また奇妙な臭気を感じた。
生臭いような、動物の臭いのようなそれは、クロエに不快な印象しか与えなかったし、
狭い空間に反響する自分の呼気と動作音が、耐え難い孤独と恐怖を重ねていった。
ようやく床に足がついて、クロエは自分の手すら見えない暗闇の中を、探索し始めた。
360clown:2008/01/12(土) 16:46:13 ID:NfW8VC+I
何か書き込めない…。
361名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 16:56:52 ID:IPEVg5yu
改行制限か文字数の制限でしょうか?
362clown:2008/01/12(土) 17:01:19 ID:IWxBI1wJ
いえ、文字数が問題ならエラーが出るんですけど、
正常に投稿されているはずなのに反映されていないようです。
363clown:2008/01/12(土) 17:09:22 ID:IWxBI1wJ
 クロエは遅い朝食をとりながら、宿題のことを考えていた。
いつまでにやるのか、いつやるのか。そもそもやるのか。やらないなら何をやらないのか。
それより今日はどうするのか。今日はやるのか。これを食べたらやろう、いややっぱり――
「さっさと食べちゃいなさい」クロエがスプーンを咥えたままぼーっとしていると、
クロエの母が話しかける。彼女は皿洗いをしていて、今は食器の洗剤を洗い流していた。
「そういえば」クロエは牛乳に浸されたコーンフレークを一口食べた。「お父さんは?」
「まだ寝てる」クロエの母は洗い終わった箸やフォークを、水切りに入れている。「今日休みだからね」
「ふうん」クロエはうっすら黄ばみがかったりんごを齧った。まだ薄ら眠い。
いつの間にか思考は移ろいでいて、昨日のことを思い出していた。
いつもの三人で見た、映画のことだ。

不気味な暗闇の中。高い所にある穴から、弱い光が漏れている。
それに向かうように、壁には梯子が打たれていた。
クロエはすぐに思い出した。継続する悪夢と、今自分が置かれている状況を。
歯軋りをして、腹の底から湧き上がりそうになる悲鳴を、プライドで噛み殺す。
しばらく突っ立っていたが、壁に手を沿わせて、まさに手探りで周囲を散策し始めた。
壁は石材だ。ひんやりして、またごつごつしている。
ずっと撫ぜていると手が痺れ、また若干鋭利な部分に引っかかって、手にはいくつもの擦り傷が出来た。
クロエはそれに耐えながら、慎重に、その暗闇を模索した。
調べたところ、ドアは五つあった。どれも木製のドアだが、館とはまた違った手触りだ。
石造であるのと相まって、館とはまるで異なった雰囲気を醸し出している。
クロエは最後に調べたドアから順に、ドアノブを回した。一つ目、二つ目が回らず、
三つ目でようやく動いたときは、少なからず安堵を覚えた。
クロエはその三つ目の、通路の一番奥、梯子と対面にあるドアをゆっくりと開けた。
ドアはキィ、と軽い音を立てて開く。一層強烈な臭いが溢れて、涙腺がじわりとした。
その部屋も相変わらず暗闇で、また手探りで探索しなければならないことに、クロエはうんざりした。
壁沿いに調べていくと、とにかく色々なものに手が触れた。
前に突き出した手を、何かに触れる度に引っ込め、それからそれが何なのかを調べた。
自分の手すら見えないような暗闇だから、否応が無く慎重にならざるを得なかったからだ。
ガラスのような手触りだったり、動物の毛皮のようなもの、本だったり、
また何か液体の入った器があって、クロエは誤ってそれに指先を入れてしまった。
それは何かが腐ったような、すさまじい汚臭がした。思わず服の裾で拭うも、指先についた臭いは落ちない。
何で私がこんな目に――クロエはそう思いながら、部屋をぐるりと一周した。
正方形で、大体学校の教室と同じぐらいの広さだったが、三時間は掛かっただろう。
途中入ってきたのとは別のドアがあったが、それには鍵が掛かっていた。
クロエは入ってきたドアのところまで戻ってから、部屋の真ん中の方も調べることにした。
あまりにも色んなものが置いてあるので、クロエにはこの部屋がどういった部屋なのかは
まるで検討がつかなったが、少なくともただ寛ぐための部屋ではなさそうだ、というのは分かる。
もしかしたら部屋の真ん中の方にも、調べるべきものがあるのかもしれない、そう踏んだのだ。
だが、そこには何も置いていなかった。つま先にも指先にも、何も触れることなく、
クロエはその部屋の真ん中までやってきた。
不意に、キィ、という軽い音が、後方から聞こえてくる。
冷たい、そう、あまりにも冷たい空気が、湿気を孕んで流れ込む。
クロエの身体は緊張し、動かない。
暗闇で何が起きているのかを察することも出来ないまま、ただ聴覚と冷覚がもたらす事実に、恐怖した。
ドアが開いたのだ、クロエはそう確信する。
次に冷気の中から生暖かさを見出すと、確信は更に強まった。何者かの呼気、何者かの存在である。
クロエは叫び声すら上げることが出来ず、それがゆっくりと、足音と共に近づいているのをただ感じていた。
その呼気を首筋に感じても、クロエは身体を震わすばかり。
手が肩に触れて、撫で回すように指を滑らし、胸に、
またもう一方の手が腰、足の付け根を舐めるように通過し、恥丘に手を当て、
その者が身体を背に押し当てて、クロエを抱擁しても、
クロエは何も出来なかった。
364clown:2008/01/12(土) 17:15:06 ID:IWxBI1wJ
もちつけ2.0に引っかかったっぽいです。
条件が不明ですが、長文投稿で引っかかることがあるそう。
365clown:2008/01/12(土) 17:18:09 ID:IWxBI1wJ
 瞬く間に身体の底を冷やす空気と、死を初めとした破滅的な展望を前に、ただ戦慄していた。
萎縮した横隔膜は役に立たず、息が出来ずに口をパクパクとさせている。
ぼうっ、という燃える音と共に、部屋の各所にあった燭台の蝋燭は、一度に灯される。
閉ざされたドアや、暗闇に包まれていた物品の数々が目に入るが、クロエの見開かれた目は、他のものを追っていた。
獣とも、爬虫類とも、人間とも取れない、異形の者の腕だった。
そして、クロエの張り裂けんばかりの心臓を、細い針がちょん、と突き刺す。
「地獄にようこそ」聞きなれない女性の声。
クロエは失神しかけたが、沈みかけた意識を、何かがぐい、と引き上げたのか、
暗転しかけた世界はすぐに元に戻る。世界を断絶することも出来ず、
クロエは状況をかみ締めるのを強いられていた。
動転していた精神も落ち着きを取り戻し、乱れた血脈と呼吸も徐々に安定していく。
だが、クロエの身体は全く動かなかった。まるで金縛りにあったようで、
抱きついて、服の上から身体を撫で回されているのを、されるがままになっていた。
恐怖は失せていないし、絶望も十分にあったが、クロエは与えられた冷静さに縋って状況を判断する。
幸い目は自由に動くので、周囲をさっと眺め通すと、
とにかく目に付くのは壁や床、そして天井にもある、赤黒く描かれた模様だった。
それ以外には――と、色々と置いてある物品に焦点を合わす前に、
異質な感覚が首筋に走り、クロエの身は僅かに跳ねた。
ぴちゃぴちゃと音を立てて、ぬるるとした感覚が、うなじから首周りを通り、
そして顎の下を通過したかと思うと、それは左耳まで到達する。
クロエは思わず目を閉じていたが、自分の顔のすぐ右に、恐らくその異形の頭部があるのを察する。
肩口に当たる感触があるし、、呼吸する生々しい声だって右の耳のすぐ傍まで来ている。
恐らく、この私の首に巻きついているのは舌だ、そう判断した。人間のものではない、長い舌。
それはちろちろと先端を動かして、クロエの耳を弄ぶ。その度に電撃のような刺激が私の全身に伝播する。
立ったままで、意識的に動作することの出来ない身体は、何かを拠り所に出来ないまま自由に悶えていた。
じゅる、と舌が一気に引き戻されると、引っ掛けるように出された頭部も引っ込んで、また抱擁する腕も取り払われた。
それと共に、クロエの身体の拘束も解かれた。解放されたクロエは、下を向いて触れられたところを見たり、
手の甲で首や顎の下を拭った。粘っこい液体が手に付着したし、見てみれば、垂れたのか洋服にもべっとりだ。
「ああ、やっぱり素敵です」背後にいるその女性――いや、怪物は、そう囁くように喋る。
クロエは再度、緊張と緊縛感を抱く。振り向こうとする体が、振り向こうとしない。
すぐにその感覚は、自分自身が振り向きたくないのだ、という念であると気付いたが、しかし振り向く必要があった。
これは、高いところから梯子で降りるとか、そういう問題ではない、そう言い聞かせて、クロエはゆっくりと振り向いた。
視界にそれが入ると共に、クロエは息を呑んで、そして数歩引き下がった。
「醜いと思うでしょう?」その魔物は、意味深長な笑みを浮かべた。紛うことない女性の声が、あまりにもミスマッチな。
それは全身に毛皮を持っていて、また鱗も持っていたし、人の肌のようなところもある。
よく見れば羽毛も生えていたし、蛙のような、イボだらけで粘液に覆われた場所もある。
それはパッチワークのようだった。ときに鱗の上に毛を持っていたり、粘液で濡れた羽毛もある。
皮膚がそんなのである上に、形状もまた醜悪だった。
鳥の鈎爪のような右足を持っているかと思えば、もう片方は蹄を持っていて、形としては馬に近い。
その非対称的な体形のせいで、その身体は酷く傾いている。胴体と肢の繋がり方も、やはり人間とは違う。
右腕は一見人間のもの、のように見えて、魚の鰭に近い帯状のものがついていて、手にも水掻きがあった。
左腕は右腕よりもかなり太く、鋭い爪があった。皮膚を考慮しなければ、熊に近そうだ、とクロエは思った。
猫のそれのような、しなやかな尻尾もあって、それはうねうねと動いている。
それらを見せ付けるように、その怪物は身を開いて立っていた。
366clown:2008/01/12(土) 17:19:32 ID:IWxBI1wJ
 シニカルな笑みを浮かべる口には、肉食動物の持つような牙があったが、それは一部にしか並んでいない。
右端が犬のように長い吻を持っているのに対し、急に奥まったかと思うと、左側は人間と思わしき唇。
右半分の顔はマズルの他に、巨大な目が目立つ。満遍なく赤い色をするそれは、蝿の持つ複眼を連想させ、
左目も、右目程ではないが十分に大きく、ギラギラと輝く目は、南国にいるような極彩色の蛙だ。
そんな頭部には黒く、女性らしい長髪がてらてらとしていた。
猫のような耳が一つだけ、右側から飛び出しているのを除けば、炎の明かりが揺れるその頭髪は、
艶かしい程に美しく、多くの女性が羨む程のものだった。
それを踏まえて見てみれば、その黒髪の掛かる胸部だって女性らしかったし、腰の括れだってそうだった。
クロエはその禍々しく、グロテスクな容貌の中に、そういった美しさの片鱗を見出す。
それはクロエに一握の安堵と、違和感から生じる、多大な気味の悪さを、不釣合いに抱いた。
「こう見えても、私は人間で――」離れたクロエとの距離を詰めるように、ゆっくりと歩く。
危険を察したクロエは、それと同じ歩調歩幅で後ろに退くが、どん、と背をドアにぶつける。
「貴女と同じぐらい、昔は可愛い、女の子でした」それでも迫りくる化け物から逃れようと、
クロエはバタバタと手を動かして、探るように掴んだドアノブを、開かないと知っていながら何度も回す。
「羨ましいです。そんなスカートとか――」
クロエは背中を壁に強く押し当てて、右腕でドアノブを回そうとしつつ、
「お洋服とか、お化粧とか――」
左手でもまたドアを掴んでいた。引っ掻くように立てられた指には力がこもり、
「私も昔はしたし、とても可愛がられていたんですよ」
白かった指先には血が滲み、綺麗に研ぎ揃えられていた爪も、生々しい音を立てて割れた。
「でも、今ではこんな姿」少し立ち止まって、両手を開く。
「い、いや……やめて……」クロエは僅か数ミリでも距離を取るためか、ぴったりとドアに張り付いている。
「だから、私は不思議に思うのです」
「お願い、助けて……」自分が何をされるか、などまるで分からなかったが、命乞いを繰り返す。
「私と貴女みたいな女の子、何が違うのかって。何で違うのかって」
ゆっくりと歩み寄るその怪物は、もうクロエに触れんばかりのところまで来ていた。
「結局、答えは出なかった」「助けて……」
「でも、その違いは許せなかった」「いやよ……」
異形の両腕が伸ばされると、クロエの肩に掴みかかった。
クロエは大粒の涙を流し、下唇をかみ締める歯にも、じわり、と血が付着していた。
「だから埋めなきゃ、そう思っているんです」
怪力でクロエをドアから引き剥がし、抱きつくと、
「んん――!」クロエの唇に、接吻した。
口吻が顔にぶつからないように逸らされた唇から、クロエは何かが流れてくるのを感じた。
それは冷気だった。湿っていて、生物の体内から吐き出される呼気では決してない、墓石のような冷たさ。
明らかに、これはただの息ではなかった。この怪物の発する生暖かい呼気とは別の、そう、
何か憎悪とか苦しみといった、感情そのものが流れ込んでくるようだった。
クロエは耐え難い吐き気と頭痛を催しながら、それから逃れようともがいたが、
力は全く緩まずに、それを嚥下することを強いられた。
クロエの口からそれが離れたときには、既に全ての行為が済んでいた。
吐き気も頭痛も失せず、腹には膨れる程の圧迫感と、指先まで痺れさせる寒気が残留し、
クロエは床に両手を突いてえずいたが、喉を焼け付かせる胃酸だけしか出ない。
怪物はふふ、と笑うと、隣の部屋へと消え、残されたクロエは、あらゆる不快感の中に飲まれて、霞みゆく意識の中、床に突っ伏した。
367clown:2008/01/12(土) 17:20:57 ID:IWxBI1wJ
 今日はカズミとアイが家に来る日。私は少し早起きして、部屋をざっと整理した。
アイが美味しいお菓子の作り方を教えてくれるそうで、
うちに集まることになっていた。昨日遊んだときに決めたことだ。
両親もいないし、弟は部屋でゲームばかりしているから、憚られずにお菓子作りが出来る。
具体的に何のお菓子を作るかは決まっていないので、クロエは掃除をしながらあれこれと想像する。
前に来たときはマドレーヌを作って、この前アイの家に行ったときはプリンを作った。バレンタインにはチョコを作ったし――
そうこうしている内に、呼び鈴の音が鳴り響く。窓から下を覗き、二人の姿を認めると、
クロエは「上がって!」と呼びかける。二人はそれを聞くなりクロエの方を見上げる。
「分かった」というカズミの声の後に、クロエは玄関へと向かう。
「お邪魔します」という二人の声が家の中から聞こえてきて、
ドタドタと階段を駆け下りる頃には、もう二人とも靴を脱ぎ終えていた。

火照る身体に意識を取り戻すが、クロエはしばらくそのままにしていた。
不快感はほとんど失せていて、吐き気も頭痛もしないが、寒気の代わりに猛烈な暑さを覚える。
薄っすらと目を開けると、視界には鉄格子が飛び込んだ。
見覚えの無い光景で、クロエは横たえた体を起こし、周囲の様子を確認した。
そこは牢屋だった。三面の壁は、綻びのまるでなさそうな石壁で、正面も堅牢な鉄格子が下ろされている。
幸い明かりはついていて、廊下に下ろされた古めかしいランプが橙の光を放ち、
牢の中に格子の影を形のまま落としこんでいる。窓はなく、明かりはそれだけだった。
壁や格子には黒い染みみたいなものが付着しており、また酷い汚臭が立ち込めている。
特に部屋の隅にある排水口らしき穴は、汚れも臭いも凄まじく、見るだけでも鳥肌が立つほど。
そして酷く底冷えする。この暑さは牢屋の環境のせいではなく、クロエ自身の半狂乱的体温のせいだと気付いて、狼狽した。
止め処なく流れている汗が蒸発すると、それは冷気によってすぐ白く染まっている。
まるで風呂上りのように、クロエの身体からは湯気が立ち上がっていた。
下着等の衣類も酷く濡れていて、それは上着にも及んでいた。
とりあえずクロエはその暑さをしのぐために上着を脱ぐも、大差は無かった。
だが、こんなところで裸になるわけにはいかない、クロエはそう思って、
冷えた鉄格子や石壁に地肌を当てて、少しでも熱を冷まそうとした。
しばらく立っても、誰も現れない。しまいには空腹にさえなる。
クロエは熱気でふらふらする頭を抑えながら、何かここから出る糸口はないか、
と探して回ったが、都合よく抜け道やら欠陥やらがあるわけもなく、
とうとう駄目か、とクロエは諦めるようにして、また自分の身体を冷やす作業に戻ってからしばらく経ち、
自分が今、どんな惨めな状況にあるかに気付き、こみ上げる悲しみをそのまま涙としてこぼした。
起きている間は夢のことを忘れることが出来ても、夢に戻ればまたこの世界。
気持ち悪い化け物にファーストキスを奪われて、とうとう檻の中にいれられてしまった。
もしかしたら食べられてしまうのかもしれない、と想像して、身震いする。
服はぐしょぐしょだし、臭いだって気に掛ける度に吐きそうになる。
左手なんて、爪が割れて皮膚は裂けるわで、自分の汗が触れるだけで激痛が走る。
お腹は減ったし、喉だってこんなに汗をかけば渇く。
食べられるのが先か餓死するのが先か――、どっちにしたって、最悪だ。
クロエはふと、その割れた爪が黒く変色していることに、ふと気がついた。
何か悪い菌でも入ったのか、と更に憂鬱になりながらそれを見ていると、
爪の変色は、まだ無事であるはずの右手にも及んでいることに気付いた。
もしや、と思ってブーツと靴下を脱ぐも、やはりその爪は黒かった。
よくよく観察してみると、それは黒くなっているだけでなく、
分厚く膨らんでいるようだった。そっと触ってみても、痛みなどは無い。
しかし気付いたところでそれをどうすることも出来ず、
クロエは結局また、どうしようもない現実を嘆くことしか、出来なかった。
そうしてもう何時間経つだろうか、クロエの身体に残るあらゆる感覚は、既に麻痺しつつあった。
そんな停滞した空気を攪拌するかのように、ガラガラ、という音が、廊下から響いてくる。
身の危険を感じたクロエは鉄格子とは反対側の壁の縁まで移動しつつ、何が現れるかと廊下を睨んだ。
368clown:2008/01/12(土) 17:25:17 ID:IWxBI1wJ
 ガラガラという音が近づいてくる。初めて視界に入ったのは荷物等を運ぶためのカートで、
それを押して現れたのは、あの怪物だった。
何かされるのではないか、と恐れつつ、右手を強く握り締め、身構える。
「そんな怖い顔をしないでください。お腹が空いていると思ったので、ご飯を持ってきました」
相変わらずの姿に見合わない、女性、というより女の子の声。
クロエにとって、その嬉しそうな口調が不快で、見たところ、食べ物らしきものだって無い。
カートには、干し草らしきものしか積みあがっていないし、化け物の手には鍵しか握られていない。
それはガチャガチャと牢屋の扉を開けるので、クロエはまた身体に何かを入れられるのかと思い、
歯を食いしばるようにして口を固く閉じた。そんなことは無意味だと分かっているが、そうしざるを得なかった。
魔物は、そんなクロエのことを見て僅かに笑い、カートを牢に押し入れると、
それを傾けて中身を床にぶちまけた。改めて近くで見ても、それはやはり干し草だった。
「お水も持ってきますね」そう言って彼女は、カートを押して消えていく。
牢は開いたままだったが、立ち去る寸前に見せた眼差しが、クロエに逃亡の意思を根こそぎ刈り取った。
また一人になったクロエは、干し草を目の前にして、まさかこれを食えというのか、と狼狽しつつ、
指先でその一本を摘んでみたり、臭いを嗅いでみたりするも、やはりこれは人間の食べ物ではない、そう結論付ける。
でん、と目の前には、普通よりも二周りぐらい大きいバケツが置かれた。
その中には目一杯の水がゆらゆらとしている。持って来る途中でこぼしたのか、怪物の足はびしょびしょだ。
「どうぞ、自由に召し上がってください」と言うと、嘲りに近い、リズム付けた歩調で去っていった。
勿論鍵も閉めていったが、干し草とバケツに汲まれた水を飯だ、と出される屈辱を受けても
何も言い返せないままいる自分の不甲斐なさを前には、さして意味をなさないことだった。
あまつさえ、喉が渇きに乾いた今では、その手を洗うことさえ憚られそうな水を、飲みたい、と思ってすらいる。
結局、クロエはそれを飲んだ。その縁に口をつけて、半ば浴びるように飲んだ。
顔は汗や涙に混ざってびしょびしょになったし、服も同様だった。
クロエはそのバケツ一杯の水を、二、三回に分けて飲み干した。僅かな穴がダムを決壊させるように、
一口だけ、と含んだ水は、その不潔さに対する抵抗や、プライドといった枷を悉く打ち壊したのだ。
飲み終えて、口に残ったジャリ、という砂の感覚が、クロエに自分のはしたなさを自覚させる。
クロエは壁際に座り、自分の膝を抱え込むように座った。額を膝頭に当て、代謝するように泣く。
それからどれだけ経ったか、クロエは眠っていた。
クロエは悪夢の中の悪夢にうなされて、何度か夢と現を行ったり来たりしていた。
見る夢見る夢は殺されたり、怪物に犯されたり、閉じ込められたり、という夢ばかりだった。
中には身体が突然火を噴いて焼け死んだり、自分から出ていく汗で溺れ死んだり、
という夢も見た。そしてそれらの夢から覚めてもまた、悪夢であることに気付く。
最後に、砂漠の中渇きと飢えにより死ぬ夢を見てから、クロエはまどろみから醒めた。
いくら眠ったか分からないが、既に喉が渇いていることに気がつく。
床を見てみれば、汗のせいで風呂場のように水浸しになっていて、こびりついた汚れがふやけてすらいる。
言うまでもなく空腹や体温も酷い状態で、発狂しないでいる自分に違和感を覚える程。
しかしそれでも精神は減耗していて、汗を吸って膨らんだ干し草を食べこそはしなかったが、
上に来ていた服を更に脱いで、キャミソール一枚になる。
369clown:2008/01/12(土) 17:26:41 ID:IWxBI1wJ
 ぬるま湯に浸されたような洋服を脱ぎ捨てたときに、クロエは自分の肌がおかしいことに気付いた。
薄っすらと白ばんで、そして一部は黒ばんでいるのだ。それは広範囲に及んでいるらしく、
クロエは腕や手のひら、足等を観察した。触ってみて分かったが、それらは全部毛だった。
腹部を除いた全身に、白と黒の斑模様の体毛が生え始めているのだ。
「ひっ……何よ、これ……」
喉の奥から捻るような声を出しながら、クロエは自分の姿にたじろいだ。
丹念に処理されて無駄毛など全く無かった体は、今では乳牛のような毛で覆われている、
という事実は、クロエの脳内では恐怖と同様にラべリングされたのか、
クロエは身体に這うおぞましい蟲を取り払うかのように、それを抜いてしまおうと試みた。
だが、十円玉程の大きさまでに肥大化していたその爪は、クロエの手を不器用にしていて、細い毛を摘むことは既に出来なかった。
その状態に気付くや否や、クロエは再度悲鳴を上げて、自分の身体ではないかのようにそれを凝視した。
脳裏には、あの怪物の姿と、その言葉。
人ならざる姿と、人であったと述べる言葉。
一人先行して狂ったようだった心臓の音が、唐突にクロエの耳に響いていた。
初めてリアルに示唆された未来は今以上に絶望的であり、その心拍音はこそが、
目の前に差し迫った恐ろしさとはまた別の、恐ろしさを認識している証だった。

今日は近くの運動公園で、またいつもの三人でバドミントンやら卓球やらをすることになっていた。
市営のそれは、一日中入り浸ってても200円ぐらいで済むため、長い休みのたびにお世話になっている。
室内のプールもあったりで、何日通っても飽きないところもいい。
クロエはそういったわけで、運動公園の入り口にあるモニュメントに向かって歩いていた。
恐らくアイはもう到着していて、カズミは私よりも遅いはず、と思いながら角を曲がると、
やはりその通りらしく、アイはクロエに気付くと手を振って迎えた。勿論カズミはいない。
時計を見てみれば集合の時間の一分前だった。クロエは、あと六分ぐらいかな、と見積もると、
ちょうどその通りのタイミングで現れた。いつも遅れてくる癖に、それを悪いとは思っているのか、駆け足である。
「ごめん、遅れちゃった」と、肩で息をしながら謝るのを見て、
それら一連の流れはあまりにもいつも通りで、クロエは時々笑いがこみ上げてくる。
カズミはそれに不思議がった表情を見せて、アイは「どうしたの?」と訊ね、
クロエはまた笑うのだった。
370clown:2008/01/12(土) 17:27:38 ID:IWxBI1wJ
 
悪夢に戻ると、クロエは夢から現実に引き戻されたような感覚を抱いた。
変化しつつある体のことが、とりわけクロエの精神には負担になっていた。
餌として干し草を、飲み水としてバケツに汲まれた水を差し出されたという意味も、
今のクロエには、ただの侮辱ではないものとして捉えられていた。
改めて魔物が現れてきたときも、干し草を積んだカートをガラガラと押してきた。
「あれ、食べなかったんですか?」クロエの心境を把握しているそれは、
「折角貴女にあったものを用意しているんです、ちゃんと食べてくださいね」と、
馴れ馴れしく付言して、その干し草の上に新たな分を積み上げる。
バケツを回収するときには、「お水は飲んだんですね、偉いです」などと言って、クロエの頭を撫でた。
クロエは精一杯の抵抗として、怪物を睨み付けた。ペットのような扱いに対して、ただメソメソとはしていられなかった。
表情の取れない赤い複眼に対して、猫のそれとも似ているもう一方の目は、そんなクロエの目線を真っ向に受ける。
水を汲みなおされた器は以前のよりも更に大きく、怪物はそれを両手で抱える様にして持ってきた。
相変わらず汚れていて、家畜が水を飲むための容器なのだ、と一目で分かった。
更にそれを置いて去る際に、牢屋の隅に脱ぎ捨てられていた洋服やブーツを、
その怪物は「人間の召し物なんていりませんよね」と拾い上げて、ほとんど下着だけのクロエを見つめた。
クロエは脱ぐことを強制されるのかと思い、視線をわざと逸らした。
幸いそれは杞憂だったらしく、悪魔は牙を薄っすらと覗かせるように微笑み、鍵を閉めて出て行った。
残されたクロエは、喉の渇きを和らげるべく、水桶に向かう。
目一杯汲まれた水桶は普通の人間には到底持てる物ではなく、クロエはその中に顔を突っ込んで飲まざるを得なかった。
身体が満たされていくのを感じながら、薄汚れた水を躊躇いも無く、家畜のように容器を持たず飲んでいる、
ということに、人としての何かが欠けていくのに気付く。最早それは止められないことにも、クロエは気付いていた。
半分まで一気に飲み干して、クロエは顔を上げた。何かに気付くたびにクロエは涙を流すが、それもせいぜい水分を失うだけ。
赤く揺れる水面に目を落とすと、そこには自分の顔が映っている。
黒い髪が濡れて顔に掛かっていて、薄っすらと白い毛の生えた顔に亀裂が走っているように見える。
それをボーっと眺めていると、心なしか首が長く、そして太くなっているように見えた。
信じたくない、という面もあって、クロエはそれを確認する前に目を逸らした。
仰向けになって、クロエは横たわる。
空腹は酷くなる一方だったが、水を飲んで喉の渇きは収まったし、体温もやや落ち着いた。
刻々と差し迫る絶望や、既に刃を突き立ててる事態の反動か、
今度は多幸感に満ちた夢に抱かれて、クロエはひとときの安らぎに眠った。
371clown:2008/01/12(土) 17:29:53 ID:IWxBI1wJ
 それを引き裂いたのは、遂に限界に達しようとしていた空腹だった。
紛らわせようと水を飲んでも、空っぽな胃に流れ込んだ冷水は、むしろ鋭い痛みを発するだけ。
汚れていたし、水が当たったのとも思ったが、思考を圧迫させる程の食欲が、
そう言った考えをなぎ倒すように否定している。
おもむろに、うず高く積み上げられた干し草へと目をやり、クロエは這うようにしてその元まで到達すると、
そのうちの一本を摘んで、畏怖に近い眼差しでそれを観察した後、においを嗅ぐ。
短絡的だが、いつか見学した牧場を連想させるそのにおいは、どう考えても人間の食べ物じゃない。
それでも、食べなければならない、というのをクロエは理解していた。
いくら我慢したところで真っ当な食べ物は出されるようには思えないし、
修行僧でもない、ただの一般人である自分に、即身仏になる程の精神なんて持ち合わせてはいない。
それに、あの怪物の言うように、今のクロエにとっては最適の食料になるのだろう。
今クロエの行動を絆しているのは、単なる意地一つであり、それも今まさに潰えようとしていた。
身体をまさぐられて、ファーストキスを奪われて、変なものを身体に入れられた挙句、
こんな場所に押し込まれ、干し草とバケツに汲まれた水を餌だと出されても蛇に睨まれた蛙状態。
ペット扱いされ、桶に顔を突っ込んでがぶがぶと美味しそうに水を飲んで、
と、クロエの自尊心は既にくしゃくしゃだったが、それでも全てを甘んじる気にはなれない。
干し草を手にしたまま、その意地がひしゃげる前であったのにも関わらず、
クロエの目にはじわりと涙が湧出した。
恐怖や絶望でも、変わり行く身体に対しての嫌悪感でもなかった。
それは、クロエの感情が、あまりにも自分の理性に対して無力である、ということに対しての悔しさだった。
もう食べるしかない、既にお前は人間ではないのだ、と理性が悟ってしまっている。
それは暴力的な食欲という衝動と対になって、強固な万力を形成した。
二枚の相反する口金を前に、そのくたくたになった意地は、音も立てずに壊れていく。
クロエは手に持った一本を口に運び、咀嚼した。
初めは一本一本摘んでいたが、しばらくして干し草を掴むように束ねて喰らい、
次第には手を使うのをやめ、犬食いになってその山を崩していく。
歯止めを掛ける間もなく全てが胃袋に収まった後には、口に残った食感や臭いに嫌悪感を抱いて、
クロエは吐き気を覚えた。眩暈のする頭を持ち直すようにクロエはジッとしていたが、
時間の経過と共にその吐き気は実際のものとなり、干し草だったものは口の中に戻ってくる。
しかし、本来嘔吐物の持っている胃酸の刺激は無く、むしろそれは甘みを帯びていた。
理性は一瞬、身体が拒んでいるのかと危惧し、感情はアイデンティティを取り戻したと喜んだが、
クロエはそれを再度咀嚼して、よく噛んだ後にそれを飲み込みなおした。
反芻なんてものは、全く奇怪な摂食方法であり、得体のしれない行為だと認識していたが、
心でどう思っていたにしろ、それを吐き出すという真似は出来っこなかった。
そうしたからといって何かが取り戻せるわけでもないどころか、
再度空腹を覚えて、戻したものを口にする、というのが、最悪の予想としてすぐに頭に浮かぶ。
一瞬期待した自分がバカだった、と、クロエは反芻を続けながら、うつぶせになった。
372clown:2008/01/12(土) 17:31:50 ID:IWxBI1wJ
 食い戻しを胃に収めた後、体温は蘇るように、狂わせんばかりの高熱へと移ろいで行った。
同時に身体の中で何かが蠢いているような感覚と痙攣が全身を襲い、
クロエは突然の変化に怯えながら、身体を抱えて蹲っていた。
うわ言のように「いや……」とか「助けて……」と、
誰にともなく助けを乞うクロエを尻目に、セシルの身体は徐々に肥え太り始める。
大腿や二の腕、そして腹部を中心に脂肪や筋肉が付き、全身を薄っすらと覆っていた毛は、密度と太さを増やしていく。
バチ、という音を立てて、穿いていたショーツが裂け、キャミソールの肩紐も肉に食い込んでいた。
そういった変化はおよそ三時間かけて行われたが、それは劇的な変化だった。
それによる変貌――無残に肉は垂れ、ごわごわとした毛で覆われる――と共に、
クロエを驚愕させたのは、その三時間足らずの間でまた食欲が湧き上がっている、ということだった。
摂ったエネルギーほとんどがその変態に費やされているという結論にはすぐに到達するが、
それは残酷なもので、自分が干し草を食べてしまったせいでこんな身体になってしまった、ということを示していた。
空腹の辛さと、干し草を食べてしまったことに対する自責を反芻しながら、
クロエは長い時間の中、現実から逃避するようにまどろんでいた。

この悪夢の恐ろしいところは、見るたびにその時間が伸びていく、ということだった。
初めて見たときは一時間ほどだったのが、今では一日以上の時間に匹敵していた。
クロエは永遠とも感じられる時間の中、その多くの時間を寝て過ごした。
寝ても空腹や喉の渇き、給餌で起こされてしまうのだが、それが唯一許された逃避であった。
起きている間は、ありとあらゆる後悔や絶望に苛まれ、不本意ながらも干し草を食む時間を待ち望みながら、
その薄暗闇の中、横たわっていることしか出来なかった。まるで牛だ、そう自虐する。
時に現実の世界に戻れば、悪夢のことは忘れられた。むしろクロエにとって、その現実こそが夢であった。
この悪夢という現実に戻る度に、楽しい記憶が逆にクロエの心を痛めつけた。
そしてクロエが干し草を望んで食すようになってから、危惧していた通り、変化は頻繁に起きた。
暑さに耐えてでも着ていた下着は残さず取り払われて、今では一糸纏わぬ姿になっている。
全身の及ぶ体格の変化が、それを着ることを許さなかったからだ。
スレンダーに保たれていた肉体との落差を、裂けた布着れが物語っている。
白魚のように細く滑らかだった指なんて、今では残っていなかった。
黒ずんだ爪の変化がその先端を喰らい尽くすと共に、手のひらの一部として根元から癒着していった。
その手のひらも棒のようになってしまって、手のひらというよりは、腕が続いていると見た方が妥当な程で、
既に物を掴んだり、字を書いたりといった行為は出来そうに無い。
両腕は、地面を這いずり回るためだけに存在していた。
そういった変化をクロエは享受出来るはずも無く、気付くたびに悲鳴を上げた。
その悲鳴さえ、長く伸びた首のせいで、酷く低い声になっていた。
まだ喋れるし、牛の鳴き声とまではいかないにしろ、年頃の女の子が発する声では、決して無かった。
水桶が映す自分の姿だって、怪物そのものだった。顔には肌の変化しか起きていないせいで、
長い首と毛皮が人間の顔つきにミスマッチに見えて、クロエは水を飲むたびに、目を瞑るようになった。
そしてすぐには気付かなかったが、全身が肥えていく中、自分の乳房がほとんどなくなっているのに気付いた。
なくなるというよりも、膨らんでいく体にそのまま飲み込まれて、平坦になっていた。
今更自分のおっぱいの大きさを気にするというのもどうかと思いながら、少なからずショックだった。
身体が重くなった今、クロエは二足で立ち上がることは出来なくなっていた。
牢の中での長い時間を、クロエはほとんど横たわって過ごしていたが、
壁にもたれて座った際に、大きな尻に何かが当たる感触がした。
その巨大な臀部だけでも浅ましく、それで尻尾が生えていると気付いたときから、
四つんばいになったときに足にそれが触れていることが堪らなく嫌だった。
長く伸びた首では自分の身体をあまり調べることが出来なくなり、
また脂肪や筋肉にとらわれて、腕の動かせる範囲はほとんど限られてしまっていたので、
自分の足がどうなっているかを確認することは出来なかったが、
もう立ち上がれないことから鑑みるに、腕と同じような状態であるのは分かった。
373clown:2008/01/12(土) 17:33:31 ID:IWxBI1wJ
 「ちゃんとご飯を食べてるから、もうそろそろ牛さんになれますよ」
と、給餌の度に怪物は皮肉を込めて、愛でるように呼びかけるし、
大きくなってしまったクロエの身体を、実際の牛にするように、何度も撫でまわした。
尻尾に触ったり、「ここの模様が可愛いですね」と背中を指差したりする。
また、重く垂れ下がっている腹部をさすって、「お腹におっぱいがあります」と、
まだ形成され始めたばかりであるらしい、点々とした突起を指でつついたりした。
クロエにしてみれば、その怪物の姿こそがおぞましいものであったが、
しかし動物のパッチワークのような肌をしていても、振る舞いは確かに人間だった。
一方、クロエの身体のほとんどはもう牛そのものであったし、
人間らしく振舞うなど、出来ることと言えば喋ることぐらいだった――それも醜い声で。
いつの間にか、その怪物に対しては恐怖のみならず、劣等感を植え付けられていた。
そしてそういった比較を経て気付かされるものに、
自分の人間らしい部分が、自分のことを化け物染みた姿にしている、
という事実があった。もし全く牛になってしまえば、もう人と牛の合いの子のような、怪物ではないのだ、と。
それは同時に、身体を構成する比率が、牛としての身体の方が優位であることに気付く。
そのような自分の首を絞めるばかりの思考を、クロエは展開する度に、憂鬱になった。

今日はカズミが家族で出かける、というので、アイと二人で隣町まで買い物に行った。
都合の良いことに、ちょうど一週間後にカズミの誕生日が控えていたので、二人でプレゼントを買いに行ったのだ。
色々と物色しつつ、自分のものも買いながら、一日中歩き回った。
カズミは案外無骨なものが好き、とアイとの共通見解に基づいて、
美容室で使われるような、シンプルで機能美なドライヤーをあげることに決めた後は、
ファーストフードで遅めの昼食を摂った。
宿題のことを話せば、やはりアイはもう終わらせているとのこと。
今回も借りて写すしかない、そうクロエは決めていたが、連休はまだまだある。
そういう頼みごとをすぐにすれば、キチンとやったアイに申し訳が無い、と、
破綻した思考を、暖かな光の当たる席で、ハンバーガーを頬張りながら浮かべた。
アイは一番小さなハンバーガーを、齧るようにちょこちょこと食べている。
クロエの方が大きいものを食べているにも関わらず、いつもアイが食べ終わるのを待っているなあ、と思う。
それに気を遣ってか、氷だけの紙コップをガサガサ揺らすクロエを見て、
アイはいつも急いで食べようとするのだが、その度に喉に詰まらせたり、むせたりする。
最近ではクロエがアイのペースに合わせるようにゆっくり食べたり、ポテトを注文したりしている。
なんというか、愛されるキャラだよなあ、とクロエは、ようやく半分まで食べ終えたアイを眺めた。
374clown:2008/01/12(土) 17:36:49 ID:IWxBI1wJ
 クロエの牛としての身体が出来上がっていくにつれて、怪物は給餌以外の用件でも牢屋に訪れ始めた。
一つは、排泄物の始末である。栄養のほとんどは身体の変化に費やされていたが、
干し草の全てが栄養になるわけでもなく、また身体の変化とは、新陳代謝と近く、
それ故に相当の老廃物を排泄しざるを得なかった。
クロエがどんなにそれを拒んでも、溜まるものは溜まっていく。
そして結局は出さなければならなかった。それが地面に落ちる音や、
勿論ここは水洗トイレではないから、放置されて放たれる臭い、
なにより、今では自分の居場所となったこの牢でそれを垂れ流すなんて、
人としてあるまじき行為だという認識が、クロエを傷つけた。
そんなクロエを尻目に怪物は、一度水飲みに使われたバケツとデッキブラシを片手に持って、
糞尿の掃除をしに現れるようになった。部屋の片隅にある穴に、それを流し込んだ。
「牛さんですから、沢山するんですね」とからかわれる度に、クロエは毛皮の下にある肌を、赤く染めた。
もう一つは搾乳だった。出産をしていないにも関わらず、クロエの腹部に新しい乳房が出来て以来、
それは脂肪を増やすと共に、内部で乳汁を生産し始め、内部から圧迫するようになった。
不本意ながらも、耐え難いものになったその痛みをあの怪物に訴えると、
「ああ、もう牛乳が出るんですね」と、どこからか容器を持ってきて、
腹部から垂れ下がった乳頭を器用に絞り始めた。
認めたくは無かったが、張りが解消され、そしてその部位を刺激される感覚が、気持ちよかった。
思わず、口から声が漏れた。太く篭ったその声自体もそうだったが、畜生染みた快感に、
声を上げてしまう自分の存在が酷く醜く思えた。
「ふふ、気持ち良かったですか?こんなものを、こんないっぱい出せば、そうですよね」と、
ガラスで出来た容器に、並々と入った白い液体を目の前に掲げて見せつけた。
それ以来、搾乳が習慣的に行われるようになった。
食事以上の楽しみとしてクロエの退屈な日常に、それは組み込まれていたが、
それを終える度に、自己嫌悪でいても立ってもいられなくなって、
部屋の隅に積まれた干し草の山に、頭を突っ込んで泣いた。
現実の世界では嫌なことがあれば、ベッドの掛け布団に頭をうずめて泣いたが、
この悪夢では、それは干し草の山に成り代わっていた。


ある時、化け物はクロエに話しかけた。
「なんで貴女がこんな目に合わないといけないのか、疑問に思うことはありませんか?」
クロエは肉体変化の波を越えたばかりで、心身ともに疲労していたし、一番空腹の酷いときだったせいか、
「……あたりまえよ」と、小さい声で返すだけだった。あるいは、自分の声を聞きたくないのかもしれない。
「私も昔は色々考えました。時間だけは一杯ありましたからね。だから貴女の気持ちも、分かるんです」
「何がいいたいの?」干し草を格子越しに焦らされて、クロエをイラつかせる。
「貴女と同じように、私だって普通の人間でした。でも、私の母が、私をこんな姿にしてしまったんです」
怪物は話を続ける。クロエは半ば突き放すように、返事をしないでいた。
「全くの不可抗力でした。母はこの地下室で、人を化け物に変える、恐ろしい儀式をしていたのです。
 幸い、私は母に気に入られていましたし、私が母の行動について知ったのも、母が死んだ後のことでした」
喋りながら、怪物は牢屋を開けて、中にカートを入れる。
「ですから、私は母に実験の材料にされた、というわけではありません」
憎悪の対象である怪物に、クロエは尚も言葉を返さない。
375clown:2008/01/12(土) 17:38:11 ID:IWxBI1wJ
 「私がこの地下室の存在を知ったのは、全くの偶然でした。生まれてからずっとこの家に住んでいましたので、
 初めて知った存在に、私は愚かにも好奇心を抱いてしまいました。そう、好奇心です」
怪物が干し草を供給するや否や、クロエはそれを食べ始める。何故か今回の干し草は、いつもの倍以上の量だった。
怪物の前で干し草を食べるのは初めてだったが、話を熱心に聴いている素振りの方が、よっぽど見せたくなかった。
「好奇心が猫を殺した、という言葉がありますが、私達はそれを身を以って実感したわけですね。
 私が儀式の部屋――クロエさんが私と会った部屋ですね、そこに踏み入れたとき、
 私は実験の犠牲者の、怨恨に身体を奪われてしまいました。
 母が亡くなって、この牢屋を一杯にしていた、元人間の動物達は餓死してしまい、
 母は予め封印か何かを施していたのでしょう、それらの魂は、この地下室に閉じ込められていたのです」
それが私にどう関係するのよ、と思いつつ、噛み解した草を嚥下する。
「その魂もまた、母の行った儀式により、酷く変形させられたものだったのです。
 私はその全ての呪いと、閉じ込められた魂の拠り所となりました。
 呪いを受けた身体は、このように、醜い姿となってしまいました」
「だから普通の人間だった私を憎んで、同じ目に合わそうとしたの?」
クロエは顔を上げて怒鳴った。同情する点を見出しつつも、それ以上に理不尽な行為に、クロエは憤慨していた。
「そうです。私は自分の置かれた境遇に、納得出来ませんでした。
 恐らく貴女は、そんな苦しみは一人で抱えていろ、とお思いかも知れませんが、
 改めて問いましょう。貴女と私、何が違うのでしょう?
 一方は呪われたまま、一方は楽しく暮らしているなんて、不平等でしょう。
 それに――」
怪物は、その非対称の口で、大きな笑顔を作ってみせた。
「こうして呪いを他の人に移す度に、私の呪いは弱まっていくのです。
 貴女はもう20人目。泥棒然り、不良の青年然り、この館に訪れる人たちに私は、苦しみを分配していったのです。
 ですが、私はその辛さを十分に理解しているつもりです。人が畜生に落ちるという辛さを――
 ですから、そういった人達に、いつもチャンスを、この悪夢を終わらせるためのチャンスを与えてきました」
怪物は空になったカートを引いて、牢屋から出る。
「そのチャンスは勿論、貴女にもあります。が、そのチャンスは一度きりですし、
 具体的にどうしろとは言いません。これはあくまでも、気まぐれというか、僅かながらの慈悲ですから……
 ある意味では、ゲーム、という言い方が正しいかもしれませんね。
 そしてこのゲームには、実質的に制限時間が用意されています」
水かきの膜が張られた手を前に突き出し、人差し指一本だけを立てる。
「一日です。あと一日、現実世界でその条件を満たさなければ、貴女の悪夢は、貴女の現実を完全に飲み込みます。
 一度でも眠ってしまえば、悪夢から二度と醒める術はありませんし、悪夢は永遠に続きます。
 もし何かの拍子で悪夢が終わってしまったとしても、
 人の一生以上の時間を家畜として生きた後に、貴女の精神は健常でいられるでしょうか?
クロエはその言葉に身震いをした。その恐ろしさは、想像力を駆使するまでも無く、十分に理解出来る。
「現実の世界ではここの記憶が無いわ。それなのに一日で何とかしろ、って言うのかしら?
 そんなのチャンスだなんて、言えるの?」
と、反抗的に問い返すクロエの言葉も、その動揺が溢れて無様に震えていた。
既に人間のものではない舌のせいもあって、本人でも危ういほどに聞き取り辛い発声となり、
それに対しての鈴の音のような怪物の返答は、それだけで嘲っているように聞こえる。
「いいえ。次に目を覚ますとき、全ての記憶は継承されたままとなります。それを保障しましょう
 だからこそ、精々持てる限りの力を振り絞って、悪あがきをしてくださいね」
376clown:2008/01/12(土) 17:40:43 ID:IWxBI1wJ
 身体の変化は、既に終わりに差し掛かっていた。
既に身体のほとんどは牛と化しており、特に腹部の乳はその重みを実感できるほどに膨らんでいた。
骨格も、全身の肉つきに合わせて緩やかに変化してきて、ようやく完全に変化したかしてないか、というところ。
クロエは水を飲むときに気付いたが、頭部にも変化は及んでおり、まだ牛そのものとは言えないにしろ、
一目に角、と分かる突起が一対、頭皮を突き破っていたし、顔面の骨の形も変化を始めているようだった。
具体的には鼻と口まわりの骨が、やや前にせり出すと共に、前歯が縮小しつつあった。
また、その変化に先行するように、舌が分厚く長くなり、それに付随して、滑舌が格段に悪化した。
クロエは大量の草を食べ終えた後に、これが最後であると確信していた。
化け物がクロエに話した言葉は言うまでも無く、変化に伴う体温の高ぶりもいつも以上であったし、
何よりそういった予感があった。これが最後であり、自分は完全に牛になってしまうのだ、という予感。
それは正しかった。全身の汗を蒸気に変えながら、爆発的にそれは始まった。
覚悟を上回った表現し得ない感覚に、咆哮と言うべき叫び声を上げる。

気付いたときには、全ては終わっていて、クロエは冷たい、水浸しの床に横たわり、
燻る消し炭のように寒気を覚えて、その身体を震わせていた。
白と黒の毛皮を持ち、立派な乳房を持ち、四足で地面に這い、尻尾を垂らし、角を持つ、大きな身体を。
手足を動かすたびに、蹄がカツカツと床を鳴らす。
それが辛い結果に終わると分かっていても、
試しに「あ」と喋ってみる。
試しに、自分の名前を呼んでみる。
試しに、早口言葉を言ってみる。
試しに、「アイ」と、
試しに、「カズミ」と、
試しに、試しに――


「ゲーム」
「チャンスが」
「一度きり」
「一日」
「悪夢を」
「終わらせる」
断々片々の言葉が、まどろみの奥底から湧き上がってくる。
まるで深い沼の底から、幾多の気泡がぽこぽこ、と浮かび上がってくるように。
クロエは目を覚ましたときに、枕が涙でびしょびしょになっているのに気付く。
急いで起き上がって、鏡の向こうにはちゃんと人間としての自分があることを認めた。
髪はぼさぼさだし、目は泣いていたせいか充血していたし、目やにも酷い。
それでも、クロエはその姿に喜んだ。二本足で立っている自分を、すべすべな肌の自分を。
首の端っこにニキビを見つけても、それでも、人間である身体に、感激した。
クロエは適当な服に着替えてから、携帯を手にして家を飛び出した。親には何も言わない。
もしかしたら今日で最後かもしれない、という悲しみがクロエの視界を覆っても、すぐにそれを振り払った。
そうしない為に、クロエは今、走っていた。
バス停にちょうどバスが止まっているのを見つけて、クロエはそれに乗り込んだ。
あの屋敷のすぐ傍まで行くバスだ。その幸運に感謝しながら、200円を払う。
出口に一番近い席に座って、しばらくしてかはアイとカズミの二人にメールを送る。
大事な用事で例の屋敷に向かっている、ということと、出来るならば手伝って欲しいという内容だった。
悪夢を見たと送っても、切迫している状況を伝えきれる自身は無いので、具体的な内容は告げない。
会って話せば分かって話せば、という確信はある。遊んで過ごしてきた時間にも、そんな意味があったのだ。
焦燥に駆られて手は汗ばんで、それをごしごしとスカートで擦りながら、窓の外の景色が流れていくのを眺めていた。
何も出来ない時間の空白が、何度もクロエの心を振るわせて、
失ってしまうかもしれない未来を、告げるべき別れの言葉を浮かばせる。
終点の駅につく頃には、ぽたぽたと流れる涙を拭くことすら出来ず、
なんだか泣いてばかりでいるな、ということを足がかりに、口の端を僅かに持ち上げるだけ。
377clown:2008/01/12(土) 17:42:28 ID:IWxBI1wJ
 雑木林の間のうす荒れた道を走っていくと、その館は姿を現した。
数日前に見たそれよりも幾分、その不気味な雰囲気は増しているように見えた。
クロエは門の穴を潜り、庭園を駆け抜けて、扉を開ける。
そこに恐怖はなかった。取り巻く不自然な冷たさの正体だって知っている。
そのままエントランス右側に伸びる廊下を道なりを駆けて、書斎の前までやってきた。
ちらりと携帯の表示を見ると、十一時を少し過ぎたところ。
扉にはカズミの蹴った足跡がついていて、あのときのままだった。
ふと、それまでの勢いが殺がれた。目前のドアが、巨大に聳え立っているとさえ見えて、途端に気が竦む。
思えばこの先こそがこの館の異変そのものであり、歪みの根源なのだ、と一息をついてから、
ゆっくりとドアノブに手を掛けて、回し、押した。
ドアは音一つ立てずに、クロエを招き入れるかの如く滑らかに開いた。
圧迫的な本の壁、古ぼけたデスクなどの調度品の数々。書斎だった。
クロエはそこに踏み込んだ。夢の中とまるで同じ光景に、現実感が急に遠のいていく。
突然の振動――携帯だ。そのお陰で現実味が立ち上がって、僅かな安心さえ感じられる。
アイからのメールで、今から追いかけるということを、短い文面で送られてきた。
クロエは嬉しさと申し訳なさに、そしてそんなアイと今生の別れになるかもしれない、
という切迫した感情に、思わず手に力が篭った。携帯の角が手に当たって、跡が残るほどに。
あの日には開かなかった、一階廊下奥の部屋にいる、ということを告げて、
クロエは初めて見る明るい書斎を見回すようにしながら、隅のタイルまで歩いた。
夢の中と同じようにして、デスクの銀のペーパーナイフでそれを持ち上げる。
蓋を取り除くと、そこには深い、吹き溜まったような暗闇が待ち受けていた。
クロエは携帯のハンドライトを点灯させ、その中の様子を伺った。
とたん、クロエはゾッとした。
血液を思わせる赤黒い色で、壁や床には何かが記されていたのだ。
触れることさえ憚られるそれを、暗闇の悪夢では気付かずに手をつけていたのかと思うと、恐ろしかった。
それはあの、怪物との邂逅を果たした部屋のそれと同じように、文字や模様で複雑に出来上がっていた。
何を意味しているのか分からないが、満遍なく赤で呈されたそれは、呪詛にしか見えない。
クロエは恐る恐る、その中に入っていく。あの異様な臭気、冷気はそのままで、まるで夢の再現のようだった。
そして中に降りてから、もう一度ライトで周囲の様子を伺った。
ドアもやはり五つ。念のため、クロエは全てのドアを確認したが、案の定開くのは中央のドアのみ。
クロエは意を決して、あの部屋に足を踏み入れた。
その部屋――あの怪物が言っていた儀式の部屋は、予想していた以上のものだった。
人間のも一部まみえる、動物の頭蓋骨が複数棚に陳列されていると思えば、
首から上が無残に打ち砕かれた、何か女神や天使かを象った石像と逆さまに飾られた十字架。
沢山並べてある瓶には動物の血液としか思えないような液体が入っていて、
そのいくつかは割れて、その中身をぶちまけては床の溝をなぞっている。
クロエが誤って手を触れてしまったのは、同じような液体が入れられた、すぐ隣にある巨大な壷だった。
酷い臭気を放っていて、既に腐っているようだった。
蛙や蛇、そしてネズミのミイラ、いや、干物といった方が正しいだろうか、
それらは紐にくくられて壁に掛けてあるかと思えば、すぐ下にはホルマリン漬け。
なにかの眼球やら内臓やら、脳らしきものさえ浮かんでいる。
理科の資料集で見た覚えのある、人間のそれと大きさや形といい、瓜二つだった。
そんな標本が数十、ずらりと並んでいて、オカルト的な物品の中にもそれは十分に溶け込んでいた。
他には、古風でアンティークものかもしれない燭台が何個か置いてあって、
煌々と燃え上がっている様子を思い出させた。刺さっているのは赤い蝋燭で、
月並みだが、あたかも鮮血を固めて作ったかのように見える。
それらの様子に、クロエはしばし動きを止めていた。
ある程度の覚悟はしていたが、その光景はあまりにも黒魔術とか儀式とかいったものの印象と合致していた。
もし見ようによっては、その部屋は滑稽なものとして見て取れたかもしれないが、場所と場面が悪すぎて、
確かにそれらは秘術的な力があるように見えたし、忌むべきものだ、そう思えた。
部屋のど真ん中には、俗に言う魔法陣が大きく描かれている。赤い塗料によるものだ。
これが儀式に使われたのだろうか、とクロエは短く想像する。
378clown:2008/01/12(土) 17:44:42 ID:IWxBI1wJ
 不意に震える携帯。幸いここは圏外ではないらしく、電波は良好でもなかったが、悪くもない。
アイからのメールで、カズミと合流して、今バス停に着くところだと書いてある。
クロエは再度、ハンドライトの状態に戻してから、その部屋の奥の扉まで進んだ。
悪夢の中では開かなかった扉だったが、それは予想に反して開いた。
その開閉音の細かな音一つ一つが、クロエの不安を掻き立てる。
酷い寒気を覚えて、また強くなる悪臭に、クロエは身を固くした。
そこはあの牢屋だった。固い靴がカツンカツンと音を響かせて、その空間に広がりは反響する。
数メートル歩いてから右折すると、牢屋がいくつも並んでいるのが見える。
クロエは初めから正面にあった牢屋の中を覗くと、白骨化した動物の死骸が、
いくつもそこに散らかっているのを発見した。一つだけきちんとした形をしていて、
あとの数匹分はバラバラになり、何頭そこにいたのか分からない。
クロエは動物に変えられた人間が閉じ込められていたこと、それら全てが餓死した、という話を思い出して、
牢の中の状況は、飢えのせいで共食いがなされたことを示しているのだと気がついた。
吐き気を覚えつつ、不快な連想がクロエを牢屋から僅かに遠ざける。
その牢屋だけでなく、どの牢を見ても内容は同じだったが、例外的に、二つだけそれとは異なる牢が存在した。
一つはクロエが悪夢の中で過ごした部屋だった。壁や格子の感じがどこと無く似ているし、
あの夢の中でも動物の白骨死体が転がっているなんてのは無かった。
違うことと言えば、今はその牢屋を外から見ているということぐらい。
もう一つはそれとは対照的な、一番奥の牢屋だった。
それは開放されており、何かが通路にはみ出ているな、と近づいてみれば、それは動物の骨だった。
様々な種類の動物の骨が、天井に届かんばかりの白い山を作り上げていたのだ。
抽象的なオブジェにも見えるそれは、その鮮烈な光景を以って、惨劇の程度を知らしめていた。
携帯がバイブレーションする。アイからの電話だった。
「もしもし?」と、はぁはぁと息切れするアイの声。
「もしもし。ごめんね、こんなところに呼び出して」
クロエは急に涙がこみ上げそうになって、言葉尻が鼻声になる。
「ううん、それより、今カズミと書斎にいるんだけど」
「そこに地下に降りる梯子、あるでしょ」と返事をすると、
「うん、これを降りればいいのね?」と、あの臆病だったアイとは思えない言葉。
クロエはそんなアイに頼もしさを感じながら、「そう。気をつけてね。私もそっちに向かうから」と返す。
「じゃ、一旦切るよ」と電話は終わり、クロエは早足で来た道を戻った。
梯子のある通路に戻ると、ちょうどカズミが降りきったところで、
「何があったの?」と挨拶代わりのアイからの質問。
クロエは何から話すべきかを頭で整理する間を置いてから、ゆっくりと話を切り出した。
途中二人のクロエを心配する眼差しに、涙で話は途切れ途切れになったりしながら、
三人で屋敷を探索してから、悪夢を見るようになったこと、
そこで書斎とこの地下室を見つけたこと、怪物に出会ったこと。
身体に何かを入れられて、姿を牛に変えられたことは言わなかったが、
この奥にある牢屋で監禁されていたこと、そして、
悪夢は次第に長くなっていき、今日が最後の猶予であり、チャンスであることを話した。
怪物について、そしてここで行われた惨事についても、知っていることについては全て話すと、
話を聞かされた二人は、全てをすんなりと飲み込んだわけではなかったが、
下手なりに精一杯な説明に、少なくともクロエが嘘を言っていないということは分かってもらえたようだった。
途中から嗚咽交じりで話していたクロエは、二人の反応を見るや否や、安心したのか声を上げて号泣しはじめた。
二人に抱きついて、普段強気に振舞っていたには見えないほどに泣きじゃくる。
小さな子供のようになってしまったクロエを二人が宥めても、落ち着くまでにしばらくの時間を要した。
興奮が収まるのを待って、「それで、どうすればいいの?」とカズミは半ば問いただすようにクロエに訊ねると、
クロエはそれで気を取り直したのか、裾でごしごしと顔を拭ってから、
「……それが問題なの」と小さな声で返答する。
急いできたはいいが、見当など全くついてはいなかった。情報は少なすぎるし、手がかりだってまるで思いつかない。
そもそもが不利なゲームであり、二人を呼んだのだって、手伝ってもらうためだけではない。
379clown:2008/01/12(土) 17:46:22 ID:IWxBI1wJ
 「とにかく、ついて来てもらえる?」とクロエはとりあえず、二人を奥へと案内した。
三人いれば何か掴めると、そう信じて、儀式の部屋と奥の牢屋をぐるりと回ってから、
あちらこちらにある不気味な物品や、本棚の本という本を総当りに漁る。
調べられるところは全て探し回った。読めない本だって、メモでもないか、とパラパラ捲ったし、
気持ちの悪い標本だって一個一個どかしながら、鍵でも落ちてないかと確認する。
上の書斎も調べた。こちらは、地下室の本が暗号めいた文字と不気味な挿絵だったりするのに対して、
誰もが知っているような文学全集だったり、辞書だったりが、様々な分野に渡る論文と思われる
書類にいくつか混じっているぐらいで、ほとんどは英語、稀に日本語で記された専門書ばかりだった。
オカルト的な本はやはり地下室にしかなく、また日記や手紙というものも、まるで見かけられない。
そんな中一つだけ興味深かったのは、一冊のアルバムだった。
初めのページには、白黒の、この屋敷を背にして撮られた集合写真だった。
どうやらここに住んでいた家族の写真らしく、老人が一人と二人の夫婦がいて、
その夫人はまだ小さな赤ん坊を抱いて、笑っている。
幸せそうな光景で、しばらくはそういった普通の写真が続いていた。
普通の生活や、旅行等の思い出がそのままそこに切り貼りされているようで、
また子供の成長の過程が分かりやすく写されていて、クロエは微笑ましく感じる。
大人になったら美人になりそう、とクロエは思いながら、ぱっぱとページを捲っていく。
だが、その女の子が中学生ぐらいの年齢になってから、写真の枚数はとたんに減少した。
写っているのも、それを境に女の子の姿だけとなり、またその表情も何処か悲しげである。
捲れば捲るほど、ページ当たりの枚数は減っていき、分厚いアルバムの真ん中あたりになると、
もう一枚の写真も貼られなくなった。その後のページもずっとまっさら。
クロエは直感的に、写っていた女の子が、あの怪物の正体なのだ、と気付いて、
本当はこの空白のページにも、彼女の軌跡が描かれているはずだったのだ、と、
途端に胸が締め付けられるような、切なさを抱いた。
そのアルバムを持って、クロエは地下室の二人のところへと戻った。
「こんなものがあったわ」と、膨大にある本の山を処理している二人に、そのアルバムを見せた。
やはり、見れば見るほどに、あの怪物はこの女の子だったのだ、という確信を覚えた。
僅かに残された人間らしい部分である黒髪の艶やかさと口元辺りは、全く差異が見つからない程。
背格好だって、左右の足が揃えられていれば、完全に一致したはずだと想像がつく。
それが分かったところでなんの足しにもならないが、唯一の発見だけに、
三人はそれを重宝するようにして、一ページ一ページを隈なく調べた。
他の音が入らない地下室に、それを捲る音と三人の息遣いだけがあった。
携帯電話で採られた明かりは、ビニールで覆われたページをちらつかせて、
その余剰が石の床とそこに刻まれた模様を照らしている。
結局、特に何も見つけることが出来ないまま、写真の貼られていないページまで捲り終えた。
白の続くページもきちんと確認してから、三人はそのアルバムを閉じた。
クロエは思わず出そうになる溜息を抑えながら、それを箱に仕舞おうとすると、
す、と一枚の写真が、アルバムの箱から落ちた。
その写真に写っていたのは女の子だった。
ちょうどクロエらと同じぐらいの年齢で、アルバムに張ってある中でも後半の方だと推測できる。
特に変わったこともなく、どうやらアルバムから抜け落ちてしまったものらしい。
だが、三人はそれを見つめて動かなかった。何故かその写真に惹きつけるものを感じて、眺めていた。
この洋館で撮られたらしく、大きなダブルベッドに座って、女の子はこちらを向いている。
微笑みは無理に作られたかのようで、採光が陽光のみの寝室と不思議にマッチしていた。
化粧もしていないのに、羨ましいぐらいの美人だった。まだかすかに残る幼さがそれを引き立てている。
クロエはしばらく手を止めていたが、ふと我に返ってその写真をアルバムの箱に戻そうとした。
が、何故か身体が動かない。視線はその写真に落とされたまま、全てが静止していた。
そんな静寂の中、初めに動いたのは――いや、動いたように見えたのは、その写真の女の子だった。
翳りのある笑顔が微妙に形を変えたような気がしたのだ。
あの悪夢の中、堕ちていくクロエを嘲る、あの微笑へと。
380clown:2008/01/12(土) 17:47:16 ID:IWxBI1wJ
 携帯のライトが前触れもなく途絶えると共に、金縛りは解かれた。
唐突な出来事に、三人は発する言葉も思いつかないまま、ただうろたえていた。
全くの暗闇には消えた携帯を探して地面をまさぐる音と、乱れた呼気だけ。
そんな中、部屋の温度が急激に下がり始めて、その音もやがてなりを潜めた。
それは心的なリアクションで、単に各々が動作を止め、息を呑んだに過ぎなかったが、
まるで空気が凍り付いて、それらを遮ってしまったかのようだった。
クロエは一人、強烈な危機感を感じていた。明かりや冷気に対してではなく、
それによって付随的に呼び起こされる記憶が、警笛を鳴らしていた。
あの怪物が現れたときと、全く同じ感覚だったのだ。
耐え難い恐怖と絶望を感じて、無意識に悲鳴を上げていた。静かで封鎖された部屋に、篭って反響する。
叫び声は完全に伸び切る寸前に、ぴたりと響くのをやめた。
それと共に、ぼうっ、と音を立て、燭台に刺さっていた蝋燭は真っ赤な光を灯した。
クロエはカズミとアイの二人ともが、自分の方を見て驚愕しているのを、その明かりで見る。
クロエはその理由を知っていた。悲鳴が尻切れトンボに終わった理由だって知っている。
例の怪物が、叫んでいたクロエの口を塞いだのだ。
地面に座っていたクロエの後ろで中腰になって、両手をクロエの口に当てている。
粘液のぬるぬるとした肌触りに、ごわごわとした毛皮。まさしくあの怪物のものだった。
もがくように、地面に座ったまま後退するカズミとアイ、そして身動きをとめているクロエを他所に、
その怪物はゆっくりと口を開いた。
「地獄にようこそ」と。
そして、その言葉に反応するように、部屋全体に描かれていたあの模様は、
乾いた褐色から目の覚めるような赤血色に変わって、弱い光を帯び始めた。
「おめでとうございます。貴女は、悪夢を終わらせることに、成功しました」
怪物はまだ口を押さえたまま、悲鳴を上げている二人を放って小さく囁いていた。
「もうご察しかもしれませんが、あのゲームには、二つのゴールがあったのです」
クロエは目を瞑ったまま。無慈悲な理性と感情の処理速度の差からくる混乱を、黙って享受していた。
「その一つは死ぬこと。夢の続きを見る前に、自ら命を絶つことです」
対して怪物は、静かさを装っていながらも興奮を隠しきれておらず、鼻息が前髪を撫でている。
「そしてもう一つは、この呪われた地下室に、実際に入り込むことです」
既に悟っていたにも関わらず、まだそれを信じたくない、と拒んでいた感情は、その言葉に呼び覚まされた。
処理落ちしてハングしていた感情は、起きるとともにクロエを叫ばせて、その束縛から逃れさせようともがかせた。
「貴女は思ったようにやってくれました。私の稚拙な術では一人にしか夢を見させられませんから、
 私は貴女さえ来ないかと、内心ドキドキしていたのですよ。
 でもそれがこんなに上手くいったんです。それもこれも、全て貴女のお陰です」
いくら力を込めてもその拘束は解けず、また口を封じられていては叫び声も唸り声にしかならない。
それでも投げかけられる言葉と、理性からくる自責の責め苦に、クロエはただ暴れることしか出来ない。
「ええ、本当に。貴女のお陰で、二人分も多く私の呪いは解けるのです。
 ありがとうございます、ええと、クロエさん?」
突然拘束を解かれて、クロエは前のめりになった。よろけた体を急いで立ち上がらせ、その怪物から距離を取る。
怪物は姿勢を元に戻し、今度はアイとカズミに向けて、
「お二人とも、私が何者かはお聞きになりましたね?」と問いかける。
二人はパニックになっていて、言うまでも無くその異形の怪物に返答する余地はない。
「ここで何があったかも、あとはクロエさんが何をされたのかも――」
そう言いかけて、怪物はわざとらしく笑ってから、「ああ、肝心なことは言ってないのでしたね」
と顔を覗き込むように、巨大な目をクロエの方へとやった。
381clown:2008/01/12(土) 17:47:54 ID:IWxBI1wJ
 「ふふ、クロエさんは、ここで――」
「やめて!」クロエは怪物の言葉を遮って叫んだ。「それ以上は言わないで!」
「お恥ずかしいのですか?……そうですよね。あんなこと、大切なお友達には言えませんよね。
 でも、だから私がこうして、貴女の代わりに教えてあげようと言ってるんです」
怪物はすっ、と手を前に差し出してから、空気を掴むようにして、手を握った。
それと同時に、クロエは呼吸困難に陥る。首を強い力で圧迫されて、喋ることだってままならない。
「クロエ!」と、さきほどまでうろたえていたはずのアイとカズミは、クロエの身を案じる。
だが、「だい、じょ、、ぶ」と、崩れた声で話し、死なない程度に呼吸することは許されていた。
怪物はそのままの状態で、心底気持ちがよさそうに、クロエの身に起きたことを話し始めた。
全て包み隠さず、クロエ本人も忘れようと努めていたかさぶたを、わざとほじくり回すように、
どれだけ醜かったかを、どれだけ美味しそうに牧草を食べていたのかを、
そしてどれだけ気持ちよさそうに、乳を搾られていたのかを、
ゆっくり、クロエのリアクションを垣間見ながら話した。
クロエは絞首と恥辱の両方に苦しみながら、やはり涙を流すことしか出来なかった。
それを聞いている二人を見ることさえ出来ず、ただそうしているばかりだった。
最後に、ここに来るという解が如何に単純で、愚かな行為だったかを力説してから、その手を離す。
クロエは倒れこむようにして地面に手と膝をついて、ごほごほと咳をした。
アイはクロエに駆け寄って、気遣うように背中をさすった。
一方カズミは二人の前に立って、「なんで!なんでクロエがそんなことをされないといけないのよ!」と、
怒りをあらわにして叫んだ。怪物はそれに、蚊ほども怯むことなく、小さく笑いながら返答する。
「貴女達が、人の家を探索しているのがいけないんです。それも、お化け屋敷だなんて。
 人の家に勝手に上がりこんで、あれこれと探りまわっていい道理だってありませんよね。
 それに、貴女達には私なんて、ただの怪物にしか見えないんでしょう?」
両手を広げて、一糸纏わぬ代わりに、全身を毛や粘液で覆われている姿を前に出す。
「だからといって、そんな酷いことをしていい道理だってない!」
「そう、その通りです。でも、私は怪物、人間ではないのです。
 ですから人の諭す道理を、真っ向から守らないといけない道理だってありませんよね」
カズミが言い返せないでいると、怪物は言葉を続ける。
「心まで怪物になってしまったのか、という非難も、いくらでも受け付けましょう。
 私はもう、人間ではないんです。苦痛と永遠のような孤独に苛まれて、
 生命への憎悪と過去への思慕のみに生きる、呪いそのものになってしまったのです」
部屋全体に描かれた模様から発せられている光は、精神の高ぶりに呼応してか、より強烈に輝きだす。
その光もまた呪いそのものであるのだ、とクロエは気付いた。そしてそれが何を示すのかも、同様に。
息が落ち着いたクロエは、それに身構えるかのように立ち上がり、怪物に対峙する。
「呪いは重金属のように残留し、それを他者へと分配することによって薄まり、遂には消え去ります。
 私は数多くの呪いを受けて、死ぬことが出来ません。ですから、私は自分で自分を希釈して、
 存在を抹消するしか出来ません」
途端に静かなトーンで語り、怪物が沈黙すればそれは全ての沈黙。
そしてその沈黙を破るのもまた、怪物だった。
「覚悟はいいですか。呪いを受け、呪いの一部となって、生まれたことすら後悔する覚悟は、よろしいですか?」
382clown:2008/01/12(土) 17:49:17 ID:IWxBI1wJ
 全身が燃えるように熱くなる。まるで身体の中で他の生物が蠢いているような、気持ち悪い感覚。
覚えのあるそれに、身体が作り変えられているのだとクロエはすぐに理解した。
アイとカズミの悲鳴に混じって、びりびりと服が裂けていく音が聞こえて、
クロエは自分の身体を確認すれば、まだ数秒しか経過していないのに全身の肉つきは変わってしまっていた。
骨格もそれと平行して変化していて、もう指という指は癒着し、蹄へと成り果てていれば、
同様の変化は足にも及び、ブーツを分解する音と共に、クロエは立つことが出来なくなった。
クロエは自分がどう変化しているのかに気をやりつつも、それ以上に二人の変化に見入っていた。
すぐに変化を見出すことが出来たのは、首筋に点々と白いものが生えていく様子だった。
それは次第に量を増やして本来の形を成していった。それらは全て羽毛だと、
そのことがハッキリと分かる頃には、アイの腕に変化が来たしていた。
腕は二の腕が胴体の一部となり、それに続いて指それぞれの間に肉が張ると思えば、
一体化して手がまるでヘラのようになってしまった。そのヘラにも羽毛は生えて、瞬く間に覆う。
鳥の持つ翼になってしまった手を見て、アイは愕然とした様子で「何、これ……」と呟く。
先程まで、まるで神経が狂ってしまったのかのような激動の感覚に驚いていたが、
腕の変化に気付いてから、アイは身体の変化に気付くたびに何かしらの声を発した。
「あ、あ……」と言葉にならない声を、身体のサイズが小さくなっていくのに気付いて。
「いや、助けて……」と涙交じりの言葉を、靴と靴下からすっぽりと抜けた、鱗と爪の生えた足に気付いて。
「なんで、どうして……」と、誰に対するでもない疑問の言葉は、
身体のほとんどが畜生へと――鶏へと変わり果ててしまったと気付いたときに、発せられた。
そして、金切り声の悲鳴は、頚部の変化に合わせて、その音を段々と変えながら赤い空間に篭った。
頭部にはとさかが、小さな顔面には嘴が生えると、悲鳴は悲鳴で無くなっていた。
そのときにはクロエの身体も完全に牛となっていて、そしてカズミの姿もまた、完全に狼となっていた。
カズミの身体を覆う変化はクロエと同様の順番で、まずは銀色の体毛が全身を覆い始めた。
それにいち早く気付いたカズミは、「え?え?」と、疑問を示すばかり。
骨格の変化や全身のしなやかな身体が硬い筋肉へと変わり行く中、
「クソ、ふざけんな」と悪態をついて、四つん這いになりながらも怪物を睨むが、
体を飲み込むような変化はカズミに行動を与える間をまるで与えず、ただそれに翻弄されていた。
身動きを取れないまま、自分の体がどんな生物に移ろうとしているのかを察して、
「こんなの、やめてよ……」と、怒りから一転して変化へのネガティブな感情を吐露する。
口から漏れる声も、ぐるる、と唸るような声になる頃には、
牙を生やしながら、口と鼻が前へ前へとせり出して、狼らしい顔つきになっていた。
クロエは二人の変わってしまった姿を見ながら、自分の責任に押しつぶされそうになっていた。
それは、二人をこの地下室に呼んでしまったことに対してばかりではなく、
興味本位で屋敷の話をしてしまったことでもあった。自分が全ての発端であるのは、いすれにせよ自明だった。
しかし、もう牛の鳴き声しか出せなくなってしまった今では、そんな謝罪さえままならない。
そのことが、クロエにとっては何よりも、辛いことだった。
383clown:2008/01/12(土) 17:51:20 ID:IWxBI1wJ
 部屋を満たしていた鋭い光は消えた。三人の乱れた感情を更に乱すかのように、悪魔は口を開く。
「ふふ、三頭とも、お似合いですよ。これからは家畜として、一緒に暮らしましょうね。
 アイさんは卵を産んで、クロエさんからは美味しい牛乳を貰いましょう。
 ええと、カズミさんは、まあ、仲良くやりましょう」
そしてその言葉に誘われた視線は、それ以上に腹立たしいものを見せ付ける。
怪物の体にも、変化が生じていた。
口を酷く歪めていた犬のような口は無くなり、そして体形を左右非対称にしていた鈎爪のある足もまた、
人間のそれと相違ない、直立するのに適した足に変わっていたのだ。
体を覆う色々な動物のパッチワークのような肌は相変わらずだったが、
それだけの変化で随分と人間らしい姿を取り戻していた。
怪物――そう呼ぶのは適しているのか、クロエは薄っすらと疑問を抱きつつ、
その怪物が自分の体を嬉しそうに見て、度々自分らの姿と比較しては笑う、という行為には、
抑えきれない憤怒を覚える。それでも、
「……いいでしょう?私はまた一歩、人間に近づきました。呪いを引き受けてもらって、どうもありがとう。
 さて、今から貴方達の暮らすお部屋に案内しましょう。クロエさんのよく知っているお部屋ですよ。
 今の貴方達には、ベッドなんて要りませんからね」という挑発には誰も逆らうことは出来なかった。
手を前に差し出して微笑む怪物には、そうさせるだけの威圧感が確かにあった。
ドアが独りでに開く。その奥にはあの牢屋への通路が続いていて、
冷たい冷気が三人を誘うかのように流れ込んでくる。
抵抗の余地すら無かった。ランプはついていたが、その先には底知れない暗闇があることは明らかでありながら、
絶望の中、金属を詰められたように重く感じる体を引きずって、それに従う他はなかった。
384clown:2008/01/12(土) 17:59:00 ID:IWxBI1wJ
以上です。読んでくれた方、どうもです。
途中から頭にスペースを挿入していますが、挿入すると滞りなく書き込めるらしいのでつけてみました。
最後のTFシーンはもっとしっかりと書きたかったのですが、さすがに多すぎかな、と若干割愛。
あとは文章の区分け配分を間違えて、変な感じで区切られてて切ない感じです。
しばらく忙しいので、少なくとも二月、三月までは投下できそうにないですが、
ちょくちょくスレは見るので感想とか貰えたら嬉しいです。
385名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 23:59:51 ID:2ehjp/nA
変身描写が丁寧に書かれていてGJ
獣以上の異形化も期待しています。
386 ◆eJPIfaQmes :2008/01/14(月) 00:08:09 ID:XLu4HRAj
>>384
ヘビー級の一撃をもらった感じで、昨夜読んですぐには感想書けませんでした。
「変身させられること」の理不尽さが、ストーリー展開と相俟って(牛と鶏と狼で同居
ってラストがまた……)、何一つ救いの見出せない徹底的な絶望として描かれ、
圧倒された気分です。
友達がサイズも違う別々の生き物に変身させられていくくだりは山岸涼子の漫画を
少し連想しました(あれも救いのない話でしたが)。
387【再生蟲(前書き)】:2008/01/14(月) 19:26:49 ID:rCXLK1XU
前の方の力作から24時間過ぎたので投下させて頂きます

全12レス、女の子が異形の蟲になる話
血は出ません、アナル責められますがスカは無いです、少しレズっぽいか?
四肢欠損系注意です(苦手な方はNGワード「再生蟲」で)
388【再生蟲(1)】:2008/01/14(月) 19:30:04 ID:rCXLK1XU
 泣いちゃダメなんだ……
 わたしが勇気を出せば、竹生(たけお)も、ママもパパも助かるんだから……
 桜子(さくらこ)は鏡の中の自分に言い聞かせて、にっこりと笑顔を作る。
 中学校で三年間、演劇部に所属してきた桜子は、毎朝、鏡の前で笑顔の練習をするのが日課だった。
 おかげで、どんなときでも笑えるようになった。笑って暗い気持ちを吹き飛ばすのだ。
 それも、きょうで最後になるのだけど……
 ……なんて、ダメダメ。
 再び浮かんだ暗い考えを振り払うように首を振り、もう一度、笑顔。
 眼に溜まりそうになった涙は引っ込んだ。よし。
 桜子は洗面台の前を離れ、トイレを出た。
 麗香(れいか)という名前だと聞かされた白衣姿の女医が廊下で待っていた。
「……すっきりした、身も心も?」
「はい」
 桜子は笑顔のまま頷く。
 麗香も微かに口元を緩めて「そう」と頷き、先に立って歩き出した。桜子は後に従った。
 長い廊下だった。左右にいくつも扉が並んでいる。窓がないのは、ここが地下だから。
 桜子は病院の検査着らしい水色のガウンを着せられていた。足元は素脚にスリッパ。
 ガウンの下は裸だった。もうじきそれも脱がされて、あとは……
 首を振って嫌な考えを追い払い、笑顔。誰が見ているわけでもないけど。
 麗香は黙って前を歩いていた。
 すらりと背が高く、髪を栗色に染めて一見、派手な印象だが、意外に落ち着いた性格らしい。
 余計な言葉をかけて来ないのが、ありがたい。
 桜子は本来なら、きょう卒業式を迎えている筈だった。
 四月から通う高校も決まっていた。公立だが地元では屈指の進学校だ。
 大学は医学部に進みたいと希望していた。桜子の将来の目標は医者になることだった。
 生まれつき病弱な弟の竹生や、竹生と同じように苦しむ人たちを助けたくて――
 だが、もうその夢は叶わない。
 しかし希望が残らないわけでもない。
 桜子がその身を文字通り「犠牲」にすることで、竹生やほかの重病人、重傷患者が将来にわたり救われよう。
 麗香が足を止めた。
「ここよ。きょうからあなたの棲む場所」
 言いながら、扉の一つを開ける。
 その脇のプレートに『17』というナンバーと、きょうの日付が英語で記されている。
 さらに桜子の生年月日と『Age』つまり年齢の記載もあった。彼女は十五歳だ。
 桜子自身の名前は書かれていない。ここでは名前も奪われてしまうということか。
「足元、段差あるから気をつけて」
 麗香が扉をくぐり、桜子はそれに続く。
 学校の教室の半分ほどの広さの部屋だった。室内の床は廊下より一段低くなっている。
 その床と壁面はピンク色のタイル張りで、シャワー室かトイレのような印象だ。
 中央に白いシーツを敷いたベッドが置かれていた。キャスター付きで折り畳みできる簡易式だ。
389【再生蟲(2)】:2008/01/14(月) 19:34:49 ID:rCXLK1XU
 布団がないのは……これからの桜子には「必要ない」からだろう。
 ベッドの横には、やはりキャスターつきのワゴンがあった。その上にはクーラーボックスが載せてある。
「髪、まとめてあげる」
 後ろに回った麗香が、白衣のポケットから出したゴムで桜子の髪をポニーテールに結んだ。
 艶やかな長い黒髪は桜子の密かな自慢だった。
 事前に麗香からは切ってしまうことを勧められていたが、それは許してほしいと桜子は懇願した。
 ぎりぎりまで自分は自分のままでいたかったからだ。
「手櫛でごめんね」
 麗香が髪を撫で梳き、整えてくれる。
「鏡も用意してないけど……うん、ちゃんとできたと思う」
「信用します」
 桜子は、くすっと笑って言う。
 麗香も微かに笑ったようだが、すぐに感情の窺えない口調に戻り、言った。
「じゃあ、ガウンを脱いで、ベッドの上で四つんばいになって」
「……はい」
 桜子の顔から笑みが消える。ついに、そのときがきた。
 ガウンを脱いで麗香に渡した。
 瑞々しく――しかし幼さも残した裸身が露わになった。
 細身だが華奢にすぎるわけではない。演劇部では腹筋やランニングのトレーニングもしていた。
 色白できめ細やかな美しい肌と、手足の長い均整のとれた身体つきは生まれついてのものだ。
 乳房は丸くかたちよく膨らみつつある。八〇のBのブラをそろそろ窮屈に感じ始めていた。
 小ぶりな乳暈と乳頭は桜の花のように淡いピンクだった。
 その可憐な肢体を――桜子は、これから喪おうとしている。
 麗香は受けとったガウンを丸め、ワゴンの三段ある棚の一番下に投げ入れた。
 それから、二段目の棚に用意していたトレーから手術用の極薄の手袋をとって、はめる。
 桜子はベッドに上がり、指示された通り四つんばいになった。
 この場には自分のほかに同性の麗香しかいないが、それでも恥ずかしくてたまらない。
 何しろ裸で四つんばいだ。まるで動物みたい。
 いや……本当に自分は人間ではなく動物、それも下等な《蟲》になってしまうのだが。
 ……やめよう、こんなこと考えるの。余計みじめになるだけだ。
 麗香が小さなボトルから透明なゼリーのようなものを掬い取り、手袋をはめた手に塗る。
 クーラーボックスの蓋は、すでに開けられていた。
 中身は桜子には見えないが、それが何かは事前に教えられていた。
《蟲》の――《再生蟲》と呼ばれる寄生生物の「卵」だ。
 一つで億単位の価値があるという貴重なものだ。
 それを桜子は身体に植えつけられて《蟲》の苗床になる。
 より正確にいえば、桜子は《蟲》と同化させられる。そして新しい「卵」を産ませられるのだ。
 疵(きず)一つない白磁のような少女の背中を、麗香は見下ろした。
 小さな肩、それよりも細く締まったウエストに、桃のように丸いヒップ。
 ヴィオラのような美しい曲線だった。だが麗香に感傷はない。
390【再生蟲(3)】:2008/01/14(月) 19:38:29 ID:rCXLK1XU
「ほぐすわね。おなかの力を抜いて」
 麗香の指が、桜子の尻の穴に触れた。
「あっ……」
 桜子は、ぎゅっと眼をつむる。耳と頬が、かーっと熱くなる。
 ぬるりと、ゼリーの塗られた指が桜子のアヌスに沈んだ。抵抗のいとまもなかった。
 痛みはない。ただ違和感だけ。だが、それも麗香が、くりくりと指を回し始めるまでだ。
「あっ、あっ……、やっ……!」
 尻の穴から背骨を貫き頭の芯まで、ぞくぞくと寒気が走った。
 麗香が命じる。
「力を入れちゃダメ。口から息を吐いて、ゆっくりと」
「……はぁっ……」
 桜子は言われた通りにした。つまり、口から息を吐くことに意識を向けた。
 尻が少しは楽になった。指の動きは続いているが。
「鼻から息を吸って、口から吐くの。ゆっくり、ゆっくりでいいわ」
 麗香は指示を出しながら、桜子のアヌスを指でほぐし続ける。
 これから《蟲》の「卵」を挿入するのだ。それはニワトリのタマゴほどの大きさもある。
 ただしニワトリのものより弾力性があり、押し潰せば直径でピンポン玉より小さくなるだろう。
 それでも十五歳の少女のアヌスに挿入するには大きすぎる異物だが。
「……はぁっ……、……はぁっ……」
 桜子は命じられた通り、鼻と口で呼吸を続ける。
 尻の悪寒が和らぎ、こそばゆい程度に感じられるようになった。
 慣れてしまえば、それほど酷い感覚ではない。
「ゆっくり、ゆっくりね。おなかに力は入れないで」
 麗香の指示通りに呼吸を続けて気分が落ち着くと、少し強引なだけのマッサージみたいに思えてきた。
 ……ちょっぴり気持ちいいかも……
「……はぁっ……、……あ……」
 熱いものが、つーっと両脚の間に流れるのを感じた。
 やだ……わたし、変な気分になってる……
 年頃の少女である。自分の身体を慰めた経験がないわけではない。
 つまり性的な快感を桜子は知っていた。それがこみ上げてきたときと同じ感覚が、脚の間に走ったのだ。
 お尻を弄られてるのに……ヘンタイみたい……麗香先生に気づかれちゃう……
「楽な気持ちでいていいのよ。恥ずかしいことないわ」
 麗香の言葉に、桜子は泣きたくなった。
 ああっ、やっぱり気づかれちゃった……
 だが、アヌスに挿し入れられた指の動きは続く。
「今度は二本ね」
「……あ、待っ……」
 止める隙もなく二本目の指が桜子のアヌスに侵入した。回す動きから、抜き挿しする動きに変わった。
「……やっ、ああっ……」
 ぎゅっとつむった瞼に、涙がにじんでしまう。
391【再生蟲(4)】:2008/01/14(月) 19:42:16 ID:rCXLK1XU
「楽にしていて。呼吸は乱れても仕方ないわ。できれば続けてほしいけど、指を四本まで挿れるから」
「ええっ……」
 桜子は泣きそうな顔で、麗香を振り仰ぐ。麗香は肩をすくめて、
「大丈夫よ、指の四本くらい。苦しいことないわ。そのために、ほぐしてあげてるのよ」
「……はい……」
 こくりと頷き、桜子は顔を伏せた。
 呼吸に意識を集中しようと思った。いまさら逃げ出せないのだ。
 やがて三本目の指が入った。尻の違和感が大きくなったが、呼吸を整えることに意識を向けて耐えた。
 尻よりは両脚の間のほうが、ざわついて鳥肌が立ってきた。
 自然に脚が閉じてしまい、膝をすり合わせていたら麗香に叱られた。
「脚を閉じるとお尻に力が入っちゃうわ。素直に楽にしてなさい。声が出ちゃってもいいから」
「……はい……あっ、あっ……」
 拷問みたいに思えてきた。いつまでもお尻の穴だけを弄ばれているのだ。
 それで喘ぎ声を上げている自分が情けなかった。
 素直に楽になれというのなら、全身をマッサージしてほしいと思うのは贅沢だろうか。
 べつにエッチな目的じゃなく……そのほうがリラックスできて、お尻もほぐれるんじゃないかなあ?
 三本の指が抜かれ、すぐに今度は四本分の指がアヌスに突き当てられた。
 ぬぷりと突き入れられ、
「……ああっ……!」
 思わず声を上げたが、痛みや不快感はない。指を四本といえば、かなりの太さの筈だが。
「このゼリー、筋肉を弛緩させる効果があるの。つまりお尻の穴が緩むのよ」
 ゆっくりと指を動かし始めた麗香が言った。
「これだけほぐすと普通は一日か二日、緩みっぱなしで垂れ流しになるけど、あなたには関係ないものね」
「そんな……、ああっ……」
 残酷な事実を思い出させられて、桜子の眼から、とうとう涙がこぼれた。
 だが、すぐに片手で拭い、あとはぎゅっと眼をつむる。
 泣かないと決めたのだ。泣いたところで自分には救いなど訪れないのだから。
「……んっ、はぁっ……」
 尻は、ほぐされ続けている。やがて指が抜かれた。
「もういいわね。さあ、『卵』を植えつけてあげる」
 ゼリーまみれの手袋をはめたままの手で、麗香がクーラーボックスから「それ」を取り出した。
 顔を上げた桜子の表情がこわばる。
「……そんなに大きいんですか……?」
「でもゴムみたいに軟らかいのよ、ほら」
 大きさも形状もニワトリのタマゴに似たそれを、麗香は手の中で揉んでみせた。
 白と茶色が斑(まだら)に混じった色調はウズラのタマゴにそっくりだ。
 だが、それこそが《再生蟲》の「卵」なのであった。
「挿れるわね……さっきみたいに口から息を吐いて、楽にして……」
 アヌスに「卵」を押し当てられ、桜子は、大きく息を吐いた。
「……はぁぁぁぁぁっ…………んんっ!?」
392名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 20:39:13 ID:yoYYA4Tp
…む?
規制でも喰らいましたか?
393【再生蟲(5)】:2008/01/14(月) 20:45:31 ID:rCXLK1XU
 麗香が手で握って潰した「卵」を、桜子の尻の穴にねじ込んでいく。
「ああっ……!」
 それを挿れられたら、もう自分は自分でなくなってしまう。人間でなくなってしまう。
 その意識で、自然と身体に力が入ってしまうのか。
「もっと力を抜いて! 弟さんのためでしょう?」
 麗香に叱りつけられた桜子は、こくこくと眼をつむったまま頷く。
 抵抗しちゃ、ダメなんだ……!
「……あぁぁぁっ……」
 ぬぷりと、桜子のアヌスが《再生蟲》の「卵」を完全に呑み込んだ。
 がっくりと四肢の力が抜け、桜子は尻だけを突き上げた格好でベッドに倒れ伏す。
「……はぁっ、あぁっ、……うくっ……」
 涙がこみ上げる。もう自分は人間に戻れない……
「よく頑張ったわ」
 麗香が桜子の尻を軽く叩いた。
「お尻、下ろしていいわよ。じきに身体が麻痺しちゃうから、うつ伏せで楽にしてなさい」
「……はい……」
 言われた通り、桜子はベッドの上で、うつ伏せで身体を伸ばした。
 あと何分、自分は自分でいられるのだろうか……?
「……先生、わたしの産む最初の『卵』は……」
「ええ。約束通り、弟さんのために使うわ」
 麗香は手袋を外した手で、桜子の頭を撫でる。
「それで弟さんは助かるだろうし、ほかの難病や大怪我の患者さんたちも助かる。あなたがみんなを救うのよ」
「……はい……」
 桜子の眼から、涙がこぼれ落ちる。
 弟の竹生は、生まれてからこれまで何度も大病を患っていたが、そのたびに病気を克服してきた。
 本人の生命力、家族の愛情、医師や看護士そのほか周囲の人々の協力で。
 しかし、一週間前に起きた火事が、桜子たち家族を絶望の淵に突き落とした。
 両親が自宅で営んでいたベーカリーショップの火の不始末――
 その日、桜子は仲のいい友達三人と泊まりがけでスキーに出かけていた。
 友達のうち一人の親戚がロッジを経営しており、卒業祝いとして招待されたのだ。
 両親は快く送り出してくれた。
 入退院を繰り返してきた竹生の看病疲れと心労の積み重ねで、両親とも健康は万全ではなかった。
 だが、息子の治療費のために作った借金を返済しようと、二人とも頑張って働いていた。
 幸いにしてベーカリーショップは近所で評判がよく売上げは好調だったが、その分だけ忙しくもあった。
 だから桜子も高校受験が済んだあとは毎日、店を手伝っていたのだ。
「二泊三日だろ? いいよ、行っといで。桜子の受験の間も母さんと二人で頑張ったんだ、もう少しくらい」
 そう言ってくれた父親、隣で笑って頷く母親。桜子は両親に深く頭を下げた。
 けれども――やはり無理をしていたのだろう。
 スキー旅行、二晩目の真夜中。友達の親がロッジに電話をかけて来た。
 桜子の家が火事に遭ったと――
394【再生蟲(6)】:2008/01/14(月) 20:53:39 ID:rCXLK1XU
 父親が翌日の仕込みのために火を使いながら、疲れて眠り込んだらしい。
 気がついたときには店から自宅部分へ火が移り始めていた。
 父親は一階で寝ていた母親をすぐに起こして逃がしたが、二階の竹生を助けるには火の回りが早すぎた。
 近所の人の通報で駆けつけた消防隊により竹生は救出されたものの、全身に重度の熱傷で危篤状態――
 桜子は始発電車でスキー場から帰り、病院に直行した。
 母親は泣いていた。父親は医師に何度も何度も頭を下げていた。どうか息子を救ってほしいと。
 誰を責めるわけにもいかなかった。いや、責められるべきは桜子自身だった。
 卒業旅行に行きたいなんて我がままを言わなければ。友達から招待されたことを両親に黙っていれば。
 父親に無理をさせずに済んだのだ……
 竹生は全身の皮膚はもちろん両手足も壊死しかけているというのが医師の診断だった。
 人造皮膚を移植する緊急手術が行なわれ、ひとまずの危機は脱した。
 だが、生命はとりとめたとしても四肢切断は免れないだろう――
「だけど最新の医療技術で、なくなった手足を再生する方法もあるってテレビで見ました!」
 父親は医師にすがりついた。
「まだ十三歳で、ようやく病気も落ち着いて……それなのに手足を切るなんて! どうかお願いします先生!」
「四肢の再生は研究段階の技術です。マスコミでは話題先行で騒がれてますが成功の可能性は低いんです」
 そもそも両手足を再生できるだけの「SES(スーパーES)細胞」の用意が無理なのだと医師は説明した。
 欠損した肉体の部位を再生する場合、最も困難なのが神経系統の再生だ。
 SES細胞から作り出された「人造神経芽」の移植により、それが可能となるのだが――
「SES細胞は《再生蟲》の『卵』から作り出されるのです」
「ええ、テレビで見ました。《再生蟲》って南米で発見された、蛭(ヒル)の化け物みたいなヤツでしょう?」
「正確に言えばプラナリアの突然変異種です。人体に寄生することもある、まさしく怪物ですが……」
《再生蟲》自体は身体を細切れにすればいくらでも増殖する。
 切断された部位から全身が再生するのである。
 あるいは野生の状態でも身体を分裂させて増殖できる。すなわち無性生殖である。
 しかし、SES細胞の材料となるのは《再生蟲》が有性生殖で産んだ「卵」であった。
 そして《再生蟲》が有性生殖を行なうのは極めて限定的な環境下においてなのだ。
「つまり人体に寄生している間のみ、彼らは有性生殖を行なうのです」
 プラナリアは雌雄同体だが、一般的に自家受精は行なわない。
 その点、《再生蟲》は有性生殖時は自家受精が当たり前という特異な生態だ。
 従って人体に寄生している《再生蟲》、あるいは《再生蟲》に寄生された人間を見つければ。
 その「卵」の入手は可能だが……
「人間に意図的に《再生蟲》を寄生させるなど人道的に許されないことですからね」
 医師の言葉には皮肉めいた響きがあった。
 桜子は、あとで知ったことだが、マスコミで報道されたSES細胞の研究には人体実験の疑惑があった。
 欧州某国の企業に籍を置く研究グループは、南米の《再生蟲》寄生患者から「卵」を入手したと説明した。
 だが、本当は意図的に人間に寄生させた《再生蟲》に「卵」を産ませたのではないか?
 そうでなければ研究に充分な量の「卵」は手に入らないだろうと。
「『卵』からSES細胞を作り出す技術も研究段階で、成功率は低いですから――」
 竹生の治療のために南米から《再生蟲》の「卵」を取り寄せることは現実的に不可能だった。
395名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 21:02:33 ID:yoYYA4Tp
もっかい支援
396【再生蟲(7)】:2008/01/14(月) 21:05:02 ID:rCXLK1XU
 それは世界中の医師や学者グループが大金を積んででも手に入れようとしている「金の卵」なのだ。
 だが――それだからこそ。
 人倫に背いてでも《再生蟲》の「卵」を入手しようと考える者が現れるのは当然の帰結だった。
 桜子の家族を襲った不幸な出来事は新聞やテレビで報道された。
 大病を克服したばかりの少年が火事で四肢切断の危機に瀕している――
 誰かが呼びかけたわけではないが、治療費を援助したいと寄付が全国から届いた。
 それは数百万円に達したものの、《再生蟲》の「卵」を手に入れるには全く足りなかった。
 ベーカリーショップの火事は近所の家を数軒巻き込んでおり、その補償もしなければならなかった。
 店の再建資金も。いままでの竹生の治療費の返済も――
《再生蟲》の「卵」が必要だった。さらに金が必要だった。
 だから――その「グループ」からの申し出に、桜子たち家族は乗ったのだ。
 桜子の「身」と引き換えに、《再生蟲》の「卵」も現金も用立てようという――
 彼らは東南アジアの某国に拠点を置く研究グループだった。
 とはいえメンバーは欧米人中心で、麗香のような日本人も数名、含まれていた。
 名前は明かせないが複数の世界的な企業がスポンサーについているという。
《再生蟲》に産卵させるための「苗床」――宿主となる人間は、誰でもいいわけではないらしい。
 日本人のような黄色人種に移植するSES細胞を手に入れるには同じ黄色人種の苗床から生まれた「卵」が。
 同様に白人用のSES細胞には白人の苗床からの「卵」が、黒人には黒人の苗床の「卵」が最も相性がいい。
 それが「グループ」による研究で判明したことだった。人種が同じであれば再生の成功率が高まるという。
 だから桜子のような日本人の苗床も必要となるわけだった。
 そうでなければ――誘拐や人身売買が日常茶飯事な政情不安の国から苗床をまとめて連れて来ればいい。
 そのほうがコストもかからないだろう「グループ」にとっても……
「……桜子ちゃん」
 麗香が呼びかけてきた。頭を撫でてくれる手が心地よい。
「《再生蟲》は人類の希望よ。あなたがこれから産む『卵』で、多くの人たちが助かるわ」
「……はい」
 桜子は頷く。
 初めのうちは、桜子が産む「卵」を使った治療を受けられるのは金持ちばかりだろう。
 それもアンダーグラウンドな手段で「卵」を入手することを厭わない犯罪者すれすれの者たちだ。
 だが、桜子が頑張って「卵」を産み続ければ、それだけ「市場価格」は下がるだろう。
 さらに「卵」自体の研究も麗香たちのグループは進めているという話だった。
《再生蟲》は成虫になっても驚異的な再生能力を有する。
 ならば「卵」の組織と成虫の体細胞を比較研究して、成虫からSES細胞を得る方法は見出せないか?
 それが可能となれば、桜子のように苗床となる犠牲者も必要なくなるのだ。
 そのときは、いよいよ《再生蟲》由来のSES細胞による再生治療が広く普及するだろう――
「……あ……」
 桜子は小さく声を上げた。正月にお屠蘇を飲んだときみたいに頬が熱くなってきた。
 眼も熱い。涙がこみ上げたわけではなく、頬と同様、お酒に酔ったみたいに。
 頭の芯が、じんと痺れてきた。不快感はない。
 ただ夢の中にいるような、ふわふわした感覚。
397【再生蟲(8)】:2008/01/14(月) 21:11:28 ID:rCXLK1XU
 とうとう、自分が自分でなくなってしまう……
 いまさら抗うつもりはないが、試しに手足を動かそうとしてみた。
 ぴくりと震えて、それきりだった。もう麻痺している。
 このまま――ベッドの上に身を投げ出したまま、自分は《蟲》と同化してしまうのだろう。
「……ぁは……」
 でも、痺れが心地よかった。そう感じている自分は、意識から変化し始めているのだろうか。
 あ……脚の間が、なんだか温かい……
「失禁しちゃった? でも仕方ないわ。孵化が始まれば、そうなっちゃうの」
 麗香は苦笑いしながら、桜子の頭を撫で続ける。
「《再生蟲》は麻薬みたいな物質を分泌して、宿主を半永久的に夢見心地にさせてくれるのよ」
 自分が自分でなくなるというのは、つまりそういう意味だ。
 でも、気持ちよかった。撫でられていることも。漏らしてしまったことも。
「……ぁふ……はぁ……」
 尻の穴をほぐされているときよりも素直にそう思えた。どうして、あのときは素直になれなかったのか?
 どうせ《蟲》になってしまうのだもの。気持ちよさに素直に身を委ねればよかったのに。
「……あぁ……くぁ……!?」
 おなかがちょっぴり痛くなった。でも、すぐに治まった。
 じんわりと温かいものが、おなかから全身に広まっていく感じ。
 腹の中の《再生蟲》が成長しているのか。
「孵化がどんどん進んでる。お尻から尻尾が出てきたわ」
 麗香が《再生蟲》が突き出した桜子の肛門をなぞるように指を動かす。
「穴が緩んでるから、わからないかな? こんなに太いのよ、四センチか五センチあるかしら」
 括約筋が弛緩したままだからだろう、それほど太いものを肛門に咥え込んでいる自覚は桜子にはない。
 彼女自身には見えていないが、《再生蟲》の身体は人間の舌に似たピンク色をしていた。
 麗香から見れば、肛門から腸がはみ出したような眺めである。
「これがもっと成長して、お尻の穴も広がっていくわ。股関節が自然に外れて、人の頭が入るくらいに」
「……あふぁぁぁ……!?」
 自分の身体は、いったいどんなことになるのだろう??
「でも最後は《再生蟲》が癒着してお尻の穴は塞がるの。尻尾だけが生えてるみたいになるわね」
「……おぃえぁ……?」
 トイレはどうすればいいの?
 桜子の疑問に答えるように、麗香が説明した。
「胃とか腸の消化器系も《再生蟲》と同化して、桜子ちゃん自身が排泄することはなくなるわ」
「……あふぅぅ……」
 つまり、自分の身体は《再生蟲》にほとんど乗っ取られてしまうのだ。
 単に寄生ではなく「同化」と呼ばれるのは、そういう意味か。
「……おぇ……?」
 少しばかり吐き気がこみ上げた。何かが喉からせり上がってくる。
「……おぇぇぇぇ……」
 口から突き出したのは、舌だった。いや、自分の舌は、こんなに長くも太くもない。
398【再生蟲(9)】:2008/01/14(月) 21:18:01 ID:rCXLK1XU
「成長が早いわね。宿主が若くて健康だからかしら。《再生蟲》の頭が出て来たのよ」
 口から《再生蟲》の頭が、お尻からは尻尾が出て来たということは。
 自分の食道にも胃にも腸にも、完全に《再生蟲》が詰まっているということ?
「ほら、言ってる間に尻尾も成長して、桜子ちゃんの腕くらいに育ってる。もっと太くなるわよ」
 脚をつかまれて、左右に広げさせられた。《再生蟲》の成長を妨げないようにか。
「頭のほうも大きくなって、じきに顎が外れてしまうわ。大丈夫、痛みはないから」
 でも、そんなことになったら、もう喋れない……
 いや――とっくに麻痺が進んで口は利けなくなっていたけど。
「……おぇぁ……ぇ……」
 口から突き出したピンク色の《再生蟲》が、風船みたいに太く膨らんでいく。
 かくんと、顎に軽い衝撃があった。本当に外れてしまったのだろう。
 言葉も喋れず、身体も麻痺して動かず、口と尻からは《再生蟲》が生えて――
 自分は、もう人間とは呼べない存在になってしまった。
 だが、出てくる涙は哀しみによるものではない。
 随喜だ。全身の痺れの心地よさへの。
「桜子ちゃんの肌から、《再生蟲》の体液も滲み出し始めた。同化が進んでるわね」
 汗のようなもので濡れた桜子の背を指でなぞり、その匂いを麗香は嗅いで、
「甘くていい匂いよ。ほら」
 桜子の顔の前に、濡れた指が突き出される。
 確かに果物みたいな甘い香りだった。舐めて味わえないのが残念だ。口が《再生蟲》で塞がれてるから。
「そろそろいいかしら。初めてのエサの時間」
 麗香が白衣のポケットからPHSを出し、短縮番号を押した。
「――私よ。十七号にエサを用意して」
 通話を切ってPHSをポケットに戻し、桜子に微笑みかけ、
「《再生蟲》は雑食性だけど、ここでは果物を与えているわ。宿主たちも安心できるでしょう?」
「……あふぁぁぁ……」
 頭を撫でられて、桜子は眼を細める。気持ちいい。
 麗香は「ふふっ」と微笑み、
「尻尾を振ってるわ。感覚の同化も始まったのね。でも宿主が意識を完全に喪うわけじゃないから」
 頭を撫で続ける。優しく慈しむように。
「ここでは、できるだけ愛情をかけて飼育しているの。健康な『卵』を産んでもらうために」
 うん……わかるよ……
 やさしくされてるの……
 ――こんこん。
 ドアがノックされた。
 だが開かれることはなく、ドアの下側の小窓だけが開いて、果物を盛りつけたトレーが差し入れられた。
 適当な大きさにカットされたメロン、パイナップル、オレンジ、リンゴなどだ。
「……ふぁぁぁぁぁ……」
 桜子自身は何も意識していないのに、ずるりと、身体が動いた。
 口と尻から突き出している《再生蟲》が蠢き出したのだ。恐らくは、エサの匂いに反応して。
399【再生蟲(10)】:2008/01/14(月) 21:23:12 ID:rCXLK1XU
 ずるり……ずるずる……、べたり。
 桜子の身体が、ベッドから床にずり落ちた。痛みはない。
 湿った音がしたのは、身体中、汗をかいたように体液が滲んでいるせいだ。
 力の抜けた手足を引きずりながら、胴体をくねらせ、桜子は床を這っていく。
 実際には《再生蟲》が身体の中から、桜子の身をくねらせているのだが。
 だが、もう、どちらでもよかった。桜子には。
 美味しそうなエサを早く食べたい。
《再生蟲》がそれを味わえば、感覚が同化している桜子が自分で味わうのと同じことだ。
 もはや自分は《蟲》と一心同体なのだと理解した。
 そうなってしまえば、手足は邪魔なだけだった。きっと自然に退化してしまうだろうと本能的に感じた。
 自分は人間の「皮」をかぶった《蟲》になるのだ。
 顔や胴体に人間の面影が残るのは、《蟲》の防衛本能。
《再生蟲》にとっての天敵は人間だ。身体を細切れにされても死なない《再生蟲》だが、火には弱い。
 火を道具として扱える生き物は人間だけだ。
 だから人間に寄生して同化することで、ほかの人間たちに殺される危険性を減らすのだ。
 エサの前まで這って来た《再生蟲》の頭に、ぱっくりと大きな口が開いた。
 それが、カットされたメロンを包み込み、丸呑みする。
 ごくり。
《再生蟲》自身に舌はない。しかし消化管全体に味覚があるようだ。
 桜子は、ちゃんとメロンの味を感じた。おいしい。
 パイナップル、リンゴ、オレンジ――《再生蟲》は次々とエサを呑み込んでいく。
 ああ……おいしい……
 ここは、もりのなかより、いごこちがいいよ……
 にんげんも、やさしくしてくれるし……
「美味しい、桜子ちゃん?」
 麗香が近づいて来て、桜子の頭を撫でた。
「いっぱい食べて、いっぱい『卵』を産んでね」
 うん……たまご、うむよ……
 やどぬしの、さくらこちゃんはね……
 つまり、わたしのことだけど……いまのままでも、きもちよくなってるけど……
 たまごをうめるように、ひとりえっちしたらね、もっともっときもちよくて、しあわせになるの……
 そうしたら、ますます《むし》のわたしと、いっしんどうたいになって……
 わたしも、きもちよくなるの……
 たまごをうんだら、にんげんもよろこんでくれて、やさしくしてくれて……
 みんなみんな、しあわせになるんだよ……
 まま……ぱぱ……
 たけお……
 さくらこは……しあわせだよ……
400【再生蟲(11)】:2008/01/14(月) 21:28:18 ID:rCXLK1XU
 十五年後――
 そこは外国映画に出て来るような大邸宅だった。
 円柱の建ち並ぶ回廊があり、プールつきの庭がある。応接間には絵画や彫刻、年代物の陶磁器などが並ぶ。
 実際、ここは外国だった。東南アジア某国、首都近郊の高級住宅街。
 日本人の青年が一人、来客用のソファに腰掛けている。
「……お待たせしたわね」
 女が応接間に入って来た。
 部屋着であろうが仕立てのいいワンピース姿、シンプルだが上品なアクセサリー。この屋敷の女主人だ。
 青年はソファから立ち上がり、一礼した。
「ご無沙汰しています、ヴェルナー博士。おととしの学会以来ですね」
「昔の通り、麗香先生でいいわ。ヴェルナーじゃ夫と区別つかないでしょう?」
 くすくす笑って、女――麗香は答える。
「元気そうで何より。最近はスキューバを始めたと噂に聞いたけど?」
「いまさらながら健康のありがたみを噛み締めているところです。研究生時代は勉強で手一杯でしたから」
 青年は微笑む。
「これも姉と……麗香先生のおかげです」
「私は、何も」
「いえ。僕が健康な身体で姉と再会できる機会を得られたのは、姉をここに引き取ってくれた先生のおかげだ」
「…………」
 麗香は微笑みのまま、眼を伏せて小さくため息をついた。
「……私はあなたのお姉さんを実験台として扱ってきた。人間扱いしなかったのよ」
「ですが先生の研究の成果で、SES細胞は容易に手に入るようになった。先生は全人類の恩人です」
「お姉さんを含めた『宿主』たちの犠牲の上でね」
「姉自身が望んだことでしょう? 両親もそれを許したんだ」
 青年は麗香をまっすぐ見詰めた。
「もちろん真実を知らされて最初は先生を怨んだ。恩師として尊敬してきた先生が姉を《蟲》に変えたなんて」
「いつ打ち明けるべきか悩み続けたわ。決意がつくまで、こんなに時間がかかった」
「ですが、もう、わだかまりはありません。僕が先生を怨み続けるならば、両親までも怨まなければならない」
「そう言ってもらえると、少しは気が楽になるけど……」
 麗香は、いまいる応接間を、そして窓から見える庭を見渡した。
「研究の成功で、私は巨万の富を手に入れた。でもそれは私ひとりのためではないわ。言いわけになるけど」
「わかってます。例の研究グループが解散したあと、秘密裏に『処分』される筈だった姉たちを救うため」
「不幸にも研究中に亡くなった数名を除く全員を、この屋敷に引き取ってね。せめてもの罪滅ぼし」
「グループの中で先生だけでしょう、そこまでしてくれたのは?」
「私とヨハン――主人ね。彼は実の妹を『苗床』にしていたという事情もあるけど」
「その妹さんも、ここに?」
「彼女は研究中に亡くなっているわ。その罪滅ぼしみたい、ヨハンが私に協力してくれたのは」
「僕は……可能なら姉を引き取りたいと思っています」
 青年は言った。
「日本に連れ帰ることが不可能なのは承知しています。だから、僕はこの国で仕事を見つけるつもりです」
401【再生蟲(12)】:2008/01/14(月) 21:35:41 ID:rCXLK1XU
「それなら私も協力できるわ。優秀な研究者は引く手あまただけど、より条件のいい仕事を見つけたいものね」
 麗香は言って、微笑む。
「じゃあ……お姉さんのところへ行きましょうか?」
 二人は応接間を出て、庭に面した回廊を歩いていく。
 回廊に沿って大きな窓のある部屋が並んでいた。レースのカーテン越しに微かに室内が見える。
 普通の部屋ではない。床も壁もシャワールームのようにタイル張りだ。
「ここよ。お姉さんの部屋」
 部屋の一つのドアを麗香は開けた。
 広く、清潔そうな空間だった。部屋の隅に積まれたフルーツの香りが漂う。
 そして、窓からのレース越しの陽だまりの中に――《再生蟲》と同化した人間の少女が、いた。
「桜子ちゃん、弟さん――竹生君が来たわ」
 少女は顔を上げた。
 青年――竹生の記憶にある姉と、少しも変わっていなかった。
 つやつやの長い髪も、友達に「これが僕のお姉ちゃんだよ」と自慢したくなるほど綺麗な顔も。
 もちろん口からは、舌と思うには太く長すぎる《再生蟲》の頭が突き出し。
 両手足は痕跡もなく喪われ、腰から下は《蟲》と完全に同化した尻尾に変わっていたけれど――
「……ぁぇぉ……」
 少女が微かに言葉を発し、嬉しそうに眼を細めた。
「お姉ちゃん……僕がわかるの? ずっと会えないうちに、こんなに大人になっちゃったけど」
 竹生の問いに、少女は、こくりと頷く。
「……ぅ……」
《再生蟲》と同化した少女――桜子は、十五年間、歳をとっていなかった。
 肉体の損傷は《再生蟲》の能力ですぐに修復できてしまう。それは老化現象についても同じなのだ。
「お姉ちゃん……」
 竹生は桜子のそばでしゃがみ、仰け反るように上体を持ち上げた姉の身体を抱き締めた。
 床を這い回る生活に適応して乳房も痕跡を留めていなかったが、姉が姉であることに変わりはない。
 麗香の世話が行き届いているのだろう。長い髪からはシャンプーのいい匂いがした。
「お姉ちゃん、ごめん……ありがとう……。お姉ちゃんのおかげで、僕は大学にも通えて学者になった」
「……ぅぅ……」
 こくこくと、桜子は頷く。
 しってるよ……れいかせんせいがおしえてくれたもの……
 たけおが《むし》をつかった、いでんしちりょうのけんきゅうしてるって……
 おねえちゃんも《むし》だから、きょうりょくしてあげられたら、うれしいなあ……
「お姉ちゃん、もう少しだけ待っていて。僕がお姉ちゃんを迎えに来るから。二人で一緒に暮らすんだよ」
 たけおとくらすのか……ちょっぴり、はずかしいなあ……
 おねえちゃんときどき、たまごをうみたくなって、ひとりえっちしちゃうから……
「お姉ちゃん……」
 竹生が桜子の顔を覗き込んできた。眼に涙が光っている。しかし笑顔だ。
 桜子も笑顔を返した。弟の記憶にある通り、とびきりの輝くような笑顔だった。
【終わり】
402名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 21:37:41 ID:HZsRV/Ti
一気に投下乙です&拍手
403【再生蟲(後書き)】:2008/01/14(月) 21:39:08 ID:rCXLK1XU
終わりです
支援どうもでした
404名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 22:36:13 ID:T45uHg6O
感動しました。
まさか(自分が救われない作品を書いている癖に)
幸せな終わり方を望みながら話を読み進めるなんて思わなかった。
それに前半の挿入までの流れも、ストーリー性がありながら、性描写も上手くあった具合になされていて、かなりグッと来ました。
先生のうっすら見えるサディスティックな性格と、それ以上の後ろ目たさと優しさも暗に感じられて、
言葉攻め一つにしても感心させられます。
それをこんなにシンプルにまとめるなんて、すごすぎる。
GJです…。

>>385
GJどうもです。
異形化も書きたいなとは思うんですが、変身した後をどうするかがなかなか決められずに敬遠してましたが、
なんとなく方向性が掴めてきたのでやるかもしれません。いずれにせよ、すぐには無理なんですが…。

>>386
そんなもったいない感想、ありがとうございます。
自分は読むときも書くときも割とTF側に感情移入するのですが、(だからTFさせるキャラが女性的になります)
出来る限り自分なりに救われない終わりかたにしようと心がけてみました。
山岸涼子さんは少女漫画の方ですよね。(wikipediaで見た)
何か変身のある作品を描かれているんでしょうか?
TF表現(なのかは分かりかねますが)のある少女漫画っていったら『ポーの一族』ぐらいしか知らないもので…。
405名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 06:56:48 ID:zAYdiDHn
再生蟲普通にいい話で萌えなかったけど感動した
こういうジャンルもありですね
406 ◆eJPIfaQmes :2008/01/17(木) 00:03:23 ID:34j/WSfg
>>403
「再生蟲」、素晴らしかったです。絵を想像すれば果てしなくグロくて、でも心理描写が
加わることで少女の受難とある種の救済としても読める。
立て続けに対称的な傑作二つに出会えたわけで、このジャンルは私が思ってたより
大きな広がりを持っているんだなあと感嘆させられました。
ホームページの方の「女王蟲」短編もおバカなノリで笑わせてもらいました。

>>404
私が読んだのは「キルケー」という短編でした。文春文庫の自選作品集『夜叉御前』に
収録されてますね。
直接的な変身描写はまったくなくて、終わり方にも解釈の余地はあるんですけど、
私のこっち方面に特化した目には「そういう話」としか読みようがなかったですね。
407maledict ◆sOlCVh8kZw :2008/01/17(木) 03:30:14 ID:R7vRWSuE
大作、連続二本。clown様の新作と、一作一作感銘していた「蟲」シリーズの
新作ということで、楽しみにしつつも、改造スレの長いのを書き終えるまでは
読まないことにしていました。
ようやく投稿できたのですが、新作をちゃんと読めたわけでもなく、
とりあえず今日は寝ます。clown様の作品の独特の雰囲気にあてられて
怖い夢を見ないか心配です(w

そう言えば特撮板の改造スレはなぜかキツネ祭り、もとい、「プロジェクト・フォックス」に
なっています。獣化の好きな方は、よろしければ見てみて下さい。
408名無しさん@ピンキー:2008/01/17(木) 12:01:36 ID:VGSmR1U1
>>407
あっちの狐氏だが、元は半虹のスレに現れたんだが、
板違いだからこっちに誘導したら特撮に行ってしまって、らしい。
半虹の人外スレや、こっちの獣化スレを見ると流れが分かる。
409名無しさん@ピンキー:2008/01/17(木) 16:52:41 ID:9KdPtj+s
こういう異形スレってたくさんありますね
自分は新参なのでここ以外はあまり知りませんが
チンコルゲとかマンコルゲとかそういうのは苦手です><
一瞬で「フフフ・・・」とか言って洗脳されるのも苦手なので
時間をかけて心身ともにじわじわ変わっていく
このスレのような趣旨が一番好きです
ここの他にそういうスレがあれば教えてほしいです
410名無しさん@ピンキー:2008/01/17(木) 18:58:13 ID:UTHnI8n1
>>409
俺もすぐに変身に適応するのは好きじゃないです。
変身させられたことに対するリアクションが、自分なりに変身に対して見い出している醍醐味となってます。
テンプレにもある亜人スレも割とそんな傾向がありますが、変身を含まない作品もあります。結構最近に豚に変身する奴が投下されてたかな。
411maledict ◆sOlCVh8kZw :2008/01/17(木) 20:25:52 ID:pSB0N49S
>>408
行ってみたら、フォックス様らしき足跡を見つけました。苦労していたようですね。
こっちのスレでいいのになあと思うんですが、なんででしょうね。
エロが苦手と言っていたから、PINKじゃない多分唯一のあのスレに行ったのかな。

>>409様、>>410
自分は上記スレをチェックするまで、なぜかTFはこっちで
「亜人」スレは最初から亜人の男女が絡むスレだと勘違いしてました。
よく見たらスレタイにちゃんと「獣化」ともありました。
でも、差し支えなければ獣化ネタは引き続きこちらに投下させて頂きます。
自分は改造手術の方から出張していますが、どちらかというと
精神変化に時間をかける方かと思っています。
昨日投下したこれとか、よろしければチェックしてみて下さい…と宣伝

おにゃのこが改造されるシーン 素体8人目
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1194154496/526-554

で、先ほど、新作二本ようやくまとめ読みできました。ちょっと用事を済ませてから
感想書きたいと思います。
412maledict ◆sOlCVh8kZw :2008/01/17(木) 21:08:59 ID:pSB0N49S
>>357-383like_a_heavy_metal
clown様、GJです。実は昨日ざっと読みかけたとき、ウィンドウが狭かったせいもあって
読みにくいな、場面転換も多いし説明が多いな、なとちょっと読むのが滞ったのですが、
テキストをワードパッドに貼り付けてウィンドウを広くした上で、
最初から場面転換の流れと描写に気をつけてていねいに読み直したら、
こんなに長いのに、残りが減っていくのがもったいないほどつり込まれました。
色々気を遣って書いている作品は読み手も腰を据える必要があるなと実感した次第です。

まず、てっきりレインの続編か似た世界の話が来るかと思っていたので、
現代日本の郊外という身近でリアルな設定が新鮮でした。
状況描写も心理描写もていねいにていねいに進んでいくのが何より読み応えありました。
特にプライドの高い女の子に設定して、それが呪いに屈せざるをえなくなるという流れが
よかったです。あと、「平凡で楽しい日常」パートとの落差がぐんぐん開いていくところと、
その残酷な仕掛けが明かされるところも、悲劇性を高めてていいなあと思いました。
気に入ったせりふで言うとこれとか↓
「覚悟はいいですか。呪いを受け、呪いの一部となって、生まれたことすら後悔する覚悟は、よろしいですか?」
あと、せっかくそこだけは隠していた牛化の話を第三者視点で詳細にばらされてしまう
ところとか、よくもこんな残酷な展開を考えられるなあと感服しました

自分としては、>>385様と多分同じで、ゴールが普通の動物、というよりは
以降途中の彼女らや屋敷の主みたいにキメラっぽい状態が
好きなのですが、これは本当に好みの問題ですし、特に今回はまるで気になりません。

あと、感想じゃないのですが>>386, >>406◆eJPIfaQmes様の紹介していた
「キルケー」は自分も連想しました。で、自分も「そういう話」として楽しみました。
正体を現したキルケーの姿があまりに恐ろしすぎてかえって笑っちゃうんですが、
その「怖すぎ」のコマがラストにつながるのがやっぱりうまいんですよね。
あの主人公はあのまま発狂しちゃって、夢だったのか現実なのかは
永久に闇の中になるんでしょうね。
413maledict ◆sOlCVh8kZw :2008/01/17(木) 21:25:00 ID:pSB0N49S
あ、そうそう。タイトルの意味が>>381になってようやく明かされるんですが、
それまで「どういうことなのかな?(エルガイムじゃないしなあ、とか(w )」
と思わせた上で巧みな比喩として提示されるのが上手だと思いました。

それから>>387-403再生蟲
蟲シリーズの新作が読めて、とても感激しています。
悲壮な決意をもって自ら異形に変わるというシチュエーションはとても萌えます。
異形化までの不安な心境とその後の入念なプロセスの描写が、実は大変興奮しました。
(「萌えないがいい話」、というレスの中でこんなこと書くと不謹慎な気がするのですが)
年月を経て姉と蟲が精神まで一体化している、というラストの描写も本当に巧みです
いつかまた次作を読める日を楽しみに待ちます!
414名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 06:57:18 ID:JE9eLZTU
>>406>>412
キルケーですか。
このスレの住人としては是非チェックしておかねばなりませんね。
情報どうもです。

>>412
感想ありがとうございます。
そうなんです、かなり見辛いですよね。初め投下した時に、txtファイルにして貼れば良かった、と後悔しました。
実は表記してないのですが章立てて区分されていて、各章ごとに夢と現実の比率を変えていく、
ってのをやろうと思っていたのですが、文字制限で変なところで切れてしまうのでやめちゃいました。
本当はシンプルかつシャープな作品を理想として書いているのですが、ついつい濃い目に作ってしまう傾向があります。
というか削いだときに、これで表現しきれているのか?と不安になるので、あえて重厚にしているのかもしれません。
今回は現代チックにしたのは、やはりまた中世的ファンタジーじゃ芸がないかなあ、というのと、まず初めにお化け屋敷の構想があったからです。
主人公をあんなキャラにしたのは、やはり叩いていい音を出すのは硬いものかなあ、と。
多分彼女は普通の小説に出ればツンデレとか言われるタイプのキャラになるんでしょうね。よく分かりませんが。
415名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 07:24:49 ID:JE9eLZTU
>>414続き。
とにかく、レインの時には若干手加減して攻めたのもあって、今回は救われない話にしようと思いました。
本当は本物の牛に犯させれたりさせたかったのですが、上手く入れられる自信がなかったので止めておきました。
タイトルは仰るとおりで、あえて違和感のある単語にしました。最後に納得してもらえればと。
あの表現も、中毒を引き起こす重金属が、母から子へと受け継がれていく様と、母の生んだ憎悪が子に受け継がれていく様を掛けてみました。
母が現役のお話もやってみたいなあ、と思ってます。

通称(通称…なのか?)PFの作品も読みました。人外スレから来た、と頭においてる感想が俺のです。
獣化学はそのままでいいと思いますよ。投下している場が場ですし、傍観者と作中人物の視点が齟齬るのも、
「志村、後ろ!後ろ!」みたいな感じでメタでありながら作中にのめり込むのに良いと思いますし。

それより百合パッチなんてよくやるなあ、と思います。いや俺は百合好きなんで嬉しいんですが、器がでかいなあと。

……どうも作品と同じように、感想(の感想)も書きすぎるようです。長文失礼しました。
416maledict ◆sOlCVh8kZw :2008/01/22(火) 09:19:27 ID:+ZQTvupY
>>415clown様
あの書き込みclown様だったんですね

改行の加減って難しいですよね。
自分は35-40字くらいのところで適当に改行を入れていますが、
ときどきうまい切れ目がみつからずに苦労します。
clown様みたいに基本的に一文一行で切るのもいいですね。
417名無しさん@ピンキー:2008/01/24(木) 03:24:05 ID:Lj1dY07s
保守
418名無しさん@ピンキー:2008/01/25(金) 00:39:06 ID:uqHoIuhr
エロパロ板 過去ログ倉庫
http://ninjax.dreamhosters.com/ascii2d/
419名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 23:48:21 ID:zoDmcJ9j
ほしゅ犬
420名無しさん@ピンキー:2008/01/29(火) 22:13:38 ID:1dCe522o
ほしゅ虫
421名無しさん@ピンキー:2008/01/30(水) 01:28:40 ID:Qc6MOl8y
>>415
乙です
あと、個人的にレインと姫のその後が気になっています。
422名無しさん@ピンキー:2008/01/30(水) 13:57:17 ID:7dh66fEQ
>>416
改行は面倒ですよね。
一定の文字数で改行される形式で書いてから改行を入れてるのですが、
次投下するときは原案と同じように、文字数で規則的に改行にするつもりです。
本当は自分のサイトに載せるのが一番最適なんですけどね。

>>421
ありがとうございます。
そういった意見が多いようなので、続きを書くつもりでいます。
現在はパソコンを使える環境にないので、気長に待ってもらえたらと思います。
423名無しさん@ピンキー:2008/02/03(日) 22:32:12 ID:t7qjz6SD
ほしゅ
424名無しさん@ピンキー:2008/02/04(月) 19:14:05 ID:1kcIIVfI
ほしゅ狐
425名無しさん@ピンキー:2008/02/06(水) 02:03:04 ID:B7f4Ol41
保守
426名無しさん@ピンキー:2008/02/07(木) 02:48:15 ID:mzOnaANc
吉村達也『マタンゴ―最後の逆襲』を読んだ。(以下ネタバレあり)

マタンゴが主役というより「マタンゴが出てくる軍事謀略小説」という感じだった
緻密なストーリーなのかもしれないけど、正直もっとどかどか人間がマタンゴ化する
シーンが見たかった気がする。
ただ、マタンゴが発症しはじめた女性が、風呂場で乳房から生えたエノキタケを
切り落としても全然血が出ず、しかも乳房の切断面がキノコみたいになっているのを見て
(私って……………………もう人間じゃなくなっているの?)
と戦慄するシーンはとってもよかった。(…でもそういうシーンが少ない)
427名無しさん@ピンキー:2008/02/07(木) 06:53:03 ID:CJnu8+xA
マタンゴ、小説もあったのか…。映画の存在を知って気になってはいたんだ。
引用部分の描写とかはすごい好みなんだが、少ないのか…。
428clown:2008/02/09(土) 07:48:34 ID:9NAzgiaz
最近ぼちぼちと再開しました。
まだ投下の目処は立ってませんが、まああまり期待せずにお待ち頂けたらと。
429名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 16:31:52 ID:JPki8S6k
前二作を読んじゃったので、期待してしまいますよ
430clown:2008/02/12(火) 11:56:39 ID:nKaDt8fY
>>429
するなと言ってもされるとやっぱり嬉しくなりますどうもです。

レインの続き、実はほとんど書けてるんだけど、話を変身が占める割合は弱いです。
以前投下したものの修正もあるので、サイト立ち上げるなりして一緒に載せようと思ってるんですが、
それでもここに投下した方が良いですか?
ここに投下する用の別のお話も書いてるんですが、そっちはまだかかりそうです。
431名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 18:28:56 ID:NPYLFLsY
これは?携帯だけだけど
ttp://courseagain.com
432名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 04:51:22 ID:cXNSwwbD
スマン、どうでもいい話なのだが、
異形化や蟲化等が好きだが悪落ちや洗脳や寄生とかがあまり好きじゃない俺って少数派だよな・・・
個人的には人外へ変身後も精神はそのままで、人外になってしまった自分を見て、
焦ったりとかする場面に興奮したり
でもそんなの滅多にないお 。・゚・(ノд`)・゚・。
433名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 06:55:11 ID:CmBdno2W
>>432
で、さらに焦ったりしたあげく精神的に壊れちゃったりするでなく
そのままなんとなく適応するのは僕の好み(笑
434名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 09:45:28 ID:lnI7QNaX
よう同志たち
435名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 10:27:48 ID:gh3dO9mt
適応しちゃうのであれば、一種の精神変化のギャップを感じられるのでよさそうだね。
436名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 10:41:21 ID:nndV+Ay9
あれ?俺がたくさんいる。
蟲になっても精神は人間のままので徐々に蟲に変わっていく・・・たまらん。
437名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 15:15:39 ID:Oikeqjqd
むしろこのスレじゃ精神変化好きが異端な気が。
438名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 17:10:17 ID:C82D6Qra
>>432
同士よ!!

好みのシチュに限って精神変化が高い確率でセットになってるのが…。
精神変化は好きじゃない通りこして地雷。文章とかだと特に。
好きな人を否定はしないがせめて注意書きは書いて欲しいと思った。
心が人じゃなくなった時点でそれもう別人…、じゃなくて別獣としか…。
439名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 17:29:36 ID:C82D6Qra
あ、ごめん。スレ勘違いした。
440名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 18:40:07 ID:fH+bcbXD
自我に関してはどうでもいいな
まるっきりないほうがギャップあっていい気がするが
441clown:2008/02/14(木) 23:11:07 ID:SROHUBFg
わースルーされてる。>>430のはよそでやるべきですか?
442名無しさん@ピンキー:2008/02/15(金) 06:46:49 ID:n50w2kij
>>441
いいえ、こちらで投稿してください。

過去の投下作品を読むにあたり、次作も当然期待しています。
443clown:2008/02/16(土) 22:07:00 ID:JNksE4xZ
>>442
どうもです。反対の意見も無いようなので、多分明日投下します。
444名無しさん@ピンキー:2008/02/16(土) 22:47:10 ID:vZQOsFWU
>>443
投下していないのに名前欄にコテを書き込むのは控えておいた方が良いよ
それでも書くなら本文の方が良い
445名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 02:42:20 ID:0LY6gs+k
>>444
それはギャグで(ry
446名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 02:55:26 ID:raZtsEot
職人の人がSSの進捗状況を報告するのに名無しで書き込んだら
何が何だかわからなくなるのではないか…とマジレス
447名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 07:01:01 ID:e8Zl94I0
こういうのはやんわりと注意すべきだが。
悪気は本当に無いので、こういうこともあるんだねと思って読んでください。

職人さんは
・コテ&トリをつけたまま雑談すると、スレの中で目立つので控えたほうが良い。
・進行状況は報告する必要無し。いつ何をやるかは職人さんの自由。
・「書いていい?」「投下していい?」といった発言も控えたほうがいい。書くも投下も職人さん次第。
・上の項の類は「誘い受け」として、特に住人の反感を買う。
・SS以外の発言は、本文投下後の後書きが一番しやすい。
・余計な自分主張はなるべく控えたほうがいい。叩きの対象になりかねない。
・クールであるべき。スルーされたり煽られたりしても、文句を言わない精神力がほしい。
・挫けそうになったら、SS書きスレを読んでみよう。きっと心の支えになる。
448名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 07:27:47 ID:8W0TFGah
>>447
アドバイスどうも。悪意どころかすっごい善意伝わってくるんであんまりお気になさらずに。
コテ付けない方がいいのは知ってるし、勿論雑談してるときは付けてないよ(外目じゃ分からんけど

でも今回はただの書いていい?じゃなくて、
このスレに投下したのの続編でありながらも、若干スレの本流に反するかもしれない、
という危惧があったからコテで発言した次第。

まあ構ってもらえたら嬉しい、ってのもあるんだけどね。全然クールじゃないですごめんね。
449clown:2008/02/17(日) 15:18:09 ID:0QZEy1Dj
というわけで投下します。>>303-326の『the_rained_mantle』の続編となります。
が、人名に変更あり。
『アルトリア』皇女→『アトリーシャ』皇女となってます。(『姫』と呼ばれてる人物です
なんかぐぐったら、割とメジャなキャラクターと被ったので。
あんまり気にする必要、無いんでしょうけど……
450『inhuman_lovesongs』:2008/02/17(日) 15:21:44 ID:0QZEy1Dj
#01:Even_if_you_couldn't_understand_what_we_mean,

 緩やかなせせらぎに、鳥の鳴き声。
 天気の良い朝で、洗濯をしているだけでも気持ちが良い。水はまだ少し冷たいけれど、
頭のボーっとするような春の暖かさには、丁度いいくらい。
 洗濯を終えて、パンと張ったシーツを干す。以前ならそういった光景を、私はぼんやり
と窓から眺めていたのだけれど、今日になっては私自身が家事を担うようになった。料理
だって、掃除だってしている。慣れないことばかりだけれども、どれもが新鮮だったし、
それ以上に充実した日々に、私は満足していた。
 確かに、過去のことを思い出して、切なくなることだってある。失ったものだってあま
りにも多いし、惜しむべき多くのものはもう元には戻らない。そう振り返るのは、多分私
だけじゃないはずだろうけども、今更後悔したって仕方が無いのだ、とお互い頷きあって
れば、それで良かった。
「アトリーシャ様」空になった籠を持って、家の中に戻ろうとしたところ、そう呼びかける
声がする。
 兵士だった。顔見知りの、ワーフォールの兵士。いつも通り馬車を引いて、年の割に幼
げな笑顔を振りまいている。私がここに住み始めてからずっとお世話になっているが、彼
の名前はまだ聞いたことがない。
 ――こんにちは。
「こんにちは。今月分の食料を、お届けに参りました」と、ハキハキとした返事をして、
彼は馬車からいくつかの木箱や樽を持ってきては、決められた場所に置く。
初めのうちは私も手伝おうとしたのだが、それを申し出る、もしくは勝手に手伝おうとす
れば、「いえ、僕がやります」とか「これも仕事のうちなんで」とか、「こういうのも訓
練になるんです」とか言って、その余地を与えない。
 彼なりの善意なのだろうけども、今ではこういった援助を受けるだけでも後ろめたかっ
たので、その善意に対して逆に申し訳ない、という思いをする。
 私は何もかも捨てて、逃げ出したのだから。
「今日は手紙も来ていますよ」
 全ての作業を終えると、彼はそう言って封筒を手渡し、別れの挨拶をして去っていった。
 ――いつもありがとうございます、と私はお辞儀する。
 「いいえ、当然のことです。それでは」というやり取りが、既に二人の仲での決められ
た挨拶になっていた。
 手紙は、ワーフォールの皇帝からだった。うまくやっているか、という書き出しは相変
わらずで、その後にはパーティへのお誘い。この類の招待はもう何度も受けていて、その
たびに断ってきた。援助を受けているのだから出席すべきだ、とは思うのだけれど、既に
自分は大手を振って人前に出られるような姿ではないからという理由が、何よりもの足枷
になっていた。
 今の私はもう、人間ではない。人と獣を足して2で割ったような生物、言うなれば獣人
だった。そんな化け物染みた姿を人目に晒すなんて、耐え難いことだった。事情を知って
いるワーフォールの皇帝と我が国の大臣、直々の任務で物資の輸送を行っているあの兵士
以外の人間には、まだ一度もその姿を見せたことは無い。
 勿論ワーフォールの皇帝は、私の姿について断りを入れておけば、皇帝の知人ばかりで
開かれたパーティであるから、侮蔑をうけることはない、と言うし、確かにその通りかも
知れない。だが、私にはもう一つ、パーティに出ない理由があった。
 ――おかえり、レイン。
 籠を片付け、読み終えた手紙を引き出しに閉まってから、ふと一息ついて庭先で休んで
いれば、山頂の方から飛来してくるレインの姿。捕らえた獲物を入れるための袋を一杯に
して、今では野生のグリフォンとはなんら変わりない、自然な動作で着陸する。
 ――ただいま。
 一鳴きするレインは、獲物を一旦地面に置き、血塗れた爪や嘴を川の水で濯いでから、
私に飛び掛るようにして抱きしめる。私もそれを全身で受け止めるようにして、ギュッと
抱き返す。レインの首の後ろで、もう一度おかえり、と囁けば、レインも小さな声で返事
をする。
451『inhuman_lovesongs』:2008/02/17(日) 15:23:32 ID:0QZEy1Dj
 一度交差させた首を戻して、今度は口付けをする。といっても、人間同士のする口付け
とは程遠い。レインは、私の頭を噛み砕くことも出来るほどの大きな嘴を持っているから、
口先でキスをする分にはまだいいけれど、恋人同士のする熱いキスには別のやり方がある。
傍から見れば襲われているようにも見えるし、動作としては親鳥が雛鳥に、餌を口移しす
るのに近いのだけれど。
 レインは嘴を最大限に開き、首を傾ける。大きな口。
 私はそれと反対に傾けて、嘴に挟まるようにして口を、というよりも顔を合わせる。生
暖かい吐息と、獣の臭い。糸引く唾液に、レインの太い舌。
 それを飲み込まんばかりに、咥えるのだ。咥えて、それ至るところを私の舌で、まさぐ
るように弄ぶ。絡めたり、押し付けるように舐めたり。レインもその大きな舌で、私の口
中を、まるで犯すように動き回る。
 レインの嘴の中、いやらしい音が篭って聞こえる。時々喘ぎ声が聞こえて、私はそれが
愛しくて、愛しくて堪らなくなって、抱擁をより強く、その毛皮で覆われた、熱い体を感
じたくて、強く、強く抱きしめて、舌と舌での交感も、もっと激しくなって――
 私がパーティに出ない理由、それはレインに他ならない。流石に、中身はともかくとし
て、完全にモンスターになってしまったレインを、パーティに出すことは出来ないのだ。
一緒に出れない以上、レインを一人にしたくなかったし、離れたくもなかった。何より、
レインだけが出れない、という待遇が、レインのことを傷付けてしまいそうで、怖かった。
 家の中に入り、昼食の準備をする。昨日の夕飯だった残り物のポトフを器に注ぎ、ライ
麦のパンを主食にして食べる。レインはすぐ隣でそれを、ただ眺めている。
 レインの分は用意していない。
 する必要が無い、もとい、私には用意することが出来なかった。この生活を始めてから、
初めて料理を勉強した。不慣れながら、簡単なレシピを見つつ、私は料理して食べている。
勿論、自分が一所懸命に作った料理を、レインに食べてもらえたらきっと幸せだろう。今
だって、そうしたいと思っている。
 でも出来なかった。肉食になってしまったレインの身体は血に餓えていて、血生臭い生
の肉しか食べれなくなっていた。恐らく食べられないことは無いだろうけども、決して舌
には合わず、消化されずに排泄されてしまうはずだ。レインは私の食べる分の肉を狩るだ
けでなく、自分の血の乾きを満たすために、毎日森へと潜っているのだ。
 それでも一緒にご飯を食べたい、狩った動物をその場で食べないで、ここで食べればい
い、と提案したことがあるのだが、「自分が、まだ温かいままの肉を、一心不乱に食い荒
らしている姿なんて見せられない」と、嘴で地面に書いた文字を涙で濡らして拒まれた。
 レインは私の提案に狼狽していて、私がいくら慰めても嗚咽は止まず、乱れた文字で
「すまない」と書き加える。酷いことをしてしまったと私は後悔した。きっと、レインも
出来ればそうしたかったに違いないのだと、自分の愚かさを心から反省した。そしてレイ
ンの取り乱しように動揺した私は、ただ謝りながら泣くことしか出来ず、その晩はそのま
ま二人とも啼泣しながら、潰れるように眠り落ちた。
 そういったことは、他にも何度かあった。いくら愛し合っていても、姿形が違う、とい
うことは、大きな隔たりをもたらしていた。ましてやレインは人間であっただけに、そし
て自分の無力さ故にこうなってしまったと思いつめているだけに、その差は深刻だった。
 もっとも、だからこそ二人の絆は深まっていくのだと、私は思っているし、その身体の
違い、というのも、僅かながらに埋まりつつ、あった。
452『inhuman_lovesongs』:2008/02/17(日) 15:26:33 ID:0QZEy1Dj
#02:even_if_the_change_injured_us

 あの夜の後、私たちはあの怪物の声で目覚めた。
「おはようございます。もう朝ですわ」と、皮肉っぽく、明日の朝に出れる、という言質
を示すのを目的に、私たちを起こしに現れた。黒い素肌に、真っ赤な角のある姿だったが、
あの禍々しい触手は生えておらず、一本の尻尾だけがうねうねしていた。
 しかし私もレインも、半分夢か現かのまま、目を覚ましてもそのままでいた。恐らくあ
の怪物が起こさなければ、そのまま昼過ぎまで眠ってだろう。それぐらい、二人は深い眠
りについていた。
 レインはその眠気のせいか、もう怪物に対しての悪意は殺がれたのかは知らないが、そ
の怪物に襲い掛かるようなことはせず、そのまままどろんでいる自分らに向けた言葉も、
何事もなく聞いていた。
「一応お約束どおり、朝まで、ということでこうして起こしましたが、このままこの館に
滞在なさっても構いません。もしお目覚めになるのでしたら、こちらで朝食を用意しまし
ょう」
 私は自分が全裸であるのを忘れたまま、レインの背中から降りる。レインの精液が足を
伝わっていく感覚に気がついてから、自分が全裸だ、ということに気付いて、咄嗟に隠す
べきところを隠した。
「ふふ、可愛い子ね。大丈夫、この館には私達以外誰もいませんの。だから、隠す必要は
ありませんわ」と、全身を嘗め回すような妖艶な視線に若干の危機感を抱き、数歩退いた。
確かにここにいる全員、揃いも揃って服を着ていないのだけれど、私以外の二人は毛皮の
あるレインと、生粋のモンスター。服を着ないことの意味が違う。
 そんなことを気に掛けられるほどに頭は冴え始めていて、昨晩のことを初めとして、現
状についても大体は把握できた。
 ふと気になって自分の身体を眺めてみるも、変化は全く見られない。そのときは私も、
レインの精液では姿は変わらないのだと思っていた。
「ホールを出て廊下を真っ直ぐ行くと、エントランスに出ます。その向かいの、一番右の
両開きの扉が食堂よ。貴女のナイト様が起きたら、一緒にいらしてください」と言って、
私に微笑みかける。「貴女達は私の大切なお客様。ちゃんと、私なりに、おもてなしいた
しますから」
 そう言い残すと、彼女はふっ、と姿を消した。残された私は、半開きの目を小さく瞬き
して、地面にへたり込むようにしているレインの身体を背もたれにするように、隣に座っ
た。完全に寝ぼけているようで、ごにゃごにゃと言葉になっていない何かを喋っている。
本人は普通に喋っているつもりなのだろうけど。
 うん、うん、と、言い表しようのない暖かな感情を覚えて、私はそれに相槌を打った。
そのままレインが目を覚ますまで、そんな緩やかなやり取りを繰り返していると、次第に
自分もレインに憑いた睡魔に捕らわれていた。
453『inhuman_lovesongs』:2008/02/17(日) 15:28:43 ID:0QZEy1Dj
 それで、もう一度気がついた頃には結局お昼になっていた。そのときはレインが先に起
きていて、目覚めて初めに目へ飛び込んできたのは、大きな嘴だった。覗き込んでいたら
しいけど、私が起きた途端、レインは顔を反らしてしまった。
 きっと恥ずかしかったのだろう、私は服を着ていなかったし、自分は寝て醒めてみても
人外の身体に、声を発してみれば鳥の鳴き声。起きてからも落ち着かない素振りをずっと
続けていた。
 起こさなければいけないのだけれど、姫は裸だし、喋れないし――と、レインが戸惑っ
ていたのかと思うと、そんなレインが可愛くて、私はあえて意地悪した。
 視線を逸らしたままでいるレインに、急に抱きついた。
 レインはビクッ、と身体を跳ねさせて、二、三首を揺する。私はそれでも強く抱きしめ
たまま、(今思えばレインは息が出来なくて苦しかったのかもしれない)
「私が寝てるうちに、エッチなことしたんでしょ」と言えば、
 違う、とでも言わんばかりに首を大きく振って、じたばたと四肢を動かす。それでも私
は首にしがみ付いたまま。思ったとおりの行動で、やっぱりそんなレインがいじらしい。
「不埒。騎士だった者が、しかもよりによって皇女に、そんないやらしいことをするなん
て――」と続けると、今度は動きを止め、全身の力が抜けたかのようにしゅんとしてしま
った。
 流石にかわいそうになって、私はそのまま背中の両翼の間に滑り込む。左腕は首に掛け
たまま、右腕でその毛並みを確かめるように、そっと撫でてあげる。
「ごめん、冗談よレイン。……グリフォンになっても、可愛いよ」
 僅かに沈黙を経て、
「クェ……」と、小さな声で、返事をした。
それから、「好き」「大好き」「愛してる」という甘い、触れてしまえば解けてなくなっ
てしまいそうな言葉を、何度も何度も確かめるように、それが時間を止めて、永遠のもの
とする呪文であるかのように、囁く。

 姫の言葉一つ一つに、私は返事をする。自らの意思で、この忌々しいと思っていた、人
ならざる声を発していた。姫のたった一つの肯定が、私の絶望や、後悔といった負の感情
を、瞬く間に打ち消していくのが、驚く程明確に分かった。
 そして返事をしながら、私は知らず知らずのうちに涙を流していた。喋れないのに可笑
しい話ではあるが、返すべき言葉も見つからないまま、ただそうするばかりで。溢れんば
かりの感情に、頭がじん、としたままで。
 こんな醜い姿になってしまった自分を、姫は受け入れてくださっている。剣も持てず、
言葉も発せず、人には魔物だと恐れられて然るべきこの姿を、姫は受け入れてくださった
のだ。姿を変えられてから、姫と交わっている最中でさえ、ずっとそれが不安だった。人
間であった時でさえ、関係が壊れてしまわないかと恐れていたのに、こんな姿では、尚更
のことだと思っていた。なのに。
 私は幸せだ。こんなことがあっていいのか、と不安になるぐらいに、幸せだ。
 「そろそろ行こうか。朝ご飯を、ってもうお昼なんだけど、用意してくれるって言うん
だけど」
 姫はそう話を切り出し、あの魔物が食事を用意しているということと、その食堂の場所
を続けて話される。確かにお腹は空いていたし、今の私には彼女を単に憎むことは出来な
かった。信用に足る存在では決してないが、疑い一辺倒にするつもりもなかった。
 私は頷いた。
「じゃあまず、荷物を拾わないとね」
 姫はどうやら私から降りるつもりはないようで、私に騎乗したままでいなさる。全く構
わないし、むしろそっちの方が嬉しいのだけれど――
 姫の指し示す方に歩く。昨晩よりも四つん這いに慣れて、人並みに歩くことまでは出来
るようになった。走ろうと思えば走れるかもしれない。きっといずれ飛べるようにもなっ
て、段々とグリフォンらしくなっていくのだろう。そんな推察も、今ではあまり悲観的に
思わなくなった。
 荷物を嘴で拾い上げて、跨っている姫に渡した。私の武具はどうしようか、と悩んだが、
長い間命を預けた戦友を、もう使えないからといってそう簡単に捨てるわけにもいかず、
荷物になって姫には申し訳ないのだけども持っていくことにした。背中に色々なものが積
載されていくが、人間よりも遥かに強靭であるらしいこの身体では、まるで苦にもならな
かった。
454『inhuman_lovesongs』:2008/02/17(日) 15:30:38 ID:0QZEy1Dj
 廊下やエントランスを抜ける最中、姫は城の内装を見てあれこれと述べなさる。姫自身
が暮らされていた城程ではないにしろ、確かになかなかの装いである。あのホールもそう
だったが、若干褪せた感じがして、逆にそれが良い雰囲気を出しているようだ。しかし見
れば見るほどに、そんな城がここにあるのがおかしく思えた。
 思えばまだ、あの白樺の林から出られていないのだ。窓の外は深い霧で覆われていて様
子は伺えなかったが、都合よく一晩で結界が解かれるなんてことはあるまい。下手をすれ
ば一生ここから出られないかもしれない、という危惧もあったが、その分時間は有り余っ
ている。姫の疲れも癒せるし、結界さえ解除すればあとはこちらのもの、私が飛べばいい
のだ。姫のためなら、より獣らしく振舞うことだって、全く厭うつもりはなかった。
 食堂に着くと、すぐにあの魔物は現れた。わざとらしく恭しげな態度で、
「おはようございます。もうお昼になってしまいましたが、それだけよく眠れたようです
ね。食事の準備は出来ておりますので、お好きなところにお掛けなさって、お待ちくださ
い」と言う。
 姫は荷物を床に置いてから、私の背中から降り、すぐ傍の席にお座りになる。一方私は、
こんな身体では椅子に座ることもままならず、姫に寄り添うようにして待機していた。見
下ろす魔物の視線に不快な思いを覚えながらも、頭の中に結界についての疑問を過ぎらせ
る。あの魔物には人の考えを読み取る能力がある。喋れない以上、それに頼るしかなかっ
た。
 この魔物と初めて出会った時、僅かに『遊び』だと言い漏らした。遊びで人を化け物に
変えるなど、不愉快だし遊ばれる方の身にもなってほしいのだが、しかし他意は無いとい
う事は察せる。要は本人が楽しめればいいわけだ。人語を理解する頭脳を持つような高等
な魔物には、人間と敵対している者も多いが、そういったわけでもないというのは僥倖だ
った。
 私たちはこの魔物を十分に楽しませることが出来たのか、疑問にも答えてくれた。
「確かにこの林には、脱出を妨げる封印が施されていますわ。それについては、食事しな
がらお話しましょう」と言って、再度テレポートで姿を眩ませたが、十秒もしないうちに
カートと共に現れた。
 食卓には既に食器が置かれていて、真ん中には布の掛けられたバスケットがある。魔物
は手際よく、スープやら目玉焼きやらを配膳する。丁度二人分用意されていたが――
「貴方の分は、別に用意していますの」
 そう私に言い放つ魔物は、紅を差したかのような赤い唇を弓の形にして微笑む。咄嗟に
私は身構えていて、その笑みには何らかの思惑がある、ということが頭に刷り込まれてい
るのに気付く。
 もう一度姿を消すと、今度はより大きなカートを手に現れる。人ひとり入るぐらいの大
きさだが、布が掛けられていて中の様子は伺えない。だが、薄汚れたシルクの内側から発
せられる匂いは、確かに私の食欲を刺激した。刹那の思考は、確かにそれを食べ物と、私
の肉体は、確かにそれが食べたいのだと、判断していた。
 しかし、匂いに対してどう思うか、と、実際にそれがどんな匂いなのか、というのは別
物だ。踵を返すようにして、私の思考は警告と自制へとすりかわる。無論、私の身体がそ
れを求めているという認識は消えないし、それを食べ物だと認識したことは尾を引いて、
私の自尊心を酷く抉り取る。
 布が取り払われると、そのカート、いや車輪とハンドルのついた檻の中身が、露になる。
 馬の死体だった。血液と泥で汚れてはいるが、白い毛並みの美しい白馬――
「ポーラ!」姫の、悲鳴のような叫び声。「ポーラなの?」
「昨晩、林の中で見つけましたの。こんな場所ですから死体の劣化は遅く、丁度いいかと
思いまして」不快感を煽るようにして、魔物はそう述べる。姫の言葉に耳を傾けないふり
をしていながら、あからさまな当てつけだ。
「これが貴方の餌ですよ」
 大げさな音が、名状しがたい静けさを孕んでいた食堂に反響する。檻の扉が開かれ、魔
物はそれを傾けると、ずるり、と力ない死体は床に落とされる。檻の底面が赤く擦れてい
た。一連の光景が、私たちをこの地まで運んでくれた、この白い馬は既に死体であり、生
き返らないのだ、という事を強く印象付ける。
 騎士である私は、生物の死というものに身近であったが、姫はそうではない。それだけ
でなく、この馬は姫の愛馬であり、お互いに幼い頃からの仲だったのだ。辛い別れであっ
たのに、乾きかけた傷口に塩を塗りこまれたような思いに違いない。姫は目を見開いたま
ま、視線を逸らされなかった。
455『inhuman_lovesongs』:2008/02/17(日) 15:35:30 ID:0QZEy1Dj
 だが、私は。
 私はそんな、姫の大切な愛馬に対し、強い食欲を抱いていた。
 身体が動かんと、それを今にも喰らわんと疼く。開きかけた嘴から、盛んに分泌された
唾液が滴る。食べたい、食べたいと思う傍らで、私の精神はそれを抑止していた。それを
喰らうことの意味、浅ましさ、意地。なにより、姫の面前でそれをすることの羞恥が、私
の剣だった。
 葛藤で打ち震える体は、ゆっくりと動き出した。震えていながらも、恐ろしく滑らかな
動作で、その鈎爪のある右前肢を前へと動く。口からは理由も分からない呻き声がかすか
に漏れる。
「レイン!ダメよ、食べちゃダメ!お願い――」
 そう、駄目だ。食べてはいけない。食べ物ではないのだ。姫の、大事な愛馬なのだ。
 それでも私の身体は止まらない。鉄球を引きずっているように遅い動作だったが、確実
に、前へ前へと進んでいた。本能が、肉を喰らわんと。
 姫の呼びかけなさる声はまだ続いている。そうだ。きちんと火葬し、お墓も立ててやら
なければならない。供養して、その天に召された命を、冒涜してはならないのだ。
 理性の絆しを振り払って、私の獣は、もうそれに届かんばかりのところまで来ていた。
姫は声を掛けるだけでなく、私の身体にしがみ付いていなさるのだけれど、まるでトンボ
の頭を刎ねるのと同じように、人の頭をももいでしまう程強靭な肉体を持つ魔物にとって、
それはまるで儚い。それでも、そんな姫の抵抗が私の肉体を鈍らせたのは、ひとえに姫の
存在が歯止めになったからだろう。
 しかし、それとて獣を静止させるには至らない。
 ――ああ、姫、申し訳ない……。私はもう、獣になってしまったのだ。姫の大切な愛馬
を、私は、私は……!
 無常にも、私はその死体に爪を突き立てて、その薄く短い毛に覆われた皮に、鋭い嘴を
刺していた。鼻腔に広がる匂いに、更に高ぶりを覚え、冷めて硬くなった肉を引き裂く感
触は、より精神を滲ませた。
 姫の叫び声だけ。それ以外のものは、私の精神が自然に断ち切っていた。私はどうする
ことも出来ず、ふがいなさに打ちひしがれながら、本能の奴隷へと堕ちることを、甘んじ
て受け入れていた。
456『inhuman_lovesongs』:2008/02/17(日) 15:36:26 ID:0QZEy1Dj
#03:or_even_if_we_had_to_kill_you,

「問題ないかしら?」
「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」
 鏡で自分の姿を確認しながら、そう返事をする。
 昼食の後、洋服を見繕ってもらった。どれも古めかしいものばかりだけれど、物自体は
良い。少し少女趣味が強い服に、お姫様、と周りから可愛がられていたときを思い出した。
あの頃はお勉強と、周囲に笑顔を振りまいているだけで良かったのになぁ、なんて。
 昼食、といっても、あの後私は何も食べないでいた。お腹は空いていたが、そんな食欲
はまるで無くなっていたし、動転していた。レインの身体を拭いて、慰める必要もあった。
 今、レインはエントランスで待機している。私を怪物と二人っきりにするのを嫌そうに
しつつ、渋々従っていた。出発の準備は整っていて、封印の解除も済んでいるらしい。
 ポーラのことは、仕方がないと思っている。レインが自分から進んで食べたわけじゃな
いのは明らかだし、グリフォンになってしまった以上、それに見合った食べ物があって、
それが動物の肉であっただけのこと。それにポーラだって、もう元には戻らない。
 怪物は今一度、私の格好を確認してから、小さな宝石が一つだけついた、首飾りを取り
出し、私の首に掛けた。シンプルな作りだったが、よく見てみれば非常に緻密な細工が施
されていて、曰く「呪いを防ぐマジックアイテム」らしい。怪物がそんなものを持ってい
るなんておかしな話だけれど、だからといって何か呪いが掛かっているわけでもなさそう
だったから、私は再度感謝の意を述べる。
 そうしてから、怪物は「戻りましょう」とテレポートをする。瞬く間にエントランスへ
と戻ると、外に繋がっている両開きの、大きな扉の前で座っているレインがこちらを振り
向いた。まだ気を取り戻してはいないらしく、細かい動作一つ一つにどこか力がない。
「どうかしら?」と洋服を見せてみても、細い声で鳴いて、頷くだけだった。
 荷物を確認する。持ってきた分の食料と、盟友の証。レインの武具に、昼食に出された
けども食べなかったパンを数個に、補給させてもらった水。問題なさそうだ。
「じゃ、行こっか」と、私はレインの背中に、身体を這わせるように乗る。私が穿けそう
なものはスカートしかなかったから、跨げないからだ。荷物を抱くように、レインの首に
しがみ付くようにして、体勢を整える。来たときよりも若干薄着だが、これなら寒くはな
さそうだ。
「お気をつけて」魔物はドアを押し開ける。外の冷たい空気が流れ込んでくる。館の対照
的な温かさが、まるでここが夢の中であったみたいだ、と非現実感を思わせる。
「もし居場所が無くなったら、是非また戻ってきてください。そのときもまた、歓迎しま
しょう」と言って微笑む。
「ありがとうございます。では、さようなら」結局、良い人なのか悪い人なのか、判断は
つかないままに別れを告げる。レインを酷く苦しめたのは許せなかったけれど、色々と良
くはしてくれたし、何より、レインと気持ちを確かめ合うことだって、彼女の助けがなけ
れば到底無理だっただろう。
「さようなら」
 レインはゆっくりと歩き出す。
 徐々に加速して、開け放たれた門を抜ける頃には、既に走っていた。
 人間では到底追いつけない速度で、馬ほどではなかったが、あのぎこちなさが嘘のよう。
 白樺の木立がびゅんびゅんと過ぎり、濃霧はまるで激流の如く裂かれた。
 すぐに林から飛び出して、また岩肌の露呈した山道に出た。
457『inhuman_lovesongs』:2008/02/17(日) 15:37:40 ID:0QZEy1Dj
にせよ、流される血も少なくて済んだ。姫が亡命なされた、ということは早い内に広まっ
ていたようで、レナンティウスが失脚した後の、ワーフォールによる一時的な管理体制も
さほど混乱を招かず、全ては順調に思えた。
 私はその間、姫に余計な面倒を煩わせたくはなかったので、人目を避けるためにワーフ
ォールの帝都近隣の森で暮らしていた。ほぼ毎日、僅かな時間ながらも姫は私に会いに来
てくださり、それだけが私を人間にしてくれるものだった。
 幸いグリフォンの身体能力と人間の頭脳があったから、食べ物には困らなかったのだけ
れども、野生動物を狩り、風雨に晒されたまま眠る、という生活には一向に馴染めず、む
しろ馴染んでしまえばお終いだ、という一身が、そうさせずにいた。日に日に自然に動く
ようになる体に、私は気が狂ってしまいそうだったが、まさに姫の存在を命綱にしながら、
私は本当の意味でグリフォンにならずに済んでいたのだ。
 いくら擦り切れそうになっても、現状を維持出来ているという点では、それでも私は幸
せだったし、大した問題ではない。正式に姫が王位に就かれれば、こんな獣としての生活
からはおさらば出来るわけだし、そもそも私は姫の家来だ。姫の都合で死ねというのなら
ば、喜んで死ぬつもりだ。であるから、そもそも私的な問題とは、問題になりえない。た
だ一つあるのならば、私が完全に獣となった暁に、衝動に歯止めが利かず、姫のことを食
い殺してしまう、それぐらいだ。
 問題は、姫の身体に変化が起き始めた、ということだった。私が、罪深くも姫に放った
精は、やはり邪な魔力を秘めていた。姫の体内に残留したそれは、じわじわと姫の身体を
冒していたのだ。
 初めは僅かな変化だった。
「最近すぐにお腹が減るの」「なんか無駄毛が生えやすくて」と、それだけでは変化とい
えないようなもの。私もそれを、ちょっとした愚痴として聞いていたし、姫もそのようだ
った。
 戦争が始まってから、そんな些細な変化はより大きな変化に至っていた。元々小食だっ
た姫と比べると、それは異常食欲とも言えるほどになっていたし、体毛だって一日処理し
なければ、それがハッキリと視認出来るまでになっていた。そしてその体毛も、産毛のよ
うに柔らかいものではなく、私に生えているような、硬く身を守るための、毛皮に近かっ
たのだ。
 私はとんでもないことをしてしまった、と今更後悔した。姫も、体毛が皮膚を覆い尽く
すようになってからは、裾の長く、フードの付いたローブをお召しになるようになった。
ワーフォール皇帝には相談したらしいが、元に戻す術も見つからず、頭を悩ましているら
しい。
 身体の変化による深刻な問題は、何より、王位に就くことが出来ない、ということだっ
た。人のなりをしていない、得体の知れない生物が突然現れたところで、それを姫だと認
める人間がいるだろうか?なまじ奪還作戦が始まった以上、事態は一層ややこしくなって
いた。
「これからどうしよう?」
剃り払うことを諦め、全身を毛皮に覆われてしまった姫は、私だけにその身体を晒しなが
ら、泣きなさる。「ねえレイン、私はどうすればいいの?」
 変化はそれで終わりではなかった。相変わらず直立二足歩行をし、また人間の言葉を発
することは出来ていらしたのだが、脚の、主に大腿から下は獣のような骨格へと変化し、
頭部の形状も、日が経つごとに人らしさを失っていく。
 細長い口吻に、ピン、と立った耳、そしてお尻から生やしているふさふさとした尻尾は、
どう見ても狐のものだ。それでも姫は、完全にグリフォンになってしまった私のことを思
ってか、変身してしまったこと自体に対するショックを、ほとんど見せずにいらした。
 そんな気遣いに私は感謝しながらも、やはり一人辛い思いをしている姫のことを考える
と、私はいても立ってもいられなかった。満月に咆哮しようと疼く体の事等とうに忘れて、
自責の念に泣き明かしていた。
458『inhuman_lovesongs』:2008/02/17(日) 15:39:53 ID:0QZEy1Dj
 ワーフォール皇帝との一ヶ月以上の話し合いによって、遂にその結果が出たらしく、私
はワーフォールの兵士(姫と皇帝以外に、唯一今の私と面識のある人間だ)に、我が国の
城前大広場へ出るよう命じられた。姫はローブを羽織ったままに、亡命の際に酷く傷を付
けられてしまったのだ、と偽りつつ、その決定を布告するそうだ。
 私もその決定については何も知らされておらず、馬車の荷台に姿を隠したまま、その場
に出席した。広場は人で溢れ返り、その雑踏や発せられる声は一体となって、どうどうと
空間にこだましていた。何かの拍子で馬車の覆いが外れてしまわないか、と緊張しつつ、
姫が現れるのを待った。
 ただでさえ騒々しかった民衆の声が、突然わっ、と沸騰した。私には聞こえなかったの
だが、大きな銅鑼が打ち鳴らされたらしい。続いて、今度は街全体が揺れているかのよう
に、混乱が波のように伝わってくる。姫が全身を、コートで覆い隠されているということ
に、人々は動揺したのだろう。
 それから、街各所各所に設置された、音声を放送する魔法媒体から姫の声が漏れ出した。
遠くで増幅された姫の声が、少しだけ先行して聞こえてくる。人々は静まり返って、まる
で戦を開始する合図を待っているかのようだった。
 姫は挨拶を済ませ、自分がこんな装いであることの理由と非礼に詫びながら、とうとう
本題へと差し掛かった。
「私アトリーシャは、正式に王位に就かず、その全権力をワーフォールへと委託することに
決定いたしました。ワーフォールはご存知我が国の盟友国であり、またその皇帝も、亡き
父でもある前皇帝オルディウス九世と親交関係にありました。非常に安定した統治をされ
ており、我が国の議会が持つ権限も維持されるという保障をされたまま、国の委託、とい
う異例な事態にもかかわらず、受け入れてくださりました。不満のある方もいらっしゃる
でしょうが、私はこれが良い結果をもたらすと核心しております。どうかご理解と、私の
力不足をお許しいただければ、と思います」

 色々な、本当に色々な叫び声が聞こえてくるのを他所に、私は城の中へと戻った。
「……本当に宜しいのですか?」と、私が亡命した後、レナンティウスの圧力に耐えなが
らも尽力をつくしてくれていた大臣は、私にそう問いかける。私の逃げとも取れるこの決
断に納得がいかないのも分かる。あれだけ、王位を継承すると息巻いていたのだ。咎めた
くもなるだろう。
 ワーフォールの皇帝だって、初めは反対したし、最後まで納得はしていなかっただろう。
しかし、一国を、インフラを崩すことなく手に入れることが出来るというメリットに、彼
は長として賛同しざるを得なかったし、私の意志を尊重しよう、という寛大さが、この決
定を許してくれた。
 そしてこの大臣も、私の醜い姿を見て、賛同こそはしなかったが、その気持ちも分から
なくはない、と認知まではしてもらえた。同情で押し崩すなんて建設的なやり方ではなか
ったが、全く無理解のまま、大臣に決定を受け入れさせるの心許なかったのだ。
「はい。ワーフォールは大変良い国です。必ずや、国民のために尽くしてくださるでしょ
う」
 そう返事をして、足早にその場を離れる。この後は、ワーフォールの皇帝による演説が
ある。もう皇女でもない、人間でもない私には、さして関わりのないこと。そう言い切れ
るだけに彼の性格と手腕に自信はあった。
 だから私は、愛する人のために、国家を捨てる。
459『inhuman_lovesongs』:2008/02/17(日) 15:42:29 ID:0QZEy1Dj
#04:we_would_be_loving_each_other.

 きっとレインのことだから、色々なことに理由をつけて、自分のことを責めているだろ
う。私も獣になってしまったことや、レインの処遇について等でだ。それで、本当は辛い
決断だったのだ、と思っているに違いない、そんなことを考えながら、人ごみの中を進む。
装いは変えてあるから、私が姫だとはばれないだろう。背格好だって、前とは違うのだか
ら。
 馬車を見つける。私が指定しておいた馬車だ。周囲に中を覗きこむような輩はいないか、
と目を左右してから、こっそりとその中に入る。
 目を丸くしたレインが、こちらを見ている。
「出発してください」私は待機していたワーフォールの兵士に命じてから、全身を覆い隠
していたコートを脱いで、どう反応していいのか決めかねているらしい、硬直したままの
レインに抱きついた。
「これでまた、一緒に暮らせるね」
 あの館の一件からおよそ一年間。細切れだったレインとの縁が、また戻るのだ、そう思
えば、多くの後ろめたさや不安などは、風前の塵に等しかった。
 レインもそんな私の思いを肯定するかのように、「ケーッ」と一鳴きした。

 訳の分からないままに、私は国境を超え、再度ワーフォールへ。じゃれつく姫は私に何
も語りなさらず、私もそれを享受していた。姫の心底楽しそうな表情を見て、思考を馳せ
るまでもなく、これで良かったのだ、と思った。
 仰向けになった私に姫は乗っかって、何度も口付けをする。すぐ近くに兵士がいるのだ
から、あまりおおっぴらな事は出来ないのだが、姫はそれをまるで気にせず、私の身体を
弄びなさる。
 姫のまるで変わってしまった体も、相変わらず美しい。滑らかな毛皮に、しなやかな体
躯。凛としていながらも、あどけなさの残るお顔。ふわふわな尻尾。僅かな物音を聞き漏
らさない、狩猟獣らしい、前に向いた耳だって、なんと愛らしい事だろうか。私がそこを
そっと撫でれば、僅かに嬌声を上げた。
 仕返しだ、と姫は私の身体をひっくり返し、尻尾の付け根をなぞられる。身体がゾクゾ
クして、私の口からも鳴き声が漏れた。姫はふふ、と笑って、もう一なぞり。通い婚のよ
うに、度重ねた逢瀬のうちに見つけた、弱点の一つだった。

 時間は瞬く間に過ぎて、日が傾いた頃にようやく馬車は止まった。
 促されるままに降りてみると、そこは森の中だった。小川がすぐ近くに流れていて、古
そうだったが、新しい木材で補修されてある小屋が立っている。続いて降りた姫の顔を覗
いてみると、小屋を一瞥してから私を覗き返される。
「では、一週間後にまた、伺います」兵士は馬車に乗って、来た道を帰っていく。真っ赤
に染まった世界に、「ありがとうございます」と恭しく礼をする姫の姿が、妙に牧歌的に
見えて、いつになく安らぎを覚えた。
「これからずっと、二人でここに暮らすの。初めは大変かもしれないけど、きっと楽しい
に違いないよね?」
 ――ええ、きっとそうに違いないでしょう。
 私たちは小屋に入るとすぐに、小さな小屋にしては随分と大きいベッドへと直行する。
はしたないが、旅の間戯れ続けていたせいで身体が疼いて仕方なく、お互い確かめ合う前
に向かっていた。姫は自分のことを蔑ろにして、「レインはいやらしいのね」と言いなさ
る。けれど、言葉を持たない私は、泣き寝入りするように鳴くことしか出来かった、
460『inhuman_lovesongs』:2008/02/17(日) 15:44:18 ID:0QZEy1Dj
 仰向けになった私に、姫は抱かれるようにしてのしかかりなさる。お互い同じ向きであ
るが、体格差のせいで姫の耳が眼下に見える。体温と、温かな吐息が私の首筋に掛かり、
毛皮越しにも姫の温もりを感じる。そして、私の、既に屹立した男性的な部分に、姫の尻
尾が当たっていた。
「ふふ、もうこんなに元気なのね」
 馬車の中では敢えて触れていなかった、私のそれを尻尾で撫ぜなさる。私は爪を立てな
いように内側に握り締められた鈎爪を、姫の背中に当てるようにして、姫の身体をより、
これ以上近づくことなど出来ないのに、より近づけるように抱きしめた。
「ねえレイン、私とエッチ出来なかった一年の間、どうしてたの?」目下、私を見上げな
がらの、意地の悪い質問に、私の全身はチクチクした。その一年の最中でも感じていた、
顔から火を吹かすような羞恥を一度に覚えて、私は姫の眼差しから目を背けることしか出
来ない。それが肯定だと分かっていても、その視線に心を溶かされるよりは、マシだった。
 姫はその答えを知っていたかのように、尻尾を器用に使って、私の陰茎を包み込むよう
に巻きつけられる。私はここ最近控えていたのもあって、それだけの刺激で、イってしま
いそうだった。
「ねぇ、どうしてたの?」
 再度問いかける姫は、ゆっくりとその尻尾を、上下に動かしになる。既に身体は好き勝
手に震えて、鳴き声だって歯止めを掛ける間もなく発していたのだけれど、このままでは
終われないと、私は嘴から舌を出して、不意を付くように耳の内側を舐める。
「きゃぁっ!」
 姫が咄嗟に身を引き締めたせいで、私に巻きついた尻尾もぐっ、と絞られる。衝動に堪
えながらも、私は舌先を、じっとりとした緩慢な動作で動作で耳の穴で出し入れした。そ
れが姫の身体をより熱くさせたようで、行為も、言葉攻めも、更に激しくなる。
「んっ!……もしか、てっ、私のっ!……とを、考えながら、ひゃ、一人で、エッ……チ
してたっ!ふぁ、のっ?」
 否定できない言葉は、私の歪んでしまった貞操を責めていた。それは自分も不思議な程
に、くすぐったくて、口から漏れる色声に混じる。
 私はそれを誤魔化したいのかもしれない、自分の尻尾を姫と自身の隙間に滑り込ませ、
姫の恥部に掠らせるように動かして、よがり声を誘う。のだけれど、姫の湿った声は熱く
私の身体に浸透して、より自分が淫猥になっていくのが分かる。
 一方で、姫は私の首筋を愛撫される。獣の、毛に覆われ、鈍感な皮膚なれど、姫にいと
おしがられているのだという認識が、それを甘美なものへと変える。私の手には鋭利な爪
があるから、ただ姫を抱きしめてやることしか出来ないのが、口惜しい。
「レッ!ンあんっ!いやら、っ……しいの、ねっ!んやっ……!」
 途切れ途切れにも続く姫の言葉が、私を内側から、まるで犯しているかのように駆り立
てる。一年前、魔物に言い放たれた『淫乱な獣』という言葉が私の心に過ぎるが、いつの
間にかそれは、甘い蜜のような記憶へと成り代わっていて、未だに滴っている。
「ひぁ、ん……おんな、ぁあ、のこ……うぅ……な、のに、ぃ、おち……ちん、んんっ!
でぇ……エッチなっ、こ、とを――」
 ――そう、確かに私は、『淫乱な獣』だった。
 森の中で暮らしていた時も、姫との逢瀬の後に、一人火照った身体を、慰めていた。姫
の名を、うわ言のように繰り返しながら、ああ、その――、自分の、ええと、……を、ひ
たすら――背徳感に苛まれながらも、止められなくて――
 姫のことはずっと好きであったから、身体のせいじゃないのも知っていた。だから、女
性が女性を好きになる、という違和感もあったし、また身体が男性になった今では、女性
がその、処理をする、ということだって、変なことだとは思っていたけれど、止められな
かったし.、なにより――
 気持ちよかった。
461『inhuman_lovesongs』:2008/02/17(日) 15:45:10 ID:0QZEy1Dj
「ふぁ、やんっ!レイ……ひゃ、ああ、レ、ンン――」
 お互いに凌ぎ合うたびに、行為が激化していく。
 高いところから落ちるように、地面に近づけば近づくほどに、加速している。
 抵抗は加速する度に高まって、熱を帯びて全身を、欲望を刺激する。
 そして一瞬のうち、剣に閃く輝きよりも、空を引き裂く弓矢のよりも速く――
 無限大によって分割された、その無に等しい時間は、
 そこが終着点であったと知っていたかのように、
 果てしなく、引き伸ばされる――!
「イっちゃ、ああ、はぁっ!――」
 ――姫、姫!私も、いやらしい私めも、イってしまいそうです!ああ、姫と!一緒に
っ!――


 混濁した思考。

 潮が引いていくように、ゆっくりと、そこにあるものが明らかになっていく。
 
 レイン。

 レインの身体が温かい。
 薄っすらと目を開けると、舌をはみだして、上を向いている嘴。
 ……
 レイン。

 私の尻尾が濡れている。
 レインのお腹も。
 真っ赤な光が、窓から差し込んでいる。
 レインはまだ、元気そう。
 あの日と同じだなぁ、と思いつつ、私は鼻っ面を、身体の中へと潜り込ませる。
 汗と、それ以上に獣の匂い。
 きっとレインはこの匂いが嫌いだろうけど、それならばその分、私が愛せば良い。
 この身体だって、私が。
 私は自分を好きになれないけど、レインは私のことを、愛してくれるよね?
 そうだ。良いこと、思いついちゃった。

 ……
「ねぇレイン?」
「クゥ?」
 ああ、レインは、可愛いなぁ……。

 私は首につけていた、抗呪のネックレスを取り払った。
 さようなら、アトリーシャ皇女。

「続き、しよっか?」
462『inhuman_lovesongs』:2008/02/17(日) 15:45:59 ID:0QZEy1Dj
#05:Loving_Each_Other

 昨晩から降り続く雪。
 獣の目には、流れゆくそれが吹雪いているように見える。
 まだ辛うじて生きているウサギは、腹からぽたぽたと赤い雫を落とし、雪面に、新たに
出来た足跡をなぞっている。それを咥える獣は、短い呼吸を何度も繰り返して、口から漏
れる白い息を、自ら引き裂いて過ぎ行く。滑らかな動きで、尻尾をなびかせていた。
 獣が立ち止まった時には、既にウサギの息の根は絶えていて、赤い瞳が宙を眺めたまま。
 狩りの一部始終を見ていた、もう一頭の獣は、その捕らえた獲物を見て、一鳴きする。
 ――お上手です。
 それに呼応するように、狐も鳴く。
 ――ありがとう。
 言葉にないやり取りは、緩やかに舞う雪を少しだけ溶かすようにして、雪の中に消えた。
463clown:2008/02/17(日) 15:51:49 ID:0QZEy1Dj
以上です。一箇所修正があります。すいません。
>>457の頭に、

 ワーフォールへの亡命も、国家の奪還も滞りなく行われ、いくつかの武力衝突はあった

とあったのですが、コピペする際に抜け落ちてしまいました。
脳内修正お願いします。

一番不安なのは、何より各章のサブタイトルの英語です……。
464名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 19:17:26 ID:gluVAUAI
テラGJ!!
とってもよかったです!
465名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 19:18:36 ID:AWFvxqtz
GJ!
最近、四本足オス獣人フェチになってきたから、
レインの自慰報告がストライクど真ん中だった。
次の作品にも期待してます!
466名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 20:43:59 ID:Z+N9fEwu
良作キテター!
グジョブ!!
467名無しさん@ピンキー:2008/02/18(月) 20:44:54 ID:Rv433kYF
読んでくださった上にGJと、どうもありがとうございます。

変身自体がマイナーなのに、その中でも更に趣味が細分化されるので、
いつも他の人の口に合うか心配なんですが、ストライクな方がいて良かったです。
468名無しさん@ピンキー:2008/02/20(水) 19:19:49 ID:ccg4w12u
>>463
落ち着くところへ落ち着いた結末という感じがしました。読み応えがあり、
面白かったです。
中盤の肉食とラストの狩り、二つのシーンが特に印象的でした。前作の
草食と反芻もそうでしたが、やはり食べるものや食べ方の変化は変身を強く
印象づけますね。
でもグリフォンと狐だと身体の大きさがずいぶん違ってしまうような気が。
人間サイズの狐でしょうか。
469名無しさん@ピンキー:2008/02/20(水) 21:20:50 ID:zaWSbr4V
clown様GJです!主人公たちなりに幸せになれたようでよかったです
470名無しさん@ピンキー:2008/02/20(水) 21:22:01 ID:WyFtBdJF
そういえば猫天って漫画で
男性が犬人間になるやつありましたよ
471名無しさん@ピンキー:2008/02/20(水) 22:32:38 ID:9uXb/vH/
感想どうもありがとうございます。なによりの励みになります。

>>468
食事は変身の大事な要素ですよね。
行動の違いや違和感を直接描写しやすいので、つい頼りがちになりますが、書いてて楽しいです。

サイズですが、まだ人間混じりのシーンでは、骨格の変化が中途半端なのもあって、だいたい人間のサイズとして書いてました。
最終シーンでは、通常の狐と、グリフォン(ライオン大)を想定してます。
たしかにかなりサイズの差がありますが、まあきっと上手くやっていけるんじゃないでしょうか。

>>469
その『主人公なりに』ってのを目指していたので、そう言ってもらえて良かったです。

>>470
具体的にどんなシーンですか?
472名無しさん@ピンキー:2008/02/21(木) 17:38:46 ID:oZFuYLre
たまには少年主人公(視点)でTF作品を読んでみたい
473名無しさん@ピンキー:2008/02/21(木) 22:29:15 ID:4FxgkFm2
ええと、つまり…人間止めていく女の子の姿を、男の子(彼氏かな?)の視点で描けと?
474名無しさん@ピンキー:2008/02/21(木) 23:00:12 ID:7eHFvW+p
男が変身するってことじゃないんでしょうか。
確かに一作も書いてないし、試してみるのもいいかなと思ってます。
475名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 08:17:17 ID:SFTJaq+I
今気づいたが
レインが投稿された日は


俺の誕生日だ
コレは何かフラ(ry
476472:2008/02/22(金) 09:15:17 ID:qx95m7hz
はい。
男が変身するお話も読んでみたいなと思いまして。
説明不足ですみません。
477名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 15:24:40 ID:gMUMmyTA
オイラは>>473のほうがみたいな。
478名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 16:48:05 ID:ssdWyX9y
個人的には男が変身するのはみたくないです
479名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 19:21:33 ID:Nx3V+L0x
結局変身に萌えるかエロに萌えるかなんだよな
なんだかんだ言って板的に後者が多いと思われ
何が悲しくて野郎なんか見なきゃいけないんだよというか
480名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 20:16:25 ID:VTWp3FMm
変身した♂が本能に抗えず♀とのエロに走る展開で良いんじゃね
襲われた♀の方も変身しちゃうとか、
逆に♀の方が先に変身してて逆レイプされた♂が変身ってのもアリか

多分♂キャラのエロを傍から客観的に見たいんじゃなくて、
♂キャラにシンクロ・感情移入したいって話なんじゃねーの?
481名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 21:43:52 ID:ukWUJj+7
やっぱり色々な意見があるなあ。どう参考にするかは別として、面白いです。
自分はほとんど男性のキャラに感情移入出来ない分、TF趣味の中でも更にマイノリティだと自覚してますから、
スレ的にはもっと書き手が多いといいんじゃないかな、なんて身も蓋もないことしか言えません。

まあ書いてる内に自分の趣味も徐々にズレてきたりして面白いんで、
男性一本の作品にはしませんが、男性キャラの変身もあるのを書いてみたいなとは思ってます。
482名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 22:52:42 ID:Tk7rkrc/
>>481
文章レベル低くていいのであれば書いてもいいが、
このスレは基本的には異形化か蟲化と決められてしまっているので、
自分の場合は間違いなくそこら辺で悩みそう。
(例:書きあがった物が実はスレ違いだったとかで没)
483名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 23:13:08 ID:ZcjLYsOr
>>482
好きなもん書いていいじゃない。
そんな縛りはないと思うぜw

俺だって人型モンスターへの変化で投下しようかと思ってたし。
没にしたけどなw
484名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 23:44:09 ID:ssdWyX9y
人型でも人外であれば全然おkだよ
せっかくだからうpってみなよー
485名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 00:59:00 ID:pM2iGtth
変身好きがいるからこそ、このスレが存在しているのだよ
486名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 05:25:51 ID:3uO78/Ii
自分も自分の書いてるものが文章レベル高いとは思ってないです。
別に人型モンスターはスレ違いじゃないし、まずは書いてみればいいんじゃないかなあ。
487名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 13:09:49 ID:FQdIzuvp
人間♂が人外♀になるとか…?
488名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 13:14:15 ID:VhpZ7tHf
TSスレでは割とよくあるな話だが、人間の男がサキュバスに変えられてしまって
意志ではイヤなんだが、体は男の精を吸いたくて堪らなくなるとかのパターンか?
489名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 18:00:26 ID:3uO78/Ii
>>488
俺は女性がインキュバスになるほうが好きだな。
本能で不本意な欲求の解消に走るようになるのは変身の大事な要素だと思うな。
490名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 19:09:50 ID:W34KquTu
また趣味の話か
491名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 19:48:33 ID:PDkL2vpS
半虹TFスレの荒らしがこっちに来たか…
492名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 22:14:33 ID:teKXqZjK
安心しろ。過疎すぎて無視できるだろ。
493名無しさん@ピンキー:2008/02/24(日) 08:08:02 ID:IZS4fNXp
むしろ最近、ここの書き込みが多くていいね。
494名無しさん@ピンキー:2008/02/24(日) 21:02:30 ID:H3/HD+DF
1ヶ月前の作品で今更ですけど、再生蟲
とても良かったです。
495名無しさん@ピンキー:2008/02/25(月) 22:40:11 ID:nnERkcg7
     <Y7
     | |   /i  iヽ
    ,-| |-、 ((__))
  V.( ´・ω) (・ω・`) /⌒ヽ
( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` ) _  _  _  _
| U(  ´・) (・`_ _) とと `´)`´)`´)`´)`)
 u-u'∈∋ ) ( ヾ Yソ  `u-u-u-u-u-u'´
    (〓)u'  `uVu
     Y´
496名無しさん@ピンキー:2008/02/26(火) 02:18:09 ID:RH+/watw
>>495
こんな描写を見てみたい・・・。
497名無しさん@ピンキー:2008/02/26(火) 05:46:27 ID:jfD8/G0+
>>495
かわいいw
498clown:2008/02/26(火) 11:29:06 ID:R9109zf7
短編投下します。また女の子主人公で一部の人ごめんね。
前作みたいにキュンキュンしてなくてごめんね。
499『いばらのライフライン』:2008/02/26(火) 11:31:34 ID:R9109zf7
 処刑台には一人の少女に、鎧を身に着けた兵士が三名。
 それを遠巻きに見るのはこの国の民衆で、その多くが野次馬だったが、そればかりでは
ない。処刑台に拘束されている少女に親しかった人も、また敵視していて、ざまあみろ、
と嘲笑しに来た人も、沢山いた。
 大広場は喧騒に溢れていたが、同時に得体のしれない静けさも孕んでいる。音もなく舞
い落ちていく白い雪が、それを中途半端に吸収しているようだった。人だかりと処刑台の
間にある空間、広場周辺の店舗の屋根や、街灯に降り積もった白は、元々黒色だった石材
の下地を透かしていて、その灰色は、まさに雑音そのものであるかのよう。
 処刑台の少女は、そんな光景を目にしていたものの、まるで眼中にない。彼女なりに平
和だった日々が、瞬く間に瓦解していった顛末や、師の言葉や仲間のことなどを、時々思
考を飛躍させながらも、回想していた。微動だにしない様は、傍から見れば気絶、ないし
は事切れているようにも見える。
 一部の低俗な民衆は、それを「つまんねぇぞ!」とどやすが、無論彼女の心には届かな
い。ほとんど閉ざされている彼女の精神は、しかし未来に絶望しているわけでもない。あ
る種の無関心――諦観から、負の要素を抜いてふやかしたかのような、そんな念に満ちて
いた。
 ロープで拘束されていた少女の身体に、より頑丈なそうな鎖が巻かれるが、それは緩や
かに巻きつけられて、少女の束縛を高めるものではなかった。ジャラジャラと、弛んで引
っ掛けられている程度で、少女当人も、すぐにそれが何のためなのかは、分からなかった。
「準備が出来たぞ」
 鎖を掛けていた兵士が、他の兵士に呼びかける。その兵士は小さく頷いてから、兜の顔
面覆いを上に持ち上げ、その顔を晒した。少女はその男の顔を知っていたが、何も言わな
い。男も目さえ合わせない。深い仲ではなかったが、今では何を話したとしても、余計な
ものとなってしまうと、お互いが知っているかのように。
「ただいまより、魔女、ミリイータ=ホワイトベールの処刑を行う」
 顔を晒した男は、仰々しい言い方で、声を張り上げた。ブラウン運動をしているように
行動の定まっていなかった民衆も、それを聞いて全員が、処刑台へと視線を戻した。
 少女、ミリイータも、改めて人々に目をやった。その中にも知ってる顔がいくつかある。
宿舎の傍にあるパン屋の主人や、同僚に当たる人間もちらほら。正味な話、この刑罰にシ
ョックを受けているのは、他ならない彼らだろう。彼らにとっては、彼女が裁かれる理由
に、何一つ納得出来ないはずだ。
 ――私だって、出来るならばこんな刑罰なんて受けたくはないし、実際のところ魔女な
んかでは勿論ない。国に尽くしてきて、最後にこんな扱いだなんて理不尽だとは思う。で
も、私が命を賭して戦ってきた意味が、私が犠牲にならなければ成就されないというのな
ら、選択の余地なんてないのだ。そして選択の余地がないならば、やはり決死の覚悟で、
それを全うするしかない。不器用だが、それが私のやり方なのだ。
 顔を晒した男は、懐から小瓶を取り出して、それを民衆へと掲げてみせる。乳白色の陶
器で、当然ながらその中身を窺い知ることは出来ない。
「この中に、特殊な方法で処理された、聖水が入っている――」と、長々とそれについて
話す。どうやって作られ、いかに聖なるもので、素晴らしいかを述べる。一語一句決めら
れた言葉で、そこに彼の私情は一切関与していない。
「そしてこの聖水を受けた悪魔は、その神の大いなる力により、その姿を露にするだろう。
更に、身体に巻きつけられた、経典の刻まれた鎖は、魔の力を封じ込める。力の抑えられ
た悪魔は、神の裁きを受け、我々人間に仕える、従順な畜生へと転生するのだ」
 なんて言うが、その場にいる人間やミリイータ、そして喋っている本人にとっても、そ
れが上辺を見繕った話であるのは知っていた。一部の熱狂的な信者だけが、その聖水と口
上をありがたがっているが、実際のところ、聖水なんかでは決してない。
 『獣化薬』、一般にはそう呼ばれている、薬だ。
 王お抱えの錬金術師が完成させた、人を獣へと変える魔の薬。神聖なんてありやしない、
それどころか生成するのに何百頭もの動物の生き血を要するという、恐ろしく邪悪なもの。
わざわざ聖水だと偽っていること自体、後ろめたいものがあるというものだ。
 だが、誰もそれを咎めはしない。誰だって、そんな薬を飲みたくはないのだから。
500『いばらのライフライン』:2008/02/26(火) 11:34:51 ID:R9109zf7
「それでは、この神聖なる水を、魔女に飲ませよう。もし彼女が善良なる人間であるなら
ば、この聖水は彼女を癒すであろう。もし彼女が魔女であるならば、先程述べたとおり、
その悪しき姿を曝け出すであろう」
 兵士はその蓋を開け、一度高く掲げてみせ、そのままにもう一度声を張り上げる。
「だが、神判の前に、僅かな猶予を与えよう。さあ、何か残す言葉はあるか。――それが
呪詛でないならば、神の御心によって、発することが許されよう」
 しばらくの沈黙の後、ミリイータは一度唾を飲み込んでから、言葉を発する。
 発せられた言葉はハッキリと、よく通る声で、途切れることなく最後まで続いた。仰々
しく、若さ故の高い音であれど、重い声。傲慢な語り口に、一際分厚い雲が太陽を隠して、
広場に陰が落ちた。
「ご存知の通り、私はレッドベールと呼ばれ、戦場を血に染めた戦士であり、そして今度
はこの街を血で染めたが故に、魔女の烙印を受けた。私はまやかしを使わない。人の心を
惑わしも、炎をまるで飴細工のように捻くりまわしなどしない。私は、身にそぐわぬ剣を
振り回し、盾や甲冑を物ともせずに砕き、ひき潰す戦車だ。夥しい量の返り血を浴びた私
を、諸君らは邪だ、と思われるかもしれないが、それでいい。だが、その聖水とやらで私
を断罪出来るだろうか?それは否。私の破壊的な欲求は、屈辱的にも抑えられてしまうか
も知れないが、決して潰えることはないだろう。しかし安心して欲しい。諸君らが凱旋パ
レードで祝福した、我が国の兵士ら、英雄らに混じっていた、邪悪な分子は取り除かれる
のだ。神の裁きとやらで得られるものとしては、中々十分ではないか。もし、それ以上を
望むのならば、私は一向に構わない――命の保障はしないが」
 誰もが、その真意を疑うこともなく、そこに悪魔の介在を認めた。彼女を知る兵士も、
パン屋の主人も。ミリイータ本人でさえ、あたかもそれが自分の言葉ではないかのように
錯覚して、脅迫めいた締めくくりの後の沈黙は、非現実さを解消するためにその場を満た
していた。
「……良いか?」小瓶を持つ男が恐る恐る訊ねると、少女は尊大な態度で頷いた。さなが
ら一国の王の如く、まるで彼女に主導権があるように。
「では、いざ神判に参る」彼が他の兵士に目配せをすると、兵士はミリイータの顎を掴み、
持ち上げ、そして強引に口を開かせた。彼女が抵抗するので、兵士は指先をその肌にめり
込ませるほどに、強く掴まなければならなかった。
 顔を上に向かされ、無理に口を開かされた状態でも、彼女の視線はそれを行う兵士を挑
発的に睨んでいて、遠めに見る民衆も、それら一つ一つの挙動を知ることは出来なかった
が、不穏な雰囲気に恐怖を抱いて、見守っていた。
 小瓶が再度掲げられ、
「さあ、神判を!」と叫ぶ。
 そして彼女の口に、その液体は注がれた。

 もう、元には戻れない。
 地面に落ちた雪はそのまま解けてしまうしか道がないように、私はもう、人外に落ちる
しか道はない。解けた雪が再度、雪として降り注ぐには、蒸発して、もう一度空へと上が
らなければならないように、私が再度、人の道を歩むには、死んで、もう一度生まれなけ
ればならないのだ。
 しかし、そうした選択肢のない運命というものは、今に始まったわけではない。私はず
っと、ずっとそうだったのだろう。帰る場所はなく、戦友が家族、戦場が居場所だったの
だ。そんな人間は、剣に、自分の居場所を作るために、全てを費やすしかないのだ。草を
薙ぐさながらに、人を薙ぎ、薙ぎ払ったその場所に、自らの安住を見出すしかないのだ。
 『レッドベール』という二つ名は、そんな私に恐怖を見出した人たちから受けた。それ
は武勲でもあるから、力を評価されたことは素直に嬉しいと思う。けれど、私は人を殺し
たいから戦っているわけではない。私なりに、平和であればいい、そうすれば誰も死なな
い、それに越したことはない、と思っていた。戦いがなくなれば、砕かれた棒が幾多に裂
けるように、私の運命だってその変容を見せてくれるだろうし。
 私は行き過ぎたのだ。他に道がなかったから、私はただ真っ直ぐ、見える道を歩いてい
けばよかった。だから、周りの人が、迷いながら、手探りに、数々の分岐点がある道を、
ときどき踏み外しながら進んでいく間に、私はずっと、遠くの方まで来てしまった。
 道は引き返せない。
 そして、私の道は、人としての道は、目の前で途切れている。
 でも、躊躇わずに飛び越えよう。いっそのこと助走をつけて、走って。
 それが残された者への、最愛の人たちへの、置き土産になるのだから。
501『いばらのライフライン』:2008/02/26(火) 11:40:06 ID:R9109zf7
 ミリイータは、むせそうになりながらも、ニヤリと笑みを作って見せた。吐き出させは
しない、と兵士はまだミリイータを拘束して、今では口を開かないように押さえつけてい
る。
 冷たい液体が喉を通り過ぎると共に、それは強烈な、痛覚に近い熱を帯びた。まるで鞭
で打たれたような感覚が、ミリイータの体内に迸り、それは次第に、酷くなっていく。そ
してまるで内臓を溶かしていくかのように、全身へと浸透していく。
 ミリイータは歯を食いしばり、唸り声を上げた。それだけで痛みは発散し切れるはずも
なく、束縛された体を跳ねさせる。ロープの軋む音に、掛けられた鎖の音が騒いだ。
 しばらくして兵士が手を離すと、少女は唸り声を昇華させるように、絶叫した。薬を受
けて喉をおかしくしたせいか、その声は濁っていた。絹を裂くような甲高い声が焼け爛れ
た叫びは醜く、まさに魔女だ、と民衆に錯覚させる。
 激痛に襲われている彼女に、それを気に掛ける余裕はまるでない。一瞬を長いのか、短
いのかも区別が付かないままに、ただそれが止むのを耐え忍ぶ、もとい、それに振り回さ
れるだけしか出来ない。一騎当千と称えられる戦士であっても、死に漸近する痛みに、涼
しい顔ではいられない。不幸なのは、なまじ強靭な肉体、精神力を持つがために、失神な
いしショック死を起こすことなく、それを正面から受けざるをえないことだ。
 少女も、その薬を服用し、かつ精神を保っていた人間全てと同様に、渦中、ひたすらに
死を願望した。身体の全身の神経を、バラバラに引き裂かれるような感覚は、麻痺も、慣
れることもなくして蹂躙を続ける。
 爪が爆ぜ、筋肉は引き裂かれながらも、その量を増やす。骨はそれに押されて、砕ける
ようにひしゃげるが、同時に骨が再形成されると共に、その鋭利な骨は、出来立ての筋肉
を突き刺す。当然、全身を覆う皮膚もその変化に揉まれていて、見る影もない。全身の絶
え間ない出血が、皮膚が裂け、むき出しになった肉と相まって、処刑台には得体の知れな
い、赤い塊があるようにしか見えない。
 叫び声は、時に血が喉へと流れ込んで、ガボガボと苦しげなものに変わり、また気管や
声帯も当然、その変化を受けているから、あたかもそれを耳にした側の聴覚が異常を来た
しているかのように、絶え間なくその形を歪ませていた。

 私に課せられた最後の任務は、偶像になれ、というものだった。
 先日、軍のある一派が、市民との間でゴタゴタを起こした。近年は流行り病や飢饉が度
重なっていたのもあって、国民の不満が高まりつつあった中の事件は、より政府に対する
風当たりを強くし、その不満が爆発する足がかりになっていた。
 その一件から自警団の動向が不穏になったし、軍の方もパトロールの強化を余儀なくさ
れて、まさに一触即発、という状態にまで、事が発展してしまった。
 厄介なのは、その一派を取り仕切っているのが、王家の血族であり、また強力な権限を
持っているが故に裁くことができない、ということだった。幸いそのことは国民に知られ
ていなかったが、もしそれが明るみに出れば、それが反乱のきっかけになるのは火を見る
より明らかであった。
 そこで、私が代わりに、そのゴタゴタの原因として、裁かれろ、というのだ。
 国民に名は知られているし、ある種の畏怖も抱かれている。そして政治的なしがらみも
ない。家族もない、帰る場所もない。戦友だって、戦友にとっては私は、数多い仲間の内
の一人でしかない。何より、女だ。軍に女性がいること事態がイレギュラで、私の名前が
知られるようになってから、風当たりは強かった。
 私も自分が一番の適任者だとは思う。だからこそ、受け入れざるを得なかったのだ。
502『いばらのライフライン』:2008/02/26(火) 11:43:35 ID:R9109zf7
 広場は静まり返った。
 処刑台の周りは、血混じりに溶けて水っぽくなった雪に染められて、この世のものとは
思えない光景となっていた。身体を肥大させた、魔獣レッドベールは、縄を断ち切り、代
わりに強固な鎖で束縛されていた。尚もポタポタと赤い雫をこぼしながら、項垂れている。
 処刑台の下で控えていた兵士らが、順々に段差を上り、枝分かれして中途半端に切れて
いる鎖を掴むと、処刑台に括り付けられている部分を外した。魔獣レッドベールは強制さ
れていた姿勢から、力なく倒れて、引かれるままに身を地面に打ち付ける。
 だが、そのまま広場から輸送されるのだ、と気付くと、途端にその四足で地面を掴み、
腹の底から、まるで冬に落ちる一際強烈な霹靂のような、貪欲な雄たけび、唸り声を上げ
ては、その身を揺すって抵抗した。
 怪力に任せて兵士らを振り回し、怪我を負わせたりもしたが、増援によってより強固に
束縛され、檻まで引き摺られるようにして連れて行かれた。道中、その抵抗をまるで緩め
ることなく、誰もにその凶暴さを印象付けた。言葉の通り、己こそが暴力の権化だ、と示さ
んばかりに。

 私には選択の余地がなかった。
 魔女ではなかったが、献身的な、悲劇の英雄でもない。
 それどころか、誰かを守るために戦う兵士でもない。
 自分の居場所を守ることしか出来ない、弱者だ。
 私が、血塗れた魔女をあえて大げさな程に演じたのも、弱者なりの意地なだけ。
 決してそれは強さとか、使命感ではない。
 もっと泥臭くて、むしろ非難されて当然な『エゴ』だ。
 誰かを恨むつもりもない。
 この運命を呪うつもりもない。
 ただ、叶うならば――
 ささやかでもいい、ミリイータ=ホワイトベールに、哀悼を。

 戦いに明け暮れる毎日。私の居場所は戦場で、今もなお同胞と共に生きている。地面と
自分の体を血に濡らして、そしてその血を渇望しながら生きている。その渇望が止めば即
ち死、その渇望に浸り切れば、それもまた、ミリイータの死を招く。
 こんなのは自分じゃない、と感傷に沈むのは簡単。
 これが今の自分なのだ、と諦観に耽るのも、安易。
 虎の牙は容易に骨を砕いて、脳漿交じりの血を嚥下する。
 蜥蜴の尻尾を振り回せば、櫓も塀も一捻り。
 牡蠣のような硬い殻に覆われた体には、斧さえ刃毀れする。
 拳は戦槌よりも重い。
 その巨躯を躍動させる太い足は、石畳にさえ足跡を残す。
 あの日の私の演説は予言だったのだろうか?と回顧せずにはいられない。
 相変わらずの一本道で、次の終着点を遠方に見出しながらも、やっぱり進むことしか出
来ないでいる。
 勝利の祝杯をみんなと一緒にあげれないのは悲しいけれど、私の住んでる檻の中は、私
だけの寝床。寝返りも碌に打てないし、格子は雪を通し、私の昔の名前を思い出させるけ
れど、けれどそれはいつもそこにあって、私のことを待ってる。
 充足した毎日――いや、きっとそれは違う。
 私の霞んだ思考はもう、何が無いのか分からないだけ。
 でもまあ、幸せだ。
 誰だって、眠るように死にたいもの。
 誰だって、騙されていたいもの。
 羨ましいでしょう?
 何をすればいいか、なんて考える必要がないなんて。
 誰かに肯定して欲しいと思わないなんて。
 意味を見出さなくていいなんて。
 問われないなんて。
 悩まないなんて。
 ――なんて。
 ――て。
 ――
503clown:2008/02/26(火) 12:05:47 ID:R9109zf7
以上です。何故か短編なのに長編ぐらい書くのに時間かかりました。
会話がないと辛いです。
504名無しさん@ピンキー:2008/02/27(水) 16:55:35 ID:/iP0GDOH
>>499-502clown様乙です!
感想遅れました。書くのに時間をかけたものなので、読むにも時間がかかるのだと思います。
(他の方もそうなんじゃないでしょうか)。
魔女狩り的な罰としての獣化というアイデアが面白かったです。
心理の流れもこまやかで入り込めました。

ただ、こちらの不注意なのですが、最後のシーンがちょっと分かりにくかったです。
途中の「我々人間に仕える、従順な畜生へと転生するのだ」
のセリフをちゃんと押さえていなかったので、
「きっと獣化させて見せしめにしてその後殺される予定なのだろう。
でも脱走して野生化するんだろう」と勝手に思いこんで読んでいたため、
戦場で昔の仲間と一緒に戦っているのだ、という状況を即座につかめませんでした。
まあこちらの読み落としなんですが、特異な世界のしきたりなので、
説明は詳しい方が親切かもしれません。
ついでに言うと、「レッドベール」として武勇を発揮していた頃の描写が
ちょっと入っていると(時系列は前後していいので)キャラが掴みやすいし、
最後のシーンとの対比も生きてくるかな、とも思いました。

なんか注文が多かったですが力作だと思います。
お化け屋敷の話もそうでしたが「腰据えてじっくり読んでいく」楽しみがあります。
次回も期待しています。
505名無しさん@ピンキー:2008/02/27(水) 18:37:30 ID:NCnhWitq
GJ
506名無しさん@ピンキー:2008/02/27(水) 22:23:32 ID:NjK9ZCsY
読んでくれてありがとうございます。GJどうもです。

>>504
タメになるご意見、ありがとうございます。
仰る通りだと思いました。
説明不足の点は、色々と大幅に端折ったときに消しちゃったのですが、誤った判断でした。
彼女の武勇伝についても、確かに元ネタもありませんから、描写した方が良かったなと思います。
重ね重ね、ご指摘、ありがとうございました。今後も忌憚のない意見を頂けたらな、と思います。
507名無しさん@ピンキー:2008/02/28(木) 06:35:00 ID:6CIpYuN8
乙です今回もよかったです

しかし思うんですがこのスレ非常に頭のいい女性が
変身する傾向がありますよね
駄目出しじゃないんですが、もっと普通の子が
普通の素直なリアクションをとるような作品も読みたいかなあとは思いますね
508名無しさん@ピンキー:2008/02/29(金) 19:09:00 ID:LT5yTf3f
>>507
読んでくれてありがとうございました。

確かにそんな傾向、ありますね。
私個人に限っての話ですが、変身に対する心理的反応に独白をメインに使う以上、
複雑さを削いだ言い回しが不得手で、そうしないとかなりやりづらいんです。
純粋な嫌悪よりも、羞恥心にスポットを当ててるので、ある程度プライドが高い女性の方が都合良いし。
まあ、現在書いてるのは割と、年相応なキャラクタです、今の所は。
509名無しさん@ピンキー:2008/03/01(土) 13:20:49 ID:xgoXycen
>>503
遅ればせながら感想を。
いつもながら(と、そろそろ言ってもよさそうな気がします)ヒロインの諦観の
心理描写に長けていますね。
そこでべたついた自己憐憫に浸ってないから、乾いた凄みのようなものを
感じさせられました。
贅沢なもので、こうなると時にはヒロインがもっと戸惑ったりうろたえたりする姿を
見てみたいとも思ってしまいますが。

>>507
自分で書いてる分には、あまりそういう意識はないんですけどね。
ドラマの形として、「運命に流されるまま可哀想になっていく物語」よりは、
「状況に抗って、その場その場で最善と思われる手を打って、それでも
避けようのなかった結末」みたいな展開の方が好きなもので、結果的に
頭がいいという印象を与えるのかもしれません。
もちろん>>508さんがすでに挙げているように、羞恥心とプライドの問題も
大きいですが。
510名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 07:32:45 ID:CLIX4t1o
保守
511名無しさん@ピンキー:2008/03/06(木) 04:08:25 ID:9mQn9wDz
保守
512名無しさん@ピンキー:2008/03/09(日) 14:54:13 ID:W+N+Iems
>>509
感想ありがとうございます。
そういった印象を与えられるよう、励んでみた甲斐がありました。
ヒロインがうろたえるのを多く描いてきたし、これからもそれに偏るつもりでしたから、
あえて今回は、という思惑で書いてみました。

ベストを尽くして、でも、という展開のほうが、カタルシスが違いますよね。
普通のキャラクタの主観では、変身を望むなんてありえませんから、死に物狂いで抵抗しますし。
513名無しさん@ピンキー:2008/03/12(水) 13:28:55 ID:Enl+cfiT
保守犬
514名無しさん@ピンキー:2008/03/13(木) 01:42:39 ID:PWAWjeCV
個人的には彼氏が変化したところで彼女を襲うネタが読んでみたい。
けれど異種姦ネタになりそうだな。
悶々としながら寝ます。ノシ
515名無しさん@ピンキー:2008/03/13(木) 16:07:06 ID:frn2irMz
>>514
「どうしたの?ヒロシ?…ひっ!!いや!いや!…(中略)…ガルルルル」
みたいな?たしかに、あまり考えたことないシチュだけど、いいですね
516名無しさん@ピンキー:2008/03/14(金) 06:06:59 ID:dTQYZH67
>>514
ワーウルフなら、十分このスレの範疇にあるかと。
517名無しさん@ピンキー:2008/03/14(金) 10:28:47 ID:RVeLtAf7
>>514
【獣人】亜人の少年少女の絡み6【獣化】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1197755665/
も見てみると良いかも。ただの獣人含めそういう絡みが主なスレ。
こっちのスレよりも歴史古いし、過去にはそういうのが上がってた様な。

勝手な思い込みだけど、変身に重きを置いてるのがこっちで、
そういう絡みに重きを置いてるのがあっち、と住み分けてるのかと思ってた。
518名無しさん@ピンキー:2008/03/14(金) 11:00:18 ID:17+5dv2V
厳密に線引きされてるけど、そうなってるよね。
個人的にはスレを一本化したほうが良いと思うんだけども。
519名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 06:01:14 ID:RGado2b+
あっちは蟲化とか不定形化も範疇なの?
520名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 07:15:02 ID:xQQDaZrK
>>518
あっちは獣化寄りにはなってるけど、
変身無しな元々獣人の絡みとかもありなスレなので、
一本化したらそっち系の人がいい気分しないかもね。
獣化寄りな流れ過ぎて不満が上がった事もあるし。

>>519
絡みさえきちんとやってくれれば。
前に蜂人化♀とかあった様な。
521名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 09:26:37 ID:kA1qI2Rt
>>520
そうですね、やっぱり一本化しないほうが良いですね。
522名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 14:05:30 ID:Kp05CuKO
ただ、一本化するほどではないのだが、境界線が曖昧な気はするな。
獣化系をどっちに投稿したものか。どういう要素があちらのスレ向きでどういう要素があればこちら向きなのか。
獣化を扱い始めたのも向こうの方が先なんで「変身系は全部こっちに移ってください」ってのも無理がある気がするし

まあなんとなく雰囲気が違うのはわかるんだが、あくまで「なんとなく」だしなぁ。
523名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 16:55:30 ID:kA1qI2Rt
被ってるけど、あっちが完全に上位互換か、というと違うんだよなあ。
多分ここ見てる人は向こうも見てるだろうけど、向こう見てる人にはここ見てない人もいるだろうし。
向こうが枠を広げてくれたら一本化も問題なさそうだけど、そうするほどのメリットは薄いかな。
524名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 17:29:18 ID:UdRi6CBV
まぁ、別にあっちとこっちで喧嘩してる訳でもないし
ぬる〜く共存してけばいいんじゃない?

俺個人としては、こっちには変身を
あっちにはエロを期待して両スレを見てるが
525名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 09:33:12 ID:w1J2AlrA
俺は向こうはとにかくモフモフした動物と家畜の流れで
こっちはツルツルというか鱗系とか虫系とか生き物だけど哺乳類ではないものの流れだと思てた。


TFは別に付加要素だと思うんだ。
どっかの二次作品ならそもそもTFはつけられないこともあるだろうし。
526名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 11:10:45 ID:TX+PbIb2
>>525
こっちも哺乳類あるし、ここはTF必須じゃね?
527名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 15:56:40 ID:czr5CWLn
>>525
TFは付加価値って…
こっちはむしろ逆にTFがメインだろうよ

と思ったが
案外とTFをその程度にしか思ってない住民て多いんかね?
TFはエロなりなんなりを引き立たせるスパイスであって
別にメインで食いたいものじゃないとか
528名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 16:31:55 ID:PyIdZSIs
TFはおまけ、って思われても読んでもらえれば幸いだよね、とか言ってみたり。
まあTFを重きを置いてるのは変わらんから、多分他所より物足りない作品に思われそうだけど。
TF趣味がなくても、鬱展開にはぴったりだけどね。(そればかりじゃないけど)
529名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 17:41:46 ID:2HTkBRfR
俺にとってはTFがメインであとはおまけ
530名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 18:24:42 ID:4kzpd/Hl
TFの存在意義が分かってない奴が多いと思う
531名無しさん@ピンキー:2008/03/17(月) 01:12:55 ID:k/mihTcB
俺的には獣化・モンスター化とかはTFの後の性描写は
消化試合だな。(それはそれとして楽しませてもらってるけど)
532名無しさん@ピンキー:2008/03/17(月) 12:02:54 ID:YmzHcLwa
向こうのスレでエロ付きTF話を書いたことのある者だが、
TF描写で充分なエロスを感じさせられるならエロシーンは別に要らないっぽい人は向こうにも居て、
TF単体でも良いのだろうかと感じたことは向こうでもある。

問題は「エロスを感じさせるようなTFシーン」というものを
どうやって書けば良いのかわからない、ということだが。
なのでエロとセットでお届けしている。
533名無しさん@ピンキー:2008/03/17(月) 17:06:17 ID:+0ODRz7c
>>532
エロシーンは別に要らないって、スレタイの絡みって部分無視してるな…
でも、そう聞くと後発のこっちはやっぱりあっちと合流するのが筋なんかね。
ますますTFだらけになって、TF無しの亜人の絡みを求めてる人には申し訳なくなるが。
534名無しさん@ピンキー:2008/03/17(月) 17:48:06 ID:YmzHcLwa
>>533
別にそこまで言うわけではなくて、エロイTFシーン書きてぇなあっていうだけですよ
全員が全員TF好きってわけじゃないだろうし
535名無しさん@ピンキー:2008/03/17(月) 21:35:56 ID:HJbYFjpZ
まぁ、要するにだ…自分が書きたい物を書けって事でFAじゃないのかい?
人を意識するのは大事だと思うけど、抑えすぎるのも作品にとってよくないと思うんだけど。
536名無しさん@ピンキー:2008/03/17(月) 21:58:36 ID:QMYVkuwH
そういえばRSってフリーゲームにここに該当するような話があったよ
537名無しさん@ピンキー:2008/03/17(月) 23:37:49 ID:1L2wn6gZ
というか読み手の趣味を気にして書いてる人っている?
どう読まれるかは重要だと思うけど。

RSってアンディーメンテか。
538名無しさん@ピンキー:2008/03/18(火) 02:05:11 ID:h1T/D7k0
そのRSってのをkwsk
539名無しさん@ピンキー:2008/03/18(火) 21:56:09 ID:LyXFAXkC
えーとそのシーンはたしか40時間くらいやらないと行けなかったかな?
うる覚えだけど宇宙船が不時着してある星で暮らすことに鳴るんだけど
人の数が少ないから近親交配っぽくなって遺伝子的にきつくなって退化したんだけど
その退化した人が遺伝子を改善するために他の生物となんかしてその生物を意図的に進化させるとか・・・
540名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 15:31:43 ID:sQiaSkO3
いつの間にか残り50KBを切ってますね。
普通のスレだと900レスを越したくらいの残量になるのかな
541名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 17:16:57 ID:fx2bp6yG
そんなもんなのか。
このスレでもう一本投下するのは危険?次がいい?
542名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 21:19:20 ID:a/8anjYb
テキストをアプロダに上げるのが安牌だが、面倒草津。
543名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 21:43:42 ID:sVtne2rF
>>541
ていうか、ここ次あるの?
いや、前まで何か揉めてたからさ…
結局、あっちはあっち、こっちはこっちでやってく事になったの?
544名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 22:00:01 ID:fx2bp6yG
アプロダか。一旦テキストファイルに書き出す身としては投下より楽だけど、見る方が面倒そう。

次スレはいるでしょ?一本化賛成は弱く、スレ消滅の意見もないし。
545名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 22:54:46 ID:a/8anjYb
うん、別に今のままであちらは何もそういう話すらあがってないからいいんでないこのままで
546名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 23:57:01 ID:sVtne2rF
ん、分かった。ありがと
何かうやむやに終わったからちょっと気になってたんだ
547名無しさん@ピンキー:2008/03/21(金) 01:43:57 ID:WU+4s0rE
容量が不安ならとっとと次スレ立ててしまうのも手じゃないかな。
とか言ってみる。
548名無しさん@ピンキー:2008/03/21(金) 09:38:44 ID:TLQpdFS1
トラップカード発動!!
[言い出しっぺの法則]
549名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 00:31:26 ID:sl89EFyA
まあ投下がなかったら、この過疎ぶりだとかなり持つんだけどね。
550名無しさん@ピンキー:2008/03/23(日) 01:16:53 ID:ohDPkYqo
何かの参考にするわけでもなく聞いてみるけども、
強制的な変身じゃなくて、『非』強制的な変身が好きな人っている?
551名無しさん@ピンキー:2008/03/23(日) 01:44:41 ID:hoKv6Grx
任意系が好きだなー。追い詰められて嫌がりつつもグロい姿に変身とか萌える。
552名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 00:21:45 ID:itPzumWK
>>544-547
どうせほとんどの住人が向こうと掛け持ちだろ?
553名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 15:28:36 ID:iZpy4eeh
「どうせ」とか言わない
554名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 23:14:04 ID:kAzyLFw1
>>552
それを言ってしまってはこのスレと向こうのスレが別々に存在している意味がなくなるんじゃね?
555名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 23:19:21 ID:sZj89avr
こっちは小説用で向こうは画像用ってことでいいんじゃね?
556名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 23:33:01 ID:sZj89avr
スマン、誤爆OTZ
557名無しさん@ピンキー:2008/03/25(火) 00:17:08 ID:ILY8lJNQ
>>556
まぁ、良くある事だ…気にするな。
でもまぁ、あれだ…似たようなジャンルを扱う以上は合流してテンプレを見直すってのもありかもしれんね。
好みじゃないジャンルだとしてもスルーとか……。
558名無しさん@ピンキー:2008/03/25(火) 01:05:09 ID:UFSpLrVt
>>556
んー、アンカーミス……だよね?

ここ見てる人の大半は向こうみてるだろうけど、向こうみてる人がこっち見てるかどうか別だし、
まあ現状維持でいいんじゃなかろうか、って上の方でまとまってるんじゃない?
559558:2008/03/25(火) 03:37:37 ID:nWamfGff
うわ、携帯で見たら正常だ……。
どうも専用ブラウザがアレだったらしい。スルーしてくれ。
560名無しさん@ピンキー:2008/03/25(火) 10:19:52 ID:QhYfFe1Y
向こうのスレにも書いたが、今のところ選択肢は
1:異形化スレが亜人スレに合流する
2:亜人スレのTFジャンルが異形化スレに移動する
3:とりあえず現状維持
ってところか? これ以外にも他のやり方があるかも知れないが。

1は手っ取り早いし純粋に人口増加するが、
蟲化・不定形化などのハードなものには一部難色を示される可能性がある。

2は住み分けのラインがハッキリするが、元は亜人スレの方が先に初代スレからTFネタを扱ってたので
今さら移住しろと言っても心情的に抵抗があるかも知れない。

3はまあ、今まで目立った問題も起きてないしこれでいいのかも知れないが、
似たようなスレが複数存在してる面倒さとか過疎化の可能性とかは残ることになる、と。
561名無しさん@ピンキー:2008/03/25(火) 10:40:41 ID:mdcSf1Ce
今のままで別にいいだろ。
異常に過疎でもないし。
というかどこから話が揚がったんだ?
562名無しさん@ピンキー:2008/03/25(火) 17:49:15 ID:5AtwgeAB
>>560
>>557の件について言っているのならば申し訳ない。あくまで可能性の話として出しただけなんだ。
今現在についてはいきなり「こうなりましたから」って言ったとしても皆ついてこれないと思うから現状維持の方がいい気がする。
563名無しさん@ピンキー:2008/03/25(火) 18:09:09 ID:uRESUdsZ
スレ統合する必要性あるの?
なぜこの話になるのかまったくわからないのだが…
564名無しさん@ピンキー:2008/03/25(火) 18:42:01 ID:UFSpLrVt
一番初めに話題に挙げたのは俺かな。
スレ内容が結構被ってるから、一本でもやってけるだろうと思って提案してみたけど、
上で色々と話されてるように上手くいかない点の方が多いから、現状維持でいいと思う。
何か問題解決の為の提示とかじゃないです。場を混乱させてすまん。

565名無しさん@ピンキー:2008/03/25(火) 20:41:39 ID:dVwSBQw+
結局はめんどくさがらないで次スレ立てろってことだよね。
きりがいいので統合とかじゃみんな納得しないでしょうし。

で、投下待ちの人の作品も控えてるので 
  次スレまだー?(AAry
566名無しさん@ピンキー:2008/03/26(水) 00:48:19 ID:p+VTNo/e
控えてないよ、まだ書き途中だよ……はっ、もしや俺がMだと知ってのその発言か!
畜生、次スレまでに書き終えるぞ…!
567名無しさん@ピンキー:2008/03/26(水) 01:38:12 ID:L+WeLWgT
なんつーか
ttp://www2u.biglobe.ne.jp/~bell-m/bunko/22_kemono/e-034.htm
ttp://e-jins.sakura.ne.jp/blog/archives/2006/10/30_152100.php
みたいに自分のペットに主従逆転される話が読みたいな
おまえは自分を従えるのに足る人物ではないからこれからは私が主人だとか
なんなら私と立場交換します?みたいな
飼い主が獣化してペットが人間化する話が読みたい
568名無しさん@ピンキー:2008/03/26(水) 11:18:28 ID:ot+dE32h
>>569
どういう話が読みたいか決まっているなら、いっそのこと自分で書いてみてはどうだろう。
569名無しさん@ピンキー:2008/03/26(水) 14:08:49 ID:WtpUOrbV
567じゃないが、どういう話が読みたいかは決まってるが、俺には文章力がないぜ・・・
570名無しさん@ピンキー:2008/03/26(水) 15:53:36 ID:HLF/dudb
>>569
文章力がない?
そう思ってるのは自分だけかもしれないぞ!
大丈夫、変身(投下)の苦しみは一瞬だけだ。
571名無しさん@ピンキー:2008/03/26(水) 17:43:31 ID:S8z9FovG
文章力の有無は書き手が判断することじゃない、読み手が判断することだ。
よって自分で評価せずに投げるがよろし。
572名無しさん@ピンキー:2008/03/27(木) 08:46:08 ID:cA2ivXGG
そういうのって、文章力がないんじゃなくて、書く気がないのをhごまかしてるだけ
573名無しさん@ピンキー:2008/03/27(木) 10:40:42 ID:SuA4y/Vt
やめて、死者のライフはもうゼロよ。
574569:2008/03/28(金) 00:37:44 ID:BHCxxuoQ
普通にスルーされるかと思ったらレスが付いてるとは・・・
何か話を書いてみたいと思うことはあるものの、文章を書く事自体が苦手なんだ
高校生の時に小論文なんて字数足りなくて全部0点だったぜOTZ
あと、話を書いてみたものの他の人のと偶然似て、パクリだと言われるかもしれないのが怖い・・・
それでもよければ万が一書けたら投下するぜ
575名無しさん@ピンキー:2008/03/28(金) 15:24:07 ID:UVWHUJ8t
投げてくだしあ
576名無しさん@ピンキー:2008/03/28(金) 22:01:03 ID:z/C/9lKh
正直食えれば何でもい(ry
577名無しさん@ピンキー:2008/03/28(金) 22:51:49 ID:AEWJDPi0
話の内容とか時間がないとかを除いて、書く前に悩むことなんてない。
投下しない理由を語るなら、書いて悩んだ後でいいんじゃないだろうか。
578名無しさん@ピンキー:2008/03/31(月) 05:57:56 ID:HbeQL0lP
文章書かなくていいから設定だけ書いてみたら?
579名無しさん@ピンキー:2008/03/31(月) 20:18:55 ID:yxqLgTiB
新しいスレをそろそろ立てようと思うんだが、テンプレに変更はない?
maledictR18氏の過去ログ倉庫とか載せた方がいい?
580名無しさん@ピンキー:2008/04/01(火) 01:52:48 ID:zs2FjqPk
あった方が新参に優しいので貼って欲しいな
581名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 00:14:21 ID:ZkxF6BnK
【異形化】人外への変身スレ第三話【蟲化】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1207062800/

出来たよー。
582maledict ◆sOlCVh8kZw :2008/04/02(水) 03:03:23 ID:mN/6msVA
>>581
乙です!ついでに新作乙です!(よね?)
当スレ、容量越して落ちましたらまたHPに保存させて頂きます
蛇足ながら、自分も猿神の続編とか、かけたら書きます
583名無しさん@ピンキー:2008/04/09(水) 23:38:54 ID:ahDvIouk
こっちのスレはどうしようか
584名無しさん@ピンキー:2008/04/10(木) 00:38:51 ID:S8KvQxLW
適当に雑談して埋めるのがベストだけど、過疎ってるもんな
一気に埋めちゃう?
585名無しさん@ピンキー:2008/04/14(月) 16:26:06 ID:K5gIRgL6
ネタ文で埋めればいいかと
586名無しさん@ピンキー:2008/04/20(日) 01:53:56 ID:x9JPIa23
竜化して精神崩壊した話とか読みたいものだ
587名無しさん@ピンキー:2008/04/20(日) 13:20:40 ID:6r0w09ZE
「ネフェシエル」っつーフリーゲームのRPGをやるといい。
それで入手出来るアイテムの本に、きっとお気に召すだろう話がある。
…全巻集めるのには人苦労だろうから、ここに載せようか?
588名無しさん@ピンキー:2008/04/20(日) 17:19:53 ID:x9JPIa23
すみませんが、できれば載せて欲しいです。
(攻略サイトには何種類かの本とその本の巻数しか載ってなかったので。)
589名無しさん@ピンキー:2008/04/20(日) 18:13:42 ID:zGC7onPS
じゃ、載せます。フォーマットの違いにより、改行の入れ方に若干の差異がありますが、
出来る限り本来の書式に乗っ取ったつもりです。

Nepheshel(ネフェシエル)
ttp://studio-til.cool.ne.jp/

より、『龍になった少女』
590龍になった少女:2008/04/20(日) 18:14:43 ID:zGC7onPS


海岸の小高い丘の上には、一本の石柱が佇んでいる。
それは遠い昔に力をふるった女神を祀ったものだった。
そして、毎日そこで祈る少女がいた。
少女は幼いときに母を亡くし、父は病に伏していた。
少女が祈り始めてから、既に一年になる。
どれほど女神に祈っても、父の病状は日に日に悪化し、
死相すら浮かべるようになっていった。

そんなある日、少女は海岸に流れ着いた不思議な壺を見つけた。
壺は魔神の入れ物。
魔神は人に害をなすから、決して開けてはならない。
魔神の力は常に代償を欲するから、決して魔神に頼ってはいけない。

少女は伝承を知りつつも、壺を開けた。
苦しむ父を救うためには、藁にもすがる思いだった。



果たして壺からは、恐ろしい姿をした魔神が現れた。

「よくぞ壺を開けてくれた、
 かりそめの自由を与えてくれた礼として、お前の願いを一つだけ聞いてやろう」
 
戸惑いつつも、少女は言った。

「私の父さんを助けて、父さんが病に苦しまないようにして下さい」

魔神は答えた。

「私はお前にしか魔法をかけることができぬ。
 だが、お前に魔神のような強健な肉体を与え、父を救う方法がある」

それは、少女が龍の力を得ることだった。
少女は承諾した。

龍の血は万能の薬となる。
少女が自分の血を父親に与えると、今までの苦しみが嘘のように消え、病は完治した。

そうして、幸せが戻るかに見えた。
591龍になった少女:2008/04/20(日) 18:17:24 ID:zGC7onPS


だが、父には生業が無かった。
そしてある事に気付いてしまった。

娘の血を調合して売れば良い。
欲しい者はどれだけの値を付けても買うだろう。

万能薬の噂は広まり、最初は半信半疑だった者たちも
身銭を惜しまず薬を買い求めるようになった。

「お前の血があれば一生遊んで暮らせるぞ!」

商売が繁盛すればするほど、少女の腕には無数の傷跡が刻まれた。

娘の苦しみを省みることもなく、父親は巨万の富を築いていった。

「お前は神からの授かりものだよ!」

少女はもはや父が自分を愛していないことに気付いた。
どこか遠くへ行きたかった。

だが、父がそれを見逃すはずはなかった。
父は既に軍を買うほどの財を持つ権力者である。
その力は国王でさえ無視できず、それは国を挙げての騒ぎになった。

そして、その時、あろうことが万能薬の秘密が漏れた。

「あの女を捕らえれば一儲けできる!」

文字通り血に飢えた者たちが少女を追い始めた。

既に少女に安住の地はなく、追っ手が軍勢となって少女を追い立てた。

少女は遂に、断崖に追いつめられた。
少女はためらうことなく海に身を投げた。
592名無しさん@ピンキー:2008/04/20(日) 18:18:07 ID:zGC7onPS


少女は死んだかに見えた。
しかし突然、沈みゆく少女の体に異変が起こる。
魔神への願いは健在であった。
それは少女の意に反した者だったが―――

少女の願いは不死の肉体をもって報いられたのだ。

不死の肉体は皮肉にも今、少女を護るために目覚めた。
人外の何者かに生まれ変わる苦しみが少女を襲った。
生木を裂くような音とともに、華奢な肉体は醜く膨れ
美しい顔はねじ曲がり、皮膚からは鱗が吹き出す。
叫んでも届くことのない絶叫とともに、
少女は龍になっていた。

苦しみが去った後には途方もない力がみなぎった。
それはもはや人のものではない、魔神の力。

その翼の一掻きで、龍は海上へと跳躍した。

想像を絶する展開に、軍勢は驚愕して声もなかった。

龍になった少女は、今までよりもずっと高い場所から人を見た。

人間は醜い。
今まで蛆のように群がる人間たちを見てきた。

その中に父もいた。
父は、軍勢の中で蝋のような顔をして震えていた。
593龍になった少女:2008/04/20(日) 18:18:43 ID:zGC7onPS


「父さん……」
もはや人には届かない声。

「…私と一緒に…」
――その変わり果てた姿で、少女は吠えた。

「来てください!」

龍の叫びに海が応えた。
圧倒的な力は、怒濤となって天地を揺るがし、等しく全てを押し流し、無に帰した。

全てが終わった。

孤独な龍は、かつて自分の願いを叶えた魔神の壺を探し当て、もう一度、蓋を開けた。

「一度かなえた願いはもはや取り消すことはできぬ」

龍は、少し思案した後に答えた。

「私を、あなたの代わりに壺に入れてください。
 そして、壺を誰も知らないところに隠してください。
 そうすれば、あなたは自由になり、私は少し休むことができます」

「良かろう」

それから、少女は長い時間の中を彷徨っている。

少女はただ、愛が欲しかった。
自分を撫でてくれる人がいて、自分を抱きしめてくれる人がいれば十分だった。
その理不尽な力と引き替えに愛を失い、自らが救った者を自らの手で殺したのだ。
少女は、たとえ自分がどれほど変わってしまっても、
変わらず愛してくれる者をまちながらまどろみ続ける。
594名無しさん@ピンキー:2008/04/20(日) 18:24:53 ID:zGC7onPS
以上です。

一ファンとして、実際にプレイすることを強く望みます。色々な意味で癖が強いですが……。
少女、魔神、龍化後の少女の絵や、この話の続きも本編を楽しめます。
また戦闘中に変身出来るシステムがあるので、是非。

(他人の作品からの抽出により、>>590-593は保管庫に保存しないでいただくと幸いです。)
595名無しさん@ピンキー:2008/04/20(日) 19:52:48 ID:x9JPIa23
へぇ、龍化後の絵とか変身可のシステムもあるんですか、興味ありますね。
あと龍になった少女の内容ありがとうございます。こういう話だったんですね、(てっきり何かの呪いとかの類かと思いました)
こういう短編物がゲーム上で読めるってのもちょっと珍しいですね。(自分が見てないだけかも知れませんが)
596名無しさん@ピンキー:2008/04/20(日) 20:51:16 ID:lXaLFZB/
>>27
全裸の美女が狂える魔術師の実験によっておぞましいキメラに姿を変えられる物語。
清楚な美少女がクラーケンに襲われ、触手に犯され、やがて自らの姿もクラーケンに
変わっていく物語。邪龍に国を滅ぼされ囚われた王女が、呪いによって次第に身も心も 凶悪な龍になっていき、最後には邪龍と交わる物語。・・・エトセトラ、エトセトラ……。

な話を読んでみたいものです。
小説内だけの話にするのも勿体ないような話
597maledict ◆sOlCVh8kZw :2008/04/29(火) 18:55:20 ID:u32hezTv
>>594
SS保管庫の方はわからないながら、
自分のページでの倉庫はいわゆる過去ログを一括して保管しているので、
レスを保管したりしなかったりというのを想定していませんが、どうしましょう

datファイルやhtmlファイルをエディタで開いて関連箇所を削除することは
できるとは思うのですが、やったことがないのでよくわかりません。

可能かどうかはともかく、ご意向お伺いしておきます
598名無しさん@ピンキー:2008/04/29(火) 19:59:19 ID:Ry9pyJie
>>597
ファイルを拝見しましたところ、関連箇所の削除は容易のようです。
ですが、htmlファイルの方はともかくとして、datファイルに変更を加えると、
利用した時の挙動に影響が出るかもしれません。

面倒でしょうし、結構です。わざわざご確認、それにログの保管、ありがとうございます。
599maledict ◆sOlCVh8kZw :2008/04/30(水) 02:29:45 ID:VqZqW07K
>>598
お返事すみません。

スレ消費したら保存します。
あと30KBですが、どのくらいなんでしょうね
600名無しさん@ピンキー:2008/05/02(金) 15:19:58 ID:YbwE/T3p
ほしゅ

次スレ立ってるので落ちたら落ちたでいいのかもしれないけど…
601名無しさん@ピンキー:2008/05/02(金) 17:52:57 ID:iOkozWvo
むしろ落ちるべきじゃ…

適当に、(TF的な意味で)好きな動物でも挙げていこうぜ。あとシチュとか。
自分は鳥系が好き。
602名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 00:57:55 ID:IHKTs/+u
宇宙人、ていうのもありですかね
グレイタイプ(ただし女性的なラインは維持)とか、
緑や青の皮膚になるとか
603名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 01:22:09 ID:sdS8yKGa
豚…は亜人の少年少女スレ向けなんだろうか
異形化の悲哀やギャップの描写的にはこのスレ向きな気もするんだけど
あちらのスレで使われる方が多い?エロと絡めて使ってるからか?
604名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 03:17:19 ID:IHKTs/+u
萌えるシチュは何通りかあるけど、
異形化後、意識の表層だけ人間のままだったのが
徐々に崩れて新たな本能を自覚していくパターンはいいと思う
605名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 07:28:57 ID:0FNvJx4L
>>603
流れ的に、だと思う。
元々あっちのスレが先にあって、獣化や獣人化はあっちでやってたし。

あと、あっち向きこっち向きな仕切りは荒れるのでやめた方がいい。
あっちも巻き込んで揉めて、結局現状維持って事で落ち着いた。
606名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 17:47:34 ID:sdS8yKGa
>>605
ごめん。気をつけるよ
深い意図はなく、豚が好きなのでこちらでも見てみたいが
スレの扱う範囲違いなのだろうかと思っただけなんだ
変身の過程も好きだが、その後も家畜扱い等で萌えそうで
607名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 15:46:26 ID:Noyfotb2
このスレの書き手だと、豚化の過程描写や家畜扱いの屈辱感を
じっくりねっとり書いてくれそうでいいな

ただ肉屋送りは鬱になりそうでいやづら…
608名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 15:51:10 ID:YQ7cYxfV
豚は最終的にドナドナか、愛玩かの二択だしねぇ。
609名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 16:17:58 ID:Noyfotb2
つ 繁殖用
610名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 16:20:02 ID:YQ7cYxfV
繁殖用でも最後はドナドナ……
611名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 16:45:59 ID:Noyfotb2
ま、まあ仔も産めないほど老化した後の話は考慮外ってことで…
そこまでに至る何年分もみっちり書いてくれるというなら別だけど

と言ってて、ふと「繁殖用の豚にされつつも寿命は人間並かそれ以上」という感じだったら
残酷だなぁ。残酷でいいなぁと思った俺変態
612名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 17:05:22 ID:YQ7cYxfV
それにプラスして、人間と同様に繁殖期がずっとだと尚良いね。
ドナるのも面白そうなテーマだけど、自分はそういうのじゃ食えんからなぁ。
613名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 17:11:48 ID:YQ7cYxfV
あ、やっぱり繁殖期は豚準拠の年2回の方がいいかも。
待つ恐怖と来た絶望がより残酷だ。
614名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 19:13:57 ID:Noyfotb2
豚って発情周期1ヶ月じゃなかったっけ?妊娠期間も短いし
生産性だけを求めて品種改良されたような種だからなー
獣化の題材としてはイメージ以上に鬼畜だw

俺的には常時発情の方がいいかなー
我慢しようとしても交尾せずにはいられず、妊娠すればおさまるんだけど、
そうなってみて冷静になると腹の中に家畜の仔がいるという嫌悪感に苛まれるとか
615名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 19:32:54 ID:YQ7cYxfV
妊娠か、最近の妄想はもっぱら性奴隷だったからそれを忘れてたよ。
発情周期に関してはうろ覚えだ。
616名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 22:23:33 ID:Noyfotb2
まあ俺も妊娠にあまり萌えるというわけじゃないんだけどな
ドナほどではないが、話が重くなりすぎるような気がするし

しかし性奴隷ならますます常時発情の方が(ry
617名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 18:05:45 ID:UQQYy+9W
個人的には人間の要素残らない系の完全変化だったら
わりと変身描写が完全に終わっちゃうと流し読みというかほいほい、家畜家畜って感じ。
人間のパーツ残ってるのだと逆に変身後の葛藤がたまらんです。
618名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 18:13:44 ID:fErEjnQ1
蹄系だとどこまで変身させたらいいかわからない。

どこに人間要素を残すといいんだろうか?
髪とか手とかマン○とかチ○コとか?
619名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 18:35:46 ID:f0wLnhyT
人面豚? いっそ下半身だけ豚ってのもありか?
脚が豚足になっているので立てず、四つんばいで行動せざるを得ないが
一応手は使えるくらいで。
620名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 19:55:50 ID:f0TN2eBX
俺は人面豚はちょっと…むしろ逆に豚面人の方がまだ萌えられそう
二足歩行できるいわゆる獣人体型くらいがいいな
それでいて手も蹄化してて、物をうまく掴めないので食事の時も犬食いで涙目とか
621名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 20:51:15 ID:vu8RrZgr
>>620
グラマーな人間体型で、顔と毛並みが豚と?
顔が完全に豚化と、人間の面影残しているのとではどちら?
622名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 21:04:01 ID:fErEjnQ1
顔が豚で体型は人間の場合、対象の人間時の体型が痩せてると萌えないな。
豚化好きならぽちゃやデブじゃなくても萌えられるのかな?
豚に限らず、牛とか熊とか元になる動物の体型に合わせてたほうが好きだ。
狼や狐とかでもそれは同じ。
623名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 22:34:24 ID:f0TN2eBX
>>621
ああ、人面豚よりは豚面人の方が好きってだけで、
理想的にはやっぱりぽっちゃりと言うかむっちりと言うか
まあ豚のイメージらしく肉付きいい体型になる方が好き
…本来豚は意外と体脂肪率少ないらしいけど
その方が被害者の精神的苦悶も増して面白いだろうし
豚獣人>豚>豚面人>人面豚…って感じの好みで

顔は完全に豚でも面白いだろうけど、表情見るため人の面影残すのもいいな
残すパーツは髪の毛とか、感情のわかりやすい目あたりかな
逆に動物の印象が強くでる鼻・口周りや耳だけは最低でも変化させたい
口や舌が変化して人の言葉が発音しにくくなるor完全に話せなくなるのも萌え
624名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 22:44:38 ID:eAJJd4So
面白いぐらいに趣味が分かれるねぇ。
自分が一番美味しくいただけるのは変身最中なんだけれど、読んでてそそられるのは事後。
妄想の精度はおおざっぱなようで、ほとんどが変身対象への感情移入で頂いてる。
僅かでも人間らしさを失ってしまったショックの為に、完全獣化が良いな。
625619:2008/05/06(火) 22:53:35 ID:UlzumG4h
なるほど。やはり変わり果てるとなると、顔が変わるのは重要か。
人面豚と言い出したのは、個人が特定できる程度に顔が原形をとどめていると
かつての知人に「あいつが豚に!」と一発で認識される。あるいは認識されるのが嫌で
人前に出られないという展開が使えるなぁと考えた結果だが。
626名無しさん@ピンキー:2008/05/07(水) 01:39:37 ID:Swp29z89
顔に面影がある方がいいな
最終的には完全に変わってもいいけど、その変わるまでのプロセスで
中途半端な状態(まだ誰かを判別できるような状態)を誰かに見られたり
自分の姿を見て愕然としたりとか、そういう場面は見たい
心情的にもやはり完全な獣になるより中途半端な姿の方が
本人的には見られたくないしショックなんじゃないかと思う
627名無しさん@ピンキー:2008/05/07(水) 15:42:06 ID:CmtXTOtr
ああ、自分の妄想は変身が割とすぐに終わるから、他人の目よりも自己の破損に重心が行くんだ。
最高なのは晒されながら変身かな。
628名無しさん@ピンキー:2008/05/07(水) 17:15:09 ID:b/EwgjAK
>>624
変身対象に感情移入するというのはこの手の趣味の場合
デフォだと思っていいのでしょうか?

自分は「おにゃのこ改造」の住人なんですが、
改造や洗脳を「する側」よりは「される側」に感情移入する方で、
自分でSSを書くときも大抵、される側の視点で進めます
(ただ、書き手のまんまのおっさんが改造されるのは美しくないので
若いおにゃのこが犠牲になるパターンが多くなりますが)
ただ、他の住人の人を見ると、「する側」と「される側」のどっちに
感情移入しているかというと、自分のように「される側」に感情移入するのは
むしろ少数派なのかなという感じがしていたので、ちょっと聞いてみたく思いました。
629名無しさん@ピンキー:2008/05/07(水) 17:50:21 ID:shP0yEf/
>>628
自分は624さんではありませんが、この手の趣味は
「する側」「される側」両方とも同じくらいいると思ってます。

自分の場合はおにゃのこが洗脳・改造・変身させられる時は「する側」に感情移入して
おっさん、もとい男の場合は「される側」に感情移入してます。
630624:2008/05/07(水) 18:15:43 ID:CmtXTOtr
>>628
>>629で述べられてるように、感情移入されるのは変身させる側も変身する側もだと思う。
自分は変身に限っては女性にしか感情移入出来ないんで、変身については男性が関わらない形が好きかな。
大抵はキャラクタに自己投写出来ない人格付けがなされるんで、読んでから抽出したのを妄想してから食べてる。

自分ほど自分語りしてる人がいないから、これが参考になるかはしらないけど。
631名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 15:18:09 ID:a/xbqEIN
ほぼ全ての場合において変身させられる側に感情移入してる。異性でもお構いなし
変身に限らずエロ妄想はもっぱら受け手側視点の方が燃える。根本的にマゾなのかもしれん
632名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 17:33:11 ID:ayin63rM
話の途中で失礼かもですが次スレあるし、こっちをそろそろ
埋めちゃいませんか?
新スレが過疎状態な物で、埋め埋め
633名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 20:10:33 ID:a/xbqEIN
いや、だから埋めるにしてもただ埋めるだけじゃ不毛な上進まないから
(そもそも1000埋めならともかく、容量埋めなので一言ずつの埋めだと手間かかり過ぎるし)
どうせ埋めるんなら好きな変身対象とかシチュエーションとか
自分のツボ披露で埋めようって話じゃなかったっけ

で俺はしばらく前の話題通り豚とか牛とか家畜化好きな
変化度合いは獣人体型。顔は動物の特徴出しつつ表情や面影わかる程度に人度残して
変化後の扱いは繁殖とか搾乳とか発情プレイとか、エロ繋がりな動物扱い羞恥責めを、と

…列挙してみると改めて自分の変態っぷりに凹まなくもない
634名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 20:26:56 ID:6cLW9GHf
>>633
俺が変化のロッド手に入れたら間違いなくお前に使ってやるよw
そして面影が残る程度に豚に変身させて養豚場かサーカスに売り飛ばす!
運良く逃げ出せても人前には出られないだろうしww

現実に自分がこうなったら凹むと思うぜ?
635名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 20:58:53 ID:a/xbqEIN
望む所ですが何か?


まあ鬼畜系をリアルに考えるときついのはよくある事だが
リアルでないのを楽しむのが妄想の醍醐味ですから
636名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 21:38:10 ID:JVi4gi6D
この趣味を持ってること自体に悩んでる人っている?
別のスレで割と自身の倒錯に悲観してる人がちらほら見られたから、この際聞いてみる。
いや聞いてどうこう、とかないんだけれど。
637名無しさん@ピンキー:2008/05/09(金) 00:06:04 ID:ScKAg9Sq
実際この趣味のおかげで見る映画が増えたことは喜ばしいが
日に日にデータフォルダが公開不可になっていくのは悲しい
そういう俺は妊娠もえ
638名無しさん@ピンキー:2008/05/09(金) 00:30:53 ID:XlH+/PU0
深く考えないようにしてますw
639名無しさん@ピンキー:2008/05/09(金) 01:28:30 ID:TZ7YWU5Z
「うぐぼえェっ!」
>>635の大きくひずんだ口から、とても人間とは思えない発音の声が漏れた。
広がった鼻とともに顔の前方に突き出した唇が開く間から膨れ上がった舌が覗く。
「『望む所』なんだろ?お望み通りにしてやるよ」
冷酷な笑みを浮かべる>>634
(…そんな…あんなの、本当なわけが…)
釈明しようとしても人の言葉はもう喋れない。
赦しを請うように差し出された手も、
腫れ上がった指が一本一本の輪郭を失い、纏まった塊の形に硬質化していく。
「しっかし『俺』なんて言うからてっきり男だとばかり…
くそっ、あの牧場は雄が足りてないって言うからちょうどいいと思ったのによぉ。
宛てが外れちまったじゃねぇか。
お前が変に強がった書き込みなんてするからこんなつまらない事になるんだ。
どうしてくれるんだ?えぇ?」
不機嫌に言いながら男は女の服を剥ぎ取るように引き裂く。
女は二度悲鳴を上げようとした。一つは肌を晒された事に。
…もう一つは、その肌が決して薄くない体毛に包まれ、桃色に変色していたことに対して。
だが、悲鳴の代わりに響いたのは、甲高く聞き苦しい鳴き声でしかなかった。
一度目より二度目の声の方がわずかに、しかし確実に獣じみた音色を強めているという
その事が彼女の絶望をより深くした。
「何を恥ずかしがってるんだ?そんなことする必要なんてないだろ。
だってお前はもう『女』じゃない…『雌』なんだから」
男の言葉に、泣きわめき…いや、鳴きわめきながら、
異形と化していく自分の体を両腕で隠そうとする彼女。
だが、彼女の体に刻まれつつある人外の家畜の証は
二本の腕だけで隠し通せるようなものではなかった。
過剰に肥大した胸の下の腹部に、腫れもののように勃ち上がる二対目、三対目の乳首。
髪の毛の下から広がり露になった大きく不格好な耳。
背骨の基部から大きな尻の上に顔を出す捩曲がった尻尾。
そして、隠している腕自体も含め、脂肪に包まれ膨脹していく全身…そして…
「わかってない奴だな。お前にはもう恥ずかしがる権利だって無いんだよ。
…それに、いくら恥ずかしくても、恥ずかしい事をするのを我慢できなくなるんだから」
…そして…
「なあ。我慢できないよな。…発情期は」
頬を濡らす涙と同じくらい…あるいはそれ以上の量の液体を溢れさせる、陰部。
認めない。認められない。認めたくない。
桃色の顔をさらに真っ赤にし、耳をびらびらと揺らしながら首を必死に横に振っても、
嫌悪感と裏腹に、体の奥で疼く熱は高まっていく。
「…ふぅん、そうか。牧場は駄目だし、そんなに恥ずかしいなら…
そんなに見られたくないのなら…」
男は残酷な笑みを浮かべ、そして言った。
「なら、みんなに見てもらおう。サーカスの大舞台で、余す所無く、な!」
…女が…いや、雌が力の限りの拒絶の意思を込めて放った絶叫は、
屠殺場に向かう豚が上げる、恐怖の鳴き声に似ていたかも知れない。

数日後、日常に飽き刺激に飢えた富豪達を楽しませる非合法の見世物を
社会の裏でひそかに披露している闇のサーカスの演目に
「珍獣!ブタ女の公開生殖!」
というものが追加されたということだが…
詳しい内容は、観客以外に知るよしもない。



こうですかわかりません
このスレは♀メインっぽいから性別詐称したり>>634氏を勝手にネタにしたり
しちゃってますがスマソ
640635:2008/05/09(金) 01:32:11 ID:TZ7YWU5Z
あ、ID変わってるけど>>635っす
641名無しさん@ピンキー:2008/05/09(金) 02:55:44 ID:XlH+/PU0
ちょwww倉庫行き直前にこのクオリティ
642名無しさん@ピンキー:2008/05/09(金) 17:48:14 ID:VQqwMaEi
>>639
GJ!あんたのSSのクオリティが高すぎて、俺に豚は書けない。
超尊敬してる。
643名無しさん@ピンキー:2008/05/09(金) 23:40:53 ID:TZ7YWU5Z
>>641
ありがとうございます
…あ、いやひょっとして、「倉庫行き直前にこの(低)クオリティ」…って意味だったり?w

>>642
うわぁ…う、嬉しくない…
家畜好きだけど自分の文では上手下手関係無く勃ちにくいタイプだから
一人でも多くの人に家畜書いてもらいたいのに…

そんな事言わず書いてくださいよ
俺が書くことで誰かの意欲を失わせてるなんて言われたら、逆に俺の方が書けなくなりますよ
644名無しさん@ピンキー:2008/05/09(金) 23:54:12 ID:JDqXXrFy
>>643
いやいや、意欲を失ってなんかいないです。むしろ自分も書かんとなぁ、なんて思います。最近書いてないので……。
自分の執筆プロセスが、

自分のために妄想

文章化によって詳細化

ついでに投下

の形なので、豚分が充足してる分、別の動物に妄想力をまわす傾向にあるんです。

……ああ、失言だ。元々家畜好きだし、書こうかな。
645名無しさん@ピンキー:2008/05/10(土) 05:29:10 ID:OLdhkHLf
>>643
GJでした!
サーカスでの見世物ということで某ゲームのブタピエロを思い出しました。

>一人でも多くの人に家畜書いてもらいたいのに…
朝っぱらから吹いたwwwww
真面目な話だってのはわかるんだけどついw
・・・スイマセンです。
646名無しさん@ピンキー:2008/05/10(土) 22:14:10 ID:buiCBezu
>>633-645の一連の流れがむやみ面白いです
647名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 08:24:48 ID:G1qV3wow
それでは自分の話したネタが作品の種になることを夢見つつ、再びツボ披露どぞ
648名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 13:02:36 ID:tonhDEuL
変身過程で全身の毛が抜けちゃうのが大好きです(///)
649名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 13:43:45 ID:tReyKFQ+
爬虫類とか?
650名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 23:17:43 ID:nlKcrlBA
哺乳類とかでも、髪の毛が抜けたりする描写をつける人いたりするしそういうのもあるんじゃね?
俺はしばらく前の小説でも萌えたが豚とか好き、あと犬だな。人に隷属する立場のがいい
>このスレは♀メインっぽいから
と言われてたが俺は雄の場合も見てみたいな
駄目なんだろうかこのスレ的には
651名無しさん@ピンキー:2008/05/12(月) 03:51:31 ID:qbbyvwLB
>>650
流れは自分で作るものさ。
たまたま投下されないだけで、ダメなんて理由はないよ。
652名無しさん@ピンキー:2008/05/12(月) 07:51:20 ID:MLo93UK6
>>650
俺もTF自体が好きだから雄も雌も両方良いと思うけど
雄ネタは露骨に嫌がる人が少なくないから(例えば>>478とか)
駄目じゃないとは思うけど空気読んだらやっぱり書きにくいと思う
653名無しさん@ピンキー:2008/05/12(月) 08:19:24 ID:/7FcOIGl
確かにそんな空気はあるかも。
まあそういう空気は雄はおろか雌の作品も投下しづらくさせるんだけどね。
654名無しさん@ピンキー:2008/05/12(月) 23:28:00 ID:+ce6vFy2
「グギャアアア……!馬鹿な。この俺がこんな人間ごときに……(煙になって消える)」

「や、やった……の……? でも話に聞いていた魔物にしては妙に手応えの無い……
 ……ぐっ!? む、胸の中が……!? はっ、さっきの煙……
 まさか……ここの空気そのものが!?」

「ぐふふ……俺の一部を存分に吸い込んだようだな……
 さあ、わが血肉を体に染みこませて、貴様は俺の下僕となるのだ!」

「そ、そんな……いや、いやあぁぁ!……ぐ、ブゲェェエ!」


「空気が 空気が」言われてるのを見て何かこんなのが思い浮かんだ
655名無しさん@ピンキー:2008/05/12(月) 23:54:31 ID:9qAYlPl/
この先が気になっちまった
656654:2008/05/13(火) 00:13:10 ID:UWcXc5Kn
個人的にはオーク化あたりをイメージしてたが
「 ま た 豚 か 」と言われそうな気がして自重

人狼だかケモノだか蟲だか不定形だか、各々の好みのものでイメージしてくだちい
657名無しさん@ピンキー:2008/05/13(火) 01:04:23 ID:axIR1h08
もう埋めの段階だし豚でもいいじゃまいか
俺も魔物の血肉を染み込ませてみたいもんだぜ
658名無しさん@ピンキー:2008/05/13(火) 09:14:05 ID:92wej7sW
あらゆるものを貪欲にネタ化してくれる>>654様に萌え
659名無しさん@ピンキー:2008/05/13(火) 15:45:45 ID:WuT0bL/W
てかこのスレいつになったら埋まるんだよww
660名無しさん@ピンキー:2008/05/13(火) 17:01:16 ID:1fvCirOU
普通に投下出来たよな。失敗したわ
661名無しさん@ピンキー:2008/05/13(火) 17:01:52 ID:1fvCirOU
普通に投下出来たよな。失敗したわ。
662名無しさん@ピンキー:2008/05/13(火) 19:00:17 ID:92wej7sW
>>659今490KBだから獣レス以内に埋まりますよ
663名無しさん@ピンキー:2008/05/15(木) 17:05:07 ID:gpgtgX99
…なんか変に埋め埋めと気にしない方が、雑談や短文で自然に埋まってたような
664名無しさん@ピンキー:2008/05/15(木) 20:02:32 ID:JRbG7cpA
ゆったりとした雑談が絶え間なく続く保証がないのが過疎スレの宿命さ。
人が多いなりにも色々あるけどね
665名無しさん@ピンキー:2008/05/15(木) 21:35:20 ID:9lpUDaUg
スレッドの使用量いま何キロバイトでしょう?
なんか自分のパソの表示では「116KB」しか使ってないことになっているけど
そんなわけないですよね?
666名無しさん@ピンキー:2008/05/15(木) 21:44:08 ID:9lpUDaUg
送信したら「491KB」になりました。1レス1KBということもないんですね。
まだしばらくあるのか。

アイデアでいいなら一つ。
異世界に飛ばされた少女二人。迷い込んできた人間を
襲っては同種に作りかえる異形のモノがうようよいて…
…というSSを時間があったら投下したいです。
(以前イエティとか猿神とか投下した者です)
667名無しさん@ピンキー:2008/05/15(木) 22:24:30 ID:QXLo1YAm
少女二人っ!いいなあ楽しみにしてる
668名無しさん@ピンキー:2008/05/17(土) 02:40:26 ID:/4fPe80U
その設定なかなかだYO!
669名無しさん@ピンキー:2008/05/17(土) 10:13:11 ID:/n8RcHJe
一人じゃないのがいいんだよな。見る側がいるだけで大分変わってくる。
変身後に標的にされたりね、そのアイディアだけで一杯いけるわ
670名無しさん@ピンキー:2008/05/17(土) 22:23:03 ID:fHheNur8
いえてぃは良かった!

671名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 00:14:53 ID:VrukYpLy
雰囲気的にはどういうのが需要あるんだろう。
672名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 07:03:21 ID:ULYhQRk/
>>671
やっぱり雌TFでエロいのでしょ。
リクも多いし、反応もあるし。

なんだかんだ言って、雌派は好きな物嫌いな物はっきり言ってくれてわかりやすいよな。
雄派ははっきり言わないのが美徳と思ってるのかもしれんが、逆に何が欲しいのかわからん。
雄派も雌派を少しは見習ってガンガン理想やネタを語ってくれると嬉しい。
673名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 13:44:34 ID:V4WMFVpG
雄派も上の方で家畜系が好きとかはっきり言ってると思うが。
674名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 22:53:57 ID:svDaZE22
雌メインだと変身する姿を愛でたり視姦したり嗜虐的な視線で見る人も多そうだが、
メインが雄となると、その雄の視点に感情移入と言うかシンクロして妄想する人が多いのだろうか。
可愛い系のショタを弄り倒すとかなら別だけど。

そう考えると格好良い肉食系になって本能のまま猛り昂ぶるようなのに人気がありそうだが、
俺は何か家畜系好きなのであった。
675名無しさん@ピンキー:2008/05/21(水) 00:12:11 ID:e7+dK3Ds
>>673
俺もそう思ったがスレをよく見たらそんな事無いね
家畜化好きと言ってる>>633も搾乳とか雌寄りで言ってるし
その他でも案外と雌豚ネタの方が多い
>>650が控えめに雄の場合も見てみたいが駄目かと聞いてる位か
豚というとドリルペニスとかのイメージが強いから雄ネタが多いと思いこんでしまうのかな

別に雄を贔屓する訳じゃないし雌も勿論好きだが
新スレでは雄ネタももっと出してみようかな…
676名無しさん@ピンキー:2008/05/22(木) 22:56:29 ID:yoDkgSSR
スレの流れを作るなら、話を投下するなりネタを書くなりするしかないよね。

爬虫類が好き。鱗、尻尾、変温動物。食べ物も違うし、何より産卵。
677名無しさん@ピンキー:2008/05/23(金) 20:20:55 ID:F6sTId3k
爬虫類萌えるな
ヌメヌメ最高
678名無しさん@ピンキー:2008/05/23(金) 23:41:25 ID:jFmmxv5r
鱗・尻尾最高。
産卵も良いですね
679名無しさん@ピンキー:2008/05/24(土) 00:19:10 ID:mVYxXeho
魚はあまり見ないね。半魚人、人魚は結構見るんだけど。水にしか住めなくなっちゃう、ってのにそそられる。
680名無しさん@ピンキー:2008/05/24(土) 00:39:34 ID://Son1rj
爬虫類系もいいが蟲化とかはもっといける
繭に包まれて少しずつ変化していき、最後には蟲の本能で産卵という
のもたまらなくいいと思う自分はこのスレでは少数派?

なのでこのスレにあった蜘蛛女化のSSは個人的にお気に入り
681名無しさん@ピンキー:2008/05/24(土) 00:47:12 ID:mVYxXeho
虫も好き。某文庫の蜘蛛TFに一時期ハマったなぁ。

変身者が変身対象に嫌悪感を抱いているのは非常に良い形だと思う。
虫、爬虫類辺りはその恩恵をかなり受けてる。ブタもその部類かな?
682名無しさん@ピンキー:2008/05/24(土) 18:42:35 ID:jWUvV1Fj
>>繭に包まれて少しずつ変化していき、最後には蟲の本能で産卵という

あ、自分も好きですよそういうの。
683名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 23:04:37 ID:VEsHCIIM
>>682
同意
684名無しさん@ピンキー:2008/05/27(火) 04:14:14 ID:n0deRrJI
虫はいい。普通の昆虫も悪くないが、むしろ蜘蛛、蠍、百足なんかだとTFの絶望感が強くていい。

爬虫類もいい。次第に皮膚が角質化し、小春日和程度の気温に多少の肌寒さを覚えるようになる。
鰐のように吻が伸びるとか、亀の甲羅が形成されていくとか、バリエーションも意外に多い。


>677
ちょw 両生類なら分かるが爬虫類でヌメヌメは無いだろ。
685名無しさん@ピンキー:2008/05/27(火) 08:26:21 ID:TmaCE7SM
爬虫類に変身して、助けを求めようと喋ろうとしてもシューシューっていう声しか出せなくなればいい。
あれ、そういえば虫の鳴き声の発声方法は人間と違うのかな?羽音?

とりたてて話題にはならんが、鳥類も好きだ。変化の具合が顕著な分、口吻より嘴の方が興奮する。

>>684
ヌメヌメは独特な光沢を指してるんじゃね?
686名無しさん@ピンキー:2008/05/27(火) 13:00:08 ID:n0deRrJI
>685
>嘴
最大の難点は口を使うプレイにかなりの制限が課せられることか。
でも解決策はあるんだな。グリフォンと狐のキスは鼻血吹いた。

>光沢
パッと思いついたのは蛇くらいだが、考えてみれば他に一部の亀の甲羅と鰐の腹も光沢があるな。

口を使ったプレイで思い出したが、蛇は気管の先が下顎の先だからどんなディープスロートでも息が詰まらない。
687名無しさん@ピンキー:2008/05/27(火) 18:33:52 ID:JdLi/jMM
>>686
プレイの選択肢はやっぱTFすると減っちゃうね。双方完全TFだと言葉攻めが出来なかったり。
鉤爪だと愛撫も出来ないし、毛皮に覆われてると舐めるにも一苦労。
正直純粋な鳥類にプレイ的な楽しみを求めるのは難しそう。完全に受けるだけならしようがありそうだけど。
キスは嘴だけじゃなくて、口吻が長くても厳しかったりする。あれは体格さがないと出来ないかな。
キスするなら猫。

蛇は爬虫類の中で断トツにエロい。雄、雌どちらがTFしても無限のプレイが楽しめます。

尻尾とか、TFした後の体は最大限に使わないとね。
688名無しさん@ピンキー:2008/05/27(火) 18:49:58 ID:FIIWmMvx
TFではないけど爬虫類ネタで思い出したので備忘までに

豊田有恒『ダイノサウルス作戦』→平行世界の地球で進化した恐竜人類の女性が出てくる

ついでに

同『カンガルー作戦』→平行世界の地球で進化した有袋類の女性が出てくる

だいぶ前なので細部忘れてますが後者の女の子が可愛かった覚えがあります
何にしても、この人も異類の女性が好きなんだなあと思った
689名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 17:53:58 ID:InJeTVd8
小説媒体ならTFネタもそこそこありそうだな。TF趣味が高まるにつれて、ただ変身するだけじゃ物足りなくなるんだけど…。
690名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 18:09:19 ID:E7dM+frq
数日〜数週かけて徐々に変化していくって話は萌えるし、今までいくつかあったが
「変身自体は比較的短時間で終わって、しばらくすると人間にも戻れてしまうんだけど
回数を重ねるごとに変化してる時間が長く、人間でいられる時間が短くなっていく」
というタイプの長期的変化はどうだろうか
691名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 20:27:41 ID:vX3mDdAh
三月記ってどうよ?
692名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 20:47:30 ID:JJPsjy0X
TF的にも話的にも、至高。
693名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 22:47:49 ID:MesIA8Z3
>>691-692
山月記、昔国語の時間に原作になった中国の話を合わせて授業で読んだんだけど、
そちらはTFも心理変化もえらくあっさりしていて、ああ、これをアレンジしてああなったのか、
と一層感慨が深まった覚えがあります
694名無しさん@ピンキー:2008/05/30(金) 18:16:45 ID:O3M06r1V
結果だけでなく過程を重視する日本の文化が表れているのか
そうだな。やはり一瞬変化よりシークエンスを大事にした方が萌え…それは関係ないか

そろそろ埋まった?
695名無しさん@ピンキー:2008/05/30(金) 19:21:22 ID:MVeGYna5
まだまだー。
ゆっくり獣化の問題点は、ゆっくり具合によるけど覚悟がついたり慣れたりしちゃうことか。金属が変形こそしても破損しないみたいにね。
だから精神負荷が身体的な変身だけじゃ、なんだかんだいって適応してしまいそう。
だから知り合いに見られたり、まぐわせられたり、一気にどん底に落としたりみたいなプラスアルファが美味しく決まりそう。
自分は、一つ一つの変身が連鎖的に確認出来るくらい早いのがお気に入り。
696名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 12:31:43 ID:AqM5VseT
もう要領限界ブー!
697名無しさん@ピンキー
さすがに埋まったかな