>>157 昨日、言葉もなく三橋を抱き寄せたおばさんの手は震えていた。
幾度となくありがとうと言われても、疾しいところのある俺には居心地が悪いだけだった。
俺はその時々で最良だと思える選択をしてきたつもりなのに、全てが間違っていたんじゃ
ないかという不安が日々強くなる。
じゃあ、俺はどうしたらよかったんだろう?
あれから三橋は親に叱られたのかもしれない。
俺が今さら言うことではなかったが、三橋だって昨日の件については悪いと思う。
だけど──。
「…ごめん、余計なこと言って。俺のせいもあるんだよな?」
「ちが…違う、阿部君は何も」
俺は三橋をじっと見つめた。
「三橋、一回だけ聞いていいか?お前さ、悩んでること、あるだろ?病院とか…行ったり
した?」
真正面からは聞きづらくてなんだか曖昧な言い方になってしまったが、果たしてこれで通
じるだろうか。
三橋はしばらく考えてから首を横に振った。
「…オレ、は、何も覚えてないって、あの人たちに 言った。それだと、困るから 思い
出してほしいんだと 思う。だから、カウンセリング どうして受けないのって、聞か
れた」
「あの人たちとか、思い出せないと困るって…なんだ?」
「えっと、刑事さん」
「それは、カウンセリングとやらを受けたら、お前がいろいろ思い出すだろうって、刑事
が考えてるってことか?」
「…違うかもしれないけど…」
「でもお前は覚えてるし、それについては話したくないと…当たり前だよな」
「オレ、ダメだね。協力しなきゃ、いけないのに」
「お前が無理に話さなくても、捕まった奴が全部喋れば問題なくないか?」
「どうかな…」