1 :
名無しさん@ピンキー:
気位の高い姫への強姦・陵辱SS、囚われの姫への調教SSなど以外にも、
エロ姫が権力のまま他者を蹂躙するSS、民衆の為に剣振るう英雄姫の敗北SS、
姫と身分違いの男とが愛を貫くような和姦・純愛SSも可。基本的に何でもあり。
ただし幅広く同居する為に、ハードグロほか荒れかねない極端な属性は
SS投下時にスルー用警告よろ。スカ程度なら大丈夫っぽい。逆に住人も、
警告があり姫さえ出れば、他スレで放逐されがちな属性も受け入れヨロ。
姫のタイプも、高貴で繊細な姫、武闘派姫から、親近感ある庶民派お姫様。
中世西洋風な姫、和風な姫から、砂漠や辺境や南海の国の姫。王女、皇女、
貴族令嬢、または王妃や女王まで、姫っぽいなら何でもあり。
ライトファンタジー、重厚ファンタジー、歴史モノと、背景も職人の自由で。
「待ちきれずに自らスレ立てとな!姫の名が聞いて呆れるわ!」
男はそう吼えると、蜜がとめどなく溢れる
>>1の最奥にいきり立つGJを突き立てた。
>>1乙
保守代わりに雑談。
この前妹から借りて読んだ歴史物の少女向けラノベに
やたらこのスレ向きのエロいシチュエーションが出て来た。
主君の娘の身代わりで陥落した城に残り、そのまま敵の大将に犯られる貴族の令嬢や
政略結婚が嫌で家出したけど結局連れ戻されて、婚約者に監禁凌辱される領主の妹
祖父ほど齢の離れたエロ爺に嫁がされて悲惨な初夜を迎えた13歳のお姫様等々。
一応少女向けだから露骨な描写はなかったけど、却って色々妄想を掻きたてられたな。
榛名さんか、あの人もう書くきないのかな?
どっかの御大じゃあないんだからw
>>1 乙でございます。
えっと、実は前スレ
>>691なのですが、相変わらずリアル社会の方の事情で書く時間が取れなかったりします。
幸い、多数の職人様がいらっしゃるようですので、もうしばらくROMらせていただきます。
>>8 ホワイトハート文庫から出てる榛名しおりの作品群だな。
タイトルは上から
「マリア〜ブランデンブルクの真珠」
「ブロア物語〜黄金の海の守護天使」
「マゼンタ色の黄昏〜マリア外伝」
基本的に西洋史物専門の作家で、タイトルのセンスで想像つくと思うが
作風はそのまんまベルばら時代の少女漫画チック。
が、何故かほぼ毎回と言っていい程、主人公(女)がレイプされることで有名。
勿論、メインは純愛(和姦)だけど。
あと、
>>7の言う通り最近は休筆中らしい。
>>11 ホワイトハートが手に入りにくいなら、「マリア」は講談社F文庫で去年あたりに再版されてたよ。
絵が違うので好みによってこちらを選んでもいいかも。
あと、この人の作品では「王女リーズ」もかなりおすすめ。
クイン・エリザベスの少女時代なんだけど、姫+主従要素が自分的にツボだった。
西洋のプリンセスや和風な姫君といった正当派もいいけど、
インドや中東の褐色の肌のお姫様もいいよなーと思う今日この頃。
ハーレムのイメージがあるせいか他の属性の姫に比べて
やや清楚さに欠ける反面、それを補って余る淫靡さを感じる。
姫のくせにエロ臭いというこの矛盾に萌え。
>>13 欧米に植民地化された小国のょぅι゛ょな姫が奴隷商人に売られて……
っていうのしか思い浮かばない漏れは壊れてますかそうですか
アラビアン・ナイトなお姫様も書いてみたいと思っていたんだけど
いかんせん馴染みが薄くて構想が湧かないんだよなー。
自分の想像だけで書くと荒唐無稽になるし。
ちょっと資料を集めたいんで、
お勧めの文献や小説などがあったら教えてください。
(別に姫は出てこなくてもオッケー。)
16 :
sage:2006/06/02(金) 23:05:06 ID:FpZtP2CT
ごめんなさいね、流れが違うんですが
すごく久しぶりに見てみたら、前スレのアグレイア姫、すご〜〜くいいですね!
個人的に保存させていただきました!
文章も上手だし。エロいんだけど感心もしたりして・・
教えてはもらえないと思うけど、作者はどんな人なんだろう。。
女性?男性??
ちなみに私はここが好きで読んでますが、女です
わ〜、これ本当にごめんなさい!
sage間違えですね、、
>>16 悪いこと言わないから2ch、特にこういう板では無闇に性別申告しない方がいい
どうぞ煽って下さいとかセクハラして下さいと言っているも同然
わかった ありがと 黙ってみてる
反省するのはいいことですぞ姫
>15
オススメの小説だとぉ?アラビアン・ナイト
又の名を千夜一夜物語と云ふ
てか、読んでないのか?古典のエロも良いぞ。おもしろいし
>>15 >>21の言葉が荒いのは気になるが千夜一夜物語を一度読んどくのは確かにオススメ。
基本的に説話集だからSSのネタ出しの助けにもなるはず。
文庫版(といっても1冊\1000以上)もあるから試してみるべし。
22
言葉が荒いと取られ、反省。
ただ関連小説・文献と聞かれてコケたのは確かだ。本家本元がイチバンだぞ!と言いたかった。
言われる通りシチュの宝庫だな。始まりからして犯しては殺す王様という鬼畜!
お姫さまも国、人種が様々だった。
SSのために薦めるとはおこがましいかもだが、ネタは豊かだと思う。
15にはぜひ楽しんで読んでもらいたい。
無難に、バートン版千夜一夜物語 ちくま文庫 ¥1,470 ×全11巻
25 :
15:2006/06/04(日) 22:50:24 ID:UCVxSEZG
皆さんありがとう。
やっぱり千夜一夜物語をちゃんと読まないとダメですね。
有名な話は小さい頃に一通り読んだけれど、忘れてしまったし。
地元の図書館でバートン版が借りられるみたいなんで
ちょっくら行って来ます。
26 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/07(水) 17:25:00 ID:v2aihAKF
保守age
あと、ギリシア神話や古事記も「姫でエロ」の参考になるかも。
ギリシア神話はゼウスが雨になったり白鳥になったり、女性になったり
あの手この手で女性と交わるし・・・。
(^O^)! 教養の広がりそうな予感がっ!!!
知的で素敵そうだが、ぢつはエロ萌えのため(だけ)だったりするのだなwww
いーな、それ!
流血のローラン物語も楽しみだ。アグレイアたんを安心して任せられる。アグたん、すぐ孕んじまうのか?
といっても次回は一ケ月後か?
前スレに戦うお姫さまの話もあったよな。あの後、何処へ連れ去られどんな目にあっているのか。
わくわく、いや心配している訳だが…www
29 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/08(木) 23:08:52 ID:obgIH3Fd
>>27 あー。いわれてみれば。
ゼウス、エロエロ。
これが妻帯者だから、スリルも倍増。
27です。
ゼウスに限らず、ギリシア神話ってエロエロ満載なんですよね。
「姫エロ」では、カッサンドラの話なんてここに合いそうだなーなんて
考えたら、無性に書きたくなったので、少し投下します。
全方位で書くと、神々の思惑、トロイア戦争、登場人物の多さ・・・で
描ききれないので、カッサンドラ視点で。
「私を愛するとおっしゃって?」
トロイアの王女、カッサンドラはじっとアポロン神の瞳を見つめた。
「勿論だ。トロイア一の美姫、カッサンドラよ。そなたの美貌は、我が腕にこそ
委ねられるべきものではないか?無論、国を護る王女として、必要な贈り物を
そなたに遣わそう。愛の証に、全てを見晴るかす予知の力を、そなたに贈ろう」
カッサンドラは恥じらいを隠すように、静かに俯いた。
「王女として、これほどありがたい力はございませぬ。
では、アポロン様の栄光を、愛を受け入れますわ」
アポロンは、自らの神殿の前まで、彼女の身体を抱きかかえ、柔らかな草の上に
その身を静かに横たえた。
「未来を見通す、類い稀なる予知の力を」
耳元で微かに呟き、アポロンは上気した頬から薔薇の唇に己の唇を重ね合わせた。
アポロンの舌がカッサンドラの口をこじ開け、軽く吸い上げた瞬間、彼女の視界は
紅蓮な閃きとともに、明確な映像を捉え始めていた。
長く艶やかな黒髪を振り乱し、嗚咽を止めない美しい女。
彼女の肉体を貪った後、あっさりと他の女に心変わりをし立ち去るアポロンの姿。
・・・これがカッサンドラの見た、自らの最初の未来だった。
アポロンの唇はカッサンドラのうなじを這い回りながら、片方の手が豊かな乳房を揉み上げ、
片方は秘所へ入り込もうと布をたくし上げている。
「やめて!」
強い拒絶の言葉と同時に、彼女の両腕がアポロンの胸板を突き飛ばした。
突然の拒否に、アポロンの逞しい身体が揺らぐことはなかったが、その双眸に動揺と
不審が交錯した。
「お許しください・・・。わたくしは、やはりアポロン様を受け入れられませぬ。
貴方様を、愛することは不幸になるだけでございます」
乱れた裾をあわせながら、早急に胸元の布をかき集め、顔を背けるカッサンドラに、
アポロンの表情から一切の感情が消え失せた。
「では、神との約束を一方的に反故にするというのだな。たかが人間界の女が
大した行動に出るものだ」
無表情な口から、怒気を孕んだ言葉が紡ぎ出され、カッサンドラはその勢いに
怯え、ひれ伏して許しを乞うた。
「私は父ゼウスとは違う。もう無理にそなたを自分のものにしようとは思わぬ。
だが、神との約束を破った報いは受けてもらうぞ」
荒々しく彼女の顎を掴んで立ち上がらせると、強引に自らの唇を彼女の唇に
宛がうと長く息を吹き込み、こう囁いた。
「そなたの言の葉を、最早誰一人信じる者はない」
そして、乱暴に彼女の身体を投げ出すように手放すと、冷ややかな眼差しを向け、
侮蔑の声音を響かせた。
「類い稀なる美姫にして預言者、カッサンドラよ。そなたの愛しいトロイアを
思う存分護るがよい!」
イイヨ、イイヨー
>>27-29 昔の人は、今の人と違ってテレビもゲームもマンガも無いから、エロエロな話を
考えて夢想にふけっていたらしいよ。
洋の東西、時代背景関係なく人間は同じものらしい。
カッサンドラでぐぐった。
これは楽しみなストーリーですね。
>>34 今の人はテレビもゲームもマンガもあるから
より自分の嗜好に合ったエロを妄想するのですね!
暫く気を失っていたカッサンドラは、突かれたように身を起こした。
「トロイアが戦火に呑まれる・・・あの女が災いの種を齎すわ」
急がなければ、弟パリスの短慮を諌めるためにも、たった今視た映像を両親に
告げねばと、神殿を抜け、王宮へと走ってゆく。
パリスは、生れ落ちた瞬間に「この国を滅ぼす」と言われ、卑賤の羊飼いとして
養育された王子である。明朗闊達であったが、短慮で愚直でもあった。
それ故、大神ゼウスから「神々の中で、最も麗しい女神を選べ」と白羽の矢が
当たり、ゼウスの妻ヘラ、知恵の処女神アテナ、愛と美の女神アフロディーテの
三美神を並べられた時も、微塵の逡巡も見せずに大役を引き受けたのである。
しかも、全身を隈なく拝見できるよう懇願し、一糸纏わぬ姿の女神たちと、個々に
対峙することになった。
女神達は、パリスと二人きりになると自らを選ぶよう唆し、その代償を囁いた。
ヘラは世界中の権力を、アテナは並外れた知力を、そしてアフロディーテは、
人間界一の美女をその身に与えると密約を交わしたのである。
パリスが選んだのは、愛と美の女神アフロディーテであった。彼女は狂喜したが、
他の二人の怒りは凄まじく、パリスとその一族は永劫憎まれることになる。
アフロディーテはスパルタ王メネラオスの妻、ヘレネにパリスを引き合わせ、
息子エロスの恋の魔力を持つ金の矢で、ヘレネの胸を射抜いた。
瞬間、ヘレネの頭から夫や娘に対する思慕が消えうせ、激しい恋情の炎が燃え上がった。
一方、パリスも一目見るなりアフロディーテの再来のような、完璧な美貌に心が奪われ、
また女神の約束を固く信じていたため、想いを堰きとめる努力もしなかった。
メネラオスの不在時に、美女ヘレネを易々と攫い、船に乗せてトロイアへ出帆したのである。
父王プリアモスは、混乱と驚愕と脅威の影に圧倒されながら、この麗しい佳人と息子を出迎えた。
ヘレネの美しさは例えようもなかった。どんな花よりも端麗であり、優美であり、その声音は
地上の全ての蜜をかき集めたよりも甘やかで、輝く太陽もこれほど目映くはないと思われる。
美しい捕虜を略奪した結末は容易に推測できたものの、今更愛する二人を引き離すことも、
またヘレネを返還したところで、メネラオスの矛先をかわすことも、大層困難に感じられた。
「すべてはアフロディーテ神の計らいです。父上、どうか我らに祝福を」
「持てるものを全部擲って、パリス様におすがりしております。戻る場所はもうございません」
国を思えば、即答はしかねる。プリアモスが口を開きかけたとき、宮殿広間の扉が開いた。
「お父様、ヘレネを受け入れては駄目です。すぐに船に乗せてスパルタ王にお返し遊ばして。
その女はトロイアを滅亡に導きます。ああ、トロイアの民人が惨殺され蹂躙されるのが、はっきりと
見えるのです。お願いです、一刻も早く」
「何を言うのです、姉上」
パリスの抗議を遮り、父王プリアモスは言葉を継いだ。
「カッサンドラ、そなたは一体夢でも見たのか。馬鹿げた話はこの場に相応しくない」
「そうそう、カッサンドラ。話があるなら向こうで聴くぞ」兄ヘクトルがやや悪戯な視線で妹姫を睨んだ。
「大方、世界一の美女を見て、嫉妬心に煽られたのだろう。女にはよくある不安定さだな。
だが、客人の前での振舞いとしては、父上の仰るとおり、全く不似合いだ」
「・・・お兄様、本気でおっしゃっているの?」情けなさと焦りで、目尻に涙が微かに滲む。
「下がれ、カッサンドラ。はしたない振る舞いを他国の客人に見せるでない。その態度こそが、
トロイアを貶めるものだ。ヘレネ殿は客人として遇しよう」
「お父様!」
どんな些細な小話であってもじっと耳を傾けてくれる父や兄が、まるで人が変わったような態度である。
「嘘よ・・・嘘」
自室に戻り、カッサンドラは堰を切ったように号泣した。
アポロンに息を吹き込まれた喉元の奥が、じんわりと熱を帯びている。
もう、誰も自分を信じてくれないのか。こうしている間にも、メネラオスの兄、アガメムノンが総指揮を取って
トロイアに攻め入ってくる。陥落は時間の問題だ。
パリスに侮辱されたヘラとアテナはスパルタに味方をし、アフロディーテはトロイアに力を与えようと画策し、
神々の掌の中で、民人たちは淡雪よりも簡単にその命を抹消し続けるだろう。
一体自分にどんな罪咎があったのか、カッサンドラは瞳を閉じて嗚咽を噛み殺しつつ反芻する。
理性と知性に溢れた美神アポロンの想われ人として、その欲望を満たすことに何の躊躇いもなかった。
・・・棄てられる将来を視さえしなければ。未来が、不確定なままそこに開かれていたならば。
「こんなことってあんまりだわ。弄ばれるか、破約かを選択させられた上、誰からも認めてもらえないなんて」
口に出してから、ぞくりとした感覚が背中を走った。
ある男が、自分を思うままに穢し弄び、諦観と絶望の色を湛えた全身が柳のように揺らいでいるのを、
つぶさに視てしまったのだ。
「いやあああ・・・っ」
カッサンドラは床に身を打ちつけ、両腕で頭を抱えて獣のように咆哮した。
「長い船旅で疲れただろう?葡萄酒でも飲むかい」
パリスの労わりに、ヘレネは軽く横に首を振った。
夜の帳が立ちこめ、パリスの自室に灯された蝋燭の揺らめきの中で、ヘレネの長い黄金の髪が
豊かに波打ち、昼間とは違う艶かしい色気を醸し出していた。
「姉上の言ったことが気になる?」
「いいえ、誰に何を言われようと、わたくしはパリス様のものですわ。船の中でも、何度もそう
申し上げましたわね」
咎めるような、確認を求めるような深い蒼い双眸に見据えられ、パリスは押さえきれずその唇を奪った。
中をこじ開け、舌をまさぐり合い、深いところまで求めていく。航海中も何度となく愛を交歓し、
高みに登りつめた二人であったが、エロスの金の矢の効果か、互いの身体に飽きることはなかった。
唇を離し、ヘレネの甘く長い吐息を聞きながら、パリスの唇は豊満な乳房へと下っていく。両の手は
薄物を彼女の肩から滑らせ、そのまま透きとおるように白く柔らかな乳を揉み上げる。
パリスの唇が双方の山の頂を巡り、歯や下が桜の乳首を攻め立てると、ヘレネはかすれた喘ぎを
漏らした。
更に腕は腰の布まで剥ぎ取り、金の恥毛を指先が撫で上げ、焦らすように時折秘所に数本の指が
潜り込む。
「ああ、パリス様・・・早く・・・」
うっすらと潤んだ瞳でパリスの精を欲しがるヘレネの秘所に、猛る彼自身をあてがい、ゆっくりと沈めていく。
玉の肌に汗を浮かべ、首を振って身もだえする美女に、パリスはまるで最高美神アフロディーテを陵辱
しているような錯覚に襲われ、またその妄想が彼の一物の力に奇妙な程の力を与えた。
これ程美々しい裸身は、人間界に二つとないだろう。その蜜を味わったのは、自分とメネラオスのみだ。
そう思うと情欲に加え、嫉妬に焼き滅ぼされるようである。
(この裸身は永遠に僕のものだ。この喘ぎ、絹のような肌触り、艶やかな金髪、温かくしっとり湿った
蜜壺・・・誰が他の男に渡すものか)
ヘレネの身体に愛の痕跡をいくつも刻みながら、刺しては引き抜き、入れてはまわし、パリスは何度も
絶頂に達し、ヘレネも後先構わず高みへと登りつめていく。
お互いの名をたまさかに呼び合いながら、嬌声と愛の滴りは明け方までとどまるところを知らなかった。
「離して、お兄様。これは一体どういうご仕打ちですの?」
高い塔の個室に閉じ込められ、外から鍵を掛けられたカッサンドラは、鉄格子の挟まった扉につかまり、
その身体を押し付けた。
「それはこちらが聴きたいよ、カッサンドラ。今朝の振る舞いは一体なんだ?
広場で夜の女のように布を被って、戯言を吐いていたそうじゃないか。
『民たちよ、お聴きなさい。スパルタ妃ヘレネがこの国に破壊と災いを持ち込み、トロイアは戦火に
呑まれる。心あるものはプリアモス王に進言し、直ちに善政を取り戻すのです。さもなくば、
殺戮に巻き込まれぬようお逃げなさい』
これが、誇り高いトロイアの王女の言葉かと思うと泣けてくるね」
ヘクトルは侮蔑の混じった一瞥を投げ、視線を外したまま話を続けた。
(相手に私の正体がわからなければ、信じてもらえるかもしれないと思ったのだもの・・・)
「その結果、『狂い女カッサンドラ様』という素晴らしい命名まで、民人からつけられて。
異国のヘレネ殿に対する無礼も目に余ったが、自国の民を惑わす行動はいくらお優しい父上とて
放置できぬと言い切った。カッサンドラ、王女が嘲りと哀れみの対象になる、それがどういうことか
わかるか?父上や母上のお心がわかるか?」
暫く沈黙が二人の間に流れた。
「他国の人妻を略奪し、誘淫にふけることがどんな結果を招くか、百も承知だ。
だがパリスは、あの弟は、神託により手元で養育できなかった分、父上も母上も負い目を感じており、
今更であっても望みは何でも叶えてやりたいのだよ。そして、俺はその願いを護ろうと誓った」
「お兄様、それは間違っておりますわ!親である前に、私達は王族です。民人たちをまず
護らねばならぬ筈。それほど二人を娶わせたいのなら、いっそ二人ごとスパルタに送れば宜しいわ。
色事で民人の生涯を左右させるなんて、もうたくさん」
「カッサンドラ!」
鉄格子の上から、恐ろしい程の力で細い指を握り潰され、彼女は思わず小さな悲鳴をあげた。
「二度と言うな。お前が妹でなければ済まさないところだ。
それに、戦いの準備はできている。女の出る幕はない!」
踵を返し、立ち去った後も、カッサンドラは放心したまま牢獄に座り込んだままだった。
(もう駄目、何を言っても聞き入れてもらえない。家族にも嫌悪され、護るべき民人からは
嘲笑を受け、今や「狂い女」と呼ばれるまでに堕ちてしまった)
何も言わずに微笑むだけの姫君であれば、虐殺の生々しい残像を夢と涙ぐんで
割り切れたなら、こんな苦悩の淵に佇むこともなかったろうに、と腫れ上がった瞼から
滴が零れ落ちる。
(でも、これだけでは終わらない・・・まだ私は堕ち続けていく・・・)
どのくらいの時が流れたのか、広場から歓声のようなものが聞こえ、蹲っていた身を起こす。
格子の窓越しに外を眺めやると、男達が戦闘服に身を包み、行進していく姿が目に入った。
絶世の美女ヘレネを奪還するべく、スパルタとその同盟国がトロイアに闘いを挑んできたのである。
セオリー通りな気もするが、よく解ってGJ!!
カッサンドラのキャラ設定は自分もトロイアの物語の中でもかなり印象的だ。
こんな損な奴って男、女に関わらず実際に居る…よな。
エロパロ板だからもっと遊んで、カッサンドラと心或いは体の通じるキャラを立ててもよかったのでは?
ヘレネの夫(メネラウス?メラネウス?)の話題は良かった。
幾らでも人物が居る話なのに、よく絞れたのも偉いぞ!と思う。
読み専なのに生意気言って、ゴメンな!
結末を覚えていなかったのでググって唖然
おいおいこんなキャラだったのかと
応援します
続きをよろしく
43 :
作者:2006/06/12(月) 19:51:30 ID:T9xiZP0h
>>40-42 反応ありがとう!実は投下初めてな上あまり反応がなかったので、書かないほうが
良かったのかな・・・と遠慮していました。書いてもいいんですね?
そう、セオリーどおり、すみませぬ。パロというより原本に脚色しただけだねー。うう。
・・・でも「不幸な人」のほうが書きやすくてカッサンドラを選んだのでいじれない。
ヘクトルも、脳内では優しい兄ちゃんのはずが、どうしてこんなことに?
(だからヘレネよりパリス妻オイノエとか惹かれる)
ちょっと平日はまとまった時間が取れないので、できれば週末に投下します。
もし他の書き手さんがいたら、遠慮なくどうぞー。
楽しみに待っています。
>>43 投下乙。カッサンドラたんのこれからに期待。(自分も検索した)
イリオス陥落が楽しみだよう。小アイアスは鬼畜でお願いします。
……カッサンドラてーと『ファイアーブラント』とかいう
小説あったよね。あれはどんな感じなんだろう。
とりあえず自分も投下。和物です。
神話・古事記ネタの話題を見ててうんうんとか思ってたんだけど、
民間伝承もあるじゃーんてわけで『天女伝説』が元ネタ。
ヤられてるのがまだ姫じゃないので、姫スレ的にあれなんだけど
次くらいに天女のお姫を出すから許して。
46 :
天女の羽衣:2006/06/12(月) 23:09:19 ID:80NOACOh
今となってはもはや昔のことでございますが……。
伯耆が邦(ほうきがくに)の東方に美しい湖がございました。
どこまでも清らかで、空の青を映したその様子はさながら天の鏡。
その美しさを愛するのは人だけはないとの想いからか、いつからか
その湖には天人が舞い降りるとの話がまことしやかに囁かれておりました。
それをある時、湖とその辺りの土地を支配している強大な一族の若き長、
浅津が耳にいたしました時から、運命はまるで滑車のように回り始めたのでございます。
*****
「それではまこと湖には天女がいるというのか?」
浅津は片眉を上げ、そう声をはりあげた。
その問いに、近習たちは平伏していた頭をゆるりとあげて彼らの主の姿を見た。
まだ若いが、人に命令することに慣れているような傲然とした風情をもった男。
それが彼らの主、浅津だった。
彼の癇の強そうな眉根は今は険しくしかめられている。
いつものように着物をだらしなく着崩して連座の間に座りながら、彼は
目を細めて右から左へと視線を動かした。
その視線に射抜かれて近習たちは顔色を赤やら青に変えながらもようやく口を開いた。
47 :
天女の羽衣:2006/06/12(月) 23:11:37 ID:80NOACOh
「い、いえ……実際にいるという事を我らがこの目でしかと見たわけでは
ございませんが、領民達の間では時折かの女人の姿を垣間見た者がおるようで……」
しどろもどろになりながらの答えに浅津は小さく舌打ちをした。
いらだちを隠そうともせずふるまうと、傍らに置かれた酒膳から肴を一つ二つ
つまんでは口に入れ、そのまま一息に酒をあおった。
「つまらん、つまらんぞ! 貴様らのような辛気臭い顔を毎日のように
見ていると、それだけでもう心地が悪くなってくるわ!」
そう言うなり浅津は、空の酒瓶を一番手前にいた近習の一人へと投げつけた。
「ひぃっ!」
主の気まぐれな勘気を受けて哀れな男は悲鳴をあげたが、浅津は構わず
大声を張り上げた。
「誰か、娘をつれてこい。ついこの間連れ帰った娘だ」
その要請に、物慣れた傍仕えの者がすぐさま応えた。
少しでも遅くなれば彼の怒りはますます大きく、それを向けられる相手は数多くなるだけだからだ。
すると、しばしの刻もたたぬうちに、連座の間に通じる入り口から人の声と物音が聞こえた。
「いやですっ、離してください!」
激しく抗う声がして、連座の間に控えている者達がそちらに目をやると
若い娘が引きずられるようにして入ってくるのが見えた。
灰青の着物に濃い青の裳を身につけ、その上から明るい緑色の帯を締めている。
中央からは離れた鄙の娘とはいえ、なかなかに顔立ちも整っており美しい娘といえた。
しかし、彼女の怯えたような表情と物慣れぬ風情がその魅力を半減させていた。
48 :
天女の羽衣:2006/06/12(月) 23:13:44 ID:80NOACOh
だが浅津はそれが気にならぬのか構っていないのか、喜色満面に彼女を迎え
先ほどの怒りはどこへやらといった様子で声をかけた。
「おお千草、来たか。わたしの傍へ来い」
そのまま千草と呼んだ娘の腕を掴み、ずるずると自分の傍へと引き寄せた。
娘は倒れこむように浅津の体へともたれ掛かる形になり、抗うように身をそらせた。
「お、お許しくださいませ……っ」
「何を言う。昨夜も可愛がってやったばかりではないか。
この体はきっとそなたの口よりは素直であろうぞ」
そう言うと、浅津は近習たちの目の前であるにも関わらず腕の中の娘を抱き寄せ、
その身につけた裳をたくし上げた。そして娘の腿を露出させるとそれをなであげ
そのままおもむろに秘所に触れた。
「あっ、」
一息悲鳴をあげると娘はぴくりと身を震わせた。
その反応に浅津は満足したように唇を曲げ、笑った。
「もうすでに濡れておるわ」
その言葉に、娘はいたたまれないかのように浅津から顔を背けた。
だが、浅津はそれを許さず片方の手で娘の顔を無理やり向けさせるとその唇を吸った。
そして秘所に触れていた指をそのまま中へと挿入した。
「…………ッ!!」
そのまま指を曲げて中をかき回す。中を蹂躙したかと思うと指を引き出し、
今度は娘の秘裂の入り口を濡れた指でたどり始めた。
「はっ、ん……あん………」
娘は背をのけぞらせ、つま先を突っ張らせながら声を漏らした。
連座の間に衣擦れの音と、淫らがましい水音だけが響く。
49 :
天女の羽衣:2006/06/12(月) 23:14:14 ID:80NOACOh
彼女の顔は嫌悪と羞恥に満ちていたが、その体は既に存分に愉悦を
覚えさせられており、与えられる快楽には抗えない様子であった。
幾人かの近習は物も言えずに魅入っていたが、ほとんどの者達は
あきれたような顔をして浅津の言葉を待っていた。
浅津が、召し上げたりあるいは差し出されたり、またある時はどこからか
攫ってきた娘に名をつけて連座でなぶるのは今日が初めてではない。
だが、いずれの女達も夢中になるのは一月かそこらが限界であった。
飽きればそれまでの娘はすぐに打ち捨て屋敷から放逐する。
そして次の娘を連れて帰る。その繰り返しであった。
だが、そのような行状を咎められるような者はこの近隣には誰も居なかった。
それほど浅津の一族は鏡台だったのである。
浅津が、連座の間で美しい娘を存分に見せびらかせるようにした後は
決まってこう言うのであった。
「なんだ、皆何を見ている。揃いもそろって餌をもらえぬ犬のような顔をしおって。
早く出て行け。今日の夕刻の儀はもう終いだ」
それが気まぐれで横暴な主の顔色を伺いながら、ああでもないこうでもないと
気を張りながら行う会議の終わりの合図であった。
ここで出て行くのが遅れればまた怒りをかう。皆そそくさと連座の間を後にしていった。
「あ、はぁっ、浅津さま…」
浅い呼吸を繰り返しながら娘は浅津の名を呼んだ。
その娘を後ろから羽交い絞めるように抱きしめ浅津は応える。
50 :
天女の羽衣:2006/06/12(月) 23:15:42 ID:80NOACOh
「なんだ?」
「もう今日はお許しを……先日も夜を徹してのお慰み。
今宵もそのようにされては私は壊れてしまいまする……」
娘は必死に懇願したのだが、浅津はその言葉と娘の風情に
更に情動をそそられたようで荒々しく彼女の娘の帯を解くと
着物の合わせをはだけさせた。そしてそのまま娘の豊満な乳房をつかみあげた
「痛ッ」
「そなたはわたしに貢物として差し出されたのだ。我が一族に庇護を
求むるそなたの父親にな。なれば夜も昼もなくわたしをなぐさめるのが
貢物としてのそなたの役割であろう」
身のうちも凍るような言い方でそう娘の要求をはねつけると
彼女の体を裏返し、四つんばいにさせて後ろから貫いた。
「あああーーーーっ!」
悲鳴が連座の間に響き渡る。浅津は娘の腰を押さえつけ、何度も彼女を蹂躙した。
交じり合う際の卑猥な音と、肌が合わさる音が繰り返される。
浅津は娘を背後から抱きしめると繋がったまま身を横たえた。
内部をこすられて娘が声をあげると、片手は娘の口内に入れて中をなぶり、
もう片方の手は立った乳首をつまみ上げた。
「んんっ、んんんーーーっ」
三方向から刺激され、限界まで追い上げられた娘の中に浅津は自分自身を解き放った。
その熱い奔流に娘も遂には達し浅津の腕の中で気を失ったのだった。
51 :
天女の羽衣:2006/06/12(月) 23:16:12 ID:80NOACOh
倒れた娘の傍らで仰向けになりながら浅津はぼんやりと考えた。
(千草の君……。今までの中では一番好い女だったかもしれんが
さすがにもはや、飽きたな。……美しいが、凡庸な美しさだ。
いつまでたっても怯えてわたしに馴染まぬ割に、体はすぐに明け渡す。
面白くない! ……わたしが欲しいのは人あらざるような、美しく強い女。
その女を求めて邦中を探しているのに今をもっても見つからぬ)
そう思い至って、浅津は顔を歪ませた。だが、ふと千草を連座の間に
召す前の近習の言葉を思い出した。
『湖に舞い降りる天女』
その心象の女の姿はどこまでも完璧に美しかった。
(“人あらざる美しい女”。それを求めるのならば近隣の娘を
いくら召し上げた所で見つかるはずがなかったのだ。
わたしは馬鹿だ。なぜ、それに早く気がつかなかったのだ……)
そう考えてくつくつと喉の奥で笑った。そして強く思いを抱いた。
(天女を我が腕に――――!)
52 :
上の誤字訂正:2006/06/12(月) 23:22:38 ID:80NOACOh
上の投下分49の>それほど浅津の一族は鏡台だったのである。
ってアホか自分。『強大』の間違い。
一族は鏡台って、それ人間じゃないじゃないか。
皆々様方、他の誤字は適当に心の目で見てくだされ。
>>52 GJ!!!
鏡台は、読んでておや?と思ったがその字だったか、兄弟。
いやいや続きが楽しみです。
カッサンドラも千草もカワイソス。
力のある男にいいようにされる薄幸の女性というのは
なんともいえないエロがにじみ出ますね。
これはもしや東郷池?
近くに行った事がある。たしか天女の伝説が…
続き楽しみにしとります!
>>27 俺はギリシア神話では、森で眠っている所をゼウスに犯され、孕まされたアンティオペだな。
眠ったままゼウスに服を脱がされ、ヌードにされたアンティオペの絵画で抜いたよ。
前スレの続きを投下します
今回は短かめでエロ成分も少なめです
次回が最終話の予定です
59 :
交渉 1:2006/06/13(火) 20:29:48 ID:rCpof3fx
のしかかっていた重みが薄れた。
圧力から解放された胸郭が勢いよく膨らみ、新鮮な空気が肺になだれ込んでくる。
潤んだ灰色の目を開け、アグレイアは全身の力を抜いた。
高い天井の格子が紛れた闇の淡さでさほど時が流れたわけではない事がわかった。
自由になった腕の先、細い指に分厚く滑らかな感触の布の弛みが絡んだままだった。
この部屋の現在の主は王城に居座る贅沢な日々をいまだ享受してはいない。
彼が居る時にのみ暖炉に火が入れられる。
そのためか、それとも薪が悪かったのか、音をたてて崩れた炎の塊も、壁そのものから滲み出るような寒気には無力同然のようだった。
申し訳にマントを敷いた床の上の底冷えに、汗ばんだ肌が細かく粟立つのがわかった。
アグレイアはかすかに身震いした。
指先に触れる布地を握りこむ。
肘を曲げようとしてふいに手首を掴まれ、動きは止まった。
ローランが彼女の握った臙脂色の自分のマントに視線を流した。
表情を変えず、男は指を放した。
マントの端を胸元に引き寄せたアグレイアは身を捩った。
腰の上に居座る重量のせいでびくともしない。
腿の内側に挟んだ躯の熱は変わらず、それを温もりだなどと感じたくない彼女は表情をこわばらせた。
「……おどき」
ややうわずった声でそう告げると、彼は気怠げに首を巡らせた。
「いや。果てたばかりで──そういえば。珍しくもなにかご用とか」
覆った布地の下で、アグレイアはドレスの胸元をなんとかかき寄せた。
床に溢れたつややかな淡い金色の房が視界の端に浮かんでいる。
この部屋に訪ねてきたときには隙なくきっちりと編み込んでいたものを。
熾の輝きに映えた華やかで奔放なうねりは彼女にはひどくみだらなものに見えた。
(話の前から組み伏せておいて、いい気なものじゃ)
忌々しさに珊瑚色の唇を噛みしめる。
彼女の用件は寝物語に聞かせるような呑気なものではないのだ。
「…まずは、おどき」
60 :
交渉 2:2006/06/13(火) 20:30:20 ID:rCpof3fx
男は茶色の醒めた目で、おそらくは主に羞恥からではない理由で怒っている美しい皇女を眺めた。
後光に似た金の髪に囲まれてマントの布地をかたく胸元に握りしめ、半分伏せた濃い灰色の瞳は隠しきれない苛立たしさに満ちている。
それでもやんわり染まった頬の絶妙な色合いは、薄暗い中にあって際立って目に快い。
深緑の地味なドレスに包まれたくびれた胴から流れるような曲線を描いて、重なりあう裾を割り、白くしっとりとした質感の腿が彼の躯の両脇に伸びているのが臙脂の隙間から窺えた。
視線を戻し、彼は同意した。
「いいでしょう」
アグレイアは喉の奥で呻きそうになった。
ローランが離れると、まだ幾分か硬さを残して彼女を埋めていたものが共に退いた。
抜け出る瞬間の蜜と精の絡んだ滑らかな摩擦の生々しさに甘い痺れが波紋を描き、彼女は背筋を軽く覆いそうになったそれをなんとか耐えた。
肌の奥に、油断をすればすぐにまた熱に転じそうな不穏がしぶとく居座っている。
今しがたローランが強いてきた行為がひどく性急で身勝手なものだったため、ある意味アグレイアはほっとしていた。
三週前の時のような恥辱は二度と味わいたくない。
自分が自分でなくなり、愛撫に蕩け、躯中で喘ぎ、最後には意識を手放すほどに追いつめられたあの日のような無様はもう御免だ。
目覚めた時にはすでに姿を消していたが、ローランは内心さぞかし彼女を嘲笑ったことだろう。
あれからすぐに彼は王国東部の山岳地帯で抵抗している防衛軍残党との戦闘に赴いた。
残念ながらまたもや悪運強く勝利して、都に戻って来たのがつい昨日。
すぐに来るかと覚悟していたが昨夜ローランは彼女の部屋には現れなかった。
何を企んでいるのかわからないが戦いと長旅とを終えて疲れていたのかもしれず、理由はどうあれあの日の自分に嫌悪を抱き、ひどく緊張していたアグレイアは安堵した。
やむにやまれぬ用事でいやいや訪れたアグレイアには手を出したが、貪るようではあったもののことさらに辱めようとする態度ではなかった。
だが現実問題として、半端な疼きだけを得て放り出された彼女の躯は蓄積しかけた熱を深く矯めて次の刺激を待ち構えている。
これを抑えようとするだけで余計な力を消耗しそうだ。
アグレイアは行く先に不安を覚えて一瞬目を閉じた。気付かれぬよう、上気している顔を勢いよく背ける。
「…濡れたな」
彼を追い出すように艶かしく二本の腿をすりあわせた仕草に目をやり、ローランは呟いた。
嬲っているとも言いがたい響きだったがこれまでの経験上、アグレイアは無礼な文言に拘泥する気にはなれかった。墓穴を掘るだけだ。
だが、強い羞恥と悔しさで頬が勝手に熱くなるのは自分ではいかんともしがたかった。
答えず沈黙しているとローランの指がマントの上から柔らかなふくらみの弧を撫ではじめた。
61 :
交渉 3:2006/06/13(火) 20:31:03 ID:rCpof3fx
彼女は眉をひそめ、男のはだけた上着の胸元を掴んだ。『終わったばかり』のはずだ。
引き寄せられて思わず息を詰まらせた。
しっかりとした顎に浅く斜めに走る、半分治りかけた小さな傷痕が見えた。今回の戦で屠った相手から貰ってきたものだろう。
傭兵あがりの軍人の、戦いの経歴を示す無数の証拠をアグレイアは今ではかなり把握している。
肩も指も手の甲もあちこち浅かったり深かったりする傷痕だらけだが背中にだけは一筋もない。
気付きたくなどなかったのだが。
唇が一瞬重なった。皇女は勇気を奮い起こして顔をふり、厳しい声を出した。
「話を聞くのか、それとも聞かぬのか?」
「…聞く」
ローランは眉をあげ、瞬きをすると呟いた。
「寒い。隣のほうがまだましだ。そちらで聞く」
アグレイアの眉がさらに寄った。ローランの肩をかすめて一方の壁に視線が向かった。
その先がかつての王の所有するところだった重厚無比の寝室だと、彼女はこの男を初めて目にした日から承知している。
「似合わぬ気遣いは無用じゃ。長い話ではない」
抱き起こされながら、アグレイアは抑えた口調で言った。
気遣いなどではないのはわかっているからその提案には応じたくない。
「それは結構」
ローランは淡々と応じた。今では馴染みになった薄い皮肉な笑みが頬に浮かんだ。なぜかアグレイアはほっとした。
「歓迎だ。話が早く終わればそれだけ他の時間に猶予ができる」
「私の用は話だけじゃ。ここでよい」
アグレイアは男の手を払いのけ、急いで立ち上がった。
皺だらけになったドレスの襞を叩いて払い、マントを肩にきつく巻き付け、遅れて立ち上がったローランに向き直る。
「伝えねばならぬ事があるのじゃ」
ふっと口を噤み、皇女は乱れた髪がうちかかる美しい顔を伏せた。
はだけた衣服を整えている男を直視したくなかったからだが、それだけではなく、この期に及んでやはり言葉にするには躊躇いがある。
視線をあわせないよう床を見据え、頬ばかりか目元、耳朶までを一気に赤くするとアグレイアは吐き捨てた。
「……つ、月のものが来ぬ」
「ほう」
ローランは短く相づちをうった。
アグレイアの細腰を眺め、やがて言葉を続けた。
「忙中励んだ甲斐があったというものだが。……どの程度遅れていますか」
アグレイアはきゅっと唇をかみしめた。
何故そんな事まで教えねばならないのかといわんばかりの反抗的な色を床に伏せている主輪に浮かべた。
ローランが黙っていると、沈黙の後、さらに頬を染め、羞恥に塗れて彼女は囁いた。
「……十日」
「ふむ」
ローランはちょっと頭を傾げた。
「正確なほうですか?」
アグレイアは肩で息を継ぐ。声がかすれた。
「……おそらく間違いない…と、リュリュが」
ローランは薄く笑った。
「女神官殿が。…祝福してくれましたか?」
「泣いた」
アグレイアは呻くようにそう呟くとようやく顔をあげた。
「さぞかし満足であろう。これで念願叶ったわけじゃ」
62 :
交渉 4:2006/06/13(火) 20:31:44 ID:rCpof3fx
「そうですか?」
ローランは反対側に頭を傾げた。心を動かされた様子は見受けられなかった。
「満足するにはまだ解決すべき雑事が多すぎる」
手を振り、彼はアグレイアの腹部を指し示した。
「偽りや勘違いでないとすれば…」
茶色の視線が皇女の瞳に突き刺さった。
「新しい契約をしなければならない。その腹の中の子の父が俺だという事実を形式で固めなければ。それまで祝いの言葉は控えて貰おう」
「そのような事、簡単に…」
アグレイアは金髪を鋭く波打たせた。
見開いた灰色の瞳が食い入るようにローランを見返した。
「まさか、祖宮から連れ出しただけではなく」
「……つくづく、己の身分の価値を知らぬ女だ」
ローランは肩を竦めた。
「血を与えさえすればお役御免だと思っていたと?それだけならばなにもあなたでなくてもいいのだ。皇家で最も尊い『斎姫』様」
アグレイアは立ち尽くし、図々しい目の前の男を見つめた。
図々しいどころではなかった。筋金入りにふてぶてしい。
見くびっていた、と彼女は悪寒を覚えた。彼女ばかりではなくリュリュも、あの宰相の副官も。
おそらく周囲の国々で事態の推移を窺っている者たち、もしかしたら、彼が率いて来た子飼いの兵士たちもが。
斎姫を陵辱することはごく稀にあってもその血の鎖の中に押し入ろうとする者など、これまでこの国の王の中にすらいなかった。
貴族や王家とは違い、他の者と婚姻で結びつく事は絶対にない皇家の女を一族に娶る考えは古来からの習いにはなく、通常の想像の埒外のはずだった。
霊的な権力の頂点にいる古い家柄に対して、その発想は禁忌だったのだ。
この男が思いつくまでは。
おそらく彼が望んでいるのは、己を『王』と認める力への接近などという半端なものではなかった。
威を借りる事でも、きっと本人が言うように我が子に箔をつけるためでもない。
皇家の力をそのまま現世に、我が身に移し替えること。『斎姫』だった女を傍に置き、国の領土や旧いきまりを彼の好きなかたちに変容させて。
ローランは牙を剥くように上唇をつりあげ、皇女の悪寒を肯定した。
「邪悪な渾名を持つ一介の傭兵あがりがどのように皇国を治めるか、心配ですか?」
我知らず退いた皇女の躯を男の腕が支えた。
血の気が失せた端麗な唇が動くのを、温度の低い茶色の目が見ていた。
「猛獣を婿になどとらぬ」
彼は大声で笑った。
「猛獣も馴らせば可愛いものだ。俺はただ…」
声をひそめ、アグレイアの金髪を持ち上げた指ですくった。
さらさらと流れる輝きを何度も。
「いつまでも傭兵隊長ではないと言ったはずだ。目に見えるものも見えないものも、沢山手に入れてきた。幸い身分低く生まれついたから」
この男は気が触れているのだろうかとアグレイアは考えた。
それともとてつもなく傲慢なのか。
「……最後にはその渾名以外はみな失うと決まっているというのに、何が楽しいのじゃ」
アグレイアは呟いた。
あえて厭味を言うつもりではなかったが、こんな威丈高な夢の終着点はそこにしかない、そんな気もした。
ローランはあっさりと頷いた。
「誰も最後には死にますからね。だが、だからこそ面白い」
その考え方は間違っていると彼女は思い、しかし、できたのは溜め息をつく事だけだった。
63 :
交渉 5:2006/06/13(火) 20:32:52 ID:rCpof3fx
黙り込んだ彼女の頬がもとの血色を取り戻していく様をローランはしばらく眺めていた。
頬の線を薄い古傷を巻いた長い指が撫で、アグレイアが身じろぎをするとその動きは喉におりた。
「おやめ」
アグレイアは低く言った。
腕をとり、ローランはゆっくりと彼女を引き寄せると寝室に向かって歩き始めた。
裾を捌く気力もなくひきたてられながら、アグレイアの胸の奥に発作的な笑いの痙攣が渦巻いた。
この状況の何がおかしいのか自分でもわからなかった。
こんなにも呆れているのに明らかに桁外れで間違った事に荷担せざるを得ず、そこから逃げる事も不可能だった。
見捨てることも。
いつかローランは失うものなど最初からないと言ったが、その言葉はたぶん、ずっと変わりはしないのだ。
重厚な寝室はかつてと変わらず冷淡に二人の男女を迎えた。
肩を掴んだ男の指に、彼女は小さくわなないた。
睫の影の頬に触れたのはたぶん唇で、なめらかな布は音もなく躯から離れた。
──いけない事をしている。
目を伏せたままアグレイアはそう思った。
抱かれてはいけない男に身を与え、そのどこか狂った夢を唆している。掴めと。
それが抵抗しがたい事だったとしても、なぜここに来てしまったのか。
国のためか。民のためか。彼らのために身を穢すよう誰かに頼まれたからか。
いや、ローランが望んだからだ。
この後ろめたさは一体どこから来るのだろう。
最後にリュリュを思い浮かべようとして、耐えきれずアグレイアは睫をあげた。
強靭な茶色の目がすぐ目の前にあった。
「アグレイア」
持ち主の唇が動き、彼女は低すぎる声を聞き取った。
「成就させてしまえば戯言は戯言ではなくなるものだ。血も、力も、見えないもの…………例えば人の心ですらも」
アグレイアは冷ややかな感触のその目を見返し、長い睫を瞬かせた。
強く振る舞うことに馴れたその色にまとわりつく不安定な炎に、その瞬間、初めて気がついた。
彼女はローランの中の自分の価値を悟った。
彼自身はいつから気付いたのだろう。
彼の夢はどこから今のかたちになっていったのだろうか。
どう答えればいいか、わかっている事に気がついた。
皇家の血などではなく、斎姫だった者の力でもなく。
「時間を」
茶色の瞳の炎にかすかに熱が灯った。
アグレイアは全力を使い果たしたかのように長い長い吐息をついた。
これから自分がどう振る舞わねばならないか、それだけが目の前にあった。
凄まじい疲労を感じてアグレイアは目を閉じた。
ローランは身を震わせ、皇女の躯を抱きしめた。
その夜居室の重い木扉は沈黙したまま、誰の姿も吐き出そうとはしなかった。
おわり
この重厚な雰囲気がたまらん。
続きをものすごく期待してます。
作者タソに喝・・・
GJです!!!
喝采ですスマソ
GJ!
アグレイアとローランの心情がとにかくイイ!!
最終回、楽しみに待ってます
GJ!!!
エロ少なめとおっしゃいますが、二人の距離感‥体の馴れと未だ解けてない心のギャップが限りなくエロい!
歩み寄るのか、抗争を続けるのか、双方の今後、最終回のその後まで興味津々です♪
って次、終わっちゃうのかー。もっと読みたい!と先走って勝手にほざいておきます。
ほんと、格調高いエロ文章にモエられるのって幸せですなー
作者さん、GJですぞ!
だんだんローランが可愛く思えてきた。
この感じはまさかローランに・・・フラグが立ってる?
もっと続いて欲しい気持ちと、
二人の関係に早く決着がついて欲しい気持ちで揺れていますぜ、
それほど面白いって事です!
投下します。
中世ヨーロッパ風のお姫様のおはなし。
オルエッタは自室の天窓から身を乗り出し、月を眺めていた。
月はまだ半月だが、星のきらめきを打ち消してしまわない控えめな光が彼女の好みだった。
季節は春から初夏へとむかっており、風が額に心地よい。
夜空は雲ひとつなく晴れ渡っていたが、
オルエッタの心にはいくつもの雲が影を落としていた。
――今夜床につけば、あと3日しかないのね――
珊瑚色の小さな唇からため息が漏れた。
オルエッタは4日後に婚礼を控える身であった。
相手は隣国の王子アルフォンソである。
嫌な相手ではない。
婚約の式典の際に二言三言ことばを交わしたのみであるが、
整った外見と洗練された物腰は、彼女に好意的な印象を与えていた。
政略のために二十も年の離れた男に嫁いだ姉に比べれば、
ずいぶん喜ばしいことである。
――私は幸せなのよ――
オルエッタは心からそう思っている。
思ってはいても、心は晴れなかった。
この国と隣国の王家は、羊毛の特産地をめぐり長いこと対立関係にあった。
近年になってやっと両家は和睦し、
その象徴としてオルエッタとアルフォンソの結婚話が持ち上がったのだ。
王国の平和はめでたいことだが、
十五歳の少女の肩には重過ぎるほどの期待がのしかかっていた。
婚約者が印象を裏切る陰険な人間であったらどうしようという不安もある。
オルエッタはもう一度ため息をついて月を見つめた。
――やっぱり、行きたくないわ――
――いっそ誰かが私をどこかに隠してはくれないものかしら――
――誰か――そう、いつもあそこに立っている近衛兵のような、頼りがいのありそうな――
深層の姫ゆえ身近な男といえば、父王と兄弟の王子たち、そして身を守る近衛兵くらいだ。
愛らしい姫に礼儀正しく仕え、時には困った顔でわがままを聞いてくれる衛兵たちを、
彼女はずいぶん頼り思っていた。
オルエッタは庭園を挟んで向かいにそびえる城壁に目をやった。
夜になるとそこに近衛兵が立って警備にあたる。
天窓から夜空を眺めるのが好きなオルエッタは、よくその近衛兵と眼が合った。
そこを持ち場にしている衛兵は3人いる。
儀仗のためもあって近衛兵は銀の甲冑を身につけており、
その立派さから彼女は彼らが大好きだった。
なかでも冑の端から金髪を覗かせている男が一番のお気に入りだ。
晴れた日には月明かりを反射して、髪が透き通るように美しい。
その髪を輝かせながら、目の合った彼女と穏やかな会釈を交わすのだ。
そして彼女の時間を邪魔せぬよう、広い背中を向けて城壁の外に視線をやる――
しかし、交代の順序からいえば今日はその男が警備に当たる日のはずだが、姿が見えない。
それどころか、代わりのやせぎすの黒髪の衛兵も、
背の低い中年の衛兵も出てきておらず、城壁の上は無人のままだった。
――おかしいわね。何かあったのかしら――
オルエッタは身を乗り出し、城壁の上だけでなく庭の隅々までも余すところなく眺めた。
その姿に急に黒い影がさした。
オルエッタははっと顔を上げた。
小さな両手を口に当てて、出かかった悲鳴を飲み込む。
彼女の目の前に立っていたのは、月光に金の髪を透かしたあの衛兵だった。
「……あなたは……」
一瞬で乾ききった喉から、搾り出すように小さな声が出た。
その外見と同じく、甘さのある愛らしい声だ。
「リベルトと申します。オルエッタ姫」
衛兵は天窓の縁にひざまずいた。
月光を背にし、銀の冑からこぼれる金髪が
聖堂の壁画の大天使のように神々しく輝いている。
「どうしてここに……?」
オルエッタはうわごとのようにつぶやいた。鼓動が高鳴り、眩暈がする。
リベルトと名乗った青年は唇を震わせて熱い胸のうちを紡ぎはじめた。
「宿直のたびにあなたの麗しきお姿を目にし、思いを募らせておりました。
非礼は重々承知の上でございますが、あなたが嫁がれる前に一度だけでも胸の内を
お伝えたしかったのです……」
そして持ち前の身の軽さを生かし、城壁から屋根を伝ってここまで忍んで来たのだという。
「そ…そうなの……とりあえず、入って頂戴」
オルエッタは震える声でそう言ってその身をずらし、彼を自室に招き入れた。
――誰かに見つかると、この衛兵が処罰されてしまうわ――
すでに彼女の心は彼を庇う方向にはたらいていた。
リベルトは天窓からその身をすべりこませ、ふわりと床の上に降り立った。
少々お転婆なオルエッタが、よじ登るための足がかりにしている衣装棚など必要ない。
そして彼はオルエッタに両手を差し出した。
「さあ――」
促されてオルエッタはその腕に飛び込む。
リベルトは小鳥のように軽い王女の身体を抱きとめると、そっと床の上に降ろした。
オルエットの豊かな髪から柑橘系の香りがふんわりと漂い、
彼は思わずその小さな肩を抱きしめた。
「あ…駄目よ……」
オルエッタは身を硬くした。上ずった声でたしなめる。
リベルトははっとして身を離すと、あわててその場に跪いた。
「大変申し訳ございません!このようなご無礼を……」
「そんなに畏まらないで。こっちまで恐縮してしまうわ」
慌てる衛兵の姿を目にし、オルエッタは大分落ち着きを取り戻してきた。
窓際の木製のベンチに腰をかけ、隣をリベルトに勧める。
二人は並んで腰をおろした。
リベルトは良く喋った。
オルエットへの熱い想いから、自分の生い立ち、衛兵の生活にまで話は発展した。
甘い低めの声はオルエットの耳に心地よく響く。
特に奇をてらった話題でもないが、話し方が機知に富んでおり、聞いていて飽きない。
リベルトの出自は平凡な騎士の家だったが、その生活もオルエッタにとっては珍しいものだった。
いつしかオルエットの警戒心は解け、
生まれた頃からの知っていたかのように打ち解けて会話を楽しんでいた。
ひとしきり語り合ったあと、リベルトは思い出したように冑を脱いだ。
物見高いオルエッタはそれを自分の手に乗せてもらう。
見た目と違い、ずいぶんと軽いものだった。
近衛兵の通常の装備は儀仗用に軽量化されているのだという。
ひとしきり検分してから、オルエッタは礼を言って顔を上げた。そして息を飲む。
ランプの灯りにリベルトの髪が燦然と輝いていた。
月光で見る白銀に近い美しさとはまた違う、父王の黄金の冠のような美しさだ。
「……きれい……」
オルエッタは思わずその細い指を伸ばし、そっと金の髪の先端に触れた。
彼女は自分の髪に少々の劣等感を抱いていた。
豊かさと艶は申し分ないのだが、赤みがかった茶褐色というのが気に入らなかった。
彼女以外の者が見れば、透明感のある白い肌に良く映えて美しく輝き、
ともすれば平凡に見えるかもしれぬ整った容姿に鮮やかな印象を加えているのだが。
オルエッタは妖精のように透き通る金髪か、
異国情緒あふれる艶冶な黒髪に憧れていたのだった。
リベルトは王女の顔を間近に見た。
長く濃い睫に縁取られた緑色の瞳が熱を持ったように潤み、彼を見上げている。
その瞳に宿るのは金の髪に対する憧れであったのだが、
それが自分へと向けられたものに感じたのも無理はないことだった。
彼はオルエッタの手を取った。
柔らかな指先を軟らかく握り締め、その胸元に押し頂く。
そのまま二人は静かに見つめあった。
オルエッタの瞳には、青みがかった灰色の瞳が映る。
どこまでも透き通るようなその瞳に吸い込まれてしまったかのように、彼女は動けなくなっていた。
とりあえずここまで。
2,3日中に残りもアップします。
良スレになってきたなぁ。
なんかこう、SM板にあった時期の、俺みたいなのが知識も何もなしに萌えと煩悩だけで書いてた頃からは想像もできない。
自分もSM板の時からいたけどあの時のSSもどれもかなり好きだたよ。
また書いてよ
>>77 >>70 超乙!!はぁはぁこの先リベルトは獣のようにオルたんを押し倒すんですか。
多分ぜったい違うけど続き楽しみ。
>>56 ビンゴ。ただ伝承は色々ちゃんぽんで時代背景はかなりいい加減だから
この先の展開がアレでも深い心で見守って。
白い肌に黒髪ストレートのロングのお姫様に一番萌えな自分が来ましたよ。
ここの職人すごい・・正直気後れしてます。
へたれな自分のへぼへぼぷーな脳内妄想を垂れ流すのが気が引ける。
でも何となく書きたい。ので出来たら投下してみたいので、良かったら読んでくれ。
あと今まで投下した職人さん<乙華麗&GJ
>>79 貴方は私?と思うほど激しく同意。
でもここは優劣を判定する場ではなく、物書き好き、読み好きな人たちが集まり
楽しむ場所だと思うので、遠慮なく書いていいのでは。楽しみにしています。
職人の皆様の作品は「世界にひとつだけの花」だと思うし、ね。
イイヨーイイヨー
良スレだおー
82 :
79:2006/06/17(土) 15:20:25 ID:oFcuyCqq
>>80 背中押してくれてdクス!!
GOサイン貰ったから頑張っちゃうぞー。
そのうち現れるかもだからその時はよろしく!
今回、エロシーンまで進みませんでした。ごめんなさい。大分割愛したんだけど、
ちょっと描きたいキャラがいたもので・・・。エロ好きな方はスルーしてください。
皆が知っている長編っていうのは、かなり難産なものですね。力量不足もあるけど。
小アイアスは、頭の中ではすごくきっちりできあがっています。
ただ文面に落とせるかは・・・・未知数。
カッサンドラが重い瞼を気だるく開けたとき、最初に見えたのは義妹オイノネの仄白い面だった。
「なんて愚かなことを」母妃ヘカベの瞳から大粒の涙が盛り上がり、身を包む衣を湿らせる。
嗚咽が沈黙に染みのように穿たれる中、義妹オイノネがヘカベの肩を雛を扱うように
優しく抱きしめ、部屋の外に連れ出した。
カッサンドラは、左の手首に巻かれた包帯を一瞥し、深い溜息とともに言い放った。
「何故助けたの?生きていてもしょうがないのに」
「お義姉さま、何てことをおっしゃるのです。そのように甲斐のないことを仰いますな」
オイノネは愛くるしい顔を少し強張らせ、それでもこの頑なな世界に閉じこもってしまった女性を
励まそうと頭の中から言葉を選ぼうと必死に試みた。しかし、こんな場合は何も、気休めさえも
口に上らせない方が賢明と考え、ただこの美しい義姉を自らの腕に抱き寄せて静かに
頭を撫で続けた。
オイノネはパリスの正妻であり、女神レアから治癒の技術を与えられた女性である。
絶世の美女ヘレネに良人を奪われてもなお、その一族のために尽くそうという崇高さを備えていた。
器量はヘレネに並ぶべくもなかったが、充分愛くるしくその気性はさながら童女のようで
カッサンドラもこの不幸な義妹を憐情と労わりの交錯した柔らかな感情で接していた。
「でも、もう私のことを信じて愛してくれる方は生涯出てこないのよ。誰も・・・誰一人私を
理解しようとはしないの。ただ、トロイアを滅亡から救いたいだけなのに、あの弟が愚かな振る舞いを!
オイノネ、お願い。あのパリスは最後まで貴女を苦しめるわ、私には視えるのよ。
早く他に良い方を見つけて頂戴な」
「お義姉さま、お願いでございます。良人を悪く仰らないで・・・。私はいつまでもあの人の妻です。
いつかあの人と幸せな暮らしができると、夢をみることを忘れたくありません。それが支えなのです。
もしあの人が深手を負ったなら、レア様から授かった癒しの力でいつでもお役に立ちたいのです。
・・・ただ残念なことに私の治せるのは身体の傷だけ。心・・・精神を癒せるならば、お義姉さまの
お役に立てたのに」
カッサンドラの黒髪を撫でるオイノネの指に固さが加わった。彼女の指す「心」は、カッサンドラのことだけ
ではあるまいと思われたが、王女はそのことについては触れなかった。
(夢・・・未来が視えなければ、そんな幻想に支えられる幸せを私も享受できたはずだった)
(パリス。お母様が産み落とす前に、火柱がトロイアを包む夢を見たという不吉の種をもつ弟よ。
そなたは生国もひとりの女人すらも幸せにすることはできない定めなのね)
オイノネがその場を去ってから、カッサンドラは塑像のように窓枠近くに黙し立っていた。
何を訴えても自分の言葉は誰の耳にも不協和に響くらしく、母ヘカベは自分を見るたび泣き崩れ、
父プリアモスも悲痛な面持ちで首を横に振る以外、全く反応しない。ヘクトルがここに、牢獄に
彼女の身柄をと強調したのも、祖国の不名誉を流出させないばかりでなく、妹が蔑みの対象にならぬ
ようトロイア民から護るためだったと、乳兄弟のイクレウスから聞かされた。
イクレウスは幼い時分に薬草摘みに出かけ、崖から転落した際に足を痛め、以来杖を手放せない
日々を送っている。周辺諸国からトロイアが攻め込まれたときも、闘いに参列できない自分を
密かに恥じ入っていたが、その一方で美しいカッサンドラの世話ができる僥倖にも酔っていた。
カッサンドラがこの場に幽閉され、トロイア戦争の種火が劫火に変わったのは何年前だったのか。
強硬にヘレネを返さないトロイアに、「ヘレネに危機あるときは集結する」と約した諸国に、じわじわと
追い詰められていく。血と悲嘆と苦悩と渇き。喪失ばかりが平和だったトロイアを染め変えていく。
(それにしても)イクレウスはしみじみと思う。(狂い女と称されてもこの方のなんと麗しいことか)
漆黒の髪は窓から漏れ入る月明かりに照らされ静かな光沢を放ち、色のささない頬も、薔薇の唇も
整った鼻梁も全く緩むことのない無に近い表情であるにもかかわらず、いやだからこそ冒しがたい
壮麗な雰囲気を醸し出していた。
「イクレウス」短く気高い声が、室内を整え退出しようとした彼を呼び止めた。
「はい」
「明日、ヘクトルお兄様が逝かれるわ。アキレウスの怒りによって殺され、ご遺体も大層
いたぶられる。まもなくアキレウスもパリスに殺され、パリスもまたこの世を去るわ」
まるで詩を吟唱しているかのような響きにイクレウスは耳を疑ったが、いつもの虚言が始まったのだろうと
曖昧な返事をしながら扉の外から鍵をかけた。
「本当に不憫なことだな。あれほど明るくたおやかで美しく聡明で、いつも民の平和を心に置いておかれた
気高いご性質があんなふうになるなんて。しかし、もし昔のままの姫様だったとしても、今トロイアは
諸国から疎んじられているし、どこかの妃がねになる可能性もない。いっそ狂われたほうが幸いかもな。
失うことは辛いが、幸いにつながることもあるし」
イクレウスは自身の動かぬ足を撫でさすりながら、杖を立て直し静かにひとりごちた。
足音と固い杖の音が次第に遠くに渡っていくのを、カッサンドラは寝台に横たわる前に聞き取っていた。
すべてはカッサンドラの予言どおりに進行したが、人々はその符号に誰も頓着しなかった。
ヘクトルがアキレウスに惨殺され、遺体を馬車で引き回されたと聞いたとき、カッサンドラは
牢獄の中で号泣した−−母へカベとともに。丸腰のプリアモスがひとりアキレウスの陣営を
訪れ、息子の物言わぬ身体を引き取りにいったことは、敵方の心も動かし、一時休戦となった。
ヘクトルの死に責任と自戒と後悔を強く湧き出させたパリスは、勇敢に新総大将の勤めを
果たそうと試みたが、結局敵の矢にその胸を射抜かれてしまった。
「パリスが?手当てを欲していると?」
オイノネは女神レアへの祈りを中断し、館の外へと震えて転びそうになる足をこらえながら
走り出た。丸木に旗布を巻いただけの簡素な担架に懐かしい夫の姿が横たわっていた。
胸には矢が血止めのためにまだ屹立しており、その周りの血が赤黒い花びらをゆっくりと拡げている。
「よく、私のことを思い出してくださったわ・・・。さあ早く中へ入って、急いで手当てを」
頬に口付けようとパリスの傍に寄った瞬間、彼の唇からこぼれた言葉にオイノネは凍りついた。
「ありがとう、ヘレネ。また君を抱けるなんて・・・僕の・・・すべて」
血が逆流し、自分の足元の大地がひどく頼りなげなものに、世界の全てが不安定に巡って
いるような感覚が全身を鷲づかみにする。
(命を吹き返しても、この人は私の元へは永遠に返らない。憎いヘレネと愛を交歓させるだけの、
私はそれだけのために待たされていたの?)
「オイノネさま!早くお手当てを!」
付き添いの近臣が性急な応対を促した。
「・・・残念だわ。もう手遅れです。もう何もできることは残っていないわ」
声が震えるのを隠すようにオイノネは素早く踵を返し、出迎えとは全く逆にゆるやかでしっかりした
足取りで館に向かった。悲嘆の声が後ろから高く絡み付いてくる。
しかし元来素直で優しいオイノネはすぐに後悔の激しい奔流に飲み込まれた。
(私が助けなければ、もうこの世で逢えないのよ・・・あの笑顔も、あの声も、あの吐息も
肌に感じられる全てがこの大地から失われてしまう)
弾かれたように立ち上がり、オイノネは救護団を追いかけた。
小半時ばかりして、一行の姿が見えた。しかし皆立ち止まり円陣を描き、俯きがちな姿勢から
愁嘆の響きが放たれているのが目に入ったとき、絶望の闇が彼女の脳を満たし始めた。
「まさか」息も絶え絶えになって飛び込んできたオイノネに、近臣のひとりが涙に濡れた眼差しを投げた。
「遅うございました。たった今しがた」
「ああ…パリス、パリス」それだけ口に出すと後は声にならない。涙は堰を切ったように止め処もなく
流れ落ち、彼女は半狂乱になり髪を振り乱して動物のように咆哮した。
外の見聞をイクレウスから日課として聴いているカッサンドラは、普段何も見ず感じず、口にしないよう
努めていたが、このときばかりは涙を禁じえなかった。
「オイノネさまは、その後パリスさまを火葬にする際、自ら炎にその身を投じたそうです」
いたわしげにイクレウスは目の前の王女を見つめる。彼女は睫をきつく結び、薔薇の唇を静かに
噛み締めるよう努力していたが、嗚咽は隠しようがなかった。
「もうよい。下がりなさい。一人になりたいの」
イクレウスの杖音が遠ざかるのを聞きながら、カッサンドラは胸中で義妹に話しかけた。
(私はアポロン様からつかの間の愛人か、約束破棄の罪かを選択させられ、
貴女は夫を憎い女に与えず永遠に葬るか、命を与えて自分のもとから去っていくのを見送るか、
そんな判断を余儀なくされた。
なんという不幸、なんと哀しい生き方しかできない私達だったのか)
−−いつまでも夢見ることを忘れたくありません−−
童女のような邪気のない笑みが瞼に浮かび、カッサンドラは再び寝台に顔を埋めて咽び泣いた。
こうなることを予知していても、結局誰も守れない。生きている限り、終わらない煉獄。
「だけど、オイノネ。もう自らの命は絶とうとは思いません。それが私から、貴女への敬意です。
夢を見ることができない私は、それ程永らえないことも、自分の死に方も・・・もうわかっているのだから」
>>87 GJ!
読み物として充分にオモシロ!!
エロはいつでもイイから続きキボンヌノシ
やっぱり神話の世界はいいなあ。
二人の女性の悲哀が伝わってくる。
続きを期待しています。
カッサンドラがアポロンに抱かれるIFルートとかも見てみたいな
>>88-90 どうもありがとう!ご意見とても嬉しいです。
90案は屋台骨覆すから今回の中ではIFでも困難だ。誰か書いてくれないかな。
昨日、栗山千明嬢が出ていたアフロディーテの番組、見入ってしまいました。
こういうの書いていると、関係番組が気になりますね。
さてさて、続き投下です。
王子二人を続けさまに亡くしたトロイアの町が死人のように陰鬱な空気に包まれている頃、
メネラオスの兄でギリシアの総大将、ミケーネ王アガメムノンの陣営では淫靡な声が
途切れ途切れに聞こえてきた。
「王・・・もうお止めくださいませ。わたくし、これ以上・・・あ・・・っ・・・ふっ・・・くっ」
「何をいう、ブリセイス。闘いで疲れた身体をそなたの柔肌でやすらげたいと思うのが
それほど嫌か?それとも」
仰向けのまま乱れるブリセイスの裸の乳房に自分の胸板を強く押し付けながら、その
耳朶に唇をつけてこう囁いた。
「アキレウスのほうが良かったのか?」
みるみるブリセイスの緑の瞳に暗い影が揺らめき、二筋の涙が両の耳へと流れ落ちた。
沈黙を肯とみなしたアガメムノンは、彼女の中に埋め込まれた己自身を渦を描くように
激しく動かし攻め立てた。
「ああっ・・・いやっ・・・いやっ!!」
泣きながら上へと逃れようとする彼女の肩を王の腕ががっちりと押さえ、更に激しく
奥へ、また引いては奥へと繰り返す。女の声が枯れ果て、喉から喘ぎしか漏れない
ようになってやっと、王は腰を動かすのをやめ、彼女の胸の谷間に髭にまみれた顔を
差込み、ゆっくりと舌を這わせた。
「俺がお前を貰い受ける、それはアキレウスも承知の上のこと。
しかも奴はパリス王子に踵を射られて絶命した。死者を思い煩ろうて何になる、ブリセイス」
王の指が形の良い乳首をなぞりだし、ブリセイスはくぐもったうめき声を漏らした。
王の抜き取った後の彼女の繁みからは愛液と王の精子が混ざり合い、太ももと寝台を
しっとりと濡らしている。愛しいとは思わない。変わらずアキレウスを恋い慕う気持ちは胸の
奥底に鎮座している。それなのに、こうも無骨な男の執拗な愛撫に容易く組み伏せられ、
官能の奔流に逆らうことができないのは何故なのか。
王が傍らで深い眠りに落ちた後、ブリセイスは起き上がり甕に湛えられた水に白布を
浸して唾液と精にまみれた自分の裸体を、まるで削り取るかのように強く長く拭き続けた。
朝陽の差し込む森林の下で、アガメムノンの軍の猛者たちは今後のトロイア陥落に
ついて作戦を練りはじめ、最終的に知将イタカのオデュッセウスの提案が可決された。
「巨大木馬」をつくり中に兵士達を潜めておく。脇に“アテナ女神様の幸い”と書き、
神からの贈り物を受け取られるように仕組む・・・というものだ。
「トロイア城門よりも、木馬は巨大にするのです。贈り物を受け入れるため、トロイア側は
必ず内側から城壁を破壊するでしょうから」
アガメムノン王は、深く首肯した。
「たいした知恵者だ、そなたは!我が弟メネラオスの腕にヘレネを抱かせる日も近いぞ」
好色である一方、家族への愛情も深い兄王の言葉に、傍らのメネラオスは複雑な微笑を
浮かべた。近辺諸国を巻き込み、多くの知将・勇将軍、兵士、民から夥しい鮮血を
滴らせ、国財を浪費したこの戦争を巻き起こした張本人、ヘレネを自分の妻として
再びまみえる事ができるのだろうか。スパルタ后の誇りをかなぐり捨て、他の男に
やすやすと身を委ねた世にも美々しい女を。
そのヘレネは、パリスとその妻オイノネの墓の前に花を供え静かに祈っていた。
人目を忍ぶように黒いベールで顔を隠し、豊かな金糸の髪は細かく編み上げて外に漏れない
ように工夫をしていたが、その優美な雰囲気は俯いて謝罪の言葉を編んでいる
ときでさえ、隠しようがなかった。
パリスとオイノネを焼き尽くした炎が鎮まり、埋葬した後、墓地から二筋の薔薇芽が顔を出し、空へと互いに
絡むように伸び続け、やがてひとつの枝のようになって白い花と赤い花を咲かせたのである。
「本来、このように結び付きの強い絆を、わたくしが断ち切ってしまった・・・。
何故、こんな顛末を呼びいけてしまったの?わたくしの容姿が原因なの?
幸せな娘よ、比類なき美しさよと羨まれても、本当にわたくしの内面を想ってくれた人はいたのかしら。
常に価値ある戦利品としか扱われない、いつも人として見られていないような心地がするわ・・・」
「トロイアに凄い美貌の処女がいるらしいですよ」
木馬歓声の前祝宴の際、ある男がそう語った。耳ざとい男達、とりわけ好色な
アガメムノンが興味を持たないはずがない。性急に詳細を追求した。
乙女の名は、カッサンドラ。トロイアの王女である時を境に気狂いの病を発症し、
今では嫁すことも叶わず、トロイア城のどこかに閉じ込められているという。
ヘレネがトロイアの地を踏む前は、ギリシア一の美女だったらしい。
アガメムノンは、ぬばたまの黒髪に白磁の肌、甘美な薔薇の唇を持つという
その女をトロイアとともに陥落させなければと密かに心に誓った。
「美しい盛りを気の毒なことだ。花は愛でてこそより麗しく咲き誇るもの。
むしろ賢すぎたり、一人の男を思い煩ったりするような、そんな精神がないぶん、
こちらの色に染めやすいかもしれぬ」
酒で赤くなった目尻を僅かに下げながら、そんな言葉を口に出す。
−−もうひとり、類似のことを考えている男が傍にいるとは微塵も気づきもせずに。
(聞けば虚言ばかりの女だとか。アガメムノン王が組み伏せる前に、俺が味見をした
ところで、誰にもばれる恐れはない訳か。敵国一の美女、そして男を知らぬ身体・・・たまらぬ)
「おい、小アイアス。呆けていないで酒を飲め。陥落までの戦勝を祈願して、一気に飲み干せ!」
アガメムノン王にこう呼ばれた男は口の端に上っていた冷やかな歪みをすばやく引き戻すと、
注がれた酒を喉の奥へと一気に流し込んだ。
イクレウスは、やっと落ち着きを取り戻したカッサンドラの手を握り締め、寝台の横で
優しく話しかけた。幼い頃からの友人であり乳兄弟でもあった彼に対して、これほど
反抗的な態度を取るのはかなりの珍事である。イクレウスの腕には、カッサンドラの
爪が走った赤く細い川がいくつも流れていた。
「木馬を入れては駄目、絶対駄目!あの中にはギリシア側の軍勢が潜んでいるのよ!
すぐに火を放って焼き滅ぼすのです。イクレウス、お前が私の代わりにお父様にお伝えして!」
「カッサンドラ様、どうか、どうかお静まりを。燃やすなどアテネ女神さまへの冒涜です。
実際、木馬を城内に入れぬよう進言した預言者ラオコーンは、二人の息子とともに
巨大な海蛇に飲み込まれたのです−−ラオコーンは神の逆鱗に触れたのです。
大切な姫様を、そんな目に合わせたくありません」
大切な、と言葉に出してからイクレウスは耳まで赤くなったが、再び興奮が極限まで達した
カッサンドラはそんな些細な表情の変化に気づく筈もない。跳ね起きると、窓枠に両手を
かけ、絶叫した。
「出して!ここから出して!ポセイドン神がギリシアにはついているの、海蛇は神が
遣わしたもの。木馬を入れればこの国は壊滅するわ!お父様!お母様!」
今日は、いつもと様子が違う。目が血走り、結い上げた髪が崩れるのもまるで頓着せずに
細い指で頭を掻き毟り、壁や扉をあらん限りの力で叩き続ける。白い掌に紫の痣がいくつも
刻まれ、たおやかな腕には細かな裂傷が走っていく。
最早自分の手には負えない、そう判断したイクレウスは薬師と母王へカベに報告するために、
慌ててその場を退出した。杖の音がいつもよりも小刻みに響いていく。
あまりに急いだためだろうか、扉に鍵をかけることをイクレウスはすっかり失念していた。
城門に駆けつけたとき、カッサンドラは絶望のあまり気を失うところだった。
すでに門扉は愚かな民人の手によって破壊され、巨大な木馬の四肢は根を生やしたかのように
トロイアの大地を踏みしめている
カッサンドラは泣きながら訴えた。先刻イクレウスに告げたのと同様の言葉を。
しかし、予想どおりとはいいながら、トロイアの民からの反応は侮蔑と嘲りが殆どで、ときどき憐憫
まじりの溜息が耳に届くばかりである。
ある民人の男が、カッサンドラの腰布を引っ張り、唾をかけた。
「王家の色情がこの地をでたらめにしたんだよ!お前の気狂いも神の呪いさ。
今もアテナ神を侮辱するとは・・・この国を蹂躙しているのはお前たち王族さ!」
彼の言葉に同調する波は大きな輪となり、カッサンドラは人々の手によって嬲り者に
される寸前だった。腰布はほどけ、胸乳が露わになる。裳裾は複数の手によって
びりびりに裂かれていく。恐怖のあまり声も出ない。
−−この光景は予知していたかもしれない。だがそれは「視えるだけ」だった。
群集の汗まみれの手のいやらしい感触、饐えたような鼻を押さえたくなるような匂い、
貶めるための聞くに堪えない言葉の連鎖、立ち上る土煙の息苦しさは、
全く予感できないものである。彼女は、自身の能力の不足が何かを思い知った。
「まずい、衛兵だ!」
誰かの声で民たちは埃を舞い散らしたように、カッサンドラから離れていく。
後にはやや引き裂かれた服のまま、放心している王女だけが糸の切れた
人形のように座り込んでいるばかりである。
「姫、カッサンドラさま」
聞き覚えのある声に顔を上げると、険しい面持ちのイクレウスが立っていた。
やや乱暴に姫の腕を掴んで立ち上がらせると、衛兵のひとりから1枚のマントを受け取り、
それでカッサンドラをくるむようにして歩き出した。
「この方角は王宮ではないわ。どこへ行くつもりなの?」
「アテナ神殿です。今はトロイアの民は暴徒と化していて危険なのです。
神殿には他人に手出しをしてはならぬ決まりがありますから、そちらのほうが安全でしょう」
「民が・・・そんなこと一言も話してくれなかったわね」
「カッサンドラ様のお心を苦しめるのは、本意ではありません」
穏健なイクレウスが怒っている、それは掴まれた腕の強さからも明確に伝わってくる。
神殿に着いたときは、とっぷりと夜も暮れていた。
王女が前方に鎮座しているアテナ女神の木像に静かに祈りを捧げ終わるまで、
イクレウスは口を真一文字に結び、一言も発しようとはしなかった。
「俺は、自分が腹立たしいのです」絞り出すような声で、イクレウスは語りだした。
「姫のお心を癒すこともできず、闘いに参加して国を護ることもできない。
先刻も目を離したばかりに姫を危険な目に合わせて、なのに衛兵の力を
借りねばお救いすることすら不可能だ」
民の心の荒廃に衝撃を受けていたカッサンドラには、近寄ってきたイクレウスの瞳の中に
ある種の色が宿って揺れているのを察知することは不可能だった。
ぼんやりとした瞳で、イクレウスの瞳を見つめる。少し開いた薔薇の唇が何か
物言いたげに動こうとしたとき、イクレウスの唇がそれを塞いだ。
突然の口付けに驚愕のあまり身じろぎもできないカッサンドラの態度を諾と取り、
イクレウスはそのまま舌を捻じ込ませる。舌を絡ませ吸い上げようとした瞬間、
カッサンドラは頭を振って逃れようと試みた。が、力強い腕で頭を押さえつけられ、
前よりも力の入った口付けを強要される。イクレウスの舌がゆっくりと王女の唇をなぞり、
口内を蹂躙する。吐息と薔薇の色と蜜と、全てを奪おうとするかのように
隈なく動き回り舌を絡ませ、先ほど叶わなかった吸い上げを施していく。
(イクレウスは)朦朧とした頭でカッサンドラは考えた。
(少なくとも、この私を欲し必要としてくれる。狂い女として王族からも民からも唾棄されたこの私を)
ひとまず、ここで一旦投下終了します。
ちょっとサーバが重いので、続きは書けているんですが後で投下しますね。
昨日、続きを書き込もうとしたらなぜか全くアクセスできず
投下が遅くなりました。失礼しました。
やっとスレタイに沿った展開です。
流血や陵辱が苦手な方は、ご注意ください。
その考えが、カッサンドラの抵抗力を全て抹殺した。
長い口付けのあと、イクレウスの唇が喉元をゆっくりと滑り降りていく。彼は王女を自らの腿に乗せ、
民人によって乱された胸元の布を更に広げようとした。
「だめ・・・」弱い抵抗の言葉など、彼の耳に届くはずもない。
祭壇のろうそくの明かりに照らされた、豊かで整った胸を目にしたときイクレウスの理性は
どこかへ弾けとんだ。
「いや・・・やめてイクレウス・・・」
懇願の響きが強まっても、イクレウスの唇は柔らかな山を辿ることをやめようとしない。
普段の威厳ある王女の面影がそこにはなく、恥じらいと脆弱な抵抗がより近しい女のようで、
それがいっそう彼の行為を力づけた。
頂の桜色をした乳首を含むと、思い切り吸い付き、舌でつつきながら転がした。
カッサンドラは恥じらいのため、顔だけでなく全身が赤く染まっていることを実感する。
イクレウスの唇と舌にいたぶられる度、乳首が反応して硬くなっていくのがわかる。
閉じていた瞼をそっと開くと、そこに威厳をそなえたアテナ像が屹立としているのが目に入った。
「いけないわ!」
突然立ち上がることを予想だにしていなかったイクレウスは、カッサンドラを捕らえることが
できなかった。
「ここは神聖な祭壇です。アテナさまのお怒りを買うわ」
胸元をたぐり、弾んだ息を悟られないようにしながらカッサンドラは厳かに言い放つ。
その姿は、普段の神々しく冒しがたい雰囲気の王女に完全に戻っていた。
最初恨めしそうに、王女の顔と、動かない自身の片足と、横に投げやった杖を
かわるがわる見ていたイクレウスだったが、次第に表情に冷静さと理性が戻ってきた。
王女の言葉を信じて、組み伏せることを諦めたわけではない。
彼は、飛びのいた王女を追う足を持たない自身を恥じたのである。
そして、臣下の身でありながら不埒な行いをした羞恥も身体の奥底から湧き上がってきた。
「申し訳ありません、カッサンドラ様」
神と見まごうくらいに美しい姫の姿を見ないようにしながら、平伏したイクレウスがその場を
離れようとしたそのときだった。
「そこで仕舞いか。たいした腑抜け野郎だな、トロイアの男っていうのは」
「誰っ?」
王女の怯えた声音を聞かせまいとするかのように、イクレウスは彼女の前に立ち
自身の身体で壁を作った。
「俺の名は、小アイアス。ギリシア側の戦士さ。今頃俺たちの仲間が町も
王宮もすべて征服していることだろうよ。そうあの木馬に潜んでいた仲間がね」
カッサンドラの悲鳴と、イクレウスの腕からその声の出所の黒い形に向かって短剣が
投げつけられたのがほぼ同時だった。しかし、男の剣が難なくイクレウスの
武器を瞬時に床に叩きつけたため、神殿の床は鈍い音で鳴いた。
「ほう、股にぶらさがった剣は役立たずだが、そのくらいの抵抗はできるのか。だが」
神殿の柱の影に立っていた小アイアスは、ゆっくりと蝋燭の灯りの下にその身を晒した。
「杖に頼りながらギリシアの戦士と渡り合えるなどと、思い上がりも甚だしいわ!」
イクレウスは杖でその身を支えながら、小さな男を睨み饐える。
近寄ってきた小アイアスは、その名の表すとおりイクレウスの顎くらいの身長であった。
驕慢な表情に複雑な笑みを薄く広げながら、低く呟いた。
「俺を見下ろすな」
次の瞬間、無謀にも杖で応戦しようとしたイクレウスの腕を軽くねじり、その武器を
容易く足で蹴り飛ばし、一瞬の隙も与えず不敵な男は哀れなトロイアの民を組み伏せた。
風のような俊敏さと冷酷な嘲りの力をその体躯にそなえた男は、顔の笑みを消さないままに
腰の大太刀を抜き放ち、獲物の腹にじくじくとその手応えを楽しむかのように刺し込んでいく。
断末魔の悲鳴が暗い神殿に響き渡り、濃い血の匂いが立ち込めた。
「イクレウス、イクレウスっ!」
泣き叫びながら駆け寄ろうとするカッサンドラを、小アイアスは軽く引き寄せ
後ろから素の胸乳を掴み挙げた。
「想像以上に良い女だな。腑抜け野郎には勿体ない」
「離しなさい、無礼者っ」
羞恥と怒りで顔ばせが赤らみ、無闇に白い腕を振り回すのを小アイアスはますます愉快気に眺めた。
「俺は王宮の宝物や、そこいらの女なぞ欲しくない。さんざん味わったからな。
俺の獲物は、あんただよ、カッサンドラ姫」
「やめて、やめてっ」
必死にもがいても、小さな体躯に似ず小アイアスは鋼のように力が強く、掴まれた乳房も
一向に外れなかった。そのうち片腕を王女の柳のような細腰にまわし、もう片方の手で乳房と
乳首を弄び始める。カッサンドラは涙をため、悔しさまじりの悲鳴を小さく漏らすしかなかった。
「なあ、取引きしようじゃないか。あんたが俺のものになってくれさえすれば、そいつの命は
助けてやる。急所は外しておいたからな。それとも、姫をお慕い申す哀れな民を見捨てるか?」
「・・・姫。いけませぬ。そんな卑劣な・・・話に・・・耳を貸しては・・・はぐっ」
咳き込んだ瞬間、まるでいやらしい動物でも生み出したかのように紅蓮の塊がごぼりと
イクレウスの口から転がり落ちる。
腹から口から流れる血が神殿の床を赤黒く染め上げていく。逡巡の余地はない。
「わかったわ」断腸の思いでこの言葉を吐いた。
「さすがは気高き王女さまだ。じゃあ、自分でそのお召し物を脱いでもらおうか。それとも手助けが必要か?」
「無用よ」急がなければ、イクレウスの命の火は消し飛んでしまう、そう頭で理解しているのに
身体が強張って思うように衣服を脱ぐことができない。
小アイアスは、小刻みに白魚の指が震えているのさえ目を細めて観察しているようだ。
身体を覆っていた布が自らの手で全て取り払われた瞬間、瀕死のイクレウスも腹の痛みを忘れ、
女遍歴の豊富な小アイアスすら息を呑み、目が離せなくなっていた。
白磁の肌に、解けて崩れた黒髪が少しずつ束になって落ちている。形の良い乳房を片方の手で
隠し、もう片方の手がまだ誰も触れたことのない繁みに添えられているが、それでも美しい体から
発散される清楚な色気は、男の欲情をたぎらせるには充分だった。
「早く・・・済ませて頂戴」
イクレウスは腹の剣を小アイアスに気づかれないように静かに抜き取ろうとしていた。
切っ先が身体から離れたその刹那、血が噴水のように噴出し、あまりの痛みに耐えかねて
思わず声を出しそうになるのを、奥歯を噛み締めて必死に堪える。その口にも血が湧き水のように
奥から上ってくるのが感じられる。
汗と血に塗れた震える指が握る剣は、王女の裸体に心を奪われている暴漢のほうにゆっくりと向けられた。
(駄目だ・・・投げようにも力が入らない・・・ならばいっそ)
小アイアスが舌なめずりをして王女に近づこうとしたときだった。
「お逃げください、姫!」
残っていた生気をかけてそう言い放ち、イクレウスが血に染まった剣先を自らの胸に当てがい、
そのまま体重をかけて一気に床へと倒れ込む。心の臓を貫いたのは明白だった。
カッサンドラの何度目かの絶叫が神殿内にこだました。
身体から抜け落ちたばかりの大量の血の生臭い匂いが更に深く辺りに充満していく。
「ちっ、この馬鹿が、楽しみを減らしやがって」
やや忌々しそうに呟きながらも、小アイアスは遺骸に駆け寄ろうとする全裸のカッサンドラを
力づくでアテナ像前まで引きずっていった。
「やめて、約束が違うわ」
泣きながら必死に暴れるカッサンドラを押さえるため、彼女の腰紐で両腕をアテナ像の足にくくりつけながら
小アイアスは侮蔑をふくんだ下卑た笑みを漏らした。
「約束?それは対等の相手に使う言葉だな。あんたはもう敗戦国の女に過ぎない。
それに、早く欲しいってねだっていたじゃないか」
−−この光景はいつか見た映像。そして泣き崩れた自分。それは思い出せるのに−−
昼間のトロイアの暴乱でも感じたことであったが、「視る」のと「感じる」のは全く異なっている。
さながら本で読んだ知識が「予知」であり、体験して知ることが「体感・実感」と呼んだほうが
相応しいくらいに、現実の体験は彼女の精神と肉体をさいなんだ。
小アイアスはカッサンドラの両腕の自由を奪うと、性急に自分の着衣を脱ぎ捨てた。
美女の裸体を見たためか、男の血飛沫を眺めて興奮したのか、股間のモノは身体に似合わない
ほど大きくそそり立ち、カッサンドラは思わず顔を背け目を瞑った。
唇にぬるりとした感触が蠢く。小アイアスの口付けはイクレウスの愛情のこもったそれとは
違い、獲物を狩るような勢いに満ちていた。歯を噛み締め侵略を防ごうとすると
整った鼻をきつくつまみ、無理やり舌を差し込んでくる。
歯や舌の裏まで舐めまわしながら、両手を肩から滑らせ白い乳房を弄ぶ。
唇を解放され、安心する間もなく男の唇は両の乳首に交互に吸い付いてくる。
蜀台の灯りのもと、両の乳房は汗と男の唾液でぬらぬらした光沢をかすかに放っていた。
片方の手が尻を撫でまわし、もう片方の手が繁みをまさぐりながら、奥の秘所を探り当てた。
人差し指が淫靡な音を響かせて入っていく。
「いっ、いやっ」
カッサンドラは渾身の力を振り絞り、両腿をあわせようと努力したが、いやらしい薄笑いを
放つ男の膝の力にあえなく屈服せざるを得なかった。
「上の口は虚言ばかりだそうだが、下の口は正直と見える。もうこんなに・・・」
彼女自身の神泉を、豊かに波打つ乳房に擦り付ける。
「いやっ、いやっ!アテナさま!どうかお慈悲を!」咄嗟にアテナ像を見上げて願いを乞うた。
「ふっ、愚かな」憐憫の混じった軽侮の言葉が無慈悲に落ちてくる。
「神になど祈って何になる、カッサンドラ。願いを乞うなら俺に乞え・・・もっと快楽を与えたまえ、とな」
次の瞬間、カッサンドラの秘所に猛々しい小アイアスのモノが当たり、鋭く貫かれた。
「いやああ・・・・っ、い、痛いっ」
必死に逃れようともがく王女を抱きしめ、悲鳴を封じ込めるように唇を重ねながら更に奥へと突き上げる。
「素晴らしい。肌といい花園といい吸い付いて離したがらないようだ。絶品だな」
耳元で聞き取った言葉を思わず疑う。憎い敵国の兵から逃れたくて仕方がないというのに、
自分の身体はどうなってしまったのか。身体だけでなく、心までもが穢れてしまったというのか。
やっと突き上げがおさまったと感じた瞬間に、奥へ向かって何かが弾け放たれた。
「安心しろ」小アイアスは変わらぬ冷酷な笑いを向けて囁いた。
「俺の子を孕んでも構わないぜ。男なら荷担ぎに、女なら性の奴隷として売りとばしてやる。
美しき姫の子なら、使い勝手が良さそうだ」
「何てことを・・・」
もう殆ど口をきく気力もないカッサンドラの中から自身のモノをゆっくりと引き抜き、先端に付着した
鮮血を拭うと、あろうことかアテナ像の股間にそれを擦りつけた。
「処女神には麗しい処女の血を・・・。これだけ美しい女を贄にすれば文句もないだろう」
「お前は狂っている。狂っているわ!」カッサンドラは喉から血を吹くほどに絶叫した。
「神殿の者に手出ししてはならぬ掟を無視して。アテナ様は激しくお怒りよ。
・・・帰還の船が沈み、お前が海の藻屑となるのがありありと視えるわ」
アテナ神像の足につながれた紐を引きちぎらんばかりの剣幕で、カッサンドラは暴れだす。
「黙れ、狂い女。闘いで正義を語るのは常に勝者だ。勝った者こそ神というわけだ・・・つまり俺が」
言うなり今度はもがくカッサンドラの身体を伏せてから一気に貫き通し、胸を持ち上げて四つん這いにさせた。
「くっ・・・こんな姿はいやっ・・・」
「神も王族も庶出も動物も・・・やることは一緒だ。え、愉快だと思わないか、王女様」
男は愉悦の表情を浮かべ、下を向いて揺れる乳房を痛いくらいに握り締め揉みしだいた。
女の悲鳴すら心地よい音楽を聞くような表情を浮かべて楽しみ、何度も彼女の中で己をしごき、
脈打つそこから飽きることなく欲の種を王女の奥へと吐き出していく。
王女の涙に濡れた瞳に、ふとイクレウスの遺骸が目に入る。くの字に倒れた彼の顔はこちらに
向いていた。その瞳は閉じられていない。血の匂いも薄らいでいる。
流れた血も冷えて固まりだすほどの時間、この男の淫らな愛撫を受けていたのか。
(イクレウスに見られている。そして侮蔑されている。一国の王女が敵兵の手で嬲られ、
穢され続け、喘いでいるのを・・・そしてアテナさまにも)
魂のない骸とわかっていても、カッサンドラはイクレウスの方を見ることはもうできなかった。
イクレウスの光のない瞳は、ずっと二人の淫蕩な光景を宿している。
蜀台の蝋燭の灯がいつしか消えた。互いの顔が明瞭に認識できる時間になるまで、
二つの裸体は歪んだ動きを放ちながら、離れることがなかった。
つ…ついに陵辱シーンが…ハァハァ
やるせない雰囲気を堪能しました。
イクレウスもいい味出してて素晴らしいですね。
>>102 素晴らしいです!野卑な戦士に陵辱される高貴な姫って最高に興奮します!
しゅげええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
乙です。こういう壮大なストーリーをうまく扱えて羨ましい。
イーリアスが家にあったんでひっぱり出してきたんですが
カッサンドラの話がなかったんで悲しかったです。
ブリセイスは読めたけれど。
>>71-74の続きを投下します。
*
気がつくと、オルエッタの珊瑚色の唇はリベルトのそれで塞がれていた。
王女は驚いて瞳を見開いたが、リベルトの腕が背後に回ると大人しくその瞼を閉じた。
唇が触れた瞬間、むずがゆいような甘美な感覚が爪先から湧き上がり、彼女の思考を奪っていた。
リベルトの熱をもった唇が、しっとりと彼女の唇を押し包んでいる。
やがてそれはついばむように優しく動き、そして唇を割って舌がさしこまれてきた。
オルエッタは驚いた。
父母と挨拶として交わすキスしから知らぬ彼女は、このような生々しい口付けは想像していなかった。
ちいさく身を揉んでやめさせようとしたが、自分の舌が絡め取られた瞬間に、
爪先から下腹部へと上がってきていた熱い感覚が全身に浸透して思うように力が出ない。
ぴちゃりぴちゃりと口腔内で舌の絡み合う音が、ひどく遠くから聞こえるように感じられた。
腰が砕けたように力が抜け、頼りがいのある両腕にその体重を預けていく。
唇が離れた。
オルエッタはリベルトの胸に鮮やかな巻毛に覆われた頭をもたせかけていた。
つやつやと濡れた唇は熱い吐息を紡いでいる。
彼自身、このように事が運ぶなどとは思いもよらなかった。
想いを打ち明けた後のことなど考えてもいなかったのである。
しかし現実には愛しく美しい王女が自分の腕の中で次の愛撫を待つかのようにその身体を預けている。
元来の楽天的な性格が、彼の情熱を後押しした。
リベルトはオルエッタを横抱きにすると、軽々とベッドに運んで横たえた。
小さな足から室内履きを脱がせて床に並べると、衛兵の装備を急いではずす。
儀仗用だけあって、さして手間はかからなかった。
シャツ一枚になったリベルトは足をひっかけて乱雑に靴を脱ぎ捨て、ベッドに上がりこんだ。
多少苦戦しながらもあちらこちらのリボンを解き、オルエッタの寝巻きを脱がせていく。
オルエッタは緊張に少々身を硬くし、されるがままに任せていた。
婚姻前の教育を一通り受けたおかげで、これから何が行われるかは何となく知っていた。
それは夫となるアルフォンソに捧げられるべきものだということも分かっている。
しかしランプの光を受けて黄金の髪が煌くたびに、恐怖や罪悪感は遠くに押し流されていったのだった。
「あ……」
リベルトの指がきめ細やかな素肌を滑っていく。
触れられたところから音楽が奏でらるように、甘美な感触が彼女の肌を這い回った。
その指はやがて彼女の乳房で止まった。
暖かい手のひらが膨らみかけた蕾をその中に収め、やわやわと揉みしだいていく。
青さの残る硬いしこりがすくい上げられるたびに、オルエッタの唇からは甘い吐息が漏れた。
「ん…ふっっ…!」
その先端が唇に吸い込まれ、オルエッタは思わず鼻にかかった高い声をあげた。
経験のない彼女には、生々しい刺激がひどく淫らなものに感じられた。
背徳の罪悪感が背筋を泡立たせ、より強い快感をもたらしている。
そして唇はせり上がり、首筋や耳たぶをたどっていった。
そのたびにオルエッタは切なげなため息を漏らし、身を硬くした。
突っ張った小さな足の指が、堪えるようにぎゅっと折り込まれていた。
気がつけばリベルトはシャツを脱ぎ捨て、綿布の下穿きから急いで足を抜いている。
オルエッタは薄目を開けてその姿を盗み見た。
なんとはしたないことをと心の中で自分を叱咤したが、興味をおさえきれなかったのだ。
「……ま…待って!!」
股間に生えた異物に、王女は仰天した。
数日前に養育係のアガタから男女の営みについて教わった時には、
彼女は鍵と鍵穴のようなものを想像していたのだ。
よもやそんなものが自分の体内に侵入しようとは思いもよらなかった。
「私……壊れてしまうわ」
リベルトは何のことかと驚いた表情をしたが、すぐに意図を解してくすりと微笑んだ。
大した経験があるわけではないのだが、こういうときに何と言えば効果があるのかは知っていた。
「愛しい男との契りならば、痛みさえも喜びに変わると聞いたことがあります」
「愛しい……」
「ええ」
オルエッタは戸惑った。
突然あらわれたこの青年を、はたして愛しているのだろうか。
だが、考える前にリベルトがたたみかけてくる。
「大丈夫です。何も心配は要りません。私にお任せを」
「本当に……?」
「本当です」
彼のまっすぐな瞳がオルエッタの瞳を射た。
それだけで、オルエッタの心配は霧散した。
――きっと私は彼を愛しているのね。
そうでなければ、今頃この男の腕の中にいるわけがない。
一目で恋に落ちる、というおとぎ話のような出来事が自分にも訪れたのだろう。
オルエッタは両腕を広げて瞳を閉じ、すべすべとした丸い膝頭をずらして青年を受け入れた。
「あぁぁっっ!!」
喉の奥から大きな叫び声が飛び出し、オルエッタは慌てて両手で口を覆った。
近くの小部屋にはオルエッタ付きの侍女が休んでいる。
話し声程度なら聞こえはしないはずだが、叫び声となると目を覚ますかもしれなかった。
想像以上の痛みにがんがんと鳴る頭を振りはらい、息を殺してあたりを伺う。
幸い誰かが起き出した気配は感じられなかった。
リベルトの瞳が心配そうに覗き込んでいる。
「やはり、辛うございますか……?」
そう言いながらもその腰はゆっくりと沈められてきていた。
「だ、大丈夫よ…大丈夫……」
オルエッタは喘ぎながらも自分に言い聞かせるように答えた。
周囲の期待に背けない性格だ。このように聞かれると、途中で断ることもできなかった。
風穴が開けられるような痛みだが、何か自分の中を突き抜けて、生まれ変われるような感覚もある。
じんじんと痛む隧道の最奥まで男を受け入れ、彼女は満たされた気持ちでにっこりと微笑みかけた。
どこか壊れてしまいそうな危うさのある、繊細な笑顔。
「ああ…姫様…オルエッタ姫……」
感極まったようにリベルトは呻き、その額や鼻筋、唇に次々と口付けの雨を降らせた。
「…うっ……はぁっ…はぁ……」
リベルトの腰が前後に動き始めた。
いや増す痛みに殺しきれぬ呻きが漏れ続ける。
突き上げられるたびに喉の奥からか細い声が押し出された。
「いかがですか…良うございますか……?」
「ええ…あっ…あぁっ!……ええ…いいわ……」
オルエッタは聞かれるたびに良いと答えた。
短い人生で経験した中でももっともきつい痛みに頭が朦朧としていたが、
好ましい男と肌を重ねてその欲望を満たしてやることの誇らしさに、
身体の奥が熱く燃え上がっていた。
「ああ…お慕い申し上げております。愛しております……」
リベルトの少しごつごつとした手が額にかかる赤く燃えあがった髪をかき上げ、
その背に回って華奢な身体を強く抱きしめた。
オルエッタもそれに応えて青年の首を掻き抱き、自ら唇を重ねる。
腕の中に固定された身体に向けて、リベルトは素早く自分の腰を叩き付けた。
「……うっ!!」
王女の耳元に低い呻き声が響いた。
自分をこじ開けていた楔が瞬間的に膨れ上がり、じんわりと熱い液体を注いでいくのがかすかに感じられる。
オルエッタも呼応するかのように熱いため息を漏らした。
行為を終えても、二人は固く抱き合ったままだった。
リベルトの指が王女の髪をかき上げ、名残を惜しむようにその肌の上をすべる。
その胸板に熱い雫がいくつもこぼれ落ちるのを感じ取り、彼はあわててその身を起こした。
「いかがなさいましたか!?何か私めが至らぬ事を……?」
オルエッタははらはらと涙を流しながら、何度も首を振った。
「いいえ。違うの。私、嫁ぐのが怖くて……」
男の暖かい腕に包まれた安心から、オルエッタは赤子にかえったように泣きじゃくる。
リベルトはその背をなでながら思案に暮れていたが、やがて決心したようにまっすぐに彼女の瞳を見た。
「逃げましょう――二人で」
彼自身も、思いがけず腕の中におさまった小さな身体を失うことには耐えられなかった。
「え……?」
「この城から抜け出し、遠いところで夫婦(めおと)になりましょう」
「駄目よ!!そんなことをすればお父様がお怒りになるわ。
もしも捕まったら、あなたはお父様に八つ裂きにされてしまう」
オルエッタは激しく首を振ってその意見を否定した。
上気していた頬からは血の気が失せ、すっかり青ざめている。
「私の親類に商船をいくつも所有している者がおります。
彼に頼んで異国へ渡してもらいましょう。そうすれば追手もかかりますまい」
――明日の晩にリベルトがオルエッタを背負い、天窓から抜け出す。
城の地理と衛兵の居場所は心得ているから、見つかる心配はない。
城を出れば用意しておいた馬に乗って港へ逃げればよい。
衛兵にすぎぬとはいえ軍人の端くれ、追っ手がどう動くかも予測がつく。
うまくかわして港へたどり着くことなど造作もない。
その商人は異国にも邸を構えているから、一旦はそこに厄介になり、いずれ二人の生活を始めればよい。
オルエッタを養うためならどんな苦労も厭わない――とリベルトは熱く語った。
「大丈夫です。何も心配は要りません。私にお任せを」
「本当に大丈夫なの……?」
「本当です」
リベルトのまっすぐな瞳がふたたびオルエッタの瞳を射た。
青みがかった灰色の瞳には何の偽りも迷いも見当たらなかった。
「信じて…いいかしら……?」
「もちろんですとも」
リベルトが破顔した。それだけでほの暗い室内がぱっと明るくなったように見えた。
オルエッタはその首に自分から腕を巻きつけた。
先ほどとは別の涙が後から後から溢れてくる。
恋人になったばかりの二人は、あらためて今宵幾度目かの熱い口付けを交わした。
*
リベルトはふたたび衛兵の装備を身にまとった。
衣装棚を足掛かりにすると、次の瞬間にはもう天窓から身を乗り出している。
音もなく屋根の上に滑り出て、こちらを振り返った。
オルエッタは慌ててその後を追って衣装棚によじ登り、天窓から頭だけを出す。
「お名残惜しいことですが、失礼致します。明日必ずやお迎えに参りますので――」
伸ばされた王女の手を取り、白く透き通る甲に口付けする。
「ええ…待っているわ……」
喉の奥から搾り出すように、オルエッタはやっとそれだけ言葉を返した。
別れの辛さからか、明日の駆け落ちへの怖れの気持ちか、きゅうと胸が締め付けられる。
手が離れると、リベルトはもう背中を向けていた。
辺りを慎重に伺いながら、その広い背中がかさなりあう屋根の向こうへと遠ざかっていく。
その姿が見えなくなっても、オルエッタは胸の前で両手を組み、彼の無事を真剣に祈っていた――
以上で前編終了です。
途中タイトルが抜けていて申し訳ないです。
後編はまだ書いていないので1,2ヵ月後になるかと思います。
GJ!
ライブ投下に初めて遭遇して大興奮でした!
続きをwktkしてますよ
グッジョバ
しかしこの手の話を読むたびにいつも思うけど、八方丸く収まって欲しいなぁ…
>>113 gっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっJ!!
続きワクテカでし!!!
この手の話って丸く収まるかどっちかが死んでもう一方が自ら命を絶つ展開しか想像できん。
もちろん前者が好きですが。
GJ!鍵と鍵穴ワロス。
駆け落ちの途中に野盗の群に襲われて輪姦希望だが
そうはならないだろうな。
職人さんたち乙華麗&ぐっじょぶ。
実は今ちょっと描いてみてるんだけど、無意味に長くなりすぎるというか、
変にくどかったり言い回しがまわりくどかったりして、(下手だから)
だらだらになってしまいます。
普通に読んでもらうならともかく、こういう場はさくっと
投下できる長さと量じゃないと駄目ですよね・・・
削りに削ってみます。
>>119 イイヨーイイヨー
文章力が全てじゃないからおk
ガンガッテ投下ヨロ〜ノシ
>>117 あと、男が本気じゃなかったor心変わりしてしまうっていう展開もあるよね。
でも作風からは、そういう話にならない感じ。
>>119 もしかして
>>79かな。頑張れ〜。
先の話をするのは…
お気楽話いきます
気楽にどうぞ
124 :
日常生活 1:2006/06/22(木) 03:24:41 ID:EBoUFUk1
デアドール氏が雇主の執務室を訪れてきたのは九月半ばの某日の、爽やかな朝のことだった。
彼は、嫁と孫にはぜひポッシュ王宮侍医長をという父王の厚意を慇懃無礼に謝絶し、イヴァン自身が面接を行って選んだ有能な侍医だ。
訪問の目的は生まれてひと月と少しの王子の息子、そして王子妃ナタリーの検診結果報告である。
秘書と顧問官と友人に取り巻かれて仕事中だったイヴァンはすぐに侍医を引き入れ、問答無用で人払いをすると書類を脇に押しのけた。
「どうだった?」
「はい。結構なことに気鬱もなく、順調なご回復です。これも日頃から野外で活発に乗馬など嗜まれておられる賜物でしょう…そうですな、今後は生活全般にわたってさしたる問題はありません」
「うむ」
イヴァンは明るい色の目を、デアドールのやや一刻者げな気配を漂わせる角張った額に向けた。
「そうか、よし。では尋ねる事がある」
侍医は頷き、明晰な語り口で報告を続けようとした。
「はい。フィリップ殿下ですが幸いにこちらも丈夫な体質のご様子で乳母の話では、」
「無論元気だ、オレの子だから。違う。息子の話ではない」
イヴァンは手を振ってデアドールを黙らせた。
返す手で気ぜわしく招くので、侍医は不審げに机に近づいた。
「なにか?」
「わかりきった質問をするな。……もう、いいな」
「……はあ」
デアドールは咳払いをし、曖昧に頷いた。
「お前が釘を刺した通りこらえぬいたぞ。これもあれの身を思えばこそだ。問題がないのであればもう構わんだろう」
「それは…まあ。神に祝福された男女の健全な営みも日常生活のひとつでございますれば」
イヴァンは熱心に頷いた。
「その通りだ。今夜…いやいや、今すぐ抱いても支障はないな?」
侍医の額のあちこちが苺を潰したようにうっすらと赤くなった。
幸い職業上必要な威厳を失わせるほどではない。
「仰せの通りでございます。ですが…」
イヴァンは勢い良く立ち上がった。勢い余って椅子が後ろに倒れた。
長身に喜色が溢れている。
「よし、ご苦労だった。仕事は終わりだ、さあ帰れ」
「……ですが、殿下。差し出がましいといかにご不興を受けましょうとも、侍医としてはご忠告を成さねばなりません」
大きく両手を打ち合わせ、掌を擦り合わせようとしていたイヴァンが動きをとめた。
「なんだ」
「妃殿下におかれましては健やかに回復されたとはいい条、御出産という大役後初めてのお務めにおなりです。ですからこういう場合にこそ殿下のお心のままと言わず、できる限りのお慈しみを。どうか今回ばかりは度を越さず穏便に」
「『ばかりは』とはどういう了見だ。余計な世話だ!何週間も、この日を楽しみにしてきたんだぞ」
イヴァンの剣幕にもデアドールは退かなかった。
角張った額があらわになった使命感のために輝きを増したようだ。
「いや、しかしですな。いつぞやの…あれは妃殿下の悪阻のご不快がやっと収まられた頃でした、確か殿下は」
「あの時はつい羽目を外したが」
イヴァンも昂然と声を高めた。
「フィリップはちゃんと無事に生まれたしナタリーも元気じゃないか!…深く反省したからここまで我慢したんだ。安心してひっこんでろ」
「はあ。しかし、過分な報酬を賜っております以上私には妃殿下のご健康に心を砕く責任と義務がございます。そればかりではございません。初産後の女性というものは俗に第二の処女と申しまして、とかく不安定と申しますか非常に繊細なものなのです」
「……処女で不安定?」
イヴァンの眉があがった。
あまり思い出したくない類の過去の記憶が刺激された模様である。
「…どう繊細なんだ」
125 :
日常生活 2:2006/06/22(木) 03:26:37 ID:EBoUFUk1
「個人差もあるでしょうが産後初めての営みが不安、あるいは実は気が進まない女性はかなりいるのでございます。
私の患者ではございませんが、強引に事をお運びになろうとしたご主人様と血も凍る罵り合いとなり、修道院に籠るの出家するのという騒ぎになったというさる貴族のご令室様のお噂も耳にしております」
「妻のくせに、どうしてそこまで厭がる。怪しからん」
「私も男ですので判じかねております。
子を得たために母性が勝り新しく胤を迎え入れる行為を毛嫌いするようになるためか、それとも失礼な推測ながら普段からの軋轢や夫への不満がこんな折に噴出するためか。
……ですが、ともかくそういった状況が現にあるのは事実です」
侍医は深々と頭をさげた。
「子を産み成熟を増した妻は夫にとっても得難い宝と申します。妃殿下がお心麗しくお過ごしになれるかどうか、これは一重に殿下のお心遣いにかかっているのでして」
「……なるほど」
イヴァンは自ら椅子を起こし、座面に躯を投げ出した。
侍医の額ではなく、遠い天井と壁の境目に視線を投げている。
「うむ、お前を侍医にしてよかった。なかなかに良い忠告のようだな」
「広いお心でお聞き容れくださいまして、ありがとうございます」
「確かにあれはいかにも……」
そのままイヴァンはもの思いに沈んでしまったので、しばらく立ち尽くしていたデアドールはもう一度お辞儀をするとぎこちなく後ずさった。
短気で我侭ではあるものの他者の訴えに反応する器量は備えているらしい雇主ゆえ、この様子だと乱暴な無理強いは避けるだろうと判断したのである。
どうやら、妃を溺愛しているという巷の噂は本当らしい。
小姓が扉を閉める間際、なんとはなしの虫の知らせか、侍医は隙間越しに机の向こうの王子を目で探した。
細い視界にかろうじて映ったイヴァンの若々しい横顔はさきほどと同じく天井方面を向いていた。
口元に、妙な笑みが浮かんでいる。
*
「土産があるんだ、ナタリー」
赤ん坊を抱いた乳母と扶育係の女官達が夜の挨拶をして部屋を出て行くのを横目に、イヴァンは口を開いた。
「おやすみなさい、フィリップ。よい夢をね…また明日…いい子ね…」
白い手を振りながら、放っておくと彼女らの後をどこまでも追いそうな妃のガウンの袖を長椅子から伸ばした手で掴む。
「おい、聞こえたか?」
「え?」
ナタリーは美しい目で夫を見下ろした。だが重々しく扉が閉まる音に、急いでまたそちらを向いてしまう。
「あ、フィリップ…」
「あいつは大丈夫だ、オレよりもお付きが多いんだから。それより…」
イヴァンは咳払いした。
無論彼とて我が子は可愛くないわけではないが、父親の立場ではわずかひと月前からの付き合いである。
まだナタリーや父母のようにどっぷりとは嵌れない。
それにフィリップはいかにも新生児に毛が生えた程度の赤ん坊らしく、泣くのでなければ終日すやすやと眠ってばかりだ。
まだ笑ったりおもちゃを振り回したりもするわけではなし、ずっと見ていてもたいして面白いわけではない。
「冷たい方ね。ご自分の息子なのに」
このところいつものように、さりげなくナタリーは手をひっこめようとした。
イヴァンに言わせると出産以来冷たいのはナタリーの方である。
だがめげてはいられない。
「今朝、都に行ったんだ」
非難は無視してイヴァンは長椅子から立ち上がり、さらに妃の手を握り寄せた。
よろけたナタリーは困惑気味に目を伏せた。
ゆるく纏められた豪華な髪の耳元からこぼれ落ちた艶のある一房が、白い頬に濃い影を落としている。
このなめらかな頬がすっかり上気した時の艶かしさを知っている彼は少しぞくりとした。
「ええ、知っているわ。随分急にお出かけになったわね」
彼女の躯を半回転させて腕の中にひき入れ、その肩越しにイヴァンは優し気に微笑してみせた。
126 :
日常生活 3:2006/06/22(木) 03:27:30 ID:EBoUFUk1
必要とあれば(そして気が向けば)彼は、相当感じよく振る舞うこともできる。
主に外交交渉の席で発揮する才能ではあるがこれがナタリーにもある程度有効であることは結婚以来実証済みだ。
「即刻手に入れたいものがあったんだ。お前のために」
彼女の豪華な色の髪がふんわりと胸に絡んだ。
両手を組んで妃の胴の前で重ね、首をひねって見上げてくる瞳をじっと見つめる。
「……喜んでくれるといいんだが」
「まあ…」
親しい雰囲気が醸し出されたせいか、ナタリーは素直に微笑をかえしてきた。
褐色の澄んだ瞳だ。これが潤むと宝石のように贅沢で魅惑的な色になる。
その連想と記憶でまたもやぞくりときたのでイヴァンは急いで目を逸らした。
我ながら随分欲求不満が溜まっているようだ。
「ありがとう、イヴァン様。なんですの?」
彼は腕をほどき、傍らの小卓に載った革袋を取り上げた。中から硬く光を弾く壜を取り出す。
ナタリーの優美な眉の線がこわばった。
彼女は目の前に突き出された壜を眺めた。
「……それは」
歯切れの悪い発音に隠しきれない不快の色が滲んでいる。
「以前、あなたが風邪薬だと嘘をついて私に飲ませたお薬の壜に……よく似ているわ。あれよりは少し大きいようだけど」
イヴァンは頷いた。
「うむ。覚えていると思ったぞ、同じ店の薬だ」
「同じ店?──まさか、中身も同じなんじゃないでしょうね」
「同じだ。だから効き目についてはわかってるな。さあ、飲め」
イヴァンが勧めるとあっという間にナタリーは眉をさかだて、羞恥と怒りで瞳を燃え上がらせた。
柔和な笑顔でフィリップばかり見ている彼女の、この手の表情はこのところ久々である。
「あの後あなたとは口も利いてさしあげなかったわ。忘れたの?そんな怪しいお薬、二度と口にするものですか」
「『嘘をついて飲ませた事』に腹をたてただけだったろう?」
イヴァンはたじろがなかった。この反応は予測済みだ。
「あとは二人で愉しんだじゃないか。だから今回は正直に言う。さあ、ナタリー、飲んでくれ」
「信じられない!」
ナタリーはさらに眉を吊り上げた。壜を払いのける仕草で厭わし気に手を振った。
「まだいけないのよ。何を考えていらっしゃるの、イヴァン様」
「それは今朝までの話のはずだ」
「……」
ナタリーはちらっと彼の表情を窺った。
彼もすこぶるにこやかに彼女の綺麗な顔を見下ろした。
「報告を受けたんだが、今朝の検診でデアドールがお前にも言わなかったか?」
彼女の背がびくりと緊張したのをイヴァンは感じ取った。
「……もうそろそろオレと『仲良く』してもいい、とか」
内心の嬉しさを隠せずに、言わずもがなの一言を添えた。
「二人きりで」
「…え、ええ…そうだったかしら…?」
ナタリーは急に口ごもった。頬にほのかに色がさした。
「だろう?よし、あいつはちゃんと自分の仕事をする奴だ」
「そう…。じゃあ私、ぼんやりしてたのね、よく聞いていなかったの」
逆にのぞきこもうとするイヴァンの目から視線を逸らしてナタリーは小さく呟いた。
ますます赤くなっている。
「……イヴァン様、ほら、あそこの花瓶のお花……全部、私が今日お庭で摘んだのよ。きれいでしょう?」
この一連の反応で彼は確信した。
案の定、怪しからぬことに彼の妃はどこぞの貴族の奥方とやらと同様に、夜の生活の再開には気がのらないのだ。
知らぬふりをしていればイヴァンが手出しせずにいてくれると期待していたらしい。
127 :
日常生活 4:2006/06/22(木) 03:28:17 ID:EBoUFUk1
懐妊中の、夫が腫れ物に触るように気遣っていた安逸な生活が気に入ったのだろうか。
そういえばもともとナタリーは、情熱過多の彼に比べると淡白なほうである。
先に惚れたのがイヴァンだから故なのか、まず彼の求めがあって、それに応えるものだと思っている節がある。
それでもせっせと彼女を巻き込んだのでかなりイヴァンに合わせて誘う真似事くらいはしてくれていたのだが、このご無沙汰が続いた結果、そういう情熱も薄れてしまったのだろうか。
彼が切り出さなかったら、侍医から許可が出たことも自分から言い出したとは思えない。
だが甘い、とイヴァンは思った。
この自分の妃としてそれでずっと通ると思っているとしたらお笑いぐさだ。
「……オレはそんなにどうでもいい夫なのか?」
イヴァンは口を尖らせた。
ナタリーは驚いたようにイヴァンを見たが、慌ててまた目を逸らした。
精緻な細工物のような耳のふちまで赤くなっていた。
「ち、違うわ。でも久しぶりだから…ちょっと怖いの」
「お前はいつもそれだな。怖いだの恥ずかしいだのいやらしいだの変質者だのあっちへ行けだの」
イヴァンは美しい妃の腕を掴んだ。
彼女は軽く竦んだ。それがまた気に障った。
「そこまで言ってないわ」
「なにが恥ずかしい。フィリップが腹にいるときだって触らせてくれてたじゃないか。いろいろしてくれたし」
「だって」
ナタリーは眉を寄せて呟いた。何故か泣きそうになっている事に彼は気付いた。
これでは、彼がナタリーを苛めているようである。
「だって、久しぶりなんですもの。わたし…」
「本当に久しぶりなんだぞ!」
思わずイヴァンは怒鳴った。
以前のように優しく応じてくれると思っていたのに、矛先をかわそうとするナタリーに腹が立つ。
しのごの言わせず夫の当然の権利として彼女をこの場で押し倒しても全く構わないのだと考えると、期待が大きかっただけに朝からの忍耐力が散り失せそうである。
「オレは待ったんだ。おとなしく、誠実に。後ろ指をさされる筋合いはないぞ。高額の報酬を与えている優秀な侍医も許可を出した」
イヴァンは妃の目の前にぐいと壜を突きつけた。
「オレはお前と『仲良く』したい。だから、あとはお前がこれを飲むだけだ」
「あの……」
ナタリーは力なくかぶりを振った。
彼の思い描いたようにではないが、それでも頬や目元がほのかな色に染まっている。
「でも一体、どうしてそのお薬なの?」
「初めての時のように、お前を傷つけたくないからだ」
「え?」
彼は妃に顔を寄せた。
その、普段は陽気な目が幾分険しい色になっている事にナタリーは気付いた。
「お預けが長過ぎたからオレには優しくする余裕なんかない。なのにデアドールはうっかりした事をしでかせばお前は修道院行きだとほのめかす。ほらみろ、この薬でお前のほうをどうにかするほかないじゃないか」
128 :
日常生活 5:2006/06/22(木) 03:29:02 ID:EBoUFUk1
イヴァンは一気にまくしたてたが、ナタリーの聞くところ、全く説明になってはいなかった。
自分の計画が結局無理強いに変わりはないとおそらくわかっていないのだろう。
もっとも、この身勝手な思い込みと独断専行ぶりはなにも今に始まったことではない。
優しく甘い雰囲気を演出していたのは進歩といえない事もないが、やはり地金は変わらないらしい。
彼女は噴き出しそうな表情を一瞬浮かべたが、イヴァンの目が笑ってないのでぐっとこらえた。
こういう時の彼を笑うと後がいろいろ面倒なのはこれまでの付き合いで知っている。
「極端だと思うわ。…いつもそうだけど」
ナタリーの掌が胸をおした。イヴァンは唇をひき結んだままびくとも退かなかった。
彼女は甲の上に頬をそっとつけた。
「思わせぶりにしているわけじゃないのよ。お願いだから、わたしが怖いと感じる理由も聞いて」
「よし。手短かにな」
ナタリーは肩を竦めたが、やはり笑わないことに決めたようである。
「あのね」
たっぷり十秒近くもの間、ナタリーはためらっていた。
イヴァンが発狂しそうな気がしてきた頃、かぼそい声が聞こえた。
「わたし、すこし肥ったかしら?」
イヴァンは眉を寄せた。
幻聴だろうか。
今聞いた台詞と、腕の中の感触が一致しない。
彼女の背中から胴のあたりに手を滑らせようとすると、ナタリーが急いでぴしゃりと夫の腕をはたいた。
厭がるのを抱き寄せてみる。
「ちょっと、あの……やめて頂戴」
ナタリーは頬を染めて身をよじるが、ガウンと寝間着の下のほっそりとくびれた胴も、腰の上のあたりも懐妊前と比べて特に変わったとは思えない。
尻と腿にも掌を降ろしてみたが、魅力的な曲線はきちんと引き締まっている。
わけがわからない。
「どこが?」
「わたしに気を遣ってらっしゃるんじゃない?」
ナタリーは不信もあらわにイヴァンの顔を見つめた。
「自分ではそんな気がするの……『なんとなく』だけど」
イヴァンはあっけにとられてぽかんとした。
「……オレにさえわからなければそんなのどうだっていいじゃないか」
「イヤ」
ナタリーは意固地に呟いた。
「もし、あなたもそう思ったら?……元に戻った感じがするまで、あなたには見せたくないの」
「今見たい。確認してやろう」
「いやだってば!」
ナタリーは叫んだ。
「いつもからかうじゃない。前より胸が大きくなったとかなんとかいろいろ仰って…これでも、気にしていたのよ」
イヴァンの口がさらに開いた。
「いや、からかってるんじゃなくてそれは、よろこ」「とにかく」
ナタリーはピシャリと夫の声を遮った。
「そう思われるんじゃないかって不安なの。だから、もとに戻った気がするまではイヤ」
129 :
日常生活 6:2006/06/22(木) 03:30:09 ID:EBoUFUk1
なんという我侭な女だ。
自分はきっちり棚に上げ、イヴァンは心中舌打ちした。
だが、この我侭ぶりは、裏を返せばそれだけナタリーが夫婦生活の再開に神経過敏になっているという事かもしれない。絶対にイヴァンに嫌われたくはない、そう願う一心のあまり、……ともとれる。
いや、むしろイヴァンとしてはそうとりたい。
「……いつまでだ?」
我慢しながら訊ねてみると、ナタリーは要領を得ない顔になった。
「いつまでって?」
「……いつまで待てばお前は『元の感じ』に戻るんだ?」
ナタリーはほっとしたようにイヴァンを見上げた。
イヴァンの胸に指先を愛情こめた仕草で触れさせ、ナタリーは可愛い声で囁いた。
甘い香りが漂ってくる。吐息か、香水か、肌や髪か、それともそのどれもが入り交じった匂いが。
「いつになるかそれはわたしにもわからないけど、でも…」
「いつになるかわからない?」
イヴァンは吐き捨てた。例の壜を持ち上げる。
「そんなの待てるか」
蓋を親指の先で刎ね、中身を一気に呷った。
「あっ、イヴァ…!」
慌ててとめようとしたナタリーを遮った。
豪華な色の頭を鷲掴みにして引き寄せる。
何をする気か一瞬で悟ったらしいナタリーが咄嗟に両手をあげ、イヴァンの顎を挟んで押しやろうとした。
壜を投げ捨て、抵抗を押し切ってイヴァンは妃に顔を押し付けた。
ひき結んだ唇を舌で探りながら鼻梁をつまむ。
首を振ろうとしてそれもできず、ナタリーはしばらく頑固に我慢していた。
薬液の中でイヴァンが彼女の唇に噛みつくと、ひるんだように線が緩んだ。
舌を差し込み、彼女を揺さぶるようにしてとろりとしたうす甘い液体を注ぎ込む。
ほとんどを注いでもイヴァンは彼女を離さずにいた。
ナタリーの指が髪や耳を引っ張っても意に介さなかった。
ほっそりとした喉が確かに中身を飲み下した事を指先で確認し、イヴァンはやっと顔を離して彼女を解放した。
咳き込みながら、ナタリーは喉に両手をやった。
「ひどいわ。ま、待つ気なんか、最初からないんじゃない!」
「誰が待つと言った」
顎に垂れた薬を拭ってイヴァンは平然と嘯いた。思っていたより美味で飲みやすい。
もっとも目的を考えると、まずい味では気分がぶち壊しであろうからそれは当然かもしれない。
ナタリーは咳き込んだために涙の滲んだ瞳をあげた。
「また私を騙したわね。そんな嘘つきとは二度と『仲良く』なんかしないから」
急いで背を向けて駆け出す妃を、イヴァンはあっさり取り押さえた。
勢いよく抱き上げるとナタリーは真っ赤になって身をよじった。
「いや、放して!…しゅ、修道院に行くわ。あなたなんかともう逢うものですか」
「馬鹿な事を」
イヴァンはせせら笑った。
腕の中の躯の柔らかさに血が沸き立っている。
これはおそらく、今ごくわずかに口にした薬の効果などではあるまい。
彼はもうずっとこうしたかったのだ。
「修道院に入ればフィリップにも逢えないぞ。それにお前はオレの妃だろう?」
「それは……そうだけど」
ナタリーはちょっと怯んだようだった。それでも、頬は腹立たしさを透かしてひきしまっている。
その凄みも美しかった。
130 :
日常生活 7:2006/06/22(木) 03:31:04 ID:EBoUFUk1
「オレを愛しているだろう?」
「………そう…かしら」
厭味な抵抗は無視して彼は強調した。
「夫の要望は叶えるべきだろう。愛しているなら尚更だ」
「………」
「オレもお前を愛している」
彼女の頬にこめかみを当てて、一転、イヴァンは優しく囁いた。
「何も問題はない」
「………」
ナタリーは視線を伏せた。
「……そうかしら」
「少し熱くなってきたな」
「……………」
ナタリーは睫の下からイヴァンを見た。イヴァンも上目遣いに彼女を見た。
「飲んだの?」
「一口」
「馬鹿な人。すごくつらいのよ」
「お前に鎮めてもらうから大丈夫だ。お前はオレが責任をもって鎮めてやる」
ナタリーはしばらく黙っていたが、脇の下からそっと背中に手が廻されたのをイヴァンは感じ取った。
彼女はぽつりと呟いた。
「妃って、損ね」
「なぜ?」
「あなたっていつもこうなんですもの。……イヤだわ」
拗ねたような声に、心なしか微妙な響きが混じっている。
イヴァンの指がドレス越しの腰や尻を撫でているからかもしれない。
「まさか」
彼はにやりとした。
「すぐに撤回したくなるに決まってる」
「このお薬…」
ナタリーは上気した頬を夫の鎖骨のあたりにすり寄せた。
「…恥ずかしいのに。は…はしたなく……なるんですもの」
「期待している」
「嫌わない?」
イヴァンは白状した。
「はしたないお前も大好きなんだ」
*
半時間後、寝台の上でナタリーは夫の躯にすんなりとした腕を絡み付かせ、蕩けるような声を漏らしていた。
がウンも寝間着もほとんど躯から落ちかけていて、緩く結っていたはずの髪も乱れてシーツを覆っている。
剥き出しになった首筋や肩にはいくつも淡い痕が落ち、白い太腿の間にイヴァンの腕の先が消えていた。
「…は…ぁ…」
ナタリーは熱い吐息をつき、力なく首を巡らせた。
美しい顔に満ちているものは絶対に嫌悪ではない。
「あ…、……ん、ん…ぅ…」
指先にぎゅっと力がこもり、閉じた瞼を震わせる。
かるく背筋をそらして躯をくねらせ、彼女は喘いだ。
「…あ、あぁん、…やめて…やっ…いや……イヴァン様……」
「やめたら怒るだろう──言葉と躯が一致してないな」
イヴァンは彼女の耳に口をつけて囁いた。彼の声も興奮でうわずっている。
「遠慮はなしだ。もっと感じて、もっと甘えろ」
「………もっと?」
染まっているナタリーの目元が色を増した。
イヴァンが腕を押し付けると腰をくねらせて喘いだ。
「…ふ、ぁんっ!…意地、悪…」
131 :
日常生活 8:2006/06/22(木) 03:31:58 ID:EBoUFUk1
「…ああ、本当に…久しぶりだ、くそっ!」
イヴァンは悪態をつくと指を引き抜き、ナタリーのガウンの残骸をむしった。
細い鎖骨の曲線があらわになる。
その下に稔る豊かな乳房が目を射た。抜けるような白さが眩い。
ものも言わずに抱きすくめるとナタリーは彼の頭に腕を廻して来た。
「はぁ…あん……」
細くくびれた胴から掌で撫で上げ、指に吸い付くそのふくらみを揉みしだく。
「んんっ…ああ…あー…」
握った指から、豊かさを誇示するようにいびつな弧を描いてはみ出す肌に舌を這わせた。
少し濃い色に充血した乳房の先端を唇で挟み、強弱をつけて吸い上げながら口の中で転がす。
美しい胸のかたちを保つための上流階級の倣いに添って、ナタリーも息子に普段授乳はしていない。
酷使されない乳房は柔らかくハリがあり、彼の指を弾力のぎりぎりまで沈み込ませる。
「そんなに…きつく、吸わない…でぇ…」
ナタリーはぴくぴくと肩を震わせ、イヴァンに訴えた。呂律がうまく廻っていなかった。
「フィリップ…にも、そんな事…」
「ここはオレのためのものだから、いいんだ!」
イヴァンは唸った。かたくピンとそそりたった乳首に舌を絡めてこすりたてるとナタリーは啜り泣いた。
「だめ…ああ…あ〜…いや!おかしくなっちゃう……」
火傷しそうに熱い脚がなめらかにイヴァンの腰に巻き付いてくる。
彼女の茂みがふんわりと腹に触れ、はっきり恥骨を擦り付けられて彼はだらしなく頬を緩めた。
瞼を半分閉じて酔ったような瞳が彼を見上げた。宝石の輝きだった。
「ね……苦しいの、イヴァン様」
イヴァンは眉をあげて疑わしげに彼女を見る。
「なにが?」
ナタリーは潤んだ目で微笑した。
「…意地悪ね」
彼女はイヴァンの首に腕も巻いた。
頬を寄せて夫の耳に糖蜜を溶かしたような声で囁く。
「イヴァン様……」
「どうして欲しいんだ。言わなくちゃわからない」
「……責任をとって」
ナタリーはそう言いながらイヴァンの耳朶を軽く噛んだ。耳介に軽く、濡れた舌を這わせてくる。
その繊手をとり、彼は自分の腰に引き寄せた。
嵩高く勃起したものに触れてもナタリーは厭がらなかった。
それどころか美しい瞳はますます潤み、イヴァンが導くまでもなく自分から指を絡めて優しく握りしめてきた。
彼は満足の吐息をついた。
「わかった」
イヴァンは彼女の腰を掴み、すらりとした脚を持ち上げさせた。
彼女と寝台にもつれ込んでからそう時間がたっているわけでもないのに、相当せっぱつまってきていた。
長い禁欲のせいかもしれず、多少は薬のせいもあるのかもしれない。
だがなによりも、ナタリーの艶めいた反応が影響していると彼は思う。
本人は肥ったとかなんとか予防線を張っていたが、こうして抱いていてもやはりイヴァンに違和感はなかった。
ただひたすら、気持ちよく、愛しいだけだ。
132 :
日常生活 9:2006/06/22(木) 03:32:33 ID:EBoUFUk1
彼女の指に導かれての挿入は素晴らしかった。
力を入れずとも深みに吸い込まれていくようなしたたかな弾力と複雑な襞の動きも一層彼を駆り立てた。
「……ナタリー…」
一旦収まると、いるだけで容赦なく高まっていきそうな快感から気をそらすためにイヴァンは囁いた。
「イヴァン様」
うっとりとナタリーは囁きかえし、イヴァンの襟をかき広げた。
露出した躯がきめのこまかな彼女の肌とぴったりと密着する心地よさに呻く。
彼の重みに抵抗したふくらみが胸を押し戻し、たっぷりと揺れた。
その柔らかさを肌で味わいながら躯を揺らす。気持ち良さに声が漏れる。
段々我慢できなくなってきたイヴァンは妃の綺麗な髪に指をさしこみ、乱暴に掻き回した。
彼女を抱くといつもそうだが、可愛がりたいと同時にめちゃくちゃにもしたくなる。
壊してしまいたい。その衝動を抑えるために代わりに髪を犠牲にしているのかもしれない。
躯の熱であたためられたいい匂いが周囲にたちこめる。
息を継ぎ、しっとりと彼を引きいれる濡れた肉の感触を味わいながら、イヴァンは控えめな動きを開始した。
「あ、あぁん……あ…はぁ…」
絡みつく蜜が助ける抽送を、同じく濃密に絡みつく襞や複雑な肉の構造が裏切り退ける。
矛盾に満ちた彼女の内側は柔らかくて弾力があり、たとえようもなく熱い。
このままどこまでも入り込み、融け入っていきたい。
「ナタリー……ナタリー、気持ちいいか?」
何度も繰り返される満ち引きのたび、ナタリーは全身で悶えた。
「あぁ…ん、ぁっ…!……いいわ……いい…もっと……」
夢中になっている時の彼女はこの上もなく素直でもある。
こんなナタリーも久しぶりに見た。
よくぞ今日まで我慢したものだ、とイヴァンは己の意志の強さを内心褒めたたえた。
馬鹿正直に侍医の許可を待つまでもなくとっとと襲っていれば良かった、などと喜びのあまり勝手な感慨を持ってみる。
本当に処女だった時は別だったが、今では彼女は彼の熱心な仕込みですっかり開発されているのだ。
薬の効果もあるのかもしれないが。
なにが第二の処女だ。そんなものくそくらえだ。
「あぁ…んっ、ぁん……イヴァン…さ、ま…っ」
油断をすると落ちそうな腕をぴったりと彼の首に廻して一緒に揺れているナタリーが耳元で喘いだ。
声まで震えている。
「そんなに、遠慮なさっちゃ、いや…!」
目を見る。
蕩けて柔らかな羽毛のような感触の視線が見返してくる。
「……もっと……ん……っ…あ、あん」
貫いた腰が切な気にくねり続け、濡れた肉が蠢きながら彼をもっと誘い込もうとしているのがわかる。
イヴァンは明るい色の目で上気しきった肌に欲情をあらわにした妃を眺め、だらしなく口もとを緩めた。
「だがな、侍医からは優しくしろと言われた」
「そんな…のっ…あ…」
ナタリーはかすかに躯をそらしかけ、イヴァンが動きを緩めたので喘いだ。
「いや…!…鎮めてやるって、さっき…仰ったのに」
「お前もな」
彼は囁いた。腰に廻された薄い爪先が食い込んだ痛みに興奮をそそられている。
「わかってるわ」
淫らで、だが期待にきらきらした目が彼を見上げた。
「二人で協力すれば……」
「どう協力すればいい?」
下から順に圧し潰された曲線に触れていくと、ナタリーは訴えるような視線を絡めてきた。
完全に『嵌っている』瞳をしている。
喘ぎながら彼女は言った。
「何も…あ、あっ…なにも…考えないで」
「簡単だな」
イヴァンは背に力をいれた。
ナタリーの熱い躯を抱き、あとは本能に任せた。
耳元で繰り返されるナタリーの乱れた喘ぎ、彼を包み込む香しい香り。
ぴったりと同調する彼女の躯。
好き、とナタリーは口走った。
「愛してるわ、イヴァン様…あぁ、いや、すごい…!」
絡んだ脚に一層力が加わったのがわかった。
彼の動きにあわせて腰をとめどもなくうねらせ、すすり泣く。
「好き……好きよ、好き……好き!」
動きながら唇を探すと、ナタリーは自分から受け入れた。
舌が絡まり、言葉の続きを彼は耳ではなくその動きで感じ取った。
これだとイヴァンは思った。これが欲しかった。
なぜ自分が約束通り浮気もせずに辛抱していたか、その理由がよくわかる。
「オレもだ……オレも、ナタリー、愛している」
唇を離し、イヴァンは唸るように言った。
「出る。もういかん、出すぞ」
「あ…っ……」
ナタリーの指先が、ほとんど爪の部分でイヴァンの肩を掴んだ。
「あっ!ああぁ、待って、はっ…」
速まった動きに、彼女は艶っぽい、切な気な喘ぎを漏らした。
柔らかな躯が揺れた。
高まる一方の刺激にこれ以上抵抗する事などできなかった。
最大限に膨れ上がった瞬間を逃さず、イヴァンは妃の腰を掴み、ほとんどぶつけるように我が身に引き寄せた。
迸るような最高の、久しぶりの一番奥での射精。
あまりの鮮やかな達成感に唸る事すらできなかった。
己の中身がそのまま流れとなって迸るような感覚に一瞬呼吸を忘れた。
しばらくの間清浄だった彼女を穢す快感がそこに混じっている事を感じたが、ナタリーは厭がってはいないようだった。
*
イヴァンがようやく大きな吐息をついて見下ろすのを、ナタリーは濡れた瞳で見返した。
乱れた豪華な髪が豊かにシーツを彩り、薔薇色に上気した肌が赤い唇と溶け合っている。
豊かな胸をふるふると上下させながら、彼女は甘い声で囁いた。
「イヴァン…さま…」
彼が組み敷いている女は淫らで可愛くて綺麗だった。しかもイヴァンを愛している。
彼のために息子を産んでくれたし、これからもきっと山のように産ませる事だってできる。
それらの事実と期待を再確認し、好きな女を妃にする幸運について彼は、結婚以来何十度目かは定かではないがともあれまたもや思い至った。この件については数時間ぶっ続けで演説できるくらいだ。
勿論しないが。
汗ばんだ柔らかな肌に触れながら、彼は囁いた。
「イってないだろう?」
「……わかる?…」
ナタリーが潤んだ視線でイヴァンを見つめた。
「わかる」
「まだ苦しいの」
「わかる」
イヴァンは頷いた。放出したばかりのモノをゆるやかに行き来させるとナタリーは綺麗な顔をのけぞらせた。
「あ…はぁ…あん…」
指を添えると、ナタリーはびくっと躯をこわばらせ、すぐに力を抜いた。彼が預けていた重みを浮かせると切な気な声をあげる。
「あ、いや…抜かないで、イヴァ…」
「まあ待て」
イヴァンはにやにやした。
彼は妃と違って一口しか例の薬を嗜んではいないやめ、この、滅多にない状態のナタリーを観察するという楽しみがある。
「しばしの休息を要求したい。しかる後改めて再試合を申し込む……いいだろう?」
「それまでこのままなの?」
ナタリーはかなしげに彼の胸に縋り付いた。
「我慢できない。おかしくなりそう」
「大丈夫だ、それまで巧く助けてやるから」
宥めながらずるりと抜き去る。ナタリーは「んっ…」っと呻いて目を閉じた。
イヴァンは仰向けに寝台に寝転がり、傍らに彼女の胴を引き寄せた。
打てば響くようにしがみつき、すぐに夫の腿に脚を絡めようとする。
イヴァンはそれを赦してやり、引き締まってやわらかな腹がじれったげに腿に擦りつけられる魅惑的な体験を愉しんだ。
ナタリーは自らの動きのたびに可憐な声で喘いでいたが、時々動きを抑えている様子である。
もっと動きたいのに、この期に及んで必死に我慢しているに違いない。
この薬は心の抑制を解き放つ効力があると以前店主は言っていたが、服用してもこの状態では、彼女にとっては自分の欲望をあらわにするのはよっぽど恥ずかしい事なのだろうか。
ふと、いい(例によって自分勝手な)事を思いついてイヴァンは明るい色の目を輝かせた。
「ナタリー」
優しい声で呼ぶと、彼の妃はすぐに顔をあげて夫を見た。彼の一番忠実な猟犬よりも反応が速い。
「手を貸せ」
胸に縋り付いている指先を握り、目の前にかざした。
「指を広げて。そうだ、そちらの手も」
不思議そうな色を目に浮かべたが、ナタリーは素直に指を広げた。
甲の側からその指の間に自分の指をさしこみ、イヴァンはゆっくりと腕を下げさせた。
ふに、と行き止まる。
ナタリーはじっとイヴァンの掌に包まれた自分の手を見下ろした。
自分の両手で乳房を抑えている格好である。
「イヴァン様?」
顔をあげた妃にキスをして、イヴァンは指を動かし始めた。
華奢な指越しにやわらかな肌に指先が沈む感触。弾力に弾かれて戻る反応。
「あっ…!あっ、や…やだ、これ……!」
直接ではないので指先に吸い付くようないつもの感覚には欠けているが、これはこれで悪くない。
なにより、ナタリーの動転した表情がたまらない。
「恥ずかしいわ、手を放して」
真っ赤になって彼女は訴えた。当然無視して、イヴァンはさらに指に力をこめた。
振りほどこうとする彼女とイヴァンの力が複雑に入り交じり、結果として乳首が二人の指の隙間でひどく刺激されることになった。ナタリーは細く叫んだ。
「あっ…あぁ……!」
その乳首を掌を浮かせて乳暈ごと吸いたて、イヴァンは彼女の片方の手首を握りしめた。
強い力で乳房から離してじりじりとさげていく。なめらかな腹からくびれた腰を伝い、腿を通って前面へ。
「いや、そこは…だめ…駄目…!」
なにをするつもりか完全に察したらしいナタリーが喘ぎながら嘆願した。
イヴァンは顔をあげ、唇を塞いで黙らせた。
その勢いで彼女の指ごと茂みを掴み、やわやわと揉みしだく。
ナタリーは思い切り背をそらして叫んだ。羞恥と興奮で全身が上気している。
「あぁんっ!」
「した事はないのか?」
半ば覆い被さるように躯をずらせてイヴァンは尋ねた。
「オレとできない時、自分で慰めた事は?」
ナタリーは真っ赤になってかぶりを振った。豪華な長い髪がシーツや肩の上で輝いて跳ねる。
「しっ……しらないっ、ああ、やめ…っ」
イヴァンの指ごと細い中指がずぶりと濡れそぼった谷間に沈みこみ、彼女は声もなく悶えて身を震わせた。
「んあぁ、はっ…ん……!!」
「したんじゃないのか。一人で」
イヴァンはにやりとした。
「浮気なら相手を殺すが、これは赦す。オレを想っての事ならばな」
「……あ……あぁ、はぁ…こんな事し、してないってば、してないわ!…ほ、……あぁ、は、…本当よ」
ナタリーは必死の表情で叫んだ。
が、狭い自分の『中』でイヴァンに指先を弄ばれているために、その声は虚ろだった。
イヴァンはじろじろと美しい妃の紅潮した表情を見た。
「ムキになるのが怪しい」
「む、ムキになんか……ひ、あぁあああああっ」
もう一本、自分の薬指をイヴァンに押し込まれてナタリーはまた悩ましい声をあげた。
普段は抜けるような色の肩から胸元まで濃い桃色に染まっている。
もう片方の手はまだ乳房を握りしめたままなので、イヴァンに抱かれた彼女の姿の淫らなことといったらない。
「いやぁ…こん、なのっ…やめて…んっ…んん…」
抵抗の言葉は、添えた指を彼が根元まで押し込むとほとんど消えた。
精と混じり合った蜜の音とナタリーの艶かしい喘ぎが途切れながら延々と続き、やがてイヴァンは涼やかな顔でおもむろに指を引き抜いた。
「さてと、休憩は終わりだ。こい、ナタリー」
「ふぁ……ん」
夫がのしかかってきても彼女の反応は鈍かった。
ひくひくと身を震わせながら、潤み切った瞳を呆然と天井に向けている。
「おい、しっかりしろ。いくぞ」
「……あ…ああ、え……あん!!」
片方の脚を掴まれて掲げ、深々と貫かれた彼女はやっと正気を取り戻したように夫にしがみついた。
「あっ、イヴァ……あっ、あふぅ、ん…あぁっ!」
気遣いの擬態はかなぐり捨てて、イヴァンは初手から存分な往復を始めた。
これだけ興奮した事は、まああることにはあるが、久々である。
なにせさっきは、最後には夢中になって自分で乳房を揉みしだいていた彼女の姿をしっかとこの目で確認した。
下手をすると腰が抜けそうな気がするほどの艶姿だった。
いつもこうでもいいんだが、と彼は動きながら思った。
だがそれは──そんな有様も勿論ナタリーではあるが、なんだかナタリーではないような気もする。
普段のきりっと清楚でどこか優し気な雰囲気も好きなのに、その彼女がすっかり壊れてしまうのは気が進まない。
この薬はやはり普段は封印しておいたほうがよさそうだ。
習慣性があるらしいから虜になるのはよくないし、そう、次にまたこんな──
「ナタリー…」
彼は『再試合』の余裕で、抱きすくめた妃を執拗に突き上げながら語りかけた。
「次に子を産んだら……またこれを飲む事にしないか?」
ナタリーは全然聞いてはいなかった。
夫にすがりつき、脚を絡めて嫋々たる啼き声をあげている。
「……飲もうな。よし、約束だ」
身勝手に決めつけて彼は妃に集中した。
今度はナタリーの方が先に陥落した。もっともその前、苛めているときに何度かイカせてはいたのだが。
彼女が達したそのあとで、イヴァンは愉しみながら悠々と二度目の射精をした。
*
すっかり疲れ果てたらしい。
ナタリーはしどけなく腕を曲げ、イヴァンの胸に頬を預けてぐっすりと眠っている。
その綺麗な髪を滑らかに整えてやりながら、さてと、と彼は考えこんだ。
前回確かナタリーは、半日ずっと彼を無視した。
明日正気に戻った彼女はどのくらい経てば口を利いてくれるだろうか。
「愚問だな。…こいつはなんのかの言ってもオレを愛してるんだから」
反省なしこだわりなし躊躇無し。
それが日常生活上の基本態度となっているイヴァンは今回も長くは悩まなかった。
侍医デアドールが今夜の顛末を察すれば、きっとお灸を据えられるに違いない。
だがそんな下々の民のような心配は最初から心にも浮かばず、可愛い妃の裸体を抱き寄せて、お気楽な王子は久々の幸せな眠りにつくのであった。
おわり
久しぶりの続編に心底GJ
この微笑ましさが素晴らしい
GJ!欲だけでなく愛が底にあるのがいいですね。
イヴァンかわいいよイヴァン。
エロも興奮するけどテンポの良い会話が大好きです。
ナタリーの過去ログが読みたい…
dat落ちかよ…
ネ申と呼んでイイレヴェルジャマイカ!
スゴクGJ!!!!!!!!!
凄いな〜・・・
まだやってんのかコレ・・
何さ
>>129 素晴らしいです!
首を長くして続きを待っていた甲斐がありました!
あ、WEB上で開くとページ内リンクが作動しないので
一旦保存してから開いてもらえると嬉しいです。
>146
お疲れ&GJ!
これだけまとめるのは大変だったろうに
相変わらず超gj!!
我が道をいくイヴァンのアホさ(褒め言葉)と、
振り回されつつ亭主大好きなナタリーの可愛さがたまらない
GJ!素晴らしいの一言です。ナタリーの恥じらいぶりに萌えました。
従者スレを見てからファンになって、保管庫で過去の作品読ませて頂きました。
シュチュに合わせて、あちこちのスレで読めるものいいですね。
スレを巡る楽しみが出来ましたよ。またの投下をお待ちしてます。
そろそろ圧縮だぞ
書いてる途中の人がんがれ
>>152 800超えたら圧縮だったっけ?
対象スレの基準がよくわからんが
スレ数が大体800超えで圧縮開始、700程度に調整される
対象は500KBを超えている、あるいは最近書き込みがないスレ
書き込みはageだろうがsageだろうが関係ないとの事だ
ここは圧縮の心配なさそうだけどね
前スレに投下していたSSの続編を投下します。
あまり状況は変わってません。
新王テオドルは今宵も妻の寝室へと急いでいた。
既に深夜である。政務が溜まってこんな時間になってしまった。哨戒の兵士以外は
ほとんどの者が眠りについており、小姓たちとすれ違うこともない。
国王は想像以上に激務であった。即位前から国政を牛耳っていたときには不要で
あった儀礼や雑務が新たな負担としてのしかかってきていた。
さして重要でない宗教行事や文化・福祉行政は共同統治者であるアーデルハイトに
任せることにしたのだが、政務が深夜に及ばない日のほうが珍しいくらいである。
普段ならそのような日は自室に戻り、翌日の政務に備えて一人で床につくところだ。
しかし、明日の午前に予定していた隣国の大使との面談が取りやめになったため、
あえてアーデルハイトを抱きに来ることにしたのだった。
彼は無人の控えの間を抜け、寝室の扉の前に立った。
ふと思いついて振り返ると、傍らの壁に造り付けられた燭台から蜜蝋燭を一本抜き取る。
彼はその灯火を掲げ、静かに扉を開いた。
寝室に灯りはなかったが、想像していたよりもずいぶん明るかった。硝子窓から
斜めに差し込む月光が、室内を清らかに浮かび上がらせている。
テオドルは先ほど渡り廊下で足を止め、月を眺めたことを思い出した。
彼は苦笑し、蝋燭を吹き消して手近なテーブルの上に置いた。
しかし、寝台には肝心のアーデルハイトがいなかった。テオドルの視線が走り、窓際の
長椅子の上で止まる。
愛する妻は、そこで静かな寝息を立てていた。
彼は足音を殺し、静かに彼女に近寄った。
黒いドレスに身を包み、毛布を胸元まで引き上げたアーデルハイトが椅子の背に並べ
られたクッションにもたれて眠っている。
この部屋を訪れるのは今宵で4度目だが、ようやく喪服以外を身にまとう彼女を見る
ことができた。毎度毎度ひき破った甲斐があったというものだ。
彼は窓枠に尻を載せてじっくりと妻の寝姿を観察した。
青白い月の光に透明感のある肌がくっきりと白く浮かび上がり、沈み込む黒いドレス
との対比が美しい。
ドレスは華美を好まぬ彼女の趣味を反映した簡素な作りであったが、胸元や袖口に
あしらわれた繊細なレースがその清楚さを際立たせていた。
ヴェールを着用していないむき出しの額に、一筋二筋と髪がこぼれている。秀麗な顔
を取り巻いた豊かな黒髪の先は、同色のドレスに溶け込んでいた。
アーデルハイトの顔には少々疲労の色が見える。
無理もない。テオドルへの抗議のためにきっちりと衣服を着込んでいるので、寝台で
手足を伸ばして寛ぐことができないのだ。
彼はその気概に半ば感心し、半ばあきれた。
テオドルは立ち上がった。今宵はどのように抱こうかと考えを廻らせていたのだが、
いっこうにまとまりはしなかった。
吸い寄せられるように近寄り、わずかに開くみずみずしい唇を自分のそれで塞ぐ。
歯を割って舌を滑り込ませ、アーデルハイトの舌を絡め取った。
アーデルハイトの瞳が大きく見開かれた。一瞬戸惑ったようだが、状況を察知すると
激しく身を揉む。
しかしテオドルは妻の背後に両腕をまわすと、後頭部をしっかり押さえ込んで口腔内
を陵辱していった。唇の端から混ざり合った唾液が漏れ、アーデルハイトの顎に筋をつくる。
「つっ……!!」
突如、鋭い痛みが舌を襲った。テオドルは慌てて舌を引き抜いて身を離す。
「随分な挨拶だな。お前と国を守るためにこんな時間まで政務に励んでいた
というのに」
手の甲で唇を拭いながら言い放つ。
「先触れもなく寝室に入り込み、人の眠りをさまたげることのほうがよほど随分な
挨拶です」
アーデルハイトは低い声で静かにそう返した。テオドルの目を見ようともしない。
「そうか。では非礼を詫びるゆえ、妻として激務の労をねぎらってはくれまいか」
テオドルは一歩退いてみせた。慇懃に跪いてアーデルハイトを見上げているが、
ふてぶてしい笑みを満面にたたえている。
アーデルハイトは形の良い眉をひそめた。このような問答には慣れていない。
毛布の上にきっちりと重ねなおした白い手の甲に一瞬視線を落としたが、ゆっくりと
顔を上げてこう言った。
「それではあちらの寝台をお譲りいたしましょう。どうぞご随意にお寛ぎを」
そして毛布を引き上げ、一人寝を決め込もうとする。
「ご随意にか……」
テオドルは顎をなでた。伸びかけた髭がざりざりと手のひらを擦る。
その言葉の不穏な響きに、アーデルハイトは自分の吐いた言葉を後悔した。
言い直そうとするいとまもなく、不躾に伸びてくる二本の腕に身をすくめる。
「確かにここで寛ぐのは難しいな」
テオドルは妻を軽々と抱き上げ、寝台へと歩き出した。
アーデルハイトは大人しくその腕に身体をあずけている。
前回、あまりの抵抗に手を焼いて、そのまま床に押し倒して交わったのがこたえた
らしい。
意図した通りに支配力を強めていっていることに、テオドルはかすかな満足を覚えた。
寝台にそっと妻を横たえると、テオドルはそのドレスの胸元に手をかけた。
「なりません……!」
アーデルハイトがその手を払い除け、両肩を固く抱きしめる。
常とは違う強い口調に違和感を覚え、彼はいぶかしげに手を止めた。
「わたくしたち王族の身につけているものは、すべて民の納めた尊い税で賄われて
おります。無駄に引き裂いてはなりませぬ」
しかし、必死の意見はテオドルに鼻で笑い飛ばされてしまった。
「ならば裂かれぬよう、自分で脱いだらどうだ?」
アーデルハイトはぐっと返答に詰まった。晴れた日の湖面のような深く青い瞳が
上目遣いに夫を睨み付けている。
――怒る姿も似合うな。美しい。
彼は身勝手にそう思いながら腕を組み、薄笑いをたたえて待った。
アーデルハイトはうつむいた。自分の膝の先あたりを眺めながら、思案にくれて
いるようだ。
やがて震える指先がゆっくりと上昇し、胸元を支える交差した絹紐にかかった。
眉間に刻まれた深い皺が彼女の屈辱をあらわしていた。
だが、それ以上指は動かなかった。アーデルハイトは唇を噛み締め、肩を震わせ
ている。
発した言葉を違えぬために脱ぐべきか、心の抵抗を貫くために脱がぬべきか。思考が
いつまでも逡巡し、決着がつかない。
「……遅い!」
テオドルが動いた。
アーデルハイトの両肩を掴んで寝台に押し倒すと、胸元の紐を強く引く。
「待っ……!!」
抗議の声を無視し、肩を露出させて袖を引き抜くと、そこから勢いよくドレスを引き
破っていった。
屈して自ら衣装を脱いでしまえば、後々まで悔いが残るに違いない。
押さえきれぬ欲望にかられた行動のように見えるが、妻の自尊心を傷つけぬための
心配りであった。
テオドルは果物の皮を剥くように、衣服としての機能を果たさなくなった布切れを剥いで
いく。腰周りを幾重にも取り巻く布の類を強引にもぎ取ると、絹の薄い靴下をゆっくりと
剥いて細く白いたおやかな素足を露出させた。
コルセット1枚を残して作業を終えると、腰の後ろから短剣を引き抜く。
4度目の作業は手馴れたものだった。ほどなく白く滑らかな果肉をすべて露わにする
ことが出来た。
ようやく目に馴染んできた裸身をそのままにして、彼は自分の衣服を脱ぎ始めた。
「少し待てよ。すぐに愛しんでやるからな」
待ちたくはないであろうが、アーデルハイトはかき寄せたドレスの断片で可能な限り
素肌を隠し、大人しくうずくまっている。
逃げたところでこの部屋を飛び出すわけには行かない。テオドルの妻の座は、
降りることが叶わぬものなのだ。
月光が落とした無彩色の影が、彼女の無念の胸中をあらわしていた。
全裸になったテオドルは、そっとアーデルハイトを抱きしめた。
額、瞼、鼻梁、唇――触れられるところすべてに口付けの雨を降らせてゆく。
しかしそれは思うようにはかどらなかった。
強い抵抗こそしないものの、アーデルハイトは終始無言のまままとわりつく彼の腕を
おだやかに払い除けると、少しでも拘束がゆるいところへとしなやかな身体をすべらせて
彼の愛撫を拒絶していた。
無言の攻防を幾度か繰り返した後、テオドルは舌打ちしてより積極的な行動に移る
ことにした。
妻のほっそりとした両腕を捕らえてその背にまわすと、両手首を交差させて片手で
握り締め、上体をシーツに押し付けて自由を奪う。
空いたほうの手が豊かな黒髪を掻きあげた。髪に内包されていた空気が動き、
体温に暖められた甘い香りがひそやかに立ちのぼる。
襟足の生え際は、筆で描かれたようにくっきりとうかびあがっていた。
滅多に外気に触れることのない耳の後ろの皮膚が透き通るように白く滑らかだ。
彼は誘われるようにその部分に唇をつけた。
アーデルハイトの身体がぴくりと跳ねる。
相変わらず一言も発しないが、きめの細かい肌の敏感さは唇の皮膚を通して伝わってきた。
舌をちろりと出して舐め上げると、耳介を口に含む。歯で軽い刺激を何度も加え、
耳孔に舌を差し込んだ。
耳から首筋にかけての部分が特に敏感であることは既に把握している。
息を吹きかけながら舌をうねらせると、アーデルハイトは大きく仰け反った。指先まで足を
ぴんと突っ張り、捕らえられている腕にも力が入る。仰け反ると逆に耳元が彼に押し付け
られることになり、彼にとっては好都合に運んだ。
テオドルは時間をかけて丹念に耳を責めていった。
刺激を終えて身を離すと、アーデルハイトは荒い息をついてぐったりと横たわっていた。
その躯の下に腕を差し込み、そっと仰向ける。
無彩色の世界でも彼女が上気している様子が見て取れる。
だがすぐに表情を引き締めた彼女は、きっ、とテオドルをにらんできた。
満足げにあがった唇の端を見咎められたのだ。
――まあいい。
テオドルは胸のうちでつぶやいた。
――責め甲斐があるというものだ。今に表情(かお)も心も蕩けるほどの悦楽を味合わせてやる。
彼は妻の両手首をふたたび捕らえると、その乳首にかぶりついた。
耳と同様に舌を執拗に使い、じっとりと濃厚な愛撫を加えていく。
アーデルハイトの呼吸がふたたび乱れ始めた。
テオドルは片手を離した。慌てて乳房を守ろうとする妻を尻目に、その手は下半身へと伸びる。
指先は柔らかな茂みを抜け、ふっくらと寄り合わさっている丘へとたどり着いた。
アーデルハイトの繊手が慌ててその後を追ったが、指は既に終着地点へと辿り着いている。
必死で寄り合わせる腿も、強い意志をもってねじ込まれてくる指先に対しては無力であった。
人差し指と薬指が柔らかな双丘をそっと押し開き、中指がその奥へと潜り込む。
「……!!」
アーデルハイトの顔が不快感に大きく歪んだ。
テオドルは構わず指を進めていく。指一本ということもあって痛みはないようだ。
アーデルハイトの指が彼の手首に絡みつき、指をひっぱり出そうと試みているが、力の差は
歴然だ。
と、焦った彼女が拳でテオドルの腕を殴りつけた。
体内で指がぶれ、先端が思わぬところを突き上げる。
悲鳴こそ発しなかったものの、その痛みにアーデルハイトは大きく仰け反って息を呑んだ。
テオドルはため息をついた。
「大人しくしないからそういう目に遭うのだ」
慰めるように妻の額や瞼に唇を落とす。静かに指を動かして内部が無傷であることを確認し、
最深部までそれを沈めた。
暖かい肉襞がうねるように彼の指を包み込んでいる。
アーデルハイトの表情が再び歪んだ。不躾な侵入への不快と、湧き上がる得体の
知れない感覚への不安が顰められた眉から読み取れる。
テオドルは人差指と親指を曲げ、軟らかく小さな突起を挟み込んだ。
奥まで探りを入れていた中指も引き戻し、入り口を引き掛けるような軽い愛撫を与える。
うって変わった直接的な刺激にアーデルハイトの身体が硬直する。自由な腕が空気を
かきむしり、嬌声の代わりに熱い空気が唇からこぼれ続けた。
テオドルがようやく身を起こした。
溢れるように、とまではいかなかったが、準備は整った。
彼は妻の身体を開くように、その腿の間に腰を割り込ませる。
アーデルハイトが身をよじらせて抗議の態度を示したが、細腰を両手でがっちりと掴むと、
お構いなしにゆっくりと身を沈めた。
花蜜が彼のものに絡みつき、肉襞がみっちりと包み込んで来る。テオドルは今度は満足の
ため息をついたが、妻の辛そうな表情も見逃さなかった。
「どうした、まだ痛むのか?」
力なく払い除けようとする繊手を押しのけ、厚い掌で卵形の小さな顔を挟み込んでそう聞く。
アーデルハイトは応えなかった。視線を逸らせて唇を噛んでいる。
苦痛、屈辱、悲嘆、諦め。様々な感情が力のない瞳に宿っていた。
「じきに慣れる。こればかりは我慢してもらうしかないな」
テオドルは耳朶を甘噛みしながら低い声でささやきかけ、なるべく負担をかけぬように
静かに腰を突き上げはじめた。
アーデルハイトは相変わらず無言であった。
感情を遠くへ押しやり、虚ろな瞳で寝台の天蓋の模様を見つめ、嵐をやり過ごそうとしている。
テオドルは小さく舌打ちをすると、貪るようにその唇を奪った。弾力のあるそれを口腔内に
引き込んでじっとりとねぶる。
手は乳房に伸び、すくい上げては押しつぶすように強く揉みしだいた。
内心の苛立ちと失望とは裏腹に、肉体は快楽を得てその動きを早めていく。
――こんなはずではない、もっと違う形があるはずだ。
彼はそう思ったが、同時に早く終わらせてしまいたいとも願っていた。
濁りゆく意識のなかで、彼は快楽以上のものを求めていた。
しかし、結局何も変えることのできぬまま、テオドルは絶頂を迎えた。
様々な感情が混じり合い、澱のように沈滞していたものが一気に解放された。
ぞくぞくと背筋が泡立ち、あれほど強かった興奮も焦燥感も嘘のように醒めてゆく――
テオドルはごろりと横になった。
アーデルハイトが無表情のまま寝台を抜け出そうとするのを許さず、その腕に包み込む。
抗う妻の頭を二の腕に乗せると、心の虚しさを埋めるようにその肩をしっかりと掻き抱いた。
頬や髪を静かに撫でているうちに、政務の疲労が肉体によみがえってくる。
アーデルハイトを柔らかく抱きしめたまま、テオドルは深い眠りへと落ちていった。
続く
リアルタイム超GJ!
この二人の続き待ってたよ、嬉しい。
続きwktkして待ってます>神
以上です。
あと2編分くらい構想があるのでそのうちまた投下しに来ます。
こりゃまたレベル高いねぇ
前のを読み返したけど、少し前進したかのような
微妙な二人の関係がじれったくて良い。
ドレスを引き裂く描写はまさにこのスレにふさわしいですな
これ程のものを書くのは時間が掛かると思うが
なるべく早い投下をお願いしたい!
>>165 イイヨーイイヨー*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(*´∀`)゚・*:.。..。.:*・゜゚・*
しばらく見ない間に神神神のオンパレード……!
これだからこのスレ大好きだよ。
皆ガンガレ!!
>>126 過去の作品群読ませていただきました。素晴らしい!
第一子の名前って、ナタリーの(イヴァンが激しく妬いた)幼馴染みと同じなんですね。
いくら信条が「こだわりなし」のイヴァンでも気にならないんだろうかと思ったり。
>169
(自己満足な設定ですが)イヴァンの父王の名が同じなのです。
いわゆる『祖父の名を付けた』わけです。よくある名です(笑)
以下、完結編の投下です。
読んでくださった方々、ありがとうございました。
171 :
暁光 1:2006/07/01(土) 15:44:33 ID:yWP2cIsN
薄く光る枠の中の鏡面に戸口に立つ見慣れた女官の姿が入り込んだ。
迎えにしては随分遅れたものであるがアグレイアはそれを不満だとは思わなかった。
文句なしに華麗だがその実は牢獄の、息の詰まりそうなこの塔からはしばらく離れられる。
だが、これから向かう予定の席は、正直なところ気が進まない。
慎み深く伏せられている女官の顔から視線を外し、皇女は唇を開いた。
「それは不要じゃ」
リュリュは頷き、小粒の宝石をはめ込んだ古風な黄金の髪飾りを盆に置いた。
髪に挿せば熟した輝きがさぞかし美貌を引き立てる事だろう。
もともとアグレイアのものではなかった。おそらくかつてはいずれかの王侯貴族の所有に違いない品である。
なぜこんなものをローランが皇女に与えたのか、理由は明らかだとリュリュは腹の中で憤っている。
豪勢な装飾品でいやがうえにも麗しさを増した類稀なる美姫を傍らに侍らせ、隣国の使節にわかりやすく己の勢力を誇示したいのだろう。
成り上がりに相応しい俗物根性だ。
皇女のほうも、少なからず彼女の決めつけ同様の嫌悪感を感じているようにリュリュには思えた。
「つけずとも文句は言わせぬ、約束通り黙って見世物になるのじゃから」
アグレイアは鏡に向いて座ったまま、低い声で呟いた。
リュリュも声を潜めた。
「本当に約束を守るつもりでおりましょうか」
「それははなはだ心もとないが……」
皇女は鏡の中で、忠実な女神官の顔をじっと眺めた。
「こればかりは違えれば赦さぬ。…もちろん神官たちは仕えておるが、『私』の不在は早二ヶ月じゃ」
宴に臨むなら、祖宮に一度だけ彼女を戻すとローランは言っていた。
「一度でも良い、祖宮に戻りさえすれば……」
女官を憚り、アグレイアは唇を閉ざした。
*
リュリュは改めて皇女を点検し、自分の手際に遺漏がないかを自問した。
この城の者達の手に大事な斎姫をすっかり委ねる気には到底なれず、やむを得ず普段は侍女めいた役割も果たしている。
その役割にもこの数週間でかなり馴れてきたところだ。
ローランの思惑通りに装わせるのは癪に障るが、使節だろうと何者だろうと、アグレイアについて一筋たりと難癖をつけさせるわけにはいかぬ。
が、そもそもリュリュは高位の神官であり、女ではあるものの世俗の装いに関して大した自信があるわけではない。
しばし黙考していたがどうにも手に負えぬとしぶしぶ判断した彼女は戸口に向かい、声を高めた。
「アニェス、こちらに。皇女様のお支度に不都合はないか見ておくれ」
辛抱強く控えていた、今ではリュリュも名だけは知った年かさの女官が近づいてきて丁寧なお辞儀をした。
慎重に皇女のドレスの襟と袖を整え、せっかくリュリュが苦労して纏めた髷を緩めた。
年齢なりの血管の浮く手で櫛を操り、優美なうねりを加えながら淡く輝く髪を結い直し始める。
アグレイアは鏡の中で憮然としている女神官を眺め、あやすように唇を開いた。
「安堵した。リュリュにも苦手な事があるのじゃな」
172 :
暁光 2:2006/07/01(土) 15:45:21 ID:yWP2cIsN
美しい頸をまっすぐに立て女官に髪を任せている皇女を眺め、こんな場合だというのにリュリュは黒瞳に強い誇りの色を浮かべずにはいられなかった。
祭壇に額ずく斎姫としての彼女が最も美しいと信じているリュリュではあるが、宴のために押し付けられた豪華でありふれた衣装も皇女の資質を貶める役には立っていない事はわかる。
気品ある佇まいはいささかも損なわれてはいない。
現在アグレイアが置かれている状況を考えると、それは奇跡といってもいい。
ただ、なめらかな頬がやや白すぎた。
その理由はわかっている。
リュリュは誇りの裏から否応無しに滲み出る不毛な思いを噛み締めた。
あの男さえ──。
「……私など、どうしようもない無能者にございます。あの男さえ皇女様の前から消え失せればと祈るばかり」
その平板な声が自分のものだと、リュリュは喋ってから気がついた。
「リュリュ」
皇女の灰色の瞳に針の先ほど生じた鋭さを見て、女官とはいえど第三者の前での失言に内心うろたえる。
リュリュが唇をひきしめた瞬間、小さな硬い音が室内に響いた。
落とした櫛を女官が急いで拾い上げた。
すぐに身は起こしたものの顔を伏せ、両手を握りしめている。
指が震えているのを見てとった女神官は眉をひそめた。
確かに皇女の面前で無作法ではあるが、いささか大げさな反応ではないだろうか。
「………神官様」
女官は声とともに顔をあげた。
国が侵略を受けようが支配者が変わろうがかわらず王城勤めをこなしてきた上品で無表情な顔はそこにはなく、思い詰めた光をあらわにした老いた目がまっすぐにリュリュを見た。
かすれ声が続く。
「この方を、皇女様を、広間にお連れになってはなりません」
「もとより出たくて出るのではないが……」
リュリュは呟き、まじまじと彼女を見返した。
年経た女官が自分から話しかけて来たのはこの二ヶ月弱ほどの間にわずか片手の指にも満たぬほどである。
そのほとんどが自らの言葉ではなく、伝言を口づてに伝えただけに過ぎない。
「こたびの席は講和の使節を受けてのもののはず。…将軍の意向であれば、無下に断るわけにもゆかぬ」
苦々し気な口調にならないようリュリュは言い添えた。
女官は首を振り、握りしめた櫛を見つめた。
「お言葉ですございますが…」
短く黙り込み、やがて一息に女は続けた。
「これまでも、亡き両陛下から長年受けたご恩を無にし新しい主に仕えて参りました。ですが、これは違います。あの者たちは城の主でも国の主でもありませぬ。その者らに皇家のお方を、しかも斎姫様をみすみすお渡しするなど……神罰が恐ろしゅうございます」
「渡す?」
リュリュは息をのみ、アグレイアをさっと見た。
皇女は表情を消した深い灰色の目で鏡の中の女を見ている。
「あの男…いや、将軍がまた何か?」
リュリュが先を促すと女官は深く息を吸った。
「将軍ではございません。ローラン様は今朝ほどあの者たちに囚われました。今はおそらくは地下の牢獄に」
173 :
暁光 3:2006/07/01(土) 15:47:08 ID:yWP2cIsN
「……牢獄……?」
リュリュは口を開いたまま、二度か三度喘いだ。とっさに言葉が出てこなかった。
衣擦れの音をたてアグレイアが立ち上がった。
老いた女を見据え、簡潔な言葉を放つ。
「事情を」
女官は身を震わせて跪いた。両手を握りしめている。
「三日前、隣国からたくさんの貢物を持参して、使節の一行が参りました…」
周辺で最も豊かな隣国を目前で小国の成り上がりにかすめ取られた格好のその国は、十日ほど前、ローランにむけて和平を申し出てきていた。
侵略者であるローランにあくまで歯向かうわずかな旧指導者層を亡命者として受け入れ、
それどころか半ば無法者のゲリラと化した元防衛軍の残党に密かに援助をしているその国とは国境付近で大小の競り合いが続いており、それらはただ一つの例外もなくローラン側の勝利に終わっていた。
流血将軍の勢いを実感した隣国が、今はやみくもに攻めたてず機を窺うべきと考えたとてその事自体には何の不審もない。
悪運が強いばかりのみでなく情勢を見極めるのも聡いのか、ローランはそれを了とし、講和は成った。
祝いの席が設けられる予定の日の夜明け方、つまり今朝未明、王城深部で異変があった。
もっとも城に勤めている者たちがこれに気付いたのは日が昇ってからのことである。
将軍の姿はなく、その部下たちも分散して閉じ込められ、目つきの鋭い隣国の兵士達が城内を制圧していた。
「…夜明け」
アグレイアは小さく呟いた。忠実な女神官も複雑な顔をしている。
ローランは昨夜は遅くまで皇女の塔にいた。
では、その帰りに奇禍にあったらしい。
「…大体の流れはわかったが」
リュリュが口を挟んだ。
「そのような間抜けな話は信じられぬ。その、隣国の者どもを、将軍は見張ってもおらなんだのか」
女官は疲れたように肩を落とした。
「勿論監視させておいででした。ローラン様配下のお一人がその任に…」
「ではあの抜け目のない男は」
リュリュは声を高めかけ、まぎらせるように首を振った。
「まさか、裏切られたというのか?自分の部下に?」
「そなたの受けた命は」
アグレイアの静かな声が割って入った。
「何も知らぬふりをして私を案内することじゃと申したな」
女官は頷いた。
「はい……噂に高い斎姫様をぜひとも連れて来い、と」
「私を迎えに来るよう、そなたに命じた者は誰じゃ?」
「ローラン様に使節の監視を仰せつかっていた責任者にございます」
「痴れ者が」
リュリュは吐き捨てた。
「何様のつもりじゃ。斎姫を戦利品扱いとは!」
174 :
暁光 4:2006/07/01(土) 15:48:13 ID:yWP2cIsN
光が動き、リュリュは陰鬱な感情の渦から醒めて皇女に目を向けた。
女官が優雅に結い上げた髪に髪飾りを挿し、皇女は頭をあげた。
蝋燭の輪の中で黄金と淡い髪の輝きが溶け合い、金糸を複雑に織り込んだ白銀のシルクのドレスが揺れ、夕刻のほの暗さを増した室内を色の波動で満たした。
「アグレイア様」
「広間に行く」
アアグレイアは前を向いたまま涼やかな声を発した。
「リュリュと同じじゃ、腑に落ちぬ。細かな事情は当事者に尋ねるのが一番じゃ」
女官が急いで頭を振った。
「ですが皇女様……それは」
アグレイアは足を止めて振り向いた。
「さきほど、その者らは私を欲しがっておるとそなたは言うたな」
「……はい」
「どのような事が起ころうとも私はまだ斎姫じゃ。心配せずともよい」
老いた女は手を握り合わせ、美貌の皇女を見つめた。その窪んだ目には涙が滲んでいた。
「あの者たちは将軍とは違います。そ、祖宮のあるこの地から、あなた様を『斎姫のまま』連れ去るつもりなのです」
リュリュが息を短く吸い、アグレイアは眉をかすかにしかめた。
「斎姫様がこの国にお健やかにおいでであると思えばこそ、いかに主が変わろうと民は暮らしていけるのに。それをあの者たちは……」
「そなたは、……私の役割をよく知っているのだね」
アグレイアは囁いた。
女は目を瞬き、恥ずかしそうに一礼した。
古株の女官らしく、一瞬で気を取り直したらしかった。
「はい。私の息子は、北の隣国の都にて神官となっております」
皇女はじっと女官を眺めた。
「もしや、そなたの息子は、流血将軍の即位を妨げたという剛胆なあの神殿の者の一人では……?」
「死んだ父親に似て融通のきかぬ性質でございまして」
女官の頬に血の色がかすかにのぼった。
「怒りに触れて斬殺されるものと覚悟していたところ、なぜか赦されたと手紙を寄越して参りました」
リュリュは憮然と呟いた。
「…それを理由としてあの男は攻め入ってきたのだがの」
老いた女官は背筋を伸ばして女神官に顔をむけ、きっぱりと言った。
「亡くなった陛下には申し訳なく、またお気の毒でもございますが、先代の王と比べても大変意思もご気力も弱いお方でいらっしゃいました。将軍が目を向けようと向けまいと、他の国々がとうに目をつけておりました。
この国の行く末は定まっていたも同然にございます」
「そなたの気持ちと見解はわかった」
アグレイアは吐息をついた。
「私にも意見はあるが、ここで話していても埒はあかぬ。広間に案内おし」
*
広間は閑散としていた。
人いきれも強烈な香辛料の湯気も楽師の演奏も歌声もない。
本来の予定通りならば山のような食物に埋め尽くされていたはずの架台式の卓は全て空で殺風景この上もない。
正面の一段高いホールの主卓だけに人が拠り、扉が開くとその頭は一斉にこちらを向いた。
中央の天蓋つきの席に座っているのがおそらく隣国の使節なのだろう。
その左右に並んでいるうちのどちらかがローランを裏切った部下とやら。残りは十人ほど。
それだけを見て取ると、アグレイアはリュリュを連れ、イグサも敷かれていない床を踏んで粛々と歩き始めた。
ホールの段の手前まで来ると彼女はぴたりと足を止め、白い顔をあげた。
「私がアグレイアです。呼びつけたのは何用あっての事か、お言い」
175 :
暁光 5:2006/07/01(土) 15:49:09 ID:yWP2cIsN
皇女が名乗ってもしばらくは咳ひとつ出なかった。
ようやく椅子の足がひかれる音がして、中央の男が机に両の掌を置き、立ち上がった。
「これは……」
口を開きかけたもののまだ言葉を探している風情で、男は傍らの陽に灼けた男に視線をむけた。
「噂……いや……噂以上。これほどまでとは、聞かなんだぞ」
視線をむけられた男もそれに気付かず、咳払いされてようやく我に戻ったように目を瞬かせた。
「…わ、私も初めてお目にかかった」
「初めて?」
中央の男が繰り返した。
「信じられぬ。そちたちが居座って、もう二ヶ月にもなるのではないか…」
「一度もお目にはかかっていない。塔に居られる斎姫に拝謁できるのは将軍一人だけだった」
残りの者たちは耳打ちし合う事も忘れているようで、黙りこくってただただ、床に立った皇女を凝視している。
焦げ付くようないくつもの視線の中、アグレイアは傍らの女神官にかすかに目をやった。
リュリュが低く咳払いする。
はっと男たちは目を見開き、夢から醒めたような顔で互いの表情を盗み見た。
アグレイアはじっと、中央の男の視線が顔まで戻ってくるのを待った。
「気の毒に耳が遠いのじゃな」
「……?」
「所用あっての無礼であろう。私を呼んだ理由を申せ」
「理由……」
ごくりと男は喉を鳴らした。
「……わかりました。ご無礼の段はご容赦くださいますように」
卓の上座を明け渡した使節はアグレイアに短からぬ説明をした。
間近の美姫に見蕩れているためか時々同じ箇所を繰り返し、他の者も文句を言わなかったので時間がかかった。
さきほどアグレイアが自室で女官から聞いたものとほぼ同じだが、主張の要点は微妙に違う内容である。
「──そういうわけで」
男は息を継いだ。
「潜主と呼ぶも値せぬ思い上がった狂犬めをこの歴史ある国から払うべく、我が国に亡命された高貴な方々より熱心な運動がありました。仲立ちをしてくれたのが元は北では名の知れた騎士でありましたこの男──」
陽に灼けた男が曖昧に頷いた。
ローランの部下というこの軍人も、他の者同様、皇女の顔からずっと目を離していない。
「そうか…」
アグレイアも頷き、陽に灼けた男の視線を正面から受けた。
「そなたがあの恐ろしい男を捕縛したのか」
皇女の背後に付き添っているリュリュには、美しい斎姫の声を直々に賜った彼の頬が自負心に燃え上がったのが見えた。
「その通りでございます」
「よくもできたものじゃ」
アグレイアは椅子の背に躯を預け、白い顔を物憂げに傾けた。
揺れる小さな雫型の飾りがついた淡い桜色の耳朶、つややかに結い上げられている髪の下のうなじの優雅な線。
それらを物欲しそうに眺めている男たちの視線が、女神官には業腹でたまらない。
彼らの瞳がかすかに、恍惚と憧れだけではない光を放ちはじめたのが今のリュリュにはよくわかった。
皇女のためにローランを警戒していたせいか、そういう気配には敏感になってしまったのかもしれない。
どうして男というものは天女は天女として敬い、崇めておくだけの簡単なことができぬのか。
176 :
暁光 6:2006/07/01(土) 15:49:54 ID:yWP2cIsN
「あの者の蛮勇の程を聞いておる身には、そなたには悪いがなかなかに信じ難いものがある」
皇女は珊瑚色の唇をかすかに開いて呟いた。
「手傷は負わせたか?」
「はい」
「それは凄まじいこと…」
アグレイアの深い灰色の瞳に何を見たのか、男は頷き、頬をかすかに紅潮させた。
皇女は顎をひき、男をじっと見返した。
「息災の様子じゃが、そなたは傷は負わなんだのか?」
「……はい」
一瞬怯んだが、男はそう答えた。
男の返答を聞いた使節の目に軽侮と嫉妬の色が浮いた事にリュリュは気付いた。
アグレイアは完全に顔をその男に向け、涼やかな声でさらに言葉を重ねた。
「まことか。どのようにか、教えておくれ」
「それは……」
赤くなりつつも躊躇を示して男が口を濁したが、その間に使節が大げさな身振りで身を乗り出して来た。
「皇女様の仰せとあらば、この場にあ奴めを引き出してみせましょうか」
底光る目でちらりと男を見やり、使節は口の端を歪めたようだった。
「奴の傷を見れば、彼の勇気がいかほどのものかもご覧に入れられるというもの」
「………」
男は黙り込み、椅子の背に身を預けた。
顔が紅潮の度合いを増している。
アグレイアは傲然と頷いた。
「では、そうするが良い」
*
広間の大扉がまた開いた。
大柄な二人の兵士に挟まれた中肉中背の姿が現れ、リュリュは緊張して、背後に廻されたその腕を見た。
縛められているのだろう。
ホールの上座にアグレイアの姿を見いだし、眉を軽く顰めたが彼は何も言わなかった。
鈴が鳴るような音が軽やかに響いた。
皇女が笑ったと知り、リュリュはとっさに表情の選択に迷ってローランの顔を眺めた。
そのひきしまった顔には針で突いたほどの変化もなかった。彼はやはり唇を開かなかった。
「初めて見る格好じゃ」
アグレイアは優美な仕草で席を立った。
使節の男とローランの部下との双方に視線を流す。
「どこにその傷が? 見えぬ」
軍人の男は無言だったが、使節は声を張り上げた。
「将軍殿。お疲れのところまことに申し訳ないが、向こうをむいてはいただけまいか。斎姫様のご命令だ」
茶色の目がアグレイアに据えられた。
灰色の美しい瞳は深い湖にも似てさざ波ほどの感情も浮かべてはいなかった。
177 :
暁光 7:2006/07/01(土) 15:50:47 ID:yWP2cIsN
無言のままローランは身を翻し、背を向けた。
腕の先はやはり縄目で括られており、兵士の一人がその肘をねじ上げるようにさらに脇に押しやった。
上着なしのシャツが左の脇腹から脇のあたりにかけて短く裂けている。
傷の周囲は濡れそぼって背筋にべったりと張り付き、周囲が黒く乾いていた。
ズボンの腰のあたりもすっかり色が変わっている。
「おや、なかなか血が止まらぬようだな」
使節は責めるように言った。
「卑しい渾名の通りのざまだ。このままでは処刑時に自力で立てるかどうか」
弱々しい声がした。
「手当はしておらぬのか……そのように腕を捻り上げて」
使節は顔を巡らせ、表情をこわばらせた黒瞳の神官が傷口に視線を吸われている様をちらと見た。
「戦場でのこ奴を知らぬ心優しい神官様には非道とも思えましょうが…さきほど申し上げました通り狂犬のような下郎でして」
「背後から一突き。見事な不意打ちじゃの」
アグレイアは優雅に、短い感想を放った。
使節の目に我が意を得たりとの躍動が芽生え、陽に灼けた軍人はいっそう顔を赤くすると顔をうつむけた。
皇女は使節をまともに見下ろした。
「それで。国を盗もうとしたこの者を、なぜ即刻処刑せぬ?」
「王城と都の手下どもとの交渉に現時点での双方の無事を条件としましたからな。もっともあとは混乱をしずめ、国をお護りする当方の増援を待つのみですので……明日の昼前には」
使節の男は笑み崩れた。
「精強無比を誇る流血のローランの軍勢も、頭を潰せば赤子の手を捻るようで。あまりに他愛なさすぎて、正直申し上げて拍子抜けしております」
「夢の終わりとはあっけないもの」
アグレイアは席を離れた。
ドレスの衣擦れの音が主卓を巡り、ホールの縁に至ると男たちは色めきだち、そわそわと卓上に手を置いた。
皇女は耳飾りを揺らせて一同を振り返った。
「夢破れたあの者に言ってやる事がある。よいであろうな」
「では、…どうぞ、その場にてお動きになりませぬよう」
使節の男が緊張した声を出した。
「うかつに近づかぬ方がよろしゅうございますぞ」
アグレイアは微笑した。
「深手を負い、部下の生命を抑えられ、縛められている者を畏れよと?」
顔を戻し、茶色の髪の男に声を投げた。
「過分の評価を受けているようじゃ」
ローランは向きをかえるとアグレイアを見上げた。表情を定かにせず、彼は口を開いた。
「過分ではない。当然だ」
「その姿に相応しい言葉とは思えぬが…」
美姫は揶揄するように声を低めた。
ローランの頬がかすかに赤くなった。
何も言わず彼は顔を背けた。
周囲の男たちは気を呑まれたように皇女の後ろ姿を見守っている。
アグレイアは囁くように言った。
「縛られておる気分はどうじゃ」
「……」
「私も民の命と生活とを以てお前に縛られた。一度それを了とすれば、己の選択から容易くは逃げられはせぬぞ」
「俺の兵をどこにでも転がっている奴らと一緒にするな」
ローランは唸った。
「では、その男は?」
皇女に話を振られた陽焼けした軍人は首を竦め、茶色の目から逃れる風情を見せた。
「古参の部下ではないが覇気がある奴だ。能力もある。だからこそ俺にとってかわれると踏んだのだろう」
傍らの使節にも冷酷な茶色の視線は流れた。
「力のある男には当たり前の事だ。だが新しい仲間を選ぶ目はない──俺同様にな」
アグレイアは縛られた男を眺めた。
「どこまでいっても、所詮は傭兵隊長の器じゃな」
端麗な唇が歪んだ。
「そのような根性の者にこの身を穢されたとは。……よくよくの不覚じゃ」
178 :
暁光 8:2006/07/01(土) 15:51:39 ID:yWP2cIsN
後ろで複数の、短く息を呑む音がした。
やり取りに注目していた男たちの視線が、一斉にアグレイアの細い背に集中した。
それはすでに周辺の国々での噂にはなっていたが、事実であることを斎姫本人の口から彼らは知ったのだ。
視線は納得だけを纏ってはいなかった。
優美な背に、輝く髪に、細いが見事な曲線を持った腰に、すらりと伸びたしみひとつないたおやかな腕。
それらに絡まる視線は執拗で、じくじくと刺すような熱を伴っている。
この、斎姫という高貴な立場にある際立って臈たけた美姫に対する想像は強烈な背徳感と興奮を伴い、彼らの理性を濁らせた。
すずやかな声が容赦なく続けた。
「それも、一度ではなく何度も」
ローランは眉をよせ、壇上のアグレイアを睨みつけた。
「朝だろうと夜だろうと……繰り返し、繰り返し……」
組み伏せられ、衣装をつけたまま高く脚を持ち上げられて痛みと不快に耐える瞬間の屈辱。
膝にも腿にも力が入らなくなり、喘ぎながら指に巻き付いた布の感触だけを頼りに一心に顔を背けている時間の長さ。
「私が喘ぎ、やめよと訴え、壊れるほどに悶え抜いて……最後にとうとう、無惨に追いつめられるまで」
抵抗の意思を根こそぎ奪われていく、覚え込まされた肉の味とそれに反応してしまう躯を持つ事の惨めさ。
一旦覚えたその際を、忘れようにも忘れ得ぬ絶望の深さ。
神に捧げる香の香りの中に生涯佇むべき斎姫が、たった一人の男の意思で全てを奪われ、奉仕を強要され、逃げる事も赦されぬ様。
穏やかとも言える美しい声が淡々と告発する内容は、異様に生々しい妄想を掻立てるものだった。
壇上の誰かが唾を呑み込む音が、静まりかえった部屋に奇妙に大きく響いた。
ローランは蒼白の顔で床に目を落としている。
珊瑚色の唇の歪みが大きくなった。
「それが私にとってどれほどの辱めであったか、お前には決してわからぬ」
最も近い場所に座っていた男は、皇女の白い手が、そよぐ花のように自分の腰のあたりに伸びたのを知ったがとっさに制止できなかった。
音もなく見知らぬ男の短剣を抜き取り、アグレイアは段を降りはじめた。
「せめて、その躯から、破瓜の時ほどの血はこの手で流させてもらう。よいな」
「勝手にしろ──と言いたいが」
縛られたままの男は、滑らかな足取りで近づいてくる皇女に顔をあげて呟いた。
「あなたには無理だ」
「お前は、いつも私を見くびっていた」
アグレイアは男の前に立ち、冷え冷えと凍り付いた茶色の瞳を見上げた。
「──今後は相応の敬意を払うがよい」
アグレイアは一歩斜めに踏み込むと短剣の切っ先を閃かせ、兵士に掴まれたままのローランの腕を一気に押し切った。
弾ける音とともに、布と血潮が散り、固い縄の弧と両端が床を叩く。
179 :
暁光 9:2006/07/01(土) 15:52:46 ID:yWP2cIsN
誰もが目を疑い呼吸を忘れてローランの腕がだらりと開くのを見た。
真っ先に事態を把握したのは解放された男だった。
アグレイアの指から短剣を奪い取り、その勢いのまま躯を捻る。
立ち尽くしていた兵士の眼窩に先端を叩き込んだ。
一瞬で絶命した男の腰と傷口から剣と短剣を引き抜きながらローランは叫んだ。
「味方もいない場所で、馬鹿な。やっぱりお前は命取りの魔女だ」
直後に振りかぶり、彼は抜いたばかりの短剣を投げた。
壇上で悲鳴が起こった。
身を翻したリュリュに手を伸ばしていた陽焼けした男が椅子の合間に倒れ込んだ。
頸に刃の半ばを越える深さまでうちこまれた短剣を見て、周囲の男たちが一斉に椅子を鳴らして立ち上がった。
「リュリュ!」
アグレイアが呼ぶのを待たず、広間の半ばを一気に駆け抜けた黒瞳の女神官は彼女に抱きついた。
「大事なお方、アグレイア様、ああ、馬鹿なお方……どうしてこのような憎い者のために」
「話は後じゃ」
アグレイアは囁くとリュリュから身をひいた。
残る兵士と刃を交わしているローランを尻目に、倒れた男に駆け寄った。
小さな短刀をみつけて引き抜き、リュリュに押し付ける。
「お持ち。……気配を感じぬか? ローランの兵が来る」
「何だと」
掻き切った頚動脈から噴き出る血を避けたローランが二人の女の間に割って入った。
「宵の口から夢物語か」
「黙りゃ。そなた、アニェスに認められておって、良かったのう」
アグレイアはさっと傷まし気な灰色の瞳を、倒れている隣国の兵たちに落とした。
縄を切ってまだ一分ほどしか経っていないはずだが、二人とも自ら作り出した血の海に沈みぴくりとも動かない。
壇上では男たちが石のように固まり、深手を負っているはずの男を凝視していた。
*
「アニェス?」
要領を得ない呟きを漏らした彼にリュりゅが忌々しげに鼻を鳴らした。
「女官じゃ、お前などよりもはるかにこの城を知り尽くしておる…」
乱れた足音と怒号が多数響きあう気配が遠雷のように轟いた。
「しっ」
アグレイアが制止し、金色の頭を扉に向ける。
乱闘にでもなっているのか扉の向こうの騒ぎは一時激しくなったが、それも間もなく絶えた。
やがて、ローランの名を呼ぶ緊張した声が漏れてきた。
あっけにとられて彼は皇女に呟いた。
「トレイユの声だ。……皇家の女は魔法も使えるのか?」
アグレイアは美しい目をややすがめてローランを見た。
「そんなものが使えればとうの昔にそなたを呪い殺しておる」
ローランの返事を待たず、扉は蝶番のきしる音を漏らしながらぐらぐらと揺れ始めた。
分厚い木材を打つ重い肉の音が何度も何度も繰り返される。
「何故縄を切った?」
壇上を牽制して睨みつけつつローランが言った。
リュリュは不安げに短刀を握り、皇女と扉に交互に視線をやっている。
アグレイアはローランの視線を追い、主卓から動けない男たちを眺めた。
「片方は分け前を食い尽くすことしか頭にない強欲な飢狼の群、他方は物騒ではあるがうまくゆけば良い護衛にもなりそうな猛獣とその仲間。民にとってマシなのはどちらじゃ?」
180 :
暁光 10:2006/07/01(土) 15:54:08 ID:yWP2cIsN
複雑な表情でちらと涼しげな風情の灰色の瞳を見、ローランは呟いた。
「腹黒い女だ」
「もとはそうでもなかった。そなたとつきあわざるを得なかったからこうなっただけじゃ」
アグレイアは微笑した。
淀みはじめた血臭もみるみる浄化されていくような清々しい笑みだった。
「私は自由の身にならせてもらう」
ローランは視線を鋭く皇女の顔に射こんだ。
彼女の微笑は揺るがなかった。
「流血のローランは極悪非道な成り上がり者じゃが、こればかりは認めねばならぬ。お前の命を救ったのは私じゃ」
扉が吹き飛んだ。
血塗りの獲物を手に手に兵がどっと転がり込み、広間は大騒ぎになった。
駆け寄ってきた部下に取り囲まれ、肩や腕を叩かれながらローランは大声で次々に命じはじめた。
「今出てきた場所にあいつらを放り込め! トレイユ、都の兵を救い出すぞ。東の国境にすぐに伝令を送って迎撃隊を編成しろ…」
アグレイアは事態の収拾に殺気立つ喧騒の渦から離れ、忠実な女神官の手をとった。
そっとその指から短刀を払い落とし、囁く。
「リュリュ、祖宮じゃ」
リュリュは瞬きをし、皇女を見つめた。
「ですが、アグレイア様…」
「アグレイア!」
ローランの声が広間の中央で響いた。
「どこだ!」
「たわけめ。まだ呼び捨てにしておる」
皇女はすっきりとした眉をひそめ、振り向いて澄んだ声をあげた。
「認めるであろうな?お前の命を救ったのはこの私だと」
声は広間を渡り、兵士たちはようやくその主に気づいた。
喧騒はあっという間に耳の痛いほどの静寂にとってかわった。
魂を奪われ塑像のように立ちすくんだ部下たちに舌打ちをして、ローランは傍らの兵士に寄りかかった。
顔色が悪い。悪いというより、ほとんど血の気がない。
アグレイアは忠告をした。
「あとは部下に任せてそろそろ横になってはどうじゃ。それだけ動けたのだから、幸いはらわたまでの傷ではあるまい」
「余計な世話だ」
ローランは吐き捨て、顔をあげた。
「行くな」
「もう忘れたか? もはやお前は私に命令できる立場にはないのじゃぞ」
アグレイアはその美貌に再び微笑を浮かべた。
声にならない反響が漣のように広間に満ちた。
「さきほどの質問は、もちろん認めるであろうな?」
ローランは視線を落として低く呻った。
「……認める」
181 :
暁光 11:2006/07/01(土) 15:55:22 ID:yWP2cIsN
「では、夢はともかく、皇家などというたわけた幻は追わぬことじゃ」
アグレイアはローランの額を隠した茶色の髪を眺めた。
「搾り取るのではなく巧緻に育て上げよ。自兵同様に民を想い、己の力で冠を築き上げ、誰からも唯一無二の王と目される者になるのじゃ……それがお前のために流された血への、唯一の手向けだと私は思う」
「行くな…」
ローランの声は囁きに近かった。
アグレイアは美しい肩を竦めた。
「生憎じゃな。私は祖宮に戻るのじゃ」
「だが、子は」
「そのような者はおらぬ」
愕然と上がった茶色の目に、美貌の皇女は頷いた。
「お前を避けたいがゆえの虚言であった。……赦せ」
「アグレイア様──」
女神官に向き直ったアグレイアは、優雅にその手を差し伸べた。
「ここですべき事は全て成し終えたのじゃ。参ろう、リュリュ」
*
殺風景な広間にゆっくりと低いざわめきが戻ってくる。
兵士たちにいくつかの指示を出したあと、トレイユは物問いたげな視線を破壊された入り口から彼の将軍へと動かした。
ローランは顔を伏せ、長い間次の命を出そうとはしなかった。
*
*
*
零れんばかりの露をつけた薔薇とシャクヤクが多くの蕾を差し交わし、港から湧き上がる朝霧に沈んでいた。
まだほとんどの花が開いておらず、高く聳えた東方風の塀の向こうからはかすかな潮と香辛料の香が漂ってくる。
皇女アグレイアはこの広大な庭の早朝の散策を好んだ。
海の香が懐かしい祖宮を思い出させるということもあるが、塀の外に集う人々の聞き慣れぬ様々な言葉、船乗りや商人たちの操る不思議な符丁など、人々の活気が伝わってくるのが特に気に入っている。
海沿いの国々にいくつも散らばっている海運商人オノレ・ルポネルの屋敷はのきなみ立派だが、特にこの館は宮殿と見まがうばかりの壮麗さだった。
オノレは近年この館に長期逗留している。
が、それは高貴な賓客のためばかりではない。
彼にとってもこの地は昔から重要な拠点なのだ。
手に触れた蕾の露を払いながら、アグレイアは小高い東屋に向かった。
いつものように広い空に差しそめる曙光を一人で眺めるつもりだった。
だが今日はそれは果たせぬようだ。
館からの園路を、皇女の後を追うようにがっちりとした上背の人影がやってくるのが見えた。
アグレイアは濃い灰色の瞳を瞬いた。
館の主人自ら、このような早朝から何用だろう。
182 :
暁光 12:2006/07/01(土) 15:56:15 ID:yWP2cIsN
初老と呼ぶには少々早い年齢のオノレは東屋に辿り着くと美貌の皇女に恭し気に一礼した。
「アグレイア様、お客人が訪ねておいでです」
「誰じゃ?」
オノレは首を振った。
「ご無礼ながら黙っていてくれと。名を告げればおそらく目通りは叶うまいと申されて」
「ああ」
アグレイアの瞳が煌めいた。
「あの者か」
大商人は軽く咳払いして訂正した。
「あの『方』です」
「私がここの世話になってどのくらいになる、オノレ」
「この秋でおよそ二年になろうかと」
アグレイアは眉を寄せた。
「待たせおったな」
「お言葉ながら、あの方の健闘ぶりを考えるとそれは厳しすぎるご評価ではないかと」
大商人は館に頭を傾けた。
「お会いになりますか?」
「良しと判断したからこそ私に告げに来たのであろう。さもなくば、そなたならば相手が誰でも、平気な顔をして門前払いをするに決まっておる」
皇女は石造りのベンチから立ち上がり、オノレに手を差し出した。
大商人の腕にすがり、霧のやや流れた園路を歩きながらアグレイアは館の窓を見上げた。
「リュリュは?」
「妹はいつもの如く北棟におります。が、何も知らせてはおりませぬ」
「それが良かろうな。顔を合わせた瞬間からの犬猿の仲じゃ」
オノレは穏やかな含み笑いを漏らした。
「私にはその理由が推測できます。妹もあの方も、両側から皇女様を取り合っているのですな」
アグレイアは深い灰色の視線をちらとオノレにあて、小さな溜め息をついた。
「双方大人のはずだがの」
「大人でもどうしても譲れないものはあるでしょう」
館に入り、アグレイアは彼の腕から手を離した。
「そなたも来るか?」
「稀な個性や来歴の持ち主との個人的な交流は私が常々楽しみとするところです。ですが今回はやめておきましょう」
大階段に向かうアグレイアを見送り、オノレ・ルポネルは微笑した。
「では。王によろしくお伝えください」
二階の居室の前には誰もいなかった。
館の主のいいつけだろう。
余計な気遣いなのか親切なのかわからないが、長年傍らにいるリュリュでさえ(いや、リュリュだからか)把握しかねているらしいアグレイアの感情を、その長兄はよく掴んでいると彼女は思う。
アグレイアもオノレの前でだと比較的正直な心情を露にできる。
これも人徳というものだろうか。
オノレはおそらく有史以来指折りの豪商の一人だが、その理由の一端は、商才のみならずこういう能力にもあるのかもしれない。
183 :
暁光 13:2006/07/01(土) 15:57:08 ID:yWP2cIsN
取っ手に白い指をかけたまま、アグレイアはわずかに思案した。
相手はどう出る?
自分はどう応じる?
そしてリュリュには何と告げる?
それはすでに自問ではなかった。
幾度も幾度も考えているうちに既定の予定とも呼ぶべき流れとなっている。
彼女は一人頷いた。
アグレイアは扉を押した。
*
窓際にいるだろうと思っていたが、予想通り、ローランは窓の傍に立っていた。
そこから庭が見渡せるから、きっと散策中の皇女の姿を探していたのだ。
部屋に入ってくる彼女の姿を、平凡な茶色の目が見つめた。
底に潜む強烈な光はいささかも失せていなかったが、色の温度は幾分かあがっているように見えた。
アグレイアは部屋の中央まで歩むと立ち止まり、彼の姿を見返した。
初対面の時と同じ、マントなしの、短剣だけを腰につけたありふれた格好。
強大な力と位を得てもなおどこか──成り上がりの傭兵隊長のような。
「久しぶりだな」
しばらく見つめ合って十数秒後、ローランが唸った。
アグレイアは頸をそらした。
「その顔をようやく忘れかけておったところじゃ」
彼は皇女に向き直り、吐き捨てた。
「祖宮も国中の神殿も、他国まで探し尽くした。まさかこんな目と鼻の先にいたとは」
「お前の精進ぶりを眺めながら邪魔されぬ場所はオノレの館にしかないであろう。思っていたより頭が悪い男じゃ」
「二言目には祖宮祖宮とこだわって──」
「斎姫とは祖宮にあってこそ、その力を保つもの。神を斎き、民のために祈るための」
アグレイアはじっとローランの目を見据えた。
「だが、斎姫の位を移譲するための神儀さえ終えれば、心情は別として居続ける理由はない」
「そうだ」
ローランは組んでいた腕をほどいた。
数歩で部屋の中央に到着し、アグレイアを睨みつけた。
「祖宮にはもう新しい斎姫がいる。まだ幼いがともかく彼女が最高位だ。なのになぜお前は相変わらず偉そうなんだ?」
アグレイアは拳二つ分上の茶色の目を軽蔑したように眺めた。
「斎姫ではなくなっても、死ぬまで皇女じゃ。それから、『お前』とは誰の事じゃ?」
「………」
ローランは口を開きかけ、思い直したように声を落とした。
「わかった」
「改めるならばよい」
アグレイアは呟き、かたちのよいなめらかな顎をあげた。
じっと深い灰色の瞳でローランを見上げている。
ローランは居心地悪気に足を踏み替え、眉をしかめた。
「アグレイア?」
「黙りゃ」
アグレイアは目を閉じ、ローランの口に唇を重ねた。
184 :
暁光 14:2006/07/01(土) 15:57:59 ID:yWP2cIsN
触れただけの温もりがどちらからともなくほぐれはじめる。
互いの熱を交換しかけ、アグレイアは背に廻った腕を感じた。
抱き寄せられ、圧力が強まり、否応無しに男の頸にすがりつく。
おそらくローランは彼女を絞め殺すつもりに違いない。
「ん…」
腰に、尻に気ぜわし気に掌が移動していく。
甘く吸われていた舌を抜き取り、アグレイアは罵った。
「相変わらず、こらえ性のない」
「一度抱けば治る」
「リュリュを呼んでもいいのじゃな」
ローランは反射的に力を緩めた。
腕を伸ばしたアグレイアは笑い出した。
明るい声は室内に反響し、彼は腕の中の類稀な美姫を苦虫を噛み潰した表情で眺めた。
「前から思っていたが、お…『あなた』は気位が高いんじゃなくて、もともとの性格が悪いんだろう」
「根性の悪いお前にはそのぐらいが良かろう」
諦めたように口を閉じ、ローランはもう一度アグレイアを抱きしめた。
「ローラン」
アグレイアはローランの耳に囁いた。
「お前は馬鹿じゃ。もっと早く迎えにくると思っていたのに」
「追うなと言っただろう」
「二年も、探していたのは誰」
「俺を嫌い抜いていたのは誰だ」
「心底嫌いな者の娘など産まぬ」
ローランは力任せに皇女の躯を胸からもぎ離した。
呆然というにはまだ足りない間の抜けた珍しい彼の顔を、美しい元斎姫は真面目くさって見返した。
「待て……」
ローランは眉を寄せ、アグレイアの細い胴を見た。混乱しているようだった。
「娘? ……誰の? まさか」
「怒ってもよいか?」
アグレイアは頬をかすかに染めた。
「私はちゃんと、あの時、お前の子を身籠ったと告げたはずじゃ」
「だが」
ローランは軽く頭を振った。
「後でそれは嘘だとも言った。……俺を避けるためだと」
「………そうでも言わぬと」
アグレイアは肩をひねり、ローランの指を外した。
窓越しに曙光の明るさが流れ込む中、彼女の美貌は陰のない表情に彩られている。
「離れられぬではないか。私は……なぜ『契約の目的』で抱かれることがあのように辛いのか、その理由を自分で認められるだけの時間が欲しかったのじゃ」
灰色の瞳が茶色の視線の中で泳いだ。
アグレイアは臈たけた面差しに、はにかんだ色を重ねた。
「すまぬ。……私はともかく、お前があそこまで傷つくとは思わなんだ」
ローランは太い吐息を肺の奥底から吐き出した。
「ひどい女だ」
アグレイアは肩を竦めた。
「私を苛め抜いておったくせに」
「薄々わかっていたんじゃないのか。斎姫だろうが天女だろうが、俺はどうしてもあなたを手に入れたかった」
いい香りの溢れる髪に、彼は額を落とした。
185 :
暁光 15:2006/07/01(土) 15:58:32 ID:yWP2cIsN
あの様子ならばオノレはひき止めそうにはない。
皇家の女の前代未聞の選択も、愚かと笑いはしないだろう。
「…そうじゃな、リュリュも一緒なら」
彼の背にそっと手をまわし、皇女は囁いた。
「あいつもか」
ローランは渋い口調で呟き、気を取り直したように頷いた。
「わかった。……ところで、子…娘はどこに居る」
「呼べば来るぞ。リュリュに抱かれて」
「今はいい」
彼は急いで遮った。
「慌てて見ずとも、たぶん美人だろう」
「髪は金色じゃ。大人になれば、もっと濃くなる。……私が好きなのは、あの子の目」
ローランの額を額で押し上げ、アグレイアは微笑した。
計算も虚勢もない、霧の中から陽が昇るような輪郭の優しい笑みだった。
「茶色の気強い目」
*
ルポネルの館の北棟で幼い姫の朝の身支度を濃やかに侍女に指示しつつ、元神官のリュリュは、今朝に限って皇女様のお呼びが遅いのは何故だろう、と少し不思議に思っていた。
おわり
God Job
まさかイヴァンナタリーの作者でもあったとは。
素晴らしいですGっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっJ!!!
一大ロマンス堪能致しました *・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!
えええええええ!!!!!!
あの底抜けに明るく楽しい「イヴァン&ナタリー」と重厚で端麗なアグレイアが
同じ作者さんだったなんて!超びっくりです。
神どころじゃない、プロ作家以上ですね。
描き切らずに想像させる表現がまた素晴らしいです。GJっ!!
私も職人組ですが、今日はあまりに恥ずかしいので投下は控えよう・・・。
(源氏の権勢に気圧されて、お宮参りを取りやめた明石の御方の気分)
…いや、褒めるのは良いんだけど、下の二行が余計だと思う。
何故かは書き切らないから想像してくれ
いやまさか、アグレイア様がナサの人作だったとは!
見事な読ませる展開堪能させていただきました。
これからもいろんなスレで楽しませてください。
>>189 出し惜しみはナシだぜ?
またもや素晴らしい作品、GJ!です。
読み応えがあって良作だと思っていたら、
イヴァン・ナタリーと同じ作者様とは驚きました。
これからも新作wktkしてお待ちしています。
良かった〜〜〜!
ハッピーエンディングにして欲しいと願いつつ、
どう折り合いをつけるのか愛読者(www)として不安でした。誰も死ぬな、と。
プライドが高いだけでなく、豪胆で知略に富む斎姫殿のおかげでした。
ほんとに良かったよ〜〜。
大好き
もうこんな感想しか出てこない
「お前の命を救ったのは私じゃ」で、アグレイアにぞくぞくしたw
スレタイ通りの「お姫さま」の気高さが最高
本当に良い作品を書いてくれてありがとう
>>189 「そんなこと言わないで投下してくださいよ」と言ってほしいのが見え見えでキモイ
>>195 まあ、そう言うな。本人は本当にそう思っているのかもしれない。
190が書いてるように想像してくれだけでいいじゃないか。
2chにまだ不馴れなのかもしれないしな。
>>189 そういう言葉に拒絶反応を起こす人間もいるということに、気付いてくれたらOK
これにめげずに、スレのために職人さんは良い作品の投下をよろしく。
いつも完結させている職人さんは貴重ですっっ
やあー、皮肉屋の二人が幸せそうで良かったヨカッタ!
ハッピーエンドはいいもんですな
ローランが姫に真情を吐露していくさまに男萌えー
容貌、衣装、風景などの情景描写が美しく細やかな所が
オサレでヒネリのある会話部分を盛り上げているよね
こうまでワクワクして続きを待つ話は中々無いもの。
作者どの、本当にありがとう!
わがまま言わせてもらうと、
この二人のエロがもうちょっと読みタカッタナー
>>195-196 何がそこまで気に入らないんだ。わからん。
自分は気おされる気持ちは十分わかるが。
199 :
196:2006/07/02(日) 18:01:51 ID:aZQ7hSIz
>>198 自分もその気持ちは充分良くわかる。
世の中にはそいうことが、わからない人もいるってことだよ。
言葉って難しいな…
投下直後の感想タイムに自分のことを書くのは野暮。
ついつっこんじゃうのも野暮だと思う。
>>185 直接的なエロはないのにものすごく萌えたよ!
縄を切る前のアグレイアの告発と回想が特に良かった。
雰囲気に飲まれるというか喰われるというか・・・
読み終わって1日たつのにまだドキドキする。
心からありがとう!!
やー、ほんとまさかナタリーの人とは思わなかったなー。
アンタすげぇな。もう超GJでした。
また新作できたら投下してくれると嬉しい。
関係ないけど自分さっきまで某大河ドラマを見てたんだわ。
そしたらさ、その次回予告で茶々、初、お江与の戦国三姉妹が出てきてて
「おやめなさい!」とか「汚らわしい!」とかこのスレ向きな
台詞を叫んでてすごい萌えた。
そろそろまとめとくか。
書きかけの作品を抱えた職人さん、新しい作品を持っている職人さん、
どんどん投下よろしく!
いろんな作品があると楽しい
79と119ですけど、完成したので投下しに来ました。
が、変に設定をつけすぎて、長くなりすぎてエロに突入するまで
大分あるんですけど。
ここは一応お姫様で「エロ」なスレなので、投下していいかお伺いしようかとも
思ったのですが、折角描いたので、読んでもらわずにしまいこむのも
何なんで、さくっととりあえず10スレぐらい投下してみようかと思います。
お目汚し、本当にごめんなさい。もう途中で見るに耐えなくなったら中止するので言ってね。
下手さや矛盾はスルーで、広い目でお願いします・・・
ひやり。
冷たい手が体中を這う感覚に、無意識に身構えた。
しかしさらに手を動かしながら、耳元で吐息と一緒に「緊張するんじゃない」と言い続けるので、仕方なく無理矢理力を脱いた。
ねっとりとした唾液が、耳朶を濡らした。耳の中にも熱い液体と肉が入り込んできて、無遠慮に耳内をまさぐるので、だぷだぷという音が響き渡って頭痛がするぐらい五月蝿い。
わからないように眉と眉の間に皺をよせたが、大きな手がいきなり顎を掴んで、頭をそっくり反対に向けられた。
頬を舐めるように舌で撫ぜると、唇をこじ開けて強引に口内を弄った。まるで突き刺すように、相手の体の臭いが鼻腔を越えて直接脳内に入り込んでくる。
ぬるり。
唇を噛む感触が、ぬめぬめとナメクジのように感じられる。
小さな獲物を嬲るように、冷たい舌を己の好きなようにいたぶりながら、とめどなく溢れる粘液を送り込み、口壁に絡み付けた。反吐が出て吐きそうになったが、口が繋がっているのでそうもいかなかった。
唇を離すと、今度はその無神経な肉の皿を下へ移動させて、首すじや胸を吸うように這った。
その間も、自分より一回り大きな手は、ふくらはぎや膝の裏をまるで決められているかのように単調に、しかし弄るようにじっくりと触り続けている。
何も映っていない瞳で体ごと横を向くと、下品な指は下の方へ降りてきた。不意にぐいと顎を持ち上げられ、二つの残虐な瞳が自分を覗きこんできた。
その濁った眼球の真ん中には、疲弊したような己の顔がそっくり映っている。
口の中の唾を吐き出したい衝動が湧いてきたが、そのまま飲み込んだ。苦い味が口内に広がった。
しばらく足と足の間で指を止めると、それはゆっくりと臀部の方へ、白く滲んだ汗を引き摺り、跡をつけながら、ゆっくりと這って、
ぬるりとした冷たい感触が体の中心を、
そして、
*
青い青い空が広陵とした大地の上に広がっていた。
このエルディーン王国の広大な土地は、殆どが生命の瞬きのあまり感じられない、黄土色の砂――つまり砂漠である。
植物はこの土地ではまるで鉱物のようになる。どくどくと流れる水分の、あの瑞々しい潤いはなく、ただひたすらこの灼熱の下でひっそりと生き永らえ続ける、とても硬質の無機質な何かだった。
このさらさらとした足の掬われる流砂の上では、人間すらも鉱物や植物かの何かになる必要があるようにも感じられる。
そんな命の律動の少ないこの国でも、とてつもなく生命的で、溢れんばかりの躍動が詰まったものが吹き出してくる。石油である。王制国家のエルディーンは、油田の産地だったのである。
真っ黒な液体は、国民の汗と涙とその日の生活が込められさらにてかてかと輝き、近隣国に責任を持って売りさばかれる。
そんな理由で、この王国は他に特産品も見所も、それどころか心休まるような景色の片りんすらも無いのだが、とても潤沢な資金のある国だった。
実際王はとてもそつなく政治をこなしていて、商売相手の国とは固い友好関係を結んでおり、国民はそれなりに充たされているので特に不満もなく、どちらかといえば大人しく従順だった。
王様は変に何かを強制したり、自分の私利私欲のために辛いことを命令したりも無かったので、狂信されてもいないが静かに信頼されており、
外部から突発的な嵐が吹き込んでこない限り、この砂に囲まれた王国は永久に平和が続いていくかと思われた。
しかしある日、その嵐はやって来たのである。
206 :
その2:2006/07/04(火) 03:26:53 ID:3z6mFYcv
*
「ん、ぐっ」
強引な口付けに、エレーナは顔の歪みを隠せず、苦しげに呻いた。その細い腰を片腕で抱えたまま、アレフはそのまま胸から服を脱がせようとした。
しかし口を離すと同時にか弱い腕は思いっきり自分を突き飛ばしたので、アレフは大してよろけたわけでもなかったが、数歩後ろに引いた。表情は変わっていない。
「おお、怖い怖い。俺を突き飛ばせるようになったのか。何人もの下卑な男にまわされて、弄ばれたら、ちょっとは野蛮な行為が染み付いたのかな、お姫様」
「貴方になんか関係ない!!」
麗しい少女は目に涙を溜めて喉が裂けるほどに叫んだ。その様を小気味よさそうに眺めると、口を歪めたアレフは、その瞳にちろちろと残虐と欲望の炎を映しながら、玉座にどすりと座った。
「俺はお前が抵抗してきてくれて嬉しいぜ。そう簡単にあっさり絶望されて言いなりになられたって、つまんねえもんなあ」
大きな瞳が見開かれ、まるで探る風に彼を凝視した。
「それじゃ俺の腹の虫は収まらねえ。俺はお前の小綺麗な顔が歪むのが見たい。屈辱に打ち震えるのが見たい。恥辱にまみれて真っ赤になって歪むのが見たい。
俺はお前が、泣き喚いて泣き喚いて思いっきり涙で頬を濡らしながらお願いしますアレフ様もう止して下さい許してくださいと懇願するのが聴きたい」
エレーナは下を向いて爪を噛んだ。
「あの日、お前の親父が死んだとき、俺に犯された時みたいにな」
「やめて!!!」
耳をつんざくような悲痛な叫び声が空虚な建物中に響き渡り、青ざめた少女は、耳を塞いで泣き始めた。ぽたぽたと足元に涙の雫が幾滴も落ちる。
それを見て、アレフは感情を宿さない瞳でにじり寄った。
「ふん、泣くことないだろう。俺はお前の初めての男なんだぞ。女なら、ちょっとは大切に想ったらどうだ。
しおらしい態度を取ったら、もしかしたらこの手だって、少しは手加減してくれるかもしれねえぞ」
そう言いつつ、屈強な指でいとも簡単に細い顎を掴みあげた。
「くっ……やめ……て……」
「苦しいか? 親の仇の憎い下衆な男に無理矢理扱われて、苦しいか?」
その瞳は爛々として、少女の白い顔を見下ろした。喜んでいるのだ。自分より年下の可憐な非力な少女を追い詰めて、いたぶって、陵辱して、
この男は何よりも喜び楽しんでおり、歓喜に打ち震えている。
ぞくりと、何度目かの凍るほどの寒い思いがエレーナの背筋を這って、そのまま言葉を失い、その冷たい瞳を見返すしかなかった。
207 :
その3:2006/07/04(火) 03:34:01 ID:3z6mFYcv
「ああ、いい顔だ。俺が怖いか? 俺なんか元はただのお前の臣下であり、流れ者のゴミ同然のガキだった。ボロ切れのようになってこの城の前で行き倒れてるのを、お前ら一家に拾われて、
それ以来散々辛酸を舐めさせながらも、この歳になるまで養ってもらった。俺はお前もお前の親父も大嫌いだが、それだけは感謝してるぜ。でもまさかお前ら想像もしてなかっただろう?
おめえらが哀れな貧乏人のゴミに恵んでくださってる度に、この国への忠誠心どころか、お前ら親子へのとめどない恨みと憎しみが俺の中で着実に育ってたなんてな」
「う、恨み……? な、何故?」
彼の顔はひくっと歪むと、とても恐ろしい笑いを浮かべた。元よりとんでもない美形なのだが、今はその表情は悪魔も逃げ出すような冷徹な残酷さと凶暴さに満ち満ちている。
「何でだと思う? え? 何でだと思うよ? わからないんだろ? さっぱりわからないよなぁ? だからお前は、これだけ可愛い顔したって、中身は薄汚い高慢ちきな女なんだよ!」
語気を荒げて言うと、思いっきり顎を掴む二本の指に力を込めた。それに萎縮し、さっきまでの強気な態度を失ったエレーナは、よりいっそう蒼白になりながら、あえぎあえぎ問うた。
「わ、わたしが、貴方を怒らせる原因でも作ったの……?」
「原因? 原因? 原因? はっ! ああ、そりゃあるさ。幾らだってあるさ。俺はお前が大っっっ嫌いなんだからなあ」
冷たい瞳でまじまじと彼女の全身を見下ろすと、急にむらむらと怒りが湧いてきたようで、乱暴に股間を片手で弄った。
「い、いやっ!!」
「俺はお前のそのすかした面が殺したいぐらい嫌いだった。だが今のお前はもうあの時の高貴で清楚なお姫様ですらないよなあ。
はははは……、笑わせるじゃねえか。お前はお姫様から一転転落、単なる女奴隷にまで身を落としたのに、それが巡り巡って、また無傷で俺の元に帰ってくるなんてな。お前は俺に甚振られる運命なんだよ、え、エレーナ姫よ?」
「やめて! 離して……」
「まだ俺に噛み付くのか? 俺はお前のそういう気の強いところ、好きだぜ。いかにも俺のこと見下してやがる。幸せに慇懃に育ってきた高潔なお姫様。お前が俺に逆らえば逆らう度、お前のこと、思いっきり、ぶっ壊したくなる」
208 :
その4:2006/07/04(火) 03:37:49 ID:3z6mFYcv
体中に寒さが走りつつも、エレーナは姫として育ってきた毅然さで、辛うじて言い返した。
「見下してなんかいません、私は……」
「その態度が見下してるって言ってんだよ!! ここはもうお前の住みなれた家じゃねえんだ、理解ってんのか?!」
「それは、貴方が……!」
「ああ、そうだ。見ろ、ここは俺の城だ。お前らから俺が奪った、俺のものになったんだ。俺はここでもう、汚水を飲むような思いでお前らにひざまづいていた俺じゃない。ここの支配者は俺だ。
俺がお前らのご主人様だ。国民は皆、俺の手足となって動くんだ。だから、エレーナ、お前もまた、俺のものになったんだよ!!」
貧雑な服を纏ったエレーナを体ごと抱き寄せると、無理矢理唇を奪った。エレーナは懸命に抵抗しようとしたが、結局言いなりになるしかなかった。
「くくっ、思い出すか? お前が全てを失った日、俺がお前を女にしてやったときのことを」
それまで脅えているなりにも、反発感と嫌悪感をありありと滲ませていた顔から、さっと表情が消えた。血の気が失せて、ひどく狼狽し、同時に、怖がっているようであった。
下を向いてがくがくと震えだしたか細い少女を見て、アレフはひどく征服感を満足させた。
すっかり抵抗心を失った少女は、頑丈な腕の中で、肩を落として項垂れた。瞳の中は何も映しておらず、空っぽだった。
しかしそれにほんのわずかに、「それだけじゃない」といった風な、反発とまでは届かぬ、小さな火の粉のような憎しみがちらついた。
209 :
その5:2006/07/04(火) 03:40:06 ID:3z6mFYcv
「何だよ?」
「……お父様も……殺したくせに……」
全てを絞り出したような低い声で、ぐったりとそう呟いた。それだけ言うと、もうその細い躰には何も残されていないかのように、息を吐くことすらやめて虚空を眺めた。
「ああ、そうだ」
悪びれずに言った。
ふと、利き手を前に突き出すと、いっそう残虐に口の端をぐっと歪ませた。白いマントの裏が、べっとりと紅く塗れたように錯覚するほどだった。瞳は何の慙愧も宿さず、爬虫類のような冷酷さを湛え、ぬめるように光っていた。
「ああ、見せてやりたかったなあ。俺がこの手で喉笛掻っ切ってやったよ。噴水みたいに血がほとばしってよ、辺り一面真っ赤な池になった。その中で溺れるように死んでいったぜ、お前の親父。そう心配しなくたって、あれじゃ一瞬だ。痛みもわかんねえよ。
感謝しろよ? 苦しむことも無く天国に送ってやったんだ。本当はもっと長く苦しませて嬲り殺しても良かったんだ。でもお前の親だからやめといてやったよ。どうだ、俺はお優しいだろう?」
そう言って、クッと声にならない声で笑った。
まるでひどい異国の言葉を聞いているようだった。もうまともに立っていることもできず、目の前に在るものが水中から見るようにぐにゃりと正常な形を失い、自分も水の中に居るように思えた。
普通に息は出来ず、頭の中に何かが覆いかぶさり、白い真綿を詰められているかのように苦しく、ぼんやりした。
210 :
その6:2006/07/04(火) 03:41:45 ID:3z6mFYcv
そのまま頭の天辺まで水に沈んでしまいたかった。外界の何もかもが余計で、関わりたくもなかった。
しかし突如自分を締め上げた、凶暴な手によって無理矢理現実に引き戻された。
慟哭する気力すらなく言葉を失っているエレーナの顔をどことなく楽しげに眺めながら、言った。
「どうだ、思い出したか? お前の人生の中で一番最悪の日だった、あの夜のことを。覚えてるだろうな、今まで平穏に生きてきたお前が、初めて幾ら寝ても忘れられない痛みと侮辱をプレゼントされた夜だ。
俺は今でもよーく覚えてるぜ、俺にとっちゃ最高の日だったからなあ」
それを聞くと、何故自分がこんな目に遭わなければならないのか思いを巡らすより先に、思い出したくも無い場景が、脳にノイズが割り込んでくるかのように鮮明に浮かび上がった。
211 :
その7:2006/07/04(火) 03:48:09 ID:3z6mFYcv
*
人の叫び声。悲鳴。死体。血。咽帰るような臭い。鉄と鉄のぶつかり合う音。
エレーナ・フォン・エルディーンが忘れられない光景といえば、まずこれが思い浮かぶのだった。
エレーナはそれまでの17年間、何の不満も障害も無い平穏な人生を送っていた。
エレーナはエルディーン王家の一人娘であり、王と周囲の人間に溺愛され育った。早くに母を亡くしたこともあり、何につけても大事にされ、手に入らぬものなど無かったし、物欲などというものもよく分からなかった。
歳のわりに純情で擦れてないところがあり、侍女にも兵士にも変わらずに接した。身分の差というものがよく分からなかったのだ。
人を見下す気持ちなど欠片も持っていなかったし、その飾りでない純粋さは人々に否が応にも尊敬され、好感を持たれた。民も皆彼女の信者だった。
そんな彼女の傍に一番長くいたのは、乳母でも父親でもない。アレフという、姓の無い顔立ちの美しい青年だった。
彼の年齢は正確には不詳である。生まれた年が自分自身でもわからないからである。大体十、十一歳ぐらいだと思われるときに、この城の前の死に掛けていたところを、城の者に発見され拾われた。
一命を取り留めた彼は、この城で働きながら養われることとなった。
以前の記憶は全くなく、何故この国に来たのか、自分が何者なのかも、何もかも分からなかった。
212 :
その8:2006/07/04(火) 03:58:35 ID:3z6mFYcv
たまたまその場にいた兵士が自分の子供に付けようと思っていた名前を述べたら、そのまま定着してしまい、その後彼は姓もミドルネームも無い単なるアレフになり、彼自身もそう名乗るようになった。
ただ彼がその時持っていたのは、その後目を見張るほどに見目麗しい青年に成長するであろう、悪魔的ともいえる美貌の片鱗だけだった。
アレフは黙々と働き、成長した。従順で大人の言いつけには逆らわなかったし、よく勤め上げ、機転も利いた。王はこの、一見美形だけに冷たい印象があるが、反面寡黙で呆れるほど誠実に命令をこなす青年を、その実目にかけていた。
最初は単なる雑用ぐらいしかやらせてもらえなかったが、成長するにつれ兵士から士官に、そこからさらに直属で姫を護衛する親衛隊長の役目まで与えられた。鋭いほど頭が切れ、判断力が優れており、さらに判断はいつも的確だったからである。
エレーナは、アレフのことが好きだった。何だか彼が隣に居ると、わけもなく心が弾んだ。自分が子供の頃から城に居て、文句一つ言わず黙々と命令を守り働く姿が子供心にも誠実だと感じたし、とても信頼していた。
いつだって自分を守ってくれ、大切にしてくれる、とても大事な男の人だった。アレフは他人と距離を置くところがあったが、エレーナにはとても饒舌で洒落た男だった。
彼からはおべっかや自分を売り込む嫌らしさは感じられず、本当に自分のことを大事にしてくれている、そう好ましく思っていた。エレーナにとって身近な男性の中で、身内では唯一の家族でもある父が、そして他人ではアレフが、一等大切だったのだ。
213 :
その9:2006/07/04(火) 04:01:38 ID:3z6mFYcv
鋭いが、何となく全てを包み込むような鷹揚さを湛えた黒い瞳で、じっと見つめられると、その深い深い黒い海の中にどこまでも行き場無くのめり込んでいくような、何とも知れない、だが同時に心地よい陶酔感が襲ってきたのである。
しかし精神的に同年代の女性に比べて圧倒的に未発達であったエレーナは、それが異性への恋とははっきり意識していなかったし、明瞭に兄や父を慕う類の感情と区別があるわけでもなかった。
多分彼女にとってアレフは兄でもあり、父でもあり、恋人でもあり、その全てであったのだろう。
それまでアレフは本当に、エレーナのことを大事にしていた。彼女に喜ばれてまた、彼自身も満足しているかのように見えた。
しかし、それはそうではなかった。ある雨の日に、事件は起こったのである。
今日はとりあえずこの辺にしときます。
掲示板に投稿するなんて、初めてでもう顔から火が出そうです。
思ったより長くないけど、エロに入るまであと少しあります。
ぜんっぜん自信が無いんですけど、とりあえず読んでくれた人がいたら、
ありがとうと言いたいです・・
24時間間違えてアレを覗きに来て、遭遇した。
Gッ ッ ッ ッ ッJ!
掘り起こされる過去につながるのだな? 何があったんだ、姫君…。全部話してみなさい!
GJ!どういう事件なのか楽しみ
緊張するな、それより投下を最後まで楽しめ
超GJ!
序章のねちっこいエロ描写がいいよー。
細かい心理描写もいいよー。
続き期待してます。
どうなるのか楽しみですね。
初作品でこれだけ丁寧に書けるのは立派だと思います。
できればキリのいい所で改行してくれるとより読み易くなるかと。
段落で区切っているみたいだから
ブラウザの幅を狭くしたら読みやすくなるよ。
220 :
214:2006/07/05(水) 20:00:53 ID:7vIL7xPT
こんばんわ、一番新しく投下させて頂いたへっぽこです。
あまりの恥ずかしさになかなかスレを覗く勇気がなかったんですが、
頑張って来たら、レスしてくれた方々がいて嬉しいです・・・
正直、「この方たち以外は皆うぜーよ早く終われ
スレを浪費するな」とか思ってるんじゃないかとか不安になったりして。
でもとりあえず最後まで投下していきたいと思います。
いつまでかかるかは分かりませんが(汗)。
>>218様 ご指摘ありがとうございます、確かに長いですね・・気づきませんで、すみません。
文章はwordで書いてるんですが、一行44字程度なのでそれにあわせて
改行してみました。
その分縦に長くなりますが、良ければ読んでやって下さい。
また至らないところがあれば、見捨てずに指摘お願いします・・・
それでは
↓
221 :
214:2006/07/05(水) 20:08:47 ID:7vIL7xPT
しかし、それはそうではなかった。ある雨の日に、事件は起こったのである。
ある日、彼は豹変した。
自分をいつでも見守ってくれた、優しかったあの瞳は、ただ欲望と残虐さと、何だかわからない、
言葉にならないどす黒い衝動にまみれて、それ以前の目つきなど思い出せなくなってしまった。
アレフは突発的にクーデターを起こしたのである。国土の殆どは砂漠に囲まれており、侵攻が困
難ゆえに他国との小競り合いすらも無縁だった閉ざされた平和な国に、巻き起こった嵐は、この国
自身が孕んだ種子によって起こされた。
いつの間にか思想に共感する仲間を着々と集め、普段からろくに攻めてくる敵も居ないため、防
衛意識の低いこの居城を、攻め落とすのは簡単だった。城の兵士達も、まさか自分らの内部に鼠が
巣食うなどと思っていなかったわけである。相手は隙も罠も知り尽くした元同士であり、何より不
意打ちを食らって、これで精一杯抵抗できるだけで十分見上げたものである。しかしアレフは元よ
り、兵士の中で王付きの護衛と並んで位の高い、エレーナの親衛隊長を務めていたほどの男である。
抵抗など、鼠が猫に牙を突き立てる程度に等しい。窮鼠猫を噛むといった奇跡も起こりようも無
く、猫がその鋭い爪でじわじわと甚振り殺すように、城は占拠された。
圧勝に近かった。
長年この砂の国を支配してきた王は、自分が拾って育ててきた最も信頼する当人に、残虐にも一
撃で喉元を切り裂かれ、その躰を散々嬲られて塵屑のように地面に投げ捨てられた。彼は何の感慨
も、感情もその表情には表さなかった。
今まで世話になっておきながら、眉一本動かさず全てを奪い取るその所業に、仲間すらも慄いた。
そして一番それに絶望したのは、ほかならぬ、
*
思い出したくもない残像のフラッシュバックに、エレーナは固く目を瞑って俯いた。眉が苦痛に
歪んでいる。
あの日――雨が降りしきる夜、アレフは突如豹変し、エレーナの体を汚した後、王を殺害し、そ
のまま城の主に成り代わった。
しかしエレーナはその時点では兵士の懸命な努力により、何とか城を裏口から脱出し、そのまま
街の外へ逃げたのである。
だがその後、ほうほうの体で右も左もわからず彷徨っているところを、運悪く奴隷商人に捕まり、
無理矢理商品にされてしまった。
そして運がいいのか悪いのか、商人がこの美しい奴隷を放出する相手先に選んだのが、この若き
支配者だったのである。その間は大体一箇月程度である。エレーナは、運命の悪戯で、再びこの自
分の住みなれた家から、悪魔の住む城へと変貌を遂げた居城へ舞い戻ってきたわけである。このエ
ルディーンの現王は、念願の姫君を、力任せに引き裂いたあの時と違い、今度は正式に大金を摘ん
で自分の所有物にしてしまったわけである。
何よりこんな形で戻ってくるとは思っていなかったので、一番驚いたのはアレフ自身だったので
はないだろうか。
エレーナは城に居たときからは想像もつかない質素な服を纏っていたが、それが余計に、白い肌
と魅惑的な肢体を強調し、清楚さと同時に官能的な魅力も感じるような、そんな反面した色香を放
っていた。
腕を後ろに縛られたまま、よろよろとかつては自分の父が鎮座していた玉座の前に進み出ると、
そこにはあの冷酷非道な美貌の独裁者が、慇懃に君臨していた。
片方の足を肘掛けにどかりと置き、さも新しい玩具を心待ちにしているかのように、楽しげに口
の端を上げていた。
全身から血の気がすーっと引いていくのを、エレーナははっきり感じた。
玉座に座るアレフからは、父からは発せられなかった威圧感すら感じる。商人をさっさと帰した
後、アレフはゆっくりとエレーナの後ろ手の縄を解いた。あの時ベッドに縛り付けていた手を解放
するときと同じように。
今度は自由になれるわけでなく、蝶が蜘蛛の巣にべっとりと入り込んでしまっただけである。
「久しぶりだな……よもや俺のことを忘れちゃいないだろうな?」
低い声でそう囁くと、艶やかな長い黒髪にさらっと指を通した。エレーナは硬直したように身動
きが取れなくなった。
「俺はこの一箇月間、お前のことを忘れたことは無かった。ちょっと目を離した隙に、俺から逃げ
出すなんて小賢しい真似をしたって、ちゃーんとお前はこうして俺の元へ戻ってくる。俺から逃げ
られないって意味がわかったか?」
そう言うと、ぐっとその細い体を抱き寄せ、無理矢理唇を重ねた。
繋がった口と口から、彼の元へは歓喜と欲望が、彼女にはそこから空虚な絶望と支配が流れ込ん
できた。
城は外と打って変わってひんやりとして、冷酷さに充ちている。
223 :
その12:2006/07/05(水) 20:22:50 ID:7vIL7xPT
*
「あっ」
乱暴な唇が、華奢な脇腹に吸い付いた。割れた唇の間から、ぬめった舌がまるでナメクジのよう
に這い出してきて、繊細な肌の上を絡みつくように滑った。
「やだっ……」
精一杯の抵抗で、右手で払いのけようとしたが、弱弱しく逞しい腿の上に当たっただけだった。
その小さい手をそっと自身の手の平の中に収めると、逃げ出す暇も与えず、指を五本とも、白い指
に巻きつけた。
まるで揉むようにそれを嬲りながら、今度は首すじを下から上へ、丁寧に、なおかつ強く舐った。
耳の裏まで到達すると、一旦舌を離して、耳たぶに息を吹きかけながら、そっと囁いた。
「どうした、逃げないのか……?」
ぐっとエレーナは目を細めた。アレフはそのまま、薄い肢体の後ろへ回ると、両手で豊かな乳房
を捕まえた。十七にしては十分な大きさのそれは、今は形を変え、頑丈な手の中でぐにぐにと潰れる。
「や、やだっ……」
目尻に涙を潤ませながら、エレーナは拒んだ。が、それは聞き入れられず、乳房を弄ぶ手は今度
は下の方へ移動した。桃のように瑞々しく、すべすべした太腿を撫でて、茂みを指で掻き分ける。
ぞわりとした嫌悪が背筋を貫くように走ったが、後ろから固定されているので逃げることも出来な
い。なおもいたぶるように言葉を続けられる。
「悔しいか? 恨んでるか? 今までお前に飽きるほど忠実だった俺が、裏切って」
答えは無かった。エレーナは俯いたように目を伏せている。唇はきゅっと閉じている。
「このままじゃあの時と同じようにまた好き放題されちまうのに、お姫様なら、その前に自害でも
したらどうだ?」
「……させて……くれないくせに……」
呻くように呟いた。まるで嘲笑するように答える。
「ああ、そうだ。簡単に死なせてなんかやるもんか。どんな恥辱に耐えられなくなっても、絶対に
逃がしやしない」
下へ持っていった手を上にやり、頭の方向を変えた。顔を固定されたまま、口付けを強制される。
苦しくて暴れようとするも、全身の自由を奪われた今となっては、それすら叶わない。
224 :
その13:2006/07/05(水) 20:28:24 ID:7vIL7xPT
「ん、ぐっ……」
苦しい。が、どうにも出来ない。唇と唇を触れ合わすことに飽きると、すぐに舌が割り込んでく
る。最早、これ以外のやり方の方をエレーナは知らなかった。
薄暗い灰色の部屋の中は、しんとしている。
シーツの擦れる音や、時々漏れる吐息、粘膜のぶつかる湿った音以外、聞こえる音は無い。
やたら広い寝室は、真ん中に十人ぐらいは寝れそうなベッドが置いてあるだけで、他には何も無
かった。
父の支配するときは置いてあった調度品の類は、全て消えている。捨ててしまったのだろうか。
何だか、この男の心の空洞が見えるような気がした。
「いい匂いだな……」
ふと、艶やかなエレーナの黒髪に顔を埋めたアレフは呟いた。とても素朴な口ぶりだった。そし
て、つと真顔になってじっと黒い瞳を凝視した。
何だか気圧されるようで、エレーナの大きな瞳はゆっくりと瞬いた。
この二人は両者とも、通り過ぎるものが例外なく振り返るほどの美形である。ただしエレーナの
方は、育ちのよさが滲み出ているあどけない顔立ちなので、童顔ともいえる。逆にアレフは、正確
な年齢が不詳なため何ともいえないが、何だか外見よりも歳を重ねているような深さを放っていた。
そんな掛け値なしの美貌を持つアレフが、真剣そうに自分を見つめると、父を殺し自分を傷物に
した憎い怨敵と分かっていても、つい何もかも忘れてその目に吸い込まれてしまいそうになる。
「んっ」
アレフは首を伸ばして、エレーナのふくよかな頬に口付けした。まるで愛おしい恋人を愛撫する
ように、首すじ、まぶた、耳たぶと、そっと唇をつけていく。
最初は固く目を瞑っていたエレーナは、本当に愛情が篭っているかのようなその感触に、半ば信
じられない気持ちで目を開いた。
が、エレーナと目を合わせたアレフは、信じられないぐらい穏やかな瞳だった。夢を見ているよ
うな気持ちだった。戸惑いながらも、ときめいた。
湖のような大きな風呂で体を洗われ、上等の清潔な服を着せられてこの寝室に連れてこられる以
前の、あの凶暴性は欠片も見当たらない。
さらりと、腰まで在る、誰もが一度は称賛した長い黒髪を手に取った。豹変する前までのアレフ
は、よくこの髪を美しいと言って誉めていた。エレーナは一時的に嫌な事を全て忘れて、純粋にこ
の人を想って喜んでいた時に逆行したようだった。
225 :
その14:2006/07/05(水) 20:33:53 ID:7vIL7xPT
アレフはエレーナを、どこと無く憧憬深そうに見つめながら、黙ってその瞳を見返す小さな顔を、
両の手の平で包み込んだ。
「何で、抵抗しないんだ?」
「………」
自分でもよくわからない。アレフはふっと笑った。そこには、支配者である慇懃さも、あの残忍
さも感じなかった。
「お前はいつだってそうだ。俺がお前のことを憎いと思うたびに、その意識をそうやってどこかへ
逸らしちまいやがる。俺は、そんなお前が……」
言葉を切った。
エレーナの胸は高まりは否が応にも加速した。
安らかな瞳が自分を見つめたまま、
瞬間、ものすごい強い力で、根元から髪を掴まれた。本当に手加減なしに力任せだったので、そ
のまま頭皮が剥がれると本気で思ったほどだった。
「俺は、そんなお前が大っっ嫌いだったんだよ」
腰が抜けるぐらいの剣幕で、腹の底から絞り出すようなひくい声で言った。呪うように目を見開
いたまま、射抜くように、エレーナを真っ直ぐに睨み続けている。地獄のそこから響いてくるよう
な、この世の全てを怨み殺すような、そんな暗い声だった。あまりの迫力に、息が止まっただけで
なく、ほんとうに心臓すら鼓動するのを止めたような気がした。
体中からさっと血が降りていった。唇は蒼ざめて、薄い白い色になった。寒いわけでもないのに体
が震えだしそうだった。
表情を失って硬直したエレーナを見て、アレフは髪の毛を引っ掴んだまま、大の男でも逃げ出し
そうな、凶悪な笑みを浮かべた。
全身の毛穴がざわざわと開いて、顔を一筋、冷や汗が垂れた。
――怖い。
「お前は知らないだろう? お前の知らないところで俺がどれだけお前を憎んでいたか、知らない
だろう? お前が呑気に生活してる間に、俺がどんな生活をしてたか、知らないだろう? 俺がど
れほどお前が寝ている間に殺してやりたかった、知らないだろう?」
「あ……貴方は何故、それほどまで私を………憎むん……ですか……?」
ぱくぱくと喘ぐように問い返した。自分を呪い殺すように睨む顔が、いっそう恐ろしくなる。
「知りたいか?」
ふと恐い顔のまま口の端を釣り上げて笑うと、耳元で囁いた。エレーナは体の感覚がまともに無
かった。
「何でだと思う? 俺はほぼ毎晩、ここでこの部屋の主に抱かれてたからだ」
226 :
その15:2006/07/05(水) 20:44:07 ID:7vIL7xPT
ひやり。
冷たい手が体中を這う感覚に、無意識に身構えた。
きっぱりとそう言った。エレーナの潤った大きな瞳は瞬きを途中で止めたかのように静止した。
アレフは、今日見る中で一番、荒々しい獰猛さを瞳に光らせている。だが、口調は打って変わって
落ち着いていた。
エレーナは暫く考え、結論に達すると、本当に綿で締め上げられるような苦しさを覚えた。頭の
後ろを固いもので殴られたような感じがした。凍りついた瞳に、ありありと慟哭するような衝撃と
動揺が広がっていった。
この部屋は、自分も何度か訪れたことがある。前王の寝室だった。
「………………え………………? だって………………」
舌の根が渇いたようにからからになった。必死で口を動かしても、唇だけが空を切るように上下
するだけで、喉からは空っぽになったかのように、何も出てこなかった。
王である父は、どちらかといえば慎み深く、決して淫蕩な性格ではなかった。王であるなら愛妾
や奴隷を持って当たり前、というのは他の国の常識だと思っていた。
この部屋で父と母が一緒に寝たのは、何度ほどであったか。この広い大きな部屋の、いかにも王
様が寝るような豪勢なベッドは、自分が子供の頃には巨人が寝れるとも思うほどに雄大に感じたも
のだった。
そこに。
自分が拾って育てていた少年と、寝ていた?
「いつからだったか――もう思い出せない。ある日寝室に呼ばれて、それ以来ずっとだった。断れ
るはずもなかった。俺は足が石になって、このまま動かなくなったらどれだけいいだろうと思った。
誰も助けてくれやしなかった。誰かに知られるなら死んだほうがいいと思った」
アレフはエレーナを見据えたままとうとうと語りだした。全く無表情なままの、口だけが別の生
き物のように動いている。
希望とは関係なく脳裏に、鮮烈な映像が浮かんだ。どきりと、心臓が震える。この照明のない薄
暗い灰色の部屋の、真ん中にどんと構える溺れるようなベッドの上で、二人の薄暗い影が蠢いてい
る。
「お前の母親が生きてる時から――あった。ただし、回数はそれほど多くなかった。ただ、王女様
が死んでからは、誰にも気兼ねする必要は無いといった風に頻繁になった。部屋に入ったら足が途
端に重くなった。だが歩かないとベッドまで辿り着けないので、石みたいな足を引き摺ってやたら
遠いベッドへ到達した。ベッドへ入る前に服を脱げと言われていたので、いつもそこで脱いだ。た
だ、いきなり押し倒されて、体中触られながら徐々に脱がされるのもしょっちゅうだった」
衰えつつあるも、ぎらぎらと欲望が毛穴から這い出してくるような皮膚をてからせる体の大きな
中年と、それに舐られ、捕らえられ、体中を嬲られている、しなやかな肢体の、呆れるぐらい美形
の少年の裸体が、生々しく絡みつく光景が浮かんでは消えた。
227 :
その16:2006/07/05(水) 20:51:16 ID:7vIL7xPT
打ち払うように頭を振る。自分でも全く意識しないまま、音も無く涙が流れた。それは目の下の
窪んだ部分に溜まっては溢れ、頬を下っていった。
それを見つめたまま、アレフは表情を動かさず続ける。喋り続けないと死ぬかのように。
その瞳には哀しみも苦痛もない。ただ濁りがあるだけである。
「あの親父、まるで猫でも撫でるかのように俺の全身を甚振ったよ。そのまま殴り殺してやろうか
と何度思ったか知れないけどな。だが、我慢した。し続けた。そうするしかなかった。何故なら、
俺は力も金もないガキだからだ。笑わせるじゃねえか、ここ最近、俺が自分より本当に強くなる二、
三年前まで、ずっと続いてたんだ」
そこで初めて、はっと口を歪めて、自虐的に笑った。
二、三年。その響きがやたら重く、鉛のように心に圧し掛かった。二年前三年前といえば、自分
は何をしていただろう。
何もしていなかったろう。自分の毎日はいつだって能天気で変わらないものだった。
涙が止まらなかった。
「俺がお前の警護を任せられるようになって、まだ何回かは呼ばれたよ。お前は呑気に部屋の中で
寝こけてる間で、気づかなかっただろうけどな。俺は一度、この部屋に来る前に、お前の部屋にそ
っと入ったことがあった。当然真っ暗で、何も音はしなくて、天蓋のカーテンを掻き分けて寝顔を
覗いてみると、幸せそうな顔して寝てやがる。無性に悲しくて腹が立って、凶暴な衝動が胸を突き
破った。暗い部屋の中でも真っ白な肌は抜けるみたいに浮かび上がってた。何でこいつの親のため
にこんな目に遭わなきゃいけないのか、いや、そうじゃない、何であの畜生の娘を見てこんな思い
をしなきゃいけないのか、そう思った。
お前はちっとも気づかずに寝息を立てている。俺は今こいつを絞め殺して逃げたらどれほど楽だろ
うと思ったよ。そしたら捕まってどうせ俺も殺されるだろうが、もうあの部屋に行くよりましだっ
た」
表情が無いその顔の、瞳の奥が、震えるように揺らめいている。
エレーナは聴きたくも無いのに、耳を閉じることも出来ず、ひたすら鼓膜の振るえる通りに言葉
を脳に送り、理解し、そして、心を少しずつ崩壊させた。
そう、きっとその時も、彼はこんな目をしていたのだろう。
何かを決心したように、とても冷たく、何があっても曲がりそうに無いくせに、やたら人間臭い、
生々しい瞳だった。
エレーナはひくっ、と引きつるように呻き、その目を真正面から真っ直ぐに見返した。
それが気に入らなかったのだろうか。アレフは一瞬、耐え切れないように瞳をぐらつかせ、顔を
歪めた。まるで、たじろいでいるようだ。
一体何故そのまま、捻れば簡単に息が止まる首を絞めて自分を殺さなかったのか。難無く出来た
筈である。しかしエレーナは今も生きている。一体何が彼の決心を鈍らせたのだろうか。
その答えは出ないまま、アレフは脅えたような瞳を引っ込め、またあの濁った目つきを取り戻し
た。たじろいだように見えたのも、錯覚だったのだろうか。
228 :
その17:2006/07/05(水) 21:00:54 ID:7vIL7xPT
「俺は、地獄のような日々を、耐えた。頭に真綿を突っ込まれて、全ての感情を吸収してるような
感じだった。辛い目に遭い続けると、外部からの刺激への反応が鈍るんだ。いつだって頭ががんが
んして、何だか自分が死ぬか、周りにいる人間全員殺すかを誰かが命令し続けているような感じが
した。だが俺は死にたくなかった。だから行き続けた。あの部屋に。このベッドに。あの親父の、
息遣いが、ねっとりした舌が、たるんだ皮膚が、独特の臭いが、皺と皺の間に溜まった汗が、絡ん
で汗ばむ指が、何もかも全て自分の脳裏に焼きついて刻印されて嫌で嫌で仕方なかった。たまに呼
ばれなかった日はほっとして自分の部屋で眠ったが、それでもいつドアをノックされるかと思うと
ビクビクしてまともに寝てられなかった」
そこまで言って、目を伏せるように瞬きした。エレーナは、たまらなくどうしようもない気持ち
になった。何もかもが嫌で、もう何も聴きたくなかった。耳を切り落としてやると言われればお願
いしますと言っただろう。白い指でそっと顔を覆うと、すすり泣くように泣き始めた。とてつもな
く苦しげな嗚咽が、物音一つない部屋の中に吸い込まれ、消えていった。
その泣き声を聴きながら、アレフはぼんやりと白い顔を見つめ続けていた。
すると、いきなり歯と歯が音を立てるぐらい奥歯を噛み締め、怖い顔で怒号した。
「泣くんじゃないっ。お前が泣いてどうなるっ」
また髪の毛を掴む。今度は何で怒っているのか、エレーナには何となく分かった。
自分が今まで泣けなかった分を、簡単に涙で表しているエレーナに、怒っているのだ。
エレーナは何もかも捨てた気持ちになって、アレフの瞳を真っ直ぐに見つめた。途端に、髪を掴
む手は大人しくなった。何かに気圧されるように、考え込むようにしてずっとその瞳を見返してい
る。
「ずっとお前を、殺したかった」
229 :
その18:2006/07/05(水) 21:07:20 ID:7vIL7xPT
苦しげに唇を噛むと、ぱっと決心したような目で、その手でエレーナの顔を包み込んだ。 ふと、
やけに優しい目をして、虚しく笑いながら言った。
「あっけないもんだな。ちょっと手を動かしただけで、長年俺を苦しめてた奴は、血を流して、単
なる肉の塊りになった。自分の手の中で死んで蒼くなっていくそれは、ものすごく矮小で、何の恐
怖も感じなかった。今まで自分を支配してきたものはなんだったんだろうと思った。何かがふっと
抜けていく感じだった。その時点で、あいつは死んで、あいつの持ってたもの全部奪って、それで
大体は気が済んだはずだった。でも俺はこの一箇月間まるで胸の中に鉛が突っ込まれてずっと胸焼
けしてるぐらいに気持ち悪かった。何でかってずっと考えてたが、お前がいないからだ。お前が居
なかったら、こんなものただの空っぽの建物だ。ここにはお前が居ないと何の価値も無い。わかる
か? 俺は、お前を手に入れることで、やっとあいつから全てを奪うことが出来るんだ」
アレフは微笑んだ。ひどく残虐に、優しく。そしてもう一度繰り返した。
「わかるか? 俺は今からあいつになるんだ。俺は、あいつになって、俺があいつにされたことを、
今度はお前がやられるんだ。それで俺はやっと解放される。だから俺はお前を殺さなかった。殺し
たら、俺はあいつになれない。俺はずっとあいつに苦しまなけりゃならない、でも俺があいつにな
ったら、もうあいつに苦しまなくていい」
うわ言のように、自分自身に言い聞かせるみたいに、そこまで言うと、エレーナの細い肢体を思
い切りシーツの上に押し倒した。
「くっ」
続く
230 :
へっぽこ:2006/07/05(水) 21:15:26 ID:7vIL7xPT
今日はこの辺で。相変わらず読み辛くて長くてすみません。
この後エロに入って終わります。
最初は普通に書こうと思ってたんですけど、何故か書き進めるうちに
こんな話になってしまいまして・・
変に重くなってしまって、今思えば申し訳ないです。もう投下した後なので遅いんですが。
これ読んでご気分を害した方が居たら、本当に済みません・・。
広い心で許してスルーして下さると至福です。それでは。
素晴らしい。
畳み掛けるような情熱的な文章が癖になりそう。
男が男娼をさせられていたというのも新鮮です。
>>230 イイヨーイイヨー.。゚+.(・∀・)゚+.
超GJ!!!
蛇足だけど、あんまりスイマセン&お詫び文は入れなくていいからね
そういうのをウザがる椰子多いから
充分イイからこれからもヨロノシ
文章がお上手ゆえにテンポ良く読めます。
次回もwktk!
すごいGJ!!
序章はエレーナの体験かと思っていたらアレフと前王のものだったのですか!?
こういう話し好きですよ〜。
頑張れ!
235 :
自称へっぽこ:2006/07/06(木) 01:05:49 ID:+Nh2tEaI
>>231-234 ありがとうございます!何せ一瞬でも男×男だったんで、
受け入れてくださって嬉しいです!
>>232 うす!これからは堂々としてます。
でも何せ初投下&内容が内容だけに心臓バクドキだったんで、
励ましてくださって自信つきました。
それではまた後日完結まで投下しますので、最後までお付き合い宜しく!
237 :
人魚の真珠1:2006/07/06(木) 22:11:32 ID:snfOuKoO
人魚姫を題材に書いたんで投下したいと思います。
「人魚の姫」しか原形とどめてないんでかなり明るい話になってます。
序
ざぁ…ん
ざぁ…ん
よせてはかえす波が優しく足首を洗う
青年に少女は泣きそうな笑みを向ける
「必ず、会いにいくわ…その時まで待っててくれる?」
眼に一杯の涙をためた少女を青年が掻き抱く
「待ってるよ…忘れないで待ってる。コーラル姫…」
シャラ…
貝殻の髪飾りがなごりおしそうに青年の手の上で音を奏でる。
少女が再会の約束の誓いに彼に手渡した物だ。
別れの時は近い。命一杯に抱きしめる。
そっと身体を離す。
一瞬だけ視線を絡ませると少女は海の中に身をひるがえした
銀の尾を夕日に光らせて…
1 海から来た姫
あれから4年の月日が流れた。
あのころの少女は美しく成長した。
柔らかい亜麻色の髪が海水の中でゆっくりとたゆたう。
『海の住人・マーメイド』地上の人間は彼女らをそう呼ぶ。
マーメイドの少女は海底の奥深くに住まう長老・モルガに会うべく
「…おぉ、末の姫。よう来たな」
しわがれた声とともに半身が魚の老婆が現れる。
「お婆さま、わたしを陸にあがらせてください」
「わかっておるよ。陸にあがり子種をうけてくるのだね」
マーメイドは女しか存在しない。だから代々子孫繁栄のために彼女たちは
陸に赴き陸の男達から子種をうけやがて海にもどり子を作る。
マーメイドの子どもは大抵であれば母親と同じマーメイドで生まれてくる。
もちろん陸の男は彼女たちがマーメイドであるのなど知らない。
海にあがるときは陸の女と同じ二本の足をはやして男とすごしある日忽然とその姿を消すのだ。
「わかっていると思うが、陸の男を愛してはいけないよ…。海に住む者の掟だからね」
ぎくりとコーラルは肩を揺らす。
瞬間、脳裏に淡い思い出がよぎる。波打ち際で別れをつげた青年。会いたいとずっと思っていた。
老婆の細い目が鋭くひかる。
「いいよ…。陸の上にあがるための魔法をかけてあげるから」
ぱぁっと少女の顔に安堵の笑顔が広がる。
「さぁ、こっちへおいで…。後ろをお向き」
言われたとおりコーラルは従う。
老婆の手には魔術のために使う杖が握られている。
「いくよ…」
…ゴスっっ
鈍い音と共にコーラルは海中にぷっかりと浮かぶ。
「こうでもしないとお前は掟を破ってしまうだろう?
…これがお前のためなのだ。許しておくれ」
老婆の声が闇の中、遠のいていった。
238 :
人魚の真珠2:2006/07/06(木) 22:16:16 ID:snfOuKoO
ざぁん…ざぁん
「…っぅ」
砂浜の上でコーラルは水色の瞳を開く。身をおこすとくせのない髪から砂がぱらぱらと落ちた。
頭が殴られたかのように痛かった。
そっとふれてみると幸い血はでていないが、大きなこぶがあるようだ。
いったい誰がこんなこと!
そこで初めて気がつく。ここは何処だろう?…なぜこんな所にいるのか?
――記憶が曖昧になっている。不安そうにあたりを見回す。その時
「何者だ?そこでなにをしている?」
低く厳しい声が背後からかかる。驚きふりかえる。
二人の男性が馬に跨り彼女を見下ろしている。
(陸の男…?)
ふと足元をみる。魚の尾はなくそこにはすらりとした白い二本の足が生えている。
だんだん思い出してきた。そう、長老モルガに陸を歩くための足をもらい陸人になりすまし子種を…――
「おい…聞いているのか!?」
険しい声が投げかける。黒い馬に乗った男の声だ。身につけた髪も甲冑も黒ずくめで
高いところから見下ろされているのも手伝い威圧されたようにコーラルは身を竦ませる。
白い馬にのった男が黒い馬の横につく。
「ジェイド!そうきつく責めるな、怯えているだろう」
「アレキサンドル殿下…」
コーラルは救いを求めて白い馬の方の男を見つめる。
柔らかそうな焦げ茶色の髪が揺らして彼はにっこりと少女に笑いかける。
「可愛いね。一緒に来るかい?」
「アレキサンドル様?!またそのように素性の知れないものと…!」
アレキサンドルと呼ばれた男は黒い馬の方・ジェイドの言葉を
無視してコーラルに手を差し伸べる。
コーラルは言われたがままに手をとろうとしたが手がふれる直前で大事なことを思い出し固まる。
(…わたしの目的…)
コーラルは思惑を巡らして頭を抱える。
しかし元来楽天家のコーラルはこれは願ってもない幸運の前触れではないかと考える。
身なりも品も申し分なく良い。一見で高貴な血筋のものとわかる。おまけに優しい。
この男の子種を得られたなら願ったり叶ったりではないだろうか。
(あぁ、でもまだなにかとても『大事な事』を忘れている気が…)
しかし今逃せば二度とはこんな絶好の幸運巡ってこないだろう
決心をきめてそっとアレキサンドルの手になよやかな手をのせる。
満足そうに彼は笑うとコーラルを抱き上げ自分の馬に乗せた。
239 :
人魚の真珠3:2006/07/06(木) 22:20:06 ID:snfOuKoO
きらびやかなシャンデリアが眩い部屋。固い床は大理石。
ここは陸の王が住まう王城。アレキサンドルはなんと王の第一王子なのだという。
「…そうか。船が難破して気がついたらあそこにいたというわけだな」
アレキサンドルは気遣わしげに少女を見やる。コーラルは悲しそうに顔を手で覆う。
全ては自分の正体をしられないために演技をする。
「ふぅん…」
アレキサンドルは意味ありげな顔をする。
「殿下、いかがいたしますか?」
ジェイドがきつくコーラルを見つめたままアレキサンドルに彼女のこれからのことをどうするか問う。
アレキサンドルは腕を組む。彼は悩むような仕草とは反対に口の端に笑みを浮かべる。
「身よりがないといったな。どうだ…娘、私の愛妾になる気はないか?…」
その言葉を待っていたとばかりに覆った手で内心の笑みを隠す。
手を下ろし涙で濡れた顔を見せる。
「そんな…わたしのようなものが王子殿下のお側に…?」
いかにもか弱い乙女らしく細い肢体を頼りなげに抱きしめる。
「わたしのそばにいれば何も困ることはない…。美しいドレスも
毎日きることがだってできる…どうだ?」
アレキサンドルはコーラルの頬をすくい誘惑的な眼差しを向ける。
その時、紅い服のドレスを纏った女が扉を開けて入ってくる。
いぶかしげにコーラルの方を見る。
「殿下?その方は?」
「あぁ、ガーネットか。紹介しよう、この娘はコーラル。今日から私の愛妾にした」
ガーネットは目を剥いた。端正な顔を怒りで染め王子の頬を平手で打つ。
「愛妾ですって!?おふざけも大概になさいませ!婚約者のわたくしの立場は
どうなるの!?」
コーラルは女性の苛烈さに圧倒されながら、また王子の態度にも唖然とする。
まだ返事はしていないのに既に彼のなかでは自分は愛妾なのか…。
「殿下!」
ガーネットはつり上がった瞳を涙で潤ませ王子に詰め寄る。
うるさそうに彼は彼女の唇を奪う。人目も憚らずに。
「…ぅんっ…ふっ…」
唇が離されると唾液が糸をひいた。崩れかかるガーネットの腰を王子が抱く。
その一部始終を呆然とコーラルは見ていた。
「すまないな…、今夜はこれで失礼するよ。ジェイド、彼女を部屋に案内してくれ」
「はっ」
部屋にはコーラルとジェイドだけが残された。
「案内する。ついてこい」
ジェイドは王族であるアレキサンドルを守る近衛騎士だというがコーラルはこの男が苦手だった。
優しくなくてどこか怒っているようにみえるから。
240 :
人魚の真珠4:2006/07/06(木) 22:23:33 ID:snfOuKoO
「ここだ」
「綺麗な部屋…。わぁ…ここから海が見えるのね」
コーラルは顔をほころばせる。ジェイドがそれをみて苦い顔をする。
「海に帰れ」
コーラルはむっと口を結ぶ。せっかくの気分が台無しだ。
「あなたに言われる筋合いはございません。王子殿下とわたしのとのこと
に意見を押しつけないでください」
「………」
「あなたこそいつまでいる気ですか?女性の部屋にいつまでもいるなんて感心できません」
ジェイドの暗緑色の瞳が目蓋の下に隠れる。
「…すまん。帰ろう」
「おやすみなさいませ」
後ろを向いて素っ気なく別れのあいさつをする。扉の閉まる音がした。
一瞬なにかひっかかったような気がするが眠気にまけて寝台に潜り込む。
扉の外でジェイドは息をつく。
彼女の見せた笑顔が昔と変わっていなかったから。
もっとも彼女は覚えてなかったようだが…
銀の尾を光らせて消えた海の姫―…
胸に懐かしい痛みが蘇り目を閉じた。
翌朝アレクサンドルが部屋を訊ねてきた。
「おはよう、コーラル。よく眠れたかい?」
「ええ、おはようございます。」
コーラルはにっこりと王子に微笑む。
王子はコーラルの髪の一房を掬いそれにキスをする。
「昨晩、突然消えて悪かったね。ガーネットに機嫌を直してもらうのに朝までかかったよ」
「…まぁ、そうなんですか」
ようするに今の今まで彼女と…
言葉に詰まって曖昧な返事を返す。耳にアレキサンドルの息がかかる。
「今夜は君と過ごすから…おとなしく部屋で待っていてれたまえ」
無意識にコーラルは背筋を緊張させた。
ちょっとここら辺で様子を見ながら休憩します…
明るい話に超期待
明るいお姫様がステキ。
wkwktktkで待ってます。
イイヨーイイヨー!!
244 :
人魚の真珠5:2006/07/06(木) 23:10:47 ID:snfOuKoO
恐ろしく一日が長く感じる。中庭を散策しては何度も太陽の傾きを確認する。
夜になればアレキサンドルと…。
わかっている。自分は子を受けるために陸に上がったのだ。目的すら
叶ったら海にも帰れる。これでいいのだ。
(だけど)
ふとコーラルは顔を曇らす。
本当にそうだったろうか。あれほど陸にあがりたいと思ったのは
そんなことのためだけだったのだろうか…
そんな時思考が途切れたのは苦手な顔を発見してしまったから。
知らぬふりをするつもりでいたが、間が悪く相手もこちらに気づいて目が合ってしまう。
「ごきげんよう」
いささか固い笑みを作る。相手は表情を変えずコーラルを見下ろす。
「ああ」
何となく言葉が続かなくて気まずそう庭の花に手を伸ばす。
様々な花が咲き乱れている。その中のひとつ、ピンクの花弁に手を触れる、と…
「…え…?」
なんと中から空気を震わせたような羽音と共に虫がコーラルの顔めがけて飛んできたのだ!
「…きゃぁああっっ」
突然の事態に驚いてきゃあ、きゃあと喚きながら手で振り払う。
その手を脇から捕まえられて固い腕の中にとじこめられる。
「もういなくなったから安心しろ」
コーラルはジェイドの胸に顔を押しつけられていた。これもまた予想外のことでコーラルは戸惑う。
「あの…ありがとう。離して…」
するりと腕が離れていく。
彼の胸から顔を離した時、鼓動の音が自分からもすることに気づいた。
「今晩、アレキサンドル王子の共寝をするの」
「そうらしいな…。殿下も仰っていた。ガーネット様のご機嫌も治ったからと」
「そう…」
コーラルは重くため息をつく。
「本当は怖いんです…。知識としてしか知らないから。どんなものなのか、
痛いのか、心地良いものなのか。自分がどうすればいいのかもよくわからない」
自らの身体を両腕に抱きしめる。指の後がつくくらい固く己の腕を掴む。
「だから…少しだけ、練習させてくれませんか?」
なぜ自分でもそんな言葉が出てしまったのかわからない。
はずみとしか言いようもない。しかし時は戻すことはできないのだ。
自分の言葉にコーラルは驚いているが彼はそれ以上に驚いているようだ。
目を大きく開いたままこちらを凝視している。
いたたまれなくなってその場から逃げ出そうとすると手首を掴まれた。
「……」
驚いて彼をみると彼自身の瞳にも迷いがありありと見える。
短かったのか長かったのかそれすらも曖昧な時間が過ぎる。
「…んっ」
顎を持ち上げられて唇を奪われる。親からもらうような挨拶がわりのキスなどとはまるで違う。
熱くて苦しい。コーラルを喰らってしまうかのように激しい口付け。
閉じられた唇を舌でねじ込んで歯列を割り口腔を掻き回す。
コーラルの舌を絡めたと思ったら咽の奥まで蹂躙しようとするかのようにそれをねぶる。
「…っんぅっ、…けほ、げほっ…」
苦しさに思わず彼の胸を叩いて身を放す。涙目になって咳込む。
「ひどい…いきなり」
「お前が練習させろと…」
唾液で濡れた唇を彼の硬い親指で拭われる。
不器用な仕草だったがそれは不快ではなかった。
コーラルはそれでも、それを隠すようにむぅっと顔を結ぶ。
「…もう、いいです。ご指導ありがとうございました」
ドレスを翻し彼の元から離れる。顔がまだ少し熱い。
昨晩、アレクサンドルとガーネットがコーラルの目の前でしていたこ事と
同じであることに気づいたのはだいぶ落ち着いてからだった。
そしてそれはまだ行為の上では序の口だということに気づくのはまたそれより後のことだった。
245 :
人魚の真珠6:2006/07/06(木) 23:14:35 ID:snfOuKoO
コーラルが怒ったように立ち去った後、ジェイドは影に潜んでいた存在に
ちらりと視線を投げる。眉を顰める。
「のぞき見ですか…?」
「……あなたに言われたくはございませんわ。殿下の愛妾と戯れに唇を交えるなど
騎士ともあろう方がよくできてね?」
妖艶な声は紅いドレスが目を惹くアレキサンドル王子の婚約者ガーネットのものだ。
「…あれは確かコーラルとかいう娘ね?殿下が気まぐれで連れて帰ったのでしょう?
哀れな娘…。殿下が厭きてしまったら卵を産まなくなった雌鳥のように捨てられて
しまうのでしょうにね…」
哀れんでいるというわりには似つかわしくないほどその口振りには怨嗟が籠もっていた。
日が沈みきり外は夜の帳が降りている。
コーラルは誂えられた夜着に着替えアレキサンドルを待っていた。
がちゃりとドアノブが廻され扉が開く。
「やぁ、コーラル。ちゃんと眠らず待っていたんだね」
アレキサンドルが部屋に入ってくる。
近づいてコーラルを抱き寄せる。
「君は大人しいね。緊張しているのかい?」
彼は楽しそうにコーラルの顔中にキスの雨を降らす。
その合間にするするとコーラルの夜着を取り払っていく。
アレキサンドルはコーラルを寝台の上に裸で寝かせた。
そして彼自身も今、着衣を脱ぎ捨てコーラルの上に覆い被さっていく。
「アレキサンドル様…わたし…」
コーラルの震える唇にアレキサンドルは己の唇を重ねその中の甘い舌を堪能する。
アレキサンドルは彼女の華奢な裸身を触れあう肌全身で感じ取る。
かぶりつくように乳房を口に含む。
「…あっ…」
切なげな声が可憐な唇から漏れた。アレキサンドルはころころと舌先で乳房の尖端を
転がしてコーラルの反応を楽しむ。
「…初めてか?男とこんなふうなことをするのは」
恥ずかしげにコーラルは頷いた。アレキサンドルは何とも言えない愛着心が沸いてくる。
反対側の乳房も手のひらに包みこね回す。コーラルの息が少しずつ乱れ始める。
「…ぁっ…んっ…んっ…」
初々しい反応が心地よくアレキサンドルの耳を打つ。
アレキサンドルの掌がコーラルの下腹を撫でていって不安定に息をもらす。
「王子…」
「どうしたんだ?…私に触れられるのが嫌かい?」
彼は首を傾げて困った時のように眉を寄せてみせた。
ふるふると首を横にふる。思い切ってコーラルは王子に尋ねる。
「あの…、わたくしこのまま王子に任せたままでよろしいのですか?」
「…というと」
「ですから、わたくしばかり王子に気持ち良くしてもらって…わたくしも王子に
してあげられることはないのですか?」
初心なものとばかりと思っていたが、この娘は意外にも積極的な面を見せ彼を驚かせた。
しかしアレキサンドルはその意外性すらも好感を感じた。少なくとも可愛らしい綺麗だけ
の人形ではない。ちょっとした悪戯を思いつく。
「あぁ、そうだな。じゃあ今度は君がわたしに『奉仕』してくれ」
アレキサンドルはそう言ってぽかんとしているコーラルを面白げににみる。
(さて、どうするかな)
246 :
人魚の真珠7:2006/07/06(木) 23:20:19 ID:snfOuKoO
コーラルは頭を抱えた。
(ほ、奉仕って…どうするのかしら?)
確かこのまま彼に任せたままでは悪いのではと考えたが、それ以上のことは
ずばり考えていなかった。奉仕してくれといわれたところで何をすればいいのか…。
ぽんっと海の宮殿の教育係パールの顔を思い浮かべる。
彼女は陸の上に上がったことがあり子をもうけたことがある。
その時のことをコーラルはこれからのためにと思って聞いておいたのだ。
(たしか…男の人は身体の中心に…わたくし達にはないものが生えていて…
…身体の中心?……中心て……………『へそ』…かしら)
真剣な顔をするとコーラルは細い指先でアレクサンドルの腹を探る。くすぐったいのかアレキサンドルは
くっ、くっと笑っている。
(…何も生えてないですよー、パールぅ…)
切なげに海の底のパールに助けを求めるが答えが返るでもなし。
アレキサンドルはにやにやしてコーラルを見ている。
はっとコーラルは確信した。彼を睨め付ける。
「王子、わたくしが初めてなのを知って困っているのを楽しんでらっしゃるのね!?…意地悪です」
その時、手が何かにあたる。たしかな質感。片膝を立てた体勢で座っている彼が掛布の下に
隠しているらしい。…そうか、これだとばかりにコーラルは容赦なく握り込む。
「…っっっ」
アレキサンドルは身体を折り曲げ悶絶している。
はっとコーラルは我に返ったようにアレキサンドルにすがる。
「だ、大丈夫ですか!?…ぁあ、ご、ごめんなさい。わたくしのせいですね…
強く握りしめたらいけなかったんですね…ど、どうしましょう」
コーラルは本気で慌てる。アレキサンドルに身体をひっくり返される。
「……今のは効いたよ。意外と握力が強いんだな」
「ごめんなさい。王子、怒ってますか?」
のし掛かってくるアレクサンドルに涙目で許しを請う。
「そうだな。謝るならそれなりに態度でしめしてもらおうか」
アレキサンドルは彼女の細い両足を抱え肩にのせた。
「…えっ…あぁっ…」
彼はそのまま腰を揺らす。
「王子…」
「なんだ?」
「あの、これって…なんか違いません?」
コーラルは首を傾げる。それもそのはず抱えた両足の間に彼のソレは
あるのだが一行に入ってくる気配はなく閉じられた腿の間を行き来している。
…たしかこれは『入れる』のではなかったかとコーラルは頭を捻る。
彼は実に言いにくそうにごもごもと口を動かした。
「………ああ、…実に不本意なんだが、昨晩彼女…ガーネットと約束してしまったんだ。
他の女性と一夜を共にするのは許してやるが自分以外に『情』を注いではならない、とな」
「ええっっ?!」
コーラルは彼の『情』の意味することがなんとなくわかった。
彼自身格好がつかないのを自覚してか決まりわるそうに彼はコーラルから目をそらす。
(…そんな…それじゃ意味ないのに…)
コーラルは拍子抜けと落胆をほぼ同時に感じた。
それでも、何度も性器同士を擦り合わせることにより微かな水音がするようになる。
「…んっ…でも…不本意ですけど…わたくしも…これはこれで…気持ちいいかも…っ…知れないです…」
アレキサンドルが腰をぶつけるたびに彼女の蜜が彼のソレに絡まりいやらしい音をたてる。
「…そういってもらえると助かるが…我ながら滑稽だな…」
その言葉にコーラルは思わず噴きだしてしまう。
「…ぁ…ガーネット様を愛して…ん…らっしゃるんですね…」
途切れ途切れのため息のようにコーラルは呟く。
「さぁ…、どうだろうね…っ…それより、今は君ともっと愉しみたいな…っ」
彼はその話しをされたくないとばかりに腰を激しくぶつけてきた。
膝を閉じた太股の間から粘液でぬれた亀頭がちらちらとコーラルの目に映った。
247 :
人魚の真珠8:2006/07/06(木) 23:24:01 ID:snfOuKoO
「…はぁっ…んっ…王子…いやっ…それ…」
「ん?…ああ…ここか?…どうだ…気持ちいいだろう?…」
情欲の交じった熱くて低い声が耳朶を打つ。
アレキサンドルの亀頭が絶えずコーラルの秘裂の上…蜜で濡れた肉の芽を
擦っては突いてを繰り返し小さなそれを充血させてしまう。
そのたびに肩に乗った彼女の足首が痙攣しアレキサンドルにその快楽に溺れていく
様を伝える。
「…あっ…お、王子…だめっ……なんか…身体が…変っ…」
亜麻色の髪が広がって彼女の甘い髪の香りが広がる。
「…イキそう?」
彼はまだ余裕そうにコーラルを責めつづけているが、あどけなさを幾分残した
彼女の顔に大人の女性にはまだ届かない危うい美しさを感じて奇妙な興奮を
覚える。
「…知らないですっ…あっ、あっ、だめぇ…もうぅっ…」
細い咽を反らして彼女は達してしまった。
それを確認してアレキサンドルも濡れそぼった腿の間に白濁を散らしたのだった。
ジェイドは庭先に立ってコーラルのいる部屋のある付近を見上げる
今頃、彼女は殿下と…
「…そこにいらっしゃるのは…ジェイドではなくて?」
闇の中から赤いドレスの人影があらわれる。
「ガーネット様、なぜここに…?」
「それはこちらが聞きたいですわ…まさかまだ昼間の中庭にいたなんて
…騎士というのは意外と暇なのですわね」
人の事を言えないと思うのだが…彼女も思うことあってまた眠れないのだろうか。
アレキサンドル王子の婚約者。彼女は隣国の王族直系の姫君でもある。
誇り高い彼女が自分の婚約者と他の女が一夜を共にしていることをどのような
思いであの窓をを見上げているのだろう。
(コーラル…)
剣と忠誠を誓った主とかつて想いを交わした少女
大切な二つであるはずなのにこの胸を巣くうものは何という感情だろう。
ふいに胸に重さを感じて目を向けて驚いた。ガーネットが彼の堅い胸に頭を預けていた。
「…わたくしでは何が駄目なのかしらね…」
夜風に消え入りそうな声はひどく寂しげに聞こえた。
ここでとりあえず1話終了です。
うわ…思ったより長かった。
GJ!!
おもしろい!
オペレッタみたい。
続きが楽しみwwwww
スマタワロタwwwwwwwwwww
あっかるいところがすごくいいですね。
楽しみに待っているんでどんどん投下してください!
gj!
コーラルも可愛いけど、ガーネットがすごく好きだ
好色王子が憎たらしいと思うほどにw
251 :
自称へっぽこ:2006/07/07(金) 04:07:55 ID:2ng0bVVF
完結編を投下しにきました。
上が明るい話なんでちょと気まずいけど(笑)、
最後まで読んで読んでくださった方、どうもありがとうございました。
それでは↓
252 :
その19:2006/07/07(金) 04:13:10 ID:2ng0bVVF
うわ言のように、自分自身に言い聞かせるみたいに、そこまで言うと、エレーナの細い肢体を思い
切りシーツの上に押し倒した。
「くっ」
耳に舌を突っ込み、乱暴に探る。じゃぷじゃぷという猥雑な音が脳に直接響く。抜いた舌から、
透明な糸が一筋穴の中まで繋がっている。
今度は唇を奪った。ぬるりとした感触が舌の上下を這った。されるがままにされているエレーナ
を馬鹿にしたように見下ろすと、
「おいおい、息止めてたらそのまま死んじまうぞ?」
と、はっと笑いながら吐き捨てるように言った。
エレーナは、自分が呼吸を失っていることにその時初めて気づいた。と、次の瞬間、浅黒い屈強
な体が、自分の全身に押し付けられた。
「っ、やっ」
ねぶるように耳の端を舌で舐め、噛みながら、滑らかな肌を堪能するように、こすりつけるよう
に足を巻きつけた。四本の脚が生々しく絡みあい、その様がぼんやりと薄暗いベッドの上に浮かび
上がる。躰を蹂躙し続けながら、もう一方の手で胸を鷲づかみにした。
「痛っ」
思わず声を上げるのを、小気味良さそうに眺めている。
「ガキのくせに、えらい大きい胸だな、え? お前はこんなもの持ってても宝の持ち腐れだろう
が?」
呆れるぐらい柔らかい乳房を、手の平の中で形が変わるのを楽しむように、潰したり、下から円
を描くように揉んだりして弄ぶ。力を手加減せずにやるので、エレーナは始終苦痛だった。が、そ
んなことは構わず、人差し指と中指で、形の良い乳房に埋もれている乳首を挟んだ。綺麗な薄桜色
の乳首を逃がさないまま、指に力を込めては抜き、強く揉む。
ふと指の間から離すと、今度は指の腹でなぞるようにつつき、撫でた。丸くじっくりと、小さな
突起を刺激する。二本の指の腹でつまむと、とても繊細なタッチで、軽く強弱をつけ指の中で転が
した。手慣れた手つきだった。
「っ……」
「どうした、段々反応が変わってきたなあ。清楚なお姫様だってのに、ご厄介なことだ。この淫乱
が」
罵りながら、さらに執拗ともいえる攻撃を続ける。そして、前触れなく舌で責めた。
「っぅっ」
思わずびくりとしてしまう。じっくりと乳首をつつくように舌で刺激した後、触れるか触れない
かといった辺りを勿体つけるように責めた。エレーナの細い指が、シーツをむしるようにぎゅっと
握った。眉が不安そうに曇っている。
そのまま、舌はゆっくりと下へ滑った。薄い腹をじっくりと噛むように舐め、吸う。からかうよ
うに、淫猥な目つきでエレーナを見上げながら、形の良い臍に舌を突っ込んだ。無意識に、大きく
体が揺れた。
「へえ、ここがいいのか」
253 :
その20:2006/07/07(金) 04:16:42 ID:2ng0bVVF
面白そうな口調だった。口の端を釣り上げながら、再びエレーナにぐっと顔を近づけて舌を絡め
る。
そして、力を入れれば折れてしまいそうな腕を、手加減無しに思いっきり掴んだ。激痛が走り、
思わず脚をばたつかせるが、それをさも楽しそうに喜んだ。
「はははは、そうだ、抵抗しろ。ちょっとは逆らってくれなきゃつまらねえ。そっちの方がやりが
いがある」
目がぎらぎらと輝いていた。
抗うのを止めた肢体の、若々しく張った腿を左右に開かせると、そこに顔を埋めた。ちょうどエ
レーナの顔の上には、自分の股間が来る体勢である。
「や、だっ」
弾けるようにエレーナは叫んだ。だが牽制の声も無視し、つるつるした腿を腕で固定したまま、
舌で淡い桜色の花芯を愛撫した。鋭く突くように舐めては、その柔らかい肉壁の中に舌をくぐらせ
る。秘所がいいようにされている恐怖に、エレーナは目を開くのも忘れて、嵐が過ぎ去るのを待つ
ように身を固くするしかなかった。
「どうした、俺を嫌がってさっきみたいに逃げないのか? 随分諦めが早いんだな」
花弁の上に在る小さな豆粒状の突起を舌で突付きながら、たっぷりとした口調でなじるように言
う。
「うぅっ」
シーツが千切れるぐらい、力を篭めて握り締める。苦痛に耐える顔を、愉快そうに眺めると、大
きな手の平を尻の下へ滑り込ませ、両端からぐいっと持ち上げた。容易く、エレーナの臀部は持ち
上がり、いっそう肉の丘はアレフの鼻先に近づいた。荒々しくぬめった熱い肉の皿が侵入してきて、
好きなように肉壁を擦り、暴れた。頭の中がだんだん白く霞がかってくる。
そこに、望まない体の反応が加わり、ごくごく少しだが、唾液以外の透明な液がアレフの舌先に
絡まった。
それを確認すると、アレフは体を組み替え、正上位の体勢で純真な身体の真ん中に割って入った。
覚悟の出来ていない花芯を無理矢理押し開いていく。
「うっ、ああぁぁっ……!」
エレーナは思わず目に涙を溜め、シーツを掻き毟って苦痛に悶えた。ぐらぐらと燃え滾るように
回る脳みそに、処女を奪われたときの屈辱的な痛みが蘇る。アレフは、あの時よりもさらに残忍な
目をして、激しい欲情で貫き続けた。ぐっと、突き上げるように腰を高く突き刺す。慣れない狭い
道が、強引にこじ開けられるだけでなく、違う角度からさらに壁を責め立てる。はらわたを、とて
も凶暴な熱い火鉢が、ぐちゃぐちゃに掻きまわしている。
乱暴に腰を振ると、やがてアレフは達した。汚れのない花弁が汚される。
254 :
その21:2006/07/07(金) 04:19:45 ID:2ng0bVVF
ほとほとと涙を零しながら、エレーナが身動きするのも忘れて天上を見つめていると、そこに突
如、乱暴な手が自分の顔の上に伸びてきて、がしっと容赦なく髪の毛を掴み上げた。
「何ぼんやりしてやがる、今のお前が脇見してる暇があると思ってるのか?」
怒った顔でアレフは睨み付けた。
「きゃっ……?」
「ベッドの上でマグロ気取りやがって、俺の前でいい度胸だなあ。俺がお前を抱いてやってるんだ、
ちょっとは俺を悦ばせてみろっ」
アレフは自身の猛ったものをいきなりエレーナの前に突き出した。先程果てたとは思えないほど、
熱く屹立している。エレーナは、心臓が止まるぐらい驚いた。
「ぼやっとすんじゃねえよ、暇ならこれでも咥えろ」
「でっ……も……」
泣きながら必死で拒む。
「お前にも手があるだろう、ちょっとは頭を使えよ、このバカ。錆びた頭は単なる飾りか? ええ、
お姫様?」
「………だって……」
尖った言葉を躊躇いなく吐き出しながら、髪を掴んだままの手を、ぐらぐらと動かす。小さな頭
が抵抗なく前後に揺すられる。
「早くしろ、殺されたいのかっ」
エレーナはいよいよ顔を崩して泣き始めると、ぼんやりと滲む視界の中、自分の汚れのない手を
そっと欲望の塊りに当てた。ひたっと柔らかい手の平がそれに触れると、その予想しなかった熱さ
と固さに、驚きびくっと手が止まった。が、一層眉に皺をよせ、目を細めると、意を決したように、
ゆっくりと小さい手の平の中にそれを包み込んだ。しっとりとした感触が、ふんわりと肉欲の塊り
を包んだ。
躊躇いつつも、蝿が止まるぐらいゆっくりとしたスピードで、白い細い指が流れて、怒り狂った
それを沈めるように指の腹で撫でていく。エレーナは、しゃくり上げながらも、忠実に命令をきい
た。エレーナが頑張れば頑張るほど、アレフの直立不動のそれは、鎮まるどころかますます怒るよ
うに猛っていく。
「もういい、今度は口だ」
「あっ……?」
仰向けになったままのエレーナの髪を、今度は後ろからぐっと掴んで顎を上に向かせた。躊躇う
間もなく、さっきまで自分の手の中で怒り狂っていたそれが、目の前に急に近づいて来た。逃げる
暇も与えず、そのまま薄くしか開かれてなかった唇に無理矢理ぐいっと押し込んだ。驚いて大きく
目を見開くと、エレーナは思わず硬直した。
「ん、ぐっ………ぅっ……」
255 :
その22:2006/07/07(金) 04:23:29 ID:2ng0bVVF
アレフはエレーナの顔の上に覆いかぶさるようにして、髪の毛を引っ張ったまま、自身の股間の
猛ったものを口に押し込んでいる。エレーナは苦しさを隠せず、整った顔を歪めている。つい無意
識に、押し返すように舌を暴れさせてしまうのが、快楽を助長した。
「お姫様のくせに、いやらしいなあ、え、おい。お前は中身は雌豚なんだよ、わかってんのか?」
アレフはエレーナの髪を掴む手に力を込めて責め立てる。頭皮が引っ張られる苦痛に、思わずび
くりとしながら、薄い目を喘ぐように開いて、罵りを甘んじて受けている。
「んっ」
小さな声が響き、必死で舌を動かしていた狭い口の中に、思いっきり大量の熱いものが噴出した。
いきなり喉内に飛び込んできたそれを、思わずむせ返って外に出してしまう。それを見たアレフ
は急に激昂した。
「誰が吐いていいっつったっ!!」
額の上部の黒い髪を手加減なく掴んだまま、思い切り叩き付けた。あっ、と短い悲鳴が上がり、
小さな頭は簡単に白いシーツの上に溺れるように沈んだ。華奢な肢体が、崩れるように折りたたま
れ、そのまま小刻みに震えだした。半開きになった口からは、白いどろりとした液体の残りが、本
人の意思に関係なく吐き出された。
凶暴な瞳のまま、アレフは怒鳴りつけた。逃げ出したいぐらいの剣幕だった。
「おい、これからはどれだけ吐きそうになっても俺の出したもんは全部飲み込め、わかったな?」
うつ伏せたままのエレーナの頭を片手で掴んで自分と目を合わせると、吐き捨てるように言い放
った。震えながらも、エレーナは必死で小さく頷いた。舌を噛んで死んで終わらせたいぐらい怖か
った。
「じゃあ後ろを向け。今度はこっちからやってやる」
ひくいが恐ろしい声のまましずかに命令した。何のことかわからないまま、言うがままにした。
背中にかかった黒髪はするりと流れ、上等のシーツよりいっそう白い、肌理の細かい肌が浮き上が
った。それを見てにやりと、薄く笑った。
「さあ、お仕置きしてやる」
そう言うと、不意に人差し指に唾をつけ、薄い毛に守られた花芯の上の、小さな皺の多い穴に沈
めた。ずぶずぶと、柔らかい内側の感触を感じながらとても狭い通路に押し込む。ぅぁっ、とエレ
ーナは痛みと驚きで身体を固くした。指を抜くと、そこへさらに、硬くしこらせた舌を差し込んだ。
内臓の内側を舐められているような、ふわふわとした異例の感覚に、エレーナは戸惑い耐えるしか
なかった。
そこに再び硬く天を仰いだ自身を宛がい、一息に押し進めた。
256 :
その23:2006/07/07(金) 04:27:00 ID:2ng0bVVF
「うっ、あっ……!」
狭く、固い道を、無理矢理自分勝手に貫いていく。あまりの苦痛に、エレーナは喘ぐように涙を
こぼして泣きながら、シーツを破れるほどに両手で握り締めた。加虐的な瞳をしたまま、己の欲望
を勢いよく送り込み、じっくりと回すように腰を円を描くように動かす。
「やだぁっ、うっく、あぁぁっ………!」
それに耐え切れず、びくびくと体を震わせながら、ベッドに顔を埋めて苦悶するエレーナを、ま
るで追い詰めるかのように言葉を浴びせかけた。
「どうした、あの時とまるで同じ痛がり方だな。これならまるで、二度も処女を奪われたみてえじ
ゃねえか。これだから子供は困る」
「いっ………た………い……っ、うぁっ……はぁ……」
「あの時もそう言ったな」
アレフは愉しそうに言った。
「やだっ……お願い、やめてっ……お願いだからぁっ………」
ぼろぼろと泣きながら子供のような顔で懇願する。
「何で俺がお前のお願いをきかなきゃならないんだ?」
濡れた瞳が、絶望したように開かれる。心地良さそうに、冷たい瞳は笑った。形の良い尻に手を
当て、爪を食い込ませるぐらいの勢いで指に力を込める。そこには何の慙愧も、同情もない。
エレーナは息をするのもやっとで、心から苦しそうな悲痛な泣き声が、うす暗い部屋中に響き渡
る。艶っぽい黒髪が、真っ白な背中の上を流れては落ちていく。それが余計に嗜虐をそそるのか、
よりいっそう腰に力を込めながら、浅黒い手に細い黒髪を巻きつけて、嗅ぐ様に鼻先に持っていった。
それはゆっくりと臀部の方へ、白く滲んだ汗を引き摺り、跡をつけながら、ゆっくりと這って、
ぬるりとした冷たい感触が体の中心を、
「俺もずっと、こうされてた、あいつに」
ふと真剣な声で呟いた。エレーナは思わず後ろを振り向いた。目を合わせてうっすら笑うと、ど
うだ、何とか言え、と力を込めてうわ言のように言った。
「っ、ぁっ……痛いっ………」
「痛い? それしか言えないのか? その他に言葉はないのか、え? 痛いのなんてわかってる、
苦しめ、お前が苦しむのが俺の何よりの楽しみなんだからなあ」
目が病人のように爛々とぬめって光っている。
爬虫類のような、冷たい、感情を宿さぬ瞳だ。
しかし、限りない恨みと憎しみの念が、そこには激しく燃え盛っている。やがて、筒の中で火薬
が暴発するように、エレーナの中で白い欲望がぶちまかれた。
257 :
その24:2006/07/07(金) 04:29:17 ID:2ng0bVVF
肘を突いて顔を下に沈めたまま、エレーナは喘ぎ喘ぎ息をする。
痛くて痛くて、何よりどす黒い憎しみが苦しくて、気を失いそうだった。
ぼたぼたと幾筋も涙が頬を伝う。アレフはその様を目に入ってないかのように肩で息をしながら
見ている。ベッドにはそこいら中に欲望の名残が落ちている。
このエルディーン王国は砂漠の国だが、王城の中は冷たいほど涼しい。徹底して熱を遮断し、吸
収するように、考えられて石で造りこまれているからだ。水が引いてあるため、そこら中に噴水が
あり、それもまた乾燥を防ぎ温度を下げている。中庭には、砂漠からは考えられないような、熱帯
植物のような鮮やかな葉っぱが生い茂っている。
砂漠と城の温度差は驚くほど激しい。城は冷え切っているのだ。国民は誰も、この中でどんな冷
たい風が吹き荒れているか、想像すらできない。
アレフは、その先程まで熱気を放出していた体を、エレーナの上に覆い被せるようにして、後ろ
からエレーナを抱いた。エレーナはまだ息が整っていない。
「俺はこの国の馬鹿みたいな資金を利用して、世界中を手に入れる。だが、俺のもう一つの目的は、
お前を蹂躙し続けることだ。お前はこれから絶対に俺から逃げられない。俺は今から、あいつに植
え付けられた苦痛をじっくり時間をかけてお前にプレゼントしてやる。途中で自殺したくなるぐら
いのな、感謝しろよ? 折角俺好みの女に調教して頂けるってんだからな」
それを、やけにひんやりとした気持ちで一言一言受け止めながら――
――お前は俺からは逃げられない。
この台詞は前に聞いたことがある。ああそうだ、謀反の夜、初めて犯されたときだ。
これから自分が受ける苦痛を、おぼつかない頭で想像しながら――
エレーナは暗い虚無に身を預けるかのように、目を閉じた。
終
救済なしかー。
でもそこがいい感じだ。
全体的に虚無的で引き込まれる感覚がして良かったです。
また何か書いてください。
なにこれ、なにこれキタ━━━━(。A。)━(゚∀゚)━(。A。)━(゚∀゚)━(。A。)━━━━!!!!
盆と正月が一緒にキタコレ!!!!
人魚の人>
登場人物は宝石・鉱石名か!
261 :
人魚の人:2006/07/07(金) 23:07:20 ID:cZqJqxP/
>>260 はい、その通りです。
かなりわかりやすいネーミングだとは思う。
一応、コーラルとかパールとかは海の人、他は陸の人で分けたつもり。
(……モルガだけ海とは全然関係ないけど)
ガーネットとかも赤色のドレス着せたりちょっとだけそこらへん意識してます。
262 :
自称へっぽこ:2006/07/08(土) 18:23:39 ID:/5Av27LE
最近投下させてもらった者です
>救済なしかー。
そうなんです。投下し終わった後の反応があまり無いのが、
後味が悪かったからかなと反省してたり(笑)。
今のところ続きを描く予定は無いんですが、もし描くなら
女も男も双方救われるようにしたいなーとか思います。
次は明るい話を描いてみたいと思ってたりします。出来たらまた投下します。
263 :
人魚の掟1:2006/07/09(日) 16:20:19 ID:6EFujweX
人魚の真珠です。今回は前回の4年前コーラルとジェイドの出会い。
ちょっと今回は前回を裏切るように暗い。どシリアスな過去。
――ごめんね――ごめんね―――
どこかから嗚咽が聞こえてくる。そっとその部屋を覗く。
『…パール?』
みんなが一斉に振り向いた。
『姫様!?入ってはなりません!』
『だめです!!姫様の見るものではありません!』
口々に他のマーメイドが彼女をその部屋から追い出そうとする。
冷たく重たい場に緊張感が走って痛いほどの不安を感じる。
『どうして入っちゃいけないの?パール…どうしたの?なんで泣いてるの?』
無理矢理に彼女達の間をくぐってパールの背中に手を伸ばす…
『お止めなさい!!コーラル!』
海の女王の一喝が飛び、身体を貫かれたようにコーラルはその身を凍らせた。
『…パールは【掟】を破りました。全てはその報いなのです。』
常は穏やかな人柄を持つ女王の厳しく冷たい声があたりの空気を一層冷たくする。
――血の匂い…パールがその腕に何かを抱いている――
(これは…あの時の…)
過去に封じられし記憶の断片。夢の中でそれを再現していた。
…あの人が永遠に失ってしまったものの記憶…そして彼に出会った記憶
《 人魚の掟 》
四年前
「苦しい…だれか…」
コーラルは砂の上でのたうつっていた。体中に砂がべったりとくっついている。
彼女の下半身である魚の尾は銀色を覆い隠して鱗の奥にまで砂の粒が到達していた。
『砂の塊』と化した彼女が悪戦苦闘しているとうつぶせになった背中に影がのっそりつくられた。
「…………人?…いや…怪物?」
男性らしき困惑ぎみの低い声が背中にふりかかる。驚き上を見上げると年若い男
の顔があった。さっと血の気がひいて砂をかく。
「きゃあああっっ!!!」
「わっ!この、砂をかけるな!待て!暴れるな!!」
(食べられちゃう!!!)
元々は大人が子供にその場にはいってはならないという意味で使う嘘であるが
陸の人間はマーメイドを見ると鍋にほうりこまれて食べてしまうと
言われたのを思い出し必死に彼から逃げようとコーラルは砂をひっかいていた。
抵抗虚しく彼女は担ぎあげられた。命がけの抵抗に彼もよろよろふらつきながらもなんとか歩いていく。
ざっぱーん!と大きな音がして海に放り投げられる。
「お前……マーメイドか」
頭から海水に投げられてようやく顔を海面にあげたコーラルはぼそりとつぶやいた
男の顔をみた。
「良かったな…もう少しでお前砂の上で干からびてるところだったろ?」
低い笑いを含んだその言葉を聞いてようやく自分は彼に助けられたのだとコーラルは知った。
264 :
人魚の掟2:2006/07/09(日) 16:22:12 ID:6EFujweX
「パールという女性を知りませんか?」
鱗の砂を海水に落としながらコーラルは男にたずねる。男の名前はジェイドと言った。
彼は彼女を知らなかった。それでもコーラルが泣きだしそうな顔をすると、事情を
聞いてくれた。
「パールはわたくしの教育係なんです。…小さな頃からずっと一緒にいて
いろんなことを教えてくれて、…お姉さんみたいな人でした…。彼女は去年の秋に
、子を授かるために陸に上がったんですけれど……前の時はすぐに帰ってきたのに、今回はまだ帰って来ていないんです。
こんなに遅いなんてわたくしは不安で仕方なくって…元気なのを確かめたい…彼女にあいたいんです」
コーラルの告白は人によっては子供じみたものに聞こえるだろうが彼は真剣に彼女の話を聞いてくれたようだった。
コーラルのぽんと頭に掌がのった。
「わかったよ…暇をみつけて捜してやるよ」
コーラルの顔に輝かんばかりの笑顔が広がってゆく。彼女の表情に彼は目を和ませた。
「ところでどうして砂浜で埋もれてたんだ?」
それはコーラルが無謀にも足のないままパールを捜しにいこうとしたからである。
…とは彼女はとても説明そうになかった。
それから毎日時間を決めて二人は会った。
魚の尾を持つコーラルは陸の上に上がってパールをさがせないからジェイドだけが
頼りだった。やがて彼は朗報を彼女に持ってきた。
「見つかったぞ。パールって名乗る女がいたんだ。今は漁師の男と一緒に暮らしてるらしい」
「会いたいです!」
に…と彼は口の端を軽くあげた。
「そういうと思って連れてきたよ」
「パール!!」「姫様!」
コーラルは驚きに目を開いた。この時ほど彼に感謝したことはなかった。
勝手に海の上にあがったのがばれてしまいパールには叱られたけど。
それでもパールは残るらしい。まだ彼女の腹はすっきりと引き締まっていた。
子を宿せば帰るとだけコーラルにいい去っていった。
「ジェイド、ありがとうございました。感謝しきれないくらいです。……
あの…それで…もう少しパールが帰るまででも一緒にいてもいいですか?」
ジェイドはコーラルの瞳をじっとみると「ああ」と笑ったのだった。
265 :
人魚の掟3:2006/07/09(日) 16:25:04 ID:6EFujweX
それはある日のことだったが…
「ジェ…ジェイド!大変ですっ助けて!パ、パールがぁ」
ジェイドを見つけると慌ててコーラルは岩の上に身を乗り出し助けをもとめた。
「あ、あれを見て…」
「………………………………」
彼を現場の入り江まで泳ぎ連れていきおそるおそる指をさす。
「…ああんっ…あん、あん…やぁン…」
男の日に焼けた浅黒い肌が見えた。男の身体の両脇から白い足が二本伸びている。
男の腰が振るわれるたびに白い足が痙攣しびくびくと震えて…
ジェイドは無言でコーラルの身体をその光景を見せないように自分の身体ごと
裏返した。
「パールが男の人に食べられ…むぐっ」
「喋るなっ…あれはパールの相手だ…邪魔しちゃだめだ」
ずるずると隠れるように浅瀬の岩陰に腰をおろし耳元で囁く。
コーラルは口を塞がれて反論したくともできない
パールの声がやけに生々しくコーラルの耳を打つ。
「んっ…あぁっ…あんっ…だめぇ」
ジェイドの腕に閉じこめられたコーラルは身を捩る。
「ほら…パールは『だめ』っていってるわ…食べられて…むぅ〜」
またも口を塞がれてしまう。むぐむぐと彼の手の中で抵抗をしめす。
その間にもパールの声は切迫したものになっていき…
「ぁあんっ…はっ…あっ…あっ…あっ」
なんだかひどく聞いてはいけないもののようなへんな気持ちだった。
よく聞くと男の人のらしき息づかいまで聞こえてきて…パールは一体なにをしているんだろう。
「はぁン…あぁ…あんっ…もぅ…いっ、イキそう…はぅんっ…イクぅ」
(何処行くつもり!?パール!)
『イク』の意味を勘違いしてぎょっとするコーラル。
「はぁっ……は…ぁぁ…イ、イクぅぅっっ…あ…ぁああぁぁん」
切なげな甘い咆哮がパールの口から迸りコーラルはもう動揺を隠せない。
「パールゥー!!!」
「の…バカッ」
ジェイドの罵りを無視してパールの名を彼女は叫んでいた。
その場の空気がどうなったかは…………コーラルは一生忘れないと思ったとか。
それから数時間…こってりと叱られるかと思ったらパールはことのほかコーラル
を責めなかった。
「…見られてしまったのはあんな所でしていた私たちも悪いんです。……
………でも、もう見たら駄目ですからね?」
それだけだった。
「パールはあの人が好きなの?」
「え?」
「ジェイドから聞いたの…。男の人と女の人は好き合ってるからするんだって」
「ち、違うわ!違います。姫様だって掟はご存じでしょう?!」
―マーメイドは陸の人間を愛すべからず――
「でも、パールはあの人といるのは好きなんでしょう。それって好きってことじゃ…」
一瞬パールが泣いてしまうかと思った。彼女は首をふる。
「駄目なの!それは…。……今だけの関係です。どうにもできないことなんです」
そう言った一月後、彼女は海に帰った。この時彼女の腹にはなにも宿ってはいなかったが…
266 :
人魚の掟4:2006/07/09(日) 16:28:22 ID:6EFujweX
コーラルとジェイドは遠い海岸線を眺めていた。
「よく、わたくしにはわかりません…。パールはあの人がやはり好きなんだと
思うんです。陸の上に立っていた彼女は生き生きとして輝いていたもの…」
コーラルは掟を破るとどうなるかを知らなかった。
ただ、パールがあの人と一緒にこれからも過ごせたらどんなにしあわせなことだろう。
それだけを考えていた…。
「コーラル…、預かりものがある。これを彼女に渡してくれるか?」
「これは…指輪?」
こくりと彼は頷いた。パールの相手が婚姻の印に彼女に渡そうとしていたものだという。
―満月の晩。
「もう…会わないつもりだったのに」
「…パール」
ほっそりとした彼女の影、その姿は彼の元から消える前となんら変わらない。
パールの白い身体に男の浅黒い肌が重なる。
「…ぅんっ…ごめんね…っ…いなくなって…でも…ぅっ…もう、愛せないの」
言葉と身体と心がそれぞれに食い違っている。
「愛せない」
だからこれが最後の逢瀬――だが、このことが彼女の運命を災いに導いた。
――ごめんね――ごめんね――
誰かが泣いている。痛くて苦しそうに…失ってしまったもののために
震える細い背中。愛おしい何かに何度も何度も繰り返し謝りながら…
それは悲しい悲しい鎮魂歌のように―――
夕焼けを背にしてコーラルは彼を待っていた。
「コーラル…?泣いてるのか?」
静かに波打つ海面にそこだけ波紋が幾つも生まれ消えていく。
柔らかな曲線を描く頬に幾筋もの涙の通った跡があった。
顎から滴った水滴は海面に接触すると同時に白い珠に変わる。
「…パールの…パールの赤ちゃん…死んでしまったんです…」
顎から滴った水滴は海面に接触すると同時に白い珠に変わる。
「【掟】を破ったからだって…皆はいいました。」
ジェイドは眉をよせた。
「【掟】……?」
「『マーメイドは陸の人間を愛すべからず―』マーメイドが子を授かる時は陸の人間に
心を預けてはいけないんです。海に生きるわたくし達が想いを残したまま陸を離れれば
その執着心だけが心に凝り固まってそれは、生まれてくる赤子に異変をもたらすのだと言われています…。」
逆光に浮かぶコーラルの顔は見えない。後ろではきらきらと海面が赤い光を弾いている。
「……パールの産み落とした赤子には足が生えていたんです。」
267 :
人魚の掟5:2006/07/09(日) 16:35:38 ID:6EFujweX
赤子には人魚の尾ではなく小さな陸人の足が生えていた。間違いようもなくその子は『陸の人間』の姿をしていた。
「その子は海の中で生きることもできず、パールは急いで海面に上がろうとしたそうです。でも…」
白い珠が海面にぱちゃぱちゃと水の波紋をつくる。
「……わたくしのせいです。彼女に指輪を渡してしまったから!あの時のパールの顔
指輪をみてすごくつらそうな顔していたもの…!一度別れた二人を再び会わせてしまったからっ!」
本当はパールは陸にもう少し残っていたかったんだと思う。でもパールにはもう一人
海の底に前の時の子供を残していたから…。帰るしかなかったのだ。自分の心を封じて。
「…パール…ごめんなさい」
肩を震わせ顔を覆うとジェイドがコーラルを自分の胸に抱き寄せた。
「指輪を渡したのは俺だ、指輪の件は責任は俺にある。…だけどなコーラル、
想いを縛る鎖はどこにある?そんな鎖はどこにもないんだ。掟だってそれを縛ることはできない。
人を想う気持ちはどうすることもできない心なんじゃないのか?」
「どうすることもできない…?」
以前、同じ言葉を聞いた。パールだ。どうにもできない…のは心?あれは彼女の心の悲鳴?
「…ジェイド…わたくしもお別れをしなくてはいけなくなりました。」
暗緑色の瞳がコーラルを貫いた。その瞳に何故?と問うてくるのがありありとわかった。
「母…海の女王に言われました。陸に上がってはなるぬと。…パールのこともありますし」
シャラ…と音がしてコーラルの髪から貝殻の髪飾りが抜かれる。
「これを持っていてくださいますか?いつか…会いにいきます。その時まで…
ジェイド…わたくしもどうすることもできない想いというのを抱えているようです。
今は離れます。…でも忘れずにその想いが数年先も生きていれば会いに行くでしょう。きっと…。」
そう言ってジェイドを見上げてくる顔は二人が初めて会ったときよりも少し大人びていた。
ジェイドの顔がコーラルに近づく。
「…あ…」
唇が唇に重ねられて間近にジェイドの顔をみる。
食べられうんじゃないかと以前なら思ったかもしれないが彼に食べられてしまうの
ならかまわないとコーラルは思った。
「待ってて…?きっと…必ず会いに行くわ。…その時まで」
彼の手の中で貝殻の髪飾りが揺れる。一度だけ強い力で抱きしめられて
視線を交わすとコーラルは海に身をひるがえした―――
「…コーラル?ようやく目覚めたのか。」
水色の瞳がぼんやりと男の顔を映した。
「………………………………………………アレキサンドル王子??」
ずいぶんしばらくたってから彼の顔と名前を一致させる
「おやおや。またずいぶん寝起きが悪いようだな、コーラルは」
呆れぎみに彼は目覚めたばかりのコーラルの裸身をまさぐる。
「…んっ、…ぃ…や」
なぜだか彼に身体を触られることに『誰か』に対する罪悪感を感じて胸を押す。
驚いたようにアレキサンドルがコーラルから離れた。
「こ、コーラル。な、泣かなくてもいいだろう?わかった、今はやめるよ。いいね?」
そそくさと部屋を出てゆく彼を見送り、枕を抱く。
(…夢?)
『コーラル…』
誰かに夢の中でずっと呼ばれていたような気がする。
思い出そうとするがやはり思い出せなくて苦しさだけがコーラルの胸を苛んでいた。
番外編・おしまい
話重視して笑いとエロを削除したらこんなに暗く…なんてことだ
次ぎはエロエロ予定w
良かったよ!切なかった!ジェイドがかっこいい。
エロエロ期待してます。
波打ち際で出産したらいいんじゃね?と思ったのは秘密だ。
GJ!
とても文章がお上手で羨ましいです。
次回もwktk
270 :
人魚の人:2006/07/10(月) 00:01:51 ID:6EFujweX
>>268 パールは一度海で生きることを決心をしてしまったので子供に足が生えてくるとは
思っていなかった、もしく想いを封じたと信じこもうとしていた…ということでお願いします。
後は人魚は水中出産が基本だったとかの設定です。
>波打ち際で出産…なんだかウミガメを連想したw
271 :
268:2006/07/10(月) 00:53:56 ID:ZxsjaSvp
>>270 ああくだらない発言にマジレスを頂いてしまって申し訳ないです。
ジェイドのクールなところがツボなので
続きを楽しみに待ってます。
>>257 GJですた。
続きはなのですか?その後の話があれば読みたいです。
273 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/10(月) 21:26:34 ID:tesXk5d+
あげ
274 :
自称へっぽこ:2006/07/11(火) 18:34:46 ID:2hvx5FIh
>>272 どうもどうも。続きは今のところ考えてませんが、
もし描いたらまた投下しますのでよろしくです。
また溜まったらまとめて下さる方がいると思うので、
職人さん、今のうちにささっと投下してくだされ〜。
色んな種類の作品が読みたい。
275 :
人魚の真珠9:2006/07/12(水) 00:15:13 ID:x7Tm2JPT
>>274 新作期待してます。しかし前の続編も切に見たいです!と力説。
では投下します。人魚の真珠の続き
2 心の迷路
陸から上がって数週間が経っていた。
コーラルは海を自室のテラスから眺めていた。
この部屋は海岸に面しているから風に潮の香りが飛び込んでくる。
コーラルはあくびをする。
夜はアレキサンドルが訊ねてくるが昼間は特にすることもなくとかく暇だった。
暇を持て余した彼女は気侭に自室を出ていきたいところだが、自室から一歩外
にでると、愛妾という身分のためかまたは素性の知れないもののためか彼女を
見る人の目は痛いほど冷たい。
特にガーネットはこちらがあいさつしてもまるで何も存在しないかのように
過ぎ去ってしまうのだ。
気は進まないがあまりにもたいくつで、部屋をでる。
そのまま海岸まで歩いて行きたかったのだが予想はできたが門番に止められてしまう。
しょんぼりとして引き返そうとするとジェイドに呼び止められる。
「何をしている?」
「潮の香りがするんです…。海岸を歩いてみたくて」
どこか遠くを見つめてはなすとジェイドが門番に話しをしている。
彼女の方に戻って来ると「出てもいいぞ」とコーラルを門の外に招く。
コーラルに続いて彼も後ろについてくるようだ。
ジェイドに王城近くの入り江に案内してもらう。
羽根を伸ばすように深呼吸する。自然と笑みが零れた。
「水が気持ちいいー」
海の匂いが懐かしくて思わずはしゃいでしまう。
靴を砂の上に置きドレスの裾を持ち上げて裸足で海水を蹴りあげる。
足を膝までさらしているのをジェイドに見られてしまいコーラルは
恥ずかしいような気分がしてドレスを直し彼のいる方へ戻っていく。
「もういいのか?」
「…はしたないんでしょう?」
海の底では自由奔放にすごしてきたと思う。陸の上では海の底とはまるで違う。
今までのように振る舞えば必ず白い目で見られることを知ってしまった。
砂浜の上に視線を落としてしゃがんでいれば、頭の上に手の平が置かれる。
ジェイドの手が優しく髪をすいていく。慰められていることに気づけば
思いがけない彼の優しさに視界が潤む。
かちりと音がして頭の上に何かが留められた。
「…髪飾り?」
手で触れて何かを確かめる。
「いつも持ってらっしゃるの?………ご自分でおつけに…?」
まさか彼にそういう趣味があるのかと不審な顔をすると彼はあからさまに嫌そうな顔をした。
「どうして俺がつけると思うんだ…?」
「冗談です」
「………。…ただ俺には必要ないものだから」
「だからって…どうしてわたしに?」
ジェイドはコーラルの髪を愛おしさをこめてなでる。
コーラルの亜麻色の髪によく映える貝殻細工がシャラシャラと軽い音を立てた。
甘い髪の匂いがして想いは過去へさかのぼる。
「むかし、海であった娘にもらったんだ。別れた時に再会の約束の意味をかねて」
「……いらなくなっちゃったんですか?」
「…相手は約束を忘れていた。自分ひとり想い出を抱えていきていても意味はない」
もしかしたら思い出してくれるかもしれないと淡い期待をしていたのかもしれない。
しかし彼女の次ぎの言葉はジェイドをそれをうち破るものだった。
「そんな…!返します…。その人だっていつかは思い出すかもしれないじゃないですか!」
その瞳は真剣そのものでそして真剣であればあるほど彼の心を余計にえぐる。
「覚えてないのか?」
「は…?」
ぽかんとするコーラル。
いらだちを覚えてジェイドは砂の上に彼女を引き倒していた。
「!」
彼女の水色の瞳が大きく開かれる。
問答無用で薄く開かれた唇に自分の唇を重ねる。
「…ぅんっっ、んんーっ」
塞がれた口の中で彼女は必死に抗議してくるが相手にせず服に手をかけてはぎ取る。
その際、びっと音がしてどこかの生地が裂けたようだ。
「やっ、何をするんですか!」
暴れる手足を砂の上に押さえつけ彼女の華奢な身体に自分の重みをかけて拘束する。
ようやく唇を離すと蒼白になったコーラルが彼の唾液に濡れた唇を戦慄かせ
見上げてきた。その瞳は不安と恐怖を顕わしていた。
男の身体に組み敷かれたコーラルの白い肢体…ジェイドの中でなにかが凶暴に暴れ出そうとしていた。
「…コーラルッ」
感情の激するままに名を呼ぶと相手の肩がびくりと跳ねる。
コーラルは砂の上で押さえつけられた手首の上に拳をつくり懸命に抵抗しよう
としていたが力強い男の手は剥がされようにもなかった。
「やぁっ…やめて…ひっ」
獲物にかぶりつく獣のようにコーラルの首筋に頭をうずめる。
滑らかな肌は吸いつくようなのに荒れた息は悲壮に満ちている。
「どうなんだ、殿下に抱かれる時はどんな声を出すんだ?…」
胸に口づけの後を散らし尖端に歯をかけながら嬲るように問う。
コーラルは瞳からぼろぼろと涙をこぼしている。
「どうして…?どうしてこんなことするんですか?」
片手でコーラルの両手首をひとくくりにするとそこが弱いことを
知っているかのようにもう片方の手で下腹の上を螺旋を描くように指を滑らす。
コーラルは身を捻って彼の指から逃れようとする。
ジェイドがぎりっとコーラルの細い手首を締め付ける。彼女の悲痛な呻きが耳に届く。
艶やかな亜麻色の髪、潤んだ水色の瞳、仕草までも…
どれも懐かしさを超えて生々しくジェイドの本能をえぐりだす
ジェイドの手によって開かされた白い脚。ぴちゃぴちゃと滴りを舐める音。
コーラルはその淫猥な状況に奇妙な興奮を覚える。
それを自覚してしまい更なる困惑と羞恥を感じた。
アレキサンドルに抱かれていてもこれほど恥ずかしいとは思わなかったのに…
「…はぅう……」
指で陰核を摘まれて蜜を溢れさせる。既にしとどに濡れたソコを丹念にジェイドが
舌を使って嬲る。
「…いやらしい身体をしているんだな、コーラルは。俺に舐められるのがそんなにいいのか?」
「…ひど…ちがう…ぅう」
どうしてこんなことに…
なんとか頭を巡らそうとするが熱い息は冷めることはなく海の匂いにとける。
「溢れてきりがないな…」
彼はそういうとコーラルの足の間に身体を割り込ませる。
硬く猛ったモノがコーラルの濡れそぼったそこにあてがわれる。
「ま…まって、…わたし…まだっ」
軽くなじませたあとそれは狭い場所を突き破るようにして押し入ってきた。
「…いっっ…」
ぐっ…と体重がかかる
「ッヤぁあああー…っっ」
瞳をこれ以上ないほど開かせ、悲鳴が空をつんざく。
一旦奥まで入ったそれはぎりぎりまで抜かれ再度、押し込まれ激痛に
コーラルは砂の上にのたうちながら喘ぐ。
「…やぁっ…いっ…た…ジェイっ…ドォ…っ」
彼の肉棒に蜜と血が絡まっている。
腰がぶつかってくる衝撃に何度も華奢な身体がはねる。
「ひぃ…くぅっ…やめぇっっ…あっ…あっ…」
痛みがだんだんと麻痺していくなか、打ち込まれる異物がコーラルのなかで
その質量を増し大きくなっていった。
太く硬いそれで何度も弱い内壁を引っ掻く。
「…ひ……だめ………はぁっ…ぅあっ…ひぁぁ…」
本人の意思とは無関係に今にも限界に達しそうな異物をコーラルの内部が
収縮しひくひくと痙攣させて彼に射精を促す。
「ぁああぁああっっっ…」
「…っ…くそっ」
内部がよりきつく収縮したのと同時にジェイドが肉棒を引き抜く。
数度大きく脈打ち、それと同じほど回数で肉棒からコーラルの白い腹に
白濁が盛大に放たれた。
白い肌にも艶やかな髪も砂まみれ。
コーラルは身体中についた体液と砂でひどい姿だった。
生傷に鞭を打つ覚悟で海水で身体を洗う。
「……ぁうっっ!!」
コーラルが痛みでうずくまるとジェイドが駆け寄り助けようとするが振り払う。
彼女は髪に絡まった飾りを強引にむしり取り彼の顔に投げつける。
無理に引っ張ったから細い髪の毛が数本ぱらぱらと抜けた。
「…すまない」
コーラルは身を整えると彼の顔も見ずに城に戻っていった。
しめきられた暗い部屋で燭台が小さな炎を揺らしている。
見事な装飾で飾られたアレキサンドルの寝室にはガーネットが珍しく訪れていた。
「…はぁ…あぁっ…殿下ぁっ…アレクぅ」
寝室の女主人はアレキサンドルの上に跨り全身から玉の汗を散らす。
「珍しいな…君が…その呼び名を使うなんて」
動きにあわせ上下に艶めかしく豊かな乳房が揺れている。
ガーネットの腰を支え下から突き上げてやると下腹を妖しく疼かせ
彼女はアレキサンドルの肉棒を締め上げる。
「…あぁあんっ…アレクっ…もっと…わたくしを」
「欲張りだな…もう、すでに何度か達しているだろう…?」
剛直をひたすら受け入れるガーネットのそこはどちらのものともしれない体液でぐちゅぐちゅと絶え間なく音をだしている。
「…あんっ…あ、あなたが…いけないんですのよ…ふぁっ…
わたくしを…いじめて…お焦らしに…なるからっ……ぁ……ひぃあぁっ」
言葉を遮るようにアレキサンドルが深々と彼女の奥へと突き上げる。
普段からは想像もできないほどガーネットは情熱的にアレキサンドルを求めてくる。
こうしていると、なかなか良いのだが滅多に見ることがないのが残念だ。
婚約前だとかまだ日が高いだとかくだらぬ理由で彼女はアレキサンドルから
距離をおく。堅い女は苦手だ。せめていつもこの顔を拝めたらと思うのだが…。
「…そろそろ君も限界だろう。どれ…っ」
上半身を起こしガーネットの身体を抱き寄せる。
するとガーネットも彼にしがみつくように腕を伸ばしてきた。
彼女の腰を掴み突き上げながら激しく彼女を揺さぶる。
「…んぁあっっ…あぁああっ…ぃいいぃっ」
燃えるように熱い肌の上で赤みのかかった金髪が炎さながらに揺らめく。
ガーネットは離すまいとするかのように埋め込まれた肉棒をきつくきつく締め上げる。
「…ガーネットっ…出すぞっ…」
そう宣言するとのけぞりそうな背を金髪ごと支えてアレキサンドルは
婚約者の最奥にその熱く迸る情を叩きつけた。
こほんとガーネットは咳払いする。
「アレキサンドル様、今日こそわたくしの言葉をきちんとお聞き届けくださいませ」
聞いてないような彼にため息をつき寝台の上に正座してぺしぺしとアレキサンドルの肩を叩く。
「アレク」
そのまま寝入ってしまいそうな彼にガーネットは顔を引き締め進言する。
うるさそうにアレキサンドルが掛布の中に潜り込もうとするのをガーネットが
ひっぺ剥がす。
「お聞き下さいませ」
「…なんだ」
「殿下が連れてきた者のことでございます…。彼女はここから追い出すべきです。
殿下もご存じかとはおもいますが、あの日は難破どころか嵐すらございませんでした…。
素性が怪しすぎます。なにか企みがあるとしか思えません」
「あの娘が何か企んでいると…?」
眉を寄せたアレキサンドルは軽く身体を起こしガーネットを見つめる。
視線が絡んだことによりようやくガーネットは安心し言葉を続ける。
「はい。あなたはこの国の第一王位継承者でございます。その命をねらう者は
数多いるでしょう。次期王位をねらう者に雇われた暗殺者、周辺諸国の間者で
ある可能性もある。今までだって絶えず王家に害をなしてきたのではございませんか?」
ふっとアレキサンドルは口元を歪ませる。
「ほぅ…コーラルが間者か暗殺者か…。とてもそうは見えないな。
おそらく家出人か何かだろう。私は私であの娘が気に入っている。それに君との約束は守っている。
どうこう言われたくないな。君こそわざわざコーラルを追い出すためにわざわざ私の部屋に訪れて
『色仕掛け』するとはな。は…どっちが策士か」
アレキサンドルは取るに足らん心配というように嘲笑した。
わなわなと唇が震える。泣き出しそうになるのを意地でもってこらえる。
「色仕掛け?策士?わたくしのことを…そんなふうに、お考えですの?……わたくしは
……あなたの何?…これでもいつも本気で心配しておりますのに……」
最後まで言葉は湿って続けることはできなかった。後ろを向いて身支度を整える。
「おい…泣いてるのか?」
ガーネットは肩をつかまれピシリと叩く。誇り高く育った彼女は涙にぬれた顔など
見られたくはなかった。
「今度のことで思い出しましたわ。わたくし達の結婚は…形だけ。
国と国の政治的婚姻だったということを。わたくしも考えたいことがあります。
しばらくわたくしにかまわないで」
…そう、形だけ…自らの言葉が彼女自身を苛む。
寝室に入ってきた時と同じように髪を結い上げると彼を残してガーネットは部屋をあとにした。
ガーネットが部屋を後にしてからどのくらい過ぎただろう。
どうせすぐに戻ってくるかと思ったが依然戻ってくる気配はない。
なにもそこまで彼女が傷つくなどとは想像していなかった。
気分が良かったところ水を差されて一発食わしてやりたかっただけだった。
罪悪感が彼の胸に深い影をおとし自己嫌悪に陥る。
こんな気持ちになったのは何年ぶりのことか。
彼女は苦手だ。
いつもこんなふうにひどく自分を思い詰めさせるから…。
窓に手をついて外を覗く。雨がザーザーと音をたてて降っていた。
今夜はアレキサンドルが来なくて助かった。
コーラルは夜着の胸元をあけ鏡に映す。白い肌に点々と紅い印が残っている。
理解不能。あんな人目につくようなところで何てことをする。
「…はぁ」
本当にわからない。ほんの少し前まで優しいかと思ったらとたんに
凶暴にコーラルを引き裂いた。
コーラルの髪に髪飾りを留めなでてくれたその手で服を裂いて
彼女の身体を嬲った男。
「ジェイド…」
いつだったかこの名を呼んだことがあっただろうか、
何故だろう?口にだせばはっきりとわかる。
よくその名を呼んでいたように口に馴染む。
海であった娘がもし自分であったとしたら…。
いや、そんなことあるわけない。だったら覚えてるはずだ。
陸の人間と係わるなどとは滅多なことではないのだから。
「…どうして?」
じわ…と涙がもりあがる。恐ろしかった…彼が。
なのに、
髪飾りを彼の顔に投げつけた時ひどく傷ついたような顔をしたのを思い出す。
どうしてあんな顔をするのか…。
「ばかジェイド…」
コーラルの知らない所で胸が疼いたような気がして彼女は顔を覆った。
2話終了
前回の誤字発見 …砂の上で「のたうつっていた」って何だ…「のたうっていた」が正解
堪能しました。とにかくGJ!
登場人物がみんな魅力的ですね。
続きが待ちきれない。
282 :
自称へっぽこ:2006/07/12(水) 02:48:07 ID:dNV5h9mK
>人魚の方
お疲れ様!今回もGJですた!
第一話と雰囲気がちょっと変わってシリアス度が増した感じですね〜。
色んな方面から話を作れて尊敬の限りです
登場する人物がみんな深くてキャラが立っているのがいいよー。
エロエロな洗練された文章がいいよー。
第3話も期待大です〜頑張って下され^^
キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!
GJ!
あぁ…何か幸せ…。
こういう作品たちに出会えたことに感謝ス。
スバラシイです。
そして、私の最萌えのナタリーお嬢様も、
またのお出ましを切望しておりマス(笑)。
カッサンドラの話の続きまだかな?
結構楽しみにしてるんだが
天女伝説の人も続きよろしく!
なんか最近雑談もなくて寂しい
そのどちらでもなくて申し訳ない。
人魚の真珠 続きを投下します。
最終話
3 想い出は真珠の中
昨晩からの雨足は少しゆるんではいるが外は相変わらず雨が降っている。
ジェイドは王城の窓からそれを一瞥すると意外な人物の姿をとらえた。
「ガーネット様!?」
頭からすっぽりと濡れそぼり髪の先から雫をたらしたガーネットを見つける。
「…ジェイド?」
どこかいつもと違ってぼんやりとした彼女は彼の姿を認めると同時にその場に
崩れ落ちた。
「こんな朝早くから参られたと思えば…ガーネット様とそんなことが
あったんですか…」
アレキサンドルはコーラルの膝の上に頭をおいて腕で目蓋を隠している。
ふぅ…とコーラルはため息をつく。
「私はあれが苦手だ…彼女を前にすると私はどんな態度をとればいいかわからず
逃げ出してしまいたくなる」
「………」
「お前といると楽だ…」
「…アレキサンドル王子」
さらっとコーラルは彼の髪をなでてやる。くすっと笑う。
「王子はどうしてガーネット様が苦手なのか本当の意味かわからないだけなのではないですか?」
「コーラル?」
「…その人にどんな態度をしていいのかわからないのはその人のことを大事
に思っているからですわ」
そういうとコーラルは立ち上がりアレキサンドルを床に落とす。
「うわっっ」
「ガーネット様と仲直りしましょう?私も仲直りしたい人がいるから…一緒に」
にっこりとコーラルは笑った。
ガーネットは瞳を開ける。
見覚えのあるこの部屋はガーネット自身の部屋のようだ。
「あなたが連れてきてくれたのですね」
窓を眺めていた男の背に声をかける。
「突然、お倒れになるから驚きました。……それで衣服がぬれておりましたので
勝手ながら替えさせて頂きました…」
「あなたが?」
「い、いえ!着替えさせたのは私ではありませんから…」
「…そぅ、ところで前から気になっていたんですけども以前庭園でコーラルと口付けを
交わしていたでしょう?
わたくしの勘なのですけれど貴方は以前から彼女を知っているの
ではなくて?だってそうでしょう、でなければ昨日今日あった娘にあんなことを
貴方のような方ならしませんでしょう?」
一度口にしてしまえば庭園でのことを一気に問いつめるガーネット。
彼はふっと息を吐いた。暗緑色の瞳が影を帯びて揺れている。
「あなたの言うとおりです。…しかし彼女は覚えていないんです。俺のことはなにひとつ」
思わずガーネットは掛布をはぎジェイドに詰め寄る。
「彼女は何者?」
「……それは……」
彼女の真剣な眼差しに揺らぎながらもジェイドは答えない。
「答えることはできません」
きっぱりとそう言う彼に苦い感情を抱く。
はぁ…とガーネットは嘆息する。
「…コーラルが羨ましいわ。こんな風に誠実な人に想ってもらえてるんですもの」
いつかのようにガーネットがジェイドの胸の頭を置く。
傷を慰めてほしくて彼の鍛えられた堅い胸に指を滑らす。
「…ガーネット様、いけません」
ガーネットの意図を察しジェイドは彼女の細い指を制す。
「愛なんていらないわ…でも寂しいのは嫌」
彼女はジェイドの首に腕を廻し彼の肩口ですすり泣く。
首筋に彼のため息がかかる。ガーネットは彼の黒髪に指を差し込む。…が
「……いけません」
身体を引き離される。かぁっとガーネットの顔に血が上る。
「どうして?どうしてコーラルなのですか。殿下も貴方も!」
癇癪を起こしたように彼の胸を叩く。ジェイドは途方に暮れたように立ち竦んでいる。
「そうジェイドを責めるな、ガーネット」
ふいに扉が開かれ隙間からアレキサンドルがあらわれる。
「殿下…」
ガーネットは声を震わす。
「ジェイド、私の婚約者に気軽に触れたことは許してやる。だが…それ以上の
ことをしていたらお前を私は斬っていたとこだったぞ」
アレキサンドルはじろりとジェイドを睨むととっとと彼を部屋から追い出し手しまう。
一礼してジェイドは立ち去った。
「殿下…」
いつになくアレキサンドルはガーネットを真摯に見つめる。
「即刻婚儀の日取りを決めたい…」
ガーネットは信じられぬものをみるようにアレキサンドルを見た。
彼女はふいっと顔をそらす。
「…勝手ですわ。いつもご自分の都合で決めて!」
「それはすまなかった。しかし君も内心今嬉しいんだろう?」
にやりと彼は笑った。
「なっ…どうしてあなたはいつもそんな態度をとるんですか」
アレキサンドルは愉快そうにガーネットの服に手をかける。
「ある人が教えてくれてね…。君のその態度は私への愛情表現なのだとね」
彼は器用にガーネットの髪をほどく。金髪がゆるやかに舞い踊る。
「思えば私はコーラルを自分の逃げ道にしていたようだ…そのせいで君を
傷つけているとも知らずに…」
「…殿下…からかってらっしゃらないわよね?」
「どう思う?」
意地悪く笑むアレキサンドル。
馴れた気配に自然とガーネットは目を閉じる。
「…ずるい…いつも…からかって」
涙が声に絡む。
アレキサンドルは彼女を抱きしめた。
コーラルは扉から出てきた男をみると彼に歩み寄る。
「…二人は?」
ジェイドは頷いて「うまくやってる」と答えた。
「そう」
「いいのか?」
「ええ。所詮妾ですもの。気にしてはないです。それよりちょっとこちらへ…」
コーラルは彼に身を寄せる。息がかかるくらい近い距離になったころ思いっきり
膝で彼の股間を蹴り上げた。
「痛かったんですからっ!当然あなたも痛みで償うべきです!!」
床に突っ伏した彼に聞こえたかどうかわからぬがコーラルはこうでもしない
と気が済まないと捲し立てたのだった。
数日後、婚儀は盛大に行われた。
アレキサンドルとガーネットは教会で誓いあい正式な夫婦となった。
ステンドグラスの光りに包まれた二人はとても美しかった。
コーラルはまぶしそうに目を細めた。
婚儀の後は船にのり夜の海上で宴が催された。
花火が打ち上げられにぎやかな宴からコーラルはそっと離れる。
「…いるんでしょう?」
ひと気がないのを確かめそっと海に向かって呟く。
「姫様…!」
「会いたかったわ…パール」
「ところで姫様…大丈夫なんですか?」
「え…と…大丈夫って?」
何のことかわからずに困惑し眉を捻る。
「あの…これをモルガから預かってきました。使ってください」
勝手に話しを進めていくパールはコーラルに何かを投げる。
弧をかき投げられたそれはひかりを弾いてコーラルの手に収まる。
「長居をしては…いけません。お早いお戻りを…」
パールは急に真面目な顔をする。彼女の苦い経験が思い起こされる。
それだけいうとぱしゃん、と音がして彼女は消えたのだった。
そっと渡されたものを見る。小さな小瓶。
「これ…何かしら?…」
「コーラル?誰と話していた?」
背中に声を掛けられ慌てて小瓶を隠す。ジェイドが首を傾げている。
「何でもないですっ…って、ちょっと」
後ろに隠した手を見とがめられひょいと奪われる。
彼は小瓶の蓋を開けて匂いを嗅いでいる。
「この匂いは…『催…淫剤』か?……まさか、いつも持っているのか?」
「えっっ?!ち、ちがっ」コーラルは慌てながら否定しようとする。
子種を得る目的のためには必要なのかもしれないがそれでもパールはなんて物
を渡すのかとコーラルは思う。
「こういうものを持ってるのは、やはり子種だけを得るつもりで…海へあがったのか?」
ジェイドの瞳が海面のように揺れている。
はっと息を呑みコーラルは彼の顔を凝視する。
「なんで…知ってるの?」
突然ぎゅうと両頬をつねられる。
「いた…痛いでふっ」
「どうして覚えていないんだ?お前は」
どうやらジェイドは怒っているようだ。
「ふぃっ?!ふぃらないですっ人違いじゃ…」
頬から痛みが抜ける。どうして悲しそうな目をしてこちらを見るのか…。
「あなたが海であった人ってその…本当に私なんですか?」
「間違いない…マーメイドの少女だった」
ジェイドの視線がコーラルに絡みつく。コーラルは動揺を隠せない。
「私なんでしょうか…でも、そこまでいうならそうなのでしょうか…」
ぐっと胸に引き寄せられ何か既視感のようなものを感じる。
「でも…なんだか自分って感じがしません。なんか」
――まるで嫉妬してるみたい…彼の想い出に棲みつく少女に。
ジェイドの唇が重なってくる。一瞬のことにあまり抵抗せずにそれを受け入れてしまった。
とろりとした液体が口のなかに…――
「…ジェイド!?…今のまさか」
ころころとガラスの小瓶が甲板を転がっていく。
顔を寄せコーラルの口元をぺろりと舐め取るジェイド。
その所作がなんとなく男のくせに色気があるように思える。
心臓の音が妙に速い気がする。
(この感覚は、今の…薬のせい…?)
再び唇が重なり濃厚な口付けを受ける。すぐさま腰が崩れた。
「…んっ…だめ…やです…」
逃れようと腰をひくがすぐ船縁にぶつかり追いつめられる。
少しは場所を気にしてほしい。なにもこんなとこで。
「あっ…ん」
ジェイドの指が柔らかい胸にくい込む。痛みは感じないほどの弱いちからで
揉みしだいてゆく。
静かに聞こえるのはさざ波のような二つ呼吸の音。
乱れたドレスの中に骨張った厚い手が忍び込む。
直に手が肌に触れコーラルは緊張に身体を張りつめる。
「…っぁ…ジェイド…痛いのは…あ…」
いつの間にか手は下に伸び弱い箇所を弄ばれていた。
「少し弄っただけで……本当にいやらしいな、コーラルは」
含み笑いをされて身体が火照ったように熱を帯びる。
「そんな…んじゃ…」
ジェイドの指の動きが巧みに蠢きコーラルはそのたびに艶めいた息を吐いてしまっていた。
彼の指は敏感な芽に彼女自身から滲んだ蜜を絡ませた。
一方で秘部を丹念に愛撫し指を二本彼女の華芯に銜えさせていた。
「…んくぅ…」
コーラルは抑えきれない感覚に目眩すら感じた。
ジェイドは彼女の秘部に彼の指を銜えさせ動作のたびに淫靡な湿った音を立てさせた。
「やぁ…ぁん…もう…いじめないで…くださぃ」
彼を止めなきゃと思いながら彼に与えられる熱が心地よく離れがたい
それなのに秘部から指が離れていってしまいそんなこと思っていた自分が恥ずかしい。
「そうだな…」
コーラルを立ち上がらせる。船縁に前のめりに手をついた格好。
ジェイドは彼女の捲れたドレスをはだけると猛った自身を露わにする。
コーラルは秘部にいつかの感触を感じ取り身を強張らせる。
「いくぞ…」
「…ん…ぁぁああぁっっ」
きつい圧迫感。二度目とはいえ、やはり苦痛があるのだろうか…
とはいえやめてやる気などはなかった。
コーラルの腰をしっかりと腕で支え抽送を開始する。
「あっ…あぁっ…あっ…」
亜麻色の髪が流れている白い背中は艶めかしく揺れている。
黒い漆黒の海とは対照的なその肢体はより白い肌を際立たせた。
ゆっくりと深く突いてはその狭さに耽溺する。
速度を上げれば可憐な唇から甘い泣き声が夜の潮風を震わす。
「…はぁんっ…あん…あっ…ひゃぁん」
前回よりは苦しむ様子は見受けられない。ジェイドはわずかに安堵する。
「し…。あまり…声を上げると、人に気づかれる」
「誰のせいっで…こんな声がで、てるとぉ……あぅっ」
強く内側を擦られうまくしゃべることができないでいるコーラルに追い打ちをかける。
「…あんっ…声が…ぃやぁっ…とめられない…あぁん」
「しかたないな…」
依然に高い声を上げてしまうコーラルの口に己の指を銜えさせる。
するとくぐもった嬌声に変わる。
「…ふっ…んっ…ふぅっ…ふぅんっ」
「終わるまでの間…このままだ」
柔らかい細い髪が横に振られる。崩れ落ちそうな腰にさらにとつきあげて
刺激をあたえコーラルを追いつめていく。
「ぅうんっ…ふぅっ…んんんっっ」
外の気温に反しコーラルの身体は火のように熱くジェイドの身体に肌で直に伝わる。
コーラルは唾液で汚された指を引き離す。
「ぁあんっ…もぅっ…だめぇっ…限界っ」
がくがくと細い足が震えている。ジェイドを包むそこも火傷するように熱い。
自分もコーラルも絶頂が近いこと察した。
高い嬌声に再び指を銜えさせようとすると…
「まってっ…おねがい…こ、子種を、あなたの子を…私に授けさせて…」
ジェイドはコーラルの意外な要求に言葉をなくす。
「あなたのが…いいの、…ここにジェイドの…を、下さい」
「俺でいいのか?」
ジェイドは首を縦に振るコーラルをみて決心を決める。
背筋に強烈な感覚が走り抜ける。離さぬようにぴったりと腰を密着させる…
「…っっ」
「…あ…ふぁああっっ――」
ほぼ同時に昇りつめた。
深くつながりあったところから収まりきれなかった白濁がコーラルの足をつたう。
腕に重みがかかり慌ててコーラルを抱き起こす。
転がった小瓶を拾う。中身は…
「本当はただの『酔い止め』だったんだけどな」
小瓶に小さく彫られた文字を読む。
海に住んでいたとはいえ、船に乗るのは初めての彼女をパールは心配したのだろうか?
小さく吹き出す。
彼女は気を失ったらしい彼女をジェイドは静かに抱えた。
まだ夜が明けきらない闇の中…コーラルは寝台から抜け出す。
すぐそば…手の触れれる位置で眠っていた彼の顔にそっと口づける。
別れを惜しむように彼の黒髪を擽る。
ふと貝殻の髪飾りを彼の衣服から見つけそっと自分の懐にしまう。
やがてそのまま気づかれぬように甲板にでる。
『長居をしてはいけません』
パールの言葉を思い出す。
船縁に手をつき甲板から身を乗り出す。
「コーラル?!何をなさろうとしているの?!」
「ガーネット様?」
ガーネットがコーラルに駆け寄り甲板にひきずり落とす。
「ばかなことを!…そんなことをしたらジェイドが悲しむでしょう!?」
「…ガーネット様?」
どうして彼女がジェイドを気にするのかという顔をしていたのだろう。
ガーネットは彼には恩があると言った。
「アレキサンドルから聞きました。彼をわたくしに後押ししてくれたのは貴方だと…」
ありがとう…と小さな声が聞こえた。
これが実は初めて二人が交わした会話だとコーラルは気づいた。
この人はなんて可愛らしい方なのだろうと思う。いつもひたむきな人…
ふふっと笑う。
「何ですの?」
「自殺なんてしないですから安心して下さい」
ひらりと海に身体を躍らせた。
「アレキサンドル王子とお幸せに!」
彼女に手を振ると海の中に銀の尾を輝かせ消えていった。
「……マーメイド」
ガーネットは驚きのあまり呆然とつぶやいた。
一夜明けて船の上のどこを捜してもコーラルの姿を見つけることはできなかった。
噂にはアレキサンドル王子の結婚を悲観して海に身を投げたのだとかいろんな憶測が
飛び交ったようだが、真相は語られることはなかった。
後にガーネットから彼女は海に帰ったことを聞いた。
彼女の本来の目的を考えると予想はついていたことだが…
別れの挨拶もなしにずいぶんとあっけないものだった。
…かつて出会った少女、再びあらわれたあの薄情者。
――ジェイド――
あんな風に自分を呼んだのはどちらのものだったか…
ただ思い出すだけで酷く苦くて…
「ジェイド」
懐かしい幻がジェイドの前にあらわれる。
あどけない少女の顔と彼女の顔が重なっていく。
「…コーラル」
砂浜に寝ころんでいたジェイドを楽しげにのぞき込んでいるコーラルの顔がそこにあった。
「どうしてここにいる?」
きょと…コーラルはジェイドを見つめる。
「だって…わたしまだ妊娠してなかったみたいですし…会いたかったからだと
いう理由だといけませんか?」
信じられないものをみるようにコーラルを凝視する。
「じゃあ、なんで消えた?」
「…あっ、それなんですけど!わたしモルガから奪い返してたんです」
ようするにこういうことらしい。
コーラルはもともとジェイドに会いに来る予定だった。
しかし海の安定を望む海の長老・モルガは彼女の行く末を心配し
彼女の過去…つまりジェイドとの記憶をすっぽりとそこだけ奪い封印してしまったらしい。
そして海に戻ったのは…モルガのそんな行動に気づいた彼女が記憶を奪い返しに
いったのだということだ。
彼女がモルガに会いにいき問いつめたら彼女の記憶は一粒の白真珠の中に封印されていた。
「その真珠ってね…初めて貴方と別れたあの時に流した涙なんです…」
「あの時の?」
こくりとコーラルは頷く。
「女王ともいろいろあって…けっこう思ったより時間がかかってすみませんでした。…心配しました?」
悪戯をしかけた子供のような笑顔を向けるコーラルをジェイドはこづく。
「…ところでわたし、ここに陸に居座ることに決めました。いいですよね?」
さらっとつげた言葉にジェイドは目を丸くする。
「海にもどらないのか?」
「あら…帰ってほしいんですか」
海に向かって歩き出すコーラルをジェイドが腕を掴んで引き寄せる。
振り向いた彼女は勝ち誇ったように笑みを見せた。
「帰ってほしくないならそう言えばいいじゃないですか」
子憎たらしいその唇をジェイドは自分の唇で塞いだ。
背中を柔らかい髪ごと抱きしめる。
シャラ…
髪に留められた貝殻の髪飾りがいつまでも優しく音を奏でていた。
fin
連載お疲れ様。GJです。ハッピーエンド嬉しいよハッピーエンド
超GJ!!!こっちまで幸せになったよ。
コラールがあっかるい性格でとってもよかった。
終わってしまったのが寂しいくらい。
また何か投下してください!
キタワァ…゚・*:.。キラ .。.:*・゜゚*・キラ゜゚・*:.。..。・゜・(ノД`)・゜・。. .。.:*・゜゚・キララ*:.。. .。.
GJです!!!!!!!
あぁもう、よかったハッピーエンドで・゚・(ノД`)・゚・。
連載お疲れ様です。
素敵なお話をありがとうございました!
ハッピーエンド万歳!!
コーラルかわいいよコーラル!!
ガーネットに萌えました!
お気楽な王国のエロ話、いきます。
妹姫も残り一人になりました。
ベアトリスはおとなしく宴の席につき、慎ましやかに時折料理を口にしていた。
他人事のようにわが身に進行しつつある事態を眺めている。
一昨日から兄の離宮に滞在している。
秋の彩りに熟した森の木々を背景にした館も、面する湖も野趣に富んで美しい。
女官たちのしつけは行き届いており、生後二ヶ月の甥は兄に似ず可愛く、義姉は優しいいい人だ。
苦手の兄と顔を会わせるのだけは少々緊張するが、義姉と一緒にフィリップをつついているととても楽しい。
なにかと心配性の父母や侍医長から離れているのも新鮮だ。
箱入りの姫として王宮内だけで育ってきたので離宮のなにもかもが珍しくてたまらない。
見知らぬ男性との結婚話が進んでいるこの席も苦痛ではない。
いや、見知らぬ男性というと語弊があるだろうか。
ベアトリスは昔から相手を知っているし、相手もずっと前からベアトリスを知っている。
もっとも、昨日引き合わせられるまで、一度も顔を合わせたことはなかった。
年齢のつりあう王族同士はお互いに、名前とその評判くらいはいやでも耳に入るものである。
たとえば母方の従兄弟にあたる北国の王子フレドリクは、ついに鷲鼻と若禿を気にしない国内の貴族の娘と婚約にこぎ着けたとか、浮気性の東国の王女が夫と別れるのどうのという騒ぎになっているとか。
今回の見合いの相手、公子ヴィクトールについても、ベアトリスはその評判はそれなりに心得ている。
独身時の彼女の兄のような女狂いではなく、奇矯な行動をとるわけでもなく、君主としてはそれなりに有能で、閃くような才気はないにしてもごくごくまともな人柄らしい。
年齢だって、彼女よりわずかに三つほど年上なだけだ。
小さいながらも由緒ある公国の跡取りだから、結婚すればベアトリスは大公妃ということになる。
結婚相手としては充分恵まれた、満足のいく相手であろう。
妹マチルドの婚約者のような美男子ではなく性格をあらわした平凡な容姿だが、結婚相手としてはかえって安心というものだ。
これ以上の相手を望む気はベアトリスにはさらさらない。
王家の姫として、望まぬ相手との結婚だとて、避けることのできぬ至極当然の義務とベアトリスは心得ている。
昔から身体虚弱で寝こみ勝ちだった王家の姫君たちは昨今ではかなり丈夫になってきていて、先日18の誕生日を迎えた彼女も例外ではない。
育てられかたに問題があったのではないかと口の悪い兄などは言っている。
心臓の弱い長姉コリーヌや夭折した二人の兄たちは別だが、三人の妹姫たちに限っては絹や綿で包んでむやみに過保護に育てたのが間違いだと言うのであるが、兄の言うことにも一理あるかもしれないとベアトリスは思う。
現に、義姉に手ほどきを受けて乗馬をはじめた昨年からは寝込むことはほぼなくなった。
食事も美味しくなり、夜もよく眠れるようになった。
このように健康を取り戻したからには結婚生活にも耐えられるであろうと侍医長は父母と一緒に喜んでいる。
甥の相手が苦にならないところを見ると、おそらくベアトリスはこどもが嫌いなわけではなさそうだ。
手仕事も得意だし女官たちに威厳をもって接することもできる。
根本的にきっちりした性格だし努力家だ。
次女として、聡明な長姉の薫陶を一番身近に受ける立場にいたからかもしれない。
夫にも敬意をもって仕える、たぶんよい妻になることができるだろう。
容姿にも問題があるわけではない。
髪は艶々とした黒に近い茶色で、ほどけばかなり長いのだがいつもはきっちり編みこんでいる。
目は杏色。
もちろん青や緑に比べると印象的な色ではないが、魅力的に輝くことのできる色だ。
女官たちは感じのいいきれいなお顔だとお世辞を言うし、ほかの貴族の子女を観察するに、実は自分でも、造作はそれなりに整っているほうではないかと思う。
もちろん長姉や、さらには義姉のような目をひく美貌に比べると、地味で見劣りはするだろう。
現実的なベアトリスはそこまで我が容貌にうぬぼれてはいないのである。
体つきはほっそりしているがかといって胸や腰が貧弱なわけではない。
夫となる殿方としては、この豊かな国の姫を娶るという一点を除けても、たいした不満は持ち得ないはずだ。
実際公子ヴィクトールは初対面以降、ベアトリスについて不満げな顔を見せてはいない。
あとはこのまま黙って婚約に至るだけである。
ただ………。
ただ一つ、ベアトリスにはこの結婚話にいまひとつ、我が事としてのめり込めない心の隙間を感じている。
これは公子が悪いのではないしベアトリスが悪いわけでもない。
ただ、全く心のときめきを感じないのだ。
結婚相手に全てを求めようとする行為の愚かさをベアトリスは考えたが、それでもやはり寂しい。
なぜなら、彼女は深窓の姫の例に漏れず、これまでの人生でまだ一度も恋をしたことがないのである。
末の妹姫のマチルドのように身近な衛兵に好きな相手がいたという事もない。
一度くらいそれがどんなものだかを知りたかった。
それに、もう一つ。
今回のこの見合い、なにも絶対に自分でなければいけないということはなかったはずなのだ。
三人の姫君のうちマチルドはあのとおりはしたなくも自分から好きな男を誘惑してとっとと婚約してしまったし、すぐ下の妹姫のリュシーは気が弱いから見合いの席になど出てこれない。
残る王女はベアトリスしかいないのである。
どう考えても消去法で自分が公子の相手に選ばれたとしか思えない。
全ては偶然のなせるわざ、それにぶっちゃけやはり年齢順であろう。
相手にこの王女をぜひにと望まれたわけでもない、こんな状況で胸をときめかせろというほうが無理ではないか。
ベアトリスは目立たぬようにため息をかみ殺し、義姉と兄を挟んだ席に座った見合い相手の男からそっと目を背けた。
*
問題なし。
公子ヴィクトールは昨日、見合い相手のベアトリス王女を見て正直なところ少し安心した。
有り難いことに醜女ではない。
醜女どころか、地味な感じではあるがかなり整っていると言ってもいい容姿である。
もっとも顔で結婚するわけではないからたとえどのような不美人だろうが表立った文句は言えないところだ。
加うるにきっちりまとめた黒っぽい髪の印象もあるのかとてもまじめそうだし、しっかりしているように見える。
大国からヴィクトールの国に来る姫君としては、なによりの資質である。
幼い頃は寝こみ勝ちだったらしいが、それも改善されて現在は健康との報告である。
すなわち公国の跡継ぎは、問題なく正妻の胎から期待できるということだ。
なによりも彼女は王女で、有力なこの国の次期国王になる男の実妹である。
現時点で望む事はほかにはなにもない。
そう結論づけると、ヴィクトールは見合い相手についてそれ以上思い煩う愚は避けることにした。
王女とは今後は否応なく長くつきあう事になるのだから。
見合いの事前交渉も滞りなく、兄のイヴァンがこうして公子歓迎の宴に同席させる以上、婚約決定は間違いない。
ヴィクトールは安心して、近い将来義兄になる予定のはずのイヴァン殿下をはさんで隣の席の女性と話しこんでいた。
際立った美貌の主なので間近で見ているだけでも心地よく、自然と話に熱が入った。
彼女はヴィクトールの義姉になる予定のはずの人である。
「…なのです。だから私は叔父に、サラク製の銘品一そろいを質に入れてでもその馬を……」
公子の話に頷きながら耳を傾けていたナタリーが少しのけぞった。
どすんと、顔のすぐ前に空の杯を握った手が降ってきたからだ。
「あの、お待ちいただけますか、公子様?」
彼女が傍らの皿から干した棗を摘み上げ、夫に手渡すのを見て公子は口を閉じた。
「イヴァン様、ワインのお代わりはもう駄目……お体に悪くてよ」
「うむ」
イヴァンは妻の手から果物をむしり取り、口に放り込んだ。
その腕の隙間からヴィクトールはナタリーに感じ良く微笑みかけた。
気付いたナタリーは淑やかな微笑を返した。
イヴァンが唸った。
ヴィクトールがもう少し王子妃の美貌に気をとられていなかったら、王子殿下が相当気を悪くしているのがわかったはずである。
彼が果物を飲み込んだようなのでヴィクトールは控えめに口を開いた。
「王子妃様。叔父の話を続けてもいいでしょうか?」
ナタリーが返事をする前に、イヴァンが卓上に片方の手のひらを叩き付けた。
皿や杯が驚いたように跳ね上がった。
椅子から立ち上がりざま長身でヴィクトールの視線を遮断し、イヴァンは妃に顔を向けた。
「気分が悪い。お前の言うとおりだ、ナタリー……調子にのって飲みすぎたかもしれない」
「まあ」
ナタリーは急いで立ち上がり、夫のひじを支えた。
「大丈夫?」
「うむ。休めば治る……公子殿」
イヴァンはちらりとヴィクトールを見下ろした。
明るい色の目が陰険なものになっていることに公子は気づかなかった。
「そういうわけで私はお先に失礼する。だがあなたはどうぞごゆっくり。ベアトリス!お前ももう部屋に引き取ったほうがいい」
杯を弄っていた王女は頷いて立ち上がった。
見合い相手に会釈をして、彼女は優雅にドレスの裾を翻らせた。
「ではまた明日。我が家同然今夜はゆるりとお休みくださるよう、館の主人として願っている」
イヴァンは早口でそう言うと、妃の腰に手を回すようにして侍従たちを従え、さっさと広間から退出してしまった。
*
我侭な主催者が抜けたにもかかわらず宴は盛り上がった。
両国の関係者だけでも名の知れた人間が集っているからみなそれぞれの輪をつくり、話に夢中である。
逆に離宮の外は妙な静けさに包まれているようだった。
秋の天候は気まぐれだから、もしかしたら雨が降り始めたのかもしれない。
ヴィクトールは酔いが廻ってきたのを汐に、そろそろ退席する事に決めた。
イヴァンも麗しいその妃もベアトリス王女もいないのだ。非礼の心配はない。
彼は同席者や従者たちに一人で部屋に戻る由を告げ、遠慮なく楽しみを続けるよう言葉を尽くして立ち上がった。
小国の後継者がみな彼のようであるわけではないが、ヴィクトールは身軽な行動に慣れていたしその臣下もそうだった。
大広間から出ると、廊下の果てから流れてきた冷たい水と埃の混じった匂いが鼻をうった。
やはり雨になりそうだ。
重い大気を、さらに重苦しい槌音が時折鈍く震わせている。
夜の雷は寂しいがそれはそれで風情があるとヴィクトールは思った。
とくにこの季節のそれはいかにも季節が変わっていく感じがする。
公子は酔い覚ましを兼ねてぶらぶらと回廊に出ながら、雨の気配を吸い込んだ。
*
ベアトリスは過保護に育てられた王女である。
だがそれほど好き嫌いにうるさいたちではない。
食べ物も着るものも公務や侍女に関しても、それからもちろん結婚相手も。
ところが何事にも例外はあるもので、その数少ない例外の一つが雷だった。
小さな頃から雷は嫌いだった。
否応無しに場を支配するあの大きな音も、それから規則性のない唐突な稲光も同じくらい忌まわしい。
遠慮会釈なく自分勝手に他人の神経を掻き回す落ち着きのない傍若無人ぶり。
同じ例外の範疇にイヴァン兄がいるが、どちらも似ている。
兄が昔から苦手な理由も雷と同じと言えるかもしれない。
ベアトリスは自室で、控え室から聞こえてくる侍女のいびきを窺いながら神経質に枕を抱えなおした。
この不吉な轟きの中で前後不覚に眠っていられるロジーヌの神経が理解できない。
せめて一緒に起きていてくれると少しは心強いのだが、この侍女はまだ若いせいもあり、普段から一旦寝入ると絶対に起きることがないのはよくわかっている。
稲光が部屋の装飾を青白く浮かび上がらせ、ベアトリスはびくっと薄い寝間着に覆われた肩を震わせた。
きっとすぐに音が来る。
数えたくないのに拍子をとっているとやがてドロドロと不気味な唸りが腹を揺るがせた。
同時に、ざあっと無数の水滴が窓を打つ音がした。
雨が降り始めたようだ。
ベアトリスはほどいた豊かな髪ごと両耳を塞ぎ、急いで冷たい床に足を降ろした。
この勢いでは当分雷は続くに決まっている。秋の雷は特に威圧的で大嫌いだ。
ロジーヌが当てにならない以上、頼る相手は同じ階の義姉しかいない。
ナタリーならベアトリスの子どもじみた恐怖心も笑わずにしばらく一緒にいる事を赦してくれるだろう。
杏色の目をこらして用心深く窓の外の気配を窺い、ベアトリスはガウンを羽織った。
腹にこたえる新たな雷の音に耐え、それが終わるやいなや一気に部屋の外に滑り出る。
あとは走るしかない。
後ろでに扉を締め、ベアトリスは稲光を見なくてすむように目をできるだけ細くした。胸が早鐘を打っている。
義姉の部屋まで階段を挟んで棟の三分の一ほどの距離だが、その間に雷は鳴らないだろうか。
幽霊はいないに違いないと信じている。
話に聞くだけで、まだ見た事はないし見る気もない。
だが兄と雷は怖い。それらは現実だからだ。
現実的なベアトリスが怖いのは理不尽な現実だけだ。
彼女は歯を食いしばった。
何も考えないようにして吹き抜けのホールの二階部分を走り抜け、反対側の廊下に飛び込んだ。
その間に一度大窓越しに稲光が炸裂し、ベアトリスは小さな悲鳴をあげながら義姉の部屋の取っ手に縋り付いた。
開け放して部屋に走り込んだ。
部屋はほの暗く、誰の気配もなかった。
ベアトリスは息をきらしながら呆然として無人の部屋を見回した。
離宮の女主人の部屋に相応しくさりげなく贅を凝らした部屋である。
だがその趣味のいい装飾を浮かび上がらせているのは部屋の中央に置かれている長い夜用の燭台の数本の蝋燭だけ、義姉も女官たちも誰もいない。
宴から、兄に連行された義姉が下がっていくのは確かに見たのに。
一体どこに行ったのだろう。
「フィリップ、…のところ……?」
ベアトリスは震えながら控えの間を抜け、寝室を覗いて呟いた。
もしやこの雷が心配で、義姉は息子の様子を見に行ったのだろうか…?
思い当たり、へなへなと膝が崩れそうになった。
きっとそうに違いない。
甥の部屋は三階にあるが、階段を上がり、長大な廊下を踏破する気力がもはやベアトリスにはない。
「いや……ど、どうしましょう……!」
またもや稲光が窓越しに立ち尽くすベアトリスを照らし出した。
悲鳴をあげ、ベアトリスは窓に突進するとカーテンの紐を引っ張った。
全部の窓を閉じてまわる勇気はなく、手近な窓だけ手当たり次第に閉じたところで足が浮かび上がるような強烈な轟音が心臓を掴んで揺すぶった。
姫君は悲鳴もあげずに寝台に飛び込んだ。
天蓋の綴り幕を引き落とし、稲光を遮断した。
ガウンを脱ぎ捨て、シーツを引っ張り上げると枕を掴み、耳に押し当てた。
もう何も見ない。聞かない。知らない。
義姉が戻ってくるまでここでなんとかしのぐしかないのだ。
一人きりで!
*
自信はなかったが、その階段を上がってみようと思い立った理由は簡単だった。
……道に迷ったのである。
酔いも廻っていることでもあり、自室に辿り着けない事にいい加減イライラもしながらヴィクトールは疲れた足を階段に載せた。
雷を見物するなどという風流を通したせいで上着もすっかり湿気を吸い込んでいて気持ちが悪い。
しかしこの離宮は、いくら王の後継者の館としても大きすぎないか。
さきほどから彷徨っていると、どうも故国の王宮より規模が大きいようだ。
公子を歓迎する際たしか『こぢんまり』などとイヴァンは言っていたが謙遜というより完全な厭味に思えてくる。
豊かな国と縁組みするのはいいのだが、少々嫉妬を覚えざるを得ない。
雷はますます激しく、廊下は踊り回る影と音響に彩られて奇妙に明るい。
偶然の巡り合わせか、今回ばかりはなんとか自室に辿り着いたようだった。
部屋の外側にいるはずの従者がどこにもいないのを見てとってヴィクトールは一瞬眉をしかめたが、自分自身が自由行動の許可を出した事を思い出して苦笑した。
わざわざ呼びに行くのも面倒だ。
このまま眠るとしよう…。
ヴィクトールは半端に開いたままの扉に首を傾げたが通り抜け、きちんと閉めた。
部屋の中は廊下と同じく寝室からの気まぐれな稲光に照らされてへんな具合に明るかった。
上着を長椅子に放り出し、あくびをしながら寝室に向かう。
控えの間を通り抜けながらふと違和感を覚えた。
この部屋は、昼間に見たのと同じ部屋だろうか?
だがもう遅かった。
奥の部屋から安定した燭台らしき温かな灯りがわずかにともっているのが見えた。
足取りは緩くなったが、控えの間はとうに終わっていて、彼は寝室に踏みこんだ。
正面の寝台の横には燭台が置かれ、カーテンもひいてない窓から床に時折焼き付けられる稲光と共にささやかな明るさを補い合っている。
ヴィクトールの足が止まった。
ごろごろと唸っている雷の音の合間から、誰か啜り泣いている声が聞こえたような気がする。
気のせいかと、それでも原因を求めて見渡した目に、薄い闇の中でもわかる繊細かつ豪奢な壁の装飾が映った。
それに、そこはかとなく漂ってくる濃やかな香り。
ここは女性の部屋である。
しかも身分の高い女性の部屋だ。
この離宮で該当するのはとりあえず王子妃と、見合い相手の王女くらいしか考えられない。
部屋を間違えたのだ。
呼ばれもしないのに女性の部屋に勝手に足を踏み入れるなど、しかもこのような夜更けに、とんでもない非礼である。
ヴィクトールは素早く踵をかえそうとして──また躊躇った。
はっきりと、小さな啜り泣く声が寝台から漏れている。
しかし、それにしても他の人の気配がない。
一人きりで、高貴な女性が泣いているとは一体どういう状況だ。
いけないいけないと思いつつ、ヴィクトールは大きく咳払いをした。
丁度雷が途絶えたところで、その咳払いはくっきりと泣き声の主に届いたらしい。
「……だ、誰?」
か細い声が流れてきた。
そのあまりの不安げな響きに、ヴィクトールは引き寄せられるようにさらに足を進めた。
途端に前触れもなく閃光が走り、室内を染め上げた。
間を置かずに怒号のような音響が降り下り、か細い声は悲鳴になってかき消された。
ヴィクトールは反射的に寝台に駆け寄り、幕を降ろした天蓋を見た。
雷雲はどうやらすぐ近くにいるようだ。鼓膜がびりびりとしている。
「失礼」
天蓋の布をかきわける暇もなく、内部からなにか柔らかいものがヴィクトールの胸にぶつかってきた。
ぶつかると同時に抱きついてくる。
「いや!この世の終わりだわ!……助けて、たすけて!!」
これも反射的に抱きとめて、ヴィクトールは急いで布の中に身を捩った。
「大丈夫、終わりなどでは……」
天蓋の中は空気が遮断されていささか生暖かかった。
暗いのでよく見えないが、雨とは全く異なる甘い匂いが充満していて息苦しいほどだ。
腕の中の柔らかいものがしゃくりあげ、顔を仰向けた気配がした。
「あ、あ……あなた…は──?」
ヴィクトールが答えようとして口を開いた瞬間、またもや雷が盛大に鳴った。
ひくっと震え、『彼女』はヴィクトールにしがみついた。
か弱そうなくせにもの凄い力である。
一瞬息ができなくなるくらいの力で胸郭を締め付けられ、公子の唇から空気の固まりが溢れた。
かるく咳き込みながら急いで引き離そうとするが離れない。
「ま……待……」
辛うじて声をかけたが雷の余韻で掻き消え、彼女の耳には届かなかったようである。
ますますぐいぐい躯を押しつけ、彼女はうわごとのように叫んでいる。
「こわい──いや──!」
不安定な膝立ちのままだったのが間違いだった。
ヴィクトールはあまりの彼女の勢いを受け止めかね、そのままもんどりうって寝台にひっくり返った。
「あの、これは…待っ……」
のしかかるように胸の上にともに倒れた軽い躯に、ヴィクトールはふと状況にそぐわないものを感じて赤面した。
いや、状況には合っているのだが……我ながらちょっと不謹慎ではないか。
長い髪が広がっていやがうえにもよい匂いが彼を包み、触れようと思わずとも指や首筋に触れる。
しなやかで柔らかな手触りのいい髪の毛である。
いや、髪の毛はまだいいのだが、問題は彼女の太腿がヴィクトールの膝を半端に割っていることだ。
その太腿は薄物…おそらく絹の寝間着で覆われているだけの滑らかさでズボン越しにヴィクトールに艶かしい存在を知らしめている。
彼女が怖がって身を擦り付けるたびに柔らかな弾力が彼を刺激している。
あまりにも素直に反応する自分の躯が我ながら不本意でちょっと恥ずかしい。
ヴィクトールはもがき、シーツに掌をあててなんとか起き上がろうとした。
「もしや、あの、あなたは……ベアトリス姫ですか?それともナタリー妃?」
それを聞いた彼女がびくっとして、柔らかな躯をひねった気配がした。
「え。あなたは、誰?お、お義姉様の侍従ではないのですか……?」
慌てふためいてヴィクトールは躯の上の彼女の肩から手を離した。
「私はヴィクトールです」
お義姉様という事は、ではこの人は、王女ベアトリスに違いない。
「あなたの見合い相手ですよ。泣き声がしたから、つい…」
天蓋の布越しに鮮やかな白光が一瞬さしこみ、公子の声は天が割れんばかりの轟音にかき消えた。
ベアトリスが悲鳴をあげてヴィクトールの首に腕を巻き付け、躯をぶつけてくる。
夕刻の落ち着きのある態度の王女と、今胸の中で泣きじゃくっている取り乱した姫君が一致しづらくてヴィクトール
はとまどった。
だがさきほどの稲光ではっきりと彼も見た。
整った造作の顔を覆う、ほとんど黒に近い茶色の髪に杏色の涙に濡れた瞳。
「ヴィ、ヴィクトール様でしたの。良かった」
驚いた事に、ベアトリスは心底ほっとした様子だった。
場所柄も自分の格好もヴィクトールの無作法も念頭からふっとんでいる様子である。
大国の姫君、特にベアトリスのようなお堅げなタイプの姫君には珍しい心境に違いない。
ここまでくるとこの女性がとてつもない雷嫌いである事がわかってきたので、ヴィクトールは拒絶する事を諦めた。
「大丈夫ですよ。近いけど」
宥めるように背を撫でかけ、掌を宙に浮かす。
まさか、いくら緊急時といっても半裸も同然の女性に触れるなどという事は控えるべきだ。
彼女の兄君の足元にも及ばないが、身分に相応しい程度の女性経験はあるヴィクトールにしてももちろんこんな状況は初めてである。
「だ、大丈夫…じゃ、ありません、わ……あ、また……!」
姫君は捏ねるように身を揉み、ヴィクトールにまたもや縋り付いた。
どうでもいいが──いや、どうでもよくもないか──この姫君の胸が意外に大きい事に気付かざるを得なくなった公子は息をちょっと止めた。
躯と躯の間にむにゅむにゅと魅惑的な柔らかさとたっぷりとした弾力で挟み込まれたふたつの乳房に、だが持ち主は一向にこだわっていないようである。
「あ、あの…!」
香しい息が彼の顎にかかった。
不安そうな震え声でベアトリスが囁きかけた。
「ご無礼をお詫びしますわ、でも、あのあの、こ、この雷、もうすぐ、お、おさまる……きゃああああ!」
悲鳴も掻き消えるくらいの轟音が天蓋を揺るがし、王女は瀕死のタコさながらの吸着力で公子に絡み付いた。
「いや、ああ、いや!」
「ひ、姫、少し力を……」
腕に手をかけるとベアトリスは抵抗した。
「だめ…、お見捨てになる気?お願いです、傍にいらして!」
「しかし」
ヴィクトールはほの暗く暖かな寝台を見回した。
「私たちがこんな場所で一緒にいては」
「どう思われても構いませんわっ」
姫君の蒼白の顔を一瞬の稲光がさらに色を奪って浮かび上がらせた。
「あなたがここでお見捨てになったら、私はきっと死んでしまいます。そ、そ、そうなれば、あなたの責任です。自分の離宮でそんな不始末が起これば、あの兄はきっと怒り狂いますことよ」
「…………」
姫君が本当に死ぬかどうかは疑問だが、妹である彼女が告げ口すれば当然イヴァンは怒りそうな気もする。
寝台で付き添うほうにかそれともすがる彼女を放置するほうにかはわからないが、どっちにしろ心証が悪くなるのは避けられない。
またそれとは別に、このような錯乱状態にある女性を置き去るというのは、やはり騎士道にもとる行為といえない事もない。
「わかりました。では、雷が遠のくまでここに居ましょう」
「ああ、公子様、ありがとうございます」
ベアトリスは安堵の吐息をつき、諦めて楽な姿勢で横たわったヴィクトールに寄り添った。
ヴィクトールは首を曲げて警告した。
「あまり触れないでいただけませんか」
「でも」
口を開いたベアトリスは、急いでヴィクトールの腕に腕を絡めた。
大気の小さな轟きが窓の外でしつこく響いている。
「…こ、これくらいはよろしくて?」
「……まあいいでしょう」
いいかけたヴィクトールは呻いた。
轟音が我が物顔に鳴り響くと同時に姫君ががばっと抱きついてきたのだ。
どうやら雷の音とベアトリスの密着度は見事な比例関係にあるらしい。
二の腕の、肘から上のあたりの感覚が非常に悩ましい。
温かく、包み込むようななめらかな弾力と蕩けるような柔らかさ。
ちらりと見ると稲光の中、薄い寝間着の広い襟ぐりから細げな鎖骨の窪み、その下に深く切れ込んだ白い谷間が見えた。
谷間には自分の肘のあたりの線が見事に埋まっている。いや、挟まっているというべきか。
ヴィクトールは慌てて肩に力をいれ、さりげなく引き抜こうと努力した。
だが王女の腕はいわゆる火事場のなんとやらという奴で、有り得ないほどの力で彼の腕をひきとめている。
かえって、動かしたためにむにむにとたまらない感覚がヴィクトールの肘を襲った。
赤面した彼は払いのけるように手首を返した。
それがまずかった。
絶妙の間合いで絹の寝間着の柔らかな襞に指先が埋まった。
「あ」
肩のあたりでベアトリスが小さな声を漏らした。
背筋を一瞬伸ばし、ヴィクトールの肘を埋めた谷間がますます密着する。
は、とベアトリスは不安そうな喘ぎを公子の腕に絡め、囁いた。
「な…なんですの?」
見なくてもわかった。王女の太腿の間に指先を埋めたままでヴィクトールは軽く逆上した。
「し、し、失礼!」
動かしてはならないと意識するあまり、ぎこちなく指を硬直させたまま深みを抉る結果になった。
「あっ…ん…」
ベアトリスの躯が軽くのけぞり、彼女は喘いだ。
「そ、そこ、あの、触らないで…いただけません、公子様…っ?」
「わかりまし」
言い終える前に雷が鳴り響き、「きゃあっ」とかなんとか叫びながらこの姫君は迷う仕草もなく抱きついてくる。
豊かな胸がふんわりむちむちと腕を締め上げ、太腿が膝に絡み、また触れた指に彼女は喘いだ。
「っ…?……はァ…ン……」
ヴィクトールのこめかみに汗が伝った。
由々しき事態だ。
この姫君は見た目の折り目正しさとは逆に、そちら方面の反応が蠱惑的極まりない。
しかも胸が大きい。
正直に言って彼の好みだ。
こうして甘い声をあげるのを聞いていると理性の箍が容易くどこかにとんでいきそうだ。
だが……。
この女性はそのへんの女ではなく、王女なのである。
おそらくこのまま結婚するだろう相手ではあるが、生憎まだ正式な婚約をしたわけでもなければ式の日取りが決まったわけでもない。
第一、昨日会ったばかりでまだろくに話もしていない。
そんな相手とここまで触れ合う事などあっていいのか。
嬉しいような気もするが、いや、そうではなくて、やはり困惑すべき事態である。
ベアトリスは背中を丸めるようにしてまたヴィクトールにしがみついた。
稲光がさしこみ、華奢なうなじが彼の目の下にくる。
「あ…きゃあっ」
しつこく鳴り響く雷の音にびくびくしながら姫君は初対面同然の見合い相手にしがみついた。
なにせこの公子が命綱なのである。
彼は親切な人のようだ。
なんとか恐怖をしのげているのは彼の存在と、魂の底からの『助かった』という想いである。
この場に一人でいなくていいという事もあるが、同時に見合い相手の人間性にはからずも触れる事ができたというかすかな喜びがそこにはある。
落ち着けばきっとどうしようもなく恥ずかしい状態ではあるが、この場合そんな事は言っていられない。
ヴィクトールが通りかかってくれて本当に良かった。
しかし義姉達は一体どうしているのだろうか。早く戻ってきてくれればいいのに。
恐怖の合間に切れ切れに考えているところ、心臓のあたりを肘で突かれてベアトリスは眉を寄せた。
ヴィクトールがもがいている。
「痛いですわ」
「失礼」
公子はうわずった声で呟き、向こうをむこうとしている。
そうはさせじとベアトリスは急いで腕を伸ばした。
背を向けられてしまっては、守られているという安堵感に欠けるではないか。
上着を着ていない公子のシャツは身分に似合った上等の品で、姫君が抱きしめるとその下の温もりをすぐに伝えてきた。
その感触に、この見合い相手が見た目より逞しいことに気付いてベアトリスは意外の念を持った。
スマートな上着を着ていると男という生き物は優しげに見えるのだが、自分とはかなり躯つきも肉のつきかたも違うようだ。
思わず短く、指を滑らせた。
脇腹から背筋のひきしまった筋肉のうねりにやはりずっと頑丈そうだと納得する。
ヴィクトールが立て続けに咳払いをしたので自分がはしたない事をしている事に気付き、彼女はますます赤くなった。
「ごめんなさい」
「いえ。…雷が怖いのはわかりますが、少々くすぐったいので、そのあたりはやめてもらえませんか」
「……はい」
ヴィクトールの声は怒りを伝えてはこなかったので彼女は少し安心した。
やはり優しい人のようだ。
公子はもう片方の腕をなんとか二人の間からひきあげようとしたが無駄だった。
王女がきつく抱きついているのでかえって怪しい動きになると見極めた。
彼はあきらめ、のろのろと王女のほうを向いた。
労わるように肩にもう一方の手のひらをそっと置かれて彼女は一層安堵し、天蓋の隙間をちらっと見た。
いらだたしげな雷光のせいで窓枠の影が奇妙な動きで室内をのたうちまわっている。
ひどい雷はまだ続きそうだが、この方のお陰で少しは安心…。
*
ヴィクトールの災難はやみそうになかった。
ベアトリスの考えているような雷の今後の展開推移の予測など彼の頭にはかけらもなかった。
王女の鼓動までつぶさに感じ取ることができる。
速めのそれは臆病な小鳥のようで可愛いが、やはりその伝わり方が問題だ。
ふにふにでむにむにでしっとりすべすべのふっくら柔らかな乳房がふたつとも、ぴったりとくっついている。
一応絹の薄地と彼のシャツで隔てられてはいるものの、かえって肌の質感が、直に触れている以上に生々しい。
彼女の呼吸は鼓動と同じく速めであり、下手をすると喘ぎにも聞こえる。
しかも否応なしにいい匂いがする。
部屋だけの匂いではなく、くっついている王女の髪や肌や吐息の芳しさだ。
王女の胸の谷間に肘を挟まれ、手首を太腿の間に拘束された左腕から伝わる暖かな触感だけでも悩ましいのに、聴覚と嗅覚からも刺激を受けているわけであり、ヴィクトールは天を恨めばいいのか感謝すればいいのかわからない。
大丈夫なのは視覚だけか。
そう思った矢先稲光が朧にさしこみ、ベアトリスの、彼も初対面時に認めた『かなり整った』顔が目を潤ませて浮かび上がった。
彼は目を閉じ、胸の中で祈りを唱えようとしてためらった。
こんな場合にすがるべき聖人などどこにも存在しないのは明らかだ。
どうやら悪魔はベアトリスではなく誘惑されつつある自分のほうに取り付き始めたようである。
目を開けるといつの間にやら己の右手が、いかにも安心させるような柔らかさで、王女の細い肩に触れていることに気がついた。
わが手ながらなんと巧妙な。
ヴィクトールは冷静になろうと深呼吸をした。
いくらなんでもこのまま見合い相手を襲ってしまってはまずい。
相手は王女である。正式な婚儀を経た後に初床で礼儀正しく抱くべき女である。
しかも自分は公子である。後継者を得るための妻との結びつきは誰にも後ろ指をさされないようあるべきではないか。
そうだ、でなければならない。
わざわざ見合いのためにこの離宮を訪れたのは両国の結びつきを強めるためで、決して婚約前に相手を我が物にするためでは……。
そこに雷が落ちた。
これまでで最大級の雷だった。
ばりばりという大音響が続いたから、もしかしたら森の近場の大木のどれかが倒れたかもしれない。
ベアトリスはものも言わず、当然のようにヴィクトールの体にしがみついた。
いかにも深窓の姫君である、抱きつかれる側の苦労などこれっぽっちも考えてはいない。
ただ、いかに深窓の姫君とはいえど感覚は一般人と変わらない。
股間の辺りでこわばったままの彼の指から伝わった微妙な刺激に彼女は思わず艶の滲んだ声をあげた。
身悶えた彼女をヴィクトールがひき寄せた。
「大丈夫」
耳元に落ちた言葉に、ベアトリスは涙でいっぱいになった目をあげて頼もしい公子を見つめようとした。
唇が震えているが暗くてヴィクトールには見えない。
だが大体の位置はわかる。
ヴィクトールは顔を伏せ、腕の中の王女の体を揺さぶりあげて唇を重ねた。
「……………」
しばらくして唇が、そして顔がゆっくり離れた。
ベアトリスは何も言うべき言葉を思いつかなかった。
今、この男性は彼女にキスをしたのだが、それが何故かがわからない。
たしか「大丈夫」とか言ったような気がするが、安全とキスの間に何のかかわりがあるのだろう。
流れが読めない。
それに……ベアトリスは天蓋とヴィクトールの腕の闇の中、かすかに頬を赤らめた。
今のは彼女が初めて父や兄以外とした、それも唇と唇の、ちゃんとしたキスだ。
いや、それはもちろんヴィクトールが相手でもおかしくはないが、まだそんなによく知らない相手でもあり……
そこまで混乱しながら曲がりなりにも考えを紡いでいると、彼がなにか囁いた。
よく聞こえなかったので顔をあお向けるとまた唇が触れてきた。
もう一度?
ベアトリスは思わず息を止めたが、さらに引き寄せられたうえに彼が覆いかぶさってきたので動転した。
動転しているうちに今回のキスはさっきのとは様子が違うことがわかった。
しっとり密着せず、いらだたしげに二枚の唇を銜えたり吸い込もうとしたりする。
その動きについていけずに開いた隙間から舌が入りこんできた。
防衛できず固まっているベアトリスの舌を軽くやわらかくなぶり、刺激を加えている。
ぎこちなくそれに応えようとして、急に息苦しさを感じた。
鎖骨のあたりに圧迫感。
背に回されたヴィクトールの両手が寝間着の襟ぐりをひろげようと引っ張っているらしい。
喉でないだけましだが、力が強いので苦しいには変わりない。
ベアトリスは急いで肩をできるだけ後ろに引いた。
引くだけではだめだと悟って逆に竦めたり背をくねらせたりしていると、やがてその奮闘は報われて彼女の体は寝間着から抜け出始めた。
つかえていた乳房がふるりと飛び出すとあとは一気に楽になった。
彼女は開放された自身の肌の濃厚な甘い匂いを嗅ぎ取った。
するりと大きな手のひらが胸に触れ、ベアトリスは呻きそうになった。
「公子様」
「ヴィクトール、でかまいません」
ベアトリスはますます混乱しながら彼を見た。闇の中なので表情はわからない。
今進行中の事態に関してヴィクトールは全く説明も謝罪もしていない。
ということは、これは特別なことではなく、至極当然のことなのだろうか。
いや。そうではないに決まっている。
寝台で男女が裸で抱き合うのは確か結婚してからという順番のはずだ。
公子とはおそらく結婚するに決まってはいるが、一応、正式な婚約はまだの相手である。
「あの……どうして……?」
それでもベアトリスはためらいながらようやく言った。
その間に寝間着の裾は彼の手で腹までめくりあげられてしまっている。
どうすればいいのかわからなく、恥ずかしくもあり、彼女は脚をもじもじさせた。
公子が顔をあげた気配がした。
「は、……む…」
そのまま唇を塞がれた。
くびれた胴に重なりあった絹地が二人の重みでぐしゃぐしゃになっているのを感じたが、それより大胆さを増した舌に応じるほうで忙しくなり、ベアトリスは雷すら忘れた。
口腔だけではなくヴィクトールの掌が剥き出しの腿を上下に滑らかに這っている。
強く片方の膝を引かれて思わず緩めると、彼は躯をわりこませてきた。
ベアトリスは赤面した。
ヴィクトールの躯の幅なりに膝が押しわけられ、腿がひらいた。
今までこんな格好をした事はない。
乗馬も貴婦人は横乗りで、ここまであられもない姿態をとる必要はないのだ。
腿から彼の手が離れた。衣擦れの音と、寝台の軋みが、聞こえにくくなった耳に届いた。
内股に、男の熱い肌と滑らかな腿の筋肉を感じた。
「公子様」
「ヴィクトール」
「ヴィクトール……あのっ…」
ベアトリスは男の腕を抑えるように手を置いた。
絶対に足でも指でもない温かいものが茂みをかきわけて脚のつけ根の奥に触れ、彼女は喘いだ。
侍女たちの噂話を漏れ聞いた事があるし、ばあやにそれとなく教えてもらったこともあるので一応知っている。
殿方の腰には女にはない道具があるのだ。
それを女の腰の奥にいれると最初はたしか痛く、でも何度もしているとだんだん……。
ベアトリスは公子の腕に置いていた掌を落とした。
彼が躯を押し付けるたびに躯がかるく上にあがる。不安定でこわい。
両腕を広げて肘を曲げ、シーツを握りしめた。
押し上げられるたびに唇を吐息が割った。
自分の躯が裂け目のように綻び始めていくのがわかった。
彼の道具の先端が肉の内側に潜りはじめ、そのつるりとした感覚が背筋に戦慄を伝えてくる。
怖い、けど続けてほしい。
彼の動きには躊躇はなく、滑らかだった。これからどうするかを、彼はよく知っているに違いない。
いつのまにか彼にささやかに絡まりはじめた、ぬるぬるとした感触が恥ずかしかった。
ヴィクトールにおもらしをしたと思われたらどうしよう。
優しく頬を撫でられた。
ベアトリスは思わず、去ろうとするその指に口づけた。
彼が囁いた。
「私の姫」
指は喉を通り、鎖骨から乳房におりて曲線を辿り、脇腹から腰に至ると離れた。
不安に身をよじらせた瞬間、掌の熱が腰の両側を掴んだ。
その指に力が入ったのを感じ、固定された腰に彼が割り込んで来た。
身動きできない。
圧迫感が強くなり、耐えきれずに腰を波打たせようとしてそれも果たせず、ベアトリスは目を閉じた。
「…っ」
喉から喘ぎとも声ともつかないものが溢れた。
溢れた事に本人は気付かなかった。
髪を波打たせ、ベアトリスは次にくっきりとした小さな声をあげた。
「あっ…!」
躯の奥まで一気に彼が入り込んで来た。
ヴィクトールは満足の吐息を漏らし、ベアトリスののけぞった背に腕をずらせた。
「…辛いですか?」
「……よ、よく…くぅ……わかり、ません…」
ベアトリスは呻いた。
凄まじい違和感だったが、どうしても我慢できないというほどではない。
話に聞いたところでは躯が裂けるかと思うほどの激痛のようだったが、そして確かにかなり痛いが…大丈夫。
今すぐ死ぬのなんのという感じではない。
現実的な彼女はそう判断し、おずおずと公子の耳に囁いた。
「だ…大丈夫、みたいですわ。あ…んん…ご心配、なさらないで」
「ベアトリス…」
微笑を感じさせる声だったので彼女はほっとした。
やはり、いい人だ。
ヴィクトールの躯の温もりも、背の抱きかたも優しい。
嫌ではない。
この人がお見合いの相手で、良かった。
その思いは、やがて彼が躯を揺らし始めるとますます高まった。
「んっ…ん……あ…」
少しぎこちなくベアトリスの躯をひっかけて持ち上げるような遠慮勝ちな動き。
なぜ動くのかはこれまたよくわからなかったが、彼がそうしたいなら受け入れてもいいと姫君は思った。
シーツの海の中で一緒に揺れていると時々白光が閃いて彼女の上の公子を浮かび上がらせる。
その顔は少し苦し気だったが、真面目な表情はひどく集中しているようだ。
ベアトリスはうっとりとその顔を視線で愛撫した。
何度目かの稲光でヴィクトールも気付いたようで、視線があった。
彼が微笑したのがかすかな光の残像になった。
「怖いですか?」
ベアトリスは赤くなった。
まだなにかあるのかしら?
「雷」
すっかり忘れていた事に気付いて、姫君はもっと赤くなった。
ヴィクトールが彼女の胸に顔をつけ、揺れている乳房を銜えた。
「ん、やぅっ…?」
肩を竦めたベアトリスの唇が艶かしく開き、彼女は背中を彼の腕にこすりつけた。
舌が滑り、ヴィクトールは豊かな乳房のわりには可憐な先端を吸い込み、しゃぶった。
びくん、びくんとベアトリスの躯が勝手にうねる。
「あ…はぁ、んんっ…んっ…」
片手が背から引き抜かれた。
反対側のふくらみを揉みしだかれ、乱暴な感触に興奮したベアトリスは我慢できずに大きく喘いだ。
「あはぁん!……あっ、やだ…」
自分がはしたない反応をした事に気付いて萎縮しかけた彼女を見合い相手の男はさらに抱きすくめた。
「大丈夫、恥ずかしがる必要などない!…あなたの反応はとても可愛いから、姫」
励ますようなその声にベアトリスはとまどったが、とりあえず嫌われてはいない事がわかっておずおずと彼の手に手を絡めた。
「声をもっとあげて」
「そ、そうですか?……ひ、あっ…んっ、でも…」
「大丈夫」
遠慮勝ちだった動きがこれまたいつの間にやら大胆になっていた。
ベアトリスが大げさに破瓜の苦痛を訴えないので彼なりに遠慮するのはやめたらしい。
彼女の躯の抵抗を力づくで排除しながら、彼は滑らかに動き始めた。
もう我慢するの恥ずかしいのと言っていられなくなった事を彼女は悟った。
痛い。痛くて苦しい。
でもその乱暴な温もりが奇妙に彼女の躯にしっくりと馴染む。
胸を愛撫されながら大股を広げて昨日会ったばかりの殿方に身を任せている。
が、なぜかたまらなく興奮している。
結婚すればこれが当たり前の事になるのだろうか。
こんな淫らな、いや、恥ずかしい、いや…たまらなく刺激的で『楽しい』事が、夫婦の義務とやらいう恐ろし気な響きの言葉でほのめかされていた行為なのだろうか?
世間の人は一体これをどういうものだと認識しているのだろう。
自分はもしや、身分に相応しからぬ躯を持ったとんでもなく淫蕩な女なのではないか。
ヴィクトールが往復する動きが、奥を突く激しさが、ベアトリスをどこか知らない場所に連れ去ろうとする。
「……あっ、ゃん、ん、ああっ、ぅんっ!」
痛いだけではなかった。
それよりも彼の迷いのない動きが少しずつこじあけていく感覚のほうに彼女は夢中になっていた。
腰が動いているのは、耐えているからでも彼に突かれているからでもなく、それがもっと欲しいからだ。
恥ずかしさと嬉しさに啜り泣いた。
「たすけて、ヴィクトールさま、助けて、あふ、あ…っ」
苦痛と快楽の混ざった状態がこれ以上続けば、もう『どうにか』なってしまう。
耳元で何度も名を呼ばれた。
応えようとしたがもうまともな言葉は無理だった。
ベアトリスは喘ぎ抜き、唐突に、稲光よりも激しい光が躯の中に炸裂したのを感じ取った。
壊れた。
恐怖のあまりベアトリスは叫びをあげたが、それは誰がどう聞いても甘くて淫らな絶頂のよがり声だった。
ヴィクトールももちろんそう思い、あまりの喜びと愛しさに腕の中の王女を抱きしめた。
彼女の腕がふらふらと彼の首を抱き返した。
途切れ途切れに、まだなんともたまらぬ甘い声をあげ続けている。
蕩けた彼女の不慣れな躯が何度もけなげに彼をしめつけ、本能に逆らえず、逆らう気などかけらもなく、公子はそのまま見合い相手の躯深くに腰を叩き付け、存分にぶちまけた。
*
雷はどこか遠くに移っていたが、ベアトリスはもうその低い轟きを怖いとは思わなかった。
現実に躯をまだ支配している熱さと激しさに比べればあんなもの、部屋にいる限りなんともない。
ヴィクトールが彼女の躯の線に沿って掌を滑らせている。
ベアトリスは小さく囁いた。
「…くすぐったい…ですわ……」
ひょい、と腿を持ち上げられて彼女はヴィクトールの胸に顔を伏せた。
「かわいそうに。本当に初めてだったんですね」
ひらめいている雷光に浮かび上がったシーツに何を見たのか、公子が呟いた。ベアトリスは真っ赤になった。
「み、淫らだってお思いになったのでしょう……」
「いや」
ヴィクトールは腕を戻し、彼女の脚に膝を割り込ませてきた。
抱き寄せられてベアトリスは潤んだ杏色の瞳で彼を見た。
「何度も言ったと思うが、大丈夫。あなたの胸が大きくて魅力的なのがとてつもなく嬉しいから、私もきっと淫らなんだ」
髪を撫でられて、王女の瞳がますます潤んだ。稲光の中でも綺麗な色だった。
「こっちの相性もいい事がわかったし」
ヴィクトールは続けた。王女は恥ずかしそうに横を向いた。
「ね?」
「は、はい…」
彼女は囁き、それだけではいけないと思ったのか慎ましく言い添えた。
「き、気持ち……よかったですわ」
ヴィクトールは笑った。
「婚儀の話をどんどん進めても構わないだろうか?もちろんあなたの兄上に断られなければ、だが」
ベアトリスは微笑した。それはないだろう。
しばらく柔らかい髪を撫でていたヴィクトールが、ややあって恥ずかし気に咳払いした。
「…気持ちよかったのなら……その、ベアトリス……もちろん、結婚前からこんな有様ではいけないと言うならやめるが…」
ベアトリスの微笑は消えなかった。背に廻された公子の腕に指を絡めた。
「構いません…ことよ」
「ベアトリス…」
ヴィクトールは囁いた。
「……あなたの事が、とても好きになれそうだよ」
姫君も囁き返した。
「私も。あなたをとても好きになれそうですわ……ヴィクトール」
二人はすっかり忘れていたが、いつまでたっても部屋の主である王子妃が自室に戻ってくる気配はなかった。
侍女のロジーヌが夢の国から戻ってくる奇跡も金輪際起こらなかった。
だから、その後どんなに結婚前に相応しくない時間が流れたにしても二人意外の何者もそれと気付く事はなかった。
*
翌朝、王子と王子妃、公子と王女の四人は再び広間で顔を会わせた。
パンをとりながらイヴァンが言った。
「昨夜は雷がひどかったようだが、よく眠れたかな?公子殿」
返事を待たず、傍らの妃に蜂蜜を押し付けた。
「ほら、公子殿にこれを。うむ、いつまでも健やかでいてもらわねばな、ベアトリスの夫になる人だから」
昨夜とはうってかわってとってつけたような愛想の良さである。
ひどく疲れているように凄艶な風情の王子妃が手渡してくれた蜂蜜を、公子はパンに塗った。
それからベアトリスに微笑みかけた。
「姫、あなたも召し上がりますか?」
欠伸をかみ殺していたベアトリスは慎ましやかに受け取った。
「ありがとうございます、公子様」
めざとく見とがめたイヴァンが指を振った。
「どうした、ベアトリス、まぶたがむくんでいるぞ。また雷で泣いていて寝不足か?意気地のない奴だ」
「………」
「………」
一瞬赤くなって黙った二人に流れた微妙な空気に、こちらも欠伸をかみ殺して睫に滲んだ涙を払っていた王子妃は気付かなかった。
「…イヴァン様、そうやってベアトリス様に意地悪を言うのはおよしになって」
「そうかな。この程度でも意地悪か?」
「意地悪ですわ」
「意地悪というのは」
イヴァンがにやにやした。
「昨夜のおまえのような」
「イヴァン様」
ぴしりと氷のような声でナタリーが応え、イヴァンは一人で受けて大笑いを始めた。
彼の妃は赤く染まった顔を背けて眉をしかめたが、まだ固まっている義妹とその見合い相手には優しい声を出した。
「どうなさったの、お二人とも。さあ、どんどん召し上がってくださいな」
「はい、お義姉様」
「ありがとうございます、王子妃様」
イヴァンはまだ笑っている。
朝食の給仕をしている離宮の召使い達は高貴な主人の怪しい行動には慣れっこなので平然としていた。
後ろで立ち並んでいる女官達のうち、ごく一部の者だけが密かに頭を悩ませていた。
イヴァンの部屋はいつものことだが王子妃様の寝台のシーツの今朝の有様は一体どういう事なのだろうかと。
その謎が解ける事は、たぶん当分の間はない。
おわり
王国シリーズktkr!!
相変わらずのGJです。このシリーズは読んでて微笑ましくなれるw
マチルドの方も問題なく進展してるのなw
いやはや、今回も楽しいお話でありがとうございます
『ドランク・プリンセス 〜御屠蘇・・・・参ります・・・・〜』
ここは、桃山王国の中のあるお城。
その居城には、御屠蘇(おとそ)姫と言う
礼儀正しく、物静か且つ、おしとやかで、近隣諸国でも
全国のお姫様の手本と見習われるほどの、それはそれはとても可愛らしく
大変綺麗なお姫様がいました。年はまだ16歳でした。
そして毎年、この桃山王国で全国のお姫様が一斉に集い、
その、気品や礼儀作法など、どのお姫様が一番優秀かを競い合う
コンテストが開かれており、今年もまたその年がやってきました。
「姫様ぁ〜!!あ・・・あと、一週間でいよいよコンテストでございますね・・・」
「ええ・・・まぁまぁ・・・おりん・・・あなたが緊張してるのですか?クスクス・・・」
侍女のおりんがあまりにも緊張していたので、御屠蘇姫は可笑しくて
手で口を隠して小さく笑いました。
その笑う仕草もまた可愛らしかったのです。
「しかし・・・何分私は初めてでして・・・全国の姫様方達が一斉にお集まり
なさって・・・考えただけでも緊張してしまって・・・」
「うふふ・・・わたくしも初めてですよ、おりん?
確かに緊張してしまいますね?」
「あっ、間違いなく御屠蘇姫様の優勝でございますよね!!」
「それは分かりませんよ・・・おりん」
「しかし、姫様の評判は全国でも素晴らしい評価しか聞こえて来ませんよ!!」
「まぁまぁ、噂など丸々信じてはいけませんよ、おりん?」
「はぁ・・・分かりました。」
「それに、あまり褒められる様な噂が流れると、わたくしも他の姫君と
接しにくいのです・・・・嫉妬などの原因になりますから・・・・」
「あっ、確かに・・・・姫様のお美しさは・・・・女の私も惚れ惚れするぐらいですから・・エヘヘ・・」
「もう、おりんったら・・・クスクス・・・」
そんなこんなで、一週間後に迫った
コンテストに向けて、御屠蘇姫と侍女のおりんは様々な
打ち合わせを夜までしたのだった。
その夜、おりんとコンテストの打ち合わせで疲れた
御屠蘇姫は寝所でぐっすりと深い眠りについていた。
その寝顔はまるで南蛮渡来の人形のような、とても可愛い寝顔だった。
しかし、御屠蘇姫が眠る寝所に繋がる、渡り廊下を怪しい複数の影が
忍び寄っていた。
「クククク・・・・ここが御屠蘇姫の寝所か・・・?」
「へい・・・そのようです、お頭。」
どうやら、どこかの城から放たれた忍びらしい。
一人を除いて、全員黒装束を着ており、棟梁と思われる
くの一は真紅の忍者装束を着ていた。
そして、そのくの一はそぉっと姫が眠る寝所部屋の障子を開けた。
「フフフ・・・・何も知らずによく眠っておるわ・・・何と言う可愛い寝顔か・・・」
そして、その忍びの一行はささっと姫の寝所に次々と入り込んで行った。
しかし、そんな事とはつゆ知らず、姫は静かに寝息を吐きながら
眠り続けていた。
そして、忍びの一行は御屠蘇姫の眠る布団の周囲に立ちすくんだ。
七人の忍びは、しゃがみ込むと御屠蘇姫が熟睡しているのを確かめた。
「フフフ・・・・われ等がこんな近くまで迫ってると言うのに
まだ、目を覚まさぬわ・・・」
棟梁がほくそえみながら言った。
「では、そろそろ手はずどおりに・・・・」
「うむ・・・とても気持ちよさそうに寝ているところ悪いが・・・フフフ・・・
姫には起きていただこうか・・・・」
そう言うと、一人の忍びは御屠蘇姫の頬を軽く叩いた。
「う・・・うぅぅん・・・・」
姫は頬を叩かれたため、眠りが浅くなってきた。
それを確かめた忍びはもう一度頬を軽く叩いた。
「うぅぅん・・・一体・・・どうしたのですか・・・おりん・・・・?」
「ふふふふ・・・・・おりんじゃなくて残念でしたねぇ、御屠蘇姫様ぁ・・・ククク・・・」
「はっ!!だっ誰ですか?あなた方は!!!だれかぁ!!おりん!おりんはいませんか!!
うっ・・!!うぐぅぅぅっ!!!」
しかし、大声で助けを呼ぼうとした姫であったが、後ろから忍びに
手で口を塞がれてしまった。
「ふぐぅぅぅっ!!!」
「ふふふふ・・・・姫さまぁ・・・大声を出されては困りますねぇ・・・
その美しいお顔に傷がつくことになりますよぉ・・・ククク・・・」
くの一は、いやらしい笑みを浮かべながら、短刀を姫の頬に突きつけた。
「うぐぅぅ・・・・」
姫は恐怖で、目から涙を流していた。
「姫様ぁぁぁ!!!」
しかし、その時、何やら寝所の方から一瞬姫の悲鳴を
聞いた、おりんは慌てて姫の寝所へ向かって走って来た。
「ハァハァ!!!姫一体どうなさいましたかぁ!!??
はっ!!その方たちは何奴!!」
おりんは、布団の周囲に立ち塞がり、また姫の両手を畳に押さえつけ
口を手で塞いでいる忍び達を見て、大声で怒鳴った。
「ククク・・・われ等は主人である姫から命令を受けて来た・・・・。」
「命令・・・?」
「そうだ・・・フフフ・・・悪いが・・・御屠蘇姫には今度のコンテストは辞退していただく・・。」
「なっ・・何をたわけた事を!! 姫様が今度のコンテストの為に、どれほどの
ご苦労をなさったことか・・・!!!」
「ふんっ!!そんな事は知らん!!兎に角だ!!御屠蘇姫様をコンテストに
出られない様にしろとの、我が主である姫様からの命令なんでな・・・ククク・・・・」
「そのような事!!させてたまるかぁぁ!!!えいやぁぁ!!!」
「ふふ!!愚か者めが!!!」
ドス!!!
「うぐっ!!」
勢いよく、くの一に襲い掛かったおりんは、逆に
くの一にお腹を拳で殴られ、膝を崩して倒れこんでしまった。
「ゲホゲホ!!も・・・申し訳・・・ございません・・・・姫様ぁ・・・・」
おりんは、そのまま気を失ってしまった。
「ふんっ!!たわいも無い・・・たかが侍女の癖にわれ等忍びに楯突くから
こういう目に会うのだ!!」
「ふぐぅぅぅ!!!」
勝ち誇ったように言うくの一を他所に、自分を守ろうとして気絶した
おりんを見て、御屠蘇姫は泣き喚きたかったが、口を抑えられてた為
もがく事しか出来なかった。
「さぁてと・・・・うふふふ・・・・邪魔者が居なくなった事ですし・・・
あとはいよいよ、御屠蘇姫様だけですなぁ・・・ククク」
くの一は不気味な笑みを浮かべると、ゆっくりと姫の元へ歩み寄った。
「んぐぅぅぅ・・・!!」
「フフフ・・・起こせ・・・」
「へい・・!!」
くの一は、忍び達に姫の上半身を起こさせるように命じた。
しかし、やはり口は手で塞がれており、左右の手はそれぞれ
二人の忍びが掴んで動けないようにしていた。
「フフフ・・・おい、例のものを・・・・」
「へい・・・」
くの一がそう言うと、部下の忍びは何やら、風呂敷の中から
取り出した。
そこには、お酒らしきものが入った一升瓶が3本あった。
「んぐぅぅ!!??」
姫はその一升瓶を見ると、妙な胸騒ぎと不安で一杯になった。
「ククク・・・姫様ぁ・・・・コレは最近、南蛮より渡来してきた
お酒にございます・・・しかし、ただの酒とはちょっと違って・・・・フフフ
飲んだものを、何処までも淫らで破廉恥な性格に変えてしまうと言う・・・
それはそれは珍しい珍品なのです・・・・」
「んむぅぅぅ!!ふぐぅぅぅ!!!」
姫はようやく、この忍びたちが、自分に何をしようとしてるのか
徐々に分かってきたのか、首を縦に横に振り、手で抑えられた口を
外そうと必死に暴れたが、無駄なあがきであった。
「さぁ・・・・姫様には・・・コレをお飲みになって頂きます・・・
なぁに・・・大丈夫ですよ・・・フフフ、すぐに頭がぶっ飛んで、とぉっても
いい気持ちになられますから・・・クククク・・・・」
「うぐぅぅぅぅぅぅ!!!・・・・いやぁぁぁぁぁ!!!」
姫の口を抑えていた忍びはすばやく手を放した。
姫もすぐに喚いたが、しかし、くの一は一升瓶を
すばやく姫の口に無理やり差し込んだ。
「さぁ!!!御屠蘇姫様ぁ!!た〜っぷりとお召し上がりくださいませ!!!」
ぐぼぉぉ!!!
「んぐぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
姫の口から喉の奥の方まで勢いよく、くの一は一升瓶の口を
差し込んだ。
「ふぐぅぅ・・・!!!んぐ・・・んぐ・・・んぐ・・・んぐ・・・んぐ!!!」
ゴキュ!ゴキュ!ゴキュ!ゴキュ・・・・!!!
くの一は御屠蘇姫の口に一升瓶を差込みお酒を姫の胃に
流し込んで行った。
「フフフ・・・・嫌がっていたわりには、中々いい飲みっぷりでは
ございませんかぁ?御屠蘇姫さまぁ・・・ククク・・・」
くの一は不敵な笑みを浮かべながら、一升瓶の角度をどんどん高くしていき
遂には、姫に顔を真上を向かせて一升瓶を逆さまにした状態で
勢いよく注ぎ込んで行った。
「うぐぅぅぅぅぅっ!!!!」
ゴクン ゴクン ゴクン ゴクン ゴクン ゴクン ゴクン ゴクン ゴクン ゴクン・・・・
ただただ、姫が流し込まれてくるお酒を、仕方なく喉を大きく動かせながら
飲み干して行く音が、静かに響き渡っていた。
「おおぉぉ・・・・すげえ飲みっぷりだぁ・・・!!!」
「ホントだなぁ・・・・あんなに嫌がってたのに・・・ホントは相当な酒好きなんじゃ
ねえのかぁ、ヘヘヘ・・・」
姫の周りでその他の忍びたちが姫を軽蔑するような言葉を浴びせ始めた。
姫は恥ずかしさと、屈辱の中、息をするために必死でお酒を飲み干していた。
「おお、おお、姫様ぁ・・・?もうすぐ一本丸々平らげてしまわれますよぉ?
フフフ・・・・ホント、厭らしい飲みっぷりだこと・・・・」
流石に、姫は先ほどから長い間お酒を飲みながらも、体に
お酒が回ってきたのか、頬がほんのりと赤くなってきていた。
ジュポンッ!!!
くの一はとうとう一升瓶全ての酒を飲み干した御屠蘇姫の口から
一升瓶を勢いよく抜き去った。
「かはああぁぁぁぁぁ!!!!ゲホゲホゲホゲホッ!!!!!!」
姫は、ようやく普通に呼吸が出来るために勢いよく空気を吸い込んだため
咳き込んでしまった。
「うふふ・・・・どうでございましたかぁ?南蛮酒のお味は?」
「ケホ!ケホ!どうして・・・このような事を・・・!!ゲホ!ゲホ!」
「おやぁ・・・まぁだそんな事を言う元気がおありにございましたかぁ?
では仕方ありませんねぇ・・・おい!二本目を開けろ!!」
「へい!!」
くの一はまだ、あれだけの酒を飲んでいながら素面(しらふ)を
保っていた御屠蘇姫を睨みつけて部下に命令した。
「い・・・いやです・・・もう・・・これ以上飲んだら・・・わたくしは・・・・
わたくしは・・・・本当にこわれてしまいますぅ・・・・!!!」
「ふふふ・・・・何を今更・・・・姫様にはある意味壊れてもらうのが今回の
目的・・・さぁ・・・二本目と行きましょうか・・・!!!」
「い・・・いやあああぁぁぁぁ!!!!」
しかし、姫の口に再び二本目のお酒が注ぎ込まれてしまったのであった。
それから、数分後・・・・二本目のお酒も平らげさせられ、姫の体の
側には二本の一升瓶が転がっていた。
「ヒック・・・!!!もう・・・もうこれ以上は・・・らめれすぅ・・・・ヒック!!」
「フフフ・・・・流石にようやくお酒が回ってきたようですなぁ・・・清楚で
清らかな御屠蘇姫様ぁ?ククク・・・・さぁ姫様は酔われると、どんな
淫らで破廉恥な行動をおとりになるのやら・・・・・フフフ・・・・」
「い・・いやですぅぅぅ・・・・わらくしはぁ・・・わらくしはぁ、そんな
人間じゃ ヒック!!ありませんのぉぉ・・・・ヒック・・・・」
御屠蘇姫は完全に舌の呂律が回っておらず、辛うじて意識を保っている
状態に近かった。既に顔面はお酒で紅潮し、目はトロ〜ンとしてして
体全体がポワ〜ンとした心地よい感覚が襲い始めていた。
くの一はその姫の様子を見て、ニヤリとしながら周囲の忍び達に
目配せした。忍び達もニヤリとしながら、頷いた。
「フフフ・・・・二本目でやっとか・・・もう目はこんなにとろ〜んとして
本当はさぞかし気持ちいいのでしょうなぁ?御屠蘇姫様ぁ?んん?」
くの一はとろ〜ん、ぽわわ〜んとした表情の姫の顎を指でクィっと
持ち上げると、顔を覗き込んだ。
「ヒック・・・、そんら事はありませんのぉ・・・・わらくしはぁ・・・ヒック!
酔ってなんか・・・・酔ってなんか・・・ヒック!!!いませんのぉぉ・・・・ヒック!!!」
しかし、喋れば喋るほど、酔った症状特有のしゃっくりが出てしまう事に
姫は益々羞恥心をくすぐられる思いだった。
「フフフ・・・そうですか・・・・では仕方ありませんねぇ・・・・そろそろ留めと
参りましょうか・・・クククク・・・・おい!三本目だ!!!」
くの一はとうとう三本目の最後のお酒を
開けるよう、命令したのだった。
「う・・・うぅぅぅん・・・・!!!」
それから」数分後、しばらくすると、気絶していた
侍女のおりんが、やっと目を覚ましたのだった。
「はっ!んぐぅぅぅ!!!(姫様ぁ!!)」
おりんは、先ほど自分を気絶させたくの一たちの事を思い出し
起き上がろうとしたが、腕が後ろで結ばれていて動かず
おまけに、目の前も真っ暗な事に気づいた。しかも轡を噛ませられていた。
手足を縛られ、目隠しもされている様だった。
「ひぐぅぅぅ!!!(姫さまぁ・・・!!!)」
おりんの声も空しく、響くだけだった。
そして、姫の寝所では・・・・・
三本の一升瓶が既に転がっていた。
「フフフ・・・・これで全てのお酒を空けましたねぇ・・・・姫様ぁククク・・・・」
くの一は腰に手を当てて、勝ち誇ったように言った。
「ヒック!! うぃぃ・・・・ヒック!!! ハァハァハァ・・・・・!!!ヒック!!!」
しかし、姫は両手を忍びに抱えられ、がっくりと項垂れて顔を下に
向けたまま、何も言わずにいた。
「フフフ・・・・ではいよいよ本番に入るとするか・・・・・酒使いの忍びの力・・・・
とくとご覧に入れましょう・・・・!!」
そう言うと、くの一は姫の前に立ちはだかると、部下の忍びに顔を上げさせた。
御屠蘇姫はすっかり泥酔状態にあり、恍惚の笑みを浮かべながら
とろーんとした表情でいた。
「フフフ・・・酔いの快楽に浸っているさなか、申し訳ありませんが・・・・
これから術をかけさせて頂きます故、少し痛いと思いますがお許しくださいませ
姫様ぁ・・・」
しかし、御屠蘇姫はすっかり意識が飛んでおり、くの一の言葉は聞こえていなかった。
「ククク・・・聞こえてはおりませぬか・・・・まぁいい・・・姫様・・・貴方は
今宵、生まれ変わるのですから・・・・
では参りますよ・・・」
そう言うと、くの一は両手を顔の前に出すと、忍術の時に使う印を結び始めた。
「はぁぁぁ・・・・・・!!!! くの一忍法!! 酒淫解放の術ぅ!!!」
くの一の両手の間に赤紫に光った怪しい色のチャクラが練られた。
「はぁぁぁ!!!!」
そして、くの一は勢いよく、そのチャクラを御屠蘇姫の体に目掛けて
放出した。
バリバリバリ!!!!
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
先ほどまで、うっとりとしていた姫は、流石に自分の体に
怪しく色っぽく光るチャクラを大量に注がれ、体中に走る電気の様な
痺れと、痛みに耐えかね悲鳴を上げた。
>>300 >わが手ながらなんと巧妙な。
ワロタ
政略結婚の悲壮さがなく、二人の初々しさが非常にいい感じ
そしてヴィクトールは乳フェチかと言いたくなるおっぱい描写に萌えた
シュウゥゥゥ・・・・・・。
くの一に「酒淫解放の術」と言う忍術をかけれられた
御屠蘇姫は両腕を忍びに掴まれたまま、そのままがっくりと
項垂れていた。
既に、純白の寝巻きは帯を残して、肩から胸の谷間まではだけており
「純真可憐な御屠蘇姫」は恥ずかしい格好になっていた。
「ふふふ・・・・さぁ、御屠蘇姫様ぁ・・・目を覚ましてください・・・・
そして、生まれ変わった姿を披露してくださいな・・・。ククク・・・・」
くの一は、俯き項垂れている姫ににやけながら問い掛けた。
「ウイィィ・・・・ヒック!! ・・・たぁぁ・・・・きたぁ・・・きた! きた! きた!
きた! きた! きた! 来たんだよぉ!!おらぁぁぁ!!!!!」
「うわぁぁぁ!!!」
「なっ!なにぃぃぃ!!!」
突如、先ほどまで項垂れていた、御屠蘇姫は急に別人になったかのように
自分の腕を掴んでいた忍びを振り払い、雄たけびを上げて立ち上がった。
流石に、これにはくの一も驚き、慌てて後ずさりした。
「ヒック!! ウィィ・・・!! ヘヘヘヘ・・・・ようやく、すっきりした気分になったぜぇ・・・ヒック!!」
御屠蘇姫は、先ほどまでとは打って変わって、まるで別人の様な口調でにやけながら
言った。目は完全にすわっており、目じりも吊り上がっていた。
「ったくよぉ・・・・ヒック!! てめえらぁ・・・チンタラしてっからよぉ・・・イライラ
しちまってたじゃねえかよぉ!!ヒック!!」
「あわわわ・・・・」
あまりの、性格の豹変に周囲の忍びは皆怖がって及び腰になり始めた。
「うろたえるな!! たわけどもめが・・・!!!!フフフ・・・・これはこれは・・・御屠蘇姫様・・・
どうですか?生まれ変わった気分は・・・??? ククク・・・」
「あん? 生まれ変わっただぁ?てんめぇぇ・・・!!!さっきから誰に向かって
口聞いてんだぁ!あん!こらぁ!! あたしはよぉ・・・コレが地なんだよぉ!!
生まれ変わったじゃなくて、本来の自分に戻ったってことだろうがぁ!!」
「な!何を言っているんだ・・・それに・・・・私の命令に従わないとは・・・・
一体・・どういうことだ!! あんたは・・別の人格か!!」
「はんっ!! バッキャローー!!!ざけんじゃねえよぉ!!だれが二重人格だよぉ!!
ヒック!!あたしはコレが地だって言ってんだろうがぁ!!ヒック・・・!!
何時ものあたしは、表の顔っつうことなんだよぉ・・・ヒック!!
でも、どうやらテメェのおかしな忍術で、普段表には出せねえ気持ちを
一気に解放出来たみたいだな・・・ヒック!!そう言う意味では感謝してるぜぇ・・ヒック
ヘヘヘ・・・」
御屠蘇姫は、腰に手を当てて勝ち誇ったように、語った。
「そ・・・そんな馬鹿なはずが・・・私の酒淫解放の術は・・・酒を飲んだものを
意のままに操り、その力を限界を超えて強制的に引き出す術のはず・・・
何故だ・・・何故この姫には効かぬ・・・?」
「んなこと、知っかよぉ・・・ヒック・・・そんなことよりこの部屋は糞熱いぜ!ったく!!」
バサッ!! シュルシュル!! ギュゥ・・・!!
「おおぉぉぉぉ・・・・・すげぇぇぇ・・・!!!」
「イヒヒヒヒ・・・・コレで少しは涼しくなったぜぇ!!ヒック・・・つうかこっちの格好の方が
あたしにゃしっくりきてるぜ、ヒック!!」
なんと、純真可憐なはずの御屠蘇姫は、事もあろうに寝巻きの裾を
グイッと太ももまで辺りまで、捲し上げるとそこでぎゅっと結んだ。
雪のように真っ白でムッチリとした太ももが顕わになり、それだけではなく
この時代特有の女性用越中褌型の下着まで、わずかに姿を見せており
まさに、清楚でおしとやかな御屠蘇姫とはいえないほど、淫らな格好に
周囲の忍び達の目は一斉に、御屠蘇姫のムッチリとした太ももと
見えそうで見えない下着に釘付けになった。
『ドランク・プリンセス 〜御屠蘇・・・参ります・・・〜』
第一話「覚醒」 終
327 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 20:39:30 ID:yuTtDZEs
>>313 GJーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
>>326 スゴク軽妙でワロスw
続きwktkノシ
>>313 GJ!またもや素晴らしい!巨乳のお姫様、めちゃめちゃタイプです。
あと一人残った妹姫のお話も楽しみにしています。
332 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 20:59:27 ID:yuTtDZEs
> 生後二ヶ月の甥は兄に似ず可愛く
姫ひでぇw
『ドランク・プリンセス 〜御屠蘇・・・参ります・・・〜』
第二話「攻防」
「よっこらしょぉ・・・!! ふぃぃ・・・!!!あちぃ、あちぃ・・・」
姫は布団の上におおっぴらに股を開いて、胡座をかいて座った。
「おぉぉぉ・・・・パンツが・・・」
忍びたちの視線が、一斉に姫の股間の純白の越中褌に行く。
「ぐぬぬぬ・・・・・このドスケベの役立たずどもめがぁぁ!!!」
くの一は、御屠蘇姫のむっちり太ももと、下着の越中褌に
視線が行っている、不甲斐ない部下の忍び達を一喝した。
「ひぃぃっ!!も!申し訳ございません!!
われ等とした事が!!」
「全く・・・この役立たずどもがぁ!!さっさと姫を抑えろ!!
もう一度術をかけなおしてくれるわ!!」
「おいおい・・・何だよぉ・・・ヒック・・こんなもん見たって別に構わねえじゃねえかよ・・
別に見ても減るもんじゃねえしよぉ・・・ヒック・・ほれほれ・・・」
「おぉぉぉ・・・・」
姫はくの一の言葉に対して、逆に挑発するかのように
股をグィグィっと振って、茶化した。
その様子に、再び忍び達は感嘆のと感動の声を上げた。
「ふざけるのもいい加減にしろぉ!!
今、目にモノ見せくれるわぁぁ!!!」
遂に怒りが爆発したくの一は、再び「酒淫解放の術」の印を結ぶ
構えを見せた。
「おっと!!そうは問屋が卸さねえってんだよぉ!!」
すると、くの一が印を結び終わるよりも早く、御屠蘇姫は
胡座の体勢からさっと起き上がると、くの一に飛び掛って行った。
「何ぃぃ!!」
「これでも食らえやぁぁ!!」
シュバッァ!!!
姫の強烈なパンチがくの一の顔面目掛けて繰り出されたが
間一髪のところで、素早い身のこなしでさっとかわした。
「なっ!・・・馬鹿な・・・何と言う速さだ・・・彼女は・・ただの一介の姫のはず・・・
いくら私の術で、力が上がってるとは言え・・・こんな超人的な動きが
出来るはずが・・・・」
「ヘヘヘ・・・・どうやらあたしの動きを見てビビッてる様だなぁ・・・??ヒック!!
でもよぉ・・・これだけじゃ無いんだぜぇ!!うりゃぁぁぁ!!!」
バッコーーーン!!!!
姫は再び強烈なパンチでくの一に襲い掛かったが
くの一も素早い身のこなしでかわした。
が、今度は後ろの壁に姫の拳が当たった。
しかも、ものすごい威力で粉々に砕けてしまった。
「へへへ・・・すんげぇパワーだぜ・・ヒック!われながら惚れ惚れしちまうねぇ・・・ヒック!!」
「なんだ・・・何なんだ・・・このパワーは・・・一体何ものなんだこの女はぁ・・・・」
「はあん?あたしは御屠蘇姫様だっつてんだろうがぁ・・!!ヒック!」
「んぐぅぅ・・・!!んぐぅぅ!!!!!」
と、部屋の隅のほうから、先ほどまで騒ぎでうめき声がかき消されていた
おりんの声が聞こえてきた。
「あん?この声は・・・ヒック・・おりんかぁ・・・ったくよぉ・・・
なぁにやってんだよぉ!ヒック・・・情けねえったらありゃしねじゃねえか・・・
今、助けてやっからちょっと待ってなぁ!!」
そう言うと御屠蘇姫は、目隠しされ手足を縛られ轡を噛まされている
侍女のおりんの元へ素早く移動した。
「おい、おりん大丈夫かよ?」
「へ?あ・・・あのぉ・・・もしかして・・・御屠蘇姫様ですかぁ・・・???」
「あん?みりゃぁ分かるだろうがぁ・・・このピチピチムッチリな可愛い女が
天下の御屠蘇姫様じゃ無くて、一体誰だってんだよぉ?」
「あ・・・あの・・・しかし・・・何だか何時もと雰囲気が・・・それに言葉使いも・・って!
うっぷ・・お酒臭い!!」
「はん?ああ、すまねえすまねぇ・・・ちっとよぉ・・・さっきグビっとやっちまったもんでよぉ
ヒック!!」
「あぁぁぁ!!!」
「な!何だよぉ!!」
急にびっくりした表情で、大声を上げたおりんに御屠蘇姫も驚いてしまった。
「な・・!な・・・な・・・何と言う破廉恥な格好をなさっているのですかぁ!!
姫様ぁ・・・!!!このような・・・・このようなお姿を・・・あわわ・・・
御屠蘇姫様ともあろうお方が・・・おみ足をさらけ出して!!!すぐにお隠しくださいませ!!」
「わっ!やめろよ!バカヤロー!!あっちぃんだよぉ!!
あたしはこっちの方がスースーして涼しくて気持ちがいいんだよぉ!!」
「何を仰っているんですかぁ!! まぁ!下着まで見えておられるではないですかぁ!!」
まるで、母親の様に御屠蘇姫の淫らな格好を注意して、寝巻きの裾を掴んで
顕わになっている、ムッチリした白い太ももを必死で裾で隠そうするおりんに
対して、姫も必死で裾を逆に引き上げて、太ももを見せようとしていた。
姫、つええww
「おのれぇぇ・・・・われ等を無視して戯れるとはぁ!!」
「あん?なんだぁ・・・ヒック!まぁだやるってのかぁ?
今度はマジでよぉ、ヒック!やっちまうぞコラァ!!」
「フフフ・・・・調子に乗っておられるのも今のうちだけですぞ・・・
御屠蘇姫さまぁ・・・ククク・・・」
「姫様ぁ・・・・」
「ちっ!心配すんなって、ヒック!いいか?おりん・・・あたしの側から
離れんじゃねえぞ、いいな?ヒック!」
「は・・はい・・・」
くの一の強気の言葉に、御屠蘇姫は、おびえる侍女のおりんを
片手で抱き寄せて言った。
おりんも、一見すると破廉恥で淫らな表情の御屠蘇姫に
困惑していたが、力強い姫の様子に安堵し始めていた。
「ククク・・・・どうやら計画が狂ってしまったようだが・・・
まぁいい・・御屠蘇姫さえ今度のコンテストに出られない様に
すればいいだけのことだからなぁ・・・ここで留めをさしてやる・・・・。」
「なぁにを一人でブツブツと言ってやがんだよぉ・・!!ヒック!」
「フフフ・・・・・はぁっ!!! とぉ!! てぃ!!!」
くの一は、いきなり手元から沢山のクナイを御屠蘇姫目掛けて
投げつけた。
「うわ!!っとっとっと!!! バッキャロー・・・刃物なんか投げやがって
危ねえだろうがぁ・・・ったくよぉ・・・はっ!しまった!おりんが!」
御屠蘇姫はクナイを避けた拍子に、おりんから思わず離れてしまった。
しかし、くの一はこの機会を逃さなかった。
あれ、重い・・・。
「ククク・・・かかったな!御屠蘇姫ぇ!! くの一忍法 酒時雨ぇぇ!!!」
くの一は素早く印を結ぶと、練ったチャクラをおりんに目掛けて放った。
すると、今度は霧のような塊がおりんの体の周囲をたちまちの内に
覆い尽くしてしまった。
「あわわ・・・な!なんなのぉ・・・これはぁ・・・?」
「おりーん!!」
怪しい霧に包まれたおりんに御屠蘇姫は、大声で叫んだ。
「ひ!姫様ぁぁ!!!」
おりんも必死で姫に叫んだがどうやら、おりんからは霧で周囲が見えなかった。
「ククク・・・・酒時雨の術!! 解!!!」
くの一は大声で二段階に印を結び術の力を解放した。
すると、おりんの周囲を覆っていた霧は、見る見るうちに
キラキラと光る、小さなまるで雨粒の様な水滴に変化して行った。
「な!何なの!一体何が・・・」
おりんは困惑しながら呟いた。
しかし、その雨粒はおりん目掛けて勢いよく降り注ぐ雨の様に
おりんの体を濡らして行った。
「いやぁぁ!!」
「おりーん!!大丈夫かぁ!!」
「姫様ぁ!」
おりんは御屠蘇姫の呼びかけに必死で返事したが
手で雨粒から顔を隠していたため周囲を見渡せなかった。
「ふふふ・・・そろそろだな・・・はああぁぁぁぁ!!!」
しかし、その様子を見ていたくの一は不適な笑みを浮かべながら
再び印を結んで叫んだ。
すると、おりんの雨粒は今度は霧雨の様になって、おりんの口と鼻から
体内に入って行った。
「はうぅぅぅぅ・・・・・!!!」
おりんは急に体の力が抜けたかのように、その場に
膝を崩して、へたり込んでしまった。
「ああぁぁぁぁ・・・・はぁはぁはぁ・・・・何なのぉ・・・この臭いはぁ・・・
体がぁ・・・ハァハァ・・・・ヒック!! 体が熱いよぉぉ・・・・!!!」
「ふははははは!!! どうだ忍法酒時雨の術!!! 」
「あうぅぅぅぅ・・・・ヒック!!おりん・・・何だかぁ・・・とぉっても・・・ヒック・・・気持ちが
良くなってきたのぉ・・・ヒック!!」
さっきまで必死で抵抗していたおりんは、くの一の放った術によって
酔わされてしまったようだった。目は既にトローンとし、顔や頬は
真っ赤になっていた。
「あふぅぅぅ・・・・・ヒック・・・ウフフフ・・・・とぉっても・・・気持ちいいのぉぉぉ・・・・ヒック!!
ピチャ・・ペロペロ・・・・チュウゥゥゥゥ・・・ジュルルルル・・・チュポン!!」
おりんは、何とも言えない妖艶かつ色っぽい表情で、先ほど手や指についた
水滴を、まるで犬の様に舌を巧みに使って舐め、指を口に突っ込んでは
まるで、何かをしゃぶる様に勢いよく吸い尽くした。
「な・・・おりん・・・??一体どうしちまったんだぁ!! おりん!!」
「あはぁぁぁ・・・・姫様ぁぁ・・・ヒック!!おりんはぁ・・・おりんはぁ・・・
今、とぉぉっても・・・ヒック・・・いい気持ちなんですからぁ・・・ヒック・・・
話し掛けないでくだしよぉぉ・・・ヒック!!キャハハハハハハ・・・・ヒック!!!」
するとおりんは、ガバァっと着物の裾を捲くると思いっきり
股を開いた。すると御屠蘇姫に負けず劣らずの白くて柔らかそうな
ムッチリとした太ももが剥き出しになってしまった。
そして大切な股間の部分を隠している越中褌が顕わに姿を見せた
「あはぁぁぁぁん・・・おりん・・もぉ・・たまんないのぉぉぉ!!んふぅぅぅん・・・・ヒック!!」
「お・・・おりん・・・一体・・・!!! はっ! てんめえぇぇぇ!!おりんに一体何しやがったぁ!!」
御屠蘇姫はおりんの尋常では無い、乱れっぷりを見て、くの一を睨みつけて
怒鳴った。
越中褌…。って簡略型でヒモパンよねwww
>>341 基本的に、御屠蘇姫はきちんとした褌だけど
おりんは、腰紐の部分が、両脇とも紐で結ぶタイプなのです。
酒好き ◆GmgU93SCyE氏へ
投稿に時間かけすぎなので、書きためてから投下、
「つづく」「今日はここまで」「終わり」など、区切りをはっきりして欲しい。
そうでないと、他の書き手が割り込みを気にして投下しにくいし、
読み手も感想が書きにくい。
あんた一人のスレじゃない
>>343 どうもすいませんでした。
かなり必死になって書いていたので、つい忘れてしまいました。
以後、気をつけます。
>>345 分かればイイノサーキニスンナ( * ゚Д゚*)⊃旦 < 茶でも飲め
続きwktk待ってるおノシ
>300
GJっス〜! はあ〜堪能。
この世界観大好きです。
ベアトリスもいいッス!
そして…やっぱり俺はイヴァンとナタリーの
やりとりに萌え死にました(笑)
「べっ 別にあんたの子供を孕みたい訳じゃないんだからね!
でも世継ぎがいないとこの国の王統が絶えちゃうし、
あんたも『種無し』とか言われちゃって可哀そうだから、しかたなくさせてあげるんだからね。
そこんとこをよーく理解しときなさいよ!」
「ボクが君の子供を産めば、それはとても良い事だと思うんだよ?
国境地域の紛争も収まるだろうし、二国が連携して帝国に対抗することができる。
さらにボクの国の叡智と君の国の武威が結合すれば、この世界はもっとよくなると思うんだ。
ボクも容姿や才覚でそこいらの姫君に劣ってるわけじゃないし、持参金だって惜しむつもりは無いよ?
ああ、あと付け加えるならば、ボクは昔から君のことが好きで、君の妃になりたいと思ってたんだ」
「…私とあなたが結婚することは……すでに決まってることなの。
ほら…この預言書にも書かれているのよ?
私とあなたの子供が… 世界を征服するの。
血と海と屍の山の果てに………新しい秩序を築き上げる新帝国の覇王になるのよ。
夕べ、森の梟たちもそう言っていたわ…
運命に逆らっちゃだめ、 ……私と結婚して」
侍従「どの姫を娶られますか?」
1.ツンデレラ姫
2.クーデレラ姫
3.ヤンデレラ姫
よし、1〜3までお前らにくれてやる。
俺は
>>300のベアトリス姫でいい。
3のような男に迫られる姫様がいい
おらは、やんごとないお姫さまがいい。
>>352 ずるいぞ!
ベアタソは俺だって好きだい!!
>>300 ベアトリス良かったです。GJ!
一文一文がとても的確で素敵でした。
>>300 最高です。GJ!
ベアトリスの心情が凄い的確だし、歴史描写もリアリティあって良かった。
リュシー姫エロとコリーヌ再登場、できれば期待してます。
>>348 ヤンデレラ姫いないのか、と思いつつ自分もクーデレがいいな。
自分は3と結婚して間にツンデレラ・クーデレラをもうけたい。
すくすくと萌え育つ娘たちを見て
「…おかしいわ、新帝国の覇者が生まれるはずでは…?」
と首を捻る妻を予言なんてそんなもんさ、と言って抱きしめたい。
それで妻が少しでも、予言された未来よりも悪くないと思ってくれたなら、俺は幸せだ。
361 :
348:2006/07/22(土) 22:08:34 ID:CB+AGdCc
予想通りツンデレ姫、クーデレ姫派が多いなと思ったら…
>>359 あんたにゃ負けたよ。
その心意気に敬意を表してSSを作ってみた。
三人の中からヤンデレラ姫を選んだ359王は、二人の可愛らしい姫君に恵まれました。
子供たちはすくすく育ち、359王もヤンデレラ王妃もとても喜んでいます。
そんな幸せな日々の一コマをご覧ください。
「ヤンデレラ?こんな夜更けに何所に行くのだ」
「…子供たちを、森に連れて行こうと思って」
「もうあの子達も寝てるだろう。何でこんな時間に?」
「……この時間じゃないと、梟やコウモリが、出てこないもの」
「???」
「あの子達は…預言書に記された……新帝国の覇者になる子達よ?
魔術の勉強も…きちんとさせておかないと………
お裁縫や、詩作や、音楽だけでは… 知識が偏ってしまうわ……」
「……(呆」
「今日は夜空が綺麗だから…… 占星術の勉強も…できそうね、
星の輝き具合で…次にどこの国に災害が起こるかも…ちゃんと分かるように、育てたいの…」
「……(焦」
「…じゃあ、行ってくるわね」
「まっ 待った!」
「…なあに?」
「いっいや、子供たちの勉強も大切だが、もっと大切なことが我々にはあるだろう?」
「…大切なこと?」
ちゅっ
「あっ・・・(照」
「王と王妃の夜の務めは、子供を作ることだろ?」
「……そうだ…けど、あの子達の教育は…?」
「いや、そういったものは、子供たちが興味を持ち始めたら教えればいいじゃないか。
とりあえず今はあの子達の弟か妹を作ろう」
「…なにか、はぐらかされてる…気もするけど、
私も、子作りは…嫌いじゃ……ないから………… しましょう」
こうして二人のお姫様は子供思いの王様と王妃様の下ですくすく成長しましたとさ。
(おしまい)
362 :
359:2006/07/22(土) 23:45:14 ID:zBVZ/puK
GJ!幸せな我が家を描いてくれてありがとう。
周りから理解されがたく、俺も理解しきれない妻だがこれからも娘ともども大切にしていこうと思う。
彼女と出会わせてくれた348氏に心からの感謝を込めて… 359
良かったな、359
何か人ごとながら、イイモンだねこーゆーのも
御屠蘇姫いいねえ。
中々の良スレですね
366 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/24(月) 17:11:33 ID:v2/+80ZU
367 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/24(月) 17:16:39 ID:v2/+80ZU
>>359には悪いが、ここで寝取られ物を希望したらどうなるのだろう……
ヤンデレに限らず、デレと寝取られって合わなくね?
>>348 クーデレラ姫が僕っ娘でさえなければ…!
>>370 キミはなにもわかっとらん!
僕っ娘こそが最萌えなんじゃないか!!
まあ、姫らしさはかけらもないがな
いや、僕っ娘自体は萌えなんだ。
ただ、僕っ娘なら元気っ娘属性と合わせたいんだ。
375 :
359:2006/07/25(火) 02:38:59 ID:H8/ccSr9
「
>>368どの。
ヤンデレラは、少し人と違った感性を持っている。
一般なら是としないことも、彼女ならではの理由で受け入れてしまうことがあるかもしれない。
私がどんなに苦しんでも、ね…。
だがそれでもあの時…私が彼女を選び、彼女が私に頷いた事実は変わらない。
それを私は誇りに思うよ。
あぁでも、もう一つ言わせてもらうなら…
何があろうと俺はヤンデレラを離しはしない!
俺の女に手を出すな!!」
とりあえず359王的にはこんな感じと思われますw
>>300 ベアトリス良かったです。その後の二人を読みたいです。
あとコリーヌと盗賊のその後も是非是非…
377 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/25(火) 23:08:07 ID:1JjByYah
>>376 自分もコリーヌ好きだった。
無事に婚約したマチルダも見たいな。
マチルドのその後が知りたいw
姉妹の中ではマチルダが一番好きだ
380 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/26(水) 01:57:24 ID:FvbOlwCR
すみません。マチルダじゃなくてマチルドでしたね。作者さますみません。
まだ見ぬリュシー姫にもwktk
しつこいかもしれんけどアグレイアの続き読みたいです
って俺も勝手だけど、みんなも希望言いすぎだぞw
作者さんが大変ジャマイカ
だって大好きなんだもんw
んー、エロい
きれいなお姫さまのエロはいいよね
前スレの捕虜になっちゃった女騎士の続きが読みたいなー。
387 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 10:16:46 ID:yBlfXdeh
保守あげ
神が再降臨されるまでの場つなぎということで、保守がてら一本投入します。
アルフレッドは、ゆるい着衣の隙間から手を入れ、形の良い乳房ををつかみ出すと
無我夢中で貪った。
掌に吸い付くようなきめの細かい肌と甘い香りがアルの感覚を麻痺させる。
小さな桃色の突起はアルの愛撫に反応してそそり立った。
ロウィーナの口から吐息が漏れる。
「姫、そのような声を出されては」アルの言葉と行動は一致していない。
大切なご馳走を口にするようにアルの舌がロウィーナの乳首をもて遊ぶと、
吐息は甘い声に変わった。「ああ、アル」アルの手はロウィーナの下半身をまさぐり始める。
アルは長いスカートを捲り上げ下着の上からじらすように太ももを撫でた。
更に布を通してもわかる柔らかい盛り上がりの中心に指を這わすと、
ロウィーナが切ない声をあげる。
「姫、ここがようございますか」アルの指が執拗に同じ箇所を攻める。
アルは指を通して伝わる柔らかい感触と、瞳を潤ませ快感に身をゆだねるロウィーナの表情を
存分に楽しんだ。
「いかがです。お返事なさいませ」「いや」「嫌ならやめましょう」アルは指を離した。
「だめ」ロウィーナが思わず声をあげる。
「お嫌なのでしょう」わざとそう言って反応を見る。
恥らう様子がたまらなくそそることを知っているのかロウィーナは誘うように身をよじった。
「お任せください、もっとよくして差し上げます」アルは、ロウィーナの下着に手を掛け、手際よく脱がせた。
「アル」「わたくしの言うとおりに」アルはロウィーナの膝に手を掛けた。
「もっと足を開いて。そうです。ああ、よく見えます」「アル恥ずかしいわ」
「綺麗ですよ、姫。こうして見ているだけでも感じているのではありませんか。ほら」
アルは、指で粘り気のある液体を掬い取るとロウィーナの唇に擦り付けた。
「舐めて御覧なさい」ロウィーナは言われるままに唇を舐め、物足りないかのように
アルの指にむしゃぶりついた。
「いやらしい姫だ。でもまだおあずけですからね」
アルは指を離すとロウィーナの股間に頭を沈めた。
しかしすぐに触ろうと馳せずゆっくりと眺めた。「綺麗な色だ。中はどうだろう」
指で広げて中を覗く。「卑猥にひくひくしていますよ」「いや」
「おねだりして御覧なさい。どうして欲しいのです」「言えません」
「素直じゃありませんね。こうでしょう?」アルはゆっくりと舌を這わせた。
ロウィーナは思わず声をあげる。執拗に執拗にアルは同じ箇所を攻め、
ぷっくりと顔を現した肉芽を見つけると吸い付いた。
絶叫をあげてロウィーナがのけぞる。
「刺激が強すぎましたか。でも良かったでしょう?」
湧き出る泉を舐め取り今度はひだの奥へ侵入を開始した。
舌に沿わせて指も使い、徐々に入り口を開放してゆく。
ひくつく粘膜は愛液でたっぷりと濡れた指をすんなりとくわえ込んだ。
ロウィーナは叫びとも吐息ともつかない声をあげた。
中でかき回すとそれに合わせてロウィーナの体が反応して指を締め上げる。
「まだですよ」いったん引き抜くと指を二本に増やして再び挿入した。
そして今度は指を前後に動かし始め、同時に親指で肉芽を刺激すると、
あっという間にロウィーナは絶頂に達した。「本当にはしたない姫だ」
指を抜くと、ようやく自分のズボンと下着を脱いだ。
「姫はこれがお好きでしょう」
命令されるまでもなく自分から股間にそそり立つものに喰らいつき、舌を這わせ始めた。
「お上手です。どこで教わりましたか」「いや」
「あの男でしょう。言わなければあげませんよ」
ロウィーナはこっくりと頷いた。「ごほうびをどこにほしいのですか」
「ここ」ロウィーナは自ら足を開いた。「どこです」
「ここよ」ロウィーナは自分の秘所を指で押し広げた。「ここに入れて」
「いい子だ」ロウィーナはアルを待ちきれないように指を添えて受け入れた。
ゆっくりと腰を動かし始めると喘ぎ声が一段と高くなる。
だんだん速度を上げて、急に抜いた。「いや、どうして」
「後ろを向いて手をついて。お尻を高く上げて。そうです。全部見えますよ。
お尻の穴までひくひくしている。さあどこに入れるのでしたっけ」
「ここ、早く」「姫の癖に売女みたいだ」「いじわるしないでお願い早く」
アルが挿入するとロウィーナは腰を動かし始めた。「いやらしい。腰を使って。お仕置きだ」
アルが肉芽をつまみ上げると、絶叫があがりロウィーナの腰が砕けた。
その腰を抱えあげアルは言った。「今度はこっちを試してみよう」
「そこはだめ」「嘘おっしゃい。もう指が入ってますよ」「うそ」
「しかも三本もね。準備はもういいだろう」「いやあ」
「逃げるな。お前は本当はこれが好きなくせに」「いやあ、いたい。やめて」
ロウィーナは絶叫を上げた。「力を抜け。そうだ。じゃあ動かすぞ」「いたい」
「そうかな。ほらだんだん引く引くしてきた」「あああ」「いいんだろう。こっちも、ほら」
アルは膣に入れた指をかき回した。
めくるめく快感の波に押し流され、絶叫とともにロウィーナは気を失った。
自分は果てることのないまま、アルはロウィーナの身体を清め、着衣を整えた。
最後の瞬間にロウィーナが叫んだのはあの男の名前だった。
所詮、自分はあの男の身代りでしかないのだ。
それでも、求められればまた同じ事をするだろう。
このような変則的な形であっても、姫の望みどおり奉仕するのが従者として務めだと
無理やり自分に言い聞かせた。
アルは、行為の間一度も口づけをかわさなかったことを思い出した。
だが、目を閉じたままの姫を唇を奪うことはどうしてもできなかった。
終
お目汚し失礼しました。
先日から、やきもち焼きのイヴァンがどんな意地悪をされたのか気になって眠れません。
作者さま。首を長く長くして待っております。
>>390 場つなぎなんてコトナイコレ
GJ!!!
GJ。
あの男の存在が気になる。
>>390 スゴイyo゚+.(・∀・)゚+.゚
続き、というかそれ以前のお話が気になります
また書いてください!!!
短い駄文で保守。エロは微妙。
街道から外れた細い林道を、一頭の馬が速足で進んでいく。馬上には二人の人間の姿があった。
片手でロウィーナ姫を抱きかかえ、もう片方の手で手綱を握っているのはアルフレッドだ。
「止めて!」アルが急にが手綱を引いたので、驚いた馬は大きくいななき仁王立ちになって乗り手を振り落とそうとした。
その瞬間、姫の口から悲鳴とも吐息とも聞こえる声が漏れた。
ようやく馬を落ち着かせると、アルはロウィーナ姫に訊ねた。「どうかされましたか」
「疲れたわ。それに喉が渇いた」ロウィーナは不機嫌な顔を隠そうともしない。
「もうしばらくご辛抱ください。日が暮れる前にこの森を出なければ――」
「私に命令しないで!」
どうしてこの男は私をこんなにいらいらさせるのだろう。ロウィーナは唇を噛んだ。
「申し訳ありません。この先に川があります。そこで一休みされてはいかがでしょう」
「川まであとどのくらい?」「ほんの数分です」「いいわ。降ろして」
これ以上馬に揺られていたら、これ以上触れられていたら、私はまた自分を抑えられなく
なってしまうかもしれない。
そうしたらまた昨夜のように――。
下半身の疼きが限界に達して身もだえしそうな身体をロウィーナは必死に抑えた。「姫!?」
「もう馬に乗るのは嫌!疲れたと言ったでしょう。何度言わせるの。はやく降ろして川に案内して」激しい剣幕でロウィーナは怒鳴った。
姫の身体が震えていることに気付いたアルは、黙って命令に従った。
「足元にお気をつけ下さい」アルは慣れない山道にふらつくロウィーナに差し伸べようとした。
「触らないで!」
ロウィーナはを払いのけた手が不浄なものであるかのようにおぞましげに見た。「一人で歩けるわ」
続きで保守
なりふり構わず、ロウィーナは川に入っていった。
冷たい流れに腰まで浸かって、掬い取った水で火照った頬を冷やした。
よかった、間に合った。ほっとして顔を上げると、アルの姿が目の前にあった。「あぶのうございます」
ロウィーナは、アルを睨むと黙って川を上がった。
「そのままでは風邪を召されます。乾くまでこれを」毛布を手渡すと、アルは薪になりそうな枝を拾いに行った。
ロウィーナは濡れて身体に張り付く布をすべて脱ぎ捨て、毛布に身を包んだ。
戻ってきたアルは火をおこすと、ロウィーナの服をかき集め、絞って近くの枝に干した。
そして、馬に水を飲ませると、ようやく自分も飲んだ。
何とか言えばいいのに。この男のすることなすことがいちいち癇に障る。
「馬も少し休ませる必要があります。今日はこの付近で野営できる場所を探しましょう」
アルの顎髭から水滴が滴り落ち、開いたシャツの合間を伝う。汗で光った熱い胸板――。ロウィーナに昨夜の記憶がありありと蘇った。
なぜ、アルは何も言わないのだろう。あんなことがあったというのに。
昨日、一日中馬に揺られたロウィーナは、たまらず自分を慰めてしまった。
それを見咎められたのだ。しかも、アルは平然とこんなことを言ってのけた。
「よろしければ私がお手伝いしましょう」
そして私はあろう事か、その申し出を喜んで受けたのだった。
「姫?」アルはロウィーナを見つめた。この目だ。人を哀れむようなこの醒めた目が
私をこんな惨めな気持ちにさせる。
「もう馬に乗らなくていいのね」「はい」「それならいいわ」
「ですが明日はまた――」
「もう嫌よ。後何日かかるかわからないけど、私はここから歩いていくわ」
「それでは追手に掴まってしまいます」「それならそれでいいわ」
「姫、またあのような生活に戻りたいのですか?日のあたらない部屋に一日中閉じ込められ、
話す相手もおらず、一生孤独に耐える生活。姫はそれをお望みですか?」
「私は孤独じゃなかったわ」
「あなたもいつまでも若くはない。リチャードはそのうちあなたに飽きる。そうなれば
あなたの部屋を訪ねるものは誰もいなくなる。それでも孤独ではないと言えますか」
「お前に何がわかるの。偉そうに説教しないで」
「無事に国境を越えれば叔父上の庇護を受けることができます。それまでどうか我慢してください」
我慢?あれを我慢しろと言うの?
一番敏感な部分を絶えず刺激され気を失うほどの快感を感じながら逝くことは許されず、
まるで永遠に続く愛撫と拷問を同時に受けているかのようなあの悩ましい感覚をどう我慢しろと。
その感覚を思い出しただけでもこうしてからだは火照り、身体の芯が痺れたようになるというのに。
ああ、さっき綺麗にしたばかりなのに。つい伸びてしまいそうになる指を噛み、毛布を汚さないよう
ロウィーナはもぞもぞと腰を動かした。
「姫――?」「何でもないわ」「しかし」「そんな目で私を見ないで」
「もしも必要ならば――」
「勘違いしないで。昨日あんなことがあったからといって、私と対等になったと思ったら大間違いよ。お前のような卑しい男に誰が――」
「姫、私は卑しい男です。けれど、これ以上姫が苦しむ姿を見ていたくないのです」
「それ以上近寄らないで」
「どうかこの哀れな男の穢れた身体をご存分にお使いください。どうか姫のいっときの慰み物に」
アルは姫の手を取り、股間に導いた。
「これは、ロウィーナ姫、あなた様のものです」
終
リチャードのくだりをkwsk
えええ!いい所で終っちゃったよー
ふたりで
歴史だけは誇れるほどあるものの、祖国《オロシャ》はとても小さな国だ。
外交。
政略。
献上。
貢物。
慰み者。
一番しっくりとくるのは、果たしてどれだろう。
やはり最後のか?
しかし、まぁ、どんな風に表現したところで、 新興の国《ゼノビア》、わたしはこの国に売り飛ばされたのだ。
「くぅッ………んンッ……」
だけどそれについて、べつに父や母を、特に恨んではいない。
処世術としては当然だろう。
それにあんな平和だけど退屈な国に、いつまでもいたいとは思わない。
うん。
平和も退屈も、そりゃ貴重だけれどね。
とにかくそれはそれとして、国の利益とわたしの望みが、期せずも一致したのである。
「…………」
いや、本当はいろいろ、そりゃ期したけど。
誰にでも買われてやるほど安くない。
「リュ、キ、んッ…はッ……リュキ……んンッ…………」
切れ切れの苦しそうな声で、腕の中の少年が、わたしの名前を、許しを求めるように呼んだ。
「うん? どうしたんだい、アレク?」
広く人気のない邸内の石段。
親が我が子にそうするように、小さな身体を足の間に座らせている。
第七王子のアレク。
もう確か十四歳になったはずだ。
去年までは、学問の国でもあるオロシャに、八歳から五年間留学していた。
――ちなみに彼の教師は、このわたし、リュキアンである。
自分で言うのも非常になんではあるけれど、才色兼備で近隣中に、そこそこだが名前は知られていたりする。
幼い身で異国にやって来た彼、アレクの面倒を、手取り足取りみてやったもんさ。
「んッ……くんッ…ふぅ………あうッ!!」
アレクは物心もつかない幼い時分に、母親を不慮の事故で亡くしている。
父親は売り出しの国だから忙しい。
他の兄弟は姉や弟や妹含め腹違い。
四つしか違わないけれど、その当時から、妙な落ち着きがあると言われていたわたしに、母なり姉なりの姿を重ねたのかもしれない。
おそらくアレクは、愛に餓えてたんだろう。
最初こそは警戒されたが、それはそれは良く懐いていた。
国に帰ってからすぐに、こうして、わたしを自分の元に呼び寄せるほどに。
「ぅあッ……は……あン……んぅッ!!」
見様見真似だったけれど、別れの日にしてやったサービスが、事の外利いたのかもしれない。
「うぁッ……は……んふぁ…………やはぁッ!!」
今もあの日と変わらない感度の良さで、大きく仰け反って白い喉を晒している。
肩に乗る心地よい重み。
さらさらとした金色の髪が、ぴくんぴくん、とするたびに、わたしの耳朶に優しく触れてくすぐったい。
「…………」
眉根を八の字にしている横顔。
相も変わらずで可愛く、苛めがいのある奴だった。
眺めているだけでぞくぞくしてくる。
「……こらこら。将来はこの国の、王様になろうという男子が、そんな情けない、女子みたいな声を上げていてどうする?」
秘めていた野心。
この世界で唯一人信じる少年に、何気なくさり気なく、言ったつもりだった。
「えっ!?」
けれどさすがにわたしも、緊張していたのかもしれない。
だらしなく身悶えしていたアレクも、ハッとなると、眼を見開いて、至近距離でわたしを見つめる。
「お、王、……さ……ま…………」
「そうだよアレク。きみにはとりあえず、この国の頂点になってもらう」
「な、なってもらう…………って」
「きっとなれるよ、きみなら。……わたしがしてみせる。わたしが…………必ずしてみせる、よ」
声が上ずってるのが、今度は自分でもわかった。
それはそうだろう。
たとえ首が刎ねられても文句は言えない。
「で、でも、ぼく、継承、権、……な、七番目なんだよ? 王様には、……なれな――」
その言葉にちょっと嬉しくなった。
こんなときでも、わたしの願いを叶えようとしてる。
アレクの瞳。
わたしの瞳。
互いが互いの瞳に映る姿に、魂の裏側を覗くように、睨みあうみたいにじっと、長い沈黙と共に奥の奥まで見詰め合う。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
そしてわたしは破るように言った。
「消えてもらえばいいじゃない、きみより上位の六人にさ」
「んンッ!?」
唇に唇を重ねる。
同時に握っていた手を激しく上下に擦った。
突然のことに身体を堅くしたアレクの、閉じ損ねた歯列の間に、舌先を押し割るように潜り込ませる。
愛しい。
狂ったみたいに踊るわたしの舌を、アレクの健気に追い求めるのが何とも愛しかった。
「んっ……んぅッ…ああっ……うあ……んッ……ふぁ…………」
だけど加速された手の動きは、あっという間に、アレクの敏感で脆すぎる身体を、引き返し不能の地点にまで追い詰める。
「あッ、ああッ!?………………んぅッ………くぅッ……んあッ!!」
唇を離すとアレクは、舌ったらずな叫びを上げるながら、煮え滾った蒼い欲望の塊を迸らせた。
びゅッ・びゅぐぅんッ!!
綺麗な軌跡を描きながら、白い尾を引いて、階段にぶちまけられる。
何度も何度も飽きずに、アレクは欲望を吐き出していた。
「あ?……リ、リュキ……アン……あの、……、ご、ごめん…………なさい」
わたしの手が白く汚されてる。
それを見て申し訳なそうに謝るアレクに、わたしは心底愉しくて、にちゃにちゃと、わざと音をさせながら動かして微笑む。
「一緒に来てくれるよね、アレク」
やばい。
言いながらわたしは、首を振られたらと考えただけで、不覚にも泣きそうになってしまった。
「う、うん。ぼ、ぼく、リュキアンと一緒にいく」
こくこくとアレクが何度も頷く。
この日わたしは、何度も何度も泣かせたこの子に、初めてぼろぼろに泣かされた。
十年後―― アレクは燎原の炎帝と呼ばれ、大陸中にその勇名・悪名を轟かす事になる。
終わり
中世ファンタジースレのほうがよかったんじゃね?
リュキアンがお姫様なのでは?
>>71-74 >>107-112の続きを投下します。
ずいぶん間があいてしまったので、一応あらすじ解説を。
隣国の王子との政略結婚を控えたオルエッタ姫の寝室の窓辺に
リベルトという美しい金髪の衛兵が忍んで来ました。
恋心を燃え上がらせ、愛を誓い合った二人は、駆け落ちの約束を……
そして駆け落ち当日の話でございます。
翌日。
オルエッタのその日の行事は、自分を磨き上げることだった。
持参物や婚礼衣装などの支度は既に完了しているため、
3日前といえどもあわただしい雰囲気にはならない。
オルエッタは何人もの侍女の手で風呂に入れられて肌を磨かれ髪を洗われ、
身体のすみずみ、髪の一本一本にまで高価な香油を擦り込まれた。
昨夜の痕跡が見つかりやしないかと彼女はひやひやしたが、
幸いにもリベルトは彼女を壊れ物のように大切に扱っていたようで、
繊細な肌は純白に輝くのみであった。
輝くように美しさを増した王女を、侍女たちは口々に褒めそやし、
彼女を娶るアルフォンソはいかに幸福であるかを力説した。
オルエッタは王子の名が耳に入るたびに罪悪感で胸が締め付けられ、
ついにはその大きな瞳から一筋の涙をこぼしたが、誰もそれを気にしてはいなかった。
侍女たちは父母やこの国との別れが辛いのだろうと得心し、
アルフォンソの良い噂を何倍にも拡大して彼女に語って聞かせたのだった。
*
そして夜。
オルエッタは落ち着かぬままリベルトを待った。
彼女は昨夜と同じ寝巻きを身にまとっていた。
リベルトに動きやすい格好でいるようにと言われたので、これを選んだのだ。
それが城の外の人々の目にどれだけ奇異に映るかなどということは、
世間知らずの彼女には知る由もなかった。
オルエッタは意味もなく室内を歩き回り、荷物の入った袋を何度も確認した。
余計なものは一切持たぬように、と言われているのでその袋には聖書と十字架、
父母から授かったこまごまとした物だけを入れてある。
それが彼女にとって最も大切なものだった。
確認するたびに涙がこぼれてしまう。
オルエッタは急いで袋を閉じ、床に跪いて親不孝を懺悔した。
どのくらい時間がたったろう。
天窓が外から叩かれる小さな音を耳にして、彼女は急いで立ち上がった。
ガラスのむこうにあの金色の髪が輝いている。
オルエッタは袋を抱え、衣装棚によじのぼろうとした。
しかし、慣れぬ荷物を抱え、気のはやった彼女は足をすべらせてしまった。
袋はどこかへ吹っ飛び、オルエッタは盛大に尻餅をついてしまう。
「大丈夫ですか?! オルエッタ姫!」
天窓が外から開き、リベルトがすべり込んでくる。
今宵は天窓の掛け金をおろしていなかったのだ。
彼は昨夜と同じようにふわりと床の上に舞い降り、オルエッタを助け起こした。
「ああ……リベルト……!!」
オルエッタは青年にしがみついた。
その姿をどれほど待ちわびたことか。
リベルトは今宵は衛兵の甲冑ではなく、平服を身にまとっている。
軟らかい布を通して互いの肌の感触が伝わってきた。
ふたりはどちらからともなく自然に唇を重ねた。
口腔内で舌が絡み合う。
オルエッタはたどたどしいながらも精一杯その舌を絡み付けた。
濃密な時間が過ぎ、ふたりはうっとりとしたまま唇を離した。
オルエッタは立ち上がろうとしたが、リベルトはそれをゆるさなかった。
彼は王女の寝巻きの袷を開き、腕を差し込んでその肌をまさぐった。
昼間に侍女たちが磨き上げた甲斐あって、
オルエッタの肌は昨夜以上にしっとりと滑らかに彼の掌に吸いついており、
天の花園へ彼をいざなうかのようにかぐわしい香気が全身から立ち上っている。
リベルトは炎に魅入られた夏虫のように我を忘れてオルエッタの身体を求めた。
オルエッタは舶来物の厚い絨毯の上に押し倒された。
あれよあれよという間にその肌から寝巻きが奪い去られる。
「待って、リベルト!どうしてしまったの?!」
驚きのあまり抵抗する王女に、リベルトは昨夜のようににっこりと微笑みかけた。
「大丈夫です。私にお任せください」
その言葉と、まっすぐに見つめてくる青みがかった灰色の透きとおる瞳は、
彼女にとってもはや魔法も同然だった。
「本当に……?でも私、こんなところは嫌よ」
リベルトは頷いてオルエッタを抱き上げ、ベッドへと運んでいった。
――大丈夫よね。あなたにすべて任せていればいいのよね――
オルエッタは全身から力を抜き、彼にすべてをゆだねていた。
リベルトは王女の全身を撫でさすり、夢中になって唇を這わせた。
引きちぎらんばかりに急いで自分の衣服を脱ぎ捨て、
全身で絡み付いて王女の肌を堪能する。
二晩目だというのに新しい女を抱くかのような新鮮さがある。
みずみずしく透きとおる肌は昨夜以上の感動を彼にもたらしていた。
オルエッタはただただ甘く切ない吐息を紡いだ。
一心に求められることが嬉しく、自らの興奮も高まっていく。
与えられる愛撫が恥ずかしくも愛おしく――
「待って!そんなところ……駄目よ!!」
気付いた時にはリベルトの頭が彼女の内股にもぐりこんでいた。
香油の高貴な香りに、少女独特の甘くさわやかな体香が混ざり、
恋多き貴婦人たちの愛用する媚香もかくやというほどの扇情的な馨りがたちのぼっている。
リベルトは憑かれたようにそこを求めた。
オルエッタは下腹部に手を伸ばし、必死で秘部を隠そうとした。
しかし小さな白い手はいともたやすく青年の手に引き剥がされてしまう。
「恥ずかしがらないで。オルエッタ。私にお任せを」
リベルトは得意の台詞を口にした。
いつのまにやら呼び捨てにされていることにオルエッタが気を取られているうちに、
髪と同色の薄い茂みがかきわけられ、ふっくりとした双丘が押し広げられる。
「ああっ!駄目!まって…ああ…あぁぁ……」
珊瑚朱に輝く唇を突いて、切ない喘ぎ声が次々とこぼれた。
頬に血がのぼり、真っ赤になっていることが鏡を見なくても分かる。
小さな肉芽が唇に吸い付かれ、舐り上げられて口中で玩ばれた。
舌が花弁の奥深くに沈められ、滴る蜜を舐めあげた。
生まれて初めて与えられた途方もない快楽に、わけもわからない衝動が身体の奥から沸いてくる。
奏でられる淫靡な水音も、どこかぼんやりと耳に伝わってきていた。
さざ波のようにここちよく揺さぶられる快感に
オルエッタがようやく慣れようとしたとき、それは不意に中断されてしまった。
「あ……」
喘ぎではなく落胆のため息が口をついて出てしまい、
なんとはしたないことかとオルエッタはあらためて顔を赤らめた。
しかし、そんなことを悠長に思い煩う余裕は与えられなかった。
ぼうっとしている間にオルエッタの小さな身体がひっくり返されてしまった。
「えっ?!何をするの……?待って!!」
細腰を掴まれてずるずると引きずられ、彼女は思わず抗議の声をあげた。
「リ、リベルト!だめ!……ああっ!!」
白く丸い小ぶりの尻に硬いものがあてがわれたかと思うと、
それは間髪を入れずずぶずぶと彼女の体内に侵入してきた。
「いやぁっ!痛いわ!やめて!!」
しとどにあふれていた蜜に助けられ、リベルトは一気に最奥まで貫いた。
いくら濡れているといっても、昨日今日の話だ。
王女の身体はまだ男に慣れておらず、昨夜の傷口が開いて同様の痛みが彼女を苦しめていた。
「ち、力を抜いて……大丈夫です。はあ、はあっ……私に任せて」
しかし、興奮しきった声は魔法の響きを帯びてはいなかった。
オルエッタはその言葉に従おうとしたが、痛みは去らず、我慢できずに何度も呻いた。
それを嬌声と勘違いし、リベルトはさらに興奮を高めて欲望のおもむくままに腰を叩きつける。
昨夜と同じことのはずなのに、どうして今宵はこうも苦しく感じられるのか。
獣の体勢を取らされる羞恥と誇らしさのかけらもない容赦ない痛みに耐えられず、
オルエッタの瞳から幾粒も涙がこぼれ落ちた。
しかし、王女の涙はリベルトからは伺いようもなかった。
「ああ、オルエッタ。私のオルエッタ!」
彼は何度もその名を呼び、支配欲を充たした喜びに酔っていた。
未成熟な肉襞は昨夜と変わらず彼のものをきつく締め上げており、
腰の動きが早まるにつれてさらなる快楽をもたらして彼を限界へと導いていった。
「ああ!愛しております……」
その言葉が虚しく響いたことも知らず、
リベルトはオルエッタの背に覆いかぶさると、勢いよく精を解き放った――
行為を終えると、リベルトは満足したように眠りに落ちてしまった。
「起きて……ねえ、起きて頂戴!リベルト」
オルエッタは小声で何度も呼びかけてリベルトを小さく揺さぶったが、
彼はうるさそうに何やらむにゃむにゃと寝言をつぶやくと、その手を払いのけてしまった。
「どうすればいいの……」
不安のあまり、オルエッタの大きな瞳からは涙がとめどなく溢れ出した。
*
ベッドに朝日が差し込み、オルエッタはあわててはね起きた。
いつの間にか眠ってしまっていたのだ。
「リベルト!朝よ!」
彼女は隣に眠るリベルトを再び揺すったが、あいかわらず彼は眠りこけていた。
だるそうに寝返りをうつと、下腹部に手を伸ばしてぼりぼりと掻きむしる。
そのいぎたない姿を目にして、オルエッタは呆然とした。
朝日のなかでよく見れば、額は広いし頬はあばたの痕だらけだ。
鼻筋は通っているが鼻尻は妙に広がっている。
あんなに綺麗に輝いていた金髪も、所々痛んでぱさぱさに乾いていた。
吸い込まれそうだった魅力的な瞳は、
目やにのこびりついた瞼の奥に隠れて今は見ることができない。
――ほんとうにこれが昨夜のリベルトなのかしら――
オルエッタはため息をついてベッドから降りた。
部屋じゅうの窓を開け放す。
早朝のすがすがしい空気が流れ込み、けだるげな交情の気配を運び去っていった。
オルエッタは寝巻きを脱ぎ、タオルを水にひたして身体を清めた。
ドレスの下に着用する裾の長い長袖の下着に着替える。そこから先は侍女たちの仕事だ。
鏡に映る自分の顔を見て、思わずため息をつく。
腫れ上がった瞼と泣きはらした真っ赤な瞳は、とんでもない醜女のようにオルエッタの目に映った。
支度の整ったオルエッタは、ふたたびリベルトを起こしにかかった。
早くしなければ侍女が自分を迎えに来てしまう。
「リベルト、起きて!起きなさい!!」
必死の形相で男をゆする。
ついにリベルトの瞼が開いた。
「……ふゎあぁぁ、……おや、オルエッタ姫……」
彼が大あくびとともに寝ぼけ眼をこすった瞬間、寝室の扉がノックされた。
「おはようございます。姫さま。洗顔の水をお持ちいたしました」
オルエッタは息を飲んだ。教育係であり、侍女頭もつとめるアガタの声だ。
「待って!アガタ!」
必死にさけぶ。
「いかがなさいましたか?姫さま」
アガタの声が怪訝そうな響きに変わる。
「わ、私、泣きすぎてひどい顔になってしまったの。こんな顔誰にも見せられやしないわ!」
「何をおっしゃいますか。本日は朝から王族や貴族の方々のご祝辞をいただく予定なのですよ」
「ええ、少し待ってくれたらすぐに参るわ。だから、開けないで!」
言いながらオルエッタはリベルトをつきとばし、ベッドから蹴り落とした。
幸いにも石造りの上に厚い絨毯の敷かれた床は、鈍い音をかすかにひびかせただけだった。
腰をさすりながら起き上がろうとするリベルトを睨み付けて制し、
唇の前に指を立てて黙って隠れているようにと促す。
「姫さま!いつまで子供のつもりでいらっしゃるのですか。
あなたは明日には嫁がれるのですよ。よろしいですか?開けますよ」
オルエッタがリベルトの衣類を拾い上げ、ベッドの向こうに投げ込んで扉の正面に立ったのと、
神経質そうな中年女性が顔を覗かせたのはほぼ同時だった。
アガタはうさんくさそうな表情でオルエッタの肩越しに室内を見回した。
ベッドの寝具が乱れているくらいで、特に変わった様子はない。
「ごめんなさい……アガタ……」
かわいい女主人が上目遣いに彼女を見上げていた。
「オルエッタさま、私の目にはいつもとお変わりなく見えますよ。少しお目が赤いだけではありませんか」
「いいえ……ひどい顔だわ」
アガタは小さくため息をついた。
「分かりました。ここに井戸から汲んだばかりの冷たい水をご用意しておりますから、
少しお冷やしになってください。お召し替えの侍女たちには今しばらく待つように言っておきます」
「ありがとう。落ち着いたらすぐに行くわ。大好きよ。アガタ」
アガタは苦笑した。この甘えん坊の姫君にはいつもかなわない。
「そうそう、その寝具をきちんと整えておいてくださいましね。
あなたももう大人なのですから、身の回りのことくらいはご自分でなさらないといけません」
得意のお説教を口から紡ぐと、彼女は水差しを王女に手渡して静かに扉を閉めた。
アガタの足音が遠ざかるのを聞き、オルエッタは大きく安堵のため息をついた。
冷水を陶器の盥にあけてタオルをひたしなおすと、それを瞼に押し当てた。
ベッドのむこうでリベルトがのっそりと起き上がっている。
「オルエッタ…姫さま……」
なんともきまりの悪そうな顔で彼は頭を掻いた。
「いいこと、リベルト。私の支度が終わったら侍女たちがこの部屋を整えに来るわ。
それまでにはこの部屋を出ておいてね。決して見つかっては駄目よ」
オルエッタは片手で見苦しくない程度にベッドの上を整えると、くるりと踵を返した。
その背中にむけてリベルトの片手があがったが、もちろん彼女には見えなかった。
オルエッタはそのまま次の間へと出て行ってしまった。
*
リベルトは見つかることなく逃げおおせたらしく、結局何の騒ぎも起こらなかった。
オルエッタは予定通り――彼女にとっては予定に反してなのだが――つつがなく
その日の行事を終えることができた。
そしてまた夜。
天窓のガラスはふたたび外から叩かれた。
リベルトだ。
しかし、それに応えるものは何一つなかった。
オルエッタは天窓の掛け金をおろし、
ベッドの天蓋をぴっちりと閉じてその中に一人とじこもっていた。
「オルエッタ姫、お開けください。リベルトです。」
オルエッタは枕を抱きしめ、息を殺して身を固くした。
「オルエッタさま!お開けください!今宵こそ本当にお迎えに上がりました!」
声も音も少し大きくなる。がたがたと窓枠を揺する音も聞こえた。
オルエッタは応えなかった。枕に顔をうずめ、両手で耳を塞ぐ。
窓を開けてしまえば、意思の弱い自分はきっと流されてしまう。
――ごめんなさい、リベルト。本当にごめんなさい――
涙がとめどなくあふれ、すぐに枕に吸い取られた。彼女は心の中で何度も謝った。
*
そのまた翌朝。
晴天にめぐまれた都の街路は大勢の民衆で埋め尽くされていた。
婚礼の華やかな行列と、嫁いでしまう美しい王女を一目でも見たいと
都じゅうの、さらには周辺の町や村の住民までもがすべてそこに集っていた。
家々の屋根にまで人が鈴なりになっている。
やがて、高らかにラッパの音が鳴り響いた。
楽隊を先頭に、婚礼の行列が進んでくる。
国境まで王女を送り届け、隣国の王子の一行に引き渡すための行列だ。
きらびやかな白銀の甲冑を身にまとった近衛兵の整然とした隊列に護られ、
王家の人々を乗せた屋根のない馬車が何台も進む。
先頭の馬車は国王夫妻。
堂々とした体躯を誇る壮年の国王と、年を召しても美しく輝くその后が
穏やかな笑みを浮かべて手を振っている。
その後ろにオルエッタの兄姉を含む、近しい王族たちの乗った馬車が続く。
そして、その次こそが人々の待ち望むオルエッタ姫の乗る馬車だ。
白く塗られた優美な馬車は、数々の浮き彫りと銀箔で彩られ、
花嫁にふさわしい華麗さと清らかさを演出していた。
嫁いでゆく姫は、純白のドレスを身に纏い、
群集の歓呼の声に応えて愛らしい笑顔を精一杯ふりまいていた。
高く結い上げられた赤褐色の髪は日の光を浴びて金の冠に負けじと輝き、
大きな緑の瞳の輝きの前には、身につけられた宝石の類もくすんで見えるほどだ。
民衆は美しい王女との別れを惜しみ、何度もその名を叫び、激しくその手を振り続けた。
王女の晴れ姿を、アガタは深い感慨をもって後続の馬車から眺めていた。
彼女はオルエッタについて隣国の宮廷にあがることになっており、別れの寂しさとは無縁だ。
それだけに王女の成長を素直に誇らしく感じられる。
昨日までは何かとめそめそと弱音を口にして周囲の者を煩わせていたが、
今朝、彼女らの前に姿をあらわした王女は瞳に強い決意を秘めていた。
この国との別れの儀式も滞りなく勤め上げ、今はこうして堂々と民衆の声に応えている。
――姫さまは芯の強い立派な大人に成長あそばされたのだ。
これも私の教育が良かったからに違いないわ。心からお遣えした甲斐があったというもの――
アガタはハンカチでそっとうれし涙を拭い、王女の後姿を眺め続けた。
誰も彼もが浮かれる中、近衛隊長のファン・ミゲルは、
苦虫を噛み潰したような顔で自慢の髭を震わせていた。
部下の一人が無断で欠勤したため、隊士の華やかな行列に穴があいているのだ。
興奮しきった民衆の目には留まっていないようだが、久々の晴れ舞台にけちがついた。
祭祀を取りしきる文官には、後日ねちねちと厭味を言われるに違いない。
よく小さな失敗をしでかす男だが、今まではその陽気さに免じて許してやってきた。
しかし今回こそはそうはいかない。
――あの若造、かならずや降格にしてくれる!――
ファン・ミゲルは心の中で金髪の部下を激しく罵った。
*
婚儀はとどこおりなく行われ、オルエッタは晴れて隣国の王子アルフォンソの后となった。
彼女の愛らしさはアルフォンソだけでなく、その家族、宮廷人、さらに民衆までをも虜にした。
その容姿だけでなく、配慮の行き届いた思慮深い行動が彼らの心を捉えたのだった。
オルエッタとアルフォンソは何人もの子をもうけ、幸せな家庭を築いた。
王妃となってからも、彼女は夫を支え、子供たちを立派に育て上げ、
皆から愛されて幸せな人生を送った。
オルエッタのその聡明さが、彼女の胸の奥に眠る
ほろ苦くもかすかに甘い経験によるものだということを知る者は他にいない――
*おしまい*
以上です。
八方丸くはおさまってないけど不幸になった人はいないので許してくださいな。
いや、良い感じにまとまってて良いと思った。
なんかどっかの国で1人位はこんな体験をした王妃が本当に居そうな気がするw
>>413 GっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっJ!!!!!!!!
>>413 面白かったです
しかしリベルトの奴、とんでもないヘタレ野朗でしたなw
まあともかくお姫様が幸せ?になってくれて良かったです
正直言うと、1回目・2回目の投稿の時にこれでオルエッタがリベルトと
末永く幸せに暮らしましたとさ!だったらつまらん話と思ってたんだよね。
しかし、リベルトの底が浅い身の程知らずの奴という設定が生きて
こんな皮肉な結果となったとは!2人の浅はかさが前フリだったとは!
文章も端整だし良作ですな、楽しませてもらったよ…ありがとう。
>>413 GJ!!
今までの姫スレになかった展開で面白かった。
また何か書いてください。
>>413 面白かった!GJ!!
しかしオルエッタとアルフォンソの初夜は大丈夫だったのだろうか、と邪推してしまう…
リベルトのモノが小さいから問題なかったとかか!?( ゚д゚ )
必ずしも出血するものではないんだから、
本人が黙ってたらばれんと思うけどなあ。
相手がそういうの気にする性質だったら
聞かれてごまかす演技力はいると思われ
自分の経験だと最初数回は痛かったから
普通に痛そうにしてればバレないと思う。
エロパロスレで処女出血なんぞ今更…現実に当てはめてもな。
自分の経験を語られてもナンカナー
城の庭園は、一年で一番よい季節を迎えていた。
そろそろ保守。
庭の一角には東屋が設けられていて、そこから広い庭園が一望できる。
芝生は鮮やかな緑色に輝き、各所に配置された花壇には、色とりどりの草花が、
今を見ごろと咲き誇っている。その中心には噴水があった。
設計者のもくろみが効を奏し、庭全体が一つの幾何学的文様となって、見るものの目を楽しませる。
東屋のベンチに腰掛け、少女は本を読んでいた。
金色の髪を左右ひと房ずつとって、水色のリボンで束ねた少女は、
片方のリボンが解けそうになっていることにも気付かず、熱心に活字を追っていたが
近くでさえずっていた小鳥たちが、いっせいに飛び立つ音に驚いて目を上げた。
そして、こちらに近づいてくる背の高い男の姿を見つけると、瞳を輝かせて立ち上がった。
「エリス!おにいさまだわ!」
少女は並んで座っていた女性に声をかけると駆け出した。
「おにいさま!いつお帰りになったの?」息を切らしながら少女が言う。
「さっきだよ。しばらく見ないうちにずいぶん大きくなったね」
年の離れた兄は少しかがんで妹を抱えあげた。
「ちゃんといい子にしていたかい?」
少女が大きくうなづくと、金色の巻き毛も一緒に揺れる。
「おにいさま、もうどこにも行かないで」
「ああ」兄は妹に笑顔を向けた。
「どこにもいかない。もう赤ちゃんじゃないんだから、人前で泣いたらみっともないぞ」
「だって」少女は、兄の首にぎゅっとしがみついた、「だって、さびしかったんだもの」
一年前、周囲が急に慌しくなったかと思うと、理由も告げず、短い別れの挨拶だけを残して、
大好きな兄は突然外国に旅立ってしまった。
少女にとって兄のいない一年は、想像を越えたあまりにも長い時間だった。
その一年がようやく過ぎ、兄が戻ってきたのだ。
兄は妹の頭を優しく撫でた。
その拍子に、兄の指に絡まった細いリボンは、ほどけて地面に落ちた。
兄は、妹を降ろし、リボンを結びなおして言った。
「お前にお土産があるんだ。後で私の部屋においで」
部屋に入ってきた可愛い侵入者に、長いすで、だらしなく横たわっていた男は急いで身を起こした。
「お兄さまおひとり?誰もいないの?」妹はきょろきょろと部屋を見回した。侍従達の姿がどこにもない。
「ああ、ちょっと考え事をしたくて――」
しかし、少女はもう別の事に興味を移していた。「おにいさま、おみやげは?」
「相変わらず現金な奴だ」兄は立ち上がって笑うと、金箔で美しく装丁された本を取り出した。
「これだ。外国の珍しい話がたくさん載っている。お前の好きな魔法使いの話もあるぞ」
魔法と聞いて少女は瞳を輝かせた。
「ありがとう、おにいさま」妹は兄の首にすがりついて頬にキスした。
「おいで、ここに来て昔みたいに私に読んで聞かせてくれ」兄は長いすに座ると妹を膝に乗せた。
妹は表紙を開き、ゆっくりと読み始めた。
「むかしあるところに、竜にとらわれたおひめさまがいました。ねえ、おにいさま」
少女は振り返った。
「なんだい」「竜ってみたことある?」「いや、兄さんは見たことない」
「ほんとにいるのかしら」「きっといるよ、本にもそう書いてあるだろ。たぶんどこか遠い外国にいるんだ」
兄は妹の柔らかな髪を撫でた。兄の大きな手で撫でられると少女はいつも安心するのだった。
「竜は、日が暮れるとやってきて、朝日がのぼるまえにどこかへ行ってしまうのでした。
おひめさまは、竜がどこへいくのか知りたくなりました。そこで、いち――」
「いっけいをあんじた」
「いっけいをあんじたおひめさまは、竜が眠っているすきに、こっそり竜の足に
とりもちをつけることにしました。何も知らない竜は――」
本に夢中になっている間に、ひざを撫でていると思っていた兄の手が、思わぬ場所に
移動していることに気付いた妹は、読むのをやめて兄の顔を見あげた。
「続けて」兄は何事もなかったかののようにやさしく微笑んだ。
兄を信頼しきっていた少女は何の疑問も抱かなかった。
「何も知らない竜は、そのまま――」
下着の上からさわさわと指が動き、くすぐったいような感覚が続く。
少女の意識はついつい本から遠のいてしまう。
「どうした、続けなさい」
「そのまま、飛び立っていきました。翌日、戻ってきた竜が――」
「いい子だ、続けて」
「戻ってきた竜が……、眠るのを待って……、おひめさまは……、おひめさまは――」
突然、兄は妹を膝から降ろし、浴室へと駆け込んだ。
一人残された少女は、本を取り落としたのにも気付かず、両手でどきどきとする心臓の鼓動を抑えた。
しばらくすると兄は戻ってきて言った。「ロウィーナ、続きはまた今度だ。もう部屋に戻りなさい」
終
↑兄2/2です。
タイトルまちがえた。申し訳ない。
イヴァン好き・・・・・ウットリ
前回いろいろ間違えてすいません。1行目と2・3行目逆でした。訂正してお詫びします。
翌日、ロウィーナは兄の部屋を訪ねた。
昨日と同じように、たった一人で部屋にいた兄は自ら妹を招き入れた
「サラがおにいさまがお呼びですっていったの」
侍女に言われて来たのだと、ロウィーナはためらいがちに言った。
「せっかくのお土産を忘れていっただろう。要らないの?」兄は片手で本を掲げた。
「ごめんなさい、おにいさま」
昨日ロウィーナは、部屋を出たとたんに本を忘れたことに気付いた。
しかし一度閉まった扉をなぜか開いてはいけない気がして、そのまま自分の部屋に戻ったのだった。
あの時、ちゃんと受け取っていればよかった。
せっかくの心遣いを無駄にして兄をがっかりさせてしまったと考えたロウィーナは必死に弁解した。
「お土産はとってもうれしかったの。でも、わたし、うっかりして。ほんとよ、ほんとにうれしかったんだから」
「もういいよ。怒ってないから」「ほんと?」「ああ」兄がにっこり笑ったのでロウィーナは安心した。
「さあ、昨日の話の続きを聞かせてくれ」兄はロウィーナの手を引き、昨日と同じように抱きかかえた。
「どこまで読んだかな」「竜が眠ったところまでよ」「じゃあ、その続きを読んで」
ロウィーナは本を開いて読み始めた。
「戻ってきた竜が眠るのを待って、おひめさまは竜の足をたしかめました。
すると、そこには――、あっ!」
昨日と違って兄の手がいきなりスカートの中に侵入してきたので、ロウィーナは思わず声をあげた。
「どうした」「だって……」ロウィーナはなんと言っていいかわからなかった。
そんなところを触るのは、はしたないことだと教わったのに。やめてくれと言っていいものだろうか。
「お前が、大好きなんだ。だからこうしていたいんだ。嫌か?」
ロウィーナは、これ以上大好きな兄を失望させたくなかった。「いやじゃ……、ないわ」
兄の指はゆっくりと、だが休みなく動いている。
ロウィーナはもぞもぞと身体を動かした。「でもちょっとくすぐったい」
「じっとして、ほら、本がずり落ちそうになっている」
ロウィーナは慌てて本を抑えた。
その隙に、兄の指は下着の中に侵入して乾いた粘膜をこすった。
摩擦の痛みにロウィーナが思わず悲鳴をあげる。
「ああ、ごめん。やっぱりまだ無理だったか。ちょっと待っていなさい」
「実はもう一つお土産があるんだ」兄は小さな壜を取り出した。
「それはなあに?」ロウィーナの目は、怪しく光る紫色の小壜にくぎ付けになった。
「魔法の薬だ」秘密めかして兄は言った。「なんの魔法?」「知りたい?」
ロウィーナは期待に胸を膨らませてうなずいた。
「じゃあ、僕の言うとおりにするんだよ。まず、椅子の上に立って」
ロウィーナは言われた通り椅子の上に立って、兄が壜の蓋をあけるのをまんじりともせずに見入った。
「次は下着を脱いで」「え?」さすがにロウィーナも躊躇した。「脱がなくちゃだめなの?」
「どうしても必要なんだ。薬の魔法を試してみたくないのかい?」
魔法と言う言葉の誘惑に負け、ロウィーナは下着を脱いだ。「これでいい、おにいさま?」
「よしよし、じゃあ、足を開いてしゃがむんだ。もっとスカートの裾を持ち上げなさい」
「いやだ、こんなかっこう」猥雑な姿勢を取らされたロウィーナは顔を赤くして言った。
「しっ、静かにしないとと魔法の効果が薄れてしまう」兄は、神妙な面持ちで言った。
「目をつぶって」「いつまでこうしてればいいの?」
「いいというまでだ。絶対に目を開けるなよ。目を開けたら呪われるぞ」
妹がぎゅっと目をつぶるのを確認すると、兄は壜を傾け、どろりとした液体を掌にたらした。
「やん!」冷たい感触が股間に触れてロウィーナは思わず声をあげる。
「こら、静かにしないか。今が一番大事なところなんだぞ」
兄は溝に沿って丹念に薬を塗っていく。慣れないぬるっとした感触にロウィーナは唇をかんで耐えた。
「まだ目を開けるな。絶対に開けるなよ」
目の前に幼い妹のあられもない姿がある。
一国の王女ともあろう者が言われるままに足を開き、惜しげもなく陰部を曝しているのだ。
未成熟なそこは、兄の塗った薬のせいで、ぬらぬらと隠微な光を放っていた。
兄はその光景を堪能しつつ、これから彼女の身に起こるであろうことを想像して、自分の肉棒をしごいた。
「おにいさま?」兄の荒い息遣いが聞こえてきて不安になったロウィーナが言った。「どうかしたの?」
「だめだ、しゃべるな。呪われたいのか」
目の前で実の兄が何をしているか知ったら、ロウィーナはどんな顔をするだろうか。
兄の息はだんだん大きくなった。
やがて、不安な気持ちで待つロウィーナの耳に、遠ざかっていく足音とばたんというドアの音が響いた。
長い静寂をロウィーナは耐えた。しかし、いつまでたっても兄は何も言ってくれない。
「おにいさま?」返事がない。ロウィーナはこらえきれずに薄目を開けた。兄の姿はどこにもなかった。
魔法が失敗したのかもしれない。もしかしたら、私のせいで、おにいさまの身に何かが――。
「おにいさま、どこ?」ロウィーナは泣いて兄の姿を求めた。
すぐに浴室から兄は姿を見せた。
「ロウィーナ!あれほど言ったのに!」
「ごめんなさい、ごめんなさい」ロウィーナは兄にすがって泣きじゃくった。
「いつから目を開けてたんだ!」「さっき。よんでもお返事がないから、わたし、そしたら、おにいさまがいなくて」
「わかった。泣かなくていいから」兄はほっとしたように言うと、ロウィーナを抱き上げた。
「どうしよう、呪われてしまったわ」ロウィーナは泣き止まない。「どうしよう」
「泣かないで、ロウィーナ。兄さんがついているから大丈夫だよ」
兄になだめられようやく落ち着いてきたかのようにみえたロウィーナは、
肩で大きく息をし、色っぽいため息をついた。
「どうしたんだい」「お薬をぬったところがあついの」ロウィーナは潤んだ瞳で言った。
「わたし呪われて死んでしまうのかしら」
「見せてごらん」ロウィーナは素直にスカートをめくった。
「これじゃ良く見えないな。椅子に座って」
兄はロウィーナの膝を立てると、頭をうずめてじっくり観察した。
「大変だ!」「どうしたの!?」
「やっぱりお前は呪われてる」「どうしよう」
「心配しないで、兄さんがおまじないをしてやる」
ぷっくりとした割れ目を開いて、指先をもぐりこませる。
「まだ痛い?」ロウィーナは首を振った。
兄の指がゆるゆると動くと不思議な感覚が身を包む。
「なんだかへんなきぶん」ロウィーナはとろんとした目で兄を見た。
「きっと魔法のせいだ。いい子だ。兄さんはおまじないを続けるから、お前は続きを読みなさい」
ロウィーナは本のことをすっかり忘れていた。
「でも」「兄さんはお話の続きが聞きたいんだ。それにこの魔法は少し時間がかかる」
「どのくらい?」「話を読み終える頃には魔法の効果が現れる。お前はきっと驚くぞ」
兄に催促され、彼女はぼうっとした頭で懸命に活字を拾った。
「するとそこには――」「お前は本当に兄さん思いのいい子だ」丹念に指を這わす。
「するとそこには、絹の布がついていました。おひめさまはその布を竜に……、
み、みつからないように」徐々にロウィーナの息が上がってきた。
「大切に……、しまうと……」途切れた文章の合間に切なげな吐息が混じる。
「お前はなんて可愛いんだ」小さな突起を執拗になで上げると、それにあわせるかのように
ロウィーナの息が漏れる。
指先に薬以外の感触を得て、兄の指は小刻みに動いた。
「じ、自分の髪の毛を……一本抜いて……抜いて……」ロウィーナの体がぴくりと硬直した。
「いや」そして逃げ場を求めるように身をよじった。
「いやあ!ああん!あああんん!」
最後に大声をあげてロウィーナは兄にしがみついた。抱きとめた体はがくがくと震えている。
兄は驚愕で目を見開いたままのロウィーナの額に口付けた。
「よしよし、いい子だ」兄は妹の頭を撫でた。「いい子だ」
言葉も出せずに、ロウィーナはぐったりと身を預けた。その髪を兄は撫で続ける。
「どうだ、すごい魔法だっただろう?このことは誰にも言ってはいけない。わかったね。もししゃべったら兄さんは死んでしまうからね」
「おにいさま!」穏やかならぬ事態にロウィーナは焦った。「死ぬってほんとう?」
「大丈夫だよ。お前が何も言わなければいいんだ。兄さんが好きかい?」
「好きよ。大好き。おにいさま、死んじゃいや」
「お前が言わない限り死なないよ。兄さんのことが好きなら誰にも内緒にするんだよ」
「わたし、ぜったいだれにも言わない。約束する。神様に誓うわ。だから死なないで、おねがい」
「いい子だ。ロウィーナ」
終
帰り際に兄は言った。
「おまじないの続きがあるから、明日も来なさい。本も忘れないように、いいね」
終
一週間ほど書き込めません。
当分続くので、細切れじらしプレイが嫌いな人はあぼん推奨。
433 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/15(火) 21:05:38 ID:DX9g5NnU
圧縮間近でage
エロパロ板、存続決定したみたい
うp見えないヨー
…他に保管庫ってありますか?
前日と違って、兄はロウィーナを長いすではなくベッドの上に座らせた。
「ロウィーナ、兄さんがついている。何も怖くないからね」
兄は妹の髪を撫でて安心させると、まず靴を脱がせた。
そして背中のボタンを外し始めた。「おにいさま?」
「今日は服を脱ぐんだ。全部脱ぐんだよ。さ、手を上げて」
ドレスを脱がし、下着もすべて剥ぎ取ると、兄はロウィーナの額にキスをした。
ロウィーナの肩に、乳首に、臍に、可愛いお尻にも――。
そして立ち上がって言った。「本を読んで」
「どこから」「最初からだ」
言われた通りロウィーナは本を読み始めた。「むかしむかしあるところに――」
「いいぞ、そのまま続けて」
兄が薬壜を持って戻ってくると、ロウィーナは身体を固くした。
「どうした?」ロウィーナはうつむいた。「怖いの?」「うん」
いきなりの快感はロウィーナには刺激が強すぎたかもしれない。
「じゃあ、今日はやめよう。おまじないをするから。続きを読みなさい」
「竜にとらわれたおひめさまがいました。」
兄はロウィーナの背後に回ると、後ろから両手を伸ばして小さな胸のふくらみを確かめた。
しばらく感触を楽しんだ後、妹に見つからないよう小壜の薬を手にとり、乳首に塗った。
「竜は、日が暮れると……あん!」冷たい刺激にロウィーナが声をあげる。
「こら、ちゃんと読まないか」「だって、くすぐったいんだもの」「我慢しなさい」
兄はゆっくりと円を描くように乳首の周りをなぞった。
「竜はどうしたんだ。はやく続きを聞かせなさい」
唇はうなじを這って、耳の後ろで引き返す。
「竜は、日が暮れるとやってきて、朝日がのぼるまえにどこかへ行ってしまうのでした――」
執拗に執拗に兄は同じ場所を攻めた。
小さな乳首は兄の指先で固くなってさらに小さく縮み、先端をぴんと尖らせた。
寝室の壁には大きな姿見がついている。
乳首をつままれ全裸の妹の頬が紅潮して行く様を、兄はじっくりと観察した。
「――おひめさまの……、金色の髪の毛は……、なくなって……、代わりに、いやん」
ロウィーナは身をよじった。
兄はその背中に唇を這わせた。ロウィーナが背をそらす。
「くすぐったいわ、お兄さま」
「いい子だから、我慢しなさい。本当は、気持ちがいいんだろう?」
ロウィーナはうなずいた。「もっと気持ちよくなりたいか?」ロウィーナはまたうなずいた。
「ようし、素直でいい子だ。おいで」「これからなにをするの」
「おまじないの続きだよ。さあ。そこにあお向けに寝て。本を読むんだ。膝をまげてごらん」
「こう?」「いい子だ、ロウィーナ。もっと足を開いて」「こう?」
「そうだ、ロウィーナ、すごく綺麗だよ。いい子だから本を読んで」
「おひめさまの、金色の――」昨日とは違う湿っていて暖かい感触が伝わってきた。
触れるか触れないかの柔らかい感触。
「金色の髪の毛の――」
きのうはこわかったけど、きょうはなんだかきもちいい。ずっとこのままでいたい――。
いつの間にかロウィーナは本を読むのをやめ目を閉じていた。
きもちよくてこのまま眠ってしまいそう。だめよ、ご本を読まなくちゃ。
おにいさまにおきかせしなきゃ。でも、でも――。
「……はぁん」
自分で出した声に驚いてロウィーナは目を開けた。
瞼を開いたその瞬間、兄が股間に舌を這わせている姿が目に入って、ロウィーナは動転した。
「おにいさま!そんなところにお口をつけたらだめ」
「どうして?」「だって、そこは」
「ここはなに」「おしっこするところだもの」ロウィーナは真っ赤になった。
「こら、女の子がおしっこなんて言っちゃいけない」
兄は妹の両足を肩にかけ腰を持ち上げた。
「ごめんなさい、おにいさま。もういわない。ゆるして」
薄いひだを指で押し開く。
「いや、いや、おにいさま、やめて」不安定な姿勢に怯えてロウィーナが暴れたので、
兄は突起の中を思いっきり吸った。
「うわああああああああ」絶叫を上げて、ロウィーナはのけぞり、足をばたつかせた。
「お前がおとなしくしないからだぞ」
そう言うと今度は優しく優しくいたわるように舐めた。
「痛かった?」
はあはあと荒い息をしながら、ロウィーナは首を振った。長い睫にたまっていた涙の粒がこぼれ落ちる。
「兄さんのことが嫌いになった?」
しばしの休息を与えられたかと思うと、敏感になった部分に熱い息がかかって、
ロウィーナは返事のかわりに切ない声を洩らす。
「嫌いなの?」悲しげな兄の声に、ロウィーナはあわてて首を振った。
「……す……き……」絶え絶えの息でようやく口にする。
「これは?嫌い?」
「すき……」「ロウィーナはここを触られるのが好き?」「うん……」
「怒らないから、本当のことを言っていいんだよ。いやなら、やめるから」
「すき。わたし、おにいさまのすることなら、ぜんぶすき。
おにいさまが、すきなの。だから、やめないで、おにいさま。
おにいさま、わたし、すごくきもちがいいの、ほんとよ。
でも、なんだか、へんなきぶんなの。
じっとしていられなくなるの。へんな声がでちゃうの。
わたし、こわい。
わたし、どうしたらいいの。わたし、わたし――」
ロウィーナは、今までためていた感情を一気に吐き出した。
「おにいさまのいうとおりにするから、ロウィーナをきらいにならないで。
おねがい、いい子でいるから、やめないで、
おにいさま。もっとして」
「ああ、ロウィーナ、そんな可愛いことを言うと、兄さんはもう我慢できなくなるよ」
兄はロウィーナの手を張り詰めた股間に導いた。
「ほら、わかるか」
小さな手で触れられただけで爆発しそうな快感が走る。
「キスして」
布越しでも伝わる唇の熱い感触があまりにも心地よく、兄は目を閉じて必死にやり過さなければならなかった。
「ロウィーナ、もういい。続きをしよう」
兄は小壜を取り出し、唾液でべとべとになったロウィーナの陰部にほんの少しだけ媚薬をすり込んだ。
そして、固く閉じた穴に、つま先をほんの少しだけもぐりこませた。
王女はきつく締め付けて、侵入を拒む。
まだだ、ここはその日まで大事に取っておかねば。今日はここまでだ。
兄は、その日を思い描き満足して指を抜いた。
「こわくないからね」そういうと、兄はゆっくりと、時間をかけ、指で快楽を与えつづけた。
そして、この大事な瞬間をひとつとして見逃すまいと、目を凝らしてロウィーナの反応を観察した。
激しい息遣いの合間に、子猫のような短く甘い声をあげていたロウィーナが、急に驚いたように目をみひらく。
昨日と違って兄は手を止めなかった。動けないようにしっかりとロウィーナを押さえつける。
繰り返し襲う、恐ろしい快感から逃れようと、声をあげ、必死にもがいていたロウィーナは、
兄の顔にひと筋の液体を浴びせると、急におとなしくなった。
神々しいまでに淫らな王女の洗礼を、兄は歓喜の表情をうかべて、顔全体で受けとめた。
全身が打ち震えるほどの興奮で満たされる。
兄はぐったりとしたロウィーナをそっと横たえた。
ぼんやりと天井に目を向ける妹の姿を見下ろしながら、兄は自慰を始めた。
すぐに限界が来て、兄は妹の体の上に大量の精液を放った。
清らかな全身を邪悪な肉欲の濁流に汚され、失禁したまま、恍惚として横たわる王女は、
この世の誰よりも気高く美しく見える。
「ロウィーナ、愛している。私の可愛い妹」
私だけの宝物。無垢で淫乱な、私の愛しい姫。
ロウィーナの頬にかかった粘り気のある液体を指ですくい兄は言った。
「ロウィーナ、お口を開けてごらん。そうだ、いい子だ」
儀式のように、兄の指が舌に触れる。
まるで永遠に消えることない印を刻み付けるかのように。
苦い刺激が伝わってロウィーナは顔をしかめた。
兄は妹の額にキスした。「ロウィーナ、兄さんが好きかい?」
「すき」ロウィーナはかすれた声をあげた。「世界でいちばん、おにいさまがすき」
「兄さんもお前が大好きだ。可愛いロウィーナ。
大きくなったら、お前は兄さんのお嫁さんになるんだよ」
「ほんと?」
「本当だ。兄さんが王様でロウィーナがお妃様だ」
兄は、いまだ震えのとまらない未来の花嫁の唇に、誓いの口づけをした。
「二人だけの秘密の約束だ」
ロウィーナを浴室に運び、湯船につけると、皇太子は大声で叫んだ。
「アル!」
どこからともなく男が現れた。
アルと呼ばれた男は皇太子が顎で指示すると、心得た様子でベッドのシーツをはがし始めた。
皇太子が汚れた衣服を脱ぎ捨てると、アルは、それも拾い集めた。
「ほかに御用は、殿下」「ない。もうしばらく誰も近づけるな」
アルは一礼すると、来たときと同じように、どことなく姿を消した。
終
エロい、エロすぎる。
脚と脚の間がじんじんしました。
GJ!
キタ━━━━━━┌(_Д_┌ )┐━━━━━━ !!!!!
(;*´д`*)ハァハァ
リュキアン・アレク
単発物だったのかなあ。
場面切り出しのエピソードがいろいろありそうで
期待していたり。
「だめよ。こんなところで」
壁際に押し付けられ、逃げ場がないサラは、首を横に向けて抵抗を示した。
嫌だなどと露ほども思っていないことは、サラも相手もわかりすぎるほどわかっている。
なのに、決まりごとのように、毎回サラはその一言を口にしてしまう。
首筋に唇が触れると、それだけでサラはあえいだ。「ああ、アル。待ち遠しかった……」
唇を塞がれ、侵入した舌が口の中をかき回すと、サラの手はアルの性器を求めてさまよった。
皇太子の命令で、アルはサラを口説いた。
ロウィーナの姫の侍女で、身の回りの世話を任されているサラは、
始めのうちこそ、アルをさかりのついた獣のように軽蔑した目で見下していたが、
アルが強引に事を進めるとあっという間に陥落した。
いったん関係を持ってしまうと後は簡単だった。
既に婚期も過ぎ、女ばかりの職場で、隠さざるをえない性欲を持て余していたのか、
サラは急に大胆になった。
「お願い、じらさないで、早く来て」尻を突き出してサラはねだった。
壁に手をつき、スカートをたくし上げ、下着を膝までずり降ろした格好は、
日頃の取り澄ました姿からは想像できない。
良家に生まれ、貞淑に育てられたたはずの女が、片手で自分の尻を掴み、もどかしそうに振り返る。
「欲しいのよ。もう我慢できない」
気位の高い年上の女が、身分も恥じらいも、かなぐり捨てて哀願する。
あまり使い込んでいないサラの陰部は、年齢の割に綺麗な色を保っていた。
そこが赤く充血し、溢れんばかりの粘液を吐き出して、きついメスの匂いを発散させている。
ゆっくりとアルは女に近づいた。
アルが脈打つひだの中に、男根をねじ込むと、サラは背骨をそらせて喜びを表現した。
「……もっと……、もっと突いて……、ああ、そうよ、もっと激しく、もっと……」
もう十分時間は稼いだだろう。
通路を挟んだ向かいの部屋で行われている秘め事の進捗状況を、冷静に思い浮かべながら
アルは腰を打ち付けた。
「アル!」主人の呼ぶ声に、アルの身体が離れると、サラは落胆を隠そうともしなかった。
「アルフレッド!」「ただいま参ります!」大声で返事をするとアルは身支度を整え、主人の部屋へ急いだ。
皇太子はアルが遅れてきたことを責めなかった。
アルは、窓を開けて空気を入れ替え、乱れた寝台を整え、部屋を見回した。
ロウィーナは両手を腿の上で組み、長いすに行儀よく座っている。
その口の端に、拭き残した白い液体がたれているのを見たアルは、ハンカチを取り出し、
ロウィーナの前にひざまずいた。
透き通るような白い肌が上気して、頬に細い血管が浮いているのが見える。
「失礼致します」
アルがハンカチで拭おうとすると、ロウィーナは汚らわしそうにその手を払い、
ぷいと横を向いた。
「ロウィーナ」言い聞かせるように兄が声をかける。
兄の顔を見て、ロウィーナはしぶしぶアルの奉仕を受け入れた。
男なら誰でも知っている独特の匂いが、アルの鼻をかすめる。
「少々お待ちを」アルは立ち上がり、銀の皿を持って戻ってきた。
「お召し上がりください」
アルが差し出したチョコレートの皿をロウィーナはけだるそうに見るだけで手が出ない。
ひとつつまんで、アルはロウィーナの口元に運んだ。
「どうか、お召し上がりください」
「ロウィーナ、食べなさい」
兄の声に従うように、赤い唇がゆっくりと開いて、チョコレートとアルの指を受け入れる。
精液の絡まった舌にチョコレートを乗せた瞬間、柔らかい感触がアルの指に触れた。
アルのすぐ目の前で、放心したように一点を見つめたまま、ロウィーナはチョコレートを噛んだ。
柔らかな頬の肉がゆっくりと動き、喉の中央がなまめかしく上下する。
カカオとオレンジの強い香りが広がるのを待ってアルは立ち上がり、
皿をサイドテーブルの上に置くと、振り返った。「殿下、ほかに御用は」
「あとで飲み物を持たせろ。急がなくていいからな。お前ももう少し休め」
にやりと笑みを浮かべて皇太子は言った。
いつでも呼び出しに応じられるよう、身だしなみを整えたサラは、
背筋を伸ばし、顎を上げ、気位の高そうな表情を浮かべで部屋の中央に立っていた。
しかし、アルの姿を見ると、とたんに女の顔に戻った。
「アル、何だったの」「ああ、大した用事じゃない」「じゃあ」
「今日はもうだめだ。今度にしよう」
アルはもうサラを抱く気になれなかった。
「今度はいつ?」「わからない、殿下次第だ」
サラはアルの胸に頬を摺り寄せた。「それまで我慢できないわ。今夜――」
「いけません。ばれたら、二人とも城には、いられなくなる」
サラの肩に手を置いてキスをするとアルは言った。
「それでもいいの。あなたと一緒にいられるなら」
「無理を言わないで下さい。ここをでてどうやって暮らしていくというのです。
私のような男と――」
「言わないで」サラはアルの言葉を遮った。
「いいえ、あなたは、もっと慎重にならなければ」
サラはため息をついた。
いくらアルが出世したところで生まれの卑しさはどうにもできないのだ。
両親は反対して二人を引き離そうとするだろう。
アルの言葉をサラは悲しく聞き入れた。
サラが皇太子とロウィーナ姫の関係に気付いたときは、とき既に遅かった。
実の兄弟で行われているおぞましい行為は、サラをいったん正気に戻した。
「なんということを!はやく止めさせないと。アル、あなた知っていて何故止めなかったの」
「無論止めた。だが、殿下は、私の言うことなど聞いてはくださらない」
「私のせいだわ。私がちゃんと見張っていればこんなことには」
ロウィーナは頭を抱えた。
「とにかく、誰かに気づかれる前に、終わりにしなければ。
当分ここにも来させないようにしないと」
「もう会えないんですね」
アルは、悲しげに言った。
このときサラは、もうこの人無しでは生きていけないと思うほど、アルを愛してしまっていた。
そして、アルの身体のとりこになっっていた。
「わかっているだろうが、ばれたら、真っ先にお前の責任が問われる。
協力してくれれば、お前とアルのことも目をつぶってやる」
知らないあいだに共犯者に仕立て上げられていたサラは、脅迫とも取れる皇太子の言葉に
黙って従うほかなかった。
サラは、口外しないことと協力することを約束させられた。
自分の身を守るため、そして愛しいアルに会うために、サラはせっせと逢瀬の時間を作った。
だが、それは困難を極めた。ロウィーナ姫には常に数人の侍女が付いている。
彼女達に知られないよう、サラは慎重に事を運ばなければならなかった。
最大の難関ともいえるのがバーンズ夫人の存在だった。
ロウィーナがエリスと呼んで慕っているこの女性は、かつて皇太子の乳母を勤めた人である。
病で職を辞した前任者の変わりとして、ぜひにと国王に請われ、
ロウィーナの乳母兼教育係をつとめることになったのだ。
バーンズ夫人は、普段は物静かで、穏やかな人物なのだが、人一倍勘のさえる女性で、
何度かサラは肝を冷やす思いをしなければならなかった。
「姫様」バーンズ夫人は刺繍の手を止め、本を抱えて椅子に座っていたロウィーナに近寄った。
「お顔が赤いですよ」夫人は、ロウィーナの額に手を当てた。
「お熱はないようですね。お疲れではありませんか?」
「なんともないわ。エリス、わたし、ご本のつづきをよんでもいい?」
夫人は、さっきから、ロウィーナ視線が本の同じ箇所をさまよっているのに気付いていた。
「ええ、いいですよ」笑顔で答えると、夫人はサラを別室に呼び寄せた。
「サラ、姫様に何かあったのですか」
「いいえ、何も」「今日はご様子が変です」
「そうでしょうか、私にはいつもとお変わりのないように見えますが」
「そう?」
夫人の視線は拷問のようだった。はやくこの時間が過ぎ去ってくれとサラは祈った。
「今日は何かあったかしら」
「特に何も。皇太子殿下のお部屋で、ご歓談されたくらいでしょうか」
「そうですか。姫様はお兄様がお好きだから、少し興奮されたのかもしれませんね
あまりお疲れにならないように、あなたも気をつけてあげてくださいね」
そう言うと夫人は元の場所に戻って、刺しかけの刺繍を手に取った。
しかし、針を持つ夫人の手は頻繁に止まった。
夫人の怪訝そうな視線がロウィーナに向けられる度に、サラは心臓が止まる思いをした。
結局ロウィーナは、本を抱えたまま眠ってしまった。
「やはり、お疲れのようでしたね」
ロウィーナが寝言で「おにいさま」とつぶやくのを、バーンズ夫人はほほえましく見守ったが、
サラは背筋が凍りつき、耳をふさぎたくなる衝動にかられて、その場から逃げ出してしまった。
終
いつも感想を下さる皆様ありがとうございます。皆様のレスがはげみになっております。
いろんな意味で期待を裏切ることになると思いますが、完結だけはするつもりでおります。
よろしくお付き合いください。
単純な近親は個人的に苦手なんで、変化がありそうでwktk。
続きを楽しみに待ってますよー。
前回分、致命的な誤植を一箇所訂正します。
× ロウィーナは頭を抱えた。
○ サラは頭を抱えた。
皇太子の部屋には、いろいろな女が訪れた。また、皇太子はさまざまな女の部屋に出入りした。
相手は城の女官だったり、貴族の夫人だったり、あるときは外からこっそり呼び込んだ
娼婦だったりした。飽きっぽい皇太子は頻繁に相手を取り替えた。
情事の手配も後始末もすべてアルの仕事だった。
控えの間で、廊下で、時には同じ部屋の片隅で、置物のように存在感をなくして、
アルは主人の事が終わるのを待った。
たとえ目の前に全裸の女が立ちはだかろうと、決して欲情してはならない。
アルはそう自分に言い聞かせて、淡々と職務を果たした。
しかし、新しい相手がロウィーナ姫だと知った時はさすがアルも動揺した。
ようやくほとぼりもさめて城に戻ってこられたのに、帰ってきたとたんにこれでは。
一年前の騒動を思い出して、アルは頭を抱えた。
「夜這いをするぞ」「今度のお相手は?」
皇太子から計画を聞いたとき、アルは自分の耳を疑った。
次に皇太子の悪い冗談だと思った。
皇太子は気まぐれにアルをからかっておもしろがることがある。
「ご冗談はおやめください」
だが、皇太子は本気だった。
「冗談なものか。あの女をものにする」
日頃、口答えはおろか、意見すらしたことのないアルが、初めて主人の言葉に逆らった。
「なりません!殿下、それだけはどうかおやめください」
「もう決めた、決行は明日だ」
「相手がどんな方がご存知ないのですか!」
「よく知っている、この前会ったではないか。お前も見ただろう。実にいい女だ。
それに正真正銘の処女だ」
「当たり前です。神聖な巫女殿になんと罰当たりなことを!」
一週間前、一年の吉凶を占う神託の儀式が執り行われ、
皇太子は体調を崩した王の名代として儀式に出席した。
アルは主人に伴って神殿を訪れた。
祭壇の間に入れるのは王族だけだ。アルは部屋の外で儀式が終わるのを待っていた。
その時彼女が現れた。
儀式の道具を捧げ持った数名の供を連れ、祭壇の間に入場する巫女の姿は、アルを圧倒した。
腰まで届きそうな銀色の髪をし、儀式用の袂の長い衣装を身にまとった巫女は、
この世のものとは思えず、直視するのもはばかられて、アルは思わず目を伏せたのだった。
「巫女だろうが、女には変わりない。ああいう女ほど、実は情熱的だったりする。
昼は虫も殺さぬ顔をして、夜になると、床の上で激しく腰を振って男を食い物にする。
案外、処女というのも偽りかもしれんぞ」
「殿下!どうかおやめください。巫女殿を侮辱すれば、どんな災いが振って湧くかわかりません。
殿下はこの国がどうなってもいいのですか!」
「おまえもあんな迷信を信じているのか。あんなのただの古臭い儀式に過ぎん。
神殿の年寄りどもが、王の機嫌をとるために、都合のいいことを言わせているだけだ。
その証拠にもう長い間も占いは吉としか出ない。
器量のいい若い娘を、巫女として祭り上げておけば、ありがたみが増すとでも思っているんだろう」
皇太子はアルの制止を聞き入れるはずもなく、計画は成功してしまった。
思いを遂げた皇太子は、しばらくの間、巫女の寝所に通い詰めたが、すぐに飽きてしまった。
皇太子が別の女に手を出し始めた頃、巫女が神殿を抜け出し行方不明となって、
ようやく事件は発覚した。
巫女の行方はようとして知れず、前代未聞の不祥事に、王室も神官達も、
事実を伏せようとやっきになった。
その後、神殿近くの湖で身元不明の水死体があがり、損傷がひどく性別すらわからない遺体は、
わずかに残った遺留品から、行方不明の巫女と断定された。
遺体は人目につかぬようこっそり埋葬された。
巫女は流行り病で急死したと発表され、悲しみのうちに新しい巫女が選出された。
そんなわけで、皇太子は表向き見聞を広めるための外遊に出ることになったのである。
いつものように皇太子の気まぐれだろうと、ある程度高をくくっていたアルは、見事に裏切られた
皇太子は、ロウィーナ姫との関係を終わらせるつもりはないようだった。
女遊びは相変わらず続いていたが、以前よりもずっと頻度が落ち、
その分皇太子はロウィーナを文字通り溺愛した。
外遊から戻ったとたん放蕩息子がおとなしくなって、国王も皇太子付きの家臣たちも
皇太子は大人になったのだと胸をなでおろしていたが、
アルだけは、秘密を守るために神経をすりへらす、苦しい日々を送っていた。
寝台に横たわるロウィーナは、まだ興奮冷めやらぬ様子で、天井の一点を見つめている
乱れた息をするたびに上下する腹には、白濁した液体が流れ落ちもせずに広がっている。
アルは白い手袋をはめた。
浅く湯をはった浴槽に、そっとロウィーナをおろすと、アルは海綿を手に取った。
サラに頼んで用意させた石鹸は、ほんのりと甘い香りがする。
泡が肩に触れると、ロウィーナはぴくりと反応した。
いつの間にか、これがアルの仕事になっていた。
どうすれば、ロウィーナを刺激せずにすむか、アルはいつも悩むのだった。
息を殺し、これ以上できないというくらい慎重に、アルは手を動かす。
しみひとつない白い肌の上に、次々と新しい泡が生まれて消えていく。
海綿が乳房に差し掛かると、ロウィーナは固く唇を結んで、目を閉じた。
海綿が乳首の上を通過する。
一瞬ロウィーナの息が止まる。
乳首の上で、小さな泡が次々にはじける、そのわずかな感触でさえ、
敏感になったロウィーナを苦しめてしまう
どうすれば――。アルは、最初から答えのない謎を無理に解こうとしていた。
「お立ちになれますか?」
からからに乾いた喉の奥から絞り出した自分の声が、どこか遠い場所から聞こえてくる。
浴槽のふちに手をついて、よろよろとロウィーナは立ち上がった。
滑らかな太ももの表面を湯が滑り落ちる。その下で、膝が今にも折れそうにがくがくと震える。
「こら、しっかり立たないか」
兄がロウィーナの腰を掴んで支える。「アル、早くしろ」
アルの目線の高さに、見てはならないものが晒される。
視線を上げて、アルはロウィーナの腹をなぞった。
丸いへそに溜まったものを、念入りに円を描いて取り除く。
ロウィーナは、唇をかみ締めた。
長引かせてはならない。これ以上、ロウィーナ様を苦しませてはならない。
アルは、残った作業に専念した。
「ロウィーナ、足を上げて」
背後から兄が声をかけるとロウィーナは片足を浴槽のふちに乗せた。
太ももの内側を海綿の泡がなぞり上げる。
行き止まりで、ついにロウィーナは、うめくような声を上げた。
「申し訳ありません!」
「貸せ」
とっさに手を引っ込めたアルから、皇太子は海綿をひったくった。
「こうやるんだ」
「や、おにいさま」急に強くなった刺激に、ロウィーナはもがいた。「いや、いたい」
「ああ、わかった」
手のひらに泡をこすりつけると、海綿を投げ捨て、今度は指でなで始めた。
「だめ、や、や、いや……あ……」
ごくり、と皇太子の喉がなる。
「アル、席をはずせ」
黙礼し、アルは浴室を出た。
なぜ、サラではなく自分なのか、はじめアルにはわからなかった。
殿下は自分を信用しておられるのだと、アルは勝手に解釈していた。
苦行から開放されたアルの耳に、二人の会話が容赦なく飛び込む。
「おにいさま、もうだめっ……、もうさわっちゃいや……」
「ロウィーナ、あいつに触られて感じたのか」
「や……、そんなことないもん……あ、あの人はきらいよ……」
「あいつに見られて、感じたんだろう」
「ちがう、や……、だって、おにいさまが……」
「悪い子だ」
「いや、いたい、やめて。そこはいや。ゆるして、おにいさま、ごめんさない、ゆるして」
「お仕置きだ」
「いや、いいやああああああああああ」
ロウィーナの絶叫から逃れるように、アルは浴室からできるだけ離れられる場所へと移動した。
殿下は、愛するものを傷つけずにはおられない。
清らかなもの見れば、汚さずにはおられない。
いつからこうなってしまったのか。
せめて王妃様が生きておられたらと、アルは疲れた心で考えた。
「ごめん、ロウィーナ」椅子にかけていた兄は、服を着たロウィーナを前にして頭を抱えてうつむいた。
「お前を愛しているのに。大切な妹なのに」
「おにいさま、泣かないで」ロウィーナは兄の首にしがみついた。
「わたし、もっといい子になるから。おふろもがまんする。いたいのも、がまんするから」
「ロウィーナ」
「ロウィーナを嫌いにならないで。おにいさま、わたし、おにいさまがすきなの
ずっとおにいさまといっしょにいたい。おにいさまがいないと、わたし、わたし――」
ロウィーナの目から大粒の涙がこぼれる。
「ロウィーナ、すまない」
「おにいさまはあやまらなくていいの。ロウィーナが悪いの」
「罪深い兄を許してくれ」
つい先ほどの狼藉が嘘のように、おそるおそる、ためらいがちに兄はロウィーナを抱きしめた。
「ロウィーナ、お前だけは私を見捨てないでくれ」
終
>>456 キタワァ…゚・*:.。キラ .。.:*・゜゚*・キラ゜゚・*:.。..。・゜・(ノД`)・゜・。. .。.:*・゜゚・キララ*:.。. .。.
>>456 素晴らしい!
お姫さま好き、近親相姦好きの私にとって、夢のような作品です!
作者さんガンガレ!
>>456 GJ。
登場人物の様々な思惑が交差して面白い。
完結までの流れを期待してます。
>>460 いい感じ! すっげー読みやすいよ(・∀・)
まとめ超乙GJですた!!!
今すぐじゃないんだけど管理人さん、聞きたいこととかあったら
ここで聞いてもいい? それともビビエスに書いたほうがいい?
>>460 キタ━━━━━━┌(_Д_┌ )┐━━━━━━ !!!!!
超GJ!!!!マジdクス!!!!!!
463 :
460:2006/08/31(木) 01:04:24 ID:SxJl/QcR
>>461 BBSは定期的にしかチェックしないので
「どうしても今すぐ返事がほしい!」ということはこちらに書いて頂けると助かります。
SS投下や感想の流れを切るとまずいので
それ以外はBBSに書いてくださると良いかと思います。
>>460 GJ!ありがたい!!
今更ながら、姫と従者、妹がリンクしてることに気付いたぜ…
>>460 乙&GJ!
複数スレを扱う管理は大変だろうけどがんばってくれ
今日の兄は、少し違っていた。
「ロウィーナ、おいで、いいものがあるんだ」
兄は、ロウィーナを呼び寄せ、細長い箱を渡した。「開けてごらん」
箱の中身は、レースのリボンだった。
こみ入った模様の繊細な手工品は、珍しい水色の糸で編まれている。
「お前のために外国から取り寄せた。きっと似合うよ」
「すてき!ありがとう、おにいさま!」
ロウィーナは目を輝かせ、兄の首に飛びついた。
「こらこら、お行儀が悪いぞ」押し倒されるようになった兄は笑いながら言った。
「これはレディのためのリボンだ。おてんば娘にはもったいなくてあげられないよ」
「ごめんなさい。もうしないわ」ロウィーナは、あわてて姿勢を正した。
「それでいい。おいで、結んであげよう」
兄は、ロウィーナの髪にリボンを結んだ。
「おにいさま、どう?似合う?」
ロウィーナはくるりと回って見せた。金色の巻き毛と一緒にリボンが揺れる。
兄は眼を細めた。
「やっぱりお前は水色が一番似合う」
「ご厚情を感謝いたします、殿下」ロウィーナは膝を曲げ、正式なお辞儀をした。
「エリスに教えてもらったの。ほんとはよく意味がわからないんだけど。
おにいさま、これでいい?レディに見える?」首をかしげて兄の返事を待つ。
「最後だけ余計だが、まあいいだろう。兄さんにキスしてくれるかい」
ロウィーナは兄の頬にキスした。「ありがとう、おにいさま」
「今日は天気がいい。一緒に庭を散歩しよう」
「ご本は読まなくていいの?おまじないは?」
「いいんだ」兄は優しく微笑んだ。「今日はいらない」
満開だった花壇の花々は、そろそろ命の終わりを迎えようとしている。
枯れかかった草花の中に、一輪、咲き遅れたつぼみを見つけると、兄は足を止め、
根元から折った。そして、花びらに口づけると、ロウィーナに捧げた。
「麗しの姫に」
「おにいさまったら、まるでお話の中の騎士みたい」
夢見がちな少女は、うっとりとした目をした。
「ロウィーナは、こういうのが好きだろう?」微笑みながら兄は言った。
「人知も神の采配も及ばない、孤高なこのつぼみこそ、貴女様にふさわしい」
「恐れを知らぬ騎士よ」ロウィーナは続けて言った。「王家の財宝を手折った罪は重いと聞いておらぬのか」
「わが君、代価はこの命にて」兄は、自分の胸に剣をつきたてるまねをした。
ロウィーナは、あわてて兄を止めた。「だめ、しんじゃだめ」
「ああ、せっかくいいところだったのに、どうして邪魔するんだ」
「だって、お話では、二人はこのあとキスするのよ」
「なるほど、王家の財宝とは姫君自身のことか」
「騎士はこう言うの。
『美しい花を前にして、手に取らぬ男がおりますでしょうか』」
「ずいぶん意味深なせりふだなぁ」
「おにいさま言って」
兄が復唱すると、ロウィーナは姫のせりふをしゃべった。
「『戯れならばお気をつけなさいませ。その花には棘があるやもしれませぬ』
次はこうよ。
『棘ならばすでにこの心の臓に』騎士はお姫様の手を取って自分の胸にあてるの」
兄はロウィーナの手を握り、妹のためにかがんだ。「棘ならばすでにこの心の臓に」
ロウィーナは、兄の胸に手を当てたまま黙った。
「どうした」
「おにいさまの心臓がどきどきしてる」
「余計なことは言わなくていい。次はお前の番だぞ」
「もうせりふはないの。騎士がお姫様にキスして終わり」
ロウィーナは兄の顔を見上げた。
「おにいさま、キスして」
どこまでも澄みきった妹の瞳は、兄の姿だけを映し出した。
握った手が熱い。
兄は、ゆっくりとロウィーナに顔を近づけると、額に口づけた。
「お口にするのよ」ロウィーナは不服そうに言った。
「ロウィーナには、これで十分だ。ほら、花はいらないのかい」
「いる!」ロウィーナは手を伸ばした。
兄は、花を持った腕を上げた。「欲しかったら取ってごらん」
「おにいさま、届かないわ」「ほら、ロウィーナ、もう少しだ、がんばれ」
ぴょんぴょんと飛び上がって必死に花を取ろうとするロウィーナをしばらくからかってから、兄は花を渡した。
「もう、おにいさまのいじわる」息を切らし、少しむくれた妹に兄は笑って言った。
「ごめんごめん、怒った?」
ロウィーナは首を振った。
「ねえ、おにいさま、さっきのはどういう意味?じんちも何とかって」
「ああ、ロウィーナは特別だってことだよ」
「ふうん、おにいさま、詩人さんみたいね」「やれやれ、騎士の次は詩人か」
「できるの?」
「万事、姫の仰せのままに」胸に手をあて兄は深々とお辞儀をした。
「移り気な姫の座興に、一節献上申し上げまする――」
片手を広げ、兄は滔々と吟じた。
「おお、ロウィーナ、汝の前では黄金も価値をなくす。
遠く異国の海に眠る真珠でさえ、ただの石ころにすぎぬ。
緑なす大地は鮮やかさを失い、闇を彩る星々の光芒も翳む。
見よ!天の運行をつかさどる太陽ですら、恥らって雲の陰に隠れているではないか――」
「おひさまなら出ているわ、おにいさま。今日は晴れよ」ロウィーナは空を見上げて、不思議そうな顔をした。
「もののたとえだよ。わかってないなあ」兄は頭をかいた。
「お前のために、即興で作ったんだぞ。もうちょっとありがたがってくれよ」
「こんどのはどういう意味?」
「お前が一番美人だっていうのを回りくどく言ったんだ」
「ほんと!?」
「おお、つれなき美女、その名はロウィーナ」兄は悩ましげに首を振った。
「行き場のないわが魂は、生と死のはざまを永遠にさまようのだ」
「わたしの詩なのね、すてき、おにいさま、ありがとう」
「どういたしまして」兄は妹の輝く笑顔を満足げに受け取った。
庭をそぞろ歩きながら、確かめるように、ロウィーナはたびたび兄の顔を見上げた。
やっぱり、昔のままの、やさしいおにいさまだわ。
いつもこうだといいのに――。
最近の兄の行動は、ロウィーナの理解を超えていた。
きっと、わたしが呪われてしまったからだわ。
だから、あんなこと――。
今日は、いやな思いをしなくて済むのとわかって、ロウィーナはほっとしていた。
その反面、おまじないがないことが、ほんの少しだけ不満だった。
兄に手渡された花の香りは、風に乗ってどこかへ消えてゆく。
ロウィーナはつぼみを顔に近づけた。
かすかな甘い香りに混じって、つぼみは、ロウィーナの鼻腔に青臭さを残した。
「ロウィーナ、お前はかけがえのない、私の大切な姫だ」唐突に兄は言った。「誰にも渡したくない」
「おにいさま。わたし、ずっと、おにいさまと一緒よ。お約束したでしょう?」
「そうだったね」兄は立ち止まって妹を見おろした。
季節を先取りして庭を通り過ぎる風が、水色のリボンをなびかせる。
小さな妹は、くしゃみをした。
兄は冷えきった妹の手を握って言った。「風が冷たくなってきた。そろそろ戻ろう」
温かい飲み物を手にする妹を、兄は穏やかな視線で見守った。
「それを飲んだら、部屋に戻りなさい。遅くなるとエリスが心配する」
「もっと、ここにいたいわ、おにいさま、だめ?」
「だめだよ、また今度だ」「もうちょっとだけ」
「だめだ、ききわけのない子は、兄さんは嫌いだ」
ロウィーナは、少しでも兄の傍にいようと、必要以上に時間をかけて、ココアを飲み、
最後のひとしずくがなくなると、名残惜しそうにカップを置いた。
「おにいさま、わたし、明日も来ていい?」
「エリスがいいと言ったらね」
「きっと来るわ。おにいさま、リボンとお花と詩をありがとう」
ロウィーナは、兄の頬にキスすると、つぼみを大事そうに抱えて去っていった。
アルの下げる茶道具を見るともなしに見ながら、兄は今日の出来事をつらつら考えた。
騎士と詩人と道化。
結局どの役も、最後まで演じきれなかった――。
広い部屋にひとり残った兄は、苦い結論に行き着いた。
花瓶に挿した花は、翌朝には、つぼみのまましおれてしまった。
「エリス、おにいさまにいただいたお花が……」ロウィーナは泣きそうな声で言った。
エリスは、その花を分厚い本の間に挟んだ。「こうしておけば大丈夫、ずっととって置けます」
「ほんと?」「押し花というのですよ。ロウィーナ様、だめです、まだ開けてはいけません」
エリスは、こっそり本を開いて覗き込もうとするロウィーナを笑顔でとめた。
終
超GJ!切ないなあ。
最初はアルが嫌いだったけど、好きになったよ。
>>470 うおおおおおおおおおおおお
いいよ、コレいいよ
作者タソ超乙華麗〜ノシ
回を追うごとにどんどん腕が上がってるねGJ!
いつも楽しみにしてます。
お兄様の苦悩が切ないわぁ。
475 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:25:20 ID:2IQcnwTm
※はじめに※
ちょっとグロあります。
設定的にはファンタジーに属すると思いますが、
適当に考えた世界観なもので、ごめんなさい。
それから、数えたら全五十八話ありました。ほんとにすみません。
よろしければ、おつきあい、よろしくお願いします。
476 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:27:33 ID:2IQcnwTm
※※序章※※
風紋は肉交の快美感にのたうっている女人の肌となって続く砂の海。
天空には細長く鋭い月が浮んでいて、一羽の白い鳥が暁の蒼を駆ける。
舞い降りる場所に辿り着いた頃に、覇王の陽は徐々に世界に拡散されて、
光りの柱は天上を摩した。
翼を畳めば、鳥の変化は解かれ、手首を胸元に重ね合わせた少女になる。
濃やかな眩い金糸は緻密な束なり、優雅に波うち、肩胛骨から背の窪地を
撫でて臀までも伸びていった。
前に垂れた髪も肩から跳ねあがるようにしてやさしく流れ、そっと少女の
ふくらみを隠した。房の膨らみは儚くて、乳首は種のようだった。
乗る乳暈が僅かに少女のなかのおんなを感じさせてはいたが、脂が削げた
痩せぎすの少女の躰は、まろみがなく幾分筋肉質に見えないこともない。
おんなとしての魅力をまだまだ備えているとは言い難かった。
両の掌で繊麗な肩を抱きしめ、少女は歔いていた。
先刻、砂に頸まで埋められている女の頭を抱きしめようとしたが、立ち去れ、
と少女は叱られて、逃げて帰ってきたのだった。
>>476 >数えたら全五十八話ありました。
自分でサイト作る手間を惜しんでいるようにしか思えない
478 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:32:16 ID:2IQcnwTm
「愛姫さま、お帰りなさいませ」
朝の静謐(せいひつ)に同調する声音が少女の背後からやさしくつつみ、透けた桃色の
薄衣を裸身に纏わせて、恋人のように甘く抱きしめる。
「ただいま、雪姫」
「覇王さまがお待ちしておりますわ」
「わかりました。すぐに参りますとお伝えください」
「なりません。おんなにはそれなりの準備がありますから」
雪姫が口をひらくと。
「待たしていてはいけないわ」
「でしたら、お出掛けにならなくても」
「なにを言うのですか。わたしは」
「なれば、どうか覇王さまに御奉仕すること。日々勉強を怠らず、磨いてください。
それが、あの方の祈り」
物腰のやわらかそうな楚々とした女性が少女のうしろから近づいて、
桃色を纏った裸身をおなじように甘く抱きしめ、耳元で愛姫を諭し、雪姫の言葉を月姫が締めた。
「月姫、わかっています。何度いえば、わかるのです」
「ご無礼を申し上げました」
「わたしも言い過ぎました。ゆるして」
479 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:33:59 ID:2IQcnwTm
「愛姫さまがわたくしどもに傅くことなどありません」
耳元に少女を性愛に誘う吐息を月姫が送り込んでくる。
「で、でも」
「傅くのは、覇王さまにだけに」
愛姫は覇王の待つ閨に行かなければならない、と言おうとしたが煙に
巻かれてしまった。
もうひとりの女は少女の前に傅いて。
「磨くのです。飽きられてしまっては、死を賜ったとおなじこと。愛姫さまが
覇王さまの寵愛を受けられること。わたくしどものなによりの倖せ」
「愛姫さまは覇王さまに愛されています故」
「おんなを」
愛姫は姉妹に応えてしまっていた。
「そうです」
月姫と雪姫の揃った発話が心地よい歌のように愛姫の心の疵を癒してゆく。
「ダメ……そこは……よごれちゃうから」
「ここでだけ、男と女は愛し合うものではありません。星姫さまのように、
覇王さまの心の支えとなってください。そして、なにより愛姫さまは星姫さまより
さずかった、月と雪の玲瓏の宝ですから」
480 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:35:28 ID:2IQcnwTm
女の唇が少女の下腹に圧される。うしろの女は少女の乳房に触れ、乳首を拇で
やさしく擦っていた。
「い、痛いっ……月……姫……」
「わたしたちのように、おおきくなったら、もっとやさしくしてあげます」
「いやあっ。そ、そんなことは、しないで……。ねっ、や、やめて。月、雪……っ、おねがいッ」
「ほぐしてさしあげます。どうかお躰を楽になさって。受けいれなさって」
少女は躰を捩って、太腿を閉じようとした。
「ああっ、い、いや、いや、いやだぁ。やめてぇ、やめてえっ、お、おねがい、おねえさまッ」
二匹の妖しい蛇が少女に絡みつて、可憐なつぼみが濡れて咲き出す。ひとりでに
月姫と雪姫を慕う言葉が少女の口から朝露のように洩れていた。
「ああ、可愛らしい。たまんない」
「ゆ、ゆるして」
「好き、好き……」
月姫と雪姫の烈しい肉情に大理石の冷たい床に崩れ込んで、揉みくちゃにされ、
四肢がもつれ絡み合い、翻弄され、生きたキメラとなっていた。
「やっ、やああぁぁぁ――ッ」
481 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:37:03 ID:2IQcnwTm
王宮の人間は誰もが身元の知れない連中だった。月姫と雪姫はこれからも愛姫を
愛してくれるだろうが、いつも傍に居てくれた、少女の愛姫を案ずる星姫は、
もういないと思うと、悲しみと随喜の涙が甘く交わるのだった。
覇王には何人もの愛妾がいて、少女もその一人。覇王から少女は愛という名を
与えられていた。覇王から寵愛を受けていた稚い少女は、この娘しかいなく、
愛憎渦巻く王宮に、女の悋気(りんき)を一身に買う結果になった。
しかし、愛姫の周りは、すべてが敵といったわけではなかった。中には信頼に
値する友と呼べる者も居た。愛姫が友と呼んだのは星、月、雪の名を冠した女。
愛姫は覇王との褥で玉門ではなく、まだ硬くて青い双臀の肉溝だけを遣われ、
その慰められることを嫌っていた。このことから悩み苦しんで、親しかった星姫に
打ち明ける決心をした。
星姫とは褐色の肌を持った黒髪の美女だった。その立ち振る舞いは女豹。
瞳の色は血と熱情を思わせる赤。遠征の折には絶えず付き従っていた女将軍だった。
夜のような艶やかな黒髪に、燃える星のような瞳から覇王からその名をさずかった。
周りから星姫は一目置かれていた。
482 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:38:55 ID:2IQcnwTm
ある時期、戦で捕虜となった姫たちのことを任されていた時期が星姫にはあった。
ただ、戦術にのみ長けているのではないことを覇王は知って、纏め役として
後宮に入らないかと星姫を口説いた。
命には従うが、私は悔しいといって泣いて、覇王は星姫を宥めるのに苦労した。
輿入れの際に、供に従ったのが、覇王との戦いに敗れ虜囚となって、
星姫が情愛を傾け、面倒を見た月姫と雪姫だった。
覇王さまには従わずとも、星姫さまには、とまで言ったとか、言わなかったとか。
星姫、月姫、雪姫。三人は肌の色も女としての魅力も違ってはいたが、
三姉妹と呼ばれるほど、三種三様の種族の血を越えた固い絆で結ばれていた。
近くて遠い女と男の仲。均衡は崩れる。愛姫が閨のことを洩らして、覇王は
愛妾たちから笑いものになり、激怒して、このことを訊き出した星姫を
斬首の刑にするといった。
斬首は砂漠に全裸にされ頸まで砂に埋められ、さらし者にされる。
期間は定められてはいなかったが、一日と持ったものはいなく、意識が朦朧としたところで、
砂から出され首を跳ねられる。
483 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:40:33 ID:2IQcnwTm
愛妾たちは、この沙汰が下される寸前までは、じぶんたちが今迄にしたことは
正等なことと信じて疑わなかった。
覇王に哀訴する星姫に、王はわたしを嗤うのはまだよいが、愛姫を貶めることは
赦さないと言い切った。星姫は命乞いをすることをやめ、その命に従った。
それが、公に伝え聞くあらましで、愛姫はこの覇王の沙汰に激しく反撥をした。
星姫は覇王を貶めるような人柄ではないと知っていたし、愛姫にも常日頃、
母のようにやさしく接していた。
覇王は人の心はわからないものだ、と愛姫の星姫への嘆願を撥ね除ける。
求め奪い合う心が、この場所には強く渦巻いていると愛姫に語って聞かせたが、
愛姫は納得しなかった。
星姫を貶めるために、二人の会話を密かに聞いていた者が言いふらした、
という噂も立っていたが、覇王は真偽を確かめずともよいと傷つく愛姫に言った。
星姫はみなのために死を選んだのだと告白して。
事実、愛妾たちはこのことがあってから竦みあがって、後宮には独特な恐怖が
支配していた。
484 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:42:35 ID:2IQcnwTm
愛姫を愛するあまり、覇王はいっそのこと愛妾すべてを消し去ろうとした
考えを持っていたことを悟って怯えた。それを止め、見せしめになろうとしたのが
星姫だった。覇王も星姫の考えを受け入れたのだった。
ほんとうにそうなのだろうか。星姫は覇王を愛していた。そのことは誰にも
負けてなどはいないと愛姫はみていた。覇王の愛姫への告白を聞いて、ひょっとして
生きる望みを失って絶望したのではないか。考えをめぐらせても、結局、愛姫には
星姫の心は見えなかった。
愕然として、うな垂れていた愛姫を覇王は案じ、近づいて慰め、抱きしめようとした。
覇王の胸に飛び込んで、大声で泣く愛姫に、自分に対するやり場のない怒りが、
激情となって湧いて来るのを、つい抑えられなかった。
突如、掌を突いて覇王の胸から離れ、こぶしを振り上げて叩き、激昂しながら
「星姫といっしょに砂漠に埋めて、わたしを殺せッ」、と覇王にむかって力の限りに喚いていた。
485 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:44:18 ID:2IQcnwTm
※T※
王が一人で大きな後宮の扉に立っていた。朱色の鮮やかな色に豪華絢爛な
金細工が眩しい。石棺の蓋を開くような重々しさを感じるが、ドアは簡単に
静かに開いていった。
「お待ちしておりました」
女が一人で王を待って立っていた。王に傅いて王妃は両膝を突き、
着衣の裾を恭しく割っていた。
「もう、このようにおなりになって」
「うれしいか」
「はい」
「みだらだな、リアノン」
「はい……。もうしわけございません」
「さあ、玉座に行こう」
王が傅いていた王妃の躰を曳き揚げた。
この部屋。後宮の入り口ではあったが、閨房ではなく、サロンのような役割を持った。
王がその日の寵姫を選ぶ場所。
486 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:46:12 ID:2IQcnwTm
王は王妃リアノンに正装して待つようにと言った。このような肉交は
初めてのことであって、正式な婚儀のような尊いもののように感じた。
そのいっぽうで、生きて虜囚の恥辱にあうことを想像し、羞恥に染め上げられる
想いもあった。
だが、敵兵がここまで辿り着いた時は、この世には存在しないのだから、
と雑念を払っても、この部屋が硝子の檻になってしまっていた。
敵兵が物欲しそうに向う側から亡者となって、生を体感して烈しく
臀を振り合っている王と妃を恨めしそうに覗いているのを、素肌に熱く
感じてしまうのだった。
亡者になるのは自分たちなのに、肉情に蕩けるのを夢見て行為に没頭してゆく。
みだらになって、交媾にへとへとになった我らが姿を見るがいいと。
リアノンは妻であっても、正妃ではなかった。先の王妃だったアーシェラは
八年前、流行り病にかかって没している。
このことがあって、四年という歳月を経て、ようやくリアノンは後添えに
収まることができたが、民に示すはずの公の婚儀は執り行うことはなかった。
487 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:48:11 ID:2IQcnwTm
一介の占い師風情の女が王に取り入った。悪しき噂が拡がっていた。
事実、リアノンは王を愛するあまり、すべてを欲しいと願ったことが、
いつしか預言を無意識にねじ曲げて伝えてしまって、己をも欺き通していた。
リアノンが悪魔とまぐわったことに気付いた頃、国の戦況は一変していて、
滅びに向かって転がり出していた。凶兆を吉兆に見せかけた虚飾は、
占い師にとっては死罪。むごたらしい処刑がリアノンを待っていたはずだった。
王はリアノンの告解を前にして、占い師だった王妃を激怒も責めることもせず、
わたしひとりの心にしまっておこう、と慈悲を示した。
愛情が国の未来を歪めてしまい、娘たちの生をも奪ってしまう
最悪な事態を招いたのに、哀しむ王の顔だけは女として見たくはない、
気持ちでいっぱいになった。
だからといって、リアノンだけが娘二人と逃げる。もしくは、王が戦に出たのを待ってから、
冥府に一人逝くこともできないでいた。
王は侍女たちと逃げるようにリアノンを説得したが聞き入れず、王と共に逝きたい
と哀訴していた。
488 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:51:18 ID:2IQcnwTm
覇王の大軍勢がすでに城を取り囲み、侍女たちでさえ生き延びられるかは
甚だ怪しかった。ただ城に居て討ち死にするよりましだろうと王は考え、
夜陰に乗じての逃亡を促がした。
侍女皆に守りの小刀を与え、数名の兵士を付けさせた。たとえ操を
奪われるような事態に直面しても、舌を噛み切るようなまねはしてはいけない。
生きる為に剣を取るのはよいが、死を選ぶことならず、と下地し、
城の地下隠し通路から逃がしていた。
が、王は徹底的に覇王の軍と戦って散華することを捨てた。後宮に籠って、
残りの生を愛するリアノンと共に過すことに捧げる。死後、いかなる謗りを受けようとも。
二人の娘、妹のマリアンナはリアノンの実子ではあったが、姉のカトリシアは
アーシェラが産んだ娘であった。
姉妹を分け隔てることなく愛して、カトリシアもリアノンを母と慕い、
たいへんになついていた。
良き妻であり母だった、と王はリアノンのことを労わり、最期の決意を王妃に
話して聞かせたのだった。用意された玉座の傍のグラスに注がれていた、カシスを薄めたような
飲み物がカンタリスではないことぐらい薄々感づいてはいた。
489 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:52:47 ID:2IQcnwTm
玉座に腰掛けた王の裾をたくしあげ、脛毛の毛深い太腿をあらわにし、
その上にリアノンは掌を置いていた。
王の真摯な態度と、股間の肉棒を交互に眺めながら、王妃は言葉に聞き入った。
「これで、わたくしはあなたと永遠に結ばれるのですね」
滑稽であるはずなのに、いままでに体験したことのないみだらが、リアノンの
躰を熱くさせ、濡れ伝った愛液が内腿をひんやりとさせた。
「ああ、そうだ」
王の股間をみると、萎んでいたペニスがむくむくっと膨らみ出していた。
「ただの女として」
「そうだ、リアノン。誰も祝福はしてくれないがね」
「いいのです、わたくしは。あなたさえ、いっしょにいてくれるのであれば」
深紅のドレス姿のうしろ。大きく開いた白い背から王妃の頭だけが深く
闇に落ちていった。
手を遣わないで、チロッ、と舌を出して鈴口のあたりを舐めて、尖端を口に
すぽっと咥え入れた。あふれ出ていた雫を、内頬を窄め啜ってみせた。リアノンの
爪は王の太腿の肉に食い込んでいて。
490 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:54:48 ID:2IQcnwTm
「ううっ」
肘掛けのとばを握っていた王の手がリアノンの肩をガッと掴んだ。
「い、痛くいたしましたでしょうか……」
「あっ……」
唇を半開きにしたまま、とろんと惚けた瞳で、リアノンは喘ぐ王を仰いでいた。
赫い唇から白い前歯が覗いた。聖にして淫の刻印が王を灼く。
「もうしわけありません」
「い、いや。ちがう、ちがうのだよ」
「そうなのですか」
「うむ」
「よかった」
透明なとろみがしたたる、てらてらと絖る錆朱の亀頭に、王妃の口から垂れた
煌いた唾液が銀糸を引きながら交わっていた。
「お続けいたしますわ」
「リアノン、よかったのだ」
甘咬みされた痺れる感覚が、王の背筋を駆け上がっていっていた。
そのことを噛み締めながら、王は言葉を紡いだ。
491 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:57:39 ID:2IQcnwTm
「そ、それに……。いまのそなたを見ているだけでも……わたしは」
リアノンが訊くまでに、息苦しい溜めの間が生じていた。
「なんでござりましょう」
「たまらなくなった。下腹がむずむずとしてしまって。ゆばりを放出してしまうような、
そんな感じだったのだ……よ」
「このまま、わたくしのお顔に、命の証し、あびせてくださいまし」
「ま、まて」
「どうしてですの。もう、ためらうことなど、わたくしたちにはないのに」
「リアノンは娼婦ではないだろう」
すべてを飲み乾そうと腹を括って、リアノンは王の膝から痙攣するペニスに
手を移動しようとしたのを止められていた。
「わたくしは、いまここで娼婦になりたい。いいえ、なります。あなたを歓ばせたいの」
王のごつごつとした厚い手と、細くしなやかで、骨に乳白色のスキンを纏った王妃の白い手が
熱く縺れ合っていた。
492 :
愛姫:2006/09/04(月) 21:59:49 ID:2IQcnwTm
「わかった。なら、続けるがいい。それがいい。リアノン、わたしを咥えていてくれ」
「はい、あなた。どうか、お口にいっぱい爆ぜてくださいまし。噛んでもさしあげます」
唇で挟んだ舌先を遣い、みだらにじらして、ちろ、ちろっ、と王をサラマンダーの
炎で焙って舐めるのだった。
女神のように清楚だった王妃は、おもむろに、唇をいっぱいにひらき、
でろっ、と真逆の妖女(あやかし)になって出した舌で脈動する肉茎にざらっ、
と擦っていった。
「ああっ」
赤黒く壊死したような色のペニスは、ゴムの塊のように大きく跳ねあがってしまって、
王妃の美麗な小鼻にぶつかった。
「おおっ」
ガクガクとおこりぶるいをして、獣の野太い声で呻く王の傘はひらいてしまい、
白濁が勢いよくしぶいていた。
「あ、あっ、あんっ」
甘えるように、リアノンが王の早すぎた射精を責めていた。
493 :
愛姫:2006/09/04(月) 22:01:05 ID:2IQcnwTm
「うおおっ、おっ、おおっ……!」
閉ざされた密室の、生には遥かにとどかない男女(おめ)の契りに、いつにない
昂ぶりが王の絶頂を極めてしまって、信じられない力を放っていた。
王は椅子から腰を浮かせて海老反りになり、熱い白濁で王妃の美貌を
これまでにない烈しい勢いで叩き、射ていた。
噴射の白濁は湧き水か、はたまた滝のように尚も続いていて、繊麗なリアノンが
纏っていた、豪華絢爛な金糸の刺繍を施した深紅のドレスをも穢していた。
「く、咥えてくれっ、はっ、はやくうッ……。もうっ、たのむからッ」
「はああっ……。す、すごいわっ。ああ、こんなんだったら、挿入てしまえばよかった……」
すっと筋の通った小鼻は翼を拡げ、荒淫のあとのようなリアノンの顔一面に塗され、
頤から玉になって垂れる様は、皮膚がび爛しているかのようでもあった。
オフショルダーの胸元にも王のこゆい体液は跳んでいて、喘いだリアノンの
鎖骨の窪みに溜まっていた。
494 :
愛姫:2006/09/04(月) 22:02:30 ID:2IQcnwTm
「す、すまない。い、いま……さっそく、な、なんとかしよう」
射精しながら快楽を拒否して立ち上がろうとした王をリアノンは止めた。
王のやさしい気持ちが沁みてくるのだった。
当初、王と妃は下腹にだけ交媾の痕跡を留めるだけの控えめな行為を
するつもりでいたのに、いつしか迸る熱情が壁を突き破っていた。
侍女はすでに城内から逃がしていて、残滓の始末をするのは自分たちだけ。
「あなた、そのようなことは申されないで。わたくしは今が倖せなのです。とっても。
そう、いつにないくらいに、おんなの歓びを極めていて。こ、このまま
死を賜ろうとも、羞ずかしいことなどございません」
毅然としながらも、それでいて歔いているリアノンに、王の下腹は破瓜に臨む
生娘の下腹のように烈しく波うち、荒々しく息を継いで、傅いた王妃にさらに
両太腿を大きくひらいていった。
掌を王の太腿の上に置いたまま、拘束を意識した恥戯に及ぶのを王妃は
あきらめるしかなかった。リアノンは王の股間の、精液が虫の体内組織みたく
こびりつく剛毛ごと潰して、灼ける肉茎の根本をあらわにし、左手の指でこしらえた
オーのリングで囲み固定をした。
495 :
愛姫:2006/09/04(月) 22:04:39 ID:2IQcnwTm
「愛している、愛しているっ」
それでも、王の怒張は烈しく痙攣して、喜悦の涙がリアノンの頬を
濡らすのだった。
王は屈む王妃の背に胸板を載せ、ドレスのスカートを掴んで手繰り寄せた。
あられもない尻まくりにしてから、還るべきリアノンの灼熱のヴァギナを夢想し、
玉座に躰を沈ませ、腰を迫出していった。
「ああっ、愛しい、愛しい……わ」
リアノンは右手で火照った頬に圧し付けた。白濁に塗られ、絡むほつれ髪が
水面の藻のように妖しくて、王は喚いていた。
錆朱の滾りも今宵が見納めかと思うと、リアノンはいたたまれなかった。
すこし力をこめて、ぐりぐりと肌に埋め込むようにペニスを頬に擦っていた。
転がった怒張した肉茎は、リアノンの耳朶にも触れた。そこは、白濁にはまだ
穢されていなく、複雑なかたちを留めていて。
「ああ……リアノン……。つ、つめたくて、気持ちがよいぞ。た、たまらない」
「あなたの逞しいもので、ここも灼くのです。おま×こを擦り切れるくらいに擦って、
こすって、掻き回して、掻きまわし……て。わたくしは、あなたと永遠の生を賜りたく存じます」
「わかった。そうしよう、そうしようぞっ!」
496 :
愛姫:2006/09/04(月) 22:10:56 ID:2IQcnwTm
絖(ぬめ)る亀頭を王妃は正位置に持ってきて、赫い唇をゆっくりとかぶせ、切れ込みを
そそっと舌先で刷いた。仰け反った王を見て、一気に喉奥まで含んでいった。
烈しく律動するリアノンの意志に制御できなくなって、王は立ち上がっていた。
後頭部を両手で拘束して、刹那の烈しいストロークを王妃の口腔にぶち込んでいった。
ずりゅっ、と挿入る肉棒を舌と口蓋、頬を駆使して扱くのだけれど、王は王妃
リアノンの恥戯を嘲笑うかのように、頬を突き破れとばかりに小突く。
舌も口も痺れて、喉奥で締めようとしたが無理だった。リアノンはただの穴になって、
苦悶からエクスタシーを感じたように低く呻く声が王を瞬く間にしぶかせた。
これが最期なのだからと。愛のオブジェとなるまでの過程。悔いを残さずに
たっぷりと愉しんで、結果を敵将にまざまざとみせつけるだけ。
痴れ者と呼ばれようとも、命を燃やし尽くして昇天するのだから至高の倖せだった。
「さあ、立つのだ。わたしは、まだまだ終わらん」
まだ嚥下していな精液が噎せて、げぼっ、と逆流してリアノンの胸元を穢した。
両肩を窄められ、曳き揚げられたかと思ったら、ドレスの右の乳房をギラギラとした
王にはだけられ、球形の美乳をあふれさせた格好のまま玉座の背もたれに、
強引に胸を押し付けられた。
497 :
愛姫:2006/09/04(月) 22:14:43 ID:2IQcnwTm
リアノンは玉座の背もたれの黄金の枠にしがみ付いたが、崩れて顔をビロード地に擦って
座部に落ちた。
「どうした。わたしがほしくはないのか」
「も、もっとやさしくして」
「わたしを歓ばせたい。娼婦になりたいといったは、偽りか」
「い、いいえ。そのような……」
「なら、着いて来い」
「どのようにも……」
「片足を座部に突け」
「わっ、わかりました……」
リアノンは尻捲りされたまま、両手を背もたれの頂上を掴んで顔を引き揚げ
言われた通りに右足だけを座部に載せ、股間から右手をくぐらせ、掻き抱くように
腕にふくらはぎを引っ掛けて、膨れ上がっていた、淫液をだらだらとしたたらせる
秘園をぱっくりと拡げた。まさに、その所作、娼婦だった。
498 :
愛姫:2006/09/04(月) 22:19:34 ID:2IQcnwTm
「く、くださいまし」
凄艶なおんなの貌をリアノンは王にむけた。
「よい。良い娼婦だ」
「はっ、はやくうううッ!」
「待つがよい」
白いリアノンの臀部をぺしぺしと叩いた。
「はっ、あ、あ、あっ、はあッ!」
王は射精したどろどろのペニスをぎゅっと握り、陰嚢から下腹の上下にシャフトの
操作を繰り返し、シュッシュッと扱いた。
すぐに血汐は装填され天上を突いた偉容を取り戻した。
「ああっ、いやああぁぁぁっ」
リアノンの貌はぐんっ、と仰け反って、すぐにがくんと頭を落とした。王の律動が
子宮を攪拌して、びりびりと総身に快美感は伝播してくる。
「んっ、ん、んあっ、ああっ」
肉情まみれの中、王が見下ろすリアノンの蠢く白い背だけが滅びる憐れを語っていた。
499 :
愛姫:
「ああっ、し、しんじゃううわッ」
「ま、まだ、死ぬにははやいッ。冥府などには逝かせんぞ」
「ま、前からッ。前からがいいッ!」
王は脚を引っ掛けていたリアノンの右腕を抜いて、担いで横臥位にする。
リアノンの華奢な躰は、王の欲情を煽って、乳房を揺らしながら捩れていた。
「どうした。強力せぬのなら爆ぜてしまうぞ」
「は、はい。いたします。いたしますから、置いていかないでぇ」
両手を背もたれに突いて、躰を廻そうとすると、王は腰を遣いはじめた。
「うっ、ううう」
「ほら、はやくしろ。しないかっ」
「だ、だめぇ……く、くるしい。たっ、たまんない」
王は圧し掛かって頸にしがみ付くように言った。リアノンは腕を曲げてようやく
相対して、椅子から剥がされていた。肉槍が喉奥から吐きだされたような苦悶が襲って
目の前が暗転した。