(;´Д`)ハァハァホッシュ
210 :
腕試し:03/11/02 04:41 ID:WftV2BrU
ここ、親切そうなスレ。よ ろ し く。
改行規制も長文規制もほかより緩そうだし。
211 :
腕試し:03/11/02 05:05 ID:WftV2BrU
それは、一週間前のことだった。
イワナの父、マコト・タイラーがネット取引でその美しい物体を手に入れた。
「イワナ、見てごらーん!」
ふすまを開けて、イワナが出てきた。
混血三世のイワナは、顔が小さく理知的で肌つやが桃のような、健康な女性だった。
大学を卒業してから、研究者の父のマネージャーと、バイトで暮らしている。
「お父さん、また怪しいもの手に入れたの?」
「素晴らしいんだよ。ほんものの宇宙船から出てきたコインだよ。地球のMDとかメモリースティックみたいなものさ。出所も今度は大丈夫だ」
父の手のひらには、見るだけなら美しいルビー色の、500円玉くらいのコインの形のものが乗っていた。
父はしわの奥の目を輝かせて話していた。
「ロズウェル事件のころからの友人が、危ないけど確かなルートをさんざん使って手に入れたんだよ。でも胃潰瘍になって入院しなくてはならなくなったかから、昔からの友達のお父さんに、預けてくれたのさ」
「そう・・・。でも、放射能とか出ない?その辺の検査はお友達がやってくれたの?」
「いや・・・」
父は言葉を濁した。
「出てるらしい。でもいい。お前さえあたらなければ」
「もう!」
イワナは、これまで幾度となく聞かされてきたきわどい開き直りに、やれやれと呆れながらまたふすまの向こうへ戻った。
212 :
腕試し:03/11/02 05:12 ID:WftV2BrU
イワナはバイト先へ向かっていた。
あれから父の体調が見るからに悪くなっていった。
関係なければいいと思いつつも、一週間前のことをついつい思い出してしまう。
父は、ルビー色の物体に宇宙人、いわゆる未確認生命体の情報が入っているはずだと、あらゆる方法を試して、情報を取り出そうとしていた。
父の母校である大学の大学院に行き、研究室の機材を使わせて貰うこともあった。
日に日に食欲は減り、微熱があがることが増えた。
213 :
腕試し:03/11/02 05:13 ID:WftV2BrU
エッチ場面にはしばらくかかるけど、誰も怒ってない?
214 :
腕試し:03/11/02 05:24 ID:WftV2BrU
イワナのバイト先は、合気道空手教室である。
そこで師匠のアシスタントとして、10歳以下の子供たちのグループを教えていた。
父のように未確認飛行物体研究への興味は持てないが、イワナは合気道の目に見えない「気」の世界にはとても神秘を感じていた。
イワナはいつも子供たちに教えている。
格闘技技は己を鍛えるために身につけるもの。自信をつけ、自分の心のバランスを上手に保ち、傲慢にも卑屈にもならない自分を育てるために身につけるもの。どうしても技を使うときというのは、正義のため、弱者を守るためであるということ。
イワナの受け持つグループは人気があった。
親が働ているなどして、まだまだ大人が恋しい子供たちが、イワナに褒めてほしくて教室に通ってきていた。
教室の帰りは、天気予報が大はずれした、大荒れの天気だった。
215 :
腕試し:03/11/02 05:36 ID:WftV2BrU
地下鉄に乗ったイワナの、胸ポケットの携帯が震えた。
「!?」
イワナの脳裏に父の倒れた姿が浮かぶ。救急車が頭をよぎる。
急いで止まった駅に途中下車をすると、地下鉄ホームの柱に隠れて携帯を開く。
着信はやはり父からだった。胸が高鳴った。
「・・・お父さん!?」
「イワナ、すまんな。あのなあ、お父さんにあのルビーをくれたアメリカの友達が、そこの若いもんに聞かせたいっていうんだけど、お前、アニメCDのCDラック、どこだっけ」
「私の部屋に入っているの?」
「今朝掃除してただろ。部屋はきれいだから怒るなよ」
イワナは安堵のため息をついた。
「なんのCD」
「え・・えば、えばげりおん」
「あ・・アメリカの日本アニメオタクの子なのね」
イワナは安堵と呆れと疲れを抱えて家路についた。
216 :
腕試し:03/11/02 05:44 ID:WftV2BrU
イワナが大学のころはエヴァの話をよく父とした。
宇宙の中の地球、人類の成長力などの観点から、父はイワナの話に真面目に応えてきた。
周りの同級生が、父親に対して粗大ゴミとか臭い、バカ、ウザイ、しつこいなどのぐちをこぼしている歳頃にも、イワナと父はいいディベート仲間の関係も作っていった。
病弱で変わり者の母親が他界してから、ずっとそうしてきた。
217 :
腕試し:03/11/02 05:54 ID:WftV2BrU
「ただいま」
リビングに明かりがない。イワナは電灯のひもを引きながら、もう一度父を捜した。
「お父さん」
イワナは父の話を思い出してまず自分の部屋を開けた。
暗かった。父はいなかった。
もう一度リビングを振り返ったとき、リビングの電気が突然消えた。
「お、お、落ちたの?」
ブレーカーを見に玄関へ行くべきか、父を捜しに父の部屋を開けるのが先か、どちらも後回しにしたくない!
イワナはパニックになった。
「お父さん!」
その時父の部屋のふすまの間から、赤い光がもれてきた。
光は赤い帯になってリビングにまっすぐ差してきた。
「ああ・・あ・ああああーー!」
イワナの決心は早かった。
脇を締め両手を握り、丹田に気を溜める。意を決して父の部屋のふすまを開けた。
218 :
腕試し:03/11/02 06:04 ID:WftV2BrU
部屋が赤くなっていた。
濃い赤い光の中に、父親が仰向けになっていた。
ただの仰向けとは違い、その身体は宙に浮いていた。
イワナの脳裏に、葬儀の母親の最後の姿がよぎった。
父と一緒になったときの花嫁衣装を着て、人形のように美しく棺桶に眠る母に、「お父さんは私が守るからね」と言ったことを一瞬のうちに思い出した。
イワナは光の中へ突進した。父の身体をつかみ、力任せに部屋の外に向かって引きずり出そうとした。
でも動かない。
父の意識はあった。かすかにあった。
父はイワナに気づくと、黙ってエヴァのCDを渡してきた。
イワナがそれを受け取ると、途端に父の身体はするすると水平に動き出し、窓が開き、今度はまばゆいばかりの白い光の中に吸い込まれていった。
「お父さん!」
イワナの目の前で、窓が大きな音を立てて閉まった。
家の中を暗闇がおおっていた。
219 :
腕試し:03/11/02 06:12 ID:WftV2BrU
イワナは放心していた。
どのくらい経ったのか。
手の中のCDを見つめながら、今後のことを考えた。
宇宙人のアブダクションは、日本の警察に普通に110番して知らせても、真面目に相手にしてくれそうもない。
父の話では、ロズウェルの件で、昔宇宙人はケネディと契約をしたから、むやみに日本には来ない、大丈夫だよと言っていた。
だのに何故?
そのとき、手元のCDケースがカタカタ音を立てるのに気が付いた。
イワナはケースを開けた。
そこには、あのルビー色の美しいコインが入っていた。
220 :
腕試し:03/11/02 06:27 ID:WftV2BrU
イワナは考えた。
長い、長い、長い時間が経った。
イワナはピザの出前を頼んだ。
ピザが来る間にシャワーを浴び、全身をくまなく手入れした。
ルビー色のコインを、張りのある胸の間に、ガムテープで貼り付けた。
それからもう一度考え直して、ルビー色のコインを外し、ラップで二重に包んだ。
胸の間には、ほんものの500円玉に、オレンジのマジックで色を塗って、またガムテープで貼り付けた。
ルビー色のコインを取り返しにきた者を、捨て身でおちょくりたいという、地球人としての意地を見せるつもりであった。
ラップで二重に包んだコインを持って、再びイワナはしばらく考えこんだ。
そして、意を決するとコインを、女体の大切な通路に静かに沈めた。
放射能が出ていたら、自分は一生子供を産んではいけないかもしれなくなる・・・・。
イワナの口からうめき声が漏れた。
このコインのサイズは痛かった。
221 :
腕試し:03/11/02 06:43 ID:WftV2BrU
イワナは下着をつけ、自分が持っているスーツの中でも一番お気に入りのパンツスーツを着た。
ピザが来た。
イワナがここ一番にスタミナを着けたいときに食べる、ウナギやほうれん草の乗ったメニューであった。
次はいつ食事が出来るかわからない。
父がコインを持っていないことが分かったら、たぶん自分のところにも来るかもしれない。
そう思うと、喉がつまりそうだった。
でも、イワナは必死でピザをフルーツジュースと一緒に喉に流し込み、ビタミン剤も飲んだ。
ピザの空き箱と一緒に家の中のごみをまとめ、玄関に出し、父が帰ってきたらごみ置き場に運ぶだけにした。
自分の洗濯物は物干しから全て取り込んだ。
身体を動かしていると、コインを沈めた場所がぐりぐりして鈍く痛んだ。
たぶんもう病院へ行かないと取れないだろうという深さまで沈めたはずだ。
でも、だんだん降りてきている。
少し、落ち着いてあと何をすべきか考えよう。
リビングに座り、合気道の師匠に電話をかけ、来週は休むことを申し出た。
携帯を握りしめ、友達にしばらく用が出来たことをメールした。
携帯を握りしめる手が汗びっしょりになった。
そこで、携帯の充電が足りなくなったことに気が付いた。
222 :
腕試し:03/11/02 06:48 ID:WftV2BrU
充電器に向かってイワナは立ち上がった。
足が床から離れた。イワナは宙に浮いた。来た。やつらが来た。
イワナの意識は一瞬だけ真っ白になった、ように感じた。
実際にはどのくらい経ったのだろう。
イワナは、家とは違う場所に立っていた。
白い壁に六方を囲まれていた。
223 :
腕試し:03/11/02 06:59 ID:WftV2BrU
イワナが立っている床に、父親が横たわっていた。
「お父さん!」
父はかすかに目を開けた。意識がある。
イワナはしゃがんで父に笑いかけた後、再び丹田に気を溜めて、戦闘態勢を取った。
深い深呼吸をして、白い壁に向かって口を開いた。
「父を、家へ帰しなさい!」
返事があった。
「今、帰したら危険だよ」
聞いたことがない、くぐもった若い男の声だった。金属音が混じらないので、不快感は無い。
「何故?」
イワナは聞き返した。
「肝臓かどこかに重い癌がある。転移もどこにしていてもおかしくない」
イワナは息を飲んだ。
三年前の人間ドックでは、良性腫瘍だと言われたできものが見つかっただけなのに。
でも、サラリーマンではない父は、歳を取っても毎年は健康診断をしない。父にもやる気がない。
根っからの宇宙生命体オタクで、仕事をしながら死ぬなら本望なくらいなのだ。
「早く病院に・・・」
「ここで治していく?」
再び青年の声だけがした。
224 :
腕試し:03/11/02 07:10 ID:WftV2BrU
イワナは浅い呼吸と一緒に、思わず言った。
「お願い・・・!」
「じゃあ」
「何?早く条件を言って」
イワナは度胸を据えて言った。
壁から答えが来た。
「仲間と話し合った。君がここに残るか?」
「私?私の持ち物じゃなくて、私?」
壁は沈黙しながら答えを待っている。
「父の身体を治して、なおかつ家へ帰してくれるのね?」
「君がこのままここに残ればだ」
コインを駆け引きに使う道は絶たれた。イワナが考えていた最悪の展開になった。
でも父の身体が治る。
「わかりました。残ります」
ガムバレーヽ(´ー`)ノ
226 :
腕試し:03/11/02 13:57 ID:o/dzEb18
ピンキーさんさんきゅ!
父の瞳がゆっくりと開いた。しわがいっそう深く、赤黒さが増した、病気の顔。
イワナは再びしゃがんで話しかけた。
「お父さん、具合悪いの、治るよ」
父の口は開いている。でも言葉にならない。
「何も言わなくていいよ。お母さんが私でも、きっと同じことをしたよ」
微笑みを浮かべ、父の顔をなで、手を握った。壁が訪ねてきた。
「もういい?治療室を作るから3歩後ろへ下がって。中は見えるから」
父はイワナの手を離さなかった。イワナは不思議と涙が出なかった。永遠の別れかもしれないのに。
「ほらほら、入院無し、お金無しで病気が治るんだよ。お母さんの仏壇に手を合わせる人がいなくなったらダメだよ」
イワナは震える手に力を入れて、父の手をはずした。
父とイワナの間に透明な壁が出来、その向こうが集中治療室になった。
地球よりずっと進んだ科学を見せられた。身体を切ること無しにレーザーなどで治療が進んでいく。
漫画や映画で見た、空想上の光景がそのままに繰り広げられた。麻酔が素晴らしいのか、父はとても穏やかな顔をして眠っていた。
イワナは一部始終を、透明の壁に立って張り付いたり、座って眺めたりした。
腕時計はとっくの昔に止まっていた。治療室は当然無人だった。
この複雑な手術を遠隔操作でやっているということだった。
どうやら終わったらしい。壁から声がした。
「安静にする」
父はこんこんと眠り続けていた。
赤黒かった顔が、こころなしか少し白くなったように見える。
気が付くとイワナは透明の壁に添って身体を横たえ、眠っていた。
目覚めると壁は消え、驚くほど血色の良い父が隣に寝ていた。
イワナは感嘆のため息をもらした。しわは歳相応にあるが、肌が明らかに健康になっている。
脈を取った。心臓の鼓動を聞いた。口に指先を近づけ呼吸を確認した。
穏やかに眠っている。「素晴らしいわ・・・・」
思わずつぶやいた。
227 :
腕試し:03/11/02 14:13 ID:o/dzEb18
「お母さんにもこんな治療が欲しかった」
イワナは、壁の声に向かって、静かに駆け引きをこころみた。
地球外生命体への興味、病気の治療、全てが満たされた父との時間が一秒でも長くほしかった。
「捕虜にも完璧な仕事をしてくれたのね。優しいのね」
「仲間が、もう時間は十分だろうと言ってる」
イワナは彼らの立場になって考えた。自分が彼らで、地球におっことしたのが秘密物件で、地球人はまだ未熟で好奇心でわいわい騒ぎやすい。
それならとっとと返してくれ、と、こういう手段にでるのもいたしかたないことなのかもしれない。
でもなんで私が?
イワナは、アメリカの農家の牛が、出血もなく身体を切り取られている写真を思い出した。
「牛の次は、人間のサンプルが要るの?」
しばらくしてから返事があった。
「違う。自分たちは彼らとは違う。彼らは任務」
彼らとは、牛を切り取った連中のことを指している。ほかの宇宙人がなにをやっているかも知っているのだ。
「連れて行く」
父の身体は宙に浮いた。そして、立体画像が消えていくように、すうっと薄くなって、消えた。
「お父さん・・・・」
業務連絡。割り込んで書きたい人、なにか書いている最中の人、遠慮無く入ってきて。私も適当に現れては書くから。
書けるときに書かないと、ストレスでしょ。お互い様だからネ!
228 :
腕試し:03/11/02 14:30 ID:o/dzEb18
イワナは床にへたりこんだまま、目を閉じて宙をあおいだ。
してほしいことは全てして貰った。
「父は家に寝かせてくれましたか」
「間もなく目覚める。脳波を読んだ」
「ありがとう・・・・・後は、好きにしてください。でもお願い。苦痛だけは無くして」
「苦痛・・・・?無いよ」
イワナは正座をしていた。そのまま宙に浮き、丸で優しいナースか恋人にいたわられるように、四肢を伸ばして仰向けに横たえられた。
イワナの閉じた両目から、涙が一粒ずつ流れた。
その涙をぬぐう指を感じた。
目を開けても指の主はいなかった。
「姿を見せて。誰が私の側にいるのか分からないと、怖くてたまらない。あなたたちの捜し物がある場所は、私たちにとっては、命がけで守る、デリケートな場所なの」
イワナは冷静に、地球人の特徴を精一杯理性的に説明した。
「やむなく人目にさらすときも激しいプレッシャーを伴うから、あまりの恐怖の中で行われた場合、心の病気が残ることもあるのよ」
229 :
腕試し:03/11/02 14:46 ID:o/dzEb18
「姿、見せられない。でも明かりを消してもっと室温をあげる」
目を開いたイワナの視界が真っ暗になっていた。
そして、身体が丸で羽布団の中にいるように暖まってきた。
暗闇と思っていたのは目の錯覚だった。目が慣れてくると、イワナの周り360°に、宇宙空間があった。
「ここはもう宇宙なの?宇宙船は透明になれるの?」
イワナの今の立場を除けば、それは素晴らしい眺めだった。
地球の大気を通さずに見る、ありのままの星空。
昔、母と飾り付けをしたクリスマスツリーランプのように、色とりどりの星々が、光の大合唱をしているようだった。
イワナの服がゆるやかに取れていった。服に意志があるかのように、身体を一切動かさなくてもするりと抜けていき、イワナは現実に戻された。
「お願い!真っ暗にして!」
誰もみていないかもしれないが、野外であられもない姿をさらすような気がしてならなかった。
要望はすぐ聞き入れられた。
「プレッシャー?拒否・・・身体が無意識に拒否反応するということ」
壁の声は、イワナの状態を理解したらしい。
イワナはすでに一糸まとわぬ姿になっていた。四肢も細かく震えていた。
230 :
腕試し:03/11/02 14:58 ID:o/dzEb18
「・・・・深いね」
声が言った。やはり、胸にはりつけたダミー500円には目もくれず、イワナの身体のどこにコインを沈めてあるかがわかっていた。
「すぐ取れるから」
さして開いていない両脚の間に、管のようなものが入ってきたかと思うと、その奥に温かい液体を注入してきた。
イワナの口からため息がもれた。
管はコインをつかんだらしい。あっという間にコインは引っこ抜かれた。イワナは感覚を感じただけで、痛みはぜんぜん無かった。
でも、そこに注入された感覚が、後を引いている。
女体の通り道の柔らかい壁が、何かを訴えるようにひくつき始めた。ひざに力が入った。
231 :
腕試し:03/11/02 15:16 ID:o/dzEb18
イワナは2〜3度身体をよじって引きつらせた。そうしないではいられなかったのだ。
やがて、柔らかい壁を伝って、女体に注入された温かい液体が、身体の外にあふれ出た。
「あ・・・・んん・・・あ・・」
脚を閉じようとしていた。でも、身じろぎくらいなら出来ても、完全に体位を変えることはできなかった。
コインに巻かれたラップがはずされる音がした。
誰か側にいる気配は確実にある。
どんな宇宙人なのかしら。軟体動物みたいのかしら。昆虫みたいのかしら。父の収集している写真にあったような、手二本足二本の「グレイ」ってやつかしら・・・。
コインを取り出した口からは、溢れてきた液体が、肌に張り付いて溜まっていた。
ぬぐいたい。脚を閉じたい。イワナがそれを訴えようとしたとき、意に反して、イワナの脚は更に広く開かれた。
「あっ」
脚を持っている手がある。イワナは訴えた。
「少しだけ明るくして。あなたがどんな容貌でも構わない。後悔しないから」
脚を持っている二本の手の内、一本がはずれた。
「そして、何をしたいのか教えて!納得できないと頭が怒りや拒否でいっぱいになるのよ!」
イワナの家の電灯の、オレンジの常夜灯の半分くらいの明かりが静かについた。
イワナは自分の身体と、文字通り、声の主の手だけがうすらぼんやりと見えた。
「コレクション」
声は言った。
232 :
腕試し:03/11/02 15:26 ID:o/dzEb18
「宇宙の、生物の、いわば、性感の、コレクション」
イワナは息をのんだ。
「脳波情報、脳の活動情報の収集、面白い。仮想体験、できる」
声は続けた。
「この君が持っていた物質は、仮想体験の、システムの、開発情報を、いれた」
更に説明は続いた。
「自分の仲間が発明、開発したもの。自分はその試作品を使って、宇宙を回ってる」
「その赤い物質は、アメリカに降りたUFOから見つかったのよ」
「自分たちの宇宙船は、最近でもときどき降りたり、事故で不時着したりしている。アメリカの歴代大統領の側近たちとも、交代するたびに会っている」
233 :
腕試し:03/11/02 15:38 ID:o/dzEb18
「これを持っていた仲間は、死亡した」
「形見ってわけね」
「日本語ならそういうらしいね」
寂しい?と言おうとしたイワナの身体が、縦に傾いた。頭が30センチほど下に落ち、下半身がその分上を向いた。
「スキャンだけでは調べられないこともあるから、性器の形を知りたい」
脚が更に開かれた。
「ああ、あぁ、あぁ、いきなり、あぁ・・・」
「まだ心拍数が少し高いけど、もう落ち着いてきてると思う。生殖器官を、よく見ておかないと。脳情報の分析にも使う」
「あっ、見るなんて、あっ」
「筋肉の緊張状態は極力取るから」
室温が少しだけ上昇した。イワナの首から下にオイルのようなものが塗られている。
手ではない。いよいよ機械作業になってくるのか?
234 :
腕試し:03/11/02 15:59 ID:o/dzEb18
イワナの全身は、少し熱めのオイルの上からマッサージされ続けた。
四肢は相変わらず動かせない。
「あ・・あ・・もっと、身体を、自由にして。お願い・・・」
イワナの身体は、意志に反して、あちこちに小さな官能の火が点火してきた。
「力を抜いて、もっと抜いて」
声が指示をしてきた。彼の手は、500円玉を貼り付けていた胸の、左右のふくらみも一定のリズムで揉んでいた。
ふくらみの麓からすくい上げるように、ゆっくりと・・・。
開かれたままの脚は、快感で引きつり、止められなくなってきた。
イワナの性器の口も、あとからあとから体液を溢れさせ、ひくついてきた。
イワナの首筋が熱くなったのが、イワナにもわかった。
彼の手は、マッサージを繰り返しながら太股に移っていった。
イワナの息が荒くなった。理性が揺らぎ、このまま快感に身をゆだねてしまおうかと迷い始めた。
「何も考えるのやめて。快感と一つになりなさい」
イワナの口は、もはや顔も知らない彼の手が、刺激してくれるのをもう心待ちにしていた。
イワナは、心の中だけで降参した。お願い、触って・・・して・・・・・。
・・・・して・・・・して・・・・お願い・・・・。
・・・・して・・・・して・・・・。
「よし、いい子だね」
脳波が変化したのだろうか。彼の両手が、性器の口の唇にすべり移ってきた。
235 :
腕試し:03/11/02 16:26 ID:o/dzEb18
両陰唇が力強くリズミカルに押された。
イワナの全身の内臓が喜んでいるのが嫌でもわかった。
ここを触った男性は、二人目・・・・・。イワナは、意識を真っ白にすることを、再び自分に許した。
陰唇が左右に大きく開かれた。
「たくさん充血して張りつめてる。いい眺めだよ。いつまででも眺めていたい」
イワナは、心の中だけでこの変態!と毒づいた。
そして、口から彼の指と思われるものが入ってきた。イワナの全身が一回だけ細かく飛び跳ねた。
イワナの予想外のことが起こった。柔らかい壁をまさぐっている指は、人間よりも異常に長かったのだ。
それが軟体動物のような動きをしながら、うね、うね、うね、うね、とのたくり、奥へ進んでいく。
「んー、んー、ぁ・・・」
その奥は、イワナ自身も触れたことが無い場所であった。子宮口の入り口の空間を、隅々までくまなくなでまわす。
通路の中でぶどうのようにふくらんでいる壁をひとつひとつなで回し、ふくらみとふくらみの間もなで回す。
イワナは、穏やかな快感の中をたゆたっていた。
永遠のような長い時間が経った。
「ここ?」
彼の片手が、元気よくふくらんだ、口の上の芽をつまんだ。
片手はまだ通路の中で、うねり続けている。
イワナは悟った。知っているんだ・・・・イクって・・・・・当然か。収集家だもんね。
一旦止まっていたマッサージが、胸のふくらみに降りてきた。そして適度に力強く再開された。
「長くじらしたけど・・・いい子だったね」
乳房、芽、柔らかい壁、三カ所が休みなく揉まれ続けた。
イワナは高みへ昇るしか、すべがなかった・・・。
「ああ・・・ああ・・・ああ・・・ああ・・・」
イワナのあえぎ声もいつしかリズミカルに出ていた。
236 :
腕試し:03/11/02 16:38 ID:o/dzEb18
性器の奥が燃えるように熱くなった。
イワナはリズミカルに声をあげつづけた。
熱さがせりあがってきた。イワナの全身に、ついにけいれんが来た。
同時に四肢の拘束がゆるんだ。身体を弓なりに反らせても、脚をばたつかせても、自由になった。
終わった。すくなくとも、彼の言っていた検査は終わった。
「これからどうなるの?」
イワナは息が整ってから尋ねた。まだ身体は横たわったままだった。
「休んで。君が安心するバーチャル空間を見つけた」
まだ生かして貰えるのか・・・・。イワナは複雑な気持ちでため息をついた。
しばらくして気が付くと、イワナは和室にいた。四畳一間の、見覚えのあるアパートだった。
どこの部屋か思い出した。
大学時代、片思いしていたクラブの先輩の部屋であった。処女をあげてもいい、襲われてもいいと思ったほどの、片思いの人であった。
237 :
腕試し:03/11/02 16:44 ID:o/dzEb18
「今日は疲れているから休んで」
「今日はって!?」
「まだ探求の余地があるんだろう?まだ続くよ」
声は冷静に言い放った。
しばらく考え、イワナも覚悟が決まった。この変態を再教育して、地球人のラブあんどピースを教える。
知りたいっていうんだから、教えなきゃ。
窓を開けると、また満点の星空が見えた。
腕試しさん、大量投下 乙カレーです。
どんな話? とちょっと最初とまどいましたが、面白い〜。
変態宇宙人の再教育(w
つづき楽しみにしています。
239 :
腕試し:03/11/03 16:22 ID:SGaKudyC
>>238さん、超さんきゅ!
けどごめんね。自分、血液薄い体質でさ、ちっと虚弱だから、エッチ場面は沢山書けないことが、腕試ししてわかった。
意外と消耗するもんだね。
でもそのほかの場面は書くの楽しいから、もうちょっと書いてくよ。
業務連絡繰り返すけど、書きたい人書いていいよ。
240 :
腕試し:03/11/03 16:43 ID:SGaKudyC
イワナは四畳の部屋で、混乱した頭を整理していた。
私の記憶を読んだのか?何故この先輩の部屋なのか?
エッチがしやすいとでも考えたのだろうか。
それとも、先輩を心で追いかけていたあの十代の季節に戻った気分にさせてくれて、先輩との恋愛の疑似体験でもしろって言いたいのか?
だとしたら笑止千万だわ♪と、イワナはくすりと笑いたくなった。
男の人は抱きたい人を夢想しながら、風俗でプロの女の子を抱けるものという。
人形でもいい、ゲームの女の子でもいい男の人もいっぱいいる。
あ・・・でも女の子でも一部の子はビジュアル系ミュージシャンに狂ったように入れ込む子もいるか・・・。
そういう子なら、好きなミュージシャンに「様」つけて、テーマパークとかイベントみたいの用意すれば来るのかな。
いわゆるゴシックロリータとか呼ばれてる子たちは、お城の姫のようなシチュエーションでも用意すれば、喜ぶのかな。
でも、私はノーマルなのに!
見誤ったな、変態っ!
ここまで考えて、イワナは、声と手しか出さない青年が、なんという名前なのかも知らないことに気づいた。
(明日、聞こう。教えてくれるまでコレクションデータ取らせてあげないって言おう)
そこまで思ってから、自分の性を駆け引きに使うなんて、なんて私はみだらになったんだろう、と少し落ち込んだ。
241 :
腕試し:03/11/03 16:54 ID:SGaKudyC
業務連絡。宇宙人の名前考えるの面倒くさいなあ。募集しちゃおうかなあ。
でもセンス(響きとか)いいの無かったり、応募が遅かったら自分で考えちゃいそうだしなァ。
あと、採用されても特に景品を用意してあげられないのが残念(汗)
本編に、ご自分の考えた名前が登場して「わーい♪」と一人拍手して終わりになっちゃう。
ご近所に住んでいたらケーキやクリスマスカードでもあげるんだけどね。
絵文字も書けないです。それでもよければ歓迎します♪
242 :
腕試し:03/11/03 17:11 ID:SGaKudyC
押入には京友禅明るい色合いの素晴らしい浴衣と、真新しい羽布団が入っていた。
「ああ素敵!この浴衣、地球へ帰るときに貰っていい?」
浴衣を羽織り、窓のガラスに自分の姿を写してイワナは大喜びした。
少し待ってみても、返事は無かった。
(私を家へ帰せるかどうかはまだ決まってないということね。自分の意志かしら。仲間の合意も要るのかしら)
そしてもう一つ苦情を言った。これは驚きによる独り言にも近かった。
「ノーパンで寝れって!?」
そんな健康法やったこともない。やろうと思ったこともない。
みじめさがこみ上げてきた。
243 :
腕試し:03/11/03 17:36 ID:SGaKudyC
浴衣を着て羽布団にくるまると、すぐ眠くなった。
眠りに落ちながらイワナは考え続けた。
(彼も眠るんだろうか)
(私のデータはどんな形になって残ったんだろうか。頼めば見せて貰えないんだろうか)
(でもこんなテータを見せて欲しいと思う私って、もうノーマルじゃないかも)
(ところで、なんでトイレ行きたくない?シャワー行きたくない?のどかわかない?)
腕時計が止まっていることから、もしかして身体の循環器官の「時間進行」が止まっているのだろうか?
でも全身の神経細胞と生殖器官にかかわるところだけは動く。今後もまだ使うという。
神経系統が疲労コンバイしたらどうやって栄養補給する?生理のなんたるかは彼は知ってるのか?
まだまだ心配事はつきない。
生理も睡眠・覚醒リズムもホルモンがつかさどっているはず。
長時間働かせる気なら、もっと栄養をとらせてくれないと話にならないんじゃないのかしら?
ここは、人間である自分の理解を超えた場所なのかもしれない・・・。
244 :
腕試し:03/11/03 18:26 ID:SGaKudyC
イワナは眠りの中で夢を見た。
物心ついたかつかないかの頃に聞いた、母の歌だった。
『しんじー、られないー、ことでしょーうけれど、うそじゃないのうそじゃないの〜・・・♪』
子守歌ではない。
『ちきゅうの、おとこに、あきたところよ!Ah!』
こんな歌を私は聴いていたんだ・・・。
母は病弱で変わり者の、お嬢様だった。
母が父のもとへお嫁入りしたあとも、家事ができない母の手伝いにきている人が居た。
(ノノギさん、ノノギのおばちゃん・・・・)
母の実家には数え切れない人数の従業員が居た。
ノノギは、従業員の一人の妻である。
なぜそんな身内のような深い手助けをしてくれたのかというと、イワナは大きくなってから知った。
家族ぐるみで忠誠を誓っていた従業員たちは、あるときは「身内」と表現された。
またあるときは「組員」とも表現されていたのだ。
245 :
腕試し:03/11/03 18:56 ID:SGaKudyC
空想が好きで、身体が弱い母は、複雑で超難解な家業についていけなかった。
危険で険悪な空気を読めず、誰にでも懐いていった。
ある者は天使のようだと褒め称え、またある者は陰で母の父親を哀れんだ。
昨日一緒にままごとをしてくれた従業員のおにいさんが、翌日には居なくなることもあった。
血まみれの死体になって、仲間にかつがれて帰宅することもあった。
ショックな場面は見なくて済むように、幼い母には厳重な配慮がされたが、この世界は展開が速い。
誰もが一人娘の母親を愛おしいと思う反面で、いつまでこの家に置いておけるのかという危惧も持っていた。
そんな母は、大学に入ってすぐに超常現象研究会に入った。
246 :
腕試し:03/11/03 19:07 ID:SGaKudyC
そこで、大学院生の父と出会った。
実際には父も浪人したり、生活費のために工場などで働いたりしてから大学に入った。
そのうえ留年もぎりぎり8年していたので、歳はかなり離れていた。
母は、天使や精霊や奇跡の話に興味を持っていたが、父はUFO一筋で、融通が利かない奥手な学生だった。
そんな接点がない二人なら、今の時代ならすれちがって終わりだが、接点は意外な展開の中で作られた。
安保反対の学生運動があったのだ。
247 :
腕試し:03/11/03 19:20 ID:SGaKudyC
「おはよう」
懐かしい夢を見てまどろんでいたイワナは、爽快な気分で起こされた。
「脳波を見てるとね、いいタイミングが見えてくるから」
イワナは笑顔で挨拶をかえした。
「おはよう」
「元気?」
「ええ。ノーパンにはまだ慣れないけど。あなたは?」
「眠い!」
イワナは気づいた。彼の会話が昨日よりもうち解けてフランクになってきている。
「勉強した。日本のカルチャー、コミュニケーションの歴史」
一晩で、何をどれだけ習得したのだろう。話し方からぎこちなさを確実に減らしていっている。
彼は想像以上の学習能力を持っているのだろう。このままおだてて自信をつけさせれば、姿を見せて名前を教えてくれるだろうか。
248 :
腕試し:03/11/03 19:32 ID:SGaKudyC
誰も怒ってないね?
想像しながら静聴中。
ガムバレイワナー
面白い〜!
SF好きなんで、非常に楽しく読ませていただいています。
アブダクションって単語が出てきた瞬間、某SF作家の最新作が浮かんだ私は
逝ってよしですか?
宇宙人の名前ですかーーー
イワナも淡水魚だから、アユとか…じゃ女みたいだし。
なんかいいのないか考えておきます。
怒ってないよ〜。面白い!
宇宙人の名前…。いっそ地球人には発音不可能とか(クトゥルー神話じゃないって)。
宇宙人の名前……。
イサキ、とか。
……なんでこうありきたりなんだ俺は。
「イル」。簡潔に。
254 :
腕試し:03/11/06 14:59 ID:xUQzqP4b
>>249以降の、名前考えてくださったみなさん、さんきゅです!
大事に考えさせて頂きます。
よっしゃ、少し書いてくか♪
255 :
腕試し:03/11/06 15:10 ID:xUQzqP4b
「ねえ、どんなこと勉強してたの?」
イワナは布団に横たわったまま、布団だけはだけて聞いた。
上品であでやかな京友禅の浴衣の、前あわせの間から、形のいい膝が顔を出している。
この私の姿態を見て、どんな表情をするのか知りたい。
彼の興味は何にあるの?
女の子の身体?それともバーチャル感覚体験で自分が美味しい思いができる、脳情報?
今までの宇宙旅行で知り合った女の子とは、どんなコミュニケーションを取ったの?
256 :
腕試し:03/11/06 15:32 ID:xUQzqP4b
「ねえ、あなたのことを知りたいわ。一度、普通に向かい合って話をしない?」
イワナは、駆け引きに出てみた。みだらなこととは思うが、この際仕方が無い。
「話をするときね、話がでてくるところ・・・いわゆるスピーカーが無いと、どこに目や気持ちを向けて話していいのかわからない」
イワナは浴衣の前を合わせ直しながら頼んだ。
「何か、花瓶でも、ラジオでもいいから、あなたの声がでてくる場所を一カ所決めて欲しいの」
しばらく経った。彼はまだ壁から応えてきた。
「いいよ。自分の代わりになるものを一つ置く。その代わり、一つ、応えてほしいことがある」
「何?」
面倒くさい。ひと仕事を提供することになりそうである。取引が好きなのか、ビジネスライクな合理主義が、違う星では常識なのか。
257 :
腕試し:03/11/06 15:51 ID:xUQzqP4b
「キス」
「え?」
「キス、させて」
イワナの顔は一瞬だけ曇った。
何をどう学んできたんだろう。キスとは、誘惑、告白、愛撫、いくつもの意味がある。
(取扱説明書をきちんと理解しなき。技術だけで女の子が感動するわけないじゃない)
そのとき、イワナの視界が再び真っ暗になった。
今度は部屋の照明でなく、まるでストッキングのような柔らかい素材で、目隠しをされたのだ。
そして、唇は塞がれた。
長い時間、それは続いた。
イワナにとって、久しぶりの感触だった。熱い粘膜が自分の口に吸い付いてきて、自分の全てを求められたことを実感するキス。
でも、今のはただのシュミレーション。この彼は、私でただの体験をしているだけ。
258 :
腕試し:03/11/06 23:18 ID:xUQzqP4b
でもイワナは彼の姿を自然に調べていた。
(この人、人間だわ・・・・)
舌、歯、唇、イワナの目と手の抵抗を封じる腕、その全てが熱い・・・・・・。
彼の腕が浴衣を割ってイワナの胸に入ろうかどうか、迷っていた。
「じらすの、好きなのね」
イワナが言うと、彼の手はすとんと胸に入ってきた。
「ねえ、教えて・・・・・どんな地球のカルチャーを集めていたの?」
浴衣の胸は左右に広げられ、はだけられた。
それと同時に彼の口はイワナの口から離れた。イワナの身体は彼に抱き寄せられ、より密着させられた。
彼の口はこのままどこへ移って行くのだろう。
そんな展開と引き替えるかのように、彼は話し始めた。
「世界の、主だった国の、面白そうな情報を集めた」
「やぁん、や、ら、し、い、ぃ・・・・・」
インドのカーマスートラ、ヨーロッパのどこそこのアブノーマルカルチャー、アメリカの自己啓発系カルチャー、日本は・・・・・。
「源氏物語、四十八手、2ちゃんねる」
イワナはこけた。まだまだ素晴らしい古典があるのに。寄りによって!
「・・・・・そう、それで何が面白かったの?」
259 :
腕試し:03/11/06 23:25 ID:xUQzqP4b
「アブノーマルは、過激になっていけばいくほど・・・・」
彼は言葉を選んでいるらしい、沈黙をした。
「面白くなかった」
イワナはほっとした。
「でもあなたはSMの気には興味無いの・・・・・?こうして誘拐したり・・・・はぁ・・・・・駆け引き・・・ん・・・・」
彼の手の動きに遠慮が無くなっていった。もしかして照れか?羞恥心があるのだろうか。
だとしたら感情のレベルとしてあまり低くはない生き物なのかもしれない・・・・。
260 :
腕試し:03/11/06 23:38 ID:xUQzqP4b
「自分が・・・・マゾだってこと?」
「まさか・・・・この関係をよく見てみて。立場としては私よりあなたが上でしょう?」
「こんな身体をして、自分、うろたえさせて、君のじらしが、誘惑が、どんなにきついか・・・・」
彼の片手はいよいよ下へ降りてきた。
イワナの堅く閉じた太股に割って入ろうとして、力を入れていた。
でもイワナの脚の抵抗が強いので、一旦前から入るのは諦め、太股をなでまわしてからお尻へ手をすべらせている。
イワナは両腕を捕らえられながらも、動かせる部分を動かして、彼の身体の形の情報を探っていた。
イワナの手が下へ降りていくと、彼は上手に身体をよじらせて避けた。
イワナが抵抗するたび、浴衣の前は、上も下もはだけて身体があらわになっていった。
261 :
腕試し:03/11/06 23:53 ID:xUQzqP4b
「ねえ・・・・女の子をイカせるテクに興味があるの?エッチな気持ちとか、シチュエーションに、あるの?」
イワナは甘い声をまぜながら質問をした。
彼の手がイワナのお尻をなでまわしていた。イワナは腰を動かして逃げるが、限界がある。
「一番、深い、感動を、オーガズムを、記録してみたいんだ」
指が陰唇を捕らえた。
「テクだけじゃ、ない、深さが、ある。それを手に入れるのが、レベル高そう」
昨日のように、陰唇の外側から刺激を始めた。
「でも、面白そう」
「あぁ・・・・よく分かってるわね。そうよ。ほんものの愛があって、女の子は、やっと、深く、イケるのよ・・・・・」
イワナは安心した。これで作戦を立てやすくなるかもしれない。
イワナに隙ができた。彼の手は素早く前に回った。
すだれをかいてかき分け、中に沈んでいく。
イワナの息が荒くなっていく。
「あれを・・・・・身体に埋めて、君が自分の前に現れたとき、この人は、自分が、今まで、見たこともない、力を、身体に、秘めてるんじゃないかと、思った」
262 :
腕試し:03/11/07 00:14 ID:+70b5dyV
「仕方がないじゃない」
「ねえ、君の、身体は、どうしたら、もっと興奮するの・・・・繁殖、しても、いいよって、たくさん、たくさん、震えてくれるの・・・・・」
イワナの身体は布団に横たえられ、組み敷かれた。
彼は横抱きでイワナを抱えると、片手はイワナの両腕を封じ、片手で下の芽を刺激していた。
「私の両腕、押さえなくていいわよ。目隠し、取らない。その代わり、教えて。あなたが素敵だと感じた、地球の女の子はどんなタイプの子?」
彼の腕が黙ってイワナの腕からはずれた。
イワナは彼の手がまた彼女の脚を開脚しないよう、自由になった両腕で、彼の胴体に抱きついた。
相手と密着することで、エッチはより安心してリラックスしてできる。それが脳波で伝わったらしい。
彼もイワナの顔の横に自分の顔をうずめて、興奮していた。息が荒い。
イワナは膝を動かして彼の身体も調べようとしていたが、そのたびに彼は逃げ、芽への攻めがきつくなった。
「例えば、日本の外の国の古典には、権力者に組み伏せられて喜ぶ女の子が出てくると思わない?あれは昔の話なのよ」
「そうらしい。でも、歴史検証の前に、やることが、あるんじゃないの?」
イワナの身体はますます反応を深めていった。
頭の中がときどき快感で白くなるのをやめられなかった。
「時間は、無限に、あるから。データを、もらったら、話も、しよう」
イワナは心の中で、よく言った、と思った。褒めておかないと。
「あぁぁぁー・・・・・ん、嬉しいぃー・・・・!」
263 :
腕試し:03/11/07 00:24 ID:+70b5dyV
今日の攻めは昨日と変わっていた。
芽への攻めが執拗にえんえんと続く。芽の下の口からも、すでに体液がぶくぶくぶくぶくと溢れ出ていた。
「今日のテーマは、クリトリスなの?」
イワナは、地球上では恥ずかしくてとても堂々と口に出して言えなかった言葉を言ってしまった。
「他の、場所が、触って、やって、欲しいって、興奮してくるはずなんだ。ここだけで、どれだけ、興奮を、高められるか、時間は、無限に、かけるよ・・・・」
「あぁー・・・・・ぁん・・・・ぁ・・・・いじわる・・・・・」
確かに、下の口の奥では、官能の火がつきそうになって、身体の組織が興奮していた。
興奮に備えて、身体の通路には、あとからあとから熱い体液が沸いてきて、なみなみと溜まってきていた。
264 :
腕試し:03/11/07 00:41 ID:+70b5dyV
彼はいろいろな角度、さまざまな力加減で芽を責めていた。
そして、突然ぷつんとその手を離した。
イワナの陰部は点火されたまま放置された。
「どう?興奮する?」
「触って、やめないでって、言って欲しいの?」
目隠しの下の唇は、興奮で赤く染まっている。そのずっとしたの唇も・・・・・・。
下半身はピクン、ピクン、と波打っていた。
「んー・・・・・ん・・・・・ぁん・・・・・・」
「意地っ張り。ブライドが高いの?」
「そう思う?」
しばらく考えてから、彼がお願いをしてきた。
「耐えてる様子を見たいんだ。開いて見せて」
イワナは横向きになって、身体を丸め、拒否の姿勢を取った。
「きゃあ」
脚は大きく開脚された。イワナは両手で自分の顔と頭を覆ったが、目隠しは取らなかった。
彼の顔も、見せてくれる気になるまで、時間をかけて、心を開いてみるつもりになった。
「ああ、あとからあとから溢れてきて、いい子」
その言葉に反応して、さらに下の口は体液をぶくっ、ぶくっとはきだしていた。
「よがって。たくさん、よがってよ。もっと、もっと、いい子に、なって」
そして彼は、初めて油断したらしい。きわめて個人的な感情を口にした。
「でも、抱かれたことが、ぜんぜんない男でも、どうしていろいろ、想像できる、女がいるんだろう」
イワナはあられもない姿で我に返った。同時にまざまざと昔の記憶がよみがえってきた。
265 :
腕試し:03/11/07 22:55 ID:fLZjj4C3
高校生の時、イワナは電車に乗って、時折母の実家に遊びに行けるようになっていた。
小さいときは母や、家事手伝いにきていたノノギが、ベンツなどに乗せて連れて行ってくれた。
母が亡くなってからは、ノノギが母親代わりに家事や社会常識を仕込んでくれた。
父が超常現象の研究や取材の旅行で留守のときは、母の実家で祖父と話をしたり、夕食を食べたりした。
ある日、いつものようにリビングで、祖父への取り次ぎを待っていると、一部屋置いた奥の部屋から尋常ではない怒鳴り声がした。
「のーのーぎいー!だからこのビルの負債が、どうしてこんなんなるまで放っとかれたんじゃあ!」
多人数の従業員で、会計係のノノギの夫を責めているらしい。
「会計係は弱みにぎられんなって、普段からあんだけ言ってたろうがあ、ゴルァ!」
「今回の件では親分もめっちゃ腹に据えかねてもいいくらいなんだぞ、ほんとうは!」
「それをどうして叩き出されもせずに生かしといてもらえると思うか!お前の女房がな、身を挺して親分に尽くしてるからなんじゃあ!」
「女房に脚向けて寝られんもんだっちゅうに、それを若いガキのような女に隠し子まで産ませてっちゅうにこのバチ当たりが!」
「いつか天罰食らうぞ!覚悟しとけい!」
266 :
腕試し:03/11/07 23:12 ID:fLZjj4C3
当時はバブルが終わり、誰もが明日に希望を無くし、閉塞感が多くの人の心を覆っていた時代だった。
ノノギの夫は、元は国立大学の経済学部を出て、アメリカにも留学経験のあるエリートである。
バブルには、一度自分で企業も興している。バブルの衰退とともに倒産した。
そのバブルの夢が忘れられず、夢のようなエリート像をいつまでも持ち続け、人にだまされているうちに、イワナの祖父に引き取られたのであった。
男として、要するに非常にだらしないのであった。
人にきゃあきゃあと持ち上げられるのが大好きで、大ばくちのようなビジネスに失敗すると逃げ、次に知り合った人間にまたホラを吹かずにいられない質であった。
267 :
腕試し:03/11/07 23:33 ID:fLZjj4C3
そんなノノギであったが、妻には死ぬなどと言いながら、情熱的に求愛したらしい。
ノノギはまだ夢を見ていた。親分がもっと勢力を広げてくれたら、日本一の組織になってくれたら、バブルなんかへでもないのに。
どんぶり勘定で金銭を数えながらビジネスをして、不況であえぐ一般人に見せつけながら、女の子に喝采されたかった。
くだらないダジャレを言っただけでもきゃあー!と女の子が俺様を求めてくれれば楽しい。
女の子が次々と俺様に抱かれたがり、うるんだ瞳で見つめ、身をよじって憧れてくれると楽しい。
要するに楽したいのである。楽してものすごくいい目を見たいのである。
女の子を口説くのはたるい。作戦を練るのもたるい。
俺様は好きなことだけして、でもたくさんの女の子が俺様を愛してくれるのがいい。
エゴの固まりである。
妻の愛も尊敬も当たり前にそこにあって欲しかったのだ。
でも親分は保守の姿勢を崩さなかった。
「かたぎさんが憲法第九条を守ろうと命張ってる時に、なんで自分たちが血なまぐさいことやって、男気とかに酔わなならんのよ」
時折そういって血気はやる従業員をなだめていた。
従業員の中には、ひきょうな一般人の取引先から弱みを握られたり、作られたりして、屈辱に頑張って耐えているものも少なくはなかった。
268 :
腕試し:03/11/07 23:43 ID:fLZjj4C3
従業員の、古株の有力メンバーにも、親分の方針に納得できない者もいた。
そんな血の気の多い、エゴの強い従業員たちが、闇に隠れてまとまりだし、ノノギの夫も言いくるめていくのは時間の問題であった。
「パスポートとっとけ」
妻にはそれだけ言った。二人で香港に高飛びして、新しい親分たちがほとぼりが冷め、いいと判断したときに戻ってこれると、本気で信じていた。
妻はことを悟った。
書いてる途中で無粋な突っ込みすまんが、
「ノノギの夫」「ノノギの妻」が混じるのはいくらなんでもまずくないかい。
ノノギってリバーシブルな人なんか(W
270 :
腕試し:03/11/08 00:07 ID:hE8lSfmi
高校生だったイワナはそんな大人の事情を何も知らなかった。
ノノギの夫が激しく叱咤されていた日から何日もたっていた。
期末試験が終わったその足で、イワナは祖父の家に来た。
いつもは、イワナのセーラー姿を見て可愛いと褒めそやす従業員たちが、いない。
リビングの大窓からカーテンをわずかに開いて外を見ると、「ゴルァー!」と叫びながら従業員が車に乗って急発進するところであった。
これが戦争らしい、とイワナは分かった。話には聞いていたが、本番の戦争に居合わせたのは初めてだった。
逃げたいとは思わない。祖父の無事をまず確かめたかった。
足音を忍ばせて、寝室のある二回にあがっていった。
寝室のふすまの向こうから話し声がした。
「姐さんよ」
祖父の声だった。
「わしは行かなきゃならねえんだよ。子の暴走を止められなかったのは親であるわしの責任、けじめつけに行かねばならんのよ」
年代物のふすまは、すみずみまでよく探せば隙間が見つかるものである。
イワナが覗いたその先に、自分の母親代わりのノノギの妻が居た。
「罠と分かっていても、親としての筋を通さないとならん事態になったんじゃ」
「親分逃げて・・・・私と逃げてください」
ノノギは、目の覚めるような金色毛皮のコートをゆっくり落とした。
その背中には、イワナが赤ん坊のころからなじんでいた美しい鳳凰が居た。彼女はパンツ一枚であった。
「親分・・・・・お許しください。親分の姐さんが亡くなられてから、私はずっと、ずっと・・・・」
271 :
腕試し:03/11/08 00:10 ID:hE8lSfmi
>>269 ははあ、なるほど。気を付けてみるよ(笑)
またなんか気づいたら教えてくれ。
272 :
腕試し:03/11/08 00:18 ID:hE8lSfmi
「もうええよ。奈良からこっちへ出てたときに、よう付いてきたなと思っとったけど、お前はいっとう金筋の女や」
イワナの祖父はもともと奈良で、自分を見いだしてくれた先代の親分の跡を継いで家業をしていた。
大阪から油断も隙もない勢力が伸びてきて、娘であるイワナの母親が東京で結婚したのを機に、東京の片隅に進出してきたのであった。
第二次大戦直後に率先して働いて作った人脈が生きたのだった。
273 :
腕試し:03/11/08 00:27 ID:hE8lSfmi
「親分を、待ってました・・・・」
「方言がこけにされる土地に来て、黙って耐えて、娘もイワナにも良くしてもらって、お前は最高の身内じゃったよ」
「親分・・・・」
泣いていた。イワナの大好きなおばちゃんが泣いていた。
ふすまから覗くしかないイワナにはよく見えなかったが、そのときその寝室の窓の外がチカッとだけ光った。
妻は迷わず親分に抱きついていった。
チュー・・・・ン・・・・・と金属音がした。
どさり、と音がして、妻の美しい身体が畳の上に倒れた。
鳳凰のど真ん中が貫かれ、赤い血が細い川を作っていた。
274 :
腕試し:03/11/08 00:50 ID:hE8lSfmi
高校生のイワナにも、さすがに妻が何を祖父に求めていたのかは、言葉にしなくても理解していた。
親分は、イワナが聞いたことも無い声で吠えた。
「なんでじゃあぁぁー・・・!!」
その時イワナのセーラーの襟が乱暴に捕まれ、そのまま蹴破られたふすまの向こうに身体ごと押し出された。
「ののぎぃ!?」
夫はイワナに震える手で銃口を突きつけながら絶句していた。
「なんでだよおー!なんでお前が、お前がこんな姿で死ななきゃならんのよおーー!?」
夫の顔は今でも鮮明に覚えている。鬼のようであった。
その頃のイワナは、空手を習い始めたばかりだった。
「うおぉぉぉーーっ!!」
スカートがめくれるのも構わず、夫の隙をついて後ろ回し蹴りを決めた。
まだ格闘用に身体を鍛えていない時期だった。蹴りを入れた足が猛烈に痛んだ。
二発目は出来ない、そう思ったとき、ドン、と腹に響く音がして、夫の太股に親分の弾が当たった。
イワナは夫の手首を踏みつけて銃を放し、親分の方へ蹴った。
二丁目の銃は持っていないらしかった。イワナはわあわあと泣きながらむちゃくちゃに殴って蹴った。
「そんなにかたぎの弱みにつけこみ続けたいか!甘い汁ばっかり吸いたいか!人の隙や不正を喜びたいかコラァ!この悪魔!どあほぅ!男の中のクズ!」
夫の顔が鼻血でびしょびしょになった頃、イワナは堰を切ったようにわあぁぁぁぁーーと泣きながら、親分である祖父に抱きついた。
祖父は黙ってイワナを抱きしめ、背中と頭をなでつづけてくれた。
祖父の背中は窓に向けられていた。
窓を背にしても、豪華に光る調度品などの様子を見て、長年の勘で悟った。
イワナはいきなり壁際へ突き飛ばされた。次の瞬間・・・・。
チュ・・・ーン・・・寝室に、三人目の血が流れた。
275 :
腕試し:03/11/08 01:01 ID:hE8lSfmi
イワナは走馬燈のように、わずかな時間で一連のことを思い出した。
『ノノギのおばちゃん』は、待ちながらずっと祖父に愛される夢を見ていた。
祖父は権力者だから好かれたわけではない。たぶん。
「男」として愛されたと言えるのではないだろうか。
でもこれをどうやってこの変態宇宙人に教えようか・・・・。
未熟だ!やっぱ私、女として未熟だなあ!
顔を上気させて、官能の反応を味わいながら、イワナはひとつ、結論を出した。
276 :
腕試し:03/11/09 22:24 ID:Fazu7jhH
彼が去った後、畳の上には一台のアコースティックギターが出現していた。
(ギターと話するの・・・・・)
イワナが彼と会話したいときのために用意してくれた、スピーカー代わりの物体である。
ギターと語り合う自分を想像しただけで、イワナは重く落ち込んでしまった。
(お母さん、おばちゃん、寂しいよう。寂しいよう・・・・・)
大宇宙の星空がエンドレスで見られる窓の窓辺で、イワナは目が潤んでくるのを止められなかった。
277 :
腕試し:03/11/09 22:54 ID:Fazu7jhH
しばらくイワナはめそめそしていた。
ふと気づくとイワナを後ろから彼が抱きしめていた。
部屋の照明は相変わらず、わずかに薄暗い程度にしぼられている。
「しらべていて段々分かってきた。地球の愛の特徴が」
彼は話し続けた。
「ホームシックにしてごめん。周りの人のことを次々思い出しているみたいだね。詳しくは分からないけど」
「・・・・・なんでもよくお見通しなのね」
「非常に不思議なのは、時折自分の遺伝子情報が全然残らない、自分に近い種族の繁殖にも繋がらない無償の行為をする人間がいるってことなんだ」
「すごいわねー。あなた、言葉をとぎれとぎれにしないでしゃべれるようになってきてる」
「うん」
彼は当たり前に返事をした。まるで何時になりましたよとか、ポストは赤いですねとか、そういう当たり前すぎることを言ったかのように、ドライに返事をした。
「言っとくけど、無償の愛がなければ人類は今まで生きてこれなかったからね」
「ふーん・・・・」
「でもね、無償の愛っていうのも抽象的で、理解や継承がすごく難しいの」
イワナの父はイワナに、昔宇宙へ向かって打ち上げられたあるロケットの話をするのが好きだった。
当時の最先端科学を全てつめこんで、超合金の板に地球の情報を、図解できざみいつか宇宙人に拾ってもらい、返事をくれるかもしれないという企画だった。
ロケットは延々飛び続けてどこにも落ちないかも知れない、落ちても、そこが未進化の星だったり、生物のいない星だったら意味がない、とイワナは反論した。
ブラックホールに吸い込まれたら一貫の終わりである、とも言った。
でもいいのだ、と父は言った。
宇宙人から返事が返ってくる確率というのも、数字で聞かされた。いくらだったかは忘れてしまった。
そういう途方もない実験に、大金を注ぎ込む意義はあるわけだし、スポンサーをほんとうに説得してしまった人間がいるからこの実験は実行されたのである。
人間とは、どうしてもどうしても、時々非合理的なことをやるように出来て居るんだ、と父は言った。
一人が無茶をやめても、まただれかがばかばかしいことをやる、どうしても止められないんだ、と父は言った。
どうして?とイワナは詰め寄った。
アダムとイブが知恵のりんごを食べてしまったからなんだ、と父は答えた。
278 :
腕試し:03/11/09 23:06 ID:Fazu7jhH
イワナはこの話をとつとつと、彼に話して聞かせた。
彼は長い間考えていた。
「あなたのやっているコレクションも、実はすごくばかばかしいことで、あなたの星の人にとってすごく価値のあることじゃないんじゃない?」
イワナは窓に目を向けたまま言った。
「もちろん想像で言ってるだけだけどね」
彼は、そこで再び、自分のことを語りたくなったようだ。
「聞いてくれる?」
279 :
腕試し:03/11/09 23:08 ID:Fazu7jhH
業務連絡。書きかけの人とか、書きたい人、いる?
いやー、すみませんネ(ワラ)!気づくと結構続けさしていただいて!
280 :
腕試し:03/11/09 23:24 ID:Fazu7jhH
イワナが腕を組んでもたれている窓が、きしみ音もなく開いた。
そしてそこは映画館のようなスクリーンになった。
「自分の、星」
画面に丸い惑星が映った。白銀の真珠のように、一面光っている。
地球は大気に覆われているけど、ここは氷河期のような氷に覆われていて、その氷の下に空洞が出来て、生き物が住んでいる」
「だから進化の過程で寒さに適応できないものは生き残れなかった。先祖は、確実に生き残る手段として、クローン技術を完成させた」
その後、星の冷却は進み続け、長い時間を経て、生殖機能が退化してなくなってしまった。
そして、彼らの星は現在クローン技術で生き物が生きながらえている。
それでも、遺伝子の混合も技術的には可能である。
もともと生殖機能が退化する前でも、遺伝子は男女きっちりフィフティフィフティに合わさって、子孫が作られる仕組みであったからだ。
281 :
腕試し:03/11/09 23:31 ID:Fazu7jhH
業務連絡。上記の6行目の 」 はいらないね。(。)だね!すみませんネ!
それでも、生物たちは自分の新しい子供ではなく、クローンを欲しがった。
何故なら、恋愛や結婚などの「契約」が面倒くさくなったのだ。
我が子といえど、自分と違う人格は「他人」である。
それ相応の節度を持ち、尊厳を守り、適切な教育をしなければならない。
そんな暇は無くなってしまったのだ。
282 :
腕試し:03/11/09 23:43 ID:Fazu7jhH
そして生物たちに神経症が流行り始めた。
この星の生き物にも、生殖器官があった頃の名残として、頭にはエクスタシーを感じるための快感許容量の余地があったのだ。
仲間との繋がりがないストイックな生き方の中で、免疫が落ち続け、低体温が悪化の一途をたどる。
その病気の新薬、または医療機器を発明すれば、星全体の役に立つ。
そうして研究されたデータが、赤いルビー色の記憶物質に入れられたのであった。
「だからただの趣味ではないつもりなんだ。でもこれを作ったのは、いわば自分の父親にあたるものなんだ」
「えっ、じゃああなたにはお母さんも・・・・・」
「いる。正確に言うと二人いる」
「二人!?」
「遺伝子をもらった母親と、その母親を選んだ母親がいる。複雑だから理解しなくていいよ」
「え、聞きたい・・・・・・」
イワナはスクリーンに向かって目を見張り、好奇心全開にした。
283 :
腕試し:03/11/10 00:10 ID:oaUW5zKZ
彼はイワナが聞きたがっていることからは話をそらした。
「ともかく自分はただの純粋な、試作品遊びをしていると思ってくれていい。地球の男の子がベットの下に官能的な本を隠していたりするのと同じ次元で考えてくれ」
エッチ雑誌と宇宙船を同じ次元にして考えろと彼は言う。
「今まで言った星ですごかった星」
今度は赤黒い色の惑星であった。
「身体を見るとどう見てもオスとメスなんだけど、することやパーソナリティーが全く逆の星」
だから、メスをデータ収集相手に捕まえても、人格は全く男なのでかなり面食らったという。
次は土星のように星の周りに輪がかかっている星だった。
「メスに不思議なくらい生産能力が無い星。学問やビジネスをすると重病にかかってしまう。でも知的に高い。今、それを生かす方法を医療的に研究している」
能力向上によって身体に発生する拒否反応を抑える研究が進んでいる。
でもメスの社会進出の賛成派と反対派がみごとに別れて、一触即発状態になっていもいる。
「生産出来ない分、メスのエゴが強くて極端。地球で言うホルモンが暴走状態になってきていて、環境破壊が原因だとかいろいろ言われている」
だから虚弱なメスは初潮が来ただけで集中治療室に入る例も出てきた。
一目惚れや片思いが始まっても、体質的にエゴが強いメスは相手のオスを殺してしまう。
そうしないと精神的に破壊されてしまうからである。
合わないメス同士の確執はもっと悲惨で、その執着の仕方は核兵器級という。
めでたく相思相愛で結婚しても、いつオスもメスも殺されるか分からない。
なぜモラルや秩序がなかなか出来ないかというと、最後は「子孫を残さなければならないから」という課題が立ちふさがるからであった。
284 :
腕試し:03/11/10 00:37 ID:oaUW5zKZ
非常に珍しい形で、ドーナツのように中央が空いた状態の惑星もあった。
「地球で言うタツノオトシゴのような、無性別な生き物の星」
年に・・・・地球は公転が一回りで一年。この星も彼方の親星の周りを公転しているのである・・・・に一度、繁殖期がくる。
出生児は全部オスである。繁殖期になると、一部のオスがメスに「変性」する。
進化が進む前は、「変性」するオスは何故か自然に決まっていた。
進化するにつれ、オスメスどっちになれるのが名誉かという論争に発展し、それは今でも続いている。
義務教育の中で、幼いうちから自己決定権について教育し、成人までに各自決めなければならないことが法制定された。
そして成人後は、一切の不公平を無くすために、オスは兵役、「変性」予定者は・・・・・
彼は言いづらそうに、しばらく言葉を選んでから言った。
「繁殖期に、初体験することが義務づけられた」
成人前にパートナーを作れなかったものは、自分で相手を探して指名して、公的機関を通して「初体験」だけを申し込むこともできる。受け付けたオスにはそれなりの特典もあるらしい。
パートナーと死別したオスにくっついても良い。
繁殖期が終われば全員がオスに戻り、対等な関係で働く。
でも社会問題は起こる。
繁殖期が終わっても、次の年もその次の年もずっと特定のパートナーを求めるものと、特定するのが嫌なものがでてきた。
また、病気や事故で身体に変調をきたし、「変性」予定者を辞めたくなったり、また予定者になりたいという途中変更希望者が現れているのだ。
285 :
腕試し:03/11/10 00:55 ID:oaUW5zKZ
最後に、画面には青く美しい地球が映った。
「でも神経症やストレスがすごいのは、やっぱり地球だね。人格障害とか種類も複雑」
「2ちゃんねるとか見たからそう思うのよ」
「そのわりには戦争が徐々に減ってきている。モラルの意識が強まってきている。精神を病む人が多いのは外へエゴを出すのを自粛するからだ」
決して平和な星ではない。資源をあまり大切にする様子も無い。
「なんていうか、ぐずぐずしている星。でも、その分動植物や細菌の多さも断トツで、研究のしがいがあるんだ」
「住むとしたらどこに住みたい?」
「それはしない」
「何故?」
「昔、ある星が戦争を無くすために、自分の星のクローン技術を欲しがったことがあった」
彼らにはまだ生殖機能があった。氷の星は、進化を諦めないよう忠告した。
結果、クローン導入賛成派と反対派の衝突が激化、戦争が起こって星ごと消滅してしまった。
「もうあんな思いはしたくない。だから地球とはとくに関わりあいたくないんだ。近くを飛んで、ヲタク遊びをしているのがとても快適なんだ」
286 :
腕試し:03/11/10 01:21 ID:oaUW5zKZ
「孤独にならないの?」
「それも今の研究テーマの一つでね、地球人の帰属意識について調べて、自分の心理分析をしたいんだ」
「単純に寂しい、とかは思わないの?」
「君が来てから、すごく安定してる。これだけは言える」
彼は、日本の男の子なら滅多に言わないような言葉をさらりと科学者的に言った。
「あなたの仲間はどこ?あなた一人じゃないはずよね?」
「ああ・・・・」
彼は言葉を探してから言った。
「仲間はもっと巨大な母船にいる。でもこことは次元を越えた空間で繋がっているから、いつでも出入り出来る。いわば、鍵を自分が開け閉めできる子供部屋。親が来たらノックして、入れろって言ってくるだろう?」
彼は、手術設備の整った個人宇宙船と、エッチ雑誌を隠したベッドやゲーム、学習机がある子供部屋を、一緒に考えろと言う。
「思いついた」
彼は淡々と言った。
「旅行に行こう。バーチャルの。世界中どこにでも行けるよ」
「ほんとう??そんなことできるの!?」
イワナの声が裏返った。
「じゃあお母さん出してー!情報無かったら私教えてあげるから、バーチャルのお母さん作ってー!」
「それは・・・返事は待ってくれ!」
彼は珍しく慌てた。
287 :
腕試し:03/11/10 01:45 ID:oaUW5zKZ
地上のイワナの父親は、『左京事務所』の看板の下にいた。
父は見つけた。
整理されていない膨大な母の遺品の中から、一通の封書を。
『将来、イワナのことで重大なピンチがきたら開けてください』
と表には書かれていた。
中には一枚の真っ白な便せん。それにここの電話番号が記されていたのだ。
母と、ノノギの妻の署名、血判がしてあった。
受付で待たされながら掲示物を何気なく見た。ここは興信所であるらしい。
左京事務所の所長、妙子は父の話を聞き終わった。
肉付きの良い大きな身体。金髪。貫禄のある化粧と煙草。
父は土下座しながら嘆願していた。
まず一つはイワナを探すためにインターネット設備を使わせて欲しい。
もう自分のパソコンからは情報が宇宙人に筒抜けなのは明らかであるから。
次に、興信所の探偵技術で、地球外生命体とのコンタクトを取れる人物を捜して欲しいこと。
次に、自分は喧嘩の腕が無いので、拳銃を一丁欲しいこと。
最後に、拳銃の撃ち方始め、駆け引き、脅迫、取引などの技術を教えて欲しいこと。
「お願いします。自分の全財産を持ってきてます。お願いします。信じてください。娘のために命賭けたいんです。でもどこにどうやって賭けたらいいか、わからな過ぎるんです」
「・・・・・・マコトはん。話はよおーく、分かった。あんたの伝説は、ノノギの姐さんからよう聞きました」
288 :
腕試し:03/11/10 02:09 ID:oaUW5zKZ
「伝説だなんてそんな・・・・」
父が恐縮していると、奥から男の声がした。
「カフェ?オァ、ティー?オァ、サムシィング?」
父は世界を飛び回る研究者であるが、英語の質問は予期していなくて驚いた。
「アー、アイスウォータープリーズ。サンクス」
「あーっ、はっはっはっはー!ああおかしー!マコトはん、こいつうちの亭主やって何年経つと思いますのん?日本語はもうエロ用語までぺらぺらや!だまされとんのー!おかしーわ!」
奥からアジア顔の夫が出てきた。
「ナイストゥミートゥ。初めまして」
「・・・・・・初めまして」
妙子に大笑いされながら、二人は挨拶を交わした。
「マコトはん、こいつ、うちに捕まるまでは何してたと思います?」
「さあ?」
「香港で天才ハッカーやって世界をおちょくったあと、何もかも忘れたくなったいうて、出家してたんよ!寺に入ってたんよ!」
ネットの裏をかいくぐるのに、強い味方ができた。ほんとうならここで頼もしいことを言って、先方を持ち上げるのが常識的な流れだろうが、マコトは一般社会の乗りにうといので、ただただあっけに取られるのみであった。
「何もかも忘れたいのはうちも同じやった。元亭主は」
妙子はここで、奥の夫には聞こえないように声を落として言った。
「あの抗争の後、銃器不法所持、発砲で捕まって、それはいいんやけど。仕方ないんやけど、やけどな、獄中で目覚めやがったんや」
黙ってうなづいていればいいことを、父は正直に聞き返した。
「何にですか」
「お と こ に や !」
ここで初めて父は(しまったあ!)と思った。この純朴さ、鈍さでは大人の喧嘩は無理であると、父自身も妙子も思った。
「飲も!昔の話、したいわあ。マコトはんとお嬢さんのなれそめは、この顔に似合わずそりゃあすごかったというやないの。座りぃ!」
3つ出たグラスになみなみと焼酎がつがれた。
最近寂れてるな・・・保守
…このスレ好きだったんだけど…疲れた
291 :
腕試し:03/11/11 21:03 ID:rYpNBoYd
業務連絡
>>289>>290 やあ、わりぃわりぃ(ワラ
自分としてはなんとなくラストが見えてきてるんだけどね。
だからこれエンドレスじゃあないんだよ。
宇宙人の名前もどうやって出そうか見えそうだから、いちおまだ応募受け付けてるし。
ただワンクッション置くから、面食らわないでね。
こういう場合、経験者はどうするの?このスレの作家さん先輩、アドバイスプリーズ・・・・・(汗
今夜はネットとは別件で、疲れすぎた。ごめんね。おやすみなさい。
>>291 最初妙に卑屈だったのに、だんだん調子に乗ってきたのか
かまってちゃんの貴方の姿勢に大きな疑問。
…名前応募してんのかい…
全然エロもないし、マジなのかギャグなのかよくわかんない。
そろそろ言ってもいいですか?
>291
このスレのタイトルを声に出して100回読んで下さい。はい。
「 お ん な の こ で も 感 じ る え っ ち な 小 説 」
よくかみしめてから来い。
さっき書き忘れた事。
長すぎるよ…読む気起きない…
295 :
名無しさん@ピンキー:03/11/12 00:20 ID:aeZQGtd5
女の子でも感じるんなら、男なんかビンビンじゃん
296 :
罠:03/11/12 01:25 ID:MDnpKHi3
年末に向けて、仕事は忙しくなる一方だった。
残業ばかりの日々で、久しく女遊びもしていない。
言い寄ってくる女も何人かいるが、社内の女は面倒で手を出さない主義だ。
そろそろ欲求不満も限界点に達するかもしれない。
ほとんど照明を落としたオフィスで煙草をくゆらせながら、ひとりPCに向かう。
山積みの仕事に苛ただしさがつのる。
眉間にしわを寄せた表情が固定しそうなくらいだ。
その時、廊下にかすかな足音が聞こえた。
「?」
誰だ、こんな時間に。
さっき守衛のおっちゃんが、もう残ってるのは俺一人だと、
あきれたように笑っていったはずだが。
297 :
罠:03/11/12 01:25 ID:MDnpKHi3
その時、地味な女が姿を現した。
かすかな灯りの中に俺を見つけて、かなり驚いた様子だった。
「…っ、桐生さん」
誰だ、この女。
見覚えはあるんだが、とても喰う気になれない女は、俺の記憶の中にはほとんど残らない。
えーと、確か、同じ部署ではあるが…
「あぁ…えっと、ナカジマさん、だっけ?」
おぼろげな記憶を辿る。
「いえ…あの、鹿島です。カジマ。」
ぼそぼそと俯き加減に答える。陰気な感じの女だ。
俺の苛つきが余計増す。
ほとんど接触を持った事のないこのつまらない女を、しげしげと眺めた。
いつも顔がよく見えないように俯いている。
肌が荒れて、化粧もほとんどしていないようだ。
野暮ったい眼鏡をかけて、髪も中途半端な長さのまま、おかまいなし。
服装もブランドなぞとは縁遠い、印象にも残らない、
体のラインをすべて隠すようなものだ。
この女、本当に『女』なのか。
「あ、そう」
何の興味もなく、PCに向かう。
こんな女、かまってられるか。
「す、すみません、忘れ物しちゃって」
しどろもどろに言い訳をする。そんな事、俺の知った事か。
おびえてこちらの様子を伺うように、おどおどと歩く。
イライラする女だ。
その時、俺の中で凶暴な衝動が走った。
『この女を滅茶苦茶にしてやりたい』
298 :
罠:03/11/12 01:46 ID:MDnpKHi3
俺の横を通り過ぎる時、その手首を掴んだ。
鹿島は驚いて振り返ったが、何が起こったのか理解できないという表情だった。
そうだろうな。
この女の人生の中で、こんな事が起こった事なんてないだろう。
不味そうな女に手を出すのは自分が情けなく感じるが、
この際性欲のはけ口になってもらおうか。
デスクに押し倒す。
それでもまだ自分の状況が分かってないようだ。鈍い女だ。
両手を頭上でひとまとめに押さえて、片手で自分のネクタイを外す。
その動作を見て、やっと何が起こったのか理解したようだ。
「っ、きりゅうさんっ、離してくだっ…んぐぅ?!」
「騒ぐなよ、厄介だから。それとも大声出して人呼んで、こんな所見られたいのかよ?」
外したネクタイを口につっこんで、吐き捨てるように言ってやった。
女の顔が絶望的に歪む。
その表情に、初めてこの女に興味を覚えた。
「いいね、その顔。興奮する」
タダの陵辱ネタじゃないのなら(;´Д`)ハァハァかも。
300 :
.:03/11/12 07:15 ID:eibWTA1M
新種の荒らしが出没してるスレは、ここでつか?
>291
正直に言うと、あなたの作品、このスレの趣旨にはあまりあってないかも。
他にもっと適したスレがあると思うんだけど?
>>291 オフラインオンライン共にいろいろで、お疲れ様です。
ただ、腕試しに2chに見てもらいたかったら、
もっとシンプルに需要(スレ主旨)に合った作品を投下した方がイイと思う。
本格ミステリは、ここではない別の人が供給を待ってますよ。
304 :
腕試し:03/11/12 19:56 ID:uQMulT3G
こんばんは。
>>292〜
>>295と
>>299〜
>>303のみなさんのお言葉を受けて今後を検討中。
何日くらいかけて検討するかも分からないですね・・・・・。
人生長いから、検討する時間は山ほどあると思ってる。
ずっと前によそでね、スレが荒れていく前例をロムして見てたのよね。
教訓。(学んだと言ってもまだまだ自分は未熟者でしたね。この2ちゃん世界はディープ)
低姿勢過ぎても、謙虚にみなさんのご意見伺いし続けても、煽りさんたちの刺激になることが分かってた。
分相応に礼を尽くしてお詫びしてから去りたいけど、簡単に。
楽しんでくださったかたたち、ありがとうございました。
気を付けたかったのですが、目立ってしまい、すみませんでした。
どうぞ次の作家さんたちは、温かく応援してあげてください。
「本格ミステリ」優しいお世辞入りでしょうが、もったいない評価ありがとうございます。
「二人とも長編書き〜」情報ありがとうございます。おかげさまで今後を前向きに考えられそうです。
>腕試しさん
もつかれー。
お話自体は結構好きだから、別のスレででも続き読めたら嬉しいな。
>296-298(罠
イントロ好感触。面白くなりそう。罠ってもしかして……?
続き期待してます。
>腕試しさん
お疲れ〜!
私もこのお話そのものは好きだったけど、ちょっと出口が見えない感じだったのが
もたつきの原因かも。
特にここは女性の抜き目的スレ的性質があるから、合わない向きに反発されたのかもね。
ちょこちょこと更新するタイプなのでしょうけど、次に投下する際は「今回はここまでです」と一言入れると、レスをしたい人もレスをつけやすくなるかも。
あくまでこういう場で発表するなら、書き手と読み手とのコラボレーションみたいな
交流があった方が面白いと思うので。
>腕試しさん
もしかしてSSコンペスレが腕試し的スレに変わるかもしれないですよ。
ただここのルールは完成後の投下なので、そこのところ注意ですが。
コンペスレなんてもう死んでるじゃん
死んでいるから、初心者向け批評スレに生まれ変わらせようという企画が持ち上がった。
でも反応がほとんどないみたいだね。
このスレを?
え、このままじゃ駄目?
かなりイイ…
こちらにはお初です。
タイミングが良さそうなのでコソーリ投下します。
うー、どきどきする。
思い切り足首を捻った。転がっていたスプレーペイントの缶を踏んでしまったのだ。
全くもう、文化祭直前の校内は、普段そんなところにあるはずの無い物がゴロゴロしている。今日はこの後出かける予定だし、腫れあがる前に湿布をしておきたいけど、職員室の救急箱に湿布薬は入っていたっけ?
悔しいことに、しょぼい救急箱には小さい絆創膏と包帯しか入ってない。やっぱり夏休み中は備品が整わないよね。仕方ない、ちょっと遠いけど保健室まで行こう。
そう思ってキーボックスを見たら、保健室の鍵がなかった。誰か使ってるのかな? こないだみたいに体育の先生がうっかり持ち帰ってしまったんじゃないといいんだけど。
とにかく湿布はしたいので、私は捻った足首を庇いながら保健室に向かう。
ウチの学校は9月に文化祭をやるから、夏休みの終わりはそれぞれの展示物の制作追い込みで生徒たちが沢山来ている。
しかし下校時刻を過ぎたこの時間はさすがに残っている生徒はいなくて、校内は妙に空っぽな感じがする。
文化部と違って運動部は外で活動するところが多いから、体育館の手前にある保健室へ向かうにつれてどんどん寂れてゆく感じ。
こういうとき、出校当番に当たっているのがもの悲しく感じるのよね。それに新米教師の頃とは違って、3年目ともなると一人でやらされることも増えてくるし。
保健室からは明かりが漏れていた。良かった、開いているんだ。
「あれ? 先生どうしたんですか?」
コンコンとノックをしてドアを開けたら、中に居たのは私が副担任をしているクラスの田口崇だった。
上下とも藍色の剣道の格好をしている。久しぶりに見ると、1学期の終わりより随分背が伸びているみたい。
「田口君こそどうしたの、剣道部は文化祭当日の招待試合だけでしょう?」
「ああ、これ? 俺、今度、昇段審査を受けるんで、自主特訓」
そう言えば顧問の先生が言ってたっけ、3年生で田口だけが3段を受けるって。
「ああ、受験資格があるんですって?」
「そうなんですよ。俺、中学の内に2段取ってるから。それはそうと、先生、脚をどうかしたんですか?」
「ええ、捻っちゃったの。湿布しといた方が良いかと思って」
「判りました。診せて下さい」
へ?
「なんで田口君が……」
「先生はあまり保健室に縁が無いでしょう? 俺なんか、打ち身捻挫は剣道の友ですからね。どこに何があるか、どんな手当てが必要か、大体知ってるんです」
納得して良いのか悪いのか、とにかく田口の指し示す壁際の丸椅子に座る。
この子って委員長タイプじゃないし騒ぐタイプでもないけど、なぜかクラスのみんなに一目於かれてるのよね。
こういう風に、有無を言わせず納得させられちゃうところがあるからかしら。
その間にも田口は迷わずに引き出しを開けたり閉めたりして、湿布薬、ガーゼ、包帯を用意している。
「手際が良いのね」
「慣れてますから、それより先生、言いにくいんですけど、ストッキングを脱いで下さいよ」
あ、ああ、そうか。ストッキングの上からじゃ湿布は出来ない、けどさ。そういうこと普通に言う? 男子校の3年生って。
「いいわよ、田口君。私自分でやれるから」
私の言葉に田口はキッと睨んできた。
「先生、足首の捻挫は軽く見ると後で響きますよ。それに俺、慣れてますから」
「捻挫の手当てに?」
「じゃなくて女の人の脚を診るのに」
ど、どういうこと!?
私の内心の動揺に頓着せず田口は私の前に座って脚をつんつんする。
「俺の家は、姉3人、母一人、祖母一人、父一人、の女系家族ですからね。女の人の生足だの風呂上がりの生乳だの見ても、今更びくともしませんて。はい、脚」
「判ったから、後ろ向いててよ。私は見られるのになんて慣れてないの」
言ってから、こっちも後ろを向いて捻った方の脚からストッキングを抜き取る。
「先生、パンストじゃないんだ」
片方だけ素足になった私を見て最初のセリフがそれ。まったく、この子は! どうしてそういうところに気が回るかなあ。
そう言えば下ネタをいやらしくなくさらっと言えるの、以前からなぜだろうって思ってたけど、そうか、女に慣れてるんだ。
私の前の床に座ると、足を膝の上に乗せて足首の痛いところを確かめながら、田口は手際よく湿布して包帯を巻いてくれた。
「有り難う、助かったわ田口君が居てくれて」
お世辞じゃなく御礼を言う。本当にきれいにピタッと巻いてくれたんだもの。
立ち上がって、ストッキングをはこうかどうか少し考える。田口の目の前で穿くのはちょっとアレだし、片方だけ素足で職員室に戻るのも誰かに見られたら嫌だし。それより、ねえ、ちょっと。
「田口君……、あの、……離れて」
一緒に立ち上がった田口は160センチの私が見上げるほどに背が伸びていた。1学期はこんなじゃなかったのに。
「嫌です」
嫌ですって、ねえ、あの・・・。
「千載一遇のチャンスだと判断したんですよね。これを逃したら男じゃない」
千載一遇って、なに?
「先生、ヴァージンじゃないんでしょ? 教えてよ、俺に……」
な、何を言い出すんだ、仮にもここは学校で、私は教師であんたは生徒。ちゃんと判ってる?
それにヴァージンじゃないけど、卒業するときに郷里に戻る彼と別れてから3年間、男っ気無しなのよ。他人様にお教えできるのは現国だけなの。
それに7つも下の男の子の手ほどきなんてしたことあるわけ無いじゃないの。
それに、えぇーと、そうだ映画を観に行くの!
「俺の童貞を奪って下さい」
田口、目が真剣すぎ。顔の横の壁に片手をつかれただけなのに私は動けない。何か言って気を逸らさなきゃと思うのに、その時私が考えてたのは、今着けてる下着はどういうのだったっけということだった。
「逃げないんですか?」
逃げたら、逃げたらあんたが怖かったって認めるようなものじゃない。
「俺これ以上自分を抑えられないですよ」
田口、それこんなに身体を密着させて、唇と唇の距離が10センチ切ってる状態で言うセリフじゃないよ
そこまで迫っておきながら、最後の一歩を踏み出さない田口に私の方がじれた。
「田口くん……」
呼びながら頬に手を掛ける。そのまま顔を引き寄せて唇を重ねた。
田口の肩が強ばる。
何度か啄むように口づけを繰り返し、離れるたびに少しずつ唇を開いていって息を吹き込む。何度目かで田口の唇をぺろっと舐めた。
「口を開いて……」
素直に半開きにした口の中に舌を滑り込ませる。
唇の裏側の濡れてるところをちろちろ刺激してから、歯茎を舐める。
ようやく田口の方からも唇を押しつけてきた。
不器用に動く舌を擽るように舐めてやる。大胆になってきた田口の舌が私の口の中に侵入してくる。
キスなんてものすごく久しぶり。
いつの間にか田口の手が私の腰を掴んでる。もう片方の手が背中をさすり上げる。
なんで? 不器用なディープキスをして身体を抱きしめられるだけでこんなに気持ちいい。
私はキスに夢中になっていた。田口のキスはどんどん柔らかく大胆になってきて、二人の息づかいが荒くなってくる。固く抱き合って唇を貪り合うキス。
「駄目!」
先に音を上げたのは私の方だった。
田口の胸に手を当てて身体を押し離す。でも田口の方が力が強い。
「教えてよ、先生」
「だって、誰かが……」
言った瞬間、墓穴を掘ったことに気づいた。誰も来ないのなら「いい」って言ったも同然じゃない。
黙って私から離れると、田口は窓のカーテンを閉めた。
私が机の上に目をやっているのに気づいて、そこを見る。
机の上には「保健室」と青い札のついた鍵。
この部屋を外から開けるための鍵。
何も言わず、田口は扉のラッチ錠を掛ける。
ついでにドア横のスイッチを押して明かりを消した。夏の夕方はまだ外が明るいけど、カーテンを閉めた北向きの保健室は薄闇に包まれる。
「誰もいないはずの部屋に明かりがついてちゃ怪しまれますものね」
冷静すぎない? あんたって。
私の表情を読んだのか、田口が照れくさそうに笑った。
「言ったでしょ、千載一遇のチャンスだって」
「どんな風によ」
「人気のない学校、教室から離れた保健室に、入学したときから気になっていた女教師と二人きり。鍵がある。ベッドがある。ついでにこういう物も」
田口の手にあるのは銀色の平らな四角い袋だった。
いくらなんでもそれはないでしょう。
「な、なんでこんなものを持ってるの」
「保健の篠崎せんせがね、高校生は不純異性交遊をするには早いなんてお伽噺より、きちんと避妊できる男を教育すべきだって、引き出しに入れてあるのを見たことがあるんだ」
ふっくらした肝っ玉母さんの篠崎先生。保健医の鑑かも。
田口が私を抱きすくめて唇を求めてくる。
私も田口に背中に手を回す。
二人とも躊躇わずに舌を絡め合う。
「ずっと考えてた。先生が入ってきたときから。色んな可能性を考えてた。これを見つけたのが最後の一押し、かな? 千載一遇、こういう使い方であってるでしょ?」
「田口くん……」
「先生、俺、これでもういっぱいいっぱいなんだ。この後どうするのか教えてよ」
教え、られるか? 私に。ええと・・・。
「脱がせて」
白衣はボタンを掛けずに羽織っているだけだった。
田口が慎重な手つきで白衣を肩から落とす。
その下は薄いピンクのシルクのキャミソール。ストラップレスのブラ。
キャミの細い紐が肩から落ちる。こうして肩を剥き出しにされる感じって身体が火照る。
田口の大きな手が乱暴に胸元を引き下げブラを剥き出しにする。
白いレースのついたハーフカップのブラジャーも押し下げて乳房がぷるんと零れ出る。
「さわってもいい?」
返事の代わりに田口の方へ向かって胸を突き出す。
おそるおそると言う感じで田口の手が乳房を包んだ。ひんやりした手と長い指先の感触。
「してみたいようにして」
田口の手がこわごわと乳房を揉む。
「柔らかい。なのに押すと元に戻っちゃうんだ」
「先っぽ、摘んでみて」
言われるままに乳首を親指と人指し指で摘む。まだ柔らかいままのそれを押し込んだり擦ったりして感触を試している。暫く夢中になって弄っている内に、不意にぱくっと口に含んだ。
「あっんっ」
気持ちいいっ。この感覚。
一気に堅く立った乳首に田口は夢中になった。舐めたり吸ったり一所懸命にむしゃぶりついてくる。
田口のさらさらした髪の毛に手を絡ませながら、私はもう立っているのが辛くなっていた。
「ね、ベッドに行きましょう……」
二人でもつれるようにベッドに向かう。3つ並んだ中の一番奥のベッドに辿りつくと、田口がベッドカーテンを閉めた。
途端に薄暗い親密な密室が出来上がる。
ベッドに腰を下ろした体勢でそのまま仰向けにのしかかられる。
田口の体重を半分感じて、相手の大きさと重さに改めて気づいた。
この年頃の男の子の2年半の成長はすごいんだ。
左右の乳房に夢中になっている田口がたまらなく愛おしい。おっぱいが出るなら飲ませたいくらい。
「全部脱がせて」
言われて田口は我に返ったらしい。
「ごめん、俺、夢中になっちゃった。姉貴たちのおっぱいと全然違うんだもん」
もう! こんなときに例えお姉さんでも他の女と比べたりしないでよ。
キャミソールを頭の上から抜き、ブラジャーのホックを少し苦労して外す。
スカートのホックを探す田口に手を貸してやると、ファスナーは簡単におろしてそのまま太股に押し下げた。
田口が息を呑むのが判った。今日のストッキングはガーターベルトで吊るタイプだったので、スカートをおろすとあとはブラとおそろいの白いレースのショーツ、そしておそろいのガーターベルトだけなのだ。股間から愛液が溢れてクロッチ部分を濡らしているのは判っていた。
「これ…も……?」
「貴方が脱がせて」
田口の冷たい指が腰にかかる。ショーツのサイドに手を掛けてこわごわ引き下ろしてゆく。
私のアソコはこの子の目にどう映るんだろう。
スカートと一緒にショーツを脚から抜く。
「もっと明るいところで見たかったなあ」
何かを堪えるみたいな囁き声の田口にちょっと感動しちゃった。
「貴方も、脱いで」
「脱がせてよ」
体を起こして、ベッドの縁で向かい合う。
剣道の胴着、紐だらけなんだもの。
蝶結びの胴着の紐を解くと内側にもう一つ紐結びがあった。それも解くが、裾が袴できっちり締められてるから簡単には脱がせられない。取り敢えず前で結んである帯を解こうとしたけど、どう結んであるのか判らない。
「どうなってるの? これ」
田口が笑って自分で解いてくれた。袴の紐を解いたところで胴着の隙間に手を滑り込ませ、胴着を肩から落とす。日に焼けて筋肉のついた、でもどこかほっそりしてる上半身が現れた。
「下も脱がせられる?」
からかうような口調で至近距離で囁く。
我慢できなくなって唇を塞ぎながら手で下着を脱がせようとしたのに、あれ? 何? これ?
「田口君、ふんどしなの?」
いちいちこっちの予想を超えたヤツ。
「稽古着の時だけだよ。解き方判る?」
わかんない。わかんないけど田口の物がものすごく太くて堅くなってることだけは判る。
こんなにしちゃって、この子は・・・。
解けないって言うのが悔しくて、薄い晒しの布越しに田口のペニスを頭から加えた。
独特の汗くささと藍染めの胴着の匂いがする。
「! せっ、先生!!」
うろたえたって駄ぁ目。
唾をたっぷり乗せて布を湿らせるようにして堅くなってる物をしごく。脇の隙間から指を滑り込ませて、ペニスに引っぱられて堅く引き連れてる袋を弄ぶ。
「ぅわっ」
妙に幼い声を出して田口は射精した。
布の中に出しちゃって気持ち悪いよね。
紐の解き方は判らなかったけど、脇からペニスを取り出して、舐めてきれいにしてあげる。
まだびゅくびゅく出ている精子を口で受け止める。
どうしてこんな事やっているんだろう。前の男の精子なんて飲んだことはなかったのに。
思いがけず先に口で挨拶しちゃった田口のペニスは、充分に大きくて太くてまだ堅さも失っていない。でもまだ全然使いこんでいない、滑らかなきれいなピンクをしている。
全然おいしくない、なま暖かくて粘つく精液を飲み下し、私はそのまま田口のペニスにフェラを続ける。
一回出したくらいじゃびくともしないみたい。私の舌で大きさと堅さを取り戻してくる。
「先生…駄目だ、気持ちよすぎて……」
私は咄嗟にペニスの根本を押さえる。
「ベッドにはいろう?」
そういって、私はガーターベルトとストッキングを脱いだ。田口の目の前で。
田口も真っ白なふんどしの紐を外す。良く日に焼けた肌に白が映えていたけど、下着に隠されていた部分は焼けていない白い肌と、黒々とした茂みと、屹立するペニスだった。
322 :
313:03/11/17 10:36 ID:hQxW21tp
8レスも使ってまだ終わらない・・・。
こんな感じで良さそうでしたら、また後で。
夏の終わりサン、応援。
田口君をクールでちょいお利口で、女慣れしている、スレてない生徒に作ったのはグー。
主人公に、隠し味程度でいいから、羞恥心や罪悪感をただよわせれたらもっとナイス。
女の子が喜ぶ話のスレなんだから、女の子に共感を得られるキャラを。
どうせだったら男子生徒を弄ぶ先生じゃなくて、愛しめる先生のほうが萌えるでしょ?
私はこのままでも十分に共感できるな。
313さんの続きを楽しみにしているのは同じです。待ってます。
自分でも馬鹿だと思う。
ものすごく久しぶりに男の裸を見て、不意に私は我に返った。
ここまで成り行きと勢いと教師根性で突っ走ってきたけど、何をしてるの?
学校の保健室で、生徒と二人きりで、裸で。
いつの間にか手で胸と脚の間を覆っていて、多分顔も真っ赤になってる。
田口が私を見てにっこりしてる。
「先生、今パニクってるでしょ」
な、なんでわかるの。
「先生が元気よく仕事をしてて、突然途方に暮れて戸惑ってるところをよく見てるから。
そういうのを見て、可愛いなあって思ってたから」
田口の手が肩に掛かる、顔がゆっくり近づいてくる。
手で胸と股間を隠したまま、私はキスを受けていた。
田口のキス。さっきより上手くなってる。
私が逃げないのを確認して、一杯に抱きしめて舌を絡ませてくる。くちゅくちゅと私の口の中を掻き混ぜて、吸い上げたり息を吹き込んだり。
いつの間にかベッドの上に重なって、私は田口の下で思い通りに弄られていた。
なんどもキスを繰り返しながら片手で胸を揉んでくる。乳首の先っぽに指を当てて、くにくに弄る。
あ、どうしよう。変な気分になって来ちゃった。
「固くなってる」
「そこはとっても感じやすい所なの」
田口の頭が私の胸の上に移動する。
固く尖った先端を、嬉しそうに口に含む。
すぐに田口は乳首の攻め方も上達した。唇で夾んだり、舌先で転がすように細かく刺激してきたり。
「あ…なた、本…当に…初めて?」
「そう…」
あんっ、気持ちいいっ。
固くて小さな枕の上で、私は頭を振り立てる。
田口の手と口が全身を這い回って、くすぐったいんだか気持ちが良いんだか判らない。
でも暖かくて、体中覆い尽くされて、人と肌を合わせるのがこんなに嬉しくて安心することだって忘れかけてた。
田口の手が脚の間に入ってきた。
「あ・・・」
思わず怯えた声を出してしまう。少しだけ開いて、手が動きやすいようにしてあげる。
田口の掌が熱かった。くちゅりと音がして、その音で興奮して来ちゃう。
「濡れてる、先生…、こんなに」
「あ、駄目。強すぎて痛い」
田口が闇雲に擦り立ててくる。
「先生、さわってるところがどうなってるのか判らないんだ。見たいよ」
えぇー? 恥ずかしい、自分でも見たことなんかないのに。
でも・・・。
「判った。見て……でもグロテスクかも知れないわよ」
汚かったらどうしよう。がっかりされたらどうしよう。
自分を励ましながら膝を立てて開くと、田口が脚の間に顔を寄せた。
「そこがクリトリス」
「よく見えない」
「感じるとそこがふくらんで剥けてくるらしいけど、私はどうなってるのか自分で見たことは無いの」
「彼氏には見せた?」
「知らないっ」
見せたっけ?、元カレ。
田口は好奇心一杯に研究中。
「ここ、この合わさってる奥にヴァギナがあるんですか?」
「そう、そこの、間……」
「こんなふうに、ヒダヒダになってるんだあ」
だんだん性教育らしくなってきたかも。
多分人指し指。初めは真っ直ぐに入れようとしたけど、すぐに膣の形に添うように曲げてきた。
そこに何かが入れられるのは3年ぶりになるんだ。こんな感じだったっけ? 受け入れる感覚。
違う、なんか違う・・・。こんなに興奮したことなかった気がする。
「そっと、ゆっくりお願い」
久しぶりの挿入に、やっぱり私、怯えてる。
「人指し指一本で一杯だよ、先生、ここにホントにおちんちんが入るの?」
「大丈夫…、あ、ひゃんっ」
いきなり――、いきなり顔を突っこまれた。
「駄目、田口君、シャワー浴びてないの、汚いよ」
「汚くなんか無い。きれいなピンク色してて、ひくひく動いてて、べちょべちょに濡れてる」
舐められてる。強い力で舐めまわされてる。どうしたらいいのか判らない。
ものすごく卑猥な音を立てて田口がすすり上げた。
「おいしいよ、先生」
顔を上げてこっちを向いた田口の口元が私の愛液で濡れていた。
それを見た私、きっとすごくイヤらしい顔をしてる。
堪らなくなって体を起こすと田口の唇にむしゃぶりついた。
田口が余裕で返してくる。
二人して口を開いて、舌を思い切り突き出して絡ませ合って。
キスがおいしいの。田口、貴方のキスが好きなの。
「もう我慢できない。中に入らせて」
「うん、来て。あれつけてね」
田口は暫くごそごそしていたけど改めて私の上に身体を寄せてきた。
ペニスだけで入り口を探そうとするのであちこち突かれて笑いたくなっちゃう。
「ここ……」
自分でペニスを支えさせて、私は入り口を開いてあげて、ようやく先っぽが潜り込んできた。
大きくて熱い。男のペニスってこういうものだったっけ。
「あああっん」
「すごくきつい、先生、本当に経験者?」
自分でも確信が持てなくなってきた。経験したことがあるのと慣れてるのとは違うのよね。
「そう思ったから迫ったんでしょ?」
「あれはただの口実だから」
――ちょっと! じゃあ、経験者ぶって頑張ってた私って・・・
「あんん、田口君、気持ちいい」
そんなことどうでも良くなってくる。夢中で田口にしがみつく。
「すごい、俺も、あったかくって……」
少しずつ前後運動を繰り返しながら奥へと進んでくる田口のペニスに、私はこんなに気持ちの良いことがあったのを忘れていた自分が少し悲しかった。24歳にして、女、捨てかけてたかも。
息が上がってきてる。
「全部、はいった?」
「ううん、きつくて狭くてこれ以上無理みたい」
嘘、入るよ、私の中、貴方のおちんちん、こんなに欲しがってるのに。
「もっと欲しい、もっと奥まで突いて、ねえ、頂戴」
なんだか18歳相手にものすごく卑猥なことを口走っている。ああ、動き始めてくれた。
あ、いい、なんだか、すごく、早い、直線だけなのに、奥まで、深い、ああんっ、田口、しがみついて、離さないで、もっと、頂戴、頂戴、頂戴!!!
「ぐぅぅっ」
食いしばった歯の隙間から声を出して、田口が私の上に倒れ込んだ。
背中に手を回して体中で抱き留める。
全身汗ばんで、短い息づかいで、私の肩に顔を埋める。
どうしよう。ものすごく可愛くてものすごく大切な男に思えて来ちゃう。
「ごめん、すぐに、終わっちゃった。2回も、出しちゃったし」
体育祭の400メートルリレーの後みたいに息を切らしてる。
「初めてだもの。仕方がないわ」
田口が先に終わったことで、少し余裕が出てきた。
頭を抱いて上から見下ろすと、端正な顔が下から見上げてくる。
そのままどちらからともなくキス。
身体をせり上げてきて、私の身体は田口にくるみ込むように抱きしめられた。
力任せに抱かれて、激しく舌を絡ませ合う。
乳房を大きく揉み上げられる。指で乳首を挟んで擦ってくる。
田口の脚が私の脚を割る。すらりと伸びた太股に、自分からあそこを擦りつけた。
乳首を交互に口に含んでくる。
「気持ちいいの、田口君、すごく気持ちいい」
「先生…、もう一度したい」
アレを、って言いかけたけど、止めた。今日は安全日だったし、この流れを止めたくない。生のペニスが欲しい。
「いい、そのまま来て」
間髪入れずに田口が入ってくる。
熱くて滑らかで大きくて、おなかが一杯になりそう。
「先生っ、気持ちいいよ、さっきと全然違うっ」
「田口君こそ、すごいっ、すごいの」
3回目の田口はとても長く保った。
気がついたのは、多分10分くらい経ってから。
外はまだ薄明るいけど、校舎の中は静まりかえっている。
田口の腕枕ですっかり眠っちゃってた。私の動きに気づいたのだろう、きゅっと抱きしめてくれる。
「起きていたの?」
「貴女の寝顔を見ていた」
や、やだ。どんな顔して眠っていたんだろう。
「もう帰らないと」
照れ隠しに2番目の願望を口にする。
「そうですね、本当は朝までこうしていたかったけど」
田口が私の1番目の願望を口にする。
自分が真っ赤になったのが判った。なんなのよ、この反応は。
そうね、ここが学校じゃなかったら、きっと・・・。
それから二人、妙に気まずくなってお互いに後ろを向いて服を身につけた。
「ベッドを整えておかなくちゃ」
「このシーツ、このままじゃまずいですよ」
「いいわ、持って帰ってクリーニングに出すから」
そこで予備のシーツを出して(場所は田口が知っていた)ベッドメイク。
周りを見回して何の痕跡も残っていないことを確かめ、ドアの前まで来て、二人して足が止まった。
「また、こうして欲しいと言ったら怒りますか?」
「怒るわよ」
「彼氏にばれたら困るから?」
「じゃなくて、貴方が今やらなきゃいけないことは何か、判ってるでしょ?」
「教師みたいなことを言うんですね」
「教師だもの。貴方のクラスの副担任だし」
「それから初体験の先生でもあるし」
言いながら抱きしめられた。唇を求められると抗えない。
初体験の先生なんかじゃなかった。ただ相手をするのに精一杯だった。貴方に抱かれるだけで夢中だった。
これが最後だと思うから、とても長くてとてもディープなキスをする。
ようやく口を離したときには、まるで漫画みたいだけど、二人の間に透明な糸の橋が架かった。
まだ糸で繋がったまま
「先生、今、彼氏なんていないんでしょ」
ばれてる?
「貴方には関係ないでしょ」
精一杯いきがったのに、また顔が近づいてきた。
「この次は? またしたい」
至近距離で囁く田口に
「貴方がちゃんと志望校に受かったらね」
至近距離で囁き返す。
な、なにを口走った? 私。
「約束だよ」
そのまま唇を塞がれる。駄目、完全に田口にリードを許してる。思い切り抱きしめられて、田口のキスを受け入れるだけでもう限界。
「約束の条件が、ほんとうの教師(せんせい)みたいだ」
「教師だもの。滑り止めじゃなくて、本命に受かりなさいよ」
あああ、やせ我慢も限界だわ。
「すごいモチベーションをもらっちゃったな」
にやりと笑って田口が言う。
言ってから私のおでこにちゅっとキスを落とした。
「お先にどうぞ」
そう言ってドアを開けてくれる。
そして二人で外に出て、青い札の付いた鍵でドアを閉じた。二人だけの親密な経験と一緒に。
鍵は私が職員室に戻す。田口は運動部の部室に向かう。それだけ。
保健室のドアの前で左右に分かれて歩いてゆく。肩が震えたけど振り向くのは我慢した。
田口、入試と昇段審査、頑張ってね。
卒業式が済むまで、期待して待ってるから。
《 終 わ り 》
332 :
313:03/11/18 21:03 ID:PfDtrw7D
>323さん
>324さん
レスをありがとうございます。
パロではないエロを書くのは初めてだったので
世界観の制約がなくて楽しめた半面かなり緊張しました。
読んで下さった方、ありがとうございます。
お つ か れ !
読後感もかなり良し。
すごく良かったです。
>キスがおいしいの。
なにげない一言に頭ガツンと殴られました (;´Д`)ハァハァ
わ〜〜久々にいい話読めたー!有り難う〜。
二人ともきちんとキャラが立っててすごく面白かったし
エチーな描写もすごく萌えました!
また別のお話も読みたいです。
投下お待ちしておりますね〜〜。
336 :
名無しさん@ピンキー:03/11/20 23:39 ID:16CG8mOM
久々に来てみたら新作が!
>>313さん、良かったです。
ありがとう!!
二人の関係がどうなるのか、続きも気になる。
ふ○○しつけてるのが魅力的なキャラなんて初めてです。
sage忘れ、スマソ。
313さん!
かなり良かった〜〜〜〜〜〜〜!!!!
とてもリアル。
パロ以外初めてなんて嘘みたい!!
なんか懐かしい、優しい気持ちになれました^^
そして(;´Д`)ハァハァ 笑
これからも宜しくお願いします!!!
おつです♪
来たばっかりなんだけど、腕試しさんの小説もう読めないの…?
だったらこのスレ(゚听)イラネ
339板杉(ワラ
341 :
裏方:03/11/21 15:31 ID:vcVL/XGu
腕試しさんへ
連載お疲れ様でした。ちょっと雰囲気が合わなかったようで残念です。
しかしファンの方がかなり居られるようなので、
(実は私の知り合いでも、数人の方が続きを読みたがっています。私もですが)
継続先決まりましたら、こちらにURLなど書いていただけませんでしょうか?
そっと告知したいのでしたら
[email protected] までメールいただければ、
おな感縮刷版(URLはこのスレのトップ参照=ただ、本日夕方までメンテナンス中)でリンクします。
よろしくお願いします。
>>340←自分で何も生み出せないくせに人を批判し追い出すのが趣味
しかも言葉が中途半端
というか歓迎されてるSS書きを自作自演までして追い出すのって快感なんだろうな。
自らが誰にも必要とされない絶望感がそれで少しでも癒されればいいね。
歓迎してる人もしてない人もどっちもいるみたいだし、
もういいんじゃない?
腕試しさんが来なくなったらとたんに過疎化しちゃった…保守しとこ。
………………っ!!!!!
直リンしちった…
うわーうわーごめんなさい…
良かれと思ってやってるんだろうけど、エロパロ板内ですら他スレ晒しはご法度なんだし
このスレ派生(縮刷版からリンクしてる、職人さん達の個人サイト)
以外のサイトURL直に晒すのやめれ。
他スレでも346サイトのSS話題になった事あるけど、
あくまでも探し方のヒントだけだったぞー。
ヽ(`Д´)ノソコオキニイリダッタノニー!!ナンカアッタラドウスンダヨウワアァァァン
デリ喰らってないよね…逝って読んでたら突然次のページにいけなくなった。
今日行ったらちゃんと見れたよ〜!
すまん
geo.comって一定量ページを開いたらアクセスできなくなるみたいだな
保守
保守
ぃや、と一声啼いて女が身を強張らせる。
普段ならばわずかな拒絶にもおののくが、今宵こそはこちらが組み敷いた側。
構わず触れたくても触れられなかった柔らかな乳房を手で犯してゆく。
五本ある指と汗に塗れた手のひらが先駆となって、女に触れている細胞のすべてで好き勝手にカタチを変えられる乳房を楽しんでいる。
愛しげに、憎しげに、また愛しげに。
痛みと紙一重の甘みが次第にしろい身体を侵してゆくのを、他の細胞が焼け付くような嫉妬をたたえて眺めていた。
たまらず中心の泉にもう片方の手指を付き立てる。
いやらしくぬかるんでいることを知り、全身が総毛立って歓喜する。
そら、犬の反乱は始まったばかりだ。
つ……続きは?(ワクワク
腕試しさん再会マダー? チンチン
356 :
名無しさん@ピンキー:03/12/17 21:30 ID:MM1rM0rB
ぉな感のHP携帯でもみれるようにしてくれないか?
「ちゃんとノーパンで来た?」
彼の問いかけに私は小さくうなづいた。
今日はノーパンでストッキングだけはいてくるようにっていう彼からのメールだった。
言われた通りにはしてきたけれど、すごく恥ずかしい。
恥ずかしいけれど・・・興奮している私がいる。
彼にうながされてソファに座った。
「顔、真っ赤だよ。恥ずかしい?」
コクンと俯くと、彼はフフンと意地が悪い笑い方をして、
「スカート、自分でめくって見せてよ」と言った。
私は言われた通りゆっくりとスカートをたくし上げる。
彼が食い入るように見ているのがわかる。
ストッキングから毛がはみ出ている私のアソコ。
「ああ、ほんとだ、オマンコまるみえ」
嬉しそうにそう言って彼はそこに鼻を押し付けた。
「これ、破いていい?」
彼がストッキングを指でつまみながら私の顔をのぞき込んだ。
や、破く?
私の答えなどはなからどうでもいいみたいに、彼はいきなり両手でストッキングを荒々しく破いてしまった。
私のアソコだけ丸く穴があいた。
足首までデンセンしてる。
やだ、替え持って来てないのにっ。
「うわあ〜、なんかエロいな、この眺め」
彼はそう言って、やがて指に毛をからめ始めた。
「んんっ・・・」
おもわず息が洩れる。
「もっと足広げろよ。ちゃんと見せてよ」
「ん・・・やぁぁ・・・」
359 :
裏方:03/12/22 08:25 ID:G4feoCvI
360 :
裏方:03/12/22 08:28 ID:G4feoCvI
まだ2chのゲートウェイのサーバー不調のようです。
クリックではたどり着けませんので、
上記アドレスをコピーしてブラウザのアドレス欄に入れてください。
361 :
名無しさん@ピンキー:03/12/30 11:45 ID:LCArcckG
腕試しさん、完結記念アゲ。
腕試しさん、お疲れさまでした!
お正月時間のあるときに纏め読みさせていただきます。
非道いレスもついていたけど、私は凄く好きでした。
異種間の恋愛(?)の微妙な心の交流が面白かった。
楽しみ。楽しみ。
>>363 やば・・・ちょっとだけ一文字むつきに萌えそう
自分の中でははぴれす、完全に殿方向けの作品だったのに
保守。
今日も保守
定期的に書き込みしないとね。
最近このスレ、停滞気味ですよね。
寂しいな。
ご無沙汰しておりました。えぷろんネタの続きです
すごーく間があいて申し訳ないのですが書き終えたので投下します
出てきたのはなんだかものものしい女性用の下着、のような形をしたものだった。
黒い革と金属とチェーンでつくられていて、ご丁寧に小さな錠がついている。
「あの…これって?」
友美はとりあえずウエストっぽい両端をつまみ、慎一に疑惑のまなざしをむける。
「貞操帯。名前くらいは友美もきいたことあるだろ?」
慎一はそれを手にとりてきぱきと錠をはずして呆然としている友美のウエストに
まきつけた。
「ほら、これでもし俺の留守中に誰かがきてそれがもし男だったりとかしても
犯されないだろ?」
ぱちん、と錠をしめて慎一は満足げに一人うなずいている。
「そーゆう問題じゃないっ!」
「じゃあ夕方には戻るからいい子で留守番しているんだよ〜」
はっと我に返った友美の怒声をかわすように慎一はさっさと出かけてしまった。
「この恰好じゃ追いかけることもできない…か」
ふう、と溜め息をつくと友美は仕方なく自分の脱ぎ捨てた洋服を拾い集め、適当に
たたんでベッドの上に置いた。
「しょうがないからたまってる洗濯物でも片づけよっと…」
と一人ごちたもののよく考えてみれば洗濯物を干すにはベランダに出なくてはいけない
わけで、アパートの5階で向かいの3階建てアパートからは覗かれないとはいえ今の
状態で白昼堂々洗濯物を干す気には友美はなれなかった。
一時間後−−−
ピンポーン
部屋から出られないため部屋の掃除をしているとチャイムが鳴った。
(やだ…どうしよう)
友美は身をすくませて手に雑巾を持ったままじっとインターホンを見つめる。もしかしたら
留守だと思って通り過ぎてくれるかもれない、という期待を裏切るようにチャイムはさらに鳴った。
ピンポーン・・・ピンポーン
(中村せんぱーい、佐藤でーす。いらっしゃらないんですか?さっき電話があったから
借りてた本返しにきたんですけどー)
ドアノブをまわすがちゃがちゃという音と共にきこえてきた声には友美も聞き覚えがあった。
何回かしか会ったことはないが慎一の大学時代の後輩で、近くのアパートに住んでいた
はずだ。友美より二つ下の、わりと大人しそうな人だったと思う。
「はい、中村です…」
友美は意を決してインターホンの受話器をとった。
「あれ?中村慎一…さんのお宅ですよね?」
受話器から訝しがる声が流れてくる。
「あ…、私です。友美です。覚えてる?」
「ああ、先輩の彼女さんの。ご無沙汰してます。先輩に借りてた本を返しにきたんス
けど、ちょっと本人以外には渡せないっていうかー」
あくまで明るいその声にほっと胸をなで下ろした途端に友美の下腹部に振動が走った。
(!)
友美のつけている貞操帯には陰核にあたる部分にリモコンバイブのようなものが仕掛け
られていたらしい。最も弱い部分に予想もしなかった刺激をあたえられた友美は思わず
息を呑み、出そうになる声を必死でこらえようと口を押さえた。
「…あの、友美さん?」
受話器から佐藤の声が聞こえる。
(ここはとりあえず佐藤君を帰さないと…)
友美は容赦ないバイブの刺激に耐えながらなんとか平静を装おうとした。
「あ…ご、ごめんなさい。慎一さんなんだけどちょっと出かけて…て……私も今ちょっと
手が…離せないの。悪い…けど本は新聞受けに入れてくれないかしら」
「いいっすよ。じゃあ入れておきますねー」
すぐにドアについている新聞受けにがたん、という音がして慎一が貸していたというもの
が放り込まれたようだった。そして受話器から囁くような佐藤の声がきこえた。
「それにしても、友美さんの声って色っぽいっスね。じゃ!」
「えっ…あ、あの…」
カンカンカン、とわざとらしくアパートの階段を降りる音が遠ざかっていくのをききながら
友美はへなへなと床に座り込んだ。
(なんなのよっ……慎一とグルだったんじゃない!)
貞操帯に仕込まれているバイブはなおも執拗に友美の陰核を刺激してくる。友美は
先ほどまでの慎一の愛撫をふと思い出してしまっていた。
ふと玄関の脇の姿見をみると自分の非日常な姿が目に入る。
「全裸にエプロンだけで、その下には黒い革の下着…か。AVじゃあるまいし…」
そう呟く友美の瞳はうるんでいて、鏡の中の自分がなんだか別人にみえる。
そっと胸に手をのばすとピンク色の乳首はもう固くとがりきって親指で転がしただけで
ゾクゾクと背筋を快感が走った。
「やっ…」
バイブの刺激をもっと強く味わおうと左手で貞操帯全体を押し付けるようにして、右手は
エプロンの下の胸をもみしだく。
「…あっ……だ…めっ……イッちゃ……ああっ…やっ…とまんな……あああっ…」
友美は床に座り込んだまま、何度も絶頂を味わうことになった。
かちゃ、と鍵がひらく音がした。
「ただいまー。友美、どうだった?」
脳天気な慎一の声に友美はがく、とうなだれて答える。バイブの振動はしばらくして
おさまり、太股まで伝うほどの大量の愛液は先ほどトイレで始末してきたから慎一に
オナニーがばれることはないはずだ。
「…どうだったもこうだったも。佐藤君がきて恥ずかしか…ったわよ」
「なーんだ。結局きたのは佐藤だけだったんだ」
慎一はつまらなそうにそう言うと、ニヤリと笑って小さな鍵をとりだした。
「はずしてほしい?」
慎一の手にあるのは友美がつけている貞操帯の鍵だった。
「…あたりまえでしょ!」
ひらひらとその鍵を見せびらかす慎一を友美はにらむ。
「よくないなあ、そんな反抗的な態度は。まだお仕置きがたりないんだね」
「……!」
友美の顔がさっと青ざめた。
「今までだって充分ヘンタイなことしてるのにこれ以上なにをするっていうのよ…」
弱々しい声で反論する友美をぎゅっと抱きしめて慎一は冗談だよ、と慰めた。そして
慎一は友美の耳元で低く囁いた。
「でもまあ、新たな楽しみを発見したってことで」
「え?」
「まんざらでもなかったろ?裸エプロンでの一人エッチとかさ」
かぁぁ、と赤くなる友美の頬に慎一は軽くキスをして、かちゃ、と貞操帯の鍵をはずしたのだった。
というわけで終了です。貞操帯に正解なさった方するどいです〜(そして「やっぱありがちか?」
とちょっとかくのにビビリがはいりました)
こんどっから続き物は書き終えてからかきこむことにします。
>>前スレ655
オツカレー
貞操帯、よくあるけど使えそうで使えないので(個人的には)
「ありがち」ではないと思われまつ。
次もガムバー
兄者。SSうpされないと手持ち無沙汰だな
これがあるからそんな事は無い。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) がん解析?
そう。 ( ´_ゝ`) / ⌒i
UDだ。 / \ | |
/ / ̄ ̄ ̄ ̄/ |
__(__ニつ/ FMV / .| .|____
\/ / (u ⊃
CPUの余っている処理能力で効率良くがんの解析をするんだ。
実は、神光臨を待ちながら動かしていたんだがな。
仲間がたくさん居るし、ライバルも居るから楽しいぞ。
貴方も参加してみませぬか?
詳しくは
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1072371837/l50 を見てくれ。参加待ってるぞ。
376 :
名無しさん@ピンキー:04/01/31 13:44 ID:Ve8Qpyxa
age
大分ギャグが入ったり、主人公の性格があまり良くなかったり、
相手がそんなにカッコ良くなかったり、というのは良くないで
すかね…
378 :
名無しさん@ピンキー:04/02/01 00:06 ID:QF+NEggZ
このスレ名の条件をクリアしていれば何でも大丈夫です
むしろ書いてください、待ってます
「…はぁ!?」
『だから、彼女と旅行に行くんだよ。言ってなかったっけ?』
「聞いてねぇーー!!」
あまりといえばあまりの態度に、私は声を荒げてしまう。まあまあまあまあ、
という私を宥める声も、今はただ火に油を注ぐだけのものでしかない。
『悪かったよ、今度埋め合わせするからさ…あ、待ってよ…いさんっ…んじゃなっ』
ぷつっ…つー、つー、つー。最後まで腹の立つ態度で、私の今現在意中の男
性・岸部は電話を切ってしまった。
「っ…死なない程度に事故れっ…!」
ぎりり、と携帯電話を握り締め、私はそう呻いた。
「シローさん、どうしたんですかぁ?端から話聞いてるだけじゃぁ全然わかりま
せんよぉ」
そう、こいつも人の神経逆撫でするような喋り方で訊ねる。今の私にはこの程
度の事でさえこいつを攻撃する材料になる。ていうか、その呼び方やめてやれ。
本名は孝一だぞ。
「岸部は彼女と旅行ですってよ!3人で3ヶ月前から計画してたにも関わらずな
ぁ!!」
「…あー…それは酷いっすねぇ」
がくがく肩を揺すられつつも、こいつ…水沢は人事のように(確かに人事だけ
ど)返すばかりだった。ええい、これがただの八つ当たりだって事もわかってる。
ここまでこいつにセッティング手伝って貰ったのに、酷い事しているという自覚
もある。けれど、今はただ、こうする事で自分を誤魔化すしか方法が無かった。
「岸部さん、気ままにも程がある人ですからねぇ。俺だって初耳ですよぉ、彼女
がいるってのはぁ。もしかして昨日今日で出来たんじゃないですかねぇ」
少し咳き込みながら、そう言った。年下の癖に冷静だな。
「泣いてもいいんですよぉ?」
「うるっさい」
眼鏡越しの眼が、馬鹿にしているように思えて、私は水沢にそう言ってしまっ
た。
私が、岸部を好きになったのはもういつの頃だったか、正確には思い出せない。
大学で知り合って、趣味の合致から友達になって、気が付けば好きになっていた。
それから1年遅れて入学して来た岸部の後輩、水沢が加わって、ずっと乙女的に
虚しいながらも楽しい日々が続いていた。そして、今度遊びに行きがてら今度こ
そ告白しよう、と水沢に協力を頼んで息巻いていたら…これだ。
「っの野郎…っ!!あーっ、むかつく!!」
「あははははは、岸部さんと付き合うならこのくらいの事は予想していないと。
俺なんかもう、指定時間に指定の場所にちゃんと行った事ありませんよぉ?岸部
さんそういう事多いですから」
笑いながら、人として何か間違っている事を言う。私はふと、普段の事を思い
出した。すぐにいつもの謎が解けた。
「だからかーーーーー!!」
再度私は水沢を揺すった。3人で集まろうとしてもこいつは必ず遅刻をするの
だ。しかも電話を入れないと永久に来ない。そういえば、岸部も結構な割合でそ
うだった。
「なんで毎度毎度遅いかやっとわかったよ!私もここ最近は必ず指定時間前に電
話入れて、30分遅れて出発してたから気にならなかったけど!!ていうかお前
等私が憎いのか!?気付かないだけで嫌われてたんですか私は!!」
「…別に、嫌いじゃないですよぉ。一緒にいて面白いですし、本人も面白い人だ
し…」
微妙に物凄く引っ掛かる物言いだった。が、なんとなく嘘を付いているという
訳でも無さそうだし。私が手を離すと、水沢は立ち上がり、荷物をもった。いつ
の間にか電車が来ている。
「まぁ、旅は楽しく行きましょうよぉ…吉野さん」
そう言って、水沢は私の手を引いた。
電車の中でも、私は無言だった。水沢は私に話し掛けない方がいいと判断した
のか持参した携帯ゲーム機(明らかにメジャーなアレではない)で黙々と遊んで
いた。通り過ぎて行く風景を見ながら、泣きそうになっていた。
「泣いているなら俺の胸を貸しますが」
「お前に言われると、なんかむかつく」
若干声が震えてしまった。水沢は電源を切って、私の方を向く。相変わらず表
情は読めない。鞄からお菓子を出して袋を破る。そして中身を出して、私に渡そ
うとした。
「いらない…」
断ると、自分で食べ始めた。チョコ臭い。
「このお菓子、好きじゃありませんでした?」
「…見るのも初めてだわ」
それからまた、無言になってしまった。ゲームは再開しない。私を見たまま水
沢も無言でいた。電車がトンネルに入る。
「あ、後ろ」
「?」
薄く電気の付いた車内で何が起きたんだ?素直に後ろを振り向くが、何も無い。
首を傾げて水沢に話し掛けようとする。その瞬間。
ぐむに。
「っ…!?」
「わー、引っ掛かった」
頬肉に刺さる水沢の指。しかも思いっきり。痛い。普通に痛い。
「…水沢」
「はい?」
にこにこと、見る者を不快にさせる笑顔で、返事をする。
私は思い切り水沢の頬を左右に引っ張ってやる。
「…ひはひへふ、ほひほはん」
「痛くしてるんじゃああああっっっ!!!」
そんなこんなで、旅館に着いた。
部屋は2つ。途中から岸部と同室にするという作戦だったけど…無駄に終った。
脱力し切った私は色々な事を水沢に任せて、椅子に座って溜息をついていた。暫
くして、水沢がこっちに向かって来る。
「行きましょう、桜の間です」
「どっちが?」
「え?」
私の質問に首を傾げる水沢。いや、私とお前と、どっちが桜って事?まぁ、多
分私に言ったんだから、私が桜だろうけど…
「あ、そういう事ですか。俺も吉野さんもですよ。キャンセル料は出しますからぁ」
はい?
固まる私を余所に、水沢はすたすた歩き始めた。私は顔を引き攣らせながら、
水沢に駆け寄る。
「ちょっ、ちょい待てっ!なんでっ?どうして一緒の…」
当然、といったように水沢は言う。しかし、お互い、お互いの男女の部分に全
く興味が無いとはいえ、一応私は女で、水沢は一応男なのだ。なのに…
「…吉野さん、この間俺の部屋で1日半新発売のゲームしてたじゃないですか」
「っ、あっ、アレは……桜花ちゃんがゲーム機占領してたから…」
「勿体無いでしょう、2人しかいないんですし」
因みに桜花ちゃんとは同居人で4つ年上の親戚の女の人だ。が、勢いで言ってし
まったが、水沢も岸部も桜花ちゃんの事は知らない。まぁ、私がひた隠しにして
る訳だけども。
案の定水沢は怪訝そうな顔をして私を見る。私は大分挙動不審になりながら誤
魔化そうと頭をフル回転させる。
「おっ…桜花ちゃんってのは…あ、あの、私の飼ってるアメリカザリガニで、そ
の子がゲーム機の上で鎮座して…」
「背中持ってのければいいじゃないですか」
「黙れこのメガネ!!」
あまりに冷静な突っ込みに、必要以上に罵ってしまう。結局これも八つ当たり
に過ぎないのに、それでも水沢は笑って、納得もしていない筈なのに納得してく
れた。そして気を使ってくれたのか、いきなりお茶の用意を始めた。
「…まぁ、落ち着いてください。折角旅行に来たんですから、楽しみましょう。
考えチェンジです。元から俺と吉野さんで遊びに来たんですよ」
茶っ葉を入る限り急須に詰め込み、お湯を溢れんばかりに注ぎ、湯飲みに注ぐ。
私は内心脂汗を流しながら、穏やかに話す水沢の手元を凝視していた。
「お前、お茶の淹れ方知ってる?」
「生まれて初めてですよぉ」
はい、と私に自信満々に手渡す湯飲みを頑なに拒否して、セットで置いてあっ
た茶菓子を食べる。ていうか、飲まないで。普通に飲まないで。絶対身体に悪い
から。
私が代わりにお茶を淹れて、一息つく。
水沢は手に付いたお菓子の粉を舐め取ると、急に立ち上がった。そして鞄の中
からカメラとデジカメを取り出すと、急に輝いた顔になる。
「じゃ、俺ちょっと写真撮って来ますからぁ。夕飯までには帰りまぁす」
足早に部屋を出て行く水沢。いやっほぉおおおぉぉぉ…、とはしゃぐ声が暫く
聞こえていた。が、それも遠くなって行く。
急に、独りぼっちが身に染みて来た。
こんな事なら、来なければ良かった。
桜花ちゃんと一緒にケーキ食べ放題や焼肉食べ放題に行けば良かった。
こんな計画立てなければ…知らないで済んだのに。岸部に彼女がいるって…そ
んな事、知りたくなかったのに。
涙が出て来た。
水沢にも、酷い態度ばかり取ってる。私、自己中な事ばかりしてる。あんなに
協力してくれたのに。
…だから、行っちゃったのかな。もしかして怒ってたのかな。私、呆れられ―――
「あははははは、やっだぁ、俺フィルム忘れて―――」
笑いながら、ばん、といきなり戸を開ける水沢。振り向く私は、思い切り泣い
ている。私は慌てて涙を拭う。水沢はというと…
「あ、すいません。フィルム取りに来ました」
…至って普通に私の横を通り過ぎる。
「なんかリアクションは無いんかい!!」
饅頭を水沢の尻にぶつける。意外な攻撃に驚いたのか、ちょっと焦りながら私
の方を見た。
「だって吉野さん、そういう事したら怒るじゃないですかぁ」
面倒臭そうにそう言いながら、水沢は私の傍に寄って来た。指で私の涙を拭う
と、手を取って私も立ち上がらせようとする。
「吉野さん、温泉行きましょう。露天風呂ですし…気分もきっと晴れます」
お風呂…その言葉にちょっと反応してしまう。お風呂は好きだ。どっかの猫型
ロボット漫画のヒロインの女程じゃないけど、好きだ。
「うん、行く」
私は、素直にそう言った。
「気持ちええ…」
露天風呂に浸かりながらそう呟く。これ目当てで来たってのもあるんだよね。
はぁ、極楽極楽。そういえば、混浴だって知ってから、また水沢と新たな作戦
立てたよな。
「…ばっかじゃなかろか…なぁにが『混浴ドッキリ!裸の付き合い大作戦』だ…」
「略してK・D・H大作戦って盛り上がりましたよねぇ」
笑う水沢。お風呂だから当たり前だけど眼鏡外してる。眼鏡を取ったら美形、
っていうのはお約束だけど、こいつは眼鏡をしていた方がかっこいいという逆ド
ッキリ男だ。まぁ、私も例に漏れずこいつは眼鏡がイイ派です。
「全部、パァだね。色々考え…」
そこまで喋って、私は固まる。そして気付けばすぐ近くまで来ている水沢を凝
視する。
「いっ…むぐごっ!?」
「はい、ストップです。ある意味K・D・H大作戦大成功ですねぇ」
叫ぶ事を予測したのか私の口を押さえ、いつも通りの口調で、いつも通りに言
い放つ。ていうか、素っ裸。私も水沢も素っ裸。私は逃げようとしたけど、水沢
に口と頭と押さえられてるから動けない。ていうか近い。近いってば!!
「…なんで気付かなかったんですか」
少しだけ呆れたように突っ込んだ。ようやく手を放してくれると、少し離れて
くれた。私はとりあえず見られたくない所を手で隠した。そして後ろを向く。
「作戦考えた当の本人が引っ掛かるって、俺、漫画とかでしか見た事ありません」
「うるさいっ」
「それから胸、予想より大きくて驚きました」
っ―――!!
なんだろう、わかんない。いつも通りで、きっといつもみたいな顔して、きっ
とこの場を和ませる為に言ったんだろうけど…なんでかね。私、引いちゃった。
なんか、怖くなっちゃった。
水沢から離れたくて、私はちょっと移動する。
「吉野さん?」
「っ、嫌っ!!」
近寄って来る水沢が怖くて、私は拒絶してしまう。
「そんな、今更俺を男だって認識して軽い発言で引いていないで下さいよぉ」
「わかってんなら言うなーーーーーーっっ!!」
…私があやふやな理由まで言い切りやがって。でも、お陰で緊張は解れた。
「ごめん、それは謝る…でも、私もびっくりした」
前は向かない(ていうか向けない)まま、会話は続ける。まぁ、確かに意識し
た事、無かった。初めて会った時から、こいつ不思議少女みたいだったし。下ネ
タ言う時は活き活きし過ぎて、逆にいやらしくなかったし…むしろ清々しささえ
感じてたのに。
「ぁ…」
いつの間にか背後にいて、水沢は私の事を抱き締める。確かに、水沢は男の人
だ。けど、なんで?なんでこんな事すんだ?好きなのか?もしかして、私の事―――
「吉野さん、好きです」
耳元で囁くように、でも、はっきり言いよった。
…だからか?だから、ずっと私に協力してたのか?私、水沢の気持ち、何ひと
つ考えないで自分の事ばっか考えてたのに?それなのに、水沢は―――
「いつから…そう思ってたの?」
震える声で、また泣きそうになりながら、私は問う。拒まないのを了承と捉え
たのか、私の身体を自分の方に向かせる。笑顔は、やっぱりそんなにカッコ良く
ない。
「…駅で、吉野さんが絶叫していた辺りからです」
そう言って、私にキスしようとする。が、私はそのあまりの納得の行かなさに
我に帰ってしまう。そして思い切り平手打ちをした。
「…短っっ!!」
なんだお前、あの状況で私を好きになったってどういう事だ。ていうかもしか
して、簡単に落ちそうだとでも思ったのか!?
頬を擦りながら、水沢は苦笑する。
「俺も驚きましたよ。泣きそうな貴方がなんだか可愛くて、あ、俺吉野さん好き
になっちゃったぁ、って思いました。失恋しちゃいましたし、2人きりになった
し、これはチャンスだと思って」
「正直だなお前!!」
やっぱり水沢はどこまで行っても水沢だった。再度近付いて私を抱こうとする
けど…私は逃げた。だって、私はまだ岸部が好きだし、水沢を好きになった訳じ
ゃない。この状況で水沢の所に行くって…そんなの、卑怯じゃないか?
サバ味噌缶無くなったから水煮缶行こうか、とかそんなレベルじゃないんだ
ぞ?
「…駄目、駄目。そんな事しないで。駄目だよ…な?頼むから」
なんで謝ってるんだろう、と思いつつ私は後ずさる。
「吉野さん、別にいいんですよ。駄目だったから次これ、っていうのが駄目だ
なんて法律はありません。サバ味噌缶が無かったら水煮缶にすればいいんです」
「お前、人の心読めるの?」
一瞬背筋が寒くなってしまう。が、水沢は首を傾げる。
「…でも、駄目なんだよ!!」
そう言うと、そこらに置いておいたタオルを投げ付け、眼を逸らした瞬間に
上がって、逃げた。逃げても行き先は同じなんだけど…
その後は、気まずくなってしまった。
何も話せなくなってしまったし、せっかくのごはんの味もわからなかった。
テレビも見ないで、卓球もしないで、お互い無言のまま就寝する。
……小学校の修学旅行だって、こんなに早く寝ないくらいの時間だった。
静かに寝息を立てる水沢。私は眠れなかった。
今日一日で色々な事があり過ぎた。
岸部に当たってみる前に砕けた。水沢に告白された。よく考えると、2つし
か無い。
私、結構必死にアプローチしてたつもりなんだけどな…でも、結局気付かれ
なかった訳だしな…ちっ。
好きだったのになぁ…もし、本当に昨日今日で彼女が出来たというのなら…私、
すっげぇ馬鹿だよな…さっさと言っちゃえば良かったのに。いつも、そうなんだ。
いつだって、私は馬鹿なんだ…
鼻を啜る。涙が出てくる。浴衣で拭おうとするけど、どんどん出て来る。
「…泣いてるんですか」
「だいでねぇ」
狸か?それとも私の音で起きたのか?近付いてくると、私の布団の中に入って
来る。やめろよ、と布団から蹴りだそうとしたけど、あっさりかわされる。
「……」
抱き付いてくるかと思ったけど、違った。手だけ繋いで、くっつこうとはしな
かった。
「吉野さん、好きですよ」
「うっ…っ…」
てめぇこの野郎、わかってんだぞ、私をお前サイドに来させる為にそうしてる
って事。私、そこまでアホじゃないんだぞ?
「泣いて下さい。悲しい時は泣くかファイティングポーズで叫ぶのが一番です」
「うる…っせぇ…」
繋いだ手を振り解こうとする。出来ない。
「好きです。俺は吉野さんが…京子さんが好きです」
もっと強く私の手を握る。けど、私は思い切り離れようとする。何故なら。
「私の名前はさくらじゃーーーーーいっっ!!」
誰が京子だ!吉野さくらをどうやったら間違えるんだよ!!
「あ、わざとじゃないですよぉ。名前呼んだ事無いから適当に…」
「余計悪いわ!!」
「すいません、さくらさん」
ぺし、と頭を叩く。ドサクサ紛れに呼ぶな。
「俺の名前も呼んでいいですから」
「嫌だっ!!」
別に、忘れた訳じゃないけどね。水沢大輔だろ?誰が呼ぶか。
「っ!?」
うっっわ!!油断した隙にこいつキスしやがった。殴ろうとしたけど…ぅえ
え!?
「え、やだ、みず…」
私の両手を掴んで、またキスをする。
「名前を呼べーーーー!!」
「ええ!?」
初めての、水沢の怒った顔と声。思わず…
「だい、すけ…」
「さくらさんっ」
きゅう、と私の胸に顔を埋めるように抱き付いて来た。
私、もしかして勢いに流され易いのか?私は戸惑いつつも引っ剥がそうとす
る。が、このベアハッグ状態は、中々止めさせる事が出来ない。
「…離れろ…」
「嫌です」
「……やめて」
「絶対に嫌です」
そう言いながら、私から離れた。私の顔を見て、寝ましょう、と呟いた。腕枕
の用意して、先に寝転がる。仕方ないから、それに応じた。
「…私、馬鹿なんだ」
寝ないで、話をする事にした。水沢は、寝る気だったと思うけど…話をしたか
った。
「馬鹿じゃないですよ、間抜けなだけでいたたたたたたた」
二の腕をつねると、奴は黙った。
「桜花ちゃんの事なんだけど…」
「さくらさんのペットのアメザリがどうしたんですか?」
「…ごめん、嘘付いた。ペットじゃないの…同居人。一緒に住んでる人」
「男ですか?」
「お前、実は私に何ひとつ興味無いだろ」
声を凄ませると、謝られた。
「4つ上で、綺麗で、凄く可愛いくて、性格も良くて、誰もが好きになるような
人」
…そんな桜花ちゃんに、私はずっとコンプレックスを抱いていた。
いつも比較対照にされていた。親戚にも、親にも。桜花ちゃんは頭も良かった。
けど、身体が弱かった。私はいつも桜花ちゃんを守っていた。
「ずっと一緒に育って、一番仲が良くて、桜花ちゃんも私の事、凄く好きだと思
う」
水沢は、私の話を相槌を打って聞いてくれる。今まで、誰にも話した事の無い
事。
「私、健康だって事以外は何ひとつ桜花ちゃんより劣ってた。私、本当はずっと
桜花ちゃんの事嫌いだった。けど、そんな事態度に出したら、周りから軽蔑され
るのは私だってわかってたから、ずっと仲良しのフリしてた…それで、ある日ね」
私の進学と時期を同じくして、桜花ちゃんの両親が事故で死んだ。桜花ちゃん
は独りぼっちになってしまった。
「嫌いだけど、桜花ちゃんが大好きだってわかった。独りにさせたくない、泣か
せたくない、笑顔でいて欲しいって思った。だから、一緒に住もうって話持ち掛
けた。桜花ちゃん、凄く喜んでくれた。私も凄く嬉しかった」
一気に喋って、一息つく。けど、本番はこれからだ。本当は、言いたくない。
「…でも、やっぱり一緒にいるとどうしても自分が劣ってるって、苛まれるんだ。
事実、私と桜花ちゃんと一緒にいて、桜花ちゃんより私を好きになってくれる人
なんていなかった。だから、お前と岸部に桜花ちゃん、会わせなかった。ずっと
隠してた。やっと私と桜花ちゃんを比べないでいてくれる人見付けたから…」
私は、思い切り泣いた。すっげぇ醜い私の本心、ぶちまけてしまった。なんで
言っちゃったのかはわからない。けど…
「うっ…」
水沢は、私を引き寄せて、乱暴なキスをした。何度も、何度も。それから、普
段からは予想も付かないくらい強い力で、私を抱き締めた。
「…さくらさん、きっとこういう事言って欲しくてそういう事言ったんだって事
を踏まえて言います。俺は、その人と貴方を比べたりしません。きっと、貴方の
方が面白いと思いますし!」
「嬉しくねぇえ!!」
どちくしょう…言って欲しくない事、ズバンと言い切りやがって…でも、その
通りです。そう言って欲しかったんだよ…汚い所も馬鹿な所も含めて、私の事好
きって言って欲しかったんだよ。
「でも、桜花ちゃんって可愛いよ?私、そんな可愛くないし、性格悪いし、今の
流行って天然ボケじゃん?私、どう見たってツッコミじゃん?」
「…必死に自分を貶めて、俺に褒めさせようって誘い受け的な事しないで下さい。
俺はそんな浅はかな所も、好きですから。どうしようもない顔でも性格でも頭で
も髪型でも、俺は貴方を選びます。ていうかいい子ちゃんキャラなんか糞くらえ
ってなもんです!天然なんかいりません、俺とボケが一緒にいたってただのダブ
ルボケです!!」
…力説する。これ以上私に何も言わせようとしないかの如く、全部言い切る。
私はそんな必死な水沢が…いつもは飄々としてて、絶対熱い所なんて見せないこ
いつが、私の為にここまでしてくれるのが…物凄く嬉しくて、物凄く申し訳なか
った。
水沢も気付いたのか、急にいつものテンションに戻る。物凄く恥ずかしそうに
はしてるけど。
「ありがと…私、幸せ」
ここまで貶められて幸せも何もあったもんじゃない気がするけど…そう仕向け
たのは私なんだし…急にしおらしくなってみせると、水沢はにやりと笑ったよう
な気がした。そして私の浴衣に手を掛ける。
「じゃあ、俺も幸せにして貰えますかねぇ」
ふざけて、そして私が手を出したり怒鳴ったりするのをきっと予測しているん
だろう。私を元気にする為に。馬鹿な私の為に、水沢は。
「うん」
初めて、私から大輔にキスをした。
一瞬物凄く驚いた表情になって、でもすぐに私を押し倒す。いや、お前もどん
だけ私が好きなんだ?
「あの、前も言ったと思うけど…私、初めてじゃないよ?」
「上等です。ていうか好都合です」
…なんか、引っ掛かるけど…まぁ、いいか。私は若干震えながら、水沢(やっ
ぱこっ恥ずかしい)が浴衣を脱がせるのを待った。所詮は浴衣だからすぐに裸に
された。ええい、ショーツを拡げて見るな。
「さくらさん、綺麗です」
それは…ありがとうございます。嬉しいよりも、恥ずかしい方が大きくて、私
は柄にも無く顔を手で隠してしまった。
リアルタイム記念パピコ。
かなり萌え。がんがれー
「さくらさん」
優しくされるより、普段みたいにされた方がいいんだけどな…なんだか、本当
にこいつが男だって実感してしまう。惚れた者の欲目かな、眼鏡を外した水沢が
…なんだか本当にカッコ良く見える。口で笑ってて、いつも眼が笑ってないよう
な気がしてたけど…今はちょっと、眼が優しかった。
「水沢…」
「名前で呼んでくれたら、俺、物凄く嬉しいんですけど」
私の手を、顔から離す。私は咄嗟に水沢の浴衣を引っ張った。不健康そうな身
体かなぁ、と思ってたけど…まぁ、確かに私より白いけど…普通だ。普通の男の
人だ。
「み…大輔」
「はい、さくらさん」
ごめん、用は無い。呼んだだけ。それを伝えると、嬉しそうな顔をして私に抱
き付いて来た。私も、答える。
暫く、ただ抱き合っていた。本当は、ずっとこうしていたかったけど、そうは
行かないみたいだ。大輔は私の両頬に手を添えて、改まった感じでキスをする。
舌が入り込んできて、こんにちはー、とでも言いた気に舌をつついて来た。
私、ディープキスってした事無いんだけどな。いや、なんか嫌でしてなかった
んだけど…でも、してみると嫌じゃない。大輔だからかな?と恥ずかしい事を考
える。
絡んで来る舌が気持ち良くて、私も動きを合わせる。いいなぁ、こうやって、
大輔とずっとこうしていたい、と思う事が増えて行くのって。
「っう…」
不意に、胸を掴まれた。指が乳首の先端で小刻みに動く。乳首が固く、大きく
なって行く。私の唇を離れた大輔の唇が、指で弄んでいる方とは反対の乳首を咥
えた。
「あっ」
私は小さく声を上げた。両方の指と口を使って、大輔は私の胸を舐めたり、揉
んだりしている。声が出てしまう。こんな事するなんて、朝には思いもしなかっ
た。電車に乗る時、私の手を引いた大輔は、もう考えていたのだろうか。
時おりキスしながら、大輔は私の胸を重点的に攻めて来る。
「だい…す…け」
赤ちゃんよりやらしく、強く乳首を吸っている大輔の髪を掴んで、私は名前を
呼ぶ。
「はい」
あまり余裕の無い私とは対照的に、涼しい返事だこと。でも、正直聞けないわ。
なんで胸ばっかなの?って。
「大輔…」
名前ばっか呼んで、何したいのかさっぱりわからないんだろうな。けれど、大
輔は笑って頬にキスしてくれた。子供みたいなキス。すぐに離れると、大輔は予
想を裏切っていきなり私の脚を開いた。
「え…」
汗ばんだ太腿を両手で押さえるようにして、私の股間に顔を沈める。乾いたイ
メージを持つ大輔だけど…当たり前だけど、舌はヌルヌルしていた。どこもかし
こも、年下の癖に、まだ10代の癖に、どこか枯れた雰囲気を持っていて…
こんないやらしい事、している。下話だって散々したのに。そういうイメージ、
無かったから。私が勝手に想像してただけだけど。
「ぁあっ、んっ!」
大輔の舌が、入口付近を舐める。反射的に脚を閉じようとしたけど、無理だっ
た。
「さくらさん、濡れてます」
「言うなっ!…やっ、ん、ああっ…あっ」
正直言うと、こういう甘ったるい自分の声、嫌です。なんか、本当にやらしい
なー、と思うから。普段がアレで、こういう時コレで、どういう事だと自分で思
う。
きっと桜花ちゃんなら…可愛いんだろうな。恥じらいながら可愛いか細い声上
げて。萌えだな。俗に言う萌えだ。
「ひっ…ぁあっ!?」
暗い事考えていたら、いきなり中に指を入れられた。しかも、3本も。
「何考えているんですか」
声が、ちょっと真面目だ。怒ってる?…そりゃ怒るか。最中に別の事考えてた
ら。
「忘れさせてあげますよ」
溜息交じりに、そう言った。ごめん。本当にごめん…今の、私が悪かった。
「ごめ…っん、あ、ああっ!や、っ…」
少し乱暴に動かされる。ちょっとの痛みと、やらしい音と、快感。指が動く度
に音が大きくなって、熱い液体がお尻を伝う。確かに、余計な事は全部忘れそう
だ。
「さくらさん、ここ、凄い事になっていますけど」
乳首を口に含み、強く吸う。私は大輔に言われた言葉に過敏に反応し、指を締
め付ける。いきそうだ、と思った。
…が。
「…………」
「…………」
静かな部屋に鳴り響く、やたら陽気な着メロ。物凄ーく脱力した大輔が、私に
のしかかる。勿論、私もそれまでの色んなテンションがドン冷めだ。が、ボーっ
としてた頭が瞬時に冷静になる。この着メロ、桜花ちゃん専用だもん!
「出るんですかぁ!?」
思い切り携帯に向かった私に、非難がましい声。だって、仕方ないから。
今回の旅行、大切な計画を立てているから、余程の事が無い限り電話は止めて
くれって頼んだのに、電話が来た。しかももう夜。私は蒼褪めながら電話に出た。
「桜花ちゃんっ!?」
『さ、さくらちゃんっ!?あの、どうしよう、私、大変ですっ』
私は背筋が凍りそうになる。温厚というかのんびりというか…どんくさい桜花
ちゃんがこんなに慌てるなんて、滅多に無い事だから。
『前から何故か私に言い寄って来る人がいるって…言ってましたよね。あの、今、
いるんです。一緒に旅行に行って、あの、私が欲しいって…』
「ええええっっ!?ちょっ、え、旅行!?なんで!?嫌がってなかった?もしか
して拉致!?拉致られたの!?」
「…どういう会話なんでしょうね」
素っ裸で慌てる私。後ろから妙に冷めた大輔の声。が、知るか!桜花ちゃんの
一大事だってのに!!が、話を聞いて行く内に、なんかおかしい事がわかった。
どうも桜花ちゃんはそいつの事を好きみたいで、突発的な旅行の誘いについて
行って、そのくせ何の覚悟もしていなかったみたいだ。
…頭のどこかで、何かが切れたような気がした。
「桜花ちゃん…」
『はい…』
桜花ちゃん、大好き。桜花ちゃん、大嫌い。
「犯されろ」
ぷちっ。ぽち……
電話を切る。そして電源を切る。これで電話が掛かって来る事は無い。携帯を
放り投げると、私は非常に気まずい気持ちで振り向いた。
「本当に、どういう会話だったんでしょうね…」
物凄く静かに怒っている様子の水沢さんが、さっきと同じ位置に座っていた。
「…すいません」
私は裸のまま土下座した。そりゃそうだろう、あんだけ言っておいて、私は結
局大輔より桜花ちゃんを選んだのだから。
「別に、怒っていません」
拗ねてるけどな…そりゃそうだよな、本当に悪いと思ってる。こういうのって、
マナー違反だし。
しょんぼりして小さくなっていると、大輔は不満気な顔から、急にいつもの何か
企んでいそうな顔に戻る。そして私を抱き寄せると、頭をぐしゃぐしゃにした。
「やっ、ごめん…」
「…いいですよ、大切なんですよね、その人が」
私を抱き締める。うん、と頷いた。もう1度、頷く。
「ごめんね、今度からはちゃんと切っておくから」
「次、あるんですか」
嬉しそうに言う。うん、とまた頷いた。
「まぁ、でも次もいいですけど、今どうにかして欲しいんですけどね」
そう言うと、私の手を掴んで…ぉわっ!?…自分のを、触らせた。熱くて、固
い。
「あ、うん…じゃあ、あの、好きにしていいから…」
謝罪の気持ちも込めて、言ってみる。途端に輝いたような表情になるのは、露
骨で好きだ。が、こいつの口から出た言葉は、全くの予想外だった。
「じゃあ、さくらさんがして下さい」
「…じゃ、行きます…」
私は、内心大分怖がりながら、腰を落とす。
俗に言う、騎乗位って奴。これも、した事無い。けど、そのくらいはしないと
申し訳が立たない。私は決断した。
「あっ…あ、入って…」
「っ…」
少し眉を顰め、大輔は私の腰を掴む。こういう体勢だからか、物凄く入れにく
い。けど、最初が入ってしまえば、少しは楽になった。
「ふ、ぅっ…」
息を、吐く。私の中に、大輔が入っている。中はさっきまでの愛撫でまだ濡れ
ていたけど、久し振りに男の人を受け入れた身体には、少しきつかった。
「だいす、け…どうすれば、いいの?」
途切れ途切れに、聞いてみる。一瞬意味がわからなかったようだけど、すぐに
理解してくれた。
「初めてなんですか?」
私は頷く。うわっちゃぁ、というような表情をして謝罪するが、そこはミスタ
ー前向き。好きなように動いてください、と楽しそうに言った。
だから、私は動いてみた。左右に動いてみたり、抜き差しをしてみたり。適当
に動いてみて、次第にボーっとして来る。どうやら、私は抜いたり差したりする
方が好きみたいだ。動きは徐々に大胆になって行って、ぶちゅぶちゅ、と水音が
部屋に響いた。
本当は、大輔を気持ちよくしてあげたいのに、でも、今の私はもっともっと気
持ちよくなりたくて腰を動かしている。大輔が揺れる胸を掴んで、指で乳首を挟
むと、もっと気持ちよくなった。
「あっ、あんっ…あっ、いいの、いいっ、水、沢ぁっ!…ぅああっ!?」
つい、呼びやすい方で呼んでしまう。不服だったのか、水沢が腰を突き上げて
来た。そして私の腰を両手で掴むと、自らの力で抽送を始める。あっという間に、
私は主導権を奪われる。
「いやっ、あ、あぁっ、あ、あんっ!」
いつの間にか、私は泣いていた。気持ちよくて、大輔の事が、いつの間にか物
凄く好きになっていて。大輔が好きでいてくれて…あ、こりゃ嬉し泣きか。
大輔の動きにあわせて、円を描くように腰を動かす。私は夢中で大輔を求め続
ける。
「さくら…さんっ…好き、です」
あまり余裕の無い息遣いで、そう言ってくれた。私も答える。キスをして、自
ら舌を絡めた。
限界が近い。私は不意にそれを悟った。どろどろに溶けそうなくらい熱い結合
部を眼にして、私は一瞬バランスを崩しそうになる。そのまま大輔は私を抱き、
腰を密着させる。
「あっ…あ…だいっ…あ…っくぅ、ああああっ!」
びくん、と腰が震えた。中が痙攣して、大輔のを締め付ける。大輔の身体にし
がみついて、爪を立ててしまう。あそこが痙攣するのは、暫く続いた。
「あっ、ん…んっ…」
汗、びっしょりだ。もっかい、お風呂…うわ、風呂まで遠い…
正直、大分どうでもいい事を考えながら、私は意識を手放した。
「…ん」
眼を開けると、私は誰かに抱かれて、2人で布団に包まっていた。
ていうか誰か、って1人しかいない訳だけど。
「おはようございます…はまだ早いですね」
確かにまだ暗い。ずっと起きていたのか、大輔が声を掛けて来た。私は急に恥
ずかしくなってしまった。
「なんですかなんですかぁ、今更恥らわれたって…」
大分面白がりながら、大輔は言う。そんなのさえ、今は愛しいって思う。
「仕方ないよ…恥ずかしいもん。私、さっき凄くエロくなかった?」
自分から男の人に跨って、あんな腰振って…考えただけで恥ずかしい。
「ええ、おっぱいすっげぇ揺れてました」
…きっと、その言葉は真顔で言っているのだろう。なんとなく、予想出来た。
私はつい吹き出した。
「さくらさん」
そんな私に呆れたのか怒ったのか、真面目な声で呼ばれた。
「ん?なに」
「いえ、ただ確認したくて」
意図がわからない。なんだ?確認って。私は何の事かわからずに次の言葉を
待つ。
「俺の恋人になってもらえますか?」
…深くにも、ときめいたわ。お前が捻らずストレートに来ると、弱いわ。
「はい、喜んで」
「…返事しないで、お前が」
アホな1人芝居を見せられて、ちょっと頭痛がして来た。
「ま、これからよろしくね」
「はぁい」
いつも通りの口調で、奴は返事をした。
明日、陽の光の下で見るこいつは…多分、カッコいいと思ってしまうのだろう
か。非常に複雑な気持ちになりながら、私はもっと大輔にくっついた。
「あはは、さくらさん可愛い」
「そりゃどぉも」
「…ところで、なんでお前…ゴム、持ってたの?」
「て言いますか、なんでさくらさん、用意してなかったんですか?」
エロ作戦一杯考えてた割に…とでも言いたそうだ。
「まぁ、本当はサポートに徹する気でいましたから。他にもこう、ガラナエキス
とかエロビデオとか持って来てますけど…見ますぅ?」
「……はぁ」
出さんでええよ、と私は大輔の申し出を丁重に断った。
きっと、明日から幸せなんだろう。けど…これだけは言える。確実に言える。
疲れる度合いは、今までの比じゃねぇな、という事はね…
終
404 :
377 :04/02/01 14:29 ID:hRjdUi9o
一気に、行ってみました。
このスレに合っていなかったり嫌だという意見が無ければ(これから作ろう
と思っている段階ですが)、その内桜花編をやってみたいと思うのですが…
>404
是 非 や っ て 下 さ い 。
>377
乙。面白かったです。
なんだか元になる設定が色々ありそうなお話ですね。
ばっちり合っています。ほのぼのしていて面白かったです。
シロー編もお願いします。
えろ小説としてではなく、
作品として楽しませてもらいました。
なぜあたしの萌えポイントをしっているΣ(゚д゚;)
っていうくらいに、超ツボw
たーのしーい。
笑いながら読んでるうちに、
水沢がええ男に見えてしまった自分が怖いです。
すげぇ面白かった。
桜花ちゃん編、楽しみにしています。
410 :
377 :04/02/08 20:34 ID:c7oqy1vh
なんかやたら長くなってしまいました。
おまけにエロまで遠いです…
「起きてー!桜花ちゃん起きてよー!!」
布団ごと私を叩く微妙な痛さと、ちょっとだけ怒りの篭った声。
私は全然働かない頭で、うん、ううん、と生返事だけを返します。ただの脊椎
反応かもしれません。
「起きて、ねー、ねーってばぁ!」
「はえ…」
べしべしべし、と叩く音がどんどん強くなって行く。いつもなら、この後は…
確か、布団を剥ぎ取って、のーてんちょっぷかだぶるちょっぷが…
「起きんかーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」
がすがすがすっ。
…布団を剥ぎ取って、まっはちょっぷが来ました。
「もうっ、明日は絶対早起きするって言うからチーズオムレツ作ったのに」
「ごめんなさい…」
痛む頭を押さえながら、私はさくらちゃんの作ったチーズオムレツを食べます。
トロトロで、とてもおいしいです。
「んーっ、おいしいです」
「そりゃどうも。でも桜花ちゃんの方が料理上手なんだからさ…たまには桜花ち
ゃんの作った朝ごはんが食べてみたいよ」
うっ…と、私は言葉に詰まってしまいました。
私は、朝が弱いです。とてつもなく弱いです。ですから、2人暮らしの私とさ
くらちゃんは家事を交代制でなく朝・晩制でやっています。言い訳になりますが、
私は会社で夜遅くなる事が多いので…結局、夜もさくらちゃんがやってくれる事
が多いのですが。
溜息をつきながらトーストにイチゴジャムを塗るさくらちゃん。私はキウイの
ジャムを塗ります。ジャムはさくらちゃんの手作りで、このキウイのジャムは私
の大好物です。さくらちゃんは私の方が料理が上手だと言いますが…そんな事は
ありません。
「でも、もう無くなるね。作ろうか、その内」
瓶を手に持って揺らしながら、さくらちゃんは言いました。そう言いながら、
少し頬が赤くなったような気がしました。
「あの、さ。次…バナナのジャム作りたいんだけど」
「え?それは美味しそうですね」
考えただけで、涎が出てしまいそうです。でも、さくらちゃんは慌てて訂正し
ます。
「あ、違うの。友達にあげるの。友達がバナナ大好きだって言うから、あの、ジ
ャム作れるって言ったら、くれくれって…だから…」
さくらちゃんが、真っ赤になってしまいました。
「でも、桜花ちゃんが食べたいなら家用にも作るし」
可愛いな、そんな事を思いました。
私は、2年程前に両親を事故で亡くしました。独りで途方に暮れていた私に、
一緒に住もう、と言ってくれたのが、さくらちゃんでした。
小さな頃からどんくさくて、身体が弱かった私は、いつもさくらちゃんに助け
て貰っていました。私をからかったりする男の人にも、年下なのに食って掛かっ
て私を庇っていてくれました。
私は、ずっとさくらちゃんと一緒にいました。
4つも年下なのに、さくらちゃんはしっかりしていて、よく私は自分が情けな
くなりました。けれど、さくらちゃんの笑顔を見ているとそんな事がどうでもよ
くなるくらいに元気になれました。
ずっと、一緒だと思っていました。
ずっと、2人でいれると思っていました。
「さて、と」
ごはんを食べ終わって、食器を片付けたさくらちゃんはエプロンを取って私の
方を向きました。
「じゃあ、私出掛けるよ。桜花ちゃんはどうするの?」
さくらちゃんは、2週間後に旅行に行きます。今日はお友達とその為の相談と
細々した物を買いに行くそうです。
「んー…どうしましょうね」
「出ないなら、私ごはんの材料買ってくるし」
「いえ、いいです。ゆっくりして来て下さい。夕ごはんも外で食べるんですよね?
私もそうしますし、ついでにお買い物もして来ます」
そう言うと、さくらちゃんは笑顔になりました。ありがと、と言って行ってし
まいました。
私もさくらちゃんから15分程遅れて外出しました。
2人でお出掛けをするのも好きですけど、1人でのんびりとウインドウショッ
ピングも楽しいです。
可愛いぬいぐるみとか、綺麗なアクセサリーとか、新しい対の食器とか、面白
そうなゲームとか…見たいものがたくさんあります。
そうそう、そういえば見たい映画もありましたよね…
無計画に出て来た事自体が面白くて、素敵な一日になると思っていました。
―――この瞬間までは。
「ちょっと、アンタ!そこのアンタ!!アンタだよ!!」
後ろから、声を掛けられます。けれど、その呼び方では誰の事かはわかりませ
ん。それに自慢ではありませんが、男性の親しい友達は私にはいません。ですか
ら、関係無いと思い、そのまま歩きました。けれど。
「ちょっ…無視やめてよ!アンタだよ、ねぇってば!!」
「えっ!?」
いきなり肩を掴まれる。うう、周りの人がみんな注目しています。目立つのが
とても苦手なので、物凄く居た堪れない気分になります。
私はその人の手を振り払って逃げようとしました。でも、その人の放った言葉
で私は動けなくなりました。
「逃げたら、泣くぞ!大の大人が転がって泣いてやるぞ!?」
「ええええっ?」
困ります。もっと恥ずかしいです。私は泣きそうになりながらその人を見まし
た。
笑顔が、印象的な人でした。こういう事を言っては何ですけど、胡散臭いまで
に爽やかに笑う人、という印象です。
「立ち話もなんだかさ、こうお茶でもどうかな。抹茶啜りつつヨモギ団子でも」
「渋い趣味してらっしゃいますね…」
年齢は…私より下でしょうか。きっと、さくらちゃんと同い年くらいでしょう。
大学生ですかね?もしかして私…誘われているのでしょうか?だとしたら、大変
です。私、この人と行く気はありません。全然ありません。断ろうにも、下手な
回答をしてしまうと本当に往来で泣かれるかもしれません。
その時でした。
「あ、悪い。逃げちゃやーよ」
男の人の携帯電話が鳴り、首を傾げながら出ます。出た瞬間、私にも聞こえる
程の大きな声が。
『アホかお前はーーーーーーーっっ!!』
女の人の、声です。
物凄く、怒ったような…朝、私が聞いたような声です。恋人でしょうか。男の
人は見る見る内に蒼褪めて行きます。
「すっ…ご、すいませんっ!俺が悪かったですっ!!あ、おっ、奢りますっ!!
あ、勿論、2人分…え、あいつも来てない?あ、よかっ…良くないです!すいま
せん!!すぐ行きますっ!!」
呆気に取られる私に、男の人は紙切れを突き付けます。
「これっ、俺の携帯の番号。気が向いたら掛けて!その内デートしよっ!!じゃ
ねっ!!」
そう言うと、もと来た(と思います)道を全力で疾走して行きました。
私は1人でそこに残されて、立ち尽くすしかありませんでした。
「ただい…えふっ。桜花ちゃん、胃薬出して…」
青い顔をしたさくらちゃんが、帰って来ました。どうしたんでしょうか。
「はい、どうぞ。どうしたんですか?」
聞いてみると、食べ過ぎたそうです。さくらちゃん、少食なのにカレーを大盛
り、おまけにデザートを2つも食べてしまったとか。
「っ…水沢め…なんで豚骨ラーメンとチョコケーキ同時に食えるんだよ…」
「え?」
一瞬、物凄く恐ろしい事を聞いてしまったような気がして、聞き返してしまい
ました。
「あ、いや、なんでもないよ。単なる独り言」
多分、さくらちゃんも思い出したくなかったんでしょう。私も忘れる事にしま
した。
お風呂から上がると、いい匂いがしました。きっと、さくらちゃんがジャムを
作っているんでしょう。私も台所に足を運びます。
「んー…」
ク○キング○パを片手に、さくらちゃんは唸っています。そうです、さくらち
ゃんはその本を読んで料理に興味を持ちました。
「ねぇ、桜花ちゃん。とうとうえっちゃんがまことに告白したよ…!」
「え、ホントですか!?」
私はあまりにびっくりして駆け寄ります。さくらちゃんからもいい匂いがしま
した。楽しそうに話をするさくらちゃんの笑顔が、私は大好きです。
小さい頃から、よくこう思っていました。
『自分が男の人だったら、きっとさくらちゃんを好きになっていたのに』
可愛くて、ストレートで、料理上手で…着痩せするタイプですから、私以外に
知っている人はいないと思いますけど、胸が大きくて…うう、羨ましいです。私
は胸が無いですから…
「あ、やっば。焦げる焦げる!!」
本を私に渡すと、慌てて鍋の方に走りました。どうやら最悪の事態は免れたよ
うです。出来立ての熱いジャムがとても美味しそうです。
「食べる?私は無理だけど」
おなかを擦りながら、さくらちゃんは尋ねます。勿論、食べます。私はパンを
トースターに入れました。味見するのは、新作・バナナです。
「おーいしーい!」
「ホント?よかったぁ!」
あまり甘過ぎなくて、結構さっぱりしていて、本当に美味しいです。さくらち
ゃんも嬉しそうですが…あれ?
「さくらちゃん、どうしたんですか?」
「え…え、あ?あ、別にっ、なーんでもないよぉ?」
少し動揺しながら、さくらちゃんは私から離れます。何故でしょうか、最近こ
ういう事が多いような気がします。私に、必要以上な隠し方の隠し事をしている
ような…(普通にしていればいいと思うのですが)なんだか、拒絶されているよ
うな気がして、たまに胸が痛みます。
しつこくしたら、きっとさくらちゃんに嫌われてしまいます。私はあっさり引
き下がり、ごちそうさまをして台所を出ました。
ベッドの中で、ひとつの答えが頭に浮かびます。
…きっと、好きな人が出来たのだと思います。その人に、ジャムをプレゼント
するのでしょう。それをきっかけに告白して、さくらちゃんはその人の恋人にな
るんでしょう、きっと。
嬉しい筈なのに。大好きなさくらちゃんが好きな人と恋人同士になるのは、喜
ばしい事なのに。何故でしょう、胸が痛いのは。
私は、女の人が好き…所謂レズの人では無い、とは一応断言出来ます。好きに
なったり、ポーっとなったりしたのは、いつも男の人でした。それに、さくらち
ゃんを見て、そういう…身体の関係を持ちたいと思った事もありません。
「子供っぽい、独占欲…という事ですかね…」
私ももうすぐ四捨五入したら三十路、という年齢です。さくらちゃん離れをし
た方がいい、というのはもう10年近く思っている事です。
こうなったら、私も好きな人を作った方がいいのでしょうか。でも、私には男
性の友人がいません。会社の人は…奥さんやお子さんのいる人が多いですし。
「あ」
がば、と起き上がって、バッグを探ります。そして目当ての物を見付けると、
机の上の携帯電話も取って、昼間の事を思い出します。
激しいまでのハイテンション、後先考えない引き止め方、胡散臭さ漂う爽やか
な笑顔。悪い人では無さそうだ、と直感で思いました。
安直過ぎではないか、とは思います。けれど、出会いなんて自分から探しに行
かなければ巡り会えません。実を言うと、少しだけ気にはなっていました(会っ
た事の無いタイプという事に間違いは無いので)。
私は勇気を出して、電話を掛けてみました。
呼び出し音が3度程鳴ってから、相手が出ました。
「あっ…あの…」
『はぁい、どなたですかぁ』
…アレ?と私は一瞬言葉に詰まります。電話に出たのは、とてもテンションの
低い、間延びした声の人でした。
「すっ、すいません、あの…」
『あ、俺違いますよぉ?シローさん、電話…』
『お前、勝手に取んなよ!』
…何やら、争うような音が聞こえます。そして『去ね!このメガネ!!』と叫
んだ後、走って、ばん、ばん、と乱暴に戸を開くような音がして、そして荒い息
遣いだけが聞こえて来ます。
「大丈夫ですか…あの、シローさん…」
『シロ…まぁいいや。あの、もしかして、今日の…』
嬉しそうな声。何故か、私も少しだけドキドキして来ました。はい、と返事を
すると、更に興奮したような声が。とても素直な方のようです。
『え、でもマジで?軽く番号渡した俺に馬鹿じゃねーのって女子数人で電話掛け
て後ろで笑ってるとかじゃねーよな?』
なんですか、そのネガティブ思考。
「違います。気が…向いたんです」
『マジっすか!?うっわ、すっげ嬉しい。俺30メートルくらい先からアンタの
事見て、来たっっ!!て思ったもん。運命?これが運命ってか!?って』
なんでしょう、この人は可愛いです。ストレートに思った事を言ってくれる感
じで、とても好感を持てます……って。
「30メートル!?」
『…そこ?反応そこなの?』
驚いた私の声に、戸惑ったようなシローさんの声。それから、笑い声。
『シローさん、キモいですよ』
『うるせぇ!黙れ!!帰れ!!!』
『ここ、俺の家ですよぉ』
うがーーーー!!と、また争うような声。シローさんをからかうような、間延
びした声。何かが落ちる音。笑い声(シローさんじゃない人の)。
楽しそうだな、と思いました。
『あ、あの、は、また、あの、電話…すっから。アンタ、自分の携帯から、掛け
てるよね?…っじゃあ…あはははははははははははははっっ!!』
ぷつ。つー、つー、つー。
くすぐられたんでしょうか。断末魔のような笑い声がして、切れました。
楽しかった…のでしょうか。私は『シローさん』の番号を登録して、つい顔が
緩んでしまいました。
夜中にトイレに起きると、台所の灯りが付いていました。まだ起きているんで
しょうか…
「で、お前飛び蹴られたの?馬鹿じゃねー!?」
明るい笑い声。覗いて見ると、机の上には綺麗にラッピングされたジャムの瓶
が。電話の相手は、さくらちゃんの好きな人でしょうか?私は、さっきのような
胸の痛みを感じなかった事に、ちょっと驚いてしまいました。
それから、シローさんとは何度も電話をしたり、メールの遣り取りをしました。
シローさんは面白い人です。
基本的にテンションが高い人だと思っていましたが、どうやら違うようでした。
友人の『ダイスケさん』という人がいない時は、落ち着いた声で、私の話を聞い
たりしてくれました。シローさんの話も、たくさん聞きました。
困るのは、好きだ好きだと臆面も無く言って来る所でしたけど…どこが好きな
のか、正直私には謎です。
「…ねぇ、さくらちゃん、私に魅力ってありますか?」
キウイのジャムを塗りながら、ある日不意に訊ねてみました。ぶほっ、と食べ
ていたトーストを吹き出すさくらちゃん。
「桜花ちゃん、それ本気で言ってる?」
「本気です…あの、私、今とある人に好きだ好きだって言われているんですけど、
でも、会った事はあまり無くて…主に、あの、言ってしまえばメル友みたいな関
係なんですけど…」
もしょ、とトーストを口に運びます。さくらちゃんはじーっ、と私の顔を見て
います。
「会った事は、一度でもあるんだよね?」
「はい。あります」
なるほどね、と納得したような顔。
「じゃあもういいじゃん。そいつ、桜花ちゃんの綺麗な顔と優しい性格とほわっ
とした雰囲気のどれかに惹かれたんじゃないの?言っとくけど、桜花ちゃんって
魅力的なんてなもんじゃないんだからね。私が男で今と同じ生活なら、初日…い
や、私が中2辺りで喰ってるよ、桜花ちゃんの事」
平然と言ってくれるさくらちゃん。嬉しいですけど…私だって、同じだと思い
ますよ。きっとさくらちゃんが中学生くらいになってた辺りで、こう…まぁ、あ
の頃は胸、ちっこかったですけど…
「ま、いずれにしろ桜花ちゃんが好きならいいんじゃない?嬉しいよ、やっと男
出来てくれて。あ、そうだ。今日遅くなるから…また旅行の件で」
「好き…なんでしょうか、好きというより…」
「いや、私に聞かないで」
ぺしょ、と突っ込まれてしまいました。
「えっと、バター、どこ行っちゃったんでしょうね…」
冷蔵庫を探りながら、首を傾げます。もしかして、使い切ってしまったのでし
ょうか。
今日はせっかくですから、さくらちゃんの好きな鶏肉のクリーム煮とあさりご
はんを作ろうと思っていたのですが…
ピンポーン、とチャイムが鳴る音。慌てて玄関に向かうと、そこにはさくらち
ゃんのお母さんが。
「あ、おばさん。お久しぶりです」
「お久しぶりね、桜花ちゃん。さくらはいないの?」
さくらちゃんは、旅行についてまたお友達と出掛けています。もうすぐ帰って
来ると思うのですが…
実を言うと、私はさくらちゃんのお母さんが…苦手です。私の事を気に入って
くれているのは嬉しいのですが、何故かさくらちゃんの事は、あまり好きでは無
いみたいなんです。しかも、それを隠せばいいのに前面に押し出している所が…
苦手です。
お茶を出して、向かい合って座ると、おばさんは笑った。嫌味のある笑顔だ、
と失礼ながらいつも思います。
「偉いのね、ごはんの準備、いつも桜花ちゃんがしているんでしょう?全く、あ
の子ったら桜花ちゃんと一緒に住むなんて、タダで家政婦を雇ったなんて勘違い
しているんじゃないのかしら」
この人は、失礼な事をズケズケ言います。勿論、それはさくらちゃんと、自分
の旦那さん限定のお話です。私には優しいのですが、私は大好きなさくらちゃん
を当然の様に貶すこの人と一緒に過ごす時間がとても嫌です。
「おばさん、それは誤解です。さくらちゃんとはいつも作業を分担しています。
寧ろ、私の方がさくらちゃんに負担を掛けているようなもので―――」
私が言っても、まともに取り合って貰えません。
「ああ、いいのよ、あんな子。どうせ何もしないんでしょう?あーあ、本当に桜
花ちゃんが私の子供だったら良かったのに」
…私、死んでも嫌です。そう思ったその時だった。
「いいじゃん、別に本当に親子って訳じゃないんだから」
笑いながら、そう言うさくらちゃんがいた。おばさんと話している時のさくら
ちゃんの眼は、とても冷たいです。
さくらちゃんの言う通り、おばさんとさくらちゃんに血の繋がりはありません。
おばさんは後妻です。さくらちゃんは私に笑い掛けると、クレープの入った袋を
見せてくれました。
「ごはんの後食べよ。私も手伝うよ」
完全に、無視しています。おばさんがそこにいないかのように。その事に腹を
立てたのか、おばさんはさくらちゃんを睨みます。
「っ、貴方、帰って来たらただいまくらい言えないの!?昔から礼儀を知らない
子だったわよね。桜花ちゃんを見習いなさいよ、親戚の皆だって、いつも桜花ち
ゃんと貴方を比べて、私はいつも恥ずかしい思いをしているのよ?」
捲くし立てるように喋りますが、さくらちゃんは涼しい顔をしています。私は、
嫌いです。この人の言葉の暴力が、どれだけさくらちゃんを傷付けているか、考
えもしないこの人が―――大嫌いです。
「おばさん、いい加減にして下さい」
泣いちゃ駄目。私が泣いちゃ、絶対駄目。震える声で、私はおばさんを睨んだ。
「お、桜花ちゃん…ごめんなさい。私ったら」
「ホント桜花ちゃんの前で年甲斐も無く喚いて、恥ずかしい思いをしてるよ、私」
…さくらちゃんは、自分が攻撃されたら軽く3、4倍にして返す人です。おば
さんは血管を切らせそうになりながら、でも(何故か気に入っている私の手前)
我慢しながら、立ち上がります。
「帰るわ。あ、そうそう、これ、お見合いの写真なの。見ておいてね」
「桜花ちゃんいる?」
私に渡す前に、さくらちゃんが奪い取ります。あ、またですか。おばさんはよ
く私にこの手の話を持って来ますが…私、まだその気はありません。私が返答に
困っていると、さくらちゃんはついっ、とおばさんに返し。
「迷惑だから持ってくるなって。桜花ちゃんを自己満足の道具に使わないでよね」
ストレート過ぎです、さくらちゃん…
「あっ」
おばさんの手が、さくらちゃんの―――
ばしん、と派手な音がしました。おばさんが、さくらちゃんの頬を打ちました。
いった、と小声で呟きます。
「うっわ、怖ぁい。そんなんだから親父も浮気し放題なんだよね」
その瞬間、部屋の空気が固まりました。今度はおばさんが泣きそうです。先に
動いたのは、さくらちゃんでした。無言で部屋を出て、そのまま、外に―――
「え…」
外に、出て行ってしまいました。おばさんも眼を潤ませながら、私にごめんな
さいね、と呟いて行ってしまいました。
私は、独りぼっちになってしまいました。
…どうして?どうしてこうなるんですか?私は溢れる涙を拭いもせず、立ち尽
くしました。さくらちゃんの為にごはんを作って、おいしく食べて、デザートを
食べれる筈だったのに。
「っ…?」
不意に、鳴り響く着信メロディ。さくらちゃんと、色違いの同じ機種。
「…はい」
相手は―――シローさん。
『やっほ、染井さん…もしかして、泣いてる?』
「っ―――」
見破られてしまいました。私は慌てて否定しますけど、シローさんは突っ込ん
で来ます。
『泣いてるっしょ?ね、染井さんなんかあったんでしょ?』
「泣いてません…」
『染井さん、俺、今すぐ会いたいんだけど』
…いきなり、何を言い出すんでしょうか。
『家、どこ。今行く。行ってアンタを抱き締めて、そのまま一気にベッドまで…』
「いりませんっ!」
『まぁ、本気だけどさ。でも、俺が今必死こいて全力で走ってアンタを抱き締め
て『俺がいるから大丈夫』って言えば、確実に俺に傾くっしょ!?』
「正直過ぎます…」
あまりの正直さに、私は床にへたり込んでしまいました。なんなんでしょう、
この人…
『そりゃ、正直にもなるよ。後悔したくないから』
「後悔って、どうして貴方が」
意味がわかりません。いつもならハイテンションのこの人も受け入れられます。
けれど、こういう時くらい―――
『する。今ここで染井さんが泣いてるの知ってて、何もしないなんて後から考え
たら絶対に自分殴りたくなる!…間ぁ違い無い!!』
「っぶっ…!」
一瞬、心を動かされました。けれど、最後のモノマネで吹き出してしまいまし
た。
…気が付けば、涙は引っ込んでいました。笑っていました。それも、全部…シ
ローさんが電話をしてくれたから。
『なんか、元気出たな。よかった。でもゴメン、タイミング悪かったよね』
「いいえ、ありがとうございます。あの、シローさん」
今、会いたいと言ったら、この人はどう思うでしょうか。
これは、恋じゃないかもしれません。今、心細いからシローさんに寄り掛かっ
てしまいたいだけかもしれません。でも、これはきっかけです。
今私はこの人に会いたいです。会って、本当に抱きしめて貰いたい、という願
望があります。それを直接言ったら、はしたない女だと思われるかもしれません。
でも、それでも。
「…会いたいです」
勇気を振り絞って、言いました。
『マジっすか!?』
「…マジっす」
言ってしまったら、本当に会いたくなりました。私はエプロンだけを取って、
慌てて家を出ました。場所は、近くの大きな公園です。バイクで来てくれるそう
です。
そんなに待たずに、シローさんは…ええ!?
「ちょ、シローさん、ノーヘルは…」
普通に髪を靡かせながら、シローさんはバイクを止めて走って来ました。
「わっ…」
そのまま、私を勢い良く抱き締めます。
「ヘルメット被ってる暇なんかねぇよ!ていうかバイク俺のじゃねぇし、無断使
用だし、そもそも中免持ってねぇっつの!!」
私を力の限り抱き締めて、物凄ーくヤバそうな事を言ってくれます。
普段だったら、きっと引いています。怒って、注意してしまうかもしれません。
でも、今は…物凄く嬉しかったです。
「後で、持ち主に一緒に怒られような?」
「…断固、拒否します…」
冷たい身体。冷たい手。私は、今この人の事が好きです。ずっと、こうしてい
たいです。
「染井さん…」
一旦、離れるシローさん。私の顔を見て、笑ってくれます。どうして、初めて
見た時胡散臭いなんて思ってしまったのでしょうか。こんなにも、安心出来る笑
顔なのに。私は、そっと眼を閉じます。すぐに、シローさんがキスをしてくれま
した。
お恥ずかしい話ですが、ファーストキスです。
大好きです。シローさんの事、とても好きです。
「うわー、すっげ嬉しい」
子供みたいな笑顔になると、シローさんは座ろうか、とベンチの方へ行きまし
た。私は座ってから、事の経緯を話しました。
「はぁ、なるほどねぇ。ひっでぇなぁ」
溜息をついて、そう言ってくれました。
「そういうのってさ、ほら、俺はドラマとかでしか聞いた事無いから、どう言っ
ていいかわかんないけど…」
「いいんです。お話、聞いて貰っただけでほっとしました」
色々な事はぼかしてしまいましたけど、充分でした。こうやって、話を聞いて、
側にいてくれるだけで…
手を、繋ぎたいな。そう思ったその時でした。
「来たぞーーーーー!!」
泣きそうな顔になりながら、電話に出ます。そして、今にも泣きそうな、男の
人の声が。
「あ、ごめん。でもさ、緊急だったんだよ。な、マジで。いいじゃん。今度大輔
に言って、倫子ちゃんのぱんつ盗って来させるからさぁ」
『本当!?』
あ、納得したんですね。交渉は成立したみたいで、笑顔で電話を切りました。
「よかったぁ。あ、今の俺の兄貴ね。大輔のおかんにベタ惚れなんだよね」
「え?え…あ、そう、なんですか」
なんだか、聞いてはいけないような気がしたので、流しました。でも、シロー
さんは小さく溜息をついて、なんだか寂しそうな顔になりました。
「…笑っちゃうんだわ。ガキの頃からずーっと、恥ずかしげも無く好きだ好きだ
言いやがって、すっげ恥ずかしかった。その内、ああいう風にストレートに感情
出すの、カッコ悪いって思うようになって、すっげ損ばっかしてた。周りにもス
カした奴だって思われるようになったんだ」
その気持ちは、わかります。私も、似た所はありますから。
迷惑になるから。わがまま言うと、他人に嫌われちゃうから。
恥ずかしい、というよりも、人の評価を気にしてばかりいました。今も、それ
は変わらないような気がします。だから、さくらちゃんが羨ましいです。ストレ
ートに、思った事を言える、さくらちゃんが。
「抑えるのと、我慢するのと、意地張るのの区別が付かなくなってた俺に、大輔
が素直になる事の大切さ教えてくれたんだよ。そしたら楽になった。だから、今
の俺はこんなんになっちゃった」
おどけてみせるシローさん。確かに、さっきも…まぁ、多少ストレートにも程
がある気はしましたが…
「だから、染井さんにも素直になって欲しいしそろそろ本名教えろよ!!」
…優しさと、本音が出ましたね。実は私、自分の名前が嫌いなんです。ですか
ら、せめてこの人には苗字で呼んで欲しいんですけども…
「もう少しだけ、苗字で呼んでいて下さい。良かったら、私も苗字で呼びますし」
そう言うと、シローさんは複雑な顔になります。どうしたんですか、と聞くと、
シローさんは溜息をつきました。
「あのさ、俺、シローって名前じゃねぇんだよ。孝一っていうんだけど」
「え!?」
いきなりのカミングアウトに、私は眼を見開きます。え、だって、ダイスケさ
んが最初にシローさんって…
「それ、俺のあだ名。苗字は岸部。OK牧場?」
「…OK牧場…」
納得しました…だからシローさんなんですね。
「じゃあ、引き続きシローさんで…」
「なんで!?」
必要以上に驚くシローさん。いえ、私の中で定着してしまったからなんですけ
ども。
「冗談です。ちゃんと普通に呼びますよ、岸部さん」
「…出来れば、名前がいいっす」
「はい、シローさん」
「っ…」
ぎり、と私の肩を掴んで泣きそうな顔をします。そんなに嫌なら、何故最初に
訂正しなかったんでしょうか。
「え?ああ、それはさ。間違ってるけど、いきなり指摘したら気分悪くなるかな
って。ガキの頃からのあだ名だから今更いいかと思ったけど、でも染井さんには」
言って、シローさんの…孝一さんの顔が、赤くなります。そして、私の手を握
ります。
「どうしたんですか?」
「え、あ…いや、あの、綺麗だなって、思って」
小さい頃から、その手の事、よく言われました。そう言われて悪い気はしませ
んが、ベタベタ触ったり、何度も同じように言われたり、嫌な眼でみたり、そん
な必要無いのに、さくらちゃんと比べたりして、桜ちゃんを傷付けたり。正直、
もう嫌になっていました。
けど、この人から言われた言葉は、とても嬉しかったです。
暫くは、黙ったまま手を繋いでいました。まるで中学生のようでしたが、幸せ
でした。時折顔を見合わせて笑い、本当に幸せだな、と感じました。
「あのさ、週末おヒマ?」
終末は…はい。さくらちゃんも旅行に行きますし、予定は何ひとつありません。
「おヒマです」
「…じゃさ、あの、出掛けよっか。俺さ、染井さんに見せたい所あるんだ。まだ
1人しか見せてない場所。すっげ、綺麗な所、あるんだ」
最初の、女の人と話し慣れているような雰囲気は、微塵もありません。ちょっ
とたどたどしく話し、縋るような眼で私を見ました。
断る理由なんか、ありませんでした。
そして当日。
私は車があるので、車で行く事にしました。
まずは軽くお腹に入れましょうか、という事になって、出発しようとした瞬間、
聞き覚えのある着信メロディが鳴りました。確か、初めて会った時も…って、ま
さか!?
『岸部ぇーーーーーーーっっ!!』
「よっ」
予測していたのか、耳から電話を離して応対する孝一さん。
「どうしたの?そんな怒って」
この間とは違い、至って涼しい顔をしています。
『どうもこうもあるか!お前、なんで忘れられんの!?今日は―――』
「あ、悪い。でも今日行けないよ。彼女と旅行だもん」
旅行、なんでしょうか。日帰りだと思っていたのですが。
『…はぁ!?』
「だから、彼女と旅行に行くんだよ。言ってなかったっけ?」
『聞いてねぇーー!!』
こっちまで聞こえて来ます。相手の方の怒りも、伝わって来ます。でも、やっ
ぱり涼しい顔です。私は蒼褪めて帰ろうかな、と後退りします。今なら、多分間
に合いますよ?送って行ってあげますから…
でも、孝一さんは後ず去る私を見て焦ったように。
「悪かったよ、今度埋め合わせするからさ…あ、待ってよ染井さんっ…んじゃな
っ」
半ば一方的に、電話を切ってしまいました。
「いいんですか?」
車を運転しながら、私は訊ねました。
「いいの。ていうか、忘れてた訳じゃねぇから。ほら、聞こえたっしょ?声ので
かい女と、よく話に出てた大輔っての。そいつらと旅行だったんだ」
とても美味しそうにバナナ(通算3本目です)を食べながら、言います。忘れ
てないのに…もしかして、私のせいですか?
「よくないですよ、そんなの」
私は嗜めます。けれど、孝一さんは全く動じず。
「いいのいいの。あのさ、実はそいつと大輔ってお互い好き同士だと思うんだよ。
よく2人で遊んでたりするし。でも付き合ってる訳じゃ無さそうだし、じゃあこ
れ機会にくっつけって思ってさ。俺最初からバックれようと思ってたんだ」
いっしっしっし、と笑う。ああ、そういう事だったんですか。
「…俺、邪魔なのかなって思って」
笑ったと思ったら、少し暗い顔になってしまいました。拗ねてしまったのでし
ょうか。でも。
「私が…いますから」
恥ずかしいけれど、そう言いたくて、言ってしまいました。
ありがと、と小さく言ってくれました。
孝一さんのナビで走ること数時間。その間に美味しいごはんを食べたり、綺麗
な場所で寛いだり、物凄く楽しい時間を過ごしました。
けれど、目的地にはまだまだです。このままでは、今日の内に帰れませんが。
「…え、日帰りじゃねぇよ?ちゃんと旅館も予約してるし…言ってなかった」
涼しい顔で、さらっと言ってくれました。
「聞いていません…」
私は脱力しながら反論しました。
「嫌?」
「…嫌じゃ、ありませんけど…」
何せ、いきなりですから。私は溜息をついて心を決めます。どうせ家に帰って
も独りです。
「まぁ、わかりました…予約もしてあるというなら…」
折れてしまいました。
「ここ」
とりあえず旅館に着いて、部屋に荷物を置いてから、その場所まで歩いて行き
ました。山奥にぽつん、と建った旅館から更に奥へ。森の中を歩いて、気が付け
ば夕日が差して来て…
「っ…うわぁ」
森を抜けて、高台から町と海が一望出来る、素敵な場所でした。
オレンジに染まる海や町並みが本当に綺麗で、私はポカンと口を開けたまま立
ち尽くすしか出来ませんでした。
「俺、これ見てるとマジで色んな事どーでも良くなんだよね。俺がマジで駄目に
なりそうになった時、大輔が連れて来てくれたんだわ。ここら付近、あいつの生
まれた土地だから」
ぺたん、と座って海の方を見る孝一さん。私も隣に座ります。
この人と、たくさん喋ったりするのも楽しいですけど、こうやってただ側にい
るだけの時間は、なんだかとても幸せな気分になります。
「―――ありがとうございます、こんな素敵な場所に連れて来てくれて」
私は、なんだか泣きそうになりながらそう言いました。幸せすぎて、切なくな
るくらいになってしまって、私は孝一さんにしがみ付きました。
「うん、そう言ってくれると俺も嬉しい」
私の身体を抱いてくれる孝一さん。本当に、幸せです。
…貴方の事が、好きです。
暗くなるまでそこにいて、写真を撮ってから旅館に戻りました。
ごはんを食べて、お風呂に入って、テレビを見たりお話をしたり、楽しい時間
はあっという間に過ぎてしまいました。
「そろそろ、寝る時間ですね」
時計を見て、そんなに夜更かしもしていられないと思いました。が、そう言う
と、急に私を抱き締めました。どうしたんでしょうか。
「あの、孝一さん?どうしたんですか?」
「どっ…どうしたって言われても…え、この状況でそれ言うの!?」
信じらんねぇ、と呟いて、真正面から私を見据えます。物凄く真剣な眼差しで、
射抜かれてしまいそうです。
「…俺、染井さんが欲しいんですけど」
…欲しい?欲しいって、どういう、あ、つまり私とセッ…
ずざざざざざざっっ!!
「えええええっっ!?」
不満気な声の孝一さん。私は真っ赤になって、かなりの速度で(座ったまま)
後退りました。
「なっ、ななっ、え…ええええっっ!?」
どっ、どうしましょう!え、私、私そんな事全然考えていませんでした!!更
に後退ると、手に固い感触。私の携帯電話。
「ちょっ…しょ、少々お待ちくださいっっ!!」
電話を引っ掴んで、廊下と部屋の間の…つまりは、下駄箱のある狭い狭い場所
で、私は電話を掛けます。
さくらちゃん、私、どうすればいいんですか。どうしよう。さくらちゃん、さ
くらちゃん……!
中々出ません。さくらちゃん、さくらちゃん助けて。私、私…
『桜花ちゃんっ!?』
さくらちゃんの声。物凄く、焦ったような声。
「さ、さくらちゃんっ!?あの、どうしよう、私、大変ですっ」
声に出すと、私の方が焦っています。いえ、本当に焦っているのですが。
「前から何故か私に言い寄って来る人がいるって…言ってましたよね。あの、今、
いるんです。一緒に旅行に行って、あの、私が欲しいって…」
身体中が、熱くなります。自分で言って、物凄く恥ずかしいです。しかも、言
い方がなんか、嫌です。整理が出来ません。さくらちゃんも、なんだか驚いてい
ます。
『ええええっっ!?ちょっ、え、旅行!?なんで!?嫌がってなかった?もしか
して拉致!?拉致られたの!?』
「ちっ、違います!あの、私、好きです。その人の事好きで、それで一緒に旅行
に行きました。でも、まさか、まさかこんな事になるなんて…」
『まさかって…嘘、だって、男と女で旅行って…しかも、好かれてるのわかって
て、それ!?』
さくらちゃんの声が、怖くなります。そして、暫く無言でいて。
『桜花ちゃん…』
「はい…」
『犯されろ』
ぷつっ。つー、つー、つー。
「さっ…さくらちゃんっ!?」
何度リダイヤルしても繋がりません。
嫌われた…?物凄く、呆れられましたよね…
私は呆然としながらへたってしまいます。
「…お話、済んだ?」
戸を開けて、やっぱり少し怒っているような口調の孝一さん。
「さくらちゃんとやらに怒られちゃったんだ」
「うっ…」
聞こえてしまいましたよね、結構大きな声、出してしまいましたしね…私は項
垂れてしまいました。
「私、馬鹿です…よく考えるべきだったんです。軽率でした…」
「そうだな、まぁ、アンタ日帰りだって勘違いもしてたし、まぁ、同じ部屋なの
嫌がらなかったからOKかと思ってたんだよ…」
ごめん、と謝ると、私の手を引いて部屋に戻ります。私は泣きながらごめんな
さい、を繰り返すばかりで、終いにはぺしん、と叩かれてしまいました。
「そんな謝るなっつの。俺だって『やれねぇ女に用は無ぇ!!』なんて言うつも
り無いし、それでアンタを嫌いになったりはしねぇから。な?ほら…」
キスをしながら、私を抱き締めてくれました。
孝一さんは、優しい人です。いつも私を気遣ってくれて、いつも笑顔でいてく
れて。日に日に『好き』という気持ちが膨れ上がっているんです。
さっきまで考えてもいませんでしたが…別に、身体を許したくない訳では無い
です。今は、寧ろ求めてくれる事が、嬉しいくらいなんです。こんな私なんかを、
欲しがってくれるこの人が、とても愛しいのに。
「あの…孝一さん」
「なに」
さっきの、とても真剣な顔の孝一さんみたいになっていたと思います。私は孝
一さんを見据えて、言いました。
「…いいですよ」
恥ずかしいです。物凄く恥ずかしいです。でも、それでも言いたかったんです。
「え、え?なんで、さっき物凄い動きしてたじゃん。俺マジでびびったよ、あの
動き。ゴキブリかと思った」
「ゴキブリって…」
よーく考えて物凄く酷い物言いだと思うんですけど…まぁ、気にしません。
「二択です。しますか、しませんか」
「しますっ!!」
「後、私処女ですけど」
「そー…れはなんとなくわかってました」
見破られてましたか…
「…でも、なんで?」
電気を消して、布団の上に2人転がってから、そんな事を聞いて来ました。
「なんでと言われましても…好きですから。後、私も大人です。自分で考えて出
した結果ですから、貴方に嫌われたくないから、というような投げ遣りな姿勢で
もありません…でも、怖いのはありますね」
浴衣を脱がされると、えっ、という顔になる孝一さん。
「すいません、日帰りだと思っていたので、下着類は洗ってしまったんです」
嫌ですよね、おばさん臭いなぁ、と自分でも思います。
「あ、いや、謝る必要は無いんだけど、びっくりした」
「私も、びっくりすると思いました。すいません。後、胸が小さくて」
私の胸はAカップです。さくらちゃんのEカップの胸を見ると、物凄く羨まし
くなります。
「ゃっ…」
片手で、孝一さんが私の胸を触りました。孝一さんの手に納まるサイズなのが
悲しいですね。
「胸、小さくても俺は気にしねぇよ。俺はどっちかと言えば尻フェチだから」
キスをして、私を慰めようとしてくれているのでしょうか、おでこをおでこに
くっつけて、ぐりぐりして来ました。
「孝一さん…嬉しいですけど複雑です」
私も何かした方がいいのでしょうか、おでこを離した隙に、キスをしました。
「…まぁ、胸小さい方が感じやすいとも言うし、人それぞれだし。俺が好きなの
は染井さんだから」
「あっ、ん…んっ」
両手で胸を触られて、思わず声が出てしまいました。声を出すまいとしていた
ら、出さない方がいい、と言われました。恥ずかしいんですけどね…
「あっ…!」
両方の乳首を同時に摘まれました。びっくりするくらい切ない声が、出てしま
いました。
「やっぱ、感じやすいのな」
意地悪く、囁きました。
乳首を弄られながら、身体中を撫で回されます。岸部さんの手が私の身体を這
いまわり、急に足の付け根の辺りを触ります。
「やんっ…あ、あっ!」
片手で、私の脚を割ろうとします。恥ずかしくて、力を入れて開かせないよう
にしましたが…遅かったです。
「いやぁ…恥ずかしいです…」
「だろうね」
さらりと言ってくれました。
「―――ああっ!」
開いた脚のせいで、丸見えになっているでしょう、私の…あそこに、つっ、と
指が触れました。
「あ、もう…」
笑って、指を一本だけ中に…入れました。私のあそこは、湿った音を立てて、
孝一さんの指を易々と受け入れて行きました。
孝一さんの指が、私の中で動きます。その度にいやらしい音がして、お尻を濡
らしています。
「やですっ…あ、あっ…」
指が、2本に増えました。一瞬だけ痛かったですけど、すぐによくなりました。
きっと、今の私は物凄くいやらしいんでしょう。孝一さんの前で脚を拡げて、
声を上げて、こんなにも感じて。
「もっとして欲しい?」
「っ…!」
意地悪く、聞いて来ます。酷い人です。そんなの、わかっているのに。指を止
めて、私の返答を待っているみたいです。私は顔から火が出そうな気持ちになり
ながら、小さく頷きました。
それなのに、孝一さんは。
「じゃ、そろそろ本名教えてよ。でないと、いかせてあげねぇよ」
「…意地悪…です…」
私は孝一さんを睨みます。でも、本当は隠す必要なんか無いものを隠している
だけの話ですから…
「どうすんの?そめ―――」
「桜花…です…あの、桜の花、と書いて…桜花…」
少し、どうかしていたかもしれません。指が中に入ったままの孝一さんの腕を
掴んで、もっと、といいた気に動かしてしまいました。
「っ…エロいっすね…」
「言わない…で…あっ!あ、ひゃっ…」
再び、指が動き出しました。さっきよりも大きな音がして、いつの間にか自分
で腰を動かしていました。もっと、欲しいです。孝一さんに、もっと滅茶苦茶に
して欲しいです。
言葉に出そうとは思わないのですが、出そうと思っても、今の私にはいやらし
い喘ぎ声しか出ません。
「あっ…あ、あっ、や、いいです、いっ…ああんっ!!」
私の中が、弾けたようになって、びくびくと収縮しています。孝一さんの指を
締め付けて、もっと、というようにまた腰が動いていて、そんな自分をいやらし
いとも思わず更に快感を求めていました。
月明かりの中で、孝一さんが指を舐めます。そしてすぐに私の口にその指を寄
せて、含ませます。
「これ、桜花さんの味」
私はヌルヌルした指を舐めました。自分の味、と言われてもイマイチピンと来
ませんが…
「綺麗だわ、桜花さんって…名前も、アンタ自身も」
「ぷは…ん、でも、私…仰々しくて、好きじゃなくて、私も本当は、さくらちゃ
んの名前の方が羨ましくて…」
「ああ、被ってるね、名前。でも、いいじゃん。染井って苗字と合ってるじゃん、
2人とも」
本当は、さくらちゃんは違うんですけどね…今は、何故かまた指を舐めたくな
ってお喋りを中断してしまいます。
「なに、しゃぶるの好きなの?」
何故か物凄く嬉しそうに言います。わかりません。でも、今はそうしたくて。
「ま、それは追い追いか。ちょっと指放してくれる?」
言われた通りにすると、寝転がっている私に背を向けて何かごそごそしていま
す。手持ち無沙汰で、自分の髪を弄っていると、また孝一さんが覆い被さって来
ました。
「本番、いい?」
「…はい」
少し躊躇ってしまいましたが、ここで断るのも恐ろしい話です。孝一さんはま
た私の脚を開きました。この格好、物凄く恥ずかしいんですけどね。
「あ…」
入口に、何かが当たります。何かって、わかっているんですけども。それが、
ゆっくりと中に入って来ます。
「あっ…あ、こわ…い」
自然に涙が浮かんで、孝一さんにしがみ付きます。大丈夫、と呟いてキスして、
抱き締めてくれました。
まだ、そんなに痛くは無いです。けれど、半分くらい?ですか?進んだ所で、
何かが引っ掛かるような感触がしました。
「桜花さん…」
ぎゅっ、と痛いくらいに抱き締めてきました。それと同時に。
「ひっ―――!」
引っ掛かりを断ち切るように、更に孝一さんが入って来ました。涙がまた出て、
思わず背中に爪を立ててしまいます。
「いっ…いぁっ、あっ…孝一さぁんっ…」
痛くて、怖くて、何度も名前を呼びます。出来るだけ辛くないように動かない
でいてくれるのですが、それでも慣れるまで時間が掛かりました。
「孝一さんっ、孝一…さ…」
声が掠れて、涙が溢れて。孝一さんは私の頭を撫でたり、キスしたりして落ち
着かせようとしてくれました。ぽつ、と『好きです』と呟きました。孝一さんは
『俺も』と答えてくれました。
暫くは無言で、お互いきつく抱き合ったままでいました。その内、痛いという
よりも痺れる、くらいの感覚になって、少しずつ楽になって来ました。
「…孝一さん、あの、私もう大丈夫ですから…あの、動いていいですよ」
恥ずかしいですけど、自己申告しない限りどうにもならないと思ったので、そ
う言いました。
「いいの?」
「はい、大丈夫です。あの、孝一さんにも、気持ちよくなって欲しいですから…」
さっきの指より何倍も太いものが身体中をいっぱいにしてしまっているみたい
で、それが…動いたりするのは恐怖感もありましたけど。でも、それでも孝一さ
んにしてもらいたくて…
「んっ…んっ!」
ゆっくり、動き始めました。ちょっとずつ抜いて行って、そしてまた入って来
ます。次第にまた水音がし、痛みが薄れた分本当に『孝一さんとこういう事をし
ている』という事実を実感してしまいます。
「ぁうっ…うっ…」
気持ちのいい所も一緒に擦られて、私はさっきより感じる、とは言えませんが、
また声が出て来ました。そこを弄られると、また孝一さんを締め付けるようにし
てしまいます。
まだ少し痛くて、痺れていますけど、少しだけ気持ち良くて、えっちな事をし
ている、という事実が少しずつ快感を増して行って…
「孝一さんっ…あっ、あん、あっ…」
ちょっとずつ、動きが速くなって行きます。痛みが少しだけ増えましたが、気
持ちよさも比例して、私はまた声を上げます。
「あ、あっ、はあっ…あっ…」
ちょっとずつ、ちょっとずつ快感が増して行きます。でも、しがみついた孝一
さんが、なんだか鳥肌が立ったみたいに震えて―――
「っ…!」
「ぁ…」
杭を抜かれるような感じで、孝一さんが私の中から引き抜かれました。
孝一さんが離れて、ひんやりした夜の空気に身体を晒されると、急にまた下肢
が痛んで来ました。じりじりとした、鈍い痛みです。
「いたっ…」
動こうとしたら、ズキズキと痛んでつい声を上げてしまいました。
「…ごめん」
一緒の布団で、裸のまま抱き合って、孝一さんは言いました。
「いえ、初めてですから。それに私は初めてが孝一さんで良かったと思いますよ」
それは、本当です。後悔もしていません。
「…そ?そう言ってくれると俺もすっげ嬉しい」
私をもっと強く抱いて、言いました。私もぎゅっ、とやり返しました。
「好きだよ、桜花さん」
「出来れば染井で」
「…好きだよ、染井さん」
「はい」
朝になったら、また電話をします。
謝って、仲直りをして、私の恋人を紹介したいです。
喜んでくれますか?きっと、喜んでくれますよね。
大好きなさくらちゃん。世界で一番大好きなさくらちゃん。
私の、世界で4番目に大好きな孝一さん(同率1位がさくらちゃんと並んで父・
母なので)の事、一杯お話したいです。
―――朝。
私と孝一さんは携帯電話の音で眼が覚めました。そしてその音は、さくらちゃ
ん専用のものでしたから、私はすぐに取りました。
「さくらちゃんっ!」
『あ、桜花ちゃん!大丈夫?ごめん、後で冷静になったら…あのさ、本当、ごめ
ん。私もあの時テンパってて…ごめんっ』
泣きそうな声で謝るさくらちゃん。ふと隣を見ると、孝一さんは首を傾げてい
ます。そして『まさか…』と呟いています。
「…あの、昨日のことですけど、大丈夫です。私、その人の事、好きです。だか
ら、あの時切ってくれて、結果は良かったんだと思います」
『あ、へぇ…あ、そうなんだ。じゃあ良かったね』
それを聞いて、なんとか落ち着いた感じの声に戻ってくれました。
「…?」
つんつん、と突付かれて私は孝一さんの方を見ます。そして微妙な顔をしなが
ら、言いました。
「あのさ、もしかして、アンタの言うさくらちゃんって…『吉野さくら』って言
わない?」
え?それはどういう―――
「え、そうですよ。知り合いなんですか?」
答えると、苦笑しました。そしてあーあ、と溜息をつく。
「知ってるも何も…大輔の好きな奴ってそのさく…吉野の事だよ。うっわ、色々
二度手間?」
もう笑うしかない、といった感じで孝一さんは笑い出しました。
『え、どうしたの?なんかあったの?』
…なんという偶然でしょうか。
私の好きな人と、さくらちゃんの好きな人は、友達同士でした。となると、さ
くらちゃんはあのテンションが低くて悪戯好きのダイスケさんの事が好きだった
んですか。
それは、物凄く嬉しい事でした。これから先、とても楽しい事になるのがわか
りますから。4人で遊んだり、出来るかもしれません。Wデートです。学生時代
から憧れていた事が出来るかもしれません。楽しいです。私は嬉々としてさくら
ちゃんに報告しました。
「あの、私が好きになった人は、さくらちゃんの知ってる人なんです!さくらち
ゃんのお友達の、岸部孝一さんって人なんです!!」
私は、さくらちゃんの驚く反応が楽しみです、返答を待ちました。けれど、返
答は帰って来ません。変わりに聞こえて来たのは―――
ばたん、と、倒れるような音と『さくらさんっ!?』と、慌てたような男の人
の声です。そして。
『ちょっ…えーと、桜花さん…でしたっけ?貴方、今この人に何言ったんです
か?』
初めて声を聞いた時より、若干怒ったような声です。どうしたんでしょうか?
「あ、すいません…私です。前、岸部孝一さんにお電話した時、少しだけお話し
ましたよね…申し送れました。孝一さんとお付き合いさせて貰っています、染井
桜花と申します」
一瞬、息が詰まったような感じで、何も返って来ませんでした。でも、あー、
と納得してくれたのか、初めての時のテンションで『あー、そうですかぁ』と納
得してくれたようでした。
「桜花さん、出たの大輔?なら話していい?」
『あ、はい。すいません、孝一さんに代わります』
そう言って、電話を渡します。ちょっとあっち行ってて、と手で促されたので、
ついでですから服を着ようと思って離れました。
ダイスケさんの声は聞こえず、部屋に孝一さんの声だけがします。
「…ごめん、黙ってて。自信なかったんだわ。俺、顔から好きになるなんて事今
まで無かったから…なんか恥ずかしくて」
もしかして、私についてですか?
どうやらずっと黙っていたようです。あ、だから物凄くびっくりしたんでしょ
うか。暫く孝一さんは頷くだけでした。
「あ、そう…そうか。うん、今は全部好き。え、マジ!?マジで!?すっげー!!」
どういう会話なんでしょうか…
「あ、後…唐突だけど、俺と兄貴、どっち好き?」
…本当に、どういう事でしょうか…
また暫く頷くだけです。
「そっか…そうだよな。悪い、変な事聞いて。じゃ、またな」
そう言うと、電話を切って私に返してくれました。
「あのさ、桜花さん」
不意に、私をじっとみつめました。なんでしょう、ドキドキします。
「はい」
「あのさ、ひとつだけ言っておきたいんだ」
「なんでしょう」
ぎゅっ、と私を抱き締め、そして言いました。
「俺、初めて会った時から貴方の顔が一番好きです」
…はぁ。
脳裏に、さくらちゃんの言葉が浮かびました。顔、ですか。
「あまり嬉しくないですけど、褒め言葉として受け取っておきます…」
「あ、最初は顔だったけど、今は全部好きよ?アンタの優しい性格も、ほわほわ
した雰囲気も、どんくさい所も、割合エロいのも、結構馬鹿なのも。でも一番何、
って聞かれたら…顔だから。自信持って俺、言えるよ」
なんでしょう、この微妙なまでの嬉しくなさって…
「まぁ…私も…好きですよ。孝一さんのあだ名」
「そっち!?」
散々言っておきながら、自分ので驚かないで下さい…
結局、お互い吹き出してしまいました。
きっと、これからもっと幸せになれるのでしょう。素敵な毎日が待っているの
でしょう。
帰ったら、さくらちゃんと一杯、お話したいです。
「俺、世界で1番、桜花さんが好きだよ」
帰りの運転は(免許を持っているのは流石に確認しました)孝一さん。運転し
ながら、ふとそんな事を言ってくれました。けれど、ごめんなさい。
「私は、さくらちゃんとお父さんとお母さんが同率1位なので、世界で4番目に
孝一さんが好きです」
「っ…嬉し……くねぇ…」
思い切り脱力した声がしましたが、気にはしない事にしました。
多分、その順位が変わる事、無いと思いますから…
終
448 :
377 :04/02/08 21:24 ID:c7oqy1vh
えーと、桜花編です。
ひとつ話を作ると色々膨らんでしまうので、後2つくらい
あるんですけど、迷惑でなかったらその内に…
は、初リアル…(つ∀`) カンゲキ
377さん乙です。萌え萌えしながらリロード押してました。
桜花さんも可愛いけど岸辺も可愛い奴ですね…w
次の降臨も楽しみにお待ちしてます。
桜花編すぐの掲載、楽しませていただきました。
全く迷惑ではありません、後二つなどと言わず、沢山書いてください。
ええっと、次はイットク編ですか?
両方ともただ今読了〜〜!
めさめさ笑えてエロくて禿げ萌えしました!ありがとおお〜〜!
他のお話も楽しみに待っております。
いやしかし巧いっすね。他でも書いていらっしゃると想像。
オリジナルでここまで面白い&萌えは初めてです。
次も期待。
続きが気になりすぎて毎日チェックしにきてる漏れ…
マヂで次は一徳編なんでしょうか?
なんかあの辺の会話が気になるです。
もう2つでも3つでも待ってます!
なんかシローさんがちょっとイヤかも…私情もあって性格が(Ry
水沢さんいいっすね〜どっちかというと水沢さん派ですわ
兄貴楽しみ〜(*´∀`*)
455 :
377:04/02/15 11:30 ID:GkdR4jdV
すいません、期待に反してさくら編その2です。
一応兄貴出てますけど酷いです。
その後はシロー視点の、補足で終了です。
『あの、私が好きになった人は、さくらちゃんの知ってる人なんです!さくらち
ゃんのお友達の、岸部孝一さんって人なんです!!』
それを聞いた瞬間、意識が遠退いた。
眼の前が真っ白になって、気が付いたら布団の上だった。
「さくらさんっ!?」
珍しく慌てた声の大輔が、私が手放した携帯電話を取る。
「ちょっ…えーと、桜花さん…でしたっけ?貴方、今この人に何言ったんです
か?」
声が、怒ってる。頷いて、うわぁ、という顔をする。聞いたんだな。私の顔を
見て『あー、そうですかぁ』と、いつも通りのテンションで言った。
なんだろね。なんなんだろう。どうしてかな。どうして私が好きになる輩は桜
花ちゃんを好きになるんだろうか。私は大輔から顔を背けて、布団を被った。
多分、これは悔し涙なんだろう。胸が痛くて、頭も痛くて、眼も痛い。嫌な過
去を、どうしても思い出してしまう。
「…どうして、何も言ってくれなかったんですか」
人の携帯で、何か喋ってる。相手、もしかして岸部?
「恥ずかしいとか、そういうのじゃないですよ。まぁ…いいですけど。結果的に
は。俺はもう全然」
相変わらず正直だよな、ここにWショック受けてる恋人がいるのに。
…そうだよ。私が今好きなのは、大輔だよ。だから余計ショックだ。トリプル
ショックだ。諦めた…もう、どうでもいい筈の恋にこんなに傷付くなんて。
「別に、顔から好きになったって、今もそれだけという訳ではないんでしょう?
俺だって巨乳フェチで、吉野さんの一番好きな所はどこかと聞かれたら胸を張っ
て胸です、と言い切れますけど、実際見るまでFカップくらいあるなんて知りま
せんでしたから…え、あ、はい。すっごい胸でかいですよ?マジで。ま、とにか
く順番なんか気にしなくていいんですよ。突出した好きな部分だけで好きな訳じ
ゃ無いんですから。好きな人の、一番好きな所ってだけなんですから」
…大輔、後で殴る。ていうか、残念ながら私Eカップなんだ。
こいつら、一体なんの話してやがるんだ。いい気なもんだよな。掛布で涙を拭
ったけど、まだまだ出て来る。嫌な事、物凄い速さで思い出してる。
「…は?何を言っているんですか?そんなの比べられませんし、まず好きの種類
が違いますよ。シローさんが親になるの嫌ですし、トク兄と友達にはなりたくな
いですし」
…どういう会話なんですか、あなた方。急に話題変わるよな、男って切り替え
早いのかな…私も、そうしなきゃいけないのかな…?
私は、布団から這い出ると、タオルや下着に手を伸ばす。
…お風呂、入りに行こう、そう思った。色々なもの、洗い流しに行こう。全部
綺麗にして、気持ち切り替えなくちゃ。
「どこ行くんですか?」
電話を切って、私に携帯を返す。その携帯を机の上に置く。
「貴様、この出で立ちでトイレに行くとでも思ったか」
相変わらず、本気か冗談かわからないや。呆れて何も言えない。
「俺も、一緒に」
「断固、拒否る」
くゎっ、と即答してやった。おい、がっかりするな。本気で傷付いた表情する
な…って、もしかして…
「あ、違うよ?別にそういうんじゃない。今私が好きなのは大輔なんだ。それだ
けは信じ…」
私の言葉を遮り、大輔は言う。
「お湯で浮かぶ胸が見たいんです。俺も一緒に行かせてください!」
「誰が行かせるかーーーーーーーっっ!!」
ばしん、と眼鏡があったら吹っ飛んでるくらい勢い良く引っ叩いた。
将を射んと欲すれば、まず馬を射よ、だっけ?
正に私の初恋はそれだった。
私が14歳、桜花ちゃんが18歳の時だった。その頃の桜花ちゃんは、本当に
可愛かった。なんつうの、大人の階段登り掛けたシンデレラ?まぁ、少女と女の
狭間の危うい魅力?とにかくヤバかった。だから変な虫がいっぱい付きそうにな
ってた。桜花ちゃん本人は迷惑で、どうにかしたいと悩んでいたから、馬鹿な私
はずっと桜花ちゃんを守っていた。ナイフみたいに尖っては(桜花ちゃんに)触
る者皆噛み付いた。
そんなガードマン付きの桜花ちゃんを落とすには、どうしたらいいか?簡単だ、
そのガードマンを味方にすればいいんだよ。
そいつは桜花ちゃんと同い年で、ある日私に近付いて来た。顔見知り程度で、
桜花ちゃんをどう思っていたかも知らなかったし、私は桜花ちゃんの比較対照み
たいなものだったし、何より歳も違うのに、なんで近付いて来たのがわからなか
った。
私は、他愛も無い話をしたり、会う度にお菓子をくれたり、下らない悩みを聞
いてくれたりするそいつを、好きになって行った。
極めて遅い初恋だったと思う。けど、本当に恋をしたのはアレが初めてだった。
正直、告白した所で駄目だと思っていた。
考えても答えは出ないし、駄目だとしても所詮は初恋、砕け散るのは当然、O
K貰えるのが奇跡だくらいの考えで、結局想いを打ち明けた。結果はなんとOK
だった。
私は、自分が可愛くない事を自覚していた。捻くれているにも程があるし、容
姿は…平々凡々だ。そんな私を受け入れてくれたそいつを、当時の私は王子様み
たいに思っていた。
だから、何でも言う事聞いた。
誰にも、2人の事言わなかった。勿論桜花ちゃんにも。
幸せだった。子供だった私は、4つも年上の男の人が私を好きでいてくれるの
が意味無く嬉しくて、誇らしかった。大人になりたかったんだと思う。無理して
背伸びして…
ぱちょぱちょ、とお湯を叩きながら私は溜息をつく。
…ロストバージン14歳って、引かれるかな…
身体洗って、髪も洗って、またお風呂に浸かって。思えばこの風呂好きも嫌な
事洗い流す為のものかもしれない。
なんなのかね、これって。
楽しい筈なのに、これから大輔と一緒にいられる筈なのに、私は昔の出来事に
取り付かれてる。馬鹿みたいだ。馬鹿丸出しだ。ていうかキング・オブ・馬鹿だ。
「…ごめんね、大輔…馬鹿なお姉ちゃんで」
「いいですよ、馬鹿な年上は散々見ていますから」
そう言うと、私の事を後ろから抱き締めた。昨日みたいに、優し…
「っわあむごっっ!?」
「はい、予想通り」
突然の出現に、私は叫ぼうとする。が、やっぱり口を塞がれる。
「お前、来るなつったろ!?」
心臓ばくばく言わせながら、私は大輔の手を振り払う。全く気配感じなかった
し、お前は忍者か!?ていうかお前、本当に眼鏡無いと微妙もいいとこだな。ま
ぁ、好きですけど、何か問題でも?
「来たかったんです、胸は関係無く」
…お前から胸への拘り取ると、本気っぽくて嫌だな。ちくしょう、正直マジ泣
きしそうだよ。
「来てんじゃねぇよぉ…」
私、大輔の事好きだよ。でも、今他の人の事考えてんだぞ?知ってんだろ?な
のに、お前なんで来るんだよ。
「来ますよ、さくらさん」
こつ、と額をぶつけて来る。痛ぇよ。抱くな、うぜぇ。やめろ、泣くぞ。
「泣いていいんですよ。昨日も言ったじゃないですか。ほら」
私の事、抱き締める。自然に、涙が零れてしまう。泣くのなんて、結局同じな
のに。どこで泣こうが、独りで泣こうが、同じなのに。そう思ってたのに。
独りだと、胸が痛くて、悲しくて、辛いだけだった。
なのに、こいつの前だと…ちょっとずつ楽になる。全部、受け止めてくれて、
心が軽くなれる。
泣け泣けって、そう言うのは、こいつがそういう事知ってるからなのか?
だとしたら、私は本当にいい物件見付けたのかも知れない。当たる前に砕けて、
正解だったかもしれない。そうとすら思える。THE・優良物件。
…無理矢理小ネタ挟まないと、マトモになれないくらいガッタガタなんだよな、
今。情緒不安定で、今岸部や桜花ちゃんに会って、普通でいられるか?
私は大輔にしがみ付くと、ひとつの決心をした。
…駄目人間でごめん。でも、一日で直すから。絶対に。
「大輔」
「はぁい」
軽いよな、お前。本当に…ありがたいわ。
「頼みがあるんだけど、聞いてくれるかな」
「頼み事によりますけど、大抵は」
怒るかな、驚くかな…正直、叱られても仕方の無い頼み事だと思う。でも、こ
れだけだから。これが終ったら、もう頼ったり寄っ掛かったりしないから。だか
ら、聞いて欲しい。
「…今、私、どっかおかしいから」
「今に限った事でもあいててててててて」
背中を思い切りつねった。黙った。
「きっと、今は…桜花ちゃんとマトモに話出来ないと思う。けど、ずっとそんな
んじゃいられないから。だから、お願い」
思ったよりも、必死な声だった。大輔がちょっとびっくりしたのがわかった。
私は早口で、続ける。
「絶対に、一日で戻る。約束する。絶対、明日には普通に笑って、帰るから。き
っと、大丈夫だと思うから」
大輔は、私をもっと強く抱き締めた。私も、同じようにする。言いたいけど言
えない、ちょっと恥ずかしい言葉。私は大輔に軽くキスをして、すぐに顔を背け
て、呟いた。
「…今日、家に帰りたくない。大輔といたい…大輔ん家泊めて」
「お前、何食べたい?」
「オムライスがいいです。チキンライスでなくて、こうピラフで、ホワイトソー
スが掛かっているのが理想的です」
ああ、ケチャップ嫌いなんだな、お前。妙に納得してしまった。
旅館から一旦大輔の家に行って、荷物を置いて、とりあえず冷蔵庫に何も無い
事に愕然として、買出しに来た。
大輔は母子家庭だ。母親は仕事が忙しくて、あまり家にいないらしい。私も結
構遊びに来てるけど、会った事は一度も無い。
なんとなく、大輔そっくりか全く似ていないかの両極端な気がするのは私だけ
だろうか。
「オムライス…そんだけ?後何が食べたい?」
「さくらさ」
「はぁ!?」
言うと思って、準備してたら本当に言った。こいつも、パターン通りの人間だ。
「まぁ…後はスープとサラダと、後デザートにケーキでも買うか。そんなんでい
い?」
スープはポタージュにしようかな、などと考えていると、大輔がじっと私を見
ていた。なんだ?お前まだ足りないのか?
「何、不満?」
「…いえ、あの…嫌じゃなければ、の希望ですけど」
お前、いつも遠慮なんかしない癖にこういう時だけ…ていうか、もしかして照
れてるのか?照れる必要のあるモノなのか?
「大輔、どうしたの?」
「オムライスの横に、ハンバーグ欲しいです」
…可愛いな。
今日の晩ごはん、明日の朝ごはん用の食材を買って、デザートのケーキ(私は
チーズケーキ、大輔は苺のタルト)を買って、そしてお家に向かう。
2人並んで歩いていると、なんとなく、こう…照れ臭いっていうか、なんてい
うか…アレみたいで。なんか、恥ずかしい。
「なんだか、こうしてると俺達―――」
なんだ、大輔も同じ事考えてたんだ。一瞬、嬉しくなる。けど、次の瞬間その
嬉しさはただの勘違いとなった。
「くじ引きで決まった買出し班みたいですよね」
「多分お前の認識は間違っていると思う」
私は速攻で大輔を否定してやった。
こいつは本当に、なんて言うのだろうか…何かが違う。いつもヘラヘラ笑って
て、人の神経逆撫でするように喋って、でも、楽しくて、結構気の利く奴で…
ちら、と大輔の横顔を見て、また前を向く。なんだかドキドキする。
眼鏡してると、それなりに頭も良く見えて、それで結構騙される奴も多いんだ
ろうな。実際私もちょっとそうだし。素顔も好きだけど、やっぱり眼鏡が似合う。
基本的にエロい人間だと思う。乳フェチだという事も知った。ムッツリという
より、バリバリ全開オープンエロ。
気が付けば、こんなに大輔が好き。昨日まで私の好きな人は、違う人だった。
けど、今は。
「……?」
不意に、手を握られる。びっくりして大輔を見る。大輔は、私を見て笑ってい
た。爽やかでない、何か企んでそうな笑顔。
「こうしてると、俺達恋人みたいに見えますかね」
みたいに見える、じゃねぇだろ、実際恋人だろ?ていうか、言って欲しいのか?
私は恥ずかしくて手を振り解こうとしたけど…出来なかった。
気が付けば夕日が差し、空はオレンジ色に染まっていた。
「綺麗だな」
「俺の方が綺麗ですよ」
「言う時間帯も人物も間違ってるな」
呆れて突っ込む。綺麗な夕日、少しだけ暗い心、隣には好きな人。
―――あ。
私は、不意にとある事を思い出した。
『な?マジでどーでもよくならねぇ?』
夕日に染まった空、明るい笑顔。
あの日、私は些細な事で泣いてしまっていた。そんな私を、岸部はやたらと時
間を掛けて、とある所まで連れて来てくれた。
森を抜けた高台から、その町の全てが一望出来る場所。
岸部の特別な場所。大輔の、生まれ故郷。そんな大切な場所に、連れて来てく
れた。自分が大輔から教えて貰って、初めて誰かに―――私に教えた、って笑っ
てた。
…なんで、こんな事忘れてたんだろ。私が、岸部の事好きになった日の事。
岸部が、私にとって特別な人になった出来事を、どうして忘れていたんだろう。
あの風景を思い出しながら、考える。あの風景を頭に思い浮かべる。思った事は。
どぉでもいいや。
今の私には大輔がいる。大好きな人が、手を繋いでいてくれる。それで充分だ
った。
「ヘイお待ち!!」
大輔の希望通りの、エビピラフのオムライス・ホワイトソース掛けハンバーグ
付き。それを眼にした途端、大輔の顔が輝いた。
「さくらさん、愛してます」
「今言われても微妙だなぁ」
三角巾と割烹着を取って、私も席に着く。どうせだから私も同じにした。
『いただきます』
お互い手を合わせて、お決まりの儀式をする。
待ち切れない、といった感じで大輔はスプーンを手に取った。
「おーいしーい!」
そのイントネーション、おやめ。私は苦笑しながら勢い良く食べる大輔を見た。
岸部もそうだけど、こいつら、本当に美味しそうに飯を食うんだよね…
「さくらさん、おいしいです」
にこにこ笑いながら、ハンバーグをスプーンで串刺しにする。暫く一心不乱に
食べてから、不意に大輔はスプーンを止めた。
「ん、どした?中にガラスでも入ってた?」
「いいえ、入ってたら大変な事になりますし。そうでなくて…子供っぽいとは思
いません?この歳でケチャップ駄目って。トマトソースは平気なんですけど」
若干照れながら、大輔は言った。なんだ、お前可愛いじゃねぇか。私は首を横
に振った。
「別に、好き嫌いは人それぞれでしょ。私だって辛いもの駄目だし。カレーの中
辛でさえアウトだよ?」
「あははははははははあああああああああああああああっっ!?」
ぶぢゅるるるる、と力の限りケチャップを大輔のオムライスに掛ける。笑った
報いだ、ざまぁみろ。勿論ハンバーグにも掛けてやったわ。
「ひっ…酷い!貴方は非道い人だ!!」
「わざわざ漢字使い分けて貰わなくても結構です。さていただきまーす」
私は自分のオムライスを食べ始めた。楽しいな、こいつ苛めるのって。
「うっうっうっ…」
泣きそうな顔をしながら、食わなきゃいいのに食いよった。
「なんか、犯された気分です…」
とんでもない事を言いながら、タルトを食べていた。私は洗い物をしながら、
そんな大輔を呆れて見ていた。
「食べなきゃいいじゃん、馬鹿だな」
「……」
じろー、と私を睨む大輔。
「ていうか、とっかえてって言えば良かったのに」
「あ」
ちっ、と舌打ちをする大輔。お前も意外に馬鹿だよな。溜息をついて、洗い物
終了。私も座って、ケーキに手を伸ばした。さていただきます。が、不意に大輔
が立ち上がってこっちに来た。あれ?と思ったら、もう遅かった。
「え…おわああああああああっっ!?」
「先に言えええええっっ!!」
がし、と後ろから私を羽交い絞めに…するかと思ったら、後ろから思い切り乳
掴んで上下に揺すりやがった。
「ちょっ、やめっ…ていうかやめてぇええっ!!痛い、マジ痛いんだから!!痛
…っ殺すぞお前っっ!!」
…っ殺すぞお前っっ!!」
「あ」
「えぅっぐ!?」
マジでブッ殺そうと立ち上がろうとしたら、同タイミングで手を放しやがった。
がつ、ずる、がしゃーーーん。
「…あーあ、もったいない」
「言いたい事、それだけか…」
腿を擦りながら、頭の上にのっかったカップを取る。
抵抗を予想して勢い良く立ち上がったのに、放すもんだから、勢い良く角に腿
をぶつけて、傷みに喘いでついテーブルクロス掴んで倒れて、頭から牛乳を被っ
た。ケーキも全ておじゃんである。
「うっ…うっ、うぁああーーーん…」
マジ泣きをする。はい、でも近寄るな、牛乳付くから。私は泣きながら洗面所
を借りようとする。
「あ、風呂沸いてますからどうぞ、着替えも置いておきますから」
「うっ…ずっ、ぐっ…用意…いい、ね」
鼻を啜って、言う。いい子だ、お母さんも嬉しいだろうよ。後、美味しくお茶
を淹れる事さえ出来れば。
「ま、一緒に入ろうと思ってましたから。さ、行きましょう」
前言撤回。そして一緒には入らない。
「ううううっ、ちくしょう…」
頭から牛乳被るのなんて、小学校の時箸落として机の下で取って、間違えてそ
のまま立ち上がってがっしゃん事件以来だ。
頭を洗いながら、大輔殺害計画を練る。シャワーで泡を洗い流し、お湯を止め
る。すると、洗面所の戸が開くような音がした。
「…大輔?」
ていうか、大輔しかいないわな。こいつも懲りないなぁ、そんなに私の胸が好
きなのか?…って、なんか、そう考えて物凄く恥ずかしくなる。
だって、何度も、朝の時だって来るなって言ってるのに、私の為に来て…そり
ゃ、でも…大輔にとって、私はそんなに大切なのかって考えたら…たまには、歓
迎してあげてもいいかなって…
「大輔じゃないよ、俺だよ倫子さんっ!」
ばん、とやたら高いテンションで風呂の戸を開ける。
一瞬、物凄くびっくりした。だって、なんか見た事ある奴だと思ったから。け
れど、よく考えたら会った覚え無いし、第一倫子って…ていうか…私、思いっき
り裸でそいつの方向いてて…
「きゃああああああっっ!?」
「うわああああああっっ!?」
同時に、大声を出した。私はもう、訳がわからなくなって座り込んで、とりあ
えずそこらの濡れたタオルで身体を隠す。
「ちょ…さくらさんっ!?え、今の…え、えっ!?」
すぐに、大輔がすっとんで来る。私は顔を背け、泣く事しか出来ない。
「…トク兄、何してんですか」
物凄く、おっかない声で、大輔は言った。
「あっ…あ、あの、俺、倫子さんだと、思って…だっ…あの、大輔、のお知り合
いですかね…?」
震える声で、その『トクニイ』さんとやらは言う。ていうか戸閉めて、せめて。
私の心を読んだのか、ていうか常識の範疇だからか、大輔は戸を閉めてくれた。
そして。
『あ、あの、大輔、怖いよ?顔、すっげ怖い…』
『…とりあえず、話は後です。来い』
『あ、だって俺、倫子さんだと思ったんだも…おぐおおおおおぉぉぉ』
「っうっ…うぇっ、ふぇ…」
私、いつまで泣いてたんだろうか。気が付けば、大輔がそこにいた。
「…すいません。変なのが来ちゃいましたけど、思う存分引っ叩いて酷い事言っ
て出入り禁止にしましたから…」
服が濡れるのも構わず、大輔は私を抱き締める。私は大輔にしがみ付いて、ま
た泣いてしまった。
見られました。見ず知らずの男に、全部見られました。
「っ…うっ…っく、うぇえええ…」
「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。ちゃんと注意しておけば良かったんで
す。そういうのが普通になってたから、こんな事になってしまったんです。俺の
責任ですから…」
大輔の方が泣きそうな声になって、私に謝罪する。違うよ、悪いのアレだよ。
大輔、悪くないよ…ていうか…
「あの人、っ…誰?」
それが一番気になった。気になったフリした。見られたの、忘れたいし。
「…岸部彰一…シローさんの、お兄さんです」
ああ、だからなんか会った事ある気がしたのか。そっか、似てたな。
「倫子さんって…」
「俺の、母親です。あの人、母さんと結婚したがってるんです…」
…あらま。でも、大分歳離れてない?あの人、20代くらいだと思ったんだけ
ど…それを聞くと。
「まぁ、あの人29で、母さんが36ですから、無理は無いです…かね。トク兄
は5歳の時から好きだ好きだと言い張ってたらしいですし」
「…そりゃまた年季の入った…てか、若いな、お前のおかん」
でも…結局、その倫子さんとやらは別の人を選んで、大輔を生んで…離婚した
か死んだかしらないけど…
「あの、さくらさん」
「あ、あ?なに?」
ボーっと考え事していたら、声を掛けられた。
「俺、どうすればいいんですか?」
どうって…あ。大輔、服びっしょびしょだ。
「…いいよ、私上がるから」
「一緒に…」
「狭いし」
私は弁解の余地無く風呂場から出る。さっきはいいかな、と思ったけど、今は
ちょっと、純粋に恥ずかしい。悟られるの、怖い。私が大輔の事、ヤバいくらい
好きになってる事。
風呂場から出て、身体を拭いて、大輔の用意してくれた…
「なんで、Yシャツ一枚しか無いの?」
『男の夢です』
呆れながら、結局着るしか無かった。ぱんつも、行って穿かないとな…
なんだか物凄く恥ずかしい格好で、大輔の部屋に走った。
独りになって、またあの人の事を思い出す。ていうか、良かった気がする。
全裸ショックで、色々な事、マジでもうどうでもいい。時間を見ると…8時に
もなっていない。今もう帰れるな、全然普通に過ごせるわ。
…まぁ、泊まるけど。大輔と、一緒にいるけどさ。
全部差し引きで、まぁ、許そう。どうせ大した裸でもないし、なんか、大輔相
当酷い事したみたいだし…別に、そりゃ私すっげ泣いたけど、でも…
「あー、超いいお湯って感じぃ」
…その言い回しはどうかと思う。私はぱんつとYシャツ姿で、ベッドの上で待
機している。そんな私の隣に、変な柄のパジャマ姿の大輔は座った。ちょっと冷
えた私は、大輔に抱き付く。
「すいません、熱いです」
速攻、離れました。
「あのさ、大輔」
「なんですか」
なんだろうか、大輔、いつもとちょっと違うような気がした。余裕が無い、と
いうか…なんか、弱気っぽい表情だ。
「ごめんね、私が大袈裟に泣いちゃったから…」
はっ、とした表情で大輔はこっちを向く。やっぱ図星か。
「…いいんです、俺が勝手にキレただけですから。俺もびっくりしました。人を
あんなに叩いたのも、罵倒したのも初めてでした。まぁ、いつかは注意しなけれ
ばいけなかったんですけど、でも…」
大輔、優しい…かどうかは判断に困るけど、そういえば人を不愉快にさせる事
はあっても傷付ける事って…確かに意識的に避けていたような気もする。実際、
自分が我を忘れて、そのトク兄(岸部・兄だからか)を両方の意味で(自業自得
だけど)傷付けた事、物凄く後悔している。」
「熱いです」
「…うるさい」
「っわ」
私は、また大輔にくっつく。そして、大輔を押し倒す。昨夜の、自分が上にな
った事を一瞬思い出した。ちょっと困った顔をした大輔に、私はキスをした。
「…俺、乗せるのは好きですけど、乗られるのは…いやん、怖い」
しなを作って、乙女ぶりやがる。この野郎、マジで犯したろか。パジャマのボ
タンを外しながら、ちゅー、と首筋を吸ったり、オヤジ臭く身体を弄ったりする
けど、大輔はどちらかというとくすぐったがってるみたいだった。
まぁ、私にテクもクソも無いんだけどね。こういう事、全然した事無いし、で
も、ええい、ただ弱気なこいつにグッと来て、こうしたいからしてんだよ、文句
あっか!なんかこいつも喜んでるみた―――
「っ…」
もっかいキスしようと思ったら、先にされた。舌が入って来て、前よりも乱暴
に、口の中を舐め回す。私を抱き寄せて、またあっという間に形勢逆転されてし
まう。
暫く、上に乗っかったままお互いの唇を求め合う。もっと、したい。そんな事
すら考えて、身体を押し付ける。
「ふぁ…んっ、ふっ…」
身体が火照って、自分がさっきしたように身体を撫で回される。なんでだろう、
私がした時は、くすぐったがってたのに…されると、ゾクゾクして、変な声、出
る。
「あ…嫌っ…ぁ…んっ」
シャツのボタンを胸の所だけ外されて、胸だけ露出するような格好にされる。
お前どこのマニアだと思ったけど、両方の胸を掴まれてツッコミは出来なかった。
…なんでだろう、ホントに。さっき思い切り胸を掴んでこう、ぶるんぶるんや
ってた時は、なんも感じなくて、痛いだけだったのに…
「…ぅっ」
大輔は起き上がると、私を下にする。うつ伏せにして、後ろから胸を触って来
た。
「やっぱ、俺はこっちの方がいいです」
「はぁ、んっ!あ…いやぁ…」
片方は胸を弄って、もう片方で、下着越しに…触って来る。お尻から手を入れ
て来て、指でくすぐるみたいにする。
「さくらさん、膝立てて」
頭がボーっとして、つい言われた通りにしてしまう。大輔は、するっ、と簡単
に下着を膝まで下ろしてしまった。
「あ…」
慌てて隠そうとしたけど、両方の太腿を掴んで固定してしまった。私、あの、
あそこ、大輔に見せ付けるようにする格好になってる。
「嫌ぁ…やだ、恥ずかしいから…」
お尻、振るようにして抵抗する。おまけに、電気点けっ放しだから…
「見られて感じてるんですか?」
「あっ―――」
ぬるりと、いとも簡単に大輔の指を咥え込む。離したくないみたいに締め付け
て、その中で大輔は指を動かす。
「あっあ…はぁ、ん、ん…あっ、いや、だいす…けっ」
動かされる度に、私はねだるように腰を振ってしまう。気持ち良くて、もっと
して欲しくて。あそこが一杯濡れて、温かい液体が太腿を伝って行くのがわかる。
手が支えきれなくて、私はベッドに肩を付いてまった。
「いいですか?さくらさん。もっとしてほしいですか?」
なんだか、やたらと意地悪く大輔は言って来る。そのくせ、手の動きは止まら
ない。音が響くくらいに指を動かして、返事が出来ないようにしてる。私はシー
ツを噛んで、どうにかこのやらしい声が出ないようにするんだけど…
「っ…ふぅ…ああっ!?」
私の脚を開いて、大輔は口付けて来た。温かい舌が、私の中に入って来る。中
や、一番感じる所を舐め回して、わざと音を立てて啜る。
「あっ、あんっ…だい…ふぁ…あっ…いや…いいっ、あ…」
枕を抱き締めて、私は大輔から逃れようとしてしまう。けれど、大輔は執拗に
私を求めて来る。
恥ずかしくて、でももっとして欲しくて、私は結局自ら脚を開いてしまう。視
線を感じて、触れられていないのに、また濡れて来たのがわかった。
「……あ…」
何かが、あそこに触れた。指より大きくて、熱い。
「さくらさん」
「っ…いや…」
思わず、そう言ってしまう。私、怖がってる。いや、何せ…初めて…あの、後
ろからするの…
「大輔…怖い、私…」
「大丈夫です、死にません」
わかってる…わかってるけど―――
ゆっくり、大輔が私の中に入って来る。後ろからも初めてだって悟ってくれた
のか、本当にゆっくりとした動きだった。
「あっ…おっき…ん、あ…」
きつくて、ちょっと苦しい。けど、感じる所を擦られながら入れられると、そ
れもすぐに消えていった。
全部、多分入った。けど…まだ怖い。大輔が見えない。繋がっているのだけが
はっきりしてて、知らない誰かに犯されてるみたいで、複雑だ。
「大輔…怖いよぉ…」
子供みたいに、私は怖がってしまう。大輔はぎゅっと私の事を抱いてくれたけ
ど、やっぱり、不安だ。
「大丈夫ですから、俺ですから」
「…うん…」
後ろから手を伸ばすと、両方の乳首を摘まれた。ひく、と私の中の大輔を締め
付けるようになる。
ゆっくり、大輔が動き出した。
一杯濡れて、動く度に音がする。徐々に、怖さよりも快感の方が心を占めて行
く。
「あっ…いいの…っんっ、あっ!…ひっ…あっ、ああっ!」
大輔の動きに合わせるようにして、私も腰を動かす。けど、ゆっくりした動き
がもどかしい。次第に、私の方が動くようになってしまう。それでも、足りない。
「…大輔ぇっ…っと、して…もっと、お願い、して…」
どえらい事、口走ってしまったような気がする。けれど、言って良かった。大
輔が、もっと強く、動いてくれたから。
「さくら、さん、意外と…積極的ですよね」
言わないで欲しい…けど、そう言われて、なんだか恥ずかしいけど、変な気分
になる。
「…大…す、け…好き…っあ…ひぁっ…」
もっと、もっと欲しい。滅茶苦茶にしてほしい。そうとすら思った。
限界が近い。そう悟って、私はもっと腰を振る。私は一際大きな声を上げて、
上り詰めた。
「っ…ぁ…はぁ…」
脱力し切って、私はベッドに転がった。大輔は…ちくしょう、まだちょっと余
裕じゃね?この野郎。
「…さくらさん、結構あっち系も行ける口じゃないですか?」
あっち系って、どっち系だろう…私は首を傾げて大輔を見上げた。大輔は笑っ
て、キスしてくれた。
「俺、さくらさんの事好きですけど、エロいさくらさんはもっと好きです」
言われて、火照ってるのにもっと熱くなるのがわかった。
「っうるせぇ!!お前…」
「お願い、もっとしてって、俺マジでビビりまし」
「じゃっかぁしいわ黙っとけ貴様はあああっっ!!」
思いっきり、ビンタをかましました。
私の初恋は、ある日唐突に終った。
そいつに告白して初めてえっちな事をして、結構経った頃だった。トータル4
回くらいしかしてなかったよな。
バレンタインにチョコケーキを作って、家に行った。部屋の前で気付いたけど、
友達と話していたみたいで、悪いと思ったけど聞いてしまった。
…結局、私はただ手懐ける為に近付いただけの事。
迫られたからついやっちゃった、とどうやら友達に相談していた事。
桜花ちゃんって可愛いんだよ、という話題。
気が付いたら、家に戻っていた。でもって、帰ったら、新しい母親がいた。
失恋の痛手からか、ろくに挨拶もせずに部屋に戻ってしまった。
そこから、今の状態が始まったような気がする。
ケーキは、独りで泣きながら全部喰った。
胸が痛くて、苦しくて、桜花ちゃんが憎くて。
それから益々私は捻くれて行った。本心を隠して、桜花ちゃんといた。
そいつとは、会いに行かなくなったら自然消滅した。桜花ちゃんに会おうとし
ても、私が会わせなかった。
そんなこんなで桜花ちゃんは独りぼっちになり、家にいるのも嫌だし、進学と
同時に桜花ちゃんとの2人暮らしを始めた。
そして―――
ふと、眼が覚めた。
横には、今だ頬が赤くなっている大輔が穏やかな顔で眠っていた。嫌だね、泣
いてるよ私。
恋をする事に臆病になって、策を練って、協力者を作って。
その結果は…隣で寝てるこいつ。
「お前がいてくれたから、私、今幸せだよ」
赤い頬に、そっとキスをした。一瞬大輔は眉を顰めたけど、起きるには至らな
かった。
その内、全部話すから。思い出すと、ちょっと胸は痛いけど、でも今は本当に
どうでもいいから。幸せだから…大輔が、そういう風に考えさせてくれるから。
私は、端から見たら大分気持ち悪いであろう笑顔で、大輔に引っ付いた。
「じゃ、帰るね」
朝ごはんを食べて、片付けをして、荷物を整理して。
私は玄関で、そう言った。
「いいんですか?送って行かなくて」
「別に、今までもそんな事した事無いだろ?…それに、気持ちは嬉しいけど1人
で行きたいんだ」
そうですか、と大輔は納得してくれた。
「じゃね。また遊びに来るよ」
「はい。お待ちしております、さくらさん」
にこー、と笑う顔は、どうしてこうも爽やかじゃないんだろう。
「あ、そうだ」
出ようとする私に、大輔は引き止めておいでおいでをする。なんだろう?
「え……」
私に軽くキスをしやがった。意図がわからず、呆然とする私に、大輔は。
「いってらっしゃいの儀式です」
と、平然と言い放った。
「ここに帰って来る訳でも無いし、普通逆だし、もうどこから突っ込めばいいん
だか」
呆れて溜息をついてしまった。こういうとこ、嫌いじゃないんだけど、やっぱ
疲れるわ…アホ過ぎて。まぁ、嬉しいんだけど。
「じゃ、今度こそ帰るぞ」
「はい。それでは」
荷物を抱えて、バス停まで歩く。
昨日電話した時、桜花ちゃん凄く残念そうだった。
これから、楽しいんだろうな。今まで3人だったのが4人で遊ぶ事になるんだ
ろうから。きっと、桜花ちゃんもそういう色々な事話したかっただろうに。
まぁ、結局今まで黙ってた私が悪かったんだろうけど…
バスが来る。そして乗り込む。
大好きな一番後ろの運転手側の一番端っこに乗る。
山積みの問題、実はまだ結構ある。今まで、向き合おうともしなかった。けど。
「逃げるの、もう止めなきゃな」
本当の意味で、これからは桜花ちゃんと仲良くなれるだろう。これからが私の
始まりなんだろう。
そして、いつか―――大輔と…大輔と…
そこまで考えて、私は蒼褪める。何か、忘れていないかと。
ああああああああああああああああああああっっ!?
危うく、絶叫しそうになる。乗ってすぐ次のバス停で、降りる。そして大輔の
家にダッシュする。
―――下着、あいつん家で洗濯して干したまま回収するの忘れてた!!
…きっと、この先も楽しいんだろう。でも、まぁ、とりあえず…下着回収して
からの話だ。笑ったら…殴る!!
私は泣きそうになりながら走るのだった。
終
480 :
377:04/02/15 11:55 ID:GkdR4jdV
という訳でさくら編2でした。
兄貴は、一応…期待してくださった方には本当にすいません。
次でも、予想通りだと思います。そういう奴です。
VIVA!!!すばらしい!!
うわ〜!!!おもろかった!!!!
そしてエロかった!!!!
やばいっす、メチャメチャ萌えました。
ありがとうございます!!!!!
>377さん
こういうの大好き。
(4つ目はまだだけど)構成もまとまっててイイ!
読み返して思ったこと。
377さんけっこうお笑い好き?w
377さんブラボー!!
激しく続編キボン
大輔編とか
父と義母キボン
大輔とさくらのやりとりが面白くて(・∀・)イイ!!
続き読みたいです!!
おかわりまーだ――?
なーんて、クレクレはイクナイですね。
待ってますv
大人の階段のぼるシンデレラ
ナイフみたいに尖っては
めちゃワラタ
おもしろい。
.
491 :
名無しさん@ピンキー:04/03/11 22:04 ID:/3kSEQd+
492 :
377:04/03/14 18:01 ID:dp6a2qDx
いつまでも投下出来ないので、専用ブラウザ入れてしまいました(笑)。
ただ、本当に最後の補足なので…あの、エロが全然無いです。
今度こそ趣旨に合わないかもしれません。その場合はスルーで、
お願いします。
「…で、この人何泣いてんの?」
桜花さんの家に泊まって、夜は桜花さん、朝は美味しいごはんをいただいて、
送ってもらって至れり尽せりで上機嫌で家に帰って来た。
そして、家に入ってまず眼に入ったのは、廊下で丸くなって泣いている男の姿
だった。
「ああ、彰一ったらねぇ、昨日大ちゃんのお家で、大ちゃんの彼女のお風呂覗い
て、大ちゃんにボコボコにされて帰って来たのよぉ」
けらけら笑いながら、母さんは言った。しかも暫く水沢家出入り禁止になった
らしい。吉野の裸、ていうかFカップ見たのか。俺は兄貴の所に近寄って横に座
る。という事は、こいつ昨日から泣いてんのか。
「兄貴、その子の身体ばっちり見た?」
鼻を啜りながら、頷く。いいなぁ。
「おっぱいでっかかった?」
またも頷く。
「…大輔も、男なんだな…」
掠れた声で、兄貴は呟いた。ていうか、アンタ今まで大輔をなんだと思ってた
んだ?溜息をついて頭をがしがし掻くと、とりあえずこっちよりは、あっちの方
が気になった。
「あら、孝一また出掛けるの?」
「ん、大輔んとこ。とりあえず規制解除くらいはしてもらうよ。このままじゃう
ざってぇっしょ?兄貴」
もう1度靴を履き直して、家を出ようとする。
「そうねぇ、うざったいわねぇ。じゃあお願いできるかしら?」
笑顔で意外ときっつい事を言う(まぁ、俺もだけど)人だった。
「…お」
ちょうど、吉野が家から出る所だった。大輔はまっすぐに前を向いて歩く吉野
を愛しそうにみつめていた。なんだよなんだよ、いつの間にそんな顔するように
なったのかね。吉野の姿が完全に見えなくなって、大輔は家に戻ろうとする。俺
は素早く大輔の元に走った。
「よっ、大輔。吉野まだいんの?」
白々しく言ってみた。大輔は読めない表情で。
「いえ、たった今帰りましたよ…何か用ですか?」
「用無きゃ来ちゃいけねぇの?」
会話しながら家に入る。勝手知ったる幼馴染の家、俺はずかずか茶の間に向か
った。
「…そうですね、これからは…タイミングは考えて行動して欲しいですね」
あらら、大輔ったら皮肉った物言い。こりゃ、相当怒ってるな。俺は冷蔵庫を
開けてコーヒー牛乳を取り出すと、コップに注いだ。お前いる?と聞くといいえ、
と断られた。
「…兄貴の事、許してやってくんね?」
「嫌です」
速攻断られました。あーら、こりゃ本気だ。俺は一気に半分飲み下す。
「あのさ」
「4日は駄目です」
…お前、甘いのかキツいのかどっちなんだ?大輔はこっちをじーっと見ている。
なんだか、物凄く怖いんですけど。お前みたいなタイプが静かに一点みつめてる
と、明らかに犯罪者ってかストーカーっぽいよ?
「…脳内で失礼な事考えるのやめてもらえません?シローさんだってあからさま
に成人式で暴れ出すタイプじゃないですか」
「…てめぇ、喧嘩売ってんのってか、心読めんの?」
「売ってませんしぃ、読めませんよぉ」
こんにゃろ…ていうか、これって八つ当たりじゃね?お前、吉野の身体見られ
たの、そんな悔しいの?お前、可愛いなぁ…俺はちょっとニヤニヤしながら大輔
を見る。視線に気付いたのか、大輔はにこー、と笑った。
「シローさん、キモイです。そのにやけ顔ってか、ラクダ顔止めてもらえません?」
…前言撤回だ。
ていうか、なんかひっかかる。もしかして、こいつ、別件で俺に対して怒って
いるのか?個人的にそんなヤバイ事をしでかしたとは思えないんだけどな…
暫く、無言でみつめ合う。そして、そのままでいるのも気まずいので、何か話
し掛けようとした。
「…あのさ、大輔」
「シローさん、あの」
同時に言って、お互いまた黙ってしまう。なにこれ。思春期か。俺ら中学生か?
眼を逸らして、俺は残りのコーヒー牛乳を全て飲み下す。気まずい。なんかすっ
げぇ気まずい。
「お前から言えよ」
「…俺は、いいです。長くなりますから」
やっぱり。こいつ、なんかあったんだ。俺、何したっけな…?ぐるぐると色ん
な事を考え始める。暫く考えても何も思いつかなかったから、諦めて聞いてみよ
うと思った。
「あのさ、俺…」
また、言い掛けたその時だった。
ピンポーーン。
チャイムの音。大輔は苦笑して玄関に向かう。俺は溜息をついて、空のコップ
を台所に置きに行った。すぐにどたどたと走って来る音がした。誰かと思えば。
「お、吉野おっはー」
「古い!!」
ツッコミを入れて、俺を素通りする。そして、奥の…そっち、風呂と洗濯機し
かねぇぞ?が、暫くすると吉野は真っ赤な顔をしながらこっちへやって来た。
「どした?」
「うるさい…」
どっと疲れた表情で、座り込む吉野。なんか…雰囲気、変わったような気がす
るのは俺だけか?…俺だけか。
「はい、サンブラ茶ですよ」
「絶対にいらない」
…俺もいらない。そう思いつつ、大輔は『嘘ですよ』と笑った。当たり前だっ
つの。吉野も冗談だとはわかっていたのだろう。コップを受け取って一気に飲み
干…
ぶほーーーーーーーーっっ!!
「きっ…汚ねぇえええっっ!!」
俺は慌てて飛び退る。大輔は最初から判っていたのか、いつの間にやら傘を装
備していた。そして吉野はというと。
「っ…だい…すっけぇえええええっ…」
「はい、なんでしょう」
「貴様これはケールの生葉を搾った汁、通称青汁じゃねぇかああああっっっ!?」
ぎりりり、と大輔の首を絞めに掛かる吉野。顔も服も見事に緑色だ。大輔は自
分に付かないようにしてるけど…時間の問題だな。
「お前、私に恨みでもあるのか!?お前私の事嫌いなのか?憎んでるのか?それ
ともこの状況を楽しんでるのかバカヤロコノヤローメー!!」
「いいえ、好きです。吉野さんの事が、誰よりも。冷凍パインより好きです」
…微妙…
本気で、そう思った。吉野も、完全に反論する気を無くしてるみたいだ。てい
うか、俺…このままじゃ邪魔者か?
「…とりあえず、タオル持って来てやるよ。お前もあんま、そういう容赦無いイ
タズラはやめろよ?」
とりあえず、洗面所に向かってタオルを何枚か取る。不意に、洗濯物に眼が行
く。あ、ぱんつだ。俺の眼に、一枚のぱんていが眼に留まった。そういえば、兄
貴に倫子ちゃんのぱんつやる、って言ったままだったな。ちょうどいいや。
俺は可愛い、やたら手触りのいいぱんていを失敬し、ポケットにねじ込んだ。
「ほれ、吉野…あーあ、大輔も」
やっぱり、大輔も青汁に染まっていた。ていうか、風呂だな。予想通り。
「風呂、もう少ししたら沸くだろうから…したら入っとけ」
「あ、すいませんわざわざ」
頭を下げる大輔。不機嫌な吉野。
「…俺、また後で来るから。話はそん時な」
そう言って、俺は水沢家を後にした。とりあえず、兄貴の元気は少しだけ取り
戻せるだろうと信じて。
…シローさんが帰って、さくらさんを宥めて、風呂が沸いて。とりあえず一緒
に入る事にした。なんだか元気の無い(…当然か)さくらさんの身体を洗おうと、
ヘチマにボディソープを泡立てる。
「…いい、自分でやる…」
「いいですよ、俺ふざけ過ぎましたから」
そう言うと、呆れながらさくらさんは俺に身を任せてくれた。まず最初に、キ
スをした。
「…なっ!?」
物凄く驚いた顔をする。コーヒー牛乳の味がした。口直しに、さっき飲んだ、
それの味。何度も口付けて、味わう。次第に、さくらさんが困ったような顔にな
って来た。
さくらさんは、正直言って物凄く可愛い。めちゃんこ可愛いと言っても過言じ
ゃない。それは世間一般での評価でなく、俺の評価な訳だけれども。
「っ…ん、ん…う…」
舌を絡めると、積極的に答えてくれる。動きはぎこちなくて、まだ脅えが残っ
てるような表情だ。
怖がっている節がある。経験はある、とは聞いていたし、実際処女という訳で
も無かった。けれど、思っていたよりはずっと…なんて言うか、可愛い。
大分ぐったりして、さくらさんは俺を見上げる。頬が上気して、誘ってるのか
なー、とちょっと思ってしまうような眼だ。
「ここで…するの?」
あらま、さくらさんにしては大胆発言。でも、ご安心下さい…と言うより、残
念でした、と言った方が良かったですかね。
「しませんよ、何の用意もしていませんし、第一のぼせてしまいます」
「…そ」
ほっとしたような、残念なような、そんな表情を浮かべる。俺はそんなさくら
さんが、めっさ可愛くて、丁寧に身体を磨き始めた。
三助と言う名のセクハラ行為をして鮮烈な攻撃を受けながら、どうにか2人で
湯船に浸かる。はあ極楽です。
「お前、頭にタオル乗せるのやめない?」
「いいじゃないですか」
「…あと…」
あと?
さくらさんはもじもじしながらこっちを見ている。ははあ、そういう事ですか。
「仕方ないですね、我慢出来ないんですか?」
さくらさんの胸を掴もうとする。が。
「違うっ!断じて違うっっ!!」
ぱちーん、と叩かれた。当然の事ながら、痛いです。さくらさんは本当に呆れ
たように俺を見ると、また言いにくそうな顔をした。
「どうしたんですか?」
「…あの、さっきのだけど…」
さっき、と言ってもなぁ。俺はさっぱりわからなくて、適当に返してしまう。
当然、その適当具合にさくらさんは激怒する。面白いなぁ、この人。が、少し泣
きそうになってしまったので、慌てて真面目に聞いた。
「あのさ、昨日の朝もそうだったけど…なんで、あいつと…岸部と話す時って、
私の事…いつもみたいに呼ぶの?」
…私、お前の…彼女なんだよな?
そう、小さく呟く。あれ?俺、そんな風に言ってたっけ?さくらさんの事、前
みたいに、吉野さんて…
「呼んじゃって、ましたかね」
若干傷付いたような顔。意識は全然していなかったんだけど、どうやらそれが
この人を傷つけてしまっていたらしい。でも、どうして…
んー、と暫く考え込む。どうして、シローさんには…後、トク兄にも、怒り過
ぎたような気もする。なんでだろう…なんでだろう。
「っ…?」
不意に、さくらさんが抱き付いて来た。女の人ってどうしてこうも気持ちいい
んだろうか。柔らかくてプリプリしていい匂いで…出来る事ならずっと抱いてい
たい。なんか、この考えって変態だよな。ていうか、さくらさんだからそう思う
のかな…
「…あ、そっか」
急に、答えが出てしまった。
「そっかって、何が?」
「いえ、さっきの問いの回答です。俺、基本的にシローさんに負けるの嫌いなん
です。ちっさい頃から、言ってませんけどそうなんです。だからです」
「果てし無く意味がわからんなぁ」
溜息をついて、俺から離れようとした。あー、おっぱい浮かんでる。
「だから、あの人に弱み見せるの嫌なんです。出来ればいつも心情的に優位に立
っていたいんです。だから、俺がヤバイくらいにさくらさんが好きだって事、隠
したかったんです」
超、納得。俺、馬鹿だな…本当にそう思う。でも、なんとなくシローさんが桜
花さんにベタ惚れなの知ってても、俺がさくらさんにベタ惚れなの、悟られたく
ないんだ。余裕、持っていたいんだ。
でも、それもやめにしないとな…そんなんで、さくらさん不安にさせるくらい
なら、そんなプライド(と言ってもいいんだろうか)いらないや。半端無くいら
ない。半端ねぇいらなさだ。
「すいません、心配掛け…」
およ、さくらさん後ろ向いちゃった。怒ったかな…怒ったな。
「さくらさぁん、だから悪かったですって、俺…」
こっちを向かせようとすると、さくらさんは逃げようとした。けど、こっちは
向いてくれた。その表情は…
「…のぼせちゃいました?」
「うん…お風呂だからって、2つの意味でのぼせそう…」
真っ赤になって、俺の顔を見ようとしない。これは、なんだ、マジ切れ寸前っ
て事だろうか。
「あの、出来れば顔面よりはボディで行っていただけると嬉しいんですけど」
「意味、わかんない…」
顔を伏せたまま、さくらさんは俺にしがみついて来る。ああ、ベアハッグか。
色んな痛さを覚悟していたけど、大丈夫だった。寧ろ気持ちいい。
「…私も、好きだから…大輔に知られるのが怖いくらい、大輔が好きだから…だ
から、あの…嬉しい」
うちゅー、とキスしてくれた。俺は、一瞬、マジで頭の中が真っ白になった。
この人がこんな事、恥ずかし気も無く言ってくれるなんて。
正直、もう少し時間が掛かると思ってたから。正直、大分卑怯な手を使って振
り向かせたから、暫くは色々と、覚悟していたんだけど。
「大輔?」
心配そうに、俺の顔を覗き込むさくらさん。やっぱり、悟られたくないな、あ
の人には。今、俺泣きそうになってるし…
家に帰ると、もう兄貴はいなかった。なんとか自力で泥沼からは抜け出たらし
い。ちっ、せっかくぱんてい持って来てやったのに。
部屋に戻って、荷物の整理をしようと思ったけど、母さんが粗方やっててくれ
た。ありがとうございます。ごろん、とベッドに転がると、急に眠気が襲って来
る。俺はなんとなく寝るのが惜しくて、置いてあった本に手を出した。
…解けない。
俺は大分イライラしていた。推理小説の、犯人がわからない。メモを持って、
鉛筆かじって、頭を掻いていた。諦めて、投げ出そうとしたその時、電話が来た。
大輔からだった。
「ほーい」
俺はいいタイミング、と喜びながら電話に出た。大輔は相変わらずのテンショ
ンだった。
「吉野帰ったの?」
『ええ、帰りましたよ、さくらさん。来ます?』
うん、行く。俺はすぐに電話を切って大輔の家に向かった。
「早いですねぇ」
「まぁな」
正直、大輔が何を言うのか気になってたし。俺はまたもや遠慮無く茶の間に向
かった。今度は、大輔がコーヒー牛乳を飲んでいた。
「…さくらさん、帰ったんだ」
ちょっと意地悪く言ってみる。しかし大輔は涼しい顔ではい、と頷いた。いつ
も思う、こいつには敵わないって。
年下の癖にいつも落ち着いていて、俺が駄目になりそうな時、助けてくれたの
はこいつだった。感謝してる。こいつが一番の友達だし、こいつにもそう思って
いて欲しい。大輔が困ってる時は、俺が助けてやりたい。
…だから、あんまり前進してなさそうなこいつの恋路を手伝った訳だけど。ま
ぁ、上手く行って良かったような、もしかして全然必要無かったような気もする
んだけど。
「……?」
すっ、と大輔が右手を出す。一瞬わかんなかったけど、俺ら2人にしか通じな
い遣り取りだ。俺はぺしん、とそれを右手で叩く。でもって、大輔が俺の手の平
をグーで叩いた。
ガキの頃からの、秘密。誰にも聞かれたくない事を話す時の遣り取り。話した
い方が手を出して、グーで叩く。そうした後に話してくれた事を誰かに言ったら、
罰金。小学生の頃は600円、中学生の頃は6000円、高校から二十歳になる
までは6万円…て事は、俺、こないだ二十歳になったから…
蒼褪める。もしかして、わかっててやってるのか?
「わかっているとは思いますけど、今から言う事、誰にも話さないで下さいね。
話したら…」
「60万な…」
なんで、こんなアホな約束取り付けたんだか…因みに、結構やったけど、払っ
たのは俺が高1の時に6万払っただけだ。しかも、それ以来大輔はやらなくなっ
た。だから、実質大輔からの告白は…4年振りだ。
「俺、さくらさんが好きです。多分、今まで好きになった誰よりも」
…ほーぉ。そりゃいい事だ。けど、それが何?
俺は意図がわからず、大輔を見る。大輔は…もしかして、なんだ?読めない。
マジでわからない。
「でも、俺がさくらさんを好きになったのはほんの一昨日、旅行に行った日なん
ですよね」
…え?
俺は、物凄い違和感を覚えて、大輔を凝視した。全く読めない表情で、コーヒ
ー牛乳を飲む。
「俺とさくらさん、色々作戦立てていたんですよ。さくらさんが好きな人をどう
やって落とすか。そして作戦も固まって、その日が来ました。でも、ターゲット
は来なかったんですよね」
え?え…は?え…マジ?まさか、それって…
「まさか、お前…吉野の好きなのって…」
蒼褪める。え?マジ?マジっすか!?ていうか、冗談だろ?嘘だろ?
不意に、吉野の顔が浮かぶ。大事な友達。大輔がいなかったら、一番仲良かっ
たと思う。すっげぇノリ良くて、趣味一緒で、ツッコミ上手で、割と冷めてる所
あって…
「嘘だろ?だって、あいつそんな素振り全っ然見せなかったし、俺、お前の事が
好きだって思ってたぞ?ほら、最近よく2人で…」
2人で…作戦、立てていたんですか?心の中で思い、大輔を見る。頷く大輔。
俺は、真っ青になる。2人が好き同士だと思ってたから、約束すっぽかしたり
(普通に忘れてた時も多いけど)してたのに。もしかして、俺がやって来た事っ
て、全部ただ吉野を傷付けていただけ…なのか?
はぁ、と溜息をつく大輔。じゃあ、今、なんで…
「全然わかんないって顔してますね」
やけに意地悪く、言う。なんだ、大輔からすっげぇ悪意感じるんだけど。
「桜花さんって人、好きですか?」
笑う。大輔の笑顔が、とてつもなく怖い。すっげぇ怒ってる。
「…うん」
「さくらさん、ずっとコンプレックス持ってたんですって。小さい頃からその桜
花さんって人と比べられて、傷付けられて、自分が好きになる人は、みんな桜花
さんを好きになってしまったそうです。だから、さくらさんは桜花さんの存在を
俺達にひた隠しにしていたんです」
…だけど。
俺は、偶然桜花さんと出会って、恋をして…
「馬鹿ですよね、隠して、秘密にして、いつまでも悩んで、告白しなかった結果
がコレですからね。策士策に溺れる、なんてレベルの話ですら無いですから」
「お前、その言い方…」
とても、好きな女に向けての言葉じゃない。大輔の表情を見て、嫌な予感が頭
を掠める。考え過ぎだ。そんな訳無い。大輔が、まさか…
「さくらさんって、割と単純ですからね。傷付いて、泣いてる女の人程転がし易
いものって無いですよね。多少嫌がったって、男に勝てる筈なんて無いんですし」
…眼の前が、真っ暗になる。こいつ、こういう奴だっけ?そんな卑怯な手を使
って、吉野を、こいつは…
「さぁて、お話終わりです。どうします?さ○まの名探偵でもします?」
飄々と笑う大輔。こいつ、いつの間にこういう奴になったんだ?
…吉野は、好きだよ。大事な友達。けど、今は吉野がどうこうより、大輔が当
然の様に酷い事を出来る人間になってしまった事の方が…悲しかった。
だから、今更桜花さんの言葉が身に染みた。
…ごめん、桜花さん、前言撤回。俺、世界で二番目に桜花さんが好きだ。
こっちを凝視するだけの大輔に、俺は掴み掛かろうとする。こいつをどうしよ
う、なんて考える頭は無かった。が、大輔はいきなり俺の…はい?
「え、え?お前、そういう趣味…」
「ありませんっ」
胸…てか、位置的に心臓の辺りを触る。
「痛かったですか?ここ」
そう言った大輔の顔は、いつもの顔だった。
「…うん」
俺は小さく呟いて、へたり込んだ。
「どっから嘘だったんだよ…」
よく考えればすぐわかる嘘なのに…俺はまんまと引っ掛かってしまっていた。
大輔は俺の隣に座って、コーヒー牛乳をのんだ。飲むの遅い。
「…ほとんど本当です。違うのは、俺がさくらさんをちゃんと大事にしてるって
事だけです。この激鈍野郎め」
ぺしん、と叩かれた。後、何気に暴言吐いたな、お前。
「貴方がどれだけさくらさんを傷付けてたか、なんてのはいいんです。あの人も
もう立ち直って、俺が一番好きだって言ってくれますし。でも」
でも?大輔は少しだけ悲しそうな顔になる。
「…俺は、許せなかったんです。理不尽とわかっていても、貴方と、会った事も
無い桜花さんが…馬鹿みたいっすよね」
「まぁ、可愛い報復だわな。お前が本気で怒ったらもっと酷い事するもんな」
…確か、紙袋にゴキブリを入るだけ詰めて俺のクラスのいじめっ子のランドセ
ルに仕込んだり…うわぁ、怖ぇ。こいつ、やり口陰湿だからな。
「…はい。ごめんなさい」
しゅん、となって俺の胸に頭をくっつける。傷付けるとわかってて行動するの、
すげぇ嫌いだからな…こいつ。
「いいよ、俺も無神経な事してたからな。ごめん。気を付ける」
ぎゅー、と抱き締める。そしてその瞬間、何かが落ちる音がした。
「…大ちゃん、シロちゃん…まさか、そんな…」
蒼褪めながら慄く…
「ちっ…違うっ!倫子ちゃん違うから!!俺も大輔も女大好き!!ね、今のはち
ょっとしたトラブルがあっただけで…」
「いやいやっ!シローさんにそんな趣味があったなんて…もうっ、信じらんな
い!!母さん助けて、俺の貞操ヤバイよー」
笑いながら倫子ちゃんに駆け寄る大輔。てめぇ、なに人を陥れようとしてやが
んだ!!
「大ちゃん、大丈夫?可哀相に…駄目よ、ちゃんと順序置かなくちゃ。シロちゃ
んもやりたい盛りなんだろうけど…」
「親子揃ってボケっぱなしは止めろーーーーーーーーーー!!」
…思い切り、吉野の気持ちがわかった。大変なんだな、ツッコミって。
「あらあら、駄目よシロちゃん、そんな大声出したら…」
「そうですよ、もう大人なんですから」
…この2人、今物凄くスリッパで叩きたい気分だ。
「…ところで、大ちゃん…彰ちゃん、いつもなら堂々とお家に入って来るのに、
今日は玄関先で泣いてたけど…本当に出入り禁止にしちゃったの?」
うん、と素直に頷く。あー、あと4日は駄目なんだよね。
…ていうか、この人もなぁ。いい加減答え出してやれば?アンタが生殺しにし
てっから、アイツもあんなんなんだよ?
なんとなく、胸が痛い。俺が口出しできる事じゃないんだけどさ、あんなに好
きだって喚いてる兄貴が、胸に浮かんで、なんとなく胸が痛い。
「ん?」
いきなり、携帯が鳴った。桜花さんだ。
「…はい、どしたの」
『あ、あの、大輔さんいらっしゃいませんか!?』
物凄く慌てた声。ていうか、なんで?とりあえず了承して大輔に電話を渡す。
雰囲気を読んでくれたのか、倫子ちゃんは席を外してくれた。
大輔は桜花さんと話をしている。が、どんどん顔が険しくなる。
「はい、はい…いえ、来ていません。少し前に帰ったばかりですから…ええ、は
い、わかりました。探しに行きます。見付けたら、連絡します。俺の番号は…」
ぱちん、と携帯を2つ折にすると、俺に放る。いや、全然わかんないんだけど。
大輔は俺を無視して自分の携帯を出す。程なくして電話が入る。そして出て、す
ぐに切る。桜花さんの番号登録完了か。
「なぁ、どういう事?」
「さくらさん、行方不明だそうです。両親、離婚するそうです…ああもう、いつ
見ても波乱万丈だなあの人!」
大輔は急いで家を出て、自転車を持ち出す。
「お前、あいつが行きそうな所知ってんの?」
「まあ、いくつかは。とりあえずこっちに向かっているかもしれませんし…」
焦ってるなー。こいつ。物凄く焦ってる。
「…じゃあ、分担するか。定期的に電話入れて、見付けたら即連絡するし」
…なんとなく、楽しそうにしている気がするんだけどな…
シローさんはいくつかの約束事をして、家に走って行った。バイク出すみたい
だ。免許無いのに。
俺も、急いで自転車を漕ぐ。とりあえず、さくらさんの家までの…って。
「さくらさん家、俺知らないや…」
ちょっと、あまりの無計画さに頭痛がして来た。とりあえず、簡単な道のりを
桜花さんに聞いて、それから走り出した。
さくらさんは、親と上手く行っていないみたいだ。しかも、後妻の人の方との
人間関係は壊滅的とのこと。それなのに、父親からは後妻の方に行け、と言われ
たらしい。桜花さんは話しながら泣いていた。どうも、初めて人をグーで殴って
しまったらしい。相手は、さくらさんの父親だそうだ。
大分必死に、自転車を走らせる。気付けば、教えて貰った目印のマンションに
到着してしまった。入口には…物凄く綺麗な女の人が、不安そうな表情で立って
いる。多分、この人だ。
「…桜花さんですか」
ブレーキを掛け、止まると同時に声を掛ける。驚きながらも、桜花さんは理解
してくれたようだ。
「はい…あ、電話で、何度かお話しましたよね。染井桜花です」
ぺこ、と頭を下げた。ああ、たしかに綺麗な人だ。俺も、さくらさんを好きに
なる前に会っていたら、もしかして。
「今、シローさんも捜索手伝ってくれています。提示連絡しますし、染井さんは
家で待っていて下さい。もしかしたら帰って来る可能性もありますし」
そう言うと、染井さんは、はい、と返事をしてくれた。そして、俺をじっと見
据えると。
「…さくらちゃんの事、お願いします。さくらちゃん、見た目より、ずっと、ず
と傷付きやすい子なんです。私の…私のせいでっ…」
「そうですね。色々傷付いてました」
まずい。俺の言葉に、染井さんははっ、としたような顔をした。なんでだろう、
なんでこんなに攻撃的なんだろう。
「…すいません。失言でした、こんな時に」
「いえ、本当の事ですから…そう、はっきり言っていただけて良かったです」
泣くかと思ったけど、違った。思ったよりはずっと強い意志で、この人は頷い
た。
「じゃあ、行って来ます」
「はい、待っています。どうか、お気を付けて…」
頭を下げる染井さんに応えて、俺はとりあえずさくらさんの行きそうな所に向
かった。
自転車を走らせながら、染井さんの顔を思い出す。綺麗な顔、だったよな。全
体的に優しそうだし、守りたくなるような雰囲気を持っている。確かに、さくら
さんと一緒にいたら、悪いが全体的に正反対の雰囲気を持つ彼女は簡単に比較出
来るものとなってしまう。けれど。
…俺が好きで、誰よりも可愛いと思って、守りたいのは…さくらさん以外いな
いから。きっと、どこかで独りぼっちで泣いているのだろう。そういう人だ。
俺は、何故か俺にも連絡してくれないさくらさんに、ちょっこすヤキモチを焼
きながら走り続けた。
「…お前、何してんの?」
バイク借りるのに手間取ってたら、家を出た瞬間に吉野とばったり会った。荷
物もなく、部屋着みたいな寒い格好で、着の身着のままに歩いている吉野には、
いつものような覇気が無い。表情は虚ろで、ボーっとして、正直別人みたいだ。
すれ違っても、気付かないかもしれない。
「なんでもない…大輔、いない?」
声も、全く元気が無い。いない、お前を探してる、と教えてやった。
「そっか、桜花ちゃんか…迷惑、掛けたね」
くしゅっ、と小さくくしゃみをした。寒いだろう、と思って俺は着ていた服を
被せてやる。じっ、と吉野は俺を見上げた。
「…岸部、桜花ちゃんの事好き?」
その質問に、胸が痛む。ずっと前から、自分を好きだった女が、そんな事を聞
いて来る。いや、こいつは俺が知ってる事なんて知らない筈だ。だとしたら、俺
はどうしてやるべきか?答えはひとつしか無い。
「うん、すっげ好き。世界で二番目に好き」
「二番て…一番誰よ」
「大輔」
言って、少しだけ表情が曇ってしまったような気がした。俺は電話を出して、
とりあえずは真っ先に桜花さんに連絡しようとする。が、吉野は何故か電話を取
り上げた。
「…駄目、今は駄目っ…誰にも会いたくない…」
泣きながら、吉野は電話を後ろ手に隠す。なんだよ、じゃあなんでお前ここに
来たんだ?大輔に会いに来たんだろ?
俺は吉野の頭を叩くと、電話を取り返す。
「馬鹿が、皆お前心配してんのわかるだろ?連絡はする。誰にも会いたくない気
持ちはわからんでもないけど、安心はさせてやれ。絶対泣いてるから、桜花さん」
そう言うと、桜花さんに連絡する。すぐに出る。
『さくらちゃん、見付かったんですか!?』
開口一番、それだった。
「うん、無事保護したよ。でも、ちょっと暴れてて人に会いたくないらしいから、
放置しとくわ。とりあえず無事だって事だけ伝えておく。じゃね」
ぷち、と電話を切った。次は大輔だ。何故か、出ない。仕方ないので『吉野ゲ
ッツ。放置希望らしいので捜査打ち切り』とだけメールしといた。
「これでよし、で、お前どうするの?本当に1人になりたいなら俺も帰るし」
吉野は応えない。ただ黙って俯いたまま、泣いてるだけだ。
こいつは、こんなに小さかったっけ?そんな風に思ってしまう。ただでさえ女
の子に泣かれるのは苦手なのに…俺は一先ず涙を拭おうと、ポケットからハンカ
チを取り出し、涙を拭う。が、その瞬間時が止まる。
「…それ、私の下着…なんで岸部、持ってんの?」
俺の手から、ぱんていを奪い、睨みながらそう問い詰めてくる。そして、謎が
解けた。なんで赤い顔して家に戻って来てたか。干した下着、忘れて帰ったのだ。
それに気付いて、回収して、そして倫子ちゃんのぱんていだと思って、俺が…
「あっ…ち、違う、あ、これ、あの…倫子ちゃんの…あ、えっと、大輔のおかん
のだと思って、あの、こう、兄貴に贈呈しようか…」
「あほかあああああああああああああああああああああああああっっっ!!」
大絶叫と共に、俺は物凄いハメコンボ技15HITを喰らいました。
「…ごめんね」
ざざーん、と波の音が聞こえる。一通りの攻撃を終えた後、どこかに走ろうと
する吉野を追って、結局海岸まで来てしまった。
今だ痛む身体を擦りながら、俺はいいよ、と応えた。ていうか、俺がやったの、
普通に犯罪だからな。こんなんされても怒る筋合いが無い。
「聞いたかもしれないけど、おとんとおかんが離婚するらしいんだわ…」
「そっか…」
俺は、吉野の家庭の話は本当に知らない。基本的にそういうの自分から話す人
間じゃないし、そんなに興味も無かった。
「寂しい人なんだよね、おかんは後妻で、何かとプライド高くて…どんどんおと
んと心は離れて行って…」
砂を掴んで、投げる。綺麗な夕焼け。眼の前にいるのは、やはり泣き腫らした
眼の、吉野。初めて、自分の大事な場所に連れて行った女の子。
あの時、なんで吉野が泣いたのかは知らなかった。けど、大事な友達だったか
ら。だから、見せてあげたかった。
…もし、あの時。
そんな考えが頭を掠める。でも、今俺が好きなのは。今吉野が好きなのは。
俺は、溜息をついた。なにをしていたんだろう、と。吉野を、知らず知らずの
間に傷付けていた。謝りたい。けれど、それは出来ない。
60万払うのが嫌だからじゃない。いや、正直凄く嫌だけど、それだけじゃな
い。これは、大輔との約束だから。
「私さ、おとんがおかんの事もう好きじゃないのはわかってるけど、おとんがお
かんを心配してるのは知ってるんだ」
「それって…」
ちょい意味がわからず、ていうかこの件についても、俺は一番遠い位置にいる。
どうコメントしていいのかがわからない。
「おとんは、自分がもうあの人に何かをする事が出来ないから、しても拒否られ
るだろうから、私が折れて、あの人と一緒にいてやって欲しいんだろうね。口下
手だから、伝えづらかったんだろうけど」
急に、吉野は砂山を作り始めた。甲子園球児(負け組み)みたいな仕草で、砂
を集める。そうしながら話す吉野に、俺は黙って聞き入る事しか出来なかった。
「正直、すっげぇヤダ。ていうか死んでもヤダ。あのババァに対して折れるくら
いなら、死んだ方が1024倍マシ」
ざかざかと砂をかき集める。
「…そう言ったら、殴られた。腹立って、家出て来た。途中で情けなくなって、
あんなんなっちゃって、それで…ごめん」
「お前が謝る必要、無いよ」
俺は、やっぱり何も言う事が出来ない。知らない人だし、もしかして本当に吉
野が悪いのかもしれない。逆に、完全に被害者かもしれない。でも、知らない以
上、聞けない以上、俺は。
「駄目人間なんだわ。ホント。自分で出来ない事娘に押し付けて、拒否ったら殴
るってねぇ。ふざけんなっつの、女子高生に手ぇ出してる癖に」
「うわー、きっつ」
それだけは、つい言ってしまった。吉野は笑ってくれた。
「いいんだよ、それで。私は絶対にあの女の所に行かない。それだけは、絶対に
許さない。ていうか、もう多分実家にも戻らないな」
あはは、と空笑いのようにも聞こえる笑い声。俺は、つい、聞いてしまった。
「…なんで、そんなに嫌なの」
俺の問いに、吉野は穏やかに笑って、言った。
「あの女の苗字『佐倉』だから」
ぶっっ。
俺は思い切り吹き出した。ていうか、おい。佐倉さくらか?
「…日本の歌丸出しだよな」
「森山○子の息子かよ」
…思い切り、意見がズレた。お互い間違っちゃいないけど。吉野も、笑った。
まぁ、きっと理由は(80%がそれで占められてるとしても)それだけじゃない
のだろう。
俺は、多分本当に幸せなんだろう。いや、多分こういう考え、失礼なんだろう
けど。両親も健在で仲良くて、諍いの無い家に住んでいる俺は…
「あのババァね、桜花ちゃんが大好きなの。ううん、親戚中みんな。皆、私と桜
花ちゃんを比べるんだよね…まぁ、わかるけど」
「…そんな」
「いつだってね。だからゴメン、お前と大輔に桜花ちゃんの事隠してた。ごめん
ね、なんかさ」
手を合わせて、俺に謝る吉野。大輔の言葉が、脳裏に浮かんだ。
俺は、どういう顔をすればいいのか、どんな言葉を出せばいいのか、どうすれ
ばいいのか、何ひとつわからずに、ただ吉野を見るしか出来なくて。
「…最低だよね。だから、私は駄目なんだ。おとんにもおかんにも、偉そうな事、
何ひとつ言えない」
そう言った顔が、あまりにも悲しくて。
その言葉が、あまりにも心に刺さって。
「…え?」
俺は、すぐ傍にあった吉野の手を掴んで、抱き寄せた。
「えっ…え?や、なんで?やだ…なんでこんな事すんの!?」
俺の腕の中で、吉野はもがく。理由なんか知らん。ただ、こうしたかった。泣
いてる吉野が、あまりにもちっちゃくて、俺は自然にこういう行動に出ていた。
「放して…放してってば…嫌、いやっ…」
暴れるけど、俺は放さない。思い切り強く抱き締めていた。
「…いやだ…はなして…」
徐々に、力が弱くなって行く。俺はそれでも、力を緩めなかった。
「……」
「……」
お互い無言のまま、時だけが過ぎて行く。夕日も、徐々に沈んで行く。吉野は、
それでも諦めない。まだ抵抗している。
もしかしなくても、これはやってはいけない事だったのかもしれない。俺はま
た無神経な事をして、吉野を傷つけてしまったのかもしれない。俺はちっちゃく
震えている吉野を、放した。が、同時に。
「やめろって言ってんだろがこの馬鹿があああっっ!!」
「え!?」
今やめたじゃん!!と突っ込む隙も無く、俺はボディに鋭い一撃を喰らってい
た。
とぽさ、と砂浜に倒れ込む。
「…そういうの、他の女にすんなよ?桜花ちゃんだけにしとけ」
「げほ…っは…い…」
ぐりぐりと脇腹を踏まれつつ、俺はなんとか応えた。
「でも、心配してくれたんだよね。そこだけはありがと。動きは余計だったよ」
「…そりゃどうも…」
吉野は俺の手を取って俺を起こす。砂だらけだ。
「でも、叫んで殴って走って和んで叫んで殴ったら、すっとした。なんか、どう
でもよくなって来た。どうせ、どこにも行かないから。私は桜花ちゃんと一緒に
暮らすんだから。答え、最初から出てたし。あはははっ」
笑う吉野。波打ち際まで歩く。俺も立ち上がって、続く。
…ごめん。
何に対してかは考えずに、そっと唇だけで言う。横に並ぶと、顔を見合わせて
笑う。そして吉野は海に向かってまっすぐに視線を向ける。
「行くぞーーーーーーー!!」
どこへ?そう思ったけど、すぐ気付いた。あー、気合入れる例のアレね。
「いーち!」
やっぱり。こいつも本当、乗りやすいよなぁ。
「にーぃ!!」
俺も乗る。馬鹿丸出しだ。おまけに青春まっしぐらだ。でも、楽しい。
「さーん!!!」
一緒にいるのが楽しいの、もしかして、こいつかもしれない。一番好きな女の
子じゃないけど、一番大切な奴でもないけど。一番気が合うのは…
「チャンラーーン!!」
「ダーーーーーー!!」
「まいどーーーー!!」
『…………』
三者三様の、違う叫びが、海岸に木霊した。
なんか、物凄く損した気分で、お互い顔を見合わせる。
正直、俺と吉野はまだわかる。この流れなら、俺のダー、の方が正しいとは思
うけど…だが、それよりもっと解せないのは。
ばっ、と後ろを向いた。そこには案の定、偉そうに立って…るけど、なんか傷
だらけで服も破れて、ボロボロな大輔がいた。
「大輔、お前その格好…」
「お前、それはちょっとマイナーにも程が無くない?」
吉野、お前大輔の安否よりそっちか?ていうか、来て欲しくないってメール入
れたのに来るか、お前もよ。
大輔はこっち目掛けて、思い切り走る。そして…
「え!?」
「うぉっ!?」
ばしゃーーん。
俺達を巻き込んで、海の方に倒れ込む。つっ…冷てぇえええっっ!!俺は泣き
そうになりながら起き上がろうとする。が、後ろから何故かヘッドロックを掛け
られる。
「だっ…だっだだだだだ!?いっ、お前、何?なにすんのっ!?」
「うるさいっ、人の彼女に何してくれてんですかっ!!」
ぎりぎりと絞めて来る。てか、そんな前から見てたんかい!?俺は痛くて冷た
くて、ばしゃばしゃと水面にギブの合図をする。が。
「あはははは、どうしたんですか、水を叩いても何も起きませんよーだ」
こっ、この野郎、わかってやってるな!?俺はなんとか逃げようとするが、無
理だ。ばっちり決まっている。よ…吉野、助けろ!!俺はなんとか吉野を探すが。
「…あーもう、びしょびしょだよ」
余裕で、砂浜に上がって服をしぼっていた。多分、気付いてる。なのに、無視
している。
暫くして、やっと砂浜に上がった時には、俺はもう死にそうだった。
「大輔、どうしたの?こんなボロボロになって」
「いえ、ちょっと焦り過ぎて、そんな時に携帯鳴って…バランス崩して転んで、
おまけにそこが坂だったからもう…」
笑いつつも、ちょっと痛そうだ。吉野はまぁ、すっげぇ女の子らしい表情で。
「ごめん、私のせいだよね。本当に…ごめん」
「いいんです、貴方が無事だってわかったんですから」
そう言うと、吉野を抱き締めた。あーあー、熱々ですこと。ちくしょう、俺だ
って桜花さんといちゃこいてやるからな。
溜息をついて、空を見上げる。綺麗なオレンジの雲が、紫になって行く。
「…あの、俺ほったらかし?」
ぽそ、と呟く。反応は無かった。
…と思ったら、吉野が俺の近くに来て、俺の顔を見下ろした。
「よぉ」
「よぉ」
なんだか場違いな挨拶を交わす。
「うっ…」
砂のついた髪や顔を拭ってくれると、吉野は笑った。俺じゃ、駄目だって事か?
微妙な気分になりながら、吉野を見る。服はしぼったけどびしょびしょで、ちょ
っと寒そうだ。けど、それ以上に。
「…お前、やっぱ胸でっけぇのなぁ」
余計な事、言った気がした。
間も無く、吉野の拳と大輔の足が飛んで来た。
「2人とも、俺に酷くない?」
満身創痍になりながら、なんとか反論する。が、2人とも『いぃえぇ』と返し
て来た。ちくしょう。会いたいな…きっと、桜花さんなら今の俺に優しくしてく
れるだろう。来れなくても、声だけでも聞きたい。
そう思って、携帯を取り出…
「ああああああああああああああああああああああっっ!?」
思わず、絶叫する。携帯が、水に濡れて…おシャカ様だ。そんな、俺と桜花さ
んの愛のメモリーが、こっそり寝てる間に撮った桜花さんのショットが、ごはん
作ってる桜花さんのムービーが…
「うわああああああああん…」
マジ泣きする。あれか、今日は俺、厄日か。まるで好きな男に騙されて暴行を
受けた女の子のように俺は泣く。
「…びっくりした、どしたの、岸部」
「さあ…俺もびっくりしました」
「ううっ…うっ、うっ…うううっ」
俺は、いつまでも泣き続けた。いつまでも、いつまでも。
暗くなって、渋々大輔がおんぶしてくれるまで、泣いた。
…いいもん、また一杯思い出作ってやる…
星が綺麗な今日、俺はそう誓ったのだった。
終
521 :
377:04/03/14 18:30 ID:dp6a2qDx
はい、こんな感じの男共編(ほぼシロー編)でした。
次も色々考えてますので、出来上がったら投下したいと思います。
読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。
単作ではエロ無しでも
4連作で一つの作品と思うので
私はアリだと思いますよ
377さんGJ!!
次作も楽しみにしてますよー!
最近ここ見つけて、しっかり楽しませてもらいました。
しかし、今回シローが散々な目に合ってばっか…十五連コンボに女王様踏みつけ食らって
おまけに『愛のメモリー』まで…377氏はシローに恨みでもあるんでしょうか?(w
次作も楽しみにしております。
377さん最高です!ぐっじょぶ!!
萌えたし悶えたしアリガd(´Д`*)
さくらと大輔が超ツボですたw
またの光臨をお待ちしております(´∀`)
525 :
名無しさん@ピンキー:04/03/17 05:05 ID:EuVFFqZi
377さんよすぎです。
次も期待してます。
377タソブラボー(´∀`)スバラシイ!!
次回作、いつまでだってお待ちしておりますv
527 :
377:04/03/21 21:49 ID:8/6R0BfG
えーと、それでは新しいの投下します。
作って思ったのは主役のツッコミ癖でした。
…まともな会話が今後の課題かと。
「…私は、榊さんが好きです。ずっとずっと、榊さんだけを見ていました」
安っぽいラブホテルの一室、大きめのベッドの上で、下着姿で、物凄く驚いて
いる榊さんの前で、私はそう、はっきりと言った。思い描いていた告白シーンと
は、笑えるくらい掛け離れていたけど、言った。
どうして、こんな事になったんだろうか。
ていうか、この人は今どんな事考えているんだろうか。
一瞬前まで考えていた事を次々と忘れて行く。おっかないまでに榊さんを凝視
する私に、この人はどんな応えをくれるのか、長い間が、私を恐ろしい早さで壊
そうとしていた。
「……はぁ」
都内にある、不況ながらも細々と生き延びている会社のOL。同じような仕事
を毎日繰り返して生きている、どこにでもいる女、日高千歳。それが私だ。
短大を出て、この会社に就職して早6年、私も親に結婚を仄めかされる年とな
った。お見合いなんか嫌だ、と先に釘は刺してあるものの、男なんざ3年前に親
友に彼を奪われて以来いない。一生許さぬぞ、亜紀も浩次も。
…かといって、好きな人がいない訳でもない。ていうか、いる。ZOKKON
ラヴな人が、いる。ただし片思いだけど。
ちらりと視線をあの人に向ける。勤務時間内だから当たり前なんだけれど、真
面目に仕事をしている34歳のナイスガイ、我等が班の主任、榊裕次郎さん(因
みに長男)。この人が、私の好きな人だ。誰も同意してくれないけれど、私はこの
人が世界で一番イイ男だと信じて疑いません。
けして顔がいい訳でもないし、年齢も微妙っちゃ微妙だし、明るくて気配り上
手な性格は好感度も高い。なんとなく『いい人』で終りそうな人。そんな榊さん
を好きになって結構経つ。けれど、告白はしていない。
なんでかって言っても、至極簡単。この人、経理課の富永さんって人と付き合
ってると専らの噂だからだ。同期の犬飼くんが富永さんを狙ってて、その噂を聞
いて、女子のロッカー室で号泣しているのを見た。なんでそんな所にいたのかは
謎だ。知りたくもない。
奪おうなんて思わない。ていうか、奪えない。富永佐知子さん(31)は美人
だわ頭切れるわ巨乳だわ性格いいわ巨乳だわ人に好かれるわ何やらせても器用だ
わ巨乳だわで、勝てる要素一切無し、戦う前から負け犬宣言をしてしまう程だ。
それに、私は榊さんの笑顔が大好きだ。あの人が幸せならそれでいい。ちょっ
とだけ胸は痛むし、好きな人を諦める、というのは中々難しい事だけど…まぁ、
その内何とかなると信じてる。信じたい。信じて無理にでも前を向かなきゃやっ
てらんない。
だからこそ、榊さんで私は癒されている節がある。同道巡りにも程があるけど、
まぁ…どっちかというと好き、よりも萌え、に変更しているような所もあるから、
その内本当に何とかなるだろう。
勝手に自己完結して仕事に集中し、気が付けばお昼の時間になっていた。私は
例の、女子ロッカー号泣事件の男、犬飼くんと約束をしていたので、とりあえず
待つ。すぐに犬飼くんはやって来た。
「待った?」
「全然、待ってないよ」
…この人と、その内そういう関係になるのだろうか。
ロッカーで泣いているのを発見したのは私だし、その後色々とあって慰める羽
目になってしまった。その時から、友達みたいな関係が始まっている。
とはいうものの、私も犬飼くんも未練たらたらだ。お互いに興味は無い。ただ、
行き場の無い思いで傷付いた心を舐め合っているだけだ。まぁ、犬飼くんは私が
榊さんを好きな事は知らないけど。
「…早速だけど実は、主任と富永さんが不仲だと言う情報をキャッチした。でも
って、今日の昼に屋上で会う約束をしているらしい」
私の顔が、引き攣る。
「あの、マメなのとストーカーなのは似ているようで全然別物だよ?」
そんな情報、どこで掴んで来るの?私は本気で溜息をついた。犬飼くんはにや
ー、と子供じみた笑みを浮かべると、私の手を掴む。
「もしこれで別れたら、俺にもチャンスあるよね。ていうか、絶好のチャンスが
舞い降りて来たよね」
この人の、こういう所がちょっと呆れてしまう。好きな人の幸せを願う事が出
来ないのだろうか。それとも、自分こそが一番富永さんを幸せに出来ると確信し
ているのだろうか。まぁ、そうだったらそのナイスなまでの心意気は買うけど。
「お前だって、別れたら主任ゲッツのチャンスだよ」
そりゃ、まぁチャンスだよ。私だって結局まだ諦め切れない訳だから。萌えて
るけど、好きな訳で。でも、そんなのって。そんなの、卑怯だよ。つけ込むよう
な真似、したく…って。
「え!?」
私は顔を蒼褪めさせる。犬飼くんはうわー、というような顔をする。
「まさか、バレてないとでも思ってた?」
心底呆れたように、犬飼くんは言った。
「え?でも、なんで?私、そんな事一言も…」
慌てて、挙動不審になってしまう。この言動でもう肯定してるようなもんだけ
ど、そんな事にも気付かないくらい私は慌てていた。
が、そんな私に犬飼くんは一ミリも興味が無いらしく、冷めた表情で『わかる
って』と呟いて行こう、と促した。
…そんなわかりやすかったかな…私は頭を抱えながら犬飼くんに続いた。
『…どうしてよ!どうしてそんな事言うのよ!!』
「お、ビンゴ」
本当に、榊さんと富永さんは密会していた。中々の修羅場だ。普段穏やかな富
永さんがこんなに激昂してるなんて珍しい。ていうか、こんなん良くなくないか
な、私は犬飼くんに『ヤバイよヤバイよ』と連れ戻そうとしたけど、犬飼くんは
動かない。何を狙ってるんだか知らないけど、こんなデバガメ行為、良くないっ
て。
『どうしてもこうしても無い!お前の事を思って言っているんだ!!』
こちらも、怒ってる声。胸が痛い。悪い事している、という事とこの人が本当
に富永さんを心配して怒ってるのが丸わかりだからだ。聞きたくなかった。なの
に、結局付いて来てしまった私が悪いんだけど…
私は犬飼くんを睨む。やっぱり良くない。言うべきだ。
「…犬飼くん、やっぱり帰ろう。良くない。こんなの、絶対駄目だよ。2人の問
題だし、私達が立ち入っちゃいけないって。本当に富永さんが好きなら…」
「好きだから、妥協しないんだよ。俺は、絶対に俺があの人を幸せにしたい。だ
からこうやってどんな手だろうと使ってるんだ」
…駄目だ。この人も重症だ。ストーカー一歩手前だ。その無駄なまでのエネル
ギー、他に使えないだろうか。私は無理にでも犬飼くんを連れて帰ろうとした。
「ちょっ…何すっ…」
「いいから、帰ろうって…」
「…もう知らない、馬鹿ぁっ!」
ばん、と屋上の戸が開く。そして泣きながら走って来る富永さん。しかし、そ
の戸の前には私達がいた訳で。
『あああああああああああっっ!?』
…4人の声が、一斉にハモった。ぶつかってバランスを崩し、3人仲良く踊り
場まで叩き付けられるかと思った。が、しかし。
「っ…富永さんっ!!」
「佐知子っ!!」
猛ダッシュで走って来た榊さんと、私に手を引っ張られていた犬飼くんが富永
さんをなんとか支え、抱き止める。が、犬飼くんを階段を下りるように引っ張っ
ていた私は、犬飼くんに振り解かれ、しかも富永さんにぶつかられた反動で…さ
て、どうなるかというと。
「きゃああああああああああああああっっっ!?」
階段を、転がり落ちて行く。昔、ドラマでこれくらい見事な階段落ちを見た事
がある気がする。そういえば、それをやったのは…ストーカーだったな。どうで
もいい事を考えながら、私は転がり、そして踊り場の床に叩き付けられる。
気絶する事も出来ず、かといって指一本動かす事も出来ずに私は呻くしか無か
った。
「ひっ…日高っ!?」
…とりあえず、一番に私を呼んでくれたのが榊さんで、ちょい嬉しかった。
「…うぅ…」
「だっ、大丈夫か!?意識はあるか?これは何本に見える!?」
私の顔を覗き込む榊さん。ああ、指をキツネにしてる。とりあえず2本、と答
えておく。意識無いか、指が6本くらいに見えた方が、正直マシだったかもしれ
ない。
少し遅れて、犬飼の野郎と富永さんが来る。富永さん、泣いてる。
「っ、ごめんなさい…ごめんなさいっ、大丈夫?」
はい、と一応頷く。私は痛む身体を擦りながら、起き上がる。大丈夫か?と手
を差し伸べてくれた榊さんの手を取って、立ち上がる。
「大丈夫か?頭とか…一応検査に行った方が良くないか?」
一応、犬飼くんもそう言ってくれる。頭は、まぁ痛いし、強打したけど…大丈
夫だとは思う。それを伝えると、榊さんは首を横に振る。
「駄目だ…病院には行った方がいい。後で何かあったら大変な事になる。俺が送
るから、今すぐ行こう」
「はい!」
お前極端だなー、とでも言いた気に犬飼くんは私を睨みつつ、今にも倒れそう
なくらい蒼褪めている富永さんをしっかり支えている。このちゃっかり者め。
が、私もちょっとは高揚している。この非常時に気楽だなと思いはするけど、
榊さんとドライブ(というと大分語弊あるけど)だ。
そんなこんなで、病院までの約20分、私は地獄の激痛を味わいながら天国に
昇る気持ちで車に揺られて行った。
いや、本当に痛くてそんな場合じゃなかったんだけど、恋する乙女にそんな情
緒は存在しない。なんだそれと自分で突っ込むけど認めない。
要は、痛いのよりも恋心なのだ。
病院で色々治療して貰って、色々検査して貰って、異常は全く無しという事が
判明した。そういえば昔から丈夫だったな。一番凄かったのは、実家の近所の悪
ガキの2人組に(悪意は無かったんだろうけど)道端で驚かされて、車道に飛び
出てバイクに撥ねられたけど、被害は制服が汚れただけだったアレだな。
恐ろしい事にそのバイクの持ち主は悪ガキの兄で、泣きながら菓子折り持って
来ていた…正直、悪いの…西田さんだか、岸部さんだか忘れたけど…あの人じ
ゃないのにな。まぁ、どうでもいいけど。
予想以上に時間が掛かって、全てが終った時にはもう退社時刻だった。一応会
社に連絡を入れると、なんと榊さんが迎えに来てくれるとの事。
私は、神に感謝した。仏教キリスト教イスラム教ヒンズー教ブードゥー教、ど
れも知らんけど、とりあえず神に感謝した。
「ああ、良かった…どこにも異常無くて」
貴方を眼の前にすると精神面で異常が発生するけど、それは言わない。言える
か!!
榊さんは自分の車まで私を冗談交じりにエスコートする。私は助手席に乗ると、
シートベルトを締めた。榊さんも運転席に乗り込む。
「すまなかったな、さ…富永も本当に謝っていた。だから…お詫びという訳でも
…いや、完全にお詫びだな。食事でもどうかと思って」
榊さんもすまなそうな顔をして、そう言った。
うわ、嬉しい。嬉し過ぎる。こう言うのなんだけど…落ちて良かったあぁあ!!
そう思いながら、私は喜んで頷く。榊さんの顔が綻んだ。
「でも、そんな気を使わなくても…ほら、こうして何も無かった訳ですし」
「…いいんだよ。嫁入り前の女の人に酷い目に遭わせてしまったんだから」
優しいなぁ。いや、正直、常識内の言葉だけれど、相手が榊さんなら倍率ドン
だ。わかっているけど、感動してしまう。
「日高、何食べたい?」
「すっぽん鍋」
「日高、お前に言いたい事がある」
榊さんは、私を見てにこやかに微笑んだ。
「本気で死ね!!」
「きゃああーー」
私の首を絞めるフリをした。楽しい。ああ楽しい。こういうひょうきんな所も
好きだ。私は平謝りして、オススメの所はありませんか、と聞いてみた。それじ
ゃあ、という事で、行き先はあっさり決まった。
病院から意外と近い、狭い路地の大分奥の方にあるお店。榊さんの友達が経営
しているらしい。妙に立て付けが良く、軽く榊さんが開けたら、物凄い勢いでが
ん、と音がしてぶつかった。
「へいらっしゃい!!」
「俺だよ」
「へいらっしゃい!!」
…なんの遣り取りですか、それ。一瞬呆然としながら前を見ると、私は眼を見
開く。いや、なんでかって、同じ格好して、同じ顔のあんちゃんが2人いたから。
「おー、中々可愛い子だなぁ、先輩の彼女?」
「…違う。会社の女の子、今日怪我させちゃったから、お詫びにだ」
「いやいやいや、狙ってるんとちゃうの?」
いいえ、狙っているのは私です。
そんな事を考えつつ、大分いい気分になってしまう。まだ誰もいないようで、
奥の席に案内されると、向かい合わせに座った。
「…悪い、あいつらいい奴なんだけど悪ノリする奴で」
聞けば、高校の後輩だそうで、榊さんにもぱっと見の見分けがつかないそうだ。
最初にへいらっしゃいと言った方が三男の司さん、次に言ったのが長男の静さん
だそう…え?
ちょっとした違和感。私は蒼褪めながら榊さんを凝視する。榊さんはにやー、
と笑って。
「ああ、厨房に次男の透がいるぞ。三つ子だぞー」
…私は、頭を抱えたくなった。
色々なものを注文して暫く待っていると、仕事終わりのサラリーマンや女子大
生等がどんどんやって来た。結構流行ってるんだな。
「透が、昔ク○キング○パ読んで料理に興味持って…そんで3人で店始めて…凄
いよな」
仲のいい人間の成功はやっぱり嬉しいものだ。榊さんはにこにこしながらウー
ロン茶を飲んでいた。対する私は運転者の真ん前でチューハイを飲む。あぁ仕事
の後の一杯は美味い。仕事してないけど。
…この人、恋人いるんだよな。改めてそう思うと、やっぱり苦しくなって来る。
好きなのに。この人の事、こんな好きなのに…そう思って一気に酒を飲み干すと
同時に、料理が来た。
「はいどーぞー、やたらさっぱりする大根サラダとくどくない鳥のかしわ煮、い
くらでも来いと言える串カツ、きっともう1度食べたくなるタコの唐揚げ、湯で
加減最高の枝豆でーす」
ネーミングセンスに一抹の不安を覚えながら、美味しそうな料理に涎がどじゃ
ー、と出て来る。全部を運び終えると、司さんだか静さんだかが私の顔を覗き込
む。
「さて問題です。俺は誰でしょうか」
唐突に言われて、私は面食らう。が、榊さんは笑っている。
「サービスサービス。当てたらお好きなお酒、一杯プレゼントです」
おお、そりゃいいな。が、マジでわからない。誰だ。誰だ…こうなったら適当
だ。
「えー、ええと、次男の透さん!!」
…一瞬の、沈黙。そして。
「…………正解」
溜めに溜めて、そう呟いた。誰のモノマネだ。ていうか、それずるくないか!?
私はちょっと不満がありつつも、カルアミルクをお願いした。
「ちょっと性格悪くないですか?」
「さぁな、勝手に勘違いして、俺の連れて来た女の子見に来たって所だろう」
呆れながら、すまんな、と謝ってくれた。いいえ、どんどん勘違いしてくれて
結構ですけどね。私はいくらでも来いと言える串カツに手を伸ばし、食べようと
した。が。
「…俺みたいなのと付き合ってると思われたら堪らんだろう?」
そんな事を、自嘲的に言った。私は串カツを皿に置くと、榊さんを睨んだ。ち
ょっと、むかついた。
「そういう言い方、良くないです。付き合ってる富永さんにも悪くないですか?」
「…は?」
ちょっと怒ったような声になってしまった。ていうか、そのリアクションなん
ですか?読めないなぁ。
「ちょ、俺と富永が付き合ってるって…」
「何言ってるんですか、専らの噂ですよぉ」
この人、バレてないとでも思っていたのかな。だとしたら、可愛いな。萌えだ
な。でも、本当にそういう自虐的なのは良くない。
はぁ、と疲れたような溜息をついて、榊さんは私を見る。
「…まぁ、言ってなかったからな。そういう変な噂になるのも…まぁ、な」
残業した後くらいに疲れた表情。どうしたんだろうか。榊さんはくい、とウー
ロン茶を飲むと、苦笑して言った。
「富永…佐知子は、俺の妹なんだよ。両親離婚して、そんで苗字が違うんだけど」
…え?私の思考が停止する。
「え、じゃ、じゃあ…あの、昼間の…」
しまった、盗み聞きバレる。そう思ったけど、後の祭だ。けれど、榊さんは気
にした様子も無く、また苦笑した。
「誰にも言わない?」
しぃ、と人差し指を唇に当てる。もっ…萌えええええええ!!そのお姿、たっ
た今写真に撮りたいわ!!私は思い切り首を縦に振る。
「…実はな、あいつ専務と不倫してるんだわ」
いっ、いきなりハードやな。ていうか、専務って、あの…こう、なんていうか、
堀井雄○みたいなオッサンでしょ?それ…ええええっ?
「わかってる、お前の言いたい事は。でもマジらしい」
ふるふると力無く首を振った。
「…専務はあまりいい噂も聞かないし、どうしたって専務には妻子がいる以上、
傷付かない筈が無い…俺は、今の内に止めておいた方がいいと思うんだが…」
そう本気で悩む榊さん。その表情は、確かに大切な家族を心配しているものだ
った。
念の為に、じゃあ彼女がいるかどうかを聞いてみた。いねぇよ、と舌打ちされ
た。しかし、どうも素直に喜べない。なんとなく、そんな事よりも本気で悩む榊
さんの力になれたらなぁ、という思いの方が強いからだろうか。
…まぁ、でも、嬉しい事は嬉しいんだけどね。
「あの…」
「ま、別に俺もお前も気に病む必要は無いよな。俺は忠告したし、今後あいつが
傷付いても知るか知るか!俺は腹が減ってるんだ!!よし喰うぞー!!」
急に、テンションが変わった。本気なのか無理してるのかわからないけど、ま
ぁ確かに別に私に関係無い。それよりも、表面上楽しそうにしている榊さんに、
私が見当違いかもしれない同情寄せたってどうにもならない。どうせなら…
「よーし、いっただっきまーす!」
好きな人との食事の時間を、力の限り楽しむ事にした。
「…え?」
気が付くと、私はベッドの上で転がっていた。起き上がると、頭が痛い。若干、
気持ちが悪い。頭を押さえながら辺りを見回す。
なんだか安っぽい部屋。ていうか、どう見てもこれって…あの、ラブホ…?耳
を澄ませると、シャワーの音がする。あ、止まった。私は怖くなった。幸いベッ
ドの周りに私の服が散らかっていたので、それをかき集める。しかし、もう遅か
った。
「気が付いたか?」
バスローブを着て、物凄くげんなりした顔で、榊さんは出て来た。私は脅えな
がら、自分の服で自分を隠す。榊さんは溜息をつくと、その場に座り込んだ。
「…あいつらが料理運ぶ度にお前がクイズ正解して、飲みすぎて、いきなりホテ
ル行きましょうよーなんて言い出すから、本気でびびったわ」
背筋が凍る。ていうか、私、そんな事口走ったんですか!?私、そんな願望あ
ったのか?告白する前に誘ってどうするよ!!
「正直、飲み過ぎるお前を止めなかった俺も悪いんだけどな…」
私は恥ずかしさで死にそうになりながら、頭をフル回転させる。なんでだ。な
んで、こんな事になったんだ。えっと、えええええっと…
『お客さん凄いねぇ。俺等を6回連続で当てた人いないよぉっ…はい、芋焼酎』
『あははははは、こんなの朝飯前っすよ!!いっただっきまーす!!』
『おー!一気行け一気!!はい、アンタが飲むとこ見てみたいー!!』
…思い出そうとしても、なんか物凄く思い出したくないような会話の断片しか
浮かばない。泣きそうになっている私から眼を逸らしながら、榊さんは説明を始
めてくれた。
「テンションだけがどんどん上がって行って、その内に、お前が俺のベタ褒め始
めるから、司がどんどん乗せて言って、お前が俺を好きなんじゃないかって言っ
たら、こんな可愛い人、世界中どこ探してもいない、あ○やとか上○彩なんか比
べ物にならない、とか言い出すんでこりゃやばい、と思って帰ろうとしたら…」
はぁ、と溜息をつく。私は聞き入る他無い。
「…私は本気だ、だからホテル行きましょう、行かないならホテル歌うぞと脅さ
れて…営業妨害になるから出たら、本当に歌い始めて…」
どんどん表情が暗くなる。それで、暴れ出して、仕方ないから連れて行って、
いきなり吐いてスーツを文字通りげろぐちゃにして、寝てしまったと。
「すいません…」
「お前、呂律回って無くて歌詞が『ごめんにゃしゃいね、わたし見ちゃったにょ、
あにゃたの〜グ〜ロい〜えんが〜ちょ〜ぉ〜』って聞こえて、別の意味でショッ
ク受けたわ」
…多分ヘコんでる私を笑わせようとわざと言ってくれたんだろうけど、今の私
には効果が無かった。
「…ごめんなさい…わたしっ…」
ぱた、とベッドの上に涙が落ちる。最悪だ、どういう人間だ、私。
嫌われる。軽蔑される。好きな人に、そんな眼で見られる。私は怖くて悲しく
て、泣いてしまった。
「いい、気にするな。ただ、飲みすぎには気をつけろ…」
優しく言ってくれるけど、でも、きっともう駄目だ。私、最低だ。普段から心
の中で萌えとか叫んでるから、こんな事になるんだ。
「…ごめんなさい…ごめんなさいっ…」
抑え切れない。後から後から溢れて来る涙。泣いたって、消せる訳じゃないの
に。自業自得なんだ。きっと、罰が当たったんだ。
「謝られてもな…なぁ、日高…」
泣いている私に近付いて、肩に手を置く。
「とりあえず、服着ろ。俺だって、その…一応男だし、お前、可愛いし…な」
私をなるべく見ないように言う榊さん。一応、女としてはまだ見てくれている
みたいだけど…
「けっ…軽蔑、しま、しません、か?」
つっかえつっかえ、聞いてみる。まぁ、してても、したとは言わないだろうけ
ども…榊さんは、ん?という顔をする。
「…しない。寧ろ、俺がされてないか?俺は、無理矢理にでもお前を帰すべきだ
ったんだ。それをのこのここんな所に連れて来て、お前を傷付ける事になって…」
違う。悪いのは榊さんじゃない。私なのに。榊さんの方が被害者で、傷付いて
るのに。
「本当に、すまなかった。嫌だったろう、こんなオッサンに、あの、そんな格好
見られて…犬飼に殴られても文句は言えないよな」
…犬飼?…思ってもみなかった名を出されて、私は面食らう。
「付き合っているんだろ?お前ら仲いいし、今日だって…」
はあああああああああっっ!?ち、違う、いや、何も知らなかったら、もしか
して、って考えはあったけど、違う。絶対違う。
「違います、犬飼くんはただの友達です!違います、私、好きな人いますっ!そ
れは…」
好きな人、という言葉で、榊さんの顔が蒼褪めた。
「っ…じゃあ、それなら、余計俺は…」
違う!!アンタだよ!!好きなのはアンタだから、ていうか言えよ私!!
「すまない、俺は、本当に…」
「違うんです、好きなのは主任なんです!!」
私は榊さんの言葉を遮るように、そう言った。あ、ポカンとしてる。
「…え?え…あ、え!?う、嘘だろ!?」
こんな時に、嘘なんか言えないよ…私は、まっすぐに榊さんを見ると、はっき
りと言った。
「…私は、榊さんが好きです。ずっとずっと、榊さんだけを見ていました」
安っぽいラブホテルの一室、大きめのベッドの上で、下着姿で、物凄く驚いて
いる榊さんの前で、私はそう、はっきりと言った。思い描いていた告白シーンと
は、笑えるくらい掛け離れていたけど、言った。
どうして、こんな事になったんだろうか。
ていうか、この人は今どんな事考えているんだろうか。
一瞬前まで考えていた事を次々と忘れて行く。おっかないまでに榊さんを凝視
する私に、この人はどんな応えをくれるのか、長い間が、私を恐ろしい早さで壊
そうとしていた。
…言わない方が、良かったかな。
「…どうして」
掠れた声。溜めて溜めた結果の応えがそれか。どうしてもこうしても、好きな
んだから。あ、経緯か?
「どうして、ですか。私にもわかりません。でも、私は貴方が好きだってはっき
り言えます。ずっと、好きだったんです」
もうどうにでもなれ、と言わんばかりの勢いで、私は榊さんに抱き付いた。
「っわ!?」
なんですかその反応。とは言うものの、逆で考えれば私も似たような反応しか
出せないだろう。予想を裏切り大分逞しい身体を抱き締めた。
「ちょっ…ま、ひっ、日高?おい、冗談はよせ、日高、なあ…」
慌てながら、私を引き剥がそうとする。服はもう持っていなかったから、モロ
に私のセミヌード(最近この言葉聞かない気がする)を見て、眼を逸らしてしま
う。
「冗談じゃないです、好きです…主任が…榊さんが好きなんです」
バスローブを掴み、大分必死に主張する。困惑している榊さんは、正に隙だら
けだ。私はえいやっ、とキスをしてみた。驚いて、バランスを崩して後ろに倒れ
てしまった。即ち、私が押し倒す格好となる。
「…榊さん…」
本気で恥ずかしいのと、ちょっと計算が入ってるのとが綯い交ぜになって、私
は大分もじもじしながら榊さんにまた口付けた。抵抗は無い。私は立ち上がると、
バスルームの方に向かった。
「シャワー、浴びて来ます」
私は、物凄く怖くなりながら、バスルームに入った。中に入ったら榊さんのス
ーツとかシャツが洗って干してあったから、逃げられる事は…多分無いだろう。
…嫌な女だな…
そう思いながら、私はシャワーを浴びていた。
焦り過ぎて、どうしても手に入れたくて、あんな行動に出た。私も犬飼くんと
変わらないじゃないか。
きゅ、とシャワーを止める。さっぱりして、考えがまとまった。
…断られたら諦めよう。
考えに考えた末がそれか、とちょっとお馬鹿な自分が嫌になった。
下心はあるから、とりあえずタオル一枚でバスルームを出る。さっきと同じよ
うな体勢で、榊さんはその場に項垂れていた。
「…あの、榊さん」
私はちょこん、とベッドに座り、榊さんを突付く。反応は無い。
「榊さ…」
顔を上げた榊さんを見て、絶句する。この世の絶望見て来たみたいな顔してる。
どうしたんですか、と私は榊さんの顔を覗き込んだ。
「本当に、俺でいいのか?」
この期に及んで、何を言っているんだろう。不安なのかな…私も、不安だけど。
榊さんに抱き付くと、私は今度こそ変な言葉にならないように考える。
「…俺でいいのか、じゃないです。榊さんじゃなければ駄目なんです。もう1度
言います。榊さんが、好きです。差し支えなければ…抱いて下さい」
最後余計だったかな、と思いつつキスをした。私からばかりの、キス。榊さん
は優しく私を抱き締めてくれた。
脈あり…ていうか、差し支えなかったんだな。ちょっとだけ、嬉しくなった。
なんか間違っているような気もするけど。
「榊さんは、私の事…好きですか?」
怖いけど、聞いてみる。差し支えないんだから、嫌いじゃあないとは思うけど、
本当に差し支えないだけかもしれない。そういう人じゃないとは思うけど…
「…日高は可愛いと思っていたし、今、俺はお前を抱きたいとは思う。今後も大
事にしたいとは思っている…だが」
言葉を切る。ていうか、その言葉だけで個人的にはもうオールOKなんだけど
な。嬉しいんだよ?物凄く。
「そう思ったのは、ついさっきからだ…それまでは、会社の同僚の女性としか思
ってなかった訳だし…俺は、今物凄くいい加減なんじゃないかって…」
自信無さ気にそう言う。つまりちゃんと考えてくれているって事なのに…
「いいんですよ」
説明はめんどくさいから、そう言って私は榊さんのバスローブを脱がせようと
した。榊さんは私のタオルを剥いだ。
「綺麗だ」
照れたように言うと、もたもたしていた私の手を制し、自分でバスローブを脱
いだ。さっきも思ったけど、この人意外とイイ身体してるのはなんでだろうか。
「榊さんも、綺麗です…」
どういう事だろう、この会話。榊さんは苦笑すると、初めてキスをしてくれた。
それからぎゅっ、と私を抱き締める。私も榊さんを抱き締める。
「…千歳」
うっわああああああああああああああああああああ!!
背中、ゾクゾクした。名前呼ばれるだけで、こんなに興奮するなんて思いもし
なかった。私は武者震い(絶対使い方間違ってる)をしながら、もっと榊さんに
ひっついた…が、すぐに剥がされる。もう1度軽いキスを落とすと、耳朶に舌を
這わせて来た。背中がまたぞくっとした。ごつごつした手が、私の身体を撫で回
す。私は、何故か身体を強張らせてしまっていた。
「はぁっ…ん、あ、あ…」
声が出てしまう。くちゅ、と音を立てて耳朶を舐る。力が段々抜ける私を優し
く横たえると、榊さんは覆い被さって来た。
「ああっ…ん、さか…き…さん」
両方の腕が身体を撫でる。なのに、肝心な部分には一切触れて来ない。もどか
しくて、でも気持ち良くて…どうしていいのかわからない。触れて欲しいとは思
う。けれど、言えない。ホテル誘っといて、抱けと言っておいて、それなのに。
私の表情でわかったのか、物足りないと、もしかして無意識に言ってしまった
のか、榊さんは急に止まり、私の顔を覗き込んで来た。
「榊さぁん…」
手を伸ばし、触ろうとするけど、なんだかだるい。私の身体、どうなったんだ
ろうか。不敵な笑みを浮かべ、榊さんはいきなり私の脚を開いた。
「…あ」
見られている。明るい部屋で、まじまじと見られている。つっ、と熱いものが
流れて行くのがわかった。
「触ってもいないのに濡れているのか」
「っ…ん…」
言葉で、嬲られる。そしてその度にまた感じて行く。私、こんなんだったっけ?
こんな…いくら、セックスするのが久々だからって…
「…嫌、ですか?」
急に怖くなって、聞いてしまう。そしたら榊さん、焦ったような声になった。
「あ、嫌じゃない…すまない、傷付けたか」
すぐそんなになるなら、言わなきゃいいのに…意地悪、しなきゃいいのに。私
は首を振ると、脚を閉じようとする。それは許してくれなかった。
「傷付いてはいないですし…あの、意地悪なのも、あー、嫌い、じゃないです。
榊さんがするなら…」
それは、本音だった。そういうのはプレイの一環としてアリだとは思うし。安
堵の溜息をつくと、榊さんは頭を掻いた。私は起き上がると、そんな榊さんの前
に座り込んだ。
「…榊さん、今度私がしましょうか」
「え、いいの?」
思わず嬉しそうな顔をする榊さん。はい、と頷く。別に好きな訳ではないんで
すよ?榊さんが喜んでくれるなら、と思ってるだけですよ?断じて大好きっ娘じ
ゃないんですからね?そんな事を眼で訴えて、私は恐る恐る触れてみる。
熱い。私を触って興奮してくれたのか、大分かたくなっている。両手で扱いて
みると、さっきの私みたいに先端から透明な液体が滲んで来た。
「榊さん」
「…そっちに話し掛けるの、是非止めて欲しいんだが」
私の頭を撫でて、髪を梳く。ちろ、と榊さんを見ると、眼を逸らされた。私は
おっきなそれを少しだけ口の中に入れてみた。ちゅっ、とさっきの液体を吸って
みる。相変わらず、形容し難い。唾液を溜めて、滑らせるように唇を動かす。最
近ちょっと唇荒れてたけど、気を付けてれば良かったなぁ。
「うっ…」
呻くような、少し苦しそうな声。感じてくれているのかな、嬉しくなって私は
もう少し奥まで飲み込もうとした。両手も使って、痛くならないように気を付け
て擦る。好きな人のだから、していて楽しい。感じてくれると、嬉しい。一旦口
の中から出すと、先端から、つーっと舌を這わせた。
ちょっと眼が潤んで来て、そんなに楽しいか自分、と思いながらまた口に含む。
好きなのかな、私。榊さん喜んでくれるなら、確かに好きかもしれない。ずる
っ、といやらしく唾液が口から垂れた。榊さんのものを伝って、落ちて行く。
いつの間に夢中で私はしゃぶっていた。榊さんの為、というよりは…楽しくて。
でも、結構続けているのに中々達さない所を見ると下手なのかな、と不安になる。
「ひゃかき…ひゃん」
もう1度、榊さんを見た。真っ赤な顔で、私を見下ろしている。感じてくれて
るん…だよね?私は顔を上げて唇を拭うと、意を決して聞いてみた。
「あの、私…下手ですよね?あんまり、感じない…」
「い、いや、あ…あー、あ、その…気持ちいいけど、まぁ…」
じっと見る。おっきくなって、私の唾液で光ってる。けど…技術不足は否めな
い、ってか…
「すいません、も少し上手になります…」
「いや、そうでなくて…まあ、あれだ…な?」
全然わかんない。まぁ、何が何でも口だけでイって欲しい訳じゃないんだけど。
「…そろそろ、私、欲しいです…」
言ってから物凄く後悔した。ちょっと夢見心地なままだったから、自分の思う
ままに言っちゃったけど…うわぁ。榊さんもちょっと笑ってる。
「ううっ…すいません…」
死にたいくらい恥ずかしい。私は頭を抱えてしまった。が、後には引けない。
多分ここらかなー、と思いながらベッド脇の引き出しを開ける。案の定コンドー
ムがあった。包みを破ると、ここまで来たら、という感じで自分で被せた。
「サービス満点だな」
意地悪く、言った。
「無い方がいいですか?」
「…あった方がいいが…無理はするな」
ぽん、と頭に手を置かれて、撫でられた。私はそれがなんとなく嬉しくて、に
やけながら仰向けになった。
「榊さん…」
優しくキスをしてくれると、榊さんは私のそこに指で触れた。さっきまでの行
為で私も興奮していたのだろうか、蕩けそうな程に濡れていた。
「…千歳」
名前を呼ぶ。それを合図に、私の中にゆっくりと入って来る。
「あっ…あう…うっ」
いやらしい音を立てて、少しずつ、榊さんが私の中を満たす。榊さんが不意に
唇を舐めた。驚いて口を開くと、そのまま舌が入り込んで来た。
「ひゃ…う、ふっ…ぅっ…!」
最奥まで、辿り着いた。キスしたまま、榊さんは私の一番感じる所を弄って来
た。既に流れた液で濡れて、大きく膨らんでいたそこを、また濡れた指が擦る。
腰を捩じらせてしまう度に、また快感が大きくなる。
「あっ、ああっ…さか…あぁんっ…!」
私の中の、榊さんを締め付けると、急に榊さんは動き始めた。ギリギリまで引
き抜いて、また一気に奥まで。私は大きく身体を反らし、声を上げる。
「はぁっ、あっ、あ…ん…んっ!」
いきなり、乳首を吸われた。不意打ちのような攻撃に、私はまた甲高い声を上
げる。大きく反応してしまったせいか、もう片方も摘み上げられる。それが良く
て、私はもっと声を上げた。
「いっ…う、っあ、榊…さ…ひぁ…あっ…」
私は泣きながら、榊さんを求める。手を伸ばすと、強く抱いてくれて、それが
嬉しくて、私は余計に泣きそうになってしまう。榊さんの唇を貪って、恥じらい
も無く腰を振る。気持ち良くて、身体がまたそれ以上の快楽を求める。
「う…?」
不意に、榊さんが私の身体を持ち上げる。座ったまま繋がる格好で、私は思わ
ずしがみ付いてしまった。ついでに、ある程度身体も自由になった。
「榊さん…」
私は、自分で腰を動かし始めた。もしかして、それが狙いだったのかな…一瞬
そう思ったけど、それも眼の前の快感に消えて行った。
「あっ…あ…ん、あ…くっ、ん、駄目、です…わたし、もう…」
好き勝手に、自分のペースで動いていると、すぐに限界が来た。
「…っあ、ああっ…さか…きさん、すき…あっ…あ…!!」
びくん、と大きく震える。小刻みに痙攣しながら、私は達した。力が抜け、榊
さんにもたれ掛かる。
「イったか?」
わかり切っている事を、聞いて来る。反論する力も無くて、私は素直に頷いた。
けど。
「…俺は、まだだ」
え?…質問する暇も無く、また私は仰向けにされる。
「ぅあ…やっ…やあああっ!」
達したばかりで、まだ敏感な中を、今度は…さっきよりも激しく突かれる。
「ひっ…い、ああっ!…う…あっ、いっちゃ…!またっ…」
2度目の、絶頂。それでもまだ榊さんは私を攻め続ける。両方の胸を掴んで、
寄せる。痛いくらい勃った乳首を舐め回す。私は汗と涙でぐちゃぐちゃになりな
がら、嬌声を上げ続ける。
「千歳っ…!」
…最後は、もう声も出なかった。今日の階段落ちみたいに、気絶する事も出来
ずに、脱力して動く事すら出来なかった。大きく脚を広げたまま、さっきよりは
小さくなった榊さんのが引き抜かれた。
「…あう…」
汗びっしょりで、動けない私。同様に汗かいてるけど、ぴんぴんしてる榊さん。
物凄く悔しい気分になりながら、それでも私は何かを言う事すら出来なかった。
…もしかして、これから先も、こんな激しいのかな…
ちょっと恐ろしくなった。
「…千歳、お前誘ってるのか?」
いいえ、動けないんです。眼で訴えると、苦笑した。榊さんはよっこいしょ、
と私を普通に寝そべった格好にしてくれた。そのまま横に寝転がって、掛布を掛
ける。そういえば、榊さんと…言ってしまえば恋人になったんだな。順番、色々
違うけど。
「榊さん…好き」
「ああ、俺もな」
どうしようもない子供をあやすみたいな口調で言わないで下さい。私は疲れて
いるけど、眠れない状態で、暫く黙って幸せに浸っていた。
「なあ、千歳…起きてるか?」
暫くお互い無言でいたら、ふと榊さんが話し掛けて来た。返事をすると、榊さ
んは少しバツの悪そうな顔をしていた。
「さっきの話だけど…お前、下手くそなんかじゃないからな」
一瞬わからなかったけど、私はすぐに赤くなってしまった。いきなり何を…
「ごめんな、おじさん最近年のせいか…あんまイきにくいんだわ。だからああも
しつっこいのになったんだ…ごめんな」
…あー、あー…妙に納得しながら頷く。
「昔と違って1回で満足しちまうし…そっち方面は苦労掛けるかもな」
きゅっ、と私を抱き締めてくれた。
「…はい」
ていうか、私も1回で満足ですて。これ以上されたら壊れちゃうよ…
これからの事を考えながら、とりあえず私は榊さんにくっついたのだった。
終
552 :
377 :04/03/21 22:14 ID:8/6R0BfG
新しい話はこんな感じです。
後、せっかく設定色々考えたので、1、2週間内に一徳編投下しようと思っています。
しつこいわ、もうええっちゅうねん、という人がいたら、すいません。
それから皆さんに質問ひとついいですか?
このスレ的に、ファンタジー系って…どうでしょうか。
337さん新作キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!!!!!!!!!
主任さん可愛くて萌えますたー!!
中身がスレタイ的なものであれば、
ファンタジーでも問題ないのでは? と思いますが。
×337さん ○377さん
素で間違えましたすいません _| ̄|○
377さんが来てたー!
細かいところにも笑いのネタも仕込んであって、やっぱりえっちでお買得!(謎)
377さんGJ!
小ネタの節々に同世代の気配……w
ファンタジーについては553さんと同意見でございますよ
377タソ、相変わらずのGJっぷりですーっ!!
一徳編でもファンタジーでも何でもドスコイですYO!(*゚∀゚)=3
毎回毎回楽しませて頂いて本当にありがd(´Д`*)
558 :
名無しさん@ピンキー:04/03/28 08:28 ID:+ER2vsgC
定期アゲ
シラネ
保守
562 :
名無しさん@ピンキー:04/04/10 09:00 ID:a9/Higdz
ほしゅ
563 :
名無しさん@ピンキー:04/04/10 09:04 ID:a9/Higdz
ほしゅ
564 :
名無しさん@ピンキー:04/04/10 09:07 ID:a9/Higdz
ほしゅ☆
565 :
名無しさん@ピンキー:04/04/11 07:53 ID:L8dEw3It
(--)
職人さん、щ(゚Д゚щ)カマ―――ン!!!
567 :
名無しさん@ピンキー:04/04/17 07:40 ID:lkXq4QVx
377さんスゴ杉!
前回の桜の話もかなり好きだったけど
千歳タソの突っ走りぷりと榊主任のやさしさに
涙してしまいますた。
お時間あるときにでも次回作キボン!
(個人的には千歳タソ×榊さんの続編なんかも読んで見たいかも・・・)
と、あげるついでに亀レスしてみる。
377さん、一徳編に難儀してんのかな…マターリ待ってよっと。
女向ゲー大人板の理想の乙女ゲーを考えるスレ
で自分
>>570こういうゲームを考えたのですが
周囲に一緒にエロゲー作ってくれる製作仲間がいない等
諸々の事情でゲームという媒体で作ることができません。
しかし愛着はあるので小説にして
公開してみたいと思っているのですが、
この場をお借りしてもよろしいでしょうか?
377さんには到底及ばないでしょうがぜひ書かせてください。
570 :
569:04/04/22 01:42 ID:vpICrOzr
231 名前:いけない名無しさん 投稿日:04/04/01 03:42 ID:???
“萌えというかどちらかというとバカゲー”な乙女ゲーを
ふと考えていたら
考えることがなんだかとても楽しかったので聞いてください。
設定...ドラえ○んのパロ?1話完結型の小話集。
(人物名は仮ですが)
主人公(デフォルト/野木のきあ)・・・のろまで自分に自信がない19歳。
胸はある。
ジン=ユァン(源 静/ユァン ジン)・・・同じ研究室の中国系アメリカ人。
主人公の憧れの人。黒目がちな美形。
オラえろん・・・なんかエロい、なんか二頭身の、
なんか怪しげなポケットからエロい不思議な道具を出す犬型ロボット。
好物はシナモンロール@。
571 :
569:04/04/22 01:43 ID:vpICrOzr
>>570のつづき
主人公は某大学工学部の二年生。
1年前痴漢に遭っているところを助けてくれた静にひそかに憧れている。
あるひどい豪雨の日、雷が研究室に落ちる。
そのはずみに開発していたオラえろんと名乗る
犬型ロボットが勝手に動き出し
刷り込みと称して主人公になついてしまう。
が、なぜかオラえろんはHなロボになっていた。
主人公と静との仲を取り持つと言い出しそれに主人公も
応じるがポケットから出す不思議な道具は変なものばかりだった...
変な道具例:
・動物変身クッキー〜!...猫耳猫尻尾など都合のいい場所だけ変身w
(でも自分的にこれはちょっと微妙...)
・おなかのうた磁石〜!...と5m以内に近づくと自然にふたりの
おなかと背中がくっつく代物。
女性がおなか側、男性が背中側に貼れば男性を後ろから抱っこ。
当然背中に胸が当たりますが。
逆に貼れば男性に女性が抱っこされます。
とか。我ながら
ずいぶんアホなノリの乙女ゲーを考えてみたもんだ...
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
といった感じです。
投下きぼんぬ
573 :
名無しさん@ピンキー:04/04/22 20:43 ID:BlXx+B+b
どんなのか読んでみたい。とりあえず投下を。
投下お待ちしております(´∀`)
黒目がちな美形のジャイアンにハゲワラ。
はげしく投下きぼんします。
ジンさんはし○かちゃんではないのでしょうか
投下待ってます
577 :
569:04/04/24 20:11 ID:deDuTxtK
すみません、ちょっと15禁から21禁に直すのに時間がかかって
(秘密道具の見直しとか...)
まだ投下できません...投下は明日になるかも、です。
申し訳ない。
>>575,576
もともとはなんとなく、♂版し○かちゃんを中国人にしようと思って
調べたら姓名を逆にするとジャ○アンに音が似てたので
中国系アメリカ人に設定なんですよ。
だからあながち間違いではないです。
578 :
569:04/04/28 02:05 ID:2mIh7n71
すみません、25日投下予定とか言っておきながら全然進まないので
代稿(?)たてます。
昔書いたもの(もちろん未発表)に加筆修正してます。
が、内容自分でもちょっと香ばしい気がしてますわ...
自分処女書くの鬼門だと思いました。
では連投失礼します〜。
579 :
先輩と私:04/04/28 02:07 ID:2mIh7n71
「は?お母さん、私まだ20だよ?大3だよ?」
『だからさ、まぁするだけしてみてよ、
お見合い。おばさんが張り切っちゃってんのよ』
「いーや。大体なんで私に来んのよ。
23のお姉のがまだ良いじゃない。」
『そうよねぇ、なんでかしら?おねーちゃんの方が美人なのに』
「お母さん...」
『ま、一回くらい顔見せに来なさい。
ったく、去年だって成人式にちょっと出ただけで
夏休みはおろか盆暮れ正月も帰ってこなんだもの。
こっちにも考えがありますからね。
来ないとあんたの結婚資金、お母さんのお洋服に変わります。
欲しかったのよね、エルメスのエールバッグでしょ、
それともおもいきってバーキン?あ、色無地も買おっと』
「お母さん?」
『帰ってこなくていいからね〜。じゃあね』
ツー ツー ツー
「―――お母さん!!」
580 :
先輩と私:04/04/28 02:09 ID:2mIh7n71
こんな風に言われたら帰ってくるしかない。
だってきっと冗談じゃないから。ウチの母はそういう人だ。
流石うちの家系は女傑である(父さん婿養子だし、兄も父似の昼行灯...)。
「さやちゃんよく来てくれたわねぇ。
今、先方さんちょっと遅れてるみたいだからちょっと待っててね」
おばさん(といっても母方の祖母の妹さんだけど)
の柔らかい笑顔と口調はどうしても強気に出られない。
でもさっきも言ったが『うちの家系は女傑である』。
...内面は母の通りだとネタは上がってるんだけど。
「あの、私その先方のこと全然まぁーったく、
なーんにも聞いてないんですけど。」
おかしい。なにかある。
581 :
先輩と私:04/04/28 02:11 ID:2mIh7n71
そのなにかを尋ねると
「うふふ、それは後のお楽しみ、よ」
...これだもの。
んー、すっごいオタクくさい根暗〜な人?
いやいや、そんなの序の口かも。
すごい若禿げ?
50過ぎのおじさん?
も、もしや、三桁強のデブ?
いや、でもそれだとホントになんで私に話が来るのか...
とにかくすっごい怪しい。
だってもう、見合いの場所からして怪しいもの。
おばさんの経営する料亭、しかも『次の間』付き。
...怪しいを通り越してヤバイ?
勘弁してよ...50過ぎのオヤジにも三桁にも破瓜されたくない!
「あら、内線。着いたのかしらね」
非情にも電話が内線を告げ私は凍りついた。
ちょっと待っててねとおばさんは部屋を出たけれど
待てませんて!絶対!!
どうにか脱出しなければ!
私はきょろきょろと部屋を見渡し脱出経路を計った。
582 :
先輩と私:04/04/28 02:12 ID:2mIh7n71
此処は二階の端の部屋。
逃げ道は二つしかない。
入り口は...無理。おばさんが今降りてったとこだからはちあわせするのがオチ。
後は...窓。二階から飛び降りても死にはしない、はず...多分。
これしかない。私は窓を開け放つ。
...それにしてもなんで私着物なんか着てるの!?邪魔!
ええい桟が高い!
意を決して桟に足をかけたそのとき
「桐原?ッは、はやまるな!!」
「えっ?」
振り向いた先にいたのは
若禿げでも50のオヤジでも180キロの巨漢でもなく
見覚えのある180cmちょっと(183だっけ?)の
「坂井先輩!?わっ」
体勢が悪かったのかぐらりと視界が揺らいで
...机のへりにしこたま頭をぶつけた
...らしい。
気がつけば布団の上だった。
窓から障子越しに陽が差しているだけでなんだか仄暗い。
あ...枕がふたつ...やっぱりおばさん次の間用意してたんじゃな...
「じゃない!!」
慌てて飛び起きると予想通り、というか願わくば
居ないで欲しかったけれど、そこにはやっぱり坂井先輩が目を丸くして座っていた。
583 :
先輩と私:04/04/28 02:13 ID:2mIh7n71
「俺もさっき来て驚いたよ、まさか桐原とはなー」
「先輩、実は若禿げなんですか?」
「は?き、桐原?」
は?私今何言った?『禿げ』?な、なんてことを!!
やばい完璧に混乱している。
大体どうしてよりにもよってなんで坂井先輩!?
そう、坂井先輩、
坂井和真先輩は高校のときの映研の先輩だった。
私より31pも高い身長で(服が高いー、サイズが無いーだの愚痴っていた)
ムードメ−カーで
(当時片思いしていた人に
『坂井君みたいなひとって従兄弟とかに欲しいよね〜彼氏向きじゃないけど』
と言われて落ち込んでいた)
ゲームが好きで(そういや歳ごまかしてエロゲーしてる人だったな)
アニメや漫画も好きで(実は好きなゲームとか漫画、結構私とかぶってたり...)
でも部活のこととなるとすごく熱心だった。
普段は全然厳しくなくて、どっちかっていうと母性的(?)な人なのに
部員が方針に揉めたりしたらビシッとと映研のおとんに変身するし。
そして先輩の『大丈夫』の一言それだけで部員は強い安心感を得る。
実は好きだったんだよなぁ...『憧れの先輩』ではなかったと断言できるけど。
でも敬語変換苦手な私は上手く会話できなくて
結局何か話しかけられても2,3言で会話をぶった切ってたなぁ。
ああ、なんで今更...
584 :
先輩と私:04/04/28 02:15 ID:2mIh7n71
「桐原!おーい、桐原さや!大丈夫か?病院行ったほうが...」
ふいに現実に引き戻される。
「え?あ、ああ、だいじょぶっすよ!」
あー私今どっか行ってた...現実見なきゃ。うん。
とりあえずこのシチュシチュエーションなんとすべきだ。
この部屋はちょっとまずい。
「あー、っと先輩!あの、もう平気ですからッ!
向こうの部屋で思い出話でもひとつっ!」
そう言って私はチャコールグレーのスーツの裾を引っ張った。
よく見たら先輩スーツ結構似合うなぁ。
「いや、ちょ、ちょっと待て。俺和服はよくわからんけど
その格好はどうなんだ...?」
「へ?」
そう言われて初めて自分の姿を見る。
薄桃色の長襦袢に帯紐だけである。さっきまで着ていた若草色の振袖は何処へ?
「え、もしや、先輩が...」
585 :
先輩と私:04/04/28 02:15 ID:2mIh7n71
「いや、俺じゃないから。
桐原のおばさん(?)が脱がせて寝せたんだ。
断じて違うから」
「ああ、なんだ〜てっきり―――」
「なんだ〜じゃなくて。それは一応下着じゃないのか?
桐原、少しは恥らってくれ...」
え?あ、そうか。これ下着なのか。こんなの普段、着ないし
下にブラもパンツもしてるから(和装用の下着じゃなく普通の)
下着だって感覚が全然無かった。恥らうもんなのか...
「きゃー。先輩のえっち〜!」
「桐原...すんごい棒読みだっつーの!」
楽しい。高校のとき二人だけでこんな風に話せたことあったっけ。
ううん、きっと無い。あったらきっと、もっと楽しかったのに。
ふと切なくなって先輩の顔見た。
笑ってなのか恥じらいなのかちょっと赤みのさした顔は
たった3年とちょっとでかなり大人びている事に今更気付いた。
成長過程を見逃した。勿体無い!
なんて思った自分はまだ先輩に恋をしているのだとも
...今更気付いた。
私は先輩が好き。
586 :
先輩と私:04/04/28 02:17 ID:2mIh7n71
そう確信した瞬間から私は顔を上げられなくなってしまった。
鼓動が次第に速くなって、それにつれて耳まで熱くなってきた。
きっと今真っ赤な顔をしているだろう。
「桐原?」
「ぅ、ぁ...」
何か返そうと思ったけれど、だめだ、声が上ずる。
普段そんなでも無いのになんでこの人の前だとこんなになってしまうんだろう?
そう、いつもそう。先輩と話すときはいつも第三者を介して、ばかり。
先輩の前では『臆病』で『ビビり』で『甘えた』な自分が目の前に突きつけられる。
自分で自分がムカつく。
「桐原」
あ、やばい泣けてきた。
不意に頬がひやりと冷やされた。
先輩の冷たい両手で無理矢理顔を上げられたのだ。
「悪い...俺が泣かせたんだよな?」
違う。
「ごめんな、見合い相手が俺で」
違うってば。
「俺、なんか昔から桐原に避けられてたっぽいし、ホントごめ―――」
「ッ逆!!違っ!馬鹿ッ!!!」
我ながらとんでもない片言の返事で。
一瞬間抜けな間ができた。
「...せ、先輩のことずっと、好き...で」
上ずって上手く喋れない。
一番伝えたい言葉なのに。
587 :
先輩と私:04/04/28 02:17 ID:2mIh7n71
悔しいから迷惑かもしれないけど
抱きついてやった。
温かい、おっきい、優しい先輩。
くそう。大好きだ。
「好きです」
言った。言えた。
でもようやく言えたのに
返事が怖くて本能的にか、私は先輩の胴をさっきより強く抱きしめた。
「あー、俺も...好きです」
俺も...好きです?耳を疑った私は
『本当に?』って聞こうとしたけど、止めた。
抱きしめ返してくれた腕が教えてくれたから。
それから先輩は少し屈んで私にキスをした。
先輩。好き。大好き。もう、すっごい好き。
数度軽いキスをしたあと
私はどうしてもそれを伝えたくて、自分から舌を潜り込ませた。
深いキスの間、先輩は襦袢の上から私の胸に触れていた。
キスを止めると途端にお互い真っ赤になった。
きっと二人ともこの先を予想したから。
...布団の上だしね。
588 :
先輩と私:04/04/28 02:18 ID:2mIh7n71
「桐は...さや。抱き、いや、あの...えっちしよう」
「...」
格好よく『抱きたい』とでも言おうとしたけど失敗したのね...
慣れないこと言おうとするから...
でもなんか先輩らしい言い方で笑った。しかも何気に『さや』って。
嬉しい。
「大好きです。抱いてください」
そう言うと先輩は照れ笑いしながら俺も、と答えた。
かわいい人だ...
妙に感心していると、先輩はひょいと私を抱え上げて布団に寝転ばせて
自分のスーツとワイシャツを脱ぎ始めた。
うわ、先輩の裸...
適度に筋肉がついた感じで、結構厚い胸板とか
よく張った喉仏とか鎖骨のラインとか!!
いい体してるなぁとついエロ親父のような視点で見つめてしまう。
「あ」
私はむくっと起き上がり、フックからハンガーを持ってきて手渡したが
即座に後悔した。
せ、せっかく抱き上げて寝かせてくれたのに...
落ち込む私を見て取ったのか、先輩はハンガーを掛けに行った後、
布団にベタ座りしてうな垂れる私の頭をよしよし、と撫でて
から私の帯紐を解き、背中に手を回してブラのホックを解いた。
そのまま、脱がせずにブラを上へずり上げて胸を露出させる。
が、なぜかしばらく先輩は無言で私の胸を見ていた。
「あの、先輩、申し訳ないんですけど...
これ脱がないと汚れちゃうんで...」
「え?あ、ああ、ごめん!見入ってた」
いや、見入るほどのもん持ってないはずなんだけど...
589 :
先輩と私:04/04/28 02:24 ID:2mIh7n71
長襦袢を脱がせた後軽く畳んでくれる姿
(実はさっき着物用の衣文掛けがフックにあった...おばさんめ)
を律儀だなぁと思いつつぼーっと見ていると
意外なこと(...いや、意外でもないか?)を告白された。
「あのさ俺...童貞...なんだよね」
「そう、ですか...まぁ私もなんですけどね。あ、避妊!」
大切なことを忘れていた。
「え、あ、一応持ってる...ってかさっき」
「おばさん...ですね?」
物分りがよすぎるというか、なんというか、呆れる。
大体なんでセッティングされたんだ、このお見合い。
「うん...まぁ。...処女か。まだっぽかったけど
さっき舌先入れてきたし、どっちかなぁって思ってたんだけど、そうかー」
「嫌ですか?」
そうかーなんて微妙な返答されて不安になる。嫌なんだろうか。
「え、どっちのこと?
まぁどっちも嫌じゃないんだけど。舌は、...こっちもいつ入れようか迷ってたし
...処女の方は...正直めちゃめちゃ嬉しい...
というか逆に童貞、嫌?」
先輩は畳み終え、正座で私の正面に座り真顔で聞いてきた。
「嫌」
「...ごめん」
しまった...冗談なのにすごくしょんぼりさせてしまった。
「あの、冗談ですよ〜?」
おそるおそる顔を覗き込むと突然唇を塞がれた。
590 :
先輩と私:04/04/28 02:25 ID:2mIh7n71
「んんっ」
同時に指の腹で胸の突起を弄り始める。
歯列をなぞられ、何度も舌をすくい取られた後
キスは止んで首筋を軽く舐められた。
「ひゃ...ぅん、」
ゾクリとする。変な感覚。
でも多分『感じる』には程遠い。
それは私にも分かる。バージンでもオナニー位するし分かる。
まぁ私のはあんまりオナニーって感じじゃないけど。
下着の上からアンダーヘアのちょっと上辺りをぎゅっって押す。
それだけ。
胸とかももっと自分で触っておけばよかった...
そうしたら胸もちょっとは感度上がってて、先輩に応えてあげられたのに。
しまったなぁ...
「...あんまり感じない?」
「う...うん。ちょっとくすぐったい...です。感度悪くてごめんなさい」
「あー、いや、桐原が悪いわけじゃ...うん、そっか」
あああ!またショボーンって...
私さっきから何やってるんだ...
「あの、下ならちょっとは...多分」
「あ、うん」
うわ、私ムードぶち壊しだよね!?
なんかすっごい申し訳ない気分だ。
どうしよう。ホント涙出てくる。
「じゃあ...お言葉に甘えて」
「ひゃあっ」
591 :
先輩と私:04/04/28 02:26 ID:2mIh7n71
肩をつかまれて押し倒された。いきなりでちょっと焦った。
「重い?」
「ん、大丈夫」
「脱がすよ」
パンツも脱がされてまじまじと見られる。
自分でも見たことが無い場所を見られてる。
そう思うと顔から火が出る。
「さや、ここヒクついてる」
うん、自分でも分かる。
欲しいって言ってるみたいで恥ずかしい...
「やぁ...言わないで...」
つ、と指が触れる。
すぐにクリトリスを見つけ出され軽く押された。
「ひゃあんっ!!ッそこ...駄目ぇ...んんっ」
「駄目じゃないだろ?此処が一番感じてる」
そう言いながらそこを擦る。
「んっ、あっ!だ、だって...ひぅっ!」
「じゃ、こっちも開発しないと」
そう言って先輩は胸の突起を口に含んだ。
「あぅ、やぁ!んっ、なんか、先輩...口調がえっちくさい〜」
「エッチしてるんだから当たり前」
な、なんか、サディストっぽいよ...
「指、入れるよ」
「...え?―――ッああんっ!!」
...水音が聞こえる。かき回されてる。
その度に私の快感指数と喘ぎ声が増えてゆく。
だめ、声出したら他の部屋に聞こえちゃう...
「...ぁ...ん...」
592 :
先輩と私:04/04/28 02:28 ID:2mIh7n71
私が声を押し殺しているのに気付いたのか先輩は私により強い刺激を与えた。
「あっ、あっ、だめぇ、聞こえちゃ...う!ひゃぁあん!!」
「もう一、二本増やそうか?」
「せ、せんぱ...い、あんっ、もう、いい...です。もう来て...下さい」
「だめ、一回イってから」
また軽くくちづけてから耳元で囁かれる。
やっぱりなんか意地悪だ。
「んー、大体分かった...かな」
「...え?」
「さや、この辺好きだろ」
先輩の指が上のほうの一点を刺激した。
瞬間、
「んっく、っあ!ふぁっ!っああぁん!!」
目の前が一瞬白んで痺れが追ってくる。
膣が軽く痙攣したように先輩の指を締め付けた。
...私『イった』んだろうか。
頭がボーっとしてうまく考えられない。
ゴムをつける動作をした後、先輩は私が調子を取り戻す間
ずっとこちらを見ていた。
さっき髪を指で梳いてくれようとしたけれど
髪に触れられるのも辛いほど敏感になっていた私は
それを拒んでしまった。
それでも先輩は相変わらず優しくて
さっきから柔らかい視線を肌に感じる。
おもいきって顔を上げてみた。
目が合う。
私も微笑んでみた。
そしたら先輩は真っ赤になった。
「いい?」
593 :
先輩と私:04/04/28 02:28 ID:2mIh7n71
「はい...」
先輩が覆いかぶさる。
暖かい。先輩の重みさえ愛しい。
今度は肌が重なるだけでも気持ちが良いと思った。
先輩の、が私に宛てがわれる。
ゆっくり腰を沈めてゆく。
「んっ...」
「痛い?」
「ちょっと...っでも
...はやく先輩も気持ちよくなってほしい...から
大丈夫」
先輩は優しい。けど私に気を遣ってばかりで、
私ばかりが気持ちよくなって、
...やだ。
もっと我侭言ってほしい。
先輩なら沢山我侭してほしい。
だから先輩の『大丈夫』を私の言葉に代えて
『大丈夫』に力を込めてそう言った。
594 :
先輩と私:04/04/28 02:29 ID:2mIh7n71
「さや...さや!」
たがが外れたように私を求める。
ううん、たがが外れたんだ。
私を強く抱きすくめ性急さが増す。
熱い息遣い。
男性の本能のようなものが露出する。
痛い。痛くて痛くて
先輩に強く抱きしめてすがる。左手はお互いの指を絡めて。
声にならないような掠れそうな声で何度も先輩を呼んだ。
「くぅっ...せ...んぱい...」
けれどまだ半分しか入ってないらしい。
こんなに耐えられないほど痛いなのに。
「さや、ごめんな、もう少しだから」
「っ...全然痛...くなんかないですっ...気にしないで」
我慢しろ私。だってこれは嬉しい痛みなんだから。
「...ゆっくりより一気に行ったほうが良いか?」
私はこくりと力無げに首肯した。
早く。早く痛みを超えたかったというよりも
早く感じたかった。先輩も私も。
「んんっ、痛っ、くあぅ、
―――!!」
595 :
先輩と私:04/04/28 02:30 ID:2mIh7n71
一気に奥へと注挿された。
一呼吸おくとそのまま運動を始める。
引き剥がすような痛みの向こうに聞こえる先輩の声。
感じてくれてる。
突然、繋いでいた手をするりと解かれ
心許なさに困惑していると
「あっ」
指はクリトリスを苛(さいな)め始めた。
腰の動きとともに弄られる。
「せんぱ...あっ!あん、は...ぁ」
徐々に快感を感じ始めてきた。
もっと感じたくて先輩にしがみつく。
「さや...名前で呼んで...」
「っは...か、和真さん...好き...です」
「さや...っ!!」
先輩の背筋が一瞬びくりと伸びた。
...いった?
膣内で収縮を繰り返すのが分かる。
先輩はゆっくりと引き抜くと
私に体重を預けて大きく息をついた。
私はその間ずっと先輩の柔らかな黒い髪を撫でていた。
596 :
先輩と私:04/04/28 02:32 ID:2mIh7n71
「なんでお見合いなんかさせられたんでしょう?」
「あー...たぶんウチの祖父さんの仕業だと...」
おじいさん?私が不思議に思って尋ねると
2本指を立てて
「予想できる原因はふたつ。
ひとつはどうも俺にこっちで就職してもらいたいらしくてさ。
地元同士で結婚しろと。」
ああ、なるほど...
私もおばさんになぜか『遠くに嫁いじゃいやん』なんて言われてるしね...
「ふたつめ。
ウチの祖父さん、孫六さんはファンキーな花の独身73歳。
最近社交ダンスにハマっています」
先輩が真顔でそういったものだから笑った。
ん?でもちょっと展開が読めたような...
「それというのも、はるこさんというそりゃーもう可愛らしい
らしい女性とそこでお知り合いになったからで―――」
「キリハラハルコ!」
...おばさん。あなたの仕業か...
「...うちのエロジジイがあの人とお近づきになりたいがために―――
なんて説が今のところマジハマり(原因)ランキング1位...かな」
「そう...ですか(さむいよ、先輩!)」
なんだか妙に生暖かい感情が湧き出してきた...
...けど、まあいいか。
私はにこりと笑顔を作り、
柄にもなく先輩の頬にキスをした。
−終−
2003.8.07
加筆修正 2003.4.27
597 :
先輩と私:04/04/28 02:42 ID:2mIh7n71
読んでくださった方お疲れ様でした。ありがとうございました。
童貞処女同士のせいなのか文才が無いのか
加筆修正してもあまりえっち描写をえろっちくできませんでした。
期待はずれだった人ごめんなさい。
まぁ自分的にはこれが自分の萌えだってことでよしとします。
では、また。
乙
乙!なかなか仕上がらないからと、わざわざ代稿を投下だなんてイイ人やw
オラえろんwの完成、気長にお待ちしております。
600 :
名無しさん@ピンキー:04/05/03 02:05 ID:PyeaSDRW
あげ
601 :
名無しさん@ピンキー:04/05/05 16:23 ID:f2xzsNd6
あげ
まだなのかえ
目が覚めると、まず見慣れない天井が視界に入ってきた。
(・・・・・?ここ・・・どこ・・・・・??)
それ以前に、今が何時なのか、今日が何日なのか、なぜ自分が眠っていたのかが
全く思い出せないでいた。
どこかから紫煙の匂いがする。煙草を吸わない笑美はこのにおいには敏感だ。
「目が覚めたみたいだね」
声をかけられてその方向を見る。
そこにいたのは・・・・・
「!!!!!」
あの男!!!
名前は知らない。男は数日前から何かしら自分の周りをうろついていた。気味が悪かった。
友人にも相談はしていない。自分の思い過ごしかもしれなかったからだ。
近くにも来ない。ちょっと離れた場所から、気がつけばこちらを見ていた。
叫ぼうとして、初めて気付いた。
口にガムテープが張られていること。そして、手足が動かない事。
「こんにちは、本橋笑美さん。その様子だと僕の事は覚えてもらってるみたいだね。
光栄だなぁ」
男は心底嬉しそうな顔で笑美を見下ろす。笑美は全身の毛穴が縮むのを感じた。
混乱しながらも笑美は少しずつ記憶を取り戻していった。
今日は特別帰りが遅くなってしまった。
その為、いつもなら家のすぐ側まで居てくれる友達は先に帰ってしまい、一人で帰らなければならなくなったのだ。
自宅まで後もうすぐ、という曲がり角のところで誰かにドスンとぶつかった。
スイマセン、と謝ったところまで覚えている。
だが、その後の記憶がない・・・
「まさかこんなに早く笑美ちゃんとこうなれるとは思ってなかったよ。
嬉しいなぁ。」
男はニコニコと笑いながら自分の衣類を脱ぎ捨てていく。
逃げようにも、ベッドの四隅に手足を大きく広げるような形で固定された身体は
波打ちこそすれど、移動は全く出来なかった。
ギシ、とベッドが軋み、全裸の男が自分に覆い被さろうとしていた。
得体の知れない男が中心部を隆々と屹立させている。
「ーーーーーーー!!!!!」
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
笑美は恐怖のあまり涙がこぼれ始めた。
「泣き顔も可愛いね」
男はそんな笑美の様子ですらいとおしそうに見つめる。
「大丈夫だよ、優しくするから」
男はそう言って、そっと笑美の目尻に口付けた。
男が笑美の服のボタンを一つずつ外していく。
あぁ、何で今日に限ってシャツなんか着たんだろう。
笑美は絶望で打ちひしがれた頭でぼんやりと考えていた。
やがて、シャツの前がはだけられた。
気温の高かった今日はシャツの下にはキャミソールを着ていなかった。
「想像以上だ・・・なんて綺麗な肌なんだ・・・」
男は心底感動したような口調で溜息をこぼし、笑美の鎖骨や胸を撫で回した。
「ブラジャーもすっごく可愛い。下着にもこんなに気を使うなんて笑美はすっごくお洒落なんだね」
両手を使って下着の上から胸を中心に寄せるように揉みしだく。
やがて男の指先がゆっくりと胸のふくらみを登ってきた。
そして、下着の縁に指が到達する。
「ここは・・・どうかな・・・?」
男の息が荒くなった。ゴクリ、と咽喉を動かす音が聞こえた。
そろそろと指が下着をずり下げる。
緊張で固く尖った蕾が外気に晒された。
「あぁ・・・笑美!!・・・・あぁ!!!」
興奮しきった男は言葉にならない声を漏らして笑美の蕾にしゃぶりついた。
左右のふくらみを両脇から中央に寄せ、交互に頂を口に含む。
舌先で弾くように舐めてみたり、強く吸ってみたり。
はたまた、腋の下まで舌全体を使ってねっとりと舐めあげた。
気持ち悪い・・・
さっきまでそう思っていたはずの笑美に変化が起きはじめていた。
現実逃避するために目を固く瞑っていた事が逆に与えられる感触に神経を集中させてしまっていた。
(駄目・・・・こんな奴にこんな事されて感じちゃ駄目・・・!!)
頭で一生懸命に自分を制そうと理性に働きかけたが、男の指が、舌が、腰を熱くさせた。
そんな笑美の様子を察したのか、男が愛撫の手を止め口に貼ってあったガムテープを外し、口内に含ませていた布を引っ張り出した。
「嬉しいな・・・笑美も感じてくれてるんだ・・・」
男は上気した顔で笑美に微笑みかける。
「そんな事・・・!あるわけないじゃない!!!」
同じく笑美の頬は上気してしまっているのだが、残っている理性で強気に言い返した。
「へぇ・・・・・・・そうなんだ・・・・・」
途端に、男の顔から笑みが消えた。
その表情の差に笑美は再び背筋が凍った。
殺されるかもしれない。
恐怖に蒼ざめた顔を見せると、男は再び微笑む。
「確認してみようか」
そう言って男は笑美の両脚の間へ体の位置を移動させた。
履いていたスカートはいとも簡単に捲り上げられ、下着姿の下半身が剥き出しになる。
「さて、どうかな」
男が開かれた中心をそっと指で上下に撫でた。
「ん?ここはちょっと湿ってるかな??」
そう言って一番下、笑美の入り口を下着の上から何度も指で押した。
そしてその指を少しずつ上にずらしていく。
「あれ?」
男はわざとらしく不思議そうな声を出す。
「ここなんかコリコリしてるよ?」
粒石を見つけた男はその上を円を描く様に刺激した。
決して押し付けず、あくまでも撫でるように。だが、執拗に。
「じゃあ次は匂いチェックだ」
「やっ・・・!!」
笑美の制止の声に従うはずもなく、男は笑美の下着に顔を近づけた。
「う〜ん、これが笑美ちゃんの匂いか〜」
男はそう言ってクレバスに鼻を思いきり押し付けて匂いを嗅ぐ。
顔を揺らすたびに男の鼻が笑美の粒石を刺激し、暖かい鼻息が入り口を刺激する。
「いい匂いだ。ずっと嗅いでいたいよ」
やがて、暖かい何かが押し当てられた。舌だ。
舌でクレバスの溝を舐めあげられ、粒石をつつかれる。
湿った下着は男の唾液か笑美のものかわからなくなっていた。
「あらら。こんなに濡れちゃったら気持ち悪いでしょ。脱いじゃおうか」
男は片脚だけ足枷を外すと、下着を抜き取った。
「綺麗だ・・・・」
男は押し上げるように笑美の足を広げさせると、露になったその部分をマジマジと見つめた。
「そんな・・・見ないで・・・」
笑美は羞恥で顔が真っ赤になった。
しばらく恋人がいなかったため、異性にそんな場所を見られること事態久しぶりだった。
ましてや、こんな格好で見られるだなんて想像だにしていなかった。
「艶々して・・・なんて美味しそうなんだ・・・」
独り言ともとれる程の小さな声で呟きながら男は引き付けられるようにそこに口を寄せた。
「あっ・・・・」
始めは丁寧に、やがて激しくその部分を嘗め回す。
そのまま上部へ移動し、粒石を包皮ごと口に含んだ。
「やっ・・・だめ・・・やぁあ!」
笑美がバタバタと身体を動かすが、男の押さえつける力でびくともしない。
むしろ、男が舌を動かさなくても自ら擦りつける形になってしまい、動けば動くほど頭が変になりそうだった。
ひとしきり暴れて疲れたのか、笑美の動きが落ち着いた。
その隙に男はゆっくりと内股の皮膚を左右に押し広げ、口内の粒石を露出させた。
男の舌が直接粒石に触れる。
「いっ・・・・やあぁあ・・・・・っ」
笑美の体が弓なりに反り、一瞬硬直した。
「イってくれたみたいだね。嬉しいよ」
胸で荒く息をする笑美を微笑みながら男は見下ろした。
サーモンピンクの粒石は赤く盛り上がり、手を添えなくても外気に晒されている。
赤黒い入り口付近は透明な粘性のある液でてらてらと光っている。
男は最後の目的に移った。
「・・・・一つになろうね」
笑美はもう既に意識が朦朧としていて拒絶の言葉を吐くことも出来なかった。
男は、ぐったりしている笑みの下半身を引き寄せるように持ち上げ、自身の腰をも少し押し進めて自分の腿の上に
笑美の腿を乗せた。
臍につきそうなくらい屹立したものに手を添え、笑美の入り口にあてがう。
「笑美・・・・・!」
腰を突き出して男は自分のものを笑美に埋め込んだ。
十分濡れてはいるものの中は狭く、ギチギチと男のものを締め付けた。
「あぁ・・・いいよ・・・笑み・・・最高だ・・・」
男は恍惚とした表情を浮かべながら腰を揺り動かす。
「あっ!やぁ!!あぁあ!!ああっ!!!!」
すっかり蕩けてしまった笑美にもう理性は残っておらず、ただただ与えられる快感に身を任せていた。
「ふうっ!!んふぅ!・・・・笑美!!笑美っ!!」
腰を打ちつけながら笑美の胸にしゃぶりつく。
男に限界が近付いてきた。
「笑美っ!イくよっ!!?イくよっ!!!?笑美!!!!!」
一層激しくなった男の動きに、笑みは再び自分にも絶頂が訪れる予兆が現れた。
自分のトンネル奥の突き当たり、子宮口の入り口を男の先端で刺激される。
「んっ!!!・・・くっ・・・あああぁぁぁああああ!!!」
頭が真っ白になり、再び意識が薄れていく。
・・・・・・・もう・・・・・・・・・どうでもいい・・・・・・・・・・・・・
はっと目が覚めると、笑美は自分の部屋のベッドの上にいた。
服は部屋着に着替えているものの、部屋の電気やテレビは付けっぱなしだ。
(あ〜・・・うたた寝しちゃったのかな。にしても・・・・変な夢だったな〜・・・・)
むっくりと起き上がると、咽喉を潤しにキッチンへ向かった。
食器棚を開けるとお気に入りのグラスへミネラルウォーターを注ぎ、一気に飲み干すと流しへ置く。
(・・・ん?)
部屋へ戻ろうとして、何かしらの違和感を覚える。
なんだろう、何が違うんだろう、笑美はまだ寝ぼけた頭で必死に考えた。
(・・・気のせいかな?)
そう思い直した笑美は再びベッドへ倒れこみ、今度はテレビと部屋の明かりを消して眠りについた。
ピチャン
蛇口から水が一滴落ちる。
笑みの置いたグラスとその隣にある吸殻の入ったグラスの水面が揺れる。
612 :
Cov. :04/05/09 19:06 ID:MbY7hOGS
お粗末さまですた。
オラえろんを楽しみにしてる皆様方、横入りして申し訳。
む〜・・・いい題名が思い浮かばない・・・orz
題名募集、と言ってみるテストw
おお!新たな作品が!
乙!サクッと読めて良かったですよ〜。
題名は・・・・・思いつかないwスマソ
乙です。王道で良かったです。題案、
鏡の向こう側
這い上る紫煙
気をつけよう 一人暮らしの 戸締まりは
いまいち。ごめんなさい。
(*´∀`)ハァハァ
Cov.さん、なかなか楽しませてもらいました。惜しむらくは名前に誤字が(ry
> 題名募集、と言ってみるテスト
安直だけど『ナイトメア』ってどうですかと言ってみるテスト…
618 :
Cov. :04/05/10 23:59 ID:MJLtiWAI
うわっ、こんなにレスついてる!(感涙
題名一緒に考えてくれてありがdです〜!
一応自分もつたない頭で捻ってみますた。
「紫煙の人」でおながいしまふ。
>惜しむらくは名前に誤字が(ry
くわっΣ (゚Д゚;)
ど、どこでせう・・・
一番最後の「笑み」には気付いたw
ほ、他にもある・・・?
タイトル決まったのね。
昼間の間に「紫煙夢」って考えてきたのにー。
でもシェンムーみたいで縁起悪いか。
エロいのはいいけど、レイープはちょっと後味が…
一徳編まだかなまだかな〜
一徳編の為に保守
保守します。
624 :
377:04/05/19 19:23 ID:nF9NFPWk
えーと、すいません。
色々あってちょっとスランプ気味になりまして。
でもって、やっと書けたんですけど、気付けばどんどん長くなって。
『なんだこのホームドラマは!?』
という状態になってしまったので、とりあえず2分割しました。
とりあえず、前編をどうぞ。
『あの子が二十歳になったら、でいいかな?』
俺の愛するその人は、そう言った。
うん、それはわかる。こういう事言っちゃいけないとは思うけど、前の旦那さ
んと別れてしまっても、あの子に取っては…たった1人の父親なんだろうし。俺
の事、あんまり好きじゃないのもわかっているから、ちゃんと大人になってから
言った方がいいと思っているのもわかる。
だけど。
だけど、本当は―――
「…ただいま」
いつにも増して低いテンションで、大輔は帰って来た。今日は大輔の、二十歳
の誕生日、午前10時半。夕方からは彼女のお家で2人で誕生パーティーをして
貰うと、半年前から楽しみにしていたようだから、チャンスは今しか無い。
「お帰り、大輔…ちょっと話があるん」
少しでも、父親(まだ仮定)らしくしようと思って、ちょっと演技臭く声を作
る。が、その目論見は失敗に終わる。ていうか、無意味だった。
「ちょっ、え、だっだ、え!?大輔!?」
「…なんですか」
不機嫌とも、泣きそうとも取れる声。右頬が真っ赤に腫れ上がってるし、服も
ちょっと汚れている。俺は息子(まだだけど)の大惨事に、冷静さを失ってしま
う。
「だっ、ど、どうしたんだよ!一体…」
「…別に、なんでもないです。話はまた今度にして下さい」
あわあわしている俺をうざったそうに見て、大輔は行こうとする。が。
「あっ、あ、だっ、駄目!大事な話があるんだよ。今日、夕方からいないだろ?
だから―――」
「いますよ」
ぽそ、と呟く。
「…え?」
俺は、耳を疑う。いや、だって半年前から…
「なんで?え?ちょっと、大輔…」
「…予定は無くなりました。すいませんけど、今日はもう誰にも会いたくないん
です」
ウエットティッシュで、顔を冷やす。埃を払って、上着を脱ぐ。それ以上は何
も言おうとせず、大輔は部屋に戻ろうとする。俺はそれを引き止める。
「なぁ、大輔、どうしたんだ?あんなに楽しみに―――っ」
肩を掴んだ手を振り払われる。大輔は、俺を睨んでいた。
「しつこいですっ!ふられたんですよ!たった今!!俺は!!!さくらさん
に!!!!」
…一喝される。そのまま、大輔は足早に階段を上がって行ってしまった。
え?
俺は、頭の中が真っ白になる。ふられ…た?ふられたって、え、大輔が、あの
おっぱい大きくて地味に可愛い女の子に?俺がオールヌード見ちゃった子に!?
呆然としている俺に、ひょこ、と茶の間から顔を出した倫子さんが、一言。
「…間が悪いのよねぇ、彰ちゃんてば」
俺が倫子さんを好きになって、もう20年以上になる。
歳の差は7歳。昔は果てし無い差と思っていたけど、自分も30となると、そ
う気にはならないものだ。
…ここまで来るのに、長かったな。溜息をつく。思えば、大輔とは最初からこ
んなもんだったような気がする。そう、とにかく俺は間が悪いのだ。
初めて会った時、俺はちょうど今の大輔と同じくらいで、大輔は小学5年生だ
った。とにかく笑わない、相手してくれない、喋らないで大分困った。今考える
と凄く恥ずかしいけど、その時の俺は大輔を『倫子さんを手に入れる為の鍵』だ
と思っていた。大輔本人の事なんか、何も考えずに。
悩みは、もうひとつあった。弟の孝一だ。小学6年生にして大反抗期。とにか
く他人を全て見下しているかのような振る舞いに、頭を悩ませていた。
『…大輔くん、チョコ食べる?』
『……』
無視だ。
『あ、すっげぇ美味しいラーメン屋知ってるんだけど』
『……』
あくまで無視だ。
『ねぇ、大輔くん』
『…お前、馬鹿じゃねぇの?』
『な…!孝一!!実の兄をお前呼ばわりしちゃ駄目だろ!!』
『うるせぇよ、ていうか何必死になってんの?超ダセェ』
『おっ…お前は―――って、大輔くんいない!?』
…思い出すだけで、頭が痛い。
「うふふ。彰ちゃんったらもう」
頭を抱える俺の頭をごしゃごしゃ撫で回す倫子さん。
「…俺、また嫌われちゃった」
泣きそうになりながら、倫子さんにしがみつく。が、倫子さんは。
「あらあら、そんな事無いわよ。また、だなんて」
「え?」
ぎゅー、と優しく抱き返してくれる倫子さん。俺はそれに甘えてしまう。
「あの子、ちゃんと彰ちゃんの事、大事に思ってるから」
「…あー、そぉなんだ」
大輔と全く同じ場所+デコが真っ赤に腫れてる実の弟に、倫子さんと結婚する
事を話すと、物凄くテンションの低いリアクションが返って来た。
「そぉって…祝ってくれないの?」
「いや、祝う気はあるけど、そんな素振り全然無かったから、驚きの方がでかい
だけだって。ていうか、今はそれよりも…」
はぁ、と溜息。なんだろうか、さっきの大輔まんまのテンションだ。
「あのさ、嫌な事聞いてもいいか?」
俺は恐る恐る聞いてみる。孝一はすぐに察したようで、苦々しい顔で頷く。
「…俺も、大輔も同じよ」
予想通りにも、程があった。
要約すると、こういう事だった。
人数合わせで、孝一と大輔は合コンに行った。
大輔、誕生日前日という事もあって、羽目を外して初めて酒を飲んだ(ここら
辺は倫子さんの教育だよなぁ)。
…気が付いたら、知らない女の子とラブホで同じベッドで素っ裸で朝だった。
女の子は、これでもかってくらい謝ったら許してくれた。
秘密にしておけば良かったのに、大輔は彼女に正直に、全てを話した。でもっ
て、絶縁された。私刑付きで。
孝一は、止めようとしてクロスカウンターと頭突きを喰らってこの有り様だ。
おまけに、孝一の彼女からも暫く会いたくありません、と言われたそうだ。
「…だから、悪いのはわかってるけど幸せ絶好調の今の兄貴見てると、すっげぇ
腹立つノリなんだけど」
「巨人大嫌いなのにそのネタ使うか」
「…うるせぇよ。桜花さん巨人ファンなんだよ」
ちっ、と舌打ちをする。あーあー、すねちゃった。昔より今の方が、孝一可愛
いよなぁ。俺は頭を撫で撫でしてやると、思い切り振り払われた。30と21で、
甘えられるのも半端ねぇ寒さだけども。
「…でも、俺も夢だったんだけどねぇ。大輔の二十歳の誕生日に、俺と倫子さん
のラヴライフも誕生するっての」
まぁ、それも大輔があの状態なら無理も無いし、考え方を変えれば結婚記念日
と息子の誕生日が同じ日ってのもねぇ…個人的に結婚記念日は2人でいたいけど、
息子の誕生日も、それはもうビッグに祝いたいし。違う日の方が…良かったんだ
よ。そう考えると、その方が本当にいいような気がした。
「ていうか、ラヴライフて…」
呆れ満開の孝一のツッコミは、とりあえず無視した。
はぁあ、と孝一は溜息をつく。あーあ、ベタ惚れ状態だったからなぁ。でも大
輔の如く捨てられないだけまだいいとは思うんだけど…
「…吉野、大丈夫かねぇ」
頬を擦りながらぽそ、と呟いた言葉は、予想外のものだった。
「吉野って…」
あれ?たしかそれは大輔の…俺が不思議そうな顔で見ると、孝一は続ける。
「うん、大輔の彼女。でもって俺のダチね。ああ見えて傷付きやすいし、男って
いう生き物に警戒持ってるし、今回の事でまたすっげぇ落ち込んでると思うんだ
よ…」
はぁああああぁぁあ、とイチゴのクッション抱き締めて、落ち込む孝一。元気
付けようかと、ちょっとからかってみる。
「なに、そんなにその子気になるの?だったら付き合っちゃべぼ」
…予想外の速さで、いちごのクッションが飛んで来る。続けてぶどう、パイン、
ドリアン、スイカ、ボーリングの球のクッションが飛んで来る。あ、もしかして
俺は地雷踏んだのか?また、タイミング悪かったのか?ちら、と孝一を見てみる
と…うわ、すっげぇ怒ってる。
「ちょっ、ごめん、ごめんってば…言い過ぎた。悪ごべっ!」
とどめとばかりにバ○ちゃんのぬいぐるみが顔にヒットする。様々なフルーツ
(なんでフルーツの大統領まであるんだろう…)と球2種(含○ボちゃん)に埋も
れて、俺は自分の要領の悪さに、泣きそうになっていた。が、がっくり肩を落とし
ながら俺に近寄って来る孝一も…泣きそうだった。
でもって、俺の隣で三角に座る。
「…俺が、悪いんだ…俺が全部」
「え?」
ふっかい深い溜息。
「…俺は、いつだってあいつを傷付ける事しか出来ない…今回だって、俺が大輔
を誘ったからこんな事になって、俺は、吉野が…」
…もしかして、本当に好き、だったのかな?
本当の事は知らないけど、そんな事を思ってしまう。好きなのに、大輔の為に
諦めたのかな?そんな事を、考えてしまう。
好きな人が他の人の所へ行っても、尚思い続ける事のみっともなさを間近で見
ているからこそ―――
「っ…?」
孝一の頭を、もう一度撫でる。俺は、何も言えない。言う言葉がわからない。
言おう、と思っても、間違ってる事が多い。だから。
「…なんだよぉ…」
目線を合わさずに、ただ頭を撫でた。恥ずかしそうに文句を垂れる孝一。けど、
振り払いはしない。成人している男の兄弟が、フルーティーちゃんなクッション
等に囲まれて三角座りでいい子いい子している図は、きっとキッショイもんだろ
う。けど、こうしていたかった。俺が今、こいつにしてやれるのってこれくらい
だし。
「大輔、どう?」
暫くしてから、また倫子さん家に行った。時刻は夕方近い。
「あら、彰ちゃん。ちょうど良かった」
にこー、と穏やかに笑っている倫子さん。という事は…
「大ちゃん、寝ちゃったみたい。誰にも会いたくないって言ってたし、会いに行
ったら余計に拗ねちゃうし、良かったらデートしない?」
…マイペース過ぎです、倫子さん。でもその意見、大賛成です。
「でも、私とあの人の子供なのに、お酒弱かったのねぇ」
なんだかそれが凄くおかしくて、私は笑ってしまう。私もあの人も、お酒は強
かった。確かに、酔っ払いはするけど意識を無くすなんて事は無かった。
「まぁ…多分大輔はもうお酒飲まないと思うよ…」
彰ちゃんは苦い顔をしながら、串焼きを頬張る。
「それか、溺れちゃうかもね」
「…倫子さぁん…」
へなへなとしたツッコミをくれた。
彰ちゃんは、いちいちリアクションが可愛い。不器用な所も、ちょっぴり考え
無しな所も、昔から変わっていない。私への、只管なまでの想いも…。
もうすぐ40近いオバサンなのに、こんなに愛してくれるなんて…私は三国一
の幸せ者だって、本当にそう思う。
「…でも、彰ちゃん」
「なぁに」
「本当に、私でいいの?」
本当は、今日籍を入れる筈だった。けれど、出来なかった。大ちゃんもわかっ
てると思うから、別に大ちゃんに断らなくても良かったと思うんだけど、彰ちゃん生真面目だから。
私が、ここ10年で何度もした質問を、最期にもう一度だけ言ってみる。
案の定、彰ちゃんはちょっと険しい顔になる。そして。
「…私でいいの、でなくて…俺は、私じゃなきゃ駄目なんだよ…倫子さん」
溜息。
自分でも、ちょっと酷いと思っている。でも、思わずにはいられない。
いつもならすぐに終わるのに、今日だけは気まずいままの雰囲気になってしま
った。黙々と食事をして、会計を済ませる。彰ちゃんは先に外へ出ると、歩き出
した。
方角は―――
「彰ちゃん?」
「…あのさ、倫子さん」
私の手を握って、歩き出す。
「どうしたの?…怒っちゃった?」
握る力が、いつもより強くて、少しだけ怖くなる。歩く速度も、速い。何も答
えてくれない。
「彰ちゃ…」
急に、止まる。どこだろうと思って周りを見ると、近くの公園だった。あれ?
ここって…
「…ん」
いきなり、キスされる。背中と腰に手を回されて、強く抱き締められる。さっ
き思った『あれ?』がもっと強くなる。
なんだろう、と思って彰ちゃんを見る。少し困ったような顔で、私を見ている。
あの時と、変わらない…ううん、あの時よりも、ずっと男の人の顔で。
「覚えてるかなぁ、俺が、初めて倫子さんにこうした時」
…やっぱり。
あれ?の正体を、やっと思い出した。
あの時と同じようなシチュエーション、場所、行動。どうして思い出せなかっ
たんだろう。私が、彰ちゃんの事を男の人として見るようになった時の事…
あの人と別れて、生まれ育ったこの町に帰って来た時、小さい頃から私を好き
だと言っていた小さな男の子は、今でも私を好きだと言い張るおっきな男の子に
なっていた。
正直、色々あって疲れていた私には、ちょっと疎ましい存在だった。
私と、あの人のせいで殆ど喋らなくなってしまった大ちゃんの事や、色々な問
題が山積みになっていて、本当に余裕が無かった。
ある日、大ちゃんが学校で問題を起こしてしまって、その時、私は連絡が付か
なくて、代わりに彰ちゃんが駆け付けて行ってくれた。確か、一学年上の男の子
のランドセルに、これでもかという量のゴキブリを…うう、考えたくない。
…それで、帰って来た時、大ちゃんは傍目にはわからなかったと思うけど…彰
ちゃんの事を信頼してた。物凄く、好きになっていた。
ホントに、その時はおかしくなってたと思う。私は馬鹿な人間だから、小学生
の息子と、大学生の男の子の眼の前で、泣いちゃった。悲しくて、情けなくて、
悔しくて。
彰ちゃんは、いつもと違って冷静に私を見据えて、大ちゃんに何か言って、私
の手を掴んで、小さい頃一緒に遊んだこの公園に連れて来て、それで―――
「…俺は、あの時から…ううん、それより昔から、ずっと倫子さんを愛してる。
うんにゃ、ずっと、毎日毎日もっともっと好きになってるから」
これも、端々は違うけど、あの時言ってくれた言葉。
「彰ちゃ…」
もう一度、抱き締められる。
「不安なんだったら、何度でも言う。俺は倫子さんを愛してる。誰よりも、それ
こそ宇宙で一番倫子さんの事、LOVELOVEあいしてるから」
…スケールの大きい愛情だぁ。
「…でも、私、もうオバサンだよ」
「知ってる。最近腰痛に悩まされてるよね…でも、愛してるよ。あの時言ったよ
ね。『私がオバさんになっても云々』って。愛してるよ。海でもどこでも連れてく。
オバサンだろうが、おばーちゃんだろうが、俺は倫子さんが好きだから」
そう言って、今までよりもずっと強く、抱き締めてくれた。
「…うん、ごめんね。私も、愛してるよ。彰ちゃんの事、誰よりも」
私から、キスをする。彰ちゃんは嬉しそうに笑った。
「ねぇ、彰ちゃん…今日、帰りたくないな」
ベンチに座って、ちょっと誘ってみる。
「あらら、倫子さんったら大胆ねぇ。でも、大輔…」
「うふ、変に火を点けちゃったの、彰ちゃんじゃない。それに、ここまで来たら、
初めて行ったホテル、行きたいなぁ。こういうの、やるなら徹底的に…って、言
うじゃなぁい?」
つー、と彰ちゃんの胸の辺りを、指でなぞった。鼻の下を伸ばしながら、彰ち
ゃんは笑う。
「そうしたいのは山々だけどあのホテル、3年前に潰れてますから…残念!」
と、テンポ良く返してくれる。
「じゃ、帰る?」
わざと、意地悪く言う。蒼褪める彰ちゃん。
「やっ…やだやだやだぁっ!!行く!!どこでも行くから!!」
必死に縋り付く彰ちゃん。可愛い。年下の、男の子。
「じゃあ、どこへでも連れてって、王子様」
「イエッサー!!」
結婚したら、多分滅多にこんな所にはこないだろうな、と思って、あえてすっ
ごい安っぽいラブホテルに入った。あらあら、最近のラブホテルって…凝ってる
のねぇ、とオバサン発言。
「倫子さん、本当にこんな所で良かったの?」
シャワーを浴び終えてから何を言うんだろうかこの子は、と笑ってしまう。
「こんな所だからいいのよ…ふふっ、おいで、彰ちゃん」
お母さんの如く、手を広げる。最近は…というよりも、小学校出た辺りから、
大ちゃんはこうやっても来てくれなくなった。彰ちゃんは、いつでも来てくれる
んだけど。
「と〜もこさぁ〜ん!!」
そのイントネーションに笑ってしまう。私は裸でシーツに包まっていたから、
彰ちゃんの行動はギャグとして(本当の意味で)成立してる訳だけど。
…まぁ、流石に空中で服を脱ぎながら私の元へダイブして来られても、ちょっ
と困るけどね。という事は、大ちゃんはル○ン小僧になるのかしら?
「…倫子さん」
シーツを剥ぎ取って、裸で抱き合う。いつか、私がする事自体よりも、こうし
ている方が好き、と言ってから…こうしてくれる時間が多くなった。
いつだって、彰ちゃんは自分より人の事を考えていてくれる。そして、その事
が自分の幸せだって感じる事が出来る人。ただ、タイミングが悪いんだけれども。
「彰ちゃん」
私も、ぎゅっとする。最近ちょっと下っ腹にお肉が付いたんだけど…
「彰…んっ」
あんまり無い、私の胸に顔を埋める。こういう所、昔から変わっていない。
私の事、本当に好きなんだろうなぁ…こんな事を本気で思ってしまえる程、こ
の人はストレートにも程があるのよねぇ。
『だから、これは…あの、好き過ぎて…』
「っぶ…!!」
「え!?」
いきなり吹きだしてしまった私に、思い切り驚く彰ちゃん。顔を上げて、私を
キョトンした顔で見据える。
「あ、ごっ…ごめんなさい、あの、初めて彰ちゃんとした時の事…思い出しちゃ
って」
そう言ってしまって、後悔しちゃった。彰ちゃんの顔が真っ赤になっていく。
「しっ、仕方ないじゃんか、俺、どっ、童貞だったし、あんまり倫子さんが綺麗
だったから…」
しどろもどろになってしまう彰ちゃん。あらあら、可愛い。
…私が彰ちゃんを意識し始めて、色々会って、今はもう潰れたラブホテルで、
初めて身体を重ねた時の話。
彰ちゃん、緊張しすぎて勃たなかったのよね。本気で泣いてわよね…彰ちゃん。
「うううっ…なんで今そういう事言うのぉ…」
あ、今も本気で泣きそうになっちゃってる。そんなつもり無かったのに、虐め
ちゃった。私も流石に酷かったと思い、慌ててどうすればいいか考える。そうい
えば、あの時は―――
「…あ」
私は起き上がって、素早く軽いキスをすると、にこー、と笑って萎えかけてい
た彰ちゃんの息子さんに手を添えた。
「ちょっ、倫子さ…」
「だから、徹底的に」
そう言うと、私は彰ちゃんのを思い切り良く咥えた。
「…とっ、倫子さん…」
彰ちゃんの手が、私の頭に。彰ちゃんたら、何度もしてるのにこの時はいつも
初々しくて、オバサン萌えちゃう。口の中でどんどんおっきくなって行く彰ちゃ
んの息子さん。唾液でヌルヌルして来たそれが、本当に可愛く思えて、一旦口か
ら出して、先端にキスをする。ちゅっ、と音がした。ちろ、と上を向くと、真っ
赤になった彰ちゃんと眼が合う。
「彰ちゃん、可愛い」
30歳だというのに、この時の、どうにもこうにもな状態の彰ちゃんは、贔屓
目もあるだろうけれど、本当に可愛い。女の子みたい。山口○恵ちゃんとかより、
ずっとずっと可愛い。私は昔のアイドルのマイクの持ち方みたいに彰ちゃんのを
握る。もっと舐めようとした時、不意に彰ちゃんは私の顔を上げさせた。
「…?」
舌を出したままの私の顔を真っ赤な顔で凝視する。何も言わないから、私は続
行する事にした。けど。
「あ、あの…嬉しいんだけど、俺も…ほら、今日、入籍残念記念日って事だしあ
の、俺も…」
照れながら、彰ちゃんは言う。可愛い、記念日、後何個増えるのかしら。自分
だけじゃなくて、私も気持ち良くしたい、って、可愛い事考えるわねぇ。
「ふふっ、記念日にしかしてくれないの?」
ちょっとだけ意地悪く言ってみる。けど。
「うっ、ううん!?いや、あの、倫子さんさえ良ければ、俺は毎晩でも…!!」
…激しいのねぇ。正直、本当に彰ちゃんには…勝てないのよね。勝ち負けとか
そういうの以前に。肩肘張る事も、全然必要無くなる。
「…倫子、さん?」
あらやだ、年取ったから涙腺弱くなっちゃったのかしら。幸せすぎて涙が出て
来ちゃった。こんなに優しい子が、私なんかの事宇宙一大事に思ってくれてるな
んて…考えちゃうと、ねぇ。
「あ、そうだよね。腰、今痛いんだもんね。毎晩じゃ…」
「違うのよねぇ…」
私はちょっぴり呆れながら、彰ちゃんにぺちん、と突っ込んだ。
「んしょ…」
とはいうものの、恥ずかしいのよね、この格好って。彰ちゃんの顔を跨いで、
自分のを見せ付けるなんて…誰が考えたのかしら。日本語であったわよね…確か、
逆椋鳥だったかしら?
「っ…」
彰ちゃんが、いきなりお尻を掴んで来た。びっくりしたぁ。
「もう、彰ちゃん…っん…」
つーっ、と入口を舌でなぞられる。思わず、声が出てしまう。私も負けじと彰
ちゃんのを同じように舐める。けど。
「あっ…ん、や、彰、ちゃ…」
最近していなかったせいか、変に感じてしまう。指と口でいっぺんにされると、
何も考えられなくなってしまう。
「んっ…あっ、あっ…」
彰ちゃんにもしてあげたいのに、手も口もお留守になっていた。
「っ…!」
彰ちゃんの舌が、中に入って来た。わざと音を立てながら、中を舐め回す。気
持ち良くて、鳥肌が立って来る。自然に流れて来た涎が、一層元気なってる彰ち
ゃんのに掛かる。そのまま私も追うように先の方を口に含んだ。
意地悪するように、やっぱり音を立てて、この格好みたいに、ちょっとお下品
に。
…恥ずかしい。
一瞬、我に帰ってしまう。自分が、どうしようもないくらいに乱れて、あそこ
を濡らして、きっと彰ちゃんのお顔やシーツもびしょびしょになってると思う。
考えただけで、自分がいやらしくて、恥ずかしくて…また、感じてしまう。
「…彰、ちゃ…」
彰ちゃんの顔に、押し付けるような格好になる。彰ちゃんはそれに応えてくれ
て、もっと激しく攻めて来た。私は、もう、億劫で彰ちゃんのはほったらかし。
それでも、彰ちゃんは私によくしてくれる。
…私がしないと、この格好意味無いのに。
「…あっ」
心のツッコミを読んでくれたのか、自分もそう思ったのだろうか、彰ちゃんは
起き上がって、私を抱き寄せる。こういう時、本当に男の人だなぁって思う。昔
は凄くちっちゃかったのに。
もう、好きだと初めて言われてから何十年経つんだろう。
「彰ちゃん…あの、私、もう…」
既にくたっ、となっている。大分火が燻ってる状態だから、ホントは、凄く欲
しいんだけど…
「うん」
わかってるよ、と言うように私をもうひと抱きしてから、横たえてくれた。
「…もう、ひとりくらい欲しいなぁ…」
ぼぉっとした頭で、そんな事を言ってしまう。
「なに?俺との?」
…彰ちゃん以外で、誰がいるのかしら。私はこく、と頷く。彰ちゃんは私の上
に覆い被さって、ちゅ、と可愛いキスをくれた。
「高齢出産になっちゃうし、仕事も大変でしょ。4年か5年も経てば、大輔が作
るんじゃないの?」
「そしたら、私おばあちゃん?」
ちょっと苦笑してしまう。けれど、無い話じゃない。
あんまり会った事無いけれど、大ちゃんの彼女の、さくらちゃん。あの子、本
当にもう大ちゃんと付き合う気は無いのかしら?そりゃ、悪いのは大ちゃんだけ
ど…でも、あの子…可愛いしお料理上手だし、お菓子作るの上手だし…正直。
「あんな女の子も、欲しかったなぁ」
娘、というのも憧れていた。
「あんな…うん。あの子…大輔の好きな子でしょ?あの子おっぱいおっきかっ」
…ん?
私は、彰ちゃんをじっと見る。彰ちゃんも、途中でヤバイと悟ったのか、言葉
を止めた。
「どうせ、私は胸が無いですよっ」
ちょっと、拗ねた。この歳になったら、サイズ云々よりも垂れる垂れないの話
の方が重要だしね。でも、彰ちゃんは慌てに慌てる。
「あ、いや、違う、俺が好きなのは倫子さんで、あの子は確かにおっきいけど、でも、俺の理想のおっぱいは…」
「…彰ちゃん、可愛い過ぎ」
あまりの慌てっぷりに、私は笑ってしまった。そして、私からキス。
「怒ってないわ。それよりも…彰ちゃんの、ちょうだい」
…即物的にも程があったけど、どうせオバサンだもん。オバタリアンだもん。
恥じらいなんか、何年も前に便所に捨ててくれたわ。
「ふぁ…」
待ち望んでいたものが、身体の中に入って来る。
彰ちゃんが、私の中に。恥ずかしいくらいに潤っていた私は、難無く彰ちゃん
を受け入れる。もう離したくないみたいに勝手に身体が締め付ける。
…私が、ホントに彰ちゃんを離したくないのを裏付けるみたいに。
「俺、おっきいのより、倫子さんくらいのが好きだから」
「んっ…ん、やっ、しょ…」
胸を寄せて、掴む。掠ったくらいで感じるくらいに固くなった乳首を吸われる。
もう片方は、指で摘まれる。
「あっ、いいのっ…ん、彰ちゃぁん…」
切なくなる。もっと、もっと欲しくなる。誰が言ったかは忘れちゃったけど、
女は30を越えた辺りの方がいやらしいっていうのを聞いた事…あるけど。なん
となくそうだと思う。
掛かる熱い吐息も、淫靡な音も、安いベッドの音も。
昔は感じていても、周りのものを感じる余裕が無かった。けれど、今は。
「あ…んっ、ん、来て、もっと…」
くっ、と彰ちゃんを自分にもっとくっつくように抱き付く。
自分の仕草さえも、自分が興奮する演出にする事に出来る。愛する人と、身体
を重ねる。それは本当に、奥が深いと思う。
若い頃は、よくわかってなかったと思う。でも、後悔はしてない。よくわかっ
てなかったからこそ、今、大ちゃんと親子でいるんだから。
ズン、と奥深くに快感が走る。
声が、一層大きくなる。
「…彰…ちゃ…」
いっちゃう。身体が、限界だと知らせている。また理由も無く涙が零れる。
好き。大好き。愛してる。
私は子供みたいに彰ちゃんにしがみ付きながら、達した。
―――上手になったなぁ、と失礼な事を考えながら。
「やっぱ、帰ろうよ」
時計を見て、俺は言った。
「…どうしたの?」
倫子さんは、とろー、とした眼でこっちを見てる。そんなはしたない格好でい
ないでよう、俺、もう2Rくらい行けるよ?
「大輔。やっぱり気になるし…それに、大輔って来るなっていうと来る癖あるじ
ゃない。そういう子って自分がそういう時、来て欲しいもんだと思うし…」
行ったら行ったで怒られると思うけど…でも、行ってあげたかった。
疎まれるのわかってるし、今までもそうだったけど、でも、今独りには、なん
か…したくなかった。
俺がしどろもどろに説明すると、倫子さんはすぐに了承してくれた。流石だと
は思う。ビバ37歳。そう言うと、枕が飛んで来た。
…ビバ、(まだ)36歳。
しかしまぁ。
正式に結婚を申し込んでから、結構経つ。色々あって、大輔が二十歳になった
らって言ったけど、本当は…
「どうしたの?」
にこー、といつもの笑顔の倫子さん。笑顔が癖になるって、いい事でもあり、
悪い事でもあるんだよ。
…本当は、俺に諦めてもらいたかったんだよね?
倫子さんから見て、未来のある若者が、初恋を引き摺って、不幸な環境にある
女の人を、一時の感情で背負い込ませるなんて…そう、思ってたんだよね?
時間を置いて、冷静になれば、それは愛情じゃない、単なる同情だとわからせる為に…そう言ったんだよね?
残念でしたぁ。違いますーぅ。
俺は、そんなんじゃないから。ただ、倫子さんを宇宙一愛してるだけだから。
わかってるんでしょ?本当は。倫子さんだって、俺を好きなんでしょ?だから
一生懸命体型維持してみたり、いつも綺麗にしてたり、してるんでしょ?
好きだから、俺がいつか興味を無くすと思って、不安になるんでしょ?そげな
事、絶対に無いから。その事は、ホントにわかってほしいんだけど…
「なんでもないよ、愛してるよ、倫子さん」
ただ、それは言ってはいけないような気がしていた。
「…あれ?」
家路を急ぐ最中、ふと見た事のある人影を発見する。倫子さんも同様だ。
こんな遅い時間に、1人でボーっと歩いているのは…
「…倫子さん、大輔の所行ってあげて。俺は、あの子…場合によっては送るし」
「うん、そうねぇ」
即座に役割分担を決める。心配そうな顔をする倫子さんと別れて、俺はその子
の―――大輔の(元)彼女の、さくらちゃんの所へ走った。
「…あの、君…大輔の」
「…何か用ですか」
うわぁ。
物凄く暗い顔しているよ。どうしたんだろ、大輔、孝一に続くこのテンションの低さ。会話、続かないし!!
「あ、あー、あの、俺、覚えてる?前…」
「お風呂に堂々と来たトク兄さんって人ですよね」
…話し掛けない方が、良かったかもしれない。
「あ、の、あ、ほら、こんな遅くに女の子1人だから、心配で…」
「…別に、いつもこんなんですから心配はいりません」
目線も合わせてくれない…この子とまともに喋った事無いから、どうすれば…
ただでさえ、よく考えなくても悪印象しかないのに…自分の中の大輔データ内か
ら、この子となんとか話の出来そうな話題を探す。えっと、えっと、えっと…
「あ、あの、君、カエル派?ウシ派?」
「…覆面派です」
―――またしても、会話は一瞬で終わった。
沈黙が続いた後、その子は立ち去ろうとしたので、俺は慌てて後を追った。
心配なのと、大輔の事で。
「なんですか…なんか、用あるんですか」
うーん、つっけんどんだ。
「うん、あるよ。大事な話なんだ」
「私には、ありません」
そう言うと、また立ち去ろうとする。俺は、そんなその子の腕をつい掴んでし
まう。
「…放して下さい。人呼びますよ」
思い切り俺を睨んで、言った。あまりの恐ろしさについ手を放してしまう。が、
その情けなさ満開加減がツボに入ったのだろうか。さくらちゃんは吹き出してし
まった。そして、溜息。
「すいません…ちょっと、色々な事、あり過ぎて…」
無理に、笑おうとする。けれど、本当はもう。
俺はこういう時、どうすればいいのか本当にわからない。大輔ならば…立場的
に、元であろうがこの子の恋人なら…早い話が、これが倫子さんなら…優しく、そして強く抱き締めたいんだけど…如何せんこの子は殆ど『他人』なんだ。
気安く触る訳にも行かないし、俺は、迷った末に―――
「ええええええ?」
多分、さくらちゃんもどう対応していいかわからなかったのだろう。
俺は、ちっちゃなその子の、頭を撫でるしか出来なかった。
少し落ち着いてから、近くのファミレスに入って、事情を聞いた。どうも、今
日1日でショッキングな事が相次いでしまったらしい。そういえば、前にもえら
い事があってプチ行方不明になった事があったって聞いたな…
暫くは黙ったままだったけど、あったかドリンクをちびちび飲みながら、ぽつぽつと話し出してくれた。
…凄かった。
大輔の浮気(と言ってもいいものなのか)もさる事ながら、それ以上にインパ
クトのでかい出来事が。
夕方父親に呼び付けられて、嫌々実家に戻ると、新しい母親が。
別に、それなら良かった。少し前に父親は離婚していたし(それでも再婚)、突
然継母が来るのも初めてではない(けど、いつもタイミングが悪いらしい)そう
だった。
が、今回はその母親が問題だった。
その人は、現役女子大生だった。シカーモ、さくらちゃんより年下の、19歳。
見た瞬間、さくらちゃんはブチ切れて、大暴れしそうになったそうだ。
…が、流石にそれはしなかったそうだ。する気力も完全に殺がれたそうだ。
そして、やっぱり俺は何も言えない。どうしてやる事も、出来ない。
「…忘れて下さい。こんな嫌な話聞かせてしまってすいません」
終始同じままの、低いテンションで彼女は言った。いや、ていうか、俺が無理
矢理言わせたようなものだし、それにまだ話は…
「あの、あ、あの、大輔の事…」
そういい掛けると、さくらちゃんは伝票を持って、立ち上がる。奢る気ですか?
いいんですよ?誘ったの、俺なんだし。
「…いいです。私、暫く男の人はお腹一杯なんで」
そう言った、さくらちゃんの眼は―――
俺は、暫く座ってコーヒーカップを見てる事しか出来なかった。
口元だけで笑うその女の子のその眼は、この町に帰って来た時の倫子さんと、
全く同じだったから。
闇を抱えた、傷付いた人間の、眼。
俺は、すっかり冷め切ったコーヒーを飲んで、頭を抱える。
…倫子さん、ごめんなさい。こういう時にこういう事思うのって、正直アレだ
とは思うんだけど…
「結婚、また延びるな…」
溜息をついて、俺はアイスコーヒーを飲み干した。
…不味かった。
終
649 :
377:04/05/19 19:57 ID:nF9NFPWk
はい、前編です。
待ってていただいた方々に申し訳無いですが、こんなんです。
…30&30後半の男女の話て、スレ違いもここまで来たかという
感じですが…
それでは、後半を作成して来ます。
読んでやってもいいという素敵な方、気長にお待ちください。
377さん、来たー!! 待ってましたよぉ〜×100!
一徳ってもっと変な奴だと思ってたんだけど、単に間の悪い人だったんですねw
後半も正座しながら気長に待ってます。
皆の衆、今日は佳き日ぞ〜!
377さんありがとう、待ってたかいがあったよー。
いやもう大好きです、この人間模様の絡まり具合。
キャラの背景が結構シリアスなのにギャグでさらっと流したり、
読ませどころではグッときたり、ほんとツボだわ。
キャラがみんなたっててどの人にも思い入れがあるので、
是非大円団キボン!などといってみたりするテスト。
でも読めるなら贅沢は言いません。
377さんのペースで思うままに後半もよろしくお願いします。
377さんだーーーーー!!
651さんと感想かぶるけど
キャラクターがしっかり出来てるから
普通の小説としてもちゃんと読めるんですよね
「読んでやっても〜」じゃなく、読ませて下さい!
何でしたらスレ保守しながらでも気長に待ってます〜!
うれし―いい!!!!
続きだ続きだvv
今回も楽しませてもらってますw
377さんキター!!
相変わらずのGJっぷりッス(*´Д`*)エクセレント
続きがメチャメチャ楽しみですYO!!
私も気長にお待ちしておりますね。
一徳編キテター!!
377さん、大好きです。
私も続き正座して気長に待っております。
あ〜 おもろかったす。続きヨロっ ノシ
657 :
名無しさん@ピンキー:04/05/28 11:49 ID:Hh2WdFgD
あげ
続きを楽しみに保守
659 :
名無しさん@ピンキー:04/06/01 15:10 ID:PT27SABf
お待ちしてます
660 :
名無しさん@ピンキー:04/06/05 01:17 ID:KkLhuM7q
六月五日あげ
まじ、連作小説として面白いよね・・・
662 :
名無しさん@ピンキー:04/06/11 01:05 ID:m7hqelf8
一徳編の続きを楽しみに、縮刷版で読み返しつつ。
(笑って泣けるエロ小説なんて初めてだ)
他の方のもあるといいなとかおもいつつ。
ほっしゅあげー。
ほしゅ
664 :
sage:04/06/19 06:53 ID:JbKl1g5c
377さん、楽しみです。
私的に、大輔萌えなのでさくら×大輔が1番好きです。
つうか大輔好きです(w
377さんはHPお持ちではないのですか?
なんだか全作品を1つのHPでみたいです・・・
↑のものです
久しぶりに書き込んだから間違えてあげてしまった
すんません。逝って来ます・・・
667 :
377:04/06/19 19:28 ID:ApAmRvzF
えーと、あの、待ってていて下さった方々、すいません。
やっと出来ました。
一徳編後半と言いながら若いもんしか出ていません。
すいません。
思えば、生まれた時から私の男運は悪かったんだろう。
親父はアレだし、初恋もアレだし、今だって。
くー、と水の如く酒を飲みながら、私は馬刺しを食べる。うん、美味しい。あ
あ美味い。太るな、これは太るな。そう思いながら、料理を追加する。いつもな
らそんな食えないけど、今なら食える。きっと食える。
「…うま」
馬を食いながらうま、とはこれいかに。思い切り口の中に詰め込んだ食物を、
酒で流し込んだ。
嫌な事があった。
好きな男に浮気されて、年下の母親が出来て、素っ裸見た男と再会した。
帰ろうかと思ったけど、ムシャクシャしたから、なんか食べようと思って居酒
屋に入った。でもって今に至る。
「お待たせしました、オムライスです」
ことん、と美味しそうなオムライスが置かれる。問答無用でスプーンを取った。
がつがつ食べていると、不意に大輔と付き合い始めた頃の事を思い出した。そ
ういえば、大輔ケチャップ嫌いだったな。
チキンライスを凝視して、浮かぶのは大輔の事ばっか。
…好きだよ。凄く好きだ。大輔の事、好きだ。だから、余計に腹が立って来る。
黙っときゃ良かったのに。私に殴られるって、罵倒されるってわかってた筈なの
に、馬鹿正直に言いやがって。それでその後どうなるかってのも、薄々どころか
厚々わかってたろうに。それで、実際そうなったのに。
あぐ、とちょっと大きすぎるくらい取ったオムライスを無理に口に運ぶ。熱い
し、多いし、喉に詰まる。それをまた、酒で流し込んだ。
「…あの、もしかして」
不意に、声を掛けられる。振り向くと、男が1人。なんだ?相席か?でも席は
空いてるし、なんか、見た事あるような顔…して…
「―――っ」
酔いが、一気に覚めた。
「覚えてる?忘れちゃった…かな?俺。由貴。染井由た…」
「失せろ!」
私は思い切り睨んで、一言そう言った。そして、再びオムライスに向かう。
「…手厳しいね」
人の話、聞いてないのだろうか。そいつは私の正面に座ると、なんか辛そうな
顔をして私を見た。
…本当に、厄日だ。好きな男に浮気されて、年下の母親が出来て、素っ裸見た
男と再会して、初めて好きになって騙された男にも再会した。
染井由貴。
親戚で、桜花ちゃんを落とす為に私に近付いて来た奴。正直、気分悪いわ。
初めて、自分よりも桜花ちゃんを選んでくれて、本気で好きになって、自業自
得だけど、自分の身体までやって。それなのに。
「手厳しくもなりますね。これ以上酷い扱い受けたくなかったらとっとと帰って
下さい。私、機嫌が凄く悪いんです」
「…わかってる。叔父さんの再婚でぐげっ!?」
わかっているなら言うな。帰れつってんだから。思い切り弁慶を蹴ってやる。
本当は、こんなもんじゃ済まないんだけどね。
「いらっしゃいませ、ご注文は」
「あ、この人すぐ帰りますから」
「っ…なっ…生中と…枝豆…後、ほら、何頼んでもいいから…」
「じゃあ、この店で値段が高いものベスト3を3品ずつ」
言った瞬間、由貴の顔が引き攣る。店員は終始笑顔で。
「はい。それではアワビの酒蒸し、松坂牛の炭火焼、世界3大珍味+日本3大珍
味の素敵丼を3つずつと、生中、枝豆ですね」
爽やか〜に言い放ってくれた。由貴は泣きそうだったが、異論は無さそうだっ
た。ちょっと、スッとした。
「おーいしーい!!」
「…うん、美味しいね」
物凄くがっくり来ている由貴を無視して、私は料理を食べる。お酒もどんどん
進む。ごはん奢ってくれた礼として、空気としてここに存在しないという認識で
相席している。
「ねえ、さくらちゃん」
「うわー、ナニコレ、すっごい美味しい」
素敵丼は、絶妙なまでの味のハーモニーだった。美味しい。美味しいにも程が
ある。自分家で作ろうと思っても食材に手が出ないから、正にここでしか味わえ
ない。
「…さくらちゃん」
「うめー!松坂牛、半端なくうめぇー!!底知れねぇー!!」
由貴は、尚も私を呼ぶ。悪いけど、返事は絶対しない。絶対、呼び掛けには答
えない。絶対に。
「さくらちゃんってば…」
「あ、すいません。芋焼酎お願いします」
「かしこまりました」
笑顔で対応してくれる店員。既に何杯目かわからない。
それでも、由貴はしぶとく私を呼び続けていた。
「おなか一杯…」
はぁ、と頼んだ物を全部2皿と半分ずつくらい残して、私はカルピスサワーを
飲む。おなか、はちきれそうです。
「…そりゃそうだろうね」
「あー、死にそう」
その残りを、死にそうな顔で食べている由貴。
「あれ?おかしいなぁ、誰もいないのに勝手にお皿の料理が減ってる」
「…勘弁してよ…ねぇ、話だけでも聞いてくれないかなぁ」
由貴は、本気で頼み込んで来る。けど、私は絶対に視線を合わせない。陰険だ
って、酷い人間だって、そう思われても構わない。そうなった理由の何割かは、確実にこいつにあるから。
観念したのか、由貴は溜息をついて、下を向いた。そして、聞いているかどう
かの確認もせずに、勝手に喋って来た。
「…あのさ、俺、振られたんだ」
その声は、今にも泣きそうだった。ふーん、ともへぇー、とも言ってやらない。
その対応でももういいと判断したのか、由貴はそれでも喋る。
「俺、会社で好きな人がいたんだ。それで、付き合ってて、で、今日喧嘩して…
そしたら、本当は俺の事、好きじゃなかったんだって。友達がいて、そいつの事
が好きだったんだって。でも、友達は別に好きな人がいるから、仕方無いから俺
と付き合ってやってたって…」
心の中で、へぇー、と思う。どこかで聞いたような話。どこかで見たような表
情。由貴は、明らかに傷付いていた。
「…そう言われて、ああ、これは自業自得だって思った。俺はあいつを責める事
なんか出来ない。そんな資格は無いって思った。君にした事、殆どそのままの事
が、自分に跳ね返って来たからね」
自然消滅ってか、無視し出して、そのまま終わったから、あっちにしたらばれ
たかー、ちっ、くらいにしか思ってないだろうなと思ってたけどな。
「それで、よく考えたら、君にろくにあやまりもしなかった事に気付いて、気が
付いたらさくらちゃんの家に行ってた。そしたら、いないんだもんなぁ…」
苦笑いする。まぁ、実家は出てるけどね。その事…ついでに桜花ちゃんと同居
してる事も知らないか。どうでもいいけど。
「…本当に、ごめん。悪いって思ってる」
私は、応えない。視線を合わせずに、ただ酒を飲む。
謝ったからってどうなるってんだ。要は自分がスッキリしたいだけだろ?そう
やって謝って、こっちが同情してやりゃ、気分良くなって、それでもって明日か
らは私の事なんか忘れるんだ。
…私は、7年経った今でも―――
「さく、え、え!?さくらちゃん!?」
視界がぼやける。気持ち悪い。物凄く、眠い。
「ちょっ、え!?えええっ!?さくらちゃん、どんだけ飲んだの!?」
「えーと、お客様はカルアミルク2杯、カルピスサワー3杯、芋焼酎2杯、当店
特製マムシ酒1杯、シラネケン5杯です」
「飲み過ぎだ――――――!!」
…絶叫する由貴とは対極に、終始笑顔の店員は、どこまでも爽やかなまでに冷
静だった。
その頃、俺はたった一人の人を守れるだけの力が、欲しかった。
「……」
「……」
「……」
何も、言えなかった。
転校してから暫く経ったけど、友達が出来ない。そりゃ当然だろう、全然喋ら
ないのだから。喋れない訳でもない。ただ、何故か言葉が出ないだけだ。楽しく
話そうという気が無いから、何を言ったらいいのやら。
だから、こんな時もそうだった。
何か言わないと、この人、確か…あの人の弟さんだった。えっと、えっと、名
前は…あれ、えっと、岸部さん家の次男だから…
「シローさん?」
「…お前、この状況で言いたい事はそれだけか?」
3人くらいの…多分シローさんの同級生に囲まれて泥だらけになってるシロー
さんは、至って冷静に突っ込んでくれた。
「別に、それだけって訳でも無いですけど…えいっ」
「っわぁああっっ!?」
俺は、掌大の石を思い切り、囲んでいる人に投げ付ける。すんでの所で、避け
た。俺は、もう少し大きめの…あ、いいいものあった。
「どわああああああああああああっっ!?」
「ちょっ…こいつヤバイぞ!?」
すぐ側にあったものを手に取り、振り向いたら、囲んでいる人達は逃げていた。
「…大丈夫ですか?」
「お前、本気でヤバイな」
若干蒼褪めながら、シローさんは言った。
「とにかく、その物騒なもん…放せ」
俺の持つ錆びた鉄パイプを凝視しながら、溜息をついた。
「…大丈夫ですか?」
ごとん、と鉄パイプを放り捨てて、座り込んでいるシローさんに手を差し伸べ
る。が、ぺちん、と手で弾かれる。
「なんだよ、同情でもしてんのか?言っとくけどな、誰にも言うなよ。特に、家
の馬鹿には…っお!?」
寸前で、掌で受け止められる。馬鹿、と言うのが誰を指しているのかすぐわか
ったから。
…不愉快だった。初めて会った時から、自分の兄を見下しているこの人が。自
分だって弱いくせに、あんな必死な人を蔑むこの人に、正直腹が立った。
「なっ…なんだお前!?もしかしてただ暴れたいだけなのか!?」
「……」
俺は、その人を放って帰る事にした。怪我をしていたみたいだけど、知らない。
こんな人、死ねばいいんだ。あいつみたいに。
「…言われなくても、誰にも言いません。話題に出したくもありません。そうで
すね、もし言ったら全財産あげるって約束してもいいですよ」
腹立ちついでにちょっとしたイヤミを。まんまと乗ったのか、シローさんは。
「っんだと!?お前…いくらだよ全財産!!」
「600円です」
ちょっとの、沈黙。ていうか、気になるのそっちなんだ。そして、絶叫。
「スケールのちっさい話だなぁああああぁあああああっっ!!」
守りたい人がいた。
けれど、俺には力が無い。何も出来ない。ただ、守られるしかない。
…そして、守りたい人を守ってくれる人間が、現れてしまった。その人は、大
人だった。俺よりも、守りたい人よりも大きくて、ちょっと…なんていうか、ア
レだけど、絶対に、大切にしてくれる人。
劣等感に苛まれた。
そりゃ、俺はまだ子供だから。歳だって、やっと二桁になった程度だから。
けれど、俺は、俺があの人を―――お母さんを守りたかった。それなのに。
その人は、俺の事も守ろうとしてくれてる。大切に、優しくしてくれる。俺は、
そんな人に対して、悔しくて、無視する事しか出来ない。自分が情けなくて、ち
っちゃくて、大嫌いだ。
その人みたいになりたいのに。大切な人を守りたいのに。思う理想とは、どん
どん掛け離れて行くだけの自分が、そこにいた。
「…ねぇ、大ちゃん!」
「?」
お母さんは、帰って来るなり血相を変えて俺の所に来た。
「ねぇ、今聞いたんだけど、彰ちゃんの弟の孝一くんがまだ帰って来てないんだ
って!大ちゃん知らない!?」
…孝一?
俺は考える。誰だろうか、孝一って。
頭を捻る俺を見て、お母さんは苦笑する。
「そのレベルの認知度なのね…いいわ。お母さん、探すの手伝って来るから、お
留守番お願いね」
そう言って、お母さんは行ってしまった。
俺は中断していたゲームを始める。ちら、と時計を見ると…7時近い。外も暗
い。近所の人が、行方不明なのか。そういえば、彰ちゃんって…
俺は、なんか引っ掛かる。彰ちゃんって、言ってた。誰だっけ、彰ちゃん…彰
ちゃん…あ。
『始めまして、大輔くん。俺の名前は岸部彰一っていうんだ』
でもって、その彰ちゃんの弟…シローさん。孝一っていうのか。で、まだ帰っ
て来ない。そういえば、さっき座ったままだった。
「…もしかして、立てなかった…?」
俺は、慌ててセーブしてリセットボタンを押しながら電源を消す。そしてその
まま走った。
いた。
暗い中で、その人は…泣いてた。
俺より年上の(と言ってもひとつだけど)6年生の男子が、暗い中で、さっき
と同じ格好で、ランドセルを抱き締めて、泣いていた。
「…みんな、探してましたよ」
「っのぇ!?」
シローさんは、驚いてこっちを見る。
「いっ…言ったのか!?」
「いいえ、言っていません。ていうか、孝一君を探してるって言われて、後から
考えたら、ああ、孝一君ってシローさんかって思い出して、来ました」
…なんだろう、やっぱ悲しいのかな。それとも、俺が来た事への安堵感かな?
シローさんは物凄く顔が引き攣っていた。
「歩けないんですよね。おぶって行きますよ。あ、ランドセルは背負って下さい
ね」
そう言うと、俺は背中を差し出す。が。
「どうしたんですか?この体勢意外と辛いんですよ」
「…お前、馬鹿にしてんのか」
「してませんよ、さ、早く」
本当に馬鹿になんてしてないから、即答する。シローさんもこのままでいるの
は良くないと思ったのか、割合素直におんぶ状態になってくれる。
俺は背の小さい方で、シローさんは大きい方+ランドセルだからちょっときつ
いけど…まぁ、頑張ろう。
「やっぱ、馬鹿にしてるだろ」
「…くどいですね。俺はしてないって言ってるじゃないですか」
「だって、俺、さっき…」
ああ、泣いていた事だろうか。
「だって、酷い事されてたじゃないですか。動けなくなっていたじゃないですか。
シローさんスカした人ですから、クラスに友達も味方もいないの丸わかりですし。
そんな状況だったら誰だって泣きますよ」
「…うわぁああーん…」
何故か、素直に泣いてくれた。
でも、素直になる事っていい事だと思う。俺も、そうなりたい。あれだけスカ
していたのに、シローさんって凄いと思う。
―――決めた。
「シローさん」
「っ…だ…だんだよ…」
鼻声で、返事をする。
「俺、シローさんを守ったげます。俺はスカしたシローさんは死ね!って思いま
すけど、今のシローさんは好きですから」
―――誰でもいいから。
自分より弱い人を、守って見せたかった。
それは、一種の…ていうか、そのままか。単なる自己満足だった。
守りたい。ヒーローになりたい。泣いている人を守ってあげたい。その為なら、
俺は―――
「…で、なんでこんな事をしたんだ」
「言えません」
同じ遣り取りを、もう何度しただろう。
夕日が差し込む職員室。呼び出されたのは、もう何時間も前。その間、何度同
じ事を言われ、言って来ただろうか。
シローさんを守ると決めてから数日。一向に改善しない、クラスの人達のシロ
ーさんへの仕打ち。俺は、手始めにボスらしき人のランドセルに、紙袋を忍ばせ
た。ゴキブリで一杯の、紙袋を。
当然、疑いはシローさんにかかってしまった。糾弾されるシローさん。俺は、
責任を取って、自分が犯人である事を告げた。
…でもって、これだ。
ていうか、シローさんが虐められてて何もして来なかったのに、この先生はな
んで俺を責めるんだろう。なんで、一方的に俺だけが?とはいうものの、俺は何
故こんな事をしたか、の理由を言っていない。だって、シローさんとの約束だか
ら。
「なぁ、水沢。先生は怒っているんじゃないんだ。ただ、なんであんな事をした
のか言ってくれないと…」
「ですから、言えません」
かち、と時計の長針が動く。5時になった。
「っ…すいません、あの、水っ沢大輔の、ほっごほ、保護者代理の者ですが」
「え?」
思い切り咽ながら、何故か、あの人が入って来た。俺は予想外の人物の出現で
思考が一時停止した。ていうか、俺の保護者って事は…
「っ、アンタ、俺のお母さんと結婚したの!?」
「えっ…え、えええ!?いや、まだ、え!?ていうか嫌なの!?」
「ていうかお前、まだ諦めてなかったのか!?」
三者三様の叫び。
「うっ…うるさいなぁ先輩!いいじゃん!!俺の将来の夢、意外と実現しそうで
しょ!?」
「将来の夢が『とも子さんの旦那になる』だったな!!好きなら名前を全て漢字
で書いてやれよ!!すげぇ婆さんのイメージになるぞ!!」
…なんだろう、この戦い。俺はもんの凄―――くレベルの低い罵りあいを暫し
凝視していた。視線に気付いたのか、先生は気を取り直して咳をひとつ。