【モツ】カオシックルーンエログロスレ3【炸裂】

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無事おしっこもすんで
クランたちの遊園地の旅はさらに続いた。

「ぎゃああああ!!…わあああ!!ヒィ!ハァハァ…ゼィゼィ………」
お化け屋敷から飛び出してきたのはクラン。
目は潤んで泣きそうだ。
あとから、ハカナたちもゆっくり歩いてきた。
「もうクランちゃん。ひどいじゃない。一人で先にいっちゃうなんてェ」
頬を膨らませているのはハカナ。
「ご…ごめんよぉ………ハァハァ…でも、本当に心臓が飛び出ちゃうかとおもったヨ…」
「ホント…最近のはよくできてるのねェ」
このお化け屋敷は女性陣には少しきつかったようだ。
クランはまだガクガクブルブル震えていた。
そんなクランに、ハカナパパは少しおふざけ。
「クランちゃん知ってるかい。今、係りの人から聞いたんだけど
 でるらしいよ地面から…手が…でてきて…悪い子はつれていかれちゃうんだって」
「な………ッ!
 ハ………ハハハ。そんなことあるわけ………ハハ、アハハ………」
平静を装っているものの、ハカナパパの脅しでクランは汗びっしょりだった。
「ま、まったくバカバカしい」
あくまで強がっているクランだったが。
グワシ!
突然地面から出てきた何かがクランの足首をつかんだ!
「!」
クランの血の気が一気にざざーと引いていった。
あまりの恐ろしさに言葉もでない。
「よっ!」
地面から現れたのはバンダナにメガネとつけた男だった。
「おどかすなぁっ!!」
バキッっとクランの強烈なとび蹴りが炸裂した。
「何でオマエがこんなところにいるんだ!」
「ちょっとしたバイトだよ。バイト」
クランとバンダナの男がぽんぽんと掛け合いをしていた。

「ねェ。だれ?あのバンダナの人…それに今、確かに地面の下から………」
ハカナママがハカナに訪ねる。
「え…えと。まぁ…その、ちょっとした知り合い…みたいなものかな………
 ………地面の下から出てきたのはあんまり気にしないで………」
バンダナの男の名前は我謝コウジ。
ハカナたちが通う学校の近くにあるゲーム屋の店長をしている男だった。
しかし、ハカナにとってあまりいい印象はなく、それ以上何を言っていいのかわからなかった。
ハカナママは言い争っている感じのクランとコウジの間に割り込む。
「クランの母です。クランがいつもお世話になっています」
「ぶっ!」
横から割り込んできたハカナママの言葉にクランは思わずむせ返ってしまった。
意表をつかれたのはコウジも同じだが、さすがにコウジはすぐに対応した。
「いえいえ、こちらこそクランちゃんには日ごろからお世話に」
「クランとはこれからも仲良くしてあげてくださいね」
「ハイ!そりゃもう。それにしてもお若い奥さんで」
「もう、あなたお上手ね」
すっかり和んでいる2人の間にクランが猛烈に割り込んで、
「寝ぼけたことを言うな!
 なんで私がこんなヘンタイと仲良くしなきゃならんのだ!
 オマエも一緒に住んでるからって保護者ぶったりするなぁーーーっ!
 バァカヤロォォォォーーーーーーッ!!」
ものすごい音量での怒りの咆哮。
それもつかの間、クランのつやつやとした頬がおもいきりつねり上げられた。
「クランちゃん。大切なお友達にそんな言い方しちゃダメよっ!
 まったくこの子は口が悪くてすいません」
「いたたたた!痛いよぉ!だってコイツは…コイツはぁ………」
クランはじたばたもがいた。頬はめちゃくちゃ痛い。
「まぁまぁ。ご主人。そのへんにしてあげてください。
 僕は気にしてませんから」
キリッとしてコウジの表情と紳士的な態度に、やっとクランの頬は開放された。
頬はすっかり赤くなってしまった。
「じゃあ、これ渡しとくから、よかったら来てねー」
クランにチラシを押し付けると、コウジは一礼して去っていった。
「あ、おい!まったく何なんだ?」
チラシは折りたたんで、ズボンのポケットへといれる。

「紳士的な人ね」
「しっかりしてそうな人が友達でよかったなぁクランちゃん」

クランは言いたいことがたくさんあったが、
また頬をつねられたりしたらかなわないので、言うのをやめた。
気を取り直したクラン。
そろそろお昼の時間帯だった。
ここは遊園地内にある公園。
「それにしても喉、乾いちゃったな。………いっぱい汗かいたからかなぁ…」
「じゃあ、私みんなの分のジュース買ってくるね」
「じゃあ、一緒に行くよ。一人で持つのはたいへんだろ?」
そう言ってハカナとハカナパパは仲良くその場から放れていった。

「じゃあ、そろそろお昼にしましょ。
 私も荷物置き場からお弁当もってくるから、
 クランちゃんはちょっとの間ここで待っててね」
「ハーイ」
ハカナママも去っていった。

クランは、側のベンチにぴょこんと飛び乗った。
擬似とはいえ初めて家族の温まりのようなものを感じたクランの心は幸せの絶頂にあった。
(ああ、こんな日がずっと続けばいいのに…)
そんなことを考えながら、太陽の日をぽかぽかと浴びていると
ポンッと後ろから誰かが肩を叩いた。
(あっ、ハカナだっ!)
嬉しさがこみ上げてきて、クランは自然にカワイイ声を出しながら振り返った。
「ハイハーイ。クランちゃんですヨぉ。
 ハカナお姉ちゃんでちゅねェーーーー(丸文字)」
振り返るとそこには、唖然とした表情の金髪男と他二名が立っていた。
クランの同級生で、学校でも悪名高い不良のトウマとその舎弟達だった。
クランは硬直した。
金髪の男、トウマは眉間にシワをよせ、ポケットに手をいれたまま、
何も言わずに不思議そうにクランの顔を疑っていた。
その顔は、変なものを見たかのように、たいへん気味の悪そうな表情をしている。
クランは完璧に凍りついて瞬き一つできない。
水分不足にもかかわらず、額からドッと汗が流れていた。
「プッ」
ようやく状況を察したトウマ、他舎弟の二人の口元が緩む。
「ヒャハハハハ腹いてェーーー」
トウマたちは突然おさえきれない様子で、腹を抱えて笑い転げた。
クランの顔が真っ赤に染まり、頭からは再び蒸気が煙をあげた。
学校ではいちおう怖い人で知れわたっているクランにとって
あんなにカワイイ丸文字を聞かれたのは大失態なのだ。
「ヒャハハハハハ!!」
こらえきれずに、うずくまって地面をガシガシたたき出すトウマ。
「うーーー!ううーーーっ!!」
クランはうなるだけで次の言葉が見つからなかった。

「うっ!うるさーーーーーーーいっ!」
クランは半ばヤケ気味になって叫んだ。
「ハイハーイ。クランちゃんですヨぉ(丸文字)
 プッ!ギャハッハハハハハハハ!
 腹いてェーーーーーし、死ぬっーーーっ!!!」
しかし、クランの物真似を開始したトウマ達ご一行は、
さらに笑いのドツボにはまっていった。

「わ、笑うなあぁぁぁーーーっ!」
クランは恥ずかしくて死にそうだった。
クランは顔を真っ赤にしながらも非難の声を浴びせるが、
トウマ達はクランの顔を見るだけでこみあげてくる笑いが止まらなかった。
このままではいけないと、クランは自分の右足に力をいれる。
こうゆう手段は好きではないがこうなったら力ずくで黙せるしかない。
「いい加減にしろ!バカヤローーッ!」
クランの右足がトウマの股間に向かって蹴り上がった。
しかし、精神的動揺のせいでクランの金激にいつものキレはなかった。
トウマが軽快にかわすと、クランの足は頭のてっぺんぐらいまで上がって、
バランスを崩して尻もちをついた。
「ひんっ!(丸文字)」
少し涙がこぼれたクランに、トウマは腰を落とし顔を近づけた。
「ハカナお姉ちゃんはどうしてんでちゅかぁ?
 ク・ラ・ン・ち・ゃ・ん?」
そう言ってクランの鼻の頭にデコピンを一発。
クランは今まで築きあげた権威のようなものは完全に失墜していくのを感じ、
目が一気に潤むと、今まで我慢していたものが一気にあふれて。
「うわぁぁぁぁああん!わぁぁぁああああんっ!」
辺り一面にクランの泣き声が響き渡った。
「ヒャハハハハハ!こいつ高校生にもなって鼻水たらしてやんの。キタネー」
にやりと意地の悪い笑みを浮かべるトウマ。

クランは16歳。そしてもうすぐ17にもなろうというのに、
人目を気にせず泣き叫ぶその姿…これではただの幼女。
「いや、ゴメンゴメン。
 クランちゃんは9歳でちゅもんね〜。生理もマダでちゅもんね〜」
「う、うるさーーーい!黙れ!!!うわっぁぁぁああああん!」
そこに16歳の面影は一片もない。
クランは、この年にもなって、まだいじめられて泣いているのかと思うと
悔しさと情けなさで、余計に涙が止まらなくなってしまった。

トウマの自分に対する暴言…何もできない自分のふがいなさ…
それらが一度にのしかかってきて、クランの小さな胸は張り裂けそうだった。
いたたまれなくなったクランは、そこから逃げ出した。
ハカナ達が戻ってきた。
「クランちゃん?まったく、どこ行ったのかしら」
「迷子にでもなってるじゃないか?」
「おーい!クランちゃーーん」
返事は返ってこない。
ふとハカナは不吉な想像をしてしまった。
「ちょっと私…周り探してくるね」

ハカナが少し歩くと、落ちてるクマのぬいぐるみを発見した
この大きなクマのぬいぐるみはクランが抱いていたものだ。
もらった時には、あんなに喜んでいたのになぜ?
「クランちゃーーーーん」
不安と声は、だんだんと大きくなっていった。
「クーラーンーちゃーーーん」
何も返答が帰ってこない。

胸が詰まるようだった。
遊園地、園内の端。
道から少しはずれた小高い丘は林になっており、普通の客ならまず入る必要のない場所。
そこには一人ぽつんと絶望に打ちのめされたクランの姿があった。

(みんな心配してるのかなぁ…)
クランは体育座りのまま、拾った木の枝で地面にクマの絵を描いていた。
(何やってんだろ私………またみんなに迷惑かけてる……)
ぐぅ…。
腹の虫も鳴り出した。
(おなか…すいたヨぉ………ぐすん)
近くに時計がなく、あれからもう何時間たっているかもわからなかった。

ピンポンパンポン!
それは園内放送の音だった。
「迷子のお呼び出しです。
 ○○区からおこしの、棗クランちゃん、お母様がお呼びです。
 入り口のインフォメーションまでお越しください」
「子ども扱いしやがってェ!バァカヤロォォォォーーーーッ!!」
そのクランの大声を聞きつけて
「クランちゃん!?」
背中から聞こえてきたハカナの声にクランの目が丸くなる。
(ハ、ハカナ…!!)
クランはなんとも複雑な顔をした。
ハカナはようやくクランを見つけて肩が軽くなった。
「よかった。こんなところにいたのね。
 もう…探しちゃったじゃない。
 帰ろう。クランちゃん」
ハカナの声がだんだん近くなって来る。
「………クランちゃん!?」
苦虫を噛み潰したようなハカナの声。
クランの足は知らないうちにハカナと反対方向に動いていた。
「ちょ、ちょっとどこいくの!?」
ハカナが追いかけると、クランはますます足を早めた。

林の中を駆け抜けていく二人。
「ちょっと!走ったりなんかしちゃあぶないよ!」
両腕にギブスを巻いているクランは、体のバランスがとれず
非常にあぶなっかしい走り方で下り坂を走っていた。
(今さらどんな顔して戻ったらいいか分かんないよぉ………)
クランは既に全力疾走で駆け出していた。
しかしこれではますます自分の立場を悪くするばかりで余計に戻りづらくなっていく。
「あ!」
感極まったクランは、足元の石につまづいてしまい、
そのままゴロゴロと転がり落ちていった。

ベキベキバキ!

勢いずいたクランは木片の柵を破壊して―――
バシャン!
落ちた先は水だった。

「アッ…プァッ(丸文字)」
水面でもがくクラン。
それは遊園地内の水を使ったアトラクションの大動脈的な役割を果たしている川で、
川といっても、ダムにも近い深さがあった。
「やあっ沈んじゃうよぉっ!(丸文字)」
泳ぎがもともと上手ではないクラン。
しかも両腕に巻いたギブス重さもあってどんどん沈む。
やっとハカナが追いついたが
川の上からハカナがのぞき込んだときには、
クランの体は完全に川の中に沈んでしまっていた。
「いやぁ!クランちゃーーーーーん!」
水の中からゴボゴボと泡だけが浮いてくる。

クランは水中で呼吸停止の苦しみに襲われていた。
(私が悪い子だからバチが当たったんだっ!
 ごめんなさいハカナぁ)
ピンチになると急に自罰的になるクラン。
脳内の酸素がうすれると、なんだか楽になってきて、
いつだったがお兄ちゃんに悪戯の罰として水攻めにされ
昏睡状態にされたことを思い出すのを最後に
そのまま意識が途絶れた。

………。

「大丈夫クランちゃん!!クランちゃん!!」
(………ここは…)
目を開けたクラン。
気がつくとそこには空気があった。
「クランちゃん!!」
ハカナが必死に何度も呼びかけるが
クランはまだ意識が朦朧としてハカナの声がはっきりしなかった。

ハカナはクランを抱いて泳いでいた。
すでにそこは陸地の近くだった。

やっとの思いで陸に上がる。

助かった。どうにか、死なずにすんだ。
近くの木造りの小屋のようなところまで移動した二人は
たどり着いた瞬間、ガチガチに強張った体から力が抜けていく。
長いため息をつき、くたりとその場に横たえた。
すでに二人ともパンツの中までびしょびしょだ。

クランの意識もようやく、元に戻ってきた。
(ハカナ…まさか…私のために…?)
くしゃくしゃの顔のクランがハカナの胸に飛び込んだ。
「ごめんなさい!ごめんなさいハカナぁ!」
「よしよし」
ハカナはクランの頭を優しくなでた。
「で?クランちゃん?いったい何があったの?」
「トウマがぁ…えぐっ…トウマがぁぁぁ…ううっ。ああんっ!びぇん」
「トウマ?」
顔をしかめるハカナ。
クランは何か言いたいことがあるようだがそれ以上ははっきり言えず、
ハカナの胸の中で、あんあんと泣き続るだけだった。

「ヘヘヘ。どうしたんだい二人とも。びしょぬれじゃないか?」
やってきたのはトウマ達。
言葉のわりには同情など一切こもっていない、いやむしろ楽しそうだ。

トウマの一言で、辺りに不気味な沈黙がおりた。

「な、何…?あなたたちクランちゃんに何をしたの!?」
ハカナは立ち上がるとキッとした表情でトウマを睨んだ。
クランもハカナの腰に隠れながら、一緒に目をつりあげてトウマを睨んだ。

「ヘヘヘ。別にー?何もしてないぜ。なぁ。ク・ラ・ン・ち・ゃ・ん。プッ」
ポケットの手をつっこんだ、トウマが不敵な顔でクランの顔をのぞきこんだ。
「ううっ…ぐすんっ…」
クランは目を潤ませた。
傷心のクランの頭をハカナは優しくなでると、
じゃりっとトウマの前に踏み出した。
「こんな幼い子に嫌がらせして…ホントあんたってガキね!」
「あ?」
今までニヤニヤしていたトウマの表情が硬くなった。
「よーしよし。クランちゃん。泣かないでね。
 たくっ。だいたい、男三人で遊園地に来るなんて恥ずかしいとか思わないのかしら!」
「ンだとぉ…?」
トウマの目つきが一気に険悪になった。
しかし、トウマの様子が変わっていくのも気にせずに、ハカナは言葉を続けた。
「いきましょ!こんなのと居るとバカがうつちゃうわ」
「いい度胸だなっ!!」
トウマは大きく腕を振りかぶった。
その形相はまるで鬼神。今までのトウマとは比べ物にならない迫力だ。
殺意をまとう拳が、ハカナの腹部へ打ち付けられた。
ボフッ!
「やぁ(丸文字)」
クランが顔に冷や汗が流れた。

「ふもっふもっ」
「!?」
ハカナの腹から出てきたのは、ぬいぐるみのような生物。
再生竜ポカポカだった。
トウマのボディーブローからクッションになってハカナを救ってくれたのである。
「なんだぁ?このカバは?」
「やっつけちゃえ!ポカポカ!」
ポカポカは口を空けると、そこから強力な溶解液をトウマへ放った。
バシャ
「な、なんだコレ?ひぃ!」
あっという間にトウマの衣服が全て溶けた。
そしてハカナは大声で叫んだ。
「キャア!ヘンタイよぉ!」
たちまち注目が集まってきた。
「ひ…ひぃ!お、覚えてろ!夏樹ぃ!!」
トウマは股間を両手で押さえると、疾風のように走り去っていった。
「もう大丈夫よ。クランちゃん」
「う…うん…ぐすっ」
トウマの恨みは晴れたもののクランは正直喜べなかった。

その後、両親2人と合流するのだが
「オーイ。どうした何があった?」
しかしクランは、二人の問いに答えない。
何を聞かれても、貝のように口を閉ざしたままだ。
とりあえずハカナは両親に変質者にからまれてしまったと説明した。

「ゴメンねクランちゃん。私が一人にさせたばかりに」
ハカナママはぐずぐず鼻をすすりながらクランを抱きしめた。
しかしクランのほうにそんな発想はない。
ハカナママにそんなこと言われると、クランまで悲しくなってくる。
(………そ、そんなことない…
 私が調子にのってたから…罰が当たっちゃったんだ………)
クランは自分が惨めで、悔しくて、情けなくて肩を震わせていた。
「もう、クランちゃん。
 あんなヤツのことなんて早く忘れて楽しくしようよ。
 せっかく遊びに来たのにもったいないよ」
なんとか空気を変えたいハカナは傷心しているクランを一生懸命励ました。
「クランちゃん。涙は似合わないわよ。
 ほらっ。笑って。笑って」
他のみんなも一緒になって励ました。

(はっ…いけない…私…また、みんなを心配させてる…?)

クランはゴシゴシと腕で涙をふくと
「ゴクゴクゴクゴク」
オレンジジュースを涙と一緒に飲みほすと、無理してでも笑った。
「お、おなかすいた…」
まだ目は乾いていないし、乙女心はざっくりと傷ついたままだが、
クランは周りに心配かけまいと元気に振舞うことにした。
「じゃあ。お弁当にしましょうか。今日はクランちゃんの大好きなイチゴをもってきたの」
「ワ………ワーイ」
「ハイ。クランちゃん。あーんして」
「あーん。もぐもぐ」
クランはイチゴを噛みながら、波打った心を静ませていった。
「次は私の番よ。はい。クランちゃんお口あけてね」
ハカナは、クランの背中をなでながら、その口へとイチゴを運んだ。
クランは黙々と食べ続けた。
「クランちゃんのイチゴなんだから好きなだけ食べていいのよ」
「う…うん」
クランは優しくしてくれる人たちのおかげで、
まだ完全ではないものの、どうにか深い絶望感から這い上がることができた。
(あ、ありがとう…みんなぁ…)
クランの顔にも、自然な笑顔が戻っていった。
「さて、お昼からどうしようか?」
「クランちゃんの好きなトコいっていいのヨ」
「え…えと。どうしよう…。もう行きたいものは
 ほとんど回っちゃたしなぁ…」
困ったクランの短パンから落ちたものは、
先ほどコウジからもらったチラシだった。
(これ………カードのイベントッ!?)
早速クランの好奇心が燃え上がった。
「じゃあ、これ…行きたいっ!!」
一行は、クランが両手で差し出したものに目を移す。
「ふーん。いいんじゃないか?」
「じゃあ、それに行きましょうか」
(な、なんだかイヤな予感がするわ…っ!)
「ん?ハカナ…?…だめ?」
クランが心配そうな顔で見つめていた。
「あっ!ゴメン。うん。クランちゃんが行きたいっていうなら、喜んでいくわ!」
「ありがとう!ハカナ!」

しかし、このクランの提案のせいで
地獄のサバイバルが始まることになろうとは
この時、誰一人として予想していなかったのであった………。

                    10.5話 終わり
574遊戯王風の人:04/02/14 12:20 ID:xdHdkBTw
_| ̄|○ これが今の限界です。エログロくなくてすいません   
575名無しさん@ピンキー:04/02/14 13:17 ID:Ejgnbii4
久々にそして一気に
キタ━━━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)人(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━━━ !!!
書けるじゃないですか!


それはそうとカオシックにおける溶解液は
服しか溶かさないのはもはや決定事項なのか……
576名無しさん@ピンキー:04/02/14 17:47 ID:rTmjofcl
モツカレー
577539:04/02/15 09:34 ID:TQpNuS97
ありゃ、プレッシャーかけるつもりはホントに無かったんですが…
あんまり自分を追い込まんで気軽に欲望をぶつけてくださいw
ほのぼのとした休日が急転直下でエロくなる?後半楽しみにしてます。

ついでに投下。遊戯王知らんので完全に脳内イメージの第九話42冒頭。
ttp://proxy.ymdb.yahoofs.jp/users/16794121/bc/01/__hr_kuran01.jpg?bchSyfABa22WTcZZ
変なURLだけどヤフブリです。
お絵かき掲示板っていまいち使い方がわからない…
578遊戯王風の人:04/02/15 12:11 ID:F0qbQQnV
>577
うおおおおおおおおおおおおおっ!!
神様ありがとうございます!
イラスト描いてくれるなんて感動で胸が裂けそうです。
おかげでメラメラとやる気の炎のようなものが湧き上がってまいりました。
579名無しさん@ピンキー:04/02/15 15:48 ID:9aK8ueZE
ハァハァ……
俺もメラメラと犯る気がでました。
580名無しさん@ピンキー:04/02/15 16:55 ID:xzmHE/zz
つまり遊戯王風の人のSSに
エログロスレの絵師が挿絵をつけるコラボレート企画発動ですか?
581539:04/02/16 02:09 ID:bGy0AlCT
人大杉規制入ったのか…解除されるのはいつになるやら。

>>578
喜んでいただけたようで一安心です。

挿絵企画、参加してみたい気はするがあんまし時間無いんで無理っす。スマソ。
582名無しさん@ピンキー:04/02/19 03:47 ID:aMdWwnCq
職人様、乙です。
久々の「遊戯王風」萌えるなぁ。
しかしギブスの下は、どんな腕が?
気になります。
583名無しさん@ピンキー:04/02/19 19:11 ID:mDRD05bG
久々に来てみたら新作キテル――(・∀・)―― !!
そんな漏れがもっと萌えたのは後光の差してるハカナパパ。
なんでだ_| ̄|○
584遊戯王風の人:04/02/21 21:04 ID:LzRDk5cy
感想を書いてくれた皆様ありがとうございます。
さて、神々が去ったところで、こっそりと………。
ザッ!ザッ!!
「ハァハァ………な、なんで私がこんな目に…」
クランは草木や木の枝をかきわけながら、
薄暗く茂るジャングルのような森の中をただひたすら突き進んでいた。

その姿は真っ白い下着とクマの絵が描かれた生地の薄い服一枚。
そんな薄着で濛々と生い茂る木々の中を駆け抜けるものだから
素肌は鋭い葉により切り裂かれ、流血がしたたり落ちていた。
それとは別に、縛りつけらたような痕と殴りつけられたようなアザも全身に浮き上がっていた。

しかし今のクランにそんなことを気にしている余裕などなかった。
少しでも…一歩でも遠くに行かなくては………あの恐るべし追跡者から…。

穏やかだった休日。
楽しかったはずの遊園地。
いったいどうしてこんなことになってしまったのだろう…。

クランは思った。
(わ、わたしがあんなこと言わなければ………みんな…ごめん…。ごめんなさい)
懺悔の意味を持つ涙が一粒こぼれる。

そう、すべてはクランの一言から始まった。
多少時間が前後するが…。

その日は休日で、夏樹家の面々は朝から遊園地へと遊びに来ていた。
それに居候のクランも一緒だった。
多少トラブルがあったりもしたが、全体的はとても楽しく和気藹々と過ごしていた。

そしてちょうど食事でお腹を満足させたころの話である。

「クランちゃんの好きなとこ行っていいのよ」
ハカナママが穏やかな表情で訪ねていた。
「う〜ん。でも、もうほどんどまわっちゃったしなぁ。これ以上行く場所なんて………」
返答に困ったクランは、なんとなく短パンのポケットに入れてあったチラシのことを思い出した。
遊園地をまわっている時、たまたま知り合いからもらったチラシであったが、まだ目を通してはいなかった。
クランはベンチの上にそれを広げた。
(カードのイベント…?)
クランの目が輝いた。
「じゃあ、次はこれ!これに行きたいヨぉ」
「なになに?ふーん。今日から開始の新アトラクションか」
「エー?オープン記念で4人で行くと入場料も無料だって…?スゴいわね」
クランたちが絶賛している中、ハカナ一人が蚊帳の外で難しい顔をしていた。
(機界だし、なんだかあやしーな。前もケータイでひどい目にあっちゃったしなぁ…)
そんなことを考えているハカナの目の前にクランがひょっこり顔をだす。
「………だ…ダメ?」
ものすごく残念そうなクランの顔が突然目の前に現れたのでハカナはあせった。
「うっ…!そ、そんなことないわ!ぜ、ぜひ行きましょう!」
「ワーイ!」
クランが喜んでくれるならそれでいいかと、ハカナはあれこれ考えるのをヤメた。
こうしてカードのイベント会場に向け、歩きだしたハカナ達。
しかし、その背後には怪しくうごめく影が三つ…。
(………夏樹のアマめ…俺は執念深いんだ!!このまま生きて帰れると思うなよ!)
影達は恨みオーラを漂よわせながら、ハカナ達を尾行するようについていた。
アトラクションの会場にたどり着くと、
そこには大きなドームが立っていた。
重厚間があり頑丈そうな造り。
これだけでもかなりの費用がかかってるのだろう。
これまで立ち寄ってきたアトラクションとは、明らかに一線を画していた。
クランの視線は釘ずけになった。
入り口には既に大勢の客がつめかけていたからだ。
満席じゃないか?
心臓は高鳴る。
ハカナたちも同じことを考えていたが、
「あわてないで下さい。席はまだ十分ありますので」
それはスタッフの声だった。
一安心するハカナたちだが、この程度のことで気を緩めるクランではなかった。
「何してんの!?早く並ばないと席が無くなっちゃうよ!!」

クランはもともとカードゲームのカオシックルーンが大好きだった。
クランはカードのためなら命を賭けるのだ。
ハカナもカオシックルーンはするが、軽い遊び程度でクランほど熱中したりはしなかった。
「もう!早くぅ!」
クランに手をひっぱられる。
辺りは夏の日差しと詰め掛けた人間達の熱気ですっかり熱くなっていた。
クランは並んでいる間は何も話さず、ひたすらじっと待っていた。
ハカナはささやかな笑みを浮かべクランに言葉をかける。
「ねェ…クランちゃ」
「ナニっ!!!」
「………あっ…いや………何でも…」
「そう硬くならないで」と言いたかったが
クランの睨みつけるような視線と真面目な声色に、つい言葉が尻つぼみになった。
クランは『残り席』のこととか『自分の前で満席になったりするんじゃないか』とか
それだけで頭がいっぱいなのだ。

………そしてハカナたちから5列ぐらい後ろには、例の影達もぴったりとくっついていた。
数分ならんで受付までたどり着くと、ようやくクランの肩も軽くなった。
受付をしているのは穏やかな笑みを浮かべたメガネのよく似合う女性スタッフだった。
そこでは軽い説明が入った。
「こちらのアトラクションでお遊びになるにはカオシックルーンのカードが必要となります。
 なお機界のカード以外は対応しておりません。
 お持ちでない方はこちらで1枚100円で販売しておりますが…」
クランは、ぱちくりと瞬き。
(わたしはお兄ちゃんのカードがあるからいいや…。
 そ、そうだみんなの分のカードも用意したらきっと褒めてもらえるぞ…)
頭を撫でられる自分の姿を想像して口元がにやつくと
すぐに短パンの後ろポケットに手をいれてデッキを取り出そうと思ったが
腕にはめられたギブスのせいと、ピチピチの短パンのせいでそう簡単にはとれなかった。
そうして、もたもたしていると。
「じゃあ、4人分買います」
「………エ…?」
「お父さん。私とクランちゃんはもってるから2枚でいいわよ」
「ありがとうございます。ではこちらの封筒をどうぞ」
「………………あっ…………」
クランが発言する暇もなく、テキパキとカードを買ってしまった。
「どうしたのクランちゃん?」
クランは胸元で指を組み合わせていた。
どうにも納得がいかなかったが、今さら言おうとも思わずちょっぴり損した気分になった。
「封筒は空けずにそのまま持っててくださいね。
 何のカードが入ってるかはゲームが始まってからのお楽しみってことで。
 では、あちらから入り口から入場して、お好きな席へお座りください」
受付子にペコリと礼をして、クランたちは入り口に向かっていった。
(あ〜あ。わざわざ買わなくたって私が貸してあげたのに…ぶつぶつ)
残念そうな顔をしたクランが受付を通りすぎようとした時、受付子のメガネが恍惚に光った。
「あ、あれ?お嬢さん。その両腕………ひょっとしてケガしてませんか?」
クランの全身がびくついた。
クランは脳裏には以前にジェットコースタに乗ろうとして
断られてしまったという壮絶な記憶が蘇っていた。
それは楽しみにしていただけにちょっとしたトラウマになっており、
今回のことともあっという間に関連づいた。
全身から汗が流れ、瞳はどんどん暗く沈んでいく。
どうにも口が開かない。
「ひょっとしてケガ人はダメですか?」
放心状態のクランに代わって訪ねたのはハカナだった
(ウソダ……………ウゾダ…ドンドコドーン)
心の声はオンドゥル語に変換されるほど衝撃を受けていた。
そんなクランの心を見透かしたかのだろうか。
受付子はクスッと笑う。
「いえいえ、このアトラクションはケガをしている人でも安全に遊ぶことができますので
 思う存分お楽しみくださいネ」
「そ!そうか!」
クランはさっと顔色を変え、心の底からホッとした。
今度こそハカナたちは入り口に向かった。

ハカナたちが去ってから、しばらくたって影たちもやってきた。
なにやらゴネてるようだが…。
「エ?あなたたちカードは…?」
「るせぇ!そんなもんいらねェんだよ!!とっとと入れやがれ!」
野太い咆哮をあげ、壁を蹴りつける。
「カードがないと、入場させるわけにはいきません」
受付のお姉さんがパチンと指を鳴らすと警備員達がやってきた。
これには、さすがに影たちもあわてたようだ。
「わ…わかった。じゃあカードを買うから…」
「ありがとうございます」
会場中はただひたすらに広かった。
バッと見た感じでも、何人座れるか検討もつかない。
席に着いたクラン達は、後は開始するのをゆっくりと待つだけだ。
ふと気がつくと、封筒の中の話が始まっていた。
「何が入ってるのかな〜?」
「わくわくするなぁ」
「本当楽しみだわ」
「福袋みたいな感覚だね」
「そうそう。空ける前が一番楽しいのよね」
クランの横耳がピクピクと動いていた。
心はぐらついていた。
「わ、わたしもカード欲しいヨぉ(丸文字)」
「エっ?」
ハカナ達の声がぴったりそろった。
「……あっ……」
つい言葉がでてしまっていた。すぐに口を押さえたがもう手遅れだ。
ハカナ達が白い目で見つめている
クランは目を泳がせた。
他人が持っているものは自分も欲しくなるなんて子供の理論が
恥ずかしいことぐらいクランにだってわかっている。
「な、なんだよっ!」
クランは流れる汗もそのままで怒鳴る。
顔は熟れたリンゴのように真っ赤だった。
「まぁまぁ。いいじゃないかハカナ。じゃあ、クランちゃんの分も買ってきてあげるよ」
言ってくれたのは後光のさしてるハカナパパ。
「ワーイ」
喜ぶクランに、ため息をつくハカナ。
すぐにハカナパパは受付に引き返すと、カードを買って戻ってきた。
「エヘヘ。私のカードだぁ…何がはいってるかなぁ?楽しみだなぁー。
 ハカナも無理せず買ってもらえばいいのにぃー」
クランは買ってもらったカードが入ってる封筒を自慢気にハカナに見せ付ける。
………ハカナはもう一度ため息をついた。
開始時間が来ると舞台に立つスタッフ達から挨拶が始まりだした。
「さて今日はわが社のテーマパーク『DEATH−T』にご来店なさり、ありがとうございます。
 このテーマパークDEATH−Tは100億の巨費をかけてつくりだした、
 我が社の技術の粋をでして、ここに居る全員が一つの世界を共有して遊ぶことのできる
 多人数参加型のバトルアトラクションとなっております。
 カードゲームのカオシックルーンを元に製作しておりますが、
 従来欠点だった安全面においては最大限に注意を払っており、
 リアルさを損なわないまま誰でも安心して遊ぶことができるようになっております」
スタッフの説明にクランの胸は高鳴っていた。
こんな腕でカオシックルーンが遊べることがなにより嬉しいし、
ゲームをするたびに怪我ばかりしていたクランにとって”安全”という言葉は、まさに夢のようだった。
来てよかったと、始まる前からすっかり上機嫌。
これからどんなゲームが始めるのかと想像するだけでワクワクせずにはいられない。
改めてみると、あれだけあった席がうまるほどの人数が参加しており
クランはこのイベントに参加できたことを本当に嬉しく思った。
すっかり夢心地のクランはスタッフの声もあまり聞こえていなかった。
クランの心がジーンと温まっているうちに、
「では初期設定を始めます。
 皆さんカードを手にしっかり持ってください。
 封筒の入れたままでもOKですので」
「ほらっ!クランちゃん。カード!カード」
「………ハッ!…う…うん」
ハカナの一言で我に返ったクランは、買ってもらったカードをギュと抱きしめた。
いよいよゲーム開始のようだ。
「がんばろうねクランちゃん」
「みんな一緒だといいね」
「うん!」
クランは笑顔でにっこりと答えた。
ハカナやパパやママも一緒でこれほど心強いものはない。
「それではネットワークの端末を”脳へ”コネクトします」
「エ?」
会場の人間達の顔色が変わった。
聞き間違いだろうか?
それとも言い間違い?
しかし客席の人々がそれを確認するまもなく。
「接続コード送信!」
シュルシュル
「いやぁ!ナニコレ!」
スタッフの声と同時に座席の中から触手のようなものが飛び出すと体中にまとわりついてきた。
「クランちゃん!」
「やあぁ。なにこれぇ(丸文字)」
何がどうなっているのかわからない。
混乱する会場に人々の絶叫だけが響き渡っていた。
触手は手首あたりにプスプスささると、そこから体の内部に進入してどんどん上に上ってくる。
こうなると先ほどの言葉も悪い冗談でもないようだ。
意識はゆっくり遠きはじめた。
それが自分の体がゆっくり侵略されていく感じだとわかると、ある感情がこみあがってくる。
恐怖だった。

ようやく事態に気づき始めても遅かった。
触手を振り払う前にスタッフの最後の声が響き渡ったからだ。
「接続コードON」
パタッ!パタッ!
号令とともに集まった人々は一瞬電気が走ったようにガクッと背をそらせると、
すぐさま気を失い倒れた。
会場は先ほどまでのどよめきもなく静かになっていた。
「それでは、ごゆっくりお楽しみください」
スタッフの声はもう誰にも聞こえていない。
照明は落ち会場内には全てを塗りこめてしまうような深い闇が降りた。
スタッフ達だけが闇に紛れて闊歩している………。

………。

「ハレ…?」
クランは目を覚ました。
ずいぶんよく眠った気がするが、まだ少ししか眠ってない気もする。
(ここ………ドコ?)
見覚えのない壁。知らない天井。
部屋はやや広く、四角く、なんの飾り気もない。
窓はなく唯一の扉も閉ざされている。
どうやら完全な密室のようだ。
クランはその部屋の片隅の壁にもたれかかっていた。

「やっと起きやがったか」
「たくっ…これだから幼女は眠りが深くて困るぜ」
まだ寝ぼけ気味でぼんやりしていたクランだが、
今の言葉が自分に対する暴言だと気づくと一気に覚醒した。
「だ、だれが幼女だ!ブッ殺してやっ…ってあれ?」
逆側の壁にはなつかしの面々。
とはいえあまり見たくない顔ぶれ。
トウマと舎弟の二人だった。
表にはださないが彼らもまた不安でいぶかしげな表情をしているようだった。

彼等もまた、あの会場で巻き込まれたのであった。
クランの記憶はおぼろげだった。
何故こんなところにいるのか皆目見当もつかない。
記憶を整理しようと、頭の中を模索し始めた。
(えーと。………たしか遊園地で遊んでて
 …カードのイベントでドームに行って…。
 始まったら触手にからまれて、プスプス刺さって、みんな大騒ぎで………)
そこまで思い出すと、クランは急にハッと我に返った。

いったいあの会場で何が起こったんだろうか?
ここはドコなんだろう?
もしかして監禁されてるの?
ハカナはどこにいるの?
一緒にいたパパとママは?
それに、会場にいた他の人たちはどうなっちゃたの?
まさか自分と同じようにどこかに閉じ込められてるの?
なんで?どうして?いったい誰が何の目的でこんなことするの?
もう頭の中は無茶苦茶だった。
困ったクランはある一つの結論に達してみた。
(…そうか。これは夢だ)
そう思って元気よく壁に頭をたたきつけるが、ただひたすらに痛いだけで悪夢からは覚めなかった。
そして、これがどうしようもない現実だとわかった瞬間、
心の中は言い知れぬ不安が一気に広がっていった。

クランの小さい胸は張り裂けそうだったが、泣かずにすむのは妙なことにトウマ達のおかげだった。
クランとトウマは普段からいがみ合っており、事あるごとにケンカばかりしていた。
それというのも、顔を会わせるたびに「幼女」とか「チビ」とか「小学生」といった
失礼な言葉ばかりあびせて来るトウマが悪いのだ。
本来なら顔も見たくない相手だが今だけは話が別だ。
こうゆう状況においては、
誰でもいいから知っている人間が目の前にいるだけで、不思議と心は安らぐものだった。
もっとも、先ほどまでつけていた影の正体が彼等で、心の内で何を考えているかなど、
知らないからこそ、思えることだった。
クランの心は今はなんとか落ちつていた。
もし一人だったら頭がどうにかなっていたかもしれない。
とりあえずこれからのことを考えることにした。
この事件の首謀者が何を考えて自分達をこんな所に閉じ込めたのかは知らないが
何か理由があるなら、そのうち何かしらのアクションがあるはずだ。
状況も全くわからないし、出口もなさそうな感じだ。
動きだすのはそれからでも遅くないだろう。
その時のために今は少しでも体力を蓄えよう。
そう思ってじっと座って待つことにするのだった。

さきほどから誰一人として口を開かなかった。
静寂の中で時はゆっくり満ちていく。

………ギギギ…
扉はしばらく使われていなかったのだろうか。
手ごたえが重く引っかかるような感じでゆっくりと開き始めた。
どうやら、待ち望んでいた時がきたようだ。
人様をこんなところに閉じ込めといて、いったいどんなヤツ出てくるのだろうか………?
しっかりと、そこに注目する。
…開いた扉の向こう側から現れたものは……
「よし。全員揃ったわね」
インテリを気取ったようなメガネ。
鮮やかに着こなす高級スーツ。
はちきれそうな胸元はハカナ以上。
長く艶やかな髪。
片手には書類、まるでどこかの秘書のような感じをうける。
一見したところ真面目で優秀そうな感じをうけるが、その瞳の奥はどこか冷たいものが感じられた。
「では、はじめますか」
ここにいる誰もが固唾をのんで聞いていた。
一字一句聞き漏らさないように全神経を集中させた。
これから言い出すであろう言葉の中には、知りたい答えがあるのだろうか…?
「なにするっつうんだヨ?」
口を出したのはトウマの舎弟だ。
少し余裕のあった感じの口調は相手が女性だったからだろうか?
その疑問を知りたいのはここにいる誰もが同じだった。
わざわざ、こんな部屋まで用意して閉じ込めるからには相当の理由があるのだろう…。
しかし、これからどんなご高説が始まるのかと思えば、
秘書の言葉はひたすらシンプルなものだった。

「あなたたちにゲームをやってもらいます」

クランは唖然とした表情。
他の誰もが困惑した顔色。
漠然としすぎて意味はさっぱりわからなかった。

「…ただし命がけのゲームよ。覚悟をきめてネ」

ただ、その声は真剣で厳格で、確かな現実味がある。
頬を伝って流れ落ちた汗が床に落ちる。
クランはこれからどんな恐ろしいことが始まってしまうのだろうかと
想像するだけでびっしょりと汗をかいていた。

秘書はスーツの内ポケットからあるものを取り出した。
それこそが今回の事件の『鍵』となるものだったが、
それはクランにとってあまりにも身近なものだった。

カオシックルーンのカード。

普段からゲームとして遊んでいるこのカードで
いったい何をさせるつもりなのだろうか?
謎は深まるばかりである。
「ルールは簡単よ。
 あなたたちの持つカードを手札とし、それ使って互いに死力をつくして戦う。
 勝ち残ってカードを4枚集めたものだけがこの部屋から出られる。
 簡単でしょ?」」
秘書の言葉に室内はただ静まりかえるばかりだ…

クランですら、まだそれが何を意味するのかわかっていない。
…が………恐ろしい想像だけはしていた。
(まさか………。そんな…そんな恐ろしいこと…させるはず…ない……よね?)
心臓がバクバク鳴っていた。
普段からカオシックルーンで遊んでいるクランだからこそ、その危険性も知っていた…。
それがただの想像であってほしい………心底そう思った。

そんなクランの不安をよそに
張り詰めた緊張が一気に解けたかのような笑い声が響きわたった。
緊張を解いたのはトウマの舎弟だった。
もう一人の舎弟達も、お腹を押さえて苦しそうにしていた。
青ざめているクランとは対照的に。

「あー。なんだよー。
 何が始めるのかと思えばこれもアトラクションかよ」
「あー。姉ちゃん。役者だねー。思わず途中まで本気でびびっちゃったぜ」

(あ…あとらくしょん?)
クランの跳ね毛がピンと来て、
ふと何が目的でここにやって来たのかを思い出した。
心の中の霧が晴れていくのを感じる。
カードのアトラクションにやってきて、入り口でカードを買って、今ようやくカードゲームを開始。
なるほど!全てが符合した。
順番どおりではないか。
これがアトラクションの延長だとわかれば、もう何も怖がる心配などない。
秘書はとても冗談を言っている雰囲気には見えなかったので、すっかり騙されてしまったようだ。
あの気持ち悪かった触手も、この密室もただの演出に過ぎないわけだ。
最近の遊園地のアトラクションではこれぐらいが普通なのだと、無知な自分に恥ずかしくなった。
先ほどまでビクビクしていた自分がバカのようだ。

今までの不安が反動になっているかのように、ゲラゲラとした舎弟の笑いが続いていた。
舎弟はカードを指で挟んでクルクルと回転させていた。
受付のお姉さんにゲームが始まるまで空けちゃダメだと言われなかったのだろうか?
「サッパ分かんねぇ。だいたいこんなカードでどうやって戦うんだよ?」
非常にだれきった声だ。
一方的にこんなところに押し込められて、その理由がカード遊びなんて、
だれきらずにはやってられないのだろう………。
おそらく細かいルールはこれから話す予定だったのだろうが、
舎弟はもう真面目に説明など聞く気もないらしく、
こんな悪ガキ共が相手で秘書もさぞかしやりにくいことだろう。

(ど…どうやって遊ぶんだろう…?)
この部屋でそれに興味があるのは、どうやらクランだけのようだった。

ようやく和んだかに見えた雰囲気の中。
秘書はやれやれといった感じで下品な笑いを続ける舎弟に近づいた………そして…。
バキッ!
部屋に快音が鳴り響いた。
突然。秘書は右フックで舎弟の顔を殴りつけたのだ。
不意をつかれた舎弟はまともにくらって
ポトリ…ポトリ……と床に鼻血がしたたり落ちる。
鼻は折れ曲がっていた…。
とても女の人の力とは思えない。
笑い声が消え、部屋は異様な静けさに包まれていた。
感情が爆発する前の、張り詰めた沈黙だった。
「…テ…テメェ………」
ワナワナと体を振るわせる舎弟。
カードを握り締めるその手にも力が入っていった。
「ぶっ殺してやる!」
舎弟が秘書に襲い掛かろうとした瞬間。
グンッ!
カードを掴んでいた右手が意思に反して真っ直ぐ伸びた。
「な…何だぁ?」
次の瞬間、骨の手がカードの中から飛び出し舎弟の頭を掴んだ。
舎弟の頭はガッポリと割れた。
そして、ムキ出しになった脳を…骨の手がガッシリと掴むのだ。
「うわっわあっ」
自分の脳がわしづかみにされる感触は、決して気持ちいいものではないのだろう。
舎弟が絶叫するのも気にせずに、秘書は説明を続けだした。
「このカードは人間のもつ原子的な本能に呼応する。
 怒り・恐怖………そして生きようとする心に」
骨の手は、頭の中からゆっくり何かを掴み上げていった。
それは、あきらかに舎弟の体よりも大きかった。
「これを持てば自身の体に小さな”紋”が開く
 そしてその”紋”からカードに描かれている”機械”をこの世界に召喚できるのよ」
ズズズッ!
説明は終わる同時に、それもまた完全なる姿を現した。
舎弟は自分の頭の中から現れた異型のそれを、ただ恐怖と渇望の目で見つめていた。
「バ…バズコックス…!?」
その名をつぶやいたのは当然クランだ。
あまりにもありえない現実。だが、幻覚でもなさそうだ。
「ス…スゲェ…ハハ…ハハハ………。
 こいつオレの思ったとおり動かせんのか?」
「試してみれば?」
使い方は既に頭ではなく心で理解できていた。
「よーし」
ちょうど反対側の壁にいるクランに目を向けると、
「えっ?」
その本能が赴くままの攻撃を繰り出した。
シパッ!
ジャラジャラジャラジャラ!ガシャン!
重厚そうな音をたてチェーンソーが元の鞘へと戻る。
飛び出したチェーンソーがクランの体を一周か二周して戻ってくるまでは、ほんの一瞬の出来事だった。
その間、クランは棒立ちのままだ。
自分の身に何が起こったのかもわかっていなかった。
そのまま数秒たつと…。
パラパラッ!
「エ?」
あまり聞きたくもない音だったが、確認しないわけにもいかない。
視線が下へいくと、短パンが無残に細切れになって足元に散らばっていく様子がよくわかる。
「いやあああああ(丸文字)」
クランのパンツは何の色気もなくまるで子供のようだったが、
それでもいちおう恥じらいはあるようだ。
クランはそのまま下着を隠すようにその場にへたれこんだ。

「初めてでそこまで動かせるなんて、見所あるわアナタ………」
「そ…そうっスか?姐サン!」
秘書におだてられ舎弟は得意になった。
「何するんだ!バカッ!ヘンタイ!!」
座ったままのクランが犬歯むき出しの半泣き状態で怒鳴っているがそれは聞いていなかった。
舎弟は興奮でゾクゾク背中を震わせた。
秘書からうけた右フックの痛みも忘れてしまうほど、すっかり心酔していた。
バズコックスと、それを思うがままに操れる自分に力に。

「それともう一つ、機械が受けたダメージはそのまま召喚者にはね返る。
 機械の破壊がカード使いの死につながる。
 この意味が分かるわよね?」

男達はうなずきこそしないが、すでにルールを理解している目だ。
頭の中には先ほどの秘書の言葉が思い浮かんでいる。

『カードを使って互いに死力をつくして戦う』

「なるほど…!よーくわかったゼ」
「なあ?秘書さんよぉ。マジで殺っちゃってもOKな訳?」
飲み込み早いトウマ達に秘書は満足気にうなずいた。
「好きになさい」

この場で青ざめてるのはクランだけだった。
秘書は役割を終えたかのように入り口へと戻っていった。
入り口前に立つと再び扉が開いていく。
「オ、オイッ!何考えてっ…」
クランが秘書にくいかかろうとするのだが。
「クランちゃん。彼等は初心者よ。なるべく手加減してあげてね」
「えっ?」
散々怒って狂っていたクランだが、この言葉には正直意表をつかれてしまった。
なぜ自分の名前を………?
それだけでなくカードの上級者ということまで………?
しかし、秘書はその疑問に答えることもなく
「では生きてここから出られてたまた会いましょう」
クランが呆然としている間に、そう言い捨てて、ガシュ!っと扉が閉ざされた。
「オ…オイ!」
クランは立ち上がってドアをガンガン叩くが、扉は頑丈に閉ざされてもう開きそうにない。

頭の中にモヤモヤしただけが広がる。
(な、ナニ考えてんだ。いきなりこんな部屋におし込めて、カードの力で殺しあえだって?)

ズシンッ!
だが、それを考える暇もなさそうだ。
何かがぶっそうな物が降り立った音に振り返るクラン。
「スゲェ!本当に出たぞっ!」
もう一人の舎弟が召喚したのは特攻機ニードルビット=シケイダーだった。
「まずお前からだ。死ねっ」
先ほどまでのだれた態度はどこへやら。
むき出しの殺意に狂気に満ちたグルグル目。
その標的は言うまでもなくクラン。

クランの額につっと冷たい汗が一筋流れた。
立ちはだかる2体の機界の強力モンスター。
ニードルビット=シケイダーとバズ=コックス。
その召喚者たちはひたすら残虐な目で、哀れな小動物を見るかのような目でクランを見つめていた。
もうこの殺人ゲームに参加することに、何のためらいもないようだ。
「待ってヨぉ!両腕壊れてるのに!!や、やめてェっ!(丸文字)」
クランが必死に命乞いをするも、舎弟たちはただ残虐な笑みを浮かべるだけだった…。

無抵抗のクランに、彼等は容赦なく攻撃を開始した。
ギブスがまかれたこの腕では、カードをもつこともできなかった。
「いやあああああ(丸文字)」
その絶叫もニードルビット=シケイダーの排気音ですぐに聞こえなくなった。

―――。

戦いは一方的な展開が続いていた。
「むぎゅ………!」
「あうっ」
「ぎゃあ」
「ひぎっ」
オモチャにされるクラン。
「面白い!面白いよコレッ!アハッアハハアハハッ!たまんねェ!」
クランは一方的に痛めつけ、舎弟な残忍な笑いがこだまする。
殴られ、跳ね飛ばされ、吹き飛ばされる。
右の肩ヒモが切れ、右腕のギブスにもヒビが入る。
程よく先だけが割れて、指が飛び出した。
「………よせっ!何の理由も無く殺し合うなんて馬鹿げてるぞっ!」
先ほどからクランは何度も説得を繰り返していた。
いや説得というよりは、お願いに近い。
だが、そんな言葉が通じる相手ではなく
「理由?」
「カード集めが理由だ。ぜんぜんバカげてないじゃん」
狂っていた。

クランは割れたギプスから飛び出た手でカードを握り締めたが、
どうしても戦う気にはなれなかった。
誰が何の目的でこんな殺人ゲームをさせるのかはわからないが、
だからといって自分も戦うなんて、主催者の邪悪な意思に踊らされているようでイヤだった。
なによりカードの力をこんなことに使うのが許せなかった。
カードとの付き合いも長いクランだが、未だにその力を悪用したことはない。
せいぜいヘンタイをこらしめる程度に少し使ったぐらいだ。
人殺しなんて考えたこともない。
それに、誠意をこめて話せば、
今の自分達の行動が、いかに愚かなことなのかわかってくれると
こんな目にあわされてもまだ信じていたのだ。

クランはあきらめずに何度も説得を繰り返した。
すると、ようやく思いが通じたのだろうか、あれだけ激しかった攻撃が止まったのだ。
ようやくわかってくれたのかと嬉しくしたクランは、さらに熱をいれて口を開いた。
もちろん刺激を与えないように言葉には十分注意した。
普段から口が回るほうではなかったが、不思議なことに言葉はポンポン浮かぶ。
クランの演説が終わるのは1分や2分ではすまなかった。
言いたいことがようやく全て言い終わると、自分でもいいことを言ったなあと感心した。
舎弟たちも自分の言葉に感動して改心したに違いないと思っていると…
「そんなことより、棗ェ。下の毛はもう生えてるのかい?」
「はっ?」
いきなり突拍子もない質問に、クランの顔がゆがんだ。
「………そんなのとっくの昔に生えてるに決まっているじゃん…」
「ヘェー」
「………そ、そんなことより…わたしの」
パサッ
「えっ…」
頭の上にヒラヒラと落ちてきたのは白い布。
それには見覚えがあった。
おそるおそる下を確認するとが、下半身は何もはかれてなく、
まだ産毛も生えずにツルツルなままの縦スジがはっきりと見えていた
白い布はクランのパンツだったのだ。
「いやあああああああ(丸文字)」
クランはいつの間にか脱がされていたことも気づいてなかった。
熱をこめた説得していた最中、さんざんそれを晒していたわけだ。

クランはいくら幼児体系とは言え、16歳にもなってまだ産毛一つ生えないことは非常に気にしていた。
この下半身だけは最後のプライドで、他人には知られていけない最大の秘密なのだ。
しかし舎弟たちはそんなこともおかまいなしで、
クランの下半身のあまりの子供っぽさと、恥ずかしがるリアクションに腹をかかえて笑っていた。
「アハハハハ!棗のやつ高校生にもなってまだ生えてねェのかよ」
「パイパンが許されるのは小学生までだよな」
言葉のナイフがクランの心をズタズタに引き裂いた。
クランは体を震わせ、ワナワナとしていた。
秘密を知られてしまい、なおかつこの舎弟たちの暴言。
もう許せない。
頑張って温厚にしていたクランも、もう我慢の限界だ…。
今まで抑えていた感情が火山のよう沸き上がってくる。
秘密を見られたからには、生かして返すわけにはいかない。
そう、とうとうクランの堪忍袋の尾が切れたのだ。
「ブッ殺してやるーーーーーーーっ!!」
露出したままの下半身を隠すことよりも、目の前の敵を消すことを優先させるクランだった。
ザッ!
同時にそれまで静観していたトウマが突如として前にでてきた。
まるでクランが本気になるのをまっていたかのように…。
「ト?トウマ?」
「来いよ!チビ助クラン。相手になってやるよ」
(ままま、またチビっていったぁ!!)
血管が千切れそうなほど、クランは頭に血を上らせた。

トウマは自信ありげにカードを掲げる。
飛び出した骨の手が、トウマの頭を割った。
「ぐあおおお〜〜〜っ」
唸るような声を出しながら。
グワッ!
「なっ!」
トウマの頭からでてくるのは、今までクランが見たことのないモンスター。
散々頭に血を上らせていたクランだが、今度は一気に血の気が引いていった。
バズ=コックスやニードルビット=シケイダーも十分強力なモンスターだが
でてくるこいつは明らかにレベルが違う。
(まだ腕しか出してねェってのにスゲェぞコイツは!!)
トウマもそれが肌で感じ取れ、心の中で確信するのだった。
「へへ…”当り”だぜこのカード」
クランの下半身は震えていた。
喉もつまって呼吸さえままらなかった。

そのモンスターは全身を現すことなく、腕だけ飛び出したところで召喚が止まっていた。
黒光りするその腕は太く巨大で、手首には罪人がつけるような錠がはめられている。
「ワレハホンモノ………ワレハホンモノ………」
そのテープレコーダのように薄気味悪い声は
トウマの口からではなく頭の中から聞こえていた。
「はあ?しゃべれるのか?こいつ…?キモチわりい
 何でもいい。あのチビ助をサクッと殺っちまえ」
ドクン!
クランの心臓がバクついた。
おじけついたり…躊躇している場合ではない。
カード使いとしての本能が最大限の警戒信号をだしていたからだ。
「フザけるなっ!!こんな訳のわからないトコで死ぬもんかっ!」
腕の痛みをこらえ、割れたギブスの中から飛び出した手で封筒を握りしめ、掲げた!
警戒するトウマ達。
ボンッ
封筒がはじけると、煙幕のようなものが広がった。
明らかに今までの召喚とは違う現象だ。
「なんだ!何がおきた!?」
煙はすぐにひいたが、召喚されたはずのモンスターがどこにもいない。
トウマたちがどよめき、きょろきょろと辺りを窺いはじめる。
「おい!見ろ、あ、あれは!」
舎弟が甲高くして叫び、びしっと指出した!
「あれって…」
「ま、まさか!」

クランの右手に握り締められていたものは、なんとJS-808だったっ!

「…」
流石のクランも困った表情。
その場にいる全員が白々として視線を送った。
「プッ!なんだそりゃ!?ケータイ電話かよ!?プハハハハハッヒヒヒ!」
(そ…そんなぁぁ………)
クランも心の中で、手をつき膝をついていた。
「そーか。テメエのカードは、つまり『ハズレ』ってワケか…
 そんじゃサクッっと、ひねり潰してやるゼ!」
クランの表情が絶望したものになった。