時は現代。
科学技術が発達した昨今の社会のなかで、平和が約束されている世界。
だが、人々は知らない―――その平和を脅かす者たちが闇で蠢いていること
そして、名も知らぬ人間のために、その魔を切り払う者もいることを―――
ここは、現代に蘇った妖魔やそれを退治する退魔者になりきって楽しむスレです。
妖魔になって民間人を襲ってエロールするもよし、退魔者となって仲間との絆を深めるもよし。
色々と展開を広げて、楽しんでいきましょう。
【ルール】
・煽り、荒らしは華麗にスルー。
・民間人やその他能力を持たないキャラハンの参加も可能です。
・スレの性質上、強姦や特殊プレイも可ですが、きちんと相手の了承を得ましょう。
・いくら退魔モノだからとはいえ、険悪な展開はやめましょう。(相手の了承なく妖魔を殺害など)
・言うまでもないですが、最強厨も禁止。
・設定などは上手いこと、その時その時、都合を合わせていきましょう。
小さな矛盾とか気にしない気にしない。(無茶な矛盾はNGですが)
・相手のことを考えて、まったりと和やかな雰囲気でいきましょう。
・sage進行でお願いします
前スレ
【妖魔】現代退魔戦記 第七章【退魔】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/erochara2/1163419391/l50 ■現代退魔戦記まとめサイト
http://vepar42.h.fc2.com/ ■現代退魔戦記板
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/6589/
こういうのがあった方が、あるいはわかりやすいのではないだろうか。
テンプレ案だが保守代わりに投下。
キャラハンさんは可能であればテンプレに沿って自己紹介お願いします。
ここにない場合は
>>1の現代退魔戦記板も参照のこと。
【名前】(読みも)
【年齢】
【性別】
【サイド】退魔師か、妖魔か、あるいは中立か
【組織】何か組織に所属している場合はそれを書いてください。
【サイズ】身長、体重、スリーサイズ(男性は不要)
【容姿】キャラのイメージを構成する重要な要素です。
【得意】
【能力】
【武器】
【NG】
【弱点】
【備考】 設定など、キャラの背景となりうる情報を書いていただけるとロールに深みが増します。
学生さんなど、細かい設定がしたい場合は以下の部分もどうぞ。
【好きな食べ物】
【嫌いな食べ物】
【好きなこと】
【嫌いなこと】
【趣味】
【好きな異性のタイプ】
【嫌いな異性のタイプ】
【特性傾向】自分の戦闘スタイルを一言で表してください
【部活動】
【得意科目】
【苦手科目】
【血液型】
【誕生日】
即死判定ゆるい気がするがそれでも保守
【どうも遅い時間にしか待機できませんが。】
【即死は悲しいので、とりあえず待機してみます。】
【お疲れ様です】
【今日は参加できませんが、お手伝いだけさせていただきます】
>>6 【お疲れ様。まぁ、明日が平日ですからね…。】
【リミットは何時くらいまででしょうか?】
【こちらも明日があるのでアレですが、即死回避にでも軽いロールを申し込みたいのですが……】
>>8 【一時過ぎくらいまででしょうか。】
【邂逅程度でいいと思います。私もここでのロールは初めてですし。】
【まあそんな所でしょうね】
【それでは、正式にお願いいたしましょう。書き出しはどうしましょうか……】
【では、適当に書き出しますので、乗って下さい。】
【了解です。それではよろしくお願いしますね】
この街に来て半月程の日々が過ぎようとしていた。
今のところ、気になる程の強力な気配を感じる事もなく、平穏に近い日々が過ぎている。
自分を餌と見据えた妖魔が数匹、その牙を剥いて来たが、それも全て片を付けている。
いずれも、取るに足らないレベルの連中であった。
「…今日は、何事もなさそうだな」
街の郊外にある打ち捨てられた社へと向かう。
旅の疲れを癒すのに宿をもてる程度の路銀はあったが、
無駄に使うに忍びない事と、込み入った街の雰囲気の中にいるのが
どうにも気が落ち着かないため、偶々見つけたその場所が彼女の仮住まいだった。
雨風さえ凌げれば、どうとでもなる。
そんな旅をずっと続けてきたのだから。
幸い、水は何処でも調達出来たし、食事にしても「コンビニ」のお陰で
苦労させられる事はなかった。
黄昏の茜の色合いを白い装束に浴びながら、ただゆっくりと歩を進める。
【それでは、宜しくお願いします。】
いつも通りの、何の変哲もない日曜日が過ぎていく。
遠く西の空に日が落ちれば、もうすぐ闇に生きる者達の時間が訪れる。
久しぶりに目的もなくぶらぶらしてみようかと、そんな思いを胸に外に出た。
何か起こりそうな予感とともに。
ふらりと市街地から離れた社跡に向かう。
一種の修行によってより一層研ぎ澄まされた感覚は、様々な種類の力を敏感に感じ取る。
そんな力に吸い寄せられるかのように瑞希は歩いていた。
「今まで感じた事のない種類の力だ……何者だ?」
独り言を呟きながら歩く。
まだ日中なので私服だが、それでも瑞希の放つオーラは異彩を放っていた。
たまにすれ違う一般人が向ける視線をどこか心地よく感じているうちに、社の前に辿り着いた。
「……ここか」
苔むした鳥居を見上げて一言。「いかにも」な雰囲気に身を引き締める。
鬼が出るか蛇が出るか。わくわくしながら時を待つ。
「…?」
早めの睡眠を取るか、食事でもとるか、そんな些細な事を考えながら
進めていた歩みの中、ちり、と項が焼けるような感覚を覚えた。
その、異質を帯びた気配が待つのは、自分が向かう社跡。
妖魔というには落ち着きすぎ、ただの人間というには有り得ない気配。
「…退魔士か?」
追われる覚えなら、数えられぬ程ある。
面倒な事にならぬように、と思いながら、
長物の布を緩め、いつでも抜けるようにしつつ、歩みはそのままに。
程なく、「それ」以外の気配の全くない、社跡へと辿り着いた。
(…出方を伺うとしよう。)
まるで、そこに何が待つかも気付いていないかのように、社の中に続く
階段を登り、古びた庵を目指す。
だが、濃密さを増す気配の位置は、しっかりと項に走る感覚から把握していた。
鳥居をくぐって社の建物を見て回る。
見た目の古さとは裏腹に、何かが住んでいるような感じを受ける。
周囲に対する警戒の意味も込めて魔法杖を顕現させ簡単な呪文を唱えると、こぶし大の光球が辺りを照らした。
この手の場所によくいる低級霊や下級の妖魔を追い払う効果と照明代わりの効果を持つ初歩的な魔術だ。
「近づいてくるな……大物かな?」
さすがに建物の中に足を踏み入れる事は憚られたが、いずれ主がやってくることに変わりはない。
そう思い直して建物正面に陣取り、腰を降ろす。
(どんな存在が現れようとも、まずは話をしてみることにしようか)
ごく自然体であるように、無用の警戒を抱かせないように注意しながらも周囲の観察は怠らない。
耳を澄ませば足音が聞こえてくる。
そして、暗がりから現れたのは一人の女性だった。
「……この地に満ちる力の持ち主は貴女か。私の名は戸田瑞希、魔術師をしている」
害意のないことを示すために魔法杖を相手の足元に放り投げ、優雅に一礼。
腰に物騒なものが見えたが気にしないことにする。
目の前に現れた、自分とほぼ変わらぬ背丈の相手は、
一見するとそこいらの一般人と変わらぬようにも見える。
だが、彼女の周囲を取り巻く気配は、何処かこの土地に馴染まない、
独特の雰囲気を漂わせていた。
目の前の女性自体はこの国の出自のようだが…。
周囲を照らしている明りは、彼女が作り出したものか。
伏目がちな瞼で相手の方を少し見やると、編み上げた黒髪を後ろへ払う。
そして、足元に投げられた杖を拾い上げた。
「…天神 志穂だ。魔術師殿が、私に何用か」
問う。
手にした得物は、自分のよく知る方法とは違う切り口から
力を引き出すもののようだ。
異国の術を使う者とやり合った事も少なくはなかったが、
系統の異なる力というのは、やはりどうにも馴染まない武器を手にしているようだった。
それは、手にした杖自体も同じようで、主以外に触れられる事を拒絶するような感覚を覚える。
「用と言うほどの事でもない。
たまたま強い力を感じたのでね、この社を訪れてみたまでの事だよ」
興味深げに目の前の女性を観察する。
少々失礼かとも思うが、同じ事をされているわけだから文句はあるまい。
放たれるオーラは、今の自分とは似て異なるもの。
それが腰に見えるものに由来するかどうかは定かではないが、おそらくは退魔師に近い存在なのだろう。
自分の行使する西洋式の魔術とは違う系統のチカラ。
どれくらいの手垂れなのかはやりあってみないとわからない。
しかし、かなりの実力者である事は容易に感じられた。
「……Komme(来い)」
拾い上げられた魔法杖に向かって短く唱えると、瞬時に瑞希の手元に舞い戻る。
意志無き道具ではあるが、自分専用に拵えられたそれは主の手を離れた事に抗議するかのように震えた。
「そういう貴女は、なぜここに?」
逆に問い直す。
見たところ、この町には最近来たようだ。
瑞希の主に害を為す者であるならば、知らせねばならない。
手にしていた杖があるべき場所へと戻って行く。
空いた手に、違和感だけが残った。
「私はただ、この打ち捨てられた社を借り受けているだけの者。
大地に満ちた力は、この社が培った精の集まりに過ぎぬ。」
事実、この社は主こそ居ないものの、静謐の中に強い力を蓄えていた。
それが、この社跡から人を遠ざける人払い結界として働いているのだ。
社の元の持ち主がそのようにしたのか、それとも何か他の理由があるのかは
分からないが、一般の好奇の目を避けるには好都合。
逆に、瑞希のように異能に目聡い者には目立つ場所となる。
闇世界の中で過ごすには、適した場所であった。
「今は、この場所が私の仮の住まいだ。だから、戻ってきただけのこと」
その答えは、瑞希が期待したものではない。
だが、実直に、志穂は答えを返しただけであった。
「そうか……」
目の前に立つ女性―天神志穂の言葉に少し考えるようなそぶりを見せる。
望んでいた答えは得られなかったが、ある程度の情報は得られた。
少なくとも、志穂と言う人物は自分を過大評価しない種類の人間であるらしい。
この手の人間は敵に回すと厄介である事を、瑞希は自分の経験から承知していた。
――将来的に志穂が敵に回るかどうかはまだわかっていないのだが。
「つまり、ここに寝泊りしていると言う事だな。
それに……ここの力が強いのは貴女に由来するのではなく、
この地自体が持つ力であるからだ、と言うわけか」
合点が行ったかのように明るい声で一言。
わずかに微笑を湛えたその表情からは、全くと言っていいほど悪意は感じられないだろう。
そのように振舞っているだけで、内心は必ずしも外面と同じではないけれども。
「それだけ判れば十分だ、有難う」
丁重に礼をして背を向け、ゆっくりと歩み去ろうとする。
必要があればまたここに来るだろうし、あるいは主自ら志穂を所望する事もあるだろう。
その時は、きっと敵同士だ。
【そろそろお時間ですね……】
【こちらは次のレスで〆ようかと思います】
「その通りだ。…だが、出来ればこの場所を荒らすような事はしないで欲しいものだ」
立ち去りかける瑞希の背に言葉をかける。
「このような場所は、最早、人のいる街にはあまりない。
だが、私はこのような場所も必要だと思っているのでな」
それは、偽りない彼女の本心でもあった。
人の住む領域は日々拡大しているが、昨今の退魔士は、このような霊域を
見つけると、何かと自分達の都合のいいように利用しようとする。
そうやって、力を増大させていけば、やがてそれらも彼女が相対せねば
ならない「力」となるのだ。
こうした力は、静かに眠らせておくに限る。
「悪戯に、眠った神を起こすような事のないよう…気をつけるがいい」
ざあっ、と風が吹いた。
まるで、瑞希の背を押して、彼女をここから押し出そうとするかのように。
…それは、この霊域が彼女の内面に潜む仮面を見透かしたためだったのか。
【はい、それではこちらも次のレスで〆ます。】
【お相手ありがとうございました。】
背中越しにかけられた言葉に、半身だけ振り返って答える。
「善処するが、保証はできない。
もしもの話だが、貴女と争いになったりしたらどうなるか判らないからな。
それに……この地に満ちる力、少し興味が湧いてきた」
わずかに唇のふちを持ち上げる笑み。
放った言葉に偽りはない。言葉にこそしなかったが、志穂自身にも興味が湧いた所だ。
同じ異能を持つものとしての興味と、尽きぬ性欲の対象としての興味。
内心の黒い感情をひた隠して、今度は振り返らずに社の建物を出る。
「忠告……感謝する」
強い風に追い出されるようにして再び鳥居をくぐり、日常の空間へと舞い戻る。
わずかな時間の間に随分と日は落ち、社は漆黒の闇に包まれていた。
瑞希は杖にまたがると、音もなく飛翔する。
町の外れに住み着いた興味深い女性のことについて、主に報告しようと考えながら。
――それがどのような結果を生むのかは神のみぞ知る。
【こちらこそお相手していただき、どうもありがとうございました】
【もう即死回避には十分かな?いずれにせよ、まだまだ精進が必要ですね……】
【それでは、失礼しますノシ】
「…余計な釘を刺してしまったか…?」
彼女が立ち去った方向を見、一つ吐息をついた。
どうやら、自分の言葉は彼女の心情の火に油を注いでしまったようだ。
だが、悩むのもやめておくことにした。
庵の中にゆっくりと足を踏み入れ、一度背を正して奥の闇へと拝する。
「…名も忘れ去られし神よ。今日もその恩情に預かり、謝意に絶えぬ」
そう言って、庵の闇の中で着衣を解いた。
奥へと進み、闇の中に滾々と沸き続ける神座の泉に身を浸す。
ほの暖かい泉の水で世俗の垢が落とされていくのを感じた。
黒魔術の使い手。
出来る限り、何人にしろ必要のない争いは避けたかったが…。
「忘れ置く、というわけにはいかなさそうだ」
戸田 瑞希。
その名前をしかと脳裏に刻み置き、左胸に手を置いた。
――そこには、肌の上に張り付くように、空虚な黒い模様が浮かび上がっていた。
【〆です。】
保守
鋭く細い月が空に浮かんでいた。
単車の排気音が鳴り響き、停止する。
朧な月光に照らされるその髪は、金色に染まっていた。
その眼は限りなく冷ややかだった。その表情は限りなく鋭かった。
漆黒のライダースーツを纏う青年が、新都再開発地区の一角に足を運んだ。
斬鬼衆の御影義虎。退魔士にして凶戦士。
ベルトにナイフと拳銃を収め、彼は廃墟を歩く。
不景気の煽りを受け、開発が中断された見捨てられた区画。
そこは現在、浮浪者や野良犬、野良猫、そして妖魔の巣と化している。
彼ら斬鬼衆は、このような場所を見つけたら定期的に足を運んで
妖魔の駆除をする。今夜の彼もそうだった。
それは特別ではなんでもない、そんな日の出来事である。
淡い月光のみが支配する空に、南 京次は視線を向けた。
人の灯が空の星々を隠そうとも、それだけは変わる事無く、
その存在を主張する月。
彼はそれが好きだった。何故ならそれは「敵」の象徴。
人の灯では決してかき消すことの出来ないその輝きは、
彼にとって最も忌むべき、故に愛しい「それ」を思い浮かばせる。
故に彼は、その光の中でこそ狩りを最高に楽しむのだ。
既に今日の目星はつけてある。場所は新都の「捨てられた」場所。
白く目立つ衣装を纏っていてはあまり意味のない行動かもしれないが、
彼は人目を忍び、路地裏を通って『狩場』へと歩んでいく。
途中、バイクの排気音を聞いたような気もするが・・・
既にそのとき、彼の頭は「これから」の事でいっぱいになっていた。
ギチリ、という音がした。カサカサと蟲が歩くような音も。
ここは妖魔の巣窟と化しているのだから当然だ。
だというのに、そこに、《その男》はいた。
その男は胡散臭かった。何が、というのではなく、雰囲気が。
退魔士には見えない。妖魔にも見えない。浮浪者にも見えない。
しかし堅気の雰囲気もしなかった。何よりも纏っている白衣。
医者か、或いは科学者か。ここまでわかりやすい格好もそうはないだろう。
「おい」
薄闇の中、死角であろう背後から、無愛想に声をかける。
「何をしている、ここは危険だぞ」
事実だけを端的に述べる。
そしてその時にはもう遅かった。
闇の一部がボロリと崩れ落ちて。
下級な、地を這いずる不快な生き物の如き妖魔が。
ギチギチギチ・・・・ギチギチギチ・・・・
不快な鳴き声と共に、巨大な蟲たちが襲い掛かってくる。
そこに辿り着き、気配を感じた京次は立ち止まった。
どこか遠く、それでいて耳元にも感じる場所から音が響く。
恐らく既に『奴等』の攻撃範囲に入っているのだろう。
こちらを計り、力を所有しないと見るや何も考えずに牙を立てるために。
左腕の手甲へと右手を伸ばし、一秒とかけずに必要な事を打ち込む。
その時、突然後ろから声がかけられる。
「・・・はい?」
視線を後ろへと向けると、そこには銃やら刃物やらで武装した男が一人。
言葉の内容から、その男が退魔の人間である事が理解できた。
しかしその理解と同時に、周囲に無数の蟲を模した妖魔が現れる。
そして蟲達は、自らの餌たる白衣の男へとその顎を突き立てんとして・・・
バヂヂヂィィィィッ!!
閃光と爆音が周囲を支配した。
そしてそれが収まった時には、白衣の男の周りに無数の蟲が、
体中から青白い電気を放出しながら転がっていた。
「ご心配おかけしました、ですが大丈夫ですよ。私はこれ等を回収しに来たのですから」
にっこりと笑みを浮かべて、そのうちのひとつに手を触れる。
彼の両手が霞むと同時に拳銃が響く。グロックとコルトパイソン。
銃声が響けば百足の頭部が四散する。銃弾が虫達の身体を抉ってゆく。
いつ抜いたのか、いつ撃ったのか。彼自身、半ば無意識での動作であった。
突然、閃光が闇を掻き消し、爆音が妖魔を駆逐した。
青白い電撃を纏った蟲たちが地に転がっている。
『ご心配おかけしました、ですが大丈夫ですよ。
私はこれ等を回収しに来たのですから』
電撃による攻撃。しかし魔術、ではない。
魔力を感知できなかったから。つまり、反対の科学による電撃攻撃か。
だとしたら、かなり高性能な電磁場発生装置を所有しているということである。
下級とはいえ、妖魔にも通用するような。そして彼は、その倒した妖魔を回収しに来たという。
異能を持たずに妖魔を狩る者は、確かにいる。異能を持たぬ身でも、やり方次第では妖魔を
殺すこともできる。眼前の男のように。
「ふん・・・勝手にしろ。俺の邪魔はするな」
それだけ言い、彼はナイフを閃かせる。男のことは気にしない。
舞うようにナイフを振り翳し、蟲の頚部を切り落とし、四肢を切断する。
彼ひとりで駆逐してしまいそうな勢いであった。
「なるほど、ではそちらも私の邪魔はしないでくださいね。
今日はそちら側と戦う予定はありませんので」
男の振るうナイフの反射光を横目に、京次も攻撃を再開する。
無数の鞭のように舞う電撃が、数匹の蟲へと纏めて叩き込まれる。
「しかし・・・無粋ですねえ。
こんなにも美しい夜を蟲共の血で汚すなんて」
無数の電撃は止む事がなく、しかし既に京次はやることが終わったと言わんばかりに
腕を組んで男のほうへと向き直っていた。
「まあ、あなた方退魔は潰すしか能がないようですし、
仕方のないことかもしれませんけどね」
言って、転がっている蟲へと視線を移す。
電撃を帯びて活動を封じられている蟲だが、その瞳から光は消えていない。
憎悪の篭った蟲共の視線を、京次は涼しげに受け止めていた。
男は、余裕の態度だった。こんなことは、何度でもあったとでも言いたげな。
実際、電磁場に守られた白衣の男に、蟲程度では歯が立つ道理が無い。
強靭な顎も、届かなければ意味が無い。そしてその電磁場は、攻撃能力も備えており、
電子の触手が、蟲たちを黒焦げにしている。出力の問題か、即死ではない。
まだ息のある蟲に止めの銃弾を浴びせる。相手の都合など、考慮するに値しない。
「物見遊山気分で首突っ込むな、浅学な素人が」
彼が虫達を全滅させるの要した時間は、二分少々だった。
ブーツの底で屍骸を踏みにじり、磨り潰す。
「お前が何処の誰かは知らんが、その程度の光でこの街の闇を
制することができるとでも思ってるなら、死期が近いぞ」
白衣の男に向ける彼の眼は鋭く、そして暗かった。
彼自身が、その闇の底から這い出てきた存在であるかのように。
【そろそろ〆ますか、時間ですし】
「やれやれ、物見遊山ですか・・・」
屍となった蟲の欠片を拾い上げ、左手で握り潰す。
男の周囲に無数の半透明なスクリーンが現れ、その上を無数の数字が走って行った。
「純度20パー以下、紫外線耐性無し、特殊性質無し・・・ランクF、ゴミですね。
やれやれ、これでC以上でしたら貴方に電撃をお見舞いしているところでしたよ」
蟲達に対しての興味は既になくなった、というように、背を向けて路地裏へと歩いていく。
「探究心すら放棄した人形と言う名の玄人になるくらいなら浅学の素人で充分ですよ。
闇に怯えるが故に力を振るうしかない退魔の人々にはわからないかもしれませんけどね」
男へと背を向けたまま、京次は自分の真上に輝く月を指差した。
「いずれ月の光さえ、人の灯によって掻き消される日が来るでしょう。
そう、貴方方という月も、決して永遠の輝きは保てない」
視線を、向ける。
「いずれ再び会うときには、証明して差し上げますよ。
貴方の今の言葉が、所詮過去の遺物としての言葉でしかないということを・・・ね」
軽く肩を竦めて、再び路地裏へと歩を進める。
その姿が消えるか否かの時に、最後の言葉が残響する。
「その時には、ちゃんと名乗らせていただきますよ。死神さん」
【では、こちらはこれで〆ますです】
【文章が遅くて申し訳ありませんでした】
【また機会がありましたらよろしくお願いします】
――誰も永遠に生きない。
流れ行くテールランプ。高速で流れる視界と、単車を操作する感覚。
そんな中で、不意にそんな歌を思い出す。彼は既に単車に跨って、帰路を辿っていた。
奇妙な男だった。高度な道具を操り、妖魔を屠り、調査していた、あの男。
『探究心すら放棄した人形と言う名の玄人になるくらいなら浅学の素人で充分ですよ。
闇に怯えるが故に力を振るうしかない退魔の人々にはわからないかもしれませんけどね』
人は闇に怯える。それは遺伝子に刻まれた原始的な恐怖。
遠い昔、まだ人間が光を手にいる以前のことである。
闇の中から現れて、幾人もの同胞を喰らっていた異形への、根源的な恐怖。
結局のところ、その消えることの無い恐怖に突き動かされて、人は光で世界を満たそうとしたのだろう。
けれど、世界には陰陽の理というものがある。ならば、光の傍らには闇があって当然であろう。
人間と妖魔の世界。その境界線にて戦うものたち。それが退魔士。
『いずれ月の光さえ、人の灯によって掻き消される日が来るでしょう。
そう、貴方方という月も、決して永遠の輝きは保てない』
その眼差しが、少しだけ引っかかった。
『いずれ再び会うときには、証明して差し上げますよ。
貴方の今の言葉が、所詮過去の遺物としての言葉でしかないということを・・・ね』
妖魔を研究材料とし、退魔士を過去の遺物という、あの男は・・・・
「汝、科学の信奉者。
汝、境界を踏破せんとする者。
汝の名は、狂科学者、か・・・・」
金色と漆黒の殲滅者が小さく呟いた。ただ、それだけの話である。
【では、こちらはこれにて】
【こちらこそまたよろしくノシ】
【久しぶりに待機してみますね】
【気軽に声をかけて下さいね】
【一度落ちますねノシ】
【天城さんとのロールでお借りします】
もう3月だというのに、酷く冷え込んだ夜であった。
所用で新都の中心部に来たのだが、どうにもこの繁華街の騒々しさには馴染めない。
どちらかと言えば路地裏の、闇の色が濃い場所の方が心地よいと感じる。
――それが生来の性質なのか後天的なものなのかはわからないが。
「……ふう、疲れたな」
喧騒を避け、駅のそばの公園で一休みしようと軽く急ぐ。
自動販売機で紅茶を買って公園へ入ると、誰も居ないと思っていたそこには先客が居た。
【とりあえずこんな感じで】
【展開等わかりにくかったらごめんなさい……相談には応じます】
【お世話になります】
私は人間の町が好きだ。
昼夜関係なく照らされた雑踏と人込みの世界。
魔に生まれし者としては静寂と暗闇を好むべきなのかもしれないが、
その境界から、一歩を踏み出した時のことを思い出さないことはない。
人間の世界、人間の社会、そして人間の生活。
その全てが新鮮で、私には眩いばかりの代物だった。
時にはそれらの恩恵を享受し、あるいは退魔組織に追われ、
それでもこの生き方に満足しているのは何故だろうか?
ふと、そう思う時はこうやって一人になり、
ぼんやりと考えるのがいつしか習慣となっていた。
「でも、答えは出ないのよね…」
ベンチに座ったまま、誰にともなく呟いてみる。
【こんな形でしょうか?】
小さな公園の隅にぽつんと置かれたベンチ。
街頭に照らされて明るくなっているそこに浮かび上がるようにして座っている一人の女性。
どこかで見た覚えがあるが、どうも思い出せない。気のせいだろうか?
とりあえず声を掛けてみる。
「こんばんは。こんな時間に独りで出歩くと危ないですよ?
最近ではこの辺りも物騒になってきましたから……」
初対面の相手だから、なるべく不信感を抱かせないように表情と声色を作る。
うまくできたかどうかはわからないが、自分ではさほど不自然では無いはずだと思う。
失礼しますね、と一言断ってから女性の隣に座る。
ぷしゅ、と紅茶の缶を開けてまずは一口。それからおもむろに話しかける。
「失礼ですが、何かお探しですか?
……いえね、先ほど貴女の呟きが偶然耳に入ったものでして」
おそらく独り言だったのだという事は容易に想像がつく。
しかし、耳に入ってしまったものはしょうがない。
目の前の女性に興味が湧いたのも声を掛けた理由のひとつだ。
こんばんは、とその女性は声を掛けてきた。
他意の無い、でも少し途惑いの混じった声色。
私が軽く微笑んで目礼すると、彼女は隣りに腰を降ろし、
手にしていたソフトドリンクの缶を開けた。
紅茶らしい香りを鋭敏な私の鼻が捉える。
「探し物…そうね。探し物なのかもしれないわね」
私の呟きを耳にしたらしい。
少し離れた位置にある街灯の明かりをぼんやりと見ながら答える。
「あの、」、と繁華街のネオンと駅の照明の漏れる場所を指差して続ける私。
「明るくて騒がしいところと、こっちの暗くて静かなところ、
どちらが本当の世界なのかな、と思ってね。
目に見えるし歩いてでも行ける、でもこことあそこは違う。
それを行き来している私はなにものなにかな? って、ね」
どこか憂いを含んだ表情で滔々と語る女性。
驚くほど妖艶なその横顔に、思わず意識が絡めとられそうになった。
正気に戻るために無理やり缶を煽り、むせて派手に咳をする。
呼吸を整え、心配そうな表情を浮かべる女性を手で制して言う。
「……世界はひとつですよ。今私達が居る世界が、たった一つの本当の世界。
どのように変わろうとも、本質は同じです。嘘の世界なんてありません。
それに、喧騒と静寂を行き来する貴女も、そして私も等しくこの世界に生きる存在です」
静かに、それでいて情感を込めて語りかける。
ある意味哲学的な問いだが、少なくとも自身では女性に話したような解釈をしている。
それが合っているか間違っているかは関係ない。
自分独りで理解できる事など、たかが知れているのだから。
「探し物は、見つかりそうですか?」
空になった缶を弄びながら立ち上がり、おもむろに振りかぶってスロー。
からん、と小気味いい音を立ててゴミ箱に缶が吸い込まれていった。
嘘の世界などない。とその女性は言った。
そして、そこに間違いなく自分も私も存在するのだ、と。
彼女の言葉は私の求めるものの一端だろう。
こうして私は人間たちの中で生きているのだから。
自分の居場所があるところに嘘などは無い。
地に足をつけて、という言葉は私の好きなフレーズのひとつだが、
それこそ真実なのだと思い知らされる。
「…そうね…貴女のおかげで、見つけられた気がする」
そう答え微笑む私を見て安心したのか、
立ち上がった彼女はいつしか空になっていた缶をくずかごへと放り込んだ。
綺麗な曲線を描いてそれは落ちてゆく。
静けさの中に小さく金属音が響く。
でもそれは、決して不快ではなかった。
「……良かった」
微笑む女性の顔を見ていると、自然とこちらも笑みがこぼれる。
まだまだ未熟な身ではあるけれど、こうして誰かの役に立つというのは嬉しい。
ゆっくりと女性のほうへと向き直り、改まった表情で言葉を続ける。
「ここで会ったのも何かの縁でしょう、せっかくだからお互いに自己紹介をしましょうか。
私は、戸田瑞希と言います。帝都大学の大学院生をしています」
言い終えると軽く一礼。
相手が一般人かもしれない以上、そう簡単に裏の顔を見せる訳にも行かないが、
なぜかこれからもこの女性に会えそうな気がしていた。予感のようなものか。
【そろそろお時間でしょうか?】
【正直色々続けたい所ですが、締めなら握手→別れでお願いします】
【こちらは次のレスで〆ますね】
【すみません。そろそろリミットです】
「学生さん? よろしくね。
私は天城。天城優子。服飾関係の仕事やってるの。
いつかデザインもやってみたいと思ってるけど」
彼女の挨拶に答える私。
それに加えて、自分の夢が自然と口から出たのには驚いた。
まだ誰にも話したことのない、そして自分の中ではっきりしていなかったそれが。
「…もうひとつ答えが見つかったみたい。ありがとう」
立ち上がり、にっこりと笑って片手を差し出す私がいた。
人間相手に自分から握手を求めるなど、まず無いことなのに。
そうして私は彼女と別れ、自分の住処へと向かうのだった。
またいつか、夜の世界で彼女と出会う確信を持ちながらも、
実に心地好くその再会を待ち遠しく思いながら。
【〆の方、よろしくお願いします】
「……もうひとつの答え、ですか?」
いまいち感謝される理由がわからず内心首を傾げる。
あわよくばそちらについても聞いてみたいと思ったが、
柔和な笑みとともに差し出された手を目の前にとりとめもない思考を中断。
そして、軽く握手してから別れた。
互いに手を振りながら公園を出て、真逆の方向に歩き出す。
「天城優子さん、か……」
家路を辿りながらついさっきの出来事を回想する。
(不思議な雰囲気を纏った女性だった。まるで人間ではないような)
(それに、どこかで見覚えがあるところも気になる。どこで見かけたのだったか……)
自分は記憶力がそれほど悪くないし、あれほど印象的な美人なら忘れようはずも無い。
ただ、どこで見かけたのかだけが思い出せなかった。
さっきふと覚えた予感めいたものと相まって、この出会いは忘れられないものになりそうだった。
【短い時間ではありましたが、お付き合いいただきありがとうございました】
【では、私も失礼します】
【お相手ありがとうございました。】
【次、昼に出会うのと夜に出会うのとで、】
【今後の展開が違ってきそうな気もしますが、】
【そのあたりは追々、でしょうか。】
【では、おやすみなさいノシ】
【つきました〜♪】
静かに夜の帳が降りて、繁華街のネオンサインが輝き始めた。
会社帰りのサラリーマンやOL、客引きの声、雑踏。
彼らは何も知らない。
店と店の隙間にある暗闇の中から、爛々と輝く双眸が見つめていることを。
そしてそれを理解した時には、既に捕食者たる妖魔の牙が首筋に埋め込まれている。
・・・・午後21時を過ぎた。
ビルとビルの隙間にある四角い空白地帯。
そこで、ささやかな饗宴が開かれていた。
周囲には喰い散らかした残骸。デザート代わりの少女に覆いかぶさり、
白い巨漢が腰を振っている。白い豚の顔をした妖魔だ。
少女は低い呻き声を漏らすのみ。
「…妖魔の気配?」
くんくんと犬の用に鼻をひくつかせる蒼髪の少女が一人。
全身がざわつく。妖気を察知した時の独特の感覚が妖魔の位置を教える。
復讐の道具として造られたこの体に備わる探知機のような物。
別に父を恨むわけでもない。が、周囲の無反応と比べると若干孤独感が漂うのは確かだ。
溜息とと共に雑踏から少女が消えたことにも誰も気づかない。
その少女がビルの壁を蹴って人為らざるスピードで駆け抜けて行った事も。
斬鬼衆。
この春から与えられたお仕事の名前。
まだ何をすればいいのか分からないが、妖魔を見つけたら倒す。人を守る。
これだけは別にやっても怒られないだろう。
そんなことを考えながら、発見の報告を怠った新入生であった。
豚のような妖魔目掛けて礫が花びらのように気ままな軌道を描いて飛ぶ。
彼は、繁殖力が高く、精力も旺盛な妖魔だった。
外見からわかるように、獣人の一種である。
腕力は、人間が素手で太刀打ちできないくらいにあった。
知能は人間並みで、ある程度までなら自制ができる。
だが、種族としての定めなのか、時折こうして人間の肉を喰らい、
人間の女を犯して受精させようとしている。ちなみに、この種類の妖魔に犯されて
受精する確率は、極めて高い。他の人間を食べ、満腹となり喰われなかった少女だが、
それがいい事なのかと問われれば、誰もが首を傾げるだろう。
少女を犯す妖魔は、低く呻いて精を放つ。
少女は人形のような眼差しで、区切られた夜空を見上げるだけ。
少なくとも、この少女は生き延びるだろう。
彼の子を生む苗床として生かされるだろう。
欲望を解き放ち、子種を残すことに性交した妖魔は、のっそりと起き上がった。
その時、何かが降りかかった。チクリと刺さる。うがっ、と呻く豚の妖魔。
見えない。何かが刺さったのだが、何なのかわからない。
ともあれ敵だった。呻きつつ、妖魔特有の身体能力で、その相手に飛び掛る。
「あっちゃあ・・・遅かったかぁ・・・」
死屍累々とした広間。鼻が曲がりそうな程強烈な死の匂いと妖魔のニオイ。
もう少し自分が早く着いたらこの人達は死なずに済んだのだろうか。
せめて、復讐だけでもこの私が。
妖魔の攻撃を難なくかわし、すれ違い様に生き延びた少女を離れた場所へと運ぶ。
組織が、十分な治療と辛い記憶の抹消をしてくれるだろう。
完全に元通りの生活に戻れる保障は出来ないけど。
「え!?」
振り返ってとっくに倒れているはずの妖魔が襲い掛かって来ているのに驚愕する。
礫には猛毒が塗られている。掠めるだけでも戦闘不能になるというのに。
黒刀が閃き、首を撥ねようとする。
刀が首の1/3の辺りで止まった瞬間理解した。
毒蛇の天敵は豚だと言う。毒はこの厚い脂肪に阻まれてしまったのだと。
人間など簡単に吹き飛ばす突進がひらりとかわされる。
退魔士。この街には数多の妖魔が生息し、そしてそれを狩る異能者がいる。
眼前の少女も、恐らくはそうなのだろう。
理解したときには黒い刃が首に食い込んで、止まっていた。
分厚い脂肪はやらゆる衝撃を吸収する。しかし痛いことに変わりはなく。
だから刃を握った腕を掴み、苦痛を怒りに変換し、そのまま無造作に振り上げた。
地面に叩きつける。もう一度振り上げて、叩きつける。
癇癪を起こした子供がそうするように叩きつける。
叩き付けた少女を蹴りつける。殺しはしない。彼女にも種付けをするつもりなのだ。
怒りが欲情に直結したらしい。首筋から血が垂れ流れる。身体が痺れるのは、恐らく毒。
だが、まだ行動に支障はない。
ぐッぐッと刀を引こうとしても抜けない。
武器の選択のミス。斬糸で遠くから切り裂く戦法ならば傷一つなく倒すことができたのに。
いや、本来傷を負うことは許されない体だ。
戦法のミスは死に直結する。その自分の特性を未だ経験不足から理解していなかった。
超反応と引き換えに過敏すぎる体はダメージを数倍にしてしまうというのに。
「・・・っ、がはっ」
二度叩きつけられて小さく悲鳴を上げ、動かなくなる。
苦痛が全身を駆け巡る。常人ならその痛みだけで気絶しただろう。
薄れ行く意識の中で黒刀を手の届く場所に隠す。
これから陵辱されるとしても、それが終わった時には相手は死んでいる。
父がこの体にプログラムした最後の業。
「喜ベ退魔士、オ前ニハ俺ノ子供ヲ孕マセテヤロウ」
まだ意識があり、しかし身動きができない退魔士の少女に、
その心を嬲る言葉を放つ。股間のモノは既にいきり立っている。
太い。びゅくびゅくと脈打つそれを軽く扱く。
ぐふぅ、と太い息を吐き、無造作に服を切り裂く。
同時に、軽く鳩尾に拳を落とす。念には念を入れて抵抗を封じる。
力を込めたら気絶するので、加減する。
気絶した相手を犯しても愉しみが半減するからだ。
圧し掛かり、むぎゅうと乳房を掴む。
見かけよりは膨らんでいて、感触が面白かった。
長いピンクの舌を伸ばし、チロチロと乳首を舐めて唾液を塗りつけ、乳首を転がす。
【一応、明日の晩の九時から空いてるけど、そっちは?】
【いつ位が都合がいい?
屈辱と憎悪の視線に嘲弄の成分が混じる。
この妖魔に、自分を孕ませる事など出来ない。
人工授精以外では妊娠する事が無い用に改造されている。
父にとっては大切な娘であり、同時に玩具だったからだ。
最後の一撃が黒刀を隠す手を止めた。
自由がまったく利かなくなる。別に焦りは無かった。
「・・・あ・・・はぁ・・・ッ・・・」
極限まで焦らされ感度を高められた程に最初から敏感であると言って良い。
一度舐められるとその都度体がビクンッと跳ねる。
【今度の土日は外出していますので最短ならば月曜日でしょうか…
ビクンと震える。その反応が面白い。
執拗に舐めるたび、その分だけ反応する。
「ぐふっ、敏感ナ身体ダナ、ドレ、ジックリ愉マセテモラオウカ」
本性を露にしている時は、知能レベルが下がる。
その分だけ性欲が強くなり、残虐性も増す。
たっぷりと時間をかけて嬲るつもりだった。
ぐにぐにと乳房を揉み、その度に乳房が形を変える。
ベルトを抜き取って、このジーンズのホックを外そうとする。
指が太くなっているので、器用さが下がっている。
時間がかかったが、それでも脱がした。
ショーツを無造作に引き千切り、脚を掴んで開脚させた。
「オイオイ、モウ濡レテルンジャナイノカ、雌豚メ」
脚の付け根にある花弁を外気に晒させ、じっくりと視線で犯す。
【別段気長に待つから平気だけど】
【土日に都合がついたら伝言スレに書いておいてくれたら】
【大抵ROMってるから】
「うあ、あ、・・・だめ、だめぇ・・・」
徐々に裸にされて行く事が恐怖を煽った。
自分が自分でなくなるような、体が熱を持ち始めて焼き尽くすような感覚。
蒼い頭をぶんぶんと横に振って抵抗する。他の箇所はまったく動かない。
特殊スーツを今日に限って着ていなかったのは致命的だった。
おかげで反応は鈍くなりこんな鈍重な妖魔に捕まるわ、弄ばれるわ・・・。
視線さえも快楽に変わる。外気が気持ち良い。
夜風でさえも、やもすると責めと呼べるほどの物になりそうだった。
【了解です・・・】
【土日ということならば31日になるかと・・・】
【あと、実はプロフィールではスーツをいつも着用していることになってます・・・】
【あ、忘れてた・・・・orz】
【まあ一緒に引き千切ったということにしておいてほしい】
【ではその辺りでよろしく。今日はこの辺でノシ】
【了解です。】
【お相手ありがとうございました〜】
【ではまた今度】
気温が上がっていた。日没の時間が遅くなっていた。
校庭の端に植えてある桜が、そろそろ花開こうとしていた。
春の訪れに、彼は素直な喜びと、僅かな寂寥を感じていた。
理由は知らない。本人にもわからない。
放課後の屋上である。
今日はまだ任務に就いておらず、訓練もしていなかった。
鉄柵に持たれかかり、グラウンドをぼんやりと眺めている。
体育会系のクラブが、声を上げながら活動しているのがよく見える。
彼はため息をついた。気が抜けている。理由は気温の所為だろうか。
いつもの冷やかな雰囲気がない。他人を寄せ付けない壁が薄くなっている。
無論、彼とて四六時中気を張り詰めているわけではないが、ここまで気を抜くのは
珍しいことであった。その大きな背中は隙だらけだった。
入学式も近い今日この頃。
最近では訓練と研修で此処、都立白清高校に通う事が多い。
まだ知らない場所のある校内を歩くのもちょっとした探検気分だ。
門をくぐり、くるりと校内を散歩する。
桜の木に目をやると、春の訪れるのが近いのが分かる。
そして今日の探検の終着点は屋上。
軽やかに階段を昇り、少々重く冷たい扉を開く。
少し暖かな風が心地良い。
そして、その視線に入ったのは広く大きい背中。
ここまで大きな背中の持ち主はそうそう居ない。
「あ〜〜、あの〜〜。」
そう呟きながら彼に歩み寄る。
背後で屋上のドアが開く音がした。彼は気にしない。
屋上は開放されているので、別段誰が上がってきても不思議ではない。
気配が近づく。声を掛けられた時点では、それが誰の声だったか思い出せなかった。
「お前か。どうした、今日も校内の見学か」
天使美夏。それは四月に配属される予定の後輩だった。
配属先は斬鬼衆白清支部である。鬼切りの刃となり、万民の盾となる予定の
少女に対し、どんな態度を取ればいいのか、一瞬迷った。
声はいつも通りの平坦さで、しかし内心では少し焦っていた。
いつも通りの振舞う。それは彼にとって仮面を付けるのと同義である。
弱い素面を晒す相手は限られていて、そして彼女はその相手ではない。
「此処は案外広いからな、迷子にならないようにしろ」
呑気に彼に近づくといつも通りの坦々とした挨拶を頂戴する。
「はい〜、早く慣れておかないといけませんからねぇ。」
笑顔で軽く頷きながら答える。
狂犬と呼ばれる程にストイックで、
妖魔を相手にした時に行きぬく術を教える事でしか
優しさを表現できない不器用な男に注意を受ける。
『此処は案外広いからな、迷子にならないようにしろ』
「流石に迷子にはもうならないですよぉ〜。」
実際何回か迷った事はあるのだが。
「先輩、今日はここでの〜〜んびりなんですかぁ?」
笑顔は変わらず、今度は少し首を横に傾けて問う。
「今日は暖かいからな」
それだけ言って、視線を前に戻す。その視線は虚空を見上げている。
のんびりしているのはお前の方だ、と内心で突っ込みを入れておく。
さて、相手の立ち位置が微妙である。
他人なら放置しておく。
気心がしれているなら他愛のない雑談を。
そして愛する《彼女》には愛の言葉を囁こう。
他人というほど遠くはない。
仲間と言える程の信頼はまだない。
そして今自分が愛しているのは《彼女》だけだ。
先輩と後輩。
どう振舞うべきか。
「お前は・・・・・確かクリスチャンだったな、宗派はどっちだ?
カソリックか、それともプロテスタントか」
プラン@実行。
内容《他愛のない雑談から後輩に対する理解を深める》
「そうですね〜、暖かで〜、何かこう〜〜・・・。」
何を見ている訳でも言いたい訳でも無い。
ただ単純に心地よい風と空の色に吸い込まれている。
意識が空の彼方に行ってしまいそうになるも、
隣の先輩からお声がかかる。
質問に対する答えは相変わらずの笑顔だが、
軽く首を横に振りながら答える。
「いいえ〜、私はバプテストですよぉ〜。」
バプテストはアメリカに信者の多い聖書の教えに忠実な宗派であり、
カソリック、プロテスタント以前から存在する宗派である。
「先輩は〜、信仰とかは〜?」
顔を覗きこむ様にして問う。
こういった無意識の仕草や行動が多くの悩める男子生徒を量産している。
バプテスト。さて、それが何を示すのか、わからない。
脳内のデータベースを検索。該当した情報を展開。
それによれば、聖書の教えに対して忠実であり、カソリック・プロテスタント
以前から存在する宗派――ということである。何にしろ、基督教にはさして
関心がないので、情報以上のことは知らないし、知ろうともしないが。
『先輩は〜、信仰とかは〜?』
隣に立つ後輩が、こちらの顔を覗き込むようにして問う。
生憎と彼の視線は 虚空に向けられたままだが。
「生憎と、そういうものはないな。仏教も基督教も、ゾロアスターも道教も神道も
イスラム教も、俺には等しく意味がない」
彼は、崇める柱を持たない。
信じるに値するものを、宗教の中には見出せないのだ。
「何かを信じることで心の平穏は保たれるだろう。それは否定しない。
だが、実際に手を差し伸べてくれるのは、神様じゃない。人間だ」
神を崇め奉ったところで何になるのだろうか。彼はそう想う。
もしそれが魔を祓うために使えるなら、幾らでも使うのだが。
彼の坦々とした返事を笑顔で頷き聞く。
「でも色々な宗教知っているんですね〜。」
特に詮索する事もなく素直な感想を述べる。
「ん〜〜、でも人間は神様が自身を模してお創りになられたのですから、
誰でも心にそう言うものあるんですよ〜。あと〜〜・・・。」
少し視線を泳がせてから、真剣な顔で頷き話す。
「神様は実際手を差し伸べてくれましたよ〜?」
「仕事に必要なんでな、お前も予習は欠かすな」
先輩らしい助言をしてみる。
この業界、知識を持っておくに越したことはない。
それを活用できれば言うことは無しである。
「生憎と、俺に手を差し伸べてくれたのは神様じゃなくて、人間だったんでな。
それに、自分を信じ奉るものしか救わない神様に、用はない」
消えない記憶。消えない苦痛。
正義の味方も、救世主も、神様も、誰も助けてはくれなかった。
そして差し出された救いの手は、余りにも遅くて。
「まあ・・・・お前の信仰と体験談に基く話を頭から否定するわけじゃないがな。
ただ、俺たちが戦わないとならない相手は、一々お前の話を聞かないはずだ」
少しだけ、彼は心配だった。
彼女の気質は戦闘には向いていない気がするのだ。
何より、彼女に宿ったあの《力》の主は――何にせよ不安の種は尽きない。
「ん〜〜、予習ぅ〜・・・、色々と予習は必要ですねぇ〜。」
先輩の助言と裏腹に学業の事が頭を過る。
「でもぉ〜、手を差し伸べて下さった方がいらっしゃったんですねぇ。
それも神様が使わせて下さったんですよぉ〜。感謝です。」
笑顔で頷きながら答える。
「う〜、先輩の言う通りだと思います〜。
ちゃんと話しを聞いてくれれば斬鬼衆はいらない訳ですしねぇ〜。」
クスクスと笑いながら言う。
本当に斬鬼衆が必要の無い世界だったら良いのにと思う。
「たぶん〜、戦わなければいけないんでしょうねぇ・・・。
でも、彼等を憎んではいけないのです。彼等は知らないだけなんですから。」
滅さなければならない存在もいる。しかし、憎しみで倒すのでは無い。
鬼斬りの刃であっても慈悲と慈愛を忘れてはならない。
例え相手が妖魔であっても。
神。創物主。どれ程長い時間、その存在に対する
信仰と否定が繰り返されたのか。
宇宙の彼方から細胞の世界まで隅々を探索する時代だ。
その時代においても神を信仰する者がいて、神を心の中に抱く人間がいる。
例えば今隣にいる少女がそうだ。彼女の信仰はとても素朴で、そして純粋なのだろう。
「神様が遣わすのは天使だろう。人間が直接神から派遣されるとしたら
そいつは救世主(メシア)だろう。会ったことはないけどな」
肩を竦める。物は言い様である。
そして彼女の世界観には遍く事象に、神の意思が関わっているのだろう。
「逃げても構わんぞ。所詮退魔士のやってることは現状維持以上のものではない。
中には共存と和平を唱える者がいて、それを実践してる小規模な組織もあるがな」
例えばそれは、法月退魔師事務所の面子である。
そして、佐々木優希が身を寄せている組織である。
「俺は妖魔を憎んでるわけじゃない。
単に俺の眼の届くところで人を喰うのが許せんだけだ」
そう、それは憎しみではなく憤怒。
不条理の化身たる妖魔に抗うことは、彼が生きる上で不可避のことだ。
確かに向こうにも事情があるのだろう。だがそれを汲み取っている余裕はない。
だから戦う。だから滅する。様々な事情と感情が絡み合い、背を向けることが出来ない。
自分の思想や理想は綺麗事かもしれない。
だが、それを追い求めるのが使命であると思う。
彼の言う事は彼が生きて行く為に必要だった経験と知識。
決して間違ってはいないが、理想と現実の温度差が確かに存在している。
「いえ〜、神様が事を運んでくれたと言う意味ですよ〜。
いずれにしても、その方のお陰で先輩が今いるんですから・・・。」
気の所為かも知れないが、彼からは独特の何かを感じる。
自らを何かで縛り付けている。しかし、そこから解放されたくもある。
「あはぁ〜、逃げると言うことは無いっぽいですねぇ〜。
でも、和平とか共存・・・ですかぁ。
理想ではありますけど、すこぶる大変な道のりではありますねぇ。」
話しには少し聞いた事がある。
興味が無い訳でもないが、他人事のように答える。
「それは私も同じですよぉ。目の前で人が襲われていたら・・・。そう思います。」
――使命。
何故かそんな言葉が脳裏を過る。
――契約。
浮かぶ言葉。理由は分からない。
ふと、笑顔が薄れ遠くに目を向ける。
『いえ〜、神様が事を運んでくれたと言う意味ですよ〜。
いずれにしても、その方のお陰で先輩が今いるんですから・・・』
確かにそうだ。天洸院が助けてくれなければ、死んでいただろう。
或いは、死んでいた方がマシだったかもしれない。
そう思ったことは何度かある。こんな思いをするくらいなら、と。
自分から命を断とうと思ったことは、一度もないが。
かつて、不条理に対する怒りと憎しみで心を覆っていた時期がある。
その心を多少なりとも溶かし、多少でも癒してくれた相手がある。
自分を救ってくれたと実感する相手がいるとしたら、そうしてくれた《先輩》だけだろう。
「理想は理想、俺たちはそれを成すための・・・・」
言葉を紡いでいる最中に、違和感を感じた。
隣にいる少女の《気》の質が微細に変化した。
だから彼は言葉を止めて、初めて隣の少女に視線を向ける。
そこにいつもの気の抜けた笑顔はない。その眼差しが遠くを見ている。
「・・・・・・・・・・・・・」
彼は何も言わない。思い出したのは、訓練所で手合わせした時のことだ。
小さい頃の事は良く覚えている。
ごく普通に遊び、学校の友達と遊んでいた。
幼稚園、小学校、そして中学校。
ある日からの記憶が無い。
情報はある。
だが、それは聞かされた話し。
妖魔に襲われた、奇跡的に神の力で息を吹き返し・・・。
自分は此処に・・・、でも、誰かと会って・・・いる・・・?
(私は、どこかで何かをしている・・・。)
蒼い瞳は輝きを増す。
薄い茶色の髪はうっすらと金色を孕む。
そして静かに語る。
「そう、理想は理想だ。全てを望んでいる訳じゃないんだよ。」
穏やかな表情で彼に語りかける。
だが、普段の彼女のそれではなく、威風堂々とした雰囲気を漂わせる。
「またお前か・・・・・そいつの身体を使って何を・・・
いや、言い直すべきか。そいつの身体で何をしているんだ」
彼女の変異に、彼は冷たい仮面を取り付ける。
その髪の色が変わる。その眼差しの輝きが深くなる。
何より、纏う《気》の質が人間とは思えないほどに異質だ。
このような現象には何度か遭遇しているが、彼女の場合、明らかに
高次の存在が降りてきたとか思えない。
だから、本当に問うべきは《お前は何者であるのか》だろう。
けれど、敢えてそれを問わず、器とされた少女の身を案じる。
こちらに対する敵意はない。
だからといって、少女に対する悪意もないとは限らない。
「覚えていて貰えて光栄だよ。・・・僕は彼女の命を繋ぎ止めている。」
『彼女』とは違い、少し距離を縮めて会話を続ける。
異質な気を纏いながらも戦意は感じられない。
それどころかリラックスしている雰囲気さえ感じる。
「その代わりに僕の仕事を彼女に手伝って貰っているのさ。
その仕事が君の仕事と合致している。」
蒼い瞳が彼の瞳を覗きこむ。
「君は・・・、そうか・・・。戦士・・・なのだな。」
命を繋ぎとめている。仕事を手伝ってもらっている。
確かに《彼》はそういった。
いや、性別が適用できる相手がどうかは、不明だが。
その内容に心が動く。だが、深く問うべきことなのか。
その佇まいは余裕があり、事を構えるつもりはないらしい。
『君は・・・、そうか・・・。戦士・・・なのだな。」』
その深く蒼い瞳が、彼の瞳を直視している。
その深奥を覗こうとするかのように。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼は何も言わない。問うべきことは、ない。
あるかも知れないが、それは言葉にすることができない。
後輩の安全が保障されているのなら、口を挟むまでもない。
だが、言いたいことはあった。
「そいつは戦士向きじゃない。もしお前が無理やりそいつを利用してるだけなら、
俺はしかるべき手段でお前を追い出し、そいつを戦場から遠ざけるぞ」
彼は静かに言った。例え彼自身には無理でも、そういう専門の退魔士に心当たりはある。
何より、自分の意思でならともかく、利用されているだけの人間が妖魔と向き合うのは、
流石に彼でも看過できない。多少なりとも言葉を交わした相手なのだ。
「確かに、向き不向きはあるだろね。
でも・・・、望む望まないは別の問題だ。」
軽く首を捻って答える。
「もし、彼女が望まなければ僕は彼女と共には居られない。
君だって色恋沙汰は不向きな様だけど頑張っているじゃないか。」
至極真面目な表情で問う。
「ふむ・・・、少々長居しすぎたな。ともあれ、僕は彼女とは『約束』の範疇でしか動かない。
その結果、君達とは協力関係になる。それは信じてくれ。」
ゆっくりと頷くと息が触れ合う程に近づくと、おもむろに彼の首に両腕をまわし抱き付く。
「それじゃ、後は頼むよ。また会おう・・・。」
言い終わるが早いか、急に彼女の体から力が抜け彼に全体重が圧し掛かる。
さて、どうしたものか。
今、起こったこと、話した事、それを後輩に告げるべきか。
――却下。破棄だ破棄。面倒すぎる。
とりあえず、脱力した彼女をどうにかしなくてはならない。
この体勢は様々な意味で危険すぎる。第三者に見られてはならない姿だ。
特に付き合っている女性には。今日は任務に就いているらしいので、安心だが。
「また会おう、か・・・・・」
後輩を背中に背負いつつ、屋上を後にする。
第二会議室に連れて行けば何とかなるだろう。
言い訳を考えるのが面倒だが、適当に丸め込むしかない。
「ったく、難儀なやつばっかりだ・・・・・」
ため息をつきつつ、出来るだけ揺らさないように階段を下りる。
【時間も時間ですし、そろそろ〆ましょうか】
「ん〜〜・・・。」
心地よい温もりの中で夢を見ていた。
背中が痒い。
クラスメートに掻いて貰うがナカナカ思う所にいかない・・・。
「ん〜〜、ちがっ・・・。んんっ!そこくすぐっ!あんっ、だめぇ〜・・・。」
廊下に声が響く。
「ん〜〜、ちがう・・・のぉ・・・、むにゃむにゃ・・・。」
例によって彼は何時ものメンツに冷やかされる訳だが・・・。
それはまた別の話し。
【毎回同じ様な〆ですみませんデス。】
【でも義虎君イジメシリーズは少し続けたい・・・w】
【天音さんが参戦してくれればおもしr(ry】
【こちらこれで〆ます。ありがとうございました〜ノシ】
【見事にオチがついたので、さっきので〆ます】
【まあ、イジル分には構いませんが・・・・・】
【では、ありがとうございましたノシ】
卒業式が執り行われた。そして入学式が恙無く終了した。
それは、斬鬼衆の者たちにとっても同様である。
斬鬼衆白清支部が代替わりした。
「では、後のことは頼んだよ」
「これからの白清支部はお前らが作る、精進せいよ」
二人の先輩たちの簡単な挨拶を受け、新たに白清支部が動き出す。
「えー、というわけで何の因果か支部長に就任しましたよー畜生な大音慈零でっす。
正直辛いんで三年生のみんなには昨年の三倍は頑張ってもらいますよ奴隷共。
クーデター起こすならご自由に。私は権力に興味ないんで」
「とりあえずそろそろ黙れ」
新支部長と切り込み隊長の内輪揉めで、幕は開いた。
「早速仕事だな、準備はいいな、後輩」
金髪の凶戦士が訊く。相手は新一年生の後輩だった。
その名は天使美夏という。
――入学式。
真新しい制服に身を包み、スクーリング等を終える。
さて、本番はこれから。
この高校に入学した本来の目的の為にある男と待ち合わせをする。
天洸院・斬鬼衆、白清支部の猛者、御影義虎である。
「はぁ〜い、すこぶる頑張りますね〜♪」
ある意味、真の入学式が始まろうとしていた。
この後輩に対しては、少し思うことがある。
彼女のやり方と思想については、何度かの対話で多少知った。
それを甘いと断じるのは簡単だったが、余り口を挟むのも憚られた。
口を挟むのは簡単で、殴るのはもっと簡単だった。
けれど、自分で思い知らねばわからないこともある。掴めない事もある。
「今日はちと遠出する。乗れ」
黒い単車に跨り、エンジンを起動させる。
排気音が放課後の駐輪場に響く。
さて、今からが本当の意味での入学式である。
今回の件は彼女に任せる気でいた。
任務の内容自体は、さして難しくはない。
彼女が現場でどう動くのか、それを見るには最適だと思われた。
『今日はちと遠出する。乗れ』
目の前に用意されたのは黒いオートバイ。
「あの、これ私うんて・・・、あぁ・・・、はい。」
どうやら自分で乗る訳ではなく、後ろに乗れば良いらしい。
言われるままに後ろに跨るが、当然タンデムバーの使い方も知らず
ぐいっと抱きつく様に捕まる。
「準備OKです〜、よろしくお願いします〜。」
遠出といっても何処まで行くのだろうか?
少々の不安と期待が交錯する。
「しっかりと捕まってろ。
曲がる時は下手に逆らわず一緒に傾く感じで」
背中に当たる感触に関連する感想は、彼の胸の奥に仕舞われた。
排気音と排気ガスを撒き散らし、鋼鉄の野獣が疾駆する。
彼が目指したのは新都へのルートだった。
新都の開発地区にある教会に辿り着く。
そこは以前訪れた時と同じく、寂れ朽ち果てていた。
中も同様に荒れ果て、徹底的に破壊し尽くされている。
ここはかつて、ある吸血鬼を甦らせるため、ある妖術師が隠れ蓑として
使っていた場所である。彼と風間莉莉が訪れ、その吸血鬼を葬った場所でもある。
「この地下に墓地があるんだがな」
破壊された椅子、破壊された硝子、破壊されたパイプオルガン。
そのパイプオルガンの中に、地下へと繋がる空洞がある。
戦いの後一度調査に来て、その時に取り付けた紐のロープがその空洞に垂れ下がっている。
「その墓地に陰気と妖気が溜まっている。そろそろそれが臨界点を突破する時期だ。
埋葬された死人と妖魔が動き出す可能性がある。お前が始末しろ」
彼は簡単に事情を説明する。
無駄なことは言わず、いつも通りの平坦な声のままだ。
正直オートバイの後ろに乗るのは初めてである。
説明は受けるもののしがみつくのに精一杯である。
第一の試練を乗り越え到着した朽ちた教会。
嫌な寒気が体をすり抜ける。
説明を受けながら内部へと進む。
斬鬼衆らしいスクーリングと言えばそうでもあるが・・・。
『その墓地に陰気と妖気が溜まっている。そろそろそれが臨界点を突破する時期だ。
埋葬された死人と妖魔が動き出す可能性がある。お前が始末しろ』
淡々と本日の課題を命じられる。
「死人と妖魔・・・ですか・・・。」
本格的な実戦はこれが初めてであるが、避けては通れない道。
「わかりました〜・・・、それでは・・・、と。」
聖水や教典、祈りの為の道具を用意する。
力や信仰の無い物が扱えば唯のオカルト道具にすぎないが、
彼女の場合自身の能力を向上させるアイテムとなる。
「天にいます私たちの父よ・・・。」
静かに浄化の力を増して行く。
「一応、今回はお前に任せる。好きにやれ。
途中でバテたり無理そうだったらそう言え。代わってやる」
後輩の準備が整うのを待って、声を掛ける。
そして先に行くと言い残し、空洞へ身を投げる。紐の梯子は使わない。
途中で何回か壁面を蹴り、四肢を張り、速度を調節する。軽やかに着地。
地下墓地は、陰気と妖気と死気で満ちていた。濃度が以前の調査時より濃い。
今、墓碑銘のない墓から何かが這い出てきても、それは驚くに値しない。
現に、彼の精気を感知した気の早い『モノ』が、地面から手を突き出している。
その腕は黒く、爪が獣より鋭く伸びていた。
腕が地面から突き出る。一本、二本・・・・・・纏めて二十本・
ボコボコと土を盛り上げ、石を退かし、這い出てくる。
無明の闇の中、亡者が這い出てる。
「お出ましだな」
彼はいつもの冷淡な眼差しのまま。
不条理の具現に遭遇するとき、彼の心は冷たい殺意と、僅かな恐怖に満たされる。
だが、今回は銃もナイフも取り出さない。彼は腕組みして、後輩が降りて来るのを待つ。
「はぁい、わかりました〜。」
返事を聞くや否やさっさと下に降りる御影さん。
仕方なく自分をゆるりと降下する。
地下に降りると明らかに異質な空間、瘴気。
それなりの覚悟がなければただでは済まない。
「あう〜、本当におでましですね〜。頑張りまぁ〜す。」
気の抜けた返事と共に儀式は始まる。
聖書の言葉と神聖な祈り。
彷徨う霊程度ならこれで十分であるが、今回の相手はそうもいかない。
動きを鈍らせる程度の効果はあっても永遠の眠りにつかせる程では無い。
「はわぁ・・・、やっぱり・・・だめかなぁ・・・。」
頭に指先を立て、呑気に悩む。
死人が這い寄る。亡者が這いずる。
ぞろぞろぞろぞろと、ぞろぞろぞろと。
瘴気を纏い、仮初めの眠りを破り、永劫の乾きに苛まれ。
命を求め、精気を求め、生き血を求め、生肉を求め。
求める命を目前にして、聖句と祈りはさしたる障害にならない。
のろのろのろのろと、のろのろのろのろと。
その肉に穢れた歯を突き立てるまで、その行進は終わらないだろう。
「ちと、手強いな」
冷静に、平静に、金髪の凶戦士が後輩の後ろで呟く。
亡者の中には元人間が多数、妖魔が少数。
その動きは緩慢だが、餓えが生み出す圧力は数が揃っていて凄まじい。
「おい、さっさと眠らせてやれ。
こいつらだって好きで餓えに苦しんでいるわけじゃない」
彼は後輩の背中と亡者の群れを等分に視界に収める。
「こいつらは縛られている。この土地に、お互いの死気に。
清め祓い眠らせてやるがいい、永遠にな」
次から次へと、字の如く溢れ出す亡者達。
困惑しながらも後方の御影さんからの声は聞こえる。
「う〜、頭では分かってるんですけどぉ〜・・・、目の当たりにするとぉ〜・・・。」
そうこうしているうちにも迫る亡者。
その手の一つが彼女に掛かる。
「あっ!きゃっ!だめですよぉ〜!」
なんとか逃げるもスカートが破れ、白い太腿が露わになる。
(ん〜、仕方ないですね・・・。)
体勢を崩しながらも祈りを捧げる。
頭上には光の輪、背中には白い翼が出現する。
「仕方ないので・・・、いきますぅ〜。」
御影さんに目配せをして激しい光を出す予告をする。
「神の・・・御光よ!」
聖気に包まれた眩い光が地下に広がった。
少女の頭上に天使の輪。少女の背中に白い翼。
天使美夏が内包する力、その一部が開放されようとしている。
『神の・・・御光よ!』
聖光が地下墓地の闇を駆逐する。
亡者達が呻き、その身体が崩れ落ちてゆく。
苦しいと呻き、死にたくないと呻く。
崩れゆく身体を掻き毟り、亡者がボロリと崩壊してゆく。
前列にいた亡者の殆どが灰燼と化した。残ったのは妖魔の屍だ。
GUUUURRRR!
獣の唸り声。爪を伸ばし、牙を剥き出しにする。
獣人の妖魔だったのだろう。かつての躍動感はないが、凶暴さは健在だ。
獣が飛ぶ。少女目掛けて爪を振るう。
しかし、その爪が彼女の柔肌を傷つけることはなかった。
銃声。額に穿たれる穴。後頭部から脳漿を噴き出し、失速し、墜落する。
「援護してやる、その調子でやれ」
硝煙を吐き出す回転弾倉式拳銃を携え、金髪の退魔士が言う。
やや旗色が悪いと思ったらしい。次々と退魔の弾丸を撃ち込む。
弾頭に刻まれた刻印が、亡者を縛っている《呪い》に作用し、その存在を否定する。
亡者が呻き、次々と崩れ落ちてゆく。
「あふぅ〜、一段落・・・、えっ?!」
耳に入るのは叫び声、そして銃声。
『援護してやる、その調子でやれ』
ドサリと崩れ落ちる妖魔。
凄惨な光景が目に飛び込むが、それが自分の選んだ道。
「はい・・・、分かりました・・・。」
流石にいつもの笑顔は消える。
(せめて、痛みなく・・・、送る・・・。)
自分で自分を説得すると、聖なる炎に包まれた剣を手にする。
天の使いの力とは何なのだろうか?
一瞬そう思うも、悩む時間を与えてくれる様な相手では無かった。
「いきます・・・。」
炎の剣を振りかざす。
光と熱の嵐が室内に舞う。
自身もその中に紛れ、妖魔を焼き焦がし、切り刻む。
光を孕んだ白く美しい翼が舞う度に、妖魔の断末魔が木魂した。
(これで・・・いいんだよね・・・。)
御影さんの援護もあり、危なげなく妖魔を殲滅する。
白き翼の天使は彼を視線を合わせる事なく、静かに舞い降りた。
全ての亡者が光と炎の中に消えてゆく。
翼を広げ、焔の剣が亡者を薙ぎ払い昇華してゆく。
その背中がどうしようもない痛みを背負っているように見えて。
「終わったか・・・・・・」
後輩と視線を合わさず墓地を一瞥して呟く。
今度こそ、亡者達は永遠の安息を手に入れた。
そこに人間も妖魔も区別はない。
天国や地獄があるのかは、定かではないが。
――時折、思うことある。もし自分が死んだとして・・・・・・
「感想は?」
短く問う。それはある意味残酷な問い掛けだったかもしれない。
それを自覚しながらも、斬鬼衆の先輩として問わなければならない。
『斬鬼衆』としてはこの仕事成功だろう。
だが、『自分』としては釈然としない物がある。
「はい・・・、もう瘴気は感じられません。」
応えながら、『人』の姿へと戻る。
辺りを見回すと自分の行った戦いの跡が目に入る。
『感想は?』
またこの人は試しているのだろうか?
別に隠す事も誤魔化す事も無く、思った通りの返事をする。
「良くは・・・、ないですねぇ・・・。だから・・・。」
暫し額に手を当て考える。
「他の人にはさせてはいけないのかも知れません。・・・こんな事。」
膝を付き祈りを捧げる。
ようやく『永遠』を手に入れた者共の為に。
【そろそろ〆でお願いします〜】
「俺たちは、鬼切りの刃。誰かの代わりに刃を振るう。
血で汚したくない誰かのために何かを殺して滅ぼす」
鎮魂の祈りを捧げている後輩に、静かに言う。
「そして俺たちは盾でもある。
その穢れを誰かの代わりに受けるの、俺たちの役目だ」
静かに、斬鬼衆の使命を語る。
それはまるで、今葬った者たちに捧ぐ祈りの代わりのようで。
「もうお前の戦いは始まっている。もう引き返せないし、その戦いに
終点があるのかどうか、俺にはわからない。だが、踏破してみせろ」
告げられる静かな激励。
いや、激励というよりは、呪いに聞こえるかも知れない。
「その命が尽き果てるまで、想いを貫いてみろ」
【了解しました】
祈りを終えても暫くそのままの姿勢で話しを聞く。
頷くでも否定するでも無く、唯そのまま。
「私は・・・、一度命を落としました。」
立ち上がり振り向くと静かに語る。
「良く、覚えていないですけど・・・、この為に戻ってきた気がしていて・・・。」
記憶と言うよりは印象。自分の存在理由、意義。
「だから・・・、刃とか・・・、盾と言うか・・・、すみません。
なんだか言葉が纏まらないけど分かりました。」
言うと、いつもの笑顔に戻り帰る支度を整える。
進んだ道、戻れない道。
「さ、帰って報告書・・・、ですよね?行きましょう〜♪」
彼に笑顔で問いかける。
その瞳が一瞬だけ赤く染まる。
彼が見た事のある赤い色に。
「帰りは私が運転しちゃおうかな〜、ふふっ。」
無邪気に笑いながらバイクに向かって走って行く。
斬鬼衆としての使命と何かの使命を背負いながら。
【こちらはこれで〆たいと思います。】
【ありがとうございました!】
――そういうことか……
六枚の翼。天の使い。
二度対面した、彼女の命を繋いでいる存在。
その存在の目的のため、彼女は力を授かった。
その目的は彼の仕事と重なる部分もある。だから戦っていると。
だが、果たしてその言葉を鵜呑みにしていいのだろうか。
何より、彼女がそれを望んだとして、それに耐えられるかは別なのだ。
――覚悟はしているだろうさ。だが・・・・・・・
命を繋いだ代償として、心が砕け散ったとして、それでいいのか。
わからないし、そこまで彼女の内心は計れない。踏み込む気も無い。
『さ、帰って報告書・・・、ですよね?行きましょう〜♪』
その笑顔が、今までの笑顔と少しだけ違って見えた。
一瞬、彼女の瞳の色が紅く染まった気がした。
まあそれはいいとして。
『帰りは私が運転しちゃおうかな〜、ふふっ。』
不吉なことを言う後輩の後頭部を、追いついて軽く叩いた。
【こちらも〆です】
【ありがとうございましたノシ】
>56
呻きながら頭を横に振る。抵抗はない。
その弱弱しい仕草が嗜虐心をそそった。
「ぐふっ、ぐふふっ」
醜悪な笑みを浮かべ、濡れそぼった花弁に舌をつけ、大胆に舐めあげる。
唾液が花弁を更に解し、時間をかけて舐める。
彼は気づかなかった。その宴を見ている視線に。その理由は行為に没頭していた
からでもあるが、何よりその視線の主はただの人間ではなかったからだ。
そして彼は気づかない。暗闇の中地面をゆっくりと這う水の流れの存在に。
豚顔は、太い指を駆使して花弁を開き、それを唾液で濡らした花弁にゆっくりと挿入した。
太い指は男根並みの大きさで、そして意外な繊細なで膣壁を擦った。
「グフフ、タップリと嬲っテヤロウ、啼クガイイ。オマエガ殺シタ妖魔の分まで
犯し抜イテカラ孕マセテヤロウ」
指で嬲る。言葉で嬲る。実際、彼女に殺された妖魔のことなどどうでもいい。
自分さえ――自分の餌と快楽さえ確保できれば、後のことには関心が無い。
とことん自己中心的な性質は、果たして人間寄りの妖魔の証であろうか。
「はッ・・・ああぁッ・・・」
神経が電気信号を拒んでいるかのように抵抗が全く出来ない。
物理法則を無視しているように動く軽やかな足も、腕も言うことを聞かない。
肥大化し常人の数倍の感度を持つ神経細胞によって圧倒的な反射・反応速度。
同時に得た致命的な打たれ弱さ。
それは肉体的、精神的に留まらず、性的にも及ぶ。
愛撫の動作のひとつひとつが、醜悪な怪物の、陵辱と言う行為であっても
およそ人がが得うる最大限の快楽に近いものをもたらしていく。
「・・・ひ、あっ!アッ!!ああああぁッ!!!」
挿入された指が中を掻き回す。
そう認識したと同時に体が仰け反っていた。
頭が真っ白になる。全身に電流が走ったようだった。
それでも気絶は出来ない。
そう造られた物だから。
化け物が掻き回すたびに達し、悲鳴をあげ、弱弱しくなっていく・・・
「やれやれ、どういう巡り合わせかな、これは」
陰惨な陵辱の宴。妖魔の下卑た笑いと少女の嬌声。
それに割り込む怜悧な声。次の瞬間、豚顔の喉が締め上げられた。
絡みついた水の蛇によって。それは豚男が視認していなかった細い水の流れ。
それは篭められた『念』によって変幻自在に踊る。それを操る男が狭い路地からやってくる。
「何をこんな雑魚に手間取っている、古志千草」
その男は春先だというのに、蒼いロングコートを纏っていた。髪は短く、怜悧で知的な顔立ち。
そして冷たい眼光を放つ双眸を銀縁眼鏡で隠している。
操水師・沼上涼馬。かつて彼女を陵辱した男だった。
豚男は足掻き、苦しんでいる。それに一瞥をくれて、もう一筋の蛇を生み出し、放つ。
豚男の首が――負傷箇所が切り裂かれる。
「さっさと立て、また犯すぞ」
冷たく、どこまでも冷たく命じる。
『改造』は淫魔を殺す事に特化した。
母を殺した魔を殺すためだ。
その性質に合わせたのは父としては当然だっただろう。
責められいる間に相手の急所に当たりをつけ
対象の絶頂と共にを穿つ。
オートで作動するその一連の動きは半ばで止まった。
体内に留まった陰気は開放されず千草を苦しめていた。
「はぁ、はあ…、何しに来た…の?…くっ…」
よろめきながらも何とか立ち上がる。
傷によって体が重い、が普段は無い力が体に宿っている。
黒刀が、細い糸が、肌に吸い付くように手に納まっている。
「いや、血が騒いだんで寄ってみただけだ。
まさかお前が無様に転がってるとは思わなかったがな」
血が騒ぐというのは、退魔士の血統に潜む霊的因子が妖魔の存在を
感知したということの比喩的表現である。彼は水の神を崇め奉る退魔士の
家系に生まれたが故に、水を操る能力を持っている。その血が反応したのだ。
逆に言えば、それと水を操る以外の特別な力は持っていないということでもある。
「無様だな。状況を見るに、助けに入ったはいいが返り討ちといったところか」
周囲の状況を見て、何が起こったのかを推測する。
犯されていた少女は、以前として虚ろな眼差しを夜空に向けている。
その原因である豚男は、膝を屈して酸素を求め、顔を青褪めさせている。
首から流れる出血も刻々と増してきている。
彼は妖魔は放置し、餌食となった少女にペットボトルの水を飲ませる。
それは彼の『念』次第で毒にも薬にもなるのだ。
「戦うのはお前の勝手だが、誰かを助けるなら力量を弁えることだな」
詰まらなそうに呟いて、立ち上がり彼女と視線を合わせる。
「…うるさい…」
本当ならもっと騒がしく、激しく抗議する所だったが、
その気力も無いし一々痛いところを付かれている。
「あ……」
立眩みが起きてそのまま座り込んでしまう。
自分の認識以上に体力を持って行かれてる。
露出した部分を手で隠しながら男の行動を見守る。
「…その子に手は出さないでね。せっかく助けたんだから…。」
そういいながらもう一度立ち上がり男と目を合わせた。
よろめきながら武器を手に妖魔に一度目を向け尋ねる。
「あれ、どうしよっか?俺の獲物だ!って言うんなら譲るよ?」
だんだん声の調子が上がって来た。少しずつ回復してきたようだ。
「この女はそっちで保護しろ。生憎と汚れ物に興味は無い」
そう言いつつ、飲ませたのは鎮静作用と睡眠作用のある水であった。
そして妖魔に眼を向けたときだった。聞こえないはずの咆哮が響く。
豚男が立っていた。顔面蒼白のまま、突進してくる。
首を締め上げられたまま、突貫してくる。
いや、それは正に命を賭けた特攻だった。
操水師は咄嗟に水を躍らせる。水の槍が肩を穿つ。腹を穿つ。
だが足りない。その突進を止めるには勢いが足りない。
次の刹那、彼の痩躯は弾き飛ばされていた。
その衝撃は大型トラックとの正面衝突並みであっただろう。
彼の痩躯がビルの壁面に叩きつけられて、地面に墜落する。
同時に、豚男もそのまま崩れ落ちる。正真正銘、命を振り絞った攻撃であったのだ。
その首は最早拘束されておらず、そして血が止め処なく流れ落ちる。
「やれ、やれ・・・・・詰めが、甘かった、か・・・・・・」
喀血しながら、罅割れた眼鏡越しに夜空を見上げる。
戦闘不能どころの話ではない。全身が衝撃で砕けたような感覚。
実際、骨が何本か折れているだろう。恐らく、肺にも折れた骨が突き刺さっている。
全身の状態を確かめて、結論付ける。
「ゲームオーバーだな・・・・・・僕も、無様、だな・・・・・・」
後、数分か、長くても数十分で死亡確定する。
そのままショック死しなかったのは、曲がりなりにも退魔士だからだ。
だが、意識が明瞭であっても回復する手段はない。
「汚れ物って。…私も汚れ物だったんだけどな〜?」
少々楽しげに言い返して立ち上がり少女を抱きかかえる。
早く治療して上げないと。
「それじゃ、今日はありがと…」
言いかけた所で妖魔の咆哮に驚く。
男の援護に入ろうとしたが少女を降ろす動作が行動の遅れを生んだ。
少女を降ろした一瞬の後には妖魔との距離を詰めているが、遅かった。
地を蹴って跳ね飛ばされた男の所へ向かう。
様子を見て男が死に瀕しているのが分かった。
「…馬鹿…。」
涙が頬を伝う。何故かは自分でも分からない。
ぐいっと涙を拭いて決めた。今度は、自分が助ける番だ。
瀕死の水使いを背負って白清支部へ向かう。
間に合えば、あそこなら助かるはずだ。
最短距離を最大の速度で駆ける。ビルの壁を蹴り、跳躍する。
後に少女を放置したことをとがめられることになる。
「眼に焼き付けろ、古志千草。
これが退魔士の末路というものだ」
背負われながら、静かに言う。
血を吐き出しながら、不思議とその声は明瞭だった。
その声には自嘲と、どうしようもない諦観がある。
「力がなければ死ぬ。油断すれば死ぬ。退魔士の戦いはこういうものだ」
彼は彼女を犯した。所詮はそういう間柄だ。
だから、助けられる筋合いはないばすだった。
何より、彼女に借りを作ってまで生き永らえたくは無い。
「・・・・・・僕に構うな。死ぬ時くらい、潔くいきたいものじゃないか」
血を吐き出しながら、一人言う。振動に血が止まらずにいる。
しかし、もう痛みは無い。本格的に死の淵にいるらしい。
「馬鹿な、やつだ、お前は・・・・・・・」
その一言を最後に彼は沈黙する。
結局、彼が白清支部に運ばれる頃には、彼の身体は冷たくなっていた。
【死亡エンドで〆させてください】
【これが千草さんトラウマになったりすると面白いかもと意地悪をしてみますw】
【お疲れ様でしたノシ】
うるさい、うるさい、うるさいッ」
段々背中の男が冷たくなっていくのを感じる。
絶望が、男を連れて行く死神が後から追いかけて来る様な気がして、
地面を蹴る足に力を込めた。
「死なないで、死なないで、死なないでよぉッ」
少しだけ男に恋をしていたのかも知れない。
例え自分を犯した相手でも。
それを認めたくなくて首を振りながら一直線に支部を目指す。
「諦めないでよ、お願いだから…」
暖かな血が背中を伝う。
もう間に合わない。それは分かっていた。
それでも走るのを止めない。
男が言葉を発しなくなって暫らくしてから到着する。
「…」
手の力が抜けて男の死体が背中からずり落ちる。
それを認識したが、体がもう限界だった。その場に崩れ落ちる。
「…ごめん、ね…」
余力を振り絞って男の頭を抱き抱える。
唇を啄む。其の後の嗚咽は数秒だけだった。
そのまま気を失い、医療班が入り口に駆けつけるまでの数分間
死体をしっかりと抱き抱えていた。
【死亡エンドにするつもりなのかどうか迷いました】
【申し訳ないです。トラウマがまた一個増えた感じですねぇw】
【お疲れ様でした。またよろしくお願いします】
夜の公園。寿命間際の街灯が明滅を繰り返している。
そこに群がるの闇夜を跳ねる蝶。空気は穏やかだった。
春。舞い散る桜の季節。痩身痩躯の男はのんびりと歩いていた。
肩に竹刀袋を担ぎ、しかし中身を知れば職務質問されるだろう。
かつて、剣道日本一の座についたこともある彼は、かつて剣術の師に
それを託された。つまり、今竹刀袋に仕舞われている日本刀を。
それは破邪の刀だった。
人に在らざる者――妖魔を斬るための刀だった。
彼はその刀を持ち、妖魔を探した。最初の一匹を斬って以来、
妖魔を探して日本中を駆け巡った。探して斬った。斬っては探した。
いつしか彼はフリーの退魔士となり、取り憑かれたように妖魔を斬った。
事実、彼は妖魔を斬る快感に囚われていた。
得られる金銭はあくまで生命を繋ぐものであり、妖魔を斬ることが
最大の優先事項であった。刀は破邪の刀であると同時に、妖刀でもあったのだ。
夜。
さあっと音を立て、心地よい風が吹き抜ける。
桜吹雪が舞う。
月夜は明るく、昼間の喧騒は嘘のように静かな公園。
そんな所を独り歩く。
月に誘われた、とでも言えばいいか。
何の気なしにふらふらと外出したのだが、公園に足が向いたのは果たして偶然か。
ベンチに腰掛けていた所に、不意に妙な感覚を覚えた。
今の自分に近しい感覚。
――魔に魅入られた者の放つ、独特の。
無表情のまま周囲に警戒し、魔法杖を準備。
不意打ちに備える。
初撃に対応できさえすれば、何とでもなるから。
【それでは、よろしくお願いします】
街灯と舞い散る桜吹雪。ベンチに腰掛ける女性。
その女性を見た時、身体中の毛が逆立った気がした。
彼は今やある種の異常者である。
常識と良識はあるものの、しかしその魂は既に暗く濁っておいた。
かつて剣を極めんとしていた精錬な魂を持つ彼ではない。
だが、数多の妖魔と出会い戦いそして斬り、その地獄で研ぎ澄まされた特有の感覚で
彼女の身体に薄っすらと纏わりつく『気配』を感知したのだ。
言葉はいらない。語る言葉はない。
ただ冷たい殺意を放ち、それを己の内に仕舞う。
向かって歩きながら、竹刀袋から鞘に包まれた日本刀を取り出す。
周囲には誰もいない。仕留めるなら一瞬で。
歩きながら鞘から抜き出し、刀に殺意を乗せる。
その殺意に感応するように、刀がその力を発現させる。
無造作に間合いを詰める。
距離は、残り約8メートル。刀の間合いではない。
歩法で詰めるには、一呼吸と半分は必要だろう。
相手も臨戦態勢を整えている。
無造作に歩き、しかし何時でも駆け出せる用意はする。
一人の男が、こちらに気付いた風な表情を見せる。
月明かりに照らされたその風貌は、どこか虚ろだが目には剣呑な光を湛えていて。
切れ味鋭い抜き身の日本刀を思わせる。
――次の瞬間。
背負った竹刀袋から取り出されたものを見て即座に体が反応していた。
徐々に間合いが詰められていく。
こちらから一撃を放つには少々近い。
刃に乗せられた殺意が刺すような感覚となって感じられる。
男が駆け出す一歩を踏む出す前にこちらが飛びのく。
5mほどの跳躍を見せた後、振り向きざまに呪文を唱える。
放たれたのは、見えぬ刃。
「――Windschneide(風の刃)」
音もなく、純粋な破壊の力が男に迫る。
駆ける――決めた寸前で相手が飛び退く。
追撃――彼の姿は高速の領域へ。
その姿は真正の意味で疾風迅雷。
そこで、相手が何かをした。
脳内で思考すると同時に彼は飛んだ。正に飛翔。
風の刃が彼の足元を吹きぬけた。
距離が少し足りない。助走する距離が予定より短く、勢いが得られなかった。
思考する。このままでは相手に致命傷は負わせられないかもしれない。
それでも、上段から刀を構え、月光を刀身に写しながら、振り下ろされる魔人の斬撃。
「きぇぇぇぇぇえええええぃ!!」
裂帛の気合と共に、剣に取り憑かれた魔人が、刀を天から振り下ろす。
疾(はや)い。
予想以上の加速は、男が常人でない事を匂わせる。
「……刀に憑かれているのか」
そう呟く。自分で放った言葉に自分で納得して思考を中断。
己の放った一撃が有効でなかった事を悟ると、
瞬時に次の行動を頭の中でシュミレートする。
刀身の閃きが目に映った瞬間、行動を開始。
「やぁぁぁああっっっっ!!」
深く体を沈め、一瞬溜めを作った後で杖を全力でスイング。
相手には自分が消えたように見えるだろう。
そして、渾身の一撃で刀を弾き飛ばす事を狙う。
インパクトの瞬間に痺れを覚えるが、完全にそれを無視。
杖から手を離すと、再び後方に飛びのいて距離を取る。
・・・・・・・女は何処だ?
彼は一瞬標的を見失った。
そして腕から貫通する衝撃。体勢を崩してそのまま転がり落ちる。
刀は空中で手放している。もし執着していたらこちらが負傷するか、
或いは刀が折れていただろう。
相手は更に下がって体勢を整えている。
相手は、恐らく妖術師だろう。
無造作に刀を取り上げ、八双に構える。
一つの太刀に全てを篭める。一撃で仕留める。
こちらの負傷は考えない。勘定に入れない。
その覚悟なくして妖魔は斬れない。数多の戦いで学んだこと。
「・・・・・・参る」
彼は再び駆けた。駆け抜けた。
その身体が霞み、ぶれて、残像を残す。古流剣術の歩法。
魂が穢れていても、その業は素晴らしく、そして凄絶であった。
狙いは胴薙ぎの一閃。
【カウンターするなりなんなりで決着をお願いします】
「Komme(来い)」
短く唱えれば、さっき手放した杖は瞬く間に手元に戻る。
男は地に落ちたが、さほどダメージを受けた様子も見せずに立ち上がり構える。
未だ目から剣呑な光は消えない。
むしろ、輝きを増したようにも見える。
だから全力でその一撃に答えなければならない。
戦いの決着をつける、その一撃に。
相手の速度から考えて、大技を繰り出している余裕はない。
だが、一撃で仕留めねばこちらが殺られる。
短い逡巡の後、決断を下す。
今の己にできる最大限の賛辞。
疾さに対応できる唯一の手段。
「Funken(火花よ)」
空気中の静電気を集め、高圧の電流を人為的に発生させる。
良質の導電体である刀に対しては極めて有効な一撃。
だが、派手さがない代わりに消耗も激しい。
一流の剣技の前に、瑞希はその場から一歩も動けず。
とっさの回避運動もむなしく、月夜に血飛沫が舞った。
わき腹を押さえて膝を付く。
桜の散る夜の公園。
穢れた魂も共に散ろうとしていた。
もう動けない。かろうじて動くのは、脳味噌だけだった。
彼は思う。いつからこうなったのだろう。
最初は自分の腕がどれ程のものか知りたかった。
妖魔が実在すると知ったとき、斬らなければと思った。
そして自分の家族や友人たちを守らなくてはと思った。
そのための剣の道。そのために剣術。そのための刀だったはずだ。
共に視線を潜り抜けた刀は、彼の手を離れ焼け焦げていた。
その刀はもう『死んでいる』と彼は知った。
その時、彼は終わらない夢から覚めた。
「・・・・・・桜、か」
必死に仰向けになって、舞い散る桜と星空を見る。
美しいと思った。周囲の光景に眼を向けるのは何年振りだろう。
花弁が舞い散って、修羅へと堕ちた彼の身体に降り積もる。
「俺の、負けだ・・・・・・礼を言う・・・・・・」
その一言を最後に彼は意識を手放した。
【短いですが、これにて〆です】
【彼は放置するなりなんなりしてください】
【ありがとうございましたノシ】
出血こそ派手だが、さほど深く傷つけられたわけではない。
きわどい所で内臓に達していない事に安堵する。
そして、決着の付いた後に残されたものは。
先ほどまでの殺気が嘘のように安らいだ表情で横たわる男。
その瞳は桜と月を映し、一点の曇りもない。
吹き抜ける風が花びらを男の体に降り積もらせていく。
「……美しい、見事な一撃だった」
男が意識を手放したのを確認してから、ぽつりと呟く。
瑞希が滅多にしない手放しの称賛。
それを与えるだけの気迫と威力を持った男。
稀有な人材をむやみに失わせるわけには行かない。
たとえそれが、将来的に己と主にとって仇となったとしても。
――深夜の病院。
緊急外来の入り口にぼろぼろになって放置された男が見つかり、
翌日警察を巻き込んでちょっとした騒ぎになったことは関係者のみぞ知る事だ。
そして、男の掌には桜の花が一輪握られていたという。
【気の利いた〆が思いつかず、こんな形に】
【こちらこそ遅筆にお付き合いいただきありがとうございましたノシ】
「―アイツらしい。」
旧友が娘を犯してその娘惨殺された―いや、自殺したのを聞いた時思わずそう呟いた。
大学の同期にして親友だったアイツとは良く話があったものだ。
死者からの手紙が届いたのは桜が散り始める春の頃。
―遺言だった。
科学者としての作品への愛かはたまた父親としての愛か。
ともかく親友の娘を自分の研究所に呼び出すことにする。
【適当にトリップ付けてみました。
こんな書き出しでお願いします】
高校生活の始まり。
それは斬鬼衆にとってみれば妖魔との闘いの人生の始まりでもある。
防御力の無さは日々深刻さを増して行った。
配属されてまもなく数多くの敗北と陵辱。そして暴走。
それでも死に至らなかったのは妖魔がすぐ殺さず自分を犯し、
そして反撃が成功していたからってだけで。
つまりは運が良いだけ。それは先輩に指摘されなくても分かっている。
父の作ったスーツもストックが少なく、不安は募るばかりだ。
そんな時だった。突然届いたメールに目を輝かせる。
「ふむふむ……父の友達の立花さん。……スーツの新調!?」
物につられ易い千草はすぐさま家を飛び出ししてされた場所へ向かう。
まあ、罠だったら倒せばいいしと言う楽観もあったのだけど。
深く考えもしなかった。父の旧友がどんな人なのかも。
なんで自分の連絡先もしっているのかも。
友との約束は当然守る。しかし自分の欲望をも満たすつもりでいる。
科学者としてこれほどの研究対象をみ逃す手はない。
無邪気な返信に苦笑を禁じ得ない
(やはり俺がどんな人間か聞いてないのか)
入って来た青い髪。
母親に似た美しい顔に早くも嗜虐心をそそられる。
「やあ、良く…良く来たね。クク…実は君の父からの頼みでね。」
スペアのスーツが大量に入った箱指差す。
「それとこれが製法だ。持っていきなさい。」
【ここからが楽しそうなのに、ここで凍結です…ごめんなさい】
【再開は明日以降の夜であれば大丈夫だと思います】
【了解です。再開を楽しみにしてますね】
【書き落ちですが……】
【GWに専用板で第二回イベントを企画しています】
【興味をもたれた方は是非ご参加ください】
人の寄り付かぬ廃屋だった。いるのは社会に適応できなかった
脱落者たちだけだった。人間(食料)を手間を掛けずに仕留め、
片手で持ち上げながら部屋の奥に引きずり込む。
鋭い爪で肉を切り裂いて、牙を突きたてて咀嚼する。
それが彼の食事だった。
鬼。彼は人食いの鬼。
黒い服を着て、黒いスラックスを履いている。
人間にも見えるが、それでも鬼であった。自覚している。
ふと、彼の知覚に引っ掛かるものがあった。
それも、人間ではなく恐らくは――
肉を噛む音が、薄暗い廃屋に響き渡っている。
恐らくは妖魔だろう。野生の獣は、この様な所に寄り付かない。
であれば、その餌食となっているのは九分九厘人間である。
野生の獣が寄り付かないのであれば、残るは人界に放たれた犬や猫、そして人間。
薄れ掛けた野生がそれでも注意を喚起するのか、それらも妖魔に近づく事は少ない。
だが、人は別だ。
人混みの中に人ならざる存在が紛れ込んでいようと、彼らがそれに気付く事はない。
極少数を除いて、という但し書きが付きはするが。
――顔の一つも拝んでから去ろうか。
そう思ったのは、ただの気紛れである。
本来ならば危険に首を突っ込む様な過ちを犯さず、黙って去るのだが。
巣が見付からぬまま彷徨う、安息のない生活に飽いた……のだろうか。
自分でも良くは分からない。
ただ、今この瞬間に咀嚼音がする方に自分が歩を進めているのは確かだ。
廃屋に靴音が響く。存在を隠す事もないだろう。
相手がこちらに気付くのが早ければ、殺気を向けてくるのもその分早い。
その時は諦めて、己の姿を見せる事無く去るだけだ。
無造作に、彼は振り向いた。
鬼の知覚を駆使しなくとも、足音でわかった。
向こうも殊更に隠すつもりもなかったらしい。
「よぅ同類、一緒に食事なぞ如何かな?」
牙を剥き出して鬼は笑う。陽気な性格らしい。
まだ見ぬ相手に対して、無防備な笑み。
ベキベキと無造作に死体の腕を捻じ切り、引き千切る。
それを投げて床に放る。
「人間の肉は口に合わないか」
相手の反応に構わず、自分は無防備に床に座り込んだまま食事を
再開する。今日の夜飯は浮浪者の男だった。
顔は気に入らないので無視する。喉笛から噛み千切る。
噛み切った部分から血が溢れ出る。それが彼の口元を紅く穢す。
黒尽くめの、人の形をした存在。
人の形をしているが、その本質は違う。
同様の存在にしかにしか分かり得ぬ気配、と言えば良いか。
彼が言葉を紡ぐ前に、それが確信に近い感覚を伝えてきた。
「……食事をする時は、独りでないと落ち着かんのでな。後で頂こう」
宙に飛んだ人間の腕を一瞥し、糸を一本放つ。
手を伸ばしても届かず、移動する気にもなれず。
実に中途半端な距離故に、反射的に出た行動。
指の動きに合わせて糸が引かれ、腕を幾分か引き寄せた。
それを掴み取る。血の匂いが、鼻に付いた。
常々、獲物は溶かし終わってから啜っている。
流されたばかりの血の臭気を嗅ぐのは、いつぶりだろうか。
「塒にするには良い場所だ。生憎、既に埋まっていた様だがな」
自らの力に余程自信があるのか、それとも単に大雑把なだけか。
それを知らないまま、独り言の様に呟いた。
目を付けた場所に先住者が存在した事は今までにもあったが、
自分からその顔を見に来たのは初めてだった様に思える。
柔らかい部分だけを食い尽くし、骨は残しておく。
体臭と血の匂いが入り混じって――食欲が増進する。
関節部分を捻じ切って、引き千切る。細かく千切って喰らいつく。
「そうかい、俺は賑やかな食卓ってのが好きでね。
まあこうしてふらふら歩き回ってると、そういう相手に事欠いて」
当然、その食卓に出されるのは人間の死体なのだが。
「そいつは悪かったな。
明日には出るから気にせずそこにいてくれよ」
からからと笑う。口元を拭う。
「この街は長いのかい?俺は先週来たばっかしなんだけどよ。
すげぇなこの街。同類がうようよしてやがんの」
喋っていないと気がすまないのか、ぺらぺらと捲くし立てる。
食べながら、咀嚼しながら、喋る。
そして買っておいた缶ビールを空けてグビっと飲む。
「
考えてみれば、他者が――己以外の妖魔が食事をしている場面など、
一度たりとも見た事がなかった。無防備な姿を眺めながら、思う。
珍しい物を見れた、と喜ぶべきだろうか。
意味のない、無駄な思考が浮かんでは消えていく。
「根無し草と言う点では同じだが、ふむ……独りを好む私とは違うようだな。
そういった場を望むのであれば――」
目を細めながら、言葉を紡ぐ。
禍根は立たねばなるまいが、こういった繋がりはあったに越した事はない。
どこで助けになるかは、誰にも分からないのだから。
いつ何時足を掬われる事になるかも、分かりはしないのだが。
「この街には七妖会、と言う妖魔の組織がある。話に聞いただけだが、
参加している妖魔はそれなりの数の様だ。行ってみればどうだ」
そう言えば、七妖を己に語った妖魔の姿も久しく見ていない。
達者にしているのだろうか――ふと、そう思った。
「多少はな。宿も決まらず、彷徨ってばかりだが――ああ、気を使わずとも
構わない。血の匂いはあまり好かないのでな、ここには、もう染み付いて
しまっている様だ」
今流されたばかりの血の鮮烈な匂いの他にも、微かではあるが匂う。
恐らくは、以前にここを餌場としていた妖魔がいたのだろう。
今現在、その妖魔がどうなっているのかは知らないが。
「七妖会?ああ、例のわけわかんねー馬鹿デカイ組織か。
俺も何回かそいつらに会ったけどよ、俺は自由に暮らしたいんだ。
そりゃちっとは興味あるけどよ、誰かの言いなりになっても仕方あんめえよ」
小骨を噛み砕いて嚥下する。
どうせ生きるなら自由に、思うままに。
食いたい分だけ食い、必要以上には殺さない。
そんな生き方が自分には合っていると思う。
戦えば強いという自負はあれど、不要な戦いと殺しは望まない。
「アンタだって、誰かの言いなりになって動くなんて面倒だから
根無し草な生活してんじゃないのか?」
ビールを一気に飲み干し、空き缶を握り潰す。
それを丸めて部屋の隅に投げる。
「はは、そうかそうか。そいつは悪いことしたな。俺はこういう匂いが
ある方が落ち着くんだけどよ」
くあっ・・・・・・と大きく口を開けて欠伸する。
眠い。今日は朝から忙しかったので、疲労が一気に襲い掛かってきたらしい。
死体の残骸を見つめ、嘆息する。明日に取っておくべきだろうか。
この季節なら一晩放置しても平気だとは思うが。
「俺ぁもう寝る。明日の朝には出てくよ。おやすみ」
無造作にそう言って、部屋の奥で寝転がる。
何という豪胆な性格なのか、蜘蛛の妖魔に背を向けて寝息を立て始めた。
いざとなれば屠る、という確信があるから、彼は躊躇わないのだ。
無駄な戦いは嫌いでも、自衛の戦いは避けるつもりはない。
彼はやはり鬼なのだ。そしてそんな鬼は夢も見ず浅い眠りにつく。
【短いですがこれにて〆です】
【ありがとうございましたノシ】
「そう……お前と同じ理由だ。他の者に使われるのは、どうも性に合わない。
本質は似ているようだが……奇遇、と言うべきかな?」
ふ、と小さな笑みを漏らした。
何故だろうか。陽気な性格の目の前の妖魔と、今この場に居る自分。
性格は似ても似付かぬ筈なのに、何処かで親近感を感じ始めている。
その理由を、心を覗き見る術のない蜘蛛は知らない。
細部は違えど、己と良く似た考えを持っているのだ、と言う事を。
「ああ、おやすみ。良い眠りを」
寝息を立てている鬼に背を向け、廃屋を後にする。
心中の風に吹かれれば、何処へ行くかも分からぬ根無し草。
明日になれば、もうあの妖魔は街を出ているかもしれない。
自分の気が変わり、ここを去る事すらないとは言えない。
再び出会う確率は限りなく低い。
――これ以降出会う事があるかも分からないが、あわよくば再び話したいものだ。
その時は心行くまで語ってみるのも良いかもしれない。
そう思いながらゆっくりと歩を進める。
間もなく人の形をした蜘蛛の姿は闇に溶け、それが携えた一本の腕の残した、
微かな血の残り香だけが残された。
【久しぶりで色々と拙いこちらに付き合ってもらった事に対する感謝、
一言では言い表せない程だ】
【有難う……と言う言葉しか見付からないこの身が恨めしいが】
【こちらもこれで〆となる。お疲れ様だ、良い夜を】
132 :
東 雹太:2007/05/03(木) 00:04:13 ID:MnkASPCC
・・・・・・雨が、降っていた。酷く景気の悪い、霧のような雨が。
暗い路地裏の狭間、男は壁を背に蹲っていた。
浅黒い肌をした精悍な青年は、脇腹を抱えながら低く呻いていた。
年の頃は二十代半ばといったところか。
その白いカッターシャツは、紅く染まっていた。
突き刺さっていた短刀を引き抜いのだから当然か。
酷く詰まらない喧嘩だった。獣憑き同士の、些細な諍い。
犬憑きの顎に拳を決めた時点で、彼の勝利は確定した。
まさか相手も脇腹に短刀を突き刺した男が反撃するとは思わなかっただろう。
人間の生活が長いと、時折獣人の生命力、耐久力を忘れるらしいが、犬憑きも
そうだったらしい。しかし、同類の付けた傷というのは治りが遅い。
例えそれが武器に因るものだったとしても。
というわけで。
「ヘルプミー」
下らない事を言える程度の余裕はある。
しかしまだ当分動けそうに無い。
誰かが精気を分けてくれれば一発で回復するのだが。
「ったく、鬱陶しいったらありゃしない」
曇り空に映える赤色の傘を差しながら、嫌悪感を露わにした表情で呟いた。
少女は雨が嫌いだった。
自分の力を扱えなくなる事もあるが、何よりもじめじめとした湿気が
人間達の心を暗くさせているような気がするのだ。
「あーあ、こんな日は、早く帰るにこした事はないね」
友人達とは既に別れを告げて、後は己が家に歩みを進めるだけの退屈な帰り道だ。
余計な事に首を突っ込まずに、ゲーセンやショッピングモールなどという誘惑を
振り払いながら、ずんずんと勇ましく帰途を辿る舞。
「――――――おや?」
しかし、人間ではない彼女の鋭敏な聴覚は、助けを求める誰かの声を聞いてしまった。
苦しそうなその響きからして、恐らく怪我でもしているのだろうか。
――――いや、今日は寄り道せずに帰るって決めたんだ。
向きを変えかけた足を戻し、当初の予定通り、一目散に家に帰ろうとする。
―――――でももし、この人が死ぬ程の大怪我だったら?
「はあぁ…………あたし最近ついてないなぁ」
溜め息をつきながら彼女はつま先を路地裏に向けた。
即ち、助けを呼ぶ誰かの元へ。
134 :
東 雹太:2007/05/03(木) 00:28:29 ID:MnkASPCC
彼の鋭敏な聴覚は、その微かな足音を捉えていた。
続いて嗅覚が匂いを感知する。
恐らくは同類。性別は雌。若い。
やがて彼は彼女と対面する。
「よお、ご同類。こんな場所で会うとは奇縁だな」
脇腹に手を当てたまま、彼は口元を緩めた。
お前に会えて嬉しいと言う、その代わりであるような、そんな笑み。
「ちょっと、聞きたいんだが、そっちの奥の方に誰か転がってねえ?
ちとお灸を据えたんだが、少し効き過ぎちまったみたいで」
彼と喧嘩した犬憑きは、更に奥の暗がりに転がっていた。
死んではいないが、顎を綺麗に打ち抜かれ、うつ伏せに失神している。
一目を避けるように入り組んだ路地であろうと、彼女の行動を
阻害する要因には、なりはしない。
そう言えば以前このような真似をして、面倒な目にあった出来事が少女の頭をかすめたが、
結局あの時は人助けで助かったし、今回もなんとかなるだろう、
と安易な考えでするすると声の主を探し求めた。
『よお、ご同類。こんな場所で会うとは奇縁だな』
その男は脇から血を流しているにも関わらず、明るい調子で舞に話しかけた。
同類と呼ぶ、つまりは彼自身も舞と同じ、半妖なのだろうか。
「何だい、案外大丈夫そうじゃないか」
想像していたよりマシな男の姿に軽口を叩きながら、内心彼女は胸を撫で下ろした。
言われるままに奥の暗がりを確認し、そこに伏している人間に瞳を向ける。
「あぁ、生きてるね。この人がどうかしたのかい?」
136 :
東 雹太:2007/05/03(木) 00:48:15 ID:MnkASPCC
「いいや、別に。ただ死んでたら後味悪ぃなって
思っただけのことさね。風邪くらい引いても自業自得だけどよ」
実際、比較で言えば自分の方が負傷の度合いが酷いのに、
その件については追求しない。
「そいつは俺と同じ店で働いてたんだが、
ちとトラブルがあってな。金持って逃げたんで俺が捕まえたってわけさ」
ここで追い詰めて、金を返せと迫った。
同類ではあったが反りは合わなかった。けれどまさか刺してくるとは思わなかった。
気を抜いていたのは自分も同様らしい。徹底的に殴り、顎にアッパーを決めて昏倒させた。
くだらない男だった。くだらなすぎて、哀れみすら感じてしまった。
グルルッ・・・・・・喉を鳴らす。
肉食獣の鳴き声。彼は豹憑きである。
獣の部分を活性化させて、新陳代謝を早める。
「時に、お前さん、あれか、どうして此処に来た?」
「流石に、人殺しは見るのもされるのも勘弁だね」
後味悪い、その言葉だけで人の生死を処理して良いのだろうか。
人の価値観は人それぞれ、なれど少女は納得の行かない気持ちを微かに覚えた。
「ふぅん。大人ってのは大変だ」
何の事はない、所謂小競り合いという奴だ。
ニュースでこの事件が報道されたとしても、一週間後には見た
半数の人間が忘れているような、ありきたりな。
そこに命が左右される事態がない限りは、少女は無頓着だった。
勿論平和であればそれが良いが、誰が金を盗もうが
誰がそれを捕まえようが、それは彼らの問題であって、自分には関係がない。
空を仰いでいる男を裁くのは目の前の彼でも、自分でもない。法律だ。
なら、ここで自分が盗人を咎めようと、意味はない。
「別に、大変そうなら肩くらい貸してやろうかと思っただけさ。
ま、その様子なら平気そうだね。必要なら、救急車くらい呼んでやるけど」
138 :
東 雹太:2007/05/03(木) 01:12:47 ID:MnkASPCC
「そいつは妖魔だけどな。半分は同類なわけだが」
実際、殺しというものについて、彼自身必要ない時以外は
殺したくないと思っている。必要ならば――例えば自衛のためなら
止む終えないと感じているが。例え相手が何であれ。
「大変だぜ、大人の世界は。
お前さんも大人になったらわかるさ。いずれはな」
人間の作った枠組みの中で生きる以上、そういうことを必然的に学ばなければならない。
獣の部分を鎖に繋ぎ、できるだけ抑え、人間の皮を被る。辛いと思うこともあるが仕方ない。
今のご時勢、山野を駆け巡って生きるのは難しいのだから。
「救急車は勘弁してほしいな。生憎と医者と病院は嫌いでね。
まあここで会ったのもなんかの縁だ。少しでいいんで精気分けてくれねえか?
・・・・・・ああ、いや、別にここでヤるってわけじゃなくて、口移しでちびっと分けてくれれば」
どっちにしても、初対面の相手に頼むことではない。
「大した礼もできねえけど、頼むわ」
「関係ないね。あたしにとっちゃ、妖魔も人間も皆『人間』だよ」
父親が、そして自分が、何度も目にしている母親や他人と
違うと知ったのはいつ頃からだろうか。生憎とそんな事は少女は覚えていなかった。
何故なら、それは余りに些細な事であったから。
確かに種族は違う。けれど、根底は全く同じ。笑い、怒り、泣き、愛する。
それで十分、それだけで舞には十分だった。
「嫌な世の中だねぇ。職場を共にする仲間すらロクに信頼出来ないなんてさ」
妙に年寄り地味た彼女の台詞は、父親からの受け売りなのだろうか。
やれやれ、と紅の髪を軽く揺らし、呆れた顔を見せた。
『まあここで会ったのもなんかの縁だ。少しでいいんで精気分けてくれねえか?
・・・・・・ああ、いや、別にここでヤるってわけじゃなくて、口移しでちびっと分けてくれれば』
「―――なんだって?」
彼の台詞を聞き咎めた舞が、すっきりとした眉を持ち上げ、男を睨む。
確かに異性には疎いし、どちらかと言えば彼女はバレンタインに
チョコをダンボール一杯もらうタイプだ。
しかし、男の台詞は余りに無神経過ぎると舞は思った。
「あんたねぇ、乙女の唇はそんな軽い物じゃないんだよ?」
140 :
東 雹太:2007/05/03(木) 01:37:01 ID:MnkASPCC
――本当に嫌な世の中だ
彼女の年齢不相応な台詞に、内心相槌を打ちながら苦笑する。
人間の社会。人間としての生活。それは余りにも窮屈で。
獣の部分が、それに染まりきろうとする自分を否定して吼える。
「――おっと、すまんね。おじさん少し無神経だったよ」
くくくっ、と笑いながら、少女の怒気を受け流す。
ちっとも悪びれた風も無い。この程度の台詞は日常茶飯事なのだろう。
セクハラという意識もないのかも知れない。
・・・・・・雨が降っている。先ほどより強く。
肩が濡れる。髪が濡れる。血が滲み出る。
「まあいいや、手当てはいらんよ。さっさと帰りな。
どうせじっとしてれば治るんだからよ」
反対の手をひらひらとさせて、少女に別れを告げる。
彼の言うとおり、実際的にはそれほど大した傷ではないのだ。
もちろん、人間が同様の負傷をすれば、それこそ救急車を呼ぶ必要がある。
「わざわざ心配してくれて、ありがとよ」
最後にそう付け加える。
「全く、そんなんじゃ女の子の一人も捕まえらんないよ?」
深く溜め息をついた舞が、拗ねたような口調で呟く。
さて、しかし逆に言えばまだセクハラをする余裕があるだけ無事だろう。
だが、ずぶ濡れになりながら冷たい床に腰掛ける彼の姿がどうにも気になった。
「ったく、大人の癖に子供みたいに医者が嫌だ
とか言うから、そんな目に合ってるんだからねっ!」
ぶつぶつと不満を口にしながら、舞はずいと傘を突き出して、男に立てかける。
そして鞄の中から普段は部活に使用しているタオルを取り出すと、
陽気に笑う彼の顔面に投げつけた。
「風邪引くなよ!!」
去り際にそれだけ言って残すと、舞は茶色い鞄を頭の上にかざし、
雨に濡れながら一目散に走っていった。
「…あたしってそこまで軽そう?」
勢いを増す雨の中、それとはまた別の憂鬱を新たに抱えた少女が、答えの帰らない闇の中に呟く。
ただ一声、緑色の皮膚を光らせる小さな蛙が鳴いた。
【では切りのよいここで〆で。穏やかなロール、私は好きです】
【お誘い、そしてお付き合い有り難うございました。】
【それでは、お休みなさい。ノシ】
142 :
東 雹太:2007/05/03(木) 02:01:07 ID:MnkASPCC
「匂いが嫌いなんでね。鼻はいい方だからよ」
実際問題、病院へ行って色々検査されると面倒なことになる。
その辺を彼女は理解しているのだろうか。
ふと、不意に雨が止んだ。
彼女が、自分が使っていた傘を立てかけたのだ。
ついでに、タオルが投げつけられた。
『風邪引くなよ!!』
それだけ言い残し、少女が雨の中を駆け出す。
やれやれと肩を竦めたくなった。
子供の相手というのは難しい。それとも自分が古いだけか?
「まあ、いいか」
彼は有り難くタオルで水気を拭うことにした。
【拙い文章にお付き合い頂き感謝します】
【ありがとうございましたノシ】
【しばし待機します】
【落ちますね】
【seeker様待ちです…】
【40分たっても来られないようですので一度落ちますね】
【またの機会によろしくということでお願いしてもよろしいでしょうか…】
【すいません、ちょっと眠くて待ち切れませんでした…】
【テストを兼ねて待機します】
【待機解除します】
148 :
加茂 陽介:2007/05/25(金) 22:52:56 ID:jchGSsGW
高校生活開始して暫く経つ。
ようやく周囲の環境や授業にも慣れ始めて、
いい加減面倒になって五月病に罹った気分だが。
《・・・・・・・りない、足りない、足りない、足りない、足りな・・・・・・・》
そろそろ彼女のひとりでもゲットすべく、中学からの友達を巻き込んで
合コンを計画した。男五人、女五人、人数的には対等になり、準備完了。
知り合いの経営している居酒屋で乾杯することになった。
《満たせ、満たせ、満たせ、満たせ、満たせ》
俺としては、暢気な顔をしている蒼い髪の少女と是非お近づきになりたかった。
小柄だが出ているところは出ていると判定したからでもあるが。
ああいう色気とは無縁そうなタイプの隠された一面を知りたかったということもある。
「カンパーイ♪」
乾杯の音頭と共に、打ち鳴らされるグラス。
「古志さん、運動神経いいよな。
体育の時見てたけど。部活何か入ったっけ?」
みんなが談笑し始めて、リラックスし始めた時を見計らって話しかける。
《喰いたい、喰いたい、喰いたい、喰いたい》
葉桜の季節が来て、五月病と無縁の蒼髪の少女は今日も元気に登校している。
ゴールデンウィークも終わり、近づく中間試験に頭を悩ませている。
「……合コン?いいよ〜♪」
そう簡単に返事をしたものの、合コンがどんなものか全く知らない私。
一応オシャレをしていくべきだっただろうか。
主に触感を鈍くする黒スーツを下に着込み普段通り
―つまり特別に許可されている学校での恰好だった。
「か、かんぱ〜い……」
かろうじて音頭に合わせる。
その声にいつもの快濶さが無いのは一つ悩みがあったからだ。
体は果たしてアルコールは大丈夫だっただろうか?
改造された体は、アルコールを受け付けるのだろうか?
思いもしなかった難題にグラスと睨めっこ。
一口、口を付ける。
あ、美味しい。
もう一口。
「運動神経だけがとりえだも〜ん♪」
軽く相手に合わせながらも頭では別のことを考えていた。
やっぱ神経が一番いじられてるから……アルコール……うーん……。
明らかに酔いが回り始めたらしく、考えがまとまらない。
その異様な気配を漂わせた相手に気が付かなかったのは
アルコールのせいか、それともクラスの皆と居るという油断のせいか。
【あれ、円さんになってる……w】
【ごめんなさい、間違えました♪】
151 :
加茂 陽介:2007/05/25(金) 23:29:51 ID:jchGSsGW
・・・・・・なんかこの所調子悪くねえか俺?
いや、この学校に来てからずっと妙な感覚は続いているけどな。
腹の底がざわめくというか。つーかあの白清高校って場所、少し変な気がする。
まあそれは別にして――妙に女に餓えているという感じがする。
健全な高校生ならある意味当然なのだが。
しかし此処まで積極的に女に話しかけるのも珍しい気が。
いや、別に苦手というわけでもないんだが。
「取り得があるだけいいじゃんか。
俺なんて中学からバスケやってて、ちっとも上手くならないし」
ちびちびとカクテルサワーを、慎重に飲んでる彼女に苦笑する。
しかし、妙にそそるよな、この娘。俺ってロリ系が好みだったのか?
何かが変だ。この妙に緊張と弛緩の入り混じった独特の雰囲気が。
それぞれに狙いを定めながら、牽制と巧妙な駆け引きが交錯し。
「古志さん、お酒初めて?サワーならジュースと変わらないだろ?」
殊更に意識するまでもなく笑顔が浮かぶ。
グラスが次から次へと空になり、料理の皿も白くなり始めた。
「古志さんって、どんな男がタイプ?」
次はカラオケに行く予定だった。
152 :
加茂 陽介:2007/05/25(金) 23:31:00 ID:jchGSsGW
【掛け持ちだったのか。別に気にしてないからいいよ】
【けど掛け持ちは先に行っとくべきだよと思うし】
【失礼しました】
【諸事情より15‐20分ほど離れます】
(……美味しい……。)
徐々にペースが速くなり、心拍数が上がってくるのが分かる。
酒によってどの程度運動機能が損なわれるのか判断が遅くなるのか。
今、退魔士としてどの程度動けるのかすら分からない状態は非常に危険だった。
「んー、加茂君だってバスケ上手じゃん〜、何言ってんの〜」
クラスの中に居るし、任務時間外だしと言う子供らしい理屈。
酔いが気を強くさせていた。
なんとかなる、なんとかなると。
「初めて〜♪美味しいね♪」
顔を朱に染めて答える、
塩気の強いつまみをパクつきながら、もう頭には不安など何もなかった。
「んーっとね、んー……分かんないやぁ」
答えながら席を立とうとして異常に気が付いた。
ふらふらする。世界が歪んで見える。
「……カラ……オケ……?どうしよう……」
155 :
加茂 陽介:2007/05/26(土) 00:18:18 ID:n5TvZueE
「っと、大丈夫?」
ふらつく彼女をそっと支える。
初めてのアルコールで機能が麻痺したらしい。
「とりあえず、今日はお開きにってことで」
古志千草の調子が悪いので、今夜はここで解散ということになった。
思惑通りにいった者もならなかった者も、誰も文句は言わなかった。
意気投合したらしい一組が勢いでカラオケに向かうと言った。
他の者たちは途中まで一緒に帰るという方向で決まった。
《食わせろ》
・・・・・・どうにも頭が痛かった。ともかく狙い通りか?
ふらつく彼女を支えながら、繁華街から外れた裏路地を歩く。
「大丈夫?公園で休んでくか?」
途中の自販機でポカリスエットを買い求め、彼女に差し出して提案する。
「……んあ?平気……かなぁ……?あはは」
初めてのアルコールは強烈だった。
そして苦い記憶を残すことになる。
「あうぅ……皆ごめんね……」
辛うじて呂律の回る舌でみなに平謝りする。
肩を借りて夜道を行く。
暗闇の世界でさえ、いつもなら多くの虫や動物の息吹を感じ取る六感は機能せず
思考はただ頭を駆け巡るアルコールの熱に浮かされている。
「ん……ありがと……。」
一口飲み、安心すると急激な眠気が襲い掛かってきた。
目をしぱしぱさせて休みを請う。
「……ちょっと……そこのベンチで休んでいいかなぁ……?ごめん……」
夜の風が吹く。名も知らぬ木々が騒ぐ。
泥のようにくたくたになった少女をベンチに下ろす。
酒を飲んだ所為か、身体が汗ばんでいる。
風が吹く。やけに喉が渇いた。風が吹く。木々が騒ぐ。
降りしきる月光。魔物のように騒ぐ木々。頭が痛い。
我が内で食わせろと悶える獣がいる。
いいるるいいぃぃ・・・・・・・・
獣が哭いている。
いいいるるぅぅういいぃぃ・・・・・・・
思えば最初から変だった。
何故彼女に執着したのか。今では思い出せない。
口が裂ける。真横に裂ける。顎が限界を超えて開かれ間接が外れる。
その中から這い出してくる《 》が。
触手を伸ばし、無防備な彼女の身体を這う。
【そろそろそっち時間ですね】
【トリつけておくんで凍結でいいですか?】
【都合のつく時間を事前に伝言スレに残しておいて貰えますか?】
【そうですね、あと30〜45分ぐらいでしょうか。】
【一応こちらはもう一つはレスをお返しますね】
【はい、了解しました】
【おそらく28日か30日の夕方からになると思います】
呼吸が浅く、荒い。
明らかに飲み過ぎたのだろう。
どうやらお酒に対しても所謂『紙防御』であるらしかった。
絶対的な反射速度と運動神経、察知能力の代償はあまりに大きかった。
誰よりも打たれ弱く、脆い体。
誰よりも簡単に死に、簡単に堕ちるだろうと言われていた。
「……ん……。」
ぐったりとしたままの千草の脳内には危険信号がずっと鳴り響いている。
それはちょっとした違和感と直感によるものだが、何より戦場では大事な物だ。
だが今はアルコールに浸された脳がそれを受け取らない。
無抵抗のまま、触手に絡め取られてしまった。
【その日は帰宅が何時になるかわからないけど】
【できるだけ顔出すようにしますね】
【ではお疲れでしたノシ】
細い触手が這う。青い髪を、顔を、首を。
服の隙間から進入して細部まで輪郭をなぞる。
予想していた通り、強い力を持った肉体であった。
少年の口から、小さな顔が飛び出る。
醜悪な老人の、無理矢理縮めたような顔が。
その老人はこの少年の曽祖父であり、妖術師だった。
その妖術師が自らの老いから逃れるべく、必要な部分だけ残して
この少年の身体に進入し、融合し、その記憶を弄り、操作した。
この少年は、運が悪かったとしか言いようが無い。
そしてこの老人は、強靭な肉体の持ち主を探した。
古志千草が目を付けられたのは、ある意味当然だったのだろうか。
この少女の身体は弄られていると老人は判断した。自分の学んだ技術体系とは
異なるが、それが肉体強化のための改造だと言うことは、検査の結果で凡そ判断できる。
場合によっては、長持ちでしない可能性もあるが、その時はまた別の身体を探すまでだった。
乗り移る前に、この身体を堪能しておくとしよう。
そう決めた老人の触手が、乳首を撫でる。乳房を縛って揉む。
触手が這い回り、少女の身体を蹂躙する。
「……妖……気?……嘘……ッ」
宙を浮く違和感にうっすら目を開けて自分の迂闊さを呪う。
気付いてみれば目の前には鳥肌のたつような強烈な妖気。
体を舐め回されて初めて危険を認識するとは最低の失態だった。
酔いが徐々に醒めて行くのは恐怖と……そして快楽のため。
「くぅ……離して、よ……っ!」
どんなに力をこめても触手を引き剥がすことは出来ない。
武器を持ち歩いていないわけではないが、手足を締め付けられていてはどうしようもない。
束ねて服の隙間に仕込まれている斬糸も、黒刀も、飛礫も無力だ。
或いは本来の力なら触手を引き剥がし、武器を手に取り、妖魔を殺す事も出来ただろう。
―しかし、酒と恐らくは麻痺毒を仕込まれていたのだろう、体に力が入らずそれは適わない。
一瞬ごとに快楽に呑まれ理性が削り取られていく。
「いや、いやぁ……。んあぁ……」
理性に反して甘い喘ぎを僅かに洩らす。
このままではいけない。
分かっているのに何も出来ずただの無力な少女のように目を瞑って耐えていた。
「ほほほ、お目覚めかな?いやはや、なかなか感度がよろしい。
まずはじっくり嬲ってあげよう。たっぷりを犯してやる」
老人が嗤う。醜悪な顔を更に邪悪に歪めて。
「その後お前さんの身体を有効に利用してあげよう。光栄に思うのだよ」
自分の為なら他人に犠牲を強いても全く歯牙に掛けない、真に邪悪な老人である。
少年の身体が動く。最早、加茂陽介としての人格も記憶も完全に塗りつぶされ、
その身体は老人の思い通りに動く。圧し掛かり、服の上から乳房を揉みしだく。
「そそるのう。若い身体を堪能するのは実に久しぶりだのう」
クカカカカカカカカカカカ!!禍々しい哄笑。
少年の膝が脚を割り開き、ジーンズの上から割れ目を不躾に擦る。
「離して……よっ!」
幸いまだスーツのおかげで人並みの感度だ。
それでさえ『感度がよい』と言われるほどである。
もしスーツが破られて直接肌に触られたら……。
ぞっとして、無力な体を叱り付ける。
力を何度入れようとしても、どんなに歯を食いしばっても
自分の体なのに配線が切れた電気製品のように手ごたえが無い。
もし闘えたとしても、どうやって妖魔を殺せばいいのだろう。
少年ごと斬るわけにはいかないし……。
「ふぁぁ!?……そこは、駄目、駄目、絶対駄目ッ!」
思考を途切れさせるほどの刺激に焦りが生じる。
これは本格的にまずい。
いつも通りに理性を失ってしまえばクラスメイトごと殺してしまうだろう。
そうならないためには、耐え続けなければならなかった。
「今様の退魔士は、存外に脆いのう。
ワシが現役の頃にも、お前さんのような小娘が退魔士として戦っておった」
邪魔だとばかりに服を引き裂くと、ボディースーツが露出する。
その上から嬲るように乳首を探り、執拗に突きまわす。
形を確かめるように、むにゅっと乳房を掴む。
「じゃが、ここまで簡単に陥落する軟弱者は、一人としておらなんだよ」
老人の小さな顔が近づき、少女の穢れの無い顔を舐める。
その小さな舌は犬か猫のようにざらりとしている。
唾液が嫌悪感を催すような匂いを放つ。
「ほれほれ、抵抗してみい」
クカカカカカカ!再び哄笑。
その間にも触手が少年の身体から伸びて、新たに少女の身体を探る。
今度はこめかみの辺りにピタリと張り付いて、少女の記憶を探索する。
その中から意味のある物を探し出す。
ひとつ。父親に犯され続けた頃の記憶。
ひとつ。樹の妖魔に嬲られた時の記憶。
ひとつ。自分を犯し、そして自分の前で死んだ水使いの記憶。
「この……うるさいっ、本当なら一撃で殺してやるのに!……ひ、くあぁぁ……」
強がってみたものの一撃で殺されそうなのは此方のほうだった。
最速の反射神経の代償。
防御力の無さには判断力や冷静さが不可欠であるというのに。
父は杜撰なのか計算高いのか切り札を一つ入れて対策にしてしまった。
この相手に使うわけにはいかない。
妖魔だけを滅し少年と自分を救うにはどうしたらいいのだろうか……。
ボディスーツが破かれる前に何とかしないと。
焦燥に駆られ自由になる僅かな部分を激しく動かそうとする。
首を振り、足がほんの僅かに宙に浮く。
顔を舐められた後の挑発に、憎悪の表情と声で答える。
「……臭っ。絶対、絶対許さないんだから……。」
「ふうむ・・・・・・なるほどのう・・・・・・
若いのに苦労しておるようだのう」
少女の記憶を電流の流れとして把握し、それを読み取る。
「くくく、切り札は自動攻撃。それも条件が整い絶頂に達した時か。
お前の父親も酔狂な仕掛けを残したものだ。じゃが面白いな」
少女の記憶を読み取ったということは、切り札も当然見破ったということでもある。
「何にせよ無為じゃな。言って置くが、この餓鬼の首を切り落としたとしても、
ワシは直ぐにお前さんの身体に乗り換える。それでもいいならやってみい」
ベルトを抜き去り、ジーンズを下ろす。
秘所を覆う布地を引き裂き、露出させる。
「まあよかろうて。これ以上生きても仕方あるまい。
またお前さんの前で、お前さんの知っている誰かが死ぬるのだからな」
触手から微細な電流を流し、記憶を刺激する。
少女の脳裏に強制的に甦る、自分の背中で冷たくなった少年のこと。
【展開が浮かばなく・・・・・】
【適当に撃退するのも難しいですか。どうしましょうw】
ぎくりとして思わず醜悪な老人の顔を凝視する。
記憶を読み取られたらしいと言う事は全ての手札を見透かされているということだ。
もしかしたら思考さえ読まれてしまうかもしれない。
そう不安に思ったとき
「……っ。……ぁ……」
小さく震えたのは、特に敏感な下半身が直に空気に触れたからだ。
露出されただけで、熱い何かが溜まっていく感じがした。
「……やめて、思い出させないで!いや、いやあぁッ」
【うーん、まさか乗っ取られる訳にもいかず……】
【ここで展開の話をするのはアレなので】
【打ち合わせに一旦行きますか?】
「くは、はは、ははははは!」
熱くなった逸物を、花弁に突き刺す。深く突き入れて抉る。
腰を震わせ、伝わる快感に打ち震える。
同時に記憶を刺激し続ける。トラウマを刺激続ける。
父親が犯す。父親が眼前で死ぬ。少年が犯す。少年が冷たくなる。
少女にとっては、天国の快感と地獄の苦痛を同時に味わっているようなものだ。
「ふはは、いいぞ、もっと泣け、喚け、嫌がる女を手篭めにするのは溜まらんわい」
奇怪な姿をした、最早人間の範疇に納まらない畸形が少女を攻め立てる。
【トラウマ刺激されて絶頂せずにベルセルク化】
【というのでいいかと。というかもうこの手しか残ってないような】
【うーん、とりあえず打ち合わせにしませんか?】
【リセットしてもこの際しょうがないですし】
【了解。移動しますね】
「ひぁ、うぁぁぁっ!だめ、入ってきちゃ……あううぅぅ」
その快感は圧倒的で、記憶を刺激され続けていなければ一瞬で堕ちていただろう。
悲しみ、罪悪感、快感が同時に襲ってくる。
神経が焼き切れそうになるほど熱い刺激と胸を突き刺す絶望。
心が崩れ落ちてしまいそうだった。
快楽に顔が惚けては苦しみに歪む。
苦痛の涙と快楽のよだれが同時に顔を濡らして行く。
頭の中で光が弾けた。
全身が痙攣し、必死に抗おうとする強張りも消えた。
「……ん……あぁあぁ……ふぁぁん……。」
一度の絶頂が頭を麻痺させた。
必死に切り札を押さえ込んだ結果、交互に襲う快楽と苦痛の結果。
己に克ったが、それが相手の完全な勝利を今の所与えていた。
少女が達した。老人が嗤う。
抵抗する力が抜けた少女を嘲笑う。
「もう気をやったのかな?クカカ、まだ終わらんよ」
ぐんと突き上げる。
人形のように少女の身体が揺れる。
ぐちゅぐちゅと花弁の中を掻きまわす。
子宮の入り口を突き上げる。
いきり立った逸物で、蜜を垂れ流す花弁を掻きまわす。
ぐるぐると、記憶を掻きまわす。
悪意に満ちた笑顔で少女の心を掻き乱す。
トラウマを刺激して、強制的に何度でも正気を取り戻させる。
「はっ、はっ、ほう、若もんは無駄に精力があるな。
くくく、この愉悦、実に久しいのう。ほれ、よがれ」
単純に掻きまわすだけではなく、時折巧妙に動きを変える。
入り口の敏感な部分を浅く掻き回し、亀頭で圧迫する。
やがて老人が呻いて、白濁を放った。
「ん、あっ、アッ、あぁッ、あはぁぁあぁ……」
大切な人にイカされる。大切な人が死ぬ。
何度も何度も思いださせられて意識を取り戻す。
脱力しきった状態で、目を閉じてただ喘いでいる。
絶頂がせまるときだけ、一瞬からだが強張り、また脱力する。
その繰り返し。
一度の繰り返しの中でも意識の中では大変な闘いをしていた。
快楽に身を任せては行けない。
クラスの子を殺すわけには行かない。
だが徐々に意識は崩壊して、心は快楽に身を寄せ始めていた。
様子が変わり始めた。
曇った目が開き、口は大きく開いて舌が垂れ下がる。
手は触手を握りしめ、秘所は体を貫く妖魔を締め付けはじめた。
―今、出されたら……。
殺しちゃうんだろうな、遠のこうとしている意識の中でそう思った。
最後の力を振り絞って抑えようとする。
「あ、中、駄目あ、あ、あ、あはああぁぁぁぁッ」
(……逃げて……)
頭の中で弾ける光の片隅で、心を弄ぶ触手に伝えようとする。
「うぬぅ?」
射精後の気だるい余韻に浸りながら、老人はまだ萎えていなかった。
その逸物を膣が締め付けて、離そうとしない。
そして触手がかつてない力で握り締められている。
脳内を検索していた触手から、逆流してくる思考。
いや、思考とも呼べない本能的な指令。
これが彼女に中に埋め込まれた機能。狂戦士としての力。
そして逃げて、という少女の懇願。
しかし、老人はで一気に流れ込んできた情報に、処理能力が追いつかず
一瞬硬直する。それは、致命的なまでの隙。
惨劇が起こった。
全身を縛っていた触手が"弾け飛んだ"
目暗ましの中で破かれた服の隙間から武器を取り出す。
触手が地面に落ちない間に既に体勢は整っている。
もはや人の動きでは無かった。
目と口に正確に飛礫が突き刺さる。
ほぼ同時に肘、膝、首に透明な糸が巻き付いている。
左手をちょっと引くとあっさりとバラバラになる男の身体。
落ちる老人の首目掛けて一瞬で間合いを詰め、切り裂いた。
「……。」
妖気が完全に消えたのを確認するとパタリとその場に倒れこむ。
・・・・・・・何が、起こったのか。
最後の執念が、老人の生命を僅かに繋いでいた。
その処理が追いついた時には、絶望的なまでに手遅れだった。
眼と口が潰され、四肢が切断されている。
首が切断されて、最早何もできない。
回避する時間も、乗り移る準備をする暇もなかった。
閃光。全て刹那の瞬間に行われた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
果たして老人は何かを言おうとして――そのまま事切れた。
残ったのは、畸形の斬殺死体とその横で失神する少女。
何処かで犬が鳴いていた。物悲しげにも啼いていた。
【こちらはこれにて〆です】
【上手くロール回せなくてすみませんでしたorz・・・・・・】
【こちらも続きが思いつかないので〆てもいいでしょうか】
【いえいえ、こちらこそ申し訳ない】
179 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 15:03:39 ID:DCz3nqSs
復活キボン
新しい妖魔コイコイ
海の中にいるような蒼い光に包まれた酒場にて。
一人静かに酒盃を傾けるのは吸血鬼。数多の夜を一人往く者。
億月楓。七妖会・佐竹班の土妖。カウンターで様々なカクテルを注文し、
只管に飲み干している。彼女の身体には、アルコールは影響を及ぼさない。
だから酩酊しない。ただ、味を楽しんでいるだけだ。
ラフな格好と、スマートだが要所は豊かに育っている彼女に、しかし今夜に限って
誰も声を掛けない。一人カウンターに座っていると、一晩に一人は男が声を掛けるのが
常となっている彼女にしては、珍しいことだった。
「これ、もう一杯お願い」
今夜は客の入りが少ないなー、と彼女は感じた。
埋まった席は多く見積もっても三割だろうか。
ピアノの儚くも流麗な旋律と、黒いドレスを纏った歌姫の声が店内を満たす。
いつものように唐突に呼び出され、いつものように夜伽を命じられ。
いつものように事後の余韻に浸っていると、不意に瑞希の主は呟いた。
いつもの調子とは少し趣が異なる言葉。
そうした機微に聡いが故に、瑞希は好奇心の色を隠さずにそれを受け入れた。
二日前のことだ。
初夏の陽気も日が落ちると共に薄れ、まだ冷たい空気が支配する刻限。
ラフな格好に身を包み、教えられた酒場に影のように音もなく入り込む。
営業スマイルで出迎えた店員に無表情を通し、案内された席―カウンターの隅だった―に座る。
――七妖会関連の酒場《ローレライ》に行き、情報を集めて来い
表向きの意図は判る。だが、真意が判らなかった。
だからこそ、その命令を真剣に遂行しようというのだ。
バーテンにカシスソーダを注文し、自然な感じでぐるりと辺りを見回す。
(なるほど――人と妖魔が混在しているのか)
五感を総動員して情報を集めれば、この酒場の特異さは嫌でも理解できた。
あるいは、それに気を取られていたのかもしれない。
ふと、誰かが隣の席に座る。
反射的にそちらを向くと、知った顔があった。
戸田瑞希。漆黒の魔女にして魔王契約者の僕。
そして、彼女の友達だった女性だ。
店内の気配を探って、情報収集に励んでいるようだ。
その所為か、隣の自分に気づいていないらしい。
「やぁ、久しぶりだね、瑞希」
何の屈託もなく声を掛け、笑顔を向ける。偶然、久しぶりに会った友人に
対する態度としては相応しいだろう。しかし、向けられた方としては堪ったもの
ではないだろう。彼女は人間であり、そして彼女は吸血鬼なのだ。
お互いの身の上を知り、一度は決別したも同然の間柄なのだ。
「元気にしてた?こんなところで会うなんて奇遇だね」
しかし、別れを切り出した癖に、彼女には蟠りはないようだ。
こういうこともあると、長い生の中――というのもおかしな話だが――
で幾つも体験し、納得しているからだ。
「お代わりお願いね」
空っぽになったグラスを差し出す。
だから、その声が誰のものか一瞬わからなかった。
ただ聞き覚えのある声という認識。
軽く流そうと思っていたが、顔を声のした方に向けた刹那にそれは不可能になってしまった。
「……久しぶりだね、楓。新しいバイト先は見つかったかな?」
心中の動揺を取り繕うように返す。
うまく微笑みを形作れただろうか。
自信は――残念ながら、ない。
震える手でグラスを傾けるが、少しむせてしまう。
「まあ、ぼちぼちかな」
当たり障りのない返事を返して、新しいグラスを傾ける。
瑞希は動揺している。それを隠そうとしているが、上手くいっていない。
「そう言えば、唯芽ちゃんは元気?
何も言わずにバイト辞めちゃったからさ」
自分たちを引き合わせてくれた少女の名前を口に出す。
やはりそこには蟠りも何もない。
――本当なら気まずいんだろうけどね・・・・・
内心そう思うが、吸血鬼である彼女の情動は、人間の半分程度である。
正確に測れるわけでもないが、それくらいが関の山だと自分でも思う。
自分の中には何もなくて、空っぽなんだなーと思う時があるが、今がその時だ。
笑顔にしろ優しい言葉にしろ、そして友人や仲間に対する思い遣りにしろ、人間の
模倣に過ぎないのだろうと、そう思う。そしてそのことに対して悲しみも湧かない。
あるとしたら、悲しみすら覚えない自分に対する自己憐憫くらいか。
「ところで、何かお探しなのかな?
この辺は瑞希の活動区域から、少し離れていると思うけど」
さり気なく、しかし核心に迫る問いかけ。
彼女が魔王契約者と繋がっていることは、既に知っている。
「……そう」
ようやく落ち着いた頃に、それだけを口に出す。
言いたいことは山ほどあったが、全部胸のうちにしまって。
だが、楓が言うのなら話は別だ。
「楓が急に辞めたから、そのとばっちりがこっちに来た。
まさか一晩中愚痴を聞かされるとは思わなかったよ。
社会に溶け込むことを考えているなら、もう少し状況を把握するべきだ」
発せられた言葉はなじるような調子だが、声色はそこまでではない。
ある意味割り切れている証拠としても、それ以上の思いを秘めてはいる。
諦観にも似た感情を抱きつつも再びカクテルを一口。
「……別に、何も。ただ、ちょっとここが気になっていたから」
しらばっくれているわけではない。
持っている情報と持っていない情報、そして推理能力。
それらの小さな齟齬が生み出すものを加味しても、自身の動揺が判断を誤らせていた。
それを差し引いても焦点をぼかした物言いは用心深さの表れだ。
「あらら、ごめんね。いつもなら目ぼしい相手の血を吸ってから
辞めるんだけどね。今回は遠慮しておこうかなーって思ったのよ」
なじるように言う彼女に、苦笑しながら謝罪する。
もっとも、向こうとて本気で非難している訳ではない。
代わりに、その言葉には諦観がぼんやりと滲んでいる。
「ワイルドターキーお願いします」
彼女は酒を飲む。アルコールもカロリーも関係ない。
何を食べても何を飲んでも関係ない。
味覚はあり、満腹感もある。だが血への餓えは消えない。
「ふーん、そう・・・・・まあここは普通のお店じゃないからね。
瑞希ならもう分かってると思うけど、この店には何人か妖魔がいるからね」
新しいアルコールを口に運ぶ。
暫くその味と喉越しを味わって、切り出す。
「七妖会って組織、瑞希は聞いた事ある?」
嘘は言わない。その代わり、本当のことも言わない。
しかし、言葉の端をきっかけに真実に辿り着くことは不可能ではない。
「まあ、その代表例が目の前にいるしね?」
ウインクしてみせる。ようやく調子が出てきた。
勢いに任せてグラスを空けると、負けじと次にスクリュー・ドライバーを注文する。
バックに流れる歌を聴きながら何気ない風を装って答える。
「……なんだって?七妖会?
聞いたことあるような、ないような……」
パズルのピースをはめ込むように、絡まった毛糸がほどけるように。
全てが明確な形をとって立ち現れてくる。
それでもなお、形ばかりのささやかな抵抗を試みた。
楓の出すカードを見てから判断しても、遅くはない。
「それで、楓とその七妖会って組織は何か関係があるの?」
「あは、この店は私の知り合いが経営しててね。
こうして毎晩売り上げに貢献してるってわけよ」
知り合いが経営しているのは事実だ。もっとも、この店は金銭を稼ぐのを
目的としているわけではない。それはあくまで副次的な面でしかない。
何より彼女がこの店で金を払ったことはない。全部ツケで飲んでいる。
『……なんだって?七妖会?
聞いたことあるような、ないような……』
惚けているような、そんなリアクション。しかし、微かだが手応えはあった。
七妖会。人間界の転覆を目的とする、妖魔の共同体。
闇の世界に通じているなら、何度となく耳にする組織名だろう。
億月楓もその共同体に身を寄せている身の上である。七妖会の名を出したのは、
瑞希がこの店に来た理由に関して、それが関わっていると推測したからである。
元々この店は、退魔士、異能力者、在野の妖魔などを誘い込むための施設でもあるからだ。
「んー、端的に言うと、私はその組織の庇を借りてる状態なの。
で、この店はその組織が出資して 経営してるの。例えば・・・・・・」
唇の端を吊り上げる。
「例えば、瑞希みたいな普通じゃない人間を招くためにね。
その証拠に瑞希はこの店に足を運んだ。この店を探るために」
「……そうか。でも、どうして楓は七妖会に?
星座を空に見出すのは人でしょう」
最初の言葉には問いを返す。
以前の会話を考慮すれば、自らの感傷を差し引いても解せない部分。
直接の目的とは関係のない部分で知りたいことでもある。
そして、続く言葉には変わらぬ笑みのままで応える。
「それで、その普通じゃない人間をどうするの?殺す?喰う?
……もし仮に私がここに何かを探りに来たとして、どうして楓はそう饒舌になるの?
そうすることに何か利益があるというものでもないでしょうに」
心の中で警戒レベルを一段階上げ、周囲に視線を走らせる。
外に出る最短経路、ぱっと見で妖魔とわかるものの選定。
店の中で荒事ということにはならないだろうが、用心するに越した事はない。
「それは人間の考え方ね。妖魔にも星や月の美しさを知り、その物語を紡ぐ
妖魔はいるわ。いえ、むしろ妖魔こそが夜空の真の美しさを知っているというべきね。
夜は私たちの領土だもの。わかるかな、この考え方」
例え人間がどれだけこの世界を光で覆うとも、必ず闇は生まれる。
昇らない太陽はないが、沈まない太陽もまたない。
終わらない夜がないように、終わらない朝もない。
この世界は人間のものだ。それは否定しない。けれど、
それは太陽が昇っている間だけのこと。夜こそは、妖魔の世界。
「まあ、小難しいこと抜きに言うと、
古い知り合いにずっと前から誘われたからなんだけどね」
くすくす、くすくすと、その時の事を思い出して笑う。
それはまだこの国が乱世だった時代のことだ。
人魚の肉を喰らい、不滅の魂をもった蟲の姫のことを想う。
「んー、勧誘できそうなら誘う。妖魔ならね。人間なら取引して力を貸してもらう。
まあ、仮に瑞希がここを探りに来たとしても、あんまり関係ないかな」
瑞希の緊張感が高まるのを無視して、言葉を紡ぐ。
「だって、瑞希にはもうご主人さまがいるんだもんね。
だったら、無理に力を貸してもらうのも気が引けるかなーってね?」
ウインクひとつ。
貴女のことはお見通しよ、と言わんばかりに。
「いいや、そうでもない。現に、七妖会というものがあるのだろう?
私が言いたかったのはそういうことだ……ふふ、これも人の傲慢さかな」
さすがに真意まで汲み取れなかったか、と苦笑しながら説明する。
もちろん、楓の話した内容は自明の事として理解しているつもりではある。
結局、人間とは己の常識でしか物事を測れない生き物なのだから。
「知らずに訪れる者もあるだろう。また、全てが妖魔に好意的というわけでもあるまい。
そう……こんな風に」
不意に立ち上がると、椅子が派手な音を立てた。
周囲の注目を集める中、手を耳にやる。
詠唱ひとつで、杖は本来の姿を取り戻すだろう。
そしてその後に待っているものが何か、それくらいは全ての妖魔が想像の付く事だ。
「力を借りないのであれば、どうしたいのか」
「七妖会のこと知ってて来た癖に。
それに、瑞希は斬鬼衆や墓無とは違うでしょ」
くすくすと笑う。
妖魔を絶対悪と考えず、必要ないなら戦わない。
戸田瑞希がそんな女性であることは、もう理解している。
こちらが悪意や敵意を見せない限りは。
そして、彼女は瑞希に対して、悪意も敵意も持っていないのだ。
かつて、そのような人間に何度か会っている。だからそういう人間も
いるのだと、彼女にはわかっていることだ。
意図的に派手に立ち上がり、椅子が倒れて音を立てる。
一瞬、店内の注目が集まる。変わらないのは、ピアノの音と歌声。
瑞希が、耳に手を当てる。その先にあるものは―――
「その時は静かに帰ってもらいたいかな。
ここには何も知らず、お酒と談笑を楽しんでる人たちもいる」
彼女は揺らがない。その瞳はいつも同じ漆黒の色。
その先にあることを理解しても、瑞希が場合によってはそれを行使する事
を理解していても、それに対して何を想うわけでもない。
「ふふ、やっぱり会わない方がよかったかもね、私たち」
この声に悲しみの色はなく。
そんなことは何度もあったのだと、鈍い諦念だけがある。
「……気に入らないな」
ぼそりと呟く。
誰の事を見るでもなく、ぶっきらぼうな口調で。
何が気に入らないのかは言うつもりもないが、楓ならそれがわかるだろう。
例えそれが誤解や偏見の類であろうとも。
少なくとも、自分はそう信じている。
だが、周囲の緊張をよそに事態は動かなかった。
身じろぎひとつせずに楓の瞳を覗き込み、その言葉を聞くといきなりしゃがみこんだ。
10秒ほどその姿勢のままいると、再び立ち上がり椅子を元通りにする。
周囲に笑みを浮かべながら一言。
「申し訳ない、財布を床に落としてしまってな。
ここは暗いから、知らない間にすられたかと思ったのだ。
だがもう大丈夫。ご迷惑をおかけした」
そして、何事もなかったかのように再び座り直した。
もちろん嘘だ。その程度の嘘に騙される妖魔も居まい。
では、なぜ嘘を付かなければならなかったのか。
そこに思い至る妖魔がどれだけ居るだろうか?
「……何のことだ?」
心底不思議そうに聞き返す。
瑞希が、小さく呟くのが聞こえた。
その真意については問う必要はないだろう。
また、それを追求することに意味はないだろうとも思う。
『申し訳ない、財布を床に落としてしまってな。
ここは暗いから、知らない間にすられたかと思ったのだ。
だがもう大丈夫。ご迷惑をおかけした』
彼女の苦しい嘘に、苦笑する。雰囲気からして、喧嘩でもしてたのかと
思っていた者もいるだろう。ある意味、一触即発だったのは違いないが。
「んー、瑞希みたいな相手は、何人かはいたんだよ。
私の正体知ってても、忌避しないでくれた人。
学者とか、芸術家とか、あと占い師とか」
彼女は記憶を確認するように言う。
数奇なる出会いの果てに、吸血鬼であることを明かした相手。
そして血を吸わずに済んだ相手。自分を受け入れようとしたくれた愛しい人間たち。
「色々運もよかったのかもね。どうにか吸わずに済んでさ。
それでこんな風に出会って話したこともあったかな。
その人達は夜の世界に感心があった。動機は様々だけどね」
それは学術的好奇心だったり、真理の探究だったり。
或いは、夜の世界の美しさを知りたくて、彼女から話を聞きたがった者も。
「けどね、やっぱり辛いの。私は変わらない。その人達は十年もすれば歳を取る。
二十年、三十年・・・・・・私は何も変わらない。みんな私より先に死んでいく」
辛いと、思った。変わらないでいることは。
変わらない存在であることを確認するということは。
それに慣れるのに、どれほどの時間を必要としたのか。
何よりも、友誼をもった相手に先に逝かれるのは。
「寂しいとは思わない。私はそういう存在だから。でも、ね。
そういう相手ができる度に、枯れ果てたはずの辛いって気持ちが甦るの。
だから、私たちは会わない方がよかったんだよ」
マスターに「ツケでお願いね、この人の分も」と告げて席を立つ。
もうこれ以上話す必要もないだろう。同じ事を繰り返すのがわかっていて、
また深入りしてしまうのは愚かというしかない。自分が人間寄りである証拠か。
【そろそろ〆に入りましょうか】
【大丈夫ですか?】
「では、今の私たちをどう説明するのか?
会わないほうが良かったと言っても、それはもはや無理なこと。
確かに楓にとっては辛い事かもしれないけど……」
そこまで言い募ってから席を立つ楓を追う。
彼女にはもう話すことなどないのだろう。だが自分にとっては違う。
命令とか七妖会とか関係なく、友人として話したいことが。
早足で酒場を出たところに追いすがり、手を少し強引に掴む。
ここなら不用意な発言もさほど自分にとってマイナスにはなるまい。
その気になれば簡単に振りほどけるのだろうが、そんなことは気にせず楓の目を見て一方的に言う。
「あーもう、まどろっこしいのは止める!
いい楓、今から私が言うことは酔っ払った人間の女の妄言だと思ってくれていい。
でもね、酒の勢いに任せてでも言いたいこともあるってことくらいは判って」
運動はアルコールを全身に回らせる。
「そりゃあ所詮私は人間よ、楓と違っていつかは死ぬ。
いくら魔術が使えても妖魔と対峙するのは怖いし、妖魔の気持ちなんてわからない。
でもね、そんなの関係ないじゃない」
だからこんな、普段の自分には似つかわしくない言葉を放っても許されるだろう。
「私は楓のことを今でも友達だと思ってるし、楓は私が好きなんでしょう?
だったらそれでいいじゃない。そこに吸血鬼の定めや本能があっても関係ない。
辛いことや嬉しいことがあったらそれを分かち合うのが友達でしょう?」
それに、正直に言えば自分はアルコールにあまり強くない。
「もっと弱い所を見せてよ。悟ったような顔で話されても説得力がないのよ。
辛いとわかっていても、それでも人間と関係しないと生きていけないくせに。
本当に辛いのなら、そんな感情も捨ててしまえばいいじゃない。
ただただ血を啜り永遠に生き続けていればそれで十分飢えは満たせるわよ」
――ああ、これも自分を取り繕うための見苦しい言い訳に過ぎない。
ほんとうは、わたしのほんとうのきもちは――
「楓――私、貴女が好きよ」
ふらつく体に鞭打って楓を掻き抱き、耳元で囁く。
己が身を縛る契約の存在を、この一時だけは忘れて。
心からの気持ちを伝えてその体を離した。
【遅くなって大変申し訳ない】
【次のレスで〆ます】
結局のところ、わからないのだ。自分の中が本当に空洞なのか。
或いは、心や魂と呼ぶべきものが入っているのか。
喜び。悲しみ。怒り。全てが人間の模倣なのか。
或いは自分の中にそういうものがあるのか。
誰かを好きだと思ったこと。
その相手の血を啜りたいと思ったこと。
果たして、好意を持って接した彼らのことを、本当に好きだったのか。
或いは、ただ純粋に血が啜りたいだけで、彼らをただの餌だと思っていたのか。
――嗚呼、悩ましきかな、わが人生。いや、もう死んでるんだっけ?
けれど、今この腕の中にいる彼女は、とても暖かいと思った。
こちらを必死に抱き締めて留めようとする彼女が、愛しいと思った。
間違って、そう思ってしまった。それは無意味なのに。それは何も生み出さないのに。
生み出さないどころか、芽生えた気持ちを殺すだけだ。その首の白さに、心が騒いだ。
それは吸血衝動。決して消えることのないもの。
いや、消えるとか、そういう次元の問題ではない。それは、億月楓という吸血鬼を
構成する要素そのもの。それを否定することは根底的な自己否定だ。
そして、彼女には、それが決してできない。無駄なのだ。不毛なのだ。
「瑞希・・・・・・・私はね、吸血鬼なの。屍の山と血の海の中から生まれた、
親を持たないたったひとりのオリジナルなの。ずっとこの世界彷徨ってきた。
何百年も、何千年も。ずっとひとりで。もう思い出せないことが沢山あるわ」
吸血衝動は、長年培ってきた克己心で一時的に隅へ追いやる。
「それでも消せないことがあった。どれだけ血を啜っても否定できないことがあった。
瑞希・・・・・・私は人間が好き、そして貴女が好き。だからありがとう」
それは束の間のことだった。
月光が地面に映し出す二人の影がもう一度だけ重なって――離れた。
「ばいばい、瑞希。会えてよかったよ」
一度だけ唇を撫でで、その感触を思い出して。
そして以前と同じ別れの言葉を告げて、夜の闇へと溶け込んでゆく。
【遅くまでお付き合い感謝します】
【こちらはこれにて〆です。ではまたの機会をノシ】
言いたいことは全部吐き出した。だから今度は楓の番だ。
何も言わずに、静かに独白を聞き続ける。
ところどころで頷き、視線で先を促しながら。
心の奥に澱んでいたものを全てぶちまけたからだろうか。
過去を、そして現在を確かに生きてきた彼女の言葉を、
不思議と穏やかな気持ちで受け入れることができた。
だから、刹那の情の交歓で事足りる。
寂しくはない。辛くもない。
彼女の方もそう思っていることを願う。
そして、
「……また会えるよね?」
同じ言葉に、違う答え。きっと未来も異なるのだろう。
闇に消えた孤独な吸血鬼を見やり、独り呟いた。
もう、涙は出ない。
【こちらこそ拙い文章にあわせていただき大変感謝しております】
【もっと腕を磨かないといけないなぁ……】
【ともあれ、どうもありがとうございましたノシ】
199 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/11(月) 20:06:18 ID:ShqqFLNG
キャラハン増えないかなあ
暗い暗いと不平を言うよりは自分でキャラをやってみるのが一番。
増えるのもいいけど続けてくれるのもいい
>>122 研究所の独特の雰囲気。
それは小さな頃から決して好きではなかった。
死んだ母。壊れた父。そして父の死。
青い髪の、その人生の全ての始まりは小さな研究室からだったのだ。
懐かしさと、同時に微量の嫌悪感が入り混じった表情で門を潜る。
「こんにちは・・・・・・古志、千草です……。」
ぎこちない敬語は相手への敬意だけでなく、
多少の警戒をも示している。
(製法・・・・・・ってこれ、技術部の人に持っていけばいいんの・・・かな?)
「えっと……ありがとう…・・・ございました、それじゃ、これで失礼・・・します」
嫌な予感がする。
さっさとこんな不吉な場所は出て行ってしまおう。
箱を抱えて無礼にも挨拶もそこそこに全速力で駆け出そうとする。
203 :
立花司:2007/06/15(金) 20:38:07 ID:jUzWqDJ5
駆け出す獲物を見て
さらなる嗜虐心をそそられる。
「警戒……するだろうな。
くく………
だが君の父の細工を甘くみてもらっちゃ困るねぇ」
長い独語の後でスイッチを押すと特殊な周波数の音波が発生した。
それは千草にとって麻酔を打たれるのと同じ効果をもたらす。
崩れ落ちる少女をだきかかえ、実験台にのせた。
「くく……さあ、愉しいの時間の始まりだ」
周りの景色が物凄い速さで後に飛んでいく。
全速力で走る時の見慣れた感覚だ。
「・・・・・・・?あれ・・・・・・・?」
徐々に徐々にその速度が鈍く成って行く。
やがて立ち止まり箱が手を離れ、ドスンと、その場に落ちた。
(この感覚は……あの時の?)
悪夢の夜。
父がスイッチを入れたと見るや体の自由が利かなくなり
いいように弄ばれたときの、あの感覚だった。
「・・・・・・どうして・・・・・・?」
そう呟きながら手を付くことさえ侭ならず前のめりに倒れる。
205 :
立花司:2007/06/15(金) 21:04:55 ID:jUzWqDJ5
「どうして……だと?奴の娘の割に頭の血の巡りの鈍い奴だ。」
言葉と裏腹に喜々として説明する。
「私達は人口的に『超人』を創る技術を研究してたのさ。
同門の奴は専ら人の攻撃能力の強化を
……そして私が」
にやりと歪な笑みを浮かべた。
「防御能力を担当すると言う訳だ。
君は運が良い。
その身に人類の英知を二種類も刻む事が出来るのだからな」
パチン、と指を鳴らすと機械が降りて服を焼き尽した。
「…これはこれは、良い体をしている。
奴の理想の体だ。
全く呆れた父親だな」
良いながらも露になった胸をもみしだく。
科学者という連中独特の口調、論調。
その全てが嫌いだ。
体が動くのならそのにやけた面を思いっきり殴ってやると
言わんばかりに睨み付ける。
「勝手な事ばっかり!・・・・・・さすが父の親友ね!
この変態!独善!変人!死んじゃえ!」
感情思いっきり皮肉に吐き捨てる。
「何裸にしてんの!?変態。離せ!やだ!やだってばぁ・・・!」
老人に見せられたトラウマの再現がこうも早く襲ってくるとは夢にも思っていなかった。
「ぅ……ひ、ぁ……」
胸を何度かもまれるだけですっかり出来上がる体。
そうしたのも、父だ。
屈辱を感じながらもただ耐えるしかなかった。
207 :
立花司:2007/06/15(金) 21:39:17 ID:jUzWqDJ5
「ふ、良い顔だな。
愉しいのはここからですよ?」
少女を大仕掛けな装置に放り込み
パチン機械に次々に指示を出す。
「ナノマシン注入…完了
現在の細胞組織・構成の保存。
…完了
武器等生成ツール:情報入力…完了
肉体操作系ツール:情報入力…完了
外部通信設定…完了
外部操作…可能。
……………
エラー…無し。
」 モニターを眺めていた男は呟く。
「さ、不老不死の最高の人工退魔士にして最高の人形の完成だよ、―古志、お前の、いや、俺達の夢だ」
「さて……テストといきますか」
おもむろに立ち上がり装置から吐き出された裸体の少女に鞭を打つ。
紅く染まり内部出血を起こしたその部分は直ぐに白く美しい肌に戻る。
満足の笑みを浮かべてさらに打つ・打つ・打つ。
一定以上の痛みは快感に換えるはずだ。
その確認も兼ねている。
大掛かりな装置を見て嫌な予感しかしない。
ここまで不幸か、自分の人生。
泣ける、よりはそろそろ笑えてくる。
「……下衆……」
それが、二度目の改造前の最後の言。
機械の中で体に何かが流れ込んで来る。
ピリピリしたもの、暖かい感じ、痛い、痛い、痛い!
―意識が途中で途絶えた。
気が付くと装置の外に横たわっている自分を見つける。
どうやら体は未だ例の音波に封じられているらしい。
「なんで・・・・・・こんなこと・・・うわあぁぁッ」
突然、眼前に振り下ろされる鞭。
圧倒的な痛覚を予感して目を瞑る。
乾いた音。皮膚が裂け、血が飛ぶ。激しい痛み。
何度も受けると死ぬような痛みだ。
だが新しい体はそれをすぐさま修復しているらしい。
正直自分の体なのに気持ち悪い。
二度目、三度目。
襲ってくるのはもはや痛覚ではなく、快感だった。
「はぁッ!……あっくぅぅぅ」
必死に身を捩じらせ鞭打ちに―いや、責めに耐えている。
209 :
立花司:2007/06/15(金) 22:20:47 ID:jUzWqDJ5
「くく……ハハハッ!素晴らしい!素晴らしいよ、千草クン!」
夢中で鞭を振り下ろし、開いては治る傷口と濡れて行く少女の秘所光惚として見いっている。
「なんで、だって?全く何がなんで、だ?
まあいい、なんで君は動けないか。
それは君の父がそう設定し、君のマニュアルを私が持っているからさ。
なんで私がこんなことをするか?それは私が科学者だから、だよ。」
「さ、次だ。マニュアルが何かって疑問かい?
例えばこの周波数の音波は君の動きを封じこめたり…とか君の体に命令文を書き込む方法とかだね。
どうなるか一つ教えてあげようか。
例えば『両耳たぶを捻られると達する』
とかね。
さ、やってみよう。
ちゃんと命令が書き込れたか。
」
そういいながら軽く耳を捻る。
【すいません!ちょっと早いですがここまでのようですorz】
【明日の夜に再開にさせてください、ごめんなさい】
211 :
立花司:2007/06/15(金) 22:34:47 ID:jUzWqDJ5
【了解です】
212 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 04:03:07 ID:jZ1ee8dt
新しい人カモン
【名前】億月 楓(おくつき かえで)
【年齢】見た目は20代半ば。実年齢不明(長く生き過ぎて覚えていない)
【性別】女
【サイド】妖魔
【組織】七妖会・土妖
【サイズ】身長:170センチ 体重:59キロ B/W/H:89/56/86
【容姿】東洋系の顔立ち。
黒い瞳(吸血衝動が高まったり、邪眼を使う時には紅に染まる)
長い髪をポニーティルにしている。気分次第で変えたりする。
ラフな格好を好み、ジーンズなどを好んで履く。
【得意】百合・和姦・(基本的にこちらが責める)
【能力】人間を無造作に引き裂く怪力。邪眼。
剣術。柔術。使い魔の使役。精神操作系無効。
【武器】本庄正宗。投擲用ナイフ。
【NG】スカ・グロ(リセット非推奨なので隷属なども遠慮したい)
【弱点】心臓への一撃。
十字の図形(見ると眩暈・吐き気などがしてほぼ無力化する)
【備考】
遠い昔から生きている女吸血鬼。長く生き過ぎて本人もどれくらい生きているのか
定かではない。記憶の過剰詰め込みに対する、脳内の防衛機構が働いているため、
所々記憶がない。人間に対しても妖魔に対しても、よほどのことがない限りは友好的。
現在、七妖会に所属している。人間の生活を模倣するのが好きで、アルバイトをしていたりする。
吸血行為に罪悪感はないが、やたらと血を吸って夜の世界の均衡を崩す同類には容赦がない。
また、徒に眷属を増やすことを厭い、血を吸った相手は必要な場合を除いて必ず殺している。
日光を浴びても灰にならないが、朝から夕暮れ時にかけては軽い倦怠感が苛み、身体能力は
常人並みに落ちる。再生能力もなくなり、普通の攻撃でも死滅させられる可能性がある。
土妖であるのは、情報収集という名目で遊びまわるためである。
現在、日妖・佐竹漣率いる、新しい部隊の土妖として抜擢された。
戦闘能力はそれなりに高いが、基本的に荒事は回避する方向で動いている。
【暫く待機しますね】
【責められたいが時間が無いな…残念】
【あー、そうかぁ。残念だねえ】
【また待機するからその時は是非】
【お久しいです】
【ちょっと覗いたら待機に遭遇しましたが、過去ログ未読……】
【単発か続投か、新しい子を投入しようと思うのですが、人間側で】
【吸われた後で、事故って逃げ延びちゃう感じに】
【本当に久しぶりだねえ】
【まあじっくりと近況把握に努めるのが最優先かもね】
【新キャラはまあいずれでいいと思うけどね?】
【んー、単発気味で続投は状況次第って感じにしようと思ったんですが……】
【名無しに近い感じで。というか名無しで。難しいかな?】
【今スレはほぼ読破しました。避難所は今から手をつけます】
【あー、じゃあやってみようかな。そっちのリハビリ兼ねて】
【希望のシチュとかある?】
【何をするかというとロールなわけだけど】
【エロでも何でもオッケーだよ】
【感謝します】
【オーソドックスな吸血鬼ものっぽい雰囲気を想定していますが】
【付き合いの浅い段階では、あまり吸わないのですっけ?】
【そうだねー、バイト先で知り合ったとかで】
【ある程度付き合いがあってそれから、かな】
【単発なら通りすがりで空腹→捕獲→吸う前にヤットく?】
【みたいな流れがベターかな?】
【わかりやすい接点となると、楓さんのバイト先の子とかでしょうか】
【あるいは、楓さんが何らかの理由で飢えている時……となるけど、最近ではバトったりはしてないですねー】
【犠牲者ポジションなので、吸血鬼の側で吸いたいと思わせるに至る個性が必要かも】
【右も左もわからないでついてっちゃう子か、あるいは無意識に誘惑しちゃう系か】
【アイデアの幅が狭くてすみませんw】
【単に私が空腹で我慢できなくなったでいいと思うよ】
【今回はそこまで凝らなくてもいいと思うし】
【とりあえず書き出してみるよ】
【よろしくお願いします〜】
それは果たしていつの事だったか。
彼女は覚えていない。全ては虚ろ。
夜の闇を歩く。喉笛を噛み千切る。
首筋に牙を立てる。舌を這わせる。
溢れ出す血を啜る。
音を立てながら吸ったり。時には無音を心がけて吸ったり。
童を啜った。老人を啜った。男を啜り、女を啜った。
命を啜り、魂を弄び、そして安らかな死を与えた。
――嗚呼、悩ましきかな我が人生。いや、もう死んでるんだっけ?
今夜も、月光の下を音もなく歩む。数多の夜を一人往く吸血鬼。
今夜は、やけに喉が渇いていた。消えることの無い吸血衝動。
血液パックでは満たせない餓えは、彼女を変える。
漆黒の瞳が紅く染まり、爛々と輝く。
「ぴーひゃらり〜 お腹が減ったよー♪」
能天気な台詞とは裏腹に切実な餓えを抱え、夜の公園を徘徊する。
暮れた日の下、公園を横切る影がある。
その姿は、ショートボブの、女学生のものと知れた。
それ以上はわからない。
「門限、過ぎちゃう。でも仕方ないよね」
黒のハイソックスでコーティングされた、すらりとした脚の交錯。
ローファーの爪先が小刻みにアスファルト蹴って、家路を急ぐ。
制服はこの界隈ではあまり見ない、都内の私立高校のものだ。
胸元の赤いネクタイが、くっきりと浮かび上がって見える。
幸い、この季節は日が長い。
日は落ちたが、夜空は明るい。
パパはきっと納得してくれる。
じいやが煩かったら、せんせいに電話してもらえばいい。
【死亡オチでもいいかも<なんと軽い】
「絡みつく定説の鎖♪」
長い昼が終わって、長い夕暮れ時が始まった。
その黄昏もやがては終わる。
「解き放ち 風の指す道へ♪」
夜が来る。避けようも無く夜が来る。
鬼が哭き、屍が歌う街の夜。
命の価値がゼロになる。
魑魅魍魎が舞い踊る。
「見ぃつけた♪」
軽く地を蹴る。爛々と輝く双眸が獲物を捕捉したのだ。
月面のように軽く長く跳躍し、タトンという軽い音と共に着地。
「はぁい、ご機嫌如何?」
親しげに、少女に声を掛ける。その顔の何という人懐こさか。
唇から牙を剥いて、瞳がが紅く染まっていなければ、という条件がつくが。
【じゃあ軽くやりましょうかね】
人影が『降って』きた瞬間、
見慣れた風景ががらりと変わったと、彼女は錯覚した。
駅からの近道。止めてくださいませ、と警告した嗄れた声が耳奥に蘇れる。
(爺は、夜の公園はおかしな人がいるかもしれないから危ないって)
でも、急いでかえらなきゃって。そう思ったから―――
女性。
にっこりと微笑む表情に、不快なものは感じない。
たとえば、通学途中に時折触れる、嫌悪を催す、欲望の目線のような。
そういった不快感はない。
けれど、真っ先に足元から立ち上がってくるのは、危機感。
『それ』に背を向けて逃げ出さなければならない、という脅迫めいた本能の命令だった。
少女の血が。穢れを知らないニンゲンの血が。
直感的に、目の前の存在を相容れないものだと感じている。
それでも、少女の唇をついて出たのは、間抜けな言葉ひとつ。
「だれなの?」
真紅の眸に辛め取られて、指一本動かせない。
紅い瞳が少女の双眸から侵入して、神経系統に干渉する。
少しの間だけ自由を奪って動きを封じるだけだ。
その「少しの間」があれば、彼女には充分だった。
「あはは、ごめんね、運が悪かったみたい」
その顔に罪悪感はない。その声に罪悪感は無い。
血を啜るから吸血鬼と呼ばれる。だからその契約を果たしているだけだ。
それは食事であり、人間にっての食事や睡眠と同じである。
同じであり、そしてそれ以上のもの。
例えば人間が生きる上で必要な情動。つまり「喜怒哀楽」。
吸血行為はそれすらを含んでいる。そして何よりも性欲。
「可愛いわね、貴方」
手を伸ばして、頬に触れる。戯れるように頬を撫でる。
遠くから見れば、姉妹の戯れに見えたかも知れない。
「ふふ、久しぶりに愉しんじゃおうかな?」
彼女は食事の前に、性欲を満たすことにした。
唐突に抱き寄せて、唇を重ねる。
熱い吐息を啜り、舌を差し込んで口腔を舐めて。
唾液を舌先で掻き混ぜて、ゆっくりと啜り味わう。
手にした革鞄が血に落ちる。
華奢な外見に反して重い音を、別世界の出来事のように聞いている。
捕食者の指先が、頬に触れる。
少女は、己の情動に困惑した。
その状況は、ありていな比喩を用いるならば、蛇に睨まれた蛙。
しかし、蛇に睨まれた蛙というのが、これほどに満たされた感情を抱くものだろうか?
目の前の、ながい髪に赤い眼の女性の外見が美しい、ということもあるのだろう。
それにせよ、一人娘である彼女は、兄弟、という関係を知らない。
しかし、もし、姉がいたのなら―――こんな人だったらいい、とすら思う。
根拠の無い親愛の情。
それは、物理的な逃げ場を失くした理性の用意した陥穽か、
あるいは血を啜る鬼の赤い眸のなせる業か。
「ん」
吸血鬼の渇望じみた接吻は、異性を知らない少女には、過ぎた愛情表現だった。
差し込まれる舌先、流し込まれる他者の唾液。
受け止めることができず、その唇の端から、透明な液体がこぼれだす。
「あら、初めてなのかな?お姉さん少し感動」
口の端から垂れた唾液を舌で掬って、もう一度唇を重ねる。
今度は少女にそれを飲ませるように、流し込む。
「ふふ、いい子ね。じゃあ河岸を変えようか?」
腰を抱き寄せて、そのまま軽々と抱き上げる。
草叢に隠れ、押し倒して、服を肌蹴る。
「ふふ、あはは、あははは」
愉快だった。笑いながらもう一度キス。
額に、頬に、唇に。
食事に対して罪悪感を持つ者が果たしているだろうか?
仮に罪悪感があったとしても、食べなければいけない。
ならばせめて、食前のお祈りは捧げよう。
けれど、祈りの言葉なども彼女は知らない。
こういう時に言うべきことなど、誰が知っているというのか。
「可愛い下着。初々しいな」
服を脱がせて、ブラが外気に晒される。
それをゆっくりと五指で揉みしだく。
罪悪感の有無について。彼女には罪悪感は無い。
生きていく上で必要な行為だからだ。
確かに彼女は、人間が好きだ。けれど、それとこれは別だ。
吸わなければ自分が立ち行かない。ならば啜ろう。
しかし、どうせなら愉しませた方がいいと思う。
命を奪う代価など思いつかない。ならばできることをするだけだ。
まだ誰も触れたことの無い乳房を晒させる。
こくりと肯定いてから、意識した。
(パパとの、は算えないとして―――これってひょっとしてあたしの)
そんな散漫な思考の最中、名残惜しいとすら感じた唇を、再びふさがれる。
溢れた唾液の伝った跡をなぞる、女性の丹念な行為に、陶然とする。
誘われている。
畏れ多くも、彼女よりも巨きな相手から。
応えなければならない。
それが運命づけられたことであったかのように―――それよりも、
舞踏への誘いが洗練されたものであるがゆえに。少女は、自ら、女性の接吻に応じる。
女性が一度はなれた瞬間、唇と唇のあいだ、透明な雫が繋がって綺麗に橋をつくった。
いい子ね、と言われて、はにかむ。嬉しい、とこたえたかもしれない。
エスコートされた先は、泥と草の匂いも鮮烈な、見慣れた公園の草叢。
歩みを進めたことなどない、彼女にとっては未知の場所。
きゃ、と小さく口にするも、背にまとわりつく硬い草の感触すら、愛おしい。
降り注ぐ接吻に、湧き上がるような至福。それは、底なしの逃避。
「あなたは、誰……?」
突き動かされるように問いかけたのは、自然な情動だった。
打算も、思考も、何もない。そうするのがあたりまえであるように思えた。
外気に乳房が触れる。
少女にとっての奇異な状況下にあっても、危機感は痲痺している。
咄嗟に上がったのは、静止とも、受諾とも、誘惑ともつかない声だった。
何者かと問われ、ついて出たのは詩的な台詞だった。
「私は憐れな咎人よ」
乳房の頂点にある突起に舌を這わせる。
丁寧に乳輪をなぞり、ちゅっ、と音を立てて吸い付く。
唾液塗れの乳首が月光に映える。
長い指が手際よくボタンやホックを外してゆく。
瞬く間に白い肌が晒されてゆく。
「永遠に永劫の渇きを抱いて彷徨う罪人」
詠う様に、嘆くように、そして突き放すように。
その指が秘めやかな割れ目に触れる。
布越しにその感触を愉しむ。
「さあ、これを脱いでしまおうね。
脚を開いて、貴方の可愛い花びらを見せて」
優しく諭すように、紅い眼を輝かせて言う。
【短レスでテンポのよいロールを目指していたら】
【思わず興に乗ってしましましたぁ・・・・・・orz】
【できるだけ削ってます】
「とが……?」
散文じみた言語の羅列。ありふれた少女が、耳にする言葉ではない。
さらりと告げられた響きだけが耳に残った。
「そうなんだ……かわいそう」
かわいそう、と繰り返す。
一見、ボーイッシュにも見える少女の体躯だが、曝け出された乳房は相応の膨らみを備えている。
吸い上げられる、背がむずがゆくなる感触を受諾しながら、少女は自らを組み伏せた吸血鬼の背
に腕を回そうとする。二の腕が触れ合う瞬間、少女は静止した。
着慣れた制服の、短いスカート。
こんなに簡単に、他者を触れさせてしまう―――
女性の、そのしなやかな指先が布越しに押し開く場所に。
「あ……まって」
花びら。詩的に見えて直截的なその表現の意味する所は、性的に未成熟な彼女にもわかる。
「まって、だって、あなた、女の人……」
それでも、優しく蠱惑的な感触は、それでもかまわないのだと告げていた。
それでも、少女を満足させるには足りるのだと。
【当方、極力削ってるつもりにも関わらず】
【例によってくどくて申し訳ないw】
――かわいそう、と少女は呟いた。
その意味を知らず。その言葉の真意を知らず。
「ふふ、ふふふふ・・・・・・そう。
私は哀れ。私は愚か。私は・・・・・・・・私は・・・・・・」
笑う。とても虚ろな笑みを浮かべ、天を仰ぐ。
いつの間にか無慈悲な女王が、そこに浮かんでいた。
自分の名前の元となった冷たい衛星。
自らは決して輝けない、冷たい星。
何かを堪えるように、自らを掻き抱く。
自分を心から抱き締めてくれる相手などいないから。
何かを忘れるように、行為に没頭する。
下着を脱がせて、脚を開かせて、未開の花弁を外気に晒す。
「ほら、こうやって指で、開いてみて」
少女の手を促して、自分から花弁を開くようにさせる。
苦悶にも似た女性の仕草に、表情を硬くする。
お前はいけないことをしたんだ、と、声なき声に咎められる気がした。
女性に、ではない。
声は告げる。
お前に抱ける相手は、それではないのだと。
捕食者の呼び声に応じた愚鈍な娘に残されたものは、ただの袋小路。
それは手に余る存在。これは、意味をなさぬ交接。
少女は女性の教示に従う。
「……こうするの?」
すらりと整った、苦労を知らない指先が、着衣をさらに押し下げて、秘所をひらく。
花、と呼ぶには慎ましい花だった。
今、綻び始めてはいるが、他者を受け入れるには十全ではない。
雫が、外灯から遠いこの場所で、微かにに滲んでいる。
全ては虚ろだった。
触れ合う熱だけが確かなもので。
そしてその熱すらも泡沫の夢でしかない。
何処まで行っても確かな物などありはしなかった。
それでも――自らの虚無に飲まれないように、心に楔を打ち込む。
「ふふふ、そう、それでいいのよ。
うん、綺麗ね。まだびらびらがはみ出てないし。正真正銘の処女ね」
街灯と月明かりに照らされた、慎ましい花弁を見つめる。
まだ男を知らず、まだ誰にも踏み躙られていない処女雪。
それを無慈悲に穢しも踏み躙るのも楽しいことだった。
いや、むしろ処女のまま吸ってもいいだろうか。
「キスしてあげるね、んっ・・・・・ふっ・・・・・ちゅっ・・・・・・・」
唇を寄せて、まだ開ききっていない花弁に潤いを与える。
丁寧に舐めて、花弁を開花させようとする。
外を舐めて綻ばせて、内側にも差し込んで蜜を味わう。
女性の微笑に、緊張が解けるのを彼女は感じた。
「え、あの、そ、そこっ………」
性的な知識が無いわけではない。
ただ、少女の想像力を駆使して描かれる行為より、実際の行為は堕落への誘惑に満ちていた。
捕食、という言葉で形容するには、しなやかな指先は丹念に、そして或る意味においては
誠意の込めて少女を犯していた。
ふわふわと理性は宙に浮いているというのに、女性の接吻の感触は生々しい。
滅多に、積極的には触ることの無い場所に、見知らぬ感触が踏み入ってくる。
拒絶することは、男を知らないだけでなく、免疫を保たないゆえに、困難だった。
ほんの時折のものだった嬌声が、次第に声高いものとなる。
文字通りに、少女の身体がひらかれる。丹念ながら、暴虐な手管によって。
口元を唾液と愛液で濡らし、その浅ましさに自嘲する。
今夜は何かが変だった。普段は考えないことが次々と浮かんでくる。
考えても仕方の無いことばかりなら、考えない方がいいに決まっている。
「大分乗ってきたわね」
整った鼻先で、少女の肉の芽を押し潰して刺激する。
少女の花弁から生々しい臭気が漂う。雌の芳香だ。
花弁を舐め続けると、声が蕩けだしてきた。
「ねえ、もういい?吸っていい?
貴方の血、私に飲ませて?」
そろそろこちらの限界だった。
性的快楽に打ち震えている少女に問う。
今の少女は、きっと素晴らしい味がするに違いない。
血を、飲む。
血を、吸う?
友人の家に泊まった折、見せられた映画を思い出す。
あれは、確か―――あたしは、あのドレスの女性のようではないだろうけれど。
鬼気すら感じさせる、欲求を孕んだ女性の声は、それまでとは打って変わってどこか
切羽詰っていた。
「いいよ」
この人が呉れるものなら、気持ちいいに違いない、という確信めいたものがあった。
それなら、この人の要求に自分が応えることに、何の是非があろう?
通常の性行為よりもある意味濃密な、侵食し、侵食される行為であり、
そして捕食「される」ことである、という自覚はない。
主が快楽への耽溺を選択した以上、理性の、そして生存のための本能は、
その義務を放棄している。
「して。気持ちいいことなら、なんでも」
この歓びを分かち合えるなら、なんでも。
「あは」
虚しく笑う。
いつだって虚しい。
本当はいつだって虚しい。
底なしの虚しさを埋めるものなどない。
そっと少女の顔を覗き込む。
虚ろな、霞が掛かった眼差しは、犠牲者特有のものだ。
血を吸うまでもなく、彼女の心は既にこちらのものである。
時折、こういうことがある。感応するというのか。
「名前は?」
吸血鬼に吸われる獲物として相応しい性質を持った相手が、
確かに存在するのだ。そしてその多くは潜在的な被虐体質を抱えている。
「家族は?友達は?好きな人は?将来の夢は?」
捕食。搾取。篭絡。支配。
「みんな、私に、捧げなさい」
その白い無垢なる首筋に――全ての希望を打ち砕きつつ。
鋭い牙を、突きたてた。
ゴクン、と、血が吸われてゆく。
いや、吸っているのは自分。いや、吸われているのか?
ともあれ、彼女の血と少女の血が入り混じる。
数千数万の血を啜った彼女の血に、少女の剥くな血が注ぎ足される。
自らの名前。
「さな………あめざわ、さな」
母の顔は、覚えていない。父親が一人。
一緒に住んでいるのは、爺やと、父の補佐をしているユカワさん。
友達は、ほとんどは学校の子。今とくに仲がいいのは、最初に席が近くなった
アヤノちゃん。それから、ヴァイオリンの先生はすごく仲好くしてくれる。
好きな人は―――
少女の首筋に刃が突き立つまでの、長い一瞬。
「―――あ」
最初に漏れたのは吐息だった。
「ああああああああああああああああああッ」
絶叫。
それは、無知の罰。
魔物の誘惑に応えた、その応酬。
少女は、身をもって理解した。
『これ』が、美しい女性の面影に、底なしの空虚を浮かべていた理由。
虚無。底なしの虚無。渇望。
―――それは、少女の生で理解するには巨き過ぎた。
理解するには、少女の生はあまりに短かった。
略奪、それ自体が侵食と同意だった。
彼女は飢えを知らなかった。
彼女は渇きを知らなかった。
彼女は苦痛を知らなかった。
彼女は何も知らなかった。
知らなかった。
めまぐるしく交換される、痛みと飢えと暴力。
詩情など、そこに介入する余地はない。
自らの喉から搾り出される呼吸が、そのまま音に変換されて脳裏を埋め尽くす。
そこに楔を打つように、溢れ出る自らの脈動。それと、嚥下音。
―――それを快楽と呼ぶのか、知るには、少女は無知が過ぎた。
【名前まともに考えてなかったもので、誰かと被ってたら申し訳ない;】
虚ろであるが故に、流れ込む全てが理解できた。
名前、家族、友達、好きな人、将来の夢。
その全てを嚥下する血と共に味わいつつ、束の間に充足感を得る。
虚ろであるが故に、流れ込むそれに感情は動かなかった。
全ての希望を味わいつくして、代わりに永遠の絶望を与える。
束の間の快楽を与える代わりに、永劫の苦痛を植えつける。
アメザワサナという少女の全てが変換される。
変換された全てが血液と共に虚ろな吸血鬼に同化する。
その場に残されたのは、少女だったものの残骸。
生前の彼女の思考パターンを模倣しているから、自我があると錯覚している。
しかしその実態は、消えない苦痛と餓えに苛まれ、血を求め徘徊する亡者だ。
かくして魔物に篭絡された愚かな少女の短い生涯は、此処に幕を閉じた。
「ご馳走様」
血に酔い痴れた眼差しで、食後の挨拶。
さあ、後始末をしよう。鋭い日本刀を取り出し、
「貴方、なかなか素敵だったわよ」
薄い笑みを浮かべたまま、その心臓に――銀光を突きたてた。
【そろそろ〆ましょう】
【初めて吸血鬼らしいロールができた気がw】
【これで締めでもいいような気がするんですが、どうでしょう?】
【そう云っていただけると幸いw<吸血鬼らしい】
【じゃあこれで〆にしましょうか】
【はい、ようやくといった感じですがw】
【長時間お疲れさまでした。また機会があれば是非ノシ】
【いえいえ、リハビリにお付き合い頂いて感謝です】
【ではこれにて】
避難所に引きこもってるならもうオリキャラ板にスレ立てるの止めたら?
>>248 たまにでもちゃんと使ってるんだからいいじゃないか。
何ヶ月も動きのないスレなんかと比べたらはるかにマシだと思うしね。
ヾ ,、 | わ
`ヾ _ / l |
 ̄,ー-z___ // l l | か
. '.,/./l  ̄; ト-三彡 /// lノ_ l っ
l.l ,' l ヽ_.i`-' ノ彡彡彡彡==--- __二二r-─ヽi
l.l l l ~二--ゝl  ̄.//二=┐=─ 、=-、 ヽ i た
.l.l.l i ノノ'⌒ l l-、─-ト_ソ ノ ヽ '-,__| よ
ヾヽ、 /,'/ ./ ヾヽ`, , ' r-┘| !!
ヾ==---- ',r "/ / ヽヽ' / / 丶 /
l  ̄ ̄ / / ヽ、 / / 丿ノ
ヽ `-、--、 ` -、__'ノ ノ
ヽ ι' /~
`、 ト、─- 、_ /
ヽ ` - 、_ ヽ ,-'
', 、 ─ - ' , -'
ヽ ── , - '
l , - '
\ _ , - '
ト──--- '
避難所を見なきゃ何も把握できない
新参参加者にこんなにまで不親切なスレも珍しい
>>252 ありがとう。非常にもっともな意見感謝する。
だができればそれこそ避難所で意見を言ってほしい。
>>253 避難所に書き込んだら荒らしと見なされて消されるだろうが。
まぁ、こうやっているだけでも荒らし扱いされるんだろうけどな。
避難所も見ていることは見ているが、非常に閉鎖的で新参者が入る余地なんかゼロだろ。
参加キャラハン全て把握せにゃならんし、キャラハンの関係もログ見て確認しなきゃいけない。
仮に避難所に全く顔出さないでキャラハンやりたいって人がいたとしても、それは不可能な状態だし。
ロールもおkな自前の避難所持っているくせに、オリキャラ板にスレ持ってて
思い出した時に使う程度ならこのスレ不必要だろ?
まぁこうやって言ったところでまともに取り合ってもくれないんだろうが
こう思っている参加希望者は私を含め少なからずいるということは忘れないでいただきたい。
(そんな状態でも新参キャラハンはいる、お前の理解能力の無さを棚に上げて
文句たれてるだけだ、とか言われそうだが)
気に入らないなら新しいスレ立ててそっちでやれば良いんじゃね?
こうして文章で書いてくれなければ、何がどういう風に問題なのかわからないからね。
その意味では
>>254氏の指摘は非常に身につまされる思いではある。
荒らし扱いなんてとんでもない。改善できる余地があるなら、それをするのは当然だ。
それに、確かに避難所の機能が肥大化している点は否めない。
このロール頻度だったら避難所自体を本来の機能に戻しても問題ないとは思う。
本スレでの雑談に眉をひそめる人もいるかもしれないが、
そこからロールが始まらないとは言い切れない。てか、むしろそれがしたいw
避難所に顔出さないとキャラハンできないかと言われると、個人的にはできなくはないとは思う。
もちろん254氏がそう考えていること自体は構わないけど。
ひとつだけ反論させてもらえば、キャラハンの関係を知ろうと思えばログが必要になる
のは歴史あるどのスレでも同じことだと思う。
いや、たかだか一年ちょっとを歴史というかは考え物だけどさ。
少なくとも参加を考えていてくれている名無しさんがいる時点でまだこのスレに希望はあるはず。
愛がなければ意見はできないから。嫌いじゃないんでしょ、ここ。
長文読みたくないかもしれないけど、個人的な立場から言いたいことはこれくらいかな。
先延ばしにしてきた問題を解決しなければいならないときがきた?
キャラハンのプロフィールのところに関係を書いてリンクはるだけでも
相当違うと思うんだが。
だが避難所の管理人がそこまでしてくれるかどうかは分からないな。
ここで出た問題を解決するには
過去ログは全部持っているのが何人かいるだろうからそれをある程度まとめる。
個人的にここまでやってくれればってのを書くと
・関係のある相手(級友、主従、特別な因縁等々)
・因縁等の場合はその場面のログ
をそれぞれのプロフのリンクに貼るかしっかりした相関図を作るかが一番だと思うだが如何だろう
【書き込みテストを兼ねて】
全く、なぁにをごちゃごちゃと。
『避難所抜きで参加したい』のなら、素直にそう言えば取り計らってやるわい。
寧ろ、それを実演するくらいの気骨をぢゃな……(以下略
避難所を見ることを億劫がる人間が果たして相関図なんか見るかな
>260
でも、それっておかしくない?
避難所や過去スレの膨大な情報量から、
人間関係だけ知りたい人の為に抜き出したんだから……
ああ、手軽に読み捨てたいって人の話か。
>>261 このスレだけで完結したいタイプの人間が相関図見てキャラハンを把握し関係を
確認するような面倒くさい重労働に耐えられると思っているのかな?
分かった、もういい。私も口が過ぎた。
閉鎖的環境をキャラハンも名無しも望んでいるというのに
それを無理矢理に変えさせようとしてしまって申し訳なかった。
避難所の書き込みや
>>259以降の書き込みを見て改めて思った。
それなら最初から新参お断りといってくれれば私のような
余計な議論を持ち込む名無しも現れない。
そもそもこの板にスレがある以上はここの参加者も新参者の流入は
一応考えているのだろうとは思ったのだが、結局はここにスレが
ただあるだけということがよく分かった。
何も参加者の譲歩や憐れみを買いたくて書き込んだのではないのに
結果としてそういう風な流れになってしまったのはすまなかった。
もう私のレスは馬鹿の戯言と見なしてスルーしていただいて結構です。
狭い仲間内だけのコミュニティーで永遠に馴れ合いを続けてください。
この世界観に惹かれてキャラハンをやろうと考えていたのですが
私のような教えてくんにはキャラハンなど到底不可能だと分かりました。
新しくスレを立てたら、という意見も頂きましたが、私自身スレ主をやる
器ではないことを今更ながらに自覚しましたので、立てないと思います。
それでは失礼しました。
ちなみになぜ避難所の質問スレ等に書き込まなかったかというと
「携帯から避難所への書き込みができないから」という単純な理由からです。
では今度こそ失礼します。
>264
ちょっと待て。
何処から閉鎖的と読んだ?
寧ろ、『どうしたら来て貰えるのか』『何処が悪いのか』という話ぢゃろ?
>265
だから、それを最初に言えば良かったのぢゃよ。
そうすれば話は早かったのにのぅ。
>CCL7L1QK
全部じゃないけど所々で同意見の部分もある。
でさ、私が新スレ立てるからライト層向けの別スレを一緒に始めない?
テンプレ決めとかは「この板に欲しいスレを書くスレッド」で相談という事で。
賛同してくれる人が他にもいたら上記のスレにちょこっとレス書いといてね。じゃノシ
>267
ライト層という概念がちとわからんが、敢えてここのライトな物というと、
サキュバススレあたりがそうなのかのぅ。
まあ、どこら辺に賛同したか聞きたいが、去って行く事前提ではのぅ……
ま、気が向いたらまた来るが良い。ノシ
まあ、初めてここに来る人は間違っても◆5gFlt90TAE のいうことが
板の総意だとは思わないでほしい。
どっちかっつーと異端というか空気読めてないから、この人。
270 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/12(木) 00:16:47 ID:Iku6Xjnz
>>259や
>>262といった、このスレには一度も顔を見せたこともない
キャラハンがいきなり出てきたので
てっきり違うスレのキャラハンが誤爆してきたのかと思ったが
なるほど、このようなキャラハンが大量に避難所に引きこもっているのか
こりゃ避難所やらプロフサイト見なきゃキャラハンはおろか
名無しとしての参加もできない罠
しかも余所のスレのことを嬉々として話すわ、キャラの口調まんまで
真面目なレスを茶化すわ最悪だな
というかこういう今後のスレ運営に関する重要問題であるはずなのに
避難所ですらまともなキャラハンが誰一人として意見してないのを見ると
現状のままでよいというのがキャラハン全員の総意なんだということは
よく理解できた
ID:CCL7L1QK氏が自ら話を打ち切ったのも分かる気がする
何を勘違いしているの?
名無しあってのスレじゃない、キャラあってのスレでしょう?
キャラが名無しに合わせる部分も必要だとは思うけれど、
それ以上に名無しがキャラに合わせる部分も必要だと思う。
まずは先達に習って、直すべき点はキャラに中に入ってから自分で動いて修正すればいいじゃない。
キャラだって暇人じゃないんだ、避難所で今議論していないことを批判するのはどうかな?
あまり積極的に動く気配が見えないキャラ側もどうかと思うけれど、
ただブーイングしかしない名無しは悪質ではないのか?
>>270 まあ落ち着け。
ほんの数時間で結論を出すことじゃないだろ。
>>271 そこまで言うのなら言わせてもらうが
自分達が好きなようにロールも雑談も自治もできる掲示板持ってる上に
プロフを載せる専用サイトもあるんだから
いい加減オリキャラ板を間借りしてスレ立てるの止めたら?
そうすれば俺も含めた余計なこと言う名無しはいなくなるだろ
2chにスレがある以上はキャラハンと名無しの軋轢は避けられないんだし
それ以前に「ならお前がキャラハンやってみろ」は議論の放棄にしか
見えないがね
参加キャラハンにしか発言権が無いって意味か?
>>273 前にも誰かが言ってるがとりあえず頭冷やしてから書き込むといい
現存するキャラハンが悪いなんて微塵も思ってないけれどここまで現存キャラの設定が絡み合っていると
「今から入って言っても受け入れられるのかな」って不安を新規参入を考えている人たちは多かれ少なかれ感じているかもね。
自分も「仲間達との訓練中に妖魔の襲撃を受けて捕らえられ、食料として調教された元退魔師見習い」
なんてキャラを考え付いていたけれど結局萎縮してしまった経験があるし。
そこを乗り越えて勇気を出して参加してみると、
案外簡単に受け入れてもらえるものだよ。
名無しの考えすぎっていう部分も少なからずある。
此処の世界観ってのは、設定を作るのが好きな人が数名、率先して作ってきた
ようなものなので、火の無い所に煙を立てようと思えば幾らでも立てられるし枝葉はいくらでも伸ばせるかと。
ただし、それが定着するには結構なロール回数が必要になる気がします。
(馴れあい云々の問題ではなく、ストーリーテリングに必要な情報量の問題で)
あと、ぶっちゃけ外部板方式は面倒だと感じる方ですが、
必要とされる理由はなんとなく理解しています。
キャラクターを語ろうと思うと、ある程度の文章量が必要です。
参加時間の関係上、大掛りなロールは難しい、けれどキャラクターを語らないとロールは難しい。
頻繁で小規模なロールを代替するのに、『雑談』という形式は都合が良いんだと思います。
こちらでそれを可能にするには、現状だと一工夫必要かもしれません。
余談ですが、
>>275さんのように、シチュエーションの希望があるのであれば、
事前に軽く打ち合わせれば単発のロールは可能だと思います。
私としては、その場その場での(簡単な)設定の抹り合わせは歓迎です。
キャラクターの行動原理に反する行動を取るには、相応の経緯が必要になりますけれど、
「運命の悪戯」方式でうっかりをやらせること自体はやぶさかではないですし。
迷わず行けよ、行けば解るさ
【というわけで、ageスレも使用しつつ待機してます】
【名無しさんも遠慮なくどうぞ】
【一度落ちますねノシ】
「・・・・・・殲滅完了。損害軽微・・・・・・。
警戒態勢パターンBに移行・・・・・・」
抑揚の無い、機械的ですらある少年の声が、
機械的に単語を連ねて報告を終了する。
色素の薄い髪。少女のようにも見える華奢な身体。
黒いウェットスーツの上に、ライトアーマー。
携えるのは二振りの剣。
その少年は、青いバイザー越しに、己の仕事の成果を
熱の無い眼差しで見ていた。
四肢を切断され、首を刎ねられた、双頭の魔獣の屍を。
夜の闇に、心が躍る。
いつになく高揚した気分で今夜も空中散歩と洒落込む。
人気のない裏通りに差し掛かったところで異変に気付いた。
(――妙だ、静か過ぎる)
いつもなら野良猫や野犬が騒がしいはずの路地裏が物音ひとつしない。
ふわりと地上に降り立ち目を閉じる。
集中する事で研ぎ澄まされた感覚は、微かな血の臭いを嗅ぎ付けた。
「なるほど、そういうことか」
独り得心すると、その微かな臭いを追って走り始める。
期待に胸を高鳴らせながら。
浮かぶ表情は笑み。
その女性が少年と対面するのに、時間はさほど必要としなかった。
バイザーに彼女の各種データを解析する。その数値が浮かび上がり、
装甲車内で待機している者達に伝えられる。その数値が常人ではあり得ない
数値を示していたことを踏まえ、少年に命令が伝えられる。
『戦闘力を奪った後に捕獲せよ』
「――了解。戦闘態勢パターンBに移行する」
各種リミッターが限定解除。身体が戦闘用に切り替わる。
二振りの剣を交差させ、素早く突進。
「モードセレクト>>>>ライトニング」
右の剣が唸る。擬似魔術機関による演算。
輝く刃が闇を切り裂く。電磁場を纏った斬撃。
峰打ちだが、相手を無力化させるのには最適だ。
幾つか角を曲がると、ようやく目的の場所に辿り着いた。
辺り一面に漂う死臭と傍らに立ち尽くす一人の少年。
「ふ、中々の手練のようだな」
魔獣の屍と少年の手に握られた双剣を交互に見やる。
少年から発せられる殺気を敏感に感じ取りながら臨戦態勢に入る。
「Komme(来い)」
瞬時に魔法杖を顕現させると突進を両手で防ぐ。
交差した剣に重ねる形で防御。
金属同士の擦れ合う不快な音が辺りに響き渡る――かと思われた。
「……痛っ」
刃が触れた瞬間走った衝撃に杖を取り落としかける。
かろうじてそれは防いだが、わずかな隙が出来た。
決して作ってはいけない隙が。
ギィン・・・・・不快な音が響く。
物品の取り寄せ。バイザーは相手の解析に余念が無い。
列挙される可能性。それらを無視して少年が動く。
右の剣は雷撃の放出後に付き、三十秒間使用不可能。
使用可能な左の剣に、コマンドを叩き込む。
「モードセレクト>>>>スパイラル」
風が刀身に纏わりつく。
小規模の竜巻が発生する。
その竜巻を相手の足元に叩き込む。
土砂が逆巻き、瀑布の如き勢いで降りかかる。
風と土砂の二重攻撃。これで左の剣も三十秒間使用不可能となる。
まだ擬似魔術の演算機関は、完全ではないのだ。
「……くっ」
巻き上げられ降り注いだ大量の土砂に視界を遮られる。
砂が目に入りこそはしなかったものの、少年の居場所が見えない。
先程の攻撃で生じた無数の切り傷がぴりぴりと痛みを伝えるが、
今はそれに構っている場合ではない。
即座に体勢を立て直すと、脳内で計算し行動に移した。
あまり距離は取れない。接近されてはまずい。
ならば、
「WindeWand(風の壁)」
大気の壁が土煙を吹き飛ばし、さらに少年に襲い掛かる。
緊急避難的な防御の魔術ではあるが、牽制には十分だ。
次の手を考えながら状況を注視する。
土煙が晴れた時、少年は既にそこにはいなかった。
ステップで回り込みつつ、間合いを少しずつ詰めていた。
そして弾丸のように横合いから薙ぎ払いの一撃。
その一撃にはどの力も篭められていなかった。
だが、その速度と威力は一線級の退魔士と比べても遜色はなかった。
その為に調節されたのが、この少年。
名前すら与えられていない人造の退魔士。
番号で呼ばれ、命じられるまま動く熱の無い機械人形。
「……横か!」
もちろん十分な効果が与えられるとは思っていなかったが、
簡単に避けられ、しかも間合いを詰めて攻撃してこようとは予想も付かなかった。
速度と威力を兼ね備えた一撃に、防御は間に合わない。
身体を傷つけられるのを防ぐのが精一杯であった。
「ぐっ」
反射的に振りかざした杖で受け止めるが、衝撃は吸収しきれない。
慣性の法則に従い、背を丸めたまま吹き飛んだ。
そのままビルの外壁に激突して止まる。
口の中でも切ったのか、血の混じった唾が宙を舞った。
それでも、瞳の中には力がある。
――ノイズが走る。ノイズが走る。
脳内に不要なデータが再生される。
それは、少年が と呼ばれていた頃のデータ。
番号ではなく、優しさと愛しさを篭めて と呼ばれていた頃の。
「お姉・・・・・・・さん・・・・・・?」
詰み目前にして、少年の動きが止まる。
何が彼の調節前のデータを呼び覚ましたのか。
その瞳が。
まだ諦めていないという瞳が。
『脳波に異常が見られる』
『調整が完全ではないのか?』
『戦闘の継続時間に問題が』
観察者たちが声を交わす。結論は直ちに出た。
『参号、直ちに帰還せよ。対象の捕獲は中止だ』
ぴたりと、少年の動きが完全に止まった。
その無垢な眼が、バイザー越しに魔女を見つめている。
「……?」
警戒心を緩めぬまま、よろよろと立ち上がった所で声をかけられた。
見れば、先程までの無機質な目とは違う、意思を宿した視線にぶつかった。
「もしかして、君は」
もちろん初対面の相手ではある。
どのような経緯で今の境遇にあるのかは判らないし、興味もない。
だが、望んでそうなった訳ではないのかもしれない。
そう思った。
(ならば――)
「この私、『漆黒の魔女』と呼ばれる私が終わらせてやる。
お前をそこから解放してやる……」
投げかけられ続ける視線を正視できずに目を伏せる。
如何に自分が汚れてきたのか。少年はどれだけ汚してきたのか。
せめて、せめて一瞬で楽にしてやりたい、と。
「――Windschneide(風の刃)」
短くそう呟く。
それは、いつもの少年なら回避できたはずだった。
そう、いつもの状態なら。しかし、今の少年はいつもの状態ではなかった。
ヘッドホン越しに合成音が命令を繰り返す。
だが、少年は動かない。じっと見つめている。
自分の首が、真空の刃で刎ねられた時ですら。
その首が吹き出る血潮に押され、夜空に舞う。
落下音はお世辞にも美的とは言えなかった。
バイザーとヘッドホンが外れて、ごろりと転がる。
光を失ったその双眸が、それでも漆黒の魔女を見つめている。
母を慕うように。姉を慕うように。
その唇が――胴体から断絶された唇が、動く。
お・ね・え・さ・ん・・・・・・・と。
【短レスでという目標は達成できたのかどうか】
【ともかくこちらはこれで〆です】
音もなく、狙い通りに首と胴体に両断された少年だったものを見やる。
幾度となく経験してきた状況であるが、どうも今夜はいい気分ではない。
それはやはり、少年がどこか懐かしい雰囲気を持っていたからなのだろうか。
わからない。
「お前は……幸せだったか?」
もはや物言わぬ頭部を掻き抱き、目を伏せてそう呟く。
ゆっくりと瞼を閉じてやり、再び地面にそっと置いた。
――翌日。身元不明の焼死体が発見された。
だが、遺体の損傷が激しく、被害者の年齢性別何一つとして判明しなかったという。
【うわ、寝落ちるとこでした……orz】
【こちらはこんな感じで。もう少し展開は練れたかなぁと反省】
【↑のはミスです】
【待機してます】
>>296 【こんばんは、お相手よろしいでしょうか?】
駅前のコンビニエンスストア。その、裏口前。
「ごめんねー。今日は何も無くて」
青とオレンジの制服を脱ぐや否や、店員はそう言った。
彼が腰を屈めて語りかける先は、サマードレスの少女。
「今年は梅雨が長いからね。カビるからって、あたしらも持って帰れないの」
「そう……」
しゅん、と項垂れる様子は、見るものの胸を締め付けるものがある。
眉を下げて、少女のつむじを眺めていた店員は、ちょっと待ってなよ、と言い残して
裏口に引っ込む。首を傾げて、その背中を凝視する少女。
「……なに?」
戻ってきた店員は、はい、と小さなポリ袋を差し出した。
中身は、彼女には香いでわかる。果実の砂糖煮の入った菓子だ。
「今日は無かったのではないの?」
「お裾分け。一個くらいなら懐も痛くないからね」
ぱぁと少女の表情が輝く。
野良の狐精は、今日も逞しく生きていた。
【何もしないで待機してるのもあれなので単発ネタ書いてました;】
【
>>297 はい、よろしくお願いします】
>>298 「あめあめふれふれかあさんが♪」
ぱらぱらと雨が降る。
その中を唐傘をさして鼻歌を歌いながらゆく巫女服の少女――八雲天音。
まるでその周囲だけがタイムスリップしたかのような、だが違和感を感じさせない足取りで。
「じゃのめでおむかえうれしいな……あら?」
ふと、天音が歩を止める。
くん、とまるで犬のように鼻を鳴らし。
「雨の香に混じって、匂いますわね」
先ほどまでのどこか呑気な表情は消え、代わりに浮かんだのは凛々しく厳しい表情。
天音の瞳は駅前のコンビニエンスストアの裏口、小さな少女を射ていた。
雨中にもかかわらず音もなく、その背後に忍び寄り、一挙手一投足の間合いに入って誰何。
「どこのあやかしかは存じませんが、人に仇なすようなら容赦は致しません」
【では、こんなふうに】
【軽く戦ってから和解、出来るのなら神社で飼う、とか】
>>300 帰路についた店員の背中にぶんぶんと手を振る。
見る人間が見れば、サマードレスの裾で太い尻尾が一緒に揺れているのが
見えただろうが、生憎、今の会話相手は普通の人間だった。
受け取ったポリ袋を両手に握り締めて、わずかに目を細め。
なにやら思案していた。
唐突に背後に生じた気配。
彼女とて獣だ。
意識を向けられれば、気づく。
ただ、それが普段よりも遅れた。
珍しい事態だった。
砂色の髪を揺らして、振り返る。
その眼がきょとんと開く。
「……誰?」
退魔士とやりあう機会も少なかったここ暫く―――滅多に貰うことの
ない殺気だった気配に単純に驚きながら、彼女は問うた。
【よろしくです】
>>301 「問うているのは此方です。
見たところ狐狸の類のようですが――もしや、先程の方にあやかしの術を掛けたりはしておりませんでしょうね?」
如何に見た目は少女であっても、狐狸あやかしの類であれば見た目は人を誑かす術でしかない。
ゆえに――油断はならぬ、と。
「もう一度問い直します。
人に仇なすあやかしか、否か」
唐傘を落とし雨に身を晒す。
その瞳は零下の氷のように冷たく輝いていた。
>>301 街は雨。場所はコンビニエンスストアの軒下。
唐傘を差した巫女。
砂色の髪に、懐古趣味なサマードレスの少女。
言えるのは、両者、この場には恐ろしく不釣合いだということだった。
彼女は考える。逃げるべきか、否か。
「そういうような目をして、ひとに訪ねるものではないわ―――
相手が誰であれ、はじめは礼を尽くすべきだと、父様は言っていたもの」
射抜く目線。妖魔を狩る者のそれだった。
話が通じる相手、ではないかもしれない。
「それに。それを言うなら、貴方はもうハナの術のなかよ?」
少女の声と、動きが起こるのはほぼ同時。
動きのほうが、やや早かったかもしれない。
巫女が振り返るより早く、矢のように、砂色の影がその背後に抜ける。
その顎には、コンビニ袋を咥えたまま。
>>302 「なるほど、人であればそれもありましょう。
ですが、あやかしの類に礼を尽くす謂われなど――」
前に伸ばした手が空を撫でる。
雨中に神代文字が輝き――刃と変わる。
その色は瞳の冷たさにも似た、白銀。
「――くっ!」
向かってくるものと思っていた天音は虚を衝かれた。
否、それ以上に孤精の動きが速かったと言うべきか。
だが、それだけで逃すほど天音とて甘くはない。
「疾!」
常人の目には見えない「氣」の奔流が天音の足下に集う。
そして次瞬、猛然と天音は孤精を追うために走り出した。
人に飼われた獣は、他の生物種に比較すると、人間に化生する存在になるまでの期間が短い
―――しかし、狐、狸、狼といった一部の獣は、それらに迫る短い年月でその特性を獲得する。
それは、神の悪戯か。人に馴染み、人を真似、人を欺く。
閑話休題。
彼女の領分は、幻術。
逃げるが勝ち、が彼女の信条だった―――もとより、一度式として使役された以上、人間に
直接的に害を作すことはできない、それは契約としてその魂に刻まれている。
特殊な状況下でなければ、専守防衛すら不可能。
眼裏に焼きいた、白銀の煌めき。逃げて正解だったかもしれない。
走る。走る走る走る。雨は視界を障れど、行く手を遮ることはない。
その姿は人ならざるものを認知する才のある者にしか認識できないが、
砂色の影は雨の街を恐ろしい勢いで疾駆した。
追ってくる殺気は、思った以上に早い。
あえて人の姿のある道を選ぶ。
退魔士との追いかけっこを幾度となく生き延びてきた上で学習したこと、
彼らは人手のある場所で得物を出したりはしない。それは彼女にとって有利に働く
―――「そのほうが多い」というだけで、お構いなしに得物を振り回す手合いもあったが。
>>304 速い、それが第一に思ったこと。
「氣」の収束による疾駆術――風花輪と呼ぶ――を用いて姿を見失わないようにするのがやっと。
無論、相手が人の多い場所を選んでいるがゆえのこともあるとは言え、それにしても速い。
だが、それでわかったこともある。
疾駆の癖、速度のムラ、そして何より――人を傷つける気がない、或いは術がないのだと言うこと。
それだけで悪しき化生ならず、と言いきることは出来ない。
だが、見極めとしては一つだ。
疾駆しながら空いた左手で空気を撫でる。
否、正確にはそこに点在する気脈をだ。
「――顕!」
気脈の流れがその言葉と共に変わる。
見えるものには、それはうねる蛇のように映るだろう。
蛇は、疾駆する孤精の身体に巻き付かんと光の速さでうねり迫る。
延々と続く鬼ごっこ。
普通はここまで走ったら諦めるのではないか、という呆れにも似た思考。
変化が生じたのは、駅前の商店街を三周もした頃のことだった。
距離を置いて迫り来るのは、
(―――飛び道具!)
正確には『道具』ではないし、飛んでいるわけでもない。
巫女の手元から放たれたのは、気脈をそのまま変じさせた光速の蛇。
しつこい相手に対しては、逃げ回っている最中に対応を組むのが彼女の常だったが、
こうも唐突で、かつ出鱈目な一手に対する法はさすがに持ち合わせていない。
それは、ちっぽけな狐精が躱すには物量が大きすぎた。
呆気ない顛末。光速の姿なき蛇は、呆気なく狐精の姿を捉える。
「―――っ、っっっ!」
時は週末、雨続きとはいえ、往来も賑やかな通りの最中。
そこに、唐突に、サマードレスの裾の薄水色が鮮やかに顕現する。
『何も』無い場所で、『何の』前触れもなく、盛大にすっこける少女。
その場で生じた出来事は、『普通の人間』の目にはそう映った筈である。
>>306 週末の街に雨音が、響く。
だが、耳の良いものならば、或いは勘の良いものならば、その雨音の中に鋭い風切り音を聞いただろう。
そして、一瞬あとに映ったものは『何も』無い場所で転びかけた少女を受け止める巫女服の少女の姿。
「……まったく。私も甘いようです」
溜息をつきながら、腕の中の少女に話しかける。
「怪我はありませんか、少々乱暴でしたが」
まだ厳しい表情ではあっても、その瞳には殺意もなく。
「詳しい話を、聞かせてもらえますか、貴女について」
受け止められた少女はというと、
「………。」
あからさまに不機嫌だった。端的には、むくれていた。
少女の瞳に宿る厳しさに、気圧されて、大人しくしてはいたが。
こうも打つ手無し、という状況は、彼女にとっては珍しい。
逃亡を始めた50年ほど昔ならばともかく、今の時代に生き残った退魔組織が、
狐精一匹、追い回すのにそう戦力をつぎ込むこともない。
人間の側の事情を彼女が知ることはないが―――彼女の凋落の切掛けとなった、
かの家の手勢に遭遇することも、まず無い。
そんなわけで、こう、呪術的な意味で力任せな相手に遭遇することは非常に珍しい。
―――安穏と生き延びていた為に、直観が鈍っていたことは否定できない。
加えて。せっかく貰ったジャムパンをどこかに落とした、という事実が、
彼女の機嫌を著しく害ねていた。
「………なさい」
うつ向いたまま、口にする。聞き取りにくい声で、まず一度。
「名乗りなさい。はじめにも言ったけれど、礼を知らない者に名乗る名は無いのだわ」
同じことを繰り返して、きっ、と巫女を睨む。
>>308 「はい?」
表情に厳しさは残るものの、いつもの調子できょとんと。
聞き取りにくい少女の言葉に聞き返し。
「――ああ。それでしたらば。
私は、八雲天音、と申します。
――名を知ったからとて、呪に用いませぬよう」
くすくす、と笑いながらそう返し。
「お名前を、の前に。
まずは立っていただけませんか?
出来なくもないですが――このまま立つのは、ちょっと」
苦笑しつつ、そう言って。
「それと――これは、貴女のものですか?」
懐から取りだしたものは見覚えのあるコンビニ袋。
追跡行の途中で拾ったものだ。
「やくも……」
退魔師としては旧く、著名な姓。
元はといえば、彼女の父親、こと育ての親はは退魔師だった人物だ。
記憶の片隅に残るものがあったのか、小さく反復する。
「あまね。覚えたわ」
愛嬌のある表情に気を緩めたのか。
自身の表情からも険を取り除き、
「ハナ………ハナのよ。お礼を言うのだわ」
袋を受け取って、渋々のように頭を下げる。
「受けた行為を無にしたら、呉れた人に申し訳が立たないもの」
でも、元は、と呟きかけて、
「………いいわ、何も言わない」
おあいこにしておいてあげる、と口にして、軽やかな動作で立ち上がる。
漆黒の髪と瞳、日灼けの無い白磁の肌。
改めて観察すれば、変わった人間だ、というのが彼女の感想だった。
この界隈で見ないいでたちもそうだが、匂いが違う。
【続けるのも悪くはないんですが、時間的に絞めでしょうか?】
【今回は遭遇ということで】
>>310 「ハナ、ですか。
可愛らしい名前――はい」
ふふ、と微笑み、コンビニ袋を渡す。
立ち上がったハナに続いて立ち上がり、正面から見つめ合う。
砂色の髪が雨に濡れてへたりとしているものの、瞳の黒さと強さはそのままで。
まるでそれはハナの心そのものの強さを示しているかのよう。
「それで、詳しくお話を聞きたいけれど」
ふ、と空を見上げる。
まだ雨は止むこともなくしとしとと降り続き。
「私の家……神社ですけれど、よろしければそちらで伺えますでしょうかしら?」
【では、遭遇→神社住み着きフラグ準備までで締めましょうか】
「貴方の?なぜ?」
返答してから、天音につられるように空を見上げる。
降り落ちてくる、雨、雨。
そして、それを遮るように、時代がかった唐傘がある。
「………そうね」
ポリ袋を握り締めた側とは逆の、小さな手のひらを伸ばす。
落ちてきた滴を受け止めて一息。
「この雨が止むまで、お邪魔させていただくわ」
そう云って、狐精の少女は、傘の持ち主―――今しがたの追いかけっこの相手に、
静かな笑顔を向けた。
【こんな展開で〆で】
【宿無しって実は話として美味しいんですよね……うーむ。】
【でも、面白い展開だと思います。次があれば、お社で会話とかどうでしょう?】
【こちらの〆は特にいらないような綺麗な〆ですね】
【ええ、それでは猫みたいによく顔を出す、みたいなのでもいいかな、と】
【はい、次回があればそんな感じで、是非お願いしますね】
【そんな感じかもですね。よろしくお願いします】
【お疲れ様です〜。ありがとうございました】
【こんな時間だけど待機しますね】
【シチュは相談に応じます】
【残念ですね】
【また今夜雑談スレにてノシ】
>>209 驚異的な速度で塞がっていく傷。
回復力に長けた妖魔とほぼ同等にも思えた。
次々に追加、実装される人に有るはずのない能力−否、機能。
一つ足される毎に自分が自分で無くなるようで。人でなくなるようで怖くなる。
自分が妖魔でないという証明に、私は妖魔を殺さねばいけないのだろうか……。
麻痺した頭を科学者の能弁はただ通り過ぎるだけ。
科学者が何やら機器を操作する。ただそれだけで脳神経に、通り道が新しく追加された。
−耳たぶから、快楽中枢。
そこにはじめての電気信号が通る。
無意識に下腹部が震え、痙攣し、熱を持った。
「ひっ……あっ!?……何か来る、あッ、だめ、だめ、だめ、イ、、、ク…ぅ…。」
両耳をただ捻られただけで真っ白な光が何度も弾ける。
「こんな、こんなあぁッ……、あっ!ああぁぁぁぁぁッ」
一際激しく痙攣して、一気に脱力した。
318 :
立花司:2007/07/18(水) 22:11:46 ID:bcGYwZnp
「ふふ……成功だ!素晴らしい!次で最後の実験だ、ご協力願おうかな?」
…442号ナノマシン外部入力……作動、ON…異常ナシ…
「君のナノマシンの特性の一つでね、
このピンが刺さっている生物の受ける刺激を君は受け止めてしまうのさ。意味が分かるかい?」
「つまりこういう事だ。今、ここに実験人形…元々は人間だがね。こいつにピンを指す。で、こうするわけだ」
物言わぬ人形の女性器に指を突っ込みかきまわす!
「……う…くうぅ……ふ、ふざけないで…よ…。」
絶頂の余韻に心を蝕まれながら白衣の男をにらみつける。
例の音波のせいか、いまだに体が思うように動かない。
次は何をされるのだろう。
(なのましん…?特性…?)
よくわからないまま表情の無い女性が連れてこられ、何か針のようなものを刺された。
「うあ!?・・・・・・な、何、コレ……?あぐ、あぁぁぁッ」
何もされていないのに膣には何も入っていないはずなのに、掻き回されている!
「ひあっ!あッだめっまた、また、また来る、来るうぅぅ…っ!」
真っ白な光がまた意識を覆いつくし……そのまま暗転した。
痙攣が止み、まぶたがゆっくりと落ちる。
320 :
立花司:2007/07/18(水) 22:49:06 ID:bcGYwZnp
「ふふ……気を失ったか。完成…、完璧だ…。」
意識を失った千草を見つめて一瞬演技を忘れて優しく微笑む。
音波のスイッチを切る。
直後に暴走する千草に自分は殺されるだろう。そう、セットしてある。
後の研究は斬鬼や、後任の学者に任すとしよう…。
俺はもう…禁忌を犯すのに耐えられない…
「古志よ……お前の娘は……俺達が作った超人は……
妖魔と変わらんかも知れないな……俺達の『夢』は……」
閃光が俺の首はねとばした。
最後に見たのは
虚ろな目をした蒼髪の美しい死神の姿。
321 :
立花司:2007/07/18(水) 22:58:42 ID:bcGYwZnp
【こちらはこれで〆ます。おつきあい頂きありがとうございます】
目を覚ますとそこは血の海。
それ自体は良く有る事。
だが今横に倒れているのは妖魔ではない。
父の親友で、夢を共有した男。
なんて自分勝手な人達なんだろう。
ただそう思う。
愛用の黒刀をおもむろに取り出す。
ドスッ
「ぐはっ……、はぁ……んッ……」
一突きに自らの心臓を突き刺した。
本来なら意識を即座に失う激痛。痛覚が若干麻痺しているのか今は意識を失わずに済んでいる。
激痛が次第に快楽に変わり、急速に治癒が始まる。
「そっか、死ねない……んだよね……あはは……」
血を吐き出しながら、乾いた笑い。
【こちらもこれで〆です。何かいろいろすいませんでしたorz】
【いただいた改造(?)は大切に使いたいと思いますw】
「えーっと、風間莉々さんと槙 円さんには
執務を手伝ってもらいます。当分は私の補佐よろしくね」
支部長がそう言い出したのは、斬鬼衆の入学式が終わってから直ぐだった。
山のように連なる書類の山に眼を通し、サインし、必要な資料を集め、ファイルに綴じる。
これだけの作業が途方もなく難儀であった。
「てーか、よ、槙・・・・・・・
なんで俺まで書類整理に駆り出されてるんだろうな」
金髪の凶戦士が執務室で愚痴った。
最近、周りに対する遠慮がなくなりつつあるらしく、
ラベルを貼ったファイルを棚に収めてゆく。
そしてリストにあるファイルに眼を通して、それを机の上に乗せる。
今日は二人で資料整理の日であった。
「……」
愚痴る同僚をちらりと見て書類の山を黙々と崩し目の前に並べる。
不向きな単騎特攻を繰り返すと評判の少女だが
どうやら事務作業は極めて向いているらしかった。
「愚痴っても終わらないわよ?」
トン、トン、と小気味良い音を立てて書類を整え
決済住みの書類の山を築いていく。
「はい、これ御影君の担当分ね。一応分類のところまでやってあげたから。」
ちなみに――書類整理を押し付けた艶やかな長髪の少女は、
所用で風間莉々と出かけている。せめて風間莉々も残して
置いて欲しかったというのが、彼の本音である。
「愚痴くらい言わせろ。ったくあの女は・・・・・
前々から思ってたが、実は俺の敵なんじゃねえかアイツ」
ぶちぶちと支部長に対する愚痴を垂れ流しつつ、リストに眼を通す。
こちらと違い、書類整理に慣れている符術士の少女はテキパキと
執務をこなしている。適材適所という言葉があるが、彼女はやはり戦闘より
こちらの方が向いている。無断で単独行動されるより安心もできる。
「・・・・・・これで一区切りか。茶を淹れるからお前も休めよ」
ため息をついて、書類整理に区切りをつける。
執務室に用意されているものを使って日本茶を淹れる。
今の支部長は日本茶派なのだ。
「番茶とほうじ茶、どっちが好みだ?」
ポットの水量を確認しながら問いかける。
「ま、書類整理してられるなんて平和よねぇ。」
のんびりと返しながら黙々と処理していく。
分厚いファイルの最後の一枚にサインを入れて一息つく。
「ええ、こちらも一区切りよ。
ありがと、じゃあ番茶にしようかしら。」
次に整理する書類を見て顔を僅かにしかめる。
内容は今までとり逃している妖魔の報告書だ。
そのうちの数枚は自ら書いた物だ。
自分を陵辱したまま何処かへ去った妖魔のデータが載っている。
御影から顔をそらすように外を眺める。
今頃、彼らはどこで何をしているのだろうか。
もし、次みかけたらその時は必ず―
頭を振って思い直す。今は、目の前の仕事を片付けるとしよう。
要求通りの茶葉を、急須に適量入れて、湯を注ぎ暫く待つ。
彼女は、何鋭いものを感じさせる横顔で、窓の外を眺めていた。
彼女が何を考えているかなど、知る術も無い。
「・・・・・・そろそろか」
訪れた静寂さを壊さぬ程度の声で呟き、湯飲みに茶を注ぐ。
濃さが均一になるように、二つの湯飲みに交互に注いでゆく。
ひとつを彼女に差し出して、もうひとつを自分で飲む。
「そういや、お前・・・・・・去年の、冬頃だったかな
一時期ずっと体調悪そうだったな。少しは復調したのか?」
その鋭い双眸が、符術士の少女を射抜く。
彼としては別段、彼女に敵意や嫌悪を持っているわけではない。
骨の髄まで染み込んだ退魔士としての業が、彼の雰囲気を鋭くさせている。
「前にも言ったが、単騎で行動するのは構わん。好きにしろ。
だが、お前の単独行動禁止令は、今でも続いてることを忘れるな」
静かに、熱い番茶を啜る。丁度良い熱さ。
「それを承知で動いてるんだ、勝手に死ぬなよ」
彼女の想いなど考慮せず、一方的に言葉と都合を押し付ける。
「あ、ありがとう。」
少しぼーっとしていたらしい。
お茶を淹れてもらっている事も忘れていた。
「ん……美味しい。 」
書類を整理しながらお茶を飲むと
茶道楽だった先輩を思い出す。今も男装しているのだろうか……。
「ええ、問題ないよ。
自分の事は大体分かってる。最近自重してるでしょ?」
鋭い視線を表面的には無視し笑みさえ含んで。
「それは、お互い様。大体単独行動自体推奨されてないんだから。
だから、御影君も死んじゃ駄目だよ?
書類整理一人でやるの、私は嫌だからね。」
日本茶を飲んでいると、茶請けの和菓子が欲しくなってきた。
何かなかったか探していると、饅頭があった。
・・・・・・何故か葬式饅頭である。
まあいいかと自分を納得させて、ひとつ齧る。
「――お前も饅頭いるか?」
小皿に乗せて差し出す。
生憎と、今の支部長は菓子を自分で作ったりしない。
「・・・・・・自重するのが当然だろうに、お前の場合は」
やれやれと肩を竦める。
言っても聞かない性格の持ち主の集まり、それが斬鬼衆白清支部。
「まあそうだけどよ。俺とか薫とか・・・・・・あと八雲とか風間だって
大抵単騎行動じゃないか。お前の場合とは意味合いが違うんだぞ」
それに、書類整理なら他の者にもできると付け加えて。
ちなみに天音のことを名字で呼んだのは下手に勘ぐられないためである。
今更、という気もしているのだが。
「前にも聞いたが、お前死にたいのか?
それとも、命賭けて果たしたい目的でもあるのか?」
それは、前々からの疑問だった。
「ん、今ダイエット中だから、いらない。」
本当はあんこが苦手なだけなのだが、好き嫌いを出すのが嫌だった。
葬式饅頭がなぜここにあるのかと一瞬疑問に思うが
それは気にしないことにする。
「もちろん、私の場合は能力上の特性もあるだろうけどね……。」
ヤクモと発音したときの違和感、照れ隠しのような御影の顔みて
幽かに微笑む。
「死にたい、わけじゃないと思うな。
自分でも分からないよ。」
実際、分からなかった。誇りだろうか。使命感だろうか。
前線に立って、一人で皆と同じように戦いたいと思うのは。
盾であるよりは剣でありたかった。
「ダイエットは構わんが、
エネルギーの補給しておかないと直ぐにスタミナが切れるぞ」
退魔士のエネルギーの消費量は半端ではない。
故に、日頃からある程度貯蓄することも必要だった。
とりあえず、残った葬式饅頭を自分で処理することにした。
「もう少し使い勝手のいい技能を修得できなかったのか。
いや、こんなこと言うのも失礼な話だが。お前のは文字通り命削ってるわけだし」
魔符。彼女の奥の手のひとつ。
命を削って繰り出すだけあって強力だが、それにしても使い勝手は悪いと思う。
少なくとも前衛で、尚且つひとりで戦い抜けるほどの技能ではない。
「その理由すらわからない衝動で、自分の命削ってるのか。
時々、お前らが自殺志願者に見える時があるぜ、本当に」
誰かの為に刃を振るうこと。自分の為に刃を振るうこと。
どちらかを選ぶならまだ少しは話はわかる。
そのどちらかでないなら、理解も共感もできない。
「あはは、気をつけるよ。
胸もおおk……なんでもない。」
こほん、と咳払いをひとつして
「しょうがないよ、私の家に伝わる符術の奥義だもの
習得しないとほら、ね」
強いて言うならやはり義務かんだろうか。
自分がやらなければならないこと。生きる理由。
ごく自然に当たり前に「理解」していた。
「衝動……か、衝動になるのかなあ。
なんとなく、私のやるべきことってこれだと思ってるんだ。
妖魔を倒す、それだけでいいような・・・・・・そんな感じ。
よくわかんないよね。」
「――ご愁傷様だ・・・・・・・」
視線を逸らし、彼女には聞こえない声で呟く。
彼女が何を言いかけたのか理解した上で、密かに哀悼の意を表明したまでだ。
『しょうがないよ、私の家に伝わる符術の奥義だもの
習得しないとほら、ね』
それは継承という概念。
親から子へ、そしてその子孫に受け継がれる業と思想。
生来の退魔士ではない彼には、縁の無い領域の話だった。
「それだけか。それだけの理由で・・・・・・」
いつだったか。 似た様なことを誰かに問われた気がする。
それだけの理由で命を賭して戦えるのかと。
彼は、自分の命に価値などないと思っている。
妖魔の命が無価値と断じて葬る時と同じように。
大切なのは、何かを成そうとする意思。
命とは、その為に消耗される代価でしかない。
そう、思っていた。今でも、そう思っている。
それなのに、どうして未だに胸が軋むことがあるのか。
わからない。
「命を大事に、か。虚しい言葉だよな」
結局、全てはそこへ行き着く。
「じゃあ、そろそろ片付けるか」
湯飲みを干して、残りの書類整理に取り掛かる。
その後、支部長が帰ってきて、
「あー、私のお饅頭勝手に食べたわね、このバカ虎!」
「やかましい。茶請けは共有財産だろうが」
彼とひと悶着あるのだが。
それは語る必要の無い、他愛のない話ではあった。
【こちらはこれにて〆です】
【ありがとうございました】
極自然に
極々当たり前に
妖魔を屠り人を助け戦場に散る。
それが自分に取って生きると言う事。
刀が刀であるのは斬れる、ただそれだけの理由だ。
同じように私が私であるのは妖魔を屠る、ただそれだけの理由だと思っている。
そこに疑問の入る余地はない。
だから自分の能力を残念に思う。
何故攻撃に特化していないのだろう、と。
「私は大事にしたい人だけが大事にすればいいと思うよ。
大事にしたところで何かを為せなければ、ね……」
無為。
何故生きているのかさえ自然のあるがままに任せる思想を
円は好きにはなれなかった。
全ての事象には意味がある。
そうでなくては運命は辛過ぎた。
「今日はこのぐらいで今日は終わりにしようか。
……あら、お帰りなさい。出張は楽しかった?」
仲良く争う光景から目を離して沈む夕日を眺める。
これから満月が昇るのだろう。
「今夜は……妖魔が出そうね 」
それは期待ではなく確かな予感。
不思議と今日は胸が躍らなかった。
【こちらもこれで。
ありがとうございました
またよろしくお願いします】
【はいはーい、こんな時間だけど待機しますね】
【キャラハンも名無しも遠慮なくどうぞ】
【一時間経過】
【一度落ちますねノシ】
【名前】九条 葛葉 (クジョウ クズハ)
【年齢】外見年齢二十台後半
【性別】女
【サイド】妖魔
【組織】妖魔集団 狂都
【サイズ】165cm 82/60/83
【容姿】腰元まである銀髪、鋭い金色のつり目にややきつい感じの顔立ち。
外見上で人間と大きく異なる点は狐耳と四尾があること。
狩衣風の白装束、草履(足袋)、勾玉の首飾りを着用。狐面をつける場合もある。
【得意】和姦(過去の回想)、陵辱。
【能力】妖術(かまいたち、鬼火)、千里眼、"気"や"霊力"のない物理攻撃無視。
【武器】なし。
【NG】 グロスカ。
【弱点】妖力の源である勾玉の破壊。
【備考】千歳を超えた狐が変化するという天狐。一人称は『妾』。
過去に起きた人と妖魔との大きな戦いにおいて人側についた妖魔の一人(当時は九尾)。
人、退魔師と接するうちに彼らに強い信頼と未来の可能性を抱く。
人対妖魔の大戦終結後は日本を離れ、各地を放浪する旅にでていたが
その後の人達の独善的な振る舞いから肥大化していく"歪み"に気づき、対峙すべく帰国。
現在は妖魔集団『狂都』の守護職についている。クールだが気位が高く、気も強い性格。
首に下げた勾玉の首飾りは持ち主の力に関係なく"歪み"を通過出来る古の遺物。
【妖が少ない気がするのでこちら側で】
【皆様、今後ともよろしく(女神○生ぽく)】
【狂都】
人達が謳歌する世界とは表裏一体の関係にある妖魔達が住む世界。
中世時代の京を手本としたような古い町並みが広がっており
人達が住む表世界に侵攻しては覇権奪取を目論む妖魔達で溢れかえっている。
表世界へは"歪み"と呼ばれる空間のネジレを通して侵攻してくるために神出鬼没(不安定で到着点が予測困難)
"歪み"は大人一人分くらいの大きさであったが、表世界が荒れるに従って徐々に成長。
月の満ち欠けにもよるが、満月時には最も大きくなり今では中規模の湖くらいの大きさにまで広がる。
(満月時に侵攻が集中。"歪み"が大きくなればなるほど強大な力を持った妖魔達も通れるようになる)
【補足も置いときます】
【それでは遅いので、今夜はこれでお休みなさいませ】
【待機してみます。( )でおk】
【得意欄の陵辱なのですが、こちらがする場合は歪みから触手なり何なり】
【呼び寄せてくるということで】
【ただの民間人を襲うシチュは難しいですかね……?】
【それは所謂、女→男という逆レイプの類ですか?】
【出来ない事もありませんよ】
【得意でないようでしたら構いませんよ】
【ん?つまり今回はスルーという意味で?】
【自分の嗜好を押し付けるのもアレですしね】
【お騒がせしました】
【こちらが控えめな言い方をしてしまって紛らわしかったですかね】
【ノシ】
>>345 【…久しぶりに来て、待機に立ち会ったのも縁かしら。】
【拙文で良ければ、お相手しましょう。長時間は無理ですが。】
【…それ以前に、トリップが合っているか甚だ不安なのですけれどね…。】
【というか
>>342でちゃんと聞いてくれてたんですね( '・ω・)】
【すみません。民間人をこっちから襲うのはおkなので、またお願いします】
【ではお休みなさいませ】
【…どうやら、そのまま落ちてしまわれたようですね。】
【私も落ちます。】
【妾のターン……ドロー!!ということで待機します】
>>348 【気づかないでごめんなさい( '・ω・)】
葛葉・・・ライドウ?
・・・それはさておき、こんな時間ですが軽く御相手御願い出来るでしょうか。
ムドでよく即死したのも今ではよき思い出。
それで何時くらいまで大丈夫ですか?(こちらは三時まで)
此方も三時くらいかな。
とりあえずシチュはどうしましょうか?
此方としては適当な性悪退魔師で色々、とか考えてたりいなかったり。
何か希望がありましたら、其方に合わせます。
それでおkです。よろしければ、そちらからどーぞ。
【?……落ちられました( '・ω・)?】
【何か気に触ることを言ってしまったでしょうか。もしそうならすみません……お休みなさいませ】
その夜も、平時と変わらず静かなものだった。
何時もと変わらず人々は行きかい、屯し、往々にして散ってゆく。
普段通りの、在り来たりな光景。だがそれは、飽くまでも表の話。
歪み。異界と呼ばれる世界と、この世界を繋ぐ扉。
神出鬼没にして予測困難なソレと、異界からの妖魔の襲来は、
この街に住む多くの退魔師を悩ませていた。
そう、極少数を除いた、多くの退魔師を。
「ひひゃはははははははハァッ!!イヤ、実に愉しいネェ!」
必死に抵抗する妖魔の頭を、手に持ったチェーンソーで切断する。
彼の纏った黒いトレンチコートは、妖魔の血で更に黒く染まり、
その顔にも、返り血を浴び、修羅の如き有様になっているにも関わらず
彼は、目の前の妖魔を斬る事をやめようとはしなかった。
【いや、途中で文章を間違って消してしまいまして・・・。】
【遅くなって申し訳ない。】
【矢張り間に合ってなかったか・・・。】
【此方も落ちますかね、失礼しました。】
【はい、久しぶりに待機しますね】
【どなたでもどうぞ】
【ちなみに文章形式はご自由に】
【今回は落ちますねノシ】
【到着ですー】
春と夏の隙間の季節。雑木林を歩む影。
「さてさて、此処に問題の木妖候補がいるらしいけど」
七妖会・土妖・億月楓。数多の夜を往く吸血鬼。
始原の血吸いの鬼は、今夜勧誘のためここへと脚を運んだ。
最近この近辺に出没する、七妖会的に木妖として分類される妖魔。
後始末をきっちりとするタイプなのか、ともかく足取りが掴みづらく、
今日になってようやく目撃情報が入ってきた。
「まだいるといいけどね」
住居を定めず頻繁に狩猟場を変える妖魔は、捕捉するのが困難である。
今夜遭遇できるかどうかは運任せであった。
【はい、ではこんな開始でお願いしますね】
「・・・ただいま」
誰もいない雑木林の中で、土の上に座りながら少女は呟いた。
彼女の名はコハク、元々は遥か北の地に生えていた一本の松の木だった。
長く生きた故にその木は神木となり、それに目をつけたある科学者がその木に実験を行い、
人に近しい姿と思考を与えられた、人の生み出せし歪んだ命。
「・・・どうしよう」
口数の少ない彼女が、ポツリと独り言を漏らす。
このまま、生きる為に生き続けていても恐らく何も変わらない。
自分を「生み出した」科学者は、逃げ出した私を追っているだろう。
今の状況を続けていたら、いつかは拿捕されるしかない。
しかし、自分にはこの状況を変える力がないのもまた事実・・・
そんな考えに耽っていたからだろうか。
普段の警戒心の強いコハクからは考えられない事だが、
彼女は何者かが自分の今のテリトリー、この雑木林に入って来た事に、完全に気がつかなかった。
【了解です、ではこんな感じで】
【遅れてすみませんです】
物思いに耽っている少女の正面に、薄い影が差す。小柄なコハクとは
対照的にスラリと背筋が伸びており、そして遥かに女性的な体型をした女性。
闇の中で、更に深い漆黒の瞳が少女の細部を観察している。
緑色の髪/何処か作り物めいた白い肌/良く出来ているけど
食べられません/印象としては食品サンプルかな/じゅるり/
うんでも可愛いからいいや/わーい幼女マンセー。
ともあれ、第一印象はそれだった。
「こんばんは、お嬢さん。ご機嫌如何かな?」
得意の笑顔を浮かべて挨拶。
その根底にある浅ましさを感じ取れる者は、人間・妖魔問わず稀だ。
彼女の辞書に、節操という単語はあるが、使用される場面は少ない。
『こんばんは、お嬢さん。ご機嫌如何かな?』
少女の考えは、そのかけられた一声によって凍りついた。
土の上に直接ぺたんと座り込んだ姿勢のまま、怯えを含んだ視線を正面に向ける。
敵かもしれない誰かが、自分の前に立っている。
それだけでも彼女にとっては十分怯える理由になる。だが、それ以上に。
こんな近くにまで何者かが近づいてきたのに、それに気がつかなかった。
考え事をしていたからだけではない。
ここにきてコハクは、この半年で初めて、自分が精神的に疲労状態にある事に気がついた。
「・・・誰?」
視線は外さず、立ち上がると同時に一歩分の距離をとる。
自身に向けられる女性の笑顔に、一瞬だけ、自分の良く知っているニンゲンの笑顔が重なった気がした。
風が吹いて、笹の葉が揺れる。
彼女の束ねた黒髪も微かに揺れる。月光が静かに降り注ぐ。
二人ともその光景に似合っている。違和感がないといっていい。
何故なら出自はともあれ、彼女たちは人間よりは自然に近い存在だからだ。
笑う吸血鬼。その深奥に欲望と限りない虚ろを湛え。
怯えるように、一歩だけ後退する人造の木霊。
「私は億月楓。七妖会の土妖って言えばわかるかな?
人間じゃなくて、そっち寄りの存在だから安心して」
その瞳が一瞬だけ、紅く紅く爛々と輝く。
吸血鬼の邪眼。それは視線を合わせた者の動きを縛る。
だが、今はその意図がなかったので、相手に対する効果は無い。
「怖がらないで、私は貴方の敵じゃないから」
両手を軽く挙げて、一歩だけ間合いを詰める。
その顔に本物の笑顔を浮かべる。
「お名前、聞いていいかな?」
その紅い瞳を見て、コハクは少しだけ萎縮した。
億月楓と名乗った彼女は、確かに自身が言う通り、人間ではないのだろう。
もっと暗く、もっと深い、異質を孕んだ存在である事は分かった。
そして少なくとも、この状況で敵対したら人間よりも遥かに危険な存在であるであろう事も。
『怖がらないで、私は貴方の敵じゃないから』
こちらの恐怖を読み取ったかのようなその言葉に、コハクは探るような視線を向ける。
相手が一歩踏み込んでくる。その間合いは、自分の攻撃が届く範囲。
それが読めない相手ではないだろう。
だとするなら、その行動は自信から来るのか、それとも本当に敵意がないのか・・・
『お名前、聞いていいかな?』
・・・戦いになったら恐らく逃げられない、
ならば、現状では敵意がないという言葉を信じるしかない。
警戒は解かず、視線をまっすぐ女性へと向けて、少女は答えた。
「コハク・・・それが私の、名前、です」
「コハクちゃんね。うん、いい名前だね」
何の打算も駆け引きも存在しない言葉。
素直に少女の告げた名前を賞賛する吸血鬼。
相手が警戒していることは明確。
だがそれを気にしていては交渉は成立しない。
大切なのは誠意と笑顔、そして敵意がないことの証明。
「それでね、キミがここら辺で人間の・・・・・・まあともかく
吸ってそれを糧にしてるのはわかってるんだけど」
視線を合わせたまま、ゆっくりと目線を下げる。
身長差を帳消しにする位置まで。
相手と目線を合わせるのは、交渉の時には必要なことだった。
そのつもりはなくても、上からの目線は相手に威圧を与えるからだ。
「一人で活動するのも限度があるよね。
この街ってやたら退魔士と妖魔が多いから余計にね」
この街は特異点だった。
退魔士と妖魔が溢れ返り日々凌ぎを削っている。
「そこで、私たちの七妖会に入らないかなって、こうやって勧誘しに来たの」
『コハクちゃんね。うん、いい名前だね』
表情から察するに、純粋に自分の名を褒めてくれたのだろう。
少しだけ嬉しさを感じるも、視線を引き締めて油断がない事を示す。
『それでね、キミがここら辺で人間の・・・・・・まあともかく
吸ってそれを糧にしてるのはわかってるんだけど』
相手が自身に視線を合わせてくる。
よく言えば誠実な、悪く言えば油断が過ぎる対応。
今この瞬間に攻撃に転じれば、やりようによっては動きを封じるだけならできるかもしれない。
そんな状況に身を晒さずとも、目の前の相手は自分を捕らえるのも壊すのも簡単だろう。
ならば・・・
『一人で活動するのも限度があるよね。
この街ってやたら退魔士と妖魔が多いから余計にね』
その言葉に、目を閉じて、一度だけ頷く。
それは返事をすると同時に、警戒を解いた事を相手に知らせるために。
『そこで、私たちの七妖会に入らないかなって、こうやって勧誘しに来たの』
その言葉に、コハクはきょとんとした視線を目の前の女性に向けた。
たった今さっきまで考えていた状況を変える手段、それが向こうの方から転がってきた。
渡りに船という言葉が、頭の中に浮かぶ。
だが、その内容を考える前にひとつだけ、確認しておかなければならないことがある。
「あの・・・質問、なんですけど・・・」
顔色を窺うように、上目遣いに女性の目を見て、そしてこう問うた。
「七妖会って・・・何ですか?」
「七妖会っていうのは、簡単に言うと妖魔の共同体だね」
片膝を地に着けて、視線を合わせながら。
相手――コハクと名乗った少女は大分警戒心を解いた様に見える。
相手の眼を見ていると、相手の感情の機微が大体把握できる。
勿論、彼女の場合長年の経験と捕食者としての直感がそれを支えている
という面も否定できない。
「七妖会の目的はね、人間たちを駆逐して領土を奪還して、
妖魔の社会を作ることなの。キミみたいな子でも安心して暮らせる
ような世界を作るつもりなんだってさ」
それは途方も無い夢物語。少しでも人間の世界について知っているなら、
そのような戯言は一笑に伏すだろう。それだけ人間という生き物はこの世界を
支配しているということだ。どんな傲慢な妖魔であれ、心底ではそれを認めている。
「どうする?寄らば大樹の陰って諺もあるけど、無理にとは言わないよ」
彼女は強制しない。
相手の自由意志を尊重していることを強調する。
或いはそれさえも駆け引きのひとつであろうか。
彼女の語る、七妖会の思想。
それは生まれ出でてまだ一年経たないコハクにも、幻想のようなものであると分かる。
それに、コハク自身は人間に敵意は持っていても敵視はしていない。
そもそも厳密に言えば妖魔ではない「神木」のコハクにとって、そんな理想に価値など全くない。
しかし・・・
「ニンゲンに、キョウジって科学者がいる・・・七妖会は、そいつとも戦う?」
コハクの声色が、別のものに変わる。
先ほどまでと違った、氷のような殺意を秘めた瞳、
それに呼応するかのように、風も、木々も、動きを止める。
「あいつと戦う力、それを貸してくれるなら・・・私は、なんでもする・・・」
琥珀色・・・否、金色に染まった瞳を楓へと向け、
コハクは、その返事を待った。
――おやおや、これは意外だねえ。
コハクの示す殺意。それを恐れるように、
森羅万象が息を止めているかのような感覚。
その中にあって、数多の夜を往く悪鬼は、泰然とそれを受け流す。
「そうだね、邪魔になるなら容赦なくってのが七妖会の行動原理だし。
それが人間相手なら特にね。」
その金色の瞳を迎え撃つのは、虚ろな紅い瞳。
その若い殺意が、羨ましいと感じるのは、やはり気の遠くなる歳月の
大半を、孤独に過ごしてきたからだろうか。愛も悲しみも殺意も憎悪も、
今の彼女には遠い異国の言葉に等しい。
「キミの思想もキミの目的も問わないよ、利用するだけすればいい。
代わりに、キミの力を必要なときに私たちに貸してくれるなら・・・・・・・」
右手を差し出す。その手を握るのをじっと待つ。
差し出された右手を、金の視線が静かに見据える。
十秒ほどの時間が過ぎただろうか、
コハクが瞳を閉じると同時に、二人の周囲に音が戻る。
再び開かれたコハクの瞳は、その名が示す琥珀色に戻っていた。
「貴女は、どうなのですか? 七妖会にいるのは、
その理想のために、ですか? それとも、別の目的を・・・いえ」
そこまで言って、コハクは口を閉じた。
自分の目で見てもいない「組織」を信じる信じないなどこの際関係ない。
本当に信じるか否かを決めるべきは、今目の前にいるこの女性、億月 楓なのだから。
そしてコハクは、自らに差し出された手へゆっくりと手を伸ばし、
「・・・ん・・・よろしくお願いします、です」
手が触れた一瞬、はにかんだような表情を見せ、その手をとり、握った。
「うん、改めてよろしくね」
その手を軽く握り返す。
さて、長居は無用だ。さっさと安全地帯へ行こう。
七妖会の溜り場まで、二人連れ立って歩く。
この時間なら見咎める人間も滅多にいないだろう。
外見的には怪しい部分はないからその点は安心しているが、
今はコハクを連れているから急ぐ必要がある。
『貴女は、どうなのですか? 七妖会にいるのは、
その理想のために、ですか? それとも、別の目的を・・・いえ』
歩いている間、少女の言いかけた言葉を反芻する。
組織の理想に関心は無い。この世界は人間のものだからだ。
少なくとも太陽が昇っている間は。そした日が沈めば妖魔の世界。
この世界は陰と陽の流転で出来ている。どちらかに傾きすぎても
世界の均衡は崩れる。それは彼女の望むところではない。
ただ、ひとつだけ。
光が闇を認めるのかどうか。闇が光を受け入れるのかどうか。
それを知りたいと思う時がある。遠い遠い昔からの疑問。
「ふふ、幻想だよね、それってば」
そう静かに呟いて、吸血鬼は虚ろに微笑した。
【はい、こっちはこれで〆です】
【ありがとうございました】
自身の前を歩く、楓と名乗った女性の背を見つめながら、
コハクは、再び考えに耽っていた。
信じると決めたこの女性が、一瞬だけ自分が最も知る人間に重なって見えたことを。
コハクという名前を褒めてもらった時、嬉しいと感じた思いが、今でも胸の中に残っている。
あのニンゲンから与えられた、サンプルとしての、名を。
今歩いているのは、その人間と戦う為に選んだ道。
でも、何かが心の中で引っかかっている。
『ふふ、幻想だよね、それってば』
小さく聞こえたその言葉に、驚いて視線を上げる。
視線の先の女性は前だけを見ている。自分に語った言葉ではない。
(・・・迷わない・・・今は)
声に出さず、心の中で小さく呟き、
自分の選んだ道を踏みしめるように、強く一歩を踏み出した。
【こちらもこれで〆ますです】
【お相手してくださり、どうもありがとうございましたです】
【また機会がありましたら是非、よろしくお願いします!】
春と夏の隙間の季節。夜の公園を歩む影。
都立白清高校のブレザー。金色の髪。
斬鬼衆の御影義虎。
カツカツと、微かな音を立てて歩む彼は何処か空虚さを
纏っていた。現在の彼はその辺にいる無気力な高校生に過ぎない。
学生鞄をぶら提げ、両手をポケットに突っ込み。
いつも鋭いその視線は何処か虚ろで、心此処にあらずの状態だった。
街灯が明滅して、それに誘われた蛾が乱舞している。
彼はその下のベンチに腰を掛ける。
ゆるゆると、夕闇を進む影がある。
植え込みの暗がり沿いに音も無く。
影に付きしたがうように穏やかに揺れるのは、野犬にしてはやや太さの勝る長い尾。
体毛の砂色が、明滅する街灯を透かして浮かびつ、消えつ。
「―――。」
漆黒の瞳が、道なりに歩く人影を捉えている。
彼女なりの歩く早さでは、直に追い越してしまう。
だから、彼女はその足取りをゆるめる。
近づきもしないが、遠のきもしない。
やがて、青年は腰を落ち着けた。
無音。彼女もまた、暗がりに溶け込んだまま、尻尾を、乾いた土の上に落ち着ける。
街灯に灼かれる虫の羽音だけが、かがり火のように鳴っている。
夜の空気を吸い、肺に溜めてゆっくりと吐き出す。
胸中に渦巻く厭世的な気分も、一緒に吐き出したかった。
(後悔しているのか。殺したことを)
虚空を眺めながら自問しても、答えは無い。
己の内側に、その問いに対する答えは存在しない。
どれだけ妖魔を殺したのかなど憶えていない。
どれだけ人間を殺したのかなど憶えていない。
それでも時折その事をどうしようもなく重く感じるのは果たして。
「――誰だ?」
その時になって、ようやく気づいた。
誰かがいることを。それが自分を見ていることを。
全くと言っていいほど気づかなかった。
相手に敵意や悪意がなかったからだろうか。
歩み出る、獣の輪郭が薄明かりの下に現れる。
―――気配を隠す意思ははじめからなかった。
気付かれるのが随分と遅い、という印象は受けたけれど。
同じ場所で一度出遭った退魔士の男。
覚えている。敵意を受けたことも。命を救われたことも。
触れれば切れそうな強靭な意思は、今は見えない。
正対する場所まで進み出て、彼我の距離は六尺ほど。
死角をつけば逃げられる距離―――そういった判断だ。
やや甘めの読みではあるが、警戒を解いたわけではない。
男の憔悴した表情を、見上げる。
果たして、どういう反応をするべきか。
(犬?狐?)
ともあれ尋常な生き物ではあるまい。つまり妖魔。
そういえばこの間相棒の剣士がケルベロスの子供を拾ってきて、
大騒ぎした覚えがある。別に悪いことしてないし、ちゃんと躾けておけば
将来的に使い魔にすることだってできるだろうと言うのが剣士の主張なのだが。
「あー、なんだ・・・・・・・・お前は運がいい」
彼は以前としてベンチに腰掛けたままだ。
この体勢からでは、攻撃に移行するのには少し時間がかかる。
ほんの少し、常の状態に比べればという意味だが。
何より、今の彼には闘争に対する意欲が無い。
相手の――犬もどきは警戒しつつこちらを見上げている。
「今日は殺しをやる気分じゃない、さっさと去るがいい」
果たしてそれが伝わるのかどうか。
伝わらなければこちらが去ればいい。
こちらの姿を見せても、相手に戦意はないようだった。
くわえてどうやら、相手は自分を覚えていないらしい。
嘆息した為種が、この姿で相手に通じたかどうか。
空気が揺れる。獣の影が溶ける。
低い背丈。簡素なかたちのワンピースから伸びた手足。
獣と同じ、砂色の髪が夜風に揺れる。
「こんばんは」
まずは挨拶を。
じぃ、と相手を見てから目を細める。
冷淡、というほどでもないが、友好的でもない。
この青年が妖の者に向ける敵意は、一度目にしている。
「気持ちの良い夜が、あなたの顔で台無しなのよ」
釈然としない相手の様子を見遣って、もう一度、嘆息。
幼い風貌のために、妙に澄ました様子になる。
「―――以前、ハナは名宣ったのだったかしら」
【ちょっと私事で時間取られました】
【以後詰めます、ごめんなさい】
「――狐だったか・・・・・・」
面白くもなさそうに一言。
眼前で行われた変化には驚かない。
この程度の現象は、両手では足りないほどに目撃している。
確か、ある冬の日に出会った少女だった。
あの時と同じ眼の色、髪、そして服。
「・・・知らないな」
ハナと名乗った少女。ふ最近誰かにそんな名前を聞いた憶えが
ある気がしたが。それがいつ誰にだったのかは思い出せない。
「何か用か、殺しをやる気分じゃないって言っただろ」
彼の眼に殺意はない。ただ、面倒そうな色だけがある。
【了解しました】
「狐」
繰り返す。呼ばれた『名前』をそのままに。
「それ、腹立たしいわ。でも、何も言わないでおいてあげる。
それにね、殺されに出てくる莫迦はいないわ」
腰に当てた手の平を掲げて、見上げたのは暗雲に張り付いた月。
「まったく。ひさしぶりに、この空き地が静かだと思ったら。
貴方が居るだけで、後方の子まで途方に暮れているじゃない」
―――そう言って指差したのは、ベンチの背後に重たげに枝を差し伸べる、大樹。
「貴方が覚えていようといまいと、狐は恩に篤いのよ」
だからね、と笑う。
「それも、ハナが貰ったのはいっときの命。貴方にハナを殺める気が無いのなら、
返すにはこの上ない好機だわ」
先刻までの斥う様子を返上して、実に得意げな表情だった。
【申し訳ない…】
拭いきれない徒労感と虚無感。
消えることなく燻っている殺意と狂気と憎悪。
それらの生み出す不協和音。軋みを上げる精神。
絶え間ない責め苦。自分を形作っているそれら。
戦えばいいのだろうか。殺せばいいのだろうか。
眼前で恩について語る狐の少女を。
そうすればこの懊悩から、一時でも解放されるのか。
「鶴の恩返しは知ってるが――お前が俺に?」
その考えを握り潰し、脳内で焼却処分する。
確かに、動物が恩返しする物語は枚挙に暇が無い。
下手に関われば身の破滅を呼ぶこと危険性もあるのも事実だが。
「俺は別に助けたつもりじゃないんだがな。
それに、欲しい物もして欲しいことも思いつかん」
端的に自分の気持ちを伝える。
それに、本当に欲しいものは決して手に入らないと、彼は思っている。
「満ち足りている人は、そう物欲しげな顔はしないのよ」
恩を返すのだか着せているのだか釈然としない。
つっかかる調子になる、その理由は彼女自身にもわかっていない。
―――それでも。
「父様は言っていたわ。相手が何であれ、礼は尽くすべきだと」
全く同じ台詞を、近い過去、誰かに口にしたような気がするが―――
そんな記憶を意識の外へ追い遣る。
「見たいものがあるなら、見せてあげる」
夢は夢。
「会いたい人があるなら、会わせてあげる」
知っている。
それでも、夢は夢。
「ゆめを、みたくはない?」
彼女が見せるのは、既に在るものだけだ。
虚無から、何かを生み出すことはない。
いわば鏡。
「貴方の本当にほしいものは、そこには無いのだわ。
・・・・・・
でも、欲しいものがあるなら、それを見せてあげる」
この人間は、まやかしの類を好みはしないだろう。
踏み込むことで敵意を受ける可能性も、無ではない。
彼女の直観はそう告げている。
しかし、誠意は尽くすべきだと、そう教えられた。
彼女にできる、それは最上にして唯一を申し出る。
「そういったことは―――本意ではないかしら?」
【思いのほか時間がかかってます、ごめんなさい】
【最初に展開をちゃんと練っておくべきでした、本当に申し訳ない】
【認める、なら展開は打ち合わせないと駄目っぽいので凍結で】
【不可、なら多分、ガラクタの詰め合わせを押し付けられたとか】
【名状しがたい感じの後日談かなぁ】
【他に案があったらお願いします】
【………最初に考えておけと】
狐の言葉が心を波立たせる。
見たいもの。会いたい人。
会いたい人などいない。もうこの世にはいないから。
会いたくても、会えない。記憶の中でしか、会えない。
けれどそれは、裏を返せば、本当は会いたいという気持ちがある証拠で。
決して辿りつくことのできない桃源郷。
家族がまだ生きていて、今も春になれば花見をしている情景。
先輩がまだ生きていて、自分の傍で微笑んでいる情景。
誰かを愛して、誰かに愛される情景。
それは決してないのだと、狐が言う。
そんなことはわかっている。
ああ、だというのに、その誘いのなんと甘美なことか。
自分の中に乾いた空白があることは知っている。
それが決して満たされない部分だということも。
けれど――だから――
彼は一度だけ微かに頷いた。
【いえ、打ち合わせしてませんでしたし】
【こちらこそすみません。時間は平気ですか?】
>384
【じゃあ認めるルート選んだので凍結ですかね】
【簡単な打ち合わせで続けられるようであれば】
【そちらが大丈夫であればお付き合いして問題ないのですが】
【一度打ち合わせたほうがいいかもしれない】
【サラっと終わってもそれはそれで、って感じですけど】
【でも、この流れなら凍結かな……】
【大変お待たせしたのに、ごめんなさい】
【まあ今日は特に問題ないですけど】
【サラっと流して終わるのもありかと】
少女は、目を細める。
漆黒の瞳に浮かぶのは、魔性の蒼。
「―――そう」
欲するものを認める強さも。
欲するものを拒絶する弱さも。
それがヒトの性なのだと、彼女は理解している。
呼び水は、ほんの囁きだった。
「そのつま先に浮橋を、その肩に、かの手の枕を」
風ひとつ動かない。
青年と狐精のわずかな頭上に、
閃光と共に爆ぜる、みじかい命の音が立て続けに三つ。
―――それだけだ。
瞬きほどの時間もない。
細い囁き。
「ひとよはめぐりて、ゆめはゆめ」
少女が、瞼を降ろす。それが終焉の合図。
「ゆめのゆめ」
ほんの一瞬、だった。
その刹那に目の前の青年が何を見たのか―――
物憂げな目が、今しがた覚めた相手を見る。
【では、こんな感じで】
有り得ない情景。望んだ光景。
有り得ないからこそそれを望み、欲し、そして
手に入らないという事実を再確認して落胆する。
それだけのこと。悲しいほどにそれを理解していた。
だというのに、この頬を濡らす涙は。
孤独な凶戦士は、静かに涙を流していた。
茫っ・・・・・としたまま手の甲でそれを拭う。
「・・・・・・なんだ・・・・・・俺の涙か・・・・・・」
自分が泣いているという事実を確認する。
咽ぶこともなく、ただ、静かに涙が流れている。
それはとても幸せな光景で、それは決して手に入らない。
それを再認識した。つまりこれはそれを確認するためだけの儀式。
「ハナは何も見ていないわ」
目線を外らした、とも、彼を通り過ぎてものを見れる面持ちで少女は言った。
「あなたに『見せた』、今のは、それだけ」
必要ならば、より深く重ねることもできる。
しかし、今は命を削りあう場ではない。
何より、それは彼女の矜持に反する。
一度だけ、相手に気付かれぬように瞼を伏せる。
鈍く残る、喪失の痛み。
彼女自身も知る、慣れ親しんだ感覚。
しかし、そのことは口にしなかった。
唇を噤む。
また、いのちが爆ぜた。
暗闇に佇む木々が、その様子を黙して見守っている。
―――再び、学生服の青年が視界に納まった。
「それじゃあ、」
背に腕を組んで、爪先を持ち上げる。
「これで用は御仕舞い。貴方が『乗り気』になる前に、ハナは塒に帰るのよ」
ひらひらと手を振った。良い夜を、と一言いいのこして。
今日は何処で眠ろうか、と思いをめぐらせて、未だ鈍く残る痛みを思い起こす。
自らの見る夢に、彼女の手は届かない。
そして、彼女が思い至った今夜の『ねぐら』が、
今日遭遇した青年の良く知る人物の元であろうことを、
今の彼女には知る由もなかった。
『ハナは何も見ていないわ。
あなたに『見せた』、今のは、それだけ』
狐の言葉に、ようやく現実感が戻る。
そして、その言葉に彼は密かに感謝した。
それが事実であれ、気遣いから出た 言葉であれ。
『これで用は御仕舞い。貴方が『乗り気』になる前に、ハナは塒に帰るのよ』
狐が言い、手を振って夜の中に溶け込んでゆく。
かくして一人と一匹が別れた。
「――やれやれだ・・・・・・」
肩を竦めて、自分も立ち上がる。
結局、何も変わらない。過去も現実も。
そんなことはわかっていた。プラスにもマイナスにもならない。
だからこそそれは夢なのだ。けれど、少しだけ気持ちが軽くなったのも事実。
「今度会ったら――なんか食わせてやるかな・・・・・・」
ぶらぶらと歩き出しながら、そんなことを呟く。
獣の妖魔が喜ぶ行為など、幾つも思いつかない。
「まあ・・・・・・暫くは無意味に妖魔殺すのは止めとくか・・・・・」
それはほんの思いつき。だが悪くないように思われた。
ともあれ、彼は自宅への道を辿った。
それから暫くの間のことだ。
彼は仕事に励むこともなく、ただぼんやりと日常を送った。
【こちらはこれにて〆です】
【ありがとうございました】
【長時間のお相手、重ね重ね感謝します】
【手が遅くてご迷惑お掛けしました】
【丁寧なロールに感謝します】
【名前】リトル・T・シルヴァニア
【年齢】314歳(見た目は14歳)
【性別】女
【サイド】中立
【組織】なし
【サイズ】身長142cm 体重38kg B78/W54/H80
【容姿】髪は白銀色で、角結いのお団子と胸元まである巻き髪。
瞳はルビーのように赤く、唇は淡い桜色で、耳は僅かに尖っている。
あどけなくも妖艶な表情に小柄な身体を黒のゴシックロリータ服に包む。
ヘッドドレスは黒薔薇の刺繍に、地面まで届く長い黒リボンが特徴。
二段フリルのスカートの裾は短く、黒のオーバーニーソックス姿。
肌は雪のように透き通っていり、まるで美しい西洋人形のよう。
【得意】吸血(精液でも代用可)した相手を一晩限りの奴隷にできる。
エッチな夢を見せる(相手の夢に登場してHする…いわゆる夢オチ)
和姦(まだしたことないけど…現実では受けだと思う)
【能力】催眠術・夢操作・空間浮遊・霧化・再生・魅惑(捨てたい能力)
【武器】愛くるしい笑顔・伸縮自在の爪・強大な魔力
【NG】スカグロ系(グロされた場合、すぐに再生しますので…)
【弱点】封印&捕縛系結界・耳に息を吹きかけられること(笑)
【備考】父は吸血鬼の真祖で、母は淫魔と人間のハーフな外見は人間の少女。
300年間封印されていたヴァンパイアハーフにして、淫魔クォーター。
父が何者かに倒されたことで膨大な魔力がリトルに受け継がれ復活した。
時折、無意識に発動する魅惑(チャーム)により異性に言い寄られ易い。
本人は辟易していて、本当の自分を好きになってくれる人を求めている。
通り名は「リトルプリンセス」「魅惑の吸血姫」「夜の幼女(笑)」など。
本人は1番目がお気に入りで、2番目は大袈裟と呆れ、3番目には激怒。
父が爵位(伯爵)を持っていたので魔界にも通じているが、我関せず。
魔界からの伝令を無視し、人間界で自由気ままな生活を楽しんでいる。
父の魔力を受け継いだことで子爵級の上位魔族と同等以上の力を持つ。
性格は我が儘で気位が高く、Hに興味があり、稀に優しさを見せる。
現実でのHの経験はなく、他人の夢の中でしかHの経験はない。
あまり考えて行動していないように見えるが、勘はかなり鋭い。
低次元な人間と下級妖魔の小競り合いには全く興味がない。
悪戯好きのため対魔側に目をつけられているが、本人は気にしていない。
【ぢゃぢゃ〜んっ♪】
【今はプロフィールだけだけど、また後で遊びましょうねぇ?】
「さぁ、今夜の獲物を探しちゃいましょうか?」
真夜中の閑静な住宅地の空を、黒い翼を生やした何者かが飛翔する。
影だけ見れば、それは物語の中の天使のようにも見えた。
けれどそれは全身黒ずくめで、白銀に靡く髪と雪のような白い肌を見え隠れさせていた。
「この前は引きこもり、昨日は童貞の受験生…。
ふふっ、昨日の子は最高だったわね?
夢の中でしてあげたら、現実でも夢精しちゃうんだもの。
臭くって汚らしいったらありゃしない♪」
冷たい微笑みを浮かべながら少女は闇夜を踊るように舞い続ける。
彼女の名は『リトル・T・シルヴァニア』。
吸血鬼の真祖としての力と、淫魔の力を兼ね備えた珍奇な存在。
人間界に住む数少ない上位魔族であることと、その若さと容姿から
闇の世界では『リトルプリンセス』との通り名で呼ばれることが多い。
稀に彼女の容姿と趣味を皮肉って『夜の幼女』などと呼ぶ者もいるが…。
「でも今夜は何だか気が乗らないわね…。
このまま少し、空の散歩も悪くないかしら?」
うつ伏せから仰向けになって、地上に背を向けてふわふわと風任せに飛ぶことにする。
【もうすぐこんばんはの時間ですが】
【挨拶に参りました。今後よろしく】
>>397 【わざわざ挨拶だけのために来るなんて物好きな人ね?(くすっ】
【えぇ、こちらこそよろしくお願いします】
【それじゃ、一度これで落ちっと】
【丁度時間が空いていたので】
【ではこちらも落ちますノシ】
「ん〜、そろそろお腹が減ってきたかも…。
遊びより腹ごなしの方が先かしらね…?」
夜空をふわふわと飛びながら、地上に獲物がいないか探し始める。
「どうせならカッコイイ人が良いけど…」
唇を舐めずり、食欲を満たすための獲物を探している。
【また待機しちゃうわね?】
「今夜はなかなかいい男が見つからないわね…。
ほぉんと、ツマラナイ街ねぇ?」
探すのも飽きてきて、仰向けになって適当に夜空を飛ぶことにする。
【誰もいないのかしら?】
【まだいらっしゃるかな?】
【えぇ、まだいるけれど…貴方は?】
【女性キャラハンなんですが、男性相手のほうがいいでしょうか?】
【名無しでロールしてもいいのですけど】
【じゃあ、名無し男でお願いしても構わないかしら?】
【一応、どんな男かだけ教えてもらえたら…ね?】
【普通の高校生を考えてますが……簡単にプロフ作りましょうか】
【ちょっとお待ちくださいな】
【えぇ、じゃあプロフお願いね?】
【それから、ついでに出だしもお願いしてもいいかしら?】
【こちらから絡んで行かせてもらうから…】
【名前】永井 至(ながい いたる)
【年齢】 18歳
【性別】 男
【サイズ】173cm 68kg
【容姿】若白髪が混じる短髪、Tシャツにデニムのジーパン
【まあこんな感じで。シチュとかリクエストありますか?】
【書き出しは了解。さらにお待ちください】
【シチュはこちらの自由に行かせてもらってもいい?】
【スタンスのお披露目みたいなものをしておきたいから…】
【了解しました。では当たり障りの無い感じで行きますね】
【一応トリップなど付けておきます】
ちっ、せっかくの夏休みだってのに女の子の一人も引っかけられないとはツイてないな……
こんな日はさっさと帰って寝たほうがいいんだろうが、さてどうしようかな。
(夜の繁華街に繰り出したはいいが生憎ナンパに失敗し)
(途方にくれた様子で家路を急ぐ一人の男)
「んっ……この感じ、だぁれ?」
人間の、しかも男の欲望を感じ取って地上に目を向ける。
すると夜道を歩いている白髪交じりの若い男が見つかった。
「うふふっ、いいわぁ…この感じ…。
あれならお腹も…あっちの方も満たせそうね?」
男を上空から見下しながら独り言を呟くと、霧散するように姿が消える。
「ねぇ、そこの貴方…?
今、お一人なのかしら…?」
瞬時に男の背後に現れて、後ろから声をかける。
不敵な笑みを浮かべながら…。
(誰も居ないと思っていたところに声をかけられ、ひどく驚いた様子で)
(表情は硬く、警戒心を隠さずに誰何する)
うわっ、びっくりした。
確かに俺は今、一人寂しく家に帰る途中だけどよ……君、誰?
(じろじろと頭の天辺からつま先の先まで観察する)
見た感じ、コスプレ少女って感じだけど……
もしかして迷子?もう夜も遅いし、お家に帰んな?
(一人得心して勝手に話を進める)
「コスプレ少女…?」
こめかみをピクリと反応させてその言葉を繰り返す。
「この時代に復活してから、よくそう言われるのだけど…」
ボソッと小さく不満を呟いて、何事もなかったかのように笑顔を見せる。
「えぇ、迷子なの。
だから貴方の部屋に泊めてもらえないかしら?」
そう言うと男の目の前に手をかざし、何事かを呟く。
仕上げにルビー色の瞳で男の目を見て、催眠術は完了する。
「じゃあ、まずは血をいただくわね?」
術にかかり呆然と立ち尽くすのみの男の手を取って、一差し指の腹に爪を立てる。
そして傷口から滲み出した血を愛おしそうに、男の指を咥えて味わう。
「んっ…ちゅっ…ちゅっ……」
血が止まるまでの僅かな時間、指を咥えたまま男の血を喉に流し込んで行く。
「ちゅぷっ……んふふっ、ごちそうさまっ♪」
少量の血液で満足して、男の指にキスをして指を解放してやる。
「じゃあ、良い夢を見させてあげるわね?
とっても素敵な、甘い天国の夢を…」
再び男の目を凝視して、そしてリトルの姿は霧のようにして消える。
そうして男の夢の世界に入り込んでしまう。
(相変わらず勝手にお節介を焼こうとして)
(少女の反応には全く気付かない)
そうだ、せっかくだから家まで送ってってあげよっか。
夜道は危ないからね、最近じゃここらも何かと物騒だし……
え?俺のへ……ゃ……
(ちらちら整った顔を眺めながら話していたため、あっさり術中にはまる)
(虚ろな瞳でぼーっと立ち尽くしたまま、行為を受け入れて)
こ、ここは……?確か、俺は……
いつの間にここに……?
(どうにも思考がまとまらない)
(深層意識がイメージしたのは、最もなじみのある場所、すなわち自分の部屋だった)
(ただし、辺りは靄がかかっているかのように白く、はっきりと見通せない)
そこはイタルの夢の世界。
お互いにそこでの感覚は現実と差がないくらい。
リトルはこれが非現実と分かっているけれど、それをイタルには明かさない。
あと彼がイタルという名前は、意識を同化させて読み取った情報。
「ねぇ、イタル…。
今夜は泊めてもらえるお礼に私のこと…好きにしていいのよ?」
目を白黒させているイタルをからかうように背後から声をかける。
イタルの勉強机の椅子に座り、足を組んで挑発的に…。
わっ、そう何度も驚かさないでくれよ心臓に悪い。
(不意にかけられた言葉に驚き、照れ隠しに軽く怒ってみせる)
そうか、俺は……この子を……
じゃあ遠慮なく好きにさせてもらうよ?
(状況に何ら疑問を抱かず、言われた事を受け入れる)
(そして自分に都合のいいように解釈し納得していく)
まずはやっぱりフェラだよな?
ほら、奉仕してくれよな。
(椅子の前に立ち、いそいそとズボンを下げて男根を取り出す)
(これから起こることへの期待に男根はそそり立ち、ビクビクと脈打っている)
「この私に奉仕しろですってぇ…?」
深く考えず、やる気になっているイタルを軽蔑するように吐き捨てる。
「もうこんなにして……欲望の塊のような男ね?
貴方にはこうするのがお似合いよっ♪」
冷笑を浮かべながら片足を伸ばして、男の勃起を踏み付ける。
「私の足はどうかしら?
ほぉら、気持ち良いって良いなさいよ?」
馬鹿にしたように、足の指も動かして勃起を足で弄ぶ。
勃起の先から滲み出る液を足の親指につけて糸を引くのを見て…。
「いやだわ…なぁに、これ…?
私のソックスをよくも汚してくれたものねぇ?」
笑いながら今度は両足でグリグリと男の勃起を苛める。
ぐっ……
(敏感な部分を踏みにじられて苦悶の表情を浮かべる)
(しかし、生理的反応は防ぎがたくぬるぬるとした液が分泌される)
う、嘘だろ?こんなことされて感じる…訳が……ぁっ!
(いつの間にか苦痛が快楽へと転じているのに気付き愕然とする)
やめろ…君がそんなことするから悪いんじゃないか…
俺は、ただ……
(顔を真っ赤にして反論するが、責めが強まるにつれ余裕がなくなり)
ひっ!りょ、両足だなんて刺激が……強すぎる……
だめだ、もう……出るっ!!
(びゅくびゅくと脈動する男根からは白濁液が吐き出され)
(勢いよく飛沫が少女の顔にまで届く)
「この私が悪いですってぇ!?
貴方って、ほぉんとお馬鹿さんね?
こんなにしてる貴方が悪いに決まってるじゃない!!」
言葉でも足でも男を苛めていると…。
「えっ………きゃあっ!?」
顔にまで白濁したものが飛んで来て、回避は間に合わずに全身に浴びてしまう。
「……んっ」
頬についたそれを指で拭い、その指を咥えて白濁の味を見る。
「……貴方、本当に最低な男ね…?
私にこんなに掛けるなんて…早漏なんじゃないの…?
やっぱり貴方には私を抱く資格なんか……あぁっ!?」
精神的に追い詰めて行為に持ち込もうかと思っていたところへ、
不意に魅惑(チャームの)術が発動してイタルにかかってしまう。
「しまった!?
イタル、貴方………」
慌ててイタルの顔を見ると、それはすでに理性の枷を外された男の顔。
「………ダメ、みたいね……?」
これから起こる本能のままに犯されるだけの行為を思い、ため息をつく。
【ここから無理やり犯していただけるかしら?】
バッ、馬鹿言うなよ!この俺が早漏な訳ねー!
そう、これは事故!事故なの!
(言葉で嬲られるのに強く反発し、必死になって抗弁する)
(しかし、どんなに虚勢を張っても射精してしまったのは事実で)
(半萎えのモノを丸出しで話すのだから説得力は皆無だ)
だから今のは無し、ノーカンノーカン!
今度は負け……な……
(続けてまくし立てようとした所で魅惑の術がかかる)
……
(焦点の合わない目、表情の抜け落ちた顔)
(しかし鼻息だけは荒く、再び男根は力を取り戻し猛々しくそびえ立つ)
うおおおぉぉぉっ!
(雄たけびを上げると同時に無理やり少女を床の上に押し倒す)
(ぶちぶちと音を立ててゴスロリ衣装を引きちぎり、背後へと投げ捨てる)
ふー…ふー……ん、ちゅぷ……れろ……
(あっという間上半身を裸にすると、乱暴に控え目な胸をこね回す)
(そして舌でその先端に刺激を与える)
【りょーかーい】
【参考までにリミットなどあったら教えて】
「…………っ」
無言で力を取り戻した勃起を見つめて、その大きさに息を飲む。
リトルならば夢の世界を抜け出してイタルを放置することはできた。
けれどそうすれば欲望を吐き出せないイタルは現実で欲望を満たさねばならなくなる。
そうなるとターゲットになるのは家族…母親や女兄弟…。
事故とはいえ、リトルは誰にもそんなことはさせたくはなかった。
だったら、自分が受け止めてやれば良い…。
夢の中なら、傷付くのは心だけで済むから……。
「きゃーっ!?」
乱暴に床に倒されて、上に乗られてしまう。
普通の人間の力とは思えない程の力で衣服も引きちぎられる。
「ひぅっ……!!」
胸を舐られる感触に背筋を震わせながら耐える。
【1時半くらいまでなら…】
んむ、じゅる……じゅぷ……かり……
(時々乳首に軽く歯を立てながら胸を重点的に嬲る)
(少女の叫び声を聞いていったん手を止めると、顔を上げてニイと嗤った)
(そのまま視線を下半身に向けると、一気にスカートとショーツを取り去る)
(小さな秘裂にいきなり指を突っ込むと、その先が濡れているのに気付いてもう一度嗤った)
いくぞ……!
(そう宣言すると、いきり立った男根をズプリと突き入れた)
(己の獣欲の赴くまま、乱暴に突く)
「イタ…ル……ッ」
感覚では偽物にしても肌が触れ合っている温もりを感じている。
けれど心の通い合いのない行為ではそれは温もりとは感じられなかった。
「んっ…!!」
下半身を外気に曝され、指を身体の奥に突き入れられる。
抵抗するように腰を捩ろうとするが、体格差でそれは叶わない。
「えっ……いやっ、イタルッ…。
ぐぅっ………!!」
何度も経験した破瓜の痛みが小さな身体を襲う。
肉体に準じる精神体では、何度行為を重ねても処女になってしまう。
現実の肉体で行為を行わない限りは……。
「くっ……大丈夫、すぐに慣れるわ……」
自分に言い聞かせるかのように言葉を発し、イタルを哀れむように見る。
ふっ……ふっ……
(一番奥に到達すると一旦動きを止め、軽く息を整える)
(ゆっくりと抽送を始めれば、徐々にそれは加速し)
(それは少女の肉体を利用した自慰に過ぎず、そこに愛情の入り込む余地は無い)
ぐ、締め付けが……
(少女の反応などお構い無しに、ただひたすらピストン運動を続ける)
(それでも肉体は律儀に生理的反応を返す)
(哀れむような視線など意に介さず、一人で登りつめていく至)
(そして、最後の瞬間が訪れた)
で、出るぞ……っ!
(叩きつけるように最後の一突きを繰り出すと一段と膨らんだその先端から精液が噴き出す)
(そのまま意識を失い、仰向けに倒れこむ)
(先程までの凶行が嘘のように安らかな寝顔で……)
【では〆に向かいましょうか】
【あまりうまくなくて申し訳ない……orz】
「んっ……んっ……」
何の遠慮もないピストンに呼吸を合わせて痛みを紛らわせる。
心の通った、同意のセックスならばもっと気持ち良いのに……。
だからこそ上手いとか下手じゃなく、大事なのは気持ちなんだと思う。
「んんっ…!!」
不意に子宮口を責められ身体は素直に感じてしまう。
心は冷めていても、膣はイタルを締め付ける。
「イタル……うんっ!!」
奥を強く突き上げられ、熱が一気に雪崩れ込んで来る。
何の感慨も感動もなく、ただ熱いのが注がれるだけ…。
「………ふっ、あぁ……イタル……?」
何の感情もなく最後まで受け止めて、仰向けに倒れたイタルを気遣う。
しかし彼はこちらのことなどお構いなしで眠っている。
「…………悪かったわね」
にも拘わらず、罪悪感を感じるのはいつもリトルの側。
イタルが平静を取り戻したことで夢の世界を終わりにする。
「………………」
現実に戻るとイタルは道端で眠りくずれていた。
出会った場所から数歩も動いてはいない。
「貴方なんか、風邪でも勝手に引けば良いのよ…ヘタクソ」
出会った時の笑顔のない表情で吐き捨てると空へと飛翔する。
「………ふんっ」
現実の肉体には何の影響もなくとも、リトルの心には傷になっていた。
魅惑をレジストする術がどこかにあると聞いたことがある。
それさえあれば…、そう思いながらリトルは闇に戻って行った。
【では時間ですのでこちらはこれで〆させてもらうわね?】
【色々と我が儘を聞いてくれてありがとう】
【じゃあ、お先におやすみなさい…】
【特に付け足す事もないのでこのままで】
【リトルさんの試運転になっていれば幸いです】
【では、こちらもお休みなさい。失礼します……】
【楠様とのロールです。】
それは、全くの偶然だった。
偶々自分が此処に居て、偶々ソレが其処に居る。
起こった事象としてはたったそれだけの話。
それがただの人間であるならば、気にも留めずに放っておいた事だろう…
…そう、例えそれが、死んだ筈の人間だとしても。
「…暑い…。」
灰色の空、ギラギラと照りつける太陽、まるで機械のように行きかう人々。
ビルとビルの隙間に出来た、その場所にそのバケモノは居た。
世死見道迷。七妖会に所属するヘタレな金妖。
殆ど線にしか見えぬ空間から街中の雑踏を眺めながら、
七妖会から空間転移で引き出した斬鬼衆のデータを読み、愚痴を吐く。
「…『エミ・シグルーン・シッグザール』……確かに死亡した事になっていますね。
……誰だ、これ書いたの。全く、手抜きして…。」
『…斬鬼衆ニ関シテ手ヲ抜クトモ考エニクイケド。
マ、少シバカリ追跡シテモ損ハナイダロウサ。』
その愚痴に、相棒である魔鋏が答える。
話に出ているのは、雑踏に紛れて歩みを進める一人の少女。
死者に、しかも斬鬼衆に酷似したその風貌は、
この三流の、しかしそれでも勘だけは鋭いバケモノの注意を引くのには十分だった。
「…ったく、面倒臭いな……。」
雑踏の影に、物の隙間や影に身を隠し、少女の後を追う―――
―――その正体を突き止めるために。
「…うん…?」
誰かの視線を感じて後ろを振り返る。
気象庁の予報通りのうだるような暑さにもかかわらず汗一つかいていない少女。
一種異様な気配が漂っているが道行く多くの人は気づかない。
むしろタンクトップだけという薄着と、その身長に驚いて振り返る者が多い。
世の退魔士を挑発するように強い妖気を隠そうともしない。
魔なるもの、魔を狩る者、どちらでもいいが引っ掛けるつもりの強気な態度だった。
―こちらに向けられている妖気は1つ、いや2つか。
とりあえず撒く振りだけでもすれば食い付いて来るだろう。
赤になってまもない横断歩道を走り抜けそのまま路地裏に姿を消す。
しかし一瞬の後、その路地裏に少女の姿は無い。
『「…うん…?」 』
後ろを振り返った少女に、一瞬硬直する。
周りの人間が蒸すような暑さに項垂れている中で、汗一つかかない少女。
かつて目の前にした金髪の少年が纏っていた、
生きた者が持つべき気と呼ぶべきはこの少女には無く、
その代わりに身に待とうのは、人間にあるまじき強い妖気。
『…コノ妖気…斬ッタ妖魔ノモノカト思ッテイタノダガ、ドウヤラ違ウ様ダナ。』
「…自己顕示欲が御強い事で…全く、面倒くさい。」
目の前の少女の異常を論議している内に、自分達の存在に気が付いたのだろうか。
少女は撒くかのように横断歩道を走り抜け、路地裏へと入る。
「…!?逃がすかッ!」
だが、それは罠。
目の前の餌に目が眩んだ獣が、檻の中へ閉じ込められるように、
少女という餌に釣られた妖魔も―――
「……あれ?」
少女が駆け込んだ路地裏―――だが、そこに少女の姿は無く。
半ば液体と化している自らの体を隙間から捻り出し、辺りを見回す。
自らが、檻に捕らわれた獣だとも知らずに。
何もないはずの男の背後の空間から突然足が生える。
徐々に全身を現した少女には、右手がない。
まるで透明な怪物に食われているかのようにすっぽりと肘から先が消えていた
「やっと姿を現したね。人型と…なんだ武器型?鋏?」
全身に闘気と妖気を纏わせて妖魔の後ろに立つ。
若干困ったような顔をして相手の得物を見ている。
背後から斬りかかる気など毛頭ない。
「…生憎、私は鋏は家庭用しかもっていないんだ。同じ武器で戦いたかったんだが…。
是非、お前をそれを殺したら頂きたいな。鋏、私のコレクションにならない?」
台詞と共に何も無い空間からゆっくりと現れたのは、腕だけではなかった。
その手に収まっているのはおよそ少女は持ち上げることさえ不可能そうな物騒な大剣。
「さあ、構えなさい。この町最初の獲物だ。」
「…何処に行ったんだろ…。」
自分のすぐ後ろで起こっている事など全く気付きもせずに、少女の姿を探すバケモノ。
この、人外のモノにあるまじき間抜けさで、退魔師に滅せられた事は数知れず、
一体どうしてこうなのかと、努力をしても一向に治る気配は無く。(かませ犬補正です、御了承下さい。)
『「やっと姿を現したね。人型と…なんだ武器型?鋏?」』
「うどわッ!?」
突然の背後からの声に、驚き戸惑ながらも振り返るバケモノ。
そこに居たのは、先程自分が追跡していた少女―――
―――しかしその身に纏う闘気と妖気は、本来普通の少女が持つようなソレではなく。
…というかこの時点で、死亡フラグが立っているような気がするんだパパン。
『「…生憎、私は鋏は家庭用しかもっていないんだ。同じ武器で戦いたかったんだが…。
是非、お前をそれを殺したら頂きたいな。鋏、私のコレクションにならない?」 』
何か物騒な事を喋りかけてくる少女。その台詞と共に現れる腕と、竜殺…
…ゲフンゲフン、少女には似つかわしくないほど巨大で、物騒な鉄の塊。
不条理にして、余りにも不幸な展開―――こんな時彼の頭の中を過ぎるのは、たった一つの言葉だけ。
…コレ、なんてイジメ?
『イヤ、ナントイイマスカ、出来レバ辞退シタイナトカソンナ意思ヲデスネ…』
「…参ったなぁ。見逃してくれる…訳も無いですよね。
…まぁ、仕方がない、か。それじゃ、まー…愉しんで下さい。」
魔鋏を前に構え台詞が終わると同時に。
そこ等の物陰や隙間から自身の分身達が飛び出し、自身もそれに紛れ込む。
一体一体は本体と同じ、脆弱なモノに過ぎない。
かと言って、沢山居たとしてもやっぱり脆弱な存在に過ぎないけれど。
「「「「「「「「…混沌を!!」」」」」」」」
叫びと同時に、てんでバラバラな動きをする本体+分身達。
ある意味混沌なその光景―――その中に身を潜める。
目の前の少女の隙を、弱点を見つけ出す為に。
「……うわあ。」
あまりに奇怪な光景。今まで見た何よりも非日常的で、滑稽な様。
クールを装っていたのも関らず思わず気の抜けた声を漏らしてしまう自分が、情けない。
しかし、これでも左肩に傷を受ければ必ず負けるはずなのだ。
―ちょっとどうやって負けるのか、見たいかも。
咳払いを一つ。
「……Tanz des Todes」
質量を無視したかのような速度で大剣が右から左へ移動する。
今度は反動を利用して左から右へ。
少しでも触れたまるで電車に轢かれたかのように分身は砕け、吹っ飛んでいく。
この通常なら有り得ない切り返しの速さに飛び込むのは余程の命知らずか、自信家だけだった。
そして飛び込んで生き残った者は、果たして10人も居ただろうか。
残ったのは2体。
目星を付けた一体目掛けて大上段に振りかぶり、そして一気に振り下ろす。
一見普通の構えだが、振り下ろされる速度と、パワーが尋常では無かった。
分身が砕け、地面に叩きつけられた剣はそのまま折れてしまう。
「安物の剣じゃやっぱ駄目ねぇ。それにこの技で倒せないって事は…あなた、実は結構やる?」
その台詞と同時にまた右手が伸ばされ、虚空に消える。
出てきた剣は、今度は日本刀。
―少し、試してみようか。
今度は妖魔の方向を向かず、剣が出てきた虚空を向いて構える。
それは居合いの構え。一撃必殺の奥義。
「今度はあなたが賭ける番ね。上か右か、どっちかから剣が出てくるから。」
必殺の一撃が虚空に消える。
…分身を召還してから、ものの1分も経っただろうか。
先程まで存在した、数十体の分身は既に無く、
辺りに散らばるのは自身の分身だったモノの残骸と、少女の剣だったモノの欠片。
その光景を見て、脳裏を駆け巡るのはたったの二文字+一文字。
無 理 。
斬鬼衆だけあって、その戦闘能力はそこらの妖魔とは比べ物にならない。
そんな化物中の化物を相手にして、自らが無事で居られる道理も無く。
…っていうか早く逃げたい。むしろ御願いだから見逃してください。
『「安物の剣じゃやっぱ駄目ねぇ。それにこの技で倒せないって事は…あなた、実は結構やる?」』
更に物騒な台詞と共に取り出されたのは、一本の日本刀。
先程の鉄塊のような剣とは違い、「斬る」為に作られたソレは、使う者によっては、妖魔すら容易く両断する。
無論、先程の剣と同じように、まともに当たれば怪我では済まない。
武器を取り出す様子を見、少し考える。
先程の剣、そして今の刀を見るに、相手の能力は空間転移かそれに類したもの。
空間転移は自分にとっても十八番。相手がその能力を使ったその時こそ、最大の好機となる…筈。
『「今度はあなたが賭ける番ね。上か右か、どっちかから剣が出てくるから。」』
好機を予測させる台詞と共に。
刀身が消え、必殺の一撃がバケモノに襲い掛かり―――
「…………………ッ!!」
―――魔鋏の二つの刃が、日本刀の刃を受け止めていた。
紙を弄れば何処か歪んだ場所が出来るように、
空間を弄る際に発生するソレの気配を察知し、攻撃を受け止める。
それは、自身の能力が相手と似ていたからこそ出来た技。
「……………それほどに空間転移がお好きならば、」
力を入れ、挟み込んだ刃を折る。
その目に浮かんでいるのは自らの死を裏返したかのような怒り。
…とはいえ、大した事が出来るわけでもないのだが。
「たっぷりと味わうと宜しいでしょうね…ただし、自分の体でですがね。」
そう、叫ぶと同時に。
…はらり、と。タンクトップの右肩部分が斬られて落ちた。
必殺の一撃は避けられるはずも、ましてや防がれるはずも無かった。その傲慢さが招いた一瞬の油断。
硬い手ごたえ。妖魔の肉ではない。
―受け止めらた、中々やる!
それだけではなかった。
右肩の布が裂ける。自分の開いた空間転移の穴ではなかった。
「……冗談でしょ?」
こんな自ら小物臭を漂わせている妖魔に、一太刀―もないが、兎に角一撃を浴びるなんて。
だが事実として、日本刀はへし折られ、相手の攻撃は確かに届いている。
右の胸が露出しないように斬られた所を押さえてしばし呆然とする。
―もしも、これが左肩だったら…。
因果によって理不尽な凶運、全ての流れが相手に向かい、確実に敗北することに『なっている』。
それを再認識するとぞっとした。
もう、自分が開いた空間の歪みは閉じている。
ということは、相手の開いた歪みがそのあたりにあるということだ。
しかもこちらは隠し持った小刀で切り裂いてからしか使えないが向こうは簡単に開いている。
相手は気づいていないがこれでは状況ならこちらが不利だ。
左肩への不意一撃で全てが決まるのだから。
全ての原因は相手を軽視して防具を付けて来なかった事なのだが。
あの鋏は惜しいがここは仕切りなおしが必要だ。
「……名前は、何と言う?」
【私はここで一度中断とさせて頂きます。】
【何かいろいろ申し訳ありませんでした】
【すいません、意識が飛んでいたというオチが…。】
【此方の方が申し訳ない…本当にすいません。】
【其方のご都合が宜しければ是非とも凍結していただきたいのですが…。】
【御影様待ちです】
【書き出し中】
【待ち合わせスレで待機してましたよ】
【昨日そこで打ち合わせるって言ったはずなのにぃ】
【ともかくこんばんは】
【Σえぇ、あのスレってそんな機能がっ;<気付けよ】
【それはともかくこんばんは、よろしくお願いしますw】
街の中枢にはほど近い、住宅街の外れ。
広角に歪曲した視界から、下界を見下ろす。
破棄されたアパートの屋上。
ありがちなシチュエーションだった。
緑に埋もれそうな懐古趣味なアーチの向こう、高級住宅の立ち並ぶ路面に、
人影がある。数メートル離れて一人。また一人。
待ち焦がれた客人たちと、ようやく対面できるらしい。
(……長かった)
『行方不明者』を意図的に作り続けて、十数人。
6人目でようやく官憲が網に掛かって、その後訪れた報道関係者を3名、
14人目で退魔士を一人、苗床にした。帰したのは、骨と、僅かばかりの肉片。
どういうわけか妖魔の多いこの地で、天洸院の目を一処に向かせるのはなかなかに骨だった。
戦後の混乱期、歴史による『夜』の世界の排除と、退魔組織同士の相克の混乱期に、
天洸院が統一体制を築いたのは、彼女が眠りに就いたすぐ後だった。
単独任務にあたっている者との接触は数度あったし、蟲を寄生させた妖魔が狩られたこともあったが、
彼女自身での、かの組織との直接の接触は初めてとなる。
七妖会に相応の資料は残っていたが、それでは不十分だった。組織の構成、体制といったデータ
は不可欠だが、網を伸ばすのに必要なのは、名簿という名の文字の羅列ではない。
所属する退魔士、個々の情報。具体的には内情や思考、そういった類のもの。
―――必要なのは、駒。末端からで十分だが、中枢に近い人間を得られるなら尚、いい。
彼女の目的は、会の中枢が掲げるような妖魔世界の設立でも退魔士の殲滅でもない。
退魔組織とて、食い荒すべき、大樹の一つに過ぎない。
(……さて、どう仕掛けてくるか)
今度は、別の『網』に意識を向けつつ、思考。
ここでようやく、自らの髪に触れた。
その日の彼は比較的上機嫌だった。いつもの鋭い雰囲気が薄れている。
いつもの冷淡な瞳が和んでいる。口元には微かな笑みを浮かべている。
足取りも軽く、軽快なステップで歩く。前日『彼女』と一過ごした影響だろう。
存外に即物的な男だった。仕事に赴くには些か不謹慎な態度である。
今日、この近辺に置ける調査を開始した金髪の凶戦士。
彼の場合、調査と殲滅がスコールで結ばれている。
索敵必殺。この単語ほど彼に相応しいものもない。
そしてその単語ほど彼の行動を端的に表しているものもない。
「――ここら辺か」
特に雰囲気が根拠は無いが――敵の根城に近づいたという気がした。
流石にプロなのだろう。雰囲気が戦闘時のそれに切り替わっている。
装備を再確認する。拳銃が二挺。対妖魔ナイフ一振り。そして自分の四肢。
体調は万全。今なら誰と戦っても負ける気がしない。
くくくっと、喉の奥を鳴らす。愉快だった。
今なら、誰も殺さなくてもいい気分なのにと思った。
それでも、何処かで戦いを渇望する自分が存在する。
かくして彼は、彼女の張った巣に脚を踏み入れる。
【いきなりミス発見】
【ともかくよろしくお願いします】
「ひとり」
―――と、自らの声が耳をつく。
鉄と火薬の匂いに恐怖する無数の意識。
この場合、恐怖は『彼ら』の興奮のスパイスに過ぎないのだが。
(拳銃。相応の装備を与えられている―――拳銃?)
それにしても目覚めて以降、人間たちの技術への適応には驚くばかりだ。
銃や精密兵器の類を問わず、果ては人体改造まで。
以前は、刀や拳の類を振り回すか、術に頼るか、あるいはその両方か。
シンプルに二極化していたように記憶している。
(踏み込んでくる……強気?無謀?)
目につくのは、金色に染められた頭髪。
今は、距離が遠い。細かい情報までは得られそうにない。
どうしようかと思案するうちに、学生服の青年が廃屋に踏み込んだ。
【適当に辻褄合わせて下さいw】
【よろしくお願いしますー。】
かつて誰かに問われたこと。何故お前はそんなに妖魔を憎むのか。
かつて彼は答えた。別に妖魔を憎んでいるわけじゃない。
かつて誰かに問われたこと。何故お前は妖魔を狩るのか。
かつて彼は答えた。妖魔を狩るのに理由が必要か。
妖魔と戦う彼は彼は、殺戮の刃そのものだった。
その姿にやがて周りの者は畏怖の念を抱くようになった。
凶戦士。志を持たず荒れ狂う暴力そのもの。
彼に与えられた異名。退魔士の精鋭部隊《斬鬼衆》。
その中にあってさえ彼は異質だった。
それでも彼は、暴虐の化身を思わせる戦果を挙げ続ける。
廃屋に踏み込んで、気配の感知の網を広げる。
精神状態にも左右されるが、感知の範囲は最大で半径15メートル前後。
その中の気配を同時に感知する。そして今の彼は、高揚していた。
例え気配を断っていても、はっきりと感知できるだろう。
(面白い子……一人で前に出ちゃって)
青を纏った黒髪の娘の、唇の端が痙りあがる。
(ある意味、こちらの計算外。でも)
せっかくだから、姑く遊びましょうか―――
言葉に出さずに、小さく笑う。
廃アパートの階層は二階。そして、屋上。
―――ひしめく蟲と獣たちの意識に掻き乱されずに内部の気を察知できるなら、
なかに人間の気配のある部屋はすぐに知れるだろう。
剥がれたリノリウムが、青年の足音に軽い音を立てる。
無駄も隙もない、軽快な気配。
そして、そのはるか上で―――羽音が、一つ。
烏の視点が、住宅街の片隅を鳥瞰する。
彼我の位置関係を、正確に捉えなおすべく。
【引っ張っても問題ありと判断したので半分くらい種明かし】
ホルスターから拳銃を抜く。自動拳銃グロックM17。
長い間愛用している、彼の相棒のひとつだ。9mmパラベラムの弾頭に
刻まれた破魔の刻印が、妖魔の存在を弾劾し浄化する。低位の妖魔なら
これが通用する。弾丸そのものを身体に通さない相手には、効果が無い。
相手の性質を計る時にも使用する。
彼の視線が天井を向く。その先に『在る』のは大小様々な気配。
当然まだ視覚では捉えられない部屋を、彼は精密に感知する。
――二階・・・多分サイズからして獣だな・・・・・・小さいのは蟲か・・・・・
問題は一際大き感じる妖気・・・・・コイツが本命か・・・・?
距離からすると屋上か・・・・・・
無数の小さい気配が使い魔だったら面倒だなと思う。
サイズが小さい生き物を纏めて相手するのは神経が磨り減る。
生理的に受け付けない生き物だったらどうするか。
そんなことを考えながら、二階へと赴く。
そして何の妨害もなくその部屋に到達し、ドアを蹴り開ける。
【了解しました】
「ご明察」
呟く語尾が、愉しげに持ち上がる。
扉を蹴破った青年の前には、男の輪郭があるはずだ。
野球帽に、安物のウィンドブレーカー。初老の、この場所に一夜の宿を求めて現れた、
最初の―――既に神経系が使い物にならないので、その感覚する世界は彼女にはわからない。
ただ、支配下の蟲たちの意識が、青年が目標を捉えたとそう伝えてくる。
愉しい、と、それだけの感情に、彼女の思考は震えた。
男の輪郭が、崩れる。焼け爛れるように、崩れるように―――その実、起きている現象は実にシンプルだった。
内側から、食い荒される。頚椎を起点に、喉から下って胃の腑へ、五臓へ。上って脳髄へ。
やわらかな眼を食い破って黒い甲虫が溢れだす。
最初に無くなったのは頭。続いて、一滴の血も残さずにその『身体』が消える。
雪崩れを打って、青年の側へ。
囁いたのは、白いシャツに真青なスカートを纏った、黒い巻き髪の娘。
その背後に、身動きを止めた退魔士の姿がある。娘の挙動を、静止することもなく、棒立ちに。
「でも、残念」 ・ ・
呟きが溢れた場所は、路上。アパートの真正面、数メートル。
「そこは外れ」
(仮にも訓練済みね、一度で木偶にはできない)
烏の目線が、迷路のように入り組んだ住宅街の随所で動きを止めた人影を確認する。
身動きを奪うだけなら、難しくはない。保って30分、その後『使えるか』は耐性次第といったところか。
潜伏したまま生還させるか、後残りの無いように消すか。痕跡を残さないことが要になる。
種を明かせば、こちらが、彼女の本来の意図だった。『問題の場所』を餌に、退魔士達を動かすこと。
本陣に真っ先に踏み込んでしまった青年の行動は、完全に妖術師の意図を外れた場所にある。
しかし、これだと、逆に利用できるかもしれない。
「あの子、ちょっと面白いかな―――」
彼女の囁きは、青年に届いたかどうか。行動から察するに青年の気の察知範囲は、かなり広い。
今の位置で範囲ぎりぎりといったところか。一度で二階の扉を引き当てたのだ。
屋上の烏を、その場で待機するよう行動させた。とりあえずのもてなしはそれに任せれば良いだろう。
歩き出した娘の所作に、青いスカートが音もなく揺れる。
――昔、こんなホラー映画があったよな・・・・・・・
一瞬、思考が吹き飛んでしまった。蹴破った先に現れた初老の男。
薄汚れた、浮浪者風の男だ。その男が何をする間もなく崩れてゆく。
或いは、朽ち果ててゆくというのが正解か。
正解は、喰われてゆく、だった。男の内側で微細な何かが蠢いている。
それが貪り喰らっているのだ。聞こえるはずのない咀嚼音が聞こえた。
自分の感覚の良さを呪うのは、多分こんな時だ。
ボロリと、這い出る黒い蟲。こちらへと雪崩落ちる蟲の――
「―――ッ!」
思考したのはそこまで。
小さな悲鳴を噛み堪えつつバックステップ。
恐怖を罵倒に変換しつつ蟲を適当に踏み潰す。
0に返る、無数の息吹。
認識は始めから切り離している。フィードバックはなく、フィラメントが切れる感触が連続するだけだ。
単純に、『古典的手法』が意外にも効果的だったことを知る。
とはいえ、逆説的に言えば、今の時点で知ることができるのは、事態の朧げな輪郭に過ぎない。
娘の影は、緑に覆われた、というより殆ど埋没したアーチを抜けて、アパートの正面へ。
―――青年の位置からだと、ドア側にあたる。
青年がいると思しき部屋を見上げるが、開いたままの扉からその背は見えない。
つまり、こちらは今、向こうから視認できないということ。
刻限は30分ほど。どの間に、どういう形であれ、事に一段落をつける必要がある。
自ら出向くという行動を選択したのは、単純な興味に拠った。
彼女が興味を持つ、ということは、いささか特殊な意味を持つのだが。
室内では、文字通り青年の輪郭を足元だけなぞって黒い塊が走りぬけた。
後ろにたたらを踏んだ足元、待ち構えたように、天井からぼたぼたと更に黒い甲虫が落ちてくる。
音も無く窓辺に止まるのは、先ほどまで屋上に居た烏。
青年の視界に収まる位置で、羽根を収める。
不吉な、光のない、小さく丸い黒色の瞳が青年を捉えた。
更に、がしゃん、と、左手方向で何かが割れる音。
天井から落ちてくる気配。
黒い虫が頭といわず身体ら張り付く。
――罠か。
吐き気を催す蟲の群れが身体を這い回る。
妖魔は平気でも、こういう手合いは生理的に肌に合わない。
何より一気に叩き潰す手段がないのが問題だ。拳銃もナイフも役に立たない。
蟲系の妖魔を専門に狩っている退魔士は、殺虫剤など所持しているらしいが、
生憎と斬鬼衆の彼はその手の装備を好まない。
「潰れろ」
そう呟いた彼の顔は、仏像のようだった。
彼の我慢があっさりと臨界点を突破した。
超え過ぎて感情がフラットになっている。
床を踏み抜かんばかり震脚。その振動に上乗せされた『気』。
その波紋が虫達を纏めて吹き飛ばす。
「ハアアアア!」
調息、閉息、練気、そして発生する闘気。
身体に纏わりつく虫が、その生命力の炎に捲かれて弾け飛ぶ。
もう何も考えていない。
考えるという無駄な手順を身体が省いている。
反射的に拳銃の引き金を引き、眼前の鳥を撃つ。
そして、思考力が回復すると同時に、聞き流した音のこと注意を引き裂く。
破砕音の正体はなんのことはない、ただの演出。
鼠を使って、硝子製の照明器具を落としたに過ぎない。
正直、凝りすぎた自覚はある。
演出意図は、勿論。
彼女自身がその場に到達するまでの時間稼ぎ。
そして―――今、この機会に遂行可能かはさておいて、わざわざ彼の前に身を曝した目的。
それを果たすための、仕込みの時間でもある。
さて、今の状況は三文怪奇小説かホラー映画か。
終盤付近はアジア方面の不条理格闘映画の趣だろうか。
……生憎と、彼女はその方面には明るくないのだが。
明後日の方向に目を向けた金髪の青年を、戸口から見やる。
蟲の網を介さなければ、彼女自身の感覚範囲は、そこまで広くない。
―――なるほど、ここまでの実力を示すだけのことはある。
一目見て納得した。状況が状況だということもあるだろうが、
この強い殺意は、戦意を磨がれる経験を経ずに発露するものではない。
そして、自らの力に自信が無ければ、ここまで独断独行で行動することは無いだろう。
相手が振り向く瞬間を待つ、その間に。
「………ぷっ」
彼女は、吹き出していた。そのまま、細い肩を震わせてくすくすと笑う。
愉しい。この人物を見ていると、愉快で溜らない。
「あああ、クソッタレが」
身体中を叩いて、蟲が這い回る感触の、その残滓を振り払う。
思考能力が回復して、人並み程度に憤怒という感情も発露する。
深呼吸して、脳内で『彼女』に関連する記憶を呼び出す。
彼女の声、彼女の肌、彼女の温もり。それを呼び出すのに10秒。
リプレイするのに10秒。巻き戻して再生して更に10秒。
三十秒で彼は精神的に復活した。
「悪趣味な妖魔もいたものだな。なあ、おい」
静かに呼びかけて――
後ろで笑っている相手に対面する。
十代にも見える少女だった。その瞳は暗く濁っている。
日本人の特徴を備えつつも、何処か異国情緒を感じさせる顔立ち。
服装だけなら何処にでもいる少女に見えるが、雰囲気が明確に『濁って』いる。
対面した瞬間、いつもの癖で相手の特徴を瞬間的に羅列する。
彼は当然のように拳銃を突きつける。銃口が一直線に額を狙っている。
【誤字脱字だらけですよ自分】
【ともかく今日はここで凍結でお願いします】
【明日同じ時間に打ち合わせスレでいいですか?】
【全然全く気にしてなかったでした 色々悪乗りしすぎた気も】
【このまま撃たれて終わりでも問題ないですー。】
【再開は明日はちょっと難しいのです。木・金あたりの同時刻は行けますか?】
【次回は待ち合わせスレちゃんと使おうと反省する次第】
【もう少しやり取りしてから〆でしょうか】
【そうですね、木・金は大丈夫かと】
【はい、そうしてくれるとやりやすいです】
【それではまたその日にノシ】
【了解です】
【有難うございましたー】
【小野さんを待たせて戴きます。】
【書き始めは…どちらからにしましょう。】
【っと、私からですか…では、暫くお待ち下さい。】
>457
【すみません、そちらが先に戦闘している光景を想像していたのですが】
【よく考えれば、偶然二人が遭遇した場所に妖魔が現れるとかもアリでしたね】
【それでは改めまして、宜しくお願い致します】
稀に見る有様だった。
大概の場合、何処ぞの退魔組織とやらの連中が駆けつけていて、特に出る場もない幕引きを見ている事が多かったのだが。
薄紅に染まる世界を照らしているのは、夕陽という茜だけではない。
血煙。
近くに寄れば、その濃密な匂いどころか、身体に纏わりつきそうな程の血臭が満ち溢れている。
「…これは、酷いな」
何人の人間がこの場所で死んだのだろう。
その中央に、悪鬼がいた。
元は人であったろう姿形を留めてはいるが、その撒き散らす憎悪の念と醜悪なまでの悪意。
それが、ここ最近都市界隈を賑わしている連続殺人誘拐事件の元だとは、志穂は知らない。
「…その憎念…星神の名において、断ち切る」
悪鬼の撒き散らす瘴気に乗せられ、他にこの場所に誰かが近づいていようなどとは、
その時、彼女は思いもしていなかった。
【では、このような感じで。よろしくお願いします。】
>459
茜空が住宅街を染め上げる夕暮れ。
人の死角となる上空を駆ける漆黒の影があった。
雀にしては余りに大きすぎるそれは、人。
学生服に身を包んだ小野正宗は、珍しく余裕のない顔で、指示された場所へとひたすら走る。
最近のニュースでは、一日に一度は必ず放送される凶悪な殺人事件。
その犯人が妖魔だと知るのに時間は要らなかったが、居場所を突き止めるのに暫くかかった。
この街に溢れる退魔師から姿を隠し、人を殺すだけあって対象の知能は低くはないようだ。
人にしては鋭敏な鼻が、血臭を捉える。凄惨な現場が思わず脳裏に浮かんだ。
――――遅かったか。いや、諦めない。
褐色の忍はその光景を振り払うと、一気に地上に降り立った。
目的地までは後僅かだ。
瓦礫に囲まれた場所は、瘴気による結界に阻まれ、普通の人間は
意図せず、その場所を避けていく。この場所は、いまや小さな魔界。
「けひ…く、は…女…オマエモ…血の中に混じるがイい…私と同じ苦痛ヲ…!」
がくがくがく、と不安定な振動を繰り返しながら、悪鬼が狂気に満ちた叫びを上げる。
その声が響く度、左の胸が疼きをあげる。
― 星神が、贄を求めている。
― 己の渇きを満たす、大いなる邪念と悪意を。
ならば。
その贄を汝のもとへもたらさんがため。
「…死をもたらす左手に白光を―!」
叫ぶと共に、左手を突き出す。
爆ぜる音を伴って、眼前の空間が白熱した。
召喚された稲妻が、悪鬼の身体を捕らえる。
だが…。
「……ッ!?」
悪鬼と己を繋ぐ雷撃の鎖、それが、強い勢いで引かれた。
捕縛する稲妻をものともせず、悪鬼はけたたましい叫びをあげて、志穂ごとそれを引き寄せようとする。
ひきずられかける中、周囲に散らばる骸の中に、幾つもの退魔用装備と思しきものを纏ったものがある事に気付いた。
そうか。…何人かは、見つけられなかった、のではない。見つけても、倒せなかったのだ。
多くの人間の苦痛を食らって、邪念の力が増大化していたのだ。
もはや、一流クラスの退魔士ですら簡単には仕留められぬほどに。
>641
郊外に位置する、半ば倒壊した建物の中に踏み込む。無論、無音。
肌を刺すような強烈な殺気に、正宗は意識を引き締めた。
そっと壁から中の様子を伺う。それは正に化け物と称すべき、異形の怪物。
そしてそれに正対する、一人の巫女服の少女。
更に、周囲に横たわる朱にまみれた無残な骸。
「―――――」
何も躊躇う必要などない。この悪鬼の命を絶つ。
そう思う正宗の表情は普段の温和なそれとは違い、暗殺者としての冷たさを備えていた。
今悪鬼が眼前の標的に気を取られているなら好都合だ。
正宗は音も無く、高速で化け物の背後に回る。
それはさながら、サイレントムービーのように。
漆黒の忍者刀を抜くと、一見無防備に見える背後から心臓目掛けて刃を突き出した。
悪鬼の黒い体から、何本もの腕が伸びあがった。
さながら、邪神の肖像のようになったその姿から伸びた腕は、
志穂を自らの仲間に引き入れんと、その白い装束に縋り付く。
その腕にすら、殺され、取りこまれたと思われる人間の苦悶の顔が張り付いている。
少女がいた。退魔士がいた。子供がいた。赤子すらいた。
その全ての顔が、苦悶の鳴き声をあげながら、志穂の身体に縋り付く。
「唖ァあああ嗚呼アアああ」
絶叫の唱和。
その叫びだけでも、並の人間ならば心砕けそうになる地獄。
だが、志穂は唇を噛み締め、その精神的な抑圧に耐える。
それが出来るのは、彼女の奥底に、それを上回る地獄が押し込まれているからだった。
隙をつかれて、全身を拘束されたために迂闊に動けない。
だが、耐えて相手の隙を待つ。それしかなかった。
「……!」
亡者共の意識が、己ではない何かに気を逸らした事に気付き、志穂が顔を上げる。
悪鬼の心の臓の辺り。
そこから、漆黒の刃が突立てられていた。
ここからでは、その背後に誰がいるのかは分からない。
「おおおおお、お前もももも血の中だァ嗚呼アア」
ごりゅ、と音を立てて、悪鬼の頭がもげるように首折れ、背後の男を逆様に見詰めた。
濁った瞳が、正宗の目を射抜く。
湿った音と共に、その背中から、更に複数の手がびちびちと、跳ねる魚のように飛び出した。
磯巾着のような姿になった悪鬼が、新たな招待客に襲い掛かる。
異形を超える、最早それは生き物として禁忌の姿。
無数の腕を携えた姿は、まるで千手観音。最も、これではまるで化け物の神様だ。
ありとあらゆる人間の顔が浮かぶその腕。それらが織り成す悲鳴と言う名の不況和音。
それを見て正宗は抱いた感情は、怯えより、恐怖より――――純粋な怒り。
それは刃より更に鋭く、感情を灯さない黒瞳が悪鬼を眺める。
「……っ?!」
だが、その化け物が首を有り得ない方向へ動かし自分と目があった時、正宗は思わず声を上げた。
次の瞬間、悪鬼の腕は更に背後にすら増え正宗を飲み込まんとする。
僅か舌打ち。続いて高速移動。並大抵の攻撃では可能性はない。
そう判断した忍は、更に反対側、つまり悪鬼の前面に回り込み、志穂に纏わりつく腕を斬り飛ばす。
そのまま少女の装束を掴み、数m後に飛びすさった。
「大丈夫か?」
「そなたは…」
腕が切り飛ばされ、引きずられた。
その衝撃で、千早が裂け、上半身の肌が半ば露になる。
だが、そのような事を気にしている場合でもなかった。
死と混沌が、夕闇の瓦礫の中で舞っていた。
無数の腕が、正宗と志穂の身体を求めて伸び、足掻く。
生ある存在への執着。己に降り注いだ不幸を分かたんとする渇望。
触れられずとも、その執拗なまでの憎悪と飢えが、二人の心を僅かずつ侵食していこうとする。
すぅ、と息を吐くと、身体の力を抜く。
千早の合わせ目から腕を引き抜くと、胸が露になるのも構わず、腰元から一本の日本刀を瞬時に引き抜いた。
―雷光。
手にしたそれに、左手の脈を通じて雷撃が纏わり付く。
「裂ッ!」
振るうと共に、雷撃の刃が鞭のような軌跡を描き、無数の手の甲に張り付いた顔を穿つ。
「悪鬼の急所は心の臓ではない、憎悪の仮面を穿つのだ…中央の核となる悪鬼…ヤツの顔を潰せば、全ては終わる!」
正宗に向かってそう叫び、解けた戒めを振り払って落とすと、
着衣を直す暇もあらばこそ、その地を蹴って自らも悪鬼の中核へと飛んだ。
異音を立てて破れ去った少女の巫女装束。正宗は戦闘の最中ではあるが、内心後悔した。
腕を引くよりは痛くないと思ったのだが、これでは返って彼女が戦い辛くなるのではないか。
しかし、その心配は無用であった。その巫女は侍さながらの勇ましさで日本刀を取り出すと、
気合い一閃。眩い雷光がその刀身を白く染め、振るわれた一撃が鮮やかな軌跡を描いて化け物の腕を焼き払う。
『悪鬼の急所は心の臓ではない、憎悪の仮面を穿つのだ…中央の核となる悪鬼…ヤツの顔を潰せば、全ては終わる!』
彼女の言葉に、正宗は頷いた。
疑う理由などない。互いに命を掛け合っているのだから。
忍者刀を仕舞い、自らも志穂の後に続いて悪鬼の懐に飛び込む。
繰り出された千手は最小限の動きで払い、撃ち落とした。
勢いそのままに、悪鬼の顔面に強烈な肘打ち。大八極の一つ、献肘である。
「止め、行けるか」
泥の奔流のように、無数の腕が己を再度戒めんとして伸びてくる。
だが、先程と違い油断はなかった。
雷光に纏った雷撃を、逡巡することなくそれらの面に叩きつけ、破壊していく。
とりこまれた死者は、もう甦る事はない。
「ならばせめて、その苦痛から解放してやろう…!」
羅刹の如く、輝ける刃を振るい、破壊していく。
無論、無事で済む戦い方ではない。悪鬼の手が、爪が、志穂の身体を引き裂き、悪意が抉る。
だが、それでも止めず、走る。
全てを灰燼に帰するが如く、刃を振るう。振るう。振るう。
普通の退魔士から見れば、とても正気とは思えない戦い方だった。
正宗の助けがなければ、恐ろしいまでの傷を負っていた事は想像に難くない。
『止め、行けるか』
その言葉に、頷く事すらしなかった。
ただ、見えた顔面に向けて、真っ直ぐに突の構えで雷光を走らせる。
その切っ先が、滑るように悪鬼の顔面を貫いた。
「天津甕星の名の下に!その憎悪を我が身にて受け奉らん!」
ぼろぼろになった千早から覗く、志穂の左胸に穿たれた黒い痣が明滅した。
『お、ゴ、アアが……ァ…死にたく…ながッだ……』
ごぼごぼ、という溢れるような音と共に、悪鬼の身体が崩れていく。
―夕闇が暮れなずむ頃、その小さな悪夢は、終わりを告げた。
荒れ狂う稲光の様に。舞う紅白は、悪鬼を絶つ。
自らが傷を負うとも構わずに突き進むその様は、怒りや憎しみで戦う者のそれではない。
それが当然であるかのように、自分の義務であるかのように、少女は全てを斬り払う。
正宗の一撃を追って、繰り出された志穂鋭い刺突。
悪鬼はおぞましい断末魔と共に、融解し、地上に溶けていった。
「ありがとう、助かった」
ようやく強敵を滅したと言うのに、正宗に笑みはない。
ただ無言で学生服の上着を脱ぐと、傍らの少女に差し出した。
「俺の気がすまねぇから、礼だけさせてくれ」
そして、褐色の手を傷口にかざす。集められた気が、人間の自己治癒能力を高める。
志穂の傷は早送りのように回復を始め、微かな跡だけが残った。
簡単な応急処置だが、この程度なら気を扱う彼には造作もない。
服は適当な所に捨てていい、と言うと、忍は無表情に亡骸に近づき、それを担ぎ上げた。
ワイシャツが赤く染まるのも構わず、両肩にそれを抱くと、外に足を向けた。
「じゃあな」
【長引いてしまい申し訳ありません】
【自分は後一レスで〆ます】
何も言う間はなかった。
少年は、学生服の上着を預け、血に塗れた骸を手に帰っていく。
暫くの間、それを無言で見送った。
「…礼だと…」
最後の悪鬼の猛攻で上半身を覆う千早は殆ど襤褸同然と化した状態で、
手にした学生服を見詰め、志穂は呟くように言った。
澄んだ音を立てて、鞘に刃を収めると、志穂は少し疲れたかのように吐息を漏らす。
「私は、礼を言われるような存在ではない…」
それどころか、いつかあの少年が更に高みへと昇っていく事があれば…。
そこまで考えて、目を伏せた。
押さえた左胸の痣に鈍い感覚が走る。
「この世界は、酷く残酷だ…」
星々の散りばめられた宙を見上げると、彼女は正宗が去って行った方向とは逆の方向へと歩いて行った。
【いいえ、こちらこそ変に長い文で申し訳ありませんでした。】
【では、こちらはこれで〆ますね。】
【お付き合いありがとうございました。】
二つの死体を抱えたまま、正宗は近くの森の中に辿り着いた。そうしてあの惨状にまた舞い戻る。
その作業を何度か繰り返した後、全ての死体を集め、闇に染まりゆく中静かに土を掘り起こす。
ここは付近の住民すら気味悪がり近付かない樹海だ。眠りを邪魔される心配などないだろう。
「…南無阿弥陀仏」
一人一人、安らかな来世を祈りながら埋葬していった。
何の罪もない一般市民である彼らに。そして、そんな彼らを守るべくして命を失った退魔師達に。
一連の作業を終えた後、正宗は急激な脱力感に襲われ、近くの大樹に寄りかかった。
――――どうしてこいつらが死ななきゃならない。
この世には、神様なんてペテン師は存在しないのか。
胸中で苦々しく吐き捨てると、そこで初めて褐色の忍はあの巫女服の退魔師を思い出した。
大量の犠牲に余裕をなくしていたが、彼女も志同じくして共闘してくれたのだ。
名前位なら訊いておくべきだったろうか。
強い意志を感じさせる快い人物であった。また何処かで会えたなら。
彼は知らない。彼が嫌う神と、少女の抱く宿命との関わりを。
【いえ、この文章量であの速度。見習いたいものです】
【ありがとうございました】
【幾つか誤字が有りますが、その中でも一つ】
【大八極が頂肘、小八極が献肘でした。訂正致します】
【それでは今度こそ、失礼します】
【
>>452の続きになります】
【御影さん、よろしくお願いします】
放出された気に当てられた蟲が、天井からばたばたと落ちてくる。
戸口から、部屋の内へ踏み込んだ娘の足元にも数匹。
愛おしむような目で、命なき残骸を摘み、無感動に足元に落とす。
「こんにちは。素敵なお手並みね」
彼女は笑顔だった。親しげに、学生服の修羅に語りかける
青年の沸った怒りにも、向けられた銃口にも、一遍の怯えも見せない。
世間話でも続けるように、青年の背後を見遣る―――
割れた窓烏、贖われた烏の血。中身の無い衣服。
燦爛した黒い蟲の屍、無数の木片、硝子片。
彼女にエキセントリックな様子は欠片もない。
しかし、澱んだ眸に宿る過剰なまでの静寂を、人は狂気と呼ぶだろう。
乱痴気騒ぎの後、と呼ぶにも趣味の悪すぎる室内を見渡して、娘は動揺一つ見せない。
それを装うこともできるが、今はしない。
ねえ、と、落ち着いたアルトが吟う。同時に、無防備な青年の肩口に辿り着く一匹の蟻。
色は赤く、一般に見るそれよりも二回りほど大きい。項をなぞり上げる乾いた気配。
蟻は、主に定められた位置に至るやいなや、その顎をつきたてた。
「ねえ、貴方。すこし、お話をしよう?」
注ぎ込まれる蟻毒。獲物を生かしたまま巣に運び込むための、小さき者の刃。
しかし術式と儀式によって精錬されたそれは、大の人間相手でも同様の効果を持つ。
その銃口が少女の額に必殺の直線を放っている。
この距離でなら、高確率で9mmパラベラム弾は命中する。
出入り口は狭く、反応できても左右に回避するのは不可能に近い。
銃弾を受け止めるか、喰らっても平気な防御力を有しているなら話は別だが。
彼は怒っていた。いくら彼でも、生理的嫌悪には抗えないからだ。
しかし双眸は冷淡な色に戻っている。冷徹なる狩人の眼差し。
だというのに、少女はまるで意に介していない。
その向けられた笑顔が、酷く禍々しく思える。
チクっと、何かに噛まれた。反射的にそれを叩き潰す。
無意識に使った手は左手であり、右手は揺ぎ無く射線を描いている。
潰されたそれは、蟻だった。サイズは通常より少し大きい。
――不味い。蟲使いの蟲に噛まれた。毒?即効性?
顔を僅かに顰めたまま、少女の言葉を聞く。
その最中にも、集中力の三割を使い血流を操作して毒の排出に勤しむ。
「お前、何の目的で人を殺してる。
そしてわざわざそれをアピールしてる目的はなんだ?」
会話に乗る。今は少しばかりの時間が必要だ。
【はい、今夜もよろしく】
「……うーん」
くすり、と笑う。そんなことを聞きたいの?
「蟲使いの蟲は、餌を必要を必要とするんだもの、当然じゃない――人間が呪力的には一番効率が良いわ。
痛み、怒り、悲しみ、怨嗟、断末魔。ほかの生き物じゃこうはいかない。時点で愛玩動物ね。
妖魔を使えば相応の妖力は得られるけれど、効率が悪いんだもの」
青年の口調からは、憎悪が滲み出ていた。それでも口調は冷えている。
「退魔士なら、その程度の知識はあるでしょう。巫蠱はポピュラーな妖術じゃない」
既に平静を取り戻した様子に、内心で舌を巻いた。
即効性の毒を使った筈だが、会話を続ける程度に耐性はあることを見越していたにせよ。
―――無茶をやるだけの実力はある、ということ。
それならば、こうして接触する価値はあるだろう。
決裂に終わることが決定づけられていても。これは始まりに過ぎない。
「それとも、違う回答を期待しているのかしら?たとえば」
彼女の口調が、不意に、此れまで以上の艶を帯びた。
うっとりと巻き髪を指先に絡める仕草と共に、目を細める。
「人間が憎い。人間が疎ましい。人間は目障り。その存在が害悪。そんな風に感じる対象を、自らの手で
命なき血肉に返すのは心地よいものね。分身の牙でその皮を引き裂き、顎でその骨を噛み砕き、その肉を咀嚼し、
血を啜る。完膚なきまでの無に返す」
つけくわえる―――
わかるでしょう、と。
――血流の操作。口で言うほど簡単ではない。
だが、彼は修羅場を潜る内に、それの必要性を思い知らされている。
毒にも種類があるが、毒液の類なら何とか対抗できる程度の技術はある。
そもそもからして、毒にはある程度の耐性がある身体だ。毒の効果が体内で
発揮されるにしても、少しは猶予があるだろう。その間に何とか排出しなければ。
『蟲使いの蟲は、餌を必要を必要とするんだもの、当然じゃない――人間が呪力的には
一番効率が良いわ。 痛み、怒り、悲しみ、怨嗟、断末魔。ほかの生き物じゃこうはいかない。
時点で愛玩動物ね。 妖魔を使えば相応の妖力は得られるけれど、効率が悪いんだもの』
妖魔の少女が語る。
つまり、人間を自分の力の糧にしているだけだと。
なるほど、納得のできる理由ではある。腑に落ちない部分もあるが。
その間に、小さな傷口――傷口とすら言えない噛み跡から、出血する。
毒の排出が間に合ったのかは現時点では不明だ。
『それとも、違う回答を期待しているのかしら?たとえば』
妖艶さを含んだ声。その仕草。
眩暈を感じたのは毒の所為か、それとも――
『人間が憎い。人間が疎ましい。人間は目障り。その存在が害悪。そんな風に感じる対象を、
自らの手で 命なき血肉に返すのは心地よいものね。分身の牙でその皮を引き裂き、顎で
その骨を噛み砕き、その肉を咀嚼し、 血を啜る。完膚なきまでの無に返す』
一瞬、意識が途切れそうになる。四肢がやけに重い。
毒が残っているのか、排出が間に合わなかったのか。
瞼が落ちそうになる。それを、奥歯をギリリと噛み締めて堪える。
「――そうか。確かにわからなくもない。俺も不愉快な妖魔を殴り殺し、蹴り殺し、
切り刻み、撃ち殺すのは嫌いではない。低能な妖魔を屠殺し、人間を見下した妖魔
を徹底的に打ち負かし、塵に還すのは悪くない気分だ」
ギチリと、肉食獣の笑みを浮かべる。正直、狙いが定まらなくなりつつある。
それでも尚、笑う。どんな妖魔にも屈しないという意思表示であり、挑戦状である。
「お前を殺したら、少しは気分がいいだろうな」
「そうね、素敵。でも」
一つだけ訂正させて貰おうかしら。
「わたしは人間。貴方と同じ、ね」
囁く口調は、まるで意中の異性に語りかけるように。
動きを止めた青年の手元に、生白い指先が触れる。グロックM17のフレームを玩具が何かの
ように手のひらで押し包み、銃口を固定する。
「血の色は赤。たしかめたい?」
「勿論、冗談だけれど。撃たれたら痛いし、誰だって死ぬのは嫌。そうでしょう?」
事実を述べる唇が混ぜ込んだ虚言は一つ。
しかし、どれがそうなのか、彼女と対面しただけで悟る人間はいない。
「自分は死にたくない。不愉快な他なる者は視界から消したい。叶うならば思うが侭に、
柔なるものは凌し、剛なるものは打ち砕き、果て無き欲望に身を焦がしたい。果てしなく終わりなく、
命の続く限りに―――それでこそ人間。そうでしょう?」
体温の無い指先が、青年の袖口に絡みつく。
「貴方はわたしをこの玩具に収まった鋼鉄で貫きたい。でも、貴方の乾きは癒えない」
たおやかな声が断定する。
「癒えない。けして癒えない」
正常な状況下なら快くさえあるだろう涼やかな声色が、忌まわしく囁く。
けして。
そして、くす、と涼やかに笑うと、彼女はあっさりと指先を放した。
銃の持ち手が、それ自体の重みでほんのわずかに下がる。
「出来ないでしょうけれど。貴方にはこのまま、わたしの子供達の苗床になって貰う予定だから」
少女の告白を、混濁した意識の中で朦朧と聞く。
いつの間にか、少女が間合いを詰めている。
おまけに、銃口を掌で塞がれている。
――人間だと?
その口調は妖艶で、愛らしくさえある。
確かに人間的ではある。外見だけで判別するなら。
けれど彼女が人間だとしたら、その纏う異様な雰囲気は何なのか。
『自分は死にたくない。不愉快な他なる者は視界から消したい。叶うならば思うが侭に、
柔なるものは凌し、剛なるものは打ち砕き、果て無き欲望に身を焦がしたい。果てしなく
終わりなく、 命の続く限りに―――それでこそ人間。そうでしょう?』
「それが、どうした・・・・・・?」
重い口を何とか開く。彼女の言うことは正しい。
自分自身の行動を振り返って見るだけで、納得できる言葉だ。
だから感銘を受けることも無いし、動揺もしない。
少女の手が這う。袖口に絡みつく。
不愉快で堪らなかった。今すぐ殺したい。排除したい。
彼が妖魔に対して憎悪を抱くのは、珍しいことだった。
『貴方はわたしをこの玩具に収まった鋼鉄で貫きたい。でも、貴方の乾きは癒えない』
たおやかな声を断末魔の叫びに変えたい。
憎悪と憤怒が、意識を繋ぎとめる。
『癒えない。けして癒えない』
しかし、その呪詛の様な声に納得している自分も存在する。
何故なら、彼の求めるものは此処にはないからだ。
だから幾ら殺しても壊しても、その乾いた空白は埋まらない。
わかりきったことを指摘されるのは、不愉快でしかなかった。
銃身が押さえられて、離される。腕が重い。
『出来ないでしょうけれど。貴方にはこのまま、わたしの子供達の苗床になって貰う予定だから』
「――そうか」
返事はそれだけだった。それ以上は必要ない。
彼の右腕が下がる。左腕が上がる。その手はコルトパイソンを抜き放っている。
ぎりぎりで、身体の機能が回復したのか。それとも、怒りと憎悪が突き動かしたのか。
ともあれ、六発の357マグナム弾が無慈悲に少女の身体を蹂躙する。
青年による、肯定。表情は動かない。
だが、それが強烈な憤怒に塗りつぶされていることは、見ればわかる。
雑言を吐き捨てた数刻前よりも激しく、色濃く。
―――彼女をして、蕩然とさせるほど強い殺意だった。
これほどの気にあてられる機会からは、離れて久しい。
余興は終わり。
それに、そろそろ時間も尽きる。
最後の瞬間、この口元に笑みは浮かんだろうか。
日中にしてほの暗い室内に、立て続けに6つの閃光。
穿たれた激痛に自らの絶叫に、意識が引き裂かれる。
四肢が胴がばらばらの順番で裂けて爆ぜる。
背から頚椎にかけて堅い衝撃を受けて、それで反動は止まった。
後頭からの血液に視界が赤く染まり、不随意な筋肉の反射だけが残る。
「―――――――」
無言で、屍を見下ろしている。
何度も見た光景だった。今更何の感慨もない。
人間として、酷く歪んだ感性。退魔士としても、異様な感性。
彼は舌打ちをした。死骸に唾を吐き捨てる。
打ち抜かれる瞬間、彼女が浮かべた笑みが気に障った。
結局、彼女の思惑通りに踊らされたからか。否、そんなことは大した問題ではない。
程度の差はあれ、誰もが誰かを利用している。誰かが誰かを思うように躍らせている。
問題は、そこに自分の満足があるかどうかの差。
結局、誰かに踊らされようが、満足さえできればそれでいい。
その果てになら殺されても、その死を穢すことは誰にもできないからだ。
「・・・・・・くだらねえな」
死骸を踏み潰して、部屋から出る。
階段を下りる途中、脚から力が抜ける。
「本当に・・・・・・・くだらねえよ、ったく」
それでも意地で歩き続ける。
携帯で仲間に連絡をしつつ、事後処理について話し合う。
(今日もアイツのところに行こう・・・・・・・行ければいいが・・・・・・)
そんなことを考えながらも、彼の頭の中には少女の言葉が残っていた。
【こちらは〆です】
【二回に渡るロール、ありがとうございました】
痛い、と、痙攣の止まらぬ瞼を意識して思う。
腰からのフィードバックは逆に殆ど無い。神経が、苦痛で分断されてしまっているらしい。
膝先を踏み抜いたぬちゃりとした感触も、痛みとしては知覚されない。
痛覚は、既に飽和している。
だが、それだけだ。
意識が残ったまま、物か何かのように足蹴にされたことだけは、すこしだけ癇にさわった。
それが癇にさわる程度の感性は、どうやらまだ自分に残っているらしい―――
その事実も、あまり心地よいものではない。とはいえ、全ては自業自得なのだが。
目にした銃器の形こそ違えど、撃たれた経験は初めてではない。
いたる箇所が爆ぜて中身を露にした、横たわる自らの身体に、さしたる感慨もない。
脳に損害が無かったことだけは、予期せぬ幸運だった。
『次』の段取りが少しだけ楽になる。
(盛大にやってくれて、『戻る』のが間に合わないじゃない)
翌日はまともに動けそうにもない。
(―――起きなさい)
寄生に成功したままの状態で休眠させておく予定だった蟲を一匹、呼び覚ます。
限界を超えるそうな苦痛に嘖まれながらとはいえ、蟲たちを細かく動かせる精神状態なのは有難い。
彼女の意思に応じて、廃屋の至る場所に潜んだ小さきものたちが一斉に動き始める。
何一つ残さない。肉片一つ、生命の気配一つ。
おそらくは、望んだ形でこの場を収めることができるだろう。
先ほどの青年がこの現場に戻るにせよ戻らないにせよ、娘の死体を目にする者はいない、これが顛末。
巫蠱の術を使う者には、最期に自らの肉体を食わせる者も少なくない。これが一般的な認識。
首謀者の生死を曖昧にすることで、事態の真相が天洸院に伝わるまでしばらくの時間は稼げる。
先ずは、潜り込んだ蟲が死滅するまでの時間を使って成果を回収する。
彼女の仕事は、まだ終わっていない。
(そして、今日のあの子は……さて)
彼女が、その存在意義のままに動き続ける限り、どういった形であれまた出遭うことになる。
その確信はあった。互いに身を置くのはよく似た領域。そして、生者と死者の思念渦巻くこの土地。
どこまでも堕ちていける筈だ。
【ではこちらも〆で】
【書いた人間が言うのもあれですが、後味悪……どう繋げるんだろうw】
【長時間、お付き合いいただいて、ありがとうございました】
【せめて1レス15分ですね……がんばらねば】
【お疲れ様です】
>>434 相手の獲物をへし折り、右肩(っていうかタンクトップ)を切り裂いたバケモノは、
不気味な微笑みを湛えながら、更に一撃を加えようと鋏を構える。
…だが、その内心は。
―――くぁwせdrftgyふじこlp;@:ッ!!!!
…ついカッとなってやった、今は激しく後悔している。
先程の分身のヤラレ具合といい、相手の実力は正しくホンモノ。
対して此方は、下手をすれば一般人にもやられる雑魚A・B。
そんな、窮鼠どころか部屋の隅に追い詰められた蛞蝓の様なこの状況で、
一体何処に活路を見出せば良いというのか。
―――逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ…っていうかどーせ逃がしてもらえないし。
―――落チ着ケッ!ツーカマァ、コノ時点デ死亡ふらぐ成立ナノハ分カルケドサ。
心中での激しい混乱と論議(?)を顔には出さず、精神を集中させて逃げるタイミングを必死に窺う。
…そんな、何処かのはぐれ鉄じゃあるまいし、そんな簡単には逃げられはしないのだろうけれど。
嗚呼、余計な事に首を突っ込むんじゃなかった。
『「……名前は、何と言う?」』
「…レディファーストです、其方から御名前をどうぞ。」
予期せぬ言葉に一瞬動揺するも、冷静なフリをして言葉を返す。
当初の目的―――この人物が、本当に元斬鬼衆か、
そして記録上では死んだ事になっている人物かどうか否かさえ分かれば、後はどうでも良い事だ。
…そう、相手が『餌』としてどのようなものなのか、ただそれさえ分かれば。
【楠様とのロールです。】
【遅れて申し訳ありません…。】
相手の動揺を察するがそれを口には出さない。
自らの傲慢さを戒め、相手の一撃への敬意を表して今回は手を引くことにしたのだから。
また戦う相手の名前ぐらいは知っておくべきだろう。
「……楠レイア。そちらは?」
この場で戦いを再開させるのはまずい。
何より右肩のから服がずれ落ちてしまうのは嫌である。
それにしても、人畜無害そうな妖魔もいたものだ。
このような能天気な妖魔を見ていると
殲滅主義者であった退魔士時代の価値観を疑ってしまう。
最も一定以上の力を持たない一般人にとっては脅威かもしれない。
人間を害する力を持つもの、それ自体の存在が許せない者もいるのだから。
『「……楠レイア。そちらは?」』
「……私が知りたいのは偽名ではありませんが…まぁ、いいでしょう。」
偽名か、それとも本当に別人なのか。相手の名乗りに対して、カマを掛ける。
元とは言え斬鬼衆、例え相手がホンモノだったとしても、この効果は薄いだろう。
…まぁ、出来る限りはやらなければ。
「…私、田中タケシと申します。」
『………・……………。』
言い放ったのはあからさまな偽名。他人の事はいえない。
いくら三下とは言え、敵に個人情報を易々渡すほど
って言うか怖いし。何か、オレだよオレオレ!って電話がかかって以下省略。
「ま、前置きはこれまでとして。
…貴女を強大な妖魔と見込んだ上で、少々御話をさせていただくべく、
私、この場に参上した次第で御座います。…少々御耳を拝借出来れば有り難いのですが。」
七妖会への、妖魔の勧誘。…ついでの用事ではあるが駄目で元々、
まさか「貴女の正体を暴くためにストーキングしました」だなんて言えないし。
「何故、偽名だと思うのかな?」
相手がこちらの情報を持っているということは……。
斬鬼衆関係者?そんな訳はない。
ならば、斬鬼衆の情報を持っている集団?
自問自答を繰り返す間に返ってきた返事。ー
『「…私、田中タケシと申します。」 』
軽く聞き流す。
偽名で返したつもりならばそれでいい。
妖気はもう覚えている。
要は次に戦場で会った時に認識さえ出来れば問題は無い。
殺す相手の名前を知ろうとする昔の流儀。
それは未練に似た感情のような気がして、守るべきとは思えなかった。
―強大な妖魔、か皮肉だな。
唇を片方軽く吊り上げて小さく笑う。
「聞くだけ、聞こう。
くだらない話をするために尾行してきたわけじゃないだろう?」
つまらない話なら斬るという意思をあからさまに出して尋ねる。
『「聞くだけ、聞こう。
くだらない話をするために尾行してきたわけじゃないだろう?」』
此方の言葉に、「つまらなければ斬る」と言わんばかりの態度を取る相手。
…やっぱり言わない方が良かったかも知れない。
「ま、大した用向きでは無いのですが…
…七妖会、という名に聞き覚えは?」
こういった事は、勝手に推し進めた方の勝ち、と言わんばかりに、
無い、と答えようとも、有ると答えようとも関係無しに話を続ける。
無論、内心では冷や汗が滝の如く流れ落ちてはいるのだが。
「もし貴女様さえ宜しければ、是非とも我々にその力を御貸しして頂きたい。
…嫌だというのであれば仕方がありませんが、協力した方が無難で御座いましょう。
人間は愚か、同じ妖魔の恨みを多く買っているように見受けられます故に。」
断られれば、そのまま退散。
万が一にも受け入れられれば、連絡先として同僚の吸血鬼の携帯番号を教えればいいだろう。
そして、…これが最も確率が高いのだが、気が変わって自分に斬りかかって来た時には―――
―――…諦めるしか、ないですよね。
弱者と言うのは総じて、強者の被害に遭うものだ。
組織の中でも三下のバケモノは、心の中で諦めのぼやきを呟いた。
七妖会。
聞き覚えがあるし、また斬った妖魔の中にもそういう者がいたのも確かだ
斬鬼衆時代資料を大して読まず、戦いの中にただ身を置くだけの者だったために
詳しく知らないのが悔やまれた。
―協力をする振りをしてその長を倒す、それも良さそうだ。
大組織のボスならば獲れる力も格別だろう。当然強大でもあるだろうが。
そこに関しては保留でいい。今は準備が必要だ。退魔の剣が足りなくなってきているのだ。
ここでは、このまま考えさせてと答えて一度別れてしまえばよい。
だが、どうしても聞き逃しできない部分があった。
「いや、知らないな。だが参加に関しては考えて置こう。ただ一つ聞きたいな。
『人間は愚か、同じ妖魔の恨みを多く買っているように見受けられます故に。』?
田中ナントカとかいったね。君、どこまで知っている?」
『「いや、知らないな。だが参加に関しては考えて置こう。」』
「良い返事を御待ちしております。
…気が向きましたら、御手数ですが此方まで御連絡下さい。」
同僚の吸血鬼が持つ携帯の番号が書かれた紙を手渡す。
下っ端経験則・とりあえず、厄介な事は他人に押し付けろ。
―――まぁ、あの人(?)女の子好きだから、かえって喜ぶかもなぁ…。
『「『人間は愚か、同じ妖魔の恨みを多く買っているように見受けられます故に。』?
田中ナントカとかいったね。君、どこまで知っている?」』
「…さぁ?私個人と申しましては御伝えしたいのですが、
部外者に情報を漏らすと、上の方が五月蝿いものでして。
ただ―――」
目を細め、じっと顔を見据えて囁く。
特に、最後の方は風の音に掻き消されてしまう程、小さく。
「―――壁に耳あり障子に目あり。 ,・ ・
妖魔の情報収集能力は、貴女も良く御存知の筈でしょう、エミ様。」
正真正銘、最後のカマ掛け。
…まぁ、目の前の妖魔が何であろうと、
どうせこの後逃げるという事は全く変わらないのだけれども。
漸く思い出してきた。
七妖会。確か、珍しくも妖魔で団結している組織だったか。
普通組織への勧誘はその会も目的に共感させるか屈服させるかなのに。
珍しい形もあったものだ。
―それにしても妖魔が携帯とは何かイメージと違なァ。人(?)に言える事ではない。とはいえ……
黙って紙を受け取りながらさらに思考を進める。
――七妖会は本来群れる性質でないタイプの妖魔が合えて群れているような団体と記憶している。
嘗て誰もが知りたがっていた妖魔をまとめている存在の居所を知るチャンスでもある。
が、今の自分には関係のない話で、それが少しだけ寂しく感じた。
『「―――壁に耳あり障子に目あり。 ・・
妖魔の情報収集能力は、貴女も良く御存知の筈でしょう、エミ様。」 』
Emmi・Sigrun・Schicksal
人間という殻と共に脱ぎ捨てた名前。
その名で呼ばれたのは1年振り程である。
――まさかこの町に戻ってきてまず元仲間でなく、妖魔に呼ばれる事になるとは思ってもみなかったな。
ほんの少しだけ、見えないぐらいの微笑を刻む。
別に最終的にはばれるし、隠す事でもない。
ただ、所属退魔士の名前等、情報が漏れている古巣が心配になってしまうのだった。
――ユダでもいるのだろうか。
「……どこかで会ったかな?」
微塵の動揺も見せず、肯定の代わりにただ殺気だけを強くする。
『「……どこかで会ったかな?」』
―――矢張り、本人か。
殺気といい、言葉といい、反応といい、
目の前の人間が、元斬鬼衆であった事は間違いない。
ならば、目の前の妖魔を手に入れる事は、組織にとっても大きな利益。
そう、例えそれが、どんな形であるにせよ。
「…さぁ?私からは何も―――ですが。」
唐突に突風が吹き、ソレが運んできた大量のチラシがバケモノの姿を隠す。
手に入れれば大きな利益、それは確かに分かってはいる、が。
―――…そんなに興味ないし。
良くも悪くも、そこまで目立つ事はこのバケモノは望まない。
即ちそれが導き出す結果は、逃げるという完全無欠の安全牌。
―――まぁ、後は億月様にお任せしましょうかね。
吹き続ける突風と、近所のスーパーの広告チラシの中で妖魔に向かって叫ぶ。
「全ては貴女の御心次第、今はその方と会うが最良の道かと!
…斬鬼衆にも戻れぬその体、預ける所が必要だと私は思いますがねぇ!」
―――そして、風が止んだ時。
その場にあの三下のバケモノの姿は、既に無かった。
【えー、とりあえず此方はこれで〆、という事になるのでしょうか…。】
【無責任に億月様との遭遇フラグを立てておいたり。】
捨て台詞の後にすぐに気配が消えたことから、転移したのだろう。
舞う紙吹雪を見つめながら一言呟く。
「道化め……。」
結局、釣られたのはこちらだったらしい。
それが少しだけ気に食わないのだった。
完全に妖魔にもなりきれない。
かといってこの身は最早人ではない。
七妖会に入るメリットとデメリットを考えてみる。
メリットとしては
後ろ盾が出来る
破滅の呪を解く方法を知るものがいるかもしれない。
孤独をある程度癒せるかもしれない。
デメリットとしては
古巣からまた一歩遠ざかってしまう。
当然同士討ちは禁止されているだろうから狩れる強力な妖魔が減る。
―ならば、一旦入って呪に関して知る者が無ければ内部から斬り倒すのが一番良いか。
何となくスーパーのチラシを拾い上げる。
「卵が安い、な。」
とりあえず全ては着替えてから考えるとしよう。
一瞬の後に少女も転移し、大量の広告だけがその場に残された。
【こちらもこれで〆で】
【OKです、なんとかしますwお付き合いありがとうございました】
上弦の月を眺めながら、金色と漆黒の青年が歩いていた。
任務で久しぶりに不覚を取り、昨日まで入院していたのだが。
「――もう直ぐ夏か・・・・・・」
身体が疼いて仕方ないので自主的に退院することにした。
単車もなく、真っ直ぐ家に戻る気もなく、こうしてそぞろ歩きながら夜の空気を堪能している。
――世界は地獄だと思わない?大切な物が次々と不条理に奪われてゆく。
誰も誰かを助けることも守ることも出来やしない。だったらさ、肝心なのは
それを理解した上でそれがどうしたって覚悟して進むことじゃない、そうでしょ?
ぼんやりと、そんな言葉を思い出す。
それは彼の深奥に刻まれた言葉。
とある少女の放ったこの世界に対する呪詛。
そして不条理に屈してなどやらないという決意表明。
その言葉が今の自分に幾らかの影響を与えていることは、自覚している。
軽く舌打ちをしながら散策を続ける。
やがて、見覚えのある公園に辿り着く。海の見える公園だった。
「………月…キレイ……」
誰に言うでもない。ただの独り言。
周りを見渡しても、誰もいないけど。
「…………静か…」
今、ここにいるのには特に理由があるわけじゃないけど。
なぜだか今夜はこの公園に来たいと思った。
それだけ。
……私、ひょっとして徘徊癖があるのかな。
「………本当に、キレイ…」
「くだらねえ・・・・・・」
小さく吐き捨てる。何もかもが鬱陶しいことこの上ない。
この世界の在り様と、その世界を作っている人間。
そんな世界と人間の盾であることの、その虚しさ。
「本当にくだらないな」
この世界に、守るべきものなど何も無い。
守りたかった相手は、もうこの世界の何処にもいない。
――この時の彼は知らなかった。
今の自分が、誰からも忘れられた子供のような顔をしていることを。
恐らくは、指摘されるまではずっと気づかないままだろう。
無造作で静かな歩みが止まる。
かつて、この場所で出会った少女。
髪の長い、日本刀を携えた少女。
その細い身体が、月明かりに照らされてそこにあった。
「――水無月涼子」
夜の静寂さを崩さないその声は彼女に届いたのか。
彼女は、ぼんやりと月を眺めていた。
「……………はい……」
後ろから名前を呼ばれた。だから反射的に返事を返した。
正直言ってちょっとびっくりした。
振り返ると、人が一人立っている。
……よく見ると、その人には確かに見覚えがあった。
「………トラ…?」
確かにあの『トラ』だった。
ちょっと前、初めて会ったのもこの公園だったと思う。
「……………どうしたの……?」
特に何の考えもなく、漠然とした質問をしてしまう。
「………トラも徘徊癖……?」
何処かで、虫が鳴いている。夏の虫だ。
呼び掛けに応え、少女が振り向いた。
『………トラ…?』
静かに降り注ぐ月光の中、二人の退魔士が向かい合った。
その呼び方に一瞬戸惑ったが、それでも平静な仮面を取り付けた。
斬鬼衆の御影義虎、凶戦士の異名を持つ鬼切りの刃。
『………トラも徘徊癖……?』
ふと適当に思いついたような問いに、少し考えた。
考えてみれば、自分も毎夜の様に単車で徘徊している。
しかしそれは妖魔を狩る為であり、無目的な徘徊ではない。
傍から見れば一緒なのかも知れないが。
「似た様なもんだ、身体が疼いて寝つけんのでな」
入院していたことは面倒なので省略する。
そこまで話すような間柄ではない。
「あんた・・・・・・・以前訊くのを忘れていたが、剣術はどの程度
前から修行している?誰に習った?」
こちらも、ふと、思いついたことを訊いてみる。
「…………そう…」
何かはぐらかされたような気がする。多分、気のせいだと思うけど。
私には何も分からない。
今度は逆に、こっちに質問が飛んでくる。
「………父親に、ちょっとかじる程度に教わってただけ…
…あとは、何も………」
別に隠す必要はないから、正直に答える。
正確に言うと、かじる程度にしか教えてもらえなかった。
一人娘に乱暴な事は無縁だと言って、本格的な稽古などはいつも後回しにされていた。
結局、後回しにされたままで終わってしまったけど。
「………」
ふむ、と彼は頷いた。父親のことを語る時、少女の無表情の隙間から、
痛切な感情が滲み出ている。悲しみ、痛み、喪失感?
つまり以前訊いた、彼女が失ったものとは――
「師を持たず戦い続けるのは、死期を早めるだけだな」
彼は静かにそう言った。彼自身、基礎訓練の為に費やした期間が
一年程度存在する。斬鬼衆として配属される前の話だ。
体術、特に拳に関しては天性があると評価されたこともある彼だが、
そんな彼でも生粋の斬鬼衆には敵わなかった。今では切り込み隊長
と呼ばれている彼にもそんな時期はあった。
「まあ、筋はあるんじゃないか?俺は剣術に関しては門外漢だが。
あんたの太刀筋は、俺の知ってる奴によく似ている」
以前の戦いを思い出して、正当な評価を下す。
「少し、コツみたいなもんなら伝授できるが、どうする?」
「………………」
自分自身でも分かってる。
このままの私では、何もできないという事。何も守れないという事。
以前ここで起きた事を思い出す。
あの時だって、私一人だったら。
「…………そう…」
なぜだろう。目の前にいる彼の言葉には、いつも重みがある。説得力がある。
よく分からないけど、彼はいろんな経験をしながら生きているんだと思う。
それこそ、辛いことも、苦しいことも、悲しいことも。
そんな彼が、どうして私なんかに構うんだろう。
少しだけ不思議。
「……………私は…」
彼の目を見る。いろんなものを見てきたであろう、その目を。
「……私は、もっと強くなりたい…」
正直な気持ち。
一人の心でも、一人の命でも救えるぐらい、強く。
彼のように。
そして、父さんのように。
少女の眼が、正面からこちらを見据えている。
だから彼は頷いた。彼女の決意が伝わったから。
この提案は彼自身の気分転換と、気紛れである。
そしてほんの少しの好意。男女のそれではなく、人間としての。
恐らくは、似た様なものを失った者へのシンパシーだったのかも知れない。
「霊刀使いの強さの要素は、大別して四つある。
刀自体の霊格、使い手と刀との相性、そして使い手の学んだ剣術、
使い手自身の能力値。まあ最後のはそこまで重要でもないかも知れないが」
彼は四本の指を立てる。
「あんたの刀、霊格はそこそこあるようだ。相性も悪くない。
だが、真名の解放には至っていないようだ。刀と対話できる境地に達しろ。
そうすれば、その刀自体が強くなるはずだ」
彼自身、自分でも言った通り剣術については門外漢だ。
だが、闘争に関することには果てしなく貪欲である。
だから、その知識と経験を総動員して言葉を紡ぐ。
「ちなみに真名というのは、その刀の本当の名前だ。さっきもいったがあんたとの
相性は悪くないようだから、そっちについては、どうにかできるだろう」
問題はあんた自身の力だ、と彼は言う。
「日本武術は、先に理念がありそれに付随して技術を身につける。
あらゆる自体を想定し、それに対応する技術を身につければ無敵になる」
当然、それは理想の境地だと彼は言う。しかし、一歩一歩進んでいけば、
限りなくそれに近づくことはできるのだと彼は言った。
【大丈夫ですか?】
「………………」
彼の言葉に静かに耳を傾ける。
霊格、刀との相性、真名の解放。
次々と語られる説明。
あまり物分かりが良い方だとは自分でも思わないけど。
彼が伝えようとしている事は、なんとなくわかるような気がする。
手に触れた刀の柄を、少しだけ強く握る。
あの日。私が父の意志を継ぐと、そう決めた日。
思えばあの時から、あなたはずっと私を助けてくれた。力になってくれた。
今まで、いっぱい頑張ってくれた。
だけど私が未熟なせいで、きっといっぱい無理もしてた。
これからは、私もあなたと同じぐらい頑張ってみるから。
だからもうちょっとだけ……私の支えでいてほしい。
父さんみたく、上手くあなたの力を引き出せるかは分からないけど。
とにかく、頑張ってみるから。
今までありがとう。これからもよろしくお願いします。
「………一歩ずつ……」
それがどれだけ時間のかかることか、見当はつかない。
だけど、だからと言って現状に甘えてはいけないという事。
難しい事はよく分からないけれど。
「……………」
月は相変わらず、キレイ。
【回線がちょっと不安定のようで書き込めてなかったみたいです】
【時間かかってしまってすみません。】
刀との対話については、持ち主の感性が締める部分が多い。
こればかりは概要を伝えることしかできない。
だから、これ以降は彼女と刀次第だ。
彼は技術部分についての教授を開始する。
これは、相棒の剣士と組み手を続ける内に理解したことだった。
相棒が鋭く素早い太刀を繰り出せる秘訣を、彼は自身の身体の痛みで知ったのだ。
――刀を振るのに必要なのは、腕力じゃない。腕力だけの剣はすぐに
疲労するから実戦的じゃない。重要なのは、体重移動の力を効率よく刀に伝えることだ。
――その為には柄を強く握らないこと。腕はあくまで連結部分だ。
上半身の力だけと剣と全身の力で振るわれる剣、当然どちらが
重く早いのかは、証明するまでもないな。
――他の武術でも言えることだが、体重移動ってのは重要な要素だ。
まあこれは自分で実感するしかないな。
彼は出来るだけ簡潔に纏めようと苦心する。
【了解しました】
【ではそろそろ〆る方向に】
刀の振り方。
基本的な事だけど、とても重要な事。
そう言えば、幼い頃もよく注意されたような気がする。
あの時は、ただのチャンバラ遊びのように木刀を振り回してただけだったけど。
こんな単純な事も私は忘れていたんだと、今になって思う。
無意識のうちに、鞘に納めたままの刀を構える。
「……………っ」
腕で斬るな。体で斬れ。
その教えを反芻するように。
静かに振り上げ、虚空を払う。
「…………大丈夫……もう、忘れない……」
彼に。それとも違う誰かに。
そして自分にも言い聞かせるように、呟いた。
彼女が剣を振るう。
それは、彼の説明した剣の形だった。
「ああ、それでいい」
月の位置が少し傾いた。語るべきことは語った。
当然、これだけの説明で強くなれるなら誰も苦労しない。
彼は芽吹いたばかりの草に、栄養素を与えただけで、
それをどう活用しどのような花を咲かせるかは、相手次第なのだ。
絢爛たる花を咲かせるのか、花を咲かせる間もなく潰されるのか。
それは誰にもわからない。彼女の努力次第だろう。
「俺に言えるのはこの程度だな・・・・・・
長話になっちまったが、そろそろ行くとする」
踵を返して、背を向ける。
歩み去ろうとして、その脚を止める。
「ああ、もうひとつあった――この世界は不条理に満ちている。
誰も誰かを救えないし、守れない。とげうしようもなく理不尽だ」
彼は振り向かない。淡々と言葉を紡ぐだけだ。
「それでも誰かに手を差し伸べたいと思うなら・・・・・・・
それを壊すぐらいに強くなれ。自分も他人も、纏めて救えるように」
そして、最後に付け加える。
「あんたは、俺みたいになるな」
――復讐に身を焦がし、殺戮を撒き散らし、狂気と憎悪を身に宿す刃になるな。
そう言って彼は歩き出す。
未だ守るべき者を持たぬ凶戦士は、静かに夜の中へと消えていった。
【こちらはこれで〆です。ありがとうございました】
「………もう、行くの……?」
彼は相変わらず、無愛想な態度を崩さない。
だけど、それが彼らしさなのかも知れないと思った。
「………自分を、救う……」
背中を向け、彼は意味深な言葉を残して歩き出す。
その背中はとても大きく頑丈に見えて。
だけど、それと同じくらい繊細で、どこか悲しく見えた気がした。
そして気がつく。私は彼の事を何も知らない。
だから……何も知らない私には、彼に何か偉そうなことを言う権利はない。
でも……
「………またうちに…神社に来て。………待ってるから」
遠くなり出した背中に言葉を投げる。
彼に聞こえたかどうかは分からない。
「…………ずっと、待ってるから」
辺りはまた静かになったけど。
彼の姿が見えなくなっても、なかなか帰ろうとは思えなかった。
月は何も言わず、こっちをただ見ていた。
【こちらもこれで〆とします。こちらこそありがとうございました。】
【拙いロールで申し訳ありません。もっと精進します……】
彼は拳を握り締める。そして緩める。
斬鬼衆白清支部地下施設。いつもは斬鬼衆の鍛錬所として
使用される場所に、見慣れない計器が運ばれている。
今日はこれを使用して、御影義虎のデータを計測するのだという。
「・・・・・・確かに武器の作成は頼んだけど、大袈裟なことだ」
小さく、誰にも聞こえない声で呟く。
疾風と金剛。それが彼の為に造られた武器。左右非対称の篭手である。
頑丈な造りの篭手が『金剛』で、軽く短い篭手が『疾風』だという。
「で、鳴神さん・・・・・・・
これを着用してデータを取って微調整って流れなんですか?」
彼にしては丁寧な口調で、傍らに立っている女性に語りかける。
水ヶ瀬学園教諭、鳴神真郁。
今日の行き先は都立白清高校。
学業とは別の講師を引き受けての訪問である。
一通りのチェックを済ませて地下室へ向かうと『彼』は既に準備を終えていた。
挨拶と準備を済ませると彼は少々訝しげな表情で問いかけてくる。
『で、鳴神さん・・・・・・・
これを着用してデータを取って微調整って流れなんですか?』
「うん、そうだけど・・・プッ。結構御影君て顔に出るタイプだねー。」
簡単に計測器の説明を彼に施しながら、
最終的な装着具合を確認する。
「適当にダミーを叩いてもらって、その後実戦的な計測をするからよろしくね。」
面倒ではあるものの、
上からの命令には逆らえない。
「実戦計測はデータを見てから相手決めるわねー。誰になっても文句言わない様に。」
ウインクしながら彼に人差し指を向ける。
技術部員に指示を送り、人型のダミーを並べさせる。
「それじゃ、適当に各種打撃、ニードルを出してみて。
自分のリズムで構わないから蹴りとかも出しちゃっていいからねー。」
彼と技術部員にアイコンタクトを送り計測を開始する。
『うん、そうだけど・・・プッ。結構御影君て顔に出るタイプだねー。』
そんな評価を受けたのは初めてだった。
利き腕に『金剛』、逆手に『疾風』を装着する。
『適当にダミーを叩いてもらって、その後実戦的な計測をするからよろしくね。』
「了解した。だがその前に慣らしをしておく」
説明を聞きながら、軽くシャドーボクシングを開始する。
直ぐに装備の効果が理解できた。
拳の切れが違う。ジャブがいつもより速い。
右。金剛を付けた方はいつもより遅い。
『実戦計測はデータを見てから相手決めるわねー。誰になっても文句言わない様に。」
「そちらも了解した」
(金剛の方は重量が違うからな、バランスを考えないと)
『それじゃ、適当に各種打撃、ニードルを出してみて。
自分のリズムで構わないから蹴りとかも出しちゃっていいからねー。』
最早返事もせず彼はシャドーボクシングに集中している。
左、右、左、右、左、右。拳を繰り出す。
バランスを微調整して、動作の最適化を目指す。
拳に蹴りが混じる。その内に、動きから違和感が消える。
瞬く間に新装備の扱いに習熟してゆく。
動きがシャドーボクシングから、演舞へと変化する。
拳。手刀。肘。上段蹴り。回し蹴り。鉄槌。膝。跳び蹴り。
鋭い攻撃を支える足捌きは、舞うように軽い。
それは闘争と殺戮から生み出された、修羅の舞。羅刹の舞。
ダミーが揺れる。連続で揺れる。今にも破壊されそうだった。
「ニードル・・・・・・こうか」
彼はバックステップでダミーと距離を取る。
いつもの手順で左拳に気を集約する。
篭手に嵌められた魔力石が感応する。
彼はアンダースローで手を振り、ダミーに向けて針を放つ。
格闘センスに関しては流石としか言い様が無い。
「あはっ、噂通りの良いセンスしてるねー。」
モニターに表示される数字をみて頷く。
通常の彼の動きのデータと比較した際に現れていた
『ゆらぎ』が、瞬く間に消えて行く。
「ニードルも問題なしだねー。技術さん、狙撃もしちゃってー。」
その言葉にスタッフは動揺するが、構わないからと言葉を送る。
回転、回避、前進後退を繰り返すダミーと別の角度から
模擬弾が彼に向かって放たれる。
精密射撃、散弾、連続射撃と順番に放たれる。
「ま、この程度じゃ屁でもないでしょうけどね・・・。」
(ニードルの威力は投擲用ナイフ程度。銃弾の代わりにはならないか)
彼の冷徹な観察眼が分析する。
気の消耗も考慮すると、そこまで便利な機能でもない。
低級妖魔なら不意を突けば刺殺できるだろうか。
音を気にしなくてもよいという点は評価できる。
分析していると、ピッチングマシーンのような機械から模擬弾
が発射される。角度的に不意を突いている。
しかし、作動音が消えていないので、事前に予測できた。
精密な射線からなる模擬弾は、『金剛』で弾く。
散弾は、空手で言う廻し受けで弾き落とす。
連続射撃は、『疾風』のニードルで相殺し、残りは『金剛』で弾く。
「余興にしちゃつまらんな」
不敵に笑う。そこにいるのは凶戦士と呼ばれる殺戮の刃。
(流石にこれじゃ完全なデータ採取は不可能ねー・・・。)
「ハイッ!ストップ!止めて止めて!」
パンパンと手を打ち彼とスタッフに合図を送る。
スタッフは足早に彼に近づくとタオルとドリンクを渡す。
「御影君は体冷えない程度にインターバルしててね。」
データを見ながらスタッフと打合わせを行う。
実戦形式でのデータ収集に関して当初予定していた
日ノ本薫では中、遠距離でのデータ採取が難しいと言う意見が出たからである。
日ノ本薫の攻撃に併せて射撃を混ぜる予定だったのだが、
御影義虎の反応速度が予想を遥かに上回っていたのだった。
スタッフと話し合いの結果、ダミーなど全て撤去され
計測器具も別室に移動させられる。
各種センサーのみが特殊なケースに入れられ設置された。
「御影君、お待たせ!」
彼の元に近づき肩を軽く叩くと練習場へと誘い、
自身はツナギから上半身を出し、袖と取り出した帯を腰に巻き付ける。
「あのね、実戦形式の相手なんだけど適当な人がいないから私がやるわ。」
いつもの様に彼にウインクを送ると鉛色の手袋をはめる。
暫し念ずると彼女の手には神器と謳われる大きな槌が握られる。
「こんな格好するの久し振りだなー。でも遠慮はいらないからね。」
間接をほぐし、槌を構え彼に一言告げる。
「さっ、どうぞ。」
数年の時を越えて水ヶ瀬一の豪腕と言われた戦士が
白清の狂戦士と対峙する。
『ハイッ!ストップ!止めて止めて!』
予想より早く計測が終わったのか。
スタッフがドリンクをタオルを差し出す。まだ慣らし運転の領域を超えていないので、
大して汗も掻いていないのだが、それを受け取っておく。
『御影君は体冷えない程度にインターバルしててね。』
鳴神真郁がスタッフと打ち合わせをしている間、彼も見物していた
相棒の剣士の傍に寄る。相棒は気楽そうに笑っていた。
「あれだな、それって携帯に不便だろ」
「俺もそう思った。普段からは持ち歩けんな」
「任務の時に持ってくならいいんじゃね?」
「――その手があったか」
そうこうしている間、ダミーなどが撤去される。
計器も別室に移動している。何か不測の事態があったのだろうか。
「思ったけど、あの人って『先輩』に似てないか?」
「――俺もそう思った、雰囲気が少し似てるな」
彼の顔が少しだけ歪んだ。一瞬、その面影が浮かんだからだ。
それが鮮明になる前に、その映像を遮断して押し込める。
『御影君、お待たせ!』
練習場に戻ると、彼女が動きやすいように服を縛ったり、帯をつけたりしている。
説明を聞くと話し合いの結果、彼女が組み手の相手を勤めることなった。
彼はやれやれと、溜息をついた。そうすることで、現実を受け入れた。
「手加減はできないぜ」
相手の顔を見据え、そう宣言する。
神器と呼ばれる鉄槌を構える斬鬼衆の先輩に、
「推して参る」
静かに告げ、静かに間合いを詰める。
その腕はまだ構えを取らない。脱力したままだ。
しかしそれこそが戦闘体勢になることを、プロならわかるだろう。
法月蒼一郎は勿論の事、彼女を知る物は皆口を揃えて言う。
――女の皮を被った熊
『推して参る』
「それじゃあ、私も参る。」
ニヤリと笑みを溢すと大槌を狂戦士へ投げる。
彼の左頬をかすめる様に槌が通り過ぎる。
それとほぼ同時に彼の右側に大きな塊が現れる。
「こんちわっ!」
拳でも蹴りでも無い。
強靭な脚力と肉体から生み出される攻撃。
彼女自身が大きな鉛の玉の様に、狂戦士にショルダータックルをかける。
あまりにも単純で直線的な技。
しかし、それだけに極めると恐ろしい物となる。
仕掛けることも、攻撃を捌くことも可能な距離。
相手の得物のリーチ、重量特性による稼動範囲を予測。
彼女の纏っている力帯が、大重量の鉄槌を持つことを可能にしている。
自在に振り回せるなら、稼動範囲自体はかなりのものだろう。
しかし――いきなり投擲するとは。
左頬を通過した鉄槌に、集中力を幾らか持っていかれる。
『こんちわっ!』
そして右側に移動する気配。
集約する殺意と圧迫感。そして突撃。
それはショルダータックル。大型トラックに撥ねられた衝撃。
空中を弾丸ライナー。その間に姿勢制御。くるりと回転。
足の裏で壁を蹴って、衝撃を何割か殺す。
「かっこつけんなよ、いつも通りやれ」
「五月蝿い外野」
飄々と笑ったまま野次を飛ばす相棒を、後日締めると決めた。
タックル直撃の寸前、身体を浮かして自分から後方に飛んで幾らか衝撃
を減らしたのだが、かなり効いた。あの鉄槌だけが全てではないということか。
「面白い」
彼は床を蹴った。弾丸の如く正面から。
単純な速度では、風間莉々や古志千草の方が上だ。
しかし彼の突進が生み出す圧力は、対物砲の弾丸と同等である。
彼は何の芸もなく、『金剛』に気を集約して加速度もプラスして殴りつけた。
「授業中にお喋りしなーい!」
非日常時に繰り出される日常的な高校生の会話。
この子達も本当なら・・・、そう思うと少々胸が痛む。
今の自分がしてあげられる事は一日でも多く生きられる術を伝授する事だけ。
タックルに対しての野性的な反応。
程良くスウェーしつつ次の段階に移行するとは中々の物だ。
彼の反撃、狂戦士らしい力任せの剛拳。
その威力は『金剛』の力も相まって相当の物になる。
彼がこちらの攻撃の力を分散している間に場所を微妙に調整する。
彼の剛拳を正面から双手突きで受け止める。
手に軽い痺れを感じながらも正面からガッチリと受け止める。
「ナイスパンチだよ、後輩っ!」
叫び共に力を込める。
万力の様な圧力で彼の右拳を握り締めると
先程タックルを当てた場所を目掛けて神器ミョルニールが飛来する。
彼の動きをコンマ数秒鈍らせる為に微妙な捻りを手首に与える。
『金剛』を纏ったが右拳が、双掌で止められる。
単純な力もあるが、細かい技術の問題もあるだろう。
賞賛の声と共に、万力のような力で拳が圧迫される。
どう考えても女の力ではない。熊でも獅子でも絞め殺せるかもしれない。
白清支部の斬鬼衆でも、ここまで怪力の戦士が一人いたかどうか。
その該当者は、自分くらいなものだ。
ブーメランの如くカーブを描き、背後から飛来する鉄槌。
その動きを感知しつつも、反応する前に手首を微妙に捻られる。
対処法を浮かべる前に身体が動く。下手に逆らわず、自分から
手首の捻りを大きくしてするりと引き抜く。相手の力を利用する合気
というものがあるが、大雑把に言えばその系統の技術だ。
そのまま『金剛』でバックハンドブロー。鉄槌を弾き返す。
当然、衝撃が貫通した。少しの間、右は使えない。
回転したまま次の行動に移行する。彼女に向き直る。
『疾風』が霞む。速射砲の如きジャブ。
それは牽制の領域を超えたジャブ。
次々と打ち込む間に、回転数が瞬く間に上がってゆく。
サブマシンガンの如き拳が防御ごと切り裂く。
手打ちでこの速度と攻撃力があるなら、実戦にも使えるだろう。
この場合、相手が女性であることは考慮しない。
そんな理由で手加減できる相手ではないのだ、斬鬼衆という退魔士は。
このタイプの子なら――少々彼を甘く見ていたかな。
攻撃感知、状況判断能力、そしてそれを行動に移せる反射神経。
「器用だね・・・。」
嫌味ではない、正直な感想で褒め言葉。
直後『疾風』の名に恥じない怒涛の攻撃。
通常の戦士であれば一撃が正拳突きに匹敵するだろう。
この速さだと私には回避は難しい。
ガードすれば彼の思う壷だろう。
恐らくこの様な戦い方をする戦士は私の他にはあまりいないだろう。
少々辛いが、これも授業のうちと思いつつ。
防御を一切せずに彼との間合いを詰める。
彼の殆どの攻撃を浴びる。
痛みが走り口からは血が流れ出る。
「アンタも根性見せなさいよ!」
闘牛士の刃を受けながらも突き進む猛牛の如く突進する。
振り上げるは乾坤一擲の大槌。
アンダースローの投球フォームの様な一撃が狂戦士の右側面を襲う。
彼女は突き進む。防御もせず突き進む。
血煙が舞う。それでも臆せず突き進む。何という豪胆さか。
『疾風』の連続打撃を受けながら、神器と呼ばれる鉄槌を振りかぶる。
彼女のその姿に、彼は歓喜していた。
速度で力を捌く者は幾らでもいた。
技術で力を捌く者は幾らでもいた。
だが、正面から力で応じる者は一人としていなかった。
正面から力をぶつけられる相手は、一人としていなかった。
彼女は――鳴神真郁は正面から力をぶつけてきた。
正面から力をぶつけても、彼女は壊れなかった。
だから彼は歓喜していた。そして悔やんだ。
彼女と同世代に生まれなかったことを。
存分に力を試しあえたであろうから。
或いは、その時に出会っていれば彼女に惚れていただろうから。
全ては無意味な仮定。有り得なかった未来。
だけど/だから
その想いを伝えるように、『金剛』を鉄槌に振り下ろす。
鉄槌と剛拳の正面衝突。凄まじい轟音が鳴り響いた。
狂戦士と彼は呼ばれている。
それは正しくもあり、間違いでもある。
痛みを恐れず結果を求める点であれば正解。
しかし、力任せの戦士と言うのであれば不正解だ。
彼はいつも考えている。
最高、時には最良であるかも知れないが、
勝利への最短距離を見据えて戦闘している。
――部分的に、大局的に。
彼女の鉄槌と彼の槌の様な拳が交じわり、響き渡る轟音。
それは終了のゴングの様にも聞こえる。
「オッケー、ナイスファイトだよ。後輩!」
口元の血を拭いながらウインクを飛ばす。
もう少し彼との戦闘を『楽しみたい』と言うのもあったが、
これ以上はお互いの任務や生活に支障をきたす。
二人の戦いは大型トラックのぶつかり合いの様な物だ。
「結構良いデータ取れたんじゃないかな?お疲れ様。」
(この調子なら次の段階にもいける・・・かな?)
彼との戦闘で得た『生』の手ごたえに何やら思案する。
「使い難い所とか無かった?あったら言ってね。」
彼に問いかけつつも、もう一人の後輩日ノ本薫にタオルと飲み物を要求する。
「あー、そうですね・・・・・・ニードルの威力がもう少し
なんとかなれば。あと携帯するのに不便かと」
忌憚のない意見を延べる。
口調が敬語に戻っているの辺り、中々切り替えが早かった。
「使い心地は良かったと思いますね。
これなら微調整するだけで直ぐにでも実戦で使えると思います」
素直な感想を述べる彼の頭に、タオルが被さった。
相棒の剣士が、先輩にタオルとドリンクを丁寧に手渡す。
「少しは手加減しろっての、相手は女だぞ一応」
「そんな理由で手加減できるか相手か。そして何気に失礼だぞその台詞」
ドリンクを飲みつつ、いつも通りの会話。
ここだけ切り取ってみれば、他愛の無い高校生同士の会話。
けれど、彼がそんな顔を見せる相手は限られていた。
「ニードルの威力ね・・・、サイレンス機能、速射性能はそのままにか・・・。」
何かをイメージしつつ彼の意見を聞く。
確かに彼の場合少々異なった使い方も想定はできる。
「うぇーっ、威力あげて携帯性向上かぁー。下手に小さくすると壊しそうだしなー。」
彼の使い心地は良いと言う言葉に――ありがとー。と、答えつつ何かをイメージする。
魔力、科学力、後は彼の気功を更に還元させれば――。
「おい!後輩その2!今、一応って言ったでしょ!」
いつの時代も先輩と言う生き物は地獄耳である。
「ったく・・・。まぁ、いいわー。それじゃあ今日は私の奢りで飲み・・・。」
(は、まずいわね・・・。)
「焼肉でも食べに行こうか!遠慮しないで良いわよー!後輩は甘えるのも仕事のうちっ!」
少し背伸びをしながら二人の首に腕をまわす。
非日常に生きる者達の日常的な光景。
「そう言えば二人とも彼女とかいるの?奢るんだから全部言いなさいよー!」
グイグイと二人を締め付けながら微笑む。
願わくば二人とも水ヶ瀬の様な悲劇に巻き込まれない事を祈りつつ。
【キリが良くなってしまったので私はこれで〆させていただきます。】
【高校生サイドの受け&〆おねがいします。】
【篭手の新機能に関しては少々考えがありますので後日設定スレにでも・・・。】
【今日はありがとうございました、またよろしくお願いします。】
『焼肉でも食べに行こうか!遠慮しないで良いわよー!後輩は甘えるのも仕事のうちっ!』
鍛冶師にして屈強なる女戦士が笑い、二人の首に腕を廻す。
その腕は逞しくて、そして温かかった。
その温もりは、かつて誰かに与えてもらった温もりに似ていた。
「あんなこと言ってるぜ、カオリン」
「あー、零が飯喰いに来いって言ってたな、今日」
「俺もそんな記憶があるな・・・・・・・まあ、アイツには諦めてもらおう」
「てかアイツも呼び出すのが無難じゃないか?仲間外れ嫌いだし」
「――女ってのは、疲れるな」
「同感」
二人揃って溜息をつく。この辺は息が合っている。
『そう言えば二人とも彼女とかいるの?奢るんだから全部言いなさいよー!』
ぐいぐいと締め上げながら問う先輩。
ちょっと洒落にならない圧迫感だった。やはり熊でも殺せるだろう。
「あー、このバカ虎は彼女いるみたいだけど」
「――別にいないぞ」
「何で視線が泳いでるんだよ」
ぎゃあぎゃあと喚きながら、三人は焼く肉屋へと赴いた。
【こちらはこれにて〆です】
【はい、そちらは方もわかりました】
【今日はありがとうございましたノシ】
「封魔の結界、ね」
取りあげた、一綴りの印刷物。
先日、蟲を憑かせた天洸院の人間に送らせたものだ。
卓には、茶封筒と紙とが、折り重なって広げられている。
この時勢に、この方法がアナクロな自覚はあるが、彼女は機械に強くはない。
………単純に、意思の強さの問題かもしれないが。
霊気に富むという点では、白清も風見ヶ原も、数年前に大乱があったという水ヶ瀬も変わらない。
天洸院によって結界を張られている、という点でも同じ。
にも関わらず、風見ヶ原だけが、近年になって目立った混乱に曝された経緯が無い事実が不思議だったのだが、
(―――単純に、人間の有無の問題かしら)
人間の多い場所は、妖魔を退ける結界を張っても、維持することは困難になる。
物理的な意味でも、霊的な意味でも。
さる妖魔が姿を消した七妖会にあって、彼女もまた、勢力争いの渦中にある。
「この情報は使える、かしら―――」
呪術的な構造は秘されていても、要石の配置など、地理的な情報は下部の構成員でも引き出せる状態にあるらしい。
会の指針とされている妖魔世界の構築などに興味は無いが、結界に関する情報は他の派閥も欲しがっているはずだ。
急進派ならば、それこそ喉から手が出る程に。
妖魔には退魔の術式に接触し難いという問題はあるが、彼女ならクリアすることは難しくない。
(術式も精度も、老朽化の度合いも、水ヶ瀬で何が起きたのかも―――それは見ないとわからない)
黒髪を指先に巻き取って、黙考。書類を卓に落とす。
「はいはい、急かさなくてもすぐに食べさせるから―――見回りついでに、この街の仕掛けを
もう一度確かめてみましょうか」
小柄な娘には些か広すぎる執務室で、よいしょ、と両手を組んで腕を伸ばす。
時は夜。至る場所で、夜行性の蟲たちが、活動時間を迎えて覚醒を始めている。
【眠気次第ですが、零時くらいまで駄目元で待機】
【駄目元で御相手を願ってみたり。いや、時間が時間ですが。】
【時間が時間ですねーw】
【普通に会話かな?】
【ですねー。】
【タイミング的には街に出た辺りで遭遇、という事にしますかね?】
【いや、執務室の換気口に潜んでいても全く問題は(ry】
【遭遇場所で二択にしてみる】
【偵察に出たところで遭遇→会話(書き出しはこちら)】
【室内で会話→きっかけらしいきっかけもなくエロールとかでも可(待機文からそのまま移行)】
【どっちでもいいです、換気口でも町内でもw】
【時間も勿体無いですから、室内で。】
【いえ、別に換気口に潜むというイロモノっぷりに浪漫を感じている訳ではな】
【早く書かなければ…】
争い事で真っ先に犠牲になるのは、一切の例外なく下っ端である。
―――by.世死見道迷
―――なんで、私は此処に居るんでしょう。
時は夜。場所は七妖会の所有する某施設、某執務室の換気口。
ミッションイン○ッシブルで大活躍しそうなその場所にそのバケモノは潜んでいた。
理由としては、別派閥の情報収集という事になるのだろう。
五通青姫。七妖会の日妖にして、妖魔組織に属する人間である女性。
七妖会の発足から所属するといわれ、その体は不死という噂もある。
…まぁ、その噂を信じて特攻し、酷い目に遭った訳ですが。
『「この情報は使える、かしら―――」』
眼下の蒼い物体、もとい、対象である日妖が呟く。
卓には茶封筒と地図らしきが広げられている様にも見えるが、細かい所までは分からない。
使える情報とは何の事だろう。…自分のヌード写真集でも出したのだろうか。
『「はいはい、急かさなくてもすぐに食べさせるから―――見回りついでに、この街の仕掛けを
もう一度確かめてみましょうか」 』
外出を暗示させる台詞に、思わず心の中でガッツポーズをとる。
日妖のいう『使える情報』というのが手に入れば、これは紛れも無く大手柄。
もしかすれば雑用卒業、いや、毎日も食事にも困らなくなるかも知れない。
―――そうなったら、まずは卵かけ飯で、次が載り茶漬けで…
思わず浮き足立ち、自分でも気付かぬ内に少し換気口に体重を載せた、その時。
…蓋が、外れた。
「……えー、本日は御日柄も良く、
青様が如何お過ごしかと参った次第で御座いまして…今晩は。」
―――悲鳴と何かが崩れる音を一頻り鳴らした後。
換気口から逆さ吊りになりながら、目の前の日妖に向かって挨拶をする。
…ちょっとばかり、人生そのものに絶望しながら。
まずは考えた。いかにして証拠を消すか。
アナクロな人間に相応しく、
「食べさせるか、燃やすか、かしら」
内容はあらかた頭に入れてある。複製は望めば手に入る。
街に出るのはそれからでもいいだろう。
しかし、七妖会の古きといえど、こんな場所から侵入した妖魔はおそらく未だかつて居ない。
相手をしげしげと眺めて、気づいた。
落ちてきたのが、見覚えのある相手であることに。
「貴方、佐竹君の所の―――」
間。
スカートの膝元に手を掛けて膝をかるく落とす。
「吉野君?」
距離を離しながら呟く。
日妖である蒼い物体を目の前にして、心中にあるのは後悔と絶望という二つの単語。
同じ妖魔組織に所属するとは言え、別派閥の者に対し情けをかけるとは思えない。
「使える情報」を盗みに来たとあらばなおさらの事、見逃しては貰えないだろう。
…そんな大事な情報を、そんな軽く扱う者も居ないだろうに。
過去に襲い掛かった相手に見つめられ、余計に硬直する。
―――何を、されるのだろうか。
釜茹で、磔、鉄処女、逆さ吊り、爪剥ぎetcetc
これからの展開に戦慄する前で、日妖は―――
『「吉野君?」』
…間。
「…いえ、世死見です。」
素で間違えられているのだろうか、力が一気に抜ける。
所属する班が割れている以上、偽名を使ったところで仕方がない。
それならば、名前くらい訂正くらいしておいてもいい。
…間違えられたまま、黄泉路を歩きたくないし。
「……えーと、とりあえず……見逃して頂けます?」
今の状況で、最も最重要な事柄を問う。
…ちょっとばかり、逆さ吊りの影響で顔を赤らませながら。
発言が誤解を招いている気がしたが、流した。目を細める。
逆さ釣りの影響で血が上っているのか、男の顔は赤い。
上下対象に凝視しあう形になる。
一部の服装がこの世の摂理を無視しているようにも見えるが、敢えて無視。
以前、何があったかを忘れているわけではない。
(「あちら側」の)
軽んじているわけでもない。
相手が道化るなら、こちらは呆けるだけだ。
「……見逃すけど?」
言って、出口を指差す。黙って出て行け、というジェスチャー。
簡易な結界は張ってあるが、まさかこう直截的にくる相手がいるとは思わなかった。
繰り返すが、こんな場所から侵入されたのは初めての経験になる
―――加えて、記憶に残されない過去に同じ経験が無ければ。それはもうどれだけ以前のことか、彼女は知らない。
一昔前、鼠の通り道まで利用する類の人種がポピュラーだった頃は天井裏にも網を張っていた気がするが、
今は時代が違う。ヒトに近い妖魔は、社会に相応に適応しているものだ。
初対面で、空間を分断してみせた相手に常識を適用するのは無駄にも思うが、
組織の倫理に従う意思があるならそれを利用するだけのこと。
(でも、佐竹君って穏健派じゃあなかった?)
そもそも、何たってこんな規格外を手元に置いているのか。
わからないが、彼の日妖の飄々とした様子を思い浮かべれば解せなくもない、かもしれない。
『人間好き』とはいえ、あの遊月が席を連ねているのだ。
何より―――と、次第に赤みを増す男の顔を横目に、再び見遣る。
深く考えるだけ不毛かもしれない。
『「……見逃すけど?」』
「…は…あ、有難う御座いますっ……ふぅ〜〜〜〜〜……」
許しの言葉を聞き、コレ以上ない程に力が抜ける。
安心し、力が抜けた拍子に引っ掛かっていた箇所が外れたのか。
例によって悲鳴をあげながら頭から落ちる。
「〜!!…あだだだ………。」
人並みに痛覚はあるのか、頭を抱えて呻く。
正に王道なボケの連発、傍から見れば単なる道化。
「…それでは、私はこの辺で…。」
へつらいながら、出口に向かって進んでいく。
ドアノブに手をかけた、その時。
「……………コレは、私個人で行っている事で御座いますよ。」
―――先程とは打って変わった、冷たい声で言い放つ。
それは、七妖会に所属する世死見道迷では無く。
「向こう側」のバケモノとしての、世死見道迷。
「億月様は、余り七妖会の目的には興味が無い様子で御座いますからねぇ…
…貴女も、きっとそうなのでしょうけれど。この情報も…どうせ取り引きの道具なのでしょう?」
何時の間に取ったのか、ひらひらと書類を動かしながら問う。
『蛇』やら『主』やら『領主』やら、そう人間達が呼んでいる妖魔達。
詳しい事は知らないまでも、様々な混乱があった事だけは知っている。
…そして、まだまだ強大な妖魔が封じられているであろう事も。
強大な妖魔。封印する他に手が無い妖魔。
その中には自分の望む者も、不死の者も存在するに違いない。
「青様、一つ質問をしても宜しいでしょうか。」
先程と同じ、氷を吐く様な調子で呟いた。
相手が道化だろうが怪物だろうが、判断基準は変わらない。
だから、彼女の態度は変化しない―――ただほんの少し、双眸の空辣が濃度を増す。
下がった、場の温度に合わせるように。
(―――重要なのは)
これからの駆け引きに、『これ』が邪魔になるか否か。
そうならば、相応に足掻くのみ。
そうでないなら、これが本性を見せたとて構うまい。
「そうね」
距離を置いたまま応じる。事実を述べるならば、「それだけ」ではない。
彼女と、彼女の旧友と。偶然から同じ場に身をおいてはいるが、その理由は根本的に異なる。
この男の推察は前半は正しいが後半は正しくない。
この妖魔は、彼女の存在理由を知らない。しかし、敢えて知らせてやることも無い。
唐突に空気の冷えた部屋を見渡して、目を細める。
「その前に此方もきいておくことがあるのだけど。良い?」
この間は聞きそびれたのよね、と付け加えて。
余裕はあくまで崩さない―――これは、単純に着慣れた衣のようなもの。
(それに)
過ぎった思考を、今は締め出す。
「あなた、この身が欲しいと言っていたよね。その理由は何?」
【今日はちょっと夜更かしできんのです申し訳ない!】
【明日再開って行けます? 時間は19時以降で】
【了解しました。というか此方こそこんな時間までつき合わせてしまい申し訳ない。】
【それでは20時に待ち合わせスレにて御願い申し上げます候〜。】
【了解いたしました〜】
【その辺はお互い様ということで;】
背後の日妖は余裕を崩さず、質問を返す。
生物にとって、最悪の事象である筈の死、
そのペナルティが無い者の持つ余裕なのだろうか。
…もっとも、その分生の実感も無いのだろうが。
「………………………。
…理由を言えば、喰らわせていただけるとでも?」
理由、理由、理由。そんなモノは、どうだっていい事だ。
理由があれば、この飢えが満たされるのか。
理由があれば、この乾きが潤うのか。
「…実を言うと、私にも分からないのです。
『不老不死の肉体を喰らう』、ただそれだけが頭の中にこびり付き、離れようとしない。
ま、知ったところで何か変わる訳ではないのでしょうけれど。」
理由が分からない、これは本当の事だ。
実際のところ、七妖会に入る以前の事は断片的に覚えているものの、
その殆どは、自分にとって意味の無い記憶。いや、自分の記憶ですらないのかも知れない。
それ故に、頭にこびりついたこの自身の存在意義である「目的」は、
自分にとって必要以上に重要なものとなっているのだろう。
「…私としては、青様が何故そのようなモノに首を突っ込むのか、
其方の方が重要な事だと思いますがね…。」
本心を言えば、この言葉はただの興味だ。
不死であろうが蟲使いであろうが、目の前にあるのはただの人間。
数多の妖魔の中に居るただ一人の人間、そんなモノに何の益があるのだろうか。
「こんな危険な代物、取り引きの道具にしたって不適当でしょうに。
…まさか、御自身で結界を解こうとでも?」
【遅くなったので腹をかっさばいてお詫びを。】
【展開的には「人間って面白ッ!」と道迷が乗る形になるのでしょうかね…。】
愚問だ、と内心で断じる。
「『何故』?―――使える物は余さず使うものでしょう」
今回のこれは、人なる身で妖魔と渡り合うには、恰好の材料になる。二重の意味で。
本来は妖魔には接触できない存在であること、これが理由の一つ。
「わたし自身が結界を解くことが必要ならば、そうする。今は未だ、時期が至らないけれど」
(人間達に何の情報も与えないまま行動すれば、事は妖魔に大きく有利に傾く)
これが、理由のもう一つ。
―――だが、それは『一時』。
波紋は、わずかに水面を揺らして掻き消されるだけで終わるだろう。
それでは、足りない………加えて、彼女自身の足場をも揺るがす可能性がある。
だから、それは彼女の今の選択肢には含まれない。
「理由を言えば喰わせてくれるのか、そう、貴方は言ったよね」
いいわ、と続ける。
「この煉獄から逃れる方法がそこにあるなら、腕一本くらいは食べさせてあげる。………無意味だと思うけど」
あくまで「そうらしい」というレベルでの認識だが、
「遊月に吸われた時も、此方には影響が出なかった。彼女の側に、此方の呪いは影響を与えなかった」
要するに、霊的なキャパシティや性質の問題なのだろうか、と彼女は考えている。
吸血鬼の支配力より、彼女に呪詛を与えた存在の支配力が強く。
しかし、彼女という『人間』を介せば、その支配力は吸血鬼には及ばない。
加えて、あるいは―――吸血鬼という種族の特性も影響していたのかもしれない。
面白いものだ、と内心で驚嘆する。
彼女など及びもつかぬ力を持っている癖に、目の前の男はどうも彼女の存在を誤解している節がある。
この身は所詮人間だ。強大な力を手のうちに置くことに、迷いなどある筈がない。
だが、それを持て余すのもまた、この身の小ささ故に。
(……それでも、逃れることはできない)
呪い。
そう、彼女は言う。
目の前の妖魔の焦がれる不老にして不死。
それが、呪いなのだと。
【なんか先が読めないですねぇw】
永い時を生きてきた人間の答えに、内心眉をひそめる。
極力益の無い事はせず、漁夫の利を盗るのが人間と考えていたのだが。
―――いや、人間だからこそ、か。
その先に一体何があるかも理解をせずに、盲目に力を求め、そして自滅する哀れな生き物。
…目の前の不死者も、それらの人間と変わらないという事か。
「………。」
自身が永遠の生を望むのとは対象に、不死者が望むのは一瞬の死。
生き続ける事が煉獄ならば、死に行くこともまた地獄。
己の存在は、例えるならば砂の楼閣。例えその力は強大であったとしても、何時崩れるかも分からない。
故に不死者を喰らう―――正確に言えば不死者と同化する事を欲し、
それが例え呪いであろうが、自分はその力を永遠のものとしたいのかもしれない。
…本当は、決してそうでは無いのだけれど。
「…やめておきましょう。」
確かに目の前の肉体は魅力、
だが、それ以上にこの人間の考える事に興味が湧いた。
結界を破り、妖魔と渡り合い、この人間は何を望んでいるのかと。
「喰らうとなれば腕一本程度では済みそうにありませんし、私は人を救うつもりは毛頭御座いません。
ですがそれ以上に私、貴女に興味が湧いて参りました。」
ここで初めてバケモノは人間の方に振り向く。
まるで、欲しい玩具を見つめる幼子のような目をしながら、
それは、初めての「自分」が持った興味。『不死者を喰らう』、それ以外の自分自身の存在意義。
「…そこまでして、貴女は何が欲しいのです?」
先程と同じ目で、不死者に問う。まるで玩具の選別をするかのように。
―――そこまでして、貴方は何が欲しいのです。
『お前は何が欲しいか』
そう、問われた。幾度。幾度となく。
呼び起こされる声は谺のように、自らの手で切り裂いた記憶の中で呼応する。
答えは同じ。いつも同じ。
その双眸に虚無を宿しながら、心の片隅で変質を望み続けた彼女の中にあっても、
この答えは恐らくは永劫に変わらないだろう。そう、彼女は考える。
「なにも」
かつて在ったように、これからも在る。
それ以上もそれ以下も許されない。
巨きな力も地位も権力も、全てはその為だけに手の裡に収めてきた。
全ては、己を規定したものの命じるままに。
「………なにも」
これまでかつて、繰り返してきたのと同じ答え。
二度目に唇に乗せた後で、不意に、視界が歪む錯覚を受けた。魚眼鏡を通したかのように。
妖魔の男の目線が、先ほどと違っていることに気づく。
水源を目の前にした放浪者のように。飢えた鳩のように。
(―――値踏み、されていた)
なにをためされていたのか。
この目に適わなければ、どんな結末が待っていたのか。
考えかけて、その不毛さに思い至った。わかるはずがない。
結論は出ているのだろう、この相手の中で。
「……違うでしょう?」
自分の問いに、不死者は何も欲さぬと答えた。
その目にあるのは諦め。死んだ魚のような、人間に有るまじき目。
今までこの人間は、今と同じ答えを繰り返してきたのだろう。
何時までも、欲さぬと。手に入れることが出来ぬと諦めて。
「欲しいものが在ったとしても、どうすれば手に入るのかが分からない。
…だから、仕方なく従ってきただけ。」
混沌によって形作られた自分とは間逆の存在。
諦め、絶望し、自らを縛る理に甘んじる不変の存在。
…もし、その殻を破ったとしたら、一体何が出るのだろう?
「…先程、私が申した事を覚えておりますか?」
―――唐突に話を変える。
意味有り気な含みを乗せて、相手の興味をそそらせる様に。
「己が不死になる為に、不死者を喰らうと。
……アレ、逆のパターンもあるので御座います。」
つまり、とバケモノは続ける。
「もし私の肉を喰らわば…喰らった量にもよりますが、肉片は喰らった者の存在を蝕し、
別のモノ、私と同じ存在へと書き換えるでしょうねぇ。」
自分と同じモノ、即ち、混沌への変貌―――不死者はそれを望むだろうか?
…否、望まなくとも、断られようとも喰らわせるのみ。
「…召し上がります?」
それはやはり単純な興味、苛性ソーダの中に蛙を入れればどうなるのか、
それと同じ程度の、単純な興味だった。
【食人ってどうなのよと自問自答中…いえ、決して頭を引き千切って差し出すなんて事はいたしませんので。】
【……ヤればいいんじゃね?】
【………あ、そっか。】
【何といいますかその、失礼致しました…書き直しましょうか?】
【そこは無難な解決策がないか?とw】
【アレなもん食った過去があるって意味では今更感がありますが<食うの食わないの】
【書き直す必要はないですよー】
【こっちから吹っかけたほうがいいだろうか】
【無難…中に餡子が詰まっているとk(ry】
【まぁ、精液を飲ませるとかそっちの方が無難ですよね…え?全然無難じゃない?】
【何か、絡み難いネタで申し訳ない。】
【御願いしますです、ハイ…。】
「―――あなたは『あちら側』の者なのね」
これは確認だ。
以前取り込まれた異界に、懐かしさを覚えたのは気のせいではない。
この男の提案は、あの時の直観を裏付ける。
黄泉戸喫。
これは例えば。こんな話に近い。
河豚毒に植物毒を混ぜたら何に変じるか?
「悪い提案ではないわ。呪法にはもう少し手っ取り早い方法がある」
歩み寄る。こう相手がひょろ長いと、顔を見上げるだけで首が疲れる。
「生憎、妖魔と接わるのは初めてではないけれどね」
七妖会に席を連ねて以来、幾度となく。
成り行きでそうなったこともあれば、考えるのも疎ましいような記憶もある。
火遊び、と呼ぶにはリスクが高すぎる行為。
―――取り込まれたまま、足掻くことだけは止められなかった。
(それでも、それが、縁を呼んだことはあった)
とはいえ、かの吸血鬼との一件くらいのもの、天文学的に希有なことではあったが。
ならば、試してみるのも悪くはない。そんな判断だった。
妖魔相手ならともかく、正しくあちら側の存在と、致した経験はなかった。
どこか投げ遣りになっていることは否定しない。
「いつまで道化ているつもり?わたしだってこういう事を此方から持ち出すのは気が引けるのよ」
眉を寄せたのは、意識しない動作だった。そういえば、
(今世に目覚めてからこの手の事に及ぶのは)
性的快楽が手っ取り早い呪術的回路の媒介であることから、蟲たちの感覚を介しては嫌という程経験していたが。
初めてだった、ように思う。しかし、それも所詮は定かでない記憶。
【中身が餡子とかでも悪かないんですけどw】
【悩む割には割と無難なところに落ち着く頭が悔しいです。こんなんですみません】
「不本意にも。」
『向こう側』の者か、という質問に軽く答える。
人間にも妖魔にもなれぬ、中途半端な存在。
何時自身の存在が崩壊するかもしれぬという、底知れぬ不安。
…それは、不死者とは別の意味での地獄。
この地獄を不死者にも押し付けたい。
今の自身の行動には、こんな感情も混じっているのかもしれない。
「…もう少し悩むべきところではあるとは思いますが…
…………………………折角切り取ったのに。(ボソリ」
あっさりと、自らの提案を自らの望まない形で受け入れる不死者。
その言葉を聞き、何か残念そうな顔をしながら、後ろ手に何かを隠す。
肉を喰らう事と、バケモノに身をゆだねる事、どちらかといえば前者を選ぶと思ったのだが。
不死故に自暴自棄になっているのだろうか、それともただの価値観の相違か。
「それは失礼。…まぁ、楽にして下さい、すぐに準備を終えます故に。」
その台詞が終わると同時に。
素早く手足に何かが絡まり、手近な椅子へと縛り付ける。…否、それは椅子ですらなく。
ぬちゃりと肌にへばりつく粘液質な感触。室内灯であったモノに照らされ、蛙の肌如くてらてらと光る粘膜。
触るのも不快なその生暖かいモノ。まるで、何かの胃袋のような―――
自らも懐から空間転移で椅子を取り出し、向かい合うようにして座ると
不死者の少女の頬を、愛おしむように優しく撫でる。
「……皮肉なものですねぇ…夢にまで見た不死の体が、死を望んでいるなんて……。」
その言葉が合図だったかの様に、椅子の背後からも触手が伸び、
手足に絡みついたソレと共に、衣服の隙間から入り込んで少女の肌を優しく撫でていく。
白い肌に、粘液の跡を残しながら。
【こう来るかw】
【盛り上がってきた所で大変申し訳ないんですが本日この辺で良いっすか】
【ちなみに明日はなんとか〆られる気が】
【え、もしかして無理矢理肉片を口に入れて涙目のところを堪能して方が良かっ(ry】
【了解しました〜】
【あ、明日は何時ごろからか教えていただけると有り難いのですが…。】
【今日と同じ時間帯が無難でしょうか?】
【明日は昼3時くらいからも行けます】
【おやつの時間かよ<セルフ突っ込み】
【それでは18時から御願い出来ますでしょうか。】
【確かに三時からだとおやつが…いや食べてませんけど。】
【了解であります】
【では伝言スレにて】
(―――不本意)
僅かな引っかかり。理性を総動員させて彼女は思考する。
勘付いた切掛けは憶えのある匂い、それだけ。
具体的な情報を、この妖魔については何も持っていない。
「わたしを誰だと思っているの?―――無いわ。悩む理由なんて」
そもそも、あちら側の存在は、人間らによって等しく『妖魔』と称されようとも、
こちら側に属する妖魔とは根本的に違っている。人間「らしく」振舞う術を持つということは、
こちらの水に慣れたか、あるいは、何等かの形で人間に接触したのか、あるいは、
刹那の思考。
相手は、どこか意固地になっているようにも見える。
選択の理由は、慣れた方法のほうが都合が良かったから―――それだけに過ぎない。
はじめから、彼女にとって、これは駆け引きなのだから。
手品のように、世界が変じる。
文字通りの異界へ。
先ほどまで居た筈の部屋が、腰掛けていた椅子が、全く違う外観に変貌している。
胃袋。これが隠喩だとしたら、消化されようとしているものが何なのかは考える間でもない。
生暖かい感触に足を取られて、転ぶ。いや、転んだというのは錯覚だ。
拘束されている。椅子だったはずの、何かに。
ブラウスの袖口から、その名を示す色も鮮やかなスカートの裾から、
手首から足首から、なにかが絡みつく。溶けた肉に良く似た質感の。
おぞましい、と少しだけでも感じたことに、彼女は自嘲を覚えた。
「わかっていないのね」
その瞬間に『生きている』ということ。『死なない』こと。
この2つは、似ているようで、根本的に違う。
呪に命じられた行為。呪から逃れるための行為。
―――傍から見れば何も変わらないだろう。
「人を害し、命を玩弄する。それがわたしの存在意義。己も他の者も変わりはしない。
だから悪い話ではない、と言ったでしょう?」
それは、むしろ、自らに言い聞かせる言葉。
「ええ、分かりませんとも。」
人形のような目、死んだような目。全く持って人間らしくない、その目。
この人間は、大切なモノを何も持たずに、ただただ人形のように生きてきたのだろうか。
―――否、それは生きるなどという事ですらない。
その自暴自棄な様子に何かを思い出しそうになるも、ハッキリとは思い出せない。
断片的に頭を過ぎる「赤い髪」、「これ以上ない程の嫌悪の表情」。
「まるで、私が酷い事をするようなおっしゃりようで御座いますね。
ま、相手がこんな触手では仕方がありませんか…。」
自嘲の笑みを浮かべながら、撫でる手を引っ込める。
そのやり取りの内にも入りこんだ触手は少女を絡めとり、
欲望のままに、その体を弄んでゆく。
スカートから潜り込み、会陰に自らをこすり付けるもの。
胸元から入り込み、少女の乳房を強調するかの様に巻きつき、軽く締め付けるもの。
ただただ肌を這いずり回り、その肌を粘液で汚してゆくもの。
そのいずれもが自らの粘液で少女を汚し、その肌を侵してゆく。
「…………………。」
触手に絡めとられ、粘液で汚されてゆく少女を見、思う。
『向こう側』。現世の理が全く通じぬ、世界ともいえぬ世界。
意識の残滓が漂い、妖魔にも人間にも、
否、まともな生命体にすらなれなかったモノ共が集う、そんな場所。
今の自分も、魔鋏のお陰で自らを保てているものの…
―――結局は、あの触手と同じおぞましいものであるという事に変わりない。
『赤い髪』『嫌悪の表情』『鉈』そして『何かの肉』
かすかに残る記憶の残滓。元々の自分が持っていた記憶。
…それなのに、その記憶がよみがえって欲しくないと思うのは何故なのだろうか。
「…ああ、何かリクエストが御座いましたらご遠慮なくどうぞ。
触手でしたら何本でも御座います故。」
普段の調子で道化てみせる。まるで、自分自身を誤魔化すように。
享楽に耽るのが目的ではない。
どこか冷めたやりとりとは裏腹に、妖魔の使う「腕」は、欲望にあくまでも正直だった。
自らが、男の理性をゆるがせるに足る外見を持っている、その自覚はある―――というより。
それもまた、生きる術の一つに過ぎない。
光の無い眼と裏腹に、若さに相応した張りを保つ肌も。
純粋にこの国の生まれではないが故に、異邦人じみた顔立ちも。
変わらぬ若さを切望する者にすれば、喉から手が出る程に欲しいであろう、不変。
交わされる会話はない。
得体の知れぬ体液―――そもそもこれは生き物なのか、とにかくもそれで汚すことに腐心するかのような
腕の動きは、次第に彼女から悦楽を引き出しはじめていた。
絡めとる、その形容は方に、その振る舞いに相応しい。
一方、衣服の下で形を変える乳房に、そこから下腹へと伝わる熱。
焦らすように、脚の付け根に潜り込み、己を擦りつけているものと、全ては一つ。
それは、この空間を満たす得体の知れない『何か』と同じ。
(これの一部―――違う、これが、これの一部?)
コレは、何なのか、と。
この話を持ち出したのが彼女である以上、享受するのが礼なのだろう。
しかし、思考が続いているのは、滑稽な状況がどこか矜持に反したからで。
目の前の椅子に腰掛けた男は、娘の姿を凝視しながら、全く違う場所を『見て』いる。
向かい合って一体何をやっているのか。まだ、単純に犯されるほうが話はわかりやすい。
「ひはっ………っ、ん」
生温い空気に吐き出された吐息の熱さを意識する。
「言ったでしょう。望むものは何もない、とっ―――!」
「一つ聞きましょう。わたしは兎も角、あなたが、この選択をした理由は」
なに、と続く言葉は途切れる。
肉を喰わせるにせよ、今の行為に及ぶことにせよ。
「夢にまで望んだものなら、何故………なぜ、っ」
意識せずに、秘所に潜り込んだ一本に目線が落ちる。
―――「不死」への相手の執着の形が、こんな形で発露している事実。
それは、彼女にとって好都合ではあっても、理解はし難い。
「……………………………………。」
バケモノ口の前に人差し指を立てると、男根を模した触手が少女の口を塞いだ。
理由、理由、理由。…本当は、理由など無かった。
否、あえて言うならば―――
―――傷を舐めあう仲間でも欲しかったのだろうか。
少女に手を伸ばし、粘液で手が汚れるのも構わずに
その髪を愛おしむように撫でながら語る。
「別に、大した意味は御座いませんよ。
これで貴女が『死ぬ』体になったとしても、まだ他に不死者はいらっしゃいます」
それに、と続け、言葉が途切れた。
「…いや、何でも御座いません。」
会話の内にも先に秘所を取られ、入り込む場所を失った触手達が
我先にと甘物へ群がる蟻の如く恥穴へと殺到し、潜り込む。
恥穴、秘所、口腔を塞がれ、その肌の上を余った触手が這いずり回り、
もはや粘液で汚されていないところなど殆ど無い。
―――さながらその姿は、毛氈苔に捕まった蝶々の如く。
不意に立ち上がると、粘液に自らも汚されながら少女を抱きしめる。
大事な大事な、愛おしい程に大事な玩具。
足掻き、諦め、それでも足掻くその姿は立場は違えど自分に似ていて。
…まぁ、分かり合える時などはそれこそ永遠に訪れはしないのだろうけれど。
全ての触手の動きが激しくなり、微かに震え始める。…達するのも時間の問題だろう。
触手越しに少女を抱きしめながら、その時が来るのを待つ。
決して居心地のいい訳ではないのに、何か安心する
まるで泥濘の中に在るような、そんな心持で。
問いかけなど無粋だと言わんばかりの、巫山戯た答え。
「ん、くっ」
声を奪われて、呼吸が一時的に行き場を失った。
妙に切羽詰った嬌声が喉から漏れる。
それでも、言葉が出ないことを救いに思ったことは否定できない。
―――何を言いかけたのだろうか。
身形が娘のそれだとしても、外法の妖術師の端くれ、異形との交わりに抵抗などあろう筈もない。
今、恐怖を感じているとしたら、それはもっと異質なものだ。
(いまさら、何を恐れるか)
纏わりつく肉の腕と、人間の形をした指先に慈しまれながら思う。
身動きが取れないために、与えられる悦楽は、その場所に溜め込まれるばかりだ。
ありったけの歪な感触が胎内で蠢いている。
震え始めた腰から脚へ、
よがってみせる余裕は無い。
まるで身食いか、蛞蝓か蚓の交尾か。
そんな交わりだった。
どこまでも墜ちて行ける、泥沼の安寧。
(同類、か)
肉腫越しに抱きしめてくる男の体温を感じながら理解した。
コレと自分は、ベクトルは異なれど、縛られているものは大して変わらないのだと。
―――与えられた力も何もかも違う。この相手が望めば、自分をこの場所に留め置く事も難しくは無い筈だ。
この先の永劫を思う以上の地獄、考えたくもなかったけれど。
それに今は、逃げる場所もない。
「ん、ァ、んんっ………」
嬌声を妨げるような音も、この場所には無い。肉の蠢く音と、互いの呼吸音、それ以外には。
押し広げられた痛みは不思議と感じなかった。
「くは………っ、んんんッ!」
どくん、と、意識を染め上げる絶頂。
少女が達するのと同時に、
絡みつく触手も、一斉にその肉体の中へ、そしてその肌へと大量の精を吐き出す。
この腕の内にある肉体の、汚され、犯されたその姿も、どこか妖艶で美しく。
栗の花の匂いと肉が腐ったような匂いの中で、萎え行く己の一部。
自身もそれらに汚されながら、それでも少女を抱くその腕を離そうとはしない。
少女が、そして自身が達したのが合図にしたように、
段々と触手が消え、椅子の様なモノも消え、まるで何かの胃袋のような其処が消える。
後に残るのは、何の変哲も無い執務室、
そしてあられもない格好で椅子に座る少女に、それを抱くバケモノ。
…行為の終了に、少しだけ喪失感を抱く。
「…ああ、失礼。今、すぐにタオルをお持ちしますので。」
気付いた様に腕を解き、空間転移で何処からかタオルを取り寄せ、手渡す。
何時の間にやらバケモノに付着していた汚れは消え、その格好は交わる前の姿。
すべては夢、そうとすら思わせるものの、
少女の肌にこびり付いた粘液が、此処で起こったことを物語っていた。
「それにしても。」
ピタリと動きを止め、少女と視線を合わせる。
その手には、何故か栄養ドリンク他栄養補助食品。
「もう少し体は大事にしないといけませんよ?
自暴自棄になってしまって好き勝手なことをされては、喰らう側としても栄養バランスがですね…。」
全くもってどうでもいい持論を語るその姿は、普段の道化。
三流・小物・俗世間、そんな単語が似合う現世においての世死見道迷。
「まー、これからは運命共同体という事で、宜しく御願いします。
私個人からも出来る限り協力させて頂きますので。」
健康補助食品をずずいと押し付け、喋りかける。
その袖の裏で、魔鋏が汗を滝の如く流しているとも知らずに。
(『…イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ…
道迷ノ事、止メルベキダッタカナ、自分………。』)
【なんとなく、〆風味ですかね…。永い間お付き合い頂き真に感謝。】
【最後の最後ですが、今更待ち合わせスレの書き込みに気が付いたとk】
【確かに、先に打ち合わせておいた方が良かったですね…】
こびりついた行為の名残を指の二本で抹り合わせながら、その感触を確かめる。
妖魔の側には何の変化もない。そして、
(この血に変化は―――無い、か)
予想できたことだ。
それとも、気づかないだけで、何かは起きているのか。
思いを馳せたのは、数日前に手放した半身のこと。
「自暴自棄?」
最後に言い出された言葉に眉を寄せてから、苦笑。
彼女の選択は、そう称されるものなのだろうか。
結局、何が「結果」だったのか今はわからない以上、否定することもできない。
協力する、という道化の言葉に偽りがあるとは思わなかったが、
「今回は此方の申し出ですもの、この間の件はこれでチャラにしておきましょう」
さらりと流して、男の抱えた「食事」の中から、焼き菓子の体をしたそれを取り上げる。
利害以外のもので形成された関係を、彼女は基本的に信用しない。
「それじゃあ、わたしは仕事があるのでこれで。―――先刻の書類のことは、まぁ、いいわ」
この男、当人に漏らす意思が無くとも、同じ班の遊月あたりにあっさりと漏れていそうな気もしたが、
日妖の佐竹漣の性格を考えれば、背後にある存在にこれが漏れたところで、彼女の害になる流れは無いだろう。
渡されたタオルで身を整えながら、考える。
七妖会は日妖の立場を脱ぎ去る気はない。
ふと気づいたのは、彼女の中にも自らの意思で変わらない、変えられない領域があること。
―――それが何を意味するのかは、今は理解できそうになかったが。
悪い収穫ではなかったと、そう思った。
【こちらはこれで〆で〜】
【打ち合わせてたらこの流れは無かった気もするw】
「私の用があるの、人間…?」
星空きらめく新月の夜。
余裕の笑みを浮かべ、対峙する相手は対魔師らしき中年の男。
男はリトルの放つ魔力を感じ取り、魔を滅ぼすために追って来たらしい。
逃げ果せることなど容易だったけれど、暇だったから付き合ってやる。
いい男だったら夢を見せてあげたのに、これは遠慮したいタイプ。
「人間にしては面白い能力を持っているようだけど…」
悲しいかな、男にはそのリトルの魔力が如何程のものかまで知ることができていなかった。
男は武器である剣を握り、刃をリトルへ向ける。
「………残念ね…」
男の目を見て術を掛けると、男は手首を反転させ切っ先を自身の胸に突き刺す。
対魔法具などを身につけていたようだが、リトルの前では意味をなさない。
切っ先が沈み込む。
男は狼狽える。
「リトル・T・シルヴァニア、それが貴方の死神の名だから」
死の縁にある男は、リトルの名を聞き驚愕する。
お前があのリトルプリンセスなのか、と…。
真実を知ったところで何も変わらない。
男は意志に反して自身の心臓に剣を突き立て、そして果てた。
「……興が殺がれたわね。
何だか気分悪いし……」
そう言い残してリトルはその場から立ち去った。
【書き逃げです】
【さて、突然でいきなりですが、待機させて頂きましょう。
どなたでもご自由にお声かけください】
【流石に急でしたか…落ちます】
春と夏の隙間の季節。都立白清高校の放課後。
環境への配慮がどうとか、地域社会への貢献とか。
生徒会か風紀委員会か、或いは学校のトップか。
ともかく誰かかそのようなイベントを思いついたらしい。
各学年から数名選出し、その者たちがゴミを拾う。
それ以上でもなく、それ以下でもない。だが、剣呑な雰囲気を漂わせた
金髪の三年生が、その中に混じっているのは何故か。
理由としては、彼が任務絡みで学校を休んだ折、その役目を押し付けられた
からだ。それ以上でもそれ以下でもない。
「とりあえず、後で締める」
戦友にして相棒の青年の顔を思い浮かべ、呟く。
今回の件に彼は関係ない。つまり八つ当たりである。
くじ引きの結果、二年生の女子と組み、裏山を徘徊する羽目になった。
彼は黙々とゴミを拾い、半透明の袋に詰めている。
「・・・・・・・・・ふぅ。」
熱気と草むら独特の臭いの中、黙々とゴミを拾う。
一人なら魔法の力を使って手短に済ませるのだが、
目付きの悪い金髪と共にいるためにそれは許されない。
二人とも黙々と作業を続けた為、既に山の中腹に差しかかっている。
流石に疲れたので相手の了承を得ず、その場に腰をおろし
あらかじめ用意しておいたミネラルウォーターで喉を潤す。
人間は、何かを消費しないと文明を維持できない生き物である。
そして土地と資源は有限である。その有限をやりくりしながら社会を
構築しているわけである。少し世間のことを知れば誰でもわかる仕組みだ。
リサイクルとは、突き詰めるならその消費を少しでも抑えるための行為である。
使える物を限界まで使う。資源として還元する。無駄な消費を抑える。
確かに大事なことだった。だが―――
「――くそったれが」
行き場のない徒労感を、そっと言葉にして吐き出す。
大事なことであり、必要なことであるのは理解している。理解していても実感
できないなら意味が無い。この壮絶な徒労感はどうにかならないのか。
こんなことをするぐらいなら、妖魔相手に大立ち回り演じていた方が余程いい。
回帰すべき日常に溶け込めない男の思考は、そこへと行き着く。
「――もう休憩してるか」
気づくと、相方の二年生が水分補給をしている。別段非難しているわけではない。
黙って作業に集中していたので、思ったより山を昇っている。
この山は古代の祭祀場だったらしい。初代白清支部の斬鬼衆は、この山で修行を
行っていたという話もある。それだけに、霊脈や霊穴がさり気なく点在している。
呼吸をして、その大気を吸い込み――
そしてそれに気づいた。上空で何かか舞っている。
鳥だ。いや、鳥はあんなに大きくないし、ましてや四肢を生やしていない。
あんな凶悪な面相はしていない。妖魔――いや、悪魔だ。
ガーゴイルだ。それが三体。空を舞っている。
その視線がこちらに向いているような気がするのは、気のせいだと思いたい。
「―――――そろそろ戻るか。袋も重くなったし」
それとなく、後輩に話しかける。後は適当に誘導しつつ、彼女と別れた後、
あの悪魔を始末するという算段だが。果たしてそれが適うのか。
「・・・・・・あっつい。」
呟きながらその原因である太陽を見る。
そこには異様な影が映っていた。
『―――――そろそろ戻るか。袋も重くなったし』
さて、どうした物かと考えていると、金髪から提案がある。
「そうですね、帰りましょうか。」
地面を弄る仕草をしながら小石を拾う。
用心に越した事はない。
(ガーゴイル・・・か。)
重くなった袋をぶら提げ、来た道を辿る。
移動すると、ガーゴイルたちの気配も移動する。
どうやら、ターゲットとしてロックオンされたようだ。
強い生命力や魔力を持つ人間は、妖魔の餌としては最適なのだ。
(つまり俺の所為か・・・・・・・・)
彼は思った。迂闊な事を考えるものではないと。
妖魔と戦っていた方がマシだ、などと考えていたから、
この様な状況に追い込まれるのだと。別段、自身が襲われるのは構わない。
だが、それに巻き込まれる一般人の命までどうでもいいと切り捨てるほど、
彼は非道でもなければ無責任でもない。必要以上に背負う気もないのだが。
「――悪い、さっきの場所に忘れ物した。先に戻っていろ」
苦しい言い訳だが、この状況で他に言えることもない。
彼は袋をその場に置いて、後輩の反応も待たず駆け出した。
先ほどの休憩地点へと駆け足で戻り、そして追い越す。
ガランガラン・・・、ガシャガシャ・・・。
心無い人達の捨てたゴミの音だけが響く。
金髪の歩調に合わせる為に少々足早に歩く。
すると空に舞う彼等も同じ様に移動する。
強い生命力や魔力を持つ人間は、妖魔の餌としては最適なのだ。
(つまり私の所為ってわけ・・・?)
別に金髪が幸せになろうが死のうが関係ない。
だが、自分の所為でとなると気分が優れない。
「悪いんですけど、」
そこまで言うと金髪が先に話し始める。
『――悪い、さっきの場所に忘れ物した。先に戻っていろ』
言い放つと共に走りはじめやがった。
「面倒な奴だな・・・。」
仕方なく彼の後を追う。
「くそっ、足速いな、あいつ・・・。」
斜面に対して、脚を突き立てる様に走る
相手は悠然と上空から追尾してくる。
その様は狩人と獣。本来的な立ち位置が逆転している。
胸中で舌打ちしながら、登山用の道を駆け上る。
もうかなりの距離を駆け上った。
心臓が酸素を求めたているが、今は無視する。
もう少し行けば、休憩地点の東屋がある。
「あー、面倒臭え、神よ仏よ、やはり貴様ら俺の敵だなくそったれ!」
神仏に対する罵詈雑言と呪詛を撒き散らしつつ、駆け抜ける。
そこへ行ってもこの立ち位置が逆転するわけではないが、そこで決着を
つけるしかない。やがて、景色が開ける。拳銃を抜き放ち、
「来いよ、化け物。
斬鬼衆を敵に回した愚か者の、その末路を教えてやる」
戦闘の口火を切る。銃声が響く。連続で響く。
「はぁーっ・・・。」
裏山と言っても結構立派なもので、全力疾走は流石に息があがる。
上空を見上げるとガーゴイルは不規則な円を描いて移動している。
(どう言う事だ?何かを探している?)
思案していると銃声が鳴り響く。
「まさか金髪か?厄介な物持ってるな・・・。」
銃器を持ち歩く高校生となれば二種類の予想が付く。
一つは暴力団の子分。
もう一つは――退魔師。
「ふむ、安物なら問題ないが・・・。」
ガーゴイル、魔法により仮初の命を与えられた生物。
「高級品なら通常兵器じゃマトモなダメージ入らないぞ・・・。」
更に山頂を目指す。
少し開けた場所で金髪と魔法生物を発見する。
「ふむ、高級品か・・・。」
銃弾は易々と避けられる。これで『餌』ではなく『敵』として認識された。
皮膜に覆われた大きな羽を羽ばたかせ、猛禽の如く襲い掛かってくる。
その巨躯に怯まず、その爪牙を恐れず、彼は擦れ違い様刃を閃かせる。
その刃は対妖魔に特化した、特殊な手法で精錬された刃。
大量生産品ではあるが、持ち主の力次第では頑強な妖魔の肌を切り裂く。
太古に生息した化鳥の如き悲鳴をあげ、血飛沫を上げる。
自分の突進力をそのまま利用された形の攻撃だが、致命傷には至らない。
その双眸が爛々と輝き、顎を開き牙を剥く。
Geeeaa!
悪魔が吼える。それにどんな力が篭められていたのか、狂戦士が跳ね飛ばされる。
その上、制服が瞬く間に襤褸雑巾と化しているではないか。
「鳥の化け物が、厄介だな」
言いつつ第二射を避けるべく、側転する
「斬鬼衆か、金髪・・・。」
通常ではかすり傷一つ与えられない魔法生物を
力任せに狂犬の刃が斬り付ける。
《斎》に置いてはあまり別の機関とは手を組む事が無い。
だが、彼女に置いてはそれは別。
――魔物を殺れればそれで良い。
「万物の源たるマナよ、我が友を守りし障壁となれ・・・。」
――プロテクション。
白い光が斬鬼衆、御影義虎を包む。
「斬鬼衆!助太刀する!」
答えを聞かず次の魔法を唱える。
彼を保護した事により、こちらにも目が向いた為である。
「マナの力よ、刃となりて敵を切り裂け!」
――エネルギー・ボルト。
光の矢がガーゴイルを貫く。
魔術的な防御を魔術の力が打ち破る。
ガーゴイルが体勢を立て直している間に狂犬に二つの呪文を施す。
魔法の防御を打ち破る為の―エンチャント・ウェポン、そして・・・。
「跳べ、斬鬼衆!奴等の高さまで!」
跳躍した彼の落下速度を限りなく緩やかにする魔法。
「大いなるマナの力よ、彼を重力の束縛から解き放て。」
――フォーリング・コントロール。
――ガーゴイルの叫び。
その招待は単純な呪い。
効果は相手を衝撃で吹き飛ばし、弱らせる。
単純だが、それだけに威力と速射性に長けていた。
二射、三射と金髪の凶戦士を追う呪言。
それを連続側転で回避する。
回避する度、その余波が木々を撒き散らす。
(さて、どうしたものかね)
状況は悪い。必死に相手の攻撃を回避している。
まだ相手は二匹残っているというのに。
そんな自分を冷静に俯瞰している自分が確かに存在する。
それで事態が好転するわけでもないが。
(死ぬ気で突貫するか)
毎度のことではあったが、彼は覚悟を決めて、脚を止めた。
しかし、助け舟が予想しない場所から来た。
白い光が自分の身体を包む。この現象は魔力――補助系魔術だ。
『斬鬼衆!助太刀する!』
誰かの声がした。誰かと確認する前に光の矢がガーゴイルを撃つ。
それはガーゴイルを直撃して、よろめかせるのに足りた。
『跳べ、斬鬼衆!奴等の高さまで!』
それは――先ほど置いてきたはずの後輩だった。だが、問い質している暇は無い。
彼は与えられた魔力の牙を、有り難く利用させてもらう。
それに、このような状況には慣れている。だから迷わない。
彼は跳んだ。その跳躍力は、いつもの倍以上だった。
「魔翔!穿空撃!」
適当な技名を叫びつつ、彼は手刀を閃かせる。
魔力を付与された即席の刃が、ガーゴイルを切り刻む。
【そろそろ時間ですので予定通り凍結でお願いします】
【再開に関しては伝言・待ち合わせスレにて】
【都合のいい日を記すのでよろしくお願いします】
【本日はありがとうございました】
【了解致しました。】
【それでは次回こちらからと言うことでお願いします。】
【こちらこそ有難う御座いました。】
【スレの方、お返し致します。】
【御影さんとのロール再開させていただきます。】
「その調子でもう少し頑張ってね。」
ポツリと呟くと手元の小石に呪文をかける。
「万能なるマナの力により仮初の命を与える。」
――汝、ストーンサーバント。
小石は魔力を帯びて2m程の巨人へと姿を変える。
巨人に自らの防御を命じ、先程同様に光の矢を飛ばす。
魔力を帯びた狂犬の刃と光の矢が交錯し、
ガーゴイルの一体が砕け散る。
「それじゃ後は仲良く1つずつね。」
石巨人越しに金色の狂犬に伝え、自身は新たな呪文を紡ぐ。
「万物の根源たるマナの力よ・・・。」
今回の呪文は成功率を上げるために長め詠唱時間を要する。
その間、ガーゴイルのダンスの相手は石巨人が勤める。
魔力を纏った手刀が、羽を持つ悪魔を切り裂く。
一瞬、その巨躯がぶれて、墜落しそうになるが、羽ばたいて体勢を立て直す。
しかし、攻撃はまだ終わっていなかった。地上から光の矢が再び放たれて、
ガーゴイルの頭部を焼き尽くす。そして駄目押しの一撃を拳で叩き込む。
ビシリ、皹が入って、ガーゴイルが四散した。
ふわりと着地すると、魔導師は石の巨人を従えていた。
(・・・・・・・厄介だな)
脳内の片隅で思う。呪文の詠唱時間をあれで稼がれた場合、
戦士型の自分にはまず成す術が無い。一対一では勝算が立てられそうになかった。
いつもの癖で自分が戦うときのことを想定している。
ともあれ、まだ戦闘中だった。
未だ浮いているガーゴイルと、地に落ちてこちらを窺っているガーゴイル。
選択の余地はない。だから彼は地に落ちた方に突貫する。
「空の方は頼む」
短く、それだけ伝える。
ガーゴイルはいつの間にか手に三叉の槍を出現させて投擲体勢に入っている。
同時に、空の悪魔も同様に槍でゴーレム越しに魔導師を狙っている。
雷撃の魔力を纏ったトライデントが放たれる。
『空の方は頼む』
詠唱中故に返事を返す事は出来なかったが、耳にその言葉を受ける。
雷撃を孕んだトライデントの飛来、命令通りに石巨人がその身を盾にする。
幾ら固い石の巨人と言えども、雷撃の槍を直撃し半壊する。
土煙と雷撃による煙が舞う。
その煙の中から呪文を完成させた魔導師が現われ、
空を舞う魔法生物に死の言葉を投げかける。
――ディスペル・マジック。
それは全ての魔法を無効化し、ゼロにする魔法。
魔法陣がガーゴイルを囲むとガーゴイルだったソレは
一瞬にして唯の土くれと化す。
「こいつらの核(コア)は喉元だ、斬鬼衆。」
ガーゴイルが土に還る瞬間に見せた弱点を彼に告げる。
あの気迫ならばもう手助けは不要だろう。
三叉の槍が飛ぶ。空を抉って直進する。
人体など容易に貫通し、身体ごと樹木に縫い付けるだろう。
魔力の加護は着地した時点で、既に消えているのだから。
それでも―――直撃すればの、話だ。
空間ごと切り裂き焼き尽くす電磁槍を、紙一重、皮一枚で回避する。
大気ごと髪が焼ける感触。肌が焼かれる。それでも、彼の眼は標的を
見据えていた。滑るように大地を蹴り、間合いを潰す。
『こいつらの核(コア)は喉元だ、斬鬼衆。』
そのアドバイスが果たして届いたのか。
巨躯に見合わぬ俊敏さで喉を仰け反らせるガーゴイル。
口から何かを発射する算段か。しかし、それでも遅い。
喉の奥が燃え盛り、火球が吐き出される寸前、彼の刃が煌く。
指示通りなのか、戦士としての勘なのか。
ともあれ、彼のナイフが悪魔の喉笛を切り裂いた。
ビシリ、と動きを止めるガーゴイル。その正中線に沿って拳を叩き込む。
瞬く間に、ガーゴイルは灰燼と化した。
気づけば、戦闘は終了していた。
任せていたガーゴイルも、灰燼と化し土に戻っている。
「――傍迷惑な・・・・・」
彼もようやく、これらが誰かの手による創造物だということに
考えが至った。戦闘中は余分な思考が一部停止しているからだ。
まさしく虎の様に素早く、しなやかに、そして猛々しく獲物の喉を抉る。
放課後の空に飛来した三体の魔法生物は全て土へと還った。
(あれが斬鬼衆のスペックか・・・。)
半壊の石巨人を元の小石に戻す。
魔法生物に労いの言葉等は不要、使い捨ての道具に過ぎない。
一瞬金髪の三年生に視線を向けるが、
無言のまま登ってきた道を逆に歩み始める。
(しかし何故こんな所にガーゴイルが・・・?)
残してきた金髪の事よりも、この不可解な事象が気になる。
「待ちな」
背後から、影が疾駆し、魔導師を飛び越す。
着地したのは、虎の如き凶戦士。
「助力、感謝する」
冷淡な眼差しと、平坦な声でそう告げる。
その態度は無愛想――むしろ不遜というべきか。
しかし、礼を言う程度の社交辞令を身につけたとも言える。
「――で、お前は何者だ?その魔術とゴーレムといい、
斬鬼衆を知っている事といい、よもや素人じゃあるまい」
その声には、果たして好意的な要素は無い。
むしろ、敵に向ける声だった。
白清高校に、斬鬼衆以外の退魔士――或いはそれに順ずる戦闘技能者――
の存在は確認されているが、彼女のことは情報にない。
『待ちな』
その呼び止める声はナンパにしては色気の無い声。
『助力、感謝する』
見据える冷淡な瞳は威圧する為では無く、
色々な物を見てきた戦士の目と言う感じがした。
――嫌いではない視線だ。
「礼には及ばない。お互い様だし。」
こちらも人の事を言えない視線で見返す。
そして、彼の問いに答える。
今更隠す事でも無いし、《斎》の人間でなくとも斬鬼衆、
天洸院ほどの組織ならそのデータベースに私の名前位あるだろう。
「沢渡紫乃、《斎》の魔導師だ。」
簡潔に答える。
長々と自己紹介と言う場面でもないだろう。
「――《斎》か」
同じ程度に冷やかではあろう双眸の視線が絡む。
果たして、大気の温度が下がった気がするのは錯覚だろうか。
ともあれ、《斎》とは半月ほど前の一件で直接関わって以来だ。
同時に、あの時拳を交えた忍のことも思い出す。
「あの、小野とかいう忍の同僚ってわけか。
ったく、天洸院の情報統括部も調査班も適当だな」
あの忍が白清高校に在学しているのは、後の調査で判明したことだった。
しかし、よもや二人も同時に在学しているとは、データにはなかった。
調査不足なのか、向こうの情報操作力が上手なのか。
「お前にしろ、あの男にしろ、最近はやたらと《斎》と縁があるな。
まあいい。そちらにはこっちとやり合う理由はないんだろうし」
それが、あの忍に再戦を挑まなかった理由のひとつ。
もうひとつの理由としては、モチベーションの問題だ。
一瞬、金髪の三年生が嫌な顔をした様に感じたが、
それは気のせいか、その通りか・・・、どちらでも良い事だが。
「小野・・・、同僚と言うかは微妙だけど・・・。
たしかにそんな奴もいる。」
仕事柄バレていてもいいのかと思いつつも、
知られたからには仕方ないかと忍の事を思う。
「天洸院も斎も隠し事や誤魔化すのが好きだからね。
もっと公言して派手にやれば良いものを。」
時々組織のやり方に苛立つ事がある。
七妖会ですら表立っての行動は謹んでいると言うのに
自分はそれ以上に過激で危険な存在なのだろうか?
「斎や小野個人の考え方は知らない。
私、個人の意見としては魔物を狩るのに組織も何も無いと思う。
効率良く、確実に始末できればと思っている。」
感情を込めずに淡々と語る。
この金髪の三年生も同様、退魔師であるなら助力はするし、
邪魔をするなら排除するだけの対象に過ぎない。
「妖魔の存在を公にする度胸があるならそうしろ。
そうなる前にお前が《斎》か俺らに始末されるだろうがな」
退魔組織がその体質的に隠蔽工作や情報操作をするの
はある意味当然だ。妖魔の存在を公にして、それが認められれば。
そしてその妖魔が、人間の社会に溶け込んでいると知ったら。
中世に行われた魔女狩りの比ではない暴動が起こるだろう。
それを避ける意味も篭めて、退魔組織は極秘裏に妖魔を闇に葬る。
「――そうか。部分的に頷ける意見だな。
だが組織ってのは必要なんだよ。どうしてもな」
天洸院の斬鬼衆は、鬼切りの刃にして万民の盾である。
そして《斎》は闇社会の傭兵集団である。
理念や思想に違いはあれ、それは退魔士という異端の受け皿としても
存在価値がある。人を容易に殺傷する力があるからこそ彼らは群れる。
そして自分たちで作った掟で従いお互いを律し合い、共に行動する。
それは野犬たちがお互いの首に首輪を付け合う行為。
外れやすい力を我欲で振るえば、不毛な殺し合いになるのがわかっているからだ。
「妖魔を効率よく駆除したいのは、俺も同意見だがな」
さっと踵を返して背中を向ける。
「そろそろ戻るか。他の連中もいい加減集まってるだろうし」
話は終わりだと、その背中が告げている。
背後からの奇襲など、歯牙にも掛けていない豪胆なる態度。
「流石に一人でとは思わない。それでもいずれは――。」
その先の言葉は不適な微笑みの中に隠す。
いずれは全ての妖魔を炙り出し、排除したいと思う。
その為には組織を掌握する事から始めなければ・・・。
いずれは天洸院も―――。
「確かに組織は必要。
全ての後処理を自分とやるとなればゾッとする。」
斎にせよ、天洸院にせよ、全ての人を守る事など出来ない。
実際に妖魔の手による死者よりも飢え、戦争、事故の方が多いだろう。
また、そう言った部分につけ込み力を付けるのも妖魔。
大規模なくくりでの有能な指導者が出ない限りは堂々巡りだろう。
「賛成だ、少々気にかかるのは拾ったゴミより出したゴミが多い事だけど。」
そう言って先程までの戦場を指差す。
ガーゴイルの残骸、倒れた木々、掘り返された地面。
「そっちの方はこっちで処理しておく」
振り返らずに携帯を取り出して、処理班の出動を要請する。
(帰ったら報告――そして情報統括部に苦情を言うか)
ザクザクと歩く。報告を終えて無言で歩く。
落としてきたゴミ袋を拾い、ザクザクと坂道を下る。
交わされる言葉はない。それでも彼の脳味噌は回転している。
(それでもいずれは、か・・・・・・)
退魔士と妖魔。その相克の均衡。
闇の中で、夜の中で行われる死闘。
それを知らず、平和と退屈を享受する人間たち。
それでもいいと、彼は思った。人にはそれぞれの居場所があり
その境界線はきっちりと区分けしておくべきだ。人間と妖魔の生息領域
に関しても同様のことが言える。陰と陽は交わることはなく、そして常に
傍らにある。それぐらいで丁度いい。そしてその均衡を崩す者を斬るのが
斬鬼衆の使命でもある。だから――
「所詮、不毛なんだよ、全部」
そう呟いて、彼は一人苦笑した。
【切がいいのでこれで締めます】
【ありがとうございました】
「そうか、ならいい。」
面倒な事を引き受けてくれるならばそれに越した事はない。
斬鬼衆の方が人手も多いだろうし。
先を進む彼同様にゴミ袋を拾い歩く。
同じ様に頭の中を回転させながら。
(基本能力高め、闘争心、技術問題無し。
抗魔能力、対魔攻撃力に難アリ・・・か。)
闇が光を覆わないように、溢れない様に戦い、牽制する歴史。
その歴史に終止符を打った者は存在せず、目指した者もいない。
――全ての闇を排除する力、権力。
「不毛?そう・・・、不毛。」
だから自分が必要なのだと心で呟いた。
【こちらもこれで締めます。】
【ありがとうございました。】
【スレの方お返し致します。】
【怪力だけ『何らか』の手段で封じた上で】
【男が部屋に意識の無い九尾さんを連れ込んだ、という状況設定】
【……で、いいかな? 他はなんにも無いので、拙かったら方向修正お願いします】
【あと、服装などは簡単に伝えて頂ければ】
「本当にこれでいいんだろうな?……いや、いいってんなら構わないんだ。
怪我することなく、いい思いをさせてもらって、しかもおカネが貰えるんだろ?」
(暗室、じみた殺風景な場所。男が携帯電話で何者かと話している)
(意識無く横たわる女……娘?を見下ろし)
(その姿は、今はよく見えない)
【ではお借りします】
【ん……場面設定は了解。問題ないよ】
【服装は無難に制服で行きましょうか。半袖ブラウスにスカート…みたいな】
(まったくの不意打ちだった)
(裏通りで人知れず下級妖魔を殺しては自己満足に浸っていたのだが……)
(突然現れた男に一撃を喰らい昏倒したのだった)
(男が電話している間に意識を取り戻し――)
ふにゃ……?
(眠たげに目をこすりながら辺りを見回す)
(――知らない部屋だ)
わーったわぁったって。じゃ。
さて、それじゃあ始めますかっと。
(プリベイド式の携帯を投げ出す)
(抑えきれない期待に目を輝かせて、歩み寄る)
(電話と逆の手に持っていた何かを放り捨てる。帽子。)
(真理の頭上の『それ』を掴み、上体を引き上げる。無造作に。)
こいつを見た時は薄気味悪ぃと思ったけど、イイ身体してんじゃん。
顔がよく見えねーけど。
(と、顔を近づける。視界は暗い)
な、何?やめっ……!
(意識が覚醒する間もなく強引に身体を引き起こされた)
(普通の人間には備わっていない部位―角だ―を握られている)
(これはまずいと本能的に直感する)
くっ、誰だか知らないけど後でただじゃ済ませないんだから!
これでも……喰らえっ!
(身体に力が入らないことを誤魔化すかのように虚勢を張る)
(顔が近づいてくるのを感じ、あてずっぽうにではあるが唾を吐きかける)
(同時に正拳突きを繰り出す。素人の打撃に威力はない)
(打撃を受け止めて、うは、と歓声に似た呟き)
弱ぇ、マジでこうなんのか!
おもしれー。見た時はバケモンかと思ったけどさぁ。
あれがこうなってんのかよ。ははっ、そそるなぁ!
(角を握った手に力を込め、前後に揺する)
ま、でも、お嬢ちゃん。
ばっちいのを引っ掛けた責任はきっちり取ってもらうからなー?
(そう言って、狙った場所ではなく、自らの上腕にこびりついた唾液を少女の顔になすりつけ)
そらよっと。
(真理の下半身に、脚を割り込ませ、固定する)
(今しがら拳を放った真理の腕はひやりと冷たい剥き出しの床に)
(もう片方の自らの腕で、人のモノならざる部位を玩弄しながら)
うぅ……笑うな!それに、汚い手で触るな!
絶対……絶対許さないんだから……
(揺さぶられながらも言葉は止まず)
(怒りを内に溜め込むような呟きを続ける)
……ひゃんっ?!冷たっ!な、何すんのよ!変態!
(唾を擦り付けられ不快な表情を浮かべるが)
(いいように体を扱われてまた怒りを露にし)
それに責任って……どういう意味よ?
こんな所にあたしを閉じ込めた責任、あんたが取るのが先でしょう?
さっさと離しなさいよ!
責任?あぁ責任か。
責任ねぇ。責任っていい言葉だよねぇ。
(口にしながら、制服のシャツに手を掛ける)
(浴びせられた雑言も、今の力関係では意識する必要もない)
(むしろ、嗜虐心を駆り立てるスパイスでしかない)
うわすっげ。勿体ねーな、これで見えないなんてさぁ……
(顔覚えられても困んだけど、と言いながら、その感触をまさぐる)
責任責任っと。あー、これ脱がせねぇんじゃお預けだな。
(煩わしげにシャツのボタンに手を掛け)
(引きちぎる勢いで前を開く)
(重力に従って大きさを誇示する乳房にうぉ、と声をあげて)
ちょっと、触らないでよ!この!聞いてるの?
責任って、あんた全然責任取る気なんてないでしょう!
だったら、せめてあたしを解放しなさいっての!
(空いている方の腕をめったやたらに振り回すが有効な打撃とはならず)
(相手の興奮を高めているだけとは気付きもしない)
く……変態……!これだから男ってのは……!
顔が見えないからって勝手なことをして……
……そんなに胸が気になるの?
(無造作にまさぐられるのを感じて嫌悪の表情)
(急に胸元が涼しくなったことからシャツの前を開けられた事を認識する)
(そして男の声に少し興味を引かれたように尋ねる)
責任は取るって言ってんだろー?
変態ねぇ。ははは、やりたいのは自然の摂理って奴だろ。
(少女の嫌悪の表情は、男には見えていない)
(それを良いことに、調子良く言って)
ん?でっけぇなってさ。
(男の手にも収まりきらない少女の乳房)
(それを揉みしだく動作だけを止めて)
(乳首に親指を掛けてはじく)
なんだ?
こんだけデカいのは中々イジる機会もなくってさぁ。
角の生えた女なんてのもそうそう見ねーけど。
あ、そういえばこっちはどうなんだ?
(再び興味を惹かれたように角に手を掛けて)
生えてるんだよな?これ?
(少女の髪を掻き分けて、その根元を探り)
でもっ……!こんなのは、絶対に間違ってる……っ!
主は、肉の欲を捨てよと……!
(必死に身体を振って男に抗うが、角を押さえられているので効果はなく)
(せめてもの抵抗として言葉を発する)
だから……やめ…んっ……ひゃっ!
(執拗に胸を揉みしだかれているうちに少しずつ声に艶が混じる)
(そして先端を弾かれた瞬間、思わず大きな声を出してしまい)
そりゃこの年頃の娘では珍しいかもしれないけど……
つ、角の話はするなぁっ!
それに……ぁん、さ、触るなって言ってんだろ!
生えてないあんたにはわかんないだろうけど、とってもデリケートなんだよ!
(根元を触られて真っ赤になって怒る)
デリケート?
へぇ、おもしれ。これでどうだ?
(角の根元に、少女の反応を誘う力加減を探りながら指を立てる)
あっはっは、いいな、コレ。
わり、俺、宗教?とかそういうのわかんなくてさぁ。
(今度は胸元に唇をつけて、歯を立てて先端を転がしながら)
でもさぁ、あんた言ってることおかしくねぇ?
肉欲ってこういうの駄目ってことだろ?
楽しそうじゃん。
(上目遣いにそう言って、身体を持ち上げる)
(男の唾液が少女の乳首から糸を引いて、ちぎれる)
生えてないって言われちゃ黙ってられねーなぁ。なんてさ。
(からからと哄笑して)
その気になってくれたみたいだし、もういいよなぁ?
(少女の太股を固定していた膝元を動かす)
(手早く生地を捲り上げて、下地を引き下ろし)
んぁっ!駄目ぇ、角はホントに駄目なの!敏感なの!
(微妙に力のさじ加減を変えられながら指を立てられ身悶える)
ぁ……そっちも弄られると、痺れちゃう!
(余韻が覚めやらぬままに責めの対象が変わると)
(快楽にわななきながら徐々に声のトーンが上がっていく)
だから……そのような、浅ましい欲望に……
流されぬようにと…ふぁ……んっ、教えられているのです……
(抑えきれぬ快楽ではあるが、懸命に耐えながら説く)
そ、そんなつもりで言ったわけじゃぁ……!
(男の言葉の意味に気付き、真っ赤になって)
嫌、それだけは駄目、やめてよ……お願いだから……
(外気に晒されたそこを隠しながら後ずさろうと試みる)
【お時間は大丈夫でしょうか?】
【結局凍結になりそうな雰囲気ですが……】
へーへーへー。
浅ましい欲望ねぇ。可愛い声上げた口でそんな事言うんだ。
うわ、すっげぇ。胸、これ揺れてるんだよな?
あっと。三箇所は流石に腕が……いや、あ、こうすりゃいい。
(割り込ませた膝で、下着を床に押さえつけて上体を持ち上げる)
これなら届くな、っと。三点同時責めなんて。ビデオでも見ねーな。
これでも鳴いてくれるかねぇ?
(呟いてから、戯れるように、最も敏感な箇所を押しつぶして)
(伸ばした指先で秘所を押し開く)
【いい所でペースアップしてしまいそうな雰囲気ですが】
【気合でなんとか……おそらく。そちらは大丈夫ですか?】
そ、それは……その……あたしは、まだ未熟ですから……
(嬌声を上げたのは事実なので何も言い返せない)
やぁ……そんなこと言わないで……っ!
(首を横に振る……と同時に豊かな乳房もぷるぷると揺れる)
やだ、やめて……離してよ……
(強引な所作に無駄と知りつつも必死で抵抗する)
届くって、何が……ま、まさか……ひぃっ!
(そこを遠慮のない動きで触られびくん、と大きく一度震える)
(割り開かれた秘所からは快感を示す液体がトロリと流れ落ちて)
違う、これは違うの……
(自分でもその感触をわかっているが、懸命に否定する)
【こちらは問題ないですよー】
【そちらの都合に合わせていきますのでご遠慮なく】
敬語。いいね敬語。男言葉もいいけどさぁ。
最初はあんなに元気だったからさぁ。
今も……ま、やっぱり元気か。
(男の言葉は、湿った音に取って消える)
(乳首に歯を立てて、舌先でその感触を楽しんでいる様子)
あー、そっちの都合は本当はどうでもいいんだけどさぁ。
責任取るって言っちゃったから、やっぱ楽しんで欲しいしなぁ?
でもこんなイイ声出されちまったら……くく、くははっ。
(喋りながら、デニムのフロントホックを外して)
(逸物を、待ちかねたように取り出す)
もう十分だろ?
こんなんなってるし。
(押し込んだ指先で、きついその場所をこじ開ける)
っ、キツいな……ま、でも大丈夫だろ。
大丈夫だよな?なぁ?
(ぬかるんだ内部で、前後に中指を動かしている)
(問い掛けてはいるが、回答に興味はない様子で)
【ありがとうございます】
あぁっ、いや、コリコリしちゃいやぁ……!
舐められてるぅ、ちくび舐められてるのぉ……!
(男の呟きは耳に入らず喘ぎ続ける)
(歯を立てられた乳首は弾力を増し、より硬度を高めていく)
こんなことされて、んっ、楽しめるはずがぁっ、ない……っ!
絶対に、許さないんだからぁ……!
え……?きゃぁぁぁぁっ?!
(天に向かってそそり立つソレを目の当たりにして思わず叫ぶ)
やめて、それだけは、本当に……!
んっ……ぅん……こんな……駄目……絶対に大丈夫じゃない……
(言葉とは裏腹に、蜜液は変わらず流れ出て)
(指が動かされるたびに湿った音が出る)
【あー、処女かどうか設定してませんでしたw】
【どうしましょか?】
【えーと】
【ほのめかす程度にしときます?】
【ぶっちゃけ例のアレ(If)発動させてもいいかな〜と思ってるのでお好みでどうぞ】
【まあ破瓜でもちゃんと?達しますから……w】
【そこまで拘りもなかったりして】
【好きに解釈できる感じで……いいんだろうかw】
なぁ、もういいよな……?
(薄闇に踊る肉感的な身体、間断ない嬌声と吐息)
(湿った、というより、肉の沼じみた指先の感触)
(急いた欲望に突き動かされて、男の呼吸も荒い)
(狭い秘所を二本の指でひらき、主の手の内で震える肉棒の先端を押し当てる)
あんたって、ひょっとして
(先程のやりとりを思い出し)
なんだっけか……カトリック?キリシタン?って事はアレ?
肉欲がどーこって言ってたしさぁ、
(口にした言葉は途中で途切れた)
(先端を押し包む、少女の内壁の感触に)
(思わずうめき声を漏らす)
だから、さっきからだめって……!
(今にも蹂躙されそうな状況にも関わらず気丈に拒む)
(さんざん弄ばれて頬はとうに上気し、身体も熱を持っている)
……?
(土壇場でためらう様子を見せた男をいぶかしむ)
確かに私はカルヴァン派のクリスチャンですが……っッ!
(は、と吐息をひとつ)
(不意に進入してきた異物に眉をしかめる)
(肉の裂ける痛みは伝わるが、悲鳴を上げることだけは我慢した)
(狭い膣内は、緊張もあってか強く肉棒を締め付ける)
あぁ……主よ、お許しください……
(涙を流しながらがっくりとうなだれ)
【では運動で膜は破れたけど経験はなし、という方向で】
>>610 かるば……ナニ?
肉食うってアレ?まさかな、は。
(こなれの少ない秘所に逸物を進める、あるいは引き裂く)
(十分に潤んではいたが、半身をつよく締め付けられれば、若干の苦痛は伴う)
(顔を顰めながらも、欲望が果たされる愉悦に唇を緩ませる)
そう、痛そうな顔されるとな……
(ほんの欠片ほどの罪悪感)
(少女の肉芽をそっと摘み上げて、擦りあげる)
これでちったぁ……うぁ、締めやがった。
反応が良いのはすげぇいいんだけどさぁ。
(上体を屈めて、再び、少女のはちきれそうな乳房に唾を落とし)
(乳輪の周囲にそっと舌を這わせる)
(同時に、逸物が最奥にあたった)
【突き詰めると、恥らうとかなにとか】
【その辺の心の動きが好きなのかも】
【次で限界っぽいです。時間の方ですけど】
【最後のほう、駆け足になっちゃってごめんなさい】
はぁっ、はぁっ、はぁ……
(いまだ男性経験のないそこは、割り開かれることで道がつく)
(ある程度まで進んだ所で荒く息を吐き、呼吸を整えながら痛みに耐える)
だって……痛いものは痛いし……
男には、わからないと思うけど……ひぃぃっ!いいよぉっ!
(クリトリスを触られると面白いように身体は跳ねる)
(膣もより一層締め付けを増し)
ひゃ、冷たい……!また、おっぱいですか?好きねぇ……ぅぅん!
(そして、乳房に触れられるとふるふると震えながら身をよじる)
あぁぁ、奥までぇ、奥まで来てる……!
(その動きが引き金となったか、先端が最奥に届くとまた締め付けた)
(情欲に目は潤み、全身は桜色に染まっている)
【了解ですー】
【事に及ぶとより遅くなるなぁ……orz】
好きなのは俺じゃない、あんただろっ?
この、メス……はっ、ははっ、
(何かに似ている、と短い思考)
(たどり着いた答えを、口に出す。粗い呼吸に混ぜて)
なぁ、自分でもそう思うだろ?!
(僅かの憐憫の情も抜け落ちていた)
(しゃにむに腰を動かす)
(獣がどちらなのか、わかりようもない)
(男の知性では、今の精神状態では)
で、だす、ぞ……!
(高めた熱感が、半身をかけあがり、かけおりる)
(少女の胎から咄嗟に抜き取ったのは)
(一度でも交わった少女へのちっぽけな善意ゆえか)
【今回はちょっと短めにして、こっちの締めは次に】
【まぁ、いいことなのかな?w】
違うっ、それは違うよ……っ!
(ふるふると首を横に振りながら力なく呟く)
(しかし快楽に蕩けた身体は想いとは裏腹に頂点を目指す)
あたしは……あたしは……っ
(乱暴に突かれても貪欲に反応する肉体)
(半狂乱になりながらもうわ言のように否定の意思をぶつけ)
あぁぁぁぁっっ!だめぇぇぇぇっ!!
(――男が怒張を引き抜くのとほぼ同時に絶頂を迎え)
……あ、あったかい。
(身体に、顔に飛び散った精液に温もりを感じながら意識を失った)
【では私も次くらいで〆ましょうか】
【先に言っておきます。どうもありがとうございました(ペコリ】
そんなに、良か……
(最後の言葉は声にならず)
(細く散乱した白濁を、少女の肌からそっとぬぐう)
はは、はははははは。
(虚脱した笑みと共に立ち上がり)
よし、これで……これで……
(数刻前に放り出した携帯電話を取り上げる)
(濃密な時間、名残に、腰がふらついている)
あんたの言った通りにしたんだ、連中を裏切って……
(滲む、逃げ場を失った者の狂気)
煩え、うるせえ。いいだろう?やったんだ。
……金は。ああ、わーってる。
(何を会話したのか。最後の言葉を吐き捨てる)
(デニムのポケットに、小さな電子機器を納めると)
(男は数歩歩いて、暗室の扉を開く)
(瞼を射る西日に、目を細める)
(まったく同じ瞬間、まだ暗がりになった場所に横たわる少女の――)
(赤茶色の、毛髪をかきわけ)
(ちいさな黒点が、薄闇に羽根を震わせて出た)
(半妖の少女の、怪力を封じていた、それが)
【最後のレス、間があきます……お察しの通りで;】
【申し訳ない、そして有難うございます】
【お付き合いに感謝】
(ふと気がつけば、辺りはもう真っ暗闇だった)
ぐすっ、ひっく、うぅ……
(独り取り残され、自分がされたことを思い出して泣きながら服を着る)
(原因はわからないが――何もできずに倒されたことの悔しさ)
(あまつさえ簡単に快楽に飲まれてしまったことへの自己嫌悪)
(そして、情を交わした相手の不在の寂しさ)
(全てがこみ上げてくる涙となって流れていった)
Quo vadis, domine?
(外に出れば上弦の月)
(夜空を見上げながらポツリと呟き、家路へとついた)
【はい、こちらはこれで終わりです】
【試運転に長時間お付き合いいただき感謝感激です】
【そういうことかー!w】
【改めまして、ありがとうございました】
【名前】葛木 夏樹
【年齢】18才
【性別】♀
【サイド】退魔側
【組織】なし
【サイズ】155cm 82/54/81
【容姿】腰までの長い黒い髪・黒い瞳。
気が充実し、掌に印が浮き上がると同時に燃えるような赤い髪・鋭い紫眼に変化。
普段は髪はぼさぼさで服もぼろぼろだが、数日に一度気を解放し着飾る習慣がある。
髪や瞳の色も違う事で完全に別人。
細身で透き通るように白い肌を持つ、少年的な美貌。
【得意】NG以外なら。基本受けですが
【NG】極度のスカトロ、グロテスクな表現
【能力】気功術・体術
掌に刻まれた印を媒介に気を消費して強力な3つの技を使う。
火焔掌:右手の印を押し付け『気』を相手の体に流し込むことで内側から爆破する。
岩槍陣:左手の印を地面に押し付け無数の岩や金属の槍が地面から突き出る地属性の術。
蛍火:両手の印を合せ、体内の気の大半を消費して妖魔のみを焼く
炎を周囲数十メートルにわたって発生させる
【武器】なし
【弱点】『気』が尽きると行動不能に。持久戦に弱い。
【備考】退魔の家系に生まれ育ち、修行のため一人引っ越してきた。
ぐうたらな生活に見えて普段は『気』を体内に貯めこんでいる。
莫大な『気』を消費する印が掌に刻まれている。
印の有無でテンションの上がり下がりが激しい。
普段はただのだらしない高校生。
有事の際などで髪の色が変わると性格も勝気に変わる。
【好きな食べ物】ウィダーインゼリー(ミネラル)
【嫌いな食べ物】 茶碗蒸し
【好きなこと】のんびりすごすこと
【嫌いなこと】仕事
【趣味】かるた
【好きな異性のタイプ】特になし
【嫌いな異性のタイプ】執拗に構ってくる
【特性傾向】燃費悪い
【部活動】 かるた部
【得意科目】古文
【苦手科目】数学
【血液型】 A型
【誕生日】 11月14日
【プロフ投下&待機です】
【落ちます】
【雑談スレの青姫様へ】
【何故だか急にエラーが出てリロードすらできません】
【色々試しているのですが、とりあえず一旦落ちますね】
【いや、申し訳ないのですが復旧作業に専念します】
【すみません、確認遅かった;】
【携帯でも確認しましたが、したらばの方が落ちてますね】
【了解でありますー】
>>620 【はじめまして、宜しくお願いします】
625 :
◆HgBRPBx536 :2007/08/31(金) 23:55:37 ID:rzIsc+RF
【とりあえずしたらば書き込めるようになったようです】
【まだ様子見の段階ですが】
――蝉の声が聞こえた。
都立白清高校の放課後。その屋上にひとつの人影がある。
まだ陽も高くも気温も高い。夏だった。
その人影は金色の髪をしていた。明らかに校則違反である。
その鋭くも静謐な双眸は、遥か彼方に視線を投げている。
無駄なく鍛えられた肉体が開襟シャツの上からでもわかる。
その身に纏った空気は、人の接近を許さない鋭く冷やかな物である。
「――――暑い・・・・・・」
今現在、暑さにやられている時を除いて、だが。
此処は学校で一番風通しがよい場所であり、彼が時折脚を
運ぶ場所でもあるのだが、今は季節が悪かったとしか言いようがない。
ともあれ、額に薄っすらと汗を掻き、ぼんやりしている彼からは凶戦士
としての雰囲気は感じられない。
>>626 「夏は暑いから夏だと言う――そうは思いませんか?」
義虎の呟きに投げかけられる声。
涼やかな、だが少々辛辣なその声は義虎のよく知る「彼女」のもの。
昇降口に目をやれば、白い小袖に緋袴、黒髪の「彼女」――八雲天音が立っていた。
「支部長にでも頼めば、クーラーの効いた部屋ぐらい用意してくれると思いますよ」
苦笑混じりに言いながら、義虎の隣に腰を下ろす。
風に髪が、さぁっ、と揺れる。
「確かに、ここなら風通しは良いですけれどね、ふふ」
微笑みながら、身体を滑る風に心地よさげに目を閉じる。
身体を鍛えようが、心頭滅却しようが、暑いものは暑い。
そんな当たり前の現実。購買部で購入した清涼飲料水で
水分補給しつつ、思考は止め処なく渦を巻く。
例えば――最近妖魔の動きに変化があったこと。
特に七妖会について。白清支部の管轄から少し離れた風見ヶ原。
彼の地の小さな神社や稲荷が、相次いで『血で穢されている』。
神社仏閣はそれ自体が土地の結界の要である。
それが穢されたということは、要石としての機能を破壊されたということである。
何故七妖会の手による犯行であるとわかるのか。
それは一連の行動が組織的な犯行であるからだ。
あの地で活動している組織的な行動をする妖魔たちは、現在判明している
限りでは――
背後からの声で思考が遮断される。
その双眸はまだ遠くを見ている。けれど気配は彼女を感知している。
「代わりに書類仕事させられるから、それは止めとく」
現支部長と前支部長。どっちがマシだったかな、などと益体もないことを考える。
前支部長は少なくとも、嫌がらせのような大量の書類仕事をさせたりはしなかった。
「――なんだ、まだ学校に残ってたのか」
ちらりと彼女に視線を向けて、また前方に戻す。
斬鬼衆の放課後は様々だ。
訓練に費やす者もいれば、任務に就く者もいる。
学生らしく遊興に費やす者もいれば、勉強をする者もいる。
「あっという間だな・・・・・・もうここに入って三年生の夏。
卒業まであと半分くらいだが、お前、進路とかどうなんだ?」
口について出たのは、学生らしい話題。
しかし彼らしくは無い話題だった。
>>628 「それは義虎が書類を溜めているからじゃないのかしら」
さらりと言葉を返す。
事実、義虎の書かねばならない書類も多い。
とは言え、他の者がしてもいいことではあるのだが……
「立っている者は親でも使え、でしょうね、ふふ」
現支部長が言っていた言葉を思い出し、思わず笑みを漏らす。
確かに猫の手でも、虎の手でも借りたい気分なのはよくわかる。
「――ええ。少し訓練をしていましたから」
よく見れば、白い肌がうっすらと汗で濡れている。
夏の日差しのせいだけではない、と言うのは一目瞭然だ。
「進路? いきなりなんですか。
ちょっとらしくないような……」
義虎の口から出た言葉に少し驚く。
確かに「らしく」ない。だが、考えねばならない時期でもある。
だが――天音はもう決めていた。
「私はもう決まっていますよ。神職になりますから――まずは大学ですね」
「やるべき分はやってるよ」
がりがりと頭を掻く。太陽に照らされた金髪が燃えるように輝く。
妖魔退治と書類仕事。
どちらを取るかと問われれば0・5秒で前者を選ぶ彼にとって書類仕事は
鬼門であった。しかし、それも仕事なら諦めもつく。そして妖魔撃墜数でも
負傷率でもトップクラスの彼は、その分書かされる書類も他の者より多い。
「俺に任せる方がどうかしてるだろ。風間か槙にやらせとけってんだ」
明らかに問題発言ではある。
だが、それでも明らかに関係ない書類まで書かされるのは御免蒙りたかった。
確かに支えあいの精神は肝心だ。そして支部長のこなす執務は半端ではない。
それを手伝えと言われれば否とは言えない。しかしそれにも限度があって然るべきだ。
ある意味、親愛の表現とも言えるのだろう。それを理解しているから余計に腹が立つ。
「ふん、そうか――まあそう言えばそうか」
進路。将来。就職。進学。人生設計。未来。
彼には無縁の言葉だった。退魔士だからではない。
退魔士であれ、未来に希望や展望があるからこそ戦える。
それが一般的なものではないにせよ、斬鬼衆も進路を考えていて当然だった。
だが、彼にはそれがない。やりたいことがないというのがひとつ。
それ以上に、果たさなければならない事があるというのがひとつ。
復讐。あの過ぎ去りし日の出来事。積み重ねた戦いと殺戮の日々。
「俺は・・・・・・何にも無いけどな、そういうの」
その顔が、その声が、寂寥と孤独に彩られる。もう何もない。たったひとつの復讐以外は。
元々、それ以外は余計で余分だったはずだ。それでも、過ごせてこれたのは彼女を含む
周りの者たちのお陰だと理解はしている。
けれど――最早消えることもない業(カルマ)に染まったこの身。
復讐を果たしても、失ったものは二度と戻ることはない。
それでも、その果てにある決着を求める。
「まあ、それ以前に生きて卒業できる可能性を考えるべきか」
斬鬼衆として三年間戦い抜き、無事卒業できた者は少ない。
大きな戦争を経験すれば尚更のことである。
>>630 「風間さんも槙さんも自分の仕事がありますからね」
義虎の問題発言に苦笑を返す。
確かに人のいいあの二人なら、頼まれればいやとは言うまい。
その様子が目に見えるようだ。
「ええ。社を守らないとなりませんから。
お祖父様もお年ですし……」
家に縛られ、血に縛られる。
そして、運命にも。
本人は気付いていないが、それこそが天音の業、宿業だ。
「……何も、ないわけではないと思いますが」
寂しげな義虎の横顔にぽつり呟く。
天音がそうだったように、義虎もまた、この三年間で変わったはずだ。
こうやって会話をする、そのこと自体が雄弁な証拠だ。
「それもそうですね。そろそろ――また大戦もありそうですから」
空を見上げる。
待機に舞う瘴気は、この夏の日差しの中にも厳としてあり、そしてその強さは日々増している。
ならば――そう遠くない未来、また起こるのだろう。大戦が。
「家族ってのは、そういうもんか・・・・・」
家族。
それもまた彼が無くしたもののひとつ。
もうどうやって過ごしたのか、思い出せない。
まるで百年前の出来事のようだった。
鮮明に思い出せるのは、父親の身体が爆ぜる場面。
狂った母親の哄笑。
そして妹が――
「――疲れた」
その顔には、拭い去れない絶望だけがあった
全ては不毛の極地であった。精神が安息を求めていた。
自分が疲れていることに、気づいた。
そして、自分を癒せるものも、この世界にはないのだ。
「・・・・・・・・少し、休ませてくれ」
唐突に呟いて、そのまま彼女の身体にしな垂れかかる。
押し倒すように、そのまま顔を埋め、頭を膝の上に乗せる。
「また、か・・・・・・今度こそ死ぬかもな・・・・・・・」
また大きな戦いが起きる。《御柱》の託宣がなくても、その程度のこと
は最前線で戦っている彼らには容易に察することができる。
その時はどうなるのか。彼は、そしてこの仮初めの彼女は。
「まあ・・・・・・・俺が死んで、お前が生き残ったら・・・・・
その時は、一日だけ泣いてくれ。それで充分だから」
――それは遺言だったのか。
復讐を果たすこともなく死ぬ。
それは避けたいが、不可避なことなど幾らでもある。
>>632 「――さあ? 私もお祖父様だけしかいませんから、よくわかりません」
家族。
それがどういうものなのか、未だに判らない。
確かに祖父がいる。
――それは家族、なのだろう。
だが、父はいない、母もいない。
――それは家族、なのだろうか。
「え? ああ、はい――」
無防備に身体を預ける義虎。
それはまるで道に迷い泣き疲れた幼子のように。
――だから、素直にその身体を受け止められたのかも知れない。
「――いやです。泣くぐらいなら、血を流します」
穏やかに。だがはっきりと。
「だから、私に血を流させたくないなら――」
膝の上でまるで嗚咽のような言葉を漏らす少年に、覆い被さるように。
その身体を、寄せた。
膝の上で、彼女の体温を感じる。
この身体が覚えている体温だった。
彼女の微かな体臭を嗅ぎ取る。
この身体が覚えている体臭だった。
訓練で流した汗の匂いは、しかし不快ではなく。
「天音――」
彼女の声と身体が近くて。
けれど、直視することは敵わなかった。
横を向いて、視線を外しているから。
「天音、人は死ぬんだよ・・・・・・・みんな俺の前で死んでいったよ。
善人も悪人も凡夫も天才も、優しかったあの人も・・・・・・・
人間も妖魔も、なんの区別も無く一切合財命を落として消えてゆく」
それが嫌だと。それは嫌なことだと。
わかっていて、それでも抗えないことはある。
虫の良い話だった。今まで、どれ程の人間と妖魔を殺してきたのか。
だから、彼に命の価値を語る権利はない。弔いの言葉すらない。
「だから、命を賭してすら、お前を守れないかも知れない・・・・・」
彼が歩むのは悪鬼を喰らう羅刹の道。
けれど、その心の在りかたは余りにも脆く儚い。
そしてどうしようもない虚無と矛盾を孕んでいる。
「それに――俺ではお前を・・・・・・・
本当の意味で救い上げることなど、できないんだろうな」
それは、ずっと思っていたこと。
自分では、誰かを、彼女を、その心を救えないことを。
彼自身が、誰かに救いを求める存在だったから。
>>634 「――ええ。皆、死んでいきます。
老いも若きも男も女も」
義虎の髪を撫でながら、言葉を落としていく。
彼の言葉が、思いが判るから、同意するしかない。けれど。
「――だから、立ち向かうんです。
私たちには理不尽な死に抗う術があります。
なら、抗えばいい。立ち向かえばいい」
けれど。抗うためにこそ、命はあるのだと。
そう、教えられたのだから。
そう、気付いたのだから。
「だから、命を賭して抗って。
そうすれば、どんな結果が待っていても私は受け入れられるから。
――それに、泣くのは、嫌い」
抗うことは藻掻くこと。
藻掻き苦しみ、そして前に進む。
それが、命。
「――今更、降参ですか?
そんなのは最初から判っていたことでしょう?」
そうだ。
救いなど与えられることはない。
何故なら、それは――
「自分を救えるのは、自分だけ。そうでしょう、義虎?」
守るという言葉を口にしても、守られているのは常に自分だった。
その誓いで、崩れそうな自分を支えているに過ぎない。
崩れないように必死に。飲み込まれないように懸命に。
どうすればこの虚無は消せるのだろうか。
自分の内側から生じた洞を、どうやって埋められるというのか。
けれど、彼女はそれを否定する。必死に否定する。
命の儚さを知り、それでも足掻くのだと。
不条理な死に抗うこと。戦うというのはそういうこと。
「所詮、血塗られた道か・・・・・・・」
彼の顔が、彼女の顔を向く。
その双眸に宿る光は硬質の硝子のようでいて、とても儚い。
まだ足りないのだと、自分を引き上げるには足りないのだと。
「この世界は煉獄だ、大切な物が次々と不条理に奪われてゆく。
誰も誰かを助けることも守ることも出来ない」
あの日、誰かが言っていた言葉。
「ならば、肝心なのは それを理解した上で『それがどうした』って
覚悟して開き直って進むこと、か。俺たちにはそれしか出来ない」
手を伸ばす。その手が、彼女の頬に触れる。
その肌触りと温もりが、自分と他人の存在を明確にする。
「――そうだ、そうするしかない。
誰も誰かを救えないなら、せめて自分で引き上げるしかない」
その眼に輝きが戻る。
この世界と対峙する覚悟を決めた、不遜な凶戦士の眼だ。
「すっかりと、忘れてたぜ・・・・・俺の人生のモットーじゃないか。
誰に教えてもらったんだ、その台詞?」
ニヤリと不敵に笑う。
――せめてその生に意味を。
どれだけ無惨に見える人生だとて、その幕引きまでに何か意味のあることを、
意義のあることを見出せたなら。きっとその人間は救われたのだろう。報われたのだろう。
>>636 「でも、私たちが血に濡れれば、どこかの誰かは濡れずにすむ」
自分たちの道は血に濡れていても。
いつか誰かが辿り着くそこが、楽園であるように、戦う。立ち向かう。藻掻く。
「そう、私たちは諦めるのではなく、諦めを捨てて戦う。
開き直りでもなんでも――始める前から諦めれば、そこで終わるから」
義虎の手が頬に触れる。
その手に手を重ねて。
「――ふふ。そう、誰かを救えないなら、自分を救うしかないですから。
あら。そのモットーを話していたのは誰でしたっけ?」
くすりと微笑む。
命の価値は、生の意味は自らで掴み取るしかない。
藻掻き苦しみのたうち回って――そうして掴むのみだ。
「俺たちは、刃で盾。返り血を浴びるのも使命の内だ。
まあ幸せには、なれないだろうけど、な」
いつか砕けるその日まで戦い続ける。
その身で誰かの代わりに穢れを引き受ける。
その果てに、守りたかった誰かの笑顔があるのなら。
もう、守りたかった誰かはいないけれど。
肩を並べて戦ってくれる相手は、此処に居る。
「―――あれ?お前に話たことあったっけ?」
彼女に自分のモットーを話した覚えは無い。
いや、あったとしてそれはどんな状況でだったのか。
ヤバイくらいに覚えていない。
「――ありがとな・・・・」
小さく、感謝の言葉を伝える。
重なった手と手。想いが伝わるなんて嘘だ。
だから言葉で伝えるしかない。不器用でも、不確実でも。
曖昧で遠回りになったとしても、想いの丈を口にするしかない。
「・・・・・そろそろ帰ろうか。どっかで冷たいものでも喰って行こう」
脚を折り曲げて、その反動で起き上がる。
我ながら失態を演じてしまったが、お互い様だろう。
「行こう」
手を差し伸べる。
過去は消えない。現実は変わらない。
狂気も懊悩も絶望も、消えることなく渦巻いている。
だが、それだけが心を形作る全てではない。
【そろそろ〆に向かいますか】
【時間も時間ですし】
>>638 「でも、どこかの誰かが幸せになれますよ」
顔も知らない誰か。
ここには居ない誰か。
だが、確かに誰かがいて、誰かが救われる。
それならば、血に塗れてもいいだろう。
「――さあ? どうでしたっけ?」
はぐらかすように微笑んで、そっとその手を離す。
身体と身体は離れても、心と心は繋がっているような、そんな感覚。
先程までの手の温もりを、感謝の言葉が繋いで。
「ええ。義虎の奢りで?」
他愛もないやりとりでさえ、幸せなんだと思わせてくれる。
そして、もう一度手を繋いで――
【はい、遅レスすみません……】
【こちらはこれで締めるか、次で締めるかで】
「無料奉仕は好みじゃないんだけどな」
顔も名前も知らない誰か。その誰かの為に刃を震えないのが、彼。
守る相手の顔が見えていないと、使命を肯定することすらできない。
我ながら即物的だが、それは変えられない性分なのだ。
そのことを言えば、呆れられるのが関の山だろうが。
「おーい、天音さん?アナタそういう性格でしたっけ?」
その微笑にこそ励まされる。
我ながら即物的だが、それくらい簡単な方がいい。
人の心ほど複雑怪奇なものはないのだから、時には
わかりやすくシンプルに行きたいものだ。
「了解だ。さて餡蜜にするか、フルーツパフェにするか」
繋いだ手の温もりが。この他愛の無いやり取りが。
そしてこのささやかな幸せが、果たしていつまで続くのか。
誰にも分からない。ならばこそ、離さない様に、しっかりと繋いで。
【では、こちらはこれで〆です】
【内容的にこういうロール他の人とはできませんし】
【感謝しています。お疲れさまでした】
【こちらは先程ので締め、と】
【こちらこそお付き合いいただき感謝です、お疲れ様です】
【すみません、時間が飛びました】
【時間の浪費を強いた形になって申し訳ないです……】
【30分ほど待って落ちます】
……お土産。
<第八章>
【508-524】【研ぎ澄ますは、誰かの】【御影義虎/鳴神真郁】【T/B】
【525-561】【転落者たちの密室】【世死見】【S/H】
【562】【吸血姫に捧げる】【リトル・T・シルヴァニア】【S】
【565-589】【思惑ひろい】【御影義虎/沢渡紫乃】【T/B】
【590-618】【悪意の満ちる場所】【九尾真理/名無しの男】【H】
【626-641】【残照、または甘い時間】【八雲天音/御影義虎】【T】
【青姫さんとのロールにお借りします】
【それでは、よろしくお願いしますね】
ふらりと。
ふいに気が向いて夜の空中散歩と洒落込むことにした。
――あるいは、虫の知らせを無意識のうちに感じ取っていたのかもしれない。
空気が涼しさを増し、季節の移り変わりを実感させる夜。
街路樹では相手を探して蝉が鳴き、
草むらでは馬追いやコオロギが同じく相手を求めてシンフォニーを奏でている。
当てもなく飛んでいたはずだが、気がつけば思い出深い場所の近くに来ていた。
(あいつの入院していた病院か……)
長らく通っていた場所を見まがうはずもない。
かつて一心に身を捧げた日々がなんだか懐かしくなって、建物の近くへと寄っていった。
(――おかしい)
音もなく屋上に降り立つと、違和感を覚えた。
それまで彼の地で受けた印象とはどこか違う――そんな感じだ。
その原因を探ろうと目を閉じ、短く呪文を唱える。
「Windfliustern(風の囁き)」
魔術の発動と同時に軽く息を吐けば、
大気中に拡散した魔力が意のままに周囲を調べ始めた。
【では、宜しくお願いしますー。】
漆黒の魔女が、己が吐息を行使したのと同刻。
同じ病院の敷地内で、それは起こっていた。
踵が、かるく土を叩く。その刹那、風が、文字通りに乱れた。
地場に蓄積されたあらゆる感情、生まれ来るものの歓喜が、死に行く者の悲憤が、
一点に収束する。収束し、志向性を与えられて破裂する。
人口の灯が覚束無く周囲を照らすその場所に、人影はひとつを除いて無い。
力の収束点に立つ、影。響き渡る亀裂。
立ち尽くした娘の瞳は茫と、虚空を凝視している。
やがて風も収まり、いつのまにやら正気を取り戻した娘は屈みこむと、
足元に配置された呪符の中でも大きな一枚を取り上げた。
「湿気た場所。つめたくて、陰気で―――嫌いじゃないけれど」
頬を撫でる夜風に目を閉じて囁く。
数日前からこの地に足を踏み入れて、仕掛けられた霊符を置き換えた。
今や、この土地の要は、彼女の「子供たち」によって肩代わりされている。
周囲は彼女の従僕たちによる証拠堙滅の真っ最中だった。
水気の多い土の上、一見無秩序にばらまかれた白片が、食い破られて消失する。
夜中も煌々と輝く人工の光と逆方向。移した目線の先には、泰然と佇む石碑がある。
この地にて、退魔師が敷いた封魔の結界を成す、要の一つ。
龍脈の溜まり場でありながら、人の気に強く染まった場所。
「これで、この要の任は解かれた」
七妖会、日妖。その肩書きを持つ「妖術師」は呟く。
霊脈の要を掌握して欲しい。これが、知り合いの日妖からの依頼だった。
しばし静寂が訪れる。
こうしている間にも、この真下では命が失われ、そして助かっているのだろう。
だが――そういったこととはおそらく関係のない部分で事は起こっている。
「……来たか」
魔力を与えられ、擬似的に精霊と化した大気が情報を伝えてくる。
それは言葉というよりも意思に近い。
種々雑多な情報の中から必要なものを取捨選択し、判断を下す。
それはあくまでも術者の仕事だ。
「なるほどね、違和感の原因はそれか」
病院内の外れにひっそりと立つ石碑のことは、もちろん知っていた。
病院のような、人工的な施設の中に石碑があることを不思議に思ったのだ。
古株の医師いわく、江戸時代から風水上の要地であったとか。
龍脈の要として配されたその石碑に、何かが起こったと考えるのが筋であろう。
そう結論付けて杖に跨り、音もなく飛び上がると石碑のある場所へと向かった。
そして、石碑の前。
近づいた時点で既に気づいていた所ではあるが、何者かがいる。
できるだけ気配を隠して降り立ったものの、相手が妖魔なら気付かれないとも限らない。
静かに、足音を殺して忍び寄る。そして――おもむろに声をかけた。
「そこで何をしている」
できるだけ無感情に、考えていることを気取られないような声色で。
さて鬼が出るか、蛇が出るか。
封魔の要石、その役目は外法の妖術師の手で解かれ、術式は彼女の手に落ちた。
妖魔組織においては異端たる利を最大限に生かした一手は、打たれた。
しかし事を為した当人は、安堵には程遠い。
異質な気配は、はるか頭上。
黒に似て、漆黒には遠い双眸が険を帯びる。
気配を消して「見回り」をさせていた烏を一羽、呼び戻す。
(妖魔ではない……でも)
鳥の視界から服装を見るに、一般人ではない。
退魔師と呼ぶにも、気配がどこか異なる。
(此方に向かうか。面倒)
相手の意思が自らに向くのを確かめて、
取り出した呪符の一枚を、蚕に変じさせて宙に放つ。
宙に紛れて、羽虫の群れは姿を消した―――
いざというときの護身。威力は期待できないが、盾くらいにはなる。
未だ全てを手の内に納めたわけではないが、この空間は彼女に味方している。
そして、背後で軽い音がした。
『そこで何をしている』
「休憩時間、夜の散歩と洒落込もうか……そんなところね」
あなたも、似たようなところかしら? そう言いながら
物憂げに振り返る。実際、厄介事は避けたい。
今の服装は、白の袖無しのブラウスに浅紺のスカート。
「週末のこんな時間、困った仕事。嫌いではないけれど」
……とはいえ、言い逃れは、どうとでも出来るだろう。
【えーと、夜はスーツかローブ……で、良いのでしたっけ】
「夜の散歩か。ふふ、私もだ」
無表情から一転、微笑を浮かべながら答える。
見知らぬ相手との会話において、まず必要な事は何か。
相手に不信感を抱かせないこと、そして第一印象を悪くしないこと。
表も裏も関係ない常識の範囲内で自然に振舞う。
「散歩に、仕事か。
好きでもないことを、何故しなければならないのだろうね?
それに……何をしていたのかな?」
いわば、今は相手の出方を互いに探っている状況だと言えよう。
どうやら手ごわい相手であるらしいことは交わした言葉からも感じ取れる。
しかし、場所が場所故に自分には看過し得ない。
――良くも悪くも、想い出の詰まった場所だから。
「答えられないかな?それはそうだろうね。
そこに立っている石碑を……君が汚したのだろう?」
先の魔術で得た情報を元に鎌をかけてみる。
まあ、だからと言って私が困るわけではないけどね、と心の中で呟きながら。
当たっていようと外れていようと、事態の突破口は開けるはずだ。
【一応そんな感じです。今回は黒のローブということで】
「汚す、なんて―――落書きをするような歳に見える?」
苦笑……とりあえず、嘘はついていない。
行われたのは、穢すよりもっと忌むべきことだろう。退魔師達からすれば。
目線を上げて、あら、と呟く。
「確かに酷い有りだけれど」
年月を経た上、外観上は手入れもされていない。
刻まれた文字を読むには、この時間は暗すぎる。
他愛ない応酬。
「こういったら何だけれど……めずらしい服装ね?患者さんのお付き添いかしら」
心象を害さない程度に相手を気遣いながらも、物珍しさは禁じえない、そんな口調で問う。
「さあね。見た目どおりの年とも限らないし」
あっさりとかわされたので、どうとでも解釈できる表現で食い下がってみる。
おそらくはこれも適当に流されるだろう。
狐と狸の化かしあい。そう形容するのが適当だろうと思う。
そして放たれた言葉につられて石碑を見る。
記憶が正しければ、苔むした石碑は長年の風雪に晒され、
刻まれた文字は読めなかった。
故に、どのような由来で建っているのか自分には分からない。
「そう見えるか?……ならば、そういうことにしておこうか」
ぽりぽりと頬を掻く。
自分の服装に言及されてしまうと返す言葉がない。
もともと気分で服装を選ぶタイプだ。
場にそぐわないのは理解していてもこればかりはどうしようもない。
「……では、他愛のない話はこれまでにして本題に戻ろう。君は、何だ?」
強引に話題を転換しにかかる。
痛いところを突かれての必死の抗弁だ、怪しまれるのも仕方がない。
「あら酷い。幾つに見えたのかしら」
笑み混じりに受け流す。
「子供っぽいって、時々言われるんだけど……嬉しくはない」
だって、そういうものでしょう?
会話の最中、先ほど放たれた気配の正体を探っている。
(同業……じゃない。それにこの服装)
予測が正しいとしたら、望まざる客を呼び込んでしまったかもしれない。
西洋魔術の使い手だとしたら、対峙した経験はほとんど無いのだ。
『君は、何だ』
―――とんだ力技だ。
その蛮勇は評価してもいい。
それはまた、と口元に手を当てて呟く。
「……哲学的。知らない人に質問することじゃないわ、お姉さん」
捉えどころなく笑いながら、歩み寄る。
土が、パンプスの足元で音を立てる。「ふふ」
場を弛緩させる。最初から、それを意図した解答。
身を屈めて、女性のすらりと長身を見上げて、もう一度笑顔。
普段、柔和な趣を崩さない双眸が、すうと細まる。
「七妖会が日妖、五通の青」
世間話の続きのように、娘はそう名乗った。
「確かにな。だが、これ以上禅問答を続けるよりは手っ取り早い」
笑いながら歩み寄る少女。
――果たしてそう表現するのが正しいのかは知らないが。
極めて軽い口調に一瞬空気が和むが、次の瞬間にそれも終わった。
「……七妖会。そうか。
ならばもっと詳しく事情を聞かせてもらわねばならないな。
この石碑の件、それに個人的に聞きたいこともある。
おとなしく従わなければ少し痛い目に合うかもしれないが……いいね?」
緊張が走る。
かつて七妖会を名乗る妖魔に、苦杯をなめさせられた事があった。
もちろんその妖魔と目の前の彼女は違うが、
何らかの形で連なっている可能性はある。
自分の主に頼らずとも、自分の手で殺せるのなら最良。
気がつけば、その手がかりを掴めるかもしれないこの機会を逃すまいと、
いつもの自分らしからぬ強引な手段を採っていた。
相手の返事も聞かずに。
「――Windschuneide(風の刃)」
奇襲は、疾さが何よりも物を言う。
杖の補助も借りず、ほんの短いタイムラグで放たれた風の刃は
相手を殺傷するほどの威力はない。
ただ、自分が優位に立てさえすればそれでよかったのだ。
この場合、名乗りは、そのまま宣告だ。
―――ただでは、帰さない。
七妖会の名に相手が反応したのは思わぬ収穫だったが、
(引きだせる情報はこれくらいか)
その結論は変わらない。
魔術師の先手に、散開していた白い羽蟲が集合した。
(防いだ、が、これは小手調べか)
直感はそう告げている。
退魔師たちに気付かれないように大きく事を起こすことを避けたとはいえ、
病院内の敷地ひとつを彼女の陣に変じさせたからには、魔術師相手にも
相応の圧力が及んでいるはずだ。しかし、その影響はあまり見られない。
歳若いが、高位の。そう判断する。
距離は今の応酬で離れた―――
蟲を媒介しなければ、打てる手段は限られている。
結論を下すと、複数の呪符を一度に蚕に変じさせて、駆け出した。
足止めにすらならない可能性もあるが、万全を期するなら時間は稼がなければならない。
結界を扱う術においては、『方位』が大きな意味を持つ。
向かう先は、方位にして西―――病棟の裏。今の陣の影響力では、人払いが充分
でない可能性があるが、そこは事後処理に任せるしかないだろう。
「な……?!」
必殺とまでは行かないまでも、相手を倒れ伏すには十分なはずのそれを、
難なく防がれた――それも蟲に。
つまり、かなり高位の蟲使い、ということか。
自己判断に自分で納得しつつ、不意に駆け出した彼女―青と名乗ったか―を追う。
足止めのために仕掛けられたと思しき大量の蚕が顔面や四肢にまとわりつく。
ここは病院の敷地内、事を荒立てるのはできるだけ避けたい。
しかし彼女を逃がしても意味がない。
しばしの逡巡の後、魔術に頼らず素手で蟲を振り払い、再び走り出す。
鱗粉が、体液がローブのあちこちに付着した。
ずいぶんと離されてしまった。
かろうじて逃げる相手を視界に収めつつ、必死で走る。
「こんなことなら、普段から体力を作っておけばよかった……!」
息を切らしながら独り言を言うが、大して意味はない。
そうこうしているうちに相手の足が止まった。
(ここは……?)
周囲を見渡してみる。どうやら病棟の裏手のようだ。
窓の中には明滅する蛍光灯の白い光と、非常口を示す明かりの緑の光。
深夜故に誰も居ない廊下を横目で見つつ、口を開いた。
「さて、鬼ごっこももう終わりだ。
観念したまえ、抵抗しなければ手荒な真似はしない」
つ、と頬を伝った血を確かめる。
(……あら)
やり手だ、と判断したのは間違いではなかったらしい。
「七妖会と接触済み、力量は……まだ、充分には測れないか」
しかし、と、内心で呟く。それでも頃合だろう。
相手の土俵に乗れば、おそらく勝ち目は無い。
『さて、鬼ごっこももう終わりだ。
観念したまえ、抵抗しなければ手荒な真似はしない』
彼女の意図が逃走ではないことに、相手は気付いていないらしい。
「そうね、貴方の言う通り」
首肯する。でもごめんね、と小さく口にして、
「此方は、少々手荒なことをするわ」
手早く、方陣の描かれた紙片を取り出す。
指を当てる。霊符が、異なる図象によって塗り潰される。
ずん、と圧力にも似た気配。
鈴と、声を振り落とす。
「臨める兵、闘う者、皆陣烈べて此処に在り!」
四方を支配するのは、使い古された呪言。
九字。たったの一言にて、支配下に置いた力の指向性を限定する。
この術が、流派を問わず好んで使われる理由は簡単だ。
一能に優れるが故、誰が使っても強い効力を持つ。
病院の敷地、結界全体からあつめられた力が、一言にして束ねられた。
全ては、相手を『縛る』、それだけの意図の元に。
「……出し惜しみは、勇ましい貴方に失礼でしょう?」
膨れ上がった力が、とぐろを巻いて漆黒の魔女の元に殺到する。
人間一人圧壊させることなど造作もないであろう密度で。
「……なに?」
完全に追い詰めたと思っていた。
だが、どうやらそれは思い違いであったらしい。
じっとこちらを見つめるその瞳には、まだ十分な力があり。
口から出た台詞は抗う意思を込めたもの。
そして、とった行動は。
静寂が支配する病棟の裏手に、呪言が響き渡る。
その呼びかけに応えた力が周囲から殺到した。
圧倒的な密度を持ちながら、たった一つの目的のために振るわれる力。
(単に逃げた訳ではなかったのか――!)
驚きに大きく目を見開いた。今更ながら意図に気付く。
猟犬に狩られる哀れな兎は、目の前の少女ではなく自分であった。
防御は――あまりに力の発現が早すぎて間に合わない。
「ぐぅ……ッ」
為す術もなく捕らわれた。
あたかも大蛇が獲物を絞め殺すかのように力に縛られ、全身の骨が軋む。
胸を強く圧迫され、肺の中の空気は強制的に搾り出された。
たちまち呼吸困難に陥る。
「がッ…かはっ……」
一瞬、病棟側の光が明滅した。
強引に力を吸い上げた影響で、電子機器に影響が出たらしい。
今、その内部では外を意識する余裕は無いだろう。
じきに、病棟内部は慌しくなるはずだ。
この暗所なら、敢えて人払いをする必要も薄いかもしれない。
力を下ろした重圧は強く、苦痛も僅かにある。
それでも、獲物を捕らえた喜びに、口元は僅かに歪む。
………あは、と淡い吐息が唇から漏れた。
わざわざ位置を移した理由は一つ、道教の影響色濃い日本古来の呪術においては、
「方位」それ自体が意味を持つ。もとは呪禁師として道を納めた彼女でも同じこと。
西方、を目指したのは、そこが彼女の得意とする金の領分だからだ。
蟲を行使するには時間が足りない、戦闘を長引かせるわけにはいかない。
だとすれば手札は限られる―――その、結界内の大きすぎる力を、如何に使うか。
そこに至るまでの、全ては布石。
先手必勝。
考えたことは、奇しくも、漆黒の魔女と同じだった。
違ったのは、彼女の『一手』は、相対する以前から既に置かれていたということ。
単純な事実だった。しかし、それが、勝負を決した。
「さて、と。この状態を続けるのは、少々疲れるの」
囁く表情には、なるほど、僅かな苦痛の色がある。
「だから、貴方にはちょっと仕掛けをさせて貰うね」
言葉と共に取り出したのは、掌ほどの長さのつるりとした蟲。
それを、女性の肌の露出した場所に落とす。
「差し当たっては、気持ちよくなって頂戴」
くすくす、と笑って、自らの手ごと、さらに肌の見えぬ場所へと差し入れる。
相手の力を抑制するための呪符。だが、効果はそれだけではない。
「気持ち悪いかしら?……でも大丈夫、すぐに『其処』に辿りつくから」
衣服の下へ潜り込んだ蟲は、のたくりながら一所を目指す―――
女の急所、とでも形容できるその場所を。
【この辺でこちらは凍結させて下さい】
【明日は同じくらいの時間…ということで良いでしょうか?】
【うい、了解〜】
【こちらも頭が回らんのでここまで】
【時間は同じで問題なし。一応待ち合わせスレに行きますね】
【では、明日もよろしくお願いします】
【よろしくお願いしますー】
【最後レス、もうちょっと余韻があっても良かったと思った<展開が】
>>657 耐え難い痛みに加えて呼吸さえも封じられ、意識が飛びかける。
苦悶の時間は長く続いたように感じられたが、
おそらく実際にはわずか数秒の出来事であったろう。
その数秒が過ぎたと思しき頃、不意に拘束が緩んだ。
無意識に人体の機構が働き、肺に新鮮な空気が入り込んでくる。
それと共に、徐々に明瞭になる意識。
「こ、この期に及んで何を……」
相手の囁きを聞きとがめて言う。
同時に状況を再確認。
自分自身は――首に胸の下、腹、太腿そして膝下にかけて
力が具現化したモノに巻きつかれ横向きに引き倒されている。
一方の彼女とは言うと、身体のあちこちにこちらの攻撃による
切り傷が見られるものの、さほどダメージを負っている様には見えない。
むしろ、先ほどの言にあるように、力を用いたことによる疲労の方が色濃い。
(……万事休す、か)
(だが、この場を脱すればあるいは……?!)
逆転の機会を窺っていた所に相手の宣告。
直後に感じたのは、這う蟲独特のうねうねとした感触。
一般人なら卒倒しそうになるであろうその感触に眉をしかめつつ
なんとか振り払おうと身を捩るも、ろくな抵抗もできぬままに進入を許してしまう。
女性の肉体で最も神秘的な器官であるその場所へ。
「ん……っ、やめ……」
もぞもぞとデリケートな部分を這い回る蟲に、図らずも甘い吐息が漏れる。
知性の介在しない愛撫ではあるが、開発され感度の高められた肉体には
その無遠慮な動きさえ愉悦をもたらすものへと変じる。
「あ……」
愛液が分泌されているのを自覚した瞬間、それはぬるりと内側へと滑り込んできた。
言うなれば自ら招きいれた形であることに愕然としてしまう。
だが、それも一瞬のこと。
夜中の喧騒は近くも遠く。
内部の人間は、こんな戯れよりも余程切実で過酷な状況を強いられている。
こんな場所で、誰が居ようと居まいと変わらない。
「あら。喪服のような色を着ているから、身持ちが硬いひとかと思ったのに」
あっさり迎え入れてしまったのね、と、邪気のまるでない笑みと共に囁く。
「でもよかったね。その子、入れて貰えないと酷く暴れるもの」
嫌悪の表情を浮かべた瑞希を見下ろしたまま、蟲使いは囁いた。
「気持ち悪い?ごめんね、皆、最初は嫌がるの―――わたくしが扱うのは、
もっと蕩けてから、事に及びたかったけれど、無粋でごめんね、
だけど、貴方はこうしないと大人しくしてくれそうにないんだもの」
異能の人間の異能を侵すのに、最も有効な方法は性的快楽だ。
だから、この手の仕掛けは陳腐だが効果が高い。
―――先手必勝。
考えたことは、奇しくも、漆黒の魔女と同じ。
ただ、蟲使いの一手は魔女のそれよりも早く、しかも執拗だった。
魔術師の意思が、未だ折れてないことを彼女は理解している。
だから、歌でも口遊むように続けるのだ。
聞き分けのない子供に、言い聞かせるように。
「それの習性は単純。女の愛液を好み、それを啜るために甘い唾を吐き、
己が身をくねらせる―――でも、その子の毒はつよいから」
この子を受け入れたあなたなら、きっと直ぐに足りなくなるよ。
言いながら、倒れ伏した漆黒の魔女の頭上、蟲使いの黒髪が落ちる。
濁った瞳が、魔女の視線を絡め取る。
蟲の体表からじわりと滲みだすのは懐柔する毒。
人間の理性を凌す魔性の快楽。
「く……不覚はとったが…耐えてみせる……そして、その後で……」
体内に感じる異物の感触。
ただひとつ違うのは、その手の道具のような無機物の冷たさではなく、
仮初の物とは言え有機物の温もりを有していること。
だから耐えられると信じた。再び立ち上がり、反撃できるはずだと。
言い聞かせるかのような、楽しげに紡がれる言葉にも
不敵な笑みを浮かべながら応じる。
「媚毒……と、言うわけか?
ふ……その手の経験、無いとでも……?」
蟲を扱う者ならではの台詞だが、自分にとっては聞き飽きた台詞。
似たような経験はこれまでにもあった。
植物の樹液、妖魔の体液、自らも扱いなれたそれらの分泌物は
ある程度までなら意識を強く持てば耐えうるものだ。
余裕、とまではいかないものの経験に裏打ちされた態度は
相手の目にじっと合わせた視線からも窺い知れるだろう。
その裏にはらんだ危険すら感じさせぬ程度には。
「う……ぁん……」
しかし、そんな外界のことは知らぬげに蠢く蟲が状況を変化させる。
甘い唾と蟲使いの評した毒が、徐々に浸透し始めたのだ。
全身が桜色に染まり、しっとりと肌には汗が浮き始める。
(身体が、熱い――)
内心の動揺を押し隠すように歯を食いしばり、
嬌声を上げぬよう気を紛らわせようと試みる。
「っ……ぁ……」
ままならぬ体をじたばたと捩りながらも、視線だけは相手を捉えたまま。
瑞希は精神力で肉の疼きに無謀な戦いを挑みつつあった。
「ふふ。ふふ」
くすくす。
「素敵な目。こう見えてもあなたの事は評価しているのよ」
瑞希の顎を捉えて、自らに固定する。
「まぁ、その子は黒子だと思って。―――ね?」
楽しげに笑って、言う。
「今はお話しましょう」
たおやかな手つきだが、表現し難い強制力を持っている。
喉元をそっと撫でる。同性の勘所を押さえた、蠱惑的な手つきで。
……毒は所詮は毒、蟲にできることは限られている。
子猫の喉元を甚振るように、そっと。
「っは、あなたが沢山の蜜を出すから、その子が喜んでいる」
まるで自らが感じたことのように、熱っぽい声で囁く。
瑞希の耳元で、高められた感覚を煽りながら。
「……何がぁっ、おかしい」
ひんやりと冷たい手でおとがいを持ち上げられる。
その仕草、勝ち誇るかのような笑み、全てが気に入らない。
自然と棘のある物言いを返してしまう。
「んん……話す、だと?」
喉元を撫でられると、その感触に一瞬心を奪われてしまう。
そのことにすら気付かずに問い返した。
こちらには山ほど聞きたいことがあるが、相手にはあるのか?
一抹の疑念がよぎる。
そうした思考を打ち消すかのように喉をくすぐられ、耳元で囁かれる。
手つきだけではなく吐息にも魔性が込められているのか、
また一段と身体の熱が温度を増したように感じた。
ちょうど頃合を見計らったかのように、大きく膣内の蟲がのたくる。
「あっ……あぁん」
思わず喘いでしまう。
素直に快楽を享受している肉体と、必死に快楽に抗っている精神の
葛藤が限界に達しようとしていた。
「おかしい?……おかしいって、何?」
呆ける、というより、はぐらかす口調。
「軽蔑なんかしていないわ。その子を腹に入れれば、誰でもこうなるもの。
寧ろ、感心しているくらい。よく壊れないなって」
髪をすく仕草にも、明確な媚性が含まれている。
その度に反応を見せる様子を楽しむように、前髪を掻き揚げた場所に唇を落とし、
そっと額を舐める。やわらかく、優しく。
「だって、あなた………わたしに、訊きたいことがあるのでしょう?」
問いかけ、それ自体が誘惑だ。
相手が抗えないと知っての。
自分よりも長身の女性の目蓋に舌を延わせながら、熱を帯びた声が囁く。
「ふぅん……魔術師、ってこういう構造をしているのね」
ふいに、囁きが冷めたものとなる。
どこまでも冷ややかな、微笑の皮を拭い去った彼女の本質。
「巫、に近いのかしら。いえ。使鬼……あちらの術師は式つかいのようなものと
聞いていたけれど、これはまるで逆」
くすり、と笑う。嘲るように。
これもまた誘い。
肝腎なことを口にしない―――の、ではない。
確証が無いが故に、最後を濁すことで、相手を誘導することを狙ったのだ。
【残り5kb……いけるかな?】
「あぁ……ん、ふぁ……ぁんっ!」
感度が、際限なく上がっていく。
全身が性感帯になってしまったかのような感覚。
軽く髪に触れられただけでぞくぞくする。
額に舌が触れたときには身体が跳ねた。
あまりの快感に意識が朦朧としてくる。
その瞳は茫として焦点が定まっていない。
「ぅん……」
もうどうでもよかった。
ただ内から、外から湧き起こる快楽に身を委ねてしまいたい。
甘美な誘惑の前に理性は蕩け、自身を構成する本質的な部分が顔を覗かせつつある。
もっと、もっと触れて欲しい――
内なる声と外なる魔性に突き動かされ、自然に口が動いていた。
「使い魔はぁ…もう要らないの……わたしの肉体があるからぁ……んんっ」
霞の掛った脳内ではあるが、最低限のガードは崩さない。
もっとも、大分そのガードも下がっているのだが。
もう十分応えただろう、と一人合点して舌を突き出し、媚びた視線で褒美をねだる。
質問の意図が通じたことに苦笑。
この魔術師は、怜い。素直に驚嘆すべきなのだろう。
蟲が、魔術師にとっての魔力、彼女にとっての霊力を吸い上げる、
それを吟味しながら、うわ言めいた問答が、意味するものを思考する。
(……もう?)
それはつまり、「以前は持っていたということ」。
彼女が選択したのは、魔術師の言に相槌を打つこと、だった。
「へぇ。使い魔を持っていたのね。わたしの、この子みたいなものかしら」
応じるようにびくん、と蟲が蠢いた。
【あ、1KB=1000バイトですね】
【ってことはあと3000字行けるんだった……何誤解してたんだ;】
【混乱させてすみません、次お願いします】
「あん……あぁぁん」
望んだ刺激は与えられずとも、下腹部で蠢く蟲が欲を満たす。
だが、まだ足りない。
息は荒くなり、汗は珠になり、陸に上がった魚のように身を震わせる。
魔力を吸い上げられる感覚さえも悦びに変じていく。
「それだめぇ……もう……」
ひときわ大きな脈動に、軽く達した。
蟲が舐め切れなかった愛液がぷしゃ、と音を立てて噴出する。
呼吸を整えるためのしばしの沈黙。
少しだけ落ち着きを取り戻すが、再び蟲が動き始めた瞬間にその表情は蕩けた。
「はひぃ……喚び出したモノをぉ…あん……憑かせるんですぅ」
熱に浮かされた思考だが、ここまではまだ「話せる」。
そう自分を納得させながら淫らに腰を振り、
少しでも快感が増すように角度や深さを調節する。
更なる高みを目指して。
【大丈夫大丈夫……忘 れ て た か らw】
【篭絡モードですがどうしましょうねぇ】
満ちたりさせては意味が無い―――
感じやすく、また、貪欲な相手は、蟲使いにすれば恰好の獲物。
「………っ、ふふ」
達するに合わせて、腰を押し当てながら笑う。
直接肌を触れさせているわけではないというのに、じっとりと湿った汗が感じられる。
―――何を「話すまい」としているのか。それを探る必要があった。
けれど、直接水を向けはしない。
「憑かせる、か。へぇ……西洋魔術には明るくないの。もっと教えて欲しいな」
会話を続けることで、矛先をずらす。
意識の空隙を招く為に。
「あなたの使った術、あれは風のものよね?」
昂ぶる瑞希とは裏腹に、彼女自身、汗ばんではいるが―――口調は至って平静だ。
「式、いえ、使い魔無しでもあれだけの術が使えるなんて、凄いわ」
媒介も無しで呼び出したということは、彼女にすれば、それなりに感嘆に価する。
しかし、維ぐ言葉の調子が長閑なのは、相手を焦らすため。
腰を振って快楽を貪る瑞希の背を、娘の腕が抱く。
密着する体温が相手の衝動を昂ぶらせるものだと知りながら、ローブ越しの肩甲骨に指を延わせる。
交わす言葉は睦言に似て、しかし歴然と違う。
あら、人が来る。そんな、ちいさな囁き。
「人払いはしていないものね。ね、お仕舞いにする?」
残念、とでも言いたげに。
「あなたと、もっとお話したかったんだけど……でも、あなたはどうしても
わたくしに心を許してくれないみたいだもの」
稚拙といえば稚拙、そして強引な論理だ。
相手の思考能力の低下を見越して差し込む、陥穽。
蠢動に合わせて、吐息と声音が瑞希の聴覚を内側からくすぐる。
「あなたのこと、ぜんぶ知りたいのに」
【あらら……っていうか、ははは;】
【次スレまでに終わるかなぁ、微妙なとこですね】
【あ、(伸びるから)解説は適当に省いて下さい】
【残り1kbもなく。このまま埋めたほうがいいのでは……と判断】
【終わるまでにレス数が微妙な数になりそうですが、次スレに移行します】
【……そういうわけで書きたいように書くので悪しからずw】
【らじゃーですー】
【よかった……フライング無駄じゃなかった……!(←それはない】