SS投稿スレッド@エロネギ板 #5

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1へたれSS書き
エロゲー全般のSS投稿スレです。あなたの作品をお待ちしています。
エロエロ、ギャグ、シリアス、マターリ萌え話から鬼畜陵辱まで、ジャンルは問いません。

そこの「SS書いたけど内容がエロエロだからなぁ」とお悩みのSS書きの人!
名無しさんなら安心して発表できますよ!!

  【投稿ガイドライン】
1.テキストエディタ等でSSを書く。
2.書いたSSを40行程度で何分割かしてひとつずつsageで書き込む。
 名前の欄にタイトルを入れておくとスマート。
3.SSの書き込みが終わったら、名前の欄に作者名を書きタイトルを記入して、
 自分がアップしたところをリダイレクトする。>>1-3みたいな感じ。
4.基本的にsage進行でお願いします。また、長文uzeeeeeeと言われる
 恐れがあるため、ageる場合はなるべく長文を回した後お願いします。
5.スレッド容量が450KBを超えた時点で、
 ただちに書き込みを中止し、次スレに移行して下さい。

過去スレ >>2-

【エロゲ&エロゲネギ板SS保管サイト】
http://members.tripod.co.jp/svssav/
2へたれSS書き:03/05/01 02:00 ID:TYf3AeHo
前スレ【SS投稿スレッド@エロネギ板 #4】
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1036495444/
【SS投稿スレッド@エロネギ板 #3】
http://www2.bbspink.com/erog/kako/1013/10139/1013970729.html
【SS投稿スレッド@エロネギ板 #2】
http://www2.bbspink.com/erog/kako/1006/10062/1006294432.html
【SS投稿スレッド@エロネギ板】
http://www2.bbspink.com/erog/kako/984/984064183.html
【SS投稿用スレッド@エロゲー板】
http://www2.bbspink.com/hgame/kako/979/979813230.html

 意識が眠りから解放され、僕はゆっくりと上体を起こした。
 大抵は、実質上この家を管理する雪さんが起こしにきてくれるが、たまにこうして
ひとりで朝を迎えることもある。あの夏ならばいざ知らず、雪さんの手応えを確かな
ものとして受け止められる今となっては、この状況にはもう何の不安も感じない。
 キッチンでゆっくりと雪さんを待つか、現れないようなら部屋まで起こしに行って
あげればいい。戸惑う要素は何ひとつない。
 いつもの朝。変わらない目覚め。

 キッチンの自席に陣取り、自分で淹れた茶を飲んでいると、軽快な足音が
近づいてきた。
 雪さんにしてはいやに遠慮がなく、花梨にしては足取りが軽い、僕には、この
足音の持ち主がすぐに判った。
 真っ直ぐに僕に向かい、笑顔とともに跳びこんでくるその小柄な人影を想像し、
僕は両腕を広げてそれを待った。
「おはよ〜、透矢ちゃ〜ん☆」
 弾んだ声を乗せて僕の足元にやってくる人影に僕は応えた。
「やあ、鈴蘭ちゃん。おは…」
 顔を向けた瞬間、僕の言葉は途絶えた。まったく予想だにしなかった光景が、
僕を凍りつかせた。
 かぼちゃのプリントがあしらわれた袖の長いシャツと、黒のスパッツに身を包んだ
小柄な体格まではいつもの鈴蘭ちゃんである。しかし、僕に屈託のない笑顔を向ける
その頭は、色素の存在をまったく感じさせない髪と瞳を持っていた。
「ゆ、雪…さん?」
 頭の中を疑問符が跳ね回る。何が起きたのか…?
「えへー♪透矢ちゃん、もうご飯食べた?」
「い…いや、そんなことより、雪さん、その格好は…?」
「何?どうしたの?ボク、いつもこういう服だよ」
 今度は鈴蘭ちゃん、いや、雪さんが首を傾げる。
「透矢ちゃんこそ、なんか変。ほら、今日は出かける約束だったよね?早く早く〜」
 ジャケットの裾を何度となく引っ張られ、起立を促されても、僕には何も出来ず…
「……さん……矢さん」
 どうしたものかと途方にくれる僕に別の誰かが呼びかけてくる。
「透矢さんっ」
 耳に馴染んだ声。これで僕は、自分の置かれている状況を理解した。
「ん……?…あ。おはよう、雪さん」
 心配そうな顔で僕を覗き込んでいたのは、モノトーンのメイド服とヘッドドレスに
身を包んだ、いつもの雪さんだった。
「おはようございます、透矢さん。…それにしても、いったいどんな夢を見てらした
 のですか?そんな目で雪を見ていただけるなんて…」
困惑と微かな愉悦の混じった瞳が僕を捉える。しばらくじっと雪さんを見つめて、僕は
「うん。ちょっと…ね」
 と、それだけ言った。

「…それはまた、楽しそうな夢でしたね♪起こしてしまうのが勿体無いくらい」
 空の食器を持ち、柔らかい笑顔を僕に向けながら、雪さんが言う。朝食の終わり際、
僕が今朝まで見ていた夢の内容を聞かせての反応である。
「雪さんはそうかもしれないけど、こっちは本当にびっくりしたんだから」
「ふふっ…もしかすると、透矢さん…」
「?」
 悪戯っぽい表情。そして、少し頬を染めて、雪さんはさらにこう続けた。
「…昨晩の疲れが残ってしまったのかも知れませんね」
「もう、雪さんっ」
 混ぜっ返すも、それ以上言葉を続けられない。確かに、いやに日を置いての営みという
こともあり、妙に気分が昂ぶってしまったことは否定できなかった。
「…さて、そろそろ鈴蘭さんがやってくるころですね」
 うん、と僕が応えると同時に、玄関のチャイムが鳴り、
「お〜っはよ〜っ☆」
 という声が聞こえてきた。
「あ、雪が出てきます」
 そう言って、雪さんはキッチンを離れ、玄関に向かってゆく。
 それから間もなくのことだった。短い、大きなふたつの悲鳴に続き、ごちっ、という
なにか硬いもの同士がぶつかるような音が聞こえてきたのは。
 異様に長い沈黙が、不吉な想像をかき立てる。居ても立ってもいられず、僕は玄関に
向けて駆け出した。
「雪さん!鈴蘭ちゃんっ!」
 玄関の上がり口と床の上に、ふたりが向かい合ってしりもちをついている。床の上に
雪さんの、そして、上がり口には鈴蘭ちゃんの身体があった。
「ふたりとも、しっかりして!」
 さっきの"ごちっ"はひょっとしたら頭同士がぶつかった音ではないか。そう考えると、
うかつに身体を揺さぶることもできない。なるべく頭に刺激を与えないよう、控えめに
雪さんの頬に数度掌をあててみると、すぐに瞼がゆっくりと開いた。
「いたたた…」
「雪さんっ……よかった、気がついた」
 予想していたような最悪の事態には至っていないことが判り、僕は胸を撫で下ろした。
「ん…ううん…」
 そのすぐ側で、鈴蘭ちゃんが身を起こす気配がした。ふたりとも想像していたより
ダメージは少ないようだ。
「あ…鈴蘭ちゃん、大丈夫だった?」
 雪さんの肩を両手で捕えたまま、僕は鈴蘭ちゃんに向き直る。しかし…
「えっ?…ボクはこっちだよ、透矢ちゃん」
 声は雪さんの身体から返ってきた。
「えっ!?ゆ…雪さん…?」
何が起きたのかを、視覚と聴覚による情報だけでは判別できない状況が続く。
「あ、あの…鈴蘭さん、大丈夫でしたか…?」
 今度は鈴蘭ちゃんの身体から気遣わしげな言葉が出てきた。
 和風住居の玄関に3人。誰もが自分の目の前で起きた事象を理解できず、その場を
ただ、澱のような沈黙が包んだ。
「わひゃ〜〜〜〜っ!?」
 最初に疑問符の呪縛から解放されたのは雪さんだった。…いや、中身は本当に
雪さんなのだろうか?ある可能性が頭に浮かび、僕は別の名前で呼びかけた。
「ど…どこもケガはないよね……鈴蘭ちゃん?」
「うんっ。ボクは大丈夫だよ、透矢ちゃん」
 声は雪さんだが、口調は鈴蘭ちゃんのものである。これってやっぱり…
「あの、ひょっとして、雪と鈴蘭さんが躓いて頭同士をぶつけたときに…?」
 鈴蘭ちゃんの小柄な身体から、いつもの印象とはかけ離れた言葉が聞こえてくる。
…もう間違いない。
「…たぶん、すず…雪さんの推測で合ってると思うよ。まさか本当に起こるとは
思わなかったけど」
 頭同士がぶつかったショックで人格が入れ替わる。漫画では割とメジャーな展開だが、
自分の身近でこんな状況が発生するとは…
「とにかく、解決方法を探る必要がありますね」
 鈴蘭ちゃん…の中の雪さん(以下『雪さん』)が首を傾げ、思案する。
「え〜?そんなに急がなくてもいいじゃんっ☆」
 と、雪さん…の中の鈴蘭ちゃん(以下『鈴蘭ちゃん』)。
「ゆき…鈴蘭ちゃん。普通じゃまず無いようなことがお互いの身に起きているんだ。
すぐにでも正常な状態に戻そうとするのは当たり前の考えじゃないか」
「ふぐ〜…」
 口を『へ』の字に歪め、俯く『鈴蘭ちゃん』。外見はメイド服姿の雪さんのために、強い
違和感を漂わせている。
「入れ替わったときは、雪と鈴蘭さん、お互いが同時に強い衝撃を受けたのですよね?
漫画などでは、やはり同じ程度の衝撃でもとに戻っていますが…」
 推測を言葉にして僕と『鈴蘭ちゃん』に伝える『雪さん』。心なしか、その顔つきに
普段の鈴蘭ちゃんからは見られないような深い知性が覗える。
「…もとに戻る可能性を追う場合としては、最も有力な選択肢だと雪は思うんです」
「うん」
「問題は、雪と鈴蘭さんの精神をどうやってもとの身体に戻すか、なのですが…」
 そこで一度、『雪さん』は言葉を途絶えさせた。
「…もう一度、頭と頭をがつん、ってさせるわけにはいかないの?」
 『雪さん』の説明の合間を縫って、『鈴蘭ちゃん』が訊いてきた。
「その手段は最後の最後、本当に行き詰まったときまでとっておこうと思っています。
それに、すぐに動けるようになったとはいえ、お互いの頭にどんなダメージが残って
いるか判りません。今からそういった行動に出るのは大変危険です」
「だめかぁ…うん、わかった」
 鈴蘭ちゃんにしては、珍しく聞き分けのいい反応が返ってきた。相手が雪さんだから
だろうか?
「…でも、ここでこうして3人、ああでもないこうでもないと考えていても仕方がありません
よね?…どうでしょう、ここは気分転換もかねてちょっと外に出てみては。歩いている
うちに何か妙案が浮かぶかもしれませんよ?」
 どうやら雪さんとしても、状況が変わったからといって屋内に閉じこもっている気は
ないようだ。
「わはー♪ボク、さんせ〜い♪透矢ちゃんは?」
「…う、うん。僕も一度表に出てあらためて案を練ってみるよ」
 鈴蘭ちゃんはもちろんだが、雪さんもどうやら積極的に表に出るつもりらしい。このふたり
と意見が分かれると、最終的にどうしても僕が折れずにはいられない。しかもなぜか、
雪さんと鈴蘭ちゃんのふたりは、こういうことになると妙に息が合った。

 かくして、今後の行動予定が定まった。一種奇妙な組み合わせによる、異様に
長い一日の…。
 最初の波は、家にいる間に訪れた。
 自分の部屋で外出の準備を済ませ、ドアを開けた直後に僕を呼ぶ『鈴蘭ちゃん』の
声が聞こえてきた。
「透矢ちゃ〜ん、こっちこっち〜♪」
 声の聞こえる部屋に足を運ぶ。
「鈴蘭ちゃん、もう準備はでき…うわあっ!?」
 部屋の入口にいた僕の目に飛びこんできたのは、ショーツ一枚に白いシャツを
引っ掛けただけの『鈴蘭ちゃん』の姿だった。
「えへ〜、とうっ☆」
 もとの小柄な鈴蘭ちゃんそのままに、両腕を伸ばして僕に抱きついてくる。しかし、
身体は雪さんのものである。白い肌がもたらす柔らかい感触と、開いたシャツから覗く、
ブラに包まれていない上半身のふたつのふくらみが生々しい。
 無遠慮に身体を密着させてくるために、仄かな温もりがシャツを通して伝わってくる。
昨夜の記憶が鮮明によみがえり、僕は思わず腰を引いてしまった。
「ちょっと、鈴蘭ちゃん、まだシャツ1枚しか羽織ってな…う!?」
「ん…っ♪」
 いきなり『鈴蘭ちゃん』の唇が僕の唇を塞いだ。雪さんの長身によって身長差を克服した
ために思い切った手に出たのだろう。僕が油断していたせいもあるが。
 ふたつの身体がさらにくっつき、雪さんの身体の質感が僕の上体を覆う。すぐに
引き剥がさなければならない、と理性は訴えているのに、身体のほう、特に足の間は
次第に熱を帯びてくる。
 まずい、このままでは…。頭を桃色の靄が漂い始めたとき、不意に唇の感触が消えた。
いやに引きつった表情の『鈴蘭ちゃん』。その視線が部屋の出口に向けられている。
 部屋の出口に『雪さん』が直立していた。
「鈴蘭さん、着替えを済ませていただけますか?時間に余裕がありませんので」
 口もとに笑みこそ浮かべていたが、冷たいほどに落ち着いた口ぶりと、瞳の奥に覗える
敵意のこもった光は、『鈴蘭ちゃん』の動きを止め、僕の身体から離れさせるには十分な
力を持っていた。
 『鈴蘭ちゃん』が着替えを再開させたのを見届けた『雪さん』の表情がいつもの柔和な
ものに戻ったのを確認した僕は、このとき、『雪さん』の服装が見覚えのあるものである
ことに気付いた。
「あれ?雪さん、その服は…」
「はい、透矢さんのお古です♪」
 嬉しそうな『雪さん』の顔。その下の服は、確かに僕が11の頃に袖を通していたもの
だった。長い時を経ているにもかかわらず、新品同然に仕立ててある。
「雪さんって、本当に物持ちがいいんだね」
「透矢さんが身に付けられていた品を、雪が粗末にできるはずがありません」
 そう言って、半ば袖に顔をうずめる『雪さん』。外見が鈴蘭ちゃんであることも手伝って、
幼さを伴なった可愛らしさが仕種ににじみ出ている。
「透矢ちゃん、雪ちゃん、準備できたよ〜」
 白いシャツとジーンズ、襟にタイを通した『鈴蘭ちゃん』が部屋から出てきた。
「あ、鈴蘭さん、ちょっと…」
 すかさず『鈴蘭ちゃん』の襟もとに手を伸ばし、タイの乱れを直す『雪さん』。
「はい、これで準備完了です。…では、出かけましょう」
 僕たちは春の日差しの中へ足を踏み出した。

 市街地へと続く未舗装の道。その途中ですれ違った最初の人影は、黒い短めの
ワンピースと色違いのジャケットに身を包んだふたりの少女だった。
「こんにちは、アリス。今日はマリアちゃんも一緒なんだね」
 よく知っている顔だったので、僕から挨拶した。
「あら、透矢。ごきげんよう。珍しいわね、3人一緒だなんて」
 マリアちゃんを横に従え、挨拶を返すアリス。
「えへー、アリスちゃんおはよ〜♪」
 いつものようにアリスのほうに向かう『鈴蘭ちゃん』。しかし…
「ちょ…ちょっと、雪!いきなり何をするのっ!?」
 狼狽するのも無理はない。なにせ鈴蘭ちゃんの口調で雪さんの身体が抱きついて
くるのだから。
「あ…あの、鈴蘭さん。知り合いとの応対はとくに気を使ってください」
 見かねた『雪さん』が『鈴蘭ちゃん』を止めようとする。
「えっ?…鈴蘭ちゃん、何だか雰囲気が違う……まるで、雪さんみたい」
 マリアちゃんが『雪さん』を見て、そう言った。
「いや、みたい、じゃなくて本当に雪さんなんだけど」
 そのとき、僕の胸元を小さな手が捕えた。
「説明して。いったいどういうことなの、透矢?」
 アリスが詰め寄ってきていた。少し息が荒い。『雪さん』とふたりがかりでも『鈴蘭
ちゃん』を引き剥がすのは骨だったらしい。
僕はここにいたるまでの経緯をアリスに説明した。
「…なるほど」
 話を聞き終わったアリスが腕を組んで、言った。
「最初見たときは、またあなたが何か妙なことを思いついたのかと思ったわ。何せ
"なんでもありの透矢"のやることだしね。雪にしろ、あなたの言うことならそれこそ
何でも聞いてしまうフシがあるじゃない」
 言葉の出所は、おそらく花梨だろう。おそらく、今の状態はアリスの目にはとくに
信じられない光景に写っているに違いない。
「…けど、今の鈴蘭の様子を見れば、あなたの言ってることが嘘じゃないってことは
解るわ。だって、地の鈴蘭には雪の再現なんて不可能だし」
 次第に狼狽は消え、もとのアリスに戻りつつあるようだ。
「とにかく、これ以上、知り合いには会わないように気をつけることね。特に花梨。
彼女に知れたら、あなた、それこそ大変なことになるわよ?」
 この変態、死ねエロ、といった言葉とともに鉄拳を叩き込まれる光景が脳裏に浮かび、
僕は思わず肩をすくめた。
「解った。今日はできるだけ気をつけるよ」
「そう思って、隣町での行動を予定しています」
 僕の言葉を、『雪さん』が引き継いだ。
「賢明な判断ね。さすがは雪。…それじゃ、私たちはこれで」
 アリス、マリアちゃんと離れ、僕たちはバス停に向かった。
11 ◆daMOTOpf1c :03/05/01 02:34 ID:J06s9MOJ
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1051721989/3-10 【ツインフロウ・ラプソディ 前編】

どうも皆様、こちらは2度目の電波放出となります。
今回も『水月』からの投稿となりました。VFB・コミックアンソロジー等で
よく目にする『雪さん×鈴蘭タン』のカップリングに多少の変化を加えて
話を進めさせて頂いております☆

スレ保全が急がれるということで、作成途中のテキストを前後編に分けてお送りします。
12名無しさん@初回限定:03/05/01 21:52 ID:dy24doc+
>>1>>3-11乙!GJ!
             【  10月6日(日) 】

 
 目覚めは雀の囀りと共に。
 ゆっくりと上体を起こして、頭の中にある靄のような眠気を追い出す。
 今日は日曜日。官公庁・学校および一般企業がこぞって休日と指定している日だ。
「……ん〜」
 日曜。それはロマネコンティの芳醇で上品な味わいにも似た甘美な響き。
 ……いや、飲んだ事無いけど。
 そもそも1リットルあるかどうかの葡萄酒に数十万、数百万という馬鹿げた金額を
 喜び勇んで払うような神経などわかりたくも無い。
 どうせ買うなら近所のスーパーで売ってるグレープ味の
 炭酸飲料水1.5リットル(¥330→¥198)の方が絶対いい。量も多いし。
 歴史だって負けてないはずだ……多分。
「ふぁ〜………………………………っと」
 生欠伸を噛み締めながら、壁時計の指している時間を確認する。
 短い方の針が6と7の中間にあった。
 うーむ。日曜だというのに早起きし過ぎだぞ俺。
 これじゃまるで早朝のゲートボールだけが残された最後の生きがいだと
 公言してはばからない60過ぎた爺さんじゃないか。
 この時間じゃテレビも面白いのはやってないし……さて、どうしたもんか。
 夏休みなら近所の公園か学校かに行ってラジオ体操に混ざってスタンプとか
 押してもらうという有意義な時間を過ごせるんだが、今はもう10月、
 つまり秋真っ只中。そうもいくまい。
 そう、季節は秋! 秋といえば……えーと、何だっけ。
「読書とか芸術とかスポーツとか、いっぱいあると思うけど……一つも思いつかないの?」
「馬鹿をおっしゃい。そのようなありふれたマニュアル通りの答えなどこの
 超個性派レボリューショニアー桜井の頭脳には持ち合わせていないだけなのだよ……って、
 当たり前のように人様の住居と脳内に無断進入するな和人」
 いつの間にやら俺の部屋に出現していた小学生は徹夜3日目の漫画家のような目をしていた。
「何の用だ? 小学生が日曜に起きてるような時間じゃないと思うが」
「僕もそう思うよ……ふぁ〜あ〜」
 俺以上の生欠伸。普段とても小学生と思えない言動をつらつらと並べる和人だが、こういう
 無防備な顔もたまーに見せる。こいつがやけに女受けがいい理由の一つなのかもしれない。
「……で、これ」
 涙目を擦りつつ、和人が一枚の封筒を差し出してくる。
「なんだこりゃ」
「さあ? 僕はお母さんから『これを坊に渡してきなさい』って無理やり叩き起こされて
 布団からも家からも追い出されただけだから」
「……」
 世の中に不幸な人々は沢山いる。しかし……いや、言うまい。
「ご、ご苦労だったな。それじゃここで暫く寝て行ったらどうだ?」
「そうしたいけど、今日は9時から約束が……ふぁ〜、あって、寝る訳にもいかないんだ」
「デートか」
「違うよ。瑛と遊びに出かけるだけ」
 それを世間様はデートと呼ぶ事をこの色ガキが知る日は多分近い。
「それじゃ、確かに渡したよ」
「ああ。ちょっと待て」
 徹夜4日目の小説家のような足取りでここを出ようとする小学生を引き止め、
 冷蔵庫まで直行。CMか何かで『眠気をスッキリさせたい缶コーヒー』という
 キャッチフレーズを謳っていたそれを取り出し、和人に渡す。
「効果があるかどうかは知らんが、眠気覚ましに。ほれ」
「ありがと」
 特に抑揚の無い声でそれを受け取った和人は、出て行く間際に
 ちょっと無理して作った笑顔を見せ、足早に駆けていった。
「……さて」
 再び独りとなった所で、俺は和人から受け取った封筒をテーブルに乗せながら
 ベッドに転がり、そのままインターバルの長い二度寝に突入すべく双眸に瞼を被せた。
「言い忘れたけど舞人にい、それの中身はお母さん直筆のメッセージ込みだから、
 うっかり二度寝して読み忘れたとか言ったら凄い事になるよ」
「それはそれはご丁寧に」 
 コーヒーを飲みながらわざわざ忠告しに戻ってきた和人に深々と頭を垂れて、テーブルに
 置いた御封筒様を粗相の無いよう丁寧に開ける。
 和人の言う通り、一枚の手紙―――適当に破ったメモ帳が入っていた。
『おはよー坊。早速だけど、今日の朝部屋を掃除してたら……あらはー、こーんな
 面白い物が見つかっちゃったー。って訳で坊に一枚渡しておくわねー。言っとくけど、
 折角の贈り物を捨てたり無くしたり燃やしたりしたらロクでもない事になるからねー』
 和観さんの相変わらずな文章が綴られた手紙に付属されていた物は―――
 1枚の写真だった。
 こ、これは……これわぁぁっ!?
「何てこった……よりにもよってこんな不発弾を日曜の朝っぱらから……」
 こんな朝早くに目が覚めた理由が何となくわかった。おそらくは予兆。
 それも最悪の部類の。
 すっかり眠気が飛んでいったこの瞬間から、受難の日々は幕を下ろした。

16名無しさん@初回限定:03/05/01 22:13 ID:ic/7TPc8
>11
こっ・・・これは・・・たまらぬ。激しくシチュにハァハァ
              【  10月7日(月) 】


「おいーっす……って、どうした?
 日曜の朝に近所で工事を始められた時の寝起きみたいな面してるぞ」
「おはよーっ……って、どうしたの?
 女装の趣味が部下にばれちゃった何処かの部長みたいな顔してるけど」
 陰鬱な気分で登校した俺を待っていたのは、下々の俺の身を案ずる心配の声……とは
 程遠い、割と的確な指摘だった。
「いや……常日頃笑顔を振りまいて周りの皆をハッピーな気分にしようと心がけてる
 ヒューマニストな俺でもたまにはアンニュイな気分に浸りたい事もあるのさ。
 L&G、心配してくれるのは嬉しいが放っておいてくれないかい?」
 憂いを含んだ男のフェロモン満開な表情を作りつつ、山彦と星崎にそう告げる。
 いや、実際ツッコまれたく無いんだ、今回の件は。何せ……。
「あっそ。あ、そういや二時間目の数学の課題早くやんねーと」
「私の見せてあげよっか? 間違ってるかもしれないけど」
「おー! マジで?」
 ……そりゃ放っておけとは言ったけどさ。淡白過ぎだよあんた達。
「待て貴様ら。この泣く子も笑うラテンの道化師がカリブ海より深く落ち込んでいる
 というのに、大して気にも留めてないような素振りを見せるのはどういう事だ」
「放っておけっつったのはお前じゃんか」
「ばっ、お前な……こういう時の『放っておけ』はイコール『もっと聞いて!
 もっと俺のこの苦悩を内包した渋みある表情の理由を問いただしてくれ!』だろうが。
 気の利かない奴らだな全く」
「さくっち子供ー」
「黙れ女。俺の心はナイーヴを主成分として形成された硝子の少年型ハートなんだよ。
 貴様らの醜く汚れた曇りガラスと一緒にするな」
「わーったわーった。で、何かあったのか?」
「いや何も」
 保身本能による条件反射発動。
「……」「……」
 親の敵でも見るかのような目で睨まれた。
「……はよー」
「あ、八重ちゃんおはよーっ。さ、相楽君。あっち行こ」
「そうだな。あー、さっきの話なんだけど、数学の課題見せてくれる?」
「いーよー勿論。誰かさんと違って素直なのはいい事だよねー」
 取り残される俺と八重樫。秋にしてはやけに冷たい風が窓から吹き付けてきた。
「……秋ってさ、寂しい季節だよな。木の葉が一つまた一つと落ちていく度に
 命の儚さとかを感じずにはいられない」
「……」
「そういや人の夢って書いて儚いって読むんだよな。昔の人は上手い事言うよな、全く」
「……さくっち」
「何だい? このポエマー桜井に詩の一つでも作ってもらいたいとか? 言っとくが
 俺の詩は安くないぞ。無論値段以上の感動を保障するからこその高利経営なんだが……」
「私、今、女の事情で機嫌極悪」
「私が悪うございました。もう話しかけませんのでお許しください」
 女心と秋の空。空がこんなに青いから、君の心も超ブルー……byポエマー桜井

 余談だが、とても値段の付けられそうに無いその詩を文芸部の連中に聞かせて
 みたところ、失笑、嘲笑、冷笑などを頂いた。天才とは孤独なものだ。

 禍々しい空気を身近に感じつつ、今日の授業を受け終える。夏休みを終えて随分経つと
 言うのに脳ミソは未だ学業を受け入れる体制を拒み続けているのか、内容に関しては
 一切の妥協を許さず忘却の彼方へ。ま、別にいいんだけど。
 なんて事を思いながら帰りの身支度をしていると、山彦がにじり寄って来た。
「秋だな」
「何だその唐突な切り出しは。いや、確かに今は秋だ。しかしそれを今更俺に言って
 どうするつもりだ? まさか『ガチンコ! 秋に因んだ物限定しりとり』でも
 始めようという魂胆か。まあお前にしては健全なテーマだし受けてやってもいいぞ。
 先行は俺な。それじゃえ〜と……『秋刀魚』」
「勝手に話を進め過ぎだ……でもま、あながち間違いじゃないな。
 『ま』か……『松茸』なんてどうだ?」
「だろうな。洞察力の鬼という異名をポンギのチーマーから頂いた捜査一課見習いの
 俺としては当然の事だ。じゃ『毛糸』」
「なるほど、冬に手編みのマフラーだかセーターだかをプレゼントする為に
 秋から用意をする乙女心を理解した深いワードだな……うむむ」
「なにしてるのー?」
 山彦が気の利いた言葉を思案している途中、気さくなプリンセスがふわふわと光臨した。
「秋について語り合ってる最中だ」
「食欲の秋とか? そうそう、私の今月のテーマは『クレープ強化月間』なんだよ。
 その為に夏休みは頑張って働いたんだから」
 今まで以上にクレープ尽くしの生活にしてどうするんだ……? クレープ王にでもなる
 つもりなのか。いや、クレープ王女か。プリンセスなんだし。待てよ、
 クレープの女王の方が語呂がいいか? って、どうでもいいな……こんな事。
「強化月間って言うとあれか? 秋なのにクレープシャツを着てクレープペーパーで
 ラッピングされたクレープを食べたりするのか? こう言っちゃなんだがアホっぽいぞ」
「あーっ、誹謗中傷したー」
「忠告だ。あんまり間隔あけずに食べると太るし飽きるし
 無駄に金銭を浪費するし、いい事無いぞ」 
「むー……さくっちにしては的を射た忠告」
 星崎は期待はずれな若手芸人を見る某新喜劇の観客のような冷めた目線を送ってきた。
「と……と……ときょうそう……『徒競走』! そうだ、スポーツの秋にちなんで
 徒競走……って聞いとけよ」
「まだやってたのか? 言っとくけど制限時間は十秒だぞ。つー訳でお前の負けだから
 明日までにテクノカットにしてこい……いや、微妙に似合う可能性があるからやっぱやめ。
 そうだ、大五郎カットにしてこい。ロナウなんとかってサッカー選手もやってただろ」
「勝手にルールを追加していくな。 つーかそこまで覚えてるなら後一文字ぐらい覚えとけよ……」
 そう言われてもサッカーにはそれ程興味ないしなあ。
 牧島辺りならそいつの使ってるシューズの名前とか言えそうだが。
「スポーツの秋かー……さくっちは何かスポーツとかやってるの?」
「愚問だな。この鍛え抜かれた形跡が欠片も無い標準バディを前にしてそんな事を聞くとは」
「確かに……」
 星崎は期待はずれな若手選手を見る某ディービル大会の観客のような冷めた目線を送ってきた。
「俺とて幼少時は糸で吊った五円玉を目の前で左右に揺らされながら『あんたはやれば
 出来る子よ』と毎日のように言われ続けた期待のホープだったんですが、
 神童は大成せずというジンクスに打ち勝つ事が紙一重で叶わず現在に至っているのですよ」
「はいはい。それじゃ元神童現死んどうの桜井舞人君に提案なんだが、
 今月を『秋満喫月間』に指定しないか?」
 山彦はやっとこさ本題を言えたというような充実感を顔に出しながらそんな事を提案してきた。
「あーっ、まねっこー」
「へ? 星崎さんも秋満喫月間中?」
「こいつの場合はただ一点『食欲』にのみ特化した月間なんだと」
「違うよーっ! 『クレープ強化月間』だもん。人をいやしんぼみたく言わないでよ」
 別に大した違いでもない気がするが、大層お怒りの様子のプリンセスに
 油を注いでもしょうがないので沈黙。
「と、とにかく。舞人、俺はお前の将来が心配でならないんだ」
「いきなり脈絡無く失礼な事を言わないで貰おうか」
「時間はあるのにバイトはしない。社交性はあるのに友達はいない。運動オンチでも
 知能が低い訳でもないのに部活にも入ってない……このままじゃお前は堕落する一方だ。
 言ってみれば今のお前はダメ人間の幼虫がサナギになろうと固まり始めた段階だ」
 山彦は人の話も聞かんと熱弁を振るう自分に酔っている。
 一応部活には入ってるんだがな、誰かさんの誘惑を受けて……やめとこ。
 それを言ったところでどうなる訳でもないし。
「つー訳で、選べ」
「……何を」
「秋と言えば、幾つかあるだろ? 〜の秋って感じで。その中から一つチョイスして
 今月はそれをやり尽くそうと言ってるんだ。あ、俺個人が推奨するのは『恋愛の秋』な」
 そんな訳のわからん秋は初耳だが……そうだな。面白そうなイベントも文化祭までは
 特にないし、山彦の提案に乗ってやるのも悪くない。
「それじゃ食欲の秋って事で、今からクレープ屋に直行! ってのはどう?」
 クレープの女王が私利私欲にまみれた意見を発した。
「生憎だが今月は色々と物入りなんで貧乏だ。却下」
「えーっ。だったらバイトとかすればいいのに」
「貴様のようにこの世で最も希少価値の高い『時間』というオリハルコンを、食欲のみを
 満たして消えていく物の為に浪費するなんて……俺には考えられない」
「ひっどーい! そんな大切な『時間』を『怠惰』という自堕落タイムとしてじゃんじゃか
 捨てていってる人にそんな事言われたくなーい!」
「なんだとっ! 適当に生きてない男NO.1を10年連続達成してそろそろ殿堂入りが
 検討され始めているこの俺が自堕落なんてしてる訳が無いだろーがっ。おっと、ついでに
 抱かれたい男の方もずっとTOPだって事はここだけの秘密だぜベイベー」
「ありえない」
「なにっ!? このハ行ハンサム流を会得したハンサム侍を捕まえて何という暴言!
 おのれ女、そこになおれっ!」
「だって、ありえない。ありえなさすぎ。某会社の漂白剤がまっくろくろすけになって
 商品名を正反対にするくらいありえない」
「うがーっ!」
「……どうでもいいが、痴話喧嘩は他所でやってくれ」
「「そんなんじゃありません」」
 山彦の見当違いなツッコみに二重奏で反論した。
「「……ふんっ」」
 そして同時にそっぽを向く。
「相変わらず仲いいな、お前ら」
「うるせ。あー、とにかく食欲の秋は却下だ。別のがいい」
「そうか? なら……」
「待て。お前に選ばせるとロクなのにならん。俺が決める」
 さて、どうしたもんか。
 食欲以外の秋っつーと……芸術、読書、スポーツぐらいか。
 芸術……は悪くないが、絵描いたり壺作ったりとかしか思いつかないな。
 何か専門の道具とか要りそうだし、何より面倒だ……無理か。
 読書は……問題外だな。オチまでの経緯がはっきり見える。あそこには近付くまい。
「となると、残りはスポーツだけだな」
「なにが『となると』なのかは知らんがスポーツでいいんだな? そんじゃ何をするか
 決めようぜ。テニスとかどうだ?」
「うむ、この貴族刑事こと桜井舞人に相応しいスポーツだな。
 しかし俺はラケットを持ってないし買う気もないし借りるツテもないので却下だ」
「ンな事言ってたら道具使う種目全滅じゃんか」
「ふん、どうせ貴様の事だ。星崎や八重樫をついでにとか言いつつ誘って、
 きゃつらのテニスウェア姿、あわよくばスコートを見ようって魂胆なんだろ?
 うわ、なんてエロガッパだおい」
「ててて、てんめー! ふざけた事言うんじゃねーよ!」
「おいどうする星崎? こいつお前の擬似パンチラを見ようと……」
「……」
 姫君は邪眼を携えておいでだった。
 まだ怒ってるのかよ。ま、本気でキレてる訳じゃないみたいだし放っとけばいいか。
「よかったな山彦。貴様のリピドーに侵食された魂の言霊はこいつには届かなかったらしいぞ」
「いつ俺がそんな罰当たりな言霊を発信した……」
 呆れ顔というより少々お疲れ気味な感じで山彦がため息をついた。
「……それじゃ道具を使わないスポーツを考えてみるか。カバディなんかどうだ?」
「もはやマイナーとも言い難いからインパクトに欠ける。却下」
「マラソンは?」
「好き好んでやらなくても体育の授業でいつかやるだろ」
「なら組体操」
「一人扇なら体得済みだ」
「……んじゃ、ボーリング。道具使うけど借りれるし」
 もっとも妥当、というか妥協しまくった意見が出た。それなりに建設的なのがなんか悲しい。
「でも微妙に金かかるしなー。スポーツってイメージじゃないし……そうだ、
 卓球なんかどうだ? 卓球部に一面借りて」
「お、中々いい意見じゃないか。だけど貸してくれるもんなのか?」
「何とかなるだろ。よし、星崎。お前も来い」
「来い……って、え? え?」
 俺はカボチャの馬車となってプリンセスを体育館まで引っ張っていった。

「……と言う訳で、どーーーーしても卓球がやりたいから台を一面、ついでに人数分の
 ラケットとボールも貸してくれ、とウチのプリンセスが仰ってるんだが」
「ノープロブレム。ここは君達のパルティアさ。誰かがエトランゼと宣ったなら遠慮なく
 僕に言いつけてくれ。直ちにニルヴァーナへ左遷してやるともさ」
 俺の差し出した”星崎希望の使用済み割り箸”を卓球部部長の城金やすし(17)は
 両手で受け取った。ちなみにその割り箸は以前星崎と『米粒拾いレース』をやった際に
 星崎が使用した物を拝借したという代物だ。
 そんな事実を知るはずも無い城金君とニッコリ微笑み合いつつ、商談は成立。
 こうして俺達は体よく放課後の遊戯場を手に入れた。
「……いいのかなあ」
「いいんだよ、喜んで使わさせていただきますって部長自ら言ってるんだから」
「そうそう。ところで、出来ればもう一人女の子が欲しいよな。そうすりゃ男女混合
 ダブルスが出来るし」
 軽く素振りをしながら山彦が呟いた意見はもっともだ。三人、しかも女一人じゃ
 何かと都合が悪い。
「八重ちゃん呼ぼっか?」
「いや、あいつはやんごとなき事情で暫くイベントには参加出来ないんだ」
「ふーん……」
 あえて理由を聞いて来ないところに、女の勘の鋭さを知った。
「という事で星崎、八重樫以外の女子を誰か呼べ。一人でいいぞ。女が三人そろうと
 視姦されるからな」
「友達ならいるけど、卓球しようって言って飛んでくる友達はいないよ」
「なんだそりゃ、友情のキャッチボールといっても過言じゃない卓球という
 お手軽スポーツメントに足を運べもしないで何が友達だ。そんな役立たずどもとは縁切れ」
「つまり、『星崎さんの友達は俺だけで十分だ』と言いたいのか?」
「ばっ……お前な山彦、さっきから見当違いの指摘ばっかしてるぞ」
「へー、そうなんだ」
 山彦の言葉を真に受けた星崎が意地の悪そうな微笑を向けてくる。
「さくっちは独占欲旺盛なお年頃〜♪」
「違う」
 何故かご機嫌麗しゅう状態のプリンセスに必要最低限の語数でのツッコミを試みたが、
 当の本人は意にも介せず意味不明な自作の歌を3番ぐらいまで歌っていた。
「……で。山彦、お前女の知り合い多いだろ。一人ぐらい余裕で調達できるんじゃないか?」
「知り合いならいるけど、卓球しようって言って飛んでくる奴はさすがにいないぞ」
 役立たずどもは所詮役立たずか。期待した俺が馬鹿だったようだ。うーむ、
 そうなると……残るは俺か。
「あ、大丈夫だよそんな困った顔しなくても。さくっちには誰も期待してないから」
「そうだぞ。誰も妖怪ダチナシに女の子を連れて来いなんて非道な事は言わないから安心しろ。
 小判とか出さなくていいからな」
 ……えらい言われようだな。ここまで言われると寧ろ清々しい気分だ。
 それはともかく、女でノリが良くて来いと言えばすぐにでも来れそうな奴……いるな、一人。
「マジレスして悪いが、一応一人心当たりがいる」

 携帯を取り出し、心当たりに電話。奴はすぐに出た。
『どうしたんですかせんぱい? せんぱいが雪村に電話をくれるなんてどのような
 非常事態が……まさか世界に3杯しかないと言われる魔法のミルクティー『ロイヤル
 クラウンZ』でも発見してそれを雪村にプレゼントしてくれるとか……え? 卓球?
 わかりました。せんぱいの為ならこの雪村、例えこれからバイトに直行しなければならない
 時間であっても愛する人の為に殉職する覚悟です。では三十秒でそちらに駆けつけますので』
「……と言う訳ですぐにこっちに来れるそうだ」
 携帯を折りたたんでポケットに入れながらそう告げると、山彦は何故か嬉しそうな、星崎は
 何故か不機嫌そうな顔をしていた。
「俺は嬉しいぞ。お前が女を調達するなんて光景が見られるとは」
「そそそそんなんじゃありません! 後輩に世の中の縦社会構造を教えてやってるだけです!」
「……その割には鼻の下伸ばしてるけど?」
 さっきまで機嫌よさ気だった星崎が再び邪眼で睨みをきかせてくる。
「だからなー! 何でおれが雪村なんぞに」
「雪村なんぞに……何ですか?」
「どわぁ!」
 突然背後から聞こえてきたもう聞き飽きた筈の声に思わず心臓が跳ねてしまう。
「は、早いな雪村」
「はい。うまくも安くもないのでせめて早さだけはと思いまして」
「……」
 なんかえっち臭いな、と思ったのは俺だけだろうか……。
「あー、やっぱり鼻の下伸ばしてるーっ」
「ののの伸ばしてません! そ、そんな事より卓球やるぞ卓球! ほら雪村ラケット」
「はい」
 様々な疑惑の視線を無理やり掻い潜りつつ、ようやくスポーツの秋らしい体裁が整う。
 で、当初の予定通り男女混合ペアのダブルスで試合をする事になった。ペアは俺と雪村、
 山彦と星崎。初対面であろう雪村と山彦を組ませる訳にもいかんしな。
 ……決して星崎の忌諱に満ち満ちた妖気にびびってる訳じゃないぞ。
「なー、どうせ勝負するんだったら何か賭けないか? その方が絶対盛り上がるし」
「あ、賛成ー」
「雪村はせんぱいにお任せです」
 ギャンブラー俺こと俺が反対する筈もなく、山彦の意見は受理された。
「じゃ、敗者は勝者の言う事を何でも一つだけ聞くって事で。もち出来る範囲内でな」
「OK」
 かくして欲望と打算にまみれた健全さと対極にある『第1回チキチキ! 素人だらけの
 卓球大会』の開幕と合なった。

 ……ポコン……ペコン……パキン……ペチッ……ポトッ
「ああっ」
 雪村のショットが相手コートを捉えられずアウト。
「よっしゃ! これで9−6な」
「くっ……またしても妙な回転かけやがって」
 ルールは一般的なダブルスのそれで、11点制・必ずペアと交互で打つというもの。
 素人ばかりだからスマッシュ等の華やかな技はなく、女二人は山なりの返球ばかりだから
 盛り上がりに欠ける上に身体を動かしている実感がない。
 そんな中、山彦だけがせこい回転系ショットを操り、ジワジワと点数を離されていた。
「すいませんせんぱい。雪村がだらしなく不甲斐ないばっかりに……」
「そんな事はない。おのれ山彦、いたいけな年下の女の子相手になんて大人気ない」
「なっ……ちょっと切るぐらい別にいいだろ」
「あんな妖怪ヘラヘラ(年中婦女子相手にヘラヘラする軟派妖怪)の言う事なんて気にする事
 ないよ相楽君。ギッタギタにして一年分のクレープ奢らせてやるんだから!」
「ンな天文学的金額を俺が持ってる訳ないだろが! つーか持ってたら貴様らごとき下賤の者と
 卓球なんかするか! おしゃれなバーで貴婦人達とロゼワインの必要性について優雅に
 語り合うっちゅーねん!」
「くきぃーっ! 小憎たらしい事言ってーっ!」
 とか何とか星崎と俺が言い合っている内に山彦がドサクサ紛れのサーブを打とうと
 しているのを俺は見逃さなかった。
 さすが俺! 野鳥の会もびっくりの観察眼!
「くらえ! 不意打ちじゃないぞ他所見してる方が悪いんだサーブ!」
「甘ーい! 他所見してるしてると見せかけて実はちゃんと見てんだレシーブ!」
「ちぃっ! 星崎さん頼んだ!」
「……」
 カッ
 その時、俺達は伝説を見た。
 無言で放った星崎のスマッシュは、こちら側のコートの角を超高速でかすめ、そのまま
 体育館の壁までフライヤー気味に飛んでいった。
「す、すげぇ……全日本選手以上のスマッシュだ」
「毎日練習してる俺達でもあんなの絶対打てねえよ……怪物だ」
 周りで見物していた卓球部員のレギュラー組がガタガタ震えていた。無理もない。
 あんな打球あり得ねー……。
「せんぱいぃ……あんなの取れませんよ。それに星崎先輩、なんか打つ時にスポーツ精神と
 かけ離れた敵意込みでこっちを睨んでる気が」
「むう、まずいな。何故かわからんが星崎の奴セブンセンシズでも目覚めたかのような
 覚醒っぷりだ。このままじゃ向こうの外道な要求を雪村が甘受している様を
 黙って見てなくてはいけない事態になってしまう」
「うわぁ、人数合わせで無理やり呼びつけた後輩に罰ゲームを全部押し付けようと
 してるー、かっこいー」
 これでスコアは10−7。まずいな、マッチポイントじゃねーか。しかも星崎が
 トランス状態だし……このままじゃ負けは必至。
「ちょっとタンマ。作戦タイム」
「おいおい、そんなルールないぞ」
 そう非難する山彦だったが、口とは別にボディーランゲージで本音を訴えてきた。
                 (以下通訳)

『そんな悪足掻きはいいからとっとと負けろ! はっきり言って今の星崎さんの近くには
 いたくねーんだ!』
『何をー? 無類のフェミニストで『フェミニーサガラ』ってブランドを立ち上げるのが
 将来の夢だと公言してはばからない貴様の台詞とは思えんぞ』 
『馬鹿な事言ってないで早く負けろって本気で。
 お前が負けて彼女の欲求を飲めば機嫌も回復するだろうよ』
『大人しく軍門に下れと言うのか? 馬鹿を仰い。この勝利の雄叫ビスト桜井舞人の辞書に
 敗北の文字はない。敗亡の次の字は這坊子(はいぼこ)だ。
 ちなみに這坊子ってのは「はいはい」をする頃の赤ん坊の事を言って、
 セミの幼虫が地中から出てまだ脱皮する前のものを指す事もある』
『そんな一生使う事のない言葉の意味なんてどうでもい・い・ん・だ・よ! とにかく、
 どうしても作戦タイムを取りたいってんなら星崎さんの機嫌を直してくれ!
 怖すぎて喋りかけられないし、かといってダブルスの手前離れる事も出来ないから
 地獄なんだよ! 今!』
『知るか。女へのおべっかはお前の得意分野だろ。日頃鍛えたナンパ師のありとあらゆる
 テクニックを駆使して自己解決しろ』
              
               (身振り言語の訳 終了)

「という訳で五分後会おう」
「舞人ぉーっ!」
 俺は雪村をつれて体育倉庫へ向かった。

 カビ臭い上に埃まみれでキノコとか生えてそうな倉庫の中に入る。
「せんぱいせんぱい、これすごいですよ、形はシメジなのに紫色の細かい斑点がびっしりと。
 今日鍋を作る予定なんですけど、これを入れてみたらどうなるでしょうね」
「それは面白いな……と言いたい所だが、そんな毒々しいもの闇鍋でも使えないだろ。
 確実にオーバーフードだっての」
 体育の授業ででも使ったのか、薄汚いマットが丸められずに床の上に放置されている。
 流石にそこに座る気にはなれず、二人とも立ったままの会議となった。
「さて、雪村。このままじゃお前はあの淫靡ジブル『ヤラヒコ』とクレープまみれの
 女王『ゾンビ』にケツ毛まで毟り取られかねん。そこでだ……ん、どうした?」
「わ、私……ヶッ毛なんて生えてないっしょや!」
 雪村は真っ赤っ赤になって尻に毛が生えている事を否定した。確かに女、しかも下ネタに
 弱いこいつに言う事じゃなかったな……俺も少し混乱してるのかもしれん。
「わ、悪かった。とにかく! このままじゃ負けるから勝てるように作戦を練ろう。つーか練れ」
「すいよすいよー」
「寝んな!」
 スパン! と景気よくスリッパでツッコみたかったが生憎身近に
 そのような物は無いので無難に手で叩く。
「いったぁーい、どっちですかもぉー。あんまりどっちつかずだと幾ら温厚で優女な
 雪村でも仕舞いには反抗期突入ですよプンプン」
 何か別の事を指摘されてそっちを非難されてるような気がしたが、
 ここは敢えて気にしない事にした。
「そうだ雪村。お前怪我した事にしろ。たしかここまでゲームが進行したら
 ゲーム成立ってのは決めてないから、上手く言いくるめればノーゲームになる事間違いなしだ」
「怪我した真似っこですか? うーん、我がクラスの片桐さん―――あ、個性派女優志望の子
 なんですけど、彼女だったら上手にこなせるでしょうけど……自信ないですキッパリと」
「なーにを軟弱な事を。大丈夫だって、ちょいと足を引きずればあの女性崇拝家が
 勝手に心配してくれるって」
「うわぁ、怪我した真似なんてキングオブ軟弱な事を考え付いた挙句にそれをやらせようと
 してる後輩を軟弱呼ばわりー、かっこいー」
「じゃ、そゆことで。一回ぐらい捻挫とかした事あるだろ? あの時の歩き方を思い出せば
 無問題無問題。ホレ、ここでやってみ?」
「はあ、では」
 雪村は右足首を捻挫したという設定にしたらしく、左足を一歩前に出して右足を
 引きずるようにして引き寄せて見せた。
「おお、上手いぞゆきむー。これでお前も立派な女優だ」
「へへー、せんぱいに褒められちゃった。てへり」
 そう呟いて嬉しそうに頬の肉を弛緩させる。それがいけなかった。
「あれ……あ、あ」
 ついでに全身の筋肉も緩んでしまったらしく、バランス悪く支えられていた
 雪村の身体が大きく傾く。
「あ、あ……あーれー」
「おおっ?」
 色々な方向に右往左往したベクトルが、意図的かどうかは定かではないが
 俺の方へ一直線に向く。
「うきゃん!」
「どわわっ!」
 ズドーン! という大きな擬音こそしなかったものの、二人揉み合うように
 マットに倒れ込んでしまった。俺が下で雪村が上。
「あいたたた……すいませんせんぱーい」
「いや、別にいいけど……ん?」
 あらかじめ言っておくが、俺は武道の達人ではない。
 あと気とか操ったりもしないし少年漫画の主人公でもない。
 しかし、それでも、このまるで周りの空気を歪ませるかのような
 威圧感たっぷりの殺気は感じ取れた。取れてしまった。
 ごごごごごごごごごごごごごご……
「体育倉庫……二人っきり……マット上で絡み合う……」
 もはやプリンセスと呼ばれた頃の面影は塩酸にでも溶かしたかのような
 邪悪な声がぶつ切りに聞こえてきた。
「ま、まて、のぞぴー。違うんだこれは。お前が思ってるようなそんなふしだらな行為に
 没頭なんてしてないぞ」
 ……って、なんで浮気が見つかった亭主みたいな言い訳してんだ俺は。
 アホらしい。別に彼女でもない人間に他の女とイチャイチャ……はしてないけど、
 そういう風に見られたからって何をビクつく必要がある?
 男のプライドと威信にかけて、ここはビシッ! と言ってやらねば。
「こら、そこの脳みそフライング女(ビシッ)」
「何ですか?(ギョヌリ)」
「いえ、何でもないですすいませんごめんなさいもうしません」
 男のプライド・威信はフライド・チキンと化していた。
「……あのー、あんまり理不尽な怒り方で喧嘩を売るとせんぱいキレちゃいますよー?
 怖いですよーせんぱいがキレると。子供の頃私をメスブタ扱いしたゴロツキどもを
 鰐顎拳で全治4年の重傷を負わせて海外の病院送りにした話はウチの田舎では
 有名な伝説なんですよー。いいんですかー」
 雪村が変なテンションで割り込んできた。ちなみに体勢は転んだ時のまんま。俺も。
「あらすごーい、でもそんな心配は無用じゃないかな。
 今のさくっちは女の子に手をあげるような最低男とは違うものー」
「そうですわねー。でもせんぱいは優しいだけじゃなく男らしさも兼ね備えておいでですから、
 必要とあらば正義の名の下に鉄槌を下す事だってあるかもしれませんよー?」
「ふーん、例えば口うるさくて馴れ馴れしい後輩にとかー?」
「いいええ、きっと独占欲丸出しのヤキモチ焼きな同級生にだと思いますわー」
「えー、今時そんな女の子いるー? ありえなーい」
「そうですねー、おほほほほ」
「あ、あわわわわ……」
 明らかに一触即発の空気が俺の胃をギューっと締め付ける。竜虎相打つとはこの事か。
 いかんぞ、いかん。このままでは俺の知り合い同士に確執が生まれてしまい、
 事あるごとに俺に火の粉が飛び掛りかねん!
「き、君たち、喧嘩はいくない。ここは一つ冷静になってだな……」
「さくっちとは話してないの!」「せんぱいはすっこんでてください!」
「……キャイーン」
 負け犬は黙って身を小さくするのみ。そう思って微妙に身体を縮めようとしたその時、
 俺の手に弾力ある感触が……。
「きゃああっ!? せ、せんぱいダメですよいけませんよ、そんな人前で胸に触れるなんて」
「わっ、す、すまん。不可抗力だ。つーかずっとこのままの体勢でいたから
 微妙に末端神経がしびれて……」
「きゃん! そこは……」
「え!? ち、違うぞ、わざとじゃないぞ。本当だってば!」
 俺は二人の女子の顔色を伺いつつ本気でそう言ったのだが、星崎は全く聞いてそうになかった。
「くききーーーーっ!!」
 姫ご乱心。見境なしにその辺にある物をスローして来た。
「わっ馬鹿やめろっ、危ないって」
「うるさいうるさいうるさーい!」
 チリトリ、バスケットボールやバレーボール、ラケットカバー、名も知らぬ器具……
 様々な物が俺と雪村に襲い掛かってくる。
 その中に一つ、動体視力から脳へ危険信号を伝達する物があった。壊れたハードルの欠片。
 あれはまずい、俺はいいが雪村に変な当たり方をしたら……って、そういう軌道じゃねーか!
「危ない!」
「えっ?」
 俺はとっさに、ほとんど反射にまかせて雪村を押し退けた。
 ビシッ! という大げさな擬音はしなかったが、手の甲に少しだけ痛みが走る。
 まあ、悪くない当たり方だと思う。
「あ……」
 ちょこっとだけ血が滲んだ俺の手を見て、星崎が我に返った。
「ご、ごめんなさい! 私、私……」
「狼狽るな、このくらいで。かすり傷もいいとこ、皮がちこっと捲れた程度だよ」
 実際そうなのだが、怪我させてしまた本人はそうも言ってられないらしく、
 なんか泣きそうになってる。
 雪村はというと、俺の怪我の心配というより放心状態のような顔をしていた。
「……せんぱいに助けられちゃった……身を挺して……」
 ……ま、いいか。
「と、とにかくだな、いざこざとかはよくない」
 このまま上手くまとめに入れば話は収まりそうだと踏んだ俺は、ゆっくりと
 立ち上がりながらこれから話す内容を頭の中で高速編集する。
 都合のいい事に真似じゃなく本当に怪我したし(怪我と言うほどのものでもないんだが)、
 これはもしかしたら八方上手く収まりそうじゃないか?
 そう思ったのが間違いだったと気付いたのは、立ち上がった後で
 余計な一歩を踏み出した瞬間だった。
「俺達は平和の国に生まれーーーっ!?」
 足元にあったラケットカバーをモロに踏んでしまい、滑り、コケる。
 しかしここで運動神経が卓越しまくりの俺は無様に転んだりはしないんだなー。
 とっさに右手を出して身体を支える!
 ビキッ
「ぐわあああぁぁぁっ!?」
 肘を伸ばしきった状態で全体重が右腕にかかってしまった。
 これは……いかん。やっちまった。
「うおお……素直に受身をすべきだった……」
「さ、さくっち? さくっちーっ!?」
「せんぱい!?」
 桜井舞人、右腕肘関節損傷(全治1週間)。

              【  10月8日(火) 】


 教室のドアを左手で開けると、室内の視線が一斉に俺の方へ集中するのを感じた。
「いやー、アイドルは辛いね。入室しただけでクラスの視線を独り占めなんて。
 任しときな。老いてしまった今も尚少年○とか名乗ってる身の程知らずな
 グループとは違ってこの桜井舞人、いついつまでも君たちに変わらない美貌と
 至高のエンターテイメントを提供し続ける愛の伝道師となろうじゃないか。ふふっ」
 見られる快感に酔いつつ、ドアを開ける為に一度床に置いたカバンを拾って自分の席へ向かう。
「……おい」
「何だ山彦、そんなに俺のスター性が妬ましいか? 所詮凡庸の塊でしかないお前には
 一生背負えないカリスマだから諦めるんだな。もっともスターはスターで苦労も多いんだがな」
「いや、学生服の上から包帯巻いてる奴が突然現れればそりゃスターにもなれるけどよ、
 どうせ一日署長もいいとこだぞ」
「何を戯けた事を。この俺が一発屋だと言うのか? いや、俺は一発屋を否定はしないけどな。
 この不況の中一発当てるだけでも十分な才能の花火だ」
「そんな事より、その包帯取れよ。あまりにも無意味だぞ」
「……確かに」
 小学生の頃、クラスで一番目立たない輩がある日骨折して腕を吊って来てヒーロー扱い
 されていた事を思い出し、怪我してる事が皆にわかるよう学生服の上から肘の辺りを
 包帯でグルグル巻いてみたが……その効果は意外と薄かった。
 もっとチヤホヤされると思ったんだが……。
 それにあー、なんだ。星崎がこれ見ていらん事を気にする可能性もある。
 それを考えると、取っておいた方が賢明なのかもしれない。
「やれやれ、折角コンビニで買った200円の包帯がもう用無しか」
「予備に取っとけよ。服の下にも巻いてるんだろ? 全治1週間つったら結構な怪我なんだし」
「まーな。肘曲げたらすっげー痛いんでテーピングしてるんだけど、おかげで
 肘曲げられないから寝返りも満足に出来ん」
 その所為で寝不足だったりする。
「右手だしなあ。色々不便だろ? ノートは取れるのか?」
「手首は動かせるから、何とかなるかも。やってみるか」
 右肘を伸ばした状態で着席し、左手で筆記用具を取り出す。それを机に並べてノートを開く。
 そして右手にシャーペンを……シャーペンを……。
「……取れん」
「もうちょい身を引け。椅子ごと後ろに」
「おお、そうか」
 普通なら肘を曲げて手首の位置を調整するんだが、肘が曲がらない現状では体全体を
 動かして手首の位置をコントロールしなければならない。だりぃな……。
「しかしこれだとノートに書いてる間ずっと身体を後ろに傾けなきゃいかんぞ」
「……だな。後ろの席の人にも迷惑がかかるし、大人しく左手で書いた方がいいんじゃないか?」
 席替えの結果、一学期俺の真後ろにいた八重樫が真ん前に来た。つまり俺の後ろは
 特に親しくない学生Aと言う事になる。あの猫娘似の釣り目女ならともかく、
 さすがにシャイで人見知りの激しい俺には学生Aに迷惑をかけるなんて出来ない。
 山彦の言う通り、左手で書くしかないか。
 いや……待てよ。
「お前のノートをコピーすればそれで済むじゃないか。
 わざわざ不慣れなサウスポーで大量失点する必要もあるまい」
「今月は貧乏じゃなかったのか? 全教科一週間丸ごとコピーじゃ塵も積もれば、だぞ」
「……確かに」
 しかたない、普段隠している秘密兵器、幻の左に陽の目を見せる日が来たと言う事か。
「この一週間で俺は世界を制してしまう。左を制するものは世界を制するからな。
 この若さで森羅万象を掌握する事になるとは甚だ不本意だが仕方あるまい。
 恨むなら体育倉庫……」
 にあるラケットカバーを恨めよ、と言おうとした時。
「……」
 どんよりとした雨雲のような空気をまとった星崎がいつの間にか登校を果たしていた。
「……あ、あの」
「いや、違う。恨んでない恨んでない別に何も恨んでないぞ。だからお前は何も気にすんな」
「う、うん……」
 雨雲が全く晴れないその表情でそう言われてもなあ。
 実際問題、星崎に非はない訳で。こいつが投げたラケットカバーがたまたま
 俺の足元に落ちて、それを俺が勝手に踏みつけて滑って転んで変な手のつき方して
 怪我した訳なんだから。
 ……あらためて反芻してみると間抜け極まりないな。
 こんな怪我で俺はクラスのアイドルになろうとしてたのか……。
「あの、あのね。私のノートでよければいくらでもコピーして。勿論御代はこっちでもつから」
 随分気前のいい事を陰鬱な顔で言う星崎。そんな負い目バリバリで言われても、
 こっちとしては『イヤッホウゥゥゥ! ラッキィィィ! お世話になるぜ子猫ちゃん! 
 ヒュウウ、ヒュウウウウ!』なんて言える筈もない。
「いや、大丈夫だって。左手で書けばノープロなんだから」
「そうそう。ダメだよこいつを甘やかしちゃ。その内エスカレートして『おい女、
 そのリボンをよこせ』とか『何色の下着はいてるんだい? ハァハァ』とか
 言い出すに決まってるんだから」
「ンな童貞臭い要求なんてするかボケ!」
「童貞だろ? お前」
「どどど童貞じゃありませんっ!」
 話が下の方に流れていった所為か、星崎は表情こそそのままだが僅かに顔を赤らめていた。
 ここで星崎が『本当は童貞なんでしょ?』とでも言えば一気に場が
 明るくなるってもんだが、さすがにそれはノーマル状態の星崎でも無理だ。
 つーかそんな下ネタトークに積極的に絡むプリンセスはいや(らし)過ぎる。

                ≪キーンコーンカーンコン≫

 何か最後が肩透かしっぽいチャイムの音。HRが始まる。
「とにかく、余計な事を気にしなくていいから」
「あ……」
 俺は星崎の顔を見ずにそう告げ、左手でノートに試し書きを始めた。ま、何とかなるだろ。
 他人に見せるものじゃないし。
「……余計な事、じゃないもん」
 何か星崎の声が聞こえたような気がしたが、気にしない事にした。

 悪戦苦闘しつつ放課後を迎える。慣れない左手での筆記に普段の倍以上の疲労感を覚えた。
 おかげで内容に関しては以下略。
「八重樫、悪いが古典のノート見せてくれないか? ちょっと書きそびれた部分があるんだ」
 これまでの俺なら書きそびれても別に気にも留めないんだが、左手だから
 書ききれなかったと山彦や星崎に思われるのが癪だった。それに、二学期は
 真面目君になると誓ったからな。
「……」
 まるでウツボの目が意外と可愛い事を知ったかのような驚愕の顔を一瞬見せた
 八重樫だったが、すぐに冷めた表情に戻って無言のままノートをよこしてくる。
 うーむ、相変わらずローの時はひたすらローな奴だ。こいつの中には1速と5速しか
 ギアがないんだろうな、きっと。
 取り合えずちゃっちゃと自ノートを補完し、八重樫に返す。
「サンキュ。女の事情は暫く続きそうなのか? 大変だな」
「や、ま、いつもの事だから。んじゃさくっち、ノートレンタル料300円明日までに
 用意しといてね。あでゅー」
「何っ!? 高すぎっつーか金取るような事かよ!」
 八重樫は冗談なのか本気なのかどっちでもいいのかよくわからない台詞を残し教室を出て行った。
「よー、ノートちゃんと取れたか?」
 代わりに山彦が出現。予想通りの事を聞いてきた。
「まあな。この順応星出身の俺にかかれば不慣れな左手でも一瞬にして恋人気取りだ」
「そうか。なら俺のノートを見せる必要はないな。書ききれなかった場所とか
 あれば……と思ったんだが」
 な、なにぃぃぃ!?
「……うわぁぁぁん! 僕の300円を返せーっ!」
「な、何だよ? お前が遠足に持っていく菓子を間違って食ったりはしてないぞ」
 世の中親切が仇となる事はよくある事で。山彦がわざわざこんな事言わなければ
 こんな損した気分にはならなかった訳で……。
「まあいいか。さて舞人、今日は何の秋を満喫する?」
「……まだやるのか?」
「そりゃ月間って設定だからな。せめて三日坊主までは辿り着こうぜ」
 やたら低い目標設定に嘆息しつつ、俺は肘の曲がらない右腕を上げて山彦に見せる。
「うわ、なんかキョンシーみたいだな、その手の動き」
「微妙に古い例えを……とにかくだな、こんな状態じゃスポーツも芸術も無理だ。
 つー訳で秋満喫月間はやめ」
「そうか……」
 山彦は心底残念そうな顔をしていた。なんか俺が悪い事したような気分にさせられるが、
 怪我と言う大義名分がある以上主導権はこっちにある。
「じゃ、俺は右肘を治療すべく渡米してダイ・ジョーヴ博士と
 面談せねばならない身なんで、お先」
「お待ちなさいな」
「……何だハングドアイズ。帰ったんじゃなかったのか?」
 先程法外な金額を要求してきた地上げ屋八重樫が早速取り立てにやってきたらしい。
「い、言っとくけどな、あんな大金払う気はないからな。どどどうしても払えというなら、
 うう訴えてやる!」
 ここでポイントの整理を。
 1.桜井舞人は10年に1人のハンサムで、女性の視線を独り占め状態だった。
 2.桜井舞人は品性良好でユーモアもあり、人から恨みをかう人物ではなかった。
 3.八重樫つばさはそのやっかみでノートを貸す代金として300円と言う
   法外な要求をして来た。
 4.ノートを借りたのは事実である。
 さて、我が法律相談所の誇る最強弁護士軍団の見解はいかに……!
「や、あんな冗談を真に受けなくてもいいから」
「冗談。冗談だとっ!?」
 その割には八重樫の声のトーンはいつになく低い。機嫌悪いのは知ってるが……。
「さくっち、ゾンミに何かした? 本物のゾンビみたいな顔して廊下をフラフラ彷徨ってるけど」
「……いえ、何も」
 あの 責任感バカ、まーだ気にしてるのか。
「とにかく、ゾンミがあんなに落ち込む理由は身内の不幸以外ではあんた以外に
 考えられないんだから、どうにかしなさい」
「いや、だから」
「負傷箇所を撲殺されたくないでしょ?」
「キャイン」
 八重樫に負け犬の返事をして、俺は廊下へ。奴の証言通り、そこで星崎の姿が確認できた。
「あら桜井ちょうどいい所に。人手を捜してたのよ。さー来なさい、いいから来なさい」
「え、あ、あれ? あれれ〜?」
 いきなり現れた眼鏡のひと(声で判明)に襟首を掴まれ、俺は星崎に話しかける間も
 与えられずそのまま図書室へ連行された。
「あ、桜井君久しぶりー」
 図書室はがらんどうとしており、人っ子一人見当たらなかった。
「ところでひかり姐さんや、そろそろ襟首から手を話してくだせー。
 チアノーゼの兆候が現れ始めてるんです」
「あら本当。顔が毒々しい紫色になってるわね……ナスの肉詰めみたい」
「桜井君、桜井君ってば」
 姐さんの首絞めから解放された俺は、久しぶりに酸素を満喫するべく大きく息を吸い込む。
「ごほっゲホッがはっグプッ」
 吸い込みすぎて咽てしまった。
「あーもう、お子さんかあんたは。ほらゆっくり息吸ってー吐いてー」
「だ、大丈夫? 桜井君?」
「ゴホゴホッ……ふーぃ、死ぬかと思った。
 三途の川が思いの他短い事を初めて知りましたよ。あれは多分10cmないな」
「三途の川が三寸だったら奪衣婆と懸衣翁も楽な仕事でしょうね。
 はいはい、下らない駄洒落はもういいから手伝ってね」
 ぐっ……人を一山100円のミカンみたいな扱いしやがって……いつか犯しちゃる、このアマ。
 いや、犯しませんよ実際には。ンな下らん復讐劇で人生終わらせたくないし。
 にしても、怪我人に対する扱いとは思えんな、全く。失礼しちゃう。
 ……そうか、ひかり姐さんは俺が怪我人だと知らないんだ。やっぱ学生服の上から
 包帯巻いとくべきだったか。
「……うー」
「あれ、里見先輩どうしたんですか? そんな思いっきり背伸びして。あ、取りたい本が
 上の方にあるんでそれを取る為の屈伸ですね。それなら俺がとってやりますよ。
 でもいつの間にここに来たんですか? 入って来る時に声かけてくれればいいのに」
「ううーっ! 声かけたもん!」
 里見先輩は何が不服なのか、目に涙を溜めながら非難の声を上げてきた。
「桜井君! 人を無視するのはよくないんだよ? 無視される人の気持ちを考えた事あるの?」 
「は? いや、無視なんてしてませんて。だって俺がここに来た時先輩いませんでしたやん」
「いたでしょっ!? ちゃんと声かけたしちゃんと正面にいたもん!」
「あー……すいません、視界の外だったみたいで」
 などと余計な事を言ってしまう俺。言ってから後悔しても遅かった。
「そんな事言うとマダガスカルの人に怒られるんだから!
 『体に罪のある者はだれもいない。ほんとうの罪人は言葉に罪のある者だ』って!」
「仰るとおりです。申し訳ありませんでした」
 一応誠意をもって謝罪する。マダガスカルに知り合いなんぞおらんが、
 言ってる事はもっともだ。
「わかればいいのよ。今後慎むようにしなさい」
「はあ」
 何か言葉の節々にお姉さんぶりたいという魂胆が見え隠れしているが
 あえてツッコむ必要性は感じなかったので黙っておく。
「ところで桜井君、秋といえば読書だよね。我が文芸部も読書強化月間中って事知ってた?」
「いや、初耳もいいとこですが……」
 今更強化するまでもなくここは読書好きの巣窟なんじゃ……あ、でもないか。
 特にあの二人は……あれ?
「そういや佐竹先輩と宇都宮先輩が見当たりませんね」
「あー、二人とも先生から呼び出されて……」
「……いや。それ以上の説明はいいです」
 里見先輩の声のトーンがどんどん沈んでいく様から全て推測できた。
「そ、そう? それじゃ二人の分まで桜井君が読書強化月間に貢献してくれると嬉しいな」
「え゛……」
 先輩が懇願するような目で俺に訴えかけてくる。くっ、卑怯だ。ここで断ったら俺は
 いたいけな子供を泣かしてしまうのと同様の罪悪感を背負ってしまう事請け合いじゃないか。
「……わかりました」
「うんうん、本を読むのはとってもいい事だよ。活字は想像力と表現力と思想形成の宝庫
 なんだから。それじゃ私、お勧めをいくつか見繕って来るからちょっと待ってて」
 里見先輩のお勧めか……どうせ児童書とかシェークスピアとかゲーテの詩集とかなんだろうな。
 ま、いいけど。
「こだまと何話してたの?」
 ひょっこりと現れたひかり姐さんが興味津々と言う面で聞いてくる。
「先輩の親御さんは新幹線マニアかどうかという話です」
 面倒なので適当に答えておいた。
「なーにそれ? 名前がこだまだから新幹線マニア? 安直さっ」
「安直さ?」
「安直+くさっで安直さっ」
 アホくさ……。
「でもこだまって名前珍しいじゃないですか。他には突然陣痛が来て新幹線内で
 出産したから……って理由ぐらいしか思い浮かばないし」
「そうね……乗客にたまたま助産婦のおばあちゃんがいたりして、乗員乗客全員から見守られて
 無事出産、鳴り止まない拍手の中若い二人は命の尊さを初めて知るのでした……って展開なら
 勢い余ってその新幹線の名前を子供につける可能性も無くは無いわね」
「でしょう? そういやひかり姐さんも新幹線の名前ですね。うわー、偶然ですね」
「あら本当。それじゃ私の両親も新幹線マニアか新幹線出産を経験したって事かしら」
「そうかもしれませんねー。はっはっは」
「あはははは……ちょっと失礼」
 ひかり姐さんは図書室から出て、コソコソと携帯を取り出しどこかに電話をかけていた。
『あ、お母さん? 私の名前って誰がどういう理由で決めたのか教えて。え?
 そんな事を何で突然聞くのかって? そんなのいいから』
 ひかりと言う名前は別に新幹線とは関係なく結構ありふれた名前だと思うんだが……
 キップのよさの割には意外と心配性なんだな、姐さん。
 しかし新幹線の名前か……待てよ、俺の知り合いの女の名前ってことごとく……。
 いや、気にすまい。たまたまだ、たまたま。
「うーっ……」
 頭を振って妙な勘繰りを消去していると、ちっこい先輩の唸り声が聞こえてきた。
 声のする方に言ってみると、ちっこい人が脚立の上から頑張って最上段に手を伸ばしていた。
 脚立使っても届かんのか……脚立が低すぎるのか、先輩が低すぎるのか。
「先輩、代わりましょうかー?」
「別に……大丈夫だから……」
 足を震わせながら必死で高い所に手を伸ばす様は、夢に向かって足掻いている先輩の
 人生の縮図のように見えた。邪魔しちゃ悪い。何となくそう思った。
 いや、決してさっきからチラチラ見えているおパンツを鑑賞する為じゃないですよ?
 ほ、本当ですよ?
「……何か変な視線を感じるんだけど」
「木の精です」
「そっか、紙は木材を機械処理してパルプにしたものが材料だもんね」
 どうにか誤魔化しが成功した。成功するのもそれはそれで問題な気もしたが。
「あ、あとちょっと……なんだけど……」
 先輩が手を伸ばすたびにスカートも上がって……うひょ。
「……やっぱり変な視線を感じるんだけど」
「自意識過剰もいいとこです」
「そ、そうかな……」
 さすがにこれ以上のピーピングは無理っぽいな。ここまでにしておこう。
 薄いピンク色を十分堪能した事だし。 
「……何してるのあんたら」
 両親に名前の由来を聞き終えたのだろう、姐さんが何処かホッとしたような表情でやって来た。
 しかしその顔がすぐに歪む。いやらしく。
「桜井、随分いいポジションにいるのねー。丸見えじゃないの? そこ」
「ばっ、余計な事を……じゃなくて、そんなガセネタ言うんじゃありません!」
「ま、丸見え? 丸見えぇぇぇっ!?」
 脚立の上で狼狽しまくりの里見先輩。当然、脚立は揺れバランスを崩す。
「さささ桜井君! あなたって人は!」
「ちちち違います、いや、違わなくもないんですが、いや、違うんです!」
「そこに直りなさい! 正座でお説教2時間コースを……わ、わわっ」
 絶望的な角度に揺れた脚立の足が床から離れたのは、それから百分の一秒後だった。
「あ、あ、あーーーっ!」
「どわあああ!?」
 ズッ……ドーーーーーン!
 いくらちっこいとはいえ人一人と脚立の体重が重力加速度によってパワーアップされた
 状態で襲ってくるのだから、そんなもん支えられる筈もなく。
 俺は明らかに痛みと腫れを生じている左手首を見ながら、割と冷静に今後の事を考えていた。
 桜井舞人、左手首捻挫(全治1週間)。

              【  10月9日(水) 】


 朝。別に台風が来てる訳でもなく、大雪に見舞われている訳でもない、至って普通の朝。
 しかし少なくともこれから一週間は俺にとってかつてない試練タイムだ。
 目が覚めて、ボケーッとしたままテレビのリモコンに手を伸ばす。それを右手で取り、
 自分の身体の方に引き寄せ……
「ぐあっ!?」
 のた打ち回る。昨日の夜テーピングを巻き忘れた……じゃないな、巻けなかったんだ。
 なにしろ左手も使えない有様だ。
「……」
 おおよそ思い付く朝の娯楽を全て諦め、洗面所へ向かう。
 取り合えず顔を洗って歯を磨かないとな。
 まず歯を磨こうと手を……ダメじゃん。
 仕方ない、顔を洗おう。水道の蛇口を伸びきった右手で捻り水を出す。
 洗面台に勢いよく水飛沫が舞い、清々しい朝を演出。
 そして顔を洗おうと手を……ダメじゃん。
「……」
 仕方なく洗面器に水を貯め、顔だけ突っ込んで上下左右にシェイクした。
 そして壁にかけておいたタオルに顔をこすり付ける。これでどうにか
 顔だけは洗えた……気分にはなった。
 さて、次は着替えだな。昨日は悪戦苦闘の末、制服だけ脱げてTシャツと
 トランクスって格好で寝たんだっけ。未だ残暑が居ついている為、この格好でも
 別段寒くはないから助かったと言えば助かった。
「……うーむ」
 脱ぎっぱの制服を9秒眺めた。そして悟った。無理だ。羽織るだけならともかく
 ボタンを留めるのは物理的に不可能。
「仕方ないな……」
 まずズボンを足だけで履く。ベルトはこの際締めなくていいだろう。Yシャツのボタンも
 締めずにそのまま着こなす。ちなみに袖は通してない。その上から制服を羽織る。
 ちなみにこっちも袖は通さない。ネクタイは首にぶら下げた。
「よし、完璧!」
 出来上がりを確かめるべく鏡の前に立つ。
「なんてアウトローなんだ……ダイナ舞人アーミーここに誕生といったところか」 
 自身の姿に見惚れそうになるのをグッと堪えて、俺は学び屋と言う名の戦場へ赴いた。

「……何の冗談だ? 酔いどれ中年サラリーマンの寝起きでも表現してるのか」
「馬鹿な事を。このニヒルでワイルドな中にも見え隠れするそこはかとない
 芸術性と上品さが汲み取れないとは、お前の目は蟲穴か」
 登校して即座に目を丸くしながら話しかけてきた山彦をしっしと追い払い、
 手に振動が来ないようゆっくりと着席する。
 脇に挟んだカバンを机の上に置いたところで、今度は真ん前の八重樫が目を丸くしていた。
「左手までやっちゃったの?」
「まあな。さすがに『超絶大王・肉便器マン』と名乗るだけあって超絶に手強い相手だった。
 無傷では勝てんなと悟った俺は敢えて左手を差し出し、奴の口の中で
 爆発系の呪文を……いや、ちょっとした事故だ」
 超絶大王・肉便器マンの口の中で爆発を起こした様を想像した瞬間、
 俺の脳は続きの緊急回避を決行した。
「へー、それじゃ今日は右足をやるんだ」
「……何故そうなる」
「だって呪われてるとしか思えないし。一日毎に四肢を失っていくさくっち……
 ああ、何て可哀想〜♪」
 八重樫はミュージカル風に言葉だけの同情を謳った。つーか女の事情はどうした。
 もう復活かよ……くそっ。
 黙れ女と言いたい所だが、最近の不幸っぷりを鑑みるに、確かに呪われているのかもしれん。
 原因は……アレだな、絶対。アレが俺の手元に来てから怪我続きだし。
「でさ、ノートとかどうすんだ? さすがに両手が使用不能じゃどうしようもないだろ」
 追い払った筈の山彦がまだそこにいた。
「まあな。と言う訳で山彦、ノートのコピー頼む。コピー代がもったいないが
 さすがにそうも言ってられんし」
「あ、それだけどな」
 山彦は皆まで語らず後ろをチラッと眺めた。そこにいたのは、
 まだ申し訳なさげなオーラを発している星崎希望。
「あ……あのね、コピーなら私が全部やるから」
「いや、でもな」
「いーから舞人、ここは星崎さんの顔を立てろって」
 そう言いながら山彦は俺の首を羽交い絞めにして、耳元に顔を寄せて来た。
「彼女のいいようにさせろって。じゃないといつまでも沈んだままだぞ」
「そ、そうか?」
「もうちょっと女心を勉強しろお前は」
 などと余計な一言を残し、山彦が俺を解放する。ったく、相変わらずの世話焼きたがりめ。
「……」
 星崎は少し顔を赤らめながら、こっちの出方を伺っている感じだ。
 その様子を八重樫が冷めた目で眺めている。
 な、なんか俺が星崎を苛めてるような空気になってるんだが……
 ええい、頼ればいいんだろ、頼れば。
「そ、それじゃお願いしていいかな?」
「!」
 驚きと喜びを同時に内包したような表情でこっちを見るプリンセス。くそ、何か照れくさいな。
「……えへへー、それじゃ仕方ないなー。頼まれちゃいます」
 妙に嬉しそうにそんな事を宣う。ツッコもうかとも思ったが
 どうも野暮くさいので止めておいた。
「えっとね、それでね……他にも」

              ≪キーンコーンカーンコーン≫

 どうやら修正されたらしいチャイムの音が星崎の言葉を遮った。
「それじゃ、頼むな」
「あ……うん」
 何か言いたげな星崎だったが、結局そのまま自分の席へ戻っていった。

 恙無く学業を追え、放課後。
 さて、どうしようか。などと思っていると、ぐぅ〜という腹の蟲の泣き声が鼓膜に響いた。
「……そういや昨日から何にも食ってないな」
 なにしろ手が使えない訳で、食事を取る事がこの上なく億劫なのは想像に難くない。
 そんな訳でずっと俺の胃は暇を持て余していた。
 しかし許せ、胃。この不甲斐ない右手と左手では満足にメシをかっ込む事も出来ぬ。
 すまん、胃。今の俺じゃ君の粘膜・平滑筋層・漿膜、そして胃腺に仕事を与える事が
 出来ないのだ。不況不況不況。バブルももはや死語となった今日、悪いのは誰だと
 嘆いてみても誰も振り向きはしないんだよ。
 ……なんて言ってる場合じゃないな。何か食わんと餓死しちまう。
 このままでは桜坂のファンタジスタが八つ墓村のたたりじゃあ〜だ。何とかせねば。
「さくっちー」
「何だ甘味処の召使い、ノートのコピーの件か? 今更クレープ買うお金が
 無くなっちゃうからやっぱやめー、なんて言われても困るぞ」
「そんな事言う筈ないよ。そうじゃなくて……」
 何故か赤面気味な姫君。なんだ? 俺って見るだけで恥ずかしくなる程
 みすぼらしい格好してるのか……してるな。朝からそのまんまだった。
「あ、この格好か? いやな、最近の流行はラフ&ガンってファッション雑誌に
 乗っていたのを昨日たまたま立ち読みしてだな」
「え? ううん、そうでもなくて……」
 ガラガラガラ!
「せんぱいせんぱい、左手まで怪我したって本当ですか!? ああおいたわしやダーリン、
 雪村を身を挺して庇った、雪村を身を挺して庇ったばっかりに。でももう大丈夫です!
 この雪村、不肖ながら負傷したせんぱいのありとあらゆる身の回りの世話を
 やらせて頂きたく上級生のクラスに紛れ込んできました!」
「不承」
「な、なぜですっ。この雪村の医療看護能力をお疑いですか? 私にかかれば心残りが
 『笑点の次の司会者は誰でしょうねえ』という孤独死直前のおばあちゃんでも
 滞りなく昇天出来る事請け合いですよ……って、あれ?」
 突如乱入してきた雪村を冷酷に拒んだのは俺ではなく、
 さっきとは全く違う目つきの星崎さんでした。
「……雪村さん、でしたっけ? いきなり出てきてけたたましく喚くのは
 他の人たちの迷惑になるから止めた方がいいんじゃないかなー」 
 星崎怖っ! 親しくもない人間にこんな事言う奴じゃないのに……どうしたんだ?
「あらー、星崎先輩じゃないですかお久しぶりです。昼休みですから
 多少騒がしい輩が飛び込んできても大丈夫ですよきっと」
 一昨日顔を合わせてるのに久しぶり……なんか雪村も怖い。
「そうかしら。ほら、さくっち困ってる顔してるよ?」
「そんな事ないですよ。付き合いの長い、長い付き合いの私にはわかります。
 せんぱいは雪村を庇って怪我をしてしまった訳ですから、
 せんぱいの専属ナースは雪村であるべきという顔をしておられるじゃないですか」
「えー、ありえなーい」
「おほほほほ、御為倒しを」
 先程まで和気藹々としていた教室がシーンと静まり返る。クラス全員が
 この剣呑さに驚き慄いている様が手に取るようにわかる。
「ね、修羅場? これって修羅場?」
「知らん」
 ただ一人、八重樫だけが新大陸でも見つけたコロンブスのような顔をしていた。
 精神を疲労骨折しそうになりながらそっぽを向くと、視界におずおずと
 ドアの隙間から進入してくる人影が入ってくる。
「あのー、すいません、桜井舞人君はいらっしゃるでしょうか……?」
 里見先輩だ。その声と姿は言うなれば火に飛び込んでくる油だ、と思った。なんとなく。
「ここです」
「あっ、桜井君。左手は大丈夫? 昨日はごめんなさい、私の所為で……」
 里見先輩は元々小さい身体をさらに小さくして教室に入ってくる。
「いや、あれは近年稀に見る自業自得の模範例ですから。海より深く反省しております、ペコリ」
「そ、そんな。だって私が怪我させちゃった訳だし、私が悪いよ。
 確かにルソーは『最大の災害は自ら招くものである』って言ってるけど、
 それとこれとは話が別だし」
 誰もルソーになんて聞いてないんだが……いくら名言とは言え
 会った事もない人間の言葉など胸に響きはしない訳で。
「それでね、お詫びにダ・ヴィンチのシュークリーム……って言っても貰い物なんだけど、
 これをお裾分けしようと思って」
「は、はあ。それはわざわざご丁寧に」
 ダ・ヴィンチと言うのはさくら通りにある洋菓子店で、シュークリームやアップルパイが
 美味いと評判の店だ。特にシュークリームは甘さ控えめで上品な味付けとあって
 男にも人気が高い。
 シュークリームなら手を使わなくても食える。家畜のような食い方になるが、
 この際贅沢は言ってられん。胃、ようやく君たちに仕事を与えられそうだよ。
「……」「……」
 俺がありがたくシュークリームの入った箱を受け取ろうと伸びきった右手を
 差し出すと同時に、殺気にも似た鋭い視線が二組襲来してきた。
「受け取るんだ。その人の申し出は素直に受理するんだ」
「その女の子の言う事は素直に聞けて雪村の言う事は聞けないんですか。そーですか。
 せんぱい、もしかして……おとぎの国の住人ですか?」
「訳のわからん事を。この人は俺より年上だぞ。貴様らより遥かにお姉さまなんだ」
「あはは、せんぱいにしては珍しく直球のジョークですね。でもそういうのを間に
 挟む事で普段のシックでシニカルなボケが一層際立つんですね。緩急って言うんですよね、
 こういうの。雪村また一つ学ばさせていただきました」
 雪村が俺の言葉を信用する気配は全くない。いや、気持ちはわかるが……。
「わ、私は最上級生ですっ! ネクタイだってほらっ!」 
「え……あ」
 タイの色で雪村はようやく事実を認識したらしい。先輩に無礼な言葉を働いた事より、
 目の前のちびっ子と思っていた人間が上級生だと言う事実に呆然としている感じだ。
「……さくっち」
 星崎がすがる様な、哀れむ様な目で話しかけてくる。
「ごはんとか、どうしてるの? 両手とも怪我してるんじゃちゃんと食べられないんじゃない?」
「あー、まあそうなんだけど。けど大丈夫だろ。昼は食わなくても死にはしないし、
 夜は……青葉ちゃんにでも頼むし」
 ピ シ ッ 
 まるで致命的な何かにヒビが入ったかのような、そんな音が聞こえた気がした。
「青葉ちゃんに……?」
「頼む……?」
「え? な、何か問題が?」
 幽鬼が二匹、獲物を捉えたかのようにゆらりとこっちに近付いてくる。
「青葉ちゃんって、桜井君の恋人?」
 だーっ! 余計な事言うなちいさい人!
「恋……人?」
「ちちち違いますっ! 隣人です!」
「せんぱい、やっぱりおとぎの国の……」
「だから違うと言ってるでしょうが! 青葉ちゃんには日頃からお世話になってるから
 頼みやすいんです!」
 芸風と違うシャウト系での対応に追われる。なんなんだ、なんなんだこの展開は!
「……ううっ」
 突然奇妙な声が真横から聞こえてきたので目をやると、
 山彦がハンカチで目くじらを押さえていた。
「舞人が女性問題……それも複数の女性との修羅場でてんやわんやしてるのを
 この目に焼き付けられる日が来るとは……我が人生最良の日かもしれない」
「阿呆か。お前の人生は他人の不幸を最良と呼ぶほど薄っぺらいのか」
「やはり日頃からの俺の努力が実を結んだと言う事か。
 継続は力ナリ。コ○助はいい事を言ったもんだ」
「それはコ○助が言ったんじゃないと思うけど、まあいいか。
 ヤマ、気持ちはわからないでもないよ。私も感慨深いものがあるし」
「わかってくれるか」
「こんな楽しい時間は久しぶり。女性問題なんてさくっちのキャラじゃないとこがまたなんとも」
 他人事だと思って、貴様ら……。
「や、他人事だし」
「うわぁぁぁん! 人の心を読むなよぉぉぉ!」
「あ、逃げた」
 俺は半ば強引にこのなんとも表現しがたいグラビティ地獄から脱出する事に成功した。
 いろいろあって、放課後。
 俺は非人道的な連中からからニヤニヤした顔でかわれたりする前にどうにか学校からの
 脱出に成功。八重樫の言う呪いの効果もなく、どうにか現状維持のまま帰宅の途についた。
 さて、これからどうするか。
 まずはメシをどうにかしないとな。先輩から貰ったシュークリームを動物食いした所で
 補給された栄養はたかが知れてる。
 この手じゃ買い物もままならないからな……やはり青葉ちゃんに頼むか。 
「おにいちゃん、いるー?」
 何というグッドタイミング。ドアを叩きながら発せられた可愛い声に、
 俺は満面の笑みで出迎えようと小躍りしながら玄関へ向かった。
「やあ青葉ちゃん、実は今まさに君の事を考えていたのだよ。実はお願いがあってね」
「はいはいわかってますよ。任せておいてください、
 この雪村にかかればどんな頑固な汚れも雪のように真っ白に! 
 あ、柔らかくするのは使ってませんよー……あいひゃひゃひゃ」
「 な ん で き さ ま が こ こ に い る 」
 青葉ちゃんより前に立っていた小娘の頬を右手で伸ばす。無論肘を伸ばしたまま。
「なんでって、随分な物言いですね。愛するダーリンが困っているんですから、
 愛してるハニーが救いの手を差し伸べるのは至極当然、
 どこの国の恋愛小説を見てもそう書いてありますよ」
「愛なんていらねえよ」 
 俺は一流気取りの俳優気分でそう言ってのけたが、雪村の顔に何ら変化はなかった。
 この辺は付き合いの長さというか、俺の言葉の本気具合はもうバレバレって感じだな。
「おにいちゃん、怪我したんだって? 大丈夫?」
「あーうん、全然平気だよ。心配はいらないけど、もしかしたら迷惑かけちゃうかも
 しれないかなー、なんて」
「うん、かけられちゃうよ。何でも言っていいからね、遠慮なんかしないで」
「……そこはかとなく贔屓の匂いがプンプンするんですが」
「それはきっと最近仕入れたハエトリグサの匂いだろう」
「わっ、本当にあるじゃないですか。まさかその一言の為に仕入れたんですか、かっこいー」
 下駄箱の上に置いてあるハエトリグサを雪村はまじまじと眺めていた。
「ちなみにハエトリグサの英名はVenus fly trap。ビーナスだぞビーナス。
 愛と美の女神もまさか自分の名前が食虫植物に付けられるとは夢にも思ってなかっただろう」
「はえー」
 青葉ちゃんが食い付いて来た。よし、ここは俺の趣味のよさを最大限アピールだ。
「見よ、この魅惑的なボディ。美しいピンク色が描く滑らかな曲線。まるで……」
 まるで、の後に続く言葉を脳内で検索した結果、一つしか出てこなかった。
「あ、あわわわわ……」
 とてもいたいけな少女の前で口に出来るものではない。俺はどうにかして
 別の単語を高速模索した。
「まるで、唇のようじゃないか。いやあ、はっは」
「あ、似てる似てるー。ずいぶん分厚い唇だね」
 青葉ちゃんは無邪気に喜んでいる。ふう、よかったよかった。
「……」
 ふと見ると、雪村がこっそり赤面していた。
「アー、アーユームッツリ?」
「ち、違うべさっ!」
 言葉は雄弁なり。だがそこは年上の余裕、あえて深くはツッコまなかった。
「それでは雪村、青葉ちゃんと共に買い出しに行ってきますので。いい子にして
 待ってるんですよー。さ、青葉ちゃん、行こ」
「えー、もう行くのー? もうちょっとしてから行こうよー」
「いいからいいから。ではせんぱい、しばしの別れです。けれども再会した暁には
 暫時の空白などものともしない乙女の想いをとくとご堪能ください」
「ああ、とっとと行け」
 騒がしい余韻を残しつつ、雪村と青葉ちゃんは夕食の買出しに桜通りへ。
 二人がアパートから離れて行くのを窓から確認した後、高速であの忌々しい写真を
 置いている机に移動する。
 実は二人と話している最中にようやく思い出した。この部屋には禁忌のブラックフォトグラフ
 があると言う事に。雪村をからかいつつも内心ドキドキだったのはここだけの秘密だ。
「さて……」
 どうしたものか。あの様子じゃあの二人、当然部屋の中に入る訳で。そうなると、例え
 隠したとしても雪村辺りが冗談半分で色々と部屋を物色してこの写真を発見する可能性はある。
 何処か気の利いた隠し場所はないものか。ベッドの下……は問題外だし、
 机の中や押入れの中も論外だ。ポストの中も危険な気がする。
 ……なんか友達が来るからって必死でエロ本隠そうとしてる中学生みたいだな、俺。
 いや、小学校高学年か。今時の中学生は堂々とコンビニでエロ本を立ち読みしてるからな。
 別に恥ずかしくもないんだろう。
 そんな事はどうでもいいんだ。隠す場所、隠す場所……。
 ふと、鏡が目の中に入った。あ、俺まだ学生服じゃんか。けどこの有様じゃ
 着替えもままならないからな。このままでいいか。
「……まてよ」
 学生カバンに隠すのはどうだろう。どうせ面白いものは入っていないだろうという先入観と
 学業関連に唾をつけるのは気が引けるという倫理観が上手く噛み合った、
 まさに最適な隠し場所じゃないか。
 さすが俺! ビバ俺! 思いつきばっかりで生きる男!
 ……このキャッチフレーズはあんまりよろしくないな。
 それよりカバン! どこだ、どこに置いた!
「……ない」
 散々探したが、部屋のどこにもカバンはなかった。玄関も探したが結果は同じ。
 あ。そういやカバン持ち帰ってなかった。手が使えないから何かを掴むと言う行為を
 無意識の内に避けてるのかもしれん。
「くうっ……折角のナイスアイディアが」
 しかし過去の自分の愚行を後悔しててもしょうがない。
 他に何処か適切な場所は……。
「さくっち、いるー?」
 写真を脇に抱え模索していると、ノックと同時にアニメ声が室内に響いた。
 間違いなく星崎。まごう事無き星崎。あーもう、なんでよりによってこんなタイミングで!
 こんな! こんなっ!
「えーこちらハンサム。ここにお住まいのハンサムは来るべきハンサム社交界の方々との
 語らいに備えるべくハンサムに相応しいハンサム作法を習得中です。知り合いに
 ハンサムがいる方、ハンサムに心当たりのある方は申し訳ありませんが消えてください」
「あ、鍵開いてる。それじゃお邪魔しまーす」
「おいこらクレープ女。人の話を聞いてなかったのか?」
「あー、ひっどーい。人をクレープ好き以外に印象点0みたく言ってーっ」
 いくらプリンセスといえど人様の家に勝手に上がれば不法侵入。俺は『法の下には
 何人も平等です』が必殺技の弁護士よろしく、断固たる態度で☆崎を弾劾する事にした。
「どうせ山彦から住所を聞いてノコノコとやって来たんだろうが、ここは貴様のような
 のんきくん女Ver.が易々と敷居を跨ぐ事は出来ぬ。大人しく去れ。
 そして人のギャグにドピューとかドドドとかいう怪しげなSEでズッコケてるがいい」
「わー、ここがさくっちのお家かー。意外と片付いてるんだね」
 姫様は人の話をキカナイキカナイ病に侵されておいでらしい。
 この際毒入りの林檎でも食わせて黙らせるか……?
「ねー、台所はどこ?」
「あー、あっち」
「うん、ありがとー」
 ……はっ。余りに自然な星崎の振る舞いにこっちも素で対応してしまった。
 しかし不幸中の幸い、俺部屋への進入は許してない。
 今のうちに取り敢えず写真を緊急避難させよう。
 という訳で、俺は写真を例によって腕の伸びきった右手で掴み、ざっと周りを見渡す。
 よし、机に置いてある本と本の間に挟もう。本当に取り敢えずだがこの際仕方あるまい。
 何はともあれ、応急処置ではあるがどうにか体裁は整った。
「……ところで星崎、台所なんか何に使うんだ? 家の冷蔵庫は基本的に
 最低限の物しか置いてないぞ。先端が異常に伸びたタマネギとか、
 干してないのに干しダイコン気味なダイコンとか」
「それは最低限外の代物だと思うけど……えっとね、夕食作ろうかなと思って。
 あ、材料なら大丈夫だよ。来る途中にスーパーで買ってきたから」
 なんとまあ、いくら負い目があるとは言えそこまでしてくれるのか。
 俺は星崎と囲む食卓を想像してみる。
 ……………………
 …………
 ……
『さー出来たよ。たんと召し上がれ、いつ見てもハンサムなあ・な・た』
『あいや待たれい。拙者両手に名誉の負傷を抱えておる故、一人では満足に箸も持てぬ身。
 さてどうしてくれようぞ』
『それならご安心♪ 私が食べさせてあげる』
『むう、武士の身でおなごに物を食べさせて頂くのは甚だ不本意だが致し方あるまい』
『はい、あーーーーん』
『あ〜〜〜〜〜ん』
『どう、お味の程は?』
『むむ……このもっさりがっかりとた食感。ストーカー並みにしつこい甘味。
 噛む度に口の中の水分をガッチリと吸い込んで離さない所も高ポイントだ。
 素晴らしい、これこそまさに精進料理の真髄。一般的な意味で精進できる事間違いなしだ』
『うふふっ、いっぱいあるからたーんと召し上がれ』
 ……
 …………
 ……………………
「いや、そんなにいっぱいは食えないよ。って言うか本当は一口だって食えないよ。
 アルシ○ドになっちゃうよ」
「……どうしたの?」
「あ、いやいや何でも。で、何を作るんだ?」
「えっと、こ……」
「せんぱい、只今帰りました! 約30分の長い長い遠距離恋愛もなんのその、
 7月7日だけ逢引なんてケチ臭い事を言わない織姫の登場ですよ。愛しの彦星様、
 私はいついかなる時もあなたの元へ舞い戻って来ます」 
 あ。
 本気で、素で忘れてた。こいつと青葉ちゃんがいたんだ。
「……」
 星崎の顔が瞬時に不機嫌モードに……かと思いきや、それは刹那的なものだった。
 すぐに普段のプリンセススマイルを浮かべる。
「……」
 雪村も故郷の雪を思わせるような純白の笑みを返す。
 ほっ、どうやらもうあのギスギスとした空気は発生しないようだ。
 俺は安心し、帰還した雪村にお帰りの一つでも声かけようと足を踏み出す。
 ……いや、正確には踏み出せなかった。俺の意思とは無関係に、
 何か抑止力みたいなのが働いている。
 動くな。動けば盗られるぞ。命と書いてタマと呼ぶそれを弾かれるぞ。
 そんな声が内部のそのまた奥から聞こえてきた気がした。
 ……よく見たら二人とも頭に怒りマークが。うう、冷戦ってやつか。
「あ……青葉……ちゃん……は……?」
 まるで重力が地球の100倍という修行場のような雰囲気にどうにか俺は風穴を開けた。
「青葉ちゃんは午後のタイムサービスに参戦中です。先に雪村が走還して
 下ごしらえをしておく間に青葉ちゃんが贅肉の塊たちと闘争するという
 見事なコンビネーションで偽富士山の頂点に突き刺さった優勝トロフィーは頂きです」
「いや、いくら買い物慣れしてるとは言え青葉ちゃんにあの屈強で遠慮のない連中の相手は
 荷が重いだろう。明らかに人選ミスだと思うが」
 ようやく緩くなったプレッシャーを跳ね除け、俺は雪村にきっちりとした説明をしてやった。
「言うなれば、『4番センター福王』或いは『SGGK森崎』だ。
 なにがスーパーがんばりゴールキーパーだ。嘗めてんのか?」
「後者は少々的外れな気もしますが、言いたい事はわかりました。
 雪村が軽率だったという事ですね」
「そういう事だ。お前の戦場はここじゃない。お前はお前のG線上に帰るがいい」
「それは無理です。今日のところはアリアに乗せて優雅に舞って見せますので
 それでお許しください」
 そう言いながら雪村は雫内に古くから伝わる子守唄を歌いつつ、
 白鳥の足の方のような踊りをして見せた。 
 それを星崎は目を丸くして見ていたが、敢えて何かを言う事はなかった。
「ただいま〜」
 そんなアホ臭い踊りから目を逸らす事数分。目を回しながら青葉ちゃんが
 帰宅……じゃなくて再訪。フラフラではあるが戦利品は少なくない様子だった。
 大したものだ。
「わ、すごい。見てくださいせんぱい、秋茄子が一本10円ですよ。
 秋刀魚が一匹58円ですよ。アイス・クレープが168円ですよ」
 ピクッ、という擬音が聞こえたような気がしてその方を見ると、
 明らかに耳を大きくしたクレープ馬鹿がいた。
「……それ、おいしいの?」
 クレープ馬鹿にクレープ絡みの我慢など出来る筈もなく、
 おずおずと青葉ちゃんにそんな事を聞いている。
「おいしいですよー。生地が意外とふんわりしててアイスとよく合って。
 中にバナナとチョコも入ってるんだよ」
「……」
 目の色が変わっていた。
「あ、あのあの、それ、私に……」
「いいですよー。あ、でもアイス・クレープは一つしか買えなかったんだっけ。
 どうしようおねえちゃん」
「私はこちらの『トロピカル・デ・モンテカルロ』を頂きますので。
 アイス・クレープは星崎先輩にお譲りします」
「小町ちゃん……! ありがとっ、ありがとっ」
「いえいえ希望先輩、世の中持ちつ持たれつですから」
 あれほど禍々しい空気を発していた二人がもう名前で呼び合っている
 この現状はなんなんだろう。女って怖い。怖いよママン。
 ……一番怖いのはママンなのかもしれないが。
「人が多いから換気をよくするね。おにいちゃん、窓開けるよ」
 妙に和気藹々とした空気が流れ始める中、よく気が利く青葉ちゃんは
 買い物袋をテーブルに置くとそんな事を言ってきた。
 いや、普段なら別に気にもしない事なんだけど……。
「あ、ああ」
 返事に少し動揺が出てしまった。窓は机の本棚のすぐ横にある。異常接近だ。
 しかし青葉ちゃんは余計な動作は一切せず、窓だけをガラガラと開けた。
 杞憂。そんな言葉が脳裏を支配した……その瞬間。
「ひゃっ!」
 突然の突風。青葉ちゃんのスカートがひらひらと舞う。
「あー、びっくりした」
 しかし残念な事にもう少しというところで重力が粘りを見せた。無念。
「……残念そうな顔してる」
「してますね」
「ししししてませんよ」
 くそっ、さっきまで犬と猿みたいな二人だった癖してもう息が合ってやがる。
 でもいいか。仲が悪いよりずっといいし。何事も平和が一番。ピースフルワンダホー。
「……ん?」
 何かが俺の視界の端っこにヒラヒラと舞っていた。それを目で追う―――追う―――おうっ!
 あれはあの忌まわしき写真! さっきの風で落ちてきやがった!  
 幸い三人は見ていない。床に落ちた写真の上に俺はこそっと身体を置いた。
「どうしたのおにいちゃん、油っぽい汗かいてるよ」
「いやいやいやいや、アブラカタブラそんな事ないよ青葉ちゃん。ないってば。本当だよ?」
 俺のあからさまに怪しい態度に首を傾げた青葉ちゃんだったが、
 それ以上問い詰めてくる事はなかった。  
 ああ、なんていい子なんだ。将来は間違いなく良妻賢母だな。うんうん。
「じゃ、私そろそろ料理の続きをやるね」
「では雪村、僭越ながら手伝わせていただきます」
「あ、それじゃ私はお掃除するね」
 そう仲良さ気に話しながらそれぞれの持ち場に散っていく三人を尻目に、
 俺は尻の下にある写真を右手でどうにか拾った。
 さてどうする。カバンがないんじゃもう隠し場所はないぞ。絶対見つかる。
 見つかる見つかるとネガティブ思考でいると余計見つかりそうな気がするが、
 嫌な予感は消えてくれない。
 捨てたり燃やしたり出来ればいいんだが、差出人がそれを許しはしないだろう。
 ロクでもない事態は避けたい。
 くそっ、和人の奴が生真面目に持ってこなきゃこんな事で悩まなくてすんだものを……。
「……」
 そうだ、和人だ。奴に預けるという手があった。あいつになら中身を見られてもかまわん。
 多分似たような目にあってるだろうし、理解力は間違いなくNo.1だ。
 しかし、問題はどうやって呼び出すかだ。奴とコンタクトを取るには否が応でも
 あのお人を経由しなくてはならない。街とかで偶然会わない限り。
 あーもう、気まぐれで遊びにとか来ないかなー、和人の奴。なんて無理か。
 そんな都合よく……。
 ドンドン! 
「え……?」
 これはまごう事無くドアをノックする音。
 まさか、まさか! 神はいたのか! ヒーイズゴッド! ヒーイズアンビリーバボー!
 俺は写真を小脇に抱え、全速力でドアの前まで移動し、
 そのまま自分でもよくわからない動きでドアを開ける事に成功した。
「和人くううううん! 君ってやつは、君ってやつはぁ! ハローマイサン!
 サンキューリトルボーイ! ユーアーエブリシーーーン、グっ!」
「はあい。つ・ば・さ・ちゃんでーっす」
「神は死んだああああああああああああ!!」
 ゴッドとデッドは似ている。そんな簡単な事を今日俺は初めて悟った気がした。 
「どうしたの? 私の来訪がそんなに慟哭するほど嬉しかった?
 やーねーさくっちたら、いくら日頃孤独と戯れてるからって人の訪問を泣くほど喜ぶ?」
「散れ、痴れ者。外跳ねに今更用などない。どうせ山彦から住所を聞いて来たんだろうが、
 お前が居るべき場所はここより350km東へ行った所にある主要都市の駅の中な筈だ」
「や、ま、大した用はこっちもないんだけど」
 極めて無表情に八重樫はそう口走ると、右手に持っていた学生カバンを
 俺の目の前にずいっと持ち上げた。
「忘れ物」
「え? あ……」
 予想外の再会に俺は驚きを禁じえない。わざわざコイツが持ってきてくれるとは。
「あー、その手じゃ掴めないか。それじゃ私が持って行ってやりましょう。じゃ、失礼」
「こらこらこら! 勝手に上がるな勝手に!」
 必死で引きとめようとしたが、手が使えない俺には止められる手段などなく、
 あっさりと進入を許してしまった。
「あれ? 靴が多い」
「ききき気の所為ですよ」
「明らかに多いってば。ほー。へー。ふーん」
「ちちち違いますよ!? 僕は女を連れ込んでチミが想像してるような淫行に
 ふける様な淫ら属性はこれっぽっちも持ち合わせて……」
「さくっちー、自動泡立て器ってない? うぃんうぃんって動くやつー」
「せんぱーい、味付けは薄いのと濃いのとちょうどいいのとどれがいいですか?
 濃いのですか、そうですかわっかりましたー」
「おにいちゃーん、おトイレの掃除終わったよー。次はお風呂のお掃除するねー」
 一斉だった。打ち合わせでもしかのかと勘ぐりたくなる俺の気持ち、わかるかいベイベー。
 しかも妙にえっち臭い言葉の羅列だし……勘弁してくれ。
「いやいや、そういう事なら。それじゃ一応」
「おい、何を……ああっ、人ん家の玄関をカメラ付き携帯で激写するなよぉ」
「証拠証拠。よし、これで完璧。後でヤマに送ってやろ。
 あ、配達料はこれでチャラでいいよ。じゃねー」
 八重樫つばさは一体何故存在するのだろう。俺か? 俺を笑い者にする為だけに
 この世に生を受けたのだろうか?
 そんな事を考えずにはいられない数十秒の出来事だった。
「せんぱいせんぱい、誰か来たんですか? 女の人の声がしましたけど」
 台所から雪村がこっちにやって来た。
 何故か小型フライパンも一緒に持ってきているが、敢えてツッコミはいれない。
「いや、人は来てない。あれは悪魔だ。ドラキュラの末裔かもしれん」
「はあ……ところで」
「なんだ小娘。言っとくが味付けはちょうどいいが俺の本望だぞ。勝手に決め付けるな」
「いえ、その小脇に抱えている写真は一体何なんでしょうと思いまして」
「……」
 やっほーい。忘れてましたー。あははー。
「な、何を無知な事を。雪村にはこれが写真に見えるというのか?」
「雪村は無知ですから、この世に現存する全ての物質を知る訳ではありません。
 しかしそれは写真だと断言できる次第です」
 くっ、この俺の『触れてくれるなオーラ』を敢えて無視して特攻してくるとは……
 さすが雪村、伊達に俺の相方はやってないって事か。
 しかしここで屈する訳にはいかない。このガーディアン桜井、なんとしても
 これだけは人に見せないようにしなければ。俺の全人格を否定されかねない。
「ふっふふふ。しからば教えてしんぜよう。これは写真などではない。
 遥か古代より栄えしアトランティス王国の第14代目の王が……げっ」
 間の悪い事に、俺の携帯の着メロがポケットから鳴り出した。
「取ってあげましょうか?」
「ああ、頼む」
 重要な電話(和観さんの呼び出し)である可能性が否定できない以上、取らない訳には
 いかない。仕方なく俺は雪村に自分の制服のポケットを蹂躙される事を許容した。
「取りました」
「うむ。それじゃ携帯を開きなさい」
「了解ですマスター」
 メイドロボのような機械的な物言いで折りたたまれた携帯を開く雪村。
 そして何も言わずに通話ボタンをプッシュする。
 中々気が利くメイドロボットだ。この様子じゃ俺が言うまでもなく『携帯電話
 サポーター』としての役目をパーフェクトに遂行しそうな雰囲気だな。
 あとは携帯を俺の耳元に近づけて……。
「はいもしもし」
「お前が出るんかい!」
『あー、はいはい。えー、そうですねー。いえいえ。そんな、こちらこそ。
 はい、はい。そうですか。そうですよねー。あははは』
 雪村は俺のツッコミなどお構いなしに談笑を始めやがった。
 相手は誰だ……? 俺の知り合いで携帯の番号を知ってて、
 且つ雪村の知り合いとなると……まさか母君じゃあるまいな。しかしそれしか思いつかん。
『はい、はいー、では失礼しまーす、はーい』
 雪村は満足しきった面で俺の携帯をまるで自分の物のように扱っていた。
「いやー、間違い電話でした」
「嘘付け! 間違い電話であんなに話が弾むかっ」
「でもほら、せんぱいの番号登録にはない番号ですよ?」
 そういって雪村は着信履歴を俺に見せる。確かに番号のみしか表示されていない。
 しかも知らない番号だ。
「つ、強者だなお前」
「ほほほ、雪村は敗残兵ですから」
 全く意味のわからない返しをしつつ、雪村が俺のポケットに携帯を入れ……
 ようとした瞬間、再び着信音が鳴った。
「おい、今度は俺が出るからな」
「そうですか。同じボケをかぶせるという天丼とやらを一度やってみたかったんですが」
「あれは中堅向けだ。初心者がやるとスベるからやらん方がいい」
「わかりました。ではここは雪村、せんぱいの手となり足となり
 電話のサポートに全力を尽くします」
 足になっても無意味だろうに……とか思いながら、俺は通話ボタンを押されて
 会話OK状態の電話に耳を当てた。
『もしもし、さくっち?』
『え、八重樫か? お前さっき直に会ったばかりだろ』
『や、実は間抜けな事にさくっちのカバンをそのまま持ってっちゃって。
 面倒だからそのまま持って帰ろうかなーと思ったんだけど』
『ああ、別にいいぞ。その代わり明日学校に持って来てくれ』
『それも面倒だし。さすがに目の前にあるゴミ捨て場に放り投げるのも気の毒かなと思って』
『持って来てください』
『それじゃ5分でそっち着くから、何か飲み物とか用意しておいて。じゃねー』
 身勝手極まりない言葉を残し、電話は切れた。
「雑巾の絞り汁出しちゃろか……」
 どうせ臭いでバレるので無意味な事だが本気でやってみようかと画策していると、
 雪村が極自然な動作で俺の耳に当ててる携帯を下にずらし、そのまま脇に挟んでいた
 写真を……とと取ったあああああっ!? 取られたあああああっ!!
「ああ何という事か、せんぱいがあれほど頑なに見せるのを拒んでいた写真が
 いともあっさりと雪村の手に。これはもはや雪村に対する警戒心とか
 ファイアーウォールが皆無であると受け取ってもいいのでしょうか」
「違うよぉ! 返せぇ、返せよぉ」
「うふふ、せんぱいったら照れちゃって。そんなに見せたくないものなら
 脇に挟んで持ってる訳ないじゃないですか。大方本当は見せたくて仕方がないんでしょう?
 小町さんは何でもお見通しですよ」
 うぐっ、反論できない。間抜けな反論しか思いつかない。実際間抜けだし。
「ではでは、ご期待にお答えしてイッツ・ア・ショーターイム」
 雪村は俺の必死に訴えかける眼差しに気付く事無く、ついに写真を視界に捉えた。
「……」
 1秒、2秒……5秒。反応なし。
「…………」
 10秒。ここでようやくリアクションがあった。
 無言で写真から目を逸らすと、それを持ったまま家の中へ入っていった。
「おーい! 見たなら見たで何か言ってくれ!
 これじゃ物凄く寒い事をしでかした前説の若手芸人みたいな空気じゃないか!」
 俺は半ば自棄でそう叫んだが、答えは返ってこなかった。
 上下、靴、その他もろもろ全部買い揃えた翌日にそれを着たまま泥沼へ飛び込めと
 言われた貧乏若手芸人の心境で自分家に入る。
 おそらく雪村はあの写真を二人に見せてるだろう。
 それを見た二人のリアクションも何となく予想できる。
 ……終わった。俺の築き上げてきたクールでニヒルなハードボイルドという人間像は、
 この日をもってフールでジキルなハイド☆ボインちゃんとなるに違いない。 
「え、えええっ!? これ、さくっち!?」
「あ、確かにおにいちゃんだよ、これ。目とか鼻とか、顔のパーツはそのまんまだし。うわー」
 案の定、驚愕とも侮蔑ともとれるような叫び声が聞こえてきた。
 ふっ……いいさ。これが現実なんだから仕方ない。受け入れるさ。
 受け入れて、受け切ってやる。
「さあ笑え! そうさ、俺は変態さ! 男なのにそんな格好をするダメ人間さぁ!
 どうした? 笑えよ、おかしいだろ? 俺は男だぞ、スカートなんて履いていい訳ないし
 口紅を塗るなんて道理違反もいいとこだ。髪の毛? カツラだよ。そりゃ三つ編みだって
 お手のもんさ。どうした雪村? おとぎの国じゃなく新宿2丁目の住人だった俺を
 笑わないのか? どうよ星崎、クラスメートが変態だった気分は。青葉ちゃん、
 無理しなくていいんだよ。シゲさんに言いつけてしかるべき場所に連絡しても俺は
 君を恨んだりはしない。どうしたんだよ皆、笑えよ。笑えよぉぉぉ!」
 我ながら嫌過ぎる人格を演じつつ、三人の様子を伺う。
 いやね、実際問題こういうやさぐれたキャラにでもならなきゃ
 耐えられない空気なんだよ、本当。
「さくっち……」
 しかし返って来た返事は、とんでもなく意外なものだった。
「女装、似合うんだねー」
「本当だよ。すっごく綺麗なんだもん、びっくりしちゃった」
「雪村、ひょっとして負けてるかも……愛しのダーリンに女として負けるなんて……複雑です」
 え? 何? ひょっとして、別に悪い印象を与えてはいない? むしろ意外な一面の発掘?
「き、君たち。これを見て真っ先に変態とか悪趣味とか思ったりしないのかな?
 どうなのかな? かな?」
「えー、でも綺麗だし」
 きき綺麗って! プリンセスの異名を持つ学園のアイドルにそんな事言われるなんて!
「おにいちゃん、かっこいいだけじゃなくて美しかったんだね。すごいよ、尊敬しちゃうよ」
 美しい……なんという芳醇な響き。トロイア戦争時にアフロディーテから
 愛と美の女神の称号を受け継いだ俺にこの上なくジャストフィット。
「せんぱい、どうしてくれるんですか。これじゃ雪村の女としての威厳とか誇りとか
 色仕掛け作戦が全滅ですよ。なんて罪深いビューティーコロシアムなんですか」
「ふっ、許せ雪村。この桜井”アフロ”舞人、揺るぎない男の色気の裏に秘められた
 表裏一体の色気をどうしても抑える事が出来なかったんだ」
 実はこの写真、俺がここに来るちょっと前に和観さんが遊びに来た際に撮られたもの。
 俺が寝てる隙に我が母親と和観さんの二人で悪戯した際の証拠物件らしい。
 無論俺に女装趣味などあるはずもない。だが特殊な趣味か特殊なイベントでもない限り
 女装なんてする機会がある筈もなく、布団の上であどけなく眠る俺に残されたのは
 特殊な趣味の疑惑だけだ。少なくとも俺はそう思っていた。
 しかしどうだ。結果はここにある6つの羨望の眼差し。そう、俺の女装は
 恥ずかしい代物じゃない。寧ろ誇るべきものだったんだ。
 いやいや、まいったなこりゃ。桜坂の福山雅○こと俺は新宿2丁目でも英雄だったとは。
「うーっす、さくっちいるー?」
 玄関のほうから吊り目っぽい声がする。八重樫が来たか。ちょうどいい、
 奴にも俺の隠された財宝をお裾分けしてやらんでもない。
 俺は写真を右手に、玄関へ直行した。
「やあやあ八重樫さん。まあ何も言わずこれを見るがいいさ。そして
 賛美と羨望と嫉妬の声を上げる事もやぶさかではないぞ」
 俺は八重樫に自分の女装写真を堂々と見せた。
「……」
 ふっふっふ、黙ってるな。あまりの美しさに声も出ないか。当然だな。
 人間あまりにも自分の想像を超える感動を覚えてしまった場合、
 声すら出せずに呆然とするからな。
「や、これはまた美味しいネタを」
「……ネタ?」
 俺の聞き返しを無視し、八重樫はカメラ付き携帯を取り出して写真を写真に撮った。
「お、おい。この美しさ、この優雅さについて何ら述べる事はないのか?
 今なら歳末もびっくりの特別期間、何を言っても無料だぞ?」
「や、別に」
 カメラに収め終えた八重樫はつまらなそうに写真を返してきた。
 ついでに俺のカバンも玄関に放り投げる。
「あー、それじゃ一言だけ」
「そうかそうか、普段美とはかけ離れた生活を送っている貴様もようやく
 この華麗さに気がついたか。いいだろう、言ってくれ」
「変態」
「ぐはっ」
 俺は死んだ。俺の築き上げてきたクールでニヒルなハードボイルドという
 人間像はこの瞬間滅亡した。
「じゃ、これはさくっちの趣味って事で、担任及びクラスの皆さんにフラッシュ
 作って紹介してあげるから」
「ま、待て! いや待ってください! それは、それだけは!」
 俺はすがるように八重樫に頼み込む。土下座もする。土下寝もした。
 怪我人がここまでやればいくら情薄女の八重樫でも……と思ったのが間違いだった。
「わきまえなさい。女装なんて2億年早い」
「……はい」
 笑顔でそう宣告された俺は、八重樫の後姿を為す術なく眺めていた。
 いつまでも眺めていた……。

              【  10月10日(木) 】


 数年前まで休日だった日に登校するのは憂鬱だ。
 しかし、この日。俺より登校するのが憂鬱な人間は絶対にいない。断言できる。
 そんな悪魔の尻尾を装備してしまった気分で俺は我がクラスの敷居を跨いだ。
「おー、来たぞー! 我がクラスの英雄のご登校だ!」
「体育祭の仮装行列、バッチリ決めてくれよー!」
 文化祭の出し物決定したぞ! 一人新宿2丁目劇場! よろしく頼むぜ主役!」
「修学旅行の余興はまかせといて! 私たちが腕によりをかけてメイキャップしてあげる!」
 もう予想通りというか何というか、どうでもいいって気分にさせられる
 囃子のような声が耳を素通りしていく。
「……」
 そんな中、山彦は黙って俺の席にやって来た。
「芸術の、秋だな」
「……まあな」
 俺は奴の友情に涙を禁じえなかった。
 世の中、悪い事ばっかじゃないよな。いい事はほとんどないけど。
 そんな事を思う秋のとある一日の朝は、皮肉なくらい澄んだ青空だった―――


                                    カーン……
79馬面:03/05/02 00:14 ID:y54lWV+I
>>16さんは>>3-11の◆daMOTOpf1cさんへのレスですね。
俺のSSに埋もれちゃってて◆daMOTOpf1cさんの目に入らない
可能性があるので、一応ご報告をば。

>>13-15>>17-78
題「愛なんていらねえよ、秋」(それは舞い散る桜のように)

えー、すいません。長いです……ひたすらに。
それ散るのSSは初めてなんで上手くは書けてないかもしれませんが
チマチマ読んでもらえたら嬉しいです。でわでわ〜。
80 ◆PMny/ec3PM :03/05/02 16:18 ID:Y8pU5k9P
乙です。
いやー、読み応えありましたな。
俺はそれ散る好きなんで堪能しますた。
次回作期待してますわー
81名無しさん@初回限定:03/05/02 18:07 ID:Se3F5XYi
一気に読ませて頂きました。馬面さんの名前は家計で耳にしたことあります。
相変わらずいい文章書きますねー。笑いを誘う文も散りばめてあって非常
に楽しかったです。
自分が一番ワラタのは『八重樫→1速と5速しかギアがない』

で、べた褒めばかりだと感じ悪いので批評も。
やはりそれ散るは初めてだそうで、キャラ掴みが少し違和感ありました。
といっても、どこが?
と聞かれると、・・・うまくいえないので、その程度の若干のものです。
それと、小町が青葉ちゃんに嫉妬してどーする……って思いました。
普段から知っていて仲良くしてるんで、43はちょっと設定がまずいんでは、と。

では、これからも頑張ってください。
82名無しさん@初回限定:03/05/03 08:46 ID:njVwlETK
面白い……けど、長い……。
何回かに分けてくれた方がよかった、かな。
83名無しさん@初回限定:03/05/03 14:33 ID:cXkXSbtH
 セリフを含むキャラ描写にほとんど違和感なかった
のがすごいと思います(>>81の指摘のようなところは
ありましたが)。面白かった!
84名無しさん@初回限定:03/05/03 22:17 ID:qm+GFne6
無粋なツッコミでスマンが
いきなり>15の最後のところで受難の日々が幕をおろしちゃってますよ。
85名無しさん@初回限定:03/05/04 00:00 ID:SQIpu/dn
馬汁スレでも紹介されてんね。
86名無しさん@初回限定:03/05/04 07:13 ID:Q0MbWDA+
(・∀・)イイ!
堪能させてももらいますた。
 お待たせしました。ようやく保管サイト更新です

http://members.tripod.co.jp/svssav/
新規追加
○ツインフロウ・ラプソディ    ○愛なんていらねえよ、秋
○雪さんと             ○雪さんの誕生日
○琴乃宮雪、10歳        ○おとまり
○ふたりの居場所        ○シルフィたんの秘密
○シルフィたん          ○あなたがそばにいる
○アリス。             ○朧月夜
○司おにーさんの苦悩     ○宮代花梨。
○ヴェド話             ○マッド
○注文の多いエロゲメーカー ○ナオミ様がみてる
○鬼畜//混濁          ○マブミズ
○「おまけシナリオ」      ○わんこ

更新作品
○瞳 vs アイ

 今回は水月の良作が多かった印象ですね、漏れもやってみようかなぁ……。
あと、できれば投稿作には題名をいれてくれると管理人としては楽です。
よろしくお願いします(w
88 ◆daMOTOpf1c :03/05/05 16:42 ID:71ZCXtvn
>87=保管サイト管理人さん
更新、お疲れ様です。…お疲れのところすいませんが、要訂正箇所がひとつあります。

http://members.tripod.co.jp/svssav/index2.html
==============================

アリス。

○投稿者:◆daMOTOpf1c
○ジャンル:水月
○(完結)05/05更新

==============================

投稿者:◆daMOTOpf1c→投稿者:(名無しさん)


失礼しました。
 いつもと変わらない朝。
 我が家唯一の贅沢嗜好品であるインスタントコーヒーをすすりながら、アーカム・アドヴァタイザーに目を通す。
とはいっても一面と三面くらいしか読まないのだが。(探偵としてどうかと思うには思う)
「ふぅん、15区画で破壊ロボ大暴れ…死傷者なし、ね。
ウェストの奴、相も変わらず器用極まる破壊活動っぷりだな。なぁ、アル?」
 俺を宿敵だと思いこんでいる世紀の変態科学者の活躍(?)を肴にしようとアルに話を振る。
 「……」
 アルはパジャマ姿のまま、アーカム・アドヴァタイザーに入っていた折り込み広告を床に広げ熱心に目を通している。
「アル?」
「……」
聞こえてないらしい。
「アールー?」
「……」
 一体何を見ているのだろう?『ブラックロッジ』無きこの世界において、
アルをこれほど真剣な目にさせるものがあっただろうか。
 そのあまりに深刻な様子に心配になって肩を叩く。
「アル。どうした!?」
「にやぁぁっ!?あ、なななな何だ九郎いきなりっ!」
 アルが大慌てで広告の束を背中に隠す。
「いきなりって、さっきから呼んでるじゃないか。で、どうかしたかソレ?」
 広告を指さして訊く。
「いや、なんでも! 何でもないぞ!! 汝には関係ない! 毛ほども、微塵も、欠片も関係ない!」
 顔が真っ赤に染まっている。どうもコイツは千年生きている割に落ち着きが無さ過ぎる。動揺がありありとワカル。
「そうか。俺には関係ないか」
「うむ。汝は大人しくコーヒーでも啜っておれ」
「…わかった、大人しくコーヒーでも啜ってる」
 あっさり引き下がって背を向ける。
ほ。とアルが息をつくのを背中で聞くと同時にボクサーばりのスピードで反転。神速の突きを繰り出す。
「打つべし!」……脳裏に眼帯のチビ親父がなぜか浮かんだ。誰!?
「あっ!」
「甘いな、怪しさ爆発なんだよオマエ」
 手にした数枚の広告をひらひらさせながら勝ち誇る。
「どれどれ?」
「こ、こら! 返せ! 卑怯だぞ汝ぇ!」
 突きが、蹴りが飛んでくるが俺はそれをひょいひょいかわしながら、順に広告に目を通していく。
『特売・トイレットペーパー、イチキュッパ!!』
コレじゃないな。
『求人案内・破壊ロボに踏みつぶされても生きてるとにかく丈夫な方、警察で楽しく働きませんか!?』
コレでもないな。
『驚異のバストアップ! 極東式豊胸マシーン。一ヶ月でカップがひとつあがる!』
 硬直。まさか…コレか? コレなのか?
「……」
「……」
「アル、その…すまん。お前がそんなに」
「……」
「そんなに貧乳を気にしてるとは思わなかった。そんなに貧乳を、それほどまでに貧乳を気にしてるとは!!
だが! 大丈夫だ、俺は気にしてない! いやむしろそれがイイ!!」
 広告を返しながら慰めの言葉をかける。
「ち…」
「ち?」
「ちち」
「乳?」
 アルは顔を耳まで真っ赤染めながら、ますます柳眉を逆立てる。こめかみに血管ってホントに浮かぶんだなぁ。
そして吹き出る魔力の奔流。背筋を凍らせる馴染みの感覚。ヤバイ…
「違うわ!ぅぉ大ぉうつけぇぇぇぇぇぇえぇぇえええーーーーーーーっ!!!!!」
白濁。
衝撃。
激痛。
あ、父さん母さん久しぶり…
「わわわ妾がそ、そそ、そのような事を気にする訳がなかろう! 
いや、それは少しくらい気にするやも知れぬが、断じてそのような機械など欲しがったりせぬわ!!」
「いてぇ…じゃ、何見てたんだよ。…ってコレか」
我が手に残った最後の一枚。
「あ!!」

『華やかに!きらびやかに!アーカムフューチャーモールオープン! 
ブティックからレストラン、シネマ、アミューズメント施設まで満載!
恋人との素敵な休日をあなたに』

 そういえば、大学の後輩が言っていたのを思い出した。新しくできたアウトレットモール。
端からカップル向けに作られており、デートスポットとして注目を集めている。らしい。
もっとも万年金欠の俺には初めから縁がないと思っていたが。
93名無しさん@初回限定:03/05/05 17:48 ID:ibOHIwZY
連続規制はずしです。続きどうぞ
「あ、あのだな九郎」
「……」
「その、妾はその別に、ソレを見ていたのは深い意味はなくて…」
もはや茹でダコだ。コイツはどうしてこう…微笑ましい。
「いや、だから映画とかだな、観たことがないし、まして、でっデートしたいなど!
腕組んで歩いたりとかしたくないし、一個のパフェをふたりで食べたりなんてもってのほか!!
あまつさえ人混みでこっそりキ、キスとか!! そっそんなのいかんぞ!! 
ただ! ただ少し! 少しだけしたいとかしたくないとかっ!」
……したいのか。というか錯乱しすぎだ。
「……」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! もうよい! 何でもないといったらない!!」
 だんだん羞恥に耐えきれなくなったのか、目にうっすら涙を溜めて俺の手から広告をひったくる。
「ほら! さっさと大学に行け! アーミティッジの爺にいびられてくるがいい!!」
「行くか?」
「だからさっさと行けというておる!」
「一緒に行くか。そこ。今から」
「!!!!!!!」
 大きな目をさらにめいっぱい開いてアルの動きが止まる。
 口元が一瞬緩んだ後、無理矢理といった感じに引き締まった。すこし遅れて首を横にぶんぶん振る。
「な、何でもないといっただろう。別に行きたいだなんてこと!」
 引きつってる引きつってる。
「じゃ、やめるか」
 なんか苦いモン飲んじゃったような形容しがたい顔になった。面白いなあ。
「いや。な、汝が、ど、どうしてもというなら…行ってやるのもやぶさかではないぞ」
「じゃ……どうしても」
 …アルの顔に花が咲いた。ダメだ、俺はどうしてもコレに弱い。
「し、仕方がない。他ならぬ主の頼みだ、行ってやろうではないか。支度をする。汝も早う用意せよ!」
 いそいそと着替えに引っ込んでいくアル。
 そして
 俺は見逃さなかった。その手にしっかり『極東式豊胸マシーン』の広告が握られているのを。
 
 −−こうして俺とアルは初めてデートらしいデートをすることになった。
 俺は懐具合と、必ず起こりえるだろう災難と、
多分異常な嗅覚をもって現れるであろう変態白衣と機械娘を心配しつつ講義をサボることにした。

つづけ。 text by-犬江
96名無しさん@初回限定:03/05/05 18:01 ID:OFMsHmMc
「いやむしろそれがイイ!!」に激しくワラタw
続き期待してます。
97名無しさん@初回限定:03/05/05 19:33 ID:gVcZpMlH
おお、まさかデモンベインのがもう出てるとは…
アルがすっごくよい感じ
甘ったるい感じのSS本編も期待してます
>>88
 了解です。指摘通り修正いたしました。
……細かいところで他にもミスがあるかと思うので、気づいた事があるならお願いします。
99名無しさん@初回限定:03/05/06 19:27 ID:L2EhPUT5
マァァァべラス!>>92,94,95
続きを楽しみにしておりますよ。がんばってくれ。
100名無しさん@初回限定:03/05/06 21:57 ID:HzQvung8
管理人さんにちょい要望。
補完サイトに掲示板みたいなのは作れないかな?
ツリーで作品ごとか、それが難しいなら総合で一つとか。
いや、以前の作品を読んだりして真剣に感想を書こうと思ったとき、こちらでは
投下の妨げになりそうだし、「マジレスすんな!」とか批判されそうなんで。
SS書きにとって感想は何よりのカンフル剤だし。
>>100
 了解です。とりあえず、無料BBS入れました。
他にいいのがあるなら紹介してくれれば変更しますわ

http://members.tripod.co.jp/svssav/
102アルtrue後の甘ったるいSS:03/05/07 01:08 ID:BPGaQDaV
路面電車に揺られて彼の地を目指す。
正直マギウス・スタイルになって飛んでいけば交通費が浮いて
非常に、切実に有難いのだが、それは流石に無粋が過ぎようということくらい俺にもわかる。
「〜♪」
 現に隣でご機嫌な顔で脚をぶらぶらさせているアルを見れば、
この選択は間違ってなかったのだと思える。(しかしまるきりガキんちょの動作だ…)
財布の方はかなり悲しいのだが。

−−程なくして路面電車はショッピングモールに到着する。

「成程…こりゃ大したもんだな」
 目の前に広がる光景にしばし呆然とする。ギリシャ神殿風の建物の中に所狭しと店が並んでいる。
端は見えないほど広い。
「九郎! 何を呆けておる。早くせぬか」
もう中に入ってやがる。
つーか何だその手の風船は。
「はいはい」
「まったく、汝が言うから仕方なしに! 仕方なしに来てやったのだぞ。しっかりエスコートくらいせぬか」
「わぁーったよ、ったく」
「…あっ!! 九郎! アレ!アレ食べよう! あ、こっちのも面白いぞ、見てみろホレ!」
「ノリノリじゃねぇかよ!!」
103アルtrue後の甘ったるいSS:03/05/07 01:10 ID:BPGaQDaV
モール内部はブティックを中心に雑貨屋やレストランなど、それも総じて洒落た造りのショップが延々と続いている。
カップル向けというのは要するに女性向けなのであって、オトコはオプションに過ぎない。オマケ。付随品。
そんなこともあり、よく見れば女性だけのお客さんもかなりいる。
どーにも俺、場違いだな……小汚い身なりの三流探偵がいていい場所じゃねぇ。

「博士、場違いロボ」

ビクゥ! 今一瞬聞こえてはならない声がした!! かなり遠いが、確かに!!
悪い予感に導かれるまま俺は全力でアルに駆け寄るとそのまま小脇に抱えて一気に奥のほうまで走り抜けた。
「うぬっ!! な、何をする九ろ、むぐぅ…!」
あぶねぇ! こんな所で俺の名前を叫ばれた日にゃ奴等確実に追ってくる! それも全力で!!
いや、奴等だという確証はないが、聞き間違えるとも思えない。
あんな語尾の喋り方をする奴がそうそういるか! いるはずないロボ! 
 ひとつふたつ角を曲がり、周囲を確認。隊長敵影在りません! となってようやくアルを開放する。
アルが物色していたウサギのぬいぐるみ(似合わねぇ)をそのまま持ってきてしまった気もするが、
この際仕方あるまい。後で支払いに行こう(涙)
「ぷはぁ。何をするか九郎! 恥ずかしいではないかっ。どういうことか説明せよ!」
怒鳴るアル。かなりご立腹のようだが、抱えたうさちゃんのおかげで全然迫力がない。(前言撤回、激しく似合う)
「悪ぃ。ちと見つかりたくない奴がいてな」
「あぁ? 何だそれは?」
眉をひそめる。言わない方がいいだろう。せっかくのデートだ、奴等の名前を出して水をさしたくない。
「まぁいいじゃないか。えーと、ほら、クレープでも食おうぜ。な?」
「んん〜? 何ぞ怪しい匂いがするが…。まあ良い、妾はいちごチョコクリームな」
「了解」
食い物で篭絡できるあたりがお手軽で非常に良いぞ。
「Lサイズでな」
「Lかよ……」微妙に手強い。
104アルtrue後の甘ったるいSS:03/05/07 01:15 ID:BPGaQDaV
はむはむはむ。てくてくてく。むぐむぐむぐ。てくてくてく。
クレープを頬張りながらモールを散策。
ブティックで服を『見たり』、雑貨屋で小物を『見たり』、アクセサリーショップで指輪を『見たり』した。
見るだけ。仕方ないだろうが、こっちは赤貧学生探偵しかも三流、なんだよ。
アウトレットとはいえブランドもんやら何やらばっかりのこんな所で買い物なんざできよう筈もない。
「この甲斐性無しが。妾に貢ぎ物のひとつもできんのか」
などと悪態をつきながらも店を回るアルは楽しそうだった。
「どうだ? 似合うか九郎?」
時折帽子をかぶってみたり、眼鏡をかけてみたりして浮かれている。これはこれでいいか、という気もしてくる。
 そして今アルは俺の少し後ろをぴこぴこ着いてきている。
先程からなんだか妙におとなしい。不気味なくらい。ひょっとしてどこかで機嫌悪くしたか?
気になって振り返ると、アルは周りの人々を眩しそうに眺めていた。
愛しいものを見るような眼で。
その姿がひどく儚げで、その翡翠の瞳に憂いを帯びて、それでいてとても優しくて…
なんだか胸が高鳴った。
ただ…ただ口の周りがクリームとチョコでベトベトで、えらい台無しだったが。
「九郎」
「あ?」
「妾等も皆からはああいう風にみえるのかな」
「さあな、わかんね」
「そうか」
正直に答える。アルは少し落胆の表情を見せた後、
「腕…」
「え?」
「うぅ〜、うっ、腕を…腕を組んでもよいか?」
視線をそらし真っ赤になって問う。もちろん断る理由もない。俺は黙って左腕を差し出す。
「ほれ」
「ぁ」
安堵の微笑を浮かべて、おずおずと手を伸ばしてくる。
指がシャツに触れ、細い腕が俺の腕に絡む。その瞬間。
105アルtrue後の甘ったるいSS4:03/05/07 01:18 ID:BPGaQDaV
「あ。ダーリン発見ロボ」
「ぬ。おぉぉぉぉ! あれはまさに宿敵大十字九郎!!そしてアル・アジフ!!」

………………やっぱ出た。もうなんていうか言葉もねえ。
「此処で会ったが、4日と3時間20分目と少しロボ! やはり運命ロボ♪」
「うぬぬぬぬ先日の屈辱をハラショー! 覚悟するのであーる!! ダスビダーニャだにゃー!!」
「何がだにゃーだ! 変態科学者! 街中で白衣なんぞ着込みおってからに!」
そこにいたのは明らかに周囲と浮きまくりの白衣ギターの変人と、一見普通の美少女の二人組。
いわずと知れた…だな。
ああ、そろそろ出るとは思ってたけどな、SSだしな、簡潔にしようと思ったら仕方ねえタイミングだろうよ。
だがなあ、間が悪すぎんだよ!テメエら!! 
自分からモジモジ『お願い』するアルがどれだけ希少かわかってんのか!?
めったに見れねえんだぞ! オオサンショウウオもびっくりの天然記念だぞ!
もうトサカに来た! ぶちのめしてやる! 特に科学者のほうを念入りに! こってりと!  もう決めた。そう決めた。が
「九郎!」
「え?」
突然アルが俺の手を引いて脱兎のごとく走り出した。
「ぬぁ!? 逃げるか、大十字九郎!!??」
「ま、待つロボダーリン!!」
驚いたのは奴等だけじゃない。俺も一緒だった。
いつもならアルのほうが先にキレて魔術のひとつふたつブッ放してる局面だった。
アルは止まらない。俺の手をしっかり掴んで走り続ける。
「お、おい!アル!」
「〜〜〜〜〜〜!」
返事はない。アルは止まらない。人混みをすり抜けるようにして走り続ける。いったいどうしたというのであろう。
だが、ウェストの奴はともかくエルザはそうそう簡単に振り切れるものではない。次第に差が詰まってくる。
「ダぁぁぁぁリぃぃぃぃン! エルザの愛を受け取るロボー!」 その狂気で凶器のトンファーを愛とぬかすかっ!
真剣なアルの横顔が見えた。そうか。よくわかんねえけど、お前が逃げたいってんなら…!

ニトクリスの鏡!!
106アルtrue後の甘ったるいSS5:03/05/07 01:26 ID:BPGaQDaV
「ロォーーーボォーーー」
「ぜひゅ〜ぜひゅ〜、けふっ!ま、待つのだエルザぁ〜」
−−ウェスト達は偽者の俺たちを追ってあさっての方向へ去っていった。
「はぁ、はぁ。撒いたか?」
肩で息をしながらアルが訊いてくる。
「あぁ、とりあえずはな。でもどうした? いきなり逃げ出すなんて、お前らしくもない」
「…ぃ……ヵ…」
ぼそぼそと何か言う。
「え、何だって?」
「だって! だって勿体無いではないか! 
せっかく、せっかく九郎がでっ、デートに連れて来てくれたのに! 
あんな珍妙なのに邪魔されてなるものか! 今日の九郎は妾だけの物ぞ!
ドンパチやったら台無しではないか!」
あーぁ、また真っ赤だよ。ウブにもほどがあるなコイツは。
あまりにいじらしいことを言うので何となく可笑しくなってきた。
「ふっ、ふふ、はは、ははははははは!あはははははは!」
「な、何が可笑しい!」
きっ、と潤んだ瞳で睨みつけてくる。
「いや。お前って時々猛烈に可愛いなって思ってさ、くっくっく」
「なっ、なななな、なぁ〜〜〜! ばばば馬鹿にしておるのか汝はぁ!」
「いやいやいや。滅相もない。褒めてんだよ。
よし、そういうことなら、行くか。撒いて撒いて撒きまくってやろうぜ。
せっかく来たんだ。思い切り満喫してやろうじゃないか、な?」
「……………ああ!」
満面の笑み。不敵で悪戯めいた、心底楽しそうな笑み。これがアルだ。
どうやら俺たちは多少のスリルなくして燃え上がれない口らしい。
アルは今度は何の遠慮も躊躇もなく俺の腕を取った。

……結局、幾度かの接触と逃亡を繰り返したのち、
「汝等ああああああ! 大概にしろおおおおお!」(やっぱり我慢できませんでした。)
最後は例によって破壊ロボの爆発、大破、炎上、奴等逃亡。で幕を閉じる訳だが。
107アルtrue後の甘ったるいSS6:03/05/07 01:28 ID:BPGaQDaV

路面電車に揺られて我が家を目指す。
正直破壊ロボをぶっ潰す際、マギウス・スタイルになっているので
そのまま飛んで帰れば交通費が浮(以下略)
「むくー」隣ではふくれっ面でアルが脚をぶらぶらさせている。(やはりガキんちょだ)
「アル…、悪い。結局やっちまった…」
「む。良い、別に汝のせいではない。まったくもって『いつも通り』ではないか、汝は良くやってくれた」
そうは言うが放つ空気は実に剣呑だ。正直隣にいるのはかなり針のむしろだ。
「でもなあ、ほら映画もパフェもできんかったしな」
「よっ、良いというておる。…ま、そうさな、この埋め合わせはまたどこかでしてもらうさ」
無理やり笑顔を作る。実に痛烈な苦笑いにしかなっていないが。
「どこかでね…例えば?」
「例えば…ふむ。そうさな」
しばらく思案する風に腕を組んで、そして
ニヤリ。悪戯っぽく笑う。ヤバイ、何かたくらんでる顔だ。
「ふふふふふ、ちょっと耳を貸せ」
何だ!その怪しい笑みは!!
108アルtrue後の甘ったるいSS6:03/05/07 01:29 ID:BPGaQDaV
得体の知れない恐怖に怯えながら言われるがまま横顔を近づける。
アルが口に手を添え、耳に顔を寄せて…
「あのな…」
そのまま前に回り込んだ。
ふに。
柔らかな感触と甘いにおい。唇に。
「!!!?」
…呆然。 それはほんのわずかの時間だった。気付くとアルは元の場所に戻っていた。
「いくら汝が底無しの甲斐性無しだとしても、金のかからない事くらいしてもらわねばな。ふふん」
「〜〜〜〜〜〜!!」
何だ!その勝ち誇った笑みは!!
自分の顔が紅潮していくのが解る。アルはアルで、例の如く耳まで朱に染めている。表情だけはふてぶてしいが。
「ま、今日は今日でそれなりに楽しかったぞ。また来ようではないか、ん?」
艶然と微笑んで俺の目を覗き込む。綺麗な翡翠の瞳に射抜かれ、ますます紅潮する俺の頬。ま、魔女め。
以前コイツを一生振り回してやろうと心に決めていたが
……どうやら振り回されるのは俺の方になりそうだ。

−−「九郎とアルがちゅーしたぞ!」「どきどき」「こーぜんわいせつー」「くくくく九郎ちゃん、卑猥です犯罪です淫行ですぅ!」
「いたのかよ!!!!!」
…今日一日で良く解った。神様は相当俺が嫌いなのだと。

−−程なくして路面電車は我が家の近くへと到着する。
109犬江しんすけ:03/05/07 01:37 ID:BPGaQDaV

>>89-92>>94-95 >>102-108

題「アルtrueED後の甘ったるいSS 」(斬魔大聖デモンベイン)より

初ssですので、推敲の足りなさは勘弁してください。
後半はアルのぬいぐるみとクレープで満足してしまい
パワーダウンしてます。反省。
110名無しさん@初回限定:03/05/07 01:40 ID:dn8iBqr2
>>102-108
お疲れさまでした。兎にも角にも面白いというか恥ずかしいというかマァベラスなSSでありました。
…いや、西博士の台詞回しまで見事な再現をされていたのには驚きましたがw

で、突然ですいませんが某所の>>532でもお願いした者です。
>>102氏、もとい犬江氏の書かれたこのSSを元に漫画を描かせていただけないでしょうか?
現在のところそれで本を出すとかいうつもりもありませんし、自己満足でしかないとは思うんですが、出来ましたらご一考下さい。
111名無しさん@初回限定:03/05/07 01:43 ID:dn8iBqr2
あー、意味もなくageてますな。吊られてきます。
112あぼーん:あぼーん
あぼーん
113犬江しんすけ:03/05/07 01:51 ID:BPGaQDaV
>>110
あ、早速のレスありがとうございます。
こんな駄文で良ければ漫画化大いに結構です!
いくらでもやってください!
BBSもできるようなので結果報告お願いします^^
(しなくてもいいです。)
114名無しさん@初回限定:03/05/07 03:27 ID:ZvV26+cx
>>大江氏
初SSでこれとは。けっこうやってみるもんだな。上手いじゃん。
楽しませていただきました。
なかなかデモベにどっぷりつかって各キャラクターの要素を押さえてるぽいですな。
115名無しさん@初回限定:03/05/07 10:57 ID:/1rthmgC
>>犬江氏
あまりヨイショすると天狗ノーズを誘発してしまうのだが・・・、正直ウマイといわざるを得ない。
これだけで水準を満たしていると言える。

読んでいて、元ネタたるゲーム本編のBGMが聞こえてくるようなら、まずはオッケーであろう。
情景も思い浮かぶようだし・・・、マンガ化しやすいとも思う。
116名無しさん@初回限定:03/05/07 12:20 ID:tNr2QOVA
つーか、文字数制限があるとは言え65分割にもなる作品を「Short」Story
と呼ぶんだろうか・・・

この長さはこういう掲示板形式のに投稿するより、
最初から自分のWebに置いた上でしかるべき編纂をした方が
より文章としての抑揚も取れると思うのだが。読む側も楽だし。
URLは掲示板で告知して来てもらえばいいわけで。

ただ、65分割を前提によく文章を程よいところで区切れてるな、とは思いますけどね。
富樫もビクーリ。
117名無しさん@初回限定:03/05/07 12:59 ID:S5fXgB6A
Side Storyとの説もある。
いや、SSこんぺで「中編・長編」部門が設けられている以上、むしろそちらの方が有力か。
118佐伯まんせー:03/05/07 14:50 ID:o6Y8+ll/
他スレに投稿したものがあるのですが、板違いでウザがられたので、
こちらに貼り直してもよろしいでしょうか?
119沙織:03/05/07 16:05 ID:o6Y8+ll/
「須藤、ちょっと話があるんだけど。」
音川が唐突に声を掛けて来たのは、その日の最後の授業が終わってすぐのことだった。
「なんだ音川?そっちから話し掛けてくるなんて、どういう風の吹き回しだ?」
珍しいこともあるもんだと、俺は笑いながら答えた。
「ちょっとアナタに聞きたい事があるの。一緒に聖研の部室まで来てくれる?」
「なんだよイキナリ?話ならここですればいいだろ?」
「いいから来なさいよ。この写真の事でアナタに問い質したい事があるのよ。」
そう言って音川が俺に見せたのは、以前早見に渡した天才の力作、ウサちゃん音川の合成写真だった。
「ゲ・・・・・・・・!!」
俺は身の危険を感じ、その場から逃亡を図ったが、それより速く音川の手が俺の腕を捕らえた。
「逃げようとしたってムダよ。早見君からこの写真の事は全部聞かせて貰ったわ。」
(あんの・・・バカ!本人に取られる奴があるか?)
「なんなら、この事みんなにバラしてもいいのよ?須藤君は学園中の女子のイヤラシイ写真を撮って、
方々で売り捌いてますって。」
「へっ、俺がそんな事をしている証拠なんて何処にあるんだよ?まさかその写真をみんなに見せるわけ
じゃねーだろ?」
「フンッ、アンタが裏で怪しい事をしてるのは、みんな薄々気付いているんだから。アンタが尻尾を出さない
だけでね。私が言えば信じて貰えると思うわよ?アンタが言い逃れしようと、一体どれだけの人が
信じてくれるかしら?」
「ウ・・・・・・・」 「一緒に来てくれるわよね?」 「ハイ・・・・・」 俺はガックリと項垂れた。
120沙織:03/05/07 16:06 ID:o6Y8+ll/
「あなた、こんな事して恥ずかしくないの?大体、女の子達に悪いと思わないわけ?」
俺は聖研の部室で直立不動のまま、椅子に腰掛けた音川にこってりと絞られていた。
「どうせあなたも気に入った写真があったらオカズにしてるんでしょ。あんな合成写真まで作ってさ。
ホントどうしようもない変態ね。」
「な、なんだと。」
「違うの?じゃあ、なんであんな手の込んだ物を作るのよ。作ってる最中も出来あがった物を
想像したりしておっ起ててるんでしょ。」
(クッ、下手に出てりゃ言いたい放題言いやがって。)
「まあ、そんな事はどうでもいいわ。私はあなたと議論するつもりなんか毛頭ないから。
今日ここに呼んだのはね、あなたに悔い改めてもらうためよ。」
「く、悔い改めるって・・・・・・・どうしろっつーんだよ。」
次の瞬間、音川は信じられない事を口にした。

「そうねー、とりあえず、私の目の前でオナニーでもシテもらおうかしら。」

「はあっっっ!?」
「丁度ここにあなたの作った合成写真もあるし、これをオカズにして、いつものようにしなさいよ。」
こ、この女は一体何を言っているんだ・・・・・・・・
「あら嫌なの?嫌なら別にいいのよ。その時はあなたのしてきた事、全部バラすだけだから。
私は無理強いはしないわ。あなたの意思で決めてちょうだい。」
121沙織:03/05/07 16:07 ID:o6Y8+ll/
「わ、悪かったよ音川、謝る。だからそれだけは勘弁してくれよ。頼むよ、俺と音川の仲じゃないか。
なっ、この通り!!」
俺は手を合わせて音川に頭を下げた。
「ゴメンで済んだら警察はいらないのよ。それにあなたと私の仲って何よ。気持ち悪い事言わないで。
私はあなたを友達と思った事なんか一度も無いわ。」
「クッ!」
「さあ、どうするの?やるの?やらないの?」
ダメだ・・・・・・今のコイツに話し合いは通用しない。コイツは意地でも俺にオナニーをさせる気だ・・・・
今はコイツの要求に従うしかない。コイツの言う通り、この事をバラされたら俺は学園にいられなくなる。
それどころか、警察に突き出されたりでもしたら俺は破滅だ。
「わ、わかった・・・」
「じゃあ、早くズボン下ろしなさいよ。」
俺はノロノロとベルトを外し始めた。
「グズクズしないで。終わるのが遅くなれば損するのはあなたよ。もう少ししたら他の部員の子達も来るわ。
その時、あなたはこの状況をどう説明するつもり?」
「わ、わかってる!!」
俺は観念してズボンを一気に下ろした。
「ふーん・・・・・須藤っていつもそうゆうパンツ履いてるんだ・・・・・じゃっ、早くパンツも下ろして。」
「あ、ああ・・・」
122沙織:03/05/07 16:07 ID:o6Y8+ll/
俺はもう、どうにでもなれとヤケクソ気味にパンツも一気に下ろすと、下半身丸出しの情け無い姿を
音川の前に晒す。
「プッ、須藤君、とっても素敵よ。」
「クソッ・・・・・・・!」 「何?今何か言った?」 「い、いや・・・」
「ふーん、ならいいけど。じゃあ、さっさと始めてくれる?」 そう言うと音川は俺に写真を渡す。
「ああ・・・」 俺は写真を受け取ると、自分の一物をシゴキ始めた。

・・・・・・シュッ・・・・・・・・シュッ・・・・・・・・シュッ・・・・・・・・シュッ・・・・・・・・シュッ・・・・・・・・シュッ・・・・・・・・シュッ・・・・・・・・シュッ・・・・・・

音川と二人きりの部室で、一物を擦る摩擦音だけが静かに鳴り響く。それは異様な光景だった。
「全然大きくならないじゃない。須藤君、あなた、やる気あるの?私のこと馬鹿にしてるつもり?」
そんな事を言われても、この状況で起たせろと言う方が無理な注文だ。
女の前でオナニーなんかさせておいて、無茶苦茶言ってやがる・・・・・・!!
「ハア、ほんっと役立たずなんだから。仕方ないわね・・・・・・・・・・・・・ねえ・・・・・須藤クン・・・・」
そう言うと音川は口元に笑みを浮かべ、誘うような目つきをして、閉じていた足を組んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
音川の透き通るような白い太股が露になる。
しかも足を組んだ瞬間、純白のパンティーが確かに見えた・・・!
123佐伯まんせー:03/05/07 16:13 ID:o6Y8+ll/
>>119-122
沙織(DISCIPLINE -The record of a Crusade-)より

スマソ、取り敢えず貼らせて頂きますた。
続きは2〜3日中に投稿させられるよう頑張ります。
124110:03/05/08 00:19 ID:IkEjWqLQ
>>113・犬江しんすけ氏
レス、そして許可をありがとうございます。
ちょーっと忙しくなってしまっているので時間がかかるかも知れませんが、一部でも出来ましたら向こうの避難所でupします。
125名無しさん@初回限定:03/05/08 03:15 ID:sHhPptvl
>>13-78 65レス……すげ。葱板の最長記録をたぶん更新したなw
たぶんこれまでの最長
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1008500853/362-407n

分けて少しずつ掲載していったほうが気が楽だし読む人も増えるだろうけど、
SSサイトならこのぐらいの長さの物もけっこうあるし、
>>117ってこともあるし俺はOK。2chに投下して読んでもらいたい、
ここに投下したいって気持ちも評価したい。このスレ住人だし。
126沙織:03/05/08 17:48 ID:cZCBzOEm
「ゴクッ・・・・・・・」 俺は思わず生唾を飲み込んだ。
気が付くと、音川の下半身から目を離すことの出来ない自分がいた・・・・
そして10秒も経たない内に俺の一物はムクムクと膨れ上がり始めた。
「クスッ、やっとやる気が出てきたみたいね。私の太股を見て、そんなに興奮しちゃった?」
信じられない・・・! これがあの音川なのか?普段のお堅い優等生ぶりからは想像も出来ない、
妖艶な音川がそこにはいた。

シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ

俺の右手はいつのまにかスピードを速めていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「うふふ・・・・・・・」
音川は俺を見つめながら微笑むと、ペロッと舌舐めずりをする。
そして時折、パンティーが僅かに見えるように足を組みかえる。
俺はその瞬間を見逃すまいと必死に音川の股間を凝視する。
「やだあ須藤クン♥ そんなに股の間ばっか物欲しそうに見つめないでよ。私、恥ずかしいわ。」

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
俺は無我夢中で一物をシゴいた。ああ・・・!早く出したい!
早くこの目の前にある音川の艶かしい太股に、俺の溜まったモノをぶちまけたい・・・!

チュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュク

「・・・・ぅああああ・・・・・・っ!・・・・・・・もう・・・・・・・・っ・・・・・・ヤバイ・・・・・・・・・・・っ!」
「待って!!」 音川はそう叫ぶと、猿のように動かしていた俺の右手を制止した。
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・な、何・・・・・・・?」
「誰が出していいなんて言ったの?悔い改めなさいって言ったでしょ?勝手にイクなんて許さないわよ。」
そ、そんな殺生な・・・・!ここまできて出させてくれないなんて、いくらなんでもあんまりだ・・・・・・!
127沙織:03/05/08 18:02 ID:cZCBzOEm
「ハフ・・・!ハフ・・・!ハフ・・・!ハフ・・・!ハフ・・・!ハフ・・・!ハフ・・・!ハフ・・・!ハフ・・・!」
俺の一物は一秒でも早く出したいとヒクヒクとうめいていた。
そして口にこそ出さないが俺の目は、『早く出させて下さい』、と音川に懇願していた。
「ふふっ、須藤クン、そんなにイキたい?そんなにすがるような目でお願いするなら、
イカせてあげてもいいのよ。そのかわり、私のお願いを一つだけ聞いてくれる?」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・な、何・・・っ?」
俺は全神経を集中させ、これから発せられる音川の言葉に耳を傾けた。

「『沙織様、愛してます』って言って欲しいの・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」
もう選択の余地など無かった。この屈辱的な要求さえも、俺は素直に受け入れてしまっていた・・・

「ねえ・・・・言ってくれる?」

俺は無意識の内に口を開いていた。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・さ・・・おり・・・・・」
「ん?」 音川は聞こえているだろうにも関わらず、意地悪な笑みを浮かべて、わざとらしく聞き返す。

「はぁ・・・・す、沙織、さま・・・・あ、愛して・・・・ます・・・・っ!」

「プッ!・・・・・・・クククク・・・」 
 
え・・・・・?

「アハッ!!アハハハッ!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

たちまち部室は音川の笑い声が響き渡った。俺は一瞬、目の前が真っ暗になった。
「アハハッ!・・・アハッ!・・・す、須藤君、そんな状態で愛してますなんて告白されても、私困っちゃうわ♥」
いつのまにか俺は大粒の涙をボロボロとこぼしていた。
128沙織:03/05/08 18:04 ID:cZCBzOEm
「ヒック・・・・・・ヒック・・・・・・お、お前が、ヒック・・・・・・むりやり、ヒック・・・・・・言わせたくせに・・・・・ヒック・・・・・・」
「何?何か文句でもあるの?女の子の前でオナニーして、罵られて興奮してた変態マゾのくせに。
変態に私の事とやかく言う権利なんてあるの?大体、そんなカッコで泣きながら睨まれても恐くとも
なんともないわよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒック」
「わかったらそのまま続けなさいよ。早くイカないと他の子達が来ちゃうわよ。
あっ、でも今の恥ずかしい須藤君の姿をみんなに見てもらうのも一興か♪ ねっ、そうする?」
ダメだ・・・・・もう敵わない・・・・・・・もう俺の意志など何の価値もない・・・
俺はただ・・・音川の命令通りに・・・最後まで果てるだけだ・・・・・

チュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュク
チュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュク

「ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、ヒィフ、」

「フフッ、もうそろそろ限界みたいね。須藤クン、もうわかってると思うけど勝手にイっちゃダメよ。
イクときはちゃんと『イキます』って私に一声掛けるのよ。」

ああ・・・・・・! 沙織・・・・・・・っ! 沙織ぃ・・・・・・・っ! 沙織ィィィィィィィ・・・・・・・っ!

「・・・・・イ、イキます・・・・・っ!」

「いつでもどうぞ・・・・・・・」 

「・・・・・・・・・・・・・っ!・・・・・・・・・・・ぐああ・・・・・・っ!・・・・・・・・・・・・・んぁぁああああああ!!!」

ドピュッッッ!!! ビュルウウウ!!! ビュクンッッッッッ!!! ビュッッビュルルル・・・・・・

「うわああ♥ すっごーい!!イッパイ出たー♥ アハハハハハハハハハッ!」
「はあっ・・・・・・はあっ・・・・・・はあっ・・・・・・はあっ・・・・・・はあっ・・・・・・はあっ・・・・・・」
「須藤くん、随分頑張っちゃったね♥ 見てよコレ、この床の精子の量!後片付けが大変ね♥」
俺は音川が笑いながら指差した自分の精子を、ただ呆然と眺めるばかりだった・・・・・・・・・・
129沙織:03/05/08 18:06 ID:cZCBzOEm


「じゃ、じゃあ・・・もう、帰っていいか・・・・?」
ズボンのベルトを締め終えた俺は、恐る恐る音川に尋ねた。
「あっ、そうそう、一つ言い忘れてたけど、教室であなたに声を掛けてから今までの会話、
全部録音させて貰ったから。」
そう言うと音川は、自分のカバンから小型のテープレコーダーを取り出した。
「なっ・・・・・・・・!」
俺は言葉を失ったまま、呆然とその場に立ち尽くした。
「うふふ・・・・・あなたの情熱的な愛の告白も、しっかり入ってると思うわ。帰ってからじっくり聞かなきゃ。
楽しみね♥」
ハメられた・・・・・・! コイツは最初からそのつもりで俺を・・・・・・・!
「よっ・・・・・・よこせっ・・・・・・・・・!」
俺が音川に飛び掛ろうとした瞬間、部室のドアが勢い良く開かれた。
「ウィーッス・・・・・・・・・って、あれ?須藤、こんなとこで何してんだ?」
「須藤君?なんでうちの部室にいるの?うちの部に何か用?」

「・・・・・・・・・・・・・・・っ!」


「ふふふ・・・・・・須藤くん♥ これからの学園生活、楽しくなりそうね・・・・・・・」


                                                END
130佐伯まんせー:03/05/08 18:11 ID:cZCBzOEm
>>126-129
沙織(DISCIPLINE -The record of a Crusade-)より

一応、最後まで仕上がりました。
2〜3日前にSSを初めて書き始めたので、文体も稚拙ですし、
嗜好もかなり偏っておりますが(w、どうか御勘弁を。
131名無しさん@初回限定:03/05/08 18:20 ID:Y4U4h3cx
・・・・・・・・
ウザがられた時点で、素直に引っ込めていた方が良かったのでは・・・
132あぼーん:あぼーん
あぼーん
133ある日のアーカムシティ:03/05/08 21:22 ID:8hAmMPep
「いや〜平和だねぇ」
 と隣を歩く部下、ストーンに話し掛けるネスの声は心底幸せそうだった。
 彼の住んでいる街、アーカムは大黄金時代にして大混乱時代にして大暗黒時代。
 彼が赴任して以来事件が起こらなかった日など片手で数えれる位しかなかった。
 特に最近はブラックロッジの破壊ロボだけでなく、謎の青年と少女の二人組み
による破壊活動まで起こっている。
 気の休まる日などなかったのだ。
 だが今日は朝から事件の一つも無く街は平和だった。
「平和な事は良い事であります」
 少し遅れてストーンが答える。
 とその時見覚えのある顔がネスの横を通り過ぎた気がした。
 振り向くが確認する間も無く人ごみに消えていった。
「どうかしましたか、ネス警部」
「……いや、なんでもない」
 適当にごまかして、また歩き始める。
 ストーンはまだ訝っているようだったが、すぐに諦めたのか彼の後を追って歩
き始めた。
「平和が一番、さ」

134ある日のアーカムシティ2:03/05/08 21:23 ID:NxvCQo8t
 ネスの横を通り過ぎた青年と少女の二人組み。
 いわずもなが大十字九郎とアル・アジフだった。
 だが少し様子がおかしい。
 九郎はいつになく不敵な笑みを浮かべ、アルの手をしかと握りしめ引っ張るよう
にして歩いている。
 端から見ると変態ペド野郎が少女をかどわかして家に連れ込み無理やり■■■や
■■■■■を■■■■■■■■■■■■■■■■■(神様へこの部分は検閲されて
います)という風にしか見えない。
 だが九郎にはヒソヒソとこちらを見て話し合う人達が目に入らないのか、構わず
道をずんずん歩いていく。
 一方かどわかされている少女の方はというと、そんな男の様子を心配やら不安や
らの入り混じった表情で見ている。
(どうしてこんな事になってしまったのだろうか……)
 内心で自問自答する。
 事の発端について考えると、少し前まで遡らなければならない。
135ある日のアーカムシティ3:03/05/08 21:24 ID:NxvCQo8t
「……何だって?」
 覇道邸の応接間、九郎が間の抜けた声で聞き返す。
「聞こえませんでしたか?ではもう一度だけいいます。大十字さん、あなたの今月
分の給料はカットします」
 覇道瑠璃ははっきりと言い切った。
 静寂。
 アルの紅茶を啜る音と、高価そうなアンティーク時計の音がやけに大きく聞こえる。
 どれだけの時が経ったのであろうか。
 硬直の解けた九郎が訳のわからないと言った風に捲くし立てる。
「だから、何で!?理由を説明してくれ!!」
 悲痛な表情で訴える九郎にも、煩わしそうな態度の瑠璃。
「ウィンフィールド!」
「はい。では大十字様、私の方から説明させていただきます」
 執事の説明を簡潔に纏めると以下のようなものだった。
 最近のデモンベインの活躍は認めるが、街に出る被害が多すぎる。
 街に被害が出るたびに覇道財閥に苦情が寄せられる。
 って言うか寄せられすぎて仕事増えまくりでウザいので以前の赤貧生活に戻って
反省しやがれ。
「…………という事です」
「なんじゃそりゃぁぁぁぁっ!横暴だ!そんな事がまかり通ると思っているのか!?
っていうかウザいってなんだ〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」
「ああ〜、五月蝿いですわね!ウィンフィールドっ、お客様はお帰りですわよ!」
 すぐにウィンフィールドは暴れる九郎を取り押さえ、引きずっていく。
「申し訳ございません大十字様。どうかお引取り下さい」
「ちきしょうっ、離せ!離してくれ執事さんっ!ちくしょう、ちくしょ〜〜〜〜〜〜
〜〜訴えてやる〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」
 紅茶を飲み終えたアルはそんな九郎を追ってをつまらなさそうに歩いていった。
 
136ある日のアーカムシティ4:03/05/08 21:26 ID:NxvCQo8t
覇道邸を追い出された二人は並んで帰途についていた。
 九郎は、
(いつかあの高慢ちきな女■■■してやる……)
 等と暗い情念に燃えていたが、それを落ち込んでいるとでも受け取ったのだろうか。
「まあよいではないか。あんな小娘なんぞに施しを受けなくても生きてはいける」
 と慰めるような事を言ってきた。
「そうは言ってもよ〜、ほぼ無一文なんだぜ今……」
 財布を逆さにして振って見せる。
「飯なら教会に行って食えば良かろう。電気代や水道代など少し位滞納しても問題ない。
十分生きていけよう」
 やけに生活臭い魔道書の慰めに少しは元気が出たのか、
「……そうだな、いつまでもグチグチ悩んでてもしょうがないか。良し、そうと決まれ
ばライカさんの所にたかりに行くか!」
 と言って走り出す。
「な、待て!妾を置いて行くな〜〜〜っ」


 だが悪い事は重なるものらしい。
 教会に辿り着いたアルが見たものは、テーブルの前で立ち尽くす九郎の姿だけだった。
 教会はもぬけの殻で、テーブルの上に置手紙が乗っているだけ。
 アルがそれを覗き込むと、
「九郎ちゃんへ。福引で旅行が当たっちゃったので皆で行って来ます(はぁと)」
 とだけ書いてあった。
 動かない九郎を心配してアルが九郎の顔を覗き込んだ。
「汝っ……」
 九郎は真っ白に燃え尽きていた。
 そしてこの日から九郎の苦行の日々が始まったのだった。

137ある日のアーカムシティ5:03/05/08 21:27 ID:NxvCQo8t
 一日経っても二日経ってもライカ達は帰ってこなかった。
 そして飢えを塩を嘗めて凌ぐ生活を続けて一週間を過ぎる。
 とうとう塩も尽きた。
 前回は食事の当てがあった。
 だが今回はそれすらも期待できそうにない。
 空腹感と絶望感に打ちのめされる。
 絶望は死に至る病、と言うが絶望で死ぬ前に餓死するだろう。
 ぷちっ。
 彼の中で何か大切なものが切れてしまった、その事を示唆する音が鳴り響く。
 この時九郎の目に怪しい光が燈り始めていた。
138ある日のアーカムシティ6:03/05/08 21:32 ID:NxvCQo8t
そして次の日の朝。
「そぉぉぉぉぉぉぉかっっ!解ったぞぉぉぉぉぉぉおおっ!!!」
「わわわわっ、わ〜っ」
 べちゃ。
 急に大声をだされて驚いたのか、アルはダンセイニの上からずり落ちた。
「な、なんだいきなり大声を出しおって……」
 起き上がって九郎の方を向く。
「今の生活から脱却する方法を思いついたんだっ!」
「ほ、ほう。それはよかったな……」
 あまりの九郎の勢いに少し腰が引けているアル。
「そう、その方法とは…………」
「…………方法とは?」
「競馬だぁっっっ!!!!!!」
「…………………………………」
「…………………………………」
「…………………………………」
 
139ある日のアーカムシティ7:03/05/08 21:33 ID:NxvCQo8t
 静寂が訪れる。
 数分後、我に返ったアルが呟く。
「……何故に?」
「良くぞ聞いてくれたっ!そうちょうどある晴れた日に屋上に行ったら電波的なお告げ
がビビビッと来たんだ!」
「な、汝っ……大丈夫か?」
 頭は、と言う言葉を飲み込む。
 この時に漸く九郎の目が正常でない事に気が付いた。
「そう、これはヒアデス星団辺りからシュリュズベリィ博士が旧神の知識を以ってして
俺に電波と言う形でお告げを送信していると確信するのは当然でないと誰が言えるであ
ろう、いや言えまいっ!」
 一気に捲くし立てられ、しどろもどろになるアル。
「だ、だから……」
「そうか、お前もそう思うかアルッ!よし、善は急げだ!」
「わきゃっ」
 そういって未だに床に座り込んでいたアルを抱き上げる。
 所謂お姫様抱っこと言う奴だ。
「ななななな汝ぇっ、いきなり何をするっ。離せ、離さんかっ!」
 だがアルの抗議も虚しく、
「いざ行かん、彼の地へっ!」
 そう宣言し、ドアを蹴破って走り出してしまった。
140ある日のアーカムシティ8:03/05/08 21:34 ID:NxvCQo8t
 アルの必死の説得によって(魔術でぶっ飛ばしたとも言う)何とか抱きかかえられたま
ま街中を走り回られると言う事態は回避したが、九郎の目は相も変わらずヤバイ光を放っ
たままだった。
 回想を終えたアルは既に競馬場に辿り着いてしまった事に気が付いた、存外長く物思い
に耽っていたらしい。
 もうこうなったらとことんやるしかない。
 そうさ、九郎も空腹で脳が腐っているだけ。何か食わせればきっと元に戻るはずだ。
 シュリュズベリィ博士でも何でもいいからとにかく勝って貰わなければ。
 そう開き直りアルは九郎に問い掛ける。
「それで汝、どう賭けるつもりなのだ?」
「1に単勝で全額だ、ルドウィク・プリン様がそう仰られている」
 なけなしの1ドル紙幣を握り締め答える。
 シュリュズベリィ博士じゃなかったんかいとかそんな蛆臭そうな奴のお告げは聞きたく
ない、等の突っ込みを飲み込む。
 今の九郎を下手に刺激しない方が良いと思ったからだ。
 だがその思いも虚しく直後その場に哄笑が響き渡った。
 このパターンはウェストとかいう■■■■か、とも思ったが声が違った。
「あははははははははは……」
 真後ろから聞こえてくる声に二人が振り向くと其処には、
141ある日のアーカムシティ9:03/05/08 21:35 ID:NxvCQo8t
「「マスターテリオンッ!!??」」
 そう、金色の髪、金色の眸、亀裂の様な笑顔。
 何故か少し薄汚れているがそんな事は彼の美貌を少しも損ねていない。
 紛う方なしのマスターテリオンだった。
 身構える二人。
 流石に脳が壊れている九郎でもマスターテリオンの怖さは解るらしい。
 アルの心配をよそに真っ当な反応を返す。
「貴様っ、何故こんな所にっ!?」
 緊張し震えた声を叩きつけた。
 それに対し彼の返答はとても軽いものだった。
「あはははははははは……笑止也、大十字九郎。競馬場に競馬以外の何をしにくるというのだ」
 嘲りを含んだ口調が逆に可笑しい。
 最初は何を言っているのか解らなかった二人だが、
「…………何故競馬?」
 当然の疑問がアルの口を衝いた。
「ブラックロッジの運営費用の捻出の為だ」
 事も無げに言い、持っていたスーツケースを開ける。
 其処には九郎が一生かかっても稼げるかどうかの紙幣の束束束。
「っていうかそんだけあるなら運営費用に回せよ」
 九郎が突っ込む。
「ふ、愚昧だな大十字九郎。費用がないから捻出せねばならんのだ。これはエセルドレ―ダ
を古本屋で換金した金だ。流石最古の魔術書と言った所か」
 相も変わらず口調は軽い。
「……ナコト写本を売ったぁ!?」
 暫く呆然としていたアルが素っ頓狂な声を上げた。
 まあ無理もないが。
 その横で九郎は何か感銘を受けたかのように考え込んでいた。
142ある日のアーカムシティ10:03/05/08 21:39 ID:NxvCQo8t
 静寂に包まれる。
 その沈黙を破ったのはマスターテリオンだった。
「それと一つだけ言っておいてやろう。次のレースに1は来ん」
「なんだとぉっ!?貴様俺のイホウンデー様を愚弄する気か!?」
 自分の(お告げの)意見を否定され怒り猛る九郎、どうやらまた壊れ九郎に戻ってしまっ
たらしい。
 コロコロ変わるお告げの主について言及するものは最早いなかった。
 アルはそろそろ自分の脳の方を疑い始めていた、これは悪い夢なのではないかと。
「3−4……それは宇宙の真理であり変えられない運命なのだよ」
「ならば俺は貴様に■ン■■ファイトを申し込むっ!!」
 思考停止に陥っているアルの願いも虚しくさらに悪夢は続き、九郎の発言の支離滅裂度は
鰻上りに上がっていった。
「そうか、余に挑戦すると言うのか大十字九郎。いいだろう受けてやる。だが勘違いするな。
貴公の矮小さを知らしめてやるために受けてやるのだ。精々もがき苦しむ様を見せつけてく
れるのだな」
 互いに意味不明な事を言い合った後仲良く馬券を買い終えた二人は固唾を飲んでスタートを待った。
 そして結果――――――――
143ある日のアーカムシティ11:03/05/08 21:43 ID:NxvCQo8t
 二人とも外れた。
 最後の生きる望みを失って真っ白になってる九郎の横、
「な、なんだと!?こんな事は今までに一度も無かった!!何故だ、何故こんな事が!?」
 今までに無いほどに狼狽するマスターテリオン。
 握っていた赤鉛筆をヘシ折ってしまった事にも気づいていないようだ。
 狼狽をを隠す余裕もないらしい。
 ブツブツと独り言とを言い始め、そして自己完結したのか放心している九郎にビシッと指した。
「そうか貴公の所為か大十字九郎っ、神を断つ剣!貴公の存在が運命の輪を狂わせたと言うの
か!?許さん、許さんぞっっ!!!これではエセルドレーダを買い戻せないではないかっ!!!!!」
 ■■■■のように好き勝手な事を捲くし立てながらマスターテリオンは魔力を集中させる。
 マスターテリオンの魔力に中てられてアルは正気に返った。
 一瞬の状況判断、マギウススタイルになる余裕はもう無い。
「間に合うか……?」
 結界を張り終えると同時に、
「殺ーーーーーーーーーーーーーーッ」
 閃光が二人を包んだ。
144ある日のアーカムシティ12:03/05/08 21:45 ID:NxvCQo8t
「い、生きてる……?」
「ア、アル。大丈夫か?」
 九郎が倒れているアルを抱き起こす。
「何とか……それより汝、正気に戻ったのか?」
「ん?ああ」
「そうかぁ……良かったぁ」
 九郎の正常な様子を確認し、心底嬉しそうな表情で息を吐いた。
「それにしても何で俺達無事なんだ?」
 九郎の疑問も当然だった。 
 マスターテリオンが相手なのだ。
 競馬場ごと吹き飛ばされる事も覚悟していたのだが、とばっちりを受け気絶している人
がいる位で、周りの被害も少ない。
 手加減をしたのだろうか、だがそんな理由も見つからない。
 思い悩むアルと九郎だがマスターテリオンの呻き声で我に帰る。
 一瞬の隙が死に繋がる相手なのだ。
 油断無くマスターテリオンを見つめる二人。
145ある日のアーカムシティ13:03/05/08 21:47 ID:NxvCQo8t
「何故だ、エセルドレーダ……?」
 そう呟き呆然としているマスターテリオンを尻目に九郎はアルに問い掛ける。
「……どういう事だ?」
 暫くマスターテリオンを観察していたアルだったが、
「どうやら今の奴はナコト写本との繋がりがないらしい。つまり魔術書がないので大した魔術が
使えない状態のようだな」
「ふ〜ん、つまり今のうちにタコ殴りにでもしておけと」
「そのようだな……」
 アルは頭痛を抑えるようなジェスチャーをしながら答えた。
 マギウススタイルになった九郎がゆっくりと近づいていく。
「はは、はははははは。あははははははははははは…………。大十字九郎、これも所詮は運命。
神の仕組んだ絡繰に過ぎんのだっ!!そして運命の輪は常に余の手中にあるっ!」
 錯乱気味のマスターテリオンはちょっと涙目だった。


 因みに自分の主がピンチの時、エセルドレーダはというと―――
 古本屋の隅で体操座りをして、
「……………………………………………………………………マスターのばか」
 いじけていた。
146ある日のアーカムシティ14:03/05/08 21:49 ID:NxvCQo8t
 マスターテリオンを昇滅させた二人は並んで歩いていた。
 愚痴を言いながら歩くアル。
「そもそも汝は空腹如きで我を失いおって。我が主として情けないとは思わんのかっ?」
「悪かった、悪かったよ」
「ちゃんと反省しておるのか?そもそも汝はなぁ……」
「解ったって、反省してる。それよりさ途中で寄っていきたいところがあるんだけどいいか?」
 九郎の問いに、はぁ〜っ、とため息で返す。
「本当に反省しておるのやら……まあ好きにするが良い」
 アルの答えに満面の笑顔で、
「そっか、じゃ行こうぜ。こっちだ」
 そう言ってアルの手を握り歩き出す。
 先程のように無理やりと言う感じではなく、優しく恋人をエスコートするかのように。
(なななな、何を考えておるのだ妾は……)
 自分の考えを打ち消す。
 最近の自分は何か変だ。
 この様な事は今まで一度たりともなかったと言うのに。
 九郎と一緒にいたい、九郎と話をしたい、気が付くとそんな事を考えている。
 最初はアルと愛称で呼ばれる事があんなに嫌だったのに、今ではそう呼ばれるだけで心臓が跳ねる。
 気分は昂揚して、だがすぐに冷めた。
 所詮自分は只の魔道書、人間ではない。
 いつもその事実に打ちのめされる。
147ある日のアーカムシティ15:03/05/08 21:50 ID:NxvCQo8t
 本に懸想した人間など聞いた事も無い。
 所詮は実らぬ……
「どうしたんだアル?そんな泣きそうな顔して」
「ななな何でもないっ!」
 顔を覗き込んできた九郎から慌てて顔を背ける。
「そうか、ならいいんだけどな」
 そう言ってきゅっと手を握りなおす。
 とくん。 
 心臓が高鳴る。
 実らぬ恋なのかも知れぬ、道ならぬ恋かもしれぬ。
 だが此奴なら、大十字九郎なら、妾を受け止めてくれるやも――――
「やっぱお前変だぞ、今度は顔が赤い。熱でもあんのか?」
「う、うるさいっ。それよりまだ目的地に着かんのかっ!?」
 照れ隠しに大声を出して誤魔化す。
 そんなアルに対し、
「もうすぐだ」
 と言ってこちらに笑顔を向けてきた。
 その笑顔を見たらあれこれ考えていた事が馬鹿らしくなってくる。
 何も答えを急ぐ事もあるまい。
 この男が本に懸想をするような変人じゃないとも言い切れまい。
 それにこんな朴念仁に寄ってくる輩など……輩などいないとは言わないが妾の方がずっと良い女さ。
 きっといつかは他の女共を蹴散らして、九郎を篭絡してみせよう。
 そう心の中で誓うと気分が晴れてきた。
 時間はまだあるのだから、急ぐ必要などないのだ。
 夕焼けの街を仲睦まじく二人は歩いていた。
148ある日のアーカムシティ16:03/05/08 21:52 ID:NxvCQo8t
 ストーンは隣で大あくびをしているネス警部を睨み付けていた。
 彼はネスが有能なのにやる気が足りないと言う事に不満を持っていた。
 もっとちゃんとしていれば尊敬できる上司なのに、と。
「いや〜平和だねぇ、ストーン君」
 今日何度目かの警部の台詞。
 確かに今日はこの管轄で事件が起きなかった。
 その意味では平和だったと言えるだろう。
 しかし結局今日も事件は起きていた。
 アーカム中央競馬場で傷害事件があったらしい。
 金色の髪の少年が病院に半死半生で担ぎ込まれたそうだ。
 そう、気を抜いてもらっては困るのだ。
 いつ何時事件が起こるとも知れないのだから。
149ある日のアーカムシティ17:03/05/08 21:52 ID:NxvCQo8t
「ネス警部、しゃきっとして下さい」
「ふわぁぁぁっ、いいじゃないかストーン君。どうせ今日は何も起こらんよ」
 またあくびをしながら答える。
 これ以上言っても無駄、そう判断したストーンはため息一つつくと押し黙った。
 ちょうど出来たその沈黙、それを狙い済ましたかのように少女の叫び声が静寂を引き裂いた。
「汝ぇぇぇぇぇっっ!!!!!!!全然正気に返ってないではないかぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 直後大爆音が響く。
 すぐ向こうの区画で爆発があったようだ。
「ネス警部っ!事件でありますっ!!現場に急行しましょうっ!!!」
「わかった、わかったから引っ張らないでくれ。はぁっ、アーカムには事件のない日はないのかね」
 ネス警部がぼやく。
 そう此処はアーカム。大黄金時代にして大混乱時代にして大暗黒時代。
 事件は尽きない。
 だからこそこの仕事はやりがいがある、ストーンはそう思っていた。
「で、爆発が起きたのはどこらへんかねストーン君?」
「向かいのブロックの……ちょうど古本屋があるところだと思われます」
「古本屋?そんなものあったっけ?」
「警部、ちゃんと巡回場所の地理を……って喋ってる暇があったら早く現場に向かうでありますっ!」
「……わかったよ」
 前を走るストーンの後ろをだるそうにネスが続く。
 こうしてアーカムの比較的平和な一日は騒乱の内に終わりを告げたのだった。
150てけり:03/05/08 21:56 ID:NxvCQo8t
>>133-149
題「ある日のアーカムシティ」(斬魔大聖デモンベイン)より
初めて書いたSSなもので展開の強引さとか文章の稚拙さは御容赦下さい。
ニトロネタバレで出ていた
「ホームレスで競馬にハマっているマスターテリオン<ナコト写本は古本屋に売却済み」
と言うのが妙にツボに入ってしまい、SAN値の下がったまま勢いで書いたら
登場キャラのSAN値まで下がってしまいました。
後全く競馬の知識がないので描写が適当ですが、そこらへんにも目を瞑って貰えると幸いですw
151名無しさん@初回限定:03/05/08 22:29 ID:8braIYuG
>>150のてけり氏
紅茶吹いた。
152てけり:03/05/08 23:41 ID:NxvCQo8t
>>151
レスありがとうございます。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
153名無しさん@初回限定:03/05/09 00:14 ID:UVuNHp8+
>>150
149で牛乳吹きそうになった
154名無しさん@初回限定:03/05/09 01:43 ID:hV1uO257
こんなんなったマスターなんて、おそらくナイアに呆れられ、見限られ、見捨てられるな(;´Д`)
よかったねマスター。もう永劫の輪廻なんかクソほども関係なくなったよ。がんがってイ`。
155名無しさん@初回限定:03/05/09 03:58 ID:5cq3JoR7
のたれ死んだ後にエンネアの体内から復活、SAN値も
元に戻ってまた輪廻に戻りそうだがw
156名無しさん@初回限定:03/05/09 09:29 ID:w/W1xdl0
>150
ワラタヨ。
途中、てっきり古本屋に売って、
人間形態で逃げてくる詐欺商法かと思った(w
157名無しさん@初回限定:03/05/09 14:09 ID:x+LeWBOb
ほかのアンチクロスの面々と西博士もバイトとかして資金を稼いでそうと思ってしまった。
道路工事をするカリグラとか。
158名無しさん@初回限定:03/05/09 17:26 ID:dC8O6e6u
西博士は材木問屋だったりして・・・
159名無しさん@初回限定:03/05/09 19:51 ID:bSDcCssM
実は西博士が一番の稼ぎ頭だったりして。だからテリオンのお気に入り。
「見合い…ですか?」
「ええ。お見合いです。先日取り引きしたマーシュ社長のご令嬢です。
 彼女がどうやらあなたのことを聞いてひどく気に入ったらしいですわ」
「は。しかしお嬢様、私は今はまだ結婚など…」
「私とてあなたが結婚なんてするとは思ってません。ただお見合いをして頂ければそれでいいのです。
 取引の条件のひとつがそれでしたので。大丈夫です、結果は問わないそうですので」
「どうしてもですか…」
「ええ。どうしてもです」
「……畏まりました。お受け致します」
…以上回想
「と、いうようなことがございまして」
「で、何で俺の所に来るのかな、執事さん?」
 事務所の机を挟んで深刻な顔で向かい合う俺と執事さん。
 俺の隣ではアルが「客用の」茶菓子をほおばっている。おい。
 訊ねると執事さんは沈痛な面持ちで懐からひとつの大判封筒を取り出した。
「これをご覧下さい」
 中から出てきたのは美麗な表紙のついた冊子だ。よくある見合い写真の入ったアレだ。
「お、見合い相手の写真か。どれどれ?」
「面白そうだな、妾にも見せよ」
 アルも興味を惹かれたのか一緒になって覗き込む。そして…
「…………ぅ」
「…ほう。なかなかに個性的な貌をしておるではないか」
 俺は生まれて初めて真の恐怖を知った気がする。世の中にこれ程恐ろしいモノがあっただろうか。
 淋病のセイウチの顔をハンマーで潰して皮をはいだ挙句、挽き割り納豆と風呂場のカビを塗りこんで、
 バーナーでこんがり焦げ目をつけて、もう一度ハンマーでヒビを入れればこんな顔になるかもしれないと
 いった感じのダゴンの方が数倍カワイイのではないかと思える未知のクリーチャーがそこに写っていた。
「怪奇現象や人外化生は大十字様のご専門かと存じますが」
 しれっと言い放つ。
「いや! 怪奇でも人外でもないし!! 限りなく近いけど! コレ一応ヒトでしょうが」
「汝等、仮にも女に向かって失敬極まる物言いだな」
 お前もだ。何だ『仮にも』って。しかも自分は正真正銘の人外化生だろうが。
「私ウィンフィールド。彼女を前にして婚姻をお断りする自信がございません。
 恐怖のあまり婚姻届にサインしてしまいそうで。」
 ああ…よくわかるよ。俺はうんうんと首を振る。
「そこで、彼女の方に諦めてもらえば良いと思い立ちまして。
 私には想いを寄せている相手がいることにしようと」
 なるほど。
「当然、相手が相手です。納得させるにはかなり強者かつ完璧な女性を用意する必要があります」
 まあ、そうだろうな。
「では、お願いします大十字様」
「は?」
 パチン! と指を鳴らす。同時に玄関が勢いよく開いて例のメイド三人娘が飛び込んでくる。
 その手にあるのは化粧箱、ドレス、鏡……!!!!!
 なんだかデジャヴ。
「どこかで見た光景だな」落ち着き払ってアル。
「ちょ、ま、いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 ・・・・・
「しくしくしくしく…」
「やはり、私の目に狂いはなかったようです。見事な淑女っぷりです大十字様」
「腐ってるよ!あんたの目!」
「あ、相変わらず洒落にならんな、汝」
「お前も止めろよ!!!」
 鏡に写る自らの姿。これを見るのは初めてではない、邪悪の連鎖のむこうで一度目にした見目麗しき姿。
 まさかまたやる羽目になろうとは。つーかトラウマなんですけど。
「で? 俺にどうしろと?」
 屈辱に震えながら、なんとか問いかけることに成功する。涙声だった。
「もちろん、お見合いを邪魔していただきます。命の保障はできかねますが」
 しろよ。
「そのぶん報酬のほうは弾ませていただきます。」
「あのな、いくら金積まれても俺にもプライドって奴が」
「はーい! 大十字さん、あなたみたいな最下層の人間のクズにはまずお目にかかれない額ですよ〜」
 なんかナチュラルに激しく人を傷つけながらソーニャがアタッシュケースを開く。
…………………すいませんそのとおりでした。
 しかし! 俺は金なんかになびいたりしないぞ! 
 俺は俺の矜持を、尊厳を守りぬく! 
「引き受けましょう!」(0.2秒)
 ぺこり。あれ? なんかコレもデジャヴ。
「汝という男は…」
 アルの蔑みの視線を一身に受けつつ、俺は新たなる戦場へと旅立つ事となった。
 そんな目で見るな。
さて、3日後の正午。ホテル・ニューアーカムの最上階レストラン。その片隅に俺たちはいた。
 執事さんが見合いをする個室の隣の個室。
 部屋の片隅にはモニターが置かれ、隣の様子が見えるようになっている。
 俺はいざという時(?)のためマギウス化し、その上から女装していた。ヅラもいらないし。
「そろそろやな、おもしろくなったきたわ」
 笑い事じゃないってチアキさん…。
「あ、来ましたよ〜」
 先に会場に訪れたのは相手のほうだった。
 はるか遠方からズシンズシン足音を立て猛烈な瘴気を撒き散らしながらやってくるレッドキングもどき。
 可愛いドレスが実に不愉快♪ 伴っているのは父親か。こっちはまっとうに人間だ。
 がたがた震える給仕に案内されるままテーブルに着く。アンティークの椅子がミシミシと音を立てた。
「……やっぱ帰る!!」
 逃げようとする俺の首根っこをマコトさんに取り押さえられる。
「離せ! 頼む。離してくれ!!」
「たのむで九郎ちゃん。ほんまにキッツイのはウィンさまなんやから」
 チアキさん、だから目ぇ笑ってるって。悪魔か? 悪魔なのか!?
「ウィンさま、お嬢様いらっしゃいました!」
 執事さんと姫さんが並んで入ってきた。執事さんはなるべく上を見ないようにして歩を進めている。
 そして着席。
 通り一遍の挨拶が済み、いざ互いに自己紹介という段になった。
「カリグラータと申します。今後ともよろしくお願いしますね」
 えーと、呪詛? い、いや、今のが声か!? というか名前にも微妙に違和感。いや、既視感?
「ウィンフィールドです。こちらこそよろs……ッ!!!!」
 言いながら何とか顔を上げた執事さん。
 ……ファイティングポーズとってんだけど。
 俺の肩の上でアルがプルプル震えて笑いをこらえている。
 チアキさんに至っては転げまわっている。なんかだんだん執事さんが可愛そうになってきたな。
30分後。
「では、あとは若い二人で」
「そうですわね。ウィンフィールドしっかりおやりなさい」
 去ってゆくレッドキングパパと姫さん。取り残された二人。
「…………えぇと、カリグラータ様」
「かりりんって呼・ん・で。ぽっ」
 ビシッ。空気が凍る。
 そんなことにはお構いなしにカリグラータはテーブルの料理を片っ端から手づかみで平らげながら話し続ける。
 カタカタ震える執事さんのティーカップ。執事さん、こぼれてるこぼれてる…。そしてついに訪れる決定的瞬間。
「ウィンウィン♪て呼んでもいいかしら?きゃ」
 ビシビシッ! とんでもないことをこの珍獣が言った瞬間、
 その瞳に絶対零度の氷を宿らせウィンウィン、もとい執事さんが呟き、拳を握る。
「……秘技、即興拳舞(トッカータ)…」
「マズイ! みんな止めろ!!!」
「ウィンさまストップ!」
「いけません!」
 みんなでばたばたと隣になだれ込んでゆく。
「きゃあ。何ですのあなた達!」
 悲鳴を上げ、異常に敏捷な速度で10メートルほど飛びすさるカリグラータ。椅子が倒壊する。人間かホントに。
 俺たちは俺たちで必死で執事さんを取り押さえる。何発か殴られた。死ねる。
「はぁ、はぁ……失礼。取り乱しまして」
 たのむよほんと。
「で、何なの!? この人たちは!? ウィンウィン!」
 ………無表情なまま放心する執事さんをマコトさんが肘で小突く。
「く、クローディア! 君いったい何をしにここへ!」 
 多少強引ながら脚本スタート!
「ああ、うぃんふぃーるどさま。わたしというものがありながらなぜおみあいなどなさるのですか」
「…汝、才能ないな」
 胸元に入れたアルが呆れ声で突っ込む。黙れ。
「いやですわ、うぃんふぃーるどさま。わたくしは『コンナ異次元生物!』にあなたをわたしたくありません」
 微妙にアドリブを混ぜてみる。部分的に妙に滑舌良く地声で。後ろで吹き出すチアキさん。
「ななななな。なんですの!この無礼な女は!」
「申し訳ありませんカリグラータ様。すぐ下がらせますので」
 そう言う執事さんをぐいと押しのけ前に出る。怖ぇよう。
「わたしとしょうぶなさい。 かったほうがうぃんふぃーるどさまとけこーんするのよー」
 強気で健気な少女を装って啖呵を切る。
 可憐な少女の勇ましい姿にレストラン中から巻き起こる歓声と拍手。見世物じゃねえって。
「ぬぬぬぬぬ。いいわ。望むところよ! 私の愛を見せてやるから!!」
 望むなよ!!!!! 頼むから!
「いい!? 先にウィンウィンの唇を奪ったほうが勝ちよ!!」
「は………!?」
 今なんて言いましたか?
 予定外の展開に凍りつく一同。青ざめる執事さん。そりゃあそうだ。片や物体X、片やオトコだ。
「ちょ、それは」
「レディ、ゴーーーーーーーーーー!」
 問答無用に掛け声一閃、執事さんに飛び掛かるカリグラータ。間一髪身をかわす執事さん。まるで闘牛のようだ。
 俺は俺でその場を動くこともできず、目の前で繰り広げられるデスマッチを呆然と見つめていた。
「アル。どうしようか?」
「妾が知るか」
 にべもない。メイドさん達の方に助けを求めるが、皆視線を合わせようとしない。
 畜生、薄情者どもめ。
「ええい! よし、取り敢えず奴を捕らえる! 行くぞアル!!」
「この格好でキメられてもな…」
 アトラック・ナチャ!
 魔力で編まれた光糸がカリグラータに絡みつき捕縛する。獣のうなり声を上げて暴れるカリグラータ。
 ふふふ勝ったな。
「どうかしら? あなたにこんなマネができて? 完璧なる淑女は魔術のひとつふたつ使えるモノよ!」
 ドレスを翻し、ビシ!と指を突きつけて勝ち誇る俺。またも拍手喝采。どーも、どーも。
「だんだんノッてきたな、汝」
 うるさい。
「うぬぬぬぬ〜。ま、魔術がなんぼのもんじゃい!」
 叫んで両手で網を掴むカリグラータ。光糸がみしみしとたわみ始める。
 おいおい、まさか力業でなんとかしようってんじゃ……ばつん!!!
 げげ!コイツ、素手でアトラック・ナチャを引き千切りやがった!
「馬鹿な! 汝っ、手を抜いておらぬだろうな!!」
 流石のアルも驚きを隠せないようだ。冗談じゃねえ。人間業じゃない!! 
 カリグラータは俺をこそ真の敵と認識したらしく、折れたテーブルの脚を片手に飛びかかってくる。
 完全に意表を突かれた。まずい、かわせない!
「くっ!」
 腹部に激しい衝撃を受け吹き飛ぶ俺。
「だいじゅ…クローディア!」
 執事さんが駆け寄ってくる。カリグラータが繰り出してくる攻撃をボクシングのパーリングの要領で全て捌く。流石!
「なぜ邪魔するのウィンウィン!」
「なぜっていわれましても…」
 そりゃな、俺がやられたら後がないし。必死にもなろうというものだ。
「申し訳ありません。私は、私はクローディアを…愛し…ている…のです」
 そっぽ向きながら告白する執事さん。
 うわあ、すげえイヤそう。ていうか俺もイヤだ。その間もその手は神速の攻防を展開している。
「認めない!認めないわよ!」
 半狂乱になりエスカレートする攻撃。捌ききれなくなった執事さんは俺を抱えて横っ飛びに攻撃圏内から離脱する。
 しかしこのレッドキング、執事さん相手にコレとは…アンチクロスばりに強いんじゃないのか? 正直底が知れない。
 カリグラータは今一度こちらへにじり寄ってくる。何というか、絶体絶命。
 「どうするよ、執事さん」
 小声で作戦会議を展開。時間はない。早急に対策を練らねばならない。
 執事さんは彼には珍しく苦渋の表情を浮かべ、油汗を流している。そして再びカリグラータが間合いに入ってくる!
 くそ! こうなったらやるしかない。殺る!! 殺ってやる!! 思い描く召喚術式。バルザイの……
「……大十字様…失礼します」
「はい? 〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
 その場の全てが時を止めた。俺は真っ白になった頭の中で考えていた。きっとこれは夢さ。あはははは…
「ななななな」
「うわ、え、えぇ〜!?」
「……すごい」
 メイド娘達の驚愕の声が聞こえた。そうか、すごいことになっているのか…。
 レストラン中からも喝采の声が聞こえる。そりゃあそうだろう。傍目にはきっとこう見えるはずだ。
……怪物を前に最後の口づけをかわす美男美女。しかもかなり濃厚な。
 実体は男同士の濃厚なキスシーンなのだが。
「…………」
「…………」
「………んっ、んんっ!?」
 ちょ、ちょっと! 上手いんですけど! 待て!待て待て待て! お願いもうやめて!! あっああああっっっっ。
 しばらくして執事さんが俺を解放する。ぐったり…。なんだか涙が溢れてきた。首くくりたい。
「これで、クローディアの勝ちですね、カリグラータ様」
 なるほど、そうですか、そういうことですか。でも、でもここまでやらなくてもいいじゃないか。あ、また涙が。
 カリグラータはショックを受けたのかじりじりと後退していく。
「……そう、あなた達はそんなにも強く結ばれていたのね。初めから入り込む隙間なんてなかったのね!」
 隙間がないのは確かだが前半は激しく否定したい。
「さよならウィンウィン! あの夜のことは忘れないわ!」
 どの夜だ。初対面だろうに。くるっと踵を返し窓に向かってドスドスと疾走するカリグラータ。
「おい! まさか!」
 ここは高層ホテルの最上階だ。あのまま窓に突っ込めば間違いなく簡単に死ねる。
 激しい音を立てガラスが割れ、突風がなだれ込み。カリグラータの姿が消えた。
「冗談だろ!! フラれたくらいで自殺かよ!!」
 みな慌てて窓に駆け寄る。そして見た。
 すごい勢いでホテルの外壁を軽やかに『駆け下りて』いくカリグラータを。
 ………

「何はともあれ、ありがとうございました、大十字様。」
「いいもん見させてもろたわ、九郎ちゃん」
「どっきどきでしたねぇ〜」
「だめ、大十字様じゃ、可愛くない…」
 なぜか頬を赤らめながら好き勝手言い残して、執事さん達は報酬を置いて帰っていった。
 あの後、姫さんには相当叱られたようだが、危機を回避した執事さんは実に晴れ晴れとした顔をしていた。
 しかし、なんつーか普通の怪奇現象とかドクターウェストの方がまだマシだったな。
 凄い消耗した、精神的に。
「さてと、アル。金も入ったし飯でも…って何怒ってんだ?」
 振り返るとアルが眉間にしわを寄せ、拳を握りしめて立っていた。
「で? 妾以外の人間と接吻した感想はいかなものかな九郎?」
 何を言っているのか一瞬思考が追いつかなかった。
「……ちょ、ちょっと待て。相手は男だし! それに仕方ないだろあの状況じゃ」
「黙れ。やたらと絵になっていて何となくムカついたのだ! 汝を吹き飛ばしておかねば気が済まん!!」
 そしていつもの、おなじみの、慣れ親しんだ激痛が俺を襲った。
 天国の父さん、母さん、世の中はとっても理不尽です。
171名無しさん@初回限定:03/05/09 22:00 ID:Y7P/9C9T
またも神降臨…デモベSS書きは化け物集団ですか。

っていうかカリグラータって………
172名無しさん@初回限定:03/05/09 22:01 ID:0WrAXYBh
>>160-170
グッジョブ
173犬江:03/05/09 22:05 ID:dzHW6jOP
>>160-170
題「執事と女装とアーカムの怪(改題)」(斬魔大聖デモンベイン)より

前作が意に反し高評価だったので図に乗って1本。
どうしても九郎ちゃんをまた女装させたくて強引に話作ってしまいました。
正直、ゲーム内にいないキャラが異常に大活躍なのは問題ですが。
174名無しさん@初回限定:03/05/09 22:11 ID:A/tQtVh3
>>160-170
面白過ぎ・・・笑い過ぎて死にそうw
アンタ本当に神ですか。
175名無しさん@初回限定:03/05/09 22:12 ID:uYnxizHF
>>173
読んでたらコーヒー噴き出してキーボードが凄いことになりました。
一体どう責任とって下さりやがりますか?この邪神っ!!
176名無しさん@初回限定:03/05/09 22:20 ID:cdKErQ21
>173
読んでてSUN値下がる下がる
狂笑死しかねねぇw
177名無しさん@初回限定:03/05/09 22:35 ID:txQVIhCf
>>大江氏
てゆか汝はHPを作ってSSを載せよ。
まあデモベの世界がSS作り易い、というのはあるにしても
汝の力量はアンチクロス級かそれ以上であろう。

てなアル口調でマジレスしてみたが。正直面白かった。
178名無しさん@初回限定:03/05/09 22:38 ID:wargEpKj
>>173
グッジョブヽ(´∀`)ノ
179名無しさん@初回限定:03/05/09 22:57 ID:x+LeWBOb
>>173
神降臨!
正気度が下がりつつも大爆笑。
次も期待します。
180名無しさん@初回限定:03/05/09 23:04 ID:Gp7SlMLY
>>173
コーヒー吹いちゃったじゃないか!

モニターがーーーーー(汗
181名無しさん@初回限定:03/05/09 23:26 ID:xGhNrY0O
おまいら飲み物飲みながらこのスレ読むのやめた方が。

・・・歯磨きの泡がモニターに(ry
182名無しさん@初回限定 :03/05/09 23:44 ID:vNiD/gMX
>>173
ああ、正気度がガンガン下がってゆくぅ〜(w
笑い死ぬ
183名無しさん@初回限定:03/05/09 23:57 ID:yNQ2RjC0
>>173
イイ具合にSAN値が・・・っv  ハぁハァ
グッジョブ!!!!
184犬江しんすけ:03/05/10 00:15 ID:F6T3drIL
うぉ! 異常な反響にビックリ!
みなさまありがとうゴザイマス。多謝。
個人的には思わず構える執事がお気に入りで。

>>177
作ろう作ろうと思いつつずっと作ってません。今HP作り方勉強中です。
185名無しさん@初回限定:03/05/10 00:29 ID:KdT2+TVj
>>173
 ……ぅゎぁぃ。
 これは精神病院逝きが決定しそうなくらいSAN値が減ってくねぇ。

 グッジョブ ( ゚∀゚)b☆
「そこに禁忌があってさ……それを破ったら大変になるって知ってて、何もしないで。
 後になって『やっぱりあんときヤっときゃ良かった』って悔むのが怖いんだよ!」
「蛆でも湧いたか、汝の脳は。最近は随分と温かいからな」
 アルは熱々の紅茶を啜りながら冷ややかな視線を投げつけた。
 ところは事務所。ときは昼下がり。穏やかな陽気に包まれ、俺とアルは談笑に耽っていた。
「人間が禁忌に惹かれるのは、ソレが『禁忌である』という事実が厳然として存在するからに他ならない」
「ほれダンセイニ、おかわりを注ぐがよい」
「てけり・り」
 黄土色のゼリー塊が目の前を横切ったが、気にせず続ける。
「理由を、理屈を、論理を倫理を求めようとしてもムダだ。
 人間は燃え盛る火にいそいそと飛び込む虫のような、無意味極まりない行動力に恵まれているんだからな」
「真っ当な職にも就かず食い扶持もろくに稼げぬ人類最底辺が、『行動力』とは戯けたことを。
 哺乳類としての甲斐性を身に付けてからほざいて欲しいものだな、我が主」
 極低温の言葉がボディに突き刺さり、俺は呻いた。
 目を閉じる。
 ワン・トゥー。
 カウントとともに気分を取り戻し、話を再開した。
「で、だ。俺は寸毫の迷いもなく禁忌を突破することにした。これはもう大決定」
「勝手に吹っ切られて勝手に大決定されても知ったことではないわ」
 おかわりした茶をズズズと啜るアル。
 俺は一歩足を踏み出し、近づいた。
「ん?」
 突然の接近に訝ったのか、アルは眉根を寄せる。
 だがもう何もかもが遅い。
 俺は疾走を開始していた。
「な……!?」
 ようやく異常に気づいたアルがカップを置き、回避行動を取ろうとする。
 その首を掴んだ。
「なあ……俺は『紐パンツの紐を引っ張ってはいけない』という世界で狂わず
 正しく生きていけるほど、強い人間じゃないんだよ」
「ええい、さっきからおとなしくしておればワケの分からぬことをグダグダと!
 何が言いたいのだ汝は、はっきり言わんか!」
「ああ、一週間前の、あのことさ。あれがキッカケでな」
「あのこと……?」
「悪ぃ、説明してる暇はねぇ」
 思考を加速する。瞬時にアルを「解釈」し、強制的に「介入」した。
「………!!」
 声にならない悲鳴を残し、アルは魔導書に還った。
 アル・アジフ──ネクロノミコン。自称「最強の魔導書」。
 見た目はロリだが実年齢は千歳という、ババアどころか一旦土に還って大自然の雄大さを
たっぷり堪能し、堪能し、堪能しまくって堪能しすぎて「いい加減にせんか!」とキレても
おかしくないくらいの悠久の時を過ごした奴。そいつが、本来のあるべき姿に戻っている。
 紙葉が宙に螺旋を描く。
 アルを構成する一つ一つのページ。
「本番はここからだな」
 澄み渡り多様に広がる思考に、たった一つの指向を持たせ収束させる。
 たった一つの目的のために。
 俺は一応、羞恥の、いや周知の通りアルのマスターである。
 アル自身も俺を「我が主」と認めている。
 だからといって俺の言うことをなんでも聞くかといえば、さにあらず。
 むしろ俺の方があいつのいうことを聞いてる気がしますよ? あれれ? といった塩梅だ。

 すべての発端は、一週間前のこと。

 その日は覇道邸で優雅なティータイムを過ごしていた。
 俺、アル、姫さんの三人が椅子に座り、執事とメイドが近くに立ち控えていた。
 馥郁たる香りで鼻を楽しませながら、俺はぼんやりと姫さんを眺めていた。
 座していながらも厳然として漂う風格。構えているわけでもないのに、
総帥としての誇りが滲み出てくるような姿だった。
 しかし、まあ、そんなことはともかく。
 俺が見ていたのは、ぶっちゃけ胸だった。
 じろじろと不躾に凝視していたのではない、あくまでそっと、さりげなく見ていただけだ。
 その、なんだ。相棒の虚数空間じみたアレと比べりゃかなりデカい。とても同じ部位には見えない。
 デカいと言っても、ライカさんやナイアみたいな、いっそ化け物じみているほどの大きさではない。
程好く両手に収まり、少しこぼれるくらいの大きさだ。正に適量と言えよう。
 チラリ、と視線を横に移す。姫さんほどの風格はないにしろ、行儀良く椅子に収まりながら、
どこか傍若無人な雰囲気を匂わせているアルが静かに茶を飲んでいた。
 整った横顔。視線をそこから下におろす。

 俺はほとんど絶望に近い感情を覚えた。
 大きい/小さいの問題ではない。
 無いのだ。服の上からでは、ふくらみを目視することができない。
 そこまでの、それほどまでの虚乳。
 俺の心までもが虚ろになっていくようだった。
 目を閉じる。
 想像力を遊ばせて、姫さんの服を着たアルの姿を思い浮かべてみる。
 ………。
 不意に涙がこぼれそうになった。ぐっ、と目に力を入れて堪える。
 そう、「姫さんの服を着たアル」を想像するや否や、多大な違和感が発生した。
 違和感はすぐに憐憫に変わった。
 姫さんの服は……一部がアルにとって過剰すぎた。
 言い換えれば、服にとってはアルの一部が不足しすぎていた。
 絶望的なまでに。
 余りまくった生地が切なく、寂しく、虚しく、やるせなかった。
 神よ、胸はいずこ。
 いや、神を頼ってはいけない。「乳の神」という、いそうでいなさそうな神に
頼る人間は敗北してしかるべきなのだ。
 持って生まれた想像力。人間が限界を突破するのは、いつもこれによってだ。
 オーケー。違和感がある。それは認めた。
 「違和感」。その存在。……殺してやろう。
 脳の中では、すべてがなるようになるのだ。妄想のエンジンを高回転させれば、
「姫さんの服を余裕で着こなすアル」なんて容易に想像できるはずだ。
 思考の触手を縦横無尽に伸ばす。
 さあ、世界の隅々にまで行け届け、裏の裏まで見抜かんとばかりに。
 時間が引き伸ばされる。思考が疾走する。
 アルの姿。姫さんの服。二つを重ね合わせる。
 よく・似合って・いる、と思い込む。
 途端に発生するエラー! アラームが鳴り響き、脳内ビジョンが赤く染まる。
 口に広がるザラザラとした砂の感触。齟齬が思考を侵す。
 へっ……負けるかよ。
 歯を食いしばり、想像の翼を広げ、ありありと思い浮かべた。
 青い空。
 手の届きそうな、青。
 どこまでも繋がっていく、青。
 俺の傍らで佇むアル。
 何の憂いもないように微笑んでいる。
 緩やかな風が頬を撫でていく。
 軽やかな音を立てて草が揺れる。
 静かな場所。
 見上げれば蒼穹。
 眼下には、揉みしだけそうなほどの双丘が……

 パリーン

「ニトクリスの鏡!?」
「……どうなさったのですか、大十字さん。なんだかやけに悲嘆の色が濃い表情を浮かべていますけど」
 よほど情けない顔になったのだろうか。姫さんが心配そうに覗き込んでいた。
「ん。何事だ、九郎」
 アルが素っ気なく尋ねる。
「いかがなされましたか」
 ウィンフィールドまで、どこか不安げな所作で近寄ってきた。
「いや、なんでもない」
 取り繕うように浮かべた笑みは、俺自身とても弱々しいものだと分かった。
「でも……」
 なおも心配そうな表情を見せる姫さん。
「遠慮なぞいらんぞ、九郎。なに、今日はすこぶる機嫌が良い、悩みの一つや二つなら聞いてやる」
 アルは至って平静を装っている様子だったが、指先がそわそわと小刻みに動いていた。
「あー、その」
 困った……本当のことなんて言えっこねぇしな。
 頭を胸のことから離して、何か別の話題を……。
「そういやデモンベインにはいつオッパイミサイルを搭載するんだ?」
 って、全然離れてねぇ!
 場が凍りついた。重い沈黙が緞帳のように下がる。
「今なんとおっしゃったのでしょう、大十字さん?」
 沈黙を破ったのは姫さんだった。心配げな表情はすっぱり消え失せ、冷ややかな眼差しを向けてきた。
「い、いや、あの、その、口が滑って変なことを」
 焦りまくる俺の耳元にウィンフィールドが囁きかけた。
「感心しませんな、ロマンとリビドーはまったくの別物ですぞ」
 あんたのこだわりは聞いてないって。
「………」
 アルは何も言わなかった。
「まったく。どういう脈絡であんなことを口走ったんですか」
 って、まさか本当のことを言うわけにもいかないしなぁ。
 テキトーにごまかさないと。
 ええと。
「アルの足りない分を埋め合わせようと」
 死ぬほどストレートだった。
 すぐそばで灼熱の怒気が漲った。
「確認しよう、九郎」
 アルの体は小刻みに震えていた。手にもったティーカップがカタカタと音を立て、
縁から紅茶がこぼれては床の絨毯を濡らした。
 それを注意する勇気は、俺にはなかった。
 姫さんやウィンフィールドにもなかったのか、無言で二人は俺たちのそばから離れた。
 取り残された……!?
「妄は『今日はすこぶる機嫌が良い』とは言った。確かに言った。それは認めよう」
「あ、ああ、言ってたな」
「けどな、九郎。妄は『今日はこれからもずっと機嫌が良いままでいる』とは言わなかった。
 そうであろう?」
「あ、ああ」
 煮え立つアルの怒りを前にして、俺の血は熱く凍えた。
「つまりだ、九郎よ。汝の出方次第ではいくらでも不機嫌になる用意が当方にはあるということだ」
「いくらでも!?」
 アルの憤怒が爆発した。全身に強烈なプレッシャーが浴びせ掛けられる。
「この、痴れ者が! 戯けが! 大虚けのだいだらぼっちが!」
「だ、だいだらぼっちって!」
 俺はそんなにでかくねぇだろ。
「当てつけか? そうか当てつけか、これは当てつけか! よくよく阿呆な主とは思っていたが、
 ここまで巫山戯けた真似をするとは露ほども疑ってなかった我が身が呪わしいぞ!」
 ダンッ。カップをテーブルに叩きつけた。
 あまりの勢いに中身の茶が残らずぶちまけられる。
「ふん、汝はさぞかし胸の大きい女に見慣れておるのだろうな。
 妄のように空気抵抗の少ないフォルムを持ったモノは、
 イレギュラーの存在としてファイルに記録されておるだろうよ。
 眼中にないのだな、考慮の外にあるのだな。
 しかし、はて、そんなに珍しいか? 千年の永きを生きたこの妄が、
 最強を謳う魔導書が『 ひ ら べ っ た い 』という事実が」
「待てアル、落ち着け。落ち着くことが優先だ。話はそれからにしよう、な?」
「妄は至って冷静じゃ。むしろ落ち着くのは汝の方だぞ、九郎。
 考えてもみろ、子を産むことも養育することもない妄が豊富な胸に恵まれて何とする?
 無意味であろう? 少しもおかしい道理などない。なあ、そうであろう?
 よもや、ただ自分が揉みたいから胸は大きくあるべきだ、とか戯けたことは申さんよな?」
「ええ、ええ、申しませんとも」
「なんと、九郎は揉みたいだけでなく自分で吸いつきたいがために
 胸は大きくあるべきだなどと弩級の戯れ言をぬかすのか!?」
「会話が成立してねぇ!?」
 俺は激昂するアルを前にして、言葉がいかに無力であるかを知ってしまった。
 このまま黙って諦念を受け入れるべきなのだろうか。
「九郎……汝が『大きくあらずんば人外にあらず』とほざくなら、妄は、妄は、妄はなぁ!」
「は、はぃぃ?」
 反射的にビシィッと姿勢を正す。
「妄は汝を……汝を……はて、どうしてやろうかの?」
「よりによってそこで冷静になるのか!?」
「否、考えたところでムダか。答えはただ一つ。……『敵を撃滅せよ』」
 アルの両手が光り輝き、術式が開始される。
「なに、仮にもマスターである俺をロック・オン!?」
「仮でしかないわ、痴れ者め」
 嗚呼、下克上ライフ。
 予定調和的に俺はアルの魔術の直撃を喰らった。

 以上、回想終わり。
 この件についてはしばらく、正確には三日ほどアルは立腹したままで、
口を利いてもくれなかったが、四日目からようやく和解を申し入れてくれるようになった。
 それまでの土下座数、実に三十! 圧倒的な平謝り具合だ。
 とはいえ、過ぎたことではあるし、非は俺にあるので今となっては恨みに思っているわけではない。
 そう、今こうしてやっていることは、復讐でも逆襲でもない。
 ただ必要だと思っていたことを実行しようというだけのことだ。
 たとえそれが「禁忌」であっても。
 「禁忌」は破るためにある。
 右手を伸ばし、魔導書となって空中を乱舞するアルの内容を慎重に探っていく。
 何せ千年を生き抜いた最強の魔道書。外道の知識、禁断の秘法に関する記述は事欠かないが、
下手に理解しようとすれば脳の神経が焼き切れてしまうようなヤバイ情報もごろごろしている。
 だから、軽率に読んでしまってはいけない。俺の求める「禁忌」だけを探し当てればいい。

 どれくらい時間が経過しただろう。数秒か、数分か。濃密に凝縮された時間は、なんとも計測しがたい。
 俺は遂に、「禁忌」へと辿り着いた。
 ここか!
 左手のペンを強く握り締め、思考の動作を強化しつつ、情報の海に精神の半身を沈めた。
195名無しさん@初回限定:03/05/10 00:43 ID:hA9U4VMO
連続防止
 ルールが縛るなら、ルールを変えてしまえばいい。
 それが俺の結論だった。
 魔導書とは、さっきも言った通り、外道の知識や禁断の秘法の集大成だ。
ありとあらゆる事柄が所狭しと詰め込まれている。
 詰め込んだのは誰か?
 アブドゥル・アルハザード。
 「狂える詩人」とされた男の、血を振り絞るような努力、
いや、もはや「闘争」と呼べる領域で行われた執筆作業。
 絶え間ない検閲の末に辛うじて結実した一冊こそが、正にアル・アジフ。この手の先にあるモノ。
 宿った魂は精霊となり、精霊は実体化し、俺のよく知る少女の容貌を持つにまで至った。
 それこそ「最強」の所以。「千年の永き年」を生きた証。
 だが、詰まるところは書物。記述され、記載され、限定的にとはいえ閲覧されるモノである。
 つまり、「書かれたこと」がアルという存在を支えている。
 「書かれていないこと」は支えていない。「書かれていないこと」は、アルの身に結実しない。
 ならば、俺が書けばいい。俺の意志で、俺の魔力(チカラ)で。

 溢れ返る情報の海に溺れないよう、自分をしっかり持つ。
 アルの深奥を見抜かんと、思考の眼力に磨きをかける。
 ……書こうと思うことは既に決まっている。
 あのとき。一週間前、覇道邸の窓を尽き抜け、微かに近づいた青空に手を伸ばしながら、
後日届けられるであろう請求書に心を痛めつつ、俺は望んだ。
 アルに、胸を。
 巨乳とまでは言わない。魔乳なんてもっての他だ。
 覇道の姫さん、いや、エルザ……あいつくらいでいい。高望みはしない。
 膨らみなんてちょっとでいいんだ。今が「ちょっと」過ぎるだけなんだ。
 確かに俺はアルが好きだし、自分がどうしようもねぇロリコンだとは自覚している。
 けどな、アル。
 お前にもっと乳があれば、俺たちはくだらない喧嘩なんかしないで、
胸への言及に笑ってスルーできて、周りの連中の乳をちらちら気にしなくてもいいようになるんだ。
 知ってるんだよ、アル。お前、最近はアリスンの胸すら気になるんだってな?
ライカさんがいつもの調子でポロッと漏らしていたぜ。
 俺は本当にお前のことが好きだよ。
 けどな……
 お前の胸が膨らんだなら、もっともっと愛せるような気がするんだ。
 揉めて、挟めて、むしゃぶりつけて、×××××て。
 もうお前がダンセイニをぷにぷに突っつきながら悲しそうな顔をするのは、見たくないんだ。
 これで終わりにしようぜ。
「■■■■■■■■■■■■……」
 はっ。
 しまった、もう検閲空間に入ったのか。
 自分が何を書いたのかさえ分からない、超越的な領域。
 殺そうにも殺しきれない混沌が今もなお巣食う情報の荒野。
 そこに、俺は立って■■■■■■ていた。
 くそ、気をしっかり■■■!
 ダメだ、■■■て、■■きている!
 ちっ、とにか■■■は必要■■■■■■■■■■と!
 狭まりいく思考を必死で掻き集める。
 必要な情報を、必要な情報を、必要な情■■■■■■■■
 ■■■■■■■■!
 ■■■■■■■■■!
 ■■■■!
 ああ!
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■乳■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 え……?
 今、何か■■■。
 意識を集中させ■■■■■■した。

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■貧乳■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 いま、しっかり見えた!
 貧乳だと? そんなにはっきりアルの■■■■■■てたのか。
 ここだ、ここを改変してやれば、乳肉のパラダイスが■■■!
 ちくしょ■■■て■■■■無理■■■■!
 震える指先が「貧」に迫る。
 変えてやる、屈服させてやる、捻じ曲げてやる。
 人の意志がどうにもならない■■■■■るか!
 ペン先が届いた……そのとき。
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■貧乳■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■つるぺ■■

 な、に……!

 ■微乳■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■貧乳■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■ナイムネ■■■■■■■■■■■■■つるぺた■

 こ、これは!

 ■■■ぺったんこ■■■■■■■男の子■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■蕾■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■洗濯板■■■■■■■
 ■■■■■■■えぐれ胸■■■■■■■■■■■■■平面■
 ■微乳■■■■■■■■■■■■■■クレーター■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■貧乳■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■ナイムネ■■■■■■■■■■■■■つるぺた■
 ■驚異のフラット■■■■■■■背中と区別が■■■■■■
 う……。

 ■■■ぺったんこ■■■■■■■男の子ですか?■■■寸胴
 ■■■■■ブラジャーいらない■■おろし金■■■蕾■■■
 揉めるものなら揉んでみろ■■■■■洗濯板■■■■■■■
 ■ゴリゴリ■■えぐれ胸■■■■このしこりがね■■平面■
 ■微乳■■■同情するなら胸を■■■クレーター■■■■■
 ■■いないいないおっぱい■貧乳■■■■■■■■乳首が、
 ■■■■■ナイムネ■■■片手で隠せる■■■つるぺた■■
 ■驚異のフラット■■平面■■■背中と区別がつかない■■

 うわあああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああ
 ああああああああああああああああああああああああああ!
 絶叫。
 絶驚。
 絶響。
 絶恐。
 絶狂。

 意識がバラバラに千切れそうだった。
 心の底から絶望が湧き上がった。
 ここまで強固な代物とは。
 ここまでどうしようもないモノとは。
 まるで呪いだ。
 もはや、俺には■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 ちくしょう、お前か、お前らなのか。
 人外ロ、リ……
「マニアァァァァァァァァァァァ!」



 強すぎる光が何もかもを打ち消す。
 その彼方に、俺は過去を幻視した。
 ミスカトニック大学の図書館。
 斃れた山羊頭の男。
 腰の抜けた学生……否、俺。
 はためく紙。
 魔導書のスパイラル。
「まだ、早い」
 聞き覚えのある……いや、このときはまだない……声が響いた。
「まだ早いのだ!」
 俺は呆然と声に耳を傾ける。
「いずれ、また……」
 消えていく光。
 薄れていく意識。
 繋ぎ止め、震える手を伸ばした。
 指先が虚空に字を刻む。
 弱々しい動き。けれど、確実な意志。
 それは。
 その言葉は。
 『もっと胸を』

 そして、意識が途絶えた。
「ん、んうう……」
 闇が持ち上がった。光が目を差し、思わず細める。
「起きたか」
 声。
 聞こえてきた方に顔を向ける。
 アルが腕を組んで仁王立ちしていた。その表情は険しい。
 手の届くような近距離で、湯気のように怒りを発散させている。
 手を伸ばした。……届いた。アルの肘に指先が触れている。
「汝は……!」
 怒りがうまくまとまらないといったように、叫びが拡散する。
 アルの唇が震えていた。
 その小さな隙間から呼吸の音が漏れる。
「汝は、そんなにも胸が……」
 今度は怒りよりも悲しみの色が濃くて。
 アルはそっぽを向いたまま、黙り込んだ。
 俺は何も言わず、その顔を見上げていた。
 やがて、目を閉じた。
 ワン・トゥー。
 カウントとともに立ち上がり、背後に回ってアルを抱き締める。
「………!」
 びくっ、と大きな震えが背中越しに伝わってきた。
 服の隙間から両手を潜り込ませ、両胸を掴むと震えは止まり、
代わりに紅潮した顔を向けって怒鳴ってきた。
「こ、こらー! 何を考えておるのだ汝は、恥を知らんか!」
 身をよじり、もがく。
「温かいな」
 抗議を無視して、呟いた。
「お前の肌……」
「ふん……魔導書にだって、血は流れておるわい」
 抗議がまるで通じないと知るや、物凄い形相で睨んだ後、
不貞腐れたように再びそっぽをむいた。
「それに、鼓動……」
 指先から跳ねるような感触が伝わってくる。
「人を模したのだからな、心臓があって当り前だろう」
 微かな苛立ちを込めながら、なんてことのないように言い放った。
 俺は両手のうちで、じっくりと、しっかりとそのふたつを確かめていた。

 そう、幸せを繋ぎ止めるには、このふたつで充分だった。
 そう、幸せを紡ぎ出すには、このふたつが充分すぎるほどだった。
 ああ、アル、俺はやっぱりお前のことが……
「……で、いつまで触っているつもりかな、我が主よ」
「ずっと、このまま」
「夜風で頭を冷やすがよい」
 するりと両手からアルが逃れていくのが分かると同時に、衝撃波が俺を吹き飛ばした。
 窓ガラスの破砕音に続き、アーカムシティの夜風が俺の身を包んだ。
 嗚呼、やっぱり。
 「禁忌」ってもんは、破らないためにあるもんなんだなぁ、と痛感しつつ。
 墜ちていった。
 こんにちは、地面さん。
206名無しさん@初回限定:03/05/10 00:58 ID:hA9U4VMO
連続防止
207空ラ塗布:03/05/10 00:58 ID:NJYC9kEh
>>186-194>>196-205
 題「ノッキン・オン・ヘヴンズ・ドア」(斬魔大聖デモンベイン)より
 岸辺露伴の「ヘブンズ・ドア」という「人を書物化させる」能力がちょうどデモベの反対を
行っている気がして、ふと今回のようなネタを思いついた。ほんの一発ネタのつもりだったが、
書いてるうちにどんどん長くなってしまい、最終的にはこのような感じとなりますた。
 タイトルは同題映画から。「ヘブンズ・ドア」繋がり。
 個人的に「海が見たい」で思い出すのは『加奈』よりもこっちの方デス。
 あと、自分は虚乳支持派です。あしからず。
208名無しさん@初回限定:03/05/10 00:59 ID:ZK1pm/sg
神━━━(゚∀゚)━━━!!!
209名無しさん@初回限定:03/05/10 01:01 ID:AyCvOD2/
キタ―――――(゜∀゜)―――――!!!
210名無しさん@初回限定:03/05/10 01:03 ID:5+BRQW4x
■の所の 乳>貧乳>つるべた

マジで吹いた(゚∀゚*)スクロールして丁度一番最後の行に
211名無しさん@初回限定:03/05/10 01:04 ID:DOOabDd9
いないいないおっぱいが一番良い感じにワラタ
212"Hello.World" SS:03/05/10 01:06 ID:yQjazKKR
あれから、どれぐらいの時間がたったのだろう。
時間の感覚はとうに消え失せ。
歩き続けた足は疲れ果て。
名前を呼び続けた声は枯れ果てた。
あたしの周りにいた人間は、あたし以外誰1人として助からなかったのに、それでもあたしは助かった。
和樹が、助けてくれたんだよね。
そう思うと、また涙があふれてきた。
「…和樹…。」
もう歩けない。
何度もそう思った。
でも、そう思う度に瓦礫の下で助けを待ってる和樹の姿が浮かんできた。
「和樹ぃ…。」
自分の体を抱きかかえるようにその場にへたり込む。
「どこにいるのよ?和樹ぃ。」
213"Hello.World" SS:03/05/10 01:07 ID:yQjazKKR
不意に、後ろの瓦礫の下から音が聞こえた。
「和樹!?」
急いで駆け寄って瓦礫をどかす。
和樹なはずがない。
あたしの頭の中の一番冷静な場所がそう言っている。
もしそうだったとしても、無事なはずがない。
あたしは、そんなこと考えてる自分がいやで、そんな考えを振り払うように手を動かし続けた。
しばらくすると、瓦礫の向こうに開けた空間があるのが分かった。
どうやら、瓦礫がドーム状になっていたらしい。
その真ん中に、1人の人間が横たわっていた。
いや、正確には人間だった物、というべきなんだろう。
遠目に見ても左腕がとれて、下半身が潰れてしまっているのが分かった。
しばらくすると、闇に目が慣れてきて、その人間だった物の形がはっきり分かるようになってきた。
暗闇の中で、曖昧だった輪郭がはっきりとした形を結ぶ。
その瞬間、あたしは目を疑った。
「和樹!」
駆け寄って抱き起こす。
見間違えるはずがない、和樹だ。
「和樹っ!和樹っ!目を開けろよ。おいっ。」
ゆすってみるが、目を開ける気配はない。
「目を開けてくれよ、和樹ぃ。」
214"Hello.World" SS:03/05/10 01:07 ID:yQjazKKR
音が聞こえる。
とても、悲しい音。
なぜ、この音を悲しいと感じるのだろう。
状況認識クラスタから返答。
そうか、これは泣き声だ。
でも、いったい誰の?
擬態制御クラスタから報告。
視覚デバイス、最適化終了。
突然開けた視界の中に、1人の少女がいるのが分かる。
輪郭パターン一致。
「か・・る・・さ・・」
うまく声が出ない。
「薫さん。」
今度はうまくいった。
215"Hello.World" SS:03/05/10 01:11 ID:yQjazKKR
僕の声を聞いて、薫さんがはじかれたように顔を上げる。
その目に、涙が光っているのが見えた。
「和樹?体、大丈夫なの?すごいことになってるよ。」
確かに、左腕と下半身からの反応がない。
「大丈夫。無機頭脳の動作には影響はない。」
薫さんが僕の体を抱きしめる。
いたわるように優しく、暖かな抱擁。
「良かった、和樹。ほんとに良かった。」
残っている右腕で薫さんを抱きしめる。
僕のしたことは、決して無駄ではなかった。
薫さんが笑ってくれるなら。
僕はそう思える。
216名無しさん@初回限定:03/05/10 01:11 ID:ZYOZo71i
…ええと、要するにアレだ。犬江さん、空ラ塗布さん。
貴方達は可及的速やかに
「デモべファンディスク〜恋する魔道書は切なくて三流探偵を思うとすぐ契約しちゃうロボ」
とか作って下さい。是が非でも。

ちなみに空ラ塗布さんの文体に見覚えがあるのは気のせいだろうか。スチェッキンとか好きだろうか。
217"Hello.World" SS:03/05/10 01:11 ID:yQjazKKR
5年後。
人類は、何とか復興の兆しを見せている。
その半数近くが死に絶え、居住可能な土地はかつての3分の2以下になってしまったが。
それでも、人類は滅びていなかった。
救出された僕は、ほんの一時世間の注目を浴びることになったが。
そのころの人類にはゴシップを楽しむ余裕など無く。
すぐに僕の存在は忘れ去られていった。
「薫さん。ご飯が出来たよ。」
破損した僕のボディは、水没を免れた施設などから持ってきたパーツを使うことで何とか日常生活には支障がないレベルにまで修理することが出来た。
「分かった。今、行く。」
畑仕事をしていた薫さんが笑顔で答える。
218"Hello.World" SS:03/05/10 01:12 ID:yQjazKKR
僕は食べなくても大丈夫なことと、温暖化の影響で気温が上がったおかげで、どうにか1人分の食料ぐらいなら自給自足が出来ている。
僕の無機頭脳も、今のところは正常に動いている。
しかし、このことが明日以降の正常を保証する物でないことは僕自身がよく分かっている。
僕の無機頭脳は、とっくに「HIKARI」の、オシリスの想定した活動時間を超えて作動し続けている。
明日止まってしまうかもしれないことに、不安がないといえば嘘になる。
でも、僕は1人じゃない。
「何よ、にやにやして。気持ち悪いなぁ。」
僕には彼女がいる。
たとえ、僕が「死んで」しまっても。
きっと彼女は僕のことを覚えていてくれる。
僕がヒトとして「生きた」証として。
219アーヴ:03/05/10 01:18 ID:yQjazKKR
>212-215 >217-218
初投稿です
果たして他の人にとってどう映るのか心配

一応舞台設定は薫ノーマルエンドです
救いのなさがちょっとアレだったんで自分なりに保管してみました
一気に書き上げた物なんでいろいろ拙いところはあると思うのですが
楽しんでもらえれば幸いです
220名無しさん@初回限定:03/05/10 01:22 ID:Wow3afG8
ニトロ祭りよのぉ!今宵は!
221名無しさん@初回限定:03/05/10 01:23 ID:7FUl5IzD
>>219
ちょっとあっさりかな?というのが正直な感想だが、
それにしても文体などはハロワらしさがにじみ出ていて
ハッピーなんだけどほのかに切ないところなんか良かったっすよ。
222名無しさん@初回限定:03/05/10 03:08 ID:QneeWtp4
>>216
やべ、タイトルに禿藁(w
223名無しさん@初回限定:03/05/10 12:21 ID:e7T3GZHa
ソララトフ・・・『狩りのとき』(Time to Hunt)か?
スティーブン・ハンターなのか?
224名無しさん@初回限定:03/05/10 13:40 ID:o9dE39n0
ニトロ祭りの今なら和樹の女装ネタを期待できるとか思った。
225名無しさん@初回限定:03/05/10 14:31 ID:JM2HwgXq
空ラ塗布さん、犬江さん、てけりさん、ありがとう…
この地、この時代に在ることに感謝を…

大げさか

姫さん、ネタもキボン(#  ̄ー ̄)〇
226名無しさん@初回限定:03/05/10 16:15 ID:52vVf99A
>224
ヤメロ!!想像させんなボゲ。死ぬ。モエ死ぬ)`ъ')・:'.,.
227名無しさん@初回限定:03/05/10 16:15 ID:AyCvOD2/
ニトロ祭!
SANが低下したり、アブドゥルロリ疑惑などを書いた神が大勢!
外なる神に感謝!
ルルイエ異本たんも希望!



えらく正気度が下がった分になってしまった・・・
228名無しさん@初回限定:03/05/10 20:49 ID:enN09Eox
女装和樹……その場合は友永香月に?

神様方、素晴らしいSSを感謝です。
229名無しさん@初回限定:03/05/10 21:20 ID:7IToQDgQ
ニトロゲー、やったことないんだよなあ
みんな楽しそうでうらやましいから
なにか1本買ってみるか
230空ラ塗布:03/05/10 23:27 ID:xtDFAd2W
>>216
ネタバレスレでたまにネタ書き込んでるからかな。
ちなみにスチェッキンは初耳です。

>>223
冒険小説はあんまし読まないんですが、ハンターはえらく好きで。
銃の薀蓄とか、わけわかんないながらも楽しんで読んでます。
なぜかスワガーさんとかより、ソララトフみたいに敵方のキャラが好み。
一番好きなのは「魔弾」のレップ中佐だったりします。

では早速二発目を投下。
231リューガ兄さんの狂人日記01:03/05/10 23:29 ID:xtDFAd2W
「やあ! 良い子のみんな、元気かな?
 お兄さんはいつも通り、元気に狂ってるよ!
 無邪気に狂気、純粋に異常! 間違ってもどこぞの西博士とは一緒にしてくれるなよな!」
 パプ〜(ハーモニカの音)。
「さて、『餓面ライダー酸垂不穏』を毎週楽しみに見てくれているみんなに、
 嬉しい嬉しいビッグ・ニュースだ! 嬉しすぎて狂うんじゃないぞ!
 落ち着いて地べたを這いずり回るんだ、ははは!」
 パプ〜パプ〜。
「好評だった前回の『シスコン魔道ストーカー編・オイシイ場面で割って入るには』に
 引き続き、今回もハウ・トゥな一本だ! 是非みんなも覚えて役立ててくれよな!
 今回のお題は『魔導書を美味しくいただくには』……」
「吹き飛べ下郎」
 ハーモニカを吹く、スカーフェイスのエセ好青年──リューガの独語空間に
突如、高慢な魔術の波動が押し寄せた。
「粉ッ、把ァッ!!」
 襦袢ッ
 割とあっさり正拳突きで粉砕された。
 ちなみにこのときリューガは顔だけ露出verである。
「まったく、放っといても特に害はないと思って見ぬフリをしていたが、
 言うにこと書いて魔導書を『喰う』だと?
 狂っているとは思っていたが、正真正銘の■■■■だな、お主」
「五月蝿い! そいつはドクター・ウェストの代名詞だ!
 混同されると困るから俺に向けんじゃねぇ、魔導屋ァァッ!!」
 平然と侮辱されたにも関わらず、リューガの抗議はどこか斜め上を行っていた。
232リューガ兄さんの狂人日記02:03/05/10 23:31 ID:xtDFAd2W
「そう……俺は■■■■なんかじゃあない。孤高の気貴き魂を胸に荒野を彷徨う、
 流浪の狂人。略して『孤浪狂』とでも呼んでもらおうか」
「物凄く字面がださいのじゃが」
「だったら一字訂正して『孤狼狂』だ!」
「ふん、そんなことはどうでもよいわ。それなりさっきの話じゃ。
 汝の喰ったナコト写本は人の容を模しておったろうが。
 だから『魔導書を喰う』と言っても羊皮紙やパルプをムシャムシャするのとは
 ワケが違おう。というか、ほとんどカニバリズムではあるまいか」
「蟹をたっぷり頬張っていた貴様が何を言う!」
「『同種食い』の意味じゃ、何を間違えとるかこの痴れ者が!」
 魔術疾走。
 正拳粉砕。
 もはや一つの漫才形式が誕生しようとしていた。
「ったく、そもそも汝は施設で何をしとったのやら。
 どう見ても義務教育なんぞは受けていない気がするぞ」
「……聞きたいか? 大十字九郎の『猫を食った』どころの話じゃないぜ」
「いい、いい、興味もないグロ話なんぞ聞きとうもないわ」
「くくく、残虐三昧・悪趣味上等の『ブラックロッジ』と立ち向かっておいて
 グロテスク如きで怯むとは笑止千万。あっはっはっ、なかなか面白い奴だ」
「いや、本当に腹を抱えて笑われるとリアクションに困るぞよ」
233リューガ兄さんの狂人日記03:03/05/10 23:32 ID:xtDFAd2W
「で、せっかくの俺の一人舞台に茶々を入れてきたのはどういったわけかな?
 まさか本当に『グロテスクだから』という理由でわざわざツッコんだんじゃあないだろ」
 疑いの眼差しを向けるリューガ。
 疑心暗鬼に満ちた生涯を送っただけに、なかなか堂に入っている。
「知れたこと。ナコト写本を汝が喰った今、人化している魔導書は妄とルルイエ異本しか
 なかろう。つまり、二分の一の確率で妄に被害が及ぶということであろうが」
 アル・アジフ──「最強」を名乗るネクロノミコンの原本だけあって、
彼女を「えてしがな」と欲する邪な徒は後を絶たなかった。
 もっとも……食用にしたいという輩は今まで存在しなかったが。
「ははは、なんだ、そんなことか。安心しろ、俺は姉さんみたいに純真無垢な娘が
 好みでなぁ、貴様みたいなスレたガキババアには興味ねぇんだよ」
「むうう、ツッコミどころが多すぎてどこから攻撃すればよいのか迷うわ」
 お前の姉のライカが「純真無垢」と言えるのか。
 お前が喰ったエセルドレーダも「純真無垢」と言えるのか。
 ルルイエ異本に「純真無垢」というカテゴリが適用されうるのか。
 ガキババアとはいったいどういった造語なのか。
 そして何より、自分がライカやエセルドレーダよりも穢れていると言うのか。
「だから俺が次に喰うのはルルたんに決まってんだろうがよ!」
「ルルたん……汝も案外そっち系の趣味だったのだな」
 呆れて肩を竦めるアル。
234リューガ兄さんの狂人日記04:03/05/10 23:33 ID:xtDFAd2W
 と、そこに。
「ら・ら」
「な、ルルイエ異本!?」
 ふたりから少し離れたところにオッドアイの少女が立っていた。
「おお、なんてグッドタイミング! これこそ天恵というもの! ビバ天! ナイス青空!」
「あまりに準備が良すぎて作為臭さを感じるぞ……」
「知ったことか!」
 アルの言葉になんら引き止められることもなく、リューガは疾走った。
 そして少女の手前で跳躍。
「ル〜ルたぁん!」
 すいっ、すいっ。
 空中を平泳ぎするようなその格好は、正に「ル○ンダイヴ」として古来より伝えられる秘技。
「ふんぐるい・ふんぐるい」
 オッドアイの少女は怪しげな言葉を漏らしながらも、まったく動じる様子がない。
 リューガの両手が少女を組み敷こうとした、正にそのとき。
「な、んだと……?」
 キィン。
 六芒星を象ったバリアが、行く手を阻んだ。
「うむ、ご苦労、エセルドレーダ。良い働きだ」
「イエス、マスター」
 暗がりから二人組の男女がゆっくりと歩み寄った。
235リューガ兄さんの狂人日記05:03/05/10 23:35 ID:xtDFAd2W
 薄く、褪せたような色合いの金髪を持った長身の少年。よほど腹部に自信があるのか、
その服装はやけにギャランドゥだった。
 一方、黒っぽい服をまとった小柄な少女は、静々と少年の跡を三歩後ろから辿っている。
「な……マスターテリオン! ナコト写本!? お前らがどうして……」
「怪異なる永劫、正にその一言に尽きる」
「イエス、マスター」
 問いにおざなりな答えを返す少年と、九官鳥のように言葉を繰り返す少女。
 かつてブラックロッジを統べていた大導師・マスターテリオン。
 五千年の時を刻む最古の魔導書・ナコト写本──エセルドレーダ。
 とっくに消えたはずのふたりが平然とした様子でそこにいた。
「相変わらずしぶとい奴らめ……」
「ら・ら。かみさま」
 事態の変化にうんざりするアルと、まったく気にしていないルルイエ異本。
「マスタァァァテリオンッ! 俺の邪魔をするというのか!」
 せっかくのル○ンダイヴを無に帰された──というより、無に帰されてこその
ル○ンダイヴであるが──リューガは怒り心頭といった呈であった。
「あはは、なに、余のエセルドレーダを喰らったぐらいで良い気になっている
 貴公に、少しばかり『本物』の格というものを教育してやろうと思ってな」
「イエス、マスター」
「それしか言えんのか、ナコト写本」
236リューガ兄さんの狂人日記06:03/05/10 23:36 ID:xtDFAd2W
「マスターの言説を全肯定することこそが、わたしの存在意義よ、アル・アジフ。
 ろくな主に恵まれなかったからって、嫉妬するのはよしなさいな」
「な、なにを申すか! 汝は知らぬかもしれぬが、九郎とてこの妄の主、
 マスターテリオン如きに遅れを取る男ではないぞ!」
「どうだか」
 吐き棄てるように言い置くと、「もうあなたなんかと言葉を交わしたくないわ」とばかりに
顔を背け、マスターテリオンの方を向いた。
「………! くぅぅ〜!」
 咄嗟に具体的な証明ができないことを、アルは相当に悔んでいた。
「良い気とはなんだ、マスターテリオン! 俺が貴様の所有物を喰らったことがそんなに
 腹立たしいか? ふん、いい気味だな」
 口の端を歪め、毒々しい笑みを浮かべるとリューガは囁くように言った。
「貴様のナコト写本……美味くはなかったが、なかなか喰いでがあったぜ」
「やれやれ、あの程度のことで得意の絶頂とは、貴公の安さが知れるな」
「なにィ!?」
「イエス、マスター」
 機械的に頷くエセルドレーダ。
「サンダルフォン……否、リューガと呼ぶべきかな? 貴公は余がどれほどの永劫を
 このエセルドレーダとともに過ごしたと思うのだ」
「ほとんど計測不能です、マスター」
「余とエセルドレーダの絆、並大抵の強度ではない」
「イエス、マスター。象が百頭乗っても壊れません」
「まるで物置と筆箱を融合させたような強度だな……」
237リューガ兄さんの狂人日記07:03/05/10 23:38 ID:xtDFAd2W
 アルのツッコミは無視された。
「余はときにエセルドレーダを疎み、ゴビ砂漠に置き去りにしたこともあった。
 またときには、メモ帳代わりに落書きばかりをして一生涯を過ごしたこともあった。
 飛行機の窓から投げ落とし、どれくらいで余の元に帰ってくるか実験したこともあった。
 夜の街頭に立たせ、寄ってきた鴨を暗がりに引きずり込んで暴行を加えた後、
 めぼしい金品を漁ってその日の食糧を調達することに成功したこともあった。
 そうそう、競馬の元手を用意するために古本屋へ売り飛ばしたこともあったかな?」
「今となってはすべて良い思い出です、マスター」
「物凄い割り切り方であるな……」
「もはや『運命の赤い糸』どころではなく『宿業の荒縄』で結ばれた余たちを引き裂くことなど、
 邪神たちにも不可能であろうよ」
「イエス、マスター」
 パターン通りに頷くエセルドレーダだったが、その顔は心なしか綻んでいた。
「だがっ、俺はそこのナコト写本を喰った! 噛み砕いた! 消化した! 血肉に変えた!
 遂には■■にして■■さえしたのだ!」
「いや、時間制約的にそこまでは行かなかったであろう」
 アルのツッコミはことごとく無力なものとしてスルーされる運命にあった。
「猛るな、リューガ。それしきのことで余が焦り、惑い、怒るとでも思ったか?
 ならばひどい考え違いというものだ、なあ、エセルドレーダよ」
「まったくですわ、マスター」
238リューガ兄さんの狂人日記08:03/05/10 23:39 ID:xtDFAd2W
「そもそもな、リューガ。貴公は余が一度もエセルドレーダを喰らったことがないなどと、
 ……本気で思っていたのか?」
「なに!?」
「うな!?」
 リューガとアルの悲鳴が混ざり合った。
「ま、まさか汝等……」
「く、ふ……あはは、あはははははははははは、あーははははははははははははは!」
「そうよ、アル・アジフ。わたしとマスターは文字通り一心同体となった経験があるの」
 うっすらと笑みを浮かべるエセルドレーダは、どこか危うい雰囲気を醸していた。
「それも一度や二度ではない。幾度となく、余はエセルドレーダを喰らった。
 時には宇宙の果てで食糧難に喘ぎ、やむを得ず。時には美食の一形態として、進んで。
 もはや余の舌には『エセルドレーダ味』というものが登録されている」
「聞いているだけで胸が悪くなるな」
「ふん、愛のなんたるかもしらない小娘がそんな戯れ言をほざくのかしら。
 わたしはマスターに噛まれ、裂かれ、肉や臓器や血や骨まで喰らわれる感触さえ
 愛しく思っているわ。抱かれる歓びさえ満足に知らないあなたに、マスターとわたしの
 『しあわせのかたち』について文句を言われる筋合いなんてないのよ」
「くそっ、タラタラと自慢話を聞かせやがって!」
「聞いても全然悔しくならん自慢ではあるがな……」
 熱い視線と冷めた視線を一身に受けつつ、マスターテリオンはふさぁっと前髪をかきあげた。
239リューガ兄さんの狂人日記09:03/05/10 23:41 ID:xtDFAd2W
「さて、そこで今回は貴公の思い上がりを完膚なく矯正するためこの席を設けた」
「席……?」
「そこのルルイエ異本を見よ」
 八つの瞳、四つの視線がぶつぶつと詠唱に耽る少女へ集中する。
「いあ・いあ」
 恍惚とした響きは、それらの視線を少しも意に介していないことを物語っていた。
「あやつがどうかしたのか?」
「ふふふ、実は気の遠くなるほどの永劫を過ごした余さえ、あれを喰らったことはない」
「ら・ら」
「リューガよ、ここは一つバトルをしてみないか?」
「バトル……まさか!」
「そう、題して『チキチキ魔導書早食いレース』! あっはははははははははっ!」
「レース開始の合図とともに食べ始め、先に完食した方が勝ちです」
「望むところだ! 正に俺にうってつけの勝負! 神速の拳、超獣の牙、やや胃酸過多、の
 威力を思い知るがいいぜぇ!」
「なんという■■■■だ……こやつら揃ってまとめて■■■■だ……」
 盛り上がるふたり、平然とするひとり、盛り下がるひとりに、超然としたひとり。
「くとぅるー」
 混沌としたステージの上で、今熱いバトルの火蓋が切って落とされ、
240リューガ兄さんの狂人日記10:03/05/10 23:43 ID:xtDFAd2W
 ズゴゴゴゴゴゴゴゴ
「ん……? なんだ、この音は」
 訝るアルに続き、マスターテリオンやエセルドレーダ、リューガも音の発生源に目をやった。
 そこには。
「な、クトゥルー!? なぜこうも唐突に召喚されるのだ」
 異界の神。邪悪なる存在。目にしたものを発狂させる超越のモノ。
 ソレが、一同のすぐそばに現れていた。
 ちなみに、この場には人外とハナから■■■■な奴ばかりなので、クトゥルーの余波は影響ない。
「そういやさっきから呪文を詠唱としてやがったな」
「しかし、依り代となるものが……」
「ああ、あそこのあたりに夢幻心母をつけたままだったな」
「だが、準備も……」
「ちなみにマスター、逆十字の面々はおにごっこをする予定だったそうです。
 なんでもネロが半永久的に『Cの巫女』という鬼になる特殊ルールのおにごっこだそうで」
「クトゥルーの降臨を導くおにごっこなんぞがあるのか!?」
「あるのだ」
「………」
 もはや押し黙るしかないアル。
 そんな彼女をよそに、降臨したてのクトゥルーは大暴れを開始していた。
「……ああ、このまま捨て置くわけにも行くまい! 全速力でこの場を立ち去りたいが
 仕方ない! 九郎を呼んでデモンベインを起動させる!」
「そうはさせないわ、アル・アジフ。マスター、リベル・レギスを喚びましょう」
「ああ、エセルドレーダ」
 召喚が開始された。
241リューガ兄さんの狂人日記11:03/05/10 23:44 ID:xtDFAd2W
 クトゥルー、デモンベイン、リベル・レギス……三者が三つ巴となり、
最終決戦じみたムードが場を支配した。
 そんな空間で
「うわ、うわっ、うわぁ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 変神したところで、リューガは悲しくなるほど無力であった。
 ナコト写本がリベル・レギスに行っている今、ハンティング・ホラーは使えない。
「くうぅぅ! この俺が、なんて無様……」
「邪魔。どきなさいな」
 ボゴン
 リベル・レギスの手に跳ね飛ばされた。
「ぐあっ!?」
「おわっ、こっち飛んでくんなよ!」
 デモンベインが飛来したリューガを避ける。
 リューガはそのままクトゥルーに向かって、
「戯ィ亜ァァァァァァァァァ!!!?」
 お空を飛んで行った。

「くそっ……! 鬼械神! 邪神! これほどまでとは、こんなにも歯が立たないとは!
 畜生、いずれ貴様らも喰らってやる! 何よりも強い高みへと昇ってやる……!」
「歯が負けるからやめておけ」
242おまけ・後日談(上):03/05/10 23:46 ID:xtDFAd2W
「ああ、主よ、迷える子羊をお救いください狂える孤狼をお救いください
 ぶっちゃけあたしの可愛いんだか可愛くねぇんだかな弟をお助けあれ!」
「姉さん……俺は姉さんを超えるため、その身を喰ら」
「いいいい、いつの間にそんなスプラッタな真似を! 背徳的なサバトチック行為を!
 何がリューガちゃんをこんなにも変えてしまったの!?」
「『リューガちゃん』だと……姉さん、俺を馴れ馴れしく呼ぶな!」
 激昂したリューガは持っていたフォークを振り回す。
 ライカは仰け反ってそれを躱した。
「ギニャー! 落ち着いてー、リューガちゃん! やめて、やめるのよ、
 『ひかりごけ』だか浦賀和宏だか何を読んだのか知らないけど、
 そのナイフとフォークとスプーンを置いて! お願いリューガちゃん!」
「まだ言うか!」
 怒り狂いながらも姉の指示通りナイフとフォークとスプーンを近くのテーブルに置き、
代わりに塩コショウとソースを掴むリューガ。
「だ、だめー! そんなことしたって人間は美味しく食べられないのよ!
 ほらよく言うじゃない、『人肉は不味い』って。ね、ね?
 『人肉ウマー』とか『人肉サイコー』とかはデマなのよ、デマゴーグなの、出任せなの!
 確かにあたしとリューガちゃんは改造人間だけど、牛の品種改良と違って
 『餌にもこだわって美味しい肉をつくりました』とか言えるタイプじゃないのよ!」
 じりじりと後ずさるライカ。
243おまけ・後日談(下):03/05/10 23:48 ID:xtDFAd2W
「ライカねーちゃん、なに騒いでるのー?」
「あ、リューガにいちゃん!」
「………」
 そこにジョージ、コリン、アリスンの三人が入ってきた。
 リューガはじぃっと三人を凝視した。
「ま、まさかリューガちゃん……」
「そうか、こいつらを先に片付けないと姉さんは本気を出さない。それなら……」
 鬼気迫る形相で近づくリューガに、三人の子供たちは怯えて立ち竦んだ。
「ダメー! リューガちゃん、『子供を救え』よ!」
「五月蝿い、姉さんはそこで黙って見ていろ!」
 叫んだ刹那、
「そうか、お前は子供をいたぶるのか、子供を食欲の対象にするのか」
 ザワリ、と圧縮されていく闘気。
「変・神」
 そこに立ったのは、ライカではなく……純白の戦天使・メタトロン。
「そうさ、そうだ、姉さん! 本気で殺り合おう! 喰らい合おうぜ! 変・神!」
「いや、念のため言っておくけどあたしはそんな趣味ないから」
 言った次の瞬間に、白の闘気と黒の狂気は激突した。
 子供たちは呆然と、乱舞する白光と黒闇のマーブルを見つめた……。
244空ラ塗布:03/05/10 23:51 ID:xtDFAd2W
>>231-243
 題「リューガ兄さんの狂人日記」(斬魔大聖デモンベイン)より
 初投稿なだけに前回は緊張しまくったが、無事受け入れてもらえたようなので、
調子に乗って再投稿。「今度はエセルたんを」と思ったが、なぜかリューガがメインに。
 タイトルは言うまでもなく魯迅の「狂人日記」から。
 今回は「カニバリズム」というグロいテーマなだけに、なるべくエグい描写は避けた
つもりだけど、不快に思われた方には「すみません」と謝っておこう。遅いけど。
 あ、「というかライカルートじゃルルたんは……」とかのツッコミはなしの方向で。
 それ以前に設定メチャクチャだから……。
245名無しさん@初回限定:03/05/10 23:52 ID:DOOabDd9
素敵に暴走風味
246名無しさん@初回限定:03/05/10 23:58 ID:7FUl5IzD
うむ、ステキに暴走しておられるな。オモロカタ。
お疲れ様でした>>244
俺はかまわんが、一部リューガファンからどう思われるかというのが非常に興味深いところだな。
てゆか今回まともだったのはアルだけですか。
247名無しさん@初回限定:03/05/11 00:09 ID:HlU/CGBv
面白いけど、発売後一月もたってないゲームのネタバレはどうなんだろ…
最初にネタバレ注意って書いたほうがいくない?
俺、デモベまだ買ってないんだよなぁ…
248名無しさん@初回限定:03/05/11 00:13 ID:irqNzQAG
>244
素敵にSANが低いですね(誉め言葉)。
249名無しさん@初回限定:03/05/11 00:16 ID:JQmQVSUy
>NJYC9kEh&xtDFAd2W氏
グッジョブ!
ただ・・・アルの一人称は「妄」でなく「妾」と書いた方がいいと思う。
250空ラ塗布:03/05/11 00:25 ID:2dKqK0It
>>245-246
最初にガーッと大筋書いた段階ではもっと暴走していましたが、
「さすがにこれはヤバイ」となるたけソフトな方向に直しました。
それでもこの有り様。

>>247
あ、すみません。次回からはネタバレの有無についても断るようにします。
ここのスレ、ネタバレ可だと思い込んでいたものでつい……。

>>248
もはやマイナス行ってます。

>>249
げげん。本当、よく見たら「妾」が「妄」になってる。
調べてみたら辞書登録の段階で間違っていた模様。
修正しましたので今後は大丈夫だと思います。とほほ。
251名無しさん@初回限定:03/05/11 02:07 ID:DS3IK3ua
うむ、素敵に素敵な狂い方ですなw
実に笑わせてもらいますたw
>>244

ぜひとも次回はウィンフィールドのジェノサイド臭漂う青春時代ねたを禿げしくキボン♪
252名無しさん@初回限定:03/05/11 03:11 ID:EYYsacIn
>>251
執事!いいねー(・∀・)
デモベ漢キャラは全燃えだしな。背中で泣いてる男のびーがくーか。

ニトロのキャラSS( ゚Д゚)<漢! きーぼんぬ
253名無しさん@初回限定:03/05/11 13:26 ID:eRLdj5cZ
そろそろデモベ以外のエロゲSSも見たいかも。
254名無しさん@初回限定:03/05/11 17:16 ID:t7R0y4U8
よし>253よ、是非ガンガン生射ちのSSを書いてくれ
255名無しさん@初回限定:03/05/11 20:01 ID:eRLdj5cZ
>254
 断 る
256名無しさん@初回限定:03/05/11 20:57 ID:t7R0y4U8
それじゃあ「なないろ」書いてくれ。
257名無しさん@初回限定:03/05/12 00:14 ID:HU6VmVlg
ガン生だったらこのスレにいる奴のほとんどが本作を超える出来のSSを
かけると思う。
それはもはや二次創作でないんだが……。
258名無しさん@初回限定:03/05/12 09:32 ID:xw3ioFL8
>>256
まず動かし方を教えてくれ
259名無しさん@初回限定:03/05/12 14:46 ID:+ZXg63sU
一 休 さ ん 必 死 だ な w
260名無しさん@初回限定:03/05/12 21:25 ID:8OmaIXRY
>>254-259の流れにワラタ
261アイ・ロボット:03/05/14 18:50 ID:dluxEAIi
 アーカムシティ。
 大黄金時代にして大混乱時代にして大暗黒時代を内包する、巨大都市である。
 そのような街なのだから、街の地下深くに広大な秘密基地が広がっていたとしても、
何の不思議も無いだろう。
「・・・・・・・・・」
 何やら不気味な機械音が鳴り響く中、一人の少女が自分に与えられた部屋で呆けていた。
 魔術の儀式に使われるような奇妙なデザインの装束にその身を包んだその少女は、
白痴のように、ボ〜っと部屋の天井を見上げている。
「大十字・・・九朗・・・」
 しかし、彼女は人間ではなかった。
 擬似の生命を機械の身体に、歯車と螺子に宿した人形。
 狂気の天才ドクター・ウェストがこの世に造り出した魔道兵器。
 人造人間エルザ。
 それが、彼女だった。
「あー、エルザ! 今から我輩、ニグラス亭のジンギスカン定食で、
貧しさとひもじさを感じる心の空洞と胃の空洞をタップリはちきれんばかりに満たしてくるゆえ、
しばしの間、留守番を頼むのである!」
 隣の部屋から、大音量の声がエルザの耳を捉えた。
 しかし、物思いに耽る彼女は一向に反応しない。
262アイ・ロボット そのに:03/05/14 18:52 ID:dluxEAIi
「エルザ・・・? 聞こえているのであるか? マイ・スイート・ハニー、エルザ?」
 そんな事を呟きながら、一人の男がエルザの部屋に入ってきた。
 男の名はドクター・ウェスト。
 アーカムシティに広がる地下の一部を勝手に拝借し、そこを自らの基地と勝手に決め付けた男である。
日々、この基地で破壊ロボを造り上げては倒され、倒されては造り直して・・・
・・・を日常のサイクルのように続けるあたり、意外にまめな性格なのかもしれない。
「エ〜ル〜ザ〜?」
「博士・・・」
 ようやく、エルザはウェストが入ってきた扉の方へと視線を向けた―――
「やかましいロボ」
 ―――途端に、罵詈雑言を吐く。
 いくらなんでも、自分の生みの親に対して使うべき言葉ではないだろう。
「エ、エルザ・・・エルザが我輩に対して・・・な、なんと酷い言葉を・・・」
「五月蝿いロボ、静かにするロボ、黙るロボ」
 エルザは、機関銃を乱射するような勢いで早口に捲くし立てた。
 一句、一句が紡がれるごとに、ウェストの表情がどんどん崩れていき、瞳からは大粒の涙が零れ落ちる。
「出て行くロボ!」
 最後には白衣を掴まれ、哀れウェストは基地の外へと放り出されてしまった。
「エルザァァァァ!? わ、我輩に何処か至らぬ点が在りましたのであるか!?」
 鋼鉄製の扉を両手で思い切り叩きながら、ウェストは滝のような滂沱の涙を流しつつ、必死に叫び続ける。
が、防音設備完備のため、その声はエルザの耳には聞こえなかった。
 まぁ、おそらくは防音設備が無かったとしても、エルザが扉の鍵を開けることは無いだろうが。
263アイ・ロボット そのさん:03/05/14 18:55 ID:dluxEAIi
「大十字九朗・・・お前に初めて会った時から、エルザの体内温度は上がりっぱなしロボ・・・」
 エルザのメモリーの中には、件の男、大十字九朗との出会いがありありと浮かんでいた。
 破壊ロボのコクピットにあるモニターに映し出された、二丁の拳銃を構え、颯爽とした大十字九朗の姿。
その光景を見た時から、エルザは言い知れぬ恋の予感を抱き始めたのだ。
以来、彼女はウェストの暴走がある毎に大十字九朗と遭遇し、
戦闘を繰り返しては自分の中で赤熱する何かの存在を感じ取ってきた。
「間違いなく・・・これは恋ロボ。エルザはあの大十字九朗にゾッコンラブ・フォーエバーロボ・・・」
 恥ずかしげに両手の人差し指の先端どうしをくっつけたり、離したりしながら、エルザはもじもじと呟く。
「ならば、エルザは愛しいダーリンを手に入れに往くロボ!」
 彼女の手には、二つの本が握られていた。一つは住所録。そしてもう一つは―――
264アイ・ロボット そのよん:03/05/14 18:57 ID:dluxEAIi
「くぅぅぅ・・・この脅威の大・天・才、ドクタァァァァウェェェェスト! が、何故に探偵なぞに頼らなければならないのであるか・・・」
 翌日の早朝、ウェストは探偵事務所の扉の前に立ち、独り言を繰り返していた。
 昨晩基地を追い出されたので、仕方なくジンギスカン定食を食べ散らかした後、帰ってみればエルザの姿が無かったのだ。
最初は自主休業でもとったのだろうかとも考えたが、家を追い出されたときの尋常ではない雰囲気を考えると、
答えは(ウェストにとっては)唯一つだった。
「ううっ・・・エルザ・・・。我輩の何が気に入らなくて家出なんてしたのであるかっ!?」
 家出である。
 確かに、ウェストにとって思い当たるふしはいくつかあった。
最近、回路がショートしたように呆けていたり、親同然の自分に向かって暴言を吐いたり、
そろそろ反抗期であったり、etc、etc・・・。
「すいませーんのである。仕事の依頼であーる」
 えらく礼儀正しく、ウェストは扉をノックした。
 待つこと数秒。
「はい、はい! どのようなご依頼でしょう・・・・・・か・・・・・・」
「・・・・・・・・・だ、大十字九朗!?」
「ドクター・ウェスト!?」
 二人の声が重奏する。
 今、彼らの瞳にはお互いの姿しか映ってはおらず、二人とも固まったように凝視し続け、
「ななな、なんで貴様がこんな所にいるのであるかっ!?
赤い鎖でお互いの身体をマゾッホの如く縛り愛った我が宿命のライバル、大十字九朗!」
「てめぇ、なんだその台詞は! 近所の奥様方の誤解を招くような言い方は止せ!
そんなに俺の社会的立場を抹消したいか!? つーかボコる」
 お互い一方的にそう叫んだ後、九朗はウェストの襟首を掴み、家の中に引きずり込んだ。
265アイ・ロボット そのご:03/05/14 19:01 ID:dluxEAIi
「はぁぁっ!? エルザが家出!?」
「うーむ、エルザも最近多感な時期に入ったであるからな」
 己の顔面をインスマウスの住人のような顔に整形されながらも、
ウェストはようやく九朗にエルザが居なくなったことを伝えた。
「多感な時期ってなぁ・・・」
「てけり・り」
「あ、これはご親切にどうもなのである」
 消毒箱片手に、柔らかでプニプニとした触手を使いウェストの傷の手当てをする
スライム状の生命体―――ダンセイニに対し、ウェストが律儀に礼を言う。
「で、依頼を引き受ける気になったであるか? 大十字九朗?」
「なるかっ!」
 九朗はウェストの無知なる厚顔に、鉄拳を見舞った。
 勢いよく吹っ飛ぶ前に、ダンセイニの弾力性に富むボディが
ウェストを受け止め、衝撃を緩和する。
「てけり・り」
「な、何をなさるであるか、大十字九朗! 我輩は立派なお客様・・・・・・、
依頼人であるからにして、それなりの礼儀と客人用の茶と和菓子を出し、
必要とあらばマッサージくらいやってもお釣りはあるはずなのである!」
266アイ・ロボット そのろく:03/05/14 19:03 ID:dluxEAIi
 九朗は渾身の力を込めたアイアンクローで、ウェストの頭を掴んだ。
「おい・・・お前はそれ以前に犯罪者だろうが・・・!
 このまま頭を90度回転させて窓から突き落としてやってもいいんだぜ!
 ここはてめぇの居ていい場所じゃねぇ。とっとと出て行け!」
「ぅおぉぉぉぉぅっ! 痛い、痛いのである!
 柘榴柘榴柘榴柘榴の実が裂けて裂けて砕け散るのである!
 か、金ならちゃんと払うのである! この依頼は合法的なものであるぞ! 」
「お前が合法言うか!? お前が!?」
 そこまで二人が罵り合ったときであった。
 突然寝室の扉が開き、九朗の生活面兼仕事面のパートナー、
アル・アジフが寝巻き代わりのワイシャツ姿を二人と一匹の前で披露した。
「あ・・・アル・・・」
「大十字九朗・・・貴様、ロリコンであるな」
「静かにせぬかぁぁぁぁぁ! このうつけ共がぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!」
 一世一代、渾身の力を込めた、荘厳で、優美で、壮大な大魔術が華開いた。
そりゃもう見事に。
267アイ・ロボット そのなな:03/05/14 19:05 ID:dluxEAIi
「まったく、せっかく妾がいい気分でもーにんぐ・こーひーを啜っておったというのに。むくー」
「そんなに膨らむな。それよりどーすんだ! この大穴は!?」
「妾は知らぬ。あの小娘に泣きついて、仕事でももらってくるがよい」
 二人の会話が、大穴を通じて屋内から外へと漏れる。
「ううっ・・・」
 茫然自失といった状態で、九朗はフラフラと幽鬼のように、窓ごと砕け散った壁へと近付いた。
 空は雲一つ無い快晴で、都会の空とは思えないほど清く澄み渡っている。
「なんだろうな、この理不尽の具現は・・・」
 はらはらと滝のような涙を流しつつ、
九朗はとりあえず床に散らばった破片を拾い集めようとかがみこんだ――――その時、
「ローーーーーーーーーーーボーーーーーーーーーーーー!」
 突如として、青空にエルザの叫び声が響き渡った。
「な、なんだなんだ!?」
 九朗は慌てて、立ち上がる・・・が、もうすでに遅かった。
 上空から飛来した緑色の破壊ロボが、九朗の自宅に開いた大穴に右腕を無理矢理突っ込み、
その掌が九朗をがっしりと握り掴んだのだ。
「く、九朗っ!?」
「あれは只今最終テスト中の我が破壊ロボ、その名も“スーパーウェストロ(略)”ではないか!?」
「汝の仕業かぁぁぁぁぁっ!」
 ネクロノミコン奇跡の大魔術パートツー。突如として蘇えったドクター・ウェストは、
再び爆風に飲み込まれた。
しかし、破壊ロボは直撃を免れ上昇する。
九朗をしっかりと握り締めたまま。
「し、しまった! つい、このうつけに気を取られておったわ!」
 アルが悔やんだ頃にはもう手遅れだった。
 彼女の視界にはすでに、破壊ロボの威容は映っていなかったのだ。
268名無しさん@初回限定:03/05/14 19:08 ID:EZqLErlV
援護
269アイ・ロボット そのはち:03/05/14 19:09 ID:dluxEAIi
 空高く、天高く。破壊ロボはアーカムシティ上空を飛行していた。
「くっそぉっ! なんなんだよ、一体!? おい、エルザ!」
 その掌の中で九朗は必死に叫び声を上げる。
「呼んだロボか? マイ・ダーリン?」
 えらく能天気なエルザの声とともに、
破壊ロボのハッチが開かれ、中からエルザが姿を現した。
「お前、一体何を考えてやがる! 何・・・を・・・」
 そこまで言って、九朗の言葉は途切れた。
 彼の視線の先には、エルザが立っていた。
 ウエディングドレス姿のエルザが。
「・・・綺麗ロボ?」
 いつもの奇妙な儀礼服からは想像もつかない純白の花嫁衣裳。
 ドレスと同色の手袋をして、ブーケを両手で大事そうに胸の位置で抱えている。
はにかんだ表情は薄いヴェールによって覆われ、全貌を確認することはできない。
「――――」
 思わず、九朗はエルザの姿に魅入っていた。
今の彼の視界には、無骨な破壊ロボの姿は映っていないだろう。
『おいおい・・・君は僕に向かって、
自分は自他共に認めるロリコンだと公言したんだから、
彼女相手に欲情するのはどうかな・・・』
 突然、思考の中に忌わしい闇黒が広がった気がし、
九朗は今の思いを掻き消すようにぶんぶんと首を左右に振る。
「・・・しゅん。エルザは綺麗じゃないロボか・・・・・・・・」
 九朗の仕草を先ほどの問いかけの意思表示と誤解したのか、
エルザは素肌剥き出しの肩を落とした。
270アイ・ロボット そのきゅう:03/05/14 19:11 ID:dluxEAIi
「い、いあ、違う! そうじゃない!」
 その光景に、思わず弁解する九朗。
 彼の言葉に、しょげていたエルザは顔を輝かせ、
「じゃあ、興奮したロボ?」
「何でそうなるっ!」
「殿方の9割はウエディングドレスで着飾った乙女を見れば欲情すると、
昨日読んだ本に書いてあったロボー」
 嬉しそうにそう言い始めた。
「どんな本だ、どんな!」
「そんなのはどうでもいいロボ。早く結婚するロボ」
「は?」
 エルザの一言で、ようやく九朗は彼女が
何故花嫁衣裳に身を包んでいるのかという疑問を抱けた。
「結婚?」
「そうロボ、愛とは略奪するものロボ。だからこのままダーリンと結婚するロボー」
「ちょっ、ちょっと待てぇい!」
 エルザはそう言い残すと、九朗の言葉を無視して破壊ロボのハッチに戻り、
アーカムシティ上空を移動していた機体を勢いよく下降させていった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 風圧で九朗の顔が歪む。彼は揺れる視界の隅で、
破壊ロボの足につけられた空き缶の束を見つけた。
「ああ・・・あれはアレだ。結婚式の帰りに乗るクルマの後ろに取り付けられている奴だ・・・」
 九朗の呟きも空き缶のぶつかり合う音も、吹き荒れる風に巻き込まれて消えていく。
 半ば諦めが瞳に宿り始めた頃、九朗を掴んだ破壊ロボは彼が見慣れた場所に着地した。
「ここは・・・・・・」
271アイ・ロボット そのじゅう:03/05/14 19:16 ID:dluxEAIi
 孤児院だった。
 孤児の子供達に混じって九朗も面倒を見てもらっている孤児院―――だが、
いつもの寂れた雰囲気は無く、純白の花々がそこいら中に飾り付けられている。
 破壊ロボの掌が開き、九朗は路上に落とされた。
「な、なんだなんだ!?」
「さぁ、二人の愛の門出ロボ!」
 エルザは叫ぶ九朗を引っ掴み、孤児院の扉を勢いよく開ける。
 その途端、
『ご結婚、おめでとうございます!』
 必死に練習したのか、孤児院に世話になっている三人の子供達がピッタリ息を合わせて
九朗とエルザに祝福の言葉を言い放った。
皆、精一杯のおめかしをし、両手に抱えきれないくらいの白い花束を抱えている。
「ありがとロボ! エルザは幸せになるロボー!」
 子供達に手を振るエルザと、場の展開に呆然としている九朗に向かって、
子供達は抱えていた花束を放り上げようとする、が。
「あれー? 九朗じゃん」
「あー、九朗だー」
「(びっくり)」
 三人が三人とも、見知った顔の新郎へ驚いた顔を向ける。
 が、九朗が何かを言う前に、
エルザは彼を担いで神父の前へと短いヴァージンロードを駆け抜けた。
272アイ・ロボット そのじゅういち:03/05/14 19:18 ID:dluxEAIi
「えーと、まず、段取りは・・・・・・・・・あらぁ?」
 その神父も九朗の見知った顔だった。
 金髪の髪の毛と眼鏡。サイズが大きすぎるのか、ずれる帽子を直してばかりいる。
 ライカだ。
 九朗とライカ、二人の視線は交錯したまま、固まって動かなくなる。そして、
「く・・・・・・・・・九朗ちゃんっ!?」
 ライカが驚きの叫び声を上げた。
「ら、ライカさん・・・・・・助けて・・・」
「そそそ・・・そんな! とうとう貧乏九朗ちゃんが女の子を騙くらかして、
資産目当ての結婚詐欺をー!? ああーん、神様―!
 九朗ちゃんが犯罪者であることの決定的証拠を目撃してしまった
私はどうすればいいんですかー!?」
 九朗の呟きも無視し、ライカは神像の前で泣き崩れ、大声で叫ぶ。
「九朗、詐欺師ー!」
「悪人ー!」
「(おろおろ)」
 孤児院三人組もそう言いながら九朗の下へと歩み寄ってきた。
「五月蝿い、ガキんちょども! 誤解を招くような台詞を吐くな!
 ライカさんも俺のことをそんな風に見てたんかい!」
「何をいまさら」
 突如として真顔に戻り、九朗の詰問に当たり前のように答えるライカ。
「ぐあぁぁぁぁ・・・・・・」
 今度は九朗がその場に崩れ落ちる番だった。
「シスター、とりあえず挙式をするロボ」
「ダメよ、エルザちゃん! こんなろくでなしの穀潰しの人でなし、
亭主にしたら大きいお腹抱えて路頭に迷うのが目に見えているわ!」
 首根っこを掴んで九朗をライザの前に突き出すエルザに、ライザは説得を始める。
273アイ・ロボット そのじゅうに:03/05/14 19:21 ID:dluxEAIi
「ちょっと待て! 何か俺の知らないところで進んでいる事態をちょっと止めてくれ!」
「九朗ちゃん、何てこと言うの!? エルザちゃんは昨日遅くここにやって来て、
“どうしても結婚したい人が居るから挙式の準備をしておいて欲しいロボ!”
とか健気に言っちゃってくれたんだから!」
「そこに俺の同意は全く無い!」
「女の子一人に段取り全部任せて・・・・・・・・・九朗ちゃんの甲斐性なしっ!
 屑、芋、塵芥! 地べたを這いずり回れ!」
 一人エキサイトしてまったく聞く耳持たないライカに、九朗は反論の怒声を上げた。
 無論、ちっとも聞き入れてはくれないが。
「あーもう、いい加減にしてくれぇぇぇぇぇっ!」
「ダーリン」
「ん?」
 突然のエルザの声に、九朗は振り向く。そこには―――
「ちゅ」
「――――っ!!!!!?????????」
 エルザの唇が待ち構えていた。
 九朗の視界一杯に、目を閉じたエルザの顔が映し出される。
 本人も恥ずかしいのか、頬を真っ赤に染め、
耳からはオーバーヒートでも起こしたかのように蒸気が噴き出している。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 孤児院の聖堂の中に、長い沈黙が居座った。
 そして――――
「ほぅ、なかなか絵になっておるではないか」
 九朗の耳に、ナイフのような鋭さを持った絶対零度の声が突き刺さった。
274名無しさん@初回限定:03/05/14 19:22 ID:EZqLErlV
援護
275アイ・ロボット そのじゅうさん:03/05/14 19:22 ID:dluxEAIi
「ア・・・ル・・・」
 ギギギ・・・と擬音をたてながら、ゆっくりと右京は唇を離して孤児院の入り口を振り仰ぐ。
「妙に楽しそうではないか。妾も混ぜて欲しいものだな、九朗・・・」
 そこには、
最凶最悪の外道宝典ネクロノミコンのオリジナル―――アル・アジフの威容が在った。
「いや、あの、アルさん? どうしてここが?」
「表に木偶の坊が鎮座しておったぞ」
 蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる九朗を一人置いて、
ライカと孤児院のガキんちょども・・・ついでにエルザも、
すごすごと入り口から出てこの場を避難する。
「妾は慈悲深い。懺悔の時間くらいなら、くれてやろう」
 あからさまな侮蔑の調子を載せて、アルは告げた。
 涙を垂らしつつ、ようやくの思いで九朗は口を開く。
「えーっと・・・・・・」
「そこまでだ! この大うつけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「さ、最後まで――――」
 聞いてはくれなかった。
 孤児院の中から途方も無い熱量が噴き出し、
飾り付けられていた純白の花びらが吹き荒れる。
 その光景を、物陰に隠れながらエルザやライカたちは他人事のように眺めていた。
276アイ・ロボット そのじゅうよん:03/05/14 19:24 ID:dluxEAIi
「今回は失敗だったロボ。でも、次こそはダーリンをエルザの物にするロボー!」
「二度と来るでないわ!」
 ウエディングドレスのまま破壊ロボに飛び乗り、
眼下に向かって手を振るエルザに対し、アルは怒鳴り声を上げた。
「あ、アルちゃん。これ、孤児院の修理費代ね。
九朗ちゃんが目を覚ましたら渡しておいて」
「うむ。またあの小娘に泣きつかせようではないか」
 そう言って、アルは焦げた九朗の片足首を掴み、
ずるずるとアスファルトの上を引き摺りながら自分達の愛の巣へと帰っていった。
 ライカや子供達も、何事も無かったかのように孤児院へ戻る。
 今日のアーカムシティも平和だった。
「・・・・・・俺が・・・何をした・・・・・・?」
 一人を除いては。
277アイ・ロボット そのあとに:03/05/14 19:26 ID:dluxEAIi
「あ〜、その辺であるな。なかなか上手いのである」
「てけり・り」
 ここは九朗の自宅。
そこでドクター・ウェストは来客用の茶菓子を食い尽くし、
茶を飲み干し、ダンセイニにマッサージを施してもらっていた。
 ぷにぷにとした感触の軟体触手が、
ウェストの身体を気遣いながらゆっくりと動き、
指圧(指は無いだろうが・・・)する。
「あっ! そこそこ! そこをもっと激しくするのである!
 我輩、感極まって大人の階段を登りつめるのである!」
 いつの間にか、ヨガリ狂うウェストの背後に二人の人影があった。
 気づいたダンセイニが、やれやれ・・・といった感じでその場を離れる。
「じ、焦らすのはやめて欲しいのである! ヤルからには徹底的に――――」
 二人の強烈な怒気を含んだ視線に中てられ、
見る見るうちにウェストの顔が蒼くなった。
「徹底的にか。よいぞ、何処まで期待に添えられるが知らんが」
「十三階段を登りつめるのは保障するぜ」
 その言葉を最後にウェストの意識は途切れ、彼の身体は頂へと飛んでいった。
278アイ・ロボット そのオチは:03/05/14 19:29 ID:dluxEAIi
 アーカムシティ。
 その真夜中の路地裏で、ようやくウェストは目を覚ました。
「お、おのれ・・・・・・大十字九朗、そしてアル・アジフ・・・。
我輩の甘くて切なくてちょっぴり苦いこの恨みは、近いうちに倍返しで振り込んでやるのである!」
 地べたを這いずり回りながらも、ウェストはようやく路地裏から街道筋へと出ようとした・・・まさにその時、
「ん・・・? な、何であるか?」
 彼の行く手を、数人の屈強な男達が遮った。
「オゥ、ネーチャン。金はコイツが払うのかい?」
「そうロボ」
「よしよし。おいニーチャン、ウエディングドレスのレンタル料と
汚れのクリーニング代、耳を揃えて払ってもらおうか」
 起き上がれないウェストの身体を、男の一人が持ち上げる。
「エ・・・エルザ?」
「じゃあ博士。エルザは先に基地へ戻ってるロボ〜」
「エルザ! ま、待ってくれなのである!」
 ご機嫌な様子で鼻歌を歌いながらこの場を離れるエルザの後姿が、
ウェストは涙で滲んだ視界に入った。
「で、ニーチャン。金は?」
「え・・・? 金はであるな・・・」
 九朗の事務所である。
「ちょっと奥まで付き合ってもらおうかい」
「あ〜っ! ちょっ、ちょっと待つのである!
 え、エルザ〜! カムバック、マイ・スイート・ハニー!」
 情けない悲鳴を残しつつ、ウェストは路地裏へと連れて行かれていく。
 今夜のアーカムシティも平和だった。
「わ、我輩が何をしたのであるか〜!?」
 馬鹿を除いては。
279ノズミック:03/05/14 19:33 ID:dluxEAIi
以上、先人達のデモンベインSSに感化されて書き込んだ次第です。
このような駄文でも、楽しんでいただければこれ幸い。

ドクターウェストの暴走台詞は、本人にしか再現できんと痛感ー。

エルザ欲しいなぁ・・・。一家に一台、人造人間。
280名無しさん@初回限定:03/05/14 19:57 ID:rhwi+cmO
>>279
グッジョブ!
281名無しさん@初回限定:03/05/14 20:05 ID:MgyuvuGg
>>279
アデプト・クラス認定。
282その手があったか:03/05/14 20:09 ID:oJd2bAcu
> いつもの奇妙な儀礼服からは想像もつかない純白の花嫁衣裳。
> ドレスと同色の手袋をして、ブーケを両手で大事そうに胸の位置で抱えている。
>はにかんだ表情は薄いヴェールによって覆われ、全貌を確認することはできない。

見てぇぇぇぇぇ━━━━━━(゚∀゚*)━━━━━━!!!!
283名無しさん@初回限定:03/05/14 20:10 ID:kvBlG575
>>261-278
面白かったよ。
284名無しさん@初回限定:03/05/14 20:19 ID:47x3MRUA
……エルザの花嫁姿……なんか、現物見たら涙と鼻水まきちらす西博士が見えた気がする。
というわけで、グッジョブ。
285279:03/05/14 20:39 ID:JkCduO1E
九郎の文字が間違っている!?
九朗になってる!?

あー、鬱。
286名無しさん@初回限定:03/05/14 20:41 ID:ILAYTkuJ
辞書登録すれ。
287名無しさん@初回限定:03/05/14 21:30 ID:Lw74TGOv
288名無しさん@初回限定:03/05/14 21:49 ID:d4VKgglq
お前ら、何も言わず教えてくれやがれ!

辞書登録ってどうやるんですか。
289名無しさん@初回限定:03/05/14 22:30 ID:lbDQsOT0
>>288
まずは、文字を書くときに出るツールバー( あ とか 般 とかなってるやつ)の
本っぽいものをクリック。無いときは右クリックで単語/用例登録を選択。
んで、それで出てきた単語/用例の登録で「辞書ツール」。
それの右上の「ツール」から「テキストファイルからの登録」を選択。
後は
>>287
を展開したテキストファイルを選らベば良い。いじょ。
290名無しさん@初回限定:03/05/14 23:47 ID:MgyuvuGg
このスレっていい奴多いな・・・
ちなみに288の言ってる辞書登録って、各単語毎の登録の事じゃなかったりしてな。
287の教えてくれた辞書をまとめて登録する方法を聞きたいのだったり・・・
そうだとしたらまずはFEP(ふぇっぷ。MS-IMEやATOKなどの日本語入力ソフトウェアのこと)
のヘルプを見て調べるのだな。
そーいや最近FEPって言っても通じない人が多い気が・・・
291名無しさん@初回限定:03/05/14 23:54 ID:WO3jzHBm
>>290
シングルタスクであったMS-DOSと違って、マルチタスクのOSでは、
日本語入力のプログラムは必ずしもフロントエンドプロセス(プロセッサ)
ではなく、単なる1プロセスでしかないからだと。
292名無しさん@初回限定:03/05/15 01:43 ID:oTj3tvxw
Input Method Editor
今はIMEと呼ぶべきなのだな・・・
ttp://www.geocities.co.jp/SiliconValley/5634/t82A0_0002.html
激しくスレ違いで恐縮。
293名無しさん@初回限定:03/05/15 08:13 ID:AMYwognL
西博士といっしょに和む(?)ダンセイニ萌え
294ゆき×モテ(上) 1/15:03/05/15 23:51 ID:kPklN0GL
 確率と確率の狭間。
 存在と認識の揺らぎ。
 捩れた時空の螺旋で──彼女は泡のように消えようとしていた。
 収束しない指先が紐のようにほどけていく。
 ほどけて──弾ける。
 消えていく。
 なくなる。
 誰からも忘れられる。
 元からなかったことに──なる。
(構いません。あの人にはもう……)
 必要とされることはないのだから。
 あの人には他に、必要とするヒトがいるのだから。
 光が強く、視界は白くぼんやりとしている。自分の身体すら曖昧で、よく見えない。
 いまだになくならない意識を持て余し、彼女は考え続ける。
(役目を終えたのだから、消えるのは当り前ですよ──)
 嘯くような思考とは裏腹に、まだそこにあるのかさえ不確かな胸を、震えが襲った。
 痛み。
 痛み。
 痛み──
 それはどんな感覚だったろうか。
 わからない。
 だが。
(あの人──)
 一つの影を思い浮かべるたびに走る、微弱な刺激が──痛みというものだろうか。
 惜別。
 愛慕。
 愁嘆。
 意味を伴わない言葉が通り過ぎ、一瞬だけ膨れ上がって、そして──
295ゆき×モテ(上) 2/15:03/05/15 23:52 ID:kPklN0GL
「ちょっと待つでちゅの」
 不意に声がかかった。
 急速に感覚が戻ってくる。
 編み直されるように手が、足が、腹が、すべてが元通りになっていく。
 なぜ──これはいったい。
「珍しいとこで珍しいものを見まちたでちゅの」
 幼い声は、感心したように言った。
 背後から聞こえてくる。
 振り向くと、そこにはてのひらサイズの少女がいた。
「まあ、いいでちゅの。まずは自己紹介からちまちょう」
 くるり、とその場──空中──で一回転してから、少女はにぱっと笑った。
「わたしはモモといいまちゅの。体はスモールでも心はビッグな美しい花の妖精でちゅ」
 よく見ると、背中に羽が生えているのがわかった。
「妖精さん、ですか?」
 妖精──確かにそういった雰囲気だ。
「でちゅの♪」
 嬉しそうに答える。
 妖精──そういえば、『ピーターパン』に出てくるあの妖精はなんといったか。
「それで妖精さんが、何か御用なのでしょうか?」
「そう、契約を持ちかけようと思ったんでちゅの」
「契約──?」
「よーく聞くんでちゅのよ、いいでちゅか──」
 ダラララララララララララ
 鳴り響くドラムロール音。
「………」
「………」
 ドラララララララララララ
「………」
「………」
 ヅラララララララララララ
296ゆき×モテ(上) 3/15:03/05/15 23:55 ID:kPklN0GL
 ──長い。
 思った矢先、音が止み──
「あなたの願い事をなんでもひとちゅだけ叶えまちゅの!」
 パッパパーン
 ファンファーレが鳴った。
「願い事を──?」
「限度はありまちゅが、基本的になんでもOKでちゅの。まずは要相談でちゅの」
「願い──」
「もちろん、『契約』なんでちゅから、お代はただなんて虫の良い話はないでちゅの。
ちゃんと代償があるから、よく考えたうえでしてほしいでちゅの」
 願い──そんなのは一つだけに決まっている。
 ためらう余地はどこにもなかった。
「雪を──もう一度、あの世界に帰してください」
(あの人が──透矢さんが雪を必要としなくても。
 雪は、透矢さんを必要として──)
「了解でちゅの。それでは魔法をかけまちゅの」
 モモは両手を掲げ、「えーい!」と叫んだ。
「はあ、はあ──終了でちゅの」
「随分あっさりしていますね。でも、お疲れさまです」
「ねぎらいどうもでちゅの。あ、早速返還が始まりまちたね」
297ゆき×モテ(上) 4/15:03/05/15 23:56 ID:kPklN0GL
 何かが壊れていくような轟音に、思わず少女から視線を外した。
 世界が──自分を包むマヨイガが、端から崩れていっている。
 ビル爆破工事のように滑らかな崩壊が、高速で進行する。
 壊れた場所から、深い闇が覗き込む。
 雪は呆然とそれを眺めた。
「雪は、本当に──本当に帰れるのですか」
「イエスでちゅの」
 透矢さんのもとに──
 夢見ることすら叶わなかった願いが、叶おうとしている。
「では行ってらっちゃいでちゅの!」
 トン
 少女が背中を押し、雪は前に進み出て──闇の中へと落ちていった。
 不思議と温もりに満ちた、その闇の中へ。
298ゆき×モテ(上) 5/15:03/05/15 23:57 ID:kPklN0GL
 チュンチュン、チュンチュン。
 雀の声。
 カーテンの隙間から漏れるあたたかい陽射し。
 掛け布団のかすかな重み──
 ゆっくりと、瞼を開けた。
 見慣れた天井。
 上体を起こす。
 視線を巡らせば、そこはやはり見慣れた部屋。
 瀬能家の、自分の部屋だ。
 うさぎがにこやかに微笑んでいる。
「──帰ってきたのですね」
 そっと、両手を胸に当てた。パジャマの生地の向こうから、血の通う温もりが届いてくる。
「雪はもう一度この家に──透矢さんに、お仕えすることができるのですね」
 懐かしさと嬉しさが同時に込み上げ、涙ぐみそうになる。
 だめだ──
 涙を堪え、頭を強く振った。
 しっかりと前を向き、自らに言い聞かせた。
「メイドたるもの、常にしゃんとしていなければなりません」
 ベッドから抜け出ると、早速着替えて、部屋を出た。
 時計を見る──いつもなら、いや、自分がいた頃にはまだ透矢が眠っている時刻だ。
「起こしてさしあげなくては──」
 雪は透矢の部屋に急いだ。
299ゆき×モテ(上) 6/15:03/05/15 23:57 ID:kPklN0GL
 ヘッドドレスを付け忘れ、ナイトキャップをしたままだったのを思い出して部屋に戻り、
ついでに朝食の用意をしている間に、透矢は自分で起き出してきてしまった。
「おはよう、雪さん」
 いつも通りの、何げない挨拶が、雪にはひどく新鮮で──乱れそうになる心を押さえるのが難しかった。
 はい、おはようございます──透矢さん。
「いいえ、おはようございません」
 口をついて出た言葉は、まったく正反対のものだった。
「えっ?」
 驚いて透矢の動きが止まる。
 なんで、あんな言葉が──慌てて雪は訂正しようとした。
 違います、『おはようございます』と申そうと──
「違いません、『おはようございません』と申したのです」
「あ、ああ、ごめん──そうだね、いつも雪さんよりずっと遅くに起きてきちゃって。
確かにお早くはないよね」
 ぎこちなく笑い、その場を取り繕おうとする透矢。
 雪はひどくショックを受けて、言葉を失った。
300ゆき×モテ(上) 7/15:03/05/15 23:58 ID:kPklN0GL
 なんとなく重い沈黙を引きずったまま、雪と透矢は食卓についた。
「雪さんのご飯はいつ食べても美味しいね」
 久しぶりに──主観的にはだいぶの間を置いて透矢に食事を振舞った雪はその言葉を
嬉しく思ったが、さっきのことがあって、返事もできなかった。
(雪は、透矢さんに向かってなんという口を利いてしまったのでしょう)
 穴があったら、落ちてそのまま埋まりたい気分だった。
「ん? 雪さんは食べないの?」
 さっきから朝食に少しも口をつけていない雪に向かって、透矢が尋ねた。
 心配そうな響きのこもった声に、何げない雰囲気を装って箸を取り、雪は答えた。
「はい、雪は透矢さんのメイドではありますが、もっと心配してもらいたいです。
と言いますより、普段からもっと労わってもらいたいものですよ」
 耳を疑うような、自分の言葉。箸が止まった。
「え──ああ、うん」
 戸惑った色を顔に浮かべながら、透矢は素直に頷いた。
 違います、雪は透矢さんのメイドなのですから、労わりなんて不要──
「透矢さんは雪を『人間ではない』なんて勘違いしているのではないですか?
雪は『透矢さん専用のメイド』である以前に人間なのですよ。人権だって認められているんです。
透矢さんの所有物とは違うのですから、あまり都合の良いモノとして見ないでくださいな」
「そんな、僕は雪さんをそういう風には思って──」
「思ってはいないなどと、断言できるのですか? 本当に? そういう見方を一度もしたことがないと、
天地神明に誓って言い放つことができるのですか?」
301ゆき×モテ(上) 8/15:03/05/15 23:59 ID:kPklN0GL
「………」
 透矢は黙り込んだ。
 雪は死にたくなった。
 これほどの暴言は、口にするどころか心に浮かべたことさえない。
 なのに、さっきから口をついて出る言葉はいったいなんなのだろう。
「さ、早くお食べくださいませ。つくったものを残されるのは不快ですが、
いつまでもゆっくり食べていたのでは遅刻してしまいますよ。透矢さんが先生方に叱られるのは
一向に構いませんが、そんなことが成績や評価に響いてしまっては瀬能家の恥となりますからね」
「雪さん……今日はまた、なんで」
「透矢さん、今日という今日は言わせてもらいますが」
 ピンポーン
 チャイムの音が、ふたりの会話を遮った。
 ガタッ
 雪は立ち上がると、逃げるように玄関に向かった。
 なぜ、あんな言葉が止まらないのか──皆目見当がつかない。
 ただダムが決壊したように、思ってもいない言葉が口をつく。
302ゆき×モテ(上) 9/15:03/05/16 00:00 ID:PC7uGRnI
 玄関には、花梨がいた。
 つっ、と雪の胸に疼痛が走る。
 花梨は宮代神社の娘で、透矢の幼馴染みでもあり──雪がこの世界を去る前に、
透矢と付き合うことが決まった少女だった。
 雪は何を言えばよいのか分からず、一瞬息を詰めたが、意を決して口を開いた。
「花梨さん──今日はまた一段と綺麗ですね」
「はっ!?」
 花梨は驚きのあまり目を見開き、絶句した。
 絶句したいのはこっちの方だ、と雪は思ったが、口の動きは止まらなかった。
「癖っ毛がキュートで──この跳ね返り具合が、雪のハートを鷲掴みしてしまいますよ」
 手が勝手に動き、花梨の髪を──ちょうど犬の耳のようになったところをサラリと撫でた。
 花梨は顔を赤くした。
「ゆ、雪みたいな子に言われると嫌味としか思えないわ。というか、これっていやがらせ?」
 必死に動揺を隠し、なるべく平静を保ったつもりの花梨に──雪の制御が利かない言動はなおも続いた。
「雪みたいな、とは──どんなことを指しているのですか?」
「ど、どんなって──だから、ほらその」
「ですから、どんな?」
「──ああ、もう、だから美人ってことよ!」
 ふわっ
 真っ赤になって叫んだ花梨を、雪が柔らかく抱き締めた。
「嬉しい──」
「え──ええっ!?」
「花梨さんは雪をそのように思っていてくれたのですね」
「う、うん、まあそうだけど、でも」
「何も言わないでくださいな」
303ゆき×モテ(上) 10/15:03/05/16 00:01 ID:PC7uGRnI
 更に抱き締める強さが増した。
 花梨の体温が、ダイレクトに全身へ伝わる。
「でも──それだけなのですか?」
「え?」
「花梨さんは雪を『美人』だと思うだけなのですか?」
 瞳が悲しげな色を浮かべる。
 無論、雪本人が意識してのことではない。
「え、え?」
 雪の動作ひとつひとつに戸惑う一方の花梨。
「そう──花梨さんは、見た目だけで雪に近寄ったのですね」
(近寄ったも何も、雪と花梨さんの接点は透矢さんでは──)
 本心の訴えは、表面に出ることがない。
「ゆ、雪、今日はいったいどうしちゃったの?」
「目当てはこの顔ですか? それとも──からだ?」
「なあっ!?」
「そう、からだなんですね。花梨さんは雪のからだが欲しくて欲しくてたまらないのですね」
「いや、まあ、ある意味では欲しいというか何というか、その」
「いやらしい」
「はあ──?」
「そんな目で、雪を見ていたなんて──」
「あのー、雪、さっきから何を勘違いして」
 花梨の言葉を無視し、なおも一方的に雪は言い募る。
「花梨さんはそんないやらしい方だったんですね」
「だから雪、あたしの話を──」
「透矢さんが雪を縄で縛って、鞭で叩いて、三角木馬で責めて、外から丸見えの居間で放置プレイを
したまま登校しているだなんて、そんな淫らな妄想に耽って雪を慰み物にしていたのですね」
304ゆき×モテ(上) 11/15:03/05/16 00:02 ID:PC7uGRnI
「いや、さすがにそんな具体的な想像はしてないし、慰み物にもしてないけど。
──ふたりが怪しいな、とは、その」
 抱き締められたまま、もごもごと抗弁する。
「よろしいんですよ──すべて事実ですから」
 本当のことなど、何ひとつもなかった。
「ええっ!? と、透矢の奴、本気でそんなことを──!」
 瀬能家に三角木馬などあるはずがない、という理性的な思考は、
花梨の頭の中において行われることはなかった。
「で──花梨さんもですか?」
「へ?」
「花梨さんも、透矢さんみたいに──雪のからだ、それだけが目的なんですか?」
「いや、そんな──だってあたし、雪と同じ女だし──」
「性別は関係ありません。ただ、雪がどういった人間かも関係なしに外見的な事柄だけで
良し悪しを決めているのかを訊いているのです」
「うん、まあ、雪は性格の方もいいと思うよ──優しいし、こまめだし、控え目なところも
あるし──ちょっと透矢の世話を焼きすぎるとこが、アレだけど」
「では、花梨さんの世話を焼くべきだとでも?」
「そういう意味じゃ──」
「どういう意味です? 世話を焼かれるよりも──可愛がって欲しいと?」
 だんだん脈絡がなくなっていく自分の言葉を、雪はぼんやりと聞いていた。
「花梨さんは、尽くされるよりも尽くす方が好きですか?」
「雪、いい加減に──!」
 ぎゅっ
 言葉を封じるように、強く、更に強く花梨を抱き締める雪。
「痛っ」
「ご無理をなさらないでください──」
305ゆき×モテ(上) 12/15:03/05/16 00:04 ID:PC7uGRnI
 じっ
 密着した状態で、雪は花梨の目を凝視する。
 ぶつかり合う視線と視線──
 花梨は雪の瞳に、真剣の色を見て取った。
 とくん、とくん。
(あ、れ──?)
 知らずのうちに鼓動が早まっていた。
 頬が上気し、強く抱き締められた苦しさもあって、たまらず息が漏れる。
「はぁ……」
 それは、花梨自身がびっくりするぐらいに、切なげだった。
「やだ──あたし、なんかドキドキして──」
「怯えてなくてもいいのですよ、花梨さん。素直になってください」
「素直に──?」
「そう、素直に──自分に対して」
「自分に対して……」
 キュンキュンと胸が高鳴る。
「あたし、あたし──雪!」
 がばっ
 ただ抱き締められるがままだった花梨が、抱き返しにかかった。
 ふたりは一層密着し、ますます息苦しくなる。
 けれど──花梨にはその息苦しさが心地良かった。
 雪の方はというと、ちょっと辛かった。
 花梨は弓道を嗜んでいるせいか、なかなか力が強い。
「雪……!」
「はい、花梨さん」
「ダメ、ダメよ。あたしには透矢がいるのに──」
「怖がらなくても大丈夫です。落ち着いて──時間をかけて、
気持ちを整理していけばいいんです」
306ゆき×モテ(上) 13/15:03/05/16 00:05 ID:PC7uGRnI
「雪……」
「花梨さん……」
 見つめ合うふたり。
 やがてその唇が近づき──
 ガタッ
 物音に、思わずふたりの動きが止まった。
 抱き締め合う腕を離し、同時に音のした場所へと顔を向ける。
 そこには、やや青ざめた表情の透矢が、身体を震わせていた。足元には、鞄が転がっている。
「なんだか、やけに遅いと思ったけど──ふたりに、そんな趣味があったなんて」
「透矢──!」
 花梨の叫びは悲鳴に似ていた。
「こ、これは、そのっ──!」
「透矢さん」
 雪は花梨を庇うように、前へ出た。
「雪さん──いったい何の冗談なの?」
 無理に笑ってみせようとするが、その顔は強張っていた。
「別に、何の冗談でもございません。すべて見ての通りのことです」
 とりあえず、花梨の方に関してはそう言えるかもしれなかった。
 雪はいい加減、何もかもやめたくなっていた。
「雪、さん」
「透矢さん──花梨さんはあなたには渡しませんよ」
 雪の赤い瞳から鋭い光が放たれ、透矢の足を竦ませた。
「そんな──」
「──と。その前に、おふたりはそろそろ登校しなければなりませんね」
 ついっ、と時計の方に目をやった雪は、それまでの険しい雰囲気を消して平然と言った。
「へ──」
「は──」
 気の抜けた透矢と花梨の声。
 雪はにっこり笑った。
「では、いってらっしゃいませ」
307ゆき×モテ(上) 14/15:03/05/16 00:06 ID:PC7uGRnI
 ふたりが出て行った瀬能家。ひとりぼっちになった雪は、呆然と立ち尽くしていた。
 と──背後に気配が現れた。
 気配は雪の頭を飛び越え、目の前で滞空した。
「おめでとうございまちゅ! 契約通り、無事戻れまちたね」
 ピンク髪のツインテール。郵便配達夫のようなに鞄の紐を肩に掛けた妖精。
 ティンカーベル──いや、違う。
 マヨイガで逢った──確か、モモとかいったか。
 雪は言葉をなくしたように押し黙っていた。
 それを無視するかのように、モモは続けた。
「で、説明し忘れまちたが、願い事を叶える代償についてでちゅの」
「代償──」
 聞いたような気もする単語。そして、確かに説明は受けていない。
「なんなんですか?」
 不意に、さっきまでの自分の言動が甦る。
 本心とはかけ離れた言葉。
 まったく意志を伴わない行動。
 ──もしかして!
「嘘しかつけなくなる、でちゅの」
「そんな──!」
「辛い条件でちゅが、あなたみたいに『存在しないもの』を世界に結び付ける仕事には
そういった制約を課す決まりがあるんでちゅの。モモだって好きでこんなことを強いて
いるわけではありまちぇん」
 肩を竦め、パタパタと羽を動かす。
「特例で、モモに対しては嘘をつかなくてもいいんでちゅが」
「嘘しか──いえ、待ってください」
308ゆき×モテ(上) 15/15:03/05/16 00:07 ID:PC7uGRnI
 打ちひしがれそうになった雪だったが、一つ疑問に思って尋ねた。
「確かに、思ったこととは逆のことを口にしてしまうことはありましたが──
しかし、意志とは関係なしに身体が動くことまで『嘘』の範疇に入るのですか?」
「ええとでちゅね、あれは……」
 不意に妖精は言葉を濁した。
「──ミス、でちゅの」
「ミス?」
「はいでちゅの」
「──どういうことですか?」
 黙り込んだモモだったが、いつまでも見つめ続ける雪のプレッシャーに負け、
遂には口を開いた。
「実はでちゅね、あなたの前にひとつ契約を交わした人間がいるんでちゅの。
そっちの方はいろいろと難航したんでちゅが、最終的にはうまくいって──でも、その」
 ポリポリ、と小さな手の小さな小さな指で頬を掻く。
「──長いことかかずらってたせいで、ちょっと余韻みたいなものが残っていたんでちゅ。
それが、今回の契約にちょこっ、と混ざってちまいまちて」
「………」
「つまりでちゅね──前の契約が、『女の子にモテモテになりたい!』だったんでちゅ」
「要するに──」
 ひとつ深呼吸をした。
 気を確かに保つ。
「──雪は、嘘しか言えなくなったうえ、女の子に対してモテモテになってしまった、と?」
「掻い摘むとそうでちゅの。ついでに、うっかりしていると自分から口説きに行っちゃうんでちゅの」
「………」
 絶望は、たっぷり六十秒後に襲ってきた。
309空ラ塗布:03/05/16 00:10 ID:PC7uGRnI
>>294-308
『水月』と『うそ×モテ』を混ぜようなどというアホなことを考え、
遂には実行してしまいました。基本的に『水月』の世界が舞台で、
『うそ×モテ』のキャラはモモしか出てきません。
とりあえず前半だけ。後半も明日には仕上がりそうな気配です。
あと、「ゆき×モテ」は仮タイトルなので、変更する可能性があります。
310名無しさん@初回限定:03/05/16 00:17 ID:2ZdpLwlv

〆 〆
(゚д゚ll)  >309 グッジョブデチュノ
 ノNヽ
  uu
311名無しさん@初回限定:03/05/16 00:36 ID:Mej6nUT/
>>309
(・∀・)イイ!!
312名無しさん@初回限定:03/05/16 01:46 ID:bRAU+ZtW
>>309 面白い!後半期待してます
313デモンペイン〜無謀編〜:03/05/16 06:39 ID:gWB4TuGa
 どんなに手を伸ばしても届かない場所がある。どんなに望んでも辿り着けない場所が
ある。
 そう。誰もがいつかは自らの限界に気がついて絶望していくのだ。この俺のように……

「ああ……遠い」

 数メートル先の扉に手を伸ばしながら、掠れた声で呟く。
 死が近づくと、昔のことを思い出すという話はどうやら本当らしい。 
 脳裏に浮かんだのは故郷の島国と今は亡き両親のこと。
 懐かしくなって苦笑する。

「母さん……掃除中に見つけたエロ本を、机の上に積んでいくのはやめて欲しかったぜ……」
「まだまだ大丈夫そうだな、汝」

 頭上から呆れかえったと言わんばかり声。確認するまでもなかったが、死ぬ前に彼女の
顔を見ておきたいと思い、死力を尽くして頭をあげる。
 滲む視界に映ったのはスラリと伸びた白い足。そして同じく白いショーツ。流れる銀髪
が日の光を反射している。
314デモンペイン〜無謀編〜:03/05/16 06:40 ID:gWB4TuGa
「アル……」

 最愛の少女の名を呼ぶ。

「なんだ九郎?」

 アルが俺の名を呼ぶ。

「アル」

 もう一度囁く。なんとなく万感の思いを込めて。

「だからなんだ?」
「……死ぬまえにアルの裸エプロンで女体盛りが食べた……ぶべらッ!」

“頭蓋骨よ砕けろ!”とばかりに振り下ろされたアルの踵によって、俺の意識は刈り取ら
れた。
315デモンペイン〜無謀編〜:03/05/16 06:41 ID:gWB4TuGa
渇かず飢えず無に還る寸前だった俺を救ってくれたのは、やはりこの人だった。

「ぷは〜! 助かったよライカさん。お茶のお代わりもらえる?」

 テーブルを挟んで向かいに座っている金髪魔乳の非萌えシスターに湯飲みを突き出しな
がら俺は言った。

「まぁ、九郎ちゃんがうちの前で行き倒れてるのはいつものことだけど……少しは遠慮して」

 半眼になりながらも非萌え眼鏡――ライカさんはお茶を注いでくれる。
 湯飲みを受け取ってから、俺はどこか遠くを見つめる気持ちで語る。

「ライカさん。知ってるかい? 片栗粉は、お湯で溶かすと食べられるんだぜ☆」
「いや……突然誇らしげな顔でそんなこと言われても」

 冷や汗のようなものを流しながら、ライカさんが告げてくる。
 ――と、それまで隣に座って食事に専念していたアルが口を開いた。
316デモンペイン〜無謀編〜:03/05/16 06:41 ID:gWB4TuGa
「ふぅ。やれやれ、九郎も愛らしくて、ぷりてぃで、こけてぃっしゅな妾を養ったり貢いだ
り貢いだり出来る程度の甲斐性は持って欲しいものだな」

 溜息など吐きながらホザいてくださった。
 そんなアルに向かってライカさんは、たしなめるように言う。

「アルちゃん、無理言っちゃ駄目よ。九郎ちゃんはアーカムシティで一番貧乏が似合う男
の子なんだから」
「ふむ、そうであったな。こやつに甲斐性などというものを期待するだけ無駄であったか」
「そうそう。お金持ちな九郎ちゃんなんて九郎ちゃんじゃないわよ。む し ろ キ モ イ」
「キモイとまで!?」

 なにやら人の悪口で盛り上がる二人。だが、概ね事実なので反論もできない。
 母さん。都会は田舎ものに冷たいです。
 とりあえずやり場のない悲しみを噛み締めつつ、神にでも祈ることにした。

「いあ! いあ! か、みさま……っ! かみ……ごん、どら! ごん、どら! ごん、
どら!」
「汝はなにに祈っておるかっ!」

『スパーン!』と小気味よい音をたて、俺の顔面にハリセンが叩き込まれる。
317デモンペイン〜無謀編〜:03/05/16 06:57 ID:z5biaGdq
「〜〜〜っ! おまえ、そんなものをどこに隠し持ってた!?」
「乙女のたしなみじゃ」

 ジンジンと痛む鼻を押さえつつ、アルのほうを見るが、既にハリセンは影も形もない。…
…そんな馬鹿な。
 
「まぁいい。ゴンドラが駄目なら、大宇宙超真理曼荼羅に祈ってやる! 邪魔をするなよ!
 金、金、金、金、金〜〜!」
「あー、もう九郎ちゃんは〜……大体この間、臨時収入があったって小躍りしてたじゃない」

 ――俺はピタリと動きを止めた。確かにライカさんの言うとおり、このまえ臨時収入が
あった。姫さん――覇道瑠璃に頼まれて、アーカムシティの夜を騒がす怪盗ウェスパシアヌスと
対決したのだ。途中でドクターウェストとロボ子が率いる小悪党集団『ブラックロッヂ』の
邪魔が入り捕縛には失敗したが、とりあえず撃退した功績に免じて報酬を貰った。
 まぁ姫さんは基本的にケチなのでギャラもたかだか知れているのだが――
318デモンペイン〜無謀編〜:03/05/16 06:57 ID:z5biaGdq
「……言えないよな、アルに内緒でダブルベット買ったらおけらになったなんて」
「考えが口に出ておるわ汝ぇぇっ!」
「ええっ!?」

 自分のミスに気づいたときにはもう手遅れだった。アルの右ストレートが俺の頬に突き
刺さる。体重が見事に乗った文句のつけようもない一撃だった。
 続けてチョッピングライトを繰り出そうとするアルに、俺は慌てて言い訳する。

「ま、まてっ! だ、だって必要だろダブルベット!?」
「それで食うに困ってたら世話がないわッ! そ、そもそもショゴスベットで一緒に眠れ
ば問題なかろうに」

 アルが赤くなりながら言う。だが俺も引き下がらない。コトは俺の命に関わる風味ロボ。

「俺は、あの物体Xの上で寝るのは嫌なんだよっ!」
「うぬぬ……ダンセイニの何が気に入らないというのだ!」
「全部だ! 全部! 具体的に言うと、ご立派な名前とか、触手とか触手とか蠢く触手ーー!」
319デモンペイン〜無謀編〜:03/05/16 06:58 ID:z5biaGdq
 一気にまくしたててから気がついた。ライカさんが俺のほうを指差したまま固まってい
ることに。

「ラ、ライカさん……?」
「い、イヤァァァァァァアァァァーーーーーーー!!!」

 悲鳴をあげるライカさん。それから何か、俺の理解を超える面妖なことが起こった。
 まずライカさんの姿が一瞬で見えなくなった。次いで俺の周りに旋風が巻き起こる。
 その暴風のなかで『ガンガン!』『ゴンゴン!』『ギュイイィィィン!』などと、まるで
工事でもしているような音が聞こえた。

「え〜っと、あれ?」

 気がつくと、俺の周囲にはバリケードが張り巡らされていた。教会の床にぶっとい杭が
突き刺さり有刺鉄線が張り巡らされている。立て看板には『Keep Out』やら『DANGER』やら
『ロリコン』『ぺどふぃりゃー』などと書き殴られていた。しかも意外と達筆。
320デモンペイン〜無謀編〜:03/05/16 06:59 ID:z5biaGdq
「あッ! もしもし警察ですか!? 今、教会に変質者が――!」
「ウホ! 本当に通報してるし!?」

 頭の中に、明日の“アーカムタブロイド”の三面記事がよぎる。『ロリコン探偵逮捕
〜被害に遭った少女は12人〜』
 くっ! 妙にリアルに想像してしまった。

「汝がロリコンなのは事実だからな」

 アルが腕を組みながら、冷めた目で告げてくる。
 時空の果て、二人で紡いだ愛はどこに行ったのだろう? つーか助けろ。

「わ、わたしの監督不行き届きのせいで、ア、アルちゃんが傷物に……ああっ! やっぱ
り陵辱悪夢絶望なのね……むしろ永遠留守!」

 ビシッ!とこちらを指差す。なんだか死にたくなってきた。
 そんな俺を無視してライカさんはますますヒートアップする。

「そ、そんなアルちゃんのお尻まで開発済みだなんて……この変態! 剛棒!」
321名無しさん@初回限定:03/05/16 07:00 ID:ora6r6l1
援護
322デモンペイン〜無謀編〜:03/05/16 07:05 ID:z5biaGdq
 ……俺は陵辱ゲーの主人公かよ。いや、確かにそのうちア○ルも試して
みようと思って――

「な、汝……妾にそんな変態行為までしよーと……む、無理だぞ!? 普通にするのでさ
え大変なのだ。そ、それをお尻なんて!」

 しまった……どうやらまた口走ってしまったようだった。アルが自分の尻を隠しながら
後ずさりし、いやいやをしている。
 ……正直、その仕草はちょっと可愛いと思った。というか嗜虐心を刺激される。アルたんハァハァ。

「ああ〜、神様〜! わたしはどうすればいいんでしょうか〜? ヨヨヨ……こうなった
ら死ぬしかないわ」

 瞳に暗い炎を灯しつつ、ライカさんはこれまたどこかから取り出した出刃包丁を自らの
喉元に充てる。
323デモンペイン〜無謀編〜:03/05/16 07:05 ID:z5biaGdq
「ちょ、ちょっとまってライカさん! 基督教は自殺禁止だろう!」

 俺は有刺鉄線の隙間から手を伸ばして言う。

「関係ないわよ。わたし偽シスターだし」
「開きなおりかよ!?」

 ヤケクソ気味に突っ込む俺。しかしライカさんは落ち着いたのか、俺のほうを見て優し
げに微笑む。どうやら正気になってくれたようだ。

「そうよね、自殺は良くないわよね」

 そう言って俺の手首を掴む。
324デモンペイン〜無謀編〜:03/05/16 07:06 ID:z5biaGdq
「って待てッ! 俺の手首に包丁充てるなーーー!!!」
「大丈夫。わたしもすぐ後を追うから♪」
「全然正気じゃない!?」
「うふふふふ」

 ヤバ気な表情で俺の手首を掻っ切ろうとするライカさんの腕を、もう片方の手で押し返す。
だが、どれだけ力を込めようと拮抗こそすれ押し返せない。一体この細腕のどこにこんな力が!?
やはり胸か! 胸なのか!?

「うぉぉぉぉ! て、手が痺れてきた……」

 限界ギリギリのバトルを繰り広げる俺たち。
 ――と、遠くからサイレンの音が近づいてきていることに気がついた。
325デモンペイン〜無謀編〜:03/05/16 07:06 ID:z5biaGdq
「警察キターーーーーーー!」

 そう叫んだ俺の声に驚いたのか、ライカさんの力が緩む。
 俺はその隙を逃さずにライカさんの手を振り解き、逃走を開始する。
 周囲に張り巡らされた柵を乗り越え教会の裏口へと駆け出したところで、
俺の耳をなにかが掠めた。
 ……見ると裏口の扉に包丁が根元まで刺さっていた。おい。

「ら、らいかしゃん?」
「うふふ、駄目よ九郎ちゃん。ちゃ〜んと罪は償わなくっちゃ。 ホラ、お勤め中寂しく
ないように、アリスンちゃんのシャワー姿を激写した写真をあげるから……わたしの宝物
だけど」

 駄目だ……目が逝ってる。つーかアンタが変態だ。
 俺は助けを求めてアルにアイコンタクトを送る。心を重ねた俺たちにとって互いの意思を伝
えるにはこれで充分なはず。
326名無しさん@初回限定:03/05/16 07:08 ID:TNpaePnI
援護
327デモンペイン〜無謀編〜:03/05/16 07:09 ID:Botl7h/x
「だ、駄目だぞ九郎! わ、妾はお尻まで許したつもりはない!」

 ……全然通じてなかった。うう……。

「変質者がいるのはこの教会であります、ネス警部! 警官隊突撃〜〜!」

 掛け声とともに警官隊が突入してきた。
 普段のヘタレ振りはどこへやら、迅速な動きで俺を拘束する。両手に手錠が掛けられた。

「よ〜し、逮捕だ変質者! お前には黙秘権も弁護士を呼ぶ権利もないからな!」

「無いのかよ!?」

 すかさず突っ込むが黙殺された。そうして俺は護送車に詰め込まれた。
 向こうでアルとライカさんが手を振っている。
 扉が閉まる前に俺は上空の太陽を見上げた。
 ――ああ、昼間だけど……今夜はこんなに月がキレイ――だ。
328デモンペイン〜無謀編〜おまけ:03/05/16 07:10 ID:Botl7h/x
「ネス警部。そういえば例の変質者はどうなりましたか?」

 昼食時、ストーンは思い出したかのようにネスに訪ねた。
 ネスは伸びてしまったラーメンに舌打ちしつつ答える。

「ああ、アイツか? アイツだったら最近評判のカウンセラー。カリグラータ先生とピン
クの壁紙が張り巡らされたせま〜い地下室で、みっちり一週間のカウンセリング中」

 ネスはしれっと言い放つ。
 ストーンは渋面になりながら言った。

「カリグラータ先生ですか……」

 件の女医の顔を思い浮かべようとしたが、脳がそれを拒絶する。
 そんなストーンを横目にネロは得意気に語る。
329デモンペイン〜無謀編〜おまけ:03/05/16 07:11 ID:Botl7h/x
「凄いんだぞ〜、カリグラータ先生は。彼女のカウンセリングにかかれば、どんな凶悪犯
罪者もすぐに大人しくなる。まぁ、まるで別人のように目は虚ろになって口の端から涎を
垂れ流すようになるのが玉に傷だが……」

「……自分は犯人に同情します」

 そう言って犯人に黙祷するストーン。

(ぴぎゃああああーーーー!?)

 地下の方から悲痛な叫びが聞こえてきた気がした。

「軽い軽い。まだ3日目だし。辛いのはこれからさ」

 そう言ってネスは食後の一服をするため席を立つのだった。
330いく☆みん:03/05/16 07:14 ID:Botl7h/x
>>313-329
なんかテキト〜に書いてみましたが、今イチですね。スマソ
最期、おまけでカリグラータ嬢に出演してもらいまつた。
331名無しさん@初回限定:03/05/16 07:27 ID:TNpaePnI
>>330
いやいや、面白かったですよ
結構テンポよかったし、ライカさんの壊れっぷりがなかなか・・・

ただ、難を言えば九郎が九郎っぽくないってのと
オチがちょっと弱かったんじゃないかと・・・あれ?終わりなのって思っちゃったので
どうせならオチにカリグラータ嬢を出してみた方がすっきり終わったような気も
332名無しさん@初回限定:03/05/16 11:29 ID:7ghUQMJi
>>330
面白かったよ。
しかし、あんなでかいの入れられたらどうなるのか。
白目剥いてるアルを想像してしまった…。
333名無しさん@初回限定:03/05/16 14:49 ID:G4PORzGm
>>330
>――ああ、昼間だけど……今夜はこんなに月がキレイ――だ。

死ぬほど笑ったけど、元ネタ知らない人には微妙かも、とか言ってみる。
334名無しさん@初回限定:03/05/16 16:58 ID:Z6EGTxHU
>む し ろ キ モ イ
いいなぁ。
>む し ろ キ モ イ
言われてみたいなぁ、とか言ってみる。

>わ、妾はお尻まで許したつもりはない!

ほんと、言われてみたいなぁ。
335名無しさん@初回限定:03/05/16 17:15 ID:3MziBzei
あ、暴君(ネロ)が出てる。

暴君ハァハァ
336名無しさん@初回限定:03/05/16 18:09 ID:f1xUZ9rc
あのシーンはネロもいっしょに居たと妄想
もちろんネス、ストーンの上司で(検閲)のSS風の治安警察の制服(ミニスカ黒パンスト)で
手に"にくきゅう手袋"を装備しているのは言うまでも無い………てか義務
337名無しさん@初回限定:03/05/16 21:29 ID:AN7ZRtCQ
良質だなあ・・・
338名無しさん@初回限定:03/05/16 22:33 ID:aXrgp2cf
カリグラータ萌え
339ゆき×モテ(下) 1/16:03/05/16 23:27 ID:3CR9ETx0
 ピンポーン
 部屋の中にひきこもってうさぎさんと戯れていた雪の耳に、チャイムの音が届いた。
 無意識的に立ち上がって玄関へ向かおうとしたが、意志の力で思いとどまる。
(いま雪が出て行っても、嘘しかつけぬ身では仕方ありません)
 メイドとしての仕事をこなせないことに歯噛みしつつも、
居留守を決め込み、再びうさぎさんと遊び始めた。
 ピンポーン
 ピンポーン
 ピンポーン
 客は、執拗にチャイムを押し続ける。
 ピンポーン
 ピンポーン
 ガラガラガラッ
 チャイムの音に混じり、戸の開く音が響いた。
 そういえば、戸締りを──
「ああ、もうっ、あいつもう出て行っちゃったの!?」
「おねえちゃん、だからもう少し早くいこうって──」
「うるさいわね、マリア。わかってるわよ、ちょっと寝坊しただけじゃない」
「寝坊って、三十分も──」
「もう、いいから早く忘れ物取って出るわよ。ちゃっちゃっと用事済ませて、
あたしたちもがっこ行かないといけないんだから」
 けたたましい声と、無遠慮な足音。気の引けた声と、控え目な足音。
 ふたつが、雪の部屋を通り過ぎていった。
 今の声は確か、教会の──香坂という、双子の姉妹。
340ゆき×モテ(下) 2/16:03/05/16 23:30 ID:3CR9ETx0
「ん? あれ、あんなとこに部屋あったっけ?」
「さあ──」
 足音が引き返してきた。
「おかしいわね──何度もこの家に上がっているけど、この部屋を意識した覚えがないわ」
 何度も上がっているとは──透矢はこの双子を何度も家に招いていたのか?
(いったい、何のために──もしかして、透矢さん……!)
 雪の思考に「犯罪」「条例違反」の単語を伴った動揺が走り抜けた。
 うさぎさんの耳を持つ手が震える。
(う、うさぎさん、雪は──雪はどうすれば)
「物置か何かじゃないかな? 入ってみる?」
「い、いいわ。早く透矢の部屋に──」
「──? なんでそんなに焦ってるの、おねえちゃん」
「え? だ、だって、時間が──」
「──ああ、怖いんだね」
「………!」
「なかったはずの部屋があるなんて──まるでお部屋の幽霊さんみたいだよね」
「う──」
「おねえちゃん、怖いの苦手だったっけ」
「べ、別に苦手なんかじゃないわよ!」
「そうだっけ?」
「そうよ! なに、こんな部屋──気味悪いけど、入ってやろうじゃないの」
 ノブが回るのを、雪の目が捉えた。
 まずい。
 咄嗟に雪は、自分の身体をドアに押し当て、開けようとする力に全体重をかけて立ち向かった。
「──開かないわ、鍵でも掛かってるのかしら」
「やっぱり物置なんじゃない?」
「たかが物置に鍵なんて掛けるかねぇ」
「よっぽど貴重なものを入れてるんじゃないかな。
ほら、透矢さんのお父さんは学者さんらしいし」
「どうだか──ま、いいわ。余計な時間かけちゃったけど、さっさと用事済ませましょう」
「うん」
341ゆき×モテ(下) 3/16:03/05/16 23:31 ID:3CR9ETx0
 トントントントントン
 二連の足音が階段を上がっていった。
 ほっ、とひと息ついて雪はベッドの上に腰かけた。
 大して体力も使ってないのに、随分と消耗したような感じがする。
 やがて、「忘れ物」とやらを見つけたのだろうか。再び足音が階下に戻ってきた。
 そのまま雪の部屋を通り過ぎ、玄関へ──
 ガチャ
(え──?)
 まったく唐突に、ドアが開いた。
「あれ? 鍵なんてかかってないよ、おねえちゃ──」
 ドアの隙間から、ショートカットの少女──妹のマリアが入ってきた。
「あ──」
 マリアは息を呑んで、雪を見つめた。
「ちょっと、マリア。あんたどうし──」
 続いて、長い髪をツインテールにした少女──姉のアリスが顔を覗かせた。
「──!」
 彼女も妹同様、息を呑んだ。
 ふたりともお揃いの制服姿。夏服仕様から伸びる健康的な手足の肌は、眩しいほどに輝いていた。
 四つの瞳が、雪の赤い瞳の中に映り込む。
 魂を吸われたように、ふらふらと、力ない仕草で双子が雪に近づいていく。
(今度は一瞬みたいですね──)
 両腕をそれぞれ少女の肩に回し、抱き寄せると、ふたりの耳元に口を近づけて囁いた。
「こう見えても雪──野蛮なのですよ」
 ワイルドを強調するように足を組んでみたりした。
342ゆき×モテ(下) 4/16:03/05/16 23:32 ID:3CR9ETx0
 双子といろいろ遊んだ後──変な意味ではない、雪は理性を総動員し、辛うじて
暴走を防いだ──、遅刻間違いなしで慌てて出て行ったふたりを見送ると、
今度はしっかりと玄関の戸に施錠し、誰が来ても決して応対に出ないことを誓ったうえで、
雪は再度部屋にひきこもった。
 昼が過ぎ、夕が近くなった頃、そろそろ夕食の支度をしなければならないことに
気づいた雪は、キッチンへ向かった。
 料理の下ごしらえをしている最中、「ピンポーン」と玄関からチャイム音が鳴り響く。
次いで、戸を開けようとする「ガタガタッ」という音。
 それが何度か執拗に繰り返された後、不意に止んで、静かになった。
 誰かは知らないが、諦めて返ったのだろう。
 包丁でジャガイモの皮を剥いていた雪は、そう思った。
 ガラリ
 数分後、何の前触れもなく外からキッチンの窓が開けられた瞬間、
雪は強制的に考え直す羽目となった。
 思わず滑りそうになった包丁を、なんとか操り続けることができたのは、
偉大なる理性のおかげであろう。
「わはーっ!」
 ジャガイモと包丁をまな板の上に置き、悟りを得たような乾いた表情でその客を迎え入れた。
「──鈴蘭さん」
 大和鈴蘭──透矢の友人・大和庄一の妹。雪にはよく懐いていた。
 明らかに自分の背より高いところにある窓を開けることができたのは、
たぶん、壁を伝うパイプをよじのぼって来たからだろう。
(この子は将来、登攀を生活の糧とした職業に就くのかもしれない)
 両手で窓から抱え降ろしてくれた雪に、鈴蘭が陽気な声で叫んだ。
「雪ちゃん、遊ぼっ!」
「──はい」
「わはー♪」
 ぽすっ。鈴蘭はすかさず抱きついてきた。雪はそっ、と抱き返す。
 この子なら、さすがに邪な思いは湧かないだろう──
 青く澄んだ瞳に浮かぶ妖しげに潤んだ輝きと、やけに早くて熱い呼吸を意識しないようにしつつ、
雪は夕食に並べる料理の下ごしらえを続けた。
343ゆき×モテ(下) 5/16:03/05/16 23:33 ID:3CR9ETx0
「──ただいま」
 透矢が帰ってきた。
「あのさ、透矢──」
「花梨……」
「あたし、頭の中がごちゃごちゃして、その──まだ整理がつかないんだ」
「………」
「あ、あは、これじゃキミのこと『優柔不断』とか、詰る資格ないよね」
「花梨、僕は──」
「じゃあ……透矢、またね」
「──うん」
 微妙な空気を漂わせる花梨との別れの挨拶の後、キッチンに入ってきた。
「ただいま、雪さ──あれ?」
 雪の足にまとわりつく存在を見て、透矢の声に戸惑いが混じった。
「鈴蘭ちゃん? いったいどうして──」
「透矢ちゃん──」
 ぎゅっ、と雪の腰に抱きついて、透矢に悲しげな表情を向ける鈴蘭。
「──ごめんね☆」
「え?」
 トントントン……
 また板を包丁が叩くリズミカルな音が途絶えた。
「透矢さん」
 雪は振り向き、決然たる意志を瞳に湛え、宣言した。
「鈴蘭さんは渡しません」
「………」
「えへー」
344ゆき×モテ(下) 6/16:03/05/16 23:34 ID:3CR9ETx0
 なんだかんだで夕食が終わり、鈴蘭を家まで送った雪は、ひとりとぼとぼと夜の道を歩いていた。
「………」
 限界を感じた。
 透矢から必要とされなくなったにも関わらず、ただ自分が透矢を必要としているから、
妖精の力を借りてまで帰ってきたというのに、透矢に迷惑をかけてばかりいる。
 暴言を吐きかけ──
 花梨との仲にひびを入れ──
 これでは騒動と災厄をもたらすためだけに帰ってきたようなものだ。
 暗澹たる気持ちに、このまま夜の闇の中へ混ざって消えたくなる思いが強くなってくる──。
「──辛いんでちゅか?」
 妖精の声。
 目を動かして、その姿を捉えた。
「モモさん──」
 パタパタ。
 モモは雪の服のどこかに隠れていたらしい。
 沈んだ様子の雪に励ましの言葉も、慰めの言葉もかけず、事実を確認するように訊く。
「もうやめたい、と──思うんでちゅか?」
「………」
「既にあなたをこの世界に繋いでちまいまちたので、契約を破棄して元に戻すことはできまちぇん」
 胸の中の絶望が、更に深さを増した。
「雪は──」
 ポツリ、と思いが漏れた。
「この世界で透矢さんの幸福を願うためには、透矢さんの元から立ち去らなければならなかったのですか」
「………」
「帰ってくれば、帰ってきてしまえば、会わずには──いられないというのに、
会いに行かないことが、本当に取るべき選択だったのですか」
 今さら、何もかも放り捨て、去ったところで──透矢と花梨の仲は、
傷ついたまま、修復しないのかもしれない。
 雪がこの世界を去る要因となったふたりの仲を裂いて、雪をこの世界に留まるというのは──皮肉と
いうものだろうか。
345ゆき×モテ(下) 7/16:03/05/16 23:36 ID:3CR9ETx0
「一つだけ──」
 モモが呟いた。
「一つだけ言い忘れたことがありまちた」
 パタ……
 雪の肩に止まり、雪の頬にもたれるように首を傾げた。
「あなたは、モモ以外の人にモモとの契約のことを話ちてはいけまちぇん。モモ以外の誰かに、
この契約のことをバラちてちまったときは、規則に基づいて、
モモはあなたを処罰ちなければなりまちぇん」
 妖精の表情に宿る、物憂げな笑みは、雪には見えなかった。
「この約束は絶対に破ってはいけまちぇん」
 パチッ、パチッ
 ふたりは街灯に群がる羽虫を見るともなく目にした。
「もし、破ったりちたら──すぺぺー、っとしちゃいまちゅよ」
 おどけた響きの裏に、冷たい哀しみを嗅ぎ取った雪は、かすかに笑って訊いた。
「それは──あのマヨイガで消えていくことよりも恐ろしいことでしょうか?」
 誰からも忘れ去られ。
 自分が自分であることも忘れ。
 世界さえも存在を忘れて──「なかったこと」にされてしまう。
 それよりも恐ろしいことが、何かあるのだろうか。
「分かりまちぇん。ただ──」
 声が詰まった。
「──『すぺぺー』されるときに、後悔しなかった契約主はひとりもいなかったでちゅ。
人間でも、人間以外の何かでも、あなたみたいなヒトでも──みんな、自分の過ちを血を吐くほどに悔み、
涙を流し、大切なヒトやモノの名前を叫びながら──執行されていったんでちゅ。モモ、正直に言えば、
もうあんな真似は二度とないんでちゅの」
 きっとそれは、とてもとても恐ろしいことなのだろう──
 自分の味わった悲しみとは別種の、苦しみなのだろう──
 雪は理解した。
 そして、決心した。
「もう、欲しいものは何もありません」
346ゆき×モテ(下) 8/16:03/05/16 23:38 ID:3CR9ETx0
 帰宅した雪を、暗い表情で椅子に収まった透矢が迎えた。
 その背中は拒絶ではなく、強い意志を漲らせていた。
 顔を上げ、入ってきた雪に振り向き、穏やかな──
しかし、退くことを知らないような決然とした言葉を投げ掛けた。
「雪さん。僕は雪さんの気持ちや考えを、責めるつもりはないし、責める資格もない。けれど──」
 椅子から立ち上がり、向き合った。
「僕の、花梨を想う気持ちは確かなものだ──それだけは知って欲しい」
 ええ。
 言われなくても──雪はちゃんと知っておりましたとも。
 しっかりと視線を受け止め、頷いた。
 だからこそ、言わなければ──告白しなければ。
 かすかにわだかまる迷いを置き去りにして、一歩、進み出す。
 これでお別れになるのだとしても。
 後悔するのだとしても。
 前に進まなければ──。
 透矢との距離は、触れられるほどに近く、その息遣いさえも感じ取ることができる。
 胸の高鳴りを抑えるのは難しかった。
 込み上げる愛惜の念。
 溢れ出そうとする涙。
 全部──全部に堤防を張って、食い止めた。
 メイドたるもの、常にしゃんとしていなければなりません。
 背筋をピンと伸ばす。
「透矢さん、雪は──

嘘つきではありません」
347ゆき×モテ(下) 9/16:03/05/16 23:39 ID:3CR9ETx0
「は?」
 驚いたのは、透矢だけではなかった。
(──なんてこと、でしょう)
 雪は頭の中が空白になる思いだった。
 失敗した。
 忘れていた。
 思い出せなかった。
 思い至らなかった。
 ──間の抜けた自分を呪いたくなった。
(嘘しかつけないのでは、真実を伝わることはできません──)
「雪は一度もこの世界から消えていませんし、妖精とも契約していませんし、
透矢さんに迷惑をかけたことを済まなく思ってもいません。透矢さんは何も思い出さなくて構いません」
 意志が空回りし、偽りの言葉ばかりがひとり歩きする。
「雪さん、何を言って──」
「雪は透矢さんを恨んでいます。何も気づかなかった、何もしてくれなかった透矢さんを
憎んでさえいます。寂しがる透矢さんを支え、世話を焼き、尽くし、必要となくなるまで
頑張り続けたのは、決して雪が透矢さんを好きだったからではありません。消えるときになって、
雪を追いかけにきてくれなかった透矢さんを、雪は泣きたくなる気持ちを抑えことができなかった、
なんてことはありません」
「──わけがわからない。ちゃんと説明してくれ」
 頭を抱え、心底戸惑う透矢に、雪の胸は痛んだ。
 どうにかして真実を伝えなければ──でないと。
348ゆき×モテ(下) 10/16:03/05/16 23:41 ID:3CR9ETx0
 妖精──ティンカーベル。
 ピーターパン。
 不意に意識が澄み渡った。
(──これは本当の話です)
「──これはフィクションです」
「は?」
 更に戸惑う透矢。
 構わず続けた。
「あるところにピーターパンがいました。そのピーターパンは女の子でした。
彼女はネバー・ランドではなく、この世界にいました。彼女がこの世界にいたのは、
ひとりの男の子のためでした」
 嘘をつきながら、真実を伝えるには──物語ればいい。
 物語で、嘘によって、騙ることで、真実を伝えてきた人々もいるのだから。
「男の子は幼くして母親を失いました。母親を恋しく思う男の子は山に分け入り、
母の思い出を探し、母そのものを捜しました。そして男の子はいつしか、
この世界を超えて──ネバー・ランドに辿り着いたのです」
「………!」
 惑乱する一方だった透矢の顔に、驚愕と、かすかな理性が灯った。
「ネバー・ランドには『頭をなでてくれるヒト』がいました。男の子はそのヒトを母親だと思い、
その膝で甘え、幸せな時間を過ごしました。けれど、そのヒトは男の子を元の世界に帰すため、
男の子に別れを告げました。男の子は別れを惜しみ、イヤだと言います。そのヒトは優しく頭をなで、
男の子に言い聞かせました。『いつかあなたにも、頭をなでてくれるヒトが現れますよ』と」
「雪さん……」
「男の子はネバー・ランドから去り、元の世界へと帰りましたが、母への焦がれは消えませんでした。
『頭をなでてくれるヒト』を希って、毎日寂しい夜を過ごしました。だから──女の子のピーターパンが
生まれました。ネバー・ランドにいるはずのピーターパンが、男の子の世界で暮らし始めました」
「雪さん!」
 透矢が肩を掴む。
349ゆき×モテ(下) 11/16:03/05/16 23:43 ID:3CR9ETx0
 言葉は止めず、紡ぎ続けた。
「ピーターパンは男の子と同じ時を過ごし、ともに成長し、大きくなりました。
男の子はもう『頭をなでてくれるヒト』をあまり必要としなくなっていましたが、
心の片隅に願いは残ったままでした。ピーターパンはその願いをどうにかして叶えようとします。
しかし──ピーターパンはネバー・ランドへ帰らなければなりませんでした。
歳を取るはずのない彼女が、歳を取らなければならない世界で生きていくのは無理があったのです。
ピーターパンは男の子が心配で、ネバー・ランドには帰りたくありませんでした」
「雪さん、もういい、もういいから!」
 不思議と、肩を掴む透矢の手の感触が遠い。
 身体が熱い──意識が朦朧として、視界がぼやけてきた。
「でも、心配することはありませんでした。ピーターパンの心配は杞憂だったのです。
男の子には、相応しい女の子がいたのです。女の子は男の子の幼馴染みで、やんちゃで、
少し暴力的ではありましたが、その実、傷つきやすく、脆い部分も抱えていました。
男の子も、女の子も、欠けているところは多く、不完全ではありましたが、不完全であるが故に
お互いを補い合い、支え合っていくことができました。完全であるか、まったくの無であるか、
それしか意義のないピーターパンはただ見ているだけしかできません……でし……た」
「雪さん、雪さん!」
 声まで遠くなってきた。
 自分の言葉さえ、はっきりとは聞こえない。
 身体の熱が高まっていく。
「やがて……男の子は、『頭をなでてくれるヒト』を欲さなく……なりました。母を愛する気持ちを抱え、
母の愛を満足に受けられないまま……それでも男の子は……母を卒業したのです。そして、完全であるか
……まったくの無であるか、それしか意義のないピーターパンはただ……ただ……消えるだけしか……」
「……! ……!」
 もう透矢の声も聞き取りづらくなってきた。
 あと少し。そろそろ物語を終わらせることができる。
350ゆき×モテ(下) 12/16:03/05/16 23:44 ID:3CR9ETx0
「ピーターパンは……必要とされなくなった母の幻は、ネバー・ランドでさえ存在することができなく
なりました。歳を取ることのない世界でも、必要とされない者は……生きていけないのです。
ピーターパンは……『元からなかったモノ』としてネバー・ランドからも消えようと……していました。
そこに妖精が現れたのです。妖精はピーター・パンを助けました。助けて、男の子の世界に帰してくれたのです。
……嘘しかつけなくなる、代償とともに……」
 意識がゆっくりと溶けていく。
 世界に拒絶されていく。
 油が水を弾くように──
「嘘をつくことで……男の子のそばに留まることができるようになったピーター・パンは、
嬉しく思う一方で悲しく……思いました。自分がつく嘘で、男の子がどんどん傷ついてしまうことに
気づいたのです。ピーター・パンは……男の子をそれ以上傷つけたくなくて、決心をしました。
妖精との約束を……破ることにしたのです。『絶対に破ってはいけない』と言われた約束を破ることに
しました……そして……ピーター・パンは、遂に」
 この世界からもう一度、消えることができました。
 ありがとう、ティンカーベルさん。
 ──もう何も聞こえない。
 ──何も見えない。
 唇を動かす。
「透矢さん……雪は、あなたをお慕いして……」
 いるのか、いないのかは──彼の解釈に任せることにした。
 さようなら、透矢さん──


351ゆき×モテ(下) 13/16:03/05/16 23:46 ID:3CR9ETx0
 ──気を取り戻したとき、雪はモモと向かい合っていた。
 スノードロップの咲き乱れる、白い平野──雪のマヨイガ。雪が選んだ──選んばれた世界。
 腕組みし、難しい表情をする妖精に向かって、雪は微笑んだ。
「さあ──終わりましたね」
 気分は晴れ晴れとして、後悔はなかった。
「──『すぺぺー』でも何でもしてください」
 言って、目を閉じる。
 一秒、二秒、三秒……
 過ぎしていく時間を数える。
 その最中に、ひょっこりと今までの思い出が甦ってくる。
(おはようございません)
 肝を潰すような、物凄い挨拶。
 あまりに珍妙で、思い出すと苦笑してしまう。
(雪は透矢さんのメイドではありますが、もっと心配してもらいたいです。
と言いますより、普段からもっと労わってもらいたいものですよ)
(透矢さんの所有物とは違うのですから、あまり都合の良いモノとして見ないでくださいな)
 「メイドの鑑」とは程遠い暴言。
(花梨さん、アリスさんとマリアさん、鈴蘭さん……)
 彼女たちとの騒動も、遊戯めいていて、今では微笑ましい。
(雪は透矢さんを恨んでいます。何も気づかなかった、何もしてくれなかった透矢さんを
憎んでさえいます。寂しがる透矢さんを支え、世話を焼き、尽くし、必要となくなるまで頑張り
続けたのは、 決して雪が透矢さんを好きだったからではありません。消えるときになって、
雪を追いかけにきてくれなかった透矢さんを、雪は泣きたくなる気持ちを抑えことができなかった、
なんてことはありません)
 思ってさえいなかった言葉……とんでもない嘘。
352ゆき×モテ(下) 14/16:03/05/16 23:48 ID:3CR9ETx0
(いえ──これは)
 嘘ですら、ない。
 透矢を恨んでいるか/いないか。
 透矢を憎んでいるか/いないか。
 消えるあのとき、泣きたくなるという気持ちがあったか/なかったか。
 そもそも考えたことがなかった。
 ただ、すべてが「仕方のないこと」「受け入れなければならないこと」であって、
それに逆らおうとする気持ちなど、自分自身、あったかどうか、はっきりとは分からない。
 だから、あの言葉の数々は、嘘じゃない。嘘でさえない。
 自分の心の底に沈んでいた、意識すらされなかった気持ちや感情。
 噴き出してきたところで、本当か嘘かも区別することができない。
「あの気持ちは結局──嘘だったのでしょうか、本当だったのでしょうか」
「──ようやく、気づいたようでちゅね」
「え──?」
 目を開けた。
 閉じるときは難しげな顔をしていたモモが、にこにことした笑みを浮かべている。
「はい、契約終了でちゅの! 今回はあなたの深層に吹き溜まっていたモノを掘り起こすことが
終了条件でちたの。ふう、疲れまちた。前回のケースに比べれば短かったでちゅけど、
こっちが消耗する点では負けてまちぇんでちゅね」
「あの……どういうことですか?」
 一方的にすっきりしている様子のモモだったが、雪は釈然としない。
 モモはくるっ、と縦方向に回転し、ビッと人差し指を突きつけた。
「言ったでちょう、これであなたとモモの契約は終了ちたんでちゅ。もうこれであなたは自由でちゅよ」
「でも──約束を破ったら『すぺぺー』なのでは」
353ゆき×モテ(下) 15/16:03/05/16 23:49 ID:3CR9ETx0
「破ってまちぇんよ?」
「──え?」
「途中で高い熱を出してぶっ倒れちゃって、何やらもごもご言っているみたいでちたけど、
モモには全然聞こえまちぇんでちた。たぶんあっちの男にも聞こえなかったはずでちゅ」
「はあ、では──」
 勇気を振り絞った、最後の告白。
 解釈を任せた曖昧な心情吐露。
 あれも為されなかったということか──
 そう思うと、無事だったにも関わらず、がっかりしてしまった。
「さて、これからどうするかはあなたの自由でちゅ。好き勝手にちてくだちゃい。
モモはちゃっちゃっと次の契約を取りに行くでちゅ。ノルマはいつだってキツイでちゅ」
 素っ気ない口ぶりで言い放つ。
「それにしても、『存在しないもの』とのなかなかに難しい契約をたった一日で完遂するとはモモちゃん
すごいでちゅね〜、えらいでちゅね〜、かわいいでちゅね〜」
「──確かに、可愛いことは可愛いですが……」
 この妖精は、自分が思ったよりも強かなモノかもしれない。
 雪は認識を改めた。
 可愛いというだけではないティンカーベル──
「ま、とりあえずは掘り起こした気持ちと向かい合ってみるといいでちゅ。それが本当なのか嘘なのか、
たっぷり考えてみるでちゅ。それからどう行動すればいいかを考えたらいいでちょう」 
 すいすいと空中で泳ぐようなターンを繰り返すモモを見ながら、雪は考えた。
354ゆき×モテ(下) 16/16:03/05/16 23:52 ID:3CR9ETx0
 眠ったままだった気持ち。省みられることのなかった感情。
 それはまるで──
(生まれることすらできなかった、子供のような──)
 それを抱えたまま、自分は消えようとしていた。「なかったこと」になろうとしていた。
 とても──早計なことだったかもしれない。
 もっと自分と向き合い、「必要とそれなくなった」事実を受け止めながらも、
「消えなければならない」運命と立ち向かうべきだったのかもしれない。
 ──だいたい、運命なんていうものはあるんだろうか?
「まあ、モモは胡散臭い『自分探し』は奨励ちまちぇんの。ここでは歳を取らないみたいでちゅし、
やりたいことやって過ごすがいいでちゅ。いちいち感知ちまちぇん。ただでちゅね──」
「なんでしょう?」
「──欲ちいものは何もないなんていう、あなたの一番大きな嘘は、ここでさよならしちゃいなちゃい」
 じゃあ、でちゅの! と叫び置いて、妖精はマヨイガの遙か彼方に飛び去り……見えなくなった。
 身のこなしの軽いティンカーベルへ向かって、軽く手を振る。
「そうですね」
 手を下ろすと、雪はひとり頷いた。
 「欲しいものは何もない」なんて気持ちがあるわけはない。
 欲しているからこそ──本当に欲したものを手に入れられないからこそ、そんな言葉が──。
 仰ぎ見た。
 雲の流れる青い空。どこからか流れてくる風。
「必要とされなくても、自らが欲せば、なんとかなるものかもしれませんね」
 ひとりぼっちの世界。
 何ができて、何ができないかは──まだ分からない。
(形のないものには形を、名前のないものには名前を)
 全身をほのかな温もりが包む。
 このネバー・ランドで──マヨイガで、自分のできることを、したいことを、探して──やってみよう。
 ささやかな誓いを胸に、スノードロップの海を歩み出した。
355空ラ塗布:03/05/16 23:56 ID:3CR9ETx0
>>294-308>>339-354
題「ゆき×モテ 〜スノーグッドバイ〜」(水月、および、うそ×モテ)
 『水月』と『うそ×モテ』のクロス・オーバーSSです。
 個人的に『うそ×モテ』の方がメインです。世界は『水月』ですが。
 最初は「モテモテになる代わり、主人公が北海道へ!」という
「どさ×モテ〜どさんこモテモテーション〜」を考えましたが、やめました。
 そこで代替案として「ゆきんこモテモテーション」に。ゆき→雪。安直の極み。
 タイトルは石田衣良の『スローグッドバイ』から。短編集みたいだけど、読んだことはなかったり。
 しかし、ネタのつもりが30kオーバー。しかもくだらないギャグでオトすつもりがシリアス紛いのエンド。
「人生って、わからないなぁ」
 『うそ×モテ』はちょっとマイナーかもしれませんが、個人的にはかなり面白いゲームです。
 並々ならぬ気に入りぶりを発揮しています。こうしてSS書くぐらいですから、言わずもがなだけれども。
 それにしても千籐たんの新作はまだか。
356名無しさん@初回限定:03/05/17 00:17 ID:LPIYti8a
ナイス
うそ×モテは知らなかったけど
水月を知っているので
十分楽しめました。
357名無しさん@初回限定:03/05/17 02:25 ID:YW8ziNYk
後編投下乙〜。


>「どさ×モテ〜どさんこモテモテーション〜」を考えましたが
一体どんなプロットだったんだと。
358名無しさん@初回限定:03/05/17 05:27 ID:Jn/b/T46
>>330
ブラックロッヂ

もの凄いパチもんクササだな(w
359名無しさん@初回限定:03/05/17 07:36 ID:O9hOxUQT
水月全然知らないけど(うそモテはプレイ済み)、凄いな…
読みやすいし、結構おもろかった。
360名無しさん@初回限定:03/05/17 11:50 ID:e2bvXOiy
>>355
(・∀・)イイ!
うそ×モテはやってなかったけど買ってみようかな…
361名無しさん@初回限定:03/05/17 16:50 ID:BXMhQjNT
>>355 二つの作品が上手く合さって大変面白かったでつ

>>360 体験版で雰囲気がつかめるから
体験版で面白いと思ったら買って上げてください。
(ショボイメーカーなんで…)
http://nekopan.wiz.mu/new/uso/usomote.htm
362それは或いは神田川1:03/05/18 01:40 ID:qhquheHA
 事の始まりは小さないさかい。
 激昂したアルに吹き飛ばされる俺。
 此処まではいつも通りだった。問題はここから先だ。
 どうやら半端にかわしたのが災いしたか、アルの放った衝撃波はそのままバスルームまで吹き飛ばした。
 ボイラーから水道管まで完膚無きまでに崩壊させてしまい、完全に使い物にならなくなってしまったのだ。
 部屋は水浸しだわ、大家さんにはこっぴどく怒られるわ修理費も結構な額になるわ。
はっきりいってかなり鬱。
 がっくりとうなだれる俺に向かって、ウチの女帝陛下は毛ほども悪びれず言いやがりました。
「ところで、妾は湯浴みをしたいのだが」
 …いっぺんシメてやる。

363それは或いは神田川2:03/05/18 01:40 ID:qhquheHA
 そんなこんなで今はふたり並んで銭湯へ向かっている。
 アーカムシティに銭湯なんてあるのかという疑問は一切受け付けない。却下。あるといったらある。
 アルは銭湯に行くのが楽しみなようで、鼻歌まじりだ。
 まったく…我が家の財政事情も知らずにいい気なモノだ。
「…ところでアル。俺はさっきからスゴイ気になることがあるんだが」
「ん? なんだ主」
「お前のその格好は一体なんだ」
 アルはなぜかジャージを着ていた。髪の毛はお下げにし、首からは手拭いを下げている。
 それだけならいざ知らず、さらにその上からドテラを羽織り、
 シャンプーなどの入った木桶を抱え、あまつさえ下駄なんぞ履いている。
 いったいどこから入手したのか知らないが、相も変わらずの知識の偏りっぷりだった。
「うゆ? 銭湯に行く際の標準装備だと思うが、何か変か?」
「きっぱりと変だ」
「汝こそ、そんな普段着で行って番頭に追い出されても妾は知らぬぞ」
 どんな銭湯だそこは。
 一度コイツには世間の常識というものをしっかり叩き込まねばならないようだ。
364それは或いは神田川3:03/05/18 01:42 ID:qhquheHA
 ……などというやり取りをしている内に銭湯に到着。
 昔ながらの和風建築が慕情を誘う。入り口には『ティベリ湯』というのれんが掛かっている。
 なんだか嘗めてるとしか思えない激しくイヤな予感がする名前だが…。
「じゃ、また後でな。お前はそっち」
 言いながらアルに小銭を渡す。
「うむ。ところで、風呂あがりのフルーツ牛乳代が足りないのだが」
 ……ホントにいらん事ばかり憶えおってからに、この古本娘が。
 俺はアルの手に叩き付けるようにして小銭を追加した。

 からからから。
「いらっしゃ〜い♪」
 ゴン!
 思わず番台に頭を叩き付けてしまった。まったく悪い予感ほど良く当たる物だ。
 なんだかけったいな緑の仮面を被ったステテコ姿の番頭がそこにいた。見覚えあり過ぎだ。
 確かに邪悪な運命の連鎖が解き放たれ歴史は大幅に変わった。それにしてもだ
 ……変わりすぎだろうソレは!!
「……」
 額を押さえツッコミそうになるのをぐっと耐える。
「あらーん、無愛想ねえ。あーら、こっちのお嬢ちゃんもか〜わい〜」
「ぬ? 汝、何処かで…」
 もう何も言うまいよ。さっさと金を払って脱衣場へ。拘ったら負けだ。
 手早く服を脱いで裸一貫、浴場へ。前を隠したりはしないのが漢。銭湯の暗黙のルールだ、覚えておけ。
 しかし、なんだか廻りの人が妙に驚愕と畏怖の入り交じった目で俺を見るのだが。
365それは或いは神田川4:03/05/18 01:47 ID:qhquheHA

かぽ〜ん。

 どこかで見覚えのある奇妙な番頭の、妙にハアハアな視線を背中に感じつつアルは浴場に入った。
 心地よい湯煙が体をしっとりと包み込む。
 湯気に曇る見慣れない光景にしばし惚けた後、いそいそとカランの前に座る。
「なるほど、これが銭湯か。赤い方がお湯で…ぬ? シャワーの温度はドコで…?」
 アレコレいじり倒しながら初めての銭湯に対する緊張をほぐしてゆく。
 シャンプーを手に取り、まずはその長い銀色の髪を丁寧に洗う。
 さらさらとした、まるでそれ自体が水のような髪の上を白い泡が滑り落ちていった。
「ふぅ」
 シャンプーとリンスを済ませたところで一息。もう一度周囲に目を向ける。
 数人の人影があり、皆が皆妙齢の女性であるようだ。豊かな体を惜しげもなく晒している。
「……」
 視線を自分の体に向ける。……溜息。
 何となく泣きそうになるのを堪える。
 落ち込んでいても仕方がない、気を取り直して体を洗うことにする。タオルにボディソープをたっぷりつけて泡立てる。
「〜♪」
 鼻歌まじりに首筋から肩、腕、胸と順に洗っていく。
 何はともあれ一日の汚れを落とす作業というのはやはり気持ちのいいものだった。
 爪先までしっかり洗って満足し、もはや泡人間状態になった時それは起こった。
 からからとアルの足下に何かが転がってきた。見ればそれはシャンプーのボトルのようだ。
 どうやら隣の女性が落としたらしい。拾って手渡す。
「あ。どうもありがとうロボ」
「いや、礼には及ばん……って、ロボ?」
「ロボ?…あ」
「きっ機械人形〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!?????」
「アル・アジフ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!?????」
 かくしてティベリ湯は戦場と化す。
366それは或いは神田川5:03/05/18 01:48 ID:qhquheHA

かぽ〜ん

 あ、いけね。どうやらシャンプーを忘れてきてしまったようだ。
 しかし今更番台に行って買ってくるのも手間だ。あの腐臭のする番頭とは顔合わせたくないし。
 しばし思案。仕方がないのでアルに借りることにする。壁の向こうに向かって声をかける。
「お〜いアル〜! シャンプー貸して…」
「きっ機械人形〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!?????」
「アル・アジフ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!?????」
 え? 何だ今の? 確かにアルの声だったが。
「あ、アル!? どうした!!?」
 壁の向こうに声を張り上げる。すぐに返答がある。しかもふたつ。
「気をつけろ、九郎! 敵がおるぞ!」
「えっ♪ ダーリンもいるロボか!?」
 緊迫した声と浮かれた声。
 今の………エルザか!? ということはだ、当然の如く…。
 首を捻ってあたりを見渡す。
 ……いたよ。まず見つけたのは湯船に浸かっている三つの顔。
 赤、青、黄の覆面が信号機よろしく並んでいた。っていうか風呂でもかぶってんのかソレ。
 ある意味敬意に値する。帽子の上に手拭いを乗せる事にどんな意味があるのか意味不明だが。
「だ、だだだ大十字九郎!」
「何でこんな所に!」
「ボス! ボーーース!」
 向こうも俺に気付いたらしい。それぞれが湯船から上がって俺を遠巻きに囲む。はい、腰あたりにモザイクON。
 だがおかしい。親玉の、奴の姿が見えない。一体どこに…
「だぁぁぁぁぁぁぁいじゅうじくろほぉぉぉぉぉう!」
 ザッバァァァァァ! 叫び声と共に湯船の底から浮上してくる変態が一人。
「貴様とはつくづく腐れ縁であるな! よもやこんな所で会おっ、っくふ!げふ、げふ!げふっ!」
「むせるくらいなら潜ってんなよ! いい歳して!
 しかしまったく腐れ縁だな、ドクターウェスト!! 今日も痛い目に会いに来たか!?」
 立ち上がってタオルを突きつける。
367それは或いは神田川6:03/05/18 01:49 ID:qhquheHA
 「!!」
 たじろいで一歩下がるウェストの部下達。
 何か視線が一部に集中しているようだが。
「いや待つのである。今日は一戦やらかす気はないのである」
「は?」
「手元にギターがないとテンションがイマイチ上がらんのであるからにして、
 とりあえず銭湯内では休戦を望むが如何であるかボーイ、ah ha?」
「……そうだな。素っ裸で殴り合うのも間抜けだしな」
「そういうことなのである」
 奴にしては非常にまっとうな感じだ。ギターが無いだけでこうも変わるとは、
 正直驚きを禁じえない。というか貴様もうギター持つな。
「しかし…である」
 ドクターウェストの視線が上から下へと移行し、やがて苦虫を噛み潰したような顔になる。
「ソレくらいの! ソレくらいのことで勝ったと思わないことであるぞ!
 力より技が優るということをいつか思い知らせてやるのである!! この串刺し公!!」
 何故に涙目? っていうか何だ、串刺し公って。
「だ、大丈夫ですボス! ボスのは十分に人並み以上です!」
「そうです! ただ、ただあいつが変なんです!!」
「あんな突然変異系奇形種に負けないでください!」
「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」
「ああっ! ボスがまたお湯の底にっ!」
 何が言いたいのだコイツ等は。
368それは或いは神田川7:03/05/18 01:50 ID:qhquheHA

かぽ〜ん

「ダーリン、ダーリン! 今そっちに行くロボ! エルザの三助ぶりにあわあわのメロメロになるロボ!」
「な、な、な、なぁ〜〜〜〜! なにを破廉恥な事を考えておるか汝は!!」
 本気で壁を乗り越えようとしているエルザを見て、アルは慌ててその脚を掴んで引きずり倒す。
 激しくもつれあいながらタイルの上に転がるふたり。
「痛ぇロボ! 何をするロボ、この資源ゴミ!」
「黙れポンコツ! 汝のような重油臭い体で九郎に近寄るでないわ!」
「カビくさい貴様に言われたくないロボ!!」
「にゃぁん! コラ! おかしな所を、あっ、触るなこの! ぅんっ!」
「ふやぁぁ! そっちこそ! あ、泡まみれで絡むなロボ! ぬるぬるするロボ! ぁう!」
「ああっ」
「ひやぁん!」

369それは或いは神田川8:03/05/18 01:51 ID:qhquheHA
かぽ〜ん
 
 並んで湯船に浸かる俺とドクターウェスト。
 コイツと一緒なのはともかく良い湯だ。たまにはでかい風呂も良い物だなぁ。
 女湯からは悲鳴というか嬌声というか、とにかくそういった声が響いてくる。
「……」「……」
「…おい」「……何であるか」
「何か凄いことになってるが、止めなくていいのか?」
「うむ。確かに凄いことになっているのであるが……あれだな」
 湯船から出した顔を見合わせてお互い頷きあい、視線を女湯に向ける。

「「止める気になれんな」」

 何故か赤くなってハモる俺とウェスト。
 ちょっと通じあえた気がする。
「あああああああ。イイ! イイわあ、ピッチピチの肢体が組んずほぐれつっ!!」
 番台では番頭の緑仮面が妙にエキサイトしていた。
 渇かず飢えず無ニ還レ。まじで。
370それは或いは神田川9:03/05/18 01:54 ID:qhquheHA

かぽ〜ん

「はー、はー、はー」
「ふー、ふー、ふー」
 満身創痍で睨み合う魔導書と人造人間。人知を越えた戦いは決着を見せぬまま、色んな意味で限界を迎えていた。
「な、なかなかやりおるではないか、機械人形ぅ」
「そういうっ、貴様もっ、しぶといロボね」
 肩で息をしながら座り込むふたり。
「い、いつまでも風呂場にいるわけにもいかん…ひとまずは休戦といこうではないか」
「うぅぅ、仕方ないロボ。ダ〜リぃ〜ン、後でそっち行くから待ってるロボ〜♪」
「行くな! 寄るな!」
 甘ったるい声で男湯に声をかけるエルザに反射的に突っ込む。
 それに対し酷く不機嫌な顔でエルザが返す。
「いちいち五月蠅いロボ〜、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ねロボ、つるぺた。」
「つ、つるぺ…」
 コンプレックスをストレートに抉られ、絶句するアル。ふるふる震えながら拳を握る。
「だ、黙っておれば調子に乗りおってぇ…ええい! 人の恋路に干渉しているのは汝の方ではないか!
 良いか! 九郎はっ! 九郎はすでに妾とっ…わらわと…ワラ、藁…」
 そこまで言って後が続かなくなる。耳まで紅潮し口をもごもごさせている。
「と、とにかく! 汝が九郎に言い寄っても無駄! 無駄なのだ! なぜなら彼奴は、彼奴はな…!」
「ダーリンが何だってんロボ」
「彼奴は…彼奴はそう! 真性の、正真正銘の、他の追随を許さぬ程の、完膚無きまでに宇宙規模のロリコンぞ!
 ああ、そうだ!ロリコンだ。 ロリコンなのだ! 妾のように平べったくて、幼くて、愛くるしい、
 ヘタするとランドセル背負ってるくらいの女で無ければ欲情などできん男なのだ!
 しっかり『出るトコ出てる』汝など見向きもされぬわ!!」
371それは或いは神田川10:03/05/18 01:55 ID:qhquheHA

かぽ〜ん

「公衆の面前でトンでもないこと口走ってんじゃねえ!!!!!」
 ざわ……ざわ……。
 なんだかウェストを含めみんな一斉に引いている。違う! 誤解だ! 半分くらい。
「貴様……どことなくヤバイ匂いがすると思ったら…
 そうか、性犯罪者の変態さんであったか、変態さんいらっしゃぁ↑い♪であったか!!」
「お前だけには変態とか言われたくなかった…」
 恐ろしくヘコんだ。なんだか凄い泣けそう。
 壁の向こうから声がした。
「大丈夫ロボ! エルザが愛の力でダーリンを正気にするロボ」
「いや、正気だってば!」
「そして部分的に元気にするロボ、ぽ」
「いや、それは…」
「諦めろ機械人形! 九郎は妾の穢れ無い肉体にベロンベロンに溺れておるわ!」
「お前も何錯乱してやがる! 廻りの皆さんの視線が突き刺さるように痛いからやめれ!!!」
372それは或いは神田川11:03/05/18 01:56 ID:qhquheHA
 ドクターウェストが隣に立った。意味ありげに俺の肩を叩く。
 その目にはそこはかとない憐憫の情が浮かんでいる。
「貴様の幼少時にどんなことがあったかは吾輩の知ったことではないのであるが、性犯罪はいかんと思うのであるぞ、人として」
「だから!」
「まして! 貴様のぶらさげている戦艦ヤマトなど使おう日には、
 波動砲一発、殺人罪まで付加されることは間違いないのであ〜る!
 キャー猟奇的! え?キラー? あなたキラーですか!? い〜〜〜〜やぁ〜〜〜!!」
 や、ヤマト!?
「いや! むしろ早いところ自首してマッシヴに精神鑑定を受けた挙げ句、
 隔離病棟にでもさっさと入ってしまうが吉!ラッキーカラーは紫! ほれチャキっとつつがなく自首するのである、大十字九郎!」
 もうワケわかんねえ。つーか、お前がまず自首して精神鑑定受けろ○○○○。
「だから誤解だ! 俺だって出るトコ出てる女の子は好きだ!! 決して変態でも性犯罪者でもないッ!」
 ……多分。
「待つのよ! 好き嫌いは良くないわ!! あたしはロリでもペドでもオスでもメスでもイケルわよ!!」
 大威張りで浴場に乱入、もとい闖入してくる番頭。
 コイツはコイツで今一度宇宙の彼方に送ってやりたい。
373それは或いは神田川12:03/05/18 01:58 ID:qhquheHA

かぽ〜ん

 そして事態は加速する。止めどなく。
「ほら、ダーリンはああ言ってるロボ!」
「く、九郎、こんな輩に塩を送るようなことを言いおって! 汝は妾の敵か! 敵なのだな!!」
「お前さっきから何言ってんだ!? OK、魔導書! 時に落ち着け!」
「やーい、へんたーい、へんたーい! がはははは、ががっ!!
 い、痛いのである! 何をするか! 今日は休戦ではなかったであるか!?げふう!!」
「ダーリン、エルザのすぺしゃるばでぃで今すぐご奉仕するロボ」
「ええい! やめろと云うておる!! 九郎! 汝、妾と此奴のどちらを取る!!!??」
「だから、何言ってやがんだお前は!」
「や、やっぱりつるぺたは嫌なのだな! 此奴のほうを取るのだな!!!??」
「お前取ってやるから、とりあえずシャンプー貸せ、シャンプー!!」
「取ってやるとは何だ!妾よりシャンプーの方が大事か汝は!! 妾は!妾はぁ、ふ、ふぇ」
「ああっ! 泣くなっ悪かった!」
「ダーリン今のはちょっと酷いロボ」
「だから、どっちもイケルって言ってるじゃな〜い。いらっしゃい子猫ちゃん達♪ れっつ暴食!」
「お前は引っ込んでろ!」
「泣ーかした、泣〜かした〜っげぶぉ!!」
「ああ! ボス! ボス! しっかり!!」
「やばい! 首が変な方向に!」
「おのれ、第三の脚!」
「だから何なんだソレは!」
374それは或いは神田川13:03/05/18 02:00 ID:qhquheHA
「九郎の…」
「はっ!」
殺気!
「大うつけぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
 そして激震。
 …ああ…………結局爆破オチなんですね。(俺が。
 薄れゆく意識の中でそう思った。
 …………こうして俺はまた風呂を失い、不本意なことに例の番頭にはこっぴどく叱られ、
 更に多額の修理費を抱え込むことになった。激しく鬱。
 ウェストの奴も明日からは違う銭湯に出没するのだろう。
 …………アーカムから銭湯が姿を消す日は近いかもしれない。
375名無しさん@初回限定:03/05/18 02:04 ID:iX8tPjc2
ぐっじょぶ
376犬江しんすけ:03/05/18 02:06 ID:qhquheHA
題「それは或いは神田川」(斬魔大聖デモンベイン)より

深夜にこっそり投下。
懲りもせずに書いてしまいました。しかもオチてません。
すいません。昨夜銭湯行ってその場の思いつきで一気に書いたので。
377名無しさん@初回限定:03/05/18 02:08 ID:LEWGEjSv
>犬江しんすけさん
素晴らしいです。
それにしてもヤマト… 確かにCGで見てると手が生えてるようにしか見えませんよねあのでかさは
378377:03/05/18 02:08 ID:LEWGEjSv
すいません、下げ忘れました
379名無しさん@初回限定:03/05/18 02:10 ID:a7h3Npfe
職人さん達の作品への愛に触れて、デモンベインの購入を決意しますた。
380犬江しんすけ:03/05/18 02:47 ID:qhquheHA
レス番書き忘れますた。
>>362-374 題「それは或いは神田川」(斬魔大聖デモンベイン)より
です
381あぼーん:あぼーん
あぼーん
382名無しさん@初回限定:03/05/18 03:33 ID:yXm/+bVr
あんたすげぇよ。「れっつ暴食!」大爆笑。
383名無しさん@初回限定:03/05/18 07:31 ID:HCXSZ2y6
まさかティベリウスで笑える話が読めるとは思わなかった・・・・・・
本編じゃ嫌悪感しか感じなかったし。
384名無しさん@初回限定:03/05/18 07:33 ID:70VZQ0IJ
ドクターウエストおいし過ぎ。激しくワラタ。
385名無しさん@初回限定:03/05/18 10:15 ID:2siPACis
お互いを慰めあうテリオンとナコト写本(ウェストと慰め合うのはイヤ)とか。
どーせなら人間ティベリウスのデスラービームと一騎打ちを所望。


自前のは貧相とか言うオチかも?
386名無しさん@初回限定:03/05/18 10:20 ID:OsMCHXoG
このスレ見るたびにデモベやっててよかったと思うわ。
神々に感謝(笑)
387あぼーん:あぼーん
あぼーん
388あぼーん:あぼーん
あぼーん
389名無しさん@初回限定:03/05/18 13:12 ID:1OmlpWkI
>>376
激しくワロタ。
腹痛ぇです……
390名無しさん@初回限定:03/05/18 16:03 ID:LHd67r+o
>>380
でかける準備を始める前にちょっとチェック、のつもりが
大いに読み嵌ってしまったよ・・・あんたは罪深い人だ(笑)
391名無しさん@初回限定:03/05/18 16:56 ID:GDuBvl/c
デモベSS(・∀・)イイ!
激しく笑わせてもらいました。
392名無しさん@初回限定:03/05/18 21:44 ID:1k2ZNj6v
今日は人と会う用事があったのに…
ニヤニヤが止まりませんでした。
おれも書こう。
393名無しさん@初回限定:03/05/18 21:55 ID:6FNTQdci
ここのSS読んだらデモベ欲しくなって買いにいったけどプレミア付いてた……

  |
  |  ('A`)
 / ̄ノ( ヘヘ

仕方無い、再販されるのをSS読みかえしつつ待ちますか。
394名無しさん@初回限定:03/05/18 22:05 ID:94L7sOQw
30日にセカンドバージョンが出荷されるのでのんびり待つよろし。>デモベ
…だがここのSSはネタバレ全開なのだが大丈夫か。
395名無しさん@初回限定:03/05/18 22:46 ID:6FNTQdci
>>394
情報サンクスコヽ(´ー`)ノ
アルに萌えたいだけなんでネタバレは気にしないっす。
396名無しさん@初回限定:03/05/18 23:29 ID:iEbr0JPl
>>395
他の娘のルートのアルも、萌えられるので、完全攻略するがよい。
397犬江しんすけ:03/05/19 00:08 ID:mUz54FFL
皆様! レスありがとうございます。
ところで再販のパッケージのがカッコよくないですか?
なんか悔しいのですが。

>>394
あちこちネタバレ気味ですいません。
>>177 さんに言われたとおりにSS置くのにサイト作ったんで
ネタバレ風のは以後そっちに晒します。
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/4817/
失礼しました。
>犬江しんすけさん
 おつかれです。このスレの保管サイトを管理させてもらっているものです。
HPを立ち上げられたとのことですが、これまで投稿されたSSはどうしましょうかね?
特に問題が無いなら、保管サイトにも置きますけれど、保管はやめてほしい。もしくは
HPの方にリンクを張るようにしてほしい、など。要望がありましたらおねがいします。
399犬江しんすけ:03/05/19 00:22 ID:mUz54FFL
>>398 保管サイト管理人さま
いえ、もう全然置いて下すって結構です。
むしろ感謝です。
もうどうにでもしてやってください。
400394:03/05/19 05:50 ID:NLYu1dVV
>397犬江氏
いや、別にここでネタバレ不可!とか言いたいわけではないですので。
401名無しさん@初回限定:03/05/19 08:11 ID:4vH3h2Zh
犬江氏、絵も描けるのか……才能豊かな人って羨ましか〜
402名無しさん@初回限定:03/05/19 23:39 ID:00Vb7C29
>>397
TOP絵のエルザ保存しますた
403名無しさん@初回限定:03/05/20 14:36 ID:uA05VH5+
>>397
TOP絵のエルザ。グッドです。
ギャラリーのチャイナさんを見て、「九郎×アル、チャイナ服プレイ」
が脳裏に閃きました。
404あぼーん:あぼーん
あぼーん
405あぼーん:あぼーん
あぼーん
406名無しさん@初回限定:03/05/21 02:26 ID:ePvzAI8P
>ここに書いときゃ伝わると思うんで、犬江氏へ

秋刀魚の野郎は、鋼屋氏の掲示板で「 高 校 生 」だと書いて氏に叱られた、
というのにまた恥も外聞もなく電波長文書き込んでいやがる空気の読めない阿呆です。
漏れ的には第二のK様候補。スルー推奨。
ていうか>お早めに入手を! とか書いちゃだめぽー
407 ◆daMOTOpf1c :03/05/21 08:13 ID:R/HdjVJQ
>>406
はっきり言おう。君の方が余程空気を読めていない。
場の雰囲気を崩すような書き込みは控えてもらいたい。
408 ◆daMOTOpf1c :03/05/21 08:15 ID:R/HdjVJQ
うえ…この件に関しては間違いなく自分も同罪です。
申し訳ございません>みなさん
409名無しさん@初回限定:03/05/21 13:16 ID:7rcUPn6r
>>406
メールした方が良かったと思われ。削除希望出して来なよ。
410名無しさん@初回限定:03/05/21 13:59 ID:8g/BpqbX
SS職人も影でなにをしとるかわからんな。サイテー。
411名無しさん@初回限定:03/05/21 14:25 ID:Xmge1eYP
なんだかなあ。>409 メールは賛成だけどこのていどのレスは削除されない。
>410 (´Д`)?

↓終了すべ。以後は通常進行でよろ。
412名無しさん@初回限定:03/05/21 20:37 ID:r5Vtjd9v
>>410
待った待った。
件の秋刀魚氏は犬江氏のサイトでは自身が高校生だと明かしていないので
知らずにレスしてしまった可能性もあるかと。
それに秋刀魚氏自身も、鋼屋氏の掲示板で注意された後は、電波な長文はともかく
デモベ入手に関しては触れていない……と思ったら結局犬江氏のとこでなんか言ってるな……

 す く え ね ぇ な
413名無しさん@初回限定:03/05/22 02:28 ID:Y7IcnrjL
>>412
>>410の勘違いに付き合う道理はないので、すっ込んでろ。

↓以下通常進行で。
414名無しさん@初回限定:03/05/22 03:26 ID:C0aPhjZw
ヽ( ・∀・)ノ
415名無しさん@初回限定:03/05/22 14:32 ID:6UAAiiNI
( ´,_ゝ`)
416名無しさん@初回限定:03/05/22 19:44 ID:Lt8SNZ5b
(゚∀゚)ノcome on!
417名無しさん@初回限定:03/05/22 21:28 ID:u0AK+qNQ
>>413
すまんかった。
おとなしく新たなる神の降臨を待ちまつ(´・ω・`)
418大悪司より 0/8 ◆kd.2f.1cKc :03/05/22 21:54 ID:KRmdn3wl
エロゲ板のふたなりスレからきまつた。
というわけでふたなりネタ。嫌いな人は飛ばしてください。
419少女のユメ 1/8 ◆kd.2f.1cKc :03/05/22 21:55 ID:KRmdn3wl
「由女よぉ、俺の嫁さんになってくれねーか?」
「へ?」
 いきなりの悪司の発言に、由女の目が点になった。

 ミドリガオカ悪司組事務所、悪司の寝室。
 いつものように?由女は呼び出されて連れ込まれていた。最初は二言三
言、言葉を交わしていたのだが……
「な、なななな、な、なに言ってるんですか、わわわわ、私、私ですよ!?」
 いきなり求婚の言葉を告げられて、由女は背後の壁まで後ずさりした。
「おう。ってーか、俺は女に別の女へのプロポーズをするような趣味はな
いぞ」
 由女のダイナミックな反応に、悪司の方も少し唖然としながら言い返す。
「え、えーと……」
 悪司に真剣な表情を向けられているが、由女はそれを直視できず、俯い
てしまう。
「いや……嫌なら無理にとは言わねーけど」
「そっ!」
 悪司は平然とした表情のままでそう言ったが、由女は過敏に反応して声
を上げてしまう。
 自分の声に慌てたようにして、声のトーンを落とす。
「そう言うわけじゃ、ありません……けど……」
「じゃあ、OKってことだな?」
 由女の言葉に、悪司が彼らしく、短絡的に聞き返す。
 由女は俯きがちなままで、一番の懸念事を口にしようとする。
「で、でも私、こんな躰、なのに……」
 やはり最初に口をついて出たのはこのことだった。
「それも判っててプロポーズしてるわけなんだけどよ」
 悪司はそう言ってから、彼にしては珍しく、微かにだが恥ずかしそうな
表情になった。
420少女のユメ 2/8 ◆kd.2f.1cKc :03/05/22 21:56 ID:KRmdn3wl
「そもそも、俺がお前に惚れたのもそれ絡みだしよ」
「え?」
 由女は少し驚いたように、顔を見上げる。
「つってもたった今の話だけどな……お前が、自分を女として抱いてくれ
るのが嬉しいとか言ってるのが、あんまりに可愛かったからよ」
「え……そ、それで……いいんですか?」
「おう」
 悪司の言う理由に唖然としてしまう由女だったが、同時に心のどこかで
喜んでいる自分が存在していることには気付いていた。
 那古教時代、由女の躰に対する苦悩を理解していた人間はほとんどいな
かった。人々が自分をどんな存在かも知らずに崇められるのは、由女にと
って苦痛でもあった。
 聖女の陽子や遥はそのことも知って好意的に接してくれた。しかし、同
時に那古教の教祖、那古神としての自分を強く要求したのもこの2人だっ
た。悪司組との抗争でこの2人を失ったと知った時、深い悲しみに嘖まれ
ながらも、一方でやっと重圧から解放されたという気持ちがあったのも事
実だった。
 今も共に生活している元聖女、寧々にはそう言う意味ではむしろ、先の
2人より気を許していた。しかし、現在彼女は悪司組の頭脳、島本純と交
際中。性的交渉も持った間柄としては、少し裏切られたような気持ちもあ
ったが、同じ女性としては歓迎できた。
 だからこそ……自分を“女性”として求めてくれる悪司は、酷い人だと
思いながら、憎み切れずにいた。そして躰を重ねる度に、その感情は徐々
に好意へと変わっていってしまった。
「もっとも別に、お前のことよく知らないで一目惚れしたのとは違うぞ。
ここ数カ月、お前のことはそれなりにわかった言ってるつもりだ」
 悪司が言う。その言葉に、由女はごくっ、と喉を鳴らしてから、神妙な
面持ちになる。
「わかりました……それなら……」
「OKしてくれるのか?」
421少女のユメ 3/8 ◆kd.2f.1cKc :03/05/22 21:56 ID:KRmdn3wl
 聞き返して来る悪司に、由女は自分でも驚いてしまいそうな程、自然に
笑顔になっていた。
「はい」
 その優しげな微笑みを上げながら答えた。
「よーし、じゃあ早速市議会に行って婚姻届だ」
 気の早い男は、そういって行動に出た。確かに、まだ日は高いが……
「えっ、ちょっちょっ、悪司さん……っ」
 由女は手を引っ張られて、共に部屋を出ていく。
422少女のユメ 4/8 ◆kd.2f.1cKc :03/05/22 21:58 ID:KRmdn3wl
 2人がそこに戻ってきた時は、すでに日はとっくに暮れて、外は夜の闇
に包まれている。
「まいったな……まさか由女の戸籍がねぇとは」
 忌々しそうに、悪司が呟く。由女も意気消沈したようにベッドに腰を下
ろしていた。
 正確にはないと言うより、どこの誰だかわからないと言った方が合って
いる。由女には戦時中以前の記憶がないのだ。
 とりあえず、市長になった夕子と市議会の鴉葉に頼んで、由女の戸籍を
でっち上げることにしたが、さすがにそれだけの工作となると、一朝一夕
にはできない。
「でも……今日は、嬉しかったですよ」
 にへ、と由女が顔を上げて、笑みを浮かべた。彼女は今、那古教時代の
和服ではなく、柄物のブラウスとフレアのスカートを着ていた。市議会か
らの帰りに、商店街で悪司が買ったものだった。
「いや……その程度までそんなに喜ばれてもな」
 むずがゆそうに、悪司は言う。
 由女にしてみれば、性交渉の上だけではなく、私生活でも1人の少女に
戻れた、そう思えたことが嬉しかった。
「じゃあ、とりあえず今日はもうやることもねぇしよ」
 ニヤっと笑いながら、悪司は由女の隣に腰を下ろした。
「はい……」
 対照的に、初々しく頬を染めながら、少し恥ずかしそうに微笑みながら
答えた。
 悪司が由女の肩を抱き寄せる。由女はそっと目を閉じて顎を上げた。2
人の唇が重なる。
 一度離れ、お互い裸になる。悪司は脱ぎ散らかした服をざっとまとめた
だけだったが、由女は丁寧にたたんで部屋の壁際にそっとおいた。
「しかし、ちみっちゃくて可愛いなー、お前は」
「え、そ、そうですか?」
 悪司の言葉に由女は顔を真っ赤にする。
423少女のユメ 5/8 ◆kd.2f.1cKc :03/05/22 21:59 ID:KRmdn3wl
「よっと」
「きゃっ……」
 由女の小さい躰が、ベッドに仰向けに倒される。
「んっ……」
 そのまま上体を抱き締められ、唇を重ねられる。
「ふぁ……」
 そのまま、背中を優しく撫で回された。
「なんだよ、もう興奮してるのか?」
 少し意地悪そうに笑いながら、悪司が言う。やんわりとベッドの上に由
女の躰を寝かせると、その股間で、彼女のペニスがすでに身を起こしてい
た。
「そ、それは、そのっ……」
「あー、いいっていいって。悪いっつってるわけじゃねーんだからよ」
 困惑したように言う由女に、悪司はそう言い返すと、由女のペニスを優
しく掴んで扱きあげる。
「ふぁぁっ……ひぁっ……」
 びくびく……と躰をゆすってしまい、ベッドのシーツを掴む。
 ――野郎のより敏感だよな、やっぱりクリトリスの役目もしてるわけか。
 悪司は由女の反応に喜びを覚えつつ、ひとしきり由女のペニスを扱き上
げた。
 ペニスから手を離して、両手でその下の割れ目に触れる。
「んっ……はぁ……はぁ……」
 少し刺激が減った為か、由女は息をついた。
 くに……悪司の指が、軽く由女の割れ目を開く。とろっ……と愛液が中
から溢れ出してきた。
「ひぁ……ぁっ……!」
「もう、きっちり濡れてるな」
 言いつつ、指を軽く押し込んで優しくかき回す。
「はぁ……ぁ……ぁっ……」
 由女の息がどんどん昂っていく。
424少女のユメ 6/8 ◆kd.2f.1cKc :03/05/22 21:59 ID:KRmdn3wl
「入れても大丈夫だよな?」
 前戯もそこそこに、悪司は自分の逸物を由女の女性にあてがおうとする。
それに、由女の方が吃驚したように反応した。
「え……あ、悪司さん、前から、じゃっ……」
 今まで何度も悪司と躰を重ねたことは合ったが、常に由女の背後からだ
った。前からの体位だと由女が絶頂した時に、彼女の放ったものが相手に
かかってしまう。それを由女は理解していた。
 だが、悪司はにやっ、と笑って、
「バーカ、前から抱けねぇ相手を嫁さんにしたりしねーよ」
 そういって、左手で由女の頭を少し乱暴に撫でた。
「悪司さん……」
「行くぜ」
 ず、ずずっ……
 由女の中に、悪司のペニスが埋まっていく。
「ふぁぁぁっ、は、ぁぁっ……っ!」
「く、きつっ……」
 由女はまるで処女のように涙を滲ませながら哭き声を上げ、悪司は締め
付けに顔を歪ませる。ただでさえ常人より大きな悪司のモノを、常人より
小柄な由女の中に押し込んでいるのだから、当然とも言える。
 ゆっくりとした挿入だったが、由女は激しく背を仰け反らせて哭き声を
上げる。由女のペニスが断続的にびくついた。
 それでも、奥まで挿入を終えると、悪司は由女の上体を抱き締めて、三
度キスをする。
「んっ、んぅ…………ぷは、はぁ……はぁっ……」
 喘ぎながらキスを交わし、唇が離れると、由女は熱く荒い息をした。
「くっ……」
 ずずっ……
 悪司がストロークを始める。
「ふぁぁっ……はぁっ……」
 由女は悩ましげな表情で声を上げる。その声に悪司はより興奮を覚えて、
ストロークを少しずつ速くしていく。
425少女のユメ 7/8 ◆kd.2f.1cKc :03/05/22 21:59 ID:KRmdn3wl
「由女、お前……可愛い、ぞっ」
 いいながら手を伸ばし、由女の慎ましやかな乳房を手で被って、こねく
り回すように揉みしだく。
「ひゃぁぁぁっ、ひぁぁっ……っ!」
 由女は強過ぎる快感を与えられて、涙を零しながら良がる。
 ストロークする悪司のペニスを、ぎちゅっ、ぎちゅっと由女の膣が締め
付けた。
「くぅぅっ、お、お前……あ、あんまり可愛いから、もう、出ちまう……
っ」
 普段のこましぶりはどこかへ飛んでしまい、顔を歪ませながらストロー
クを激しくしていく。
「はぁぁぁっ、も、はぁっ、わ、たしっ、壊れ、あ、はぁぁっ……」
 悲鳴に近い声を上げる由女。その膣内で、悪司のぺニスが射精感に膨張
する。
「くぅっ、で、出るっ」
 どくっ、どくどくっ!
「ふぁぁぁっ、はぁぁっ、はぁ、ぁ、ぁぁっ……!!」
 びゅくっ、びゅくっ、びゅるるっ……
 由女もまた、激しく背を仰け反らせて絶頂しながら、互いの腹部に自ら
の精をまき散らしてしまう。
「くぅっ……」
 ずるり、と由女の中から悪司のぺニスが引き抜かれる。
「ふぁぁっ……ぁぁ……っ」
 由女は余韻にとろん……としながら、荒い息をしている。
 悪司はタオルでまず自分の腹部から由女の精液を拭い、力なく横たわっ
ている由女の腹部も拭き取る。
「あ……悪司さん……」
 はぁはぁ……と息を整えながら、由女は悪事を見上げる。
 すると悪司はぎゅっと由女を抱き締めた。キスを交わしてから、囁くよ
うに言う。
「これからは、ずっと一緒にいろよ」
426少女のユメ 8/8 ◆kd.2f.1cKc :03/05/22 21:59 ID:KRmdn3wl
「はい……」
 由女は肯定の返事をして、ぎゅっと抱きつきかえした。
427名無しさん@初回限定:03/05/22 23:58 ID:eGKsUQEF
いいよいいよー
グッジョブ!!
428名無しさん@初回限定:03/05/23 00:37 ID:MZhx4FL4
フタナーリ(;´Д`)ハァハァハァ
429名無しさん@初回限定:03/05/23 12:45 ID:2Ia8jXOh
フタナリは苦手なのに萌えますた(;´Д`)
PS2ファントムはやめて大悪司買ってきまつ。
430名無しさん@初回限定:03/05/23 13:27 ID:GHvhF9Ux
由女ぇ…何故本編では攻略できんのじゃぁ…
ガリガリ(畳を引っ掻く音)
431名無しさん@初回限定:03/05/23 17:55 ID:bxymHPmk
悪司はそういうの多いよな。殺っちんとか。
432名無しさん@初回限定:03/05/23 18:41 ID:V7fpTMNc
おお…大悪司で由女を嫁に出来なくてむせび泣いた俺にとっては
まさに神からの贈り物じゃあ……
そして調子に乗って遥もキボンヌとか言ってみる
433名無しさん@初回限定:03/05/23 18:43 ID:SVIHw6sq
那古教関連のキャラは良いのぉ(;´Д`)ハァハァ
434 ◆kd.2f.1cKc :03/05/23 19:21 ID:qkg8hQ0d
>>432
スマン漏れちょっとアンチ遥入ってるから無理でつ……
申し訳ありません。

どなたか他に遥たん愛でられる神いたら応えてやってください。
435 ◆kd.2f.1cKc :03/05/24 22:36 ID:uRpYNmjm
 ∧||∧
(  ⌒ ヽ よけいな一言ですっかり葉鍵板名物の漏れ
 ∪  ノ
  ∪∪

>>432氏スマヌ。

次からは何事もなかったかのようにお願いします。
436名無しさん@初回限定:03/05/24 22:52 ID:IAzgcj5+
喪前ら!
犬江氏のTOP絵が更新されてるぞ!!
437436:03/05/24 22:55 ID:IAzgcj5+
ごめん誤爆した

夜食作ってきます
 ∧||∧
(  ⌒ ヽ 
 ∪  ノ
  ∪∪

438 ◆PMny/ec3PM :03/05/25 02:48 ID:Lz6qufxq
吊るんじゃねーのかよ!w
439名無しさん@初回限定:03/05/25 16:30 ID:zrN7+k4x
ワロタ
440私はたぶん本を捜した(1/7):03/05/25 17:41 ID:rhdxpZp3
 コレを御覧になる神様へ

この後に続く駄文はネタバレ検閲プログラムにより安心して御覧いただけるものではありますが
検閲箇所、および検閲行為そのものが、ネタバレに繋がる場合がございますのでご注意ください。

それではどうぞ……



 ──私は本を捜していた

 食卓についた。
「ライカ姉ちゃん、おはよう」
「ライカ姉ちゃん、おはよう」
「・・・・」(しゅたっ!)
みんな揃っていた。
 「九郎ちゃんは」
「そこに」
空腹で気絶していた。今月に入って4度目だ。
ぐるるるると、空っぽのお腹が鳴っている。ぴくぴく、九郎ちゃんが震えている。
 私は九郎ちゃんを椅子に座らせから、皆で朝食を摂った──いつも通りの味がした。

 ──私は本を捜しに行かなければならない。
 「いってきます」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」
「・・・・」
子供達に挨拶を返して、私は教会を出た。
441私はたぶん本を捜した(2/7):03/05/25 17:42 ID:rhdxpZp3
 ──私は本を捜しに行かなければならない。

 って、別に私は悪夢に縋って生きているわけではありませんよ、念の為。
 ただ、日頃から、全力で遊ぶ子供達の相手をしたり、
社会不適合者の生活を面倒みたり、アーカムシティの■■の■ー■ーとして、
既知外の相手をさせられたりで、ストレスが溜まっているんです。
 欲求不満なんです。女だって、男の人で言うところの
「ヌキたい」っていう衝動があるんです。
 でも、わたしは教会のシスター。神に仕える身。
 別に、基督教的倫理観なんて露程もないけど、
仕事柄、龍を背負った取引相手との秘密の逢瀬なんてものがあった事は無いし。

 だから──私は本を捜さなければならないのです。
 もしくはAVだったかも知れないし、ドラッグだったかも知れないし、
大人のおもちゃだったかもしれないのだけど、そうじゃなくて、
私が捜しているのは、あくまで「オカズ」なんです。
 それも、普通の「オカズ」ではなくて。とても特殊な趣味じゃないと、ダメ。
私は所謂、■■■■。「肉体が精神を凌駕する」って状態。
私の妄想で、肉体的快感を得る事は、困難を極める。個人の限界だ。
 もっと、新鮮なシチュエーションで。
 もっと、斬新なプレイを。
 もっと、過激な快楽を。
新しい世界に出会うことを願いながら……
──私は本を捜している。
フラフラと夢遊病者のように……
ニヤニヤと精神病者のように……

442私はたぶん本を捜した(3/7):03/05/25 17:44 ID:rhdxpZp3
──私は本を捜さなければならない。

やってきたのは、アーカムシティ一の電気街。
大黄金時代にして大混乱時代にして大暗黒時代のアーカムシティの中でも
特に混迷極めし欲望の坩堝。
「ぴょん派」だの「てへ派」だのといった仮想者達の論争が、
乱闘に発展するのは、何処の国でも同じ。
そんな喧騒を十■■罪で切り分けながら街を歩くうち、
ふと、目の前に古書店があるのに気付いた。小さいけど、何か妖しい雰囲気を感じる。
ちょっと、覗いてみようかしら……

「これは、まぁ……」
中に入って、本棚に並ぶ本の数と、店内に充満する瘴気に声を失くす。
品揃えも凄いが、このヤバイ気配。
お嬢様がクラシックCDの後ろにヘビメタを隠すように、
聖書を並べた棚の後ろ、秘密のドアの向こうの部屋にある私のコレクション。
妖気はともかく、部屋に漂う瘴気ならば、噂に聞くミスカトニック大学の
秘密図書館に勝らずとも劣らないだろうと思っていたのに……
ココは、その私の誰にも言えない自慢を打ち砕くのに充分な空気を持っていた。
私は敗北を感じながらも、期待を抱く──ここなら見つかるかも知れない。

「何かお探しものでも?」
「えっ?え、ええ。そうな──」
突然、背中から声を掛けられて、振り向いた私は、
しかし、そこで一点、いや、正確には二点に目を奪われ、続く言葉を失う。

「魔」>「爆」

本日、二度目の敗北。
443私はたぶん本を捜した(4/7):03/05/25 17:46 ID:rhdxpZp3
 「それで、どういった本をお探しかな?」
「ええ……ああ、私の捜しているのはちょっと特殊な代物で……」
「ふむ。たとえば……変態趣味のオカズ本、とかかな?」
「なっ……!?」
「ああ……いや、そんな顔しないでよ。別に大したことじゃあない。
 なんて言うかね、長いことレンタルビデオ──もとい、
 本屋をやっているとね。分かるのさ。求めるものが普通と違う客のことがね。
 特にね……今夜のオカズを求めている人間ってのは、これは特別だ。
 見ただけで分かってしまう。」
 店長は近くの棚から1つの箱を引き抜いた。ソレには『はじるす』と書かれている。
「──特殊なシチュエーション。人々に刺激を与える本。
 人々はそれを行使し、『奇蹟』を起こす。
 『S&M5906に処女をささげる少女』
 『エターナル・ヴァージン』
 『暴走ロボと後輩に襲われる女性教師』
 ……この『はじるす』もそうさ。そんなとんでもない力を秘めている本なんだ。」
「そこまで分かるんなら話が早いわ。店長さん、私にソレを売ってくださらない?」
 私が頼むと、店長は申し訳なさそうに顔を顰めた。
「ごめんね、それは無理だ」
444名無しさん@初回限定:03/05/25 17:52 ID:OIUUHx2O
援護
445名無しさん@初回限定:03/05/25 17:54 ID:1HXau9S4
援護
446私はたぶん本を捜した(5/7):03/05/25 17:55 ID:rhdxpZp3
 彼女は続ける。
「この店には、あなたが必要とするような嗜好の本を置いていないんだよ」
「置いてないって……あなた、その手に持っているのは何ですか?
 自分でそれは特殊な本だって説明してたじゃないですか」
「それはそうなんだけど、この本は他のお客さんの予約取置き分──じゃ無くて、
 あなたには合わないのさ。
 あなたは近い将来、必要とするはずだ!最高の力を持った本を……
 そう、『神』をも招喚できるような窮極の本を!」
「え……あ……えーと……」
 いけない……なんか盛り上がっています、この人。
こっちの話はまったく聞かずに、どんどん進めてしまってます。どうしましょう?
いつもは私の役なのに……
「あるんだよ。
 最高位の本の中に『神』をSSスレに招喚できるヤツがね。
 まあ、正しくは、神掛かった職人なんだけど。
 とにかくあなたが必要とするのは、きっとそういう本なんだと思うよ」
 もう何が何だかさっぱりだ判りません。
私は完全に店長のペースに飲み込まれてしまい、言葉も出さない。
「嗚呼、楽しみだ。楽しみだね。
 あなたが手に入れる魔導書はどんなのだろう?
 『アイ2』かな?『Theガッツ』かな?
 もしかしたら、それは、かの『永留守』だったりするかも知れないね──」

 結局、あのまま店長の勢いに流されてしまい、気付いたら店の外に出てしまっていた。
なんか、今日は負けっぱなし。
 入れ替わりに店内に入っていくメイド姿の女性をぼんやりと眺めた後、私は教会に帰った。

だけどその日の夜──

──私は遂に本を見付けた
447私はたぶん本を捜した(6/7):03/05/25 17:56 ID:rhdxpZp3
──私はたぶん本を見付けた。

深遠。
深遠。
果て無い、限りない『電子』の海の中、
総ての情報が渦巻くその場所で。

総ての情報を積み重ねて無数の虚構を構築し、
無数の虚構から無限の真実を紡ぎ出すその場所で。

弱者の屍が風に揺れ、
強者の驕りが時に遷ろうその場所で。

私はたぶん本を見付けた。

※注意。
突然ですが、このあと、ヨグ=ソトースの門が開きます。
平行世界ではネタバレ検閲プログラムは作動しません。
ネタバレ回避の方、およびSANチェックに失敗した方はココで終了してください。
448私はたぶん本を捜した(7/7):03/05/25 18:01 ID:rhdxpZp3
──九郎!大十字九郎だ!>>238でもなければ、正義のヒーローでもないぞ!
生も死も、聖なる>>238の思うがままに……
>>238を騙るつもりはないそうか。
ならば>>238。妾は>>238と契約する
さあ、踊ろうではないか。あの忌まわしき>>238が奏でる、狂った輪舞曲の調べに乗って
我輩の>>238最強伝説をしかと胸に刻み込み、冥土の土産とするが良いのである!
さあ……付き合ってもらうぞ、>>238
ならばこそ、>>238を信じて下さい
>>238は着実に、邪悪な位置に納まろうとしている
──そう。貴方にこそ相応しい>>238です。大十字九郎さん
>>238は動き出している。もう止められない。
きみは走り続けるしかない。いつか>>238の中心に立つ、その時まで
怖いよだけど、何もしなかったら>>238って分かっていて、
それでも何もしないで……やっぱり>>238になってしまう方が怖い!
危険なのである!!>>238に触れると怪我するぜ!!我輩が。
私はたぶん>>238を背負った……





そこに■が居るのを見て、私は泣いた。
449LINBO-54:03/05/25 18:03 ID:rhdxpZp3
>>440-448
タイトル「私はたぶん本を捜した」(斬魔大聖デモンベイン)

──えーと、まず土下座。

>>238を書かれた空ラ塗布サン、ごめんなさい。
SAN値を下げる、魔導書そのものだと思ったものですから。

次にこのスレの住人の方々、ごめんなさい。
自分は文章作成能力がまったく無いので、
SSではない、こんな引用ばかりのネタ話になってしまいました。
ネタスレに投下するには、少々長いと思ってコッチにしたのですが。

援護、感謝。

以上、「私はたぶんスレを汚した」でした。

450名無しさん@初回限定:03/05/25 18:20 ID:OIUUHx2O
いい感じにSAN値下がってますな。
残念なのは下げるだけ下げて、オチがちょっと弱い感じが。
451名無しさん@初回限定:03/05/25 21:25 ID:tV6E9F0v
とりあえずおつ。
イントロはそれこそ神そのものだと思うのですが(BADの引用が)
やはりラストが…>>238を引っぱってくるのはまだしも、あっちのSSじゃライカさんは
カニバる嗜好はないと宣言してるからまずそこから矛盾してるし。

叶うならばオチだけリライト希望。
…そもそもライカさんの嗜好って何だろ?…掲示板じゃロリって事になってるがw
452名無しさん@初回限定:03/05/25 21:31 ID:l7doL+G7
保守
453名無しさん@初回限定:03/05/25 21:56 ID:lO6ZPMsq
>>451
やはりあの流れなら落ちは801に逝くべきだろ
454名無しさん@初回限定:03/05/25 23:03 ID:2JrqHt8R
「だぁぁぁぁぁぁぁいじゅうじくろほぉぉぉぉぉう!」
455あぼーん:あぼーん
あぼーん
456名無しさん@初回限定:03/05/26 07:25 ID:4NjGzq1P
>>451
ショタ、しかもマゾ希望
だから子供に手を出すと怒られるねん
457名無しさん@初回限定:03/05/26 21:27 ID:sJmytYXh
ライカさんはオフィシャルで同人女じゃないのか?
458 ◆kd.2f.1cKc :03/05/26 23:22 ID:V5EKtJeG
このスレ的には エ ロ を 期 待 し て る ん で つ よ ね ?
ほのぼの非エロはお呼びでないですよね?
459名無しさん@初回限定:03/05/26 23:34 ID:/v/QtO+x
>>458
そんな事は無いと思うよ、少なくともオレは。
460名無しさん@初回限定:03/05/26 23:44 ID:bvR912Tf
エロ抜きほのぼのあまあまSSも読んでみたいぜ〜
461名無しさん@初回限定:03/05/27 01:58 ID:XoOQXY0c
ならば素直にエロを欲すると言ってみる。
そう、エロを!一心不乱の大エロを!
462名無しさん@初回限定:03/05/27 02:29 ID:jjykI+NE
エロ━(´゚◇゚`)゚◇゚`)゚◇゚`)゚◇゚`)゚◇゚`)゚◇゚`)゚◇゚`)━━!!
エロ━━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━!!!!
エロ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!!
エロ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!
エロ━━━( ´∀`)・ω・)・Ω・)( `・ω・) ゚Д゚)・∀・) ̄ー ̄)´_ゝ`)=゚ω゚)*゚ー゚)-_-)━━━!!!!



よかろう、ならばエロエロだ
463名無しさん@初回限定:03/05/27 09:45 ID:7hLemqvE
面白ければエロでも解体でもなんでもいいよ。
464 ◆kd.2f.1cKc :03/05/27 10:24 ID:qddFLNUD
いや……ラブラブぬるぬるしか思い付かない。。
465名無しさん@初回限定:03/05/27 10:40 ID:ei7v9E5C
スレのルールは>>1に書いてる通りだしょ。
改めて聞くような事でもない。
466山崎 渉:03/05/28 13:19 ID:ylMFNEMA
     ∧_∧
ピュ.ー (  ^^ ) <これからも僕を応援して下さいね(^^)。
  =〔~∪ ̄ ̄〕
  = ◎――◎                      山崎渉
467大悪司より0/7 ◆kd.2f.1cKc :03/05/29 02:27 ID:XW32bd0q
と言うわけで今回はエロなし。
しかもネタありがち。
スンマソ。
468悪司の厄日 1/7 ◆kd.2f.1cKc :03/05/29 02:29 ID:XW32bd0q
「ん?」
 夕食時の悪司組。
「さっちゃん、なんか今日の味付け変じゃねぇか?」
 悪司がそう言った次の瞬間。
 ガタッ
 一緒に食卓を囲んでいた由女が、吃驚したように身を跳ねさせた。
「?」
 悪司がそれを怪訝そうに見る、すると、
「不味いか?」
 殺が、いつものように睨むような視線を悪司に向けて、素っ気無い口調
で聞き返した。
「うーん、不味いっちゅうか……なんかなじみのねぇ味だと……味噌汁の
具もなんかいびつだし……」
「ままま、不味いなら無理して食べない方がいいですよ、悪司さん」
 悪司の応えに、横から由女が慌てたような口調で割って入ってきた。
「あ、いや、無理するってほど不味いわけじゃねーけどよ」
 由女の言動に少し焦りながら、悪司が言い返す。
「なら、余計な事を言わずに黙って食わんか」
 殺はわずかに声を低くして、愛想のない表情を多少、険しくして言う。
「? なんだよさっちゃん、そんなに気に触ったか? それとも、どこか
体調でも悪いとか?」
 悪司は殺を気づかうように言った。
 にもかかわらず、殺は間髪入れず、突然憤りを露にしてガンっ、とちゃ
ぶ台を両手で叩いた。
「ええいっ! この愚か者が! 無駄口を叩く暇があったらさっさと飯を食
ってしまわんか!!」
「??」
 殺の突然の怒鳴り声に、悪司も、その隣にいた島本も目を円くする。
469悪司の厄日 2/7 ◆kd.2f.1cKc :03/05/29 02:29 ID:XW32bd0q
「あ、あの、殺さん、そこまで言わなくても……」
 恐る恐る、と言った感じで、申し訳なさそうに由女が殺に向かって言う。
しかし殺は、不快感を露にしたまま、
「このようなうつけを庇う必要はない…………あ、いや、スマン。言葉が
過ぎた」
 いつものように自分の甥を怒鳴り付けている気で強気に言いかけ、ハッ
としたように、慌てて自分の発言をただした。
「どう言う事だよ……」
 と、聞き返そうとする悪司を、殺がキッ、と鋭く睨み返す。
「……わかったわかった、黙って食えばいいんだろ、食えば……」
 殺に睨まれ、毒気を抜かれたように、半ばヤケ気味に言い放って悪司は
食をすすめる。
 その隣で、島本がふぅ、とため息をついた。
470悪司の厄日 3/7 ◆kd.2f.1cKc :03/05/29 02:37 ID:XW32bd0q
「お茶が入りましたわよ」
 寧々の手から、ことん、とテーブル、ではなく、事務机の上に湯呑みが
置かれる。
 組事務所の事務室。悪司はパイプ椅子に大股開き、手ブラ状態でだらし
なく腰掛けている。
「おう、さんきゅ」
 悪司は寧々にそう言ってから、けだるそうにぐちぐちと言いはじめる。
「しかしさっちゃん、なんだってのかな〜、急に絡んできて」
「若、思ったんですが……今日の夕食、殺様がおつくりになったのではな
いのではないでしょうか?」
 事務椅子に腰掛けた島本が、眼鏡の下で仏頂面のままそう言った。
「んー、しかし夕子さんは市議会にいずっぱりだし、他に誰がつくるんだ
よ?」
 やる気なさそうに悪司は聞き返す。
「奥様ではないかと」
「あー」
 あっさりと、しかしはっきりと言った島本の言葉に、悪司は最初、適当
な相づちをうったが、
「…………」
 きっかり5秒後。
「な、なにーっ!?」
 と、素頓狂な声を出して、驚愕の表情で島本の方を向く。
「ちょ、ちょっと待って。あの子、包丁なんてろくに持った事ないわよ?」
 寧々も慌てたような口調でそう言った。
「むしろそうだとしたら、あの具材のいびつな形も理解できます」
「そ、そりゃまぁ……」
 気まずそうな表情で、悪司はぽりぽりと頬をかいた。
「けど、それならそうと言ってくれればよ……」
「あの子思い込んだら一途ですものね」
471悪司の厄日 4/7 ◆kd.2f.1cKc :03/05/29 02:37 ID:XW32bd0q
 言い訳しようとする悪司に、すかさず寧々が追撃をかけた。
「きっと悪司さんを喜ばせようと思って、必死に……」
「う……」
 よよよ、と言った感じで俯きがちに言う寧々に、悪司は言葉に詰まる。
「ええい、くそっ」
 不機嫌そうに言いながら、悪司は焦ったように奥に入っていった。
「流石だね、とっさのところで」
「伊達に場数は踏んでないわよ。それに、半分くらいは本気だったしね」
 寧々の応えに、島本は愉快そうに苦笑した。
「しかしまぁ、お互い手のかかる人を上に持ってしまいましたね」
472悪司の厄日 5/7 ◆kd.2f.1cKc :03/05/29 02:37 ID:XW32bd0q
「しかし我が甥とは言えあそこまでうつけだとは思わなかったな」
 呆れたような笑みを浮かべながら、パジャマ姿の殺が勉強机に頬杖を突
いた。
 殺の自室。由女は床に直接、正座している。
「親父殿の孫とは思えん……いや、むしろらしいと言うべきか」
「もうちょっと上手に作れるようになってから出せばよかったですね……」
 由女はしょげ返るように俯いている。
「そんな事はあるまい」
 殺は即座に否定した。
「見てくれはともかく、味の方は充分合格だ。私が保証する」
「そうでしょうか……?」
 困ったように、俯いたまま上目遣いで殺を見上げる由女。
「おう、だからあまり気にするな」
 そう言って殺はため息をついた。
「はい……」
 しかし由女は、落ち込んだ様子のまま小さく返事をした。
「今日はもう遅い、そろそろ休んだ方がいいな」
「はい、そうします」
 殺が言うと、由女は力なく言って立ち上がり、
「失礼します」
 と言って、部屋を出ていった。
「あの馬鹿もんが、あとで直接的に制裁してやらんといかんな」
 恐ろしげな言葉を発しながら殺は困ったような表情で、頬杖を突いたま
ま、由女の出ていったドアを見ていた。
473悪司の厄日 6/7 ◆kd.2f.1cKc :03/05/29 02:43 ID:XW32bd0q
 バタン。
 照明が突いておらず、暗い廊下に出て、由女は後ろ手に殺の部屋の扉を
閉める。
 そして、寝室へ向かおうとした時。
「あ……」
「よ、よう……」
 正面に、気まずそうに苦笑した悪司がいた。
「あー……なんつーか……今日の晩飯、お前がつくったんだって?」
 由女の顔を直視できず、上向きの視線のまま切り出す悪司。
「……っ! す、すいません、あんな変なもの食べさせてしまって……!」
「あ、いや、そんな事なかったぞ」
 慌てたように悪司は由女を見て、その言葉を否定する。
「いや、なんだ……さっちゃんの味付けとは違うからあんな事言っちまっ
たわけで……別に、フツーに旨かったからな」
「そ、そうですか?」
 まだ不安そうな表情を上げて、由女は悪司を見る。
「お、おう……け、けどよ。何だって急に飯なんかつくったりしてたんだ
?」
 真剣な表情になって、悪司は由女に尋ねる。
 すると、由女は困ったような表情で、また、俯いてしまった。
「え……だって、情けないじゃないですか、せっかく、こんな私と結婚…
…していただいたのに、私、お嫁さんらしいこと1つもできなくて」
 由女の言葉に、悪司はわずかの間惚けたようにじっと視線を送ってから、
おもむろに手をあげると、わしゃわしゃと乱暴に由女の頭を撫でた。
「はぅ!?」
 突然の悪司の行動に、由女は目を円くして顔を上げる。
「わりぃ、まさかそんな事で思いつめてるとは思ってなかったわ」
 申し訳なさそうに言ってから、悪司は由女の小さい身体を“お姫さまだ
っこ”する。
474悪司の厄日 7/7 ◆kd.2f.1cKc :03/05/29 02:43 ID:XW32bd0q
「ひゃう!」
「けどよ、そう言う事だったら、俺にも相談してくれよな」
「え、で、でも……」
 由女は顔を真っ赤にして、困ったような表情をする。
「夫婦なんだろ、俺達……」
「あ、悪司さん……」
 すっと、由女は悪司を見上げる。
「ありがとうございます、それと……ごめんなさい」
「俺の方こそ……すまなかったな」
 そうお互いに謝りあって、そして悪司が顔を近付けていくのを由女が受
け入れるように軽く目を閉じる。
 ちゅっ
 唇が触れあった、次の瞬間。
 バンッ!
「ええいっ、夜遅くに人の部屋の前で! いい加減にしろ!」
 唐突にドアが開き、中から怒りの形相の殺が現れた。
「うわ、さ、さっちゃん……」
「さ、殺さん……」
 “お姫さまだっこ”の姿勢のまま、慌てた表情になる悪司と由女。
「いちゃつくなら自分達の部屋でやらんか!」
「へ、へいへいっ」
 殺の余りの勢いに、言い返す言葉もなく、悪司は由女を抱えたまま自室
へ走り去っていった。
「まったく……」
 呆れたように腕を組む殺。
「雨降って地固まりよるか、あの2人は。バカップルは処置なしだな」
475名無しさん@初回限定:03/05/29 02:50 ID:PI7dRR4w
(*´Д`)
476名無しさん@初回限定:03/05/29 18:28 ID:0PC70ooF
(*´ー`*)
477名無しさん@初回限定:03/05/29 19:48 ID:YhkMSBO9
グジョーヴッ ⊂⌒〜⊃。Д。)⊃
478 ◆kd.2f.1cKc :03/05/30 00:23 ID:Yul5I0E0
っつーか自分でも書いてて思ったんだが、

このSSで由女よりもさっちゃんや寧々に萌えた人、
正直に手ぇ上げて……(汗)
479名無しさん@通常版中古落ち:03/05/30 01:24 ID:06/UJHJ6
さっちん萌へ。でも由女も良いのでぐじょぶッ!

ああ・・・俺もこの萌へをエンネアに捧げたひ。
こんな事言うから友人から「渇かず飢えず無に帰れ」って言われるんだろな。
480あぼーん:あぼーん
あぼーん
481名無しさん@初回限定:03/05/30 07:00 ID:sOwTwUHm
家族計画SSこんぺ、わりと投稿少な気味みたい。
まだ投稿受け付け期間中みたいなんで、家計SS書きでその気のある人がいたら。
ttp://fml.cside.to/plans/
482名無しさん@初回限定:03/05/31 02:40 ID:Sl8H4qKG
>>479
さっちん違う。さっちゃんだ。
どこぞのできたて吸血鬼と混同しないでいただきたい。
483名無しさん@初回限定:03/05/31 12:01 ID:S3O+/EFb
>>482
うーむ、奥が深い。
484名無しさん@初回限定:03/05/31 12:24 ID:+PE6eVoG
漏れはしばらく殺(や)っちんと読んでたがな。
485空ラ塗布:03/05/31 23:31 ID:kpJm+8Eb
デモンベインの不条理バカSSを投下します。
ボカしていますが、ややネタバレなので未プレーの方はご注意を。
486名無しさん@初回限定:03/05/31 23:31 ID:8a/lvyg6
>>484
そんな、オヤジメガネを額にかけて「メガネメガネ」と探すような子は
わたしの叔母さんじゃありません。
487嗤う導魔衛門 1/17:03/05/31 23:32 ID:kpJm+8Eb
「ふふふ、わたし、エセルえもーん」

 空白。
 視界が白く染まっていき、脳内の時間が停止した。
 カチリ、コチリ。秒針が時を刻む音がやけに大きく響く。
 ……新しい酸素が巡ってくるにつれ、視界は色を取り戻した。
「ナ、ナコト写本!? お主、何を言っておるのじゃ!?」
「えーと、どう反応していいんだか分からないんだけど」
 うららかな午後の事務所。エセルドレーダはノックもせずに扉を開け室内に入って
くるや、開口一番に意味不明なセリフを吐いた。
 すわマスターテリオンの謀略か、と意気込んで立ち上がった俺とアルの腰が砕け、
思い切り脱力感を味わう羽目となった。
 へなへなと腰を下ろしつつ、俺はエセルドレーダに尋ねた。
「……で、何の用なんだ」
「わたしは真実に気づいてしまったのよ」
 なあ、これって会話になってないよな?
 頭痛に悩まされながら、辛抱強く重ねて尋ねる。
「で、何の用なんだ」
「すべては邪神の企てたことだったのよ」
 えーと、それは知ってるけど……
 輝くトラ(中略)したことにより、俺たちはアーカム・シティでの平穏な
日々を取り戻した……はずだったんだが。
「あのことならもう終わったろうが」
 アルが素っ気なく言い返す。
「違うわ。あれは終わりじゃなくてむしろ始まりだったのよ」
 自信たっぷりにエセルドレーダは断言した。
488嗤う導魔衛門 2/17:03/05/31 23:34 ID:kpJm+8Eb
「何が言いたいのじゃ、ナコト写本。はっきり言うがよい」
「つまりね、わたしは知ってしまったの。……わたしが魔導書ではないことを」
「へっ?」
「はぁ?」
 意味の取れない言葉。
 栓を開けっ放しにしたコーラのごとく、気の抜けた返事をするアルと俺。
「今さら何をぬかすか。お主はバリバリの魔導書であろうが」
「それが邪神の謀略だったってわけよ」
「わけよ、って……」
「幾度もの永劫をマスターとともに生き抜いたわたしでさえ、今の今まで気づけなかった。
 実に巧妙に仕組まれた罠。あなたたちが知らなくてもおかしくはないわ」
 なんだか俺たちを置き去りにして、エセルドレーダの話は前へ前へ進んでいく。
「で、お前が魔導書じゃないってんなら、いったい何だって言うんだ? 実は人間だったとか?」
「真逆! どこの世に五千年も生きる人間がいるというのだ!」
「ええ、そう。わたしは人間ではないわ」
 勢い込んで反論したアルの言葉に、あっさりと同調するエセルドレーダ。
 毒気を抜かれたのか、アルは黙って腰を下ろした。
「ふん、じゃあなんだと申すのだ、ナコト写本。阿呆の戯れ言はあまり聞きたくないが、
 聞いてやろうではないか。さっさと申せ」
「ヒトを阿呆とは酷いことを言うわね。それにその尊大な態度。ここまで育ちが悪かったなんて」
「ほっとけ! それにお主はヒトじゃなかろうが!」
「そうね」
 さっくり頷く。
「ふう、なんだか疲れてきよったわ……」
 心なしか、アルの身体がぐったりとしているように見える。
 それを横目に、俺は訊いた。
「で、もう一度聞くけど、魔導書じゃないってんなら、いったい何なんだよ」
「ロボット」
489嗤う導魔衛門 3/17:03/05/31 23:34 ID:kpJm+8Eb
 即答。
 ふたたび視界が白く染まっ
「阿呆かお主は!」
 ていくのをアルの叫びが遮った。
「ロ、ロボットだぁ?」
 唐突すぎてわけが分からない。
「ええい、紙魚でも湧いたのか!」
 どんっ
 テーブルに踵落としを食らわせながら、アルが吐き棄てる。
「どうでもいいけどアル、足を乗せないでくれ」
「はん!」
 魔導書が黙殺。
「いいえ、わたしはまったくもって正気よ。正気でもって気づいたの。
 自分が、人よりつくられし存在……ロボットであることに」
 言って、笑みを浮かべる。
 柔らかく、温かみのある笑顔で、とても今までのエセルドレーダと同一のモノとは思えない。
 さながら悪夢を見るような面持ちで、「へええ」と気の抜けた返事をしてしまった。
 アルの方はというと、返事もしたくないのか紅茶を啜っている。
 視線もエセルドレーダから外し、遠くを見ていた。足は依然テーブルに乗せたままだ。
「実はね、一冊の書物を読んだの」
「書物?」
 本が本を読むというのもおかしな話だな。
「書物とな? いったい何を読んでそのような妄念に駆られたのやら」
 視線をエセルドレーダに戻しつつ、アルが尋ねた。
「これ」
 即座にエセルドレーダが本を差し出した。
 それは。
490嗤う導魔衛門 4/17:03/05/31 23:37 ID:kpJm+8Eb
 青。
 蒼。
 藍。
 アオく、ずんぐりと丸みを帯びたマヌケ面のキャラクターが、白い球体状の手をアッパーカットの
ように突き上げ、怪異なる微笑みを浮かべてカバーの大部分を飾っている。傍らでは眼鏡をかけた
情けない雰囲気の少年が吸盤のついた小さなプロペラを頭に乗せてふらりと飛んでいる。
 上部には「てんと○虫コミッ○ス」とあり、その下にデカデカと本のタイトルが記されていた。
 これって……
「『ドラ○もん』じゃねぇか!」
 日本では国民的なマンガとして有名な一作。知名度が高いおかげでパクリネタをかましても
大抵通用するので、汎用性の高い作品ではあるが、版権の問題からいささか扱いが難しいこと
でもよく知られている。
「これを読んで、自分がロボットだと?」
「イエス。わたしは22世紀からやってきたゴス型美少女ロボット・エセルえもんだったの」
 ゴス型って。しかも自分で美少女とか言ってるし。
「遂に紙が腐り始めたか……」
 同類ゆえか、アルの言葉には非常に強い憐憫が篭っていた。
 それにしてもテーブルに乗せた足はいつどかすのか。
「わたしがなんでも出来たのは魔術ではなくて秘密道具のおかげだったの。考えてみれば魔術は
 いろいろと制約が多いし、ああまでうまくやれるのは不自然だったのよ」
 物凄い牽強付会だなオイ。不自然なことをこなすからこそド凄い魔導書なんだろうが。
「しかし、『ドラ○もん』ってんなら四次元ポケットはどうなるんだ?」
「………」
 気のせいか、エセルドレーダは見下すような(実際には身長の関係で見上げているのだが)目で
俺を見ていた。周りの空気までも、軽蔑を孕んだように冷ややかなものとなっていた。
「……卑猥」
 ぽつっ、と呟いた。
「え?」
 聞き返すや否や、ぷいっ、と横を向く。
 卑猥って……。
491嗤う導魔衛門 5/17:03/05/31 23:38 ID:kpJm+8Eb
「……だああああ、そういうことか、そういうことかよ!」
 納得した。納得したが、それは違うだろうが!
「マスターのあれだけの大きさのモノを易々と飲み込めるのは前々から妙とは思っていた。
 でも、わたしに四次元ポケットが付いていたのだと考えれば、説明はつくわ」
「あんまりついている気がしません、はい」
「こ、こらー! お、お主はなんてことを言うのじゃ!」
 遅れてエセルドレーダの言ってる意味が分かったアルは真っ赤になって怒鳴った。
 ようやく足をテーブルから下し、憤然と立ち上がる。
「慎みがないにもほどがあろうぞ!」
 アルは片頬を歪めて腕を組むや、のんびりと紅茶を啜るエセルドレーダを糾弾する。
 いや、っていうかいつの間に茶が? 用意した覚えはねぇぞ。
「じゃあ、聞くけどアル・アジフ。あなたは少しも疑問に思わなかったの?」
 ことり、とティーカップを置いた。
「はぁ!?」
 赤くなりながらも、はっきりと疑問の声をあげるアル。
「あなたも大十字九郎を易々と受け入れることができたのでしょう?」
「………!」
 もはや言葉を失ったのか、頬を紅潮させたままアルはぱくぱくと口を開けたり閉じたりした。
 いや、あれはどう考えたって「易々と」と形容できるようなもんじゃなかったぞ。
 というツッコミを入れるのも気恥ずかしくて黙っていたら調子付いたのか、エセルドレーダは
席を立って歩み寄り、ぐぐっ、とアルに顔を近づけた。
「ふの!?」
 思わずのけぞってしまうアルに向かってなおも言葉を重ねる。
「おかしいでしょう? わたしとあなたみたいに小柄な体躯の者が、マスターや大十字九郎のように
ひと回りやふた回りは大きい人のモノを、余すところなく、悠々と、咥え込めるだなんて」
「はいはい、そこ、いい加減に猥談はやめような」
 それに、「余すところなく」って、無茶苦茶余っていた気が……。
「……確かに」
 ああ、そうだよな、アル。って。
 え?
492嗤う導魔衛門 6/17:03/05/31 23:39 ID:kpJm+8Eb
「確かに、変だ」
「だあああああああ!? あっさり詭弁じみた口車に乗せられてる!?」
 そんなバカな!
 お前は仮にも外道の叡智をてんこ盛りした魔導書だろうが、訪問販売員や
実演販売員以下の安っちいコトバ・マジックに引っ掛かんなよ!
「おいアル! なに巫山戯た話をまともに聞いてんだ! 気を確かに持て!
 このままだとおまけでもう一本付いてくる高枝切りバサミを売りつけられるぞ!」
「アル・アジフ。確かに真実を知ることには様々な痛みやショックを伴うわ。
 高枝切りバサミや布団圧縮パックや怪しい牛皮七点セットをついうっかり買って
 しまうどころの話ではないわね、クーリング・オフも利かないし。
 でもね、あなたは仮にも『最強』を謳っているのでしょう? それを反故するの?
 ダンボール箱に詰められた仔猫みたいに怯えていてはダメ。ダメダメよ。
 あなたはアブドゥル・アルハザードの意志を継ぎ、正しく真実に気づかねばならない」
 エセルドレーダの笑みは懐柔するように甘かった。
 反対に俺の気持ちは苦かった。
「耳を傾けるな。どうせマスターテリオンが仕掛けたくだらん悪戯だっての」
「九郎……」
 アルの弱々しい瞳がこちらを向く。
 燃えるように赤かった顔は、もはや蒼白に変わっていた。
「大十字九郎の言葉を信じてばかりでいいのかしら? 何もかもについておんぶにだっこなんて、
 そんな姿勢で『最強』を謳えるの? 主に拠りかかる生き方が、あなたにとっての幸せなの?」
「アル!」
「妾は……」
「両の目をしっかり開けなさい。見ていたい夢は閉ざしなさい。あなたが見るのは真実だけでいい」
「妾は、妾は、妾は……」
「しっかりするんだアル!」
 強く肩を揺さぶるが、俺の声は届いていない様子だった。
 アル? どうしちまったんだよ、おい! こんなバカバカしい冗談を真に受けているのか?
「アル、アル!」
「あなたは魔を断つことができても、真実まではどうすることもできない」
 勝ち誇るような笑みがエセルドレーダを飾った。
 アルがゆっくりと口を開く。
493嗤う導魔衛門 7/17:03/05/31 23:41 ID:kpJm+8Eb
「妾は……ロボット?」
「そうよ」
「妾は、ロボット……」
「ええ」
「妾はロボット」
「イエス」
「妾はロボット!」
 らわろぼっと、ろぼっと、ぼっと……
 叫んだ。
 響いた。
 谺した。
 俯けていた顔を上げる。ぶわっ、と髪が跳ねる。
 まるですべての迷いを吹っ切ったかのような晴れ晴れしさが、そこにあった。
「はっ!」
 跳躍んだ。
 ズパッ
 風切り音を立ててトンボ返り。難なく着地してポーズを取り、朗々とした声で見栄を切る。
「妾こそは未来の天才科学者、アブドゥル・アルハザードがつくりしヒトガタ!
 千年の永きに耐え、遂には最強の領域にまで達した美少女ロボット!
 どんな夢でも叶えてみせる無敵で素敵で知的に外道なマシーネン!
 デウス・マキナと同じ刃金の身体と鋼鉄の精神を持つモノなり!」
「ようこそ、すばらしき新世界へ、アルえもん。でも最後の『ナリ』は余計よ、コ○助とかぶるから」
「ああ、清々しい気分じゃ。これが、これこそが『すべてを知る』ということか」
「イエス、同志。あなたは今こそ真実に辿り着いたのです。コングラッチュレーション」
 へー、そう、ふーん。
 なんだか、ひどく無関心な自分がいた。
「わたしがゴス型ならば、あなたは白ゴス型」
「ナコト写本……」
 アルの唇をエセルドレーダの指がそっ、と押さえて、言葉を遮った。
「水臭い呼び方をしないで。わたしの名前はナコトえもん」
「ナコトえもん……」
 ああん? さっきまでエセルえもんとか言ってなかったか?
494嗤う導魔衛門 8/17:03/05/31 23:42 ID:kpJm+8Eb
「わたしとあなたは科学の子、人類の叡智の結晶。十万馬力や百万馬力は当り前、蒸気機関が湯気を噴き、
 灼熱の動力炉が轟々と猛るように唸りを上げる。混沌の代わりにナノ・マシーンが這い回り、
 ほとんど生物の領域に達し、やがては超える。向かうところ敵なし、正に天下無敵の金属体よ」
「ナ、ナコトえもん、ひょっとして『カタカタ、ピー。計算結果ガ出マシタ』とか言って細い穴開きの紙を
 出したりすることもできるのか? 妾はあれがいっぺんやってみたくて」
「簡単よ、そういうステロ・タイプでロースペックげなマシーンの真似ならすぐにでもできるわ。
 コツはカタカナで喋ること。でもあまり長いと読みにくいから短めに、漢字も交えて。
 それと、今まで魔導書のページを出すのと同じ要領でパンチを入れた紙も出せば、ホラ、コノ通リ」
 言いつつ、エセルドレーダの指先から「細い穴開きの紙」とやらが出てきた。
 カタカタカタ、ピー。
 御丁寧に効果音付きだ。
「おっ、おおっ、おー!」
 子供のように浮かれ、はしゃぐアル。
 よかったな、アル。
 投げ遣りに思いやってみる。
「家事手伝いにはいささか不安が残るところだけど、夜伽をさせたら適うものなどないわ。
 生命の限界もなんのその、エレクトリカルな刺激で何度でも萎えた穂軸を甦らせて
 夜の二十四時間耐久マラソンを走り続けるのよ。ゴールなんてないわ」
 うわあい、それはたのしみだなあ(棒読み)。
 もういい、お前らは好きに戯れていろ、俺はダンセイニと遊んでいるから。
「なあ?」
「てけり・り」
 うねうねと黄土色のゼリー塊が震える。これはきっと肯定の証だろう。
 さて、どんな遊びをしようか……。
495嗤う導魔衛門 9/17:03/05/31 23:43 ID:kpJm+8Eb
「ちょぉぉぉぉっと待つのであーる!」
 ギャイーン
 開け放したドアからギターの音が響いてきた。
 あーあ、よりにもよってイヤな奴が混ざりにきやがった。
「この、超、大、天、才! ドクタァァァァァァァァァウェェェェスト!
 を差し置いてロボ談義とは実に寂しいではないか。お邪魔しにきたのである」
 入口のドアをトントンと叩き、叫ぶ。
「九ー郎ちゃんっ、あーそーぼっ!」
「でえええい! 普通に喋ってても聞こえるから大声出すな!
 つーかお邪魔すな! 本当に邪魔だ! 帰れ、顔面崩壊サイエンティスト!」
「おおう、なんだか誉めてるんだか貶してるんだかな言葉で歓迎ありがとうHAHAHA!」
「貶してしかいねぇ。当方に■■■■をもてなす用意なし! いいから、渇かず飢えず
 さっさと警官どものとこ行ってエルロイも真っ青な手厚い歓迎を受けてきやがれ」
「残念ながらこのドクター・ウェスト、マゾの気はないのである。ポリースに手錠と警棒で
 責められて『畜生、いつか必ずロック・ユー!』と悦に入る趣味はナッスィング。
 ただ単にアイダホの大地で鍛えられたこの身体が打たれ強いだけである」
 知るか。
「五月蝿い■■■■じゃな、ナコトえもん」
「まったくとんだ■■■■だわ、アルえもん」
 なんだか息が合ってるな、お前ら。
「ふん、この世界でロボットを語るからには欠かしてはいけないものがあるのであーる!
 それこそ、この大天才たる我輩の血と汗と涙と尿の結晶、全知全能を傾けた集大成!
 愛しき強き荒々しき戦いの女神、闘神の娘、その名も高き……エルザァァァァァァ!」
 ギャリギャリギャリギャイーン
 ■■■■がギターを掻き鳴らす。
 そして。
496嗤う導魔衛門 10/17:03/05/31 23:44 ID:kpJm+8Eb
「博士うるさいロボ」
 げし
 入口に留まっていたドクター・ウェストを、一本の足が蹴り倒した。
「おぅち!」
 びたん、と地面に這いつくばったドクター・ウェストを踏みつけ、一つの影がズカズカと室内に侵入してきた。
 ドクター・ウェストが生み出した奇蹟、「ロボット三原則」のアシモフも草葉の陰で泣くアンドロイド。
 エルザ。
 いつも通り、トンファーを手にしていた。くるくる回して弄んでいる。
「ダーリンどこロボ?」
 きょろきょろ。右手で庇をつくって部屋中を見回した。
「ぬぁぁぁぁぁぁ!? 踏んでる、エルザが踏んでる! この、生みの親である我輩を!
 反抗期か!? いかん、いかんぞエルザ、孝行心の大切さについては昔、孔子という奴が……」
「博士だまってるロボ」
 ドヅッ
 バカデカい棺桶が五月蝿い■■■■を沈黙させた。
「さてロボ」
 なんにでもロボをつけんと気がすまんのか。
「ダーリン、久しぶりロボ。元気してたロボ?」
「ダーリンはよせ、それに久しぶりって三日前に会っただろうが」
 路上でドクター・ウェストと鉢合わせになって、ボコボコにした際に。
「言葉の綾ロボ。細かいこといちいち気にしてたら大きくなれないロボ」
「俺はもう充分に成長してるっつーの」
 天国の父さん、母さん、丈夫に生んでくれてありがとう。
 と、今は亡き両親に感謝を捧げることで現実逃避を図ったが、果たせなかった。
「ところで博士はああいったけど、さすがにエルザは尿が結晶化してなんてないロボ」
「え? ああ、すまん、あいつのセリフはデフォで聞き流す仕様になってるんだ」
「万が一、ダーリンにスカトロ趣味があったらどうしようかと思ったロボ」
「ねぇ、そんな趣味はねぇ!」
 嘘っぽく聞こえるかもしれないが、一応強く主張しておいた。
497嗤う導魔衛門 11/17:03/05/31 23:46 ID:kpJm+8Eb
「これ、そこのクズ人形、何しに来よったのじゃ」
 険を込めた声色で尋ねるアル。自分がロボットだと思い込んでるせいか、エルザに変な
敵愾心を抱いているようだった。
「ふぅぅ〜ロボ」
 溜め息にも語尾がいるのか、お前は。
「クズはどっちロボ。『秘密道具』とか『四次元ポケット』だなんてありもしないものを
 信じるなんて度し難いロボ。よっぽど頭の中身がスクラップになってるロボ」
「な、に……!」
「………!」
 部屋の隅から隅までに闘気が張り詰めた。じりじりと焦げるような緊張感が漂う。
 えーと、俺、そろそろ逃げた方がいいかな?
 迷っている隙にエルザが言葉を続けた。
「『ドラ○もん』なんて所詮は弱者の思想に過ぎないロボ。科学の道を舐めてるロボ。
 科学はもっと地道でもっと延々としてもっと厭々としたもんロボ。何十年もの研究が一瞬にして
 白紙になりかねない、そんな殺伐としたムードがいいんロボ。
 『ドラ○もん』如きに目を輝かせる女子供はすっこんでるロボ」
「言わせておけば……!」
「秘密道具の制裁を受けるがいいわ、エルザえもん」
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
 書き文字じみたプレッシャーが部屋を包んだ。
「変な名前で呼ぶなロボ。お前たちにはしっかりロボットのなんたるかを叩き込んでやるロボ。
 授業料はダーリンに支払ってもらうロボ」
「お、俺が!?」
「主に身体で払ってもらうロボ。ぽっ」
「『ぽっ』じゃねぇ! つか、『主に』ってことは他にも何か払わせる気かよ!」
「そのへんについては契約書の隅にちっこく書いとくロボ」
 うわあ、詐欺臭ぇ。
「さておきそっちのバカどもは覚悟するがいいロボ。……『我、埋葬にあたわず』」
 いきなりぶっ放した。
498嗤う導魔衛門 12/17:03/05/31 23:49 ID:kpJm+8Eb
 緑のレーザー光線がアルとエセルドレーダのふたりに襲い掛かる!
「はん!」
「ふふ」
 キィィィン
 ふたりはそれぞれ片手を掲げ、余裕で魔術障壁を張った。
「秘密道具が一、」
「ひらりマ○ト」
 なぜか交互に喋る。
 レーザーは障壁に沿って逸れ、窓ガラスを突き破ってお外へ抜けた。
 砕け散るガラス。光り輝くレーザー。広々とした青い大空。
「わああ、キレイ……虹みたい、って、んなわけあるかぁぁぁ! お前ら、俺の
 事務所を破壊するんじゃねぇぇぇ!」
「今度はこっちの番よ」
「来るロボ!?」
 連中は悲しくなるくらいこっちの話を聞いてなかった。
「秘密道具が二、」
「空○砲」
 アルとエセルドレーダが手と手を重ねる。
「「どかん」」
 斉唱するや、ふたりの手に圧縮された空気が集結し──
 ばぼうッ
 砲弾と化した大気がエルザに襲い掛かった!
「ちぇすとーロボ!」
 咄嗟にエルザは近くのものを盾にした。転がっていたドクター・ウェストだった。
 着弾。
「けばぶっ!」
 奇怪な悲鳴を挙げて吹っ飛ぶドクター・ウェストの下を匍匐するような低い姿勢で
潜り抜け、エルザはアルとエセルドレーダのふたりに肉迫した。
 ひゅんひゅん
 両手のトンファーが唸る。曲線的な軌道を描き、宙に読めない文字を刻む。
「ほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらーロボ!」
499嗤う導魔衛門 13/17:03/05/31 23:51 ID:kpJm+8Eb
「くっ!」
「たぁぁ!」
 げいんげいんげいんげいんげいんっ
 エルザの猛攻にシールドを展開して凌ぐふたりだが、徐々に押されて後退する。
「ここは……」
「二手に分かれるぞ!」
 叫んで、ふたりは左右別々の方向に散った。
 どっちを追うべきか、エルザは一瞬迷ったようだが、跳躍が控え目だったアルの
方に迫った。トンファーを振り下ろす。
「めぇぇぇんロボ!」
「けやぁ!」
 キシィン
 両手にシールドを張りつつ、アルは真剣白羽取りの要領でトンファーを挟んで掴んだ。
「甘いロボ」
 カチッ
 トリガーを引いた。途端にバチバチッ、と白光が生じる。
 確か電気ショックだったか、あれ?
「くああ!」
 シールドで防ぎきれなかったのか、両手をトンファーから放し、よろめいて尻餅をつくアル。
「もらったロボ」
 すっ
 トンファーを頭上の高くにピンと掲げ、
「ふしゅっ、ロボ!」
 一気に振り下ろすエルザ。
 スイカ割りでもするように、一切の容赦なくアルの脳天目掛け……ってさすがにこれはやばくねぇ?
「アル!」
 叫んで止めに入ろうとした俺を、横にいた影が静止した。
「手出しは無用よ、大十字九郎。それにあの娘はもうアル・アジフではなく、アルえもん」
「え? は? お、お前、いつの間に!?」
500嗤う導魔衛門 14/17:03/05/31 23:52 ID:kpJm+8Eb
 俺の質問を無視してエセルドレーダは魔術を唱え、見えない衝撃をエルザに叩きつけた。
「かふっ!」
 アルの脳天に一撃を加えようとしていたエルザが吹っ飛び、壁に向かって行く。
叩き付けられる直前にくるっ、と膝を抱え込むように丸まった。
 とんっ
 壁を蹴り、エセルドレーダの方へ、つまり──俺の方へ宙を疾走してくる。
「いつの間に背後を取ってたロボ? 視界には入らなかったロボ」
 俺と同じような質問。今度はエセルドレーダもちゃんと返答した。
「秘密道具が三、」
「と、通りぬけフー○」
 よろよろと覚束ない足取りで立ち上がりながら後を継ぐアル。
「……って、単に床ぶち抜いて階下を移動してこっち来ただけじゃねぇか!」
 床に空いた大穴を見つけて頭を抱えた俺は、思わず説明的な口調で叫んでしまうのだった。
「とにかく喰らえロボ」
 エセルドレーダの首筋にトンファーの先端を送り込む。
 慌てず騒がず、エセルドレーダは俺の襟をむんずと掴み、
 え?
 ぶんっ
 全身を覆う浮遊感。
 重力の支配を強制的に外された俺は、元気良く空中を飛んでいた。
 まっすぐ、エルザに向かって。
「ダーリン、何するロボ!?」
 いや俺の意志じゃねぇって。
「秘技、人間ロケット」
 ポツリ
 エセルドレーダが呟いた……ってもう全然秘密道具関係ねぇだろこれ!
『あぶないぞ! 飛行物体、急には止まれない』
 なんだか変な標語がふっと浮かんでは消えた。
 俺とエルザはお互い、どうすることもできず、そのまま──ぶつかるしかなかった。
 ブチュウウウ
 怪異なる衝突音、というかこれは……。
501嗤う導魔衛門 15/17:03/05/31 23:53 ID:kpJm+8Eb
 唇を覆う柔らかい感触、触れるのは鋼の冷たさではなく、意外にも肉の温かさであった。
 唇と唇が、重なり合っていた。
 無論、俺とエルザの。
 エルザの目が見開かれ、その瞳にぎょっとした表情の俺が映り込む。
 時間の流れがとてもゆったりと引き伸ばされて行った。
 ぶつかっただけでは飽き足らず、更に余ったエネルギーがぐいぐいと俺とエルザの頭を
押し込み、えぐるようなキスを強要する。その一瞬一瞬が、確かに知覚される。
 やがて唇との接触が痛いくらいになったころ、身体の他の部位も衝突を開始した。
 肩と肩、胸と胸、腰と腰、脚と脚……二枚の紙をぴったり重ね合わせるようにぶつかり、
それでもなお余ったエネルギーがモーメントを生んで……俺たちはもつれ合うように
絡まって落下した。
 ドンッ
 衝撃で息が詰まり、目の前に星が回った。
「う〜、ててて」
 ゆっくりと戻っていく視界に、エルザの姿が映った。
 俺を組み敷くように馬乗りしていた。
「………」
 呆然と、唇を指で撫でている。目は見開いたままだ。
「………」
 つられて俺も黙り込む。静寂が耳に痛かった。
「……た、ロボ」
「え?」
「ダーリンにキスされたロボ」
「え? は? いや、待て待て待て」
 今のはどう考えたって純然たる事故だろーが。俺の作為なんて一片だに介在する余地は
ありませんでしたよ? そりゃあ、まあ確かに、
「柔らかかったな……」
 とは思ったが。
 あれ?
 今、俺、言葉に出して……?
502嗤う導魔衛門 16/17:03/05/31 23:54 ID:kpJm+8Eb
「ダーリン……」
「いや、待て! 熱い吐息を出すな! 握り拳を口元に寄せてふるふるさせるな!
 涙目になって俺を見るなぁぁぁぁ!」
 言われてそっ、と視線を外すエルザ。
 いや、なんとか冷静になってくれたのか。
 と楽観的な見方をして胸を撫で下ろすのも束の間。
 すっ……
 滑るように飛来したエルザの手が、俺の手を握った。
「もう、離さないロボ……」
 ぎゅっ
「いでででででで! ち、力込めまくってんじゃねぇよ!」
「このままお持ち帰りさせてもらうロボ」
 ぐいっ、と引っ張られて股の間から抜け出した俺は、そのまま脇に抱えられた。
抵抗の余地は一切なし。流れるような一連の動作であった。
 すっくと立ち上がり、立ち竦むアルとエセルドレーダを無視してエルザは部屋の
戸口へすたすたと歩いて行く。
「おいおい、俺は弁当じゃねぇっての! テイク・アウトするなって!」
 じたばた暴れるが、エルザの膂力は並大抵ではなく、ちっとも逃れることができない。
「はあ……アル、なんとかし」

 人間は、あまりにも巨大な恐怖と直面したとき、言葉を失う以外に手立てがない。
 噴火寸前の活火山の如く、怒りのマグマを今にも爆裂させようとしているアルの姿を
前にして、俺は言語を始めとする一切の意志表現行為が不可能になった。
 ただひたすらに、恐怖のままに、身体をうち震わすのみ。
「汝等、そんなに世界の終末を目撃したいのか、そうかそうか」
 ゆらりゆらり、自らの怒りを持て余したように身体を左右に揺らし、アルは
ぶつぶつと呟いた。
「まさか九郎がそんなクズ人形に惹かれるとは思わなんだな、なに、千年生きた妾にも
 世界はまだまだ不思議をいっぱい隠し込んでるということか。なるほど、痛感されられたわ」
 言葉とともに、膨大な量の魔力がアルへ一点集中していく様がよぉぉぉぉぉっく見えた。
 嫌になるくらいはっきりと、まざまざと、勘違いの余地をまったく抜きにして。
503嗤う導魔衛門 17/17:03/05/31 23:58 ID:kpJm+8Eb
「然るべき滅びを与えよう、今日、この時点、この場所でもって世界を一つばかり
 終わらせてやろうかのぅ」
 ギラッ
 視線が鋭い刃となって俺の心臓をぐりぐりいじり回した。
「ひぃぃ」
 情けない悲鳴が口の端から勝手に漏れる。片手で押さえるが、空気の漏れるような
ひゅーひゅーした音は喉の奥から奥から次々に漏れ出てくる。
「嫉妬は醜いロボ」
 ボソッ
 エルザの無造作な一言。
 なあ、「火に油を注ぐ」ってよく言うよな? あれを更に強調したいときは「火に
ガソリンを注ぐ」とか言ったりするわけだが、そんな表現すら生温いときはどうすれば
いいんだろう?
 教えてアル先生!
「クズ人形、多量のニトログリセリンをどうもな。ここまで来ると怒りも心地良いものよ」
 やっぱり教えてくれなくても良かった。
 後悔する俺をよそに、いよいよアルに集う魔力は尋常の域を外れていく。
 あたりが暗く淀み、窓の景色が異様にねじ曲がったうえ、なんかバチバチ放電現象まで
発生し始めた。ここはもう異界ですか。春も山も愛も日常もすべて死にましたか。
「秘密道具が終、地球○壊爆弾」
 一人で全部言った。いつの間にかエセルドレーダの姿はなくなっている。
 逃げた?
「愛とは打ち倒して蹴散らして勝ち取るもんロボ。こっちも容赦なんてしないロボ?」
 ぎゅぃぃぃぃぃん
 俺を降ろしたエルザが『我、埋葬にあたわず』を操作し、光を集約させる。
部屋が一層暗くなった気がした。
 注意がこちらから外れた機を逃さず、俺は脱兎の勢いで逃げ出した。恥も外聞もなく、必死だった。
「死ぬがよい」
「それはこっちの台詞ロボ」
 言い合う声を背にして、破壊された窓に向かって身を投げた。ぐんぐんと近づく地面に受身を
取る準備をする。
 彼方で、閃光と爆音が炸裂した……。
504後日談:03/05/31 23:59 ID:kpJm+8Eb
「九郎、ドラ焼きはどこじゃ?」
「あー、はいはい」
 うららかな午後の事務所。俺はアルとエセルドレーダ(本人にはアルえもん、
エセルえもんと呼ばないと怒られる)と一緒に茶を飲んでいた。
 机の引き出しからドラ焼きを掴み出し、ふたりの前に置く。
「ふう、これがあってこそ茶を飲んだ気にもなるというもの」
「ええ、そうね」
 不思議とババ臭く見えるふたりを眺めつつ、ぼんやりと手元のドラ焼きを弄んだ。
 あの日。事務所の中をグチャグチャにしながらも戦いに決着はつかず、エルザは退いた。
「ダーリン、また来るロボ!」
「二度と来んな!」
 そして、エセルドレーダはいつの間にか馴染んだように復旧した事務所へ来るようになっていた。
 今日はマスターがどうしたのと、アルを相手に茶飲み話に耽る。
 不気味なくらいにふたりが打ち解けたのは嬉しいが、なんともいえない気分である。
 エセルドレーダが帰ると、アルは押入れの中に引っ込む。
 復旧の際にわざわざ自作した押入れであり、一日をそこに収まって過ごすのだ。
 なんだかなぁ。
「って、思わないかダンセイニ?」
「てけり・り」
 ベッドのお役御免となったゼリー塊生物がふるふると蠢いた。
 そこに──
「大十字九郎、勝負するのであーる!」
 ギャイーン
「ダーリン、また来たロボ!」
 表通りから伝わる近所迷惑な騒ぎ声。
 俺はため息をつき、振り向き、一瞬迷った後、押入れに声をかけた。

「アルえも〜ん」
505空ラ塗布:03/06/01 00:03 ID:Tq9WRRZ8
>>487-504
題「嗤う導魔衛門」(斬魔大聖デモンベイン)

えー、最初の一言と最後の一言にすべてが集約されてます、ええ。
タイトルは京極夏彦の「嗤う伊右衛門」から。
506名無しさん@初回限定:03/06/01 00:22 ID:vj4u9ky9
warata
507名無しさん@初回限定:03/06/01 00:26 ID:ifQDScUj
爆笑
SANが〜
508名無しさん@初回限定:03/06/01 01:04 ID:j2fVEllA
>>505
タイトル殆ど(2分5厘ほど)関係ねぇーーっ!!
蚊帳の話を延々としたり、妹を犯したりすると思ったのに(思うな)。
あ、いや爆笑したっすよ、ええ。

次回作は「魔道書の夏」で是非。
509名無しさん@初回限定:03/06/01 01:34 ID:kuqR7p0w
「牽強付会」なんて単語をさらりと使えるあたりが、凡百のSS書きとは一線を画してるな。スゲエ。

…それはそうとエルロイまで読んでるのかよw
>508さんはああ言ってるが、俺としては「アーカムコンフィデンシャル」を希望。
510名無しさん@初回限定:03/06/01 01:35 ID:5yruwPGH
>>505
ゴス型でフルーツオ・レ吹きますた。
511名無しさん@初回限定 :03/06/01 01:52 ID:C7/Q+igI
ごっどじょぶ。
512名無しさん@初回限定:03/06/01 01:56 ID:eq1b6VCm
オチが巧いなぁー(笑
513名無しさん@初回限定:03/06/01 02:30 ID:ZGq47PGb
SAN値が−50ぐらいまで下がった気がする
514名無しさん@初回限定:03/06/01 03:02 ID:fhKYLy1A
「魔導書が黙殺」の部分で『家政婦が黙殺』を思い出した。
515名無しさん@初回限定:03/06/01 03:41 ID:014Mb2fQ
>505
乙です。
すこぶる楽しませていただきますた。

んでちょっと気になったのでつが、確かアルは「〜じゃ」って喋り方はしなかったよーな。
漏れの記憶違い?
516名無しさん@初回限定:03/06/01 03:54 ID:2mRfWSCH
・・・アルえもんのまま放置かよっ!
517名無しさん@初回限定:03/06/01 05:03 ID:XQ8pRris
…仕事に疲れて帰ってきて、眠い目こすってチェックをすれば。
神よ、吹き飛んでしまった眠気はいかにすれば取り戻せますか!?w
てか一行目で爆笑し、きっちり目が覚めちまったんですが……。
次はひとつ怪物君なウェスパシアヌスでw
518名無しさん@初回限定:03/06/01 05:41 ID:qVGc1TkH
>>514
あ、俺も俺も。
519名無しさん@初回限定:03/06/01 13:34 ID:a6nAlni0
四次元ポケット…萌え。
>517
「哭け、ガルバ!オト―!ウティリウス!」
「フンガ―」
「ざます」
「でがんす」
520名無しさん@初回限定:03/06/01 13:38 ID:2mRfWSCH
>>519
ワロタ
521名無しさん@初回限定:03/06/01 14:59 ID:qsVTTAsY
>>505
乙、だが俺的にはいまいち。
522 ◆yywMOTOxI6 :03/06/01 16:58 ID:pJHIVXZO
えーっと、今更ですが>408での書き込みに関して何か勘違いをされている向きが
いらっしゃるみたいですのでその辺の説明を…。

あそこで同罪と発言したのは「場の空気を乱した」ことに関するもので
年齢制限には一切無関係です。その辺のクリアランスは
H9年の時点で満たしております。念のため。
523名無しさん@初回限定:03/06/01 17:54 ID:TzuA0WXM
>522
…んなことは心の底からどうでもいいんだが。いちいち書くなや。
524名無しさん@初回限定:03/06/01 19:40 ID:ly18+soi
僕らの愛しいマスターてけり・りオンさんは何時出てくるのでしょうか。
ピンク色で。
525アーヴ:03/06/02 02:45 ID:AHFsRhPZ
前に一回投稿したことがるんですが
たぶん誰も覚えてないだろうなぁ

今回はヴェドゴニアからです
形式は前回と同じようにエンディングをいじってみました
自らの欲望の赴くままに
と、言うか俺が書くのってこんなのばっかりなのですが

まあ、暇つぶし程度にでも楽しんでいただけたら幸いです
ではどうぞ
526アーヴ:03/06/02 02:45 ID:AHFsRhPZ
ギーラッハの繰り出す絶え間ない攻撃に俺は劣勢を強いられていた。
やつの攻撃は素早く、それでいて全てが必殺の威力を秘めている。
一撃でも食らえば、負ける。
「ぬうんっ!」
強烈な殺気の渦を乗せて、ギーラッハの剣が袈裟懸けに振り下ろされる。
身を捩ることでかろうじてそれを避ける。しかし、
「でえいっ!」
やつは圧倒的な膂力に物を言わせて、剣の軌道を途中で変えてきた。
飛びすさった俺を追撃するかのように、やつの剣が追いかけてくる。
避けたのでは間に合わない。
俺はやつの剣に意識を集中する。
ほんの少し、軌道を変えるだけでいい。
周りの景色がコマ送りになる。
やつの剣が何かに叩かれたようにして跳ね上がる。
身をかがめた俺の頭の上をかすめるようにしてやつの剣が通り過ぎる。
「そんな、馬鹿な。」
今だ。
やつが狼狽えている一瞬の隙に、懐に飛び込む。
「己は認めんぞ、貴様ごとき下賤の民に…」
俺の全体重を乗せたナイフが、やつの胸に深々と突き刺さる。
「リァ・・ノーン・・様。」
目には見えない炎に、体の内から焼かれてやつの体が灰になる。
527ヴェドゴニアSS:03/06/02 02:48 ID:AHFsRhPZ
「…惣太。」
不意に呼ばれて振り向くと、ドアのところにモーラが立っていた。
「モーラ。その怪我は?」
腹部を押さえた手の下から血があふれている。
「大丈夫。それより、リァノーンは?」
「この先の部屋にいる。それより、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないなんて言ってられないわよ。急がないと、あなたは…」
そこまで言って俺の顔を見たモーラの目が驚愕に見開かれる。
「そんな、間に、合わなかった?」
モーラの言葉に促されるように、口元に手をやる。
先程までよりも、明らかに長くなっている犬歯。
磨き上げられた床に映った俺の顔は、明らかに白く、目は赤く光っていた。
そして、もう既に痕も残っていない首筋の噛み傷。
「嘘よ。まだ、まだ間に合うはず。」
そう言うと、俺の腕を振り払うようにしてモーラは駆けだしていた。
「モーラっ!」
528ヴェドゴニアSS:03/06/02 02:49 ID:AHFsRhPZ
俺が部屋に入ったときには、もう既にモーラはリァノーンの胸に杭を突き立てようとしていた。
「モーラっ!」
「止めないでっ!」
モーラの目からは、涙があふれていた。
「こいつを殺せば、あなたは人間に戻れる。まだ、間に合うのよっ!」
そんなことはない。
俺の体がもう既に完全な吸血鬼になってしまったことは。
俺以上にモーラがよく分かっている。
「もういい、もういいんだよ。」
モーラの手から、杭を取り上げる。
「もういいんだ。」
ゆっくりと、モーラの体を抱きしめる。
「ごめんなさい。私のせいで。」
俺の腕の中で、モーラが体を震わせている。
モーラが何を言いたいのかは分かっていた。
確かにモーラ達と会っていなければ、俺の吸血鬼かがこれほど早く進むことはなかっただろう。
しかし逆に、モーラ達と会っていなければ俺は殺されていただろう。
俺の中にいた、もう1人の俺に。
伝えたかった。
君が気に病む必要なんか無いのだと。
しかし、どう言えばいい。
今俺の腕の中で泣くモーラは、まるで見た目通りの幼い女の子のようで。
俺には、かける言葉を見つけることは出来なかった。
「モーラ。」
そんなモーラに俺が出来たのは、ただ抱きしめることだけだった。
529ヴェドゴニアSS:03/06/02 02:50 ID:AHFsRhPZ
どれくらいの時間、そうしていたのだろう。
不意に、何かが空気を切り裂く音が聞こえ。
次の瞬間、リァノーンの体が目には見えない炎に焼かれていた。
「そいつから離れろ!モーラっ。」
振り向くと、ドアのところにボウガンを構えたフリッツが立っていた。
「フリッツ。無事だったのか。」
「ああ、なんとかな。でも、テメエはそうはいかなかったみたいだな。」
フリッツの手に握られたボウガンの狙いは、俺の心臓に定められている。
「フリッツ、話を聞いて。彼は…」
「吸血鬼だ!」
モーラの言葉を遮って、フリッツが叫ぶ。
「お前をそんな体にした、吸血鬼の仲間なんだ。」
「でも…。」
「目を覚ませモーラ。そいつはもう、化け物になっちまったんだよ。」
ボウガンの引き金に駆けられたフリッツの指に、力が込められる。
「なら、私も殺しなさい。」
モーラがいきなり、フリッツの構えるボウガンの射線上に割り込んだ。
「な。」
「化け物なのは、私も同じよ。」
「モーラ…。」
部屋に重い沈黙が流れた。
3人とも微動だにしなかった。
いや、出来なかった。
いつまでも続くと思えた沈黙を破ったのは、一発の銃声だった。
530ヴェドゴニアSS:03/06/02 02:54 ID:AHFsRhPZ
それと同時に、フリッツの体が崩れ落ちる。
「フリッツ!」
あわてて駆け寄ろうとしたモーラの足下に、続けざまに銃弾が撃ち込まれる。
「動かないで、お嬢ちゃん。」
床に倒れたフリッツの後ろから1人の女性が現れる。
「よくもリァノーンを殺してくれたわね。おかげで、私のこれまでの研究が台無しだわ。」
白衣を着た女性は、忌々しげに足下に転がるフリッツを睨み付けた。
「でも、まあいいわ。リァノーンの研究対象としての価値は、もう既にほとんど無くなっていたから。」
そう言うと、まるで値踏みするようにおれとモーラの方を見る。
「ロードヴァンパイアの資質を受け継いだヴァンパイアに、半人半妖のダンピィル。実に興味深いわ。研究対象としても、申し分ない。」
「悪いが、そいつはあの世でやってくれや。」
女の胸に、銀の矢が突き刺さる。
いつの間にか起きあがっていたフリッツの放った矢は、確実女の息の根を止めていた。
「お兄ちゃん。」
倒れそうになるフリッツを、モーラが抱きかかえる。
「すまないな、モーラ。どうやら、約束は果たせそうにない。」
消え入りそうな声で、フリッツがモーラに言う。
「おにぃ・・ちゃん。」
モーラの目から、涙が流れ落ちた。
「いっつも、泣かせてばっかりだな。俺は、だめな兄貴だったな。」
まるで、眠るようにして、フリッツの目が閉じられる。
それきり、二度と開くことはなかった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。」
徐々に体温を失っていくフリッツの胸に顔を埋めて、モーラは泣き続けた。
531ヴェドゴニアSS:03/06/02 02:55 ID:AHFsRhPZ
俺は、どうすればいいのだろう。
炎に包まれていく燦月製薬の本社を見ながら俺は考えていた。
もし俺が完全に吸血鬼になったら、俺を殺してくれ。
かつて、俺はモーラにそう言った。
そのときは、本気でそう思っていた。
でも今は。
背中に負ったモーラの重さを感じながら考える。
「惣太。」
モーラが目を覚ました。
「もう、大丈夫だから。下ろして。」
背中から降りたモーラが、改めて俺の顔を見る。
色素の失せた肌と目、長くのびた犬歯。
今の俺は、間違いなく吸血鬼の顔をしている。
「やっぱり君は、俺のことも恨むのかい。」
「…」
「フリッツの言ったとおり今の俺は、吸血鬼だ。君の人生を滅茶苦茶にした、あいつらと同じだ。」
「…」
「前に言ったよな。俺が吸血鬼になったら、君の手で滅ぼしてくれって。」
「…」
「今は、まだこうしていられるけど。いつあいつ等のようになるかは分からない。」
「…」
「だから、そうなる前に君の手で・・」
「あなた、言ってくれたわよね。人を愛せるのは人だけだって。だから、自分は今も人でいるつもりだって。」
それまで、ずっと黙ったままだったモーラが、俺の言葉を遮って突然話し始めた。
「あなたの言葉は嘘だったの。それとも、もう既に心まで吸血鬼になってしまったの?」
「俺が、憎くないのか?」
「だって、あなたは人間なんでしょう。」
モーラが、優しく俺を抱きしめる。
「私が、そして、あなたの愛した。人間。」
涙が、あふれてきた。
それは、俺が人間でいることの証明。
俺と彼女が、化け物でないことの証のようだった。
532ヴェドゴニアSS:03/06/02 02:56 ID:AHFsRhPZ
一ヶ月後
「本当に、これでよかったの?」
日本を発つ飛行機の中で、モーラが何度目かになるかも分からない問いを繰り返してきた。
「確かに、元の生活には戻れなかったかもしれないけど。あなたには、ほかの選択肢だってあったのよ。」
「確かに、馬鹿な選択に見えるかもしれない。でも、俺にとってはこれがベストな選択なんだ。」
強がりなのは、分かっていた。
俺がなくした物の大きさは、俺自身が誰より分かっていたから。
「それに、君1人じゃあハンターを続けるにも限度があるだろう。」
そう言った瞬間、モーラの顔に影が落ちる。
「ごめん。」
「いいの、あなたが謝る必要はないわ。」
モーラの手の上に、自分の手を重ねる。
「今は、あなたがいてくれるから。」
それは、俺も同じだ。
失った物の重さに潰されないでいられるのは、モーラがいてくれるからだ。
君がいてくれる限り、俺は人間でいられる。
心まで、化け物にならずにいられる。
「いつか、さ。いつか、俺たちの倒す相手がいなくなったら。そのときは、どこかの山でも買って、二人で暮らそう。」
モーラの手を、きつく握りしめる。
「二人だけで、静かに。俺は狩りをして、モーラは革細工か何かをしてさ。それで、たまに町に卸しに行って、必要な物を買って。ひっそりと、二人だけで暮らそう。」
モーラが、手を握り返してくる。
「悪く、無いだろう。」
「ええ、素敵ね。とても。」
そう答えた後で、少し小さな声で続ける。
「まるで、人間のよう。」
「そうじゃないだろう。僕らは、人間なんだから。」
「そう。そうだったわね。」
触れてしまえば、消えてしまうような。
はかない笑みではあったが、それでもモーラは笑ってくれた。
いつか、モーラのことを心から笑わせてあげれるように。
そのために、俺は生きていこう。
時間なら、いくらでもあるのだから。
533アーヴ:03/06/02 03:01 ID:AHFsRhPZ
>>526-532
リァノーンエンドを見て
やっぱり惣太にはモーラと同じ時間の中を生きてほしいと思って書きました
いろいろと賛否はあると思いますが
いつか惣太が死んでしまったときのモーラのことを考えると
なんかやりきれなくなってしまったので
534名無しさん@初回限定:03/06/02 10:20 ID:WEgg/+G6
>>533
乙カレ。
535名無しさん@初回限定:03/06/02 12:30 ID:/D4TZaSD
>>533
個人的には凄く悪くなかったです。
自分モーラ萌えなんですが、どうもこうエンディングがシックリこなかったんで。
536名無しさん@初回限定:03/06/02 12:32 ID:nuf5Vsqg
パイルバンカーが無いのは激しく納得がいかない。
537名無しさん@初回限定:03/06/02 16:08 ID:qHfwNCXA
  >>536    Y
   ∧,,,∧  │
   ミ;゚Д゚彡 ▽
''''''''''''`````''''''''''''''''''
  , ──'^ー─────
 | 見せもんちゃうぞゴルァ
 `ー────────
538名無しさん@初回限定:03/06/03 05:54 ID:6fD3+kXT
。」
↑はなるべく避けて欲しいな、とか。
539名無しさん@初回限定:03/06/03 10:40 ID:0n1Yp+1m
>>538
若いな。
540這い寄れ混沌 まえがき:03/06/04 01:23 ID:1UpDfxxJ
以下の文章は、デモンベインのナイアさんグッドエンドを見ていないと殆ど意味不明です。
見ていても意味不明かもしれません。
ここまで歪めてしまえばネタバレも何もあったもんじゃない気もしますが、一応は注意してください。
541這い寄れ混沌:03/06/04 01:24 ID:1UpDfxxJ

 嗤い声が聴こえる、
 くすくす、くすくす、と。
 俺は、
 俺は、
 俺は、
 俺は――
 ――俺は本を捜していた。


 @ 絶望すらも朽ち果てた
 A 俺はこの悪夢にすがって生きる
 B 俺はナイアさん(魔乳・えっち。しかも妹)と幸せになる
 C 俺はシスターでプリンセスな生活を送る。イエー。


 ……さ、三番かな?
 いや、しかし四番ならそれに加えて『ごしっく』で『ろりー』な少女も楽しめるしな……。
 
 よし決めた。四番だ。
 そして毎朝「お兄ちゃんのえっちぃ☆」だの「おにいちゃん、お・は・よ・う(はぁと)」だのと言って貰う。
 そうさ、お兄ちゃんはエッチなのさーとかいいながらルパンダイブ。ナイアさんとあのロリ少女で遅刻しちゃうのさ。
 OK。この路線で行こう。
 本なんて捜さなくてもいいや。
 よっしゃ、そうと決まれば早寝早起き。明日のためにもう寝ちまおうっ!
 ああ、早く起こしにきてくれないかなマイシスターっ!

542這い寄れ混沌 2:03/06/04 01:24 ID:1UpDfxxJ

「起きるのだ、お兄ちゃん。朝であるぞ」
 妹が身体を揺さぶる。
 もう朝だった。
 原色で塗り潰された朝陽が、カーテンの隙間から射し込んでいた。
 棺桶のような目覚まし時計を確かめる。
 四つの針が完全無秩序に時を刻んでいた。
 ザクザクザクザク。
 でも、そんなことは気にしない。気にならない。
 俺を起こしにきた『妹』に比べれば。
「早くしないと、遅刻しちゃうのである。ま、それもまた運命かといえば否定するエレメントもナッシング?
 イッツ・ア・デスティニィィィィ!!」
 ギターの音が響き渡る。
 やかましくて、無視もできやしない。

「……なんで、よりにもよってオマエなんだよ、コンチクショーッッッ!!」

 飛び起きた。跳ね起きた。その勢いを殺さず、右足を軸にして廻し蹴リ。
 ほぼ奴の右耳の横からスタートした俺の左足は、抜群の遠心力を得て一回転。
 裂帛の気合を纏った渾身の一撃は、しかし風と服を斬るだけで、本来の破壊力を発揮することはなかった。
543這い寄れ混沌 3:03/06/04 01:25 ID:1UpDfxxJ

 ――チィッ! スウェーで避けたのか。
 意外とやるじゃないか。
 しかし、奴――ドクター・ウェスト――も完璧には躱しきれなかったようで、上着が少し破れている。
「お、お兄ちゃん……どうしたのであるか? はっ! ま、まさかお兄ちゃん、この我輩に欲情して……」
「してないっ! つうか、なんでお前がこんな所に出てくるんだこの(放送禁止用語)がッ!」
「あ、ああ……た、大変である。我輩、貞操クライシス!? ああ、でもこの貞操はお兄ちゃんに奉げる為なのであるし……ノゥプロブレム?」
「問題ありまくりだド変態」
「ああ、甘く愛しく時にすっぱく、ハートを抉る熱い一言。それだけで、ああそれだけで、我輩の心はこんなにもジューシィ……」
「いや、意味がわからん」

 とりあえず、パジャマが血まみれになるまで殴っておいた。

「いやぁん……お兄ちゃんったら、激しすぎるのである……」
 とどめに、首を人間の限界に挑戦するまで曲げた。

 カーテンを勢いよく開ければ、心地よい春の匂い。
 今日もいい天気だ。
 とりあえず、部屋に落ちている赤い何かはほっとこう。
544這い寄れ混沌 4:03/06/04 01:26 ID:1UpDfxxJ
 食卓についた。
「お兄ちゃん、おはよう」
「お兄ちゃん、おはよう」
「お兄ちゃん、おはよう」
「お兄ちゃん、おはよう」
「お兄ちゃん、おはよう」
「お兄ちゃん、おはよう」
「お兄ちゃん、おはよう」
「お兄ちゃん、おはよう」
「お兄ちゃん、おはよう」
「お兄ちゃん、おはよう」
「お兄ちゃん、おはよう」
「お兄ちゃん、おはよう」
 みんな揃っていた。
 頭が痛くなりそうなメンツが、みんな揃っていた。
 ちなみに、最初から順に。
 マスターテリオン、アウグストゥス、カリグラ、クラウディウス、ウェスパシアヌス、
 ティトゥス、ティベリウス、リューガ、ウィンフィールドさん、治安警察の二人、
 そして、いつのまに復活したのか、ドクター・ウェスト本人である。

 いくらなんでも、本当に十二人用意するとは思わなかった。
 しかも、ずらずら並べられても誰が誰がだかよくわからない。
 こんなことになるんだったら、最初の選択肢で謙虚にBを選ぶべきだった。
545這い寄れ混沌 5:03/06/04 01:27 ID:1UpDfxxJ

 て、選択肢に戻るって手段があったか。ほぼ確実に反則技だが。
 まあ、あの世界だってさんざんやり直したらしいし、これくらい許されるよな?
「どうしたのであるか、マイブラザー?」
「なんでもないさ」

 CTRL+B 選択肢に戻る 使用!
 ふっ、と意識が消え、最初の選択肢に――

 @ 絶望すらも朽ち果てた。兄貴たちの餌食になり、快楽を享受する。
 A 俺はこの悪夢にすがって生きる。兄貴たちの餌食になり、終わらない夜を過ごす。
 B 俺はタカさん(筋肉)と幸せになる。
 C 俺はマッシヴでイイオトコな生活を送る。ウホッ。

 ――戻れなかった。
 選択肢が変わっていた。
「なぜだぁぁぁぁ!!」





 ――それを見て、悦に入っている女性がひとり。
 こーいうイタズラにおいては、ナイアルラトホテプ、本領発揮。
546踊る阿呆:03/06/04 01:30 ID:1UpDfxxJ

>>540-545
はて、最初はナイアさんとの素敵な蜜月を書いていたはずなのに、何故このようなものができてしまったのだろう。
しかも中途半端&理不尽。クトゥルフに呼ばれて正気じゃなくなってしまったからでしょうか。
とりあえずスイマセンでした。
547名無しさん@初回限定:03/06/04 02:11 ID:1/vTzTa5
>546
さっ、SAN値低!!!
548名無しさん@初回限定:03/06/04 02:36 ID:nf3Hj0jL
(コロコロコロ)
SANチェック失敗。

俺は病院に(ry
549名無しさん@初回限定:03/06/04 08:33 ID:qlnsMzXo

SAN値が低下しています!ワーニン!ワーニン!

ちっとオチが弱い気がするぜ。
もう少し引っ張った方が良い味が出る・・・・っていうかうむ、中途半端なので続きを書くこと希望
550名無しさん@初回限定:03/06/04 19:32 ID:BPH1muV/
>546
ハゲシクワラタ。
惜しむらくは「お兄ちゃん、おはよう」 を
各キャラで特徴をつけて欲しかったかな。
551名無しさん@初回限定:03/06/04 21:13 ID:wuwJYgr3
暑苦しい朝の食卓。(笑)
552名無しさん@初回限定:03/06/05 00:20 ID:vshjEUXW
笑い苦しむほどに正気度が低っ!
553名無しさん@初回限定:03/06/05 01:30 ID:yXMtHlrL
えー選択肢4でいいじゃーん。サイコーじゃーん。

SAN値が・・・グフゥ
554名無しさん@初回限定:03/06/05 04:03 ID:XTsd481a
どれがどういう姿だったか忘れていたので、
カラーの神話辞典を引っ張り出してきますた。





蓮コラなんかでは相手にならん凄まじさ。
寝られん・・・
555名無しさん@初回限定:03/06/05 09:12 ID:0W9gAl9w
文書能力に長けているみなさん、ちょっと助けて
なかなか続きが書けない

おまえら妹に夢を見過ぎじゃないのか
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1052039813/l50
556名無しさん@初回限定:03/06/05 09:39 ID:guAVqAu4
ある意味、絶技開眼しそうなシュチュエーションだw
てか、こんな朝の食卓なら大人しく首をくくるのは漏れだけですか?
朝っぱらから激しくSAN値が危ういので、本を探しに…いやだやめろこんなかみさまたすけt
557その手があったか:03/06/05 14:36 ID:ZVKLl0zv
大家族スペシャルとかの構成見ても男女それぞれ4〜7ぐらいでしょ
男ばっかなんて想像の範疇に無かったぞ(((;´Д`)))

妹を探しに…
558名無しさん@初回限定:03/06/05 23:45 ID:iL2vFMTB
マスターテリオン or ナイア
どちらかは 兄くん の呼び方をすると思うのだが。

・・・おにいちゃまは てぃべりうすあたりか?(平仮名で書くとなんか可愛い)
559名無しさん@初回限定:03/06/06 00:18 ID:+FJZnX2u
俺だけが自爆するの嫌なので書く。

「河原崎家の一族2」の犯人は執事の稲垣。
最後焼け死ぬ。
560名無しさん@初回限定:03/06/06 00:26 ID:ycoOCY62
>559
突然何を言うか
561名無しさん@初回限定:03/06/06 01:52 ID:I9COk/z9
>>559
唐突に何を言うか
562名無しさん@初回限定:03/06/06 03:02 ID:NUbbJ9Ik
ドクターウェストで一本書いて欲しいなぁ…
笑い死にする人が出そうだ。
563愛のカタチ まえがき:03/06/06 03:04 ID:Q8GVuxbo

ナイアさんとの素敵な蜜月でございます。(誇張表現アリ)
SUN値は高いのか低いのか低すぎて逆にアレなのか不明ですが。
ナイアさんグッドエンドの後の戯れな世界を夢想。短いのはご愛嬌。
564愛のカタチ 1:03/06/06 03:04 ID:Q8GVuxbo

 僕は、九郎君が好き。誰にも渡さない。
 君は、ずっとずっと、未来永劫、僕のものだ。
 




  
「おーい、九郎君ー、ちょっと待ってくれないかいー」
 公園を歩いていたら、後ろから知っている声が聴こえた。
 振り返ってみると、なにやら大きな紙袋を抱えた女性。
「ナイアさん? どうしたんですか、その荷物は」
 俺の方に近寄ってくるも、その歩みは少し危ない。
 仕方なく、自分から彼女の方へ歩み寄った。

 向かいあう。なぜか少し不機嫌のようだ。
 むくー、って感じだ。
「酷いなぁ、酷いなぁ、九郎君は。まだ僕のことをさん付けにするなんて。
 いつもいつも言ってるじゃないか、ナイアって呼び捨てるようにって」
 そんな理由だったのか。
 大人びた、というかまさに大人の女性な外見からはちょっと考えられない、子供っぽさ。
「すいません、でも」
「だめだよ、だめだよ、敬語もだめだよ、九郎君。仮にも愛しのダーリンに向かって使う言葉じゃあない」
 俺の言葉を遮り、どことなく唄うような、特徴的な喋り方をする。
「だ、ダーリンって……」
「おや、九郎君は僕を愛してくれているんじゃなかったのかい?
 酷いなぁ、悲しいなぁ、僕の乙女心を玩ぶなんて……僕は九郎君が居なければもう生きていけないというのに」 
565愛のカタチ 2:03/06/06 03:05 ID:Q8GVuxbo

「こ、公衆の面前で何言ってんですかっ!」
「まだ敬語をやめてくれないんだね、九郎くんは。仕方ないな、これは君に罰を与える必要があるみたいだね」
「罰って……」
 いかん、なんか押されっぱなしだぞ、俺。
 なんつーか、キャリアが違う。

「と、いうわけで。この荷物、持つのを手伝ってくれないかい?」

「……もしかして、それが目的ですか?」
「やだなぁ、僕はそんなちっぽけな理由で人を呼び止めたりしないさ」
 言いつつも、荷物を俺に手渡す。
 かなりの重量のそれは、新旧の差はあれどすべて本だった。
「君と会話がしたかったから呼び止めたんだよ」
「はあ、それは光栄なことで」
 生返事を返す。
「む、なんだいその返事は。つれないな冷たいな、もっと喜んでくれても罰は当たらないと思うんだけどな」
 片腕を取られる。
「なんですか」
「恋人なら腕くらい、組んでもいいだろう?」
 うあ、そんな満面の笑みを浮かべられたら、拒否できるはずがないじゃないか。
 まあ、拒否する理由もないけど。
566愛のカタチ 3:03/06/06 03:06 ID:Q8GVuxbo

 なんかあったかくてやーらかい感触が、腕に。
「な、ナイアさん……その、あまり押し付けないでください……」
「九郎君はこういうの嫌いだったかな?」
 大好きです。
 いや、そーではなく。
「流石にちょっと、恥ずかしいですよ」
「ふぅん、僕はそういうの気にならないけどな。野外プレイだって大好きだし」
「野外って……もうちょっと羞恥心とかを持ってくださいよ」
「あ、よさそうな茂みがあるよ、九郎君。えっちには最適だ」
 本当だ……って、そうじゃなく!
「したいなあ、九郎君とえっちとか、セックスとか。本屋の奥で独り身体を慰めるのには飽きちゃったよ」
「だから、公の場でなんてこと言うんですか貴女はっ!?」
「僕の身体、貪りたいと思わない?」
 う、いや、そりゃあ思うけど……
「折角の僕の名器も、指とか道具とかが相手だと寂しいなー」
 指…… 道具……
 ナイアさんの身体……
「ふふ、九郎君、硬くなってきちゃった?」
 う、実は少し。
 いやしかし、ここは心頭滅却だ、大十字九郎!
 ていうかナイアさん。組んでいる腕を股間に持っていかないでください。
567愛のカタチ 4:03/06/06 03:10 ID:Q8GVuxbo

「だ、駄目ですってナイアさん」
「あーあー、僕のあそこはもうびしょびしょなのになー、九郎君はちっとも欲情してくれないんだー」
「だーかーらー、人前でそういうこと言わないでくださいってホントに!」

 彼女は、にやりと嗤った。
 あまりにも妖艶で、
 あまりにも淫猥で、
 あまりにも壮絶に。

「――何を言ってるんだい? この世界には、僕と君しかいないじゃないか」

 持っていた本が消える。
 着ていた服が消える。
 公園の風景が闇に沈む。

 抱き付いてくる、闇黒。
 俺を見下ろす、黒い闇。
 絶望という、永遠の生。

 ああ、そうか。
 俺は――





568愛のカタチ 5:03/06/06 03:11 ID:Q8GVuxbo

「……大丈夫かい?」

 気が付くと、ベンチに横たわっていた。
 というか、ナイアさんに膝枕をされていた。
「突然倒れるなんて、九郎君、疲れているんじゃないかい?」
 疲れている……そうかもしれない。最近忙しかったから。
 何で忙しかったのかは、不思議と思い出せないが。

 介抱してくれたナイアさんの優しさが心地好い。
「……ありがとう、ナイアさん」
「ふふ、礼はいいよ。僕も君の寝顔を堪能できたしね」
 最後の記憶は確かに青空だったのに、今はもう夕暮れ時だ。
 ずっと見ていてくれたんだろう。
 すこし名残惜しいが、膝枕状態を解除し、立ち上がる。
 彼女も一緒に立ち上がった。
「そうそう、九郎君。礼はいいといったけど、やっぱり一つだけお願いしてもいいかな?」
 断るなんてできない。
「はい、ナイアさんの願いなら、どんな事でも叶えますよ!」
 彼女は――彼女にしてはとても珍しいことに――少しためらってから。

「じゃあ……愛してるって言ってくれるかな?」

 俺は彼女を抱きしめてから、言った。
「愛してますよ。ナイアさん」




 
 君と僕とは倫理観、価値観が根本から違うから、理解してはもらえないかもしれない。
 それでも、僕は君を愛しているんだよ、九郎君。
569踊る阿呆:03/06/06 03:14 ID:Q8GVuxbo
>>563-568
私は一体、なにをどうしたいのだろう?
570名無しさん@初回限定:03/06/06 04:04 ID:IIQt3w7t
うわあ、本当にナイアで甘々だ。ナイアっぽさが出ていてうまいなぁ。
571名無しさん@初回限定:03/06/06 05:52 ID:SHt1Nbt3
微妙に玩具扱いな九朗に萌え。
てか、本気でナイアが怖いんですが……。
572名無しさん@初回限定:03/06/06 06:18 ID:CfJ+nsLN
>>563-568
 狂気の世界で戯れに作った夢という感じが出てて、すごくいいです。
 それにしても、ナイアグッドエンドか…
 アルバッドより、はまっている呼び方だな(w
573名無しさん@初回限定:03/06/06 08:40 ID:8qBpHUaC
グッジョブ。
うむ、そこはかとなく良い感じですだ
574名無しさん@初回限定:03/06/06 11:18 ID:Q7XaTBiT
(*´д`*)勃っちゃったよ。
575名無しさん@初回限定:03/06/06 18:59 ID:RGTIL9Y/
何かスゲェ怖えぇ・・・
576名無しさん@初回限定:03/06/06 19:21 ID:qynmS4kH
這い寄る混沌の…乱心…?ガタガタガタガタガタガタガタ
577名無しさん@初回限定:03/06/06 19:57 ID:d0KMEEmi
ラブラブなのになんでこんなに怖いのか。KOEEEEEEEEE!
578名無しさん@初回限定:03/06/06 22:27 ID:qynmS4kH
汝の正気を取り戻せ!汝の正気を取り戻せ!

とか脳裏でアルたんが応援してくれましたがだめぽ
579名無しさん@初回限定:03/06/06 23:14 ID:Dohvolno
無問題。

自分、ロリっすから。
580名無しさん@初回限定:03/06/06 23:25 ID:ZIxuwCOr
ガタガタブルブル…
SANが…SANが…
581名無しさん@初回限定:03/06/06 23:32 ID:z5/8uMvM
いやいや、これはこれでいいですな。

゛ある意味″、男冥利に尽きるね。>九朗
582名無しさん@初回限定:03/06/07 10:06 ID:jC4VSXiI
ナイアさんに正面から萌えれたのははじめてです。ゴチ。
583名無しさん@初回限定:03/06/08 18:11 ID:g2He0c0Z
どっちの股間に持っていったんだろう?
584 ◆kd.2f.1cKc :03/06/09 01:29 ID:JZ1hAtTx
ネタが出ない……
585名無しさん@初回限定:03/06/09 19:10 ID:gtpMel/T
そろそろ新作キボンヌしたいところ。
SS作家さまガンガレ。
586名無しさん@初回限定:03/06/09 20:32 ID:e/ihnaBZ
デモベ以外もキボンヌ。
無論デモベが悪いと言っているわけではありませぬ。
587大悪司より0/7 ◆kd.2f.1cKc :03/06/11 19:56 ID:Pvd5VZv3
投下しまーす。
ふたなり物、エロシーンありです。
嫌いな方は御注意を。
588ラバーズ×エロス1/7 ◆kd.2f.1cKc :03/06/11 19:57 ID:Pvd5VZv3
「よいしょ……っと」
 ベッドのシーツを剥がし、新しいシーツをかけていく。
 大きなダブルベッド相手に、由女の小さな身体では、ちょっとした重労
働になってしまう。何度も左右に往復しながら、ぴん、とはっていく。
「はぁ……はぁ……ふぅ……」
 ようやく白いシーツの張ったベッドを見下ろしつつ、息を整える。袖で
汗を拭った。
「…………」
 ベッドと、床に丸めてある外したシーツとを交互に見る。少しして、胸
に手を当て、ふぅ、とため息をついた。
「…………はぁ……」
「何ため息ついてんだ」
 突然、後ろからかけられた声に、由女はびくっ、と身体を硬直させた。
 慌てて後ろを振り返ると、部屋の入り口のところに、悪司が立っている。
「あ、ああ、悪司さん、いつからそこに……っ!?」
 動揺して手足をバタバタとさせながら聞く。
「ついさっきだが……由女こそなんでこんな事やってるんだ?」
 言いながら、悪司は腕組みしたままで2、3歩歩み出る。
「いえ……」
 由女は多少、落ち着きを取り戻しながら、苦笑しつつ説明する。
「他の方もお忙しいでしょうから……これぐらいのことは私が……と思っ
て」
「まぁいいけどな、それよりさっきのため息のほうが気になるぞ」
「えっ……」
 悪司の指摘に、由女はドキッとしたように目を円くする。
「なんか……すげー思いつめた感じだったぞ」
「い、いえ、これは……いえ、このシーツの上で、悪司さんが他の女性を
抱いているのかな、と思うと、少し切なくなってしまって……」
589ラバーズ×エロス2/7 ◆kd.2f.1cKc :03/06/11 19:58 ID:Pvd5VZv3
 由女は多少俯きながらも、苦笑している感じで言ったのだが……
 がばっ
「きゃっ!?」
 不意にぎゅっ、と抱き締められたかと思うと、そのまま背後のベッドに
押し倒された。
「あ、悪司さん?」
 由女は目を白黒させてしまう。
「躰のことなら……わかってて嫁にした、つってるだろ?」
 目前に迫った悪司の顔が、不敵ににやりと笑って、そう言った。
「い、いえ」
 由女は困惑して焦ったように言う。
「頭ではわかってるんですが……その……アノ事を除いても、ここには魅
力的な方が多いじゃないですか」
 すると、言い終えたとたん、その口をキスで塞がれた。
「ん……んむ……っ」
 悪司の舌が由女の口腔に割り込んでくる。
「んぅ……」
 たっぷりと由女の口腔を愉しんだ後、ちゅぷ……と水音を立てながら唇
が離れていった。
「ただ胸だの尻だのデカきゃ魅力的ってワケじゃねぇぞ。お前だっていろ
いろこう、かわいらしいとこがいっぱいあるんだからよ」
 どこかとろん……としてしまっている由女の顔を、悪司がジッと見据え
ている。
「ふぁ……」
「それと……勘違いすんな。他の女とヤってんのは、必要があってのこっ
た。まぁ、嫌いじゃねぇのは認めるけどよ……本気でセックスしてんのは、
お前だけからよ」
590ラバーズ×エロス3/7 ◆kd.2f.1cKc :03/06/11 19:58 ID:Pvd5VZv3
 言葉だけでは苦しい言い訳にも聞こえるが、じっと鋭く、しかし敵意を
感じさせない視線を向けられ、由女はどこか安堵感を感じていた。
「はい」
 由女は、ほんのりと赤くなった顔で微笑んで、静かにそう応えた。
「おし……じゃ、すっか」
 なんてことない感じで悪司は言うが、それの意味するところは……
「え、ええ? 今からですか?」
 由女は半身を起こして、驚いたような声を上げる。
「おう。嫌か?」
「いえ……」
 由女は立ち上がり、自ら着衣をはだけた。
「お願い……します」
 真っ赤な顔になってしまいながらも、笑みを悪司に向けた。
「うし……じゃあ、こうすっか」
 自分も全裸になった悪司は、由女をくるっと後ろを向かせて、背中から
抱き上げた。
「あ……」
 そのまま、悪司の躰の上に由女を乗せるようにして、ベッドに横たわる。
「この姿勢は、嫌か?」
「いいえ……」
 悪司の問いに、由女は少し戸惑いの顔を見せながらも、そう応えた。
 ふにふに……っ
 悪司の手のひらが由女の慎ましやかな乳房を覆う。
「んっ……」
「じゅーぶんやわらけーじゃん、由女のおっぱいだってよ」
 悪司は少しからかい気味に、にやっと笑いながら言う。
「そっ……はぁう、はぁ……っ」
591ラバーズ×エロス4/7 ◆kd.2f.1cKc :03/06/11 20:05 ID:Pvd5VZv3
 一瞬、何か言い返そうとした夢だったが、巧みな胸への刺激に、腰をく
ねらせるようにして良がり声を上げてしまう。
「こっちは……硬くなるみてーだけどな」
 きゅ……悪司は、あくまで優しく、由女のペニスを握り、扱きはじめる。
「ふぁ……ぁ……ぁ……ぁっ……!」
 ぴくん、ぴくんと反応しながら、悩ましげな表情になってしまう。
 だんだん、悪司の手の動きが速くなってくる。
「やっ、あ……そ、そんなにしたらっ、私……っ!!」
「このまま……イってみせてくれよ……」
 悲鳴に近い声を上げる由女に、悪司が耳元で優しく囁く。
「っ、そんな、あぁっ、ぁ、ぁぁっ……」
 どこか脱力したような声を上げつつ、由女はびくびくっと絶頂に身体を
跳ねさせながら、ペニスから精を放ってしまう。
「ふぁ……ぁ……はぁ……はぁ……」
 ――ちんまい女が出すってのも、見なれてくっと結構エロいよなぁ。
 悪司はそう思ったが、言うと由女を傷つけそうなので口にはしなかった。
「はぁ……はぁ……悪司、さん?」
 息を荒げながら、由女は悪司を振り返る。
「!?」
「んちゅ……っ」
 そのとたん、唇を奪われた。
「ふぁ……」
 重ねるだけのキスが離れていくと、由女は若干首を戻しただけで、悪司
の胸にしなだれかかる。
 くちゅ……っ
「んっ……!」
 びく……っと由女の身体が反応する。悪司の指が割れ目の方を開くと、
十二分に潤ったソコが水音が発された。
592ラバーズ×エロス5/7 ◆kd.2f.1cKc :03/06/11 20:06 ID:Pvd5VZv3
「そのまま、よっかかってな」
「ふぁ…はい……」
 由女が返事をするが速いか、悪司は由女の腰を軽く持ち上げた。
 自分のいきりたったペニスをあてがい、おろしながら由女のヴァギナの
中へ埋めていく。
「はぁ……ぁ……ぁぁ……っ!!」
 ぐぐっ……っと押し込まれていく過程の中で、萎えていた由女のペニス
がびくんっ、と跳ねるように立ち上がってしまう。
「やっ、こ、これ……っ……て!」
 由女が困惑した表情になって、上体を起こしかける。
「ああ……前立腺だな」
「前立腺?」
 悪司が言うと、由女は思わず反芻する。
「男のコレの根元に、気持ちいいモトがあるんだよ。由女はそのうらっか
たがソコだからよ、入れっと反応しちまうんだろうな」
 悪司は比較的真面目な表情のまま、おおざっぱな説明をした。
「……っ、そんな、それじゃ私……っ」
「露骨に嫌がんなくてもいーじゃねーか。俺は由女が気持ちいいのがわか
って嬉しいぞ」
 泣きそうな表情になってしまう由女に対し、悪司は耳元で囁くようにそ
う言って、そのまま耳たぶをかぷっ、と甘噛みした。
「ひゃんっ!」
「じゃあ……突き上げるからな……」
 顔を戻しつつ、悪司は由女のそれごと上体を軽く起こし、由女の腰を抱
えるようにして腰をぐっ、と突き出した。
「あ、はっ……」
 由女は首の下で手を組むようにして、良がり顔になってしまう。
 ずっ、ずずっ、ずっ、ずん……っ……
593ラバーズ×エロス6/7 ◆kd.2f.1cKc :03/06/11 20:06 ID:Pvd5VZv3
 ストロークは浅いが、強めの突き上げが由女の奥にまで伝わる。
「は……ぁ……はぁ……はぁぁ……はぁ……っ」
 その度に、由女の狭いヴァギナはぐっ……と悪司のペニスに絡み付いて
くる。
「くっ……これじゃ俺も……っ」
 ずんっ、ずんっ、ずっ、ずず……っ……
「ふぁぁ……はぁぁ……はぁ……はぁぁ……っ」
 由女の声は昂っていき、甘い悲鳴のようになっていく。
「も、もう、ぁ、わ、私い、……あ、ぁぁっ……!」
「俺も……だ……っ」
 びゅっ、びゅびゅっ、びゅくっ……
 由女のペニスから、虚空へと精液が放たれる。その脈動の度にきゅっ、
きゅきゅっ、とヴァギナが締まる。
「くぁぁっ……」
 どくっ、どくっ、どくっ、どくぅっ……!!
 悪司が呻き、大量の精液が由女の体内に送り込まれた。
「…………っ、はぁ……はぁ……はぁ……っ」
「ふぅ……はぁ……はぁ……」
 2人は躰を重ねたまま、ぐったりとベッドに寝そべる。
「なぁ……由女、よぉ……」
 息を整えながら、悪司は由女に声をかけた。
「はぁっ……はぁ……な、……なん、でしょう?」
 返事をする由女の息はまだ荒い。
「俺だってな……人並みに恋っつーもんをした事もあらぁ……ま、縁がな
くって別れたわけだけどよ」
「……………」
 ようやく息を静めた由女は、どこか神妙な面持ちで悪司の話を聞いてい
る。
594ラバーズ×エロス7/7 ◆kd.2f.1cKc :03/06/11 20:06 ID:Pvd5VZv3
「けどよ、今はもう、お前だけでいっぱいだわ……相性ってのとはちょっ
と違うけど、本命ってヤツ、今はお前以外考えられねー」
「悪司さん……」
「よっ、と……」
 悪司はやはり由女ごと起き上がると、自分の逸物を引き抜きながら由女
をベッドに座らせる。
「んぅっ……!」
 由女は引き抜かれた瞬間に声を上げたが、ベッドに直接腰がつくと、す
ぐに後ろを振り返った。
 その肩を、悪司が抱き寄せ、唇を重ねる。そして、今度はお互い向き合
うようにして抱き締めながら、再び寝そべっていく。
 やがて唇が離れる。
「結局、シーツまた汚しちまったな……」
 悪司が呟くように言いながら、由女の背中を優しく撫でる。
「そうですね……」
 由女も苦笑した。
 そして、由女は悪司の胸に頬を寄せる。そうして2人は、そのまままど
ろんでいった……
595名無しさん@初回限定:03/06/11 21:36 ID:aDtU5xWE
>>588-594
リンク忘れてるぜ、職人さんよぅ。
596 ◆kd.2f.1cKc :03/06/12 02:06 ID:tWmk5b+Z
>>595
スマヌー。こちらのSS投稿板は実はよくまだわからなかったりするのだ。
ヘタレで申し訳ない。
>>588-594 ←これを入れろってことかな?<リンク
違ったらスマソ。

とりあえずけじめ

   ∧||∧
 ・゚・(  ⌒ -=y ターン
   ∪  ノ ̄
    ∪∪
597名無しさん@初回限定:03/06/12 02:14 ID:16n97mW9
>>596
ルールというかお約束は>>1に書いてある通りだよ。要するに「ここで
終わりor一区切りです」というのをはっきりさせるために、書き終わった
後に>>***-***とアンカーでくくることになってるわけで。
598 ◆kd.2f.1cKc :03/06/12 04:30 ID:tWmk5b+Z
>>595,597 &All
申し訳ありません、大変失礼いたしました。
599名無しさん@初回限定:03/06/12 05:52 ID:FQ2yqQM2
らぶらぶセクースいいですなぁ(*´ー`*)
やはり愛がなくてはな。
600名無しさん@初回限定:03/06/12 08:50 ID:7sc4TusY
ひかり姐さーん!

600getだぜー!
601名無しさん@初回限定:03/06/15 09:36 ID:Tbq3Uqrp
保守さげ
602へたれSS書き:03/06/15 15:01 ID:eAJSD1KS
 あっという間に400K超えましたな。
そろそろスレ移転の時期なんだけど、どーします? 特に要望が無いなら
自分が>>1テンプレでたてるけど追加事項とかってあります?
意見が無いようなら今夜くらいに立てます。

保管サイトの方はちょっと待ってくだせえ(w
603名無しさん@初回限定:03/06/15 22:51 ID:P7S8j8ts
何気に前スレまだ生きてるんだな・・・
604へたれSS書き:03/06/15 23:10 ID:eAJSD1KS
特に意見も無いようなので次スレ建てます〜
605へたれSS書き:03/06/15 23:13 ID:eAJSD1KS
立てました。

保守カキコお願いします〜。
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1055686320/
606名無しさん@初回限定:03/06/16 03:24 ID:67eCjcg4
ってーか>>600と同じレスやたら多いな

馬汁で新しい宗教でも設立したのかyo
607名無しさん@初回限定:03/06/16 18:23 ID:SILMzTuc
ふぅ。
前スレの水月といい、当スレのデモペといい、集中しすぎ…。
他のネタが書きにくいよぅ。
悪いとはいわないが、少ーし、分散してくれんかのぉ。
608名無しさん@初回限定:03/06/16 21:45 ID:UDWLBEDO
>607
スレにも流れというか、勢いみたいなものがあるからね。
とりあえずそのネタをあげてくださいな。
少しは分散すると思うよ?
609名無しさん@初回限定:03/06/17 01:10 ID:vQqXBjao
それ散るのSSを激しく希望・・・・・・っていうかひかり姐さんの・・・・・・

っていうか登場するだけでもいいから!
ひかり姐さんの登場するそれ散るSSを!(´Д⊂)
610あぼーん:あぼーん
あぼーん
611あぼーん:あぼーん
あぼーん
612あぼーん:あぼーん
あぼーん
613立て、ロボ美春!:03/07/06 19:36 ID:FMxb7Le2
  ―美春シナリオの数ヶ月前―

  初音島にある某研究所にある一室。
  そこでは天枷美春が生まれたままの姿で、鈍く銀色に輝く台の上に寝かされていた。
  美春の両足は左右に割り広げられ、幼い秘部が外気に晒されている。
  だが、陰毛は産毛程度の物しか生えていないばかりか両足を大股開きにされているにも関らず、膣口も尿道も縦筋に包まれたままだった。

 「あうぅぅ…恥ずかしいですよぉ…」
  大事な所を晒したまま、美春は目に大粒の涙を湛えながら泣きそうな声で呟く。
 「悪いな、天枷。 これも科学の発展のためだ」
  美春の股間を覗き込んでいる白川暦はそう言うと、美春の幼い秘部を指でめくり開いた。
  ぬちゃあ…。
  わずかな陰音を立て、ヴァギナがぱっくりと左右に広げられると、まだ男根を咥えこんだ事のない処女の膣口と包皮をかぶった陰核が露になる。
 「ひぃぃっ、そんなとこ広げないでくださいぃぃっ」
 「…おや、天枷、ちゃんとここは洗っているのか?」
 「…えっ?」
 「ほら、恥垢が少し溜まっているぞ」
  そう言って、暦は美春の性器に付着していた白い塊を指でこすり取ると美春の目の前に持ってくる。
 「あうぅぅっ…」
  つーんとする臭いが美春の鼻に届く。
  自分でもいじるのが怖くてろくに触った事もない秘部を学園の講師に無造作に弄くられ、あまつさえ恥ずかしい垢を取られた羞恥に美春の目から涙が零れ落ちる。

 「うぁぁぁっ、ぐすっ、ひっく…」
614立て、ロボ美春!:03/07/06 19:38 ID:FMxb7Le2
 「ああ、天枷なにもいぢわるでこんな事している訳じゃないんだ。 頼むから泣かないでくれ」

  とうとう泣き出した美春を暦は慌てて慰める。
 「うぅぅっ、ぐすっ、ひっく…なんで、美春そっくりのロボットを作るのにこんな事までされなきゃいけないんですかぁ…」
 「すまない、天枷教授の指示なんだ」
 「うぅぅっ、お父さんの?」
 「そうだ。 今回のコンセプトは限りなく人間に近いロボットを作ることなんだ」
 「だから、どうしてもこの行為は必要なんだよ」
 「ううぅ…」
 「あとで好きなだけチョコバナナを食わせてやるから、あと少しだけ我慢してくれ」
  暦は秘部を見られる羞恥に泣きじゃくる美春にそう告げると、開かれたままのヴァギナをデジカメに撮り、続けて膣口をやさしく指で広げ処女膜をデジカメに写した。
 「これで良し。 あとはCTで天枷の膣の長さを調べるだけだ」
 「ぐすぐす…これでもう終わりなんですか?」
 「ああ、そうだよ」
  そう言って美春の頭を撫でてやる。
 「うっうっ、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
  性器を奥まで観察される呪縛から開放されると、美春は幼い子供のように大声で泣いた…。
615立て、ロボ美春!:03/07/06 19:40 ID:FMxb7Le2
  ―その日の夜。

 「天枷教授、サンプルが取れたのでお届けに参りました」

  暦が美春の父親にデジカメとCTのデータを持っていくと、天枷教授はロボ美春の設計をしていた。
  天枷は作業を中断すると「うむ」と偉そうにひとつ頷き、暦からデータを受け取る。
  そしてデータをコンピューターに取り込みロボ美春の設計を再開する。

 「…天枷教授、ひとつだけ聞いていいですか?」
 「…なんだね」
 「いくら人に近い物にするためとはいえ、どうしてここまで本物そっくりにする必要があるのですか?」

 「そんな事は決まっている!!」

 「ロボっ娘とはそういう風に出来ていなければならんのだよ!!」
 「ドジでちょっとお間抜けなかわいい女の子型ロボットが『はわわー、ご、ご主人様ーなんだかわたし、体の調子が変なんですー。 あそこから冷却水が漏れているみたいですー』という風にだなっ…」
  天枷は一気にまくし立てるようにロボ娘の魅力について熱弁を振るう。

 「は、はあ…」
  暦は目の前の熱弁を振るう変態科学者をあきれた目で見ながら美春に心の底から同情した…。

  ―そして、ダ・カーポ美春シナリオ本編において―

  変態親父の科学の粋を集めて作られたロボ美春が誕生したのであった。 

                                                                完
616名無しさん@初回限定:03/07/06 19:41 ID:FMxb7Le2
少し修正を施したバージョンです。
ロボ美春誕生にまつわるエピソードににります。
617あぼーん:あぼーん
あぼーん
618あぼーん:あぼーん
あぼーん
619名無しさん@初回限定:03/07/06 23:07 ID:zKZ2GJiC
>ID:FMxb7Le2

>1 を5千回読んでから出直して来い。 この広告誘蛾灯め

620あぼーん:あぼーん
あぼーん
621あぼーん:あぼーん
あぼーん
622「紫陵辱1」:03/07/09 06:58 ID:QpFar/Qz
書き込みます〜

 紫が目を覚ました場所は、植物と肉の中間のような物で出来た部屋だった。
 蒸し暑く、すえた匂いが充満する気味の悪い部屋。
「・・・あれ・・・?・・・ここ・・・は・・・?」
それが、ゆらぎの体内であると、紫に想像出来る筈も無い。
状況すら把握できず、必死に首を巡らす。
四肢は拘束され、部屋の真ん中の地面に大の字で寝ている格好だ。
衣服も着ておらず、整った身体を露にしている。
意識がはっきりし始め、自身の置かれている状況が脳に伝わる。
「何!?なんで!?どうして!?」
やや素っ頓狂な、それ故に彼女らしい声が上がる。
手足に力を入れてみてもびくともしない。
そして、今の紫の叫びに反応したのか、肉質の壁が蠢き出す。
壁だと認識していた物は、全て親指程の太さの触手だった。外見はミミズのそれだ。透明な粘液を分泌し、ネチャネチャと不快な音を立てている。
壁の形が崩れ、触手が紫の身体を絡めとっていく。
「っひ!!!」
羞恥にも、嫌悪にも勝る恐怖。本能が「捕食される」と警鐘を鳴らす。
だが、拘束された四肢は相変わらずだ。
紫は腹のそこから渾身の悲鳴を上げる。
「いやああああああ!!!」
その悲鳴と同時に、触手の先端から白濁した液体が紫の身体にぶちまけられる。
「あっ!?いやぁっ!!」
無駄の無い腹に、扇情的な太ももに、かすかに自己主張する乳房に、桃色の性器に。
触手達は場所を選ばず、紫の全身をコーティングするかのように粘液を擦り付けていった。
ソレは何分続いただろうか。
触手の群れが噴射を終えたときには既に紫の身体はベトベトであった。
「うう・・・こんなの・・・やだよ・・・岡ちん・・・助けてよ・・・!」
気色悪さと、恐怖が、紫の精神を蝕んでいく。
涙声で吐き出した救いを求める声。それがどれだけむなしいか、紫自身がよく知っているのではないだろうか。

623「紫陵辱2」:03/07/09 06:58 ID:QpFar/Qz
現状はそのまま、救いの手は現れず、捕食されようとしているのだから。
捕食とは言っても、紫の想像の埒外の形だが。
噴射を終えると、触手たちは別の動きを見せた。
「え?・・・ふやぁ!!」
先程浴びせた白濁を塗りこむように紫の身体を這いずり回っている触手達。
腹、背中、乳房、首筋、肩、太もも、くるぶし、臍穴、膝の裏、性器、挙句の果てにはセピア色の菊門までも。
「いやっ!!いやぁああああ!!」
嫌悪に声を張り上げても、触手の動きは止まらない。
グチュグチュと粘着質な音を立てながら、紫の体をもてあそんでいく。
ある者は自身の腹を使い粘液を引き伸ばし、またある者は先端で押し込むように突きまわし、またある者は勢いよく先端で舐めるように蠢いていく。
「・・・!!!」
想像を絶する不快感に、紫は声すら出ない。眉根を寄せ、目を閉じ、唇を噛み締め、拳を握り、嫌悪に耐えようとする。
しかしソレを嘲笑うかのように触手の動きは激しくなっていく。
数を増す触手、それに比例して粘着音も大きくなっていく。
あまりの嫌悪感に紫は暴れだそうとした。
つと、その時、一本の触手が乳房の頂をかすめた。
「っんん・・・!」
紫の口から、紫自身が聞いたことも無いような甘い声が漏れる。
「なに・・・今の・・・?」
その答えは、触手達がしてくれた。
「アァ!?・・・んひいいい!!」
今まで嫌悪と感じていた感覚が、快楽となって紫に襲い掛かる。粘液を塗りこまれた部分、つまり全身が敏感になっているのである。
624「紫陵辱2」:03/07/09 06:59 ID:QpFar/Qz
触手が這い回っている全身から、痛みと間違えるほどの快楽が流れ込んでくる。
「んやあ!!止め・・・ってええええ!!」
腹部をビクビクと痙攣させながら、懇願する。その懇願は嫌悪のためではないだろう。声音が快楽に濡れていたのだから。
触手達も気を良くしたのか、先程に倍する動きで紫の肢体を舐め尽くす。
「ああああぁ!!何・・・!?なんか・・・来る・・・くるううううう!!!あああああああ!!!」
初めて味わう性の頂。腰を突き上げ、全身を痙攣させる。
「あ・・・・はぁぁぁぁ・・・」
頭の中が白く塗り込められ、意識が飛びかける。浮遊しているような錯覚。そのまま意識がホワイトアウトしていく。
だが
「んぅ!?あ、ひゃぁあああああ!!」
快楽によって意識を覚醒させられる。快楽によって意識を飛ばされかけるが、襲い来る快楽が意識を飛ばすことを許さない。
暴力的な肉悦の連鎖に巻き込まれ、紫はただただ甘い声を上げるのみだ。
「っひいいい!!?またぁ!?またああああああああ!!」
絶頂を幾度重ねても、すぐに次の頂が襲い来る。
「やぁああああ!・・・もう・・・狂っちゃうううう!壊れぇええ!!」
紫が幾度達しても、触手達は休む気配を見せない。それどころか新しい動きを見せ始めた。
ジュルゥッ
触手たちの先端が割れ、中からさらに細い触手が出てきたのだ。大きさ、形、共にミミズのそれに酷似している。だが連想されるのはミミズというよりイソギンチャクであろう。よく見るとその一本一本に口のようなものまで付いている。
「もうぅ・・・やぁ・・・狂っちゃうよぅ・・・これ以上されたら・・・狂っちゃう・・・」
それが与える快楽の強さを想像し、弱々しく呻く。

625「紫陵辱2」:03/07/09 06:59 ID:QpFar/Qz
果たして、その願いは聞き入れられなかった。
「・・・ッ・・・!!!!」
ソレが、一斉に紫の身体に取り付いた。
「ダメぇ!そんな!先っぽぉ!!」
乳首に巻きつき
「吸わ、ないでぇ、アヒィ、お願い、だか、ああああああ!
臍の垢をこそげ落とすように舐めしゃぶり
「そん、なとこ、もなぁ、のぉ!?んきゃああああ!」
耳朶に入り込み、
「やぁぁ、そんなのぉ、優し、過ぎぃ!!」
手足の指をしゃぶり抜き
「は、恥ずかし、ヒィイイイ!」
肛門のしわをなぞり上げ、
「あ、あ、そこぉ!!!」
淫核の皮を剥き、
「!!・・・きゃはああああああ!!!」
扱き上げる。
それぞれが別々に動くが、紫の身体を襲った快楽は一塊だった。
「イ、ヒイイイイイイイ!!らめ、らめえええええええ!!」

626「紫陵辱最後」:03/07/09 07:07 ID:QpFar/Qz
先程の責めよりも繊細で、だがしかし先程の責めに倍する暴力的な、快楽。
ろれつも回らず、舌足らずな言葉で叫び立てる紫。身体に流れ込んでくる快楽が、逃げ道を口に見つけたかのようだ。
涙を流し、涎を垂らし、愛液を漏らし、よがり狂っている。
そして、止めは唐突に訪れた。
キュプウウウウウウッ!!
「グッ!?ひゃあああああああああああああ!!!!」
触手達が一斉に吸引を始めたのだ。
面ではなく、点の責め。しかも全身が性感帯のような状態で、隅々まで、である。
「凄っぉおおぉおおおぃいいいいヒィイイイイイ!!!」
首をガクガクと打ち震わせ、涎と涙を撒き散らし、股間からブシャブシャと愛液を迸らせる。
そして、脳がハレーションを起こし、紫の意識が飛んだ。
触手達は、意識が無くなった紫の身体をしばらく嬲りまわしていたが、反応が無いのが面白くないのかすぐに責めの手を止めた。
だが、これで快楽漬けの拷問が終わったわけではない。
トプットプッ
触手の一本が、紫の口に何かを注いでいた。紫は無意識ながら、その液体を嚥下していく。
その液体が、何をもたらすかも知らずに・・・

以下次回
627名無しさん@初回限定:03/07/09 07:15 ID:QpFar/Qz
え〜魔法少女アイ2の紫をいぢめてみましたがいかがでしたでしょうか?
ヘタレな文だ、などの叱責などございましたらどうぞ遠慮なく、自覚しておりますのでw

ふたなりにするか、搾乳奴隷にするか・・・それが問題だ・・・
(あと題名ミスりましたが御気になさらぬようお願いいたします)
628622-627:03/07/09 21:31 ID:uFIws6vc
あ、ここにカキコするの初めてでちょとミスってしまいました。

>>622-626

ご迷惑おかけしました。
629名無しさん@初回限定:03/07/18 16:30 ID:pO7mbvNL
白河さやか嬢のSSでいいの無い?
抜ける奴。
630名無しさん@初回限定:03/07/24 08:24 ID:iEJRCWv1
保守
631名無しさん@初回限定:03/07/25 13:14 ID:m6pyWGpK
広告多杉w
632名無しさん@初回限定:03/08/13 06:01 ID:1MdWvnQK
テステス
633名無しさん@初回限定:03/08/13 17:04 ID:/P+yjHCC
広告ばっかじゃん。
感想書いてやれよ、カスども。
634あぼーん:あぼーん
あぼーん
635名無しさん@初回限定:03/08/15 07:45 ID:K58Iej74
保守
636山崎 渉:03/08/15 11:09 ID:nL1dDwuZ
    (⌒V⌒)
   │ ^ ^ │<これからも僕を応援して下さいね(^^)。
  ⊂|    |つ
   (_)(_)                      山崎パン
637へたれSS書き:03/08/15 11:19 ID:yyUSehvm
>>633 >>635
>>605 見てくれ
638名無しさん@初回限定:03/08/15 18:44 ID:J4I4ocxH
63962718:03/08/15 18:49 ID:5Cqq+WTm



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640あぼーん:あぼーん
あぼーん
641名無しさん@初回限定:03/08/18 22:21 ID:W6IhIsKl
無腸AV写真!!!
http://66.7.65.90/sou/FreePICS/
218.41.123.78 , p297b4e.t128ah00.ap.so-net.ne.jp ?
642名無しさん@初回限定:03/08/28 10:14 ID:6J09Nv5X
馬面氏の次回作に期待
やっぱそれ散る面白い

ちなみに保存サイト削除されてるっぽ
643名無しさん@初回限定:03/08/28 12:40 ID:RIDoKQB+
現役コンパニオンのオマンコはユルユルで激敏感!巨根をゆっくりハメてやるとこの
表情!
http://www.hamedori.net/video.html

61.199.55.48 , p3048-ipadfx01maru.tokyo.ocn.ne.jp ?
644名無しさん@初回限定
SS投稿スレッド@エロネギ板 #6

ttp://www2.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1055686320/l50