嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 十二因縁

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1名無しさん@ピンキー
浅いものはツンツンしたり、みたいな可愛いラブコメチックなヤキモチから
深いものは好きな人を独占して寵愛する為に周囲の邪魔者を抹殺する、
みたいなハードな修羅場まで、
醜くも美しい嫉妬を描いた修羅場のあるSS及び、
他様々な展開の修羅場プロット・妄想を扱うスレです。

■前スレ
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 墓標11基
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1150625025/
■過去スレ
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 十戒
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1150625025/
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 九死に一生
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1149764666/
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 監禁八日目
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1148998078/
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 監禁七日目
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1148113935/
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 泥棒猫六匹目
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1147003471/
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 五里霧中
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1145036205/
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 四面楚歌
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1143547426/
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 三角関係
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1142092213/
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 二股目
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1140208433/
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1137914849/

2ch 「嫉妬・三角関係・修羅場統合スレ」まとめサイト
http://dorobouneko.web.fc2.com/index.html
■関連スレ
嫉妬・三角関係・修羅場統合スレ 第12章
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/hgame/1145448125/
■姉妹スレ
嫉妬・三角関係・修羅場統合スレinラ板
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/magazin/1132666398/
2名無しさん@ピンキー:2006/07/08(土) 23:12:23 ID:xBzn9owi
2ゲットだ!
3名無しさん@ピンキー:2006/07/08(土) 23:15:02 ID:PRd4RbCI

                ,へ、
        _    /  f´
      '´/ ,、ヽ   /  f´
     .i (ノノ"))i ./ _f´ 〜♪
      li l| "ワノl|/`>'
     リ⊂)允iつ_, .   !
     (( く⊂( ゚ Д゚)つ-、
      ///   /_/:::::/
      |:::|/⊂ヽノ|:::| /」
    / ̄ ̄旦 ̄ ̄ ̄/|
  /______/ | |
  | |-----------|

新スレです。楽しく使ってね。仲良く使ってね。
4名無しさん@ピンキー:2006/07/08(土) 23:16:11 ID:PRd4RbCI
誘導用
【3P】ハーレムな小説を書くスレ【二股】 2
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1144805092/l50
寝取り・寝取られ総合スレ 2
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1133346643/l50
5名無しさん@ピンキー:2006/07/08(土) 23:23:16 ID:Jb8XaY1r
ヤンデレの小説を書こう!
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1148704799/l50

頼むからテンプレに入れてやってくれ・
そこまでして仲間はずれにしてこの子を壊したいのか?
6名無しさん@ピンキー:2006/07/08(土) 23:25:38 ID:JLd11nPU
11スレが仲間ハズレか・・・・・・
>>1は刺されるのか、埋められるのか、ウラヤマ( ゚д゚)シス
7名無しさん@ピンキー:2006/07/08(土) 23:29:42 ID:tGt89wBy
早漏君乙
8名無しさん@ピンキー:2006/07/08(土) 23:31:04 ID:lpLXTDQl
普通に乙。
9名無しさん@ピンキー:2006/07/08(土) 23:31:05 ID:nRWdoHlu
938 名前:\         . '´/ ,、ヽ キャハハハ  ../無したちの午後 [s
女の同僚か \   ___.i (ノノ"))i     ./人きりで生きてきた。
「貴方に兄の何\...{l,、,、,、,、l|l=i l| "ヮノlOi!  /
まぁ、その妹にハ.\;     リ⊂)允iソ  /全にお母さん気取り。だが
             \*  ..(( く/_lj〉)./弟が彼女を連れて来る。表情
939 名前: 名無したち...\∧∧∧∧/・ちゃぶ台の下――握った拳に
貴方が妹さんを引き受...< .の 修 .>・「明日の弁当、彼女が作った
943 名前: 名無したちの< .    .>・「もう○○ちゃんにお姉ちゃんは
いや、>>938が同僚の旦< 予 羅 .>・最近の日記は、「あの泥棒猫」
──────────<   .  >─────────────
|ヽ| | l、 レf爪| 、   | < 感 .場 .>  | | |   ::| !|: l l:..  :|:l:.  !:|::   |
ヽ_ゝ|、 Fこ|_-|、 !、  ...|< .!!!!   ..>‐:十!1「: :l:::「|`|十l―l‐!:-/-!:: :  :.l
/r->ヽy‐ィ;;;;::Tヽ \  .|/∨∨∨∨\ 示:.l:|::::::!l::l |::l示tッ〒ト/:.l/::::::: :.l
| |/个iヽ┴―┴   .../したちの午後..\l:.:l|、:::|:|:!:j/.:.`ニニ´:/:. /|::::::: .::.!
ヽ/汚| !       /に対する嫉妬に狂.\  ヽ|i    :.:.:.:.:.:.:. /ノ!:::::::.:::l
ハ.||、 i      /名無したちの午後 投稿.\ :l        /'!:::!:::::i|::::|
|  || |i ヽ   /そこにヒロインが壊れるあまり\       ..:/:::|:::|:::::l:l:::.!
|  || ! ヘ 、.../被害を出し始めて、自分に責任が...\.:.:.:/:.:.`ヽ!:::::!:!::.|



何はともあれ>>1o…
(どうやら何者かに後ろから刺されて殺されたようだ)
10名無しさん@ピンキー:2006/07/08(土) 23:42:52 ID:qaqOvSQj
次回からはこれもテンプレに導入きぼん

※投下の邪魔にならぬよう、次スレタイの話題・次スレ立て
  は当スレ容量が480KBを超えてから始めてください。
11名無しさん@ピンキー:2006/07/08(土) 23:55:40 ID:AmPNRE/E
まぁ、立った時には470kb越えてたしなぁ。
今この時点で、前スレがもう480kbだし。
こんなもんでいいんじゃないの。そんなにめくじらたてんと。

スレタイがいきなり仏教用語にされちゃったけどw
12名無しさん@ピンキー:2006/07/08(土) 23:57:25 ID:PRd4RbCI
>>1
480kだと作品2本ほどで埋まる予感・・・
スレ住人が常時居るスレじゃないので次スレタイは間に合うかしら・・・
460kぐらいの方がい・・・
(邪魔者が早く現れるのを阻止するために何者かに刺されたようだ)
13名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 00:24:31 ID:81nUqge2
>>1乙です
14名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 01:23:39 ID:jGVRTVpi
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 13日の金曜日
15名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 01:33:44 ID:BIpwhalD
>>14
折角一緒になれたのにもう他の女のこと考えるなんて!!
許さない!七誌君を・・・て、私も・・んでやるんだから!
16名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 01:36:17 ID:uaitH4h9
>>1乙。このスレも泥棒猫や主人公の血で真っ赤に染まりますように・・・
>>14はえーよw
17名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 01:52:25 ID:9Vbh0Byw
せっかくだからいつか浅いラブコメ風のツンツンを描くぜ!
18名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 01:59:42 ID:drpzJ4Uo
wkwktktk
19名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 02:08:38 ID:1Ii3npvi
>>11-12
投下の合間にスレタイの話題挟まるのが心底ウザイから480kでおk
20名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 02:12:46 ID:1Ii3npvi
それに作者様方も次スレの話題が上がり始めたらスレ乗りかえ時
把握しやすいだろうし、すぐに埋まることもないだろうしね
21名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 03:53:04 ID:dfkFFzjE
そんなに神経質になる事ないだろう。
450過ぎ辺りで新スレ立てんのは最初の頃からなんだし。
マターリ行こうや。
22名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 04:45:13 ID:VIen3CyS
何気に埋めネタを楽しめたりもするしな
細かく決めなくてもそのへんは流れに任せれば大丈夫だろう
23名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 08:46:08 ID:APxS38g1
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 墓標11基
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1151452702/

なんで誰も訂正しないの?
12スレに刺されるから?うわだれだなにをs
24名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 13:07:52 ID:YrH9TBJG
>>23
十スレの執念だな……
25リボンの剣士 21話 ◆YH6IINt2zM :2006/07/09(日) 13:09:19 ID:mpy4YhU0
商店街の一角にある喫茶店。木場は有無を言わせず、俺をその中へ引っ張った。
表情は男をひっぱたいてからずっと硬いままで、機嫌が良いようにはとても見えない。
木場の態度は、あの瞬間から豹変している。はっきりした声で物を言い、俺にとっては敵である相手に毅然とし
て向かったあの姿が、少し明日香と被った。
「ここで少し、時間つぶそ」
緊迫した面持ちだが、柔らかみの混じった声だった。
程なくして、店員が水を持ってくる。
「ご注文はお決まりでしょうか」
「あ、私はアイスティーで……」
木場が俺に目で合図する。
店に入ったものの、今は飲み食いしたい気分じゃなかった。まだ、絡まれたときの緊張が残っている。
それに、木場のあの変化も……。
「……コーヒーを」
「かしこまりました」
とりあえず注文だけした。

店員が離れていった後、木場はテーブルに両肘をつく。俺を見るその目は、やはりいつもとは違う。
「伊星くん、さっきの人たちって……」
木場は小さく、呟くように行った。
気にならないわけ、ないよな。あれだけ言いたい放題にされて、俺は何も言い返せなかった。
我ながら、ひどく格好悪い。元々格好いいのかという疑問はさておき。
「……俺の、中学の、同級生……」
俺もまた、ぽつりと小さい声で答えた。
「……」
「……」
互いに、何も言わない。木場と目が合っても、すぐそらす。それの繰り返しになった。
店員が、注文した飲み物を置き、店の奥へ。
(なんか気まずくなーい?)
(別れ話かな)
店の置くから、小さな話し声が聞こえた。激しく誤解されている。

中学の同級生の話題は、非常に心苦しい。普通なら、『同じ中学の友達にはこんな奴がいて〜』と言う話をする
のだろうが、俺にとって、当時、周りは敵だらけだった。あの四人のように。
だから、木場には悪いが、この話は流してもらうと助かる。深く尋ねられたら、自分がどんな中学時代を送って
いたのか、という所まで話が広がりかねない。
木場が、敵と言える奴らと同じ思考回路を持っているとは思えない。だが、情けない所がさらに露呈しても、気
にせず接してくれるだろうか。
それをしてくれる人は、俺は明日香しか知らない。まあ、おじさんおばさんも居るが。
26リボンの剣士 21話 ◆YH6IINt2zM :2006/07/09(日) 13:09:50 ID:mpy4YhU0
*    *    *    *    *

「……俺の、中学の、同級生……」
伊星くんは、小声で、それだけ答えた。
同級生だった人だというのは、大体予想してた。もしかしたら、その人たちとの話で、意外な一面を見れるんじ
ゃないかって期待してたら……悪い意味で当たった。
同じ中学だったあの四人は、伊星くんに異常なほど攻撃的で、それなのに伊星くんは黙ったまま。
本人が気付いてたかどうかはわからないけど、伊星くんの身体は少し、震えていた。
力だけで上下に切り分けられた関係だって、すぐにわかった。
でも私は、さらにその先を知りたい。そこだけわかっても、まだ足りない。
もちろんそれは、伊星くんの心の奥に関わってくるだろうから、簡単には聞き出せない。
……新城さんなら、わかるのかな……。
そう思うと、胸焼けしたような気分になる。かっと、辛いものを食べて火傷したように、熱くなる。

気を許せるのは新城さんだけ……?
心を開くのは新城さんにだけ?
信じられるのは新城さんだけ!?

……違うよ、伊星くん。
たまたま、信用できる相手に恵まれなかっただけ。本当は誰だって、人に優しくしたいものだよ。
私が、悪意や裏があって近づいてるんじゃないことを、信じて欲しい。
「伊星くん」
我慢も、そろそろ限界に近い。もうはっきり聞きたいくらい。『伊星くんのこと、全部教えて』って。
だけど、限界に達する前に、放出しておく。溜めて溜めて大爆発よりも、小出しでね。
「中学のとき、どうだったの?」
この質問、答えてくれるかどうかは、伊星くんが私をどれだけ信用しているか、に懸かっている。
私が稼いできた、ポイント次第。
お願い伊星くん、ほんのわずかでもいいから、教えて――――。
「……中学では」
ちょっと目をそらしながら、伊星くんは口を開いた。
「……あまりいいことは無かった」
そう言って、目を伏せる。
迷ってるのかな。詳しく話そうかやめようか、境界線の上に居るのかもしれない。
それなら、私の言葉で、話してくれる方向に押すよ。
「そう、なんだ……」
相槌を打って、一呼吸置く。ここは間を置いたほうがいい。
27リボンの剣士 21話 ◆YH6IINt2zM :2006/07/09(日) 13:10:35 ID:mpy4YhU0
で、ワンテンポ待ってから、言葉を出す。
「……私ね、さっきはどうかしてたの。何で伊星くんが、あんな悪い事言われなきゃいけないのって、頭にきち
ゃって」
話して話してと、直接ごり押しするんじゃなくて、そう考えているなら話してもいいって思うように誘導する。
汚いなんて言わないで。私はただ、知りたいだけだから。
「いい事が無かったのは、ああいう事ばっかりだったから?」
「ああいう事……?」
「絡まれて、因縁つけられて、掴みかかられて」
「……」
伊星くんは答えない。でも、ごめんね。黙って、苦しそうな顔をするから、解っちゃったよ。
そういう事、ばっかりだったんだね……。
となると、伊星くんと仲が良いのが新城さんだけなのも、憶測で繋がっていく。
だけど、まだ疑問は残っている。どうして、因縁つけられるようになったのか。
……これ以上聞き出すのは、今はやめとこ。自分のこと、話してくれたもん。
嬉しいよ。少しでも心を開いてくれたから、嬉しい。
私には、それに応える義務がある。
「伊星くんは、悪くないよ」
その言葉に、伊星くんは、はっとして正面を向いた。
単に驚いただけかな。今ので心が救われた、とかなら、私にも喜ばしいことだけど……。
「どうしたの?」
ちょっと意地悪して、聞いてみる。
「いや、同じだったから……」
「同じ?」
「ああ、明日香にもそう言われた事が……」

伊星くんの言葉、最後まで聞き取れなかった。
え、何? 新城さんも同じこと言ったの? 伊星くんの反応は、私の言葉に乗せた気持ちがどうこう、じゃなく
て、新城さんが過去に言った事と被ったから?
言葉だけで反応するって事は、一回や二回どころか、条件反射として身に付くまで何回も言った、
って事だよね。

私は、心を込めて言ったのに、届いてなかったんだ。もう既に、新城明日香が、届かないようにしてたんだ。

――――卑怯者。

「木場?」
伊星くんの視線が、私の顔を覗いている。
ああいけない。気が動転して、歪んだ表情になってたかも。
落ち着いて落ち着いて。そう、伊星くんは悪くないの。悪いのは、信じていいのは自分だけよ――って教え込ん
だ剣道部の女なの。
「何でもないよ。結構時間経ったし、出ようか」
「あ、ああ……」
席を立ち、レジで代金を払って、店先で別れる。
慣れてるはずなのに、私は笑顔を維持するのが、ひどく苦しかった。


(22話に続く)
28名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 14:38:29 ID:HlOLpjlD
うおおおおおおおおおお!
俺の中で木場の高感度が滅茶苦茶上がってしまったじゃないかあああ!
29名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 15:13:59 ID:CWYDUO9w
木場萌
30名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 15:22:13 ID:eabtL87P
木場さんかわいいよ木場さん
31名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 16:52:31 ID:EkgJUxgO
だが、それでも俺は明日香萌えである。
32名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 16:52:50 ID:4LprU5lj
前スレのゲームにどれだけおもしろかったかという
この感動を果てしなく伝えたいのだが
ネタバレになってしまうのがすごく悔しいね
33名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 17:04:47 ID:jGVRTVpi
新聞部の奴がいつ女体化するのかwktkしている俺がいる

>>32
もうそろそろいいんでない?メル欄とかなら
34名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 17:59:58 ID:rl2pXvmf
それでは投下します。ついに始まる晴香対弥生!
35教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/09(日) 18:03:02 ID:rl2pXvmf
まだ朝の6時だというのにたくさんの家族連れで電車は満席状態だ。
夏休みが始まって最初の日曜日だからなのだろう、一様にテンション
が高いようだ。
まあ無理もないだろう。この先にある海水浴場は毎年、夏になると何万人と
集まる日本有数の海水浴場だからだ。
朝早く行って場所取りをしようと考えるのは当然といえば当然か。

「ちょっと、樹。」
呼ばれたのでそちらを向くと、隣にちょこんと座っていた弥生が不満そうな
顔をしている。
「こんな朝早くからこんなにいるのか?しかも皆行き先は同じか?」
周りを見渡してみると、気の早い家族なんかはもう浮き輪やビーチボールなどに
空気を入れて盛り上がっているようだ。
「ええ、やっぱり早く行かないと場所がなくなっちゃうんですよ。それにこの
先に海水浴場は1つしかないですから目的地は皆同じでしょうね。」
それを聞いた弥生は疲れた顔をして
「なんだか行く前にもう疲れてきたわ…。」
そういえば弥生さん、出発前にお弁当作る為にかなり早く起きてたっけ。
弥生さんの傍らに置いてある包みがたぶんそうだろう。
「でも弥生さん、お弁当持ってきたら荷物になっちゃうからご飯は現地で食べた
方が良かったんじゃないですか?」
それを聞いた弥生は目をカッと見開き、
「馬鹿をいうな!現地で食べたら高くつくだろうが!なら少々荷物になっても弁当を
作った方が安くつくというものだ。わかったか?」
あまりの気迫に樹は
「気をつかっていただいてありがとうございます。」
と言うのが精一杯だった。
それを聞いて弥生はよろしい、と機嫌を直して周りをキョロキョロ見たり窓を眺めたりしていた。
そんな弥生を見ながら樹は考えた
(口では何だかんだ言っても、お弁当を用意したということはやっぱり楽しみなのかな。
とりあえず心配事といえば…)
チラッと樹は自分の鞄を見た。
(なるべく弥生さんから目を離さないようにしなくちゃ。)
窓の外を見ると、海岸線が見えてきてもうすでに人がちらほらと来ているようだ。
「おー、ここの海岸は初めて見たけど結構綺麗だなー」
弥生は感嘆して魅入っているようだ。
たしかにここの海岸線は大きく曲線をえがいていて見た目が綺麗で、しかも湾の中にあるために
波も静かで海水浴をするには絶好の場所だ。
しばらく外を見ていた弥生が急に振り向いて
「そういえば樹、家出る前に誰かに電話掛けていたのか?」
「え?電話?…ああ、晴香ちゃんに海に行くって電話したんですよ。」
それを聞いた弥生はムスッとした顔をして
「なんでわざわざ連絡したんだ?向こうは向こうで忙しいんじゃないのか?」
そう、晴香は提出物の修理で、あの実験棟の爆発からずっと篭っているのだ。
樹はちょっと苦笑しつつ
「本人が行ける行けないに関係なく連絡しとかないとあとで大騒ぎになるんですよ…前に黙って旅行に行ったら、
帰った早々「なんで黙って旅行に行くのよー!うわーーん!!!」なんて大泣きですからね。それで電話したら
「あとで追いかけるから!!」って言ってたので来ると思いますよ。」
36教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/09(日) 18:04:58 ID:rl2pXvmf
「そう…来るの………。」
それから暫く弥生は黙ったままだ。
(あの挙動不審者、来なくていいわよ。せっかく夏の海で樹と二人っきりですごせると思っていたのに…)
そう考えていた弥生は知らず知らずのうちに不機嫌になりこめかみに青筋が走り、目は鋭くなっていった。
「あ、そうそう晴香ちゃんには弥生さんのことは黙っていた方がいいですよね。」
そう言う樹に対して弥生は
「もちろんよ!絶対しゃべらないで!!」
つい語気が荒くなってしまい気まずくなったが、弥生はまた窓の外を眺めていた。
(だいたい樹も樹よ。私の気持ちなんか何にもわかってないんだから……)
弥生は遣る瀬無い気持ちのまま物思いに耽っていった。


「終点〜、終点〜、お忘れ物のないようにご注意下さい。」


「ふう〜やっと着いた〜。」
「本当に電車の乗客、全員降りたわね…」
自宅から電車で1時間掛けてやっと目的地に着いた。
駅の前はもう海岸線が広がっていて、すでに家族連れがパラソルなどを広げたり、
子供が海に飛び込んでいたりと夏の砂浜らしくなってきた。
「あ、そうそう弥生さんこれかぶって下さい。」
そういうと樹は弥生の頭に帽子を被せた。
「な、なんだこれは?」
それは少し小さいながらも、ブルーのリボンが付いた可愛い麦藁帽子だ。
「水着は教授から借りましたけど、帽子は無かったと思って昨日買ってきました。
…まあ紫外線対策ですよ。サイズはどうですか?」
「あ、ああピッタリだよ………あ、ありがとう…」
それだけ言うと弥生は深く帽子をかぶった。
(なによ、突然プレゼントなんかしないでよ!びっくりしたじゃない!…でも……嬉しい…)
「さ、ここで立っててもしょうがないですし、目的地の海の家はすぐそこですからいきましょ。」
「うん!」
37教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/09(日) 18:06:47 ID:rl2pXvmf
「ちょっとーー!まだ着かないの?」
「すいません晴香様、この渋滞では…」
もう何度聞いたことだろう。そうすぐに渋滞を抜けられるわけはない。分かっている。
でも気が焦ってじっとしていられない。早く、早く樹さんの胸に飛び込みたい。
先週の爆発以来樹とは電話でしか話が出来なかったわデートは途中で中止になるわ
提出物は壊れるわでまったくいいことがなかった。
だからこそ、この海で今までの鬱憤を晴らそうとしていた。
(樹さん、ここまで私は我慢したんだからトコトン付き合ってもらうわよ。夜は徹夜で
頑張ってもらうんだから。もちろん生でね。それを海にいる間ず〜〜っとやれば今度こそ
愛の結晶が………うふふ。あ、もちろん婚姻届も持ってきたからバッチリね。)
「晴香ちゃん、晴香ちゃんってば〜。」
物思いに耽っていたら誰かが体を揺すっていた。
「な、なに?だれよ?」
「大丈夫?生きてる?」
よく見ると見慣れた顔があった。
「あれ?麻奈美?どうしたの。」
すると心配そうな顔をして
「それは私のセリフだよ〜、ソファーに座ったと思ったら目開けながら寝てるんだもの〜
、やっぱり海に行くのは無茶だよ〜」
無理もない、提出物の修理のために不眠不休で頑張っていたのだ。
でもその甲斐あって夏休みまでにはなんとか目処がついて、こうして樹さんのいる海に行けたのだ。
「せめてなにか冷たい物でも飲も〜よ、なんでもあるよ〜?」
「そうね…なにかお茶貰える?」
麻奈美は冷蔵庫から緑茶を渡した。
「それにしても…豪華ね…このキャンピングカー。」
「え〜?そお〜?」
ゆうに10人は入れるリビングになんでも作れるキッチン、トイレにシャワー、
果てにはホームシアターまで完備というとんでもない代物である。
「パパに聞いたらこれしかないって…」
「ちょっと大きすぎるけど別にいいわよ。」
まあ私としては寝床さえあればいいんだけど…これは大きすぎよ。
「それよりも麻奈美にここまでしてもらって感謝の言葉もないわ。」
「なに言ってんの〜、私たち親友でしょ〜、それに私、晴香ちゃんのことだ〜いすきだもん。」
「そ、そう…」
(女に好きって言われてもな…)
どうやら高速道路は少しづつ動き出したようだ。
「これなら午後には着けそうね。それまで寝るわ。」
「あ、じゃあ隣で寝ていい〜?」
(なに気持ち悪いこと言ってんのよ!…とは言えないか)
「別にいいわよ。」
「わ〜い、やった〜!じゃあ〜おやすみ。」
そう言うと麻奈美はすやすやと晴香の隣のソファーで寝てしまった。
(全く疲れる奴ね…おっと私も体力回復のために少し寝るか…樹さん待っててね今行くから)
38教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/09(日) 18:08:26 ID:rl2pXvmf
「ここですよ。」
樹が案内した海の家はちょうど海岸の真ん中あたりにあり、なかなかいい場所にあった。
「海の家…深海魚ぉ?」
店の前ののぼりには「海の家!深海魚」と書いてあった。
「ああ、ここのおやじさんが深海魚が大好きなんで、店の名前もそのものズバリにしたんです。」
「はあ…」
樹は中に入っていって
「おやじさーん、樹でーす!」
すると奥から50代ぐらいの男性が出てきて
「お〜、樹か?元気にしてたか?ん?」
「まあぼちぼちですね。今年も宜しくお願いします。」
どうやらこの海の家のオーナーはなかなか気さくな人のようだ。
ふと、オーナーと弥生の目が合った。
「お?なんだ樹、いつの間に結婚して子供作ったんだ?なかなか可愛い子じゃないかー!」
えーと、どう説明しよう、と悩んでいた時、弥生が入ってきた
「おはようございます、私こちらの佐藤樹さんの従妹の朝日夕子と言います。今回わがままを言って
付いてきましたが、ぜひ樹さんのお手伝いをしたいので宜しくお願いします。」
あまりの堂々とした挨拶にオーナーも樹もなにも言えなかったが、オーナーが笑い出した。
「いやーお穣ちゃんいいねー、気に入ったよ。人手は多いほうがいいからね。わかった!それじゃあお願いするよ。」
「ありがとうございます。頑張ります!」
「よし、二人とも持ってきた水着に着替えて、上からこのエプロンを掛けてね。」

開店してから数時間…

「樹くん、3番テーブルに焼きそば3つ!」
「はいっ!」
「オーナー、10番テーブルにいちご2に宇治金時2!」
「いらっしゃいませー、空いてる席へどうぞー!」
天気も良いし、日曜日ということもあってか満員御礼状態だ。
樹も弥生もまったく休むことなくお客さんを捌いていった。
店が一息つけたのは2時すぎだった。
「お二人さん、なんとかお客さんの波も収まったから今の内に休んどきな。」
見るとあれほどいた、お客さんも疎らにしかいなかった。
「そうですね、じゃあ弥生さん少し遅いお昼にしますか。」
「そうだな、そうさせてもらおう」
店の軒下に座って、弥生手作りのお弁当をひろげた。
さすが料理の腕は一流なので、色とりどりのおかずは見ただけで食欲をそそる物ばかりだ。
「うわ〜、どれも美味しそうですね、じゃあ、いただきます。」
「うん、いっぱいあるからどんどん食べてくれ。」
見た目も美味しそうだが、実際口に入れると味も完璧だった。
「うん!この卵焼きはおいしいですね。このおひたしもいけますよ。」
夢中になって食べていたら熱い視線を感じた。
見てみると弥生が顔を真っ赤にしながら、フォークに刺した鳥の唐揚げを樹に向けて
「い、い、い、樹………あ、あ、あーん!」
え、え!弥生さんなにしてんですか?そういうキャラじゃないと思ってましたが…。
樹が戸惑っていると、弥生が堪らずに
「樹!いいからあーんしろ!!」
「はいっ!」
あまりの気迫に押されて思わず口を開けた。
その瞬間、電光石火の早業で口の中に唐揚げを押し込まれた。
「どうだ?うまいか?」
外はカラっと、でも中は程よく火が通っていて、噛めば噛むほど肉汁が出て味が
染み出してくる…ん、これは!
「どうした?急に黙って…不味かったか?」
「いえ!とんでもない!絶品ですよ!とても美味しいです!あ、もう一個下さい」
それを聞いた弥生はこれ以上ないほどの笑顔をした。
「そ、そうか…気に入ってもらえて嬉しいよ。あ、もう一個か?はい、あーん。」
39教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/09(日) 18:10:57 ID:rl2pXvmf
午後になっても海岸は人が減る様子はない。
「それにしても弥生さん、お客さんにモテモテでしたね。」
「いい迷惑だ!!」
そう、ちっちゃい女の子がウェイトレスをしている、という評判が広がり一目見たさで
お客さんが押し寄せてきたのだ。
たしかに贔屓目に見ても、ちっちゃくなっても弥生さんは可愛いから評判になってもおかしくないな…
「そういえば晴香ちゃん遅いな…どうしたんだろ?」
時計を見るともう3時を回っているが、まだ電話すらないということはまだ移動中なのだろう。
すると、食べ終わった弥生が立ったと思ったら樹の手を握って
「せっかくきたんだ、少し遊ぼうか。」
そう言って樹を海に引っ張っていった。
「ち、ちょっと弥生さん、そんなに引っ張らないで」
(五十嵐晴香…来るなら来なさい!イニシアティブは私が握ってんだから!!)


「なんだあれは?」
「ずいぶんでっかいバスだな…」
駅前にとても大きいバスが止まってる。
近くにいた人が見ていたら、突然入り口が開いた。
何事かと見ていたら、1人の女性が降りてきた。
「麻奈美お嬢様、それではいってらっしゃいませ。」
「うん、終わったら電話するから。」
麻奈美と呼ばれた女性はちょっと肩までかかったセミロングレイヤーの髪、人懐っこそうな目、
抜群のプロポーションを際立たせる花柄模様のワイヤービキニを着て、ゆっくりと階段を下りてきた。
「晴香ちゃ〜ん、早く〜。」
「今行くわよ!」
晴香と呼ばれた女性はミディアムレイヤーの髪に、自己主張が激しそうなキツイ目、
細身ではあるけれど起伏のないボディーラインに、白いワンピースの水着を着て、走って降りてきた。
「晴香様、どうかお嬢様を宜しくお願いします。」
バスの運転手は、心配そうに晴香にお願いしてきた。
晴香はちょっと考えて
「そんな心配は無用だと思うけど…一応わかったわ。」
それを聞いて運転手は安心したのか、深々と頭を下げてバスに戻っていった。
ざっと周りを見てみると、あまりの人の多さにウンザリしたが、ここに愛しい愛しい樹さんが
いると思うと晴香は自分のアソコが濡れるのを感じた。
(樹さんと同じ場所に来たって思うだけでこれじゃ…会ったら我慢できないわね…
そうね、更衣室で軽〜く駅弁スタイルで…あん、樹さん、そんなに激しくしちゃ…)
「晴香ちゃん!晴香ちゃん!!帰ってきて〜!」
「はっ!」
身を捩りながら口から涎を、アソコから愛液を垂らしながら笑う姿は、傍から見ると
狂人にしか見えないだろう。
(いけないいけない、またアッチの世界にいっちゃった。)
「よかった〜帰ってきて…晴香ちゃん。佐藤さんのいる所ってどこ?」
「え、え〜と確か…「海の家 深海魚」って言ってたわね。」
周りを見渡してみると海の家は何件もあってここからではよく見えない。
「とにかく海まで行ってみるか。」
晴香は海岸へ歩き出していき、その後ろ姿を麻奈美が見ていたが、その目はトロンとしていた。
(晴香ちゃんと遊んで、晴香ちゃんとカキ氷を食べて、晴香ちゃんと一緒にシャワー浴びて、
晴香ちゃんに添い寝して、晴香ちゃんと…晴香ちゃんと…晴香ちゃんと…晴香ちゃんと…)
40教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/09(日) 18:18:25 ID:rl2pXvmf
「樹、うりゃ〜!」
「うわっ、冷たいですよ弥生さん!」
午後になって若干人が減ってきたので、樹と弥生は海に入ってはしゃいでいた。
「おーい、樹!ほら海星だ。あげる。」
「うわっ、要らないです!」
しかし弥生のハイテンションは止まらない。
ビーチボールで遊んだり、イルカの浮き輪に乗ったり、水をかけっこしたり…。
だけどさすがに樹も疲れてきたので
「弥生さん、ちょっと休みましょ。お店も気になりますし…。」
「そ、そうだな…」
弥生はちょっと不満そうだが、渋々了承した。
海から上がって弥生は砂浜に腰を降ろした。
「ふう…。」
「弥生さん、ちょっとお店の様子を見てきますので、ここで待ってて下さい。」
そう言って樹はお店の方へ歩いていった。
一人になった弥生はむぎわら帽子を被り、まだ喧騒とした海をぼーっと見ていた。
(あー楽しかった、こんなに遊んだのは久しぶりね。これもちっちゃくなって樹
と同棲したお陰ね…だからって教授に感謝しないけど)
そんなことを考えていたら樹が帰ってきた。
「おやじさんがまだ遊んでてもいいって。どうしますか?」
「そうだな…じゃあ」
弥生が言い掛けたその時、遠くからだれかがこちらに走ってくるようだ。
周りの人を蹴散らし砂塵を巻き上げて走る姿はどっかで見たような…。

「樹さーーーん!!会いたかったよーーー!」「晴香ちゃん?」
晴香は樹を射程圏内にとらえると、ダイビングボディプレスをかけてきた。
「ぐふっ、は、晴香ちゃん久しぶり。」
見ると晴香の目は大きい隈があったが潤んでいた。
「樹さん!樹さん!樹さん!樹さぁん…淋しかったよー!ああ…樹さんの匂いだ。
もう離れないから。ん〜!」
我慢できないのか、晴香は樹の頭を掴んでお互いの唇を合わせてきた。
「ちょ、晴香ちゃんいきなり…」
しかし突然二人の体は引き離された。
「なにやってんのよ!!こんな所で!!」
見ると晴香と樹の間に入って引き離した弥生が、晴香を睨み付けた。
最初なにが起きたか解らなかった晴香だったが、邪魔されたのが解った途端凄ま
じい形相になった。
「ちょっと!なに邪魔してんのよ!このチビ!」
ただでさえ踏んだり蹴ったりなことばかり続いた晴香からしてみれば、
やっと愛しい樹との愛の語らいが出来ると思っていた矢先にいきなり
邪魔が入れば憤然たる思いだろう。しかしそれは弥生も同じだった。
「チ、チビですってぇ!!アンタこそ何いきなりキスなんかしてんのよ!!大体…」
そこで一旦切って弥生は晴香の胸をじーっと見た
「な、何見てんのよ。」
「……フッ、AAのくせに。」
弥生は鼻で笑って自分の胸を突き出して強調して見せた。
明らかに子供に負けている胸を指摘された晴香は顔を真っ赤にして歯軋りをした
「樹さん!!なんですか?このクソ生意気なチビは!」
「あー……」
正直には言えないし、どうしよう。と、弥生さんを見たら目が合った。
(まかせとけ)
そう目で語った弥生は晴香の方を見て
「よーく聞きなさい、私は樹の家に同棲している従妹の朝日夕子よ!」
「な………………………」
(イマコノチビハナンテイッタ?ドウセイッテイッタ?ドウセイッテナニ?ドウ
セイ?ドウセイ?ドウセイ?どうせい?同棲?同棲!!!!!!!!!)

第二話「出会ったフタリ」完

次回第三話「皆のネガイ」
41名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 18:21:09 ID:rl2pXvmf
やはり晴香はこうでなくっちゃ。書いてて一番楽しいな。
今回は前哨戦ですが次回は殴った蹴ったになるかも。
しかし二人とも正々堂々だな…
42名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 18:42:41 ID:/DebXegz
高校時代から数々の敵を屠ってきた晴香に弥生は対抗できるのか!?
弥生に萌えつつ次回も期待してます
43名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 19:03:05 ID:fk8X3y5O
>>41
sageが全角文字だから下がってないっす。半角じゃないと下がらない。
44名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 19:09:46 ID:4LprU5lj
麻菜美ちゃん…(*´Д`)
45 ◆eOod7XM/js :2006/07/09(日) 19:56:47 ID:21U/GOvU
投下します。
またも長文です。コンパクトにしたいなあ……。
46名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 19:57:12 ID:81nUqge2
ファーストコンタクトからいきなり爆弾発言をする弥生テラ(*´Д`)ハァハァ
47『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/09(日) 20:00:37 ID:21U/GOvU

 「中央委員は何やってたわけ? 先週の定例会議、誰も出てこないとか困るんだけど?」
 俺がそのことを思い出したのは、帰り際の昇降口だった。
 いきなり呼び止めてきたご立腹の生徒会長にそう言われるまで、完全に忘れていたのだ。
 しまったと思ったのが顔に出てしまったのだろう、わざとらしい溜息を吐かれた。
 「全く以て使えないわね……。もう少しで任期終了なんだから無駄に仕事増やさないで」
 「悪かった……。それで、結局資料のほうは大丈夫だったのか?」
 あれはあの日の前日に印刷して、麻衣実ちゃんが持っていたはずだ。
 彼女が資料を渡していないならば、下手すると定例会議自体中止したのかもしれない。
 「そっちは問題なかったわ。――資料だけ置いて帰るのもいい根性してるけどね」
 高飛車女の嫌味は無視する。
 まったく、こいつがいなければ俺は3割り増しで生徒会が好きになれるだろうに。
 「そうか、ならよかった……」
 「よくないわ。――これ、埋め合わせでやっておいて頂戴」
 したり顔でディスクケースを手渡す辺り、委員の欠席によって特に問題が起きなかったのは事
実らしい。この女は余計な労力をかけることを何より嫌っていて、もしそうなら怒鳴るくらいは
するだろうから。
 それに麻衣実ちゃんが先週の手落ちにまだ謝罪していないとは考えられない。
 「ラベルは……、来期生徒会選挙立候補者の応募用紙か。期日は?」
 「明日の朝よ。じゃあ頼めるかしら、委員長さん?」
 偉ぶった態度がどこまでも気に障るが、落ち度がこちらにあるので仕方がない。
 むしろ、それがわかっててデカイ態度でいるんだろうけどな。
 不本意ながらケースをカバンにしまう。

 念押しまでされたのに、俺は会議に出なかった。
 俺は向けられた信頼を蹴飛ばし、責任を放棄した。
 麻衣実ちゃんが怒って帰ってしまったのも無理はない。
 こいつにパシられるのはきっと神様が俺に与えた罰だろう。

 「遅くなっちまったが、後で麻衣実ちゃんに電話で謝っておかないとな……」
 「ついでに文句の一つも浴びせておいてよね。でないとアタシの気が晴れないから」
 推薦入試の評価を上げるために立候補したと公言する会長。
 麻衣実ちゃんとは天と地ほどの差があるその後姿を見送りつつ、俺は靴を取る。
 ……あんなのを見ていると麻衣身ちゃんがどれだけいい子かよく分かるな。
48『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/09(日) 20:02:42 ID:21U/GOvU

 「お話終わった?」
 「……おっと」
 竹沢は昇降口を出てすぐのところで待っていた。
 面倒なのに捕まってしまったので先に行かせたのだ。
 「こ〜ちゃんと初めて帰れるねえ〜」
 向日葵のように眩しい喜色満面。
 竹沢をマスコットと俺が評す所以。
 何も知らないクラスメイトにとって、竹沢は見ているだけで元気が出てくる存在だ。
 それは竹沢の依存癖を知っている俺も例外ではない。
 思わず、会長のせいで覚えた苛立ちが吹き飛んでしまう。

 「そうやってずっと笑っていてくれたら助かるんだけどな?」

 ――なのに竹沢は、

 「無理だよ」

 その笑顔を寂しげな微笑に変えてしまう。

 「こ〜ちゃんに見捨てられると思うと恐いよ。とっても恐いよ。――だからわたしはね」

 パールホワイトの携帯を開き、液晶画面の数字の並びを見せる。

 「一晩中わたしとお話して欲しいんだよ。――後輩さんとじゃなくて」

 ――緩んだ頬はあっという間に引き攣ってしまった。

 会長は恋人どころか友達としてだって対象外だぜ……。そう警戒してくれるなよ……。

 盗み聞き、だろう。俺が麻衣身ちゃんに電話を入れると言ったのを聞いたらしい。


 告白から約一週間。
 竹沢の侵食は広がっている。
 それも眼を見張るスピードで。
 『放課後』の解釈が翌日の放課後までに変わってしまうのはそう遠くないかもしれない。
 現にとうとう今日は一緒に帰る事を押し切られてしまっている。
 竹沢がクラスの中でも理性的でいられる限界は近いかもしれない。
49『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/09(日) 20:04:34 ID:21U/GOvU

 最近では俺が他の女子と話しているだけで怯えているように思える。
 そのせいで、今週からは麻衣実ちゃんに頭を下げて、委員の仕事も完全休業。
 やはり直接の原因である娘といるのは、どう考えても竹沢を刺激しそうだったから。
 だから会議のことを聞く機会もなく、思い出せずにいた。
 麻衣実ちゃんも言ってくれれば……、俺を責めてくれればいいのに……。
 理由も言わず、働きもせず、そんなんでは黙って許してくれる彼女に申し訳が立たない。

 「こ〜ちゃんの声が聞けるなら寂しくないし、たくさん安心できるよ」

 俺の苦悩を気にも留めず、竹沢は自己完結してる。

 たった一度。そうたった一度なんだ。
 俺と見ず知らずの後輩の仲良さげな会話を聞いただけで、竹沢は半狂乱になった。

 そして、タガが外れてしまった。壊れてしまった。狂ってしまった。

 元来の人格は善人だと思う。
 しかし、そこに依存と恋愛が混ざると簡単に歪みが生じてしまう。
 孤独感と嫉妬心がセットになっていて、それが竹沢を暴走へと駆り立ててしまう。


 ――――これじゃあ現状維持の選択肢も消滅かな。


 強張った顔に貼り付いた苦笑いが偉く滑稽だ。

 「それにとっても大切な話だからこ〜ちゃんも聞きたいと思うんだ」
 逃げ道をなくした俺を竹沢はさらに追い込む。

 笑顔で信頼と愛情をばら撒く。

 「わたしはね、これでもかなり気を遣ってきたんだよ?」
 「何を、……言ってるんだ?」
 脈絡のなさについていけない。
 これじゃあまるで精神病患者だ。

 ――いや、馬鹿か俺は、依存症は精神病のお友達みたいなものだろうが。
50『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/09(日) 20:07:13 ID:21U/GOvU

 「そんな恐い顔しないで……。わたし頑張ったから……、……頑張ってきたから」

 泣き顔で依存と嫉妬をぶちまける。

 「わたしたちが二人でいるために、……わたしは頑張ってきたんだよ」

 わからない。何もかもがわからない。
 こいつの考えている事は全部わからない。

 「………初めて優しくされてから、ずっとずっとずぅぅぅぅぅぅと、我慢してきたんだよ…………」

 だから何をだ。

 「……えへへへへぇ〜」

 断言する。お前の脳みそは溶けている。

 「だからね、わたしは知ってたんだよ。知ってたから鍵をかけるようにしたの」

 鍵? 教室の鍵のことか?

 「……誰かがいるのはわかってた。毎日のように扉の向こうに立っていたんだよ?」

 誰だそいつは? 頭のおかしなヤツをこれ以上俺の側に増やすな……っ。

 「結局、扉を開ける勇気はなかったみたいだね。そのせいでなかなか顔が見えなくて大変だっ
たんだあ。……でもね、今週になってからは扉を開けたりはしないんだけど、ガラスにぴったり
くっ付いてて……、それでちょっとずつわかってきて……、……やっと今日特定できたんだよ……」

 誰だ? 誰だ? 誰なんだ? 言うなら早く言ってくれっ!

 「その人に、こ〜ちゃんを取られるのが恐かったから……。すっごくすっごく恐かったから……。
頭の中が真っ白になって、膝ががくがく震えて、お腹がきりきり痛くて、涙が溢れてきて、辛くて
辛くて堪らなかったから……」

 ――――――もう、いい。

 「……寂しかったんだと思うんだ。それはわたしもわかるんだ。だけど……だけどね、それでも
わたしはわたしが寂しくなるのだけは……、こ〜ちゃんがいなくなるのだけは……」

 お前の理屈は―――――――――――――――――――――――最高に意味不明だ。
51『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/09(日) 20:10:38 ID:21U/GOvU

 「だからその人を今夜、こ〜ちゃんに教えてあげる」

 ……………。

 「こ〜ちゃんとわたしの仲を覗き見するようなわるい人はこ〜ちゃんも嫌いだよね?」

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 「ねっ? 嫌いになってくれるよね? ……そう、だよね……?」

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 「……そっ、う、だっ、よね?」

 ――これは狡猾な悪魔の誘いなのか。あるいは愚かしき救世主待望なのか。
 それともそれ以外の何かなのか。

 「……ちっ」
 小さく舌打ち。
 もし竹沢に聞かれたら、しがみ付かれて引き摺りながら帰ることになるのは確実だ。
 なのに悪態をついてしまう苛立ちをどうか察して欲しい。

 奇しくも場所は正門。その状態はこの前と微塵も変わらない。
 手を差し出す人物は、俺がイエスと言わなければ、ただ悲痛なまでに懇願するのみ。
 わかっていた。本当は全部わかっていた。
 これが『依存される』の真の意味だと。


 あの魅惑的な少女が、俺に全てを預けている。
52『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/09(日) 20:13:40 ID:21U/GOvU

 ここまで心が揺れ動くのは、決して竹沢の依存症を悪化させた罪悪感ではからではない。
 投げ出せない関係者の責任感ですらない。
 意味不明? ふざけるな。こんな明確な意思表示があるか。
 一言でオーケーだ。


 あなたがわたしのすべてです。


 ――一蓮托生はゴメンだが、重荷を半身に積まれるぐらいは……甘んじて受けよう。

 いい加減、それくらいまでには俺も傾いてきてしまっている。
 寄りかかってこられたら、傾くのは摂理だ。

 それは、
 ここまで鮮烈な想いを受けた者の定めでもある。
 ここまで激烈な好意を向けられた者の義務でもある。
 告白の返事は別にして、俺は正しいことをしていると思う。

 「……そんな恐怖体験談なんかよりは、雑談をしたほうがよっぽどマシだな。携帯を貸してくれ。
番号とアドレスを登録する。俺のもそうしておいてくれ。――コールもメールも好きなときにどうぞ」

 「ほん、とう……?」
 信じられない、そう言わんばかりの呆けた顔で竹沢は言う。
 「……俺は無責任に嘘は吐かないと約束するよ」
 こんなこと宣言しちゃってさ、どうするつもりなんだろう。

 携帯を取り出し、竹沢のデコに押し当てる。
 漂っていた負の気配が消え、にこりと、再び竹沢が向日葵の笑顔を見せる。

 「……そっか、こ〜ちゃんがそう言うならわたしはそれでいいと思うな。でも、こ〜ちゃんとお喋り
し放題か〜。ありそうでなかったなぁ。普段はみんなと一緒だし、放課後は一応勉強するのがメインだ
ったし。しかもダイレクトコールだよ。すごいな、嬉しいな」
53『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/09(日) 20:16:13 ID:21U/GOvU

 半強制的に友達以上恋人未満のポジションに志願させられたようなものだ。
 ここから先、線引きを誤ることがあれば、きっと俺は竹沢と共倒れだろう。
 絶妙なバランスで、まるで天秤量りのように、錘を乗せ間違えれば即振り切ってしまう。
 俺達はギリギリの均衡で成り立つ関係。

 だが――、俺もそうあっさりと取り込まれるわけにはいかない。
 竹沢を立ち直らせる当初の目的を忘れたわけではない。
 せめて日常生活を円滑に過ごせる程度にはしておかないと……。

 「代わりと言っては何だけどな……、麻衣実ちゃんと仕事したりするのは大目に見てくれ。他の
女子と話すぐらいもな。その分、二人のときは好きなだけ構ってやるから。なっ?」
 「………………やだよ」
 間があったが、はっきりとした拒絶。
 初っ端からこれじゃ気が滅入ってくるな……。
 「……どうしてもか?」
 「……どうしても。こ〜ちゃんが他の女の子と一緒にいるのは嫌だよ。こ〜ちゃんがわたし以外
の誰かと仲良くしてると胸が痛いよ。……寂しくて死んじゃうよ……」
 強めに言っても効果なし。
 それどころかその度にこうして喚かれるのか。
 どこまで鬱陶しくなれば気が済むんだよ……。
 こんなんじゃ掲げた決意があっという間に挫けちまうぞ。

 「そうか……、なら携帯の話はなしだ」

 一転、竹沢に激しい動揺が走る。
 小刻みに震え、世界の終わりのような顔をする。
 依存症には飴と鞭が効果抜群なのを俺は知っている。
 高レベル依存娘と約三週間も対話していればそれぐらいわかって当然だ。

 「だめだめだめ! だめだよこ〜ちゃんっ。お願いだよ……、お願いだから……。……ごめんなさ
い。……本当にごめんなさい……。……ゆるしてっ、くだ、さい。みずでないっ、でくだざいっ……」
 俺の携帯を握った手を胸の前で大事そうに抱き、取られまいと体を屈める。
 なのに涙ながらに語るのは謙りきった哀願。
54『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/09(日) 20:18:17 ID:21U/GOvU

 ――本当に、本当に厄介な女だなあ……。

 「……竹沢が約束を守ってくれるなら、……この条件は外せないぞ?」
 「……ぐすっ、うん、わかった。守るね……。ありがとぉ……、こ〜ちゃん……」

 ――それでも、それでもこいつを見捨てられない。
 支えてやると決めたなら、この重圧に耐えねばならない。
 長時間支えてやれる自身は全然ない。
 明日にでも逃げ出したくなっているかもしれない。逃げているかもしれない。
 ……ああ、そんなヤツを抱え込んでやらなきゃいけないんだ……。
 もし三分に一回とかのペースで着信されたら堪らないなあ……。
 それってまるっきりストーカーだよなあ……。

 リアルに最悪な想像に眩暈がする。
 しかしそれは織り込み済みでなければならないのか。
 竹沢の番号の着メロは、リラックス効果のある曲にしよう。
 睡眠増強剤のクラシック群から聞き覚えのあるのをいくつかリストアップする。
 逃げる時は逃げればいいじゃないかと、自分を騙すようにして納得させる。
 けれどその思考の合間に俺は思う。

 俺の精神が挫けるのは、意志が折れてしまうのは、果たして何時なのかね?

 我ながらそれは偉く壺に嵌まる皮肉だった。
55『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/09(日) 20:25:20 ID:21U/GOvU
依存娘にとって警戒と籠絡は多分本能レベル。

――それにしてもメイン三人とも余裕なさすぎ。
もっと短く楽しくやりたいんですが……。
56『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/09(日) 20:29:53 ID:greqWn6e
「は?俺とセレナが?」
「は、はい。」
なに突拍子もないこと言いやがるんだ、この娘は。どう見ても俺とセレナはそんな関係じゃないだろ。
「まさか。ただのバイト仲間さ。…ってかそう見えた?」
「は、はい。仲が良いので……」
「仲が良いってだけさ。それ以上でも以下でもない。…正直、一時憧れを持ってたこともあったがな。」
「え?そ、そう、なんです…か。」
「ま、俺とセレナじゃ釣り合わないからな。セレナに失礼さ。」
軽いコンプレックスを感じているのだ。こう見えても。セレナの容姿目当てで来る客も少なくはなく、そうなると居場所に困る。
「まあ、見てくれは良いけど性格はアレだからな。」
そう言って苦笑いしながらロッカールームを親指でさす。見た目とのギャップもまた、セレナの魅力なのだが。
「で、でも、晴也さんも十分魅力的ですよ。私から見れば…」
「はは、お世辞でも嬉しいよ。そう言ってくれるのは、葵が初めてだな。」
「…あぅ…お世辞じゃなくて…本気なんだけどな……なんでわかってくれないかなぁ………本当に、晴也さんて……」
57『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/09(日) 20:30:54 ID:greqWn6e
「ん?どうした、葵?」
「晴也さんて鈍感ですね。」
「………」
「………」
一瞬にして場の空気が固まる。鈍感だなんて葵に言われるとは予想外だ………
「はぅあっ!か、考えてたことしゃべっちゃった!」
「お、おまえなぁ〜。頭じゃそんな事考えてたのかよ!パフェ没収だ!!」
「あぁー。ご、ごめんなさい!それだけは勘弁してくださいぃ……せっかく晴也さんが作ってくれたパフェが食べられるのにぃ〜〜。」
この日以降、鈍感だということに少し傷ついていたというのは内緒だ。
結局葵に謝り倒されて、パフェの没収はしなかった。五分ぐらいからかっていたが、途中からマジ泣きになり、うるさくて仕方なかったからだ。
客がいたらクレームになるところだった。感情の高ぶりが早いというか、顔色がころころ変わって面白い奴だ。……マジ泣きはもう勘弁だが。
そしてそのままコーヒーをたのみ、俺があがる時間までなんだかんだと雑談で時間を潰してしまった。……まあ、客が来なかったから良いよな?葵も客なわけだし。
帰りは送って行くことになった。セレナは……いいや。
58『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/09(日) 20:31:58 ID:greqWn6e
「待たせたな。」
「い、いえ。晴也さんが相手なら何時までもまちますから……はぃ…」
そう挨拶を交わし、並んで歩き始める。
「そういえば…セレナさん、どうでした?」
「ああ、顔色が赤みが引いて逆に青くなってた。まだ意識はなかったけどな。まあ、息してたから大丈夫だろ。」
「うふふ……辛味で憤死だなんて前例、ないんですかね?」
「んん??…あ、はは…な、ないんじゃないか?」
「ですよねぇー」
こいつ、天然で言ってんのか。笑顔を見る限りそうなんだろうな。……恐ろしい娘!
「あの……晴也さん。」
互いに話して歩いていると、急に葵がおとなしくなり、話始める?
「ん?」
「来週の日曜日って暇ですか?」
確かバイトも休みだったし、特に出かける予定も無い。
「ああ、暇だけ……」
「で、でで、でしたらぁ!」
俺がいい終わる前に、葵が顔を強張らして俺の前に立つ。その差し出された両手には、一枚の紙切れ……もとい、チケットが握られていた。
「わ、私の学校の……学園祭にきませんか?」
「な、に?」
そのチケットは朝野女子高のものだった。
59『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/09(日) 20:32:50 ID:greqWn6e
朝野女子高……名実共にレベルの高い、いわゆるお嬢様学校だ。その学園祭である。そのため、集まる輩もナンパ目当て、な不埒者が多いわけである。
それを阻止するため、一昨年から男子だけ招待制になったのだ。朝野高のスタンプが捺してあるチケットが無いと入れないのだ。
噂によると、朝野女子の生徒が何枚かもらい、それを譲ってもらわないと手に入らないらしい………
つまり、その女生徒と親しくない限りもらえない、幻のチケットなのだ……俺は素直に受け取っていた。
「あ、ありがとな。…でも、いいのか?」
「うん、うん。チケットは二枚もらったけど、晴也さん以外の人には絶対渡しませんよ、はい。」
別に渡してもいいんじゃないか?……需要が高いし。裏では高値で取引されてるぐらいらしい。っていうか葵のやつ、とてもお嬢様って感じじゃねぇよな。
「あ、でも、受け取ったからには絶対に来てくださいよ!?約束ですよぉ!?来なかったから……あのー…そ、そう。もうお店に貢献してあげません!」
「わ、わかったわかった。何があっても行くって」
葵の勢いに押され、ついつい頷いた…
60名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 21:26:20 ID:xFA8yZxC
GJ
61名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 21:34:23 ID:HlOLpjlD
>>55
          ∧_∧
         ( ・∀・) <生徒会長のフラグまだ〜?
         ( ∪ ∪
         と__)__)  旦
62山本くんとお姉さん2.5 ◆RiG2nuDSvM :2006/07/09(日) 21:36:15 ID:SyJQtgP5
「山本くんとお姉さん2.5」、【第一部】の<2>を投下します。
<1>及び取扱説明書は前スレに投下してあります。
<2>分量7レス、ここから↓
―――――――――――――――――――――――――――――――
63山本くんとお姉さん2.5 ◆RiG2nuDSvM :2006/07/09(日) 21:37:36 ID:SyJQtgP5
<2>
=====================================
  
「アキト、おまえさ」
『――?』
「おまえ最近、藤原と仲いい、よな?」
『―――――』
「そうかぁ? なんか、すげー仲よさげに見えるんだけどさ……」
『―――――――』
「……………そか」
『――――?』
「あ、あのな、アキト。ちょっとマジな話なんだが」
『――』
「俺な…………」
『――』
「…………いや。やっぱ、いいわ」
『――――――?』
「まー気にスンナ。……ほれ、だいぶ遅くなっちまったし」
『――――』
「ああ、んじゃな」

=====================================
―――
――


1、



 日本史の太田先生は、催眠術の達人だ。




 見渡してみる。――生存率、30%。
 こうしている今も、必死に抵抗を続けていた川田くんが先生の魔の手に…………かかった。

 太田先生は、どうでもいい薀蓄を延々と語る事だけが生き甲斐の、おじいちゃんせんせい。
 語らせてさえおけば、滅多に怒ることもない。だから生徒にとっては、平和でとても良い授業。
 ……の、はずなんだけど。
 
 ものごとには限度というものがあって。
 何事もやりすぎはよくない。平和ボケ反対。
 ――この陽気に。
 お昼休み直後の、この時間帯に。
 先生の異様に間延びした、この口調に。
 一般的高校生の興味を喚起しようがない、このトピックス。
 
 クラスメートの魔法抵抗力を根こそぎ奪うこの環境下では、先生の催眠攻撃はあまりに強力すぎた。
 もはや教室は、お花畑咲き乱れるアッチ側の世界だ。倒れ逝く同級生達の、無言なる阿鼻叫喚……。
 先生、なんだかしあわせそうだなぁ。
64山本くんとお姉さん2.5 ◆RiG2nuDSvM :2006/07/09(日) 21:38:29 ID:SyJQtgP5

 ――え? 私ですか?
 私は、居眠りなんかしませんよ〜。
 確かに昨晩夜更かしをしたせいで、ハッキリ言っちゃえば朝から眠かったりします。
 それでも私、比良坂千草には、とっておきの目覚ましのおまじないがあるんだから。
 ね、こうすけくん?

 教室の向こう側の想い人、矢島孝輔くんの横顔を眺める――それだけで、眠気など起ころうはずもない。
 バスケ部で鍛えられた、すらりとした長身。ちょっぴり色っぽい、左耳のピアス。
 少しこわいけれど、ワイルドな逞しさを魅せつける面影。
 孝輔くんは、クラスの中でもとりわけ目立つ、格好良い人なのだ。
 そんな彼の横顔を、遠くから眺めていられるこの瞬間が、私のとびっきりの幸せ。
 だから眠くなんかならないのだ。
 


 でも。
 いつも、横顔。

 ……そう、横顔。私が見ているのは、いつも彼の横顔だ。
 孝輔くんの瞳が、私を映すことはないから。彼の視線の先に居るは、私じゃないから。
 私は単なる「同級生A」でしかなくて、彼はいつも「特別な同級生」しか見ていないから。

 孝輔くんの見ているもの――思い詰めたような熱い眼差しの先。
 それが私に向けられたものならば、どんなにか舞い上がれることだろう。どんなにか幸せなことだろう。
 でもそれは、私の席とは正反対の、窓際の一角で。
 夢見る屍体が累々のこのクラスの中でも、これまた別種の異空間を作り上げている一角で。

 ――里香ちゃんの席で。
65山本くんとお姉さん2.5 ◆RiG2nuDSvM :2006/07/09(日) 21:39:21 ID:SyJQtgP5
2、

 藤原里香ちゃん。

 私の中学の頃からの親友。
 孝輔くんの瞳の中にいる、女の子。
 そして――――そんな孝輔くんの親友に、すっかり心を奪われている奇特な子。

 里香ちゃんは教科書でも忘れたのかな。隣りの席の山本くんに机をくっつけている。
 ……でも、明らかにくっつきすぎ。
 筆談でもしているのかな。しきりにお互いのノートに手を伸ばして、何かを書きあっている。
 ……なんかもう、好きにやってろってかんじ。
 時折楽しそうに、山本くんの胸をつついたり、膝を叩いたり、耳たぶをつまんだり。
 ……はいはい、スキンシップですか。そーですか。
 
 イチャイチャ イチャイチャ イチャイチャ イチャイチャ イチャイチャ イチャイチャ 
 イチャイチャ イチャイチャ イチャイチャ イチャイチャ イチャイチャ イチャイチャ 

 どう見たって、ただイチャイチャしているだけだ。
 教壇からだって、イチャイチャしているようにしか見えないだろう。
 孝輔くんにだって――イチャイチャしているようにしか、見えてないはず。
 授業中とか催眠術とかもう関係なく、その一角だけは、青りんご風味の隔離地域。
 その苦笑せざるを得ない甘酸っぱい空気に、気づいていないのは当事者の二人だけだろう。
 ……あぁいや、たぶん違う。
 私の長年の経験によれば、里香ちゃんは本当は忘れ物なんかしてないはず。あれは、わざとだ。
 だから。
 それに気づいていないのは、教室中で山本くんただ一人だけなのかも。
 

 ……あ〜あ、まったく。
 どこがそんなにいいのだろうか、山本くんの。
 人畜無害。悪く言えば存在感希薄。真琴ちゃんに言わせれば昼行灯。ともかく目立たない。
 色んな意味で、親友の孝輔くんとは正反対なのだ。
 女子の側からは“孝輔くんの尻尾”という、どうしようもない評価しかされていなかった。
 
 ちなみに、私の目からコメントさせてもらうと。
 幸か不幸か、山本くんは私にとって「想い人の親友であり、親友の想い人」という立場にいるわけで。
 他の子よりは少しだけ、山本くんを意識する機会が多い。
 そこで気づいたのだが……。
 彼は意外にも(本当に意外)顔つきは精悍だったりする。――ただ、そこまで観察する子は少ないけど。
 頭の方も、学年優秀者表(の最末尾)に載るぐらいには良い。――彼の名前を探す子も少ないけど。
 体育の時だって、(孝輔くん程ではないが)結構格好いい。――敢えて彼に注目する子も少ないけど。
 よく考えてみると、どうしてここまで話題にのぼらないのか……それがむしろ、不思議なひとだ。
 
 でも、だからって。
 やっぱり私はこの人に、花マルをつけてあげる気にはならない。
 いつも里香ちゃんから愚痴を聞かされている私には、まず彼の悪癖が我慢ならないのだ。
 彼の悪癖――そのシスコンっぷり。そして、鈍感っぷり。
 話を聞いていると、「まぬけかこの人は!?」と呆れる時がある……。

 不思議なひと。でも、やっぱり評価の低いひと。
 ――それが私にとっての“山本くん”だった。

………
……
66山本くんとお姉さん2.5 ◆RiG2nuDSvM :2006/07/09(日) 21:40:32 ID:SyJQtgP5
 2−Bの教室に描かれた、視線のトライアングル。
 私と、孝輔くんと、里香ちゃんと。
 ……プラス、それに気づかないから多角形に加われない、まぬけな山本くんと。

 あぁ、山本くん、本当にまぬけづらだよ。
 なんで、こんなあからさまな里香ちゃんの気持ちに、これっぽっちも気づかないの……?
 どうしてはやく、里香ちゃんと付き合い始めないの……?
 山本くんさえシャキッとすれば、里香ちゃんは幸せになれるのに。

 そうすれば、孝輔くんも諦めがつくのに。
 そうすれば、私の視線にも応えてくれるはずなのに。
 はやく早く、里香ちゃんと山本くんには、くっついて欲しいよ。
 どっちからでもいいから、告白しちゃって欲しい。
 すごくお似合いだよ。早く付き合い始めて欲しい。応援する。
 だから………
  
 
 ……だから、ね。孝輔くん。
 そんな目で、里香ちゃんを見つめないで。
 里香ちゃんは、もう山本くんのものなんだよ?
 いくら見つめたって、里香ちゃんは絶対振り向いてくれないんだよ?
 あの二人は、もうすぐ付き合い始めるんだから。

 私を……見てよ。
 里香ちゃんの代わりに、私がずっとずっと、貴方を見守っているんだよ?
 
 ちゃんと……見てるから。
 いつだって、貴方を、見てるから……。
 私も……見てよ……。
67山本くんとお姉さん2.5 ◆RiG2nuDSvM :2006/07/09(日) 21:41:36 ID:SyJQtgP5
3、

 放課後。

 私は上履きを脱ぎながら、憂鬱な気分に沈んでいた。
 いつもなら体育館へ直行して、他の女子生徒達に混じってバスケ部の練習を見学しに行くところ。
 孝輔くんの活躍を見守りに行くところ。
 でも、今日は……どうしようか。
「………」 
 今朝方から気配はあった。準備もしていた。それでもやっぱり、始まると憂鬱なものだ。
 ――下腹部に、ずしりと重たいもの。
 今日は、早く家に帰った方がいいかもしれないな……。

 だから制服の胸ポケットを探って、定期入れを取り出す。
 ……ううん、違うよ。用があるのは、バスの定期券じゃないよ。
 ――中から出てくる、孝輔くんたちの笑顔。お気に入りの孝輔くんの写真。
 
 ごめんね、孝輔くん……。
 今日は私、もう帰ることにするよ……。
 ごめんね。見守ってあげられなくて、ごめんね……。
 ゆるしてね……。きらいにならないでね……。
 
 そっと、写真をおでこにあてた。
 
 ………
 ……
 …

「ちぃちゃ〜ん……」
 ブルーな気分で昇降口を出た途端、これまたどんより陰気な親友にすがりつかれた。
 
「里香ちゃん、まだ学校にいたの〜? ……山本くんと一緒に帰ったんじゃなかったの?」
 ついさっきだ。
 里香ちゃんは山本くんをつかまえて(というか、ひっとらえて)、意気揚々と教室を出て行ったはず。
 
「……つれてかれた……」
 情けないしょげ顔で、無残な戦果報告。……っていうか、また?
 思わずよしよしと、親友の頭を撫でてしまう。
 
「あのお姉さん、また校門で待ち伏せしててさぁ……」
 
 最近の里香ちゃんは、こうやって返り討ちにあうことが多い。
 よっぽど“山本くんのお姉さん”に嫌われちゃったらしいのだ。
 ……というか、学校まで迎えに来る実の姉に、ホイホイ連れていかれる山本くんもどうかしているが。
 
「いつから伏せていたのか分かんないけどさぁ、『秋く〜んっ』って、校門の影から躍り出てきてさぁ。
 ドンッってわたしを押しのけて、間に割り込むんだよぉ? 肘鉄つきで。見てよこの痣!?
 それでさぁ。『牛乳がお一人様一本限りの二十円なの』 じゃあ百円やるからそこをどけと。帰れと。
 『だから、お姉ちゃんときて』とか。“きて”じゃないよねぇ? ちぃちゃんもそう思うよねぇ!?
 それでぇ、『分かったよ姉さん』 爽やかな山本くんがこれまた可愛いんだわ〜……じゃなくてっ。
 置き去りのわたしに何か言いたそうだったの、山本くん。でもぐいぐい引っ張っていかれてさぁ〜!
 知ってる? 『姉さん、重そうだからその鞄持ってあげるよ』って、荷物持ってあげるんだよ? 
 山本くん優しすぎだよねぇ〜。だからつけあがるんだよ、『秋く〜んっ』なんて甘えてんじゃ――
 
 ―――って。
 ちぃちゃん待ってよー! あ〜ん、置いてかないでー! はなしきいてー!」

 はいはい。
 ここで咆えてないで、お姉さんの前で挑んでよ。里香ちゃん、負け犬根性丸出し……。
 ほんと、しっかりしてよ。ちゃんと山本くんと結ばれてよ。
68山本くんとお姉さん2.5 ◆RiG2nuDSvM :2006/07/09(日) 21:42:28 ID:SyJQtgP5
   
「はぁ……。山本くんって、やっぱりシスコンだねぇ〜」
 慌てて追いついてきた里香ちゃんに、思わず本音を漏らしてしまう。
 
「や、山本くんは悪くないんだよっ!? あのお姉さんが変なのっ!!」
 里香ちゃんが、顔を真っ赤にして否定する。
 山本くんのシスコンを指摘すると、いつもこうだ。
 恋する乙女の贔屓目ってゆうのは、度を越すと滑稽というより哀れよねぇ……。
 その点、孝輔くんみたいに誰が見ても格好いい人は、これ以上贔屓のしようがないから安心。

「はいはい。里香ちゃんも、それならハッキリ言ってやればいいのに」
「はぅ?」
「お姉さんに、直接ビシッと言ってやればいいんだよ。『私達に構わないでください』って」
「…………はぅ」
「里香ちゃん、ちょっと弱気になりすぎだと思うよ?」
「そ、そんなことないもん! ちぃちゃんはあの人に会ったことないから、そんなこと言えるんだよ〜」
「いくら仲が良くたって、たかが姉弟だよ? 実のお姉さんに、そこまで干渉される理由ないよ」
「そ、そうだけどさぁ」
「がんばって。里香ちゃん、ふぁいと〜」
「でもさぁ……。……こわい」
「お姉さんが?」
「……ちがうよ。山本くんが、だよ」

 ……はぁ?
 山本くんなんか柔和というか柔弱というか、気弱な私でさえこわく感じないのに。
 
「少なくとも彼の目の届くところで、あのお姉さんに下手な手出しはできないよ……。
 もし万が一、あの人を傷つけたってことが彼に知れたら……」
「知れたら……?」

 里香ちゃんは、それには何も答えなかった。
 苦笑して、小さな肩を竦めるだけだった。
 ただぽつりと、少し寂しそうな顔で、まるで関係のないことを口にする。

「彼ね、頑固だから」
 ……頑固? 
「山本くんが? ぜんぜんそんな風には見えないけど……」
 というか、頑固とは対極に位置する人のように思える。
 自己主張しないというか、流されるだけというか、……優柔不断にしか見えないけどなぁ。

「ちぃちゃんはさ、彼のことよく知らないから」
 すこしだけ自慢げに、里香ちゃんが薄い胸を張った。
 想い人をあっさり拉致られといて、そんなこと言っても説得力がないよ、里香ちゃん……。

「頑固だよぉ。もう、すっごく」
 里香ちゃんが、両手を大きくぶんぶん振ってみせる。

「とても見ていられないぐらい、頑固なんだよ」
 小さな身体のそんな仕草が、どこか悲しげな風を漂わせる。

「だからね。わたしが守ってあげなくちゃって、思うの。
 わたしじゃなきゃ駄目なんだよ。わたしじゃないと、彼が大変なことになっちゃうよ。
 あのお姉さんでは、絶対駄目。あの人じゃ、このままじゃ、いつか山本くん……」
「……いつか?」
69山本くんとお姉さん2.5 ◆RiG2nuDSvM :2006/07/09(日) 21:44:20 ID:SyJQtgP5

 里香ちゃんはやっぱり何も答えなかった。
 涼しくなってきた風が、里香ちゃんの短い髪を大きく揺らす。
 可愛らしく纏まっていた髪が、乱れる。崩れる。
 
「はうぅぅ、ぼさぼさ〜……。
 ま、ともかくね〜。真正面からあのお姉さんと張り合っても、勝ち目がないんだよ。
 ……っていうか、凄い疲れるし。
 だから隙を伺ってぇ、横合いから掠め盗るようにぃ ――とゆーのが、里香のやり方なのだ」

 里香ちゃん、それは悪女っぽいよ。……似合ってるけど。
 それにまだまだ時間がかかりそうだってことだよね、結局は。
 も〜、早いとこバシッとキメて欲しいのになぁ……。
  
「それにね。わたしは一生、あの人を“お義姉さん”と呼んでいく羽目になるわけでしょ?
 年賀の挨拶の時にね、わたし達の子供が、嫁き遅れのあの人からお年玉貰えないと可哀想でしょ?
 だからね、できるだけ仲良くしたいんだよ。ほんと。
 あぁ……でも、やだな、やだな。
 披露宴でマイク握り締めたまま、これみよがしにメソメソ泣き始めるんだろうな、あの人。
 それでそれでぇ、弟の思い出語りを延々と始めちゃって、場を思いっっっきり白けさせてくれてぇ。
 挙句の果てに山本くんに泣きつこうとして、式場スタッフに連れ出されていくんだろうなぁ……。
 はぅぅ、結婚式に呼びたくないなぁ……。どこか遠いお空の教会で、二人だけで挙げ―――
 
 ―――って。
 ちぃちゃん待ってよー! あ〜ん、置いてかないでー! はなしきいてー!」

 はいはい。妄想の中でお式挙げてないで。
 結婚式にはお祝儀包んであげるから、頑張って現実の山本くんを射止めてよ。
 相変わらず妄想ぱんぱんの“里香ちゃん話”を聞いてると、余計におなかがいたくなってくるよう……。

「ねー、一人だとさみしいよう。いっしょにかえろ〜? どっか寄っていこ〜? ねーねーねーねー」
 うるうるしながらまとわりついてくる、負け組の親友。
「わ、わかったよ、里香ちゃん。わかったから、あんまりぶら下がらないで〜」
 
 はぁ……。
 おなかいたいのになぁ……。
 私のは、結構重いのになぁ……。


 明日は本格的に、生理きついだろうな……。

――――――――――――――――――――
【第一部】<1>及び<2>の前半、ここまで。
ちぃちゃん。従来とは少し違った立場からの、新ヒロインのお話です。
この2.5は、学校における修羅場が中心の話になります。
なので第一部では、キモ姉とあずあずは裏方に回っています。申し訳ありません。
また、第一部は全力でちぃちゃんフラグを立てにかかっています。そのため、話しがやや回り道です。

それでは再び、しばらくの間よろしくお願いいたします。
70山本くんとお姉さん2.5 ◆RiG2nuDSvM :2006/07/09(日) 21:46:39 ID:SyJQtgP5
>>69
失礼しました。訂正します。
<2>はこれでおしまい。次回は<3>となります
71名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 21:51:51 ID:HlOLpjlD
>>70
冬再開じゃなかったのか!?
でも良い意味で驚いた!!
72名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 21:55:13 ID:c6x9qhjr
やっぱり、このスレには山本くんとお姉さんは必要だと確信しました・・。
やはり、冬まで待てないうわっなにを(ry
73名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 22:44:08 ID:MWqs8Qam
投下しますよ
74『とらとらシスター』6虎:2006/07/09(日) 22:45:33 ID:MWqs8Qam
「虎徹君、これなんかどうだろう?」
 通い慣れた喫茶店、『極楽日記』の店内で青海はメニューを必死になって見ていた。僕
といえば注文は既に決まっているので若干暇を持て余し、専ら青海の相談役に徹している。
真剣に注文を選ぶ青海の言葉に応じながらその表情を見てみれば、普段の毅然としたそれ
とは違い年相応の可愛らしい雰囲気が心をくすぐってくる。そして二人きりというこの状
況、向かい合って座っているという事実に改めて付き合っているという実感が湧いてくる。
「こっちはどうだろう?」
「それは大分甘いけど、そういうの平気?」
「望むところだ、甘いものは別に溜る」
 漸く注文が決まったらしく、僕はマスターを呼んだ。極悪な人相とは裏腹に人の良い笑
みを浮かべながら、店主の笹垣さんが寄ってくる。いかつい体も温厚な表情もいつもと何
も変わらないが、普段と少し違うのは視線の中に僅かに含まれている好奇心。
「決まったかい?」
「僕はいつもの、青海は?」
「これとこれを」
 笹垣さんは注文表に幾つかの単語を書き込むと、僕を見て笑みを強くした。
「どうしたんですか?」
「いや、何も。ただ虎徹君もついに春が来たかと思うと嬉しくてね。いつも女っ気はない
し、女連れだと思えば虎百合ちゃんか虎桜ちゃんばかりだったから」
「なら、わたしが虎徹君の最初の彼女という訳か。嬉しいものだな」
 青海はそう言うと、小さく笑った。
「おや、彼女なんだ。ならサービスしないとな」
75『とらとらシスター』6虎:2006/07/09(日) 22:46:14 ID:MWqs8Qam
 愉快そうに体を震わせて、笹垣さんは店の奥へと向かっていった。
 彼女、か。
 そうなんだよな、僕たちは付き合っている。二人きりだという状況でも少し照れ臭いの
に、そんなことを言われたら恥ずかしさが一気に込み上げてきた。敢えて意識しないよう
にしていたが、相手は完全無欠のお嬢様。僕よりずっとハイクラスな相手だ。
「虎徹君?」
 不味い、意識した途端に言葉が浮かばなくなってきた。いつもの下らない冗談やふざけ
た発言が、全くと言っても過言じゃない程に言葉が浮かんでこない。友人をして『詞食い』
と言わしめた僕がどうしてこんなに黙っているんだ、不自然な態度は僕らしくない。助け
て殺虎さん。いや、もうこの際誰でも構わない。ユキさんでも姉さんでもサクラでも良い、
今更になって嫌がる姉さんやサクラを置いてきたりしてきたことが悔やまれる。僕の馬鹿
馬鹿、大っ嫌い。
「どうしたんだ、虎徹君!? 君が今から何をしようとしているか分からないけれど、そっ
ちは壁だぞ!?」
「ごめん、ちょっと緊張してて。ほら、青海って美人だから」
 壁に頭突きをするその一歩手前で現実に引き戻され、僕は慌てて言葉を取り繕ったが、
我ながら悪くない。漸く調子が戻ってきたような気がしてきたので、青海に向かい直して
笑みを作った。冷静になってきたのなら、きっと大丈夫。
 しかし今度は笑顔に戻った僕とは逆に、青海は複雑そうな顔をした。
76『とらとらシスター』6虎:2006/07/09(日) 22:51:38 ID:MWqs8Qam
「君は緊張すると壁に頭突きをす…え、び、美人?」
 それも長く続かず、今度は顔を紅く染め上げる。挙動不振に両手を空中に上げ、その拍
子にお冷やの入ったグラスを倒して慌てる姿を見ていると、今度は作ったものではない笑
みが漏れてきた。普段の姿からクールな性格だと思っていたけれど、以外に俗っぽいらし
いその行動に緊張が完全に緩んだのが分かった。
「ほら、青海。落ち着いて、ラマーズ方」
「うぁ、すまない。突然言われたものだから」
 テーブルを拭きながら青海を見ると、本当にラマーズな呼吸をしていた。相当気が動転
しているのか浮かべている表情は複雑なもので、僕にはどんな心情か判断が出来ない。笑
い事ではないのだけは、本人の様子で簡単に分かる。
 数秒。
 やっと落ち着きを取り戻したらしい青海は僕にいつもの表情を見せ、
「不意打ちというものは、案外効くものだな」
「そうみたいだね。でも、本当に可愛いと思っ…」
 鈍音。
 壁の向こう側、丁度僕が座っている辺りから壁を叩くような音が聞こえてきた。それも
尋常じゃない力で。
 やはり、誰か居るのだろうか。
 この店に入った理由は、放課後デートっぽいからだけではない。学校を出た辺りから、
たまに強烈な視線を感じたからだ。気にはなるものの、よそに目を向ければ青海に失礼だ
し、昼のこともあってか後ろを向き辛かった。なにより青海が怒るのであまり確認は出来
なかったけれど、それでも何回か周囲を見てみても、それらしい人影は無かった。
77『とらとらシスター』6虎:2006/07/09(日) 22:52:20 ID:MWqs8Qam
 もしかしたら姉さんかサクラかもしれないと道の途中で思ったけれども、流石にそこま
で偏執的ではないと思う。二人とも今日は友達と遊ぶと言っていて、その友達と一緒に帰
っているところも見たし、何より身内を疑うのは良くないから。根拠はないけれど、多分
ユキさんも違うと思う。あの人は多分変態だけれども、なんとなくではあるけれど、こん
なことはしそうにない気がする。格好以外はとても善人だということは、昼の短い時間だ
けれども一緒に話をしていて分かった。
 だとすると、本当に誰だろう。
「虎徹君、大丈夫か? また上の空だが」
「ごめん、ちょっと考え事してて」
 誰だ。
 青海は確かに美人だし、欠点なんてものは見当たらないからファンも多そうだし、その
類だろうか。ストーカーのような存在はテレビの向こう側にしか居ないようなものだけれ
ど、だからと言って近くに居ないとは限らない。
「虎徹君」
 大きな声に顔を上げてみると、青海が悲しそうな表情をして僕を見つめていた。何かし
ただろうかと考えてみると、すぐに答えが出た。
 また、やらかした。
 何かをした、ではない。それなら、まだ幾らかましだったかもしれない。昼のことは反
省をしていた筈なのに、もう破ってしまっている自分が何とも情けない。青海は僕の彼女
なのだから、もう少し気を使うべきだった。
78『とらとらシスター』6虎:2006/07/09(日) 22:54:50 ID:MWqs8Qam
 僕が見つめ返すと青海は軽く視線を伏せ、
「もしかして、わたしと居るとつまらないか?」
「そうじゃなくて…」
 考えろ、今はどんな言葉が有効か。これは交渉のようなものだ、相手を出し抜き自分を
有利にし、世界を円滑に進ませる言葉を見付け出せ。自分の持って
いる情報を確実に把握して、相手を騙す手札に変えろ。
 自分に言い聞かせ、答えは以外と簡単に出てきた。
「ほら、僕もこんなのは初めてだし、経験が無いから。青海は楽しんでるのかなって、そ
んなことばっかり考えてて」
「そうだったのか、ならお互い様だな。わたしも同じことばかり考えていた」
 果たして、結果は上手くいった。足掛かりを掴めば、続く言葉は簡単に出てくる。
 はにかんだように笑う青海を見ていると心が少し痛むけれど、好きになりかけてきてい
る青海をここで切り離したりは出来はしない。
 だから、言葉を続ける。
「正直、少しつまらないかもしれない」
「やっぱり、そうか」
 悲しそうな表情は、もう見たくない。
「僕は青海のことをよく知らないし、そっちもそうだと思うしね。だから好き合ってるじ
ゃなく、付き合ってるとしか表現出来ないし。そもそも順番が逆だしね」
 ますます暗くなる青海の表情だが、それもこれまでだ。
「だけど、これから二人で進んでいけば良いと思う。例えば、さっきの注文で青海が甘党
だって分かったみたいに」
 少し驚いた表情で顔を上げる青海に、僕は笑みを向けた。
「これから二人で知っていけば良い」
 気を利かせてくれたのだろう少し遅目に出てきた珈琲を一口飲むと、青海の顔色を見る。
そこには少しぎこちない笑みがあり、きちんと進めたことの証明として軽い笑い声もそれ
に付いてきた。
 珈琲をもう一口飲んで考える。
 まずは何から話していこうか。
79ロボ ◆JypZpjo0ig :2006/07/09(日) 22:57:24 ID:MWqs8Qam
今回はこれで終わりです

あれ、何か見慣れた単語が出てきたぞ?
またかよ?
って思った方、すみません。またです、またなんです
反省だけはします
80名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 23:09:35 ID:BIpwhalD
>>79
アァ、あの虎の血を持つ凶器の姉妹がどういう行動に出るのか
見えない分怖い((;゚Д゚)
>>70
まさかの連載スタートでうれしい誤算
裏方の姉に光が当たるのはいつかしら・・・
>>59
葵は相変わらず健気でかわいい(*´д`*)
>>55
依存娘溜まらん(*´д`*)
あぁ、こんな彼女が欲しい

このスレがあるから明日からまた仕事が頑張れる
作者様方には本当に感謝
81名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 23:29:22 ID:SktMrdlM
>>70
驚いた。ビックリ。
82Bloody Mary 2nd container 第二十話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/09(日) 23:33:50 ID:9uukKB3O
 迂闊と言う他なかった。
もしも、マローネが団長の命も狙っていたとするなら此処で待ち伏せするのは簡単に予想できたはずだ。
だけど実際に気付いたのは岩陰からマローネが団長に銃口を向けているのが見えてからだった。


 例の火薬が爆発して、師匠が死んだ山道まで来るとマローネの姿が見えた。瞬時に全身が総毛立つ。
その銃口の先―――――俺の前を歩いている団長に狙いを定めているのが直ぐにわかったからだ。

「だん―――――!!」

 俺の警告にいち早く反応したのか、それとも俺より先にマローネの存在に気付いていたのか。
とにかく団長はすぐに剣を鞘から抜いた。マローネの不意打ちが失敗した瞬間だった。

ズダンッ!!

 遠くから放たれる爆音と共に、団長が剣を薙ぐ。

ガギィィィィィン………!!

「くっ!!?」
 まるで何かが削れるような金属音。団長が刀身で弾丸の軌道を反らしていた。
相当威力が凄まじかったのか、団長の剣が彼女の手を離れ、弾き跳ばされる。

 これでマローネの勝機は消えた。少なくとも後数十秒は次弾を撃てない。
俺はマローネに向かって全力で走り出した。

 弾丸を弾かれたマローネが茫然とした表情をしている。
彼女が構えている銃は銃口以外のあちこちからも煙を上げ、もう使い物にならないのが一目瞭然だった。

 マローネを捕らえて問いただしてやる。
姫様が殺された絶望と、殺した人間がマローネだったことへの失意をない交ぜにしながら。
 俺は叫んだ。

「マローネェェェェッ!!」
83Bloody Mary 2nd container 第二十話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/09(日) 23:34:35 ID:9uukKB3O

 走っていた俺に気付いて、マローネが口をニタリと歪ませた。
姫様を撃ったときと同じ、鋭い笑みを浮かべながら俺に向かって何か言っている。


『ア ン シ ン シ テ。 オ ニ イ チ ャ ン』


 そう口を動かすと構えていた銃を投げ捨て、足元に置いていたらしいもう一本の銃を拾い上げた。


―――――え?
 瞬間、頭の中で警鐘がやかましく鳴り響く。だけど、俺の脚はこれ以上速く動いてくれない。
すぐ後ろを振り返る。 団長はまだ剣を拾っていなかった。
 思えば初弾は弾くのではなく避けるべきだった。
最初から。マローネはこれを狙っていたんだ。
 戦姫も剣を持っていなければ只の娘。次に迫る銃撃に対処できようはずもなく。

「団長ッ!逃げ……」
 団長を突き飛ばそうと踵を返す。
だいたい、何故団長が弾を避けずに剣で弾いたのか。あれだけ余裕があったのならかわす方が楽だったはず。

『避けていては仲間が流れ矢に当たる危険性があります。単独行動でなければ避けるよりも矢を捌くのが理想的ですね』

 戦争中、ある弓隊と戦ったとき団長がそう言っていたのを思い出した。
単独行動でなければ―――――また、俺が足を引っ張ったのか…?また俺のせいで誰か死ぬのか…?

 団長に必死に手を伸ばす。
けれど彼女との距離が酷く遠くに感じて。ちっとも手が届かなくて。

『私がずっと側にいます』

 俺を助け出したあの一言。

『姫様が待ちくたびれるくらい、長生きしてやりましょう』

 ついさっき言っていた言葉。
団長なら安心だと勝手に思っていた。団長ならこんなことは起こり得ないと過信していた。
84Bloody Mary 2nd container 第二十話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/09(日) 23:35:42 ID:9uukKB3O


もう少しで手が届こうかというとき。団長と視線が交錯した。次いで背後から聞こえる発破音。


―――――ぱすんっ


 随分滑稽な破裂音と、視界に拡がる潰れたトマトのような紅。
それに遅れて俺の手が彼女の身体を突き飛ばした。

 ばたんと倒れる俺と団長。俺は彼女に顔を埋めたまま顔を上げることができなかった。
団長を見るのが怖い。とてつもなく怖い。直前に見た光景が幻覚であってほしい。
歯をカタカタ震わせてゆっくり団長の顔を覗き見る。


――――――――なかった。


 俺が抱きしめていた団長の身体にそんなものはなかった。首から上が、ない。
団長の顔の代わりに得体の知れないピンク色の物体が、俺の顔や地面のあちこちに散らかっていた。

「うわっ…うわっ、うわっ!うわっ!!うわっ!!」

 そのピンク色の物体をとにかくかき集めた。心臓が口から飛び出しそうだ。とにかく気分が悪い。

「だんちょう!だんちょうっ!!」
 はやくだんちょうをもとにもどさないと。
手当たり次第かき集めてくっつけようとするのに、なぜかどうやってもくっついてくれない。
 まだ、たりないのか?
きょろきょろ辺りを見渡して見落としていた物体を拾い集めた。
未だドクドクと血が噴き出す団長の首に、くっつけようと試みる。なのに全然くっついてくれない。

「あれ?…あれ!?」
 なんで、もとにもどらないんだ。団長の頭の“部品”らしきものは皆集めたのに。
ああ……はやく、くっつけないと。もとにもどさないと。

 手がぬるぬるして上手くいかない。“部品”をひとつ落としてしまった。

「あ…」
 拾い直そうと手を伸ばす。でも。

「――――――――おにいちゃん」
 ぷち、と。
俺が拾い上げる前に誰かの足がそれを踏みつけた。見上げるとそこには楽しそうに哂うマローネの顔。

「あ、マローネ。おまえもみてないで、てつだってくれよ」
 くっつかない。くっつかない。だんちょうがもとにもどらない。

「もう。何してるの?そんなのほっといて早く帰ろうよ。あのメイドが来ちゃう」
 責めるような口調で俺の手を掴む。その拍子に抱えていた団長の“部品”をバラ撒いてしまった。

「や、やめてくれ!だんちょうをおいてけるわけないだろ!」
 マローネの手を振り払って、急いで落とした“部品”を拾う。

「まったくもう…。頑張ったんだからもう少し褒めてくれてもいいじゃない」
 ぷうっ、と頬を膨らませるマローネ。俺はそれを無視して落とした物を全て拾い集めた。
「あ……あっ…あっ…」
 ボロボロと手から零れ落ちる。
 くっつかない。なんで?
85Bloody Mary 2nd container 第二十話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/09(日) 23:36:23 ID:9uukKB3O

「無駄だよ、お兄ちゃん」
 後ろからそっと囁くマローネの声。

「そんなことやったって意味ないよ」
 うるさいな。手伝う気がないならあっち行っててくれよ。

「だって、この女――――」

 うるさいってば。じゃまするな……それいじょういうな!よけいなことはくちにするなよっ!!


「もう、死んでるもの」


――――――――ッ!!!
 違うッ!!違う違う違う違う違う!!団長は死んでなんかいない!
ちょっと頭が飛んで動けなくなってるだけだ!くっつければ元に戻るんだ!!

「くっさい脳漿撒き散らして……ぷっ……頭が粉微塵に…くくっ……」

 何が可笑しい。何がそんなに笑えるんだよっ、マローネ!!

「お兄ちゃんも見た?最期のこいつの顔。ぷっ…すご…不細工……あはっ、もうダメ……
あはははははははははははははははははははははははっっっっっっっ!!!!!」

 堪えきれなくなったマローネの笑い声が頭に響いてきた。それがやたらと頭痛を引き起こす。

「あははははははははははははははっっ!!ひー……可笑しー…あんな顔ったらないよねっ!!
顔がぐしゃ、って!!け、傑作すぎだよっ!!あはははっ、まー、この女にはお似合いの顔だったけど……はははっ」


 違う。団長は死んでなんかいない。だって、ついさっき言ってたんだ。長生きするって。
脳が全力で現実を否定する。受け入れれば、俺自身が消滅してしまいそうで。とにかく目の前の光景を受け入れるのが怖かった。
 なのに、マローネが現実を無理矢理突きつけてくる。
86Bloody Mary 2nd container 第二十話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/09(日) 23:37:07 ID:9uukKB3O

「さっきからお兄ちゃん、変だよ?」

 しばらく笑った後、マローネが俺の様子に眉を顰めた。
……頭が痛い。身体がバラバラに引き裂かれそうだ。

「汚いよ。そんなの触っちゃ。早くそいつ置いて帰ろ?」

 やめろ。頼むから言わないでくれ。団長を、俺を壊さないでくれ。
団長のおかげでやっと姫様の死と向き合えるような気がしてたんだ。これ以上は絶対に耐えられない。
だから、やめてくれ。

「あ、わかった。あの最期の顔、見損ねたんでしょ?
あははっ。もう無理だよ。あれは一回こっきりだって。いくらくっつけようとしたってもうあの顔は見れないよ?」

 言うな。言うな。言うな。言うな。言うな。言うな。言うな。

「だって…もうこいつ完璧に、綺麗さっぱり、死んでるもん」

 聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。

「元に戻るわけないよ」

「ッ!!!!!!」
 その言葉を聞いた瞬間、バチンッと脳髄に重い衝撃。瞼の裏が何度も明滅する。
心臓が引き絞られるように痛い。


――――――――団長が、死んだ。

――――――――――だんちょうが、しんだ。

――――――――――――ダンチョウガ、シンダ。



「ひっ―――――――」
 痛みと衝撃で一瞬だけ漏れた息を聞いたのを最後に、俺の意識は闇に落ちていった。
87Bloody Mary 2nd container 第二十話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/09(日) 23:41:34 ID:9uukKB3O
これで二人目ェ♪

(チラシ)
本日のマローネ様

         __O)二)))(・ω・`) <ちょろいもんだぜ。
   0二━━ )____)┐ノヽ
         A   ||ミ|\ くく
88名無しさん@ピンキー:2006/07/09(日) 23:43:40 ID:lkhY0Knw
マローネ!てめーは俺を怒らせた

作者さまGJ!
ただ団長が幸せになるルートあるよね?あるよね?
ヒロインもそうだけど主人公が可哀想すぎる
89 ◆XAsJoDwS3o :2006/07/09(日) 23:56:47 ID:9uukKB3O
誤字・脱字ではないけど訂正。

>>84の真ん中あたり、
>そのピンク色の物体をとにかくかき集めた。心臓が口から飛び出しそうだ。とにかく気分が悪い。



頭の中が真っ白になりながらも、そのピンク色の物体をかき集めた。心臓が口から飛び出しそうだ。とにかく気分が悪い。

に訂正します。

お目汚し、すいませんでした。
90名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 00:01:01 ID:Tp/3HPjr
アハハ(´∇`)ケッサク!
91名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 00:04:12 ID:TXTWn0kY
団長が死んじまった……
俺が旧スレから駆けつけるのが遅かったからか、
山本君なんかにうつつをぬかしてたからなのか。
最近では姫様を抜いて一番のすきキャラだったのにorz
92名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 00:12:37 ID:+rXC4pKP
月曜の朝の前に嫉妬オンパレードキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!


('A`)寝よう…そして帰ってきたら読み返してやるんだからっ!
93名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 00:15:08 ID:BV/88VpN
うおおおおおぉぉぉぉ、キモウトktkr!!!
94名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 00:23:56 ID:2PFP1lFe
え?団長は死んでないよ
死ぬわけないじゃんか
そうだよ意味わかんないや
何言ってるんだいみんな
95名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 00:49:36 ID:PIPBuUGc
>>94
錯乱したお兄ちゃん、現実を見て!

作者様GJっす
残ったシャロンちゃんの頭脳とキモウトの執念どっちが勝つやら
今から(*´д`*)
96アビス  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/10(月) 00:51:00 ID:nIH+lbJZ
友人がsnecでサノベ作ってくれるというので作ってもらいました
普通は友人が告知するはずなのですが、極度の恥ずかしいがり〜なので・・・・

友人からは前の人がすごいの作ったのにちゃちですいませんだそうです
私はシナリオだけで、悪戦苦闘する彼にあ〜だこ〜だいちゃもん付けてただけです

http://upload.jerog.com/up/moe5464.zip.html
97名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 00:53:02 ID:jFK12+9y
キモウトはやっぱり素晴らしいな、もろ俺のストライクゾーンだ!
98名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 00:54:21 ID:1kW8HWSG
一番の策士はシャロンちゃんだったりして・・・
「邪魔者を消すために、あの妹を敢えて泳がせていたんです。
 後は彼女さえ殺せば、もうウィリアム様は私のもの・・・」

なんて展開だったら超神キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!だな
99名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 01:02:20 ID:Tp/3HPjr
↑貴様のその発言で、その展開はなくなったようなもんだろうに…(ノд`)
100名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 01:04:21 ID:PIPBuUGc
>>96
折角のソフトがダウンロードできない・・・
パスが分からない俺の頭脳orz
101アビス  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/10(月) 01:06:25 ID:nIH+lbJZ
パスは>>96 のメル欄ですよ〜
それと続けるつもりなのですっごく短いです
ご指摘等ありましたら、すぐに仰ってくださいませ
102名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 01:13:52 ID:eoszJtsU
内容予想はあんま書き込まないほうがいいだろう。
作者さんの考えてる展開とかぶったら書きずらいだろうし
103名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 03:53:30 ID:oscbSj+y
>>98
みんな脳内でアレコレ想像してニヤニヤしてるんだよ
そういうのは控えような
104名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 10:07:39 ID:E4hoGZgn
98の人気に嫉妬
誰にも渡さないんだから…
105名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 11:28:39 ID:8yY0Q+d5
団長、思ったより強くないな(´・ω・`)
106名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 11:40:29 ID:nNlary0i
>>105
お前今日の放課後体育館裏に来い
107名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 12:34:29 ID:ximW5tRt
>山本君なんかに
>>91、てめーは俺を怒らせた!!
108『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/10(月) 14:28:59 ID:larhOBpN
「ここ、か。」
結局きてしまった日曜日。っていうか……これは……でかいなおい!学園つったって下手なデパートよかでかいぞ?
しかも近くには専用駐車場があるときたもんだ。さすがお嬢様学校。俺たちにはできないことをやってのける。
しばらく感動に浸ったあと、正門から入ろうとすると、男の方はこちらから、という看板があり、そこには男達が列を作って並んでいた。
俺もその後ろに並び、順番を待つ。所々、涙を流しながら引き返してく奴等がいたが、なんだったんだ?入場するのに資格でもいるのか?
そして俺の番。個室に入ると、朝野女子の制服を着た生徒が三人いた。一人は机にあるパソコンの前に、二人はその両脇に立って構えていた。
「チケットを見せていただいてもよろしいですか?」
「あ?ああ、いいぜ。」
ポケットから葵から貰ったチケットを渡す。クシャクシャになったのをみて、少し睨まれたが、気付かないフりして口笛。
「〜〜♪」
貰った生徒が、丹念にチェックをする。そこまでしなくてもいいだろうというぐらい見る、見る、見る。そしてそれをパソコンの前の生徒に渡す。
109『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/10(月) 14:29:45 ID:larhOBpN
「このチケット、どなたから頂きましたか?」
澄んだ声で聞いてくる。正直女子三人にこんなことされるのは、苦痛以外のなにものでもない。とっととおわらせてぇ。
「葵……喜瀬葵ってやつから貰ったんだよ。」
「喜瀬葵…」
それを聞くと、パソコンを打ち始める。葵の名前でも打ち込んでんのか?しばらくすると……
「…あなたのお名前は?」
「秋沢晴也。」
「…確かに、葵さんはその名前の方に渡しているわね。うん、いいわ。合格です。どうぞ、ごゆっくりと学園祭をお楽しみください。」
そう言って反対側の出口えと先導される。そうか、裏輸入のある今では、渡した人と貰った人の本人確認がいるのか。よかった、葵やつ忘れないでいたか。
ドアから出ると、そこは正に『学園祭』という雰囲気だった。中庭では様々なイベントやゲーム、屋台などが並んでいる。教室はおそらく喫茶店みたいになってるのだろう。
「へぇ、格が違うな、ウチの学校とは。」
さすが、全国行ってみたい学園祭ベストスリーに入るぐらいだ。これなら俺みたいなやつでも存分に楽しめそうだ。
110『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/10(月) 14:30:28 ID:larhOBpN
「晴也さぁーん!」
どうしようかと悩んでいると、聞き覚えのある声に呼び止められる。
「お、葵。来てやったぜ。」
「はい、ありがとうございます!約束、守ってくれてうれしいです!」
「でさ、いきなりなんだけど……ここ初めてだから案内してくれないか?」
「ええ、喜んで。そのつもりだったんですよ。今日はとことん楽しみましょお!」
そう言って俺の腕を引っ張り、歩き出そうとすると……
「あ、葵ー!いたいた!」
「おぉー。もしかしてこれが噂の彼?」
どこから現れたのか、気付いたら周りを五、六人の生徒に囲まれていた。何故か皆べたべたと俺に触りやがる。キャイキャイうるさい。
「へぇー。きいてはいたけど、これが実物かぁ。」
「なかなかかっこいいじゃん。」
「ねえ、君、Fanで働いてるんだよね?私、行ったことあるんだ。」
「あー!私も、この店員さん見覚えあるー。」
会って数秒で「この」扱いかよ。こういうのが将来おしゃべりなおばさんになるんだろうな。
「ていうか立ち話もなんだからウチのクラスの喫茶店いこーよ、」
「店員さんに味の評価してもらいたいしね。」
111『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/10(月) 14:31:28 ID:larhOBpN
勝手な事を言い、服を掴まれて強制連行される。
「あ、おい!…っ!?」
そのとき、腕に折れんばかりの力が籠り、息が詰まる。その力の主は…さっきから腕をつかんでいた葵。
「だ、だめだよ!みんな。晴也さんは、わ、私と見て回るんだから、勝手に連れてかないでよぉ。」
葵が顔を真っ赤にして抗議していた。その様子を見て、女子達はやれやれといったように、生暖かい目で俺たちをみる。
「はぁー。葵ったら、こういう時だけ欲深くなるのねぇ。」
「あんまり独占欲丸出しにしてると、彼に逃げられちゃうわよ?」
「ほら、私たちもお邪魔みたいだからいきましょ。」
「そうね。そこまで野暮じゃないしね。」
そういうと、またペチャクチャ喋りながら去って言った。……本当に嵐のような奴等だな……一方の葵はというと……
「む〜」
こっちはこっちでむくれていた。明かに「不機嫌ですよ」丸出しだ。
「ど、どうした?」
穏便に聞いてみる。
「だって晴也さん、ミィちゃん達に誘われても断らなかった……それどころか、デレデレしてたんだもん……」
ミィちゃんとはおそらくさっきの中の一人だろう。別にデレデレなんかしてなかったが……はぁ、どう機嫌を取ろう………
112名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 17:46:55 ID:rby/Q3SC
葵可愛いよ葵
でも死んじゃうんだよな・・・・ウウッ
113名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 17:58:00 ID:umvrKX1V
>>112
死んでなどいない。彼女の魂はまだ生きている。
諦めたらそこで試合終了なんだよーー!!!!
114名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 18:13:03 ID:nNlary0i
あ、葵ちゃん…ハァハァ…ハァハァ…ハァハァ…ハァハァ……
ハア……………ウッ…アアッ………
115名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 19:36:48 ID:jFK12+9y
葵の独占欲イイヨイイヨ(*´Д`)ハァハァ
116トライデント ◆mxSuEoo52c :2006/07/10(月) 19:51:28 ID:HEQhRGcJ
では投下致します
117雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/07/10(月) 19:54:44 ID:HEQhRGcJ
 第2話『子犬と虎の狂騒曲』

 朝がやってきた。
 眩しい朝日がカーテンの隙間から光が入ってくる。
 ついでに時計がうるさく鳴っているので、乱暴に止めた。
 
 気持ちいい布団から抜け出して、居間へと向かう。
 慣れた手付きで学園指定の制服を着て、寝呆けながら買い溜めしていた食パンを一枚を口に啣える。
 一人暮らしをしているせいか、大抵の家事はめんどくさいので朝は何もせずに学校から帰ってきてから、家事を健気にこなそう。
 少し余裕を持って、家を出てきたので少しのんびりとしていても、
 学校に遅刻することはないだろう。
 いつもの桜通りの通学路の散ってゆく桜を眺めながら、昨日の出来事について考えてみた。

 苛められていた女の子、雪桜志穂。

 彼女と知り合う機会になったのは、俺が苛めっ子グループからさんざん蹴られている彼女の姿を見ていたら、
 傍観をして関わりになりたくないと思っていた俺が恥かしい存在に思えた。
 助けた後も必死に俺との距離を測ろうとしていたが、強引に俺がおごってやると誘って、コンビニであんまんをご馳走した。

 幸せそうにあんまんを食べる雪桜さんの蔓延なる笑顔を見てしまうと、誰もが恋に落ちてしまうだろう。
 俺の場合は、雪桜さんの微笑みに癒された。隣に住んでいる瑠依とは全く違う。
 あっちは、がさつで騒動しくて暴力的だ。
 瑠依も雪桜さんの半分以上の垢を飲ませてやりたいよ。

 その雪桜さんとは残念ながら、クラスが違うのでどういう風に接点を持てばいいのか、正直わからない。
 クラスが一緒だったら、短い休み時間にいろいろとお喋りできるのに。
 残念ながら、昼休みと放課後ぐらいしか雪桜さんに会いに行ける時間はなさそうだ。
 
 それに彼女の事は全く知らないので、会っても何を話せばいいのやら? 
 昨日も俺一人だけが無駄に喋っていたような気がする。気を悪くしてなければいいのだが。
 ならば、俺にできることは一つ。
 友人の内山田に泣きながら頼ろうっと。
118雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/07/10(月) 19:58:57 ID:HEQhRGcJ
 学校に着くと俺は教室に直行していた。廊下を走るなと言われんばかりについ走っていた。
 朝から無駄に体力を消費していると後から疲労がたっぷりとやってくるが。そんな事はどうでもいい。
 勢いよく2−B組のプレートが置かれている教室のドアを開く。
 その勢いで教室にいるクラスメイトの視線が俺に集まってくるが、どうでもいい。内山田の姿を探す。
 いた。
 窓際の席で友達と喋っている。なんて、ラッキーなんだ俺。
「内山田」
「つよちゃんだぁーー!!」
 俺の声に敏感に反応して嬉しそうにこっちに駆け寄ってくる。
 友達とお喋りを中断してまでやってくるなよと口に出しそうになったが、この展開には都合がいい。
「うふふふふ。つよちゃんつよちゃんつよちゃん」
「そう人の名前を連呼するな。ってか、もう少し離れてくれ。女子に誤解させるだろ」
「むっ。ボクの事を嫌いになったの?」
 麗しい瞳をうるうるさせて、上目遣いで内山田は俺を見る。

 ちなみに、彼は男である。

 ただし、その表面は立派な女の子の姿をしている。
 男のくせに女の子のような白くてスベスベな肌。女の子よりも可愛らしい容姿をして、黒く清楚な長い髪を白いリボンを結んでいる。
 声も声変わりしていないのか、穏やかなでアニメ声だ。
 更に変わったことに学園指定の男子生徒の服を嫌がり、女子生徒の服を着用している。
 もし、何も知らない人間が内山田を見てしまうと可憐な少女だと勘違いしてしまうだろう。
 俺も時々、その仕草にドキッとしてしまうことはある。
 ともあれ、その誰も同じようにテンションよく接するので男女問わずに人気は高い。恐らく、この学園で知らない人間がいないぐらいに。

 本名は、内山田 紺太(うちやまだ こんた)って名前なのに。
 ちなみに名字はギリギリOKだが、名前で呼ぶとキレる。

「嫌いもクソもあるか。俺はお前に頼み込み事があるんだよ」
「へえ、なになに? 担任のお見合いの失敗談なら無料で提供するよ」
「さすがにそんな情報が無料で手に入るのって、先生に悪いような気がする」
 ちなみに婚期を焦っている担任のお見合いは50敗。ある意味、王道に乗りました。ギフトの記録に載りそうで恐い。
「だったら、なんだよー」
「雪桜志穂って子について知りたいんだけど」
「がっぴょうぴょうーーーーーーんんんんーーーー!!」
 ああ。何か壊れましたよ。この人。
「ボクというものがありながら、つよちゃんは他の女のとこに走るの!!」
「その周囲の誤解を煽るような事は言うな」




「だって、そうでしょう。ボクの初恋はつよちゃんなんだから。
ボク、つよちゃんにとって、なんなのよっ!!
ねぇ? つよちゃんにとって、ボクはなんなの
単なる、お友達なの?
つよちゃんからキスしてきたことないじゃないっ!! 抱き締められたこともないじゃない。
あの桃源郷の出来事はボクの精一杯の勇気だったんだよ。でも、つよちゃんは何も応えてくれなかった。
そう、最後まで。
今ここでボクの事が好きなのか、このクラスメイトの目の前ではっきりと答えて。
嫌いなら嫌いって、はっきり言ってよ……っ!!
ボクに気のあるそぶりを見せないでよっ!!
そうしないとボク、つよちゃんのこと、
いつまでも想い続けちゃうじゃない……っ!! 
苦しいんだから……っ!! 
想い続けているのは、とっても苦しいんだから……っ!!」
119雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/07/10(月) 20:01:20 ID:HEQhRGcJ
 クラスメイトたちの視線が俺を再び襲う。
 この修羅場もどきは一体どうやって乗り越えてゆけばいいんだ。
 明きからに面白半分で天然ボケを装っている内山田に殺意を覚えるが、雪桜さんのために耐えるしかあるまい。
「だから、男と付き合う趣味はないってのっ!!」
「うわーん。つよちゃんに玩ばれたよっっ!!」
 嘘泣きをしながら、女子生徒グループのいるところに突き走ってゆく。
 何か女子生徒たちに慰められているし。うわっ。俺は深々と嘆息をしていた。
 こんな友人に頼ろうとしていたのが間違いだったことに今更気付いたのだ。

 貴重な朝の時間は精神的疲労と体力的疲労を抱えたまま、非情にもホームルームを報せるチャイムが鳴った。
 ちくしょう。
 退屈な授業は過ぎてゆくと、俺が居眠りしている間に昼休みとなっていた。
 おお、時間が過ぎてゆくのがこんなに嬉しいと思ったことはない。
 朝から楽しみにしていた雪桜さんと親友になろうという俺の密かな野望を実行計画を開始する。
 餓えた腹の音を気にせずに椅子から立ち上がろうとしていた時だった。
 瑠依が少し不機嫌なツラを見せながら、俺を起きるのを待っていたのか。ずっと、立ち尽くしていた。

「剛君。一緒に食堂でお昼食べない?」
「えっ?」
 昨夜のカップラーメン事件の事を思い出される。
 ああ見えても、食物の恨みは恐ろしい惨劇を生む。
 人懐っこい笑顔を浮かべている瑠依は何かを企んでいるように見えてしまう。
 まさか、食堂のフルコースを頼んで、その代金の全てを俺に奢らせるつもりか?
 危険だ。危険じゃよ。
「いや。もう、すでに先客がいるんで。ごめんな」
「そうなんだ」
 餓えた虎を寂しそうに去ってゆく。ふふっ。その手には乗ってたまるか。
 先客がいるっていうのは嘘だが、雪桜さんと一緒に昼休みを食事をしたいから仕方ない。
 早く安全圏まで非難せねば。
 雪桜さんのいるのは2−E組だな。
 とりあえず、なんて言って誘えばいいんだ。
120雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/07/10(月) 20:04:55 ID:HEQhRGcJ
 思っている以上にチキン野郎なのか、2−E組の前に行くと足が立ちすくんでいる。
 緊張してカチンコチンと固まっていた。女の子と一緒にお昼を食べようと誘うだけでこれだけ神経を使うのは思ってもいなかったよ。
 お目当ての人物を廊下側の窓からこっそりと探していた。どうか、教室にいますように神様に祈るような気持ちで視点を左右に動かす。
 いたっ!!

 机で一人で寂しそうに座っている雪桜さん。
 他の2−E組の生徒は仲良しグループを結成して、その輪から外れた場所に雪桜さんはいた。
 お昼はもう食べたのかどうかわからないが、たった一人でいるのは本当に哀しそうに見えた。
 ああ、淀んでいる。誰でもいいから、雪桜さんを輪に入れてやれよ。クラスメイトだろ? 少し憤慨に思ってしまったが。
 俺は勇気を持って、他のクラスに入り込んで、雪桜さんの席に向かって歩く。
「よう、一緒にお昼食べないか?」
「えっ?」
 雪桜さんが大袈裟に動揺していた。そのオドオドした態度が妙に可愛いく見えてしまう。
「ど、どうしてわたしなんかを」
「そりゃ、雪桜さんと一緒にお昼を食べたいからだよ。昨日はちゃんとしたお話もできなかったから、昼休みぐらいのんびりとお話をしながら」
「ううっ。こんな、私を誘ってくれるなんて……」
 嬉しそうな表情を浮かべる雪桜さんの姿を見れただけで、本当に誘って良かったと思ってる。
 さっきから気になっているのはここのクラスメイトたちの視線が俺たちに集まっているような気もしなくはないが、すでに視線を浴びているのは慣れてしまった。
「じゃあ、食堂でも行こうか。雪桜さんはお弁当?」
「あ、あ、の。それがですね」
 顔を真っ赤にしながら、雪桜さんは困ったそうに言った。
「とりあえず、屋上に行きませんか?」

 春の穏やかな風が吹いている。二人を祝福するかのように吹いていた。
 昼休みの時間だとはいえ、何もない退屈なこの場所には生徒たちの姿は見えなかった。そう、今ここにいるのは俺と雪桜さんの二人のみ。
 雪桜さんがここに呼び出したってことに少なからず、何かを期待してしまう俺がいる。 
 だが、雪桜さんの口から出た言葉は俺が予想すらしていなかったことだ。
「そのごめんなさい。わたし、お弁当がないんです。ううん。正確には、昼食を買うお金がないんです」
「それはどういう意味なんだ?」
「私の家はとても貧乏なんです。お母さん一人の収入でなんとか食べていける状態で。
 学園に通っていられるのも、お母さんが朝から晩まで私のために働いてくれるおかげなんです。
 桧山さんにこんなことをお話をしても仕方ないんだけど、貧乏な私とこれ以上関わるとあなたも不幸にしています」
「そんなことで今更、雪桜さんとの付き合い方を変えるなんてしないよ。貧乏だろうが、昼食が食べられなくても、雪桜さんとお話をしたかったんだよ」
「ありがとう。でも、ごめんなさい」
 軽く会釈をして、立ち去ろうとする雪桜さんから腹の音がグーと鳴っていた。
意外にも雪桜さん自身は予知もしなかったことだろう。本当にお腹を空かせているなら、俺に言ってくれればいいのに。

「にゃあ。これはですね」
「食堂でパンを買ってくるよ。二人で仲良く分けようぜ」
「あぅぅぅぅ。すみません」
 白い肌の面積がなくなるぐらいに顔を赤面している雪桜さんのために俺は急いで食堂に向かうことにしよう。
 昼休みからしばらくの時間が流れていたので、おいしいパンはすでに売り切れていた。
 人気もなく売れ残っていたマズいと評判のコッペパンを二つと飲み物を買ってきた。
 元気よく駆け出したのはいいのに、こんなモノを雪桜さんを与えてしまうのはよくはない。
「雪桜さん。ごめんなさい。コッペパンしか用意できなかった」
「ふにゃー!! コッペパンってご馳走じゃないですか。うわっっ。本当にコレ食べていいんですか?」
「ええ、どうぞ」
「わーい」
 あのクソ不味いパンをご馳走と言う雪桜さんは美味しそうに食べる。
 一体、普段の雪桜さんの食生活はどんなものかと謎に思ってしまうが、成長期の女の子としてはもっと栄養を摂った方が良くはないか? 
 少しやつれている雪桜さんはいかにも病人のように手首が細く、顔も生気がない。半分、死人のようなものだ。
 こりゃ、明日からは俺がお弁当を作ってやらないと。
121トライデント ◆mxSuEoo52c :2006/07/10(月) 20:09:02 ID:HEQhRGcJ
というわけで第二話終了
タイトルの子犬と虎の狂騒曲って死ぬ程意味がないですwww

依存娘と瑠依の修羅場まで書くのはまだまだ先は長いようです
後、問い詰めパロは面白半分で書きましたww

では次も頑張って書き上げますか
122名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 20:36:23 ID:+rXC4pKP
内山田wwwwwwwwwwww
123名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 21:06:32 ID:H1QTAiys
雪桜さんマジかわえぇ!!!!

こっちの虎がどう動くのか楽しみな俺が居る
虎の単語は流行っているんだろうか?
124名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 21:23:47 ID:dj08MBzr
餌付けだ! オレもちょっと料理の練習してくる
125名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 21:29:12 ID:quUnWRM1
虎がつく名前に怯える人間は俺だけでいい。
みんな俺の屍を超えていってくれ
126名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 21:41:00 ID:ximW5tRt
総入れ歯、嫉妬・三角関係・修羅場統合スレ関係で未だに名無しを独占してるのは、
ラ板だけだな・・・
127名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 21:46:02 ID:PIPBuUGc
まさか男版のWind問い詰めを見ることになろうとは・・・
お見事です・・・是非ヒロインでも問い詰めを!と思った
のだった
128名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 21:55:30 ID:ytoOmU8F
にゃあ……ふにゃー……

まさかね……
129名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 21:59:18 ID:OfoQ3+pR
>>107
修羅場スレ的誉め言葉
130名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 22:02:05 ID:HlhjyyPf
>106
ところで告白は上手くいったか?
 城内にある兵の訓練場。
いつものように剣の鍛錬をしようとそこに訪れると、既に先客がいた。

「あ、おはよう。マリカも訓練?」

 暢気に挨拶をするこの先客はウィリアム=ケノビラック。わたしと同じ訓練部隊に所属する新米騎士だ。
今は一段落着いて汗を流すため、水浴びをしているらしい。それはいいのだが。

「きょきょきょきょ、今日は早いのだなっ」

 素っ頓狂に声が裏返っているのが自分でも分かった。思わず顔も反らしてしまう。
い、言っておくが別にわたしはドキドキなどしていない。鼓動も、へっ平常どおりだ。
たとえわたしの顔が赤くなっているとしても、その原因がケノビラックの晒している…は、半裸の上半身にあるわけではない。
男の裸など、騎士を目指した頃から飽きるほど見ているからな、うん。
 だだだだから今さら、ケノビラックごときの裸に動揺するわけがないだろう。

「……?」

 ほ、ほらケノビラックも勘違いしているではないか。わたしがこいつ如きに劣情を抱くはずがないのに。
こ、ここはしっかり誤解を解いておかなければ。

「よ…よぉへー、を生業にしてた割には、生傷が余り見当たらないのだな」

 ケノビラックの裸体など何ともないということをアピールするため、わたしはその晒された肌を真正面から見た。
食い入るように。ねめつけるように。それはもう隅から隅までずずずいっと。

「はぁはぁ……」

 む、いかん。気合を入れすぎて息が切れてしまった。ちなみに興奮しているわけではないからな。断じて違うぞ。

「ま、まぁ傭兵やってたって言っても一年だからね。部隊のメンバーにも恵まれてたし」
 わたしの視線にたじろぎながら答えるケノビラック。相変わらず腹立つほど謙虚な台詞だ。
理由がどうあれ前線で戦っていながら、生傷が少ないと言う事はそれだけ剣の才を持っているということだろう。あまり認めたくはないが。

 それにしても。ごくっ。
意外と綺麗な肌をしているのだな、ケノビラックは。細身でありながら無駄のない精錬された筋肉。じゅるっ。
 あ、いや、単純に関心しているだけだ。だから別に興奮してないと言っているだろう。

「ん…?その傷は?」
 わたしは彼の脇腹を指して尋ねた。
生傷の見当たらない身体ゆえに目立つ、ひとつの傷痕。形状から察するに恐らく矢傷だろう。しかも目新しい。

「あぁ、これ?フォルン平野の戦いのときにちょっと、ね」
 照れたように頬を掻くケノビラック。少しだけその顔が誇らしげに見えた。
「なんだ?珍しく自慢げではないか」
 何かこの傷にまつわる話でもあるのだろうか。普段見ることのないケノビラックの表情にわたしは少しだけ興味が沸いた。

「いや…別にそういうわけじゃないんだけど……
フォルン平野でさ、孤立してた騎士が一人いたんだよ。しかも結構な数の敵兵に囲まれてて助けに入ったんだ。
それで遠くから狙ってる弓兵に気づいてなくて、やばいと思ったら身体が勝手に飛び出してた」

 聞けば、それほど武勇伝という話ではないが。むしろ矢を捌けずその騎士の代わりに怪我をしてしまったという失敗談に聞こえる。
でも、なぜかケノビラックはその話を嬉しそうに話した。

「しかし、その騎士も戦況を見誤ったな。実に情けない」
 ……いったいどうしたのだろう。少しだけ腹が立った。
ケノビラックがその騎士のせいで傷を負ったのだと知ると、なんともいえない怒りが芽生えた。
 まさか。別にケノビラックを危ない目に合わせたことに怒っているのではないだろう。
単に不甲斐ないその騎士に対して怒りを覚えているだけだ。うん、きっとそうだ。
兎角その騎士がどんなヤツなのか気になった。

「……その騎士はどんな男なのだ?」

「え?あ、いや男じゃないよ。マリカと同じ女性騎士。腕は……はっきり言ってかなり強そうだったなぁ。
凄い数の敵に囲まれてたのに割りとケロリとした顔してたんだよ。もしかしたら俺の助けなんて要らなかったのかも」


 なぜそんな楽しそうな顔するんだ、お前は。わたしには目もくれないくせに。しかも女?まったく腹立たしい。

……ん?女騎士で、凄腕…?……まさか。まさかその騎士は。


「それにしても。ははっ」
 ケノビラックが思い出したように吹き出した。それを訝しげに見ていたわたしに言い訳するように。
「あぁゴメンゴメン。その子、俺に庇われたと気付いた途端、大泣きしながら何度も謝ってたの思い出したら可笑しくなってきて…。
変だろ?見ず知らずの俺にずっとゴメンなさいゴメンなさい言いながら戦ってたんだ。
傷そのものは止血さえしとけば大したことない怪我だったのに。
 やたらと腰の低い騎士なんて初めて見たよ。騎士ってより何処かのお嬢様みたいで。
…あの子きっと出世しないだろうなぁ」


 腰の低い凄腕の女騎士。間違いない。その女は――――――


「なんというか……騎士なのに可愛らしい感じの子だったな…」
 そうのたまうケノビラックの表情を見て、わたしはカチンと来た。

「ふんっ!」

ごすっ!

 鞘に収まったままの剣をケノビラックの頭に打ち降ろした。
かなり痛かったのかその場に蹲る。ザマみろ。あんな女なんかに鼻の下伸ばした罰だ。

「〜〜〜〜っ…!い、いきなり何するんだよ、マリカ」
「うるさいっ!!さっさと服を着ろ!いつまでも休憩してないでわたしの訓練に付き合えっ!!」
 ほんとにムカつくヤツ。わたしはこれほどお前のことばかり気にかけていると言うのに。
あろうことかあの女にうつつを抜かすとは。

「うぅ…自分だって俺に話振ってきたくせに…」
 文句を言いながらも渋々と服を着始めるケノビラック。
なんだかんだと言いつつ結局わたしに付き合ってくれるところは純粋に好感が持てるのだが。
 いや、好感と言っても男としてではなく、一人の人間としての話だからな。

「では、剣を取れっ!ウィリアム=ケノビラック!」
 訓練用の剣を構え、わたしはケノビラックを見据えた。


――――――あんな女なんかには負けない。
      強い女が気になると言うなら、あの女が霞むくらい強くなるだけだ。
     そうすれば。きっとこいつも。
書き溜めてた分に(ry

(チラシ)
今回のお話は先日投下した本編の20話Aと関連付けて読むと
ちょっと面白いかも知れません。
135名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 22:28:20 ID:MPBgK3rV
前スレのゲームがほしいよ!
二度目のうpろだはずうっと503だよ!
136名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 22:36:32 ID:2PFP1lFe
>>135
よかったよあのゲームすごくよかった
またいつか再うpされるんじゃないかな?
137名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 22:40:06 ID:HBV08WtI
>>135
まとめサイトにあるやつじゃ駄目かな?

それはそうととてもいい出来ですね。すばらしいです。
138名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 23:23:09 ID:kBjxB1Fe
>>134
いぃぃぃぃぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉ
マリカ様萌えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
GJ!!!!
139振り向けばそこに… ◆tVzTTTyvm. :2006/07/11(火) 00:22:14 ID:FCyDIY/e
※この話は第8回――羽津姉が祥とクラスメイトの話を立ち聞きした話の後
 と第9回――旅行を企画し出発する話の前の部分に入ります

第8、5回

「あ、あの瑞岬 祥クン!」
 ある日の学校の休み時間、廊下で俺はクラスメイトの女子に呼び止められた。
「何? 伊藤さん」
 彼女は伊藤綾子。 去年も同じクラスだったお陰で女子の中では比較的面識はあるほう。
 尤もクラスメイト以上の親しい仲では無いが。

「あ、あの今時間ありますか?」
「ん? まぁ暇と言えば暇だけど?」
「あ、あのお話したい事があるんだけど」
「今ココじゃ駄目なの?」
「あ、はい出来れば人気が無い所で」
「分かった。 じゃぁ屋上でいい?」
「はい」
 そして俺たち二人は屋上へと向かった。
 何の話だろ? まさか告白? ンな訳け無いか。

 そして屋上
「あ、あの瑞岬クンって今付き合ってる人っています?」
 おい、まさかマジで告白か?
 本当のところは形だけとは言え羽津姉と付き合っているのだが表ざたにする気は無い。
「居ないけど……」
 だからとりあえずいつも通り答えた。
「ほ、本当に? 姫宮先輩と一緒にいるのよく見かけるけど……」
「姫宮先輩? あぁ羽津姉とは姉弟みたいなものだから」
 そう言えば数日前にも似たような質問受けたな。 あれは確か……

 俺が回想に耽っていると伊藤はホっとしたようにポツリと洩らす。
「やっぱコーちゃんの言ったとおりだぁ」
「コーちゃん?」
「あ、コーちゃんってのは私の従兄弟の田辺幸一のこと」
 あぁ、田辺か、同じクラスの。 そうだ、田辺から数日前ソックリ同じ様な質問を……あれ?
 俺が数日前のことを思い返してると、まるで伊藤は俺の頭の中を見透かしてるかのように口を開く。
「うん、コーちゃんにお願いして聞いてもらったの私なの。
だから瑞岬クンと姫宮先輩が付き合ってないって言ってたの聞いてたんだ。
でもどうしても自分の耳で聞きたくって。 だって姫宮先輩って物凄く素敵なんだもの……
私なんかじゃとても敵わないくらい。でも聞けたから……、だから決心して言います」
そして伊藤は意を決したかのようにすぅっと息を吸い込む。
 まさか、マジでこの展開は……。

「あの! 一年の頃から好きでした! ですから私と……」
「ゴメン!!」
 俺は彼女が言い終わるより早く遮るように口を開き頭を下げた。
 正直告白を断わるなんてはっきり言って気分の良いものではない。
 だからと言って下手に答えるのを躊躇らったり引き伸ばしても返って相手を傷つけるだけ。
 きっぱり引導を渡したほうが彼女にとっても俺にとっても良いはずだ。
 どう断わっても傷つけてしまうのならなるべく早く済ました方が良い。
 だから俺のした事は何も間違ってないはずだ。 そう思いつつも下げた頭を上げられずに居た。
140振り向けばそこに… ◆tVzTTTyvm. :2006/07/11(火) 00:23:29 ID:FCyDIY/e

 そうしてどれくらいそうしてただろう。 頭を下げた俺の視線の先には依然として伊藤の靴先が映っていた。
 恐る恐る視線を上へと移していくと――泣いていた。
「ゴ、ゴメン! 本当にゴメン! じゃ、じゃぁ……」
 居たたまれなくなり伊藤の隣を駆け抜け立ち去ろうとした俺は服の裾をつかまれ動けなくなってしまった。
「あ、あの……そんなに私って魅力ないですか……?」
「い、いやそんな事無いと思うよ……。 可愛い方だと思うよ。 客観的に見ても……」
 一応嘘は言ってない。 確かに顔立ちは整っていて可愛い方だと思う。
 長い髪を根元近くで二つに分けリボンでゆったりと結んだ髪形も可愛らしくてよく似合ってる。
 前にクラスの男子達がやってた女子のランキングでも結構上位に入っていた。
「じゃ、じゃぁ……なんで……」
「そ、それは……」
 どうする? 何て言って答える? 正直好きなコがいるって言うか?
 結季の時とは違うんだ。 名前まで聞かれたとしても答える義理は無いわけだし。

「あ、あの……」
 俺が応えあぐねていると伊藤が口を開いてきた。
「じゃぁせめて最後に一つだけ答えてもらえますか……?」
「俺に答えられる範囲でなら……」
 俺が答えると伊藤は洟をすすりながら真っ直ぐ俺を見据え口を開く。
「姫宮先輩とは本当に付き合ってないの……?」
「ああ、付き合っていない……」
「そうですか……。 ごめんなさい、お時間とらせちゃって……」
 終わったのかな……?
「あ、あと、せめて今まで通りクラスメイトとして……」
 とりあえず聞き分けてくれたってことだよな……うん。
「あ、うん……今後ともよろしく」
141振り向けばそこに… ◆tVzTTTyvm. :2006/07/11(火) 00:24:53 ID:FCyDIY/e


 ・  ・  ・  ・ 


 今日も私と祥ちゃんは屋上でお昼を取っていた。 でも只お互い言葉も少なく黙々と箸を進めるだけ。
 本来なら楽しいランチタイムな筈なのに…… あの日、やっぱり立ち聞きなんて真似するんじゃなかった。
 あんなのは皆に気付かれない為のウソに決まっている。
頭では分かっているはずなのにそれでも未だこびりついて離れない。
 いっそ思い切って祥ちゃんに訊いて……、駄目、そんなことできない。
 そんな事訊けばまるで私が祥ちゃんのこと信用して無いみたいだから。
 若しうっかり口を滑らせて、それで祥ちゃんに愛想でもつかされたら……。
 そんな事考えたらとても怖くて訊けない。


「あ、あの端岬クン、姫宮先輩」
 その時突然声が聞こえた。 声のした方を見れば、誰だろう知らない女の子。
 私の視線に宿る疑問に気付いてか女の子は口を開いた。
「あ、あの姫宮先輩。 私、伊藤綾子って言います。
 端岬クンとはクラスメイトで去年も同じクラスだったものです」
「そ、そう。 祥ちゃんのクラスメイト……」
 クラスメイト……その響に言い知れない羨望を思わず感じてしまう。
 このコは授業中もいつも祥ちゃんと同じクラスで同じ時間を過ごせて……。

「伊藤さん、何の用?」
 私の想いを他所に祥ちゃんは伊藤さんに向かって問いかけた。
「え、えっと、あの……。 私もお昼ご一緒させてもらっても良いかしら?」
 え? 其の言葉を聞いた瞬間私は言い知れぬほど心細く不安な気持になる。
 祥ちゃんなんて答えるんだろう。
 私と祥ちゃんは付き合っているとは言えそれは決して表向きにはしてない事。
 本当は周囲皆に言って回りたいぐらいだけど祥ちゃんから固く止められてる。
 だから……若しかしたらこの誘いにも応じてしまうのでは……。
 だって私達が恋人同士であることを伏せてる以上断わる理由が無いのだから。
 でもそんなのはイヤ。 最近めっきり口数は減ったけど……それでも折角の二人っきりの時間なのに……。
142振り向けばそこに… ◆tVzTTTyvm. :2006/07/11(火) 00:25:44 ID:FCyDIY/e

「ゴメン。 悪いけど遠慮してくれる?」
 私が不安に駆られてると祥ちゃんは口を開く。
 其の言葉に私の胸に驚きと、と同時にホッとした安堵の思いが去来する。
「え……、だ、だって端岬クンと姫宮先輩って付き合ってないんでしょ?」
 そう、表向きはそうなっている。 でも他の女の子の誘いを断わったって事は……
とうとう隠すのを止めてくれるのかな……?
「あぁ、確かに俺と羽津姉の間柄はそんなんじゃない。 あくまでも姉弟みたいなものだよ」
 でも祥ちゃんの答えは私の期待したものではなかった。
「そ、そう姉弟……。 でもね、それならそれで何時までもお姉さんにべったりってのもどうかと思うんだ。
お互い姉離れ弟離れしなきゃいけないんじゃないかな……。 ね、姫宮先輩もそう思いませんか?」
 話を振られ私は困惑してしまった。 え、そ、そんな……どう答えたら……。
 私が考えあぐねていると祥ちゃんが口を開く。

「姉離れ……か。 確かに何れは必要なのかもな」
 其の言葉に伊藤さんの顔に笑顔がともった。 あぁ、そうか。 このコも祥ちゃんの事が好きなんだ。
 そう気付いた瞬間突如胸の奥にざらついた感触が疾る。 何これ……? 不安? 畏れ? 
そう言えば最初祥ちゃんが私の告白を断わったのは、若しかして他に好きなコが居たから……?
 まさか、このコが……?

「でもな。それを――姉離れのその時を決めるのは他の誰でもなく俺だ。少なくとも伊藤さん、あなたじゃない」
 不安に思いを廻らせてた私は祥ちゃんの声に引き戻された。
 私は祥ちゃんの方を見た。 何だか心なしか険しい顔をしてる。
「で、でもこういうのって自分で決められないものでしょ……? だったら今が丁度イイ機会なんじゃ……」
「放っておいてくれって言ってんだよ! 
俺たち姉弟水入らずの時間を邪魔しないでくれって言ってんのが分かんねぇのか!?」
 次の瞬間祥ちゃんは厳しい口調で声を発した。 其の声に伊藤さんは脅えたような口調で口を開く。
「ゴ、ゴメンナサイ……。で、でも御節介かもしれないけど……何時までもそんなのじゃ、それじゃまるでシス……」
「シスコンって言いたいのか? 好きなように呼べば?」
 そう言うと祥ちゃんは食べかけのお弁当に蓋をして立ち上がった。 そして私の方を向いて口を開く。
「気分悪ぃ。 羽津姉、場所変えて食おうぜ」
「あ……、う、うん」
 私もお弁当に蓋をして立ち上がる。 そして立ち上がり様ちらりと伊藤さんの方を見る。
彼女は俯き肩を震わしていた。 そんな彼女を横目で見ながら私も祥ちゃんについて屋上を後にした。



 今起こった事だけを端的に纏めれば祥ちゃんがお昼時の時間に私以外のヒトの介入を拒んでくれた。
 それは『恋人』としては喜ばしい事のはず。 なのに私の心の中は何故かもやもやしてスッキリしなかった。
 それはあのコ――伊藤さんが気になったから――それもあるけど。
 でもそれは恋のライバルとしての危機感とかじゃなくって、むしろ同情のそれに近い感じ。
 一方的に突き放された其の感じは哀れにも見えたから。

 そしてもう一つは祥ちゃんの言葉の中にあった『姉弟』と言う言葉。 
 其の言葉にやはり私は言いようもないほど不安で寂しい気持になる。
 それは私達の仲を隠す為の方便のはず――そう分かってるはずなのに。
なのにまるでそれこそが祥ちゃんの本当の気持なのでは。 そんな考えだけが頭の中をグルグル渦巻いていた。
143振り向けばそこに… ◆tVzTTTyvm. :2006/07/11(火) 00:26:49 ID:FCyDIY/e


 ・  ・  ・  ・ 


「流石に言い過ぎたかな……」
 昼飯を食い終わった後教室に戻る足取りは重かった。幾ら何でもあそこまで言う必要は無かったんじゃないか。
 あんなの、只の八つ当たりだ。 結季と付き合えず羽津姉との偽りの関係を続けてる事に対する苛立ち。
 其の気持をつい伊藤にぶつけてしまった。
 最低だな、俺……

「あの……」
 席に座ると伊藤が話しかけてきた。
 俺が気まずくて言葉を発せずにいられると伊藤が口を開く。
「さっきはごめんなさい。 無関係な癖に勝手な事ばっか言っちゃって……」
「いや……俺もさっきは言い過ぎた。 その、済まなかった」
「もう……あんなこと言いませんから。 だからせめて今まで通りクラスメイトとして……」
「ああ……今後ともクラスメイトとしてヨロシク」
 俺がそう言うと伊藤はホッとした安堵の表情を見せる。
 そして小さなタッパを取り出して蓋を開けて見せた。 タッパの中身はサクランボだった。
「あの……本当はお昼に食べてもらいたかったんですけど……召し上がっていただけますか?」
 コレまで拒絶しちゃ流石に可哀相だよな。 ココは素直に受けておく事にしようか。
 腹も八分目だったしデザートにも丁度良いし。
「頂きます」
 そう言って俺はタッパの中のサクランボを摘まんだ。
 よく熟れた真紅の果実は甘くてほんのり酸味が利いてて美味しかった。



 それから数日が流れた。
「何やってんだろ俺……」
 昼飯を羽津姉と一緒に屋上でとる。 これは今まで通りで何の問題も無いのだが、
その後教室に戻るといつも伊藤がデザートを準備して待ってくれてる。
 どうにも以前告白を断わって泣かせてしまって以来後ろめたさがあるせいで断われない。
 また、量も一口サイズのとかで食後の俺の腹加減を気遣った丁度イイ量だし。
 それに、度を越したアプローチとかしてくるわけでもないし……。
 気が付けば普通の女友達とかよりは近い距離感にはなってたと思う。休み時間にも親しく会話を交わせるし。
でもそれ以上の距離にまで近づいてくるわけじゃない。
 いっそ、必要以上の距離へのアプローチならキッパリ拒絶できるんだけど……。



 なんなんだろうな……今の俺の状況。 傍から見たら物凄く羨ましく恵まれた状況なんだろうと思う。
 羽津姉は全校男子のアイドルと言っても過言じゃないぐらいの人気ぶりだし、
でも俺には姉以上の感情を抱くことは出来ない。
 伊藤だって羽津姉ほどじゃないけどかなり可愛い方だけど、でもクラスメイト以上の感情は抱けない。
 それでいながら俺が本気で惚れた女――結季は振り向いてくれない。
 コレで結季が俺の事をなんとも思っていないのなら未だ諦めも――いや、そんな生半可な気持じゃない。
例えアイツが俺を想っていなくても俺は諦めきれないだろう。
144 ◆tVzTTTyvm. :2006/07/11(火) 00:29:11 ID:FCyDIY/e
本編の隙間に捻じ込むように
伊藤の話はもう暫らく書いていこうかと思います
145名無しさん@ピンキー:2006/07/11(火) 00:41:36 ID:7mYJi0q0
祥ちゃん・・・
146名無しさん@ピンキー:2006/07/11(火) 01:22:38 ID:meEC5Y4s
いいねえ
147 ◆JfoDS60Gas :2006/07/11(火) 08:58:23 ID:hr4eqGXv
さてさて、お待たせしておりました(してない?)永遠の願い5話投下しますっす。
148永遠の願い 第五話 ◆JfoDS60Gas :2006/07/11(火) 08:59:16 ID:hr4eqGXv
憂鬱だった。
孝人はどうして、あんな答えを出したんだろう?
断るならちゃんと断る言葉を言わないといけないのに、なんだか気を持たせるような言い方をしていた。
確かに、幸奈さんは、いい人だと思う。私から見ても、人格的な面はとても素敵な人だと思う。
だから孝人はちょっと気になっているのかもしれない。
ラブレター、初めてだもんね。
なんとなく、気分的にそういうのに乗せられてるだけ、だよね。
うん、そう信じよう。
でないと……私のほうがだめになりそうだから。
帰り道の途中、並んで歩く間、孝人はあの手紙のことについてひとことも触れようとしなかった。
私に気を使ってなのか、それともなにか後ろめたいのか。
なんだかとてもぎこちない様子で、場をどうにか別のほう、別のほうへやっているように思えた。
私はあえてそのことについて質問を避けた。何か理由があるのだからと。
普段の会話を繰り返して、私たちは夕食の買い物をして、孝人の家についた。
まず、家の住人である孝人が先に入り、それから私が入る。
普通なら「お邪魔します」と入るんだろうけれど、私はいつもこう言ってる。
「ただいま〜」
「おかえり」
そうやって、孝人が私を迎え入れてくれる。
「今日はいいお肉があって良かったよ。すぐ準備するね」
「ああ、わかった。荷物置いて着替えてくる」
孝人が、そういって二階に上がっていく。
私も備え付けのエプロンに袖を通して、さっそく買ってきた品物をいくつか見繕って、夕食の準備に取り掛かる。
いつもいつも、孝人と私がしてきた営み。
まるで円満した夫婦のようなやりとり。
何気ない一日一日が、大事にする日が過ぎていく中で、今日あのようなことが起きた。
告白。
孝人にそのままの思いをぶつけてきた。
幸奈さん、本当に真っ直ぐ孝人を見つめていた。
あの文章を書けるだけあるとおりに、非常に物腰の丁寧そうな人だった。
いいところのお嬢さんか、しつけのしっかりした親御さんに育ててもらったんだと思う。
それに、肝が据わってた。
私が、孝人のことをがっちりつなぎとめて、周りも私と孝人のことを持ち上げているにも関わらず、飛び込んできたんだから。
包丁が快音を立てて、キャベツを切り刻む。
出張している孝人の親御さんからの仕送りはそれほど多くない。食費は月に2万くらい。少なくないわけでもないけれど、工夫しないと贅沢な気分というには程遠い。
そういえば、孝人が野菜も肉もなんでも食べられるのは、私の料理のたまものなのかな?
嫌いなものといえば、まあ普通日本人が食べるはずも無いゲテモノくらい。
そう考えると、私も好き嫌いはないから、食べるものについての激突はないかな。
今日はちょっと奮発気味、トンカツなんだけれど、これは彼も私も大好きな一品。
太らないのは、もちろん献立表を1週ごとに組み立てて、カロリーコントロールしているから。
最近はカロリーの低い揚げ油とかもあるし、その点で困りにくくなった。
それに、「キャベツは全部食べる」のが習慣づいている私たちには、胃もたれも無縁の世界。
衣をつけ、適温の油にそっと入れ、じっくり火を通して揚げる。
盛り付けて、簡易なトンカツ御膳を仕上げる頃に、彼が降りてくる。
149永遠の願い 第五話 ◆JfoDS60Gas :2006/07/11(火) 08:59:50 ID:hr4eqGXv
「いい匂いすると思ったらトンカツかー、あの肉一気に使っちまったのか?」
「今日はそういう予定だったからね。本当は、朝食から調節したかったんだけど……孝人、明日は早く起きようね」
「できたらな」
「お願いします」
深くお辞儀する。
本当に、孝人と朝ご飯食べたい。
どうしていつも、起こしても起こしても起きなくて、寝坊しちゃうかな?
毛布の中に一緒にもぐりこむとか考えたけれど、実行する前に心臓が破裂しそうになったからやめた。
孝人に知られたらはしたなさすぎることしてるのに、いざ孝人にああいう場面で触れられないのはどうしてだろう。
「まあ、いつかMF(モーニングフェラ)してくれるの楽しみにしてるぞ」
「な、ば、ばかぁっ、そんなえっちな起こし方するわけないでしょっ!」
「はいはい、出す場所はそっちに任せるから」
「うー変なこといわないでよ〜」
できたら苦労しないのに。
でも、でも。
孝人のを、孝人の熱い先を、口の奥でそっとぴちゃぴちゃと音を立てて、私のピンクに擦らせてあげたら……
口の中いっぱいに、孝人の熱いのが広がって……
……ぁ、やばぁ、あそこが熱くなってきてるっ。
「それはともかく、うまそうだな」
「うん、座って座って」
向かい合うように、私と孝人は席について、キャベツの上に鎮座し、数分割されたトンカツを前に、ソースやからしをやり取りしながら。
「「いただきます」」
夕食にはいった。
孝人は私服、まだ春服には早いのか、まだまだ冬物の厚手の服を着ている。
私はエプロンのまま、自分の作った料理の味を確かめるように口に運ぶ。
「しかし、なんでまたトンカツなんだ? なんかいいことあったか?」
「いいこと半分、悪いこと半分かな」
「なんだよそれ、じゃああんまり変わらないじゃないか」
「別に深い意味はないよ。でも、今日は別の意味で特別かな」
「別の意味?」
「……ううん、なんでもない」
幸奈さんのことなのっ。
と思い切り言ってしまいそうになったけれど、口の中で咀嚼しているトンカツと一緒に飲み込んじゃう。
孝人は優しくて誠実な人だから、けじめをつけにくい今回のことを、あんなふうに答えたんだと思う。
きっともうしばらくは今の生活を続けられると思うから、でたらめに不安がることじゃないはず。
ただ、幸奈さん、孝人の携帯との連絡を取れるようにしていた。
どんなこと、話すんだろう?
孝人と何を、やりとりするんだろう?
「ねえ、孝人、今日のノート見せてもらえるかな?」
「ノート? 晴海はちゃんと取ってるんじゃないの?」
「……それが、ちょっと今日は自信がなくて」
「なんでまた。晴海らしくもないな。まあいいや、めしの後、貸してやるよ」
「ありがとう。その分宿題お手伝いするから」
「古文のあれか?」
通称宿題狂。睡眠電波発生装置とまで言われている。
私も、うつらうつらして、危なくなる。
でも孝人はけして眠らずにきっちりノートを取る。
でも、宿題については量が量だから、まず孝人の分を手伝うのが日課になっていた。
「いいのかよ、いつもいつも」
「私が好きでやっているんだから、気にしないの」
2重にやれば力もつくしね。
ただ、孝人の足を引っ張っているかもしれないんだけれど……
「じゃあお願いするかな」
「お願いされちゃいます」
快く、私に任せてくれた。
なんだか、そういうひとつひとつの「あたりまえ」が、いつも以上に嬉しいのは、きっと幸奈さんとの出来事のせい。
トンカツは我ながら上出来だったけれど、幸奈さんのことのせいか、半分味がしなかった気がした。

150永遠の願い 第五話 ◆JfoDS60Gas :2006/07/11(火) 09:00:24 ID:hr4eqGXv
洗い物をしている私のそばに、孝人が今日の授業のノートをいくつか見せてくれた。
数学、古文、英語、生物。
今日、手につかなかったのは1時間目の数学だった。
それ以外はどうにかついていけたから、それを孝人から受け取って、孝人はお風呂場に行く。
洗い物を終えて、テーブル拭いて。
一通りの後片付けを終えると、今日の私の役割は終わり。
あとはちょっとした勉強会をして、解散するだけ。
孝人がお風呂に入っている間に数学のノートを見て、自分のノートと比較する。
孝人は律儀に細やかに取る分、やや字が荒く汚いけれど、そんな暗号みたいな文字も全部解読できる。
長い年月の賜物として自然に身についた力だった。
ひとつひとつチェックすると、いかに私が考え事で失念してきたかわかる、見られたら恥ずかしいことこの上ない自分のノートが見て取れる。
その足りない部分を少しずつ補いながら、孝人のノートという参考書を書き写していく。
孝人の、字。
孝人の写したノート。
孝人が使っているノート。
シャワーの音がかすかに聞こえる気がする。
帰ったら私もお風呂をいただこう。
彼のノートは、どんなものにも負けない深みがあって、それでいて彼の余韻が残っていて。
必要な部分を写し終える作業は30分を待たずに終わり。
私は彼の大切なノートを閉じると、その表表紙にそっと、唇を、近づける。
思わずしようとした衝動に心臓が高鳴りを止めない。
少しずつ、距離を近づけて、ノートの厚紙に、私の唇がそっと、触れた。
ありがとう……だいすき。
孝人の気持ちをいっぱい受け取ったよ。
だから……
「ふぁぁ、いい風呂だった」
「ふぎゃっ!?」
孝人が早風呂を上がってきた。
あわてて平常を見せるように、すぐ唇をノートから離して、湯上がりの孝人の方をむき、なおる……
湯によって紅潮した顔と、ドライヤーでとりあえず乾かした髪と、ふやけた感じの肌がそれを思わせる。
服は家で着るようなラフなものになっている。孝人は寝間着を着たりはしないタイプの人だった。
「どうした?」
「ううん、なんでも、なんでもないの。はい、ノートありがとう」
「ああ、まあ役に立てるとは思わなかったけどな。じゃあ早速始めようか」
「うん、やろー」
ひやひや、というより、かっかした状態の私は、その日の勉強会のさながらに挟むエッチなジョークもあって、ろくに頭の中に入らなかった。

帰る頃には、もう9時になっていた。
門限はたいてい10時くらいっていう親御さんの中の二人がうちにあたるけれど、孝人の家に泊まる分には朝帰りでもいいという。
それは、まあ、エッチして朝に鳥のさえずりを聞いて、裸の体をシーツに巻いて眼を覚ますのは、どきどきしながらもあこがれるけれど。
まだ、そんな関係じゃないし……
道の半分まで、孝人は送ってくれた。
実際は勉強会は帰ってきてすぐにやるんだけれど、今日は幸奈さんのことで、遅かったから。
そう、幸奈さんのせい。
でも今は、幸奈さんのおかげかな?
そういえば、勉強してる最中にしきりに孝人の携帯にメール入れてたっけ。
気が散るから、お返事は後にするようにと釘をさした。
多分、これから幸奈さんとのメールにいそしむんだと思う。
やや暗い道のりを、本当に200メートルと離れていない私の自宅に到着する。
いつものことだからと、家の門は開いていて。
私はすんなり、入ることができた。



151永遠の願い 第五話 ◆JfoDS60Gas :2006/07/11(火) 09:01:52 ID:hr4eqGXv
制服の結わえを直に解いてお風呂に入る。
着替えは一応、もってきた。
孝人、私の体のことどう思っているんだろう?
いつもいつもエッチなジョークいうのは全然それに関わらないと思うけれど。
でも、ときどき、孝人が私の胸見てたりする。
興味湧くのかな?
なんとなく掌に納めてみる。だいぶ、手に余るかな。
本気で巨乳って人にはさすがに及ばないけれど、でも大きめだという自信は、ある。
結構、うらやましがられたりも、する。
それに、そこそこ身長はあっても、孝人の目線を越える前に止まってくれた。
孝人の背を越えなかったのは良かった。
体の面では、幸奈さんは申し訳ないけれど、孝人には物足りないと思う。
でも、そういう可愛い感じのスタイルのほうが、孝人は好きなのかな?
そうだとすると、もう戻れない。
彼のために組み立ててきたものが、無意味になってしまう。
本当はどうなんだろう?
やっぱり、孝人って、幸奈さんのほうが好みなんだ。
私が近くにいすぎて、こういうスタイルを見慣れちゃったのかもしれない。
やだ、いやだ。孝人が幸奈さんを抱いてる姿が一瞬頭によぎった。
おぞましい、嫌過ぎる、考えたくない。
どうして、孝人の前に現れたの……孝人は私とじゃないとだめなのに。
孝人の幸せを作れるのは私だけなのに。
孝人が人生を組み立てていけるのは、私と一緒にいるときだけなのに。
そう。この胸も、掌に納まりきらない、おおきく張ってる……っぁ、乳房も。
ずっと、あなただけを待ち望みつづけてきた、ん、っ、この蜜内も。
私を除くなら、あなた以外の人には触らせたくない。
孝人だから、孝人にきてほしいから。
『ウインナー、いつも作ったら舐めてるだろ? まるでフェラしているようにこう、ちゅぱちゅぱと』
あなたのなら、いくらでも口に含めるよ……白い液、出ても、あなたのならきっと美味しいから。
『MF(モーニングフェラ)してくれるのを楽しみにしているぞ』
いつでも、いいよ……孝人が本当にそうして欲しいなら。
『そんなに朝チュンしたいか?』
したいよ……毎日夢に見るんだよ。
私がおはようって、朝に弱いあなたを呼び覚ますの。
ぁぁ、その前の晩に、この中を、あなたの熱いのが、じゅぷじゅぷいって前後して、出し入れして、密着するたびに、クリが擦られるの……ふぁぁっ。
あ、っ、いいよ、孝人のなら、どんな日でも、一番奥にいっぱい欲しい……
きて、きてぇ、孝人ぉ……っ。
「ふぁ、ぁあ、ぁ……っ!」
ぁ、ぁ……だめ、今日も、イッちゃった……
つい、掌で体を撫で回しながら孝人を考えていたせい。
私はいつの間にか自慰にふけっていた。
アソコが愛液に濡れぼそって、伝ってタイルにこぼれていた。
湯船に浸かってもいないうちから、体の奥がでたらめに熱くなって、孝人のこと考えて。
夢の中なら、願うだけなら、いつでもここに孝人がいるのに。
とても遠くに、遠い場所に孝人が行ってしまうような、絶望的な不安が心を押しつぶしてしまいそうで。
私は何も無い場所を抱いていた。
自然に涙が頬を伝い流れていた。

152永遠の願い 第五話 ◆JfoDS60Gas :2006/07/11(火) 09:02:45 ID:hr4eqGXv
お風呂を出て、乾燥中の髪をまとめてタオルに包みながら、孝人にメールする。

「To:孝人
 From:晴海
 
 明日7時に起こしにいくからね。
 明日こそ一緒に朝ご飯食べよー」

ごくごく簡単に、いつもどおりのことだけれど、でも大事な、孝人のことをつなぎとめるメール。
私は返事を楽しみにしながら、勉強の追い込みに取り掛かることにした。
それでも1時間くらい。時間はあまりないから、すぐに眠くなって寝付いてしまったけれど。
孝人は私が眠る前にこんなやりとりをメールでしてくれた。

「To:晴海 From:孝人  ああ、俺が起きれたらな
 To:孝人 From:晴海  起きれたらじゃなくて起きるの。がんばって、孝人にならできるから
 To:晴海 From:孝人  良く言うよ。まあ、適当にがんばれ。MFは選択肢のうちに入れといてくれ
 To:孝人 From:晴海  えっちな起こし方は即刻却下だよ……/// とにかく、今日はこれで寝ます、おやすみなさい
 To:晴海 From:孝人  おやすみ。また明日な」

本当に、いつもどおりのやりとり。
ちょっとだけ変化があった日の終わりだったけれど。

孝人の返信までの時間がなんとなく、長かったような気がした。
153 ◆JfoDS60Gas :2006/07/11(火) 09:03:40 ID:hr4eqGXv
以上です。
日常のまったりとした孝人とのラブラブが揺るがされてきて悩む晴海さんを書いてみました、
154名無しさん@ピンキー:2006/07/11(火) 09:30:03 ID:a+iTflFm
待ってましたー!孝人のエロ発言と泥棒猫に悩む晴海エロ可愛いよ晴海(*´д`*)
155名無しさん@ピンキー:2006/07/11(火) 12:06:18 ID:eZQgmKdR
晴海ちゃんが告っちまったら即完結なんじゃなかろうか
156名無しさん@ピンキー:2006/07/11(火) 12:11:37 ID:mlFBUlyj
>>孝人の返信までの時間がなんとなく、長かったような気がした。

こ、これはやばいな泥棒猫の匂いがプンプンするぜ。
157『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/11(火) 14:30:50 ID:WMD199r+
「あーっとさ…いや、俺も断ろうと思ってたんだよ。あんな初対面の奴等と見回っても緊張して面白くないだろうしさ。」
「どーして緊張するんですか?やっぱりミィちゃん達が可愛いから?……私は可愛くないから、緊張しないんですか?」
どうしてこう泥沼化していくのだろう。一度不機嫌になった人をなだめるのは難しい。
「いや、お前は気心知れてるから、一緒にいれば緊張っつーより、楽しいんだよ。だから、お前以外の奴とは回るきはないぜ?」
「…本当?」
一緒にいて楽しいと言われて嬉しいのか、不機嫌と喜びの中間のような、困った顔をしている。もう一押し!
「な?そんな風に膨れてねぇで、たくさん楽しもうぜ!」
自分でやってみて思ったが、熱血爽やか青年ってのは似合わねぇなぁ、俺……
「…う、うん。そうですよね。怒ってたら、せっかく晴也さんとので、デデ……ート…もにょもにょ……を楽しめませんもんね!!」
「お、おう。」
急に元気になりやがったな。本当に感情の起伏が激しい奴だ。ここまで一緒にいて楽しいと思った奴は、葵が初めてかもしれない。
158『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/11(火) 14:32:01 ID:WMD199r+
それからは学園祭を隅から隅まで楽しんだ。喫茶店や屋台、ビンゴやお化け屋敷など、いつもなら興味も無いものも、何故か今日は変わって感じた。
「あっはははは!晴也さん、福引きで三回連続チョコバナナだなんて、運がいいんだか悪いんだかわかりませんね。」
「いや、絶対に悪いはずだ。こんな甘ったるいもの、三本も食べろだなんて拷問以外のなにものでもない。」
とはいえ、葵に手伝ってもらうのも男の恥なので、なんとか自力で食べている。三本目にはいったころには目まいがしてきた。
「うぷ……」
「あはは、お疲れ様です。……あ…」
なにかに気付いたように葵が声を出す。なにかと思い、葵の方へ顔を向けると、その顔が目の前にあった。
「え……」
そのまま、互いの唇が重なり………はせず。
「ぺろ。」
「!?」
頬を舐められた。
「な、なにを!?」
「へ?…あ、あああの、そのぉ……チョコが、ほっぺたにくっついてました……」
「そ、それなら口で言ってくれれば…」
「ご、ごめんなさい…ついつい、したくなっちゃって…その……はい……」
159『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/11(火) 14:33:21 ID:WMD199r+
二人、赤面して俯く。うまく目を合わせられず、合うと互いに逸らしてしまう。な、なんなんだこの状況は?まあ、幸い誰にも見られてなかったようだし……
「あらあらー。ずいぶんと仲の良い方たちですわねぇ。まるで兄妹みたいで。」
そうは問屋がおろさない。急に聞き覚えのある、それでいてなにか違和感のある声に掴まった。見られた!そうおもい振り向いてみると……
「どうもー。」
「セ、瀬世瀬、せ、セレ、ナ。…セレナァ!?」
「はい、セレナです。」
正真正銘セレナだった。なにやら回りにはたくさんの取巻き(全て女)がいて、一斉に睨まれていた。
「な、なんでセレナがイルンデスカ?」
「うふふ、一応、ワタクシも朝野高の一生徒ですので。」
「セレナ様、この男だれですか?やたらと馴々しいのですが…」
一人の取巻きが言った。セレナ…様?
「ああ、ワタクシの友達ですわ。」
オホホとでも言うように、上品に笑う。…違う、キャラが違う。
振り向いて葵に耳打ちする。「おい、なんなんだよ、セレナ様って。こいつが朝野に射る事、知ってたのか?」
160『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/11(火) 14:34:29 ID:WMD199r+
「し、しってるもなにも、朝野高の生徒会長兼、ミス朝野……つまり、朝野高生徒の、憧れの的です。知らない人なんていませんよ。今日この学園祭に来る大半の人の目的が、セレナさんを見るためなんです。」
「まじでか…」
知らなかった。たしかに綺麗ではあるが、ここまで拝められてたとは……しかもこいつ、皆の前では猫被りかよ。
「あっははは……二人で内緒話しだなんて……相当、仲がいいみたいですねぇ?」
やばい、怒ってる。周りの奴等は気付かないだろうが、わかる。この声に怒気が含まれてる事が。
「ふふ、晴也さん。よろしければ、内容をおきかせいただけるかしら?」
「な、なんだよ、気味ワリィナ。晴也さん、だなんて……いつもみたいに馬鹿っぽく『ハルー!』って……うっ」
神速だった。周りの奴等に悟られないよう、死角に回り込み、適格に俺のみぞうちを捕らえていた。
「あら?大丈夫ですか?……意識がないみたいですわね。皆さん、私はこの方を保健室へ連れて行きます。それでは御機嫌よう。」
そう捲し立てると、ズルズル引きづりながら連行された……
161名無しさん@ピンキー:2006/07/11(火) 19:33:20 ID:m1bL7aOw
それでは投下します。弥生対晴香の戦いはまだまだつづく
162教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆n6LQPM.CMA :2006/07/11(火) 19:38:15 ID:m1bL7aOw
教授が弥生に消されたデータのバックアップCD―Rをノート
パソコンにインストールしていた頃、まだバトルは続いていた。

(何でよ何でよ何でよ何でよ何でよ何でよ何でよ何でよ何でよ
何でよ何でよ!!!!!!!!!何であのチビが同棲してんのよー!)
今晴香は暗闇の中で叫んでいた。
(はあはあ…くそ、砂浜も海も青空もなにもかも見えないわ。
今私はここに本当に存在しているの?私の存在が証明できないわ…。)
するとそれに答えるように、晴香の前に樹が表れた。
(ああ、樹さん…あなたがいれば私は存在できるわ…あの時高
校生の私は先輩の樹さんに告白して、ずーっと付き合ってきたけど私の気持ちは
まったく変わっていません…好きです!大好きです!!愛しています!!!)
すると今度は樹の隣に寄り添うようにチビ弥生が表れた。その
表情はとても幸せそうだ。
(な!?なにくっついてんのよ!離れなさいよ!……!そ
うか!そうだったわ!すっかり忘れてたわ…私と樹さんの絆…)
晴香は自分の手を見た。すると小指に闇に向かって伸びる赤い
鎖が巻かれていた。
(これが繋がっている限り、私と樹さんは結ばれる運命なんだ
わ。少し目を離したスキに泥棒猫が侵入したとしてもこの絆は切れないわ……。)
樹と弥生の幻は消え、また暗闇の世界が広がった。
「私は五十嵐晴香!樹さんの最愛の人!泥棒猫なんかに負けないわ!」
晴香はこの自分の心の暗闇の中で叫んだ!
すると光が溢れ、暗闇を消していった。

「晴香ちゃん!晴香ちゃん!どうしちゃったの?」
晴香は先程の弥生との言い合いで同棲という言葉を聞いた途端
、ふらふらと腰を落として体育座りのままブツブツと呟いていた。
「一体どうしたの?なんか空気も重いよ!」
樹が声を掛けてもまったく反応が無かった。
そんな二人のやり取りを弥生は冷ややかな目で見ていた。
(ふふん、いい気味だわ。まさか同棲にここまで反応するなんて。)

呼べど叫べど返事が無いので困り果てた樹は
「どうしよう…」
と途方にくれていたら弥生が樹の手を握ってきて
「樹、オーナーが呼んでるぞ。たぶん店仕舞いの手伝いだろう
。そんな奴ほっといて行くぞ。」
見ると店の前でオーナーが手を振っていた。周りもすっかり人
が減り、夕日に浜辺は赤色に染まっていた。
「ほら、早く!」
弥生に引っ張られるまま樹も店に行こうとした時
「ちょっと待ちなさい!!そこのチビ!!!」
振り向くと晴香が立ち上がった。
太陽を背にしているため表情は窺い知ることはできなかった。
「散々舐めた真似してくれたわね!」
「…………………」
弥生は何て言おうか考えて、樹の方を向いて
「樹、先に行っててくれ。こいつとサシで話をしたい。なに、
すぐに終わるから待っててくれ。」
樹は何か言いたそうだったが、見えない気迫に押されて何も言
えずに店に向かった。
(まるで噴火寸前の火山だ……)

対峙する二人、交差する視線、固く握られた拳、爆発しそうな
感情を押さえて晴香と弥生は睨み合っていた。

口火を切ったのは晴香だ
「まず始めに言うわ!樹さんのことを呼び捨てにしないで!い
くら従妹でも年上に対して失礼でしょう!」
163教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆n6LQPM.CMA :2006/07/11(火) 19:40:32 ID:m1bL7aOw
弥生は少しビックリしたが、すぐに理解した。
(そういえばこいつ、私の正体知らないんだった…)
それを聞いた弥生は鼻で笑った
「失礼も何も樹が良いよって言ったんだからあんたにあれこれ
言われる筋合いはないわよ。…それとも羨ましい?」
「なっ!」
たぶん図星だったんだろう、晴香の肩は小刻みに震えていた。
「別に羨ましくなんかないわよ!そ、そんなことよりあと樹さ
んのアルバイトの邪魔をしないで!ガキは一人で遊んでなさい!」
「………ふっ、」
「?」
「あはははははははははははははははははは……ああ可笑しいわ、
あなたあまり笑わせないでよ。」
「なに笑ってんのよ!!なにがそんなに可笑しいの!」
腹を抱えて笑っていた弥生だが、笑いが止まった弥生はその切
れ長の目で晴香を睨んだ。その目は明らかに晴香を馬鹿にしていた。
「あなたなんにも知らないようだから教えてあげるけど、私も
樹と一緒に同じアルバイトをしているのよ。もちろん泊る場所も同じよ。」
「な、なんですって!!!」
今晴香は顔面蒼白になっている。あまりの悔しさに歯軋りがギ
リギリと鳴り、拳からは爪が食い込んで血が垂れてきた。
(まさかここまで泥棒猫に好き放題されるなんて!油断したわ。)
ぐうの音も出ないのか、晴香は黙ってしまったが、弥生は勝ち誇った顔をして
「話はもう終わり?じゃあ樹が待っているから行くわ。じゃ〜ね〜♪。」
弥生はゆっくりとお店の方へ歩いていった。
「待ちなさい!」
晴香は弥生を呼び止めたが、弥生は振り向きもせず無視して歩みを止めなかった。
「なんで…なんで同棲してんのよ!」
それを聞いた弥生は歩みを止め、顔を少し横にして言った。
「…だれだって好きな人がいれば一緒に暮らしたいって思うでしょ?
ま、そういうこと。」



「晴香ちゃん……。」
夕暮れの浜辺にただずむ影が二つ。
口をキッと結んだ晴香と心配そうに見つめる麻奈美だった。

「悔しい……。」
晴香は肩を震わせながら呟いた。しかしその目は既に燃えていた。
「だけどまだよ!やられたら三倍で返してやるわ!」
「わ〜さすが晴香ちゃん、不屈の闘志だね。」
「とりあえずキャンピングカーに戻るわよ!これからの作戦を
考えるわ!」
「お〜!」

「ふー、疲れたわ…。」
「お疲れ〜。」
二人はキャンピングカーに戻ってシャワーを浴び、ラフな格好
に着替えてソファーに腰掛けた。
もちろん悔しさいっぱいの晴香はイライラしていた。
「とにかく、このままやられっぱなしじゃないわよ!手始めに
…そうね、樹さんに夜這いしようかしら。」
晴香はよほどいい案と思ったのかニコニコしていた。
それを見ていた麻奈美は驚いた顔をしていた。
「え?今から?疲れているから明日にしたら〜?」
164教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆n6LQPM.CMA :2006/07/11(火) 19:45:09 ID:m1bL7aOw
反対する麻奈美に晴香は睨み付けた。
「馬鹿言わないで!もしかしたらあのチビ、一緒にいるのをい
いことに樹さんにちょっかい掛けるかもしれないじゃない!私が守らなきゃ……」
(佐藤さん“が”ちょっかいを掛けるとは考えないのね…)
そんなことを考えながら麻奈美は栄養ドリンクを持ってきた。
「行くにしても体力は回復しないと。これでも飲んで元気だして。」
「あら、ありがとう。」
晴香は一気飲みして勢い良く立ち上がった。
「よし!樹さん待っててね!今いくからー………あれ?」
晴香は足がふらふらになり、ソファーに倒れこんだ。
「おかしいわね…目眩がひどいわ…疲れがでたのかしら。」
麻奈美が近づいてきて心配そうな顔をしながら言った。
「疲れが出てきたのよ〜。少しだけ横になったら〜。」
「そうね…そうするわ。」
晴香はソファーに横になって暫くしたら静かに寝息を立てはじめた。
それを確認した麻奈美はカーテンを閉め、電気を消して、静かに晴香の服を剥がした。
全裸になった晴香を見て、麻奈美は歪んだ笑みを浮かべていた。
「綺麗よ…晴香ちゃん…」
麻奈美は写真を撮って、晴香の太股、そしてお腹を舐め回した。
「うふふ…おいしいわ…今日は全然遊べなかったからその分た
〜っぷり…ね。楽しいね、晴香ちゃん…ず〜っと一緒だよ。」
麻奈美の夜はまだまだこれからだった。

弥生は樹に貰った麦藁帽子を被って夜の海を浜辺で眺めていた。
(そういえば昔、体のコンプレックスを苦にして自殺を一瞬だ
け考えたことがあったけど、夜の海はなんか吸い込まれそうだわ)
ふと、今日の晴香とのやり取りを思いだした。
(あいつに言った言葉に自分が驚いたけど、私…樹のこと…好きだったんだ…)
顔が真っ赤になりながら、波の音に耳を傾けていたら頬に冷たい物が当たった。
「ひゃっ!」
後ろを振り返ると、樹が飲み物を持っていた。
「どうしたんですか?一人で」
「樹か?驚いたじゃないか…ちょっと考え事を、な」
樹は弥生に飲み物を渡して隣に座った。
「それにしても今日は楽しかったでしたよ。」
「え、そうか?」
樹は笑顔で
「そうですよ。あんなに感情豊かな弥生さんは初めて見ました
よ。今笑っている弥生さんは本当にあのクールビューティーの弥生さんなのか…ってね。」
「……………」
(確かにちっちゃくなってからよく笑ったり泣いたりしたけど…)
「特に海に来てからはハイテンションだったじゃないですか。
それを見てなんか俺も嬉しくなって…。」
「樹…。」
「ほら、弥生さんって責任感強いから、もしかしたらあの事件のことも少なからず
責任を感じているのかな、と思ったんで気分転換に海に誘ったんですよ。」
確かに樹を危険な目に合わせたことについては大なり小なり弥生は責任を感じていた。
「俺は何にも気にしていませんから、弥生さんも責任を感じな
いで下さい。悪いのは教授ですから。」
165教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆n6LQPM.CMA :2006/07/11(火) 19:47:15 ID:m1bL7aOw
「バ、バカ…。」
弥生はむぎわら帽子を深く被って目元を隠した。
(お願いだからこれ以上何も言わないで…。でないと私…)
「まあ俺じゃ余り頼りにはならないかもしれませんが、必ず此処に、弥生さんの隣に
いますから、我慢できなくなったら頼って下さい、少しは役に立つかも…。」
それを聞いた弥生は、目から溢れる涙を止められなかった。
「ウッ…ウッ…ウッ…ウッ…。」
(バカバカバカバカバカ…樹のバカ、壊れちゃったじゃない…涙腺も、プライドも…)
「や、弥生さん!どうしたんですか?」
樹が弥生の涙にどうしたらいいか分からなくてオロオロしていたら、弥生が顔を上げて樹を見た。
その目は泣き腫らして真っ赤だが、真っすぐに樹の目を見た。
「樹…私は い、樹のことがす、」
そこまで言った瞬間、弥生の体に激痛が走った!!体のあちこ
ちが千切れていくような激痛だった!!
「ぐっ…なんだこれは…千切れそうだ…
痛い…痛い痛い痛い痛いーーーーーーーーー!!!!!!!」
余りの激痛に弥生は砂浜の上で転げ回った!!!
突然のことに樹は呆然としていたが、
(まさか教授の言ってた副作用って!!)
樹は痛がる弥生を抱き上げてお店に走った!
「弥生さん!しっかりして下さい!薬を持ってきてるのでそれを飲めば大丈夫ですから!」
懸命に励ますが、弥生は痛みに耐えるので精一杯だった。必死
に歯を食い縛っている中、小さい手が樹の腕を強く握っていたので痛いほど気持ちが伝わった。

(これぐらい大丈夫…)

店に着くと、二階の寝室に樹は痛がる弥生を布団の上に寝かした。
額には脂汗が滲み、鼻から血が出てきた。
急いで樹が持ってきた鞄を取ろうと、弥生から離れようとした
ら、弥生は腕を離そうとしなかった。

(どこにも行かないでくれ…)

樹に縋るような目をする弥生に、樹は焦る気持ちを押さえて弥生に優しく言った。
「大丈夫ですよ、どこにも行きませんから。ちょっと鞄を取るだけですよ。」
そう言って優しく弥生の手を離し、持ってきた鞄から薬を探した
(教授の言ってたことはこのことか。)
樹は薬を探しながら、教授とのやり取りを思いだした。
166教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆n6LQPM.CMA :2006/07/11(火) 19:50:04 ID:m1bL7aOw
(樹くん、ちょっと待ちたまえ!)
(教授!放して下さい!弥生さんを追わなきゃ!)
(追う前にちょっとだけ話を聞いてくれんか?…実はな…もし
かしたらこのままでも若返り薬の副作用が出るかもしれん。)
(教授、それはどういうことですか?)
(わしなりに薬の成分を調べたんじゃが、どうやら弥生くんの
精神状態によっては副作用が発症するやもしれんのじゃ。)
(精神状態?どんな時に発症するのですか?)
(正確には分からんが、たぶん強いショックや激しく気持ちが動いたらあるいは…)
(え、じゃあいままで弥生さんが怒ったりした時はなんで発症しなかったんですか?)
(それは多分怒っていても本気じゃなかったんだろう。純粋な感情…怒りよりは、例えば
愛情や悲しみなどで心が一杯になれば発症するかもしれん)
(気持ち次第なんですね。じゃあ副作用って具体的にどんな症状があるのですか?)
(まず体全体に激痛が走り、口か耳か鼻かどこからか出血があ
って、全身に筋肉の痙攣、五感の低下、末期には意識が混濁して…)
(もういいです!じゃあ副作用が発症したらどうすればいいんですか?)
(この薬を飲ませなさい。若返り薬の副作用を押さえることが
できる。本当はアメリカから教授が来るまで手出しはしたくなかったんじゃが、万が一
を考えてな)
(教授…)
(ただし一つだけ注意してくれ。この薬にも副作用があってな、もちろん若返り薬の副作用みたいに
命の危険に及ぶほどじゃないが…飲むとな)
そこまで考えた時、小さい薬の入った瓶を見つけた。
「あった!!」
急いで弥生さんの元にもどると、全身が震えていた。
「や、弥生さん!!」
「い、いつきか?ぐっ…どこにいる?なにも…みえない…」
瞳は開いているのに、弥生の手は空を彷徨っていた。
樹は弥生の手を握って
「弥生さん!此処に居ます!薬を持ってきました。飲んでください!」
持ってきた薬の瓶を開けて中の薬を弥生の手に置いた。
「い、いつき?どこだ?どこにいる?なにも…ぐっ……みえない…
あまりきこえな…いつき?ひとりにしないで…となりに…いて…」
もはや手の感覚や聴覚、視覚が低下していた。
「弥生さんっ!!」
樹は弥生の手に置いた薬と水を口に含んで、弥生の口に直接口移しをした。
(ゴクン)
弥生が飲み込んだのを確認して弥生の様子を見た。
「いつき…ちかくに…いるなら…てをにぎって…」
それだけ言って弥生は薬の効果か、静かに寝息を立て始めた。
(とりあえず間に合ったのか?)
顔色を見ると、先程の苦痛や額の脂汗が浮かんでいた時よりは良くなったような気がした。
樹は弥生の額の汗を拭き、小さな手を握った。
「俺は此処にいます。隣にいます。決して一人にはさせませんから。」

第三話「皆のネガイ」完
次回第四話「危機のキキ」
167名無しさん@ピンキー:2006/07/11(火) 19:53:06 ID:m1bL7aOw
あと数話でこの海の話は終わりです。しかし麻奈美大暴れだな。
大体最終回まではプロットは出来ましたけど、果たして思いどうりにいくのか
168名無しさん@ピンキー:2006/07/11(火) 19:57:50 ID:nyRubJKc
>>167
副作用が気になるところです。GJ!

あと、メール欄のsageが大文字になっております。
169名無しさん@ピンキー:2006/07/11(火) 20:18:27 ID:KSJhL9j3
>さよならを〜
セレナの意外さにびっくり。学校ではタカビー系お嬢だったなんて。ますます惚れた

>ロリコン教授
麻奈美が真性のレズ。こっちはあらかじめそんな風だったけど、すでに手馴れているあたり常習犯だよね?
麻奈美…恐ろしい子!
170名無しさん@ピンキー:2006/07/11(火) 21:34:41 ID:BR1YfYIK
投下しますよ
171『甘獄と青』Take2:2006/07/11(火) 21:36:10 ID:BR1YfYIK
 僕の目の前の女性は、確かに悪いことはしていない筈だ。しかし皆の為にしたことでも
それが罪になることがある、その代表各が人類史上最悪の大罪人である彼女なのだろう。
 彼女が犯した罪は三つ。
・人類の数の固定。
・文明レベルの固定。
・彼女自身の不老不死化
 確かに人類の数の固定によって人工の増加や絶滅の可能性はなくなったし、文明レベル
の固定では進化がない代わりに退化もなくなった。その部分では皆も納得しているところ
だが、利点にはそれに伴う裏の顔、弊害も必ず存在する。
 人口の部分では、素直に命の誕生を祝うことが出来なくなった。人が産まれるというこ
とは、それと同時に誰かが死んだという事実を認識させられる。逆に言えば、人が死んだ
ときには命が産まれたことで、誰かが喜ぶことがあるかもしれないと思ってしまう。それ
を素直に受け入れることが出来なくなってしまったからだ。それに、偶発的に出産の予定
も狂ってしまうのも悲しい現実だということになる。
 二つ目の文明レベルの固定では、もっと深刻だ。当時から不満に思われていた不備な点
などが、永久に解消されないということになる。例えば当時の医療技術では治療出来なか
ったものがあるとして、後世の人間が治療方法を発見したかもしれない。その可能性まで
もが、失われてしまったのだ。
 どちらも償いきれない程の罪だが、しかし死刑にはされなかった。倫理的な問題ではな
く、純粋に、単純に、物理的に、不可能だったから。
172『甘獄と青』Take2:2006/07/11(火) 21:37:32 ID:BR1YfYIK
 それが、彼女の第三の罪。
 人類全てが恐れる由来。
「何で」
 僕は必死に声を絞り出す。喋ってもいないと、その存在に潰されそうになってしまうか
ら。特に彼女は何をしている訳でもない、普通に椅子に座ってこちらを微笑んで見つめて
いるだけだ。知力は普通の人間とは段違いな筈だが、体力も身体能力も並の人間と何一つ
変わらない。それどころか攻撃の意思表示すら見られないのに、その存在だけで僕を震わ
せ、恐れさせる。
「何で、不老不死になったんですか?」
 自分でも、声がかすれているのが分かる。
 不老不死。
 本当にそうなのかは分からないけれど、他の二つの罪のレベルを考えると嘘とは言いき
れない。しかし、そんな噂が存在し続ける時点で彼女は危険な存在だと分かる。まともな
人間なら、そもそもこんな噂、伝説は人の間に流れたりはしない。
 僕が言えることでもないけれど。
「どうして、不老不死になることを選んだんですか?」
 少し考えているらしい彼女に向かって、再度尋ねてみる。
「そうね。確率のシステムを作ったのはわたしだから、かしら。皆が困ったときに、いつ
でも答えられるようにかな」
 答えは、あくまでも善意。
 だからこそ恐ろしい。
 行きすぎた善意は最早、薬を通り越して毒に変わっていく。その現象を誰よりも、他の
何よりも表しているのが彼女という存在だ。不可抗力なのは否めないとしても、間接的に
現在進行形で人を殺し苦しめ続けている彼女は、しかし悪びれた様子はない。
173『甘獄と青』Take2:2006/07/11(火) 21:40:52 ID:BR1YfYIK
 しかし、他人は違う。
 だから、殺せはしない、まるで神のような彼女を恐れてこの都市に幽閉した。
「あなたは、そのシステムを作って後悔はしなかったんですか?」
「公開はしたけどね」
 まるで少女のように小さく笑う。
「度を越した罪なんて皆、そんなものよ。報われない、あなたもそうでしょ?」
「僕は報われたからこうなったんですけどね」
 あまり思い出したくないことを何百年かぶりに思い出して、気分が悪くなる。最後に見
たその景色は夢の中でだが、今思い出しても鮮明に蘇ってくる。視界の中に入っているの
は、華美な部屋の中で震えた少女と血まみれの男。床に転がる、赤く染まったナイフ。ど
れも、忌まわしいものだ。報われた筈なのに、辛すぎる。
 酷い頭痛を堪えるように、敢えて笑みを浮かべ、
「そうでしょうか?」
「あなたは違うの?」
 わざとらしく肩をすくめる。
「ところで、あなたは何をしでかしたのかしら。SSランクなら、かなりのものよね? リ
サちゃんは有名だけど、あなたには何故か制限がかかっていて調べられなかったの」
「人を一人殺しただけですよ」
「ならあたしの勝ちぃ、あたしは3000人だもん」
 今までの会話に入ってこられずに退屈していたらしい、やっと入れる話題が出来て嬉し
そうにリサちゃんが割り込んできた。
174『甘獄と青』Take2:2006/07/11(火) 21:41:40 ID:BR1YfYIK
 この無邪気な表情と声に反比例するような発言をされると、心が痛くなる。まだ幼いこ
んな少女がこれだけの罪を背負っているという現実は、遥か昔に存在していた地獄という
言葉を連想させられる。
 僕は膝の上の少女の頭を撫でながら、
「それは言ったら駄目って、注意したでしょ?」
「ごめんなさい」
 途端にしょげた顔になる。
「あらあら、リサちゃんは凄いわねぇ」
「えへへぇ」
 嬉しそうに笑うリサちゃん。
「ところで、おねーさんは何人なの?」
「分からないわね、おねーさん馬鹿だから」
「ふーん」
 足をバタバタとさせながら愉快そうに笑う。
「ならあたしが一番だね」
「そうね」
 二人の間に流れる空気や表情は暖かいものだが、だからこそ違和感を感じる。美少女と
美女の組み合わせは極上のものだが、交わされている会話は物騒なことこの上ない。この
辺りが、やはり大罪人の精神なのだろう。
「もう一つ聞きたいんだけど」
 リサちゃんは愉快さを増した声でサラさんの手を取ると、
「本当におねーさんは死なないの?」
 愛おしそうに手の甲を撫で始めた。僅かに潤んだ瞳は独特の熱を持ち、呼吸も荒くなっ
ていて、感情が乱れているのが一目で分かった。幼いが故に隠そうともしない、その突然
乱れた空気のままサラさんと目を合わせ、
「そうなの? そうなの?」
「詳しいわね。偉い偉い」
 もう片方の手でリサちゃんの頭を撫でながら、
「試してみる?」
「うん!!」
175『甘獄と青』Take2:2006/07/11(火) 21:44:12 ID:BR1YfYIK
 この異常な空間を決定的にしたのは、この一言だった。その言葉を合図にするようにリ
サちゃんは軽く身を乗り出し、いつの間に抜いていたのだろう、僕がいつも護身用にナナ
ミに持たされている大型ナイフをサラさんの手の甲に突き立てた。どこでずれてしまった
のか、それとも最初から噛み合ってなかったのか、先程以上に気分の悪さを感じながらも
僕はその光景から目を離せなかった。
 しかし、ふと違和感に気が付いた。こんな光景で違和感という単語は正しいのか分から
ないが、どこかがおかしい。少し考えて、すぐに答えは出てきた。異常な出来事の中の異
常が、目の前にあった。
「きゃははは…あれ?」
 リサちゃんもすぐに気が付いたらしい。不思議そうな表情をしてナイフを突き立てたま
ま横に引くと、
「血が出てない」
 それどころかサラさんの手には、傷一つ付いていない。まるで何事も無かったかのよう
に微笑んだまま、その手でリサちゃんの頭を軽く撫でた。
 どういうことだ。
 システムを使ったのなら空間に痕跡が残る筈だが、それすらも存在しない。
「何で? 何で?」
 リサちゃんは不思議そうにその手を撫でたり眺めたりしているが。口には出さないけれ
ど、僕も自然と態度に出ていたらしい。サラさんと目が合って、漸く僕は不躾に眺めてい
たことに気が付かされた。
 説明をしない代わりに、サラさんはリサちゃんの髪を撫でる。よほど気に入ったのだろ
う、さっきからサラさんはリサちゃんの頭や髪を撫でてばかりだ。その表情には後ろ向き
な感情は欠片も見られず、純粋に可愛がっているように見える。
 その行為を数分続けたあと、不意に悲しそうな表情になり、
「あのね、おねーさんは死なないんじゃないの」
「そうなの?」
「死ねないのよ」
 呟くように言った。
176ロボ ◆JypZpjo0ig :2006/07/11(火) 21:46:44 ID:BR1YfYIK
今回はこれで終わりです

過去に自分が書いたものを読みなおしてみたら、
変人設定の女の子しか居ないことに愕然としました
177名無しさん@ピンキー:2006/07/11(火) 22:25:57 ID:VZCsYoai
いつもながらGJっす
ロボさんの作品の娘が好きな俺は変人好きってことか・・・
ロボさん、これからも色々な娘をよろしくお願いしますm( __ __ )m
178名無しさん@ピンキー:2006/07/11(火) 22:29:05 ID:a+iTflFm
刺しても死なないのか……これは修羅場の時に強力なアドバンテージになりそうだな

>>160
セレナお嬢様系だったのか、素晴らしいという他ないな!
(*´Д`)ハァハァが止まらないぜ
179血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/11(火) 23:44:13 ID:JBrw5mZL
投下します
180血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/11(火) 23:45:02 ID:JBrw5mZL

 剣を抜き、半身に構える。
 私――“銀の甲冑”本来の戦い方は、真正面に構えて一刀両断、が基本なのだが、
 血塗れ竜が相手の場合、正面に構えても利は少ない。
 敵の攻撃手段は至って単純、触れた箇所から破壊する。それだけだ。
 シンプル故に攻め手守り手に困る。
 故に、対応のしやすさだとか攻撃力だとか、そんなことは放っておき、
 とにかく、触れられないよう半身で構えるのが最善なのである。
 しかも、この小娘、壊せる箇所は身体部位のみならず、相手の武器すら破壊可能という化け物っぷり。
“普通の”剣なら、斬りつけた瞬間に腕ごとねじ切られるのは避けられない。
 
 
 もっとも。
 
 私の剣は、普通の剣ではないのだが。
 
 
 半歩間合いを詰める。
 互いの距離は三足ほど。
 私の間合いは二足半。血塗れ竜は一足にも満たない。
 先に攻撃する権利は、私のもの。
 
「――ふっ!」
 
 躊躇いなど欠片も持たずに。
 横からの斬撃を全力で放った。
 軌跡は敵の右脇へ真っ直ぐと。
 左腕で迎撃しにくい最良の一撃である。
 
「……っ!?」
 
 一瞬、身体を入れ替えて受けようとした血塗れ竜だが。
 咄嗟に転がって斬撃を避ける。
 大きな隙。
 当然、逃がすつもりは、ない。
 
 
 踏み込み、大上段からの一撃。
 右腕は地面に付いている。迎撃はない。
 異音を奏で、刃が血塗れ竜の脳天に――
 
 
181血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/11(火) 23:45:39 ID:JBrw5mZL

 
 がきん、と。
 転がっていた燭台で逸らされた。
 手は着地のために付いていたのではなく、これを拾うためだったか。
 そしてそのまま方向を逸らされ、腕が有り得ない方向へねじ曲がる。
 
 しかし、その術理は私が教えたものである。
 
 手首を切り替え、刃を引く。
 火花が散って、燭台がバターのように切断された。
 勢いそのまま、剣の刃は血塗れ竜の首筋を切り裂かんと真っ直ぐ走った。
 
 
 ざしゅ、と
 
 
 鮮血が、夜闇に舞った。
 しかし、その量は、頸動脈をかき切ったにしては少なすぎる。
 それもそのはず、血塗れ竜は、この刹那、右肩で剣の腹をかち上げて、一撃を凌いでいた。
 
「――つぁっ!?」
 
 痛みからか、少女が悲鳴を微かに零した。
 癒えきってない左肩を使ったこともあるのだろうが、
 
 何より、肩の肉がこそげ落ちたことによる、激痛だろう。
 
 剣の腹が擦れただけ。
 普通なら、傷が付くかすら怪しいものだが、生憎――私の剣は、普通ではない。
 
 純度錬度共に高い黒鉄の刃に、側面部は特殊な鉱物をまぶして造られている。
 表面を素手でなぞると、皮膚がずたずたに引き裂かれる仕様であった。
 本当なら、最初の一撃を敢えて受けさせ、右手をそのまま破壊しようと思ったのだが、
 刀身の奇妙な輝きや、振った際の異様な風切り音から察せられたか、受けさせることはできなかった。
 しかし。一連の攻防で確信したことがひとつ。
 血塗れ竜は、この剣への対抗策を、持っていない。
 
 剣を構える。
 刀身から例の捻りを入れられる恐れはない。
 あとは、懐に入れないようにして戦えばいいだけだ。

182血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/11(火) 23:46:16 ID:JBrw5mZL

 そう、思ったのだが。
 血塗れ竜は近寄ろうとはせず。
 何か考え込む素振りを見せ、己の足下を見つめていた。
 
 視線の先には、切断された燭台の欠片。
 
 銀製の柔らかいそれは、私の剣を受けて無惨にも破壊されている。
 武器にも防具にもならないただの破片。
 しかし、血塗れ竜は、それを拾い上げた。
 
 先程のように、防ぎながらこちらの剣を捻るつもりか。
 しかし、私がそれを防げることは証明済みだ。
 
 投擲するつもりだろうか?
 しかし、彼女の投擲程度なら、余裕で防げる自信があった。
 それは血塗れ竜もわかっているだろう。
 ――では、何故。
 
 疑問を裡に留めながらも、この隙を逃さず打ち込んだ。
 真一文字。
 首を胴から切り離すための、水平薙ぎを全力で。
 血塗れ竜が間に左腕を挟む。
 受けて、こちらの攻撃を逸らすつもりか。
 ――しかし、その術理は私が教えたもの。
 純粋な技術は血塗れ竜が勝っているが、原理は私も押さえている。
 
 そう、血塗れ竜に戦い方を教えたのは私。
 血塗れ竜は、私が教えた戦い方しか実行できない。
 それは何故か。
 簡単だ。体格に恵まれたわけでもなければ怪力を持つわけでもない。
 血塗れ竜が誇れるのは、相手の力の流れを見切る目と、思い通りに体を動かせる精密さだけ。
 そんな彼女は、相手の力や弱い部分などを利用しなければ、相手を傷つけることすらままならない。
 
 そう、非力なのだ。血塗れ竜は。
 故に私の教えた戦い方しかできず、
 素手の取っ組み合いならいざ知らず、剣を持ち術理を備えた私には太刀打ちできない、はず。
 
 だから、私は、この剣を、振り切っていい、はずだ。
 
 
183血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/11(火) 23:46:52 ID:JBrw5mZL

 血塗れ竜の、見切る力は、侮れない。
 どんな奇っ怪な攻撃ですら、大抵は初回で見切ることが可能である。
 もし、血塗れ竜が一定以上の腕力を誇っていたならば。
 あるいは、彼女は軍隊にも匹敵する怪物以上の存在となりえたかもしれない。
“高度な技術だけ”では、私のような、原理を知る者を倒しにくいからだ。
 もし、それを強引に押し通せる腕力があれば、
 私は防ぐこともできずに、そのまま剣ごと腕を破壊されるだろう。
 
 血塗れ竜の身体が沈む。
 しゃがんで避けるつもりだろうか。
 しかし、絶対に間に合わないタイミングだ。
 このまま、こめかみから上半分を斬り飛ばせる。
 
 
 刹那。
 
 
 剣に側面から力が加えられる。
 燭台の破片を使って逸らそうとしているのか。
 しかし、勢いの乗った刀身は、その程度じゃ止まらない。
 剣の腹を掴むこともできないので、ろくに力を乗せられないのは分かり切っていた。
 軌道は多少変わるかもしれないが、たとえ手首が砕けようとも、
 このまま真っ直ぐ振り抜いて、頭を半分にしてやるつもりだ。
 
 そう、思ったが。
 
(――馬鹿な!?)
 
 それは、“力が加えられる”なんて代物じゃなかった。
 
 
 バキン、と。
 
 
 刀身が――砕けた。
 黒鉄の剣が。
 まるで硝子のように。
 粉々に、砕け散った。
 
 
184血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/11(火) 23:47:32 ID:JBrw5mZL

 手首がありえない方向にねじ曲がる。
 がきり、と関節の外れる音が響いた。
 いきおい、肘までねじ曲がる。筋が痛むのを自覚した。
 
 
 
 今のは、なに?
 
 
 
 血塗れ竜の得意技を喰らったことは自覚できる。
 しかし、彼女の腕力では、ここまで強引な捻りは不可能だったはず。
 だから安心して、全力の剣撃を放ったのに。
 
 私の力を利用しつつ、
 とんでもない力を加えてきた。
 
 並の成人男性を遙かに上回る、怪力と呼ばれるような人種でないと出せない力を。
 そんなの、血塗れ竜の骨格では、全力で走り込んで叩き付けでもしない限り、不可能だ。
 渾身の一撃並みの威力を、拳ほども離れてないところから炸裂させる技術なんて――
 
 ――どこかで、見た覚えがある。
 
 そうだ。
 
 私も、見ていた。
 
 女性の体躯で、城壁すら破壊しうる零距離打撃を放った。
 
 
 ――ユメカ・ヒトヒラの技じゃないか。
 
 
 こいつ。
 まさか。
 いや、不可能ではない。
 どんな攻撃でも見切れる目があって。
 精密動作を瞬時に行える運動神経があるのなら。
 威力までは無理にしても。
 
 見たことのある技は、全て、真似ることができるのか。


185血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/11(火) 23:48:13 ID:JBrw5mZL
 
 
 今までは、私の教えた術理が一番効率的だったから、それしか行ってこなかった。
 しかし。
 それだけでは不可能と悟った血塗れ竜は。
 
 私の教えた技と、怪物姉の技を、組み合わせた。
 
 拾い上げた破片は、防ぐためや逸らすためではなく。
 手甲のように、手を保護する“だけ”だったのか。
 怪物姉のように鍛え上げられた肉体ではないため、素手のままでは自身が壊れるおそれがあったのだろう。
 
 
 砕けた剣の破片が、こめかみと肩をざっくりと切り裂いた。
 鮮血が舞う。
 やられた。
 剣は完全に破壊され、右腕は痛んで動かし難い。
 流血で、視界は半分赤く染まる。
 血塗れ竜はなお健在。
 このままでは、殺される。
 
 
 殺せると確信して挑んだつもりが。
 返り討ちにあって殺されるとは。
 情けなくて、涙が出る。
 でも。泣ける一番の理由は、負けたからではない。
 
 もう、ユウキに会えなくなる。
 ユウキを、自分のものにできなくなる。
 
 これが、一番、嫌だった。
 
 
 
 
 
「……?」
 しかし。
 血塗れ竜の、トドメの一撃は訪れず。
 私は訝しげに、小さな少女を見やった。


186血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/11(火) 23:48:51 ID:JBrw5mZL

「もう、いい」
 
 血塗れ竜は、淡々と。
 
「血の臭いで紛れたから。
 ユウキのニオイが消えたから。
 もう、アマツはいじめない」
 
 そう言って、ぷい、と横を向いた
 
 …………ああ。
 ……そういうことか。
 つまり、血塗れ竜にとって、私は、まだ、仲良くできる対象であり。
 
 
 それが、私との違いなのか。
 
 
 血塗れ竜が気付いたときには既に手遅れだった。
 左手。
 袖の内側に仕込んでおいた紐付き鉄球を、一挙動で振り抜いた。
 
 血塗れ竜対策として、もう一つ用意しておいた攻撃手段。
 たとえ攻撃を逸らされたとしても、自身の致命的な被害を被らない、武器。
 遠心力を利用したそれは、ねじ曲げたところで私は痛くも痒くもない。
 しかも、血塗れ竜は今、横を向いていた。
 
 かつん、と軽い感触が、あった。
 
 脳を揺らされ、床に転がる血塗れ竜。
 予想外の事態に、半ば死を覚悟していたが。
 結局、勝ったのは私だった。
 
「すまないな、血塗れ竜。
 アタシはお前のことは嫌いじゃない。
 でも――それ以上に、ユウキのことが、好きなんだ。
 ユウキのためなら何でもできる。
 ユウキを手に入れるためなら、何でも捨てられる。
 ユウキを、愛しているんだ。
 
 愛されたことのないお前には、わからないかもしれないけどな」
 
 
 
 
187血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/11(火) 23:49:37 ID:JBrw5mZL

 さて。
 それでは、トドメを刺さなければ――
 
 そう、思ったのだが。
 
「――今の音は何事だ!?」
 
 先程の零距離打撃の音を聞きつけたのか。
 監視員が、駆け込んできていた。
 しまったな。扉が開けっ放しのままだった。
 どうするか。
 邪魔をするなら、こいつもここで殺してしまうか。
 そしてユウキを連れて帝都を出る――それも、いいかもしれない。
 
 そう思って、一瞬だけ、血塗れ竜から意識を逸らしてしまった。
 
 瞬間。
 ばちんと、若木が弾けるような音がした。
 
 全身に衝撃。
 人間大の何かが。私の身体に張り付いた。
 
 
 血塗れ竜だった。
 
 
 こいつ、脳を揺らされ足下が覚束ないとはいえ、
 ――全身をしならせて、跳ねてきやがった。
 
 ここまでくると、もはや化け物以外の何者でもない。
 そうだ。こいつは血塗れ竜。
 人間ではなく化け物なのだから、脳を揺らした程度で油断してはいけなかったのだ――
 
「私だって」
 
「ユウキに、愛してもらえる」
 
 それは、竜の咆哮だった。
 魂の奥底から吐き出された、竜の根底で燃えさかるもの。
 
「だから、ユウキを、かえせ」
 
 どんな思いで吐き出されたのか。
 竜の瞳からは雫がこぼれた。
 でも。
 
「嫌です」
 
 頷くことは、死んでもできなかった。
 
 ユウキは、わたしのものなのだから。

188 ◆gPbPvQ478E :2006/07/11(火) 23:50:23 ID:JBrw5mZL
彼女らの兜の緒はゆるゆるです。このままじゃいけません。
ここに、スイッチがあります。
 
● 〔|白
十 〔|アトリ
人 〔|アマツ
 
押したら進化します。どれを押すべきでしょうか。
 
【選択肢】
A:血塗れ竜ってサイ娘の素質あるよね!
B:食人姫の姫はサイ娘の姫!
C:銀の甲冑はサイコ○○○○だよ!
D:あっ、間違えて全部押しちゃった!
 
あっ
189名無しさん@ピンキー:2006/07/11(火) 23:59:22 ID:SZUmtZWq
おおっと手が
rァD
190名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 00:07:57 ID:1SRXKYW1
D連打
191名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 00:08:49 ID:6+cyQjnN
そりゃもちろんしーだなあ
rァD

…あれ?
192名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 00:12:27 ID:9m8MApWI
ふう、こういうときはAからいこうか
アッー持病のエイリアンハンド症候群がッ
rァD
193名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 00:18:58 ID:ZlTmYYvG
右と左が一部入れ替わっているような気がするのは気のせい?

選択肢はどれも魅力的で選べない!
でも3人ともサイ娘になるなんてユウキがうらや……いや大変そうだからCで
194名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 00:22:12 ID:UJUSmdl/
180と181の右手と右腕があやしいね。
よし「書き込む」、と
rァD
195 ◆gPbPvQ478E :2006/07/12(水) 00:42:15 ID:Y0Kq0/4b
>>193>>194
ご指摘の通り、右と左が入れ替わってましたorz
>>180最後の「右腕は地面に〜」を左腕に
>>181中盤の「右肩で剣の〜」を左肩に
直して頂ければ、きっと違和感無しに……読めるといいなあorz
白は左腕一本です。右腕は残ってません。ごめんよ白。腕生やしちゃって。

とりあえず、無駄に長い戦闘シーンは今回で一旦終わりになると思います
後はひたすらに絡ませたいと思いますので、クライマックスまでお付き合い頂けると幸いです
196名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 00:46:58 ID:UJUSmdl/
ごめんもうひとつ
癒えきってないのはたぶん右肩だと思う
197 ◆gPbPvQ478E :2006/07/12(水) 00:51:51 ID:Y0Kq0/4b
>>196
Σ
かち上げたのは右肩で合ってたー!?
ご指摘ありがとうございます。
>>181で直すべきは「癒えきってない左肩」ですね
申し訳ありませんでした。
次から気を付けます……
198名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 00:52:06 ID:eQcAtJ1k
絡ませたいという単語に激しく期待(*´д`*)
みんなDばっかりだから違うのも押さなきゃなぁ

(;゚д゚)ァ.... ポチッ σD
199名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 00:52:17 ID:nITnCLnQ
戦闘シーン今回で終り?
えええぇぇ!!!?
じゃぁ白とアトリのお互い血塗みれの殺死合い見れないんですかァァ?!!!!
更に進化した強さを得た白がアトリをヌッコロス場面が見られると期待してたのに

と、取り乱して失礼しました
引き続き楽しみにしてますので頑張って下さい
200名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 00:53:43 ID:tbrOyEUw
ははは、お前らうっかりしすぎだぜ、俺くらい落ち着いて行動しないといけないぜ?まあ、とりあえず俺は、Aを押すぜ! ポチットナ D
201名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 00:57:53 ID:R4AHIYw0
絡ませたいって何かエロい匂いがするから・・・・

202阿修羅:2006/07/12(水) 01:11:11 ID:YBqYxSWy
>◆tVzTTTyvm.様
過去にタイトルを付けさせていただいた作品も含めて、
仮タイトル決定に至るまでの経緯をまとめました。
かなりアレな内容になるので、まとめはすれど、公開を躊躇しておりましたが、
時々、同様の質問があったこともあり、この機に公開することにいたしました。
ttp://dorobouneko.web.fc2.com/SS/namingMemo.html

>アビス様
事後報告となりますが、BLOODのサウンドノベルを掲載させていただきました。
スクリプトエンジンは独自のものでしょうか・・・?
とにもかくにもGJ!

>『沃野』『Wald』のサウンドノベルに関して
時々質問がきておりますので、お知らせいたします。
上記2作品に関しましては、ファイルサイズが大きいため、
海外のファイル倉庫のような場所にアップロードしてあります。
ファイルをダウンロードするためには、サウンドノベルページの
リンクを右クリックするのではなく、リンクから
「ダウンロード用ページ」を開き、そこにある「Clock here to download」
のリンクをクリックしてください。

スレの流れをぶったぎってしまって申し訳ありません。
作品をまとめながら、全ての作品を楽しく拝読しております。
できれば日次で更新したいところですが・・・・難しいです・・><
203名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 01:15:46 ID:84qdMS8K
Dの人気に嫉妬
204名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 01:16:54 ID:kn4sdrUk
>>202
わざわざ此方で有難うございます
205名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 01:28:55 ID:gaaLvN9W
>>202
阿修羅様いつも乙です。

rァ D
206名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 01:31:08 ID:84qdMS8K
管理人の人気に嫉妬しつつ乙カレー
207名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 02:26:57 ID:Hnph1/dF
ははは、おれはアマツの姐さん一筋ですよ?っと猛烈な眠気が・・・































(;゚д゚)ァ.... ポチッ σD






208名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 02:30:24 ID:1VXLQIVM
>>202
お疲れ様です、阿修羅殿。

おや?このボタンはなんだい?

(;゚д゚) ポチッ σD
209名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 02:38:54 ID:QA9HoDOE
ははは、お前ら欲張りだなぁw


ワシもじゃ!!ワシもじゃみんなッ!!
ぽちっとな
(゜Д゜)σ D
210 ◆M1igzo3EW. :2006/07/12(水) 04:21:02 ID:Mbfh9Qoz
ちょっとだけ復活(・・)ノ
ttp://1m.mata-ri.tk/src/1M0031.zip.html
パスはいつものアレ(syuraba)です。
中身はとらとらシスターの第1〜3回まで。少なめでゴメンナサイorz
フォルダ名が違うので上書きは起きないと思いますが、前のアレに上書きしないでください。

>阿修羅氏。
更新お疲れ様です&今更ですが結婚おめでとうございます。
夏の有明には自分も行くのでもしかしたらすれ違うかもしれませんねw
あと、snecはNScripterと同じくフリーのサウンドノベルツールです。
昔はとんでもなく重かったのですが、今は直ってるようですねw

みんな何DD言ってるの? 自分ところにはDしかボタンが無いんだけど……
おおっと 謎の引力が!?
211名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 08:11:52 ID:o89/U8c9
>>202
阿修羅氏が最近修羅場のようで嫉妬
ってこのボタンなんですか?

(;゚д゚) ポチッ σD
212名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 10:37:05 ID:0Bz6f4fy
rァ A
rァ B
rァ C
rァ D
213名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 10:51:17 ID:WPkO6wNc
最初から「全部」って選択肢があるなら選ばせる意味ないよね
214『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/12(水) 12:50:54 ID:Rm7zmF9k
「で?」
「で?……てなにが?」
保健室で目を覚ましたとたんにこれだった。セレナが鬼のような顔で立っていた。その隣りには葵が立っていた。
「なにが?じゃないでしょ!どうして学園祭に来てるのよ!?しかもこの娘と、私に内緒で!…来てくれるなら私に一言ぐらい言ってくれれば…」
「お前がこの学園の…しかも生徒会長兼、ミス朝野だなんて知らなかったんだよ。」
「だからって…葵と二人で見て回らなくたっていいじゃない。」
「招待受けといて、バラバラに動くのもおかしいだろ?それに、一人じゃあどこへ行けばいいかわからないしな。」
「でも…でも!」
言葉に詰まったかと思うと、キッと葵を睨み付ける。それに怯えたのか、葵も体を竦ませる。
「あなた……あの店に来た時から、私のこと気付いてたの?」
「はい……学園に居る時とは性格が違いましたけど、顔は覚えてましたから……」
「それでいて、晴也…私のハルに手を出したって言うの?自分が朝野だってこと黙って、私のこの立場も黙って!?」
だんだんとセレナの声が大きくなり、怒ってるのがわかる。
215『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/12(水) 12:52:35 ID:Rm7zmF9k
「だって…そうすることでしか、セレナさんに勝つ方法がなかったんです……絶対に、晴也さんは渡したくなかったから。」
「な?」
それは…つまり……
「はん、本性を現したわね。どう?ハル。この娘はこんなに卑怯なのよ?私を騙してまで……」
「騙してなんかいません!だって…初めて好きになれた人なんです…だから…」
「な!?」
初めて好きに……前々から慕ってはくれていると思ったが、それが好意だったとは……いや、たしかにそれを意味することは前からあったのかもしれない。
「初めて好きに?笑わせないでよ!私だってね、初めて好きになれたのはハルなの。しかも、あなたよりもずっと前にね。」
その目は、いつも冗談で好きだと言っているのとは違う、真剣な目だった。セレナは…ここまで本気だったのか。
俺は……俺の気持ちはどこだ?
「ハルが、ハルだけが、本当の私を見てくれる。ハルの前だけで、私は素直になれるの。……バイトで出会ってから、本当の自分がどいうものか、初めてわかったわ。」
バイトで…そうだ。セレナも最初の頃は困った奴だった。
216『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/12(水) 12:53:24 ID:Rm7zmF9k
セレナが初めてバイトに来た時、正にこの学園での『セレナ様』状態の、高飛車だった。
自分の仕事はしない、汚れるからゴミはいじりたくない、肌が荒れるから水に触りたくない……
俺自身出来た人間じゃないが、そんな俺から見た目でも、こいつのやってることにはかなり腹が立った。そしてその日の終わり、俺はロッカールームで激怒した。
他人にあそこまで怒ったのは初めてかもしれない。まず一言目に、『役立たずが!』と怒鳴り、あとは怒りのままに罵った。
もう明日から来なくていいとまで言い残し、その日は帰ったが、次の日にセレナは来ていた。前の日とは全く違い、能動的に働いていた。
「あの時、初めて人に怒られたわ……しかもあんなに本気で。褒めれたりされるのはあったけど、怒られたは初めて…。それで気付いたの。ハルが、私をちゃんと見ててくれるって。
生徒会長と、ミス朝野なんかがあっても、きっと関係なしにハルは怒ったはずよ。」
「いいじゃないですか!セレナさんにはミス朝野っていう座があるんですから!晴也さんは……私にくださいよ……」
217『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/12(水) 12:55:37 ID:Rm7zmF9k
「だめ!ミス朝野なんていらない!!ハルがいれば、私はそれでいいんだから!」
二人で怒鳴り合った保健室が、再び静寂に包まれる。すると…
「ふふ…そうね。」
セレナがなにか思い付いたのか、葵に近付き、なにやら内緒話しをしている。一通りそれを聞いた葵は、はい、と頷きなにやら戸惑った顔をしている。
「いい、葵?それで、ハルが私達のどったを選ぶかの勝負よ。恨みっ子なし。私達の好きなハルが決めることなんだから。」
「わかりました。それなら文句はありません。」
互いに再度睨み合ったあと、セレナは保健室をでていった。
「晴也さん…」
葵はまだなにやら迷いのある顔で話しかけてくる。
「その……今日、学園祭の最終日なんで、夜になると後夜祭があるんです。」
「ああ…」
「その後夜祭、ぜ、絶対に来てください!その…帰ったりしちゃダメですよ?きちんと最後までいてくださいよ?」
「了解。最後までみてくよ。」
「はい、それでは私には準備がありますんで、ここで失礼させていただきます。」
そう言い残し葵も出ていってしまった。
218名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 13:27:09 ID:5tiscWdJ
葵も可愛いがセレナも(・∀・)イイ!!な
219名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 15:59:54 ID:VRkwxA2b
確かにどちらもイイ!!
これからの展開に期待してるよ。
それにしても、阿修羅氏、大丈夫なのか?
220名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 16:26:54 ID:Lv/5f8Eq
無理はなさらぬよう>阿修羅氏
221『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/12(水) 18:38:45 ID:z0tFnLPS

 竹沢は実は依存症だけじゃなくて分裂病も患っているんじゃないか、そんなことを思う。
 でなきゃ二重人格だ。俺と一緒にいるときだけ第二の人格が表に出てくるんだ。
 「こ〜ちゃんそのクマおもしろいね〜、パンダみたいだよ」
 からからと笑うあどけない顔立ちの女は、俺が飛ばしている殺気を理解できないらしい。
 「だよなー、竹沢もそう思うだろ? 幸平、やっぱりお前どこからどう見てもパンダだぜ」
 黙れじ〜ちゃん。
 「そうじゃなきゃ極悪死刑囚のイカレた眼ね。何か病的なものを感じるわ」
 け〜ちゃん、アンタみたいなヤツとの仲を疑われたのが心から不快だよ。
 「こ〜ちゃん病院行き?」
 お前絶対喧嘩売ってんだろ?
 「しかも精神病院だな」
 ゆ〜ちゃん、それは違う。精神病院に行くべきは竹沢だ。
 「何かやってても精神鑑定で無罪かも」
 み〜ちゃんさり気に口悪いな。
 「それじゃあ世の怒れる群集の気が収まらないな」
 だからじ〜ちゃんは黙ってろ。
 井出淳から一字取ってじ〜ちゃん。
 お前のそのニックネームの面白さに比べたら、俺なんてペットボトルについてるみみっちいおま
けストラップよりもつまらないないさ。
 「俺だって好きでこうなったんじゃないって理解してらっしゃるか? 皆さんはよ……」
 「パンダが何か言ってない?」
 「舐めちゃいけねえぞ……奴らはファンシーでもこもこしたナリのクセしてかなり強暴だ」
 「そりゃクマ科だからな」
 「ええっ! クマの仲間なのに笹食べてるの?」
 「それは進化の過程でいろいろと――」
 「クマ科のパンダにクマがあるなんて完璧じゃないか! 良かったな幸平!」
 「あたしの話まだ途中……」
 「ああもう勝手にしろ……」
 ここまで無様に弄られると反論する気も失せてくる。
222『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/12(水) 18:40:26 ID:z0tFnLPS

 メンバーは男三、女三の計六人。
 隣同士で並んでいる縦列の男女別グループは偶に合体する。
 全員弁当組みなので昼飯を一緒に食う事も多い。
 今は授業と授業の短い間とはいえ、受験生の貴重な休み時間を浪費中だ。
 しかし竹沢も何でこんな似偏った呼び名を好き好んで使うんだ?
 誰が誰だかわからないだろう、これじゃあさ。

 「でっ、どうしてそんなことに? 寝たの何時?」
 グダグダな談笑に話題転換をもたらす役割はこのグループでは大抵決まっている。
 鈴木悠也、通称ゆ〜ちゃん。テンション低めだが話のわかる渋い男だ。
 伊達に将棋部で主将をしていたわけではない。風格あるね。後光が差してるよ。
 「四時過ぎまで半眼でパソコン凝視しながら文書作成をせっせとやっててさ……」
 日付が変わる直前まで通話していたせいで、だ。
 相手は言わずもがな、斜め前の席で人畜無害に咲いている向日葵。
 連続着信がなかった代わりに連続通話すること数時間。
 通話料は俺持ちじゃないからいいけどさ、時間はそうもいかねえんだよ。
 「その程度でそこまでいくってヤバいんじゃねえの? 体力なさ過ぎだろ。これだから三年間家
に帰るだけの青春を過ごしたヤツはよー」
 じじいの戯言は無視。気遣えよ、友達を。
 中途半端に睡眠とってるから、かえって授業中寝れなくて辛いんだよ。
 今は逆にその眠気がぶり返してきてダウンしかかってるんだけど……。
 「そうか……新川君って三年間帰宅部だったよね?」
 「……ああ、そのせいで中央委員にさせられたんだし」
 み〜ちゃんのみは天野美貴の美貴。
 自己主張は少なめだが、基本的に流れに沿った発言をする常識人。
 質問に俺は、春の委員会決めでの無所属への風当たりの強さを思い出す。
 「うわあ、それは大変だ。寝不足もそうだし、同情するよ」
 「暇人が忙しくなっていいことじゃない」
 け〜ちゃんは以前紹介したとおり、セカンドネームが圭だから。
 元バスケ部、その部員はほとんどが大雑把でガサツで気さく。偏見なしにこいつも該当。以上。
 それにしても声が大きいんだよ……。寝不足の頭痛が悪化するからもっと静かに話してくれ。
 しかも体調不良の人を捕まえて何て言い草だ。
 「本橋は天野の爪の垢を煎じて飲め。そうだこの際、天野になれ。そっちの方が俺も幸せだ」

 「こ〜ちゃんはみ〜ちゃんがお気に入りだねえ」
223『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/12(水) 18:43:15 ID:z0tFnLPS

 ……しまった。怒りに任せて口が滑った。
 ほんわかした言い回しにぞくりとするのはもう脊髄反射だ。
 心なしか『お気に入り』のアクセントが一段階強い。
 本日放課後の問い詰めの話題に追加オーダー。
 「やったねみ〜ちゃん」
 「あんまり嬉しくないかな……」
 「まあ例えみたいなものだから……」
 微妙に本音が混じってそうなところにちょっと傷付くが、これで何とか上手く軌道修正を――
 「本橋が天野の女の子っぽさを見習ったほうがいいとは俺も思うぜ。いや、セクハラとかじゃなく
てさ。本橋と話していると何か……」
 しかし、ナチュラルに暴露トークを開始した老害のせいで、俺の思惑は大きく外れてしまう。
 「男友達みたい?」
 「自覚してるのか……」
 「自覚してたんだ……」
 悠也と天野のダブルパンチ。
 普段そういうことを言わない人間からのイメージのほうが大きいんだろう。
 さすがにゴーイングマイウェイの本橋も肩を落としてガックリしてみせる。
 「やっぱり男から見ると、美貴みたく料理上手でお淑やかのが気に入るんだろうけどさ……」
 「そんなことはな――」
 そこから先を言わせては――
 「幸平が惚れ込むほどの腕前だしな」

 何てことをっ! だからお前は黙ればよかったんだっ!!!

 もはや淳の存在自体が余計に思えてきた。
 お前が言ったことは『パンがないならお菓子を食べればいいじゃない』クラスの失言なんだぞ。
 革命起こされて断頭台で処刑されてもおかしくないんだぞ。
 「こ〜ちゃん感激してたもんね」
 ああ……もうだめだ。
 この弾んだ科白の裏に隠された真意にどうして誰も気付かない?
 ……いや、俺だってほとんど聞き分けられないけどさ。
 「……あれは天野が自炊してるって言うから、味見で食べたわけで……」
 これと浮気の言い訳がどう違うか、無知な俺には全くわからないな。
 「『足が綺麗に外側にカールしてる。見た目完璧にたこだな。これは美味そうだ……。ん? い
いのか? なら一つ……美味いな。湯で加減も塩加減も完璧じゃないの? 他のメニューも豪華
だな……。これを全部天野一人で作ったのか……信じられないな。俺、料理できる人はそれだけ
で尊敬に値すると思うよ』――大絶賛オール十点で百点満点な褒め殺しだねっ!」

 にこっ。
224『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/12(水) 21:04:02 ID:RzBl3Wqe

 つい感動して饒舌になってしまった当時の俺を恨む。
 無垢な笑顔が……恐い。
 般若の前で立ち竦む。そんな純粋な恐怖とは違う恐ろしさがある。
 どちらかと言えばあやし方のわからない赤ん坊を抱えている感覚に近い。
 つまり、何時泣かれるか気が気でないってことだ。
 ……頼むから我慢してくれよ。
 分裂病でも二重人格でもいいから誰かに竹沢の二面性がバレるのだけは避けたい。
 教室でくっ付いてたらバカップルどころか社会不適合者だ。
 しかも片方が泣いてるなんて俺がクズな彼氏みたいじゃないか。
 ……まあ確かに俺のせいではあるんだけどさ。
 全面的に罪を認めても情状酌量の余地は少ないと思えてきたんだよな……。
 むしろ、竹沢にも落ち度があるような……、あるに決まっているような……。

 「おい、幸平。幸平?」
 今更になって責任の所在に不安になってきた俺を悠也が呼び戻した。
 「何?」
 「その調子で授業大丈夫なのか? 居眠りなんかしてたら受験生の心構えが足りないと
かで、みっちりと苛められるぞ」
 「問題ないって。ただ考え事してただけだ。それでどうした?」
 次は英語。延々と問題演習をする授業は現状では確かに脅威だが、乗り切るしかない。
 「お客さん」
 短く単語だけ言って悠也は入り口を指差す。
 慣れない三年のフロアでも物怖じせず、その冷静沈着さに狂いはない。
 端整な顔立ちと大和撫子な髪型のその女子生徒は、
 「麻衣実ちゃんか」
 「誰なの? 上履き青だし二年生だよね」
 「げっ、可愛いじゃん! しかも名前にちゃん付けかよっ?」
 「雫ならともかく新川がそんな呼び方してるなんて……。しかも年下で可愛くて性格もし
っかりしてそうな上玉。そうか……これが奇跡か。初体験だわ……」
 「早く行ってやったらどうなんだ?」
 四者四様のリアクションが返ってくる。
 「だ〜れ〜?」
 いや、お前は知ってるだろ。俺と麻衣実ちゃんについては何度も揉めたし。
 それとも印刷室の扉越しに声を聞いただけだったのか?
 それもありえない話じゃないけど、声だけであそこまで騒がれるのも参るな。
 「委員の後輩だよ。少なくとも俺の分の弁当も持参してくれるような仲じゃない」
 取り敢えず紹介しておく。
 用件は業務連絡が妥当だろう。
 タイミングがいい、今日から現場復帰できる事を伝えておこう。
 山ほどある謝罪と感謝はその時になってからゆっくりとだ。
225『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/12(水) 21:05:17 ID:RzBl3Wqe
 「俺様クールな男を気取ってる新川がちゃん付けで? 嘘はいけないわねー、裏でコッソ
リ付き合ってんでしょ?」
 「古傷が痛むなあ……。前の彼女のこと思い出しちまった。幸平、お前は幸せになれよ」
 「……お前らそれやってて楽しい?」
 半ば呆れながら席を立った俺は麻衣実ちゃんのところへと――

 くいっ。

 行けなかった。
 「あれっ?」
 脇腹に圧迫感。引っ張られていて前に進めない。
 悪い予感がある。そして予感とは悪い時だけ当たるものだ。

  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 今、本橋と淳は誰と誰を恋人扱いした?

 緊張が空気を変える。
 その影響下にあるのは俺だけだが、他人じゃないならそのことに意味はない。
 嫌な汗が噴出してじっとりとシャツを濡らす。
 脈拍が速くなる。鼓動が胸を叩いている。
 冗談にしては笑うどころか心臓発作でも起こしてしまいそうなブラックジョーク。
 俺は機械のごとくぎこちなく振り返る。

 ……最悪だ。これなら人格間の区切りがはっきりしているほうがずっとマシじゃねえか。


 ――竹沢が、俺のワイシャツの裾を引っ張っている。

226『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/12(水) 21:10:27 ID:RzBl3Wqe
何故か急に回線がつながらなくなってしまって、
急遽ネカフェから書き込みました。
それでもなかなかつながらなくて、気付けばもう
三時間くらい経っています。

作者様方、住人の皆様、私の不手際でスレの流れを
止めてしまい、真に申し訳ありませんでした。
227名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 21:13:00 ID:R4AHIYw0
>>226
2ちゃんがまるまる鯖落ちしててみんなが書き込めなかったから神のせいではないよ。
それにしても乙。
依存が凄すぎて感動
228名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 21:14:53 ID:XUs4BPpg
いや、2ch落ちてたんだし、(正確には経路障害だが)
皆3時間くらい2ch見れなかったから気にする事無いぜよ

ネカフェまで行った責任感に感動した!
229名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 21:27:17 ID:eQcAtJ1k
作者様GJっす
竹沢たまらねぇ(*´д`*)
依存っ娘いいなぁ、やっぱり
230名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 23:10:36 ID:C/XAdezX
投下しますよ
231『とらとらシスター』Side青海:2006/07/12(水) 23:14:24 ID:C/XAdezX
 初めて虎徹君を見たときの感想は、普通、の一言だった。問題児だという表現が正しい
のかは分からないが、彼の周囲では問題が多いというのは聞いていたし彼の『詞食い』と
いう何やら物騒なあだ名も聞いていた。しかし実際に目の当たりにしてみると、ごく平凡
としか言いようのない人間だった。問題を起こすのは専ら彼の姉や妹だし、普段の素行や
成績などを調べてみても問題はない。勉強も運動も中の上、身長は平均よりかなり高めだ
がそれだけ。個性と言えばそのくらいの男だと思った。
 だが調査を終えようとしたその日に、彼への印象は大きく変わった。呑助と彼が名付け
たらしい仔猫を拾っているときの、優しい目。それが印象的だった。
 その日からすっかり惚れ込んでしまったわたしは、彼しか見えなくなってしまった。
 そして今、その彼と一緒に居るという事実は私を舞い上がらせた。朝に告白に答えてく
れただけでも充分嬉しかったのに、こうしてでーとをしているということを確認するだけ
で股間が熱くなってくる。昨夜に充分慰めたのに、やはり想い人が隣に居るというのはそ
れだけで大分違うものらしい。歯止めが効かなくなりそうなのを必死で堪えているものの、
それでも自制心が効かなくなりそうになって虎徹君の横顔を見た。
 さっきからしきりに後ろを向いているようだが、どうしたんだろう。
232『とらとらシスター』Side青海:2006/07/12(水) 23:15:04 ID:C/XAdezX
 少し気になり視線の先を辿ってみると、そこには誰も居ない。いや、違う。その視線の
先にあるのは、ホテルだ。夜になると明るくネオンが灯もるであろうその看板には、通常
のホテルの表記にある宿泊の文字の他に、休息の単語が書かれていた。
 成程、彼もやはり人間、健康な男子高校生ということか。
 失望、という気持はない。寧ろ嬉しいという気持ちがある。だが奥手な彼のことだ、更
には優しい性格も手伝って言い出せないのだろう。それなら、なるべくわたしに気付かれ
ないようにしていることにも納得がいく。
 わたしは、いつでも大丈夫なのに。
 だが、彼が言い出してくれるまでは敢えて言わないのが、恋人としての務めというもの
だろう。はしたない女だと思われるのは構わないが、彼の気持ちを無下にすることだけは
絶対にしたくないから。
 また向いた。
 いつ言い出してくれるのだろうか。ご飯をわたしが食べさせるどころか、手を繋ぐのも
恥ずかしがっている彼だから、言い出すのは少し遅くなるだろう。しかし、それでも構わ
ない。待つ楽しみも、知っているから。
 しばらく歩いていると、喫茶店に入った。彼が言うには馴染みの店らしく、慣れた様子
で店主と鳥に挨拶をして奥へと向かった。座ったのは、外からは覗かれない窓のない席。
そのさりげない優しさに、再び股間が熱くなる。
233『とらとらシスター』Side青海:2006/07/12(水) 23:18:35 ID:C/XAdezX
 虎徹君に渡されたメニューを見てみると、意外に数が多かった。虎徹君は既に注文が決
まっているらしく、何を頼むか悩むわたしに一々言葉を返してくれる。さんざん考えた末、
決まると手早く店主を呼んで注文。
 そのあとの軽い話で、幸せなことと辛いことが一つずつ出来た。
 幸せなことは、わたしが虎徹君の初めての彼女であること。
 辛いことは、馴染みの店と言うからには、虎徹君はしょっちゅうあの姉妹とここに来て
いるということだ。
 そして、今になって分かったことも一つ。
 わたしは、意外に独占欲が強いらしい。それとも、嫉妬深いと言うのだろうか。兄弟で
どこかに遊びに行き、仲良く珈琲でも飲みながら楽しく話す。そんな当たり前の光景を想
像してみると、彼の姉や妹に対して敵意が湧いてきた。これは今に始まったことではなく、
昨日虎徹君に告白した前後から度々こうなった。彼が仲良くしている対象が例え身内でも、
そう思ってしまう。それどころか、男のユキに対してもだ。極力表に出さないようにして
いたし、自分で気付かないようにしていたけれど、改めて自覚した。
 いけない、思考に没頭していた。
 慌てて虎徹君を見てみると、彼もぼんやりとしていた。二人ともこうしているなんて、
傍目から見たらさぞ滑稽だろう。デートの筈なのに、心も体も離れたままだ。
234『とらとらシスター』Side青海:2006/07/12(水) 23:21:08 ID:C/XAdezX
 個人的にはこんな表情の虎徹君も堪らなく良いと思うので眺めていたいが、彼に恥をか
かせる訳にはいかない。それに、もしかしたらわたしに非があるのかもしれないし、そう
だとしたら彼に対して失礼だ。股間を濡らしているべきではない。
 いけない、いけない。
 再び虎徹君に目を向けてみると、何故か壁に頭突きをしようとしていた。それ程までに
彼は追い詰められていたらしい、心配になって彼に尋ねてみると、返ってきたのは予想を
遥かに上回る答え。はにかんだ表情で発せられた『美人』という単語に、意識が一瞬刈り
取られた。
 美人。
 ビジン、びじん。
 意識を取り戻してみると、グラスが倒れていた。テーブルの端から垂れた水が股の部分
にかかり、幸か不幸か割れ目が濡れていたのを隠してくれた。これが神のおぼしめしであ
るのなら従うべきなのだが、それはないだろう。間抜け過ぎるにも程があるし、第一虎徹
君にみっともないこところを見せてしまった。
 嫌われただろうか、と思って虎徹君を見てみると、顔が綻んでいた。悪い意味ではなく、
ごく自然な表情でこちらを見つめている。その上、緊張も緩んだらしくゆっくりとではあ
るけれど話も走り出した。
 
235『とらとらシスター』Side青海:2006/07/12(水) 23:24:06 ID:C/XAdezX
 始めに持たされた感想は辛いものだったが、しかし一区切りの部分で流れが変わった。
好きではなかった、という言葉は辛いものだけれど、これからの道を示す言葉が脳髄に染
み込んでくる。
 快い。
 その口から流れ出てくる言葉はわたしの心を揺さぶるもので、改めて虎徹君のことを好
きにさせてくれる。永久に続けばいいと思っていた時間は、しかしわたしに答えを求めた
所で途切れた。
 今が駄目でも、これから供に歩いていこう。
 そんな意味合いを持つ甘美な言葉、それの答えは当然決まっている。
 そう、これから虎徹君と歩いていくのは二人の、二人だけの道。それには、他の不純物
は要らない。あの忌まわしい『姉虎』や『妹虎』も、必要ない。虎徹君は優しいから家族
を大事に思っているようだから少し反対をするかもしれないけれど、すぐに必要ないと分
かってくれるようになる。
 何だ、簡単。
 一度自覚が出てしまえば、次々と沸き上がる気持ちを理解するのも難しくなかった。
 あのうざったい二匹の虎は、はっきり言って邪魔者だ。ことあるごとに突っかかってく
るし、毎回毎回わたしと虎徹君の邪魔ばかりする。大体、二人とも何なのだろう。虎徹君
の妻だという言葉を言ったり、過剰に触れ合ったり、虎徹君の迷惑になっていることが分
からないのだろうか。それなのに、わたしが少しでも動こうとするとすぐに気配を察して
動こうとする。まるで恋人気取りで、誰にも取られたがらないように。
 始末におえない、まさに噂通りの虎だ。
 しかし、決めた。
 人を泥棒猫呼ばわりしてくれたが、そんなつまらないものには成らずに叩き潰してやる。
猫なんて可愛らしいものじゃない、獰猛で、気高く、美しく、強い虎だ。相手が虎ならば
こっちも虎になるべきだ、敵は引き裂き食い千切る。泥棒呼ばわりでも構わない。
『泥棒虎』
 その言葉を心に刻み、しかし表面では笑みを浮かべて虎徹君と目を合わせ、答えた。
「供に、歩もう」
 二人、だけで。
236名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 23:30:43 ID:y5YTbZbx
終わったかな?
丁寧な心象描写でどのキャラも立ってるね
今後の展開が非常に楽しみでなりませんですよ?

詞食い←まだ語られて無いけど、渋いあだ名ですなぁ
237ロボ ◆JypZpjo0ig :2006/07/12(水) 23:30:57 ID:C/XAdezX
今回はこれで終わりです

『歌わない雨』のときと同じ書き方ですが、この方法(メイン+Side)は自分では
気に入っていますけれど、進みが異常に遅く(約二倍に)なります
そこが辛い

サウンドノベルは嬉しいんですが、パソコンが今は事情があって使えないので見れません
イラストがあるのなら、その詳細を教えて下さい
文中でも使いたいので
238名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 23:32:14 ID:eQcAtJ1k
GJっす
青海の心理が予想以上にグッとくるので
(いい意味で)変態な姉妹とどっちを応援するべきか真剣に悩む・・・
そんな20代後半の夏
239名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 23:32:51 ID:eQcAtJ1k
下げ忘れた・・・
刺されてきますorz
240名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 23:38:40 ID:R4AHIYw0
この変態っぷりが最高!
エロいのがくると心がワクワクする
241アビス  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/12(水) 23:43:13 ID:Dxx25bBW
投下します
242姉妹日記 14話  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/12(水) 23:44:42 ID:Dxx25bBW
 ハサミを振り上げて、秋乃が私に突き立ててくる
 直前でそれをよけた
 ハサミがベットに食い込み、秋乃はそれをひきずり裂いていく
 そして、涼くんの縄を解く
「もう、ダメ・・・・私・・・・三日も、私以外の人が涼と・・・・しての・・・・見せられたのよ」
 どういうこと?
 いまいち状況はわからなかったけど、今はどうでもよかった
「も、誰にも渡さない・・・・涼は・・・・私の・・・・なんだから!」
 涼くんの胸に頬ずりしたあと秋乃はまた私にハサミを向けた
「私、いま・・・・なにするか解らないよ?妹でも・・・・殺しちゃうかも・・・・」
 瞳孔が完全に開いている秋乃がハサミを無軌道に振り回した
 でも、引けない・・・・ここで引いたら私は一番に欲しいものを永遠に失うことになるから
 もう、待つのも我慢も嫌!
「私は・・・・涼くんのことをずっと!」
「私は知らなかった・・・・春乃にとってはつらいことかもしれないけど、仕方のないことなの」
 一瞬顔を伏せ思い切り上げると秋乃は笑んだ
「恋愛ってね、失恋する人もいれば実る人も居るの・・・・私は後者・・・・春乃は前者なの」
 顔を歪める秋乃、生まれてからずっと一緒だったけど・・・・こんな顔を見るの初めてだった
「私と涼は心も身体も深く繋がってるの・・・人の取っちゃいけないんだよ?常識だよね」
「それは、でも・・・・私は涼くんと結婚の約束を・・・・」
「それ以上、涼くんを惑わすようなこと言うな!」
 な、怖い・・・・でも・・・・でも・・・・でも!
 私は・・・・好きなんだもの!諦めるなんて出来ない
「ダメだよ・・・・私ね、三日も地獄を見たんだよ?もう病気みたいなモノだよ・・・・これ以上刺激しないでよ」
243姉妹日記 14話  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/12(水) 23:45:13 ID:Dxx25bBW
 その言葉が脅しではないというのは、十二分に解る
 私は近くにあったカッターを素早く掴むと秋乃に向けた
「なに?ダメな子の春乃が私に歯向かうの?」
 やっぱり、ずっと前からそんな風に思っていたんだ!
「可愛そうな春乃ちゃん、勉強もできなくて・・・・落ち着きなくてがさつで、モテるようなこと言っても嘘なのも知ってたよ」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そんなことどうでも良かったの、私は春乃ちゃんを認めていた、行動力があっていつも明るくて・・・・・」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
「でもね、私の大事な者を取ろうとするのは許せないの!」
 少し後ろに下がり反動をつけ私に突きつけた
 私は怒りと憎悪の念を腕に込め震えを抑えて応戦する
「や、やめ・・・・ろ!」
 刹那、涼くんがよろめきながらも素早く私たちの間に割って入った
 そして腕から感じる生々しい感触・・・・
「りょ・・・・涼・・・・どうして・・・・」
「キミに・・・・そんなことさせたくなくて」
 秋乃の頬に自分の手を重ね涼くんは笑んだ
「愛してるよ・・・・秋乃さ・・・・ん」
 秋乃の頬を紅に染め背中にカッターを、お腹にハサミを刺された涼くんがその場に倒れた
「嫌・・・・嫌ぁぁぁぁ!!!!!」
 混乱しているくせに秋乃は必死で止血をしている
 私はただただ、唖然としその場を見つめているだけだった
244姉妹日記 14話  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/12(水) 23:45:44 ID:Dxx25bBW
「大丈夫かな、二人だけにして・・・・」
 食料を買いだめするため私をお姉ちゃんは近くにスーパーに買い物に行っていた
 その帰り道私は不安な心を少しでも消そうとお姉ちゃんにそう呼びかけた
「二人ともちゃんと縛ってあるし、大丈夫よ・・・・・」
 でも・・・・・
「あんなことして・・・・私たち」
「これはね、涼ちゃんの目を覚ます為には仕方のないことなの、それとも涼ちゃんがあのままあのメス豚に汚されてもいいの?」
 私はハッとして首を思い切り横に振った
 他の女と付き合うと言われたとき
 家を出て行くと言われたとき
 もう、あんな想いをするのは嫌・・・・
「そうよ、それでいいの・・・・ふふ」
 お姉ちゃんが振り返って笑むと同時に私たちの横をサイレンを鳴らした救急車が私たちのマンションの方からやって来て抜けていった
 その時の寒気とあの感覚を私は今でも忘れない
 帰るとマンションに人だかりが出来ていた
 野次馬がこう言った
「男の人が事故かなんかで刺されたって・・・・・」
「女の子二人が必死で呼びかけていたわね・・・・・大丈夫かしら、あの男の子」
 その瞬間私たちの楽園は崩壊した・・・・・
245アビス  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/12(水) 23:52:05 ID:Dxx25bBW
サノベの二章アップしました。
例によって私はシナリオだけ、他はすべて友人君が作成しました
パスはメル欄で・・・・
http://upload.jerog.com/up/moe5618.zip.html
246名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 23:55:44 ID:5tiscWdJ
片方の姉妹が油断している隙に修羅場キター!このまま鮮血の結末になってしまうのか(((( ;゚Д゚)))アワワワワ
>>226
ナイス依存っ子だな、愛しすぎるぜ!
>>235
虎vs虎姉妹の対決クルー!
247アビス  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/12(水) 23:56:58 ID:Dxx25bBW
書き忘れました、すいません
バグ等ありましたらご報告ください
それとサノベが読みにくいのは友人君のせいではなく私の書き方のせいです
どうかご了承くだい
折角なので、ブラッドの追憶編はサノベ限定にしようかなと思います

管理人様・・・・お手数ですが、ブラッドの追憶編の削除をお願いいたします
        なんかリアルで大変なことになっているようですが、頑張ってください
248アビス  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/12(水) 23:58:16 ID:Dxx25bBW
また説明力不足だ・・・・orz
サノベのでなく、SSのほうの追憶編の削除です
無駄なレス多くしてすません
249名無しさん@ピンキー:2006/07/12(水) 23:58:36 ID:eQcAtJ1k
GJっす
涼くんに・・・幸せは訪れないのか・・・
いい奴なのだが、フラグ建てすぎ・・・か
250 ◆tVzTTTyvm. :2006/07/13(木) 00:21:48 ID:m/tB4957
※この話は第17回の途中
内容的には羽津姉の卒業直後


 大丈夫、きっと大学で吹っ切れる出会いにめぐり合える。

 と

 大学では色々な出会いが待っていた。 でも、どうしてもときめかない。

の間の部分に入り込む話になります
251振り向けばそこに… ◆tVzTTTyvm. :2006/07/13(木) 00:23:25 ID:m/tB4957


 ・   ・   ・   ・ 


「今年も同じクラスになれたね。 端岬クン」
 高校最後の春、始業式を終え新しい教室に入った俺――端岬 祥は伊藤に声を掛けられた。
 そして声のした方を振り返り応える
「あぁ、そうだな今年もヨロシク」
「でも凄いよね。 三年連続で同じクラスだなんて」
 そうなのだ。 伊藤とは一年、二年と続き三年でも同じクラス。
 見ようによっちゃ腐れ縁と言えるほどの仲かも。
「そうだな。 三年連続同じクラスだなんて凄い偶然だよな」
 俺がそう言うと伊藤は一瞬不満そうな顔に変わったが、すぐに笑顔になり口を開く。
「うん、高校生活三年間同じクラス」
 一瞬見せた表情に不思議な感覚を覚えるが、まぁ気にするほどじゃないか。
 去年比較的親しくさせてもらった、割と気心の知れた伊藤と同じクラスになれたのは、
まぁ今後の学校生活を送る上で良い事なのかな。
 でもとりあえず俺の胸のうちは別のことで一杯だった。
 そして油断すると其の事で直ぐ頬が緩みそうになる。

 昼、昼休みを告げるチャイムが鳴るや否や腹をすかせた生徒達が食堂めがけ一斉に駆け出す。
 俺も直ぐに教室の扉を抜け駆け出した。だが向かう場所は食堂じゃない。屋上――何故なら……。

「端岬クン!」
 だが扉をくぐった所で呼び止める声がした。 誰だ、と思い声のした方を見れば伊藤だった。
「何? 伊藤さん。 用なら出来ればめし食った後にして欲しいんだけど」
 俺がそう言うと伊藤は戸惑いながら口を開く。
「あ、あのそっちは食堂じゃないけど?」
「ああ、分かってるよ。 屋上に向かうんだよ。 一緒に昼飯食う約束してるんでな」
 俺がそう言うと伊藤は驚いた顔で尚問い掛けてきた。
「え? だ、だっていつもお昼ごはん一緒に食べてた姫宮先輩はもう卒業していないのよ?」
「ああ、分かってるよ」
「だ、だったらなんで?」
 そう訊いた伊藤の顔も声も酷く戸惑ったものだったのかも。
 だがそのときの俺には疾る気持で一杯で気に留めてる余裕は無かった。
「時間無くなるんで行くな。 じゃぁな」
 
 屋上へ向かって駆ける俺の背後に尚も伊藤の声が聞こえるが、既に俺の耳に入っていなかった。

252振り向けばそこに… ◆tVzTTTyvm. :2006/07/13(木) 00:24:08 ID:m/tB4957


 屋上の扉を開けて見回す。 居ない……。 チョット早く来すぎたか。
 そして暫らく待ってると……。
「祥おにいちゃんお待た……」
「結季ー――!!」
 俺は声の主に――結季向かって駆け出し、そして歓喜の想いを全身で表し抱きしめた。
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ祥おにいちゃん」
「あ、悪い悪い。 ずっと待ちわびてたものでよ」
 俺がそう言うと結季は呆れたように、でも微笑みながら呟く。
「そんなにお腹すいてたの?」
「それも確かにあるけどよ。 分かってるんだろ?」
 俺がそう言って笑うと結季は笑って応えてくれた。
 其の笑顔にまた俺はたまらなく幸せな気持に満たされる。

 そう、ずっと待ちわびてた。 結季とこうして恋人同士になれる日を。
 そして其の気持をこめて再び抱きしめようとしたら……。
「もう、だから落ち着いてってば。 お昼食べないと本当に時間なくなっちゃうよ?」
 そう言って俺を制した結季の顔には呆れたような、照れ臭いような。でも幸せそうな笑みがあった。
 其の微笑にまた俺の胸は幸せ一杯に……、ヤベ涙出そうだ。

「にしても祥おにいちゃん はしゃぎすぎじゃない? 少しは弁えたら」
「しょうがねぇだろ。 やっとお前と二人っきりになれると思うと嬉しくて嬉しくて嬉しくて……」
「そりゃわたしも祥おにいちゃんと二人っきりになれて嬉しいよ。
でもね、ちょっとはお姉ちゃんの事も考えて?」
 俺は其の声と視線に込めあれた非難の色にハッとした。
「わ、悪い……。 そ、そうだよな羽津姉の事考えて無かったわ……」
 少々うかつすぎた。
 もう気付けば半年以上もたつけど、俺は結季と付き合いたい一心で羽津姉の気持を袖にし、
挙句弄ぶような真似までしたんだ。
 自分のしでかした事とは言え思い出すと自己嫌悪に陥いり気持が沈んでいく。

「解ってくれた?」
 俺は結季の言葉に頷いた。結季の顔から険が取れ、そして俺の頬にそっと手を添え微笑んでくれた。
「ゴメンね。 キツい事言っちゃって。 でもね、ちゃんと忘れずに心に留めておいて?」
「あぁ、勿論だ。 それより本当、調子に乗りすぎて悪かった。
これからはちゃんと心のうちに留めておくよ」
「うん、じゃぁ食べよ」

 その時俺たちを遠巻きに見つめる視線があったことに俺は全く気付いていなかった。
253振り向けばそこに… ◆tVzTTTyvm. :2006/07/13(木) 00:25:18 ID:m/tB4957


 ・   ・   ・   ・ 


「……誰よ……! 端岬クンと一緒にいるあの女はっっ…………!!」
 端岬クン――端岬 祥クンと見知らぬ女の子が仲睦まじく話し、楽しそうに昼食をとる様子を
私――伊藤綾子は憮然と見つめていた。

 4時限目が終ったその時。 昼食を継げるチャイムが鳴るや否や教室を飛び出した端岬クン。
 別に其の事自体は本来なら何の不思議も無かった。
 だってお腹をすかせた男子生徒が食堂めがけて駆け出すのは極自然な事だもの。
 でも端岬クンが向かったのは食堂ではなく屋上。

 昨年度までだったならそれも別に何の不思議も無かった。
 端岬クンは姉のように慕っていた姫宮先輩といつも屋上で一緒に昼食をとるのを日課にしてたのだから。
 其の事は正直私にとっては面白くなかった。
 何故なら私はその時も今も端岬クンに片思いしてたのだから。
 尤も見事なまでに玉砕してたのだけど……。
 だから例え端岬クンが姫宮先輩に対し姉としてのみ接していると分かっていても、
それでも好きな男の子が他の女の子と仲良くしてるのなんかやっぱり面白いわけが無い。
 だからと言って其の事を口に出すべきではない。 なのに以前それで大失敗しちゃった。
 あの時は、告白に玉砕した時ほどでは無いものの物凄く落ち込んじゃったし、
自分の浅はかさに後悔もした。
 でもかろうじて愛想つかされたり絶交されたりせずに済んだ。
 こういうの首の皮一枚で繋がったって言うのかしら。

 それからは私は慎重に動く事にした。 あくまでもクラスメイトよりもほんの少しだけ近い距離。
 其の距離を保ちつつ少しずつ親交を深めていく。
 其の一つが食後のデザート。
 本当はデザートなんかじゃなくてお弁当を作ってあげて一緒に食べたかったんだけど、
でもそれはさっきも言ったように無理だったから。 ……悔しいけど。
 だから……欲張っちゃ、焦っちゃ駄目。

 でも、ちょっと危ない時もあった。
254振り向けばそこに… ◆tVzTTTyvm. :2006/07/13(木) 00:26:21 ID:m/tB4957
 あの日、いつものようにお昼ご飯を終えて教室に戻ってきた端岬クン。
「お帰りなさい端岬クン。 ハイ、これ」
 そう言って私はデザートを差し出す。
 最早日課になっていた私にとってのささやかだけど一日を通じて最も楽しみな一時。
 その頃には果物だけじゃなく手作りのタルトやパイ、ゼリーやプリンも持ってくるようになってた。
 そしてこの日も手作りのサクランボのゼリーだった。 
 我ながら自信作の出来だったので食べてくれるこの時がとても待ち遠しかった。

 だけどその日は少し違ってた。 いつもだったら端岬クンは直ぐに手を伸ばし食べてくれたのに。
 それに表情も何だか硬かった。 そして重そうに口を開いた。
「ねぇ、何でいつも俺にこうしてくれるわけ?」
 其の言葉に私は一瞬言葉に詰まる。 でも気を取り直して口を開く。
 出来れば抱かないで欲しいと思ってた疑問だけど、でも正直予想もしてたから。
 いつかこんな事聞いてくるんじゃないかって

「え、えっとね。 本当に美味しく出来たのかどうかやっぱりヒトからの感想とかも聞きたいから」
「ふーん。 でもそれなら女子のクラスメイトにだって」
「勿論友達にも食べてもらってるよ。 でもね、男のヒトの意見もやっぱ訊きたいわけで」
「でもそれだったら別のやつでも良いんじゃね? 例えば田辺とか。
伊藤さんとは従兄弟同士だったよね?」
「コーちゃん? 駄目よ、だってコーちゃん甘いのあまり好きじゃないんだモノ。
それに他の男の子達は今年になって同じクラスになったあまり面識の無いコ達ばっかだから」
「でもそれならそれで、これを機に親睦を深めるとか……」
 そう言いかけた端岬クンの言葉を遮るように私は口を開く。
「あの……若しかしてご迷惑でした……?」
 途端に端岬クンの貌に戸惑いの表情が浮かぶ。
「い、いや全然そんな事無いよ。 じゃ、じゃぁ頂きます」
 そう言って端岬クンはゼリーに手を伸ばしてくれた。
「ハイどうぞ召し上がってください」
 そして私は微笑んで応え、心の中で安堵の溜息をつく。
 どうにか乗り切れた。 この繋がりだけは護らなくちゃ。
小さな儚い繋がりだからこそコレを失ったら益々絶望的になっちゃうから。

255振り向けばそこに… ◆tVzTTTyvm. :2006/07/13(木) 00:27:23 ID:m/tB4957


 私のこの行動、友人達は健気でいじらしいと言うけれど別にそんな立派な物じゃ無い。
 私にだって十分見返りとメリットはあるのだ。
 ささやかでもこういう事の繰り返しはきっと端岬クンの心の中の私の存在を大きくしてくれる。
 それに、そんな観念的なもの以外にも私にはもっと大きな見返りがあるのだ。 それは……。



 学校が終り家に帰りつき部屋に入った私は鞄からゼリーを入れてたタッパを取り出す。
 朝出たときには入ってたゼリーは当然入ってない。
代わりに入ってるのは使用済みのスプーンとサクランボの種。
 そう、端岬クンが昼間ゼリーを食べる時使ってたスプーンと口から出した種。
 私はタッパの中の種を摘まむと口の中に含む。
 種に付いてる端岬クンの唾液が溶け出し私の口の中で私の唾液帰途交じり合う。
 目を閉じ舌で転がすとまるでディープキッスでもしてるみたいな恍惚とした感覚が沸き起こる。
 そして私はスプーンにも手を伸ばすとそれを私の秘所へと持っていきそっと当てる。
「ひゃぅ……!」
 思わず声が漏れる。 端岬クンの使ってた……端岬クンの唾液がついたスプーン。
 それが今私の秘所に触れてる。
 瞳を閉じれば、それはまるで端岬クン自身の指が、舌が私の秘所に触れてるような、
そんな恍惚とした錯覚が陶酔感を伴い込み上げてくる。

 最早日課になった私のこの自慰行為。
 始めた当初はこんな自分に自己嫌悪に陥ったり、我ながら引いちゃったけど、でも止められなかった。
 こうでもしなければ私の端岬クンへの思いは押さえられなかったから。
 そして続けるうちに自己嫌悪の気持も薄れ慣れてくる。 やがて思うようになる。
 そう――これは将来の為の予行練習なんだ、って。
 実際このような自慰行為がどれだけ実際の交わりに役立つかなんて分からない。
 でもね、少なくともメンタル面でのイメージトレーニングにはなるはずだよね。

 始めてが上手く行かなくて気不味い関係になっちゃうカップルの話を聞いたことがある。
 そうならない為の予行演習……。
 そう、これは将来私が端岬クンと付き合うようになった時の為に必要な行為なのだ。


 私と端岬クンが付き合う。
 もし人に話したんなら――誰にも話すつもりは毛頭無いけど、相手はきっと呆れられるかも。
 告白玉砕したくせに諦めてなかったのか、と。
 確かに私は玉砕した。 でもね、それは交際を阻む邪魔な存在――姫宮先輩が居たから。
 実際には幼馴染なんだけど端岬クンとは実の姉弟のような間柄。
 でもそれは何時までもって訳じゃない。
 年が離れてる以上必ず私達より早く卒業する。 だからそのときをジッと待つ。
256振り向けばそこに… ◆tVzTTTyvm. :2006/07/13(木) 00:28:24 ID:m/tB4957

 待って、待って、待って、待ち続けて……
そしてやって来た端岬クンと初めて出会ったときから三度目の春。
 どれほどこの日を待ちわびたであろう。
 姫宮先輩が卒業した今ならきっと端岬クンは私を受け入れてくれる。
 しかも今年もまた同じクラスになれた! コレはもう運命的としか思えない。
 ココまで来るのに丸々二年間もかかっちゃったけど、でもこれで私の思いを阻むものは無い。

 私は教室で三度同じクラスになれた端岬クンに声をかける。
<でも凄いよね。 三年連続で同じクラスだなんて>
 三年連続なんて私にとって正に運命的だった。 なのに端岬クンったら……
<そうだな。 三年連続同じクラスだなんて凄い偶然だよな>
……なんて、折角のこの運命的な出来事を偶然の一言で片付けちゃうんだもの。

 でも良いの。 状況がお膳立てが全て揃ったんだからあとはリベンジの告白をするだけ。
 大丈夫、一年間コツコツ育んできたこの絆は決して無駄じゃない。
 去年は障害になってた端岬クンの姉同然だった姫宮先輩ももう居ない。
 何時告白しようかな。 でもあんまり焦るのも良くないかな。 先ずはお昼ご飯一緒に食べよう。 うん、そうしよう。 早くお昼にならないかなぁ。

 そして待ちに待ったお昼時間。
 でも端岬クンはチャイムがなるや否や教室を飛び出し――え、何で屋上へ向かうの?
 捕まえて問い掛けても生返事で屋上へ向かって駆けていってしまった。
 私は何が何だかわからず追いかけ、そして屋上で見たもの。
 それは――


「……誰よ……! 端岬クンと一緒にいるあの女はっっ…………!!」
257 ◆tVzTTTyvm. :2006/07/13(木) 00:30:30 ID:m/tB4957
今回はココまで 伊藤の話 まだ続きます

>>188
rァD やっぱコレっきゃないでしょw

>>202
阿修羅様お答えありがとうございます
成る程、揺れる、傾ぐ様子からメトロノームでしたか
自分メトロノームと言われるとピアノなどの練習用器具としてしか浮かばなかったので盲点でしたw
どのタイトルもしっかり読み込んだ上で付けて下さったのが伺えます
其の姿勢に頭が下がります 改めてタイトルつけてくださったことお礼申し上げます
ありがとう御座いました

今後も無理なさらぬ程度に頑張って下さい
258名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 01:08:11 ID:/yDozzeE
>>245>>257埃も変わらずGJ!ごちそうさまでした。

それにしても涼といい祥といい、俺達が喉から手が出る程欲しいフラグを何本持って行くんだっ・・・!ちくしょうっ・・・!
259名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 02:15:13 ID:5RFWEo/5
>>258
なあブラザー。
俺の心の中を代弁してくれてありがとう。
260名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 03:43:18 ID:2fZxUnTz
一手で白が黒くなったり黒が白くなったりと
オセロみたいな彼女たちが好きです。
261名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 06:37:16 ID:KO6rxb7f
過去2回もsageが大文字ですいませんでした。こんどは大丈夫なはず。
では投下します。
262教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/13(木) 06:42:29 ID:KO6rxb7f
朝日が薄暗い海岸を照らし始めた頃、樹は夢を見ていた。
それは走る弥生を樹が追いかけている内容だった。
走っても走っても全く追いつけなかった。
(弥生さん、行かないで!)
たまらず叫んだら、弥生は走るのを止めて戻ってきた。
戻ってきた弥生を樹は捕まえて抱き寄せた。
(もう離さない…)
すると弥生は優しく樹の頭を撫でた。



「う〜ん…」
弥生はまだ寝ぼけながらもうっすらと目を開けた。
「いつの間に寝たのかしら…そういえば昨日は…はっ!」
昨日の夜の体の異変を思い出して、慌てて異常がないか見てみた。
幸いにも目は見えるし耳も聞こえるし手の感触もある。
見える所には異常は見当たらないし、気分や痛みなども特に問
題はないようだった。
「よかった…これも樹が薬を飲ませてくれたおかげね…ん?そういえば…。」
弥生は昨日の出来事を思い出した。
(え…と、たしか…樹から貰った薬を飲もうとしても見えなか
ったから分からなくって…確か樹が…口で…直接…え?え?え――――!!!)
思い出して弥生は真っ赤になった。
(一応ファーストキスなんだけどな…まあいっか。)
「ZZZ…」
隣を見ると樹がしかめっ面して寝ていた。
「これで助けられたのは2度目ね…ありがとう」
すると樹が寝言をボソボソと言った。
「弥生さん…行かないで…むにゃむにゃ」
「い、樹…」
驚いた弥生はそっと寝ている樹の頭を撫でた。
「大丈夫よ。私はここよ。…しかしどんな夢見てるのかしら…ふふっ」
安心したのか樹はすやすやと寝入った。
そんな樹の姿を見て、弥生はとても幸せなのを感じた。
「ずーっとこうしていたいわね…。」
暫くしたら今度は手が動き出した。
「な、なに?どうしたの?」
口をもごもごして、また寝言を言った。
「晴香ちゃん…そんな所舐めないで…あん」
「!」
今考えると、寝起きの弥生さんは機嫌が悪かったんだろう。うん。
263教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/13(木) 06:44:53 ID:KO6rxb7f
「よし!天気も良いし今日も頑張るか!!」
「海の家 深海魚」のオーナーが到着し、店を開け始めた。
「おっと、樹たちを起こすか」
そう思って二階に上がろうとしたら、上から物音が聞こえて来た。
「なんだ、もう起きてるのか」
しかし、なんか様子が変だ。
悲鳴や叫び声、物が壊れるような音が聞こえて来たのだ。
「いたたたた、み、耳は引っ張らないで!取れちゃう!」
「樹!!朝っぱらからなんの夢みてんのよ!!」
「え?え?夢?…ああ、中々いい夢でした…あだっ!」
「ばか―――――!!!なによ!なによ!!よりにもよって晴香の夢なんか
見て!!浮気もん!!私のファーストキス返せー!!うわーーん!!!」
「弥生さん落ち着いて、何がなんだかさっぱり…ちょ、椅子は
投げないで!がはっ。」


「お、お二人さんおはよう…」
「おはようございます………いたた」
「ふんっ!」
哀れ、樹は服は破れ、あちこち引っかき傷や打撲、顔には青
タンなどぼろぼろの状態だ。

「しかし凄いな…痴話喧嘩か?」
たぶんオーナーは冗談で言ったんだろう。樹もはは…と笑って
真に受けていないだろう。ただ一名を除いて。
「あれ、弥生さんどうしたんですか?真っ赤ですよ?」
見ると弥生は真っ赤になりながら指をモジモジと動かしていた。
「痴話喧嘩………夫婦…」
「もしかして熱でもあるんじゃないですか?」
樹は弥生の額に手を当てた。
「!!!」
しかし特に高いというほどではないようだ。
「うーん、あれだけ暴れられるなら、大丈夫だと思いますけど
…昨日のこともあります
から大事をとって今日は休んで…」
「だめ!!私も出る!」
そう、弥生は休めなかった。今日から多分晴香の猛攻撃が来る
ことは簡単に想像できる。
自分が傍にいなければあの晴香のことだ。岩陰に引っ張りこん
だりして何するか分かったもんじゃない。
「でも…。」
「大丈夫よ。無理はしない。危なくなったら休む。だから…」
自分の体より晴香の動向のほうが危険極まりないのだ。
「…分かりました。でも無茶はしないで下さいね。」
よし!これで後は樹から離れなければ大丈夫ね。さあ来なさい!


「ふわぁ〜よく寝た。」
久々に寝たーって感じね。ここんとこ寝ても仮眠ばっかりだっ
たから寝た気がしないのよね。………あれ?なにか忘れている
ような…………時間は…7時!!
264教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/13(木) 06:52:27 ID:KO6rxb7f
「あ――――――――――――――――!!!!!!!」
「ん〜?あ、晴香ちゃんおはよ〜。ふわぁ〜」
「なんで?なんで寝てんのよ!!夜に樹さんに夜這いかける予定だったのにー!!」
悔しさと自分に対しての怒りでいっぱいだ。
「晴香ちゃ〜ん、そんなに焦らなくても今日やればいいじゃん。」
晴香は凄い形相で麻奈美を睨みつけた。
「麻奈美!あんたも知ってんだったら起こしてくれてもいいのになんでよ!!」
すると麻奈美は困った顔をして
「だってぇ〜晴香ちゃん、呼んでも揺すっても起きないんだも〜ん。」
「うっ………」
まったく使えない女ね。まあいいわ。ぐっすり寝たから体力はバッチリね。
今日はあのチビをギャフンと言わせるわ。…ん?妙に涼しいわね。
「あれ?なんで私裸なの?」
「え〜?晴香ちゃん覚えてないの〜?あちぃ〜って言って自分で脱いじゃったんだよ〜。」
えー?寝呆けてたのかしら。まあここには麻奈美1人だから
別に見られてもいいけど、出来れば樹さんに見せたかったな〜。…ん?
「ずいぶん私濡れてるわね。こんなに汗かいたのかしら。」
「けっこう暑かったからね〜。朝食の前にシャワーでも浴びたら?」
「そうね、そうするわ。」

運転手が作る朝食は冷たいスープにサンドイッチと、シンプル
なのだが味は絶品だった。
「しかし、美味しいわね。よく食材もってきたこと。」
料理人兼運転手は深々と頭を下げた。
「有難うございます。お口に合うか自信は無かったのですが。」
「そんなことないよ〜おいしいよ。」
聞けば食材など、余り保存が利かない物は現地調達しているらしい。
しかし食材もそうだが料理の腕も一級品だ。

とりあえず食べるものは食べたし、今日の予定を考えた。
「午前中はバイトだからお店に遊びに行って、午後は砂浜でスイカ割りでもしようかしら。」
今日はまだ様子見にしておこう。エンジンを掛けるのはもう少し後だ。
「晴香ちゃん、佐藤さんの隣にいたおチビさんはどうするの〜?」
晴香はニヤリと笑い
「ふん、あのチビね。関係ないわ。同棲しようがしまいが私たちの仲に割り込め
るわけないわ。邪魔してきたら、体格差で負けるわけないんだからボッコボコにしてやるわ!」
「わ〜さすが晴香ちゃん、直接的〜。」
(しかしあのおチビさん、どこかで見たような顔ね…)
265教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/13(木) 06:53:30 ID:KO6rxb7f
「いらっしゃいませー空いてる席へどうぞー。」
「おやじさん、4番に焼そば1、お好み焼き1」
「ありがとうございました。合計1200円になります。」
やはり今日も大入り満員状態だ。見ると店の外にも列が出来ていた。
やはり弥生さん目当てということか。見るとお客さんの視線は弥生に集中していた。
当の本人はその視線を鬱陶しがっていたが、どうしようもないので諦めていた。
そんな時、入り口から聞きなれた声が聞こえて来た。
「樹さーーーーん!あなたの“彼女”の晴香ちゃんが来ましたよー!」

目の前にある列なんか無視していきなり店に乗り込んできた。
「ちょっとあんた!皆並んでいるんだから割り込みはダメよ!」
弥生は注意したが、当の晴香は、弥生を汚い物を見る様な目で一瞥し
「別に食べにきたんじゃないわよ!チビは引っ込んでな!
…樹さん、午後からデートしませんか?あ、もちろん樹さんさえよければですけど。」
「いきなりだな…」
正直言えばこないだのデートは途中だったし、その原因を考えると晴香ちゃんに
悪いことしたからお詫び、ということで…
「終わってから何もなければ、でいいなら良いよ。」
「樹!!!」
「本当?やったー!じゃあ午後迎えに来るから!」
一瞬晴香と弥生の視線が交差した。
(勝った!)
(ぐ………。)

あっという間の出来事で呆気にとられたが、弥生は樹に近づいた。
「ちょっと!どういうつもりよ!なんで晴香とデートなんかするのよ!」
「うーん、前回のデートが途中だったし、せっかく海に来たんだから思い出に、と思って」
その樹の無神経に弥生は思いっきり脛を蹴飛ばした。
「!!!!!!!!!」
声にならない叫びを出して蹲ったが、弥生は無視して仕事に戻った。
(なるほど、あくまでも直球勝負ね…)
266教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/13(木) 07:00:59 ID:KO6rxb7f
「ねえねえ晴香ちゃん、なんでさっきわざと周りに聞こえるように言ったの?」
ここは浜辺。マットを敷いてオイルを塗り、太陽に身を預けていた。
周りには明らかに、麻奈美の色気に誘われたアホどもが群がっていた。
ただ、晴香の殺気の篭った視線で近づけないでいた。
(まるでラフレシアに群がるハエね。)
そんなラフレシアこと麻奈美の質問に晴香は勝ち誇ったような顔をして
「ある程度人がいて、関係者がいる所で声高らかに宣言しておけば、それは既成事実になるわ。」
たぶんあのチビ、おおっぴらには何も言ってはいないわね。
何も言わないどころか体の関係もないはずだわ。
いくら同棲していてもあんな小さい子に樹さんは手を出すはずはないわね。
だったら言ったもん勝ちってもんよ。
「まあ要は既成事実を積み上げていくのよ。そうすれば邪魔者が来てもどうってことはないわ。」
(それの最終兵器が妊娠なんだけど、こればっかりは私1人じゃ無理ね
…全く私の子宮もちゃんと着床してよね。)
「ふ〜ん、まあいっか。晴香ちゃんとスイカ割りなんて楽しみだな〜、
あ、そうだ、背中に晴香ちゃんオイル塗って〜」


「お二人さん、とりあえず休憩してもいいよ。だいぶお客さん
も減ったしね。おっと樹くんはこれからデートだったね。」
樹と弥生はやっと休めることにほっとし、とりあえずちょっと遅いお昼を頂いた。
「ふう〜疲れた〜、食欲無いけど食べるもの食べないと…」
「そうね。」
ぶっちゃけ殆ど食欲はないが、この後晴香ちゃんとデートがあるので
少しでも食べとかないと持たないだろう。
しかし…弥生さんさっきから殆ど喋ってないような…。
そんなことを考えていたら、急に弥生の箸が止まり、樹を真っ直ぐに見た。
「樹…本当にデートに行くの?どうしても?」
弥生の顔は今にも泣きそうなのを何とか堪えているような、そんな顔をしていた。
しかし一度約束してしまった以上、行かないとなったらあの晴香のことだ。
なにするかわかったものじゃない。
「ええ。ちょっと行ってきます。大丈夫ですよ。別に何もしま
せんし、遠くにも行きません。ちょっと遊んだら帰ってきます。」
樹はかなり楽観的に考えているようだ。だが、火の付いた晴香はそれでは終わらないだろう。
もしかしたら蟻地獄のように物陰に引きずりこんで、青姦ぐらいはやりかねないだろう。
(なんとかしないと…)
267教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/13(木) 07:03:02 ID:KO6rxb7f
「それじゃあ行ってきます。」
「おチビちゃん、おとなしくお留守番しててね〜」
迎えに来た晴香は樹と腕を組んで、引っ張っていくように行った。
(なによ!樹にべったりとくっ付いて!少し離れなさい!樹も!何鼻の下伸ばしてんのよ!)
1人残った弥生はお店の裏にある松の木の前に立った。
晴香に対する怒りが爆発し、力いっぱい松を蹴った。
「はあはあ…なによっ」
弥生の目の前の木に突然、晴香が立っていた。
(あらあら、なにをそんなにイラついているの?)
「あんたが存在しているからよ!」
(私の存在は樹さんあっての私だからねー)
弥生はイライラが抑えられなくなってきた。自分でもなにを言
っているのか分からなくなってきた。
「それはアンタの理屈じゃない!アンタの存在なんて消えちゃえばいいのよ!」
(ふぅ…なにをそんなにイライラしてるの?)
「別に!」
(…こんなに好きなのに樹さんは振り向いてくれない、気づい
てくれない、求められても応えることができないけど、元に戻
ったら同棲する理由が無くなるから家を出て行かなければいけ
ない…八方塞りね)
「あんたになにがわかるのよ!」
(まあ色々…ね。そもそも樹さんにちゃんと気持ちを伝えた?
伝えてなくてあーだこーだ言ってんだったらそりゃ無茶よ。)
「……………」
(万が一断られたら、とか考えて臆病になるのもわかるけど、
はっきり言ったほうがいいわよ。)
「勝手なことを言わないで!」
(それに大体あなた、そのちっちゃい体で樹さんを喜ばせるこ
とができる?キスできる?エッチできる?仮に出来たとしても
樹さん、喜ぶかしら?)
「今は出来なくでも元に戻れば大丈夫よ!」
晴香は挑発的な笑みを浮かべて顔を近づけてきた。
(だったら少しだけ元に戻してあげる。)
「え?」
(ちょっとの間だけ元に戻してあげるわ。それでどこまで出来
るか…うふふ)
それだけ言って晴香は消えた。気が付くと弥生はただ呆然と、
松の木の前で立っていた。
「白昼夢だなんて…薬の影響?」
それにしても幻を見てから、どうも体の調子がおかしい。
「心臓の動悸がはげしいわ…また副作用?」
しかし痛みは無いし、晴香から目を離したら大変だ。
「とにかく後をつけるか。変なマネはさせないわよ!」
樹が向かった方へ向かおうと歩き始めたその時、心臓が熱くなった。
まるでオーバーヒートでもしているような感じがして、倒れこんだ。
「がはっ…な、なに?」
吐血し、全体的に膨れたような感覚を覚えて、ふと腕を見ると
血管という血管が浮き出て激しく波打っていた!
「夕子ちゃん!いたいた。…どうしたの?い、一体その体は…」
丁度オーナーが通りかかって、弥生の異常を発見した。
「お、オーナー、樹が向こうに、ハアハア…いるから、呼んでき」
そこまで言って弥生の意識は消えた。
268教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/13(木) 07:05:17 ID:KO6rxb7f
「それでは次の挑戦者、10回転どうぞ〜!」
「それじゃ〜回すよ〜、い〜ち、に〜、…きゅう〜、じゅう!」
なぜかすごいギャラリーが集まって、大スイカ割り大会が始まってしまった。
ただスイカを割るだけじゃ面白くない、ということで賞品を付
けたらギャラリーから飛び込みで参加希望がでちゃったので、
さながら一大イベントになってしまった。
ちなみに賞品は
「目隠し回転10回でスイカを割れたら割ったスイカをプレゼント」
「目隠し回転20回でスイカを割れたら賞金2千円」
「目隠し回転30回でスイカを割れたら賞金1万円」
「目隠し回転50回で素手でヤシの実を割れたら主催者からあつーいキッス!!」
「目隠し回転***回で**で刺客を斃せたら丸一日主催者がアナタにご・奉・仕♪」

えーと、ヤシの実も無茶ですが、最後の回転***回って…
「麻奈美ちゃん、麻奈美ちゃんちょっといい?」
「あ〜佐藤さん、なんですか〜?」
どうもこの子、苦手なんだよな。口調もそうだけどなんか…ほのかに
敵意を感じるような気がするんだよな。
「あの最後の「回転***回」の刺客ってだれ?」
麻奈美はう〜ん、と唸りながら口に指を当てて
「特別に佐藤さんには教えちゃいましょ〜。刺客は私のお抱え運転手のことですよ〜。」
「お抱え運転手?強いの?」
麻奈美はまたう〜ん、と唸りながら口に指を当てて
「たぶん、そこら辺の人よりは強いですよ〜。」
ということはあの最後の賞品は出す気ないってことか。
「それにしてもスイカだってタダじゃないのに、いいの?」
キョトンとした麻奈美だったが、ニッコリと微笑んで
「あ〜、大丈夫ですよ〜。参加料5百円ですから〜。」
金とってんのかよ!とはつっこめないが、ぼーっとしていそうなのにちゃっかりしてんな…。
暫く見学していたらいよいよ晴香ちゃんの出番だ。
ギャラリーからも拍手喝采を浴び、俄然盛り上がってきた。
「樹さーん、見てますかー!賞金ゲットしますよー。」
賞金ゲットってことは、30回転か…大丈夫かな?
「それでは回転スタート!い〜ち、に〜い、さ〜ん、」
あ、そんなに気合入れて回転しなくても…
「さ〜んじゅ。はい、ではスタート!!」
晴香はバットを握って、なにか考えているようだ。
「ふっ、少々回転したぐらいじゃ、私の三半規管は目を回したりしないわよ。そこだー!」
まるで見えているのか、晴香は一直線に走った。
晴香ちゃん、そこは―――
「ガンッ!!」
269教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/13(木) 07:08:03 ID:KO6rxb7f
大きく右に走った先、そこは砂浜に埋められた木の棒だった。
「いつきさ〜ん、……きゅう」
あちゃー、モロ顔面激突だよ。あ、麻奈美ちゃんが優しく介抱しているようだ。よかった。
「樹くん、ちょっと」
袖を引っ張られた感覚と共に、誰かに呼ばれたので後ろを振り返ると
「あれ、おやじさん、どうしたんですか?」
「ちょっとこっちに来てくれ」
そう言って樹を人ごみから少し離れた所まで引っ張った。
「どうしたんですか?…真剣な顔して」
「…夕子ちゃんが倒れた。樹くんの名前を頻りに言ってるんだ。早くいってくれ。」
それを聞いた瞬間、樹は走った。
後ろから「店の二階だよー」と聞こえたので、真っ直ぐお店まで全力疾走した。
(まさか、昨日飲んだ薬の副作用が?)
もしそうだったら大丈夫だ。
(命の危険は無いけど、なにが起きるか…)
お店に着き、二階へ上がった。不思議と樹は冷静だった。ドアの前まで来て、息を整えノックした。
「弥生さん、樹です。開けますよ。」
返事は無いが、樹は静かにドアを開けた。
中に入って、樹は息を呑んだ。本当に今目の前で布団に寝かされているのは
弥生さんなのか?自分の目を疑った。
樹の目の前、それは体中の血管が浮き出て、波打っている弥生だった。
どうやら意識はあるのか弥生は樹の方を見て
「樹…見ないで…こんな姿見せたくない…」
弥生は余りの恥ずかしさからか顔を背けて泣いていた。
そんな姿を見て樹は静かに近づき、優しく手を握った。
「何いってんですか!どんな姿になっても弥生さんは弥生さんですよ!」
樹は力強く言った。
「それにごめんなさい、傍にいるって言ったのに肝心の時に居なくて心配かけて…」
それを聞いて弥生は首を振った。
「そんなことないわ。だってこうしてちゃんといるんだから。」
270教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆2LEFd5iAoc :2006/07/13(木) 07:12:45 ID:KO6rxb7f
「弥生さん………」


「説明しますと、今起きてる症状は昨日飲んだ薬の副作用です。」
樹は弥生に丁寧かつ正確に説明した。
「一番最初に飲んだ、若返り薬の副作用は体験してもらった通
り命の危険がありました。」
副作用の話は事前に聞いてはいたが、まさかあそこまでとは思
っていなかったので樹は自分の詰めの甘さを痛感した。
「それで若返り薬の副作用を緩和するために、教授が作ったの
が、昨日飲んだ薬です。」
弥生は顔を真っ赤にしていた。たぶん口移しを思い出したんだろう。
「ただ、確かに若返り薬の副作用は緩和しましたが、今度は教
授が作った薬の副作用があり、それがいまの症状です。」
「薬の副作用を直すために薬を飲んで、直ったと思ったらまた副作用…堂々巡りね。」
弥生は心底疲れたような声で言った。樹も苦笑いするしかなかった。
「でも、今の副作用はちょっと心拍数は上がりますが、命の危
険は無いはずです。それに収まれば二度と発症はしませんので、そんなに心配する
ことはないですよ。ただ………」
「ん?ただ何?」
弥生は不思議そうな顔をして樹の方を見た。
「い、いえ何でもないです。思い違いだったらがっかりさせちゃうし…」
(もしかしたら体に劇的な変化が…)

夜の帳が下り、浜辺も先ほどまでの喧騒など忘れて静かになった。
周りに人気はこの店にいる二人だけのようだ。
ちょっと前にオーナーが来て様子を見に来たが、別に痛みや気
分の悪さなどは無いということを聞いたので安心して帰っていった。
樹はというと、先ほどから電話をしていた。どうやら晴香にス
イカ割りを途中で帰ったのがばれて泣かれているようだ。樹は
さっきから謝っているようだが、私からしてみればデートをほ
っぽって来てくれたことが嬉しいし、晴香にはいい気味だった。
電話が終わったら樹は疲れたような顔をしていた。
「はあー、まいったな。」
「どうしたの?」
樹はとても言いにくそうな、困った顔をして
「スイカ割りの件で晴香ちゃんが「なんで先に帰っちゃうの?
これからだったのにー!」って泣くわ喚くわで…結局明日の「
ベストカップル大会」に出るってことで収まりましたけど…」
「へー、そんなイベントがあるんだ。私も出たいな」
「飛び入り参加も出来ますから、直ったら出場しますか。」

他愛無い話をしていて日付が変わったころ、ついに弥生の体に変化が現れた。
「樹、痛くはないが、何か体が引っ張られるような感覚が……」
「やっぱり始まりましたか!大丈夫です!落ち着いて下さい。」
弥生を見ると、少しづつ大きくなってきていた。
そう、弥生の体だけ時間が早く進んでいるようだ。
着ていた服が破れて、さらに大きくなっていったが、とまる気配はないようだ。
「い、樹、なんだこれは、まるでゴムみたいに縦に伸びる感覚だ。ア、ア、アーーーーー!」




「ふうー、やっと収まった。ん?なんで樹後ろを向いてるの?え?後ろの鏡を見ろ?
なんなのよ…、ん?、あれ、誰これ…え、ちょっと待って…これって私?…………
元に戻ってる―――――!!」

第四話「危機のキキ」完
次回第五話「楽しいジカン」
271名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 07:16:56 ID:KO6rxb7f
本来のプロットではもっとキツイ展開(レイプや暴行)だったのですが、
だいぶソフトになってますね。
朝の投下は辛い…さて仕事に行くか
272名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 08:22:03 ID:IZic1Vbg
僕はレイプだとかは苦手だからちょうどいいですよ
GJです あぁwktkがとまらない
273名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 08:26:15 ID:cJyM6ws8
ついに晴香と弥生さん(大)の激突か!?
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)  
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +
274『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/13(木) 10:57:00 ID:jqCv90+1
結局それから後夜祭が始まるまで、俺は保健室で考えていた。自分の気持ちを決めるためだ。セレナと葵は二人とも好きだと言ってくれた。
じゃあ俺は?
「……わかんねぇって。」
憧れであったセレナ。一緒いると楽しい葵。どちらを選んでもどちらかを傷付ける。
「両方…なんてありえないしな。」
それじゃあただの優柔不断なだけだ。ここまで何かに悩んだのは初めてかもしれない。人生最初の大きな悩みが女性問題とはな。
「まさか自分がこんなことで悩むなんてな……」
運命というのは突如分岐点が設けられるものだ。神がいたとしたらそれは相当いたずら好きだな。ま、居るとは思わねぇがな。
そうやってうだうだしていると、急に放送のチャイムが鳴る。
「御来校の皆様、これよりグラウンドで後夜祭を始めます。学園祭最後のイベントとなりますので、奮ってご参加ください。」
時計を見ると六時。あたりももう暗くなっていた。こんな中でイベントをやるとは、どんなやつなんだ?
そういや葵が絶対に来いっていってたな。
「いくか…」
俺は重い腰を上げ、保健室を後にした……
275『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/13(木) 10:58:24 ID:jqCv90+1
「お!こりゃすげえな。」
暗い中でイベントが出来る理由が分かった。馬鹿でかいグラウンドのど真ん中で、キャンプファイヤーをしていたのだ。
その炎は全く消える様子もなく、辺りを明るく照らしていた。
「葵とセレナ……どこへいったんだ?」
肝心の二人が見当たらず、人込みを掻き分けながら探していると、急に周りの奴等が騒ぎ始める。
何かと思い、皆が見ている方をみると、少し離れたところにある特設ステージのようなところに、見覚えのある影が………
「セレナ?……と、葵まで?」
セレナなら生徒会長だからまだわかるが、何故葵まで?あいつ執行委員か何かなのか?いや、三年じゃないんだからそれはないか。
もしかして、準備があるとはこのことを言っていたんじゃ。
「えー…コホン。…皆様、本日は御来校頂きまして、誠に有り難う御座います。」
完全に『セレナ様』状態だ。そのセレナの声に浮かれた男達が、歓喜の声を上げる。馬鹿だねぇ。本当の姿はじゃじゃ馬娘だってのに。
「今回はこの場を借りて、皆様にお伝えしたい事が御座います。」
276『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/13(木) 10:59:36 ID:jqCv90+1
セレナの一言喋るごとに、周りがざわつく。うるせぇな。黙って聞いてろっツーの。
「その前に……このかたっ苦しい喋り方をやめます。……ふぅ、やっぱり普通が一番よねー。あ、皆気にしないで聞いててね。」
気にしないでいられるわけもなく、その突然の変化に周りは対応出来ないでいた。生徒会長兼ミス朝野があんな喋り方を……といったかんじに。
「えーっとね……皆に伝えたい事があるっていうのは……そのぉ…私には、好きな人がいます!」
ドクン
心が跳ねた。まさかとは思っていたが、現実になるとは……これから先の事を考え、目の前が真っ暗になった。周りが騒いでいるようだが、全く聞こえなかった。
「えー…もうごちゃごちゃ言うのは嫌いだから、ハッキリといいます。…もう本人は分かってるんでしょ?……秋沢晴也くん!私はあなたのことが好きです!…いえ、愛してます!!」
うおおー!!と周りが叫ぶ。絶望にうちひしがれる者。血眼になって俺を探す者。静かに涙を流す者。反応はいろいろだった。
「あーっと、静かに!まだ言いたい人がいるのよ!ほら、こっちきなさい。」
277『さよならを言えたなら』 ◆jSNxKO6uRM :2006/07/13(木) 11:00:45 ID:jqCv90+1
そう言うと、今度は葵が壇上に立った。そうすることでまた周りが慌ただしくなる。葵も人気があるのだろうか?
「え、えっとぉ…喜瀬葵っていいます。……わ、私も伝えたい事があってここに来ました……そ、そそ、その……」
極度の緊張のせいか、声が震えている。まさかこいつも……
「あ、秋沢晴也さん!私もあなたを愛してます!あったときから、ずっと……ずっと伝えたいと思ってました!!!」
キャア!と、今度は女の悲鳴の方が多い。…恐らくさっきの葵の友達達だろう。
「さあ、ハル!私達はちゃんと言ったんだから、ここであなたの想いを言ってもらうわよ!」
いつの間にかセレナに変わっており、そんな事を言われた。おまえら……なんて無茶しやがる。俺は耐え切れなくなり、人込みをおしくってセレナ達の居る前まで飛び出た。
わかる…背中の罵倒のような叫び声の中から、妬みと羨望の想いが籠っているのが。そんな中で俺は一方を選び、一方をフらなきゃいけないのか。
「さあ、ハル!どっち!?」
「ど、どっちですか?晴也さん!」
俺は……
「俺は…俺は!」
278名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 20:31:38 ID:6ynkrtog
誰も来ないので管理人さんは貰っていきますね。
279名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 21:00:44 ID:zPzYP8YF
>>278
貴方なんかに彼は渡さないわ。彼はワタシのモノよ!
280名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 21:04:36 ID:IZic1Vbg
管理人さんは今俺の横に眠っているんだが
281リボンの剣士  ◆YH6IINt2zM :2006/07/13(木) 21:08:12 ID:vdPlFDq5
投下します。
282リボンの剣士 22話 ◆YH6IINt2zM :2006/07/13(木) 21:08:57 ID:vdPlFDq5
「ふぁ、あぁ〜あ」
五時間目が終わるチャイムで目を覚まし、終わりの礼だけ合わせる。
今日も五時間目は寝て過ごした。だってこの時間、一番眠くなるんだもん。
「あー、人志。今のノート貸して」
「……ほら」
ついさっきの授業のノートを人志から借りて、教室を出る。
目指すは一階の印刷室……の、コピー機。長期間借り続けるのは人志に悪いから、すぐコピーを取って返す、と
いう方法に変えた。
コピーするたびに、機械に十円取られるけどね……。

人志のノートと、コピーした紙を持って階段を上がって、二階に着いたときだった。
「あ、新城先輩、ちょうど良い所に」
階段口で出くわしたのは、新聞部の、小うるさいヤツ。
最近、あたしや人志、木場さんの周辺をこそこそしている。
あたしが人志を取られまいと、木場さんが取ってやろうと張り合っているのを、横から首を突っ込んできて、掻
き回そうとしてる。はっきり言って、邪魔。
「何よ」
「渡したい物がありまして」
新聞部は、ポケットから、ハガキくらいの大きさの紙を出して、手渡しした。片面が、光を強く反射した。
その紙に書かれて、いや、写っていたのは――――。
「な、な、な……」
あたしが、体育の授業のバスケットボールで、ジャンプしてシュートを打つ瞬間。
上が少しまくれ上がって、お腹が見えている、そんな写真。
「何よこれー!!」
写真を片手に、もう片方の手で新聞部の襟首を掴む。
ノートを落としたけど、それどころじゃない。
返答次第では殴る。今は竹刀は無いから、素手で。
「え? あ、あああすみませんっ! 間違えましたっ!」
新聞部は慌てて写真を取り返そうと手を伸ばしてきたけど……甘いのよ。
写真は素早くブレザーのポケットにしまい込んで、かわした。
空振りする手をやり過ごして、無防備になった頭に一撃! 握り拳で、こめかみの辺りを打つ。
「あ……くぁ……」
新聞部は、うめき声を出してダウンした。
「……で、本当に渡したい物は?」
「……少々、お待ちを……」
今度は別のポケットから、一枚の紙、たぶん写真が取り出された。
まだ起き上がれないっぽい新聞部が、震える腕でそれを差し出す。
……もう一度ボケたら、蹴りも追加するわよ?
写真をひったくって見てみると、そこには――――。
「な……っ」
風景は、あたしも行ったことのある喫茶店、その店内の席に座っている、一組の男女。
女のほうは、木場春奈。顔でわかった。
男のほう、アングルの関係で後ろ姿しか見えないけど、これは…………人志?
うん、人志よ。あたしが間違えるはずがない。この写真に写っているのは、人志と木場さん。
……。
283リボンの剣士 22話 ◆YH6IINt2zM :2006/07/13(木) 21:09:36 ID:vdPlFDq5
そう、そうなの。
木場さん、もうそこまで侵食してるんだ。
あたしは、親同伴じゃなきゃ、こういう所に人志と一緒に行けないのに。
「これ、いつ撮ったの?」
たずねると、新聞部は上半身だけゆっくりと起こし、答えた。
「昨日、です……」
昨日。あたしが部活に行った後、木場さんが出てきて、人志を連れ込んだのね。
今まで、人志はずっと一緒に帰ろの誘いを断っていたはずなのに。
まさか人志、あの女に気を許しちゃったんじゃないでしょうね。
駄目じゃないの。あんな、一度捕らえたら死ぬまで逃がさない、死んだらゴミ扱いの泥沼女に近づいちゃ。
……少し、警戒を強めたほうがいいわね。

「あの……では、自分はこれで……」
いつの間にか立ち上がっていた新聞部が、ふらふらと去って行こうとする。
「待ちなさい」
びくっ、と身体が跳ね上がってる。
「まだ、何か……?」
「こっちの写真……」
あたしは、一枚目の写真を出して、見せた。
「ネガあるんでしょ? よこしなさいよ」
詰め寄ってやると、新聞部の顔が一気に青ざめる。
「それは、その……ネガは、いえ、その写真は、光画部提供の物で、あいにく、新聞部のほうでは……」
「光画部? だったらくれたヤツに話しつけて持ってきなさいよ!」
「そ、そんな理不尽な……」
「理不尽なのはそっちでしょ!? 明らかに盗撮で犯罪じゃないの!!」
もう、呆れるわ腹立つわムカつくわ。光画部と新聞部、グルになってるってことでしょ、つまりは。
完全に新聞部は血の気が引いてるけど、あたしの知ったことじゃない。

新聞部を引きずって、あたしは光画部の連中と『平和的な話し合い』をした。
話し合いはうまくいき、あれだけではない、数々の盗撮まがいの写真と、ネガを手に入れた。
これらは全部、焼却炉かシュレッダー行きね。
ついでに、光画部の名前を『田○部』に変えてやろうとしたけど、それだけはと必死に土下座されたから、
許してやった。
全く、どこで何されてるかわかったもんじゃないわね。
284リボンの剣士 22話 ◆YH6IINt2zM :2006/07/13(木) 21:10:14 ID:vdPlFDq5
「さて、と……」
あたしは、二枚目の写真をもう一度取り出した。ちょっと観察、分析してみよう。
写真の中の木場さんは、いつものへらへら笑顔じゃなくて、むしろ、キッと引き締めたような表情。
……ふん。いつもと違う一面見せて、気を引こうとしてるのかしらね。
打算、計算――――バカみたい。
人志のほうは、顔は見えないけど……いい表情をしているはずがない。
人志が、こんな女と一緒にいて、嬉しく思う理由なんて一つもない。
この写真の状況も大方、木場さんが無理やり誘って、人志が渋々了承した、ってのがいいところよ。
別に、気を遣ってやらなくたっていいのよ、人志。前のように、突っぱねてよ。

「明日香」
「あ、恵」
教室でボーっとしてたら、恵があたしのすぐ側に来ていた。
「最近どう? 木場の奴は追い払えた?」
……相変わらず、その手の話が好きなんだから。
溜息が出る。
「あのね、あたしがあんな女に負ける訳ないでしょ」
「おーおー、それでこそ明日香だね。で、ちょっと話があるんだけどさ」
「何?」
「結構前、木場が男を奪ってポイ捨てした話、したじゃん? その取られた男の彼女と、連絡取れるようになっ
たんだよ」
――!!
反射的に、あたしの身体は恵のほうに向き直った。
木場さんに彼氏を盗られた人……。連絡が取れるって事は、恵を通して話ができるって事、よね?
いい機会だわ。木場さんが悪い女である証拠が手に入れば、あたしの勝ちは決まったようなもんじゃないの。
「私の携帯には番号とメアドは入ってるけど……」
「ねえ恵、その人とあたしが話できるようにしてくれない?」
立ち上がって、恵の両肩を掴んだ。恵は一瞬驚いたけど、あたしの意思を汲み取ってくれたのか、安心したよう
な笑みを見せる。
「OKOK。任せといて」
親指立てた握り拳をぐっと出してきた。
「2,3日くらいで日時はセッティングできると思う」
「ありがと」
「いいって事よ。私は……礼子や桐絵も、明日香の味方だからね」
「うん……」
「念のため、伊星は鎖で繋いどきな」
「ちょっと!」
「あはは、冗談冗談」
恵みは、じゃ、と言い残して、踊るようなステップで席に戻った。
味方。そう言ってくれる友達がいるのを再確認して、嬉しくなった。
負けられない。人志とずっと一緒に居られるのは、あたししかいないから。


(23話に続く)
285リボンの剣士 22話 ◆YH6IINt2zM :2006/07/13(木) 21:14:47 ID:vdPlFDq5
ラストの下から三行目
恵み、ではなく、恵、です。
誤字です。すみません。
286名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 21:23:11 ID:6ynkrtog
>>285、いつもGJです。
ああ、俺の中の新城像が崩れていく・・・。
反比例して木場の人気が急上昇!!
287名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 21:29:44 ID:gxQwFrCv
1回新聞部全員をゲイバーに差し出したい
288名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 21:31:24 ID:SNZhE3Lx
GJ!
俺はいつだって明日香タン派。
明日香のイメージは竹刀+リボン+セーラー服だと思ってたら、
この学校ブレザーだったのね。
289名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 22:16:50 ID:qhHNFtNq
>>288
おう、同志よ。

290名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 22:39:28 ID:3JKYXO8J
新聞部が盗撮か・・・これはひょっとして初の男の嫉妬か?
もしそうなったらNG必須だ。まあ、ないだろうけど。
291名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 22:46:59 ID:KbONLDax
写真売ってんじゃね
292名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 22:58:30 ID:JVOWWJlL
けど、男の嫉妬ってこのスレ的にダメなのか?
個人的には従来の三角関係に野郎を入れて四角関係とか嫌いじゃないんだが……
293名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 23:03:03 ID:I/IopLWI
それは寝取られスレの管轄なんじゃね?
294名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 23:08:17 ID:gxQwFrCv
ちゃんと投下前に断りいれて、
コテハンとかトリップつけるんなら別にいいとオモ。

あぼーんスルーすりゃいい話なんだし。
295名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 23:09:42 ID:atwmzyyL
男の嫉妬はNTR系だからなぁ
好き嫌いがはっきり別れるだろうね。

修羅場とハーレムは紙一重だから
296名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 23:12:12 ID:O0Bn9hS9
俺は男の嫉妬もアリだと思う。幼馴染み、寝取られ、ハーレム、孕ませetc…
修羅場スレは本当にハイブリッドだぜ!フゥハハハーハァー
297名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 23:15:07 ID:hfbBEman
ホモはどうなんだろうなあ
298名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 23:17:55 ID:t+OOUYjA
>>297
同性愛のはあったよ
流石に本番はなかったけど
299名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 23:18:21 ID:gxQwFrCv
>>297
それだけは絶対に認めない




ショタを除いて
300名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 23:20:46 ID:/VXtOKLh
男の嫉妬は見苦しい
ハイ!ハイ!ハイハイハイ!
301名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 23:22:50 ID:t+OOUYjA
>>300
ハードラブ(エロゲ)の雪乃へのにいさまの嫉妬は物凄いけどね
302名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 23:34:51 ID:MOqMzUA1
>>301
懐かしの月島(兄)もなかなかだった・・・
まぁまだ推測だし神様の作品の幅を狭めるのは良くないクマ
303名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 00:20:50 ID:kkRsaLT9
暇なやつはヤンデレスレのお茶会読もうぜ
もう完結もしてるんだ
304名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 00:25:57 ID:AwYRAE2O
>>277
ここでへタレると第3のヒロイン、ミィちゃんにもチャンスが?!

しかし今日はスレの流れが緩やかだなあ、いつもは急流のような速度なのに
( ゚Д゚)ハッ ま、まさかスレ住人や神に修羅場が舞い降りたのか!
305 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/14(金) 00:26:40 ID:vjTBfBhE
「お?」
登校中。いきなり雨が降ってきた。傘は無い。いかんいかん、酸性雨だ。は、禿げてしまうでおじゃる!
「ダーッシュ!!」
その瞬間、俺は世界を代表出来るほどのスプリンターとなった。いける!これなら世界新…
「きゃ!」
「うおあ!?」
は狙えなかった。角から現れた美少女(脳内決定事項)とごっつんこごめんなさいイベントを起こしてしまったからだ。
こうなったら世界新なんて目じゃないね。滅多に無いムフフイベントを堪能するだけだ!
「お嬢さん、大丈夫ですか?お怪我は?」
「いったた…はい、大丈夫…って、なによ。蒼也じゃない。」
興ざめだ。これなら世界新を狙った方が良かった。俺は何事もなかったかの様に、再びスプリンターとなった。が。
ビタン!
突如足をすくわれ、無様にも潰れたカエルの様に地面に突っ伏してしまった。もしや…オーバーワークか……くっ!あと一歩のところで…動けよ!俺の足!!
「なぁに無視しようとしてんのかなぁ?」
違った。俺の足をさっきぶつかった処女(訂正版)が掴んでいたのだった。
「ひ、ひぃ。お許しを!紅様!轢いたら怖くなったんです!」
306 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/14(金) 00:27:48 ID:vjTBfBhE
「あたしゃ轢き逃げされたんかい?」
「いえ、なんのことですか?轢き逃げ?はん、なんの証拠があって言ってるんですか?誤認逮捕は罰金ものですぜ?」
「これ、あんたの本ね。」
そこに掲げられたのは俺の秘蔵本、通称オカズだった。健全な男子諸君は理解出来るだろう。が、ここで慌てる様なへまはしない。
「おいおい、誤認逮捕の次は偽造証拠かい?政府も腐ったもん……」
「エロ本に名前書いてる人って初めて見たわ。」
「それぼくんだい!返せぇ!」
「………」
「………」
雨穿つ中、びしょ濡れになりながらコントを繰り広げる二人。この虚しさは相当だ。
「……風邪引く前に、行きましょう。」
「そうだね。」
もうここまで濡れたら関係ない。ゆっくりと歩いて登校した………
学校
「ピーーーッ!!!」
「わあ!急に機械音が!?」
前方にターゲット発見!今度こそ美少女間違いありません。ターゲットロック……レディ……ゴウ!!
脳内シグナルと共に、再度地面を蹴りだし、加速する。今日の俺、朝から走りっ放しだなぁ。グッジョブ!マイフット!
307 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/14(金) 00:28:53 ID:vjTBfBhE
美少女と徐々に距離を詰める200…150……100……50……もうすこしで射程圏内!!!
45……30……10…5…キタ!!大股で一歩を踏み出し、瞬間的に間合いを詰める。相手が歩いている速度を瞬時計算。腕を下から振り上げ、更に狙いを絞る。
「もらった!!」
あとは取ったも当然。地面をすくう様に腕を振りおろし……アッパーの様に振り上げるべし!!!
「ヒィヤッホォーウ!!!!」
ブァア!
「きゃあ!?」
秘技、スカートめくり改!!決まった!後ろからめくっても前の裾もまくり上がってしまう凶技。
「う、兎!兎パンツ!!」
印象とピッタリのパンツだ。それを見た瞬間、俺のボルテージはMAXになる。
「おー!!!おー!!!!おーーブハッ!」
歓喜の舞いをおどっているところに、紅からスライディングタックルを食らう。
「ばっかじゃないの!?朝っぱらからスカートめくりだなんて、小学生のガキでもしないんじゃないの?」
「ふっ、マダム。かまってもらえないからって拗ねるなよ。お前もスカート穿いてきたらめくってやるよ。あ、パンツはよこしまね。」
308 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/14(金) 00:30:48 ID:vjTBfBhE
「ばば、馬鹿!あんたにめくって欲しくなんかないわよ。」
「あのー…」
「それはどうかな?少なくともお前のフラグは立ちつつある!スカートを穿くイベントが起きてもおかしくないはずだ!」
「す、スカートめくりっぱなし……」
「……なによ、フラグって。ありえないし。っていうか空ちゃん弄るだけ弄って放置するのやめなさいよ。」
「あはっ、ごめん、空ちゃん。今日は元気?」
「はい、元気で…」
「うん、兎のパンツはピッタリだと思うよ。明日は典型的なクマと言う路線で……ブッ!」
「セクハラ!女の敵!!」
「ああ、そう照れるなって。好きな子ほどいじめたくなっちゃうあれだろ?あれ。っと、ところで海ちゃんは?」
「ええ、雨が降ってるから休みです。」
「くっ……いつものことながら脈絡のない奴……」
紅が怒りに震えていたが今はスルーだ。
ピンポンパンポン
朝の潤いで心身共に満たしていると、これまた古典的なチャイムがなる。
『Eの1045、Eの1045。至急、医療室まで来なさい。』
って俺じゃん?なんだよもー。空気よめって。
「だそうで、俺は授業免除だ。」
「…最初っからないじゃない。」
「だはは。そっだね。んじゃな。」
そういいのこし、急いで医療室へ向かった……
309 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/14(金) 00:32:36 ID:vjTBfBhE
最初は「?」が多いかもしれませんが……まあ、お読みください
310名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 00:42:52 ID:kkRsaLT9
ハイテンションな主人公
俺は大好きだ
311名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 00:54:48 ID:HNuiKAEY
ちょwwww今、俺が書いてる主人公の呼び名が女の子のと同じじゃんwwww
どうすればいいんだorz
312名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 02:16:13 ID:8iLr01GE
名前をめぐって修羅場。
313 ◆eOod7XM/js :2006/07/14(金) 09:00:36 ID:roAeIVHC
時間が空いたので投下。
前回の続きなので、唐突で中途半端かもしれません。
314『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/14(金) 09:02:10 ID:roAeIVHC

 初めて、完璧だった竹沢の仮面にヒビが入った。
 俺と二人きりでなければ一度も乱れたことのないその天真爛漫に、とうとう小波が立ち始める。

 「おいっ……」
 俺は必死に慌てふためく感情を押さえ込み、焦燥を悟られぬようにした。
 しかし、その一言だけで俺の言いたいことはわかるはずだ。なのに、竹沢は動かない。
 向日葵。
 太陽光を集めるために、ただそれだけのために、咲き誇る花は空を見上げて笑いかける。
 装飾華美な比喩にしても、こいつに酷似しているんじゃないか。
 そして、それが今にも枯れそうな精一杯の空元気に見えるのは俺の贔屓目なのだろうか。

 落ち着け、泣くな、笑うな、怒るな、頼るな、動くな、壊れるな、後にしろ。
 クラスメイトが、友達が見てるんだぞ?
 こんなところで醜態を晒したらもう後戻りできないんだぞ?
 本気で精神病院に担ぎ込まれるかもしれないんだぞ?
 変人のレッテルを貼られて二度とこんな日常を過ごせなくなるんだぞ?
 約束しただろうが、ここさえ我慢すれば二人の時にはいくらでも構ってやるって。
 頼むから……それだけ守れれば俺はお前の側にいてやるから……。
 だから耐えてくれよ……。

 だけど、俺の懇願は竹沢には届かない。

 「こ〜ちゃんってさ、彼女さんいたの?」
 好奇心旺盛な子供が尋ねるように、あくまで竹沢は純粋な興味で訊いているように見える。
 けれど、裾を摘んだ指は力が入って白くなっている。
 天真爛漫の表と依存症の裏が鬩ぎ合ってる。あるいはその表裏が逆転しようとしているのか。
 「いない。残念だけど麻衣実ちゃんは断じて違う」
 どうしてお前が訊く必要があるだろう? 訊くまでもないだろうが。わかっているだろうが。
 睨みつけた眼光も、竹沢の笑顔に吸い込まれていく。
 言葉を紡げない。行動で示せない。
 竹沢は飴をあげなきゃ泣き止まない。
 鞭を打たなきゃ言う事を聞かない。
315『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/14(金) 09:04:55 ID:roAeIVHC
 「でもちゃん付けだよ?」
 そこにも嫉妬するか……。後で訊けよ、今じゃなくて。
 「それなら竹沢だってそうだろ」
 「違うよ。わたしはみんな同じように呼ぶもの」
 食い下がるね。
 「苗字で呼ぶのは堅苦しいし、かといって名前を呼び捨てするのもさ」
 「まだわからないな〜。それだったら苗字にちゃんを付ければいいんじゃないかな?」
 天然ボケの八割は演技だってのが俺の持論だが真実だね。
 竹沢、俺はお前の人格がどっちがどっちだかわからなくなってきたよ。
 全部が全部計算尽くでやってるんじゃないか?
 「中央委員って雑用ばかりなのに生徒会の次に偉い立場なんだよ。だから結構真面目に働か
なきゃいけないわけだ。仕事も多いし苦労も絶えない。ちょっとぐらい雰囲気を和らげようと
する試みは正しいと思わないか?」
 「おおっ納得だね」
 声を荒げ、語調を強く。
 真実を含めた正論にオーバーリアクションで深々と頷く竹沢。
 ……どうやら、ギリギリでなんとかなったようだ。
 周りの連中はマイペースなヤツだなくらいにしか思っていないだろう。
 しかし、俺はその姿に嘲笑されている気がしていた。

 ふざけるなよ。

 摘んだ指を乱暴に外す。
 粗っぽい扱いに、竹沢はそれでもにこにこしている。けれど、それは紙一重の見せ掛けだ。

 ――これじゃあダメだ。制御がきかなくなってきている。

 数時間、それはそれは益体もない雑談。
 趣味とか好きなテレビ番組とかを、学校と変わらぬ様子でダラダラ喋っただけだ。
 それだけだ。他に何もしていない。
 これだけで俺は竹沢を甘やかし過ぎたと言うのだろうか。
 依存を自制不可能にまで膨れ上がらせてしまったのだろうか。
 ……そんなの、余りにも理不尽じゃないか。それくらいで狂われたら手の打ちようがない。

 畜生……畜生……。
316『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/14(金) 09:06:09 ID:roAeIVHC
 無茶苦茶に腹が立つ。
 しかし俺はその怒りが誰の無力さに向けられたものか気付いてしまう。
 ……ははっ、なんてくだらない。
 要するに、それって俺の責任なんだよな。
 断れば自殺しかねない乱れぶり。
 受け入れれば心中させられかねない怯えぶり。
 現状維持とはそれらを先延ばしにしただけだ。
 だから少しずつ、少しずつ動かすつもりだったのに。
 まさか小サジ一杯の砂糖で、均衡だった秤の片腕が地に堕ちるなんて俺に想像できたのか?
 ――しなきゃいけなかったのさ。そうだろう? お前にはその義務がある。

 逃れられない自責の念に俺は塗り潰されていく。
 ほとんど黒に近い藍色が俺を絶望に染める。
 冷たい寒色に凍えそうになる。

 さむい。頭が痛い。ダルイ。

 ……俺はどうすればいい?


 「幸平先輩」
 

 そっと。
 手が、暖かい暖かい手が、立ちっぱなしで固まっていた俺の頬を撫でた。
 遅れて、気遣いに満ちた涼やかな声が俺を極寒から救い出す。
 「どうしたんですか? そのクマ……。疲れてるんじゃないですか? 眠いんじゃないですか?
先輩? 先輩? 大丈夫ですか? ……そんな様子じゃ危ないです。保健室に行きましょう」
 えも言われぬ安堵感に包まれていく。
 そして、彼女の言う通りかもしれないなと思った俺を、途端に凄まじい眠気が襲う。
 ただでさえ眠りかけていたのに、それに輪をかけた猛攻だ。とても逆らえるものじゃない。
 前後不覚に陥る。足元が覚束無い。
 ふらつく俺は腕を取られ、声の主と共に歩き出す。
 ……名前に先輩って付けるのは何か変だな。でも嫌じゃない。
 ぼけているのかそんなことを考える。
317『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/14(金) 09:07:02 ID:roAeIVHC

 「腕組みっ!」
 「うそおおおおおぉぉぉぉ……」
 「どう考えてもそういうのとは違うと思うんだけど……」
 「先生には言っといてやるからしっかり寝ておけよ」

 聞こえた喧騒は右耳から左耳に通り過ぎる。
 瞼が重い。輪郭の歪んだ世界が二重三重になって見える。
 しかし、ぶれながらも前方を歩く艶のある黒髪は、まるで墨を滴らす高価な筆。綺麗だと思う。
 振り返りこちらを窺う。
 珍しく露にされている表情は不安一色で揺れている。
 嬉しかった。
 俺にはこんなに親身になってくれる人がいてくれるのかと。
 欠伸を出す気力もない。眠い。ねむい。体が動かなくて今にも倒れそうだ。
 けれどそんな睡魔に食い付かれながらも、俺は光明を見出す。

 ――彼女なら、椎名麻衣実なら俺を助けてくれるんじゃないだろうか?

 この優秀で冷静で俺には勿体無いくらいの部下なら。
 この礼儀正しくて真面目なよくできた後輩なら。
 俺が困った時にはいつも頼れる味方でいてくれたこの娘なら。

 「……幸平先輩、先輩が助けて欲しいと言ってくれるなら、私はいくらでも力になりますよ」

 消えかかった意識に、その言葉の威力は計り知れなかった。
 まだあったじゃねえか、選択肢。
 俺には麻衣実ちゃんがいる。彼女に相談すればよかったんだ。
 そうさ、麻衣実ちゃんならきっと、きっと解決の方法を教えてくれる。
 俺の手に負えなくなってきている以上、迷惑承知で誰かに助力を求めねばならないんだから。
 そして、俺が頼る相手は半年前からずっと同じだ。
 ――これで万事上手くいくさ。

 「こ〜ちゃん」

 教室を出る直前、そう呼ばれた気がした。
 明るくゆったりした調子だったのに、頭の中で反芻するボイスは金切り声の絶叫。
 記憶の海から浮かぶのは、またもあの告白。俺を捉えて離さない魅惑。
 でも、まどろみかけた俺に麻衣実ちゃんの腕を振り解く力は残っていなかった。
318名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 09:10:07 ID:6u6D95VG
もしかして
竹沢→幸平
幸平→麻衣実
という依存が展開されるのか!?
319『二等辺な三角関係』 ◆eOod7XM/js :2006/07/14(金) 09:11:19 ID:roAeIVHC
『白馬の女王様大作戦』椎名麻衣実立案。
見事に嵌まって幸平君ダウン。
次回から麻衣実ちゃんの反撃開始。

それはそうと、前回投下時に一人で勘違いしていた
自分の間抜けぶりが情けなくてもう……。orz
320名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 09:23:19 ID:z/toM24l
こ〜ちゃんがヒロイン化してるw
321 ◆eOod7XM/js :2006/07/14(金) 09:41:31 ID:roAeIVHC
なかなか機会が掴めず、遅れていた謝辞をここで。

阿修羅様にはご多忙の中拙作の保管、管理をして
いただき、大変感謝しています。
投下前からまとめサイトを利用しておりました身と
しましても、あの出来には驚かされました。
執筆の原動力にもなっているので、これからも阿修羅様の
時間が許す範囲で十分ですからどうか宜しくお願いいたします。


ついでに、女王様じゃなくて王女様だよなあ。
文章外とはいえ、何でこういうミスをするのかと……。
322 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/14(金) 11:33:19 ID:vjTBfBhE
「んー、んん、んー♪っと。」
まったく、今日も今日とて無茶させやがって。俺の体が泣いてるぜ。壊れちゃいますって。
と、前方に一日の疲れを癒してくれ美少女発見!辺りをウロウロ見回しているところをみると、新しくきたってとこだな。
ここはいっちょ、優しいお兄さんと言う辺りで第一印象を良くしておきますか。
「はぁい!そこの美少女ちゃん!」
彼女はびっくりしたように驚き、『私?』と言ったように自分を指差す。いいなぁ、こういう無垢な子。

「君、ここは初めて?」
こくこくと頷く。ん?喋れないのか?
「喋れないの?」
また、こくこくと二度頷く。
「そっかあー。喋れないのかぁ。あー大丈夫。僕らはそんな君でも大歓迎だ。そうだなー…名前は…昴ちゃん!どう?」
いきなり名前をつけられたためか、戸惑った顔をする。いいなぁ、こういう自分の感情をすぐに面に出す娘って、大好きだ。……食べたくなっちゃうぐらい。
「うん……君は良い娘だ……本当、食べたいぐらいだ。…ねえ?食べても良いかな?」
冗談を。と言ったようにくすくす笑われる。
323 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/14(金) 11:34:33 ID:vjTBfBhE
その笑顔が崩壊の鍵だった。みるみるうちに全身の体温が上がっていく。ぺろりと舌を舐める。唇は乾いていた。適度に湿らせないと。
嗚呼、涎まで垂れてきそうだよ。
「本当に、オイシそうだ……こりゃ、おもちかえりだな。」
まだ笑い続けている少女の肩を掴む。それだけで理解できたようだ。俺の本気さを。目が一気に怯えた色に変わる。いいね。それもまた味だよ……
首筋に近寄り、うなじを舐める。性感帯なのか、びくりて体が動く。
「や……」
かすかだが声が漏れる。あれ?おかしいな。喋れないんじゃなかったのかな?嘘をつく娘は嫌いだなぁ……俺の好みに合わせないと。
彼女の目を見続け、再度近付いたその時……
「ストップ。」
背後から無気質な、それでいて聞き覚えのある声が聞こえた。ああ、それだけで体温が一気に冷め、膨れ上がった性欲も萎んでいく。
「なんだよ……またかよ!」
「ひっ」
ここ2、3回は全部止められている。最悪だよ。まったく。ほら、またオイシソウナ娘が逃げちゃったじゃないか。まったく、今度こそ食べられると思ったんだけどな。
324 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/14(金) 11:36:05 ID:vjTBfBhE
「蒼也、まただよ。」
その声が後ろから近付いて来るのがわかる。本当、興ざめだよ。
「あのさぁ、一体どんだけ俺の邪魔すれば気が済むわけ?好きなようにやらせてくれよ。溜まっててしょうがないんだよ。」
「そんなにセックスがしたいなら、私とすればいい。あなたのためなら、なんだってする。あなたのために、処女はとってあるし…キスもまだ……」
「そんなのオナニーと変わらないよ。自分とやっても意味ないじゃん。」
振り向く。ほら、やっぱり彼女だ。少なくとも、あの顔は怒りに相当する。自分がかまってもらえないからって妬いてるんだな。
「それに、君が未経験でもむこうさんは経験済みだったかもしれないじゃん?それだったら膜もないんだよ?」
「気持ちの問題。私は未経験。」
「あーはいはい。ま、どっちにしろ君は抱きたくない。」
恐らく勃起さえもままならないだろう。そんなんじゃ抱く意味もないじゃないか!
「それに、君を抱いてもこうさぁ、喘ぎ声がなさそうじゃん?それじゃあいけないんだよ。興奮が足らない。グッとこないね、うん。」
「お望みなら、いくらでも喘いであげる。」
325 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/14(金) 11:37:14 ID:vjTBfBhE
「それは俺が喘いでっていったから喘ぐわけじゃん?違うんだなぁ。心から屈した喘ぎ声がね、俺の心を満たしてくれるのさ。」
「…蒼也の理論は理解不能よ…」
別に理解してもらわなくてもいいよ。理解されちゃったらそれは「俺」の理論じゃなくなっちゃうわけだし。
「ま、とにかく今は消えてくれ。」
「…わかった、でもその性欲の捌け口がなくなったら私が……」
「大丈夫だっつってんの!」
怒鳴った瞬間、彼女の気配は消えた。ふう、本当にいやな気分だ。早く帰らないと………
自宅
「ただいまーっと。」
出迎えは…来ないか。まあ、部屋にいろって言ったもんな。うんうん、忠実なのはいいね。
部屋にはいる。案の定、彼女は溶けた様な瞳のまま、俺をまっていた。
「お、おかえりなひゃいまへぇ、そ、蒼也…さまぁ…」
「ああ、ただいま……一人で気持ち良くなんてならなかったか?」
「は、はひ……蒼也様を、ま、まってまひた…」
ああー。たまんねー。いいよなぁ、やっぱこういう忠実な奴っていいよなあ。紅にもみならってほしいよ、うん。
感動に浸りながら、彼女からバイブを抜いてやる。
326 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/14(金) 11:39:09 ID:vjTBfBhE
ああ、濡れ具合からして確かに一人でヤってはいなかったようだな。
「今日はさー、けっこうイライラが溜まってるんだ。聞いてくれYo。」
彼女に俺の一物を舐めさせながら、一日について話す。空ちゃんのパンツが兎だったこと。試験があったこと。今日初めて会った、口の聞けないかわいい女の娘のこと。
最後の話をした途端、彼女の舐め方がよりねっとりとなり、快感が増す。あー丁度良い。
「そ、そろおんにゃにょこ……蒼也ひゃまの、ものにすうんです…か?」
「…いや、多分彼女とはもう会えないからな。無理だ。ショックだあ!!写真の一枚でもとっときゃよかったなぁ。レベル高かったぜ?ありゃぁ。」
「わ、わたひ、もっとがんばりまふから……んん…そ、そんな他の女の娘を……ぷは…探さないで…くだひぁい……なんでも…なんでもします…からぁ……んく…」
「そうだな…」
彼女の頭を掴み、さらに深く咥えさせる。
「んんんーー!!!」
「キミが壊れるまでそれは考えないどいておくよ。」
「んぐ…ぷあ、ありがとうございます…」
前の娘は一週間しか保たなかったからなぁ……この娘はまだ大丈夫かな?
327 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/14(金) 11:40:58 ID:vjTBfBhE
タイトルは未定ではなく伏してあるだけです。ネタばれになりそうだし…
>>311
まぁ…なんだ、すまん
( ´・ω・`)
328名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 16:58:57 ID:vYDZGU1o
なんてキモい主人公だ
329名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 17:14:39 ID:PsZTbk0J
俺は嫌いじゃないぜ
330名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 17:59:35 ID:jKaTz5k1
女なんてどうにでもできるって思ってる主人公が、嫉妬する女の子達にガクブルする訳だ。
331トライデント ◆mxSuEoo52c :2006/07/14(金) 18:16:21 ID:4W4D5++Q
投下致します
今日は2話連続投稿です。
332雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/07/14(金) 18:19:54 ID:4W4D5++Q
 第3話『深い鼓動の先に』
 二人で仲良く昼食をとっている和やかな光景を盗み見をしている私の胸は混沌の空のように深い奈落の底に墜ちていた。
 私というものがありながら、剛君は他の女とた、楽しく過ごしているという現実を全く受け入れることはできなかった。
 だって、引っ越してきてからいつも一緒じゃなかったけど、クラスメイトの女子よりもずっと近い場所にいる私が昼食を食べようと誘っているのに。
 どうして? どうしてなの? あんなコッペパンが美味しいとかほざいている天然ボケ娘と食べているの?
 先客がいるから、断られた。
 私よりも、あんな小娘の方がいいんだ。
 剛君、剛君。
 ダメだよ。
 私以外の女の子に手を付けるなんて。
 絶対にそんな事は許さない。
 私から剛君を奪おうとする、雪桜というクズ女の情報をまず先に入手せねば。
 それに、放課後は二人を引き離す策が発動するんだし。この恋の勝負は私の方が断然に有利だ。
 奥底から溢れだす笑いを抑えながら、さっさと放課後になるように私は祈った。


 長々と続く授業の終了を報せるチャイムの音が学校中に響き渡ると俺はノ−トと教科書を机の中にしまいこんで、安堵の息を吐いた。
 これで今日一日何事もなく学校は終わってゆくはずだった。
 授業終了直後に瑠依がやってくるまでは。
「剛君にお願いがあるんだけど……」
 恋する乙女のようにもじもじと掌と掌を合わせて、瑠依は言った。
「今から文化祭のためにいろいろと動かないといけないの。一応、風紀委員も生徒会の雑用として、
 校内の見回りの強化と変なモノを作っているのかクラス毎にチェックしないといけないの。他の部や内山田君の様子まで探らないといけないから、剛君の猫の手でも借りたいの?」
「俺、かなり無関係じゃん……」
「そんな態度でいいのかな……。先月の担任のお見合い騒動で賭博していたことをバラすよ。大締めでたくさん儲けたことも徹底的にバラすから」
「なんだってっっ!!」
「更に校長先生や教頭先生のカツラ疑惑を新聞部に無理矢理記事にしようとしたこととか。保健の先生が男子生徒を誘惑して、童貞を奪い捲っている噂を流した張本人だったこともね」
 う、うみゅ。
 餓えた虎め。カップラーメンの恨みはそこまで根を持っていたのか。
「わかった。その、風紀委員の猫として、俺は新たなフロンティアとして羽撃くことにするから。お願いだから、バラさないで」
「わかればよろしい」
 恐ろしい虎はその返事で満足したのか、残酷な笑みを浮かべていた。
 勝利の余韻に触れているところ悪いのだが、俺は雪桜さんのお約束がある。放課後にお話をする機会をせっかくに作ったのにね。
「ちょっとだけ時間をくれ。放課後、友人と遊ぶ約束をしていたんだ。瑠依の風紀委員の活動は、友人に断ってからでもいいだろ」
「ゆ、ゆ、友人ねぇ。剛君って、誰と遊ぼうとしていたのかな」
 冷たい殺気を解き放ち、怒気を篭もらせた声で瑠依は俺をジト目で見る。昨日の瑠依よりも数倍以上の戦闘能力を感じてしまう。さすがは鬼の風紀委員たちを統べる女。
「別に誰だっていいだろ」
「よくないよ。変な人に誑かせたら、おじさんやおばさんになんて言えばいいのよ」
「いや、まともな人だから」
「まさか、女の子と逢引きしているんじゃあ? そんな事になったら、その女の子を精神科とカウンセラーに通わせて、あなたに傷つけられた心の痛みを癒さないと」
「俺はそんな鬼畜じゃありません」
 こいつは一体俺の事をどういう風に思っているんだ? 瑠依と付き合いは充分に長いがいつも扱いが非道いように思う。
「まあ。その女の子には当分行けないってちゃんと言った方がいいよ。私は遠いとこから見ててあげるから」
「へいへい」
 適当に相槌を打っていると担任が急いで教室に入ってきた。
 これから、始まる帰りのホームルームは当然、担任の見合い報告記者会見へと変貌してゆくのだ。
333雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/07/14(金) 18:21:24 ID:4W4D5++Q
 2ーE組に向かってみるとすでに帰りのホームルームは終わっていた。
 うちのホームルームは担任の記者会見を終わった直後に、緊急株主総会もどきが始まったおかげで少し遅くなってしまった。
 何か担任の黒岩先生が初めて見合い相手の二回目の待ち合わせ日が決まったことで、クラスの連中が大騒ぎしていた。
 これで黒岩先生が結婚してしまうと、株が暴落するので、あれこれと妨害工作を練っていた。(本人の目の前で)
 ともあれ、俺はクラスの中から一人ぼっちで待っている雪桜さんにお断わりの話をしないといかない。
 後ろには恐ろしい虎が狂暴な牙を出して、見張っているので、もう後には引けない。
「あっ。桧山君」
「待ったか?」
「ううん、待ってないよ。今日もどこかに連れていってくれるの?」
 天使のような微笑みに俺の良心が酷く傷んだ。この笑顔を裏切る事を言う俺をどうかお許しください。
「ごめんなさい。ちょっと急用が入った。当分の間、風紀委員の手伝いをやるはめになった」
「そうなんだ」
「その代わり、昼休みは一緒に食おうぜ。明日はちゃんとお弁当を作ってきてあげるから」
「はぅ。いいんですか?」
「当然だろ」
 オドオドした子犬のように雪桜さんは上目遣いで俺を見て。また微笑んだ。この人の笑顔はいつも俺の落ち込んだ心の闇を癒してくれる。
「剛君。もういいでしょう。早くしないと風紀委員の集会に遅れるよ」
「わかってるって」
 せっかくいいムードだったのに背後の虎が邪魔するように吠えてきた。雪桜さんと瑠依の視線が一瞬合ったように思えたが、
 何事もなく雪桜さんの存在がなかったように瑠依はせっせと俺の腕を自分の腕に組ませる。あの、胸に当たっているんですけど?
 柔らかな感触に感動を覚えつつ、俺たちは2−E組を後にした。
 ただ、退出しようとした時の雪桜さんが寂しそうな表情を浮かべていたように思えるけど。気のせいかな?
334名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 18:24:29 ID:besgw81b
スレの中はほのぼのと、ssの中ではドロドロと・・・
そんな、まるで楽園のようなスレ

それが 嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ
335雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/07/14(金) 18:24:57 ID:4W4D5++Q
 風紀委員の活動は極に単純な任務であった。
 校則違反をしている奴がいれば、この竹刀で成敗しろと。
 この虎が統べる風紀委員の猛者どもは人外を超えた気迫で忠実に校則の最初から最後まで読み上げる姿は某本店の研修活動に似ている。
「今回の目的は文化祭における破壊工作及びテロ活動を企んでいる内山田派を今度こそ一網打尽にして、退学に追い込みましょう。正義は我にアリ。
 白き風紀委員たちよ。黒き素行の悪い生徒たちの明日を狩れ。
 委員会は以上で終了します」
 瑠依の歴史に残るかもしれない名演説に風紀委員一同で教室は拍手で包まれた。
 臨時の風紀委員も大袈裟に盛り上げるために微力ながらも協力してやろう。
「ブラボーブラボーーーー!! お前ら最高だっっ!! 特に竹刀を持っている姿は正直に痛いぜーーー!!」
 拍手が一同に鳴り止んで、風紀委員たちは俺の睨むような視線が集まってくる。
 うん。見事に地雷を踏んだね。パパ。
「じ、じ、じゃあ解散しますっっっつ!!」
 虎の一言で委員会は終了。ありがとう、虎。命の恩人だ。
 こうして、初めての風紀委員会は臨時委員として全員に顔と名前を知られることになりました。めでたしめでたし。

 委員会終了後、一緒に帰っていると俺は瑠依に当然のごとく叱咤されていた。
 あの場を盛り上げるために男として売れない芸人さんの魂を受け継ぐ者として懸命に頑張っていたというのに。
 瑠依はムスっと不機嫌モードになって、俺は気を遣ってつまらないジョークを連発していたが。
「剛君が風紀委員の皆の暴言について怒っているわけじゃないよ。あっ。でも。忠告しておくと、竹刀の件については命が欲しかったら今後一切何も言わない方がいいよ」
「肝にめんじておきます」
 権力を持っている虎の子分たちに喧嘩を売る勇気は俺にはありません。キングオブヘタレと言われようが、命よりも大切な物はない。
「そういえば、あの2−E組の女の子は剛君の何?」
「何って言われてもな……」
 雪桜さんと知り合ったのは昨日であって、友達や親友とかそんな親しい関係に発展していると俺は思えなかったので曖昧に答えるしかなかろう。
 だが、瑠依は顔を赤面させて速口言葉を連発してきた。
「友達、恋人、婚約、親友、愛人、二人の間には愛はあるの? すでに出来上がっているの? 付き合っているの?」
「黙秘権を行使します」
「ええっっ!! やっぱり、嫌らしい関係なんだ」
 もう、人の話を聞く気はないだろオマエ。
 いろいろと雪桜さんと俺の間について、詮索してくる瑠依を欝陶しく思いながら。今日の晩飯の献立を考えていた。
「もしかして、私が想像していた以上に二人の仲が進んでるのかな。やばいよ。剛君は超がつくほど奥手なのに……。うわっっ」
「うん? 何か言った」
「なんでもないからね。気にしないで」
 更に頬を上気している瑠依は風邪でもひいたんじゃないのかってぐらいに赤くなっていた。
 隣人に住んでいて、いろいろと世話を焼いてくれている女の子の体の調子を悪くなるとさすがは気になってしまう。
「本当に大丈夫か?」
 優しく額に俺の手を当てる。熱はないと思うんだけど、体温は更に上がっているように思える。顔はぷっくらの赤く染まっている。
「つ、つ、つ、剛君。お、お、女の子に無断で体を触るとせ、セクハラだよっ!」
「これは必要な処置だし、セクハラじゃないでしょ」
「う、う、うみゅっ……」
 まともな正論に瑠依は言い返すこともできずに顔を真っ赤にしたまま、帰り道を一人で先に歩こうとする。俺はその後を黙ってついてゆく。
 怒らせた瑠依の処置は簡単だ。帰ったら、おいしい料理をご馳走してやろう。
 今まで機嫌が悪い時はこれで餓えた虎を飼い馴らしていたんだから。
 今日も上手くゆくだろう。
 ついでにスーパーに寄って、雪桜さんのためにお弁当のおかずも買ってやろう。
 雪桜さんの好みは全然知らないけど、その辺は今日は適当にして、
 明日から雪桜さんの舌に合う料理を作らねばならない。放課後には風紀委員の活動もあることだし、これからはいろいろと忙しくなるぞ。


 それにしても、四月から九月に行なわれる文化祭のための見回りの強化を行なうって少しおかしいような気もするが。
 まあ、うちの学校は変人が多いし。今から取り締まりを強化しないといけないのかな。
336雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/07/14(金) 18:25:52 ID:4W4D5++Q
 と、この時は瑠依が仕掛けた策だと俺は全く気付いていなかった。



(この一行だけ忘れてしまった)
337雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/07/14(金) 18:27:34 ID:4W4D5++Q
 第4話『一輪の花』
 ○月○日
 今日から新学期です。
 新しい春の季節と訪れと共に桜が舞うこの道を歩くだけで生きているという充実を感じられます。
 たとえ、進級した新しいクラスでどんな苛めが待っていても、私は必死に耐えないといけません。
 お母さんが頑張って働いて学校に行かせてもらっているだもん。
 この学園を精一杯頑張って卒業しよう。辛いことがたくさん待っているかもしれないけど、そんなことに負けないように絶対に泣かないでおこう。

 ○月○日
 今朝、学校に行ってみると私の席だけがなくなっていた。
 昨日まであった席の場所には大量のゴミを置かれていた。
 さすがに清々しい朝からこんな嫌がらせをするとさすがの私も落ち込みます。
 適当に箒でゴミを掃いて、机と椅子を担任の先生に頼んで、新たに用意してもらいました。
 一人でせっせと運んでいると後ろから蹴られ体勢を崩して転倒しましたが、
 なんとか私はバカみたいに微笑んで何事もなかったように教室まで運びました。
 にははは。
 笑ってないと、本当に泣いちゃうよ。

 ○月○日
 このクラスにおける私の位置付けは格好のいじめのターゲットとして認識されているようだ。
 それはそうであろう。
 私は薄汚れている血を引いている。それだけで苛められる理由としては立派なものだ。
 去年、私を苛めていたリーダ格といじめグループの数人が同じクラスにいるので、私がどういう風に苛められていたのかすでにこのクラスに知れ渡っているだろう。
 主犯格がこのクラスの中心的人物としてなりおおせてしまった。人を惹きつけるカリスマみたいなものがあります。
 そのおかげで私はクラス中から苛められつつあります。私に関わろうとする人はいなくなり、話し掛けようとしても無視されます。
 あーあー。
 学校に行くのは嫌になってきたよ。
338雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/07/14(金) 18:28:34 ID:4W4D5++Q
 ○月○日
 まるでドラマのような出来事がありました。
 こんな薄汚れた者の血を引いている私を助けてくれるような正義の味方が颯爽に現われたのです。
 その人の名前は、桧山剛さん。
 男子生徒たちから暴行されている私を助けようとしてくれた人。
 私の存在を無視せずに優しく慰めてくれる人。誰かに優しくしてもらったのは、
 本当に久しぶりで桧山さんの前で嬉しくて泣いてしまいました。だって、本当に嬉しかったもん。
 その後、桧山さんが何かをごちそうするとコンビニまで一緒に行って、特製のあんまんをご馳走になりました。
 大きめなあんこの粒と口の中を広がる甘さは頬がとろけるぐらいに美味しかった。
 おかげで、人前、いえ、桧山さんの前でとんだ失態を見せてしまいました。

 これ、おいしいにゃーーーーー!! にゃにゃーー!!

 って叫んじゃったよ。今を思い出すと顔を真っ赤にして、穴に入りたいですよ。
 でも、桧山さんは私の事について何も知らないから、ああやって普通の女の子と同様に接してくれるんですよね? 
 もし、私の家の境遇、私が薄汚れている理由を知ってしまえば、他の人と同じように離れていきますよ。きっと。
339雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/07/14(金) 18:31:29 ID:4W4D5++Q
 ○月○日
 夢のような一日から覚めて、絶望だけの一日が始まろうとしていた。
 桧山さんと一緒にいたいという気持ちが強くなってしまっているのに、
 私は桧山さんに拒絶されるのがとても恐かった。
 だから、昨日の出来事は私にとっては夢。神様がほんの一時だけ見せた、楽しい夢だから。
 私は桧山さんの事を忘れなければならなかった。
 苛めグループからの仕返しがあると予測していたというのに、今日はまだ何もありません。
 そのまま、ずるずると昼休みの時間になってゆく。私は昼食を摂らずにただ一人ぽつんと自分の席に座っていました。
 だって、昼食を食べるお金がないもん。
 そんな風にお腹が空いているのに何事もなく平静を保っている私に待ち望んでいた来訪者が現われます。
 当然、私の桧山さんです。
 桧山さんが一緒にお昼を食べようと誘ってくれた時は涙が出そうになる程に嬉しかった。
 それに胸の鼓動が熱くなっていくのがわかります。
 お弁当を持ってきたのと聞かれた時はほんの少し焦りました。
 わたしが貧乏な子でお昼にお弁当を作れる経済的な余裕がない事。
 そんな恥かしい事を知られたくなかったけど、桧山さんに怪しまれるのも嫌だったので、正直に告白しました。
 私の家が貧乏で、お母さんが朝から晩まで働いてなんとか生活をしていること。
 お昼を食べるお金もないから、いつもお腹を空かしたままでいること。
 これ以上、貧乏な私いても、桧山さんには何の利点もないこと。普通の人なら、私が貧乏というだけで去ってゆきます。
 でも、桧山さんは違いました。
 私がどのような境遇や貧乏でも関係ない。私とただ一緒にお話をしたかった。
 普通の人にとっては何でもないことでも、私にとっては本当にかけがえない物だった。
 たった一人でいることはどれだけ寂しいことなのか充分に理解している。
 当たり前の事を望んでくれている桧山さんに抱き付きたい焦燥にかられますが。
 私といると不幸になるのはすでにわかりきったことです。
 薄汚れている血を引いている私が傍にいれば、大多数の人間から迫害を受けることになります。
 桧山さんえをこっちの世界に引き連れちゃダメなんです。
 黙って立ち去ろうとすると、私の豪勢な腹の音を聞かせてしまいました。
 ううっ。今日も桧山さんに恥かしいところをみせちゃいました。
 心配した桧山さんが食堂までコッペパンを買ってきてくれた。
 私はコッペパンを恐る恐る頂くとあまりのおいしさに再び大声で騒いでしまう。これで桧山さんに恥かしいところを見せるのは何回目だろうか? 
 でも、コッペパンありがとう桧山さん。

 放課後に一緒に遊ぶ約束をしたので、私はずっと教室で待っていました。
 ようやく、桧山さんが訪れると今日の約束はなかったことにして欲しいと頼まれました。風紀委員のお仕事じゃあ、仕方ありませんね。でも、問題は私たちの間に入ってきた女。
 私の桧山さんに馴々しく『剛君』と名前で呼んでいました。
 視線が合うと、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。女にしかわからない挑戦的な眼差しで見下していました。
 更に私に見せ付けるように桧山さんの腕を組んで、必要以上に体を引き付けている。
 
 桧山さんにとって、あの女は友達、恋人、どっちなんですか? 
 そこには愛があるんですか?
 優しい桧山さんがお情けでそういうフリをしているんですよね。

 桧山さんは私にとって何なの?
340雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/07/14(金) 18:33:01 ID:4W4D5++Q
 日記をようやく書き上げると幸福感に包まれると同時に不安になった。
 今日一日の出来事を日記に書いている時ですら、あの女の存在が頭を霞む。
 あの女の瞳は桧山さんに恋をしている目だ。
 その端正なる顔立ちから予想できない程に異常な独占欲を持っている。
 桧山さんに寄ってくる女の子たちを徹底的に追い払う女の執念。
 これ以上に私と桧山さんが親しくならないように、あの女はあらゆる手段で二人を引き離すはず。
 ならば、わたしはどうすればいいのだろう?
 苛められている私に強敵に抗う手段は皆無だ。恋する少女の果てしない想いに打ち勝つ事は私には無理。
 私にとって、桧山さんはただのお友達でもなくて、ただ私を同情を寄せてくれる人に過ぎない。
 それは彼にもよくわかっているはずだ。薄汚れている私に好意を寄せてくれている人間はこの世にいるはずがないのだ。

 でも、一人でいるのは寂しいんだよ。

 人間が一人きりで生きることはできっこない。

 裏切られるとわかっていても、心はあなたを求めてしまう。

 桧山さん。

 あなたの事を好きになってもいいですか?

 私の想いが桧山さんを苦しめることになっても、私はあなたの事を想い続けてしまいますよ。
 だから、あの女に桧山さんを絶対に渡さない。

 離れない。

 ずっと、一緒にいるよ。

 あの人は私のものだから。
341トライデント ◆mxSuEoo52c :2006/07/14(金) 18:38:03 ID:4W4D5++Q
さすがに2話連続になるとちょっと長いですねw

当分の間、リアルの生活が忙しくなるので更新することができません。
しばらく、投稿は休載します。
再開の時期はこの夏のお盆休みぐらいになるかと。

楽しみにしている人たちへ。どうも申し訳ありません。
また、再開する日までアデューです。
342名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 18:46:31 ID:AwYRAE2O
雪桜さんマジかわええ(*´д`*)ハァハァ
そして2人の独占欲の激突と内山田の出番を楽しみにして待ってますね
343名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 18:51:48 ID:z/toM24l
(*゚∀゚)=3

ってお盆まで休止かいOLT
がんがれ
344名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 19:14:15 ID:PsZTbk0J
>>330
それなんてゆうくん?

俺も貧乏な子にやさしくしたら幼なじみとの修羅場が始まるってことか
345アビス  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/14(金) 20:59:36 ID:rFlyK0DM
投下します
346姉妹日記 15話  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/14(金) 21:01:17 ID:rFlyK0DM
 病院に着くと涼さんとすぐに手術室に運ばた
 私と春乃はすぐに警察に呼び出され、病院内で事情を聞かれた
 でも涼さんが救急隊の人に言った言葉・・・・
『事故なんです、彼女たちは・・・・なにも悪くありません・・・・僕の不注意なんです』
 その言葉で少々特異ではあるものの事故として調べているらしい
 なにも言えない私たちに警察の人は諦めて去って行った
 手術室に戻る途中だった
「あん、よく戻って来れたわね・・・・」
「・・・・・・・・」
 憎悪と怒りをあらわにした冬香さんと夏美さんが私たちの前に立ちはだかった
 春乃は状況がわからず、この二人は誰?という表情で見つめている
 そんな春乃を無視して冬香さんが私に掴みかかってきた
「あんたのせいで、お兄ちゃんは!お兄ちゃんは!!!!!」
「・・・・・・・・」
 無言の夏美さん、なじる冬香さん・・・・
 私は二人の表情を見て顔を青ざめるだけでなにも応えなかった
「・・・・・・・・」
「もう、お兄ちゃんに・・・・近づかないで!」
「あんたが、近づくだけで・・・・涼ちゃんが不幸になるのよ!」
347姉妹日記 15話  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/14(金) 21:01:59 ID:rFlyK0DM
 そのあとなんとか手術は成功し、涼さんは一命を取り留めた
 けどいまだ意識は戻らず昏睡状態のまま・・・・
 私は何度か面会を申し出た・・・・
 少しでも、涼さんの近くに居たかったから
 でも、夏美さんと冬香さんの二人が私と春乃はなにがあっても通すな・・・・
 そう言ったらしく、家族の意見だからと看護士さんたちは面会を許してくれなかった
 謝罪したかった・・・・
 涼さんを傷つけもしかしたら殺していたかもしれない・・・・
 考えただけど恐ろしくなった
 世界で一番愛しい人を私は自らの手で・・・・
 見つめた両手が血に染まって見えた・・・・
 怖い、怖い・・・・・私は自分が怖くなった・・・・
 もしかしたら・・・・二人が言うように私と一緒に居ることで涼さんを不幸にしてしまうのかもしれない
 でも・・・・諦めるなんて出来ない
 私は・・・・涼さんに心も身体も捧げた・・・・
 これからも・・・・・ずっと・・・・・
 私・・・・は・・・・・




A『なにがなんでも涼さんの病室に向かう』
B『今は待つしかない、でも・・・・・』
348アビス  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/14(金) 21:02:30 ID:rFlyK0DM
ここで一旦区切ります
349姉妹日記 もう一つの姉妹 1話  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/14(金) 21:03:42 ID:rFlyK0DM
「前から、好きだったの・・・・私と付き合ってくれないかな?」
 誰も居ない学校の屋上、僕は下駄箱居にあった手紙
〈屋上で待っています〉
 短い文章を読んで屋上に向かうとそこには学校のプリンセスの南条秋乃さんが居た
 僕を確認すると慌てて姿勢を正し、僕が「どうしたの?」と聞くと・・・・・
 突然告白された・・・・
 中学の頃からの憧れの存在だった秋乃さんに告白され、僕は今にも天に昇りそうなほど嬉しかった
 だって、あの南条秋乃さん・・・・だよ?
 容姿はもちろん勉強もできてすごく気立てのいい子だ
 中学の頃はそうではなかったけど、今では学校のプリンセスにまで上り詰めている
 聞く話によると学校の50%を超える男子が彼女を狙っているって話だし
 でも、浮いた話が一つもなくいまだに男性経験は皆無らしい
 その結果、許婚がいるなどレ○だの色々噂されていたけど・・・・
「あの、秋乃さん・・・・」
「え、あ・・・・」
 声を掛けると秋乃さんは驚いて背筋を伸ばした
「もう、少し考えさせてくれないかな?」
「あ、そうだよね・・・・いきなりだもんね、でも・・・・本気だから私・・・・」
 僕が頷くと彼女は近くに置いてあったカバンを取ると足早にここから去ろうとした
「あ、送っていこうか?」
「あ、いいよ・・・・気にしないで」
 手を振ると無邪気に笑んで秋乃さんはその場を去っていった
 どんどん、心臓の鼓動が速まっていく
 僕は落ち着かない気持ちをなんろか静めようと屋根に登って月を見上げた
 南条秋乃・・・・最初逢ったのは、中学のとき・・・・
 メガネを掛けていて、皆から地味だって言われていたっけ
 友人も少なく、彼女曰く中学で一番自分を気に掛けてくれたのは僕だったとか
 高校に入って彼女のイメージは変わった
 急に女の子らしくなって、入学当初すごく話題になった
 変わったことにではないその美貌が・・・・だ
 いい意味での話題を呼び、今や学校のプリンセスとまで上り詰めた彼女からの告白・・・・
「お〜い、大事な話があるんだ・・・・下に来てくれ!」
 父さんの声が僕を現実に引き戻した
 僕は頭を何度か振ると下に降りていった
 
「夏美ちゃんと冬香ちゃんのことなんだが」
 窓から自分の部屋に戻り、下の階に降りるとそこには
 父さんと夏姉ちゃんと冬香が僕を待っていた
「二人のご両親が先日亡くなったのは知っているね?」
 僕が頷くと父さんは一瞬複雑そうな顔した・・・・
「簡潔に言うと、二人を預かることにしたんだ」
 え・・・・・
 後ろの二人を見てみると申し訳なさそうに頭を下げた
「・・・・・僕は良いと思うけど」
 不安が嬉しさに変わる、僕が笑んで見せると二人も笑んだ・・・・
 今日はなんだか色々なことがあったな・・・・
 
「あの、涼さん・・・・」
 朝の登校中か弱い声が僕を呼び止めた、この声は・・・・秋乃さん?
 振り返るとそこには秋乃さんが居た
 俯き加減で僕を上目使いに見つめ頬を染めた・・・・
「昨日の・・・・その・・・・・」
 意図しているのは解る、僕も彼女が・・・・返事をしようとした時だった
「涼ちゃん!」
 いつもの間延びした声ではない、必死な声の夏姉ちゃんが僕に駆け寄ってきた
「おじ様が・・・・おじ様が」
「どうしたの・・・・?」
「いいから、早く来て!」
 少し遅れてやって来た冬香が有無を言わさずに僕の手を掴んだ
「あ、涼さん・・・・」
「ご、ごめんね・・・・急用らしいんだ」
「あ、はい・・・・・」
 僕が謝ると彼女は少し残念そうな顔をしたけど、すぐに頷いてくれた
 
 その日、僕は不慮の事故で父さんを失った・・・・
 この二日で僕は天国と地獄・・・・
 人生の仰天がいっぺんにやって来た・・・・
351アビス  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/14(金) 21:08:23 ID:rFlyK0DM
すいません、正式タイトルは
姉妹日記『もう一つの姉妹の形』
でございますです・・・・・

もう一つは姉妹救済ルートです
本編でまだ引き返せるのは何時だろうと読み返してみたら・・・・
出来なかった・・・・orz

352名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 23:19:46 ID:3JtB5QNF
乙です

まあ住人提案のプロットですし、形にしていただいただけでもありがたいです
アナザーも楽しみにしてますよ・・・・
353名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 23:46:23 ID:A79oHULS
しかし、ここは一気に人が減りましたね
354名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 23:50:44 ID:FT94PUIJ
>>353
誤爆か?
355名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 23:54:10 ID:pGi7WLMT
姉妹日記の救済エンド(*´д`*)
夏冬姉妹のほうは救済されるのだろうか・・・
夏冬姉妹派としては気になる

それにしてもまだ一週間もたってないのにもう300k・・・
作者様方のお力のすばらしさを改めて実感する数字だ((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
356名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 23:56:32 ID:/c1jjEyX
来週には本スレと並んでしまいそうな件について
357名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 23:57:51 ID:AwYRAE2O
>>353
      | Hit!
      |
   ぱくっ|
     /V\
    /◎;;;,;,,,,ヽ   そんなエサで
 _ ム::::(,,゚Д゚)::|   俺様が釣られると思ってんのか!!
ヽツ.(ノ:::::::::.:::::.:..|)
  ヾソ:::::::::::::::::.:ノ
   ` ー U'"U'
358名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 00:08:23 ID:VpJIVxSY
>>353
誤爆としか思えないが……
359名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 00:24:53 ID:51q4qC97
中島美嘉のCRESCENTMOONがこのスレ的な内容を
含んでいる件について
360名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 00:52:26 ID:j2BUFwy8
>>359
そういうのは統合スレでいったほうがいいよ
361名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 05:54:41 ID:kCt3tRSQ
>>353の人気に嫉妬
362名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 08:03:28 ID:SBOBEud1
エロパロ板の中で、今、最も熱いスレだと思う
内容もスレ住民も
363名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 09:32:59 ID:N5j8lobE
コレだけ沢山のレベルの高い職人さんが
かなり早いペースで投下してくれるしな…
恵まれてるよ、俺ら
364名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 09:53:23 ID:hDyZgGpf
さすがに一時期よりは人減ったんじゃない?
3〜5月初め頃が1番凄かった気がする
ジャンプの黄金期並みの連載陣とか言われてなかったっけ

ま、今でも十分面白いし他と比べると人多いけど
365名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 10:00:38 ID:fUSvpzy8
これだけの素晴らしい職人さんたちが居てくれて
このペースで執筆してくださってる
スピードだってこの板じゃ相当なもの
十分贅沢だよ俺ら
366名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 10:51:56 ID:zjcWzZrJ
>>364
バカヤロウ!そんなこと言ったら現スレの嫉妬が(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

それに1番速かった時期は5月〜6月、なによりもこのスレ過去2番目くらいの速度と密度で進行中
もし急加速すればそれをも凌ぐペースになる可能性もある
367名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 10:52:14 ID:BNRhVmZf
ってことは、今の連載陣はデスノートが終了し、ハンターハンタが休載している
暗黒期時代の突入なのか。
このスレは・・。
実際に作品数もあんまり変わっていないけど
ギャラリーの数は大分減っているような気もする
368名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 10:55:03 ID:BNRhVmZf
>>366
本スレは単純な話
あのスレの本質は修羅場嫉妬報告のはずなのに
誰も報告していないから一気に落ちぶれてしまったので
別にSSスレは全然関係ないですはい。

本当にエロゲー報告書き込みないと価値がないよあのスレ
369名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 11:33:42 ID:FKoZy3aO
>>368
だってな〜、報告できるネタが無いのは事実。
期待してた夏伊豆も全然だったし・・・
370名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 11:39:02 ID:7l/S3bW8
>368の声が聞こえた直後、本スレは表情を失い、やがて涙を溢れさせていた。
僕は拳を強く握り締め振り返って駆け出していった本スレの後ろ姿を眺めることしかできなかった。
371名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 11:57:38 ID:NZAqyG1F
その後>>368は…((( ;゚Д゚)))ガクブル
372名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 13:00:03 ID:n0ONcgRQ
>>367
そういうつもりはないんだろうけど、
連載陣の魅力が足りないような喩えでの暗黒期呼ばわりは
今連載してくれてる神達に失礼だと思う。
373名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 13:14:24 ID:FKoZy3aO
こんなにも神々を尊ぶスレは珍しいな
374名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 13:17:59 ID:1l3HRWOP
まあ、議論はこの辺にしてマターリ神を待つことにしようよ。
とりあえず、俺はロリコン教授の晴香ちゃんのこれからの動向にwktkしている。
375名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 13:25:34 ID:RzG0cB4I
おいらは三角形の竹沢と姉妹日記、トラトラの姉妹に期待(*´д`*)
376名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 13:27:10 ID:nQ263R8y
たぬきなべの続きは・・・?
377名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 13:29:48 ID:6oHDIVB2
とにかくエロいのが見たい。
ここではあんまり見られないちょっとエロ成分を多めに投与した作品も見てみたいわ
378名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 13:40:35 ID:+Fvbp8Fz
わたあなのエロエロな外伝と言う名の旗は、未だに折れず
心の中にそびえ立っているッ
379名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 13:47:29 ID:XgM10oFe
>>378
同志よ!

ところで小恋マダーー?(AA略
380名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 14:07:39 ID:RzG0cB4I
そういえば最近モカさん成分を補給して無いせいで
微妙に枯れそうです、体が・・・
381『疾走』 第十二話 ◆/wR0eG5/sc :2006/07/15(土) 14:21:34 ID:E7f85hYr
「それにしても――こう、何というか……ありがとうね、エースケくんっ」
「――え、っ?」
 途切れた会話を再び繋いだのは、生方先輩のそんな一言だった。
「な、何が……ですか」
「いたりは、ねえっ……こう、なにを言われても嫌だとは言えない、そんな子だったわけよ」
 だったとは言っても、わたしは中学の頃からしか知らないんだけどね、と付け足して。
 生方先輩は、びしっと俺を指差す。
「君が言ってあげたんでしょっ? 嫌なことは、ちゃんと嫌って断わらないと駄目ですよって」
「……っ……あ、ああっ!」
 思わずぽんと手を叩きたくなった。思い出したぞ。
 いたり先輩と出会ったきっかけ。大量のプリントを運ぶのを手伝ったときの会話だ。
 どうしてもこの虚弱な先輩一人にこれだけのプリントを運ばせているのが納得できなくて、誰に頼まれたのかと聞いてみた。
 てっきり教師の名前が出てくるものだとばかり思っていた俺だったのだが、それは見事に裏切られる。
382『疾走』 第十二話 ◆/wR0eG5/sc :2006/07/15(土) 14:22:40 ID:E7f85hYr
「クラスの女子に……っ?」
「は、はい。そのっ……何か大事な用事があるそうなんです」
 しょうがないですよねって、微笑する先輩だった。
 普通は男子に頼まないだろうかと、俺はどうにも疑うことをやめられない。
 そんなに持たなくていいですと遠慮する先輩から無理矢理奪い取った八割のプリントを両手に抱きながら。
「駄目ですよ。そんなの嘘に決まってます」
「ふえっ……!? う、嘘なんですかっ……?」
 そんなに驚かれるとは思わず、俺は多少冷や汗を垂らしながら。
「そうですね。はい。多分には」
「た、多分ですかっ。なんだか曖昧ですね」
 証拠が無い以上断定はできないが……こうでも言わないと、この先輩はずっと駄目だと思ったのだ。
「いいですかっ! お優しいのは真に結構ですっ」
「は、はあ」
「しかし……遺憾ですが、優しくない人間ってのは、どうしたっているんですっ」
 人差し指を振り回している俺はみっともないと思われる。
「無条件に優しくするのが間違っているとは言いませんけど……自分には辛いこと、出来ないかもしれない事にまで、いいよって頷くのは間違ってます」
 こんな大量のプリントを、自分だけで持ち運べるとでも思えたのだろうか、先輩は。
 転びそうに……ふらふらと、必死に。
「無理なことは無理っ! 嫌なら嫌ってはっきり拒絶するっ! わかりましたね、先輩っ!」
「は、ははははいっ」
 ピシッと、背筋を伸ばしてしきりに頷く先輩だった。
 しまったっ……! 生意気にも上級生に説教をっ。
「ま、まあ今のは、その、厳しさとやらを微塵も理解していない小僧の戯言とでも思って頂ければ……」
「そんなこと、ありません」
 ――ぱあっと、花が咲いたような笑顔で見上げられる。
「偉いですっ。……そうやって叱られたのは、すごく久しぶりで……っ」
「い、いや、それほどでもっ!」
 ぐはっ……俺は照れやすいので、褒めるのは勘弁してっ……。
「あ、ああっ! 一つ言い忘れてましたけど」
「はいっ?」
 照れ隠しのつもりで、最後に一つ、教えてあげる。


「どうしても断われなかったりしたら……その、誰でも頼っていいんですよ」


「まあ、そうですね、俺なんかでも十分でしたら、お気軽にどうぞ」
383『疾走』 第十二話 ◆/wR0eG5/sc :2006/07/15(土) 14:23:15 ID:E7f85hYr
 いつかの廊下での会話が――よみがえる。
 赤面する。俺は……っ、何という、恥ずかしい言葉の羅列を……っ!
 両手で顔面を隠してしまいたい。
「う、生方先輩は……その話は、いたり先輩から、聞いたんですよね」
「あははっ! いたりが、嬉しそうに、もう君の言葉全部を」
 全部だって――っ!?
「随分と熱血さんだねえ、君は」
「い、いや、あれはそのっ……!」
 ぶんぶんと手を振ってみるが、言い訳がどうしても思いつかん。
「ぷ、ぷぷっ……べ、別に照れることはないじゃ――んっ! わたしは好きだけどね、そういうの、さ」
「そうですか……っ?」
 口元を手で隠されながらいわれたって、慰めにはなりませんけどね。くうっ……!
「本当ならそうやって言ってあげるのはわたしの役割だったんだけど……気弱だから、いたりは。ははっ、結局君に言われるまで言えなかったさ」
「で、でも……俺が言うのと生方先輩が言うのとは、また違うんだと思いますけどね」
 根本的に、積み重ねてきた彼女との時間が違うからな。
「結局言えなかったのなら、それも今更なんだよ」
「まあ、そうですけど……っ」
「とにかぁ――くっ! ほんと、君がいたりの彼氏になってくれて、わたしは安心しつつ嬉しいのさっ!」
 言いながら、背中を叩かれる。
 ――なんだか……途轍もない、罪悪感が、胸中で生まれた。
 生方先輩は、とても善い人だと思う。
 いたり先輩を思いやっていたから、こうやって、俺にありがとうと言うために、わざわざやってきたのだから。
 この笑顔を――それは違うんですよという俺の告白で、崩したくなんか、なかった。
「君は知ってたかなっ? いたりと君って、本人曰くすごく似てるらしいよ」
「似てる……っ? 俺と、いたり先輩が、ですか……?」
「いたりも片親だからね。なんか、他人みたいじゃない、らしいよ。……ほとんど家では独りみたいだし」
 それは――知らなかった。そして、確かに俺と通じる部分がある。
「ああ、これは内緒だからねっ! それに比べて私は情けないなあって、いたりがぼやいてたから」
「は、はあ……っ」
 ははは……っ。普通は、言ってしまいそうなことだけどな。
 俺も昔は寂しかったから……酷く、理解できる。
「大事にしなよ――ぉ? まあ、なんかわかんないことがあったら、お姉さんに何でも聞けばいいのさっ」
 言って、一つのメモを渡される。
 綺麗な文字で、携帯のメールのアドレスが、そこには記載されていた。
「あ、はい……どうも、ありがとうございます」
「うむ。それじゃあわたしはそろそろ行こうかね……ああ、そうだ」
 ぽんと手を叩いて。
「屋上でお昼食べるの、やめたんだってね」
「――っ!」
 ぎくりと、胸が痛む。
「いたりも馬鹿だよねえ……っ。付き合いだした途端、誰かにばれるのが嫌だからって」
「え、ええ……っ。はい、まあ……」
「まあ、いちゃつくなら他でやれるもんね」
 ……俺は、最低の嘘吐きだ。
 生方先輩の、快活な笑顔を勝手に守りたいからって……っ。言わなければならないことを、結局先送りにしてしまっている。
 ――なんて……屑じゃないか、これ。先輩には偉そうに説教垂れて……自分がそういう局面に瀕したら、これだっ……!
「ほいじゃ、ちゃんとやるんだよっ。泣かしたらお姉さん許さないぜ――っ? ばきゅんっ」
 ばきゅんっ。
 それは拳銃を撃つジェスチャー。
 ……本当に撃たれて死ね。俺。
「はい……っ。わかって、ますよ」
「よぉ――しっ! 君を出切る子だと信じちゃいまぁ――すっ」
 こんな野郎は信じるべきじゃないと、叫びたかった。
 俺を引っ張ってきたときと同じ速度で――生方先輩は駆け、早々に去る。
 本当に……元気な、人だと思った。俺には、とても走る気力がなかったから。
384名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 14:59:16 ID:FKoZy3aO
生方先輩フラグキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
385 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/15(土) 15:16:50 ID:dPvWj3Bz
翌朝
鳥のさえずり……なんて優雅なものは無く、目覚ましも何もなしに起きる。もう習慣付いた癖だ。
しっかし昨日は久しぶりに激しかったな。でもまだ彼女は壊れて無いらしい。うんうん、長持ちすると探す手間が省けて良いな。
作ってもらったバタートーストを二人で食べ、学校に行くまでぼーっとする。今日はいつになく快晴だ。こういう日は気分も良いし、性欲も疼かない。
「蒼也様?」
「ん?」
「その…昨日言った事…お願いします…変わりの女の人を探さないって…」
ああ、それでなんだかテンションが低かったのか。いかんな。治さないと。奉仕のレベルが下がる。
「ああ、今日は気分が良いからな。探さないどくよ。ただ……」
そういって彼女の耳元に寄り添い、そっと呟く。
「これを一日中つけてられたら、ね?」
彼女の手にローターを渡す。一瞬戸惑った顔をするが、また笑顔になり、
「はい!私、頑張ります。」
とうれしい事を言ってくれる。まあこの調子だとちゃんと就けるだろうな。俺は安心して家をでて、学校へと向かった。それを見送る彼女……いいねぇ。
386 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/15(土) 15:17:52 ID:dPvWj3Bz
「うぉーっす。」
目の前に見えるは紅。あーあ、なんだよ。
「スカートちがうん?」
「あたりまえでしょ。なんで私がスカートはかなくちゃいけないのよ?」
「はん、愚問を。なんのためにスカートがあると思う?」
「なんのために?」
「もち、めくるためだ!!」
「そこまでいいきれるこんじょうが凄いわよ。ま、私は絶対に穿かないけどね、」
相変わらずプライドが高いなぁ。つーか高過ぎ。そんなんだから弾かれてんだよね。
依然、紅のフラグは立つ気配も無く、学校へとむかう。
「む?」
前方に再度美少女を発見!!追撃に参ります、隊長!陽の降り注ぐ炎天下の中、地面を駆け抜ける。そしてまた距離5のところで腕を振り上げる!
「ヒィヤッホォーウ!!ウゴォ!?」
が、今日は違った!俺のダッシュに合わせるように、その勢いを利用したカウンターが入っていた。しかも喉に!グーパンチで!!
「おおぅ…ぐぉ……えっと…き、今日はつよひね?」
「あなた、昨日空のスカートめくったんですって?」
「…そのしゃべり方ってことは……海ちゃん…かな?」
387 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/15(土) 15:20:05 ID:dPvWj3Bz
海ちゃん。空ちゃんの双子の姉だ。この娘がいるせいで妹の空ちゃんにはなかなか手を出せないでいる。まるで保護者的存在だ。
「はひ、空ちゃんの兎パンツは拝ませてもらいましたよ…」
「はぁ、空のことだからみられても怒らなかったんでしょうね。」
さすが双子様。わかっていらっしゃる。
「いい?空をあんたのてごめになんかさせないからね!」
「っはは、ご冗談を。おいどんはそんな鬼畜ではないでごわすよ。」
「…どうだか……」
「ところでその話題の中心、空ちゃんは?」
「今日は晴れだからこれないわよ。」
あー、そうだね。こんな晴天ならこれないはずだ。もったいない、こんな日に外に出れないだなんて。
「さってと、昼飯まで寝よう。」
「私も、本でも読んでようかしら……」
「私も眠いわ…」
「おわ!?い、いつの間に、紅。」
「へぇ…ずっと後ろにいたってのに……私にも気付かないぐらい海ちゃんとね会話が楽しかったのかなぁ?」
「め、めっそうもない!それより眠いのなら、一緒に保健室でゴートゥーベット……」
「断るわよ!!」
388 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/15(土) 15:21:06 ID:dPvWj3Bz
十二時まで爆睡。そして腹時計がなり、ピッタリで目覚める。ふはは、この安眠を防ぐ者など誰もおらん!
「はーらへった、腹減ったぁ!」
鞄を開けて中を見る、が!
「べ、弁当忘れた…」
そういや机の上に置いておくっていってたなぁ。さて、どうしようか。金もない、かといって取りに戻る気力もない。
絶望にうちひしがれ、ぼーっと外を見ていると
「ぶっ」
おもわず吹いてしまった。外に彼女が弁当箱をもって立っていたからだ。慌てて外へ出ると、彼女は汗だくになって立っていた。
「なに!?いつからいたの?」
「え、えと、蒼也様が……」
「ストップ。外じゃ『さん』ね。」
「蒼也さんが家を出て行ったら……弁当箱が置きっ放しだったのですぐに追いかけたんですけど……授業が始まってしまって渡せませんでした……」
「朝からずっと居たの?ここに?」
「はい、いつ気付いてもらえてもいいようにと……」
さすがに俺も呆れた。ここまでする娘は初めてだ。その汗だくの顔をものともしない笑顔に、俺は少なくとも恐怖の感情というものを覚えた…………
389名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 19:34:01 ID:zjcWzZrJ
GJ!やっぱりこういうノリの主人公結構好きだな
390名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 20:37:00 ID:UY7kjI6n
俺も大好きだ
391Bloody Mary 2nd container 第二十一話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/15(土) 21:08:14 ID:VFpKLnHe
『だからっ!ウィルにそんなもの食べさせないでくださいっ!』

『そんなものとはなんじゃ!これはれっきとしたポトフじゃぞっ!』


 日々の日常。今日も今日とて団長と姫様が言い争っている。


『それのどこがですか!花瓶の花を見てみなさい!臭気で枯れてしまったでしょう!
そんなおぞましいモノ、ウィルの寿命を縮めるだけですっ!早々に捨ててきなさい!』

『やかましいわっ!それは花が軟弱なだけじゃっ!ウィリアムはこれしきのことで食べるのを躊躇したりせん!』

―――あー…姫様?そういう問題じゃない気が……

『ウィルもウィルです!この毒物製造機にはっきり言ってあげたらどーですか!』

―――えーと…いえその…姫様がいつか美味いポトフを作ってくれるなら我慢できるかなぁ、と思ってるんですが。

『ほれ、見たことか。ウィリアムはこう言っておるぞ?
だいいち、料理の全くできんヤツが逆恨みでそういうことを言っても見苦しいだけじゃがな』

―――ちょっと!?姫様!そうやって火の中に油注ぎ込まないでください!

『ふふふ……言ってくれましたね、王女。……いいでしょう。
私が本気を出せば味王すらも唸らせる料理を作れるということを証明してあげます』

―――団長も挑発に乗らないでください!ってか味王って何ですか!

『ほう?食材を粉のように切り刻むしか能のないおぬしが、料理をか?』

『ふ、ふん!馬鹿にしないでください!
…ウィル!姫様の毒物を食べられるんですから、勿論私のも食べてくれますよね?』

―――は、はぁ……でもその言い方だと団長のも毒料理だと言っているように聞こえるんですけど…

『よかろう。そこまで言うのならどちらがウィリアムを昇天させられるほど美味い料理を作れるか、勝負しようではないか』

『わかりました。媚び媚びロリ王女ごときが相手では役不足ですが受けて立ちましょう』


 二人が肩を怒らせながら厨房へと歩き出す。

―――ちょっと、お願いですから厨房を破壊しないでくださいよっ!?

 嫌な予感がして俺も二人の後を追いかけた。

 ……実のところ俺もこんな毎日が楽しい。騒がしくて、二人に振り回されることばかりだけど。
それでも今の俺にとっては。
 こんな日常が幸せでたまらないのだ。
いつまでも。いつまでも。どっちが好きなのかはっきりしろと言う二人には悪いけど。
 いつまでも、こんな楽しい日々が続けられれば。
大切な人たちと騒がしくて取り止めのないこんな日を過ごしていければ。そう思う。
392Bloody Mary 2nd container 第二十一話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/15(土) 21:10:22 ID:VFpKLnHe

 彼女たちの背中を見つめながら今ある幸福を強く噛み締める。

―――ははっ。

この状況で唐突に何を考えてるんだと思うとちょっと可笑しくなった。

―――あれ?

 厨房へとさっさと歩いていく二人を見ながら違和感に気付いて首を傾げる。
いくら走っても、前を歩く二人に追い付けない。そればかりかどんどん距離が離れていく。どうして?

―――待ってください。団長、姫様。

 俺の声が届いていないのか、二人は更に遠ざかっていく。

―――待って!

 それが凄く不安で。自分だけが取り残されるような気がして。俺は力の限り叫んだ。

―――置いていかないでくれ!俺を独りにしないでくれ!

 もう二人は遥か向こう。
怖い。寒い。痛い。悲しい。ありとあらゆる負の感情で、心が押し潰されそうになる。
お願いだ……俺を、置いていかないでくれ……

―――待って!待って!待って!待って!待って!待って!待って!待って!待って!待――――――
393Bloody Mary 2nd container 第二十一話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/15(土) 21:11:31 ID:VFpKLnHe






「――――って!!!」
 突然世界が一変し、気が付けば俺はベッドで横になっていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 きょろきょろと部屋の中を見渡す。
ここ数週間、幾度となく目覚めたいつもの部屋だった。
「ゆめ、か……」
 良かった。ただの夢か。そりゃそうだよな。ちょっと疲れてたからあんな夢見ただけだ。
にしても、ずいぶんタチの悪い夢だったなぁ、ははっ。

「おはよう、お兄ちゃん」
 ベッドに同衾していたマローネが俺に目覚めの挨拶をした。
この数週間毎朝、俺が一番初めに見る光景だ。

「おはよう、マローネ」
 俺が笑顔で答えると、彼女は俺の頬に口付けした。
「さてと。お兄ちゃんも起きたことだし、ご飯作るね」
そう言って、ベッドから這い出て服を着始めた。
マローネの裸。この数週間、見慣れた光景だ。
「…ん?」
俺も支度するためベッドから立ち上がろうとするが腕が縛られていたのでそれは叶わなかった。
この数週間、毎朝毎朝支度しようとしてから縛られてることに気付く自分に苦笑した。

「なぁ、マローネ。いいかげん、このなわ、ほどいてくれないか?」
 いつもの台詞。そしてそれに対するマローネの回答はいつもこうだ。
「ダ〜メ。お兄ちゃんが完全にあたしのものになるまでずっとそのままなんだから」
 なんのこっちゃ。毎度同じことを聞くがわけがわからない。
俺が初めてこの部屋で目覚めてから、ずっと縛られたままなので此処がいったいどこなのかも解らない。
おまけに腕がこの状態のおかげで俺はずっと裸のままだ。……ん?なんで俺裸なんだっけ?
えーと……っつ!
 思い出そうとすると頭痛がするので考えるのはやめた。まぁいいや。
それより団長たちはどうしたんだろう。今朝あんな夢を見たせいか、無性に二人に会いたくなった。

「そういえば、だんちょうとひめさましらないか?」
 俺が尋ねるとゆっくりマローネが振り返った。
彼女の顔は笑顔。背筋が凍るくらいの、笑顔。
394Bloody Mary 2nd container 第二十一話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/15(土) 21:12:25 ID:VFpKLnHe
「いないよ」

 ただそれだけ答える。ぞわりと寒気が全身を襲った。

「は?」

 さっぱり意味がわからない。どこか出かけてるんだろうか。

「いるわけないよ」

 なにを、いってるんだ…?

「ここにいるのはあたしたちだけ、っていつも言ってるのに……」

 いつも言ってる?そうだっけ?
あ、れ………記憶が酷く曖昧で、此処に来る前の記憶を掘り起こそうとすると目眩がした。

「あの二人に会いたいの?お兄ちゃん」

 ああ。会いたい。すごく、会いたい。どこにいるんだ?

「無理だよ」

 なんでだよ。遠くにいるとしても俺は一目散に飛んでいくぞ。二人に会えるのならそれくらいの苦労、なんてことない。

「だって――――」

 ……だって?




「二人とも、もう死んでるんだもん」




――――――――あ。

 そして、今日も俺の心は壊れた。
395Bloody Mary 2nd container 第二十一話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/15(土) 21:13:31 ID:VFpKLnHe




いつもだ。いつもこうなってから思い出す。
この部屋で暮らすようになってから毎朝毎朝俺はマローネとこんな不毛なやりとりをするのだ。
 朝目覚める度、俺は団長たちのことを訊いて。
マローネがその問いに何度も同じ返事をして。
その答えを聞く度に絶望に心を砕かれて。
二人がもういないことを思い出す。
 そして翌日にはそのことをもう忘れて、再びマローネに二人のことを尋ねるのだ。
来る日も、来る日も。

 此処に来る前の記憶は曖昧だけど、二人がもういないことだけは深く俺の心に残っていた。
どうせならそれも忘れていればよかったのに。そうすればこんな思いをせずに済んだ。

「あぁ、そうか。ふたりともしんだのか……」

 その事実を口に出して、砕かれた心がさらさら零れていくのが解った。
ただ天井を見上げるだけの俺の目には涙すら浮かばない。そんなもの、とうの昔に枯れ果てている。

「しんで、るのか……」

 不安、安堵、絶望。毎朝、それの繰り返しだ。

 どうして俺がこんな目に合うんだ。俺のいったい何がいけなかった?
キャスを見殺しにしたから?戦争で罪のない人をたくさん殺したから?
姫様と団長を助けられなかったから?
 だったらいくらでも償う。どんなことでもするつもりだ。
だから、もうやめてくれ。これだけは辛すぎる。他のことならなんだってするから。



「お兄ちゃん」
 黙って様子を見ていたマローネが俺の手に触れた。
マローネに目を向けると、まるで彼女が聖母に見えて少しだけ気持ちが楽になる。
「辛い?」
 痩せこけた俺の頬を優しく撫でるマローネ。

「うん。とても、つらい」
 自分の声がしゃがれているのに今更気付いた。

「楽に、なりたい?」
 やさしく語りかけられる。

――――ああ。楽になりたい。どうすればいいのか知ってるのか?

「うん。知ってるよ。とても、とっても簡単なこと」

――――それって何だ?教えてくれよ。早く楽になりたいんだ。

「それは、ね」

――――早く教えて。
396Bloody Mary 2nd container 第二十一話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/15(土) 21:14:22 ID:VFpKLnHe


「二人のこと、忘れちゃえばいいんだよ。そうすればすぐに楽になれるよ?」


………は、はは。何を言い出すかと思えば。

「むりだよ、そんなの。ふたりのことをわすれられるわけないじゃないか」
 忘れられるわけがない。今の俺にとって大きすぎる存在なんだ。だから忘れられない。

「できるよ。お兄ちゃんがあたしのことだけを考えればいいんだよ。…あたしのことだけを」
 俺を舐るようにキスするマローネ。彼女から漂う甘ったるい匂いが俺の思考を除々に奪っていく。
「そうすれば二人のことを忘れられる」

「おまえのことだけを?」

「そう、あたしのことだけ」
 言いながら、俺の身体の隅々まで唇を這わせる。それがとても心地いい。

「そうしたらおれもらくになれるかな?」

「なれるよ」
 まるでぬるま湯に浸かっているかのように気持ちがいい。
ぼんやりとマローネの言っている意味を咀嚼する。
 確かにマローネの言うとおり、忘れられるかもしれない。
だけど。

「……でも、わすれるなんてふたりにわるすぎるよ」
 俺が拒絶しようとするとさっきまでの苦痛が再び身体を襲ってきた。

「二人はもう死んだんだよ?お兄ちゃんが辛いのなら、さっさと忘れた方があの人たちもきっと安心すると思うな」
 どういうわけかマローネが俺に声を掛けている間だけは苦痛も薄れる。

「そうかな?」
 マローネの言葉がとても魅惑的で。

「そうだよ」
 彼女の声が辛いばかりの俺を優しく癒してくれているように感じた。


「……うん――――」
 
辛さを忘れられるのなら。ずっとこんなぬるま湯に浸かっていられるのなら。

「――じゃあ、そうする」
 マローネにそう返事をした瞬間、二人の顔が不意に浮かんだけど、彼女たちのことを思い出すのはもうそれっきりだった。

 俺が決意した途端、急速に二人の顔が思い出せなくなっているのが分かった。

 彼女たちの姿形が蟲に喰われるように記憶から消えていく。



――――すいません。団長、姫様。でも………もう俺は。
397Bloody Mary 2nd container 第二十一話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/15(土) 21:15:44 ID:VFpKLnHe
お兄ちゃん監禁中。
次回でAルートの最終話になると思います…たぶん。
398名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 21:17:40 ID:Zxzw9Cdn
マローネ監禁開眼!
399名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 22:15:01 ID:cP/jkiS9
やっぱ監禁されるのって萌えるな
400名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 22:27:34 ID:JNvykuX6
ちまみれりゅうもぶらまりも、さよいえもしっそうも、虎姉妹も春夏秋冬姉妹もあるのにまだこれを上回る黄金期があったとは。
んーこのスレの神の領域のすさまじさを知る。

>>397
非常に乙。
マローネはシャロンを忘れています。
さぁさぁどうなることやら。

401名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 22:38:37 ID:i8T8vnaR
まあSSの中では頻繁に主人公が暗黒期を迎えているが
402名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 23:11:59 ID:UY7kjI6n
誰がうまいことを言(ry
403名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 23:44:08 ID:8luM9aVs
>>400
黄金期ってのは
優柔とか沃野とかわたあなとか不義理とか合鍵とか
同時(ズレてるのもあるが)に連載してた時期。

あぁ旧神たちよ、今は何処に(不義理神は健在だが)。
404名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 23:45:16 ID:8luM9aVs
ageちまったorz。今から吊ってきます。
405名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 23:47:52 ID:6oHDIVB2
今も十分黄金期だぜ!!
最高!!!!!
406名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 23:50:18 ID:rFOMNpDm
投下ペースは落ちたが作品のクオリティは今でも黄金期。
407名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 23:53:53 ID:R7XyokZB
>>406
まぁね。
408名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 23:59:20 ID:Mrx4ePYV
きっと旧神は仕事とかリアルの修羅場とかで創作は難しいんだろうな
でもここを覗いているはず……戻ってくる神もいるはずだ
409名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 00:00:42 ID:WEMaJq6a
書けない俺は神の作品一つ一つの修羅場シーンで抜くことぐらいしかできん
くっ・・・無力だ。
410名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 00:04:18 ID:yuSy1LKm
俺はマスを掻いてるけどな
411名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 00:11:13 ID:C9/505Ly
ここでシャロンが油揚げをかっさらって行きそうだ
412名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 00:18:52 ID:6mU06un9
>>410
そのギャグは切腹モノですよ?
413名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 02:25:55 ID:wBCzkyGZ
ねえ>>410
あたし前にも言ったよね…
こんなやらしい話読んで…オ、オ、オナニーなんかしたらダメだって
でも>>410も男だから、やらしい気持ちが抑えられなくなる時があるってのは、まあわかるよ
まあ、あたしも鬼じゃないからさ
だから…そ、そういう気分になったら…あたしのトコロ来なさい、よ
ちょ、何よその顔は!
…何するつもりかって?
…そ、そんなのはひ、秘密よ! あんたの心配することじゃないわっ!
第一、あたしはあんたのためを思って言ってるのっ!
なんていうか、そういう世界にのめり込んで、勉強とかおろそかになられたら困るでしょうが!
…それに……あたし以外に…欲情するなんて……ゆ…せないわよ……
と、と、とにかく、姉として放っとけないでしょうがっ
わ、わかったら返事は!?
わ、わ、わかればいいのよ、わかれば…

ああ、それから、
次約束破ったら、パソコンぶっ壊すから。あんたごとね
414血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/16(日) 02:39:09 ID:LJ+/HuFW
投下します
415血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/16(日) 02:39:51 ID:LJ+/HuFW
 
 
 油燈の弱々しい灯りが、豪奢な部屋を妖しく照らしていた。
 絵画の掛けられた壁に、黒い影が踊っている。
 影の元には2人の男女。
 男は激しく動いていて、女は殆ど動いていない。
 否。殆ど――ですらない。
 女は、生きているのか死んでいるのかわからないくらい。
 動いて、いなかった。
 
 それもそのはず。
 女の左腕は根元から無く。
 左目も、赤黒い肉孔を見せるのみ。
 身体の所々から異臭を醸しており、自立的な動きを欠片も見せない。
 端から見れば、生きているとは思えなかった。
 
 ただ、男の動くがままに、女は身体を揺らしていた。
 言うなれば死姦。
 その言葉が、最もしっくりくるのかもしれない。
 
 薄明るい部屋の中央で、男が女に肉を叩き付けている。
 そして、それを食い入るように見つめている、中年男性。
 その表情は恍惚としており、男女の異様な交わりに、この上なく興奮している模様である。
 
 こんこん、とノックの音が響いた。
 
 食い入るように見つめていた男――ビビスは、ノックの音にあからさまに不快そうな顔をする。
 
「――誰だ? 当分入るな、と伝えってあったはずだが」
「公爵様。至急お耳に入れたいことがありまして」
 
 扉の向こうから返ってきたのは、怜悧で高い声だった。
 氷の刃を連想させる女性の声に、ビビス公爵はふむと頷き、
「入れ」
 とだけ、告げた。
 
 
 音もなく扉が開かれる。
 入ってきたのは一人のメイド。
 髪は短く、鋭い顔立ち。背筋はぴんと伸ばされている。
 その仕草は完全に無音。目を向ければ、入ってくる様が見えるのに、足音は全く発していない。
 見た目はただのメイドだが、特殊な訓練を受けていることは容易に想像できた。
 
「貴様か、ミシア。……それで、用件は何だ?」
「はい。つい先程、中央監獄にて問題が発生したようでして」

416血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/16(日) 02:40:32 ID:LJ+/HuFW

 中央監獄、という単語に、ビビスの眉がぴくりと動く。
「問題、とは?」
「はい。詳細は不明ですが、銀の甲冑と血塗れ竜が私闘を行ったようです。
 両者共に負傷。今は拘束され治療を受けているとのことです」
「負傷、だと?」
 
 ビビスは、己の耳を疑った。
 囚人闘技場の王者、血塗れ竜が負傷したことも驚きだが、何より。
 
 銀の甲冑――アマツ・コミナトが負傷した。
 
 今まであらゆる修羅場をくぐり抜けてきた、凄腕の騎士。
 ビビスとて、政争の折、幾度となく仕掛けていたが、今日の今日まで、屈服させることの適わなかった生意気な小娘。
 隙を微塵も見せることなく、その実力を見せつけてきた“銀の甲冑”。
 それが負傷した。今までどんなに熟達された刺客でも、傷つけることすら不可能だったのに。
 ビビスは、心の底から、驚いていた。
 そして、同時に――
 
「怪我の程度は?」
「詳細は不明ですが、軽傷とのことです。ただ、当分は剣を振れない可能性が高いかと」
「剣を振れない、か。
 ――いいな。そいつは、いいな、ミシア」
「はい。しかも、囚人との私闘は、立場的にもかなり問題があると言えます」
「近衛隊隊長が、そんなことをしては、臣民に示しがつかないよなあ」
「近日中に何らかの処分が下される可能性は、高いかと」
「確実にしろ。手配はお前とティーに任せる。
 そうだな。……私がその采配を任されるのが、理想だな」
「努力します」
 メイド――ミシアは深くお辞儀をし、部屋から出ようとした。
 
 ――と。
 ふと思いついたように、ビビスは口を開いた。
「ミシア。今のアマツを仕留められるか?」
 そんな問いに、メイドは少しだけ考え込む素振りを見せる。
「……難しいです」
「ふむ。――不可能ではないのだな」
「はい。ですが、私やティーより確実な方法があります」
「言ってみろ」
 
「負傷している状態のアマツ・コミナトなら。
 ――“食人姫”の次の食事に相応しいかと存じます」
 
 
417血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/16(日) 02:41:09 ID:LJ+/HuFW
 
 
 
 ミシアに必要な指示を出し、ビビスは嬉しそうに顔を歪めた。
 もうすぐ。
 もうすぐで、あの生意気な田舎娘を屈服させられる。
 思えば、奴には煮え湯を飲まされ続けてきた。
 皇帝陛下の覚えも良く、帝国のために尽力してきた自分。
 そんな自分の振る舞いを、こともあろうか田舎貴族の尺度に当てはめて糾弾した馬鹿な小娘。
 ただ剣の腕が立つだけで偉くなったつもりでいて、こちらの趣味にまで干渉してくる愚かな騎士。
 
 血塗れ竜のときもそうだ。
 腕の立つ囚人を、自分が可愛がってやろうと狙っていたのに、いつもいつも邪魔をしていた。
 奴さえいなければ、血塗れ竜は自分のものになっていたかもしれないのに。
 あんな――名も知れない監視員に任せるより、きっと何倍も“幸せ”にしてやれるのに。
 アマツ・コミナトは最低だ。多くの人間を不幸にし、それを顧みようともしない。
 
 ああ、思えば思うほど腹が立つ。
 この怒りを紛らわせるには、生半可な快楽じゃ到底足りない。
 
「おい」
 中央で、片腕片目の女を犯していた男に声をかける。
「目を犯せ。……そうだ、左目だ。丁度いい穴だろう?」
 
 常人なら、何度死んでいてもおかしくない。
 ――しかし、こいつは、未だに死なない。
 血塗れ竜に腕を引き千切られ、それを顔面に突き立てられても。
 
 怪物姉は、生きていた。
 
 せっかく生き延びたのだから。
 自分が楽しむために使ってやろう。
 なんて自分は慈悲深いのか。
 存在価値の無くなった諜報員を、こうして手元に置いて丁重に扱ってやるなんて。
 
 脳を破壊され自立的な活動を見せない怪物姉。
 その眼孔に肉棒が突っ込まれるのを見て。
 ビビスは再び、胸の内より沸き上がる興奮に身を浸した。
 
 
 
 ふと。
 小さな、本当に小さな“何か”が、空気を震わせた。
 
 ゆうきさん たすけて
 
 誰にも届かない、懇願だった。
 気付いた者は居らず、狂気の眼孔姦が繰り広げられる。
 
 

418血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/16(日) 02:41:50 ID:LJ+/HuFW
 
 
 
 
 ユウキ・メイラーは、早朝の東棟通路をひとり歩いていた。
 その表情は思索に耽るもので、あるひとつの事件に、彼の心はかき乱されている。
 監視員の詰め所で、同僚からその話を聞いたときには、心の底から驚いた。
 
 白とアマツが、戦った。
 
 最初に聞いたときは、冗談だと思った。
 あの2人が殺し合うなんて、信じられなかった。
 白を監獄に入れたのはアマツだが、その後白の環境が良くなるように働きかけたとも聞いている。
 白は白で、苦手意識は持っていたようだが、特に嫌っていた気配はなかった。
 ――なのに、何故。
 
 考えても、答えが出るはずなく。
 悶々とした思いを抱えたまま、ユウキはアトリの個室へと向かう。
 
 とりあえず、業務が終了してから。
 白かアマツに会いに行こうと思う。
 どちらも拘束は朝のうちに解かれているらしく、共に軽傷なので会うのに支障はなさそうだ。
 
 そう考えながら、通路の曲がり角にさしかかったところで。
 向こうから来た人と、ぶつかりそうになってしまった。
 
「わ!? す、すみません」
 慌てて立ち止まり、頭を下げる。
 考え事をしながら歩いていたから、通路の向こうの気配に気付けなかったようだ。
 慌てて謝罪して、そのまま通り過ぎようとして――
 
 
「……ユウキ」
「あ、アマツ……さん……!?」
 
 
 ぶつかりそうになった相手が、まさしく今考えていた人だということに、気付いた。


419血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/16(日) 02:42:32 ID:LJ+/HuFW

「喧嘩、しちゃいました」と。
 弱々しく、彼女は呟いた。
 
 アマツの服装は、いつもの甲冑姿ではなく、昨日の夜と同じ私服に、白い包帯が映えている。
 右腕は包帯でがんじがらめ。頬にも当て布が為されている。
 軽傷とは言い難い様相だが、まっすぐ立っていて、ふらつく様子もないので、重傷というわけでもないのだろう。
 ユウキの中では絶対的な強さを誇っていたアマツが、ここまで傷ついている様は、まるで夢のようだった。
 
 でも。
 それより。
 
 今の態度が、ユウキの知るアマツとは、かけ離れていた。
 
 ユウキの中でのアマツは、何事に対しても強気で立ち向かえる、
 傲岸不遜を上手く演じられる強い人間、というものだった。
 しかし、今のアマツにそんな強さは欠片も見受けられず。
 疲れ、弱っている女性が、そこにいた。
 
 
 アマツは、多くを語らなかった。
 ただ、白と喧嘩してしまったことと。
 もう、仲直りできないであろうことを。
 淡々と、ユウキに報告した。
 
 その様子が。
 とても、弱々しく。
 ひょっとしたら、これがアマツの、ずっと隠してきた側面なのかもしれない、とユウキは思った。
 今までは、誰にも頼ることができず、仕方なく強がっていただけで。
 仲の良かった白と喧嘩したことで、その強がりが壊れてしまったのかもしれない。
 
 アマツが今までどれだけ頑張ってきたのかは。
 学院生時代からずっと世話になっている、自分がよくわかっている。
 だから、ストレス解消として身体を提供することに抵抗はなかったし、できることなら恩返ししたいと思い続けていた。
 
 今、この弱り切っている瞬間。
 アマツは、誰かに頼りたいのではなかろうか。
 でも、頼り方を知らず、どうしたらいいのかわからないのかもしれない。
 そう、思った。

420血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/07/16(日) 02:43:09 ID:LJ+/HuFW

 ――今が、恩返しできる瞬間じゃないのか?
 
 思えば長い間、アマツには頼り切りだった。
 自分の不甲斐ない面を、愚痴をこぼしながらも必ずフォローしてくれた心優しい先輩。
 頼り方を知らないのなら、今、自分が支えになればいいのではないか。
 自分程度では、頼りになるなんて烏滸がましいことこの上ないが、それでも、目の前の人に、恩返ししたかった。
 
 だから。
 気付いたときには、肩に手を置き。
 
「……ユウ、キ?」
 
 優しく、抱き寄せていた。
 身長は同じくらいなので、胸を貸すことができないのは少々悔しいが。
 アマツの暖かさを腕の内へ収め、しっかりと支えられるように力強く抱き留める。
 
「えっと……今だけ、楽にしても、いいですよ」
 
 答えはなかった。
 ただ、背中を強く掴まれた。
 アマツの額が、肩に押し当てられる。
 少しだけ、震えていた。
 
 
 これで、少しは元気を取り戻してくれればいいのだが。
 そう思って、上を向く。
 考えることはたくさんあったし、これからどうすればいいのかわからない。
 ただ、今だけは、世話になった先輩の支えになろうと。
 黙って、アマツを抱き締めていた。
 
 顔を下に向けたら、おそらくは見られたくないであろうアマツの顔を見てしまうと思って。
 ユウキはひたすら、上を向いていた。
 
 
 上を向いていたから、気付けなかった。
 
 
 アマツの唇が、笑みの形に歪められていたことに。
 
 そして。
 
 ユウキを待ちきれずに、
 通路に出て迎えに来ていたアトリが、
 正面に辿り着いていたことに。


421 ◆gPbPvQ478E :2006/07/16(日) 02:43:43 ID:LJ+/HuFW
色々、始まりました。
楽しんでいただければ、幸いです。
422名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 02:46:42 ID:WEMaJq6a
>>421
GJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJ
待ってたっぜーーーー
色々な動きにwktk


姉がものすごく可哀想・・・・
423名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 02:56:50 ID:2lEs6fsT
裏での動きとアマツさんとアトリの激突に期待
そして怪物姉。・゚・(ノД`)・゚・。
424名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 03:18:08 ID:udqF7IW8
すごいほんとにすごいよー。
一話読むたびに、こんなにすごく面白くてこれから大丈夫かな、失速しないかなと心配して
次の展開が始まるたびにその新たな面白さに悶絶するです。
姉はどうなるんだろう。願わくば物語の鍵を握っていてほしいなあ。
425名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 03:28:40 ID:qeFecUyc
ビビスの外道っぷりは異常
こいつは普通には死ねそうにねぇぜー!




怪物姉カワイソス
426名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 03:48:42 ID:sP0rlEfA
ミシアに期待

そしてビビスは
ほんと変態だな
427名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 06:01:19 ID:Dg8oxp7f
エロ姉ぇぇえぇぇえええ!!


>>421
GJ!!仕事の疲れも眠気も吹っ飛びました
428名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 06:17:38 ID:C9/505Ly
修羅場は良いけど鬱はちょっと・・・
429名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 08:43:51 ID:Sbpz6Pmp
お姉ちゃんが、お姉ちゃんがぁ;;
でも白もアトリもアマツも恋敵が減ることからも助けたりしないだろうし。
これで再び駆り出されて、とどめさされてしまうのか……ビヒスシネ。
430 ◆JfoDS60Gas :2006/07/16(日) 09:45:03 ID:Sbpz6Pmp
3連休の2日目、皆様いかがお過ごしでしょうか?
第6話が出来たので、幸奈さんサイド投下します。
431永遠の願い 第6話 ◆JfoDS60Gas :2006/07/16(日) 09:46:03 ID:Sbpz6Pmp
アドレスが私の携帯に控えられた。
あの人の、大好きなあの人の連絡先。大事な、つなぎ目。
連絡を取っていいという許可は、彼がまだがっちり晴海さんに縛られていない証拠。
晴海さんもけして、彼をがんじがらめにしていない証拠。
それが何を意味するかは言うまでも無い。
私が孝人さんの恋人候補になってもいいということ。
いずれ、孝人さんの正式な恋人になってもいいということ。
私という女がどこまで孝人さんを惹く事ができるかはわからないけれど、孝人さんに、晴海さん以外にも素敵な女性がいる証明を、私が先駆けて行い、いずれ孝人さんの一番になれたら。どんなに素敵だろう。
孝人さん。
孝人さん……。
名前を心の中に響かせるだけで幸せな気持ちになれる。
孝人さん。
私が告白しているときに、後ろでじっと見ていた晴海さんと一緒に帰った。
今はまだ、私は部外者で、孝人さんのすぐ隣を歩く権利はないけれど、でも、晴海さんががっちりと確保したその隣の席には、いつか私が就けるかもしれないんだ。
一応、今はあなたにその場所を譲っておきますけれど……孝人さんの恋人の権利は、私が貰い受けます。
こればかりは、どんな相手であっても容赦するわけには参りませんから。
じっと見送る私の目に、忌避するような晴海さんの視線が突き刺す。
そう、見えただけだと思うけれど、でも、あれは明らかに私という存在を疎ましいと思っている人の目。
晴海さん、悪ノリにつきあわされているだけかと思ったんだけれど、間違いなく、彼女は孝人さんのことが好きだ。
女の勘、という言葉も当てはまるし、いろいろな状況証拠を照らし合わせても言える。
とにかく、手をこまねいているわけにはいかなかった。
さっそく手をうたなければ、手遅れになってしまうかもしれなかったから。
私は、二人が視界からいなくなるのを確認して、荷物をまとめて帰宅する。
5時に家で用事があるといって、部活のほうはちょっと早引きさせてもらったんだ。
別にサボりについてとやかくは言われないし、むしろ孝人さんへの告白なら、物笑いの種として取り上げられてフイになる。
それはそれで不愉快ではあるけれど。
でも。
私は今日、孝人さんと結ばれるための、大事な大事な楔を打つことができた。
あとはここから、私を示しつづけるだけ。
帰宅の足取りは軽くなく重くなく。
そのかわり、心の弾みを止める事はできなかった。

家には、自分で持つ合鍵で開けて入る。
母は夜8時にならなければ帰ってこない。いつもは、夕食用のお金を置いていってくれる。
昔はちゃんとみんなで食べていたけれど、やや重い借金と、私の進学は母に重労働を課していた。
自炊すればいい、とはよく言われるけれど。
私は……恥ずかしいながら料理が全然ダメなのだ。
母や姉がみんなやってしまっていたから、私は台所からいつも蚊帳の外だった。
当たり前だが、それでは料理の”り”の字も覚えられはしない。
人を好きになっても、女の武器たりえるひとつを生かすことが出来ないのはあまりにも苦しかった。
孝人さんにとってはきっと、そういう料理能力は絶対的なもののはずだ。
毎日食べている孝人さんのお弁当はきっと、晴海さんが作っているものに違いない。
それは、孝人さんのために晴海さんが腕を振るっている賜物であり、きっと絶品である。
つまり、孝人さんの胃袋をゲットするためにとお弁当を作る作戦では、晴海さんに勝てるわけ無い。
真心があればいいなんていうけれど、食べられるものを作れるかすら不安な私には、とりあえず控えるべき選択肢。
家庭的であるアピールをふさがれたのでは、5割方だめだめじゃないか。
とにかく、そんな策を弄するよりも、孝人さんに連絡をとってみよう。
私は携帯を取り出して、孝人さんに手早くメールを打った。
「To:孝人さん From:幸奈  今家に帰りました。孝人さんは今どうしていますか?」
初めてのメールを出す。
それだけで緊張が心臓を躍らせる。
孝人さん……お返事、返してくれるでしょうか。
私は送信の操作をした。
ほどなくして送信完了の報告が携帯画面に表示される。
あとは孝人さんからのお返事を待つだけ。
メモと一緒に置かれた500円を手に、近くのスーパーに食事の買出しに出かけた。
432永遠の願い 第6話 ◆JfoDS60Gas :2006/07/16(日) 09:46:51 ID:Sbpz6Pmp
ここでなんでコンビニじゃないのか、という質問は却下する。
まだ6時そこそこの時間で、何もコンビニでなければ食べ物が買えないというわけじゃない。母が、「コンビニは高いから」といって、私にこちらで買うことを強く勧めた。
別にそんなに変わんないんじゃないの? と思っていたのだけれど。
コストはほぼコンビニの3分の2、それでいて、どこか新鮮味のある軽食がそろう。
飲み物のコーナーもコンビニのそれの3倍はある。
選択幅はコンビニの比ではないのだ。
この宝の山を生かさずにはいられないでしょう。
私は、並べられた飲み物や軽食類を一通り物色し、500円の中で収まる範囲で計算してかごにほうりこむ。
わりと簡単に金額を満たしてしまったかごの中、やっぱり貧相。
でも、普段小食な私には丁度いいくらいだった。
さっそく、会計に持っていこうと思っていたところ。
ふと、生鮮品を売っている場所付近を連れ立って歩いてる、二人組を見つけた。
赤い色になんとなく見えるそのスペース、ミオグロビンの世界の中で、ひとつひとつその質を見定めている。
それだけなら、ただ普通に夕食を買いに来ている連れ合い。
ただ、そうしている二人が誰と誰かによって、どうしても気にしなければならないときも、ある。
女の人は村崎晴海さん。
男の人は、かっこいい桧木孝人さん。
どうしてだろう。
今の彼には、どんなイケメンもかすんでしまう。
あんなに素敵な人だなんて思ってもみない。
一気に心臓が高鳴る。
孝人さん。孝人さん。
孝人さん。孝人さん。
孝人さん。孝人さん。
名前を反復するだけで、ぼうっと、でも身をひそめて気づかれないようにしながら眺めるだけで。
心の中の領域がすべて孝人さんになってしまう。
隣の誰かさんは目に見えてない。
孝人さんだけ私の視界の中にいる。
私の初恋のひと。恥ずかしいけどこんな年でやっと初恋。
それまで本ばかり、花を生けてばかりいた私の、帰るべき原初、番いとなるべき人。
だから、だからこそ。
私はすぐ隣で幸せそうにしているあのカマトト女を遠ざけなければいけない。
IHHHなんて組織ができるのも、孝人さんが心を許しているのも、あの女の本性を知らないから。
私に向けた視線の意味、私が孝人さんに助けられたときの彼女の威圧。
全部、全部あの女の本当の姿。
でも、個人的な恨みがあるわけじゃない。村崎さんのいいところだって、知ってる。
孝人さんと村崎さんは長年の幼なじみ、いろんな勝手をすべてわかりあっているから、信頼しあってる。
たぶんそんな村崎さんの本性すらも受け入れてる。
勝ち目、ないかもしれない。
あんなに肩寄せ合っても、二人とも平然としてる。あたりまえのようにやりとりしている。
あ、今ひとつ選んだみたい。
会計するためにこっちに近づいてる。
私は二人が歩いてくるである方向に対し、陳列棚をうまくかいくぐって見つからないように対称軸を歩いた。
案の定見つかることなく彼らをやりすごした。
気づかれていない、はず。
433永遠の願い 第6話 ◆JfoDS60Gas :2006/07/16(日) 09:47:47 ID:Sbpz6Pmp
嫌だ。
なぜ一瞬弱気になったんだろう?
孝人さんに、好きでいていいことを認めてもらえたときに、私はもう戻りたくないって、あなたにとって一番になりたいって、どんなに村崎さんが妨害したって、絶対負けたくないって誓ったのに。
後戻りしたくない。
私は私に正直になる。孝人さんと両思いになるって決めたんだ。
だから、だから。
でも、そうするとどうやって孝人さんを振り向かせよう?
村崎さんのがっちりとしたガードを考えると、下手に小細工なんか仕掛けたって通じるはずが無い。
むしろ、孝人さんに笑い話のネタにされてしまいはしないだろうか。
だったら話は早い。
メールアドレスは控えたんだから、さっそくお誘いすればいいんだ。
学校でのアドバンテージは村崎さんに圧倒的に有利、現状無理に学校でやりあう必要ない。
明後日は土曜日、その次は日曜日。
孝人さんにそのどちらかの日を空けてもらって、デートを持ちかけよう。
でーと。
そう、でーとです。
でーと……でーとって、二人でいろんなところにいって、お話したり、お食事したり、夜の街でいい景色を見て、それから、それから……
って、いざ、そういうお話をするという段になって、私はデートという単語について、その意味を100回反復して考えをめぐらせていた。
会計を済ませ、すっかり暗くなった夜の道を足早に急いで。
普通ならひったくり注意とか乱暴する人に注意とかそういうのを気遣わないといけないけど、あいにく今の私は身なりにほとんど気を使っていない普段着で見栄えも悪く、
背は低くても年に見合わない半端なスタイルはロリ趣味の変態も寄せ付けず、そんな貧相さが悲しい私。
つまりはろくに気にしないで夜道を一人家に帰った。
空腹を買ったもので済ませながら、自分なりにプランとかプランとかを考える。
何をどういうふうにすればいいんだろう。
どんなことをすればいいんだろう?
男性というものを知らずに生きていた私、最大に悩むとき、携帯を取り出してみる。
孝人さんに相談してみようか?
どんなところに、いけばいいのか。
すでに包みだけを残した食料の抜け殻を捨てて、ソファに腰掛けて携帯を手にとる。
「To:孝人さん From:幸奈  今お忙しいですか? お時間が空いたときに、お返事をいただけるとうれしいです」
さっきのメールから、ずっと返事がこないのはきっとあの女がべったりだからだ。
村崎さんが孝人さんのお返事活動をシャットアウトしているためだ。
だからそっと、孝人さんの携帯に私の履歴を忍ばせた。
たぶん完璧。
今のうちに、私はお風呂に入ってしまうことにした。

9時、図書館で借りてきた本に目を通しても、まったく落ち着けないでいた。
孝人さんのお返事、まだかな。
孝人さんのお返事、まだかな。
村崎さん、まだ帰らないのかな?
落ち着けるわけがない。孝人さんのことを待つ時間がこんなにも胸をしめつけるようだなんて。
どうして私じゃないんだろう。
孝人さんの側に今いるのは私で、私は孝人さんに思いを伝えていて。
好き。
孝人さんが好き。
確かめるまでも無いくらいせつない想い。
寝間着を纏っている。それほどサイズのない胸を覆うブラは外してある、ほんとうにゆったりとした衣類。
待ちきれないまま部屋に戻ろうとしたときに。
「ただいまー」
長いこと仕事して、着込んだスーツがややくたびれている母がご帰還だ。
434永遠の願い 第6話 ◆JfoDS60Gas :2006/07/16(日) 09:48:30 ID:Sbpz6Pmp
「お帰り。お風呂は私が入ったばかりだからまだ暖かいよ」
「うん、わかったー、じゃあさっそくいただくわ」
「ごゆっくり」
「いつも500円玉でごめんね、最近どうも忙しくて」
「いい、お母さんの苦労はわかってるから」
「悪いねえ。わたしゃこんな孝行娘を持ってほんと幸せだよ。あとはいいお婿さんだけか、ちょっとそうなると寂しいけど……」
「そうなったらそのもてあます体、いい男引っ掛けて満たせばいいでしょ、私は困らないよ」
「幸奈ったら、そんなこと親に言うもんじゃないわよ。まあでも……最近の幸奈を見てると負けられないわ」
「でもお父さんのこともたまには思い出してあげて」
「そんなの当たり前よ。あんな人はそうそう現れてくれないわ」
「それならいい。お休み、お母さん」
「はい。また今度お酒付き合ってよ」
「私未成年なんだけど……」
「17、8はもう大人よ」
「無茶苦茶すぎるって」
この、疲れているとも思えないハイテンションママがうちの母親。
ちょっと中年太りが目立ってきて、くびれラインもだいぶだらしなくなってきた、お風呂上りは上半身裸の厚顔無恥な母。
胸がちょっと大きいのはうらやましいけど。
二階に上がる階段のさなか、私のポケットを振動する、孝人さんからの連絡に。
真上へ突き進む足は、軽く自分の部屋へ飛び込んでいた。

「To:幸奈 From:孝人さん  ごめん、今まで晴海と勉強会していた。今からなら大丈夫だ」

来た。
来た、来た、きたーっ!
孝人さんのメール、孝人さんからのお返事。
思わず携帯を抱いて小躍りしてしまった。
っと、来たメールにはお返事を返さないと。
私はすぐに孝人さんへメールを打つために指をキーへ走らせていた。

「To:孝人さん From:幸奈  ありがとうございます。孝人さんのお返事、とてもうれしいです」
「To:幸奈 From:孝人さん  大げさだな。そんな大した事じゃないって」
「To:孝人さん From:幸奈  好きな人からメールをもらえたんですから、思わずおどってしまいました」
「To:幸奈 From:孝人さん  おいおい^−^; それはともかく、榊さんが貸してくれた、”車輪の国、向日葵の夏”だっけ?」
「To:孝人さん From:幸奈  なんのタイトルですか。ヘルマン・ヘッセの”車輪の下”ですよ。ドラマで取り上げられてたから読んでみたんです。
古文の先生の10分読書の時間に使ってください」
その先生は今うちで現国の担当をしてる人。
宿題狂・睡眠電波発生装置の通称は全学年共通らしい。
「To:幸奈 From:孝人さん  ああ、そうするよ。車輪の国はこないだ借りたエロゲだった」
孝人さん、そういうのプレイする人だったんですか。
年頃の男性だからって、女の子との会話に出すものじゃないですよ。
「To:孝人さん From:幸奈  孝人さんそういう人だったんですか?」
「To:幸奈 From:孝人さん  別に隠したって仕方ないだろ。実際泣けたぞ」
「To:孝人さん From:幸奈  それはまあ、そうですけど……ちょっとヒキました。でも幻滅してませんからご安心を」
「To:幸奈 From:孝人さん  悪い悪い、タブーにしとくよ。つーか、ヒクとかはっきりいうか普通」
「To:孝人さん From:幸奈  孝人さんと同じです。孝人さんの前ではすべて正直になりたいんです」
「To:幸奈 From:孝人さん  恋愛ってそういうもんなのか?」
「To:孝人さん From:幸奈  はい。怖いものが怖くないんです」
「To:幸奈 From:孝人さん  ほう、俺、恋愛って正直よくわかんなくてさ」
「To:孝人さん From:幸奈  すべてがその人のためにと、思える人に対しての想いではないでしょうか?」
「To:幸奈 From:孝人さん  ふうん、榊さんって大人だな」
「To:孝人さん From:幸奈  そんなこと無いですよ。いっこ下ですし、胸も小さいし、背も低いし」
「To:幸奈 From:孝人さん  可愛いのにもったいない」
「To:孝人さん From:幸奈  孝人さんに会うまでは目立たない女でしたから。でも、孝人さんに恋した私は生まれ変われそうです」
「To:幸奈 From:孝人さん  おいおい」
「To:孝人さん From:幸奈  恋した女は強いんですよ。どんな障害にも負ける気がしません」
435永遠の願い 第6話 ◆JfoDS60Gas :2006/07/16(日) 09:49:01 ID:Sbpz6Pmp
だいぶ強気の発言をしてしまった。
その割に、今の私は膝がくがくしてる。
とても大切なことを切り出せないでいて、なにが障害にも負ける気がしないだ。
デートに、誘う。
誘わなきゃ。
「To:幸奈 From:孝人さん  大きく出たな。まあつぶされないようにがんばれよ」
「To:孝人さん From:幸奈  そうさせていただきます。ところで、次の土曜日か日曜日、空いていますか?」
切り出せた。
でも、携帯持つ手が震えてる。
嘘みたい。ただ、孝人さんに、お誘いの言葉を言えばいいだけなのに、真正面に孝人さんがいるわけじゃないのに。
どうしてこんなに緊張しているんだろう。
普通、携帯だとこんなお誘い、どうってことないはずなのに。
そのはねる鼓動を抑えきれない。
「To:幸奈 From:孝人さん  空いてるって言えば空いてるな、両方とも」
予定、空いてた。
村崎さんのこととか大丈夫なんだろうか。
ちょっと心配になってくるけれど、もしそのことで何か変化が起こるとするなら、私はこの奇跡に自分をすべてかけるつもりでいた。
「To:孝人さん From:幸奈  じゃあ、その2日で、どこか遊びに行きませんか?」
「To:幸奈 From:孝人さん  それはデートのお誘い、と見ていいよな?」
でーと、の、おさそい。
そう、これはデートのお誘い。
「To:孝人さん From:幸奈  はい、それで、その……私、デートってしたことないから、どこに行けばいいかわからないんです。いいところ知ってますか?」
こんなことをお誘いする相手に聞くなんて恥ずかしいけれど、そこはそこ、男性である彼にエスコートしてもらってしまおう。
それはちょっと、甘えなのかな?
「To:幸奈 From:孝人さん  いいところっていってもなぁ、別に特別行きたいところがないなら、商店街歩き回ったり公園いってのんびりしていてもいいんじゃないか?」
「To:孝人さん From:幸奈  そういうわけにはいきませんっ、せっかくのデートなのに」
「To:幸奈 From:孝人さん  わかった。じゃあ最初は、榊さん本好きそうだから、図書館いったり、本屋で本買って公園で開いたりとかいいんじゃないか?」
「To:孝人さん From:幸奈  でもそれだと、夢中になって孝人さんを置いてけぼりにしてしまいそうです」
「To:幸奈 From:孝人さん  気にするなって。そういうのはレディファーストだろ」
436永遠の願い 第6話 ◆JfoDS60Gas :2006/07/16(日) 09:49:41 ID:Sbpz6Pmp
うわぁ……
改めて孝人さんの紳士的な対応にほれ込んでしまう。
私のことを、どうでもいいと思っている人の態度じゃない。
ものすごく、大事にしてもらっているかのよう。
「To:孝人さん From:幸奈  はい、ありがとうございます。2日分なので、もっといっぱいいろんなところに行きましょう」
「To:幸奈 From:孝人さん  そうだな。それこそ街すべてを制圧する気で歩き回るのもいいな」
「To:孝人さん From:幸奈  どこまでもお供します」
孝人さんのこと、2日も、独占できる。
なんかその事実だけで気持ちが浮ついていて、とても大事なことを忘れているような気がしたが、ややディレイがかった孝人さんからのお返事とともに、無視した。
「To:幸奈 From:孝人さん  じゃあ、土曜日朝9時に、駅前で待ち合わせでいいか?」
「To:孝人さん From:幸奈  はい、それでかまいません」
時間や、場所や、それ以外の打ち合わせを済ませて。
「To:幸奈 From:孝人さん  そういや……2日連続なんだよな。やけに積極的すぎないか?」
「To:孝人さん From:幸奈  そんなつもりはありませんよ、1日終わるごとに帰宅です」
「To:幸奈 From:孝人さん  そりゃそうだよな。どこかに泊まるかと思った」
どこかに泊まる、という単語の意味、すぐにその勘違いに気づいた。
私、大馬鹿だ。
土曜日だけ、あるいは日曜日だけでもいいのに、ついつい孝人さんと一緒にいたくて、2日とってしまったのだ。
そこに他意はないのに、一瞬ある状況が頭に思い描かれてしまった。

それは暁の陽光。
カーテンの隙間から、時間をゆっくり過ごした二人を照らし、その朝の訪れを知らせた。
柔らかなシーツと羽毛のマットの上に、染み付いたいくつかの点。
どちらかが起こしたかは知らないけれど、まだ体に残る余韻は、昨晩の情事の名残。

う、あ、あぁぁぁっ。
ちがう、ちがうちがうちがうっ。
孝人さんとはそういうことしたくて誘ったんじゃない。
確かに、初めては、私の処女は孝人さんにもらってほしい。孝人さん以外の人とセックスしたくない。
でも、2日がけなんて誘ったら、初夜も前提みたいじゃないか。
でも……
孝人さんの腕の中、暖かそう。やや冷え気味な体を抱きしめるように、そのときのことをさらに細かく思い描いてしまう。
腕に抱かれると、孝人さんを思い描いてしまって。
孝人さんがそっと、私の大事なところに指を忍ばせて。
「To:孝人さん From:幸奈  でも、孝人さんがいいなら……」
そう打ち込みかけて、すぐにクリアキーを押して消した。
そんなこと言えるわけが無い。女からこんなこと誘ったら、ましてやまだ付き合っているわけでもないのに話を持ちかけたら、淫乱女だと嫌われてしまう。
できるなら、孝人さんから誘ってもらえるくらいになりたい。
「To:孝人さん From:幸奈  じゃあ、楽しみにしています」
ふと時間を見る。
時計の指す時間は11時を回っていた。
こんなやりとりだけなのに、時間が過ぎるのを忘れてしまう。
そっと私は、追記して送信する。
「To:孝人さん From:幸奈  じゃあ、楽しみにしています。そろそろ寝ます、おやすみなさい」
「To:幸奈 From:孝人さん  お休み」
孝人さんに、そう断って、メールのやり取りを閉じた。
携帯を二つに閉じて、そっと勉強机の上に置いて、ベッドにもぐりこむ。
冷えとかそういうのは気にしないでいられるレベルで、そっと目を閉じて、眠りを呼び込もうとしたけれど。
デートの約束の成功に興奮した上、思わず孝人さんに抱かれる想像をしたのが頭から離れなくて、しばらく悶々とした状態を引きずったまま、私は眠れぬ夜を過ごした。
村崎さんからほんの少しの間だけ、孝人さんを自分側に引きつけておける日のことを考えて。
そっと、指を舐めて。
ささやかに、自分を抑えこむ為に、自らの蜜の核を、指先で撫でて慰めた……
437 ◆JfoDS60Gas :2006/07/16(日) 09:52:01 ID:Sbpz6Pmp
以上です。
隠すまでも無いですがID一緒な>>429と同一人物です。
ビヒスじゃなくてビビスだ……

まだ始まったばかりなのにもう64kbなのは無計画なのでしょうかorz
438名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 10:06:33 ID:mY8ESiRE
嗚呼お姉ちゃん……願わくば救ってあげて欲しいぜ
439名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 11:27:11 ID:/nb2kxF1
>>437
俺もまったく同じ意見だ。
あの野郎はろくな死に方して欲しくない。苦しみぬいて死にやがれ。
ユウキ……姉ちゃんのこともたまには思い出してあげて(ノД`)
440名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 11:48:20 ID:rVAnCINs
アマツさんくろいよアマツさん…ってアトリがー!
441名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 12:06:22 ID:KhVbHWXh
ユメカがかろうじて生きていたことを喜ぶべきか
生きていたからこそ惨い生き地獄を味わう事になってしまった事を
嘆くべきか……
折角生き長らえたこの命
この地獄から抜け出しささやかでも幸せを掴んでくれる事を切に願う
セッちゃんも草葉の陰でそう願ってるはず……


ビビスはマジ外道シネ
最高に惨めでむごたらしい生き地獄へ堕ちてもらいたい
442名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 12:36:12 ID:/iAk2qJ8
最終的にビビスはひでぶーになるはずだ
443名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 12:51:34 ID:AYU2cX4A
肩入れする子がころころ変わる俺
444名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 12:59:41 ID:/W4cmYrD
血まみれ竜すごい、さすが今期連載中の人気アンケート上位常連だけのことはあるな。

>>443
心配するな、誰もが通った道だ。
445名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 13:17:58 ID:2lEs6fsT
>>437
孝人のエロ紳士っぷりに乾杯、晴海派だったんだが幸奈派に移籍した俺ガイル
446名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 13:36:19 ID:+BURhBnm
>>437
作者様GJっす
幸奈やべぇ、幼馴染派の心を折るほどの力持ってるなぁ
特に打ちかけたメールとか、自分の想像に興奮したりだとか・・・
世の中にはこんな娘が居たりするのだろうか・・・
447名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 14:21:31 ID:fpLn9sN0
投下しますよ
448『とらとらシスター』Side妹虎:2006/07/16(日) 14:23:21 ID:fpLn9sN0
 玄関の扉を開き、私は一息吐いた。我慢が既に限界に達している体は熱り、呼吸が酷く
乱れているのを感じる。友達と歩いていたときに我慢できていたのは、殆んど奇跡に近い。
若しくは、普段から培っている精神訓練の賜だろうか。
 いや、今はそんなことはどうでも良い。
 靴を脱ごうとして、あまり力が入らずに膝から崩れ落ちた。その衝撃のせいか、熱くぬ
めった液が太股の内側を伝っていく。もったいない、と思いながら指先で掬うと口に含ん
だ。指の腹がなぞった部分が快感を呼び、更に蜜が溢れ出てきて廊下に垂れた。規則的に
続く軽い音を聞いて、このままではすぐに限界を突破してしまうと思い立ち上がった。
 部屋まで、戻らないと。
 力の入らない足で歩きながら考えるのは、世界で一番愛しい兄さんのこと。一定の拍子
で聞こえる液体が床を打つ音や、一歩踏み出す度に体に響く粘着質な液体が下着と擦れる
音、そしてそれらの度に股間から伝わってくる快感でより一層心地良くなってきた。
 いつもよりも刺激が強いのは、やはりあの泥棒猫のせいだろう。あの姉さんと同じく、
無駄に大きくてだらしなくてはしたないその乳で、悪しくも兄さんを誘惑した雌豚。その
悪魔の手から兄さんを救い出せるのは、もう私しか居ない。今だってどんな破廉痴なこと
をしているか分からないし、創造したくもない。高潔な精神を持つ兄さんのことは信用し
ているけれど、それ以上の手法を使ってくるのが泥棒猫というものだ。
449『とらとらシスター』Side妹虎:2006/07/16(日) 14:24:07 ID:fpLn9sN0
 憎い。
 兄さんも、早く帰ってくれば良いのに。
 つい玄関を振り向くと、私の軌跡を示す浅い水溜まりが点々と続いていた。後できちん
と処理をしなければ、と思うけれども、まず先にすることがあるので自分の部屋に向かっ
た。掃除は、その後でも十分だ。
 熱い。
 暑い。
 漸く自分の部屋に辿り着くと、重箱を抱えたままベッドに倒れ込んだ。皺になるのも気
にせずに体を横たえ、重箱の包みをほどく。一分一秒寸暇を惜しみ、兄さんが使っていた
箸を取り出すと迷わず股間に当てた。水気を含んだ布がたてる音と、兄さんの唇や舌が触
れた箸の感触が脳髄の中に侵入してくる。更に快感を得るように割れ目に沿って動かすと、
我慢していた声がとうとう漏れた。はしたないと思いながらも、しかし割れ目を擦る動き
は止まらない。
 一度達した後、空の水筒の蓋を開いた。目的は一つ、兄さんの為のお弁当に入れる、最
高の調味料の獲得。とめどなく溢れ出てくる蜜を指先で丁寧に拭うと、栓を抜いた水筒の
中へと垂らしていく。何度も達しながらも暫くその行為を続け、念を押して普段の倍近い
量を入れたところで止めた。本音で言うならば全て使ってしまいたいけれど、この後の本
番では充分な量の液がないと辛いので苦渋の決断だ。唾液で水増ししているのが、心の底
から口惜しい。本当ならば母乳も入れたいところだけれども、残念なことにそれは当分先
になりそうだ。それにあまり直視したくない現実だけれども、私は胸がとても小さいから。
450『とらとらシスター』Side妹虎:2006/07/16(日) 14:27:22 ID:fpLn9sN0
 夫を思いやる妻というものは、大変なものですね。
 兄さんに心で話し掛けると、誉めるように微笑んで返してくれた。今はあの雌豚の策略
のせいで隣には居ないけれど、繋がっている心はいつもきちんと答えを返してくれる。私
と兄さんの昔からの絆、勉強も運動も苦手で体の発育もあまり良くない私を、それでも愛
でてくれた微笑みは、いつも私を潤してくれる。
 愛しています。
 兄さんに告げるように念じてから、やっと制服を脱ぎ始めた。靴下以外身に付けていな
い自分の裸体を見下ろすと、悲しい程に起伏がない。姉さんや雌豚のような下品な大きさ
は要らないけれど、それでももう少し大きくなってほしいと思う。兄さんも男性だから、
大きい方が良いだろう。出来れば身長ももう少し高い方が良いのかもしれない。同じ殺虎
の血筋を引いているのに、この差は何なのだろうか。
 溜息を吐いた後、丁寧に乳を揉み始める。今のところ効果は薄いけれど、いつか大きく
なっていくために。
 数分。
 そろそろですか。
 私は箸を手に取ると、片方を股間の割れ目の中へとゆっくりと滑り込ませていった。中
の粘膜を傷付けないようにゆるゆると掻き混ぜながら、奥へ奥へと侵入させていく。幕を
破ってもらう人は兄さんと決めてあるから、僅かでも内部を傷付けないように、繊細に。
兄さんの舌や唇、唾液が触れたものが私の中で擦れあい、体を侵食していく。それと同時
に私の液が箸に染み込み、今度は兄さんの口の中へと入り込む。
451『とらとらシスター』Side妹虎:2006/07/16(日) 14:29:10 ID:fpLn9sN0
 それを想像するだけで、更に体温が上がっていった。何て素敵な円環なのだろう、無駄
がなくそこで完結している。誰にも壊されることのない、究極無比の不文律。
 奥まで辿り着いて一本目を差し込み終え、続いて二本目を手に取った。その細い先端を
当てがうのは後ろの穴、軽く揉みほぐすように入口を数回掻き混ぜた後にゆっくりと侵入
させていく。前の穴もそうだったけれど、始めたばかりの頃は痛みしかなかったのに、今
では動かすどころか差し込んでいるだけで快感が溢れてくる。
 足りない、まだ足りない。
 差し込んだままゆっくりと回転させ、中の壁にまんべんなく擦り付ける。余すところな
く、全体に、まぶすように、少しも残さないように念入りに。粘液と箸が混ざりあい、お
互いに染み込んでいく度に快感は比例するように増していき、幾らも経たない内に達して
しまった。前から後ろから伝わる余韻が快い。箸が細長く二本一組であるのは、まさに神
様の慈悲なのだろう。愛する人の体に比べると少々物足りないのも、きっとそうなのだ。
それでも、達してしまうことも。
 ふと、考える。今回も気持ちが良かったけれど、いつもよりも時間が短かった。それは
やはり、兄さんがこの家に居ないからだろうか。
 寂しさからか、溜息が出てきた。
 あまり遅くはならないと言っていたから、夕飯の前には戻ってくるだろう。腕時計で時
間を確認してみると、夕食を作るまでには若干の余裕があった。まだ後一回は出来そうだ。
452『とらとらシスター』Side妹虎:2006/07/16(日) 14:32:11 ID:fpLn9sN0
 そういうことですか、神様も粋ですね。
 つまりは、兄さんが居ないことの埋め合わせをするように時間を空けてくれた。その分、
愛を育てなさいということだろう。昔の歌にもあった、会えない時間が愛を育てるという
言葉も今なら少し意味が分かる。兄さんの顔を思い浮かべると、やはり私と同じことを考
えていたらしく、微笑んで頷いていた。
 今兄さんも、私との愛を育てている。
 きっと、そうだ。
 そうに決まっている。
 考えている間にも、指は自然と動いていたらしい。粘着質な水気のある音が鼓膜を震わ
せ、割れ目から溢れた愛液のせいでシーツには水溜まりが広がっていた。
 もったいないですね。
 兄さんが少し怒ったような表情をする光景が見えて、申し訳のない気持ちになった。こ
うなるのならば、もう少し多目にとっておいても良かったかもしれない。次からは、気を
付けないと。大切な人のためとはいえ、結構大変なものだ。
 でも、苦にはならないですよ。兄さんのためですから。
 そう語りかけると、兄さんは再び微笑んだ。その表情を見て今日何度目かも分からない
絶頂を向かえ、ぐったりと横になる。
 ゆるゆると視界をずらして時計を見ると、もう良い時間になっていた。愛する兄さんに
料理を作る、先程の自慰行為と並ぶ至福の時間の一つ。
 気だるい体に鞭を打ち、みだしなみを整え、重箱や水筒、何より大切な兄さんの箸を持
って立ち上がる。
「愛して、います」
 今までのそう長くない人生の内に、内外で何度呟いたか分からない言葉を吐いて、私は
歩き出した。
453ロボ ◆JypZpjo0ig :2006/07/16(日) 14:32:57 ID:fpLn9sN0
今回はこれで終わりです

タイトルが表すような、ほのぼのとしたラブコメにするつもりだったんです。プロットの
通りに書いている筈なのに、こうなってしまうんです。まったりだと思っていたら変態だ
らけなんて、お釈迦様でも気が付かないでしょう


つまり何が言いたいかといえば、俺死ね('A`)
454名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 14:34:54 ID:+BURhBnm
Σ(゚Д゚;≡;゚д℃
こんな良いものを作っている作者様に死なれては困る
これからも変態達をよろしくお願いしますm( __ __ )m

妹キタワァ*:.。..。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:* ミ ☆
流石虎の血を引くもの、期待を超える食事の用意だぜ(*´д`*)
クッ、この姉妹を持つ主人公が羨ましい
455名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 14:46:47 ID:/W4cmYrD
>>453
妹江炉過ぎです。
兄の口をつけているほうで、よもや自分の後ろまで掘ってるとは。
好かれてなかったら確実にマイナスポイントだよなこれ。

愛液って無臭じゃないから、いつかライバルに手の内気づかれてるんじゃないかと思ってみる。
456名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 15:10:05 ID:WEMaJq6a
俺の中でエロ度トップ作品キテターーーーーーーーー
ほんと変態姉妹には癒されるなぁ
457名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 18:33:49 ID:nKPheKih
エロ過ぎる。は、早く続きを・・・_ト ̄|○
458過保護 ◆IOEDU1a3Bg :2006/07/16(日) 20:07:37 ID:0uDCr0EH
最初は自分の目を疑った。
次に白昼夢かと疑った。
それはグラウンドで投球練習をしている赤ハチマキの少女と……私の最愛の少年、倉田健斗だった。
あの少女は……どこかで見たような気がする。
どこかで会ったではなく、どこかで見た事があるような気がする。
いつだったけ…あんなにも特徴的な女の子を忘れるとは思えないんだけど…
う〜ん……えっと……
あっ、ちょっと前に友達の噂になってた女の子。
あんまり興味がなかったから半分しか聞いてなかったけど、確か超の付くお嬢様口調、金髪、赤いハチマキ。
何だっけ、あのハチマキって確か噂では……いいや、思い出せないしどうでもいいし。
今の私にとって重要な事は一つ、それはライバルが一人増えた事だけ。
ライバルがまた一人増えただけ……天よ、貴方は私を見捨てたのですか?
とにかくまずい、このままじゃ本当にまずい。
黒崎先輩一人にもてこずってるのにこれ以上ライバルが増えるのは無視できない。
そうなると今までみたいに先輩だけに注意を払う訳にもいかなくなる。
そう、これからは常に抜け駆けを警戒しなちゃいけいんだ……かつて私がしたように。
今……ようやく倉田君は会長と別れたみたい。
どこかへと走り去って行く生徒会長を手を振りながら見送っている。
ここからは見えないけど、一体どんな顔をしているんだろう。
倉田君の……馬鹿。
どうしてこの期におよんで女の子にそんな事をするの?
私が倉田君に抱いてる想いに気がついているの?
君は知らないと思うけど、女の子って意外とそうゆうのに弱いんだよ。
倉田君の……大馬鹿……
ここ2週間ばかり、倉田君は妙によそよそしかった。
まるでそう……私から距離をおこうとしてるみたいに。
最初は黒崎先輩とよりを戻したのかと思った。
けど違った、倉田君は病院には行ってなかった。
だから二股をかけた事への罪悪感からかと思っていた、今までは。
でも……本当にそうだろうか?
あんまり考えたくなかったけど……あるいは他の女の子と一緒に居る時間を捻出するためだったんじゃないのだろうか。
そしてその他の女の子が新任の生徒会長だった……今の私にこの説を否定する材料は無かった。
いえ、それはどうだろう。
倉田君はどちらかと言えばそんなにモテる方じゃない。
それに倉田君は自分から積極的にアプローチするタイプでもない。
生徒会長が倉田君に惚れているなら、あるいは……あるいは……
でも、三階の教室から見たあの女の子の表情。
遠かったから確信は持てないけど、楽しんでいたような気がした。
証拠はないし、確信も持てない、でも……やっぱりライバルが一人増えたと考えた方が良い。
これからは三つ巴の体制となる。
そう、古の三国時代のように。
決して隙を見せず、付け入る隙を与えず、倉田君を助け出す……
そう、助け出すんだ。
先輩にも生徒会長にも倉田君を幸せにするのは無理だ。
私が、倉田君を一番良く見ている私だけが倉田君を幸せにできる。
私が正しいんだ、私だけが倉田君を想っているんだ。
そうだ、もう……手段は選ばない……選んでられない……
459過保護 ◆IOEDU1a3Bg :2006/07/16(日) 20:08:43 ID:0uDCr0EH
「可奈!聞いて聞いて、むしろ聞きなさいっ!」
……と、どうしてこの友人は他人が真面目に考え事をしている時に話しかけるんだろ。
まあいいや、ちょうどこの子に聞きたかった事があるし。
この子は私の友人(?)の村風由江(むらかぜ ゆえ)、ごく普通(?)の噂好きな女子高生。
どこから仕入れてくるのかは知らないけど、学校の七不思議や期末テストの問題、果ては校長先生の不倫相手まで知ってる。
しかも困った事に由江が知った事は3日以内に全校生徒にまで知れ渡ってしまう。
お蔭で試験前日に全教師が徹夜で問題を作り直したり、校長先生が辞職したりと先生にとっては大迷惑な存在でもある。
でも、今となっては好都合。
この子は記憶力も良いから一度流した噂を忘れたりはしない。
この間生徒会にヘッドハンティングされたって嬉しそうに話してたし、生徒会長の情報を集めるにはこれほどまでにうってつけの人物はいないと思う。
「由江、ちょうど良かった。ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「そんな事はどうでもいいのっ!良い、なんと昨日にね……」
「ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「……何?」
頭に怒り皺を増やすのがコツ。
「今度新しく就任してきた生徒会長の事教えて」
ちょっと不満そうな顔をするけど、由江はすぐに喋り始める。
基本的にお喋りが好きな子なんだ。
「え〜……と。名前は三河岬(みかわ みさき)、身長158cm、体重47kg、B82/W56/H/86。
誕生日は9月11日、イギリス人のお母さんと日本人のお父さんの間に産まれたハーフで、
十手と取り縄を操って相手を殺す事無く捕縛するのを目的とした武術『功水流(こうすいりゅう)捕縛術』の正統後継者……
あんまり血筋とかは考えない流派らしいわ。
現在昇龍高校生徒会会長に就任、生徒会再建計画と不良撲滅政策を遂行中……こんなもんで良いかしら?」
……本当にどこでこんな話を仕入れてるんだろう。
「あのさ、あのハチマキについて前に何か話してなかったっけ?」
ついでだから聞いておいた、何が何処で役に立つかわからない。
「それがねぇ……あのハチマキ、普通に染めたにしてはちょっとくすんだ色だと思わない?」
言われてみると、あの色は確かに普通の赤とは違うような気がする。
「実はあれね……元々白かった布が血で染まって赤くなった物なんだって、それも相当昔に」
「本当に!?」
「本当よ、私が可奈に嘘ついた事がある?」
由江の噂話には良くも悪くも信憑性がある。
と言うよりも基本的にしっかりと裏づけの取れた物しか教えてくれないし、裏づけの無い物は事前に断ってから言ってるだけなんだけど、
どちらにせよ信憑性はある。
でも今の話は後で役に立つかもしれない、覚えておこう。
「由江、他には何か知ってない?」
「う〜ん、会長に関してはこのくらい。後は可奈が健斗君に色目使ってるとか……」
「由江、それだけは言いふらさないでね……」
「まっ、流石に親友の恋路は邪魔しませんって」
こんな所までいつもの由江だ。
基本的にこの子は自分が気に入った人の害になるような事はしない。
まあ、後でパフェを奢らされなければ良い友人だと思う。
「そうそう、さっきも言いかけたけど可奈にとっては悪くない噂をついさっき耳にしたのよ」
「悪くない噂……?」
「倉田健斗君が昨日黒崎栞先輩と別れたんだって」
「ええっ!?」
ああ、なんだ……天は私に味方してるんだ。
460シベリア! ◆IOEDU1a3Bg :2006/07/16(日) 20:09:32 ID:0uDCr0EH
先日、現実世界の知人より「三点リーダ(…の事)は二つ並べて使うと吉」と指摘されました。
そんな訳で今回より修正、以前の作品に関しては放置。

「ねんがんのくらたけんとをてにいれたぞ!」
「そう かんけいないね」を選ぶのが会長。
「ゆずってくれ たのむ!」を選ぶのが黒崎栞。
「ころしてでもうばいとる」を選ぶのが最上可奈。
ちなみに会長の赤ハチマキの由来や幼い頃に一目惚れした相手とかも考えてあったりします。
まあ、後で(過保護から二年後、不撓家の二年前)そいつをめぐってとんでもない奴らと争奪戦を繰り広げる事になる訳ですが……
退魔士とか、ヴァルキリーとか、魔王とか……

以下チラシの裏
久しぶりに不撓家を読み返してみたところ、とんでもない大ミスを発見しました。

第12話の次回予告
次回、不撓家の食卓『帰還』にご期待ください

……とありますが。
これは第1話の次回予告をコピペしたまま変更し忘れた物で。
正しくは

次回、不撓家の食卓『強襲』にご期待ください

です。
保管庫の管理人様、お手数ですが変更をお願いしたします。
461名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 23:10:55 ID:+EE3nrNA
>>460
会長スキーの俺としては今回はモノ足りませんよ?<マテ
462義姉 ◆AuUbGwIC0s :2006/07/16(日) 23:16:22 ID:fzBN7D7F
        *        *        *
『涼子』

 秋日に照らされた中庭に目を向ければ彼女――三沢さんが一人ベンチに小さくうずくまっていた。
「何やってんの?」
「……何でもありません」
 返事はするが顔を上げようとはしない。
 いつか見たシロウへの彼女の視線が思い浮かぶ。
「言いたい事言えないってあたり?」
 長い間をおき、彼女は言葉を返す代わりに小さく頷いた。
 そういえば、振られたとは聞いたが、具体的な流れについては全く聞いてなかった。シロウ達は一体どんな伝言ゲームやったんだろう。
「やりたいけどやれない、やらない方がいいに決まっている――そうやって自分に言い訳していることってのは大抵は後悔するもんだよ」
彼女の後ろのベンチに背中合わせの様に腰を下ろす。何となく説教くさくて正面から話す気にはなれない。
「やって失敗したってのは大抵自分に決着付けた結果だけど、自分の本心偽ってやらなかったてのは例え悪くない結果でももしやってたらってのが心の中で引っかかりつづけるんだよ」
 振り返り彼女を見ればうずくまったままだ。この辺はシロウに似ているかもしれない。
「で、あんたはやるの? やらないの?」
 ――本来大した面識もないような相手に何故ここまで押し入っているんだろう。
 彼女は顔をしたままで返事はしない。
「はい決定! 今日の放課後」彼女の頭を軽く叩く。
「心の準備が――」
 慌てて顔を上げた、やっぱりシロウに似ている。
 大きな溜息が落ちた。
 ――手間のかかる――


 ――彼女は行動に移すのだろうか。
 放課後になってそんな考えが浮んだ。あのまま首根っこを掴んでシロウの前まで突き出してしまった方がよかったかもしれない。
 自分で悩んでもしかたないのだが、背中を押してしまった手前気になって仕方ない。
 校門へと向かって歩いていくとシロウと三沢さんは向いあっているのが見えた。
 二人ともまるで見合いを始めたかのようにお互いを前にしたまま口を開こうとしては上手くいかない。
 二人を見守る為に足を止めて数分立つがお互いが言葉らしい言葉を発していない。
 多分放っておくと終電時間までこの様子が続きかねない。
 言葉よりアクション。無言で近づき、シロウの頭を掴んで、そのまま前へと押し出す。掴んだ頭が正面にある別の頭にぶつかる感触がした。
 ラブコメなら上手い具合にキスになるだろうが、鼻もしくはおでこがぶつかっただけかもしれない。そこまでは責任はもたないが、二人の動きに変化は現れるに決まっている。
 数秒たつが、二人に動きはない。頭を押した誰かより、目の前に存在に全神経を持っていかれているんだろう。
「士郎くーん!」
 モカが駆けてくるだ。せっかくの話の腰を折りそうなタイミングで。
 ラリアットの要領でモカの首を引っ掛け止める。喉にあまりにいい具合に入りすぎたモカはうめいている。
「こっちは適当に話つけとくから、あんた達はキッチリ決着つけときなさい」
 相変わらず二人は固まったままだ。
 ――こっちは蚊帳の外ですか。
「さーて、邪魔者はさっさと帰るよ」
 首を絞めたままモカを引き摺って歩き始めていた。


463義姉 ◆AuUbGwIC0s :2006/07/16(日) 23:17:12 ID:fzBN7D7F
 ――数日後。
 秋というより冬に季節は変わりつつあり、日が沈んでしまった帰り道のことであった。
「にゃおん」
 鳴き声がした。
 なるべく視界に入れないようにしていたが、やっぱり入ってしまう。極太マジックで『拾って下さい』と書かれたダンボール箱の中のものが。
 この声は私へ向けてのものだ、間違いない。
 小さく溜息を吐いて声の主へと顔を向ける。
「何かの罰ゲーム?」
 ご丁寧にネコミミに鈴付首輪までつけたダンボール箱の中のモカへ向かって投げかける。
「捨てられた哀れな仔猫にゃーん。ここまで体張れば誰かいい人に拾われるかと思ったけど小学生にまでシカトされる始末だにゃ。人の別れ話作らせた原因なんだから誰かいい人紹介してにゃ」
「誰かいい人ってもね、あんたと私の交友関係でダブってない人間なんて何人いると思う?」
「――うん確かに」
464義姉 ◆AuUbGwIC0s :2006/07/16(日) 23:18:24 ID:fzBN7D7F
<チラシの裏>
智子END
本編はまだまだ続きます。
熱くて脳味噌ゆだってます

元々不義理本編でも智子の告白の背中押しは姉ちゃんにやらせる予定だったけど
それをやらせて後々面倒見ないとなるとあんまりにも無責任な存在になるのでボツにされたお話
</チラシの裏>
465名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 23:23:10 ID:WEMaJq6a
モカさん大ファンの俺としては今リアルポルナレフ状態に入ってる
466名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 23:25:13 ID:sOPOS2vS
いくらんでもはしょりすぎだよ、これはwwwwww
467名無しさん@ピンキー:2006/07/16(日) 23:51:04 ID:nKPheKih
>>464
      _
    '´  ,、`ヽ
    i ,ノノ ))リ 終わったのかとビックリしたじゃないか!
    |!il|# ワノl|| l | i
    リヽ(ヽノ) l| ! | i|
   .ノノく/_`(r 、!l| ! | i|
     (_ノ └z \|i!| |;
           ゙ーz ヽ;.”*!  ザシュ!!
         ⊂''"Д´)つ-、
      ///   /_/:::::/
      |:::|/⊂ヽノ|:::| /」
    / ̄ ̄旦 ̄ ̄ ̄/|
  /______/ | |
  | |-----------|
468名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 00:03:39 ID:akg2mPdA
>小学生にもシカト
オレが拾ってあげますよ。モカさん。
……モカさんっていうより、むしろモカにゃん?
469名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 00:41:09 ID:ZuvMCP0y
モカさん直接振られてはないんだよね?
じゃあ奪えばいいじゃん
じゃあ奪えばいいじゃん
470名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 00:45:53 ID:ZuvMCP0y
モカにゃんテラ萌え(*´Д`)ハァハァ
って言うの忘れてました
もし絵に描いてくれたりしたら俺はもうどうにかなっちゃうかもしれない
471名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 01:01:26 ID:vH2bvkjk
モカさんみたいなおかしくなっちゃわない人が居てもいい
でも報われないのは、、、
472名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 01:36:39 ID:UpU4EMpe
「恋は戦い」だからなwww
やっぱ恋敵を××しないと、最愛の人は手に入らないのがこのスレの流儀
473名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 01:41:43 ID:6I1Pux0H
奪え 全て この手で♪
474名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 02:28:24 ID:QdAa27/w
義姉が少年週刊誌のアンケートの不調により突如打ち切りにされて
最終回のミラクル進行のようでワラタ
475名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 02:59:06 ID:kbQhf3gO
せっかくヒロインになったはずの智子を食っていく
モカにゃんの破壊力に乾杯・・・
智子・・・報われない子(;つД`)
476名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 07:01:44 ID:C6jWxNxA
まっさつー
そして共倒れして娘だけ残ると。
477名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 07:25:55 ID:TrcKiW34
>>473
懐かしいな
478名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 07:27:16 ID:TrcKiW34
ごめんageた・・・orz
479名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 09:59:28 ID:5XxGwE+r
(*´・ω・)モカにゃんオメガカワイス
(´・ω・)いや…オメガカワイソス
480『疾走』 第十三話 ◆/wR0eG5/sc :2006/07/17(月) 10:39:40 ID:9RVjnCNy
「さくちゃん」
 呼び止められたのは、階段を降りて、廊下を歩き出そうとした瞬間だった。
 その声の主の正体を、生方は即座に理解する。
 なにせ自分の中学からの友達であり、さっきまで屋上では、この少女の話題で彼と話し合っていたのだから。
「あ、あれれっ? いたり、あんたもトイレだったのかなっ?」
 すぐに振り返ると、そこには予想していた彼女の姿が。
 中学から、せめて髪型だけでも活発に、という理由でずっとポニーテールだった少女。
 それも昨日までだった。ばらした髪の毛は生方が思ったよりもずっと膨大で、腰の辺りまで広がっている。
 普通のロング――だが、随分と雰囲気までもが変貌していた。垂れた前髪で片目が若干隠れていたりなど、なんとなく、大人びた印象が強く前面に出ている。
「私は、さくちゃんを探してたんだよ……随分と、長かったから」
「あ、そ、そうなんだっ! ごめんねえ、ちょっとお腹の具合が……っ」
「その割には、走って教室出ていかなかったっけ」
「あぐぅっ……」
 困ったように、生方は耳の裏を掻く。
 彼女の行動力と快活さは美点であったが……いかんせん、根っこが純粋なのである。
 演技などは得意から縁遠い分野だったし、もとより嘘吐きの才能がからっきしだった。
「ねえ、さくちゃん。トイレって、あれ嘘でしょ」
「ううんっ? そ、そうだねえ、嘘か真かと選択を問われればまあ、えっと……そのぉ。あ、あははっ」
 笑うことは生方が話題をそらす手段としては、一番優れている選択だった。
 まさか黙って友達の彼氏と密会をしていたなどとは、口が空気くらい軽い彼女でも吐き出せぬ理由である。
 生方が誤魔化しの笑いを浮かべる、その前方。
 瀬口至理は――まるで人形ではないかと想起してしまうほど、無機質な両目で、彼女を見据え。




「さくちゃん、あのね……一つだけ、忠告」




「――の……けくんに、……したら、……す、からね」




 何かを、言った。
481『疾走』 第十三話 ◆/wR0eG5/sc :2006/07/17(月) 10:43:04 ID:9RVjnCNy
「うえっ? な、何って言った、いたり……? ごめん、聞こえなかったさ」
 生方には、至理の口が動いていたことしかわからなかった。
 至理は人形の眼球をやめると――ぱあっと、咲き誇る花が如く、微笑む。
「ううん。なんでもないよ。……それよりも、早くお昼食べよ」
「っ……そ、そうそうっ! ささ、急ぐよいたりっ」
 至理がなにを己に言ったのかはさておき、この話が流れてくれるのなら、生方にはどうだってよかった。
 手を引っ張って、瑛丞を連れて来たときよりは遅めに、駆け出す。
 生方に引っ張られながら……じっと、至理は生方の後頭部を睨む。




 ここを鈍器か何かで殴ったら。
 私のエースケくんに近寄るメスを、殺せるかな――。
 それはきっと、爽快な行動だと思えるのです。
 私には。
482名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 11:31:30 ID:lUcWReAh
いたり先輩キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n’∀’)n゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!


483名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 12:41:51 ID:o+0TVoY5
いたり先輩のばかぁぁぁ(;つД`)
484名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 13:15:13 ID:2WiP1Q3Q
義姉・・・(゚Д゚;)

そしていたり先輩テラコワス((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
485名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 13:45:18 ID:kbQhf3gO
いたり先輩可愛いよいたり先輩
こういう依存っ娘がタイプになった時点で俺に幸せはない・・・
486名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 13:51:52 ID:3pAOnfJK
修羅場SSヒロインは……ヒッヒッヒッ……
病めば病むほど……瞳の色が変わって……
こうやって見据えて……

こわい!(テーレッテテー)
487名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 14:06:56 ID:bwqR4cKK
いたり先輩の独占欲キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
生方先輩早くニゲテー(((( ;゚Д゚)))
488名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 14:09:25 ID:C6jWxNxA
ヤンデレヒロインを考えてる場合、使用凶器の選択は楽しみのひとつ。
果たしていたり先輩は何を使うのか……
489名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 16:53:48 ID:gcmAll95
13日の金曜日
490名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 17:34:48 ID:i/EuZRAQ
チェーンソー?
491名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 18:31:05 ID:Mv7NQ07p
どろぼうねこはバラバラになった?
492名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 18:47:33 ID:/dX/bxhF
どうか、いたり先輩救済ENDがありますようにと
493名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 19:08:41 ID:jseDnBCu
>救済END
「これからは、ずっと一緒ですよ?」

こうですか、わかりません!!
494名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 19:09:37 ID:kbQhf3gO
|ω・`) 個人的にははじめの告白で付き合った場合が気になる・・・
495 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/17(月) 20:26:33 ID:z6HP8wnK
「いいよ、もう帰って……」
そう彼女に帰るように促す。が。
「蒼也さん、お飲み物はありますか?今日は暑いからしっかりと水分を取らない脱水症状になってしまいます。よろしければ私が買ってきましょうか?
たしか自動販売機は……学校の裏でしたね。それでは買ってまいります。あ、蒼也さんは校舎の中で待っててください。倒れてしまうとまずいですから。はい、こちらハンカチです。汗をおふきになってください。」
そう一気にまくし立てると、彼女は走って行ってしまった。
「いかん……いかんなぁ。」
家では主導権は俺にあるのに、何故か外では彼女は元気になり、いつもイニシアチブをとられてしまう。俺としては従順な娘のほうがいいんだけどな。
「ま、買って来てくれるんだし、お言葉に甘えまくって待ってるとしよう。」
ハンカチで汗をひと拭いし、校舎の中へと戻っていった。そういや……ローター着いてたか?太股に紐があったから……着けたままなんだろう。
もう適応してきたのか。そろそろより強力なものを手に入れないとな………明日辺り、学校さぼって探すか。
496 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/17(月) 20:27:20 ID:z6HP8wnK
「んー。よかったよかった。これで食料の問題は無くなったな。」
一安心したら余計腹が減った。早速食おうかな。包みを開け、割り箸を割り、箱開ける。レッツイーティング!!
『LOV…』
バン!
「はっはっはっ!さぁて、購買に…」
「ないでしょ、うちの学校。」
くぅ、紅よ。びしりと言うなよぅ、現実逃避させてくれよぅ。
「はぁ。」
おもいきら溜め息をつき、再度開ける。
『LOVE』
ああ、彼女よ。無慈悲なる一撃を我に与えるか。
「なに天を仰いでるの?蒼也?」
俺がまさに天を仰いでいるのを、海ちゃんが物珍しそうに弁当を覗いてくる。これをみられたら……ヘブンだ!
「がつがつがつがつがつ!!!」
「うわっ、きったないなぁ……ご飯粒飛ばしながら食べないでよ。」
「がつがつがつがつがつ!!!ぐぼっ!!」
む、むせたっ!鼻の、穴に!ご飯粒がっ!!!
「く、紅…オーチャァー!」
紅が飲んでいた緑茶のペットボトルを奪い、一気に飲もうとする。
「あ、ば、馬鹿蒼也!」
あ、もしかしたらこれって、か、間接キス……や、やだ、恥ずかしいじゃない。
497 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/17(月) 20:32:01 ID:z6HP8wnK
ぐびぐびぐびぐび!
そんなうれしはずかしな考えも浮かばず、お茶を一気に飲み干し、飯を飲み下す。
「ぷっはぁ!た、助かったぁ。」
「ああ…わ、わたしの…私のお茶がぁ。」
絶望にうちひしがれた紅を見る事に少し快感を覚えてしまった俺は少しSなのかもしれない。ああ、もっと紅の壊れた姿を……
「蒼也…さん?」
ギクリッ!
瞬時に背中に悪寒が走る。その声に怒りと悲しみが含まれていたからだ。
「あ、はははは…よう…どしたの?」
案の定、彼女が立っていた。手には飲み物を持って……半泣きの顔で………
「そ、蒼也……さん、わたひの……買ってきたのみもの……ひっく…い、いらないんでずが?」
ま、まずいな……周りには紅達もいるし、無下にいらないなんて言えないなぁ。こいつらには鬼畜な面をまだ見せたくないし………
しかたない
「はは、わりぃ、忘れてた。まぁでも飲むよ、うん」
「よかった…そうですよね、蒼也さんが私のを飲んでくれないはずありませんよね?」
そういって蓋を開ける。おや?目が虚ろですよ?な、なんで俺の首を固定するのかな?
498 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/17(月) 20:33:38 ID:z6HP8wnK
そして彼女は一口のみ物に口をつけ……
グイッ!
「はい、これで私と蒼也さんも間接キスですね。」
無理やり俺の口に突っ込み、液体をながしこんだ。一気にっ!!垂直に!!!!ペットボトルを凹ましてまで!!!
「おぶぶぶぶぶっ!」
しかも炭酸!
校内で口内を犯されてる!あれ、面白いギャグができt
「ぶっごぁ!」
当然炭酸の直接嚥下に耐えられるわけなく、教室のど真ん中でブチまけてしまった。それを避ける事なく、もろにカブっていた。
「ああ……蒼也さんの唾液を含んだ飲み物が私にかかってます……うれしいです……」
いやいやいや、俺はそんな変態に育てた覚えはありませんて。うわっこらっ俺の顔に付いたのを舐めるなって!
「あはは蒼也さんの味がするぅ。」
コーカが俺の味かよ。
「あの……誰?」
紅と海ちゃんが不審そうに見てくる。そりゃそうだよな。いきなりこんな珍事件を起こすんだから。
「えっとな…ほら、離れろって……彼女はえーと…うん、妹だ。名は、無い。」
「猫じゃないんだから。」
さぁて……どうごまかしていこうかな…
499Bloody Mary 2nd container 最終話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/17(月) 22:03:27 ID:zNCi6p8m
「ねっ!お兄ちゃん、あたしのこと、好きっ!?」

 噎せ返るほど匂いが充満する部屋の中で、あたしはお兄ちゃんにそう訊いた。
『二人のことを忘れる』と言う前に比べると随分お兄ちゃんの顔色が良くなっている。……良かった。

「あ…ぁ、すき、だ…」

 拙い言葉遣いで答えながら、馬乗りになっているあたしをひたすら突き上げる。
その動きに合わせてあたしも腰をくねらせ始めた。 快感がより一層強くなり、全身が歓喜に震えるのを抑えられなかった。

「え、えへっ……嬉しい。あふっ…!もっと、言って!」
 擦り合わせる股間の隙間から、ぴゅっと飛沫が飛んだ。
「すきだっ、すきだっ、すきだっ、すきだっ、すきだっ、すきだっ、すきだっ」
 何度も繰り返しながら腰を振る勢いを強くするお兄ちゃん。
興奮が高まるのに比例して、生殖衝動が理性を侵食していく。

ぱちゅっ、ぱちゅっぱちゅっ、ぱちゅんっ…ぱちゅっ

 部屋の中に響き渡る不規則な水音。窓の外はもう既に西日が射していた。
今日は朝からずっとお兄ちゃんとまぐわい続けている。

 お兄ちゃんと此処で暮らし始めて早二ヶ月が過ぎた。
今暮らしているこの家は人里から離れた森の中にあるので人が訪れることは殆どない。
“看病”するにはうってつけの場所だ。お兄ちゃんとの時間を誰にも邪魔されたくないし、ね。
この森自体、帝国領側の国境に位置しているのでオークニーからも離れている。
近くの街まで半日以上かかるのは凄く不便だけど、お兄ちゃんとの二人きりの生活を守るためには仕方ない。

 一方、お兄ちゃんの方は快方に向かっている。
あの女たちに騙されていた後遺症のせいか、最初のころはかなり塞ぎこんでいたけれど。
今ではもうすっかり“あたしの知ってるお兄ちゃん”に戻った。
 あの三人のことは頭から完全に消えている。今お兄ちゃんの頭の中にあるのはあたしだけ。
あたしだけを見て。あたしだけを考えて。あたしだけを愛してくれる、最高のお兄ちゃん。
…えへ。これも愛ある看病の賜物だね。

 でもちょっと甘やかしすぎたかな?
今じゃこうやってあたしを抱いていないと落ち着かないみたい。
あたしが側にいないとお兄ちゃん、発狂しちゃうんだ。えへ。

 それが解ったのはお兄ちゃんが「忘れる」と言ってから初めて隣町まで買出しに行ったとき。
帰ってきたら、お兄ちゃんが部屋の隅でガタガタ震えていた。
いったいどうしたのか訊いたら「マローネがいなくなったとおもった」だって。
ほんとにもうあたしがいないと生きていけなくなったみたい。うれしいなぁ。
――――試しにあたしが死んだらどう思うか訊いてみようか。
500Bloody Mary 2nd container 最終話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/17(月) 22:05:02 ID:zNCi6p8m

「ねぇ、お兄ちゃん?………もし…あたしが死んだら、どうする?」
 うねらせていた腰の動きを止めてお兄ちゃんの顔を覗く。
呆けていたお兄ちゃんの顔が、目に見えて蒼くなっていくのがはっきりと判った。

「いっ…!いやだっ!いやだっ!いやだっ!いやだっ!いやだっ!いやだっ!」
 突然狂ったように腰を振り出す。ガンガンと最奥を突き上げられる度に目の前がスパークした。

「ひっ!……ひゃうっ!?……お、おにぃ……はひっ、は…激し、ふぐっ!!?」

 繋ぎ止めるようにあたしの腰を掴んでいる手に力が入っている。
…爪が食い込んで少し痛かったけど、痛い分だけお兄ちゃんの愛を感じることが出来た。

「ぜったいにいやだっ!おまえがしんだらおれもしぬからなっ!!」

 涎を垂らしながら必死で突き上げるお兄ちゃん。あたし以外、何も視えてない。
……あはっ。もうお兄ちゃんは完璧にあたしのもの。

「うんっ!うんっ!…ずっとっ、はぅっ!…ずっと一緒…っ…だよ!!」

 絶頂へ向けてあたしも激しく腰を動かした。うまく呼吸ができず視界が狭まる。
なんとかお兄ちゃんの顔を確認すると、恍惚とした表情をしていた。お兄ちゃんも限界が近いみたい。

「うぅっ、あはっ!い、イク……お兄ちゃっ、あた…ひぅ!…あたし、イッちゃ……ふっ!!!?」

 お兄ちゃんが一際強くあたしの子宮口に押し当て、硬直した。
ぶくっ、とお兄ちゃんの矛先が膨れ上がる。
それを感じ取った膣が粘液を全て吸いだそうと勝手に収縮し始めた。

――――あたしの体内にお兄ちゃんの子種が放出された。

「あああぁぁっっっっ!!」

 痛みすら伴う快感が全身を暴れまわり、意識がぶちぶちと引き千切れた。
――――――あ、あっ、射精てる……お兄ちゃんがあたしに種付けしてる………
 微かに残る意識の隅で理性と本能の両方が喜びに震えているのが解った。

「あ゛…あ゛ぅ゛……っ」
 未だ残滓を放つお兄ちゃんの暖かさに反応して、小刻みな痙攣を繰り返す。
「………ぁ…………」
 とうとう快楽に耐え切れなくなった意識が薄れていく。
全身が弛緩してお兄ちゃんの胸に身体を預けると、そのまま深い眠りに着いてしまった。
501Bloody Mary 2nd container 最終話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/17(月) 22:06:50 ID:zNCi6p8m






――――――――・・・・・



「……ん……あ、あれ?」
 目を開けてもまだ視界は暗い。

 目が覚めると既に陽は落ち、窓から見える三日月が夜の時を告げるように煌々と輝いていた。
となりにはお兄ちゃんがあたしに寄り添うように寝息を立てている。
あれからすぐにお兄ちゃんも眠ってしまったらしい。

「夕食の準備しなきゃ……」

 だるい身体に鞭を打ってベッドから出た。
「あ……」
もそもそと服を着ながら、竈にくべる薪が切れていたのを思い出した。
……外まで取りに行かなきゃ。
窓の外は真っ暗。蝋燭を持って行かないととても歩けそうにない。
 ちらりとお兄ちゃんを見ると安心した顔つきで熟睡していた。

「愛してるよ、お兄ちゃん」

 額に口付けをして、あたしは薪を取りに外へ出た。
扉を開けると広がるのは、闇、闇、闇。
森の中は真っ暗で木々の輪郭が月の明かりで辛うじて見える程度にしか光が入ってこない。
あたしは蝋燭の火だけを頼りに薪置き場まで歩いていった。

「んー、今度からは夜になるまでに薪用意しとこ」
 足元に気をつけながら歩くのは日がな一日交わって疲れている体には酷だ。
自分の性欲の強さに半ば呆れながら、薪を一束手に取った。

「でも…やっぱりご飯の匂いで目覚めるのは男の子の夢だよね。えへへ」
 あたしが夕食を作っている間に起きてくるであろうお兄ちゃんの表情を脳裡に浮かべながら、顔が綻んだ。
502Bloody Mary 2nd container 最終話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/17(月) 22:07:36 ID:zNCi6p8m



「やっと、見つけました」



 突然暗闇の向こうから聞こえる誰かの声。

「…っ!?」
 瞬時に幸福感が引っ込み、振り返った。慌てて蝋燭の火を消す。
まだ暗闇に慣れていない目を細め、闇の向こうを射抜く。
辛うじて女のシルエットが見えたが、それ以上は解らなかった。

「ずいぶん苦労しましたよ」
 だけど、その声でシルエットの正体が誰なのかは一目瞭然。
間違いなく、あの侍女だ。

「何処に逃げ込んだのかと思えば―――――よりによって帝国ですか」
 月の光を受けてそのシルエットの手元が光った。
……まったく気付かなかった。
 こっちに来てからお兄ちゃんがこいつは暗殺術を身につけていると言っていたけど、こんな簡単に背後を取られるなんて。

「え、えへへ……意外に見つけるの早かったね」
 光沢を放つ手元に全神経を集中させながら体術の構えを取った。
マスケット銃は部屋の中。今は自分の身体だけが武器だった。

「えぇ。情報収集は私の十八番ですので」
 少しずつにじり寄ってくる女のシルエット。まだ目は暗闇に慣れないまま。
死がそこまで迫っている。



―――――この女には勝てない。
 短かくともそれなりの修羅場を潜り抜けてきた傭兵としての勘があたしに警告している。
「……っ」
もともと、銃を扱う人間が単独で勝つなんていうのは無理のある話。
 今まで勝ててこれたのも、ある意味幸運に恵まれていたから。
小娘の王女のときは単純に対象が普通の人間だったうえに奇襲を掛けられたおかげ。
元騎士の売女のときなんて偶然前もって対策を立てられたから。。
 あの女には明確な弱点があった。本人も気付いていないみたいだったけど。
山道で賊に襲われたとき、あたしはすぐに解った。
あの女はしきりに飛び道具を使う弓兵とお兄ちゃんを気にしていた。自分に襲い掛かってくる敵をも視界から外して。
―――――この女は何故かお兄ちゃんに矢が当たるのを異常に恐れている。
 その弱点に気付いたおかげで上手くあの女を殺すことができた。
そうでなければ決死の初弾を弾かれた動揺であの女に距離を詰められていたと思う。

 だけど。今対峙している女にはそういう情報が全くない。
弾込めに時間を割かなければならない銃が得物では最初の一撃が勝敗を分けると言っていい。
そのためには相手を奇襲してイニシアティブを取らなければならない。
こちらが先手を打てなければ敗北が決定してしまうも同然。
 なのに最後の相手に、“殺し屋”を残してしまった。この女がただの侍女ではないということも知らずに。
この侍女が暗殺術を持っていると知っていたなら先ず真っ先に殺さなければならなかった相手。
 思えば一番最初にこの女を殺さなかった時点であたしの敗北は決まっていたのかもしれない。
気配を殺せる者から先手を打つことはほぼ無理だから。事実、たった今その先手を奪われたところだ。
503Bloody Mary 2nd container 最終話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/17(月) 22:08:40 ID:zNCi6p8m

「今更お兄ちゃんを奪いに来たの?」
 勿論、ただ指を咥えて死を待つつもりは毛頭ないけど。
隙あらばその首、へし折ってやる。

「…奪う?……ウィリアム様を奪ったのはマローネ様の方でしょう?
それに―――――私はウィリアム様欲しさに此処にいるわけではありません」

「説得力ないなぁ、それ」
 蝋燭の火に頼っていたせいか顔も姿形も全く見えない。ただナイフの刃だけが視界に捕らえることができた。


「私は別にウィリアム様が誰を選ぼうとも構いませんでした。
……マリィ様でも。姫様でも。それに、あなただったとしても。ただウィリアム様が幸せになれるのなら、私はそれで良かった。
それなのに、あなたは自分の欲望を抑えきれずにウィリアム様を不幸にした。
私はそれが許せないだけです」

 ろくに何も見えない暗闇の中でナイフだけがあたしの命を狙っている。

「おかしなこと言うね。お兄ちゃんは今幸せだよ?」
 そう。お兄ちゃんは幸せ。だって、あたしたちあんなに愛し合ってるんだもん。

「……あなたと議論するつもりはありません」
 ぎらりとナイフの刃が一段と強く光った。
気に入らない。こちらが何を言っても感情の篭らない声が耳障りだ。
「あはっ。殺る気まんまんだね。いいよ、殺したげる」
 どういうつもりか解らないけど後ろから即座に殺さなかったのはあたしの好機。
向こうが仕掛けてきたと解っているなら少しはこちらにも見込みがある。
最初の一振りは片腕を犠牲にして押さえ込み、そのまま一気に頸椎を砕く。素早く殺ればもしかしたら。
あたしは相手に気付かれないように重心を低く構えた。

「……あなただけは。
あなただけは殺し屋の『シャロン』としてではなく『マリアンヌ』として殺します」

 意図の見えない決意表明を聞いた瞬間、今まで隠れていた侍女の殺気が爆発した。


―――――来る!!


 尋常ではない速さでシルエットが近づいてくる。
あたしは唯一見えるナイフに意識を集中させた。後はあたしの瞬発力次第。
迫る刃。半歩前に出していた左足に力を込める。
……狙うのはこちらにナイフを振るう一瞬。
 左腕の肉を盾にして刃物を止め、得物を使えなくなったところで首の骨を折る。

その手筈だった。

……あれ?
 お互い手が届く距離まで後一、二歩というところであたしは違和感に気付いた。
 近くで見て初めて気付いたけど、光沢を放つナイフの幅が長さのそれに比べ広い。
その違和感が全力で警鐘を鳴らしたが、もう体勢を変えることはできなかった。
504Bloody Mary 2nd container 最終話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/17(月) 22:09:23 ID:zNCi6p8m
さらに違和感が重なる。
 侍女が奇妙にも刃が届くより早くナイフを振り抜いていた。

ぶんっ

 小振りの刃物とは思えない、風を切り裂く重い音が耳に響く。
ナイフの刃はあたしに届くわけもなく空を切っていた――――――はずなのに。
 振り抜いた体勢で、隙だらけの侍女の首に手を伸ばそうとするのに身体が反応しない。


「―――――え?」


 刃を受け止めようと上げた腕が、肘の先から切断され。
綺麗に右肩から左脇腹にかけてぱっくり傷が開いていた。

 数瞬遅れて傷口から迸る鮮血。
その量を見て目がチカチカする。暗闇で見えないはずなのに血の赤だけが嫌に際立っていた。

「……どう、して…?」

 足腰の力が抜けて、その場にぺたんと座りこんだ。
………いったい何が起こったの…?
 まるで真空に切り裂かれたかのよう。今の斬撃は絶対にあたしまで届いてなかった。
にも関わらずあたしはものの見事に切り裂かれた。これは何の手品?

 今頃暗闇に慣れ始めた視線を彷徨わせ、侍女を見た。
相変わらず何の感情も読み取れない無機質な瞳。人ひとり殺してここまで微動だにしない人は始めて見た。

「何、げほっ……したの…?」
 まったく言うことを聞かない身体で、なんとか声を絞り出すことが出来た。
無理してしゃべろうとした拍子に胃から血が駆け上って咽てしまう。
シャロンが黙ったまま、右手に持ったナイフを胸の前で指し示した。
 ナイフの割に少し重そうに持っているように見える。

「あ、あははは………そういうことか……」
 “それ”を見てあたしは力なく笑った。
彼女が持っているものはナイフなんかじゃなかった。それは剣。根元部分以外の刀身をつや消しのために黒く染色した剣だった。
黒くなっている部分が闇に溶け込んで、今まで気付かなかった。
しかもよく確かめると、見たことのある剣。
今は黒く塗り潰されているものの、その鍔には見覚えがある。お兄ちゃんを誑かしたあの女騎士が持っていた剣だ。

 月明かりで光っている部分だけを見て勝手にナイフだと思い込んでいた。
けれどそれは剣。ナイフより遥かに広い間合いに気付かず、闇に隠れていた刃に腕と胴を裂かれ成す術もなく負けた。

 
「ひ、ひきょう…もの……」
 よりによってこんな負け方するなんて……サイアク……。
血が大量に吹き出し、あたしが失血死するのも時間の問題。結局この女に勝つことは出来なかった。
505Bloody Mary 2nd container 最終話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/17(月) 22:10:47 ID:zNCi6p8m
まぁ、でも。
 既に“保険”は掛けてある。本来の目的はとうに達成したのだから。
あたしがこの女に殺されるのはむしろ筋書き通りだ。

「ウィリアム様を解放させて頂きます。……あなたはそこで、独り死んでいなさい」
 座り込んでいるあたしを見下ろして冷たく言い放つその女。
誇らしげに勝鬨を上げている姿があまりに滑稽で、笑いが込み上げてきた。
このまま黙って死ぬのもいいけど、最期くらいこの女に一矢報いてやろう。

「あ、あはは……残念だけど………あ、あたしは、独りじゃ―――ないよ」
 死に掛けのあたしに僅かに眉を顰める女。勝負が決まってから初めて女の表情が揺れた。
少し離れたところにある小屋に顔を向けながら言葉を続ける。

「あんたが…どう逆立ち…したって、あたしと……お兄ちゃん、は……ず〜…っと、一緒。
いまさら……あたしを、こ、殺しても――無駄、だよ?」

「………なに、を…?」

 言葉を紡げば紡ぐほど、無表情だった女が動揺する。えへっ、イイ気味。
瀕死の身体で声を出すのは辛かったけど、この女の歪む顔が面白くてやめられなかった。

「もう、お兄ちゃんは…あたしの……。だって、お互い一人じゃ―――ぐっ……生きて、いけない…もの。
え、えへへへへ……こ、これが…どういう、いみか…わかる?」

 楽しくて仕方ない。みるみる内に女の顔から血の気が引いていく。
あっ、血の気が引いてるのはあたしも同じか。あははっ。

「ウィリアム様っ!!」

 とうとう不安に駆られて女が小屋に向かって走り出した。無様な後ろ姿。
あはっ。せいぜい絶望しろ。お前にお兄ちゃんは渡さない。

「ば、馬〜鹿……」
 あたしは女の惨めな背中に嘲笑した。
体内の血液が止め処なく外に溢れ、頭がくらくらする。

「――――――あっ……もう…――みた、い……」
 身体からはすっかり体温が抜けて、女の後姿を中心に視界が黒く染まっていく。

「え、えへへ……」

 意識がどんどん闇に落ちていく。死ぬ瞬間は独りだけど、ちっとも寂しくない。



 だって、これからはずっと二人。何があろうとも。死んでも、死んだ後も、生まれ変わっても。
ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。永遠に一緒。あはっ。楽しみ。
 誰にも邪魔されず、お兄ちゃんと二人きり。




―――――――――――――お兄ちゃん、先逝って……待ってるね。



                             END A 『共に逝く者』
506Bloody Mary 2nd container 最終話A ◆XAsJoDwS3o :2006/07/17(月) 22:14:20 ID:zNCi6p8m
普通に監禁エンドにしても良かったと思いつつもAエンド。

これから暫くリアルがてんてこ舞いなので、Bルートの更新は少し先になりそうです。
ごめんなさい。
507名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 22:16:36 ID:o+0TVoY5
>「えっとな…ほら、離れろって……彼女はえーと…うん、妹だ。名は、無い。」
> 「ねっ!お兄ちゃん、あたしのこと、好きっ!?」
と続いていると思った俺は少し病んでる気がしないでもない

GJです
Bルートwktk
508名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 22:19:09 ID:eyZ6Sse2
>>506
GJ!
Bルート待ってる信じてる!!
509名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 22:25:16 ID:5XxGwE+r
キモウトキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
510名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 22:30:50 ID:srOlEBAZ
Bルートでは、みんな幸せだ!!と信じつつ

全裸でGJ!!を送りそのまま次回更新時まで過ごす。
511名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 23:03:47 ID:TsUUkoKO
ああぁぁ!
やっぱマローネ殺られたかorz
512名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 23:30:59 ID:Gg+33WRv
>>506
Bルート待ってるゼ。
513名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 00:07:38 ID:Ap+2En8n
まさかこんなに長くなるなんて…では投下します。
514教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆n6LQPM.CMA :2006/07/18(火) 00:09:31 ID:Ap+2En8n
朝……一日の始まり……本来なら気持ち良く目覚め、今日の活力にするはずなの
に、「海の家 深海魚」の二階にいる二人はとても神妙な面持ちでいた。
果たして今日という日を無事過ごすことが出来るか……
「弥生さん、いいですか、夜にも言いましたが、元に戻ったのはあくまで一時的
なので気を付けて下さい。次に心臓の鼓動が早くなったら………」
「もう…心配症ね。わかってるわ。またちっちゃくなるのね。」
「………はい。そしてちっちゃくなったら次に元に戻るにはア
メリカの教授の到着を待つしかないです。……あ、おやじさ
んが着ました。事情を説明してきますので、呼んだら着てください。」

「お、樹くんおはよう。今日は無事だったね。」
「どういう意味ですか…、それよりおやじさん、夕子ちゃんのことで話が。」
樹は夕子が昨日の発作で、一旦自宅に帰らせたことを伝えた。
もちろん心の中では頭を下げていた。
(おやじさん、嘘ついてごめんなさい。)
「そうか…まあ仕方が無いな。それじゃまた代わりを探すか…」
「それは大丈夫です。代わりは既に見つけました。弥生さん、来てください。」
樹に呼ばれて弥生はゆっくり階段を下りてきた。
「紹介します。大学での先輩の氷室弥生さんです。」
「氷室弥生と申します。たまたま近くで遊びに来ていたら、樹
からバイトの代えをして欲しいというので引き受けました。短
い間ですが宜しくお願いします。」
「あ、ああこちらこそ宜しく…」
オーナーは目を見張った。170以上はある身長に、均整のとれたボディ、ふくよかな胸、
ロングレイヤーの髪、黒のビキニを着ている姿は、誰もが美人と認めてもおかしくない
容姿に驚いた。
「樹くん、ちょっと」
オーナーは樹を呼んで弥生に聞こえないように聞いた。
「一体あの美人は誰なんだい?あんな美人に海の家でアルバイ
トさせるのは悪いんじゃないか?」
おやじさん…弥生さんにそんなに遠慮しなくても…
「大丈夫ですよ、そんなに遠慮しなくても。ああ見えてウェイ
トレスの経験もあるし、腕っぷしもあるので並の男より強いであだだだ」
突然お尻を弥生が抓った。どうやら丸聞こえだったようだ。
「なに言ってんの、樹。そんな強い女に見えるかしら〜。」
あ、そ、そんな弥生さん、猫被りながらその切れ長の目で威嚇しないで下さい。
「まあとりあえず今日は「ベストカップル大会」があるから今
までで一番忙しくなるだろうから頑張ってくれよ。」
「「はい!」」
515教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆n6LQPM.CMA :2006/07/18(火) 00:11:10 ID:Ap+2En8n
「ねえ〜晴香ちゃん、随分一生懸命お化粧してるね〜。」
先ほどから2時間は鏡に向かってああでもないこうでもないと
、ブツブツ言いながら化粧をしていた。
「あったりまえよ。今日の「ベストカップル大会」に出て優勝
して、賞品の「熱海温泉旅館ペア宿泊券」をゲットして、樹さ
んと温泉に入りながら…あん、樹さんもっと奥まで入れて…うふふふ。」
「うんうん、晴香ちゃんのその「ねば〜ぎぶあっぷ」の精神はすごいよね〜。」
麻奈美は晴香を見てニコニコしていたが、後ろに組んだ手には
「五十嵐晴香」と「広崎麻奈美」の二人の名前が書いてあるエントリーシートを握っていた。

今日の浜辺は天気も良くイベントもあり、シーズン最多の人数が来ていた。
それにともない、お店も大入り満員だった。ただ違うのは昨日
と客層が違うことだった。
昨日までは家族連れやカップルが来ていたが、今日は明らかに
男性客が多かったのだ。
しかも男性客の殆どは弥生目当てで、注文したついでにナンパ
しようとひっきりなしに声を掛けられていた
まあ弥生は贔屓目に見ても美人の上、ビキニの上からエプロン
を付けていたらまさしく「裸エプロン」状態なのだ。
「ねえねえ彼女〜バイト終わったら俺たちと遊ばない〜?」
「俺この先に別荘持ってるんだけど、遊びに来ない?」
「青春の夏は一度きりだから、思い出作りしようか?」
などなどあらゆるくどき文句が弥生に降り注いだが、当の弥生
は「お断りします」の一言だけだった。
ほぼ全ての男はその一言で諦めたが、ただ1人だけ、諦めなか
った男がいた。
「なにそんなにツンツンしてんだよ。ちょっとで良いから付き合ってくれよ。」
「お断りします。」
お店で暴れたらオーナーに迷惑が掛かるので我慢していたが、
いい加減しつこいので弥生ももう我慢の限界だった。
その危険を感じたのは樹だった。
(弥生さんの額に青筋が浮かんでいる!ヤバイ!)
すかさず弥生の前に出た。
「お客さん、みなさんの迷惑になりますので、従業員のお誘いはご遠慮下さい。」
「なんだお前、邪魔なんだよ!失せな!!」
ナンパしていた男は樹を突き飛ばし、樹は向かいのテーブルに激突した。
皿が割れる音や悲鳴が聞こえ、辺りはめちゃくちゃになってしまった。
「樹!!!」
弥生は走って樹の下へ行った。
「樹、大丈夫?ケガは?」
弥生は心配そうに樹を見ると、手から血が出ていた。
「手から血が出てるじゃないか!」
「ちょっとコップで切っちゃいましたが、これぐらい大丈夫ですよ。」
そんなやり取りを鼻で笑ったナンパ男は
「はん!弱いくせにいきがるんじゃねえよ!それとも女の前で
イイ所見せたかったか?あはははは…。」
男のあまりの無礼に樹はもう我慢できなくなり立ち上がろうと
思ったら、弥生が先に立ち上がった。
完全に怒っていたら、もう止められないだろう。
516教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆n6LQPM.CMA :2006/07/18(火) 00:13:51 ID:Ap+2En8n
「や、弥生さん、お店では…」
「わかっているわ。“店”で暴れなければいいんでしょ。」
弥生さんはゆっくりと男に近づいて、体を密着させた。
「お、なんだ俺に気があるのか?それならそうとい…がはっっ!」
他のお客には見えなかったけど、樹には見えた。
(零距離から拳を腹から突き上げて、横隔膜に直撃させてる…すごい。)
体が衝撃で浮き、息が出来なくなった男を弥生は髪の毛を掴ん
で、引きずるように外へ運んでいった。
暫くしたら男の悲鳴と弥生の怒鳴り声が聞こえてきた。
「樹に怪我させてただで済むと思っているの!!!」
「も、もう許して…あがっ!」
帰ってきた弥生は爽やかな顔をしていた。
「ゴミ掃除も終わったし、さて頑張るか!!」

お店に向かって歩いている晴香には作戦があった。
(今日の「ベストカップル大会」は参加人数も多いし、ギャラ
リーも何千人と集まるイベントなのよね。そこで私と樹さんが
優勝…すればいいけど、最悪ベスト5ぐらいになればステージ
で表彰されるから、普段から泥棒猫に誘惑され易い樹さんでも
、これで私のことをもっと強く意識してくれるはずだわ。)
そう考えて晴香の足取りは軽くなったが、ふと足を止め晴れ渡
る空を見上げた。
(でも…もっと…もっと強い繋がりが欲しい…)

晴香は目的地の「海の家 深海魚」の前まで来た。
相変わらず行列が出来ていたがそんなのどこ吹く風、晴香は無視して
店の中へ入っていった。
(あのチビまた邪魔してきたら承知しないわよ!)
周りを見渡していたその時、ウェイトレスをしていた弥生と目が合った。
弥生と晴香の視線が交差した時、晴香はふと懐かしさを感じた。
(あの目、瞳の奥で激しく燃えている嫉妬の炎…どこかで見た
ような…あ、そうだわ!数多の樹さんに寄ってきた泥棒猫が持
っていた目だわ!!まさかこの女も?)
晴香がじ〜っと弥生を見つめていたらふっ、と弥生の表情が和らいだ。
「いらっしゃいませー、すいませんお客様ただいま大変込み合
っていますので外の列に並んで頂けますか?」
ちょっと面食らった晴香はどもりながら
「あ、い、いえ、食べにきたんじゃなくて、こちらに勤めてる佐藤樹さんに用があって…」
「そうでしたか。只今樹は厨房に居ますのでお呼び致しますので少々お待ち下さい。」
営業スマイルを振りまいた弥生さんはそう言って奥の厨房へ行った。
晴香は言い知れぬ違和感を感じていたが、それがなにか分からなかった。
(う〜ん、あのウェイトレス、何かよそよそしいような…)
だがそんな疑問も樹の姿を見れば全部忘れてしまった。
「あ!樹さーーーん、「ベストカップル大会」に行きましょーーー!」
無駄にテンションの高い晴香は樹を見つけた途端叫んでいた。
「晴香ちゃんはいつも元気だね…」
「や〜だ〜、樹さんさえ居れば一億馬力ですよ。あ、ちなみに
愛の告白をしてくれれば∞馬力ですから」
晴香のテンションに樹は困惑したが、やはりこの元気があっての晴香だと思わ
ずにはいられなかった。
「とりあえずまだバイトだから先に行って待ってて。エントリーは俺が行ったら出しとくから」
「わかりました。なるべく早く来て下さいね。ちゅっ♪」
投げキッスをして晴香は店を後にしたが、用件を喋っている間
、樹は生きたこごちがしなかった。後ろの厨房から聞こえる一斗缶を蹴飛ばす音が怖かったのだ。
(さっき呼びに来た弥生さん…表面は笑っていたけど…怖い…)
517教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆n6LQPM.CMA :2006/07/18(火) 00:17:00 ID:Ap+2En8n
「さてお待ちかねの皆さん、只今より「ベストカップル大会」
のエントリーを受け付けまーす。「イリュージョンの部」は左
、「セイレーンの部」は真中、「ラブラブカップルの部」は右にそれぞれ入って、
受付して下さい。」
まだ始まるには数時間はあるのに、もう周りには参加希望の人
とギャラリーとで一杯だった。
バイトを終えた樹もエントリーしようと「ラブラブカップルの部」の受け付けに来た。
「エントリーされる方はこちらの用紙に必要事項を記入し、提出して下さい。」
樹は必要事項を記入し、ナンバープレートを受け取った。
「はい、佐藤樹さんと五十嵐晴香さんですね。それではこのナ
ンバープレートを付けて下さい。順番が来ましたら放送でお呼びします。」
意外にあっさりと終わり、樹は晴香との待ち合わせ場所へ行こ
うとしたが、足取りは重かった。
(気のせいか、なんか嫌な予感がするんだけどな。何もなければいいけど)


(なによ、一緒に行こうって言っていたのに晴香と行って……そりゃ晴香との約
束の方が先だったけどさ……ばか。)
樹を見送った後、そんなことを考えていたらオーナーが心配そうな顔をして聞いてきた。
「弥生ちゃん、お店はもういいから樹くんを追い掛けたら?」
どうやらオーナーは私のことを気付かってくれてるようだ。そ
の気持ちは素直に嬉しい。
「ありがとうございます。ですが私は、樹が晴香とエントリー
した時点で樹とはエントリー出来ませんので、追い掛けても仕方ないです。」
「でも…」
「大丈夫です。私なりに考えてますので、オーナーも見にきて下さい。」
それだけ言うとオーナーは納得したのかそれ以上言わなかった。
弥生は何か固い決意でもしたのか、真剣な顔をしていた。
(晴香……第二ラウンドの始まりよ!)
「弥生ちゃん、ちょっと聞きたいんだけど、もしかして樹くんのこと…好きなの?」
「!!」
まさかオーナーに聞かれるとは思わなかったわ。そうね、多分先月に同じように聞かれたら
「いえ、ただの後輩です。」
って答えていただろうな。でも今は……
「いえ、“好き”ではなくて“愛して”ます。」
518教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆n6LQPM.CMA :2006/07/18(火) 00:19:30 ID:Ap+2En8n
「さぁーーーー!!!!!遂に今年も始まりました、「ベストカップル大会」!!、
なんと今年から「イリュージョンの部」と「セイレーンの部」という二つの
部門を増やしてさらにパワーアップしました!!!各部門の説明は後にして、ま
ずは審査委員の紹介から…」
会場は異様な熱気に包まれ、いやが応にも気分が高ぶってくるのを感じていた。
周りを見るとカップルがエントリーを待っているため、カップルだらけだったが、
肝心の晴香は野暮用とかで麻奈美と一緒にどこかにいってしまい、樹一人で待っていた。
「それではちょっと前置きが長くなってしまいましたが、早速始めましょー!」
司会者の声とともに会場はさらにヒートアップし、耳が割れん
ばかりの声援に会場は一体になった。
「それではまずは「イリュージョンの部」の紹介から致します。この部門はもち
ろん手品をするわけではありません!!男と女の組み合わせだ
けがカップルなのか?いえ違います。人によってはいろんなパターンのカップル
があります!!この部門では貴方が自慢するカップルを見せ合う部門です!!同
性や幽霊や宇宙人なんでもあり!!!それでは一番からどうぞ!!!!!!」

なんでもありということで、なるほど本当になんでもありだっ
た。

男同士
ペット(犬)と飼い主
フィギュアを持った男



「…ちょっとなんでもありすぎましたね。それではラスト十番の方どうぞ!!」
…………ん?あれ?出てこないな。でもピンマイクのスイッチ
は入っているから声は聞こえてきたな。

「……!やっぱり嫌!なんでこんな色物のステージに出なきゃいけないのよ!!!!」
あれ?この声どこかで…
「だって〜晴香ちゃんと一緒に出たかったんだもん。だから、ね♪」
「ね♪じゃないわよ!!樹さんに誤解されたらどうするのよ!やっぱり嫌!!」
晴香ちゃん、全部聞こえてるよ……。
「そんな…晴香ちゃん…くすん……ぐすっ」
「あーっ!泣くな!…解ったわよ!出ればいいんでしょ!…ったく」
「わーい!だから晴香ちゃんだ〜いすき!じゃ、いこ。」
「ちょっと麻奈美!あんた嘘泣きしたわね?あ、ちょっと引っ張んないでよ!」
その声とともに晴香と麻奈美はステージ上へ現れた。
「さーて最後の出場者はかわいい女性二人組みだーーーー!」
さすがにいままで色物ばかり出てたので、かわいい女性二人組
みに会場は大いに盛り上がった。
「さて、それではお名前をどうぞ!!」
「……五十嵐晴香」
「広崎麻奈美で〜す。ラブラブカップルですよ。」
「いやー、お二人ともとてもカワイイですね。それじゃ二人の
出会いはいつだったんですか?」
「え〜と、出会いはですね〜、私が高校生の時に、同級生に苛
められていた所を晴香ちゃんが助けてくれたんですよ〜。それ
からはず〜っと一緒です♪」
麻奈美はそのことを思い出したのか、ぽ〜っと顔を赤らめても
じもじしながら晴香を見つめているが、当の晴香は複雑な顔をしていた。
(はあ…あの時は別にあんたを助けたんじゃなくて、苛めっ子がたまた
ま樹さんにちょっかいかけてた泥棒猫で、たまたま見つけたか
らボッコボコにしただけなんだけどな…)
「さて、全十組全てでそろいましたー!この中で果たして勝利の栄冠は誰に!!!」
全員が固唾を呑んでいると、司会者に一通の手紙が渡された。
「発表致します。「イリュージョンの部」優勝は…………五十嵐、広崎のペアだーーー!!」
519教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆n6LQPM.CMA :2006/07/18(火) 00:24:42 ID:Ap+2En8n



「おつかれさまー。どうだった?」
樹が会場から出てくる二人を見つけて話しかけた。
「あ!佐藤さん!見てください!優勝トロフィー!!」
見事二人は優勝してしまったのだ。でも晴香の表情はやっぱり複雑だ。
「「イリュージョンの部」で優勝してもなー、やっぱり「ラブ
ラブカップルの部」で優勝しなきゃ。」
とはいえ副賞の和牛一年分はかなりすごいな。
「えーと、次は「セイレーンの部」?どんな部門なの?」
「「セイレーンの部」は〜、純粋に女性の美しさを競う部門で
す。プロポーションや一般知識の造詣などなど、ですかね〜。」
「へー、詳しいね、麻奈美ちゃん。」
そう言うと麻奈美は首を傾げたが、直ぐにああー、と言い
「知らないんですか〜、私この大会の「すぽんさー」なんですよ〜。」
「「えーーーー!!!」」
麻奈美ちゃん…………すごい。

一区切りついた所で樹は弥生を一人にしてしまったので心配になり、一旦お店へ戻った。
「親父さん、弥生さんは?」
「ああ、弥生さんなら会場へ行ったよ。」
会場?入れ違いになってしまったか。戻ろうとした時、親父さんに呼び止められた。
「樹くん、余計なことかもしれんが、弥生さんの側にいなよ。
もしかしたらあれでけっこう寂しがりやかも。」
樹は頷いて会場へ走って戻っていった。
会場へ戻ってみると、会場では「セイレーンの部」が始まっていた。
「さーて、最後の方は、な、なんと予選のペーパーテストで百点を取った才媛!!
美貌もプロポーションも完璧なまさに完璧超人!!それではラストの方どうぞ!!!!」
ゆっくり歩きながらステージに上がった女性を見て樹は我が目を疑った。
「や、弥生さん、いつの間に???」
樹が驚くのと同時に晴香も驚いた。
「あ!あの女!!樹さんのお店にいたウェイトレス!!」
だが、麻奈美だけは……
(あ〜、あの人氷室弥生さんだ。ふ〜〜〜ん。)
周りのギャラリーも弥生を見て
「おおーー!」や「あ!海の家にいたウェイトレスだ!」などなど様々な反応を見せていた。
「審査結果が出ました!!なんと満場一致!!優勝は・・・・氷室弥生さーーん!!」
会場は割れんばかりの拍手と声援に包まれ、弥生には優勝トロ
フィーと副賞のエステサロン五万円分が渡された。
(すごい…さすが弥生さんだ。)
だけど樹は知っていた。今だけ一時的に元に戻っているだけで、時が来
ればまたちっちゃくなってしまうことを…そう、まるで12時
になったら魔法が解けてしまうシンデレラのような…
なんでこの部に出たのかは分からないけど、今だけは何もかも忘れて楽しんでも
らいたい。樹はそう願わずにはいられなかった。
520教授の狂詩曲、ロリコンの二重奏 ◆n6LQPM.CMA :2006/07/18(火) 00:26:36 ID:Ap+2En8n
「あ!樹さーん、探しましたよ。そろそろ「ラブラブカップルの部」
が始まっちゃいますよ。行きましょ!」
晴香は樹の腕に抱きつき、会場の受付へいった。晴香の満面の笑みを見て樹は苦笑した。
待合室に入ると、出番を待つカップルで一杯だったが、周りを見ていた樹は居心地の悪さを感じてた。
(そういえば晴香ちゃんって周りに俺のこと自慢しているようだけど、
自慢されるほどの男じゃないよな………)
周りのカップルの男性を見て、劣等感からか自分を卑下して見てしまったので、
晴香に聞いてみた。
「ねえ晴香ちゃん、考えてみたらさ、なんで俺のことが好きなの?」
「え?」
「ほら、周りにはもっと格好いい男も一杯いるしこんな平々凡々で
つまらない俺のどこが良いのかな?……ってね」
晴香は驚いたような顔をしていたが、急にニコッと笑っていきなり唇を合わせてきた。
「ん?…………ん、ん、ぷはぁ。いきなりどうしたの?………え?」
驚いた樹だったが、ふと見ると晴香の目には涙が溢れていた。
「そんなこと言わないで下さい!!樹さんじゃないとダメなんです!!他の男な
んて問題外です!!高校の時に始めて会って……一目ぼれで……私はあなたがい
ないと…だから自分に自信を持って下さい!私こと五十嵐晴香
にとって佐藤樹さんはかけがいのない…愛してるって言葉じゃ
足りないくらい愛してるんですから!!!」

第五話「楽しいジカン」完
次回第六話「愛とユウキ」
521名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 00:29:57 ID:Ap+2En8n
本当はこのあとの晴香対弥生(大)まで入れる予定が入りきらなくなったので
次回激突予定。
522名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 00:33:25 ID:MBA5sMjD
弥生さん可愛いよ
523名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 01:18:58 ID:gI/yEY1A
ハァ・・・ハァ・・ハァ・・・ウッ・・・・・・
524名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 02:09:25 ID:ebMv4AWg
弥生さんもレズ少女も素晴らしい

ああ絵心が自分にあればッ!!
525名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 03:02:58 ID:7Ou6ZYdT
サイコ最高ー
526名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 07:23:19 ID:xVXiux1D
お、いつの間にかまとめサイトが更新してる。
阿修羅氏お疲れ様です!!
527名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 07:33:36 ID:m/P9kxx3
麻奈美に受け、樹に攻めと二刀流の晴香を何故誰も褒めない。
ああ、漏れも絵心が欲しい。
528名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 08:24:41 ID:gOJAWB4w
麻奈美がイイね。暴走気味の晴香のブレーキ役になっている。
まあ最近ブレーキ利きすぎかもしれないけど、そんなことで僕らの晴香が止まるわけないさ!

阿修羅氏まいどご苦労様です。そんな名前を提案する勇気に乾杯。
たとえ猫でも気が抜けない。ニンゲンになって恩返しするかもしれないニャン。それが修羅場SSクオリティー。
529名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 09:39:43 ID:uWlyfsn/
阿修羅氏猫可愛がる→嫁嫉妬
みたいな?
530名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 11:16:39 ID:xVXiux1D
>>5290
俺が猫に嫉妬
531『疾走』 第十四話 ◆/wR0eG5/sc :2006/07/18(火) 13:18:41 ID:1Rp5tlQz
 教室に戻って最初にやったのは、昼食を口内に運ぶ作業ではなく、携帯を取り出すことだった。
 ポケットに突っ込んでおいた紙片を片手に、記載されたアドレスを入力する。
 生方先輩のメールのアドレスが、経緯は複雑だがこうして入手できたのだが……。
 どうしようという疑問が、脳内で暴れ回る。
 ――生方先輩に全ての事情を説明して……いたり先輩を説得してもらうか――っ?
 もう、阿良川瑛丞は谷川有華と付き合っているから、駄目だって。
 だがいたり先輩の『勘違い』は……異常が過ぎる。
 あれだけの罵倒と――最後の、俺から有華への告白。
 それを目前で眺めた後の……。




 私は……エースケくんの、彼女になるべき存在です。




 ずっと一緒です、エースケくん……っ。見てますから、私。




 ずっと……見てますから。うふっ、はは、ははっ……あはは、ははっ!



532『疾走』 第十四話 ◆/wR0eG5/sc :2006/07/18(火) 13:19:40 ID:1Rp5tlQz
「――っ……!」
 廊下に視線を投げる。
 いたり先輩の言葉を思い出したら……寒気と同時に、『見られているかもしれない』という想像が生まれたのだ。
 もちろん――先輩の姿は、俺の視線が及ぶ範囲には見つけられない。
 だが……俺の席からうかがえる範囲なんて、絶対じゃないのだ。開け放たれたドアと窓からしか、廊下の側は見えない。
 死角は確かに存在する。




 死角。
 見えない……未知の範囲。




 その単語が、妙に恐ろしく感じられた。
 誰かが用意した料理の数々に、炊けていないはずの白米。
 まだ家にいるかもしれないから捜索した、ベッドの下に、クローゼットの奥。
 連続してよみがえる記憶が……憎たらしい。
 ――携帯の画面を、しばし睨む。
 俺が、いたり先輩の不法な侵入の一件を生方先輩に伝えたら……きっと、なにかが壊れてしまう。
 小僧の分際の俺なんかが壊しても構わないのだろうか――それは。
「駄目だ」
 首を振りながら、携帯を閉じる。
 全部が俺の問題だ。生方先輩を巻き込むなんて、間違っている。
 確かに……いたり先輩は諦めてくれなかったのかも、知れないと、それは認める。
 けれどいたり先輩なら、いつか理解できるって、信じよう。
 ――侵入されて以来神経が過敏だ。だから『見られているかもしれない』なんて自意識の過剰を引き起こす。
 パシッと、両の頬を手の平で叩き、気合を入れた。
「気のせいだ。きっと、うん、絶対に」
 そう。
 大丈夫だ。鍵だって取りかえした。
 これから異様に視線を感じても……それは、俺の気のせいなのだ。
533『疾走』 第十四話 ◆/wR0eG5/sc :2006/07/18(火) 13:22:07 ID:1Rp5tlQz
 昼休みを越えた先の授業は、教室移動だった。
 音楽である。
 料理は得意だがかなりの不器用を誇る俺にとっては憂鬱だ。
 音痴だし楽器も猿のほうが上手だと言われるくらいに下手だし。
 そんな苦手な時間を乗り越えて、我らが教室に戻る途中に尿意を催す。
「おおい、エースケ。方向逆だぞ」
「トイレだよ。……ちょうど二年のが近いから、いってくる」
 あっそうと、さっさと振り返って友は立ち去る。毎度淡白な野郎である。
 まあいいや……それよりもいい加減限界だ。急ごう。
534『疾走』 第十四話 ◆/wR0eG5/sc :2006/07/18(火) 13:23:11 ID:1Rp5tlQz
 ことを無事に済ませ、見慣れない廊下を歩いていると――。
「……っあ」
 思わず立ち止まる。声を吐き出してしまった。
 なにせ――いたり先輩と、ばったり鉢合わせてしまったのだから。
 随分と印象が変わっている。今の髪型のほうが、先輩には似合っていると素直に思えた。
 前髪でやや片目を隠している部分なんか、こうミステリアスというか……っ。
(無視だ、無視)
 胸中で首を左右に振るイメージで。
 俺が――言ったことだ。廊下で擦れ違っても、無視するって。
 痛む胸にも構う必要はない。いたって平静に俺は先輩の隣を素通りした。
「――っ……?」
 だが同時に、先輩も反転する。
 肩越しに振り返ると、じいっと、俺の背中に視線を固定したまま――ついて来ていた。
 ――正直に、苛立つ。そのまま真っ直ぐ歩いていって、俺の認識する空間から消えろよ……っ。
 とはもちろん言わずに、視線を痛いくらいに浴びながら……歩き続ける。
 時々は、俺も振り返る。どうしても先輩の行動は確認しておきたかったのだ。
 二度目の振り返り――っ。
 視線が、重なった。
 赤面して、にっこりと、微笑みを俺に返してくる、いたり先輩。
535『疾走』 第十四話 ◆/wR0eG5/sc :2006/07/18(火) 13:24:07 ID:1Rp5tlQz
 話しかけるなと、エースケくんに命令されているので、話しかけません。
 愛しい彼の命令は破りません。
 ――っあ……っ。
 今、視線が重なりました。
 きゃ、きゃあっ……心構えが零だったので、か、顔が熱く……っ。
 顔の筋肉も一気に緩んで、だらしない笑みが勝手に浮かびます。
 こうしているだけで……結構な、幸福。
 けれど――っ。
 何処かに、確かに、物足りなさを抱いています。
 あの、女が――私の欠けている幸福を、奪ったままなのです。




 まあ……それもきっと今だけです。
 エースケくんは、ちゃんと気付いてくれます。
 ちゃんと、私の名前を――呼んでくれます。




 それに。
 最終的には――私が、気付かせてあげれば、いいだけのことですから。




 あは。
 はははっ……あはは。もう、本当に、駄目です。
 エースケくんが、傍にいないと。
 辛くて、辛くて――死にたくなって、きちゃうんですよ。
536『疾走』 第十四話 ◆/wR0eG5/sc :2006/07/18(火) 13:36:56 ID:1Rp5tlQz
 知らず――俺は早足になっていた。
 なんだよ……っ。
 俺を監視するみたいに、さっきからぴったりと背後に。
 監視――っ?




 私はいつでも見てますから――っ。




 その言葉を思い出して……ぞくっと、背筋に悪寒が迸る。
 はは、ははっ。
 嘘だろう。
 まさか……実践は、しないよな。
 ――唾を、飲み下す。
 以後、一度も俺は振り返らなかったが……っ。
 俺が教室に戻るまで、確かに、先輩は俺を――っ。




 後ろから追って。
 じいっと、見ていた。
537名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 14:04:13 ID:e4mTL4zC
いたり先輩可愛いよいたり先輩(*´Д`)ハァハァ
こんな先輩どこに行けばいますか
538名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 17:05:06 ID:chginbaW
いたり先輩は素晴らしく健気だな
539名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 17:13:04 ID:zmDbtnkz
ttp://bbs9.fc2.com/bbs/img/_166100/166037/full/166037_1153210212.jpg

久しぶりに見にきたら怒涛の新作ぞろい・・・
あああ読むスピード追いつきません

いたり先輩いいね。   いいね。
540名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 18:27:23 ID:QP4KiNFa
疾走は修羅場というよりホラーだな。
主人公にヒロインを思う心が無く、純粋に怖がってるから。
まあ、これはこれでアリだと思うが。
541名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 18:45:57 ID:veea+Uds
いや、ここから某超能力漫画のように
主人公が突然彼女の性格がいいとか言い出すかもしれん
542名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 18:50:02 ID:f3yezzr4
>>539
このタイミングで胡桃たんが来るとは……神よ、超GJ!
543名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 18:52:53 ID:m/P9kxx3
>>539
こんな子なら喰われても俺はまったく悔いはないだろう。
てかむしろ喰われたいwwww
544名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 18:58:33 ID:Lv1M/vkr
前スレがいまだ生き残ってる件について
545名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 19:06:53 ID:HN23H+ZD
いたり先輩という最強のストーカに付けられる幸せは今しか味わえないよな
もう、お持ち帰りしたい気分だ
546名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 19:35:51 ID:/kgmhAWk
>>535
健気ストーカー(*´Д`)ハァハァ
先輩の可愛らしさに胸が高鳴ってしょうがない。

>>539
この胡桃が口を半開きにしてお弁当食べさせてくれるかと思うと(*´Д`)ハァハァ
しかし……これほどの存在に立ち向かった麻耶も大したものだとつくづく実感。
547名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 19:51:14 ID:gI/yEY1A
胡桃って誰だったっけ?と思い出すのに30秒くらいかかった俺
いやつまり何がいいたいかというと
俺は決して胡桃たんのことを忘れていたわけではなく
神々の更新スピ−ド最高だよヒャッホーってことだ
548名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 19:56:29 ID:xVXiux1D
        ミ
      ミ     ノ∩    シュッ
      ⊂くヽljf91ヽ
 {l´'´'´'´'l|l=とl! |ムY|っ=l|l´'´'´'´'l}
   ̄ ̄ ̄  i (い),,))!    ̄ ̄ ̄
     ミ  弋 ヽ ~_ノ   彡

           _, ._  スパッ
        ⊂( ゚ Д゚)つ-、                ⌒ヽ⌒ヽ
        ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄                   )  )
       ______                       _
      ///   /_/:::::/           _____    '´/ ,、ヽ
      |:::|/⊂ヽノ|:::| /」          {l,、,、,、,、,、,、,、,、l|l=とエi (ノノ"))i
    / ̄ ̄旦 ̄ ̄ ̄/|                      `(i '"∀ノii  私を忘れるなんて・・・
  /______/ | |                     l⌒l允{ヾ)
  | |-----------|                      タッ 〈坐〉人ヽつ


           _,  ._   スパパパッ
     ⊂| (| |゚||Д| |゚) |つ-、
          ̄   ̄     ̄ ̄
       ______               スチャッ     _
      ///   /_/:::::/                       '´/ ,、ヽ
      |:::|/⊂ヽノ|:::| /」          {l~~~~~~~~~~~l|l=∩エi (ノノ"))i
    / ̄ ̄旦 ̄ ̄ ̄/|           ̄( ̄( ̄( ̄  \`(i '"ワノii  許さない・・・ウフフ
  /______/ | |                     l⌒l允{ヾ)
  | |-----------|                        〈坐〉人ヽつ
549名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 20:04:09 ID:cdaSKXu3
気付いたら残り50ちょいじゃないかw
AA自重しなさい
550名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 20:27:32 ID:m/P9kxx3
ホントだwwww
次のスレタイを考えておいたほうがいいんだろうか?
551名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 20:28:26 ID:fz4Cyyyl
>>539
絵神再び!愛してる!

絵神が戻って来てくれたという事は旧神の復活にも希望が出てきたか?
552名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 20:31:10 ID:Rf+CPjRL
>>550
もう少ししてからで良いだろ。
何かそういうの嫌なヤツも居るみたいだし。
553名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 20:35:11 ID:OtnzSj7k
             / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     ,__     |  いたり先輩とモカにゃんとその他色々
    /  ./\    \_______________
  /  ./( ・ ).\       o〇      ヾ!;;;::iii|//"
/_____/ .(´ー`) ,\   ∧∧        |;;;;::iii|/゙
 ̄|| || || ||. |っ¢..|| ̄  (,,  ) ナモナモ   |;;;;::iii|
  || || || ||./,,, |ゝ iii~   ⊂ ヾwwwjjrjww!;;;;::iii|jwjjrjww〃
  | ̄ ̄ ̄|~~凸( ̄)凸 (  ,,)〜 wjwjjrj从jwwjwjjrj从jr
554名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 20:44:20 ID:WoVfdIq2
今こそ我らはいたり先輩ファンディスクを作成するべきなのでは?
555名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 20:56:24 ID:cLZ0XQAh
いたり先輩が勝つ可能性もまだ捨てきれないからファンディスクは早いかと

阿修羅殿ネコの名前のセンスGJ&更新お疲れ様です
556アビス  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/18(火) 20:57:59 ID:2ZLcad8U
投下します
「大丈夫ですか?少し痩せたようですけど」
 一週間ぶりの学校・・・・まず最初に僕を迎えてくれたのは秋乃さんの心配の声だった
 僕が元気なく頷くと、冷たい手が僕の額と重なった
「熱はないようですね・・・・よかった」
 心底安心したかのように肩を降ろして秋乃さんは満面に笑んだ
 やつれた僕の心もその笑顔だけで少し癒された気がした
「だ、大丈夫だよ・・・・」
 とても大丈夫というような声ではない・・・・
 それでも彼女は少し安心したのか穏やかに笑んだ
「涼ちゃん♪」
 いい雰囲気の僕と秋乃さんの間に割ってはいるかのような夏姉ちゃんの声
 振り返ると夏姉ちゃんがニコニコしながら僕たちに近づいてきた
「・・・・・」
 一瞬歩みを止め夏姉ちゃんは秋乃さんを見て一瞬顔を伏せてすぐに上げた
「涼ちゃ〜ん♪」
 そのまま僕の腕に抱きつくと踵を返して秋乃さんに背を向けようとする
「ちょ、夏姉ちゃん・・・・どうしたの?」
 見ると夏姉ちゃんは僕と同じ学校の制服を着ていた
夏姉ちゃんと冬香は女子高で僕とは違う高校のはずなんだけど・・・・
「今日から、同じ学校に行くことになったの・・・・よろしくね〜♪」
 おどけて言うとめい一杯の力を込めて僕をその場から放そうとする
「あの、涼さん?」
 不思議そうに僕たちのやり取りを見ていた秋乃さんがようやく口を開いた
「あ、この人は・・・・・」
「涼ちゃんの婚約者の夏美です」
 僕の言葉を止めるかのように夏姉ちゃんの声が割って入る
「今は同じ屋根のした一緒に暮らしてるのよ?」 
 秋乃さんはもちろんだけど僕も唖然としてしまった
「だから、これ以上涼ちゃんに近づかないでくださる?」
 唖然で力の入っていない僕を引きずるようにして夏姉ちゃんと僕は秋乃さんから離れていった
「どうして、あんな誤解を招くようなこと言ったの?」
 ようやく平静を戻した僕がそう声を掛けると夏姉ちゃんは神妙な面持ちでこう言った
「あの子ね、有名なのよ・・・・誰とでも寝る女だって」
 え・・・・・
「知らないの?私たち今日入学したのに、すぐに噂が耳に入って来たのよ?」
 まさか、そんな訳ないよ・・・・
「あんな売女なんて忘れて、お姉ちゃんと一緒に居ましょ〜」

「あの、涼さん・・・・」
「あ、ああ・・・・・・」
 冷淡な返事をして僕が席の腰掛けると、秋乃さんがやって来て悲しげな顔した
「婚約者って・・・・その・・・・・」
 口をもごもごさせながらそう問うと秋乃さんは俯いてしまった
「秋乃さん、なんか変な噂の話・・・・聞いてる?」
 言葉を切り僕は続きを問われないようにした
 だって、想い人がそんな・・・・
 だから僕は遠まわしにそう聞いくことで僕は不安を解消しようとした
「もしかして、誰とでも寝る・・・・っていうの・・・・ですか?」
 罰が悪そうな彼女に僕が頷くと秋乃さんはこれでもかと両手をバタつかせた
「ち、違います!私そんなんじゃないんです!男性経験だってないし、それに・・・・初恋だって涼さんなんですから!!!!!!」
「・・・・・・あ、秋乃・・・・さん?」
 突然のカミングアウトに僕はもちろんのことクラスメイト全員が「あ」の口にし静寂が包み込んだ
「あ・・・・うぅぅぅぅ」
 自分の発言の意味することにようやく気づいたらしく秋乃さんは顔を真っ赤にして縮みこんでしまった
 穴があったら入りたいと言いたげに僕を見つめ少しはにかんだ
「あの噂・・・・は」
「・・・・・・」
「まだ、イジメられてる?」
 秋乃さんは縮こまりながら首を横に振った
「イジメほどでは・・・ただ、変な噂を立てられるだけです」
「そっか、変なこと聞いてごめんね」
 そう言うと秋乃さんは構いませんと両手を振って僕を許してくれた
「そうだ、今度デートしない?」
「え、デート・・・・・ですか?」
 頬を赤くしたまま秋乃さんは可愛く小首をかしげた
「うん・・・・・」
 すると、秋乃さんは嬉しそうに頷き僕の手を握った
「ありがとうございます!」
「あ、涼さ〜ん」
 デートの日・・・・
 僕は初めて見た私服の秋乃さんに僕は思わず見惚れてしまった
「どう?似合うかな〜?この日のために新調したんだけど?」
 心なしか明るい秋乃さんに僕は微笑むんで頷くと秋乃さんは嬉しそうにその場で跳ねた
「よし、これで好感度アップ!」
 普段とは違う秋乃さんの元気っぷりに少々度惑いを感じたけど、新たな秋乃さんの一面に僕も嬉しくなってきた
「じゃあ、行こうか!」
 差し伸べられた手を握り僕たちは人がにぎわう繁華街にくり出した
560アビス  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/18(火) 21:04:48 ID:2ZLcad8U
ここで区切ります
561姉妹日記 16話 Aルート  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/18(火) 21:06:07 ID:2ZLcad8U
 私は思いを堪えきれず、涼さんの病室に向かう事にした
 病室の前・・・・そこには夏美さんが仁王立ちし、私を睨み付けた
「何しにきたの・・・・・」
「・・・・・・・逢わせてください」
「言ったでしょ?あんたが涼ちゃんに近づくだけで・・・・涼ちゃんは不幸になるの」
 違う、違う!違う・・・・・違う!!!!
「あなた、悔しいだけでしょ・・・・」
 そうだ、この人は悔しいだけなんだ・・・・
 だから八つ当たりして・・・・
「な、なにを・・・・・」
「ふふ、子供みたい・・・・おもちゃを取られて泣きじゃくってる・・・・」
 私は見下した態度を取り一歩ずつ少しずつ、夏美さんに近づいていく・・・・
「うるさい!私はあんたみたいな泥棒猫に涼ちゃんが汚されないようにしてるだけ!」
 冷静になって見てみるとこの人は私の敵ですらない・・・・・
 まるで幼稚、幼すぎる・・・・それでワガママ・・・・
「最低・・・・あなた、自分のことばかりで涼さんのこと考えていない・・・・・」
 その言葉に夏美さんは明らかに怒りのそれの表情をし、今にも掴みかかってきそうに殺気だった
「黙れ!黙れ!黙れ!あんたが・・・・あんたが悪いのよ!あんたが私の涼ちゃんを横取りするから・・・・だから!」
 やっぱり、涼さんを物かなにかと勘違いしているんじゃないですか?
 このヒト・・・・
「全部あんたが!涼ちゃんを惑わすから・・・・冬香なんかに・・・・涼ちゃんを・・・・」
 あれ?協力関係に見えて・・・・そうじゃなかったんですか?
 ますます幼稚ぶりに拍車が掛かってきましたね
「知っていますか?涼さん、私を抱いてくれるときいつも愛してるって囁いてくれるんですよ?」
 思い当たる節があったのか眉を吊り上げて夏美さんが私に憎悪のような物をぶつけて来る
 怯むことなく私は続けた
562姉妹日記 16話 Aルート  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/18(火) 21:06:53 ID:2ZLcad8U
 この人に自分の立場って者を教えるために・・・・
「あなたに一度でも涼さんは言いましたか?ないですよね?私、見てましたもん・・・・拒絶の言葉だけしか言わない涼さんを」
 今度は体中の血の気が引き青ざめてきた・・・・ふふ、そうです
 現実を見てください・・・・夏美さん
「嫌だ・・・・やめてくれ・・・・ほんとに涼さんのことを思っているのなら・・・・やめていたはずですよね?」
「違う!違う!違う!違う!悔しいのはあんたのほうだよ!私と涼ちゃんが愛し合ってるのを見て嫉妬してるだけでしょ!」
「ふふ、子供ですか貴方は・・・・誰が見たって涼さんと愛し合ってるのは私ですよ」
 往生際が悪すぎる・・・・しつこい・・・・
「もう、ストーカーですね・・・・気持ち悪い」
「あんた、涼ちゃん刺したくせになにを言ってるの?」
・・・・また自分の手が血に染まって見えた
でももう引かない、私はなによりも誰よりも涼さんを愛しているから・・・・
「元をたどれば、貴方たちが涼さんを監禁したのが原因でしょ」
「涼ちゃんの目を覚ませる為よ」
 子供の理屈で夏美さんはそれを正当化しようとしている・・・・
 ここはお姉さんの私が現実を知らしめてあげないと・・・・
「そうやって、貴方たちは嫌がる涼さんを逆レイプしたんでしょ?」
 嫌だ、やめてくれ・・・・秋乃さん・・・・
 響く言葉を聞くたびに口を歪め目を細め私を睨んだ瞳・・・・
 それを思い出し私は高みから見下ろした・・・・
「私へのあてつけの為に・・・あなたたちは涼さんを苦しめた!」
「うるさい!この泥棒猫!!!!!!!」
 瞬間、夏美さんの両手が私の首を掴み締め上げてきた
「ぎゃ、逆上?・・・・・う・・・・こども・・・・なんですね」
「死ね、あんたが死ねば・・・・涼ちゃんは!」
563アビス  ◆1nYO.dfrdM :2006/07/18(火) 21:08:46 ID:2ZLcad8U
もう一つの形には一つフェイクを忍ばしてあります
勘の良い方は気づいているかな?
それがこの先本編で絶対的な絆を持つ涼と秋乃の間を裂きます
それと秋乃さんばかり贔屓してすいません
これからが夏冬の姉妹も活躍させます


実は私、沃野の大ファンで毎度すげ〜とリアルで拍手を送っていた身でした
自分にもあれほど力があれば・・・・
なにが言いたいのかと言いますと、沃野の作者さまの新作が読みたいということです

沃野繋がりで・・・・
>>539
見たあと一分ほど時間を忘れ見惚れてしまいました
すごい、それしか言葉がでません・・・・
マジで綺麗すぎです・・・・
こんな子に食われたらどれだけ幸せか・・・・
この胡桃を見て沃野への愛情が再びぐつぐつと燃え上がって来ました!
GJです!!!!

管理人様
更新お疲れ様です・・・・・猫に泥棒猫・・・・あなたのこのスレへの愛情は底なしですか?



長々すませんでした・・・・
564名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 21:36:36 ID:MI7JP8FY
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 十三階段

十三はやりやすそうだな
565名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 21:36:56 ID:us0VZax0
投下しますよ
566『とらとらシスター』8虎:2006/07/18(火) 21:39:49 ID:us0VZax0
「ん?」
「どうしたんですか?」
「何でもない」
 気のせいかもしれないと思って、里芋の煮付けをもう一つ口の中へと放り込んだ。気の
せいではなく、本当に少しだが味付けが変わっている。いつも通りに美味いことは美味い
けれど、どうしたんだろうか。どこか体調でも悪いのかと思ってサクラの顔を見てみると、
特にこれといった変化はない。いつも通りの表情で、体も健康そうだ。
「サクラ、何かあった?」
「いえ、何も」
 姉さんが何か知ってしるかもしれないと思い、そっちの方に視線を向けてみるとこっち
も普段通り。口の周りに大量のご飯粒をくっつけながら、丼飯を勢い良く掻き込んでいた。
高校三年生にもなってこれなのは問題だけれど、今の問題はこれではない。
「姉さん」
「なぁに?」
 ご飯粒にまみれたまま、笑顔で振り向いてくる。昔からそうだったけれど、最近は特に
精神年齢が下がってきている気がした。
「サクラに何かあった?」
「んー、分かんない」
 再び物凄い勢いで食事を始める姉さんは、本当に何も知らなさそうだ。幸せそうな表情
のまま元気におかわりを頼んでいるその姿からは、中に何か隠しているようには見えない
し、性格からしてそんなタイプでもない。それに本当に何かがあったのならきっと僕に言
い出すだろうし、男には言えないことでも母さんには言うだろう。普段は喧嘩が多いけれ
ど、それでも家族仲はそこらへんの家庭よりはずっと良いから。
567『とらとらシスター』8虎:2006/07/18(火) 21:40:42 ID:us0VZax0
「さっきからどうしたんですか? 何か問題でもありましたか?」
 少し怯えた表情になって訊いてくるサクラ。
「味付け変えた?」
 普段より、少しだけ塩味が濃い気がした。
 サクラは姉さんのご飯を丼に盛りながら微笑を浮かべ、
「分かりました? 今は春なのに少し暖かみが強いし、少し濃い目にしたんですよ。特製
の調味料を少し増やしてみたんですけど、どうですか?」
 頑張っているんだな、サクラは。特製の調味料を作ったり皆のことを考えたり。朝食の
他に弁当も作らないといけないから、今は朝だけは母さんが手伝っているけれど、このま
まいくと母さんが台所を完全に追い出される日も近そうだ。
「美味しいね。少し味が濃い方がご飯が進むねぇ、さすがはサクラちゃん」
 サクラは姉さんに丼を渡しながら睨みつけると、
「姉さんのためにしたんじゃありません、兄さんのためですから。大体、ご飯が進むって
そりゃこれだけご飯粒をくっつけながら食べていたら丼の中に入れる量も増えるでしょう
ねそれはもう体重も乳も尻もそれに昔から姉さんは食べ過ぎなんですそれは嬉しいとは思
いますし構いませんけれど人のおかずまで取るし感謝しているのならもう少し丁寧に食べ
て下さい口の周りにご飯粒を付けてみっともないし炊いた分のご飯が少し無駄になってい
ると悲しいんです分かってますか聞いていますか姉さん!!」
「えっと、早口だし長かったからよく分かんないけど、ごめんねサクラちゃん」
568『とらとらシスター』8虎:2006/07/18(火) 21:44:09 ID:us0VZax0
 サクラの長口舌を久し振りに聞いた気がする。これだけ喋るのは機嫌が極端に良いとき
か悪いときで、今は良いときだというのは表情で分かる。何かしょんぼりしている姉さん
の丼にご飯を多目に盛っているのもその証拠だ。大量のご飯を受け取って笑顔でお礼を言
っている姉さんから視線を反らしてはいるが、口元の微笑は隠しきれていない。
 微笑ましい。
 青海にも、このくらいの態度で接してくれたら良いのに。今日の放課後に色々話をして
みて意外に普通なところも知ったし、姉さんともサクラとも相性は悪くないと思ったんだ
けれど。やはり僕を取られたような気持ちもあるんだろうけれど、女の子には、男には分
からない論理が働いているんだろうか。
 僕の膝の上で気持ち良さそうに丸まっている呑助に視線で問掛けてみても、目を細めて
欠伸を返してくるだけだった。
「二人とも、仲が良いのは僕も嬉しい。その調子で、青海とも」
 言い切る前に、僕の言葉は二人の表情で遮られた。先程の笑顔が一転、猫のように笑っ
ていた表情が怒れる虎のような目つきになって僕の顔を睨みつけてくる。姉さんに至って
は、気に入っているからと長年使っていたマイ箸までもを手の中でへし折っていた。口の
周りにご飯粒を付けているのが多少間抜けな感じではあるものの、それを補って余りある
迫力の表情をしている。
これが先程の和やかな人と同一人物かと疑いたくなる程だ。
569『とらとらシスター』8虎:2006/07/18(火) 21:45:14 ID:us0VZax0
 助け舟を求めて母さんに視線を向けてみると、
「虎徹も大変ね、モテモテで。青海さんって、今朝のリムジンの人? どんな関係なの?」
 笑顔で火にガソリンをぶちまけてきた。
 今なら昔は理解できなかった、母親をクソババァと呼ぶ人の気持ちが少しは分かるかも
しれない。この気持ちはきっとそれだ。
「今時、モテモテって表現は無いよ。それと、青海は僕の」
「ストーカーです」
 怒りを抑えて話を切り出してみれば、見事にサクラが打ち崩してくれた。
「兄さんが迷惑しているのに、それも分からずくっつき回っている害悪の権化。最悪の…」
「サクラ」
 嫌っているのは分かっていたけれど、ここまでとは思わなかった。少しの文句は許せる
けれども、これはそれを通り越して只の罵倒。こんな悪意の塊は、少し許せないものがあ
る。フォローをしながら付き合うと決めたのは僕だから、そこはきちんとしなければ。
 少し冷たい声を意識しつつ、サクラを見る。
「青海を、あまり悪く言うな。仮にも、僕の彼女なんだ」
 僕が思っていたよりもきつい表情だったのか、サクラは怯えたような表情でこちらの顔
を見てきた。その目は少し潤んでいて、肩は小さく震えている。
 しまった、少し強く言い過ぎたか。
 僕はうつむき始めたサクラの頭を抱えると、軽く背中を撫で始めた。腕の中に完全に入
り込む妹の体は酷く華奢で、少し力を込めただけで簡単に折れそうだ。なのに、ぐいぐい
と全力で、その体を僕の胴体に押し付けてくる。
570『とらとらシスター』8虎:2006/07/18(火) 21:47:02 ID:us0VZax0
 それでもその力は、とても弱い。
 見過ごしていた。
 口が悪かったり、気が強かったり、平気そうだったり、そう見えていたなんていうのは
言い訳だ。サクラはこんなに細い体で、弱い心で、いつも震えていたのに我慢していただ
けだったのだ。台所を仕切り、強く歩いていたのも僕の幻想に過ぎなかった。
「ごめん、言い過ぎた」
 数分。
 漸く視線を上げたサクラの目からは、大粒の涙が流れていた。
 心が、痛い。
 何が周りをフォローしながら付き合うだ、ちっとも出来てやしない。昔にあの娘とあっ
た出来事を忘れたのか、皆を傷付けて、あの娘に至っては病院送りにまでさせて。それな
のに、その経験を全く生かせていない。痛め痛め、その痛みが罪悪の印だ。
 もう一人の僕が責めたててくる。
「ごめん」
 もう一度呟くように言うと、サクラはゆっくりと体を離した。
「こっちこそ、すいませんでした。つい、取り乱して」
 申し訳なさそうに目を伏せ、
「もう、大丈夫です」
 姉さん、おかわりしますか、と言いながらぎこちなく笑みを浮かべる。
 同じく目を伏せていた姉さんから丼を受け取ってご飯を盛り、そこで箸が無いことに気
が付いたのか台所へと向かった。
 人一人分だけ少なくなったこの場所は、空気が重い。
 サクラが戻ってきた後で食事が再会されてもそれは変わらず、無言の辛さが辺りを包む。
サクラが作ってくれた、少し味付けが濃くなった筈の料理も、何故か味がしなかった。
571ロボ ◆JypZpjo0ig :2006/07/18(火) 21:48:00 ID:us0VZax0
今回は二本立てです

チャンネルはそのまま
572名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 21:49:10 ID:chginbaW
日記と虎虎ダブルで姉妹キタキタ━━━━━━(゚∀゚≡゚∀゚)━━━━━━!!!!!!!!
573『甘獄と青』Sideナナミ:2006/07/18(火) 21:51:48 ID:us0VZax0
 青様からの通信を切り、私は軽く瞼を閉じました。視界を閉ざすのならば視覚素子を遮
断するという方法もありますが、敢えてそうしないというのは何故でしょう。
 心だよ。
 この方法を教えて下さったとき、青様はこの一言を私に伝えました。それがとのような
意味を持つのかは結局教えてくれませんでしたが、その表情はとても悲しいものでした。
あの事件がどのような影響を与えたのか私には分かりませんが、それが原因だったのでし
ょう、それだけは理解が出来ました。
 いけません。
 私は思考を切り替えると、料理を再開しました。一人増えると言っていた人物は、どの
ような人なんでしょうか。その日に出来たご友人を招待するということは、今までに見ら
れなかった行動なので、疑問がいくつも残ります。そもそもご友人を招くこと自体あまり
なさらないので、特別扱い、ということなのでしょうか。
 最近招く方といえばリサ様ばかりでしたので、他の方も招くというのは喜ばしいことで
はあります。その分、心も快方に向かっているということですから。
 こころ。
 私には、よく分からない単語です。人格、と表現をするよりも、心、というものを機械
に与えた知恵人形。普通の知恵人形ならばこの概念を理解できるのでしょうし、説明も可
能なのでしょう。しかし、思考回路との接触が上手くいかない、言わば不良品である私に
は未知の領域です。
574『甘獄と青』Sideナナミ:2006/07/18(火) 21:52:39 ID:us0VZax0
 だから、良いんだよ。
 心の説明を求めたとき、青様はそう言いました。お前は心が分からない、だから、ここ
に来るときにお前を連れてきたんだ、と。結局、最後までその意味も教えていただけませ
んでしたが。
 いけません。
 最近は思考のノイズから、よく飛び火することが多いです。そろそろ、修理時なのでし
ょうか。8世紀以上駆動しているのですから、バグが多くなるのも無理はないかもしれま
せんね。それでも私を使用していただけるのなら、名誉ではありますが。
 お肉をオーブンに入れ、再び目を閉じます。
 データ管理層にアクセス‐許可
 タイマーを現在時刻から一時間後に設定‐確認
 一区切りついたので、椅子に座り室内を見渡しました。装飾に不備はなく、自分でもな
かなかの出来だと思いますが、喜んでいただけるでしょうか。
 喜ぶ。
 これも心が示すものの一つですが、私には理解の出来ない概念です。青様は、それでも
良い、それだから良いといつも言われますが納得が出来るのはいつになるのでしょう。8
世紀以上、約9世紀に渡って考えていても、結局答えが出てこないのは、やはり欠陥品だ
からでしょうか。
 思考レベル2に切り替え‐許可
 癖、というものでしょうか。ここ最近、と言っても50年程ですが、青様が居ないときに
よくこうしてしまいます。考えることはいつも大体は決まっていて、青様と初めて会話し
たときに抱いた疑問である心についての疑問と、私を使っていただいている理由です。
575『甘地獄と青』Sideナナミ:2006/07/18(火) 21:57:22 ID:us0VZax0
 特に、故障が多くなり始めたここ30年間は後者が高い比率を占めています。
 只の欠陥品なのではなく、故障も多くなり始め、ここ数年は修理に出されることも少な
くありません。普段から不備も多く、他の知恵人形に比べると態度もあまり良くないと自
覚できる程で、もしも私が青様の立場なら使いたいとは思わないでしょう。それどころか
直ちに廃棄しようと思いますし、現に何百年もそう言われている立場ではありますが、自
分自身納得の出来る発言だと思います。しかし普段からそう明言されているのに、何故、
私は廃棄をされないのでしょう。
 特殊データ管理層第七番へアクセス‐許可
 適合ケースの検索開始‐許可
 いつものように理由を探し始めましたが納得のいくものは存在せず、答えとしては廃棄
のみが残りました。該当するものも逝くつか存在しましたが、恐らく青様には当てはまら
ないものばかりですので自動的に却下されます。
 何故。
 これも、心というものに起因するものなのでしたら、それは私には分からないものです。
どんな感情が、どのように働いてそうせているのか、いつも最後はこの部分に行き着きま
す。一般に定義されている知恵人形の幸せはこの答えに当てはまるのでしょうが、未だに
答えを証明した知恵人形はどこにも存在しないので理解自体が無理なのでしょう。
 思考レベル通常モードへの切り替え‐許可
576『甘地獄と青』Sideナナミ:2006/07/18(火) 21:59:45 ID:us0VZax0
 いつも通りに思考の泥沼へと入りかけたところで引き返し、立ち上がります。瞼をゆっ
くりと開き、視界に入り込んでくるのはいつもとは少し違う室内の風景。青様の誕生日を
祝うための、装飾された部屋。
 これも、心。
 これだけではなく、古今東西のあらゆる祝事では会場を飾りたてますが、それも心が関
係しているのでしょう。確かに飾りつけによって通常とは違う空間を作り出したりするこ
とは、差異を持たせるには分かりやすい方法ですし納得が出来ます。
 しかし、何故それだけで皆様は笑みを浮かべるのでしょうか。
 私には分からないことだらけです。
 青様の癖が移ったからなのでしょうか、私は軽く頭を振るとキッチンへと向かいました。
嗅覚素子は、お肉が丁度良い状態になっていることを示していますし、足音と共に頭部の
中で響くアラームは、手早く仕事をすることを求め急かしています。
 熱量探知素子を遮断‐許可
 この方法をすることを青様はあまり好まれませんが、鬼の居ぬ間に何とやらです。熱が
伝わる刺激でミスをするよりは大分良いと思うのですが、青様は熱いものを平気で持ち、
人工皮膚が傷むのを見ると悲しそうな表情をなさります。
 これも、心が原因ですね。
577『甘地獄と青』Sideナナミ:2006/07/18(火) 22:01:18 ID:us0VZax0
 今日だけで、何度この単語を使ったのでしょうか。一人になると使い、考える回数が飛
躍的に上がるこの単語は不思議な力を持っています。それこそ心の概念を理解出来ない私
でも、これまで稼働してきた時間では何回使用したかを数えるのも不可能な程です。普通
の知恵人形や人間では、その言葉に対する気持ちはその比ではないでしょう。
 異臭を感知‐嗅覚素子を遮断します
 熱量を感知‐熱量探知素子を駆動させます
 傷みを感知‐マニュアルに基づき障害から離れます
 鈍音。
 再び思考の泥沼へと入り込んでいたようです。思考をしながら鉄板を持ち上げた際に肉
汁が手にかかっていたらしく、視線を向けると人工皮膚の表面が軽く溶けていました。そ
の上、安全回路のせいで鉄板を落としてしまい床が酷いことになっています。お肉が床に
落ちなかったのは幸いですが、それよりも思うのは自分の不備のことです。
 もう、潮時なのでしょうか。
 いけません。
 無駄な思考を放棄し、やるべきことへと目を向けます。
 データ管理層にアクセス‐現在時刻を確認
 青様が戻ってくるまではあと数分程ですが、問題はありません。
 手早くお皿へローストビーフを移し、会場のIHコンロのスイッチを入れ、掃除をして。
それをこなすと、玄関へと向かいました。予定よりは少しばかり遅れましたが、十分許容
範囲です。
 数分。
 ノックの音が響き、覗き窓から確認をすると青様が居ます。それは問題ないのですが、
隣に立っている方は、今日出来たというご友人でしょうか。
 特別扱いの。
 視線をそちらの方へと向けると、
 黒い3つの首輪の、女性。
「今、開けます」
 その首輪の意味を理解すると、私は武器を手に取りました。
578ロボ ◆JypZpjo0ig :2006/07/18(火) 22:02:10 ID:us0VZax0
今回はこれで終わりです

少し疲れました
579リボンの剣士 23話 ◆YH6IINt2zM :2006/07/18(火) 22:09:15 ID:CkzQeQ5i
投下します。
580リボンの剣士 23話 ◆YH6IINt2zM :2006/07/18(火) 22:10:06 ID:CkzQeQ5i
「お待たせ」
「……どうも」
恵と一緒に現れたのは、他の学校の制服を着た、大人しい感じの人。前髪が長くて、ややうつむいている。
彼女はあたしのちょうど正面の位置に座った。

恵が話を持ちかけてからちょうど一週間。あたしは、駅前のカラオケボックスで、この、木場さんに彼氏を盗ら
れた人に会うことになった。
実は、違う学校だとは思ってなかった。というのは、まさか木場さんが、他の学校の男にまで手を伸ばしてると
は思ってなかったから。
まだまだ、あの女を甘く見てたかもしれないわね。
「明日香、この人が日野山さん。子寅麗(ねとられい)学園の人」
「はい……日野山です……」
日野山さんは、弱々しい感じの声で一礼した。

何となく、この人からは暗い印象を受ける。これから話したいことが、あらかじめ恵から伝わってるんだと
思う。彼氏を盗った女の話なんて、したくないわよね、そりゃ。
「あたしは新城明日香。恵と同じ学校で、その……」
「木場さんとも同じ、ですよね……」
入れるべきかどうか迷う言葉を、日野山さん自らが追加した。
やっぱり、あたしが話したいことは大体伝わってるのね。だったら話は早いわ。
「そうよ。あのね、あたしには彼氏……じゃないんだけど、まあ、その、好きな人がいて、その人に木場さんが
接近してる、って状態なの」
日野山さんは、こくこくと頷いて聞いている。目線だけずっとこっちに固定されてて、ちょっと怖いけど……」
「あたしは、木場さんに、盗られたくない」
「そうですよね……」
「木場さんがどんな女かはっきり判れば、人志だって騙されないはず」
「あ、人志ってのは、明日香の好きな人ね」
恵の補足を交えながら、あたしはあたしの意思を、目的を伝える。
「日野山さん、昔のことを引きずり出して悪いけど、あなたが、木場さんに彼氏をどんな風に盗られたか、
教えてほしいのよ」
「…………」

返事が来ない。日野山さんの顔が、さらに下を向く。前髪で目が隠れた。
「このまま何の対策も取らなかったら、明日香が、日野山さんの二の舞になるの」
恵が少し身体を寄せた。
「木場の好き勝手になんかさせちゃいけない。それを一番良くわかってる日野山さんだからこそ、
話してほしい」
……こうして聞いてると、さっきのあたしの言葉って結構乱暴だった気がするわ。
恵を通しているとはいえ初対面だし、前知識があるからって、いきなりあれは、さすがに無神経すぎた。
581リボンの剣士 23話 ◆YH6IINt2zM :2006/07/18(火) 22:11:03 ID:CkzQeQ5i
「はい……わかりました……」
顔が上がって、日野山さんの目線は、まっすぐ、あたしと恵のほうに向き直った。
「元々、話すつもりで来たのに……すみません……」
と思ったら、またうつむいちゃった。
この落ち込みやすさは、木場さんに彼氏を取られたショックのせいなのかしら。
「あ、いや、いいのよ。無理を言ってるのはこっちだから」
「木場さんが、どうやって近寄って来たか、なんですが……」
再び日野山さんの顔は正面を向き、口調も少し強くなっていた。
「私と……彼で、二人のときに、友達のように明るく話し掛けてきたのが始まりでした」
二人でいるときに、明るく話し掛けてくる。あたしのときと同じじゃないの。

日野山さんは続けた。
「それ以来、何かにつけて彼に近づいて、こう……明るく、甲斐甲斐しく、と言いますか……、
意地の悪い言い方ですけど、男の人のツボを押さえるような、そんな感じで」
ふんふん。『一緒に帰ろ』なんて誘ってきたり、手料理を披露したり、そういう作戦で媚びてるわけね。
「私も、ただの女友達みたいなものだと思ってたんですけど……よく見てみれば、木場さんは彼にべったりで、
私は相手にしない、と言う態度でした」
あーもう、まさにその通りとしか言いようがないわ。そういう態度、あたしも目の当たりにしてきたから。
「彼は、私より木場さんと話すことのほうが多くなって、少しずつ距離が開いていって……。
そして、しばらく前、別れ話を出されました……」
最後のほうは、声が細くなっていった。また、日野山さんの目線は下向きになる。
あたしの場合、彼女の二の舞になったとしたら、前に見たあの悪夢が、現実になって突きつけられるのね。
「別れた後は、どうなったの?」
「はい。彼とはもうほとんど話もしなくなりました……。
あと、噂で聞いたんですが、彼と木場さんはすぐ別れたとか」
「噂っていうか、本当のことなんだけどね。それで今、人志殿に迫っているわけだ」
恵がそう言うと、日野山さんは、はっと驚いた顔になる。
「そうですか。……そうですよね、確かに彼は、ある日を境に、私はおろか他の人とも話さないようになったみ
たいですし」
他の人とも話さない、つまり塞ぎ込んでるって事でいいのかな。そうなったって事は、やっぱり木場さんが捨て
たのね。

もしかしたら、木場さんは、狙った男を落とす、その過程だけを楽しんでいるのかもしれない。
プラモデル作りが趣味の人で、作っているときが一番面白くて、でも完成したらなんか物足りない。
そんな話を耳にしたことがある。
まあプラモデルだったらそれでもいいけど、木場さんの場合は、相手は人間。
飽きて捨てれば、当然その人を傷つけることになる。
……何よ。どっちにしたって最低な女じゃない。男癖が悪いことは、本当だってわかったし。
「彼と木場さんが別れた理由は、私にもわかりません。でも……」
「でも?」
「木場さんに彼を盗られたのは……私が、こんな暗い性格してるからだって、最近では、そう、
思ってます……」
……。
582リボンの剣士 23話 ◆YH6IINt2zM :2006/07/18(火) 22:11:36 ID:CkzQeQ5i
日野山さん。そうやって考えて、無理やり諦めようとしてるの?
「違うわ」
あたしは、そうは思わない。
「仮に日野山さんが暗い性格だとしても、それが木場さんみたいな、明るい女に彼氏を盗られたって仕方ないっ
てのは、間違いよ」
暗い性格が悪くて、明るい性格が善い。そんなんじゃない。
人志は、中学の頃は周りから、陰で暗い奴と囁かれていた。
でも、人志の性格が悪いだなんて、あたしはちっとも思っていない。
普段は明るく振る舞って、その裏で人志に暴力を振るうようなヤツが、善い性格をしているはずがない。
日野山さんが、彼氏を盗られるという、酷い目にあったのに、それを自分のせいだと考える所は、人志に似てい
る。気がする。
人志も、虐めてくるヤツらとあたしがケンカした後、いつもあたしに申し訳ないって……。
「そうなんですか?」
「そうよ。あ、あたしがそう思ってるだけだから」
日野山さんは、いまひとつ分からない、といった感じでキョトンとしてるけど、あんまり突っ込んだことまでは
言わない。
あたしなら、別れ話なんか出してきた時点でぶっ飛ばすわ。竹刀で。
でも日野山さんは、人に暴力を振るうのは嫌だろうから、それでいい。
「はあ」
無理にあたしの考えを理解させるのも、それはそれで良くないからね。

話が大体終わったところで、恵は手にマイクを持ち、立ち上がった。
「さ、もう話はいいかな。気晴らしに歌ってこ」
なるほどね、場所をカラオケボックスにしたのは、そのためだったんだ。
アフターケアはバッチリね、恵。
「そうねー。日野山さん、得意な曲ってある?」
「あ、それじゃあ……」
あたしがリストを渡して、受け取った日野山さんはその中から一曲探し当てて、機械に入力した。
すぐにイントロが流れ出し、モニターに曲名が映し出される。

『ストーカーになりました』

あたしと恵は、同時にジュースを噴き出した。


(24話に続く)
583 ◆tVzTTTyvm. :2006/07/18(火) 22:20:28 ID:qiSg2Z8K
あんな凄い絵神の食人花のあとに私如き気が引けてしまうのですが
ttp://bbs9.fc2.com/bbs/img/_166100/166037/full/166037_1153226342.jpg
一応いたり先輩Befor&Afterのつもり
不評なら撤去しますから石投げないで下さい
584名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 22:20:47 ID:cLZ0XQAh
神の連作恐るべし(*´д`*)
今日の朝には無理だと思ったがこれは10日で次スレの勢いかしら・・・
日記、とらとら、甘地獄、リボンと堪らない作品が目白押し(*´д`*)
夏冬姉妹の攻勢、とらとらの某台詞の二種類の意味の出し方のうまさ
そしてリボンの落ちに思わず吹いた
日野山さんいいなぁ
585名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 22:22:11 ID:cdaSKXu3
学園名からしてもうだめだw
日野山さん萌えw
586名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 23:02:22 ID:xVXiux1D
次スレを誰か立ててくれ〜。流石にやばいぞ。
スレタイは、嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 13日の金曜日  で
587名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 23:09:21 ID:loQQm85i
学園名見て噴出したw
ついこの前の作品でもそんな駅名があったっけ。
588名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 23:23:31 ID:bQ8S/FFC
>>587
漢字は忘れたが「ねとりがわ」だったような。
589名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 23:28:11 ID:qOSrCR0H

※投下の邪魔にならぬよう、次スレタイの話題・次スレ立て
  は当スレ容量が480KBを超えてから始めてください。
590名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 23:42:05 ID:cdaSKXu3
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 13日の金曜日
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1153233347/

(´・ω・`)色々とごめん
591名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 00:26:13 ID:Z1uEwRL5
スレ埋めにプロット書いてみる

腹黒い女の子から突如好きだと告白されるが名前も顔も知らない女の子だったで
主人公は即答で断った。だが、腹黒い女の子はあらゆる権力を行使して主人公の
隣の家に引っ越す。それから1日中ずっと監視して、まるでストーカーのように
張り付いてくる腹黒い女の子の視線に怯える日々が続く。
 そして、主人公と同じ学校まで転校してきて、さすがの主人公は身の危険を感じる
そこで頼りになる友人である泥棒猫に相談を持ちかける。
 片思いである人から相談されたら、真っ先に隣に住んでいる腹黒い女の子に問い詰める
クラスの前で腹黒い女の子は主人公とは結婚の約束した仲だと大声で皆の前で言う
憤慨した泥棒猫は腹黒い女の子を突き飛ばす。

それが主人公を悩ませる恋の3角関係の始まりであった。

一人は主人公に想いを寄せる腹黒い女の子
(主人公のプライベートは全て盗聴器盗撮で120%監視済み
 隙さえあれば、主人公の家に夜這いをかける)

一人は主人公が好きだけど素直になれないツンデレの泥棒猫
(天下無敵のツインテールをなびらかせて、主人公の友人をやっているが
 実はとても大好き大好きで主人公を監禁したいぐらいに想っている
 でも、主人公の前ではついつい悪口で言ってしまう女の子)
 

による3角関係。


と言ったプロットを10分で書き上げたけど・・
何か没ネタに相応しい出来になってしまったw

まあ、暇があるひとは面白いプロットを練ってくれたらありがたい
592名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 00:41:38 ID:htWElnS5
>>591
そのアイディアもらった!!
593名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 01:57:42 ID:uY+0S8Jy
>主人公のプライベートは全て盗聴器盗撮で120%監視済み

真っ先にLの顔が思い浮かんだ
594名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 02:45:23 ID:vHnanRQC
ストーカーと呼ばないでって曲があるんだが
健気で可愛い女の子の歌なんだが友人は誰ひとり理解してくれないんだ。
みんなも機会があったら聞いてみて。
595名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 03:19:03 ID:6N1UMEYp
このスレは黄金闘士だらけですね
596名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 03:24:50 ID:EhELheMe
>>539
絵神再びィィイィ!!!
しかも沃野のアルラウネ胡桃! 眼福の極みです。
ところで画廊から考えるとかの絵神は幼馴染属性をお持ちなのだろうか
597名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 03:55:26 ID:wH6kxVuS
>>539
あなたからいただいた麻耶たんは私の至宝です。
本当にありがとう

>>594
男のことが好きで電話番号ゲットするも何話したらいいか分からず無言電話をかけ続けるわ、勝手に合い鍵作って部屋に侵入してアレコレやっちゃう歌だろ?

ラーメン屋の有線で突然流れてきてチャーシュー吹いちまった。
ん……?これなんていたr(ry
598名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 07:11:43 ID:fDIQBhMr
ググってみて見つかった

あなたが 電話に出なくなり 寂しさが つのり
思い切って 作りました 合鍵作りました
あなたのお部屋に 入るのが 日課になりました
良い事 悪い事の 区別が 全然つかなくなりました
気がつけば 周りを沢山のおまわりさんに 囲まれておりました
でも信じてください 私 本当に あなたが好きでした

この女の子カワイソス・・・
男は責任持って出所を待ってやれ!
599名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 08:46:06 ID:N/Hukx0G
良い事 悪い事の 区別が 全然つかなくなりました
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
この間の詳細が激しく知りたい!!!!111!!
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
気がつけば 周りを沢山のおまわりさんに 囲まれておりました
600名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 09:57:36 ID:A1UEQTbd
オオタスセリのやつでしょ。
前に本スレで紹介されてて、俺CD買っちゃったもん。

>>598の直前の歌詞
あなたのポストに 手紙を入れるのが 日課になりました
ついでにあなた宛の手紙も 毎日 読むようになりました
あなたのこと 知れば知るほど 夢中になりました
思い切って かけました 電話をかけました
あなたに 電話をかけるのが 日課になりました
何を話してよいのか 接点が全然ないので 毎日無言でかけました


歌詞だけだと、健気でいじましく萌える。
でもCDジャケのこの女性のイメージイラストを見てから聞くと、かなり男の方に共感……w

つくづく修羅場ヒロインは顔が命と思ったよ。
601名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 10:03:01 ID:R584g7if
>>594
そういえば前にバイト先の有線でその歌が流れて萌えたなぁ・・・
依存っ娘専用有線チャンネルとかできないかなぁ・・・
SSを読むときにそれを流してれば楽しみもいっそう増える
602名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 12:40:46 ID:sekNl22G
「ん…くそ…なぜ私がこんなことを……」
自分の秘所に指を出し入れして、今まで一度もしたことが無い自慰にふけっていた。
話には聞いていたが、こんなことは下級な輩がすることと思っていた。
「あっ…く…ぅ……んあ」
自慰をしながらも頭に浮かぶのは一人の町民の姿
そのことを考えると次第に指の動きが速くなる。
「んんっ…あ、あぁぁ!」
初めてくる絶頂に女は恐怖と快感の入り混じった声をあげる。

しばらくの間、絶頂の快感に浸る
「……アイツの隣に居た、娘は誰なのだ」
思い出した様に呟く
「アイツは私の隣にしか居てはいけないのに、私しか見てはいけないのに、私のことしか考えてはいけないのに」
女は狂ったように一人しゃべり始めた。



女は名門の生まれでプライドが高い、女はあることをきっかけに町民の男と知り合い惹かれていく。
だが、ある日いつものように町民に会いにいくとそこには男と知らない女が仲良く話してるとこを見てしまった。
二人の関係を深読みしすぎて女は病んでいく。

名門女、ツンデレ→ヤンデレ化していく


男と親しい女、男の幼なじみで男のことが好き、世話焼きで柔らかな性格だが独占欲が強い。



という話を思いついた。
603名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 12:44:59 ID:jbk1MrgI
このスレに投下された嫉妬主人公やヒロインが勢ぞろいの学校に通ってみたい


…とばっちりくらいそう(((((;゚Д゚))))))
604 ◆pmLYRh7rmU :2006/07/19(水) 15:15:51 ID:6OmHXQa3
>>602
の内容で妄想を膨らませてしまいましたww

一応埋めネタ読みきりで。

朝の日差しが私の瞼を貫く。開け放たれた窓から差し込む陽光は、初春であるというのに容赦がない。
小鳥のさえずりと未だに真冬を思い出させる冷たい声で、私は完全に覚醒した。
「お嬢様、お目覚めの時間です」
「わかっておる。・・・・・・ところで、あの男はきておるのか?」
伏し目がちに問うと、メイド長のレナは何時もどおりのポーカーフェイスで答えた。
「はい。すでに客室に待たせております。しかしお嬢様。何も平民風情に来賓用の部屋を用意する必要はないのでは?」
「いいのだ!彼奴には最高の仕事をしてもらわなくてはならん!汚い部屋では士気も下ががるだろう。これは貴族としての計らいじゃ!うぬは口出しするな!」
「お嬢様。これはご忠告ですが・・・姫様は議会で最も発言力の高い十公爵バルタザール卿のご息女です。あまり平民と仲良くされるのは通念上どうかと思われますが?」
「な、仲良くなどしておらん!!」
「左様ですか。それなら構いませんが・・・。先の通り、距離には気をつけてください。相手はご主人様が認められたとはいえ、所詮平民の画家に過ぎません。
これ幸いとお嬢様に狼藉を働く危険も零ではございませんので」
「わ、わかっておる。だからそちはさっさと準備をしておれ!」
私が言い放つと、レナは何時もどおり洗練されたお辞儀をして去っていった。
な、何故メイドごときに私が命令されなければいけないのだ!わ、私は素晴らしい絵が欲しいだけなのだ。
け、決してレナが申すように仲良くなどしておらん!!わ、私は・・・貴族で、彼奴はただの平民なのだから・・・・・



大きなキャンバスには都で最新のドレスを身に纏い、花のように輝く笑顔の女性が描かれていた。正直、我が目を疑った。
「こ、これが私なのか?」
「はい。公爵様の仰せのとおり、写実的に描いております」
と、ということは・・・この男の眼に私は、こういう風に映っておるのか・・・?
いや、あまりにも対照的だ。鏡に映る私は、もっとつり眼で無愛想な女のはず。
瞳の色や着ている服、輪郭や顔のパーツはすべて一緒でも、まるで別人ではないか。
「お、オマエ。ちゃんと私を書いているのか?こ、これはどう見ても別人じゃぞ!」
「そんなことはないですよ。わたしは見たとおりのお嬢様を描かせていただいております」
「ば、ばかな!私はこんな風に笑えない・・・」
母様が亡くなってから、私は上手に笑えなくなった。だから、キャンバスの女は違う。私ではない。
「初めてお会いしたときはすこしキツイ印象を受けましたが、椅子に座っておられるお嬢様は非常にいいお顔をされていいますよ。
わたしの技量では残念ながらこの絵が限界ですが・・・お嬢様の笑顔はそれはもう、どんな花よりもお美しい。自分の実力が呪わしいですね」
そういって、男は苦笑した。顔に集まった血液が、一瞬して沸騰した。上手く思考が働かない。胸がドキドキする。
な、なんなのだ・・・この気持ちは?へ、平民風情に、この私が?
「それでは、続きをお書きいたしますので。そこにお直りください」
それからきっかり数時間。男は私を真剣なまなざしで射抜きながら筆を動かしていた。
その間私は、男の視線を真っ向から受けることができずに呆けていることしかできなかった。
605 ◆pmLYRh7rmU :2006/07/19(水) 15:17:40 ID:6OmHXQa3
「今日はここまでにしましょう。お疲れ様でした」
男が画材を仕舞う。
「・・・・・・昨日はどこへ行っておったのじゃ?」
そういうと、男は虚を突かれたように
「実は、絵の具を切らしてしまいまして。一人でイズル山に絵の具の材料を調達しに出かけておりました」
「・・・・・・ずっと、待っておったのだぞ・・・・・・」
「メイド長のレナさんにちゃんと伝えたはずですが?」
「・・・・・・それでも、待っておった。・・・今度絵の具を取りに行くときは、私も連れてゆけ」
「へ?あ、その・・・イズル山は険しいですし時折獣も出ますので、お嬢様が上られても何も面白くないと思われますが・・・」
「・・・・・・・・・いい、連れてゆけ」
気づくと私は男の袖を掴んでいた。男はたじろぐように視線を泳がす。
「そ、それは・・・」
「お嬢様。その方も困っております。イズル山など貴族が近づく場所ではございません。それに今朝も忠告したはずです」
「・・・・・・・・・わかっておる、わかっておる・・・・・」
私はそこでようやく男の服を離した。安っぽい布地の服で絵の具の染みやカスがこびりついているが、私にはそれがどうも神聖なものに見えて仕方なかった。
「それでは、失礼いたします」
玄関まで見送ると、男は礼をして去っていく。私は胸に寂寥感が広がるのを感じた。
うぬはこれから、どこに帰るのだ?家か?それとも・・・
・・・恋人のところなのか・・・?

男が家にやってくるようになって、三週間が過ぎた。
この男の暮らしが気になってとうとう我慢できなくなった私は、レナに内緒で彼奴の後をつけていた。
貴族の邸宅街を通り過ぎると、雑多な町並みが広がっていた。
肌の黒い者、黄色い者、腰が曲がった者、鎧を纏った者・・・諸々の間を抜けて、男の後をつける。
ドレスにこの靴では歩きにくいことこの上なく、身分を隠すために目深に被った帽子は返って存在をアピールしているような気がしてならないが、ヤツにばれなければそれでよい。
奇妙な匂いが充満する通りを抜け、教会の路地を曲がると、そこはウサギ小屋程度の民家がずらりと並ぶ区画だった。
彼奴は、こんなところに住んでおるのか・・・期待と予想を遥かに裏切って、私は半ば呆然とした。
それでも一定の距離を保っていると、男は急に立ち止まった。
「お勤めご苦労さん」
「あら!今日は早いのね」
見ると薄汚れたエプロンドレスに、赤い布を頭に巻いた若い女と言葉を交わしていた。
何故か胸の奥がどしんと重くなる。頭が脳の位置がすこし下った気がするほど、重い。
「最近十公爵のお嬢さんの肖像画を任されたんですって?」
「あぁ。初めての仕事だから、緊張しているよ」
「うふふ。ようやく貴方の才能が認められたのね。なんだか誇らしいわ〜」
「ははは。そうだね。このまま仕事が上手くいけば、君に・・・」
男はそこで言葉に詰まると、女と目線を絡ませて顔を赤くした。
二人はそのまま時が止まったように見詰め合っていた。
な、何なのだ・・・この空気は・・・気分が悪い。気分が悪い。気分が悪い。
石畳が突然黒い沼に入れ替わってしまったみたいだ。どうして私がこんな場所にいなければならぬ?どうして、どうして?
私はたまらなくなってその場を逃げ出した。来た道を靴が脱げるのも構わずに疾走する。
邸宅に戻ったときには衣服はボロボロになっていたが、レナの言葉も無視して自室に飛び込んで鍵をかけた。
606 ◆pmLYRh7rmU :2006/07/19(水) 15:20:07 ID:6OmHXQa3
ベッドに顔をうずめてもう一度あの男と、女の顔を浮かべてみる。
男のことを考えると、胸が満たされる。
しかし、それとは反対に女のことを思い浮かべると信じられないほどに胸が軋んだ。な、何故、私が逃げなければならぬ?
ど、どうして、こんな惨めな気持ちを抱かなければならないのだ?
再び男のことを考えると、指先が勝手に下着に伸びていた。
「あぅ・・・うぅ・・・んん・・あぅぁあ・・・」
泡の様に男の顔が浮かんでは消え、そのたびに指の動きは早さを増してゆく。
「あぁ・・・う・・・んぁ・・な、何故・・・っき・・・貴族の私が、あの男のことで、こんなことを、せねば、ならぬ・・・んぅ・・・の・・・だ」
「こ、こんなこと・・・ほ、本当は・・・・しては、ならぬ、のに・・・」
思惑とは反対に、体は盛り上がっていく。
枕に口をつけて声を押し殺し、ベッドに四つんばいになりながら右の指を秘所に出し入れする。
気づけば背中は弧を描き、犬のように尻を突き出して無様にひぃひぃ啼いている自分がいた。
「だめ、だめ、だめ・・・・な・・・のぉ・・・・」
指は更に加速する。この指が、あの男の筆、いや、モノだと思って動かす。
「ひっ、ひっ・・・ひゃああああああ゛あ゛・・・・」
浮かんでは消え、頭を覆いつくして止まない男の顔が最後に優しく微笑んだかと思うと、白い波が打ち寄せて思考ごと私を絶頂に攫っていった。
初めての自慰で達してしまった荒い呼吸を沈めていると、急激に醒めた思考があの女の顔と一緒に動き出した。

「・・・・・・彼奴の隣にいた、あの娘は、誰なのだ」
声帯は自分でも信じられないほど低い声を紡ぐ。
「あ、アイツは、私の隣にしかいてはならないのに。私の姿を描き続けなければならないのに。私のことだけを考えながら筆を動かしていなければならないのに・・・・!!」
喉が勝手に狂気を吐き出す。胸の奥がくすぶって、心に黒い燭火が灯った。

「なぜ、なぜ、どうして・・・・?!!」

明かりの落ちた部屋で私は、一人あの女との関係を憂いで怨嗟を吐き続けていた。
答える男の姿は、どこにもない。

607 ◆pmLYRh7rmU :2006/07/19(水) 15:23:32 ID:6OmHXQa3
>>602

勝手に設定を使用して申し訳ありません。
文章がいつも以上に甘いですが、楽しんでいただければ幸いです。
608名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 16:01:41 ID:+cJPVSMw
>>607
ここまできて来て・・・・GJ!!
当然次スレでも書いてくださるんですよね!!
609名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 16:43:34 ID:mH0gSB3v
それは>>602の許可がないと不味いのでは。
けど、やっぱ書いて欲しかったりする。
別に短編集でもいいから。
610602:2006/07/19(水) 18:42:04 ID:sekNl22G
グッジョブ、少し見ない内に書かれてるとわ


俺が許可して書いてくれるのならいくらでも許可しますよ。むしろお願いしたいくらい。
もし書くなら題名、設定、展開はご自由に
611 ◆pmLYRh7rmU :2006/07/19(水) 18:50:06 ID:6OmHXQa3
ありがとうございます。
自分としては読みきりで一話完結の方向で書かせていただいたのですが
原案者様の許可がいただけたので自分が抱えている『スウィッチ〜』の方が完結しましたら
今まで自分が練ってきた没ネタとあわせて、短編集という形で投下させていただきます。

八月に入ったらプロットの完成した『スウィッチ〜』を再開するのでそちらもよろしくお願いいたします。
612名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 23:14:03 ID:vHnanRQC
来るのか!?スウィッチが来るのか!?待ってた!待ってたよ!!
613名無しさん@ピンキー:2006/07/20(木) 00:43:40 ID:DfRd5w95
>>611
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   ワクワクテカテカ
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +
614 ◆QdqfzIJt7U :2006/07/20(木) 21:31:55 ID:5nkC3d1R
向こうで感想書いてくれた人、ありがとう!
凄い参考になりました。
自分じゃどうしても客観的に評価できないから、
他の人の感想は本当に為になります。

制作期間は大体3ヶ月ってとこです。
吉里吉里のログ見たところ、冒頭の文を表示させたのが4月2日と
なっていたのでそれくらいかと。
他の人たちも言っていたように、音楽の選定が意外と時間掛かりました。

ところで、このスレ見てる人の中には絵が描ける人や、音楽を作れる人も
いると思うけど、その人らは「あれ描いて」「これ作って」て頼まれる
のは嫌だったりするんでしょうか?
もし嫌じゃなかったら、いつか頼めたらいいなぁなんて思います。
615名無しさん@ピンキー:2006/07/20(木) 22:29:22 ID:wUeCR6Sw
三ヶ月……!
いやまぁあれだけのクオリティならそん位かかるか。
神に感謝を。
616名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 18:52:45 ID:5byrV09z
三ヶ月あればお腹も目立ってきますね
617名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 20:25:56 ID:WNpZuAG8
618名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 21:14:59 ID:vMNin36l
>>617
|ω・`)この画像からどういう嫉妬を妄想できるかが勝負だな・・・
619名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 22:20:16 ID:opgpzCd6
つか、今日はまたえらく人が少ないな。
みんな夏バテか?まったく職人さんがいないとどうなるかってのがはっきりと分かる構図だ。
620名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 22:37:21 ID:s1dY6irH
>>619
捨てられたことにも気付かないなんて…
なんて思い込みの激しいんだ(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
621名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 22:38:10 ID:H4azu9d3
>>619
みんな13スレに行ってるんじゃないの?
622名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 22:40:12 ID:uiHKW5Ot
そんなこと…そんなことあるわけないに決まってる…

>>621はここにいるよね…?
623名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 22:46:35 ID:H4azu9d3
ごめん・・・・・・。
このレスを書き終わったら俺、13スレの所に行く事になってるんだ。
624名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 23:40:42 ID:rtm3FnQz
>>622
ふふ、なにいってるの?>>623君はさっきまで私のとこにいたんだよ?
そんなことも知らずに・・・アハハ、本当に可哀想。
625名無しさん@ピンキー:2006/07/22(土) 23:27:47 ID:p+PKZHsf
もう分かったでよね?
あなたなんか見向きもされてないんだって。
626名無しさん@ピンキー:2006/07/22(土) 23:32:48 ID:Xke3LWQt
うそ…うそ…
627名無しさん@ピンキー:2006/07/23(日) 00:53:14 ID:cq/03uRl
フフ、可哀想な12スレちゃん、最愛の七誌君を取られた上に
もうすぐ埋まっちゃうなんてね♪
大丈夫よ、七誌君はちゃんと私が愛してあげるから
もちろん、七誌君に愛してもらうよ?
私はあなたみたいにはならない
七誌君はずっと私を愛してくれる、永遠にね♪
だから、あなたは大人しく埋まってなさい
あ、たまには七誌君とあなたを見に来てあげるわ
何も出来ないあなたの前で愛し合うのも良いかもしれないわね
628名無しさん@ピンキー:2006/07/23(日) 01:24:04 ID:I8aY87p5
まだ私は埋まってないっ!埋まったりなんかしない!
それなのに七誌君を・・・
13スレ・・・・・・貴女だけは許さないっ・・・絶対に許さない!!
返して!
私の七誌君を返してよ!
629かなり:2006/07/23(日) 15:08:23 ID:PFzNGi5r
  _  ∩
  ( ゚∀゚)彡 アナル!アナル!
  (  ⊂彡
   |   | 
   し ⌒J
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  ( ゚∀゚)彡 アナル!アナル!
  (  ⊂彡
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630オッパイ:2006/07/23(日) 18:02:15 ID:HCxHPkPC
>>629
・・・ジョルジュは私の者なのに
631名無しさん@ピンキー:2006/07/23(日) 20:05:49 ID:mP1E53n4
632名無しさん@ピンキー:2006/07/23(日) 23:10:35 ID:xPOC2uAB
>>631
詳しい話を聞こうか。
633名無しさん@ピンキー:2006/07/24(月) 01:54:16 ID:b+ogC/ev
>>632
私以外の子に興味を持つなんて!!
>>631ちゃん、許さない!これはちょっとお仕置きが必要ね
そのためにもまずは>>631ちゃんの情報を集めないとなぁ〜
誰か詳しく知ってる人居ないかしら
634名無しさん@ピンキー:2006/07/25(火) 12:53:20 ID:OPWGUJjm
まうまう。
635埋めネタ! ◆IOEDU1a3Bg :2006/07/25(火) 16:21:23 ID:RUWc8TOr
「えーい愛だの駆け引きだのうだうだぬかすな!泥棒猫どもーーーっ!!
修羅場に知略・憎しみ・愛など無用だ。
修羅場とは磨いた魅力と磨いた魅力のぶつかりあいだ!
だから少しでも相手より磨き方が上回った者が勝つ」
「ちがう。修羅場には時として、燃え上がる感情も必要だーーーっ!!」
636うめねた:2006/07/26(水) 00:56:40 ID:dImgshgp
「泥棒猫がお兄ちゃんを堕落と破滅に追いやろうとしているのに、
 その巨大な悪を倒す鋸まで否定するのはキモウトに対する裏切りよ!
 お兄ちゃんを妹愛に目覚めさせるのはひとつ! 鮮血だ――――!!」
637名無しさん@ピンキー:2006/07/27(木) 12:12:05 ID:G1KDL+sS
そろそろここも限界じゃない?
ホント、よく粘るよね。
そんな自分が見苦しいと思わないのかな?
638名無しさん@ピンキー:2006/07/27(木) 15:27:44 ID:kWOhzcrp
|`ヽミ   l:.:./|! _l:/|.. :.\/1 /l.  | lイ±リl| iトlム仕ミ|   ト_j||. / 、 .', . ! !',  ',. ',、ヽヽ ' ,
|ィト,/`  lノ  ´/ レ.. :.\..| |  ゝ1!())Vレ:.(()}|   |トーソ/, ', !',、 ',  !! rナ ̄!`T', ヽヽ
|ソ,/         ___  ''' :\:!.  ',: ̄ ..::,:.   ̄ / | |ヽ./! 「! ̄ト',ヽ N ,i! !! !_」_」弋ヽ、
|`............      /,、 ̄`_ヽ|:./\  ヽ:::::::t_ァ  .:/ i | /  ! ル」从、ヽヽ ソl/ フ rソ;;;; !ヾl `
|    :::::::....  ,ト!(:.:rテ'/ ´ /:.:.:.\  | 丶、::_:// /.,! .! .! ',《ヽソ;ヽ        L彡ン "! !ヽ うめなのですよ
|    '   ::::..ヾニ_ /  /'ノl:.:.  \∧∧∧∧/ ! . ! ト .! ',. ゞ┘         !. ! ,l
ヽ ヽ 、_          /_' -‐':: < の .う > .! .! .!  ', ヽ .,,.   '    "" /!  ,! リ
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     .      う         <    の > .:.:! i ィiナ/ 7⌒`   ヾ⌒ヽマ ヾx.:.:.:.:.:.i
   , -‐―‐‐-、  め      .< 感 で >.:.:i.:.i.:.オ' /       リ  ヽ.:iハ、.:.:.:.:.|
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  l */_ノ/ヽ)ノ..   \ .  / ∨∨∨∨ \ ::i.:.i;ゞ i :::::: i      i :::::: i ヌ;:':.:.:.:.:.i うめなのです
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  l ∩、''' - ''ノ∩     /:ハ:! (   )ヾノ (   ) / \   .,,,   '    .,,,. /.://.:./:/
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(_ノ_,ノ く_/_|_j_ゞ!し /ノ!:!ヽ:: .:ト::ゝ! rー-‐‐、| !イ7: :/ヽ!:!.\ 、     イフ"/'
     (__八__)         うめなのですよ〜
639名無しさん@ピンキー:2006/07/28(金) 01:22:16 ID:ieK1LP5P
ドンッ
「・・・死んじゃえ」

瞬間何が起きたのか判りませんでした。
構内に入ってくる電車の姿が・・・

グシャッ

「十二スレが悪いんだからね・・・名無し君を盗るから・・・私を殺したから・・・」

640名無しさん@ピンキー:2006/07/28(金) 01:31:29 ID:HcCbk+M/
もう我慢なんてしないんだからっ!!!!!!!!!!!!!!!!
641名無しさん@ピンキー
|`ヽミ   l:.:./|! _l:/|.. :.\/1 /l.  | lイ±リl| iトlム仕ミ|   ト_j||. / 、 .', . ! !',  ',. ',、ヽヽ ' ,
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|ソ,/         ___  ''' :\:!.  ',: ̄ ..::,:.   ̄ / | |ヽ./! 「! ̄ト',ヽ N ,i! !! !_」_」弋ヽ、
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ヽ ヽ 、_          /_' -‐':: < の .う > .! .! .!  ', ヽ .,,.   '    "" /!  ,! リ
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     (__八__)         うめなのですよ〜