エロくない作品はこのスレに 1+

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1名無しさん@ピンキー
エロシーンが無かったり、あるけどそれは本題じゃ無いような作品はここによろしく。

過去スレはこちら
エロくない作品はこのスレに
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1062491837/
2名無しさん@ピンキー:03/09/25 23:58 ID:6NPvX9Se
ちなみに、前スレは500制限の圧縮で落ちますた(T_T)
3名無しさん@ピンキー:03/09/26 00:02 ID:RJsPdLJE
お疲れ〜

ちなみに>>1は、即死回避できるネタを持ってるのかい?
特定の作品・キャラがバックボーンにないから、雑談で維持するにも限界があるわけだが。
4名無しさん@ピンキー:03/09/26 00:19 ID:Oi+HU3lE
今日は彼の誕生日。
早めに会社を出て、手料理でもご馳走しよっと。
普段、こんな時間に電車に乗ることないんだけど、思ったより混んでるわね。
ん?!誰か触った?
ううん、電車が揺れたせいよね
あっ!今度は反対側から?
ダメ。触らないで…
今度はまた別の方向から…身体ごと押し付けてきた。
そんなに強く揺すらないで…
もう四方八方から触られまくってる
あっあぁ……もう……ダメ……

  *

「ばかだなぁ。そんなに泣くなよ」
「でも、せっかく買っていたケーキ、満員電車でもみくちゃにされちゃった」
皿の上には見るも無残なケーキが1つ置いてあった。
---------------------------------------------------------------
某所で書いたショートコントPart2。
即死防止のため。できは前作のほうが良かったかな。
51:03/09/26 00:45 ID:Oi+HU3lE
>>3
持ってません<( ̄− ̄)>

スレ立ての代行したんです。
だから、ネタは依頼者にお任せ・・・なんですけど、
なんか急いで考えてみまつ。
6名無しさん@ピンキー:03/09/26 01:14 ID:Oi+HU3lE
「艦長。奇妙な物体を発見しました」
「どれだい、スコット」
「これなんですがね。太さ1cmぐらい、長さは5cmぐらいの円柱形でさあ」
「動くのか?」
「どうやら電池で動くようなんですが…ちょっとやってみます」
「頼むぞ、スコット」
「おい、カーク。これはその説明書じゃないか?」
「ん?ボーンズ。見せてみろ。だいぶ汚れてるな。『電動ノ』いや、ノじゃないな。ハだな。電動ハ…電動パ…電動バ…」
「艦長。うまくいきましたぜ。動かしてます……ん…どうやら全体がぶるぶる震えます。
…スイッチをいじると、どうやら震えの強さが変わるようでさあ」
「ブルブル震えて、電動ハ…パ…バ…バイ…」
三人は思わず顔を見合わせた。
「この場にウーラがいなくて良かったな」
「全く」
にやつく3人。
「艦長。その物体の正体が明らかになりました」
「それには及ばんよ、スポック。だいたいこちらで分かったから」
「それは非論理的ですね、艦長。これは電動ハブラシというものの本体のようです。
これとウーラ中尉とどのような関係があるのでしょうか?」
思わず顔を見合わせる3人であった。
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はい。即死防止用即席ショートコントPart3。
「なぜカークが日本語を読めるか」といった突っ込みは禁止です(w
7名無しさん@ピンキー:03/09/26 01:33 ID:6QkNtsIf
手持ちにエロなしネタがないので
とりあえず保守協力。

なんか考えてみるか。
8名無しさん@ピンキー:03/09/26 02:28 ID:Oi+HU3lE
「さーて、おしおきだべぇー」
「ドクロベー様!」
「今日の失敗は、ドロンジョ。お前一人の責任だな」
「で、でもドクロベー様…」
「あかぽんたん。いいわけはゆるさないんだべぇー。
今日のおしおきは、白くて粘々した液体を、お腹いっぱい飲んでもらうだべぇー。
トンズラー、ボヤッキー。おしおきをてつだうだべぇー」
「アラホラサッサ」
二人はドロンジョを縛り上げると、口に漏斗を突っ込んだ。
「堪忍しておくれやす、ドロンジョ様」
そう言いながらトンズラーが液体を流し込む。
「あの、ドクロベーさまの命令ですから、うらまないでくださいよ」
そう言いながら、ボヤッキーも流し込む。
ドロンジョの口の中は白くてぬめぬめした液体で満たされていく。

  *

翌日の早朝、ジョギングをするドロンジョの姿があった。
「全くもう、気持ち悪いったらありゃしない。
あんなもの、お腹一杯に飲ませるなんて、ドクロベー様は何を考えてるのかしら。
あんなに練乳飲ませるなんて……」
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はい。即死防止用即席ショートコントPart4。
これで4KB超えたかな?
明日(というか今日)はもう書き込みできないので、即死回避できるかどうかは
神の味噌汁、ということでおやすみなさい。
9名無しさん@ピンキー:03/09/26 11:24 ID:C3wS0Jfh
即死判定って、24時間書き込みがなく、さらにある程度の容量がないスレが対象だっけ?
10名無しさん@ピンキー:03/09/26 12:29 ID:6QkNtsIf
24時間以内にある程度の容量の書き込みがないと即死、だったはず。
ある程度、が具体的にわからんのだが
5KBは行ってないとまずかったような気がする。
24時間以内に24以上レスがついていても即死している例があるし。
1148:03/09/26 13:44 ID:AmXIk6oL
依頼した48です。
前スレで連載していたSS「北の鷹匠たちの死」の続きを投下します。
なお某所で出ていた用語に関する問題ですが、完結後に用語説明を投下予定です。
とりあえずは用語も小道具だと思ってお読みください。
また、前スレが落ちたことに関しては、保守の任を負っていた私の怠慢に責任があります。
私はその責任から逃げようとは思いません。その時がくれば、然るべく自らを処するつもりです。
しかし、今は即死回避ということで、どうか、私の書き込みをお許しください。
最後になりますが、65さん、スレたてありがとうございました。
12北の鷹匠たちの死:03/09/26 13:56 ID:AmXIk6oL
<バニー>はカップを持ってバルコニイに立っていた。
カップからかすかにのぼる湯気を透かして、はるかに高く広がる、夏の昼下がりの蒼穹を見つめる。
背後のテーブルには先ほど食べ終えた昼食のトレイが乗っている。
自由が、空が、恋しくてならなかった。

彼女が囚われの身となってから既に二週間が過ぎなんとしていた。
E&E訓練などでは過酷な尋問に耐える方法を叩き込まれたが、幸か不幸かそれを使うことはなかった。
サバイバル課程では、大戦中の抵抗活動中に捕まり、ドイツ兵に強姦され、さんざんに嬲られた女性の話をじかに聞いていたので
捕まったときに覚悟は決めていたが、肩透かしを食ったような形である。
彼女はクレトフ少佐に、自分を尋問しないのかと聞いたことがあった。
彼は笑って答えたものである。
「君がミサイル艇基地や、陸上防衛配置を知ってるのかい?F-16のことや飛行隊の配置なら知っていただろうが、それは聞いても
 意味がないよ。ノルウェー空軍はほとんど全滅した。残りはスコットランドに脱出している。それにF-16のことは聞いても意味は
 ないしね」

そう、確かに意味はないだろう。4日目、双眼鏡で窓から眺めていた彼女は、衝撃を受けた。
ほぼ無傷のF-16がトレーラーに乗せられて運ばれていった。機体番号からすると「ノース・ギース」小隊長のものである。
クレトフ少佐によると無線機の損傷から基地が占領下にあることを知らずに不時着した機体を捕獲したということだった。
操縦士は銃撃戦で戦死したらしい。その操縦士、ヨハンセン少佐のことを思うと、胸が痛んだ。
彼は全滅した第332飛行隊の唯一の生き残りだった。北部で12時間に渡って繰り広げられた激戦を生き延び、7機を撃墜したエースだった。
それが空で死ねず、陸で死ぬことになるとはどういうことだろう。彼女はその夜、彼のために祈った。
13北の鷹匠たちの死:03/09/26 13:59 ID:AmXIk6oL
スーザンはソヴィエト軍が司令部として使っているホテルの一室に軟禁されていた。
本当はソ連本国の収容所に送られるはずだったが、収容所がノルウェーやデンマークの操縦士たちで満杯になってしまったので、彼女は
このホテルに残ることとなった。

しかし、待遇はよかった。
脱走や味方との連絡を試みないという条件を受け入れたので、ホテルのなかで一部の区画を除いては自由に動き回ることができる。
また一日に一時間のみ外出できるほか、隣の部屋にいるクレトフ少佐が誘ってくれたおかげで毎朝ホテルの周りをジョギングできる。
しかし、そのように少し外の空気を吸うだけでは、彼女の寂寥感は満たしようがなかった。
彼女は元々、ひどく活動的な女性である。余暇の趣味がオフロードバイク――と料理――であることからも推察できよう。
人懐っこい空挺隊員たちは、彼女が彼らの戦友を殺したことを忘れたかのように接し、おかげで彼女の寂しさは多少はまぎれていた。
14北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:00 ID:AmXIk6oL
シマコフは中年の士官だが、その年を感じさせるのは銀髪とその顔に刻まれた皺だけだ。
彼は連隊司令部に敵の戦車が肉薄した際に自らRPG-7で一両を屠っている。しかしその戦闘で、彼は左眼を失っていた。
火傷で多少引きつった顔と左眼の眼帯は、彼の第一印象をひどく恐ろしいものにしている。
しかし、右目の優しい表情は、その印象を一変させるに十分だった。彼はスーザンが彼の亡妻によく似ているといってしばしばやってきた。
彼女は司令部の人間模様を観察していて、シマコフがC・S・ルイスの「ナルニア国物語」のアスランにちょっぴり似ていると思った。
このライオンは圧倒的な存在感を持ち、物語のここぞという場面であらゆる登場人物を追い立てまくるのだが、ときどきどちらの勢力の
ものか分からなくなる。

クレトフは隣という気安さからしょっちゅう遊びに来る。彼は抜けるように青い瞳に無骨な部品を寄せ集めたような顔で、ハリウッド的
基準から言えば美男とは言いがたい。しかしその率直な顔立ちと、空挺隊員にしては珍しい長身は、妙に彼女の心をひきつけた。
上陸作戦中に右足に被弾し、今もかすかに足を引きずっている。

ボルノフ大尉は痩せぎすの小柄な男で、その顔は一見すると骸骨のようにも見える。しかしその笑いは妙に愛嬌があり、そして彼が笑みを
絶やすことはほとんどなかった。よく国元に手紙を書いており、まもなく4才を迎える愛娘について相談してきたこともある。

プーカン中尉は、赤が混じった茶色の髪に、大きなはしばみ色の瞳が魅力的な女性である。
プーカンとは唯一の女性の話し相手として、双方共に深い友情を築いていた。彼女は師団の自転車レースでここ数年トップを
維持しつづけており、スーザンも学ぶところが多かった。
ソ連軍は、西側軍隊とは異なり、戦闘部隊に女性を配置することがままあるが、不幸なことに同団の女性はプーカン中尉のみであった。
15北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:01 ID:AmXIk6oL
また初日などは、口実を設けては美貌のノルウェー空軍操縦士を一目見ようと空挺隊員たちが押しかけてきた。
彼女にとっては不幸にも、ソ連の空挺隊員たちは敵地浸透訓練の一環として英語教育を受けていた。そして彼らがもっとも熱を入れて
勉強したのが女性に声を掛ける方法だった。彼らは勉強しながら、西側の奔放な――そして美しく日焼けした――女性を夢見ていたというわけだ。
ノルウェー空軍を含む友軍パイロットのF-16への転換訓練はテキサス州のフォートワース空軍基地で行われたが、スーザンは極秘で
カリフォルニア州のチャイナ・レイク海軍兵器センターで行われていたAMRAAM評価試験に参加しており、たまの余暇にはレンタカー
を駆って海に行っていた。
そんなわけで、スーザンは空挺隊員たちの考える「西側の女性」像に――少なくとも外見は――ぴったり当てはまっていた。
いちおう見張りとしてカービン銃を持って同室していたクレトフは、歴戦の古参兵たちが彼女の前でまるで思春期の少年のように
振舞うのを見ておかしがった。
しかしあまりにも多くが訪れたために一日で彼女は疲れきってしまった。
彼女の部屋の両隣にクレトフと政治士官のボルノフ大尉が入ることで、事態はようやく収拾を見た。

さらに、中隊以上の全指揮官の総意として、彼女には炊事兵の教育という「任務」が依頼された。
アンダヤ島各所に分屯する中隊の炊事兵が順繰りに教えを乞いに送られてきた。
彼女はもともと料理の趣味もあり、また渡米中にチャイナ・レイクで同宿だった米海兵隊の女性操縦士にアメリカの料理を教わっていた
ので、わりとレパートリーは広かった。最もそのルイス大尉からは海兵隊流の罵詈雑言も教わってしまい、原隊復帰したとき皆彼女の口の
悪さに驚いたものである。
適当な目標があるというのは、単調になりがちな虜囚生活に程よいアクセントを与えてくれた。
しかし炊事兵連中は妙に覚えがよく、スーザンは覚えた悪態を使えないことを密かに残念がっていた。
もっとも、研修が終わるとどこから探してきたのか山のような色紙を差し出してサインを頼むのには参った――これはロシアの風習では
なく、西側のものを聞き覚えていたらしい。
16北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:02 ID:AmXIk6oL
実のところ、ソヴィエトの空挺隊員たちを好きにならずにいるのは難しかった。
最初のうち、彼女はときおり「露助には2種類いる。悪い露助と死んだ露助だ」とつぶやいていた。
しかし1週間たったころには「露助には3種類いる。悪い露助と死んだ露助、それと飛び降りる露助だ」に変わっていた。
彼らの哲学によれば、空の敵機は引きずりおろすべき目標,陸の敵機は爆破すべき目標,陸の友軍機は地獄への片道切符で
空の友軍機は救いの悪魔だった。が、敵味方問わず撃墜された操縦士は不運な隣人だった。
彼らとの交流は、「ワイルドギース」の戦友を失った彼女の悲しみを薄めるのに役立った。
また、彼女はそれをいつまでも悩むほど内向的な性格ではなかった。
<ペイ><マック>の仇は討ったし、<ホワイト>はうまくすれば生き延びたかもしれない。彼女が撃墜された時点で彼は南東に向かって
飛んでいた。海上に降下すれば、逃げ延びるチャンスはある。
第一、今更悩んで何になる?
悲しみは戦争が終わってからゆっくりとかみしめればよい――――無論、この第三次大戦に終わりがあれば、の話だが。
彼女はこの戦争をのんきにやり過ごすつもりであった。
幸いにも、彼女の愉快で楽しい捕虜生活を邪魔する最大の要因となりえた政治士官はかなり融通の利く人物である。
何しろボルノフ大尉は政治士官でありながらひどく闊達な、優秀な空挺隊員である。

彼女ははっきりと自覚してはいなかったが、大隊の連中はみな彼女のことが大好きだった。
捕虜がマスコットになる、というのも妙な話だが。
17北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:03 ID:AmXIk6oL
クレトフは、ボールペンをくわえて天井を見ていた。
あのノルウェー女性、スーザン・パーカーのことを考える。
彼は、出征する前に恋人と別れてきたばかりだった。
彼にとっての優先順位は部隊のほうが高かったのだ。
しかし、ここ数日は、自分の死を心から悲しんでくれる女性がいないことが無性にさびしかった。
彼は一回結婚したが、3ヶ月で破局を迎えた。
これまでの結婚がうまくいかなかったのは、彼が軍隊に入れこみすぎていたからだ。
だが、今は軍の仕事と、永続的な男女の関係の両方をきちんとやっていくすべを知っている。
彼女となら、うまくやっていけるかもしれない。
不幸にも敵味方という関係だが、お互いに敵意は無い――というか、そのように思える。
戦争が終わったら、彼女をどこかに誘ってみよう――――二人とも無事だったなら。

彼は彼女の隣の部屋でため息をつき、つい左側の壁に目が行ってしまうのを押し戻しながら、ボールペンを机に落とすと、
書類に無理やり意識を集中させる。そしてこの2週間で何千回目か何万回目か分からないが、シマコフに悪態をつく。
(書類仕事がイヤなら副長に押し付けろってんだ…)
しかしその副長は、実のところクレトフなのである。
本来は政治士官がナンバー2なのだが、クレトフ少佐がボルノフ大尉よりも先任であるうえに、ボルノフがクレトフに喜んで仕事を
押し付けているので、結局クレトフが副長と言ってよいだろう。
18北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:04 ID:AmXIk6oL
今現在の彼の頭痛のタネは、第25独立戦車中隊だ。
『いまどき機甲火力無くして機動無しですよ。空挺さんの悪口言いたくないけど、今までやってきたような機動訓練と突撃だけでは
 ダメなんですよ』
中隊長のイワノフ大尉の言だ。
(空挺に機甲火力だと? 知った風な口聞きやがって テメエは空挺を自動車化狙撃にしたいのかと小一時間ry)
もっとも、この場合歩戦共同の必要性はクレトフも痛いほどわかっている。ソ連空挺部隊は致命的に戦車との共同作戦を苦手としている。
何しろ、彼らが拠れる機甲部隊は、大抵はBMD-1か-2、良くてPT-76だった。彼らの装甲は、正面ですら50口径の重機に貫通される。
T-80のように、敵の主力戦車に十分に対抗できる戦車との共同作戦は、まったく未知の分野なのだ。
幸運にも、現在は全部隊がBMD-2で機械化されている。というのも、敵前上陸という性質上、抽出された6個大隊のうち4個大隊が
機械化空挺大隊だったうえに、トラック装備の軽空挺部隊はあの激戦を生き延びられなかったのだ。軽空挺の数少ない生存者は、70%の
損害を出して事実上全滅した偵察隊に編入されている。
今かれがにらんでいる書類もまさにそれについてである――ノルウェー軍の演習場を使っての機甲演習だ。
しかしこれは、ある意味では幸運だった。
精鋭の空挺隊員たちが守備に使われている。これはしばしば士気の低下をもたらす――しかしイワノフを少し煽って中隊長クラスにまで
論争させれば、活発な戦術談義がはじまるだろう。それが収まるころには陣地構築が完了しているだろうから、防衛訓練を始めることが
できる。

アンダヤ守備隊は准旅団にあたる編成であるから本部管理中隊があり、書類仕事も多少は楽なのだが、本管中隊を含む司令部メンバーは
かつての第14親衛空中突撃連隊のそれがそのまま移ってきている。しかし上陸作戦時に副連隊長が戦死、後任が見つからずボルノフが
巧みに逃げ回るままクレトフが副長格になってしまっていた。
幸いにも第25独立戦車中隊を除く同戦闘団の部隊は全てが空挺部隊であり、少数派の元35連隊である彼もわりあいやりやすかった。
19北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:05 ID:AmXIk6oL
そして25独戦中を越えるトラブルメーカーが、KGBの保安中隊である。
イワノフ大尉は優秀な戦車兵であり、彼との摩擦は結局単なる意見の相違だが、彼に言わせればKGB保安中隊長のロマノフ中尉など
ゴロツキである。
もっとも、このKGB保安中隊は指揮系統としては政治士官のボルノフ大尉の下に入ることとなるから、ゴロツキだろうが何だろうが
本来は彼の知ったことではない。本当ならば専任のKGB保安士官が配属されるのだが、ノルウェーの大隊戦闘団に配属できるほど
のKGB士官はいなかった。彼らはドイツで相当に殺られていた。
空挺隊員とKGB保安隊員の間には軋轢が絶えず、ボルノフとクレトフはあちこち走り回るはめになっていた。
もっともそのおかげでボルノフとは深い友情を築くことができた。今や、まるで百年の知己といった具合である。
全島避難でノルウェーの民間人がいないことだけが救いだった。
何しろ無人の家屋に押し入ろうとしたKGB巡察隊と空挺部隊が銃撃戦寸前に行ったことまであるのだ。
彼はひとり笑った。KGBの連中を本当の兵士に仕立てなおすのはさぞかし楽しいことだろう。KGB隊員たちにとってはあいにくだが、
これはボルノフ大尉以下司令部メンバーの総意である。空挺部隊と一緒に配置されたのが運の尽きというものだ。
そのとき、通信班の伍長が通信用紙を持って入ってきた。
彼はそれを受け取り、伍長を下がらせると目を走らせた。そして時計を一瞥すると書類を机の上に置き、立ち上がった。
ソ連空挺部隊の淡いブルーのベレーを取り上げると粋にかぶり、ドアを開いた。

ソロヴィヨフ伍長は、背後でドアが開き、クレトフ少佐が例のノルウェー人の部屋のドアをノックするのを聞き、ほくそえんだ。
クレトフは笑っているより顔をしかめているほうがずっと多く、ソロヴィヨフのような部下たちに言わせれば、
”隊長のうれしそうな顔なんか見たこともない。いつもより怒っていないってだけだ”
とのことであった。しかし例のノルウェー人が隣に来てからはだいぶ角が取れ、人並みに笑うこともあるようになった。
本人は隠そうとしているが。
20北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:06 ID:AmXIk6oL
スーザンはため息をついた。水っぽい北欧の陽光が降り注いでいる。
昼寝には最適な陽気なのだが、あいにくと彼女にはシェスタの習慣はなかった。
夕方などは医務室のサイフォンで沸かしたコーヒーを飲みながらプーカン中尉としゃべるのが楽しみであったが、まだ勤務中だ。
現在、アンダヤの混成准旅団の将兵たちの間でコーヒーが流行しているのは、もっぱら彼女の責任である。
そして彼らが塩しか入れていないのは、明らかに彼女の責任である。

ここで、現在アンダヤの准旅団司令部で繰り広げられている「第二次飲料紛争」の状況を説明しておこう。
発端は、地下の厨房で発見されたサイフォンがプーカン中尉とスーザンの手に渡ったことだった。
二人はそそくさとサイフォンを医務室に運び込み、クレトフやシマコフ、ニチーキンなどそこに居合わせた士官連中にコーヒーを振舞った。
スーザンは米国でのF-16転換訓練中に、ボルチモアの米沿岸警備隊員から米軍秘伝の旨いコーヒーの入れ方を伝授されていたのだ。
この猛攻の前にたちまち脱落者が続出し、紅茶派の筆頭であるボルノフが気づいたときには彼らは少数派となっていた。
さらに紅茶派を内部分裂が襲う。
21北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:08 ID:AmXIk6oL
砲兵中隊長のデミヤン大尉と第1空挺中隊長のセルギエンコ大尉はミルク・ティー支持の少数派を旗揚げしたが、スーザンとクレトフの(説得)
工作を受けてコーヒー派に転向。
政治将校のボルノフ大尉は通信隊と輸送隊の支援を受け、秘伝のロシアン・ティーの入れ方をもって反攻作戦を試みたが、スーザンと
シマコフ大佐やクレトフ少佐、本管中隊の反撃を受け頓挫。
ちなみに第一次では、ノルウェービール支持のスーザン、クレトフ以下がウォッカ派に惨敗を喫している。

そんな「A級戦犯」である張本人は米軍流の「塩一つまみ」、沸かしたてのコーヒーをすすっていた。
コーヒーを飲み終わったころには1400時、外出時間だ。
常に武装兵が警備しているホテルのなかの一部フロア以外ならば、町の中ならどこに行ってもよいことになっている。
もっとも、アンダヤ島自体がある意味牢獄だったので、脱走の可能性はなかった。
彼女がアンダヤ島に着任したのは捕虜になる二日前、しかもデフコン1の全面戦争状態では散策などしている余裕はなかった。
彼女のお気に入りはホテルから15分ほどの所にある湖沼であった。内陸の山にも行ってみたかったが、一時間では無理だ。
22北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:09 ID:AmXIk6oL
ドアを誰かがノックした。
「開いてます、どうぞ」
ドアが開き、クレトフが入ってきた。
「食べ終わったかな?」
彼の英語はどういうわけかひどく古風な言い回しであったが、この2週間で急速な改善を見せている。
「ええ。ありがとう」
彼は右手で器用にトレイを取り上げた。
「ところで、おめでとうを言っておこう。君は本日付で昇進した」
彼は通信用紙を差し出した。
そこには、彼女がノルウェー空軍少佐となったこと、そしてあの空戦で彼女が6機を撃墜したことが確認されたことが簡潔に記されていた。
彼女はエースなのだ!
23北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:09 ID:AmXIk6oL
「妙な気分ね。あなたからおめでとうを言われるなんて。いちおう敵なんだけど」
彼は照れくさそうに顔の前で手を振った。
「任務を果たしていただけなんだから、君に文句をいうことは無いさ」
「これで年増の大尉なんてもう言わせないわよ」彼女は呵呵と笑った。
彼もきまり悪そうに笑い、しばし躊躇してから言った。
「ところで、車で少し遠出しないか?一時間じゃ大したところに行けないだろうし、昇進祝いだと思ってくれればいい」
彼女はしばし考えた。彼女の顔から表情が消えるのを見て、彼はその胸中がおおよそ読めた。
アンダヤ島の防衛配置を知っておくことは有益だ――NATO軍がアンダヤ島を襲撃する可能性は高い。
彼女が赤十字の捕虜交換などで開放される公算も無いわけではないし――しかし彼と二人きりになることには危険も――
――その時彼女は、自分がとにかく彼とドライブに行きたがっていることを知った。彼女は顔を崩し、笑って言った。
「いいわね!行きましょう。ただし装甲車はいやよ」彼女はカップをテーブルに置き、上衣を羽織った。
クレトフは地下の厨房に向けて歩き出し、ドアをくぐる直前に言った。「戦車ならいいの?」
「ばか」ドアに向けてつぶやいた。

幸いにも接収した民間車だった。
24北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:11 ID:AmXIk6oL
「ところで、マリナーズってどう?」
「うーん、あまり詳しくないけど、強くはないけど弱くもないって聞いたな。なんで?」
「ボルトフと、マリナーズが今期レンジャーズにあと2敗はするって賭けたんだけど」
彼女は笑った。
「あなたの負けね」
クレトフは憤ったように言った。「なんでさ?」
「私がここに来た時点であと1試合しかなかったからよ」
クレトフはいらだたしげにハンドルを叩いた。「やられた!」
「でもなんでそんなのに賭ける気になったの?あなたたちはホッケーに賭けるものだと思ってたけど」
「昨日衛星アンテナの修理が終わったんで、二人で見てたらやってたのさ。ところで帰ったらウォッカを半分進呈するよ」
「ウォッカはいいけど、アンテナの修理が終わったなんて初めて聞いたわよ」
彼はにやりと笑った。「驚かせようと思ったんでね」
25北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:12 ID:AmXIk6oL
突然彼はブレーキを踏み、彼女は前に投げ出されてシートベルトに引き戻され、うめいた。
鹿のカップルがとことこと道を横切っていた。
深緑のあいだから差し込む光が、目を細めて見守る二人の顔を照らしていた。
鹿が茂みの中に消え、二人は詰めていた息を吐き出すと、顔を見合わせて笑った。
彼は、彼女の澄んだブルーグレイの瞳を魅せられたように見つめた。頬から笑いが薄れてゆき、彼女は頬を赤らめ、体をよせた。
その時、手に何かがあたった。
「――ねえ…私とのデートにライフルが必要なわけ?」
彼は傷ついたような顔をした。「武人のたしなみってやつさ。騎士のサーベルみたいなものだと思ってくれたまえ」
「私がこれを奪おうとしたらどうするの?」彼女はいたずらっぽく聞いた。
「僕が空挺だってことを忘れてもらっちゃ困るね」
「どうかしら…私は危険な女よ」彼女は笑った。
風に木の葉が揺れ、一瞬の木漏れ日が彼女の瞳を妖しく光らせる。
「試してみる?」そう笑うと彼は腕を回して運転席側に抱き寄せ、唇を重ねた。
26北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:15 ID:AmXIk6oL
軽く唇を重ね強弱をつけて唇同士を触れあわせる。
「んっ…」
女が逆らわないのを見て取り、少し唇があいた瞬間を見逃さずに、舌をスーザンの口腔に進入させた。
そして、舌の裏側や歯茎・上顎などを刺激する。
「…あっ…」小さな吐息を漏らす。
彼女も手を彼の頭に回し、唾液をあごに伝わせながら唇を愛撫しあい、舌を絡め合って、熱い吐息が互いの喉の奥に流し込まれる。
男はつと唇を離し、小麦色のうなじにむしゃぶりついた。
女の半開きの唇から、深く荒い息が漏れる。
さらに鎖骨の窪みから胸元へと小刻みに口付けを繰り返す。
女の吐息が深く、大きくなる。
男がふと唇を離し、女の顔をのぞきこんだ。
「あー、えー…と…」
言葉に詰まる彼に、女は微笑んだ。
「……いいわよ……」
それを聞いて男はかすかに笑い、唇を合わせた。
そして唇での戯れを重ねながら、上衣を器用に脱がせる。
支給品の男物の黒いTシャツの下から、窮屈そうに膨らみがその存在を主張していた。
それをたくし上げると、たわわな乳房がこぼれ出た。
空軍士官が好んで着けるスポーツタイプの下着は、脱がせるのが楽しい種類のものではなかったが、それが包む中身の素晴らしさを損なう
ものではなかった。
27北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:15 ID:AmXIk6oL
男がブラジャーを外すと、つんと上向いた、黄金色の形の良い双球と淡い赤の蕾があらわになった。
男は静かに唇を離した。二人の間が透明な糸で結ばれている。
彼は手を伸ばして左の乳房を包んだ。たっぷりとした質感と素晴らしい弾力、そしてやわらかさが伝わってくる。
男は左の乳房を堪能しながら、右の乳房に舌を這わせた。円をえがきながら、すでにつんと立ち上がった頂をめざす。
女は、心臓の鼓動が早まるのを感じた。半開きの口から、切ない喘ぎ声が漏れるのを抑えることはできない。
彼がついにその蕾を口に含んで舌で転がし、甘噛みしたとき、女の喘ぎ声がいっそう高まった。
男はOD色のズボンをずり下げ、すでに染みを形作っているパンティを丸め込むように下にずらした。
女の太ももをなぞりながら、彼はそれを少し開かせ、すでに潤っている秘所をあらわにした。
彼の指がかすめ、女の喘ぎ声が一瞬高まる。とろっとした液体が指に絡む。
濡れそぼった、柔らかい金の毛並みに指が分け入る。
男が女の秘裂を軽くなぞりあげると、それだけで女は軽い絶頂を迎えた。
女の背中がびくびくと震える。
男は笑い、人差し指を中に掻き分けた。一番感じやすい肉芽の周囲をゆっくりと撫でる。
我慢できないかのように、女が深い吐息を漏らす。
薬指も挿入され、膣壁が横に広げられる。指をくいっと曲げ、中をかき回し、蕩けきった芽を弄ぶと、とめどもなく中から熱い蜜が
あふれてくる。
男はわざと乱暴に音を立てて抽送し、淫猥な水っぽい音が車に反響する。
女が快感の波に身を任せようとしたとき、突然水面が穏やかになった。
見上げると、男が薄く笑いながら見下ろしていた。
女の潤んだ青灰色の瞳が懇願するように男を見つめる。男がかすかに顔を動かした。
女はうなずき、器用に躰を反転させると男に覆い被さり口づけをした。
28北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:16 ID:AmXIk6oL
その間に、男は座席をリクライニングさせ、自分のズボンと下着をずり下げた。もう準備ができている陽物が姿を現した。
顔を染め、ゆっくりと焦らすかのように、女は腰を下げていく。
「はぁぁっ……んぁ……」
入り口に到達した肉棒は軽い抵抗を受けつつ女の秘所に入り込んでいく。
男はきゅっと締まる秘貝に放出しそうになるが、どうにかこらえた。
「ああ…」

根元まで入り、息をついた。からだの中を男が満たしているのが分かる。
男が女の腰をつかみ、反応する暇を与えずに、猛烈に下から突き上げる。
「あああぁっ!」
彼女は不意をうたれて思わず叫んでしまう。その瞬間、彼女は軽く絶頂を迎え、頭の中が白熱した。
しなやかな身体が弓なりに反りかえる。
しかし彼は頓着せずに、スプリングを使って猛然と突き上げる。彼女の上体が大きく揺れた。
誘うように大きく揺れる胸を鷲づかみにし、荒々しく揉みしだくと、彼女が息を荒げるのを感じた。
男が下から突き上げるように抽送するたび、花弁からは淫らな液が溢れ出て、ジュブジュブと音をたてた。
彼女もいっそうの快感を求め、円を描くように腰を振り始める。
半開きの口の端からたらりと一筋唾液が垂れた。
29北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:17 ID:AmXIk6oL
女は
「はあっ・・・あ・・・ああっ・・・い・・・いいの・・・いいのぉ・・・」
うわごとのようにつぶやいている。
しかし、熱くたぎって蠢く柔襞が陽物に絡みつき、男も既に限界に近づいていた。突き上げがさらに激しくなり、
亀頭を子宮にゴリゴリとこすりつける。
女はまるで呼吸困難のように口を開いている。失神寸前だ。
彼女の目はうつろに開いてこそいるが何も見えなくなっていた。
男は腕に力を入れ、彼女を大きく持ち上げると、ストロークを深くとり、叩きつけるような力強い突きこみをする。
突き上げられるたびに女は嬌声を上げる。
そのストロークがだんだん短くなり、加速がついてくる。
「ひうっ! ひくっ! ひくっ! ひくぅ!」
女は叫んでいるが、脳がなかばスパークしているせいで、明瞭な言葉として発声されない。
しなやかな体は限界まで反り返り、頭はいやいやをするように振られている。
彼が全身に力を込め、彼女を大きく持ち上げると、引き下ろした。
抜けかけたところで一気にうちこまれ、快感の受領限界を超過し、頭の中が完全にスパークした。
彼女が達すると同時に膣がきゅうっと締め付け、彼は雄たけびを上げ、中で果てた。
彼女は強烈な快感に理性を失い、見当識を喪失した。
彼女はそのまま男の胸に倒れこんだ。
二人はしばらく余韻にひたり、快い疲労と沈黙の中にいた。
30北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:17 ID:AmXIk6oL
「スタンバイ、スタンバイ――」
クチカロフ軍曹は双眼鏡を下ろし、無線機を取り上げた。
「――オーケイ、イワシよりマグロ、対象者1が放出したものと判断する。繰り返す。放出した」
『マグロ了解』セルギエンコ大尉が押し殺した声で笑い、それがクチカロフ軍曹の耳にも届いた。
「周囲に脅威の兆候無し。後退を進言する」
『マグロ了解。対象者2の状況知らせ』
「対象者1の上に覆い被さっている。寝ていると思う」
『マグロ了解。状況の終了を宣言する。可及的かつ速やかに撤収せよ』
「イワシ了解。交信終了」
『交信終了』
クチカロフ軍曹は迷彩を施した顔をゆがめて笑い、彼がいた痕跡を消し、手榴弾のトラップを解除してAKS-74のグリップを握りなおすと
静かに這い戻り始めた。

「私たちがこんなことしてると知ったら、少佐はどう思うかしらね!」プーカン中尉が笑った。
「少佐ってどっちの少佐?」
「両方よ!」二人は大口を開けて笑った。
「さて、諸君」
その声に二人は凍りついた。
シマコフ大佐がにやにや笑いながら医務室のドアにもたれていた。
「そのテープを渡してもらおうか」
「ハテ、テープとは何のことやら」プーカンがとぼける。
しかしシマコフは大股に歩み寄ると、通信隊から拝借してきた短距離通信機に接続されたテープデッキからカセット・テープを抜き出した。
「貴重な通信機と人材を、出歯亀に使ってもらっちゃ困るんだがナ…」
大佐はぼやいて頭を振り振り通信機を担いでドアを開け、歩いていった。
二人は顔を見合わせ、舌を出した。そして、同時に吹き出した。
31北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:22 ID:AmXIk6oL
スーザンが静かな寝息を立て始めたとき、クレトフは薄目を開けて去っていくクチカロフを見た。
(おいおい、トラップをひとつ解除し忘れてるぞ)
軍曹は二人の秘め事をのぞき見したという後ろめたさから多少不注意になっていた。
英SASなどはアイルランドでの監視任務中にこのような状況に遭遇することはしばしばあるが、ソ連の空挺部隊はあまり慣れていない。
クレトフは頭の中に、帰ったらすぐニチーキン大尉に言ってトラップを回収させるようにメモした。
不用意な隊員がひっかかるようなことがあったら困る。
その際は、セルギエンコ大尉と――おそらくは、そして望むらくは――プーカン中尉に知られないようにすること。

「もう行った?」そのとき、スーザンがひそひそと笑っているのに気付いた。
「おいおい…気付いてたのか?」
「お互い様でしょ?あなただって気付いてたんだから。でもソ連の空挺もたいしたことないわね。私でももっと上手に隠れられるわよ」
クレトフは笑った。
「クチカロフをあまり責めんでくれよ。君の痴態を見れば誰でも落ち着かなくなるだろうさ」
彼女は彼の胸に預けていた頭をもたげ、鼻を彼の鼻にくっつけて、目をのぞきこんだ。
「セリョージャ、悪いひと。私の罪」
二人はしずかにくちづけた。
「ありがとう。いずれまた」
「ええ、いずれまた」彼女は微笑んだ。
32北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:23 ID:AmXIk6oL
その夕方のコーヒータイムは、妙にぎこちなかった。
プーカンとセルギエンコは黙ってもじもじしているし、スーザンはひとことちくりと言ってやりたい欲求を抑えるのに精一杯だった。
シマコフとクレトフはペーパーワークのため早々に引き上げていた。
おまけにソロキン大尉とイワノフ大尉が論争を始め、おさめようとしたデミヤン大尉とニチーキン大尉も熱くなり始めていた。
「戦車なんてうるさくて隠密行動もへったくれもあったもんじゃ――」
「確かに隠密行動は歩兵に劣るかもしれないが、戦車こそ最高の対歩兵対戦車兵器であり――」
「――砲兵は対砲兵戦と後方の攻撃だけ考えていればいいのであって歩兵の直接支援は迫砲中隊に――」
「戦車なんて対戦車ミサイルでいちころじゃないか」
「対戦車ミサイルで戦車に対抗できるもんか――」
「アンデネスでは対抗できたぞ」
「ありゃ偶然と幸運だろ。だいいち――」
「指揮官の能力と言ってもらいたいね」ソロキンの反論に、
セルギエンコがぼそりと突っ込む。「指揮官はクレトフ少佐だったでしょうが」
しかしヒートアップしている四人は聞いていない。
「――ミサイルを撃つためには頭を上げなければいけないだろうが」
「――砲兵は歩戦共同を阻止するために――」
「歩兵の支援が無ければ戦車なんて鉄の棺桶だ――」
「――なら榴弾砲なんか捨てて迫撃砲でも使ってろ――」
「だからこそ歩戦共同が重要なのであって、戦車を越える打撃力機動力を備えるものは存在しない!」
一人だけ紅茶をすすっていたボルノフ大尉は微笑み、立ち上がった。
33北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:24 ID:AmXIk6oL
クレトフは、再び机に向かっていた。頭をかきむしりたくなるのを抑えて意識を集中する。
演習計画よりも退屈な、事務備品の消費計画の承認が、今の彼の課題だ。
しかもふとしたことから、スーザンのことを思い出してしまう。
髪の匂い、唇のやわらかさ、肌の手触り、そのやわらかさ、しっとりと湿ったその部分の感触――――
ああくそ、本当にやられちまった、彼は思った。なんてこった、肩まではまり込んじまった。
そのとき、ドアを開けてボルノフが入ってきた。
「よう、アンドレーエヴィッチ。退屈してないか?」
「この白い悪魔を半分引き受けてくれたら退屈してやるよ、この腰抜けめ。用件はなんだ?とっとと言いやーれ」
「陰謀、暴力、戦争、セックス、なんでもござれの本を見つけたんだが。読んでみないか?」
「それは 実 に 面白そうだな。暇があったら読んでみよう。置いてけ」
ボルノフはにやりと笑い、机の上に投げ出した。
クレトフは笑い出した。聖書だった。
「おいおい、政治士官にあるまじき行為だぞ、同志政治士官」
雲が太陽を隠し、さっと部屋がかげった。
「実に面白い本だぞ――まあ如何なるものにも欠陥は伴うのさ。
 さらに言えば、いちおうは敵である捕虜と寝るのとどっこいどっこいだと思うがね、同志大隊長」
34北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:25 ID:AmXIk6oL
クレトフは表情を変えないのに、渾身の精神力を要した。彼は低い声で聞いた。
「どうして分かった?」
「諸般の情報を総合し、かくあらざるべからずと信じたるにすぎず」
薄暮の中でボルノフの口が裂け、チェシャー・キャットのように笑った。
「まあ、実は今の今まで確信は無かったがね」
クレトフは頭をかきむしり、天を仰いだ。
「ああ、あとプーカンとセルギエンコは気付いてるようだから気をつけろよ」
「それは知ってる。あと第1中隊のクチカロフ軍曹もな。二人が奴に偵察させてた」
「お盛んなことで」彼は肩をすくめた。「君たちが一線を越えたことを気付いてるのはその三人と俺だけだろうが、准旅団の兵員
 のうち、半分は君と張り合う方法を考えて夜も眠れないんだぜ」
「ああくそ、君の意見が聞きたい」
「政治士官としての意見かい?それとも友人として?」
「両方頼む。政治士官の方からな」
「キサマは反動主義者だ!営倉入りだ!階級を剥奪する!同志ロマノフKGB中尉、同志クレトフを連行しろ!」
ボルノフはにやりと笑った。「これが政治士官の方だ」
「言うと思ったよ―――分かってはいたはずなんだがな。なんというか…自然に…その、そうなってしまったんだ」
ボルノフが同情するように笑った。
「分かるよ。そういうものなんだ。俺もベラに会ったときはそんな感じだったよ。貴様はこれまで軍務にうちこみすぎて、そういう機会が
 無かったんだろうがな」
「ありがとう。で、友人としての方は?」
「まあ、祝福するよ。彼女は実に聡明で明るい女性だし、君のことを愛していることは疑いようが無い。それに――」
彼はしばしためらった。微笑んでいた顔が、急に真剣になった。
35北の鷹匠たちの死:03/09/26 14:26 ID:AmXIk6oL
「どうした?」
ボルノフは机の前を歩き回りはじめた。
「これから先は他言無用だが、たぶん今回の戦争は我々の負けだ。それほど長くは続かんだろう」
「何だと?そんなに悪いのか?」
「相当に悪い。我々の奇襲作戦は失敗し、強襲と化した。突破作戦はことごとく失敗している。48時間で到達するはずのライン川には――」
「知っている。開戦から二ヶ月、いまだにライン川目指して進撃中だ――初日からずっと進撃中ではないか!しかしそんなに悪いとは…」
「ああ。これ以上遅滞すると、危険だ。例えば今は参戦していない日本や中国がNATO側に付き、東側から侵攻してきたら、我々は
 多正面作戦を強いられることになる――そして我々にはそんな余力は無い!何しろ、日本との国境など、KGBの国境警備大隊しか
 残ってないし、中露国境のカテゴリーC部隊まで引き抜いてドイツに回している状況なんだからな」
「日本は、少ないとはいえNATO並みの装備と錬度を持つし、中国は錬度と装備はともかく我々以上の兵力を持つからな。その通りだ。
 続けたまえ」
「だが、問題は終わり方だ。停戦協定が結ばれればいいんだが、どちらかの指導者がトチ狂って核戦争に発展したら――」
部屋の温度が、数度下がったような気がした。
ボルノフは肩をすくめて両手を広げ、突き上げた。そしてドアに向けて歩きながら言った。
「まあ、それは我々が心配してもしょうがないことだ。せいぜい楽しむことだね。安心しろ。ここに核兵器が使用される可能性は高くない
 し、死の灰はここまで飛んでこないよ。戦後に二人で楽しくやれるだろう」
「そう願うよ、同志セルゲーエヴィッチ」
彼はドアを開け、去った。クレトフは白壁に独白する。
「しかし、そう思うなら、なんで君の手は震えていたんだい?」
36名無しさん@ピンキー:03/09/26 16:18 ID:g8aDLbjq
エチシーンあるし(w
元ネタわからないけど、なんていうか、作品への溢れんばかりの愛を感じるよ。

保守sage
3748:03/09/26 16:57 ID:AmXIk6oL
>>36
原作は、トム・クランシーの『レッド・ストーム作戦発動』です。おそらく、今後エロパロ板で決して扱われることの無い題材でしょうし、私の前2作を除けば前にもなかったことは
ほぼ疑い有りません。
ちなみに、キャラは完全オリジナルです。後半で、原作主人公のひとりが少し出てくるかもしれませんが。
さらに言えば、アンダヤの戦闘は原作でも発生していますが、その詳しい経過は完全なオリジナルです。ノルウェー軍、ソヴィエト軍の参加部隊が実在している保証はありません。
といいますのも、原作では、「ドイツでの地上戦(主人公:アレクセーエフ、マッコール)」「大西洋での海戦(モリス)」「アイスランドの逃避行(エドワーズ)」が進んでおり、それらのエピソード
を横断・補完する形で「NSA・米空母ニミッツの戦い(トーランド)」が進行しているのですが、ノルウェー方面が完全無視で物語が進んでいるんです。実際、原作の関与は、
トーランドの状況説明で(ちなみに彼は情報士官です)ちびっと出てくるのをヒントに書いている程度です。

で、この中で原作を読んでいる方がおられましたらお聞きしたいのですが、下巻の後半に出てくる「北部ノルウェーの損失」がなにかをご存知の方はおられませんか?
北ノルウェーがソ連の占領下にあるという記述が上巻にあるんですが、これ以上の損失というのははたしてありうるんでしょうか?
「北ノルウェーの損失でリアルタイムの有用性が消えた」というのでリアルタイムが撃沈されたのかとも思いましたが、リアルタイムは生き残っているようです。
で、「リアルタイムは基地にいて情報収集を継続中」という状況が可能な損失が何かが分からず、とても困っています。
38名無しさん@ピンキー:03/09/27 12:30 ID:3fIQzM6B
48さんはいい人だな。
昔つるんでた物書きさんたちを思い出したよ。
やっぱり愛読書について聞くと、大量の即答をする人達だったな。(布教?)
原作も知らないしあれなんでこれで消えるけど、今度は良スレになるように祈ってます。
39名無しさん@ピンキー:03/09/28 22:57 ID:Xeg02hLQ
一応保守しとこ
40名無しさん@ピンキー:03/10/01 22:00 ID:xZv4ZvSW
                 ⊂⊃
                へヘ
⊂⊃           /〃⌒⌒ヽ         ⊂⊃
         〆 ^ ゝ 〈〈 ノノ^ リ)) γ ^ ヾ
        〃 :: ::::'乂ヽ|| ´∀`||ノ :::  ::: ヽ
       (ノ ::: ::  ::.⊂[リ∨†リ]ノつ:: ::、,::: )
        (ノ (ノ ⌒.!! /ノハノリ! ⌒ヽJ ヽ) `
                 U U  
41俺の屍を越えてゆけ:03/10/03 16:50 ID:fuPc2OM8
『1』

 紫(ゆかり)の顔は四角かったが、やわらかい印象のおんな顔だった。広い額は人を
和ませもした。少しだけキリリッとした黒い眉が彼女の性格を現していた。それは一族
だけが持つ運命に抗おうとして生きた証でもあった。その眉も独特でなだらかな曲線の
はじまりから、おわりのところでストンと落ちている。怒った時とか、訝しげにしている
時などはもろに顔へと出てしまう。

 しかし、それをやわらげたのが大きな黒い瞳と筋の通った綺麗な小鼻、尖らない頤に、
淡い桃色の唇だった。
「当主さま、おからだに障られます!」
 紫の口元が娘を見るようにほころんでいた。くちびるに関しては、上唇が薄く、下唇は
それに反して肉感的で、時には少女、ある時には如実に女を感じさせていた。
「イツ花、髪をほといてちょうだい」
「お、御髪をですか。は、はい……かしこまりました」
 イツ花は紫の布団に近寄って、体を支え起す。そして髷をといて黒髪を両手で散らした。

「いかがされるのですか、当主さま」
 下ろされた黒髪に仄かに波が掛かっていて、紫の美しさを際立たせている。
「イツ花、わたしの髪を切ってちょうだい」
「お、御髪を・・・当主さま・・・」
 紫は庭へと目をやると、開かれた障子戸からは天上の陽が射していて、その戸の陰で
こちらの様子を心配そうに窺っている童(わらべ)を見つける。

「おいで、沙耶」
 娘は少しうれしそうな貌をしたが、それでも躊躇っていた。
「いいから、おいで」
 戦士ではない、母の貌でする白い手の招きに折れて、少女はタトタトと歩み寄る。
「母(はは)さまはご出陣なされるのですか」
「ごめんなさいね。母らしいことをなにもしてあげられなくて。赦しておくれ」
42俺の屍を越えてゆけ:03/10/03 16:56 ID:fuPc2OM8
『2』

「いいえ、そんなことはありません」
「苦しくはない、沙耶?」
 イツ花は鏡台を引き寄せ、白布を敷き長い黒髪を両手に取って鋏を手にした。母に尋ね
られた娘はふるふると顔を横に振る。短命の呪い、長くもって二年足らずの命。幼児の
カタチで壬生川家へ天界から授けられる。そして数ヶ月足らずのうちに成人へと成長した。

 しかし、その急激な躰の変化は体力を極端に消耗する苦行に近いものだった。夜の帳が
下りた頃に躰中の骨という骨が軋んで音を立てる。
「沙耶はえらいねえ。わたしが、お前の頃には、泣いていたからね」
「母さまが」
「ええ。だから、涼平のこともめんどうを見てあげてね」
 しかし、壬生川家に来た誰一人として声を上げて喚いた者はいなかった。イツ花は涙を
隠して紫の黒髪にイツ花が鋏を入れる。バサッ、バサッと白い布に黒髪が落とされていく。

「はい、母さま」
 沙耶はキッパリと言った。
「沙耶、紅をつけておくれでないか」
「わたし、まだうまくできません。イツ花にいいつけてください」
「沙耶、おねがいだから」 
 紫は沙耶の小さな手を包み込むように握った。

「・・・」 
「沙耶さま」
 イツ花がやさしく沙耶を促す。
「うまくできなくても、おゆるしくださいね」
 沙耶は涙を浮ばせながら含羞(はにかん)でいた。鏡台の前にちょこんと座ると、引き出しから
漆塗りの小さな丸い入れ物を、同じく白い小さな手が取る。ふたたび、母の前に立って沙耶は
蓋を開けて、右の小指に朱を取って、瞼を静かに閉じている紫のくちびるに塗っていった。
43俺の屍を越えてゆけ:03/10/03 17:04 ID:fuPc2OM8
『3』

 顫える小指が紫のくちびるに紅を塗る。 「できました」 「きれい、沙耶」
「母さまは・・・母さまは・・・いつもおきれいです」
 沙耶は思わず涙がこぼれ、しゃくりあげてしまう。
「わたしたちは、どんなことがあっても必ずやここへ還ってくるのよ。だから泣くのはおよし」
「はい・・・はい・・・母さま・・・お許し下さい・・・お許し下さい」
 沙耶は涙を堪えることも拭おうともしなかった。はじめて、母の前で泣き顔を晒したからだ。
甘えたかった、抱きついていっておもいっきり大声で泣きたかった。

 それをさせなかったのは、壬生川の血の連綿と続いた誇りだったのかもしれない。紫にしても、
存念があった。幼き頃、壬生川に来たその日のうちに母は死んでしまった。
 なんの言葉も掛けることもなく、掛けられることなく床に伏してその晩のうちに召されたのだ。
自分は母というものを知らなかった。その時の記憶がまざまざと蘇る。沙耶に涼平に母らしい
ことをなにもせずに、逝くことが心残りなのだ。

「沙耶さま」
 紫の髪を整えたイツ花が懐紙を両手で差し出す。
「あっ、ありがとう・・・イツ花・・・」
「沙耶さま、当主さまがご心配になられますよ」
 そんなイツ花も涙声になっている。沙耶は懐紙を受け取って、イツ花のように両手で
懐紙を差し出す。

「おねがいね」
 沙耶の手からは受け取らずに紫は瞼を閉じたままで唇をそっと開いた。沙耶の耳にくちびる
をひらく湿り気を帯びた音が微かに届く。
「は、はい・・・母さま・・・」
 沙耶は紅を馴染ませた懐紙を受け取ると折りたたんで懐に大切にしまう。
「沙耶、涼平。みなのところで待っていなさい」
44俺の屍を越えてゆけ:03/10/03 17:20 ID:fuPc2OM8
『4』

「母さま……」
 庭のほうを見ると、沙耶のようにして障子戸の傍で立っていた涼平を見つけた。
「イツ花もみなのところで、待っていてください」
「しかし、当主さま」
「最後はわたしの手でおしまいにしたいの」
「当主さま……」 「母さま……」

「イツ花」
「なんでしょう、当主さま」
「あとあとのことよろしくおねがいいたします。長い間、ありがとうございました」
 紫はイツ花のほうをくるっと向いて、三つ指をつくと深々と頭を下げたのだった。
「と、当主さま!なにをされますか!頭を御上げ下さい!」

「ほんとうに、みなみなのことよろしくおねがいいたします」
 紫は額を布団に押し付けるようにして、イツ花に願い出た。
「……わかりました。必ずや、天上に誓ってそういたします。安心してご出陣ください、紫さま」
「ありがとうございます」
「母さま……」
 小女に対してあまりある所作礼法に沙耶と涼平はきょとんとするばかり。

「さあ、みなさまのところへ行きましょう。沙耶さま、涼平さま」
 イツ花は沙耶の手をとって部屋を出て行く。沙耶はイツ花の泣いている貌を不思議そうに
見ていた。しかし、いまはずっと見ていたいのは母の貌だ。沙耶はイツ花の貌を見るのを
やめて、何度も何度も振り返って頭を下げたままの小さい紫の姿を見ていた。
部屋を出るまででるまで紫(ゆかり)はずっと頭を下げたままだった。
「ねえ、イツ花は母さまよりもうんとえらいの?」
45俺の屍を越えてゆけ:03/10/03 19:24 ID:fuPc2OM8
『5』

「そ、そんなことはありませんよ。沙耶さま」
「でも、母さまはイツ花にたいせつなおねがいをしていたみたい」
 イツ花は俯いてしまう。
「みなさん綺麗な花たちですから、イツ花もそのお傍にずっといさしてくださいね」
沙耶はイツ花にうまくごまかされたような気がしたが、泣いている貌を見るとなにも
言えなくなってしまった。すると涼平が口を開いた。

「わたしが、みなの想いを継ぐ。だからイツ花は泣くな」
「は、はい。そうですね。で、でも、あまりにも多くの花たちが……」
沙耶は涼平にこれが最後の闘いになるということを言えなかった。花たちは気高く
うつくしく咲き誇り、一日花の運命に従って散っていく。紫は一族の念を込めた鎖帷子を
着て、一族の色である紫苑色の腰紐を結んだ。衣を羽織る。ひとつひとつに祈りを込めて
しっかりと結んでいった。

それでも、明日という希望を信じて、壬生川の者たちは命の灯を紡いだ。あまりにも
弱い力に嘆き慟哭しながらも、力を欲して地獄をめぐり短命を駆け抜ける。しかし、あと
一歩のところで希望はいつもいつも潰えて、手からこぼれる砂のようにして無情に流れていった。
「わたしたちの想いはどこへ流れるのかしら」
 初代琴音が天界との誓約(ちかい)によりふたたび神の子として現世(うつつよ)に
帰還せしめることをただひとつの望みとして生きて駆け抜けてきた。しかし、今となってはもう
それはどうでもいいようなことに思えてならない。

 紫は神々との交わりから落ち出でた亜種であって遥かに神々の力を凌駕している。敵の
黄川人でさえも――紫は朱点の掛けた短命の呪いを受容して立った。そして、紫はこれからの
一族のことを願ったのだった。
「わたしの代ですべておわらせます。先代のみなみなさま、われらをお守りくださいまし」
 霊前に紫は深々と礼をすると、しっかりとした足取りで当主の部屋を後にした。
46俺の屍を越えてゆけ:03/10/03 19:30 ID:fuPc2OM8
『6』

 野原で姉と弟が遊んでいる。陽は傾きはじめているのを敏感に感じ取る少女。遠くで申の
刻(午後三時ごろ)を告げる鐘の音が聞こえてくる。いつもは御神体として崇められ、
外で遊ぶこともままならない。いつも部屋に閉じ込められて、書物をよむだけだった。
唯一の楽しみは天守閣に登って美都の眺めと風を感じることだった。しかし、この時刻は
とりわけ少女を不安にさせる。

 長い宮廷生活が染み付き、微妙な陽の翳りがわかるようになっていた。まだ明るいのに、
陰になるところにはハッキリと闇が落ちていた。人の心を見ているようで、不安になるのだった。
少年は無邪気に小女たちに相手をされて野原を駆け回っている。そして、暮れ六つが近づいてくる。
冥府への誘いとさえ思う。そして、今日は夕焼けがなにかを少女に訴えかけていた。空から
緋色が落ちて滲み込んで、地は茜色に染まる。
「花を摘んではダメ」 「どうして」 「花だって生きているのよ」
「部屋にだってあるよ」 少年は姉に少しだけ口を尖らせる。

「じゃあ、どうして花を摘もうと思ったの」
 少年の母と思しき、玲瓏な女性が声を掛ける。まさに容貌は天女だった。
「母さまの髪に挿してもらおうと思って」
「これなら、いいでしょう」 天女のような女性は少女を見る。 「はい、母さま」
 少女は納得してはいなかった。花は何の為に咲いているのだろうか。人を愉しませる為に
咲いているわけではない。白い衣の女性が少年の前に跪いて、簪を外して、少年から花を挿して
貰っている。

(どうして、おまえたちは咲いてくれて、わたしたちの心を和ませてくれるの。なぜなの。
あなたたちはどうして生きているの。わたしが、おまえたちを愛でれば答えてくれるのかしら)
少女は心の中で呟いていた。
「さあ、冷えますから中へ戻りましょう」 「はい、母さま」
 少女と少年は声を揃えて答える。白い衣の女性は目を細めて微笑んでいた。少女には
忘れられない時となった。そして、少年には凍える刻として永遠に記憶される。
47名無しさん@ピンキー:03/10/04 13:49 ID:tXCnpaeO
>>41-46
神キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
元ネタ知らんのですが、なんか切ない感じに (つД`)
48北の鷹匠たちの死:03/10/04 14:11 ID:tXCnpaeO
スーザンとボルノフは、海岸を歩いていた。クレトフは、南部の部隊の督励に出てしまい、彼女は少しさびしかった。
それを見たのか、ボルノフがこの散歩に誘ったのだ。
彼らのはるか後方には、彼らが乗ってきたソ連版ジープ、GAZ-67が停めてある。
ボルノフは、車上ではミステリ小説などについて、流暢な英語で彼女との会話を交わしていた。
しかし、海岸に足を踏み入れた瞬間から、彼は全く口を開いていない。
海面にきらきらと日光が反射し、ボルノフの浅黒い顔を仮面のように見せていた。

ボルノフがふと足を止めた。そして、回れ右をすると、車に向かって歩きはじめた。
スーザンは、うっかり何歩か行きすぎて、慌てて引き返した。早足で歩き、どうにかボルノフに追いついた。
そして、歩きながら言った。
「ちょっとは、しゃべったら、どうなんです?」
ボルノフが足を止め、彼女の方を向いた。
その謎めいた黒い瞳には、不可解で名状しがたい表情が浮かんでいた。

耳にこころよい潮騒が、突然遠くなる。
彼女の背筋に寒気が走り、彼女はコートの襟を立て、前をかきあわせた。
背筋の寒気は、冷たい風のせいだ。彼女はそう思おうとした。
荘厳とすら言える沈黙がしばし続き、やがて彼は口を開いた。
「ここは特別なんですよ、ミス・パーカー」
彼は微笑んだ。いつも通りの、魅力的な笑みだった。呪縛がとけた。
しかし、その微笑みには奇妙な影が過ぎり、彼女を落ち着かなくさせた。そこには何かしら不気味なものがあった。
「私は、来たと思えばすぐに行ってしまうんです――――しかし、私はここにしばらくはとどまるでしょう。
 そして、忘れないでしょう。ここは、そして彼らは、特別なんですよ、ね」
彼女には、「彼ら」が誰なのか、はっきりとは分からなかった。しかし聞き返す気には、決してなれなかった。
49北の鷹匠たちの死:03/10/04 14:12 ID:tXCnpaeO
その日、プーカンとコーヒーを飲んでいると、彼女がなにやらビンを持ち出してきた。
「これ、何だと思う?」
彼女はそれを手にとった。
半透明の液体が入っている。傾けると、どろりとしているのが分かった。
「・・・糊?」
プーカンが呆れ顔をした。
「糊をこんなのに入れておくわけ無いでしょうが」
彼女は肩をすくめ、降参のしぐさをした。
「これはね、たぶん麻薬よ。正確には、セックス用のローションに麻薬とその他アヤシいシロモノを混ぜたみたいだから、
 媚薬と言ったほうがいいかもしれないけどね」
「ソ連では、軍医が媚薬を持ち歩いてるわけ?だから熊は困るのよ」
スーザンがからかった。
「アンデネスの薬屋の隠し戸棚に隠してあるのを見つけたのよ。ノルウェーでは麻薬って違法だっけ?」
「もちろん」
「んじゃ、告発できるわね。でも、私たちが集めた証拠って法廷で通用するのかしら?」
考えれば妙な話だ。
たぶんその薬屋は、犯罪の証拠は戦争で消滅してしまったとほくそえんでいただろう。
そのころソ連兵たちがそのビンを眺めて、これはなんだろう、と言い騒いでいたことも知らずに。

ただし、プーカンは、それを発見した軍曹がそれを糊だと思っていたことはスーザンに話さなかった。
そして、彼女が同じ台詞を軍曹に言ったことも。
50北の鷹匠たちの死:03/10/04 14:13 ID:tXCnpaeO
夜になると、寂しさが募った。
これまで毎晩愛を交わしていただけに、日々の生活にぽっかりと穴が開いたような感じであった。
ベットに横たわり、天井をにらむ。
月光が斜めにさしこみ、幻想的な光の道を作っている。

彼女は起き上がり、サイドテーブルの上のピル・ケースと、米空軍謹製の野球帽の向きを直した。
独身女性の宿舎が焼け残ったのは奇跡だったが、おかげで手荷物を持ち出すことができた。
いま硝煙の中にいるか、あるいはもうこの世にいないであろう、友人たちの思い出も。

ガラス戸を開いて南を向いたバルコニイに出る。
心地よく冷たい夜風が頬をなぶり、広がった金髪が月明かりに幻想的に光った。
潤んだ青灰色の瞳が、月光にきらめく。
寝巻き代わりに使っている大きなTシャツがかすかに風にはためき、風を受けて押し付けられた黒いTシャツに
乳首の輪郭がぽつりぽつりと浮き上がる。
彼女は、顔にかかった髪を指で払った。
そして彼女の視界を閉ざす闇を梳かして見るかのように目を細める。
彼女の視線の先には、クレトフがいるはずだった。
冷たい夜気の中ですら、体が火照っているのが感じられた。
51北の鷹匠たちの死:03/10/04 14:14 ID:tXCnpaeO
雲がさっと月を隠した。
部屋の中に闇が入り込み、閉ざす。
彼女はドアを開けたままベットの端に座り、そのまま体を横たえる。
つめた息をほおっと吐くと、かすかに白く立ちのぼる。
シャツの上から乳房を優しく揉みしだきつつ、そっと目を閉じると、まぶたの裏にクレトフの顔が浮かんでくる。
あの車の中での初めての時だ。彼はリクライニングしたシートに横たわり、穏やかな青い目で彼女を見上げていた・・・
その手がシャツの中へと滑り込み、リズミカルに下からすくい上げるように揉みしだく。
痺れるような快感が胸の頂からふもとへ、そして身体の芯へと伝わっていく。
彼がたくみにズボンとパンティを脱がせ、顔が彼女のももの間へと移っていく。
彼女はそれにつれて腿を開き、彼を誘う。

彼女はいつしか、四つん這いになっていた。彼が南部に出発するまえの夜だ。
あの時、彼は夜が更けるまで彼女の体を離さず、彼女も彼を離さなかった。二人はいっしょに、何度も高まりに上り詰めた―――
52北の鷹匠たちの死:03/10/04 14:14 ID:tXCnpaeO
茂みをかきわけ、彼の唇が彼女の秘貝に吸い付いた。
舌が秘裂を割り、すっかりと濡れそぼった果肉から花弁を舐めあげる。
「はあっ・・・」
かたく結んだ唇から、思わず吐息が漏れる。
割れ目に沿って、ぬめぬめとした舌が反復して這い回っている。
熱い蜜がとめどもなくわきあがってくるのを感じる。
気持ちいい。しかし、決定的なそれが、無い。
もどかしさに、思わず両手でシーツを握りしめる。
お願いだから、そこだけじゃなくって、上も、舐めて。
途端に舌先が肉芽を捉え、掘り起こした。
快感の電流が背筋を走る。
すばやく抽送されている。舌が奥へと差し入れられ、秘肉がぐぐっと押し広げられた。
愛液があふれでる、淫靡な水音が、小さな部屋に響き渡る。
舌はそれ自身の意思を持つ軟体生物であるかのように、彼女の中を蹂躙した。
彼女はそれに、情熱的に体をくねらせて応じる。
彼女の体が絶頂の予感に小さく震えたとき、彼の舌が抜かれた。
蜜と唾液の混じりあった液体が糸を引いてシーツの上にこぼれ、寸止めされた秘肉が不満げにひくひくと動く。
53北の鷹匠たちの死:03/10/04 14:15 ID:tXCnpaeO
彼女が不満そうな吐息を漏らしたとき、彼女の入り口に陽物が押し当てられるのを感じた。
予感に体が震える。
「いいか?」
男が聞くと、女は、無言でこくんとうなずく。
その気配が闇に伝わり、男は一気に腰を進めた。
「はぁ・・・んっ!」
ぬるりという感触と共に、男の陽物が女の蜜壷を貫いた。
男は、妻を亡くしてから久しく味わっていなかった女性の味をかみ締めていた。
しばし、そのぬるぬるとからみついてくるひだを味わい、そして男は腰を動かしはじめた。
抜ける寸前まで腰を引き、続いて一気に突き入れる。
蜜壷は大きく押し広げられ、糸を引いてあふれた蜜がシーツに小さくたまっている。
そして、また腰を引く。
力強く引かれ、まるで肉襞ごと引きずり出されるかのような感覚を味わう。
続いて、引き裂くように押し入れられると、信じがたいほどの快感が全身をふるわせる。
54北の鷹匠たちの死:03/10/04 14:16 ID:tXCnpaeO
二人が体を打ち付ける乾いた音と、その結合部から出る淫らな水音とが、奇妙な旋律を成していた。
男はその動作を繰り返し、女も快感を求めて同周期で腰をグラインドさせ、そしてその間隔はどんどん狭まっていく。
それにつれて、二人の荒々しい喘ぎが高まっていく。
男はさらに深く突き入れ、子宮をこすった。
男は女の肩をつかんで引き寄せ、女の体が限界まで反り返った。
女は唇をかんで、声を抑えようとするが、喘ぎ声が漏れるのを止められない。
彼女は、体の中で男のものがかすかに震えるのを感じた。
続いて男は深く引き、根元まで急激に突きこんだ。
彼女は一気に追い上げられ、達した。
膣が、精液をしぼりとるかのようにきゅっと締め上げ、男もうめいて白濁液を女の中に放った。
彼女は、その熱さを薄いゴムの膜を通して感じていた。
55北の鷹匠たちの死:03/10/04 14:18 ID:tXCnpaeO
女は荒い息を付き、朦朧としてベットに横たわっていた。
寒さにもかかわらず、彼女の体には汗が玉になって浮いていた。
男は浴室でタオルを湯に濡らし、後始末をすると彼女の体に毛布をかけて立ち上がり、ドアを出た。
そして垂らされていたロープをつかみ、上階に消えた。
熟練したリペリング技術の持ち主らしく、その間、かさとも音を立てなかった。
一瞬の月光に照らし出されたその左眼には眼帯があったが、彼女はそれを見たかどうか分からないうちに深い眠りに
落ちていた。

翌日の朝食後に司令部メンバーと顔を合わせ、スーザンは最初の印象が部分的には正しかったと思った。
猫科の動物の、密かな情事―――そしてライオンは猫科だ。
そしてまた、猫は獰猛なハンターでもある。
獰猛なハンター―――まさに空挺隊員のイメージにぴったりだ。
猫と、鷹匠との情事。
彼女は、そのイメージにかすかなおかしみを感じた。

しかし、これだけは言える。アスランは、だれとも寝ないだろう。
56俺の屍を越えてゆけ:03/10/06 00:22 ID:wIV8Qkzv
『7』

 その昔、ひとりの天女が男に恋をして男女(おめ)の契りを……交わした。
「わたしはあなたに恋をしました」
 女は天上人。
「唐突なのですね、あなたは。そして、わたくしの自尊心を巧妙にくすぐる」
 そして男は現世人。
「そのようなこと、申されないでくださいまし。わたくしの気を感じてください。これは真です」
「わかっているつもりです」
「にくい」
「にくいですか」
「にくいほど、このお業はあなたさまを愛しております」
 男は女の蒼白の乳房に触れる。晴れた或る日、湖水で水浴をしていた男を天女が
見初めたのだった。それが連綿と続く混沌の発端。


男が全裸で水から上がって来るのを、木陰からじっと見ていた。
「あなたは、誰なのですか」
 裸を熱い視線で見ている女に、男はゆっくりと近づいて声を掛ける。天女の薄い
金色の羽衣を肩に、鳥羽のような衣を身に纏っていた。肩があらわになっていて
鎖骨の窪みがはっきりと見て取れる。男は天女など見たことはなかったが、この湖に
浮ぶ相翼院の天井に描かれた天女の姿は子供の時からずっと飽きることなく眺めていた。
恋し焦がれていたのだった。

 その院を眺めながら裸で冷たい湖水を泳ぐことは男にとって恋人に抱かれる……羊水の
中にいた記憶を甦らせるほどのとてつもなく心地いいことだった。
 男は女を見たとき、雷に打たれたような運命のようなものを感じていた。その痛みも
遠き未来の事象として脳に送りこまれていく。
「わたしは天上人。片羽ノお業」
 おんなはそう名乗った。
57俺の屍を越えてゆけ:03/10/06 00:31 ID:wIV8Qkzv
『8』

「お業」
「わたしを名付けていただけるのですか」
「なにか、ずっとあなたの瞳に守られていたような気がいたします」
 やさしい切れ長の涼しい瞳が更に細くなって、薄い唇が綻んで、真横に伸びた。
「あなたは、わたくしの美しさに気をされないのですね」
男はなんという高慢なおんななのだろうとは思わなかった。確かにおんなは自分を天女
だといった。その美貌に、湖上の相翼院の天女が飛び出してきたようにも思う。
「はい。わたしは母上の姿に見慣れていますから」
 お業は橙黄色の瞳が翳りを見せる。

「なぜ、そのような哀しい瞳をするのですか」
 男が俯いた女の頤(おとがい)を手に取り貌を上げさせる。
「だ、だって……あなた……あなたさまが……」
「わたしが母上と申したのは、相翼院の天女のことですよ。でも、いまは愛しい女子です」
 お業の瞳に雫が浮ぶ。
「ええ、わたしもあなたをずっと見て、恋し恋焦がれていました。うれしい」しかし、ふたりは
果たして、そのこと…… 『遠き未来』 を予想したのだろうか。男は女をただ人として愛し、
女も純粋に愛に准じ、男と女は睦み奪い奪われて時を重ねた。


 いつしか、お業に命が宿りその波動は天界を統べる太照天・夕子の知るところとなる。
天界には現世とを隔てる掟があった。神たるものは、いかなることがあろうとも、現世に
干渉してはならぬという不文律が。だが中にはそれを破った者もいた。

 これよりさかのぼることの出来事。地上の寒さや飢えに見かねた風神・雷神のふたりの
神は人に知恵を授けた。人は火を起こして立ち、獣を狩って肉を焼き、喰らった。
 それは神の善意から端を発したことではあったが、灯はいつしか炎に変り、ついには
争いごとが生まれ各地に飛び火する。
 神々の間では、それ見たことかと、人に知恵を授けた兄弟を罵倒して幽閉した。
58俺の屍を越えてゆけ:03/10/06 00:37 ID:wIV8Qkzv
『9』

 ふたりは自分たちを閉じ込めようとする者たちにはあえて逆らおうとはしなかった。
「人は内なる変化から立つほど、いまだ成長はおりません。現世の惨状をごらんなさい。
内なる変化を呼び起こせないものに、外的要因での変化は手にあまることなのですよ」
 ふたりの厳めしい貌が更に険しくなった。
「だ、だがよう」
(俺っちがしたことは罪悪なのか、夕子さんよ)
「よさねぇか」
「しかし、このままいわせといて……」
 雷神が面を上げてしまい、お風と夕子の貌を見てしまう。

「太照天さまの御前、無礼なるぞ!」
 傍に控えていた常夜見(とこよみ)・お風が凛とした声で雷電・五郎を咎める。彼は一瞬
固まっていた。お風とは夕子の側近でその美貌の白さと同等の羽二重のような単衣に
朱の切り袴を着用していた。そして、その濡れるような黒髪を後ろに結いて腰まで垂らしている。
その唇はつつじのように淡い朱色をし、瞳は淡紫色を呈していた。その美貌と瞳に
睨まれたのであれば、男といえどたまったものではない。

「もう、それまでに」 夕子が口を挟む。
「なりませぬ」
 雷神は声を掛けた夕子のほうをチラッと盗み見をした。艶やかな目の冴える紫青色の衣と黄金の
日輪の冠した夕子の美貌に気が竦んだ。
「ひびっちまったか」
「あ、兄じゃぁ……」

 表情ひとつ変えない美貌に気おされ、その真直ぐに射抜くような眼光に更に驚いていた。否、
その奥に潜む夕子の感情に気がついたからだった。
「頭を下げいッ!」
「わ、わるかった。あやまる」 
 雷神は太照天・夕子に深々と傅いた。
59俺の屍を越えてゆけ:03/10/06 00:47 ID:wIV8Qkzv
『10』

「その物言い赦すまじ!」 「夕子さんもいってることだしよう」 「だまらっしゃいッ!」
「お風、もうよい」
「しかし、太照天さま」
 夕子は立ち上がって、雷神・風神のもとに近づいて傅いた。周りの者たちはざわめき立つが、
夕子は一向に気になどしない風情だった。もとより表情を読み取ることの出来ない美貌なれど。

「われらにも時の流れが必用なのです。待つ時なのです。いまは、耐えてください」
 そう囁き、太照天・夕子は心を痛めたが、禁を破りし者すべからく罪償うべしと幽閉の下知を発し、
そのニ神を塔、九重桜へと閉じこめる。ふたりは次なる変化に備えよという言葉として解した。
 だが、人は火矢で家々を焼き払い、筒を作るまでになっていた。ふたりは夕子の言葉通り、
それが次なる変化への遠因になったのではないかと悔いることとなる。

 夕子と風神・雷神の間に交わされた心情は関係なかった。神が人に知恵を授けたことのみが
いつしかひとり歩きし、天界は二分される。表立った動きはなかったが、かびが菌糸を
根付かせるかの如くに深く深く張り巡らせ浸透していった。
 神と人の間に生まれた姉弟の波動は日に日に成長し存在は脅威となり、多くの神々の
知る所となる。永劫の生を得た神々の感情は地上へと及んだ。ただ待つことに疲れた神々は
自分らの意を汲んだ血筋のもので人間を統べようとしたのだった。

「われらとの縁を強固なものとしたくば、われらと人の仔を絆とし崇め奉るのだ」
 太照天・夕子の声は等しく地上の人々に届いて、人々に王国の建設に立つことを求めた。
天界からの庇護は弱き人々にとって甘き囁きとなる。神と人の間に生まれた仔を奉り、王国の
建設に当然のように人々は邁進した。しかし、あまりにも近しい関係は危険をも孕んでいた。
 そもそも、夕子は王国の建設や神と人の間に生まれた仔を帝として奉ることには反対だった。
「そっとしておくことが、最良とわかりませんか」
「夕子さまもあの仔らの波動の強さ、成長は感じておられるのでしょう。なれば、人ともども
正しく導くことが天上の務めではないでしょうか」
60俺の屍を越えてゆけ:03/10/06 00:56 ID:wIV8Qkzv
『11』

「それは道理と思いますが……」
「不安にござりますか」
「さよう。ことは慎重に運ばねばなりません。それは十分に心得ておいてください」
「はっ、心に刻みます」
「お風、ほんとうに、これは大事なのですよ」
 しかし天界はこの件で完全に真っ二つに割れていた。あくまで掟を遵守せよという一派と、
ことが進んだ以上、人の針を進めようと考えた神々の対立だった。しかし、数々の
思惑が入り乱れたことにより、そう単純ではなかった。そんな中でことは起きた。

 王国が建設されておもしろくない、帝をそそのかして、人との係わりを断とうとする神の
一派が反旗を翻したのだった。帝は神に見捨てられるとも知らずに、ただ復讐の念だけに
神威を揮い討伐の勅命を下す。まだ稚い力しか宿していない神の亜種、いまのうちに
始末する必要があった。
 時の剣豪、大江ノ捨丸を隊長とした討伐隊が編成され、帝をそそのかした神々ともども
王国に忍び寄る。

 酉の刻が迫り天上の燃える緋色は翳り血の色を呈し始めた刹那。天空より無数の矢が
降り注いだ。
「あぁああああああッ!」
 少女は天空を仰ぎ、天界を呪うような咆哮をあげる。その無数の矢は一瞬のうちに光に
包まれて霧散していく。
「母さまあぁあああッ!」 少女は振り向いて母に声を掛ける。

 女は少年をかばって、ひしっと抱き締めている。少女は安心して術を解いた一瞬の隙を突き、
風を切って黒い陰が走った。少女の腰から胸、そして首に掛けて灼けるような感覚が
駆け抜ける。斬るというより、骨を叩くというような斬り方だった。少女の絶叫に少年を庇っていた
女は面を上げて、その貌を鬼に変えてしまう。
「母さま、母さま!」
 少年は母にあのやさしいお顔に戻ってと白い袖をしっかりと掴んでいた。
61俺の屍を越えてゆけ:03/10/06 01:35 ID:wIV8Qkzv
『12』

「安心してなさい。だいじょうぶだから」 女の声の怒りは隠せず、声が震える。
「ひっ」
 少年は母の変貌した姿に瞳に恐怖の色を浮べる。少女の躰は刀で斬り捨てられ宙を舞い、
どさっと地に落ちた。時折、躰を痙攣させては動いていたが、対抗する力はもはやなかった。
「母さま……逃げて……はやく、にげて……」

 草原からは男たちが亡者のように次々と立ち上がる。それは、帝をそそのかした神々が
憑依した武者たちだった。
『捨丸』
「なんだ」
『お業は天界の掟を破り、人と契りを交わした罪人。焼くなり煮るなり好きにしろ』
「ふんっ、いわれるまでもないわ」
 捨丸は憑依した神と交信しながらも地を蹴って、間合いを詰めていく。付き人の
小女たちは次々に刀の露となっていった。盾としてはあまりにも非力だった。多くの
武者たちに囲まれている以上、時間稼ぎにもならない。

 時置かずして、城のほうでは火の手がおこる。その方角からは風に乗って吶喊の声が
聞こえてきた。息子がしがみ付いて、怯えた貌を見下ろした時、お業は一瞬諦めかけた。
 自分の鬼の貌に恐怖の色を湛えた瞳に我に返っていた。大罪を犯したのは事実なのだ。
しかし、しかし……と、お業は血の涙を流して武者たちにけものの爪を振るっていた。
『捨丸、仔を斬れ。ぬしならできるだろう』
「いわれずとも」

 お業といえど、神に憑依された武者を仔を抱きながら片手で相手をするのに限界があった。
それは、認めざるを得ない。だが……だが。
「認めない!認めない!わたしはこんなことは、絶対に認めません!」
 捨丸の刀がお業の抱えた息子の頬を掠める。剣威がかまいたちを呼んだのか、すぱっと切れる。
62俺の屍を越えてゆけ:03/10/06 01:39 ID:wIV8Qkzv
『13』

 お業の気が遠のく。血は出てはいなかったが、ふたりが殺されるのは時間の問題だった。
姉の方は血の海に顔を伏して既に動かなくなっている。
 お業は息子を両手で高く掲げ叫んだ。それは、普段の声からは想像もできないほどの
怒りと哀しみが入り混じった咆哮だった。

 神々は一応に踏み込むのを躊躇った。お業が息子を贄として我が子を喰らい、力を
吸収することを心底恐れたからだ。だが、捨丸だけが突き進み掲げた息子に斬りかかる。
刀はお業ともども斬り捨てたと思った。しかし、温かな光があたりを包み、掲げられた息子は
消えていた。お業は力を使いきってその場に倒れた。捨丸は倒れたお業の首に手を当て
生死を確かめる。

「死んだか?」
 捨丸は消えた仔の生死を問うていた。その間にも、先に斬り捨てた娘の生死も確かめ、
今一度刀を稚子の躰に突き立てた。ざくっと土を抉る手ごたえがある。
『やつはまだ生きておるぞ、捨丸』
「難儀よのぉ……。消えた仔をはやくさがせッ!由々しきことぞ!」
 捨丸はそう叫ぶと、倒れたお業の襟首を掴んでぐらつく美貌を引き寄せて叩く。黒い
幽鬼たちは捨丸の号令にすぐさま城に向って散っていった。あとに残ったのは陽の落ちた
草原に血の海に倒れるお業の娘と、主の盾となって斬り殺された小女たちの転がる骸のみ。

「ん、んんっ……」
 瞼がぴくぴくと痙攣して長い睫毛がふるふると蠢く。眉根を寄せて縦皺をつくり、
柳眉を吊り上げる天女・お業。口が切れて、一條の血が白い頤を濡らしていた。捨丸は貌を
近づけて、流れたお業の血を舐めて、乙女のくちびるを舌でなぞった。
『もう、よい。そいつを担ぎ、皆と合流せよ』
「愉しむ暇もなしか」
『やつを殺めてから存分にお業を嬲るがよい』
「愉快だ、神が同胞を貶めるか」
63俺の屍を越えてゆけ:03/10/06 02:10 ID:wIV8Qkzv
>>47
読んでくれて、ありがとうございます。
タイトルと同じ、「俺の屍を越えてゆけ」というプレステのゲームです。
ゲームの世代交代システムもさることながら、
主題歌の『花』がこのゲームのテーマを的確に語っていて
すごく泣けます。ベスト版が出ていますよ。
64俺の屍を越えてゆけ:03/10/06 12:03 ID:wIV8Qkzv
『14』

 捨丸がお業の躰を肩に担ぎに掛かり、そのまま走っていった。討伐隊が去った後で、
小さな淡い光が雪のようにすっかりと闇となった天上から此処に降り注ぐ。娘と
小女たちをやさしく包んでゆく。そして跡形もなく骸が――消えた。

「んっ」
「んん」
 お風の貌が夕子の上でくなくなとゆすられて、くちびるを貪っていた。貪るといっても、
お風は夕子をいたわるように愛していた。お風の熱い吐息がこぼれ、夕子のくちびるが
受けとる。吐息より生まれた細い銀糸が夕子の尖ったほっそりとした頤を濡らした。
「夕子さま、おきれい」
 お風にしかみせない貌が夕子にはあった。太照天の冷たい美貌ではない、ただの
おんなの素顔をこのお風にだけ夕子は見せる。お風は紅を刷いたくちびるが薄く開かれ、
月の雫がこぼれるのを歓喜の中で見つめる。

「はぁ、はあ、ああっ」
 お風が夕子の頬をやさしく慰めるように撫ぜ、耳朶に触れる。
「んあっ」
 夕子は貌を少しだけ振って仰け反った。仰け反って晒した首には二本の筋、胸鎖筋が
はっきりと浮き上がった。鎖骨の窪みも深く。お風は夕子をいたわる気持ちを押し退けて、
貪婪に夕子とおんなになりたいと思っていた。

「夕子さまの声も澄んでいて、うらやましい」
 かろうじて、想いをとどまる。常夜見・お風はせつなくなった。堰を切るのも……。
「お風、いまのわたくしは……穢れて……いるううっ!」
 ふたりの女は衣を脱ぎ捨て、その美しい裸身を絡め合っていた。月と陽が切っても
切れない仲のように、お風と夕子は睦み合う。お風の蒼白の乳房が喘ぐ仄かに朱を散らして、
夕子の豊満な乳房の上でひしゃげて擦れる。
65俺の屍を越えてゆけ:03/10/06 12:10 ID:wIV8Qkzv
『15』

 お風の気持ちは弾けそうなまでに狂おしくなって、ふたつに割れた蒼月が夕子の拡げ
られた両太腿のあわいに押し付けるように擦られて、くいっくいっと動いた。
「んんっ!」
夕子が仰向けに寝て、お風が上に重なって責め立てる。人払いのされた天上の寝殿で、
濡れた熱い吐息と、躊躇いの吐息が縺れる。

「もっと、夕子さまのお声を聞かせくださいまし!」
 夕子の紫青色の髪が散り、そこにお風の緑の髪が妖しく解け合って。
「わ、わすれてしまいそうで、恐ろしいのです」
「なれば、今宵はわたくしが忘れさせてはあげません。いっしょに」 
(この哀しみを癒してさしあげてあげます)
「わたしは、わたしは……くうっ……はっ、は、はあ、はあぁああ……に、にくい」
「わたしはなにも知りませんよ。夕子さまのお仔が、わたしには憎うござります」
「お風……」 「なんですか」
「な、なんでも……お見通し……迷惑を掛けます、お風」 「迷惑だなんて……」 「務めですか」

「お慕いしているとわかっているくせに、夕子さまはずるうござります」
 夕子はお風に微笑むが、今度ばかりは、お風の臀部は烈しくゆれた。自分だけの
快美の求めが、夕子の悦楽に蕩け合う歓喜の刻。爛れた女陰(ほと)が蠢いて、
互いを喰らおうとする湿り気を帯びた旋律を奏で、「ああっ……あっ……夕子さま…
…夕子……」お風が昂ぶった。

「あぁあああッ……わ、わたくしは狡猾なおなご……赦して……お風うぅううっ!」
「はっ、はあぁああ……ほ、ほんに……きょうはあぁああっ……わ、わすれさせ……」
「て、手加減をっ……。お風、風ううっ、ああ……っ」
「なっ、なりません!夕子!夕子!お覚悟していただきます!」
 夕子の細い指が、躰の上で蠢くお風を撫で廻す。
「お風!風!ふう!もっと、もっと!わたくしを……わたしを感じてえぇえええッ!」
66俺の屍を越えてゆけ:03/10/06 18:47 ID:wIV8Qkzv
『16』

 お風が夕子の躰を抱き起し始めた。夕子は躰を水から引き揚げられるように裸身を
しならせる。喘ぐ乳房の下に肋骨が薄っすらと浮き出た。夕子はぐらつくのをなんとか
しようと右腕ではお風の首に絡めながら、左手で正体の消えてなくなりそうな躰を支えた。
 もとは人間。ただ永劫の命を授かっただけだ。ふたつの種が永遠と限り或る命を選択して
袂を分かった。永劫が力を蓄える術となった。祖は同一なのだ。

 夕子は左手で躰を支えながら腰を振り続けた。
「ふっ、ふ、ふうぅ、おおっ……んんっ」
 切れ切れに夕子が名を呼ぶと、その狂おしい求めに応じて躰を抱き起こし、鼓動を互いが
感じることのできる対面座位をとる。
「んん、んぐっ、んはあ……はあっ、はあ……んんっ、んぐっ」
 熱い吐息、そして口吻。お互いが唇を開いて貌を横に縦にして重ねる。そのやわらかい
ぷりっとした感触に女陰が熱くなった。 

「はっ……はあっ……」 短く息を吸うおんなふたり――見詰め合いながら、くちびるが
そっと離れる時がせつない。たまらないと、お風が夕子に寄せた貌を左右に軽く振って
くちびるを擦った。夕子は終わるのを待ってから舌を差し出して、お風の上唇を捲る
ようにして舐め廻す。ふたりの両手は互いの吸い付くような白い柔肌を撫で擦る。
やさしく、そして儚げに……現世の哀しみを想いながら。

 腰骨から脾腹へ手を押し上げて、また下りていく。下りたかと思えば、すうっと
上がってきて、背に手は廻される。お風は夕子の肩甲骨を撫で廻し、夕子の手が
先に下りて、お風の双臀の尻肉を鷲掴む。
「んあぁあああッ!はっ、はっ」
 鷲掴まれ、手を交互に廻される。お風は仰け反って夕子のくちびるをほといた。
夕子から貰うはずだった、唾液がとろりと溢れ、頤から突っ張った首に滴る。夕子は
お風の頭を抱いてやり、浮き出たお風の胸鎖乳突筋に赫い唇が這う。そして吸った。
お風の唇は快美に顫える。
67俺の屍を越えてゆけ:03/10/06 21:55 ID:wIV8Qkzv
『17』

「あっ、あ、あ、ゆっ、夕子おぉおおッ!」
 お風の喚きに夕子の唇が這い上がって、顫えるお風の頤をくちびるに含む。
「はっ、はあ、は、はあ……」
 お風のくちびるはだらしなく開いて唾液を垂らした。攻守が変りそうなのを悟ったものの、
まだ責めたりないお風は痙攣を堪えて腰を振る。責めだったお風が、逆に夕子に責められ
始めた。夕子は右脚を取るとお風の乳房へとぐいっと近づける。自然とお風の頤からは
夕子のしゃぶっていた唇が離れていった。

「んっは、はあ、はあ……」
 夕子も荒い息遣いをしていたが、そのままお風を責め続けた。自分の左脚をお風の
右外へと跳ねると、お風は尻を揺するのをやめて、後ろ手を付いて貌を仰け反らせ柳眉を
吊り上げさせながら、ゆっくりと右腕を折って夕子に身を任せるように横になってゆく。
「夕子……夕子さま……」
 お風の左手が空を掻いた。右手は衝きあげられるのを堪える為に肘を立てて逆手に
朱の敷物を握る。夕子は立てた上体を逸らして、女陰を捻じ込むように擦り付ける。

「夕子さま……ゆうこ……ゆう……」
お風の求めた夕子の手は左の内腿に触れられていて届かない。お風はしかたなく、
手を水平に伸ばして朱の敷物を掻き集めるようにして握り締める。暫らくその体位で
責められていたが、上体を逸らし仰け反りながら蒼白の乳房を喘がせている
太照天・夕子の姿態を拝むことはできない。お風は衝き上げに狂ったように貌を左右に
振って、結った黒髪を朱に散らし啜り歔くばかり。これが神格の違いと諦めるしかないのだろう。

お風は待つおんなになった。その気持ちにお風が入ったのを見て取り、夕子は背を
付けたお風の右脚を肩に担ぎ躰を圧し掛からせて腰を突き女陰を擦り付ける。お風は
もう一度空を掻いた。今度は虚しく掻くことなく、夕子の細いしなやかな指が絡まって来た。
(夕子さま……あ、主さま……わたしは決してあなたの元を離れませぬ)
 夕子はそう誓約(ちかい)って、遠くで主さまの咆哮を聞きながら真っ白になっていく。
被さる夕子の重みが、遠のく意識の中でお風の悦楽となった。
68俺の屍を越えてゆけ:03/10/07 12:28 ID:kTz08tgk
『18』

「だいじょうぶ、お風」
 お風が瞼を開くと、そこには夕子の哀しんでいる貌があった。
「申し訳ございません」
 自分だけが快美感に漂っていたのかと思うと、羞恥に灼かれそうなお風だった。
「ちがう……ちがうのよ」
「このお風が夕子さまの盾になります」
「ありがとう。でも、この哀しみは癒えませんね」
「わたしたちは時の流れのままに。夕子さま、そうでござりましょう?」
 結果的に夕子はお風に慰めてもらったことになってしまった。だが、永劫の生の中で、
やわらぎこそすれ、それさえ怪しいが・・・この痛みは消えることはないだろう。

 せめて夕子のできることは、あの娘が成人して……。お風は夕子の気持ちを察して、淡い
朱の唇をゆっくりと開いて舌を差し出した。夕子の目にお風の花が開いていく。やさしい
眺めと微かな湿り気の音が耳に届いた。夕子の赫い唇も開いて舌を差し出すと、
お風の舌先にそっと触れていった。
(わたしは地上に蒔いた種を刈ってしまった……それは逃れることのできない罪)


「ええいっ、なにをしている!きゃつめは探しおおせたのかあッ!」
 城内に入るなり大江ノ捨丸の怒号が飛んだ。
「ん、んんっ」
「目を醒ましやがったか」
 肩に担いだお業を乱暴に床に放り投げる。肩を石床に打ちつけてお業は小さく呻いた。
「寝たふりはよせ。おい、起きろ!聞きたいことがある!」
 お業の白い薄衣の胸倉を掴んで引き付けると、数回頬を叩いた。お業は目を見開いて
捨丸の醜悪な貌をキッと睨んだ。捨丸の剣威でお業の薄衣は無残に裂け、白い乳房が
露わになっていた。
69俺の屍を越えてゆけ:03/10/07 12:33 ID:kTz08tgk
『19』

「神格とはこうも違うのか。手ごたえありと見たがな」
 お業の肌には付けたはずの刀傷がきれいさっぱりなくなっていた。ただ、白い乳房に
噴き出た赫い血糊だけが附着して白に滲み込んでいる。
「綺麗だ。この血」
 捨丸は左手でお業の躰を引き付けたまま、乳房を鷲掴む。
「ううっ」
 お業は綺麗に結っていた髪をざんばらに床へと散らし、捨丸に白い喉を晒していた。
仔を遥か彼方へ跳ばしたことで、すべての力を使い果たしていた。

「いい貌してるぜ。声音も俺好みだ」
「ああっ」
 髪を掴んでお業の貌にばら撒いた。深い緑の髪にお業自身の赫い血糊が附着した。
捨丸はその表情を愉しんでから、乳房を乱暴に揉みしだいた右手を、お業の右肩に移し、
貌を血の付いた乳房に近づけ、お業の匂いを肺いっぱいに送り込みながら、蛇のような
舌で舐め取っていく。

 捨丸はお業の血をわざと貌に擦り付けようともした。お業は薄目でその様子を見て、
ありありと嫌悪の貌をつくった。
 すると肩を鷲掴みしていた手を離し、お業の嫌悪に歪んだ貌、頤を掴んで貌をひしゃげさせて
面と向かい合わせようとする。お業の嫌悪のおんな貌がただの醜い貌になる。
「や、やめてください……」
 握力でお業のくちびるが尖る。

「美醜とはいったもんだ。棒を咥えこませりゃ、こうなるのか」
「ひいっ」
 お業は貌を逸らす抗いすら赦されず、小さく悲鳴を上げてしまっていた。これは禁を犯した
罰なのだと一度は思いもしたが、夫の生死、娘を救えなかったこと、そして夫に捧げた
躰を意趣返しに穢されようとしていることに、ただの恐怖に怯える女になっていた。
70俺の屍を越えてゆけ:03/10/07 13:09 ID:kTz08tgk
>>11
横は入りしてしまって、申し訳ありません。
ご容赦ください。
7148:03/10/07 18:02 ID:9cQQlZJH
>>70
いえいえ、むしろ横入り歓迎といったほうが正確なくらいでして。
なにしろ、私のは下手糞なくせに文だけは長いという惨状で、実はまだ半分も終わっていないかもしれないのです。
ですから、遠慮などなさらずにどんどん割り込んでしまってください。
私としても、>>41さんのように上手な方に割り込んでいただけるなら本望というものです。
72俺の屍を越えてゆけ:03/10/08 01:22 ID:voGCO1Ko
『20』

唯一の救いは息子の命を母としてまもれたことだったが、愛しい仔に想いが及んで、
そう思えば思うほど自分が異形の者になることを抑えられなくなるのだった。ドクン!
ドクン!と血が逆流し始めた。仔はもういない……なれば……しかし、夫は……夫は?
『捨丸、それぐらいにしておけ』
「しょうがねえ」 
「あのひとは……」
お業は自ら捨丸の瞳の色を窺っていた。 
「あのひとだぁ?もう殺っちまったろうよ。ただの人間だ。たやすいもんよ」
 捨丸のハッタリだった。安否のことなど関知しない。おんなの狂う貌を見てみたいと思っただけ。
 
「たっ、たやすい……だと」 
 お業は怒りに震え始め、捨丸はお業の変化に気づいた。すぐさま襟首を掴んだ手を離し、
お業は石床に頭を強く打ったが、躰を逸らし始め乳房をせり上がらせる。
『変化するぞ、捨丸』
 ザッ!と床を掃いて片羽六尺の翼が両いっぺんに拡がった。
『業の涙の翼を斬れ!』 「涙だ?」 『ホクロだ!泣き黒子を見ろ!』
 両手は床に水平に踏ん張るようにして、鳥獣の足のように変り始める。
「こいつにゃ、もう余力が無いんだろ?」
『うつけが!鳳凰にでも変化されれば、命の保証はないぞ!』

「つくづく、うっとうしい奴だ!で、涙の翼だと?風流なことぬかしやがって!」
『さっさとやれッ!』 「歔き黒子か。てめえらの命も危ういのかよ!」
 大江ノ捨丸は反り返るお業の腹に右足で踏みつけ、白い衣を裂き始めた。反り返った
躰をおもいっきり踏みつけられたお業は悶えながら白目を剥いて頭を仰け反らせる。
瞳の色が戻って、橙黄色から金色に変り始める。美貌に名残りはあったが、お業は
もはや人ではなかった。腹部を捨丸に踏みつけられたまま裸に剥かれ、手脚を地に
押し付けられて暴れる土蜘蛛のようにばたつかせている。
73俺の屍を越えてゆけ:03/10/08 01:38 ID:voGCO1Ko
『21』

『何をしている!やらぬか!』
「せっかくの上玉だ。愉しませてくれや」
『そんな余裕なぞ無いわ!』
「うるさいッ!てめえらが仕掛けたことだ!こいつに、おまえの神威とやらを見せ付けてみろッ!」
 捨丸はお業の左の羽に手を掛けると、手袋が一瞬のうちに焼け焦げる。そして肉の焼ける
臭いがしだす。
「この阿魔!とんだ、喰わせもんだぜ」
 喉を晒していたお業は頭を起こして、牙を剥き始める。

「シャアアアアアッ!がはっ!ギャッ!キシャアアアアアアアア――ッ!」
 バリバリと戸板を剥がすような音と血がしぶいた。しかも、その噴き出た血が炎で瞬時に
蒸発して特有の焦げ臭さを漂わせた。捨丸はその光景に恍惚とした表情を覗かせはしたが、
気を抜くまいとして、お業の裸身を蹴飛ばして左の羽を根本から毟り取ってしまう。
 神々が憑依した討伐隊の武者たちが凌辱されるお業を取り囲んではいたが、その捨丸の
所業に目を逸らしていたが、それも最初のうちだけだった。お業は左の翼を毟り取られて変化を
解かれてしまう。蒼白の背に左の肩甲骨の裂け目から血がしぶいてからは、ドクドクと流れて
お業の柔肌を血で濡らし床に流れて、武者姿の神々の足元までも辿り着いた。

 皆はその血の中に自分の貌を見ていた。胸が息苦しくなって、鼓動が速まる。お業の
躰はうつ伏せになっていて、上で結っていたはずの綺麗な髪形は襲撃の際に既に散らされていて、
今は血の海の中に緑の髪は藻のようにたゆたい血を吸っていた。左の翼を捨丸に
引き千切られたことで、右の翼も永遠に失われたのだった。
「おんな!こっちを向けッ!」
「かはっ、はっ、はあ……ゆ、ゆるして……」
 お業は肘を付きながら血を吐いて首を折り、うなじを晒しながら上体を起こそうとするが、自らの
流した血で滑って、乳房を血の中に押し潰した。
74俺の屍を越えてゆけ:03/10/08 01:43 ID:voGCO1Ko
>>71
ほんとにすみません。
溜めてよりも、細切れで投下のほうがしやすかったりもして
恐縮しています。
ですから、おなじように気にしないで投下してください。
75俺の屍を越えてゆけ:03/10/08 03:06 ID:voGCO1Ko
>>73
訂正 2段5行目 取り囲んではいたが――取り囲んで
76俺の屍を越えてゆけ:03/10/08 12:58 ID:voGCO1Ko
『22』

 捨丸はお業の脇から覗く、ひしゃげた豊乳に魅せられ涎を垂らし、焼けた手の甲で口を
拭う。
「はやく、髪のそそけた面をさらさねえかあッ!」
 捨丸は血を吸った髪を掴んで赫く濡れた貌を上げ、お業はもう一度、左腕を折って―
―右腕は力なく伸ばしたままで、のっそりと上体を床から剥して仰向けとなった。
背が血溜まりの床に打ち付けられベシャッ!と肉を打つ湿った音を立てる。
「ぐあっ、うっ、ううっ……こ、これで……満足……」
 胸を突っ張らせふたたび背を上げて苦悶し、石床に力尽きて落ちた。

「ぬかせいッ!仔をどこに隠しやがった!」
「そ、そんなこと……言うもんか……いわない」
 痛みに眉間に縦皺を寄せてはいたが、薄目を開いたお業が捨丸には
笑ったような気がしてならなかった。捨丸はお業の髪を鷲掴んだまま、
血の海から引き摺った。血の軌跡の無残絵が石床に描かれる。

「ううっ、ああ……はっ……はぁ……」
 お業の手が肘を立て捨丸の髪を掴む手に絡んだが、躰を捩って抗うとはしない。
小さく呻いていても、尚も呼吸を整えようとする気丈さが捨丸には気に入らない。
『なにをするんだ?』
「なんだ、こいつを今更憐れむのか?殺しやしねぇよ、安心しな」
 捨丸は憑依した神にそう言って、お業の血に濡れた裸身を壁のほうに放り投げた。

 転がされ壁に躰を打ち付けられ小さく呻き、それでも討伐隊にこれ以上裸身を晒すまじと
背を向けて脚を揃え乳房へと持っていこうとした。背は丸くなって骨を浮き上がらせた。
「うっ、うあぁあああッ!」
 しかし、翼を引き千切られた傷口が開いてしまい、また背を血で濡らす。
「こいつの情人を連れて来い。そっちに聞いてやる」
 捨丸は討伐隊のひとりに耳打ちしてから、胎児のようになったお業の裸体の背に唾棄する。
77俺の屍を越えてゆけ:03/10/08 13:03 ID:voGCO1Ko
『23』

 確かに、捨丸にとってお業の態度は癪だったが無上の歓びだった。捨丸に耳打ちされた
男が鎧の紐をほといて床にガシャガシャと耳障りな音を立てて落としていった。
「そいつは付けておけ」
 鎖帷子を縛る紐に手を掛けた男の動きを制する。
『なにをする気だ。もう引け。火に巻かれるぞ』
「おまえらの力で消せよ」
『滅びの炎は消せぬ』

「滅びか。地獄絵を極めさせてもらうとするか」
 男ふたりがお業の丸くなった躰に近づいて屈むと、二の腕を掴んで引き起こして壁に
押し付ける。ちょうど壁に磔になったような体位を取らされ、三人目の男が裾を割り開いて、
お業の豊臀に腰を付けて揺すり始めた。男は腰骨を掴み引き付けて男根を扱き立てる。
「ううっ、うああっ!」
「しっかりと抑えておけよ」
 お業が暴れないように拘束せよということと、交媾まで精を吐き出すなという含みを
持たせていた。お業は抑えられている手を蠢かして爪を立て、壁を掻き毟っていた。
  
 男の陽根がお業の赧く染まった蒼月の柔肌に扱かれて膨らみ始めた頃、両脇を
抱えられた、お業の想い人が連れ込まれた。首を折って頭を垂れてはいたが、男は
確かに生きていた。黒い布で目隠しをされ、口には布が押し込められている。
 お業の臀部で腰を振っていた男が腰を引く。
「犯れ!」

 捨丸の声に頷いて、お業の拡げられた脚を、足の甲で跳ねる。右手で交媾できるまでに
膨らんだ肉塊を握って、左の尻朶を割り開き錆朱に濡れ光る瘤を、拒むつぶらな孔に宛がう。
「んっ、ん、ん……!」
 蜜も出ていない中に一方的に挿ってくる肉棒にお業は堪える。痛みと、やがて来るかもしれない
肉の魔道に。
78俺の屍を越えてゆけ:03/10/08 21:31 ID:voGCO1Ko
『24』

 嬲られ、お業は首を折って貌を隠そうとするが、いつしか討伐隊の武者の衝きあげに
隠そうとした貌を上げて壁に頬を擦り付ける。唇を血が出るほど噛み締めても、鼻孔が
膨らみ始めていた。壊れそうな中で、想い人との記憶を、お業は必死になって手繰り
寄せようとする。


 男がお業の豊な乳房にそっと触れた。そこに哀しみが生まれる。ただの男と女になって
交接に狂いたいという狂おしさはあったけれど、なぜだか哀しみがひとつ生まれる。
 これから先のことを思ったからだろうか。それとも思いが叶うからなのとお業は自分の
良心に問うてみる。天界の禁を破ろうとする罪人になろうとしていた。そのことを自分は
男に隠して近づいた。だから、最初に自分から身元を明かしたけれど、それ以上のことは
告げられなかった。
関係を重ねても、壊れてしまう不安が生まれてしまう。それがお業の翳りの理由、そして
それが罪だった。自分の名にくちびるを噛む。
「お業」
お業の躰の上で男が揺れて、瞼を閉じて快美感を噛み締める。男の重みが躰に掛かって
そっと瞼を開けると、揺れる愛しい男の逞しい肩が見えた。そして天上を仰いで蒼い空の
向うの自分のいた世界を眺める。お業にはもう遠き世界。
「もっと、わたしを言い名付けて。あなた……」
 ゆっくりと瞼を閉じ合わせ眉根を寄せ愛されていることを噛み締め、掲げていた脚を男の
腰へと廻し交差させる。
「お業。好きだ。愛している!」
男の背に腕を廻してひしっと抱き締め、自分のいるべき場所はこの男なのだと女陰を熱くさせた。
「うれしい。うれしい、もっと。もっと言って。もっとしてぇぇぇッ!」
79俺の屍を越えてゆけ:03/10/08 21:41 ID:voGCO1Ko
『25』

「お業、どうした。どうして、そんな哀しい貌をする?」
 おんなの貌は男の繰り出す律動による快美に耽溺し、見せる歔き貌とは様子が違っていた。
「いや、いや、もっと、もっと動いてぇ……!」
 男の滾りに肉襞を絡めなりふり構わずに縋ってくる。お業の刻からすれば、相翼院から男を
見下ろして成長を見守ってきたのは瞬きするぐらいのもの。そして、非力な人に恋情を抱くことに、
当初なんの疑問もないわけではなかった。
 ひょっとして、自分は恋に憧れていただけではないのだろうかと考えてみたこともある。瞼を閉じて
浮んでくるのは少年の壁画を見詰めるやさしい眼差し。そんな眼差しを送ってきた男性は今迄
いなかったことに気づく。胸が熱くなった。そして少年の透き通るような白い肌が、お業のおんなの
部分の興味をも深化させていった。
「烈しく、烈しくううぅぅぅ――してえぇええッ!」


「あぁああッ!」
 お業は壁に唇を擦りつけながら口を開いて呻いた。捨丸は、お業が嬲られている壁のほうに近づいて
いって肘を突き上げて、お業の抽送に喘ぐ貌の傍に左拳をドン!と打ち付けた。
「ひいっ!」
 顔を捻ったそこに、捨丸の嗤う顔があった。お業は涙をこぼして顔を伏せようと額を壁に擦ってみるが
、烈しい突き上げがそれを赦してはくれない。捨丸は、お業の顔の傍に打ち付けた左手でそそける緑の
髪を鷲掴み、顔を更に晒したのだった。
「ああ……」
「健気だぜ。もう、そこまで頑張ったなら旦那も赦してくれるだろうさ。さっさと吐け!」

「いゃあぁああああ――ッ!」 「しとやかさの微塵もねぇな。しょうがねえ。やっちまえ!」
 お業の耳にその時、肉を叩くような音がしたような気がしたが、秘孔を抉り立てる律動とともに音のことは
忘れてしまう。嬲り続ける男は、お業の躰を横の二人に捻らせ、自分はお業の左脚を畳み正面を向かせに
掛かる。お業は狂ったように貌を振って血を吸った緑の髪で凌辱を尚も続ける男に抗うかのように叩く。
しかし、本当に狂うのは瞼を開けた刻にあった。
80俺の屍を越えてゆけ:03/10/09 12:45 ID:J66tTt7j
『26』

 背を壁に付けて衝きあげられ、赫い唇を開き白い歯と吐息を洩らし始めた。堪えようと
してもどうすることもできなくて、お業は我が物顔で女陰を蹂躙する男の肩に貌を
埋めようとする。乳房を好いように弄ばれ、歔いた。
「もういい。手を離してやれ。馴染んできた頃合だろ」
 お業の蒼白の裸身は芯の左の翼を引き千切られたことで血まみれとなっていた。捨丸は
死姦願望こそないが、お業の美貌に加え血まみれの肌で喘ぐ肢体の蠱惑に魅せられ、
己が逸物を女陰に突き刺して女を殺せないことに少しだけ悔いた。

「ひっ」
 お業は小さく悲鳴を上げたが、それが子壺を小突かれたからなのか、捨丸の言葉責めに
よるものなのかがわからなくなって、一旦は頭をドン!と壁に打ち付けて男から離れようと
試みたものの、その肩に肉魔道に堕ちそうな泣き貌を擦り付ける。
 男の鎖帷子を着込んだ肩に、お業の貌に附着した血が拭われた。拘束されていた腕を
解放され、自分を支えようとして凌辱を続ける男の肩を鷲掴む。爪を立てたところで鎖が
じゃまをして食い込むことはなかった。

 何故に自分を嬲る男にしがみ付こうとしているのか、捨て鉢な気持ちになりながら薄眼を
開くと肩越しに想い人の夫がいた。既に黒布の目隠しが取れていて、真直ぐな瞳で、
お業を見ていた。お業の躰の罪が炎に焼かれる。しかし、口から出たのは絶望の言葉。
あらん限りの声で叫べば罪が消えるのか?夫が救われるのだろうか?
「あっ、あ、ああ……。好きにして……もうどうにでもして……ころして……ころしてよ……ころしてください」

 夫は床に這い蹲る格好で、面を上げお業の嬲られる姿をやさしい瞳で見ている。
少し離れた所には彼の左手が跳ねられて転がり、その血がお業を慕うかのようにして
足元にまで伝って流れていた。
「どっちだ」
「うっ、う……こっ、ころし……」
「だから、どっちをだって聞いてるんだ!」 「夫ともども……ころしてください!」
81俺の屍を越えてゆけ:03/10/09 12:55 ID:J66tTt7j
『27』

「お紺、そろそろけえるぜ。そんなに祈られりゃ、神様だって、もううんざりだぜ」
 女はそれでも幸せだった。確かに仔が授からないことは、跡継ぎがいないということで、
夫に対して心苦しい。しかし、夫はそれほど気にも掛けていなく、むしろ出来なきゃ
出来なくたっていいんだぜと、むずかゆくなるようなこと、ほろりとさせるようなことを
平気で言う男だった。ふたりで閨を愉しめばいいんだしさと。

「はいはい、わかったよ」
「なんだよ、それ。ひとが親切にいってんのに、神様だってお冠だぜ」
 両手で角をつくってみせる。だから、そんなため口がきく。うるさそうに言っても、
女は綺麗な口元を嬉しそうにほころばせていた。
 お紺の赫い唇が笑った。そしてもう一回と、お稲荷さんに子宝をと祈って背を
向けようとした時だった。淡い光を見て、それが人形に変るのを見た。

「あっ、子供」
 帰ろうとする夫が、お紺を振り返った。 
「できたのか……?」
「ばかだねぇ。そうそう簡単に仔が授かるわけ……」
(ほしくないわけ、ないよねぇ。ごめんよ、あんた)
 お紺は境内の裏へと歩いていった。気になってしょうがない。裏側なのだから、
お紺には見えるはずがない。だが、お紺は見た。あまりに欲しいってねがったから
幻覚でも見たのだろうかと思っても、確かめないではいられない。

「おいおい、なにやってんでぃ……お紺よう」
 つい本音が出てしまって、お紺を傷つけてしまったのではないかと申し訳なさそうに
声を掛け、ぼやきながらも、お紺の後を付いて行く。
「どうしたんだい、坊?迷子になっちまったかい?」
 少年はいた。膝を抱えて小さくなっている少年は顔を横に振った。お紺は少年の顔に
大きな切り傷を見てぎょっとしたが、それでも努めてめいっぱい、やさしく接しようとした。
82俺の屍を越えてゆけ:03/10/09 18:21 ID:J66tTt7j
『28』

「もうすぐ、雨が降ってきそうだよ」 
「そうだな」
 お紺の後ろから夫が相槌を打つ。 
「ばか、あんたに言ってんじゃないよ!」 
「おい、よさねぇかい。坊が怯えちまうだろが」
「あんた……。そ、そうだよね」 
(貌の疵はわけありだね。触れないことにしといたほうが……よかぁないかねぇ)
 お紺は夫に耳打ちをする。
「ああ……、そう言うこった。てめぇも、それぐらい、俺っちに気配りしゃがれ」
 お紺は男に肘鉄を食らわした。

「いてぇってんだよ」
「ねえ、坊はどっから来たんだい?」 「おい!お紺」
 少年は答えようとはしなかった。もしかしたらと、お紺は少年が口をきけないのかも
しれないと思い至って、お紺は少年に手を差し出しのべた。
「わけありなんだね、坊は。なら、いいよ。家においで」
 少年は緊張したのか固まってしまう。お紺は差し伸べたままで、辛抱強く待っていた。

「じれってぇな。ほら、お紺が来いっていってんだからよ」
 大きな手が少年の手を掴んだ。すると少年は目から大粒の雫をこぼしてしまう。
「あんた、坊になにしたんだよ!このばか!もっと、やさしく握ってやんなよ!」
「なっ、なんにもしてねぇってよう。なっ、坊?」
 少年はこくりと頷いていた。
「ほれ、見ろ」 
「そっ、そうかい?」 
 お紺は少年の様子を窺う。 
「疑りぶけぇ、野郎だな……」 
83俺の屍を越えてゆけ:03/10/09 18:27 ID:J66tTt7j
『29』

「だれが、野郎だってぇ!張っ倒すよ!」 「こっ、こえぇええなぁ〜」 
「ふふっ。あっ」 お紺が小さく声を上げる。 「どうした?」
 泣いている傍で、夫婦で喧嘩をやらかすものだから、あわててお紺の手を少年は取る。
お紺も少年の手をそっと握り締めた。握り返してくる小さな手に、お紺の胸が熱くなった。
仔の手触りは妻から母になれた、お紺をそんなやさしい心持にさせてくれる。
「びっくりしたかい?べつに仲が悪いってわけじゃないんだよ。ほんとだよ。ほんとに
ほんとだからね」
 お紺は卵形の綺麗な顔をしていた。どことなくその風貌は、お業に通じるものがあった。
違いといえば、お業の左目には泣き黒子があって、お紺は笑うと愛くるしい笑窪が浮ぶ
ことぐらいだろうか。お紺は少年にやさしく微笑んだが、また泣き始めてしまい、
ふたりはなだめるのに、その一日中苦労することになる。


「こ、ころしてください」 「なっ、なにぃ!」
 すっとんきょうな声を上げ捨丸は急いで男の方を振り返った。男は床に
這い蹲りながら、目隠しが外れて、お業を想う眼差しで見詰めていた。天井を
見続けていた少年の瞳のままに。捨丸の顔が仲間をも斬り付けかねない形相に変った。
おんなに肚を括られては愉しみもあったもんじゃない。捨丸はそう思って歯軋りをする。

「くそおッ!拘束しておけって酸っぱくなるほど言ったろうが!何の為に目隠しまで
させたと思ってんだあッ!たわけが!」
『捨丸、もう引け。潮時だ』
「わかった。わかったよ。引きゃいいんだろうが。こいつらをさっさと相翼院へ連れて行け」
 お業を貫いている男の抽送が速まって行く。ぐらぐらと躰が揺さぶられるのを、捨丸は
一瞥してから仲間が持っているたいまつを取って、お業の夫へと近づく。お業は夫が
火で焼かれるのかと思って気が遠くなり始めた。
 捨丸は切り口に火を近づけて、止血代わりに傷口を焼いたのだった。口には布が
詰め込まれて叫ぶことはできないが声は、お業の耳にしっかりと届いて来た。
 肉が焼ける臭いと、膣内を精で灼かれるのと同時に、お業は完全に失神してしまった。
84俺の屍を越えてゆけ:03/10/09 22:18 ID:J66tTt7j
『30』

 お業は夢を見ていた。
「わたしはあなたよりも長く生きています。気にはなりませんか」
 男は両手をお業の躰を挟むようにして付いて、やさしく睦む。お業の手は男の腕に
蔦のようにして絡まって。
「過された歳月をでしょうか」
「言わせたいの?」
「でしたら、言わないでくださいな。そう、なにも」
「ごめんなさい。わたくしから、あなたの気をそぐようなことを言ったりして」

「気などそがれはしませんでしたよ」
「ほんとうですか」
「ええ、もちろんですとも。あなたはわたしをずっとみていらっしゃったのでしょう」
お業は男の瞳を見て、微笑で応える。お業は相翼院の天井から男をずっと見てきた。
「はい」
「わたしもずっと見ていたということです」
 お業はその濃密な刻に、眦に朱をほんのりと刷く。

「なっ、なにをするの」
 男は両肩の傍に付いていた腕に絡みつく、お業の手をそっと振りほといて、腕を掴んで
腰に持っていった。男の手は滑っていっておのずと、お業の手へと辿り着く。ふたりの
躰はぴったりと重なる。
「あぁああ……。あなたの鼓動がわたしの躰に流れて……」
「流れて?」

 男はお業の上に覆いかぶさって、ふたりは手を繋いだまま腰に下ろして真直ぐに躰を
伸ばして切って行った。
「あつい……あつい。とても、とても熱いのです。どこもかしこも」
「苦しいですか」
 お業は小さく顔を左右に振る。噛み締めるかのように瞼を閉じる。長い睫毛が美しい。
85俺の屍を越えてゆけ:03/10/09 22:21 ID:J66tTt7j
『31』

そして橙黄色の瞳が男を見る。しばらくふたりは繋がったままでじっとして時を過した。
男の掛かる重みが、お業の生だった。そして……「お業の翼を拡げる」と男が告げる。
「わたくしの?」 
「あなたのつばさを」
 男は軽く尻を振るった。
「うっ、あ、あん」
 男はゆっくりと、そして確実に、お業の女陰を滾る肉棒で突き、ふたりだけの手を
取り合って天上へと導こうとする。手は律動に呼応して力強く握られながら翼のように
拡がっていった。腰からやがて水平になり、そしてお業の頭上へと掲げられる。

「それに……」
「そっ、それに……?」
「いくら、お業が経験豊富でも」
男はやさしく微笑み返す。けれど、繰り出す抽送に愛しい人を見ていられない。
「いじわ……あ、あっ、ああっ」
「こうすれば……原初のふたりに……戻れます……等しく」

「わたしは……あなただけ……あなたの……あっ、ああ……」
「もう、なにも言わないで……お業」
「ず、ずるいっ……んあぁあああッ!」
 男の唇が、お業の脇の窪みに舌が這い、唇で吸い立てる。原初に還る交媾で、お業の
告げようとしていた言葉が快美感の渦へと呑まれていった。
(あなたは、わたしの初めての男。初めて知りました。愛する人の仔が欲しいと)
 お業の夢は叶えられたが、はかなく崩れていった。お業も昔は人。人の見る夢は儚い
ものと唇を噛む。


「わたしを罰してください」
 お業が木にしがみ付きながら、貌を捻った。ふたりは浜辺の木のところで交わっていた。
86北の鷹匠たちの死:03/10/10 16:57 ID:voKle4A5
<状況説明>*************************************************

大事なのは、攻撃のタイミング――――「ドゥーリトル」作戦発動!
NATO軍は、開戦劈頭からずっとソ連爆撃機隊の排除を画策していた。あまりにも輸送船団の犠牲が大きかったのだ。
給油機の排除、アイスランド上空での要撃、爆撃機による強襲。しかし、全てが失敗した。誰もがあきらめかけていた。
そのとき、米海軍のトーランド中佐が、ある奇想天外な作戦を提案した――――
原潜発射のトマホーク巡航ミサイルによる航空機の地上撃破という奇抜な作戦は見事に成功、バックファイア爆撃機隊は
大打撃を受けた。
続いて、アイスランドをNATO軍が奪還する。
SOSUS音響処理センターは破壊されたが、キエブラヴィークとレイキャビークには戦闘機部隊、対潜哨戒機部隊が展開、
そして近海ではNATO軍潜水艦によるピケットラインが維持されている。
さらに、米空軍はソ連軍の偵察衛星を撃墜。ソ連軍の船団攻撃能力は急速に低下しつつある。
NATO軍にとって、大西洋は安全な海となったのだ。
ドイツで激戦を続けるNATO軍に対する大量の救援物資と応援部隊が海を渡り始める。
また、ソ連の名将、アレクセーエフ将軍の奮戦も空しく、ソ連軍のハノーヴァー、アルフェルト、ハーメルン、その他での
戦線の突破作戦がことごとく失敗、戦線はこう着状態に突入している。
このこう着状態を打破するため、ついにソ連首脳部は核兵器の使用を検討しはじめた。
アイスランドを攻撃したNATO海軍機動部隊は、ムルマンスクを攻撃すべく転進中である。
一方、ノルウェー政府はイギリスに亡命したが、南部ノルウェーではノルウェー軍が激戦し、かろうじて戦線を維持している。
ムルマンスクを取れば、ノルウェーのソヴィエト軍は孤立し、ノルウェー軍が反攻に転ずることができる。
そして、ムルマンスク攻略を援護するため、NATOはノルウェーに地上飛行場を確保することを画策する――――

**********************************************<状況説明・終>**
87北の鷹匠たちの死:03/10/10 16:58 ID:voKle4A5
彼女は、司令部の空気がピリピリしてきたのを敏感に肌で感じていた。
隊員たちは相変わらず軽口を叩いて明るく振舞ってはいるが、戦闘が迫っているのが感じられた。
クレトフやシマコフなどに聞いても、話をはぐらかして教えてくれない。
この恋の悪いところは、しばしば相手が敵であると言う厳然たる事実を否応なしに思い出させられることだ、と彼女は思う。

しかし、ある程度予想はついた。
ドイツでNATO軍が戦線を突破して大反攻に転じたか、あるいはアイスランドが奪還されたに違いない。
少なくとも、NATOの攻撃が迫っていることは確かだ。
彼女は、彼らはあらゆる状況を考えているんだな、と思った。
なにしろ、捕虜にまでガスマスクを支給するくらいなのだ。

『これは訓練だ!状況ガス!状況ガス!総員装面せよ!繰り返す!これは訓練だ!状況ガス――――』
スピーカーが怒鳴り、彼女は慌ててガスマスクを腰のポーチからとって着けた。
さらに神経剤が使われることを考え、素早くフライトジャケットを羽織った。これには気密性がある。
神経ガスは、べらぼうにお肌に悪いのだ。
装面した空挺隊員がドアを開け、彼女がマスクをつけているのを確認すると目だけで笑って去った。
88北の鷹匠たちの死:03/10/10 16:58 ID:voKle4A5
地下の指揮所では、空軍駐留部隊の指揮官とシマコフ、クレトフ以下の陸軍首脳部が定例の協議を開いていた。
しかし、ここ数日は空気が重い。
今しも、空軍指揮官のジューコフ大佐がアンデネス飛行場の戦略価値を力説していた。
「つまり、今や我が爆撃機が展開しているもっとも西の基地が我がアンデネス飛行場なのですぞ」
クレトフとシマコフがうんざりした目を見交わした。
ボルノフはいつものように、かすかな微笑を含んだ顔を興深げに向けていた。
ジューコフは空軍士官の通弊として、陸軍のことを馬鹿にしがちであった。
彼の考えによれば、陸軍の馬鹿どもには、いかなる事実も、繰り返して言わなければ理解させることは出来ないのだ。
クレトフが口を開いた。
「では、なぜアンデネスには巡航ミサイルが来なかったのでしょうな?アンデネスから発進する攻撃隊による攻撃に、
 イギリスは疲れきっているはずではなかったのでしょうか?」
ジューコフがにんまりと笑った。
「いい質問ですな。それはですな、我が防空軍が撃墜したからにほかなりませんぞ」

クレトフは思った。
我が防空軍がそれほど有能なのならば、なぜウンボゼロやアフリカンダの基地が破壊されたんでしょうな?
彼とボルノフは検討し、要するにアンデネスを攻撃できるだけのミサイルが無かったのだ、と結論付けていた。

「まあ、いずれにしろ、我々はアンデネス飛行場を守らねばなるまい」シマコフがため息をついて言った。
「この島の存在価値は、まさに飛行場の存在にあるんだからな」
「それと――」ジューコフが言いかけた。
「そう、爆撃機ですな」クレトフはそう言いながら、それは飛行場の中に入っている、と思ったがそれは言わずにおいた。
「それと乗員です」
89北の鷹匠たちの死:03/10/10 16:59 ID:voKle4A5
敵部隊が上陸した場合に備え、全島の海岸には防御陣地が構築されている。
さらに、地雷原の設置が開始された。
シマコフとクレトフ、本管中隊の面々は海岸線に立ち、防衛作戦の点検を行っていた。
北部に上陸した場合の作戦はすでに繰り返し点検されていたが、南部の防衛作戦はまだそれほどでもない。
おまけに、BMD-2は、ドイツで苦戦する第26親衛空中突撃連隊戦闘団に振り分けるために、かなりの数がドイツに
送られることになっていた。
イワノフは、島の各所に設置される戦車壕や掩蔽対戦車地雷原の点検に走り回っていた。
新しく到着したSA-11「ガドフライ」中SAM部隊、「モスキート」SSM部隊の配置も行わなければならなかった。

司令部の留守を守るボルノフは、しばしば姿をくらました。
しかし、重要なことが起こると、必ずそこにいるのが、皆には不思議だった。
ボルノフは司令部全体を盗聴しているんだろうか?
90北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:00 ID:voKle4A5
スーザンは、バルコニイに立って、晩夏の気配を嗅いでいた。
手には、ミニ・マグライトと手鏡が握られている。
運がよければ、強行突入してきた友軍機にモールスで信号を送ることができるかもしれない。

かつて、F-16の極地運用試験の一環として、米空軍の第4戦術戦闘飛行隊がノルウェーのフレスラント基地に展開した
ことがあった。そのとき、彼女はヒル基地の試験実施本部で、米軍側の作戦参謀チームにオブザーヴァーとして参加し、
アンダヤ島への攻撃作戦の立案に関わったのだ。ちなみに、アンデネス飛行場から出撃するノルウェー空軍のF-5の迎撃を
かいくぐり、この爆撃作戦は成功した。
その経験から、侵入したとしたら、このホテルの上を通るはずだ、と彼女は確信していた。
しかし、それは薄い望みだった。友軍機が飛来するかどうかも分からない。
アンデネスの一個連隊のミグをかわしている最中に発光信号を見ていられるかどうかも、怪しい。

「第一、発光信号を送ったって、相手がこっちを見ているかどうか分からないでしょうに」
彼女は、自分の考えを見事に言い当てているその声にぎくりと立ちすくんだ。
ゆっくりと振り向くと、いつもの微笑を浮かべたボルノフが立っていた。
91北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:02 ID:voKle4A5
「ナルヴィクの三軍調整官のところにただちに出頭せねばなりませんので、そのことを言いに来たんですがね。
 どうもあなたを一人で残しておくのは不安ですな」
その深く黒い目は全てを見通しているようで、落ち着かない。彼女は子供のころに会った司祭を思い出す。
おまけに、ボルノフの英語は、イギリスで育ったと言われても信じそうなほどにイギリス訛りが強い。
彼女自身はノルウェー訛りにカリフォルニア訛り、そして米海兵隊のスラングが混ざって形容しがたい英語になっていた。
大抵の司令部要員はなかなか流暢な英語を使うが、そのロシア訛りは隠しようもない。
だが、ボルノフの英語は、完全にイギリス人のそれなのである。
なんというか、ソヴィエトの政治士官にべらべらやられると、落ち着かないのである。

彼女は目を床に落とした。彼女が言い返そうとしたとき、彼は既に消えていた。
きぃー、と甲高い音を立ててドアが静かに閉まっていく。
彼女は、彼の足音を聞かなかったことに気付いた。
彼も皆と同じように重い軍靴を履いている。
クレトフなどは、床を震えさせながら歩いていることもあるほどだ。
しかし、彼女はボルノフの足音を聞いたことがない。
彼は、どういう工夫があるのか、いつもすべるように音も無く歩く。
92北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:02 ID:voKle4A5
突如、彼女の背後に殺気が生じた。うなじの毛が逆立つ。
彼女は反射的に左前に転がり、できるだけ距離を取ろうと転がりつづけながら足首のナイフに手を伸ばす。
しかし、遅かった。
彼女の後頭部に衝撃が走った。目の前で光彩が爆発し、彼女の意識は深淵へと落下していった。

そのとき、クレトフは反射的にカービンを構えて周囲を見回していた。
胃の中に鉛の冷たい塊ができたような感覚を覚える。
「どうした?」
シマコフが怪訝そうに聞く。
クレトフの振る舞いを見た本管中隊の面々もそれぞれ拳銃を構え、姿勢を低くした。
クレトフの目は岩場を油断無く見た。
迷彩を施した顔、銃のマズル・フラッシュ、飛来する手榴弾、そういったものを予想していたが、まったく見当たらない。
「いえ…なにか…感じたんですが…」
彼はいぶかしみながら安全装置を元通りにかけ、スリングを肩にかけた。
皆も拳銃の安全装置をかけてホルスターに戻した。
93北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:03 ID:voKle4A5
彼女の意識がゆっくりと表面に浮かび上がってきていた。体の自由が利かない。それに真っ先に気付く。
目には目隠しがあり、口にはボールがはめられ、また手足は椅子に縛り付けられている。
ボールには穴があるらしく、呼吸はできる。
さらに膣と肛門になにやら違和感があることに気付いた。
彼女は、電極ではないかとおびえたが、いろいろと力を入れて試した結果、それが話に聞くバイブというやつではないかと
結論付けた。
どうということはない――バイブもアナル・セックスも経験はないが、友達から話だけは聞いていた。
また、サバイバル課程では食料の足しにすべくチョコレート・バーを隠して持ち込もうとした彼女だ。
しかしノルウェー空軍当局の方が上手だった。
出発前の身体検査で、潤滑ゼリーを塗ったくったと思うや医師が慣れた手つきでケツからチョコバーを引っこ抜いた。
この手は男性候補生を含むかなりの数が使っていた、と聞いたのは合格後の話だ。
ちなみにバーは後に返されたが、さすがに食べる気はせずゴミ箱に直行するはめになった。

しかしいささか意外なことに、肛門をすぼめるように力を入れてみると、そこからなにやら甘美な波動が送り出され、背筋
がふるえた。
「ふあっ…」
思わず吐息が漏れる。彼女は狼狽し、動揺した。
おまけに、前の穴からは蜜がとめどもなく湧き、水音を立てて床に落ちている。
チョコレートを隠していたときは、汚辱感のほかには単に違和感を感じて時々痛いだけで、決して快感などは感じなかった。
しかし、なにやら縛られて、アナルに異物を突っ込まれた状況で興奮している…
自分は変態なんだろうか?
恐ろしい疑念が芽生えつつあった。おまけに頭に靄がかかり、明晰な思考を妨げている。
疑念に彼女の心は挫けそうだった。
94北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:05 ID:voKle4A5
その時、彼女はなにやら気配を感じた。距離をはかろうとするが、遠いようでもあり、近いようでもある。
誰か?クレトフかもしれないし、ワイルドギースの誰かかもしれない。
声が聞こえた。深く、しみわたるような、優しいが力を内包した声であった。
『スーザン、君は本当はとても賢いのに、なろうと思えばいくらでも馬鹿になれるんだな。
 こ ん な に 分 か り き っ た こ と な の に』
声が笑っていた。

彼女はどこからともなく結論が導き出されたことに驚いた。
(ロマノフ―――あの薬!)
『ようやく分かったのかい?もうちょっと鋭いと思ったんだがね』気配が多少呆れたように首を振る。
彼女は、それをクレトフだと思いはじめていた。
気配がかすかな微笑を含んでささやく。
『あんなチェキストには君を打ち負かせる力なんてないさ。例えクスリの力を借りてもね』
――そう、彼女は<バニー>―――最後のワイルド・ギース。
疑いが打ち砕かれ、力が湧いてくるのを感じる。
それは、彼女をノルウェー空軍少佐、スーザン・<バニー>・パーカーたらしめている根源からの力だった。
(あなた、本当にそう思う?)
『もちろんさ。負けると思うなよ。思ったら負けだ。
 本質的には、彼との戦いではなく、君自身との戦いだと言うことを忘れるな―――』
気配が消えた。
95北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:06 ID:voKle4A5
しかし、彼女はもう独りだと思わなかった。クレトフ、ワイルド・ギースの皆が傍にいる。彼女はそれを感じた気がした。
彼女は足を動かした。いましめがゆるければ、うさぎとびの要領で脱出できる可能性はある、というか、無いわけではない。
しかし、手錠はかなりきつく彼女の足を椅子に縛りつけていた。もともとかすかな希望だったが、これで零になった。
彼女は、計画を練り始めた。

まず、相手の目的を考える。
彼女がチャイナ・レイクのAMRAAM評価試験に参加していたことがばれたのだろうか?
NATOの誇る最新鋭空対空ミサイル、AMRAAMの評価試験に参加した空軍士官ともなれば、ソ連の情報担当者に
とっては情報の宝庫だ。
彼女は自分の言動を詳しく点検した―――何も言っていないようだ。
また、そのことが上部組織から漏れた可能性はないか?
―――しかし、それならしがないKGB中尉ではなく、クレトフやボルノフといったより上級の士官が尋問するだろう。
どうやら、チャイナ・レイクの関係ではないようだ。残る可能性は、性的欲求だ。
彼女の今の状態からみて、それで間違いないだろう。

つづいて、行動目標を定める。
貞操を守ること?―――それは達成不可能だ。殺されないことを目標とすべきだ。
彼女は冷徹に結論し、続いて衝撃を受けた。
彼女は、まるで他人事のように考えているが、しかし犯されるのは彼女だ!
しかし生き延びれば復仇の機会はある。彼女は第二目標を、ロマノフの死を見届けることに定めた。
一息には殺さない。じわじわと苦しめてやる。彼の目に浮かぶ恐怖を味わってやる―――!
その考えは残酷な楽しみをもたらしたが、彼女はその無益さに気付き、計画に戻った。
96北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:07 ID:voKle4A5
目標は定まった。次は方法だ。基本的には一般人が誘拐されたときの対応に準ずる。
彼女には、基本的に、3つの選択しかない。
抵抗、服従、そして無反応だ。抵抗と服従にはそれぞれ消極と積極のオプションがある。
E&E訓練では、このような状況に直面したときのことを座学で教わった。
彼女はそれを思い出そうとつとめた。
相手が彼女に、ないし彼女の肉体に愛着を感じ、それを惜しいと思うようにすればよい。
無反応は、悪い手だ。相手を激昂させるおそれがある。
抵抗と服従のどちらを選ぶか? それは相手の性格による。
抵抗されることを好むものもいれば、好まないものもいる。
ロマノフはどちらだろうか?
彼女は、前者、と踏んだ―――消極的な前者だ。
あまりよろこばしい選択ではないが、致し方ない。
また、ヒステリックな反応も抑えねばなるまい。
ヒステリー性の怒りは、ターボジェットでアフターバーナーを全開にしているようなものだ。確かに猛加速がつくかも
しれないが、精神力を消耗する。それが尽きれば、無気力な状態に陥る。
そして、無反応になれば、彼は彼女を殺すだろう。

現在の状況には、いい点もあれば悪い点もある。E&E訓練の想定では、周りは全て敵だった。
しかし、今は、KGB関係者以外のソ連兵はみな彼女の味方と考えてよい。
悪い点は、ことが済めば彼女は口封じのために殺されるであろうという点だ。
ロマノフがこんなことをしていることを、クレトフやシマコフが許すはずが無い。
おそらく彼女を射殺し、彼女が逃亡しようとしたと言うだろう。彼らはそれを信じまいが、死人に口無しだ。
したがって、誰かが彼女のいないことに気付き、探しに来るチャンスを待つしかない。
呼集がかかればロマノフも行かざるを得なくなるだろうし、ロマノフが現れなければ怪しまれるだろう。
97北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:08 ID:voKle4A5
そのとき、音がした。彼女の意識の中のものではない。
彼女は耳に神経を集中した。
近距離、正面。金属音―――拳銃にマガジンを入れた音に類似。撃鉄を起こした音は無いから、いま撃つわけではないのか?
「お目覚めの時間ですよ、お姫様」
独り言が聞こえた。その声は、彼女の推測を裏付けた。
気配が彼女の股間に回り込んでくる。
彼女は息をのんだ。彼が何をしようとしているか、知っていた。しかし、知りたくなかった。
カチリと言う音と共に、彼女の胎内のそれが動きはじめた。
ぐねぐねとうごめき、かき回す。
彼女はくぐもった叫び声をあげる。
男はそれを聞き、にんまりと笑った。
「いかがかな?それのお味は?帝国主義者は堕落しているが、たまには役に立つ。
 どうせお前も毎晩こいつをくわえ込んで喜んでいたんだろうが?このいやらしいブルジョワの豚め」

しかし、彼女はそれを聞いていなかった。
胎内でうねるそれは、彼女の感じるポイントを的確に突いていた。
麻薬の作用もあり、彼女は見る間に押し上げられていく。
しかし、彼女を攻めたてている器具は、あまり強い刺激を与えてくれず、焦らされた彼女は快感を求めて腰をふりはじめる。
98北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:09 ID:voKle4A5
「そんな玩具をくわえ込んで感じるなんて、貴様はやはり淫乱な雌豚だな」
男は嗜虐的な笑みを浮かべて言うと、彼女の後ろに回った。
彼女の無意識の領域が警告を発するが、それは無駄だった。
肛門に挿入されたバイブが息を吹き返し、作動をはじめる。
全身を強ばらせ、彼女は叫んだ。ボールがなければ絶叫に近かっただろうが、それはくぐもった叫び声にしかならなかった。
薄い肉の膜を通して、二本の人工物が打ち震え、叩き合う。
そしてその先端が爆ぜ合いゴツゴツと子宮を叩く。
頭をのけぞらせて振り、全身を弓なりにそらせ、痙攣するように震えながら彼女は達した。
戦慄的な官能に、体中が痺れきった。
目隠しの下できつく閉じられた双眸に、涙が浮かんだ。

彼女が達しても、なおもバイブは作動を続ける。
全身が熱く火照って汗が玉になって浮かび、彼女は歯を食いしばるように口に力を入れた。
ボールでふさがれた口からは、悩ましい喘ぎ声が漏れている。
彼女は知らず知らずの内に腰をくねらせ、二本の人工物の与える悦楽に完全に浸り切っている。

しかし、彼女は、その一方で冷酷とも言えるほどに冷め切った自分がいることに気付いていた。
その部分は、彼女が戦闘の興奮に圧倒され、アドレナリンにのみこまれていても、常に冷静な判断を下す。
それは、彼女にあの空中戦を辛うじて生き延びさせたものだった。その領域には、性感も麻薬の作用も及んでいない。
そこでは、常に周囲の状況を三次元で把握し、分析し、判断している。優秀なスポーツ選手が持っているのと同じように、
彼女が幼少から山野を跋渉し、長じてからは多くの模擬戦を戦った結果獲得した能力だった。
言ってみれば、それは一個の戦闘コンピュータだった。
99北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:10 ID:voKle4A5
そうはいっても、彼女の意識は、麻薬とそれがもたらす信じがたいほど大きな性感にひたりきっていた。
さらに男の舌が女の小ぶりな胸の膨らみを舐めまわしはじめた。
男はその弾む胸の感触を楽しみながら、両の乳首を舌の上で転がす。
彼女のからだは二度目の絶頂に向かって追い上げられていった。
しかし、彼女がそれを迎えようとしたとき、突然バイブのスイッチが続けて切られた。
ぬるりと引き抜かれたとき、彼女の唇から思わず残念そうな吐息が漏れる。
秘唇が名残惜しそうにひくひくと動いている。
そのとき、彼女の口のボールがふと取り払われた。
彼女は息を大きく吸い、叫ぼうと身構えた。
しかし、拳銃の撃鉄を起こす音に、身をこわばらせる。
「俺を見損なってもらっちゃ困るね。叫んだら撃つ」
100北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:11 ID:voKle4A5
そして、全裸で椅子に縛り付けられたスーザンの死体をどう説明するのか?
彼女は暗いユーモアを覚えたが、冗談ではない。
彼女は別に臆病ではなかった。祖国のために死ぬなら本望だ。
が、ここで死んでも何にもならない―――犬死にではないか!
何度も死にかけたのを生き延び、そして行き着く先はこのチェキストの手か!
生きたい。
彼女はこれまでにないほどそう願った。
彼女の頭に手が添えられ、ぐっと押し下げ、苦しくなるほどに前に倒した。
彼女のつぐんだ口に、男の肉棒が突きつけられた。
むっとするような匂いが鼻をつく。
「上手にやったら挿れてやるよ」
男の声にはサディスティックな笑いが含まれていた。
普段の彼女なら「挿れてやるよ、とはどういうことだ、むしろこっちから願い下げだ」に続いて悪態を何ダースないし
何十ダースか吐くところだったが、現在働いている冷徹な理性からはそんな台詞は出てこない。
そして、その台詞の源となる感情は、むしろ挿入を望んでいた。
理性は感情に主導権を渡した―――さしあたっては。
101北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:11 ID:voKle4A5
実際にやったことはないが、ヴィデオや本で見たことはあるし、やった友人の話を頬を染めて聞いたこともある。
彼女は、鈴口にくちづけると唇に含み、躊躇いがちに吸ってみると、男がうめいて身じろぎした。
唇をゆっくりと沈め、幹の部分を奥までくわえて口全体で締め付けるようにし、顔を何度も上下させる。
のどに先端があたり、吐き出しそうになるのを辛うじてこらえる。
彼女のぎこちない奉仕でも、何ヶ月も溜め込んだ男にはあまりに大きな刺激だった。
突然その肉棒が大きさを増したと思うや、肉棒が引き抜かれ、前後して大量の白濁液が吐き出された。
生暖かい精液は彼女の顔を汚し、一部は口内に侵入した。麻薬の靄を破り、嫌悪感が現れ出てくる。

しかし、その眺めは男の嗜虐心を煽った。
本国では決して縁が無いだろう、美しい女性が自分の、そう、自らの精液に汚された眺めは。
そして、その美しい女性は、常に彼には目もくれない、毅然としたNATOの女性軍人でもあった。
凛々しい女性が力無く汚されている様は、彼にとって実に興奮する眺めであった。

実際、屈服させた国の女を抱くというのは、昔から勝利を実感する方法として好まれてきた。
この場合の問題は、別にロマノフが屈服させたわけではないということだが。

※筆者注:湾岸戦争やイラク戦争では女性の捕虜が存在したが、痴漢行為以上の性的虐待の事実は知られていない。
102北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:13 ID:voKle4A5
女の感情の残滓は、あまりの汚らわしさに呆然とする。
だが、侵食された感情は、その欲望を貪欲に欲し、舌で舐め取っていた。
「そんなに俺の精液がうまいのか?淫売め、おねだりしてみろ。『ロマノフさまのペニスを頂けませんか』とな」
侵食された感情がそれに従おうとする。
しかし、彼女自身の感情の残滓が、頭をもたげた。

目隠しがなければ、女の目に荒々しい光が宿ったのが分かったろう。
彼女は顔を上げ、しぼりだすように、しかし一語一語区切って、はっきりと言った。

「てめーの、ケツと、犯りな」

男は逆上した。
女の秘唇に、男の肉棒が押し当てられた。
絶望的な悲鳴を上げようとする感情を、理性が無理やり押さえ込んだ。
十分に濡れた秘所に、ゆっくりと入ってくる。
先ほどの反抗がうそのようにしおれ、現実を拒絶するかのように頭を振り、「いや・・・いや・・・」とつぶやく様は、
彼をますます興奮させていく。
しかし、彼女は、苦しみはそう長くないとどこかで感じていた。その幕切れが、死の暗淵か、救出か――
――そこまではわからなかったが。
肉体と感情が切り離されたような感覚を覚え、現実感が薄れていく。
まるでヴィデオを見ているような感じだった。しかし間違い無く彼女の精神の一部は残っていた。
103北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:14 ID:voKle4A5
男は、乱暴に腰を振りたて、女の体は強引に揺さぶられる。
無言の悲鳴を上げるかのように開いた唇のあいだに、透明な唾液が糸を引いていた。
既に一度達しているとはいえ、女の締め付けはすばらしかった。そして、ノルウェー女性―――というよりはNATOの
女性軍人を陵辱しているという思いが、このセックスをいっそうすばらしいものにしていた――彼にとっては、だが。
彼女の頭の麻薬の靄が、彼女を抱いている相手の顔を隠していた。
知らず知らずの内に腰を上下に振り、更なる快感を求めていた。おびただしい愛液が溢れ出し、二人の性器を濡らしていた。
心の反発にも関わらず、体は快感の源の汚らわしさを忘れ、絶頂に向かって高まっていった。
女が達したとき、手錠をかちゃかちゃと鳴らしながら全身が硬直し、痙攣した。
男は我慢できずに、女の胎内に精を解き放った。

その感覚に、女は全身が総毛立つのを覚えた。ピルの服用のおかげで、妊娠の恐れはない。
しかし冷酷なる理性はそれで納得しても、彼女の感情の残滓は到底納得しなかった。
麻薬の靄を破り、理性の安全弁を吹き飛ばし、感情がついに火を噴いた。
スーザンは動物的な絶望の絶叫をあげた。
104北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:15 ID:voKle4A5
狼狽したロマノフが全裸のまま拳銃を取り上げ、狙いを定めようとしたそのとき。
部屋の前の廊下に重い足音が轟いた。
ロマノフはあわてて体を回し、拳銃を構えなおす。

次の瞬間、ドアを蹴破ってクレトフとシマコフが飛び込んできた。
ロマノフは慌てて2発続けて撃ったが、パニックのせいで外れた。
その隙に、シマコフが年を感じさせない踏み込みで間合いに入り込んだ。
熟練した空挺隊員の渾身の一撃を浴び、ロマノフは吹き飛んだ。
戸口でカービンを構えていたクレトフは、素早く立ち上がるとロマノフの体を探り、鍵の束を見つけた。
スーザンの四肢を拘束していた手錠を手早く外し、解放する。
彼女はクレトフの胸に崩れ、安堵で気を失った。
クレトフは彼女の体にシーツを手早く巻きつけた。赤く腫れた手足、白濁した液体で汚れた真っ青な顔,秘所からたらりと
垂れる男の体液に彼の怒りが募るが、それを押さえつけて作業を続け、彼女の体をひょいと担ぎ上げる。
廊下では、手空きの司令部要員たちが拳銃かカービン,それと懐中電灯を持ってスーザンを捜索していた。
途中で会った隊員にプーカン中尉をスーザンの部屋に寄越すよう言付けると、彼女の部屋に向かった。
105北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:16 ID:voKle4A5
シマコフの軍靴がロマノフの股間を踏み潰した。
ロマノフが絶叫し、口から泡を吹く。
続いて彼はロマノフの喉をつかみ、持ち上げた。
ロマノフは空中で足掻くが、怒りにかられたシマコフの前にはびくともしない。
シマコフは、妻を癌で亡くした。彼は消耗していく妻を、ずっと見ていた。
彼は癌には立ち向かうことができなかった―――そのせいでフラストレーションがたまっていた。
そして、それをぶつける相手が目の前にいる。
彼は左手で相手を立たせ、続けて殴った。
鼻柱が折れ、顔中が血だらけになったが、容赦しなかった。

クレトフは静かに彼女をベットに下ろし、湯で濡らしたタオルで彼女の顔を拭いはじめた。
そのときプーカンが入ってきた。彼女の顔を見て、息をのんで立ち尽くす。
「そんな・・・なんてひどい・・・」
「中尉、後は頼むよ」
彼は、今これ以上彼女にふれるのが怖かった――――男がこれ以上触っては、彼女が傷ついてしまうのではないかと心配だった。
彼はうろうろと歩き回りながら、プーカンが手早く治療していくのを見守っていた。
「目立った外傷はありません」やがて彼女は診断を下した。
彼は安堵した。
彼はもうひとつの問いを持っていたが、聞くのが怖かった――彼女の心はどうなんだろうか?
彼はカービンをつかみ、逃げるようにドアを出た。
106北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:17 ID:voKle4A5
シマコフはロマノフを放り投げた。
ロマノフの体は机にあたり、はねかえって床に崩れた。
その目の前に自動拳銃が転がっていた。
彼はそれをつかみ、震える手で構えた。

そのとき、クレトフが入ってきた。
彼は一目で状況を識別した。
大佐は拳銃を抜こうとしているが、何かに引っかかって抜けないでいる。
そして、ロマノフの拳銃は既に薬室に弾丸が送り込まれ、撃鉄が起きている。

流れるような動作でスリングを肩から外し、素早くストックを伸ばす。
フォア・ストックとグリップが手のひらに収まり、優雅にバレエの名手が舞うかのような、なめらかな動作でカービンが
持ち上がってくる。
無意識の領域で、連射にするか単射にするか考える。答えはすぐに出た。
連射でも彼の腕なら外すことは無いし、ロマノフに単射で1発ずつ撃ちこんでいくのは面倒だ――こいつにはそんな手間を
かける価値は無い。素早くセレクターを連射に合わせた。
全てがしっくりと、あるべき位置に収まり、完璧な、とてつもなく堅固な立射の姿勢を取る。
ロマノフよりずっとまともな多くの男を殺してきたクレトフには、もはや迷いは微塵も無かった。
ストックを肩に当て、照星をのぞきこんだ瞬間、クレトフから、すべての感情が、恋人が傷つけられたことに対する怒りが、
消えていた。彼の頭の中の”戦闘モード”スイッチが、カチッ、と音を立てて切り替わったような気がした。
照準をロマノフの胸に合わせ、闇夜に霜が降る如く静かに、だが決然と、短く引き金を絞り、次の瞬間彼は発砲していた。
107北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:18 ID:voKle4A5
銃声がほとばしり、6発の5.45mmラッシャン弾がロマノフの胸を縫うのを照星越しに見る。
被弾の衝撃で目が大きく見開かれる。
手から自動拳銃が離れ、床を滑っていった。
ロマノフはがくりと膝を付き、慈悲を乞うように手を差し出した。
しかし、慈悲は与えられなかった、彼の望む形では。
6つの弾痕は密集してひとつの穴となり、いかなる医師にも修復不能な主要臓器、中枢神経組織へのダメージを与えていた。

クレトフはかすかな哀れみを感じてカービンをわずかに降ろし、フルオートで23発の残弾すべてを叩き込んだ。
ロマノフは弾かれたように吹き飛んだ。
シマコフは、張り詰めていた気がぷつりと切れ、崩れるように座った。
108北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:19 ID:voKle4A5
銃声を聞きつけ、AKS-74Uカービンを携えたボルノフと兵士たちが入ってきた。
血だまりに沈むロマノフの死骸を見下ろすボルノフの目には何の表情も浮かんでいなかった。
黒っぽい迷彩服を着てすべるように音も無く歩き、まったくの無表情を顔に張り付かせたボルノフは、死神のようだった。
カービンを構えた武器隊員たちはすばやく散開し、周辺防御を確立した。
「軍法に基づき、ロマノフKGB中尉を、上官反抗の罪で射殺した。確認されたい」
「確認する」
「確認する」
そしてボルノフはクレトフのそばに立ち、平静な声で言った。
「俺の分を残さないでおいてくれて、ありがとう」
クレトフの心に感情がよみがえりはじめた。彼は血走った目でボルノフを見た。
それを見たボルノフは何も言わずに彼をクレトフの部屋に連れて行った。
ドアを閉めると、彼はクレトフを殴った。
109北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:19 ID:voKle4A5
力は軽かったが、その衝撃は大きかった。
クレトフは、信じられない、といった目でボルノフを見た。
「気付けだ」ボルノフは口の端をゆがめて笑った。
クレトフはかっとなった。
「貴様、人をいきなり殴っておいてその言い草は―――」
「いいから聞け。貴様は、今はじめて人を殺したのだ。精神の平衡を失っている」
「待て、俺は上陸作戦のときに機銃を担当していたし、指揮車がやられたあとはこのカービンで何人か殺ったぞ」
「それは、任務としての殺人だ。今のは違う。貴様は、今、はじめて自らのために殺人を犯したのだ」
「ロマノフのような人でなしを殺すことを、殺人と言うのか」それは、クレトフの反抗心が言わしめた台詞だった。
「無論、ロマノフを殺したのが悪いことだとは言わん。しかし、奴は生きる権利を喪失していたとしても―――
 それでも奴は、人間だったのだ」
ボルノフはクレトフの目をのぞきこみ、彼がその意味を理解したと判断した。

「ようやく分かってきたようだな」
「ああ」クレトフはベットに腰をおろし、手で頭を抱え、振った。
ボルノフはクレトフを見下ろしていた。
「もう二度と犯さないことだ。殺人というのは、ある種の麻薬だ。一回なら耐えられるかもしれん。しかし、忘れるな。
 闇を見るものを、闇もまた等しく見るのだと言うことを」
クレトフは頭を抱えて黙って座り、ボルノフの言葉を反芻していた。
ボルノフはクレトフの背中をぽんぽんと叩いた。
「さあ、立てよ。貴様を必要としているひとがいるんだからな」
彼はクレトフを立たせ、隣の部屋に連れて行った。
110北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:21 ID:voKle4A5
隣の部屋では、ベットに横たわったスーザンの枕元の椅子にプーカンが座っていた。
あれほどエネルギッシュだった彼女が、ひどく弱々しく横たわっているのを見て、彼は心を痛めた。
彼女は入浴したらしく、湿った金髪が枕のうえにこぼれている。
そう、西側の文献には、レイプされた女性は皆入浴すると書いてあったな、とボルノフは思い出した。
おそらく、獣欲の犠牲になった痕を拭い去ろうとするのだろう。
プーカンがウォッカの小ビンを持っていた。そのおかげか、スーザンの顔色はだいぶ良くなっている。
ボルノフが手招きして、中尉を呼んでささやいた。
「どうだろう、会わせても大丈夫かな?」
「わたしはこんなケースを扱ったことは無いんですが、たぶん大丈夫だと思いますね。異性に恐怖する段階は過ぎてると
 思いますし―――彼女、相当にタフですね。今はショックを受けてますが、PTSD――失礼、心的外傷後ストレス
 障害のことです――の恐れはほとんど無いようです。簡単なストレス測定テストをやってみましたが、平常値より少し
 高い程度です。薬物を投与された痕跡もありますが、尾を引く影響はなさそうです。
 今の彼女には、同性の友人よりも支えてくれる異性が必要だと思いますよ」
そう言ってプーカンは片目をつむり、出て行った。
彼は壁にもたれ、存在感を消した。それは彼の特技であった。
午後の太陽が照り付けていたにもかかわらず、二人は彼を忘れた。
111北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:21 ID:voKle4A5
クレトフはぎこちなく歩き、枕元の椅子に座った。
彼が彼女とはじめて会ったとき、彼女は死を間一髪で逃れたショックから顔面は蒼白だった。
しかし、そんなときでさえ、彼女は活力を発散していた。それは、顔立ちに相まって彼女をよりいっそう魅力的に見せていた。

今、彼女は傷つき、弱々しく横たわっている。
彼の方を向く青灰色の瞳には、ショック、苦痛、疲労、悲嘆などといった表情が浮かび、彼の心は張り裂けそうになる。
カービンのフォア・ストックを握る手に力が入る。
祖国では、まあ、美しい女性が襲われているところに偶然空挺隊員が通りかかり、助けてその美女と恋に落ちる、なんて
ことを考えなかったわけではない。しかし彼は、こんなところで、この不潔な犯罪が彼の大事なひとと彼を巻き込んだこと
に憤激した。
そして苦々しくつぶやいた。
望みは、しばしば最悪の形で成就するものだ、と。

しかし、その瞳に宿る美しく、力強い光に、彼はわずかに安堵する。
無表情よりはいいのだろうか―――それとも逆か?彼には分からなかった。
何か、気をまぎらわせてやらねば、と彼は決めた。
西側の文献にはなんて書いてあったっけ?
強姦は、すべての男がすべての女を隷属させるために利用する犯罪である、だったかな?
くそ、セルゲイ、貴様は飛行機から飛び降りたり機関銃を撃つ勇気――そして銃を向ける犯罪者を射殺する勇気はあっても、
傷つけられた恋人に言葉をかける勇気は無いと言うのか!彼は自分をののしり、叱咤した。
112北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:22 ID:voKle4A5
彼が口を開きかけ、閉じ、また開き、閉じて口ごもっていると、彼女が口を開き、震える声で聞いた。
「ロマノフは…?」
「死んだ。もう、君を傷つけることは二度とないよ」
毛布から出ていた彼女の細い腕をそっと握る。
彼女は、彼の手が痛くなりそうな勢いで握り返す。
「お願い、どうか、行かないで―――あたし―――怖い―――独りになるのが怖いの」
「ああ、僕はここにいるよ」
彼は彼女の手を握り、彼女が眠りに落ちるのを見守った。
彼がふりかえると、謎めいた寡黙な友人は姿を消していた。
いらん気遣いをしやがって。
彼は苦笑したが、それが本当に不要なのかどうか、確信は持てなかった。
113北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:23 ID:voKle4A5
彼女の寝顔は穏やかだが、弱々しかった。
あの活気にあふれた女性をこれほどまでにしてしまう、強姦という犯罪を、彼は心から憎んだ。
そして、彼の想いを告白していなかったことを悔やんだ。
勢いで体を重ねることと、結婚の申し込みとは一線を画した問題だ。
もちろんそれが直接役に立つことはなかっただろうが、心の支えくらいにはなったはずだ。
実のところ、おれにはその方法がわからなかったのだ、と苦々しく独白する。
かつての結婚は、ほとんど勢いに流されたもので、気付いたら結婚していた、という具合だった。お互いに傷つき、
得たものは何もなかった。
なんていえば良いんだろう?ただでさえ難しいのに、さらにそれを英語に訳さなければいけない。

ダーリン、ここから生きて出られたら・・・
くそ、こんなのはB級映画だな。

彼は、発砲後のカービンが気にかかった。掃除したかったが、クリーニング・キットは隣室だ。彼女からそんなに離れたく
なかった。それに、目がさめたときに彼がそばにいなかったら、彼女はどんなに不安になるだろうか。
114北の鷹匠たちの死:03/10/10 17:24 ID:voKle4A5
AKS-74小銃を持ってスーザンの部屋の前に立っていた空挺隊員は、廊下の暗がりから突然現れた上官に肝を潰した。
反射の戯れにより、色とりどりの光が窓からさっと差し、ボルノフの浅黒い顔を仮面のように見せた。
一瞬、その迷彩服に太陽の断片が投げかけられ、奔放な雑色の服を彼に着せ掛けた。
空挺隊員は反応することを忘れ、ただ動物的な恐怖に立ちすくんでいた。
ボルノフが微笑むと、彼は一瞬の硬直から解け、敬礼した。
「封鎖線を拡大する。君は、あの廊下のはしで警備してくれ。私がここに座ろう」
彼は折り畳み椅子を取り出して座った。
「了解しました――――その、彼女は―――」
ボルノフはペーパーバックから顔を上げ、言った。
「転んだ拍子に頭を打ったのだ。ショックは大きいが、まあ大丈夫だろう」
ボルノフは再びペーパーバックに目を戻した。
空挺隊員は心からの笑みを浮かべて敬礼し、歩きはじめた。
しかし、彼は一抹の疑問を覚えた。あんなに暗いところで、政治士官は本が読めるのだろうか?
彼は頭を振り、その疑問を振り払った。元第14連隊の彼は、ボルノフのことをあまりよく知らない。
11548:03/10/11 00:19 ID:DLtwLjCE
>>89
「モスキート」SSM→「スイッチ・ブレード」SSM
です。
116俺の屍を越えてゆけ:03/10/11 12:32 ID:nSHPfTUu
『32』

(わたしはあなたを巻き込んでしまいました。あなたに累が及ぶやもしれません)
 お業は腕を突っ張って、打ち付ける肉棒を貪婪に欲して尻を突き出そうとする。腕を
ぴんと張っても、男の繰り出す抽送の旋律に狂わされてしまって腕が折れてしまう。
お業は首を折って、砂地に貌を向ける。男に白く綺麗な細いうなじを見せる。腕を
突っ張って、尻肉を打ち付けるあけすけな音に女陰が熱くなって長い髪を振り乱して砂を
掃いていた。

「お業……か、髪が……綺麗な髪が汚れてしまう」
「掴んで」
「掴む?」
「そう、わたくしの髪を掴んで」
お業の貌は下を向いたままで、男の抽送にぐらぐらと揺らされている。
「どうしろと……?」
男の責めが止まる。

「ダメぇ!うごいてぇ!うごいてぇ!掴んで顔を引き上げてぇ!さあ、はやくうッ!」
「だが……」
 性愛に於ける攻撃性と愛でる心とは表裏。愛していても、おんなを支配したいという
望み、攻撃性が必ずやある。愛しすぎた場合には、男は勃起しない。そのさじ加減が、
お業の罰してという言葉によって、男の中で少しずつ壊れていく。

 男は薄っすらと汗に濡れて煌めく、白い背に近づいて背骨に舌を這わせ、お業のうなじを吸う。
おんなの命を抱き締めた手は脾腹に浮き出た肋骨を撫でて、お業の薄肉を
引き上げながら脇に近づき乳房を探っていった。
「はっ、あ、あっ!」
「魂まで吸われそうだ」
「はやく、はやくうぅぅぅッ!」
117俺の屍を越えてゆけ:03/10/11 12:36 ID:nSHPfTUu
『33』

「待っていろ、お業!すぐに、叶えてあげる!」
垂れてゆっさゆっさとお業の乳房が抽送の快美の旋律をなぞっている。躰が密着した
ことで、女陰への責めは緩慢になる。しかし、それは次への波の仕込みになっていた。
男の肉棒の衝き上げがいくら緩慢といえど、お業の乳房は砂を詰めた袰(ほろ)の
揺れみたいにして振れていた。乳房の縁に触れて男は、お業のやわらかさと儚さを
手ざわりで知る。

鷲掴もうとする熱情がふつふつと湧きあがる。下から手に抱えるようにして包み、尖る
乳首を指で挟み、じんわりと搾った。あふれんばかりの白い乳房、男は見ていなくても
実感する。乳房をやさしく抱えるように揉みしだくことで、男の中の残忍な性愛のかさねは、
お業の膣内(なか)で肉棒が代わりに烈しく痙攣して掻き廻していた。

「いっ、いゃああっ!あううっ!はあ、あぁああ……!」
  髪を鷲掴みにされ腕に巻かれて貌を晒された、お業に赫い唇にほつれ毛が絡む。
その幾つかはふうっと息により舞ってはいたが、大きく口を開けても息継ぎで、ほつれ毛を
吐き出すどころか吸って呼び込んでしまっていた。
「罰してぇ……」
 乳房を揉みしだく男の手が強張る。男は驚いて、お業の貌を見た。歔くお業ではなかった。
正に罪を詫びて泣くおんな貌。罪人を厳しく詮議しているような妖しい蠱惑に取り憑かれそうになる。
愛しいおんなに、責めてみたいという願望、性愛の魔道に男がゆらいだ。

「お業を……わたしが罰しなければ……ならないと?」
 その先になにがあるのだろうと思った。罰してとお業が言った時は、戯れのひとつかとも感じたが、
そうでないことがわかった。その裏で、お業を可愛いとも。
「はっ、はい……。そっ、そうにござります」
「じゃあ、罰すれば、お業の気が済むのですね」
 裏か表か、男の中でないまぜになって、責めたいという気持ちが突き抜ける。
118俺の屍を越えてゆけ:03/10/11 12:43 ID:nSHPfTUu
『34』

「おっ、おねがいッ!」
 切羽詰った声音が男を射抜いていた。
「では、お業。両手を土へ」
「土へ……?」
「はやく!」
「は、はい」
 いつにない語気に、お業はビクンとする。樹に左手を付いて、右手を下ろす。交接したままでは
指頭しか砂地に触れなかった。

「さあ、はやく」
 やさしい低声にもどっていたが、男はズッ、ズッと子壺を突いて、お業を歔かせていた。
お業は樹から手を、指が離れそうになった時、肉棒の衝き上げに前のめりになりそうで
慌てて左指を付く。不安定な自由の効かない体位に、躰が快美の嵐に呑まれそうだった。
「脚も折ってはいけないからね。このままで逝こう」
「んっ、んああっ、あうっ」

 小さく何度も頭を縦に振る。お業の頭が小さく刻むように揺れ、男にはそれで
十分だった。
「髪は下ろすから、赦してくれ」
 お業が頷くのを確認してから、腕に巻いた髪を手早く解いて右肩から流した。お業は
首を折って抽送に備えた。躰を指だけで支え脚は膝をやや折り、これぐらいなら赦して
貰えるだろうかと爪先立ちになって、脚を張って膣内に男を受容しようとする。

  男はお業から躰をゆるりと起し、丸くなった背、脾腹に浮ぶ肋骨、乱れに淫れた髪の
眺めに射精感が込み上げる。
ひと息大きくついて尻の大殿筋に力を込めて、ゆっくりと尻を突き出してゆく。お業の
垂れた長い髪が再び砂をザッ、ザッと掃き始めた。子宮を男によって小突かれて、お業は
はばかりのない閨声を上げていた。
119俺の屍を越えてゆけ:03/10/11 12:49 ID:nSHPfTUu
『35』

 されども男は、傘を拡げ鈴口から子種をしぶかせはしなかった。気を遣ったのは、
女ひとりだけ。
 それでも死にたくないと、ぐらつく躰を顫える四肢で必死に支え堪えている業。
だが、心の中では衝き上げられる度に、ゆるして、ゆるしてと息も絶え絶えに連呼
していた、おんなの業。

 地に堕ちそうな躰を男の手が腰を掴んで引き揚げる。躰がたまらなく重い。それでも
心地よくてしかたがないと思った。
「あっ、ああ……。いやぁあああッ!抜かないでぇぇぇ!」
 お業は男が肉棒を女陰から抜去するしぐさを察知して心底慌てた。四肢で躰を
支えている為にすることといえば菊座を窄めて、肉茎に縋るだけだった。量感はたっぷりと
あって逞しい過ぎるほどなのに、あれほど逸物を締め付けたのに逝ってくれなかった男を怨んだ。

「罰して欲しいと望んだのは、お業ですよ。しばらくそのままでいてください」
「まっ、待って……。どこへ?どこに!おいていかないでぇ!」
 なれば、態をほとき、縋ればいいだけなのに出来ない業。去る男を首折って拡げた両脚の
あわいから見た。恥毛はそそけ蜜が朝露のように附着して、内腿も濡れていた。こんなにも
感じていたという証に、今更ながら自分がおんなであったことの悦びを知る。

「行かないでぇ!」
「前を向いていなさい」
 やさしい、いつもの声音だったが、何かがちがう。
「えっ?」
「羞かしくはないのですか」 「……」
 頭を下げて股間の下に男を見ていたということもあったろうが、一気に貌に血が
流れ込んできた。
120俺の屍を越えてゆけ:03/10/11 12:55 ID:nSHPfTUu
『36』

(あなたさまが……あなたが……あなたが、業をこうしたのに……あまりにも……ひどい)
 「罰して」と言ったのは、お業。ふっと嫌になったかと思えば、おんなである己のことに
また悦びを知る。はやく戻って来てと、ねがいながら、大きく息を吸い込んで瞼を閉じて
樹のほうに顔を向けた。
 どれぐらい待ったのだろう。短いようで、とてつもなく長いようでもある。天上の時に
流されたような、でもそれは渇望だっただけにたまらない。焦がれる想いで口腔に
溜まった唾液を、お業はコクリと喉を鳴らして嚥下した。荒い息と下腹の波うつうねりを
どうすることもできないでもてあましていた。

 その気持ちはやがて躰に、お業はガクガクと顫え、ヒュンと空を切る音が聞こえた。
男はお業の双臀を鞭打ちする為の手頃な枝を探して見つけてきたのだった。
「ひい――ッ!」
 お業の一声を無視して、ピシッ、ピシッ!と小気味よく尻の柔肉を打ち据える音に
空を切るピュッ!という音が切れ目なく続いた。
「いっ、痛いっ、あっ、あ……あんまり……」
「罰してと言ったのは、誰だい?」
 男は尻打ちを止める。

「はっ、はあ……。わ、わたくし……ああ……」
「そうだね。お業だよ」
 差し出された豊臀という生贄に、そこに描かれた無残な朱の刀疵のようなかさねに、
逸物は痛いほどに膨らむ。血が流れ込む度に、ドクン、ドクンと波打って滾った。
鈴口からは雫が滴って、張って煌めく錆朱の瘤に艶を加える。
「は、はい……。お業が申しました。主さま」
「さあ、なんとおねがいするんだったのかな?」
「わ、わたくしを……」
 ピュッと空を切る音がした。
121俺の屍を越えてゆけ:03/10/11 12:58 ID:nSHPfTUu
『37』

「ひっ」
 枝の鞭はただ空を切っただけだったが、お業の四肢はガクガクと顫えた。
「お、お業を……この、お業を……どうか罰してくださいまし……ああ……」
「よく言えた。褒めてあげるよ」
 男は赧く染まる尻をやさしく撫で廻した。
「うっ」
「気持ちいいかい?」

「は、はい……と、とても」
 臀部はただひりつくばかり。でも赫い華は男を欲して歔いている。すると男の手が女陰
全体を包み込むようにあてて来た。
「ああっ!」
 男の手のぬくもりにおんなが顫え、何かが込み上げてくる予兆があった。核を中指の
頭が捏ね、滑って唇の狭間の孔を掠めたとき、お業は尻をぶるんと震えさせていた。

「つづきをしょう」
「お、おねがいいたします」
 ヒュンと枝が空を切って、お業の豊満な尻をビシッ!と打ち据えた。
「んっ、ん、うっ!」
「それっ!」
「あっ、あ、はっ!」
「気持ちいいか!」

「は、はい……。あっ、痛い。あっ、いたッ……んっ、んんっ」
 お業は痛みを口にしてはいたが、やがて下唇を強く噛んで堪え始めた。砂の下には
ふたりで脱ぎ散らかした衣があった。お業の裸身はどんな物にも、景色にすら
馴染まない。馴染むとすれば男との交媾で蛇のようにのたうつ白に溶け合う刻。
そのお業の蒼白の尻に鮮やかな朱が幾重にも印されてゆく。
122俺の屍を越えてゆけ:03/10/11 20:40 ID:nSHPfTUu
『38』

 お業は痛みに貌を振り、快美感に歔く。不安定な体位が、自分の罪が、降りてくる羞恥が
痛みとなるのだろうか。神といえど、ただのおんなだった。妖気を孕んだ鞭のように
尻は枝を感じて、女陰をしとどに濡らして男とひとつになりたいと女体がまた啜り歔く。
 男の手首が捻られ、肉棒を欲した女陰に打ち据えられた。お業の柳眉が吊り上がったが、
唇を強く噛んで声を上げようとはしない。それが男を狂わせた。罪の仕打ちに女も狂う。
三回、四回……七回!と声を張り上げ始めた、お業の女陰(ほと)を打ち、男の逸物は
逞しくなって剛毛を越え天上を突いている……。

「ひぃいいッ!ああッ!あ、あッ!」
 つぶらな秘孔がひくつき拡がると、シャアアッ!と透明な湯張りが堰を切って迸って
砂地をビタビタと叩いて窪みをつくる。男は枝を投げて膝をガクッと折って祈るように
地に付くと、お業の顫える両太腿を崩れないように押え付け、湯張りを迸らせている
女陰に口吻た。
「あ、あっ、あうっ、ううぁぁぁッ!」
お業は男のしたことに悲鳴を上げた。天界の掟に赦されることの無い、背徳の
男女(おめ)の契りに端を発し、男と女の性愛の魔道に痺れる。烈しい眩暈が襲って来た。

 お業は尻を振って抗おうとはしたが、がっしりと男に両太腿を抱えられ、喉を
ゴクゴクと鳴らす音が聞こえてくるようで歓喜に咽んだ。突っ張った腕が折れそうなのに、
お業の意思がそれを拒んでいた。気が消え入りそうなくらいに羞かしい。お業は指が、
爪先が、総身を顫わして歔いた。お業は男が湯張りを、喉を鳴らして飲む様、飛び散って
あふれて頤を濡らす様を見た気がした。

男は太腿を抱えながら口を離し、手で水流を弄び、自分の下腹に誘う。湯張りを
屹立が浴びて跳ね、いま一度、本流を砂地へと戻すと陽光に煌めき、奔流はおんなの
淫絵図の弧を描ききってしまい、弱くなっていった。
男は女陰に貌を戻して、舌先でつぶらな秘孔を責めた。すべてを出し切れと
催促されているようで、気が遠のく。
123俺の屍を越えてゆけ:03/10/11 20:45 ID:nSHPfTUu
『39』

お業の芳香に、男は挿入してもいないのに子種を出してしまいそうになる。疲れた躰を
樹に背をもたれかけさせ尻を砂地に落とす、お業。膝を立て、両太腿を拡げ爛れた女陰を
お業は男に向って開いていた。仔猫が皿から乳を舐めるようにピチャピチャと音を奏でている。
お業は頤を上げて赫い唇を開いて熱い息を洩らす。細い首筋には鎖骨に繋がる胸鎖筋が
ふたつ綺麗に浮出ている。小鼻の孔が淫らに開く。眉間には縦皺がしっかりと刻まれていた。
(ああ……。尻がひりついて、針で責められているみたい……)

 お業は脚をゆるりと揺すり出し、男の貌を挟み込みはするが、快美感にまた華を咲かせる。
妖しいまでに、おんなの赫い華、お業の匂い立つような赫き唇からは、透き通るような白い前歯を
雫のようにこぼした。ピチャピチャと唾液で淫らな音を立てているのは、お業だった。貌があつい、
躰も、そして女陰が別個の生き物になって蠢いていた。
豊な乳房を快美感に喘ぎながら時折、樹から背を浮かせて胸を張って弓なりになる。
肩も上下して鎖骨の窪みが深くなっていた。もうすこし、もうすこしだけ耐えようと、
汗に纏わりついたほつれ毛を頬から払うように貌を左右に振る。

それでもまだ、両腕は伸ばされたままで、その両手は豊臀によって組み敷かれている。
ひりつく尻を庇っていた。
先刻は四つん這いになった躰を、男の腕が抱きかかえ、背を樹に押し付けられた。
仰け反って晒した首を口火に、男は上唇を擦り付けるように掛けて、乳房の谷を越え、
臍の窪みも通り過ぎ下腹一点をめざして滑り、そして責められた。

お業は跪いて女陰を貪る愛しい男の頭に両手を置いて、髪を掻き毟った。男はお業を
仰ぐと、豊乳が両腕に挟まれてひしゃげた悶えるおんな艶絵図を見つけ、肉棒を
ビクンビクンと烈しく痙攣させる。
その昂揚がそのまま女陰の責めへと向った。男の責めについに、耐えられなく脚を
顫わせ擦り堕ちてゆく。白い背は擦られて赧くなって。雫の術は使いたくなかった。
痛みが悦楽へと、お業の躰の中で人知れず発酵してゆくのだから。
124俺の屍を越えてゆけ:03/10/11 20:51 ID:nSHPfTUu
『40』

 躰は喘ぎ切っていても、意識のお業は自分の股間で揺れる男の黒髪をぼんやりと
見ていた。あのまま樹を抱かせてくれて、男根で突き立ててくれればよかったのに
と思いながら。
背を樹に付けたままで、太腿を抱かれて突いて欲しかった。後ろからなら、ひりつく
尻を抱えられて、突かれて衝かれて、そのままお洩らしをしていたかもしれないのにと、
お業は瞳に艶を湛えて。

 気を失ってしまったことを悔いて唇をいつものように噛もうとしても、気力が湧かない。
天上で眠りにつくような気分なのだ。だらしなく惚けた瞳と唇を力なく開き、唾液で頤を
濡らして乳房の谷間に滴った。
 もう、湯張りは清められてしまって味覚は感じないのだろうかと、お業は馬鹿なことを
暫らく考えていた。たぶん、今は男の肉棒を欲するおんな蜜だけなのねと、尻の下の
手を抜いて拡げた内腿に添える。

 外側から腕を廻してお業のむっちりとした太腿を抱きかかえている男の手の甲に
覆い被さった。無心に女陰を貪っていた男が、やさしく被さる、お業の手を感じてか、
手を返し指を絡めようとする。そのふれあいが、お業にはたまらなく嬉しかった。
態勢から無理に強く握らない、絡めあうだけの指の情交だった。
 それから男の黒髪に、お業は手を置いた。爛れる女陰に男の唇を引き込むようにして
前に引き摺り、撫で廻して指を髪に絡める。自分だけの悦楽から、男の耳朶にも触れて
みる。そう、己の女陰を慰めるようにして。これも自分の為なのかと、女陰から蜜が
あふれた。

 耳を外から内へ指をそっとなぞって、親指と人差し指で耳の尖りを捏ねる。男の舌が、
お業の核(さね)を舌先でそっと突く。足の指が内側に曲げられて、土踏まずに皺を
つくっていた。
「あぁ……、あ、はあ……」
 濡れた切ない吐息が股間に蠢く男の頭に降り注いだ。
125俺の屍を越えてゆけ:03/10/11 20:55 ID:nSHPfTUu
『41』

「あ……。あなたさまは……わかっておられない」
 お業の投げやりではなかったが、気だるい間延びしたよう声が男に掛けられた。男は
蜜にべっとりと濡れた唇を晒し、その貌でお業を仰ぐ。
「わかっているつもりです」
 お業の指が男の唇をそっと這う。そして返し、手の甲で唇についた愛液を拭ってやる。
「あなたさまは、天上人を愛したのですよ」
 哀しい瞳。ただ、不安なだけならいいのだけれどと、それでもこのことは男に言わない
わけにはいかなかった。

「別れたいのですか!お業はわたしをうとましく思って……」
 めずらしく声を荒げて、おんな心がゆれて遮った。
「いいえ。別れたいなどとは思ってはいません」
「本心ですか?」
「はい。誓って偽ざる気持ちです」
「でしたら、もういいではないですか。もう、よしましょう」
「よくないのです。このままで済むと思うてはなりません。必ずや神々の刻の報復、
火の粉が降り掛かるはずです」

「刻の報復?」
「わたしは天界に逆らったおんなです。天界の時は永劫の流れのなかに。きっとその
報復があるでしょう」
「火の粉ではすまないのですね」 
「……」 
 お業にはそれ以上、なにも答えられなかった。永劫の刻の、その神々の思慮、推し量ることは難しい。
「たぶん、頭では判っているつもりでも、最期になってみなければ、それはわからないのでしょうね」
126俺の屍を越えてゆけ:03/10/11 21:00 ID:nSHPfTUu
『42』
 
 男の言葉だった。それは等しく、お業の気持ちでもあった。男は躰を起して、唇でお業の雫を吸う。
「あなたを離すつもりはありませんから。ひとりで還られたなら、一生お恨みしますからね」
「最期まで傍にいさせて。お傍にいさせてください」
 開いた赫い唇に男の唇がやさしく被さる。蕩けるような感じがした。男の唇がこんなにもやわらかく、
ぷりっとしているものなのかと、柳眉が切なく寄る。男の唇がゆっくりと離れた。自分の唇が弾力で
元に戻り、離れる刹那に女陰が蜜で濡れる。

「潮の味がしませなんだか?」
 お業は唇に流れついた雫とばかり思っていたが、先刻の湯張りのことを浮かべ貌に朱を刷いた。
「ばか……。いじわるなのですね」 
「ばかですか」
 いくらかの間があったかもしれない。気まずいことなどなかった。むしろ、心地いいものと
ふたりは感じ合っていた。

「ゆるしてくださいね」
 お業が先に口を開き、男は力強く心に届けと祈りを込めて言葉を発した。 
「お業、あなたを孕ませてみたい」
 男は今の偽ざる気持ちを、お業へとぶつけた。それは、あまりにもあけすけな言葉なれど、
お業の心に響いて何かを決めさせる。これからの道が静かに重なり合う。

「そういうふうには言わないで……」
 男の背を、肩甲骨を、肩を撫でていた手が頭を掻き抱いて、お業はもたれた背を樹から外し、
脱いだ衣の上に裸身を横たえる……。
「あっ、あっ」 
 男根が、お業の肉襞を引き摺っては、絡みつき、そして掻き廻し、淫に蕩け合う。
閉じた瞼を開き、天上を見る。何度と躰を重ね合って、取った仕草だった。
127俺の屍を越えてゆけ:03/10/12 03:37 ID:HQlN+rnW
『43』

「わたしはお業を孕ませる」 
 男の低声が花芯に響いてきた。お業の中が歓びにあふれる。男は膣内に力強く突き入れた。
「ああ……ッ!」
 歓喜の声を上げて、お業から烈しい口吻を仕掛け、閉じた瞼の眦から雫が伝い耳朶を
濡らす、お業の夢の記憶。しかし、お業は夢に生きることは赦されなかった。


 捨丸は白い腰布だけを巻いた姿になって、白い女の裸体を肩に担ぎ湖へと進んでゆく。
捨丸は浅黒い肌をしていて担がれたお業の白さを、それだけで蹂躙する。相翼院からは
女官たちが出てきていて、討伐隊が連れてきた男へと群がった。
捨丸は振り返り、その異様な光景をチラッと見た。帝が相翼院に遣した女たちも神々が
憑依したものだった。男の衣を剥ぎ取り、浅瀬にぐったりとした躰を引き摺るようにして連れ込む。

首を折って貌を逸らしている男の頤を掴んで、唇を掠める。ある者は、手に巻かれた血の
滲んだ布を取り、ケタケタと笑い出す者もいる。また白い手が伸びてきて、傷口に水を
掛けると、火傷の痕は跡形もなく消えていた。そして、傷口を洗った女は唇を寄せて舌で
舐め廻し始める。男は腕を痙攣させて、低く唸ると笑っていた女がまた声を上げた。
しかし、異様といえば担いだ、お業の白い躰と長い髪に附着した血。既に乾ききって
いて朱は錆朱へと変っていた。捨丸は垂れるお業の乳房を引き千切るようにして鷲掴む。
その乳房も血に塗られて無残さを晒す。

「んんっ……」
 起さない程度で手を離し、仰向けに湖水に躰を浮べさせ、沖へと泳ぐ。透明な湖水に
血の雲が妖しく拡がっていったが、お業の肌は元の蒼白の彩りを取り戻していた。
そして、湖水にでも癒されたのか左の肩甲骨の大きな傷は小さな引っ掻き疵のように
なってしまっていた。
 捨丸はお業の唇に口吻をして、右手で、お業の右太腿を掴み、流れに身を任せている
為なのか、いまだ正気を取り戻せずに、なんなく脚を拡げられ浮遊し、指を女陰に遣わし、
水の中でぱっくりと鮮やかな柔肉の華が咲かされる。
128俺の屍を越えてゆけ:03/10/13 02:38 ID:cJlQbVa9
『44』

「んあっ……」
お業は赫い唇を薄く開いて低く呻きを洩らす。冷たい湖水に浮遊し、躰は男と情を
交わした日々の悦楽に浸っていた。そして、先刻の武者凌辱の残滓を、お業の
秘所を弄びながら捨丸は掻き出している。
「おい、そろそろ起きねぇか。起きろってんだ」
 お業は瞼をゆっくりと開いた。水に浮んだ乳房が哀しみに揺れ喘いでいた。夢は
終わったと涙した。だが、夫の瞳は覚えていても、血を流して悶える様は消えていた。

「おめぇの愛しい人は生きている」 「だから……」
「鈍い奴だ。これから、この捨丸がつがいで愉しませてもらうのさ」
「そう……」
「捨て鉢になるのもいいがな、帝室ごっこのガキは生きているんだろ」
「……」 「生きて逢いてぇだろうよ」

 お業は星々の煌めく天上を見ていた眼を捨丸へと向けた。躰を委ねているわけでは
ないらしいが、四肢を流れにまかせ漂う裸身、漆黒の闇の中では見えはしなかったが、
捨丸にはしっかりと焼き付いていた。
「月が雲に翳ってるのが惜しいよな」
「あんたらにゃ、見つけられないさ」 お業は、また瞼を閉じた。

「まあいい、好きにしな」 「……」
「ひとつ、言っておく。みぎわの松明の掲げられているところを見てみな」
 お業は緊張で躰を強張らせる。もうぼんやりと橙色の火しか見えなかった。
大分、沖に来ている。相翼院の本院をめざしていた。
「手当てをしているとはいえねえなぁ、ありゃ。おめぇに嫉妬してるんじゃねえか?」
「なっ、なにをしたあぁぁぁッ!あのひとになにを!」 お業の記憶に乱れが生じていた。 
 お業は神として、女として見ても男に色恋の勝負では負け、ぞっこんだったかもしれない。
しかし、天女であるということ、そして掛かる災厄を告げたことで、お業は皮肉にも勝てたの
かもしれなかった。お業は今、張り裂けそうな想いで男を失いたくないと心で叫んでいた。
129俺の屍を越えてゆけ:03/10/14 02:27 ID:meTf0vCC
『45』

「そのツラだ!お業、待ってたぜ!」
 お業は無理やり躰を曳きつけられた。
「はっ、離せぇ!」
 開いた口に湖水がなだれ込んでむせた。それでも、お業は拒絶の叫びを上げて抵抗するも、
ただ捨丸の呼び水になっていただけだった。捨丸は腰布を解きに掛かり、肉柱をお業の
腰に擦りつけながらギラッと闇の中で瞳を狂気で光らせながら、お業の頭を沈める。

「どうだ!死ぬ気なら殺ってやっても、いいんだぜ!」
 捨丸はお業の頭を押さえつけて、湖水に沈める。お業の手が捨丸の腕に絡みつき、
掻き毟るが、それすらも嗜虐の愉しみに昇華してゆく。
「かはっ、はあっ、あ……」 「生きて逢いたいだろ、え?返事をしろッ!」
 ザブン!と、お業はまた沈められた。捨丸も潜って太腿を抱え、剛直を突き立てた。
暴れ叫ぼうとするが、声は気泡となって水面へと上がっていくだけ。しかし、お業には声
を出す余裕など実際はなかったかもしれない。

 捨丸の肉柱が挿って来る嫌悪、大江山の血の出来事の記憶が蘇り、それに関わる
さまざまな感情がないまぜとなって明滅しては浮き上がり沈んでいった。そして剛直が
秘孔へと刺さってくる。口から臓腑を吐き出しそうな量感が女陰を襲う。
 お業は捨丸と水の中で躰を繋がったまま、腰布で逃げられないように縛られひとつにされる。
そして脚を掲げられて交差した状態で脚も括られてしまった。お業は既に、その頃には
気を失っていた。捨丸は頃合と見るや、水面を目指して手で掻き、足を蹴った。

 お業は捨丸に抱きかかえられてはいたが、泳ぎに逆らうように頭を仰け反らせ、腕も
しがみつくことなく浮遊に任せ切っていた。それが僅かばかりの残された抵抗だったの
かもしれない。
 水面に上がると、相翼院の本院への橋に傍に辿り着いていて、捨丸は朱色の梁に
両手を掛け、お業の女芯を突き始めた。松明のゆらぎに、お業の貌が照らされぐらつく
中で水をとろりと吐き出し息を吹き返すも捨丸の余興としかならない。
130俺の屍を越えてゆけ:03/10/14 02:33 ID:meTf0vCC
129
訂正・四段四行目 橋の傍に
凡ミス、すみません。
131俺の屍を越えてゆけ:03/10/14 12:42 ID:meTf0vCC
『46』

 捨丸は橋の朱の梁を掴みながら、お業の躰を裂いていた。人の感覚と憑依した神威の力で
天女を嬲る喜悦のなかにあった。意識を取り戻しつつあることにも、捨丸に拍車を掛けていた。
おんなの都合を考えず、しゃにむに衝きあげる。お業は律動でぐらつく貌を横にして、
呑み込んでいた水を吐瀉する。
 捨丸の腰布でひとつに縛られている躰から後ろに脚を組まされて足首を縛られている。
その細く長い、人とはかけ離れた綺麗な足の指が微かに動き、内側へとクィッと曲げられる。
お業の躰と心を裂くことに捨丸は執心する。

「思い出せ!おれが、おまえになにをしたか!起きろ!起きろ!」
 漆黒の波が吹く風で立っていたが、邪念で操られているようでもあった。
「裂け!ほれ、叫んでみろ!おまえを裂いた捨丸だ!そいつは、いまなにしてる!見ろ!」
 嬲っても、穢しても、その神々しさを失わない、お業に捨丸は憎悪にも似た感情を
ぶつける。お業の足の指がまたピクッと動いていた。女陰の疼痛に目覚めようとしていた。

 裂く!捨丸はそう叫んで濡れていない、お業の躰を刺し貫く。あらかじめ凌辱の残滓を
掻き出しておいたのも、そういった意図からでたものだった。
 お業の躰が擦り落ち、顔が下がってゆく。捨丸は頤を引き、お業のゆれる美貌を
見詰める。しかし、抽送の手は緩めはしなかった。お業の長い睫毛がふるふると顫える。
閉じられた瞼の下の眼球もぴくぴくっと痙攣していた。
 捨丸は顔を横にして肩に頬を付けそうになっていた、お業の躰を引き揚げる。その美貌は
闇にあっても、相翼院への橋のかがり火にゆらゆらと照らされ、その白い肌が目に
焼き付くのだった。

「んんっ、うっ、う……」
 浅黒い肌に捻じ伏せられ、白い柔肌は蹂躙されても闇夜を裂いていた。捨丸は黒く
染めることの出来ない自分に苦笑しながらも、嬉しくなってくるのがわかった。
「ほれ、ほれ、起きろ!起きて、闇夜を裂け!裂いてみろ!お業!」
 捨丸は梁から右手を離し、水面に揺れるお業の右の乳房に顔をよせて唇に含んだ。
132俺の屍を越えてゆけ:03/10/14 13:17 ID:meTf0vCC
『47』

 歯をキッと立て引っ張り出した。お業の乳房の肉が捨丸の口に引っ張られ吊り上がって、
離される。次には乳首にむしゃぶりつき舌で嬲り、甘咬みの流れを繰り返した。律動も
小刻みなものへと変化していた。
「はっ、あっ、ああ……」
「いい貌してるぜ、惚れ惚れする」
 お業の中にさまざまな感情が一気に雪崩込んできた。水面が跳ね、お業の右手が躍った。
人差し指が捨丸の左目を突いていた。捨丸は子壺を思いっきり衝きあげた。
「あぁあああッ!」
 ドスン!という衝撃が秘奥を突き抜け、躰が壊れそうな疼痛に、お業は仰け反る。捨丸の顔、
左目からは鮮血がパパッと飛び散ったが、お業の手を跳ねて湖水を手で掬って顔に
もっていくと見る見るうちに回復していた。もう、容赦はしなかつた。お業は捨丸の剛直の
責めにのたうった。

「その娘は?」
「この娘は我が子。そして、わたしの地位を継ぐ者です」
 夕子は手を引いていた少女の目線に降りると、腕に抱きかかえる。
(正しいことをやりたければ偉くなれ)
 そう教えてくれた男のことを太照天・夕子は想って声を発する。傍に控えていた、
お風が瞼を開いていた。彼女の見えない瞳が開いて、その場にいた神々を恫喝し、
それが誰の子かという詮索を遮る。
 大江山で起った惨劇は忌み嫌われるもの。人に対しては同情の念を持たない神でも、
お業にした行為に関しては捨て置きがたいものがあったにちがいない。天界には女もいた。
平たく言えばそういうことなのだ。

「われとともに来ぬか」
「戯れでわたくしを誘うのですか?」
「たわむれ……か」
133俺の屍を越えてゆけ:03/10/14 13:20 ID:meTf0vCC
『48』

 男の貌は変らない、穏やかなものだった。
「わたしには立場があります」
「そうよの。ゆうはよくやっている。良きことを成し遂げたければ、極めよと言った
わたしの言葉を実践したまでだ」
 夕子の顔はおんなになって俯いていた。氷ノ皇子の冷たい手が伸びて
太照天・夕子の頤を手に取って上げさせる。しかし夕子の瞳は伏していた。
「わ、わたくしは……どうすれば……どうしたら、いいのです……」

「望みを捨てるな。さすれば開かれる」
 あなたを取り戻したいと願っていれば、いつしか叶うのですかと問うてみたくなる。
「わたしはあなたを失わねばならないのですか」
「お風が力になってくれる」
「そういうことではないのに……」
「そういうことなのだ。ゆうが手にした力は万人が手に出来るものではないのだよ。
やっとの思いで手に入れたのだろう。後悔するな。そして思い出せ。乙女の頃になにを
願い、なにをしょうとしたかったのかを」

「あなたがいたから、強くなろうと思ったのに」 「なれたではないか」
「わたしは、もう昔の乙女ではないのですか」
「すまぬな、ゆう」 「わたくしがあなたさまの、慰めの場とはなりませぬか」
 氷ノ皇子の笑みが近づいて、夕子は瞼をそっと閉じる。男の触れてくる唇の冷気が
夕子には痛かった。夕子が天上を束ね兼ねていたといっても、その意味ではまだまだ
大きな力があったといえる。だが、夕子はこの現状を憂いていた。支えだった氷ノ皇子は
天界の闘争に嫌気がさして夕子を置いて出奔したのだった。それでも夕子は
立ち止まることを赦されない身。この大江山の出来事を利用して次の手に打って出た。
「この娘の名は昼子。我が子、昼子」
 昼子と呼ばれた娘は、夕子の顔を見下ろしていた。
134俺の屍を越えてゆけ:03/10/14 19:36 ID:meTf0vCC
『49』

「うむ」と、お業は低く唸って白目を剥いた。お業の乳房はドスッ、ドスッと打ち付けられる
苦悶で烈しく上下する。乳首を嬲られて、官能を無理やりに引き摺りだそうとしていた
捨丸の、お業への恥戯は砕け散っていた。
 お業の切れ長の瞳が白目を剥いたまま、数回まばたいた。柳眉がより吊りあがって、
眉間に深い縦皺を刻み、また低声で喚く。お業の投げ出して揺れていた手が捨丸の
首へと絡まって、逞しい背を撫で始める。

 お業の貌は仰け反ったままで、薄い唇を開いて唾液を垂らしている。捨丸はお業を見て
梁を掴んでいた手を強張らせ、湖水から繋がった躰を引き揚げ、土ぐものようにして橋を
上がってゆく。欄干にまで上がったところで、白目を剥いていた、お業の橙黄色の瞳が
戻って、ぐらつく頭を上げて微笑み捨丸の肩に貌を埋め、背に爪を立てながら首筋に歯を
あてた。
 捨丸は笑っていた。生温かい捨丸の血が乳房をひしゃげさせている隙間へとたらりと
流れ込み、お業の肌をふたたび血で穢す。捨丸は欄干を跨いで橋の上に立った。
 お業の腰のくびれに巻かれている捨丸の腰布も血に塗られていく。捨丸は摺り落ちる、
お業の臀部を左手で支え、ぐぐっと躰に引き寄せる。お業は苦悶に貌を歪めて、
咬む力が弛緩する。

「どうした、お業?もっと咬んで、噛み千切って俺の肉を喰らえ!」
 お業の口から完全に力が抜けてしまっていた。
「なぜ、やめる、お業。憎くはないのか」
 捨丸の右手が、お業の血に濡れた唇を晒す。髪を掴んで鬼女となっている、お業の貌を
かがり火に晒した。お業は血を呑んでむせ返り、息継ぎを小さくした。
「はあっ、はっ、はっ……」
 捨丸の胸板に押し付けられていた豊な乳房があふれるように躍り出て、白から赧く
染まってゆく。血に濡れた乳房を絞りたいという、総身の血が逆流しそうなまでの衝動を
捻じ伏せ、捨丸はほっそりとした尖った頤に付いた血を舐め、口腔に舌を挿れる。
お業に咬んでみろと挑発した。
135名無しさん@ピンキー:03/10/15 11:26 ID:ExxbZUMk
age
136俺の屍を越えてゆけ:03/10/17 14:00 ID:QqYvZCCv
『50』

 みぎわでは、お業の夫を女たちが群がって淫楽に浸っていた。女官たちに憑依した神々と
浮世に弄ばれ続けたおんなの想いが溶け合って嬲っていた。
「ううっ……」
「おや、意識を取り戻しそう」
 ひとりの女が男の左肩を掴んで引き起こし腕を縛ろうとする。
「縛れるかい?」
 男には左手が無かった。言われた女はケタケタと笑い出す。それでも、無理やりに腕を引き付けて
ぐるぐる巻きに縛った。そして、男の逸物をしやぶろうとしている女もいた。腿に両手を強張らせ、
指を拡げて爪を立て内腿に潜って付根に向って引っ掻いていく。

「ああっ」
「ほら、お口がお留守だよ」
 別の女が男の貌を跨ぐと、膝立ちになって濡れそぼる女陰で呻いた男の口を塞ぐ。
「噛み切ったりしたら承知しないからね」
 男の躰から力が抜けていった。
「お業のことを思い出したかい。だったら舌をうごかしな。ほら、さっさとおしよ!」
 男の貌に女はぐりぐりと股間を擦り付け、髪を振り乱して己の乳房を揉みしだきながら、
首を捻って肉茎をしゃぶっている女に向って言葉を吐く。

「噛み切るんじゃないよ、タコ」
 おいしそうにしゃぶっていた女はむっとして股間の縫工筋に親指の爪を立てて掻き斬る
ように押し込んだ。
「んんっ」
「こら、噛んでもしたらどうすんだよ、お墨!」
 ふんという貌をして、女は肉茎を赫い唇から吐き出し、指を絡め秘孔にあてがって、
ズッと呑み込んだ。
「あんたの膣内は気持ちいいとさ」
 肉柱を躰に沈めた女は、女陰を男の口に擦り付けている女の肩にすがる。
137俺の屍を越えてゆけ:03/10/18 19:09 ID:5Mh66wug
『51』

お墨は臀部を左右に揺すって、後ろに立つ女を誘った。その女の躰付きは華奢で交媾を
連想させるものからは、遥かに遠いところにいた、おぼこかと見まがうほどに愛らしい。
その女に黒髪をおかっぱにした、清楚な黒い衣を着た女の影がぶれる。女は大きな瞳をし、
黄金色に妖しく輝かせ右手には鬼の角より作られし、朱に塗られた相対張形の淫具を
握っていた。

 廻りを囲むのもおんな。それらが掲げる松明に照らされ、張形は血のようにぬめって
いた。お墨は早く来いと、尻を上下させてから、もういちど左右に振ると下の男が呻いた。
肉柱を模した淫具から垂れるのは無垢の白い紐。女は小振りな尻をやや落として細い
拡げると、頤を引き己の細い指で露に濡れる華を開き、秘孔に尖端を埋め込んで両紐を
のくびれに手早く巻いた。下から最後の紐が尻をくぐって腰の結び目に、しっかりと留め
られる。そして、肌に無垢の白を馴染ませ――「んんっ、んはぁ……」――熱い吐息を
洩らした。

「紅子、はやく……愉しませて」
「わかりました」
「男の菊座はとっておくんだよ」
お墨は紅子に尻を大げさに振って、男の口に女陰を擦り付けている、お涼の撫で肩に
赫い爪を立てる。
「はい、そのように」

前にいた、お涼には膝立ちになった摩利が炎の肌を凍える肌に蕩けさせ、乳房と唇を
重ね合っていた。お涼にはわかっていた。時期にお墨の爪が鋭く食い込み、背を掻き毟って
悶えること――それが、お涼の愉悦。
お墨の唇が、お涼の首筋を這い、紅子の咥えた朱色の張形がひくつく、お墨の紫苑の
窄まりを押し拡げていった。首筋に絡まる赫い唇が咲いて――「あぁああ……」――お涼の
氷の素肌に蕩け切った閨声が降り注いぐ。肩に刺さる赫い爪がぐぐっと、お涼の背に廻され、
魔利を愛撫して蠢く肩甲骨の薄肉を掻き毟っていた。
138名無しさん@ピンキー:03/10/18 21:00 ID:1KrK7uy9
往来往来!!
俺屍さんがんばって〜
139俺の屍を越えてゆけ:03/10/20 02:30 ID:0hp7vjtw
『52』

「昼子……?」
 少女はそう呼ばれて不思議そうな貌をしていた。
「わたしはイツ花」 「人へと流れる花」
 夕子は抱いた少女を見上げると、その娘はふるふると顔を左右に動かす。
「わたしは、桔梗の五つ花弁の逸花なの」
 イツ花はそう言ってから、自分を抱いている女性が桔梗の花の色と同じに、青紫の衣を
纏っていることが印象付けられ、繋がりめいたものを感じていた。
「蟻の火吹きのことかい?」 「火吹き……?」
「蟻が咬むと赤く変るからよ」 「花が赤く変るの?」
 イツ花の躰に、さむけが駆け抜けた。躰から血がドクドクと流れて力が抜けていく。

「母さま……。母さまあぁああ……」
 イツ花は太照天・夕子に抱かれながら哀しい声で呼び、あたりをせわしなく見廻す。いつもの
付き人の顔とは違う人外の者までもいた。少女は急に心細くなっていった。その怯えた風のイツ花の
手を夕子の手がやさしく包み込んだ。
「わたしが、そなたの母となりましょう」
「あなた……さまが、わたしの母さまですか?」

「落花した花、いまいちど咲かせて、現世を照らしておくれ。白い華、淡い紅色でもいいから…
…いまいちど、咲いて」
「あなたさまでしたのね。花に語りかけると、いつもいつも答えてくれていたのは……」
「咲いて散るだけが花ではないのです。いのちは紡がれるもの。昼子、あなたの華を咲かせて。
わたくしに見せてちょうだい、おねがいだから」 「……」
「昼子、自分の華をいまいちど咲かせなさい。どんな小さな望みでもいい。自分にとっての
大きな糧となるのなら、わたくしがその力となりましょう」
 夕子は座の者たちにはっきりと聞こえるように、昼子に言って含み、少女は天上の逸花となる。
140俺の屍を越えてゆけ:03/10/20 02:52 ID:0hp7vjtw
もう誰もいないと思っていたので
うれしいです。
ありがとうございます。
141俺の屍を越えてゆけ:03/10/20 14:21 ID:0hp7vjtw
『53』

「黄川人は……、夕子さま?キツトはどこに……」
 イツ花があたりを見廻せども、弟の姿は見当たらない。
「お業が守っているようです」
 夕子の貌が曇りだすと傍に控えていた、お風も瞼をそっと閉じていた。
「どうして、どうしていっしょに助けてくださらなかったの!」

「これ、イツ花。おいたが過ぎるぞ」
 お風のきゅっと噤んでいた、鴇色の唇が開く。夕暮れの朱に染まった野原が錆色に
イツ花の中で変化していった。陽がみるみる落ちて、躰から精気がこぼれるように
流れていくのがどうしょうもなかった恐怖と後悔。自分があまりにも非力であることを呪った。
 絶えず書物の中で力とはなんなのかと自問していたのに、いざその場面に直面してみて、
なにも守ることの出来ない力だったことをイツ花は知る瞳の色。
「お風……」
 夕子がやんわりと、お風を咎める。イツ花は夕子の腕に抱かれながらおとなしくなって
うなだれ、ぎゅっと瞑った眦からは雫がこぼれた。

「おきゃんなイツ花はどこに……強くなりたいのでしょう?」
 イツ花はコクリと夕子に頷く。
「いっしょに、黄川人をさがしましょう」
 また、コクリと頷いて、震える躰からは嗚咽が洩れ始める。キツは桔梗のキツ。そして
花開くの祈り。黄は黄色の花。川の流れに人の環に辿り着き、永久に魔物を払い人々に
すこやかにと願った、お業の心根。それを踏みにじるのは誰。炎が生まれ少年の髪は
からくれない色。

「お風、あとは頼みましたよ」
「かしこまりました。夕子さま」
 事後の処置を早急にする必用があった。しかし、その件に夕子が関わらなかったのは
黄川人の存在だった。第一級重要事項として望まねばならないことと考えていた。その
意味では無残と思いながらも大江山のことは切り捨てていた。
14248:03/10/20 14:51 ID:p7XSfq/O
>>140
毎日楽しみにROMってます。頑張ってください!
143俺の屍を越えてゆけ:03/10/21 19:46 ID:v9gsiZpE
『54』

 女たちは男を喰らう鬼となっていた。神々が人に憑依して人の男を玩弄し、妖しい渦に
呑み込んでいこうとする。紅子が鬼の角から削り出した朱色の張形で、お墨の菊座を
衝けば、紫苑の素肌がすみれ色に喘ぐ。男の肉柱をぎゅっと絞り「はあぁぁぁっ」と
赫い唇を大きく開き、お涼の黒みがかった薄い青色の肌を引っ掻いていた。その掻き傷は、
ひとつやふたつではなかった。その、お涼は女陰を男の口に擦り付けながら火の神・摩利に
肌を委ねる。

「お涼、そろそろおしまいにしないと、やばくないかい」
 からくれない色の手が淡青色の揺れる大きな乳房をきつく絞る。
「ううっ、いっ、いいさ」
 冷たい表情の、お涼が濡れた声音を洩らすたびに、蜜が男の口腔へと流れ込んでいた。
「なにが、いいんだよ」
 首筋にお墨の貌が絡んでくる。
「お業を相手に、子まで……こさえたんだ」 「だからぁぁ?」
「だから、わたしらの……玩弄にも耐えるっ……あっ、あ、あぁああッ!」
 摩利が乳首を、お墨が耳朶に甘咬みをする。

「お涼……でもこいつは……あたしの膣内で……気を遣るつもりは……」
「そうなの……かい?わたしにも、舌はつかってはくれないね」
「じゃあ、呑んでないのかい?」 「みたいだね」
 男に群がる女たちが笑い出し、周りの男たちも笑っていた。風が出始めて、松明の炎が
揺らぐ。

「紅子、この男の……菊座を……突いてやりな」
 摩利が声を掛けると、お涼が貌を捻って後ろを向く。
「だ、ダメだよ……。そいつは、お業にやらせるんだ。とっときな」
「それでしたら、あとでわたくしに、鈴口を松の尖りで嬲らせてくださいな」
 腰を振り、お墨を揺らしながら、息も乱さずに澄ました声で紅子が言い、環はどっと
嗤いに包まれる。
144俺の屍を越えてゆけ:03/10/22 17:57 ID:AWXP7bnC
『55』

 火に照らされた裸の女体が男の裸身を嬲るみたいに手が蠢き――。
「お業に操を立てたのかい?」
嗤いながら、ぐったりとしている男の貌を舐めるように手で撫で廻し両手で支え、多くの
者たちが群がって白い衣を着せると躰を担ぎ上げ、相翼院への橋をぞろぞろと渡り
始めた。男を玩弄していた女たちもそれに続く。
「なにをしておる、紅子」
 背の掻き傷を白衣で隠した、お涼が声を掛ける。 
「だから、よさそうな松葉をひろおうと思うております」
 少女のような、間延びした声音が返って来た。 

「そんなものはよいではないか」
 万珠院・紅子の神格は憑依した人間に取って変り、男のおもちゃにされ続けた少女の
人格が表面化し、神の怜悧は皆無になる。 
「せっかく、おねがいいたしましたのに……」
「松葉でなくとも針でもよいのだろう?」
「よいのですか、お涼?」
「死するものに、なんの気づかいがいる」
「殺されるおつもりですか?」

「禁を犯したのではないのか」
「では、わたしたちは」
「そのようなこと、どうでもよかろう。ほれ、紅子、いくぞ」
 お涼は紅子の疑問に、にべもなく答える。
「うれしい。終夜、淫楽に耽ることができますのね」
 会話が噛みあっているのか、いないのか。持っていた松葉を夜闇に放り投げ、紅子は
衣を羽織り、お涼に続いた。紅子の楽しそうな黄金色の瞳をかがり火がきらきらと
照らしていた。
145俺の屍を越えてゆけ:03/10/22 21:40 ID:AWXP7bnC
『56』

 陰裂に肉柱を咥え込まされ、お業の躰と両脚は身動きできないよう腰布で縛られていた。
更に左腕で背を抱かれ右手で髪を掴まれ、けもののような舌を口腔に捻じ込まれている。
相翼院の橋の上、大江ノ捨丸は仁王立ちになって片羽ノお業の闇に浮かび上がる蒼白の
肌の尻を抱えて裂きに掛かる。湖に躰を浮かべ梁にしがみ付いて、磔にして散々に刺し
貫いても捨丸は満足しなかった。魔物、土ぐものようにして、お業と交媾したままで梁を
よじ登って橋の上に立っていた。

 かがり火の下、浅黒い肌と雪肌が混じり合うことなく闘っている。呑まれまいとしようと
堪えるが、軽く腰を振られるだけで邪悪な蛇の鎌首が子壺を舐めてくる。お業は橙黄色の
瞳を見開いて捨丸の舌に歯を立てた。先刻は捨丸の首筋に歯を立てて血を滴らせ、その
生温かさが重なった肌と肌の隙間に忍び込んでくる。凌辱と性愛の境に蕩ける。大江山で
夫の瞳に死を覚悟したはずなのに、ひとりになると心細くなり揺らいでしまう。

 術を掛けて跳ばしたとはいえ、黄川人のことも心配だった。心配……、イツ花を目の前で、
この捨丸に斬り捨てられ、いまは尻を抱えられてこんな格好で繋がらされ、お業は
口腔を蹂躙する捨丸の舌を噛み切ろうと歯に力を加える。捨丸の躰に己から抱きついて
いって廻した背に爪を立てて、肌を裂こうとして食い込ませた。
 遠くから、一団の列が近付いてくるのが視界に入った。お業の目からは涙があふれ、
諦めたように瞼を閉じ、眉根をよせて長い睫毛を顫えさせる。近付いてくる一団はみぎわに
残されていた夫だとすぐにわかった。

 まるで亡者が光を求めて彷徨っているようにも思えた。意を打ち明けたことを烈しく
後悔する、お業。諦めて現世を逃げていたらよかったのにと、自分の及ぼした累に泣き、
お業の気力が萎えた。
 見透かしたように捨丸の手が、お業の長い髪を掴んで、腕にくるくるっと巻いて、
苦悶の貌をかがり火に晒す。
「どうした、俺を噛み切るんじゃなかったのか?」
「いっ、いやあぁああ……。いや、いやぁぁぁぁ」
146俺の屍を越えてゆけ:03/10/23 20:52 ID:M6xVl0GW
『57』

「おぼこみてぇだぜ、お業!」
 捨丸が摺り下がる豊臀を引き揚げ、喉から臓腑が飛び出しそうな衝撃が、お業を見舞い
さむけにではなく邪な気に、きめ細かな肌がそそけ立った。
「あ、あっ、あぁああああ――ッ!」
 堕ちた天女の喚きは相翼院の漆黒の闇夜を切り裂いて、遠くに望む大江山を灼く天空を
摩するが如くの炎とともに一気に駆け上がっていった。お業の耳にも、朱に塗られた橋の
かがり火が立てるハチパチという音が落城の地獄絵図を甦らせる。
 大江山の火ノ粉は更に昇って舞う蛍となり、やがてはひとつに淘汰され、お業の
これからを暗示して、ふっと掻き消えていった。捨丸はお業の喚く貌を覗き込んで、
あえかなる華を手折る快感を無上の悦びとした。

 お業の夫を掲げた一団が近付く。お業は狂ったように躰を揺り動かした。しかし、お業の
抗いは濡れることの赦されない躰を悪戯に苦しめただけ、捨丸の咥えた屹立を煽情したに
過ぎない。
「あっ、あぁあああッ!うっ、う、うあぁあああッ!」
 無残としかいいようのない声音と光景。黒が白を穢していた。一団からはゲラゲラと
嗤う声が風に乗って届いてくる。それでも、お業は気も狂わんばかりに捨丸の胸から乳房を
引き剥がそうとした。

 いびつにひしゃげていた、お業の形の良いふたつの蒼い月がいやいやとあふれでた。
捨丸は己の血を擦り付けた、お業の乳房にむしゃぶり、喰らい付きたい激情に駆られる。
「捨丸、いつまで戯れているんだい?」
 お墨が声を掛けた。紅子がタタッと駆け寄って仰け反っている、お業の躰を抱き起こす。
「よけいなことをするんじゃねぇ!」
 紅子は一向に気にする風もなく、お業の毟られた左翼の肩甲骨の小さな傷痕を舌を
差し出して、そろりと舐めたのだった。
「うっ、ううっ、いや、いやあぁああ……」
147俺の屍を越えてゆけ:03/10/25 02:21 ID:p9Uu/NWd
『58』

万珠院・紅子のやさしい愛撫に、お業の躰が反応して濡れた呻きを洩らしたのだった。
少女は貌を上げて口を開いた。
「おもちゃがかわいそう」
 調子のはずれた間延びした声音と少女のあどけない表情に戦慄する。もとより、神格は
捨丸よりも紅子のほうが数段も上位。紅子自身もこの少女の壊れた感情の肉体を
よりしろにして戯れている伏しが無くもない。

少女の貌に紅子の、お業よりも病的なまでの蒼白い貌と赫い唇が重なって、小さな唇が
横にすうっと伸びたのを捨丸は見た。紅子の中の彼岸があふれる。
「はあ、ああ……」
 お業が頭をぐらぐらと揺する。
「よけいなことするな!」
 紅子が羽織っていた無垢の白色のうちきの裾を開き、華奢な肩から滑り落す。
「紅子、あまり、おイタをしちゃいけないよ」
 吉焼天・摩利が屈んで紅子の脱ぎ捨てたうちきを拾う。
「あ、あっ、はあっ……」

「どうしてぇ?」
「お前が、ほんとうに、お業をこわしちゃうからだよ」
 八手ノお墨が笑いながら声を掛けた。
「これを、お業に付けてあげようと思っていたのにぃ」
 紅子は、お業の背、艶やかできめ細かな肌に頬擦りして、朱色の股間から突き出して
いる尖端を――、「んっ、あ、あっ、あ……」――お業のむっちりとした双臀の柔肉に突き立てた。
「よせって、いってんだろ!お業の菊座を突くんじゃねぇ!」
 お業は躰を揺さぶられる。
「あぁああ……はっ、んっ、ん」
「朽葉色の体液でぬめっているのよ」「それは、てめぇの張形が朱だからだろ、って!」
「はよう、きやれ」
 一団が通り過ぎようとしたときに、月寒・お涼もめずらしく笑って促すのだった。
148名無しさん@ピンキー:03/10/25 14:18 ID:KGfPQQCE
俺屍さんガンガレ!
149俺の屍を越えてゆけ:03/10/26 02:39 ID:2UFI3GQl
『59』

 紅子が憑依した少女の総身の肉付きは薄い。乳房もやっと咲き始めた頃合いといったところ。
その未熟な肉と熟れた肉を絡ませればと、甘美さに昂揚し捨丸の下腹が波うつ。
「捨丸、いきましょう」
 紅子が両脇から手を差し入れて自分に無い、お業の豊乳をやわやわと揉みしだきはじめる。
「ああっ……」
 お業の耳には捨丸と紅子の声音という事実だけが届いて来る。どんな内容をしゃべっているのか
などとは理解できるものではなかった。嬲られているその横で、更に自分を貶める算段が
進められていると思うとたまらない。

「わかった」
 摺り合わせる紅子の胸にお業の背を預けさせ、両手で双臀を鷲掴んでぐっと引き上げた。
「気の無い返事」
 紅子が頭をぐらぐらさせる、お業の首筋にぺろりと舌を這わして、捨丸の躰からしぶいた血を舐め取る。
「そうでもねぇさ。紅子、本院の間へいくぜ」

「あいぃ」
 無邪気な返事とは裏腹に紅子は、お業への玩弄を続けた。捨丸の返り血を浴びた乳房を揉んだ
両手が指を下にして、肉柱を咥え込んだ秘薗をむずん!と握り絞める。
「んあぁあああっ」
 お業の喚きが噴く。お業の夫を担いだ一団は、本院の間へと消えていった。堪えていたものが
弾けて、お業の中で何かが壊れそうになる。
「よ、よせってぇの。ええぃ、よさねぇか!」
「ひくひくして捨丸も、お業も悦んでるから、もっとしてあげるうぅ」
150俺の屍を越えてゆけ:03/10/26 21:41 ID:2UFI3GQl
『60』

「よ、よせ」
 紅子は右手の人差し指と中指で、肉茎をきつく挟んでから、お業の右腿の上を手で
押し付けるように膝小僧まで降り、今度は内腿から腿の付根までをやさしく這い上がって
再度、腿の付根の縫工筋に親指を思いっきり押し込んだ。突っ張らせていた筋に爪を
食い込まされた本人は喘ぐ口を大きく開いて叫んで、女陰に咥え込んだ肉茎を締め付け
捨丸を呻かせる。

「今度は、もっといいの」
 紅子がためて言葉を吐いていた。
「いいかげんにしろ!」
「もっといい」
 捨丸の耳に本来の万珠院・紅子の湿った閨声がはっきりと聞こえ、紅子は指三本で
股間の付根から腰骨へと渡って尻を揉む。そして腰の背骨を弄って双臀の谷間に
小指とくすり指を合わせて潜り込ませ菊蕾に小指を挿入させた。

『陽を背にした池に咲く睡蓮の華を見たことがある?』
 お業が夫の胸に顔を横にして見ている。
『天界に咲きし、お業。我が妻が華』
 女の口元がほころぶと男の目が細くなる。
『わたしは堕ちた花』
『後悔しているのかい?そんな風にまだ思っているのかい?』

『ええ』
 男の女を見る瞳が哀しみに曇る。好いたおんなを守ると言えないことが辛かった。
そのことが、諍いになったこともある。イツ花が、わたしが守るからと言って、ふたりの間に
泣いて割って入ったことも。でもそれは、確実にやって来る、避けては通れない運命。
『あなたや、子供たちに累が及ぶかもしれない』
『もう、何度も話し合っただろうに。わたしの命でお前や子供たちが助かるのなら何だってするから』
151俺の屍を越えてゆけ:03/10/27 02:43 ID:hnLc9DdF
『61』

『ただ、待つだけなんて、耐えられない。わたくしが夕子さまに、おねがいすれば、
もしや道が開けるかも』
 お業の縋りつくような瞳が女から母のものへと変わる。その瞳の色に男は弱い。己の
非力さを実感するからだ。唯一のよりどころは、お業をおんなとして愛したことだった。
心の奥底にしまっていた言葉を男は遠慮なく、お業にぶつける。時が迫っていると実感
していたからだった。お業とておなじ……というよりも、その実感は日に日に強まっていた。
イツ花と黄川人の成長がそれを物語っていたからだ。

 イツは五枚の花弁にして、キツは桔とする、ふたりは、お業が愛した桔梗花。藍色を
おびた青紫色。落花して蟻が咬むと花弁は赤へと変わる。お業にとって朱夏に人と恋に
落ちて、愛を育んでいった記憶花。
 仙境に咲く逸花を人の世に送り、此処に咲いて菊花となって民の邪気を永久に払って
環になってほしいという含みがあった。
 すでにお業の力をも、後何年かもしたら、ふたりが越えてしまうという確信があったからだ。
それは吉兆と凶兆の表裏。

『わたしはどうすればいい。子供たちも大切だが、お前を手放すことはもっとできないよ』
 朝陽に照らされた淡い桃色の幾重もの花弁が開く。男が覆いかぶさって躰をぐんっと
反り返らせ、女の華、濡れた赫い唇をいっぱいに開く。愛の一瞬に女のいのちをお業は
燃やす。
自分の業を男に何度もいい名付けられて泣き歔き、お業も男の名を叫んで、未来に
顫えて身悶えながら気をやってしまう。なにもかもをふたりで蕩けて忘れることのできる高み。
一瞬の久遠に向けて豊臀をゆすり、躰をゆさぶられて。遠いみらいになにがあるのと、
お業の涙が頬を伝った。

 お業は衝撃に口を陸に打ち上げられた鯉のようにぱくぱくとさせる。しかし、衝撃は
紅子の小指が直腸内で鉤をつくって菊蕾を引き上げた時にやって来た。
152俺の屍を越えてゆけ:03/10/27 21:33 ID:hnLc9DdF
『62』

「ひぃいいいッ!」
 柳眉を吊り上げ、閉じた瞼を痙攣させ、長い睫毛をふるふると顫えさせる。もう
一押しで、堰を切ってしまいそうな、お業の躰。包んだ手の親指がやわらかい頬肉を
押し上げ苦悶する貌をしげしげと眺めながら、その弾力を愉しんで静かに捨丸は手を離す。
「捨丸、みなのところに」
「じゃあ、菊座から指をどけろ」
紅子は捨丸を見て、くすくすと笑い出した。

「いやぁ。この花はわたしのぉ。わたしが咲かすぅ」
 そう言いながらも紅子は、お業の菊座を天上に向って、ぐいぐいと引き揚げた。夫に指を
挿入されて交媾に惑溺したことはあったが、神格のおなじ者からこうも嬲られたことは
あろうはずがない。
 しかも、玉門は、小女たちや城の者たちを皆殺しにして、イツ花を殺し、夫の手を切り落とした
憎むべき捨丸の屹立で塞がれていた。

「ひっ、ひ、ひぃいっ……!」
 身も世もあらずの、お業の堪える声に艶が混じり始める。その変化を見逃しはしなかった。
「もういい」
 紅子は菊座に鉤をつくって引き上げていた小指をぬぷっと抜いた。そして自分の乳房を
うっすらと汗の噴き上げている背にぐいぐいと押し付け、透明な黄色の体液を絡めた小指で、
お業の小鼻を嬲り始めた。むわっとした臭気が、お業の羞恥をめざめさせる。

「いやぁああ……あ、ああ……」
 お業は貌を烈しくおどろに振って、紅子と捨丸の肌を甘美に掃き愉しませるだけだということが
わかっていてもどうすることもできない。
「舐めて、お業。そうすれば、降ろして上げるからぁ。はやぁくぅ」
「いやぁ、いやぁ……。もう……もう、かんにんして……ください……」
153俺の屍を越えてゆけ:03/10/28 22:00 ID:CVcGAy3h
『63』

「ほらぁ、めしませ。お業」 
 お業は諦めて、ゆっくりと唇を開いてゆく。 
「うっ、ああぁ……」 
 諦めなのか、嬌態なのか。溜めていたものが蕩けあったままに吐露される。
「だぁめ。お業になんかやらないから」 
 水飴で舐めるみたいに小指に紅子が舌をちょっと出して舐める。
「捨丸も舐める?」
「いいぜ」

「あ、あぁぁぁ……。ゆ、ゆるしてぇ……ゆるして……もう、かんにん!」
 ぐらぐらゆれる、お業の頭をよそに、開いた口に紅子は指を差し出し、紅子はそのまま
口に挿れずに紅をさすみたいにして指頭でそっと捨丸の下唇をなぞった。お業の菊座の
臭気と犯す女陰から滴る愛液の芳香に捨丸は酔う。紅子は捨丸の口腔に小指を根本まで
突っ込んでしゃぶらせた。

「捨丸。みなが待っているから、紅子もういく」
 捨丸に咥え込ませていた小指をすっと抜いて、お業の背から離れた。支えをいきなり
無くしてしまった、お業は背から前に崩れていく。総身が強張って、やむえず捨丸の首に
すがろうとした、お業だったが虚しく空を掻いて後頭部を本院の渡り橋の床にしこたま
打ち付ける、鈍い音がした。
 紅子は裸身をだらんと伸ばして気絶した、お業をじっと見ていた。

「こら、手伝え」
 お業の空を掻いた手を取ろうとして前屈みになったのがまずかった。
「なに?」 「なにじゃねぇ、起すんだよ」
「綺麗だから、このまま、お業を引き摺れ」
「紅子……」 「なに?」 「な、なんでもねぇ……なにもな」 
 紅子はくすくすと笑う。捨丸は神格のちがう上位にある万珠院・紅子にそこはかと恐怖を
感じながらも、一度は男と女として手合わせ願いたいと思っていた。
154俺の屍を越えてゆけ:03/10/29 03:07 ID:KkkV9agB
『65』

 お業は確かに綺麗だった。上体がいっぱいに伸び、おどろに白木に散らした髪の上に
両手を投げ出して置いている。髪の毛のいくつかは白い腕にも絡んでいた。首は折れて
かがり火のゆらぎに照らす歔き濡れた美貌は翳りをつくっている。
腕がだらりと伸ばされたことで、お業の脇の窪みが曝け出されてしまっていて、ふたりも
子供を生んだと思えない豊で形の良い綺麗な蒼白の乳房が縦に無残に引伸ばされていた。
その眺めは陵辱者の側から見れば醍醐味でもあった。しかし、腰骨や脾腹の肋骨も
くっきりと浮き出ていた。美女のつくりの土台たる骨格に捨丸は見蕩れた。逆末広がりの
骨が浮び、やわらかそうな下腹部を波うたせている。前屈みになって、お業を抱き
起こそうとした手が止まった。

「腰布をほといて、交媾したまま歩かせて本院においで」
 このまま、双月の乳房を引き千切ってみたいと、心底思う。
「貫いたまま仰け反らせて、押せるわけねぇだろ!」
「そうね。羽根斬り場からでも、それじゃあ本院に辿り着くまで朝陽が昇るかも」
「羽根斬り……?」
「もう、とべないでしょう、お業」
「素に戻ったのか……」
 紅子が華奢な丸い肩を前に後ろにくなくなとゆすりはじめ、だらりと垂らした両腕を
たゆたう。

「さぁ、どうかしら」
 万珠院・紅子は細身の躰の少女の躰を借りて、漆黒の天を仰ぎ甲高い声音で笑うと、
くるくる廻ってから華奢な脚で大きな歩幅を取って風となって駆けて行った。
「狂女だな、ありゃ。」
 お業は目を醒まして、貌を横に向けたままで、憎しみのこもった眼でじっと見ていた。
捨丸はぞくっと来て、膣内(なか)で肉茎を痙攣させると、下唇をきゅっと咬んでみせる。
「たまんなくて、堪えてるのか?鬼って言ってみな、お業」
155俺の屍を越えてゆけ:03/10/29 03:22 ID:KkkV9agB
『66』

「……」
「からかいには、乗りたくぇか。ほれ、手をかしな。抱いてやるぜ」
 捨丸は更に屈んで手を差し出すが、お業は貌をぐっと捻って首に胸鎖乳突筋をくっきりと
浮かび上がらせた。
「そうかい。それなら、どうだ!」
 捨丸は太腿を掴むと恥骨にぶつけるように律動を開始した。
「んっ、んあぁあああッ!あ、あっ、うあぁぁぁぁ!」
 肩を床に付いたままで、前に衝きあげられていく。

「紅子の言ったように、このまま歩いていくか?」
 お業は瞼をきつく閉じて貌は苦悶を浮べていた。鎖骨の深い窪みに、捨丸の逸物が
膨らんだ。柳眉が吊りあがっての屈辱に歔く貌がかがり火に照らし出される。口は子壺を
邪悪な尖端で衝きあげられるたび、ぱくぱくと喚きを噴く。捨丸のなかの淫楽の、お業が
もっともっとと哀訴していた。お業の鴇色の唇がかがり火に赫くなる。大きくひらかれた
口に漆黒の闇を捨丸に何度も見せていた。

 捨丸は、お業の躰に覆いかぶさるように、肩の傍に手を付く。
「う、うっ、あ……。き、黄川……人だけ……でも……ああ……」
 二度目の凌辱の精に子壺が灼かれた。ドクドクと腐った汚濁が流れ込むようで気が遠くなる。
しかし、躰がふたたび宙に引き上げられ、串刺しになる思いに身悶える。捨丸が
お業の臀部を抱えて曳き付け歩き出したのだった。尖端が、夫だけのものとしていた
寝殿、子宮が穢されてこわれてゆく。

 大股で歩く衝撃は鎌首によって、躰をドスンドスンと貫くのだった。お業は掠れた声で絞るように
哀しく呻いていた。やがて薄暗い廊下に入って、遠くのほうに琥珀の灯りが洩れる場所へと
近付いていった。殺戮者に縋る格好の汚辱にまみれて。相翼院の外では疾雷が闇夜を
切り裂いていた。大江山の大火が雨雲を呼んだのだろう。それとも、殺された王国の信徒たちの
恨みつらみ――。大粒の雨が烈しくなって相翼院の甍を叩く。
156俺の屍を越えてゆけ:03/10/30 03:38 ID:rFTRNYZJ
『66』     訂正・154『64』  155『65』

 琥珀の灯りの洩れてくる間の敷居を跨ぐと、祭壇へ続く一本の道が無数の狐火で示されていた。
お業はただならぬ気配に顫え、ぐらぐらと揺すっていた顔を捨丸の浅黒い肩に縋りつくように
埋めた。ほっそりとした首が折れ、幾重もの鬢ノ房、三日月が頬を切る。
「え、どうしたんだい?此処がこぇのか、お業?」
 捨丸は髷がほとけておどろとなった頭を撫で付ける。紅子が祭壇のほうからタタッと
駆けて来て、途中で何かにつまずき、よろめきながら寄ってきた。

「はよう、捨丸。戯れよう」
「お業がこぇんだとよ」
 紅子が捨丸の背に廻って、頤を掴んで掲げる。
「なぁ、お業。信徒のみたまとおもうたかぁ?」
 怯えた貌を陵辱者の肩に埋めようとする、お業だったが紅子の手がそれを赦さなかった。
お業は頤に力を入れて伏そうとするのだが叶わなく、貌が小刻みに顫えていた。閉じた瞼も
またおなじようにして痙攣していた。閉じているのか開いているのか、お業にすら判らない。
「目を開きゃあ、お業。おまえたちが仕出かしたことぞ。濡れ衣ではなかろ?」

「わたしは夕子さまの意志に……」
「だまりゃ。禁を犯して尚も、帝を欺き、ないがしろにし……」
「わ、わたくしはただ!」
「ただぁ?」
「ひっそりと、暮らしたかった……だけ」
「なんなら、みたまよびでもしようか、お業?」
「ゆ、赦してください……」
「お前たちが、あったのも此処がはじまり。そして、いまはみたまに供える華、ふたつ」
 お業の瞼がぎゅっと閉じて、両眦から一条の雫が頬を濡らした。
157俺の屍を越えてゆけ:03/10/30 16:04 ID:rFTRNYZJ
『67』

もとより、濡れたほつれ毛の房が細身の小刃となって頬を切ってはいた。
「華……。イツ……」
 紅子の受けた手に頤の力が加わって、親指と人差し指で挟んだ頬肉が寄って、苦悶を
滲ませる。
「子が心配かぁ?」
「ひと思いに、みたまに供える二輪花に……して……ください」
「紅子が飽きるまで、辛抱しゃれ」
 紅子が、お業の頤から手をすっと抜くと、捨丸の肩に額を擦りつけ、しくしくと泣き
じゃくる。なにをどうしようとも狐火が照らす一本の道のように定まっていた。

「子を跳ばした時に、神気を使い果たしたんだ。それぐらいにしとけ」
「捨丸はやさしいな。お業に逸物をひくひくさせてもらって情が移ったかぇ?」
 紅子が捨丸にしがみ付く、お業の背に少女の微かに膨らんだ乳房と尖りを、ぐりぐりと
押し付け、顔を近づける。人差し指の爪を捨丸の首にあてて引き、一本の赫い筋をつけた。
「な、なにすんだ?こわれたらどうすんだ!」
「ほら、捨丸。先刻みたいに、お業を歩かしゃ」
 捨丸にしがみ付く、お業の腕を鷲掴み、簡単に引き剥がすが、紅子の奇態に貌を左右に
振り出して紅子の顔を髪で叩く。ひっ、ひっ、と錯乱して捨丸の胸板からあふれた乳房を
ゆすり、躰を捻り出す。 「紅子がこわい、お業?」

 黄金色の瞳が、神威を失った、お業を見下ろす。少女の躰の紅子は、お業の二の腕を
掴んで宙ぶらりんに揺れるのを愉しむ。 「もう、よせ」
 紅子の瞳がじろっと捨丸を見る。 「じゃあ、そうする」 紅子は、お業の腕をぱっと
離したのだった。腿と下腹の縫工筋が突っ張り、堕ちる。
床を叩く音とともに、祭壇にいる者たちの嗤い声が、お業を苦しめる。手を頭上に掲げて、
しどけない格好で、お業は脇の窪みを晒し、天井を見れば相翼院・お業の間の写し身が
天上を、優雅に羽衣を掲げて舞っていた。 「お輪、ゆるして……」
158俺の屍を越えてゆけ:03/11/01 01:54 ID:Vsjz0e/n
『68』

「捨丸。お業を突きゃ」
 お業の頤がかくかくと揺れ、投げ出していた手を額にあてて、おどろになった髪を掻き揚げる。
「もう……いやぁぁ……」
 少女の躰に憑依した万珠院・紅子が、捨丸と交媾したままでいるお業の腹の上に馬乗りになって
無邪気な声音で叫んで、お業の追撃の手を緩めようとはしなかった。
「お業、見てみぃ。ほれ、ほれぇ。ほらぁ」
 紅子はがばっと被さっていって、お業の細かい汗の珠を噴き上げた乳房を潰し、両肘を床に付くと
髪をむずんと掴んで両手を握り締め、ぐいっと引き下げた。
「うあぁああぁぁっ!」
 お業は髪を紅子に下へと引っ張られ頤を仰け反らせると、頭を支点に弓なりになり痛みに耐える。
「瞼を開きゃ。ほれ、お業の好いた男が祭壇の手前に転がって」
 捨丸は、お業の太腿を抱きながら押していった。

「いやぁ、いゃあぁあああ!」
「はよう、両手を付いて歩きゃ」
 頭上に放り投げるようにして掲げていた手で、お業は怒りの拳をつくって、腕に一条の筋がすうっと
浮んだ。そして翼を拡げるように廻すと、引き付け手を返して躰を浮かそうとする。
「うっ、ううっ、ああ……」
 紅子は四肢をだらりとして、お業が歩き出すのをじっとして待っていた。

「呻いているのかなぁ?お業、お業とのう。愛しいのう。はよう、いきゃれ、お業」
 朱を刷いている、お業の貌に頬をすりすりとして、耳元に紅子がささやく。お業の逆しまになった瞳に、
愛しい男の転がる姿が映った。捨丸にドスッ!ドスッ!と抉られ、逆手にした手で歩いていこうとする。
祭壇の向こうからは嗤う声がきこえていた。
「うっ、う、うぅぅ……」 
159俺の屍を越えてゆけ:03/11/01 13:27 ID:Vsjz0e/n
『69』

「はよう!待ちきれない!待ちきれないと、お業の男が泣いてるぅ」
 叫んだかと思うと、急に囁くように喋りだす。一歩、二歩、ドスッ!と子壺を衝きあげる
衝撃で手がもつれ、お業は崩れる。
「いたあぁああっ!」
 紅子が、お業の耳元で叫んだ。

「おめぇは、もう祭壇のほうにいってろ!がちゃがちゃうるせぇ!」
 捨丸が前屈みになる。 
「うむっ」
 深く尖端が突き挿っての、お業の重い呻きが噴く。尻を向けて、お業の躰に乗っている
紅子に触ろうとした捨丸の手がぴしゃりと払い除けられる。薄い肉付きの乳房を捨丸に
捻って向け、黄金色の瞳が睨んでいる。

「はよう、捨丸」
 少女の声音は、おねだり。貌に反して自分の女陰を突けと言っている哀訴のものとも聞けて取れた。
崩れたお業に覆いかぶさったままの紅子の脆弱な尻は捨丸に掲げ捧げるようにしてあった。
双臀の割れ目の下、両腿のあわいに見える、笹舟がいきもののようにして蠢き、女蜜を
滴らせ、お業の波うつ白い腹部を穢す。
「立て!お業」
 紅子の稚い女陰を弄りたい衝動を振り、捨丸は割り開いた、お業の太腿を引き付けた。
紅子の躰とは対照的に、相翼院に祭られた神の躰のままに床に背を付けて転げる天女。

 両太腿は、あられもなく拡げられて、凌辱者の腰に絡んで男根を咥え込んでいる。
ふくよかな盛り上がりを見せる柔肉に繁る、恥毛は凌辱の痕を残しそそけ、露でまばらに
濡れていたが、淫するよりも哀しみに歔くおんなの花そのもの。花は咲き誇る時がいちばんに
美しい。ならば捨丸は、美しき華が嬲りの限りを尽くされ、ぐったりとなりさがる。
 花が腐れる一瞬の刻を無上の悦びと感じる男だった。戦に生きる鬼だ。お業は紅子を
乗せたままで、立ち上がろうと力を込めても……鬼の贄。
160俺の屍を越えてゆけ:03/11/01 15:40 ID:Vsjz0e/n
『70』

 紅子の黒髪越しに逆しまの、お業の屈辱に苦悶する美貌を垣間見て、強張りがおんなを歔かす。
「おめぇが乗ってるとよう、お業の崩れた乳房も喘ぐ脾腹も見えねぇのよ。わかんだろ、紅子?」
 逆手に付いて、もういちど躰を持ち上げて歩こうとした。素直なままで両手を付いて
持ち上げていれば、しなる躰のせいで捨丸の肉茎が穢された女に出し挿れされ、下腹が
蠢く卑しいさまを眺めることになりかねない。

 持ち上がった紅子が左に貌を捻って、じっと捨丸を見た。

 お業は自分の取った体位のことよりも、その恥態を見せつけられることのほうが、
なによりも苦痛だった。一歩、二歩、三歩とあゆみ、祭壇の手前に無残にも裸で
転がされる夫へと近付く、お業。けれど、捨丸が腰を突きあげて、いつまた崩すかも
しれない。逆しまの、お業の貌のこめかみから、粒状の汗がどっと噴く。
「はあ、はあ、はうっ……」
 脾腹の汗の珠はすでに一条の流れとなり、床板に滴っていた。お業の赧くなった貌が
そうなって、汗を滴らせるのもさして刻は掛からなかった。涙と汗が混じり合う。哀しみに
歪み開く唇の、ぽっかりと開いた漆黒の闇を紅子はじっと見てから捨丸をまた見た。

「な、なんだ……?」
 紅子は上体を起こし、お業の腹部に尻を付いてから、すくっと立ち上がった。突然に
躰が軽くなって、驚く。お業は自分を見下ろす紅子の暗い瞳を逆しまにした貌で見上げていた。
「おい。小便なんかするんじゃねぇぞ」 
「ひっ……!」
 お業の口から小さな悲鳴が洩れる。
「わかった」 
「どっちがだ、紅子?」 
161俺の屍を越えてゆけ:03/11/01 17:37 ID:Vsjz0e/n
『71』

「どっちらも。だから、ゆばりも掛けない。お業、待ってるからな」
 裸の紅子はタタッと駆けて、転がされている男の裸身に向って脚を拡げて跨いで飛び
跳ね、男の開いた太腿の狭間にふわっと舞って、すとんと足を着いた。伸びた左脚に
揃え、折ったほそい右脚をゆっくりと伸ばすと貌を捻って、お業を誘う。 

「はよう、きやれ」と赫い彼岸の唇だけが動いて、お業に少女の薄い躰を見せると、
爪先立ってゆっくりと跪く。転がされていた男の脚が拡がっていたといっても、少女ひとりを
座らせるだけの隙間はなかった。
 紅子は爪先立つと一回転し、脚を折り始め膝を付いて、男の脚を割り開いた。
ほっそりとした上体を倒し、男の腰を挟み込んで両手を付く四つん這いの体位を取った。
万珠院・紅子は頤を上げていって、白い喉を晒していった。少女の、否、紅子の彼岸の
唇が白い雫をこぼして、瞼を閉じ長い睫毛をふるふると顫えさせる。綺麗に揃えた前髪が
さらりと割れて、白い額が覗いていた。男が後ろから剛直を突き挿って、歓ぶ所作をする。

 がくっと紅子の伸ばしていた腕が折れ、首を折って頭を垂れると上目遣いに、お業を
見て嗤った。後ろを向き祭壇を見て腰に右手を廻して、朱の張形を固定する紐の結びを
ほとく。男の狭間に貌を埋め、ほそっこいゆびでふぐりをやわやわと揉みはじめ、少女の
小さな口から鴇色の舌が覗き男の裏筋の根本に触れた。ほとびる女陰のぬめりで、
鬼の角より削り出した朱塗りの張り形が、ごとっと落ちた。

 男は少女の小さな舌が肉茎にふれ、「んんっ」と小さく唸り、躰を微かに揺さぶるのを、
お業は逆しまになった眼をカァッと見開いていた。男の顔には猿轡と朱の布で目隠しされ、
ゆめうつつの境を彷徨って、少女の舌が、お業のそれと錯覚していた。
 それが、男のどういう反応なのかを熟知していたからで、眼には嫉妬の炎が灯り
はじめる。お業は突かれても喚きを呑み込み、下唇を噛み締めて歩き出す。
「おもしれぇ」
 乳房の珠の汗がながれて、ふたつめの筋をつくり脾腹を通って床に滲みた。
「はやく、いかねぇと、紅子は噛み切るぞ。愛しい逸物を噛み切って、呑み込みかねねぇな」
 お業は躰をゆすりながら、逆手にした手の運びを速めた。たとえ、嗤い声が上がろうとも。
162俺の屍を越えてゆけ:03/11/01 17:44 ID:Vsjz0e/n
71 二段目、四行目
一回転――半回転w お業のほうを向いて、でも・・・
163俺の屍を越えてゆけ:03/11/01 22:13 ID:Vsjz0e/n
『72』

「ほらよ」
 捨丸の両手が脾腹を挟み、背を持ち上げ、しなう躰。
「んっ」
「なにしてんだ。はやくいきてぇんだろ?動けよ」
 たどたどしい歩を、紅子が嬲ろうとする夫の元へ、お業は繰り出した。紅子は右中指を
男の菊座に押し込んだで、跳ねた強張りを左手で下腹に押し込み、貌を横に捻って唇を吸いつける。
「んっ……」

 男は躰を揺さぶって呻くと、紅子の肩を落として掲げた尻に手を添える影があった。
紅子の華奢な双臀をゆっくりと撫で廻してから、親指を割れ目に押し込んで肉を割り開くと
小鼻を押し付けた。じゅるっと紅子の女蜜を啜るあけすけな音。紅子の開かれた太腿の下を
くぐって鬼の角の朱塗りの張り形を掴む手、水神のひとり・八手ノお墨。長い黒髪を
頭で髷に結い、頬に垂らす髪の房とうなじのほつれ毛が妖艶だった。お墨がしょった波が
大きくなり、朱の大ダコが躍る。

 お墨の恥戯に少女の背もゆれた。お墨は掴んだ鬼の角を手の中で廻して、紅子の
膣内(なか)にあったほうを向ける。紅子に迫る波に、男のみみずがのたうつような肉茎から
手を滑らせ、錆朱色の張り詰めた瘤を握り締める。いきなりの強い締め付けに、男の
尻がびくんと痙攣し、紅子の埋まる顔を跳ね飛ばす。
「お墨ぃ、お業の逸物が跳ねよる」
 床に手を付き、鈴口から雫をとろりとこぼしながらゆれる逸物を紅子は眺め嗤う。

「じらしてないで、はよう、咥えておやりよ」
 頬を擦りつけ、少女の小さな唇を開いて亀頭を呑み込んでいった。少女の口腔には、
あまりある逸物の量感。少女の貌は醜く変貌した。頤が大きく開かれ、鼻孔が膨らむ。
 それもまた美のうち、少女の秘めた美醜。帝がおもちゃにした所以。紅子はそこに
惹かれて憑依し、少女のこころを狂わせる。
164俺の屍を越えてゆけ:03/11/02 00:00 ID:BpFbFStd
『73』

 喉奥にまで到達した時、紅子のひくつく菊座に、お墨の手にした張り形の尖端が
ぐりぐりと捻じ込まれる。
「んんっ、んん、ん、んうあぁああああッ!」
 口から吐き出して、たまんないと大声で叫ぶ、少女の声音。お墨のほとびる膣の体液を
塗されていたとはいえ、一気に突き入れられ、肉が裂かれる灼熱苦に少女は歔き喚く。
「よく咬まなかったねぇ。褒めてあげるよ、紅子」
「もっと……もっとしてぇ、お墨……。して、してぇ」

 亀頭に少女の歯が掠り、男の屹立から子種がしぶいて噴出した。紅子は顔を穢されは
しなかったが、黒髪にいくらかは降り注いでいた。しかし、お墨の菊座の責めに陶酔して、
男の下腹と右太腿の上に爪を立てて掻き毟って顫える。男の皮膚が紅子の爪に裂かれる。
 飛沫はお墨の大タコにびたっ、びた、びたと降り注がれてもいた。その大半は近付く、
お業の逆しまになった美貌と目の前の床に落ちていた。

 お業は驚いて、ひとみを大きく開いていた。目にも子種が入ってくる。咬んでいた
唇にも、いつのまにか開いていた口で受けていた。溜まっていた唾液がたらっと滴り、
夫の飛ばした子種に混じって顔を濡らす。
「はっ、はっ、は……」
「ほしいと思ってたんだろ。よかったじゃねぇか」

「はっ、はっ、はっ……」
 捨丸が何を言っているのかさえ、分からなくなっていた。ただ、夫の傍に行くこと
だけに、お業は執着する。その矢先の射精を見てしまって、顔に受けたことで、なにを
しょうとしていたのかが思い出せなくなる。短く浅く、呼吸を繰り返すだけで固まっていた、お業。
「なにしてんだ。もうすこしだろ。動きやがれ!」
 尻をぐいぐいと振られ、顔と躰を支えた腕がしなる。お業の重い乳房がゆさぶられる。
「ううっ、うあ、あ、あぁああ、あ、あぁぁ……、ああ」 
「こわれやがったか」
165俺の屍を越えてゆけ:03/11/02 02:27 ID:BpFbFStd
『74』

 祭壇に続く道筋を照らす、無数の狐火が床に転げる喉を仰け反らせ、貌を振り、お業の
唾液にぬらっと光る尖った頤が忙しく動くと、床に拡がった長い髪が哀しく波うった。
(いつか、近いうちにな、髪を絡めて扱いてやる。ほそっこい首も、もういちど絞めてやる。
愉しみにしてな)
「おい。お業、もうダメか?こわれちまったか?まだ、いけるか」
 捨丸は腰を迫り出して、お業の躰は崩れ、背を摺りながら夫の仰向けになった顔にまで
やっと辿り着いた。男は手を伸ばして、お業の顔に触れようとした。愛しい女の芳香を
性臭の中に嗅ぎ分けたからだった。すぐ傍にある、守れなかったものを掻き抱こうとした。
掴むことはできなかった、もう抱く手は無く虚しく空を掻いただけ。ぼんやりと何かが空を
舞っているのを、お業は見ていた。しなやかだった女のような手。髪を撫で付け梳いてくれた、
やさしい手と細い指。
 お業が涼んでいるのを素描きで画紙に描いてくれたやさしいあの手。頬に乳房に、くちびるを……。
からだを愛してくれた、手が無かった。まるい腕が空を掻いている。

「あ、あ、あっ、あぁああっ、うあぁああああああああぁぁぁぁ――ッ!」
 男の空を掻く腕に、お業の手が掴み、腕が絡まって抱き寄せる。そして頬擦りをした。
「捨丸、受け取れっ!」
 吉焼天・摩利が肩に巻いた臙脂の布を取ると、それをシャアアッと裂いて放うってよこした。
芭蕉天・嵐子がひと扇ぎ、風を僅かに起こして。 
「口を塞いでやりな。お前の逸物が萎えちまうだろ」 
「ありがとよ」 
 捨丸は、お業の躰に覆いかぶさり、律動を開始した。お業の髪に乗った布を掴んで。
「んっ、ん、んあ、あ、あう、あぁああ、あっ……あっ、あ!あ!あぁぁ!」
 再度、くちびるをつぐまないよう、捨丸は的確に衝きあげてゆく。
「ほら、咥え込みな。はらからの女神さまたちは、見苦しいとよ。俺は、お前の歔く声をこいつに、
しっかりと聞かしてやりたいのにようぅぅぅ!」
 男の股間のほうでは紅子が胎児の格好になって背を撫でられながら、お墨が手に握った
張り形で菊座を抉られ歔いて顫える。それに、捨丸の抉り立てる、啜り歔く閨声が加わった。
166俺の屍を越えてゆけ:03/11/02 02:37 ID:BpFbFStd
74  二行目 波うつのを栄やす。
167俺の屍を越えてゆけ:03/11/02 17:41 ID:BpFbFStd
『75』

しゃんしゃん、鈴が鳴ります。たんたん、白無垢の絹織りの衣に、朱の大口を纏った
イツ花が舞い頭を垂れました。たんたん、扇子の日輪咲かせます。手を水平にかざして
ずいっと引いて頭を上げて両の手にたずさえた扇子を舞わせます。ひらひら。
巨木になる桜雲、散る花びらが風に舞い天上に駆け上り、ひらひら。たんたん。黄川人が
鈴を振ります。しゃんしゃん、たんたんたん。

相翼院・本殿天井、天女の壁画を見上げていた少年が外へ出て行く。台場では小女と巫女が
いっしょになって騒ぎ、朱色の欄干に足を掛け、羽織った衣を脱ぎ捨てて水に飛び込む。
ざぶん、ざぶん!ばしゃばしゃ!の音にまじって笑い声が響いた。くらげのように脚を拡げて、
ほとを開いて水を掻く女たち。きらめく青い波に、白い肌が熔けてゆく。少年は稚い逸物を
膨らませながらじっと見詰めていた。

「いっしょに入って戯れなされ」 お業は微笑んで、目元はほんのり桜色。
「え……」
「はよう」 「い、いやです……」 「なぜにですか」 「わたしは……」
 イツ花のかぶりの黄金色おとめつばきが咲きました。まあるい花弁がたくさんに
重なって鴇色、おんないろ。
「わたしが、遊びたいのは、お業さまだけ……です」
 欄干に腕を組み、少年は頤を乗せて淋しそうにする。

「ほんに、可愛い子。ほんに。いつか、いつか。あなたさまが、わたしを覚えていたなら、
いっしょに……ね」 遠い遠い約束ではありません。。
 ほんのりと。まあるいまあるい、やさしい花を咲かせましょう。太照天・夕子のもとを
去りて愛しい男の子を宿し、赦されたことを歓びます。迷いを振り切って、男に
抱かれたことを悦びます。しゃんしゃんしゃん。いつか環になることを祈りましょう。
環になって、しあわせになりましょう。
 仙郷より川を流れて現世に黄色い花、咲かせましょう。しあわせ祈って永久に。
しゃんしゃん。たんたんたん。ひとも神さまもいっしょ。こわいこわい、お業のこどもたち。
うつろいて、誓約(ちかい)は反故に、くれないの刻迫ります。たん!
168名無しさん@ピンキー:03/11/02 18:35 ID:LfqCj0/p
俺屍さん、毎日楽しみにしてます。
これからもバーンとぉ! 頑張ってください!
169俺の屍を越えてゆけ:03/11/03 01:37 ID:iEh7m4jm
いつも、ありがとうございます。
俺屍の世界観にかまけて、じぶんの中でのらしさしか
書いていないので、アバウトですみません。
170俺の屍を越えてゆけ:03/11/03 01:55 ID:iEh7m4jm
『76』

 お業は夫の手を切られた腕を胸に掻き抱き、その上に捨丸は腕を挟んで覆い被さって
秘孔を衝き上げた。がくん、がくんと裸身を揺さぶられ、夫の貌の傍で泣くだけ。互いの
頭で肩をぶつけ合う。
「ん、んんっ、ん、ん……!」
 夫のもう一方の手が伸びて髪を触れると、お業は瞑っていた瞼を開いて潤んだ瞳で
辛くとも見ようとした。自分を見つめてくれた眼は黒い布で覆われ、覗く鼻とくちびるが
喘いでいた。お業は肘で摺り上がって貌を捻る。お業の声にならない声が赦しを乞う。

(ごめんなさい……、ごめんなさい。ゆるして、ゆるしてぇ……)
 男の首が伸びて顎をしゃくり、ふたりの鼻が擦れた。髪を触る手に、お業の手が絡んで、
しっかりと握り締め逢う。
「もっと、くっつけてやるよ、お業!」 「ん!んんッ!」
 捨丸に、お業は躰を無理やりに引き起こされ、泣き崩れて、しきりに貌を左右に振って髪を
散らす。抱き起こされ、掻き抱いた夫の腕は手放すしかなかった。
 ぐらぐらとゆさぶられ口を塞がれた布を唾液でびっしょりと濡らし、躰を捻って、お業は夫に
縋ろうとした。捨丸の胡坐の中にすとんと落とされ、剛直に貫かれて無残。眼をカアッと
見開いて天井の壁画の自分の姿を見た。狐火に照らされてゆらぐ姿。

 捨丸の尻が動いて前に進み、夫の貌の前に交媾の場面を晒す。たとえ目隠しをされていても、
凌辱の限りを尽くされて、女蜜を出す浅ましき匂いを嗅がれたくはない。瞼がひくひくとし、
白眼を剥いていた。小鼻が膨らんで荒く息を継ぎ、憎しみを込めて捨丸の背に爪を立て掻き毟る。
「お業。おめぇの、愛しい逸物だ」
 捨丸は、お業の肩を掴んで、放り投げるように男の躰の上に押し倒す。
「んんっ!」
 突き放され背から倒される恐怖に、お業は喚いて空をひと掻きする。
171俺の屍を越えてゆけ:03/11/03 02:12 ID:iEh7m4jm
『77』

 思わず捨丸の躰にしがみ付きそうになった自分に、倒れてしまってから無性に悔しく
なって、艶めかしくなよなよと、おんなの背を丸めて啜り泣く。夫の躰の上に逆しまに
載せられ、お業の顔の傍で鈴口から子種をとろりとあふれさせる逸物が、ぴくんぴくんと
蠢きながら硬度を急速に失わせてゆく。
「紅子、おもちゃが着いたぜ。逸物、競り合ったらどうでい?」 
「んんっ、んん、んっ!」
 紅子なら逸物を噛み千切って呑み込みかねない。捨丸の忠告を思い出した、お業は
騒いだ。

「自分で取れるだろうによ。世話の焼ける阿魔だ」
 両手首を縛られているわけでもねぇだろうにと悪態を付きながら、判断力を失いつつある、
お業にほくそ笑む。お業の口から摩利の衣の切れ端を吐き出させてやり、それでも
吸い切らずに溜まっていた唾液が、たらっと子種によって塗された剛毛の繁みに滴った。
 お業の荒い鼻息と吐息が、男の萎む逸物にそよぐと、精液を吐き出し、力尽きたはずの
性器がむくっと膨れ始め、下腹が波うち出す。

「あっ、ああ……」
 頤をしゃくり、すべてを捨てて、お業は口に咥え込もうとした矢先、菊座を突かれ
悶えていた紅子が、貌を捻って錆朱色に絖ろうとする亀頭を、鴇色の少女の舌で、
れろっと掬い揚げて掠め取った。
「うっ、うあぁ、うあぁあああッ!ああ……!」
「ぎゃあぎゃあ、うるさいんだよッ!」
「ん、んっ、んぐうっ!」
 お墨は相対張形の淫具を、紅子の捻り込んだ菊座からぬぷっと抜き取り、嬲っていた
ほうの尖端でもって喚く、お業の口腔深くにぐぐっと押し込んだ。
「んん、ぐう、ぐふっ!んんんっ!」
172俺の屍を越えてゆけ:03/11/03 19:56 ID:iEh7m4jm
『78』
 
「手加減してやれ、お墨」
 顔を振って、吐き出そうとしても叶わず、お業の涙目がいっぱいに剥かれ反転する。
それを待っていたかのように、捨丸は烈しく腰を打ちつけ衝きあげていった。捨丸の
こめかみにも粒状の汗が噴き上がり、お業の貌に飛び散っていた。天井から白い脚を
拡げさせられて、浅黒い尻に犯されている自分の痴態を眺めていた。お業は、なよやかな
躰を狂ったようにのたうたせる。
「あんたも、ほどほどにしときなよ」
「まだまだ、射精しゃしねぇよ。なんなら、やるかい」 
「ふん、あんたより黄川人のほうが、まだましだよ。いたらだけどね」
 お業は鼻孔をいっぱいに膨らませ、喉を抉られ続ける、お墨の手首を掴んで抗おうと
試みたが、躰を壊さんばかりの抽送に翻弄され、やがて意識を遠のかせる。

 シャン、シャン。鈴の音がきこえてきます。妙かなる声音の女神たちの絖る閨声が
相翼院の広い本殿に奏で、狐火に煽られる交媾のむっとした性臭が満ち満ちていた。
 どれぐらいの刻がすぎたろうか……。紅子がゆっくりと躰を起こす。お墨もならった。
ふたりは、お業の手首を掴んで捨丸に組み敷かれた躰を引き摺り出そうとする。
捨丸の逸物はすでに萎え切っていて、お業の陰華からは吐き出されて、うつ伏せに
眠っていた。

「このまま引けば、お業の夫と捨丸が抱き合うことになるなぁ」
「紅子、妬けるぅ」
「ふふっ、ぬかせ」
 ずるっと、男の躰に挟まれていた、お業が引き摺り出された。そそける恥毛に凌辱の
残滓がこびり付いてはいたが、肉襞は爛れてはおらず、お業の性に対して抱く含羞より
醸し出される生来の品、ひっそりとした佇まいの秘園の柔肉へと回復していた。
 少女は背を屈めたまま、お業の女陰を見詰める。
「どうした紅子?」
「お墨のよりもきれい」
173俺の屍を越えてゆけ:03/11/03 21:16 ID:iEh7m4jm
『79』

「ばかをいいでないといいたいけど、ほんとだね。男に妬いているのかい。子を産んだことを」
「なめくじが這った痕みたいに艶々……。おくちにも」
 紅子の屈んだ躰、尻の割れ目から狭間を弄り、少女の背骨を這い上がる指がある。
「あぅ……」
「紅子、拭いておやりよ」
 月寒・お涼が仰向けになった、お業の右手首を掴んで見詰めていた貌の前に懐紙を差し
出していた。 シャン。狐火がひとつ消えました。またひとつ。またひとつ。たくさんの
灯がたったひとつに。最後に掻き消えて闇の中。  しゃん。シャン。シャン。

 本殿に入り口のほうから朝陽が差し込んでいた。夏場でも、本院での朝はさむけを
感じた。お業は閉じた瞼を顫えさせ、長い睫毛をふるふるとさせ見開いた。頬、腕、肩、
そして腰にさむけを感じる。悪夢だったのだろうかと、ひとしきりぼんやりとする頭で
考えようとした。遠くにふたりの男が折り重なって倒れている。おんなの肌と躰をもつ
男と浅黒いごつごつとした男。

 お業は祭壇の壁に両手を拡げ、手首を縄で縛られて吊るされていた。膝立ちになって、
尻と背中をぴっちりと隙間無く壁に付けて。その周りには、素っ裸のおめが淫にけぶり
躰を絡め合っていた。ひとりの女に四人掛かりで嬲っているもの。おんな同士で戯れる者たち。
大江山討伐隊の武者たちと帝の女官、相翼院の巫女や小女たちだった。淫らな
湿り気をおびた体液の音と閨の声に、お業は幻視ではないと蒼ざめた。

 右腕に貌を伏して、しくしくと啜り泣くが、おどろになった髪に滲み込んだ性臭に闇に
堕ちそうになる。だが、それを引き止めたのは夫の姿ではなかった。腰を捩り始める、
お業。尿意が、むっくりと込み上げて来るのだった。尻をくなくなと揺すりだす。
絡み合う、おめたちには仰向けになった女に尿を浴びせている者もいた。気を静めて
瞼を閉じても、睫毛が顫える。聞く耳を持つものなどいないとわかっていても、たまらないと
かぼそく歔く、お業。
174俺の屍を越えてゆけ:03/11/03 21:49 ID:iEh7m4jm
『80』

「だ、だれか……。だれか。ああ……」
 二の腕に右頬を伏し、鴇色のくちびるを薄く開いて貌を赧らめ、はらはらと泣き濡れる。
腰を捩り、お業の小さな膝小僧も赤くなり剥けていた。
「もたげちまったものはどうしょうもねぇよなぁ、お業」
「ご、後生ですから……」

 捨丸は相対したままで、右の二の腕に伏した柳眉をてわめて苦悶する貌に廻り、左手を
付き脇の窪みに舌を這わした。
「ひいっ」
「ひりだすほうなのか、お業?」
 捨丸はわざと聞き取りにくい声音で囁いた。貌を捻って捨丸の鼻が晒された、お業の脇を擦る。
「後生ですから、おねがいいたします」
「だから、どっちだと聞いているんだよ。糞だと、奥の御用所まで連れていかねぇとなんねぇだろ。え?」
「も、もう……かんにん……」
 捨丸の遊んでいた右手が、お業の腹に触れ、やさしく撫で廻し出した。

「いっ、いやあぁああ……」
「だから、どっちでぇ!」
「ゆ、ゆばり……」
「はっきり、きこえる声でいいやがれっ!」
「ゆばりっ!あっ、ああ……。お、鬼。鬼!鬼!」
 二の腕に伏した面を上げ、お業は捨丸を睨んだ。
「ながい付き合いになるんだ。鬼はねぇだろうよ、お業」
 ぺっ!お業は捨丸の顔に向って唾棄した。すぐさま、お業は平手打ちにされる。がくっと首を
折って長い髪で喘ぐ乳房と陰部を隠し、うわあっと泣く。
「あんまりなくと洩れるぜ。いびるのもこれぐらいにしておいてやるか」
175俺の屍を越えてゆけ:03/11/04 01:31 ID:LEX+qj5V
『81』

「うっ、ううっ……」
 捨丸は柄を握り、お業を縛る荒縄に刃をあてて切り、介抱する。お業は崩れる裸身を
横抱きに掲げられる。揃った、きゅっと引き締まった足首、ふくらはぎ位置の高い、
きれいな脚がぷらんぷらんと揺れていた。捨丸は、もっと撫で廻し、お漏らしをさせても
よかったかもしれないと思っていた。
「色男と繋がって、やつの腹に撒き散らしてもいいんだぜ」
「いっ、いやぁぁぁ」
 お業の下腹がぐぐっとへこんだ。捨丸が歩き出して、転がされている夫を見まいと、
叩かれ腫れた顔を捨丸の肩に隠す。お業は夫を裏切った心持ちに囚われる。捨丸は男を
跨いだら、足首をしっかりと掴む手があった。

「お業さまはな、自分だけ助かりたいとよ。薄情なおんなだろ。そう、おもわねぇか、色男!
お業は小便がしたいんだとよ!じゃますんじゃねぇ!」
 どかっ、どかっと肉を叩く鈍い音が聞こえた。
「ひっ!ひっ!や、やめてぇ!おねがい!おねがい!おねがいします……!」
 お業に唾を吐きつけられた仕返しに、男に唾棄し腹に蹴りを入れた。男は転がって重い
呻きを放っていたが、猿轡をされていて何を口走っているのか聞き取れない。転がって、
唾液と噴き上がった胃液にむせ、躰を痙攣させていた。それでも、芋虫のように這って、
捨丸に抱かれた、お業を追うが目隠しされ、あらぬ方向へと。

「お業」 「は、はい」
 捨丸の肩越しにその姿を見て、躰が顫える。生理現象と夫を天秤に掛けたとも思える。
事実、そうしてしまったのだから罪深い。
「湯殿へ行くか。きれいに洗ってやるぜ」 「御用所でかまいませんから……」
 低声でやっと答える、お業に捨丸はにゃりと笑う。
「じゃあ、羽切り台にするか」
「羽切り……!」 「万珠院・紅子がそう名付けた場所だよ」 「う、ううっ……」
176俺の屍を越えてゆけ:03/11/04 02:43 ID:LEX+qj5V
『82』

お業は、捨丸に大江山で羽を引き千切られたことを、怨んで嗚咽したのではなかった。
怨みはないわけではなかったが、琴線に触れたのは名付けるという意味合いでだった。
 現世に降り、愛した男と育んだ月日、名付けられて躰を愛され喜悦に顫え、生を
実感した、お業にとっての尊い日々が遠のいた。外に出ると、更に肌寒い。
「はっ」
 お業は小さく息を吸い込んだ。御用所に連れて行く気など無いのだ。朱塗りの鮮やかな
欄干の傍に湖水に向って裸身を立たされた。しゃがんで、欄干の隙間から放尿をしろとでも
言うのだろう。

「お業よ」
「は、はい」
「しゃがんで、欄干に両手を付け」
「はい」
 両脚ががくがくと顫える。尿意もさることながら、こうまでも従順に従ってしまう自分が
信じられないでいた。
「男だって、我慢してるかもしれねぇってのによ。少しは感謝してくれよな、お業」
「は、はい」
 脚を心持ち拡げ、お業はしゃがんで、両手を欄干に添える。

「踵もちゃんと付くんだぜ。さあ、小便をしなよ」
 お業と同じ格好になって、肩を手で掴まれ促された。右手が肩から降りて、脾腹から
腰骨を這い、拇を立てられ尖りを捉え腹に押し込まれた。
「お業、俺の手に引っ掛けても構いやしねぇぜ」
「か、かんにん……う、うむっ、あ、ああ……」
 頭を垂れて、うなじを晒していた、お業が頤をしゃくって呻き、がくっと頭を垂れた。
湖上の朝のさむさに顫えるのか、それとも耐えていた尿意の解放の瞬間に総身が
悶えるのか、捨丸には興味があった。つぶらな尿道口が拡がり、生温かい琥珀の水流が
チョロチョロと流れ始める。
177俺の屍を越えてゆけ:03/11/04 14:25 ID:LEX+qj5V
『83』

捨丸の拇が核(さね)から離れ、湯張りが勢いよく迸った。捨丸はすぐに内腿から両手を
差し入れ、子抱きに抱え上げた。じょぼじょぼと湖水の波を叩いていた湯張りが、欄干に
跳ねてびたびたと音を立て飛び散った。
 お業の尿道口からはシャーッという迸る音とともに勢いが増してゆく。いきなり躰が持ち
上がったことに驚いても秘孔は緩み、解放された湯張りの勢いが止まることはなかった。
お業は躰が不安定な状態にされることに加え、羞恥に染まり躰をくねらせて咽び泣く。
 欄干は太く、手でしがみ付くことは出来ない。おのずと、背を捨丸の胸に付けてしまって、
左腕が捨丸の右肩から廻り、首を掻き抱く格好になって感情は弾け喚いた。
「うっ、いやあぁああ!あ!ううっ、うっ、うあぁああ……!」
 お業の乳房と下腹が烈しく波打っていた。下腹部がへこむと、いくらか湯張りの勢いは
そがれたものの、お業はすべてを出し切る肚づもりだった。


 異様なほどに迫り出た、お業のみごもった大きなお腹。
「あまり、しげしげと見ないでください」
「どうしてだい?」
「だって……」
 おんなとして生れた、愛しき男の子をみごもる、しあわせの存在証明。
「羞かしい……?」
 お業は神気を送り込むように、お腹を抱える。左手で下腹を支えて抱き、上部の迫り
出す膨らみのはじまりに、そっと手を添える。ちょうど気を溜めるような手つきになり、
もちろん子宮の仔へと送る為に。
「もう、いわないでったら」
「さわってもいいかな」
「ええ、もちろんよ。さわってみて」
「あん、そこなの……」
 お業の豊な乳房は張りを見せ更に膨らみ、ずっしりとした量感を持っている。
178俺の屍を越えてゆけ:03/11/04 14:31 ID:LEX+qj5V
『84』

「ここも、いっしょみたいだ」 「もう、いじわるなひと」
 ろうたけた天女である、お業の肢体をこんな醜く変えてしまったという自負が無かった
といったら嘘になる。しかし、お業がみごもったお腹をやさしく抱き、語る所作に日輪を
男は見ていた。なによりも増して、きれいだと思った。男の乳房を触るいたずらな手が
止まっていた。

「どうしたのですか?」
 お腹に気を配りながら、そっと口吻る。お互いのくちびるの感触が躰にやさしく拡がってゆく。
男は唇を懐紙一枚、挟んだだけの隙間をつくってささやく。
「きれいだ。最高に……。俺はしあわせな男だ」
「いやぁ……」 「いつわりなどではないよ」
 お業のくちびるが横に伸びて、笑窪をつくっていた。鼻が擦れた。
「こら。まどわすな」

「おしゃぶりさせて……ください」
 お業の蚊の鳴くような声音。
「ダメだ。そんなことはさせない」
 男はピシャリと言う。
「ど、どうして。なぜ」
 男が下へと降りていく。 「あっ」

「脚を伸ばしてごらん、お業」
「いっ、いやぁ、あなた……」「ほら、言うことを素直にきいて」
「な、なにをするの。だ、ダメだったら……あっ……もう……」
「どうだい?」 「き、きもちいいわ」
 男はむくんだ、お業の両脚を揉みほぐしてやっていった。
「お業、横になって」 「え、ええ。ごめんなさい」 「あとで、腰も揉んであげようか」
「……」 「もちろん、きつくはしないよ。それとも、へんな気持ちになっちゃうか?」
「してちょうだい。そっとやさしく」 顔を赧らめる。
179俺の屍を越えてゆけ:03/11/04 20:26 ID:LEX+qj5V
『85』

「出し切ったか」
 お業は尻から内腿を掻き抱かれ両脚を拡げられて、稚子が母親にされて用をたすみたく
子抱きにされていた。
「はっ、はぁ、あ、ありがとう……ございました……」
 目を伏し睫毛を顫えさせる。湯張りはとうに弱々しくなって内腿を濡らす。恥毛に朝露を
散らしたようになって、雫をぽたぽたと床に滴らせ乾いた板に滲ませる。

「殊勝じゃねぇか、お業。感心だぁ。子抱きにされて、よく言えたもんだ。褒めてやるぜ」
「はっ、ん、んっ、はぁ……、はっ、はっ」
「どうした。具合でも悪いのか」
「い、いえ。な、なにも」
 泣くまい、嗚咽を洩らすまいとして、息を呑む。お業は小さく断続的に息を吸っていた。
それでも、乳房と捨丸の胸板に抱かれた肩が喘いでいる。捨丸はようやく右手を下ろし、
何かを湖に向って放り投げる。

「正直にいいな。どの道、糞便もひりださねぇとなんねぇんだからな。遠慮なくしときなよ」
「ひっ。もう……」 「しかたねぇだろ」 「かんにんしてください……」
 右脚を降ろされはしたが、左太腿を抱えられたままで、それによって女陰がぱっくりと
湖に向って拡げられていた。しかも上体を右に捻って、左腕は捨丸の首にしがみついていた。
「でねぇってんなら、穴を揉み解してやってもいいんだぜ。ひりだすか?してみるか、お業」
「あぁああ……」
 つい出てしまう絶望の呻き。何かを放り投げた捨丸の右手が、首に絡む、お業の左手首を
掴んで掲げさせる。開いた脇の窪みを捨丸の赫い舌がねっとりと這った。躰に捻りが
また加わり、お業の右手がたすけてと欄干に伸びる。
「先刻、何を湖に放り投げたかわかるか、お業?」
「わ、わかりません……ひっ」
 左内腿を抱く手が濡れた恥毛を摘む。捨丸の剛直の尖りが、お業の尻肉を小突いていた。
180俺の屍を越えてゆけ:03/11/04 21:00 ID:LEX+qj5V
『86』

「あっ、あっ……いっ、いやぁああっ、あぁああ……」
「いい声で啼く。惚れ惚れするぜ」 「あっ、あ」
 捨丸の指が柔肉を弄び眩暈に襲われる。
「懐紙だよ。お業の雫を拭いてやろうと思ってな、持ってきたんだぜ」
「んあぁああ……」
「紅子らがてめぇの膣内からだした、こゆい男女(おめ)の粘りを始末したものだ。いまいちど、
摺り込んでやってもよかったが、やめたぁ」
 指がぬるっと絖る秘孔に挿った。しかし、浅く挿入されただけで、すぐに引き出され、
おんなの命である核をつねり上げる。

「あううっ、うあぁああッ!」
 お業は吼えて、捻った躰を右横に仰け反らせた。欄干に掛かっていた右手が強張り爪で掻く。
「おいおい。また頭をしこたま打ち付けたいのかよ」
「はっ、はっ、ど、どうにでも……してぇ」
「ああ、そうさせてもらうぜ。なら、仰向けになれ」
 躰を降ろされ、自分から右手を床に付き、寝そべって脚を拡げる。

「膝小僧は立てとくんだ。そして瞼を開けッ!」
 お業は総身をびくんとさせ、剛毛を突き天上を向く屹立を見た。のたりと
踵を臀部に近づける。
「こいつが、おめぇのおそそを愛でるんだ。しっかりと目に焼き付けろッ!」
 捨丸は、お業に覆い被さり二の腕を水平に引っ張って押さえ込んだ。そして絖って張り
切った錆朱の尖りで、秘園を突きまくった。
 秘孔には突き挿らず、わざとなのか恥骨部分をしきりに小突いていた。
「あ、あっ、い、いやぁ!いやぁああ!」
 頤を上下にがくがくさせて呻く。刹那、尖端が華芯を捉えて、ずぶっと突き刺した。
「うぐぅうううッ!」
181俺の屍を越えてゆけ:03/11/04 21:17 ID:LEX+qj5V
『87』

 肉茎の根本までも埋まって、ふぐりが、お業のぶるんと揺れる尻肉を叩いた。お業は喉を
突っ張って曝け出し、額を床板に擦って弓なりに仰け反っていった。屠殺された家畜みたく、
拡げられた両脚を痙攣させていた。
 何度も何度も衝きあげておいてから捨丸は膝裏を抱え、お業の脚を乳房に持っていく。
ふくらはぎから足首を掴んで真直ぐに掲げさせ、拡げたり閉じたりして玩具にする。
 お業の両腕は投げ出されてゆさぶられ、虚ろな貌におどろな髪が掛かって隠していた。
無残絵図が捨丸の闘争本能を掻き立ててゆく。

『捨丸』
「なんだ。神とは無粋なやつなのだな」
 お業は捨丸に組み敷かれ、いまだゆさぶられていた。
『まあ、そういうな』
「すまぬ、感謝しているぜ。やたノ黒蝿」

『名は言うな。それに、もうそれぐらいにしといてやれぬか』
「風向きがおっかしいじゃねぇか」
『おまえは失敗したんだぞ。いま一度、よく考えろ』
「俺を殺すのか?」
『お業の子が、おまえをねらう。やすらぎを得たくば、探して殺せ。いいな、殺すんだ』
「おめぇらが、みつけられねぇもんを、どうやって見つけるんだよ。無体なこといいやがる」

『道理だな』
「おいおい」
『俺は去ぬ。くれぐれも、背の警戒を怠るなよ』
 黒い羽が躰を包むと、黒蝿の姿はそこにはもうなかった。舞った黒羽根が、汗をどっと
噴き上げさせた乳房に降りてへばり付く。捨丸は、抉り立てて孕めよとばかりに、
おびただしい精を迸らせ子壺を灼き尽くす。 
「ひっ、ひぃいいいッ!」
182名無しさん@ピンキー:03/11/05 15:18 ID:zqsfdWuD
ここってエロくない作品スレじゃないのか?なんか普通にエロなんだけど。
183俺の屍を越えてゆけ:03/11/05 16:09 ID:oXbn/+mD
>1 
『エロシーンが無かったり、あるけどそれは本題じゃ無いような・・・』という趣旨で
ここに書かせてもらっていました。いまは、序「鬼のはじまり」ということで、お業の
嬲りが突出しています。
 一族の話になったら、比率としては、たぶん減っていくと思います。続けられるかどうかは、
まだわからないですが。こんなんじゃダメですか?
184俺の屍を越えてゆけ:03/11/05 22:29 ID:oXbn/+mD
『88』

 両脚を逞しい肩に担がれ、捨丸の強張りが秘孔に捻じ込まれ躰が跳ねる。肉襞が引き
摺られ、子種を鋳込まれて女であることを呪いながら悲鳴を上げた。叫んだ鴇色の唇が
捨丸の中で、おんなの赫色へと変態する。
 お業の口には髪の房が絡まり含んでいた。それを振りほどくかのように顔を左右に
動かしても、高く掲げられた足首を押さえ込まれ、爪先が床に付く格好にされ剛直の尖端で
烈しく小突かれる。おびただしい汚濁が躰を満たして捨丸の腰さばきは饒舌になる。

 確実な一撃を子壺へと、ぐいっぐいっと送りこんでくる。闇雲な抽送ではなく、どすん、どすんと
衝きあげられ、痛みともつかない衝撃とともに、お業の躰は捨丸によって摺り上がっていった。
凌辱の苦しみからの逃れ、これが愛する夫の逸物であったらと掠めて、狂ったように顔を振る。
どろどろに塗されて、淫らな音の奏でと、男女(おめ)の混じり合った粘りをどろっと垂らし尻を
穢しても。躰をふたつに折られ、足首を押えられ、捨丸の真直ぐに伸ばした躰がおんなを突く。

「ううっ、うむ……だ、だめぇ……」
埒がない淫の虜囚の身にあって、『どうでもして……』と弱音を洩らしたことを悔しがる。放尿を
眺められて尚、交媾を強いられる惨めさ。なれども肉襞が引き摺られ絡み始めて、瘤に抉られる
おんなの躰の反射が止まらない。腰が蠢きそうになって、お業は歔いた。
 先刻まで捨丸の手で磔にされた手が、投げ出されて律動に揺さぶられている。二つ折りの
屈曲位に組み敷かれて、突き上がることのない躰なれど、お業の肘が上がって逆手で
堪える所作を取る。律動する捨丸の尻を求めて、おんなが這っていきそうだったから。

 お業の浮きそうになる腰を捻じ伏せて、捨丸の躰が、ドスンと突いて台場の床に打ち
付けた。口からは臓腑が飛び出してしまいそうな感覚に重い呻きを噴き、咥えた髪を吹き
出して唾液を撒き散らす。
「お業、また射精しちまいそうだぜ!脚を絡めろよ!」
 捨丸の足首を頭上で押さえつけていた手が、捨丸の担ぐ肩から外され放り投げられる。
185俺の屍を越えてゆけ:03/11/06 01:13 ID:k+EOYY4D
『89』

 捨丸は自分の意志で選択しろと言わんばかりに、一旦は脚が伸ばされはしたが、
お業の膝小僧は徐々に迫り上がりはじめた。 
「ああ、あうっ……。うっ、う、ううっ」
 足は捨丸の蠢く尻を越えて、ほっそりとした足指がくなっと内側に折れ、土踏まずに
皺をつくった。 
「ゆ、ゆるしてぇ……!」
 夫への顔向けできない躰への侘び。それとも、昂められそうなまでの女の心情。
お業の尻に重みが加わって、見下ろす捨丸の貌がほくそ笑む。お業の手が台場の
床板を掻いて、打ち付ける男の尻へと這って行こうとした。

「そうはさせるかよ!」
 捨丸は、お業の手に指をがっしりと絡め、律動を強めた。お業と捨丸の指股が、
がぷっと四つに組み合わさる。
「お業。これは殺し合いだ。俺は大江ノ捨丸。鬼にとなって、俺の逸物で片羽ノお業を殺してやる!」
 捨丸の腰で組まれていた脚が何度か揺れ、律動で跳ね飛ばされていった。
「こっ、殺してえぇえええええぇぇぇッ!」
 刹那、喉を晒し額を台場の板に擦り付ける、お業だった。そして、お業は外の
台場から本院に連れて行かれた。おんなを極めての哀訴だったのか、永劫の
死を望んだのか、お業にすらわかっていなかった。ただ、諦めだけが色濃く、お業を支配した。
望みがあるとすれば、捨丸の躰になびいて夫の命乞いをすることだけだった。
裏切りのそしりを受けようとも、それだけが支になる。
 しかし、その考えは、お業にとって間の刻でしかない。こころの隙に巣食う魔だ。
お業の躰は淫に溺れる兆しが見え始めていた。
「犬になれ」
 子を失い、いまあるのは、目の前で生きている愛する夫の姿。生きる望みを見出すしか、
凌辱を凌げはしない。お業、やむなし。転がる夫の上に四つん這いになれと言い渡される。
「は、はい……」 
 秘孔からは、捨丸の射精したものが、どろりと滴って黒い布にこゆい白濁がぼたっと落ちた。
186俺の屍を越えてゆけ:03/11/06 02:52 ID:k+EOYY4D
『90』

お業は横たわる夫の傍に降ろされ、両手を付いて腰を崩し、脚を揃えて踵を尻に引き寄せる。
「顔から跨って、いぬになれ」
「え……?」
「聞こえなかったか。犬だよ」
「なります。犬にでも、なんでも……。だから、この人の命だけは、たすけてあげて」
「お業のいのちなら、考えてもやらねぇことはねぇが、紅子たちもいねぇしなぁ」
「おねがいいたします」 「いぬになれ」 「は、はい……」
 お業は起き上がって、四足になって横たわる夫の躰にのったりと進んでいった。すると、
股間の下で重い呻きが聞こえた。股間の下に目をやると、捨丸が夫の髷を鷲掴み、躰を
仰向けに直していた。目隠しの黒い布と猿轡を咬まされた口に汚濁が落ちるのを見た。
「ああ……」
 凌辱の残滓が、夫の顔に掛かるのを見まいとし、頤をしゃくりあげる。それすらも
裏切りではないのかと、お業はうなだれておどろな髪で床板をざざっと刷いていた。
捨丸は目隠しを解いてやり、お業の女陰をくつろげる。
「うっ」
 嬲られる男女の声音が重なる。
「いい息してるじゃねぇか。さすが、めおとだな」
 捨丸は、お業の月輪――。太腿から臀部に掛けての形はまがうことなき蒼白の双月だった。
――に魅せられて、平手で打擲をする。
「ひあっ、ひっ、あ、あうっ!」
 お業は垂れた頭を揺さぶり、豊臀の柔肉もぶるんぶるんと揺れ桜を咲かせる。
「おいおい。おれは犬になれって、言ったんだぜ」
「なっ、なりましたぁ……!」 「口答えするんじゃねぇ!」
 バシィ――ン!と、お業の尻が小気味よく鳴った。
「あうぅうッ!」
 捨丸は立ち上がって、強張りを掴むと、お業の尻肉の合わせ溝に亀頭を擦りつけ始めた。
「はやく、いぬになりな。でねぇと、このまま小便をたれるぞ」
 亀頭がひくつく秘裂をそろりと刷いていた。 「ひいっ。ど、どうしたら……」
捨丸の尖端が浅く秘孔をくぐりだす。 「しっ、しますから!やめぇてぇ!」
187俺の屍を越えてゆけ:03/11/06 14:36 ID:k+EOYY4D
『91』

 お業は爪先立ちになって膝をゆっくりと上げ始める。
「できるじゃねえか、お業。それが犬だよ」 
「う、ううっ」 
「いちいち、めそめそするんじゃねぇ!うっとうしい!」
 躰が前のめりになり体重が腕に掛かり、腕がぶるぶると震え始めた。まるまった背が
顫える。
「踵はつけるんじゃねぇ。指も立てて、尻をおっ立てておきな。そうすればな」
 捨丸の左手が、お業の左腰、太腿と下腹の付根に掛かった。そのまま強張りが、
お業の膣内にぬぷっと挿入されたのだった。 
「歓ばしてやるよ。ぬくい小便でな!」
「いやぁああ……!しないでぇ、しないでぇぇぇ!」

 お業の下に垂れた髪が男の股座をざわっと刷いた。愛し愛され、奪い奪い合いの刻は、
はるか彼方に。股座を、お業の髪が刷いて愛撫しても男の逸物は勃起しない。
「このまま、崩すなよ。さもねぇと、わかってんだろうな!」
「いやぁああ!いやぁあああ……!」
 お業のよじれる女陰に、ズッ、ズッ!と抽送される強張りを見せ付けられ、男は
守るべきものの凌辱されて泣く姿を見上げることしか出来ない非力に、猿轡を咬まされ
ながら咽び泣くしかなかった。

「それっ、出すぞ!小便だ、お業!」
「いやぁああ!いゃああッ!」
「逝け!もういちど、往生しなッ!」
 衝きあげに、顔が揺さぶられた。頭を垂れると、お業の目に嫌が上にも見たくないものが
飛び込んでくる。凌辱されて突かれる肉の裂け目。その下に転がされている、夫の
虚ろな瞳が。瞼をきつく閉じていても、痙攣して薄く開いてしまう。はやく反転させて
白目を剥かせてと、あらぬことを思いながら突かれ衝きあげられ、疲れて……。
188俺の屍を越えてゆけ:03/11/06 14:44 ID:k+EOYY4D
『92』

 頤をしゃくって喉を突っ張らせていても、肩が前後に揺れ、お業の髪が男の萎えた逸物と腰、
本院の板を刷く。膣内の錆朱の瘤が開いて、琥珀の液体を迸らせた。奔流が、お業の子壺に
流れ込んでくる。朝靄の中で、子抱きにされて朱塗りの欄干を叩き放尿させられた屈辱が
折り重なり、お業は、ふたたび湯張りをチョロチョロと漏らす。
「あ、あっ、ああ、あ……」
 男はひしゃぐ秘裂から逆流してくる琥珀とうねる下腹から漏れ出した、お業の湯張りに
瞼を閉じようとしたが、思い留まり最後の雫になるまで顔に浴びながらじっと見ていた。
 両の気持ちが、お業の柳眉を顰めさせ、総身を強張らせて男の股座に崩れ落ちた。
秘裂からは捨丸の男根が抜け、お業の崩れて喘ぐ桜色の背をびたびたと濡らし、弧を描く
琥珀が、むっちりとした尻を叩き、お業のよわよわしい流れへと混じり合って終わる。
 捨丸の屹立はまだ硬度を喪失していなく、下腹を突かんばかりに天上を向いていた。
夫の股座に崩れた、お業の顔に歩み寄り、右膝だけを付いてしゃがみ込み覗き見る。
頬を寄せた夫の性器からも、湯張りがあふれていた。捨丸は、お業の髪を鷲掴むと
男の尿に浸されていた貌を晒す。濡れる頤から琥珀の雫が滴った。だらしなく半開きになる
艶々とした唇に、滾る肉茎を捻じ込もうかと。
「怨んでいるの……。天上を去った、わたしを……べに……」
 捨丸が、お業のうつろな視線を追うと、そこには黒髪をおかっぱにした華奢な躰の
少女が立っていた。手には鬼の角で削り出した朱塗りの張り形が握られ、根本に付けられた
白い組紐が三本垂れている。脆弱な男を迎え入れることの出来ないような尻。尻まで黒髪を
伸ばした少女が小首を傾げて、捨丸に貌を晒された、お業をじっと見ていた。
「紅子……」
 少女の肉の綴じ目はひしゃげて、ねばりを吐き出している。
「やつらは帰ったよ。また来るかは、わからねぇ」
「か、かえった……?」
「こっちに来て、こいつの逸物をしゃぶりな」
 少女の握っていた張り形が床にゴトッと音を立てて落ちた。捨丸は腰を落として胡坐を掻くと、
引っ掴んだ、お業の貌を引き寄せ、屹立を深々と捻じ込んでいった。
「んっ、ん、んぐうぅうっ」
 世界が暗転し、お業は目をしばたかせ白目を剥いていた。
189名無しさん@ピンキー:03/11/06 19:13 ID:4KBVxXrV
減るどころか増えとるぞ<エロ
なんくせつけるわけじゃないけどちょいスレ違いの気もする。
190名無しさん@ピンキー:03/11/06 19:24 ID:ObVB88tp
>189
>183で書き手さんが言っている
「”エロが減る”一族の話」にまだ入っていないからな。

ちょいスレ違い、というのもわかるけど。
でも、このスレ以外のどこなら、このSSに合うだろう…
書き手さんに紹介できるようなスレを、あいにく私は知らないなあ。
191名無しさん@ピンキー:03/11/06 19:27 ID:E2anze2w
アルファシステムの総合スレあるよ。
丁度誘導するかどうか話題に挙がった直後だよ。
192名無しさん@ピンキー:03/11/08 00:15 ID:bJl7UXYe
アルファのスレでも話題に出たが、この職人さんは非常にデリケートな方だそうで。
だから、あえて誘導しなかったらしい。職人さんの気分を損ねないようにさ。
現に、今投下が止まってしまったし。

続きヨミタイデス。
お心強くもって、ばーんっ!と、続きを投下してください!!
193俺の屍を越えてゆけ:03/11/08 03:13 ID:XR42Rjv7
エロが無い作品という意味だけに限っていえば、烈しく外れているのは
事実です。

『それは、あるけど本題じゃ無いような作品』――という意味合いで、
ここに書かせてもらいました。

伺ってみて移転させてもらえるとしても、一族の話がどれだけ続くかあやふやですが
先々で性描写が出てこないようになれば申し訳ないので、どうしたらよいものか
思案中です。
いい訳じみてますが、一族の因縁となる部分なので、つたないなりに
書き込もうと思って、結果として膨れ上がってしまいました。

それと、書き溜めて投下というやり方に慣れていなくて、ちまちま書いて、
だらだらと続くので、前回は簡潔にと言われて諦めたのが理由です。
デリケートってわけでもないのですが、仕方ないかなあと思ってます。

ここで続けさせてはもらえないでしょうか。

194俺の屍を越えてゆけ:03/11/08 03:29 ID:XR42Rjv7
『93』

 朱夏に恋の華咲かせます。お業と男が愛した桔梗の花ふたつ咲きました。花にやさしい
祈りを込めましょう。仙郷より川を流れて現世に辿り着き、逸花の黄色い菊も咲かせ
ましょう。しあわせ祈って、とこしえに黄花の祈りが民の災厄払い、疫病退けて長寿の花を
王国に咲かせます。いつか人と神が輪になることを祈りましょう。環になって、みんなで
しあわせになりました。
 けれども、人も神さまもみんないっしょ。いつか、おそろしや、こわい、こわい、お業の愛する
黄花二輪。いまのうちに手折って摘んでおきましょう。うつろいて、誓約(ちかい)は反故になり、
くれないの刻に染まります。

 天上より無数の矢が降り注ぎ、イツ花は叫んで閃光に全ての災厄を霧散させ、母が弟を
庇って抱いている姿を見て安心した、その隙を突き闇が走り腰から脇に掛けて剣圧が
全身の骨を叩き宙を舞う。ドサッ!と落ちて横たわったイツ花の躰から赫い血がとくとくと流れて、
力が抜けてゆく。伏していた、お業の顔が娘の叫びに上がって鬼となる。
 日暮れ時、叢から幽鬼たちの黒影、次々と立ち上がり斬り掛かる。小女たちが、お業と
抱きかかえる息子の盾となり囲んでも、討伐隊の時間稼ぎにすらならなかった。

 お業は息子を頭上に掲げて喚いた。討伐隊は、お業が狂って息子を喰らい、己が力と
することを恐れて、踏み込みを一瞬躊躇うも、イツ花を斬り捨てた捨丸だけが走って剣を振るった。
手ごたえありと見たが、少年の姿は何処にも無かった。お業は咄嗟に息子の神気に封印を
掛けて、彼方へと飛ばす。少年は、お紺夫婦に拾われて、いつの頃からか髪は唐紅色。
捨丸の振るった剣威はかまいたちを呼んで、少年の左目の近くに刀疵をこさえる。
数日後、不思議と疵は跡形もなく消えて、緑青色の痣となり遺恨の印。少年には暮六つの刻、
大江山襲撃の記憶が何も残っていなかった。
 大江ノ捨丸が指揮する討伐隊の手により神気を帯びた焔が放たれて王国は焼かれて、
片羽ノお業の怒りと哀しみ炎とともに駆け上がり天上を摩する刻。少年自ら封印施して母の
面影だけを残し、髪と痣が代わりに遺恨を記憶する。
195俺の屍を越えてゆけ:03/11/08 03:34 ID:XR42Rjv7
『94』

「坊は富くじって知ってっか?」
「とみくじ?」
「そうよ。富くじよ」
 男と息子の二人連れは手を繋いで鳥居をくぐって、お稲荷御殿へと向う階段の上。
お紺夫婦が鳥居千万宮で拾った少年。子宝に恵まれなくとも、仲のよい夫婦に育てられ。
少年を拾って、うまくゆく。そして今日は、お紺は家の掃除に忙しい。
「坊を連れて、千万宮にいっといでよ」
「じゃあ、お紺もいっしょにいこうぜ」
 男が、お紺の背中を獲って、はたきを持つ手首を掴むと衣の上から豊かな乳房を揉む。

「ちょ、ちょっと。坊が見てるだろ!」
 少年はニコニコしている。境内の裏で少年を見た頃からは、あのふさぎようはなんだったのかと思う。
「いいじゃねぇ、かまいやしねぇよ。仲が悪いよりは、ずっといいだろ?」
「じょ、じょうだんじゃないよ!こんな昼間からさ!たいがいにおしよ!」
「昼間でも、燃えるだろ。坊だって、愉しそうに見てるぜ。な、見られてるって思うとよ」

「ちょ、ちょっと。あっ……」
 お紺の抗って暴れる左手も掴んで、きものの裾を割り開いて強張りを握らせる。
「いいかげんにおしてば!」
 お紺が珠を握って男がぎゃっと叫ぶ。
「ばっ、ばっきゃろー!つぶれでもしたら、どうすんだよ!」
「一個磨り潰しても、もう一個残ってりゃ御の字、それで十分さね!」
「けっ!」
「ほらほら、さっさと坊を千万宮に連れてっておやりよ」
 抱きつかれていた、お紺は腕の中でくるっと振り向いて、やさしい声音を掛け、両腕を突っ張って男を離す。
196俺の屍を越えてゆけ:03/11/08 13:15 ID:XR42Rjv7
『95』

「薄情なやつだな。ったくよう」
「夜には、いっしょに行くからさ、ねっ。それで、かんにんしとくれよ」
 目で笑って語る、お紺の肩を掴んでぐいっと引き寄せる。
「坊が来てから、ずいぶんご無沙汰じゃねぇか。もう、俺は我慢できねぇよ。なぁ、お紺よ。
おめぇだって、俺のぶっとい魔羅が、しゃぶりてぇんだろ?おそそでよう」
 肩から滑り落ちた手が腰のくびれと尻肉に添えられて、躰をぴたっと引っ付ける。

「……!」
 手からはたきがぱたっと落ち、お紺は男と合わさりそうになる唇を離して、ほっそりと尖った
頤を引き女狐の艶貌で目を細めた。
「ててて!いてぇっていってんだろ!おぼこじゃあるめぇしよ、いいかげんにしろよ!」
「だかぁら、夜、もういちど、祭りに行って、みんなで愉しもうよ」
「おめぇまで、疲れちまっちゃあ意味がねぇんだぜ。わかってんのかよ、なあ?」
「はいはいはい」
 お紺が男の肩に付いた埃をぽんぽんと埃を払うみたいにして叩いた。

「はいが一個多いんだよ。ったくよう!」
「ふふっ」
 口元に右手を折って、甲を寄せて笑っている。
「なにが、ふふってぇんだよ。ばぁ〜。とっとっとと、坊、御殿に行くぜ!」
「うん!」
「ほんとに親子みたいだね」
 男が、お紺を振り返る。
「なんか、言ったか」
「なんにも」
「なんにもかぁ?けっ、にやにやしくさりやがってきみわりぃったらありゃしねぇ」
 黄川人が繋いだ男の貌を見上げる。
197俺の屍を越えてゆけ:03/11/08 13:19 ID:XR42Rjv7
『96』

「おじさん。男前だって、お紺さん言ってた」
「そ、そんなこといってやしないよ!」
「はっはぁ〜ん。また悪口こきやがったな」
「あんたが、出払ってる時に坊と話してたんだよ!悪口なんか言うわきゃないだろ。
蹴っ飛ばしてやろうか!」 

「へいへい」
「ほら、はやくいっといでったら」
 さいごの言葉はやさしいおんな、母の声音がし、夫婦の唇が真横に伸びてほころんでいた。
「じゃあ、ばばあもいってることだし、行くとすっか」
「うん!」
「こっ、こら!だれが、ばばぁなんだよ!坊もなんだよ!」
「じゃあ、姥桜ってことにしといてやらぁな」
「まったく」

「ねぇねぇ、姥桜ってなに?」
「ん、姥桜か。坊はしらねぇか?彼岸桜のことよ。あっちの世界で咲く桜のことよ」
「こらぁ、なにいいかげんなこと、ほざいてんだよ!」
 お紺がほうきを握って男を追い立てる。

「逃げるぞ、坊!あっはっははは!」 
「ほんに、仲がいいんだねぇ」
 飛び出して追いかけて来た、お紺を見て話しかけてきた女が首あたりを手のひらでパタパタとする。
「もう、よしとくれよ」
「いいじゃないのさ。本心からうらやましく思うのさ。それに子も懐いてるみたいだし、
よかったよ。来た時は、どよ〜んとしていて、一時はどうなるかと思ってさ……。あら、
言い過ぎだね、ごめんよ」
198俺の屍を越えてゆけ:03/11/08 13:49 ID:XR42Rjv7
『97』

「これからも、黄川坊をよろしくおねがいします」
「なに、あらたまってんだよ。さむけがするじゃないの」
 女は躰を抱いてぶるぶるとする。笑いながら、お紺も笑い、その声につられて、他の女たちも
集まり、輪になっていた。

「坊、とみくじを引いてみなよ」
 少年は袖を捲くって白い腕を出し木箱に手を突っ込んで札を取り出す。あたりぃという
間延びした甲高い巫女の声が発せられた。黄川人が引いたのは一等。男は目の前で
起った事に心底驚いた。
「じゃ、じゃあ、今度は俺が引いてみるな」 
「きっと、一等だよ」
 いったとおり結果は同じだった。立て続けに二回、一等を引いて三回目を願わないでも
なかったが、千万宮の男たちに狙われでもしないかとびくついて、金を手にして御殿を
出て行った。

「坊、街へ行ってみるか」
「腹空いてんだろ?それにな」 
「それに?」 
「お紺にみやげも買っていってやりてぇしよ。おっと、わすれるとこだった。ほれ、坊の分だよ」
 懐から白い包みを差し出す。
「おじさんにあげる。世話になってるから」
 男は黄川人の手を繋いだままで、子供の目線に降りてきた。
「んんにゃ、これは坊の分なんだし、金はあったって困るもんじゃねぇだろ」
「だったら、おじさん貰ってよ。感謝の気持ちだから。親切にしてくれて……」
 黄川人の中に、封印した記憶が呼び覚まされそうになる。胸が苦しい、何かが詰まっていて、
込み上げて来そうだ。 
「親子なんだし、あたりめぇだろ?な」
 赫い髪をくしゃっと撫でた。
199俺の屍を越えてゆけ:03/11/08 17:11 ID:XR42Rjv7
『98』

「う、うん。でも、もってても使い方わかんないし、おじさんさんが使って」
「そっ、そうかい。じゃあ、ありがたく貰っておくわな」
「うん」 「なあ」
「なに、おじさん?」 「その、おじさんってよさねぇか」
「じゃあ、坊ってのもやめてよ。ボクは黄川人だから。き・つ・と、だよ」
「だな。そうだよな。それで、そうだんなんだけどよ、お紺にはこのことは黙っといて
くんねぇかなぁ」
「どうして」 「金のことで、もめたくはねぇからな」
「金でもめるの?」 「ああ、人のこころは変わる。よわいからなぁ」

 俺は変わらねぇと言いたかったが、この今日の金でなにが出来るのか、男はひとりで
考えてみたかった。お紺に打ち明けて、夫婦であれこれと考えるのもいいかもしれないと
思ってもみたが、まずはひとりでゆっくりと考えてみようと。それぐらいの愉しみが
あったっていいじゃねぇか、罰はあたんねぇだろうと。罪滅ぼしに、かわりとばかり、
お紺にきれいな髪飾りを買っていった。択んだのは黄川人。お業が付けていたものと似た
花の飾りを指差していた。
「高いけど、かまいやしねぇよな」
「とっても、よく似合うよ。きっと歓ぶよ。きっとだよ」
「そ、そうだよなぁ。これにすらぁ」 
 店の主人が丁寧に紙に包み、受け取って懐に入れる。

 祭壇でみたま呼びの炎の立ち上がる囲いの壇を前にして、太照天・夕子は鎮魂の儀を
執り行う。その傍には、小さなイツ花も正座して祈っていた。夕子が祈りを口にしながら
神樹をくべた。麗人・夕子は眉ひとつ動かさず祈りを捧げる。イツ花は躰を顫えさせていた。
 炎が天井を摩するほどに伸びる。火炎の龍の舌が舐めるようにして。イツ花はこめかみに
粒状の汗を浮べている。遠くから、愉しそうに立ち上がった炎を眺めている瞳もあった。
 火神ノお夏で、白いきものに炎の紋様を纏った少女。イツ花よりふたつみっつほど上。
200俺の屍を越えてゆけ:03/11/08 21:58 ID:XR42Rjv7
『99』

 炎を純粋に愛でる女の子は、魂鎮の儀の色がゴウゥゥゥと音を立てうねるのを見て
歓んだ。その気を読み、拝んでいた手をほといて、左手を後ろへ付き、上体を捻って
イツ花は振り返る。お夏はイツ花とともだちになりたくて無邪気に笑っていた。
そのイツ花は、お夏を軽く睨み返す。
「な、なんだよう。ひとが、せっかく……」
 神といっても、いろんな神があり、かならずしも人の為にある神ではない。お夏は
獣の炎を司る神。勢いを増す炎を愛する神だった。それは、時として民に災いをもたらす。
しかし、お夏は自然の摂理に位置していただけ。踵を返して魂鎮の間を去っていった。
イツ花は躰を崩したことにより、天井に渦巻く大江山の炎で焼かれ殺されていった信徒
たちの哀しみや怒りの感情が一気に雪崩れ込んで来たのだった。

「あぁああっ」
『なにゆえに、わたしたちを裏切るのです。イツ花さまあぁあああ……』
 イツ花は前を向いて祈り続ける太照天・夕子の背中を見る。総身ががたがたと顫えた。
『なにゆえ、敵に……』
「みんな、わたしの中で眠ってぇ!わたしは、わたしは……、黄川人をたすけたいだけなの……」
 前屈みになって両手のひらを付いて、真礼する姿勢のままイツ花は口を開いて吐瀉する。
ドタッ!という音とともに、壇の中の炎はシュッと消えた。

「イツ花。イツ花。起きなさい」
 遠くからの呼び声に、イツ花は咄嗟に後退った。
「どうしてぇ!どうしてぇ!学び舎だってあったのにぃ!どうしてぇ!皆殺しに
されたんですかあぁああああッ!ひどい!ひどすぎます!」
 夕子の胸に掛けられた鏡がピシッとひびが入る。イツ花は両の手のひらで顔を覆って床に
付けて、すねこすりのように丸まってしまう。
「イツ花。いいえ、昼子。あなたの母、お業は禁を破った。そして神と人の契りの子は大いなる
災いを呼ぶとされています」
201俺の屍を越えてゆけ:03/11/08 22:08 ID:XR42Rjv7
『100』

 イツ花の背が小刻みに震え、太照天・夕子の鏡には裸で男に抱かれる姿が映っていた。
自ら膝裏を抱え脚を折り曲げて乳房に近付け、男の両の手が首筋を愛撫し中指と薬指で
耳を弄られている。鏡はふたたび、パァ――ン!と音を立て粉々に砕け散り、幾つも、お業の
悶える姿を映している。
「昼子。あなたが択ぶのです。そして立ちなさい」
「ゆ、夕子さまは、わたしも殺すおつもりですか?」
 イツ花は蹲ったままで、顫える声を発した。

「イツ花は死んだのです。いまは、太照天・昼子として、あなたはあたらしい生を歩き始めたのですよ」
「……」
「花はきれいに咲いているけれど、誰の為にさいているのと訊きましたね、昼子」
「……!」
「花は人の為にきれいに咲いているのではありません。限られた生をせいいっぱいに
生きようとしていのちを紡いでいる。あなたは、時期に天上統べる力を手にするでしょう。
人の為に生きるもよし。また摂理に従い生きるもよし。あなたが選択しなさい、昼子」
 イツ花はぐしゃぐしゃの貌で夕子を仰ぐ。
「黄川人が災いを振りまくのですか?あのやさしい、黄川人が……、キツトが……」
「だから、はやく探して、天界にね」

 いつしか夕子の鏡の破片は何も映さず、漆黒の闇となってしまっていた。イツ花は涙を
ぽろぽろと流し、夕子の膝の上で小さな手をぎゅっと握り締めて号泣する。
「穀物が実を結び、季節のうつろいのなかで……みんな……みんな……おだやかに
暮らしていただけなのにぃ……うっ、うう。どっ、どうしてぇ、どうしてぇ……!夕子さまは、
お止めになってくれなかったのですかぁあああッ!どうして!どうして!学び舎には、
子供たちもいて……みんな、みんな、皆殺しだなんてぇえええ!あんまりですッ!
あんまり……うっ、うあぁああああああああああッ!ああ……」
「昼子、あなたがわたしのねがいを叶えてくれると信じています。イツ花、かならず」
202俺の屍を越えてゆけ:03/11/09 22:13 ID:8ONsqk3Y
『101』

「ああ……」
「昼子、もう泣くのはよしなさい。黄川人をさがしましょう。ほら、起きて、イツ花」
「母さま……、母さまぁ……」
「わたしたちのあやまち。昼子が正しておくれ」
 イツ花が夕子の貌を仰ぎ見る。
「わたしが……」
「よかれと思ってしたことが、ただ周りの近しい人たちを傷つけるだけのことも。とても
とても、むつかしいこと」

「そんなことよりも、母さまをたすけて。おねがいです……。おねがいだから」
 夕子の肩に手をかけぐらぐらと揺さぶる。イツ花の素足は夕子の割れた鏡の
破片に傷ついて血を流していた。
「イツ花。力をつけなさい」
 夕子の閉じていた瞼が開く。
「怒りなら誰にも……、怒りならば!」
 壇に炎が灯り、ゴオウゥウゥゥと上がった。

「怒りに身を委ねるのですか、イツ花?それもいいでしょう。でしたら、力をつけることです。
だれにも負けない力をです。そしてわたしを負かしなさい。でも、いまのあなたは、
あまりにも非力。己にすら打ち勝ってはいません」
 夕子は正座から爪先立って右脚を後ろに引き、すっと立ち上がるとイツ花を置いて
鎮魂の間を去っていった。
「わたしをひとりにしないでぇ!おいていかないでぇ!いやあぁあああッ!」
 イツ花は崩れた。
「ねぇ、ねぇ。なんで、いつまでも泣いているのさ。もう泣くのはおよしよ」
 戻ってきた、お夏が手ぬぐいを差し出す。
「あなたは、さっきの」
「炎ノお夏。なかよくしよう。ね」
203俺の屍を越えてゆけ:03/11/10 02:49 ID:6LsZZTPV
『102』

「……」
「いつまでも泣いてないでサァ、起きなよ」
「あんたには、わたしの気持ちなんか、わかんないのよ」
 お夏の差し出した手ぬぐいをひったくって、涙を拭く。
「そりゃ、わかんないよ。わたしゃ、あんたじゃないんだしね」
 お夏は、イツ花にやさしく笑い掛ける。赤毛の少女の笑みに、張り詰めていた感情が緩みかけた。
「炎ってきれいだよね。わたし、ぞくぞくしちゃうんだぁ」

「き、きれい……?」
 野焼きの風景にイツ花は思ったが、今は遠き感情だった。
「赫い火。蒼い火。建物を生き物みたいに伝って舐める火。どれも、あたいのだよ。
きれいだろ?」
 イツ花が付けた壇の中の炎を見上げて嬉しそうにしている。
「あなたの?」
「そうだよ。あたいのなんだ。あたいは火神。大江山の焔も綺麗だったろ。天上を擦る
までに、上がってさぁ。たまんないよねぇ」

「あ、あなたがしたの……?」
 ともだちになれた存在だったかもしれない……お夏。ただ炎を好きなだけの少女。
「うん。そうなるよね。あたいの焔なんだから。ねぇ、きれいだったろ?」
「どうして、大江山の焔が……み、みんな焼かれたのに……」
 イツ花は震え、頤をしゃくるような仕草をして、唾をゴクリと呑み込んだ。
「うん。炎は綺麗でも、終っちゃうと真っ黒な炭になっちゃって、醜いよね」
「……!」 どっくん! 「ねぇ、どうしたの?だいじょうぶ?」 どっくん、どくん!
「あっ、あんたなんかぁ!三味線の皮になっちゃえばいいのよおおッ!」 どくん、
どくん、どくん! イツ花はすくっと立って、お夏の躰を突き飛ばしていた。
204俺の屍を越えてゆけ:03/11/10 16:53 ID:6LsZZTPV
『103』

 どん!と突き飛ばされた、お夏の躰は背中から倒れて一回転した。お夏の目が敵対者の
ものと変る。お夏は四つん這いになり、けものの構えでイツ花を睨みつける。
「なっ、なにすんのさぁ!ひどいじゃないの!」
 イツ花の瞳の色は憎悪、お夏のそれをかるく凌駕して食って掛かろうとしていた。壇の火炎が
伸びて天井を摩する。

「ひどい?わたしが、あんたに較べてひどいの?」
 イツ花の中で眠りにつこうとしていた信徒たちの魂が揺さぶられる。炎は天井を舐めて最奥に
まで行こうとしていた。イツ花の背から黒い陰が立ち昇り、ざざっと、お夏に一斉に襲い掛かった。
華奢な少女の躰は転がって、最奥の壁に打ち付ける。
「ぎゃあぁああああああああッ!」
 天井を這っていた炎は壁を伝って床にまで達していた。

「どう、あんたの炎の味は?愉しい?嬉しいでしょう?」
 お夏の躰は炎に瞬く間に巻かれる。イツ花の繰り出した炎を、お夏は御することが出来なかった。
「誰ッ!わたしの邪魔をしないでッ!」
 お夏の躰を嬲っていた炎が一瞬で制圧される。
「およしなさい!昼子!いいえ、イツ花!あなたに太照天を名乗る器量はなし!おいたが過ぎるぞ!」
 一気に膨れ上がった神気に、常夜見・お風が気づいて駆けつけ、イツ花の背中を獲って立つ。
そのイツ花の神気、かろうじて、お風が勝るまでに拮抗する。火傷を覆った、お夏には盾になって夕子が
立ちはだかっていた。床を這っていた炎は、怯えた生き物のように天井に退く。

「み、みんなで、わたしを嬲り殺しにしたいのね!そうなんでしょう!いいわ、してみなさいよ!」
 イツ花の躰から白閃光が発せられ矢になり、再生した夕子の胸元の鏡を狙って放たれる。
「お風、気を抜くな」 
「はっ」
 閉じていた、お風の瞼が開き、紫苑の瞳がイツ花の背を睨みつける。
205俺の屍を越えてゆけ:03/11/10 17:42 ID:6LsZZTPV
『104』

 白閃光の矢は真直ぐに太照天・夕子を狙って向ってくる。
「お夏、気をしっかり」
「ゆ、夕子さまあぁぁぁ」
 背からは、癒しの気が発せられていたが、お夏には別の変化が襲い掛かっていた。矢は
鏡に当たり跳ね返ってイツ花へと向っていく。繰り出した主には牙を剥かない。イツ花が
狙ったのは後ろを獲った、お風だった。矢は、お風の顔を狙う。矢は弾け鎮魂の間は
真っ白になり、お風の黒髪を結った紐と飾りの神樹の葉が熔けて髪が舞う。

 お風の黒髪が静かに背に流れるのと呼応するかのように、閃光は収束していって、
お風の胸元で蛍ていどのよわよわしい光となり消滅した。
「気が済んだか」 お風がイツ花に声を掛ける。
「わたしは、お夏を絶対に赦さないからァアア!」
「夕子さま、お退きになって……」
「お夏……」

 右手が夕子の足元を触る。骨という骨が異形のものとなり曲がっていた。お夏の
回復していたはずの白い肌は裂傷が起こり始めている。お夏の躰は骨格の変化の
暴れる痛みと総身を襲う、むず痒い感覚に耐えている。裂傷からは白い毛が覗いていた。
「わたしは、火が好きなだけなんだよ」
「だから、なんなのよ!」
「あとから、やってきて、好き勝手吼えるんじゃないよ!あたいは、人間だけの神じゃ
ないんだ!遣う奴が、どう遣おうと知ったこっちゃないんだよ!」

「よせ、お夏」
「ふうぅうううううッ!ごめん、夕子さま」
 お夏は四足で掛け、イツ花に挑んでいく。
「お風!」
「あんたなんか、あんたなんか、猫になって消えちゃえぇえええッ!」
 イツ花に飛び掛った、お夏の躰は真っ白になり弾け飛んだ。
206俺の屍を越えてゆけ:03/11/11 20:54 ID:K5jY89FI
『105』

 お風は夕子の呼び掛けに気を強め、お夏に放たれたイツ花の気を凌ぎに凌いでいた。
その時間稼ぎに夕子は、お夏の躰を現世へと飛ばす。それは、イツ花が太照天・夕子に
白弦を引いて閃光を放ってからの間は、人の時で計れば一瞬の出来事だった。
 イツ花はすべての気を使い果たして、膝頭をタンと床に付き前のめりにバタンと倒れ込んだ。

「よろしいのですか」
「お夏のことか」
「いえ、昼子さまのことです」
 イツ花の躰も此処より消えていった。躰を別室に移したのは、お風。
「わたくしが、挑発したことだから……いたしかたない」
 お風はめずらしく眉根を寄せる。
「すまぬ。お風にまで、迷惑を掛ける」 「これからです。すべては、これからなのです」

「イツ花は、お夏に対して、人としてのやり場のない心をぶつけたのでございましょう。
きっと、いまは後悔しているはず。なれど、お夏を赦せるかはまた、別の話しかと」
「……お夏にはすまぬことをしたと思うておる」
「いえ、問題は黄川人のほうかと」
 夕子は、お風に詰め寄る。
「なにかを見たのだな。お風は、なにを見たのだ!答えてくれ!」
 お風は瞼を開き、見えない紫苑の瞳で夕子の狼狽する貌を見ていた。

「大江山、封印の下知を賜りたく存じます」
「封印、それは……、いや、考えてはいなかった。鎮魂の碑を……建立すれば、それで
よいかと……思うていた」
「此処より大江山は、大いなる遺恨の場。生れるのは怒りのみ。イツ花のが、それに
ござりましょう」
「だから、言うたであろう!あれほど、あれほどに!ことを慎重に運べと申したでは
ないか!お風!」 
 夕子は我を忘れて激昂する。
207俺の屍を越えてゆけ:03/11/11 20:59 ID:K5jY89FI
『106』

 夕子は、お風の華奢な躰を掴んで揺さぶっていた。
「夕子さま。夕子さま!」
 お風の両肩を鷲掴む、夕子の手が緩んだ。
「す、すまぬ、お風。イツ花のことは……言えんな。ひ、人も神も心は善悪だけでは推し量れない」
「泣いておられるのですか……。夕子さま、わたしは……」
「わたしは、あの時から。お業の胎動からだ。イツ花のちからを天上に欲しいと思って
いたのだ。だから無意識のうちに、こうなることを願っていたのだろう……」
「夕子さま」
「きっとそうだ。過ちは、わたしにこそあるやもしれん。すまぬ、お風。しばらく、
そなたの肩をかしてくれ」
「かわりはできませぬが、わたしの肩でよろしければ」
「ありがとう」 
「……」
 お風の手が夕子の背をそっと撫でる。
「そのまま、お聞きくださりませ、夕子さま。これよりのち、大江山を拠点として黄川人の
手の者が都に。否、この国すべてを呪い尽くす災いを振りまこうとするやもしれません」
「……それは、いつなのだ」
「茫漠として、つかみどころがないのでござります、夕子さま」
「お風のまなこをもっても、見極められんのか?」
「お輪を呼び寄せてください」
「それで、ほんとうに凌げるのか。いや、先に……先じて、黄川人を保護さえすれば、
なんとか……、なんとか」
 夕子は、お風の肩から顔を上げて縋るような眼差しで見ていた。おんなになっていた。
見えぬものを見る力を持った、常夜見・お風を前にして、その考えはなんの意味も
持たないことはわかっていた。
「それも、いたしとうございます。手を尽くします、夕子さま」
「……」
「お輪を呼び寄せてくださりませ」
「自ら申し出て、いまは謹慎しておるが……」
208俺の屍を越えてゆけ:03/11/12 20:31 ID:XjVpqIfa
『107』

 相翼院の本殿の奥の院、お業を中心とし交媾に耽る男と女の肉がもつれる、会陽の儀が
昼夜を分かたず執り行われていた。蠢く尻による和合水の奏でと、お業の妙かなる声音が
薄暗い空間を支配している。妖しい香も焚かれていて、狐火がおんなのうねりを照らす。


「はやくに、おねがいいたします」
「わかった」
「それから、お輪を昼子さまに、お目通りさせてやってくださりませ」
「お風、約束しよう」


 畳に全裸になって四肢を拡げて寝そべる男に、素肌に単衣を羽織っただけの少女が
にじりよる。碗に盛られた杏子をくちびるに寄せて含み、咀嚼して男に与える。仰向けに
寝る男は口を開け少女が垂らす果肉を待った。
 稚い唇が開いて、唾液で絖る果肉が男へと落ちる。男は瞼を開いて朱にけぶる乙女の
美貌を満足気に嬲るような眼差しで眺めていた。少女の開いた口に小さい舌に乗った
唾液が細い糸を引いて滴り落ちる。男は少女を掻き抱いて、舌に残った果肉の残りを絡めて
掠め獲る。
「んっ、ん、ん」
 かぼそい呻きを洩らして、眉間に薄く縦皺をつくらされる。男は上体を起こして、少女の
背を胸に抱く。少女は乳房と細い首に絡まる手に、くちびるを大きくひらいて、おんなの
哀しみの声音を噴き上げる。男も杏子を取り口に含み、同じようにして少女へと与えた。
生温かいどろっとしたものが、少女の口腔を満たしてゆく。
「わかっておるな」
 少女は男に逆らえるわけでもなく、こくりと頷くだけだった。蒼白の少女は涙をこぼす。
男は碗に酒をとくとくとくと注ぐ。甘味の強い酒ではあったが、少女はまだまだ馴染めては
いない。怯えた瞳が潤む。くちびるを開き、碗の縁を男に付けられて流し込まれる。
「まだ、溜め置け」
 少女は碗の中に涙をこぼしながら瞬いて、頤が酒に濡れる。
209俺の屍を越えてゆけ:03/11/12 20:42 ID:XjVpqIfa
『108』

「飲み干せ」
「ん、んん、んぐっ」
 少女は碗になみなみと注がれた酒を、喉を鳴らして呑み込んだ。すぐに酒が廻り、
抱かれていても浮遊しているようだ。
「んはっ、はあ、はあ」
「よくやった。褒めてやる」
 男の手が少女の黒髪をやさしく撫で付ける。男は上体を倒し、少女はふたたび、帝の
張り切って絖る瘤を唇で被せる。小鼻を膨らませて、剛毛をそよがせていた。
「さあ、いまいちど玲瓏な素肌を見せてみろ」
 少女は帝の腿にしがみ付いていた手を取り、肩をくねらせて剥き身の汗に絖る肌を
見せる。

「だれだ。そこにいるのは」
「ん、んんっ!」
 噛まれるのを恐れるどころか、吐き出そうとする少女の後頭部を押さえつけて、
喉奥を抉り始める。度胸が据わっているのか、単なる愚者なのか。
「光無ノ刑人(ヒナシノケイト)と申す……」
 長髪の白装束の男がぴしっと背筋を伸ばし正座していた。
「妖魔や物の怪のたぐいではなかったのか」
「物の怪かもしれませんぞ」
「我には神の後ろ盾がある」 
「昼子さまの下知をお伝えいたす」
「もうよい。離せ」
 後頭部を押さえつけていた手が離れ、少女は強張りを吐かせて下がらせると、刑人に
真礼をもって応える。
「最小の品格はもっているようだな」 「……」
「これより、大江山の封印を申し渡す。術による封印は我らがいたそう。早々に取り
掛かれよ。鎮魂の碑も建立せよ」 「まさか……」 「人にとっては、まだ先の話。
だからといって、気を緩めるな。よいな。確と言い渡したぞ」
210俺の屍を越えてゆけ:03/11/13 15:06 ID:/qaRzUE1
『109』

 宮大工以外の者も呼び寄せられ、堅牢な門を建てるために大江山に詰めることになる。
杏子、柘榴、露草、芙蓉、金木犀、葦とうつろう。まだ、細々としたことは残っていたが、大方の
ことは済んでいる。しかし落成までには紅梅が咲く頃まで待たねばならなかったが、神々も時を急いだ。
 焼け落ちた、城下の町並みは更地にされ鎮魂の碑が建立される。ここに立つといまだに
人の肉が焼けるような臭いがすると、大工仲間で噂になっていた。そして、要となる仁王門には、
その二体の仁王像、いまだ建立されてはいない。大工たちが、門の守備に抜かりがないかを
点検していた時のこと、陽が月に隠れ始めた。ざわめき始めた大工たちに、頭領が喝を入れる。
「うろたえるな、手を休ませるな!」
 あたりは薄暗くなり、完全に夜となった。

「でもよう、尋常じゃねぇぜ」
「うるせぇ!うろたえるなといってんだろ!」
 仁王門の内と外に火が灯り、人影が現われ始める。大工たちは皆驚く。頭領とて例外ではなかった。
「魔物……!」
 門の傍にいた男たちは、それだけ吐くのがせいいっぱいで、腰を抜かして地べたへと座り込んでしまう。
男たちが見ていたものは神威とは、程遠いもの。暗がりに次々と浮かぶ人影は皆、頤を引いて
上目遣いに仁王門を睨んでいる。その瞳は暗がりに黄金色の光を放っていた。神というには、鬼に近しい。

「じゃまだ。どかれよ。これより、追儺の術をこの門に仕掛ける。よいな」
「ま、まってください。まだ、碑文も……」
「そこまで、待ってはおられぬ。退かれよ。さもなくば、このままお前たちも封印するぞ。
そなたたちの命など取りはせん。その旨は帝にも言い渡した。安心して行かれよ」
「はっ、ははあっ!」
 霜月の初め、大工たちはみな大江山を下山させられた。
211俺の屍を越えてゆけ:03/11/13 18:02 ID:/qaRzUE1
『110』

 お紺は黄川人が寝付くのを待って、桶に水を張り懐紙と剃刀を用意して湯文字姿になり、
無駄毛の処理をしていた。首を折ってうなじに剃刀をあてる。湯浴みをして和毛に
慣らして毛穴を開きたかったが、黄川人の手前、そうもいかなかった。
 懐紙で剃刀を拭い、一旦は下ろす。左腕を後頭部に付けて脇を晒し、腋毛を剃ってゆく。
上から下。下から上と様々な方向から刃を繰り出して処理していった。

「なあ、ここの毛、剃ることなんかねぇんじゃねぇか」
 男が、お紺のうなじに唇をあて吸い立てたのは半年前。
「あんたの逸物を扱く場所じゃないんだからさぁ。もうよしとくれよ」
「いいじゃねぇか。いっぱい愉しめる場所があるってことはさぁ」
「ばか、お言いでないよ。あんた、睫毛でも気持ちいいって突っついてしぶかせただろ!
たまったもんじゃないんだよ!睫毛だって抜けちゃうしさ……!わかってんのかい!」
「眉毛じゃねぇもんな」

「ばか!」
「なあ、取っといてくれよ」
「ダメ、剃るんだからね!」
「じゃあさ、最後のよしみってことでさ」
「ちょ、ちょっと」
 男は裾を割って腰布を解くと、お紺の目の前に垂れている逸物を突きつける。お紺は
男の逸物を口に含みながら帯を解いて、きものは肌蹴る。

「はあ、はあ、はあ……」
 強張りを吐き出し、四つん這いになっておしゃぶりしていた、お紺は両脚を綺麗に
揃えて崩れた座り方になって、両脚を前にして抱きかかえる。膝の前に腕を組み、そこに
顔を横にして、切れ長の、お紺の瞳が男に流し目を送る。
「黄人坊も遊びに行って、いないんだからよ。それに、脇だけだし」
 男の手が華奢なおんな肩に触れる。 
「あら、脇だけなのかい……?せんないじゃないのさ」
212俺の屍を越えてゆけ:03/11/13 22:15 ID:/qaRzUE1
『111』

 黄川人は目覚めて、母の姿を探す。そこに、腰巻だけで半裸で腕を掲げて脇の毛を剃る、
お紺の姿を見た。剃刀が鈍い光を放ち、稚い逸物が膨らむ。
「あっ」
 黄川人は小さな呻きを洩らす。前屈みになり、股間を押える。お紺は黄川人の息遣いに
気が付き左の二の腕に頬を付けて後ろを振り返る。剃刀を動かしていた手を止めた。
「黄川……坊……。起きたの……かい?」
 お紺の心裡は穏やかでなく、臓腑を吐き出しそうなまでに鼓動を烈しくした。

「ああっ」
 薄暗がりにぼうっと浮かぶ、お紺の掲げられた細い腕。無毛の脇に微かな窪み。豊な
乳房は縦に伸びて、側面の麓に窪みを見せていた。膨らませた逸物は鴇色の尖りを
覗かせて、衣に触れている。母の記憶が蘇る。大いなる輪を描く乳暈と勃起した乳頭。
「どうしたのさ?」
 お紺が腕を下ろすと裸身を捩り畳に片手を付く。すぐに両手を付いて蹲ってしまった
黄川人に這って迫る。

「あ、頭が痛いっ……!」
 お紺は裾が割れた場所から強張りを見たが、黄川人が嘘をついているとは思えなかった。
「だいじょうぶかい。しっかりおし」
 お紺は横座りになり、膝の上に黄川人の頭を仰向けに載せ、唐紅色の髪をやさしく
撫でつけてやる。
「母さま……」
「なに、黄川人」
「お会いしたく、思っていました」
 黄川人は眉間に縦皺を刻みながらも、薄目を開き微笑んだ。そこには、恋焦がれていた
母の豊乳があった。蒼白のたわわな房に黄川人は手を触れ、鴇色のお紺の乳暈と尖って
凝る乳頭に触れる。
213俺の屍を越えてゆけ:03/11/13 22:22 ID:/qaRzUE1
『112』

「乳を飲むかい。黄川坊」
「いいの。母さま」
「いいに決まってるだろ」
 どうして、あの時こんなことを言ったのか、お紺にはわからなかったが、後悔はするまいと
思ってしたことだった。なんら、やましい心持ちなどなかったから。黄川人はそっと
乳首をくちびるに含み、やさしく吸い立てた。頭をやさしく撫でてやると黄川人は眦から
涙をこぼして微笑んだ。そして、お紺も微笑み返したその時、戸ががらっと開いた。

「おいおい、ぶっそうじゃねぇか?」 
 かんぬきを掛けるのを忘れていた。
「……!」
 黄川人は退行して赤子になり、お紺の乳首を夢中になって吸い立てていた。
「おい、てめぇら」
「黄川坊。もう、よしとくれ」
 お紺の夫は土足で上がり、二人に駆け寄って黄川人を、お紺の膝から引き剥がした。
男は唐紅の髪を鷲掴み引き摺り倒す。

「あぁあああっ!」
 明らかに黄川人の様子がおかしく、お紺は咄嗟に引き摺られる少年の躰に覆い被さり、
夫に吼えた。
「な、なにすんだよ!黄川人はなにも悪くなんかないんだよ!よしとくれよ!」
「じゃあ、てめぇから色をけしかけたってぇのかッ!」

「そ、そんなことしてないよッ!信じとくれよ!」
 お紺は髪を振り乱して泣きじゃくっている。その声に黄川人の声も被っていた。長屋の
連中も置き出してきて、この様子を戸口から遠巻きに様子を窺っている。止めに
入れなかったのは、湯文字姿のお紺が、裾を割って屹立を見せている少年に覆い
被さっている絵図を見てしまったからだった。
「どこをどうとりゃあ、そんな言葉が出て来るんだ!ええっ、お紺よ!」
214俺の屍を越えてゆけ:03/11/13 22:26 ID:/qaRzUE1
『113』

「ほんとなんだよ!信じとくれよ、おまえさん!」
「じゃあ、この餓鬼の逸物はなんなんだ!」
 男は髪を離し、黄川人の股間に廻って肉茎を畳に付けて磨り潰そうとした。
「ぎゃあぁあああああああああッ!」
「いいかげんにおしよ!なんで、信じられないんだよ!」
 お紺は夫の躰を思いっきり突き飛ばして、悶える黄川人を抱きかかえた。

「ちっくしょう」
 男は台所に駆けて行き、壺から富くじの金子を取り出し懐に入れる。
その途中で、お紺の置いた剃刀を見つけた。
「お紺、ゆるさねぇぞ!」
 お紺は夫の手に剃刀が握られているのを見て、何もかもが終ったと思った。
「殺すなら、わたしを殺しとくれ」
 お紺は抱きかかえた黄川人の躰を背にかばう。

「上等じゃねぇか、そうしてやるぜ」
 だあぁああっ!と駆け、お紺の髷を鷲掴み、喉を晒す。
「ひっ」
「ゆるしてくださいといいやがれ!」
 しかし、お紺は静かに瞼を閉じた。
「てぇした阿魔だよ。てめぇは!」
 さすがに、ここまでは見ておられず、何人かの男が近くまで寄ってきていた。

「もう、よしてあげなって。かわいそうじゃねぇか。な」
 火に油を注ぐことになる。男の剃刀を持った手がぶるぶると顫える。
「俺が悪いてぇのか。え。どうなんだよ!」 
「そ、それは……」
 男はお紺の首に真横に剃刀を当て、すうっと引いた。首がぱっくりと裂け血がパパッと
飛び散って畳を濡らす。誰もがそれを想像して固く瞼を閉じる。
215俺の屍を越えてゆけ:03/11/13 22:34 ID:/qaRzUE1
『114』

 湯文字姿の半裸のお紺の躰は、悶え苦しむ黄川人の上に崩れ、琥珀の液体をジョオォオオオオッ!
と洩らしていた。
「勝手にしゃがれ!」
 男は長屋連中を押し分けて闇に紛れる。
「ごめんよ。あんた……」
 お紺の小さく呟いた声は、みんなの耳には喚くよりもハッキリと聞こえていた。心配して
来てくれた連中が去った後も、お紺の咽び泣く声音だけが朝方までも響いていた。
だれもが、お紺が悪いと思っていた。朝になると、お紺はゆっくりと立ち上がる。黄川人は
ぐったりとなっていて、死んでしまったものと思って蒼ざめる。

「い、息してないよ……。どうしたらいいんだよ、あたいは……。もう、なんにも無くなっちまったよ」
 お紺は湯文字をほといて、黄川人の躰にそっと掛けた。そして全裸で裸足ののまま
戸口を出て朝もやの中に消えていった。
 午の刻に黄川人は目を醒ました。まだ、頭がぼうとしていた。
「坊!黄川坊!たいへんだよ!」
 おんなが家の中に飛び込んで来る。
「お紺さん、どこ。おばさん、知ってる」 「あんた、きのうのこと覚えてないのかい?」

「うん。頭が痛くて……」
「そうだったのかい……。そ、それよりだね、千万宮に来るんだよ!ほら、さっさと
おいで!」
「どうしたの、おばさん?」 「お紺さんがね。く、来りゃわかるよ!」
 黄川人は、お稲荷御殿のながい石段を駆け上がり、そこで見たものは、お紺の首吊り
死体だった。荒縄を鳥居に掛けて首を括っていた。しかも全裸で下には尿の滲みと
糞がこぼれている。傍には踏み台に使ったと思われる木箱が転がっていた。
216俺の屍を越えてゆけ:03/11/14 01:12 ID:7L+R9MSY
『115』

「どうして……」
「え。そりゃあ……あんた……」
「どうして、降ろしてやんないんだあぁあああッ!」
「ひっ」
 黄川人の形相がみるみる変わり、頭を抱えて石畳に蹲る。鳥居に首吊りお紺を見に来ていた
連中も黄川人の変貌に注視する。
「黄川坊。だいじょうぶかい。ねぇったら」

『黄川坊。黄川人。あたしの声、聞こえてるんだろ』
「なんで、こんなことしたんだ。どうしてボクをひとりにしたの……?」
『……ごめんよ、黄川坊』 「あぁあああッ!」 「黄川坊、しっかりおしよ」
 黄川人は上体をぐんっと反らして仰向けになり、石畳を転げまわる。
「はあ、はあ、はあ……、ごめんなさい、お紺さん」
『あんたは、悪くないよ。悪いのはわたしさ』 (子が出来なくとも、まっとうにね)
「でも……」
『悪くないのさ。でも、こんなことを黄川人にした夕子とやらは、ぜったいに赦せないね』
 赤袴に十二単を纏った麗人が黄川人には見えていた。
「……」
『あたいを不憫に思ったらしくてさ、九尾狐さまに憑かれちまったのさ。あんた、もう
ぜんぶ、思い出したんだろ。じゃあ、とっとと行きなよ』
「行くってどこへ。思い出したって昨日のこと?それとも……。ボクはどこへ行けばいいの?」
 黄川人は転げ廻って玉砂利へ。
『黄川人。あんたがしなきゃなんないことだよ。あたいが、あの人のところへ連れてってやるよ。
そして、もっと強くなるんだよ。いいね。わかったなら、あたいについといで』
 千万宮の木々がざわめき、黄川人は大声で叫んでいた。大江山の暮六つの襲撃の全てを
思い出して神気を一気に膨らませた。その圧倒的な力はすべての者の知るところとなるも、
ふたたび行方知らず。お紺は黄川人を、天上を出奔した氷ノ皇子に預けた後、九尾狐と
なって鳥居千万宮に居座り妖気を振りまいた。お紺は魔物となり、残ったのは子を
思うた母のこころのみ。
217名無しさん@ピンキー:03/11/14 08:48 ID:CasQJhsH
九尾のお紺キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

黄川人たんと、彼をとりまく人々が好きなので、とても燃えました。
俺屍さん、これからも楽しみにしてます。
218俺の屍を越えてゆけ:03/11/14 20:12 ID:7L+R9MSY
『116』

 鳥居千万宮から姿を消す前に見たもの……。黄川人が仰け反り、しなう躰を押して、
大きな鳥居を見上げ眼に入ったもの。荒縄掛けて首を吊ってしまった哀しい、お紺。
全裸で吊るされたままに大勢の見世物になり、お紺の洩らした足元の汚物には、とうに蝿が
たかっていた。お紺の貌にも。
お紺の顔は生前の美貌を留めてはいない。縄が首を絞めて鬱血し顔はむらさき色。
眼球は見開いたまま迫り出し、綺麗だったくちびるは土気色に、よじれて開き舌がでろっと
晒けている。最後まで苦しんだというしるしが克明に刻まれていた。黄川人は顫える。
怒りと哀しみの混じった感情があふれ出る。妖女・九尾狐と、お紺のやさしい顔がゆるやかに
溶け合う。九尾狐の、お紺への憐憫の情が唯一の救いなれど。
「みんな、呪い殺してやるッ!必ず、かならず、みなごろしにしてやるうぅぅぅッ!」
 蒼白の顔の左目の下にあった緑青色の痣は、龍の貌。牙を剥き躰が伸びて少年の細い
首に巻きついて、肩から胸、尻から腿にぐるりと廻る。玲瓏の肌に浮かんだ龍の痣を隠す、
臙脂の狩衣にも龍はのたうつ紋様を緑青色で描き切る。


 色にけぶる、お業の意識がいくらか戻っていた。薄くうつろな瞳を見開き遠くを見詰める
その貌は、子を愛しむ母のもの。
 胎児のようになって転がる、お業の躰を捨丸は脇に両手を差し入れて引き起こされる。
「はっ、はあ、はあ……あ!」
 少女の白い手が玉門へと廻り、とっくりから薬液を手のひらに受け、肉襞に刷り込む。
「あ、あ……。なにを……なさって……」
「ここの毛をきれいにしょうと思ってなぁ。もう、かまいやしねぇよな?」
 硫黄と石灰を混ぜた薬液を、お業の秘園に少女はまんべんなく、ぴたぴたと手のひらで
叩き擦り付ける。
「いやあ、ああ……。う、うぁ、ううっ……」
「あとで、くつろげて丁寧に剃ってやっから、安心しな」
 脇に手を差し込まれて、お業の躰が吊り上がり、泣き濡れた頬が肩に寄り擦り付けられる。
219俺の屍を越えてゆけ:03/11/14 20:45 ID:7L+R9MSY
『117』

 とっくりが空になると、少女は放り投げ手元の朱塗りの淫具をがしっと携える。
「お業、こいつと繋がれるてぇのに、そりゃねぇだろ。もっと愉しそうな面を見せてやれよ」
 ほれ、と捨丸は抱えた上体を捻って、惚けて転がされる夫に近づける。男は昼夜の
責め苦により既に廃人と化していた。目隠しする意味は既になく、その焦点の定まらない
瞳と口をだらしなく開き唾液を垂らす。お業が愛した面影は無い。絶えず鈴口から琥珀の雫を
ぽたぽたと垂れ流す姿を見せてやればいいだけ。それだけで、お業の心を千々に掻き乱し、
捨丸の強張りは、お業の背にびくんびくんと跳ね上がる。

「いやあ、いや、いやぁ」
 少女の手が、お業の躰をよじる臀部から廻され陰裂をくつろげ、鬼の角から削り出した
朱塗りの相対張形をずむんと埋め込む。
「んっ、んぁ……!」
 少女は天上を向く張り形を掴んで、ぐいぐいっと最奥を抉り、横の組紐で腰に結び、
両太腿の狭間から手を潜らせ底を撫でてから、垂れる最後の紐を掴んで引っ張って後ろの
結び目に括る。

「んあぁぁぁ……!」
「たまんねぇだろ?もっと歔きな。いますぐに繋がらせてやるぜ!」
 お業の尻に顔を付けていた少女の貌が変り、すっと立ち上がった。
「な、なんだ?いきなり」
「おまえは、なにをやってる!」
 捨丸は、お業の躰を離して少女の頬を両の手のひらで包み込む。
「まってたぜ、紅子」
「離せ」
「なんだよ、冷てぇじゃねぇかよ」
「黄川人の気の膨れ、わからなんだか」
220俺の屍を越えてゆけ:03/11/14 21:05 ID:7L+R9MSY
『118』

「キ・ツ・ト……」
 お業は転がされた躰を横たえ、朱塗りの股間から生えた屹立を紅子に見られまいとし、
脚を揃えて、くの字に曲げる。お業の弱々しく、我が子の名を吐く声音に捨丸は顔の傍に
しゃがみこみ、髪を掴んで引き揚げた。強張りは剛毛を突く。
「あぁ……!」
 苦悶を噴き上げたのか、逸物が欲しくて声を出したのか……。

「わかってやがったのか。どこにいる?やつの居場所だ。おめぇなら、すぐにわかったろうに。
さあ、しゃべりやがれ!」
 少女はうろたえる捨丸を見下ろし、平手をかました。
「なにしゃがんでぇい!」
「お前も、お業の色香に染まったか」
 もう片方の手が飛んだ。捨丸は唇を蠢かせ血の混じった唾液を、お業の裸身に吐き捨てる。
「え、どうすりゃいいんだ?」
「刀の先で夜通し、お前の好きな一点を突け。刀痕はつけるな。そして、吐かせればいい」
「おめえ、黒蝿か?」

「いまごろ、気づきよって、たわけめ。心配して来てやれば、この様だ」
「それで、なにが出来る」
「しゃべらなければ、お業もおしまいだ。肉刑にでも好きにしろ」
「おい、まてよ。俺ひとりに、やつの恨みを負わせようって肚づもりじゃねぇよな」
「そうなってくれれば、いくらかの時間稼ぎにはなる」
 捨丸はどかっと胡坐を掻いて座る。お業の貌は捨丸の胡坐の上、屹立の傍に下ろされた。捨丸の
腿に、お業の長い髪が妖しく絡む。その天上を突く捨丸の屹立に、お業の細くしなやかな指が自然と絡みつく。
「なにを考えている?」
 捨丸は自分の滾る逸物をしゃぶろうとする、お業の頬に絡んだほつれ毛を掻き分けてやる。
「お前にいうことではない」
221俺の屍を越えてゆけ:03/11/14 21:26 ID:7L+R9MSY
『119』

「言って減るもんじゃねぇだろ、黒蝿」
 黒蝿は暫しの沈黙の後に、口を開いた。
「なら、言うてやるわ。この男の転……」 「だまれ。もういい」
 捨丸はすぐに遮る。
「聞きたくはなかったのか?捨丸」
「いや、その礼だけで十分だ。せいぜい、やつを引き付けて置くわな」
「安心しろ。いまや、すべてが黄川人の気に取り囲まれている。我々はなりふり構わず
大江山を封印したばかり。しかし、その封印すらもあやうい。あの稚さで、あの気だ。
すべてがゆらぎ始めた」

「たまんねぇぜ。おめぇら、いったいなにやってたんだ……。なんてこと言えねぇか……」
 肉茎を這っていた、お業の舌が収まって、錆朱に絖る尖端に赫い唇が被さる。
「せいぜい、警護を怠るな」  「ふっはっははははは!気休めにもなんねぇだろ」
 少女の裸身が、やたノ黒蝿の大鴉の武人姿に取って変った。
「受け取れ」 「なんでぇ?」
「この小柄で、お業を責めよ」  「で、吐かしたところで、誰がやつを捕まえにいくんでぇ」

「その時は、我らが総掛かりで潰すしかあるまい」  「おだやかじゃねぇな」
 捨丸は右手で顔を掴んで、鼻から滴る汗を手のひらで拭うと、強張りを喉奥に沈めた、
お業の頭をやさしく撫でてやっていた。
「ん、んんっ、んぐっ……」
 黒蝿の差し出した小柄を受け取ると、少女はがくんと裸身を、お業の蠢く尻に崩れさせ、
驚いた、お業は捨丸の肉茎に歯をあてていた。 
「……のやろう!」 
 捨丸は前屈みになり、お業の貌を胸で押し付け、鞘で床をドンと叩く。おしゃぶりを
する口腔には血の味が拡がっていた。お業は、肉茎より噴出した血を精を呑むみたいにして、
啜っていた。
222俺の屍を越えてゆけ:03/11/14 21:48 ID:7L+R9MSY
217さん、いつもありがとうございます。

そして、長々と続けていますが、
眼に留めて、つきあって
いただけたならさいわいです。
223俺の屍を越えてゆけ:03/11/15 12:16 ID:TW/aZJa4
『120』

「九尾狐、どういうわけだ」
 忘我流水道の最奥のあぎとに、九尾狐は黄川人を連れて行った。男神の最上位に
あった者。現世の人と変らぬ権力闘争に嫌気を差して天上を出奔する。のぞみとして、
夕子に存念は託す。冷泉の間に氷ノ皇子は籠る。
「わたしは、お紺にございます」
 石筍が床に繋がっているものが所々ある。風の音も響いてこない間。時折、雫が打つ
音が聞こえた。光りすら、届いてこないあぎと。氷ノ皇子の持つ宝珠が蒼い輝きを発して
照らしている。

「おまえの素性など興味ない」
「申し訳ござりません」
「わぁ、きれいだ」
「これ、黄川坊。あんたも……」
 蒼白い無表情だった男のくちびるが微かにほころぶ。
「きこえるだろう」
「しずく?」
 黄川人は氷の華に鎮座する、氷ノ皇子の貌を仰ぐ。
「いのちの音だ。此処に来るまでも、華は見たであろう。氷、石。生は無いが華に相違ない」
「はい。きれいにございました」

「良き返事だ」
「ありがとうございます」
「ときに、お紺。おまえは、この子になにをしたい。なにをさせたい」
「力を授けてやってくださりませ」
「おまえの望む結果にはならぬかもしれんぞ。それでもよいのか」
「……」
「お紺、どうだ」
224俺の屍を越えてゆけ:03/11/16 10:57 ID:wRtwQKQQ
『121』

「凪の湖に石を投げたく存じます」
「波紋は拡がるであろう。だが、やがては消えてしまう。そうではないか?」
「浅瀬の水面で、湧き水をご覧になられたことはありませぬか?」
「なにがいいたい」
「水底より出でた湧き水は、水面へ幾重にも紋を描きます」
「投げた石と湧き水とは違うぞ。しかも、お前の話しは浅瀬ではないか」
 夕子に存念を託して、天上を出奔したこと。そして、大江山を焼き討ちにした事実。
そして、お業の子を拾ったばかりに、お紺に降りかかった災厄。

「お紺。お前のことは不憫に思うが……」
「黄川人の石が深き湖底よりの激しい湧き水を起こします」
「石か?黄川人は石なのか?」
 お紺の伏していた貌の眉間に縦皺が刻まれた。母と妖女の心がせめぎ合っていた。
「まとめ切れない夕子に石を投げてみたいのか?どのような、紋を描くかはわからんぞ。
お紺、吉兆やもしれん。否、九尾狐よ。おまえの望む凶兆かもしれん」
「はい。どのようになろうともいといません」 「まことか……」
 太刀風・五郎と雷電・五郎の兄弟のように同情から人の側に立とうとする神。人にではなく
摂理に従おうとする神。そのどちらにも組みせず、中庸の立場を貫こうとする神。

その中に石を投げることを氷ノ皇子は決める。その石がどのようなものかは感づいてはいた。
「かまわぬというのだな!」 「ははっ!」 
お紺は深々と頭を垂れる。
「黄川人と申したな」 「はい」
「我の力を授けようぞ。お紺にも問うた。それでなにがしたい。なにが望みだ」
 水神・氷ノ皇子は、あえて太照天・夕子と反目する道を択んだのだった。教えの中で、
黄川人が冷泉の間で蒼く輝く華に感嘆した気持ちを導いてやれたらと、叶わぬと知りつつも
諦めきれないでいる。
225俺の屍を越えてゆけ:03/11/16 20:57 ID:wRtwQKQQ
『122』

「ボクは……ボクはぁぁぁ……!」
 傍で伏して頭を垂れていた、お紺は瞼を閉じて黄川人の言葉を想い、切れ長な瞳を
見開く。姿を二人の前から消した。
「強くおなり、黄川坊」
 お紺の残った母性だったのか、九尾狐の怨念だったのかは定かではない。
「もっと、もっと強くなりたい!あんな想いは二度と嫌だ!強くなって、強くなって!」
 氷ノ皇子は静かに瞼を閉じた。

 少女の憑依が突然に解けて崩れ、捨丸の逸物をしゃぶって揺さぶっていた臀部に落ち、
驚いた、お業は強張りに歯を立てた。灼けるような痛みに捨丸は前屈みになって、お業の
頭を胸で下腹に押し潰し、喉奥を錆朱の瘤で深く衝きあげ膨れかえさせる。
本院の間でやることといえば、灯にゆられての肉の絡みと交媾ばかり。満足に食物を
与えてはもらっていなかった。それに飢餓感もない。神の血なのだろうと考えたのは最初の頃。
夫のかわりように、お業の気力は切れていた。
捨丸の逸物に日々縋って生きているような錯覚にふっと囚われることがあった。お業の眼は
潤み涙が噴き上がって、嘔吐感が込み上げ呑み込まされた子種を戻していた。
「ぐふっ、ぐっ、ぐえっ」
 臀部の双丘のあわいからは埋め込められた朱塗りの張り形が覗き、お業のなよやかな
気性の如きの佇まいだった叢は、交媾に次ぐ交媾にそそけ立ち、凌辱の残滓のしるしが
絶えることなく、なめくじの這った痕みたいに乾くことなしにこびりついていた。その周りには
懐紙の白い花がいくつも咲いている。
 捨丸は黒蝿に貰った小柄で床を突き痛みを堪えて、お業の貌を引き剥がした。
「んっ、はぁ……あ、あぁぁ、はっ」
 精液で絖った頤と唇を半開きにして弱々しく息継ぎをする。捨丸は、お業の尻に崩れた
少女の黒髪を鷲掴んで、手繰り寄せる。
「ああ……、い、いたぁいっ……」
 少女の声音ではなく、おんなの閨声で交媾に溺れた、だらりとした発声をした。
「俺はもっと痛かったんだ。てめぇの所為でな。荒縄を用意して羽切り台に来い。いいな!」
「は、はい……捨丸さま」 少女は涙を流していた。
226俺の屍を越えてゆけ:03/11/17 02:07 ID:38QmuUTt
『123』

 少女の華奢な躰を、お業の背を滑らせて引き摺って投げた。肘を付きながら
細い首を折り、四つん這いになってよろめきなから立ち上がった。少女の尻が狐火に
揺れた。床に転がって絡み合う男と女をかわしかわし、ゆらゆらと出て行く。
「さて、俺たちも行くか」
 お業の脇に手を差し入れて捨丸は肩に担ぎ上げ、捨丸の背に乳房がひしゃげた。
通常の人間ならば、肌の色艶や肉付きは崩れていただろうが、お業は人の精を受けて
嬲られて、いっそうの艶の凄みを増していた。捨丸は、いまではそれが憎らしかった。
背にあたる、お業の乳首を感じて、千切れるほどに噛んでみたいと思う。情が生まれ
そうになっていた。

 お業は、躰を揺さぶられて、捨丸の背にげえっと吐瀉物を流す。
「き、黄川人……」
 捨丸は転がる、お業の夫の足首を掴み、小柄の鞘を床にドンと叩いて立ち上がると
羽切り台へと歩いていった。お業の夫は既に壊れていて、引き摺られていてもなんの
反応も示さなかった。
 羽切り台は本院の間のむっとする性臭や香の匂いはなかったが、夜風が肌に刺さる。
捨丸は朱塗りの欄干の傍に立つと、引き摺ってきた夫の脚を離し、お業を降ろした。
男の躰を抱えるとうつ伏せにしたままで、欄干に引っ掛ける。

「持ってまいりました」
 背後から少女の声がしたが、夜風の寒さに素に戻されていた。
「ごくろう。おめぇは、天女さまの淫具をしっかりと締め付けておけ」
「は、はい……」
 少女は捨丸に荒縄を渡すと、ぐったりとなった女神の傍に屈み込み、男の精に塗れて
穢れたままの躰を横臥させると、お業は重い呻きを洩らして少女をハッとさせる。
227俺の屍を越えてゆけ:03/11/17 02:25 ID:38QmuUTt
『124』

「か、かんにんしてください……」
 少女は、お業に呟いて、両の肩甲骨へ縦に走った火傷のような疵痕に涙をあふれさせながら、
前に手をやって尖端を押えて紐を絞っていった。
「う、ううっ」
「しっかりと締めといてやれ」
 両腕を伸ばして欄干に掛かっている男の躰を縛り付けていく。捨丸はぐったりと
している男の尻を抱えて立たせると脚を蹴って拡げさせる。
「こっちに来て、男をしゃぶれ」
 少女は捨丸に掻けて来て、小さな手で剛直に触れようとした。

「ばか、俺じゃねぇって。こいつのだ、こいつ。それから、ケツも割り開いとけ。いいな」
「はい」
 おかっぱの少女は頷くと、欄干と男の躰の間に潜り込み、朱を背にして強張りを、
ツンとした愛らしい唇を開いて咥え込んで行った。
 男の逸物は常時、勃起したままだ。そして、琥珀の液体を雨漏りの雫みたいに、
たらたらと鈴口から流している。少女は瞼を閉じて呑み込むと一気に喉奥に届かせ、
小さな両手を筋肉が削げて見る影も無い臀部を掴んで割り開いた。男の脚の筋肉も
溶けてほっそりとしていて、自分を支えられず体重を少女へと圧し掛からせている。

「んんっ!んぐっ!」
 捨丸や少女、本院で情欲に耽溺する者たちが健常者の筋肉を維持できていたのは、
ひとえに神による憑依があったからに他ならない。
「しっかりと、拡げとけよ」
 捨丸は、お業の頭に立ってしゃがむと、両肩を掴んで抱き起こし、夫の背に覆い被せた。
「んんッ!ぐっ、ぐふっ!」
 お業の躰を重ねて両手首を縛ってから背後ろに立つと、臀部を引き上げて張形を
握って尖端を男の菊座にあてがった。捨丸は自分の屹立を、お業の臀部に擦り付けながら
腰を迫り出して、お業の強張りを夫の菊座に埋めていった。
228俺の屍を越えてゆけ:03/11/18 01:36 ID:VY/hhjHW
『125』

「お業、起きろよ。いま、おめぇは、こいつの菊座を突いてんだぜ」
 お業も男も反応はほとんどといっていいほど、示さない。欄干を背にした少女だけが、
苦悶の呻きを夜の羽切り台に放っていた。
「まあ、いいさ」
 捨丸は、お業の尻の下にどかっと、腰を降ろして胡坐を掻く。少女は言いつけを守って、
苦悶しながら貌をくなくなと懸命にゆする。長い黒髪もゆらゆらと朱塗りの欄干を背にして
妖しく映える。手元に小柄を引き寄せて握ると捨丸は顔の前で鞘を抜いた。かがり火に
照らされてギラッと光りを放っていた。その冷たい刃を真横にして、お業の蒼白の臀部に
そっとあてて寝かせてみると、お業の内腿は刃の持つ冷気にぴくっと顫えて反応する。
ぴたぴたと叩いてみる。

「つくづく綺麗だぜ」
 嬲り通しても崩れることの無い、お業の臀部に柄を握り締め刀先を立てて近づける。
捨丸は手を止め左手で口を覆った。夜風が肌に沁みるはずなのに、顔には粒状の汗が
噴き上がっていた。刃先を豊臀に突き立て腿にまで引き下ろしたい衝動に駆られた。蒼白な
柔肌に湧き水のように上がる紅蓮。しとやかな女の心を物にした男は壊せても、お業を
手にすることは出来ない。喘ぐ脾腹を両手のひらで強く抱きしめても、指の間から砂が
こぼれるように何かが流れていった。

「ざまあねぇな」
 顔の汗を拭ってビュッと左手を切る。捨丸は握っていた小柄を置いて背を丸めながら、
夫の上に被さる、お業の足首もいっしょに括り始める。
「どうだ、お業。うれしいだろう……?」
「う、うれしい……」
 お業の洩らした言葉は意味をなしてはいなかった。
「そうかよッ!」
 荒縄をきつく締め上げた。
「うああっ!」

229俺の屍を越えてゆけ:03/11/18 02:04 ID:VY/hhjHW
『126』

 捨丸は胡坐を崩して、お業の夫の強張りをしゃぶっている少女の飾り毛の無い、濡れて
ひくつく綴じ目に足を伸ばして、くつろげる。少女は欄干に背をもたれ掛けながら、お業の
夫の逸物を捨丸の言われるままにしゃぶらされていた。
 少女は膝を立て細くしなやかな脚を少し拡げながら、疲れる顎から唾液をこぼして頭を
動かしている。そこに捨丸の陰裂への嬲りが加わった。それまでにも陽根のおしゃぶりに
陶酔し始めていた少女は、膝頭を僅かに上げ下げをしてはいたが、急に脚を伸ばしては
引くといった動作をせわしなくやりだす。それは、男の強張りへの恥戯にも影響を及ぼしていた。

 お業に覆い被さられて尻で繋がらされている夫は腿をひくつかせ、物憂げに尻を左右に振り始めた。
「ああ……、あ、あ……!」
 望まぬ交媾に心が痛む。開いた口からは唾液が垂れて少女の黒髪を濡らしていた。
背の上の、お業は夫の背の顫えが自分によるものと思って、うなじに頬を愛しんで擦っていた。
男のうなじを天女の涙が濡らす。
 お業の吐息が洩れてきたところで、捨丸は小柄を握り締めて、揺れる白い蒼い月に刀先を着けてみた。
そろりそろりと、お業の尻肉へ押し付けられ、笑窪がひとつ生れて元に戻された。
神の持つ刀ゆえに力加減が難しい。

『血を出すな。それをただ繰り返せ。いいな。根気よくだ。肌は裂くなよ』
 黒蝿の去り際の言葉だ。二十回、五十回……、百回……三百回。捨丸は少女への愛撫を
おろそかにして、このことのみに囚われ没頭していった。
「う、うあ」
 変化が生れたのは、五百回を越えた頃からだった。
「お業、黄川人は……どこにいる?答えろ」
「あ、ああ……、あ!あ!あ!」
 千を越えた頃から、お業は泣き叫び、夫と繋がった尻を闇雲に振り始めていた。
衝き上げていたかと思えば左右に豊臀を振り立てる。菊座を嬲られる男も喚き散らす。
230俺の屍を越えてゆけ:03/11/18 02:10 ID:VY/hhjHW
『127』

「お業、てめぇの餓鬼はどこにいる!答えろ!」
 千百十四回……。
「ぎゃああああああああああッ!」
「ちくしょう……!」
 左手で滴る汗を拭いて、黒蝿の小柄を台場の床に投げる。捨丸は立ち上がって、
お業の尻朶を割り開き屹立を菊座に埋め込もうとした。拇が尻肉に埋まるだけで狂ったように
躰をうねらせ、その顫えは覆い被さった夫へと確実に伝播していた。お業の振り乱す
長い髪を掴もうとした。

「やべぇ」
 捨丸は、お業の菊座を嬲るのをやめ、屈み込んで少女の細い両足首掴んで、
ぐいっと躰を引きずり出した。
「おい、しっかりしろ」
 少女の両の腕は、括りつけられた、お業と夫の脚に弾かれて、両手を頭上に掲げる格好
で引き摺りだされる。黒髪が散り、白く華奢な躰を真直ぐに伸ばしている。抉れている
とまでは言わないが、お業の乳房と較べるには、あまりにも惨め過ぎた。捨丸はそれでも
少女の肉に魅せられていた。

「羅刹……になったか。紅子」
 捨丸は少女をそう言い名付ける。
「しっかりしろ」
 かるく、少女の頬を叩くと「ううん」と声を洩らした。捨丸は右手で頤を掴んで口を
開かせ、左手の指で少女の口腔にしぶいた子種を掻き出してやる。
「おまえ、衣を脱いで、水につけろ。それをすぐによこせ」
「は?」
「いいから、はやくしねぇか!」
231名無しさん@ピンキー:03/11/18 19:21 ID:OyHaM1hs
age
232俺の屍を越えてゆけ:03/11/18 22:07 ID:VY/hhjHW
『128』

「はっ」
 言われて、警備に付いていた武者は急ぎ鎧を取り去り、衣を脱いで欄干を跨ぐと夜の
湖に飛び込んだ。
「捨丸さま、行きまするぞ!」
 下から水を含んだ衣が投げ込まれ、床にビシャッと叩きつけられた。捨丸は水を吸った
衣を取って絞り、自分の口に溜めてから、少女の唇に水を与えてやった。少女の喉がこくりと蠢く。
「捨丸……さま……」
 少女がかぼそい声で鳴いた。

「気力がまだあるのなら、口を漱げ」
 捨丸にしたら、少女は単に万朱院・紅子のよりしろ。今はそれだけの存在であり、
それ以上にあらず。しかし、帝に玩弄され尽くされていた少女にすれば、親のやさしさに近しい。
それが、恋と呼べるものなら、それでもいいと捨丸の腕をしっかりと掴んで肩へと手を這わす。
少女の頭が捨丸の厚い胸板へと埋まる。

 少女の黒髪のやわらいだ芳香を捨丸は肺に送り込んだ。本院の間で日夜繰広げられる
会陽の儀の中にあっても崩れなかったのは、万朱院・紅子の神威の残り香に他ならない
少女のはかなげな美しさも微妙なさじ加減で捨丸を揺さぶっていた。
 胸に埋まった頭から垂れる長い艶々とした黒髪が羽根切り台の床板に流れて拡がっている。
捨丸の胸板で少女の吐息がこぼれる。

 ぽちゃぽちゃっとした鴇色の唇が、おんな赫い感触に思えていた。幻視という
高等なものではない。捨丸はただ、想い描いただけだった。
 悪の中の善。善の中の悪。捨丸は苦笑した。最初は少女の中の紅子に惚れたのだと
思った。それが捨丸に人らしい所作のまねごとを生む。少女は捨丸に投げられた花のたね。
233俺の屍を越えてゆけ:03/11/18 22:13 ID:VY/hhjHW
『129』

「お父さま」
 かがり火の薪の立てるぱちぱちという音と風の声。それに、お業の狂ったような喚きが響く。
少女のかぼそい声は棘でしかなかったが、決して小さくはなかった。捨丸は髪を
鷲掴み、少女の貌と喉を晒して二度目の水を小さな華に注す。気は確かにしらけたはずだった。
「ああ……。ん、んんっ」
少女は捨丸に与えられた水を素直に飲み干した。
「漱げといっただろうが」
 捨丸は少女を床に放り投げ立ち上がった。少女は床板に頭を打ちつけて悶えながら、
捨丸のいきり立った男の証拠を見た。お業との交媾を自分が邪魔したからだと哀しむ。

「も、申し訳ござりません」
 少女は躰を横たえ、肘で這いながら捨丸を追う。捨丸は欄干に行って、登ってこようとする
部下を引き揚げる。
「すみません」 「いやいい。それよりも、頼まれてはくれねぇか」
 少女は這って捨丸の足元に来ていた。
「なんなりと」
「お業と男だ。暫らくこのままにして、様子を見ててくれ。決して触れるなよ。
壊れちまうからな」

「わかりました」
「それから、縄をほといて、祭壇に戻しといてくれ。犯すなと言っているんじゃねぇ。
無理をしたからな。ちゃんと間を置けといっているんだ。いいな」「はい」「頼んだぜ」
 お業と男が欄干に括られて叫ぶ姿を一瞥し、捨丸は足元に這って来ていた少女の白い
華奢な躰をひょいと掲げると横抱きした。少女は驚いて両脚をばたつかせてから、
申し訳なさそうに羞ずかしがって躰を胎児のように丸めている。捨丸は少女を連れて
本院を通り、左翼の天女の小宮の間へと歩いていった。
234俺の屍を越えてゆけ:03/11/19 03:17 ID:M35BlFS2
『130』

「おめぇは、勘違いをしてるんだぜ」
「……」
 少女は捨丸の腕の中で丸まったままでじっとして動かずに息を潜めていた。
「俺はな、お前の中にいた紅子の影を見てるだけなんだ」
「……」
 少女はコクリと頷き、捨丸の胸板にあてていた手を強張らせ爪を立てる。
「そうでもなきゃ、俺はおめぇみてぇな、おとめごは相手なんかしねぇ。わかんだろ?」
 何故に、くどくどとそんなことを、この少女に説明しようとしているのかが捨丸の
内なる変化。

「それでも、よろしゅうございます」
「わかんねぇやつだなぁ」
 蝋燭の灯りに照らされた、手狭な畳の間に入る。湖に面した露台に掲げられたかがり灯が
射してくるが、本院の間の狐火ほどの光量はなかった。少女の蒼白の肌は橙色に
照らされている。金箔を貼った襖に白い梅の花が狂い咲き。すべてが橙の世界だった。
 捨丸は腕の中に一輪の華を抱く。それは忘れ草。八重咲きの綺麗な花なれども、
いまは蕾。おんなとしてはまだまだ未熟なほっそりと尖った頤に手を掛ける。

「あっ……!」
 菜として、この少女を食す。少女のくちびるが、蛮族の荒れたくちびるにひしゃげ、
胸を掻いていた手が首に廻され瞼を閉じて涙が流れた。捨丸は少女の肉体を青い畳に
そっと仰向けに寝かせる。少女は寝かされて自分の意志で細い脚を心なし拡げてゆく。
おなじく細い腕は腰の傍に。含羞んだ貌は横に向けられ、晒された片方は長い
黒髪の房がそっと掛かって隠す。乳暈も小さく、その頂きの尖りも。仰向けにされた
乳房は更に膨らみを失って喘いでいた。
 玩弄されたというのに、こうも気持ちひとつで変るものなのかと、部下が脱いだ衣で
穢れを捨丸は丁寧に清めてゆく。万珠院・紅子がよりしろにした少女の躰を。
235俺の屍を越えてゆけ:03/11/19 21:23 ID:M35BlFS2
『131』

「はあ、はっ……」
「逃げたければ、逃げてもかまわねぇ」
 少女は貌を起こして羅刹の貌を見て、左右に小さくかぶりを振るった。
「俺は、お前を食うんだぜ。お業を嬲っていたのを、ずうっと傍から見ていただろに?」
「か、かまいません。好きにしてくださりませ」
 捨丸は少女に覆い被さり、散った長い黒髪の上に両手を付く。

「ああ、そうさせてもらうぜ。ところでよ、紅子って呼んでもかまわねぇか?」
 少女はコクリと頷くと、捨丸は傍の燭台を引き寄せた。
「あとで、逃げときゃよかったって思ってもしらねぇぜ」
 少女は瞼をゆっくりと閉じて、頭を畳に下ろす。
「あっ」
 少女は小さな声を上げた。捨丸は薄い乳房に右手を置いただけだった。ささくれ立った
捨丸の手が脾腹へと移動した。ざらっとした感覚が少女の肌を這う。少女は嫌われまいとして
右手の人差し指を曲げて、唇に近づけるとコリッと指を咬んだ。

「嫌ったりはしねぇ。紅子の声を聞かしてくれねぇか」
「うれしい。捨丸さま」
「俺の手、痛くはねぇか?」
 少女は小さく、はいと嘘をついた。捨丸は、お業をいっしょに嬲った時、紅子に惚れていた。
少女を抱く気など、更々なかったのに万珠院・紅子の残り香に惹かれ強張りの尖端を稚い
躰に埋めたいと思った。天女をめとった男に嫉妬していたという心を否定したかったからか。
それなのに、やさしさのまねごとの波紋がどうしようもなく捨丸の中に拡がる。

 捨丸は少女の脾腹を挟んだまま、下腹に顔を埋める。青い畳の上の贄は、蝋燭の灯りに
照らされ橙の萱草の花を咲かせる。畳に露がとろりとこぼれる。めのうを舌先でそっと触れると
紅子は美しい声音で歔く。
236俺の屍を越えてゆけ:03/11/19 21:32 ID:M35BlFS2
『132』

「はうっ。はっ、はあ……っ」
 少女の躰がぐんと弓なりにしなう。
「挿れるぜ」
 捨丸は先刻と同じ体位を取り、両手を少女の肩の傍に付いて見下ろしている。
「はい」
 捨丸の醜悪な尖端が少女の清楚な佇まいの綴じ目を押し拡げて、ずぷっと沈み込んでいった。

「あぁああっ」
 万珠院・紅子が離れてからは、少女の躰を抱いたものはひとりもいなかった。たっぷりと蜜を
したたらせているのに、締め付けがきつい。少女は捨丸の剛直に健気にしがみ付いてくる風情。
はやる気持ちを押さえ、そろりそろりと少女の華をひらいていった。
「あ、あっ、ああ……!」
「痛いのか!」
 少女の腰の顫えが凄まじい。捨丸のがたいも逞しかったが、彼にも黒蝿が憑依していた躰だった。
常人の交媾で得られる以上のものを感じることが出来るようになっている。ましてや気持ちが
ふれあえば、忘我の境の法悦にさまようことに。

「紅子、脚を腰に絡めろ」
 少女の屹立の埋まった下腹が激しく波打つ。華奢な躰を揺さぶられて畳を摺り上がって両腕を
投出して両手のひらで踏ん張るように畳に付いている。
「かまわねぇから、俺にしがみ付け。はやくしろ」

「はっ、はい!捨丸さま!」
 捨丸は肘を付き、首に抱き付きやすいように上体を下ろす。
「あっ、あ、あ、あぁあああああッ!」
 少女は脚を掛けてしっかりと捨丸にしがみつき、嵐に揺さぶられる笹舟になる。ゆれてゆられ
畳に脚が両とも弾き跳ばされる。膝頭を浮かせ、踵を臀部に持ってこようとするが、叶わず
畳へと伸びていた。
237俺の屍を越えてゆけ:03/11/20 02:49 ID:3J8p2uFU
『133』

 捨丸の首に少女の腕はとしっかりと巻かれ、苦悶する貌をそこに隠すが仰け反って
しまい喚いた。捨丸もその閨声に精を放ってしまう。少女の躰を、まだ、抉り続けたい
衝動はあったが、だらりとなった頭を手で支えてやると静かに寝かせた。捨丸が少女の
膣内から去ろうとした時、ぐったりとしていたはずの少女が躰を引きとめる。
「まだ、ゆくな。暫らくこうしていろ」
「紅子か?いつからだ。いつから、そこにいた!」
「なにをうろたえてやる。おとめごが哀しむぞ。ほれ、覆い被さってやれ」
「……!」
「おとめごはしてほしいというておるわ。きやれ」
 捨丸は紅子の言葉に従い、黄金色の瞳に魅せられ、少女の躰に覆い被さっていった。
捨丸は少女の頭をやさしく撫でる。 
「すまねぇ」
「よしなにな」
「なにいいやがってんでい……」


 天上の最も神聖なる場所。霞が集合して、ひとりの麗人となる。
「お目通り叶えていただき、うれしゅうございます」 「呼んだのは我ら」
 お輪は、お業の掟破りの行いの罰として自らの意志で籠っていたが、太照天・夕子に呼ばれて
神代よりの間に参上していた。その傍には、夕子の懐刀の常夜見・お風が、少し離れて
小さなイツ花がちょこんと座っていた。
「お輪、至急相談したいことがある」
 お輪は真礼の構えを崩さず、頭を下げたままにいる。
「面を上げよ。お輪」
 お風が、お輪に声を掛ける。
「はっ」
 イツ花は、ゆっくりと顔をあげた、お輪を見て驚く。それは、お輪も同じだった。
238俺の屍を越えてゆけ:03/11/20 02:52 ID:3J8p2uFU
『134』

 上座に座っている乙女から、妹の気を感じていたからだ。しかも、その素質は、お風を
既に凌駕して夕子に拮抗する勢い。
「母さま……」
「これ、イツ花」
 お風が紫苑の眼を見せた。
「構わぬ。行かせてやりなさい」 
「はっ」 「母さま。逢いとうござりました」
 たとたとと、下座のお輪へと近付いていって泣き崩れた。

「イツ花なのね」 「はい。母さま」
「イツ花。イツ花。よく、お聞き」
「し、しばらく……こ、このままで……いさせてくださりませ……母さま……」
 イツ花は、お業と思って咽び泣く。夕子もそうしてやってくれと、お輪に向って瞼を
静かに閉じた。お輪は赤子を抱くようにして泣くイツ花をあやす。

「落ち着いた。イツ花」 「はい。母さま」
「イツ花。よく聞いてちょうだい。わたしは、お輪。目元の黒子の位置が違うでしょう」
「母さまじゃないのですか……」
「ごめんなさい」
「イツ花。わたしはお前の伯母上。お業が天上を去ったことで、籠っていたから
逢う機会が無かったの」

「ごめんなさい……」
「あなたは謝らなくともよいのよ。わたしが、択んだことだから」
 抱かれていたイツ花は、お輪の言葉に不思議そうな貌を向けていた。
「お業とわたしは、ふたりでひとり。もとは、ひとりのおんな」
 イツ花の小さな手が、お輪の衣をしっかりと握り締める。
「お輪、相談のことだが」
「はい」
239俺の屍を越えてゆけ:03/11/20 02:55 ID:3J8p2uFU
『135』

「いや、そのままでよい」 「はっ」
 躰を硬くしたイツ花をやさしく抱き締める。
「お風、お前の口から話してやってくれまいか」
「かしこまりました。お輪、現状は知っておるであろう。すべてを見たはずだ」
「はい」
「それでも、われらに組するか問う。いかがする」
「わたしは、お輪は、お業の仕出かした始末をしたく思います」
 イツ花の躰が、びくんと顫える。
「ならば、話そう。これは先々のこと。掛かる災厄に備え、お業の夫が転生した男、
壬生川源太と添い遂げ子を生して欲しい」
「な、なんと申されますか」
「お前はイツ花の素質を読んだであろう。なら理解したはずだ。黄川人は歩き出した。
それしか、道は無い」
「わかりました。お風さまがいうのならば必定。わたしは、それにしたがいます」
「覚悟は出来ておるのか」
 それまで黙っていた夕子が口をひらく。
「黄川人が虚無を呼び込もうとするのならば、わたしは闘います。いまここに
誓約(ちかい)ます」
 イツ花の泣き声が大きくなっていた。
「黄川人をいじめないで。伯母上」
「黄川人は、あなたが愛した花までも枯らそうとする。それを止めなくては」
「まだやさしいのに。どうして、みんなでいじめるの。どうして黄川人をいじめるの」
「イツ花。お前は、お夏を赦す……」
「言うな、お風!」
 イツ花は、お輪の胸でわっと泣き出してしまった。夕子は右脚を引き、爪先立つと
すっと立った。お風も後に続く。
「泣き止むまで、イツ花の面倒を見ていてやってくれ」
「はい。夕子さま」
 ふたりは瞼を閉じて、躰を霧散させて、この間を去っていった。
240名無しさん@ピンキー:03/11/20 19:25 ID:Y/s98cOS
突然ですが割り込み投下よろしいでしょうか?
事情があって明日以降になってしまうのですが…
241名無しさん@ピンキー:03/11/20 19:27 ID:Y/s98cOS
上げてしまった。すいません。
242名無しさん@ピンキー:03/11/20 20:07 ID:cIc9Mz4h
>>240
どうぞどうぞ。
久しぶりの新顔に期待
243サモンナイト3(1/9):03/11/21 18:26 ID:Q3rj8AKG
断末魔の絶叫が平原を満たす。
地面を真っ赤に染める血飛沫。金属同士が擦れ合い焦げる臭い。召喚術の閃光に呑み込まれ跡形もなく消失する体。
傾きかけた太陽が嘲笑うかのように赤光を投げかけるなか虐殺は行われた。
それはもはや戦闘ですらない一方的な殺戮。
反撃も逃走も許されぬまま斬られ、灼かれ、砕かれる。
彼らのそれまでの人生や個々の思考をいともあっさりと握りつぶして。

ビジュはかつての『仲間』が死んでゆくのを奇妙に苦い思いで見ていた。
軍を裏切りイスラ、ひいては無色の派閥についたことを後悔してはいない。
目前の兵士達のように殺されるよりは幾分かましだと思える。
だが、同時にわだかまるのは不安。
今こうして傍観者としての立場をとれるのは、隊の情報をイスラへと流してきた功績があったからだ。
ならば隊が壊滅状態となった今、自分の価値はなくなったのではないか。
ビジュは知っている。裏切りがどれほど容易く行われるかを。
目の前で捨て駒にされる暗殺者達を見て、自分だけは特別だと思えるほど楽天的ではない。
だが今更無色から離れ孤立するほど愚かにもなれない。
全ては今更で、後戻りする道はとうの昔に閉ざされた。ならば。
「ここで生き延びる算段するしかねェだろうが……」
吐き捨てるような呟きはすぐに轟音へとまぎれ聞こえなくなった。


頭のどこからか雑音が響く。海鳴りにも似ているが、もっと不快で不吉なざらついた音。
思い出す。ここはあの日の平原ではなく、死の淵に立つのは他の誰でもなく、自分自身なのだと。
244サモンナイト3(2/9):03/11/21 18:27 ID:Q3rj8AKG
「オルドレイク様、僕を試してみませんか」
「ほう、出来るのか?」
「おそらくは」

「じゃあビジュ、君ももうちょっと手伝いなよ。無色で生き残るにはとにかく成果を見せなきゃね」
「……おう」
「ふふっ、いい返事だね。じゃあ先生、次は僕と付き合ってくれるかな?」
蒼ざめた顔で、それでもアティは杖を構え戦闘体勢に入る。
真直ぐな瞳は危機にあっても諦めるということを知らないようだった。

鈍い音がして無色の兵士が殴り飛ばされる。誰かの放った召喚術がそこに居た者ごと地面を抉る。
ビジュは戦場を駆ける。投具と憑依召喚術で攻撃を加えてはいるが、目立った成果は得られない。
逆に数で勝っていたはずのこちらが圧される始末。
ビジュ自身も致命傷には至らないものの相当量のダメージを受けていた。
未だに行動を起こさないイスラとウィゼルに殺意すら覚える。……また一人倒された。
悪態を吐きつつも周囲を見渡し。視線が一点に固定される。
普段は後方で召還術連発しているはずのアティが、自分の攻撃範囲にいた。
先程の兵士を倒すため前に出てきたのだろう。まだこちらには気づいていない上、彼女の仲間も近くにいない。
投具を握り直す。
チャンスは一度、良くて二度。
アティは召喚術中心の戦い方をするため、物理防御は低い。
だが削るだけでは意味がない。初撃で倒せなければ召喚術での反撃が来る。
手練の兵士を一撃で戦闘不能に追い込む威力に耐え切るのは今の状態では無理。
しかも彼女はシャルトスという反則な強さの魔剣持ち。抜剣されては万に一つの勝ち目もなくなる。
勝てる手段はひとつ、抜剣する間さえ与えずに倒すことだろう。
245サモンナイト3(3/9):03/11/21 18:29 ID:Q3rj8AKG
気配を押し殺し横合いへと滑り込み、
風切り音。翻る白いマントの上、飛び散った赤い雫。
「ちいっ!」
「……ビジュ!」
投具はアティの二の腕をかすめるのみに留まった。続く戦闘で研ぎ澄まされた勘が、彼女の身体をぎりぎりで動かしたのだ。
焦るビジュの目の前で、アティの掌のなかサモナイト石が淡く輝き。
その動きが突然止まる。あっけにとられた、と言って差し支えない表情に不信を抱いたのも束の間。

何かを考える余裕もない。意識に暗幕が落ちる。
思考がどうにか回復する頃には地べたに這いつくばっていた。土煙に思わずむせる。
アティが目の前で呆然と佇んでいる。銀の髪と構えた魔剣で抜剣されたことを知り焦燥に身が軋んだ。
笑う膝を叱咤してどうにか立ち上がろうともがく。今の状態で追撃を受ければ―――追撃? 誰から?
衝撃は背後からだった。
アティに術を使う暇はなかったはずだし、第一誰が自分まで巻き込んで攻撃するものか。
ならば、これは。
悲鳴を上げる首を無理矢理回し後ろを見る。
銀の髪、身に纏う奇妙な威圧感。一瞬抜剣アティがもう一人いるのかと思った。
だが彼女と決定的に違うのは、手にした剣。
シャルトスが深碧色なのに対し、ソレが持つのは血の色をした刀身。
「なんて顔してるのさ先生。ちょっと考えれば分かることだろう?
 僕が『紅の暴君』―――キルスレスの所持者だってことぐらい」
アティは震える声でビジュの後方へと叫んだ。
「イスラ…貴方、仲間を巻き込むなんて……っ」
「仲間?」
嘲りを込めてイスラは笑う。かざしたキルスレスが同調するかのように真紅の身を揺らす。
「別に、使えるから利用してただけだよ。仲間なんて―――馬鹿じゃないの」
246サモンナイト3(4/9):03/11/21 18:32 ID:Q3rj8AKG
怒りは不思議と湧かない。ああ、やっぱりな、と妙に納得した。
「―――イスラあっ!」
敵のはずのアティが激昂しイスラへと向かう。平和主義者を気取る彼女にしては珍しい。
「おやおや、やっぱり敵のことでも怒っちゃうんだね。甘いよね先生って」
けらけら笑い、キルスレスを振るう。無造作な一撃に見えたがアティの顔を苦痛に歪ませるには充分な威力だった。
彼我の距離が近過ぎる。このままでは召喚術を使う余裕はない上、仲間が駆けつけるまで彼女が耐えられるかどうか。
疑問が浮かんだ。何故、一旦下がって距離を取ろうとしないのか。
背中を見せるのを恐れているのかもしれないが、このままじわじわとなぶられるよりも、
ダメージ覚悟で他の連中との合流を目指したほうが良いと思うのだが。
そこまで考えて、というか周囲の位置関係を把握して、もの凄くいやな仮定を思いついた。
どの位かというと、あまりの厭さに脳がそれ以上考えるのをやめる程。
すなわち、彼女が引かないのは、身動きのとれない自分に攻撃の矛先が向かぬようするためではないか、と。
冗談ではない。彼女の性格を考慮すると本気でありそうなのがむかつきに拍車をかける。
皮肉にもその感情が力を呼び戻した。
「つうっ?!」
キルスレスを握る手から力が抜け、落ちた剣先が地面を浅く削る。
原因はイスラの右肘に突き刺さる投具。
魔剣の所有者二人が、同じ名を呼ぶ。一人は怒りを、もう一人は戸惑いを込めて。
この程度で倒せるとは思わなかった。ましてやアティに協力するつもりなぞ欠片もなかった。
唯、このままで―――使い捨ての道具扱いで終わるのに今更腹が立っただけだ。
イスラから奪えたのはほんの数秒。だが戦況を変えるには充分な時間。
アティの瞳が硬質の輝きを増し、血の気の失せた唇が呪を紡ぐ。手の中でサモナイト石が砕け。
目を見開くイスラの前に、常よりも強大かつ無慈悲な気を纏い鬼神将ゴウセツが現れる。
暴走召喚。誓約を代償とし、本来以上の力を引き出す禁忌の技。
耳にする者の魂を振るわせる咆哮が戦場に響き、鬼の太刀がキルスレスと激突しこの世ならざる火花を散らす。
247サモンナイト3(5/9):03/11/21 18:34 ID:Q3rj8AKG
刹那の拮抗。
緊張が高まり―――弾ける。
ゴウセツの姿が陽炎の如くゆらめき、自らの世界へと戻る。
同時にイスラの華奢な体躯が宙を舞う。そのまま地面に叩きつけられ、二転、三転。
終わった、と思った。アティが罪悪感から生まれた嗚咽をかみしめ、
「あ…ははっ、あははハはははっ!」
突如、哄笑を上げイスラが立ち上がる。だらだらと血を流しありえない角度に折れた腕を垂らし、
否、
「……っ?!」
「そんな、うそ……!」
悪い夢でも見ているかのように。
捻じ曲がった腕を軽く振れば、関節が筋肉がまるでそれ自体が意志を持つかのようにあっさりと正しい位置に戻る。
深く抉れていたはずの傷口が見る間に再生し、血を拭えば元通りの滑らかな肌が現れる。
「いいね……とてもいい気分だよ」
目を閉じ、うっとりと呟く。なまじ見目が良いだけに異形の不吉さが一層際立つ。
「今なら君の気持ちが分かるよ。この力があれば、負ける気なんて全然しないよねえ?」
軽い足取りでアティへと歩み寄る。明るい声色とは裏腹に、叩きつける刃にはどす黒い殺意が十二分に込められていた。
圧されてアティが一歩下がる。イスラが詰める。
シャルトスとキルスレス、生まれを同じくする二振りの剣が打ち合わされ、
地面が揺れる。バランスを崩したのと体力の限界が訪れたのとで、ビジュはその場にへたり込んだ。
異変は大地に留まらず、空を黒雲が異常な速さで覆い雷光を閃かせる。
魔剣の激突により引き起こされたのだと、この場にいる誰もが判った。
「引きなさい、イスラ! このまま戦えばどうなるか分かりませんよ!」
「……ちぇ」
子どもめいた不満を洩らしながらも、イスラは後方へと跳ぶ。
キルスレスがどこへともなく消えると、無色の派閥幹部オルドレイクへと恭しく頭をたれる黒髪の少年が残される。
「良い働きであった、同志イスラ」
「お褒めに与り光栄です。しかし、さすがに慣れていないせいかこの辺りが限界のようです」
青白い頬と乱れた息から、謙遜でないのが見て取れた。
「ふん、まあ構わん―――引き上げるぞ」
言外に今日のところは、と滲ませて、無色の派閥は去った。
248サモンナイト3(6/9):03/11/21 18:35 ID:Q3rj8AKG
止められなかった。あんな力の差を見せつけられては止められるはずがない。
苦い静寂の中、おずおずとビジュの元へとアティが歩み寄り、助け起こそうとして、
「あの……」
高い音が響く。どこにそんな力が残っていたのか、差し伸べた手は乱暴に振り払われた。
完全な拒否に言葉を失う。
―――放って置けばいい
頭の中囁きかける声。それはシャルトスのものなのか、シャルトスを借りた自身の声なのか。
―――あの男はお前にとっての『敵』なのだから
目眩がする。膝ががくつく。誰かがもう行こうと呼びかける。
「……関係ないです」
―――そう、その男を助ける理由などお前のどこにも 「違います」
生まれた空白に思いっきり、
「貴方の気持ちなんか関係ないって言ってるんです」
シャルトスの言葉も渦巻く暗い感情も全て消えてしまえとばかりに言い放った。
「『私』が『そう』したいんです、だから一緒に来なさい!」
支離滅裂だ、と我ながら呆れた。ビジュは無論のことシャルトスまで黙ってしまう。なんだか仲間の視線が痛い。
尽きかけた精神力底までさらってセイレーヌを喚び出し、ビジュの傷を無理やり塞ぐ。
「誰が助けろって―――」
「ああもう黙ってください! しつこい男は嫌われますよ?!」
自分勝手な女とどっちが嫌われるだろう。いや両方か。
腕を掴む。熱い。まだ生きている。
だから助けなくてはならない。
―――その行為は同情や哀れみですらなく、ただ自分の感情を満たすためだけの単なる我侭に過ぎずとも
249サモンナイト3(7/9):03/11/21 18:40 ID:Q3rj8AKG
機界集落・ラトリクスに位置する高度な医療施設の揃ったリペアセンターは、激化する戦いの中で重要度を著しく増している。
看護人形のクノンがてきぱきと治療ユニットを操作するのを、アティはおとなしく眺めていた。
「必要な処置は全て完了しました。ただし疲労が激しいので、少なくとも半日は休息をとることを推奨します」
「ありがとう、クノン」
ぺこんと頭を下げ席を立つ。そこに丁度ビジュの様子を見て来たアルディラが戻ってきた。
「あ、アルディラ……どうしたんですか、難しい顔して。……まさかそんなに悪いんですか」
「具合云々の前に、問題があって」
「問題?」
「それが―――」

白い天井、白い壁、白いシーツに白い照明。
清潔で誤魔化しを許さない空間は、傷の痛みを先鋭化させる。
ベッドに腰掛け、ビジュは身動きひとつしない。
少し距離を置いて、救急セット抱えたアティが立っていた。
一人で。
「治療拒否したそうですね」
答えはなかったが、アティにはなんとなく理由が分かった。
「傷、見られるの嫌なんですか」
やっとこちらを向いた。友好的とは正反対の態度ではあったが。
―――あの夜。アティが知らず知らずに曝したのは、ビジュの身体を蹂躙する傷痕。
感触がまだ指に生々しく残っている。
だから罪滅ぼし、というわけでもないが、アルディラを強引に説得し自分だけでやって来たのだ。
「では、脱いでいただきましょう」
「おとといきやがれ。つか話ぜんっぜん繋がってねェぞ」
「……怪我、放っておくと危ないですよ。腐ってものすごーく痛い思いしますよ」
嫌なことをさらっと言う。ビジュの顔がひきつった。
それに、と追い討ちをかけるように、
「―――私は一度見てますし」
250サモンナイト3(8/9):03/11/21 18:42 ID:Q3rj8AKG
ものすごい勢いで睨まれたが、平然を装い見返す。この程度で引いては元とはいえ軍人の名がすたる。
できるだけ落ち着いた口調で言葉を続けた。
「サモナイト石は貴方に渡せませんし、それに召喚術だけじゃ綺麗に治しきれませんから」
脇腹の辺りを握り締めるビジュの手に更に力がこもるのを見る。
あんなに力を入れたら傷口が開いてしまいかねない。……まさかとは思うが、開いたのを押さえているのだろうか。
軍服に新しい赤い染みを見つけた気がして、アティは眉根を寄せた。
視線に気づいたのか、ずるりと手が落ちる。安心なことに染みは見間違いだったらしい。
「……好きにすりゃいいだろ。どうせ捕虜だしな」
投げやりに言い捨てる背が微かに震えたのは気のせいだろうか。

明るい場所で見ると予想以上のひどさだった。
切傷、火傷、打撲痕、ろくに手当てもされなかったのだろう、身体中にぶちまけられた傷は大部分が醜く痕を残す。
機能上は治ったそれに新しい傷が加わり、無残な姿を晒している。
あれほど他人の介入を嫌ったのが、今更ながら実感を伴って納得できた。
アティは黙々とガーゼを当て包帯を巻いてゆく。傷痕については何も聞かない。
両の腕に比較的新しい傷痕を見つけた時はさすがに手が止まったが。
やがて沈黙に耐え切れなくなったのか、包帯の端を結ぶアティにビジュが声をかけた。
「……よく一人で来る気になったな」
「他人に見られるの嫌なんでしょう。まあ私は我慢してもらうとして……」
ビジュが薄く笑う。と、腕が強く引かれた。
「え」
視界が半回転する。白い天井が映ったかと思うと、背中からベッドへと押しつけられた。
「俺がこの前の礼する気だったらどうするつもりだったんだ? ええ、先生」
武骨な手が細い首を圧迫する。包帯が外れないかがやけに気になった。
それが性質の悪い冗談なのかそれとも本気なのかは判然としない。
もしかしたら言った当人にも分からないのかもしれなかった。
251サモンナイト3(9/9):03/11/21 18:45 ID:Q3rj8AKG
アティは黙ったまま二三度瞬きし、すいと未拘束の左手を自分の首にかかった手にやる。
だがその所作は予想されたものではなく。
指先が、ビジュの手の甲をゆるく滑る。袖口に辿り着いてからやっと、
「困っちゃいますね」
読もうと思っていた本が見つからない、程度の緊迫さでそれだけを呟いた。
がく、と力が抜ける。比喩ではなく片膝の折れる音がした。
「……お前本当に軍属だったのかよ」
「残念ながら。初任務で失敗して退役しちゃいましたけど。……話しにくいのでそろそろ手どけてくれませんか」
「嫌だと言ったら?」
ほんの僅かながら圧力が増す。
「今の体勢なら脇腹の傷もう少し深くできますけど」
「テメエの首が折れるのが先だと思うがな」
「そして次の日冷たくなった貴方が島のどこかに転がっているわけですか。わーせっかく助かったのに勿体ない」
掛け合いの間にも、アティの手は短剣の柄へと伸びる。だが引き抜く事はせず黙ったまま視線を上へと固定した。
どちらも動かない。息を詰め睨みあう。
隙を窺うかのような張りつめた数秒。
呼吸ひとつで崩れてしまう不安定な緊張は外からの声であっさりと霧散した。
しびれを切らしたアルディラがアティへと呼びかけたのだ。何かあったのかとの問いかけに隠しきれない不安が滲む。
今の状況から考えればあながち取り越し苦労と笑えない。
手が離れる。ビジュがベッドから下りたため遮られていた照明が戻り、眩しさに思わず目を細めた。
乱れた髪を不自然でない程度に手櫛で整えてからドアを開けると、心配顔のアルディラがクノンを従え立っていた。
「お待たせしました、治療終わりましたよ」
「そう……じゃあ、この部屋はロックさせてもらうから」
後半はビジュに向けてのものだった。捕虜の扱いとしては妥当な所だろう。
252サモンナイト3(10/9):03/11/21 18:48 ID:Q3rj8AKG
ドアの閉まる寸前、
「それではお大事に」
アティの小馬鹿にした台詞にむかつき手元の枕投げつける。
ぽふっと気の抜けた音を立てて閉め切ったドアに当たり床へと転がった。
白い部屋に一人取り残される。
何に、もしくは誰に苛立っているのか判然としないまま舌打ちをする。
寒々しい空間にその音はやたらと響いた。

「―――アティ、何かあったの?」
アルディラの問いに首を横に振る。
右袖をずらしてみるが、セーター越しだったせいか腕に痕は残っていない。
長らく押さえつけられていた為に軽い痺れがあるのが、痕跡といえば痕跡か。
感覚の乏しい指は思い通りには動かせない。
まるで今の自分みたいだ、と疲れているせいかくだらない事を考えてしまい、少しだけ可笑しくなった。
253名無しさん@ピンキー:03/11/21 18:52 ID:Q3rj8AKG
途中で改行エラーが出てしまい、番号が合わなくなってしまいました。不覚。
投下はここまでです。続き出来たらまたお邪魔させて下さい。
254俺の屍を越えてゆけ:03/11/23 12:59 ID:2NAgDb+G
253
全然構いません。
長々と続けてしまい恐縮してます。
よろしく。
255俺の屍を越えてゆけ:03/11/23 13:09 ID:2NAgDb+G
『136』

 山のほんの小さな岩清水の流れがやがては川に、いつしか大河となって海へと
流れる。それまでにも川の道はさまざまにくねる。まっすぐな一本道ではありえない。
曲がりくねった場所には清流といえども、よどみができ濁り始めることになる。
 ここに神と人の絆の蜜月を終えかけた、もうひとつの国があった。それまで、この国を
助けた水神はひとりではなかった。手弱女の神たちが集いし国。水都。民に知恵を授け、
地下に大掛かりな水路を設ける。暗渠。水神の差し伸べた手により繁栄を見た民たち。この国。

 しかし、よどみは始まっていた。そこはかとなく。終わりは避けられないもの。
人の知恵はいまだ稚い。人魚の肉、食せば永久の命を授かるという噂は、戯れから端を
発したもの。酒の席で人の命の儚さを嘆いた男が、神を妬んで口からでたよまいに、人の欲が絡む。
 沖で網に掛かった人魚がいた。まだ稚き娘。男に泣きながら命乞いをする。
 もし、助けていただけたなら、ずっとお傍におりますると。男は大きな醸造用酒樽に敦賀の水を張り、
そこで人魚を。――飼った。紺青の大きな瞳に褐色の肌。満月の夜になると、人魚は男を
誘った。上に上がってきては、パシャ、パシャ!水面を尾ひれでやさしく叩く。

 妙かなる歌声で男を招いた。男は衣を脱ぎ捨て酒樽の水の中に飛び込む。紺碧の腰までの
長い髪が水面に妖しく拡がる。月明かりに人魚の瞳がキラッときらめいて、男は真名姫と呼んで
頭を掻き抱いて唇を重ねる。男の滾る強張りは真名姫の股間の位置にあった。
 真名姫は人魚。下肢は魚のそれ。ぬるっとした感覚が男の逸物に心地よい。男は真名姫から
顔を離して見詰め合う。濡れた髪の房が真名姫の大きな眼から頬に掛かっている。
真名姫は立ったままで、水をゆるやかに掻いて抱き合う体位を保っていた。
「ねえ、わたしにしがみついてみて」 「……?」 「はやく」
 真名姫は細い指を男の下腹に這わして、屹立を握る。潜って口に男の逸物を咥え込み、
精を吐かせたことも。
256俺の屍を越えてゆけ:03/11/23 13:19 ID:2NAgDb+G
『137』

「ほら、わたしの腰に脚を絡ませて」
 真名姫の両手のひらが水から出て男の頬を包むと、浮いていた月影が歪む。男の脚が
真名姫の魚の腰にしがみ付くと、真名姫は腰をくねりだす。
「ああっ、あ……!」
「どう、気持ちいいでしょう。もっと、してあげるからね」
 真名姫は男の背中を抱くと、水にもぐって海とは較べるもない、この狭い空間を素早い
動きで自在に泳いで、男に気を遣らせる。真名姫は泳ぎをやめると男の口に、お雫を与え、
息継ぎをさせる。真名姫の股間にへばり付く、人の精液。鈴口からまだまだ噴き出る男の
白濁は原初の生物のようにたゆたい、真名姫の水掻きでなびく髪に近付く。

 いたずらっぽく指に絡んだ子種を舐め取っている。もうひとつが、真名姫の褐色の
まるい肩に近付き、男の手がそれを遮ろうとするのを真名姫の手がすうっと伸びて、
また細くしなやかな指に絡め取り微笑むと口に含んだ。こぼれた気泡が銀の
蛍となって水面の月に吸い寄せられてゆく。
 男はそれを見て逸物を甦らせ、真名姫の咥えた指を取ると、可憐なくちびるに吸い
付いていった。敦賀ノ真名姫(ツルガノマナヒメ)は、大きな瞳を更に見開いてから、
静かに瞼を閉じる。

 げにおそろしきは、人の心。その豹変した貌。迷信を信じる者にとっては、迷信に
あらず。真にほかならない。この国の姫、病によりも寵愛された若さの時の姿が脆く
崩れるのをなによりも恐れた。留め置きたい女心に、手弱女の神たちは姫との関係を
ひとりまたひとりとほといてゆく。
そして、男は金と地位に眼が眩み、真名姫を。――差し出した。

「水面が湧き水により幾重にも紋を描き、膨れ上がっております」
 最後まで残ったのが泉源氏(センゲンジ)お紋。天上に去る刻、人魚の朽ちする肉を
喰らおうとする姫に言ったとか言わなかったとか。
「おなじ歳をごいっしょに過されたことが尊いのです。若さだけが全てではありません」
257俺の屍を越えてゆけ:03/11/23 13:26 ID:2NAgDb+G
『138』

「お紋には永遠の生と美貌がある。わらわもそれが欲しい。その苦しみ判るまい」
「……姫。我らの苦しみをおわかりでしょうか」
「もつものと持たざるものの違い。それが、人と神の壁であろう。かつて愛された貌が
失われていく苦しみ、そちにはわかるまい?それを退ける術があるというのなら、
縋りたいのじゃ。それが、人。言葉では判っていても、すでに肉が献上されておるなら
試してみたい」

「民と秤にかけても。にございますか」
「お紋は水を止めるというのか?」
「我らはそのようなことはいたしません」
「しかし、この切り身を食せば変るというのか?」
「さようにございます。その人魚は黙ってはいないでしょう。さすれば、一本道。再考を姫」
「なにゆえじゃ。なにゆえ、そうまでしてわらわに」
 姫は、お紋に詰め寄っていた。
「わたしが、憎いのですか、姫?」

「憎い。憎いわ!お紋の美貌が!そのわらわを憐れむようなやさしさが憎い!」
お紋は遠き昔を見る哀しみの眼。
「そのような、瞳でわらわを見るな!そなたの人外にして艶々とした藍色の髪。
透通った素肌。そのどこまでも澄んだ湖のような瞳。わらわにはないものじゃ……!
欲して手中にできるものなら……ほしいのじゃ」
「……」 

「そのような……眼でみる……な。わらわを……お紋」 「……」
 姫は袖で隠していた貌を曝け出す。
「わらわの眼をみよ、お紋。血走っておろうが。嫉妬しておるのだ。日々衰えるのは、
わらわのみ。男子は乙女をもとめるものじゃ。この苦しみの眼。見覚えがあろう。
神代の昔の人のものではないのか!」
 闇という言葉がそこまで出掛かっていたが、姫は咄嗟に呑み込んでいた。
258俺の屍を越えてゆけ:03/11/24 12:44 ID:gljdT+9S
『139』

「存在そのものが、我らが罪。ゆえに、われらは人との絆、欲しました。さようならば、
おいとまを申し上げたく存じます」
「さらばじゃ、お紋」
 去ったのは病に伏していた姫のほう。姫は膳には手を付けずに、立ち上がると外の
景色を眺めに出て行った。露台で水都の繁栄した姿を見渡す姫。
 人は誰しも水を敬う。水無しでは生きられないさだめからか、摂理に、流れに身を
任せる。巨大な暗渠により、水害もほとんどが退けられて、豊穣の秋を迎えるまでに
なった水都。
 泉源氏・お紋は立つ。より近しい絆が築かれていた、神と人のみのり時。姫の後ろ姿に
笑みを送り、姿を霧散させる。その気を感じて、姫はそっと涙した。水に流すは叶わぬ
ことと知って。自分の欲との折り合いの付けることの出来なかった姫は、お紋に詫びて、
暮れそうな水都の空を見上げる。お紋は去り際に、姫に口吻ると、そっと気づかれぬように
若水を――お雫を与えて天上へと往った。


 欲に眼が眩み真名姫を引き渡した男。連れて行かれる時の真名の叫びが耳に
こびりついている。自分の名を必死になって叫ぶ真名。すがりつくようなまなざしで、泣き叫ぶ愛。
真名姫の自分の名を呼ぶ声音が忘れられなかった。男は屋敷に赴き真名姫を取り戻そうとして
面会を申し出た。男は屋敷の奥へと通されて座して待つ。
 屋敷の主が入ってくると、居ても立っても居られなくなり座したままで膝で詰め寄り、願い出る。

「真名を返していただきたく、参上いたしました」
「そなたは、感情がふりこのように揺れているだけだ。真の心ではあるまい」
「ちがいます!わたしは、真名を愛しております!」
「愛していると?」
 屋敷の主は男の前にしゃがみこんで訊く。
「嗤われても仕方ありませんが、元に戻したいのです。すべてを元に」
259名無しさん@ピンキー:03/11/24 20:05 ID:rgBZTMxC
禿しく良スレ
260名無しさん@ピンキー:03/11/24 23:27 ID:f0OR17Am
>253
ビジュかっこいい…。
続き楽しみに待ってます。
アティ先生との捩れた関係もいいなあ。
261俺の屍を越えてゆけ:03/11/25 22:07 ID:39hJx7kk
『140』

「人魚は異形の者。人ならば、人の倖せを求めてはいかがかな?」
 男には幼馴染がいて、将来を約束した仲でもあった。人魚を手にしてからすべてが
狂ってしまう。真名姫の無邪気な誘いに、その躰に惑溺した。なによりも、人ではない
美しさに惚れていた。たとへ、陽と陰での交媾は出来なくとも。幼馴染の娘は去り、
仲間たちも男のもとを去って行った。
「しあわせ……ですか?」
 真名姫の躰に耽溺した日々の代償として失くしたものを取り戻そうとして売ったことを悔い、
その真名姫をいまいちど心から抱き締めたいと思う男。こころから。売られてゆく時の
真名の瞳が焼き付いていた。

「さよう。あの金子で足りなければ、もっとお前にやろう。それで、あきらめよ」
 屋敷の主が立ち上がって去ろうとするのを、脚にしがみ付いて引き止めに掛かる。
ここで、殺されてしまうかもしれないという恐怖はなかった。あるとすれば、真名姫が
いまどういう状態に置かれているかということだけ。
「無理を承知でお願いいたします。あ、逢うだけでも、お赦しできるなら、なにとぞ。
なにとぞ、ひと目だけでも逢わせていただけないでしょうか!」
「それで諦めることができるのか?」 

「は、はい……!」
 男は涙があふれ始めると、屋敷の主は彼を見下ろして、人魚に逢わせてやるとだけ言うと、
心底喜んでいた。主の口元が微かに嗤う。男は真名姫に詫びて、赦す赦さないに関わらず、
その場で舌を噛み切って死ぬ肚積もりでいた。
「どうした。来ぬのか?」
「は、はい……行きます」
 男は立ち上がって、主人の案内で更に奥へと通されていく。部屋を出て廊下を何度か右、
左と迷路のようになっていて、やがて薄暗く細長い狭い廊下の一本道が見えてきた。
262俺の屍を越えてゆけ:03/11/25 22:12 ID:39hJx7kk
『141』

 人ふたりが通れるくらいの幅。真名を連れ出して逃げるのは不可能だということを
無言のうちに男へ知らしめる。男は息苦しくなっていた。遠くに見えてきた先には部屋の
入り口の無い、ゆきどまり。主人の持った蝋燭の火だけがよりどころで、その灯が
消えれば闇に包まれることが男には恐ろしい。自分の真名姫を主人に売ったこころを
見透かされているようでいてたまらない。
「あ、あのう……」
 男はこめかみに汗を噴き上げさせる。

「なにかね?」
「真名は……。ご主人は姫さまに肉はすでに献上されたのですか……?」
「ああ。そのことかね。もちろんだとも」
 男は生唾をごくりと飲み干した。
「でもね、切り出すと、すぐにも朽るもので、ほとほと困ったよ。でも、仕方がないからな」
「……」
「それからね、頬か、乳房か下腹かでは迷ったがね。下腹の肉には鱗があって、
それが厄介でね。人魚だからいいと言うかもしれないが、それではあかしには
ならないということで、肉桂色の乳房にしたんだ」 ゴトッ! 「おや、だらしないねぇ」

 男がその場に倒れ込むと、壁が反転して下僕が現われ、らくらく担ぎ上げると主人と
いっしょに地下へと降りていった。地下は細い廊下ほどには暗くはなかった。蝋燭の灯りが
何本もあって、橙にあたりを照らすが天井までは及ばない。そして、この地下の状態を
醜悪にしていたのは湿っぽさと、魚の生臭さに血の臭いが混じっていた。
「このくさ、なんとかできないのか?」
「はあ、五日に一度は生簀の水は換えておりますが……」
「おりますが、なんなんだ」
「出るものはどうしょうもないものでして」
「糞尿かい?」 
「さようにございます」
263俺の屍を越えてゆけ:03/11/25 22:17 ID:39hJx7kk
『142』

 地下の土間は石打ちされ、中央には大きな生簀があり縁に両腕を拡げられて括られた
真名姫がいた。ひれの括れには鎖が掛けられて下には腰を跳ねないように重石が
繋がっている。首から上が水面から出る格好になっていて、憔悴しきっていた真名姫は顔を水に
付けたままでいた。
「おい。死んだんじゃないだろうね」
「さあ……?」
「冗談じゃない」
 主人は小走りにひたひたと近付いて膝を付いて顔を伏している真名の様子を窺い、水面に妖しく
散っている髪を眺め暫し見蕩れていた。蝋燭の橙に照らす水面に真名姫の深く黒とみまがうほどの
藍の髪が拡がっている。

 頭の飾りの珊瑚石を払って、面を水から引き揚げた。真名姫は瞼をひらいていて、
主人をじろっと見ていた。その形相は鬼だった。しかし、真名は鬼ではない。鬼であれば、
人の網などにやすやすと掴まりはしなかった。法術を遣い災いを自ら駆逐したであろう。
「はあ、はあ、はあ……」
 髪から振り払われた淡い紅の珊瑚の飾りがゆらゆらと濁った水底へと堕ちる。肉桂色の顔に
鴇色の綺麗なくちびる。口がひらかれて、濁った水がでろっと流れ出た。主人はもう一方の手を
水にザブンと突っ込んで乳房を弄った。 「あ、あぁああ……」

 真名姫はかち色の柳眉を吊り上げさせ眉間に苦悶の縦皺をつくる。主人は搾るように
乳房をいらってから、肉を裂いたほうの乳房をやわやわと撫でてみる。
「元に戻っているな。多少は抉れていても、張りも前みたいだ」
 主は真名の肩に唇を付けてヒルのように吸いつくと、舌で舐め廻し首筋に移動する。
真名姫はいやいやとおぞましさを振り払って顔を動かしたら、下僕の肩にかつての愛しい男の姿を見た。
「どうした。もうおしまいか?」
 その瞳の色を覗けないのを残念がりながら、屋敷の主は真名の首筋を強く咬んでいた。
「ぎゃああああッ!」
264俺の屍を越えてゆけ:03/11/26 00:56 ID:dux5IOK1
『143』

 歯型が残る程度で、肉を喰い千切るほどには歯は立ててはいない。その傷も日数が
経てば消えてしまうもの。おもちゃにされているだけだった。乳房に刃の切先を立て、
肉を削ぎ取って皿にぺとりと緋色の肉を盛ってみる。
 一時もしないうちにみるみる朽ちする肉におぞましさが募った。それが人魚の肉。
真名姫の肉だった。だからといって生簀に飛び込んで拘束された真名姫の裸身に
しがみ付きながら、歯を立てて肉を喰らう者など誰ひとりとしていなかった。

 細い首から血が流れ、生簀の水に雲影を描いてゆく。真名姫は歯を剥いて
唸っていた。主が髪の房を掻き分け頬を撫ぜる。生簀の水がざわめいた。
「思い出したのか。男への憎しみを?」
 髪を鷲掴まれ、ぐいっと顔を向かされる。真名姫の眉根が寄る。眼の奥には青白い炎。
担がれていた男は床に投げられて気が付いた。
「う、うあぁああ……。ま、真名。忘れられなかった……。逢いたかったんだ!」
 真名姫は屋敷の主に向かされている力に抗って正面を見たが、男の言葉に
直ぐに横に捻る。真名姫の首に胸鎖乳突筋がくっきりと浮かんで窪みをつくった。
しかし、真名姫の肩も乳房も上下に烈しく揺れ水を動している。

「別れのときの真名の眼が忘れられないんだ!ひとこと詫びたかった!赦してくれ、
真名!いまさら、こんなことを言えた……!なっ、なにをする!」
 男は這って生簀の中へ入ろうとすると、下僕が足首をむずんと掴んで引き戻した。
指先を床に立てて引き摺られまいとする男の爪が割れて血を噴く。 
「真名あぁぁぁ!」
 自分の名を呼びつける男の悲痛な声を敦賀ノ真名姫はかたくなに拒んでいた。
瞼を閉じた真名姫の長い睫毛が微かに揺れている。眦には光るものがあった。
「憎いんだろ?その願い叶えてあげようか」
 屋敷の主は反対側にいる下僕に手で合図を送る。男は掴まれた足首をぐんと振られて
仰向けに転がされ、頤を大きな手で掴まれ口をひらくと布切れを無理やりに咥え込まされた。
265名無しさん@ピンキー:03/11/26 18:28 ID:ftVlzXW8
俺屍さんの作品読んでたらもう一回このゲームしたくなってきたな。
毎日楽しみにROMってます。頑張ってください。
266俺の屍を越えてゆけ:03/11/27 00:39 ID:NO6atwH8
ゲームの設定と所々改変していて
どうかなあと思っていたので、ちょっと安心しました。
読んでくれて、ほんとうにありがとうございます。
267俺の屍を越えてゆけ:03/11/27 00:55 ID:NO6atwH8
『144』

「ぐううっ!」
 暴れる男の脚を拡げて裾を割り、刃物で腰布を切り裂いた。鼠蹊部からは血が噴き上がる。
「んぐううっ!」
「奴の肉を喰わせてやるよ」
 男は股間に刃先をあてがわれ、両脚のあわいの物をスパッと袋ごと切り取られ、真名の
胸元に、ぼちゃん!と放り投げられた。
「ひっ!」
 屋敷の主は水に沈む男の逸物を掴んで真名に見せ付ける。

「ほれ、口をあけて喰え。さすれば、お前の怨みも晴れるだろう」
 男の尖端でくちびるをこじ開けようとする。真名は小鼻を摘まれて、不承不承ひらくと
切り取られた逸物を口腔に捻じ込まれる。逸物から滴る血が恐怖に怯えた真名の貌を
濡らした。
 真名姫は閉じたい瞼を堪え、向こう側で苦しみ悶え転がる男を見ていた。男の股間からは、
おびただしい血が噴出している。下僕は狂ったようにのたうつ男の躰を蹴飛ばして
生簀へと投げ落す。真名姫の喉がごくりと蠢き、涙で濡れながら男の逸物を嚥下する。

「んあっ、あ、ああっ!ば、ばけものッ!こっ、殺してやるッ!ころしてやる!おまえらを殺してやる!」
 叫んだ後に、声が出なくなった。真名姫は喉に刃をあてられて、すうっと、真横に引かれていた。
いくら叫んでもシュウシュウと音を立てているだけで声にはならない。
 真名に映る絵は血に染まっていく水面にはバシャバシャ!と水を掻く愛した男の手が見えていたが、
視界が闇に包まれると同時に、くるくると回転しながら生簀の底に沈んで、男は動かなくなっていた。
「姫さまは、お前の肉に手をつけられなかったとさ。これが、そのつぐないだよ」
 主人は真名に吐き捨てた。不思議と真名の躰に苦痛はなかった。眠るような心地よさに包まれている。
だけれども、躰は怒りで熱くなった。しかし――真名には力がない。そうでなければ、人に捕まりもしなければ、
こんな生簀に囲われてもいない。
268俺の屍を越えてゆけ:03/11/27 01:16 ID:NO6atwH8
『145』

『ねえ、こいつらを殺してやりたいのかい?』
 真名の見ひらかれた瞳には漆黒の闇が映っている。そこに臙脂色の狩衣をまとって、
紫苑の帯を締めた華奢な躰の少年が見えていた。衣には緑青色の龍がのたうつ紋様。
髪は炎のごとくの――からくれない。
 真名姫には少年が少女のようにも思えたが、こんな目に合わされた屋敷の主よりも
遥かにおそろしくあって、自分の貌が歪んでいるのがわかった。
『あのさぁ、真名姫。真名でもいいかな。はやく決めちゃわないと時が砂のように流れるよ』
「ど、どうしたらいいの……?」

『真名の躰をボクが貰う』  少年らしからぬ、落ち着き払った低い声音。 「もらう……?」 
『きみのお尻の狭穴をボクが犯すのさ』 「……!」
 とんでもないことを少年は真名姫に言っていた。しかし、真名にはそれが必然のようにも思える。
だが、少年の邪な気に怯えがあった。愛した男が交媾を迫った時、拒んだことにあっさりと
引いてくれて、真名を傷つけたことを詫びたことがあったから。でも、ふたりが蕩けあった蜜月は終った。
うらみを晴らす力が欲しい。

『どうしたんだい?時間がなくなっちゃうよ。キミの喉笛からはドクドクと血が流れているんだよ』
 小さな傷ぐらいは非力な真名姫にも再生能力で守られてはいたが、大きなものは憔悴
しきった現在の真名には不可能だった。
「……」
『それで、キミはいままでの真名姫ではなくなる。ちからを手にできるんだ。ほしいよね』 
「……!」
『キミが愛した男は今、どこにいる?生簀の底で動かなくなっちゃっているんだよねぇ。
辛いだろう、真名。キミを想って助けに来たのに、力がないばっかりに詫びて舌を噛んで
死ぬつもりだったらしいよ。人って、つくづく馬鹿にできてるよねぇ、ほんとに』
269俺の屍を越えてゆけ:03/11/27 01:41 ID:NO6atwH8
『146』

「あ、あなたは……いったい誰……なの……?」
 真名は黄川人の最後の言葉を聞き流していた。少年の圧倒的な気がそうさせている。
それとも、少年の妖しい黄金色の瞳がそうさせるのだろうか。怒りと微かな哀しみ。
真名姫はその瞳に魅せられ始めていた。
『ボクは黄川人だ。滅んだとある国の皇子さ。これからも、仲良くしてね、真名姫』
 黄川人の姿が真名の前方の水面にツンと爪先を着いて降りると、手を差し伸べる。

『ほら、手を伸ばしてごらんよ』
 敦賀ノ真名姫は黄川人の幻視の中にいた。
「わ、わたしは縛られているの……」
『だいじょうぶ。ボクの手にキミの手を載せてって想ってごらん』
 真名は黄川人の差し出された手を見つめ、縛られていた手を動かす。真名の手を黄川人が取った。
『アッハハハ……、いい娘だ、真名。ほらね。ちゃんと握れただろう』
 生簀の血に染まった水面がザザァアアアッと渦を描き始める。

「な、なんだ!どうしたんだ!」
 屋敷の主人は真名姫から離れて腰を抜かして壁のほうに後退っていた。地下室に
灯っている蝋燭の火が揺れ、ふっと掻き消え闇に呑まれたら、急激にあたりは明るくなっていた。
 狐火が次々に灯ってゆく。生簀の渦の中心からは、殺されて水底に沈んでいた男が
躍り出て空中で止まると頭を垂れたままで死人の眼が下僕を見詰めている。虹彩は黄金色に
光っていた。煌めく色なのはずなのに、そこはかとない暗い色。

「ひっ、ひいいいいいッ!」
 だらりとなっていた男の右腕が腰を抜かしている下僕に向けてあがると、片手で首を
絞める仕草をする。
「ううっ、ぐっ、ぐげぇっ!」
 下僕の喉の軟骨がぐしゃっと砕ける鈍い音がして、口からは血の混じった汚物を吐瀉し、
舌がだらりと垂れ。
270俺の屍を越えてゆけ:03/11/27 01:54 ID:NO6atwH8
『147』

 血の渦の真上に立つ男が物を投げ付ける所作を取ると、がたいの大きい下僕の躰が
ひょいっと宙に浮き石壁に叩き付けられ、血糊を、びしゃっ!と壁にしるす。
「ひえぇえええええッ!」
 男は躰を、くるっと、屋敷の主に向けると、つううっ、と宙を歩んでくる。
『ほら、言ってごらんよ、小悪党。命ばかりは、お助けをってね。アッハハハハ……』
 真名姫は目の前に浮いている男の黄金色の瞳を見上げていた。好む、好まざるに
関わらず、それは男の手が屋敷の主によって切られた真名の喉の刀傷を右手で
抑えていたからだった。

『真名、もうだいじょうぶだよ。安心をし』
 その言葉と同時に、男の躰がパァアアアン!と粉々に砕け散った。真名の顔にも男の
血肉が飛び散って、紺青の瞳を瞬かせる。屋敷の主は小柄を落として四つん這いになって
逃げようとあたふたしている。男の躰が弾け飛んで、現われたのは真名が闇の中に見た少年。
真名は紺青の瞳を大きくした。次の瞬間には、真名姫の躰は生簀の渦の中央に浮かぶ黄川人に
横抱きにされていたのだった。

「あっ、あ、あ、あ……ああ……!」
 尾びれに括られていた重石も、手首を縛られていた荒縄もなかった。黄川人の白い手が真名の
顔に掛かった男の飛び散った血肉を払う。顔をそっと撫でてビシュッ!と払い肉片が水面に散った。 
「あ、あ、ああ……」
『真名姫、キミの手をちょっとだけ借りるからね』

 黄川人は真名の手を取ると、人差し指を屋敷の主へと向ける。渦から水が人差し指に
吸い込まれるように竜巻みたく小さな螺旋を描いて指先に収斂された。そして水が針になって
飛び出してゆくと、逃げる主人の額に突き刺さった。
「きゃあああああああああぁぁぁッ!」
 自分を助けに来てくれた男の躰が、ただの肉片になってしまったという事実だけが、
真名姫の意識にどどっと流れ込んで来る。真名姫は黄川人に抱かれて、ありったけの声で喚いていた。
271俺の屍を越えてゆけ:03/11/27 21:48 ID:NO6atwH8
『148』

『これからだよ。すべてはこれからだ。真名姫、よろしくね。アッハハハハハハハ……』
 生簀のすり鉢のようになっていた血渦は、嘘のように静かになっていて人魚を抱く
少年の姿を血の鏡が映していた。一切水面を揺らさずに、黄川人と真名姫の姿は朱の
鏡に沈んで消える。暫らくして、天井に飛び散っていた肉片が水面に、ぼちゃん!と落ちて
波紋が拡がり、狐火はふたりが去った後に一瞬ですべてが消えた。
 屋敷の者たちが主人を探してこの地下の生簀に下りて来た時、その異様な臭いに
鼻を押さえた。たいまつで照らすとそれが血の臭いであることがわかった。充満していて、
その凄惨酸鼻な眺めにもあてられ、口を押さえていても、吐瀉物が指の隙間から噴いて
うずくまる。うずくまった場所も冷たい血にべっとりと濡れていた。


 真名姫は海岸に連れて行かれて、黄川人に躰に掛かっていた血肉を丁寧に洗われる。
喉に黄川人の指先がそっと這い、焼けどの痕のような刀傷が跡形もなく消えてゆく。
「あ、ああ……」
 感謝の気持ち。否、絶対的な恐怖が真名姫を支配した。磯岩に真名は背を預けさせられ
黄川人は岩に左肘を付いたままで見詰めている。傷をなぞった指は頤の線を撫で、
真名姫の鴇色のくちびるに触れた。
「もう、しゃべれるよ、真名」
「あ、あ……」

「ボクのことがこわいんだね」
 真名は涙を流しながら瞼を伏せて長い睫毛を、ふるふるとさせている。
「あり……がとう……ござ……」
 黄川人のくちびるが真名の妙かなる声を遮って重なり、崇拝という心と共に力が流れてくる。
立ち込める霧の海辺に朝陽が昇る。それは真名の見慣れた風景などではなく、生簀の
血の世界そのものだった。薄く瞼をひらいて見ていた真名の紺青が涙に潤む。
 そして、口吻といっしょに黄川人の感情も流れ込んでいた。哀しい少年は真名にくちびるを
押し付けてくる。
272俺の屍を越えてゆけ:03/11/27 21:59 ID:NO6atwH8
『149』

(わたし、あなたのお母さまじゃないの……に)
 それもつかの間、恋人のそれに変っていた。かつて男が真名にしてくれたように、真名も
男にしたようにして心は霧のなかへ。
 黄川人の舌が口腔に挿って来る。陽は血の色を薄めて、黄川人の瞳になって辺りを
照らし出す。挿って来た舌は何もせずに留まっている。吸えと語っていた。
 真名はおずおずと黄川人の舌に絡めて吸った。肉桂色の指が唐紅色の髪に絡み深く
埋まる。力が満ちてくる代わりに、男の記憶が薄らいでいった。真名姫は男の為に最後の
涙を流す。はらはらとこぼれた雫は真珠になって波に揉まれながら水底に堕ちて行った。

 黄川人の手が真名の手首を取って磯岩にしがみ付くように促した、誓約の刻。真名の手は
顫えるが、素直に従って黄川人に背を向けて磯岩へしがみ付く。波が真名の顔を打って
髪が乱れる。褐色(かちいろ)の髪の房が頬から肩を斬り裂いて垂れて掛かって、真名姫の
尖った頤が苦悶に引かれる。磯岩にしがみ付いている両手が強張った。
「ああっ、たっ、助けてぇ……。いっ、いたいっ!」
 真名の堪え切れなかった、かぼそい声音が岩に染み入る。真名姫の額が岩にふれると
黄川人の手が滑り込む。

「だっ、だめぇ……かんにんして。あ、ああっ……灼かれ……るううっ……!」
 少年に助けられた命だった。ならば、このままここで燃やしてもいいとさえ思えた。
「……」
 黄川人の肉柱が容赦なくズッズッと挿り込んで来る。ぷくっと膨らんだ乳暈とむくっと
もたげた愛らしい真名姫の乳頭が岩肌に擦れた。
「ああ……!」
 真名の躰の堪えていた緊張が弛緩して黄川人の強張りが一気に狭穴に埋まって恥骨が
臀部にぶつかっている。変化は既に現われていた。真名姫の肌理のなめらかさは既に
元通りに艶を増している。力の変化にも及ぶ。しかし真名は、人に乳房の肉を削がれた様な
感慨も人知れず抱いていた。
273俺の屍を越えてゆけ:03/11/28 12:55 ID:tm7aFVNG
『150』

与え奪い合うという愛の律から、それとは違っていて真名を不安がらせている。真名の躰を
黄川人の強張りがいっぱいになって占めて重い呻きを洩らす。
「ひよわな真名を灼いているんだ。こんどは、キミが狩ればいい」
 黄川人の尻が動き出して真名を衝きあげた。
「あっ、あ、ああっ!」
(なにを狩るの……?人……、それとも、あなたを……?)
黄川人の唇が真名姫のうなじを這うと、苦痛はやわらいで肉に馴染みはじめた吐息が
くちびるから切なく洩れて、背中には黄川人が真名を呼ぶ囁きで濡れている。

 真名姫は黄川人の哀しみに触れていた。この華奢でろうたけた少年が自分の躰を
利用したいのならと、黄川人へ向ってひらきはじめている。人に寄っていた敦賀ノ真名姫の心は
黄川人に寄り添った。
黄川人は真名姫の躰を畳で手まりを転がすように表情を変える女体を愉しんだ。
芯に綾糸を巻いて描き出す錦の手鞠。真名はそれよりも美しかった。真名も黄川人の躰に
耽溺する。あらぬところで繋がって。どこまでも堕ちて行く感覚に顫えた。どこまでも
海の深い場所に向って潜って行くような感じだ。黄川人の肉茎で躰は火照っているというのに、
深海の冷気に包まれているみたいにして、素肌が何かを感じると黄川人の突き上げに
意識が跳ばされる。

「いやあっ、ああっ、あぁあああ……!」
 日輪の閃光に眩み、気が付いた時には真名は黄川人に相対して尻を抱えられていた。
真名姫の魚の下肢が人の物に変化し、ひらかれて淡いに肉茎を咥え込まされている。
 真名姫は黄川人の首に腕を絡ませて肩に顔を埋めて歔く。割れた脚が黄川人の腰を
挟んでいるだけで、真名の意識は跳びそうだった。生れたばかりの素脚が快美に呻いていた。
だらしなくひらいた唇からは唾液がこぼれて黄川人の肩を濡らしている。
「これから、行くところがあるんだ、真名。キミのたすけが必用なんだ。いいね?付いて来てくれるね?」
 黄川人のなよやかな肩に真名姫の細っそりとした頤が、うんうんと刺さっている。
274俺の屍を越えてゆけ:03/11/28 13:00 ID:tm7aFVNG
『151』

「いい娘だね、真名姫」
 黄川人の手が真名姫の髪と背をやさしく撫でる。これまでにないくらい火照るというのに、
心は冷たく感じてしまう。黄川人の手が真名の尻を抱える。脚を腰で絡めよという。
真名は従った。従うしかなかった。


「どうして、弟をこらしめるのですか?夕子さま……。わたしが女子で……黄川人が
男子だからでしょうか」
 同じ力を有した者がふたりいることは、後々の争いの元。事ここに及び、そういった
考えもあることを否定するつもりは夕子にはなかった。
「そうです。否定はいたしません。昼子、わたしを怨みますか?」
 イツ花は、お夏を感情の昂ぶりのままに、怒りをぶつけて猫に変えてしまったことを
酷く後悔していた。お風の言った通りイツ花の中で、お夏を赦す赦さないは別のところにあった。
両親に課せられた行いにしてみても、とうてい納得できるものではなかった。時折、
どうしょうもない感情が渦巻くこともある。しかし、そのお夏は夕子によって跳ばされて
行方知らずに。イツ花は霧のなかを、いまださまよっている。

「夕子さまは花のあるがままの生命を愛でなさいとおっしゃりました」
 対等の立場で夕子はイツ花と向かい合っていた。イツ花が太照天の間に訪れた時、
お風に席を外してくれと頼んでいた。
「……」
 夕子は間を取ってなにも喋ろうとはしなかった。がまんできなくなったイツ花は口を
ひらいた。
「大江山で弟が母さまに花を手折った時に……」
 その暮れ六つの刻の景色がまざまざと蘇り、正座して膝に載せていた手で衣をぎゅっと
握り締めて拳を膝上に置く。
「おとうと……、黄川人のいのちも愛してやってください!おねがいです!夕子さま!」
 お紺が千万宮の鳥居で首を括った時以後、ぷっつりと黄川人の気は知れない。お業の姉、
お輪をもってしても、掴めないでいた。いたずらに時は流れるばかりだった。
275俺の屍を越えてゆけ:03/11/28 19:40 ID:tm7aFVNG
『152』

「頭をあげなさい。昼子。あなたはわたしの後を継ぐものなのですよ」
「わ、わたしをもとの、あの時よりも前に戻してえぇぇぇ!」
 泣きじゃくりながら、前屈みになり背を丸めたイツ花。
「面をあげなさい、昼子!昼子……?」

日々会陽の儀に耽溺する男と女の相翼院。そのなかに、お業のけたたましい叫びがあった。
全裸に四肢を壁に括られ、小柄の刃先で突かれている。お業の素肌には傷ひとつ
付いてはいなかったが、内腿の一点だけが赧くなっている。切先が肌にトンと触れるたびに
がっくりとうな垂れていた頭をもたげて喚き、唾液を撒き散らす、お業。
 突かれるたびに、重石が増えて磨り潰されるような痛覚に泣き叫んでいた。躰を苦悶に
捩るために、お業の内腿を突く者は細心の注意を要していた。汗に絖る、お業の素肌に
切り傷でも与えでもすれば、それだけで命が消える可能性があったからで、無論その拷問に
関わった者を捨丸が赦すはずがない。

 ただこれは、会陽の儀に耽る相翼院の男女(おめ)たちの趣向にしか過ぎなかった。
お業は何一つ情報をもたらしてはいない。お業の夫は既に死んでいて、何のために
生かされているのかさえも考えられない状態にあった。肉だけに縋る日々にあっても、
責めに艶麗の凄みを増し、嬲られ精を吐き出されては更に麗人になるは妖狐の如し。
 お業は手足の括られた荒縄をほとかれて、床に転がされると、数人の男たちに群がられて
肉塊となって穴という穴をふさがれて犯される。妖魔が吼えるような声音を噴き上げ、
それはくぐもった呻きにしかならなかったが、拷問に晒された、お業の声音を聞いた
者たちは、それが離れず肉茎で突くたびに直に頭に響き聞くことになる。
そして男たちの躰を強烈な力で締め付けて精を吐かせる、お業。
 捨丸はその頃、左翼の小宮の間で少女の躰の隅々をいらい耽溺していた。
大江山討伐の際に、万珠院・紅子がよりしろに遣ったから。きっかけはそうだった。
しかし、情が生れる。顔の輪郭や躰付きは似ていたが髪形だけは違っていた。
276俺の屍を越えてゆけ:03/11/29 01:59 ID:cclj0hpn
『153』

 紅子は短く刈られた髪姿。緋香莉はたくわえた艶々とした黒髪は足首に届くまでに
なっていて、あの血を好んだ捨丸が少女の交媾に乱れた黒髪を櫛で梳いてやるまでに
執心し、淫らな交媾を繰り返しても黒々としていて清潔感を取り戻す。少女の黒髪に
魅せられて、治まり切らない昂ぶりをまた躰でぶつけ合い、少女は心から受容し――
緋香莉と名付けながら尻を振り合い促し射精して、緋香莉の脾腹には薄っすらと肋骨が
浮かんで愉悦にしなう。捨丸は、もはや少女を紅子と呼ぶことはしなかった。

「捨丸さま。ここを逃げましょう。どこかへ、わたしを連れて行ってくださりませ」
「ここを出れば、こんな暮らしはできなくなるぞ。それでもいいのか、緋香莉?」
 捨丸の名は、その意味する如く記号。帝の手となり足となり戦を駆け、
戦利品としての女を貪婪に愉しんできた。それだけの闘いの生き方だった。
大江山討伐にしても、ひょっとすれば天女が抱けるかもしれないという
下心あってのこと。闘争本能を満たした後の勝利の高揚感から性欲に溺れる、
原初の欲望にならった獣性の生き方を迷うことなくしてきた。

「相翼院以外なら、どこへでもかまいません。おねがいいたします」
「ここが、こわいか……。怒りはしない。答えてくれ」 「……はい」
 緋香莉の頬をやさしく撫でる、ささくれ立った、らしくない捨丸の両の手のひら。
細い腕が捨て丸の首に絡みついていた。
「わかった、緋香莉。そうしよう」 少女の瞳が愛らしく大きくなる。 
「よろしいのですか?ほんとうに……」 捨丸は微笑んでいた。 「うれしい……!」
 やさしさのまねごとが、ほんものに変る時。かよわき力で、浅黒い鬼の躰に寄り添う
少女がいた。
「ありがとうございます。捨丸さま!」
 そんな生き方があってもいいじゃねえかと、小さい命を肌で抱き締めて少女を名付ける。
人の名は記号にあらず。愛しい人の名を口にして、少女の丹花に生命を吹き込む大江ノ捨丸。
陽の当たる場所がひとつだけあれば、それで十分。
「俺には、これからは、もう緋香莉だけだ……。ありがとよ」
 捨丸の手が緋香莉の頭を撫でた時、小宮の間の蝋燭の橙色の灯りが揺らぎ始める。
277くろまんが大王:03/11/29 19:00 ID:v4eSzreG
 智は震えていた。顔は蒼ざめ、脂汗を流している。
 この日、智は上の空であった。教室に入っても、そんな調子が続く。
やがて朝の予鈴が鳴り響き、授業が始まる。しかし、そんなものは智の頭に入らない。

 あの晩、智は山の中にいた。近所にある山。さびれた住宅地の最奥に裾野を広げている山。
むしろ、山の裾野にまで住宅地が食い込んでいるといった方が良いだろう。そんなどこにでもあるような、
名も無い山の奥深く。智は息を殺してそれを見つめていた。

 穴を掘っている。顔ははっきりとは見えない。フードをかぶったやや細めの人物が、穴を掘っている。
ザッ、ザッ、というスコップの音が、闇の中、木霊するように響いた。

(一体、何をやっているんだ?)

 智は訝しがった。だが、これだけは分かる。決して、自分が隠れていることを知られてはならないと。
智の危険を知らせる本能がそう告げていた。その人物が、何やら陰から引きずり出した。黒い、大きなビニール袋のようだ。
なにか重たいものが入っているらしい。力任せに引っ張ると、地面に投げ出した。その瞬間、みた。袋から勢いよくはみ出したものを。
――すなわち、脳みそを垂れ流した人間の頭部を。

「うわっ!」

 ――しまった、と思ったときには既に遅い。フードを被った人物が、はじけたように振り向いた。
 スコップを手に猛まじい速さで智に向かってくる。殺気がこめられた、あの凄まじい目。 あの目がすぐ目の前にまで…。
278くろまんが大王:03/11/29 19:00 ID:v4eSzreG

「うわあああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 教室の生徒が一斉に振り向いてくる。気がつくと、智は自分の席に突っ立っていた。
ようやく我に返る。自分は教室で授業を受けていたのだと。教室にしらけた空気が流れた。
「す、すいません。寝ぼけてましたぁ!」

 慌てて席につく。クスクスと、どこかから女子のあざ笑う声が聞こえてくる。さすがに、今回は智もばつが悪い。
「まったく、智は能天気でいいわね」
 女教師のいやみに、ドッと哄笑が巻き起こる。智は俯いて聞いていた。

「気を取り直して…。えーと、あれ、今日、ちよちゃんどうしたの。分からないだって?じゃ、次は…」


279くろまんが大王:03/11/29 19:02 ID:v4eSzreG

(はぁ、今日は散々だったな)
 トボトボと帰路についた。夕日の中、智は一人で歩いていた。

(あっ、そういえば。帰りに寄るところがあるんだっけ)
 ふと思い出して、ポケットの中に手を突っ込む。

「あれ…、ない?」

 必死になってまさぐりはじめる。ポケットを裏返したり、上着を脱いでひっくり返してみたりするが、一向にみつからない。

(無い! 生徒手帳が無い!!)

 智の顔から次第に血の気がぬけていく。
確かに昨日、ポケットに財布と一緒に入れてあったはずなのだ。それがないということは――。

「まさか、落とした…?」

 ――あの場所に。

 間違いない。あのとき、逃げるうちに落としたのだ。生徒手帳には智の住所氏名と写真とが記載されている。
もし、あいつが拾っていたら――

 気がつくとあたりはすっかりと暗くなっていた。ぞっとする。いつのまにこんなに日が暮れたのだろう。
黄昏はとうに追い払われて、闇がすぐそこまで忍び寄っていた。恐怖の始まりが…。

 誰かの足音がした。自分を追って。まっしぐらに自分を目指してくる足音が
280くろまんが大王:03/11/29 19:03 ID:v4eSzreG

「ひ、ひぃ!」

 智は走り出した。
(助けて! 誰か助けて!)

 恐慌をきたし、涙・鼻水を垂れながして、ひたすら走りに走った。いつもの無鉄砲で気の強い彼女の面影は無い。ただ、走った。
――しかし、足音は追いかけてくる。どこまでも、智を追って。

 いつまで走り回っていただろう。もう、3時間は走っているようにも思われるし、まだ30分そこそこしか経っていないような気もする。
わずかな街灯が照らす闇の中、走り回り、逃げ惑ううちに、方向感覚も、時間感覚も失われてきた。自分が誰なのかさえ薄らいでくる。

 ただ、恐怖だけが後ろから追ってきた。その恐怖が、ひしひしと伝わってくる恐怖が、しだいしだい距離を縮めるたびに、
自分の内なる感情が突き抜けていくのを感じた。智は、ほとんど笑いながら走っていた。

「きえエエエエエエエエエエエエ!」

 闇夜の中、ぼんやりと明かりが見える。――交番だ。あそこに駆け込めば助かる!
 しかし、智は通り過ぎた。ある感情に歪んだ顔で。

(あたしは、警察にはいけない。助けを求めることはできない。だって――)
 その感情とは――、

(あたしは、ちよちゃんを殺したんだから!)
 即ち――――狂気。


281くろまんが大王:03/11/29 19:03 ID:v4eSzreG

 あの晩、智は死体を埋めに来たのだ。自分が殺したちよの死体を。ほんの些細な事故だった。

 ガードレール上の、段差になっているところ。下は十数メートルほどのコンクリートの断崖だった。
いつものように、高いところが苦手なちよを脅かしてやろうと、かるく押しただけだった。

 それが洒落にも冗談にもならないことに気づいたのは、下で砕けて脳を散乱させたちよの頭をみたときだった。
しかし、智は少しも絶望しなかった。 かえって、どうしようもないくらいの愉悦がこみ上げてくるのを感じた。

 憎んでいたのだ。私は、ちよのことを。そのことに気づき、智は胸がすっとするように感じた。

 頭が良く、天才で、大金持ちで、家庭にも恵まれ、 友人にも親しまれ、謙虚なそぶりで、ひとなつっこく、
誰からも好かれ、将来を約束された、あの糞餓鬼。あの糞餓鬼を

ブチ殺してやりたい、 虐め殺したい、なぶり殺してやりたい、犯り殺したい、殴り殺したい、蹴り殺したい、刺し殺したい、突き殺したい、
撃ち殺したい、轢き殺したい、 焼き殺したい、絞め殺したい、斬り殺したい、バラバラに殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、
殺したい、殺したい、殺したい、 殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、
殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、 殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい!

 密かに心のそこから渇望し続けていたのだ。そのことを知り、腹のそこから笑いがこみ上げてきた。
 愉快で愉快でどうしようもなかった。

「ひゃはあぁははっはあっはあははははああっはああ!」

 智は絶頂のかなたにいた。恐怖が彼女の殻を壊し、狂喜の生々しいエネルギーを解放させていた。
いつもは小出しに、 日常の暴走した振る舞いという装いで発散させていた狂気を。


282くろまんが大王:03/11/29 19:04 ID:v4eSzreG

 目の前に石ころが転がっていたらしい。彼女は派手に転んだ。
 腕や顔をすりむき、血が噴き出す。しかし、そんなことは意に介さない。

「ひっひっひっ、ひひひひ」

 うずくまり、しばらく痙攣したように笑っていた。意識は次第に沈静化してくる。いや、鈍化といった方がよいだろう。
あのとき、本当ならすぐに警察に駆け込むべきだったのだ。だが、それには、あの山であんな時間に自分が何をしていたか
説明しなければならない。 そんなことをすれば、ちよを殺したことまでばれてしまうのは目に見えていた。それで、一人で
怯えていなければならなかった。彼女は今、恐怖から解放されつつあった。――狂気によって。

「――滝野さん。そんなとこで何してるの」

 ぼんやりと、智は振り向いた。

「黒沢せんせい?」

 黒沢みなもが立っていた。微笑みながら。


283くろまんが大王:03/11/29 19:05 ID:v4eSzreG

「どうしたのよ、いったい。ああ、手だって擦りむいてるわ。顔だって。こっちいらっしゃい」
ぼんやりと、言われたままにみなもに近づく。みなもが智を抱きとめるようにして手を伸ばす。

 手にはハンカチが――

 瞬間、智は喉にあついものが走るような感覚がした。次の瞬間には視界が赤一色に染まった。
みなもはナイフを隠し持っていた。智の喉は真一文字にぱっくりと裂かれていた。

「だめよ、覗き見なんかしちゃ。」
 まるでやんちゃな男子生徒を叱るような口調でいう。例の微笑みを浮かべながら。

「あ…ぁ……」

 智は口をぱくぱくとさせて何かいおうとしていたが、声にならない。喉から噴水のように血を噴き出しながら、
ただ、ヒューヒューと風を切る音がするだけだった。

「滝野さんが悪いのよ。本当だったらあなたは殺さずにすんだのに。よりによって、あんなところをみられるなんて。
彼ね、とってもいい人だったのよ。だけど浮気性だったの。それで、つい殺しちゃったのね。でも大丈夫よ。
ゆかりもたまに嫌な相手を殺してるから。私たち、協力しあってアリバイ工作は完璧なのよ。それで今度、二人で
木村を殺そうって話になってね。あなたのお陰で良い予行演習になったわ。――あら、もう死んじったの。」

 みなもは智が聞いていないことを知ると、智の死体をまるで粗大ゴミでも扱うかのように黒いビニール袋に詰め込んだ。
 その晩、例の山には新しい穴が掘られた。三つ目の穴が。


284俺の屍を越えてゆけ:03/11/30 22:19 ID:Dy6GN5o1
『154』

 玄冬の闇夜に凶兆の風が通って、かがり火を舐めてゆく。台場の四隅には三人ずつの
警護が配されていた。ひとつ前の台場にも本院の周囲の小宮の間にも、同様の固めが
されている。その羽切り台に、一人がただならぬ妖気に背筋を凍えらせる。
「捨丸さまに知らせよ」 「なに?」
「笛だ。報せの笛をすぐにも吹け。湖を見てみよ。さすればわかる」
 声を掛けられた男は、欄干から身を乗り出して湖を見た。確かに風に乗って音は聞こえる。

「風の所為だろう。それに、ただの渦ではないか。臆病者め」
 上体を戻して、怯える男を見て笑うと、もうひとりの笛を持っていた者が身を乗り出した。
「おろかもの!捨丸さまも言われたであろうが。われらが相手するのは……。いいから、
笛を貸せ!責めならわたしが……」
 途中まで言いかけて、羽切り台にいた十二人の男たちは、鬼がひたひたと近付く幻聴の
足音を等しく聞いていた。羽切り台の揺れるかがり火が、湖の重なり合ういくつもの渦を
照らしていて、それは羽切り台の脚へと向って近付いて来る。

「ええい!さっさと笛をよこせと……。ひあぁぁぁッ!」
 笛を持った男の躰には頭がなく、切り口から血を勢いよく噴き上げ、声を掛けた男は
血飛沫を浴びながら笛を奪う。渦が脚に近付き、台場をみしみしと軋ませた。その現象は
サキの庭でも起こっていた。警護の十一人の武者たちは欄干にしがみ付きながら揺れを
凌いでいると、タン!と床板を叩く音、この状況下に聞こえるはずのない音がしていて、
中央を一斉に見ていた。

 少年は裸で交媾したままで躰に女をしがみ付かせて仁王立ちでいる。女は少年の
なよやかな白い肩に貌を伏していてよく見えなかったが、髪に隠れチラッと窺えた特異な
肌色、四隅にいても漂う色香からも名花と見て取れる。本院で会陽に耽溺している女とは
素性が違う。
 少年は女の肉桂色の肩に、たっぷりとたくわえた、褐色(かちいろ)の髪の匂いを
吸うようにし鼻梁を押し付けて、瞳は黄金色に妖しく光り、上目遣いに警備の十一人を
睨み付ける。殺気立った緊張に場違いな、少年に抱かれる女の嬌声が洩れる。
285俺の屍を越えてゆけ:03/11/30 22:33 ID:Dy6GN5o1
『155』

 渦と台場の脚が軋む音で聞こえるはずのないものが、明瞭に頭に響いて来る。十一人は
足場を取って刀を抜くと、揺らぐかがり火に鈍い銀色の光を掲げた。警護の男たちに囲まれた
少年は笑っている。
「なっ、なにが可笑しい!」
 黄川人は笑ってはいたが苛立っていた。真名姫がしがみついている分にはいいが、想像以上に
女陰で肉茎を締め付けられ、快美感に背骨を軋ませるほどに。そこから来る笑いだった。
少年は白い手で女の尻を抱えながら、すうっと右手を上げると前方にこぶしを掲げ、拇と
人差し指を二回擦って頭上に手のひらを掲げる。ポキッ!と骨の音を立てて握り締めた。

 十一人の男は目を瞬かせて白目を剥き、その場にドッと崩れ落ちてしまう。黄川人は
右手を降ろして、真名姫の肉桂色の背をやさしく撫でると、強張りに刺し貫かれている
真名は歔いて総身を顫えさせる。黄川人は十一人の男の頭の血脈をいちどきに、
一本ずつ切っていただけだった。
「ごめんよ。真名姫。こんな手でキミをさわったりしてさ」
 黄川人はしゃがみこんで、両手を付く。
「うっ、あ、ああ……!」
「ちゃんとしがみついておいでよ」
 真名姫は黄川人に尻を抱えられると、腰と脚を蠢かせ躰にしっかりとしがみついて啜り泣きをし、
何度も黄川人に雫を流して、うんうんとうなずいてみせる。しかし、真名の涙は宝珠にはならない。

「いい娘だ。上出来だよ、真名姫」
 少年は女を抱えたままで四足になって、相翼院の本院の間へと獣になって駆けて行った。
真名姫の褐色(かち色)の長い髪が床を刷きながらも、黄川人は四足で走って、会陰の儀に耽る
本院を跨ぐ。男女(おめ)たちは、もう交わってなどいなかった。鎧を纏い武装し、抜刀して
待っていた。
「裸でくるなんざぁ、戯れた野郎だな」
 捨丸の声が合図だった。一斉に切り掛かると、それを容易くかわし、黄川人は跳躍して
天井にへばり付く。
286俺の屍を越えてゆけ:03/12/01 01:34 ID:D6QRktxZ
『156』

真名姫は黄川人の躰へ樹にしがみつくようにして顫えながら必死になって四肢を
絡みつかせていた。黄川人は蜘蛛のように天女の壁画の天井を這う。
 剣の柄を握り替えて天井に向けて投げようかとした時に、黄川人は下に向って手を
かざし羽切り台と同じ現象が起こった。武装していた男女たちは次々と崩れ終わると、
天井からタン!と黄川人は降りて来た。

神と人が交われば、まれに神を越える天才が生れるという。それの対抗策として人の躰を
よりしろにしての神々が大江山から相翼院に及ぶ黄川人へ罠を張っていた。
「母上と父上の御魂を貰い受けに来てやったよ」
 よりしろの男女たちが崩れても、人影は立ったままでいる。薄暗がりの中で人影は、
黄金色の光を放つ双眸を皆、黄川人に向けて睨んでいた。貌を黄川人の肩に埋め、少年が
歩くたびに躰を顫わして、くちびるからは真名の閨声がこぼれる。
 妙かなる玲瓏はいつしか磯笛と鳴る。真名の黄川人の滾りを挟んだ女陰からは潮が
あふれ始める。黄川人は真名を抱き交媾したままでゆっくりと捨丸に近付いていった。

「鎮護の志士のつもりだったのかい?」
「そんなつもりはねぇ」
 異様な光景だった。僅かな狐火が、かがりになって本院の間を照らす。女を抱く少年を
遠巻きに幽鬼のような神々が遠巻きに囲み、黄金色に光る瞳で睨む。しかし、その瞳は
敗色に染まりしもの。圧倒的な力の差異はわかっていても、それがどの程度の開きなのか
測りかねてもいた。真名の女陰からあふれた潮は本院にいる全ての者たちに伸びていて
取り込んでゆく。

「そんな……つもりはねぇ。俺はただの小悪党よ」
 捨丸の足にも真名の潮がつう―っと伝って這って来る。
「アッハハハハハハハハ……」
 黄川人が高笑いをして、ときの声を上げる。相翼院全体を水の壁で、誰一人として
逃げぬように閉遮している。真名姫が触媒になって。
287俺の屍を越えてゆけ:03/12/02 03:33 ID:SxbhDBXJ
『157』

「みんな、封印してやる。殺しはしないよ。簡単だからね。アッハハハハ……」
 薄暗がりに異質の淡く温かい光が拡がりはじめ乙女の形となる。
「黄川人、わたしといっしょに天上にいこう。ね」
「姉さん……か。いや、もうちがうんだね」
「そんなことないよ」 「……」 「きっと、夕子さまも赦してくれるから、いっしょにね」
 イツ花は手を差し出したが、黄川人にピシャリと叩かれ除けられた。

「どうしてボクが赦してもらわなければならないんだ!ふざけるな!」
「黄川人、よく聞いて。わたしたちは、父さまと母さまが愛した桔梗花なの」
「その季節にめぐり逢った……と」
「ええ、そうよ」
「ばかばかしい。性根まで人に魅せれていたんだよ」
 イツ花は言葉をなおも言葉を紡いだ。 

「そして黄川人とわたしで現世に流れて、人の環で咲く仙境の菊、黄花なの。それが
ふたりの――祈りなの。祈りだったのよ!」
 イツ花は泣いていた。
「ボクを泣き落とするつもりなの。だから女ってうっとおしいんだよ。誰が、それを潰したんだ!」
 黄川人に抱かれている真名が、びくんと、躰を顫わせると、心配ないよとやさしく
愛撫する。それでも真名姫の震えは止まらないでいた。

「おねがいだから。いっしょに……天界に」
 遠巻きにイツ花と黄川人との対峙を見守っていたが、神々は昼子として守りに付いて
盾となって固めの陣形を敷く。
「夕子の所にも挨拶に行くからいっといて。それから奴の懐刀にもね」
 黄川人の貌が神々の壁に遮られ狭まり徐々に見えなくなってゆく。
「下がれ。皆のもの!さがりゃあああッ!」
288俺の屍を越えてゆけ:03/12/02 03:40 ID:SxbhDBXJ
『158』

『イツ花さま。よくお聞き下さい。お業を黄川人に渡してはなりません。奴は血をこゆく
しようとして、お業の躰で……』
「唄だけうたっていればいいものをッ!うるさいんだよ!」
 黄川人の怒号が本院の間に響いて、足元の真名の潮が弁天の躰だけを一瞬で包み込んだ。
助けようとする者は誰もいなく、イツ花の固めを整えるのみ。そして躰はふわっと浮いて
天井の天女の壁画へと叩き付けられる。水は弾けて、床を浸す真名の潮にぽたぽたと
降り落ち戻ってくるが、弁天の姿はもはや此処にはなかった。

「弁天を殺ったのか!黄川人!」
 お墨は黄川人に凄みを利かせるが、遠吠えにしかならないことに気づく。
「殺す?ボクはそんなにやさしくなんかないよ。おまえたちみんな死ぬことが望みだったんだろう。
誰が殺したりなんかするもんかあぁああああッ!」
「ああっ、ひ、ひっ!ひあっ!ひぁああああぁぁぁぁっ!」
 黄川人の屹立が膨れ上がって真名の膣内(なか)で跳ね返り暴れる。烈しく責められているような、
あけすけな真名姫の閨声と重なっていた。

 イツ花を囲って盾となっていた神々の躰にも潮は一瞬で這い上がってって来て包み込んだ。
全ての者が水柱となって、その中の渦の流れで躰をきりもみしてもがき苦しんでいる。
「ほら、ボクらのほうが強いだろう」
「ボクら……?」
「さっき、ふたりでっていったろ。どっちが生き残ればいいなんて小ざかしい策なんかを
弄さなくてもいいんだからさ。こんなうっとおしい奴らは殺して」 
 真名はがくがくと顫える。
「……!」
「昼子なんて名は捨て置いてさ、ぼくといっしょにいこうよ。姉さん」
 真名の潮に封じ込められた神々は水柱の中の渦になす術もなく翻弄されていた。
289俺の屍を越えてゆけ:03/12/02 19:12 ID:SxbhDBXJ
『159』

「どこへ行く気なの?黄川人……」
 暫らくすると、水柱の中に神々の姿は認められなかった。
「どこへって、きまっているだろ」
 黄川人は嗤う。透通った何本もの柱だけがイツ花を取り囲んでいる。黄川人の貌が
水越しに歪んで鬼に見える。狐火に照らされて。
「虚無の世界。ボクと姉さんだけのいる世界さ。はじまりからやりなおそうよ。ね」
『惑わされるな、昼子』

「夕子さま……!」
「夕子?おせっかいな奴だ!天界ひとつたばれないで、よけいなことをするんじゃない!」
「きっ、黄川人……。花は……どうなるの?その娘だって、怯えているわ」
 イツ花はすごく場違いなことを言っているような気がしてならない。大江山襲撃の前に
親子で見ていた草原の花。落城に火の手が上がって天上を摩する炎の花。ふたつが
イツ花の心を掻き毟る。それでも、問いただしたかった。

「花?なんのことだい?」 
「他の……生き物たちは……いったいどうなるというの?」
 イツ花は絞り出すようにして声を出してゆく。
「どうして、あなただけが……。なぜ偉ぶるの?」
「偉ぶるだあ?なにをいってるんだよ、イツ花」
 目つきが変っていた。
「捨丸さまあぁああッ!」
 一人の少女が飛び込んで来て、黄川人とイツ花の間を裂いた。

「逃げろといっただろうが!」
「逃げようと思ったのです。お赦しください……」
 捨丸は緋香莉のほっそりとした躰を引き寄せると、背後ろにかくまって盾となる。
ほら、見てごらんと黄川人はイツ花に目配せをする。イツ花は大江山討伐隊の
頭だった捨丸の姿を見る。
290俺の屍を越えてゆけ:03/12/02 19:25 ID:SxbhDBXJ
『160』

「相翼院のぐるりに水の壁がありました……。もはや逃げることは叶いません……。
お、お赦しを」
 捨丸の肩に少女の手がしがみ付いていた。足手まといになることを、自分だけが
助かろうと一時でも思ったことを詫びる。
「怒っちゃてねぇって。泣くな、安心しろ。おまえだけは俺が守ってやる!」

 緋香莉はふるふると、頭を振っている。足手まといを承知で死を覚悟して哀訴する。
「もう、置いて行かないで下さいまし。お傍に……。どうか、お傍に……!それがご無理なら、
いっそわたしを!」
 イツ花を囲んでいた水柱が弾けて崩れると同時に、外からも相翼院を囲んでいた水が
奔流となってなだれ込んで来る。本院の間にいても、水の迫り来る、ゴォオオオオオオッ!
という唸り声は捨丸と緋香莉にしっかりと聞こえていた。

「ああ、わかった。どこにもやらねぇから、安心しなって」
 緋香莉の貌が捨丸の背で安堵した刹那。ドンと背中を捨丸は突かれ、目の前に弾かれた
人影に向って手を伸ばして空を掻いた。少女の躰だけが弾き飛ばされて、イツ花と捨丸の眼に
くるくると躰を舞わす。少女の眼の上で綺麗に刈り揃えられていた髪が躰を包み込みはじめた
水流に撫でられて額が露わとなる。大江山の暮れ六つの襲撃。イツ花は緋香莉を自分の姿と重ね、
黄川人を嫌悪で睨みつけていた。その瞳も鬼になる。

『昼子、およしなさい!お風、よろしいか!』 『はっ!』
『黄川人!母さまも、父さまも、おまえになんかは渡さないから!この世を好き勝手にはさせないから!』
 本院の間は瞬く間に水で埋まり、渦を巻いていた。そしてイツ花と黄川人の気が烈しくぶつかり合った、
青白い閃光を発している。その時には捨丸の躰も浮いて、渦の中でもがき苦しんでいた。
そして緋香莉に手を伸ばそうとするが及ばずに、届かないまま離れてゆく。
291俺の屍を越えてゆけ:03/12/03 22:00 ID:+RWZ1vr8
『161』

『まあ、いいさ。でも、捨丸と緋香莉は貰い受けるよ。さあ、いこう。真名』
 捨丸と緋香莉の躰が水流に戻され、いまいちど指先が触れようとした時に、捨丸と
緋香莉の躰は閃光に包まれて、此処より姿は掻き消えていた。
お業の姉、お輪が夫の転生した壬生川源太となる男と添い遂げ、子を生せと夕子の命を
受けて備えに入ったことは、黄川人が相翼院の本院に踏み入った時から、お業の波動で
既に読まれている。夕子とお風は、それは織り込み済みで事を運んでいたが真名姫と緋香莉の
存在は予想外のものだった。

 イツ花の心が揺れ始めると、素質の三十二相を破砕して凶相の鬼になりかける。
『昼子、堪えなさい。昼子』 
 黄川人は去り際の言葉を吐きながらも、最後までお業の御魂を奪おうとけしかけ、闇に姉を
引き摺り込もうとするのを、夕子とお風とでぎりぎり阻んでいた。黄川人と真名が交媾して肌を
合わせていた為の差異は大きい。
『夕子にお風!近場にあいさつに行くからね!アハハハハハ……、愉しみにして待ってなよ!』 
『こしゃくな、わらわごときにこのわたしが!』
『お風、雑念は捨てよ!』
『姉さん、僅かな青春の時を愉しんで、桔梗の咲く頃にまた逢いましょう。アッハハハハ……』

 天上の間で壇の炎を前にした夕子とお風、歯をぎりぎりと噛み締め、眉間に深い縦皺が刻まれ、
こめかみには粒状の汗が噴き出る。イツ花の躰を天上に、かろうじて引き戻してやれるだけ。
『痴れ者めが……!』
 お風は床を握り拳で烈しく叩くと、イツ花の躰はその時に夕子の前に実体化する。その後の
相翼院の眺めは、羽切り台と本院は黄川人と真名の交合の水に朽ちた姿を漆黒の闇で
包まれ、その周りを再度、力と力のぶつかり合う刻を待ってか喜ぶ凶兆の風が吹いた。
そして、お業の御魂は昇天することなく此処に留まりて、自らを相翼院に縫ったのだった。
「ごめんなさい、他の方々にも迷惑を掛けてしまって、母さまの御魂を連れ戻すこと……
か……叶いませんでしたぁ……。夕子さまあぁああ……!」
292俺の屍を越えてゆけ:03/12/03 22:06 ID:+RWZ1vr8
『162』

「もうよい。よいからなにも言うな、昼子。わたしのなかで休まれよ」 
「あぁぁぁ……母さまあぁああ!夕子さまぁぁぁ!」
 イツ花はことの次第を告げると、太照天・夕子の胸に崩れる。お風があわてて、夕子に
膝で近寄ると、イツ花の眦には大粒の涙を浮かばせてはいたが、小さく、お夏と呟くと、
すうすうと寝息を立てているのを認める。
 めずらしくイツ花を抱く夕子の口元がほころんでいるのを見て、お風には光りが無く、
夕子の子を抱くやわらかな女の波動でそう感じた訳だが、遠き母を想って凶兆にあっても
気はなぜか安らいでいた。常夜見の瞳にも映らないお互いが咬み合って花に緋を吹く
イツ花と黄川人のあしたの桔梗に、勝機を見出したのかもしれないとそこはかとなく
感じてはいた。遠き暗い一本道に一条の光明が射す。


 海辺の磯岩にしゃがんだ黄川人は真名姫を見ていた。
「どうしたんだい。キミはもう自由なんだよ。もう人に捕まることはないよ。安心をし」
「……」
「いかないのならば」
 黄川人は手刀をつくって、真名に向けて振るった。真名はそれを容易くひらりとかわした。
それでも敦賀ノ真名姫は哀しい眼を黄川人に送る。
「やはり、ボクが偉ぶってるように見える?」
 真名はこくりとうなずくと、黄川人は手をいまいちど振り下ろした。かまいたちが起り、
真名の頬を切る。
「どうして、よけなかったの、真名?」
「もう、おやめください。お姉さまが哀しまれます」
「あれは太照天を継ぐ女だよ。もうボクの姉なんかじゃない」
「そんなことはありません」
 真名はふるふると貌を振って、黄川人に近付く。
293俺の屍を越えてゆけ:03/12/04 02:05 ID:k9DlviSx
『163』

「ごめんよ、キミを傷つけたりなんかして……」
 黄川人は真名の頬にふれると傷は消えていった。人魚は眦から大きな涙をこぼして、
それを見ていた黄川人は肚を括った。真名姫は黄川人の頬を撫でるほっそりとした
女のような白い手を自分の手でやさしく包み込んでやる。
「わたくしには、もう還る所がありません」
「海に還ればいいじゃないか」

「わたしには、人の臭いがすでに滲みていますから」
「後悔しているのかい?」
 真名はどちらのことを聞かれたのかわからなかったが頭を横に振り、ふたつとも
直ちに否定していた。どうやら、その意志は黄川人には伝わったらしかった。
「ボクは真名を連れて行くことは出来ないよ。人魚が鬼になったら可笑しいじゃないか」
「……」
 真名は淋しそうな潤んだ紺青の大きな瞳が憐れを誘う。

「忘我流水道の奥に住まうといい。あそこなら、安らぐ。きれいな石の花もあるからね」
 真名姫は屈託のない黄川人の笑顔を見て不思議そうな貌をしていた。
「ボクの居場所だったからね、そこはさ」
 真名は泣きながら微笑み、こくりとうなずくと黄川人は立ち上がる。黄川人と真名の
繋いだ手と手はほとかれる。それだけ憎しみが深いのかと哀しみに曇る真名。
その真名の貌を朝陽が照らし始めていた。黄川人に抱かれ下肢を二本の脚に割った
昨日みたく眩しかった。

「ありがとう、敦賀ノ真名姫」
 黄川人は裸身から臙脂色の狩衣を纏っていた。朝霧の立ちこめる血のような朝陽を
一瞥して少年は人魚の前から姿を消した。真名姫も尾びれでパシャッと水面を叩くと
潜ってぐんぐん速度を上げていった。真名姫の涙がゆらぎながら落ちる際に乳白色に
変化して底で水銀が散るようにして弾けて、いくつもの宝珠になっていたことを知らないままに。
294俺の屍を越えてゆけ:03/12/04 02:24 ID:k9DlviSx
293 訂正 二段目七行目 真名の淋しそうな

255のところで、真名姫の髪の色を紺碧、肌を褐色(かっしょく)と
設定を見ないで適当に書いて、忘れて気づかないままに
髪を褐色(かち色)、肌を肉桂色と直してしまいすみません。
295俺の屍を越えてゆけ:03/12/04 13:57 ID:k9DlviSx
『164』

(ボクは戦を仕掛けて鬼になるのさ、真名。もうキミには逢えないよ。あんなことに
引っ張り出しといて、こんなことを言ったらお笑い種だよね。フフッ、アッハハハハハ……!)
 黄川人も瞳を潤ませ浮かんだ涙を風に切って速度を上げていく。少年が赴く所は帝の
寝殿。血を分けた者同士が争わねばならない苦汁を嘗めさせるため。

 鮮やかな黄色の八重山吹が咲く季節、東北のほうから壬生川源太が皆川家に養子に
迎えられる。皆川輪との祝言を挙げる為にはるばる都に上る、この時まだ源太九歳、
その妻輪は五歳だった。既に輪廻転生を終え夕子の庇護の下、備えに入る。
 大江山に二対の仁王像も既に建立され都は和を取り戻したかに見えていたが、街中では
月夜に麗人が現われ、男の精気を狩るという噂がまことしやかに立ち始める。お紺の亡霊が
夫を探してうろついているだの、妖狐の仕業だのと。
 相翼院は改修されないままに放置され、人の住まわぬ院はますます朽ちるに至り妖魔の巣窟の
佇まいになる。そして、忘我流水道では流れが止まることはなかったが、その奥から
女の啜り泣く声が聞こえてくるという妙な噂が立っていた。変異変容が各地でぽつりぽつりと
見受けられ始め、噂を解明しようと立ち上がった術師や武者が行方不明となっていた。

「もう雪椿が咲く頃だなあ……」 「ふるさとがおなつかしいの?」 「か、からかうなよ」 
「ふふっ。それで雪椿とはどんな花なのですか?」
「うん。朱色の花弁、おしべが鮮やかな黄色をした……」
「いかがされましたか……?」
「いや、山のほうに何か禍々しい城のようなものが見えた。ほら」
 お輪にも源太が見た物がみえていた。
「こわい……」
「わたしが輪を守ってみせるから」 「はい」
 お輪にはお業の思い出があったが、源太にはその前世の記憶はなかった。お輪は源太の
胸にやさしく抱かれてなつかしくも哀しく想う。だが霞み掛かって一時だけ露台に寄り添う
ふたりには白骨城が見えていた。お輪は既知から怯えて源太に甘える。
296俺の屍を越えてゆけ:03/12/05 01:50 ID:0zpmFQ3w
『165』

常夜見・お風にとって黄川人の行動が読めないことは屈辱以外のなにものでもなかった。
これといった決め手がなく、あるのは壬生川源太とお輪が子を生んでからという気が
遠くなるような脆弱を露呈し、その支えがことのはじまりであった恋情という愚かさに尽きる。
神々の尺からすれば、お輪が子を生せるまでの十年余りは瞬きの時でしかなかったが、
黄川人という鬼が先を歩いているその開きは如何ともしがたい。
 帝にはくれぐれも不浄をさけ清浄に生きよという戒めを言い渡してはいたが、各地に
起り始めた怪異に大江山討伐は地位と引き換えに神々に利用されていただけやも
しれないという疑念を抱き始めていた。それも、お風には不安要素でもあった。

 帝にしても神に近しい絆を結んでいた国を滅ぼして、その代償として噴出し始めた
出来事に難儀していた。抱えの術師や舎人部に調査を命じるがそれも行方知らずと
なっている。そこへ来て弟の言動。和を尊び、穏やかに暮らすことを信条として、大江山の
鎮魂碑の建立には率先して指揮を取ったこともあってか碑文を記せなかったことを
いまだ悔いて愚痴っていると聞くに及ぶ。相翼院の改修にも、物腰はやわらかだったが
意見をしてきた。

 大江山の封印に莫大な費用をつぎ込み、この上、神々の掟から外れたお業を奉った
相翼院を改修する気は帝には毛頭なかった。
「討伐のおわりの締めは必要かと、いまいちどの再考を」
 藁に座しての兄と弟として酒を飲みながらだったが、弟はまたもその話を持ち出し帝に
探りを入れようとする。

「放置すれば、我らが国が凋落するとでもいうのか?」 
「その兆しは既にご存知でありましょう」
 帝のもう一方の考えには、悪しきを広め、よもや神々の存在を知らしめるための策略
だったのではないかとも思いに至り――。それに反して弟の人気は高まりつつあって、帝の心に
恨みつらみが巣くい穏やかではない。謀殺という考えがもたげて、内なる心に鬼を棲まわす。
297俺の屍を越えてゆけ:03/12/05 14:02 ID:0zpmFQ3w
『165』

「大江ノ捨丸も依然として行方不明ときている」
 黄川人が物の怪のまねごとをしたのは帝にではなく、弟にしたのだった。
「でしたなら迷うことはありますまい」
『ほら、殺っちゃいなよ。そうしないと、自分がやられちゃうんだよ。なんくせつけられちゃあ、
おしまいだからね』
「くどい!堕ちた神如きになぜ鎮魂が必要か!」
 盃を弟に投げつけ、額を切って血が滴り落ち、転げた盃を取る手が震える。
「大江山の焼き討ちの終わりは相翼院のはず。ならば鎮魂はことわりかと」
「それを説くつもりか。大逆を謀っておろう」
「なにを証拠に!」

「証拠はその眼よ!」
『ほらほら、来たよ』
「どうか、相翼院を改修し……」
 頭を下げた額から滴る血といっしょに、口からもゴボッと血糊を吐瀉していた。
『ほうら、あんだけ言ってやったのに、小柄ぐらい忍ばせておけばよかったのに』
「う、うるさい!物の怪め!」

「なにをッ!」
 帝が立ったのが合図となり、控えていた舎人部たちが入って来て、うずくまって尚も血を
吐いて苦しむ帝の弟に向って太刀を下に構え切っ先を突き立てた。ズッと抜くと飛沫が
噴き上がり、返り血を浴びながら左手で柄を握り、尻を右手のひらで押さえ止めを刺す。
 帝は弟が血を吐きながら睨んでいた血走った眼が焼き付いていた。苦しみながらもカッと
見開いた眼に帝が見ていたものは怨念。しかし、弟が最期まで伝えようとしていたのは
己の心情だったが、すべて黄川人の手で歪まされ塗り替えられていた。
『アッハハハハ……つくづく馬鹿だよ、人間は。あんだけ言ってやったのにさぁ。アハハハハハ……』
 黄川人の嗤いが風を起こし、部屋にいた者たちみなに颯然と嬲る。
298俺の屍を越えてゆけ:03/12/06 02:51 ID:q3AdN/qP
『167』

怒り恨みを抱いたのは、幾多の家臣たちだった。一族郎党逆賊の汚名を着せられ殉死を
余儀なくされる。赤子とて例外はない。これより一月後に帝の枕に黄川人は立った。
弟の姿を借りて毎夜帝の寝殿を来訪する。帝は憔悴し、弟の遺屍を掘り起こさせ
堅牢にして大そうな墳墓を建て御魂を鎮めようとしたが、帝はそのまま崩御してしまい、
墳墓にかなりの額をつぎ込んだことで屋台骨がぐらつき、権力闘争に火がつき乱が起る。
 その巻き添えを食った民たちの恨みは弟とともに殉死させられた家臣たちの御魂と
混ざり合い親王鎮魂墓に妖しげな気を渦巻かせる結果となり、その刻を待って黄川人は
大江山に建立された鎮魂の碑に朱で存念を刻みつけた。神々がなりふり構わずに急ぎ
施した封印はあっさりとくぐられたことにあいなる。天上はいまだそのことに気づかないでいた。
 

 女の赫い唇が源太に近付いてくちびるを掠め取る。源太は眼を大きく見開いて女の顔を
じっと見ていたのに、感じることができないでいた。綺麗な顔という認識しか頭に残らず、
どういう顔立ちで誰彼なのかというのはまったくわからない。近しい存在のように思えば、
遠き存在にも思える。これは夢なのだと源太は思うことにした。
 女の唇が離れると、源太の頤の尖りを赫い唇が挟みこんでゆっくりとしゃぶられ、
ねっとりと舌でねぶられて喉に降りていく。源太は少女のような声音を洩らしていた。

 下腹がきゅっとへこんで、喉から鎖骨を通って胸の尖りを吸われた時に源太は
小さく叫んでいた。なつかしい芳香を肺いっぱいに吸い、少年の下腹を波うたせる。
母をなつかしく想う気持ちが、こんな不浄な夢を見させるのかと、ひどく困惑する。
それなのに陽根は烈しく滾るのを抑えられない。
「逢いたい。逢いたかった……!」
 妙かなる声音に、どのような名花なのかと少年の胸は高鳴る。その呼びかけに、
やっとめぐり逢えたことをしみじみと語る声音のなつかしさの裏にある哀しみについ
せつなくなる。源太の胸に置かれていた女の手が強張って、指頭で皮膚を圧していた。
「母さまなのですか……?」 しばしふたりに間が生じ。 「わたしの声を忘れましたか……」
299俺の屍を越えてゆけ:03/12/06 12:39 ID:q3AdN/qP
『168』

 女の声が顫えていた。すまないという気持ちでいっぱいになる源太だったが理由が
わからない。やさしい声音は母のものとも思えたが、語尾の発音における湿り気を帯びた
女の音に独特の艶があることに気づくが、それが誰のものなのかとんと見当がつかない。
「相対して、たゆたいましょう……源太さま」
 女の手の強張りが解けてやさしく滑りながら下腹を捉える。顔もそれに倣い、女の赫い
唇からは舌が差し出され男の証を舐め廻して――「あっ、あ、はっ、はっ……」 
――少年の逸物を赫い口へと含む。
 熱いしゃぶりにやがて小水の予感が込み上げて少年は歔いた。女は唇をひらいて
源太の滾りを吐き出すと、おもむろに躰に跨って女が首を折って長い髪を垂らしてくる。

 人差し指と中指のあわいに滾りを挟まれ、夢のなかの闇のような女陰に少年の敏感な
少女の唇のような鴇色の尖端を赫肉で捉えられる。
「ああっ」
 おんなの濡れた熱い吐息がなつかしい。情欲の炎が躰を焼いて源太に涙を噴かせる。
自分も声が洩れそうになったが、今度は下唇をきつく噛み締めて堪えていた。女は腰を
振り始めながら髪で源太の喘ぐ胸をざわっざわっと刷く。女の肉襞の煽動に歯を
喰いしばって源太は耐える。夢ならもっとこうしていたいと願った。逸物を温かく包み込む
締め付けから来る腰の快美感と女の姿態が描く妖しい眺めに源太は泣き貌になって、
豊な乳房に男が硬く膨れてゆくのが止まらない。

「ああっ、まだ!まだ!」
 女はくちびるを薄くひらいて白い雫をこぼれさせている。だのに腹が立つどころか
愛しさが増すばかり。源太は女の揺れる乳房にふれたかったが精を吐きそうで手が届かない。
ふれてしまえば、儚げな白い乳房をきつく潰してしまいそうで気が退けた。女は自分の
願いを赦してくれるだろうとは感じていたが、伸ばした先はおんなの太腿。
 そっとふれるようにして、手を添えてみると胸に付いていた女の手が絡んでできた絆。
源太は女との肉の絆を探ってみたくなっていた。内腿に手は滑り、女の両の手は
下腹あたりに付いて源太の好きなようにさせてくれる。たわわな乳房を両腕で挟んで
絞っていて深い肉の谷間をつくって喘いでいた。
300俺の屍を越えてゆけ:03/12/06 12:54 ID:q3AdN/qP
『169』

 源太の手は男女の繋がりのあわいを目指しておずおずと撫でるように内腿を這って、
女は貌を上げて喉を晒すと髪は引き摺られて宙に綺麗に舞った。ほっそりとした頤が
綺麗な嶺を描くのを見て、源太の逸物は傘を拡げる。
「あっ!あぁあああッ!」
「源太さま、源太さま……!」
 女の腰が源太の躰をぎぎめき、息が出来ないくらいまでになって小水の予感を
解放させていた。

「源太さま!源太さま!」
 源太が瞼をひらくと、そこには心配そうにしている、お輪の顔が間近にあった。
「だいじょうぶですか……」
 源太は後ろ手を付いて上体を起こす。眼を瞬かせてお輪の貌をじっと見詰めている。
なにがあったのかとまどっていると、徐々に羞ずかしくなって貌を女子のように赧らめる。
「い、いかがされました……?さっきから、うなされていましたよ」
 下のことで気まずくなって、お輪の汗を拭いてくれている、手ぬぐいを持つ小さき手を
思わず払い除けたくなったが、源太は踏みとどまった――。「あっ……」――源太は両手で
お輪の頬をやさしく包んでいた。

「先刻からわたしを呼んでくれていたのは、お輪なのか?」
「は、はい……もうしわけ……あっ」
 源太の小指がお輪の鴇色のくちびるに掛かっていた。お輪には自分が自分で
なくなるような感慨に顫える。お業の気持ちがうごいているのは確かで躰があつい。
うなずくことは出来ず、瞼を静かに閉じて小さくお輪は返答する。
その瞼は閉じられたまま、源太はお輪の鴇色の唇に重ねていった。  
『おかえりなさい』
 まちがいなく、お業の心だと思っていたが、お輪は源太に恋をしていた。咄嗟に
わたしは道具などではないという気持ちを外へ吐き出してしまいそうになる。
30148:03/12/07 14:08 ID:Y1H+zZwS
後編が完成しましたが、投稿を延期します。
理由は以下のとおりです。

1.現在までに投稿済みのものとほぼ同じくらいと、かなり分量が多いこと。
2.現在、「俺の屍を越えてゆけ」さんがかなり頻繁に投稿してくださっているので、保守の必要がないこと。
3.上と関連して、「俺の屍を越えてゆけ」さんの投稿に割り込んでしまうと、後で読み返すときに面倒であること。

以上です。なお投稿は当スレ住人の反応に留意した上で、当方が必要と認めた時点で実施します。
302俺の屍を越えてゆけ:03/12/07 15:42 ID:FWzcyRdi
こちらのほうが、割り込んでしまったようなものなので、
ほんとにもしわけありません。
投稿されるのでしたら、しばらく止めますがいかがでしょう?
30348:03/12/07 17:13 ID:Y1H+zZwS
>>302
止めるだなんて、私の毎日の楽しみを奪う気ですか!

いずれにせよ他スレに投稿するSSを書いていて、そちらがちと忙しいんです。
おまけにそれに触発されたのか「北の〜」のボルノフ大尉を主人公にした別のSSの着想が出てきてしまい、現在それらを熟成
させているところです。ですから、間が開けばそれだけ熟成させる時間がとれるわけで、むしろ喜ばしいんですよ。
熟成期間は長ければ長いほどいいわけですし、またそれだけこのスレが繁盛しているということですから。
そうそう、あのオソマツなレイプシーンの埋め合わせとして、プロにも決して負けないレベルの戦闘シーンをお見せしますよ――
――というか、お見せしたいと思います。

そういえば、私自身忘れてましたけど「北の〜」は保守用のSSだったんですよね、だいぶ長くなってしまいましたが。
「北の〜」のほかにレッド・ストームを原作とした二次創作が2つほどあり、また前述の新SSもありますから、
保守のネタには事欠きません。ですから、ぜひとも皆さん競って投稿していただきたいものです。
304俺の屍を越えてゆけ:03/12/08 01:57 ID:FUtbPbOg
『170』

『わたしたちは道具ではないの』
 お業の生きた道を辿っているような気がした。そっと暮らすことが望みだったお業の声が
お輪の中で響く。やわらかな互いのくちびるのふれあいが残るのがたまらない。
 源太はお輪とくちびるを重ねてじっとしていた。この愛の気持ちはどこから来るのだろうと、
源太とお輪は見詰め合ってから――
 お業のつづきの好きがお輪の好きになるのか。お業の変らぬ気持ちがお輪の中に
確かに息づいていることはわかっていても。
「あっ……」
 ――くちびるを離す。

 お業の記憶から生れたことであることは明白。それは双子の姉妹で、ふたりでひとりの
神だから。そして、そして……妹が仕出かしたことを収拾する為に割り切って志願した
ことなのに。けれども、けれども……。
「すまない。泣かしてしまったね」
 そう言われて初めて自分が泣いていたのだとわかった。大粒の涙を源太の拇がやさしく拭く。
源太の温かい両手に包まれていたお輪の貌がふるふると揺れて胸がいっぱいになる。
 お輪の傍が自分の家なのだと源太は両手に包んだ貌が左右に振れるのを見て実感する。
お輪の瞼が閉じてまたひらかれて切れ長の瞳が泳ぐ。

「源太さま……羞ずかしい……」
「ごめん。でも、もっと見させてほしい。おねがいだから」
「はずかしい……」 かぼそい声音のお輪。それでも、源太は手をほとこうとはしなかった。
「ダメかい?」 「……いいえ。かまいません……から……」
 お輪は源太にうなずいた。またお業の声が響きはじめる。 
『あなた、ありがとうございます』
 しかし、お輪は愛ゆえにお業から怨まれるかもしれないとも思い、更に淫靡な気持ちをも
奥底に育みはじめていた。
305俺の屍を越えてゆけ:03/12/08 21:25 ID:FUtbPbOg
『171』

「お風、どうしました。なにを悩んでおるのですか」
 妻戸を閉じると夕子はお風の躰を引き寄せると袴の紐をこなれた手つきでしゅるるっと
ほといてゆくと、お風の眼にはその美しい手の所作は映ることはないが、柔肌で感じる
ことができた。自分を慕ってくれていることがお風には辛かった。右前になった衿元から
夕子の左手が忍んでくる。自分は黄川人のことでは失敗を繰返した。
「寝所では夕子でよいというたであろう。なら、ゆうと呼びなされ。ゆうでよいから」
「な、なりませぬ」
 自分を責めているお風の胸を夕子の手が弄っていた。

「ほれ、いうてみなされ」
 お風の鴇色のくちびるが顫える。 
「いっ、いやにござります。わたしに、そのような……資格は……もう、ありませ……ん」 
「そのようなことは、二度というてはなりません!」
「あっ、夕子さま、夕子さまぁ……」 
「ふう、なりませんよ」
 夕子とお風の吐息が甘く絡み合い蕩け合う。そして自分を責めているお風の胸を
夕子の手が弄って、衣を割っていった。
「お風はようやっております。わたくしの支え。昼子をいっしょに守り立てていってください」

「夕子さま……」 
「ふうは強情な……おなご……」
 お風は夕子のくちびるを受けて静かに瞼を閉じ合わせる。夕子の舌が差し入れられて、
お風は吸って歔いた。夕子の手によって剥き身にされていった。艶々として絖る肌を
夕子の前に晒すお風。お風も夕子を感じようと、両手で夕子の衣を肌蹴させて、
お風以上の裸身を、ふたりはもつれあって、その場に倒れこむと夕子はお風の太腿を
抱えて淡いの逢わせに入る。仰向けに寝そべる、お風の乳房が儚げに咲く。
306俺の屍を越えてゆけ:03/12/09 03:14 ID:VFheRUR1
『172』

すべてを曝け出す寝所であっても、光りなしのお風には夕子の姿態を見ることは叶わない。
それが夕子の引け目でもある。表立ったものではないが、今度の一件で、お風が苛立って
いたことを夕子は気に掛けていた。
「はっ、はっ、はあっ」 
「ふう、わたしの名をよべばいい……んぁ……」
 尻を振りたてられて、常夜見・お風の柳眉が吊りあがる。お風もそれに控えめに応えた。
貌を左右に動かしては黒髪を散らす。
「や、やめて……くださりませ」 

「ゆるしませんから。いいなされ。ほら、ほら」
「ゆ……うぅぅ……っ。んあっ」 
 組み敷かれた、お風の下腹がうねり、儚き佇まいの繊毛が合わさり、女が蕩ける酔芙蓉
のように赧くなるのを夕子はしっかりと。天上のお風と現世のお輪の二輪花を夕子は見る。
「もっとしっかりとです」 
「ゆう……あ……あっ、たまりませ……ぬ。はうっ……!」 

「もっと!」 
「ゆう……ゆうさま……あ、あぁぁ……ッ!」 
「なりません」 
「ゆぅぅッ!」 
「風、いうてごらんッ!」
 泣き顔を夕子に晒して普段の美貌とはまったくちがった相になり、歓喜のおんなを硬直させる
波の刻が押し寄せる。
「ゆう!ゆう!ゆう!ゆうさまあぁああああああッ!あ、あっ、あ……あぁぁぁ……!」

「母さま……天上に帰りましょう」
 イツ花は朽ちた相翼院に降りて来ていた。本院の間に母と娘は対峙している。黄川人と
イツ花の戦いの時、お業は自らの魂をこの院に縫って留まった。諦めきれないイツ花は
お業を説得していた。
307アドルスキー2号:03/12/09 21:10 ID:VJDkoHSA
あのー、アドル・クリスティンの冒険日誌(非エロ)を、
書いてみたいんですが、よろしいでしょうか? >住人様方
308名無しさん@ピンキー:03/12/09 22:30 ID:LimVRr/z
>>307
むっちゃ読みたい
309アドルスキー2号:03/12/10 02:21 ID:VHX2JPNr
版権が買われるか、M&A食らって会社が子会社化して
コ○ミの血の粛清が始まる前に、
過去の思い出に思い残す事が無いようにしたいので
いきなりですが、始めさせて貰います
310アドルスキー2号:03/12/10 02:41 ID:VHX2JPNr
『アドル・クリスティンの冒険日誌』  プロローグ ー幼年時代ー
「1」

カーン、カーン、カーン
熱せられて赤くなった鉄をハンマーで叩く音が、その小屋の中には響いていた
小屋には何度も何度もハンマーで鉄を叩き続ける無言の老人がいた
そしてその脇には、それを面白そうに見つめている赤毛の少年もいた
「バン爺……今日は、何を作っているの?」
少年は瞳を輝かせながら、その老人に問いかける
老人は、少年に声をかけられてそっちの方に視線を送った
「クリス坊……、今日は久しぶりに小剣を作っているんだ…旅の吟遊詩人が来ていただろう?
 あれが欲しがっていてな…… はて?クリスは鍛冶の仕事に興味があるんか?」
そう言って、長い顎鬚を揺らしながらバン爺は微笑む
クリスと呼ばれた少年は、難しい顔になってバン爺の言葉を考える
「興味はあるよ……、バン爺が魔法の様に、いろんな物を鉄から作っていくのは面白いから…」
そう言って、赤毛の少年は微笑んだ
「ハッハッハ、そりゃいい……、だったらクリス坊は将来は鷲の後を継ぐか?
 今から鍛冶の修行をすれば、鷲が息を引き取る頃には、立派な村の鍛冶屋になれるだろうて…」
そう言ってバン爺は手を止めて、自分の自慢の顎鬚を撫でた
バン爺の言葉に、クリスは目を丸くする。自分の将来のことなど、まだ明確に考えては居なかったからだ
「鍛冶屋かーー、でも鍛冶屋に成りたいとは、思ってないんだ……」
クリスは少し考えた後に、バン爺の柔らかな勧誘を軽く交わしてしまう
バン爺は、跡目が居ないので本気とも冗談とも言えなかったが、そう一蹴されては二の句が告げれない
やれやれとばかりに、もう一度、鉄を叩き出した
311アドルスキー2号:03/12/10 02:59 ID:VHX2JPNr
『アドル・クリスティンの冒険日誌』  プロローグ ー幼年時代ー
「2」

鉄を叩きながら、思い出したかのようにバン爺はクリスの方を見た
「しかし、お前さん家のノビル家には、クリスの継ぐものなんぞありゃせんじゃろうが?
 お前さんの兄貴も、メルティー嬢ちゃんとの婚姻で家督が決まったし、
 バルチルもいくらお前が可愛くても、ノビル家をお前さんとケヴィンに分けたりせんだろう?
 ここのノビル家の土地は広いが、家を2つに分けるのは騒動の元だ……
 ケヴィンと骨肉の争いなんか、クリス坊はしたくないじゃろう?」
バン爺は、迂闊にも12になったばかりの少年に、
地主の御家相続の揉め事問題について尋ねてしまった
そんな老人の言葉に、目を丸くするクリス
「??? どうして? どうして僕がケヴィン兄さんと争いごとなんかしなくちゃいけないの?
 僕は優しい兄さんが大好きだよ? 喧嘩なんかしないよ……」
バン爺の不思議な言葉に、顔を歪ませるクリス
そんな少年の子供らしい言葉を聞いて、バン爺はしまったとばかりに顔に手をやった
「ちょっとクリス坊には難しい話だったな……、そうだな……ケヴィンは出来た男だからな…
 きっと、これからも仲良く暮らしていけるさ……
 でもな、クリス坊……
 お前は次男だから、いつか家を出なくちゃならん日が来る………遅かれ早かれだ……
 だから、どうじゃろうかな……冗談ではなく、鷲の元に来て鍛冶屋見習いでもやってみるか?
 その方が、きっといろんな意味で良いことになると思うぞ? 」
そう言って、バン爺は今まで見てきた、家督騒動の事を思いやって、そっとクリスの赤毛に手を触れた
「??? バン爺……わかんないよ…… 爺が何を言っているか……」
クリスはバン爺の、あまりに唐突な言葉に、狼狽するしか無かった
312アドルスキー2号:03/12/10 03:13 ID:VHX2JPNr
『アドル・クリスティンの冒険日誌』  プロローグ ー幼年時代ー
「3」

「バン爺、鍛冶屋も面白そうだけど、でも僕は何となくなりたいものがあるんだよ……」
クリスは今度はバン爺に対して、自分から言葉を投げかけた
「ほぉ? それはなんだい? クリス坊……」
クリスがあまりにも顔を明るくして話すものなので、バン爺は少し興味を持った
手を休めてクリスの方に向き直す
「僕は、もっと大きくなったら冒険者になりたいんだ……、
 子供の頃からお父さんに勇者の絵本を読んで貰ったりしたし、最近来た吟遊詩人のおじさんにも、
 この村の外のとっても面白そうな話を聞いた……  太古の古代遺跡や5つの竜のお話……
 僕は、大きくなったら、いつかそんな話の世界を見て回りたいんだ……」
そう言ってクリスは熱っぽく、御伽話に出てくる勇者の挿絵を思い出してバン爺に語った
その言葉を聞いて目を細めるバン爺
「ほぉ……冒険者か……クリスは冒険者になりたいのか……」
そう寂しそうに言った後に、バン爺は体を向き直し、また目の前の鉄に向かった
少し辛そうな顔で、バン爺は鉄をハンマーで叩く
その仕草が気になったのか、クリスはバン爺の気持ちが心配になった
自分が鍛冶屋の誘いを断ったから、機嫌が悪くなったのだと考えた
バン爺は、これでかなり頑固な鍛冶屋だ
自分の作ったモノが気に入らなければ、それを平気で壊すし
鍛冶屋の仕事に誇りを持っている
クリスは、それを思うと、悪い事をしたかなと頭をかいた
バン爺は、鉄を叩きながら何かを思い出したかのように深い溜息を付いた
313アドルスキー2号:03/12/10 03:30 ID:VHX2JPNr
『アドル・クリスティンの冒険日誌』  プロローグ ー幼年時代ー
「4」

「実は鷲もな……昔、お前さんの様に冒険者になりたくって、村を出て行った事があるんじゃよ……」
鉄を叩きながら、バン爺は微笑を浮かべて過去の事を思い出してみた
「バン爺がっ!?」
あまりに思いがけない言葉に、クリスは仰天して耳を疑う
「若い頃は、誰だって血気盛んなもんさ……、鍛冶屋なんてつまらない仕事じゃなくて
 世界を見て歩きたいって、鷲の親父と大喧嘩してな……、そして家を飛び出した……」
言ってバン爺はクックックとその当時の自分を思い出して笑った
「そんな……、バン爺が、冒険者だったなんて……」
今のあまりに冒険者とはかけ離れた姿に、クリスはただ驚嘆してじっとバン爺の次の言葉を待つ
「冒険者には成れなかったな……、成り損ねた……
 いや……元から、鷲は鉄を叩く才能しかなかったんじゃろう……… 今ではそう思う……」
そう言ってバン爺は手を止めて、過去の自分の姿を脳裏に映し出していた
「でも、若い頃は、そんな事はわからんもんさ……鍛冶屋なんて、
 1つのところにずーっと居続けるようなツマラナイ仕事よりも、心を躍らせる冒険が欲しい
 そう思っていた……」
バン爺は、そう小さく呟くと自分の顎鬚を撫でて、柔らかく微笑んだ
今になると、そんな自分すら愛しく感じてしまう  それがバン爺には面白かったのだろう
「どうして……、どうしてバン爺……冒険者を辞めちゃったの? どうして?」
クリスはバン爺の驚くべき過去に、そして驚くべき人生に疑問を投げかける
そんな少年のごく当たり前の問いかけにバン爺は難しそうな顔になった
「どうしてと言われても難しいな……現実は中々厳しいものだった というのもある……」
そう言ってバン爺は、あの頃の事を思い出して苦やしそうに歯軋りをした
314アドルスキー2号:03/12/10 03:48 ID:VHX2JPNr
『アドル・クリスティンの冒険日誌』  プロローグ ー幼年時代ー
「5」

「街をろくな路銀もなしに渡り歩くのは、難しい事だったんじゃよ……
 ロムンの奴らの事もある……、まぁ、小僧が家出すれば結局、金に難儀したんじゃ……
 だから鷲は港町で鍛冶屋に雇ってもらって、路銀を稼ぐ事にした……
 皮肉なもんじゃ……忌み嫌った鍛冶屋の技術が、そんな所で役に立ったのはな……
 それでも、鷲は冒険者への道は諦めてなかった……路銀を稼いだ……」
バン爺は鉄をひたすら叩きながら、そう黙々と語った
クリスはそんなバン爺の独白に熱心に耳を傾けるだけだった
「でも、そんなある日の事じゃ………
 港町に海賊達がやってきた……、まぁ、海賊といっても海賊を狙う海賊という
 一種の義賊みたいな奴らでな……港町には手を出さずに、この近辺の海賊を狙っているって事だったんじゃ
 気の良い奴らでな……、わし等、血気盛んな若者達と意気投合して、毎日の様に酒を飲んだ
 わし等も奴らの海で体験する様々な冒険談を聞くのが楽しみで、酒を奢ってでも話の種を聞き出したもんじゃ……」
バン爺は、あまりに懐かしい記憶を前にして、ただ微笑みを浮かべ続けるしかなかった
クリスは更に興味深そうに、首を縦に振りながら続きを催促する
「鷲は、ある日、海賊団に入らないかと持ちかけられた……冒険をするなら海だと……
 路銀稼ぎに海賊を狙うもの仕事だが、本当のロマンは海を冒険し制覇する事にあるんだと
 教えられてな……、わし等は奴らの言葉に心が躍った
 そろそろ長い居したんで港を出るつもりだ、本当に冒険に出たいなら明日にでも船に上がれと言う
 その時。わし等は冒険者になる為の選択肢を与えられた……」
バン爺は、さも可笑しそうに笑いながら、そう淡々と語った
「バン爺はもちろん行ったんだよね? ねぇ?」
クリスはバン爺の冒険談の話を聞きながら、彼に相槌を入れた
そんな赤毛の少年の言葉にバン爺は首を振った
「いいや……わし等には行けなかった……」
バン爺はポツリとそう言った
「どうしてっ!?」
バン爺のあっさりとした返事に、また驚くクリス
315アドルスキー2号:03/12/10 04:07 ID:VHX2JPNr
『アドル・クリスティンの冒険日誌』  プロローグ ー幼年時代ー
「6」

「漁師の息子がわし等の仲間に居てな……、明日は間違いなく嵐になるから船は出れないって言うわけさ
 鷲もその街で3年はいたから、嵐の時の海の恐ろしさはわかっていた
 その港町の付近の海は、かなり難しい海だったから……、
 土地に年期の入った漁師ですら船を出さないのが常識だったんじゃ
 わし等はむしろ止めた、いくらあんた等が海に詳しいといっても、明日の海は無理だって……」
「…………」
バン爺はそう言った後に、クリスの方を見てウインクした
「そうあいつ等に言ったら、あいつらは、どう言ったと思う?」
腕を動かしながら、バン爺はじっとクリスの方を見つめた
クリスはその先が分からずに、首を左右に振るだけだった
「あいつ等はこう言ったのさ………、
 『腰抜けめっ、死ぬのが怖くて冒険者が出来るかっ 
 それに俺たちは海のプロだ、嵐なんか怖くない。多少の難しい海を制してこそ冒険なのだ
 お前らには出来なくても俺たちには出来る』ってな……」
そう言ってバン爺は、前に向き直して鉄をまた叩き始めた
「海賊達はどうなったの!?」
バン爺の語る熱い海賊達の言葉に胸を打たれて、クリスはその続きを催促した
そんな仕草にバン爺は微笑むと、あの時のあの瞬間を思い出して頬を緩める
「奴らは出て行った……、宣言どおりに…・・・
 わし等は結局、船に乗れずにずっと嵐の中を進む船を望遠鏡で見守るだけになった…… 
 その日は凄まじい嵐だった…… 漁師の息子でさえ震え上がるほどのな……
 それでも海賊達は果敢に海と戦っていた。凄い姿だ、と漁師の息子は驚嘆していたよ………」
「じゃぁ、海賊達は海を制したんだっ!」
バン爺の話を聞いて、クリスは結論を急いだ
その言葉に首を振るバン爺
「いいや、駄目だった……、流石の凄腕の海賊達も、あまりに相手の海が悪すぎた……
 嵐との格闘の末に遂に船は転覆…… 乗員達は大嵐の中で海に投げ出された……」
「………そんな……」
クリスは、予想外の結果を聞いて蒼白に成る
316アドルスキー2号:03/12/10 04:28 ID:VHX2JPNr
『アドル・クリスティンの冒険日誌』  プロローグ ー幼年時代ー
「7」

「鷲がむしろ分からなくなったのは、その後じゃった……」
バン爺はふと手を止めて、そっと虚ろな瞳で目の前を見つめた
「?」
クリスはバン爺の言葉に眉を潜め、バン爺の言葉に耳を澄ます
「鷲は思った、あまりにも無謀な冒険をした結果、死の大渦に飲み込まれていたあいつ等が
 どれほど恐怖に怯えた顔をしているのだろうかと……
 そう思って望遠鏡を使ってじっと彼らの最後の姿を見つめたのさ……」
「…………」
クリスは沈黙したまま、じっとバン爺を見上げていた
「だが、そこに映っていた奴らの顔は、まるで鷲の予想外の顔つきだった
 一人一人が笑顔で渦に飲み込まれていって、満足そうな顔で死んでいくんじゃ……
 鷲は目を疑った……だが奴らは、そうだったんじゃ……
 死を目の前にして、自分の冒険した姿に満足したんじゃろう……穏やかな顔でみんな渦に飲まれていった…」
「そんなっ!!」
バン爺の驚くべき言葉に、クリスは立ち上がって絶叫した
そんなクリスの態度を、思わず鼻で笑うバン爺
「嘘だと思うのは、当たり前の事じゃろう……鷲も嘘だと思いたい……
 でもそれが事実じゃ……やつ等は、あまりにもわし等からすれば勇敢すぎた……」
そう言った後に、バン爺は深い、本当に深い溜息をついた
「鷲はその時、わかったんじゃ……、冒険者ちゅーのは、そういう頭のネジがイカレタ奴らなのだ・・・とな…」
そう言ってバン爺は、クリスの方を見つめた
「…………」
クリスはバン爺の言葉に沈黙するしか無かった
「鷲が限界を感じたのは、そこだった……。自分は最後の最後であんな顔は出来ないと……
 きっと後悔にさいなまれて死んでいくんだと…… そう思ったから自分がわかってしまった……
 鷲は生まれついての鍛冶屋なんだと……」
言った後に、バン爺はまた鉄を叩いた。 その鉄を叩きつける力に熱い情熱がこもる
カーンッと、鋭い音が鳴り響いた
317アドルスキー2号:03/12/10 04:34 ID:VHX2JPNr
『アドル・クリスティンの冒険日誌』  プロローグ ー幼年時代ー
「8」

「冒険者には冒険者の才能、鍛冶屋には鍛冶屋の才能、
 そういう生まれ付いての資質があるのだと思った
 あいつらの一件に出会ってからな……だから村に帰ってきて鍛冶屋を継いだ……
 鷲の冒険談といえば、それだけのつまらないものだったな……」
そう言って、バン爺はクリスに向かって微笑んだ
「ねぇ、バン爺……」
「ん?」
「その海賊達……最後は何を思って、死んでいったんだろうね……」
クリスは不意に、そんな何気ないことを疑問に感じてみた
その言葉に、思わず息を止めてしまうバン爺
「さぁ……何なんだろうか………」
そう言ってバン爺は、鉄をずっと叩き続けた
「それが今も分からないから、こうやってあの時の事を思って
 あの時の奴らの心を知ろうと思って、鉄を叩いている……
 だが鷲は一生かかっても、その答えが見つけ出せそうにはないかな……」
バン爺は言った後に、自嘲気味に笑った。それは生涯の謎というものだった
その後、クリスの方を見つめて、また穏やかにバン爺は微笑む
「なぁクリス坊……、お前は、その鷲の分からない答えを、
 見つけ出す事ができるかな?」
言いながらバン爺は、クリスの方を見つめて
鉄を叩き続けるしか無いのであった
318俺の屍を越えてゆけ:03/12/11 01:17 ID:v9d9iPSJ
『173』

「……」
「なぜ、どうして黙っておられるのですか!母さまあぁああッ!」
 暗闇に蝋燭の火が灯り、次々と火が花のように咲いていった。叫んだイツ花の目の前で、
時間が逆行する幻視が起こり始めた。一瞬何が起こったのかが分からず、躰をぐるりと
廻してあたりを眺めていた。それが、ここまでに至る時の流れと知ってイツ花は苦悶する。
「いやあぁあああッ!やめてぇ!やめてえぇえええッ!」
 捨丸と緋香莉のふたりが心を通わせる姿。お業に課せられた日々の凌辱、拷問の絵図。
父の死……大江山討伐の夜を焼き天上を摩するが如くの炎。倖せだったころの父と母。
イツ花は瞼を固く閉じて、耳を塞いでいたが幻視は頭へと直に流れ込んでくるので
塞ぎようがなかった。

 最後に見せられたのは、父――わらわが天井の壁画を来る日も来る日も飽きずに
眺めているその姿をやさしく見守っているお業、母の姿だった。本院で何が起こって何が
失われていったのかを、お業は娘に父と母が逢うまでをつぶさに見せた。
「あぁああああッ!あっ!あぁあああッ!」
 転がりながら苦悶し、床に額を擦り付けるようにして起きようとする。唾液をこぼしながら
イツ花は号泣していた。お業はそれを見ながら衣を肩からずらして脱ぎ捨てていく。
白くぼうっと輝く裸身。右足を後方に引き、腰を落とすと屈み込んで、左前に腕を交差させて
自分を抱くようにして乳房を隠し、肩に両手を置き、手を強張らせると爪を立てる。

 爪は肩から二の腕までを滑ってお業の皮膚を裂いていた。その傷口から噴き上がったのは
血飛沫ではなく憎悪の焔が上がって毟り取られた翼を形取ってゆく。
「黄川人から手を引きなさい!イツ花!」
「母さま……いや……です……いやああッ!」
 床に両手を付いてイツ花は立ち上がった。
「母にさからうのですか、イツ花!」
 イツ花は顫える右手で拳をつくり胸に持っていって、それをなだめる様にして左手で
包み込む。
319俺の屍を越えてゆけ:03/12/11 01:31 ID:v9d9iPSJ
『174』

「還りましょう、母さま。天上へ」
 お業の焔の翼が本院の間を照らして影を焼き、蝋燭の火も呑み込んでゆく。
「手を引きなさい、イツ花」
「いやぁ……」
「黄川人に組しなさい。黄川人はあなたの血を分けた実のおとうとなのですよ」
 お業の腕の傷から上がった焔は烈しい気流を描き、風を起こし始めている。イツ花の額に
掛かった前髪が風に舞う。しかし、イツ花はしっかりとお業の瞳を見据えていた。

「いやよ!」
「なぜですか。どうして……なのです」
「黄川人は……全てを……無に還そうとしています。生きとし生ける物すべてを、怨みながら」
「そのようにいっても、あなたはお夏を殺そうとしたでしょうに」 
「……!」 
「しましたね」 「……いやぁ」 「いたしましたね」
「いわないで、いわないでぇ!いっ、いやあぁああああああッ!」
 イツ花は組んだ手をほといて両の手で拳をつくると脇を締めて構え、背を丸め力の限りの
大声で叫んでいた。

「お夏を赦せるのですか、イツ花!答えなさい!」
「桔梗も消すのにいぃいいいッ!母さまが、母さまが好きだった桔梗までも失くすのにッ!」
「黄川人は初めからやり直そうとしているのですよ」
「ちがう!ちがう!ちがう!ちがうううッ!」
「なにが、ちがうというのですか?」
「花のいのちの営みを断ち切って、それがなんなの!例え蘇ってもそれは別物です!
それは……それは、母さまが愛した花なんかではありません!」 
「イツ花……」 
320アドルスキー2号:03/12/11 13:50 ID:6/G6LboQ
>俺の屍を越えてゆけ の作者様
スレの流れを分断してしまった様で、申し訳ございません
恐らく回数から見て、相当のファンの方も居られると思いますので
勝手に書き込みを始めてしまった事に、猛烈に謝罪いたします>ファンの方共々

ちょっと、SSが混雑するのは問題だと思われるので出直してきます
申し訳ございませんでした
321名無しさん@ピンキー:03/12/11 17:58 ID:8eT7kQn9

自分は俺屍さんではないのですが。
SSの混在についてはそんなに気にしなくてもいいのでは。色んなの読めるのは嬉しいし
気になるなら、一言「これから投稿しますよー」と入れておけば分かりやすいと思います
322名無しさん@ピンキー:03/12/11 21:55 ID:kvKOZX+X
まとめて読みたいヤシは保管庫で読むから問題無し。


つか、ご本人も大分前のレスで言ってるけど
ぶっちゃけ俺屍さんのSSスレ違い(バリバリのエロ有り)なのに
ご本人の希望でここに投下してる訳だから
本来の使い方(エロ無しSS投下)してる人間が変に遠慮することはないと思う。
323名無しさん@ピンキー:03/12/11 23:32 ID:ECW8Hq4O
他の作家さんも参加されてる方が、俺屍の作者さんもスレを占有しているという引け目を感じなくて良いのでは無いだろうか?
324名無しさん@ピンキー:03/12/11 23:41 ID:ECW8Hq4O
あと、バン爺は鷲じゃない、ってことを…
325アドルスキー2号:03/12/12 01:36 ID:XWury+qC
>324
おっと、それは失礼!(w ワシ (っていうかこのIME、ワシが変換できねぇっ!!)
誤字でしたね 申し訳ございません

なんかファルコムスレで、ここでやってみたら? 意見が出たんで
アッチのほうにちょっと帰ってみます
でも、あっちでやっぱり駄目だったら、こっちにまた来させてもらうかも…
その時は、またよろしくお願いいたします… mOm
326俺の屍を越えてゆけ:03/12/12 03:28 ID:Cli6PFth
流れが分断されているなんて
思っていませんから、続けてください。
気の利いた言葉が浮かばなくて、
でもホントです。
327俺の屍を越えてゆけ:03/12/12 03:36 ID:Cli6PFth
『175』

「なぜ……なぜ!それがわからないのですかあぁあああッ!」
 イツ花の気が本院の間に渦巻いて、お業の妖気を凌駕して焔の翼は一瞬にして消えて
無くなる。陰々たる朽ちた相翼院にまた戻っていた。木の焦げた臭いだけが残って漂っていた。
なつかしい母の匂いまでも焔は灼き尽くしたことを、イツ花は哀しむ。
「は、母さま……。どこ……に、おられるのです。どこですか……?母さま……」
 イツ花は不安になった貌を上げる。

「イツ花、あなたは、お夏を赦せますか?赦せるのですか?」 
「……母さま、お姿を見せてえぇぇぇッ!」「答えなさい」 
「母さまあぁあああ……いじわるしないでぇ……」
「イツ花……!さようならば、わたしは夕子になど組いたしません。昼子、よくお聞きなさい。
あなた方のその企み、わたしは此処にて阻んでみせます。帰りなさい!はよう、
相翼院から去りなさい!」

 お業の裸身がぼうっと白い輝きを見せて立ち姿を見せたが、足で床をトンと叩いて爪先で蹴ると
躰をふわっと宙に浮かせる。また徐々に光は弱くなり始めて闇にすうっとお業の裸身は
吸い込まれていった。姉弟が相容れない様を見て、辛くない母があるはずがない。
「母さまあぁあああッ!」 「はよう、去りなさい。天上へはよう行きなさい」 「……!」
 イツ花は失意でお業の何か言いたげな瞳の色を窺い知る事はなったが、貌を上げ天上を見据えて
睨み付け、蒼い光弾となって天空に駆け上がっていった。

 黄川人は神々がなりふり構わずに仕掛けた封印を容易くすり抜けて、鎮魂の碑を仰いでいた。
碑に黄川人が指で彫った言葉。それを手でふれてみる。
『復讐を遂げる日まで安らかに眠るなかれ』と印された冷たい石に。
「あのおんなから民の御魂を取り戻してやる!」
 そこから朱の輝きを八方に発光し始め、空中で収斂され龍をかたどってのたうちながら
黄川人を中心に据えてとぐろを巻いて包み込んだ。大江山の山頂から火の玉となって飛び
立ってゆく。
328名無しさん@ピンキー:03/12/12 17:11 ID:VQlGA98f
今から投下。243−252の続きです。
329サモンナイト3(2−1/10):03/12/12 17:13 ID:VQlGA98f
昔から争い事は苦手だった。
誰かと意見を異にしても自分から引く場合が多くて、勝気な友人によく説教された。
「お人好しが過ぎる」だの「そんなだと何時か酷い目に遭うぞ」だの。
曖昧に笑うことしか出来なくて、幾度も友人を怒らせたものだ。
その友人は知らない。おそらく他の仲間達も知らない。
傷つけることを厭うのは、他者への思いやりからだけではなく。
―――己が内の負の感情を怖れるか
耳を塞いでも無駄なこと。シャルトスの声は自分の内から聞こえてくるのだから。
―――もう解っている筈だ。汝が何を望み、何を行なうべきかを
「……やめて」
―――我を呼べ。
―――我を召喚せよ

「やめてっ!」
自分の悲鳴でアティは目を覚ました。シャツが汗でべったりと貼り付き気持ち悪い。
この所同じ夢を見て、その度にこうして飛び起きる。
荒い呼吸が落ち着くにつれ、ぐちゃぐちゃだった思考が少しずつ元に戻る。
気分は相変わらず優れないが、とりあえず着替える余力は湧いてきた。
一張羅のワンピースに袖を通しマントを羽織る。いつも通りの動作が心を日常に引き戻してくれる気がした。


「……だから、そんなことアイツに言えるわけないだろ?!」
「ちょ、アニキ声が大きいって!」
静まったはずの心臓が再び乱れだす。
船の外でカイル達が何やら言い争っている。理由は考えなくても分かる、自分だ。
330サモンナイト3(2−2/10):03/12/12 17:14 ID:VQlGA98f
「イスラに対抗出来るのはセンセだけだって、もう分かってるでしょ」
「でも……今だってあんなに戦うのを嫌がってるのに……」
足が固まってしまい動かない。何事もなかったかのように出て行くのにはどうしたら良いかと悩んでいると、
「……先生?」
アリーゼに先に気づかれた。
ばつの悪い顔をする面々に、アティはどうにか微笑む。
「ごめんなさい、寝坊しちゃいました。みんなはもう朝ご飯食べ終わりました?」
「え、ええ。先生の分取ってありますよ」
「……悪いけど、今日は食欲がないから代わりに食べちゃってください。
 私ちょっとラトリクスまで行ってきますね。昼には戻りますから」
返事を待たず逃げるように皆に背を向ける。
あからさま過ぎたと後悔したが、足を止めることは出来なかった。


毎日親身になって手当てしてくれる相手を憎み続けるのは難しい。
たとえそれが少し前まで命懸けのどつきあいしていた相手だったとしても、だ。
ビジュも例外ではなく、アティに対する敵意はとりあえずなりを潜めていた。
「……」
「……」
とは言っても手当てをおとなしく受けるようになったというだけの事、
理由なしの訪問を受ける間柄ではない。
「……何しに来やがった」
「お構いなく」
答えになっていない。椅子に腰掛けるアティは顔も上げず救急箱の中味を整頓している。
ビジュの知る限りでは、かれこれ三回は確認しているだろうか。
331サモンナイト3(2−3/10):03/12/12 17:16 ID:VQlGA98f
再び続くと思われた沈黙は、アティが溜息をつき救急箱のフタを閉めたことで途切れた。
「散歩行きましょう」
居座りの釈明かとの予想を裏切る言葉に思わず聞き返す。
「そろそろ体力回復も考えた方が良いですよ。うんナイスアイディア決定」
「ちょっと待て、誰も行くと」
「その前にアルディラに許可取らないといけませんね」
聞いちゃいない。むしろ意図的に無視している。
とりあえず提案自体は悪くない。部屋に閉じ込められるのも飽きてきたし、
これからどうなるにせよ鈍った体を元に戻すのはマイナスにはならない。
それを差し引いても妙に反発を覚えるのは、
「前から思ってたんだが、テメエには警戒心がねェのか」
「失礼な、ありますよ」
なら『敵』にあまり近づくな、と言おうとしてやめる。
わざわざ忠告する義理はないし、そんなこと彼女の仲間がとっくにしているだろう。
アティがわざとらしく溜息を吐き、
「患者は医者の思いどおりには動かないって言われましたけど、これほどとは思いませんでした」
「うるせえぞエセ医者が」
「その似非の治療選んだのは貴方でしょう。諦めて指示に従ってもらいますから」
「『捕虜』だからか?」
咄嗟に出た言葉はアティのみならずビジュ自身をも黙らせてしまう。
気まずい空気を振り払うように、
「アルディラの所に行ってきますから、出る準備しておいてください」
ドアが閉まる。
「準備、ねえ」
無意識にポケットに突っ込んだ手に、冷たい感触。
332サモンナイト3(2−4/10):03/12/12 17:17 ID:VQlGA98f
引き出した掌には没収されたはずのサモナイト石が収まっている。
アティ達の目を誤魔化して隠し持つのは案外簡単だった。
問題は使いどころだ。
(いっそ今使うか?)
仲間から離れた所でアティを襲い、彼女を手土産に無色へと戻るという手もある。
シャルトスの所有者の価値は大きい。
イスラとの一件を差し引いてもビジュの身の安全を保証するには充分だろう。
そうだと判っていて―――いまだ迷いがある。


いくら許可が出たといってもそう遠くまでは行けない。
ビジュが本調子でないことや、捕虜という立場もあるが、それ以上に島の住人が問題だった。
彼が住人相手に戦いを何度も仕掛けたことはそうそう忘れられるものではない。
特に風雷の郷では「スバル様人質に取った男を信用なぞ出来るか」と、怒り心頭に来ている。
ミスミやキュウマが抑えてはいるが、姿見せようものなら問答無用で攻撃受けるだろう。
他の集落住人も似たようなもので、ラトリクスが軟禁場所として選ばれたのはリペアセンターの存在もあるが
それ以上に機界住人で感情を持つ者がごく限られているという背景もあった。
感情がなければ憎悪もない、というわけだ。
必然的に散歩はラトリクス内をうろつくことになる。
鉄の街を走り回るのは、金属の身体持つ召喚獣たち。
住人以外には分からない言語と、彼らにしか聞こえない音で会話し、定められた作業を続ける。
黙々と。ひたすらに。
人間という異分子が紛れ込んでもお構いなく。
スクラップ場に据付けたテラスから見下ろしそんな埒もないことを考える。
333サモンナイト3(2−5/10):03/12/12 17:18 ID:VQlGA98f
横ではアティが何やら黒い箱に話しかけている。
「―――はい、感度良好です。じゃあ何かあったら連絡入れますね」
ぱちんとスイッチらしきものを操作した後、思い切り伸びをした。
「それは?」
「ん、これですか」
ベルトに下げた黒い箱を指し示す。
「無線機、っていうロレイラルの通信機器です。これで何かあったらすぐに連絡できますよ」
「連絡する前に壊されたら」
「その時は『連絡がない』こと自体が非常告知になるわけですし」
ということは拉致はほぼ不可能か。
思ったほど落胆しないのがかえって疑問だった。
会話が途切れる。
少々気まずい沈黙を打ち消すつもりかアティはぽつりと口を開く。
「リハビリは口実なんです。ちょっと他の人と顔合わせ辛くて。
 一応言っておくと、貴方が原因ではないので安心してください」
ビジュを助けた事が他の仲間からどう思われているのか、アティは特に語らない。
おそらく良くはないだろうが、ひょっとしたら『アティだから』で半分諦めの心境なのかもしれない。
それよりも、この際聞きたいことがある。
「―――どうして俺を助けた」
問いかけに迷うように目をしばたかせ、
「……さあ」
「さあ、ってテメエのことだろうが」
「そうですけど……なら、貴方は何故あの時私に協力したんですか?」
334サモンナイト3(2−6/10):03/12/12 17:20 ID:VQlGA98f
それは簡単に答えられる。
「別にテメエを助けたわけじゃねえ。イスラの野郎にムカついただけだ」
「ああそっか」
どうでもよさげな口調で相槌を打ち、
「本当にどうして助けちゃったんでしょう」
「……は?」
困ったような表情で、
「貴方は助力を拒否したし、他の人に放っておけとも言われましたし……私も迷いましたし」
そこまで言うか。
「ただあのまま何もしなかったら後悔しただろうな、って」
「おい、それだけかよ」
「たぶん。だから無理に感謝しなくてもいいですよ。私が勝手に助けたんだから」
「しろと言われても出来るか」
手すりに腕をかけアティは微笑み自分にやっと聞こえる程度の音量で呟いた。
「―――貴方が居なくなった方が私は……」
遠慮会釈ない合成音が言葉を遮る。無線機の呼び出しだ。
『―――アティ、今どこにいるの?!』
スイッチを入れた瞬間、挨拶も抜きでアルディラの焦った声が発せられる。
「まだスクラップ場ですけど?」
『今すぐ戻って!』
「ちょ、ちょっと一体どうしたんですか」
『侵入者よ! 迎撃システムを何人か逃れ』
アルディラの言葉を最後まで聞けなかった。
335サモンナイト3(2−7/10):03/12/12 17:21 ID:VQlGA98f
横合いからの殺気を感じた瞬間、反射的に無線機を投げつける。
甲高い音を立てて無線機が床を滑っていった。
叩き落したのは無色の、
「「……っ!」」
鈍く光る銃口を見た瞬間、アティもビジュもそれぞれの場所から飛び退く。
大気を切り裂く轟音に血の気が引くのを無理矢理押さえ、状況を確認した。
アルディラの言った『侵入者』らしき無色の兵士は目に入る限りでは二人。一人は剣、もう一人は銃を構えている。
テラスは充分な広さがあるので多少の立ち回りは可能だろう。
欲を言えば銃に対し遮蔽物が欲しいが、ないものねだりしてても始まらない。
目線は兵士らに固定したままでアティは囁いた。
「注意を引きつけておきますから、階段まで頑張ってください。
 ―――せっかく治った身体だし、大事にしなきゃいけませんよ」
何を、と問う暇もない。
白いマントが翻る。ビジュを庇うように、いや実際庇って。
苛立つ。
何故、彼女はこうもあっさりと後ろを見せるのか。
どうして敵を―――彼女に害を加えようとする人間を―――護ろうなどどいう気になる。
銃声にアティの肩が浅くえぐられる。一歩下がったところを剣が襲う。このままでは押し負ける。
兵士二人はビジュが攻撃手段を持たないと判断したのか、向かってくる気配はない。
逃げるのは容易い、だが。
「……甘いんだよ、どいつもこいつも!」
床を蹴る。
階段に向かってではなく、戦いの場へと。

足元を銃弾が穿ちリノリウムの欠片が飛び散った。
構わず走りサモナイト石を取り出す。
素手だと思い込んでいた相手の行動に対し動揺が表れるのを見逃さず、
転がる無線機を力いっぱい銃使いへと蹴り飛ばす。
336サモンナイト3(2−8/10):03/12/12 17:23 ID:VQlGA98f
正直時間稼ぎにしかならないが、今はそれで充分。
サモナイト石が意志に呼応し熱を帯びる。
「―――後悔しなあっ!」
空間が歪みブラックラックが現れ、その輪郭がぼやけアティと鍔ぜりあう兵士と重なり同化する。
唐突にアティを押さえつける力が緩む。
驚愕する兵士の横へと付き、飾り帯引き抜き鞭の要領で腕を絡めとり力任せに引く。
通常ならばいなされて終わりだったろうが、憑依で身体能力の低下した状態ならば。
「……っ?!」
兵士が体勢を崩す。
ほんの一瞬だけ、アティは躊躇い。
杖をくるりと回し剣の切っ先を逸らさせ、身を寄せる。
ほとんど密着状態になった兵士の腹にサモナイト石を押しつけ。
閃光。衝撃。鈍い音がしてアティより頭ひとつ分高い体が吹き飛び動かなくなる。
余波にぐらつくがどうにか踏みとどまった。
残った方が身を翻す。向かう先には何もない。
ちらりとアティ達を振り返ると、手すりを乗り越え無造作に飛び降りた。
「ここからなんて無茶な……!」
慌てて駆け寄るアティの襟元を、ビジュが思い切り引っ張る。
よろめいたアティの身体がぶつかる格好になった。
「ちったあ考えろこの馬鹿が!」
つい先程までアティの頭があった場所に銃弾が撃ち込まれる。
逃げたふりをして鉤縄かなんかでぶら下り死角に潜み、のこのこやって来た間抜けの頭打ち抜く。
古典的ではあるが効果的な手法で、実際ビジュがいなければ今頃アティの頭はばっちり爆ぜ割れていただろう。
間髪いれずに召喚術叩き込む。敵の姿が見えないため如何ともしがたいが、一応は手ごたえがあった。
用心しつつ近寄ると、主を失ったロープが風に頼りなくあおられているのみ。
337サモンナイト3(2−9/10):03/12/12 17:24 ID:VQlGA98f
「……とりあえず危機脱出、ですか」
軽い咳を交えアティが呟く。
予想外に近い場所からの声にうろたえて、思わず腕の中の身体を押してしまう。
「わ…とと」
危ういところで体勢を立て直しこちらを向いて、
「そういえばそのサモナイト石は……」
戦いは終わったというのに、妙な汗が背中を伝う。
言い訳は無理だ。むしろこの状況で上手く煙に巻ける奴がいたら連れてきて欲しい。
「……まあおかげで助かりました。ありがとう」
「……それだけか?」
「今のところは」
微妙に安心できない台詞にひきつるのにアティが小さく笑う。
文句を言おうとし。
たん。
聞き逃さなかったのが不思議な程小さな、足音。
はじかれるようにして目を遣った先で、
無色の兵が、疾る。
右手を懐に差し入れ、こちらに向かって。
目的ははっきりしていた。すなわち、自爆による標的の抹殺。
近すぎる。意識の有無を確かめなかった判断の甘さを悔やむが、遅い。
口元に浮かぶ狂気が一層深くなり、
手が自爆用の火薬へとほくちを切り、
「アクセス!」
アティ達と兵士の間に立ち塞がるようにして鋼の巨人が現れ、兵士の身体を抱きしめ押し戻す。
爆風も抱擁の中四散する体も巨体に遮られアティ達には届かなかった。
火薬と濃い血の臭いに思考が奪われるが、それも一時のこと。
召喚獣が戻った後には、何も残っていなかった。煤に黒く汚れる床だけが、何があったのかを示す。
338サモンナイト3(2−10/10):03/12/12 17:26 ID:VQlGA98f

黒煙を突っ切って人影がふたつ駆け寄ってくる。
「アルディラ、それにクノン? じゃあ今のは」
「良かった間に合って……クノン、身体状態のチェックを」
「はい。失礼します、アティさま」
クノンが近寄ってきて応急処置を始める。
低めに設定された体温が戦闘の熱の残る肌に心地好い。
緊張を解いたところで、アティは首筋にからみつく不快な感触に気づいた。
汗でべたりと湿り、重く垂れる血色の髪。
震える手で梳き落とそうとして―――俯いたまま乾いた笑みをもらす。
赤いのは元からだ。別に返り血のせいではない。だから、この行為に意味はない。
「下で侵入者一名の死亡を確認したけど、あれは貴女達が?」
「はい」
「……迂闊だったわ、イスラはラトリクスに滞在していたんだもの。警備システムを変更しなかったのは私のミスよ」
アティはひとつ息を継ぎ、ゆっくりと顔を上げ、言葉を紡ぐ。
「イスラや無色をこれ以上放っておくわけにはいきません」
「……アティ?」
決めなければ、ならない。
「皆さんを集めてくれますか―――決着をつけます」
その決断が心底自分のものなのか、シャルトスの影響下にあるからなのか、アティにはもう分からない。

どこからか満足げな哄笑が聞こえた。
339名無しさん@ピンキー:03/12/12 17:32 ID:VQlGA98f
よし今回はエラー出さなかった、と。投下はここまでです。
ところでスレ容量は480kbまででしたっけ?
340名無しさん@ピンキー:03/12/12 23:14 ID:61olfuej
>>339
それ位が目安でしょうね。
俺屍さんは少量ずつの投稿ですので、あまり残り容量には気を遣うことは無いでしょうが、
339さんや他の職人さんが多量の投稿をされるときには注意が必要ですね。
次スレを立ててからの投稿ということになるかもしれません。
341名無しさん@ピンキー:03/12/13 17:53 ID:5b2U0igY
>340
それだと今スレでの完結は無理かな、自分遅筆だし…
まとめて投下のタイプなんで残り容量には注意しようと思います。教えて下さりありがと。
342名無しさん@ピンキー:03/12/14 12:23 ID:dxzObiL7
>329-338 GJ!
サモンスレから追っかけてきてます。
あなたの文章好きだー
343俺の屍を越えてゆけ:03/12/14 21:03 ID:MLKHZ7L6
『176』

 大江山の頂から紅い龍が立ち昇り、火の玉となり闇夜を裂き天上を突く。暫らく間を
おいて相翼院から蒼い光弾が放たれ、後に屋根からは光の糸遊が立ち込めている。
都の夜空を仰いでいた者たちがいた。それは数えるほどの人数でしかない。お輪も
胸騒ぎを覚え、露台から天空に駆け上がるふたつの火を見ていた。
「どうした。こわい夢でも見たのか」
 多くのものは空を揺るがす烈しい音、戸板を震わせ大地が怒っているのだと
思い違いをしている。大江山の都が焼き討ちにあった怨み、物の怪のたぐいだと
怯えて家に閉じこもっていた。 
 ふたつの光りを視た僅かばかりの者でさえもそう信じていた。死ぬ為に
生きようとする赤と生きることを証拠とする青、それを知っていたのはお輪とお業の
姉妹だけだった。

「はい、おそろしい夢」
 源太はお輪の背から華奢な躰を抱き締め、夢の中のおんなの黒髪の匂いを
肺いっぱいに吸っていた。
「なんだろう、この気持ち」
 いろんな感情がない交ぜになって、源太に襲い掛かって来ていた。頭の片側に烈しい
痛みが湧き起こる。源太はお輪の躰をしらずしらずにきつく抱き締める。お輪の貌が
後ろの源太の頬を撫でている。
「ゆるして……」
「ご、ごめん。お輪のことを想っていたら、つい力が入ってしまった」
「ゆるして」
「必ず守ってみせるから」
 源太は今度こそという言葉がふっと出てきそうになった既知感に、また痛みを覚える。
お輪は光りが去った天上を、頬に源太を感じながら見上げていた。

「あんなのが封印だなんてボクを馬鹿にするのもたいがいにしなッ!」
 夕子の寝所に容易く入ってきた黄川人が、夕子とお風に向って吼えていた。お風は
躰を張って夕子を守っている。
344俺の屍を越えてゆけ:03/12/15 03:15 ID:4xELkMvq
『177』

「さがれっ!痴れ者めが!」
 夕子の手がお風の肩にふれ、指先に力が加わる。
「前にも聞いたなぁ。でもボクにそんな口をきいちゃっていいのかなあ。おまえには、
訊くことがいっぱいあるんだよおおッ!でもさぁ、めんどうだから、閉じ込めてやることにしたよ。
お仲間といっしょにね」
「なにが目的ぞ!」
 黄川人が上目遣いに頤を引き、夕子とお風へとゆっくり近づいて来る。
「そんなこと、決まっているだろ。大江山の御魂たちを、もらいに来たのさ」
貌の龍の痣からは妖しげな気が発せられていた。お風の可憐な貌が歪むのを見て黄川人は
薄ら笑いを口元に浮かべている。


「ひ、昼子様……!ど、どうされましたか!」
 涙で濡れた貌のイツ花が突然にふたりの女神の前に姿を現す。寝殿の周辺は水神・風神の
手弱女によって守られて、その外は土神。更にその外周を男子の屈強な荒神によって固められていた。
「わたしが、いまここにこうしているということが、どういうことかわかりますね、壱与に有寿?」
 御玉と御鏡を手にした、ふたりの女神の躰は強張っていた。
「夕子さまは寝所ですね。答えなさい!」
「しばらく、いましばらく……こらえてくださりませ」
 ふたりの女神が声を揃える。
「な、なにを申しているのか!」
「いましばらく。そして、どうか昼子様。夕子様をお守り下さい」
 ふたりの手弱女の水神が深々とイツ花に頭を下げる。
「昼子様だけが我らが希望」
 イツ花の背には男子の荒神たちが立っていた。
345俺の屍を越えてゆけ:03/12/16 02:18 ID:xybQAYju
『178』

「遅かったようですね、黄川人。怒りに我を忘れていては、わかりませんか」
 凛とした太照天・夕子の声音が少年を掻き乱す。
「なにぃ……!」
「控えください、夕子さま」
 お風が夕子の挑発を慌ていさめるが、その守る麗人は眉ひとつ動かさないでいる。
少年は怒りを露わにした。
「ねぇ、どうしてそんなに平然としていられるんだい。ボクの力、わかっているんだよね」
「大江山の御魂を利用しようとしたのが、おまえの弱さです」 

「夕子さま!」
「あの女かあぁあああッ!どこだ!どこにいるッ!言え!言わないか!」
 黄川人の手が夕子の盾となっていた、お風の白い乳房を掴んで醜く歪ませた。常夜見は
閉じていた瞼をひらいて、光り泣き紫苑の双眸で少年を睨みつける。
 夕子の手はお風の肩をきつく握り締めていたが黄川人は手を掲げ、戒めを破ると躰は
宙に浮かび、そのまま畳に放り投げて叩き付ける。お風は裸身を受身で半回転させて、
手を付いてすぐさま戦闘の構えを取っていた。夕子もおなじ。

「それで、ボクを挟み撃ちにするつもりか!ふざけるなあぁああああああッ!」
 黄川人の貌の痣から上がっていた緑青色の妖気が八つの龍となって裸の夕子とお風の
躰を弾き飛ばし、壁に叩きつける。少年の躰からは尚も緑青色の光りが発せられて叫んでいた。
その気の神圧が夕子とお風を動けなくする。黄川人は止めを刺さずに華奢な躰を宙に
浮かばせ弓反りになる。
「どどめき、百々目鬼……なのか!ちがう」
 少年の蒼白の貌に無数の細かい切り傷が印されてゆく。腕にも。夕子とお風は術を掛けようと
迫るが八つの龍たちがふたりを威嚇していた。
「風、やつの瞳を見るな!」
 黄金色の双眸とは別に、貌に腕に緑青色の瞳が無数に浮き上がって光を発している。その光りも
蛇のようにのたうっている。 
346俺の屍を越えてゆけ:03/12/16 20:29 ID:xybQAYju
『179』

「しかし、わたくしには」
 宙でだらりとしている脚にも及んで百目をひらき、寝殿の間は緑青色の光で埋まってゆく。
「見るでない、風!」
 お風を庇い白い衣を着た長髪の男が立ち威嚇していた龍を退ける。さらに刑人の前に
黒蝿が刀で緑青色を受け止めて撥ね返す。夕子のほうにも荒神が立てになって守りを固める。
不動が黄金色の太刀をかざして盾になり、その後ろでは白い梟が羽根をひろげ太照天・夕子の
躰を包み込み、その前には吼丸と獅子丸が躰を張って刀を構えていた。

「キシャアァアアアアアア――ッ!」
 八つ龍は自らの光りを浴びてのたうち、ふたたび威嚇をして顎をひらき挑みかかる。
「よせ、刑人。戒めを解くな」
 後ろ手に廻して目隠しの戒めを解こうとした刑人をお風は引き止めた。
「なにゆえに……ですか」
「奴の内からだ。夕子さまは外から封印を仕掛ける」
 弓反りになった少年は四肢を後方に流して吼えていた。総身に及んだ瞳が生き物のように
躰を這い廻って両の手のひらに収斂してゆく。

「……!」
「都そのものにだ。持ち堪えてくれ。さすれば、やつを閉じ込められる」
 緑青色の輝きは静まり始めるが、黄川人から発せられる妖気は増幅していっていた。
「そうでござりましたか」
「そなたには夕子さまの下に残ってもらいたかったのだ」

「ますらお気取りで、侮られましたでしょうが、それでも……」
 刑人は指を組んで掌訣の所作を取り行なう。
「いうな」
「それよりも、このままでは……奴めに」 
「弱気になるな!昼子さまがこられるまででよい。さすれば――。す、すまぬ……刑人」
「我は本望!」
347俺の屍を越えてゆけ:03/12/18 02:04 ID:tcN2RoJc
『180』

 黄川人の躰に浮かんだ百目は収斂していって、両の手のひらで珠はふたつの眼となる。
「キツト!やめなさい!」
 イツ花の髪が烈しい気によって宙に舞う。イツ花が夕子の寝所に入ったと同時に外にいた
荒神たちも突入し、空中に浮かんでいる黄川人を取り囲む。
「矛を収められよ」
「ボクを洞窟にでも閉じ込める気かい。よっぽど死んでしまいたいんだね」
 寝殿の外では手弱女の女神たちが祈りを捧げていた。

「我らは死なん!」
 黄川人を囲んでも正眼に構えることも叶わず、防御に徹しているのがやっと。
「ためしてみる?アッハハハハ……、でも殺したりはしないよ」
「キツト、矛を収めて!収めなさい!」
「うるさいッ!うるさいんだよ!どこまでボクに敵対する気なんだ。それならいいさ、望むところだ。
もう、姉さんでもなんでもない!敵として闘うまでだあぁあああッ!」
 黄川人は低く唸りながら両手を胸元に寄せる。

『気を緩めてはなりません、昼子!』
『わ、わかっています、夕子さま。なにがあっても母さまはわたしが守ります!』
 手を強張らせると胸を掻くように腕を拡げていった。お業の怒りの焔の翼を拡げるようにして。
『万が一の時はあなただけでも……』 
『いやあぁああッ!必ず母さまは、わたしが守ります!』

「うあぁああああああああああああッ!」
 両腕は水平になり、手には八つ龍とおなじ色の火球が掲げ、龍が咆哮し寝殿が烈しい
揺れに見舞われる。
「昼子様、気を逸らしてはなりません」
「不動こそ、夕子さまをしっかりと守りなさい!」 「御意!」
 黄川人は右肩に手を付ける所作をして、緑青色の火球を後方のお風たちに向けて
投げつけた。
348俺の屍を越えてゆけ:03/12/19 01:39 ID:o0opJ3eN
『181』

 腕を鞭のようにしならせ火珠が放たれると、黄川人を囲んでいた神々ともども、火球に
引き摺られ後方のお風たちに向かってゆく。もうひとつの火球も天井に向かって飛んで
四方に飛び散って寝所を覆っていった。
『お風、頼みましたよ!』
 光無ノ刑人が双眸を隠す戒めを解く。夕子の声を聞きながら、刑人の肩に手を付く。
『はい、夕子さま!』
 緑青光がお風にぶつけられると、瞬時に白閃光となり神々を取り込んだ。屋根からは
緑青光が躍り出ると七つ龍に変化して、寝殿を取り囲んで祈りを捧げていた手弱女たちを
光の渦に引き摺り込んだ。

「あとのこと頼みました」
 寝殿の外でト玉ノ壱与(ウラタマノイヨ)と鏡国天・有寿(キョウコクテンアリス)が声を
揃えて残されるものたちへ呼び掛ける。
「みなのもの、まだ気を緩めてはなりません!」
 若宮・卑弥呼が喝を入れ、大きな黒き眼で一点を見る。
「あの坊は七情をぶつけてくるわけ。もう、勝ち負けなんかじゃないわね」
 澄ました美貌が苛立ちを見せていた。

「竜穂、ごたくはおわってからにしな。髪でも気にしてるのか?」
「あんたは、愉しくてよかったわね」
「さあ、いきましょう。嬢ちゃんが呼んでいるわ」
 夢子がかげろうの翼を拡げると、紅子に秋波を送っている。
「いまいくからね」
「あらあら、つれないの」 
「ふふっ。ながいながい旅になるわね」
 紅子の黄金色の眼が夢子に笑う。摩利は舌なめずりをして、槍を構え乳房に焔を
浮かび上がらせている。
「散華しようなんて思うなよ」 
「あんたになんかいわれたかないわ」
349名無しさん@ピンキー:03/12/20 00:35 ID:jsv9Cr0l
こつこつと質の高いものを書いてますな。
350名無しさん@ピンキー:03/12/20 16:08 ID:T4ZHf93G
お邪魔します。329−338の続きです。
351サモンナイト3(3−1/11):03/12/20 16:10 ID:T4ZHf93G
まどろみと浅い覚醒との間で夢を見る。
血塗れの剣。血塗れの手。倒れ伏す人影。耳障りな哂い声。
ああ、これは繰り返し。
両親を殺されてひとりぼっちになってしまったあの日の再現。
必死で傍らの母親へと手を伸ばし、
あれ。
どうして。
どうして、私の手に剣があるのだろう。
はしゃぐように身を捩じらせ声なき歓喜を発する刀身は深碧の輝きを放つ。
何をそんなに喜んでいるのか。私がこんなに苦しんでいるのに何が嬉しいのか。
―――苦しんでいる?
嘲笑を多分に含んだ声は、
「シャル、トス?」
―――これは汝の望み。よく見るがいい
目を凝らす。
「……あ…ああっ……」
シャルトスが、この手が血に汚れるのは、
―――汝が我を振るうからだ
叫びは胸のどこかで塞き止められてしまう。
傷を負うのは両親ではない。傷つけたのは旧王国兵ではない。
「―――何迷ってるのさ、先生」
それは。
「イスラ」
白い肌を赤黒く染め、もう一人の魔剣の所有者は口の端を吊り上げた。
352サモンナイト3(3−2/11):03/12/20 16:11 ID:T4ZHf93G
キルスレスの再生能力も追いつかぬダメージを受け、地面に膝をつき私を見ている。
「君の大切なものを守るんだろう?」
「……っ」
―――我を振るえ。汝が敵を滅ぼせ
「やりなよ」
―――汝の手で終わらせるのだ
「出来ないはずがないだろう? 仲間を守るためなら、出来ないことなんかないんだろう?」
―――さあ
「さあ」
―――さあ!
「う…うああああっ!」
叫んで。
大きく無防備にシャルトスを振り上げる。
静かに目を閉じたイスラへと。
切っ先を。
  まるで  あの日の  旧王国兵のように
ざくりとえぐる感触。
イスラの目が驚きに見開かれる。
刃は、地面へ深々と突き刺さっていた。
「違うっ! 私は……っ」
意味のない否定。そして。
「……馬鹿だよ、君は」
憐れむような呟きと共に真紅の光が視界を灼く。
イスラの身体が跳ね、キルスレスが赤い軌跡を描き咄嗟に構えたシャルトスと打ち合わされ、



ぱきん、と。
353サモンナイト3(3−3/11):03/12/20 16:13 ID:T4ZHf93G
シャルトスは砕けた。強大な力を持つはずの魔剣は酷くあっけなくその姿を失った。
破片がきらきらと舞い散って。
「      え 」
あれだけ騒がしかったシャルトスの声が消える。
『―――魔剣とは、持ち主の精神を具現化する、いわば心の剣。持ち主の心が弱まれば剣も容易く砕ける。
 そして剣の破壊はすなわち―――』
私の心が砕ける。
「アはははハハははっ! 赤ん坊みたいに泣き叫んで、みっともないよ先生?
 そんなんじゃ恥ずかしいだろうから」
頭上で剣を構える音がした。
「僕が殺してあげるよっ!」
悲鳴と怒号と驚愕と罵声と鋭痛と血臭と白光と憎悪と憐憫と抱き上げる腕と誰かの泣く声。

私には。
私が守りたかったもの。
私が信じていたこと。
それが何だったのか、もう分からない。
分かっていたのかすら、分からない。

そしてまた、まどろみと浅い覚醒とを繰り返す。


控えめなノックの後、半開きのドアからソノラが顔を覗かせた。
「先生、ここにアリーゼ……来てないよね。あの子、今朝から見当たらなくって……」
しばしの間を置きアティは惰性のように身を起こす。
「……探しに行かないと……。私は、あの子の『先生』なんだから……」
夢の残滓を引きずったまま彼女は部屋を出た。
354サモンナイト3(3−4/11):03/12/20 16:15 ID:T4ZHf93G

軽い目眩を感じてアティは立ち止まる。
ここ二日近く食事をろくに摂っていなかったのに加え、あてもなく歩き回るという行為が相当の負担を強いている。
どの集落にもアリーゼの姿は見当たらなかった。
探す場所がなくなって森に入ってしまったけれど、正直こんな所にいるとは思えない。
木の根元へ座り込む。朝方雨でも降ったのか地面がぬかるんでいるが気にする余力もない。
(……何してるんだろう、私)
膝を抱えぼんやりと空を見上げる。木漏れ日の暖かな好い天気だ。
こうしている間にも、無色の派閥やイスラが島を荒らし続けているなど、悪い冗談にしか思えない。
いつの間にか目を閉じて頭を膝上に乗っけていた。
とろつく静寂に身を委ねていると、アリーゼを探している最中に会った人達の断片が浮かんでは消える。
ゲンジに説教されたり、ジャキーニには慰められたり、パナシェがユクレスにお祈りしてるのを見てしまったり、
(アズリアにはいきなり斬りかかられるし……まだちょっと痛いかな)
「……完全に呆れてたよね、あれは」
たった一言、腑抜けたお前に用はないと最後通牒を突きつけられてしまった。
悲しいと思う。このままではいけないとも思う。
けれど感情と行動がうまく繋がらなくてどこか他人事のよう。
(当たり前か、私、壊れちゃったんだから)
目を閉じる。眠いというより起きているのが辛い。
355サモンナイト3(3−5/11):03/12/20 16:17 ID:T4ZHf93G
どの位そうしていただろうか。
ふと土を踏む音を捉える。
そういえば続く無色の蹂躙ではぐれ召喚獣が狂暴化しているという話を誰かに聞いた。
このままでいるのは襲ってくれと言ってるようなものだが、アティは動こうとしない。
足音は一度止まり、次いでアティへと一直線にやってくる。
近づく。
まだ目は閉じたまま。
更に近づく。
まだ閉じたまま。
すぐ傍で、音が止まる。
まだ。
「―――やっぱり、テメエに警戒心なんかありゃしねェ」
顔を上げる。
呆れと苛立ちがないまぜになった表情でビジュが見下ろしていた。
長い事森にいたのか、膝の辺りが土で汚れている。
「よく外に出られましたね」
「俺なんぞに構ってる余裕がなくなったみてェだな」
「それ私のせいです」
自虐めいた台詞を吐いて再び目を、
「寝るな。はぐれに襲われたらどうする気だ」
「……さあ」
舌打ちの音。
「とにかくこんな所うろつくな」
「そういう貴方こそここで何をしてるんですか」
問いにビジュが僅かな狼狽を見せる。
356サモンナイト3(3−6/11):03/12/20 16:18 ID:T4ZHf93G
「別にテメエには関係ねェだろ」
「そうですね……ごめんなさい」
のろのろと立ち上がりまた目眩を起こしかけた。
ふらつく身体にビジュは手を伸ばしかけて、結局引っ込めてしまう。
全く柄じゃない。それもこれも、アティが酷く蒼白い顔してるからだ。
今にも倒れそうな身体を背の木に預け息をつくのを見ていると、
憎いはずの女に別種の感情が生まれそうになる。
そうではない、唯。
「借り作ったままだと気分悪りいからな」
「……『借り』?」
脈絡のない言葉に聞き返したがそれ以上の答えは得られない。
「ほれ、とっとと帰っちまえ」
アティは首を横に振り、
「アリーゼ……あの子を探してるんです。見つけるまで戻れません」
探す理由は教師としての義務感からだけかと問われたことを思い出し、胸のどこかが痛む。
おかしなことだ。とっくに壊れてしまったはずの心が痛みを感じるなど。
ささやかな疑問はビジュの一言で吹き飛んだ。
「あのガキなら一時間ばかり前にここ通ったぞ」
「え。それで、アリーゼどこ行きました」
指し示す方向には、二日前に無色と戦った―――シャルトスが砕かれた場所。
アティは身を翻しかけ、
「……」
「まだなんか用があるのか」
「怪我、治りました?」
不意打ちだった。
357サモンナイト3(3−7/11):03/12/20 16:20 ID:T4ZHf93G
見りゃ分かるだろうとか、人のこと言える顔色かとか、言い様はいくらでもあったはずだが、
返したのは頷きをひとつだけ。
「そう。良かったですね」
アティが残したのもその一言だけ。
白い姿が道の向こうに消えてからも、しばらく目で追い続けていた。


この日ばかりはビジュに感謝した。
アリーゼは確かに居た―――崖下に。
もう少し見つけるのが遅かったら。もしくはアリーゼの落ちた丁度その場所にクッションとなる木々がなかったら。
気を失ったアリーゼを引っ張り上げ、癒しの術を掛けるその時間がやけに長く感じた。
やがて、うっすらと目蓋が上がり、
「あれ……先生……」
「何考えてるんですかっ!」
怒鳴り声に、側で心配そうに見守っていたキユピーが驚いてあとじさる。
アリーゼは余りのことに固まっていた。
「危ないことして……下手したら怪我じゃ済まなかったかもしれないんですよ?!」
「……っ」
「どうしてこんな事―――」
「だってっ!」
今度はアティが驚く番だった。
「だって、これがどうしても必要だったんだから!」
気絶しても握り締め続けていたポシェットから、何かがこぼれ落ちる。
くすんだ碧色の鉱石に似たそれは、
シャルトスの欠片。
358サモンナイト3(3−8/11):03/12/20 16:22 ID:T4ZHf93G
「この剣は…っ、先生の心なんでしょう……だ、だからあ、剣を直せば先生の心も元に戻るって、思って……」
アリーゼの小さな身体がぶつかってきた。
温かく柔らかいそれはしゃくりあげる声と一緒になって大切な何かを伝えてくる。
「いやなのっ、先生が、あんな風になってるのを見るのは……。それに、せんせえ、言ってたでしょう……?
 力は色んなものを壊すけど、言葉は壊れたものを甦らせる、って……!」
「……!」
「せんせえが前みたいに笑えるようになるまで、わたし何度でも呼びかけるから……! だからあっ……」
ずっと感じていた疑問が氷解する。
知らず知らずにアリーゼを抱きしめていた。
(まだ、私の心は砕けてなんかいない。そのふりをして逃げていただけ。だって本当に砕けてしまっていたなら―――)
「先生……」
(―――この子をこんなに温かいと思えるはずがないもの)
「ごめんね、アリーゼ……もう大丈夫だから」
泣き出しそうなのを無理矢理抑えているから、鼻にかかって聞き取りにくいかもしれない。
けれどアリーゼには確かに伝わった。
せんせい、と涙混じりの呟き。
けれどそれはきっと嬉し涙だ。

真っ赤になって目の辺りをこするアリーゼにハンカチを手渡し、
「でも、剣を直そうなんてよく思いつきましたね」
「えへへ……」
ちょっぴり自慢げに笑うのに、
「それでどうやって直すつもりなんですか?」
「………」
「……?」
「……えっと、その……考えてなかったです」
359サモンナイト3(3−9/11):03/12/20 16:24 ID:T4ZHf93G
苦笑するアティの前で途端にわたわたしだす。
「あの、先生元気になったらなってそればっかり考えてて他のことに頭が回らなかったというかそのえと」
「落ち着いてほら深呼吸、すってー、はいてー」
「……すう、はあ。うう、ごめんなさい……」
いいから、と頭を撫でる背後に。
「―――ほう。剣を砕かれ尚立ち上がるか」
「……?!」
いつから居たのか。佇むのはウィゼルと名乗るシルターンの剣士―――無色の派閥の一員。
アリーゼを背に庇い、硬い声で問う。
「何しに来たんですか」
返答は予想外のものだった。
「その剣、俺に預けてみる気はないか?」
「―――で、できませんよ! だってあなたは無色の仲間じゃないですか!」
混乱するアリーゼの言葉に、
「確かに俺はオルドレイクと行動を共にしているが、奴らの仲間ではない。
 俺の目的は強き剣を鍛えること。
 オルドレイクの狂気を糧に最強の剣を打つ―――無色にはその為に居るに過ぎない」
「じゃあ先生とシャルトスもそれで……でも……」
「信じるかどうかはお前達次第だ。どうする?」
アティは身じろぎもせずウィゼルとアリーゼのやりとりを聞いていたが、
本心を探ろうとでもいうようにウィゼルを見据え、
「何故、私に?」
「自覚しているだろうが、お前は心の弱さを持つ。だが、それでもお前は再び立ち上がった。
 例えば、目の見えない人間はその分聴覚が鋭くなる。片腕の使えない人間は残る腕の力が強くなる。
 脆弱さを抱える者の限界をも超える強さ……俺はその可能性を見てみたい」
「先生」
不安げにすがりついてくる手を握り返し、アティは。
360サモンナイト3(3−10/11):03/12/20 16:27 ID:T4ZHf93G
「―――正直、貴方を信じられない。けれど無色を止めるには力が必要だってことは分かるから」
ひと呼吸間を置いて。
「だから、この剣を貴方に預けます」
「では、俺が剣を無色へ渡したとしたら、お前はどうする」
「どうせ一度失ってしまった力ですからお好きなように。それに」
真直ぐな視線がウィゼルを射抜く。
「たとえ力が得られなくても、私は私の大切なものを守ります」
決意が、触れる手を通して伝わってくる。
「―――いい目だ。このウィゼル、全力を以って剣の修復にあたろう」
おずおずとした口調でアリーゼが尋ねた。
「でも、直すっていっても道具とかどうするんですか?」
「心当たりがある。ついて来い」


シルターン風のティーカップを傾けてメイメイは訪問者へと微笑みかけた。
「おやまあ珍しいお客さんだこと」
「久しいな、店主。奥と道具を借りるぞ」
「はいはいどぞー」
やたらと親しげな様子に目を丸くする二人に、
「古い知り合いでね。それより」
アティへと優しい眼差しを向け、
「……うん、良かったわね、戻れて」
「あ……メイメイさんにも心配かけちゃいましたね」
「そうよお。ま、その分後でお酒付き合ってもらうから♪」
「………………その、お手柔らかに」
アリーゼがくすくすと忍び笑いをもらす。
361サモンナイト3(3−11/11):03/12/20 16:28 ID:T4ZHf93G

女同士の話が一段落したところで何やらごそごそやっていたウィゼルが口を開いた。
「準備をする。お前に手伝ってもらおう」
「え、わたし、ですか」
「そうだ。魔剣の所有者には他にやらなければならないことがある」
厳かとも呼べる口調でアティに告げる。
「―――確固たるものを探せ。お前が剣に込めるべき、確かな想いを」
それ以上は口を開かず奥へと消える。アリーゼが慌ててその後を追った。
残されたアティの肩をメイメイがぽんと叩き、
「難しく考えなくていいのよ。答えはもう貴女の中にあるのだから」
「私の答え……」
「ま、自分のことって意外と分かりにくいし、誰かに相談するといいかもね。
 ―――逢ってらっしゃい。貴女の思い描いたひとに。そのひとがきっと助けてくれるわ」
半分押されるようにして店を出る。
しばし悩んでいたが、やがて迷いの残るままながらも歩き出す。
誰の元へと向かうのか、アティはまだ気づかない。
362名無しさん@ピンキー:03/12/20 16:36 ID:T4ZHf93G
今回の投下はここまでです。
あと遅レスですが>260、>342に感謝。
363●引越注意●:03/12/23 19:11 ID:VNYTuSLq
このスレの現在のログ容量は453KBです。
36448:03/12/23 22:06 ID:Q0qOEj2M
>>363
とのことですので、テンプレ案です。
どういうわけか私は建てられませんでしたので、どなたかお願いできますか?



エロくない作品はこのスレに 2

・萌え主体でエロシーンが無い
・エロシーンはあるけどそれは本題じゃ無い
こんな作品はここによろしく。

過去スレはこちら
エロくない作品はこのスレに
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1062491837/
エロくない作品はこのスレに 1+
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1064501857/

過去作品はこちら(SS保管庫の素人”管理”人 氏に感謝!)
http://a dult.csx.jp/~database/index.html
365名無しさん@ピンキー:03/12/24 07:56 ID:yOzbJl7E
そんなに急がなくてもいいです。480KBあたりでの次スレ移行が理想的です。
36648:03/12/24 23:45 ID:zN8bfQb8
了解です。
ところで、個人的に>>93-114の出来が納得いかないんで、そのうち書き直してもいいですか?
367名無しさん@ピンキー:03/12/26 15:07 ID:I4WZGUPU
>366
書き直し終わったら是非投下お願いします。楽しみにしてます。
ところで48氏と「不気味なモノに寄生されて〜」スレの48氏は同一人物ですか? 違ってたらスマン。
368名無しさん@ピンキー:03/12/26 17:42 ID:Ux2QqVYP
>>364
スレタイは”3”でも良いような。
36948:03/12/26 19:03 ID:x8R5ycuy
>>367
はい、そうです。偶然にも同じ番号が取れたので、こりゃええわいと使ってます。
あっちは暴走しかけてますけどね…たった今、10レス分使って核爆弾の爆発描写をやると言う暴挙をやりかけたところです。
どうにか抑えましたけど。
私は軍板の書評スレなんかで「小説中で軍事を語るのは三流」などと良く書くんですが、なんで自分で書くとこんなに語ってしまうんで
しょうか。我ながら不思議なところです。
ちなみに「北の〜」はもともとレッド・ストーム三部作の最終作として書いたものですが、別スレ(DAT落ち済み)に投下した前二作に
原作との乖離があったので、「北の〜」が終わったら書き直して投稿しようと思ってます。見捨てないでくださいね。
(ついでながら、その2つはこれほど長くありません)
370名無しさん@ピンキー:03/12/28 22:51 ID:7w1PGU0y
351-361の続き……の前に、今更ですが補足説明。
当SSはサモンナイトスレに投下したアティビジュSSの続きだったりします。
そっちの内容は「両親殺されてトラウマ持ちなアティ、シャルトスに唆されつつビジュを犯す」というので、
こいつを念頭に入れて頂ければ投下中の話が分かりやすくなると思います。
本当は一番最初に注意書きするべきでしたな。すまん。
371サモンナイト3(4−1/9):03/12/28 22:52 ID:7w1PGU0y
心に浮かぶひとに会いなさい、とメイメイは言った。
剣に込めるべき確かな想いを得るために。
アティはうーんと考え込む。
(アズリアにはまだ会いにくいし……アルディラやスカーレルさんにでも相談してみようかな……)
「あ。その前に」

ビジュの指先に痛みが生まれる。慌てて引くと草で切ってしまったらしく白い線がはしっていた。
幸い血も出ていなかったのでそのまま草むらをかき分け続ける。
「……」
なんでこんな事してるのか、馬鹿々々しくなってきた。
朝からずっと地面に張りついて服泥だらけだし、疲れた。
一旦立ち上がり腰を伸ばす。
その拍子に目に入った空は憎らしいまでの快晴。
天気は人間なんかに構いやしない、という当たり前のことを再認識させる空模様。
人が気候を動かすのを見たのは一度きり。二振りの魔剣により引き起こされた嵐。
魔剣の所有者両名のうち、一人は今も島のどこかでキルスレスと共に暗躍しているのだろう。
だがもう片方は。
「……アイツがイスラにやられさえしなけりゃ……つか俺が心配する必要なんてないだろうよ全く……」
「何ぶつくさ言ってるんですか」
背後からの声に思わず飛びのき腰へと手を遣り、
すかった感触で武器、ついでにサモナイト石も取り上げられたのを思い出した。
元凶のアティは驚いた顔している。
気配を読み取れなかったことに歯噛みする。自覚はないが注意力がかなり落ちているらしい。
「何の用だ」
「あ、その、アリーゼ見つかりました」
それで納得した。アティを蝕んでいた自棄の空気が随分軽くなっている。
372サモンナイト3(4−2/9):03/12/28 22:55 ID:7w1PGU0y
「本調子取り戻せたみてェだな」
「あの子に説教されちゃいましたから」
ほんのり優しさを含んだ苦笑が言葉と一緒に滑り出る。
「私は、焦ってたんだと思います。イスラを前に、みんなを守れるのか不安になって。
 自分を曲げることも時には必要だって言い聞かせて……結局、あの有様でしたけど」
特に返答を期待したわけではない。だが意外にも、応えがあった。
「要するに、だ。テメエは仲間を信用してねェってわけだな」
「……え?」
「テメエだけが無理すりゃ勝てるなんて考えて、他の連中ほったらかしだしな」
アティが言葉に詰まる。その頬に戸惑いと僅かだが怒りの朱が差す。
「信用してます。ただ、大切な人達に傷ついて欲しくないだけです」
平静を装っての答えも、眉がしかめられていては効果半減だ。
「痛い所突かれた、って顔だな」
「嫌な人ですね、貴方」
それはそれは嫌そうな声色に何故だか愉快になった。
まだ、そんな表情もできるのだと。
「……確かに言われてみればそうですけど。
 駄目だなあ。自分の我侭のせいで人に迷惑かけちゃうなんて」
聞こえるか聞こえないかの呟きに違和感を覚えた。
「我侭っつーのは、誰が」
「え、私、ですけど。
 貴方にも言いましたけど、私が誰かを守るのは単にそうしたいから、というだけなんです。
 それで勝手に動いて自滅して。もう見捨てられても仕方がない位ですよ」
自虐とも取れる内容の割にはアティはいつも通りだ。
まるで当たり前のことでも話すかのように。
それが、妙に。
「連中がテメエを見捨てるなんざ在り得ねェがな」
「皆さん優しいですから」
373サモンナイト3(4−3/9):03/12/28 22:57 ID:7w1PGU0y
「違うだろ」
癇にさわる。
「連中がテメエを助けるのはテメエだからだろうが」
「私だから、ですか?」
狼狽の色が濃く滲み出る。
……この女は本当にそのことを分かっていなかったらしい。
ビジュは思わずこめかみを押さえた。馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、
「ここまでとはなあ……」
「つまり行為に対してのお返し、ってことかな……でも本当に自分勝手な気持ちからだから……」
横でぶつぶつ言うアティの頭を一瞬はたきたくなるが、どうにか踏みとどまった。
その代わりに、
「テメエと一緒だろうよ。我侭ってやつだ。
 それとも自分はよくて他人のは許せねェ、ってか? 都合のいいこった」
「なっ、そんなんじゃないです!」
強すぎるまでの否定に、アティ自身が驚いたようだった。
「ただ、私を守る必要なんて……シャルトスもある…あったし……」
「それはそっちの都合だろ。んなの関係ねェから我侭っつーんだろうが」
アティが黙って俯いてしまう。うろうろする視線からすると、反論の言葉を探しているらしい。
追打ちをかけるようにビジュはわざとらしく溜息をついて、
「それで上手くいってたんだろうが。で、余計なこと考えた途端にイスラにやられちまった、と。
 間違いがどこだったのか部外者の俺にも分かることが、何で分からねェんだか」
落ち着きのなかった目が、内の思考に沈むようにして静まる。
ビジュはといえば、普段なら絶対言わないであろうことをほざいたむず痒さに今頃襲われていた。
374サモンナイト3(4−4/9):03/12/28 22:59 ID:7w1PGU0y
「―――我侭でも良いのかな」
少々居心地の悪い沈黙の末にアティは顔を上げ、
「それで良いんでしょうね、きっと。
 はは……まさか貴方に諭される日が来るとは思いませんでした」
全くだ。言った当人でさえ予測していなかった。
苦い顔して手を追い払う形に振る。
「用が済んだならとっとと行っちまえ」
「あの」
「まだ何かあるのか」
「……ありがとう」
本日二度目の不意打ち。
「じゃあメイメイさんの店にアリーゼ待たせてるのでもう行きますねではまたっ」
不自然な早口でまくしたてきびすを返すのを呆然と見送った。
「勘弁してくれ……」
これ以上は不本意だ。ほったらかしにして、居ないもののように扱ってくれた方がまだましに思える。
他人との関わりは苦痛を伴うのだから。
苛立たしげに引いた爪先が石らしきものを蹴転がす。視線を落とし、
「あった」
呟きには少しばかりの安堵と、ごく微かな―――本人すら気づかない感情が含まれている。


仄暗い部屋の中、鉦音に合わせ炎が踊る。
「見つけたようだな」
「はい。それで、どうすればいいんですか」
ウィゼルは金床をはさんでの正面を指さす。アティがそこに立つと、
「剣に呼びかけろ。お前の想いが強ければ、その分だけ剣は強くなる」
「……弱かったら?」
375サモンナイト3(4−5/9):03/12/28 23:00 ID:7w1PGU0y
「形を創る前に崩れるだけだ」
単純で分かり易いことこの上ない。
アティはひどく生真面目な表情で目を閉じる。
(私はとても―――自分すら思い通りにならないくらい弱いけれど、それでもみんなを守りたい)
昏い感情を持つ自分がそう願うのは、間違っているかもしれない。
それでも、これが自分の嘘偽りない想い。
だから、
「もう一度、力を借ります」
剣を打つ音が、ひときわ高く響いた。


ビジュは土で汚れた手を、正確には手の中に収まるものをポケットへと突っ込み、仕上げに裾で土を払い落とす。
「とりあえずこれで借りは返せるか」
どこか気の抜けた独白に応える者はいない。
怪我が治った今、ビジュとアティを繋ぐのは助けた側と助けられた側という、
一種の負い目にも似た感情だけだ。おそらくは。
だからそれさえ解消してしまえば、金輪際アティと少なくとも精神的には関わらずに済む。
ビジュにとって正に望むところ、のはず。そのはずだ。
「うわああああっ!」
涙混じりの悲鳴にばらけていた意識が集束する。
木々の間を縫うようにして、追いつ追われつする影がふたつ。
必死で逃げているのは、アティの生徒の一人で確かパナシェという名の亜人の少年。
追いかけるのはここいらでよく見かけるはぐれ召喚獣だった。
あのはぐれ自体は弱く群れで襲ってこない限り素手でもどうということのない相手だが、
弱さ故に己れより大きな獲物を襲うことは稀だし、あんな風に一匹で行動するのは珍しい。
おそらく無色の影響なのだろう。
「あっち行けよ! ボク食べたっておいしくないのにー!」
はぐれが耳障りな鳴き声を上げる。
376サモンナイト3(4−6/9):03/12/28 23:01 ID:7w1PGU0y
とりあえずパナシェはうるさ過ぎるし、第一こっちに走ってくる。無視しようにもできない。
タイミングを見計らいはぐれの進行方向に立ちふさがる。
驚き動きを止めた腹に蹴りを叩き込む。はぐれの丸っこい体が明後日の方にかっとび大慌てで逃げ去っていった。
「今日は何だってこんなに会うんだ」
視線を向けると、パナシェは怯えてあとずさる。人質にとられた事もある身としては仕方ないだろう。
立ち去ろうとして―――出来なかった。
見ると袖を震える手がぎゅっと掴んでいた。
「せ…先生、先生とお姉ちゃんがどこにいるか知らない?!」
「……何があった」
見上げる目がうろうろと迷い、やがて、
「みんなが、無色のヒトと決着をつける、って……先生には内緒にしろって……でも」
大きな瞳からぼろぼろと涙が零れる。
「聞いちゃったんだ……『勝てないかもしれない』って……『でもやらなきゃいけない』って……!」
思わず聞き返す。
信じられなかった。シャルトスの力を以ってしてもやっと互角だったのに、勝てないと分かって戦いに赴く、だと?
「馬鹿の集まりか連中は!」
「ねえ先生は?! 早くしないとみんなが……!」
ここでぐだぐだ考えていても始まらない。
「行くぞ」
「え、知ってるの……わわちょっと待って!」
子どもと大人の足では違いすぎる。ビジュは舌打ちしてパナシェの所まで一旦戻り、
「うひゃあっ」
パナシェを小脇に抱え走り出す。見た目の割に重いが、一度抱えた手前放り出すわけにもいかない。
「ちっ……なんで俺がこんなこと……!」
遠慮会釈なく揺さぶられながら、それはこっちが聞きたいよ、とパナシェはこっそり心の中で呟いた。
377サモンナイト3(4−7/9):03/12/28 23:03 ID:7w1PGU0y

メイメイの店でアリーゼはお茶を御馳走になっていた。
行儀のいい彼女にしては珍しく、手にしたカップを落ち着きなくいじくっている。
その視線は閉じたままのドアへ、その向こうのアティとウィゼルへと向けられたままだ。
と。がたんっと音を立てて立ち上がった。
ドアが開く。
「先生っ」
「お待たせ、アリーゼ」
アティはそっと笑みを浮かべ、手にした剣を見せる。
水晶のごとく透きとおる刀身は優美な曲線を描き、一見とても脆い、武器というより美術品のよう。
「抜いて見せろ」
「はい」
かざした剣に光が満ちる。
シャルトスの全てを圧倒するような強い光とは異なる、もっと穏やかで包み込むような、青い輝き。
「……きれい」
それは、アティの新しい力。
「やーめでたいっ。めでたいついでに、このメイメイさんが名付け親になってあげよう」
「名前って、この剣のですか?」
「そう。うん、『ウィスタリアス』ってのはどうかな。古い言葉で『果てしなき蒼』って意味なんだけど」
「果てしなき蒼……ウィスタリアス」
アティの呟きに応え剣が淡く強く光を放つ。
「うわあ格好良いです。先生の新しい剣にぴったりの名前だと思いますよ」
「ちょっと照れるけどね」
はにかむアティを囲んでほのぼのした空気が形成されたところで。
378サモンナイト3(4−8/9):03/12/28 23:04 ID:7w1PGU0y

物凄い音がして店の戸が蹴り開けられた。
肩で息しつつ転がり込んできたのは、
「お前は、イスラと共に居た……」
「ウィゼル?! なな何でここに」
半ば固まりかけるビジュだが、パナシェがじたばたしだしたのに我に返った。
つい腕を離すとべたんっと床に落っこちる。
「パナシェくん大丈夫?!」
「う、うん。それより大変だよ! みんなが無色のヒトと決着つけるって遺跡に行っちゃったんだ!」
「なっ…そんな無茶な?!」
「心配かけないようにって内緒にしてたのが裏目に出たわね」
眉をしかめたメイメイの呟きにアティが目に見えて焦りだす。
様子を見ていたビジュは何事か言いかけ、結局口をつぐんでしまう。
そこに、
「ちょっとちょっと、お兄さん」
メイメイが手招きし、投具を一揃い差し出した。
「要るでしょ、ああ代金は後払いでいいから〜。後、これはオマケ」
「……これってサモナイト石? メイメイさんがなんで持ってるんですか?」
後ろから覗き込むアリーゼの疑問に得意げに笑って、
「こう見えてもメイメイさん、凄腕の占い師だから、お客さんの必要なものが分かるのよ」
いまひとつ納得がいかないが、今はそれどころではない。
黙って受け取るビジュに、アティがおずおずと尋ねる。
「ついて来てくれるんですか」
「こんなモン渡されちまった手前、無視するわけにもいかねェだろ。ついでに」
投具を腰へとたばさんだ。確かな重さと冷たい金属の感触が為すべきことを教える。即ち、
「借りを返すぜ、先生」
「―――はい、お願いします!」
いまいち状況の変化についていけてないアリーゼを急かし、アティ達は仲間の元へと駆け出した。
379サモンナイト3(4−9/9):03/12/28 23:05 ID:7w1PGU0y

しばらくして、ウィゼルが店の戸を押し開ける。
「ありゃ、もう行くんだ」
「今からなら丁度良い時分だろう―――彼女らは間に合うかな」
「もちろん」
不信などカケラも見当たらない口調で答えるのを、ウィゼルは一瞥しただけで立ち去る。
その背があっという間に木々の中へ溶け込むのを見送り、
「頑張りなさいよ、若人」
普段からは想像もつかないひそやかな威厳を湛えて、メイメイはそっと呟いた。
次いで満面の笑みを浮かべパナシェへと向き直る。
「心配しなくても大丈夫だ〜って。さ、お茶淹れるから、座って休みなさい」
「……うん。先生もお姉ちゃんもいるし、大丈夫だよね」
言い聞かせるような言葉にうんうんと相槌を打つ。

そう。きっと大丈夫。
何故なら彼女が帰ってきたのだから。
380名無しさん@ピンキー:03/12/28 23:09 ID:7w1PGU0y
SSやはり次スレ持ち越しになってしまいそうです。
折り返し地点は過ぎたんでもう少しお付き合い頂ければ恐悦至極。
381名無しさん@ピンキー:03/12/28 23:14 ID:ydc0Om5V
>>380
乙でつ。年内には新スレ移行ですかな。
それにしても、このスレは俺屍さん、48さん、サモンナイトさんと職人豊富なスレに育ちましたなあ。
「1」が立ったときなんて即死するかと思ったのに。
382名無しさん@ピンキー:03/12/28 23:16 ID:Ev7o6rIm
>>380
グッジョブです。あなたの書かれる話の雰囲気、とても好きですよ!
383名無しさん@ピンキー:03/12/29 00:49 ID:uqhxLnsj
>>381
まあ一回死んでるんだけどなw
38448:03/12/29 15:11 ID:8DME8hRG
>>383
それは言わんといてくださいよ。
385名無しさん@ピンキー:03/12/31 01:04 ID:SeBsrOPH
>>380
いーねー、ますますビジュに惚れちまうよw GJ!
386名無しさん@ピンキー:04/01/03 15:13 ID:9mqsAB7+
ほしゅ
387名無しさん@ピンキー:04/01/03 17:23 ID:t5Y888Yg
正月早々お邪魔します。
今回ちっとエロシーンありです。ご注意を。
388サモンナイト3(5−1/10):04/01/03 17:28 ID:t5Y888Yg
面白いものが見れた。そうウィゼルは満足げに目を眇める。
シャルトスの所有者に力を貸した際、口で言う程興味があったわけではない。
せいぜい余興になれば好しと思っていたのだが、結果は予想以上だった。
絶望的な劣勢を彼女ひとりで―――実際には一人の力ではないが
形勢逆転の立役者はまず間違いなく彼女だ―――ひっくり返した。
オルドレイクがイスラとの一件で傷を負い万全の状態とは言い難かったとはいえ、
見事退けてのけたのだ。
「脆弱さ故の強さ。確かに見せてもらった」
撤退の屈辱に身を震わすオルドレイク達とは裏腹に、ウィゼルの口元は僅かに綻んでいた。
今回の仕事では魔剣の構造を知ることが出来た上、新しい可能性まで掴めた。
これでまた、より強い剣が打てる。
剣匠とも稀代の鍛冶師とも呼ばれる男は、狂気にも似た愉悦にひとり身を委ねる。
389サモンナイト3(5−2/10):04/01/03 18:43 ID:t5Y888Yg

構えを解き剣を下ろす。緊張が和らぐと同時にウィスタリアスの重みが消え、アティの姿も元に戻った。
「―――センセ、わざと見逃したでしょ」
「あ、分かっちゃいました? やっぱり私は守る為の戦いしかしたくないから」
「らしいよね。うん、いいと思うよそれで」
会話を聞くともなしに聞きつつビジュは投具の血脂を上着で拭う。
『……』
視線が、痛い。
気がかりそうにちらちら見るだけのものから、かなりあからさまな疑惑を含んだものまで様々だが、
共通するのは「何故、奴がここに?」という一点。
特にアズリアとギャレオは半端でなく殆ど睨みつけている。
同じラトリクスに居ながらも、今まで顔を合わせることはなかった。
二人にとってビジュはかつての部下で隊の裏切者。しかしイスラに切り捨てられた。
どう接すればいいのか判断がつきかねて極力避けていたのが突然目の前に現れたのだ。
動揺するな、という方が無理だ。
空気が限界まで張り詰め、
「あれ」
次いでとさっと軽い音。
ビジュが音源へと振り返る前に、アズリアが横を駆け抜ける。
慌てる仲間に囲まれて、地べたに座り込むアティへと。
「アティ大丈夫か?! 傷はどこだ!」
「いえそうじゃなくて…………貧血」
しばしの沈黙。
「要するにだ。ろくに食事も睡眠も摂ってなかったのに大立ち回りやらかした疲れがいきなり出てきたと」
「あはは」
「笑い事じゃないだろう! 全く貴様という奴は……」
ぶつくさ言いながらもアティに肩を貸し立ち上がらせる。
390サモンナイト3(5−3/10):04/01/03 18:44 ID:t5Y888Yg
「貴様は学生の頃からそうだ。自分をないがしろにしすぎる」
「はあ」
「大人なんだから手の抜きどころ位覚えろ」
「アズリアに言われるとものすごーく不本意に感じますねえ」
「……どういう意味だ、それは」
半眼になるアズリアと、笑って誤魔化そうとするアティ。
戦闘の余韻も彼方に吹き飛ばされて、彼女らの遣り取りを愉快そうに見る面々。

ただ一人を取り残し。


結局アティはラトリクスへと強制送還された。
本人がいくら平気だと言っても、他全員から「すぐ無理するから信用できない」と言い切られては
逆らう術はない。まあ大きな負傷もないし、今夜は大事をとるだけで、
明日から普通に動いても良いとは看護人形<フラーゼン>たるクノンの弁。
「―――とにかく今日は休みなさい、か」
無表情のはずのその顔に有無を言わせぬ迫力が見てとれたのは、
アティに多少ながら自覚とやましさがあったからかもしれない。
シャワー浴びてさっぱりした頭をタオルで拭いながら苦笑する。
布地から落ちる赤い髪は洗料の残り香をほのかに漂わせている。
いつものマントとワンピースは洗濯し、新品、とまではいかなくとも着け心地は良好。
糊が効いて、
血の臭いは一切しない。
「……やだなあ」
首を振り余計な思考を追い払う。
せっかく立ち直れたのにまた鬱になってはアリーゼ達に申し訳ない。
気分転換に夜風にでも当たろうとテラスへ向かい。手前の廊下で足が止まる。
391サモンナイト3(5−4/10):04/01/03 18:46 ID:t5Y888Yg
テラスには先客がいた。
廊下からの常時灯に浮かぶ白い影に挨拶すべきか否かで迷う。
結局、ゆっくり三数える間の逡巡の後、
「こんばんは」
アティはビジュへと声をかけた。

日が暮れてから急に雲が出てきて、今はすっかり覆い尽くされてしまっていた。
本来眠りを必要としない機界住人達も他の集落に合わせて夜は休むため、
昼の喧騒が信じられないほどに暗く静か。
ビジュから人ひとり分の距離を空けて掴んだ手すりは、夜気に晒され冷えきっている。
「よお」
短いながらも返答があった。
そのまま話すこともなく夜に沈む風景を見る。
静寂が疼痛に変わる直前、
「―――こいつは返しとくぜ」
「え……っとと」
無造作に放り投げられたそれを慌てて受け止める。
掌に収まるのは青いサモナイト石。
(返す……って私じゃなくてメイメイさんにでは?)
問おうとして、刻印に気づく。サプレスの天使、ピコリットとの誓約を表す印だ。
メイメイはこんなのも渡していただろうか―――そう考えて、
「……っ」
思い当たる。
ビジュは視線を逸らしている。
予想は正しいらしい。
「これで貸し借りなしだ」
「……ええ、そうですね」
392サモンナイト3(5−5/10):04/01/03 18:47 ID:t5Y888Yg
あの夜のことは話題にしようとはしなかった。
言い合わせたわけではないが、どちらにとっても良い思い出とはなり得ないので避けてきたのだ。
今も蒸し返す気はないらしく、別の話を振る。
「で、後はイスラの野郎から剣ぶんどるだけか」
「それから遺跡封印して、それで全部終わりです。間違いなく一番きつい戦いになるでしょうね」
まあやるしかないですね、と続けてアティは微笑んだ。
そしてそのままの笑みで、
「貴方は無理に戦わなくてもいいですから」
ビジュのどこかが違和感を訴えた。話の内容はいつものアティらしいというのに。
「俺は自分のためにしか戦う気はねェよ」
「そうでしたね。じゃあ自分の身は自分で守ってください」
言われなくてもそうするつもりだった。
逆にアティが『当たり前』を口にしたのに落ち着かなくなる。
「剣は確かに修復できました。けれど私独りでは多分何もできなかった。
 誰かの力を借りないと大切なものひとつ守れないくらい弱いと、私自身が知っているんです」
これ以上言わせるなと警鐘が鳴る。深みにはまりたくなければ止めろと。
「こんな弱い人間頼るとろくなこと―――?!」
行動に思考がついていかない。
気づけば洗いざらしの赤毛がすぐ目の前にあった。
洗髪料が柑橘系というのは判ったが種類までは―――ってそれはどうでもいい。
問題なのは何故アティがこんな近くに、しかも自分の腕の中にいるかということだ。
解答。ビジュが抱き寄せたから。
「…………」
だらだら冷や汗が流れる。悲鳴を上げるか突き飛ばされるか、もっと痛い目見るか。
いや、このまま沈黙を続けるよりは幾らかましか。
アティが不意に手を肩から後ろへ遣る。
触れたのは、ビジュの腕。布地に覆われたそこにはシャルトスに貫かれた痕。
393サモンナイト3(5−6/10):04/01/03 18:48 ID:t5Y888Yg
「……怪我やっぱり残してしまいましたね……ごめんなさい」
「……貸し借りなしだっつってんだろ」
しばしの迷いの末アティはぽつりと唇を開く。
「守られる、っていうのは大事に思われてるってことだし、大切な人達を守りたいって心から思う。けど」
囁きは小さく途切れ途切れだったがやけに響いた。
「時々、そういうのが重くてたまらなくなるんです。
 ……こんなこと思っちゃいけないのに。本当に、皆が好きなのに……」
泣くだろうか、と考えたがアティは泣かなかった。少なくとも涙を流そうとはしなかった。
何故アティが剣砕かれた程度で殻に閉じこもってしまったのか、唐突に理解する。
壊れてしまった方が楽だからだ。
例えば、かつての自分のように。
他者の存在に振り回されるのも、与えられる感情に怯えるのも、そんな自分を厭い絶望するのも、
壊れてしまえば。
―――全く。知らなければ、彼女は自分とは違うのだと思い込んでいれば
手を届かそうなどとしなかったのに。
もう手遅れだが。
「俺はテメエを守るのもテメエに守られるのも御免だ。だから―――もういい」
冷淡ともとれる言葉が、裏腹の強い抱擁がアティを、崩す。
ぎくしゃくと伸ばした腕は白い軍服を拘束し、
ひとつになれとばかりに寄り添った。

これは恋慕ではない。
憐憫―――しかも相手に己が影を見る、歪んだ自己投影の末の感情。
けれど。単なる傷の舐めあいでしかなくとも。
どうしようもなく寂しいのは事実だし、目の前にどうやら似たような気持ちを抱えた奴がいて、
互いに求め合っているのならそれだけで充分。
戒めを解く。
どちらも何も言わない。視線すら合わせようとしない。
この均衡を必死で保とうとでもいうように。
394サモンナイト3(5−7/10):04/01/03 18:49 ID:t5Y888Yg

部屋の明かりを消す。カーテン引いたままの窓からも光は差し込まないが、
要所に据え付けた発光パネルのおかげで物の輪郭程度なら判別できる。
衣服は全部脱いでベッドに潜り込む。
ごく自然にビジュがアティの上になる。くだらないことだがちょっとばかり矜持が満たされた。
片手を支えに緊張気味の身体へと圧し掛かる。
アティの喉から殺しきれなかった悲鳴が洩れる。
秘所は人差し指一本すら拒んでいた。
挿入前に慣らしとく位は、と考えていたのだがそれすらはじかれた。
「だ…大丈夫、ですから」
どうせ嘘つくならもっと巧くつけ、と言いたくなる声調に呆れるが、とりあえず。
「テメエが平気でもこっちはそうじゃねェんだ」
「……はい?」
「今から何ヤルと思ってんだ」
「なに、って……」
暗がりで見えないが上がる熱からアティが頬を紅潮させたのが分かる。
「言っておくが、きついと痛てえんだよ」
「え、あ、そうなんですか」
本当に無理矢理跨ってきた女と同一人物かとツッコミたくなる。
「……シャルトスのせいか?」
「……唆されたのは事実ですけど……あんなことしたの、やっぱり私ですから」
どうにか強張りをほぐそうと深呼吸していたアティが小さく答える。
責任転嫁のできないところや、他人だしにしなければ苦痛の緩和すらしないところが
らしいと言えばらしい。妙にむかつくが。
感情をぶつけるように豊かな乳房を掴む。いきなりな行為に一瞬仰け反った。
片手なのが残念だがそれでも柔らかい肌と中心のしこりは充分楽しめる。
アティの呼吸が浅く継がれる。がちがちだった身体がようやっと動ける程度にほぐれる。
395サモンナイト3(5−8/10):04/01/03 18:50 ID:t5Y888Yg
ふと、受けるだけだった身体が寄せられ、
押し当てられたぬくもりに今度はビジュが固まる。
火傷痕を這う艶めかしい感触。
「……舐めても消えねェぞ」
無造作に言い放ったはずの言葉は情けなく掠れていた。
蹂躙が、止まる。触れたのは丁度頚動脈の辺り。背筋を駆け上がる悪寒とも快楽ともつかぬ冷気。
人間の歯ごときで喰い千切れるわけでもないと分かっているのに、
血流を柔らかく押さえられる、それだけで脈拍は不必要なまでに速まる。
受け入れる側の女に命を握られる―――奇妙な昂揚。
こくり、唇がたまった唾液を呑み込み動く。
首筋に蠢く他者の体温。洩れた微かな吐息。
「知ってます」
濡れた肌を撫でる応えは情欲を多分に含む熱との乖離も甚だしく、苦しさすら滲ませるというのに。
しなやかな指先が頬に触れ、刺青を、その下に隠した傷をなぞる。
「これはこれで治りきってるから、私じゃどうしようもないですよね」
アティだけではない。他の誰にも、ビジュ本人にすら刻み込まれた痕を消すことなど不可能。
せいぜい見ないふりして忘れてしまうのが精一杯。
そう分かってはいるのだが、獣めいた治癒のまねごとが理性を削り落とす。
「……ひうっ」
そこは先程よりは開いていた。
指を足してかき回す。粘性の水音と湿った感触。
先端をあてがう。
緊張に強張る細腕が背をきつく抱いた。
396サモンナイト3(5−9/10):04/01/03 18:52 ID:t5Y888Yg

認めるのも癪だが、アティの甘さや信念に嫉妬に近しい感情を抱いていたのは事実。
それは自分には決して持ち得ないものだから。

ゆっくりと進める。
限界を引き延ばすかのように。
終わりをできうるだけ遠くへと追いやるかのように。
華奢な腰が痛みに耐えかねゆらめく。いっそひと思いに終わらせてと懇願する。

どちらを望んでいたのだろう。
胸が悪くなる程お人好しで愚かな彼女を、ずたずたに踏みにじって己れと同じ処まで堕とすことか。
それともとうに失った想いを彼女ごと手に入れたかったのか―――『アティ』が欲しかったのか。
答えは見えない。

以前一度は受け入れたはずのそこが軋む幻聴を聞く。
快楽は未だ遠く、浅く継ぐ息には甘さもなく。それでも行為を止めるなど考え及ばず。
―――この交わりで何かが生まれるとは到底思えないのだけれど。

月のない夜に。己れすら見失う闇のなか。
表層を失い初めてほどかれる想いに絡めとられてしまい。

腕の中の相手を愛していると錯覚してしまいそうだ。
397サモンナイト3(5−10/10):04/01/03 18:53 ID:t5Y888Yg

後始末終えても、どちらもベッドから降りようとはしなかった。
だからといって再び抱き合うわけでもなく、
夜が明けるまでに自分の部屋に戻らないと心配されるだろうな、とか
この状況見られたら言い訳効かないだろうな、などと色々考えながら
近すぎる他人の体温に居心地の悪さを覚えつつうつらうつらしていた。
そうして幾度めかのまどろみから覚めたアティにふいに、
「テメエ、この戦いが終わったらどうする」
んー、と悩む仕草につれて赤い髪がうねり汗と香料の混じった匂いが微かに香る。
「とりあえずシャルトス……じゃなかった、ウィスタリアスで結界解けば島の外には出られます。
 そしたらまずアリーゼの御家族に連絡取らなきゃ。心配してるでしょうから」
ビジュは、とは聞かなかった。
情報漏洩は重大な規程違反だ。特にこの場合は被害が大き過ぎる。
そこらのちんぴらに手入れ情報流した、なんてのとは比較にならない。
軍法裁判にかかれば、良くて軍属剥奪の上服役、悪ければ処刑。
そして九分九厘、悪い方に傾くだろうと自覚する。
―――結局、死ぬのを遅くしただけなのだろうか。
苦い思いは霞がかる思考の内鈍化する。

まあ構わない。明日が始まるにはまだ時間がある。
答えのでない気だるさに今は溺れていたかった。
398名無しさん@ピンキー:04/01/03 18:57 ID:t5Y888Yg
書き込みはねられて冷汗かいた…
480越えましたが、自分スレ立てましょうか?
39948:04/01/04 21:59 ID:zocdsqSu
>>398
お願いします。
で、いいですよね?>各位
400名無しさん@ピンキー:04/01/04 22:10 ID:vRYVth9K
>>399
次に投下する直前ということで。

こういう元ネタがないスレだと雑談で保守するのも難しいしね。
401俺の屍を越えてゆけ:04/01/05 20:55 ID:jnccHxzZ
容量を一番に喰ってしまった自分が立てなければ
ならないのに、立てたこともなくよくわからないので
よろしくお願いします。

それから349さん、ありがとうございます。
402俺の屍を越えてゆけ:04/01/05 21:13 ID:jnccHxzZ
『182』

 神の時計にすれば、人の流れは瞬きの如きもの。その営みに神は介入し、災厄をこしらえた。
常夜見・お風の神通力をもってしても見えてこない辿り着くべき場所。長き旅とは紅子の
お風への呼び掛け。
「どうやら、初弾は成功したみたいだね。紅子?おい、どうしたんだい」
 好戦的で、最上位の男の荒神をも超えうる能力を持ちながら、初弾に参加できなかったことを
悔いることなく、分をわきまえていた。

「なんでもありません」
 紅子の閉じている瞼がぴくっと動いた。吉焼天・摩利の構えた槍先も顫え、明らかに
黄川人への怯え。疽の如きに振舞う黄川人に無力である自分にも摩利は苛立つ。常夜見・お風が
みなを前にして、黄川人との戦いは前哨戦でしかないとも言い切っていた。本来なら、戦を前にして、
そんな物言いをしないお風が、肚を割ったことでさえ異例のことだった。

「ひとの気のみだれを心配なさらなくて結構よ」
 竜穂の閉じていた瞼が開いて紫苑の虹彩と縦の瞳孔がひらく。卑弥呼を挟んで隣の夢子の
薄い唇がほころんでいた。
「あいよっ」
 緑光体の七つ龍は、守りの祈りを捧げていた手弱女たちを呑み込んで引き擦っていったものの、
波状攻撃を仕掛ける気配はなかった。それでも気流はいまだ渦巻いていて、熱風が女神たちの
顔を舐め前髪を煽り額を嬲り、艶々としたおんな髪を痛めつけてたなびかせる。

「しかし、封印が掛かってきているというのに……あの坊は……とんでもなくやっかいだねぇ」
 いつもは楽天的ですかしたような趣の、おぼろ・夢子の貌が曇ってゆく。しかし、それは夕子が
イツ花の素質の可能性を信じた弁証でもあることをも確認する。
「さあ、行きましよう!」
 芽宮・卑弥呼(カヤミヤノヒミコ)の凛とした鯨波(とき)の声が上げる。卑弥呼は両の手を摩利の
肩に掛けると、額の宝珠が茜に発光して四人の躰を包みはじめ、卑弥呼のおさげ髪がほとかれて
舞い上がった。
403俺の屍を越えてゆけ:04/01/05 21:28 ID:jnccHxzZ
『183』

 神々といえども、祖は人なり。初めて対峙した才能の壁に迷いが生じる。好戦的な摩利
でさえも。
「締め括りの大役ぞ!こころして行け!」
 卑弥呼の励ましの手を感じ、摩利は握りをぎゅっと締める。そして、大きな卑弥呼の瞳が
寝殿の中央で苦悶する黄川人を捕らえた。
 火の摩利が先陣を切り、脇に水の竜穂と風の夢子、しんがりを土の紅子が固め、中心を
卑弥呼に据え、瞬時に力を解放して、夕子と昼子の最後の盾となるべく、お風の娘子軍は
光弾となって突入していった。

「うっ、うあぁああッ!」
 黄川人は宙に浮かびながら双眸をいっぱいに見開き、口もくわあっと開ききっていた。
淡黄色の透明な体液があふれ出し頤を濡らしてしたたり落ちて、寝殿の畳を焦がして
シュウシュウと焼き焦がし、腐臭を立てていた。イツ花は弟の変貌ぶりにその場に崩れるが、
這いつくばるようにして、顔を起こして黄川人を見ようとした。 
 鬼の荒い息遣いにも似た音にイツ花は顫える。内と外からの神々の捨て身の攻めに
苦悶する声にも、計り知れない怒気が込められている。思わずイツ花の瞳が潤んだ。

『イツ……花。イツ花……さま』
 おなじ想いを大江山の暮れ六つの襲撃に等しく抱きながら、茜に染まる草原で母と弟を
非力な小女たちが何の迷いもなしに主を守り、討伐隊の振り下ろされる太刀に立ち向かって
盾となって逝ったのを見たはずなのに……。
『みんなは、わたしを恨んでいますよね。黄川人と袂を分かったことを……』
『どうして、そう思われるのですか、イツ花さま?』
 何時、イツ花が黄川人に、そう……羅刹女に変わっていても不思議ではなかった。
『わたしたちは、イツ花さまの躰のなかで安らいでおります。怨霊にならずに済みましたから』
「くそおおっ、夕子!夕子!ゆうこおぉおおおぉぉぉ――っ!」
 黄川人は両手で焔のように揺れる髪を掻き毟りながら、乱れ弱る神威を整えようとした。
404名無しさん@ピンキー:04/01/06 13:53 ID:9F78fGLc
405名無しさん@ピンキー:04/01/06 16:28 ID:k/Xly/Kr
この漫画のタイトル分かる人は居ませんか?

http://aniload.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/img-box/img20040106144857.jpg

406名無しさん@ピンキー:04/01/08 23:52 ID:PMIJZH/t
次スレ

エロくない作品はこのスレに2
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1073364639/l50
407名無しさん@ピンキー:04/01/08 23:53 ID:PMIJZH/t
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ
===================================================-
    | ̄\         ||
    |(*)| _____凸____    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    \         |\  ∧_∧\  < 皆殺し♪
      \       | \( ´∀`)\   \______
         \    \___\ _ ) \
  _______/      \  ̄ ̄ ̄\_____
 // ̄\ ̄ ̄ ̄\ ̄\      \__  \  ̄\ ̄\\
  ̄ \((器)) \((器))  \マーダー  |     |\((器))  ̄
                  \__ |_____|
ダダダダダダダダダダダダダダ           ダダダダダダダダダダダダダダッ
       \ \   \  \           \  \ \\
       \ \\   \\\           \\  \\\
         \\ \   \ \\          \\ \ \\
          \\ \\  \\ \          \ \ \\ \
           \ \\    \\\\         \\\ \\\
             \\\ ∩_∩\\\\         \\\ \\\
             \\ギャ( ´∀` ) \\\            \\\\ \
               \ (      )\\ \\           \\\\\\
              、\\ | | |   (-_-) コレデラクニナレル…    ∧ ∧ / ̄ ̄
                 \(__) )  (∩∩)\\\\ 〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)< ギャ
                  \\\\\\  \\\\  UU ̄ ̄ U U  \__
408名無しさん@ピンキー:04/01/08 23:53 ID:PMIJZH/t
                .
             "・∴*.   ______             /\
             ソ::::::ソ    |温泉見つけた|         /__.\
            (:::人:(    |モナ!      |         /  | | |   \
           //从从ヽヽ  ( ) ̄ ̄ ̄ ̄ ̄      /   | 人 |    \
                                   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄~
         """ """"""""""O""""""""""""""""""""""
    """"""""  ,'⌒⌒ヽ'⌒o,'⌒ヽ⌒⌒ヽ_____"""""""""""
  """"""   ノ⌒ヽ~~~~~~~。~~,'⌒ヽ~~~~/      ヽ___""""""""
 """"" / ̄ヽ ノ    ∧_∧ ~~~~    ~~~~~~~~~~/     ヽ  """"""
""""/⌒ヽ、~~~~~~   (; ´∀`∩            ~~~~,'⌒ヽ;;;;;  """""""""
"""""" / ̄ ̄ヽ、   ~~~~~~~~~~        ,'⌒ヽ'⌒ヽ ̄ ̄^  """""""""
 """"""     ソ⌒/ ̄ ̄ ̄ ソ⌒ヽ'⌒⌒ヽ⌒ヽ       """"""""""
   """""""""                      """"""""""""
       """""""""""""""""""""""""""""""""""""""""
409名無しさん@ピンキー:04/01/08 23:53 ID:PMIJZH/t
      | ̄|三| ̄ ̄ ̄|\
     TTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTヽ
     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄|ヽ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|\iヽ
      | ̄|| ̄|  |  | |  | ̄|| ̄|  | ̄|| ̄|  .|  \iヽ
      |_||_|  |  | |  |_||_|  |_||_|  .|   \i
    _____|  | |_________.|     |
    _____|  |.|_________|      |          _,,-'~''^'-^゙-、
      | ̄|| ̄|  |  | |  | ̄|| ̄|  | ̄|| ̄|  .|     |____   ノ:::::::::::::::::::::::::::゙-_
      |_||_|  |  | |  |_||_|  |_||_|  .|     |     ..|\ i:::::::::::::::::::::::::::::::::::::i
    _____|  | |_________.|     |LlLl LlL |  i:::::::::::::::::::;;;;;;::::__,,-''~i、
    _____|  |.|_________|      |======= | ゞ:::::::::::::::::::::::|.レ/:::::::i
      | ̄|| ̄|  |  | |  | ̄|| ̄|  | ̄|| ̄|  .|     |LlLl LlL | ヾ_:::::::::::_,,-''ソ/::::::::::;/
      |_||_|  |  | |  |_||_|  |_||_|  .|     |======= |  |゙-、_::: i;;;;//::::::::,-'~
              |  | |               |     |LlLl LlL |  |   ゙ヽy /_,,-''~
             | ̄| ̄|        | ̄| ̄|   |     |======= |  |    |i:|
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  |  |      ∧|  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
             |  |  |     ∧´.|  | [
         .ゾロゾロ |  | ∧__.∩(´∀|  |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
             |  |  |∧∧`人_   |  |
             |  |∩(´∀`)つ| . | |  |
 ______|_∧_∧_⊃..(__(_|_|__________________
        ‐=≡ ( ´∀`∩  ∧_∧ -=≡. ∧_∧
      ‐=≡ ⊂    ノ  ( ´∀`∩ -= ( ´∀`∩
         ‐= 人  Y  ⊂    ノ -= ⊂    ノ
      ‐=≡ し (_) ‐= 人  Y  -= 人  Y
               -= し (_)  -= し (_)
410名無しさん@ピンキー:04/01/08 23:57 ID:PMIJZH/t

              、ヽ  l l
               \ヽ | l
       _ ,, ,, _    , ‐ヽl,l_/ " ヽ - ,,
       l    , 、_'>_, --/ ./l l"'' - ,,_   `  、
       l  /   /   /l | l    \'' ‐-v'" ̄ ̄"'' ‐ ,,
       l/   /  / //l.l | .゙,     .ヽ  ヽ,       "ヽ,
      ., '〃  /  / /j,W|.l  .'.  ゙    ヽ  、ヽ、     /   
      /// / /  / .,゙l l  .l l  ゙,   ゙,   ヽ .ヽヽ  , <
     ./// / /  .,゙ j l i  l.lヽ  ゙, ゙,  ,  , ゙,  ゙, ゙',/   \
    ,'./,' .,゙ / .,  ,'L_ l l l   l.l ヽ  l l_,. t  .゙  ',  ゙, .゙,  _,. ‐゛
    |,' i  , ,' .l  l l / "l'‐   l.l  ‐、''「 l  l  ゙, i   i゙',.i',"
     l.l l  .l  l .|'___   l|  ___i__i ゙,  .i, .l  i .l、゙l "' .,
     .,゙,l l.゙,  ll  l l   |_|.   ゛    |_|.i .i  l゙, i  l ト、ヽ、  r`
     .l,'.l.l .l .l l l`l     、        .゙,l゙, .i, l, l i ヽ  \ l
     /.〈'!./' .l l .l .l゛   ┌‐-       l .l l ,゙ ,',゙|l  \  `   
    '‐' `i i゙、!/.', ! |.l.ヽ.  ヽ ノ      .イ.l l.!/.i/./,゙ ヽ  ヽ    
       i i i  ゙,l ll  ll゙',, ,     .,  " l .l .il r l/レ   ゙,   ヽ
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411名無しさん@ピンキー:04/01/08 23:58 ID:PMIJZH/t
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412名無しさん@ピンキー:04/01/08 23:58 ID:PMIJZH/t
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       /ヘ.//ハ、N、lハ. = r`┐ = ノノ ,' |,ハヽ、
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        /    ` ゝー'彡^ V⌒j ´  `ヽ ヽ. }  ̄/
        ム _  / / ̄ / ,'  /   ヽ } }  /
        `丶、 レヘ|'  /ヘ,.'   ,' \ l } ノ /'´‐- .._
         < `ーt-ゝ、 /  tヽ  〉//~ヽ   _`丶、
           `丶.|ミ f´ , '  ゝ、 //_.l-┤ ̄    . '´
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             ト、 { , 、 ヽ\  ヽ彡!j_<´
   __       ,. - "!ヽ/ j  lヽ ヽ `ー'’ノノ 》、\
   ヽヽ ̄_`二ニ' ー-レ’./! .j..入_,.)- '/,.' 〃 〉. \
    l. l__,, .. -―_ ニ~Z..ノ .{ ノ! ー-- ' ノ .ノ / !   ヽ
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413名無しさん@ピンキー:04/01/08 23:59 ID:PMIJZH/t
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 ̄   /_  `丶  ム-ー〜ー-! レ'/ '´    t t  | l.ヽ !
    `丶、ヽ`丶, ∨ _,. -‐- 、!〃´      〉'、 | i \
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          |.      ,'              ヽ    l.
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        l    ,'             ヽ.   |
      ≪L_ ,.'.>                  〉、 ,..ト 、
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      ,' ,' ̄``!.〈                〉 |ー|. 〈
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     ヽ ニ二二.ノ                 L._ `⌒´ _,.〉
                           ヽ. 二二ニ ノ
414名無しさん@ピンキー
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