【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第三章

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450名無しさん@ピンキー:2007/03/14(水) 20:23:21 ID:JO7LQZYJ
島津組シリーズ、エロシーンより瀬里菜と辻井の絡みだけで萌えちまう(*´Д`)ハァハァ
続き待ってます!
451青信号の犬12:2007/03/16(金) 01:05:57 ID:lUDQj7Dl

 ベットの上には裸の女がいた。絹のような光沢のある上等な布で目隠しされており、ときおりその柳眉が寄せられる。
女はこれから何が起こるか理解していないのだろう。元捕虜はため息を飲み込む。おぼつかない足取りでようやくその傍にたどり着くと大臣が肩を揺らして笑う。
大方、薬でふらふらと―衣服どころか下着までとられ―無様ななりの自分を嘲り笑ったのだろう、元捕虜は霞がかった意識で思う。
いいように操られ、それでも命が惜しくて抵抗できない自身が憎かった。
否、そんなものは建前だ。
元捕虜は――女と交じりたかったのだ。
あらかじめ指示された通りにベットに乗り上げると固めのマットレスが大きく揺らぐ。
自身の体幹の安定すらまともに取れない状態だったが、どうにかそれの上に胡坐をかいて落ち着いた。
「たまには貴女にしてもらおうと思うのですけれど、どうでしょう?」
大臣が女の耳に―触れるか触れないかの位置で―ささやいた。その言葉や声音こそはやわらかいものだったが、たしかに有無を言わせぬ剣呑さを含んでいた。
熱っぽい女の吐息が漏れると同時に元捕虜は背中にヒタリと鋭いものを突きつけられたように感じた。
実際、背には何も触れてはいない。
それはおそらく大臣の―――


 既に立ち上がった雄に手を添えて、小さな赤い舌が丹念に先端を舐め上げる。
ぱくりとそのまま咥えた。思っているよりも深く咥えてしまったのだろう、女は咳き込む。
すべて口に含めはしないが、それでも懸命に口淫を再開する。咥えなおし、ちゅぱちゅぱと幼子のように吸った。
「ん、ふぅ………ぁふ……」
自身の唾液や、元捕虜の先走りの濡れた感覚を追いかけて舐め続ける。こそばゆい刺激に元捕虜は声を堪える。
大臣の手が後ろから伸びてき、女の頭をゆっくり撫でた。
「そう、初めてにしては上出来です。…さあ、手を動かして…」
「ふっ、……ぁ…ん、ふ…」
激しくなった手での愛撫に、つるりと女の口から元捕虜が抜け落ちた。女は驚き、寂しさの混じった声を上げる。
「あ、ん…どこぉ、どっかいっちゃった……あ、やだぁあ」
つい離してしまった男根を捜し、ぺちりと近くにある男の脚に触れた。
瞬間女の声があがる。
「やだ!***じゃない!」
目隠しをべとついた手でずらし女は―女王は元捕虜を見上げた。
自分の後方で大臣が呆れたような声を上げたのを元捕虜は聞いた。
女王は元捕虜の顔をじぃいっと見、恥じ入ったように後ずさりシーツをかぶった。その顔には興奮とは違う朱に塗れていた。
「やだああ***!大臣はぁ?!どうして?どうしているのぅ?あ、あ、あ、どうしようやだよぅやだよぅ」
どうしてよいのか固まっている元捕虜に大臣はガウンを投げ、そのままでいるようにと言う。大臣はシーツに包まって元捕虜から裸身を隠そうとする女王の背中を優しく撫でた。
「どうしたのですか陛下?何か恐ろしいことでもありましたか」
「だ、大臣?本物だな!……どうしよう、ぼくちがっ、私は……ああ!」
着衣の乱れがみられない大臣に女王は青ざめた表情を見せ、むせび泣いた。
混乱していて、何度も何度も同じ言葉を繰り返す。
「ああ!やだぁあ…やだよぉぅ…やだ、みら、れっ…ちゃった」
トンっと後ろ首に手刀をいれると、スイッチが切れたように女王は静かになった。擦れて赤くなった唇の端から一筋唾液が伝う。
「今晩はもういいです。動けますか?部屋と女を用意します。そこで薬を抜くと良いでしょう」
452青信号の犬13:2007/03/16(金) 01:07:33 ID:lUDQj7Dl
平坦な声に自身が萎えていくのを感じた。この男は自分の国の統治者に―自分を慕っている人間にどうしてこのような真似ができるのだろうか。
「いえ、結構です。……服を返していただけませんでしょうか」
返事は無く、大臣は元捕虜を見た。時折、このような酷く乾いた目を大臣は他人に―例外なく女王にも―向ける。許容もなく慈悲もなく、かといって拒絶もなく凪いでいる。
「……やめませんか、おれ、これ以上あのひとのこと、あのひとが自分のこと
 かわいそうだ、って思うようになることにこれ以上加担したくありません。
 あのひと言っていました。やさしいひとばかりで、不安になる、と。捨てら
 れるとき怖くなる、と言っていました。どうして!…どうして、そんな目で
 陛下を見るんです!あんな風になるほど依存させておいて、どうして…!!」
切迫した声で散らしても、大臣の目は変わらない。大臣は投げ出していた脚を組むと言った。
「…最後のだけ答えましょうか。今さっき彼女が取り乱したのは、私の所為ではないでしょう。
彼女は、君が彼女を好いているように彼女も君を好いているから、ですよ。」
後は勝手にしろとばかりに大臣は立ち上がった。元捕虜はシーツに包まれた女王を見て、大臣を見上げる。出て行こうとする大臣を呼び止め告げた。

453青信号の犬14:2007/03/16(金) 01:08:51 ID:lUDQj7Dl

 晴れの日に出立は出来なかった。元捕虜は曇天を窓から仰ぎ、調理場に向う。
使用人らが中心に使う途はあまり広いとはいえない。それの奥から少女が駆けてくる。
いつかのメイドだった。随分と走り回ったのだろう、所々髪がほつれていて指摘するとうるさいですの!と返ってきた。
「陛下がお呼びですのよ、きっとアンタの話はおもしろくないこともなかった
 から出先から手紙を送れ、とかでしょうけど。とにかく呼んでるんですの!
 食料は私が貰っておきますから、スグむかいなさいな!ホラ、さっさと!」
尻を蹴とばされ、しぶしぶメイドが来た方へ歩き出す。後方から聞えた走りなさい!という言葉に手を振るとメイドが今度はタックルしてきたので走った。
硬い廊下はそうでもないが、女王の部屋へと近くなる程廊下は走りづらいものになってゆく。足の裏がひっくり返るような気がした。
ノックをして名と所属を言った。それから扉を開ける前に、それは内側から開かれた。
女王が自ら元捕虜を自室へと招いた。元捕虜は固辞した。女王が少しだけ眼を伏せた。
「…どうしても去るの?国を、去るの?ねぇ、旅に出るの!?」
「ええ、遠くまでいきます」
女王の声は少し震えていたようにも聞えたが、あえて元捕虜は追及せず、平静に答える。
扉に触れていた女王の手が元捕虜の上着へと伸びた。しっかりと布を掴む。
「本当?どうしてなの?突然じゃないか…」
「ええ、ちょっと他をみたいと」
長い睫毛を震わせて元捕虜を見上げた。泣いたのだろうか、したまぶたがほんのりと腫れていた。
気がつけば憂いの表情ばかり見ている。
「やだよ!もうちょっとここにいたっていいじゃないか!大臣に言われて出てくわけじゃないんだろ?!」
涙が眼にたまっていき、決壊寸前の赤い眼でキッっと元捕虜を睨みつける。
そう、これだ。元捕虜が初めて見た女王はこのように感情の起伏がはっきりとしていた。
今までが、異常だったのだ。夜な夜な国王の痴態を目にするなどあるわけなかったのだ。
「すみません、いかなくちゃ」
「やだぁぁみんな置いていっちゃうんだ!連れてっててよ」
ぶわあっと決壊した。幾筋もの涙が女王の頬を伝うが、それに意も止めず元捕虜に食って掛かる。
「だめです」
「だめええ、やだぁあ…君が好きなの!なんで好きな人は私を置いてっちゃうの!?いっちゃやだ……」
強く元捕虜の上着を引いた。だが力のない女王には精々生地を伸ばす程度にしかならない。ぐいぐと諦めず引く。
元捕虜はその手をゆっくりとほぐし、遠ざける。
「…忘れてください、これからまだまだあるんですから」
「ねぇ、連れて行ってよ…お願いだから…」
反動で床にへたりこんだ女王は俯いたまま何度も何度もおねがいと繰り返す。
今度は足にすがり付いて、言う。
おねがいいっしょにつれてって。
元捕虜は長く息を吐いた。そしてスルリと足を抜く。
「城(ここ)から連れ出してくれるならだれでもいいんですか?」
「ちが…!ちがうの!そんなこと…」
「お世話様でした陛下。遠くにありましても国と陛下を案じております。…では」
最後ににこりと笑みを女王に向けて捕虜は来た道を戻っていく。
元捕虜が角を曲がって、その先の扉を開けて、調理場へ着いて、裏門をくぐっても女王は床に座り込んだままだった。
「やだ……いっちゃ、やだ」
いくら呟いても、元捕虜はおそらく戻ってこない。女王は額を床にこすりつけた。ひんやりとしていて、いつか触れた元捕虜の手とは違う温度。
だけれど、冷えた頬より温かかった。

「おいてかないで」


つづく
(おひさしブリーフ!)
454名無しさん@ピンキー:2007/03/16(金) 01:15:56 ID:dXGKG7Su
おお、リアルタイム! GJ!
455名無しさん@ピンキー:2007/03/16(金) 02:41:14 ID:BK9lZ6P/
ひゃっほうGJ!
女王様かわいいよ女王様(;´Д`)ハァハァ
456唯一:2007/03/16(金) 05:08:06 ID:VersR0L4

そう長くない眠りから覚めたファリナは傍にある、知った気配に唇を吊り上げた。
馴染んだ気配を持つ、愛しい男の名を音に乗せる。
「アルスレート」
「はい」
応えはすぐに返る。
ファリナが気配を悟ることができるように、アルスレートもファリナの目覚めを知っていた。
そうして、横たわったまま差し出されたファリナの手を自らの手で包み込む。
硝子細工にでも触れるように、ただやんわりと。
包み込む手を、きゅ、と握り締めて、その手を頼りにファリナは起き上がる。
その間アルスレートは微動だにしない。
起き上がると一度顔を俯け、ファリナはアルスレートを、ひた、と見据えた。

457唯一:2007/03/16(金) 05:08:37 ID:VersR0L4


「……そなた、私の為にどれほどのことができる?」
「早急にでしょうか?それとも、どれほど時間がかかっても構わないのでしょうか?」
それによってできることが限られてくる。
だからこそ、答える前に聞いておかなければ、とアルスレートは思う。
「そう急く必要はない。だが、悠長に時間をかけてはならん」
これはまた曖昧な…と思うが、アルスレートは考える。
あらゆる事象を想定し、結論を導き出す。
答えるべき言葉は、一つしかない。
「………世界を滅ぼすこと以外なら」
「これはまた、随分大きく出たものよ」
「どれほど時間をかけてもよい、と仰せになるなら、世界すらも我が姫の御前に跪かせてみせましょう」
「世界すら掌中に収めるか」
ファリナは思わず苦笑を零す。
しかし見つめてくるアルスレートの瞳に、それを為すつもりがあると悟る。
そうか、と小さく呟き、ファリナはアルスレートの手を力任せに引いた。
それに逆らうことなく、アルスレートは寝台に膝をつく。
きしり、と寝台が小さく軋んだ。
掴んだ手はそのままに、ファリナはアルスレートの首に腕を回して抱きつく。
不安定になるファリナを支えるために、アルスレートはファリナの腰を抱いた。
座れ、と言うファリナの指示に従ってアルスレートは寝台に腰掛ける。
次いで望まれるだろうと思い、ファリナを膝に乗せた。
やや不満げな顔をしたファリナは身動ぎし、向き合うと跨るようにして座り直した。
ぎょっとしたアルスレートを満足げに見、ファリナはその首に両腕を絡めた。
そして、吐息がかかるほどに顔を近づけ、まことか?、と問い質す。
驚愕と混乱を遣り過ごしたアルスレートは、ふぅ、と息を吐いて答えた。
「はい。我が姫がお望みになるなら。如何な手段を以ってしても、必ず」
「数多の犠牲を払っても、か?」
それこそ愚問だとでも言うように、アルスレートは苦笑する。
「どれほどの血を流し、屍の山を築いたとしても、我が姫が望まれるものの前では塵芥に過ぎません。取るに足らぬことです」
「取るに足らぬ、か」
アルスレートは肯定の意味をもって微笑む。
世界とただ一人の人と、どちらを取るか、と問われれば、迷うことなくただ一人だ、と即答することができる。
アルスレートにとって価値のあるものはファリナただ一人なのだ。
「では…私の望みなら、なんとする?……そなたが忠誠を誓う姫として、ではなく、な」
「同じことです。私は、姫である御身に忠誠を捧げたのではありません。忠誠を捧げた相手が、たまたま姫である御身であっただけ。
もしも御身がただの娘であったとしてもなんら変わりはなかった、と断言できます。
私は、貴女という方に忠誠を捧げた……それだけのことです」
「姫、という肩書きも関係なく、私、という一人の人間に、ということか?」
「はい。ですから…我が姫はただ、そうとお望みになればいいのです」
「ならば――――」
ファリナが望む声はあまりにも小さく、音にはならなかった。
しかしアルスレートはそれを理解すると、嬉しそうに微笑んだ。
これ以上はないとでもいうような、歓喜を、至福を、恍惚を含んだ笑み。
そうして睦言を囁くかのような甘さを帯びた声で告げる。
「主命に従います」
458唯一:2007/03/16(金) 05:09:24 ID:VersR0L4

その瞬間、甘く柔らかなものが唇に押し当てられた。
ファリナは驚き固まるアルスレートの唇を舐めて甘噛みし、舌を侵入させようと試みる。
「ん…ふ……ぅ、ん」
何とか侵入させた舌をアルスレートの舌に絡めて甘く啼く。
それは拙く、しかし懸命で、だからこそアルスレートの情欲を煽った。
思うさま絡めて貪りたい。
舌を絡めるだけでは足りない、もっともっとと望む感情を理性で捻じ伏せ、そっと引き離す。
薄く開かれたファリナの唇から赤い舌が覗いた。
その、舌から繋がる銀糸を指先で拭う。
「………嫌か」
悲しげにファリナの眉が寄せられる。
「そうではありません。私が姫を疎むことは決してありません。それだけは何が起こってもありえません。ただ……ここがどこか、お忘れなきよう願います」
「……」
言葉にする代わりに、ファリナはアルスレートを強く抱き締め、アルスレートはファリナを柔らかく包み込んだ。
459唯一:2007/03/16(金) 05:10:15 ID:VersR0L4



からん。かららん。

扉が開く音に、店内の者は目を走らせた。
その場所には不釣合いな男がゆっくりと店内に足を踏み入れる。
「お綺麗な騎士さんよぉ…来るとこ、間違ってねぇかぁ?」
「いいえ、間違ってはいません。……ここが、反乱を起こそうとする者達が集まるところなら」
ざわ、と店内が殺気立つ。
武器に手をかける者までいる。
それを歯牙にもかけず、カウンターまで進むと腰を下ろした。
ぴりぴりとした空気を気にすることなく酒を注文する。
酒を出してやりつつ店主は問いかけた。
「あんた、何考えてんだよ?」
「どうやって王を殺そうかなぁ、ってとこですかねぇ…」
まるで天気の話でもするかのように、酒に口をつけつつ軽い調子で告げる。
「あんた、騎士なんじゃねぇのか?」
「王に忠誠を誓った覚えはありませんね。ついでに言えば、この国がどうなろうと私の知ったことではありません」
「あんた、変わってるな?」
「そうですか?でも私はこの国の人間ではありませんし。私の主に害が及ばないなら、後はどうでもいいんですよ」
「あんたの主?」
「えぇ」
にこり、と浮かぶ微笑は幸福そうで、本当にその主を大切に思っていることが窺える。
一体誰なのか、と思う店主に男は告げた。
「この国の、王妃陛下ですよ」
その声は大きくはなかったというのに、しん、と店内が静まり返る。
「じゃ、あんたが!?あんたがあの!?」
「あの、が、どれを指すか知りませんが……まぁ、そうです。私がアルスレート・イスクルです」
いくつもある呼び名のどれを言っているのかはわからないが、それを肯定する。
そこはアルスレートにとってどうでもいいことなので流したのだ。
しかししばらくすると、まさか、マジかよ、などと囁き合う声が聞こえる。
460唯一:2007/03/16(金) 05:11:10 ID:VersR0L4


「で、本題はなんだ?」
「おや、わかっていたんじゃないんですか?」
声をかけてきた男に、くすり、と口角を吊り上げる。
決まりきったことを、といわんばかりに。
「こんなとこに来んのはまぁ…そうだろうとは思うけどな」
「では、用件を済ませますか」
「そうしてくれ」
「資金と情報の提供、ですかね。…無論、ただで、とは言いませんけど」
「条件はなんだ?」
「決まっているでしょう?………我が姫に手を出さないでいただきたい」
それ以外に何があるのか、というようにアルスレートは告げる。
「つってもなぁ…?」
「お飾りの王妃に一体どれだけの価値があると?王の寵姫の方が価値があるでしょう」
身籠ったようですしねぇ…そう呟けば面白いくらいに食い付いてくるのがわかる。
「それは本当か?」
確認するような声音に頷くと、そいつはまずいなぁ、という声があちこちで漏れる。
計画を急いだ方がいいな、という声も聞こえる。
「私が手を下してもいいんですけど、面倒ですから」
我が姫がお望みになるなら、吝かではありませんが。
そう呟くアルスレートに
「あんたほんと、主人以外のためには動く気がないんだなぁ」
「ありませんね。彼の方は私の唯一の主。至上の御君。私の神であり、法であり、世界です。
それに、私のただひとつの愛を捧げる方、ですから」
ひゅ、と驚愕に息を呑む気配がする。
それに構うことなく、アルスレートは続ける。
「叶うなら…私がこの手で幸せにしたいと願う、たったひとりの方。
でも、幸せに微笑んでいてくれるなら、それが私の手によってでなくても構わないとも思っているんですよ」
本当にそう思っているのだと容易に知ることができる、甘く柔らかな、美しい微笑。
けれど。
次の一言で、それは霧散する。
「我が姫は微笑まない。……それだけで、私が牙を剥くには十分です」
一切の温度を感じない、冷たいという言葉では表現できないほどの響きを持つ声が紡がれる。

「――それで?貴方方はどうしますか?」
461唯一:2007/03/16(金) 05:14:06 ID:VersR0L4
続く

我が姫、とかいて、わがきみ、と読んでくれまいか

462唯一:2007/03/16(金) 05:19:44 ID:VersR0L4
そう呟くアルスレートに、呆れたように男は言った。

つのが切れてた……ばかだおれ
463Il mio augurio:2007/03/17(土) 14:47:45 ID:3byBz66/

「では、まずは男性器と女性器についてお勉強致しましょうか」
「そのあたりは学校で学んだけれど?」
「テキストで理解なさいましたか?現物もご覧になっておられませんのに」
「それは…」
口篭る暁香を見つつ、現物見せるのか?、と暁良は内心ツッコミを入れるが口には出さない。
言われていることもあるが、迂闊なことを口にすれば薮蛇になりそうな予感がひしひしとするからだ。
「まぁ、お見せしても構わないのでございますが…それはおいおい、ということに致しましょう」
「じゃぁ、どうするの?」
「教材を御用意致しました」
とんでもないものには違いないよな、と思っている暁良を尻目に、用意したという教材がテーブルに置かれる。

まずは本。医学書レベルのもののようだ。
氷雨はそれをぺらぺらと捲り、生殖器の項を開く。
暁良はろくでもない教本でなくてよかった、と胸を撫で下ろしたが、次にテーブルに置かれた物に目を剥く。
「!?」
「これ、なぁに?」
そのうちの一つを暁香は手に取り、氷雨を見る。
「なんだかふにゅふにゅしてる…」
「それは男性器を模しものでディルド、あるいはディルドーと呼ばれる玩具でございます」
「でぃるど?」
きょとりと首を傾げて目を瞬く様は可愛らしいが、その発言と手にあるものはいただけない。
「はい、左様にございます。それは男性器についての教材でございます」
「こんな手触り、なの?」
「そうでございますね、おおよそそんなものかと。人体に近い素材を使用してございますから、より本物に近いかと思われます。もっとも現物はそれのように冷たくはございませんが」
じぃ、と興味津々といった風情で見つめる暁香に、暁良はなんだか居た堪れない気分がしてくる。
「………ずっと疑問だったのだけど……」
「何でございましょう?」
「ここって、どうしてこんな形なのかしら?」
男性器のカリの部分を指先で撫でながら暁香は氷雨に問う。
「某州立大学研究チームによりますと、性行為時に他の男の精液を掻き出すために発達した、ということでございます」
「ふぅん?そうなの」
つーか、氷雨さんあんたどこからそんな知識入手したんだよ!?しかもそんな淀みなく答えたりとかして!?暁香お嬢様もそんな簡単に納得しないで疑問に思ってください!
などと暁良が内心で暴走している間に講義は進む。
「陰嚢、陰茎、亀頭、亀頭冠…一般的にはカリと呼ばれる部分でございますね。それから、尿道口となります。とは申しましても男性の場合、ここから精液が出るのでございますが」
指で指し示しつつ氷雨は説明していく。
「ああ、それから、この形状は勃起している状態でございますので。常の状態とはやや異なってまいります」
「そう、なの?」
「常にこの状態ならば、動き難くて仕方ありませんでしょう」
じぃ、と氷雨の股間を思わず注視し、暁香は頷く。
「……そうかも?」
「私の股間をそう注視されても困るのでございますが」
苦笑しつつ氷雨は言う。
しかしそれほど困っている、といった風情ではない。
「じゃぁ、暁良ならいいの?」
「や、やめてくださいませ!?」
ぐるぐると脳内を暴走させていた暁良だが、悲鳴のように叫ぶと、暁香が暁良のほうを見るより早くしゃがみこんだ。
「……だめなの?」
慌てっぷりに一瞬驚いたものの、暁香は氷雨を見上げて問いかけた。
「通常は恥ずかしいものでございますからね」
「氷雨は?」
「恥ずかしがっていてはこのような講義などできませんでしょう」
たしかに、と納得し、暁香は先を乞う。
464Il mio augurio:2007/03/17(土) 14:49:09 ID:3byBz66/

「勃起の経緯については後ほどDVDでお勉強することに致したいと存じます。玩具では理解できませんでしょうから」
こくり、と暁香が頷くと、氷雨は筒状のものを取り上げる。
「それは?」
「これは女性器を模したものでホール、あるいはオナホールと申します」
「ほーる…」
「はい。内側は男性が快感を得やすいように作られておりますので、参考にはなりませんが。多少の誇張はございますが、これならば外性器のほうの勉強になりましょう」
いやいやいや、そうじゃなくて!そんなの暁香お嬢様に見せないでくださいよ!?
などとしゃがみこんだまま暁良は内心で悶える。
無論そんな暁良を氷雨はしっかりきれいにスルーする。
暁香に至っては気付いていないが。
「こう見ますと、女性が仰向けになっている時と同様の状況でございます」
こう、と示しつつ暁香の目の前に差し出す。
「外から大陰唇、小陰唇でございます。大陰唇は体の他の皮膚と同様の色をしておりますが、小陰唇のほうは血管が多いためにピンク色をしております。
性的刺激を受けますと充血して膨らみ、更に刺激に敏感になってまいります」
「それでえーと…これが、くり…くり、とりす?とかいうの、よね?」
「そうでございますね。陰核、という言い方もございますが。クリトリス、のほうが一般的でございましょう。…ところで暁香お嬢様?」
「なぁに?」
「どこでそのようなお言葉をお知りになられました?」
そうですよ、どこでそんな言葉をお知りになったのですか、暁香お嬢様ー!?
本当は問い詰めたいが、開始前に氷雨に口出ししないように言われているので口を挟めない。
当然、薮蛇を恐れたものでもあるが。
「えぇ?お友達が言っていたの。気持ちいいって」
「なんとも素晴らしいご友人でございますねぇ…」
いやいや素晴らしくないから!誰か知らないけど暁香お嬢様に変なこと吹き込まないでー!
暁良の悶絶は続くが、それを気にする氷雨ではないし、暁香は気付いてすらいない。
ので、ある意味放置されたまま、更に講義は続く。
「ここが膣口でございます。この内側に処女膜、というものがございます」
「えぇ…と…初めての時に破れる、とかいう?」
「一般的にはそう言われておりますが、運動をしたり、タンポンなどを挿入するときにも破れる場合がございます。
また、始めから完全に塞がっているものではなく、穴が開いておりますから、膜、というのも語弊がございますが。
ですので、破る、破れる、には、実は該当しないのでございます」
「へぇ…そうなの」
初めて知った、と暁香は目を丸くする。
「便宜上、破れる、と表現致しますが…破れれば、多少の出血を致します。出血をしても、十分に濡れて潤っていれば痛みを伴わないこともございます。
また、激しい性行為によって膣内部が傷つき、裂けて出血する場合がございます」
「難しいのね」
「あまりそう認識されておりませんが、大変デリケートな器官でございますから」
つかなんでそんなに詳しいの氷雨さん!貴方男だよね!?
会話の一つも聞き漏らさないように躾けられている暁良は、悶絶しつつも全て耳に入れてしまう。
若い暁良には辛いが、哀しい使用人の性である。
「膣の内壁は口の中と同じような粘膜でできており、粘膜をたぐり寄せたように沢山のひだがございます。
また、子宮からの分泌液や膣自身からの分泌液で常に湿って潤った状態になっております 」
「おりものとか?」
「はい、一般的には体外に排出された分泌液はそう呼ばれておりますね。
ですが、性行為の際は十分に愛撫して興奮させ、愛液を分泌させる必要がございます。
これは性感を高める、ということのみならず、保護という役割も兼ねております。でなければ、大変痛い思いをなさるかと存じます」
「痛いのはやだ…」
眉を顰め、嫌そうな顔をしつつ暁香は言う。
「それが普通でございます。……子宮は…学校で学ばれた通りでございますから、割愛致したく存じますが、如何致しましょう?」
「えぇ…と…ええ、いいわ」
こくり、と頷きつつ暁香は頷き、手に持ったままだったものをテーブルに置いた。
「宜しゅうございますか、暁香お嬢様。伴侶には配慮のできる男性を選ばれませ」
465Il mio augurio:2007/03/17(土) 14:52:51 ID:3byBz66/
つーかんじで、副題:性教育その二
なんか微妙になってきたからこれで投下。
実はこの後、フェラチオ講座があったりしたんだが……どうする?
466名無しさん@ピンキー:2007/03/17(土) 17:30:28 ID:3pf9+/lI
>>462
従者がいい感じに狂ってるのが読んでて面白いな
GJ!
467名無しさん@ピンキー:2007/03/17(土) 20:26:10 ID:JgQCDCnL
笑っちゃいかんのかもしれんが、笑ったw
GJ!
468名無しさん@ピンキー:2007/03/18(日) 02:39:26 ID:mFfRmK7s
>>465
GJ。
なんっつーモノ教材にしてんだよ……ww
ってか、DVDはナニ見せるつもりだ。
469名無しさん@ピンキー:2007/03/18(日) 12:43:17 ID:9lBu2ceI
>>468
DVDでは愛撫(自慰とフェラチオ含)と挿入を予定しているが?
氷雨は確信犯なので、わざとそんなもん選んだんだな。
暁良いじりのために。……むしろ暁良の受難か?

470名無しさん@ピンキー:2007/03/18(日) 13:26:15 ID:1l6xyQl8
>>466
いい感じに狂ってるのが表現できてたか。
よかった。ありがとう。
もうちっと頑張ってみるよ
471名無しさん@ピンキー:2007/03/21(水) 12:53:25 ID:W70wHgTS
職人降臨期待age
472護衛×閣下:2007/03/22(木) 00:14:10 ID:UGK7JpgZ
前の職人から4日経ってるのか…だからこんなに上なのか…
、としんみりしたので特急仕上げた。アラばかりだ。だが投下する。

「閣下尺八を山羽で発見する(仮題)」

 閣下は俺の腿に手を置き、神妙な顔をして俺を見上げた。
ごくり、とその白い喉が上下する。布越しに震えた手の温度が伝わり制止の声をかけたくなる、が声が出ない。
また、まじないをかけられたのだ。声を出そうとすれば乾いた喉がヒューヒューと鳴る。
 ジベレリンとかいう術よりマシだ。やらせはしなかったが、説明だけで青くなる術を沢山閣下は会得している。実践されたら大抵の男は腹上死でその人生を終える。
手早く状態を説明するならば、腰から下と声を拘束されたのだ。
追記として、ひとつ。俺は被虐ではない。
 何故このような状況へ追い込まれたのだろうか。ただ俺は断っただけだというのに…
ベルトのバックルに伸びる手を掴んで止める。白い手の甲に赤い花のような文様が映えていた。

「やらせろ!」

 目元を恥ずかしそうに染めて言うセリフじゃない。
慌てて両手でその口を塞ぐ。表情とやってることが違いすぎます。
口を塞ぐと顔がもう半分も見えないし、息もし辛いと思うが、閣下はにんまりと目を細めた。
うって変わって素早い動作でベルトを引き抜き前をくつろげ、手を置いた。
――チンコの上に。
俺の頭の中の警鐘が甲高い音を立てて鳴り響く。
慌てて閣下の手をどかそうと重ねれば余計に押し付けるような形になってしまう。閣下がぴくりと肩をゆらした。

「…あったかい?」
そりゃあもちろん身体の一部ですからね!

 どうにか手を離させると今度は首を動かしてまで近づこうとする。
なんでこんなに今日はしつこいんだ!!はやくフェラからはなれなさい!!
あくまで俺は閣下が善がってんのを見るのが好きで、されるのは二の次なんです!
そんなに強い力は出せないので、堂々巡り。これがもう三十分近くつづいていた。
あきらかに焦れている閣下が三回目の脅しをかける。

「上も拘束するぞ」
473護衛×閣下:2007/03/22(木) 00:14:46 ID:UGK7JpgZ
 強姦、という言葉を知っていらっしゃるでしょうかニーズヘッグ・ユアン大佐…
力なく俺は首を横に振り、観念した。というかテイネンした。
してやったり、という表情で閣下は背伸びをして頬にキスをする。
下着の上から恐々となで上げ、そいつをひっぱりだした。まだ柔らかいそれを持ち上げてまじまじと見つめる。
何がおもしろいのだか…

「この状態は初めて見るな。成人は皆、こういう風になっているのか?いや、個人差はあるか。
 あれだな、ほんとにカメみたいだ。おもしろいなツルリとしてるぞ。
 む、最中とは違うな…ふにふにしている。ああ、まだ勃起していないから、か?
 …しかしよく収まるものだ。大きくないか?」

 摘んだり、引張ったり、計ったり、自身の腹を撫でながら観察した後、竿を握り先端をちろりと舐めた。
上下に扱きながら食むように刺激していく。つたないながらも、必死な姿に徐々に硬くなる。そして決心したようにぱくりと咥えた。
やはり閣下の口は小さい。それでも無理矢理に入れようとして激しくむせた。

「っ!…はぁ、すごいな人体の神秘だ…ガルムおまえ、どうやって私にいれてたんだ」

 神秘的な思考回路の持ち主である閣下はそれでもあきらめず、ぴちゃぴちゃと音を立ててなめまわした。
さっきので懲りたのだろう。今度は余裕を持ってその小さい口に含んでみたり、横からかぶりついたりと試行錯誤するように動き回る。
それでも、生来の器用さからかそれともセンスが良いのかイイ場所をついてくる。

「ん、ほほひぃくなっは……っちゅ、そうだ袋もか?なめ…いや揉むのか」

 思い出したように付け根をぎゅっと握られる。悲鳴をあげそうになった。あああげても音にならないのか。
そうして摩るような動きのあと、やわやわとしかし摘むように包み込んだ。袋も張っているのがわかる。
両手で揉みながら扱きながら、舌先を差し込まれた。痛みに意識が飛びそうになるがそれも一度だけですんだ。
閣下の手が自身へと伸びていた。目を瞑って、懸命に咥えながら腹部に触れる。
つい最近まで処女だったというのに、著しい発展である。
……あれ?俺最初も襲われてない?どうなの?結果的に和姦だろうけど…
ちぃっとばかしトリップしていると、閣下は握ったまま膝に乗ってきてそのまま内腿にこすりつけた。
挟んで動くと愛液がとろりと絡みついた。充分すぎるほどに湿っていて、閣下の息も上がっていた。
あとでの仕返しにビビリながらも閣下まで手を伸ばした。
へそのあたりを布の上からなぞって降下する。まだクリトリスに到達しないうちに、閣下の膝は震え崩れた。
474護衛×閣下:2007/03/22(木) 00:15:27 ID:UGK7JpgZ

「ぁ、や、ひざがたた、ない」
「ニーズさん?」

 崩れた際に一気に挿入ってしまい、へなへなと俺によりかかる。
それに前後して拘束が解けた。足がだるいし、喉が渇いていた。
やわらかい黒髪を撫でながらもう一度名前を呼ぶ。

「あ、やん!…ちょ、しゃべる…なぁっ」
「へ?ニーズ?ニーズさん?どうしたんですか」
「ばかぁあ、しゃべっ、るなって!言った…」

手のひらを口に押し付けられる。そのまんなかを軽く舐めるとサッと手を戻した。
腰を抱えてゆっくりと横たえる。体勢を逆転させて閉じ込めた。閣下の足が放さないとばかりに絡む。
こめかみに近づいて、意識して低い声を出すと濡れた瞳が俺を映した。

「俺の番ですよ」
「ひっ…ちょ、もっムリヤリしないからぁ!…しゃっ、べ…ないでっ」

どうして、と首に指を這わせたまま尋ねるとそっぽを向いて答えた。横顔が赤い。

「こえ、ちがうひとみたい、やだ」

 自分ではわからないが酷く掠れているらしい。別人に犯されているみたいで嫌なのか。
繋がったまま上体を捻って、閣下はシーツをつよく握っていた。肩が震えている。
本当に怖いのか。

「バックでしましょうか」
「やだぁ!いや!だめ!ナシナシ!」
「散々いじめた癖にいいますか。俺は嫌だと言ったのに、声は盗られるし身体は動かないし…」

 上体にあわせて閣下の身体を動かす。ごりごりと削るような、しぼられるように中もうごく。
閣下の右手が何かを掴もうとして宙に投げ出された。

「ごめ、ごめんなさ…も、術は使わないからぁ…がる、む」
「本当に?風呂屋の真似事も、真夜中に野営テントに突入もしませんね」
「うん」
「…約束できますか?」
「うん。だから、はやく」

 うなじに口付けた。白い背の肩甲骨までたどる。額を背中に擦りつけたまま乳房を揉むと喘ぎと共に抗議の声があがった。
だけれどそれもすぐ消える。後ろから何度か突けば、いやいやと首を振って簡単に果てた。

 【割愛】

 最中に「何故突然フェラチオをするにまで至ったか」と問いただせば、
大親友の聖女様から「殿方はそれをされるととても気持がよいそうですわウフフ」と教わったという。
ついでに、世話役を籠絡せんとしているという情報も入手した。
俺はもうあの女を聖女とは呼ばない。メアリ・アンからメアリ・アン・シ・モネタに改名すればいい。畜生。
475名無しさん@ピンキー:2007/03/22(木) 01:52:50 ID:2i8UbgaA
>  【割愛】

(゚д゚)
476名無しさん@ピンキー:2007/03/22(木) 02:55:45 ID:xYrwFT4F
>>475
あっち向け。
477名無しさん@ピンキー:2007/03/22(木) 16:21:32 ID:ghUjhUTj
GJ!
女の子が積極的なのは俺の好物だ
しかもフェラ有りとなればもう!
478名無しさん@ピンキー:2007/03/22(木) 17:07:29 ID:zApmmNJp
GJ! 
エロい閣下が上官で、ガルム苦労するな……。うらやましい苦労ではあるがw
479島津組組員:2007/03/23(金) 15:37:42 ID:WAWUjz6L
スレの残り容量が不安ではありますが、埋めがてらに「涙雨恋歌 第3章 知身雨」を投下します。
計算上は足りるはず……。

今回はエロあります。前戯たっぷり目、寝取られエロですので、苦手な方はスルーの方向で。
ただ、NTRにあるような背徳感とかそういうのは一切ありませんので、NTR好きの人には物足りないでしょう。

ではどうぞ。
480涙雨恋歌 第3章 知身雨 1:2007/03/23(金) 15:39:08 ID:WAWUjz6L
1.

 どうしよう、あんなこと言っちゃった。あんなことが言いたかったんじゃないのに。
本当は、キスしてたあの女の人誰? って訊きたかったのに。しかもわたしを愛せばいいなんて、そんなこと言うつもりなかったのに。
 瀬里奈はリビングの厚いカーテンの陰からそっと門を覗く。
 辻井が瀬里奈の渡した傘を差して立っている。大きな辻井の身体に比べてビニール傘は小さすぎて、窮屈そうだった。
「おかえりなさい。誰かいるの?」
 キッチンから都の声がして、慌てて瀬里奈はカーテンを閉めて母に振り向いた。
「な、なんでもない。誰もいないよ」
 言いながらもう一度カーテンの隙間から門を見る。もう、激しく降る雨筋しか見えなかった。
「瀬里奈と一緒にご飯食べられるのも、もうあとちょっとだけね」
 都は食卓に箸を並べ始めた。
「やっぱり行くの?」
「ええ。ごめんなさいね」
「どうしてなの。お父さんのこと、嫌いになっちゃったの?」
「違うわ。あなたたちのお父さんのこと、嫌いになるわけないでしょう」
 食器棚に向かい、食器を取り出しながら、都はそう言った。
「……疲れちゃったの。救急車やパトカーの音に怯えるのにも、もう来てくれないかもしれないって不安なのにも。ママ、もう疲れちゃったのよ。ごめんね、瀬里奈」
 弱々しい疲れた笑顔の母がやけに小さく見えた。
「お正月に会って、その時にはもう決心してたのよ。でも、隆尚さんの顔を見るたびにその決心が揺らいで……」
 静かに食事の用意をしながら、都はぽつぽつと話している。瀬里奈に話をしているというよりは、独り語りのようだった。
「だから、隆尚さんが結婚するって聞いた時には、ほっとしたの。これでもう迷わずに京都へ行って、山上さんと結婚できるって」
 京都の人は山上さんっていうんだね、と瀬里奈は心の中で母に話しかけた。


 母はその後も話し続けた。
 島津を愛していたのは本当だ。愛人だと人は言うけれど、島津はお金だけでなく愛情も注いでくれた。都にだけは、子供を作ることも許してくれた。
 だが心の奥底は見せなかった。悩みを打ち明けたり愚痴をこぼしたりすることは一切なく、何かを都に要求することは一度もなかった。
 そして決して、都の気持ちを受け取ることだけは、絶対にしなかった。物であれ、心であれ。
「多分、それが彼なりの割り切り方なんだと思うけど。寂しいものよ、一方通行なんて」
 そんな一方通行の思いをずっと抱えているのは、寂しくて不安で疲れてしまったと自嘲した。
「京都に電話して、結婚しますって言ったら、山上さんは喜んでくれた。自分を選んでくれてありがとう、って。ママの気持ちを受け取って喜んでくれた。だから、心底嬉しかった」
 だから京都へ行くんだと、都は瀬里奈に言った。もう島津の背中を追うのは、やめにするの、と。
「瀬里奈。あなたを大切にしてくれる人を、あなただけを一番に愛してくれる人を選びなさい」
「辻井さんと同じこと言うね、ママ」
 あははと笑いながら瀬里奈が言うと、都は急に厳しい顔で瀬里奈に向かった。
「あの人はやめなさい。辻井さんは、暴力やお金であなたを傷つけることはしない。だけど、あなたを一番には思ってくれない。『ヤクザ』であることを第一にして、あなたを傷つける」
 尚を呼んできて、と都は言った。
「あの人が命より大切にしているのは、島津隆尚――あなたのお父さん。辻井さんがあなたに優しいのは、あなたが大切な親分の娘だから。あなたを長浜瀬里奈として見てくれているんじゃないのよ」
 ドアに手をかけて、瀬里奈は振り向いた。
「その前に、辻井さんがわたしを選ばないよ、ママ。心配いらない」
「ママと同じ苦しみを味わいたくないなら、辻井さんはやめなさい」
 ドアを閉めて尚を呼ぶために階段を上る。
 わたしを長浜瀬里奈個人として見てくれているわけじゃない。そんなことはわかってる。
 あくまでわたしは島津隆尚の娘、付属品。そんなことはわかってる。
 そもそも辻井さんと付き合うなんて、あの綺麗な女の人に勝てるなんて、そんなことありえないし。
 ママにとっての山上さんと同じ人を見つけなきゃいけないってことも、そんなこともわかってる。
 わかってる。わかってるけど――じゃあわたしはどうすればいいの。
 瀬里奈は兄の部屋のドアをノックした。
481涙雨恋歌 第3章 知身雨 2:2007/03/23(金) 15:40:43 ID:WAWUjz6L
2.

 母と兄、そして自分の3人での食事。
 都が休みの日は必ず行われている儀式。平日はほとんどすれ違いで顔をあわせることのない母子が、家族であることを再確認するための儀式だった。
 その儀式を終えて、瀬里奈は自分の部屋に戻った。携帯電話を見ると智也から来週の返事を待っているというメールが届いていた。
 自分を大切にしてくれる人を選べ。
 母と辻井が同じことを言った。
「あなたはわたしを大切にしてくれる?」
 携帯電話のメール画面を見ながら、その向こうにいる青年を思い出して瀬里奈は呟いた。


 返事遅くなってごめんなさい。来週の土曜日、楽しみにしています。
 瀬里奈がそんなメールを送信してすぐ、携帯電話が鳴った。
『瀬里奈ちゃん、返事ありがとう。催促して悪かったね。休憩してたらメールがきたから、嬉しくて電話しちゃったよ』
 智也の明るい声が電話から聞こえてくる。
『ねえ、もしよければ、もうすぐバイト終わりなんだけど、これから会わない?』
 思わず時計を見た。食事を終えたとはいえ、まだ8時前だ。普段ならこの時間は万理と遊んでいることも多い。
『ダメかな?』
「ううん、行く。お店へ行けばいいですか?」
『店の隣に、チェーンのコーヒーショップがあるからそこで待ってて。9時には行けるから』
 じゃあ後でね、と智也は電話を切った。
 瀬里奈は電話をベッドに放り投げ、立ち上がりバスルームへ向かう。
 バスタブの中で瀬里奈は自分の小さな胸に触った。以前辻井を思って触れた茂みにも触れた。
 智也の顔を思い出す。さっきの電話の声を。金曜日の熱いキスと吐息と強い抱擁を。茂みからそっと奥へ指を動かした。
 辻井のことを思うだけでとろとろ蕩けてきたそこは、なんの反応もなかった。
 きっと、これから少しずつ好きになっていくにつれて、彼のことを思うだけで濡れてくるに違いない。
 瀬里奈は自分にそう言い聞かせて、バスルームから出た。
 胸の真ん中に大きな飾りリボンがついているチュニックワンピースとデニムに着替える。化粧をするために部屋の鏡に向かう。
 肩につくくらいの黒い髪。ふんわりと顔にそってカールさせた毛先にワックスを塗りこむ。
 都譲りの大きな目。瞳の色が薄いので、ハーフと勘違いされたこともある。マスカラをつけアイラインを引いて瞳を強調する。豊かな唇にグロスを軽くつける。
 頬骨が出ているのと、鼻が万理よりも低いのが、瀬里奈の悩みだ。ノーズシャドウも少しいれる。
 鏡に向かってにっこりと笑う。大丈夫、きっと可愛いよ、わたし。独り言ちてから、瀬里奈は慌しく階段を下りる。
 リビングの向かいの部屋が、都の部屋兼寝室だ。そのドアをノックして、万理と遊んでくる、と都に嘘をついた。
「気をつけなさい」
 都はただそれだけ言った。その言葉の裏に、何百、何千の気持ちを込めていたことに、瀬里奈は気づいていなかった。


 待ち合わせのコーヒーショップを見つけ、窓際のカウンターに座る。時間は9時ちょっと前。もう智也が来ているかもと店の中を見回したが、まだ来ていないようでほっとした。
 カップを持った時、隣に女が座った。ふっといい香りが仄かに漂ってきた。どんな人がつけているのかと、その人を見た。
 辻井と一緒に車に乗っていったあの女性だった。ただ細いだけではない、鍛えられたしなやかな細い身体。
 黒いワイドパンツとノースリーブのカシュクールブラウス。その身体にはアンバランスなほどの豊かな胸がブラウスを突き上げている。
 自分の格好がとたんに子供っぽく感じて、恥ずかしくなる。
 思わずあッと声を出してしまった瀬里奈を、不思議そうに彼女は見て、微笑んだ。
「誰かを待ってるの?」
 その外見と同じような凛とした涼やかな声だった。
482涙雨恋歌 第3章 知身雨 3:2007/03/23(金) 15:41:37 ID:WAWUjz6L
3.

 こんな大人の女になりたい、綺麗になりたい、今すぐに。そうすれば、いろんな悩みが解決するかもしれない。瀬里奈は思い切って彼女に声をかけた。
「あ……あの。あなたみたいに、綺麗に、大人の女性になるにはどうしたらいいんですか」
「あなたの年頃には、あなたの年頃の魅力があるものよ。大人になんかそのうち嫌でもなってしまうから、急いでならなくてもいいと思うけど」
 突然の瀬里奈の質問に、一瞬驚いた表情をしたがすぐに微笑みを浮かべてその人は言った。
「好きな人に好きだって言ってもらって、可愛いねって誉めてもらって、大切にしてもらって、抱いてもらった数だけ、綺麗になれるのよ」
 座っているだけで、前の道を通る男も女も彼女を見ていく。
 この間は黒のストレートヘアだった髪が、今日は濃いブラウンの髪色で髪全体にゆるいウェーブがかかっている。
 大きな目は二重まぶたと黒く大きな瞳で神秘的にすら見えるアーモンドアイだ。すっと通った鼻筋と薄めの唇。
 エキゾチックな美女にも見える彼女は、一体どれだけの人にどれだけの数の言葉や愛情をもらったのだろう。
「好きな人に?」
「そう。女は、男に誉めてもらった数だけ綺麗になってく。彼にたくさん愛してもらって、大切にしてもらいなさい」
 彼女は辻井に一体どれだけ愛してもらっているのだろう。辻井は一体どれだけ彼女を大切にしているのだろう。そう思うと、胸が疼いた。
 その時、智也が窓を叩いた。辻井のことは忘れよう、この人に大切にしてもらおう。智也の笑顔を見て、瀬里奈はそう思った。
 彼女がちらりと智也を見て、瀬里奈に向かってもう一度微笑んだ。応援されているような気がした。
 食器を片付け、彼女にぺこりと頭を下げ店を出る。智也が店を出た瀬里奈の横に立った。
「久しぶり――でもないか。おれがずっと君のこと考えてたから、随分会ってないように思うだけだね」
 にっこりと笑い、瀬里奈の手を取って歩き出した。その感触は家を出る前にバスタブの中でしていたことを思い出させ、瀬里奈は赤面した。
 食事まだだから軽く食べるところでもいい? と訊かれ、うん、と俯いたまま答える。
「どうしたの、具合悪い?」
 俯いた瀬里奈の顔を覗き込むように智也が身体を近づけてきて、瀬里奈の頬はますます赤くなっていった。智也の唇にばかり視線がいってしまう。
「ううん、なんでもない」
 精一杯普通を装ってそう言った瀬里奈の頬に、なら良かった、と軽く口づけて智也は歩き出した。


 雨ではあるが、連休の中日の夜ともあって、どの店も空席を待っている客が並んでいる。その中を智也はすいと扉を開けて入っていく。
「電話あってすぐに予約しておいたんだ」
 智也が連れてきたのは、多国籍風カフェレストランだった。食事が済んでるならデザートでも頼むといい、とメニューを開いてくれる。
 生ハムとチーズのオープンサンドイッチにカプレーゼ、生ビールを智也は頼み、瀬里奈はコーヒーとチョコレートケーキを頼んだ。
「ごめんね、急に会いたいなんて言って。正直、オーケーしてくれると思わなかったから、嬉しいよ」
 それぞれの頼んだものが届いてから智也が微笑んだ。
 瀬里奈は両親のことを話そうかと思った。母の告白を聞いてからも、まだなんとなく釈然としない気持ちが残っている。
 父と母はそれでいいかもしれない。お互いの道を見つけて、それに向かっていこうとしているのだから。
 だけど、じゃあわたしは? お兄ちゃんは? 新しいお父さんにしろお母さんにしろ、今更お父さんお母さんって呼べっていうの?
 ふたりとも、わたしたちのことどうでもいいと思ってるのかと、納得がいかなかった。
 だが結局、瀬里奈はその話はしなかった。利己的に聞こえてしまうかもしれない。智也に、そんな面を見せたくなかった。
 子供っぽい悩みだと、笑われそうだった。


 いつの間にか智也は前の彼女に振られた話をしていた。振られて落ち込んでいた時にちょうど瀬里奈が現れた、と。
「瀬里奈ちゃんはどう? ずっと憧れてた人に彼女がいるってわかって、その恋は終わったわけでしょ?」
 急に自分の話になり、瀬里奈は驚いて飲んでいたコーヒーにむせた。辻井の背中を思い出し、それを忘れようとした。
「そんな時にさ、違う人が現れたら、その人のこと好きになったりしない?」
 智也が微笑んでいた。その視線に瀬里奈が気づき、智也の目を見る。瀬里奈の手に智也の手が重なった。智也の印象と同じ、さらりとした感触の掌だった。
「今日は帰らなくていいよね」
 思わず瀬里奈は頷いた。智也の瞳の熱さと、掌の涼しさが瀬里奈の素肌を伝っていった。
483涙雨恋歌 第3章 知身雨 4:2007/03/23(金) 15:42:39 ID:WAWUjz6L
4.

 傘を差したふたりは無言で歩いた。しばらく歩いてたどり着いた5階建てマンションの4階の角が、智也の部屋だった。
 ドアを開けると機械の音がした。大きな一部屋を天井までのパーティションで区切ってあり、そのうちの一部屋は、ぎっしり様々な機材で埋め尽くされていた。
 それぞれが動いているらしく、真っ暗の部屋の中でモニターの光が青く光り、機械の動作音が途切れなく聞こえた。
 エアコンが効いていて、帰ったばかりだというのに涼しい空気が漂っている。
 もう一部屋はクローゼットに大きなテレビとベッド、低いテーブルがあるだけの部屋だった。テレビの横には姿見、テーブルの上にはお酒の瓶とグラス。
 智也は機械がある部屋へ入り、ロールカーテンを下ろす。しばらくしてからダイニングに戻ってきて冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
「あ、瀬里奈ちゃんは未成年か」
 言いながらミネラルウォーターのボトルも出して瀬里奈に渡す。缶ビールを飲みながらテーブルの前に胡坐をかいて座り、瀬里奈を呼んだ。
「おいでよ」
 瀬里奈はためらいながら智也の横に座る。持ったままだったペットボトルを智也が奪い取る。そのまま瀬里奈を抱きしめた。
 地下道で抱きしめられた時よりも、智也を近くに感じる。智也が腕を動かすたびに筋肉も動き、その動きに瀬里奈は吸い込まれていく。


「昨日、家にいる時も、バイトしてる時も、誰かと話してる時も、ずっと瀬里奈ちゃんのことが頭に浮かんでた」
 智也の息が瀬里奈の耳をくすぐる。胸が熱くなってきている。
「どうしようもなくなって今日、メールした。その時はさ、メールの返事がくればいいと思ってた。なのに、返事が来たら今度は声が聞きたくなった」
 智也の掌が瀬里奈の肩にあった。さらっとした掌。男にしては細くて白い綺麗な指。それが肩から背中へ移動する。
「電話して、声を聞けたら、次は会いたくなった」
 耳元で囁いていた智也が身体を起こし、瀬里奈を見つめた。
 とくん。
 瀬里奈の下半身が反応した。
「会えたら、抱きしめたくなった。抱きしめたら……」
 瀬里奈を見つめていた目がぎゅっと閉じられた。何かを言いたいが、言葉にできないといった風に、智也は軽く首を振って息を吐いた。
「ああ――君が好きだ、瀬里奈」
 コーヒーショップを出た時にそれしか見えなかった、智也の形のいい唇が、瀬里奈の唇に重なる。
 智也の長い舌が瀬里奈の口を割って滑り込む。背中を撫でていた手は頭と腰をしっかりと抱え、指がうごめく感触でぞくぞくと背中が震える。
 瀬里奈の舌をじっくりと舐め上げた後、智也は瀬里奈の舌を絡め取り、唾液を流し込んだ。
 ゆっくりと智也が唇を離す。それまで口の中を動いていた舌が唇を舐めている。智也の唇の感触を直に感じて、瀬里奈の身体はぴりぴりと反応していった。


「初めてだよね」
 頷いて瀬里奈は目を開ける。
「嬉しいよ、瀬里奈の最初の男になれて」
 カーペットの上に押し倒される。洋服の上から智也が瀬里奈の身体に触れていった。瀬里奈の体の線をなぞるように、首筋から肩、腕、腰とその手は動いていく。
 やがて瀬里奈に覆いかぶさって、智也は瀬里奈の身体に口づけを落とす。胸元に唇を這わせ、口でブラジャーを押し下げる。
 身体をなぞっていた手を背中にやり、ブラジャーのホックを外した。ふるん、と小ぶりの胸が洋服の下で震えた。
 我慢できなかったかのように智也は瀬里奈のチュニックを脱がした。手を上にあげて袖を抜くついでに、ブラジャーも取り去った。
 胸、隠さないで、と言って智也は瀬里奈の下半身に手を伸ばす。ジーンズのボタンを外してファスナーを下ろしそこに手を差し入れる。
「濡れてるよ、もう、下着もぐしょぐしょだよ」
 恥ずかしくて瀬里奈は智也から顔を背けた。やわやわと智也の指が瀬里奈の恥丘を撫でる。親指がすっと下着の中へ滑り込んできた。
「立って。そう、おれに見せるようにして、脱いで」
 ベッドに背を向けて座ったままの智也の前に立ち、困惑しながら瀬里奈はジーンズを脱いだ。小さなブルーの布地だけが、瀬里奈を覆っていた。
「それも脱いで。おれも脱ぐから」
 智也は座ったまま自分の服を脱いだ。智也のボクサーパンツの上からは既に濡れて光っているものが顔を覗かせていた。
 初めて見る、男性器だった。視線が、避けようとしてもそこに注がれてしまう。
 それに気づいた智也が、にやと笑って己の先端部分を撫でた。
「瀬里奈の裸を見ただけで、もうこんなになってるよ。ねえ、全部見せて」
 瀬里奈の太腿にに口をつけながら、智也がそう囁いた。
484涙雨恋歌 第3章 知身雨 5:2007/03/23(金) 15:44:10 ID:WAWUjz6L
5.

 ゆっくりと、震える手で下着を下ろしていく。手で身体を隠そうとするのを阻止され、瀬里奈は恥ずかしさで身をよじった。
 足をぎゅうとくっつけ、顔は背けて横を向く。蛍光灯の白い光の下で、瀬里奈の白い肌がだんだん赤みを増していった。
 じっと上から下までを観察するように眺めた智也がようやく立ち上がった。
「お尻にほくろがあるんだね、瀬里奈」
「なんで知ってるの……」
 ほら、ここに、と智也が瀬里奈のなめらかな尻に指で触れた。
「後ろみてごらん」
 振り向くと、瀬里奈の身体がちょうど姿見に映っていた。自分の裸の身体を鏡に映して見たことはある。自宅の部屋で鏡の前に立つことは何度もある。
 だが今はその後ろに、同じく裸身を晒す智也がいた。
 瀬里奈よりも一回り大きな智也が、後ろから瀬里奈を抱きしめた。
 智也の華奢な手が瀬里奈の胸を掴んでいる。指が乳首をそっとこね回す。黒い茂みを梳くように撫でる。
 それを全部、瀬里奈は鏡で見ていた。


 突然首筋を智也が吸い、驚いた瀬里奈の足を膝で割った。瀬里奈が足を閉じる前に、智也の手が奥へと進んでいた。
「あ……あぁぁ……っ」
 思わず上ずった声をあげてしまう。
「初めてなら、ここも慣らしておかなくちゃ、後が痛いから」
 瀬里奈のそこはすでにくちゅ、ぐちゅ、という粘着質な音を立てるほど、濡れていた。
「こんなに濡れてる。いやらしいね……でもそんな瀬里奈が好きだ。もっと、もっと、濡れてよ」
 耳元に口をつけながら智也は瀬里奈に囁き続ける。胸をまさぐる指も止まることはない。後ろにいる智也の肩に、瀬里奈は頭を預けるようにして快楽を味わっていた。
「乳首も硬くなってるじゃないか。ああ……こっちの、瀬里奈の芯も尖ってきてる」
「あんっ、はぅっ……ああ……あああああぁ」
 割れ目をなぞっていた指が、包皮をめくって芯に触れた。その瞬間、瀬里奈の身体が震えてきて声を上げた。
「ここ、気持ちいい?」
 親指で陰核をねっとりとねぶっていた智也の手が、急にそこを離れて瀬里奈の顔の前に現れた。中指と人差し指で瀬里奈の唇を撫でる。撫でているうちに開いた口へ、その指が入ってくる。


「この指。瀬里奈、見て」
 すぽんと口から指を抜き、ついた唾液を頬にまぶした。瀬里奈に自分の指を見るように要求して、智也の手は再び瀬里奈の秘所へ向かう。
 鏡に映るその手の動きを追ってしまう自分が嫌だった。嫌だと思っていても、見てしまう自分はもっと嫌だった。
 さっき自分がしゃぶった指が、首から徐々に下へ向かって進み、黒い茂みをかき分けてもうひとつの自分の口に入っていく。
 智也の指が秘裂をさする。襞の一枚一枚を丁寧に撫で、蜜を滴らす泉の中へゆるゆると侵入する。その指先の動きひとつひとつや智也の息遣いで、ますます泉は蜜で溢れてくる。
「自分でやるのとは違うだろ?」
 智也の指が身体の中でうごめいている。自分で入れた自分の指とは全く違う動き。全く違う感覚。瀬里奈は背中を反らせて感じていく。
「いや……ぁっ、い……あ……ッ」
「いやじゃないだろ。気持ちいいって、こっちの口は言ってるよ」
 いつの間にか2本の指が中に入っていて、瀬里奈の肉襞をしゃくるように責めていた。理性はすでに飛び、ただ快感を求めて瀬里奈の身体も動いていた。
485涙雨恋歌 第3章 知身雨 6:2007/03/23(金) 15:48:47 ID:WAWUjz6L
6.

 ふいに、自分の身体をしっかりと抱いていた瀬里奈の手を智也は握った。後ろからの抱擁を解き、指を抜いて瀬里奈を正面から見る。
 握られていた手を、智也の下着の上にあてられる。そこには既に硬く立ち上がった智也のモノがあった。
「脱がせてくれる?」
 頷いて、両手を添えて脱がせる。開放された男根は反り返り、智也の下腹部に音を立てて当たった。
 智也は自分の男根を瀬里奈に触らせた。手を添えて扱くように動かせる。瀬里奈の手の中で、更にそれは大きくなる。
「キスして」
 瀬里奈は不安気に智也を見て、そして跪いた。手で持っている赤黒い怒張した肉の棒の先端に、口をつける。
「ああ、瀬里奈。気持ちいいよ。口に入れて、しゃぶって」
 ちゅ、と口をつけた先端部分を、口に咥える。
「そう、上下に動かして……そう、もっと奥まで……」
 智也の言う通りに必死で口を動かす。
「鏡見て」
 ちらりと鏡を横目で見る。立っている智也の足元にうずくまり、智也の前に跪き、股間に口を寄せて顔を高揚させている自分が見えた。
 ひどく卑猥で、すぐに瀬里奈は目をそらした。恥ずかしくてたまらなかった。


 気持ちいいよ、と智也は瀬里奈の頭を撫でる。
 ようやく智也が瀬里奈を立たせ、そして抱きしめた。腰を押さえてベッドへ押し倒し、不安に揺れる瀬里奈の瞳を閉じるようにキスをして、膝を割った。
「痛かったら、言ってね」
 智也は瀬里奈の足を抱えて自分の肩へ乗せる。
 ぬるぬるとしている亀頭を瀬里奈の秘裂にあててゆっくりと腰を埋めていく。たっぷりと濡れていたからか、それとも過去に自分でしていたからか、挿入はスムーズだった。
「あぁ……ああ」
 目をぎゅっとつぶり、瀬里奈は自身の中へ異物が入ってくる圧迫感に耐えた。そこだけが、熱く燃えるように感覚を持ち、ぐちゅりという粘液の音がやけに大きく耳に響く。
 最後に智也が根元まで押し込んだ時に、瀬里奈は目を開けて息を呑み悲鳴を上げた。
 その後はほとんど覚えていない。智也がひたすら腰を振っているのをうっすらとした意識の中で見ていた。
 身体の痛みと突き上げられる衝撃に耐えながら、瀬里奈の頭にあったのは何故か父の顔だった。
 「避妊だけはしとけよ」
 冗談めかして言っていたが、あれは父なりのメッセージだ。ちゃんとそういうことをしてくれる男を選べよ、という。
 「お嬢さんを大切にしてくれる人を選んでください」
 辻井の言葉も思い出す。この人はわたしを大切にしてくれると言った。それを信じちゃいけないかな。
 最後に会った時の公園に座っていた辻井の姿を思い出した瞬間、智也が何もつけずにそのまま自分の中にいることに気づいた。
 妊娠の恐怖に怯えて瀬里奈の頭が急に目覚める。その時、感極まって呻いた智也が瀬里奈の中から自身を引き抜き、瀬里奈の腹の上に射精していた。
 撒き散らされた白い濁った液体の熱さと対極に、瀬里奈の心は冷えていた。


 智也が瀬里奈の身体と自分自身をタオルで拭き、瀬里奈の横に寝そべった。
 ちゅ、と音をたてて瀬里奈の額に口づける。
「あの……智也さん……その、直接……」
 口ごもりながら瀬里奈が避妊の話をすると、智也がごめん、と謝った。
「あんまり瀬里奈が可愛いから、夢中だったんだ。ごめん。次からはちゃんとつけるよ」
「うん……」
「でも、もし、今ので何かあったとしたら、おれ、ちゃんと瀬里奈のご両親に挨拶いく覚悟はあるから」
 そんなことしたらお兄ちゃんとお父さんに殴られてひどいことになるんじゃないかしら……と思いながら、ひとまず瀬里奈は安心した。
「瀬里奈。もう、離さない。大切にする、好きだよ……」
 ほらね、と瀬里奈は父と辻井に向かって言う。この人はわたしを大切にしてくれるって言ってるよ。安心でしょ?
 隣の部屋でうなっている機械の音に混ざって、ますます強く降る雨の音が聞こえた。智也を信じようとする瀬里奈の心を揺さぶるような、そんな雨の音だった。
486涙雨恋歌 第3章 知身雨 7:2007/03/23(金) 15:50:23 ID:WAWUjz6L
7.

 次の日の火曜日、校門で尚と別れ急ぎ足で教室へ行く。万理に話がしたかった。智也の話ができるのは、万理だけだったからだ。
「万理、おはよう――どうしたの? 元気ないね」
 おはよう、と返す声に力がない。いつも元気で明るい万理が上の空だ。なんとなく、智也とのことを話すきっかけを失って、瀬里奈はそのまま自分の席についた。
 お昼を一緒に食べていても、休み時間に話しかけても、ずっと万理は上の空だった。授業が終わり、いつもの通り万理と帰ろうとすると、万理が今日は一緒に帰らない、と言った。
「今日は、ちょっと佐倉と一緒に帰る。ごめんね瀬里奈」
 佐倉ひとみという同級生を、瀬里奈はあまり好きではなかった。学校の中でもトップクラスの容姿を持つ彼女は、教室にいる時間よりも夜の街にいる時間のほうが長い。
 あちこちで男をとっかえひっかえ遊んでいると噂され、クスリやウリもやっているともっぱらの評判だ。
 万理が何故ひとみと一緒にいるのか、途端に不安に襲われる。
「万理、宏太さんと何かあったの?」
「えっ。なんでそんなこと訊くの、瀬里奈。何にもないよ、何にも。瀬里奈こそ、智也さんとどうなのよ」
 智也と過ごした昨夜のことを話した。喜んでくれると思った万理が、何故か暗い顔になった。
「そ、よかったね瀬里奈。気をつけなよ。じゃあ」
 ひとみが万理を呼ぶ声がして、万理は鞄を持ち駆け出した。
 瀬里奈は久しぶりにひとりで帰宅の途についた。ひとりで乗る電車はつまらなくて、瀬里奈は時間をもてあました。


 次の日は朝から万理はひとみと行動を共にしていた。瀬里奈が声をかけても、曖昧に返事をしてそっぽを向いてしまう。
 そしてその次の日、瀬里奈が教室へ入ると、クラスの女の子が瀬里奈を呼んだ。
「ちょっと瀬里奈! 万理が停学だって! エンコーしてたってマジ!?」
「嘘でしょ? 援助交際って、万理が? なんで?」
「なんか、昨日の夜、オッサンとホテルから出てきたのを見つかったらしいよ。佐倉も一緒に停学だよ。あいつはとうとうって感じだけど、まさか万理がねえ」
 そこまで話したところで、担任教師が教室に入ってきた。授業は全て頭の上で通り過ぎていった。
 何度も万理に連絡をしようと携帯電話を取り出した。だが、なんと切り出していいのか言葉が思い浮かばず、その都度瀬里奈は携帯電話を鞄にしまった。


 早々に帰宅してから、ようやく決心して瀬里奈は電話をかけた。長い間呼び出し音が鳴り、やっと万理が電話に出た。
『何よ、瀬里奈。あんたもわたしを笑ってるわけ?』
「そんなつもりじゃ……」
『そうよ! お金もらってオジサンと寝たわよ、あんたが憧れてたあの人くらいの年のオジサンと。なんで? 宏太さんが好きだから、好きだからやったのよ、後悔してないわよ!』
「宏太さんが好きだからって、どういうこと? 身体売るなんてどうして?」
『お金貸して欲しいって言われたのよ。何よいい子ぶっちゃって。あんたのお父さんなんか、売春してるお店からお金もらってるんでしょ。大元締めじゃない。
 お母さんだって愛人じゃない。愛人なんて援助交際とおんなじよ。お金もらって男と寝て、それで暮らしてるんだもん』
 今まで、瀬里奈の両親のことを悪く言ったことがなかった親友が、あしざまに罵っている。
『売春してる両親の子供のくせに、綺麗事言わないでよ。じゃあ何、お金がないって言ったらあんたが貸してくれたの? 違うでしょッ!?
 好きな人が困ってたら、なんとかしてあげたいって思って何がいけないのよ。あんたは違うの? 智也さんに助けてって言われたらそう思わないの?
 ああそうか、智也さんはそんなこと言わないのね。よかったわね、お幸せに。もうあんたの顔なんか見たくない!』
 ブツリと切れた携帯電話を、瀬里奈はベッドに放り投げた。悲しくて、涙が零れた。


 宏太に話が聞こうと思いたち、家を出る。なんで万理にお金を貸してと言ったのか、知りたかった。
 瀬里奈は初めて会ったレストランへ行った。宏太も智也も今日はシフトに入っていないと言われた。
 店を出てしばらく歩き、携帯電話を取り出す。智也のメモリーを呼び出し、電話をかける。
 電源が入っていないか、電波の届かないところに……というメッセージが聞こえ、苛立ちまぎれに瀬里奈は携帯電話をそばの壁に叩きつけた。
「瀬里奈?」
 智也の声がした。思わず、智也の胸に飛び込んだ。一瞬驚いた智也が、優しく抱きしめてくれた。
487島津組組員:2007/03/23(金) 15:55:07 ID:WAWUjz6L
以上。4章に続きます。

容量、ぎりぎりでしたね。危ない危ない。
スレたてにチャレンジしましたがダメだったので、できればどなたかやっていただけませんでしょうか。

以下テンプレ-------------------------

【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第四章

主従を扱うスレです。


生意気な女主人を陵辱する従者
大人しい清楚なお嬢様に悪戯をする従者
身分を隠しながらの和姦モノも禿しくいい

お嬢様×使用人 姫×騎士 若奥様×執事など
主従であればなんでも良し

◇前スレ◇
【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第三章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1169463652/

◇過去スレ◇
【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第二章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1156941126/

【従者】主従でエロ小説【お嬢様】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1124876079/
488島津組組員:2007/03/23(金) 16:05:08 ID:WAWUjz6L
◇姉妹スレ◇

男主人・女従者の主従エロ小説
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1164197419/


◇その他関連スレ◇

【ご主人様】メイドさんでSS【朝ですよ】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1141580448/

巨乳お嬢様
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1139409369/

男装少女萌え【8】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163153417/

お姫様でエロなスレ5
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1166529179/

◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart4◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173497991/

●中世ファンタジー世界総合エロパロスレ●
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1145096995/


◇保管庫◇
http://vs8.f-t-s.com/~pinkprincess/lady_servant/ (初代スレがまとめてあります)
http://wiki.livedoor.jp/slavematome/d/ (まとめ中)
489名無しさん@ピンキー:2007/03/23(金) 19:09:49 ID:c444OYvV
GJ!携帯電話が壊れないか心配です

ついでに立てました
【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第四章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1174644437/
490名無しさん@ピンキー:2007/03/24(土) 00:37:12 ID:fICqrN4k
うめ
491名無しさん@ピンキー:2007/03/24(土) 01:21:41 ID:U7A7qMAA
ふと思ふ。
島津なら鬼島津でも良かったのでは?
492名無しさん@ピンキー:2007/03/24(土) 09:08:57 ID:4mUMSyl4
あ、あ、あ。
月の下に姿態が映える。
白い素肌が水音と共にしっとりと湿気て、なんとも艶かしい。
「……お前……こんな。……こんなことをして。決して許しませぬよ」
真珠色に光る小さな八重歯を喰いしばりながら、
迫り来る快感に堪え震える姿はたいそう淫靡である。
ぱちゃん。女の向こうで金魚が跳ねた。
夜目にも赤い、金魚である。
女が何故か気に入って、日ごろ愛でている、小さな金魚である。
その水飛沫にさえ目を細めて喘いでいる。
「……御簾中様」
地べたに身体を押さえつけ、自身を静かに沈めながら、
女へ顔を近づけて武士は耳元へ囁いた。

「埋め」
493名無しさん@ピンキー:2007/03/26(月) 16:35:36 ID:aoLcAtmR
衣擦れの音とともに白磁の肌が露わになった。
月明かりと相まって昼間とは違う妖艶な色香を女の肌は醸す。
朱をさした紅唇、濃い睫毛に縁取られた瞳。
きつく拳を握りしめて女を見れば、黒が茶を射抜いた。
金縛りにあったように女の瞳から目を離すことができない。
こんなことはいけない。男の中で警鐘が鳴り響く。万が一にも旦那様に知られれば男の命はなくなってしまうだろう。
「埋めて、下さらないの?」
しかし、命の危機を前にして尚抗いきれぬ魅力が女にはあった。
「奥様」
女が男に向かって一歩足を踏み出した。
「私は──」
男がそれ以上何かを口にする前に女は男の胸に飛び込んだ。
そして、男の首に腕を絡めて唇を吸う。
観念したように男の舌が女の舌を絡めとり、女は心の中で密かに安堵した。
これでようやく足りない何かが埋まるような気がしていたからだ。
494名無しさん@ピンキー:2007/03/27(火) 02:38:58 ID:VxhcEw3q
495名無しさん@ピンキー:2007/03/27(火) 04:37:27 ID:Q7ajKfHM
「埋めましょう。
 仮令この身体が朽ち果てようと埋めてみせましょう。
 それが、あなた様に我が身を捧げた私にできる、最初で最後の」
496名無しさん@ピンキー:2007/03/27(火) 05:36:54 ID:wIrEqJ7R
 己が名を呼ぶ、慈愛に満ちた声に騎士が振り返ると、見慣れた天女がそこには佇んでいた。
 上品な絹織り物を纏った華奢な肩には、腰までしなやかに伸びた黒髪が掛り、
開け放たれた窓から燦々と降り注ぐ日の光を浴びて淡く煌めく。
 蒼白い静脈が薄く浮き出た素肌はそれとは対照的に、純白の絹で覆ったように
透き通るようで、髪の色と相成って一層優雅に感じる。
 翠緑色の眸に宿った眼光は天高く昇る陽を連想させた。
 仄かに漂う彼女の暖かな香りは、全身に染み渡るようで心地好い。

 城の中庭に面した窓の枠に両手をついて、彼女は外界を仰ぎ見た。
「今日も良い天気ですこと」
「そのようですな」
「こんな日は、外に出て新鮮な空気を吸いたいものね」
 ふと、髪をなびかせて振り向いた翠緑と視線が絡む。思わず赤面する。
「お前、今日は暇なのですか?」
「いえ……」
 これから午後の修練の指導がある旨を小さく俯きながら告げると、酷く残念そうに肩をすくめて見せた。
「申し訳ありません。他の者にお頼み下され」
「私はお前が良いのに」
包み隠さず指名を受けるのは嬉し恥ずかしくとも、期待に沿えずに少々歯痒い。
「お前は、何の為にそうしているのですか?」
 不満げに彼女は問う。顔を赤らめながらも、騎士の返答に迷いは微塵も見られない。
「貴女の為に」
「私の為に?」
「はい――貴女に救われたこの命、続く限り御身の為に尽しましょう」
 そうまで言われては、騎士を引き止めるのは気が引けたらしく、
「斯様なものの言い回し、一体何処で覚えたのでしょうね」
 と彼女がくすくすと笑う。それに合わせて、漆黒の髪がふわりと揺れた。

 こうして彼女が時折見せる表情は、式典や儀式の際に民衆に向けられるような、
虚空な作り笑いとは違う。どこまでも無邪気な、幼子の如き笑顔。
 見る者の心の奥底を癒してくれる、そんな力を持っている。

――彼女が微笑む事は少ない。

 そんな笑顔を常日頃から目の当たりにすることが出来る自分は、何と幸せなのだろうか。
 きっとこれは、今まで不幸に不幸を重ねてきた自分を憐れみになられた神様からの、
賜り物なのだと信じる事さえある。
 口許が綻ぶのを咳払いで隠し、二の句を継いだ。

「では、失礼致します」
「はい。お前も無理はせぬように」
「勿体無い御言葉です」

 そう言うと、彼女の眼前に跪き手を取る。きめ細やかな手の甲に口付けると、
直ぐに踵を返して陽だまりの回廊を引き返していった。
「……」
 妙に熱を持った自身の手をぎゅうと握り締めたまま、背を向けて遠ざかる騎士を
彼女は無言で見つめ続けていた。
497名無しさん@ピンキー:2007/03/27(火) 05:42:57 ID:wIrEqJ7R
以上
埋まったかな?
498名無しさん@ピンキー:2007/03/28(水) 00:18:52 ID:xXSq9rUV
埋まるのか
499名無しさん@ピンキー
「我が…君」
感極まったようにそう呟き、彼は跪いた。
玉座の君主に対するようなそれに、彼女は驚きに目を見開く。
彼女は女王でもなければ姫でもない。
上質の衣を身に纏う美丈夫に、こんな風に跪かれるような身分ではない。
むしろ、跪かなければいけない身分にあるのだ。
どうしたらよいかわからず、彼女は跪いて項垂れる彼を見つめた。
「永い、永い間…お探ししました。ようやく、見えること叶いました…」

彼はゆっくりと顔を上げ、彼女を見つめる。
その面に浮かべられるのは、花ですらも恥らってしまうかのような微笑。
嬉しそうな、幸せそうな、恍惚すら伺える微笑に、彼女は息を呑む。
今までそんな微笑を向けられたことは、覚えている限りでは、ただの一度もない。
「貴方、は…」
呆然とした問いかけが彼女の口から漏れる。
「私は貴女様の僕。ただただ、貴女様のためだけに生きる者です」
「わ、私…」
言いかける彼女の言葉を遮るように彼は言う。
「私が貴女様の敵になることはありません。信じて欲しいとも、信用して欲しいとも言いません」
けれど、と彼は続ける。
「私と共に来て頂きたいのです。貴女様の、あるべき場所へ」
「あるべき、場所?」
「はい」
「でも、私……ここから、出られない。私には、なにも決めることができない」
「いいえ、望んでいいのです。…何を望まれますか?」
「……もう、こんなのは嫌!嫌なの!」
ぽろぽろと涙を零し、彼女は顔を覆った。
「わかりました。貴女様を縛る全てを薙ぎ払いましょう」
至極当然、とでも言うように彼は微笑み、優雅にゆっくりと立ち上がる。
「我が君にこのような辱めを与えた者を、生かしておくつもりはありません」
その声は冷たい熱を孕み、思わず顔を上げた彼女は震える。
それに気付き、彼は甘く蕩けるような柔らかな微笑を彼女に向ける。
「暫しお待ちください、我が君」
くるりと踵を返し、彼は部屋を出て行く。
その彼の背を見送った彼女は、呆然と立ち竦む。
そして同時に、既視感を覚える。
何故だかわからない。
だが、初めて見る彼の後姿を、知っている気がする。
「私…………知って、る?」