1 :
四屍マモル:
2 :
遊戯王風の人:04/02/21 22:53 ID:LzRDk5cy
すいません。
容量がまだ500Kに見えたので、もう少しだけかけると思ってたら
突然512K超えましたというエラーがでてしまいました。
たいした誘導もできないまま、次スレをたてる事態になり本当に申し訳ございません。
本スレのほうでは、既にリンクがはられていたようなので
誘導を促すレスはいたしませんでしたが。
_| ̄|○ スマンカッタ
3 :
遊戯王風の人:04/02/21 22:56 ID:LzRDk5cy
とりあえず貼るものだけは、貼りますね。
前スレまでのあらすじ。
休日。
遊園地に遊びに来たクラン達。
そこではカードのイベントが開かれており、
さっそくそれに参加したのであった。
しかし、そこで待っていたのはカードを使った殺人ゲームだった。
バス=コックス。
ニードルビット=シケイダー。
そして見たこともない巨大モンスターを前に
クランは絶体絶命の危機に立たされる。
唯一クランに握り締められた武器はケータイ電話JS-808だけだった………。
トウマのなめきったかのような笑いがこだましていた。
「どうした顔色がよくないぜっ棗ェ!ええ!?オイ」
トウマの頭からのびた腕が力をこめて動き出す!
文字通りの腕試し。
「きゃあ!」
叫び声とともに、横に飛んでかわすクラン。
ドゴッ!
殴りつけた地面には窪みができていた。
こんな力をまともにくらえば全身の骨はコナゴナになってしまうだろう…。
そう思うとクランはゾッとした。
「ちっ!逃げ足だけは早いな」
トウマは一撃でしとめそこない、少し悔しそうだったが
すぐに気をとりなおして、再びその手を振るいだした!
ブンッ!
「チョコマカしてんじゃねェっ!」
ブンブンッ!!
クランはよけるだけで精一杯だった。
ドカッ!
何度攻撃を繰り返しても
拳は空を切るか、床に大穴を空けるばかりでクランにはあたらなかった。
そして腕を振り回すだけでもずいぶんと体力をつかうようだ。
先に息を切らしたのは逃げ回るクランよりもトウマの方だった。
「クソッ当たらねェ…思ったように動かせねェぞ……」
呼吸は荒く息をするのも苦しそうだ。
(あ、あいつ…力を制御しきれてないんだ……一部分しか出せないのはそのせいか?)
砂粒ほどだが、クランは光明を見た気がした。
クランの跳ね毛がピンときた。
(よしっ)
そして何かを決意したかのようなクランの表情。
「くらえ接続コードON!!」
「何!?」
トウマにJS-808から触手が一気にのびた。
疲れきったトウマは一瞬反応が遅れて、それをかわせなかった。
触手が体にまとわりつくとギュッと強くしめつけだした。
「ぎゃああああっ!!」
モンスターを締め上げて、1ターン行動不能にするJS-808の特殊能力を応用したものだった。
(このまま一気にしめ上げてやるーっ!!)
ヴォオオオオオオオ!
「エっ!?」
ドガッ!
「うあっ」
その勝負に横槍を入れたのはニードルビット=シケイダー。
跳ね飛ばされたクランは天井、壁、床の順で叩きつけられた。
「ト、トウマさん!しっかりしてくださいトウマさん!」
トウマはすっかり気を失い白目を向いていた。
舎弟二人が必死に声をかけながら体を揺すると、なんとかトウマは目をさました。
「はっ!」
ケータイ電話JS-808。
体にまとわりついている触手。
反対側の壁で転がっているクラン。
トウマはすぐに何が起こったのか気づいた。
各下とばかり思っていたクランに、一杯くわされたと思うと怒りがこみ上げ、
鬼神のような表情でクランの方に突っ走っていった。
そして走った勢いをつけたまま、倒れているクランの腹を思い切り蹴った。
「げぶうっ!」
クランは2、3メートルは吹き飛んだ。
クランはお腹を押さえ悶絶。
咳き込んで、息はできずに苦しんでいると…。
「こざかしいマネしてくれるじゃネーカ。このヤローーーー」
クランは条件反射的に体を丸くした。
実験台のはずだったクランの思わぬ反撃に、キレたトウマの容赦ない蹴りの連打。
バキッベキッドカッグシャ!!
成すすべもなく蹴られ続けるクラン。
クランの体はボロ雑巾のようだった。
全身を蹴られて内出血により、肌は赤く、青くなっていた。
「…ごめんなさいお兄ちゃん許して…。
…ごめんなさいお兄ちゃん許して…。
…ごめんなさいお兄ちゃん許して…」
クランはぶつぶつと許しをこうがトウマの怒りはまだまだ収まらなかった。
トウマはJS-808を奪った。
すでに弱ってボロボロのクランを、さらに残虐な仕打ちをあわせようというのだ!
自分がされたように接続コードをクランにからみつかせると、上に押し上げ空中で締め付けた!!
ギリギリギリギリギリ。
「ああああああああ(丸文字)」
クランの叫び声が響き渡った。
残忍なトウマは、すぐにおとしたりはしない。
ゆっくりと長く苦しませる。
メリメリメリメリ。
「うっ…やあああああ(丸文字)」
肉が締め付けられ、細胞達が悲鳴を上げた。
体のいたるところで太い血管が浮きだし爆発するように破裂した。
全身がバラバラに引き裂かれそうな痛みと感覚に襲われる中、クランの意識も朦朧としていく。
(た…助けて…お…お兄ちゃん…)
意識が途切れる寸前。
クランはようやく開放された。
無抵抗に地面に激突したクランには、もう指一本動かす力も残されていなかった。
トウマはクランの髪をひっぱって、顔をムリヤリ上げさせた。
そして尋問のような口調でクランに聞くのだ。
「なぁ…、そういえば夏樹のアマもこのゲームに参加に来てるんだよなぁ」
(…なっ…!!)
その言葉は切れそうだったクランの意識を繋ぎとめた。
「まだ生きてるかなぁ?」
「……は…ハカナに……何を……する気だ…………」
「あいつにゃ日ごろから恨みがあるからなぁ………」
「ハカナに何かしてみろ…………。
絶対に………許さないからなっ!!」
「あっ?誰に指図してやがるんだ!このビチグソがぁぁぁっ!!」
グシャ!
逆上したトウマは、つかんでいるクランの頭を勢いをつけて床に叩きつけた。
顔を中心に血が床に広がっていった。
クランはもう死んだように動かなかった。
「ハカナの骨をオレの城の頂点にくくりつけてやるぜ!ヒャハハハハハ!」
下衆な笑いがこだまする。
「さーて。カードが四枚だけど…本当に開くのかな?
おっ!開いたっ」
トウマと舎弟たちは部屋から去っていった。
(ま…まてっ)
そう思っても、体はもうピクリとも動かない…。
顔をあげることもできず、そのまま意識が遠のいていく。
ここで眠ると、もう二度と目を覚ませないしれない…。
(ハカナ…ハカナ……)
死ぬときに見る走馬灯のように、頭にはハカナとの思い出がよぎっていく。
優しかったハカナ。
我侭いっぱいの自分にいつも笑顔をむけたくれた人。
大切な友達。
思い出のカケラに優しく抱かれて…静かに目を閉じていくクラン。
だが突然ハカナがトウマ達に自分と同じ目にあわされる光景が映し出された。
クランの全身に鳥肌がたち、意識もたちまち現実に引き戻された。
ハカナもどこかでヘンタイ達にひどい目にあっているのではないだろうか?
今もひょっとして自分の助けを待っているかもしれない。
そんなことを思うと、こんなところで寝てるわけにはいかなかった。
ふとハカナの悲鳴を聞いた気がした。
たとえ自分の体がどうなろうと、大好きなハカナの笑顔だけは守らなくては!!
全身傷ついた体を奮い起こす。
クランは起き上がった。
(ハカナは私が守る!)
その思いが、今のクランの体を支えていた。
入り口の扉は開いたままだった。
クランはヨロヨロと壁にもたれながら歩く。
著しく体力は落ちているが、骨もなんとかつながっており、歩くことはできた。
扉をでてしばらく廊下を歩くていくと、一つの大きな部屋にでた。
部屋に入ったとたん、クランは吐き気をもよおした。
1ミリずつ輪切りにされた死体…。
穴だらけになった死体…。
圧倒的な力の何かに押しつぶされたような死体…。
どれもこれもが無残な姿でで、人間の原型をとどめていない。
壁や床は真っ赤にそまり、そこらじゅうに臓物が散らばっていた。
ここにトウマ達の死体はない。
となれば、この惨劇を引き起こしたのはトウマたちだろう。
どうしてこんな残酷なことができるのだろうかと、クランの心は悲しくなった。
こうしてみるとクランは生き残れただけでもマシだと言えた。
現場の状況から察すると、倒れている間に時間はずいぶんと過ぎていたようだ。
念のため調べてみたが、どの死体からもカードは一枚も発見できなかった。
入ってきた入り口と反対側にある別の入り口の向こうには森が見えた。
ここから、外にでられるのだろうか…?
トウマ達はすでに外に出て行ったのだろうか!
外ではどんな待っているかわからないし、
今よりさらに恐ろしいことが待っているかも知れない。
だが、こうして考えていても仕方がない。
トウマの魔の手は刻一刻とハカナに近づいているのだから…。
クランは気合を入れた!
思い出したかのようにパンツをはいて決意を固めると、外の世界に足を踏み出していくのだった。
外はひたすら森だけが続いており、まるでジャングルのようだ。
蒸し暑く、生い茂った樹々を見ると、ここが日本かどうかも怪しくなってきた。
歩き出したクランの前に早速現れたのは、
「フーン?熊さんの絵の服に…パンツ丸出しの幼女…キミがクランちゃんだね?」
「なっ!」
それは金髪で小太りの男だった。
「わぁカワイー!」
「なっ!なんだオマエ。私は忙しいんだぞ!どけ!」
「照れてるぅ〜〜〜。ますますカワイイ〜!」
「う、失せろっ!」
クランはこの妙になれなれしい男をぞんざいに扱った。
今はこんなやつと遊んでる暇はないのだ。
「ねェ。クランちゃんはお年はいくちゅでちゅかぁ?小学三年生ぐらいかなぁ〜」
「ブッ殺してやる!」
「ふーん?カードもないのにどうやってブッ殺す気だい?」
「…………エ?…………」
小太りの男の言葉は自信に満ちており、まるでそれを初めから知っていたかのようだった。
男はがっしりとクランの両腕をつかむと、
そのままクランの華奢な体をグイグイと木に押しつけた。
「聞いたよぉ〜。トウマってやつから。
クランちゃん今カードもってないんだってねェ?」
男の顔が近くなってようやくわかった。
この目はキチガイの目だ。
ズボンの下はすでにテントをはっており、呼吸もすでに興奮して荒々しかった。
クランは背中に大量の氷水をかけられた気分になった。
おそらくこの出会いは偶然ではない。待ち構えてた必然!!
言葉よりも先にクランの足が動いた。
ボグッ!(金激)
「かはっ!」
せっかく張った男のテントはつぶれた。
男はくの字になって、クランの背丈ぐらいにまで頭が下がった。
そこで、ギブスの重りをたっぷりのせた両手を。
バゴッ!
後頭部へ叩きつけた。
男は地面に沈んだ。
「ハァハァ…ま…まったく何考えてるんだ…このバカ…」
クランの顔はすでに真っ赤だ。
下着丸出しの格好で歩いてる以上、ある程度の予想はしていたが、
いきなりこうゆう目にあうとは思わなかった。
精神的動揺を隠し切れないまま、その場を後にしようとするが………
ふと、この男もカードをもっていないかと閃いた。
クランのカードは0枚。ここで強奪しとくのも悪くない。
それに、こんな男に持たせておいてもロクなことにはならないだろう。
だが、クランが倒れた男の前に立った瞬間である。
ガシッ!
「やあ(丸文字)」
いきなり足首をつかまれた。
男が目を覚ましたのである。
クランの攻撃は体力の落ちている分、普段のものに比べてとても弱まっており、
男の意識を完全に失わせるには至らなかったのである。
「悪いことする子は、許せないよクランちゃん」
もう片方の足首も掴んでひっぱると、クランは尻もちをつかされてしまった。
男はこのまま足首から這い上がってくる気だろう。
足首を握り締める握力は非常に強く、そう簡単にはずせそうになかった。
「もう観念しなよクランちゃ…!?」
スポッ!
何かがすっぽぬけるような音。
「あっ」
それはクランが靴下と靴を脱衣した音だった。
男は拍子抜けするようにズルッと後ろに転倒した。
クランは、立ち上がると裸足のままで逃げだした。
「逃がさないよクランちゃん!」
男もすぐに立ち上がって追ってきた。
「待て待てーぃ」
いつもならこんな鈍重そうな男なんて簡単に振り切れるのだが、
やはり体力が落ちてるのだろう、追ってくる男の声はだんだんと近くなってきた。
クランは何故トウマ達が自分にトドメをささずに行ったのか、ようやくわかった気がした。
こうしているとトウマ達の笑い声が聞こえてくるようだ。
(くそっ!トウマのやつめーーーっ!)
このまま道なりに逃げ続ければ、きっともうすぐ捕まってしまう。
そして…捕まれば間違いなく……ヤられる!
クランは危険だが横道にそれ森の深い場所へ入っていった。
「クランちゃーん。そんなとこ行っちゃあぶないよぉ〜。クランちゃーん」
どうやら功をせいしたようだ。
男の声はだんだん遠くなっていった。
クランは樹々の小枝を振り払いながら、ひたすら前に前に進んでいった。
草木がクランの服と素肌を切り裂くが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
「ハァハァハァハァ」
どれだけ走り続けただろう…
服はすでに多数の切り目で、わずか数ミリの生地だけでなんとかつながっている感じだった。
クランの体力はもう本当に限界だ。
1本の巨大な木の根元へ座りこみ、めいいっぱいの空気を吸う。
足はすでに棒のようで、もう一歩も歩けない。
やっと体にできた切り傷に気づくと、
今まで感じなかった痛みがズキズキと湧き出しはじめ、激痛になって襲ってきた。
「おうちに帰りたいヨぉ…」
クランはとうとう弱音をはいた。
肉体的にも精神的も限界がきていた。
先ほどまでの男の姿は見えない。
どうやら振りきれたようで、それだけは安心していた………が。
ガバッ。
「ひゃ!(丸文字)」
クランの体を掴んだその手は背後からだ。
「こんなところに隠れちゃって。探したよクランちゃん」
聞き覚えのある口調。
「い、いやあ(丸文字)」
クランを掴んだその手の正体は………そう、先ほどの男だった。
抵抗する間もなく、一気に押し倒されて、男はマウントポジションになった。
「さあ、おしおきの時間だよクランちゃん」
クランのパンツの中から小さなハエのようなものがでてきた。
男のつけた発信機だった。
クランは必死にもがいた。
「やあ!やあぁ!誰か助けてーーーーーーっ!!(丸文字)」
最後の力を振り絞り、ジタバタしながら必死に声を出す。
「お、大声なんか出してんじゃねェ!!!」
バキッ!ボカッ!
男はクランの頬を拳で殴打した。
男はあせっていた。
どこに敵が潜んでいるかもわからないし、
大声など出されて敵に見つかったりでもしたら面倒だからだ。
5回…6回……7回…。
男の拳に手加減や容赦などは微塵もない。
無抵抗なまま殴られ続けるクランの顔は、どんどん腫れ上がっていった。
クランはもう虫の息だった。
「クランちゃん。もう大声ださないって誓うなら、やめてあげてもいいよ。
わかったら、『はい誓います』って小さく言ってね」
男は耳を近づけるが、クランは何も言わない。
カチンときた。
「なんとか言わねぇかっ!!」
バキッ!
さらにもう一度殴りつけた。
殴られた反動でクランの顔が横になると、開いた口の中から大量の血を吐きだした。
口内を切って、すでに口の中は血でいっぱいだったのである。
クランは心の中で何度もやめてと叫んでいたのだ。
「あ、そっか。口の中がそれじゃあ、しゃべれないよね。
ゴメンよ。クランちゃん」
男はすこし悪びれたが、反省した様子は全く感じられなかった。
バリバリ。
衣服を剥いでいく音だった。
すでに切れ目だらけの服は、たいした力もいれずにすんなりやぶれる。
(ああっ…やあ)
クランの体は青い果実にようにまだまだ未成熟だった。
次に下着に手をかける。
男は一枚一枚、可愛いクランを剥いていく興奮に満ちていた。
「一緒にいいことして遊ぼうね。
でも、まずはクランちゃんが蹴った僕の息子にあやまってもらおうか」
男は待ちきれないかのように、一気にズボンを下ろした。
すでに男のそれはすでに天高くそびえたっており、
ビクビクと脈動しながら、痛いほどに肉汁たらし、異臭をただよわせていた。
「やああ。そんなのいやぁ(丸文字)」
その声はあまりにも、かぼそく男の耳には聞こえなかった。
いや、聞こえていたとしても男の喜びを増すだけだろう…。
「先に言っとくけど、歯なんか立てたら…殺すよ」
「………」
クランから全身の力が抜けた。
トウマたちの度重なる暴行。
一人ぼっちの寂しさ。
極限までの体の痛み。
そして目の前の男のこの狂気。
それらが立て続けに起こって、クランの心が正常を保つのはもう無理だった…。
(…ああ…わたし、
今からこの男に犯されちゃうんだ………。
………いっか……そんなこと…もう…どうでも…
……………つかれちゃった………………)
クランは生きる気力まで失った。
トウマたちに犯される、ハカナの姿が思い浮かんでも
もうそれすらクランの心を奮い立たせることはできなかった…。
空はもう暗く、深い森の中にはほとんど光が差してこない。
クランの目は死んだ魚のようで空ろで瞬きもしなかった。
男の顔は影がかかり、どんな表情なのかもわからないが
さぞかし満足な笑みを浮かべていることだろう…。
「じゃあ入れるからね。ちゃんと舌でチュパチュパと誠意をこめて謝るんだよクランちゃん」
パクッ。
男はクランの口に強引に入れたようだが、
クランには、味も感じないどころか自分の口が開いていることすらわからなかった。
もうクランに感覚はなかった。
「あっ!いいよクランたん。絶妙な舌使いだね。その調子で転がすようにね」
クランは自分の体にまだそんな力がまだ残されているとは信じられなかったが、
男の口ぶりからすると動いているのだろう。
もう何も感じない。
男は腰を激しく動かし、喉元に何度も何度も太いものが突き刺していった。
本来なら苦しくてむせかえるのだろうが、やはりクランは何も感じなかった。
男はクランの頭を掴んでさらに腰の動きを加速させた。
「っ!あっ…あああ!あああ!」
男の声だけが聞こえてくる。イク寸前の声だった。
「ああっ。クランたん。イク!イク!いっちゃうよ。
全部飲み干すんだよ…わかったね!…うっ!」
脱力したような男の声。
口の中に、めいいっぱい男の白濁液が注がれていったのだろう。
「ふぅよかったよクランちゃん」
男が息子を口から出そうとするが、
くわえたまま放さず、まだ絶妙な舌使いを続けていた。
「ん?まだくわえてるのかい?
んっ!んあっ!あっ!!
い…いやしんぼだねクランちゃん。そっか、まだ足りないんだね?」
光が射しこんできた…。
「ん?」
いぶかしげな男の表情。
「ふもっふもっ」
股間にはカバのような生物がいて、ずいぶん熱心に男のそれをしゃぶっていた。
「な、なんだこいつはぁーーーーー!!!」
男は驚愕しのも無理もない。
肝心のクランとはずいぶん距離があった。
暗くてよくわからなかったが、
今までクランだと思ってしゃぶらせていたのは、そのカバのような生物だったのだ。
男があんまり騒がしいので、クランはゆっくりと目の焦点をあわせた。
「ポ……ポカポカ………?」
クランがゆっくりつぶやいた。
「ひ…ひぎぃぃぃ!」
ポカポカは男のモノをくわえたまま左右にブレていた。
ギザギザの歯で根元から喰い付いており、無理に引き剥がそうとしたら肉ごと裂けてしまう。
口の中は溶解液と男の精液が交じり合ったものでいっぱいで、男の股間には強烈な痛みが走っていた。
「大丈夫クランちゃん!」
クランは耳を疑った。
聞き覚えのある声。
今一番会いたかった人。
夏樹ハカナだった。
スポン!
ようやく股間からポカポカが抜けた。
ポカポカの溶解液で皮は溶けて、根元からべりっとそげ落ちた。
中の肉も皮膚炎のようボロボロにささくれており、血がしたっていた。
「クランちゃんに手をだすなら。私が相手よ!」
ハカナがさっそうとカードを掲げる。
「ひ…ひぃ!大人の女………こわいよーーー」
男はあわててカードをばらまいて逃げていった。
どうやら幼女専門らしい。
クランは呆然としていたが。
「大丈夫クランちゃん!しっかりして!!」
「ハ…ハカナ…ハカナ…?
ハカナぁーーーーーーっ!!!!」
クランは自分の体の痛みのことなど忘れ、ハカナの胸に飛び込んだ。
「よーしよし。もう泣かないのクランちゃん」
「うぇぇぇん!うわぁっぁあん!ひぐっひぐっ。
怖かったヨォ…寂しかったヨぉ。
…ぐずっ。うぐっ。びぇえぇぇぇん」
この世界にきてずっと泣かずに健気に頑張ってきたクランだったが
この時ばかりは涙があふれて止まらなかった。
このゲームの目的とか。
はぐれてしまった両親のこととか
トウマのこととか
とにかく、いろいろあるのだが
今はただ目の前のハカナに会えたことが嬉しくて
何も考えずにひたすらに泣くクランであった。
続きます。
割り込んじゃっていいのかな?
>1
スレ立て乙〜&キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
いきなりスーパーデス(略)ですか。いや展開上出てくるとは思ったけどw
また新たな伏線が張られたようで続きが楽しみです。
乙カレー様です。
やっぱり、パパさん惨殺。
ママさん、トウマの肉奴隷な展開希望。
23 :
名無しさん@ピンキー:04/02/23 11:24 ID:doGNaWwH
あぶないところでした。即死回避あげ。
何故か立てるたびに即死させているからな。
お兄ちゃん、ここ通るよぉ〜♪
_,. - ‐- 、,,_
, '":::.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.`丶_,.--、
/.:::::::::::..:::..:::.:.:.:.:.:.:.:./ヽ `ヽ
/::::.: : : ::::::::!:: :.:.:/;ヘ:::.:::.ヽ _,、
l::::::.::::.:./.:.:/::::∠/ ヽ:A:::::| ///|
',:::::::,r/:::∧!/ ゚ ソ::,' /_ /7
_rlヽ,、 。',:::ゝ';ィ´ ,r=、 r=//_,.. '´ _/
l l ! !rl ゝ'"::、u "" r--r' ノ:! u /
! '''' j ',........ _____,.. -‐゙ー-、:ァ 、 _ ヽ-'/ソ',..- '´
ヽ ' 。 ゚ ` 、 / ̄,r '´。
`゙''ー―――――ァ‐、 /
o ゚ / ゚ ゚/
/ 。 /
/ u /
/ 。 /
/ ゚ =ー----'、... __
! ,.  ̄丶、
__ ,. -'':.、 u ゚ 。 \
_/ `ニ ー――-- 、..-''´ .:.:.:.:.:゙ー‐ァ--―''" ̄`丶、 u 丶、 _,,.. --、
,r''´。 ゚ __ ・ 。 .:.:_.. -''´ `丶、 `‐'" ´‐'´'
。 /, ,. - ''´  ゙̄''ー-----―''"´ ゚ ヽ ー _ノ-'´
`゙ー-'´ ヽ、_/
遊戯王風の人、乙です。
いつにない緊迫した展開でびびっております(いい意味で)。
最近また盛り上がってきたな。
まだ即死の可能性ある?
即死回避って20レス?30レス?
立ってから24時間以内に30レスとか20Kbyteとか
3日間のうち24時間以上レスが無いと落ちるとか言われてるけど
ホントのところは知らん。
とりあえず30レス目
31 :
名無しさん@ピンキー:04/02/26 22:52 ID:gRfUIhZl
40レスこえればOKだと思う
だれかユラたんが人形たちにすごいエロいことやらグロいことするSSキボン
むしろエロい事だけしてください
俺もユラたんが小さい人形達にエロイ事するのキボンぬ
小さいからなす術もなくユラたんの性欲発散に付き合わされるのキボン
ぎょっぷぎょっぷとディルドー代わりに使われて溺死とかかw?
それはそれとして、本スレでグロスレで開催するよう言われたので「第一回チキチキ変態的性癖暴露大会」を勝手に開催しますね。
自分はモツと幼女と二形と兄貴系とスカトロとショタとSMと…キリが無いので次の人どうぞ。
おいおい、みんながみんなお前みたいな変態じゃないんだぜ?
俺は普通だよ。
クランたんにアナルをじっくり舐められたあと、
小さいお手手でフィストファックされたいってだけの平凡な欲求しかわかないぜ。
ところで小さいクランたんは解剖したら
内臓も小っちゃくて、かわいいんだろうな。
>>38 どういう仕掛けか、解剖すると通常サイズの内臓がブワッと出てきます。
その方が面白いし萌えます。
全身タイツの小さいクランたんにチンコ抱きつかせたいとか全身舐めたいとか
ありえないほどおっきな女の子とか小さな女の子っていい、すばらしい
今週のでいったら水槽覗いてるユラたんの顔の大きさとか
食い殺された3人の小さなからだとかもうね、たまんねー
俺がサイズフェチだったとは・・・
オシリの穴に入れてみる
>>35 それはそれで(・∀・) イイ!
むしろ舐めて人形になった俺の俺の全身を口に含んで!
いわばチンコだけではない全身フェラ
シマリス〜元気〜?
1/20つーと身長6cmとか7cmとかそういうレベルだからなあ…
さすがにエロの対象にはならんな。
指の太さ1mmとかそんなですよ、ええ。
>>43 口に含んじゃう奴ですな。
アライグマよりとーちゃんの方が好き。
でもそういうのに興奮する人たちもいるわけで・・・
そして小さくなって優しくされたい人だけじゃなく
小さくされて女の子に踏み潰されたいとか食い殺されたいとかマンコで溺死したいとか・・・
そういうのに萌え萌えの人もいるわけで・・・
そりゃもう大興奮さ!縮小巨大化ネタなんてごろごろ見つけられるほどメジャーじゃないし
ユラたんみたいなことができる存在は貴重なんだ!!
願わくばグロじゃなくてエロ展開してほしいのだが作風的にまことに残念よ
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1070672267/ ちなみに女の子小さくしたい人もいるけど
そっちの人もここ数週は大興奮なんでせうか
南君の恋人を思い出してしまった _| ̄|○
>>44 ヘタレ=ぼのぼの
デス様=アライグマくん
クランたん=シマリスくん
師匠=スナドリネコさん
後は思いつかない…
とつぜんふったぼのぼのねたにもよゆうのたいおう。
これだからかおすれはおそろしい。
1/20のサイズなら
頑張ればザー風呂に入れてあげれるな。
>>49 俺には無理だ… _| ̄|○
ところでこれで50レスになるが
さすがにもう即死は回避?
>49
亜鉛取りすぎでは?
>50
立ってから2週間、レス数50ならまず大丈夫でしょ。
52 :
45:04/03/05 02:06 ID:CsNRlQ1F
く・・・もう来週あたりでユラたんとはさよならか・・・
結局エロ展開しないし・・・期待してはいなかったけど・・・
今週は脚ズシーンと掴みあげられてつつかれるシーンしか抜きどころがなかった・・・
もっとこう、身体の大きさの違いを活かしたエロい事してくれよ
極端な話人形視点でユラたん描いてくれよ
もう自分の全身よりでかい顔のアップとか足元から見上げるとか・・・
そして虐め殺してください。俺を。
蜘蛛に食われるとかはいやなんでそのユラたんの手脚で直に
踏まれたり握りつぶされたり引き千切られたり食われたり(;´Д`)ハァハァ
53 :
45:04/03/05 02:09 ID:CsNRlQ1F
ああ、もう巨大なユラたんと人形にされた奴ののエロ話が読みたい読みたい読みたい
グロくなくてもいいから!支配者と所有物のような(;´Д`)ハァハァ
誰を俺の望む話をわかってくれねー_| ̄|○
>>52 台所にいる人たちは
そんな感じで死んでいったんだろうな。
皮だけひきはがされ
トンカチでなぐられ
ペンチでつぶされ
電気ドライバーに貫かれ
大根おろしでおろされ
ミキサーでぐちゃぐちゃにされ
包丁で料理され
釘をうちつけられ
コンセントから電流を流し込まれ…
コンロで焼かれ…
技術家庭科室にあるような強力プレスでぐしゃり
(;´Д`)ハァハァ
>>54 おやっさん!女子高生のお造りとOLの煮付け、それと兄貴の姿焼きを。あとビールじゃなくて黄金水。
56 :
こっそりと:04/03/05 19:45 ID:ETaIcr2C
「さぁニューキー。もう晩御飯にしましょ」
「ワーイ。今日のゴハンは何かな」
「今日はゴハンの上にバラバラにした人間をフリかけたものと
ガスコンロで串焼きにした人間よ」
「ワーイ」
ガブリ ガブリ
ゾブッ メキグチャバキグチャ
「あっ。こいつまだ生きてる。人間ってしぶといなぁ」
ゲキボキバキメリメリメリバキャ
ふと台所から聞こえる声
「ひ…ひぃぃ…た…助けてくれ」
「食事中に勝手におしゃべりしてるいけない子はだぁれ?」
がっしりと5人ほど掴む。
「お、お許しくださいユラさま」
「さぁ。ミキサーでかき混ぜられたい子はだぁれ?」
「や……やめてください。助けてください。ひっ…ひぃっ!」
ブシュグジュグジュグジュグジュグジュグジュ
「はいニューキー。喉が渇いたでしょ。人間ジュースよ」
「気が効くなぁユラは」
57 :
こっそりと:04/03/05 19:53 ID:ETaIcr2C
「デザートはイクラの卵よ」
「わぁ。美味しそう」
「でしょ?人間の目を一つ一つくり抜くの苦労したんだから」
グシャグシャブチグシャブチブチブチィ
グシャブチグシャグシャブチブチブチィ
「もうお腹いっぱいだよぉ。最後にあれ食べさしてよ」
「あれは特別だからダメ」
「そんなぁ…」
「でもしゃぶるだけなら全然OKよ」
「ワーイありがとうユラぁ」
ベロベロベロベロ
「いやぁぁぁ(丸文字)」
「明日はもっともっとがんばって美味しいものつくろうね」
「うん。そのためにもどんどん殺そうね」
「さぁて明日の食材になりたい子はだぁれ?」
(助けて…リョウガ…)
終わり
ユラも喰ってるのか…
そういや山賢の作品で喰ってるのってあったっけ?
むしろユラを毎日喰いたい
60 :
45:04/03/08 00:09 ID:bh9YtrFr
俺は食われたい
ユラはあのサイズ以下にはできないんだろうか?
もっと小さくすればデス様とかでもさすがに負けるのではないかと。
学校ごと水槽に入るぐらいにまでしたら中の生徒なんて1センチ以下?
それは萌える
ユラたんの人形に語りかける時の「だぁれ」が好き(;´Д`)ハァハァ
「だれ」じゃなくて「だぁれ」なところがたまらん(;´Д`)ハァハァ
両者の身体のサイズの違いからくる絶対的な力の差、転じて余裕が感じられて(;´Д`)ハァハァ
文字だけ取ってくると優しそうにも聞こえるけど真逆なあたりとかすごい(;´Д`)ハァハァ
その時の半笑いの顔と共に、もうね「ユラさま〜」って感じ(;´Д`)ハァハァ
あの顔と台詞、間近でアップで見たりきいたりできたら(;´Д`)ハァハァ
俺を食べて下さいユラさま(;´Д`)ハァハァ
丸呑み希望(;´Д`)ハァハァ
鳥のエサにされる
>>61。
そういやクランたんは鳥かごに入れられてたが、
鳥でも飼っていたんだろうか?
それともクランたんを入れるつもりで買ったんだろうか?
いやむしろ股間釘→人間おろし→人間ミキサーのコンボで…合掌>61
いろいろ考えていたんだよ、ユラたんは。
猫のコスプレに飽きたら鳥のコスプレとか。
もっもと全部飽きたらやっぱりガスコンロで焼き鳥になるんだろうけどw
しかしお仕置きっつーより虐殺道具箱だよなあ。
クランたんたちの復讐劇としてユラが人形にされて
人間サイズの人にエロイ事される話キボンヌ
65 :
61:04/03/12 10:52 ID:7x1PQKD0
・゚・(ノД`)・゚・ウォォォ
ニューキーはどうでもいいとしてユラさまが死んでしまったよ・゚・(ノД`)・゚・
でも、ユラさまは俺の中で生きてるから・゚・(ノД`)・゚・
というわけで
>>64みたいのも見てみた気はするけど
ユラさま人形地獄全開の萌えるSS激しくキボン
もうすごいやつキボン
漏れはむしろニューキーを人質にしてユラタンをいぢめたい…
アウトスキル使えないようカードを奪ってからシケイダー辺りで磔にして、
人形をディルド代わりに突っ込んであげてずっと一緒に人形遊びをしてあげたい。
ニューキーで両親に復讐を誓ったユラたんだったが…。
父親「おや?こっちの方は大人じゃ無いみたいだね?」(クチュクチュ)
ユラ「んんんッ!」
父親「ハァ〜なってない、まったくなってないぞ、魔界はお子様ばっかりなのか?
まあいい、俺が大人にしてやろう」
ユラ「!!プハァ!いやぁ!やめてぇ!!」(丸文字)
父親「誰が勝手に口を休めていいといった!!
緊張感が足らんな、ペナルティを課してやる
ケツの穴から大人にしてやる!!」
ユラ「いやぁ!そんなのいやぁ!!」(丸文字)
父親「おや、じゃあニューキーくんがどうなってもいいのかね?」
ユラ「うううう・・・・・・」
ニューキー「ユラちゃん!ポックンの事はいいから、もうやめてぇ!」
父親「自分の立場がわかったかね?
わかったら四つん這いになっておしりを私の前に突き出すんだ。」
ユラ「うう・・・・・ひっく・・・・・」
涙をこらえながら命令通りおしりを突き出すユラたん。
父親はシグマ先生だったのか!?
髪の色が2色なのは遺伝か!!
>22
こうゆう意見をみると
ここがエログロスレだなぁと実感します。
ユラたんのすばらしいSSを待ちつつ
では続きを。
高い木々に蹂躙された閉ざされた世界。
それは世界のどこかに確かに存在しており、そこでは命を賭けたゲームが行われていた。
「……………ハァ…ハァ…ハァッ!…ハァッハァハァハァ!ハァ!!」
密林の中。追われる少女と追う男達。トウマ達だった。
彼等は巨大な角突きバイクにまたがって少女を追い掛け回しているのだ。
ガギャッ! ガシャッ! シュパッ! ジャカジャカジャカジャカ!!
飛び出したチェンソーが生い茂る木々をいとも簡単に切り裂きながら少女を襲っていく!
パラッ
「キャアッ!ヒッ…!スカートがぁっ…」
「…イヒヒヒヒ…ブラとショーツ…あと二枚か」
「やあああああ(丸文字)」
機械のモンスターを召喚し、己の命を糧として戦いあう死のゲーム。
生き延びたければ戦うしかない。
「俺達からは逃げられないんだよ」
ついに男達が少女を囲んだ。もうどこにも逃げ場はない。
トウマ達はニヤニヤと笑いながら怯える少女をじっくりと嘗め回すように眺めていった。
「オイッ。コイツはキサマ等にくれてやる。好きにしていいぞ」
「ウへヘ。さすがトウマさん」
「へぇ。おもわずよだれがでそうでさぁ」
「いやぁ…いやぁあああ!(丸文字)」
「じゃあ。まずは上から」
パラッ!
「キャアアアァァァァァァアアアーーー!」
男達は隠そうとするその手を強く掴んだ。少女を羞恥させるためだった。
「イ、イヤっ…………見ないでェっ……!」
少女が暴れると、男達はさらに下品な笑いと下半身を高鳴らせていった。
「エヘヘヘ。キミは俺達のオモチャなんだからさぁ」
「いやっああああ!だめぇ…あああっ…うえっうええええっ」
男達にとってこの少女は性欲の受け皿でしかない。
「いやあああああああああああああーーーーー(丸文字)」
「これで9人目………さて…次は……」
「ト…トウマ…さん」
ふと後ろ茂みから一人の男が現れた。
男の下半身の男性器はズタズタにひきさかれていた。
そう、先ほどクランを襲っていた男だった。
舎弟たちはそんなことなど気もせず少女の体を弄び続けていた。
「ヒャハハハァ!前と後ろ。両方から流し込んでやるぜぇーーーっ!」
「いやああああ!いやぁ…もう…許して…もう…あふっ!ああっあああっ!(丸文字)」
性感を楽しんでいる舎弟達をよそに、トウマは男から何があったのかを聞き出していた。
その全てを聞き終わらずして、トウマは残酷なまでに激しい笑みを浮かべ始めた。
「………ほぅ…そうか…夏樹ハカナ…クックックッ…そうか生きていたか。
ウヒ。ヒヒヒヒ。ウヒャハアアアアアア!!」
トウマは自分その感情を抑えるだけで精一杯だった。
「ト…トウマさん…。そ、それより…ヒ…ヒールカードを………早く」
「あん?それさえわかればもうオマエなどには用はない。そしてそのケガの心配も必要もない」
「エ…!?そ…それは…?どういう………うわっ!あああああああああっ」
トウマの頭から巨大な影が一気に飛び出すと、それは男の体と重なった。
一口で男の頭を噛み砕くと、
蛇がカエルを貪るかように上から順番に食い尽くしていく。
やがてそこには何もなくなった。
「まずい…やはり喰うのは女に限るナ…」
舎弟たちは何があったのかも気づかないほど夢中になっていた。
「次は口から…全部飲み込めよヒャハハハ!」
「あっ……やっダメェ……ん、――っはああ、はあ、はあ…うっ!うっやああ(丸文字)」
(夏樹ハカナ。オレは他の女に浮気なんてしないぜ。
オマエの膣(なか)にいれるため、た〜〜〜ぷりと溜めといてやるからなぁ…ククク)
そしてまた…殺戮の宴が始まる…。
「ハ…ハ………ハクション!」
「クランちゃん冷えるの?」
「い…いや…きっと誰か噂してるだけだよ…アハハ」
ハカナはクランの体にべっとりとついた大量の血のりを、水でぬらしたハンカチで優しく拭き取っていた。
「あ〜〜あ。髪にまで血がついちゃって。ねェもう痛いトコない?」
ハカナの声には気遣うような優しさがあった。
クランの体はススだらけ、アザだらけ、裂傷だらけ…見ているだけでも痛みが移ってくるようだった。
二人が再会を果たした場所から少し歩いたところには川があり湖があったのだ。
クランは小ぶりの胸を両手で覆い隠していた。
どこかで誰かに見られてると思うと流石のクランも気が気でない。
下着だけはすでに新しいものへと変わっていた。
クランにしては少し大人っぽい感じのするその下着は、
緊急時のために日ごろからハカナが用意をしていたものだった。
水浴びが終わると、今度は消毒薬を綿に浸したものをピンセットを使ってクランの傷口に丁寧にあてていく。
ハカナのポッシェの中には、一通りの救急用具が揃っていた。
日ごろから活発でケガばかりしているクランの為だった。
「いたたたた。しみるヨぉ〜」
「我慢しなさい。バイキンでも入ったらどうするの」
「う…うん……ぐすっ」
「それにしても、クランちゃんっていつもケガしてばっかりだね…クスクスッ」
「うぅ…」
ハカナ嬉しそうなのは『良い子だけどいつも危なっかしくて手のかかるクラン』に
母性本能がくすぐられてしまうからだ。
ハカナに笑われるとクランはさらに恥ずかしそうに体を縮めていった。
ハカナの介護は癒しの魔法のようで、みるみるうちに体の腫れも引いていく。
あれだけダルかった全身も、今ではすっかり羽が生えたように軽くなった。
消毒が終わると今度は傷口の一つ一つにバンソウコウをはっていった。
それでもひどい場所には包帯も巻いた。
終わったころにはクランの体はバンソウコウと包帯だらけになっていた。
「クランちゃん靴探しといたよ」
「あ…ありがとう…」
ヘンタイに追われる最中に脱衣した靴だった。
ハカナのマメさが目にしみた。
一通りの治療がすむと、二人は改めて無事と再開を喜んだ。
「クランちゃん………無事でよかった」
「う…うん」
「一人でよくがんばったね」
「うん」
生き残った喜びをかみ締めあう二人だったが、クランが突然すっと目を細めて聞いた。
「ハカナ…もしかしてハカナも他の連中を殺して出てきたの?」
こんなことを聞くのはどうかしていた。
しかし、クランがここに来てから見てきたものは
内なる残虐性、破壊や欲望に目覚めたかのように変わっていく人々。
道徳や倫理など通用しない壮絶な殺し合い。
力があるものだけが生き残り、弱者はなんの価値もない無情感。
まだ体もできあがってない自分に向けられたあきらかな異常性欲………。
そんな現実をイヤというほどの味わってきたのだ。
もちろんハカナまでそんなヒドイことをするはずがないと心の底から信じているが
生き残ったという事実がある以上、そうでなくては説明がつかないところもある。
だからこそハッキリさせずにはいられなかったのだ。
もしハカナまで人殺しをしてきたというのなら、やはり悲しい気持ちになるだろう。
例えそれが生き残るために、しかたのないことだとしても…。
だが、もしかしたら他にも何か方法があったかもしれない。
いや、あってほしい。
クランはハカナの返答を、ただじっと待った。
ハカナは深い苦悩の表情で語り始めた。
「……私…私も戦おうとしたけど…
他の娘たちが…勝手に殺しあって気がついたら私だけが………」
つらい記憶がよぎったのだろうか、それだけ言うとハカナは口を瞑してしまった。
ハンカチを握り締める小さな手もひどく震えていた。
このハカナの言葉が嘘をついてるようには到底思えない。
きっとクランと同様に、つらく悲しい思いをしてきたのだ。
嫌なことを思い出させてしまったようでクランはなんだか悪いことをした気分になった。
クランが謝ろうとしたその時。
「どうして?なんでみんなあんな簡単に人が殺せるの?」
クランはひどく驚いた。
今、ハカナが言ったことは、クランが感じていたことと同じものだったからである。
だが、そんなことクランにだってわからない。
クランが何も答えられないでいると、ハカナは凛とした表情でクランの顔をじっと見つめた。
「ものすごく怖かった……でもガマンできる。
だから一緒にお父さんとお母さんを探してここからでましょう」
真っ直ぐでひるまない視線。
この普段からおっとりしている彼女が土壇場で見せるこの強さはいったいなんだろう。
クランはどうだったろうか?
普段から生意気で気丈に振舞っていたのに、
こんな状況に追い込まれると、すぐにもうダメだとあきらめてしまった。
あまつさえ、ついさっきまでハカナのことまで疑ってしまっていた。
クランは自分の弱い心が恥ずかしくなると
こんなんじゃダメだと頭を振るって邪念を全て消し去った。
元気よく立ちあがって胸を叩く。もうウジウジしたクランはそこにはいなかった。
「大丈夫だよ!ハカナだって守ってやる!私にドーンとまかせてヨ!」
「あらあら。さっきまで大泣きしてたくせに」
「うっ!うるさい!こ、子供扱いするなぁ!!」
屈辱で顔を灼熱の炎のように顔を染めて怒鳴り散らすクラン。
いつもの調子をとりもどしたようだ。
クランが本当に元気をとりもどしてくれてハカナもようやく安心した。
「でも…どうすればここから出られるんだろうナ…?」
「カードよ!カードを80枚集めればこのゲームが終わるらしいわ」
何故そんなことをハカナが知っているのか、クランは不思議に思った。
素直に聞くと、つい先ほどアナウンスがあったらしい。
機械を召喚することのできるカード使いたちの戦い。
お互いの呼び出した機械をつかって殺し合い、倒した敵のカードを奪う死のゲーム。
そうやって80枚のカードを集めたものだけがこのゲームから生き残ることができる。
それがゲームのルール。
クランは気絶していたか、それともヘンタイに襲われ必死になって逃げていたせいで耳に入らなかったのか…
ともあれ、そうゆうことになっていたようである。
「オマエのカード何枚だ?」
「え?え〜〜と…ひいふうみい16枚かな」
「さっきのヘンタイがカード落としていったからこっちも16枚。
…4人で出るには、まだぜんぜんだな。じっとしても仕方ない。とりあえず動こう」
「うん!」
「でもその前に…」
「!?」
「おしっこしたい!!」
「………」
ひたすらに無邪気な眼差しだった。
安心すると急にもよおしてきたのだ。
ハカナは一瞬クランを痛ましげに見つめてから、ふっとため息をついて呟いた。
目は遠くを向いている。
「あ…あっちの茂みでしてきなさい!」
「ハカナはしないの?」
「し、しませんっ!!」
「ふーん。もらしちゃってもしらないぞ」
「さっさとしてきなさいっ!!!」
何故ハカナが怒ってるのかクランにはよくわからなかったが
せっかちな様子でガサゴソ茂みの中に隠れていった。
(まったくもう…こんな時に何考えてんのよ…クランちゃんたらっ…)
クランの緊張感のなさに頭を痛めるハカナ。
両親を探そうという決意に水というよりおしっこをさされた感じである。
怒っても出てしまうものはしょうがないので、もう一度あきらめ気味にため息をついた。
ふいに、茂みに入ったばかりのクランの声が聞こえてくる。
それも今にも泣きそうな感じの声で。
「ハ…ハカナぁ…」
「あら?もう終わったの?早いわね…」
ガシュン!ガシュン!ガシュン!
(!?)
クランの声と入り混じって聞こえてくるのは、あきらかに異形の何かがやってくる音だった。
まるで映画か何かで見る作業用ロボットか何かが出すような金属音。
「な…な…」
ハカナは唖然とし、目を丸くした。
茂みの奥からやってきたのはカマキリ虫がそのまま巨大化したかのような風貌をもつ機界モンスター。
エクス=マンティスだった!
「うぇぇぇぇん。ハカナぁーー助けてェ(丸文字)」
そして右手には、まるで首を捕まれたネコのように宙ぶらりされているクランの姿があった。
「キャア!クランちゃん!?」
ハカナは召喚者を探そうと素早く瞳を動かした。
生い茂った茂み、立ちそびえる木々、隠れる場所はいくらでもあった。
焦れったくなったハカナはその四方八方からくる無言の重圧に耐え切れないかのように叫んだ。
「召喚者はドコよ!!でてきなさい!」
一瞬辺りは静まりかえったが、すぐに今以上の大声が返ってきた。
「テ…テメェ!なめてんのか!さっきからここにいるだろうがぁぁぁぁ!」
「え…!?」
ハカナはもう一度目をこすってよーく見た。
エクス=マンティスの横には、すでに召喚者らしき一人の男がたっていたのだ。
その男、本名『中山ジロウ』はどこにでも歩いていそうな一般人。
特徴と呼べそうなものは特にない。
あっけにとられていたハカナだったが、すぐに顔色を変えた。
彼女には珍しく、瞳は鋭い光を放っていた。
「わ、私のクランちゃんにいったい何するのよ!!」
「うるせぇ、とっととカードを捨てておとなしくしやがれぇー!!
さもないと、この幼女がどうなるかわかってんだろうなぁ!」
「だ、だれが幼女だ!ブッ殺してやる!」
いつもの条件反射もこの状況では虚しいだけだった。
エクス=マンティスの二本の左手がクランの体にスッと伸びる。
「ひっ」
不安。かすかな恐れ。クランは顔を歪めた。
「このエクス=マンティスはなぁ、
柔らいものが大好きで、それを見るとむしょうにいじくりまわしたくなるんだ」
エクス=マンティスの手先が怪しく動き出した。
いったい何をするつもりだろうか…。固唾を呑むクラン。
そして
「うわっ!こ、こら!何をするバカッ!やめろぉ!」
その洗濯バサミのような手先で、クランの胸の先端にある小さな豆つぶをがっしりと掴んで
むちゃくちゃに引っ張り回すのだ。
「うあっ!いやぁ!いたぁい!痛いよォ!(丸文字)」
クランは頬をピンク色にかえて足を暴れさせるが、首を掴む右手は決して緩まなかった。
「ヒャハハハハ!この拷問に絶えた幼女は今まで誰一人としていなかったゼ!」
「ご、ごめんなさい、やめてェー!ダメェ!お願いやめてェ!(丸文字)」
男の言うことに嘘はなく、クランはなりふりかまわず必死になって声を張り叫んだ。
ひっぱられた胸はクランの貧乳と相まって、ちょうど摘み上げられたハンカチのようになっていた。
(お…女の子にあんなことするなんてなんて残虐非道な男なの)
胸の痛みが自分にまで伝わってくるようで、ハカナの背中までぞくりと震えた。
「もうやめてぇっ!クランちゃんに乱暴なことしないでェっ!」
怒ったハカナが無意識の内に一歩前にでると、男はあわてて後ろに二歩下がった。
「バ、バカッ!そ、それ以上近づくなぁ!!!何考えてんだテメェ!
この幼女がどうなってもいいのかよぉーっ!
テメェオレに人殺しさせるつもりかぁぁぁあああああ!!」
「くっ…」
張り叫ぶ大声はハカナの体を金縛りにするに十分だった。
「……だ…だめ…だ…ハカナ………ハァハァ………カードはぁ………」
瀕死のクランのわずかな言葉に男の片目がピクッと動くと
エクス=マンティスはさらに激しくクランの豆粒をこねくりまわした。
「や、やめ……んあぁ、あぁんッ…カードだけは…あふっ…絶対に手放しちゃ…ダメ…んむぅ、んぅ(丸文字)」
乱暴に揺さぶられる小さな突起はもう引きはがれそうなほどに痛かった。
頭の中にはヘンな感覚だけが回り、呂律までうまく回らなくなった。
「さぁわかったら早くオレの言うとおりにしねぇかぁーーーーっ!」
ハカナは手に持ったカードをぎゅっと握り締めた。
そして大きく息を吸い切り出した。
「カ…カードを捨てれば…本当にクランちゃんを解放してくれるのね…?」
カードはこのゲームの唯一の生命線。
それを失うことがどうゆうことか、もちろんハカナにだってわかっていた。
しかしこのままではじっとしていればクランが…。
「いやっ!いやああっ!(丸文字)」
クランの口から唾液が止めとなく流れている。
「いやぁ!このままじゃわたしのおっぱい…ちぎれちゃうよぉハカナぁーーーっ!(丸文字)」
体は痙攣し、涙と鼻水と唾液をたらしながらの力ない声。
もう迷ってる時間は無いと悟ったハカナは全てのカードを地面に置いた。
ピリピリしていた男もようやく安堵の表情を浮かべ、クランの突起いじめもおさまった。
「ひぃ…ひぃ」
胸の先端は赤く腫れあがってまだヒリヒリとしていた。
クランは浅い呼吸を繰り返しながらハカナに申し訳なさそうな視線を送った。
「よーし。じゃあ、今度はおとなしくこっちこい!ゆっくりだぞ。ヘンな動きすんじゃねーぞ」
男は今までとは打って変わって余裕の表情でハカナに誘導を促した。
クランをあそこまでひどい目にあわせたことに対しては何の罪悪感もないようだ。
こんな男の言うがままにされるなんて…。
ハカナはくやしさで顔をしぶめながらも、男の命令には逆らえなかった。
男は勝利を前にしてつい心が緩んだのか、重要な一言をこぼした。
「テメェを差し出したらあの御方にカード80枚もらえることになっているんだからな」
それは、ぼっそりとした声でハカナには聞こえなかったようだが、
クランの耳にはハッキリと鮮明とした声で聞こえた。
今まで悲鳴をあげていただけのクランの表情に確実な変化をもたらしていった。
(な…なんだと…今こいつなんていった…?
…あの御方だと…?差し出す…?ハカナを…?どうして………だれが?)
白紙にたらした墨汁のように心に中に広がっていくドス黒いイメージが、次第に一つの形になっていく。
ところが胸が熱くなるばかりでそれが何だったのか完全に引き出すことができない。
それでもクランは記憶を思い切りかき回して思い出そうとした。
記憶の深層に近づくたびに、全身は身震いを起こし、血は逆流していくものを感じる。
ハカナに手当てされ、治まったはずの体の痛みまでが再びズキズキと湧き出してきた。
クランの意思を無視して、まるで体が思い出すことを拒否しているようだった。
しかしクランは強引に澱んだ記憶の水面を突き破った。
記憶の泉のそこから浮かび上がってきたものは、この男の背後にいる真の敵の姿だった。
(ま…まさか…ト…トウマ!?)
クランは震える体をムリヤリ押さえつけた。
(だとしたら…こいつに…こいつにだけはハカナを渡すわけにはいかないっ!)
こうしている間もハカナとの距離はジリジリと迫っていた。
いろんな思いで胸がしめつけられていく。
まさか大いなる災悪の使者がもうここまで迫っていたなんて…。
「まて、まさかひょっとしてテメェ…まだカードを隠し持ってんじゃないのか!?」
ハカナとの距離が半分ぐらいまで縮まったころだった。男がふと訪ねたのは。
「エ?」
「よし。その場で止まって、服を全部脱げっ!!」
突然の注文にハカナは苦虫を噛みつぶしたような顔をしたが、
男は真顔で冗談を言っている雰囲気ではなかった。
あまりに予想外のできことに額にもバッと汗がにじんできた。
「い、嫌です!そ、そんなことできません!(なんで私がそんなこと…)」
「んーーー?なんだと!できないなんてますます怪しいぞー!!やっぱり服の中にカードを隠してぇっ!」
「か、隠してません!」
本当にカードを全部捨てたのに、なぜこんなことを言われなくてはならないのだろう…。
そう伝えても男は納得しなかった。
一度思った疑念を捨て去るのは難しいことなのだ。
「どーしたあああーーーッ!ストリップって意味はパンツも全て脱いでケツを………」
「そ…そんなのイヤ!」
「ちくしょう!バカにしやがって!もう許せネェ!!」
だんだんと男のコメカミの血管数が増えていく。
だが男の注意は完全にハカナに移っていた。
クランにとって今が絶好のチャンス。
クランはなんとか足をジタバタさせて抜け出ようとしたが、機械の掴む力は強く緩まない。
(くそっ!このままじゃ…このままじゃ私のせいでハカナが…
………こ…こ…こうなったら…やるしかない!…あれをやるしかない!
…ちょっと…恥ずかしいけど…)
クランは顔を真っ赤にすると、そのまま力を抜いていった。
本当はあまりやりたくないことだったのだが、ハカナのためだ。しかたがない…。
じょぼじょぼじょぼじょぼ。
クランは密かにある計画を水面下で実行していった。
男とハカナの骨肉の言い争いは永遠と続いてた。
「いいから脱げってつっ言ってんだよ!笑顔でスカートをめくれぇ!」
「だからいやです!そんなのできません。本当にもうカードなんて持ってませんから」
「ど、どこまでもオレをバカにしやがってこの野郎!くそっくそっくそっ!!」
ハカナはめげずに男の説得を続けていたが、
突然、割り込んできたのはクランだった。
「やい!この臆病者!根性無しの小心者のヘナチン野郎ッ!!!」
「なんだとっ?」
既に興奮済みの男がギラリとした鋭い視線をクランを送る。
もう何をするかわからない目だった。
しかしクランはさらにわめくように連続で言葉を発した。
「そんな可弱い女の子一人倒すのに人質使わなきゃ何もできないのか!!
それでも男か!すでにタマまで縮みきってんじゃないのか!!」
ピシッ!
男にほんのわずかに残されたプライドに傷がついた。
「ク、クランちゃん!刺激ちゃダメよ!」
ハカナがあせりだすのも無理はない。
この男、これ以上怒らせたりしたら何をしだすかわからない。
だがクランはやめなかった。
「いいやどうせこのまま死ぬかも知れないんだからハッキリと言ってやる!
いいか!大体キサマそんなんで、この厳しい社会を生き残れると思ってるのか!!
どうせ、ろくに就職も決まらないまま卒業し、
バイトもせず家でゴロゴロとして親に迷惑ばかりかけているのであろうっ!」
ぐぐっ、と男が言葉を詰まらせた。どうやら図星のようだ。
わめいてこそいるがクランの心は錯乱気味の男に比べればずっと冷静だった。
何を言えばこの男が怒りそうなものか、だいたいわかっていた。
短い時間だったが小心者のくせに大きく振舞おうとするというこの男の本質をクランは見抜いていたからだ。
クランの非常に刺々しい一言一言がガラス細工でできた男のプライドをズタズタに切り裂いていった。
クランが挑発を続け、男は怒りで赤くなる。
「……で、最後は一人さびしく富士の樹海で首をつるのがせいぜい関の山だ!!」
クランが思う限りの言葉を全て吐き出すと、しばらく沈黙の鐘が鳴り響いた…。
空気は凍り付いていた。
「………おいっ……」
切り出したのは男の方。その肩は震えていた。
クランはその言葉を待っていたようだ。
「フンッ!なんだ?
ひょっとして私みたいな幼女にこうまで言われてくやしいのか?
そんなわけないよな。性根まで腐りきったお前みたいな粗大ゴミが」
そう言って、髪をかき上げるしぐさ。
まるで高慢で気高い貴族のお嬢様が貧民を見下すかのようなクランの口調にとうとう男は完全にキレた。
「このクソ幼女がぁぁぁぁぁあああ!」
ヤケをおこしたようだ、叫びとともにクランをぞんざいに地面に投げ捨てる。
「むぎゅう!」
地面に落ちたクランはおもわず蛙がつぶれたような声を出した。
クランを睨み付ける男の目は、それはもう人間の目とは思えないほど恐ろしいものだった。
「ひっ…」
男がカードを掲げるとエクス=マンティスの体が動き出す。
「ルーンカード『腕部変更』を使用!ミンチにしてやるぅぅぅぅ!」
エクス=マンティスの四本のアームが変形!
シューティングモードに移行してウルトラ20ミリ砲が爆射開始!!!
男は知的的な行動を心がけてはいるものの、
クランの数々の暴言ですでに心は正常を保ってはいられなかった。
ヴォドドドドドドド!
弾丸の嵐が一斉にクランに襲い掛かった。
「いやあああ!(丸文字)」
「キャア!クランちゃん!」
クランは四足歩行のまま犬のように逃げた。
弾丸は地面に穴を開けながらクランの後を追っていく。
射線に入ればあっという間にハチの巣だ。
ハカナはもう、まともに目など空けていられなかった。
心臓の音が大きく全身を揺るがし、手の中も汗でべっとりである。
ヴォドドドドドドド!
だがエクス=マンティスの銃弾音はハカナの鼓動など、いとも簡単にかき消していった。
その時であった。
ボンッ!!!
突然エクスマンティスの腕が暴発して折れ曲がったのだ。
「な、なんだ!?」
そして機械の受けたダメージは召喚者にも伝わる。
メキメキベキィ!
鈍い音がすると男の両手もエクスマンティス同様に、
ぐちゃぐちゃにねじれ折れ曲がってしまったのだ。
「うぎゃっ!!ひぎいいい!!!」
指は全て曲がってはいけない方向に曲がっている。
いきなりの大激痛に男の顔が苦しみに歪むと、両膝も簡単に屈した。
ザッ!
倒れた男の目の前にクランが腕組みしながら立った。
険悪な視線で男を見下ろしながら…。
「ひいっ!ひいいっ!!」
男の精神力が弱まると自然にエクス=マンティスはカードへと戻った。
男にはいったい何が起こったのかわからないようなので、
クランが上級者らしく自慢気に解説を入れた。
「初心者めっ!教えてやる!
エクスマンティスは水属性攻撃をうけたあとで行動すると
ショートして壊れる特性があるんだ!!!」
日ごろからカオシックルーンで鍛えていたクランにとっては常識的なことだった。
それがこの世界でも通じるかどうかは少し疑問だったが、試してみてどうやら功を制したようだ。
しかし男にはもう一つ不可解な点があった。
「み…水だと……そ…そんなもの…いったいどこから…!?」
クランが顔を赤くすると、
すぐにぐちゃぐちゃになった男の手をさらに踏みつけた。
まるでそれ以上考えさせたくはないように…。
「ぎにゃあああああああ!!」
男は大げさな悲鳴をあげているが、もちろん手加減はしてある。
もういいだろうと踏みつけるのをやめると、
激しく呼吸を繰り返す男にクランは喉を裂かんばかりの大音声をあげた。
「カードをおいてとっとと失せろっ!!」
「ひいっ、ひいいっ!!」
クランの憎悪の視線に耐えられず、男はカードをばら撒きながら一目散に逃げていった。
「ふぅ…」
ようやくの勝利にクランは一息ついて、ヘナヘナと腰を下ろした。
「く…クラン………ちゃん…?」
「あ、ハカナ!私やったよ!」
歓喜に目を輝かせる。
にっこりと勝利の笑顔で答えて、ハカナが褒めてくれるのをまっていた。
しかしすでにハカナは気づいていた。
「み…水って………その………まさか……もにょもにょ…じゃないよね…」
「………え…いや…それはその……」
ハカナはすっとクランの目をのぞきこんだ。
クランはたちまち冷や汗を流して落ち着かなくなっていく。
この近距離では、視線を逸らそうとしてもうまく逸らせない。
ぐっしょりとぬれた下着…。
湿った股間に太ももを伝って足首にまで流れ落ちている水滴…。
ハカナは全てを確信した。
パチン
「ブッ!」
クランの頬に大きな手形がついた。
「クランちゃんのバカッ!ヘンタイ!エンガチョ!!」
「ま、待ってよォハカナ」
「私の1メートル以内に近づかないでっ!!」
「そ…そんなぁ」
ハカナは本心だった。
せっかくハカナのために恥ずかしいのもガマンして頑張ったのに……。
この時ばかりはクランは、この世の不条理を感じずにはいられなかった。
風が吹くと、濡れた下半身はまだひんやりとして冷たかった。
続きます。
続きです。
ヴォバババババババ!
生い茂る密林などもろともせずに滑走しているのは角突きバイクことニードルビット=シケイダー。
座席部には三人の男達がまたがり、
前方の巨大なツノには、倒したカード使いたちの亡骸を串刺にして勲章のように晒していた。
後部には裸の少女が虫の息の状態でくくりつけられていた。
彼等の性欲発散用のオモチャである。
膣はすでにいっぱいで、振動の度に白濁液があふれていた。
足を止めた場所は湖だった。
ここに夏樹ハカナがいるという情報をつかんだからである。
湖はすでに戦いなどなかったかのように静寂を保っていた。
情報源の男はすでに消してしまったので、
この湖で本当にあっているかどうかは確かめようがない。
「あ〜だめですねトウマさん。どうやら遅かった見たいですねぇ」
男達は周辺をくなまく探したが、もうそこには誰の気配もしなかった
「いや。そうでもないぜ。これを見てみろ」
地面に刻まれた銃弾の痕跡は、
まだ戦いがあってからさほど時間がたっていないことを証だった。
そして今できたばかりの足跡が道なりに沿って続いている。
歩幅からは大人と子供の二人組ということまで推測できる。
「追いますか?」
「当然だ。オレの下半身はもう爆発寸前だからな。
ヘタに発散なんかさせちまったら夏樹に悪いだろ?ヘヘヘ」
「へぇ。トウマさんは意外と純愛タイプなんですね」
「フッ。オマエたちのような鬼畜と一緒にするんじゃねぇ。よしっ!行くぜっ!」
ヴォババババババババ!
悪魔達はもうすぐそこまで迫っていた。
「は…は…ハクション!こ…この服やっぱり冷えるなぁ…」
それもそのはず、胸の部分にはっきりと「3の3棗」の文字が描かれているそれは
先ほどの男との戦いで奪い取った戦利品『体操服+首輪』だった。
肌寒さに首をすくめながらも、クランは目の前のハカナに置いていかれないよう歩いていった。
太陽が傾き日没はもう近かった。
森は斜陽の光に照らされ、美しい紅の光景をつくりだしていた。
しかし今のクラン達にとって、
それはまるで木々に染み付いた血のりの数々を覆い隠すようにしか見えなかった。
こうしている間も、どこかで誰かが殺しあっているのだから。
森全体に欲望や破滅…あらゆる負の感情が渦巻いているようだった。
このまま日が没して夜が訪れれば、辺り一面が闇に覆われる。
それは闇の住民達が動き始める時間。
疲れて感覚の鈍り始めているクラン達が、
闇のジャングルの中で一夜を過ごすのは命がいくつあっても足りないことだった。
クランたちは安全な場所を探し求めていた。
「ねぇ…ハカナぁ…いい加減口聞いてよぉ…もうキレイに洗ったんだからいいじゃん…」
クランが顔をしかめて文句を言った。
ハカナは先ほどから一言も話してくれなかった。
下着をおしっこで濡らされたハカナの怒りはやはり果てしなく重いのだ。
「さっきのヤツにひっぱられた胸が、なんだか腫れちゃって痛いヨぅ…」
「フンッ!これでペタンコの胸も少しは膨らんでよかったわねクランちゃん」
「ブッ殺してやる!!」
「キャア!近づかないでよぉ!汚いのがうつっちゃうじゃない!」
「こここ…こいつぅっ!!」
クランが泣きながらハカナに掴みかかろうとした瞬間。
ザザーッ
それは突然の大雨だった。
山の天候は変わりやすいというが、これはあまりにも変化が激しすぎた。
まるで台風か何かが直撃したような特大の暴風雨。
「キャア。な、何よこの雨!?」
二人は吹き飛ばされないように木にしがみついて体制を保つだけでやっとといった感じだ。
猛烈に吹き付ける風に、叩きつけてくるような大雨。
前に進もうにも視界の確保すらままならない。
こうやって立ち往生している間も、
冷たく降り注ぐ凍りつくような冷気が確実に二人の体温を奪っていく。
細めるクランの瞳の中に、ふと白い小さな建物が入ってきた。
「あ…あそこになんかあるよ。あそこまで行って雨宿りしようよっ」
このまま、ここにいれば体力はすぐに尽きてしまうだろう。
2人は今ある力の全てを振り絞って、そこまで進んでいった。
バシャバシャ。
辿り着いた時には、すでに全身から水がしたたり落ちていた。
森の中に不自然にそびえ建つ、ぶっそうで、何の飾り気もない白いコンクリート状の建物。
誰が何の目的でこれを建てたのか、クラン達はすでに知っていた。
「この建物、始めに私が居た場所に似てるなぁ」
「私も…」
おそらく森の至る所にこの白い建物は存在しており、
そしてここでも凄惨な殺し合いが行われていたことだろう。
そう考えるのはたやすかった。
中は薄暗くてどうなってるかよくわからないが、クランが先頭にさっそく建物内部に飛び込んだ。
ぐじゅ!
「わぁ!?」
部屋に足を踏み入れた途端にクランは何か異様なものに足をとられてしまい、
そのままバチャンと勢いよく転んでしまった。
転んだ全身から生暖かく湿った感触のものが伝わってくる。
それはヘドロのように粘着質な何か。
瞬間、雷光とともに建物内部に強烈な白い光が差し込んだ。
「!!」
クランの体に鳥肌が立った。
ブチまけられたものはなんと『 臓物 』だった。
「い、いやあああ(丸文字)」
体全体で踏み潰していたのは『腸』のベットの感覚。
クランは驚きあせって立ち上がろうとしたが、
バシャン!
再びぬかるみに足をとられ今度は後ろに倒れてしまうと、臓物のしぶきが高く舞い上がった。
ボト…ボト…ボト…。
上から生ぬるいドロドロとした脳漿がクランの上におちてくる。
そして、どこの誰だか知らない人の冷たい手先が、倒れたクランの頬をゆっくりと伝っていく。
「い……やああああああああああああ(丸文字)」
クランの叫びが響き渡った。
腰を抜かしたクランは這いずりながら外に飛び出すと、すぐに一生懸命雨で体を洗い流した。
足元はどこもかしこもモツモツモツモツ。
なんと床一面が臓物の池と化しているのだ。
積み重なった臓物は深く、うかつに踏みこめば足首にまで達するほどもある。
壁にまでも、ブチ撒けられたモツが強くへばりついていた。
いったいどれだけの人間がお亡くなればこうなるのだろうか。考えたくもない。
部屋内は、道端にあるどんなゲロよりも薄汚い死臭で漂っていた。
二人は鼻をつむぎ、顔を歪めながら歩いた。
ぐちゃ!ぐちゃ!!
足裏から臓物を踏み潰す異様な感触だけが伝わってくる。
この建物が、始めの建物と同じ作りだとすれば、
まず初めに大部屋があり、そこから4つの道に別れ、
それぞれの道の先は廊下を通じて小部屋へと繋がっているはずだ。
クランたちはまずそこを目指した。
廊下までくれば、さすがに臓物床ではなかった。
匂いもずいぶんマシだった。
あえて言えば2度も転んでしまい、臓物にまみれてしまったクランの体から
異臭が漂っているぐらいのものだった。
雨で洗い流しても体の真まで染み付いてしまった匂いというのは、そう簡単にはとれないものだった。
一直線に続いていく廊下の半分ぐらいまで進むと、ハカナの足が急に止まった。
「ど…どうしたのハカナ?」
「クランちゃん。服脱いで」
「エ?」
ヘンな想像をしてしまったクランだが、
それは体操服をしぼってくれるという大変ありがたい申し出だった。
確かに大雨でびしょ濡れになった服をこのまま着ていれば風邪をひいてしまうだろう。
クランに断る理由はなかった。
臓物にまみれた服だったが、ハカナは嫌な顔一つせずしぼってくれる。
どうやらいつもの優しいハカナだ。
「あ…ありがと…」
「どういたしまして」
今回ばかりはクランは素直にお礼をいった。
クランは渡された服を胸にギュっと抱きしめたまま、瞬きもせずハカナの体を見つめていた。
雨でぬれた髪。冷たく湿った素肌。服からすけて見えるブラ…。
女のクランから見ても、それはとてもキレイで魅力的だった。
クランはついハカナの体に魅入ってしまったが、
ハカナはそんなクランのエッチな視線に気がついたらしい。
「わ…わたし、あっちの部屋でしぼってくるから…。クランちゃんはここに居ててね」
「えっ!?そ…そんな!ハカナ、ハカナだけそんなのずるいヨぉ!」
自分だけ裸を見られてこれでは不公平だとクランが頬を膨らませて猛烈に抗議しても、
ハカナは知らない顔をしてとぼけた。
結局クランは納得もいかないまま、その場でハカナが戻ってくるのを待たされることになった。
不満げな顔をしていたクランだったが、もうさすがに疲れたのだろう。
本人ですらも気がつかないうちに自然にヒザが折れて、腰が床にまで落ちていく。
体操服を抱きめる力も弱まり、だんだんと目蓋が下がりだすと、意識までおぼろげになっていく………。
「キャアーーッ!!」
「!?」
クランはバッと身を翻した。その目はすでに見開いていた。
ハカナの悲鳴?敵に襲われたのだろうか!?いや、敵に襲われたのだ!
クランはカードを握り締めると、すぐにハカナの後を追った。
一瞬の油断が命を落とす。そんな厳しい現実を心の中でかみ締める。
自分がほんの少しばかり気を抜いてしまっただけでこんなことになってしまうなんて…
やはりハカナから一瞬たりとも目を離すべきではなかったのだ。
頭の中にはすでに最悪の事態が思い浮ばれていた。
(ごめんなさい…ハカナ…無事でいて……ハカナがいなくなったら…わたし…わたし)
クランはもう無我夢中で走った。
その時、廊下の向こう側から懐かしい人影が走って来る。
夏樹ハカナだった。
クランは思わず涙がでるほど喜んだ。そのまま抱きしめあう二人。
「ハカナぁ!無事だったんだね。よかったぁ…」
「クランちゃん…」
「ど…どうしたんのハカナッ!!いったい何があったの?」
「へ…部屋に入った途端突然何かが頭を……いたたたたた」
クランがハカナの頭をさすると、そこには大きなタンコブができていた。
ゴゴゴゴゴ!!
クランの冷え切った体からとてつもない熱量が発していく。眉間にはシワが寄っていた。
「………よ…よくも…わたしのハカナに…………ゆ…許さんッ!!」
「え?クランちゃん?」
ハカナが止める暇もなく、クランは火の玉のように先の部屋に飛び込んでいった。
すでに血管が千切れそうなほどに、クランの頭には血が上っていた。
危険も省みず部屋に飛び込む。
「ハカナに手を出したのはどこのどいつだ!ブッ殺してやっ!!」
ゴンッ!
響き渡った鈍い音。
勇敢に部屋へと足を踏み入れた瞬間に、目の前に大きな星が飛び散った。
「んぐぐぐぐっ」
思わず目玉が飛び出しそうなほどの強烈な後頭部への一撃。
金属棒か何かで殴られたらしく、頭はもうそれは割れるように痛かった。
こらえきれないあまりの痛みに大粒の涙がボロボロと流れていく。
普通の人ならまず一歩引くところだろうが、逆にクランは猛烈な勢いでとびこんだ。
「………キ、キサマァー!もう絶対許さーーーんっ!」
この突貫には流石に敵も驚いたらしい。
ひるんだ相手をがっしりと掴むと、そのまま床へと押し倒す。
暗がりでよくわからないのだが、相手の体格はクランより一回り大きいようだ。
いや、クランに比べればたいていの人は一回り大きいのだろうが…。
暗闇の中、二人はもみくちゃになって何度も地面を転げ回った。
何度も何度も壁に打ち付けられながら、必死の攻防が続いていく。
クランは腹部に強烈な蹴りこまれたり、顔をひっかかれたり、髪の毛をひっぱられたりしながらも
怯むことなく戦い続けた。
次第に敵は体力がつきたのか、抵抗が弱まっていくのが手に取るように分かる。
そして最後に上をとったのはクランだった。
「や、やっと、つかまえたぞ!観念しろこの変質者めっ!!」
クランが割れたギブスから飛び出した右手で敵の体をおもむろにつかんだ。
むにゅ
(?)
そこにはゴムマリにも似た弾力性のある感触があった。
どこかで感じたことのあるような感触でクランは思わず戸惑った。
しかし、それが何であったのかまでは思い出すことはできなかった。
微妙に気になったクランはそれを何度も揉んで確かめる。
すると敵の最後の抵抗がはじまった。
必死に暴れてクランを払い落とそうとしてきたが、クランはムリヤリ力で押さえつけた。
「こ、こいつ、おとなしくしろ!!ブッ殺すぞ!」
クランが精一杯脅すと、敵はびくっと体を震わせついに抵抗をやめた。
おとなしくなった敵のそれをクランは思う存分触り続けた。
自分の呼吸が荒くなっているのを感じるが、ただ動きすぎてつかれただけだろうとクランは思った。
もう少しでこれがなにか思い出せそうなところまできていたが、最後の鍵がなかなか開かない。
指でなぞっていくと、それは丸々としているのがわかる。
小高い丘の上には小さな家があった。
家は柔らかく摘んでいじくりまわしていくと、下から「いやぁ!やめてやめてェ」と小さな声がする。
何故だか先ほどのエクスマンティスから拷問を受ける時のクランのようだった。
「!!!」
クランの顔が男の子のように急激に赤みが増した。ようやくそれが何かに気づいたのだ。
ボグゥ(金激)
「んっ!!!」
下から突きあがってきた突然の衝撃。
クランは股間を押さえながらその場をぴょんぴょんと飛び跳ねた。
その間に敵は金属棒らしきものを握り締めると、クランの頭を力いっぱいに殴りつけてきた。
ボコボコボコ!
「ち…ちがう…わ、わたしは…そんなつもりでぇ…いやぁー……ごめんなさーい!(丸文字)」
―――。
「く…クランちゃん?」
戦いから戻ってきたクランの頭はデコボコに変形し、
頭の先からは血が噴水のようにピューと飛び出していた。
髪と顔半分は血で真っ赤に染まっており、クランの丸い頭と相まってまるでたこ焼きのようだった。
「だだだ…大丈夫!?すぐに手当てを」
「そそそ…そんなことよりハカナぁ…た…大変なコトしちゃったヨぉ…」
クランが泣きあわてて、舌をかみながら身振り手振りで今起こった物事を伝えていった。
しどろもどろのクランだったが、ハカナはなんとか事情を察した。
アイテムカードとして召喚したランプに火を灯すと、今度は二人で慎重に歩を進めていった。
今度こそは、入り口での強襲はなかった。
中は静かで一見誰もいないように感じても、
そこには確かに先ほどクランと戦った何者かが存在しているのだ。
辺りに万全の注意を払いながら、二人は部屋の真ん中辺りまで足を進めた。
その時だった。
「い、いやぁ……来ないでェ(丸文字)」
壁隅から聞こえてくる子羊のようにか弱い声。
それはクランが先ほど聞いた声に間違いなかった。
目を向けると、そこには見た目ハカナやクランと同じ年齢ぐらいの
カチューシャをした少女がブルブルと震えながら体を丸めていた。
この少女こそが、先ほどハカナの頭を殴りつけ、クランと格闘戦を繰り広げた相手だったのだ。
見た目は、どちらかといえばおっとりとした物静かそうな印象をうける。
普段からあまり運動をしていないのだろうか、
筋肉と呼べるものはまるでなく、とても柔らかそうな体つきだ。
服はすでにボロボロにされており、上は白色の心もとない上着が一枚だけだった。
少女は襟部分を胸の中心にひっぱる形で必死に胸を隠している。
スカートも破られてしまったらしく、下着を隠すものもは何もなかった。
この姿…この怯え様…。
少女が今までどんなひどい目にあってきたのかは想像するにたやすかった。
少女にとっては、目の前に立つハカナとクランは
自分を殺そうとしにきた殺戮者以外の何者でもないのだろう。
二人が近づくて行くにしたがい、体の振るえが大きくして、涙の量も増えていく。
声は枯れてしまったのだろう、すでに叫び声一つもあげることもできないようだ。
ハカナはこの少女の姿が路上に捨てられた子猫のように可愛そうに思えた。
助けたいと思うことは彼女にとっては自然なことだった。
頭を殴られた痛みなんてもうすっかり忘れていた。
少女が発狂するギリギリのラインまで近づくと優しく微笑んだ。
怯える少女を少しでも安心させようと、
波紋のない水面のように優しくて穏やかに接していく。
「大丈夫よ。私たちはあなたの敵じゃないわ」
クランもここまで優しそうなハカナを見るのは初めてだった。
これはもう姉ではなく母のようだ。
ハカナはクランを前面にだすと、両肩に手をそえた。
まるで親戚か何かに娘を紹介する母親のように…。
イヤイヤそぶりをするが、ハカナの両手は暴れるクランをしっかり固定したまま離さない。
こうして並ぶとクランの身長はハカナの胸ほどもなく、とても同じ年齢には思えない。
だからクランはこの並び方は大嫌いだった。
しかしクランがもっとも恐れていた一言が、ハカナの口から何の躊躇いもなく発せられていく。
「私、夏樹ハカナ…。で、こっちの”小さい子”はクランちゃん」
ピュー!
クランの頭から血が勢いよく飛び出した。
「………ヒ…ヒィぃ…殺さないで…いやあ…いやぁぁ」
クランの表情は安心させようというハカナの思いとは逆に、
少女をさらに強く怯えさせてしまった。
ガクガクと震える少女の反応にハカナがどうしたのだろうと頭を傾けるが、
自分の前にたつクランがどんな表情をしているか等知る由もなかった。
ハカナはようやく少女が怯えてる原因が主にクランにあることに気づいた。
それは恐怖の視線がクランの方を向いてるからだった。
クランの姿はブルマ一枚だけであった。
体操服を絞った後からまだ着ておらず、右手に握り締められたままだった。
基本的に銭湯とかでも腰布だけで入っていくクランにとって、
女の子に胸を見られたからといって別になんてことはないのだ。
露出するクランの体はバンソウコウと包帯だらけで、
頭からはまだドクドクと血が流れており、たこ焼き状態のまま。
おまけにこんなペタンコな胸まで晒してるとなると………そうかっ!。
そこまで考えるとハカナがピンと閃いた。
少女がこんなに小さくて可愛いクランのいったい何を怯えているのか。
優しくて穏やかなハカナの声。
「こう見えてもクランちゃんは女の子だから安心して…ねっ」
ハカナの言葉に少女が「エ?」っと意外そうな顔をすると、
すぐにクランの頭から二つ目の血の噴水が飛び出した。
少女はやっぱり怯えてしまった。
もうハカナが一生懸命話を振っても、
少女は怯える以外の反応を示してくれなかった。
どうやら、そうとう警戒されてしまったらしい。
困り果てたハカナだったが、クランは退屈そうにあくびした。
少女にとってはクランのその仕草だけでも恐ろしいものだった。
心を開いてくれない少女…
こんなときいったいどうすればいいのだろう…
何をしてあげればいいのだろう…
ハカナが一生懸命悩んでいると
突然クランがハカナの手をひっぱって廊下の方までつれていった。
「ど、どうしたのクランちゃん?あっ、何かいい方法でも思いついたの」
「もういいよハカナ。あんなヤツほっといて行こうよ。
ああゆうウジウジしたヤツ見ると生理的にムカつくんだっ!(丸文字)」
クランは可愛い声で毒のあることをサラリと言ってのけた。
「何か方法があるはずよ…何か…仲良くなれる方法が…」
ハカナはブツブツ呟くだけでクランの声など聞いてもいないようだ。
ハカナのあまりのお人良しに、流石のクランもあきれ果てた。
(はぁ…たくっもう…カードで遊ぶ時もこれぐらい真剣にしてくれたらなぁ…)
面白くなさそうに頬を膨らませていたクランだったが、
自分の言葉がヒントになって、ハッと何かに気づいたようだ。
そう、まさに名案だった。
焦らす必要などない、クランはすぐにハカナに教えてやった。
「そうだハカナ!そんなことよりアイツからカードを奪ちゃおうっ!!!」
その目はランランと輝いていた。
「えっ?」
「素直に渡すならそれでよし!抵抗するなら力ずくで取り上げる!」
明るい笑みを浮かべたクランはとても活き活きとしており、妙に乗り気になっていた。
呆然とするハカナの肩を、クランが安心しろと言わんばかりにポンポン叩く。
そして不安を吹き飛ばすかのように、にっこり笑う。
「大丈夫。あんなトロそうなヤツ私一人でも十分だヨぉ!」
ハカナはきょとんとしたまま数回瞬き。
「ク、クランちゃん!あんな子から、なけなしのカードまで奪おうっていうの!!?」
クランは幼女のように愛くるしい笑顔のまま、はっきり首を縦に振った。
「だってアイツがこの建物の生き残りなら16枚はもってるはずだろ!
逃げ場もないし、よく考えたら絶好のカモじゃないか!!」
なんていいこと思いついたんだろう!
と得意になっていたクランだったが、ふと見上げるとハカナの顔には悲しみしか映っていなかった。
先ほどおしっこを漏らした時などとは比べものにならないほどの嫌悪な眼差しが向けられていた。
「な…なに…ど、どうしたのハカナ(丸文字)」
クランはついつい固まった。動揺して言葉まで丸文字になってしまった。
「クランちゃん…お姉ちゃんクランちゃんをそんな冷たい子に育てた覚えないわよ」
それは何かに失望したような…とても残念そうな声だった。
ハカナは本当に悲しかった。
もしクランが本気でそんなことを言っているのだとしたら
カードのために他者を平気で殺戮する連中と同じということになっていまう。
いや、今のクランには自分が悪いことを言っている自覚すらもない感じがした。
まるでそれが当然のことであるように…。
普段からおてんばで男の子とケンカしたり、品のない言葉を発したり、万年反抗期なところもあったりするが
それでも本当は優しくて可愛くて素直で良い子なのだと、今までずっとそう思っていたのに………。
…ハカナはそんなクランの肖像が全部が全部、嘘に見えてきてしまったのだ。
そんなハカナの底にある悲しみが伝わってくるようで…クランの心まで悲しくなっていく。
だが今回ばかりはクランは心を鬼にした。
「な、なんだよハカナ!い、いきなり…何言いだすんだ!
なぜなの…?どうして…?なんで今更そんなこと言いだすのか全ッ然わかんないよっ!
せっかく安全にカードが16枚も手に入るんだ!すっごくいいことじゃないか。
わかってんのか!4人でここから出るには、まだあと288枚もいるんだぞっ!
それを考えればここは確実に奪っておくべきだっ!」
クランは癇癪をおこさずにはいられなかった。
全て言い捨て荒々しく息を吸った。
クランとて冷酷人間ではない。こんなことを言うのは本当はとても心苦しいことだった。
助けられるものなら助けたい。
それができたらどんなにいいだろう。
だが自分達が生き残るだけでも精一杯な現状…どうして他人のことに構う余裕があるだろうか?
クランはハカナよりほんの少しだけ生き残るための現実を見ているだけにすぎないのだ。
ハカナの笑顔を護りたい。
小さくてもそれだけがクランの望みの全て。
そんなクランにとってハカナに悲しい顔をされるのはただひたすらつらいことだった。
「…クランちゃん………クランちゃんまで…他の人と…同じこと言うんだね…」
冷たい視線。
信じていたものに裏切られたかのように、瞳の奥は涙で潤んでいた。
対称にクランの視線はひたすらに熱い。なんで自分の気持ちがわかってくれないんだと…。
「うるさいっ!!あんなやつどうなろうが私の知ったことかぁっ!!」
ハカナの気が遠くなった。これではもはやキチガイだ…。
カードから来る破壊と邪悪な誘惑にクランまで取り込まれてしまったのか…。
そう思うと一層悲しみが深まっていった。
少し落ち着いたクランが投げやりっぷりに床に吐いた。
「…そ…そんな、甘い考えじゃこの先とうてい生き残れないぞ!
敵はどんな卑劣な罠をはって待っているかわかんないのに…!」
「敵?」
クランは思わず出しそうになったその名を口つむいだ。
「どうしたのクランちゃん…何だか変よ…いつものクランちゃんならそんな冷たいこというはず…」
「うっ…」
ハカナの言うとおり、クランの心は確かにざらついていた。
クランの心がこうも落ち着かないのは、
迫り来る敵がどれほど強大なのかを知っているからだった。
今、思いだすでも身震いするほどまでに体に植えつけられてしまった絶大的な恐怖…。
恐怖の影は確実に後ろから迫り、もう今すぐにでも自分達に追いついてくるかもしれないのだ。
今の手札の中で戦えそうなカードはエクス=マンティスとアハト=アハトぐらいのもので、
こんな状況で襲われてしまえば、ハカナを護りきるのなんて到底不可能だ。
それに加えて先ほど襲ってきた男の漏らした発言も確実にクランの心に大きな影を落としていた。
(あの御方にハカナを差し出せばカードを80枚くれる…)
たった一回の戦闘でそれだけのカードが手に入るといわれれば、誰もが襲ってこないわけがない。
もうすでに周り全てが敵だとしてもおかしくはない。
そう思うだけでクランの心は不安と絶望で押しつぶされそうだった。
ついクランが心の中で舌を打った。
ハカナはそんな現状を何も知らないから他人を助けようなどと呑気なことが言えるんだと。
…………でもそれでもいい。
ハカナにだけは、胸の内にあるこんな恐怖に巻き込ませるわけにはいかない。負わせたくない。
心の闇を抱くのは自分ひとりで十分だ。
ハカナは護る。
両親は見つけ出す。
320枚のカードを集めて脱出する。
血の歯車はすでに回り始めている!
歩みをゆるめて立ち止まることなど許されないのなら血塗られた道を進み、鬼にも悪魔にもなろう。
クランは改めてそう誓った。
「ク…クランちゃん?」
いつの間にかハカナが心配そうな顔でクランの顔を見つめていた。
クランはいつの間にかすごく怖い表情になっていたのだ。
「とにかくカードは奪う!」
言い放つ言葉には、もう一片の迷いも見られなかった。
クランの決意に、とうとうハカナまでもが真剣な顔で聞いてきた。
「カードとあの子、どっちが大切なの?」
「カード!」
きっぱり言い切ると、ハカナの表情についに暗い影がさしかかかる。
拳を握りしめ体全体が震えだす。
気の毒だが、ようやくハカナもこれがどうしようもない現実だとわかってくれたようだ。
だと思ったら…。
「…ポカポカッ!」
「アングー」
「わぁ!!」
ジュバッ!!
ポカポカの溶解液を間一髪で交わしたクランだが、靴の先が少し溶けてしまった。
「な、何をするんだハカナぁ!うっ!?」
もう、そこにいるのはいつもの優しい夏樹ハカナではなかった。
本気で起こったときのグルグル目。
おもわず後ろに引くほどの圧倒的威圧感は、真っ直とクランに対して向けられている。
「こうなったら仕方ないわ!
クランちゃんが本気であの子からカードを奪うっていうなら
私 が 相 手 に な る わ ! !」
「エ…」
クランが悪の道に染まるのならいっそ自分の手で………そういう結論に至ったのだろう。
つらい決断だったが、ハカナには自分が正しいことをしているという確信があるから
クランとだって戦うこともできるのだった。
ハカナの豹変ぶりにクランはただもう頭が真っ白になった。
…今までハカナのことだけを思って必死に戦ってきたのに…この仕打ちはあまりにもひどすぎる…。
しばらく何も考えられなくなったが、すぐに腹の底から熱いマグマが煮えくり返ってきた。
(こ…こいつ…いったい…だれのせいで……私がこんなに悩んでると……)
ギリギリギリギリ
折れるのではないかとおもうほど強く歯をきしませる。
ミシミシミシミシ。
無数の血管はコメカミにまで浮きだしてきた。
「うるさいっ!私に指図するなっ!
だいたいオマエが遊園地なんて行きたいと言うからこんなことになったんだぞ!わかってんのか」
「クランちゃんがヘンなカードイベントに行きたいなんて言いだしたからでしょ!」
「ま、また人のことクランちゃんなどと…!
いいかげん棗さんと呼ぶようにそのお天気な脳みそに叩き込めっバカ!!!」
二人は今まで抑えていたもの、日ごろから我慢していたものを大爆発させた。
それは、建物全体を揺るがすほどの、壮大な大音量だった。
二人の殺意が辺りにどす黒い火花を散らしていく…もはや一触即発…。
(ぶっ殺してやる!)
お互いが心にその言葉を刻んで、カードを掲げたその瞬間。
「…あ…あの…………や…やめてください…」
「うるさいっ!部外者は黙って(て)!(ろ)!」
「………………………ご…ごめんなさい……!」
「エっ?」
「あっ?」
二人を戦いを静止したのは、さっきまで怯えて震えていた少女だった。
コソコソとこちらの様子を窺がっていたようだ。
まぁ、二人の会話はずいぶん前から筒抜けだったのだが…。
ハカナの自分を護ってくれようとする必死な姿が伝わってくれたのか、
少女はようやく心を開く気になったのだ。
ひとまず二人は休戦し、少女の声に耳を傾けることにした。
小部屋に戻り、灯ったランプを三人が取り囲む。
少女の声は集中しなければ聞き取れないほど、静かでか細い声だった。
泣き声と入り混じって、その話からは要領が得られないが要約するとこうだった。
友達と一緒に遊園地に遊びにきたのだが、
あるカードイベントで、とても恐ろしい事態に巻き込まれてしまった。
少女には何が起こったのかまるでわからなかっただが、気がついた時にはこの小部屋だった。
少女を含めて4人の人間がそこに閉じこめられていたのだが、
偶然にもそれはみんな友達だったので少しだけ安心できた。
よくわからないまま、しばらくすると『秘書』と名乗る女性が現れ、カードの使い方を教えてくれた。
そして全ての説明が終わり、少女達に強要されたことはカードを使った殺し合いだった。
そのことでいろいろと相談をしたのだが、
みんなで一緒に力を合わせてここからでようと固く誓った。
しかし、次の大部屋で起こった大規模な戦闘は友達3人の命をいとも簡単うばった。
目の前で三人もの友達が惨殺され、一人残された少女はあまりに怖くて必死に命乞いをした。
いろいろひどいこともされたが、どうにか命だけは助かった。
気が済んだ相手はそのまま外にでていったが。
一人残された自分は怖くて外に出きず、ここでじっと閉じこもっている。
…………とのことだった。
少女の名前は小田チフユ。
顔に希望はなかった。
少女の話を聞いてハカナは胸が詰まる思いがした。
大切な友達…そう例えば自分にとってハナコが目の前で殺されてしまえば………。
そう思うだけでもこの少女の胸が張り裂けそうで、少女の痛みがわかるようだった。
(もう大丈夫よ。安心して。私達に何か出来ることない?)
そんな優しい言葉をかけようとしたら、
ハカナと少女の間にクランがニョキニョキっと割り込んできた。
(ク…クランちゃん?)
そうだ。クランとてチフユの話を聞いて同情したのだろう。
そして前述の言葉を深く反省し、自分と同じように少女を慰めようとしてるに違いない。
しかし、クランの言葉はそんな甘いものではなく、ハカナの想像をあまりにも絶していた。
「そんなことはどうでもいい!問題はカードをもってるかどうかだ!」
クランはキッパリ言い放った心無い一言はまるで悪びれた様子もない。
ハカナはなんだか情けない思いでいっぱいになった。
そんなハカナの思いなど気にもせず、クランは少女に容赦なく尋問を続けた。
「おいっ!カードをもってるかどうか聞いてるんだっ!!」
「…ひっ!…そ…そんな…そんなの……もう………とられて……ありません……ぐずっ」
「ホントニィ?嘘なんかついてたら許さないからなっ!」
クランは冷たい視線で少女を睨みつけていた。
このいたいけな少女に対して、まだ疑いをかけようというのだろうか?
やっと自分達を信じて…ようやく口を開いてくれたのに…
優しい言葉一つかけもせず…いくらクランとはいえやりすぎだ!!
少女はじっと見つめてくるクランの視線が怖くてつい目をそらしてしまった。
たちまちクランが激怒した。
「い、い、今、なんだか嘘っぽい顔したぞ!!
やっぱりどこかに隠しもってるんだな!こいっ!ボディーチェックをしてやる!!」
言うなり、クランが強引にチフユの体をひっぱった。
もはや完全なるキチガイ。キチガイクランだ!
「キャアアッ!!」
「おとなしくしろ!」
クランはまずは上着からめくりあげようとしたが…
ゴンッ!!
クランの凶行を静止したのは、ハカナの鉄拳だった。
もともとタンコブでいっぱいだった頭は、
その激痛が何倍にも膨れ上がり思わず涙までこぼれそうになってくる。
ようやくその痛みに耐えると、すぐに噛み付いてくるような勢いで怒鳴りだす。
「何するんだ!ハカナぁっ!!!」
「いい加減にしなさい!!もう!どこ探す気よクランちゃん!!」
ハカナがカンカンになって怒っているが、クランは気にせず普通に返答した。
「………そりゃ上着のポケットとか、胸の間とかパンツの中とかお尻ではさんでるとか…
隠すところはたくさんあるじゃん…」
ぐっ!と拳を握って恥ずかしげもなく力説するクラン。
二人の顔が赤くなる。
「そ、そうだ!ひょっとしたらおマンコの中にも隠してるかもしれないぞ!!」
ブチッ!
ハカナは、ひょいとクランの小さな体を持ち上げた。
「ど…どうしたちゃったの…?ハ………ハカナ…?」
クランが恐る恐る聞いたが、ハカナは鉄仮面のような表情をしたまま何も語らない。
そのままクランの体を横にすると…スルッとブルマと下着を一気に脱がしたのだ。
「キャ、キャア!(丸文字)」
突然目の前に現れたクランの小さなおしりに、
もともと赤かったチフユの顔はさらに赤みを増した。
この体型は…まさかっ!?と、クランの頬に冷たい汗が流れていく。
「ふざけんなぁ!!そんな下品なことどの口が言うのよ!!もう、許さないんだから!!」
パシッ!
「やああ(丸文字)」
クランの体がエビのように反った。
そう、子供のおしおきの定番。おしりペンペンであった。
「や、やめろぉ!ハカナぁ!!」
「おしり百叩きだからね!!コラ!!暴れないの!!」
とうとう優しかったハカナの堪忍袋も切れたのだ。
パシッ!パシッ!!パシッ!!!……………………………
………………………………………………………。
丸文字の悲鳴とともにクランの体が大きく反れる。
「だ…だってぇ…カードを集めなきゃここから出られないじゃんか!」
「まだ言うか!!」
クランが何かと反抗するたびに、痛みはどんどんヒートアップ。
パシッ!パシッ!!パシッ!!!………………
…………………パシッ!パシッ!!パシッ!!!
それでもクランは決して屈せず、憎まれ口を叩き続けた。
あくまでも自分のやっていることは正しいのだと…。
それがさらにハカナの反感をかってしまったようだ…。
すでに回数は100回を超えたが、
もはやクランが『ごめんなさい』と言うまではやめるつもりはないようだ。
パシッ!パシッ!!パシッ!!!………………
………………………………………………
…………………パシッ!パシッ!!パシッ!!!
叩かれるたびに痛みは天文学的に跳ね上がっていった。
とうとう痛みはクランの限界を超えたようだ。
「ごめんなさいっ!お姉ちゃん!もう悪いことはいいませんっ!
これからは素直な良い子になりますぅ!!(丸文字)」
「ほんとに?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!もうしません!だから許してェ!!」
それから数十回は叩いたが、クランが心の底から反省した様子を見せたので、
長かったおしおきもようやく終わった。
クランが強情でなかなか屈しなかったせいで、もともと青かったお尻は全身赤く腫れ上がっていた。
ハカナの小さくて細かった手まで腫れ上がってしまったが、
クランの前でそんな痛そうなそぶりは全然せず、クランの着衣をやさしく整えた。
クランにさっきまでの威勢はまったくなく、ただグスグスと泣き続けるばかりだった。
そんなクランにハカナは優しく言葉をかけた。
「クランちゃん。クランちゃんが私のために頑張ってくれてるのは、それはとっても嬉しいのよ。
でも、だからってこんなことまでされると…すごく悲しいのよ。
クランちゃんが悪いことしてまで生き残っても私はぜんぜん嬉しくないわ」
「うぅ………でも…でも…」
「それにお父さんやお母さんだってこんなクランちゃんの姿見たらきっとすごく悲しむと思う。
だからもう、こんな悪いことは絶対にしないって…誓って…ねっ」
「……うっ………………うん」
「じゃあチフユお姉ちゃんにも、ちゃんと謝るのよ」
「………うん」
クランは泣きながらすぐにチフユにも謝った。
同時に先ほど胸を揉みくちゃにしてしまったことも謝った。
泣き崩れるクランの姿に、チフユはすぐに許してくれた。
それからだった。
チフユがあれだけ怖がっていたクランとも急激に打ち解けいったのは…。
そして後ろ向きのチフユが自分からクランの治療をしたいとまで言い出したのだ。
ハカナもまたその申し出を喜んでうけた。
チフユの治療はハカナに比べて不器用だった。
何度もピンセットで頭をつきさされたりしたが、クランは必死にガマンした。
治療が終わり頭に包帯をまくとますますクランのミイラ化が進んでいった。
ハカナはクスクスと笑っていたが、クランにとっては笑い事ではなかった。
こう見えても女の子なのだからと。
この世界にきてなんだかイライラしっぱなしのクランだったが
ハカナに怒られたおかげで、なんだか今まで背負っていたものが軽くなったような気がした。
心のざらついてたものもすっかり涙が洗い流してくれたようだった。
すっかり打ち解けた三人は。
「…いいんでしょうか?…このカード…本当に……使わせてもらっても…」
それは『制服』のアイテムカードだった。
「そんな格好のままじゃ嫌でしょ!ホント気にせずに使ってよ」
「………棗さん?…」
「ハカナがいいって言うなら…別にいいよっ」
もうカードの一枚ぐらいでガタガタいうクランではなかった。
「………ありがとう」
制服のカードを受け取ったチフユはお礼をいうと、さっそくそれを掲げた。
イメージが形となって身を包んでいった。
「あ、小田さんのその制服ひょっとして、私達と同じ学校じゃない?」
「…!!」
何悪いことでも聞かれたような反応だった。
「………………でもこんなヤツ見たことないぞ。なぁオマエいったい何年何組なんだ?」
「………!!
………そ…それは………」
チフユはどこか後ろめたそうで、あまり多くを語りたくはなさそうだった。
「??」
「???」
二人の頭に疑問符が浮かぶが、
もう疲れているので突っ込んで聞いたりはしなかった。
ハカナが突然提案した。
「そうだ…ここであったのも多少の縁よ!
せっかくだから私達友達になりましょうよ」
「……………え?」
「ねっ。クランちゃん!いいでしょ」
「……え…えと…。
………そうだナ……今なら……特別に…友達になってやらんでも…ないぞ…」
クランは偉そうに腕組みしながら、嬉しそうな感情を必死に押し殺した。
「もう。クランちゃんたら嬉しいくせに」
「こ、子供扱いするなぁっ!」
ポトポト。
ハカナとクランがじゃれている間にチフユに変化が起こっていた。
涙を流していたのだ。
二人は突然の涙に驚いてしまった。
「ど…どうしたの…小田さん…?どこか痛むの!?」
「な…なんでもないんです…なんでも…」
すぐにクラン達から背を向ける。
何か機嫌をそこねることでも言ってしまったのかと
クランとハカナが目をあわせるが、心当たりはとくにない。
気まずくなった雰囲気でクランが口を開いた。
「……ア…ハハハ…それより今日はなんだか疲れちゃったなぁ…」
「…わ、私ももう歩きつかれたわ
ねぇ小田さん。今夜一晩ここ使わしてもらっていいかナ?」
もともとチフユの所有物ではないし、今更聞くようなことでもないのだが
とりあえずハカナは丁寧にお願いした。
こころ良く…とは言いがたいが、チフユもとりあえずは受け入れたようだ。
「ねぇ…見張りのポカポカは大丈夫なの」
「エエ!廊下一面ポカポカでぎっしりよ」
廊下からは何か「ふもふもふもふもふも」と聞こえてきた。
クランの提案があって、
廊下を増殖させたポカポカ達に見張りをさせておけば
侵入者のことなんて考えずに今夜一番ぐっすり眠れんじゃないか?ということだった。
「ふもふもふもふも」という声は多少騒がしいものの
今の二人はそんなことは気にならないほど疲れきっていた。
「じゃあ。明日に備えてもう寝ましょう」
「うん」
「じゃあお休みなさいクランちゃん。小田さんも」
「お休み…ハカナ…お休みチフユ」
この世界に来て二人は初めて安心して眠りについた。
よほど疲れていたのだろう。
ハカナとクランはあっという間に熟睡してしまった。
「………」
その中でチフユ一人目が見開いたままだった。
ランプの灯火に照らされるその目は赤くギラギラと光り輝いていた。
まるで野心をもつ者のような目で…。
その眼差しは静かに眠るハカナに向けられていた。
「この人を…この人を……あの御方に…差し出せば
…80枚のカードが…………そうすれば…生きて…帰れる………」
チフユはブツブツとつぶやくと
カチューシャの中から…隠し持っていた一枚のカードを取り出すのだった。
建物はまだ雨風がぶつかる音でギシギシとゆれていた。
夜の嵐は依然としてやみそうになかった。
もうちょっとだけ続きます。
おお、新作が来てる! 乙です。
なんだかどんどんスリルある展開になってきてますね。
ハカナんやクランの描写もしっかり性格が出ていて、
読んでいて面白いです。
性根の腐った漏れはクランたんの乳首責めでハァハァですた。
どうやら漏れはグロよりエロに寄っているようです。
しかし合計320枚っつーのは本編より遥かに過酷だなあ。
枚数持ってるはずのクランがリョウガの立場で、さらに相手はスーパーだし。
どう話が進むのか楽しみ。
遊戯王は終わっちゃったけど、がんがれ遊戯王風の人!
ひさびさなのに
感想ありがとうございます。
続きは早めに書き上げる予定ですが
今回は本人の想像以上にやたらと長くなりそうなので
ブツ切り状態で貼ることになりそうですが、なにとぞご容赦ください。
>遊戯王は終わっちゃったけど
・゚・つд`)・゚・
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::。:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::::::::::。::::::...... ... --─- :::::::::::::::::::: ..::::: . ..::::::::
:::::::::::::::::...... ....:::::::゜::::::::::.. (___ )(___ ) ::::。::::::::::::::::: ゜.::::::::::::
:. .:::::。:::........ . .::::::::::::::::: _ i/ = =ヽi :::::::::::::。::::::::::: . . . ..::::
:::: :::::::::.....:☆彡:::: //[|| 」 ||] <遊戯王風の人 :::::::::::::::
:::::::::::::::::: . . . ..: :::: / ヘ | | ____,ヽ | | :::::::::::.... .... .. .::::::::::::::
::::::...゜ . .::::::::: /ヽ ノ ヽ__/ ....... . .::::::::::::........ ..::::
:.... .... .. . く / 三三三∠⌒>:.... .... .. .:.... .... ..
:.... .... ..:.... .... ..... .... .. .:.... .... .. ..... .... .. ..... ............. .. . ........ ......
:.... . ∧∧ ∧∧ ∧∧ ∧∧ .... .... .. .:.... .... ..... .... .. .
... ..:( )ゝ ( )ゝ( )ゝ( )ゝ イツモアリガトウ・・・......
.... i⌒ / i⌒ / i⌒ / i⌒ / .. ..... ................... .. . ...
.. 三 | 三 | 三 | 三 | ... ............. ........... . .....
... ∪ ∪ ∪ ∪ ∪ ∪ ∪ ∪ ............. ............. .. ........ ...
三三 三三 三三 三三
三三 三三 三三 三三
星にしちゃ駄目だ〜!
(;゚Д∴. .: : : :::::: ウボァ
「オラァ、もっと腰を使うんだよ!」
洞窟の中では男がひたすら少女を嬲っていた。
まだ年波もいかない少女の瞳は一片の光もなく、悲しみの闇しかうかんでいない。
心を苦痛から守るために、ひたすら感情は消していた。
幾度と無く起こる不幸から自我を保つために…。
ハカナを追っていたトウマ達は、大きく足止めをくわされてた。
突然の大雨によって、追跡していた足跡の痕跡は流されてしまい、
おまけに泥濘と化した地面の上では、さすがのシケイダーも車輪も空回りさせる一方だった。
仕方がないので彼等は捕らえたオモチャに性を出していた。
「うっ、が、我慢できねえ!だすぞっ!……うっ」
びちゅっびちゅっ。
一人の男が出し終わると、今度は別の男が後ろにたつ。
「おいおい何安心してんだよ。まだまだこれからだぜ、
俺は喘ぎ声出すようになるまでやめねえからな!」
「………お願い…もう……殺して…………」
「殺すぅ。キミは僕達のオモチャなんだからさぁ。
いっぱい楽しませてもらわなくちゃ。あきるまでさぁ」
「………」
「さぁ行くぜ。突き抜けろ!俺の武装錬金ッ!」
ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ…。
性器と性器がこすりあっていやらしい音を立てていく。
こうして狂気の宴は休むことなく続けられていくのだった。
「へへ…まだまだ締まりがいいぜ。さすがもと陸上選手の下半身は使いがいがあるってもんだ。」
「俺はちょっと休むぜ。ん?そういえばトウマさんはどこいった?」
「あの人なら外にでてるぜ…。
…んにしても、女を犯すっていうのは、どうしてこんなに気持ちいんだろうなぁ
それをあの人にさせない夏樹ハカナってのも相当罪深い女……っうっ、出る!!」
どくっ、どくっ、どくっ…。
再び少女の秘所内に男の熱い精液が注がれていった。
降りしきる雨の中。
洞窟の外ではトウマが一人じっと星を眺めていた。
それはとてもさびしそうな光景で、
なんとも言えない悲壮感が漂っていた。
見かねた舎弟が声をかける。
「ここにいたんですかトウマさん。少しは出さないと体に毒ですぜ。
男は溜まっていくもんですから」
「うるせぇ!俺のことはほっといてくれ!」
「そうですか。でも我慢できなくなったらいつでも言ってくださいよ。
トウマさんのため、いつでも極上の生娘を用意しておきますんで」
それだけ言うと舎弟は再び洞窟内に戻っていった。
トウマは星を仰いで愛しいハカナのことを思う。
「あぁ………こうしている間も、
夏樹のやつがひどい目にあったりしてないか心配で心配で…飯も喉に通らねェ。
ぐっ…アイツのことを思うだけでもう胸が張り裂けそうだッ!
なんなんだ。この感情はっ…。
頼む……どうか無事にいてくれ。
オマエを犯していいのはこの俺だけなんだ!
一片の汚れも知らないその体に、この俺の汚く醜い肉棒をつきさして
オマエの顔が苦痛に歪ませてやりたい。
体中に俺の白濁した液を浴びさせてやりたい。
犯して、嬲して、罵って、弄んで、破壊して、
憎しみと嫌悪をこめた眼差しで見つめられたい。
ありとあらゆる苦痛を与えて絶頂にたたせたあと、殺してやりたいんだよぉーーーっ!」
トウマは想像だけですぐに絶頂に達したが、その迸るものは決してもらさずに耐えた。
いつか彼女の中に注ぐときのために…。
夜。
全てを塗りこめてしまうような深い闇の降りる時間。
空には禍々しい紅い月が浮かびあがり、
飢えた野犬は血を求め、森の中に慟哭だけが響き渡る。
冷たい雨は依然として降り注ぎ、白い建物は雨と風の音で軋み続んでいた。
建物内部はおどろおどろしい霧で完全に埋め尽くされていた。
濃厚な霧のせいで1メートル先すら霞んでよく見えない。
霧が立ち込めているのはこの部屋だけではなく、廊下を超えて外にまで漏れていた。
眠りについたハカナとクランは悪夢にうなされながら、苦しみの表情を浮かべていた。
「………ゴーヤ…きらいなのぉ………食べらんないよぉ……」
「………やめてぇぇぇ……いやぁ………。これ以上小っちゃくしないでぇぇ………」
賑やかだったポカポカ達でさえ皆ぐったりした様子で死んだように動かなかった。
その白い静寂な世界の中で、たった一人だけが闊歩していた。
手に持っているカードはアイテムカード『メトロ=ワーム=ガス』
即効性のある睡眠ガスで、場にいるモンスターを複数体を瞬時にして眠らせるカード。
そして一度眠ったモンスターは、
数ターンの間。よほどの衝撃でもない限りは目覚めることはない。
今、自分はものすごくいけないことをしている。
チフユはそう思った。
悪夢にうなされるハカナの体を、
おとぎ話のお姫様をかかえるかのように、ゆっくりと抱き上げると
改めてそう思えた。
(……本当に…わたし………これでいいの?)
抱きかかえるハカナの体は、彼女にとってあまりにも重い。
その重さは単純にハカナの体重のせいだけとは言えなかった。
チフユはハカナと体と引き換えにして80枚のカードを得ようしていたのだ。
トウマ達の噂は聞いていた。
彼らにこの手に抱く夏樹ハカナを渡しさえすれば…
たったそれだけで、ここから生きて出られるだけのカードが手に入るのだ。
だが、彼女の心の中にはまだ葛藤があった。
彼女とて初めからこんなことを考えていたわけではない。
ハカナとクランが目の前に現れたときは、
本当に怖くて、恐ろしくて、怯えることしかできなくて…ただもうそれだけだった。
だけど、ハカナは優しかった。
クランと対立してまでも自分を助けようとしてくれたし、
友達になろうと言ってくれたことは何より嬉しかった。
それだけは嘘じゃない。
それなのに今、自分はそんな良い人に対して明らかな裏切り行為を行っている。
それは、とても辛くて心が張り裂けそうなことだった。
でもこの人さえ…夏樹ハカナさえ彼らにさし出せば、少なくとも自分だけは助かることができる。
そう、こんな血を血で洗うような恐ろしい世界からも逃れることができるのだ。
死にたくない。生きたい。生き延びたい。生きて家に帰りたい。大切な人たちの待っている場所へ…。
その思いは少女にとって他のどんな思いよりも強かった。
弱い自分が生きるためには、もうこれしか方法がないまでと思うと、
彼女はとうとう進むべき方向を決断した。
(ごめんなさい…本当は…こんなことしたくない……でも…でもっ)
チフユは最後の罪悪感を残して、自ら選んだ道を進むのだった。
………もう後戻りはできない。
帰りたい場所………家族が待ってる家………自分だけの部屋。
何も変わらない、変わりばえのしない日常。
(お母さん。お父さん…わたし…今帰るから……)
ただそれだけの思いを胸に秘めて…。
廊下にはポカポカという名の恐ろしい野獣たちがひしめいていた。
彼等もまたメトロワーム=ガスにより深い眠りについているはずなのだが、
そのどれもこれもが眠ってるかどうかもわからない微妙な顔つきのままだった。
ぐったりとはしているが、今すぐにでも動き出しそうで思わずチフユの決心まで鈍ってしまう。
ここに足を踏み入れるにはたいへんな勇気が必要だ。
大きくあくびするポカポカを見てチフユは思う。
もしここで彼等の主たる夏樹ハカナを、
拉致せんことなど気づかれようものなら
その獰猛な肉食獣のような鋭い牙によって、
アマゾンに住むピラニアの池に投じられる如く、
自分の体など、ほんの数秒で白骨と化してしまうに違いないだろう…と。
想像する光景があまりにも恐ろしくてつい涙をこぼしてしまったが、すぐに涙を拭くと意を決した。
(お母さん。お父さん…わたし…頑張る!)
やるしかない!
そう心に誓って、
勇気をこめて野獣たちが群がる巣の中へその第一歩を踏み出していった。
チフユはポカポカのひしめく廊下を、
ならべく彼等に刺激を与えないように、息を殺すほどそっと静かに
また絶対に踏んだりしないよう慎重に細心の注意を払いながら隙間隙間を見つけて歩いていった。
ようやく7合目まで辿り着いた。
自慢じゃないがチフユは今までカバンより重いものなど持ったこともない。
ハカナを抱きかかえる腕は今にもつりそうではあったが、
この恐ろしい時間が終わるまであと少しだと思って最後の力をふりしぼった。
「フモフモっ」
「!」
その時チフユは仰天した。
なんと、目の前にはまだ三匹ものポカポカが廊下の先で徘徊しているではないか!
見回りにでも出ていただろうか。それとも稀に見る睡眠攻撃の効かない珍種か…。
どうやら彼等にはメトロ=ワーム=ガスですら効果なかったようだ。
「ふもっ?」
そうこうしてるうちに、魔獣達がこちらに気づいてしまった。
それはチフユにとってこれ以上ないほどの絶大なる恐怖。
目が合ったチフユの腰はおもわず砕けて、全ての力が抜けてヘナヘナとその場に座り込んだ。
彼等の目つきはまるで獲物を狙うライオンのように鋭く、鬣もまた怒髪天のように逆立っていた。
チフユにもう恐ろしくて声はない。目にもうっすら涙がにじむ。
「フモっフモフモっフモ?」
ケダモノは達は、一歩、また一歩とまるで死刑執行人にようにゆっくりとじわりじわり近づいてくる。
…その表情からは底は見えない。
(こ…殺される)
チフユは死を覚悟した。
全身がガクガクと震え、あふれだした涙も止まらない。
ポカポカ達は噛み付ける距離まで迫ってきたが、すぐにチフユに食い殺しにきたりはしなかった。
チフユの周りを取り囲みながら辺りをグルグルと回りだす。
まるで歴史か何かの本にでる『原始人が狩りや収穫の後にただ喜んで歌い踊っている』光景のように。
得体の知れないポカポカの行動に、チフユの恐怖心だけがさらに強く駆り立てられていった…。
(…だれか…た…た…たすけて…)
ポカポカトリオは儀式を終えると、輪になりながら「フモフモフモフモ」と相談し始めた。
おそらく、煮て食おうか焼いて喰おうか話しているのだろう…。
この間に逃げようと思ったが、前方もまわりもポカポカだらけ。後ろは壁。何より腰が動かない。
「フモ!フモフモ!!フモモっ!!」
相談は終わったようだ。再びその恐ろしい眼光がチフユに対して向けられる。
(……いやぁ!私まだ死にたくない!おねがい……だれか………助けて……)
チフユは強く目を閉じて、一生懸命腕を振り回した。
無駄な抵抗だとはわかっていても…。
―――。
生きながらにして食われるのは、おそらくは想像を絶するほどの激痛だったに違いない。
だが、その感覚は未だに伝わってはこなかった。
もしかしたら一撃で頭を砕かれ、何の痛みもないまま死ねたのかもしれない。
自分が死んだかと思うと、一層悲しくなってもう一度涙を流す。
もうここは冥界の入り口なのだろうか…。
チフユは閻魔様の顔を眺めようとゆっくりと目をあけた。
だが、目の前に広がってるのは以前と変わらぬ光景だった。
(…わ…わたし…まだ…………生きてるの…?)
そこにはチフユが思いもよらなかったことがおきていた。
ポカポカ達は左右の壁によっている。まるでチフユに対して通り道を空けてくれているかのように…。
「フモフモっ」
「………!」
獣の考えていることなんてチフユはわからないが、この機を逃すわけにはいかない。
彼等の気が変わらないうちに、なんとか腰を立たせるとそのまま横を通り過ぎた。
その際、ペコリと少し頭を下げて。
背後突き刺さってくるポカポカの視線は痛かったが、チフユは振り返らずに進んでいった。
こうしてチフユはなんとか九死に一生を得、ようやく魔の樹海を乗り越えた。
長かった廊下もようやく突破すると、臓物の溜まった大部屋に出る。
チフユの精神的体力は使い果たしていたが、ついにここまでやってきたのだ。
長い道のりだった。
何度もくじけそうになった。
でももうあと一息だ。
チフユは髪の毛の中に隠してあった、通信用のカードを取り出した。
これには接続先の相手の名前さえ知っていれば、いつでも連絡交換ができる力があるのだ。
チフユが大胆な計画を立ててのも、一重にこのカードをもっていたからである。
これを使えば後は迎いが来るのを待つだけだ。
(もう少し!もう少しよチフユ!)
今まで絶望しかなかった少女の顔にも希望がどんどん満ちていく。
暗闇の中に一筋の光明が差し込んだ気分。
生き残れたのも嬉しかったが、
それ以上に自分一人の力でここまでやれたことが少女にとって何よりも嬉しいことだった。
あの恐ろしい野獣達の眠る魔の森を潜り抜けて来たなんて、今思いだすだけでもゾッとする。
本当に……本当によくここまで無事にこれたものだ。
今まで何一つ自分一人でできなかったチフユは、今、大きく未来への一歩を踏み出したのである。
さぁ最後の仕上げだ!
………と思ったのもつかの間…。
「あぁ〜。くそっ!なんて雨だっ。ちっくしょぉーっ!」
突如、建物の外からの中からあわただしく発せられてきたのは女の声。
それはどんな恐怖よりも強い震撼となってチフユを襲った。
(…………こここ…この声はっ!)
それはチフユにとって生涯決して忘れることのできない声だった…。
夢中で建物内に飛び込んできたのは、黒髪で長髪の女。
目つきは悪く、制服の下はノーブラな上にスカーフなんて巻いてないため
その胸元は思い切り強調されている。
並みの男ならまずその胸元に釘付けになってしまうことだろう。
「うわっっ!なに…これっ…。モツじゃん…?………キモッ…」
(……マ…マコさん………)
姿形を確認すると、チフユの体はますます震えていった。
マコと呼ばれたスケバン女もすぐにチフユの方に気づいたようだ。
「あれっ?誰かと思えばチフユじゃん」
スケバン女は昔から知っているような馴れ馴れしい口調。
そう、お互いはお互いを知っていた。
スケバン女は雨にうたれた長髪をなびかせた。
「奇遇じゃん。なにやってんのこんなトコで?ナニ?もう引き篭もるのやめたの?」
スケバン女は気さくに話しかけてくる。
その口調には多少なりとも威圧的なものは感じられるが、
それを差し引いてもチフユの体の怯えようは尋常ではなかった。
チフユは知っていた。目の前に立つ女の恐ろしい本性を…。
スケバン女はチフユが大切そうに持っているものに気がつくと、ニヤリとした笑みを浮かべた。
「随分重そうじゃねーか…」
それはまだほんの軽い好奇心だったが、
ほんの少しだけチフユが嫌そうな感情を顔に出すと、
スケバン女の興味の火種が瞬時に燃え上がった。
「手伝ってやろうか?えっ?」
有無も聞かずにスケバン女がカードを掲げると腹部からは太い触手が飛び出した。
それがハカナにからまると、抵抗する間もなく取り上げられてしまうのだった。
「あ、ああっ!」
チフユはこの時初めて声らしい声を上げた。
だがそれは既にハカナを奪われた後だった。
スケバン女は触手に縛り付けたままのハカナの様子を、しばらくじっくり眺めてから、
からかうような口調でチフユに聞いた。
「へー。コイツひょっとして噂の夏樹ハカナ?」
スケバン女は非常に鋭い勘をもっていたのである。
チフユの心はいきなり核心をつかれてびくついていた。
答えたくなかった。
もしそうだと答えてしまったら、
このスケバン女がどうゆう行動にでるかわかっていたからだ。
そしてそれは、先ほどからチフユがもっとも恐れていることだった。
チフユが何も言わないでいると、スケバン女はこれまでの軽々しい様子とは一転し、
この上なく凶悪で陰険な視線をぶつけてきた。
「オイッ!…人が聞いてんだぜ………」
アゴを振りかざして威嚇。見下ろしてくるような冷たい視線。恐ろしいまでの声色。
周りの空気すら変えるほどの…。
そう、チフユの知っている残虐な本性が露呈されたのだ。
その冷たい感情をぶつけられた瞬間、チフユは条件反射的に頭を縦に振るしかなかった。
スケバン女は元の機嫌のいいからかい口調に戻った。
「へぇ〜そぅ。80枚のカードの相当するとかいう。オマエにしちゃ代金星じゃん」
チフユの心音だけが高まっていた。
どうか…どうか…あの言葉だけは言わないでほしい…。
チフユは心の中はもうそれだけでいっぱいだった。
だが…次の言葉はチフユがもっとも恐れていたものだった。
「じゃあ、コイツは私が貰っといてやるよ」
チフユは一瞬で虚無感のようなものに包まれた。
それまでスケバン女の感情に触れないよう、必死に口を紡いでいたチフユだったが、
この時ばかりは余りに悔しくそのまま思いを口にした。
「……か…返してェ…そ…それは私の……獲物なのに…」
それはガタガタと舌を振るわつつも、彼女なりに精一杯に力を振り絞った口調だった。
ようやく自分にめぐってきた幸運。
その機会を逃すことなくガッチリつかみ。
野獣達のはびこる廊下を抜け。その途中死ぬような目にもあった…。
恐怖と絶望を繰り返し…それでも希望をもって歩いてきた…。
そうしてここまでハカナを持ってきたのは、誰がなんと言おうとチフユ本人なのだ。
なのに…それなのに…どうして…
ここにたまたま現れたパッと出の女なんかに、
今までの苦労と今までの努力が、一瞬にして泡にされなければならないのか!?
こんな理不尽…横暴が…許されるはずがない…。
その想いがチフユにとてつもない爆発力を生み出し
スケバン女に逆らうだけの力を与えたのだ。
「あ ん っ ? 獲 物 ぉ ?」
………もともと脆かったチフユの思いなど一撃もとで砕け散った。
「ずいぶん品のない言葉と使うようになったんだなぁ。
チ フ ユ ち ゃ ん ! !」
目の前から感じられてくるのは瞬き一つ許さぬとてつもない殺気。
押しつぶされるような凄まじい重圧感。
全身総毛立つ恐怖感。
チフユの小さい気などその大きな波の前では、あっという間に飲み込まれた。
「……う…ぅ…」
チフユにもうそれ以上の口はない。
全身にまとわりつくような強烈な殺気を前にして、
もうチフユにできる選択肢は絶対服従しかなくなっていた。
いや、初めから選択肢などこれしか無かったのかもしれない。
これがどんな理不尽であろうとも…これ以上彼女を…武屋マコを怒らせてしまえば…。
………………。
その先の記憶は頑丈な鎖で塞いでいて、決して開けるわけにはいかなかった…。
それほどまでに凄惨な思いがチフユの中にあったのだ…。
「ご…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
チフユは、めいいっぱい謝った。全て自分が悪いのだと。
だがそんな服従の姿勢を見せても、スケバン女に浮かぶ血管数は増すばかりだった。
何故なら、このチフユはオドオドとした様子は見せていても、
その目にだけは、まだ明らかに対立の意志が力強く示されていたからだった。
ここまで来て自分の物を奪われてしまって悔しいという思いが強く滲み出されていたのだ。
もっとも、そんな目つきをしてしまっていることはチフユ本人には気づいていない。
この虫けらにすぎないチフユが、この絶対者たる自分に反抗の意を示している?
許されないことだ。例え砂粒程度であっても。刈り取らねば…。
スケバン女は無意識にそう思った。
「ああっ?なんだよぉ…その反抗的な目つきは!?
まさかチフユのくせに私に逆らおうなんて思ってんじゃないだろうな?」
その声は静かに、ゆっくりと…だが力強く、なにかを爆発するような物をおさえているような…。
「………そ…そんな…マコさんに逆らうなんて…………わたし…そんなつもりじゃあ………」
口ではそう言いつつも、
やはり大切な獲物を奪われて悔しいとその目がはっきりと語っている。
どっちつかずのチフユ態度に、スケバン女も感情もとうとう限界突破した。
「ならいったいどうゆうつもりなんだぁーーーーーーーーッ!!」
怒りが活火山のように大爆発し、マコの叫びと同時に無数の触手が腹部から飛び出した。
チフユの全身は触手にからまれ空中へ押し上げられた。
「キャアアアーッ!(丸文字)」
「チフユのくせに逆らうなんてどうなるか…久しぶりに教えてやろうかっ!エ?」
「いやぁ!お願い!や、やめてェマコさん!!」
生暖かく、ぬるっとした質感を持つ黒紫色の触手は滑りながらチフユの服の中へと侵入していった。
チフユは次第に顔を紅潮させた。
全身を触手が這いずり感覚というのは、ちょうど生温い舌に舐め回される感覚に似ていた。
抵抗を試みるが頑丈にからみついた触手の前ではチフユの力などあまりにも無力だった。
ベリッ
チフユの制服を中から食い破るようにして剥いだ音だった。
「やあっやああ(丸文字)」
チフユの胸の膨らみはほとんど抵抗することもなく宙に揺れた。
張りのある乳房は触手に弄ばれ何度もその形を変えていった。
「いやぁぁぁぁーーーっ!!(丸文字)」
「ハン!いい声で鳴くじゃんか」
ビリ ビリッ!
その間も触手は力任せに制服を引き裂いていた。
チフユはあっという間に裸同然にされた。
呼吸は乱れたまま、整える余裕すら与えられなかった。
「オラッもっと鳴いてみろよぉっ!」
「やぁっやめてェーっ!(丸文字)」
「イヤならテメエもカードでバケモン呼んでみなっ!」
それができたら…チフユはそう思った。
ちょっとした刺激にも敏感に感じてしまう。
こんな得体が知れないものに柔肌を蹂躙され、
しかも感じていることに気づくとチフユの中に羞恥心だけがのたうちまわった。
(……やめて…お願い……みんな……もう…いじめないで………)
しだいに頑丈に閉ざしたはずの扉が開き、
思い出したくもないつらい記憶が今の自分と重なっていった。
あれはいつだっただろうか…。
暗く。狭く。寒く。錆付いた鉄の匂い。
硬い扉。頑丈に閉ざされた世界。
好奇心に満ちた瞳達。
男のペニスをかたどった器具。錠剤。液状の媚薬。性行為に使うための道具。
無理やり秘裂へねじこまさせれ。
耐え切れない衝撃。
地面に零れ落ちる涙。
赤い鮮血。
入り混じった笑い声。
苦痛。
前から。後ろから。口から。ひたすら激しく。強く。大雑把に。
器具と性器とがこすれあっていく音。
繰り返されていく人体実験という名の悲劇。
体をいじる異質な手の感触…。
汚される体液。
支配感。征服感。彼等は彼女達は笑い続けた。
響き渡るチャイム。
狂乱の時間終わり。
また次も遊んでやる、そう言い残して彼らは外に。
残されたのは自分一人。
もう動けない。
誰も助けようとはしてくれなかった。
オドオドして後ろ向きなチフユには友達なんて誰一人としていなかった。
側にいる人達はみんな少女にひどいことばかりするだけで、誰も大切にしてくれなかった。
だから少女は誰にも傷つけられることのない自分だけの空間に引き篭もったのだ。
チフユは朦朧とした意識の中でつぶやいた。
「な…なんで…どうして…こんなことするの…わたし…何も悪いことしてないのに…」
「あぁ?理由なんてねぇよ。
ただテメェのそのオドオドとした性格みると無償にイライラしてくんだよな…」
「…」
チフユは心が閉ざされる前に思った。
やはり『あの場所』から出てくるべきではなかったと。
そこは安全で平和で静かで、自分以外の誰も存在しない世界。
誰にも傷つけられることのない場所。
この世で唯一安心できる場所
自分だけの部屋。
チフユはそこが大好きだった。
でも、そんなところに閉じこもることしかできない弱い自分が嫌だった。
そんな自分を変えたかった。
でもやっぱり何も変えられなかった。
今もこうして他人に傷つけられていくことしかできない。
チフユは生まれてきたことを後悔した。
そして全てにあきらめかけたその時。
「フモっフモフモフモフモ」
その声は足元からだった
(えっ?)
それは先ほどのポカポカトリオ。
その野獣たちはチフユに絡み付いている触手を握って引っ張っていた。
…引き剥がそうとしてくれているのだ。
今まで必死に助けを叫んでも、学校も教師もクラスメートも誰も少女を無視して助けてくれなかったのに、
今目の前のポカポカ達はこんな小さな体にもかかわらず必死になって自分を助けようとしてくれている…。
「フモフモフモ」
チフユにはポカポカの言葉なんてわからないが
がんばれ。負けるな。
そういうふうに聞こえた。
(ポ…ポカポカさん…?)
チフユは感涙した。
(お願い…たすけて…ポカポカさん!)
チフユは心の中で必死に願った。
はじめて自分の味方をしてくれる存在、ポカポカはヒーローのように後光さえさして見える。
もしここで助かれば、今度こそ本当に強い女の子になる!と願掛けまでほどこした。
「フモっ!フモっ!」
だが、ポカポカでは太い触手を引きはがすには完全に力不足のようだ。
ポカポカトリオが体全体でひっぱってみてもまったく状況は変わらない。
ポカポカの奮闘も、海に砂糖を溶かすような無駄な努力でしかなかった。
そしてさらに、スケバン女はそんな小さなチフユの希望すら摘み取ろうというのか…。
「あ?なんだ?その不細工なヌイグルミみてーな生き物のは?
跳ね飛ばせ。テンタクル!」
冷え切った様子のスケバン女が命令すると、
反応した触手がペチッ!と猫でも追い払うかのように、しがみつくポカポカ達をはじきとばした。
モツ床の上をポカポカ達がぬいぐるみのように転がっていく。
「フモフモフモ」
ポカポカ達が集まると、再び輪になって相談を開始した。
相談が終わると、とてもかなわないと結論したらしくポカポカ達はチフユを見捨てて
そそくさと廊下の奥の巣へと帰っていってしまった。
その姿はあきらめ感すら漂っていた。
あまりにも…あっけなさすぎる…。
(そ…そんなぁ…)
チフユは今度こそ本当に絶望した。
邪魔なケダモノ達がいなくなると…
触手は本格的にチフユの太ももや股の間、胸の上を休みもせずに滑り続けていった。
「ああっ!ダメェ!そ、そんなことやめてェ!!あっ…やっ。あっふ。んんんっ!!(丸文字)」
体中をまさぐられていく摩擦に、チフユは出したくもないのに声がでてしまう。
全身隈なく愛撫されていく身体に動物本来の欲望が正直に反応してしまうのだ。
触手はさまざまな太さ、形状のものがあり、
その中でも特に変わったものがチフユの前に現れた。
それは不気味な亀頭をもっていた。まるで男性のもつペニスではないかっ!
その不気味な亀の割れ目からはチフユに対して大量の白濁した液を浴びせてくる。
びしゃ!びしゃ!びしゃあ!
「いやあっ…あ、くぅっ………あ、ああ……ああああ(丸文字)」
体中が生臭い白い粘液で汚されていく。
だが、その間にも別の触手は濡れた下着の中にまで入っていく。
「あふっ…やぁ…だ…だ…だめぇ…そこだけは……やめてェ………やあああん!(丸文字)」
チフユは涙にぬらした顔で懇願し、下半身をくねらせ抵抗を繰り返すが、
好奇心旺盛な触手はその反応に機嫌をよくしてますます活発さを増していった。
「んっ!(丸文字)」
チフユはびくんと体が大きく反る。
ついに秘所部に触手が挿入を開始してしまったのだ。
「ひぎいぃっっ!いたい!いたいよお!やめてェえ!(丸文字)」
容赦なく触手はチフユの秘所を嬲しっていった。
触手は締め付けてくる膣内の壁をもろともせず、ドリルのように回転しながら突き進むのだ。
その回転はピストン運動では決して味わえない新感覚を切り開いていた。
「………あ、あぐぅ…お、お願い、もうやめてぇ……」
じゅるるるるるるる!
確実に触手が中を奥へと進んでいく音だ。
「あううっ…い……いや………ああん…いっ…あああ…………(丸文字)」
チフユの腹部が波のように異様な動きを見せていた。
触手が子宮の中から突き上げているものだった
「い、いやああああっーーー!!!(丸文字)」
一方そのころ建物の奥では、
「きょ…巨大ネズミ…!?うーん…うーん」
クランはまだ悪夢にうなされていた。
大部屋で何がおこっているかも知らずに、まったく呑気なものである。
「フモっフモっフモっ」
そこにやってきたのは先ほど退散したポカポカトリオだった。
彼等はチフユを見捨てたわけではなかった。
自分達の力ではどうにもならないので、クランを頼りにしてここまでやってきたのだった。
ポカポカ達はクランを起こそうと体を揺すりだすが、とても目を覚ます様子はない。
ポカポカは知能が高いわけではなく、ハカナもいないので機転はきかない。
どうすればいいのかわからずに再び輪になってどうしようかと相談を開始するが、
なかなか良い手が思いつかばないらしい。
その時である。
寝ぼけたクランが後ろからポカポカの一匹にガブリと噛み付いた。
「フっ!フモフモフモっっ!」
「………お…お腹すいた…………ま…まんじゅう…………」
何か勘違いをしているかしらないが、齧られるポカポカにとってはたまったものではなかった。
他の二匹がひっぱってようやくクランの凶行から逃れたが、
頭には歯型までクッキリと残ってしまった。
「フモっ!フモ!フモ!!!!」
怒りに満ちたポカポカ達がクランの頭など丸々入ってしまいそうなほどの大きな口を開けた。
そしてそのギザギザの歯先で、クランの頭と横腹、そして美味しそうな股の間を…………
ガブッ ガブッ ガブッ
「ーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」
クランの声にならない叫びが部屋中に鳴り響いた。
「んっんんっ!あっんっ!んっん!!っあ!んあ!あああ!ああああ!!」
体の中から何度も突き上げるたびに、チフユの体は痙攣を繰り返した。
もう下半身は麻痺していた。
「ハハハ、だいぶん反省したみたいじゃねーか。エエ?」
「んっ、うううっ、うあっ!んふっ!(丸文字)」
完全に性の虜になってしまったチフユに、もう返信する力は残されていなかった。
頭はどうにかなる寸前だった。
「テメェみたいな心の腐った引き篭もりのウジウジしたヤツはよぉ。
あたしみたいなヤツに強いヤツに一生いじめられて生きていくことしかできねぇってことが
これで、よーくわかっただろ?」
チフユは絶望の涙を一滴こぼした。
十分に反省したのを確認したスケバン女は興奮もさめ、ようやくハカナにその目を移した。
「ヘェー。これが夏樹ハカナ?カワイイ顔してんじゃねーか…。
さすがカードを80枚だしてでも手に入れたいっつーだけのことはあるじゃん。
まっ清純そうな顔してても、裏で何やってるかわかんねーケドよ…」
バシュン!
「!?」
ハカナを手にしようとした瞬間、スケバン女にとって全く予想外の一撃。
その右手には風穴が開いていた。
覚悟もしていない激痛が右手から一気に全身にまで伝わっていった。
「痛ぁぁぁあああああああああーーーーっ!!」
大部屋にスケバン女の悲鳴が響き渡り、手の先から鮮血が降り注いだ。
「その汚い手でハカナに触れるなっ!!」
ズシャ!
打ちぬいたのは、廊下の向こう側にいるエクスマンティス。
その横に立っているのは、体操服に3の3の棗の胸プレート。少し溶かされてしまったブルマ。
小学生のように小柄な体格。覚醒した棗クランだった。
足元には三匹のポカポカ達も一緒だ。
(な…棗さん…)
チフユは触手たちに犯され続け、残り少ない意識の中でそう思った。
スケバン女は手首をガッシリと掴んで、吹き上がる鮮血を少しでも抑えていた。
痛みはおさまってなく苦しそうな表情のまま、ギラリとした憎しみの目をクランにぶつけた。
「テ…テメェ…このクソガキ…ブッ殺してやる!」
「だれがクソガキだっ!!ブッ殺してやる!」
クランも負けじと凶悪な視線で睨み返した。
あまり良くない目覚め方をさせられたうえ、ハカナを狙う敵がやってきているのだ。
平静を保っていられるはずがなく、その怒りは爆発寸前にまで高まっていた。
「うおおおおおおおおおおーーーっ!」
マコの腹部から汚わらしい触手モンスターがその全貌をあらわにする。
それは花びらのような概観と大小さまざまの触手を変幻自在にあやつる竜。
触手竜テンタクルであった。
一部のマニアの中では絶大な人気を誇り、
店頭に飾ろうものなら、いつ客と定員との間で殺し合いが起きてもおかしくないほどの超レアカードである。
「テメェ…このガキッ…!………私の手にこんあ大穴が開けてくれてぇ…このおとしまえ…」
スケバン女の怒りに心頭する口調とともに、チフユを貪っていた触手が振りほどかれた。
「うっんあああああぁああぁぁっ!」
びしゃああああああ!
触手という栓を失ったチフユの秘所部からは大量の愛液が掻き出され甘酸っぱい匂いが漂がった。
そしてハカナもまた、ポイッと捨てると…。
「いったいどうつけてくれるんだよぉっ!!!」
全ての触手がうねるとクランに向けて一斉に襲い掛かっていく。
それに対し、クランは3枚のカードを掲げた。それはすべてエクス=マンティスのカード。
3体のエクスマンティスを追加召喚すると。
「ルーンカードで『腕部変形』でシューティングモードへ移行!
エクス=マンティス撃てっ!!!!
ヴォドドドドドドドドドド!
触手がクランの体に届くよりも先に銃音が鳴り響いた。
16門からなる弾丸の嵐はマシンガンのように次々と触手に打ち込まれていく。
ヴォドドドドドドドドドドドド!!
次々と千切れ飛ぶ触手。
「このまま一気に粉みじんにしてやるっ!」
地の有利は圧倒的にクランにあった。
クランとて、この変幻自在の触手に四方八方から攻撃されればとても対応しきれなかっただろうが、
今触手が襲い掛かってくれるのは狭い廊下を通した一方向のみ。
クランは何も考えずに、ただ目の前から来る標的目掛けて撃ち込めばいいだけなのだ。
鳴り響くのは圧倒的な力の激突する衝撃音。
煙と粉塵が湧き上がって何も見えなくなったが、
クランは構わず、目の前に広がる白い世界に向かって撃ち続けた。
ヴォドドドドドドドドドド
カチッカチッ
エクスマンティスがその全ての弾を撃ちつくした。
「やったか…」
これだけやれば、もう跡形も残ってはいまい…。
そう思って、煙が消えていくのをゆっくりと待つ。
「!?」
だが、目の前が薄く半透明になると、まだ無傷の触手がうごめいているのがわかった。
そしてクランが見たものは
触手に打ち込んだはずの弾丸がスポンッスポンッと音を出して飛び出していく光景。
弾力性のある皮膚に弾丸は全て受け止められていたのだ。
千切れ飛んだのは小さな弱い触手だけで、メインとなる太い触手には一切のダメージがなかったのだ。
煙の向こうの世界からは冷ややかな感じの声が響いてくる。
「それで終わりかい!?それなら今度はこっちのターンだね!」
触手の恐怖がクランに襲い掛かる。
スケバン女がクールに言い放つと、止まっていた触手が再びクランを目掛けて襲ってきた。
「うわぁ!撃て!エクス=マンティス!」
カチッカチッ!
だが、すでに弾切れであった。
その間に足元からは太い触手がクランの小さな体を這い上がるように登ってきた。
「いやっ…ああっああっ!(丸文字)」
全身を縛り上げられ身動き一つとれなくなるまではすぐだった。
煙が全て引くと、廊下の向こう側からはスケバン女が実験ネズミでも見るような目で見ていることがわかる。
「人の手に穴あけてくれたんだ。すぐに殺さず…たっぷりと拷問してやるよ。
生意気なガキにはたっぷりとおしおきが必要だからねぇ」
「な、何をする気だ!?やめろっ!はなせ!!」
「いいねェ。これから何をさせられるかもわからない強気な口調。そそるよ」
「エっ!?」
これまで多くのヘンタイと戦ってきて身に付けたクランの自己防衛本能が最大音量で警報を出していた。
何故こんなただの女などに…?
だがそれはすぐにわかった。
「んっ!やああ!やめてェ(丸文字)」
体操服の中に触手が侵入してきたのだ。
クランの胸の膨らみはまだ発展途上どころか、芽吹きすらしていない。
にも関わらず触手達は胸肉を寄せ集めて無理矢理に乳房をつくだし、それを絞り上げていくのだった。
理不尽な責めにクランの顔は苦痛に歪む。
「やあああん…(丸文字)」
胸の先端部分まで、触手につままれ丹念になめ回されるような感じをうける。
ずじゅっ、ずじゅっという音をたてながら吸いあげられていく。
ぴちゃっぬちゅっぬちゅっ…
「んっ…あっ…ああぁ…やめっ…」
「フーン。そんな無い胸でも感じるだねェ」
「う、うるさいっ!感じてるわけなんかあるかぁ!!っや、ぁんっあんっ、や……あんっ
や、やめろこのヘンタイがぁ!あや…ん……ふ……むぅ……ひゃあぅっ!」
クランは怒りにまかせた顔で反抗しても、すぐに威厳のない顔に戻されてしまうのだった。
胸はいやらしい手つきで撫で回して、何度も何度も揉みしだかれていった。
耐え切れずにクランは叫んだ。
「…ぁっ、あ、あぁぁ……っア、アハト=アハトォ!でてェーーーーっ!(丸文字)」
苦し紛れにクランが召喚した新しい機界モンスターが、出るなりさっそくスケバン女に砲撃するのだが。
テンタクルの触手は逆滑り台の…
いわゆるSFでロケットを宇宙にぶんなげる為の『マスドライバー』のような形になる。
にゅるにゅるにゅる。
8.8cmの弾丸の直線的エネルギーは、
テンタクルのぬるぬるとした触手に誘導されるようになめらかなカーブを描きながら
全く見当違いの方向に打ち上げられた
ドォン!
天井に壮大な爆発音が轟き、建物全体が大きく揺れた。
見かけは派手だが、召喚者にそしてテンタクルにダメージらしきものは見られない。
「アハハハハ!テンタクルは最強なのさ。そんな砲撃ききはしないよ!」
「ありえない!!!!!」
あっけにとられた顔をしていたクランだが、すぐに止まっていた触手が動き出す。
再びマコのターンが始まったのだ。
「にゃ…ニャハ!?…(丸文字)」
陰部をこちょこちょとくすぐられていた。
「あううん…あぐっ……あひいいっ…うぐっ…やぁああ(丸文字)」
泣きとも笑いともとれるクランの声。
攻め立てる。攻め立てられる。クランの小さな体が。
胸の方も突起を中心に、巧みに愛撫でされ続けていた。
こねくり回すような動きや、揺さぶるような動き…
触手の技に翻弄されて、クランはたまらない声をあげる。
腰を必死でふり続けるクランに、バケモノ亀まで襲ってくる。
男のペニスの形をした触手の先から、白濁液を景気よくクランの体に浴びせていく。
ドピュッ!ドピュルルルッ!
「やぁあ!げほっげほげほっ…も、もうやめて・・・おかしくなっちゃう・・・あぁ!!(丸文字)」
クランは目に涙を浮かべて懇願した。
クランはテンタクルが最強のレアたる所以を体中で味わっていた。
ぬちゅっ、ぬちゅっ、ぬちゅっ・・・
感じてるとは思いたくないが、クランの股の間からは愛液がこぼれてきた。
ピッタリと貼り付くほど下着とブルマが濡れても、まだまだ滲み出して止まらなかった。
「アハハ!ガキのくせにこんなに濡らしてやがるよ」
「ち、ちがうぅ!…これはテンタクルの触手のぬるぬるだぁっ!
い、いいかげんにしろこの変質者めっ!」
瞬間的な怒りでクランの頭から一瞬蒸気のようなものが上がったが、
肌に触れる無数の触手の感触がクランにそれ以上の反論を許さなかった。
「は…あっ、や…ぁっ、ああ、ああぁ、あぁう…っ、や、だめ…、もう…だ…め…っ(丸文字)」
体中をまさぐられ。
下着の上から休むことなくあたえられてくる摩擦。
柔らかくて小さなお尻までもが何度も形を変えられていく。
そしてクランの快楽が絶頂に達したとき…
びしゃああああ
「あっ…やぁ…でちゃうっ…わたしのからだから…なんか…でちゃうよぉ………(丸文字)」
「心は抵抗しても体は正直っ…てか?本当…エロイ小学生だぜ」
「うぅ!こ、こどもあつかいいするなぁ!(丸文字)」
「じゃあ今すぐ大人に変えてやるよ」
「それは……ダ、ダメェーーーー!(丸文字)」
もうすぐ17にもなろうというのに未だ毛の生え揃わないツルツルの恥丘。
触手の快進撃はもうそこまで迫っていた。
すでに大陰唇の割れ目の入り口をパクパクさせられている
まず先発隊の小さな触手達がクランの反応を愉しむようにクリトリスに直に刺激を与えられてくる。
初めて触られた性感帯の刺激はクランには強過ぎた
「いやっ!あ、あ、あっ、あんっ、や……ぁ。
でも、ど……して、こんなぁ……っや、ぁんっ。
もうダメーぅん……っ、はぁ……ん……こ…こんなの!
あ……あっ、あは……ぁんっ、あんっ、す……すご……いぃっ…どうにかなっちゃうぉ(丸文字)」
このままでは処女膜までブチ抜かれてしまのも時間の問題だ。
クランはもう一度叫んだ。
「ぉっ!あっ、あっ、あぁんっ!…あはと=あはとぉ!ほうげきだっーーーーっ!!(丸文字)」
ドンッ!
だがそれは追い詰められてやっただけの、クランの苦し紛れの最後の抵抗でしかなかった。
弾道の軌道を触手が変える。
ドォォォン!
先ほどと同じ展開で、天井からの轟音が建物を揺るがすだけにすぎなかった…。
「アハハハハハ!何度やっても無駄だってことわかんないの!?
じゃあ今度はこっちが砲撃してやるよ」
例のペニス状の触手がクランの全身に砲撃を開始した。
びしゃあああ。
「う…ううっ…うぐっ…ひぐぅ…ひゃっ。ひゃうんっ。もう…もうったまらないよぉ(丸文字)」
クランはあんまりくやしさがいっぱいで、下の口から涙があふだしてしまった。
「じゃあいい加減そろそろ、ブ チ 抜 い て や る よ ! 」
「ひぁ……ああぁっ、あぅ……っ、やめてェェェ、わたし、もう……っだ…!ダ……メぇ(丸文字)」
メリメリメリメリメリ………。
「ひぎいい(丸文字)」
テンタクル「クッ…サスガ幼女ハキツイゼ…ダガ…」
クランの膣内の締め付ける力などもろともせず走るドリル触手。
「いやああああっ!!!(丸文字)」
そして…力がある一定値を超えた瞬間。
ブチブチッ!バリッ!ブチッ!ブチッ!ドボッ!!ブチッ!ボトッ…ブチッ!ドボッ。
「!?」
生生しい音が鳴り響いたが、それはクランの処女膜が破れた音ではなかった。
床に落ちたのはバラバラになった触手の方だった。
「な…なんだ!?何が起こった!?」
突然の予期せぬ事態にスケバン女があわて始めた。
それよりも、クランは助かったという安堵の表情を浮かべた。
落ちた触手の切断部はボロボロに腐食していた。
それを見たクランは何が起こったかなんとなく察しがつきはじめていた。
だが、次の瞬間そんなことも考えられないほどクランは再び苦悶の泣き顔。
「あっ……は、ぁ! うぅん……んん、んんんっ……!!(丸文字)」
2匹のポカポカが、クランの秘所に挿入中だった触手を抜こうとしてひっぱっているのだ。
綱引きのようにポカポカは力をあわせて無造作にひっぱっているが、
突いたときより引いたときのほうが膣壁への摩擦が大きいのか、
先ほど以上の性感がクランを快楽の世界へと誘っていた。
「あぁ!やだっ!だめぇ!もっと!もっと優しく抜いて!あっ!やあ(丸文字)」
しかし、ポカポカ達はクランのためにも容赦ない。
ポンッ!
「ん!」
どくどくどくどく。
抜いた途端、クランの中から愛液までもが大量にあふれだしてくる。
膣内の筋肉は痙攣を起こしていた。
「……ひぃ…ひぃぃ……」
クランはしばらく股間を押さえて放心していたが…
「ふっ、……ふっ……。
…………………ぐぐぐぐぐ…。
………絶対に許さないっ!」
今まで辱められていた思いが、怒りのエネルギーに変換される。
体中に張り付く触手を振り払い、解放されたクランが凛々しく立ちあがった。
「な?なんだ!?いったいどうなった」
スケバン女に未だ状況はつかめないが、
その間にアハト=アハトの砲門がスケバン女に狙いをつけていた。
「ブッ殺してやる!!撃てェ!!!」
ドンッ!
不意をついたクランの砲撃。
「うっ!?おいっテンタクル!!なんとかしろ!」
テンタクルはまだ残された触手が動かして、再び弾道の軌道をそらし天井へ送った。
この時、建物の壁際にいたチフユにはハッキリと見えた。
飛び出したのは弾丸だけではない。
その先には異形の何かがしがみついている。
それは………ポカポカだった。
ドォン!
弾丸は天井にあたって爆発するが、その瞬間しがみついていたポカポカも同時に爆発し体液が飛び散る。
そして腐食性体液が聖水のようにキラキラと振りまかれ、それがテンタクルの触手を溶かしていくのだ。
「な、なんだ!!どんどん触手が溶けてくぞ!?どうなってんだおいっ!」
あんなに小さくて非力なポカポカまでもが自分の身を犠牲にして戦っている…。
自分は今まで保身のことしか考えていなかったのに…。
ポカポカの美しいまでに尊い自己犠牲の行動に、チフユは自分の心が打たれるものを感じていた。
「な、なんだ!?どうなってるんだちくしょう!!」
スケバン女はそんなポカポカの性質など知る由もない。ただ混乱するだけで…。
最後の1匹が砲門の中にはいっていくとクランが声高らかにして叫ぶ。
「アハト=アハト!砲撃だっ!!」
ドンッ!
三度目の腐食性体液は、今度こそテンタクルの手足の役目を果たす触手を全て溶かしきった。
全ての触手を失った今テンタクルの本体は完全に丸裸状態になった。
いつものクランならここまで追い詰めれば、カードだけ置いて帰らせるところだが、
今回だけは別だった。
触手にあんなことやこんなことまでされ、クランの怒りはかつてないほど頂点に達していた。
未だ赤面状態から治らないクランだが、犬歯をむき出しにした怒りを込めた表情で最後の命令を下した。
「死ねっこのヘンタイがぁ!!!アハト=アハト!胴体にうちこめェ!」
「う、うわああああ!」
ドォーン!
スケバン女の叫びも虚しく最後の砲撃。
豪快な爆発音が上がり、テンタクルとスケバン女は建物外まで吹き飛んでいった。
「どうだ!私達のポカポカボンバー大作戦第二号だ!!」
ガッシリと拳を握って勝利のガッツポーズ。
そこには全身白濁液や自分の出した体液で汁まみれになった幼女が勇ましく立っていた。
戦いは終わった
脅威は去った。
平和が戻った。
だが、生き残った者達に科せられた罪は…あまりにも重かった。
チフユは…星となった3匹のポカポカ達のことを思う。
(ポ…ポカポカさん…ごめんなさい…ごめんなさい…わたし…わたしのせいで)
心の中で静かに追悼式をあげる。
自分がハカナを連れ出しさえしなければ、
ハカナを裏切って80枚のカードを得ようとさえ思わなければ…
こんなことにならずにすんだのだ…。
ポカポカが死んだのは全て自分のせいだ…。
自分さえいなければ…
そこには後悔と自責の念だけが残っていた。
「ハァハァハア!」
かつてない恐るべし敵(ヘンタイ)から、なんとかハカナの身を護ることができたクラン。
だが、勝利に美酒にいつまでも酔いしれている暇はない。
召喚したモンスターたちを手札に戻すと急いでと大部屋まで走っていった。
「ハカナ!ハカナ!ネェ大丈夫!?ハカナ!」
ハカナの安否を心配し何度も体を揺さぶり続けた。
「………ゴ…ゴーヤ…だけはぁ…もう…いやぁ…」
謎のうわ言を繰り返してはいるが、外傷は特に無いようでクランは心底ホッとした。
そしてクランはチフユに気づく。
「あれ?チフユ?ど…どうしてここに?」
(ひっ!)
もしハカナを連れ出そうとしたなど知られてしまえば、
……………殺される…。
チフユはとっさにそう思った。
この戦いの原因はやはり全てのチフユのせいなのだ…。
それは彼女にだって痛いほどにわかっていることだった。
全てを告白し、罪を償うのは人として当然のことなのだろう………。
だけど…だけど。
彼女にとって誰かに傷つけられることは…最も恐ろしいことなのだ。
だからチフユは嘘をついた。
「わたし…わたし…ハカナさんが…触手につれていかれるのをみたから…
それで…それで…助けようとおもって………」
感情もこもっていない人形のような表情のまま、チフユは嘘をついた。
チフユにはこうするより他に方法がなかった。
クランの目にバッと涙が浮かぶ。
「ごめんねチフユ。
…こんなことになっていたのに…私ぜんぜん気づかなくって本当にごめんね…」
クランはチフユの言うことを何一つ疑おうとはしなかった。
それが逆にチフユの罪悪感を胸の内から掘り起していた。
「でもよかったヨ。
チフユがいなければ私が気づく前にハカナのやつ連れて行かれたのかもしれないもんね。
本当にありがとう。チフユ」
クランが素直に頭を下げる。それはもう幼女のように無邪気に…。
チフユの心の痛みが一層激しさを増した。
チフユは迷った。本当のことを言おうかと。
だが、このクランの純粋無垢な笑顔が殺意を秘めたものに変わるかとおもうと、
どうしても告白することができなかった。
情けなくなったチフユは涙をこぼした。
「どどどど、どしたの………チフユ?な、なんか痛いことされたの?」
クランが真剣に心配してくれている。
「ううん…な、なんでもない…助けてくれて…ありがとう…棗さん…」
チフユはもう一度嘘をついた。
クランが気づいていないならそれでいいと思ったのだ。
そんな自分を最低だと思いながらも…。
その時だった。
どこからかともなく邪悪な声がビリビリと響き渡ってきた。
「あーたくっ!これだからもう幼女は見てらんないぜっ!」
「だ、だれが幼女だ!」
「!!!」
声の主の姿はどこにも見当たらないが、
何者かだけは音を聞くだけでブルドーザだとわかるように簡単に認識できた。
災悪はまだ終わりではなかったのだ。
チフユは顔を真っ青に染めるが、そんなこととはおかまいなしに声だけが響いていった。
「まだ自分が騙されていることに気づかねぇのかよっ!!
しかしまぁ。ずいぶんとまた嘘だけはうまくなったんだな。
こんな頭の弱い幼女まで騙してホントオマエって最低だなチフユ」
「ぐぬぬぬぬ…人のこと幼女幼女と……ブッ殺してやる!でてこいっ!」
「や…やめてェ……」
クランは感情を沸騰させたが、チフユは耳を覆った。
「くそーっ!この声はどこからだっ!!隠れてないででてこいっ!!!」
一時的にイライラを抑えて、クランが全神経を耳に集中。
ガバッ!
声の方向に反応するままクランが手を入れたのは、チフユの上着のポケットだった。
取り出すと、その手には通信用のカードが握り締められていた。
声はそこから漏れていたのだ。
「あんまり哀れで見てらんねェから教えてやるよ!そいつが何しようとしてたか…」
「ナ…ナニ?何を言ってるの!?」
「や…やめてェ!お願い!言わないでェ!」
「チ…チフユ?」
チフユは声を張り裂けんだ、カードから聞こえてくる声を塗りつぶそうとして。
だがチフユの小さな波紋など、襲い掛かる大津波には一瞬にしてかき消されてしまった。
「そいつはよぉ。夏樹ハカナを売って、自分だけカード80枚手に入れようとしたんだぜ!」
打ち明けられた衝撃の事実。
あまりに思いがけない言葉にクランが目を丸くした。
二人の心に衝撃の波が走るが、構うことなく第二の矢が放たれてくる。
「だって夏樹ハカナは自分の 獲 物 なんだもんね。チ フ ユ ち ゃ ん」
今度の声はカードから、そして建物の入り口の方から、同時に聞こえてエコーした。
入り口に立っていたのは先ほどのスケバン女。
やはり生きていたのだ、
だが、それは今の二人のとってはさしたる問題ではない。
ただその場ですすり泣くだけのチフユ。
瞬き一つできないまま、口も空けられないクラン。
二人の間は重苦しい沈黙の空気に支配されていた。
そんな状況を楽しむかのようにニヤニヤと見つめてるスケバン女。
「アハハハハハ!」
クランが突然笑い出した。
だがそれは、あまりに突拍子すぎる事実に気が狂ったわけではなかった。
「チフユがそんなことするはずないもんっ
そうやって私の心を惑わせようとしてるんだな!
そんなの見栄三重だぞ!」
「あっ?」
恐ろしいまでに都合のいいクランの解釈にスケバン女が眉をしかめた。
何言ってんだ?このアホ幼女は?と言いたげな顔つきだが、クランがそのまま怒号した。
まだ先ほどの恨みもクランには根強く残っているのだ。
「だいたいお前みたいなヘンタイのいうことなんて誰か信じると思ってるんだ!!バァカヤロォー!」
「…」
クランはスケバン女の戯言など毛頭も信じるつもりはないらしい。
あきれたスケバン女がどうしたものかと頭をポリポリかいた。
「まぁ信じるかどうかはそっちの勝手だけどよぉ」
スケバン女の言葉は妙に不気味な自信感に満ちていた。
クランはチフユのことなど一片たりとも疑ってはいない。
ハカナにむやめやたらに疑うのはよくないと言われたからでは無いが、
クランのデコボコな頭を治療してくれたのだってチフユだし、
短い時間の中でも、十分に信用のたる人物だ!
少なくともクランはそう思ったからだ。
「裏切ったりなんかするはずないじゃん。ねっ!チフユ」
「…!」
だが、チフユはクランに顔を向けることはできなかった。
クランは焦れったくしながらチフユの一言を今か今かと待っている。
もしここでチフユが『うん』とさえ言ってくれれば、
もうどんな言葉にも惑わされることなく戦うことができるだろう。
「本当よ…棗さん…」
「えっ?」
心が重圧に耐え切れなくなった時、チフユはついに告白した。
「わたし…ハカナさんを使って…80枚のカードを得ようとしたの…」
「う…嘘…だよね?」
クランは苦笑いを浮かべた。こんなときに冗談なんてやめろととでも言いたげに。
だが、チフユは涙をポロポロとこぼしながら、聞きたくも無い真実を語っていった。
「そうよ…嘘よ…全部が嘘。
友達と…一緒にこんなところに来たなんて…嘘なの…
だって…私…友達なんていない…」
「チ……チフユ…な、何を……言ってるの??」
チフユはただひたすらに泣くだけだった。
だがクランはチフユのことなど何も一つ知らない。
無知なクランのため、スケバン女が今までにないほど真剣な顔つきをしながら声を神妙にして語った。
「チフユは私達のイジメに耐えきれなくなって、ずっと引きこもっちまってたんだぞ………」
「そう…そんな自分を変えたくて『秘書』って人に声をかけられてここにきたの…。
でも、こんなことになって、私とても怖かった。
…怖くて…本当にこわくて…私、戦いもせず…必死に命ごいをしたわ…。
『他の人はどうなってもいい…何でもするから…私だけは助けてください』って…。
周りの人に泣きついたわ…。
…だけど誰も助けてくれなかった…。
…みんなが私にさせることは…すごくイヤなことばかりで………。
これだとイジメられいたころと…まったく同じ………。
…でも逆らえなかった…イヤだといえなかった………戦うことが…怖かった
…だからわたしっ!」
バチンッ!
めったに見ることのない、クランの強力な平手打ちだった。
それはクランに顔を向けた瞬間の出来事。
「いやぁっ!」
チフユはそのまま無抵抗に地面に倒れた。
「ハァハァハァ………」
手形をついた頬をさすりながら見上げると、そこには鬼のような表情のクラン睨んでいた。
瞳の奥にはどこか悲しみめいたものも感じる。
「そんなこと知らないヨぉっ!
ハカナはチフユに対してあんなに親身にしてくれたじゃないか
カードだけ奪おうと言う私に反抗してまで、必死に救うつもりだったんだぞ。
それなのに…それなのに」
「ごめんなさい棗さん。いじめないでぇ…」
クランはこのまま固めた拳で殴りかかりたかった。
が、必死に感情をかみ殺していた。
そんなクランの気持ちをスケバン女がからかい口調で逆撫でさせる。
「あぁ〜あぁ〜。その気持ちわかるぜ。かわいそうだなぁ〜棗ちゃん。
つらいよなぁ。泣きたくなったろ〜?幼女らしくあんあん泣いてもいいんだぜ〜」
「うるさいっ………!この死に底無いがっ!」
涙を振り払って、鋭い眼光が再びスケバン女に向けられる。
どうしようもない怒りの矛先をスケバン女へと向けたのだ。
「やる気か?そんな動揺した状態で戦えんのかよ?」
キッ!した表情のクランがカードを掲げる。
「出ろぉーーーっ!!アハト=アハト」
クランの前に再び機界の戦車を召喚させ、即座にその砲門をスケバン女へと向ける。
「どうしようもねェガキだなぁ…………やるっつんなら…相手になるゼ…」
スケバン女は鼻で笑うと。
じゅるじゅるじゅる…
建物外から。先ほど全て腐食したはずの触手が蠢いてきた。
「しょ…触手が…再生…してる…?」
クランは驚愕した。
そして、テンタクルの本体も、ゆっくりと部屋に入ってきた。
「…なんか…さっきよりも体が……でかくなってるヨぉっ!?」
「テンタクルの触手は水のある地形では再生能力がつくんだよ!
この大雨のおかげで元通りに再生することができたんだ。
おまけに雨水まで吸収してパワーアップ!
でもこれは私が追い詰められてやったことじゃない。
私だって知らなかったことさ。
オマエが建物外にさえフッ飛ばしたりはしなければ、この能力に気づくことは永遠になかった。
…まぁ…感謝しといてやるよ!」
「ぐっ…」
敵がパワーアップする手伝いをしたのか…そう思うとクランは悔しくなった。
「でもさ。この最後に直撃した本体のダメージまでは再生できないみたいなんだ」
スケバン女が制服を捲し上げて、見せ付けられた傷口は
ぐちょぐちょと血と体液と細胞が交じり合って動いている。
今にも腸が飛び出しそうな感じだった。
「うっ…」
気持ち悪いものを見せ付けられたクランは、一瞬思わず息をのんだ。
「…………この傷…………テメェを喰って再生することにするよっ!!」
その目はすでにモルモットを見るような目つきではなく、明らかなる殺意があった。
もう先ほどまでの遊びとは違う、本気になった触手達が襲い掛かってくるのだ。
「だ、だったら今度は二度と再生できないように、その本体をコナゴナにぶっとばしてやる!!!」
「撃てェ!アハト=アハト!!」
ドンッ!
クランの声を聞くやいなや、
アハトアハトのメインウェポンである8.8cmの砲弾が放たれた。
対してテンタクルの触手は今度はUの字のような形をとった。
にゅるるるる
砲弾は触手が作り出した道に誘導され、大きく半円の軌跡を描いた後、
力のベクトルがクランの方に戻って来た。
ドォーン!
そのままアハト=アハトのボディーに突き刺さり大爆発。
爆発でアハト=アハトがダメージを受けると、それはクランの体にまでも伝っていく。
ブシュ!
「うぐっ!」
クランの右手上腕部からも、肉が裂けて血が飛び出した。
チフユも爆発に巻き込まれて叫び声をあげながら吹き飛ばされた。
苦悶の声を上げるクランに向かって、スケバン女はアゴを傾けて見下ろすような視線をぶつけた。
「この私に何度も同じ攻撃をするのはすでに凡策なんだよ!」
「くっ!!くそっ」
歯を食いしばりながら、再び砲身をスケバン女の方に向けて発射。
そして再び跳ね返される砲弾。
ドォーン!
ブシュッ!
再びクランの腕からは血が飛び散った。
「うあああっ!」
その噴出する熱い血をかぶったチフユも絶叫を上げた。
「キャアア!棗さん!!」
「ハァハァ…」
もうこれ以上撃ってもムダだとわかったようだ。
攻撃は全て自分に跳ね返ってくるだけなのだと。
しかし、この砲撃が通じない今、何をどうやって戦えば………。
それを考える時間もなく、すかさずテンタクルの触手が襲ってかかってきた。
ビュ!
太い触手が砲門にからまると、すさまじい力でそれを無造作にへし曲げまげたのだ。
ベキ!メキメキメキ!ボキャ!
「んぎっ…があああぁあああっ!!」
クランの腕もあってはいけない方向に折れ曲がった。
ギブスの割れ目から血が湧き出していく。
クランの尋常ではない激痛の声に、チフユの顔が真っ青に染まっていった。
「まずは腕を奪った。もうこれ以上攻撃でないようにね」
触手は鞭のようにしなると、今度はクラン自身を目掛けて襲ってきた。
「ぐっ……アハト=アハトでガードするっ!」
ボゴンッ!
テンタクルの十分に水を吸って重くなった触手は
頑丈な鋼の機体をもへこませるほどの強力な一撃となっていた。
体操服の繊維が飛び散り、クランの背中からも肉がちぎれて血が飛び出した。
「…………ッ!!!」
それは鞭でも受けたような強力な一撃。
あまりの痛みに声にもならない。
そんな触手は息をつく暇もなく何度も何度も連続して振り回されてくる。
ビシィ!バシィ!バチィ!
「……………ッ!!」
鋼のボディはへこむたび、クランの全身もまた真っ赤な血の色に染まっていった。
「いやあああ!!」
その光景にチフユはガタガタと震えることしかできなかった。
テンタクルの圧倒的な攻撃力の前に、アハト=アハトはボコボコにへこんでつぶれていた。
メインウェポンだけでなく二本のパワーアームまでもがつぶされていた。
クランは全身が血まみれになりながらも、後ろにいるハカナを護ろうと大の字で構えていた。
「なかなか頑張んじゃないか。
そんなにその夏樹ハカナとかいうやつが大事なのかい?」
全身から血がしたたり落ちても、最後までハカナを護ろうとするクランの姿勢。
クランがグッと覚悟を決めたような目を向けた。
だが、そんなクランの目は、スケバン女に急に苛立ちのような感情が浮かび上がらせた。
「気にイラネェなぁ…」
触手を振り上げ、止めの一撃を繰り出そうとする瞬間。
静止をかけたのはチフユだった。
「マコさん!もうやめてェーーーー!!」
「あっ?ナニ止めてんだよぉ」
「お願い…!棗さんを…これ以上いじめるのはやめて…」
「へぇー?」
ここまでチフユが強くでたのは初めてのことだった。
スケバン女はしばらく考えると。
「そうだ。
それじゃあ命ごいをしな。
自分だけ助かりたいって言えっ。
そして素直にその夏樹ハカナをさしだせよ。
そうすれば助けてやってもいいぜっ!」
6つの太い触手がクランを威嚇するようにあやしくうごめく。
それは、逆らえば今すぐにでも命を奪えるという威嚇。
対してクランは目はかすむ。吐き気もする。全身が痛い。立ってるだけでやっとという感じ。
アハト=アハトもまた全ての武器を潰されて、これではもうただの鉄くずでしかない。
勝敗は火を見るよりも明らかだった。
そう、奇跡でも起きない限りは…。
「お願い棗さん!マコさんの言うことに従って…………」
チフユがクランの側によって必死に説得を続けていった。
ハカナを最後まで護って死んでも、結局ハカナは連れて行かれてしまうのだ。
ならばせめて自分だけでも生き残るのが利口な考えなのだと。
だがクランはキッとした表情で反抗した。
口から血を吐き出しながらチフユを怒鳴りつける。
「ふざけるな…そんなことっ…そんなこと絶対に言うもんか!
ハカナは私の大切な友達なんだっ!裏切ったりなんか絶対しない!」
「フーン!…そうかい?」
横槍を入れたのはスケバン女だった。
クランの意思が見えたところでもう話はついたのだ。
ついに触手の最後の攻撃が始まった。
メキィ!!
「ぎゃああ!」
アハト=アハトの横をすり抜けてきた触手が、クランの体全体を床へと押しつぶした。
それは床に埋まってしまいそうな恐ろしい力。
「がッがはぁ!!」
超重力によって、痛みの声と血のしぶきを上げながら床に埋まっていくクラン。
スケバン女が冷たく語る。
「ヘドがでるねぇ。そうゆう『信じる』とか『大切な人』とか。
アマちゃんな台詞は大嫌いなんだよ」
スケバン女こと武屋マコは学年でも人目おかれるワルだったが、
信じていた彼氏を後輩にねとられたつらい過去があったのだ。
だからこうゆうクランの行動に無性に腹が立つのは仕方が無いことだった。
「素直に命乞いしてりゃあ助けてやったのによぉーッ!
その床がテメェの棺おけだ!」
スケバン女が苦い思い出を振り払うかのように叫んだ。
テンタクルの触手が激しくクランを押しつぶしていく。
ミシミシミシミシィ!
「ああああああ!」
クランのしぼりあげられる声で、チフユの心までもが押しつぶされそうだった。
「やめてぇ!もう!やめてぇー!」
その時クランが起死回生のカードを掲げた。
「ああっああああああっ!!ルーンカード『ブースター』を使用!
アハト=アハトォ突進しろぉ!!!」
声とともにアハト=アハトに巨大な爆発力が生み出せれ、テンタクル本体に猛烈な突進をかけた。
「な、ナニ?」
すでに砲身もアームも失い、ボディもへこんで何も出来ないかと思われたアハト=アハトの最後の反撃。
巨大で頑丈な鉄の塊が、すさまじい速さで足を動かして向かってくるのだ。
地面にしっかりと根を下ろすテンタクルの本体自身は触手に比べて非常に鈍い。、
よけきれない!
その言葉がスケバン女の脳裏をよぎった。
このままでは踏み潰されるか、砲身に貫かれるか………。
錯乱したスケバン女にはカードに戻すという選択はなかった。
いや、カードに戻してもスケバン女自身が踏み潰されてしまうだろう。
「テ、テンタクル!そ、そいつを止めろぉぉーーーーっ!!」
すでに余裕もないスケバン女が必死に叫んだ。
幾本もの触手がアハトアハトの体に絡みついていく。
その動きを押さえつけようとするのだが、
いくら大雨を吸ってパワーアップしたテンタクルとは言え、
一度加速がついてしまったこの鋼の重量だけはそう簡単に止められるものではなかった。
押されていく。少しずつだが押されていく。
クランを踏み潰していた触手を含め、全ての触手があわてて戻っていった。
必死に動きを止るため触手の全パワーを集中させようと。
「うわっ………うわあああああ!」
スケバン女の意識とテンタクルの全ての力は、アハト=アハトに集中していた。
それはすさまじい力と力のぶつかり合いだった。
その間にクランが立ち上がりハカナを背中でおぶる。
そして一瞬どうしようか迷ったようだが、チフユの手をひっぱった。
「今のうちに!こっちへ!」
「な、棗さん?」
「早くっ!!」
クランが目指している場所は廊下だった。
血を振りまきながらもクラン達は懸命に走っていった。
「こ、この鉄クズがあぁあああっ!!!」
ミシミシミシミシ!
「と…止まらねェ……」
死に直面したテンタクルには信じられないほどの馬鹿力が生み出されていたが、
アハト=アハトの巨大な重量と四足によって完全にとられたバランスにはかなわない。
「そ…そうだ!こいつの…この足だっ!この足をっ!!」
ビシッ!ビシッ!ビシッ!
鞭のようにしなった触手が何度も足の脆い関節部を打ち続ける。
ビシッ!ビシッ!ビシッ!
アハト=アハトは徐々に徐々にその加速する力を失っていた。
バキッ!メキャ!メキィ!バキィ!
四足のうちの二足までが千切れ飛んで、足が地面の上を転がっていった。
体制を維持できなくなったアハト=アハトは前かがみに地面に激突。
テンタクルを踏み潰そうとする寸前で、アハト=アハトの動きは完全に停止したのだ。
「ハァ…ハァハァハァ」
スケバン女は全身から脂汗が流れていた。
しかしそれはすぐに怒りに変わる
「あの幼女がぁ…!!この私に死を覚悟させやがってエ!!!」
スケバン女の怒りを起爆剤に
触手はそのまま恐ろしい力で、アハト=アハトを持ち上げると、豪快に壁に叩き付けた!
今度こそアハト=アハトは黒い煙をあげて完全に沈黙した。
ふとスケバン女は姿を消したクラン達に気づくのだった。
「ちっ、どこに逃げやがった…あいつらぁ!!」
「棗さん!しっかりして!棗さん!!目を開けてぇーーー!」
その声は廊下の方からだった。
「あっちか…逃げられるとでも思ってんのかよ…」
スケバン女はゆっくりと歩き始めた。
ポカポカ達がひしめいている長い長い廊下。
「しっかりして!しっかり!棗さん」
クランの今までの戦いでうけた傷口が再び開いて、大量の血液が飛び出していた。
足まで折れ曲がってもう走ることも歩くことも、立ち上げるさえもできなかった。
「う…ううう………」
「いやああああ!そんな…棗さんが死んだら…わたし…これも…全部…わたしのせいだ…」
クランが途切れる寸前に最後に口を開いた。
それはチフユを責めたてるものではなかった。
「チフユ…ごめん…最後のお願いをきいて…ハカナをつれて…建物の奥に…逃げて……」
「……無理よ…逃げられないわ………どにに逃げてもマコさんはおそってくるわ!」
「いや…ヤツは私がたおす…こ…これを使ってっ………」
クランが持っているものはアイテムカード『人間爆弾』。
「!」
チフユもその名前を聞いた瞬間にクランが何をするか想像がついた。
クランは最後の力を使ってそれを胸にとりつけた。
「50m四方の物は塵一つ残さず消滅する……すごいヤツだ。
これで…私が死んだら…自動的に…爆発するから…」
「…そんな…」
「…わたしは…もうだめ……だから…ハカナのこと………お願い……」
「ど…どうして…そこまで…」
「ハカナには…わたしのことは…テキトーに言っといてね…
…あいつ…私がいなくなると……泣くかもしれない……」
「でも…わたしは…わたしは………夏樹さんを裏切って…」
「…………」
クランは手にある全てのカードをすべてをチフユに差し出した。
「…許してやる!
………だから…ハカナを……………お願い………」
ガクッ!
そういってクランはガクッと頭を伏せて動かなくなった。
「な…棗さん…そんな…うっ…ぐすっ…あああ…!?」
カッ!
廊下の入り口には雷光とともに、照らされたスケバン女の姿が映し出された。
「ひっ!」
逆行ゆえにスケバン女がどんな表情をしているのかわからないが…
聞こえてくるのはいつもの軽快な口調だった。
まるで狭いトコに入ったネコでも呼び出すように…。
「おいっ!チフユ!!そこにいるんだろ?
とっとと夏樹ハカナをこっちに持ってこっちこいよ。
ついでにその幼女の所持してるカードも全部もってこい!
もう、歩くのめんどくせーからよぉ」
「うっ…うう……」
チフユにはもうどうしていいかわからなかったが、…クランの遺言だけは護らなくては………。
そう心に誓って逃げようとした瞬間。
何故このタイミングなのだろうか………チフユは心底そう思うことになった。
悪魔の誘惑はチフユにとって余りにも魅力的すぎるものだった。
「いいこと教えてやるよ。
実はさぁ。あたしカードすでに63枚あるんだよね。
で、夏樹ハカナが80枚のカードになる。
それに幼女と夏樹ハカナとオマエのもってるカード全部あわせりゃ…
160枚は軽く超えると思うぜぇ。
つまり二人分でられる枚数なんだよな。わかるよなぁ。
賢明なオマエならわかるよなぁ。私の言いたいこと」
「!!!!」
「ほーらっ!それがわかったら。とっとと出ておいでチフユ。
あたしと生きて帰ろうよ。ねっチフユちゃん」
それは甘く優しい旋律。
(うっ…ううっ!生きて…生きて…帰れるの…わたし………)
流しすぎて…嬉しさに流す涙はもうなかった。
マコの誘惑に誘われかけたが、
急に目の前に赤い蒸気のようなものが立ち込めた。
まるでスケバン女の元に戻ろうとするチフユを止めるように。
それはクランの血。
クランの体は驚くほどの熱量を放って血はゴボゴボと沸騰していた。
爆発寸前だからだろう。
しかし、チフユにはそれはクランのすさまじい怒り表れのようにも感じられた。
自分の身を犠牲にして戦ったポカポカ達。
そしてハカナのために命を捨てる覚悟のクラン。
それなのに自分はまだ保身のことだけを考えて、マコの声にホッとしているのか…?
でも、マコに従いさえすれば自分は生き残ることはできるのだ。
だが、生き残ったとしても、また自分は奴隷のように扱われてしまうのだろうか…。
他人に傷つけられるだけの、何も変わらない日々。
でも…でも…………。
ハカナやクラン達の言葉と思いが彼女の胸の中に流れていく。
そしてチフユは心を決めた。
チフユは大部屋へとゆっくりその姿をあらわした。
うつむく表情はひたすら暗く青い。
そう、ハカナをつれて建物の奥へというクランの最後の言葉をも拒否し
入り口へと向かったのであった。
チフユを迎えたのはスケバン女の罵倒だった。
「遅いぞチフユ!ッ!何トロトロしてんだ?たくよぉ!待ちくたびれちまったぜ!」
笑みを浮かべていたスケバン女だが、どこか要求と違うことに気づく。
「おいおいっ。何のつもりだそりゃ………?」
「………」
チフユに抱きかかえているはずのものがないのだ。
スケバン女が顔をしかめる。
いつもチフユをムリヤリ従わせる顔で、もう一度強く問いただした。
「私は夏樹ハカナをもってこいっつったんだぜ」
「…」
「幼女からカードをかっさらってこいとも言った」
「…」
だがチフユにあるのは逆らうかのような意志をもった瞳。
ブチッ。
「そうか………両方とも『NO』つーんだな!?」
そのとてつもない殺気に飲み込まれそうになりながらも、チフユは勇気を振り絞った。
強く強く。自分を言い聞かせるように…。
「…すごく……すごく怖い…
…あなたに逆らうなんて…思っても…見なかった…。
…今でもこわくて……立っているのもやっとだけど……。
でも、私…戦う…」
神に逆らう虫けらのごとき許されないチフユの言動。
もう一度稲光が部屋にさしこまれた。
その荒れ狂う天の雷鳴はスケバン女の大いなる怒りだった。
ミシミシミシ
ゴゴゴゴゴゴ
「…………バカなやつ………。
せっかく人が生かしてやるっつてんのによぉ……
………テメェは人の好意を踏みにじったぁぁあぁぁああああーーーーっ!」
スケバン女の荒れ狂うような怒りが潤滑油となって触手の動きを早めていく。
チフユがカチューシャの中に隠していた1枚のカードを取り出した。
「んっ!」
バリッとした音を立て腹部に紋が開くと、そこから一体の竜が現れた。
ビクン…ズズズ
召喚したモンスターは非常にシャープな体型をしていた。
「ヘェ。それがオマエのモンスターか」
睨み合う二体のモンスター。
こうなった以上、もう戦いは避けられない。
「死ねよオラァ!!」
スケバン女の眉がピクッとつりあがるのを合図に、全ての触手が一斉にチフユに向かって襲い掛かった。
「来ないでェーーーーっ!!」
バチッ
チフユのモンスターの先端部が発光すると、
体内から放電した電撃が、太く束ねられ青白い閃光となり触手に向かっていく。
電撃を操る力。これが電撃竜ベラルゴシの能力だった。
能力には相性があり得て不向きがある。
雨水を十分に吸ったペクトラルには、その雷撃攻撃は本来の数倍の効果にまで膨れ上がった。
すべての触手は一瞬で焼け落ち、体を伝ってペクトラルの本体まで届いていく。
ズバッ!
「うわっ!ぐえっ!!」
部屋中に蒼い光が発散されていく。
雷のように強大な電撃をうけたあとには、
黒こげになったテンタクルと全身大火傷をおったマコだけが倒れていた。
「ハァハァ…」
戦いが終わるとチフユはすぐにクランのもとに引き返していった。
だが、ペクトラルの触手はたった一本だけ残されて、それはまだ蠢いていた。
「しっかりして!大丈夫!?棗さん!」
クランの体は火傷しそうなほどに熱い。
血の溜りはゴポゴポと沸騰して廊下は異様な湿度になっている。
抱きかかえると熱い血潮だけがボタボタと流れ落ちては蒸発していく。
「棗さん!め、目をあけてェ!死なないでっ!」
この時、チフユに後ろからはシュルリと触手が狙いをつけていた。
「ど…どうすればいいの?医者なんている訳ないのに…」
チフユの涙もまたクランに触れた瞬間に蒸発するだけだった。
大部屋で死ぬ寸前のスケバン女はこう思っていた。
(くそっチフユのくせに…わたしに…こんなこと…するなんて…
もう許せネェ…こうなったら最後の力でテメェも一緒に道ずれだっ!)
その思いとともに、残された最後の力がチフユの脳天に向かって襲い掛かった。
(オラッ!脳漿ブチ撒けて死にやがれっ!)
バンッ!
瞬間、力を失った触手がその場に落ちる。
脳漿をブチ撒けたのはスケバン女のほうだった。
眉間を打ち抜かれ、スケバン女は今度こそ本当に力尽きていた。
スケバン女はすでに頭に銃を突きつけていたことに気づいていなかったのだ。
(な、なにっ?今の銃声は!?)
「医者より坊主呼んだほうがいいんじゃない?」
廊下の入り口にはいつの間にか不気味なバンダナをした男が、
一枚のカードを掲げながらそこに立っていた。
(…ま……また敵!?)
緊張でチフユの胸の鼓動が高まっていった。
「来ないでェーーーー!!」
バリバリバリ
「わぁ!」
先手を打ってベラルゴシが発電するものの、バンダナの男は素早く壁に隠れた。
あわてた声を出しながら、カードだけ注目させるように見せ付けてくる。
「いきなりなにすんのさぁ!
ホラぁよく見てくれっ!これモンスターのカードじゃないっしょ!?」
それは腕のような絵柄だが、例によって触手かもしれない。
「じゃあ何のカードなんですか」
「治療カードだよ」
バンダナの男は自分がクランの知り合いだと主張した。
怪しさ満点だがクランが爆発しそうな今、疑う時間はもう一秒もなかった。
「ねェ…どうやって使うの?」
「患者にそのカードをかざしてみ!クランちゃんだけにクランケかな…」
「………ホントに効くのかしら」
チフユがかざすとカードから描かれている腕が飛び出した。
腕はクランを胸の上から押さえつけた。
不思議な緑の光が漂っている。
「暫くそうしてればそいつが傷を治してくれる」
バンダナの男の言うとおりこれには不思議な力があるようで、
クランの傷口が閉じていき、折れた骨までつながっていくと、体温もだんだんと下がっていった。
チフユはホッとしながら、バンダナ男にお礼を言った。
「あ…ありがとうございます」
バンダナの男が手を差し出した。
「さぁ50枚!」
「………エ?」
「君の持っているカード50枚とトレードってことでいいよ…」
「…そ…そんな…私そんなに…カードもってません…」
今までニコニコとしていたバンダナの男の容態が変貌すると、
バンダナの男はバンバンと銃声を上げて威嚇してきた。
「キャア!」
「…ぁあ?
調べはついてんだよ!
そこのクランちゃんとハカナちゃんとキミで48枚あるんだろーがっ!!
おっと2枚足りねーか…。
オラッ!ある分だけでもとっととよこしやがれ!」
チフユが困った顔をしながら反論する。
「そ…そんな…棗さんとは…知り合いなんでしょ…」
バンダナの男はもう一度バンバンと銃声を上げて威嚇してきた。
「キャア!」
ガチャ!
使い切った弾を捨て、リロードする。
そしてチフユの顔に銃を突きつける。
「知り合いは知り合い。ビジネスはビジネス!
公私混同はしない主義なの俺」
「そっ…それじゃあ…マコさんが持ってるカードから…50枚で…」
バンダナの男は再度バンバンと銃声を上げて威嚇してきた。
「キャア!」
「あれは俺がトドメをさしたんだ!
だからヤツのカードは普通に俺のもんでしょっ!!」
「…そ…そんなぁ!!戦ったのは…私と…クランちゃんなのに…」
「ほらっ!早くだすんだよ!トロトロすんな」
バンダナの男が手を出し強引に迫ってくる。
チフユはまた苛められているような気分になると、顔が涙でぬれてきた。
ギュッと胸附近に集めていた上着の襟を握りしめる。
(……や…やるしかないっ!)
チフユがカードを掲げて叫んだ。
「………ベラルゴ!」
「おっと!」
「んっ!」
バンダナの男はチフユの両手を万歳のカッコにさせて片手で押さえつける、
そして、もう一方の手は口を閉ざす。
鼻息がふきかかるほどチフユに顔を近づかせる。
「エヘヘヘ!召喚なんかさせないよチフユちゃん」
メガネは光り輝いていて、バンダナの男がどんな目をしているのか定かではない
「んっ!んんっ!なにするのぉ!や、やめてェ(丸文字)」
「…まずはキミのカードから…いただくことにするよ」
そのまま一気に地面に押し倒す。
「…や…やめっ……さわらないで…んっんんっ!(丸文字)」
「うるせェ!黙ってじっとしてやがれ!痛い目みたいのか!!」
「んっんんんーっ!(丸文字)」
「何やってるのかナー?コウジ君」
「フモフモフモフモ」
(!)
バンダナ男は後ろからの声に、とてつもなく重圧的な何かを感じた。
メトロ=ワーム=ガスの効果がきれて、起き上がったハカナとポカポカたちが周りを囲っていた。
ハカナの前で展開されているのは、
制服を引き裂かれて半裸状態されたチフユの体をまさぐるコウジの姿…。
コウジは落ち着いた顔でタバコをふかしたのち、ゆっくりと落ち着いた声で対応した。
「ちょっとまて。これはちょっとした誤解だ」
「この状況でどんな誤解があるっていうのよっ!
やっつけちゃえポカポカ!」
ポカポカの達が襲い掛かって、たちまちコウジは山に埋もれた。
「ぎゃあああ!」
「女の敵は許さないっ!」
「ん?……わたし?まだ生きてるの?」
クランもまたゆっくりと目を覚ました。
昨晩の雨が嘘だったように空は清く澄み渡っていた。
十分に休んだハカナが何事もなかったかのように元気よく目覚める、
「おはようクランちゃん!」
「あっ…おはようハカナ…」
クランがまだ眠そうに目覚める。
「よかったわねぇクランちゃん。ケガ全部治って」
「うん!」
「小田さんも新しい制服カードが手にはいてよかったわね」
「うん!」
「フゴフゴフゴ」
両手両足を縛られ猿轡をされたコウジが壁の端で蠢いていた。
建物の外に出て、改めて親探しに出発しようとするハカナ達。
それを見送るチフユだったが、
「小田さんも私達と一緒に行こうよ」
「エ?」
ハカナが優しく微笑んでいた。
「だって、いつまでもこんなところに閉じこもっててもしょうがないじゃない。
友達の分まで頑張って生きなきゃ…ねっ!」
「で…でも…わたしは……」
暗い表情でチラリとクランの方を見る。
「………もう何やってんだチフユ。早く来ないと置いてっちゃうぞ」
「な、棗さん!!」
チフユはこの時初めて笑顔を浮かべた。
「フゴフゴ」
脇では両手両足を縛られ猿轡をされたコウジがポカポカに運ばれていた。
こうしてスケバン女とコウジから奪いとったことにより、カードは枚数164枚になった。
続きます
新作キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
触手プレイ…エロいっす。話数が二桁になってR指定から18禁になったようだw
毎回いろいろ頭を使って戦うクランたんがカッコいい。願わくば最終回までヤられずにいて欲しい。
ところでキャラや竜のネタ元はやっぱりCDドラマなんでしょうか?
超大作乙です!!
触手汁だくにハアハア、おまけにきっちり
カタルシスもあってすげえおもしろいッス。
しかし、
>ポカポカの美しいまでに尊い自己犠牲の行動
なぜだ…笑うべきところじゃないのに思わず笑ってしまった…
漏れの脳髄ってカビでも生えてんだろうか_| ̄|○
感想ありがとうございます。
>>173 ええ。触手竜や電撃竜の元ネタは
全部CDドラマから引っ張ってます。
>174
すごく喜んでもらえたようで嬉しいです。
まぁ、ポカポカは分裂で増えますから、
個々が死んでもそう思うのが
普通なのでしょうねェ・゚・つд`)・゚・むくわれねェ
では、次はそろそろ…まとめに入ろうかと。
かかかか神!(゚∀゚)
これを見ると
もっともっと頑張って良いものを書かなくてはと、
そうゆう気分になりました。
燃料補給ありがとうございます。
続きです。
帰巣本能。
動物が遠く離れた場所から、自分の巣などに帰ることができる能力のことで、
イギリスでは犬が約130キロ離れたから町から7週間かけて戻ってきたこともあり、
このような事例は、世界中に数多く存在している。
その能力は人間にも備わっているという仮説がある。
そう、全ては帰巣本能である。
各地で展開される激戦を潜り抜け、
生き残った勝利者達は
次第にある場所へと集結しつつあった。
彼らの中の本能的ものが、
原始的な何かが、
そこに自分達の世界へ帰るための唯一の道があることを知っているのだ。
森を四方から囲む壁は天高くまでそびえ立ち
外界からの進入を…そしてこの世界からの脱出を完全に防いでいた。
金属のように黒光りするそれは、どんな材質なのか、
どれほどの銃撃や砲撃を受けてもヒビどころかキズ一つ入る様子はない。
これを物理的に破壊して出るというのは、
どんな強大な力を持ってしても不可能なことだった。
この閉ざされた世界と外界を結ぶ場所は一つだけ。
人々はまるで重力に魂を引かれるかのようにその地を目指していた。
一夜明けて………。
洞窟の奥には、上半身を縄で縛られた少女が、
2人の男の前で股を大きく開いた格好で仰向けになっていた。
「ああ……御主人様ぁ…お待ちしてましたぁ…」
「やぁ。エリちゃん。待たしちゃってゴメンね」
「フフフ。朝っぱらもう欲しいのかい。エッチな娘め」
「今日も朝からご主人様のおちんちんに嬲られるなんて幸せですぅ…」
男達の前で猫撫で声をあげる少女。
一晩中休むことなく続けた調教の成果に男達が表情をにんまりとさせる。
「ククク。だいぶ性の虜になってきたようだね…」
「も…もうだめェ…待ちきれないぃ…」
少女は男達の性器にかぶりついた。
「んむっ、んむっ…じ、自分からしゃぶりついてくるなんて…
そ、それに…だ、大分うまくなったじゃないか」
「フフフ。じゃあ今のうちに僕は下の口にお世話になろうかな。ククク」
「ごっ、御主人様ぁ…エリのいやらしいおまんこを…
ごしゅじんさまのおちんちんで…いっぱいにして欲しいのぉ…
おまんこしてぇ…エリのおまんこ使ってぇ…!!」
男もまた待ちきれないのように勃起済みのペニスを少女の秘所に突き入れた。
そしてそのまま腰を動かす。
喘ぎ声をあげる少女。
腰を動かすスピードを速めていく。
こすれあう性器は、えもいわれぬ快感を生みだして二人を絶頂へと誘う。
「アハハハハ!このメス犬め。これでどうだ!」
「ああん!あん!あん!!き、きもちいいよぅ…もっとめちゃくちゃにしてぇ」
「ウフフ。キミは本当の最高のオモチャだよ…エリちゃん」
たわむれる男と女。
そこにあるのは獣のような激しさと、
理性を完全に失い、夢中で腰を動かし、ひたすら快楽をむさぼる姿だった
「テメェらーーー!朝っぱらから何やってやがるーーーっ!!」
それに待ったをかけたのは、断食ならぬ断性中のトウマだった。
「…ト…トウマさんも一緒にやりませんか?」
「4P…4P…はぁう……きもちいい……おまんこ気持ちいいぃぃっ……!!
もっとしてえ…みんなでエリをなぶってくださぁい…」
しかし少女がトウマの一物へと触れた瞬間、トウマは過剰な反応を示した。
「お、おれにさわるな!この薄汚いメスブタがぁ!」
バキッ!
「キャア!」
―断性―。
口で言うにはたやすいが、並の男には決してやりとげることのできない苦行。
性感反応によって精製される体液を自らの意思で体内へと封じ込める。
封じ込めた体液は毒となって自分自身を蝕んでいく。
それには激痛が伴い、心の弱い者なら発狂だってありえる。
そうなると制御は全く効かなくなり、性感反応は無限に暴走する。
いわゆるメルトダウン。
このままでは、最悪の場合トウマそのものが大爆発だ。
もはや感情すらコントロールすらできないほどに彼は追い詰められていた。
「お、俺たちのオモチャに!なんてことするんですかトウマさん!」
「う、うるせぇーーーー!テメェらも喰い殺されてェのかーーーっ!」
トウマは頭から飛び出した豪腕を唸らせ、洞窟全体に激しい振動をおこしていった。
モンスターを制御するのに必要なのは強い思いや強靭な意志。
しかし今のトウマにそれはなく、ただ力を暴走させるだけだった。
「ひ…ひぃぃ!」
「テメェらーーーーっ!とっとと夏樹ハカナを見つけに行きやがれーーーーーっ!!」
「い…行ってきますッス!!」
主のただならぬ様子に
身の危険を感じた舎弟達は逃げるようにして洞窟内から飛び出していった。
また別の洞窟。
高所に存在し、森全体を一度に展望できる場所。
クラン達は今そこに陣取っていた。
このような洞窟は森の各地に点在しており、それを拠点に活動する人々は少なくはない。
洞窟の奥で、ハカナとクランが取り囲んでいるのは、
縄で縛りつけられ身動きがまったくとれないコウジだった。
「アナタにはたくさん聞きたいことがあるんだからね」
ゴォォォォ。
横では、クランが片手で持てる大きさの調理用の鍋を火であぶっていた。
その光景を眺めるコウジはあっけにとられた表情だった。
「な…何してんの?腹ごしらえ……かな?」
クランは何も答えず、ただ炎に魅入られるような表情のまま空焼きを続けた。
炎の光に照らされて、クランの顔の陰影がはっきりと浮かびあがっている。
ドイツの誇る高度な医学知識が生んだ―――世界で最も効率の良い尋問法…。
熱せられた鍋による拷問が始まる…!!
「ほらほらー。嘘なんかついたら熱いんだからナー」
クランは小悪魔のような笑みをうかべていた。
「や、やめてーっ!何でもいいます!」
「まず!ここはどこなの!
誰がいったい何のために私達にこんな殺し合いをさせるの!」
「し…知らないよぉ…」
拷問において………
痛みや苦しみは実のところあまり有効ではない…
苦痛は容易に快楽へと転じ、意外に耐えやすいもの…
真に有効なのは自分の肉体がとり返しのつかない形で破壊され変容させられていく
その喪失感。
例えば愛くるしい顔。美しい肌が焼けただれ無残に引き剥がされていくときの
絶望!
ジュッ!
「あちちちち!」
「あなたねぇ!知らないわけないでしょ!!
元はといえばあなたから受け取ったチラシのせいでこんなことになったのよっ!」
そう、平和な遊園地内で受け取った一枚のチラシ。
コウジから受け取ったそれは、カードを使ったイベントを装う撒き餌でしかなかった。
この首謀者が何を考えてるのか定かではないが、
客寄せを行っていたコウジがその一味だと思うのは当然の道理。
しかしコウジは必死に反論。
「本当だよぉ!俺だってここにつれて来られるまで知らなかったんだよぉ!
チラシ配ってたのはただの資金集めのバイトで…
こんなことになるなんて、思いもよらなかったんだ!!本当だって。信じてェーーーっ!
あっちーーーーーーっ!!焦げてる!焦げてるよぉ!!」
この苦痛に弱そうな男が、こうまで口を割らないとなると本当に知らないのだろう。
この男もまた首謀者に利用されてただけなのだ…。
ハカナは質問を変えた。
「それじゃあ、お父さんとお母さん見なかった!?
この森のどこかにいるはずなの」
「あっ…そ、それなら知ってるよ。道端でバッタリ出会ったからね
一度会ってるから、すぐにハカナちゃんの両親だってわかったよ」
「え!お、お父さんとお母さんが生きてる!?」
ハカナはあんまりに嬉しくて、不覚にも妹の前でポロポロと涙こぼしてしまった。
生きているとは信じていたが、
心の中では…『もしかしたら、もう…』と不安になっていた部分もあったのだ。
そんなハカナを見てクランも一緒になって喜んだ。
「よかったねハカナ」
「うん」
嬉しさで体の震えはまだ止まらなかったが、
ハカナは一刻も早く両親の無事を確認したかった。
自分の両親。危険を犯しても助けようとするのは当然のことだ。
「それで!お父さんとお母さんは無事なの!?怪我とかしてない?」
「安心してハカナちゃん。ちゃんと優しくエスコートしてあげたよ」
「うっ…うっ…ありがとうコウジ君…」
「泣かない泣かない」
「それでどこ!?今どこにいるのっ?」
「………ただでは教えないよ。ハカナちゃん。カード50枚でどうだい?」
昨今の医学の進歩はめざましい…
修復美容整形の分野でもそれは叱り。
それでも決して全ての損傷を修復しえるわけではない。
ひきはがされた筋肉。
焼き潰された眼球。
果たして…どの程度修復し得るものなのだろうか…
ジュウウッ
「や、やめてぇ!言います!言いますからぁ!髪の毛焦げてるよぉっ!」
クランの拷問にコウジはたまらず口を割った。
「あ…えと…途中までは一緒だったんだけど…
………………………。
それがレアなカードが手に入るチャンスがあってさぁ…」
「!?」
コウジが言うには、
森でたまたま見つけたレアモンスター。
そのカードを奪うため所有者の後をつけ、チャンスを待つのはコレクターとして当然の行動。
しかし、3人では尾行がバレてしまうため、
話し合いの結果、別行動をとることにしたのだった。
………もちろんこのコウジの物言いは典型的な詭弁。
つまりはカードのためにハカナの両親を見捨ててきたということだ………。
ハカナの震えは拳を握ったものへと変わった。
「ちょっと何よ!ソレ!?
なんでアンタはいつも自分のことしか考えないのよっ!!」
「わぁ!怒鳴らないで!」
ジュッ
「あちちちち!やめてェーーーっ!」
「カード欲しさに別行動なんてとるからでしょっ!」
「だってェ〜!テンタクルだよテンタクル…。
この触手を手に入れるために今までいったいどれだけのマニアが血を流したことか…」
「まだ言うかっ!ポカポカっ!」
ガブッ
「ギャアアアアーーーーーッ!!!」
暗く湿った洞窟に男の声が響き渡った。
トゥルルルル。トゥルルルル
クランは通信カードを使ってハカナの両親と連絡をとろうとしたのだが返信はなかった。
このまま立っていてもしかたがない。
まずは腰を落ち着かせる。
この森に来て一日、状況は大分変わってきたのだ。
「話を整理しよ…。
まずハカナの両親は初めの部屋からは生きて出られた。
二人は無事に合流を果たした後、私達を探して森の中を彷徨っていた。
その最中でコウジに出会い、しばらく行動を共にした。
コウジと別れたのは昨日の夕方…ちょうど大雨が降り出したころで、
そこまでの無事は確認できてるけど…その後は一切不明
………。
コウジの話によるとパパとママは通信用のカードを持っているはずだけど、
今試してみたけど連絡はつながらなかった。
…………つまり………」
クランはそこまで言って口を紡いだ。
「クランちゃん…ハッキリいって!」
「……え…えと…奪われちゃったか…なくしちゃったか…。
ひょっとしたら今は出られない状況なのかもしれない
電波が届かない場所かもしれないなっ!」
流石に『殺されたかも』とは口が裂けても言わなかったが
そんなクランの気づかうような優しさを察したのか、
ハカナの表情に暗い影がさしかかった。
(ああー。ごめんよぉハカナぁ!)
「どうしよ…どうすればお父さんとお母さんに会えるのかなぁ…」
「う〜〜〜ん」
これから何をすべきか。
どうするべきか…。
本来ならすぐにでも両親を探しに戻りたい。
コウジと別れたというその場所に行けば、何かしらの手がかりがあるかもしれないのだ。
だが、こうしている間も人々は着々と出口に向かって進んでいる。
出口が森の中心部にあるということは、なんとなく意識的なものでわかっていた。
ここからはクランの想像だが、あながち間違いではなく、そして現実ともかけ離れてはいなかった。
開始当初、森の各地に散らばっていた人々…
おそらくだが開始時の人口分布は、夜間の東京の人口分布のようにドーナツ状になっていたに違いない。
それが皆一様に、出口………つまり中心部を目指して進んでいるということは…。
それはまさに朝の東京の状態だ。
通勤地獄、道路混雑、交通渋滞。高い密集性、相対的に高くなる人口密度。
中心部に近づくにつれ必然的に高まる敵との遭遇率。
そして激化していく戦闘。
勝ち抜けることで入手するカードはインフレをおこし、
出口に辿り着いた時には、余裕で80枚以上のカードを手にしていることだろう。
すでに、どれだけの人間がこのゲームをクリアしているのかは知らないが
確実に時間に比例してこの世界から抜け出すチャンスが…生への免罪符であるカードは減り続けているのだ。
ここで両親を探しに後戻りなどしていたら、出られるだけに必要なカードがなくなってしまう。
思い浮かばれる数々の選択肢。
所詮人間でしかないクランに、
そのどれが本当に正しい選択なのかわかるわけがないが、決めなければならない。
ここでじっとしているのは、それこそ愚の骨頂。
ここにいる三人。そしてハカナの両親。
それらを助けられるかどうかは全てクランにかかっているのだ。
クランが悩みに悩みぬいた末…一つの決断を下した。
「とにかくまずはカードを集めよう!!」
ハカナにとってクランの決断はあまりにも意外。
絶対に両親を探しに戻ってくれるものだと思っていたからだ。
それに…。
「ねぇ。クランちゃん。もうやめようよ…
モンスターを使って殺しあうなんて異常だよぅ…」
「だめだ」
ハカナが必死に説得を続けるが、クランにそれを応じる気は一切ないようだ。
「他のカード使いと戦ってカードを80枚以上集めない限りこの森からは出られない。
あの『秘書』とかいうやつが言ってたんだろ?」
「やってみなくちゃわかんないじゃない。どこかに抜け道があるかもしれないし!」
「ダ メ だ !」
「それに誰かが助けにくるかもしれないじゃない…」
「誰か?誰かって…ダレ?」
「エ…えと…警察とか軍隊とか政府の偉い人たちとか…それに………」
一瞬、間を空けてハカナが口を塞いだ。
ハカナが最後に思い浮かべたのは学ランの上にコートを羽織った男だった。
不思議な感じがするその男は、いつも自分が危なくなった時に、どこからか颯爽と登場して助けてくれる。
ハカナにはとっては、ちょっとしたヒーローみたいなものなのだ。
だが、その男のことはクランの前では決して言えなかった。
何故ならその男のせいでクランは両腕はひどい目にあってしまったからだ。
その傷跡は今もなお痛々しいギブスという形で残っている。
いや、でも、あれは…いきなり襲い掛かろうとしたクランが悪い。
言うならば自業自得。
と、過去を振り返っているハカナを、クランの声が現実に引き戻した。
「何考えてるのか知らないけど、そんな甘い考えじゃこの先生きていけないぞ。
それに他人なんかに頼るよりも、自分で動くほうが確実だ」
横で聞いてるチフユはクランの言葉に耳が痛かった。
「コホン。は、話をもどすぞ。
とにかく現状をなんとかしよう!!
もしパパとママを見つけたとしても、
カードがなくなればと結局ここから出られないんだ。
だから今のうちに集める必要がある。
出るには一人80枚。
私、ハカナ、パパ、ママ、チフユで合計400枚も必要になんだから!!
グズグズしてると機を逃しちゃう!」
クラン達の現在所持するカードは164枚。
400枚は気が遠くなるほどあまりにも遠い枚数だった。
「ご…ごめんなさい…私のせいで…」
泣きそうなチフユの声にクランの胸はドキッとした。
「そ…そそ、そんなことないヨぉ。
もともとの予定に、たったの80枚増えただけじゃないか」
「で…でも…でも…」
「それにチフユの持ってるべラルゴシのカード。
電撃攻撃はほとんどの機界モンスターに特攻があるから、
この戦いの主導権を握ったようなもんだ!
これさえあればもうどんな敵が現れても楽勝だよ」
「ホント?」
チフユの問いにクランがにっこり笑う。
「…ま…まぁ機界のカード使いの戦いに、竜界のカードを使うのは反則かもしれないけど…。
他のヤツも他界のカードを持ってきて使ってるみたいだから特別問題はないだろう…
…アハハ」
和んだ空気。
彼女達の中に、どうやら希望の芽が湧き出したようだ。
ただ一人、縄で縛られている者を除いて。
「あの…ところで…私目の脱出分は………」
「ねぇよ(冷え切った目で)」
洞窟から出て
高い崖の上から景色を見渡すと、眼前に広がっているのは森で埋め尽くされた大樹海。
その中でも森の中心部から半径数十キロに至っては、
周り木々とは比べ物にならないほどの高い妖木によって蹂躙されている。
こうして遠くから眺めているだけでも、禍々しく、呪われたものまで感じるとることができる。
その地域の空は常に黒々とした雷雲に覆われており、
一度足を踏み入れた者は誰一人として生きて変えることは無い………
そういった雰囲気さえ感じとられてくる。
そこはまさに『魔境』と呼ぶにふさわしい場所だった。
だが、行かなくてはならない…。
そこを越えない限りは出口へと辿り着くことはできないのだから。
クランが手に取ったカードは50枚。
現在ある164枚のカードの中から十分に考えて構築したデッキだ。
「よしっ!それじゃあ行ってくるね」
旅立つのはクラン一人だった。
カードを奪うために、敵を探すなら中心部に近づくのが手っ取り早い。
クランは魔境へと向かうつもりだが、
それを聞いたハカナはクランのことが心配でなかなか行かせてくれたりはしなかった。
誰があんな見るだけで恐ろしそうな所に、可愛い妹をたった一人で行かせられようか?
「だ…大丈夫なの…本当に一人で…?」
「だから、一人の方が身軽でいいって言ってんじゃん。
みんなでゾロゾロ行ったら、それこそ的にされちゃうぞ」
「カードだって…本当にそれだけでいいの?」
「カードなんていくら持って行ってもどうせ使うものは限られている。
必要最小限なやつだけ持っていくほうが手回りもよくなって使いやすくていいよ」
「…………でも…でも……やっぱり私も行…」
「誰かをかばいながらじゃ全力がだせない。ハカナが来ても足手まといなんだ」
「!」
クランのぶっちゃげありえない発言に、
ハカナは大きな衝撃をうけてしまい、それ以上何も言えなくなってしまった。
もちろんクランに他意はない。
「………そ…そう…足手まといじゃ………しかた……ないわよね…」
それは自分に言い聞かせるようだった…。
確かにハカナには、クランほどカードの知識があるわけではないし
今あるカードだって使い方の分からないカードの方が多い。
このポカポカだって十分に使いこなしているとは言い難い。
それでも、何かしらクランの役に立てるとは思っていたのだ。
だが、クランに『足手まとい』など言われてしまった以上、
それでもついて行くのは、もはや自分の我侭でしかない。
それに、自分を護ろうとしてクランがひどい目にあうなんてことはあってはならないことだ。
ハカナは断腸の思いでクランを見送る決意をした。
ならべく悲しい顔をしないため表情を硬直させながら…。
「な…棗さん…それじゃあ…せめてこの…ベラルゴシのカードをっ!」
「いいよ。それはチフユが身を守るために使って。
不信なヤツがこの洞窟に近づいてきたらバリバリやっちゃうんだぞ」
「で…でも…棗さんをあの場所に近づかせるの、私もなんだか怖い」
「んもう。大丈夫だって言ってるのに…!」
心配性なハカナとチフユ。
しかしクランからしてみれば過保護でしかなかった。
(まったく…どいつもこいつも子供扱いしやがって…ぶつぶつ)
クランは景気良く胸を叩いた。
「大丈夫。すぐに大量のカードもって帰るから」
「…」
「そんな顔しないでよ!
ほら、攻撃用のカード数枚に、防御カードや緊急回避用カード。通信カード
準備は万全。
これだけあれば槍が降ってきても大丈夫だよ…。
二人はここでじっと待っててね。ここならたぶん安全だから」
「う…うん…」
しぶしぶクランの言うことに従わされたハカナとチフユ。
「それじゃ!行ってくるからナ!」
クランが背を向けこの洞窟を後にする際、ふと思い出したかのように念を押した。
「そ、そうだ!特にハカナは絶対ここから出ないでね…!!」
「?」
クランの頭によぎったのは、ハカナを狙う悪魔達の存在だった。
彼等もまたこの森のどこかを蠢いているのだから。
クランが去った後。
残されたハカナの表情はひたすら暗く重かった。
(妹だけ危険な所に送って…。
こんな安全なところで何もしないでじっとしてるなんて……。
私…クランちゃんのお姉さん失格なのかナ…。
私じゃクランちゃんのお姉さんになれないのかナ…)
出口に向かう人々を待ち受ける最後の難関。
『魔境』
遠くから眺める限りでは、多少森が深くなっただけで
決して越えられぬものではないだろうと思った。
しかしクランはそう思いながら足を踏み入れた瞬間、すぐ自分が甘かったことに気付いた。
足を踏み入れた瞬間。周りの空気が変わっていくのがわかる。
それは背筋が凍りつくように張り詰めた感触。
そこはひたすら闇に覆われた暗黒の世界。
昼夜の区別はなく混沌としており、
人間も獣も草も木も、
およそ生あるものはみな生きる力を失うようだった。
一見したところ、そこはごくありふれた湿地帯のようにも見えるが
黒々とした地面にまばらにゴム樹が生えるその眺めはいかにも陰鬱。
地面と見えたものは刺だらけの潅木の体積物で。
歩くごとに一帯が気味悪く揺れ、折れた茎がいきなり撥ね上がる
万が一、太い枝にでもぶつかろうものなら大怪我は免れない
辺りは蒼白とした霧のようなものがたちこめ、ここが森のどこにあるかも定かではない。
むやめに動こうものなら、自分の居場所を見失うのは一瞬のことだろう。
ここでは、方向感覚、時間間隔、距離感、平行感覚…すべての感覚が狂わされるようだった。
どの方向に進めば中心に辿り着くのかすら皆目見当がつかない。
空は薄暗く紫色の雲が雷鳴を轟かせながら螺旋状に動いており、
まるでここだけが異空間のようだ。
しかしクランはいつまでも怖気づいてはいられない。
(とにかく…進まなきゃ…)
気を強くもって威勢よく歩き始めていった。
ついに魔境へと足を踏み入れたクラン。
死ねば良い…。
「えっ?」
死ね…。
死んでくれ…。
声…。
気のせいではない…。
確かに聞こえるクランを地の底に誘う亡者の声。
声の主。
クランの侵入を歓迎しているのは。
すっかりこの森に馴染んだ住民達。
姿こそ見えないが確かに存在しているのだ。
彼等からすればクランが死んでくれることが望ましい。
この世界から生き残れ帰られる者は極少数…限られている。
クランが死ねば。
生き残るために必要なカードが潤う。
となれば少しでもカードの入手がやりやすくなる。
生き残れる確立が増える。
ならばクランの死を望むのは…必然。
期待。
可弱い幼女の死。
破滅することへの期待。
クランはこの渦巻く悪意に飲み込まれないように
ただ心を強くもって突き進んでいった。
トォルルルル。トォルルルル
「あぁ…くそっ…やっぱり通じないか…」
クランが使おうとしたのは連絡用のカード。
とりあえず魔境に辿り着いたことをハカナ達に伝えようと思ったのだが、
やはりこの内部からでは連絡は取れないようだ。
(そうか…ひょっとしたら…パパとママもここにいるかもしれないナ…)
希望的観測だが…その可能性も十分にあった。
ふと、クランの頬に冷たい汗が流れた。
「………ククク…道なりをそんな不用意に歩いてたら、あっという間に撃たれるぜ」
「!?」
その声は背後からだった。すかさずクランが身構える。
いつの間に、ここまで近づかれていたのだろうか。
声を出すまで男からは一切の気配が感じられなかった。
とにかく魔境に入っての初めての敵の出現にクランは気を引き締めた。
「ヘヘヘ。まさかテメェもこのゲームに参加してたとはな」
「え…?」
男の口ぶりからするとまるでクランを知っているような感じだが…。
確かに、その顔はどこかで見覚えがあるニキビ顔だった。
クランが記憶を辿ると、意外とすぐに答えは出てきた。
(そうだ!こいつは…昔、戦ったことのあるシーラニクティス使いのニキビじゃないか!)
そう…あれはたしか、クランがまだハカナと知り合って間もないころだった。
あの日はハカナにデートに誘われて、つい嬉しくなってしまい
クランなりに頑張っておしゃれして、
めったに着ることのない可愛い服を着て、生まれて初めて大人の下着をつけてルンルン気分だった。
にもかかわらず、デートはなし。
ハカナの策略でムリヤリこのニキビ顔と戦わされ、
カードゲームの最中、お気に入りの服を引き裂かれ、
大衆の前の見てる前で恥ずかしい下着をつけた姿まで晒されてしまい
ずいぶんと悔しい思いをしたものだ。
そんな過去の出来事を思い出しただけでもクランは心は怒りに満ちあふれていった。
怒りの感情にまかせまま、クランはカードを掲げてアハト=アハトを召喚した。
「おいおい。待てよ。俺は何も戦いに来たわけじゃねェよ」
「ふざけるな!じゃあいったい何をしにきたんだっ!!」
ニキビ顔は自分に戦う意思がないことを示しているようだが、クランは頭ごなしに否定。
一度出会ってしまったカード使い。
戦う以外にやることなどあるはずがない。
こんな場所なら尚更のこと。
これは遊びをやっているわけではない。
戦争なんだ。
覚悟の足りないものから順に淘汰されていくのが戦場の常。
クランはそれを知っていた。
「くらえっ!」
クランの召喚したアハト=アハトの砲撃をかけた。
「ちっ…しょ〜がねぇなぁ…」
クランの攻撃に対してニキビ顔の男が面倒くさそうに掲げたカード、『通勤用装甲』を召喚。
ドォン!
豪快な爆煙の中からは無傷のニキビ顔が現れる。
「くっ!」
「だーかーらー、やめろってつってんだろ。
わかってんだろ?俺は経験者なんだぜ。
オマエが今まで戦ってきた初心者の雑魚とは違うんだよ!雑魚とは!!」
「け…経験者…だと…?」
経験者というのはこの殺人ゲームの経験者………ということではない。
この森に来る前から…
そう、日ごろからカードに慣れ親しんでいた者をあらわす言葉だ。
そうゆう意味ではクランもまた経験者の部類に入るのだった。
「なんだかんだ言ってもこのゲーム。
カードやモンスターの性能を知り尽くしている点で経験者は圧倒的有利。
モンスターの弱点とか攻撃性能とかいろいろ知ってるからなぁ…」
確かにその知識のお陰で、クランもこれまでの幾度かのピンチを乗り越えてくることができたのだ。
また魔境に一人で来た経緯も、自分はカードのことを知り尽くしているという理由があったからだ。
この戦いにおいて経験者である意味は大きいのである。
「もし経験者同士がお互いに手札を尽くして戦えばどうなるか…。
…わかるよなぁ…。
普段のゲームは数枚しかない手札と、1ターンに1回のドローという規約があるから決着がつくんだ。
もし、それがデッキの中から自由に好きなカードを出せてみろ…。
決着なんかつかねぇぜ。
それはこの戦いにおいてもそうだ。
経験者同士が戦えば…
千日戦争になるか、消滅か…。とにかくお互い…絶対無事ではすまない
さっき経験者同士で戦ってるやつがいたが…そりゃ二人とも壮絶な最後だったぜぇ」
「………なにが…言いたいっ!」
クランがグッと次に出すべきカードを握り締める。
最もこのカードを出したところでニキビ顔の言うことが正しいなら、
あっさりと防御されてしまうはずだろう。
しかし、クランにだって敵がどんな攻撃をしてきても無効化できる自信はある。
それだけの手札はそろっているのだ。
確かに泥沼。このままでは決着は永遠につかないかもしれない。
「俺はそうゆうのはゴメンでな。経験者には極力手を出さないことにしている」
「じゃあ!何しにきたんだっ!」
「ただ俺はあるカードを探してる…もし、それをオマエが持ってたら、トレードしてやるってんだよ」
「ト、トレード…だと?」
「そう今なら20枚ぐらいでトレードしてやってもいい」
「!?」
「に…に…20枚もっ…だと!?」
トレード。
そう、交換のことである。
互いに欲しているカードを相手側が持っていれば
それを交換するという、日常ではごくありふれた行動。
だが、この場合に限りクランが戸惑うのも無理はなかった。
基本的にトレードとは等価交換。
1枚レアに対して、数十枚のカードを支払わなければならないときもある。
しかしこの戦場においては命ともいえるカード。
1枚得るために20枚も失うことを誰が望むだろうか…。
この場においてはレアもコモンも1枚は1枚にすぎないのだ。
クランにとっては、正気の沙汰とは思えないニキビの言動だが…。
クランは様子を見た。
「でも…わたしそんな強力なレアカードはもってないぞ!」
「いやいや、俺が欲しいのはそんなたいしたカードじゃねェんだ。
ほら、一枚ずつでは意味がなくても複数枚揃えることで強大な力になるカードもあるだろ?
もう少しで集まりそうなんだよな…それが…」
クランは何となく理解した。
つまり、この20枚とはニキビ顔にとっては、
生き残るために必要な戦略のための”先行投資”。
何のカードを欲しいのかは知らないが、
そのカードさえ手に入れば、20枚のぐらいなら確実に取り返せるだけの自信と戦略があるのだろう。
もっともクランにはそんな戦略は思いつきもしないのだが…。
今、クランの中で二つの想いが交錯していた。
まず、そんな恐ろしい力をこのニキビ顔に与えてしまっていいのだろうか?という想い。
そして、戦いもせずに20枚のカードが手に入るのなら自分にとっても好都合だ!という想いだった。
だが、どちらにしてもニキビ顔の求めるカードをクランが持っていなければ始まらないことだ。
とりあえずクランはニキビとの交渉に乗ってやった。
「ところでテメェ、今カード何枚だ?」
「50枚だ!」
「おっ、そんだけあったらきっと俺の求めるカードもありそうだ!
…とにかくカード見せてみろ。カード」
「うん!?」
クランの右目だけが細くなった。
(こ…こいつ旨いこと言って私の手札のデッキを確認するつもりじゃあないのか!?)
一度疑い始めたら最後。
クランの中で疑心暗鬼だけが広がっていった。
(経験者ならば…相手のデッキを見ただけで、そのデッキの弱点が何なのか容易にわかるはず…)
「お、おいっ!どうした…早く見せろっ!『20枚』のカードがいらねぇのか?『20枚』だぞ!」
急かすような口調に、わざとらしく『20枚』を強調連発。
これがクランには逆効果だった。
これは不動産屋の常套手段。
迷ってる客に、引く手あまたのように電話。
場合によってはサクラの人間を用意して、
脚に冷静な判断ができなくないようにして、契約してしまうというあれだ…。
クランは確信を得た。
(そうゆうことか………こ…こいつめっ!)
「おいっ!早くデッキ見せないとこのトレードはなしだぞ!『20枚』手に入らなくてもいいのかっ!」
こうまで魂胆が見え透いてると気の毒すぎてとてもツッコめない…。
ネタはもうバレてるというのに壮絶なピエロっぷりだ。
それともクランのような見かけ幼女なら騙せると思っていたのだろうか?
そう思うと侮辱されたような気分になりクランのコメカミに血管が浮きだってきた。
「うるさい!キサマの浅はかな考えなどとっくにお見通しだ!
そうやって私の手札を確認しようとしてるんだろっ!!」
クランはニキビの勧誘を振り払った。
「なっ!?そ…そんな…俺は本当にトレードをしようと…」
「うるさーいっ!!黙れ黙れ!黙れェーーーっ!!!」
「…うぅ…他のやつは信用できねぇし…オマエだけなら話を聞いてくれると思ってたのに…」
「まだ言うかっ!イライライライラ!!」
デッキを見るためだけに仕組んだことなら、このトレードが本意かどうかもすらも疑わしい。
だが、ニキビの方はまだ粘り強くトレードを続けようとはしているようだ。
何を考えているのか知らないが、クランはハッキリとした性格上こういった探りあいは大嫌いだ。
一刀両断の意見をぶつけた。
「欲しいカードがあるなら言え!あるかどうかはこっちが判断してやるっ!!」
初めからこうすればよかったのだ。
これでニキビの本心も掴めるというもの。
クランはこのトレードが本意であるかどうかだけをまずは確かめておきたかった。
欲…というわけではないが、『カード20枚』という魅力的な言葉が
心のどこかに、しこりとなって残っているのも事実だ。
さぁ…本意か…罠か…。
とにかくニキビの返答次第でトレードの意図が分かるのは間違いない。
「俺の欲しいカードは『エクス=マンティス』のカードだ」
「え…エクス=マンティスだとぅ?」
ニキビ顔の口から発せられたのは、あまりにも意外なカード…。
カード20枚も出すというから、どんなカードを欲しているかと思えば
それがなんとエクス=マンティス…。
それは機界モンスターの中でも最もレベルの低いと言われている量産型カード。
こんなカードに20枚もだすというのは…。
……クランの思考レベルでは到底理解不可能なこと、
思わず失笑してしまうほどに…。
ここでクランは考える。
損得の感情である。
エクス=マンティスのカードはクランの手札に6枚。
そして、この場に持ってきていない分を含めるとその数は30を超える。
つまり壮絶なまでに余っているカード。
てっきりエクス=マンティスのカードはこの森に氾濫していているものとばかりと思っていたが…
こうまで簡単に数がそろったのは、ただ運がよかっただけなのだろうか?
それともこいつらには自分が知らない使い道でもあるのだろうか…?
どちらにしてもエクス=マンティス1枚でカード20枚ならいいトレードだ。
それに、こんなエクス=マンティス1枚如きでできる戦略など、
不気味ではあるがどうせ恐れるようなものでもないだろう。
それに最も弱いカードを得るために20枚のカードを示した”心意気やよし”。
クランの結論は…『得』だった。
「おっ!それなら、今あるぞ」
「マジか!いやー。欲しかったんだそれ」
交渉成立である。
クランが『エクス=マンティス』のカードを近くの枝へと引っ掛けた。
「ここに置く。オマエもカードを20枚そっちの枝に引っ掛けろ!」
とてもじゃないがニキビ顔に近づいてトレードする気にはならなかった。
接近した瞬間にいきなり押し倒されたりしたらかなわないからだ。
こんな時でもクランは一瞬たりとも気を抜くつもりはなかった。
今まで一瞬の油断で散々な目に会い続けてきたからである。
常に上下左右にニキビの仲間や、他の敵がいないかを注意していた。
突然現れた何者かに『エクス=マンティス』のカードを持って行かればこのトレードも水の泡だ。
「疑い深い幼女だぜ…」
「つ、次に言ったら交渉決裂だからなっ!!」
ポイッ
「え?」
ニキビ顔はカードを枝には引っ掛けたりはしなかった。
クランの方へ20枚カードの束を投げ出したのだ。
こんなにあっさりと手に入り、クランは正直放心した。
「ほらっ!それでいいだろ!!」
「…」
たしかに今手にあるのは20枚のカード…。
これさえ貰ってしまえば、
クランが『エクス=マンティス』のカードを持って逃げることだって可能なのに…どうして?
まさかクランがそんな行動にでないことを信じているとでも言うのだろうか?
いや…そんなはずがない。何か裏があるはずだ。
クランは頭のモヤを振り切った。
「…に…に……ニセモノなんじゃないだろうな?」
「じゃあ!確かめればいいだろっ!!!!」
クランのあまりの用心深さに流石のニキビ顔も激怒した。
上から数枚確かめみたが…たしかに正真正銘のホンモノのカードだった。
(まさかこいつ…もしかしたら本当に…純粋にトレードがしたかっただけなのだろうか…?
手札を見るとか…そんなこともなしに………)
こうしてトレードは何事もなく成功し、クランの手持ちカードは50→69枚になった。
「エクス=マンティスありがとよ」
「あ…いや…そんな…」
正直クランはこうもあっさりいったことに戸惑っていた。
「じゃあ、俺は去るが…テメェも生き残れよ」
「ああっ。もちろん…」
ニキビ顔が背を向け離れていく。
その去り際…クランが突然大声を出した。
「お、おい!」
「な、なんだ?」
「あっ…その…………ありがとう…」
「…プッ!な…なに言ってるんだ…気持ち悪っ…」
「う、うるさぁい!せっかく人がお礼言ってやってるのにっ!!」
「あはは!冗談だよ冗談!じゃあな!!」
クランはプンプンしながらも、ニキビ顔に背を向けると、そのままその場を去っていった。
(アイツも本当はいい人なんだなぁ…)
ホクホク顔のクランは歩きながら…手に入れたカードの内容確認をしていった。
(ツインカノン…爆弾人間…ツインカノン…クラッシャーシールド
…なんだか…アイテムカードばっかりだな…)
しかし、クランはこの時すでに自分がニキビ顔の術中にはまっていることなど知る由もなかった。
クランは自分の中にまだ甘さがあったと…このあとすぐに気づことになった。
クランが笑みを浮かべながら…最後のカードが開かれた瞬間…。
今まで満足顔だったクランの顔が……青く…青く…変わって言った。
ジョーカーはそこでせせら笑っていたのだ。
「さ…さ…サーキット=ウォーカー…………」
サーキット=ウォーカー。
攻撃力。守備力ともに機界の中では最弱のモンスターだが、こいつには恐るべし特殊能力が備わっているのだ。
どこからか唐突に声だけが響き渡った。
「サーキット=ウォーカの特殊能力を発動するッ!!」
声とともに、今のトレードで手に入れた…サーキット=ウォーカを含んだ20枚のカードと、
そしてクランのデッキの中から数枚のカードが飛び出した。
「あっ!!し、しまった!!」
クランの手を放れたカードは天高くへと舞い上がり、
見上げる妖気の枝。…そこに立っているのはニキビ顔の男だった。
飛び出したカードはニキビの手の中へ吸い取られるようだった。
「オマエの手札へと”侵入した”サーキットウォーカーの特殊能力で
オマエが所持している機界のアイテムカードは、全て俺の手札へと変わったッ!」
サーキット=ウォーカの特殊能力とは、
相手の手札から機械系アイテムカードをかっららうというものだ。
そしてその能力を発動条件は、敵手札へと”侵入する”必要がある。
本来なら『手札交換』の等のアイテムカードを利用するのが定番のコンボだが、
ニキビ顔はトレードという形でそれを実現したのだった。
そして、これこそがニキビ顔の真の狙いだった。
トレードはクランの手札の中にサーキット=ウォーカーを”侵入させるため”のもの。
エクス=マンティスをトレードの対象にしたのは、誰もが高確率で持っているからそう言ったまで。
渡したカードが全てが機界のアイテムカードだったのは、サーキット=ウォーカの能力で奪い返すため…。
全てニキビ顔の思惑に進んでいたのだ。
だが、第一の罠である『手札を見ようとしたこと』を見破ったクランは若干の有頂天になっており…
それゆえ…この張り巡らされた二重の罠…この真の狙いの方を見逃してしまったのだ!
クランはようやくそれに気づいたが、時すでに遅し。
所持していた全ての機械系アイテムカードは奪われてしまった。
クランのカード枚数69→32枚に激減。
「キ、キ、キ…キサマーーーーーーーッ!!」
「そして。アイテムカード『どこでもゲート』発動する!」
「ま…まてェっ!こんなの…こんなの汚いぞ!!」
クランは不覚にも…涙をこぼした。
「汚いぃ?バカかテメェは。
この甘ったれの幼女が…
俺はテメェを奪って喰らった…ただそれだけだ
騒ぐなゴミ虫!
この魔境ではなぁ人々がカードと命を賭けて死力を尽くしてるんだ。
言うならば…戦場だ。
戦場で後ろから撃たれた。後ろからと騒ぎ立てる兵士がどこにいる…!
いたら物笑いの種にされるだけだぜ!
戦場ではだまし打ち…不意打ちが…日常。
皆、なんとか相手の寝首を掻こうと…後ろに回ろうと策をめぐらしている。
それが真剣勝負だ!
テメェは今…俺に後ろから刺された…それだけだ」
「ぐぬぬぬぬっ!」
何一つ言い返すことのできないクラン
「最後に教えといてやるゼ!
オマエに魔境を越えることは無理。絶対無理。
だってよ、オマエ俺のこと多分「いい人」だと思っただろ?
ククク…テメェみたいなバカがいるからオレのカードが潤うんだ。
オレが「いい人」なわけねえじゃねえか…
…ククク…話にならねえ甘ったれ…ここじゃそうゆうウスノロはいのいちに餌食!食い物!
こんなに簡単な罠にあっさりと引っかかるようじゃ
この魔境じゃあっという間に丸裸にされちまうぜ!ワハハハハ!」
ニキビ顔はあまりにうまくいきすぎて、笑いが止まらない状態のまま姿を消した。
「に…ニキビーーっ!ブッ殺してやるーーーーーっ!!!!」
残されたのは感情を沸騰させるクランだけだった。
さっそく魔境の住民の手荒い歓迎を受けてしまったクラン。
完全だったはずのクランのデッキだったが、今その脇腹の一角にヒビが入ったのだ。
仲間達が待つ洞窟へと戻ろうとも思ったが…。
「か…カードだけ奪われる…。くそっ!こんな醜態さらしてノコノコ戻れるか…!!」
クランは残りのカードを握り締めひたすら前へと突き進んだ。
そう、このままでは終われない。
そこにあるのは経験者としての意地と誇り。
だが、今のクランはギャンブルでいうところの非常に熱くなった状態。
今までの負け分を取り戻そうと……どうにかして収穫を得ようと………。
引き下がれない!
だが、勝負ごとというのはすべからく冷静に対処していくもの。
それでこそ勝ちに近づける。
博打は熱くなって時点で8割9割負け。
なぜ…せめて
この時に気がつかなかったのだろう。
すでに泥土に足を踏み入れていることに。
魔境の住民にとっては
今のクランは美味しい魚でしかなかった。
餌に食いつかせ、あとは竿を立て…網で掬うだけ………。
ザバンッ!!
「!!」
歩を進めるクランの前に突然現れたのは、
地面の中から突然飛び出してきた鮫のようなモンスター。
「まず……オマエからだ。死ね!」
新手のカード使いが現れたのだ。
「じ…地面の……下から?」
「ククク…道なりをそんな不用意に歩いてたら、あっという間に撃たれるぜ」
「!?」
どこかで聞いたことのあるような台詞をはきながら現れたのは肥満気味の男だった。
その大きな体には地球の重力は厳しそうだ。
すかさずクランが身構えた。
先ほどの失態を繰り返すわけにはいかない。
「エヘヘ。まさかオマエもこのゲームに参加してたとはな」
「え…?」
またしてもどこかで聞いたことのあるような台詞だった。
それは、どこかで見覚えがあるデブ。
クランが記憶を辿ると、意外とすぐに答えは出てきた。
(そうだ!かなり昔に戦ったサイロックス使いのデブじゃないか!)
そう…あれは、クランが転校してきた日のことだ。
その日コウジの経営するお店になんとなく寄ってみると、
まだ友達にもなっていないハカナがカードゲームをしようと誘ってきた。
ハカナに誘われて、つい嬉しくなってしまったクランは顔には出さないがルンルン気分だった。
にもかかわらず、ゲームはなし。
なりゆき上だが、ハカナを救うためにこのデブと戦うことになってしまい、
カードゲームの最中、スカートと下着を切り裂かれ、
町に来た初日にして、大衆達に恥ずかしい部分を公開してしまい
その日は一晩中枕を濡らしたものだ。
そんな過去の出来事を思い出しただけでもクランの心は怒りのマグマで満ちあふれた。
「キ、キサマは!はるか昔に戦ったデブ!」
クランがすぐにカードを掲げた。
経験者の恐ろしさは既に身にしみてわかっている。
もう先ほどのように話し合おうとなどは思わなかった。
顔をあわせれば、後は殺るだけっ!
「エクスマンティスを召喚!!
ルーンカード『腕部変更で』でシューティングモードに移行する!」
その銃身を敵モンスターへとむけ、一斉に浴びせた。
ヴォドドドドドドドドドドドド!
「やったか…」
しかし土煙の中から現れたのは無傷のモンスターとデブの姿だった。
「なにっ!!」
「フフフ。銃弾なんか浴びせようとしても無駄だよ。
僕の使ってるディープ=ハンマーは原子を通り抜けられるんだから」
「あ………そ、そうか…」
怒りで血が上っていたクランはすっかりそんな単純なことまで忘れていたのだ。
ディープ=ハンマー。
原子透過能力で物質間を潜行するモンスター。
末端にあるスクリュー状の脚部で物質間を自在に泳ぎまわる。
透過能力を発動中はあらゆる物質攻撃が無効となる。
主力兵装としては背面のミサイルポットがあり。しゅもく鮫に似た外観を持っている。
原子を通り抜けるので物理攻撃はきなかい
クランがこの絶対無敵なモンスターを前に手をこまねいていると…次はデブが動き出した。
「エヘヘ。それじゃあ僕の攻撃だね。原子を通り抜けるってことは………」
ザプンッ!
ディープハンマーが大地を泳ぎながら、クランの方へと襲い掛かってくる!
「エクス=マンティスでその攻撃をガードする!!」
スポンッ!
「なっ!?」
ディープ=ハンマーはエクス=マンティスの体をも透過して、
直接クランへとダイレクトアタックをかけてきたのだ。
ディープ=ハンマーには、壁モンスターを使ってプレイヤーを守るような戦略は通用しない。
「し、しまった!」
不意をつかれたクランにはこの一撃は避けられない!
獰猛な鮫の牙がクランを襲う。
ズバッ!
「うわっ…!!」
胸を抑えて苦しそうな姿勢。
しかし想像していた痛みはやってこない。
確実に致命傷をうけたと思ったのに………これはいったい?
しかし、答えはすぐにわかった。
「ククク…原子を通り抜けるということは、
こうやって服を通り抜けてパンツだけ奪うこともできるんだ」
目の前のデブは見覚えのあるものを指先でつまんでヒラヒラとさせていた。
その薄いピンクの布着れは……。
「………エ…?」
クランはすぐに自分の股間の感触を確かめた…。
「い、いやぁっ!!パンツ!パンツ返せっ!(丸文字)」
「エヘ…エヘヘ…1枚…ゲットだぁ………」
手に入れた物に頬にスリスリとして、勝ち誇った顔のデブだったがその時予期せぬ異変が起きた。
「う、うぎゃああああああああ!」
「!?」
突然デブが苦しみの悲鳴を上げたのだ!
「うっ……なんだこれ…湿ってて…き、気持ちわるいーーーーっ!」
「!!!!」
クランの表情が凍りついた。
「クンクン…クン!く…クセェ!なんだこの匂い!鼻がひん曲がっちまうぜェ。
て、テメェ、ちゃんと毎日風呂はいってんのか?マンコ腐ってんじゃねぇか!?」
ブチッ
クランの中の何かがキレた。
「ききき…汚くなんかあるかぁ!お、女の子のパンツに対して失礼なこと言うなーーーっっ!!」
クランは顔を真っ赤にして目にうっすら涙を浮かべながらも全力で否定したが、
デブはクランの下着をゲロ雑巾をつまむように顔から遠ざけて暴言を繰り返していった。
「げほっ…げほっげほっ…おぇぇええ」
その異臭は、汗、尿、臓物、血液、愛液などがいろいろ混じりあった匂いだった。
「こんな臭えの…イ…イラネ…ゲロゲロォ」
ポイッ
何の惜しげもなく、クランのパンツを木々の中へと投げ捨てる。
「キィィ、キサマーーーーーーッ!!」
クランにとってはこれ以上の屈辱はない。
今クランの女の子としてのプライドはズタズタに引き裂かれたのだ。
「ちっ…幼女パンツなんて……奪うんじゃなかったぜ…。
でもカードだけはありがとく貰っといてやる…さらばだ」
「!」
下着が奪われたことによる衝撃があまりに大きすぎて気づかなかったが、
先ほどの攻撃時に実はカードまで奪われていたのだ。
ズズズズプズプ
男とモンスターは地中へと帰っていった。
「ででででてこい!キサマぁ!!!ブッ殺してやるっっっ!!!!」
しかしその地面をいくら蹴りつけても、もう出てきたりはしなかった。
そしてクランのカード枚数は34→16に…。
クランは捨てられた下着を再びはきながら考える。
(大丈夫…ま、まだやれる)
16枚という現状は苦しいが
ここで帰ればそれこそ笑いの種。
せめて…せめて一矢を報わねば…。
このままでは終われないという思いがクランの胸に抑えがたく押し寄せていたのだ。
だが、すでに残されたカードは16枚しかない。
その数少ないカードで勝負に行くこと自体…最早自殺行為。
救われない…救いようがない…。
脇腹どころか、最早全身ノーガード。
背水の陣ではあるが…それは地獄に直結する道。
だが、これ以上騙され、奪われることなどクランの中では考えられない。
もうこれ以上カードを消耗することだけはあってはならないことなのだ。
今度こそ勝つ…今度こそ…今度こそ…。
だが、二度騙されたから三度目はないというクランの思考はまさに泥沼。
狂躁に駆られてしまう。
抑えがたく。
心中に現れた破滅へと誘う魔物の手を振り払えない。
魔物のその粘りついた触手に捕まってしまったクランは、
魔物に操られながらも、それがあたかも自分の意思であるかのように行動…。
狂躁……
破滅へと突っ走る。
急き立てられ突き動かされるように戦いへと向かう。
そこに冷静なクランはもういない。
ここから先はもう泥沼だった。
―――そして数時間後―――。
「ハァ……ハァ…」
木の棒をを松葉杖がわりにしてヨロヨロと歩くクラン。
その姿は下着と靴だけのものに逆戻り…。
それは完全な敗北者の姿だった。
餌食。
食い物。
この魔境に足を踏み入れてわずか数時間であっさり殺された。
クランの世界観では…論理常識では考えられないこと。
完全なる崩壊。
あってはならないこと。
ありえない。
策に翻弄され、
何の一つ抵抗できないまま、
気がついた時、
手持ちのカードはただの1枚も無くなっていた。
身に着けていたなけなしの『体操服+首輪』まで解除されカードとして奪われた。
命からがら逃げ出してきたクランであったが、心身ともにしてボロボロだった。
もうクランにこれ以上戦う力は残されていない。
なんとかこの恐ろしい魔境から逃れようと最後の力を振り絞っていたが、
疲れきったクランに猛獣が飛びつかないわけはなかった。
疲労困憊したクランは足元にある罠にすら気づかない。
縄にひっかかると、足首から一気に空中に引き上げられた。
「いやぁ!(丸文字)」
両足首を縄で縛られ逆さ宙吊りにされてしまったクラン。
そこに、おそらくこの罠をしかけであろう男が忍び寄ってきた。
「シンプル・イズ・ベスト!単純なトラップほどかかりやすい」
なんということだ!
この魔境は人の生態系まで変えてしまうというのだろうか…。
やってきたのは人間ぽい外見をしているものの、4つの目、鼻を覆い隠すほどまでに伸びた下唇。
およそ人間とは思えぬ姿だった。
「は…はなせぇバカぁ!!」
「フォフォフォ」
男が武装する鍵爪のような武器がクランの目の前でギラギラと光る。
「うっ…!」
それはとても鋭く長い獲物。
こんなものを顔に突き刺されたりすれば、死は免れないだろう。
「さぁ…どうしてやろうかなぁ?ん?ん?」
男の言葉にクランの中で恐怖心だけが高まっていく。
男は鍵爪をつかって、クランの胸の突起をいじりはじめた。
「んふっ!(丸文字)」
無造作に乳首をいじられてしまうのも仕方がないことだ。
それは男にとってはあまりにも摘みやすい位置に存在しているのだから。
この世界にきて、何かと乳首ばかり弄ばれるクランだが、
クランの貧相な体では、そこぐらいしか楽しみがないのだから仕方のないことだろう。
鍵爪で弄ばれる感触は、ちょうどピンセットでいじられるものに似ていた。
「あふっ…あっ…むふっ…ん…やだ…そんなとこ…つまんじゃ……だめぇ…(丸文字)」
クランに逆らうだけの体力は一片も残されておらず、
さらに昨夜の触手せいで、どんな小さな性行為にも敏感に反応する体になっていた。
乳首はすぐに硬くなると勃起した。
男は口を付けるとずちゅずちゅとそれを吸い始めた。
「あ…あは!あはっ!…やめて…いやあ…(丸文字)」
「ほらっ!じゃあ、おとなしくカードをだしな!」
「うっ・・・・・・あっそんなぁ…!か…カードなんて…あんっ、うあっ!…1枚も……持ってないよぉ(丸文字)」
その間も男は長い舌はクランの突起を舐め続けている。
その度にクランは激しく高ぶった呼吸を上げていた。
「ちっ。何だ…はずれかよ」
「うあっ、あっ、くっ、あんっ!こんなの…やあ(丸文字)」
甘い声で喘ぐクランの顔を男が直視する。
「………まてよ。この幼女…見所があるやつかもしれん……フフフ…使い道があるな」
「な…なにを…?(丸文字)」
男は縄を微調整して少しずつクランの体を地面に下ろすと、
男にとってちょうどよい高さなったようだ。
鍵爪をクランの下着の腰元の細い部分へとあてる。
「な…なにするの…そ…それだけはやめてェ(丸文字)」
「フォッフォッフォッ」
ピシッ
「んっ!(丸文字)」
今までクランの腰骨にひっぱられていた下着は、力の行き場が失うと一瞬ピンッと上に跳ねた。
次に男は反対側の方にも爪を添えた。
ピシッ
「やああ!いやぁ!(丸文字)」
右と左の両方を切られてしまい、もう下着はクランの体に留まることができなくなった。
クランは落ちそうな下着をとっさに又で挟んだ。
逆さに吊るされているおかげで、なんとか秘所だけは見えずにはすんでいるものの、
ただ重力に引かれてヒラヒラとゆれるだけの下着は、
クランにとってあまりに心もとないものだ。
あまりの羞恥にクランは顔を真っ赤に染めた。
申し訳程度の下着をぬけば、ほとんど一糸まとわぬクランが逆さ吊りにされているのだ。
全てが男に晒されている。
全てが男の思いのままだ。
男が下着を摘みあげるにつれ、ゆっくりと公開されていくクランの秘所部。
「フォーフォーフォー」
「いやぁ!やだぁ!やめてェ!そんなとこ見ないでェ(丸文字)」
幕が上がるとついに男の前に、クランの秘所部が全面公開された。
そこはこの魔境とは正反対に、草木一本すら存在しない世界だった。
「フォッフォッフォッ。ガキめ」
「う…うるさぁい!(丸文字)」
それは言われなくてもクランが誰よりも痛く分かっていることだった。
しかしこのクランのツルツルな秘所部は、男にとってさぞかし絶景なのだろう。
男は鼻息がかかりそうなほど顔を近づけて、
クランのスジの形を隅々まで記憶していくようにゆっくりじっくりと眺めていた。
触られてもいないのに、クランの鼓動が高く轟いていく。
見られていると思うだけで、性的な興奮が高ぶっていってしまうのだ。
目で犯される。
視姦という行為はこういうものを言うのだろう。
これまでクランは不本意とはいえ、男の人に秘所を晒すようなことが度々あったのだが
これほどまで近く、じっくりと眺められてしまうのは始めてのことだった。
思わず秘裂の間から出したくもない愛液が流れると、男が舌で舐めとった。
「やあぁ!(丸文字)」
クランの体が弓のようにしなった。
泉のように沸いてくるクランの熱い淫液の味を男は何度も何度も味わっていった。
男は右手に装備するシャベル使って、クランの股をパンパンと音を鳴らす。
「ああん!ああん!ああん(丸文字)」
自分の股間を使って張り詰めるような音を鳴らされる…こんな屈辱は初めてだ。
男はクランの体をある程度いじくりまわした後、頬がピンク色のままのクランに告げた。
「おめぇはエサだ。なるべく恥ずかしそうな表情をして男を誘え。
わかったなフォッフォッフォッ」
男はそれだけ言って魔境の奥へと姿を消した。
「なっ…ちょ…ちょっとどこに?
いやぁ!こんなところに吊るしたまま一人にしないでェーっ!(丸文字)」
だが、クランの泣き声に対する返答する者はもういない。
「うっ…ううっ…ひっく…ぐすんっ(丸文字)」
男に言われるまでもなくこんな人目につきやすそうな場所で
切られた下着を股で挟んだ姿で逆さで釣らされてしまえば、
嫌がおうにも恥ずかしい顔になってしまう。
自分はこんなところで何をやっているのだろう…。
ザッ!
「ひっ!」
新手の訪問者はすぐに現れた。
すぐに吊るされるクランに興味をしめしたようだ。
「ヘヘヘ。お嬢ちゃん。良い格好じゃねーか…エヘヘヘヘ」
「や、やだぁ!み、見ないでェー(丸文字)」
それはクランのもっとも恐れていたタイプの来訪者。
「肝心なところがギリギリで見えねーんだよなぁ…誘ってんのかい?」
「あっちいってェ!(丸文字)」
クランは声を裏返しにして張り叫んだ。
しかし残酷にもそれがさらに男の好奇心を駆り立てることになろうとは…。
「エヘヘ。誘われてやるよぉ」
また秘所をじっくりと眺められてしまうのだろうか…こんな下劣そうな男に…。
その想いとは逆に、クランの体は火照ってしまっている。
おそらく、こんな状態で見られてしまえば、またすぐにでも愛液が飛び出してしまうだろう…。
「…どーれちょっくらめくってやろうかエヘエヘヘ」
「や…やめてぇ…こ…来ないでっ!いやあああ!やああ!!(丸文字)」
「ヘヘヘ。そんなこと言われたら…俺ロリコンだからなぁ…」
ズボッ
「うぎゃあ!!」
突然男の体が地面に沈むと、そこから叫び声が響き渡った。
「!」
地面からは激しい血しぶきが舞っている。
ブービートラップ。
人間の背丈くらいの穴を掘り、
穴底に先の尖った竹串が刺さっているという恐ろしい代物である。
穴の上を枯れ落ち葉等で覆い尽くし敵が嵌るのをひたすら待つのである。
男が落ちると、穴の上が自動で塞がるのはカードの力なのだろう。
こうして定期的に現れてはクランの体に興味を示すヘンタイ達は
次々とこのブービートラップへの罠へと落ちていった。
クランは吊るされながら…あまりにも無力な自分に絶望の涙を流していた。
自信はあったのだ。
いくらこれが殺人ゲームとは言っても、
これにはまだカードを使ったゲームとしての一環のようなものがあった。
ならば、少なくとも自分ならば互角以上には戦っていけるだろうと…。
それが何なのだ…。
自分の力量も省みず
一人の方が身軽とか、
ハカナに対して足手まといなど、
さんざん偉そうに事を言って飛び出した挙句、
全てのカードを奪われ…
こんな恥ずかしい格好にされ…
敵を引き付けるエサと称して吊るされてしまった…。
あまりにも無謀。
あまりにも無様。
滑稽すぎるにもほどがある。
今まで自分はいったい何をやってきたのだろう…。
クランや自分が情けなくて
悔しさと恥ずかしさであふれる涙が止まらなかった。
増長する者には制裁を…
(きっと私だけ高みにいるなんて勘違いして…調子に乗ってたから罰があたったんだ…!)
「フォフォフォッ。元気かい幼女ちゃん」
「キ、キサマはっ!」
帰ってきたのは先ほどクランを吊るした人物だった。
「おっ!おお!こんなにもかかってるぜ。
グレート!ワンダフル!
さすが俺の見込んだ幼女。
こんなハイスピードで敵を誘うエサは今まで見たことがねぇ」
「………もう…放してぇ…」
「ククク。頑張ってる幼女のためにお土産をもってきてあげたよ」
土産と称して持ってきたものを、男は無造作にクランの体にぶっかけた。
「な…何これ………?い………いやああああああ(丸文字)」
モゾモゾとしたものに体中を這いずり回られる感覚。
這いずっているものは…
アリ…ミミズ…ムカデ…クモ…ダンゴ虫…この森に住む微生物達だった。
恐怖のスパイスを振り掛けられたクランの背中は瞬時に震え上がった。
「や………やめてぇェやめてェやめてェーーーーっ!(丸文字)」
振り払おうと必死に暴れるクランだが、虫達は落ちてくれなかった。
虫達もまたクランの体が大好きなのだ。
クランの反応に男は満足な笑みを浮かべていたが、
こんなものはまだまだ恐怖の序章でしかなかった。
「よく見ろ。幼女ちゃん。このゴキブリ。わかるか?産卵中なんだぜ
ほーら。三匹も捕まえてきてやった」
「エ…?」
それは体を這いずりまわれる虫の恐怖すら忘れるほどの戦慄。
ま…まさか…。
その言葉がクランの脳裏をよぎる。
「これを今からテメェのマンコの奥につめる」
「!!!!!!」
「知ってるかぁ…
昔ある番組で産卵中のゴキブリを食ったやつが
その数日後に腹からあふれでたゴキブリのせいで死んだって話…。
まっ…それは都市伝説だけとな」
「!!!」
「ゴキブリってのはしぶてぇからなぁ
どんな環境でも生きていけるんだ
3億年ほど前に登場して以来ほとんど姿を変えずに現在まで生き残って「生きた化石」と言われてんだぜ。
きっと子宮の中なんか全然平気。
いや、むしろ快適かもしれないなフォフォフォ」
「!!!!!!!」
「こいつは卵胎生種だから。
一度産んだ卵鞘を体の中に戻して、幼虫は成虫の体内からわきだすんだ。
生まれてきたゴキブリ達は幼女ちゃんの子宮を喰らって育ち
最後にはマンコの中から一斉にあふれ出してくるんだ」
「!!!!!!!!!!!!!!!」
「ほーらっ!挿れるぞ。フォッフォッフォッ」
「ななななななななななななな、何を考えてるんだキサマっ!(丸文字)
やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだーーーーーーーーーっ!(丸文字)
誰か助けてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!(丸文字)」
「フォッフォッフォッ。もうジタバタしてもどうにもならねェぜ!!」
体をガッシリと掴まれてしまってもう動けない
「やめてぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!(丸文字)」
クランは最後の声を振り絞って叫んだ。
もうだめだ…。
自分の人生は終わりだ。
今度こそクランはあきらめた…。
こんなとき…こんなとき…ハカナがいてくれれば…。
クランは自分にとってハカナがいかに大きな存在だったか…ようやくわかった気がした。
いつも辛いときや悲しいときに危ない目にあった時、いつも側にいてくれた。
いつも後ろから励ましてきてくれた。
それで今までどれだけ自分が救われてきたことか…。
だが今更それに気づいたところでもう全てが遅い。
今回ばかりはハカナは来てくれるわけがない。
自分が足手まといといって置いてきてしまったのだから…。
来てくれるはずがない…来てくれるはずが……。
押し広げられた大陰唇の割れ目の口がパクパクさせられている。
中にはクランの肌に似つかわしくない紫の柔肉が割れ目の中にたっぷりと詰まってる。
いよいよ産卵中のゴキブリの挿入がはじまるのだ
「ああっ…ああああ…やめてええええー!(丸文字)」
その時ッ!
「コラァっ!!」
クランの祈りが通じたのか…
それは救世主の声。
男がびくっとして声の方向へと身を翻した。
「な…何やってるのよ!?その娘から離れてっ!!」
カードを掲げて、顔を赤らめているのは、
今クランが一番助けてもらいたかった人。
夏樹ハカナだった。
(は…ハカナッ…ハカナ!!!ハカナ!ハカナ!ハカナ!ハカナだーーーーーっ!)
どうしてここに………とは思わなかった。
ただ…助けて欲しい…それだけを強く願って…。
「クランちゃん!クランちゃんしっかりして!今助けるからねっ!」
しかし、ハカナはあまりにも無防備にこちらに突進してきた。
ギョとするクラン。
「だめっ!ハカナーーーっ!来ちゃダメェーーーー!」
ズボッ
ハカナが踏みつけた地面が沈んだ。
一声遅かったのだ…。
ガボッ
「キャ!!」
「ハカナーーーーッ!」
ハカナは完全に重たいお尻から、落とし穴へと落ちていった。
あれでは…あの体制では…どうやっても…生きては………。
クランの希望の芽までも完全についえのだ…。
いや、最後の最後でハカナまで巻き込んでしまったことに絶望すら感じるのであった。
「そ…そんな…ハカナ…ハカナぁ…」
「シンプル・イズ・ベスト!単純なトラップほどかかりやすい
イッツ・マイ・ポリシー!フォッフォッフォッ!
ゴー・トゥ・ヘェェェル」
男はクルッとクランの方へと振り返る。
「じゃあ挿入を続けようか」
「いやあああああああああああああああああああ(丸文字)」
「ままま、待ちなさい!この変質者!」
「な、何ッ!」
なんとハカナが落とし穴の中からよじ登ってきたではないか。
落ちる寸前、危ないところだったが、ギリギリ地面に掴まっていたのだ。
なんという反射神経…本当にお尻から落ちたはずなのに…。
男の目の前までやってきたハカナは、さっそくポカポカを召喚した。
「やっつけちゃえ!ポカポカ」
ポカポカが吐き出した溶解液が男にぶつかる。
「グ…グププ…オー・マイ・ゴーッド!!」
蒸発するような煙をあげながら男の半身が溶けていく。
「と…溶けてる!?じゃあこいつ…モンスターだったのか!!?」
「今のうちよ…逃げましょう…クランちゃん」
「あっ…う…うん」
男が苦しんでいる間に、ポカポカに縄をかじらせて、自由になったクランは
ハカナの手にひっぱられるようにしてその場を後にした。
その際、下着も忘れずに。
「ま…待ちやがれテメェらぁ…グプ…ガポポポポ」
後ろからは男の苦しそうな悲鳴が聞こえるが
クラン達はわき見もせずにひたすら逃げるように走っていった。
ハカナのおかげでなんとか危機を脱したクランは命からがら魔境を脱した。
魔境から出ると、張り詰めていた空気はもとの静寂なものへと戻っていった。
必死に走ってきたため、二人の息は切れていた。
「ハァハァ…」
「……ハァハァハァ……」
「ク…クランちゃん…無事でよかった…」
しかしクランは助けてもらったことよりも
今は驚きの感情の方が強かった。
「よくないっ!それになんでオマエが…」
「それより…大丈夫?体の…虫…スゴイ…」
「エ…?」
モゾモゾとした虫達はまだクランの全身を這いずっているままだった。
あれよというまにクランの顔が顔面蒼白に…。
「やああ!とってェーーーーーーっ!(丸文字)」
二人は近くの小川で休息をとった。
クランの体のドロと血のりを拭いてやるために。
クランの腰には切断部を結びなおした下着が身に付けられている。
多々の切り込みが入っており、ところどころ焼け焦げたような穴も空いていて、
激しく動けばまたすぐにでも切れてしまいそうだが、こんな下着でもないよりマシだ
「ーーーってゆうか
ハカナ!どうしてハカナがあそこにいたのよ!?」
「だってクランちゃんのことが心配で心配で……いくら待っても連絡もこないし…
それでいてもたってもいられなくなって…」
「バカッ!あんないつ殺されるかわかんないところに…たった一人で来るなんて…
何……考えて……る…んだ…」
言葉は語尾に近づくほど力が失われていった。
自分の言葉で首がしまるような思いだった。
「それにしてもクランちゃんって怪我ばっかりしてるね。
せっかく治しても、すぐまた血だらけになっちゃうんだもの」
クランが体を振せる、そのあと涙をにじませた。
「うぅ…ごめんね…ハカナ…
ハカナやみんなために…なんとかカードを手に入れようと…頑張ったんだケド
…カード全部とられちゃった………
ごめんなさい…ごめんなさい!うわあぁああああん!」
クランはわんわんと泣き出した。
ハカナはそれを優しく抱きしめた。
「ううん。謝るのはこっちのほうだわ
あんな恐ろしいところにクランちゃん一人で行かせちゃって…。
さびしかったよね…怖かったよね…ごめんねクランちゃん。
もう絶対クランちゃんを一人なんかにさせないから!」
「ハ…ハカナぁ…」
「そろそろ太陽も沈んじゃう…今日はもう帰ろっ。小田さんも待ってるわ」
「………うん!」
二人は手を取り合って夕日に向かって歩いていった。
帰ってきた洞窟。
しかし、そこではさらに過酷な運命がクラン達を待ち構えていた。
「チ…チフユ!?」
どこか様子がおかしい。
「んー!んー!んー!!」
奥にいたのは縛られて猿轡をされているチフユの姿がだった。
すぐに救助したが、チフユの口から放たれるのは衝撃の真実。
「あの人が…コウジって人が………
きついから縄を緩めて欲しいって言って…
…だから…少しだけ…本当に少しだけ緩めてあげたの
………そしたら…そしたら…」
「…に………逃げられちゃったの?」
「うん」
「か…カードは…?」
「全部…全部…もっていかれちゃった………」
「!!!!!」
「あっ…でも一枚だけ…残していってくれたの…
棗さんによろしくって…」
「ベラルゴシだな!!よしっ!それさえあればまだなんとか!」
チフユの取り出したそれはニードルビット=シケイダー用の『交換タイヤ』。
衝撃、ぬかるみ、斜面、雪、摩擦0にも強い新製品…。
コウジの壮絶なまでの嫌がらせである。
クランは泡を吹いて卒倒した。
「クランちゃん!?」
「ウヘハヘウヘヒヒヘハヒヒヘアヒヘヘフホヘハハ…」
「ク、クランちゃんがこわれたっ!!」
クラン達に残されたものはポカポカ、増殖、タイヤ…
カード合計わずかに3枚…。
まとめるつもりでしたが、まとまりませんでした。
あと恐らく2回ほど続きます。
乙彼様です。
一度倒した相手は普通雑魚になるもんだが・・・連敗してるしw
微妙に氏賀っぽいし、この期に及んでカードは無くなるし、
ホント飽きさせない展開にハァハァしてます。
出張から帰ってきたら新作が!
クランやられ放題ですねw
この状況からどう逆転するのか楽しみっス。
そしてエリタンに(;´Д`)ハァハァ
乙です。
しかし千日戦争とはまた懐かしいネタがw
次回、どう反撃していくか楽しみです。
230 :
名無しさん@ピンキー:04/04/05 04:27 ID:yqKmdPEy
保守
231 :
少女漫画風:04/04/06 22:22 ID:gnLHMHjy
棗クランは見かけ以外はごく普通の女子高生。
隣のクラスの源リョウガへの片思いを言い出せず毎日悶々とした時を過ごしていた。
そんな朝の投降中のできごとだった。
「おはようクランちゃん」
「おはようハカナ…。
………ッ!!!!!」
その傍らには源リョウガの姿があった。
(みみみみみ源リョウガ!!!)
あまりの不意打ちにクランの頭は真っ白に…。
夏樹ハカナと源リョウガとは幼馴染というのは聞いていた。
とはいえ、二人が一緒に登校するところを実際に見るのは、これが初めてのことだった。
夏樹ハカナと棗クランはお互い親友だと思っている。
親友同士が通学中に出会えば、一緒に登校するのは当然のこと。
ただ、今日に関して言えば夏樹ハカナの横には源リョウガがいる。
棗クランの心臓はバクバクして鼓動はやけにうるさかった。
真ん中に夏樹ハカナを挟んでいてさえこれだ。
もし源リョウガと横に並ぼうものなら心臓はすぐにでも爆発してしまうことだろう。
本当は今すぐにでもここから逃げだしたかった。
源リョウガは夏樹ハカナと実に楽しそうに会話を交わしている。
クランは頭が火照ってしまって、ただ地面に顔を向けながら蒸気のようなものを出しているだけで、
こんなとき何をどうすればいいのか全くわからない様子だった。
「もうリョウガったらカレーの話になるとすぐ熱くなるんだから。クスクス」
(ど…どうしよう…何かしゃべらなきゃ…ウジウジした子だとおもわれちゃう…)
そこに、夏樹ハカナが突然に。
「あっ。そうだ。リョウガ!紹介するね。この子、私の友達の棗クランちゃん」
「ヘーかわいいね。小等部かい?9歳ぐらいかな??ハカナにこんな小さなお友達がいたなんて…(略)」
「17歳だ!子供扱いするなっ!バァカヤロォォー!!!」
「エ!!そ…それは…ごめん…棗さん……」
「………ハッ!?」
気がついたときにはもう遅い。
つい、いつものクセがでてしまった。第一印象は最悪だ…。
さっきの一件のせいで、会話はなんとなくぎこちないものになっていた。
自分のせいだと思うと、棗クランは惨めな気分になってきた。
本当にもうここから自分という存在を消してしまいたい………。
「ちょっと!ハカナ…どうゆうつもりよ」
そっと小声でハカナにだけに聞こえるように耳打ちする。
「エ?だってクランちゃん…リョウガと話したいって言ってたじゃない」
「!」
ハカナの声はおかまいなしだった。
クランの顔が真っ赤にそまる。
たしかに言った覚えはあったし、こうゆうことの相談は何度かした覚えもある。
だが、何もこんな本人の前でそんなことを言われてしまった棗クランの気持ちは…。
源リョウガも驚きと感嘆を隠せないような顔をして、じっとクランの顔を見つめている。
そしてチラッと目があった瞬間………目線を横にそらされてしまった。
それはどこか申し訳なさそうな感じで……。
言葉にすれば…『ごめんなさい』だろう…。
確かにいくらなんでもこの体型では不釣合い。
そんなこと棗クランにだって痛いほどわかっていた。
だからこんな気持ちガマンして決して言いたくはなかったのだ…。
否。フラれるとしても自分の口から言いたかった。
なのに…なのに…この目の前の女…夏樹ハカナは…。
「どうしたのクランちゃん?リョウガと話さなくていいの?」
「こんなの…こんなの…」
うつむきながら肩をガクガク震わせる。
「ありえないっ!!!」
クランはべそをかきながら、その場から逃げ出すように去っていった。
「どうしたんだろ?クランちゃん」
「あ…あははは…さ…さぁ…」
「リョウガ…?スゴイ汗よ?」
残されたのは何もわからない夏樹ハカナと冷や汗でぐっしょりとした源リョウガだけだった。
233 :
名無しさん@ピンキー:04/04/08 18:29 ID:RQo0ADxm
触手あげ
「ハカナ…ちょっといいか?」
いつになく真剣な目つきのクランが立っていた。
「どうしたのクランちゃん?そんな怖い顔して…。
私でいいならなんでも聞いて。
あっ…でも恋の相談はダメよ…その…わたしオクテだから…」
「いや…そうじゃないんだ…」
はぐらかしたつもりが、クランの表情はピクリとも変わらない。
「何?クランちゃん?」
「…ここじゃなんだ…場所かえていいか?」
「う…うん?」
言われるがままについていく。
たどり着いた場所は女子トイレ。
そこの一室に二人はこもる。
クランは他に誰もいないことを念入りに確認した後、
ハカナの方に顔をむけた
「で、何?クランちゃん」
クランはとても不安そうな色をしていた。
「ごめんなさいハカナ…わたし…ずっとクラスのみんなに隠してることがあるの」
「えっ?」
「ねぇ…ハカナは何があっても私の味方だよね…」
「クランちゃん…?」
「ハカナにだけは、これ以上嘘をつきたくないの…
本当のことを知ってもらいたいの!」
クランの目は潤んでいた。
「わたし何があってもクランちゃんの事…キライになんかなったりしないよ」
「ハカナ…ぐすっ…あ…ありがと…ぐすん」
「泣かないでクランちゃん…で、隠してることって何?」
「う…うん…こうゆうのは口で言うより
実際に確かめてもらった方がよくわかるとおもう」
クランはハカナの手をとると、それを自分のスカートの中にいれた。
パンツの中にまでずっぽり入れると、そこには小さい突起が確かにあった。
それはハカナにはないものだった…。
キーンコーンカーンコーン
次の授業の開始チャイムがなっているが彼女達には聞こえていない
「ついてるの?」
ハカナの問いに、クランは頬を赤らめながらゆっくりとうなずいた。
ハカナは驚愕の表情を隠しきれなかった。
「ハ…ハカナ…?」
ハカナは我に返ると、おもむろにクランのスカートをパンツをスルッとずらした。
ハカナの目には確かにクランの小さなおちんちんが映し出されていた。
「いやあ(丸文字)」
クランは顔を真っ赤にして、すぐにそれを覆い隠した。
「な、何すんのよバカァ!」
クランは半泣きになりながら怒鳴った
「ほ…本当に…………ついてる…」
たしかにあんなに小さなおちんちんでは、服の下からのふくらみなど皆無。
ブルマや水着を着ていても、今まで誰も気がつかないわけだ…。
「で、でも…どうして…こんな?」
「そ…それは…」
男が女の真似事をしているのだ。よほど深い事情があるのだろう…
しかし、クランはその理由だけは話したがらなかった。
すぐに本泣きが始まると涙ながらにお願いしてくる。
「ねぇお願い!クラスのみんなには言わないで!
ついてるなんて知られたら…殺されちゃうヨぉ…」
「わかったわ…何故かは聞かない。この事件もわたしの心の中だけに止めとくから」
「…ありがとう!ハカナぁ!」
クランの顔がパァァと明るくなった。
それはいつものクランの純真な笑顔だった。
「で…その…それはちゃんと動作するの?」
「………えっ?」
「いや…その……だから…ちゃんと…でるのカナって…」
「おしっこのこと?」
「…そ…それよりもっと大切なもの…
えとね…………その…ぶっちゃげ精子」
「でないよそんなの」
「な、なんですってーーーーっ!!」
「ど…どうしたのハカナ?顔が赤いよ?」
「ちょっと精子がでないってどうゆうことよ!!」
ハカナの目はグルグル目。
「クランちゃんひょっとして機能不全なわけ?」
「…そ…そんなことはない!ただ…そんな気分になれないだけだ!」
「うそよ!例えばいつもみんなと同じ更衣室で着替えてるのになんともおもわないの?」
「何ともって?」
「興奮するとか!!そうよ!お部屋にエッチな本とか置いてるでしょ?」
「だ…だって…そんなの…小学校のころから見慣れてるし…。
今更女の子の体なんてみても、なんともおもわないよ…」
「女の子の体に興味をもたない?そんなのヘンよ!!おかしいよ!絶対」
「そんなこと言われてもなぁ…」
「…………わかったわ!
私がクランちゃんに正しい性教育をほどこしてあげる…」
「えっ!」
言うなりクランのおちんちんを覆い隠している両手を強引にねじあげる。
「いやああ。何すんのぉ!やめてぇハカナぁ!(丸文字)」
クランのおちんちんは、昔…小学生のころに見たリョウガのおちんちんよりもさらに小さい。
うぶ毛も生えず、皮のかぶった小さなソーセージ。
「み…見ないでぇ!こんなの恥ずかしいよぉ!うわぁああん(丸文字)」
いやいやそぶりをするクランを安心させるかのように…。
「そんなことないよ。クランちゃんのおちんちんとっても可愛いよ」
「えっ?」
クランの全身から力が抜けた。
瞬間!
ハカナはクランのおちんちんにかぶりついた。
「ひぐっ!」
クランの体に電撃が走る。
ハカナは舌をたくみに動かし、クランのそれを転がすようになめていく。
「………ハカナぁ…そ…それ…口にくわえるものじゃないよぉ……」
クランは驚き戸惑った。
くちゅくちゅくちゅ。
ハカナの舌が加熱する。
「んっ!んんー!んっ!(丸文字)」
下半身から来る始めての感覚にクランの体は何度も反り返る。
おちんちんに血管が浮き出すと、だんだん硬質化していく。
熱き血潮でそそり立つ。
本当の戦いはこれからだ。
ハカナの攻撃。
舌と指でおちんちんに刺激を与えていく。
「あんっ!なにこれぇ…あふんっ!(丸文字)」
くちゅくちゅくちゅ
「ダメェ!でちゃう!ハカナはやく口から出してェエェ!」
どぴゅ
遅かった。
それはハカナの中で爆発した。
「あっ…」
口の中からは白濁した液がトロトロと流れている。
「見て。これがクランちゃんの精子だよ」
「エ?………せ…精子………こ…これが…」
信じられない。
クランはそういう表情だった。
息ができなくなるまで、舌と舌とがからみあう。
服をなどジャマだというように、すぽんと脱がせ、クランの全身にキスをする。
流す涙は舌でふき取る。
そうしてる間に、だんだんとクランの体が熱く熱く火照りだした。
ここまできたらクランの体はハカナの言いなりでしかない。
壁においつめ、逃げられないクランのおちんちんを自分の秘所部を抜きさした。
何度も何度も腰を動かしながら奥へ奥へと進ませる。
「つぶれちゃう!」
クランが痛みを訴えているが、ハカナは自分の欲望を突き進む。
そして最深部にまで到達すると
「さぁ!今よ!クランちゃん!」
「んっ!んんっーーっ!(丸文字)」
ガクガクガク
「早く!」
「やああああああ(丸文字)」
どくどくどくどくどく!
「あっ…ああ…(丸文字)」
ズボッ!
ハカナと繋がっていた部分が途切れると、
クランは全身の力を使い果たしたように、その場にペタンとへたれこんだ。
ハアハァとゆっくり呼吸を整えるクランにハカナがにっこり微笑んだ。
「エヘっ…責任とってねクランちゃん」
ペロっと可愛く舌をだす。
「せ…責任?」
「幸せにしてね」
――1年後
「ハイ!クランちゃん!ハイッ!私達の子供よ。
クランちゃんに似てとっても可愛いわ」
「…う…うんそうだねハカナ…」
「んもうっ!ちゃんと見てない」
「クランちゃん。娘のことを頼んだぞ」
「クランちゃんなら安心してハカナをまかせられるわ…」
「…」
「お若いだんな様ですね」
終わり。
>少女漫画風
確かにギャルゲっぽくなるな。
というか少女漫画って前世の記憶がどうのってのしか読んだこと無いからよくわからん。
>ハカナ×クラン
すまん。漏れフタだけはダメなんだ・・・。
しかし住人少ないな、ここ。
本スレとエロスレが区別されてないからな
ぶっちゃけあっちでも侍が魂を叫んでるし
Wikiのアップローダーのアクセス件数を参考にするに
ここの住民はいいとこ100名ではなかろうかと
>242
魂(イノチ)ではなく信念(サムライ)の方がコレには相性が良いと思う。
続きです。
ドガッ!
「ぐふっ!」
舎弟は悲鳴をあげて転倒した。
薄暗い洞窟の中は松明だけが唯一の灯火。
闇の中から照らし出されたトウマの顔は、凶悪そのものだった。
「夏樹ハカナを見つけられネェまま、よくもノコノコと戻ってこられたものだな」
「ぐぐっ…げほげほっ……すいませんトウマさん」
トウマの強烈な一撃を前に、おもいきり咳き込む。
「すいませんですむとおもってんか!ひき肉にするぞコラァ!」
彼等に与えられた使命は、夏樹ハカナを探すことだった。
夏樹ハカナの行方がわかっていたのは一昨日までのことである。
大雨を避けるためこの洞窟に逃げ込んだが、その後はさっぱりわからなくなってしまった。
トウマの指示はひたすら大雑把だった。
生きてるかどうかもわからないが、この森のどこかにいるはずだ。
とにかくなんとしてもつれて来い。
ついでにカードも集めておけと、言われた。
探し始めて丸一日になるが、夏樹ハカナの影すらも見当たらない。
思った以上に森は深く込み入ったつくりになっていて、しかも想像以上に深かった。
こんな森から一人の人間を探し出すなんて不可能だ。
しかたなく収穫したカードだけを手渡した。
「くそっ…自分は何もしねぇで偉そうにふんぞり返ってるだけのくせに…」
殴られた腹を押さえながら、舎弟はぽつりとつぶやいた。
実際に体を動かしてるのは自分達なのにと、ついつい愚痴ってしまう。
「あっ?なにかいったか…」
睨み付けてくるトウマに舎弟の体が萎縮する。
「い…いえ…なんでもありません」
舎弟は舎弟。
主人であるトウマのために働くのは当然のさだめ。
ところがこの森にきてから、トウマから与えられる労働は加速するばかりで
この二日間イヤというほど、こき使われた。
昨日など、睡眠時間を削って夏樹ハカナを探していた。
でも仕方がない。この世界では力こそが全て。
弱者は強者に利用されるか、さもなくばエサにされるだけ。
悲しいことだけどとささやき、舎弟はトウマの言うことに従うしかなかった。
そしてトウマは舎弟を怒鳴りつけた。
「今日中に夏樹ハカナを見つけられなかったら……どうなるか……覚悟しとけよ…」
脅迫に舎弟は身を縮ませた。
仲間意識とかそういう雰囲気はすでにない。
(…このままだと…殺される)
―――。
トウマが闇の中に消えた後
「なぁ…もうあの人について行くの疲れたなぁ…」
「そりゃ…そうだけど…」
「もう俺たちだけで、こっから出ねぇか?」
「………!」
一瞬舎弟は息を呑んだ。
カードは全て奪われ物理的に裏切りは不可能なはずだ。
自分達のカードも強力とはいえ、トウマの持つカードに勝てる気がしない。
しかしすぐに平静になって、
「そ…そうだな…スキをみてカードさえ奪えば………」
「それに機動力だけなら俺のニードルビット=シケイダーの方が上だ」
舎弟たちは唸った。
「やるか」
「ああ」
―――。
その頃一方クラン達は…
じょぼじょぼ
「キャアア!!」
クランの腹筋はもたなかった。
外まで連れて行く暇もないまま、クランはあっさり放尿してしまっていた。
チフユは顔を激しく赤らめている。
ハカナはおしおきをしようと高々と拳を振り上げた。
「ダメだって言ったのにぃ…。
もう、どうしてこんなになるまでガマンしてるのよっ!!」
「うっ……だって…うわぁああん!ごめんなさいっ。わあああん!ごめんなさいっ。ママ!(丸文字)」
クランは泣き声が洞窟内を振るわせた。
「も…もう…クランちゃん…泣かないで。ほら、はやくぬれた下着脱いで」
「ぐすっ…ぬ…ぬがして…」
「!?」
虐待される子供は、無意識のうちに別人格を作り出し、
それに体をまかせることで、自分の心を安定させるというが、
今のクランがまさにそれだ。
今ハカナ達の目の前にいる幼女は、
この終盤にきて、カード3枚という耐え難い現実から逃れるために作り出された
棗クラン(4歳)だった。
「オムツ!いつものオムツだして!あのオムツじゃないとヤダ!ヤダヤダヤダーー(丸文字)」
「え…えと…そ…それは…ちょっと…」
こんな調子で、ハカナは朝から一方的な育児におわれていた。
繰り広げられる母と子の戦いを見るたびチフユは心を痛ませた。
(わたしのせいだ…わたしのせいで棗さんがこんな情けない幼女に…)
「オ・ム・ツ オ・ム・ツ(丸文字)」
洞窟の中には草木の煮えたいい匂いが漂っている。
「朝ごはんだよ!ハイ。クランちゃん。お口あーんして」
「あーん(丸文字)」
優しい声で自分の胸元にいるクランの口へとスープを運ぶ。
食べられそうな山菜を水で煮込んだだけの物でも、彼女達にとっては大切な食料だった。
「エヘヘ。ママのお料理美味しいから大好きだヨ(丸文字)」
「こ、コラコラコラ。食べながらしゃべちゃダメ!
もうっ…半分以上お口からこぼれてるじゃない」
ハカナはクランをがしっと羽交い絞めにした。
クランはキャッキャと喜んでいる。
(…あぁ…棗さん……)
―――カチャン。
食べ終わったとたんクランは全身の力を抜いてハカナにもたれかかった。
「ク、クランちゃん?」
「お腹いっぱいになったから寝るね(丸文字)」
目を閉じてハカナの胸上をごろごろと、クランは眠気をアピールする。
可愛さと無邪気さに、ハカナは頬を赤らめた。
「んもう。クランちゃんたら…甘えん坊なんだから…ぁフフ」
「おやすみぃ(丸文字)」
クランはそのまま眠ってしまった。
チフユは胸に鉛を入れられたような痛みを感じた。
棗さんが幼女になってしまった…。
―――私のせいだ。
―――私がいけないんだ
―――私が大切なカードを全部奪われたりなんかしたから、棗さんがこわれちゃったんだ…。
―――全部私のせいなんだ。
―――私さえいなければ。
クランを元に戻せる方法はたった一つ、カードを手に入れることのみ。
さもなければ、クランは一生このままだ。
チフユは一つの決心を固めた。
クランに夢中になっていたハカナは、チフユの変化に気づかなかった。
―――。
太陽は真上に昇り、森の中は熱気で蒸し熱くなっている。
「………ん…」
ハカナがゆっくりと目を覚ました。
クランの顔を眺めているうちに、眠気が移ってしまったようだ。
「……あれ…わたし…いつの間に………」
クランはまだハカナの膝元で穏やかに眠っているままだった。
ハカナはさわやかな笑みを浮かべ、
「こんな顔のクランちゃん…もうずっと見てなかった気がする…」
すっとクランの顔に手をあてて、優しく撫でる。
小さくて柔らかい体は、女の子の体とは思えないほどに傷ついていた。
切り傷や擦り傷、青アザ。そして包帯だらけだった。
「うん…そうだよね…クランちゃんはもう十分戦ったんだもんね…。
ここで戦いをやめたとしても、誰も文句なんていえないよね…。
いつも私達のために一生懸命に戦って…。
このキズも…このキズも…いつも私のかわりに受けてくれた…。
ごめんねクランちゃん…今まであなたばかりに痛い思いさせちゃって…。
でも…安心して…これからは私がクランちゃんを守るわ…。
…もう誰にもあなたを傷つかせたりなんかしない。
…だからクランちゃん…何も考えないでゆっくりおやすみ…」
ハカナはこの世にあるどんな残酷からもクランを守ろうと決意した。
「さっ。お昼ごはんをなんとかしなきゃ!あれ?そういえば小田さんは」
横にいるはずのチフユがいなかった。
どうしたのだろうと思っていると、
チフユのいた空間には一枚のメモ用紙とカードが添えられていた。
「何かしら…?うーんなんだろう?小田さんらしくないなぁ」
出会ってからまだ1日弱だが、チフユは一人で何かをするようなタイプないことをハカナは知っていた。
「えと…なになに?
………。
『ごめんなさい。
いろいろ考えて悩みぬいた結果、こうすることを選びました。
私のような人がいるから、みんなが迷惑するんです。
夏樹さん達だけなら、まだ希望はあります。
どうか私の分まで強く生きて下さい。
棗さん。
強くて凛として、いつも私の手をひっぱってくれたあなたは、
後ろ向きな私にとって憧れの存在でした。
あなたは、棗クランは、弱くて情けない幼女では決してないはずです。
早く自分の本当の姿を思い出してください。
お借りしていた制服のカードは返しておきます。
さようなら。友達と言ってくれたこと嬉しかった…。
両親を見つけ、無事にここから出られることを祈っています。小田チフユ』
………。
!?」
ハカナは全身汗まみれで、頭の血の気が引いていく。
前言を撤回するようにクランの体をガクガク揺する。
「たたた!大変よクランちゃん!おきて!早く起きて!!!」
「ふにゃ…な…なに…ふわぁああ…まだ眠いヨぉ…(丸文字)」
「もうそんなこと言ってる場合じゃないわっ!!」
「ふにゅう?(丸文字)」
ハカナはチフユの残したメッセージをクランの前で読み上げていった。
クランは目をぱちくりとした。
「………きっと…カードをコウジに奪われたこと…。
そしてクランちゃんがこんな風になってしまったことに責任を感じていたんだわ…
だからっ……」
「………」
「………クランちゃんっ!!!」
深い青の瞳は何かを訴えていた。
怒鳴られて驚いたのか、意表をつかれたようにクランは固ってしまった。
ハカナはクランの返答に息を呑んだ。
「あはっ…わ…わたし4歳だから何言ってるかわかんにゃい…(丸文字)」
「ムッ!」
生憎とハカナの待ち望んでいた返答ではなかった。
パチン!!
ハカナは全力でクランをひっぱたいた。
クランの頬が赤く腫れる。
4歳児に手を上げるのは大人気ないといえばなかったが、
クランの様子は少しずつ変わっていった。
「くっ…くそっ!!!オマエ等は私に一時も心の安らぎを与えないつもりかっ!」
クランが怒鳴りつける。
半泣きになりながらも、怒りの感情の方が強い。
クランは正気に戻った。
二人はすぐに森の中に飛び出すと、チフユの捜索を続けていた。
「おーい!チフユーっ」
「小田さーん。どこにいるの?返事をしてー」
白のカッターシャツ。
黄色のセーター。
青いネクタイ。
動きやすそうなフレアスカート。
チフユの残した制服のカードを使ったクランは
いつもの服装になっていた。
「もう、怒らないからでてこーいっ!」
危険を承知で声を出した。
カード三枚で襲われたらひとたまりもないが、もう半分ヤケクソだった。
無意識に考えることは避けていた。
風がでてきた。
あまりの冷たさに頬がかじかむ。
先ほどまで蒸し暑いとおもったら、今度は身震いするほどに寒い風。
まったく、この森の温度は一体どうなっているのか。
体に喝を入れて動く。
目眩を堪えながら森を回る。
チフユがいそうなところ。
洞窟の側は全て回ったがチフユの姿はない。
チフユの気配は感じられない。
どごんっ!
ふがいない自分に頭がきて、木々に頭を打ちつける。
額から血が流れ、ふるふるとクランが肩を震わす。
その顔は一気に熟れたトマトのように変わっていた。
「ふざけるな!
みんなで一緒にでるっていったじゃないかー!
一人でこんなことして!…チフユのバカーーーッ!!」
言い捨ててクランは嵐のようなスピードで森の深い場所に駆けていった。
「クランちゃん……」
「チフユさーーーん」
「チフユーーーーー!」
森の中で二人、声の限りに叫ぶ。
「もぅ…こんなことになっちゃうなんて…なんて迂闊なの私は…」
泣き声ともいえる声を出す。
その時、機会を待っていた悪魔たちが茂みの中から一斉に飛び出してきた。
すでにハカナ達は囲まれていた。
「エ?」
「ハカナ!私の後ろに下がって!」
それを迎え撃とうとするクラン。
「ギブスパンチ!」
男は隠し持っていた鉄パイプでクランの攻撃を払うやいなや、容赦なく上段斬りで反撃。
クランの頭に直撃。
破壊音が轟いた。
さらに別の男が持つスパナが豪雷一閃。
それは分かっていてもどうしようもない一撃だった。
クランの頭はパックリ割れて、ピクピクと痙攣しながらその場にひれ伏した。
「いやああ!クランちゃっ………」
間髪入れず、男達はハカナの体に掴みかかった。
「んーっ!!んんーーーっっ!!」
三人ほどの男がハカナの腕、足、口を押さえこむ。
これでは、ポカポカは召喚できない。
出遅れた男達も、なだれをうってハカナに飛びかかる。
「この女は俺のものだ!」
「うるせぇ!俺がさっきから目をつけてたんだ!」
男達は殴りあいをはじめ、もはや混戦状態だった。
(な…なんなのこの人たち…)
「おっと逃げようとしてもそうはいかんぞっ!」
恐れをなして戦線離脱をしようとしたハカナの胸ぐらを、凶悪な笑みを浮かべて大男がつかむ。
「や、やめて!離して!私カードなんてもってないわよっ!」
「甘いわっ!オマエの体がカード80枚になるんだよ!!」
「エっっ!?」
どごっ!がきっ!ぼぐっ!
大男は手当たり次第に、ハカナをかかえながら、男達を殴りつけ、蹴り飛ばし、吹き飛ばし続けた。
己の体で戦うということは、彼にはカードがないのだろう。
そして周りの男達も。
「ハハハハハ!軟弱な愚か者たちよ!
知るがいい!この俺の強大さを!!ワハハハハハ!」
「あぁー助けてーー!」
ハカナはキングコングに捕まった美女のような叫びをあげていた。
ボグゥ(金激)
「かはっ!」
大男が股間を抑え膝をつくと、
クランはさらに落ちてきたハカナのクッションになった。
「ぎゅう!」
ハカナのおしりはクランには少々重かったのかつぶれてしまった。
「クランちゃん!ごめんなさいっ!!」
「に…逃げるぞ!ハカナ!!」
―――。
森の中を、どう走ったかなんて覚えていない。
「ハァハァハァ…」
なんとか難を逃れたクラン達。
「あぶなかったね…ハカナ…うっ」
ハカナから借りたハンカチを当てて、クランふらっと倒れた。
頭からの流血はまだ止まっていない。
(また…また私のせいでクランちゃんが…)
ハカナはずずっと涙を拭きながら、クランの頭を抱きしめた。
二人は色が違う森に立っていた。
今までいた森とはずいぶんと感じが違う森である。
清涼感がある。
あらゆる場所から感じていた殺気や、死の匂い。
そういったものが、ここではまったくというほど感じられない。
まるで聖域。
(ここ…特別な場所なのかしら)
念のため注意しながら、ハカナたちはゆっくりと進んでいった。
しばらく歩くと崖にでて、崖下には平坦な地面が広大に続いていた。
「あれは!?」
崖下を見た途端、ハカナたちの視線は釘付けになった。
(………これって!)
それは人々の群れだった。
二人はこの世界にきて、これほど多くの人の群れは見たことがなかった。
1000かそれ以上の人々がそこに集結していたのだ。
吸い寄せられるように二人は近づいていく。
(小田さん…そしてお父さんとお母さんもひょっとしてここに…?)
そうゆう期待はあった。
地獄の淵でようやくたどり着いた聖域。
この奇跡にめぐりあえた喜びはあまりにも大きい。
そこは一斉の戦闘行為が禁止されている場所。
ここで人々は傷ついた体を癒し、
戦略をねり、
次なる戦いに挑んでいく。
本来ならそうゆう場所だった。
しかし、
今この聖域に
そんな清々しい雰囲気は微塵も無い。
吹き溜。
穏やかな笑みなど一つもない。
芯が砕け散った表情。
すすりなく子供達。
ただ悲しみに満ち溢れて…。
ここにはカードを奪われ、
どうやっても80枚に達することのできない敗色濃厚の人間達が
誰が言い出したわけでもなく、
浜に打ち寄せられた朽木のように集められ
皆一様に頭をかかえていた。
自暴自棄。
ただ落ち込み落涙。
運命を呪う者達の群れ
嘆きの世界。
集まった人々による負の相乗効果で、
場の悲しみの色はより深刻なものになっている。
そしてその中にチフユもいた。
彼女もまた敗色濃厚。
絶望の渦中。
クランは胸元で拳を握りしめた。
ここに来てクランが思うこと。
誰かが助かろうとすれば、誰かが死ぬ。
誰かが頑張った分ここから出ようとした分だけ、他の誰かが犠牲になる。
ここにいるのはその犠牲者達に他ならない。
だが奪うという行為事態に悪意はない。
自分の命を大切にしようとする行為は当たり前だが、すばらしいものだ。
ただ、みんな生きたいだけなのだ。
なのにどうしてこんなに不平等が生まれてしまうのか…。
助かる者と助からないもの。
ただ、普通に穏やかに…。
誰も助かるという、幸福な結末は訪れないのだろうか…。
どうしてそんな事ができないのだろうか…。
クランに、この場にいる全ての人は救うことはできない。
可愛そうだと思っても自分には何もできないのだ。
自分の無力さに唇を噛む。
今のクランには何もできない。
結局クランにできることなどあまりにも小さい。
だが、それでもせめて自分の近い人だけは…救いたい。
ハカナ、パパ、ママ、チフユ。
自分が助けたいと決めたものだけは助けたい。
そういう思いを秘めながら、クランはチフユの前に立った。
クランはチフユの手を引いた。
「来いっ!チフユ」
「え………な…棗さん!」
「そうだ…」
チフユは、ううっ…とうながれた。
「ご…ごめんなさい…私…私…」
「いいっ!とにかく来いっ!!いいから出るんだ!ここからっ!!」
もし、クランがいなければ、チフユはここで絶望に押しつぶされたまま最後を迎えるだろう。
いずれにしよクランはそんなチフユを引っ張り上げた。
クラン達は人々の群れの中から離れた。
「あんなところにいたら心の底から腐っちゃうよ!」
「…でも」
チフユもあの中にいて、人々と共感できるものがあったのだろう。
無意識にクランから視線をさけていた。
「私もさっきまでそうだったから偉そうなことは言えないけど…
あいつら…可能性を見てない…。
気持ちが状況に押しつぶされ、わずかだけどまだ残っている
生き残る為の道を閉ざしているんだ………自分から。
あれじゃあ…助からない。助けようがないよ」
口にしながら、クランは胸を痛めた。
「でも………でも…そんなこと言っても無理よ!棗さん。
あの人たち、もうカードがないのよ。
あれじゃ本当に終わりじゃない。どうしようもないわ」
「終わりなんかじゃない!」
クランはがしっとチフユの袖口をつかみ、顔をあわせた。
「このサバイバルゲーム。
例えカードが0枚という状態になっても一向にかまわない。
とにかく最終的に80のカードを確保して出口にたどりつけさえすればいい。
だから、命さえあれば、いくらでもチャンスは存在しているんだ!!
…………。なのに…それなのに!あいつらは!まだ生きているのに!戦えるのに…!
戦えば生き残れるかもしれないのに!!それすら放棄しているんだ!」
(そうだよ…あきらめなければ…)
すっかり忘れていた。
それは幼い日にヒーローから学んだ大切なこと。
今のクランを人格を形成しているものだった。
「でも…そんなの無理よ…カード無しで戦えるわけがないよぉ。
…ルール上はそうでも…生身であんな恐ろしい機械なんかと戦えば…全身引き千切られれちゃう…。
そんな状態で立ち上がれる人なんているわけない!
……………だから…もう…あきらめるしか…」
「お前……ヘルトラマンを見たことないだろ?」
「エ?」
「ヘルトラマンは毎週手をもがれたり足をもがれたり内蔵を引きずり出されたりしても
絶対にあきらめたりしない不屈のヒーローなんだぞ!!
確かに全国の父兄から”残虐すぎる”って抗議が殺到したせいで
わずか19話で打ち切りになってしまったけど……。
ヘルトラマンから”決して負けない心”を学んだ全国のよい子たちの熱い応援で再び放映が再開された
まさに不死身のヒーローなんだっっ!!
どんなにイジメられても立ちあがる………
それが私の大好きなヘルトラマンっ!
だから私も負けないもん!!」
「な、棗さん…」
やる気を全身にみなぎらせたクランは、もう先ほどまでの幼女ではなかった。
ハカナも黙々と相槌をうった。
そして、クランの言葉から数秒もたたないうちに―――。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴ
「な…なに?」
大地から重低音が響き渡った。
「な、な、なに?一体何なの?」
ハカナの焦った声があがった。
音の中心を見つめたクランは、目を丸くした。
何が起こったのかと思ったら、そこはさまに地獄絵図と化していたのだ。
地面には、うねった蛇のようなヒビが入っている。
その亀裂に沿って崩れていく大地。
人々は一瞬湧き上がり折り重なった岩盤に押しつぶされ。
そして、暗い闇の底へと堕ちて行く。
うめきとすすり泣く声を響かせながら。
まるで黄泉比良坂に落ちる亡者のように。
地割れは人々が群れをなしていた場所が中心だった。
クラン達のいる場所とはまだ十分な距離はあるが、
離れていても伝わってくる死の感覚。
死ぬ。
ここにいては間違いなく生きてはいられない。
鼓動が激しくなる。これ以上直視はできない。
中心から始まった崩壊は、すさまじい勢いでその外へ広がっているのだから。
ドゴゴゴゴゴゴゴ
言葉よりも早く、クラン達の足は勝手に走っていた。
体の全てを逃走することへつぎ込む。
死を回避するための行動。
迫り来る激震。
崩壊する大地の大津波。
成すすべもなくその地割れという名の波に飲み込まれていく人々。
走って走ってどこまでも走って。限界以上に走って心臓は軋む。
「ありえない!ありえない!ありえない!ありえない!ありえない!ありえない!」
叫びながらの全力疾走。
土煙はそれ以上の速度で迫って来ている。
「せめて崖の上までっ!!」
「あっ!」
チフユが転んだ。
「チフユ!?大丈夫?待ってろ!すぐ助ける」
クランはすぐさま足を止めると、チフユのもとへ駆け寄り、チフユの手を引っ張った。
チフユは苦悶の唸りを上げるが立ち上がれなかった。
足はくじいていた。
クランはおんぶした。
「よいしょ、うううううう、っ!」
「棗さん…何してるの!?そんなんじゃ棗さんまで」
「いいんだ!」
「やめて。もうやめてぇ…棗さん…もうわたしのことはいいから一人でいって!」
「なんでそう簡単にあきらめちゃうの!!
それにオマエを探すのに私たちがどれだけ苦労したと思ってるんだ!」
「最初から探さなければよかったんです!ううっ…」
私なんていても迷惑なだけでしょ…」
ドゴゴゴゴゴゴ!
こうしている間も地割れは迫ってきている。
その瞬間―――
「オマエは根本的な勘違いしている!!
こうゆう時だからこそ仲間同士の助け合いが必要なんだ!
一人でできないことも二人ならできる!
二人でできないことでも三人でならできるようになるんだ!
迷惑だなんて思っちゃいない!
オマエがいないとダメなんだ!!
オマエの力が必要なんだ!!!」
「な、棗さん……?」
「だから行くぞ」
ドゴゴゴゴゴ!
「わぁああああああ!」
クランは絶叫しながら持てる限りの全てをだして走った。
崩壊した大地は、全てを巻き込みながらこの地域一帯へと広がっていく。
もうもう砂埃が舞い、逃げようとした人々を容赦なく巻き込んで
その度ごとに何度も何度も断末魔があがった。
ついに崖まで辿り着いた。
だがそこでタイムアウト。
健闘むなしくついに足元の地面までもが崩れてしまった。
「ふんぬ!」
クランは最後の力でそのままジャンプ。
崖へ飛びつき、へばりついた。
だが、地割れは無常にもその崖までも飲み込もうというのか
「もうだめェーーーーッ!」
しかし、地割れはここでストップ。
なんとか一命をとりとめた感のクラン達だったが、
生きている喜びをかみ締める暇はなかった。
飛びついた崖岩は脆く、今すぐにでも崩れ落ちそうだからだ。
クランとチフユの体重で、岩の微妙なバランスが崩れ、じりじりと崩れ落ちて行く。
「いやあああ!(丸文字)」
崩れ落ちるその瞬間、既に崖上に登っていたハカナが植物のツタのようなものを投げる。
クランはそれをがっしり掴んだ。
次の瞬間、今まで掴んでいた崖岩は重力に引かれて、落ちていった。
あとほんの一瞬でもハカナがツタを投げるのが遅れていれば、
クラン達も奈落の底に落ちていた。
足下の地面は見えない。
崖下の大地は完全にない。
落ちた岩が砕けるちる音すら聞こえてこない。
生と死のギリギリのライン。
クランとチフユは宙ぶらりんになりながらもギリギリで踏みとどまった。
「ハァハァ…死ぬかと思った…」
「クランちゃん!早く登って!!」
「う…うん」
体制を立て直したクランは、チフユをおぶりながら、ゆっくりゆっくりツタを登っていった。
ブチンッ!
「ーーーーんっ!」
嫌な音と共に、クランのギブスの割れ目から鮮血が飛び出した。
今まで目を閉じていたチフユは、その血をうけて意識を取り戻した。
「な………棗さん…その腕…な、治って………なかったの?」
「ヒールカードで治せる分には限度がある…
全部治るなんて都合よくはいかない…。
今の衝撃で…くっついてた腕の接合部分が………また開いちゃった…」
「…!」
助けなければという心に
これ以上、力を入れればそれだけで腕が千切れてしまうという判断。
その鬩ぎあい。
腕は麻痺して動けない。
心臓が萎縮する。
腕の痺れは痙攣へとかわる。
気を抜いた瞬間痛みはやってくる。
同時にせりあがってくる嘔吐感
とにかく冷静にならなくては…。
喉元には吐き気。
腕がズキズキと痛んで、心臓が鼓動するたびに、刺すような腕痛。
こうしているだけで体が熱い。
あたりはこんなに寒いのに。
自分の体だけ燃えているようだ。
背中には針のような悪寒。
腕はもう限界だと理解する。
「ごめん…チフユ…例え腕が千切れてもこの手を放すつもりはないけど…
本当に千切れちゃったら…放れちゃう…」
ブチブチブチィ!
「んんんっ!!」
クランの腕から引き千切れるような音は続いていた。
鮮血はどうしようもないほどに増していく。
くらくらしていたチフユは一気に覚醒した。
ババッとツタを掴むと、自分の力でしがみついた。
「わたし役立たずじゃない!今度は私が棗さんを助けるから」
少しでもクランの腕にかかる負担を減らそうと、力を振り絞った。
さきほどまでの絶望していた様子はどこにも見られなかった。
「クランちゃん!今助けるから」
崖上からもハカナがツタをひっぱってくれている。
微弱な力だが、クランには何よりも嬉しかった。
クランは腕が千切れそうな痛みをこらえ、少しづつ、少しづつ上に登っていった。
三人は力を合わせて必死だった。
ついにクランは崖上まで登りきった。
「大丈夫?クランちゃん」
ハカナが心配そうにクランを見つめた。
「うん。大丈夫…みんなのおかげで生きてるよ……」
「ごめんなさい…棗さん…また私のせいで…」
「そんなことない!私一人じゃ崖は登れなかった。
チフユがいたから私の腕もついてるんだよ。
だから…ありがとう…」
「そ…そんな…」
言い捨てると、クランは崖下を見た。
そこは見事なまでに暗黒空間が広がっている。
それは人々の黒い墓場。
「みんな…みんな死んじゃったんだね…」
「うん」
あそこにいた1000名ほどの人々はもうだれもいない。
生き残れたのは自分達だけ。
クランは虚しさのような物を感じた。
これがカードもないのに、まだ生き残っている弱者達への淘汰のようで…。
やるせなくなる。
やはり、これも主催者の仕業なのだろうか。
クラン達はこの森の中、浅ましく醜く這い回っている。
言われるがままに戦って、騙しあい、殺しあっている。
そしてそんな姿を見て、主催者は喜んでいるのだろうか?
互いに貶め合うゲームを考えた主催者はほくそ笑んでいるのだろうか?
自分達が殺しあえば、殺しあうほど、
血道をあげればあげるほど、結果的に主催者の思う壺。意のままなのだろうか?
カードを80枚集めたものだけ生き残れるという不文律…世界観。
「生」に踊らされる人間の浅ましさに嫌気がさしていく。
心中の深いところでは、自分と同じ運命をたどっていた、奈落に堕ちていった人々への同情。
クランは本当は彼等だって救ってやりたかった。
この光景をみて、それがただ、ひやすら悔しかった。
しかし、今はまだそれを考える時ではない。
一枚のカードを握り締める。
例えそれがどんな1枚であっても、それには人の命と思いが込められている。
生きなければ…。
生きてここからでなければ…。
死んでしまった人の分まで…。
主催者が何を考えているのかはとても気になるが、
今自分がしなくてはならないのは、生きて出られる分のカードを集めることだ。
「行こうハカナ。チフユ。私達はまだ生きてるんだから」
聖域だった場所に背を向けて、再びクランたちは戦いの森へ帰っていった。
続きます。
今思うこと。
・そろそろいい加減まとめなきゃな(300までには終わらせたい)
・誤字脱字が多くなってきたな
・じっくり書ける時間が欲しい・゚・つд`)・゚・
所々カードの存在感が増すシーンで遊戯王よりカイジ臭が強くなってる気がした(w
毎度だが乙。
>遊戯王風の人
いや、クランが冒頭の幼女のままだったらどうしようかと思ったw
なんかお疲れのようだけど、がんがれ〜。
274 :
272:04/04/12 00:24 ID:NdRoNnLE
>>273 ツワモノだなあ。
俺は17歳の、意地張ってるけど自分の体形にコンプレックスを持ってるほうがいいな。
だから遊戯王風の人の書くクランはかなり好みだ。
本編クランの幼児化には涙を禁じえない…。
本編の幼児化も壊れつつあるんだと解釈すればハァハァだよ。
最近の展開のハカナによる救出で「カレーパパとハカナママ」になる日もきっと近い筈。
しまいにゃモツぶちまけて「ぱぱ…まま…」とか良いながら死んでいく訳ですよ。
マモル兄さん食べた時にカレーパパとハカナママになってる気がしますが。
まだカレーお兄ちゃんとハカナお姉ちゃん(w
続きです。
―――そろそろか。
ビードルビット=シケイダーは洞窟の入り口で暖気をすませていた。
どこまでも平坦に赤土質の地面に、長い影が伸びている。
雑草すらまばらで、障害物となる木々もない。
加速をつけるには申し分のない場所。
決戦を目前に心音が高まる。
今までずっとこらえていたが、すでに限界だ。
ここまであの男に従い続けてきたのも奇跡に近い。
舎弟達にとって、一生で一度の勝負の時である。
ダダダダダ
洞窟内から走ってきたのはもう一人の舎弟。
その手には大量のカードが握り締められていた。
どうやら第一段階はうまくいったようだ。
それにワンテンポ遅れてトウマも追ってくる。
これも予定調和。
「テ、テメェラー!いったい何考えてやがるっ!」
それは見るからにみすぼらしい姿。
そこに王としての威厳はない。
威勢のいい怒鳴り声も、今はもはや滑稽でしかない。
走ってきた舎弟がニードルビット=シケイダーに飛び乗ると、見下し、嘲笑う。
「いつまでもキサマに従ってるとでも思ってたのかよ。バーカ」
「もうテメェの下で働くなんぞうんざりなんだよ!死ねボケ」
「なっ!?」
舎弟たちの凶行をトウマが納得などいくはずがない。
ぎりぎりと歯ぎしりをする。歯が砕けてしまうのではないかというほどの強さで。
「調子にのるな!舎弟の分際で!所詮キサマ等など俺の手足。身の程を知れっ!」
トウマがカードを掲げると、割れた頭の中から豪腕が飛び出した。
それは、稲妻のような一撃だった。
舎弟の体を砕かんとばかりに繰りだされる豪拳。
抵抗の試みは無意味だろう。
それが稲妻である以上、人の目には捉えられない。
だが、トウマの攻撃が稲妻なら、ニードルビット=シケイダーは疾風。
ドガッ!
その一瞬が明暗をわけた。
振り下ろされた地面に、刹那のタイミングで特攻機の姿は消えていた。
「ギャハハハハハハ!何やったってトロイんだよ!!」
「ぬむっ!!」
その声はすでに遥か先から。
そこでは舎弟がびしっと中指を立てていた。
「テ、テメェら………」
瞬間的な速度ならトウマのモンスターの方が早いが、
こと持続性に至ってはニードルビット=シケイダの方が遥かに上だ。
これほどの距離が空いた今、もうトウマに追いつける術は何もない。
「このままですむと思うなよっー!!
地獄の底まで追いかけてでもブッ殺す!」
遥か後ろからトウマの声が響いてくるが、所詮負け犬の遠吠えだ。
振り向かずとも、その声色だけでどんな顔をしているかわかる。
完全に各下だと思っていた者からの裏切り、
全てのカードを奪われた絶望、
自分中心に回っていたはずの世界の崩壊、
色々な思いをごちゃ混ぜにしたなんとも情けない顔だろう。
心地いい風。
自由という新しい風をうけながら、舎弟は今までの人生を振り返っていた。
あの男に付いていたが所為に舐めさせられた数々の示唆。
だが、その屈辱の日々ももう終わる。
これからは自分の思うままに生き、思う存分やりたいことがやれるのだ。
「ああ…御主人様ぁ…この日をどんなにお待ちしていたことか…」
そんな彼等の門出を祝うのは、恍惚の表情と蜜のように甘い声。舎弟のオモチャだった。
「ククク…ご機嫌よう、エリちゃん」
「ご主人様ぁ…はやくぅ…はやくぅ…エリのおまんこ突っついてェ…」
「せっかちだなあエリちゃんは…これからは毎日朝から夜までイヤというほど犯してあげるよ」
「だめぇ…そんなの待ちきれないよぉ…今すぐぅ」
「フフフ…そんなに僕達のおちんちんに嬲られたいのかい?」
「はい。もうご主人様のおちんちんが無いと生きていけましぇん!」
「!?」
少女の感覚など、とうの昔に壊れていた。
「ククク…そうか」
ここまで言われて何もしないのは男がすたる。
今の感動を彼女にも味わってもらおうと
滑走中にもかかわらず自分の下半身を出し、
何の前触れもなく少女の秘所へ突き刺した。
「あひゃあ!」
激しい腰使いで秘所を攻め立てる。
走行中の振動もあいまって、かつてないほど強い攻めになっていた。
「ほーらほら、このメス犬!気持ちいいんだろ?もっとよがれ!」
「あふう…あんっ!んふぅ!…すごいいぃいぃっ!!」
我を忘れて身体をよじらせる。
目から涙、口元からはよだれ、結合部分からはおびただしい愛液が流れ出していた。
「チッ!俺の分もちゃんと残しておけよ」
貧乏くじを引いたと、運転中の舎弟はさぞ羨ましそうな声を上げた。
一方そのころ。
バシャバシャバシャ。
棗クランは元気いっぱいに泳いでいた。
バタバタと足を振って、それだけでも楽しそうだった。
その姿は本当に天真爛漫、その一言につきる。
心底、楽しんでいるクランの姿は
実年齢からはとんでもないアンバランスで、
本当に16歳なのかと、感覚が麻痺してくる。
なんというか、こうゆう妹が欲しかったというハカナの気持ちもうなづける。
クランはそれほどまでに無邪気すぎた。
もし水の妖精というのがいれば、それはこんな姿ではないだろうか。
「クランちゃん!泳いじゃ、泳いじゃダメ!」
静かな泉にハカナの怒りの声が響きわたった。
「………」
注意されたクランは足を止め、ハカナに恨めしげな視線を送った。
「ぷぅ…ハカナのケチンボ」
時刻はちょうど夕暮れ。
三人は近くの水辺で体の汚れを落としている最中だった。
ハカナとチフユは下着を付けているが、クランだけは全裸だった。
さて、あんな注意ぐらいで大人しくなるようなクランではない。
バシャバシャ!!バシャン!!
ハカナの注意を無視するかのように、クランは再び泳ぎだした。
「クランちゃん!!!」
頭にきた。
お風呂のマナーも守れないような子は絶対に許せない!
だが、ハカナの怒りをもってしてもクランの好奇心を止めるのは難しかった。
「クランちゃん!泳いじゃダメ言ってるでしょ!!お姉ちゃんのいうこと聞けないの!?」
「やーだもんっ!ハカナなんか怖くないもんっ」
「ムっ!」
言うなり、クランは水の中へと潜っていった。
ハカナの声など遮断するかのように。
実に反抗的なクランの態度。
あまりの怒りに頭痛がする。
入水中に泳ぐなんて信じられない。
どうしてこうも言うことを聞かないのか。
バシャバシャ!バシャン!バシャバシャバシャ!
「クランちゃん!いいかげんにしないとお姉ちゃん本気で怒っ………エエ!?」
水の中から現れたクランの口には新鮮な魚がくわえられていた。
ペッと陸地に吐き出したそれは、まだピチピチと跳ねている。
これにはハカナもあきれ返った。
「ク…クランちゃん。クマじゃないんだから…」
「よーしっ!みんなの分も取ってやる!」
バシャン!
泳ぐ理由を見つけたクランは文字通り水を得た魚で、再び水の中に沈んでいった。
「あああ………もーーー!」
「ふふっ。棗さんって本当に元気な女の子ですね」
そうなんだけど、たまには女の子らしくじっとしてほしい。
それは食料の確保は大切だけど……。
マグロは常に高速で泳ぎ続けないと酸素を補給できずに死んでしまうというが、
クランもその類なのだろうか?
もう知らないっ!という風にハカナは自分のドロを落とすのに専念した。
と、その瞬間。
「こんなところでのんびり水浴びなんて…ずいぶん余裕なんだね。エヘヘヘヘ」
「!」
唐突に。
一時の平和すら拒むように第三者の声が響き渡った。
風雲急を告げる効果音。
咄嗟に振り返る。
大地の上。
数メートル距離を隔てた大地の上で、そいつはハカナ達を見下ろしていた。
夕暮れに溶け込む脂肪の塊。
つりあがった口元は粗暴で、獣じみたものが風に乗って伝わってくる。
獣の視線は興奮していた。
太身の男はこの状況において、ハカナを十年来の友人みたいに見つめている。
軽々と、しかし欲望に満ちた声。
この男に入水中の自分達の姿が眺められていた。
背筋が凍る。
なんと言うことのない、男の声。
そんなものが今まで聞いたどんな言葉より冷たく、吐き気がするほど恐ろしいなんて…。
どう動けばいいのか分からない。
ただ、この男とこのまま見つめ合うことだけは絶対にしてはならないと理性が告げている。
男の腕が上がる。
コトは一瞬。
何をしたかなんてわからなかったが、
今まで何一つ握っていなかったその腕には、
ハカナとチフユが穿いていた下着が握られていた。
「エ………?キャアアアアアアーーーッ!!!」
秘所を覆い隠す。
分厚い肉の塊が、ハカナの下着を広げている。
「エヘヘヘ。二枚ゲットだぁ」
よくよく思い出して見るとそれはハカナにとって忘れようにも決して忘れられない相手。
初めてカードゲームで戦ったデブだった。
「よしよしっ…これは…さぞかし…くくく」
下着を見ながら何がおかしいのか、デブはこみあげてくる喜びを抑えきれず、にんまりとほくそ笑んだ。
その不気味さに、チフユが自然に後ずさった。
「やめてぇ!それ以上私の下着にさわらないでェーー!!」
自分の下着がじっくりと鑑賞される。
あまりの恥ずかしさにハカナはカッとなって、飛び出そうとするが…デブはそれを待っていたように、
「おや?いいのかい?そんなことしたらキミの生まれたままの姿が
僕の目の前に晒されちゃうよぉ!いいのかい?いいのかなぁ?
いや、僕はいんだけどね。ゲエーーーヘッヘッヘッヘ!!」
下卑た笑い。
「んんんーーーーっっ!!」
言い返せない。
ハカナは赤面しながらすぐに水の中に体を隠した。
チフユも同様に顔を赤らめながら、体を沈ませた。
「ひ、卑怯者!!」
泣きながら叫ぶ。確かにデブの言う通りだ。
悔しいが、こんな姿では水の中から出られない。
ハカナにはこうやって水の中から罵声をあびせることしかできない。
「エヘヘ。あまりに恥ずかしさにそこから出られないだろう?
さぁその間に君達の持ってるカードは全部僕がもらちゃうからねェ」
ピラピラとさせているのは『ポカポカ』と『増殖』のカード。
「!」
下着と共に奪われていたのだ。
本当の目的はカードだった。
「フフフ。あと何枚あるのかなー?僕のと合わせれば80枚になるかな」
鼻歌混じりにデブはハカナ達が脱いだ服の方へと歩き出す。
持物検査をするために。
「や、やめなさい!このバカ!!」
「…バカ?」
「下品なフレーズがバカの証拠よっ!」
「エヘヘ。そうやって僕から冷静さを奪う作戦だね。
…でも、ムカついたからもっとバカになっちゃおーとっ。ぱんつぅ!ぱんつぅ!」
「ーーーーーーーっ!!」
「やめてください!もう私達ボロボロなんです!
これでカードまで取り上げられなかったら、私達もう生きていけません」
正直に言えば許してくれるとでも思ったのなら、チフユの考えは見当違いだ。
このデブにそんな寛大な心などあるはずがない。
「うるさいなドブス!!そんなこと僕の知ったことじゃないよね」
「………ブ………ふえぇえええん」
「チ…チフユちゃん!?この女の子に向かってブスなんて失礼よ!このブタッ!!」
しかしデブはハカナの抗議など、さぞ涼風のように受け流していた。
「あーあ…コレだから三次元の女はギャーギャーとウルサくてヤなんだよな…
やっぱり僕にはクマリたんみたいな清楚な女性が似合うね。
クマリたん待ってて…もうすぐ帰るからね…ハァハァハァハァ…うっ」
女界のレアカード。クマリの笑顔が脳内に浮かぶ。
デブは生粋のカードオタク。ゆえにカードの人物を愛することなど造作もないことだった。
「ヘ…ヘンな妄想するのはやめなさい!」
「ふふっ。キミはまだ僕の恐ろしさがわかっていないようだね。
いいだろう、教えてあげる。おっ、ここにちょうどいいものが落ちてら…ふふーん。どれどれ」
拾い上げた下着はピンク。それを仮面のように覆いかぶる。
「ファオオオオオ!気分はエクスタシー!」
「な、な、な!キャアーー!!ヘンターーーーーイッ!!」
あまりに強烈なインパクト。
心臓は落ち着かせるとしても落ち着かない。
昔、ハナコの兄に聞いたところによると、
女性の下着をかぶった男が活躍するヘンタイヒーロ漫画があったそうだ。
もし、このデブがその真似事をしてるとすれば、もう何というか手遅れだ。
(もうダメ…こんなヘンタイに通じる言葉なんて何もないわ……)
ハカナは、このデブに何を言ってもムダだと理解した。
だが、異変はその時に起こった。
「う………うががああああああああああああああ!!」
「エ!?」
突然の苦しみ。
絶叫。
狂乱。
激しい頭痛。
湧き上がってくる嘔吐感。
口から血痰が吐き出され。
全身に鳥肌が荒立つ。
体全体が拒絶しているようだった。
「な、なんだ!この下着…クセェ!死ぬぅ!!
だ、だ、だめだ…はやく…はやくぬがなくては…このままでは死ぬ!…死んでしまう!」
呪われた仮面を外すことに全力を費やす。
「ぐっ…うぐぐ!……ぐはっ!…はぁはぁ…げぇ…おえっぷ…げろげろ。
これをはいてるやつのマンコ腐ってんじゃねえのか…ゲホゲホォッ…ゲボォ!」
バシャン!
「キ、キ、キ。キサマにそんなことを言われる覚えはない!!」
ものすごい勢いで水の中からクランが飛び出した。
「ク、クランちゃん!?」
「………よ、幼女!?またオマエかぁ!ええぃ!一度ならず二度までも…!
今度という今度こそはもう許さないよ!!」
デブはもう我慢ならんというように下着をビリビリに引き裂いた。
「ああっハカナから貰ったパンティがぁ!!!」
細切れになったそれを地面に打ち捨て、何度も何度も気が済むまで踏み潰す。
最後にペッとツバをはく。
「アハハハハ!ざまあみろ!…ふぅ…これでこの世のダミが一つ減ったな」
それはクランにとって、もっとも屈辱的な行動。
ブチブチブチブチブチィ!
クランの血管は数本では済まなかった。
「絶対に許さないっ!!」
あまりの怒りで振えがきた。
体は考えるより早く動いていた。
「キャーっ!な、棗さん!何してるのっ!?」
チフユは顔を両手で覆う。
全裸でずんずんと前にでるクランの行動は、信じがたいものがあった。
クランの体は上から順々に姿を現し、既におへそまで見えている。
無い胸はまだ良いとしよう。
だが、これ以上歩けば女の子にとって一番大切な所まで見えてしまう。
しかし今のクランはそんなことなど御構い無しなのか、止まる気配はまったくない。
あんまり頭がカッとなると、我を忘れるのはクランの悪い癖で
こうなったら、自分のことなど何も見えず、何を言っても絶対に聞かない。
このままでは、あの気持ち悪いデブにクランの大切な秘所部が晒され……そんなことを考えるだけで―――。
「棗さん!そんなのダ…」
「クランちゃん!!女の子がそんなことしちゃダメーーーーー!!!」
大気がっ!
大気がキーんとする。
しかしクランは止まらない。
それはそうだろう…今のクランにハカナの声を聞くような冷静さは
「………わ、わかった…」
―――かろうじてあったみたいだ。
静かに。
これ以上ないくらい静かにクランはカードをかかげる。
カード使いは何時いかなる時もカードを手放してはならない!というのはクランの口癖で、
どこからか出したはわからないが、かかげたのは『制服』のカード。
「召喚!!」
声とともにカードが発光。
目を覆うほどに強力な光。だが、それでいて優しい光
クランの体が虹色の螺旋の光に包まれると、光は束となり、糸を紡ぐ。
光の糸から、いつもの制服が形となって現れる。
装着完了と同時に跳躍。
大地に舞い降りるクランの姿は優雅で重力など無視するかのように
まるで翼ある者のようにゆっくりしたスローな動き、
その周りを光の粒子が漂ってクラン自身が輝いている。
本来クランに翼などはない。
ただ、そう見えるほどの美しさを今のクランが持っていただけ。
ザシュッ!
それすら華美な響き。
びしっと指を突き出だすと。
「…このヘンタイがぁっ!!カードをおいてさっさと失せろっ!!」
クランの勇ましい声が闇を弾いた。
こうゆうのに免疫のないチフユですら今のクランの姿には惚れ惚れとし、魅せられトキめいた。
「棗さんカッコいい……」
ごぅ
突然の強風でペロッっと大きく捲れ上がったスカートからは、可愛いお尻が丸見えだった。もちろん前も。
「い、いやあぁ(丸文字)」
顔を赤らめ、スカートの上から股間とお尻を押さえつける。
「……カッコよくないっ!!!」
目の前にいるのは絶対無敵の魔法少女でもなんでもなく、やっぱりクランだと思い知らされた。
向かい合う男と女。
対峙する二人には大人と子供ほどの体型差がある。
だが、それはまぎれもなく虎と狼。
ならば人間であるハカナにできることなどなにもない。
今はもうクランにまかせるしかない。
ギュッっと拳を胸に秘め、ハカナの中にも緊張が高まっていく。
「くっ!もう許さないよ!それに僕は生意気な幼女って生き物がこの世で一番嫌いなんだ!!」
現れたクランを一括し、デブは眉を寄せた。
「だ、誰が幼女だ!ブッ殺してやるっ!!」
クランも泣きながらではあるが、怒りをこめた言葉をぶつけた。
二人の間で殺気と殺気がぶつかりあう。
クランにとっては雪辱戦。
嫌がおうにも気合が入る。
夕日に染められた空は紅い。
クランの手には、微かな夕日を反射させる一枚のカード。
「ふーん」
デブは口元を不気味に歪める。
「ひょっとして、そのたった一枚だけで…この僕を倒すつもりなのかい?」
ごう、という旋風が二人の間で巻き起こる。
デブの握り締めるカードは。
それは以前、魔境で振るわれた凶器。
クランからあっけなくカードを奪い取った恐るべし能力をもったモンスター。
「でろっ!ディープ=ハンマー!!」
気軽さなどは微塵もない。
殺気の塊となったデブに対して、クランもすぐに身構えた。
「もう二度と僕の前に現れないように
骨も残らないほど木っ端微塵にしてやるぞぉ!」
「…ッ!」
クランは、ぐっと言葉を詰まらせた。
打ちのめされた生々しい記憶をとっさに蘇られたのだろう。
両者の間合いは十メートル弱。
しかし、そんな距離など意味を成さないように思えた。
「クランちゃん…気をつけて…」
ハカナの声にも答えない。
デブにはクランが、クランにはデブしか見えていない。
すでに互いは必殺を図っている。
時間は凍り付いている。
一瞬の瞬きすらも許されない。
ハカナもチフユも固唾を呑んで見守る。
平和だった泉は異様な静けさに包まれている。
今すぐにでも戦いが始まる寸前の空気。
張り詰められた空気をやぶったのはデブだった。
「ミサイル発射!」
パシャパシャ!
シュドドドドドド
渦巻く突風、ディープ=ハンマー背面のミサイルポットから白い弾丸が疾走する。
迎え撃つクラン、疾駆してくる突風にあわせるように全力で真横へ跳んだ。
受身のことも考えず思いっきり飛んだら痛いだろう、なんて余裕はない。
とにかく全力で、力の限り、木々に体当たりする気で真横へ跳躍する。
ほんの瞬きの間に突進してきた弾丸は容赦なく、一秒間前までクランがいた空間を爆破した。
髪を舞い上げる旋風。
間一髪。高速で打ち出された弾丸を、クランはすんでのところでかわした。
「ぐっ!!」
地面を転がり木にぶつかる。
体が止まった、だがデブはクランの休止を許さなかった。
白い弾丸の第二陣が追ってくる。
退路なんてない。
背後には木々、左右は。ダメだ、きっと間に合わない。
その弾丸は。烈火のごとく。
裂けきれないと分かった瞬間、とっさの判断で腕を十字に組んだ。
ミサイルの雨がクランへ降り注がれる。
ドォォーーーーン!
「ーーーーくっ!わ、ああ!」
景色が流れていく。
クランの体は空を飛んでいた。
蹴り飛ばされたボールのように。
「ーーぐぅっ!」
背中から地面に落ちた。
木にぶつかり、背中が折れるほどの衝撃をうけ、ずるりと地面におちたのだ。
それでもなんとか立ち上げる。
このままじっとしていると、間違いなく殺される。
死にたくないから立ち上がった。
体はどうにかまだ繋がっている。
とっさのガードがどうやら功を制したようだが、
両腕のギブスは完全に砕け散って、赤い包帯だらけの腕が露出している。
「ちっ…運のいいやつ…それさえなければお前の体は跡形も無く飛び散っていたものを…」
「ハァハァハァ…」
荒い呼吸を繰り返すクラン。額から冷たい冷や汗が流れる。
ハカナ達は心配で肩を振るわせた。
「どうして…?なんで棗さんはモンスターを召喚しなかったの?」
さきほどのクランの行動は、素人のチフユから見てもあまりに下策だった。
なぜモンスターを召喚しなかったのか?
いくらクランが素早いといっても、あの攻撃をよけきれるはずがない。
事実、クランは捉えられ大きなダメージを負った。
―――クランのことだ、自分達には考えもおよばない何か奇策のようなものがあるのだろう。
いつもならそう思えるが、今回ばかりはどうゆう訳かそうは思えなかった。
既にハカナ達の心中にも違和感があったのだ。
正体の見えないもどかしい、得体の知れぬ危機感。
何に起因してるかもわからなかったが確かにそれはあった。
その謎を解く鍵はクランのカードに隠されている。
「クランちゃんの持つカードは…いったい…」
クラン達が所持してたカードは厳密には4枚だった。
『ポカポカ』と『増殖』のカードは今はデブに奪われている。
『制服』のカードは実態化した状態でクランの体に。
ならば今クランの持っているカードの候補は一つしかない。
全てを奪われ、最後にコウジが嫌味混じりで残していったあのカード。
「あああーーーっ!!!!」
ハカナは決して解いてはならぬ物を紐解いてしまった。
箱の底にあったものは絶望。
「うわあああああああーーーっ!」
ぞくっと背筋が凍り立つ。
クランの悲鳴。
「ほーらほら!もう一発くらえェ!」
パシャパシャ!シュドドドドドドドドド!ズドドドドーーン!
クランは勝機なんて一片もないのに、歯を食いしばって、拳を握って勇気を奮って―――
ハカナを守ろうとするその一心だけで…。
殺される。
このままではクランが殺される。
カードのために人が死ぬなんてバカげている。
止めなければ、この戦いをなんとしても止めなければ…。
しかしもう遅かった。
地中から迫る赤い弾丸。
地面を透けてきたとしか思えないソイツは、足元からクランを爆破しようと近づき―――
ドゴゴゴゴォォォ!!
背中からクランの体を押し上げた。
遥か上空に身を吹き飛ばされたクラン。
「いやぁ!クランちゃーん!!」
ただ夢中で、前に出るがもう遅い。
このままでは体制も取れずにクランの体は地面に激突。
しかし、デブが考えていたのはそんな生易しいものではなかった。
かかげられた一枚のカード。
「アイテムカード!TOWを装備する!
こいつは遅いけど、すっごく威力があるんだぞ!」
「や、やめてぇ!」
ハカナの声など届かない。
「身動きできない空中で避けきれるかなぁ?」
シュドッ!
ドオオオオオオオオ!
あまりに無造作に、何の情緒もなく、その科学兵器は打ち出された。
クランはこの絶対的な絶望の状態にむしろ肝が据わった。
「身動きできない空中で避けきれるかだと…そんなことは何一つ考えちゃいない…
召喚!!」
防御のことなど考えていない。
あるのは攻撃。
クランの持っていたカードはアイテムカードは『交換用タイヤ』
それを手にして全力で、腕が千切れるほどの勢いで空中から大車輪のように投げつけた。
「くっらえぇぇえーーーーーーっ!」
「なにっ!?」
クランの狙いは正確だ。
いくらタイヤといってもそれは大型車の物であり、
遥か頭上から落ちてくるその重量を受ければ、いくらデブといっても圧殺だ。
狙い、角度ともに出来すぎている。
これなら、本当に……圧倒的なカード枚数というハンデを乗り越えて、倒すことができる……!
もう、次の瞬間にでも。
「よしっ!もらったぁ!!!」
だが、死を前にして、デブにはそれを回避しようとする覇気がない。
クランの攻撃などまるで眼中にないかというように、ぼんやりと、退屈に、ため息をつきながら、
朝のコーヒーを飲むかのような当たり前の仕草で、
「ポカポカを召喚!ルーンカードの増殖を使用」
現れたのはいつもの可愛いポカポカではなく、召喚者に似て肥満体型の黒いポカポカ達。
クランの放った大車輪など、ポカポカ達が身をよせあってできる厚い壁の前に弾かれ、
まったくの別方向に転がっていった。
手に入れたばかりのカードですらも、ハカナ以上に使いこなしていた。
目の前にいるのはカードの悪鬼。
しくじった。この鬼相手になんとかなるなんて、度し難い慢心だった。
一瞬でも勝ったとおもった自分の気の緩さを痛感する。
だが次の瞬間には、それも忘れる。先ほど放たれた大型ミサイルが、飛び込んできている。
決死の覚悟で攻撃した分、もう防御は間に合わない。
ドォォォォォ!
シュドドドドドドドドドド!
グワァァァァァァァン!
直撃だった。
クランの右胸に達した瞬間、壮大な大爆発を引き起こした。
まるでダイナマイトが空中で爆発したかのように…いや、それ以上。
それはビル一つ消し飛ばすほどの超威力。
防げない。
こんな一撃防げない。
せめて大地ならば避けようとすることぐらいはできただろう。
だが、ここは空中。
条件反射も何もない。
動けない体でどう防げというのか。
先ほどのタイヤはこっちに投げつけておくべきだったのだ。
轟々と沸き上げる黒い煙。
普通に考えればクランの体などコナゴナだろう。しかし…
浮く体。
クランの体は煙の中から弾き飛ばされ放物線を描いて落下した。
「うぐっ!!!」
再び背中に激痛が走った。
撃たれた胸。
右胸附近の服の繊維は完全に飛び散って。
空気に触れる胸は真っ赤に腫れて、突起はヒリヒリと取れそうなほどに痛かった。
だが、飛び散るのは本来クランの肉だったはずだ。
そうならなかったのは、クランが見えない力に守られているからだ。
―――クランの制服。
見た目はただの制服にすぎないが
それがカードから召喚されたものならば、それは強力な魔力で縫い上げれたものだ。
だから普通の服とは次元そのものが違う。
「体操服首輪」「スク水首輪」「ネコミミスーツ」「魔法迷彩」などに代表される装着用のアイテムカード。
これらは簡潔に言ってしまえばモンスターの攻撃からプレイヤーの身を守るための鎧といったところだ。
それぞれの衣服には強力な魔力が備わっており、
プレイヤーを様々な攻撃や呪いから守ってくれる。
その効果は千差万別。
敵からのダメージを減らす簡単なモノから、
人目につかないように気配を遮断するモノまで多種多様だ、
その中でもクランの着ている『制服』は耐火性能がとりわけ高い。
だから本来なら死に達していたはずの一撃も、
制服のもつ不思議な魔力がクランを致命傷から守っていた。
避け様の無い必殺の一撃だったがなんとかこの身は生きている。
止まりそうな心臓に喝を入れる。
「なっ!」
そこへ、ゴロゴロとタイヤが轢き殺さんとばかりに向かってきた。
クランが起き上がる前に、押しつぶし、確実に殺しにかかろうと、一直線に突進してくる。
この体勢ではよけられない。
自分の召喚したものでやられるなんて、いくらなんでもマヌケすぎる。
だから、発せられる言葉は一つだった。
「戻れェーーー!!」
バシュ!
タイヤはヒラヒラとカードに戻った。
だが、こんなものは窮地を脱した内にも入らない。
「フフン!それが…キミのカードかい…」
その言葉に、ただゾクッっと背筋が震えた。
後はもう一方的な展開だった。
ドドド!ヴォドド!ドシャ!
「あぅ…ああ!ああ!」
デブはクランの手がわかった以上、間合いまで接近させないだけでいい。
ただ射程範囲に入ってこないように迎撃だけを繰り返して。
ドゴォ!ドドン!ドガァ!バウン!
ディープ=ハンマーのミサイルは、一撃で必殺と称されるものではないだろう。
頑丈な機界モンスターにとってはそれこそ蚊が刺したようなもので、その攻めは必殺になりえない。
だが、クランは人間だ。
その一撃一撃は確実に彼女の命を削りとる。
シュドドドドドド!
我が身に迫る弾丸の嵐から、必死に身を守るクラン。
豪雨はなお、勢いを増してクランを千殺せんと振り続ける。
緩急などなく瀑布のようにくりだされる。
単純な攻めもここまで執拗に繰り返されればそれは必殺。
一撃ごとにクランを弾き、転がし、吹き飛ばす。
チュドドドドドド!!ドゴゴォ!ドドドッドド!!
幾度となく繰り広げられる爆発。
「あっ…やああ!」
その度に飛び散っていく制服。
どんな頑丈な鎧も、幾戦もの攻撃を受ければ砕け散るように、
身に纏う制服もまたディープハンマーの一撃ごとに形は小さく姿を変え、
身を守る魔力も確実に量を減らしていく。
クランの体はまたしても宙を舞い、地面に激突した。
ドスンッ!
「アハハハ!どうしたんだい?まだまだだぞぉー!!」
ドゴゴゴゴ!!ズガガーーン!
轟音と爆音だけが響きあう。
シュドオォォォ!
「―――ぐぅっ!」
低い弾道の一撃。
足首へ攻撃を受けたクランは、そのまま膝をついた。
クランの足を狙ったのだ。これ以上ちょこまかと逃げられないように。
「マヌケ!ルーンカード『全弾発射』!」
罵倒するデブに戸惑いはない。
ディープ=ハンマはがっしりと地面に根を下ろすと
動けないクランにミサイルが一斉に襲い掛かる。
勝敗を決しようと、
ミサイルとクランの視線がぶつかり合う。
制服にはこれだけの弾丸から、もうクランを守るだけの魔力は残されていない!
ブチ!グチャ!ブチィッ!!
「ーーーーーっっっ!!」
瞬間。
肉が飛び散った。
迸る流血は視認するだけでも恐ろしい。
肩、腕、膝、足。
クランが受けた傷は全弾急所ではないものの
だが、それだけでも十分。
「ああっ!があああああああああああああっ!」
痛みの悲鳴。
それでも間髪いれず、ミサイルが迸ってくる。
もはや生かさんとばかりに。
爆発は絶え間なく、際限なくリズムをあげていく。
何度も何度も吹き飛ばされる。
ここまでは本当に数秒。けれど、見ているハカナ達にとっては、息がつまるほどに長い時間。
服も体もボロボロだった。
必殺を喰らわまいとするだけで精一杯のクラン。
ゆっくりと体力を奪い続けるデブ。
打ち込まれた弾丸は100を超え、その度にクランは地面に倒れる。
だが、それも一瞬、次の瞬間クランの体を宙に飛んでいる。
二人の戦いは真空。
近づけばそれだけで巻き込まれてしまう。
援護を。クランの援護をしなくてはいけないのに
ハカナとチフユは、体が動かない。
あの中に入れば巻き込まれる。
そうすれば、デブをますます有利にするだけだ。
だから自然に叫ばれる声は。
「クランちゃん!逃げてェ!」
しかし、その声も爆音の前では無音と化す。
ドゴゴゴゴーーン!
「――――っ」
たとえ体に千の傷を受けようと、首さえあれば戦える。
そんな思いも、この果てしなく続く攻撃の前にはあまりにも無意味だった。
戦闘開始からわずか数分。
バシャン!
クランは完全に力尽き、吹き飛ばされた体ごと水面に没する。
水面が赤い色に染まっていく。
クランの全身から血が流されている。
目眩。
すぐにでも立ち上がって戦わなければいけないのに、
目眩…目眩がして体に力が入らない。
血がもう、体に残っていなくて、意識が保てない。
それでもクランは、陸地にしがついた。
しかし、それが最後の力。
もう登るだけの体力は残されておらず、
力が抜けると、その身はゆっくり水の底へと落ちていく。
底は浅いが、もうクランに這い上がるだけの力はない。
呼吸ができない。
脳に酸素がいってくれなくて、何も考えられない。
思考がゆっくりと止まっていく。
このままここにいては死ぬとわかっているのに、体は何一つ動いてくれなかった。
視界が歪む。
体が冷めていく。
体全体から感覚が消えていく。
口から、肺の中に残っていた最後の空気を吐き出した。
後は漠然と、クランはこのままここで死ぬのだと実感した。
何も見えない。
感覚はすでにない。
体は泉の底に沈んだままで、
何も感じない。
世界の全てが赤かった。
夕暮の光が水面で反射しているせいだろう。
周りの全てが自分のもとから消えていく。
何もかもが失われていく。
死んでいく人間の感覚だった。
肺はもう水浸しか。
目が閉ざされる瞬間、
ふと、ハカナの声が聞こえた気がしたが、
それはすぐに聞こえなくなった。
いや、聞き取れなくなった。
かすんでいく意識。
(ごめんね。ハカナ…最後まで心配かけちゃって…どうか私の分まで生きて……)
それを最後にクランの意識は完全に閉ざされ―――
ガシッ!
誰かが…?手を…?手をがっしりとつかんでいる。
触れられた部分だけが熱い。
死にかけた体が驚いて、凍っていた血潮が流れたのか。
体が浮上していく?腕がひっぱられて…上に、上に―――。
ザバァーーーン!
「がはっっ…がはああっ……はぁ…はぁ……はぁはぁはぁはぁ」
呼吸は心臓が破れそうなほどに。
今まで吸えなかった分だけ激しく酸素を補給する。
長いこと水の中にいたせいか、震えがくるほど体は冷え切っている。
頭はまだ朦朧としている。
唯一わかっていることは、誰かが引き上げてくれたことだけ。
呼吸をするたび体の熱があがってきた。
深く息を吸い込む。
気持ちが落ち着きだすと、自分を救ってくれた誰かを確認するために顔をあげた。
…そこにあったのは、新たなる戦慄。
クランの手をとって地面の上へ引き上げた救いの手は………デブだった。
デブの行動をあえて言葉にすればこうだろう。
―――そんなに簡単に死なれてもらっては困る。
デブはにやつきながらクランに言い放った。
「エヘヘヘヘ。幼女のくせによく頑張ったね。
そんなカードでこの僕に立ち向かってくるなんて、
その勇気に敬意を評してご褒美をやらなくちゃあね」
「ううっ…!」
デブの瞳は一点の曇りもなく。
「この僕を誰だと思ってやがるんだっ!
そんなクズカードでこの僕を倒す気でいたなんてっ!
………浅ましいんだよクソ幼女がぁぁぁっっっ!!!!」
ド ボ ッ ! !
「げぶぅっ!」
既に露出している無防備な腹を蹴りこまれた。
それはデブの全体重を乗せた一撃。
息が…今度は地面の上だというのに息ができない。
「げほっげぼぉっ!げあぼぉがへっ!あがぁあ!」
激しい嘔吐。だが、胃の中から出るものは水しかない。
グシャッ!!
「ぶっ!」
足でグリグリと、今吐いたゲロの上に頭が押し付けられ―――
「フンッ!この僕を逆らった報いだよ」
硬い地面に顔面を思い切り打ちつけられ、
今度は髪の毛ごとひっぱられ、涙と鼻血が止まらない顔をじっくりと鑑賞されて。
「あはっ。不細工なツラがより不細工になっちゃったかな?…ククク」
「ぁ………ぁ…ぁ…ぁぁ………」
残酷な口調と冷たい笑顔がクランの心を振るわせた。
「やめてぇ!これ以上クランちゃんにヒドイことしないでェ!!」
ハカナが叫んでいる。
「エヘッ。あの子、クマリたんに似て可愛いから、
僕のペニスをしごいてもらったら、さぞかし気持ちいいだろうな…」
「!!!」
「…ゃ…め……ろ……ぉぉ!」
「ん?何だって?」
「ハカナに手をだすなぁ!このっ!ブタ野郎ーーっ!!」
デブから表情が消えた。
「そうか。止めを刺してほしんだね?さぁて…どうしようかな…。
僕はこう見えても紳士だから血を見るのがキライでね」
途端。
全ての感覚が止まる。
あまりの殺気に呼吸を忘れた。
ミサイルによる攻撃など、このデブにとってはほんの力の一端に過ぎない。
その手がゆっくりと動く。
禍々しい気に満ちた一枚のカードが取り出され、
同時に茨のような悪寒が支配する。
頭の中から全ての思考が消える。
空気が凍る。
今のこの場で呼吸を許されるのはデブだけ。
ドクドクと心臓の音だけがうるさい。
デブが真の力を迸る瞬間を待っている。
やられる…。
これからどんなことをされるかは、知らないけどやられる。
こんな直感、初めてで信じがたいけど間違いない。
このまま何もしなければ死ぬ。
それは絶対だ。
文字通り、デブの取り出したカードには必殺の意味を持っている。
クランは敗北する。
そこまでもう予知できているというのに、どうすることもできない。
心が怯えて動けない。
ハカナとチフユも金縛りのように動けない。
動けばそれが攻撃の合図となってしまう。
それがどんなささいな物音でもだ。
ふもふも、と
ポカポカ達がクランの目前に現れ、その手足をがっしりと抱きしめた。
デブの持つカードが一錠のカプセルへと姿を変える。
大の字に寝かされた体では、何の抵抗もできない。
成すすべもなくクランはそれを飲み込まされた。
(な…何を…今…何を入れられたの…?)
「エヘヘ………もしこのクスリに耐えられることができれば、あの子を見逃してやってもいいよ」
自信に満ち溢れた声。それが何より恐ろしい。
効き目はすぐに現れた。
「んーっ!!んんーーっ!!(丸文字)」
熱い。
喉が、体が、焦がれるように熱い。
全身に熱い感覚が迸っていく。
その中でも、とくに股間が熱い。
熱くて熱くてたまらない。
腰がくねり、
耐え切れないかのようにもぞもぞと身をよじらせる
胸の突起は硬くなるとビンビンに勃起した。
ビクビクと体が振える。
そしてその疼きに呼応するかのように、
秘所は肉棒を欲しがっているようだった。
(こんな…こんなことあるはず…)
心の中で必死に首を振ってクランは否定したが
赤く染まったその顔は快楽を表し その体もまた快楽に流されるように悶えている。
歯を強く噛んで湧き上がってくる欲情に耐えてはいるが、
それでもどうしようもなく股間の熱さだけは増していく。
秘所からトロトロと愛液が流れだした。
それは止めようとする意思に反して、
何かを欲しているようにどうしようもなく止まらない。
「なんだ?もうダメなのか?」
「はぁっ!…はぁはぁっ!はぁはぁっ…はぁっ、こ、こんなことで、負けないもん…」
「エヘヘ。そう言ってられるのも今だけだよ」
欲望を抑えようと、熱を冷まそうと、激しい呼吸が繰り返される。
「んんんんんっ!あふぅっ!!」
秘所からのありえない刺激に、甘い嬌声をあげ快楽に体を震わせる。
理性と快感の狭間で悶える。
焦れったい。
動かない体が本当に焦れったい。
秘所の感覚も焦れったい。
もしこの腕が動けば
指はすぐにでも秘所を嬲るだろう。
―――何を考えてるんだ!?
いくら得体の知れない薬のせいだとはいえ、
こんなデブの目の前でイカされようとしている事に対して
激しい恥辱感、嫌悪感、悔しさを感じずにはいられない。
頭では快楽を否定しようとするが、肝心の体が全く止まろうとしてくれない。
全身が性感帯にでもなってしまったかのような感覚。
体は刺激を捜し求めるかのように激しく震え、暴れ、
そして秘所の媚肉もまた切なくピクピクと震え愛液を垂れ流す。
媚肉は自分を満たしてくれる者の存在を今か今かと待ち焦がれている。
「あっ、あっ!はあっ!もうっ…うっ!うん!あはぁ!はぁはぁ…はぁはぁ(丸文字)」
「クランちゃん!ダメェ!」
わかってる。わかってるけど体が。
「フフフ。さてとそろそろいいかな?」
頃合を計ってデブが動いた。
「どうだい?そろそろ僕のペニスが欲しくなってきたころだろ?」
「うぅん、おちんちん欲ちいのぉ…クランのおまんこに早くいれてぇ………(丸文字)」
クランは恍惚の表情でそうつぶやいた。
それは幼女がおねだりをするかのような素直な行動。
「クランちゃん!?」
「棗さん!?」
少女達が驚きの声を漏らす。
…驚きはクランも同じ。
いや、自分の口から発した分、ハカナ以上に今の一言が奇怪だったと判る。
(口が勝手に何で?)
クランは確かにあんなこと言うつもりはなかった。
いや、思っていても絶対言わない。
「フフン。よく聞こえないなぁ。何をどこに出して欲しいんだ!?もう一度言ってごらん!?」
クランは恥ずかしそうに…けれども嬉しそうにハァッ、ハァッと短い吐息を何度か吐いた後、
「わたし…おちんちんに…毎日たくさん犯されたいのぉ…ハァハァ
おまんこに…ハァハァ…クランの…おまんこの中に射精してぇええ(丸文字)」
口がパクパクと動き、あり得ない言動、あり得ない丸文字を発していく。
クスリはどんな処女や幼女でもエロく堕落させるものだった。
「アハハハ…この淫売め!そんな言葉を口にして恥ずかしいヤツだな」
「ハァッハァッ!いいのぉ。クランとってもえっちないけない女の子なんですぅ。
だ、だからぁ!お、お願いぃぃ………は、早くクランのいけないおまんこいじめてぇぇぇ!!
…おまんこダメ!!クランのおまんこ耐えられないよぉぉ!ハァハァ!(丸文字)」
「やだね」
「エ!?」
真の恐怖はこれから始まる。
「幼女の臭いおマンコなんかに僕の清潔なペニスを挿入なんかしたくないからね。
それに僕のペニスはクマリたんだけもモノだと決めてるんだ」
それは、クランにとって断崖絶壁から突き落とされるような恐ろしい意味だった。
「はぁはぁはぁ…そんないじわるしないでぇぇぇヨぉ。
クランいい子になるよぅ…もう絶対悪いことしないからぁ…。
だから…はぁはぁ…い、………いれてぇぇ…おねがいですぅぅ…。
も…ん…んぅ。ぁ…おまんこ…だめぇ…もうだめぇ…おまんこ耐えられない…ぁぁぁ(丸文字)」
爪で地面を掻き毟る。体はこんなにイキたがってるのに、
目の前の男の行動はクランにとってあまりにも非情。
薬によって高められているクランの性感は止らなることを知らないというのに、
デブの行為は、クランにとってどれほどの拷問か。
激しかった呼吸は、苦しみのものへと変わっていく。
これ以上の秘所の空腹にはどうやっても耐えられそうにない。
これをなんとかしないことには、このままではまず精神(こころ)の方からこわれてしまう。
つまりは発狂。
そして、それこそがデブの狙いだった。
デブはクランが発狂するのを待っている。
その症状は確実に現れる。
「ああっぁっんああ!あがああああ!ぐががががが!!チンポよこせェーーーーっ!!!」
たった一刺し、ただそれだけでクランの心は救われるというのに、デブは何もしようとしてくれない。
ハカナが叫んだ。クランの意識を呼び戻そうと。
「クランちゃん!あきらめないでぇ!そんなクスリなんかに負けちゃダメェ!」
そんな応援など無意味だと言うように、
「アハハハハ!あのクスリを投じた以上もうどうやっても助からないよ。
このクスリから無事だった幼女は誰一人としていないんだ。
どれだけの幼女がこの責め苦を前に発狂して死んだことか…。
だからこいつも例外なくここで死ぬんだよ。エヘヘヘヘヘ」
「そ…そんな………クランちゃん!クランちゃーーーん!!」
「棗さん!気を強く持ってっ!そんな幻覚に惑わされないでっ!!」
体が熱すぎる。
手足の感覚が麻痺していく。
体中に熱さからとしか思えない痛みがかたまっている。
意識を眉間に集めて、ぎゅっと絞っていなければ耐えられない。
呼吸を整えるなんて無理だ。
落ち着いてなんていられない。
暴れたい。
壊したい。
身に纏う服をビリビリに裂き、
全身を掻き毟り、赤に染めてやりたい。
手足にまとわりつくポカポカさえいなければ…。
何もできないから、状態はどんどん悪化していく。
だが、この痛みも、この苦しみも、あと数秒の内に終わるのだろう。
全ての神経が限界を超えて糸が切れるようにラクになるだろう。
それに対する、打つ手などない。
あきらめるという感情は、ほんの一瞬。
後は頭の中に暴力に支配され、何もわからなくなっていく。
だがその時。
―――こんなことで負けるなクラン。
(エ…?)
その時、クランの中に救いの神が降り立った。
―――今助けてやる
(そ、その声は…??)
―――いくぞクラン
(うんっ!)
生き残ろうとするクランの本能が彼女の体をプッシュした!
クランの運命が大逆転を引き起こす。
ずぶうっ!!
「ひぐっ!んんんっ!すごぃぃぃ。
あはぁあああ!!お兄ちゃんすごいぃ!(丸文字)」
「ん?」
「エ!?」
「棗さん!?」
ぬちょぬちょっと結合部から音がする。
クランの秘所からは大量の愛液が溢れ出していた。
膣内も、責め立てに呼応するかのようにぐぬぐぬとうごめく。
「な、なんだ!こいつ!?いったい何をしているのだっ?」
あるはずのないクランの反撃に、焦りだしたのはデブだった。
「もっともっとぉぉ!はやくぅ!!!(丸文字)」
そう、体が動かないクランに唯一できることは、錯覚することだった。
幻想によって作り出した肉棒によって、自らの秘所を貫いたのだ!
ずちゅずちゅ!
「バ、バカな!?こんなことがっあって!」
これはもう脳内設定などという生易しいものではなかった。
ギュギュギュ!
そう、これが妄想なものか。現に秘所は音をだして喜んでいる。
クランの妄想は事実など変えたのだ。
精神の方から、すでに犯されているという結果をだし、肉体がその信号を受け取る。
信号を受けた肉体がそれに応じて反応する。
クランのやっているのはつまり、肉体と精神の刺激の向きが本来と逆だということ。
精神が犯されているという結果を出している以上、体は犯されてなくても犯されている。
それは絶対だ。
ポカポカに手足を封じられていようと関係ない。
あらゆる妨害、あらゆる事実を突破する精神の力。
もちろんクスリの力があるからこそできる芸当だった。普段はこんな真似は絶対できない。
ともあれクランは発狂の危機を乗り切った。
クランの猛反撃は続く。
新しい力に目覚めたクランとって、もはやクスリの魔力など恐るに足らず。
先ほどまでの苦痛は、すべて快感へと変わっている。
後は夢心地で、めくるめく快楽に酔いしれていた。
想像した棒を秘所に何度も突き刺しては引き、また突き刺してを繰り返しながら奥へと進んでいく。
一時の休むもないまま何度も何度も責め立てる。
要領を得だすと、形状も太さも長さも早さも全てがクランの思うままだ。
後はその中から自分にあったものを選択し、ひたすら官能の渦に引きこまれる。
もう今なら何をされても気持ちいい。
もはや抉れた肉による全身の痛みさえも快楽にすりかわっていた。
膣からの刺激とあいまって、耐えがたい感覚がクランの体内に生まれ、
あまりの性感に、たまならくなったクランはついに声を上げた。
「お、お兄ちゃん!もうだめぇ!!んっふぅ!んんんっ!ああっ!すっごく気もちいいよぉぉ(丸文字)」
哀願の声。
目が大きく見開いて瞬きすらできない。
口からは、だらしなく唾液が垂れ続ける。
涙を流しながら、身体をびくびくと震わせ、我を忘れてよがり狂う。
それはデブにとっては敗北を意味していた。
「こんな…こんなことがあるはず…
僕のクスリは完璧のはずだ。…こんなバカナことがあるはずがぁ!!!」
デブは頭を抱えて錯乱していた。
それに追い討ちをかけるようにハカナがビシッと指を突き立てる。
「ほらっ!クランちゃんはそんな変なクスリなんかに負けたりしないんだから」
「くっ!!」
「そうです!棗さんはあんなクスリなんかで精神が壊れてしまうような
弱い人間じゃありません!あなたの負けです」
「ぐぬぬぬぬっ!!黙れっ!黙れェっーーーー!!」
二人の言葉がデブを絶壁へと追い詰めていく。
その脇では
「あはっああああいあはやああ(丸文字)」
クランが呂律の回らないあえぎ声をあげている。
頭の中で処女が貫かれたのだ。
その感覚で、全身の震えは痙攣に変わる。
「あぁん…んッ…っぅ!…も、もう……あ、ぐぅぅ!!」
子宮の中を獣のような激しさがうごめきだす。
それが、なんともいえない快感で
履いてるスカートはとうにずぶ濡れだ。
「あふぅ…おねがいぃ、も、もうイクぅ…ああっ、
イくイクぅ!い、イっちゃぅぅぅぅ!
お兄ちゃんのクランの中にいっぱいだしてェェ!!!(丸文字)」
理性を完全に失ったクランは、無我夢中で腰を動かした。
そしていよいよ最後の仕上げへと入る。
自己の快楽をひたすら貪っていくのは動物本来の姿。
今のクランは女の子ではなく一匹の雌犬。
「や、やめろおおお!そんなことをすれば…うおおおお」
デブは夢中で叫んでいた。
クランの行為を止めようと…焦りと同様の混じった声で。
だが、クランは、
「あひゃああああああああああーーー!」
びしゃあああああああ!
ついに最高潮を迎えた。
秘所に指一本触れることなく、
とうとうクランは想像だけで絶頂に達したのだ。
そのまま崩れる落ちるように横になった。
肩で息をしながら絶頂の余韻にひたる。
「はふぅ…はふぅ…」
クスリの効果が切れたのだ。
ポカポカ達を跳ねのけて、バッと起き上がる。
体の痛みは治まってた。
「あ…ああああ…」
デブは目の前の事態にただ愕然とするだけだった。
「どうだ。乗り切ったぞ!私の勝ちだ!!!」
その顔とは不釣合いにスカートの中からはまだドボドボとものすごい勢いで愛液が零れている。
足元には透明で粘着性のある水溜りができていた。
「ぐぬっ………バカな…こんなことが………こんなことがあるはずがぁ…」
あくまでデブは敗北を認めようとはしなかった。
投じた時点で運命を決定ずける、使えば『あらゆる幼女を発狂させる』薬。
それは誰にも防ぐことができない。
幼女がどんな回避行動を取ろうと、あの薬は必ず発狂させる
―――故に必殺。
確実に命を奪う悪魔の薬。
が、クランはそれを乗り切った。
発狂寸前までいったものの、強い心で乗り越えた。
ある意味デブにとってクランの行動は不可思議そのもの。
よほどの幸運か、あの制服に薬の呪いを緩和するだけの加護があったのか。
―――ともかくクランは必殺の名を地に落としたのだ。
「はーはー」
乱れた呼吸も整われ、あれだけ流れていた愛液は止まって、開かれていた秘所さえ閉じていく。
ケタ違いとはこうゆうものか。
クランの精神はデブのそれを圧倒的に上回っている。
「あんな薬で私は倒れないもん!」
「あなたの負けよ」
「棗さんの勇気の勝利です」
言葉責めに、ワナワナと肩を奮わせる。
こんな事実は許さないとばかりに。
ぎりっと、辺りに響くほどの歯ぎしりを立てて
「うるさーーーーいっ!このメス犬共が!
あのクスリから生き残る幼女の存在なんて!
認めん!こんなことは僕はこんなこと絶対に認めんぞぉ!!」
デブの最後の抵抗が始まった。
怒りは臨界点を超えていた。
こんな時どんな顔をすればいいのかわからないが、とりあえず怒ることにしたのだ。
死にそうな恥ずかしさはなんとか怒りで抑えていた。
怒りからなのか、羞恥なのからか、顔はこれ以上ないと言うほどに赤い。
「ディープ=ハンマー!!!」
地の底から響く声。
そしてデブとクラン!最後の決着。
ズプズプズ!
「エ!!」
まるで瞬間移動。
ディープ=ハンマーが足元からクランの目前に現れ、その体をがっしりと抱きしめた。
そして再び地面の中へ潜って行く、クランの体ごと地中へと沈んで行く!
「!?」
「アハハハハ!ディープハンマーは自分だけでなく
掴んだものごと原子を通り抜けられるんだよ!」
デブはこのままクランの体を地面の下に生き埋めにするつもりなのだ。
「ク……………!」
掴もうする地面は掴めない。
原子を通り抜ける以上、どうやっても沈んでいく体。
太平洋のド真ん中で鉄球を足に付けられたように、どうしようもなく体が沈む。
「クランちゃん!!」
ドプン。
クランの存在はこの地上から完全に消えた。
「クランちゃん!クランちゃん!クランちゃーーーーん!!」
「あーーははははは!どうだ!恐れ入ったか幼女!ざまあみろ幼女!!」
「そ、そんなぁ」
ハカナとチフユは背中には針のような悪寒がした。…漏れそうな悲鳴を懸命にこらえた。
しかし、錯乱したデブなど、もう既にクランの敵ではなかった。
いや、あの薬を破られた以上、もうデブに勝ち目などはなかったのだ。
次の瞬間、地面の上が大きく揺れた。
「な、何だ!?」
水の上にもびりびりと衝撃が波紋となって響き渡ってくる。
ポトッ
「ぎっ」
突然デブの両耳が削げ落ちると、目、鼻、耳………顔中の至る穴から血が噴水となって飛び出した。
「いぎいいいいーっ!」
獣の咆哮。
何が起こったのか、ハカナやチフユにはまったくわからなかったが
ただ、クランが何かをしたということはわかった。
「…あ、あれ!」
チフユがカン高く叫び、びしっと指差した。
丘の上にはクランと、その後ろで魚のようにビチビチと跳ねるディープ=ハンマーの姿。
「棗さんだわ!」
「ク、クランちゃん!」
ハカナとチフユは顔を合わせ、抱きしめあって喜んだ。
「ひぃ…ひぃ…」
デブはよつんばで必死に逃げようとしているが、クランがそれを許すはずがなかった。
ボグゥ(金激)
「……ひぐっ!」
まずはデブの足を止めた。
「耳と目をいうレーダを失った以上もうオマエに勝ち目はない!
…と言ってももう聞こえないか」
「ひ…ひぃ!ご…ごめんなさい…ごめんなさい…もう悪いことはいたしません…
もう幼女をいじめたりなんかしません…許してください」
「ぐぐぐ…さ、さっきから聞いていれば…い、いったい…だ、誰が…よ…幼女だと?」
ミシミシした血管が浮き立つが、今はまだ耐えていた。
「すいません幼女様。ごめんなさい幼女様。もうしません幼女様!幼女様!幼女様!幼女様!」
デブは幼女を連発し、それがライオンの尻尾を踏んでることなど気づいていない。
ブッチン!
クランはデブからカードを取り上げると、先ほどの薬を召喚して、
約10数錠をデブの口へと押し込んだ。
「いひぃぃい!あふぅ…ひぎひぃぃ(丸文字)」
「フンだっ」
プンスカしながらクランは去る。
「ま…まってェ…お、おいてかないで…ああああ…ぐががががが!やめっやめぇ!(丸文字)」
放置されたデブは、後はひたすら悲惨なだけだった。
機転。
一瞬の閃き。
とにかくクランは勝利した。
あの時。
地中の中。
手に持っていたアイテムカードを召喚し。
そして即座に両耳を閉ざした。
タイヤの中には空気がパンパンに張り詰めていた。
物質間を泳ぐために使用するディープハンマのスクリューがそのタイヤに大穴を開けたのだ。
張り詰めた中の空気が一気に大爆発。
そして、パァァァァァン!と
―――その夜は晩餐会。
パチパチと焼けた魚のいい匂いが漂っている。
手に入れた大量の魚はひさびさのまともな食料だった。
「それじゃあタイヤをパンクさせてその音で倒したのね」
「うん。ディープ=ハンマーは物質間を潜行するときは音で探知してるから、
それを利用したんだ。耳がいいってのも困り者だね。
とにかく、うまくいってよかったヨ」
「ふーん」
デブからはディープ=ハンマを含め全てのカードを回収した。
どうせデブのカードなど、血と愛液で塗れたものだろうから奪うことに対しては何の躊躇いもない。
それでもカード一枚一枚に込められている命は確かなものだ。
これでクラン達のカードはちょうど80枚。
「くんくんくん。じゅるる」
「もう、クランちゃん。まだ焼けてないから手をつけちゃダメよっ!」
「そ…そうだ。ありがとうハカナ…」
クランは突然とお礼をいった。
「エ?」
「あの時…意識はどこか遠くにいっちゃいそうだったけど
ハカナの声だけはずっと聞こえてた。
ハカナの声が私を呼び戻してくれた。
ハカナのお陰で戻ってこれた。
ハカナがいたから私は助かったんだよ!」
「ク、クランちゃん」
「だから…ありがとう」
おじぎをしようとしたが、フラフラとして真っ直と腰が曲がらなかった。
それは軽い貧血だった。
そんなクランをハカナは抱きかかえ。
「たくさん…食べてね。…血を肉をとらなくちゃ。…早く元気になってね…」
「………うんっ!いっただっきまーす」
ガツガツとクランは魚を頬張りだした。
「おいちい!」
「でも、あの時のクランちゃんスゴかった………もうすっかり大人の女の子だね」
「ーーーーーッ!!!!!」
「な、夏樹さん…それは言っちゃ…!」……
「………あっ………」
遅かった。
目の前の幼女の目は涙で潤んでいる。
クランの体はふつふつと赤くなり
ふるふると肩を震わせて―――。
「ハカナのバカァ!ブッ殺してやるっ!!」
「いやあ!ごめんなさいクランちゃん」
平和な晩餐会は、殺伐としたものに変わってしまった。
続きます。
あと3〜4回は。
いつもながら乙です。
そろそろママさんの輪姦殺害シーンを期待していいのかな?
゜ ゜
( Д )
新作きてた!
そうか、クランたんもとうとうバキや勘九郎と同じところまで到達したかw
>321
ママさんパパさんの、あのキャラクターをここで壊してしまうのはちょっと惜しい気がしないでもない。
(お兄ちゃん…!)
夢を見ている。
血が熱を帯びて体中が脈動しているせいだろう。
毎日思い出す光景を、またこんな風に繰り返している。
それはクランにとって、一番強い記憶だった。
おそらく一生切り離せない記憶である。
決して忘れない1年前の光景。
眼球に血が染み込んだかのように、全てが反転した一瞬。
忘れられるはずがない。
クランにとってそれは突然に起こってしまった出来事だった。
思い出すだけで目眩が。
吐き気をともなってこの身を打ちのめす。
それは特別な痛みを持っている
胃が蠕動する。
感覚が逆さまになる。
殊更な怒りに全身が震える。
過ぎ去ってしまったことはもうそれだけの話だ。
やり直すことも、引き返すこともできない。
誰に教えてもらったわけでもない。
ただ漠然と幼いころから思っていた。
兄が死ねば自分も生きてはいられないと。
しかし、クランは今もこうして続いている。
生きているクランにできることはただ前を見ることだけだと分かったのだ。
過去を忘れず否定せず。
ただ肯定することでしか、失ったモノを活かすことなどできないのだと。
ならばクランにできることは一つ。
故に、恐れの前に。
怒りだけがクランの体を支配した。
クランの体の中で熱さが目覚めた。
クランは深い霧の中にいた。
(ハレ………ここはどこだろう………?)
知らない景色。知らない世界。
あたりは白いもやのようなモノに包まれていて何も見えない。
クランはハカナとチフユと一緒に洞窟で休息をとっていたはずだ。
ここも森のどこかなのだろうか?
真夜中のはずなのに、空には月も見えなかった。
「ハカナぁーーー。チフユーーーっ!」
呼びかけに対する返事はない。
(…私…また……独りぼっちなの…ぐすん…)
一人だとわかると寂しくなって、目にはうっすらと涙が浮かぶ。
がっくりとうなだれ、視線をおろすと、
「いやぁ…!ナニ!このカッコ!?(丸文字)」
幼稚園児の制服姿になっていた。
胸には「ほしぐみ なつめ」の名札。
肩からは子供がぶらさげるようなカバン。
丈の足りないスカートからは、オムツのような下着が見えている。
「ぐぬぬぬぬ」
もう怒りをこらえるだけで精一杯だ。
自分にこんなことをさせて喜ぶなんて、間違いなくヘンタイの仕業だ。
それも超がつくほどの。
ジャリ。
背後から忍び寄る物音に、クランの目つきは鋭くなった。
「よく似合うぞクラン」
「キ サ マ か ぁ ! ! 」
クランが振り返る。
それはもう噛み付かんとばかりの勢いで。
瞬間。
全てを忘れた。
「どうしたんだ?クラン?」
ただ、呆然とたたずむ。
目の前の事態が信じられないように。
「クラン?」
暖かい光が結集したかのような男の姿。
体が震える。
それが喜びによる震えなのはすぐにわかった。
いけない。
クランがあんまり彫像のようにピクリとも動かないものだから、男は動揺している。
男の瞳はクランの動きを監視し、指先の振えまでも捕らえている。
冷たくはない。
むしろ穏やかで、クランの体が、心までもが暖かくなっていく。
背が高く、清楚な顔つきの誠実そうな男。
汚れなど微塵も感じさせない白いコート。
彼はヘンタイなどとは無縁に、光に満ちている。
クランはゆっくりと震える声をだした。
「お、…お兄………ちゃん………?」
言葉にした途端、
目にばっと涙が溢れた。
喜びに心が耐えられなかった。
体は自然に男の胸に飛び込んでいた。
「うわぁぁぁん!」
「おいおい。どうしたんだクラン?」
「お兄ちゃん!会いたかったよぉ。寂しかったよぉ!うわあああああん!!」
「俺もだクラン」
お兄ちゃんと呼ばれた男はクランの頭を撫でる。
いや、少し違う。力加減がわからないのか、撫でているというよりは
頭を鷲掴みにしてグリグリとまわしているという表現の方が近い。
それも当然だろう。この兄妹を隔てた時間はそれほどまでに長すぎた。
「私を置いてどこにいってたのよぉ!ひどい!ひどいよ!お兄ちゃん!うえぇぇぇぇん(丸文字)」
「すまなかったクラン」
「怖かったよぉ!お兄ちゃんがいない間に、みんな私にひどいことばかりして…
いっぱい、いっぱい、ひどい目にあったんだからぁ(丸文字)」
「そうか。ケガはなかったかクラン?」
クランは元気よく、うん、と答えた。
「ぜんぜん平気だヨぉ。お兄ちゃんの顔みたら痛いのぜーんぶ吹き飛んじゃった」
「そうか」
お兄ちゃんは一度だけ傾くと、優しく笑みを浮かべクランの体を強く抱きしめた。
「これからはお兄ちゃんがずっと一緒にいてやるからな。
もうオマエを独りぼっちになんか絶対させない」
「う、うんっ!お兄ちゃん大好き!(丸文字)」
男はもう一度、くしゃりとクランの頭を撫でた。
その感触が本物だと理解すると、クランは鼻水を垂らしたまま、さらにあんあんと泣き続けた。
―――クランはお兄ちゃんが大好きだった。
お兄ちゃんとしても優れ、カード使いとしても優れた人物。
優れたカード使いというのはヘンタイが多い。
その世界において、お兄ちゃんほどの人格者はいないだろう。
彼はクランにカードの使い方を教え、お兄ちゃんとして愛してくれた。
だから決めていた。
世界で一番大好きな人は誰かと聞かれたら、胸を張ってお兄ちゃんと答えようと。
―――遠い昔の記憶。
空は黄昏。
クランは窓からそれを眺めていた。
広い空。高い野原。
手を伸ばせばつかめそうな空。
手を伸ばせばつかめそうな雲。
放課後のクランはいつも独りだった。
友達はいない。
彼女の周りには誰もいない。
寂しいという感情は沸き立たない。
クランにとって、こんな光景は日常だった。
心には何もない。
―――よぉ。棗ェ。まだ残ってたのかよ?
―――ママとパパの待つお家に帰らねーのか?
―――おいおい。可愛そうだろ?こいつんち、夜になるまで誰もいねーんだぜ
―――う、うるさぁい!!
―――あっ?なんだ?やる気か?
―――ドカッ!バキッ!ドゴッ!
―――ケッ!棗のクセに。これに懲りたらもう俺たちに逆らうんじゃねーぞ。ペッ!
―――うっ…うううっ!うわぁああん!お兄ちゃーーーん!!!
誰もいない家に帰るのが怖かった。
だから、ただひたすらにお兄ちゃんが帰る時間を待って、
そして独りで家に帰る。
それがクランの経験してきた戦いだった。
―――やーい!やーい!今日も待ってんのか?泣き虫クラン
―――ブッ殺してやる!
―――わっ!オマエ!そんなもの持ち上げて何を……や、やめっ!わあ!!
その机を持ち上げたときから、クランの人生は変わった。
泣いて謝っても、机で殴り続けた。
イジメッ子の顔は赤くはれ上がっていた。
その行動はみなを恐れさせ、クランの評価を一変させた。
クランは強がりで意地っ張りな性格だった。
泣き言など許されなかった。
小さな体でイジめられないようにするには、ハリネズミなる必要があった。
話しかけて来る者は目じりを鋭くして睨み返す。
近づく者にはイスや机をブン投げる。
触れる者にはカバンをブン回す。
不条理に怒っては、他人を遠ざけた。
その繰り返し。
粗暴。乱雑。生意気。凶暴。
普通一般人から見たクランのイメージはそれだった。
無論、戦うことが好きだったわけではない。
だが、自分の身を守るにはそうするしかなかった。
小柄すぎる体。幼女としかおもえない顔つきにも負けず、
そうして強く生きてきた。
ある日のことだ。
”棗さんは女の子のくせに乱暴すぎです”
とうとう、みんなの前で担任に叱られた。
クランはただ外敵から自分の身を守っていただけなのに。
こんなキレやすい子と、一緒に授業できるはずがない。
誰もがそう思っていたのか、クランを擁護する者はいなかった。
その中にはイジメられてたから助けてあげた子もいたのに…。
何も知らないくせに、周りの状況だけで判断する担任の態度にクランの心は再びキレた。
”うるさぁーい!担任だからってエラソーになんだぁ!”
そうして誰もクランに近づくなくなり、
心はどんどん孤立していった。
クランは心を鉄にした。
そんなクランが誰よりも寂しがりやの甘えん坊だと知ってるものはお兄ちゃんしかいなかった。
クランの本心をわかってくれるのはお兄ちゃんだけだった。
お兄ちゃんだけがクランの味方だった。
クランにはお兄ちゃんだけが全てだった………。
心が落ち着くと、青いベンチに二人で座る
ベンチはそう大きいものじゃない。
隣に座った二人は少し体を傾ければ肩が触れるほどの近さだった。
「独りで寂しくなかったかい。クラン?」
「大丈夫だよ。だってハカナがいたもん」
「ハカナ?」
「………うんそう。夏樹ハカナっていうの。
お兄ちゃんがいない間、とっても親切にしてくれたんだ」
「へぇ。それじゃあ今度お礼を言わなきゃいけないな」
「ハカナって、おっぱい、すんごく大きいんだよー」
「それは是非とも、お礼を言いに行かなきゃいけないネ。フフフッ」
「ああっ。今、おっぱい大きいって聞いて変な期待したな!お兄ちゃんのエッチ!」
「そりゃ、いつもクランのペッタンコな胸ばかり見さされてたからね。
大きい胸が恋しくもなるさ」
「な、何よぉ。どうせ私のは小さいですよーだ。お兄ちゃんのバカぁ!プンプン!!」
お兄ちゃんから視線を外し、つんとした表情で頬を膨らませる。
「アハハ…怒るなよクラン。ごめん。今のはお兄ちゃんが悪かった」
「フンだ。今更謝ったって許してやんないっ」
「…ふぅ…やれやれ…クランは昔からワガママで言うこと聞かない子だったからなぁ。
その子がクランの育児に頭を悩ましてた姿が目に浮かぶよ」
「そ、そんなことないもんっ!私とっても良い子にしてたよぉ!」
「ホントに?」
「…え…えと…その…………たぶん…」
「ダメじゃないか、クラン。あんまり迷惑かけちゃ…」
今度プンスカとしたのはお兄ちゃんだった。
「うぅ…ごめんなさい…」
「これからはその子の前でも良い子にするんだよ。わかったねクラン」
「うん。私、一生懸命良い子にするよぉ(丸文字)」
「まぁでも、クランが寂しい思いをしてなくて安心したよ。
お兄ちゃんそれだけが気がかりだったんだよ」
一年ぶりに再会した兄妹は、あまりにも容易に打ち解けた。
クランは色々なお話をした。
「………それでね、それでねお兄ちゃん…」
学校の話。普段の生活。近辺の状況。困ってること。
とにかく何でもかんでも思ったことを話した。
お兄ちゃんはニコニコしながら、ただクランの声だけに耳を傾けてくれた。
ところが気がつく度に、話はハカナのことに戻っていた。
どんな話をしても必ずハカナがでてきてしまう。
―――あ、あれ?おかしいな?
これじゃあ何だか、お兄ちゃんにハカナのことを紹介してるような………そんな気分にもなった。
―――でもいいや。幸せだから。
「…でね、でねっ、そこで、『クランちゃんのお姉ちゃんになってあげる』って言ってくれたの」
「ふふっ」
「な…なによぉ?今の感動するところだぞ!」
「いや、クランはその子のことが本当に大好きなんだな、と思ってね」
「うん!私ハカナお姉ちゃんのこと大好きだよ!」
「よーし。それじゃあハカナお姉ちゃんとお兄ちゃん、どっちの方が好き?」
「エ…」
ありえない質問に一瞬、思考が止まった。
もっともクランの答えは産まれた時から決まっている。
「そんなの、お兄ちゃんに決まってるヨぉ!!!(丸文字)」
「よーしよし。そうだ。久しぶりに背中撫でてやるぞクラン」
「エ?ホント?(丸文字)」
「クランは昔から、ここを撫でられるのが大好きだったもんな」
「ふにゃーん(丸文字)」
あまりの気持ちよさに、猫撫で声を上げる。
ハカナには悪いが、やっぱりお兄ちゃん魅力にはまだまだ敵わない。
まぁ、一瞬でも顔が浮かんだだけ健闘したほうだ。
いつしか体は傾いて、お兄ちゃんにその身を委ねていた。
お兄ちゃんは何も言わずに優しくそっと肩を抱きしめてくれた。
暖かい。
両親を早くに失ったクランにとって、お兄ちゃんはパパでもありママでもあった。
「お兄ちゃん…それで私ねェ…」
心はこの上ない幸福感の中に包まれていた。
今なら自分が虹の中にいることもわかる。
この時が永遠に続けばいいのに。
そんなことを思ってた。
「そ、そうだ大切なこと忘れてた!」
「どうしたんだい?クラン」
「私16歳になったんだよぉ!(丸文字)」
「そうだったな。そうか。クランも、もう16歳か」
「へへーっ」
クランが両手を差し出した。
「プレゼントちょうだい」
「エ?」
身に覚えのないことに、お兄ちゃんはびっくりしたようだ。
「んもうっ覚えてない。だからプレゼントだよぅ。16歳の誕生日!
あの時お兄ちゃんいなかったじゃん」
「あ…ああっ。でも何か、ずいぶん今更だな」
「はぁー…お兄ちゃん乙女心がわかってないゾぉ。
いい?女の子にとって16歳ってのは特別な年齢なんだヨ。
少女が大人に変わる瞬間なんだからぁ」
「う…うーーーん。でもクランは少女っていうより、よう……」
「キィィーーーー!」
「あーー。な、なんでもない…えーとプレゼントプレゼント。何かあったかな」
ポケットの中をガサガサあさる。
(フフー。お兄ちゃんあんなにあわてちゃって)
なんだっていいのだ。
たいした物なんて期待していない。
お兄ちゃんの気持ちさえこもっていれば、例え道端の雑草であっても嬉しい。
「あぁ…ごめんっクラン。今プレゼントできるようなものないよ…」
「ダメェ!今すぐちょうだい…」
急かすように、クランは駄々をこねた。
お兄ちゃんの顔つきは本気で困っているようだ。
「そ、そんなこと言われてもなぁ…」
「お兄ちゃんはやくぅ!わたし待ちきれないヨ!」
「しょうがないなぁ……それじゃあクラン。キスしていいか?」
「………………………………………………………エ!?」
こともあろうにとんでもないことを言い出した。
10秒ほど…思考が止まった。
お兄ちゃんは昔からたまにこうやって悪ふざけを言っては、クランの顔を赤面させようとする。
こんなとき16歳という年齢は困った。
心の成長期なのか、お兄ちゃんの言葉にドキドキした。
何気ない仕草、お兄ちゃんの顔がカッコよくみえて、顔を逸らしてしまう
クランは本当に参った。こんなことは初めてだった。
お兄ちゃん相手に何を緊張しているんだと。
そもそも、目の前の男はお兄ちゃんではないか。
お兄ちゃんはあくまでお兄ちゃんであり、面倒をみてくれる年上だ。
クランとお兄ちゃんとの関係は、兄妹にすぎない。
問題はクランじゃなくて、お兄ちゃんにある。
素直に言えばお兄ちゃんは美形だった。
クランの知ってる男の中ではダントツだし、学生時代にはチェックしてる連中も多かっただろう。
一緒に町を歩いても、女の子がよってくるし、
やきもちというか…そうゆう連中はクランがすぐに噛み付いて追い返すのだが、
クランというコブさえいなければ今頃多くの女性に取り囲まれていることだろう。
お兄ちゃんにはいい人と幸せになってもらいたいが、
心のどこかでお兄ちゃんが奪われることを恐れている。そんな微妙な乙女心。
お兄ちゃん相手にドギマギしてしまうという後ろめたさがあるんだろう。
普通に話しているとどうという事もないのに、今みたいな不意打ちをくらって赤面するのは
妹として問題があるのではないだろうか…と思ったりしながら………。
クランはお兄ちゃんに返答しようと、心のスイッチを切り替えた。
「も、もう。お兄ちゃんたら、冗談ばっかり…」
「冗談なんかじゃないよ。したいんだクランと。キス」
「……………………………………………………………………
……………………………………………………………………
……………………………………………………………………そ…そう?」
お兄ちゃんの即答に、さらに心が揺さぶられた。
今度はどれだけの長い時間、思考が止まったのかわからない。
「クラン?」
「うぅ…うううう」
返事に困る。
意図が読めない。
「……う……う、うん。え…えと…あの…その……そ…そんなの…ダメだよぉ…………」
思わず仰け反る。
したいのはやまやまだが、兄妹でそんな行為はいけないに決まってる。
それなのに、お兄ちゃんはクランの動揺なんて知らないとばかりに顔を近づけてきた。
不謹慎だとは判っているけど、
肩を抱くお兄ちゃんの感触に心臓が動悸して、冷静な思考ができなくなるというか。
とにかくお兄ちゃんには悪いが、こんなことはできない。その、初めてだし。
なんてごにょごにょと口に出していることにも気づかないほどクランの頭の中は大パニックっだった。
「そうだね。子供のクランには早いよね。アハハハハ」
「ふぎっ!」
やられた…とばかりに顔が真っ赤になる。
(そうか、お兄ちゃんは、ただこれが言いたかったんだな!)
いままで怯えた分だけワナワナと肩が震えた。
悔しさから滲み出る涙。眉がつりあがる。眉間に自然にシワがよる。
(もうーーっ!お兄ちゃんめっ!こんな風にからかうなんて許さないぞっ!
いつまでも私がお兄ちゃんの可愛い妹だと思ったら大間違いなんだからナ!
女の子は知らない間にレディになるんだ!!)
クランの挑戦心に火がついた。
いい機会だ…。いつまでも子どもだと思ってるお兄ちゃんに思い知らせてやる!
お兄ちゃんの冗談に振り回されてたまるかと、クランなりに一生懸命の強がりだった。
「いいよ。じゃあしようよ!」
「エ?」
「16歳っていったら大人だもん。だからキスの一つや二つぐらい全然怖くないもんっ!」
髪をかきあげる仕草。その余裕とは裏腹に心臓のドキドキは止まらない。
「本当にいいんだね。クラン」
「エ?」
声は重い。
両肩を抱きしめられ、ぐいっと体を90度回転されて、お兄ちゃんの顔と向かい合う。
冗談を言っている顔ではない。
見つめあう瞳と瞳。
真っ直ぐ向かい合うだけで精一杯で、
これだけでも顔から火がでそうで、
頭がグルグルと動顛して、
どうしよう、どうしよう、どうしようと、ただそればっかりで。
とにかく余裕なんてものは一瞬で吹き飛んだ。
あ、いや、ここで引いては、それこそお兄ちゃんの思う壺。
やっぱりクランはまだまだ子供だね、とか言われるのがオチだろう。
避けたい。それだけはなんとしても避けたい。
やはり言葉した以上は後には引けない。
クランもなかなか超がつくほどの意地っ張り。
「いいよ。お兄ちゃん。さっさとしよっ!」
なんて言いつつも心の中では
(あっ…まままままま、まってヨぉ!まだ心の準備がぁ!あああ、ああああ!
ダメェ!お兄ちゃんダメェ!こんなのダメーーーェ!(丸文字))
これ以上ないほどに震えていた。
頑丈に目を閉ざし、唇をお兄ちゃんの前に突き出した。
額から汗がドクドクと流れ落ち、
体はガチガチに緊張して鋼のように硬くなっている。
羞恥心は、お兄ちゃんなんかに負けてたまるか、とその一心だけでギリギリ耐えた。
(……こ…これでいいのよね…………)
いくら大人になるためとはいえ、こんなに恥ずかしいことは早く終わらせてしまいたい。
壊れそうな体を必死に抑えつける。
心臓が爆発寸前だ…。
肩を抱くお兄ちゃんの手に力が入った。
(い………いよいよなのね……)
クランの拳にも力がはいった。
お兄ちゃんの口調はそっと優しかった。
「クラン。もっと肩の力を抜いて。そんなに目が潰れるほど強く閉じなくていいんだよ」
クランの腕をそっとなでおろすように、
「エ…?」
「ほら。もっと体を自然に、自然に」
「う…うん?」
「はいっ。一回、大きく息を吸って」
「うう…うん。すうぅぅ」
「はいて」
「はぁー」
兄の言葉に体がほぐされていく感じがした。
いや、この場合ほぐされているのは心だろうか。
「じゃあもう一回」
もう一度深呼吸をしたら、肩から自然に緊張が抜けた。
昔からそうだ。
お兄ちゃんの言うことに従っているときは、不思議と安心できた。
お兄ちゃんの言葉はいつもクランに勇気を与えてくれた。
「どうだい?落ち着いたかい?クラン」
「う…うん」
「怖がらなくていい。大丈夫だよクラン。
外国人が挨拶でやるような、唇と唇が触れるだけの軽いものだから」
お兄ちゃんにはクランの心の震えなど、とうに見抜かれていたようだ。
かなわない。心底そう思った。
お兄ちゃんのおかげで不安も震えも消し飛んだ。
先ほどまで感じていた恐怖は一片もない。
今は安心してお兄ちゃんに唇をまかせることができる。
「う…うん。わかったよお兄ちゃ………んんっ!?」
ほっと安心した瞬間、
唇と唇が触れ言葉は遮られた。
(エ…?エエーーーーーーー!!!?)
油断した途端、とんでもない不意打ちだった。
両者の距離が0になったのは一瞬だった。
目をつぶる暇もないほど一瞬だったから、
キスをするお兄ちゃんの顔が瞳に大きく映ってしまった。
瞳はすぐさまに閉ざしたが、脳に焼きついてしまったお兄ちゃんの顔が離れない。
クランの顔は恥ずかしくて真っ赤にかわる。
漏れる吐息が熱い。
お兄ちゃんの唇を唇で感じて、味はしないのに本当に甘く。
こすれあう鼻はくすぐったくて、堪えるだけで精一杯だ。
このまま、こうしていると心の歯止めがきかなくなってしまうというか、理性が溶かされてしまう。
キスはお兄ちゃんに似て、包み込むような優しさを持っていた。
(こ…これがキスなの…すごいヨぉ…お兄ちゃん…(丸文字))
初めてのキスがお兄ちゃんとなんて、クランにとってこれ以上の誕生日プレゼントはなかった。
クランにとってこの、一瞬は永遠だった。
触れ合った唇と唇はすぐに離れるはずだった。
ずちゅずちゅ。
(んーっ!)
唇が吸われるような激しい口付け。
今まで優しかったお兄ちゃんのものとは思えないほど突然激しさを増した。
肩。肩に触れるお兄ちゃんの手にも力が入る。
次第に腕が、背中に回り、クランの体を強く抱きしめるものに変わる。
(んんーーーーっ!なななな、なに?どうしちゃったのお兄ちゃん!?)
お兄ちゃんの唇は、逃げようとして反り返ったクランを上から強く押さえ込む。
思わず目が開いてしまった。
目の前のお兄ちゃんの顔つきは真剣そのもので、クランの唇を解放する気などまったくない。
(んー!お兄ちゃんの大嘘つき!何が挨拶でやるような軽いものなのよぉ!)
咄嗟にそんな言葉が頭に浮かんだ。
だめだ。こんな感触忘れられなくなってしまう。
唇を放そうとしても、その抵抗は微弱すぎた。
胸を突き放そうとする手はか細く、あまりにも力がない
それで、自分の体がどれほど弱っていたかを痛感した。
あろうことか、お兄ちゃんが舌をむりやり口の中に入れてきた。
(んんーーっお兄ちゃん。そ、それはすごくダメェだよぉーー!(丸文字))
興奮する。クランまでもが興奮して舌を出す。
互いの舌が絡み合い、ぴちゃぴちゃという淫らな音が響く
お兄ちゃんの唾液とクランの唾液が幾度となく交換される音だ。
クランの舌は、お兄ちゃんのなすがままになっていた。
お兄ちゃんは一生懸命にクランの舌に自分の舌を絡める。
舌の刺激は、頭の上からつま先までもビンビンと伝わり、
頭の中がぼんやりと、体中がトロけそうな気分になった。
兄妹でこんなこと…いけないとわかっているはずなのに…感じてしまう。
お兄ちゃんのクセに、なんでこんなにキスが上手いのだろうか。
男の人は何処でこういう事を覚えるのだろう。
子供のクランにはわからないことだった。
ドクン!ドクン!
鼓動が驚くほどに早い。
それに体温も高くて、体中から蒸気みたいに熱が放出され―――。
(…もう……ダメェ……頭がボンヤリしてくぅ………)
思考が回らない
心音だけが高まって。
ドクドクドクドクドクドク
呼吸ができないから心臓が苦しんでる音だった。
息をしたくて、顔を真っ赤にしながら暴れる。
本当に息が止まりそうだから仕方がない。
酸素が…酸素が限界だ。
「ぷはぁ!」
ようやく二人の唇が離れた。
「はぁはぁっーはぁはぁっっはぁーっはぁはぁはぁっ(丸文字)」
二人の口はトロリとした糸で繋がっていた。
「あふぅ…はっ…はぁ…はぁ(丸文字)」
「………ふぅ…ふぅ」
「はぁ…はぁはぁ…はぁ…はぁ」
「…………………ふぅ」
「はぁ…はぁ…………」
脳に酸素が行き渡ると、クランの瞳が一気に潤んだ。
「おっ…お兄ちゃんのバカァ!!触れるだけだって言ったじゃない!!!」
「ど、どうしてくれんのよぉ!!お兄ちゃんのヘンタイ!!!」
怒るけど、あそこまで熱いキスをされると幸福感で満たされてしまったのも事実。
「うぐぅ…ひぐ…こんなの…こんなの……
…ひどい…ひどすぎるよお兄ちゃん………ふぇぇえん(丸文字)」
今度は泣き出した。
クランは嬉しさとも恥ずかしさとも怒りとも言える顔でわんわんと泣き始めた。
悔しくもクランのファーストキスはお兄ちゃんにごっそり奪われてしまったのである。
悔しい、何だか知らないけど無償に悔しい。
お兄ちゃん相手にこんなにも感じてしまったことが…。
もしかしてお兄ちゃんは、クランをわざと悔しがらせるためにキスなんて言い出したのかと思うほどに。
ありえる…。
今までの人生を振り返ってみても、このお兄ちゃんなら絶対ありえる。
そうだ!絶対そうだ。
だから顔が熱いのも、動悸がするのも全部お兄ちゃんのせいだ。
「お兄ちゃんなんてもう大キライだーーーっ!!」
呪いをこめてもう一度言い放った。
まさかお兄ちゃんがこんなディープなキスをしてくるなんて…夢にも思っておらず―――。
とにかくクランの体はダラダラになってしまった。
「アハハ。ごめんよクラン。
本当に軽いキスのつもりだったんだけど。
あんまりクランの唇があんまり柔らかかったからつい…」
「…つ、つ、つつ…ついじゃないヨぉーー!
んもうっ!ぜ、絶対に許さないっ!
もう二度とお兄ちゃんとキスなんてしてやんないんだからなぁ!!!」
顔を赤らめ涙混じりに、バカバカバカッと駄々っ子パンチを繰り返した。
クランは自分でも真っ赤になっているとわかっているほどとにかく顔が熱かった。
それは仕方がない。
初めてなのに、いきなりあんな反則的なキスを受けてしまっては…。
もう本当に頭がぐらんぐらんして。
それなのにお兄ちゃんときたら…。
「やっぱり子供のクランには早かったかな…アハハ。ごめんねクラン」
態度はこれっぽちもかわっていない。
負けた。
完全にクランは負けた。
これでは怒ろうにも怒れない。
熱を帯びた体。汗に濡れた肌。
こんな体で怒っても説得力は皆無だろう。
とにかく呼吸を整えなくては…。
何だってお兄ちゃんはこんな理性を奪うことを…。
「そうだ。クラン。胸は少しは大きくなったか?」
(ーーーっ!だから、今そういう質問はまずいんだってばぁ!)
投げやりのように口が開いた。
「そんなに簡単に大きくなんないよぉ」
「じゃあ、大きくなるようにマッサージしてやらないとな」
(な、何を言ってるのお兄ちゃん!?)
クランの体に湧き上がってきたのは恐怖だった。
お兄ちゃんの暴挙は止まることを知らない。
「ふふふっ」
意味ありげな笑い。
「エエ?ちょ…ちょっとぉ!やぁん。ダ、ダメーーーーッ!(丸文字)」
あの優しかったお兄ちゃんがどうして…?
先ほどのキスがお兄ちゃんの雄としての本能に火をつけてしまったのだろうか?
とにかくクランには抵抗するだけの力は入らない。
「やっ!やめてヨ…お兄ちゃん。きょ…兄妹でこんなこと、くっ…しちゃダメだって…(丸文字)」
「大丈夫。すぐにそんなこと何も考えられないようにしてあげるよ」
(ほ、本当にどうしちゃったのお兄ちゃん!?)
ボタンが一つ一つはずされていく…。
しなやかで洗礼された、よどみのない指使い。
クランは頬を赤らめ、息が乱れた。
体は抗えずお兄ちゃんの意のままになっている。
頭は、実の兄に暴かれるなんて、そんなことがあっていいのかと思い続け。
「お兄ちゃん!やめてよぉ!お願いだから!こんなの、こんなのお兄ちゃんじゃないよぉ!」
言葉の抵抗も虚しく、服の全てのボタンが外された。
素肌が。素肌がお兄ちゃんの目の前で開かれている。
幼稚園児の制服の下にはオムツしかはいてないのに…。
お兄ちゃんはじっと視線を向ける。クランはとにかく恥ずかしい…。
「思い出すな。確かクランは9歳までおねしょが止まらなかったっけ」
「う、う、う、うるさぁーーーい!!」
くすりという笑い声。
鬼畜と化したお兄ちゃんの手が、大切に大切にクランの体に触れた。
「ひゃあ(丸文字)」
「ぁ……ん…だめ、ん、ェ!(丸文字)」
動き出すお兄ちゃんの手は優しく。そして少しずつゆっくり丁寧に。
クランの平面な丘を揉みしだいていく。
「あ、あん…あん、お兄ちゃんのぉ…んっ!手の動き…とっても…やらしいヨぅ…(丸文字)」
くすぐったいような、それでいて気持ちいいような感覚に思わず甘い声が漏れてしまう。
「おっ、乳首が立ってきたみたいだぞ」
「そ……そんなこと…ん…ぁ!いちいちッ…言わないても…くっ………いいからぁ(丸文字)」
「そんなこと言っても、事実なんだから仕方ないだろ」
今度は、クランの胸の先端を愛撫するお兄ちゃん。
「こ、こらぁっ…ぁふっ!……はぁっ!!!」
しかし、先ほどのキスですっかり敏感になっていたクランの身体は、正直過ぎる反応を示してしまう。
「ーーーっ!あっ……ぁ…………ゃ………ぁふっ!ーーだめぇ(丸文字)」
「フフフ。どうしたクラン?興奮してるのかい?」
「あん…!…お兄、んっ、ちゃん…わ…わたし…感じすぎちゃうよ…んくっ(丸文字)」
「クランは敏感だな。どれどれ?下はどうかな?」
「やああ!そこはぁ!(丸文字)」
お兄ちゃんの指はオムツの中まで入ってくる。
接触は優しい。
指がクランの秘所に触れ、優しくなぞるように動く。
「あ…やだ…ゆるして……はぁっ」
太腿の隙間に指をねじりこまれた。
「っーーー!!お兄ちゃんっお兄ちゃんーーお兄ちゃんーーーーーっっ!?」
くちゅり。くちゅり。
淫らな兄妹の交わりを象徴するような淫水の滴りが、オムツの間からこぼれていた。
響く愛撫。
お兄ちゃんに秘所が愛されて。
このままじゃお兄ちゃんの前で壊れそうで…怖い。
「ぁっ…あぁーーーダメェ!…あ、んっ!はうっ…もう…やめて…はぁはぁ………」
「なんだクラン、もうこんなに濡れてるじゃないか。
まったく、クランはいくつになってもオムツが必要だな」
「ん…あっ……はぅ!…そ、それは…
お兄ちゃんがぁ…んっ…ヘンなことばっかり…くぅ、するからだヨぅっ!!(丸文字)」
「ふふふっ」
体が跳ねる、深く折り曲げられた指は三本。
「あやゃああ!!」
暴れないようにおさえつけられる。
「んっ…あああ!……やあっ!!な…なにを…!?やだぁーーーぁああー。
ひゃ…はぁはぁ…く…こんな…の…恥ずかしいよぉ…!…お兄ちゃん………やめてぇ(丸文字)!!!」
「恥ずかしがることはないぞ。お兄ちゃんだって興奮してるから」
「エ?」
そう言うとお兄ちゃんは、股間から一物を取り出した。
「!!!!」
それはペニスと言うにはあまりにも大きすぎた。
大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。それは正に肉棒だった。
何を思っているのか。
クランはまじまじとお兄ちゃんの生殖器を見詰めている。
「くっ!」
涙をこらえる。
クランは、急に真剣な顔突きになり、
バッとお兄ちゃんの腕と指を振り払うと、後ろに飛んでキリッっと身構えた。
オムツ姿で。
「どうした。クラン」
「…はぁ…あはぁ……キ…キサマぁ!お兄ちゃんじゃないな!キサマいったい誰だっ!!!」
妹だからこそわかることがあった。
妹だからこそ知っている事実があった。
それが確信へと変わったのだ。
もう、クランにとって目の前の男はお兄ちゃんであって、お兄ちゃんではない。
お兄ちゃんの皮をかぶったニセモノだ!
クランはびしっと指を突き出した。
「フンッ!声も姿もよく似せたつもりだろうが、私の目はごまかせないぞ!
オマエ唯一の敗因はおちんちんが元気すぎたことだ!
お兄ちゃんはなぁ、疾患ED、よくない言葉を使えばインポテンツ!性的不能者なんだ!!
だからお兄ちゃんにそんなことコトができるはずがないもんっ!!!」
この事実を知るものはクラン以外には存在しない。
ふふーんっと腰に手をあて胸を張る、勝ち誇った表情のクラン。
オムツ姿で。
キョトンとするお兄ちゃんだった男。
だが、男は化けの皮を剥ぐわけでもなく、あくまで冷静だった。
「でもお兄ちゃんは、お兄ちゃんだよ」
「うるさいっ!うるさい!うるさーーーい!
これ以上お兄ちゃんの名を汚すな!
それにお兄ちゃんは私にキスしたり、胸を揉んで喜ぶようなヘンタイじゃないもん!
このニセモノめーっ!いい加減に正体を現せェ!!
ハカナはどこだ!チフユは!ここはどこだ!私を元の場所に返せっっ!!」
「さっきから何を興奮してるんだいクラン?
だから言ってるだろ。お兄ちゃんは正真正銘のお兄ちゃんだよ」
「ま だ 言 う か !」
男の首をキュっと締めるが、男は意外と平気そうだった。
「ただしクランが想像した夢の中の優しいお兄ちゃんだけどね」
「……………………………………………………エ?」
ただの一撃で、思考回路が半壊した。
「そうだよ。このお兄ちゃんはクランの精神(こころ)が生み出したもので、
クランがずっと待ち望んでいた、とっても優しいお兄ちゃんなんだ」
「ま…まって…え…えと…ちょ…ちょっと…なに……」
「だから殴ったりもしないし、蹴ったりもしない。吊るしたりなんか絶対しない。
クランの我侭だってなんでも聞いてやるし、
クランがして欲しいことは何だってしてくれる、
とっても優しい理想のお兄ちゃんなんだよ」
「うううっ…そんなこといきなり言われても訳わかんないよ!…なに…どうゆうこと…???」
頭の混乱は深まるばかりで―――。
ショートしそうな頭を抑える。
冷静になって事態を分析してみる。
「う〜ん。よくわからないけど。ここは夢の中で。このお兄ちゃんは私の作った幻想だから
おちんちんだって立つし、精だってたくさん出せちゃうって、そうゆうコト…?」
「そうだよクラン」
「で…お兄ちゃんの行動は私が望んでいることがそのまんま投影されてるんだな」
お兄ちゃんはニコニコしながら。
「そうだよクラン。
そうゆうわけだから今からお兄ちゃんはクランの望みどおり、
クランの秘裂にお兄ちゃんのおちんちんを挿入して
中でいっぱい射精をしてあげるからね」
「…………そ…そうか、ありがと…………って。
ち、違うもんっ!なんで私がそんなこと考えなきゃなんないのヨぉ!!
わたし、そんなヘンなこと望んでないもん!!」
「ふふっ、そんなこと言いながらも自分の姿をよく見るんだな」
「エ!?」
オムツはすでに足首に落ち。
クランの足はお兄ちゃんに向かって大股を開いていた。
熱く火照った体を見せ付けるように差し出している。
股間の水音は、ぐちゃりと確かな粘着音。
クランの性器は湯だった肉のように、すごく柔らかくなっていた。
羞恥で脳みそが沸騰する。
「いやぁー!ななななななななな。何コレ!?(丸文字)」
「どうやらクランの準備はOKのようだね」
お兄ちゃんはクランの体をひょいっと持ち上げると、
ゆっくりと自分のモノへと近づけ、秘裂にあてがわれた。
それだけでも焼傷しそうに熱いのに、そんなもの入れられたら…。
「いやーーーっ!お兄ちゃん、やめェ!ーーーーーーーッ!(丸文字)」
「挿れるぞ」
ずぶぶっ!
「あううっ!(丸文字)」
粘りついた音。
ぐちゃぐちゃと音を立てながら
お兄ちゃんのモノがクランの秘裂へずっぽりと入って、兄妹の体が一つに繋がった。
「おにいちゃぁん(丸文字)」
「じゃ、クランが痛くないようにゆっくり進んであげるからね」
愛液で滲ませたクランの秘所はお兄ちゃんのモノを受け入られるほど潤い、柔肉もほぐれていた。
ぐちゅぐちゅ!ぐちゅぐちゅ!ぐちゅ!
「あ!あや!ううんっ!はっ!やめっ!お兄ちゃああああっ!!(丸文字)」
体中の自由がきかない。
気が狂ってしまう。
お兄ちゃんは腰を一歩も動かない。
その代わりに、宙に浮かせたクランの体の方をガクガク揺さぶって、
自分のモノを深く深く挿入させていく。
優しくなんて全然ない。
「はぁっ……あっ……んあっ!…こ、こんなの……ひどいぃl!ひゃああああ(丸文字)」
体全体が揺さぶらるごとに…めりこんでいく。
抵抗はできない。
この場においてクランの動きは完全にお兄ちゃんに支配されていた。
生殖器のむきだしの神経に生のお兄ちゃんがモノが突き刺さって。
擦って擦って、擦り続けていくものだから、全身がこの上ない快感に悶えてしまう。
力を入れて、これ以上進めちゃ駄目だというように肉の壁で防御を……。
だが、踏み込んできたお兄ちゃんの肉棒は止まってくれない。
お兄ちゃんの男根はあまりにも熱く、締め付けるクランの肉など諸共しない。
「はっーーーーくぅーーああっあああああーー」
秘裂と男根の隙間から血が流れた。
「あぐっ!ああっ!ううああ!やああああああ!(丸文字)」
男根一つで体を持ち上げられるクラン。
あとはクランが暴れるだけで、勝手にずぶずぶと深くめりこんでいく。
お兄ちゃんは鼻歌を歌いながら、男根の根元まで入るのを待った。
秘所を貫かれたことによる、股間の痙攣も止まらないまま。
ついに最深部まで突入した。
「よーし、クラン全部入ったぞ。
さぁ!お兄ちゃんの溶岩をオマエの中にめいっぱい流し込んでやる」
「ダメェ!」
股間に力を入れる。
クランの壁は抗うように、全力でお兄ちゃんのモノを締め上げる。
その肉を押しつぶすような最後の抵抗も、お兄ちゃんには通じない。
「ところでクラン。子供は何人がいい?」
クランは震える指を突き出した。
「3人?3人がいいんだな?3人も欲しいのか。いやしんぼめ。
よーし。それじゃあクランの子供がたくさんできるように
お兄ちゃんも頑張らなきゃな。そーれっ」
さらにガクガクと体を揺すられていく。
「あううううううううううっ」
こみあげた衝動が一気に流れる…。
「いやあああああ!お兄ちゃんやめてえええええええええ!(丸文字)」
ドクドクドクドクドク。
欲望が吐き出された。
「んーーーーあ、はぁはぁ…ああああああ!!
………ぬ、抜いてェ!もういいでしょ!抜いてよお兄ちゃん!!(丸文字)」
「ああっ。わかったよクラン。
間髪いれずにまだまだヌイてあげるからね。
理想のお兄ちゃんだから精子の数は無限大だ。
オマエの体内を大好きなお兄ちゃんの精子で満たしてやるからな」
「そんなの、いやああああああああああああああああああああああああああ(丸文字)」
(うぷっ!も…もう満腹でこれ以上入んないよ…お兄ちゃん………)
見渡す限りの闇の中。
一筋の光明。
「…………………………ん…………」
ゆっくりと意識が目覚めた。
まだ焦点が合わない。
「ハァ〜〜〜〜。ああ…夢か…ヘンな夢だったなぁ〜〜〜〜〜」
げんなりしながら起き上がる。
体はイヤな汗でぐっしょりだった。
喉元には吐き気。何だか股間がやけに疼いて。
ぬるっ。
(えっ?………やあああああ!何よコレェ!!(丸文字))
スカートが、ずぶ濡れになっていた。
頭はまだ朦朧としているが、
男の人でいう夢精をやってしまったことだけはわかった。
しかもそのお肴は、血がつながった兄であることも。
「ーーーーーーっっっ!」
クランの股間附近は水溜りみたいに酷い有様だ。
(ややや、やっちゃったの私…)
―――お兄ちゃんと
「はぁ………はぁ…………ぐっ」
股間からこみ上げてくるモノから堪えながら。
フラフラとおぼつかない足取りのまま、洞窟の外に出た。
ハカナとチフユは気にせずぐっすり眠ったままだ。
(なに…やってんだろ…わたし…)
頭は相当のパニック。
お兄ちゃんと熱烈なキスをして、ダラダラの体になったところに
そそり立ったモノでずっぽりと秘所を貫かれて、
あんあん泣きめわく夢を見ながら濡れちゃうなんて…ヘンタイ?
(はぁ…はぁ…もう……なんか…落ち着かない……とにかく洗わなきゃ…)
寝起きで手足に力が入らないまま、泉の方へと向かっていく。
闇の中を月光だけを頼りに歩いていく。
いつ敵が襲ってくるかわからない、危険がいっぱいの夜の森を歩く。
朦朧とした頭だからこそ、そんなバカなことをしたのだろう…。
ゾンビのような足取りでただひたすら泉を目指す。
歩いて10分。そう遠い道のりでもない。
夢を思い出すたびに体温が上がる。
夜の外は冷たいのに、クランの体だけ火が灯ったようだった。
(ん?)
ふと、わき道を振り返る。
何か動いたような気がしたのだ。
(………ううん?気のせいだよね……)
朦朧とした意識に気配なんてわかるはずもない。
体は再び泉を目指す。
だが、クランが見つめた先には確かに3人の男女が存在していた。
「あれ?動かねェな」
「あ-あ?死んじゃった?」
「なんだ。意外と簡単に死ぬんだな?」
クランが感じた気配。
森の深い闇の中。
そこでは最も凶悪かつ残酷で凄惨な陵辱が繰り広げられていた。
二人の男は少女に強姦し、朝から晩まで陵辱。
すでに心の壊れた少女は、男の言うまま自慰を強制され、性器を差し込まれ踊らされた。
大量の精液を飲まされ、大量の尿を飲まされ。
少女は従順に全てを受け入れた。
やがて、男達は正常な性行に飽きてくると、新しい刺激を求め始めた。
そして、少女を襲ったのは陰惨な暴力、モンスターを使った恐ろしいリンチだった。
バス=コックスで陰毛を剃り、胸を落とし、手を落とし、足を落とす。
ニードルビット=シケイダーで膣を突き刺し、激震ニードル。
性器や尻穴を完全に破壊。
少女は苦しさのあまり何度も気絶した。
少女の悲鳴、絶叫はとても人間とは思えぬものだった。
そして今、少女の動きは完全に途絶えた。
顔はひどいものだった。
性器のほうはもっとひどかった。
「ふぅ。それじゃあ新しいオモチャ探さなきゃな。あはは」
「さてと、腕を枕にしてねるか」
男達には一片の罪悪感もない。
彼等の所業は、いずれ明るみに出て制裁を受けるのか
それとも、このまま闇の中へ葬られてしまうのか………。
ともあれ、寝ぼけ気味のクランは、この所業を見落とした。
辿り着いた泉。
ちゃぷ…ちゃぷちゃぷ。
「…も、もう、やんなっちゃう!私のバカぁっ!ヘンタイ!!」
顔を真っ赤にしながらバシャバシャとスカートを洗う。
「戻れェッ!!」
制服をカードに戻す。
カードはびっしょり。
カードの力で作られた服というのは便利なもので
こうしておけば1時間もすれば乾いてくれる。
「ブルブル…さ…寒い…」
今のクランに着るものはない。
体を小さくしてひたすら寒さにこらえる。
肌寒さに体をうずめながら、ふと夜空をみあげた。
空は満天の星空。
紅い月が冷徹な死神のようで不気味ではあるが、
都会の淀んだ空気では決して見られない美しい光景に心奪われ
これだけでも少し得した気分になれた。
この星空の下で、人々が殺し合ってるなんて信じられない。
そんなことを考えながら、バシャバシャと濡れてしまった秘所を洗う。
風が吹く。
曇天の切れ目、螺旋の空に月が覗く。
降りしきる月光。
月光に照らされて、水面に映し出されるクランの姿。
それはいつもより一層、幼く見えた。
低い身長。ペタンコな胸。未だにツルツルな秘所。
見た目は幼女だが、実年齢は16歳。
ただ単に成長が遅いだけだろうが、16歳でこれは遅すぎる。
これではいかんと実のところ本人も危惧してた。
「あーあ…。いつになったらおっぱい大きくなるんだろ?」
夢の中のことを気にしているのか、いつになくクランは弱気だった。
改めて見る胸は本当にペッタンコで、お腹と胸との間に境界線なんてない。
胸肉をあつめて無理矢理おっぱいにしてみるが、すぐに虚しくなり、
その後に湧き上がってくる感情は、劣等感、屈辱感、圧倒的な敗北感だけだった。
「ああっ。私も早く大きくなりたいよぉ。いつまでもペタンコなんてやだよぉ…」
クランに判ったのは自分の手に負えないということだけだった。
水で反射する自分の姿があまりに幼女だったからか、
口にするべきじゃない弱音まで吐いていた。
癪だから、
あまり考えないようにして、意地を張った。
まぁ悩んだところでおっぱいが大きくなるわけでもない。
それに、ストレスが原因で大きくならなくなったら大変だ。
「うんっ!まっ。そのうち大きくなるよねっ!!」
涙を振り払い、大きく胸を膨らませ、軽いノリで気を取り直した。
その時だった。
「ーーーーーぅぁっ!!(丸文字)」
クランの中で何かがはじけた。
「ゃぁぁ………んっ!…はぁはぁ………」
内から駆り立てられる衝動。
急に頭の中がいやらしいことでいっぱいになってグルグルと渦を巻く。
同時にせりあがってくる性体感。
悶える体。
「……やぁっ、ぁっ…あ…はっーんっ!…ふぅ……」
体がおかしい。
なんとか呼吸を整えようとするが
手は勝手にむき出しになっている胸に触れて、揉んでいた。
「っ…ふ…ふっ……あふぅ…」
夢の中の感覚はちょっとやそっとじゃ忘れられない。
息が甘くなっていく。
クランの指使いではお兄ちゃんには遠く及ばないが、できる限り再現しようと頑張った。
秘所がじわじわ熱さを増してくる。
目を瞑れば、さっきの続きができそうな気がする。
(いやあ!なななななな!何をやってるのわたし!?)
一瞬、忘れかけていた理性が訴えた。
その心が再び閉ざされる前に、こんな錯覚を振り払って、ともかく冷静なろうと決めた。
雑念を断とうと。
「うわああああああああああああああ!!!」
クランは水の中に飛び込んだ。
(寒いっ!寒いっ!寒いっ!寒いっ!寒いっ!)
水はあまりの冷たに針がさすようだったが、
煩悩を退散させるのにはそのくらいがちょうどいい。
「やあああああああ!」
泳いでいた。
泳ぐことだけに一心不乱に打ち込んだ。
寒さと息苦しさから、他のことを考える余裕など無くなった。
―――1時間後。
「ハァハァハァ…ハァハァ」
泉は静まりかえっている。今のクランの心のように。
クランはなんとか自分を抑えた。
感覚は消えた。振り切った。
だが、悪寒は消えない。
むしろ高まるばかりで。
「なんかヘンだぞ!私の体っ!!」
ごくりっと喉がなる。
イヤな予感が迸しったのだ。
先ほどの夢といい、今のことといい、もはや偶然でも何でもない。
原因は必ずある。
考えることほんの数秒。
「…………まさか…」
クランに思い当たる節は一つしかなかった。
「そうかっ!夕方飲まされたあのクスリのせいかっ!!」
今日の戦闘でデブに飲まされたクスリ。
そのクスリはまだ毒となってクランの体に残っていた。
毒は突発的に現れては、瞬間的にクランの性感を高ぶらせ体を興奮させるのだ。
突発性なのでいつ来るかはわからない。
睡眠時、移動中、戦闘中、ところかまわず襲ってくる
この症状を止めることはできない。
毒を取り出すしかないのだが、少なくともクランはその解毒薬をもっていない。
新たな力を得たクランに発狂こそ無いが、それは根本的な解決にはなっていない。
敵と対峙して、どうやって戦うのかを考えなければならない時に、
頭の中がいやらしいことでいっぱいになってしまえば、それこそ致命的だろう。
(どどど…どうしよっ…そんなの…そんなの困る!)
漏れ出しそうな悲鳴を懸命に抑えた。
こんなクランの状態を敵が知られれば喜んで襲い掛かってくるだろう。
瞬間。
肌を刺す違和感。
それは強い…いや、余りにも強すぎる殺気。
脳が感知すると、体は即座に身構える。
(て、敵!?それも近くに!?)
ちゃぷん。
湖の中に足首を入れる。
森の側はまずい。
どのタイミングでどこから襲ってくるかわからない。
敵に狙いをつけられている以上、どこから襲われても迎え撃てる距離をとる。
見られている…。
クランに対して挑発的な気配が漂っている。
まるでクランを誘っているように…。
(…この気配…人間のモノとは思えない…)
意識を切り替える。
戦いだけに集中する。
相手は、獣。
気を抜けば問答無用で喰われると。
クスリのことなんて、もう遠くに消えていた。
針のように肌を刺す殺気は…本当にすぐ近くだ。
あまりにも近くて、すぐにでも肌身を切り刻まれそう。
敵の姿は見えない。
森の茂み、前後左右、周り全てに注意する。
不自然なモノはなにもない
それでも肌を刺す殺気は一段と強さを増していく。
すでに首筋にナイフを突き立てられているような…そんな違和感。
目視できる距離に敵がいるのは間違いないのだが、見えない。見つからない。
焦せる心を押さえつける。
目をこらす。
ほんの少しの不自然ですらも見逃さないように。
赤い月に照らされた水面。
映し出されたモノは―――
(上っ!?)
全身の細胞が一斉に叫んだ!
もうとっくに敵の間合い。
頭上という死角から、それはクランに対して一直線に稲妻のように落ちてくる。
クランの首を断とうと―――。
バシャアアーーーーーーーー!!
滑り落ちてきた閃光。
間一髪、クランはなんとかそれを避けたが、
水柱を上げるほどの衝撃波で大地の上に吹き飛ばされた。
「うぐっ!!!」
地面とお尻が何度もこすれた。
だが、それを痛がっている暇などない。
転がる体を止めて、体制を立て直す。
水面を見つめる。
何が起こったのかまるでわからなかった。
ただ条件反射だけでかわした。
バシャ!!!
一瞬の出来事だった。
水面の落下地点から獣は突風のように飛び出して、
一瞬にしてクランの視界からかき消えた。
「エ!エエ!?ど、どこ!?はっ!!!」
背後から走る一閃。
ズバッ!!
「ーーーーーぁつ!!!」
また脊髄反射。
クランの肩に激痛が走る。
躱したおかげでクランの肩は掠れた程度ですんだが、
本来なら今の一撃で肩から下はなかっただろう。
「ぐっ…」
ピタピタと…獣の爪の先から鮮血が垂れ落ちる。
「グルルルルルルルルルゥ!」
(こ…コイツは…っ!)
知っている。
クランはこの獣を知っていた。
「ウォオオオオオオオオオオオオ」
地を揺るがす絶叫。
獣は正気を失ったように叫び悶え、こいつには触れてはならないものだとわかる。
近づいたら死ぬだけ。
ガシッ!
「オマエ…ぐっ!!!」
言葉尻をいう暇もなく刹那の瞬間、獣の太い指で顔を鷲づかみにされた。
森の空気がキチリと音を立てて凍りついた。
「ああああっ!」
クランの体を片手で持ち上げる腕力。
今すぐにでも頭ごと握りつぶされそうな握力。
(こ…こいつはぁ……そそ、そんなぁ…)
指の間からわずかに見える獣の正体は………間違いなく先ほど戦ったデブだった。
丸々と太った肉脂肪。腹から醜く突き出された太鼓腹。
だが、目は血の様に赤く。口からは獣の咆哮。爪は異様に伸びている。
こいつはデブがクスリの力で狂人化したものだ。
黒い闇から滲み出る狂戦士。
その力はただ圧倒的だった。
今のデブは恐ろしいほどの野生の力に漲っており、
先ほどの稲妻を作り出した跳躍力も、今一瞬でクランとの間をつめた瞬発力も、
信じられないことにデブ本体の力によるものだった。
掴む手から逃れようとして、爪をくいこませようとしても、デブの肌は鋼鉄のように硬い。
「バ…バケモノ……」
人間を凌駕する圧倒的で強大な力が目の前に存在している。
頭が苦しい。
握り締める指は先ほどより深く食い込んでいた。
デブは…ぬらりとクランの胸を舌でなめずりした。
「い、いやああ(丸文字)」
背筋が凍る。
自分をこんな体にされた恨みでもあるのか、
クランを見るデブの目の色はあまりにも尋常じゃない。
いや、デブにそんな理性など残されていない。
「ヴォオオオオオオオオオオオ」
雄たけびが大地を揺るがす。
見ているとわかった。
月は満月。
獣の本能が目覚めたというとこだろう。
発情中のデブはペニスの受け皿を探していたのだ。
そして、たまたまクランという雌を発見したのだ。
すでにデブのモノは隆々してそそり立っている。
狂化したデブの力もデタラメなら、そのペニスの大きさもデタラメだった。
こんな恐ろしいものに突かれたら、ただでさえ秘裂の狭いクランは死ぬ。間違いなく死んでしまう。
というより絶対入らない。
否、今のデブに常識など当てはまるものか。
こいつのソレはクランの狭い秘裂など、引き裂いてでも入ってくる。
その光景はもう目前にまで迫っている。
(や、やられる……)
だが、クランは何もできない。
出来ることなどない。
この状況でクランが何をしても注意すら反らせない。
この鋼鉄の体には塵芥の効果もなく、デブは意に介することすらしないだろう
できることなど言えば…………。
「ガルルルルルルルル!」
クランを対して突き出される紫の軌跡。
「召喚っ!!!」
咄嗟の判断だった。
他のカードを選ぶ余裕はなかった。
まばゆい光がクランの体から放たれた。
その閃光をまともうけたデブは。
「ギャアアアアアアアアア!」
叫び声。
弾け飛ぶように、
デブは、即座にクランから駆け離れた。
四足歩行で地を駆ける姿はまさに獣本来の動き方。
ならば火や光を恐れる行動も獣本来のものだった。
クランが窮地を脱っするために召喚したのは制服のカードだった。
本来ならそれはクランの身を守る鎧。
だが、今回に限りクランはその光を攻撃につかったのだ。
魔力を全て発散させたカードは燃えてなくなった。
「グルゥ」
デブは四足歩行のまま、一定距離を取りつつ、グルグルとクランを中心に円を巻く動き。
先ほどの光のような警戒を強めつつ、襲い掛かる機会をうかがっている。
(よしっ!ここは、ディープ=ハンマーだっ!)
あれなら、物理攻撃は全て無効化。
もともと自分が所持していたカードで敗れるのなら、デブにとってはこの上ない皮肉だろう。
「………引導を渡してやるっ!!」
スラリとした指で、カードを掲げた瞬間。
トクトク!ぐちゅりぐちゅり…。
頭の中で淫らな音が響いた。
恐れていた事態。
(んんっ!また………こ…ここ…こんなときにぃ?)
また、あの例の感覚だ。
ヘナヘナと力が抜けていき、頭の中が性のことだけでいっぱいになっていく感覚。
4度目だというのに、クランの体は一向に慣れない。
むしろ性感は高まるばかりで、
(ダメェ……戦いに…んっ…集中…くっ…ああっ!んふぅ…ひゃあ!…うあううっ!(丸文字))
体が感電でもしたかのように足掻く。
秘所はひたすら熱い。
早くも太腿をつたって熱い液がトロトロと流れている。
内股になって、股間をもじらせる。
「うっ…ううっ………ディ…………ディープ=ハンマー!!(丸文字)」
苦しまぎれの声。
しかし、紋は開かなかった。
(ーーーんっ…んんっ!……あふぅ!……やぁ…こんなぁ………あひっ!……(丸文字))
カードは原始的な本能に呼応する。
怒り。恐怖、そして生きようとする心に。
その心を感じ取ったクスリは過剰反応し、クランの心を別のことへと惑わすのだ。
クスリの正体は実のところ召喚封じ。
このクスリを飲んだプレーヤーは数ターンの間、モンスターを召喚できなくなるのだった。
召喚しようなど考えれば、今のクランのようになってしまう。
今のクランに召喚できるのは、アイテムカードか女界のカードぐらいのものだった。
(や、……やだぁ……こんなこと、んっ、してちゃ…だめなのにぃ…あはっあははっ!…(丸文字))
頭が白く。
下半身に何も力が入らなくなってきた。
デブはそのスキに一直線に突進してきた。
クランの脳幹を貫かんとばかりに突き出される手刀!
ズシャ!!!
「ウガッ!!?」
クランにとっては悪運。
体を支えきれず、膝を追ったのが幸いした。
デブの手刀はクランの頭の上の空を切り裂いた。
「…あっ!…あふっ!あああっ!!んくっ!やぁ…いうっ!はぁ…んっ!!(丸文字)」
デブの真下には自らの胸を揉みながら悶えるクラン。
その秘所は、あらゆるものを受け付けられるほど柔らかくなっていた。
(お…お兄ちゃん……………?)
クランは視界が霞んで、目の前のデブまでもが、お兄ちゃんに見えてきてしまった。
あまりに殺気のない動きに、デブは戦うことを忘れた。
「グルルル」
デブにとってはクランが生きていようが死んでようがどちらでもよかった。
だが、クランの絶叫が聞けるのならば、どちらかというと生きているほうが好ましい。
ゴシゴシッゴシゴシ。
「アガッ!アガガガガ!!」
デブは自らの男根をクランの手を使って強くしごきだした。
バナナの皮をむくように…だが、激しく。
男根の先がじんわりと潤ってくる。
白い液に満ちてくる。
「ヒギ!イギイイイ!グギギギギギギ!!」
デブはたまらない絶叫を上げた。
「ガ、ガルルル!!ウガガガガガ!」
「やぁん(丸文字)」
待ちきれなくなったのか、デブはクランの股を強引に開いた。
開かれた秘所もまた、待ちきれないように、羊羹のようにぐじゅぐじゅになっていた。
もはや先などない。
デブの獲物はぴったりと秘所に向けられている。
それは知っている。
数時間前、夢の中で味わった痛み。容赦なく押し付けられた感覚。
だが、これは夢ではない。
世界が狭くなって、意識は全て目の前の凶器に収束してしまう。
当然だ。
アレが突き出されればクランは死ぬ。
だから他の事など余計なこと。事此処に至り、今更他の他の何が考えられない。
デブの股間がうずく。
その動きがスローモーションのようにはっきりと見える、
「…だ………だめぇ……(丸文字)」
「ウガァーーーーーーーーーーーーーー!!!」
走る紫光。
クランの秘所に吸い込まれるように進む穂先。
避け様のない必殺の一撃。
1秒後には秘裂は引き裂かれるだろう。
それを知っている。
体にうまる男根の味も
せり上がってくる血の痛みも
快楽だけで支配される感覚も…。
つい先ほど夢の中で味わった。
それをもう一度。
理解できない。
なんで毛も生えていないほどに幼い自分がこんな目にあわなくてはならないのか…?
ふざけてる。
クランにはこんなこと認められない。
こんな所で何の意味もなく、処女を失うわけにはいかない。
そんなに簡単に処女は渡せない。
それでも男根は秘所にめりこむ。
穂先は肉を裂き、そのまま処女を突き破るだろう。
だから咄嗟に頭にきた。
そんな簡単に女の子を犯すなんてふざけてる。
そんな簡単に自分が犯されるなんてふざけてる。
一日に何度も貫かれるなんて、そんな事もふざけてる。
何もかもがふざけていて、もうおとなしく怯えてなんかいられず、
(ふざけるなっ!こんなところで、オマエみたいなデブにやられてたまるかっ!!)
化学反応を起こしスパーク。
手に持つのカードに力を込めた。
ドンッ!
(エッ!?)
だが、クランの秘所を貫こうとする男根は
それを救おうとする銀弾に防がれた。
ボトリッという生生しい効果音。
目前におちたものは男にとってももっとも大切なモノ。
およそ華やかさとは無縁の、醜悪で灼熱したものだった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
デブは悲鳴をあげながら脱兎のごとく森の中に逃げ出した。
「はっ!?」
見上げた先には、月を背景にクランを救った男がたたずんでいた。
それは不気味で死神のようでもあった。
思考が停止している。
男の存在はクランにとって目眩となり吐き気となった。
「この貸しはカード50枚ぐらいかな?ねっ…クランちゃん」
男がクランの眼前に降り立った。
それはやはり、クランの閻魔帳に太文字MSゴシックでつづられている人物だった。
「………オ……マエ…」
胃が痙攣する。
血は先ほどとは違う荒立ち。
脳みそが沸騰した。
腕が疼く。
そこに立っている男に今でも飛び掛りたいと…。
「フフフ」
ニヤニヤと、とてつもなくカンに触る笑顔。
自分達からカードを奪っていった男。
そのせいで自分達がどんな絶望に立たされたことか…。
そんなクランの状態がよほど気に入ったのか、男は笑った。
悪びれない笑い声が錐となって頭蓋を刺す。
それで、完全に切り替わった。
頭の中で撃鉄が落ちた、完全に体の中身が切り替わった。
頭はとっくに正気とはいえない。
言いたいことは山ほどあったが、そんなものは全て消し飛んだ。
とりあえず一発殴ってやらねば気がすまない。
「コ、コウジ!キサマぁーーーー!!!!」
火のように熱く、体が弾けた。
その瞬間。拳を握って飛び出した瞬間。
コウジの腹部から無造作に触手が飛び出した。
「エ!?」
クランの体は一瞬で捉えられ、宙に釣り上げられた。
これで、クランは心底思い知らされた。
「やあああああ(丸文字)」
「乱暴はいけないよクランちゃん」
触手がうごめく。
コウジの腹部から生ぬるい触手が、形となってクランを縛りつけた。
あらゆる攻撃からコウジを守る自動防衛装置。
「これは…?触手竜テンタクルッ!?」
「正解!あはは。どうだい僕のレアカード。テンタクルは?すごいだろ?」
吐き気はとうに収まった。
はっきりとコウジを睨み付ける。
「はっ、離せェ!このヘンタイがぁっ!」
「ふふふっ」
「な、何がおかしいっ!」
こうして向かい合っているだけでも怒りが無限に沸いてくる。
歯はもう砕け散りそうだ。
「おいおい。いいのかいクランちゃん?僕にそんな口の利き方して?
僕はキミを救いにきたメシア。救世主なんだからさぁ」
「ふ、ふざけるな!カード。カード返せ!!」
「カード?フフ?カードというのは…ひょっとして、これのことカナー?」
ごそごそと、ポケットをあさる。
「じゃーん」
「なっ!」
自慢気に見せ付けたカードは300枚を超えていた。
「キ………サ…マ」
「フフーンッ!ちょっと頭を使えばこんなものさ」
全身に悪寒を感じた。
体中を刃物で切り刻まれるより恐ろしい感覚。
コウジのやってきたことを考えると、それだけで理性で恐れが停止した。
「キサマ…それを手に入れるのに、いったいどれだけの人間を手にかけた」
「殺すなんてトンでもない。ただちょっぴり陥れただけだよ。
昆虫のように…罠にはまって狼狽している相手を見るのは最高さ…!!
一途に努力を重ねてきた奴であればあるほど堕ちた時の表情が楽しめるっ…!!」」
勝ち誇ったコウジの声に、黙ってはいられなかった。
勝てない。
この状態では戦いにすらならない。
そんなこと判っていたのに口を間違えた。
「ブッ殺してやるっ!!」
「ブッ殺す?ブッ殺すだって?アハハ、おもしろいよクランちゃん。
知ってるよぉ?今キミ、モンスターを召喚できないんだよね」
ぞくりっと背中が震える。
コウジの言葉は、胃に溶かされた鉛を注ぎ込まれた気分になった。
コウジの指がパチンッとはじけた瞬間、触手に乳首をつままれた。
「やぁん!何をするやめてぇ(丸文字)」
胸肉を集めてもみしだかれる。
「んふっ!んふぅっ!!あふっ!やめてェ(丸文字)」
お尻に触手を突っ込まれる。
「ああーんっ。おねがいだから、やめてぇぇ!!!(丸文字)」
お口の中につっこまれると、再び股間が熱くなり。
トクトクと塞き止められていた愛液が再び流れる。
頭の中が真っ白になる。
何をこんなに感じているのかわからない。
それでも判らないままに感じて、体中を痙攣させた。
「んんんっ!あはっ。あふぅ!お兄ちゃん…。あふぅ…おまんこ熱いぃ(丸文字)」
頭の中がグルグルと。また先ほどの感覚が完全に戻った。
「フッ。惨めだねクランちゅん」
お尻に突き刺さった触手が、ぐじゅりぐじゅりと音を立てていた。
逃げられない。
全身触手で縛られ逃げられない。
じゅるじゅるじゅる。
耳障りな音を立てて、触手が体中を這いずり回っていく。
視界は朦朧として。
「ぁ…やぁ…ぅーー……お兄ちゃん…ダメェ…わたし…もう……イッちゃうヨお………(丸文字)」
ぐじゅりぐじゅる。
「あひゃあぁ!!(丸文字)」
触手が秘所に触れるたび、自分のものとは思えない声がこぼれた。
クランは自分が何をされているかわからなかった。
すでに全身汁まみれにされている。
それでも、触手から飛び出す白い液を受ける。
体は勝手に反応する。
とうに息は上がっている。
触手はクランの肌を走っているだけに過ぎない。
それだけでもこんなに高ぶってしまった。
「アハハハハ。クランちゃんおもしろいね」
クランはコウジのオモチャとばかりに全身弄ばれていた。
「フフフ。すっかり反省したようだね」
「は…ふぅ(丸文字)」
コウジが取り出したカードがカプセルに変わる。
それにクランの体が敏感に反応した。
最後の理性が、あれは絶対飲んではならないものだと告げる。
「やめてェ!これ以上変な体にしないでェ!!(丸文字)」
泣きながら叫んでも無駄だった。
「やれっ!テンタクル!」
「んぐっ!」
避けることはできなかった。
触手ごと口につっこまれて、抵抗もできないまま飲みこんでしまった。
「げほっげほっ!ぁ…ぁぁ…ああああ。がーーーーーーっ!」
ガクッと体が弾けた。
もう放って置いても、体液を出しすぎて死にそうだというのに
このカプセルを飲まされたら、確実に止めになるのだろう。
何かにすがるように懸命に腕をだす。
(ハカナぁ…チフユぅ………)
天を掴むように跳ね上げられた腕。
幾数もの錯覚に襲われる。体が空に浮いた感じになった。
クランはこのまま何もできずに死んでしまうのか。
―――もう、だめだ
そんな言葉を心に発した瞬間だった。
全身から熱が引いていった。
性的な興奮が抑まっていく。
ふたけた秘所は元の状態に戻り、秘裂はパックリと閉じる。
愛液までもが、嘘みたいにピッタリ止まった。
頭の中はすっきりと、そよ風が吹いたように清涼としていた。
「???………こ…これはいったい?」
クランには訳がわからなかった。
毒が裏返った。
それだけは確かなようだ。
コウジが囁く。
「どうだい?その解毒剤はよく効くだろう?」
「げ?解毒剤?」
クランはあっけにとられた。
ドサッ!
「きゃん!」
触手がほどかれ、クランはお尻から落ちてしまった。
「あ、あいたたたた」
お尻をさする。
目の前にはタバコを吸い、優雅に一息をつくコウジの姿があった。
「オ…オマエ…??」
「ハイッ。クランちゃん。
この制服のカードをあげるよ。裸じゃなにかと困るでしょ?」
「?????」
(なんだ…こいつ)
コウジはふぅっと一息つくと。
「そうそう、ハカナちゃんの両親。まだ生きているよ。
魔境の中で君達を待ってるから、会いたければ行ってみるといいよ」
「ど、どうして…?」
先ほどの解毒剤、制服のこともそうだが、
この男なら情報とひきかえに大量の報酬を要求してきそうなものなのに、いったい何故?
この親切さが逆に不気味。
だが、その疑問に答えるようにはコウジは言った。
「言っただろう?僕はキミを救いにきたメシア。救世主なんだって」
ニッコリとした笑顔を見せるが、油断は禁物だ。
クランがあまり警戒しているからか、コウジはため息をついた。
「…ふぅっ。僕って信用されてないんだね。
僕は可愛いクランちゃんを助けたいだけなのに…。
まぁいいや。どちらにしてもキミは僕に頼る以外ないもんね」
「ど、どうゆうこと!…何をいっているの!?」
「まぁ明日になればわかるよ。明日にね」
「…エ」
馴れ馴れしくクランの頭を撫でる。
「や、やめろぉ!気持ち悪い!」
「それじゃあね、クランちゃん。
僕はいつもキミを見てるから。困ったときにはいつでも呼ぶんだよ。
それじゃあ我謝コウジ。我謝コウジの名をお忘れなく」
そう言い残してコウジは闇の中へと消えていった。
(ななな…何なんだアイツ…?)
コウジの言葉は意味深だった。
そして最後に余計な一言。
「それにしてもホントいつになったらおっぱい大きくなるんだろうねェ?」
「ブッ!ブッ殺してやる!!」
夜も深い。
「ふぁぁあ」
体が正常に戻ると、急に眠気が襲ってきた。
コウジの言葉は気になるが、
明日になればわかるというのなら、
明日のことは明日考えればいいだろうと思った。
もう流石に眠くて思考が回らないので、
クランは帰って寝ることにした。
(………お兄ちゃん)
クスリの魔力で、久々に会えたお兄ちゃんは、本当に優しかった。
もう会えないかもしれないけど、
それでもクランは明日も強く生きるだろう。
今はもう、ハカナという友達がいる。
独りじゃないから。
(それじゃあ…おやすみ…お兄ちゃん)
クランは今日という出来事を心の中に封印した。
続きます。
乙彼様です。
>大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。それは正に肉棒だった。
大雑把すぎる肉棒って…ベタだがワラタw
妄想マモル兄さんのだからやっぱりクランはまじまじと見たことは無かったってことか。
一週間ほどこなかったら2つも新作が。乙です。
お兄ちゃんはやっぱEDだったんかw
380 :
名無しさん@ピンキー:04/05/01 23:14 ID:p6hL8g/i
ホシュage期待age
こっそりと続きです
森に新しい光が差し込んだ。
朝日を浴びた生き物達が、ゆっくりと活動を再開する。
「ふぁああ」
「ふぅ…よく寝たぁ…」
毛布をどけて、元舎弟たちがゆっくりと体を起こした。
「あれー?」
「んー?」
穏やかな朝の目覚めという雰囲気ではない。
異変に気づき、二人して顔をしかめる。
実に気にくわなそうな目をして。
そこにあるはずの死体がないのだ。
死体は死体だから動くはずはないのだが。
まぁ、死体の一つや二つ、彼等にしてみれば些細なことだ。
飢えた野犬にでも取って喰われたかのだろうと、一人の男が笑いを浮かべるが、
だがもう一人の男は、死体が消えたことには何か重大な意味を持つような…そんな気がしてならなかった。
「おいっ?どうした??」
「あっ…いや…なんでもない」
ともかく寝起きの頭では回らない。
まずは小川まで歩いて、氷水めいた川の水で顔を洗う。
意識は完全に目覚めた。
「…さ、さて、どうする?もう、この森からでるか?」
男が弱気なのは、先ほど感じた違和感がぬぐいきれないからだった。
「おいおい。何言ってんだ。頭は正気か??せっかくのチャンス。もっとこの状況を楽しまなきゃな」
「ククク。それじゃあ今度はもっと活きのいいオモチャを探しにいくか」
「あはははは」
「あははははは」
お互いで笑いあう。
全ての不安や恐れを吹き飛ばすかのように。
そうだ、恐れるモノなど何もないはずだ。
間違いなどあるはずがない。
なのに、拭えない。
拭いきれない。
とてつもなくイヤな予感が。
すでに自分達は決定的な欠陥、致命的なミスを犯しており、
それが原因で全てがバラバラになり崩壊。そんな予感すらする。
それに、消えてしまったあの死体が何故これほどまでに気になるのか………。
「!」
一瞬の閃きだった。
「…カード…!!」
高らかにこう宣言した。
その場から清々しい笑顔は消えている。
「………何…言ってんだ!?」
「だからカードだよっ!」
「おいおい。いつでもすぐ取り出せるようにポケットにいれてるじゃねーか」
「それは戦闘用のカードだろ!俺の言ってるのはここからでるために必要な80枚のカードの方だ!」
「………エ?」
ざわざわ。
木々がざわめく。
彼等は朝寝ていた場所に、カードを隠していた場所に走った。
それは彼等以外には誰も知らないはずの秘密の保管庫のはずだった。
暗い表情で元舎弟がそこから顔を出す。
「ど…どうだった…?」
「お、俺達のカードが……………ない!!」
「!!!!!」
「ないだって!どうゆうことだおい!」
「知るかっ!」
思考が普段の30倍ほどの速度で働き、あらゆる可能性事象を模索していく。
不自然に消えた死体。彼等の思考が行き着いた先はそれだった。
そして、すぐに吼えた。
「あ、あのアマァ!」
因果応報。
他人にしたことは回り回って、いつか自分に跳ね返ってくるというが
主を裏切った彼等の行動は、今、一番戻ってきてはいけないタイミングで
そっくりそのまま戻ってきたようだ。
死んだと思っていた少女はまだ生きていた。
少なくとも少女はカードの隠し場所を知っていた。
逃げる際、彼等の大切なカードを奪っていくのはたやすいことだったのだろう。
別腹に入れていた戦闘用のカードだけは辛うじて無事だったものの、
それだけではこの森から出るにはとても足りない。
「ちくしょおおおおおおおおおお!」
壮絶な雄叫びを上げる。
敵は所詮手負いの獣。
ここからそう遠くには逃げられるはずがなく、
追いつくこと事態は差して難しいことではないと予想する。
見つければ捕らえることは赤子の手をひねるよりも簡単なことだし、
それ以前にあの傷では、既に行き倒れている可能性だってある。
それはいい。
だが、最悪の事態を恐れれば、一秒だってじっとなんかしていられない。
最悪の事態とは、誰かが少女を発見しカードを奪い取ったり、
カードを持ったまま息絶えた際、あろうことか深い谷底にでも落ちてしまうこと。
考えられるパターンは他にもあるが、
そのどれもこれもが絶望の濃度は非常に高く、
時間と共に奪還の可能性はグングン減っていく。
だが、疾走しようとする元舎弟に待ったをかけるように、森全体に声が響いた。
―――――。
「…ナニィィィ!!!」
驚天動地の事実に…彼等は愕然とした。
そのころ。
―――クランはもう一度、夢を見ていた。
今度は優しい夢だった。
ハカナがいてハカナママがいてハカナパパがいる。
家族みんなに囲まれる夢。
お兄ちゃんの夢は何度も見てきたが、こうゆう夢は始めてだった。
パパもママもお姉ちゃんも、みんなが大切にしてくれる幸せな日々。
それまで放課後の帰宅ごとに望まぬ独りぼっちを強いられたクラン。
涙はこらえ、寂しさは隠し続け、ひたすら強く生きてきた。
思えば、それはひたすらつらい日々だった。
身を削くような戦いであり、クランにとってもっとも大きな傷跡だった。
そんな独りぼっちの檻から出してくれたのがハカナだった。
―――嬉しくなかったはずがない。
クランにとって初めて出来たお友達。
ハカナがクランの何を気に入ったのかは定かではない。
二人は性格も考え方も育ってきた環境もまったく正反対だ。
それでも、一緒にいて何か共感できるものがあったのだ。
ハカナはいつも優しかった。
彼女の両親も我が子のように可愛がってくれた。
とんでもなく照れくさいが、クランはハカナもその家族のことも大好きだった。
だからここに来て一番に思った。
彼等を守るためならどんなことでもやろう。
たとえ呪われ、癒せない傷が残ってもハカナとその家族さえ無事ならそれでいい。
それがクランの誓い。
ハカナ達に対してできるクランの唯一のことだった。
クランの目覚めは突然だった。
「たたた、大変よクランちゃん!おきて!おきて」
「んーっ……」
体が揺さぶられている。
視界がぼやける。焦点があわない。
声からするとハカナのようだ。
横になる。起きる意思がないことを体で告げる。
「まだ…………眠いヨォ…」
「そんなこと言ってる場合じゃないのよ!とにかく起きて!!」
ガクガクと。乱暴に揺すられ続ける。
まるでクランが親の仇だと言わんばかりの騒々しさ。
もうちょっと寝かせてくれてもいいのに。
いや、むしろ寝かせるべきだ。
なにしろ昨日の夜はデブとの死等を繰り広げていたんだし、
エロ薬のせいで精神も体も変にされすぎた。
つまり披露困憊、心も体もクタクタだった。
「………私…毎日…8時間以上………寝ないと…気…が……すまないの。
いっぱい睡眠…とらないと…大きく…なれないんだもん……。
じゃ…おや…すみぃ………もう…おこさないでね……ぐぅぐぅ………」
言うなりクランは目を閉じた。
よだれをたらして完全に熟睡モードに入っている。
「もうっ!クランちゃん!小学生じゃないんだから」
「……わたし…小学生だもん…むにゃむにゃ」
カチン。
「都合のいい時だけ子供のふりするなぁ!」
白光が奔る。
躊躇する事無くクランの柔らかい頬へ、ハカナの平手が打ち下ろされる―――
一撃。二撃。三撃。四撃――――!
少し可愛そうになるぐらいの連撃。
眺めるチフユにとっては初めてハカナを見た夜、クランのお尻を100叩きした時と同じ。
ハカナは有り余る力を平手にのせ、容赦ない往復ビンタを繰り出している。
ハカナの平手が炸裂するほど、クランの頬は赤く腫れる。
頬と平手とがぶつかる音。
クランは成すすべもなく、無理矢理覚醒させられた。
「ぐっ!ハ、ハカナなんてキライっ!」
頬はヒリヒリ。加えて朝の冷気のせいでひたすら痛い。
「そんなこと言ってる場合じゃないわ!とにかく大変なのっ!!」
「えっ???」
目をぱちくりとする。
ハカナにこんな真剣な顔つきをされると文句が言えなくなり、
仕返ししようとする心はどこか遠くに飛んでいった。
「どうしたの?」
ハカナたちが聞いた声。
天から響いた声はこうだった。
――生き残っている皆様、おはようございます。
――この戦いも四日目を迎え、いかがお過ごしでしょうか?
――思えばこの過酷なゲームを最後まで勝ちぬける者など現れるのかと心配しつつ、
――生存者の到来を心待ちにしたのも、もう昔のこととなりました。
――なかなか強者に恵まれず私的にはちょっと淋しい気も致します。
――さて、この度プレイヤーの体調を考慮した結果。
――話し合いの末、当初の予定を変更し
――本日24:00を持って、このゲームを終了することになりました。
――それでは生き残っている皆様のご健闘を祈ります。
(そうか。コウジのヤツが言ってたのはこうゆうことだったのか)
うんうん、と納得するクラン。
「驚かないの?」
「いや、十分驚いてるよ。
そろそろ時間切れかなとか思って覚悟してたから。ただ、それだけ。
予想通りと言えば予想通りだけど、これだけハッキリと言われるとなんか逆に清々しちゃった」
「………あ…そう」
予想外のクランの反応にハカナの方が驚いていた。
「あの…棗さん…いいでしょうか」
「うん。いいよ」
「もしかして……あの…私達もう…全員助かるんじゃないでしょうか……?」
「全員助かる??」
「ええ……ゲーム終了でまで生き残った人たちは……
その……全員救出されるって…ことなんじゃ…」
クランは冷笑した。
やれやれというように頭を振る。
「もうっチフユ。それは甘いと思うよ。
だってそんなコト、このゲームの首謀者達が許すと思う?
チフユも見ただろ?カードを奪われて戦えなくなった人たちが、地の底に落とされていく光景を。
チフユだってあの時私が助けなかったら奈落行きだったんだぞ。
だから、最後まで出られなかった人間はタイムリミットと同時にジ・エンド。
結局全員奈落行き。そう考えたほうがいいと思うヨ」
「うっ…」
容赦なく断崖絶壁に突き落とす。
そう……もとよりこの首謀者が許すはずがない。
最後まで生き残ったから、そのまま出られるなんて甘い状況を許すはずがない。
この遊戯は壮絶な殺人ゲーム。全員救済などという甘い夢はありえない。
だからチフユの言うことなんて根の葉もない希望的観測。
そんなもの、この場においては何の役にも立たないことをクランはとうに学んでいた。
「そんなの…そんなのイヤぁ!…うわぁぁん…(丸文字)」
「ちょ、ちょっと。チフユちゃん、よしよし泣かないで!
クランちゃんっ!!いくらなんでも、そうゆう言い方あんまりよっ!」
「へへー。やーい。やーい。チフユの泣き虫ー」
「ク、クランちゃん!?コラァ!いい加減にしなさいっ!!!!」
「…は…ハカナ!?ど…どうしたの………そんな怖いカオして………
い、いやぁあああ。お尻はだめぇ!(丸文字)」
「このっ!逃がさないんだからっ!」
パチン!パチン!パチン!
悪ノリしすぎたようだ。
からかうような口調がまずかったのか、ハカナの逆鱗に思い切り触れていたらしい。
………こうゆうことに関して気を遣うのは逆効果。
チフユのためにきっちりかっきり、判りやすく言ったほうがお互いの為だと思ったのだ。
けど優しいハカナはそんなことわかってくれるはずもなく、クランのお尻は真っ赤に腫れた。
ハカナは本当に素敵な女の子だ。
白い指。華奢な腕。
戦いなんてできそうになく、倒れれば立ち上がれそうにないほど可憐だ。
なのにクランに対しては時々とんでもない力を発揮する。
頬とお尻。朝からいきなりの大ダメージに泣きそうだが、
ズキズキとした痛みを堪らえながら、涙を飲み込んで立ち上がる。
「よ、よしっ!気合がはいった!
私、土壇場にきて肝がすわってきたみたい。
時間がないなら早く行こうよっ!!」
ガッシリと拳を握ってクランは二人を元気付けた。
この岸壁にたたされるような絶望の渦中において、
クランのあんまり能天気とも言える態度に二人は唖然としていたが、
―――今、生き残るためにすべきことは、助けを待って祈ることではない。
―――カードを握って戦うことだ。
そういうクランの気持ちが伝わってきて、二人はすぐにうなずいた。
「うん!そうですよね。状況は厳しいけど頑張らないと…」
「お父さんとお母さんも見つけなきゃなんないもんね!」
もともと、彼女達の力でできることなんて少ないのだ。
なのに、やらなくてはならないことはあまりにも大きい。
だから、時間がないならすぐに行動に入ろう。
やれるだけのことはやろう。
そうすればきっと、なんとかなる。
そういうクランの思いは、確かに二人に伝わったようだ。
三人の運命は共同体。
生き残るため、最後の旅にでる。
外にでる。
朝日がクラン達を祝福する。
もちろんこれを最後の朝日なんかにするつもりは毛頭もない。
振り返る。
わずか二、三日、宿にしただけの洞窟も、今となっては感慨深い。
もう、この場所に帰ってくることはないだろう。
別れとお礼を言って後にした。
時刻は朝の6時すぎ。
森は妙に静かだった。
ピリピリとした威圧こそ感じるが、
生き残った人々が最後の勝負にでるのは、まだ些か早いのだろう。
ともかく地獄のサバイバルゲーム。
最後の一日が始まった。
―――森の深層部。
気がつけば歩いていた。
少女の体は何度も切り刻まれたのだろう。
全身から流血が流れていた。
命も長くは続かない。
夜が明けた頃、体の力は弱くなった。
体のほとんどが崩れ落ちた。
原型などはもう程遠い。
これで生きているのは不思議だった。
よほど運がよかったのか、それとも運が悪いから死ねないのか。
どちらかはわからないが、とにかく少女はまだ生きていた。
生き延びたからには生きようとして
あてもなく森を彷徨った。
希望はない。
例えカードを奪ったところで、
助かるなんては思っていなかった。
いや、まず助からない。
何をしてもこの森からはでられない。
少女がそう理解できるほど、それは絶望的な状況だった。
そうして倒れた。
体の機能は失われていた。
倒れて空を見つめる。
この、朝の日差しはこの世の最後の光景なのかと思いながら。
息が苦しい。
喉が痛い。
肺があえぐ。
突き動かしてきた体は歩く衝撃の度、中身がこぼれおちそうだった。
秘所は熱で溶けた皮膚で、ドロリとケロイドのように爛れている。
胸は切り落とされた。
腕はない。
足首から下もない。
感覚もない。
だから、痛みもなくて、
むき出しの足の細胞に小枝が突き刺さっても何も感じなかった。
自分が生きているかどうかもわからなかった。
残ったものはかすかに残る心臓の鼓動。
目は死んだ魚のようだった。
あとはこのまま朽ち果てていくだけの体。
それでも死を待っていられず、ただ、前に向かって進んだ。
1歩でも1歩でも前へ。
暗い絶望の中を這いずり回る。
その果て。
辿り着いた終着駅で待っていた者は、
バズ=コックス使いの男だった。
「よぅ…こんなところまで歩いてたのか…もう会えなかったらどうしようかと心配したぜェ」
追いつかれてしまった。
「おいっ?わかってんだろうなぁ?人様からカードを奪って逃げようなんて…どうなるか…」
体が痙攣する。
歯は砕かれ、舌は切り取られ、口は裂け。
声など出せるはずがない。
「たく、びびらせやがって…。もう、簡単には殺してやらねぇぜ。ククククク」
だから無言の叫びをあげた。
(………助けて………)
「!」
クランの跳ね気が電波を受信するがごとく、針金のようにピンッと立った。
視覚、聴覚以上に研ぎ澄まされた第六感が反応したのだ。
「どうしたのクランちゃん?」
「………」
無論、ハカナには助けを求める少女の悲鳴のようなものは感じらなかったが、
クランのピリピリとした様子は目に見えてわかった。
「誰かがヘンタイに襲われている!」
「エ?」
「助けてくる!ハカナ達はここで待ってて!!」
クランは急に脇道に反れたかと思えば、木々が生い茂る森の深い所へと滑り降りて行った。
「ちょ…ちょっと!な、何してるのクランちゃん!正気!?」
いくらクランの制服が魔力で守られているとは言え、
こんなトゲやイバラだらけの脇道に入っていくなんて自殺行為としか思えない。
クランの行動はあまりに突飛すぎて、呼び止めることすらできなかった。
「ク、クランちゃーーーん!!」
「ど……どうしたんですか…棗さん………急に?」
「さ…さぁ…?」
理由の見えないクランの行動。
クランの行動は全てが謎で、ハカナは頭をかしげるばかりだった。
「クランちゃーーーん!返事してーーーーっ!!」
呼びかけに対する返答はない。
すでにクランはかなり奥まで行ってしまったようだ。
クラン何かに憑りつかれるように黙々と前に走る。
ジャマな草木をどけながら、茨の道を駆け抜ける。
何故走るのか?
どうして走るのか?
ヘンタイに襲われている誰かを助けるためだ。
いや、少し違う。
誰かが襲われているのが見えたわけではない。
誰かの発した悲鳴が聞こえたとわけでもない。
だから言い直すと、
誰かが襲われているような気がしたから走っているのだ。
しかし、遠く離れた誰かを感じ取るなんてことが人間にできるわけがない。
予感、直感、第六感などは非ィ科学的。論理的な説明とは言えないだろう。
そんな理由にもないものに判断を委ねて走っているなんて、
真面目に話したら変人扱いされるだけだろう。
それでもクランは自分の感覚を強く信じて全力で走る理由があった。
跳ね毛がクランの進むべき方向を示していく。
―――この能力に気づいたのは三年ほど前だった。
お兄ちゃん為に夜食を買いに町に出ると、突然跳ね毛が真っ直ぐに伸びた。
初めての感覚に戸惑ったが、直感の赴くままに進んで見たところ、
町の裏側の人気のない場所にでて、そこではヘンタイが女の子を襲っていた。
まだ、幼なかったクランにとって、男のやっていることの意味はよくわからなかったが
体は自然にヘンタイに向かって金蹴をいれていた。
ヘンタイが悶えている間に女の子をつれてそこから逃げる。
それまでは良かったが、それだけで精一杯。
クラン自身はヘンタイに捕まってしまった。
―――おいっ!どうしてくれるんだ!こうなったらテメェの体で代わりをしてもらうからなっ!!
―――いやぁ、お、お兄ちゃん助けて(丸文字)
服を破かれ、ガッチガチに猛ったモノを顔前に差し出されて絶対絶命。
もうダメだと思ったら、寸前の所でお兄ちゃんが来て助けてくれた。
あんまり遅いので心配して探しに来てくれたのだ。
よほど怖かったのかクランはお兄ちゃんの胸でわんわんと泣いた。
帰宅後、クランは跳ね毛のことを素直に聞いてみた。
この跳ね毛の言うとおりに進んで、あんな目にあった。
この見た目は只の寝癖のようで、大変恥ずかしい跳ね毛には、
クラン本人ですら知らない何か重要な秘密が隠されてあるに違いないと思ったのだ。
お兄ちゃんは口調は重かった。
お兄ちゃんが言うには、
どうやらクランの母親にも同じような感知能力があったらしく、
ヘンタイが近くに現れると跳ね毛がピンッと針金のように真っ直ぐ伸びたらしい。
もしそれと同じなら、クランの跳ね毛もヘンタイに対する探知機なのではないだろうかと言うのだ。
お兄ちゃんの言うことが本当かどうかは置いといて、
いなくなった母親と同じ能力があると聞いて、
それだけでクランは純粋に嬉しかった。
それ以来クランは跳ね毛をより一層大事にした。
だが、この時まだクランはその跳ね毛を持つことの本当の意味を知らなかった。
跳ね毛がピンッと立った時、その先には必ずヘンタイが待っていた。
直感は裏切ることなく、ことごとく当たり続けた。
始めはお兄ちゃんの冗談だろうと思っていたが、驚くことにその的中率は100%で、
こうして母親から受け継いだ危険察知能力は疑いようもなくなった。
跳ね毛が真っ直ぐ伸びるなどと、
冗談ともつかない、理由さえわからないものに判断を委ねる気などなかったのだが、
折角母親から引き継いだ能力を使うに越したことはない。
クランはこの能力をみんなのために役立てようと思い、
ヘンタイを倒すことが産まれついての自分の使命だという考えに行き着いたのだ。
お兄ちゃんは全力でクランを止めた。
だれが自分の妹をそんな危険な戦いに投じられようか。
それはあくまで身を守るための護身用の能力。
だから、そのアンテナが伸びた時には全力でその場から逃げろと真剣な顔つきでクランに激怒したのだ。
しかしクランは嫌だった。
誰かがヘンタイに襲われているのに、どうして自分だけ安全な場所に避難することができようか。
怖い目にあうのはわかっていても、それでも襲われている人を助けてあげたいと思ったのだ。
クランがそう言い出すのがわかっていたのか、お兄ちゃんはそれ以上何も言わなかった。
ヘンタイとの戦いは、まだ幼いクランにとって困難な道だった。
思うにクランにとって、この能力が目覚めるのは早すぎたのだろう。
カードの力が味方してくれるとはいえ、それでもヘンタイとの戦いは恐ろしいものには違いない。
クラン自身も無事ですむとは限らない。
母親から引き継いだ跳ね毛はクランにとって決して幸運をもたらすものではなかったのだろう。
この跳ね毛を持つものは、ヘンタイと戦わなくてはならない宿命を強制的に背負われるのだから。
だが、クランはこの跳ね毛を切ろうなんて思わなかった。
生まれてこの方、この能力を呪ったことなんて一度もなく、
むしろ母親と同じ能力を持つことはクランにとって誇りであり喜ばしいことだった。
クランの母親もこんな気持ちだったのだろう。
誰も知らない都会の闇で、人知れずヘンタイ共から女の子助ける正義の味方。
物心がついたばかりに失踪してしまった母親が、そうだったのかと思うと妙に嬉しかった。
だから、クランも母親から引き継いだ使命の元、今日も元気に走るのだった。
森を果てしなく深く下りる。
人の姿は見えない。生き物の気配も感じない。
太陽の光も届かない。
ここは何か不吉な感じがした。
例えるなら冥界。
このまま下り続ければ地獄に落ちる。
そんな感覚すら漂ってくる。
もとよりこの森は人が死にすぎた。
多くの死を迎え入れてきた森。
その中でもこれほど死に満たされた場所はないだろう。
風は冷たい。
怯むことなくクランは駆け下りた。
疾走を続ける。
だが、おかしい。空気が重い。
その場所に近づくにつれ、体中が最大限に警戒信号を放ちだした。
肌を刺す違和感。体全体で感じ取れる異様な感覚。
声を出さず、無言で走る。
針のように肌を刺す殺気は、この先から放たれているのは間違いない。
殺気は一段と強くなっていく。
この闇の先に今まで出会ったことがないほどに、
恐ろしい力を持ったヘンタイが待っているのだろうか。
神経の全てが逆らっているかのようだが、その理由はわからなかった。
何故、声を殺しているのか…
何故、心臓が動悸しているのか…
何故、これほどまでに厭な予感をしているのか…
そして、突如としてクランの眼前に巨大な門が立ち塞がった。
「な…なんだ!なんでこんなところに門が!?」
門はまるでそれ以上進んではいけないという風に突然現れた。
(…そうか!これは…幻影だな!!)
それが弱い心が生み出した幻影なのは、すぐにわかった。
クランはふと、お兄ちゃんの言葉を思い出した。
例のヘンタイと戦う決意を口にした際、お兄ちゃんが最後に言い捨てた言葉だった。
―――まぁいいか。戦って勝つなどという事はカード使いの段階で言うなら未熟も未熟。
―――どうせ勝てない相手には近寄れない。
―――行こうにも相手の力量が上ならば辿りつく事ができないからな。
眼前に大きく聳え立つ門。
(そ、それじゃあ、これが………?)
こんな経験はクランにとって初めてのものだった。
門からは最大音量で警告が発していた。
…戻れ…戻れ…戻れ…戻れ。
…この先には誰もいない…この先には何もない…この先には用はない。
…オマエの選択は間違いだ…オマエの行動は間違いだ…オマエの予感は間違いだ。
…だから戻れ…戻れ…戻れ。
…悪いことはいわない…悪いことは何もない。今ならまだ戻れる。
…この先には何もないから早くハカナの元へ戻れ。
その声を受けるたび、気持ち悪くなり、吐き気はさらに高まった。
”身の危険”を察知する悪寒。
(なるほど、お兄ちゃんが言ってたことはこうゆうことか…)
このまま足を進めれば、いったいどれほどのヘンタイが待っているのかは知る由もない。
だが、クランは足を止めなかった。
誰かがクランに助けを求めているならここで立ち去るわけにはいかない。
意を決して門をくぐる。
しかし、門の先にあったものは、なんと荒れ狂う大海原だった。
(この先には、それほどまでに危険な存在がいるのか!?)
やせ我慢的な笑みを浮かべ、クランは幻影の海を真っ二つに切り裂きながら渡っていった。
頭の中で警告は続く。
…行ってはならない…その先には誰もいない…その先に踏み入ってはならない…。
…これ以上進んではならない…それ以上進んだらオマエは…。
バシャ!バシャ!
解せない。
それにしても解せない。行く手を阻む護身の幻。
(いかに危険な相手とはいえ、
いかなるカードを待っているとはいえ―――
これほどまでに危険な相手が待っているのか!?)
首筋がひきつる。
心臓は二倍に膨れ上がるかのように伸縮を繰り返し、
手足の感覚は粉々に砕けてしまいそうなほど蠕動を繰り返す。
立て続けに現れる障害物の幻影。
最初は巨大な門、次は大海原、
そして…今度は底も見えない断崖絶壁がクランの前に現れた。
なんとしても目的地には辿り着くなと…。
ここまでの危機意識はハンパではない。
表情がこわばった。
なおも、クランは臆さず進んだ。
―――。
闇に身を投じ続け、
どうやらここが深層部らしい。
こんな深くて誰も寄りつかなそうな場所には石造りのテーブルのようなものが2つあり、
その自体が生き物のように赤い光を放っている。
「なんだろう…これ………なんか決闘台に似てない…?」
誰かが頻繁に掃除でもしているのか、台には汚れがない。
どれくらいの深さなのだろうか。
降りてきた崖を見上げても太陽が見えない。
「………ん?」
そうして先の気配に気づいた。
茂みの向こう側に何か黒いモノが蠢いている。
背筋に悪寒が走る
その周囲が歪んで見えた。
同時に巻き起こる冷気。
喉元にナイフを突きつけられている圧迫感。
対極のようにクランを遠ざけようとする感覚はそこからだ。
足を進める。
地面は湿っている。足下はぬたりとした感覚でひどく歩きづらい。
いつか歩いた臓物部屋の感触にひどく似ている。歩くたびに踝の裏まで腐っていきそうな感覚。
「!!!」
足が止まった。
思わず鼻を塞ぐ強い刺激臭。
これ以上進んだらマズい。絶対にマズい。それはクランに発せられる最終警告だった。
だが、ここまできて戻ってられるかと一歩も引かずに前にでる。
そして、クランはついに禁断の一歩を踏み越えた。
いくつもの幻影を超えてやってきた。
息はとっくに切れている。
感覚もとっくに麻痺していた。
緊張も悪寒も、とっくに感じなくなっている。
いかなる敵でも相手をするつもりだった。
その心構えはできていた。
闇が薄れると、
ぽたり、ぽたりと、水滴のような音が落ちている。
ズバッ!
「ーーーーーーーーーッ!!!」
突然目の前に何かが飛んだ。
一瞬にして網膜に焼きついたそれは、紛れもなく人間の足だった。
ドシャ!ドシャン!
地面に強く落ちる音。音の回数は二回。
「根元からブッたぎってやった。もう動けネェだろ…ククク」
クランに背を向けたままつぶやいているのは男。
赤く濡れたナイフが煌々と光っている。
ここにあるものは、この世の地獄だった。
ズシャ!ズシャ!!
切り刻むのに夢中で、男はまだ背後に立つクランには気づいていない。
切り刻まれているのは少女。
生きていた。
少女はまだ生きていた。
どうして生きてるのか不思議でならない。
人としての欠落が多すぎるのに。
手足はない。
断ち切られたようだ。
胸はえぐりとられている。
肋骨も何本も飛び出している。
秘所はすり潰され、パックリと割れた腹からは長い腸が飛び散っている。
経緯はどうあれ、少女は胴体と頭だけしか存在せず、それすらも枯れ木のようにボロボロで―――
それでもまだ生きている。
男は少女を、生かさぬように、殺さぬように、
開かれた胸の、むきだしになった少女の内臓に触っていく。
痛くないはずがない。
…すすり泣く風の音。
少女の口から漏れている悲鳴らしい。
少女に声を上げるだけの機能はすでにない。
それでも少女は泣き叫んでいた。
蚊の泣くような声で精一杯の絶叫をクランに向かって浴びせている。
痛みと不安か。
体を咀嚼され、少しずつ形を失っていくことに耐えられず断末魔を上げ続けている。
少女はクランに真っ直ぐ視線を向けていた。
唇がかすかに揺れる。
声にならない声で。
―――助けて、と
クランにはそれで全て分かった。
目の前の少女は…、
今まで普通に生きてきて、
普通に学校に通っていて、
普通に友達と話していて、
たまたま遊園地に遊びに来て、
たまたまあのアトラクション会場にいて、
気がついたらこの森にいて、
敵に襲われ、
貞を奪われ
手足を奪われ、
何もかも奪われ
こんなところ暗くて何もない所で
動くこともできないまま、
叫び声もあげられないまま、
誰の助けも受けられないまま、
あんな目にされ続けて、
今にも切れそうな少女だということが…。
だが、それ以上に恐ろしいものは、
この光景、
この惨劇、
目の前でこの現実を作り出している狂人の方だった。
(……なんで…どうして……どうしてこいつが…こんなところにいるの………………)
全身が振える。
知っている。それはクランがよく知っている人物。
クランの意識はそちらに集中したまま離せなかった。
嘘だと思った。
こんなことは嘘だと思いたかった。
一瞬にして体が自由を失ない、
心が死人のように冷えきってしまう感覚が実際この世にあるなんて。
逆らうことなどできない。
指一本すら動かすことができない。
クランは叫びだす一歩手前。
いや、きっと叫びだすことすらできないだろう。
声一つ上げられないのだから。
少女を助けようとしてここまで来たが、その考えはすでにない。
眼前の恐怖に支配され、こうして背後から見ているだけでも気が狂いそうだった。
逆らうことのできない恐怖がそこにある。
近づくべきではなかった。
警告を聞いておくべきだった。
だがもう遅い。再三の警告を無視し、この場に来てしまったのだから。
だから問題はこれからどうするのかだ。
今は、ただこの場から目を背けたい。
荒れ狂う心音。狂いそうな動悸を抑えたい。
一秒だっていられない。一刻も早くここから去りたい。
ここは善くない。ここにいてはいけない。来てはいけない場所だった。このまま見ていてはダメだ。
そこまでわかりながらも、体はピクリとも動いてくれず、
戦うことも逃げることもできない。
そんなクランに助けを訴える少女の瞳。
そんな目で見られてもどうにもならない。クランには何もできない。
体が、どうしても動いてくれない。
冷静になれない思考。逃げようとしている心。
早くここから逃げなきゃという殺されるという予感。
助けなければという意思に、助けようとすればそれだけで殺されるという現実。
その鬩ぎあいが続く。
わずかに揺れる風の音。
―――ダメだ!
もう、すぐにでもこの場から早く逃げなくては…心が砕け散ってしまう。
だから勇気を振り絞った。それは逃げるための勇気。勇気を振り絞ってそこから逃げた。
ザシャ!
「誰だっ!!!」
男の声に返す言葉はない。
わき目を振り返らずにクランはただ全力で走った。
それは『少女を救わなくては』という理性より、『死にたくない』という本能が勝った結果だった。
―――あの地獄から離れる。
走る。
少しでもあの場所から遠くに逃げる。
頭の中には逃げることしかない。
茂みをかき分けながら突き進む。
こんな怯えきった心では、あの男には到底勝てない。
もし、あのまま戦っていれば間違いなく殺されていた。
それならば、クランにできることは逃げることしかなかった。
それに、あの男は追ってくるかもしれない。
逃げる際に立てた音で、クランの方に気がついていたようだから。
追ってくれば、結果として少女は解放される。
クランにだって見つからなければ助かる見込みがある。
いや、そんなはずがない。
そんな嘘で繕っても、あのまま取り残されれば少女は死ぬだけだ。
そもそも敵がその気なら、バズ=コックスの刃はとっくにクランの胸を貫いていた。
だから、男はクランだと知って見逃してくれたのだと考えるのが正しいのだろう。
「ーーーはぁはぁ…はぁっ…!」
死に物狂いで逃げて、逃げて、逃げ続けて。
どこに向かっているのかわからないぐらい夢中に逃げた。
来るときは何も感じなかったのに
なぜ地面がこれほどまでに歩きにくくなっているのだろうか?
足そのものが重い上に、ツタのようなものが絡まって、思うように進めない。
たった一歩ですらも数百歩のように遠い。
走りながら頭が回る。
あれはトウマの舎弟の一人だった。
彼等はまだ、森にいたのだ。未だに目的を果たせないまま森を彷徨っているのだ。
彼等の目的は夏樹ハカナ!そうだ、それ以外にない。
(守らなきゃ。そうだ、なんとしてもハカナ守らなきゃ。
ハカナをつれて早くここから逃げなきゃ!
今逃げるのはハカナの為だ。ハカナに危険を教えるためだ!!)
そう自分に言い聞かせながら走る。
バシャン!!
「やぁ!(丸文字)」
ツタに足をとられて豪快に転倒。思い切り前倒れ。最悪なことに下は泥沼だった。
ズブズブズブブブ…。
カエルのような格好で泥に埋まってしまい、
洗ったばかりの髪や肌、せっかく新調した制服まで泥だらけになってしまう。
「うっ…くっ…うううっ」
顔の泥が涙で流される。
「お母さぁん…(丸文字)」
情けない声で、いなくなった母親を口にする。
泥の中にまみれたまま、起き上がることすらできない。
すすりなく声と玉のような汗。呼吸は整えられない。
先ほどの男のことを考えると、それだけで恐ろしくて。気が遠くなる。
ハカナを探して、日ごろの恨みを晴らすと宣言したトウマ達。
ハカナをトウマ達に差し出した者にはカード80枚を与えるという話。
ここ数日トウマ達がどこで何をしているのかは知らなかった。
完全に振り切ったと思い、無意識に考えることは避けていた。
それなのにあのバズ=コックス使いを前にして、
真っ直ぐと立ち向かわなくてはならない現実に引き戻されて、
忘れかけた恐怖が蘇って、もう頭の中がずっとヘンだ。
ハカナを守らなくてはならないのに、力がでない。
泥から這い上がらなくてはならないのに、起き上がる方法すら忘れている。
いつもはあんなに小さくて軽い体が、ここまで重すぎると思ったことはない。
激しい痛みが駆け巡る。脳髄が焼き切れそうだった。
恐怖がクランの全身の活動を止めていた。
にも関わらず、体の痛みだけはあまりにリアル。
まるで今までの戦いの傷が全て開いたかのような激痛が駆け巡っている。
(ぐっ…やめろ!こんなこと思い出してどうするんだっ!!!)
クランは泥を握り締めた。
この森にきて、一番最初にトウマ達3人にリンチにあって死ぬかと思った。
そんなことを思い出しても意味がない。その先にあるものなんて、何もない。
だが、意識が裏返り、頭の中に嫌でもトウマ達に与えられた地獄の光景が蘇ってくる。
クランは頭の中で必死に叫んだ。
そんなこと思い出したところで、何の意味もないはずだから。
(止めろ…止めろ…止めろ…止めろ…止めろ…止めろ!思い出させないでェェエ!!)
―――あの日、あの建物の出来事が鮮明にクランの脳裏に映し出される。
腹を蹴り飛ばされ。
倒れた体を何度も蹴りつけられ。
泣き叫んでも許してもらえず。
ボロ雑巾になるまで殴られ続けた。
何もできなかったが、それは仕方なかった。
クランのカードは戦えるようなものでなかった上、敵のカードは強力すぎた。
だからそれは仕方がなかった。
それに、クランは生き残ることはできた。
幸運にも助かり、ハカナと巡り合い、チフユを救い出し、コウジからカードを奪い
クランのカードはデッキを構築できるほどに充実した。
だが、その絶頂期。
何故彼等との決着をつけようとしなかったのか?
何故勝負を避けるように魔境に行ってしまったのか?
クランには分かっていた
いくらトウマ達が強力なカードを持つとはいえ、所詮はカードの使い方も知らない初心者。
デッキを構築した状態のクランならば苦戦こそするが倒せただろう。
三人同時とは言わなくても、一人ずつ誘き出して倒すことはできただろう。
あれを残しておくと、この森にいる人々にとって大きな災いになることは分かっていた。
それなのにクランは、トウマ達との戦いを無視するように魔境に向かった。
彼等と再び戦うなどと、クランにとってはありえない事。
心に深く刻まれた恐怖は拭いきれるものではなかったのだ。
だからそれを忘れるように、カード集めに躍起になり、一刻も早くハカナの両親を見つけることに専念し、
みんなと一緒にこの森から逃げることだけを求めた。
分かっていた。気づかないはずがなかった。
このまま逃げ切れるはずがないことぐらい。
それでも心は、このまま逃げられればいいなと思ってた。
彼等の悪行など何も知らないまま、この森から出られればいいなと思っていた。
だから目は彼等を見ないように、耳は彼等の声が聞こえないようにしてきたのだ。
今まで本気で現実に立ち向かおうとはせず、
ひたすらトウマ達のことを無視して逃げ回った結果が、切り刻まれている少女なのだ。
ずっとずっと、逃げて、逃げ続けて、ハカナのためと言いつつも、本当に逃げてるのはクランの方で、
逃げ続ければどうにかなると思って、
そのために100の人間が彼等の犠牲になろうとも、自分達が助かればいいと思っていたのだ。
だからこれはクランの過ちだった。
自分の考えがどれほど浅はかなものだったのかと思い知らされ、
泥だらけの手で、自らの頭を掴み、本気で自分自身を呪って、力を込めてかき回す。
クランの母親ならあの時どうしただろうか。
きっと、どんなヘンタイを前にしても決して逃げ出したりはしなかったのだろう。
もし、あの時あの場所に、クランの後ろにハカナがいたとしたらクランは戦えたのだろうか。
いや、きっと、できなかっただろう。
彼等の前では、ハカナを守るために戦うことすらもできやしない。
クランにできることはトウマ達という恐怖から逃げることだけ。
これほど自分自身が情けないとは思わなかった。
こんなに情けない自分は泥に塗れて倒れている今の姿がお似合いなのだと思い、
もう、何もかもどうでもいいと、泥の上をゴロリと転がる。
ドプン!
「!!!」
深み落ちた。すぐ横は急に深かったようだ。
全身が泥の深みへと落ち、その深さはクランの背丈以上は十分にあった。
無防備に転がっていたクランは泥の底までずっぽりと落ちてしまった。
「ーーーんっ!んんーーーっっ!!」
必死に手足をバタバタと足掻きながら、重い泥を掻きわけながら上に登る。
ようやく地面にしがみついて、頭を出した。
「プハァ!ーーーハァ、ハァ…ゼイゼィ…………」
激しい呼吸を整える。
何もかもがどうでもいいとは言ったが、こんな死に方は、さすがに洒落にもならない。
(……泥………?)
泥だらけの姿を見て何を思ったのか、クランは泥で顔を洗い、体をさらにもう一度体を落とした。
ゴボゴボと音を立てながら、頭の先からつま先まで全身を泥に浸からせる。
泥の中に身を投じ、腕も足も、服も、服の中も、髪の毛も何もかもを泥で汚す。
全身に泥を浴び、着ているもの全てを泥で汚す。
まるでそれが自分自身への罰だと言わんばかりに。
次に頭を出したときは、泥にまみれてない箇所なんてないんじゃないかと思えるほどに
泥人間となっていた。
立ち上がる。
体中がドロドロとした固体とも液体とも言えぬモノだらけの状態で。
頭や指の先からドロドロしたものが足元に落ちる。
もう女の子とは思えない姿だった。
だが、これでよかった。これでようやくスイッチが切り替えることができたのだ。
クランにとって、恐怖とはまさにこの泥のようなものだった。
今、恐怖はこの泥のように体中に纏わりついている。
だから、もう心が怯えていることを否定するのをやめた。
怖いものは怖い。それを認めた上で、新たな決意を固める。
この纏わり突いた泥を落とそうと。
この戦いで迷いや恐怖を乗り越えようと。
それは困難な選択には違いない。
その途中、命を落とすかもしれない。
ハカナを守ると心に決めた。
死んでしまったらその誓いも果たせなくなる。
こんな形で終わらせるなんて絶対嫌だ。
こんな簡単にハカナを諦めるなんて出来ない。
ハカナが何より大切だと思うのなら、
なおさらあんなところに戻る訳にはいかない筈だ。
それは違う。
ハカナを本気で守る気があるなら、戦ってそして勝つべきだ。
クランはそう考えることにした。
つき動かす体。
死ぬかもしれないが、
誰かを助けるならば、そういう気持ちで戦わなければ、
誰も助けられないことを強く思い知ったのだ。
クランは再びあの場所へ戻った。
続きます。
もうスレの容量が持たなそうな予感。
続きです。
容量持つだろうか………。
森の深層部。
闇は一層と深みを増していた。
古めかしい2つのテーブルを超えてあるのは、
濁りきった赤と黒の世界。
足元に広がるのは赤い燐光。
黒く濁ったものは男の心。
その中でゆっくりと、少女の胸は切開されていく。
「やめろーっ!!」
「………ん?」
駆けてきたクランは足を止め、大声で張り叫んだ。
男は特に慌てる様子もなくゆっくりと振り返り、
「ああ?棗じゃねーか?」
よく戻ってきたな、と言わんばかりに、
小憎たらしげに口元を歪め、クランを出迎えた。
ここが決着の場所。
クランにとって身に刻まれた恐怖を断ち切るための場所だった。
「その娘をはなせ!」
目前のバズ=コックス使いを睨みつける。
両者の距離は二十メートル。
これがバズ=コックスに対する死の間合い。
それ以上踏み込めば、バズ=コックスのチェンソーがクランの体を両断するに違いない。
対してクランのカードはエクス=マンティス、アハト=アハトなど飛び道具が主体のモンスター。
射程距離だけなら分があるとはいえ、遠すぎれば命中精度は落ちるし、立ち塞がる木々もジャマになる。
ここがクランにとって最も有利な位置だと判断したのだ。
とはいえ、やはりクランのモンスターではバズ=コックスは倒せない。
あの頑丈なハードスキンに真っ向から立ち向かうようでは話にならない。
戦いになれば、なんとかバズ=コックスのスキを見て、召喚者を撃つしかない。
だが、その前に少女をなんとかしてやらないと巻き込んでしまう。
「聞こえなかったのか!少女を放せといったんだ!!」
「ふーん」
舎弟は勝手に納得したように、
「幼女のくせにまだ生きてたのか?なかなか、しぶといじゃねーか?
とっくに俺たちの放った屈強のロリコン共にやられちまったのかと思ってたぜ」
「う、うるさぁーーい!そんなに簡単にやられてたまるかぁ!!」
「おお。怖ェ怖ェ」
「その子を離せと言った!」
「ん?なるほど?こいつを助けにこんな所まで来たわけか?
でもさ。こいつは俺からカード盗んで逃げようとしたとんでもない悪党なんだ。
だから自分のやったことを十分に後悔しながら死んでもらわないとなぁ」
「それじゃあ、その子はまだ生きてるんだな!?
だったらなおさらだ!今すぐその薄ら汚い手をはなせ!!!」
「アハハハハハハ!」
「な、何がおかしいっ!!」
「わかってないなぁ…。
こいつはもう俺のモノなんだ。
だから1秒でも長くこの俺を楽しませてもらわなくちゃ困るんだよ。
ククク。アハッ!アアーハハハハ!ヒャヒャヒャヒャー」
「ーーーーーーっっ!」
何を言ってるのかこの男は…。
何がそんなに楽しいのか理解できないが、
今繰り広げられている光景をまだ続けるというのなら、
クランには到底許せないことだった。
「なんで…何でそんな酷いことするんだっ!!」
「何故だって?そんなの楽しいからに決まってるだろ」
元舎弟は余りにも単純な答えを当然のように返した。
「楽しい…だって……」
「そうだぜ。幼女のオマエにもわかるように言えば、オモチャ。
コイツは俺の好奇心を満たすための可愛いオモチャなんだ。
俺はただオモチャを使って遊んでるだけにすぎない」
男はクランに己の野望を語りながら、少女の内臓を貪っていく。
「……や…やめろ………!!」
それだけで気持ち悪くなった。
「オモチャが人を楽しませるのは何故だと思う?
オモチャってのは人を喜ばせるもの。愉しませるもの。
人間が人間を喜ばせるために作ったものだからだ」
語りながら、男は少女の体内から臓器を一つ取り出し、それを強く握りしめる。
軟式のボールのように、ぐにゃりと形を変える内臓。
心無しか、少女の体はビクビクと震えを見せていた。
「………やめろぉ………!」
「俺の家は金持ちだからなぁ。
親は頼めば何でも買ってくれたし、欲しいもので手に入らないものなんて何もなかった。
でもさぁ。
音楽とか、ゲームとか、読書とか、テレビ番組とか、
スポーツとか、芸能人とか、アイドルのコンサートとか…。
………何やってても俺の心はいつも虚しかった。潤わなかった。
俺は人間が作り出すそんなオモチャに飽き飽きしてたんだ。
心の底から楽しいなんて思えることはなかった。
俺の欲望を満たせるものは何もなかった。
だから生きてて物足りなかった。いつも退屈で死にそうな日々だった」
握り締める力が強さを増す。
「やめろっ!!」
「その点、このゲームは楽しかったぜェ」
それ以上強く握れば臓器がつぶれてしまう。
「今まで生きてきた中で、こんなに充実した時間はなかったなぁ」
「ここには俺の求めていたモノがあった。
どいつもこいつも、俺に殺されるヤツ等は死の瞬間、魅力的で尊く輝いていた。
悲鳴や断末魔を発しながら、必死に生にしがみつこうとする人間の形相は
この俺の胸にも感動させるものがあったぜ。
それは、確かに俺の心に足りなかった何かを満たしてくれた。
そうして気づいたんだ。
これこそが、俺の望んでいた真の娯楽だってことに…。
この世でもっとも最高のオモチャとは人間が作り出すものではなく、
死を前にして感情を剥き出しにした人間そのものだったんだ。
この素晴らしいオモチャ比べれば、俺が今まで遊んできたものなんて二流も二流。
カス以下の存在だってわかったよ。
ククッ……心の底から感動するとは、こうゆうことを言うんだろうな。
だめだ…もうこれ以外のモノじゃ口に会わなくなっちまった………!
俺を満たすためには道徳などジャマだ。…ハァハァ……ヒャハハハハハーーーー」
グシャリと、臓器を握りつぶす。
そこから噴出す血の雨を全身で浴びる。
目の前の男の姿は、あまりにも異常だった。
「ーーーーーーーっっ!」
「さぁて、このオモチャにも色々と楽しませてもらったが、
やり始めたころほど魂の悲鳴は聞こえなくなっちまった。
だから、そろそろ壊して、
新しいオモチャでも探しにいこうかと思ってたんだけどよぉ…」
クランに対し、ギラリとした視線をむける。
寒気がするのは間違いはない。
この男を目の前にして立っているだけでも寒気はおさまらない。
男はこんなことを果てしなく続けてきたのだ。
「……キ…サマ…」
「ふぅ…。
あのとき、トウマのヤツにズタボロにされるオマエの姿は悪くなかったぜ。
殴られるだけ……という小規模的なものだったが、
そのまだ小さく幼い体が、殴られ、蹴られ、踏み潰され、
血にまみれ、赤く青く腫れていく姿は、素晴らしい刺激に満ちていたぜ。
でも、俺的にはもう少し苦痛の声をあげて欲しかったなぁ。
何もできずに無念のまま命を削られていく人間の叫びってやつは、胸に迫るものがあるからなぁ」
そうして男は満足そうに笑う。
まるでクランのおかげで世界の真理にほんの一歩だが近づくことができたのだと言わんばかりに。
「そう、俺の望みなんてその適度の小さなモノでいいんだ」
「……ふざ…けるな」
震えた声だす。
それは恐怖に振えているわけではない。
クランにとってあの悪夢のような出来事を。
成すすべもなく暴行され続けたあの姿を
心の底から素晴らしいと言うかのように………。
あの時間が…あの地獄が…そんな一言で置き換えられて。
クランの怒りは一瞬にしてレートを超えた。
「…………絶対に許せないっ!」
もうこれ以上話すことなど何もない。
この以上この男の行為を許しておいてはならないのだと、
意識を戦うことだけに集中させ、カードを握る手に力を込める。
「ーーーー召喚!!」
召喚したのはコウジなどがよく使用している長身の銃。
やはりカードで召喚しただけあって、普通の銃とは性能が異なり、
『狙った箇所に必ず当たる銃』だった。
「くらえっ!!」
銃身を向けて怒りの銃弾を発射した。
男を襲う数発の弾丸。
命中精度と引き換えに威力は低いが、
生身の人間に対してならコレでも十分。
それに、これならば少女を巻きこむ心配もなく男のみを狙えれる。
「フンッ!」
繰り出された銃撃は何事もなければ、それは男の四肢の力を奪うものだった。
しかし、前面に現れたバズ=コックスがそれをさせない。
ガキン!ガキッ!ガチンッ!
分厚い鋼鉄にでもぶつかったかのような音が響く。
バズ=コックスにとって、こんな弾丸を弾くことなど容易い。
「おいおいおい。そんな豆鉄砲が通じるとでもおもってんのかよ?
こいつを倒したきゃ、せめて核ミサイルでも持ってくるんだな」
「ぐっ………」
バス=コックスのハードスキンは、真正面からどれほどの銃撃を受けてもびくともしないだろう。
クランにとって問題は、どうやってこのバズ=コックスを潜り抜け、舎弟に一撃を加えるかだ。
この細い糸をどう引き寄せ、どう紡ぐか。
勝利の可能性は余りにも低い、いや、可能性がありえるかどうかも定かではない。
それでも背を向けるわけにはいかない。
恐怖を乗り越えると決めたのだから。
両者の距離は二十メートルのまま。
バズ=コックスからは攻撃できる距離ではない。
バズ=コックスの射程には、まだまだ十分余裕があるのだが、
これ以上は近づきたくはない。
「なんだ?もう撃ってこねェのか?だったら今度は俺が攻撃してやろう」
「エ!?」
舎弟が一枚のカードを掲げる。
ギャリッっとした音を立て、バズ=コックスの両腕から飛び出してくるものに、すぐに反応。
つま先に意識を集中し。地を蹴ろうとする足に力を込める。
全力で地面を蹴った。
「っーーーーー!」
空を切り裂くようなバズ=コックスの一撃から、真横に飛んだ。
横っ滑りで地面を転がる。
それもすぐに止めて、すぐさま顔を上げた。
飛び出したチェンソーはクランを超え、その遥か先にまで伸びていた。
「!!!」
それに一瞬でも気を取られたのが不味かった。
バズ=コックスのチェンソーは二本。
襲い掛かる第二の閃光。
ズバッ!
頭を振ってかわしたが、間に合わなかった。
ブシュッ!
宙に舞う鮮血。
「ーーーうっ…ぐっ…!」
パックリと切られた。
クランの右頭部から夥しい血飛沫が上がる。
予想外の一撃に怯むのは一瞬。
キズを抑えながら、
すぐに顔を上げて、ダメージの具合を確認する。
ぽたり、ぽたりと激しく地面に雫が落ちる。
流れ落ちる血は大量で、そのせいで右目が見えない。
切られた頭部の傷は浅くはなく、血が止まらない。
激しい頭痛、そして目眩。
そこで意識を戦いに戻す。
「………な…なんでっ!」
クランにとってはありえない一撃。届くはずのない一撃だった。
ジャラジャラとチェンソーが音を立てて戻っていく。
「…まさかっ!ルーンカードで…射程リミットを解除したのか…!!」
視界が赤く変わる。
実は言うと、厳密にはバズ=コックスの射程は20メートルの限りではない。
バズ=コックスは元々遠距離型のモンスターで、
遥か上空の飛行機を打ち落とせるほどの高射程を持っている。
しかし、攻撃後には飛び出したチェンソーを
テープレコードのように巻き戻して回収する必要があり
それが終わらないことには次の攻撃が繰り出せない仕様になっている。
つまり、チェンソーを遠くに飛ばせば飛ばすほど、
巻き戻すのにも多くの時間がかかってしまい、
その分だけが次の攻撃までのタイムラグとなるのである。
そしてそれは、場合によっては致命的な状況を生むことになる。
目の前の敵に対して、空の彼方まで飛んでいくような一撃を繰り出して避けられようものなら、
チェンソーが巻き戻るまでの間に使用者の命はないだろう。
よって敵に届くだけの距離を飛ばすのが、バズ=コックスの理想的な使い方となってくる
しかし、これがなかなか融通の利くものではなく、一度飛び出したチェンソーは
射程距離限界ギリギリまで飛んでってしまうのである。
そのため、バズコックスには数段階のリミットがかけられている。
デフォルトは射程10メートル前後だが、攻撃後のスキが非常に短い近距離タイプ。
そのリミットを解除するごとに射程は増えて、その分攻撃後のスキ大きくなっていく。
使用者は目標との距離に応じて射程を使い分けながら戦うのが本来の戦い方である。
クランが驚いているのは素人だったはずの男が、それに気づいており
なおかつルーンカードで射程リミット操作をしたことだった。
「よく知ってるじゃねーか…………ひょっとしてオマエ、カードオタクか?」
せせら笑う男の声。
息を呑む。
素人だったはずの目の前の男は
既に10年以上も修羅場を潜り抜けたような男の顔つきになっている
たった3日の戦いが男をこうも変えてしまうものなのか。
ガシャン!
それで、ようやくチャンソー全てが巻き戻ったのに気づいた。
それに気を配りつつ体制を立て直す。
滴り落ちる流血は最早止められそうにない。血を止めるのはあきらめた。
それよりも不味いことは視界が歪んで、真っ直ぐ前が映らないことだ。
「ククク。じゃあこいつは知ってるか?」
男がもう一枚カードを掲げると、片方のチェンソーの色が赤く発光する。
それは意識が遠くなるような赤。
(あれは?)
シュバッ!
赤色のチェンソーが瞬時に飛び出した。
クランは全力で地面を蹴る。
未知の力を秘めた赤色の刃を、身に受けて確かめる訳にはいかない。
あれに触れるのは死を意味することを直感が告げていた。
転がって躱したが、
ジュバアアアア!!
「ーーーあ、熱っっっ!!!」
大地が焼けるような異様な熱気。
さっきまで立っていた場所を見据える。
地面からは焼け焦げる音。
じゅうじゅうと湯気を立てて沸騰する地面。
後に残っているのは黒くなり完全に闇に溶けこんだ地面だけ。
それが今の攻撃が唯の一撃でないことを物語っていた。
「ぞ…属性変化かっ!!」
ジャラジャラジャラ。
「そうそう。ルーンカード『電磁メス』でバズ=コックスの攻撃力を強化してみたんだ」
辺りの熱気とは逆に冷や汗が流れる。
やはり男はこのゲームのルールを理解してバズ=コックスを使いこなしている。
「いろいろ試してみたが。このカードが俺のバズコックスと一番よく合っている。
どんな頑丈で巨大なモンスターであっても、
これの前にはバターのようにたやすく切り裂くことができたぜっっ!」
シュパッ!!
「ーーーーはっ!」
我に返る。
再び、容赦なく伸びてくる赤いチェンソーを飛んで躱す。
大地が沸騰するほどの超高熱の一撃。
こんなものに切られては、傷口から体が蒸発してしまう。
シュパッ!
赤いチェンソーは脅威だが、それだけに構っていれば、もう一つのチェンソーに両断される。
それだって、いかなる大岩、いかなる城壁であろうと突破できるものなのだから。
襲い掛かってくる無数の刃を、悉く避け続ける。
いや、こんなもの直撃を受けた瞬間死ぬ。
正面からの赤い刃。
左翼からの鋼鉄の刃。
頭上から落ちる刃。
弧を描いて奇襲する刃。
それら全てを躱し、必殺の一撃から身をひねる。
無理矢理に崩した体制を立て直し、次の攻撃に備える。
舎弟の攻撃に手加減なんて一切ない。一撃一撃が殺意に満ちたものだ。
距離は依然変わらない。
いや、むしろ広がっている。
だが、あのチェンソーは際限なく伸びる
その気になれば何処までもクランを追ってくるだろう。
「こ、こいつっ!」
巨木を盾にして隠れるが、そんなものは何の役にも立たなかった。
チェンソーは巨木など切断して、何事もなかったかのように真っ直ぐとクランの左肩を切った。
「ーーーーんっ、あっっ!!」
転がり、体制を立て直しながらも引き金を引く。
しかし、そんなものはバズ=コックスの前には何の役にも立たない。
舎弟の注意をほんの一瞬引くだけでしかない。
「ほう。まだ攻撃してくるのか」
関心したように笑った。
同時に再びチェンソーがうねる。
鎌首をあげて揺らめくそれは赤と白のヘビのようだった。
唇を噛む。
最悪の状態になってしまった。
ズシャ!ズシャ!
何度も降り注いでくる刃を転がって躱す。
このままでは、あとどのくらい生き延びられるのかさえ定かじゃない。
勝ち目はあまりにもなかった。
こんなのモンスターを出せば、その瞬間死ぬ。
バズ=コックスとクランのモンスターとでは大きく開きがある。
どんなルーンカードを使おうと、とても埋められる差ではない。
交互に襲いかかってくるチェンソーは、巻き戻す際に発生するタイムラグを半分に縮め、
クランを一時だって休ませない。
クランは合間をうって、何度も銃を撃った。それがムダだと分かっていながらも。
「いいぞ。そのままあきらめないでくれよ…。
必死に生きようとする命を奪う瞬間こそ、俺の心は満たされる」
「ーーーーーぐっ。あつっ!!」
スカートの後ろに触れた赤いチェンソー。
じゅう、と音をたてて焼けるスカートと、むき出しになったお尻。
「!!」
さらに振り下ろされる白いチェンソーから飛び退く。
直接触れた訳ではないがお尻はあまりの熱さに感覚が無く、どうなっているか判らなかったが
ともかく目前の空き地へ飛び込んだ。
「はーはーーー」
転がりながら自分の体を確認する。
お尻。お尻は無事。ほんの少し火傷をしただけだった。
赤いはハカナのせいだろう。
これがなくなってしまえば走ることもできない。
ほっとする暇もなく、
「はあ、はあ、あーーーーっ」
落ちてくる赤いチェンソーを、転がっていた別方向に飛びのいて躱す。
ジュババババ!!!
間欠泉のように沸きあがった高熱の石を浴びる。
まるで灼熱地獄。
地面を焼く匂いと煙で目眩を起こす頭をしぼって、立ち上がると貧血の感覚。
瞬間、背中に灼熱が走る。
「!!」
背中がメラメラと燃えていた。
すぐに転がって消化し、何もない場所へ飛び退いた。
そこで迎撃は止んだのか。
とりあえず襲ってくるものはなく。
唇を噛む、
あれだけ逃げ回って立っていたのは結局、始めの位置だった。
「おいおい。ただ逃げ回ってるだけかよ」
男からしてみればこんなものは戦闘ですらない。
あくまで余興。初めから勝つと判りきった戦いだった。
だから疲労も緊張もない。
「ぐっ…」
だが、クランは違う。
激しい攻撃の中、髪を切られ、肌を刻まれ、衣服さえ串刺しになっていく。
その窮地の中で致命傷を避けるだけで精一杯だ。
勝利の可能性がまったく見えない。
散々やられたが、気迫だけは負けないように見据える。
バズ=コックス使いは始まった位置から一歩も動かす、逃げ回るクランの姿を観察していた。
どれだけ呼吸しても心臓は落ち着いてくれない。
クランの体もそろそろ限界だった。
これ以上動けば胸が裂け、そこから心臓が飛び出しそうな勢いだった。
どうしようもない。
男に一撃加えることも出来なければ、あのチェンソーを止める術もない。
頼みの綱のディープ=ハンマーも出し惜しみなんてしていない。
だが、従来のチェンソーならともかく、今のあれは超高温のレーザーブレードだ。
原子を通り抜けるディープ=ハンマーとは言っても、原子事態を超高温で加熱されてしまえば、
クランの体はとてつもなく悲惨なことになるだろう。
判ったことは遠距離からの打ち合いは、ただ体力が削られるだけだということ。
せめて男の横に少女がいなければ、もう少し大胆な攻撃をしかけられ、
そこから活路を見出すこともできるのだろうが………。
(こうなったら危険覚悟で先に進むしかない!)
あの激しいチェンソーによる攻撃を躱しながら、なんとか男に近寄って撃つ。
もう、それしか勝機は残されていなかった。
「どうした?もう終わりか?」
その声の瞬間。
止まることなど許されないとチェンソーが振り降ろされた。
「ーーーくっ!」
スパッ!
アゴをあげて、ギリギリ、チェンソーを躱す。
たいしたことじゃない。
躱すのは簡単だ。
チェンソーによる攻撃は脅威ではあるが、それ自体は見切れないわけではない。
少なくとも銃弾などの見えない攻撃に比べれば、まだ目に捉えられるスピード。
だが、問題は見えない方向から来るチェンソー。
右側から来る攻撃だ。
血は未だ止まらず、動き回った後には大量の血が落とされている。
結果として死角を作らない為には激しく動き回るしかなく、
その間にも体は少しずつ切り刻まれ、体力は奪われていく。
体の動きは大分と鈍ってきている。
「っ。はぁ…はぁ…」
休む暇がない。
こんな状態じゃ近づくなんて出来ない。
走り続けるのも、それだけの体力と血液が必要だ。
今のクランはそれが絶対的にそれが足りてない。
それでも赤いチェンソーだけはなんとしても避けているが、
白いチェンソーまでは完全に避けられずに切られた体の箇所の感覚は失われていた。
血が流れ、肌が青紫色に変わっていく。
痛みがないことだけが何時の救いだが、
これが全身に渡ったとき、クランは自分が生きてるか死んでるか判らなくなるだろう。
そうなったら一環の終わりだ。
そうなりたくないのなら走るしかないが、そろそろ、それも難しくなってきた。
力尽きるのは時間の問題だった。
そして、逃げながら銃を撃ち続ければ、まぐれで男に当たるなんて幸運も絶対ないことも判った。
近づけない。
近づこうとすれば今以上のスピードでチェンソーが襲ってくる。
近づくチャンスが来るとしたらそれはこのチェンソーに対して何らかの対策を行なったとき…。
「ーーーーあっ!」
考えている最中に転んだ。
地面の断層に足をひっかけて転んだ。
無様に倒れたクランをバズ=コックス使いの男がゴミを見るように見下げる。
二つのチェンソーがクランに刺し向かれ、頭上でもたげた。
起き上がろうとしても起き上がれない。
ぬるりとした感覚。
倒れればすぐに血溜まりができるほどの流血。
足が言うことを聞かない。
よく見れば、右足も左足も信じられないぐらい真っ赤だった。
「そこまでだな」
「ーーーぐっ…」
顔を上げる。
頭の意識は今にも落ちそうだ。
男が号令を上げると、クランの体中に赤いチェンソーがまとわりついた。
ジュウウウウウ!
「ーーーーーーっっっ!!」
それはヘビが獲物の全身の骨をしめあげて砕くかのように。
服が燃える。
肌があつい。
じくりと毛穴から、硫酸でも流されているようだった。
それに歯を食いしばって耐えるも、この高熱の前には限界だった。
血が蒸発して赤い水蒸気が広がって―――、
ドシャン!!
倒れたクランからはプスプスと煙が上がり、服も体も何もかもがボロボロ。
立ち上がれるモノではなかった。
「アハハハハ。助けにきて、逆にやられるなんて、無様なヤツだな」
勝利を確信し、男はゆっくりとクランに近づいてくる。
「死なない程度にわざわざ出力を落としてやったんだぜ。
どうだ?聞かせろよ。自分の体が焼かれる感想を?」
「………うっーーーぐっ…ハァハァ…」
かろうじて、朦朧とだが、意識はまだ残っていた。
体の状態を確認する。
人間の原型は留めている。
耐火性能の高い制服の魔力が守ってくれたのだろう。
とはいえ結果は黒。
感覚もなければ動きもしない。
クランは向かってくる男を睨んだ。
それが嬉しいのか、男は厭な笑いを浮かべる。
「ククク…活きのいいオモチャだ。
その程度の気概がないとオモチャとしては話にならん」
不用意に前に立つ男。
これを勝機と悟ったか、
クランは動かないはずの腕を挙げ、銃口を向けた。
しかし、そんなものはすぐに踏み潰された。
グシャ!
「ーーーーーギッッ」
ブチブチと断線していく筋肉。
激痛から来る悲鳴を抑える。
死に至る際の苦痛と恐怖の泣き声はこの男にとっては喜びなのだ。
だから、叫び声をあげないことはクランにとってささやかな抵抗だった。
しかし、なお男は笑みを浮かべたまま、
「いいぞ。死を目前にした人間というのは飽きることなく楽しませてくれる」
ブチッ!ブチチチ!!
「ーーーーーあああっっ!!」
ドシャ!
今度こそ右手には何の力も入らなくなった。
「はぁ…………はぁ…………」
吐息が漏れる。
感じなかったはずの痛みがゆっくりと戻ってくる。
肌は焼かれ、体のあちこちは切り裂かれ、無残な姿をさらしている。
(…ぐっ………ああっ…はぁ…)
クランは完全に敗れた。
最後の希望だった銃も、引き金を引けないままに終わった。
制服が守ってくれていたものの、体の損傷は激しすぎる。
前日に受けた傷は次の日には完治しているクランの回復力をもってしても、
もうしばらくは動けないだろう。
―――そこへ。
「さぁて。これから…どうやって楽しんでやろうかなぁ…」
傷一つないバズ=コックスと共に、男が立っている。
冷や汗が流れる。
男の考えていることなどわかっている。
どうやって壊そうか、
どうやって形を変えていこうか。
男は簡単にクランを殺したりはしないだろう。
あらゆる苦痛、あらゆる恐怖を与えながら、
ゆっくりと、じっくりと、自らの欲望を満たしていくつもりなのだから…。
「………………」
倒れたまま、クランは男を見上げた。
今のクランには何も出来ない。
この男が望めば望むだけ、クランの体は汚されるだろう。
「ククク」
人間を解剖する為のナイフがクランの前で光る。
男はクランを覆うように四つんばいになり、
「まずはその右目からくりぬいてやろうか?」
「ーーぐっ…」
大きく開かれる目蓋。
眼光に向かって来る鋭利な刃物がゆっくりと大きくなっていく。
五感全てで感じるのは、この先、男に散々オモチャにされた挙句、
最後に待つどうしようもない死だけだった。
だが、クランの心はまだそれを受け入れてはいなかった。
ヘンタイを倒すことが使命だと思い、誰かを助けたいと走り回った挙句、
結局誰も助けられないまま、このまま死ぬなんて許されなかった。
だから立たないと、立って最後まで戦わないと思った。
何があってもこの男には負けられないと思い、倒れた体に力を込める。
痛みがあるならば、まだこの体は動くはずだ。
―――ならば戦わなくては。
このまま倒れて死を待つ事など、クランに出来よう筈がない。
―――立たなくては。
この男がこれほどまで異常なヤツなら、ハカナやチフユでは到底太刀打ちできない。
痛みだけを頼りにクランは四肢に力を込めた。
クランの最後まで足掻こうとする姿に、男は興奮し口元を釣り上げた。
「まだ、あきらめないのか?ククク。それでこそ俺の見込んだオモチャ。
俺のオモチャにふさわしいというヤツだ」
もう次の瞬間にも失われそうな緑の瞳で真っ直ぐと男を射抜く。
ふざけるな…戦いはまだ終わってないと。
―――全身に熱が戻る。
満身創痍だった体に、立ち上げる為の血が巡る。
こんな恐怖を、ずっと背負わされてきた少女のことを思ってムリヤリ巡らせた。
猛る気合。
クランは全身の力をのせ、右の足で男の無防備の股間に膝をくらわせた。
「ーはーーーーーは…うッ!」
男の動きが止まる。
なおも蹴り上げる。
いや、蹴るというよりは、めり込ませるという表現の方が正しい。
足裏を思い切りめり込ませ、その反動でバネを作って地面を転がり、距離を離して体制を立て直す。
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
男はこれほどの屈辱を受けたことがなかった。
悶絶はほんのわずかだがクランの体に休むだけの時間を与えてくれた。
「お、…うぐっ…………お…お、………俺の股間を………棗ェェェェェェェェェッ!!」
男はもはや許さんとばかりに睨み付ける。
両目を開き、
万が一つの勝算を見つめて、立ち上がった。
この体にまだ痛みが残っているうちに…感覚が残っているうちに。
この男を倒す。少女を救う。
「ーーーーっ」
「ーーーーーーー」
両者共に無言のまま、視線だけが絡み合う。
こうして立っているだけでも正直クランはきつかった。
全身から流れ落ちる血がそれを物語っている。
距離は10メートルほど。
先ほど身をもって体験したバズコックスの刃の嵐は、より恐ろしいものになると予想される。
…対してクランの体は自由が利かないも同然。
両足の機能とて本来の10分の1ほどもなく、銃を握る腕は力さえこもらない。
こつかれれば、どんな凡庸な一撃でさえ受けきれずに倒されるだろう。
されど、クランは一部の迷いもなく、ただ一点の勝機だけを見つめている。
先ほどに比べクランにとって有利になってる点は、男が少女から離れたことだった。
「ディープ=ハンマー!!」
ならばもう豆鉄砲などに頼る道理はない。
召喚したモンスターによる、ありったけの火力を敵にぶつけるだけだ。
「…………ほぅ…」
男とて、それを前にして構えられぬ筈がない。
バズ=コックスを携え、目前のクランへと向き直る。
「そんな小さいモンスターでこの俺のバズ=コックスと?正気かよ?」
「………」
クランは応えず。
その瞳だけが、決死の覚悟を告げていた。
「ーーーいいだろう。だったら先にその四肢を切り落としてやるっ」
大気が吼える。
バズ=コックス―――そのチェンソーによる切断能力は正確無比で美しい切り口を誇る。
それに加え、鋼鉄をも切り裂く電磁メスによる高温効果まで追加され、
今度こそクランを霧散させようと唸りをあげる。
収束する熱はチリチリとクランの体にまで届いていた。
「おらっ!今度こそ地面に這い蹲りやがれェ!」
チェンソーが振り上げられる。
会わせるように、クランはカードを掲げた。
「ルーンカード!全弾発射!」
絡みあった視線は一瞬。
クランのモンスター。ディープ=ハンマーの背面ポットから全てのミサイルが発射された。
「ぬっ!!!」
ディープ=ハンマーによる全弾丸の一斉射撃。
全てを巻き込み破壊するほどの弾丸の雨を浴びさせる。
「うおおおおおおっ!!」
バズ=コックスは嵐のような爆撃に飲み込まれた。
なおも、放たれ続ける弾丸の雨。
ディープ=ハンマーのミサイルの搭載量はハンパではなく、
一撃一撃は小さなものであっても、その総量は圧倒的な力となる。
目を潰す閃光。耳を覆う爆撃音。ディープ=ハンマーの作り出す破壊の渦。
しかし、その中においてもバズ=コックスは平然と立ち荒んでいた。
姿形一つ変えず。避ける必要もなく、召喚者の盾となり。
それを砕く攻撃などこの世には存在しないといわんばかりに。
跡形もなく消滅するような光と風の乱舞。
だが、それすらもバズ=コックスには通じなかった。
どんな力、どんな攻撃をもってしてもバズ=コックスを打ち破ることはできない。
この防御に対抗する手段などない。
それはクランにも男にも共通した確信だった。
「ーーアハハハハ!ーやっぱり、その程度かよ。それじゃあ遠慮なく死ねよぉっ!!」
未だ続く爆撃の中から、赤いチェンソーが容赦なく振り下ろされた。
ドゴッ!!
「ぬむっ!?」
驚愕を漏らしたのは舎弟のほうだった。
いつまでも同じ場所にいるクランではなかった。
「ーーー!」
そこからは血溜まりだけを残し、クランの姿は消えている。
チェンソーは大地に亀裂を走らせただけだった。
ミサイルによる爆撃の目くらましの合間に、クランの姿は完全に消したのだ。
そして、遥か先から、
荒れ狂う閃光と灼熱を受けたばかりのバズ=コックスに新たな一撃を加えられる。
ドォーーーーン!
バズ=コックスの体を揺るがしたのはアハト=アハトによる一撃だった。
それは間違いなく直撃だった。
今までの爆撃とは比べ物にならないほどの轟音。破壊力をもった一撃だった。しかし…
「ふぅ…びびらせやがって………」
他のモンスターならば間違いなく必殺と呼べほどの一撃…。
そんな完全な一撃ですらも、ほんの1メートル、後退させただけで、
バズ=コックスの装甲に穴を空けられるものではなかった。
男が撃ってきた方向を見据える。
無謀にも挑んできたアハト=アハトを制裁せんと狙いをつける。
「そこかぁーーーー!!」
チェンソーを振り上げ、回転は臨界に達し、アハト=アハトを切断せんとチェンソーが飛び出した。
男は鈍重なアハト=アハトにその刃を回避する方法はないことは知っている。
そして、モンスターが傷つけば、その召喚者も傷つく。
男は今度こそ勝利を確信した。
―――その直後だった。
バズ=コックスがアハト=アハトに対してチェンソーが伸ばした直後。
目標だったものはカードへと姿を戻し、
先ほどまでクランが存在していた位置には、
地面の中という空間から、ディープハンマーを背負ったクランがその姿を現した。
「な、棗!?」
舎弟のすぐ目前に現れたのは、紛れもなくクランだった。
ディープ=ハンマーの能力。
地面の中という闇に溶け込んで、
先ほどの泥の沼のように、溶け込むように大地と同化して、
ひたすらこの時を待っていた。
男に気づかれないようにソナーも使わず、潜望鏡もださず
アハト=アハトという囮と、
ただの直感だけでバズ=コックスが二本のチェンソーを使った瞬間を感じたのだ。
「はーーーーぁ!」
狙っていた。
チェンソーを巻き戻す際に生まれる、
バズ=コックスの攻撃が止まるほんの一瞬の隙を。
銃を携え、男から目を逸らさず全力で走る。
流れ落ちる血にも、全身を駆け巡る痛みにも耐えて。
体はまだ動いている。
これをおいて勝機はない。
今、この瞬間だけ体を全力で動かした。
チェンソーが巻き戻るまでが勝負。
銃は散弾銃のモードへと変更する。
思考は男を撃つ為に必要な最小限の行動だけを考えていた。
ジャカジャカ!ジャコン!!
始めにクランを狙った赤い刃が戻るのが一瞬早い。
そして、クランに対して余裕も手加減もない必殺の一撃が繰り出された。
この土壇場で
クランの集中力はこれ以上ないほどに高まっていた。
そのチェンソーの動きでさえ、スローモーションのように感じとれた。
クランにとって避けるのに許される体力は一度限り。
それも余り多く使うことは許されない。
制服にまだ残されている魔力を信じて最小限の動きでかわした。
左胸のすぐ横を通る高熱、
焼け落ちて行く制服。
神秘で編まれた制服が光となって本来なら身が蒸発するような高温から悉く身を守る。
身を溶かすような感覚に耐えながら走った。
それを乗り越えたときには、
クランの体を覆うのはすでに服と呼べるものではなくなっていたが、
それでも最後まで役目を果たしクランを守りきったのだ。
バズ=コックスに飛び乗る。
そのまま頭上から男に狙いをつける。
この時背筋に走る死神を、男は確かに見た。
だが間に合わない。
飛び退く事すらままならない。
今度、恐怖で動けなくなるのは男のほうだった。
「ま、まて……!まってくれ」
「ーーーーー」
男は目前に立つ全裸に近い幼女に恐怖して、
頭が回らない。
回避する方法は何も考えられない。
ひたすら振り払おうとする動きをみせるだけで。
「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーー!!!」
男の絶叫。
その悲鳴はクランには聞こえない。
気を抜けば自分自身が意識を失いそうだからだ。
体が動くうちに男を倒そうと。それだけを考えて。
倒すべき目標を目前にし、
手にした銃を両手で構え。
ただ引き金に力を込める。
戸惑いはない。あるのは、わずかな同情だけ。
「うわあああああああ!!」
ドンッ!
渾身の銃弾を、男の全身に浴びせた。
「ぎゃあああああああああっ!!」
弾丸は男の全身に打ち付けられ、全ての抵抗する力を奪った。
ザシャ!!
全身に散弾銃を受けた男には立ち上げる力は残されていない。
クランはバズ=コックスから降り。
銃口を眉間に押し付けたまま、男を見つめた。
男は倒れたまま、クランの姿だけを見た。
「ーーーーー」
風の音だけが響く。
先ほどまでの荒々しさは、その面影さえない。
戦いは終わり、決着をいう結果だけが残っていた。
「げふっ…げぼぉ…」
息をする男の口からは血が漏れている。
全身には死ぬほどの激痛が襲っていた。
血を流し、肉の感触が失われていく。
命が削られていく恐怖。
舎弟はそれに耐え切れない。
「ご、ご、ごめんなさーーーい……!!急にとんでもない力を手にして、
ちょっぴり調子にのって悪ぶったりしてみただけなんです!!!
あ、…あの女のことも…ほんの少し間がさしただけで……!
…そそ、そうです…トウマのヤツがやれって言ったんです。
俺は……嫌だって言ったのに…!!
他には…何も…悪いことなんて何もしてません…ですから」
続けられる命乞い。
なんとしても生き残ろうと。
だが、眉間を押し付ける銃の圧力は増していく。
銃を押し付けるクランは、男の体に大量の血を落としながらも眼光だけは衰えていなかった。
「ままま。まってくれぇ………頼む……殺さないでくれぇ…。
お願いします、お優しい棗お姉様ぁ。同じ学校の仲間じゃないですかぁ…!!」
「………バズ=コックスを……カードに戻して……全てのカードをだせ!」
「そ…それは………」
「撃つぞっ!」
「ひぃ…ひぃぃ」
男はクランの命令には逆えなかった。
命はクランに握られているのだから。
力ない声で号令を上げると、バズ=コックスはカードに戻り、地に落ちる。
クランは男から全てのカードを奪い取った。
そして、男に背を向けその場を後にする。
「ままま、待ってくれ!こんな所に、こんな傷で一人でおかれたら、俺死んじゃうよぉ!
俺……全身が………痛くて…………死にそうなんだぁ…たぁすえてぇ!!!」
「うるさいっ!黙れっ!」
「頼むぅ!助けてくれぇっ!…俺こんなところで…死にたくないよぉ!
ごめんなさい。私が悪かったです。反省してます!!
もう幼女体型なんて馬鹿にしません。見捨てないで下さい。棗クラン様ぁ!!」
クランは不機嫌に舌を鳴らした。
奪ったものから一枚のカードを男に投げつける。
連絡通信用のカードだった。
それがクランが男にしてやれる精一杯だった。
「オマエにも仲間がいるだろう…あとは……自分でなんとかしろっ!!」
「ひぃぃ。ああああ、ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
男は脱兎の如く逃げ出した。
クランはあたふたと逃げる男に目もくれなかった。
男が消えると、クランは膝に手をやった。
やせ我慢していた体も限界だった。
だが、このまま倒れるわけにはいかない。
まだクランにはやるべきことがあるのだから。
戦いは終わった。
明確な敵がいなくなり、ようやく、最後の仕上げにかかる。
もう少女を助けるのにジャマをするものは誰もいない。
四肢を奪われ、胸まで切り開かれている少女。
その中の胎動はまだかすかにであるが続いているのだ。
「はぁ…はぁ…」
視界は何もかもが歪んでいる。
何もなくなった静寂の中でさえ
煽られる風で倒れそうになる。
クランのダメージは逃げ出した男以上に深刻なものだった。
歩いた後には血の道が作られる。
それでも最後の力を振り絞って歩いた。
ザッ!
ようやく解放された少女の前に立った。
手が触れ合える距離でも、無事を確かめる言葉はない。
少女が、かなり危険な状態なのはわかる。命に別状はあるだろう。
本来ならば、このまま目を覚ますことのない傷。
「……まってて……今……助けてあげるから…………」
少女に声をかけるように呟いた。
思案する時間は一時もなく、
クランは震える手で名も知らぬ少女のため、たった一枚のヒールカードを翳した。
これはもう決めていたこと。
クランにとってやるべき事。
カードに血が滲むほどの指で、唇をかんで、
話すたびに口からこぼれおちそうになる血に耐えながら。
「……ごめんね…わたし…が……あんなやつ…ほおってた…せいで………ごめんね…ごめんね…」
聞こえるわけもない懺悔の声を残して、
そうして溢れる緑色の光の中。
目の前の少女の無事だけを祈り、
そのままクランは膝を突き、カードを掲げたままの姿でゆっくりと目を閉じた。
全てを捨てて、傷だらけになりながらも、少女を守りきった。
クランの顔は与えられた使命をまっとうしたかのように、安らぎに満ちていた。
「ーーーーー」
体から全ての力が消える。
…少女がどうなるか見届けることもできないことだけが残念だった。
死の淵でさえ、他人のことを心配しながら、
深い意識の底へと沈んでいった。
クランは自分の幕が下りたのだと受け入れた。
続きます。
土日以外に来てるとは…油断した。乙彼様です。
ハズ=コックス強いですな。
遊戯王風カードゲームじゃなくカオシク型直接戦闘だと相手するのはデスレックス以外は
かなり厳しいみたいですね。
残るはシケイダーとスーパーデスだが…クランたん、ヘルトラマンを忘れたのか。
臓物を晒そうと恥辱にまみれようとも戦う不屈の闘志はどうしたw
そろそろ次スレのテンプレ考えたほうがいくないかい?
今までの流れだと
【モツ】カオシックルーンエログロスレ【ダルマ】
初代語り部:デス子
【キチガイ】カオシックルーンエログロスレ2【フリークス】
2代目語り部:とくになし
【モツ】カオシックルーンエログロスレ3【炸裂】
3代目語り部:ケイタロー
【モツ】カオシックルーンエログロスレ4【萌え】
4代目語り部:四屍マモル
次は…誰だろ?
時期的にパルコか、サエコのどっちかか?
パルコちんキボンヌ
貼ったら新スレ案もないまま
落ちそうなのでやめときますね……
【ゲロ】カオシックルーンエログロスレ5【萌え】
まだまだ使えると思う。
取りあえず妄想でも書いて埋めていこう。
ああ〜お腹を壊したクランたんのお尻に栓をしてあげたいなあ〜!!
|_-)じぃ
l_ <ゲロ痛ァァァァーっ!!
○| ̄|_
俺にはAAの技術がないのだが
パルコたんに二本挿しだと思ってくれ
じゃあ俺も挑戦
○
ノ□ヽ
lll
只
デッドゲームって読んだ?おれっち読んでないケド…そんな感じ。
あ〜ななかをヒイヒイ言わせたいぜ。
簡単にやらせてくれそうだし。
ななかって誰だ? そんなヤツはおらんぞ!
パルコならパルコと書けよ。
カレーはカレーと呼ばれているのに…
先生・・
ニット帽とやりたいです・・
「異界」
我々の住むこの世界の外側には多数存在する別の世界。
異界の住民は様々様々な手段でこちらの世界を侵食し支配しようとしている恐るべし存在だ。
そして、また一人。
ここは、とある青年の部屋。
男「ハァハァハァ…」
男は今日も朝のお勤めに大忙しだった。
男「………ハァハァ…ハァハァ…」
コンコンッ
窓を叩く音がする。しかし、夢中の男は気が付かない。
男「………ハァハァ…ハァハァ…うっ…」
コンコンッ
再度窓を叩く音がするのだが、男はまったく気が付かない。
???「エレちゃん。お願い」
???「ハーイ!加粒子砲撃っちまーす!!」
ドッカーーーーン
激しい音と共に窓が粉々に吹き飛んだ。
男「?」
壊れた窓から、羽の生えた少女が入ってくる。
ハカナん「愛の天使、ハカナん見〜〜〜参!!」
ゴシゴシ、シコシコ
男は、G行為の真っ最中だった。
ハカナん「きっ……きゃーーっきゃーーーっ!!いやーーーッ!!!」
エレ「うひゃー」
男「なんでスかキミは?ノックぐらいしたまい!!」
ハカナん「そっちこそちんこくらい隠しなさいよ!」
ダンダンダンと階段を駆け上がってくる音がする。
ハナコ「お兄ちゃんーーっ!うるさいわよ!ナニを騒いでいるの!?」
男「!!おお。我が妹」
ハナコ「キャア!お兄ちゃん下半身丸出しでナニしてんのよぉ!
なに?朝からオナニー?元気ねェ…」
男「それどころじゃない!聞いてよ!あのヘンな女が突然……」
ハナコ「…………………………だれもいないじゃない…
…お兄ちゃん…とうとう…」
男「い……いるじゃないか!ホラそこ!部屋のド真ん中!!」
ハナコ「…お兄ちゃん……………つかれてるのね。
大丈夫!就職先くらいお兄ちゃんなら見つかるわ!!
私とお母さんだけは最後までお兄ちゃんの味方だからね…しくしく」
男「いや。そーじゃなくて……」
ピシャっとドア閉じ、ハナコは階段を下りていった。
ハカナん「……あのー。私他人には見えないんですよ実は」
男「くそっ!誰だキサマ!いったい何を企んでいる!!」
ハカナん「んもうっ!ぜっんぜん聞いてない。
ちゃんと名乗ったのに…。だから女界から来た愛の天使ハカナんです」
男「はっ?愛の天使?」
ハカナん「ええっ!!ひとくちでゆうとキューピットってヤツね」
男「…」
ハカナん「で、こっちの子は使い魔のエレ」
エレ「オーーース」
ハカナん「こっちのがポカポカよ。可愛いでしょ。ウフッ」
ポカポカ「フモフモ」
男「…」
ハカナん「普段はこの女界の裏側、女界にいるんだけど、
ひとたび、助けの電波を感じるや否や…」
男「うるせぇ!何が愛の天使だ!ふざけんな!」
ハカナん「え?あれ…??」
男「人ン家の窓、派手にブッ壊しといてふざけんな!
壊した窓どうしてくれんだ!ちゃんと弁償してくれんだろうな!ゴルァッ!」
ハカナん「……え…そ…それはその…」
男「だいたいなんだ、そのけしからん巨乳は
オッパイばかりに栄養いって、頭がおかしくなってんじゃねぇのか!え、コラ」
と言ってハカナんの胸の豆ポチ辺りをツンツンつつく。
ぶちっ。
ハカナんの中で何かが切れた。
ハカナん「エレちゃん!うんとやっちゃって!」
エレ「電磁スピア!!」
バリバリバリ。
男「ギャアアアアアアアアアアアアア」
青と白の光が迸りながら、部屋中が破壊されていく。
男「わ…わかった。オマエが愛の天使だというのはわかったから、もうやめてくれ」
ハカナん「わかってもらえてうれしいわ。
そう、私は愛のキューピット。
困った人たちを助けてあげるのが、わたしのお仕事!!
あなたの強い願いが私をここに導いたの!
ほらっ。悩みがあるんでしょ。言ってごらんなさい。こう見えても私有能なのよ」
男「うるせぇ。この疫病神が!とっとと帰れ!!」
ハカナん「えーーーそんなわけないわ。
それに今なら女界創立50周年記念でサービスもつくわよ」
男「いらん!帰れ!!」
ハカナん「うう……わかりました。無理強いはしません。そこまでいうなら帰ります。
んもうっ何よせっかく来たってのに。失礼しちゃう」
トボトボと空に帰っていくハカナん。
男「!壊した窓そのままにしていきやがった!くそっあの極悪天使めっ!!
…何が『あなたの強い願いが私をここに導いたの』だ。
おれに悩み事なんてあるわけ……。
………………………………ところで悩み事というのは、恋愛相談はOKなのだろうか?」
大急ぎで戻ってきたハカナん。
ハカナん「ウフフフ。あなた運がいいわ。
恋の悩みは私のもっとも得意とする分野よ。
なにしろ私は恋のキューピット2段の凄腕なんですから。
あなたの愛を成就させてあげましょう」
男「わ……わたくしの愛を……!?」
ハカナん「そのとトり!!
私のこなした仕事は成功率100%
その私が来たからにはあなたの愛にはもう何の心配もないわッ!!!」
男「!!!
わたくし…実は25年間生きてきて、彼女なんか一度もいなかったとゆうかなんとゆうかその」
ハカナん「エエ……それは確信とゆうかパッと見でわかったわ友達も少ないでしょ」
男「ホントに愛しの彼女と激ラブになれるんでスね。
もうモニター見ながらちんこニギらなくてもイイんでスね!!?」
ハカナん「イヤ…その……。
別にどーやって発散させてるのかは詳しく言わなくてイイから、とにかく私に任せて!
さて!それじゃ、その片思いの相手のカオでも拝みに行きますか!!」
男「頼もしいとみたーーーーーッ!!!」
男に連れられて、辿り着いた先は幼稚園だった。
ハカナん「……………………あーーーーーーーーーーーー………
その……なに?彼女って先生か何かなんだ…………よネ?」
男「しっ!来たでスよ!!」
クラン「きゃっ。きゃ」
ハカナん「…………………………………………………………………………………え?」
男「幼稚園大組、棗クランたん!
特技お兄ちゃん体操。好きな番組ヘルトラマン!!」
ハカナん「あの……えっと、その……犯罪?」
男「なっ………ナニを失敬な!愛に年の差は関係ないハズ!」
ハカナん「………でも犯罪?」
男「うーーーーーん。クランたん。今日もモエモエ〜〜〜〜ハァハァ!!」
ハカナん(コイツ!ダメ人間だあーーーーーッ!!
プーでオタクでロリータ。おお……おお女神様…コイツ、ダメ中のダメ人間………!!」
男「ゴチャゴチャうるさいなキミは。100%ってのはウソなのか?」
ハカナん「言ってくれるわね?そもそもなんであの子を好きになったのよロリッ!」
男「よくきいてくれたネ。そう、あれは一週間前。
法にふれるタイプのエロ本。ウルトラ写真塾を古本屋でゲットして買える途中、
転んだ拍子に紙まで破れて周囲の人間共に笑い者にされる中、わたくしの目の前に現れ
『大丈夫?はい、これ。ねェねェブランコとか好きなの?』
そう言って本を拾いボクに優しく話しかける彼女の笑顔。
自分と同じ年くらいの子のコラ満載のエロ本とも知らず……
そんな状況にセッシャの愚息はもう……………もう!!!!ハァハァズヒッフゥ」
ハカナん「ゆがみっぱなしね。あなた」
ハカナん「……仕方ない。彼女と相思相愛になれる方法を考えてみます」
男「お願いします」
ハカナん「……ダメだわ。ひとつも方法が出てこないなんて………
……あなた……本当に………人……間……?」
男「ししし、失敬な」
ハカナん「よく言うじゃない。ホラ。
自分は他の兄弟アヒル達とはどっか違うと思ってたら実は別んちの子だったとか。
そーゆう童話ライクな」
男「もおいい!!キサマみたいなのには頼まんわッ!
このドブス!!くされま○こ!!!」
ハカナん「………まあイイわ。とにかくこのままじゃ当たって砕けた上で
児童福祉法違反でエライことになるのが目に見えてるし、いったん帰って対策を考えるわよ」
男「ハーイ」
ポカポカ「フモフモ」
家に帰ってきた二人。
ハカナん「ダメダメ人間。ロリータ彼女ゲット計画」
男「いえーーー」
エレ「いえーーー」
ハカナん「このままじゃ彼女なんて不可能っぽいにもホドがあるので、
いい男になるためにまず自分の欠点を見つめなおしてみよう!!」
男「ボクの……欠点………?
うーん……そうだネ。強いてあげるとするなら
やさしすぎるとゆうトコロかナ〜〜〜〜〜〜〜〜〜?」
ハカナん「ムウ……殺したい!
ハッキリゆうけど全部ダメ!彼女がマセてて特殊なシュミのヒトでない限り望みはゼロよッ!!!」
男「う……ううっっっ」
ハカナん「ねェ。あなた特技とかないの?」
男「あるよ。フフッ……目ん玉ひんむくなよっ」
男はパソコンのスイッチをONに。
とあるアプリケーションをたちあげ、
クランの画像にいろいろして
あっという間に裸巨乳ブランコに…
ハカナん「ていっ!」
バキッ
男「かふっ」
ハカナん「あー……んじゃ説明してくれる?つっこむのはその後にするから」
男「コレはツッコミではないんでスネ?要するにクランたんハァハァハァ」
ハカナん「ようしOKわかった!イイから黙れ!!
それにあの子、胸が大きくなる素質がないから大きくなってもペタンコよ」
男「大丈夫だよ。その辺はボクが毎日揉んでなんとかするから」
ハカナん「わたし帰る……」
男「ちょっとちょっとハカナんっ!ボクの愛は!?叶えてくれるんじゃなかったのか!!?」
ハカナん「だっ、だって……」
男「だってもくそもない!!
そもそもキサマの存在意義とゆーか仕事はなんだ!
人の願いを叶える事じゃなかったのか!?」
ハカナん「う……ううっ」
男「もっと自分の仕事にプライドをもてッ!!!」
ハカナん「……うう……っ。きいたわ………!
あんたみたいなのに言われる筋合いないよーな気もするけど実際全くその通りで!!」
エレ「プーに仕事の説教されてるよ」
男「わかって……もらえてようだネ!!わかったらオレを幸せにしてくれ」
ハカナん「わかったわ!!自信なんかこれっぽっちもないけれどやってみるわ!!
あなたのゆがんだ欲望のために!!!」
男「ハカナーーーーん!!!」
―――こうしてハカナんのオニのよオな特訓が始まった!!
―――男を根本から鍛えなおすために!
―――男の魅力を最大限に引き出すために
―――彼の愛を成就させんがために
―――そして2ヵ月の時が過ぎたッ!!!
特訓完了
ハカナん「……………………………………………………………………………あっれ〜〜?」
男「フウ………ハカナん!アリガトウ……。
この2ヵ月の特訓のオカゲでボクは男として皮が一枚ベロリとめくれ上がったようなキモチだよ……!」
ハカナん「え?ああ……………うん……」
男「『ズルリ』!!といってもイイくらいかもしれん!!」
ハカナん「いやベロリでもズルリでもイイけどさ
ど………どう?何か自分で変わったよーな気はする!?
その………そうだっ!特技。何か特技を」
男「フフ……おやすいご用さハニバニ」
男はパソコンのスイッチをONにしてクランの画像を(略)
ハカナん「コイツやっぱ変わってねえよう!!!」
男「フウ………ッ。罪作りな男だぜ………。
明日の朝刊でイキナリ総理に選ばれてなきゃイイが……」
ハカナん「イヤ。それはないから安心してイイと思うわ。
知ってる?ベロリとめくれたのが元に戻ったらホケンきかなくなるんだよ?」
男「なんのハナシだいハニバニ」
ハカナん「イヤ。だからダレよ。ハニバニって」
ではイクゼ……ッ!彼女のもとへ!!!
やっぱりイクンですか
ちびっこ公園。
ハカナん「………あの……」
男「しっ!いたッ!!」
ハカナん「やっぱやめて帰った方が………うおっいない!?」
スッ
クラン「?」
男「や……やあこんちわっっっ」
クラン「?
あっ……!確か2ヵ月ちょっと前の……」
男「そっそう!!あの時はありがとうっ!」
ハカナん(!顔を覚えられてる!!ひょっとしたらイイトコまでイクかも!!?)
男「きょっ今日はその………あの時のお礼がてら…うわっ」
ハカナん「しっーーっ!!他人には見えないって言ったでしょ!?
ナンかあったらフォローするからがんばって!!」
クラン「…ン…今何かあったの?」
男「あっ!!いやいやなんでも!!
あー……それでなんだっけイヤあの……っ」
ハカナん「おちついてっ!イキナリの話題は禁物よっ!
そう川の流れのよオにごく自然に!!」
男「かっ川の流れのよオに!!」
ハカナん「そう!!そして川の流れはいつしか大きな海に流れ出るのよっ!
なんかそんなカンジに!自分でいっててワケわかんないけど」
男「そ、そうだ!クラ……いや、キミは公園が大好きなんだね。
お兄ちゃんも公園遊具大好きなんだよ」
クラン「ヘンだぞっ!オマエの趣味っ!!」
ズガーン(効果音)
ハカナん(うわあ)
リョウガ「クランー。そんなところで何やってんだ」
クラン「あっ!お兄ちゃんだぁ(丸文字)」
ハカナん(!?)
リョウガ「ごめんな。迎えにくるのが遅れて。寂しくなかったかクラン?」
クラン「ううん。ぜっんぜん平気だよぉお兄ちゃん」
ハカナん(兄弟…………………には見えないわよね………)
男「………」
リョウガ「ん?ダレだあいつ?知ってる人?」
クラン「ううん知らない人」
リョウガ「そうだ。今日アイス買ったら
ヘルトラマン限定ヘルトリウム光線フィギュアが当たったんだ。
クランにやるよ」
クラン「うわあ!リョウガお兄ちゃん大好き(丸文字)」
リョウガ「さあ今日は帰って何して遊ぶクラン?」
クラン「ヘルトラマンごっこ。キャ!キャ!(丸文字)」
リョウガ「ハハハ。クランは正義のヘルトラマンが大好きなんだな」
クラン「でもね。でもねェ。いっちばん大好きなのはお兄ちゃんだヨぉ(丸文字)」
ヒュー。公園の中を一陣の風が過ぎ去っていった。
男「……………」
ハカナん「…………………………じゃ…じゃあ…私はこれで………」
パタパタパタ
ハカナん(あ〜〜〜なによ。あんなカレーの王子様がいたんなら元から無理じゃない!
まったく無駄骨だったわ…はやく帰ってお風呂入ろっ)
ぶつぶつと文句を言いながら空に帰っていくハカナンだったが。
ハカナん「キャア!」
突然羽が消えて地面に墜落した。
ドシャ!
ハカナん「いたたたた」
大衆「おお!なんかいきなり裸の女が落ちてきたぞ!」
大衆「うひょー」
ハカナん「え…………い…いやああああ。何よコレェ(丸文字)」
カスミん「はぁ………なんという低たらく。まったく情けないぞハカナん」
ハカナん「え!?…あ…あなたは……カスミん様!!」
カスミん「たかだが人間の願い一つ叶えられんとは………」
ハカナん「だだだだって。あいつがあんまりロリでオタでプーだから!」
カスミん「言い訳など聞かん。
いいか!どんな手をつかってもあの男の願いをかなえてやれ!
それが天使としてのケジメだ!
それができるまでは女界に帰って来ることなど許さんからな!」
エレ「おねーさまのために頑張ってこいよ」
ハカナん「そ…そんなぁ…」
カスミん「それよりいいのか?周りからは丸見えだぞ」
大衆「ハァハァ………」
ハカナん「いやああああああああああああ」
ハカナん「……ううっ。ぐすっ。こんなんじゃもうお嫁にいけないよぅ………」
カスミん「泣くなハカナん。
私もキューピットだからオニじゃない。
ルール違反ではあるが、あの男が望んでいる能力を一つだけあたえてやった。
それを活かせ」
ハカナん「え!?」
男「……ククク」
ハカナん「はっ!?」
男「フフフ」
ハカナん「な、なによ、あなた…!?な、何?その怪しいメガネは!?」
男「なにを言う。コイツは女神様から貰ったスケスケ夢カメラだぞ。その証拠に」
カシャ!
男「ほーら。ハカナんの裸シーソの写真だよ。」
ハカナん「い、いやあ!くだらない合成写真なんて作らないでよ!!」
男「ガハハハハッ!どうだスゲーだろ!このマシーンさえあれば天下を取れるぜ。
ほーら。大量生産だって簡単にできるぜ!」
バラバラバラ
ハカナん「!!!!!」
大衆「うひょー」
男「世界は俺様のモンだあーーーーっ!ハハハハハハア!!」
ハカナん「こ…こ、こ……こ…こ の バ カ ー ー ー ー ー ッ !」
バキッ
男「げぶぅ!」
ポカポカ「ふも」
終わり。
_,. -‐- -─ 、
r‐-<:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\
,! :. :.:.. `:.:、:.:. :.:.:.:.:.:.:. :、:゙、
/:.〉、:.ヽ:、:.:.l:.:、:.:.:ト、:.:. l:.:.i
|.:.l:.:ト、:.:.l:.l:.:ハ:.:ヽ:.:.:.:.\:.:!:.:| お粗末様でした
l:.:l_;;lィチ;};l/テドミ`'!ナ:.rヽl:/
`^ヾ!{!ij 上:i}ミ/:./:レィ″
/人 ′ ∠:./:./彳》‐-..、
'´ |:.:l゙ヽ` _,.イ:.:/>'‐- 、:.:.`丶、___,
!:.| ./ `´ 、`|:.j/ `ヽ、ー-<´
ヾ! | `レ,' ヽ:.:ヽ.:ヽ
| ヽ ! |く ヽ:.:.ヽ:',
| l | | ` \:.:':!