スクールランブルIF08【脳内補完】

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1Classical名無しさん
週刊少年マガジンとマガジンSPECIALで連載中の「スクールランブル」は
毎週7ページの週刊少年漫画です。
物足りない、もっとキャラのサイドストーリー・ショートストーリーが見たい人もいる事でしょう。
また、こんな隠されたストーリーがあっても良いのでは?
有り得そうな展開を考察して、こんな話思いついたんだけど…といった方もいるはずです。
このスレッドは、そんな“スクランSSを書きたい”と、思っている人のためのスレッドです。
【要はスクールランブルSSスレッドです】

SS書き限定の心構えとして「叩かれても泣かない」位の気概で。
的確な感想・アドバイスレスをしてくれた人の意見を取り入れ、更なる作品を目指しましょう。

≪執拗な荒らし行為厳禁です≫≪荒らしはスルーしてください。削除依頼を通しやすくするためです≫

SS保管庫
http://www13.ocn.ne.jp/~reason/

【過去スレ】
スクールランブルIf07【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1082299496/
スクールランブルIf06【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1078844925/
スクールランブルIf05【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1076661969/l50
スクールランブルIf04【脳内補完】(スレスト)
http://comic3.2ch.net/test/read.cgi/wcomic/1076127601/
2Classical名無しさん:04/05/10 00:43 ID:Fxxuq7bM
関連スレ(21歳未満立ち入り禁止)
スクールランブル@エロパロ板2
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1077723024/l50

【荒らし行為について】

“完全放置”で
よろしく頼(よろ)んだぜ

■ 削除ガイドライン
http://www.2ch.net/guide/adv.html#saku_guide
3Classical名無しさん:04/05/10 00:45 ID:aNFulOyE
>>1
乙です!
けど毎週9Pに変わったけどね
4Classical名無しさん:04/05/10 00:47 ID:QYM9SUFo
4ゲットしながら>>i乙
5Classical名無しさん:04/05/10 00:56 ID:1ie.FWTY
>>1
6Classical名無しさん:04/05/10 00:56 ID:UP3rarDA
>>1
おつです。
職人さんもずいぶん増えましたし、いい感じですね。
7Classical名無しさん:04/05/10 01:02 ID:DSxhjImQ
>1
乙。
今スレもまったりお付き合いさせていただきます。
8Classical名無しさん:04/05/10 01:14 ID:Y.NDobTM
ゴールデンレター
このスレを見た人はコピペでもいいので
30分以内に7つのスレへ貼り付けてください
そうすれば14日後、好きな人から告白され
17日後にあなたに幸せが訪れるでしょう
9Classical名無しさん:04/05/10 04:33 ID:wsI8ET8g
>>1
乙です!
今スレも楽しみですな。
ついでにぎりぎり一桁ゲットー
10Classical名無しさん:04/05/10 07:05 ID:Ur5yrgpw
一桁ゲトできなかった・・・('A`)



でも>>1
11Classical名無しさん:04/05/10 18:31 ID:TShaintE
>>@乙
300作突破でキリの良い新スレだ
12Classical名無しさん:04/05/11 02:09 ID:VGHjeh8c
ここで奈○を主役にしたSS書きたいんだけどNG登録されているから
投下しても無駄骨かなあ…?
13Classical名無しさん:04/05/11 02:26 ID:WrTUhrnI
>>12
NG登録してある可能性は高いな(w
避難所に投下するってのも一つの手だぞ
14cat meets girl :04/05/11 03:04 ID:qWTM3Kjg

 女はいくつもの店を知っている。
 美味しい店、落ち着く店、友人と行く店、女同士で行く店……あと、男と行く店。
そして、一つだけ、誰にも教えない店がある、親友にも、恋人にも。なぜならそれは
一人で行きたい店、振られた夜に、一人で飲みたい店だから――
15cat meets girl :04/05/11 03:06 ID:qWTM3Kjg

「いらっしゃいませ」

 バーテンダーは静かに、それでいて耳にほどよく聞こえるように歓迎の言葉を伝える。
視線は失礼ではないほど注がれ、無愛想に感じない程度にそらす。一流の店の対応は、
さり気なさにあると、姉ヶ崎妙は考えていた。その点、この店は満点と言っていい。

 カウンターに腰を下ろす。静かにバーテンダーは近づいてきた、傍に立ち、グラスを洗
う。お客に注文を尋ねるなどというファミレスのようなことはしない。ただ、客が自分の
要望を伝えるのを、聞こえる範囲で静かに待つのだ。

「カミカゼ、お願いできます?」
「かしこまりました」

 背筋の伸びた会釈。まるで浮いているかのように音も立てずに移動し、シェイクを始
めるバーテン。店の明かりはやや暗め、店内に響く音は、ゆるやかなlove songと、僅か
に聞こえる、他の客の囁き。
 彼女はこのしっとりとした店の雰囲気が好きだった。特に、一人で過ごしたい夜は。
男に泣かされた夜は、この店でアルコールにほどよく酔うことが彼女にとってのお決ま
りの過ごし方だった。
16cat meets girl :04/05/11 03:07 ID:qWTM3Kjg

 ふと気づくと、店内に黒猫が一匹いた。その佇まいは、なにやら高貴さを帯びており、
この店に似つかわしい風情を漂わせる。この店のゲストのようにも見え、スタッフのよう
にも見える。あるいはマスコットだろうか? なんにせよ、その猫がこの空間にいること
に疑問がわかないほど、彼はその場の雰囲気と融和していた。
 それでも、飲食店に猫がいる不思議をバーテンに尋ねる。カミカゼを、ついと彼女の前
におきながら、質問を受けたバーテンはひっそりと語りだした。

「オーナーのゲストだそうです」

 なんでも、店のオーナー直々にこの猫の入店を認めているとか。ただ、どうやら賢い猫
のようで、飲食物や厨房の周りには絶対近づかず、静かにやってきて静かに帰るそうだ。
女性客にはなかなかウケがよく、彼を楽しみにして来店する客もいるという。

「音楽を楽しんでいるのかしら? それとも人間を観察してるのかしらね」

 ふと猫がこちらを向いた、目が合う。彼女は微笑みかけた。猫はゆっくりとこちらに近
づいてくる。そして、にゃあ、とひと鳴き。

「フフフ、もしかして慰めてくれてる? それとも口説いてるのかしら?」

 バーテンに、ツアリーヌを注文するついでに彼に何か出すようにお願いした。彼は慣れ
た手つきで皿にミルクを注いでいく。どうやら、彼の猫に口説かれて、一杯奢ったのは自
分だけではないようだ。意外と女たらしなのかもしれない。
17cat meets girl :04/05/11 03:09 ID:qWTM3Kjg

「首輪があるなら……飼い猫よね」

 そのあたりをさり気なく尋ねてみる、返答は予想通り分からないとのこと。ただ、最近
は毎晩来ているそうだ。

「もしかして、私と同じで、アナタも捨てられちゃったかな?」

 返事は無く、ペロペロと小さな舌を上品に動かしてミルクを飲んでいる。彼は女に過去
を話さない主義のようだ。苦笑して自分もウオッカを喉に流し込む。美味しい、いつだっ
てアルコールの味と酔いは、心の傷の痛みを忘れさせてくれる。
 窓を見る、空が泣き出しそうだ。まるで、自分のようだと一人思う。そして、傍らで孤
独であることを周りに気づかせないように振舞っているこの猫も、自分に似ている気が
する。似たもの同士、仲良くできるかな、そんな考えるがよぎる。
18cat meets girl :04/05/11 03:16 ID:qWTM3Kjg

「お姉さんの家に来る?」

 何気ない一言。黒猫はわずかに視線を送り一度小さく鳴くと、スタスタと離れていった。
薄明かりでは、闇に溶ける彼の黒い姿はすぐに消えてしまう。一人、自分だけが残された。
どうやら彼にはまだ、帰る場所か、帰る人がいるらしい。

「また振られちゃった……」

 雨音が聞こえた、空はもう泣き出している。もしかしたら、いつの間にか失恋で泣けなく
なってしまった自分の代わりに泣いてくれているのだろうか。それにしても、一晩で二回も
振られてしまうとは、いやはや、なんとも悲しい夜ではないか。
 自分に男運がないからか、それともいい男は、すぐにいい女を見つけてしまうからか。
いや違う、いい男には、すでにいい女がいるのだろう。そして、残っている男達にはろくな
男がいないのだろう。そしてそれは、きっと女も同じ。
 まあいい、新しくできた傷に、新しい一杯を捧げよう。

「もう一杯、いただけるかしら?」
「なんにいたしましょう」
「……そうね、あの子にちなんでPussy Catを」
「かしこまりました」

 かずかに流れるLove songを聞きながら
 それでは、一人身の夜に乾杯

 cat meets girl,Next girl is Tenma…
19Classical名無しさん:04/05/11 07:31 ID:UP3rarDA
復活おめでとうございます。
店のオーナーが誰だか気になるところですが、それは置いといてw
お姉さんがいじらしくていいですね。次回の天満も期待大です。
20結婚後シリーズ@:04/05/11 09:22 ID:rEWwHhaw
明日は俺達の結婚記念日!
今週の分の原稿は今日納め、ちょっと帰りが遅くなったけどプレゼントも買った!
ぬかりはねぇ。
「ただいまー」
播磨の声を聞き取り、主婦となった愛理がかけつけてきた。
最近の愛理はツインテールをやめ、首元でひとつに束ねているその綺麗な金髪は、愛理にゆられ嬉しそうに揺れている。
しかし表情には心配とイライラが混じっていた。
「今日はだいぶ遅かったわね…」
「ア、アァ。 打ち合わせが長引いてさ」
播磨は持っている茶封筒を大きな体で隠しながら部屋に逃げ込み、棚にしまった。
「ちょっとー、ごはんはー?」
播磨は日々上達する愛理の料理を食べ、風呂に入り、部屋に戻って椅子に腰掛けた。
「さて、プレゼントを買ったはいいが、何と言って渡せば愛理が一番喜んでくれるだろう…」
そんな事を考えながら、おもむろに茶封筒を手にすると、播磨の表情は一変した。
「な・ナイ…。 もしかして落としたか!」
播磨は愛理に気付かれないよう、慌てて外へ飛び出した。
暗い夜道で探す播磨、もぅかれこれ二時間はたった。
どうしてもプレゼントを見つける事はできず、播磨は諦めて家の扉を開けた。
「拳児君…? ちょっときなさい」
――弦子――!?!? 来てるのか!?
「ちょっと!早くきなさいよ」
な・なんだ愛理か…。愛理は最近、弦子に似てきた。
呼ばれるがままキッチンに行くと、テーブルの上には口紅の付いたハンカチがこれ見よがしに置いてあった。
21結婚後シリーズ@続き:04/05/11 09:25 ID:rEWwHhaw
「これはどーゆー事かしら?」
はっ!しまった!
「こ、これはー。 電車の中で付けられちゃってよー。ハンカチで拭いたんだよ!」
「その割には何種類もあるんだけど」
「いゃあ!そいつ何種類も塗ってる奴でよ!」
「へー、じゃあ、その口紅好きの彼女にコレあげるつもりだったのかしら?」
そう言って愛理がポケットから出した物は一つの高級な口紅だった。
「あー!あった! 愛理へのプレゼント!! …はっ、言っちゃった…」
「――へ? これ私になの?」
愛理はきょとんとした顔で播磨の目を覗き込んだ。
「ご・ごめん!隠してて! 明日は結婚記念日だろ…だから…」
「じゃ、じゃあこの口紅の付いたハンカチは…?」
「だって、俺が口紅して店出たら変だろ?」
「――自分の唇で試したの?!」
「いやー、どれが愛理に一番似合うか悩んだ揚げ句…」
播磨が…こんな大きな男が真剣な顔して口紅を塗ってる姿を想像してしまい、愛理はお腹を抱えて笑ってしまった。
「そんなに笑うなよ。俺だって恥ずかしかったんだからよー」
「アハハハ。 でも、覚えててくれてたんだ?」
「当たり前だろ」
「ありがと☆拳児」
22あずまゐ:04/05/11 09:27 ID:rEWwHhaw
すみません。またしばらくお邪魔します。

300作品おめでとうございます。
23Classical名無しさん:04/05/11 11:35 ID:Vc5HHn9I
>>14
全編通して改行位置がおかしい。
単語の途中で改行されると非常に読み難いです。

印刷すれば>14の様な書き方の方がキレイに見えるだろうけど
モニター上で見た場合、詰まり過ぎて汚く見えます。

紙媒体で1行の文字数を決めて両端を合わせるのは
読み易くする工夫でも何でも無いので
web上でそうする意味なんて無い、と個人的には思います。
24Classical名無しさん:04/05/11 12:00 ID:Gfhy1ChI
>22
勢いのあって笑える作品GJ! 播磨は本当にバカでいい奴ですな。 
アレで萎縮した人もいたんじゃないかと思っていたので安堵させられました。
でも! 他はともかく「・」だけは勘弁してください。そこは読点だ。

あと、その時間軸でシリーズ化は諸刃の剣。引き際が肝心だぞ〜。
25Classical名無しさん:04/05/11 12:08 ID:17IfhYw2
>>22
実際読めたもんじゃない。
前スレに文章の書き方とか教えてくれた人がいたので少しは参考にして下さい。
あと余りにオリジナル過ぎて違和感ありまくりでした。
もう少し練習してから投下することを強く勧めます。
26Classical名無しさん:04/05/11 12:17 ID:rEWwHhaw
>>14
確かに23の言う通り、「。」で改行してほしい。
改行すると流れがとまらないか? 
改行は場面の切り替えを意味するんだ。 って考えなのでしょうか?

なんにせよ、作者のルールがハッキリ読み取れるので
作者側に立てば読みやすいのだろうけど、基本的に他人は読み手なので…

27Classical名無しさん:04/05/11 12:21 ID:rEWwHhaw
…と、棚上げでいってみた。
28Classical ROMさん:04/05/11 12:44 ID:iadcGtv.
俺は逆に>>14のような改行が読みやすいんだけどな。
これって少数派なのかな?

というか、最早感性が古いのかもしれんな、俺…
29Classical名無しさん:04/05/11 12:50 ID:AsHe.pxk
>>28
俺もそうだよ。
改行改行言う香具師が急に沸いてきたな。
30Classical名無しさん:04/05/11 12:51 ID:AsHe.pxk
sage忘れスマソ。
31Classical ROMさん:04/05/11 13:34 ID:iadcGtv.
とはいえ俺は、文章のスタイル自体は、各の職人さんが好きなスタイルで書いてヨロシと思っとりますんで、
俺のような外野の意見はあまり気にせずどんどん書いて、これからも楽しませてほしいと願っとりますです。
32Classical名無しさん:04/05/11 14:27 ID:tfr4QM5Y
無理に改行しなくても、表示部の右端までいきゃ勝手に折り返されるから別に気にならないけどなぁ・・・・・
33Classical名無しさん:04/05/11 16:38 ID:d1JiGx6s
>>14-18
GJ!
cat meets girl シリーズ復活ですか。好きなんですよねこれ。
描写が凄くうまくてしんみりしました。( ´∀`)
次はララとかもあるのかな?出番少ないから難しいと思うけど。

>>22
>>25氏にほぼ同意します。
34Classical名無しさん:04/05/11 17:29 ID:.KKhM2kw
>>20-22
ごめん、神!とまでは言えないけど、
そんな違和感なく楽しめた人間も居ますんで、
次も、頑張ってください。

>>25
具体的にどうなのか指摘してあげたら?
俺はあまり違和感感じなかったんだけど・・・
35Classical名無しさん:04/05/11 17:41 ID:AsHe.pxk
>>32
端までいくと読みにくい。俺はね。
視線を左右に大きくとらなきゃいけなくなるから。
36Classical名無しさん:04/05/11 18:23 ID:ctykUnFM
改行も端で折り返されるからいいよと言う人と、適当な所で改行したほうが読みやすいと言う人がいるし。
段落での一文字空けも横書き文章だと微妙と感じる人もいるみたいだし。
形式にこだわりすぎて書き手も読み手も楽しめなくなってしまったら寂しいので、
あんまり意識しすぎなくてもいいんじゃないかと個人的には思うけどなぁ。
37Cool&Hot:04/05/11 23:27 ID:jrv0mCSw
「それじゃ播磨君、先輩から色々教わってくれたまえ」
「うぃっす」
最近、俺はバイトを転々としていた
エアコンの整備だとか、引っ越しだとか
本当はバイトなんてかったるいが、家賃もろもろの支払いがあるのでやらない訳にもいかない
つい先日も

「拳児君」
「なんだよ」
「どうやら先月と今月の家賃及び高熱費の納入がまだみたいなんだが」
「……まあ、あれだ」
「言い訳は聞かない、今月の18日が期限だ。払わない場合は然るべき処置をとる」
「ぐっ」
「私も金の話なんかしたくはないんだ。君がしっかりしてくれれば私もラクなんだよ……」
「まぁ、悪かったな。なんとかして払う」



とまあ、一介の高校生にはバイトをするしか金銭を獲ることはできないんで、こうして深夜のコンビニのカウンターにいるんだがな
「それじゃあ、先輩にあいさつだ。高野君! 高野君! 私は行くから後は頼むよ」
「わかりました店長」
あ、こいつは……
「ぁ……」
38Cool&Hot:04/05/11 23:29 ID:jrv0mCSw
「それじゃ、高野君、彼の事頼むよ」
足早に店長は去っていく
「おまえ、高野……だよな?」
「あなたもここのバイトなの?」
「まあ、短期なんだがな」
そう、と言うと高野はレジの方へ歩いていく
「レジは打てる?」
「ああ、バイトは色々やってるんでな」
「それなら教えることはほとんどないね」
ホントかよ!?、って言いたくなったが、やめとく
「接客は苦手なんだがな」
高野は俺に向き直って言った
「イヤなら、やらなければいい」
……まあ、正論なんだがそういうわけにもいかんしな
「まあ、働かなきゃいけない事情ってもんがあるんでな」
高野は特に反応する訳でもなく、ひたすらレジをいじっている
「おまえも、年令誤魔化してまで深夜のバイトしてんだ、なんか理由があるんだろ?
「あなたに言う必要はないわ」
「そうか……」
あーそう、言いたくねーならいいよ
こいつ、なんもしゃべんねーからどうすればいいか全然わからん
「そういえば、おまえとこうして話すのは、はじめてか?」
こいつと話した記憶があまりない
「……そうでもないわよ」
「そうか、よくおぼえてないが」
「そう」
「……」
会話終了
39Cool&Hot:04/05/11 23:30 ID:jrv0mCSw
だめだ、こいつと話しても話が広がんない
俺が奥に行こうと思ってたくらいに
「あの、話がつづかないんですけど……」
「あの時は、正直おどろいたわ」
いつだ? あんまりいい予感はしないな
「裸で女の子を羽交い絞めしてるヒトがいたから」
うがっ!!?
「最初はヘンタイかとおもった」
「あ、あんときゃーワザとやったんじゃ」
「分かってる」
「そ…うか」
「あなたはもっと周りを見るといいわ」
「周り……ね」
「そしたら思いもせぬ宝物が手に入るかもしれない」
「宝物……ね」
40Cool&Hot:04/05/11 23:33 ID:jrv0mCSw
前後の繋がりが無い会話と一通り指導受け終えて休んでいた時
5、6人のヤンキーの客がきた
「いらっしゃいませ」
「っと、いらっしゃいませ」
そのヤンキー共は酒類の所で色々カゴに入れてる
客だし、当たり前の行為だ
だが気一つになる事がある
こいつらは二十歳にはみえない。
高校生位の奴らだ
「はい、コレよろしく」
――ドカッ
まあ、面倒だし売っちまえばいいだろ
でも、
「申し訳ありません、二十歳未満のお客さまに酒類の販売は出来ません」
ぬおっ!?
言いやがった!
「ああ? 俺が二十歳に見えねぇだと!?」
案の定怒ってるぞ
「二十歳以上だと証明出来るものはありますか?」
「面倒だし売っちまえばいいだろ・・・」
と、俺が小声で促しても
「ダメよ」
コレだ

「おい、証明出来るものはあるぜ」
「え?」
なにぃ?
高野も驚きを隠し切れていない
「ほら、大学の生徒証だぜぇ?」
たしかに、コレは近くの大学の生徒証に見える、後ろの連中がクスクス笑ってやがる
「ほら、早く酒売れよ!」
……なんだかな
41Cool&Hot:04/05/11 23:34 ID:jrv0mCSw
高野は無言で計算をはじめようとていた
こいつは余り感情ってのを出さない
夏の旅行の時も、天満ちゃんといる時も
今だってそうだ、いつものポーカーフェイスだ
だけど
なんか違うよな

「……売んねーでいいよ」
「え?」
「売んねーでいいっていったんだ」
「はぁ?おいニーチャン! ふざけてんじゃねーぞ?」
正直俺は頭にキていた
いつもならここまでムカつかない
自分でも良くわからない
だから、口より先に手が出たんだと思う
「な、なんだ、この手はよ? はなせや」
「あ? 誰に向かってそんな口叩いてんだ?どうせこの生徒証もどっかからかっぱらってきたんだろ?」
「ん、んだとっ!」
その顔を見ると図星みたいだな
後ろ奴らがまじまじと俺を見てる
「あんた、もしかして播磨拳児か!?」
ザワ―――――
「マジかよ!」
「変な帽子かぶってるから気付かなかった!」
「おいっ、いいから行くぞ!」
「あ、ああ……」



「俺……結構有名なのかな?」
42Cool&Hot:04/05/11 23:36 ID:jrv0mCSw



――なかなかやるのね、この男
「余計なお世話だったか?」
――そうかも
「店長にバレたらクビかもね」
「ぐっ」
――でも
「……あの程度なら、私だけでどうにかできたわ」
「なんか言ったか?」
「特に何も」
「まあ、いいや。それにしてもお前はスゲエ奴だな」
「なんで?」
「普通なら見てみぬ振りするもんだ」
「ほかはどうであれ、わたしは平気なの」
――わたしは平気
「でも……いい奴だ」
――何を言ってるの?
私がいい奴?どこをどう見ればそうなるの?
「動物たちの時も手伝ってくれたしな」
「私は何もしてない、頑張ったのは塚本さんよ」
「妹さんだけじゃないだろ」
「私は何もしてない」
「いや、おまえも……」
「分かったような口を叩かないで」
「な……」
43Cool&Hot:04/05/11 23:38 ID:jrv0mCSw
――私がいい奴? 私は簡単に嘘をつく、ヒトの弱みを握って喜んでる

ヒトの困ってるところを見るのが好き、ヒトを傷つけることにも何も感じない女なのよ?

こんな私のどこがいい奴だっていえるの?

「……それだけじゃねえ」
「私はそれ以外であなたに恩を売った記憶は無いわ?」
「夏の旅行の時……」
「……」
「さっき言ってた羽交い絞めの時だ」
「それがなに?」
「ヒトはまず疑うところから入るもんだ。俺は知っての通り不良だ。そんな俺をだぞ?」
――だから……
「お前はすぐに誤解を解いてくれたろ」
――だって……
「それが嬉しかった」
…………
「誰がなんと言おうと、お前が自分の事どう思おうと、俺はいい奴だって思う。そんだけだ」
「あなたは……馬鹿だから」
「なっ!」

ああ

なんだか勘違いされてるみたいね

でも

もういい

好きにして
44Cool&Hot:04/05/11 23:40 ID:jrv0mCSw
「この話はもう終わり。私は……監視カメラの編集してくるわ」
「なんかサラリと凄い事言わなかったか?」
「なにが?」
高野の目がギラリと光った
「いや、なんでも」
「これから先が思いやられるわ、辞めようかしら」
「お前が言うと冗談に聞こえない」
「冗談じゃないもの」
「ま、まぢで……?」
一気に青ざめる播磨
「今日の所は冗談にしておくわ」
(ワカラン、こいつの考えてる事が全くわからん!)
「それと、ありがとう」
突然で以外で不気味で、それでいて不思議な言葉が聞こえた
「あ、ああ、あんな不良なんていつでも追っ払ってやる」
「……道理で誰とも進展が無いわけね」
「なんか言ったか?」
「直に体験して分かったわ」
「は?」
「こっちの話よ」
45Cool&Hot:04/05/11 23:40 ID:jrv0mCSw

数日後

「おい高野、シフトの事なんだが」
「ああ、それなら……」

「なんか珍しい組み合わせだね、あの二人」
「いわれてみりゃあ、そうかもしんねえな」
「あいつ! 晶にまで……!? ちょっとそこのハゲ! 何で晶とそんな仲良く話してるわけ!!?」
「なんでお前に教えなきゃなんねーんだ!! っていうかこれ剃ったのお前だろ!!」
「ふん、ねえ晶、あいつとどういう関係?」
「ただ同じ空間でいくつもの夜を越えていく関係」
「なっ!!」
「おい高野!!誤解され……いや、ワザと誤解させる言い方はやめろ!!」
「播磨君、約束したのに……お猿さんだったんだね」
「このドヘンタイ!!!」
「誤解だ!!」
「嘘じゃないわ」

威勢のいい声が響き渡る2−C
ここにまた新しい誤解が生まれた
高野の笑顔が見れたりする
高野としては、からかう為の新しい手段を手に入れただけかもしれないが
46Cool&Hot:04/05/11 23:44 ID:jrv0mCSw
職人様が晶を書かない理由が分かった気がします
難しいです、はい、とても
今回はこんな感じです
でわ

47Classical名無しさん:04/05/12 00:13 ID:ndwaBcT.
グッジョブ!
初めて晶に萌えたかもしれません(*´Д`)
ストーリーが凄く面白かった
視点の切り替えもイイですね
48Classical名無しさん:04/05/12 00:44 ID:y6xJ.8cA
GJ!
49Classical名無しさん:04/05/12 01:30 ID:m4TvLKu6
前スレの「秋は夕暮れ」と「Cool&Hot」


萌えました(*´д`*)


おにぎり派なんですが、・・・・ミコちん×播磨 晶×播磨って
 結 構 イ ケ る ん で す ね。
グッドジョブでした
ということで、おにぎり&ミコ播&晶播SS応援します。
50Classical名無しさん:04/05/12 02:03 ID:xvBQ9CvE
>>46
これは良いものだ。by マ
51Classical名無しさん:04/05/12 09:56 ID:Q.nD7ggU
アク禁の辛さが和らぎました・・・GJ
52Classical名無しさん:04/05/12 20:35 ID:8PdtOLfM
GJ!!!
晶播SSははじめてみたかな?でもかなりヨカターヨ・゚・(ノД`)・゚・
53168:04/05/13 02:08 ID:w7anRfBQ

お待たせしました、続きです
54Cross Sky :04/05/13 02:09 ID:w7anRfBQ
――――――翌々日
「それじゃあ、先に失礼します」
道着から普段着に着替えた美琴は、稽古を終えた道場を後にする。今日は、午前中で終了だ。
花井は顔を出さなかった。
本人が言ったとおり、地元の友人と久々に再会したり、高校の恩師に挨拶に行っているのだろう。
別に会わなくても良い、といえば嘘になる。
だが一昨日に、あれだけ楽しんだのだ。これ以上望んでしまうと、別れが辛くなってしまう。
無理やり自分を納得させた。
(ま…仕方ないかっ)
そう言いながらも、彼女が今持っている携帯電話には、花井の携帯番号画面が映っているのだが。
その気持ちを振り切るかのように、パチンッと勢い良く携帯電話を閉じた。
(そういや…そろそろ冷蔵庫の中身が少なくなってたよな。家帰ってシャワー浴びたら、商店街に行くか)
帰路につきながら、この後の自分の予定を組み立てる美琴。
家に着くと、その予定通りにまずシャワーを浴び、再び着替えを済ませ、財布を持ち商店街に出かけた。

「さて、今日は何が安いのかな?」
商店街の一角にある行きつけのスーパーに向かう美琴。
春休みなので、普段よりも人ごみが出来ている。スーパーに着くのだけでも、少々骨が折れる。
それでも、何とか店の前に着いた。
そのまま店に入ろうとした、その時。
視界の端に、ある人物が映ったのに気付いた。そこに視線を向ける。
(あ……花井…!)
そこには、今日は道場では会うことは無かった幼なじみ。
思いがけない所で彼の姿を見つけたことで、胸の鼓動が高鳴った。
話しかけようと、傍に駆け寄る美琴。人ごみの間を縫うように近付く。
 
55Cross Sky:04/05/13 02:11 ID:w7anRfBQ

が、あることに気付いた。彼は一人ではないようだ。
横に顔を向け、何かを話しているのか口を動かしている。まだ少々遠いので、何を話しているのかまでは聞こえない。
(友達と一緒にいるのか?)
そう思いながら、さらに近付く。しかし、

(――――!!)
彼の横にいる人物が見えたと同時に、美琴は突然、声のない悲鳴をあげた。
何故なら、花井の傍にいたのは―――――彼と同じくらいの年齢の女性が一人。
それも、外見が自分とよく似た、活発そうなタイプ。
(まさか…)
その瞬間、美琴の頭がドス黒いもので満たされていく。
二人が特別な関係だと決め付けるのは、あまりにも尚早だということは言われなくても分かっている。

もし、一昨日の出来事が――――――――

突然、脳が美琴の気持ちを無視し始めた。
そんな考えを浮かべたくない。花井はそんな奴じゃない。
だが、そんな彼女の気持ちとは裏腹に、頭の中は勝手にその先を思いついていく。

今、花井の横にいる彼女との――――――――

首を勢いよく振り、その考えを頭の中から追い出そうとする。
しかし、それはこびりついているかの如く、彼女の頭から離れない。
(やめて…!)
耳をふさぐ美琴。全てを遮断するかのように。
それでも、そんな彼女の思いもむなしく、脳は最悪の想像を導き出す。

予行演習みたいなものだったとしたら――――――――

(――――――――――!?)
そして彼女は再び、誰にも聞こえることのない悲鳴を上げた。
56Cross Sky:04/05/13 02:12 ID:w7anRfBQ


元々、美琴は恋愛が苦手だ。意中の相手に積極的にアプローチをかけることなど、絶対にできない。
加えて彼女は、過去に手痛い失恋をしている。
1年以上好きだった、高校受験の際に家庭教師をしてくれた先輩。
久々に会ったとき、その先輩には彼女がいた。その時、笑顔を見せ祝福した。自分の気持ちを伝えることさえ出来なかった。
そんな終わり方を迎えた初恋を、心底辛いと思った。
親友達と見た花火のおかげで立ち直り、あれから時も経ったことで、今はもうその事には未練はない。
だが―――それが原因で、美琴の異性に対する恋愛が絡んだ気持ちは、更に頑なになってしまった。
言い換えれば、消極的に、悲観的になってしまっているのだ。自分に自信が無くなっていると言っても良い。
そんな彼女に、その状況はあまりにも酷だったのかもしれない。

(違う、花井はそんな奴なんかじゃない!)
頭の中から沸いて出た想像を必死に打ち消そうとする。
意識を再び、花井達の方へ向けた。今にも崩れそうな気持ちを、必死に支えながら。
しかし、ちょうどその時だった。
花井の横にいた女の子が、彼と腕を組んだのである。
急な行動に、花井は焦っているようではあったが、嫌がっているようには見えない。


ギリギリだった心が、折れた。


いつの間にか、自分と彼らの距離もせまっている。話している内容が耳に届くほどに。
「お、おい。離してくれないか?」
「良いじゃない、別に。久しぶりに会ったんだからさ」
美琴にも二人の会話が聞こえてきた。
その様子が、とても楽しそうに見える。

57Cross Sky:04/05/13 02:13 ID:w7anRfBQ


自分の視線の先にいる二人が、恋人同士に見えてもおかしくない。いや、むしろ見えないほうが不思議なくらいだ。
きっと遊園地で遊んでいた自分たちよりも、周りから見れば二人はお似合いに見えるだろう。
自分がそう思うのだから。

やはり、悲観的な考えしかできないことが災いした。
ショックで、手に持っていたバックを落とす。ドサッという音が辺りに響いた。
もう、ここにいるのは限界だった。
落としたバッグを拾おうともせず、美琴は身を翻して走り出す。
「周防!? 違、これは――――」
バッグを落とした音で、花井も美琴に気付いたようだ。
だが彼は、見られたくないものを見られてしまったような表情を見せている。それが、彼女へのとどめとなった。
花井の方を見ながら走っていた美琴は、もうためらう事もなく前を向き、加速する。
誤解されたのだと悟った花井は、それを解こうと、走り出そうとする。組まれていた腕を力任せに振り払った。
「ちょ、ちょっと花井君!?」
「すまない!」
隣にいた女の子が突然の彼の行動に、ビックリした声をあげる。そんな彼女に一言謝罪を述べ、花井も美琴の後を追いかけだす。
放ったらかしにされた彼女のバッグを拾って。


商店街を抜けても、二人の走るのをやめない。
辺りはいつの間にか、桜の花が植え揃えられた歩道に変わっていた。花の咲き具合は、いつかの時と同じく七分咲き。
だが、当然のことながら、二人にはそんな周りの様子を気にする余裕などない。
58Classical名無しさん:04/05/13 02:22 ID:Gh5WXF..
支援パピコ*´Д`)ハァハァ
59Cross Sky:04/05/13 02:22 ID:w7anRfBQ
「周防、待て!」
先ほどから、何度も美琴に叫びかける花井。だが、美琴は耳を貸さない。
追ってきて欲しくない、放っておいて欲しかった。
(なんで…なんで、あたしばっかりこんな……!…ッ、涙が勝手に…!)
視界が歪みだしていたことに、今更気付く。
前の恋愛もそうだった、どうして自分はこんなに報われないのか。
今まで、そんな事は思ったことなかった。だから、この気持ちをどうやって打ち消せば良いのか分からない。
ただ、怒りと悲しみが彼女の中で渦巻く。

「花井のバカヤローーーーーー!!」
前を向いたまま、後ろにいる花井に向かって叫んだ。
「周防! 待つんだ、周防!」
彼女の名を呼んだのは、これで何度目だろうか。
待つように言っても、彼女が止まるとは思っていない。無駄だということも分かっている。
それでも…それでも叫ばずにはいられなかった。
もし叫ぶのを止めてしまえば、彼女を傷つけてしまったことへの呵責で、もう追いかけることが出来ないと感じたからだ。
「周防ーーーー!」
渾身の力をこめて、花井はまた、目の前を走る幼なじみに向かって叫んだ。

やがて、段々と二人の距離が迫ってきた。
二人の脚の速さは、本来ほとんど差がない。しかし、美琴は今、丈の長いスカートをはいている。
脚を思いっきり動かせないので、全力疾走することが出来ないのだ。
花井の息を切らす声が、美琴の耳にも届きだす。もう彼は、自分のすぐ後ろにいるのだろう。
だが、追いつかれるということが分かっても、彼女は走るのを止めない。
とうとう花井が追いつく。
60Cross Sky:04/05/13 02:27 ID:w7anRfBQ
「―――あっ…!?」
懸命に手を伸ばし、彼女の左腕をガシッ、と掴んだ。美琴が声を上げる。
彼女が振り返る。
「周お…!?」
また名前を呼ぼうとした花井だったが、途中で言葉が詰まった。
何故なら、彼女の目から―――――――――涙が零れ落ちそうになっていたのだから。

それが合図になるかのように、二人は走るのを止めた。
互いに、そのままの状態で動かない。
美琴は、予想もしなかった光景を見てしまったことに。
花井は、彼女が今まで一度も自分に見せたことのない涙を流すくらい傷ついていることに。お互いが、ショックを受けていた。
「…………」
「…………」
風が吹き、桜の木のざわめく音だけが木霊する。
切れていた息を整え、花井は意を決して美琴に話しかけようとした。
その時。
「………よ」
美琴が呟く。身体はこちらに向けているものの、顔は俯いていてしまっている。
「え…?」
「誰なんだよっ!」
今度は顔をあげながら、美琴は花井に怒鳴る。目に溜まった涙が、音を立てずに流れた。
そしてまた、顔を伏せる。歯を噛み締めた。
そんな彼女の様子に花井は、やはり彼女を深く傷つけてしまってしまったのだと、改めて思い知る。
今まで見たことのない幼なじみに、花井の表情にも辛さが滲み出た。
そして、今まで掴んでいた腕を放す。

61Cross Sky:04/05/13 02:37 ID:w7anRfBQ

やべ、投稿規制かかった…
時間も遅いんで、日を改めて投下します
62Classical名無しさん:04/05/13 02:40 ID:Gh5WXF..
支援パピコ?
63Classical名無しさん:04/05/13 02:41 ID:1ie.FWTY
うう…生殺し…激しく明日に期待です
64はっぴ:04/05/13 14:15 ID:xHJu6MGc
えーなんというか…
今から投下するSSむちゃくちゃ「Cross Sky」とかぶってしまいました。
途中からやばいかなーとも思いましてが
とりあえず作ってしまったんで投下します。

なおこの作品は参考にさせていただいた
分校のエロの大家、矢上さんに捧げます
65ウェット:04/05/13 14:17 ID:xHJu6MGc
飲み会の後、2次会でカラオケに行った。
いつもなら好きなアーティストの歌を一番に歌うがそんな気には到底なれなかった
先輩の隣にはあの女がいる
二人はとても楽しそうに見えた
お互いの歌に拍手を送り浜崎のデュエット曲では二人息をそろえて歌っていた
二人は私が知らない半年を二人で歩んできたんだ…そう思うとひどく自分が惨めに思えた


カラオケBOXの2時間私は結局1曲も歌わなかった


「神津、お前の彼女今日どこ泊まるんだ?」
「ああ、彼女ここら辺に親友が住んでるみたいなんでそこに泊まるんだ」
「なーんだ、おれぁてっきりホテルで二人っきりかと思ってたぜ」
「言ってろ…っと、美琴ちゃん?だいじょうぶ?」
「あん?めずらしいな大して飲んでねーのにもうこんなになっちまってるぞ」
「まいったな、送っていくしかないか」
「正弘ー送っていったら?彼女と家近くなんでしょ?」
「うーん…そうするかな…。でもさ」
「だいじょうぶ、お前の彼女は俺がしっかりそこまで送ってってやるぜ」
「そうか、んじゃたのむ」
66ウェット:04/05/13 14:18 ID:xHJu6MGc
僕は彼女を背負い懐かしい道を歩き始めた
思えばこの道も半年振りだがもっと長いこと通ってない気がする
美琴ちゃんとの思いでもいっぱいあったな……
なつかしいおもいでをめぐらせていると背中の彼女が身じろぎした
「気がついた…」
「…うん」
「今美琴ちゃんのうちに向かっているから」
「……」
「ずいぶん酔ってたね、もっと強かったはずだよね」
「……」
「…美琴ちゃん?」
「…ちょっと、寄り道してもらっていいですか」

道場に着き二人は裸足になり中に進む
夜の道場は厳格な空気を残しつつ、闇に染まっていた
「…懐かしいな、変わってない」
「半年だもん、変わんないよ」
「美琴ちゃんは変わったね、たった半年だけどきれいになった」

      (…残酷だよ、そんな言葉)
67ウェット:04/05/13 14:18 ID:xHJu6MGc
「…お世辞がうまくなったねセンパイ、彼女の影響?」
「うーん、そうかもね彼女あのとうり気さくな性格だから」
「…どっちから告白したんですか」
 
      (何でこんなこと聞くんだろう)

「…言うの?」
「教えてください」
「うーん。まぁ彼女のほうからかな。なんか最初冷やかしだったんだって俺のこと」
「……」
「で、何度か友達みたいな感じで付き合って気がついたらって感じで…」

       (なにそれ、ふざけてる)

「…もう…したんですか」
「え…」

       (…………)

「もう…エッチしたんですか」
「美琴ちゃん。まだ酔って…」
「教えてください!教えて!」
「……」
 
 沈黙
68ウェット:04/05/13 14:22 ID:xHJu6MGc
それは明確な肯定の表現だと彼女は知っていた
「…美琴ちゃん、僕は彼女が好きだ。きっかけはどうあれ今は大切な人なんだ
 君が何が気に入らないかはわかんないけど、そんなに嫌わないでほしい」

 そして
 決定打
「美琴ちゃんは僕にとって大切な妹のような存在だからね」

 愕然、
 憤怒、
 憎悪、
 憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪
 憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪
 憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪


 暗転
69ウェット:04/05/13 14:22 ID:xHJu6MGc
ほの暗い道場の更衣室、その真ん中に二人の男と女がいた
「ふふっ、合格のお礼だよ…」
私は神津センパイのものをつかんでやさしく息を吹きかけた
「み、美琴ちゃん…なにを…やめるんだ」
「……まだきちんと合格のお礼、やんなかったから…」
「何を言ってるんだ、こんなことしちゃいけない」
「…だめだよ…私の気がすむまでしっかりお礼するからね…」
「み、美琴ちゃん…?」
「そのために…」

先輩を縛り、裸になってもらったんだから

暗闇に湿った音が鳴り始めた
70Classical名無しさん:04/05/13 14:44 ID:tZhEwmU6
エロパロ板へ!
right now !!!
71Classical名無しさん:04/05/13 15:07 ID:8/.kV9Yw
え、続きがエロパロスレにあんの?
72Classical名無しさん:04/05/13 16:07 ID:1ie.FWTY
いや…エロはここじゃマズいんでないかいと…
73Cross Sky:04/05/13 21:46 ID:w7anRfBQ

「さっきの娘とはな…まだ僕が高校生だった頃、一緒に生徒会役員をやっていたんだ」
そのまま自分と、さっきの娘との関係を語りだした。
「高校の恩師に挨拶に行って、友人達と会って、それから帰る途中に偶然会ったんだ。とても久々だったんで、つい懐かしくなってな…、それで話し込んでいただけだ」
美琴の顔をジッと見つめたまま、弁解を続ける。
「じゃあ…、何で腕なんか組んでたんだよ…」
俯いていた顔が、今度は横に向く。どうしても、花井と目を合わせられないようだ。
「彼女は誰にでもあんな感じなんだ。過度にスキンシップを取りたがる…とでも言うのかな」
「でも…あんまり嫌がってなかったじゃねえか」
流れる涙を人差し指で拭いながら、美琴は自分が最も傷ついた出来事を口にした。
「それは……その」
どもる花井。今までずっと彼女の顔に向けていた視線を、初めて逸らす。
「僕も…男だということだ」
照れ隠しに頬をポリポリと掻く。そしてまた視線を戻した。
「つまり…お前の誤解だ、周防」
子供をあやす様な口調で話しかける。
そして彼女が拭いたばかりの涙の跡を、指先でなぞった。
しかし、美琴は聞く耳を持たない。
「そんな言葉だけで…信用できるか……」
「周防…」
突っぱねた答え。
すでに折れてしまった心に言い訳をしても無駄なのだろうか。何を言っても聞き入れてくれないのだろうか。
だが、花井はあきらめない。
彼女に訴えかけるように、言葉を紡いだ。

「周防、僕がお前に嘘をついたことがあるか?」
「……」
74Cross Sky:04/05/13 21:47 ID:w7anRfBQ


沈黙する美琴。そんなことは言われなくても分かっている。自分と彼は幼なじみなのだから。
無論、彼の性格が、どんなものであるかも充分承知している。
呆れるまでに愚直で、妥協することを良しとしない。
そしてそんな彼を、自分は好きになったのだから。一昨日の出来事が心の底から楽しかったのも事実だ。
そこまで考えた結果、美琴は首を横に振ろうとした。彼を許そうと。
だが、今度は心が裏切った。
頭では納得できても、心がそれを良しとしなかった。
「これが…初めての嘘かもしれないだろ。」
「周防…」
本当はこんな事言いたくない。
彼は、自分だけでなく、誰にも嘘をつかない。だから、彼が言ったように自分の誤解なのだろうということは既に理解できていた。
それでも、口から出たのは本心とは全く逆の天邪鬼な言葉。

自分の言葉に、自分が傷つく。

言ってから後悔したが、もうどうしようもない。花井がもう、諦めてここから去ってしまってもおかしくないだろう。
だが、そんなことになれば。今度こそ、自分の心は壊れてしまう。
また涙が溢れそうになる。

そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、花井は彼女に言葉を返した。
「なら、僕はどうすれば…お前に許してもらえる?」
顔を上げる美琴。そして、ようやく花井の顔に視線を向けた。
「……」
無言のまま、彼に近付く。そして――――――不器用に抱きついた。
顔も、胸板に少しだけ押し付ける。
75Cross Sky:04/05/13 21:48 ID:w7anRfBQ


「…!」
突然の彼女の行動に、驚く花井。身体が緊張していく。
しかし、痺れて動かなくなりそうな腕を懸命に動かし、彼女の身体を少しだけ抱き返した。
「………で…」
「え?」
彼女が言葉を発する。あまりに小さな声だったので、つい聞き逃す花井。
そんな彼の様子に、美琴はもう一度呟いた。

「どこにも…行かないで……」

弱々しく、かすかに震えた声で。
口調も、気の強い普段の彼女とはまるで違った。
「このまま離れたくない、ずっと一緒にいたいよぉ……」
また涙が流れる。
声を絞り出し、必死に自分の気持ちを伝える美琴。花井の服をギュッと掴む。
ずっと隠していた気持ち。その外殻が剥がれだしていた。

そんな彼女が、自分に抱きつく幼なじみが、別人のように思えた。
彼女が押し付ける顔の辺りが、徐々に湿っていく。

花井は困っていた。
彼女をここまで追い詰めたのは、迂闊だったとはいえ自分の行動。
だからこそ、どうすれば許してもらえるか彼女に問いた。
しかし、返ってきた美琴の言葉に、どう言えば良いのか分からない。
明後日には、下宿先に戻らなければならない。かといって、今の彼女を放っていくわけにはいかなかった。

答えが見つからない――――――――

76Cross Sky:04/05/13 21:51 ID:w7anRfBQ


「周防…」
何とか彼女の名前を発する。
「周防、僕は…」
「分かってる」
美琴は、花井の言葉を遮った。弱々しさは残っていたものの、さっきとは違う、はっきりとした口調。
「言われなくたって、分かってるよ」
声がまた震えだした。それでも、言葉を紡ぐことを止めようとはしない。
殻が剥がれ、あらわになった気持ちに、もう歯止めは利かなかった。
「こんなの……希望でも…お願いでも…」
次に彼女が発した言葉に、花井はさらに顔を、身体を強張らせた。


「ましてや………恋心なんかでもない…!…」


自分に抱きつく幼なじみは、またしても俯く。
「ただの……わがままだ…」
その言葉を最後に、美琴は押し黙る。その代わりに、彼女の口から嗚咽が漏れ出した。
「……」
花井は何も言えなかった。遂に知った、彼女の本心に。
時が無意味なものになっていく。
唯一、ざわめく桜の枝だけが時間の刻みを忘れなかった。

どの位、そのままの状態でいたのだろうか。
美琴はようやく、嗚咽を止めた。思考を取り戻す。
自分の気持ちを、とうとう花井に伝えてしまった。美琴は、そのことに気恥ずかしさが募りだす。
潤んだ瞳のまま、一瞬だけ花井の顔をチラリと覗き見る。
77Classical名無しさん:04/05/13 21:51 ID:JZmhiykM
>>70
流れ的にワラタ
78Cross Sky:04/05/13 21:53 ID:w7anRfBQ


仮面を被ったような、無表情な彼がそこにいた。
唯一感情を表した眉尻が、少しだけ下がっている。

視線を元に戻す。やはり迷惑だったのだろうか?
友人と一緒にいただけの彼を勘違いし、責めた自分に。その時のあまりにも子供な態度に、愛想が尽きたのかもしれない。
また、視界が歪みだす。
(ダメだ…)
やはり言うべきではなかった。美琴は後悔する。
そうだ、この想いを伝えなければ。自分と彼は、気心の知れた幼なじみのままでいれたのに。
ずっと一緒にいることはできなくても、これからも仲良くすることは出来た。いつものように。
だが。
もう、それすらも叶わないだろう。
遊園地で遊んだことが。道場で共に稽古したことが。高校時代の思い出が。幼い頃の記憶が。
花井との思い出全てが、走馬灯のように彼女の頭の中を駆けていく。
そして最後に、自分の中で結論がはじき出された。


花井にとってあたしは…ただの幼なじみでしかないんだ―――――――――


(もう、ここにいられない…)
彼の胸に手をつき、身体を離す。
自分の背中を優しく抱いていた腕は、抵抗なく、スルリと離れた。
涙を見られぬよう、すぐに後ろを向く。
顔を横に向けるが、もう花井の顔を見ることは出来なかった。そんな勇気は、とっくに使い果たしていたから。
前髪で目元を隠し、一言だけ呟く。

「ゴメン…」
79Cross Sky:04/05/13 21:54 ID:w7anRfBQ


もう、彼と楽しく話をすることは出来ないだろう。もしかしたら、顔を合わせることさえできないかもしれない。
しかし、仕方ない。彼を好きになってしまった自分がいけないのだから。
美琴は駆け出そうとする。
その時、

ガシッ

腕を掴まれた。誰が掴んだのかは言うまでもない。
美琴にとってその行動は、予想外だった。
「僕はまだ……」
口を開く花井。そのまま彼女の身体を引っ張った。
今度は花井が美琴を抱きしめる。さっきとは違い、背中から。
「何も答えていないぞ…」
美琴のすぐ後ろでかすれた声が響く。
「………」
何も言えない。口が動かない。
でも、答えなんてもう聞きたくなかった。
そんな彼女の気持ちを汲み取りきれなかったのか、花井はしばらく沈黙した後、口を開く。

「実は…、独り暮らしを始めてからずっと、好きな娘がいてな……」
「!!」
胸に刃物を突き立てられたような感覚が、美琴を襲う。
結果なんか言われなくても分かっていた。それでも、本人の口から言われるのとそうでないのとでは心の痛みがまるで違う。
何故わざわざ、こんなことを言われなければならないのか。
もうこれ以上、聞きたくない。花井の腕を振り払い、すぐにでも走りだそうとした。
80Cross Sky:04/05/13 21:56 ID:w7anRfBQ

しかし、それ以上の力が自分を抑えつける。
「周防、暴れるな」
「うるさいっ!」
力は完全に花井が勝っている。
それでも、美琴は花井から離れようともがき続けた。
「僕の言葉を、最後まで聞け」
暴れる子供をあやすような声に、彼女はさらに苛立った。
「聞いたって、どうせ同じだ!」
「周防!」
一転して厳しい口調になる花井。美琴はビクッと身体を震わせた。抵抗を止めてしまう。
同時に、スッと自分の髪をなでられた。

「しばらく会うことが出来なかったんだが、この間久々に会ってな。別れたときと全く変わってなくて、安心した」

彼女が暴れるのをやめたことを確認した花井は、語りだす。
自分が想いを寄せる娘がどんな女性なのかを。
しかし、当然美琴はそんなことは聞きたくない。耳を塞ぎたかった。

「その娘はな、クラスの人気者で、面倒見が良くて、人当たりも良い…」
そこで一旦言葉を切る。
美琴は何の反応も示さない。早くこの状況が過ぎ去ってしまえば良い、そう思っているらしかった。
しかし、彼女のそんな様子に構わず、花井は続ける。

「ずっと昔からの幼なじみで…」

その言葉に、美琴は俯かせていた顔を上げた。
そんな彼女に花井は顔を近づけ、息を吐き出すように耳元で囁く。
81Cross Sky:04/05/13 21:56 ID:w7anRfBQ


「そして今、僕が抱きしめている。」


「―――ぇ…?」
その言葉に、思わず美琴は振り返る。さっきは振りほどけなかった花井の腕が、いとも容易く解けた。
目に溜まった涙が、辺りに散らばる。
信じられない、といった表情のまま、さっきまで見つめるのが怖かった花井の顔に、視線を向けた。
そんな彼女の反応に、花井は少しだけ微笑む。
そして――――美琴の気持ちに答えを返した。



「周防………好きだ」



言い終わると同時に、再び彼女を抱きしめる。
離れてみて、初めて気付いた気持ち。
身近すぎた存在だったからこそ気付かなかった気持ち。
この想いを成就させるのは、互いに無理だろうと思っていた。
だから、言い出せなかった。言ってしまえば、昔からの自分たちの関係も崩れてしまうと感じていたから。
「ホ…ホントに……?」
「ああ、僕の偽らざる本心だ」
「嘘じゃ…、嘘じゃないよな?」
何度も問いかける美琴。その表情にはまだ、不安そうな色が残っている。
それを打ち消そうと、花井は先ほどと同じ台詞を口にした。
82Cross Sky:04/05/13 21:58 ID:w7anRfBQ

「周防、僕がお前に嘘をついたことがあるか?」
美琴の顔から、不安の色が無くなっていく。
そして、彼女は今度こそ首を横に振ることが出来た。
「ううん…」
「ならば、問題はあるまい。」
優しく話しかける花井。
そんな彼の対応に、美琴はまた目に涙を溜め、それが音もなく流れる。
しかしそれは、今までのとは違う歓喜の涙。
「泣くな、周防。お前に…泣き顔は似合わん」
そう言いながら、花井は指先で美琴の涙をぬぐっていく。
「だ、だってさ…」
一度は、もう無理だと思ったから。あきらめてしまっていたから。
それだけに、花井の気持ちを知った時には、すぐに信じることは出来なかった。
美琴も、花井の身体を抱きしめ返す。
「夢………でもないよな?」
「もちろん、まぎれもない現実だ」

その言葉にようやく彼女もそっと笑顔を見せた。柔らかい感覚が二人を包む。
徐々に、止まっていた時間が動き出した。
それでも、二人はそのまま動かない。
待ち焦がれたこの瞬間を、じっくりと味わうかのように。

――――やがて
「あの、さ…」
「なんだ、周防」
抱きしめあったまま、二人とも口を開く。
「その、えっと…」
歯切れの悪い美琴の口調に、花井は彼女が何かを言いたいのだということに気付く。
83Cross Sky:04/05/13 21:59 ID:w7anRfBQ


「周防、どうした?言いたいことがあるのなら、遠慮するな。」
その一言が、後押しすることとなったのか。勇気を振り絞り、美琴は口を開いた。


「やっぱり、言葉だけじゃ…不安なんだ……」


その一言に、花井は彼女の真意を掴む。
途端に平静でいられなくなったのが、自分でも分かる。
言葉だけでは不安ということは、言い換えれば、態度で示して欲しいという事だ。
それを証明する行動がどういうものであるか、いくら朴念仁の花井であっても分からないわけがない。

「……周防、いいのか?」

視界が狭くなり、動悸が激しくなる。だが、それは彼女も同じなのだろう。
正常に機能しなくなりかけた頭を必死に動かし、花井は美琴を見つめながら問いかけた。

「…………うん」

美琴は、俯いて目を逸らす。
それはさっきのように勇気がなくなったからではなく。
ただ、恥ずかしいから――――――

花井は抱きしめていた腕を解いた。
そして、美琴の両肩を優しく掴む。その時、彼女の方が大きく震えたのには気付かないフリをした。
すると彼女は急に目を開き、見つめ返してくる。
84Cross Sky:04/05/13 22:01 ID:w7anRfBQ


「は、初めてなんだからなっ」
顔を真っ赤にして、初々しい台詞を口にする美琴。
そんな様子に花井は、心の底から湧き上がる感情を抑えれなくなってきていた。
「分かった」
ぎこちなく顔を動かす。

それが合図になるかのように、美琴も顔を上げ、再び眼を閉じた。




二人の影が、顔が、そして唇が重なる―――――――――――――


やはりこれは夢なのではないだろうか。
心のどこかでそう思う自分がいる。
だが、周りで木霊する桜の花の擦れる音が、自分の髪を撫でる優しい風が、そして何より唇の感触がそれを否定した。
今、ずっと夢に見ていた人と、互いの気持ちを確かめている。
今まで一度も体験したことのない、表現することの出来ないおかしな感覚。
まるで、触れている箇所から身体全てが溶けてしまいそうな不思議な感覚。

このまま溶けてしまってもいい、美琴は心の底からそう思った。


やがて、名残惜しそうに唇を離す。
触れ合っていたのは、時間にしてみればわずか4、5秒程度。
だが、二人にとってそれは、永遠といっても過言ではない一瞬だった。
美琴は再び、花井に身体を預ける。
85Cross Sky:04/05/13 22:02 ID:w7anRfBQ

足元がおぼつかない。立っているのが、少々難しいように見えた。
やがて花井が、指先で美琴の顔をゆっくりと撫でる。
目の前にいる存在が、本物なのか確かめるかのように。
彼もこれは夢なのではないかと、心のどこかで思っていたのだろう。
やがて、納得したのかその行為を止める。
その代わりに、今度は遠慮することなく彼女の身体をギュッと抱きしめた。

その時―――
少々強い風が吹いた。
桜の花びらが舞い落ち、二人に降り注ぐ。


「桜吹雪、か」


思わず呟く花井。
一方美琴も、その光景が、どこかで見たことあったのを思い出す。
「…卒業式の時にも、こんな感じで花びらが舞ってたっけ」
「ああ、そうだったな」
あの頃を懐かしむ。
まだお互いに、特別な感情を抱いていなかった頃。
あの頃は、ただの幼なじみだった。
でも今は違う。
何よりも大切な、かけがえのない存在。

やがて美琴はあの時、彼に抱いた疑問があったのを思い出す。
「そういやお前、『桜吹雪が忘れられない光景になりそうだ』とか言ってたよな?」
「よく覚えているな、周防」
花井は、その言葉に敏感に反応する。
86Cross Sky:04/05/13 22:04 ID:w7anRfBQ

「あれって、どういう意味で言ったんだ?」
「…………」
花井は押し黙る。
だが、一言だけポツリと漏らした。
「あの時、お前に会う前に、僕が誰に何を言っていたか、忘れたわけではないだろう?」
卒業式の桜道。
花井は確かに自分と出会う前に、誰かと対峙していた。
その相手、その内容とは確か―――

「あ…」

 美琴は思い出す。
彼には高校時代、別に想いを寄せていた女性がいたことを。
そして、卒業式に彼が玉砕したことを。
桜吹雪を忘れられないと言ったのは、おそらく。

そのときのことを思い出してしまうから――――

「あ…、悪い」
つい謝罪の言葉を口にする美琴。
「? 何を謝る?」
「だって…思い出しちまっただろ?…あの時のこと」
申し訳なさそうに、顔を沈めた。
だが、花井は笑みを湛えたまま彼女に言い放つ。
「気にすることはない。もう…2年も前のことだ。」
その様子は、彼がそのことに未練がないことを表していた。
更に花井は言葉を続ける。桜の木を見上げながら。
「それに、お前のおかげで違った意味で『忘れられない光景』になるだろうからな」
その言葉に、美琴は元に戻りかけた自分の顔色が、また赤くなっていくのが分かった。
87Cross Sky:04/05/13 22:05 ID:w7anRfBQ


「ば、ばかやろ……、そんな恥ずかしいこと言うなよな…」
軽く睨みながら文句を言う。
「そう言うな。本心なのだから仕方あるまい」
意に介することなく、花井は答えた。
そして、ゆっくりと身体を離す。

「そろそろ行くか、周防」

美琴の顔を覗き込みながら、優しく話しかける。
「……おう」
はにかみながら、美琴も答えた。

そして、ゆっくりと歩き出す。
その時。
花井は自分の腕が引っ張られたのを感じた。
見ると、顔を赤くしたままの美琴が、自分の人差し指と中指と薬指、その三本の指だけ掴んでいる。
本当は、しっかりと手を繋ぎたかったのだろう。
でも、そこまでの勇気が出せず、指だけをつかむ結果となったに違いない。
その美琴らしい行動に、花井はまた、フッと笑みを漏らす。

そのまま、二人は歩道を歩いていく。
ザワザワと揺らめく桜の枝が、舞い落ちる花びらが。
長い月日をかけて、ようやく心を通い合わせた二人を祝福しているかのようにみえた――――


88Cross Sky:04/05/13 22:06 ID:w7anRfBQ

それから二日後。
二人は駅のホームにいた。
そう、花井はもう下宿先に帰らなければならないのだ。
大きめのバッグを携え、電車を待っている。
そして美琴は、その見送りに来ていた。

「わざわざ、見送りに来る必要も無かったんだが」
「なんだよその言い草。折角時間を割いて来てやったんだから感謝しろっ」
本当は、少しでも長く一緒にいたくて来たのだが。
やはり、そう簡単には素直にはなれない。たとえ互いの気持ちが理解できても。
「忘れ物は無いだろうな?」
「ああ、もちろん無い。僕を誰だと思っている?」
「女心がちっとも分かってねえ、超がつく真面目バカ」
「………お前な」

プァーーーン

花井が言い返そうとしたその時、彼が乗る電車がホームに入ってきた。
乗客が降り、改札口へ向かっていく。
「……もうちょっとこっちにいれないのか?」
電車がホームに入ってきたことで、彼との別れが迫っていることを実感したのだろう。
ついつい本音を漏らす美琴。憂いの表情が滲み出る。
「スマン、もう向こうに帰ってからの予定を入れてあるんだ」
「…そっか」
「そんな顔をするな。この夏休みにはしばらくこっちにいるつもりだ。」
沈んだ表情の彼女を慰めようと、花井は優しい口調で言葉を紡ぐ。
その言葉に、ほんの少し驚いた様子をみせる美琴。
「え…、でもバイトで忙しいんじゃないのか? 仕送り無いんだろ?」
「もう僕も三年生だ。授業も減るからな、空いた時間にバイトをすれば、1、2週間位は帰ってこれる」
予想外の彼の言葉。
89Cross Sky:04/05/13 22:07 ID:w7anRfBQ

卒業するまで会えないだろうと思っていた美琴は、思わず顔をほころばせる。
「なんだ? そんなに僕に会えるのが嬉しいのか?」
「なっ…、そんなんじゃねえ!」
動揺し、顔が赤くなっていれば、当然ながら説得力は無いわけで。
「僕は楽しみだぞ、お前と次に会うときが」
「……言ってろ、ばかっ」
悪態をつきながらも、その顔は笑顔。
そんな彼女をさらに喜ばせる言葉を、花井は口にする。

「ずっと一緒にいるという約束を破ってしまったからな。それ位、当然だろう…男として」

「え…?」
そう、彼が口にしたのは。
それは昔、二人が指輪にこめた、淡い約束の一つ。
美琴は、観覧車の中で指輪を見せたときの会話を思い出す。

90Cross Sky:04/05/13 22:08 ID:w7anRfBQ


―――――――――――――

「これは覚えてるか?」
「これは……指輪か?」

「…すまん、ちょっと思い出せないな」
「そっか、忘れちまったか」

「覚えてて欲しかったんだけどな…」
「ならば、こっちにいる間に思い出してみせる」
「へぇ、そんな事言って、思い出せなかったらどうするんだ?」
「思い出してみせる」
「期待してるよ」
「ああ、期待してくれ」

―――――――――――――

「思い出したのか…」
彼は確かに言った。必ず思い出す、と。
そしてそれを約束した。

「忘れ物は無い、そう言ったはずだぞ?」

得意げな顔を見せる花井。
幼少の頃と比べ、随分変わってしまった彼だが、時折、子供っぽい表情を見せる。
それが、昔の面影をほんの少しだけ残していることを美琴は知っていた。
おそらく、そんなことを知っているのは自分だけだろう。
彼が、指輪の約束を思い出してくれたこと。
そして、昔の彼の面影を久々に見たことに美琴は、満足げに笑みを浮かべる。
91Cross Sky:04/05/13 22:09 ID:w7anRfBQ


「ふふっ、ありがと。わざわざ思い出してくれてさ」
「気にするな、忘れていた僕が悪いんだからな」


電車が出発するまであと3分ほど。
その時間が近付くにつれ、二人の顔から明るさが消えていく。
「もうすぐ…お別れか」
「そんな顔するな。寂しくなれば、電話でもメールでもしてくればいい」
「そうだけどさ…」
電話があれば話をすることは出来る。
しかし、会うことはできない。
電車がホームに入ってきたときと同様、また沈んだ表情になる。
その時花井は、彼女の口からある言葉を聞いていないのを思い出した。
「そういえば周防、大事なことを聞いていないのだが」
「な、何だよ。急に」
突然、まじめな顔になる彼の様子に、少々たじろぐ美琴。

「お前の口からまだ、僕への気持ちを聞いていないのだが」
「………は?」

この男は突然、何を言っているのだろうか。
あの日、先に自分の気持ちを打ち明けたのは自分ではなかったか。
その彼女に疑問を解消するように、花井は更に口を開く。

「僕のことを“どう思っているか”聞いていないのだが」

「………」
花井の言いたいことを理解する美琴。
92Cross Sky:04/05/13 22:10 ID:w7anRfBQ

しかし、そんなことを急に言われても、どうしていいか分からない。
「別に言わなくったって、分かってるだろ? ……あたしの気持ち」
なんとかかわそうとする。しかし、
「確かにそうだが…、お前の口から聞きたい」
食い下がる花井。
それは、彼女を困らせようだとか、ふざけて言っているようには見えない。
本当に聞きたいと思っているらしかった。
それに花井は、他人に願い事をすることなど滅多に無い。
それ程、自分の口から聞きたかったのだろう。
そんな彼の真摯な態度に、美琴は気持ちを改めた。

「わ、分かったよ」
急速に早くなる鼓動。視界がぼやける。
それを何とか抑え、意を決し、弾かれたように口を開いた。



「あ、あたしも………好きだよっ」



言い終わると同時に、あまりの恥ずかしさでつい俯く。
そして、今度は自分から先手を打った。
「も、もう言わないからなっ」
それから更に、顔をプイッと逸らす。
花井は彼女のそんな様子に、柔らかく笑いかける。

「ありがとう、周防」
その言葉が、彼の今の心情全てを表しているようだった。
93Cross Sky:04/05/13 22:14 ID:w7anRfBQ

やがて、美琴はおもむろに横を向いたまま、花井にあるものを差し出す。
それは少々分厚い茶封筒。中に何か入っているようだ。
「これは?」
「電車の中で、じっくり楽しみな」
つっけんどんに答える。まださっきのことが恥ずかしいようだ。

その時、

プルルルルルルルルッ

ホームに発車のベルが鳴り響く。
その音に、美琴は顔を上げる。もう、花井は電車に乗り込んでいた。
互いに、名残惜しげな顔を見せる。

「じゃあな、花井」
「ああ、お前も元気でな。周防」

その言葉を言い終わると同時に、ベルが鳴り終わる。
そして、ガタンッ、とドアが閉まった。
二人は顔を逸らさない。

もう、悲しげな顔は見せなかった。
笑顔で手を振り、電車がホームから出て行くのを、美琴は見守った。
94Cross Sky:04/05/13 22:15 ID:w7anRfBQ


(行っちゃった…か)
次に彼に会えるのは夏休み。
またしばらくは会えない。
その事での寂しさはあったものの、もう辛くはない。
どれだけ距離が離れていようと、心は常に繋がっているのだから。

ゆっくりと背を向け、美琴は帰路につく。
振り返りはしなかった。
楽しい思い出は、その時に新しく作れば良いだけのこと。

晴れ晴れとした表情のまま、美琴は駅を後にした。


(周防のヤツ、一体、何を渡したんだ?)
電車の中で、席に座り、先ほど渡された封筒を開ける花井。
開けるとそこには、4日前に彼女と行った、遊園地の写真が入っていた。

いきなり写されて、ビックリした顔をした自分。
遊園地のマスコットと一緒に写った、楽しそうな美琴。

その他にも、あの時撮った楽しい記憶を思い起こさせるものがそこには写っている。
彼女がこの写真を渡したのはきっと、このことを忘れて欲しくなかったからなのだろう。
美琴のそんな心情を察しながら、一つ一つ写真に目を通していく。
95Cross Sky:04/05/13 22:16 ID:w7anRfBQ


そして、最後の一枚。
それは、遊園地を出る直前に写した、自分と彼女が肩を組んだ写真。
その裏にマジックで何か書いてある。
裏返しにしてそれを見ると、美琴の字でこう書いてあった。

大事にしやがれ!

(アイツらしいな…)
ついほころぶ口許を、その写真で隠す。
言われなくったって、そのつもりだ。
この写真は、向こうにいる間、自分の支えとなるだろう。
今度帰ってきたとき、彼女とどこへ行こうか。早くもそんなことを考えだす。

ガタン、ゴトン

花井を乗せた電車は、矢神町から離れていく。
彼が次に戻ってくるときには、二人はどんな思い出を作るのだろうか。
そしてその時に、どんな新しい約束をするのだろうか。

それを知っているのは、二人を慰め、心から祝福した桜の木だけ――――――――――


              〈終〉
96Cross Sky  〜後書き〜:04/05/13 22:18 ID:w7anRfBQ


製作日数二週間あまり、ワードで54ページにもなった私的縦笛長編最終回、
何とか終わりまで書くことが出来ました。
1スレで終わらせられなかったのは無念ですが
遅筆で申し訳ないです

前述したとおり、このSSのきっかけとなったのは、縦笛絵師の交差天氏の絵でした
過去絵No1059、過去画像No136(こっちはまだ保管庫入りしてませんが)の二つの絵を元に書き始め、
題名も思いつかなかったので、氏の名前も拝借しました

交差(Cross)、天(sky)ってな感じで。

…交差天氏、勝手にすいませんでした。

一応、夏休みのアフターストーリーとかも考えてはあるんですが…多分書かないと思います


最後に、絵の使用を許してくださっただけでなく、挿絵まで描いてくれた交差天氏
このSSを読み、またレス下さった皆様方、ありがとうございました

しかし、想像以上に長くなった…
97Classical名無しさん:04/05/13 22:19 ID:qmlfIyEQ
……なんだかレスを付けるのが果てしなく野暮に思えてもしまうので。
ありがとうございました、この一言を以て感想に。
98Classical名無しさん:04/05/13 22:20 ID:Rb05B4II
っ∀`) ありがとう、ほんとありがとう。
99Classical名無しさん:04/05/13 22:40 ID:18gxV4a2
本当に良いものを読ませて頂きました。
ありがとうございました。
100Classical名無しさん:04/05/13 23:01 ID:Hg/busGQ
長編お疲れ様でした。
素晴しい縦笛をありがとうございます。
っ∀`)どこまでもGJ!でつ
101sage:04/05/13 23:02 ID:Hg/busGQ
あわわ、ageちまった、吊ってきます…
102嗚呼…:04/05/13 23:20 ID:Hg/busGQ
もうだめぽ…
103Classical名無しさん:04/05/13 23:42 ID:9u9mt3js
俺は縦笛派じゃないんですが、
これだけ上手いと派閥関係なしに純粋に楽しめました。
次回作、非常に期待しています。GJ!
104Classical名無しさん:04/05/13 23:43 ID:fjGCxdoI
長編お疲れ様でした。そしてありがとう・・・
とてもすばらしいデキで、言葉では表しきれません。

私も頑張って、いい縦笛SSを書こうと思います。
105Classical名無しさん:04/05/13 23:58 ID:gDyB4jE2
ほんとに楽しめました。スクラン本編より待ちどうしかった〜
いい縦笛をありがとう!縦笛万歳GJ!!
106Classical名無しさん:04/05/14 01:18 ID:w0Bdqwto
ああ、いい作品読むと創造意欲がわくな……。自分も二作目書くかな。
107and I close to you:04/05/14 17:44 ID:UP3rarDA
雲一つ無い空の下、沢近愛理は一人駅前を歩いていた。暦の上ではとっくに秋になっている
はずなのだが、真上からの日差しはまったくそれを感じさせない。英国で過ごした時間の長い
沢近にとっては、この暑さは少々過酷である。沢近は近くにあったベンチに腰掛けると、
太陽を見上げて小さく溜め息をついた。
「まったく、こんなことなら素直に家にいるんだったわね」
そうつぶやいて、鬱陶しそうに前髪を掻き上げる。今日は日曜日であり、午前中からデートの
予定だった。それがどうしてこんな所に一人でいるのかというと、理由はひとえに彼女一流の
「気まぐれ」に尽きる。今回もデートの待ち合わせ場所にまでは行ったものの、急に気分が変わり、
そのままUターンして帰ってきてしまった。お嬢様育ちゆえのものなのか、それとも生まれつきの
ものなのか、その由来を知る術はない。

「恋愛不能症だね」

クラスメイトである高野晶の言葉が、ふと沢近の脳裏に浮かんだ。流れるような金髪に、
ギリシャ彫刻の如く整った顔立ち。そして抜群のスタイル。それを持ってしてまだ一度も男性と
付き合った事が無いというのは、晶に言わせると病気に他ならないらしい。もう一度太陽を見上げて、
小さな声で愚痴をこぼす。
「ま、これからよね……あら?」
その時、一人の少女の姿が沢近の目に止まった。雑踏の中を歩いていく少女の姿は、沢近に
負けず劣らず美しい。沢近はベンチから立ち上がると、そのまま少女の後を追った。
「ちょっと、そこのあなた!」
「……?」
沢近の声が届いたのか、少女が怪訝そうな表情で振り向く。彼女の予想通り、その顔はよく
見知ったものだった。
「……先輩」
108and I close to you:04/05/14 17:45 ID:UP3rarDA
「……シナモンティー、お待たせしました」
「ありがと」
カップを受け取ると、沢近は少しだけ紅茶を口に含んだ。シナモンの爽やかな風味が、口の中へと
広がってゆく。英国帰りの沢近にとっても、その味は充分に満足できるものだった。
「それにしても、まさかあなたがこんな所でアルバイトしてたなんてね。意外というか何というか」
「は、はい……すみません」
給仕服に身を包んだ先程の少女―――塚本八雲が、申し訳なさそうに頭を下げる。その姿を見て、
沢近は少しだけ顔をしかめた。
「別に謝ることじゃないでしょ。働いてるっていうのは、もっと誇っていいことだと思うけど」
「は、はい……」
沢近の言葉に、八雲が恐縮の表情を見せる。駅前での邂逅から数十分が経ち、沢近は八雲の働く
喫茶店を訪れていた。他にすることもないし、暇つぶしにはなるだろうと考えてのことである。
「ま、いいわ。あなたも大変ね」
「い、いえ、そんな……」
八雲はほんのり頬を赤く染めると、そのままうつむいてしまった。そんな彼女の仕草は、姉である
塚本天満とは似ても似つかない。言うなれば、昔ながらの日本女性の雰囲気をそのまま閉じこめた
ような感じである。花井春樹その他の男子が、血眼になって八雲を追いかけているというのも、
何だか沢近は納得できるような気がした。
109and I close to you:04/05/14 17:46 ID:UP3rarDA
「……ホント、天満の妹とは思えないわね」
「……?」
「何でもないわよ。そんなことより、あなた一応仕事中でしょ。入り口のベルが鳴ってるけど、
行かなくていいのかしら?」
「え? あ、はい!」
慌てて八雲は顔を上げると、入り口の方に向かって走っていった。八雲の足取りに合わせて、
深い色のスカートがひらひらと揺れる。「素直なコね」と小声でつぶやいて、沢近は再び紅茶を
口に運んだ。
「お一人ですか?」
「ああ、なるべく静かな席を頼むわ」
会話から察するに、どうやら今度の客は若い男のようである。沢近からしてみると、男一人で
喫茶店というのは珍しいことのように思えた。まして今は日曜の昼下がり、周りのテーブルにも
カップルの姿が多々見受けられる。よほどの物好きか、はたまたウェイトレス目当てか。
好奇心も手伝って、沢近は男の方へと視線を向けた。
110and I close to you:04/05/14 17:47 ID:UP3rarDA
「……え!?」
「……な!?」
一瞬の間をおいて、両者が同時に驚きの声を上げた。明らかにうろたえた様子で、男が八雲の
後ろへと隠れる。その姿を見て、沢近は迷わず席を立った。
「あ、あの……」
「どきなさい、そこの男に話があるわ」
「で、でも……」
「いいからどきなさい!」
沢近の迫力に、思わず八雲が後ずさりをする。半ば突き飛ばすようにして八雲をどけると、そのまま
沢近は男を自分の前へと引きずり出した。大柄な身体にサングラス、そして今時珍しいベレー帽。
沢近の知る限り、そんな男はこの世に一人しかいない。
「悪いけど、ちょっと話があるの。奥のテーブルまで来てもらえるかしら?」
「……人違いだ。悪いが他を当たってくれ」
「とぼけないで! アンタみたいな男が他にいるわけないでしょ!」
沢近が鬼の形相で男を問いつめる。結局その男―――播磨拳児は、健闘空しく店の奥へと
引きずり込まれていったのだった。
111and I close to you:04/05/14 17:50 ID:UP3rarDA
「……で、なんでこんな所にいるのよ」
苦虫を噛み潰したような表情で、沢近が口を開いた。二人の間に流れる空気は、いつもにも
増して重苦しい。「見つめ合っている」と言うよりは、「睨み付け合っている」と言った方が
正確だろう。
「……そりゃこっちの台詞だ」
憮然とした表情で、播磨が答える。それを聞いて、沢近は自らのカップをテーブルに叩き付けた。
「私のことはいいの。さっさと質問に答えなさい」
「はっ、何でテメーなんかに答える必要があんだよ」
「ふん、偉そうに。どうせやましいことでもあるんでしょ」
「な、何だと!?」
「ほら、図星じゃない」
「―――〜〜〜!」
テーブルの上の空間に、バチバチと火花が散る。路上告白の一件に加え、海での羽交い締め行為。
最近では播磨の髭にまつわる騒動もあった。沢近が未だにきちんと謝罪をしていないこともあり、
二人の関係は悪化の一途を辿っている。ここで二人が出会い、こうやって言い争いになったのも、
ある意味必然と言えるかもしれない。その時、
「あ、あの……」
険悪な様子の二人を見かねてか、八雲が一杯の紅茶を運んできた。播磨の表情が、一転して
柔和なものに変わる。
「あ、妹さん。すまねぇな」
「い、いえ……」
播磨はカップを受け取ると、そのまま一気に紅茶を飲み干した。空いたカップに、八雲がいそいそと
紅茶を注いでゆく。
112and I close to you:04/05/14 17:51 ID:UP3rarDA
(―――そう言えば……)
二人のやりとりを見て、沢近は以前に聞いた噂話を思い出した。学校一の不良である播磨と、
学校屈指の美少女である八雲が、隠れてこそこそとデートを繰り返しているというのだ。
もちろんその話はただの噂であり、信憑性は低い。だがもしその噂が本当であれば、今日のことも
すべて説明がつく。沢近の頭の中で、話が一本へとつながった。
「……ふーん、なるほど。そういうこと」
「あ?何か言ったか?」
「私や美琴の次はその娘ってわけね、最低男」
「……は? 何言ってんだ?」
「あら、とぼけなくてもいいのよ? さぞかし楽しかったでしょうね、人の気持ちを弄ぶのは」
「……?」
訳がわからないといった様子で、播磨が沢近を見つめる。そんな二人を見て、慌てて八雲が
口を挟んだ。
「あ、あの、とりあえず、落ち着いた方がいいと思いますけど……」
「これが落ち着いていられるもんですか! だいたいあなたもあなたよ。キャンプの時、こいつは
誰にでも手を出す変態だって話をしたじゃないの。先輩として忠告しておくわ。悪いことは
言わないから、さっさとこの男とは手を切りなさい。さもないと、一生後悔するわよ」
激しい口調で、一方的に沢近がまくし立てる。その様子からも、彼女の怒りのほどが伺えた。
しかしながら、怒っているのは播磨も同じである。訳がわからないまま一方的に罵倒された上、
今回は八雲にまで被害が及んだ。ここまでされては、さすがの播磨も黙っていられない。
カップをテーブルに叩き付け、サングラス越しに沢近を睨み付ける。
113and I close to you:04/05/14 17:51 ID:UP3rarDA
「……おい、大概にしとけよ。妹さんが困ってるじゃねぇか」
「アンタは黙ってなさい! 元はと言えば悪いのはそっちでしょ!」
「だから、何のことかわかんねーっつってんだろ!」
テーブルを挟んで、再び二人は口論を始めた。お互いへの罵倒の言葉が、延々と繰り返されてゆく。
そしてそのまま十分ほどが経過し、今にも掴み合いに発展しそうなまでに二人の怒りが膨れ上がった
まさにその時、
「あ、あの!」
突然、八雲が話に割り込んできた。二人の視線が、同時に八雲へと向けられる。
「……何よ」
苛立ちを抑えられないといった様子で、沢近は八雲を睨み付けた。だが、八雲の瞳に迷いはない。
まっすぐに沢近を見据えながら、八雲は口を開いた。
「……播磨さんは、そんな人じゃないと思います」
114and I close to you:04/05/14 17:52 ID:UP3rarDA
「……何ですって?」
その言葉に、一瞬沢近は自分の耳を疑った。はっきりとした口調で、八雲が言い切る。
「播磨さんは、先輩の考えてるような人じゃないと思います」
「……あなた、本気で言ってるの?」
「はい」
「この男は天満に手を出してたのよ!? 夏休み前には私に告白してきたし、本命は美琴だって
 話も聞いたわ。さんざん弄ばれた挙げ句、ゴミみたいに捨てられるのが落ちよ!」
「播磨さんはそんなことしません! 優しい人ですし、動物にだって好かれてます。何があったのか
私は知りませんが、きっと何かの間違いです!」
食い下がる沢近に対し、八雲は一歩も退こうとはしなかった。八雲の言葉の一つ一つが、沢近の心に
深々と突き刺さってゆく。憤怒、屈辱、そして嫉妬。沢近の中で、何かが弾けた。

―――何よ。
アンタがこいつの何を知ってるっていうのよ。
さっきまで泣きそうな顔してたくせに。
何も知らないくせに。
何も――――――

「―――っ!」
「あ、オイ、待て!」
ひったくるようにしてバッグを掴み、入り口へと向かって駆け出す。播磨が制止するのも聞かずに、
沢近は店から飛び出していった。
115and I close to you:04/05/14 17:53 ID:UP3rarDA
英国人の父親と、日本人の母親との間に沢近は生まれた。そのため、彼女は人生の半分を英国で
過ごしている。父親譲りの金髪と、母親譲りの美貌は見るものすべてを引きつけた。裕福な
家庭だったこともあってか、金銭的にも苦労したことはない。しかし、これまで沢近が送ってきた
人生が幸せなものだったかというと、決してそんなことはなかった。
何もしなくても男性からは次々に言い寄られ、それによって女性からは反感を買う。資産家の
令嬢ということもあってか、いわれのない誹謗中傷や嫌がらせを日常的に受けた。頼りの父親は
仕事でほとんど家にはおらず、悩みを打ち明けられる相手もいない。それでも、父親や母親に
心配をかけたくないという一心で、沢近は「いい子」を演じていた。次第に彼女は自分の感情を
心の奥へと押し込め、どんな人間とも上辺だけで付き合うようになってゆく。自分さえ我慢していれば、
他の誰も傷つくことはない。ニコニコ笑ってさえいれば、すべてが滞りなく進んでゆく。
これでいいのだ、これが一番いいのだ―――そう考えていた。日本に来て、天満たちと出会うまでは。
116and I close to you:04/05/14 17:53 ID:UP3rarDA
日本の高校に入学したことで、沢近の人生は大きく変わった。その中でも、天満たちとの出会いは
特別な意味を持つ。彼女たちのお陰で沢近は感情を表に出せるようになり、また自らに自信を
持つことができた。沢近にとって、彼女たちは何物にも代え難い存在である。もし日本に来ることが
なかったら、今の沢近は存在し得なかったであろう。
そんな沢近にも、二つだけ苦手なものがあった。一つは料理、もう一つは父親である。
幼い頃から「いい子」を演じてきた沢近は、どうしても他人に素直に甘えるということができなかった。
普段父親がほとんど家にいないこともあって、たまに会ってもどうしていいかわからない。悩んだ挙げ句、
会話すらできないままに別れてしまうことも少なくなかった。誰よりも父親からの愛情に飢えていながら、
どうしてもそれを満たすための行動に出ることができなかったわけである。少し前には特製の
肉じゃがを作り、それを食べてもらうことで気持ちを伝えようとしたのだが、結局それも失敗に
終わっている。
そしてその時、落ち込む沢近を慰め元気づけてくれたのが、他ならぬ播磨だった。不器用な優しさに、
最近の不良には似つかわしくない一本気な性格。突然路上で告白を受けたことも、沢近の心を
揺らした。この人なら大丈夫かもしれない、自分を甘えさせてくれるかもしれない。微かではあったが、
沢近の気持ちは確実に播磨へと傾いた。
117and I close to you:04/05/14 17:54 ID:UP3rarDA
しかし、その思いは脆くも崩れる。その後も播磨の気持ちが沢近に向くことはなく、様々な
事件を通して二人の関係は悪化していった。誤解が誤解を呼び、憎しみが憎しみを呼ぶ。
極めつけは先程の言い争いである。播磨からはきっぱりと拒絶され、八雲には言い返すことすら
できなかった。当てもなく走る沢近の瞳から、大粒の涙が流れ落ちる。その時、
「―――!」
突然、沢近の前に人影が現れた。慌てて避けようとしたが、間に合わない。結局沢近は、その人影と
まともにぶつかってしまった。
「ちょっと! どこ見てるの―――!?」
言いかけて、沢近が言葉を飲み込む。沢近がぶつかった相手は、よりによってこの街でも名前の
知られた不良だった。仲間らしき男たちが、ニヤニヤと沢近を見つめる。
「あーあ、やっちゃった。キミ、ちゃんと前を見て歩かないとね?」
「ま、俺らは優しい不良だから別にいいんだけどさ」
「お、よく見たらすげーかわいいじゃん。俺ら今すげーヒマしてんだけど、一緒にどっか行かない?」
不良の一人が、沢近の腕を掴んだ。必死に抵抗を試みるが、女の力では到底振り解けそうにない。
周りにいた通行人の中にも、助けに来てくれる人間は一人としていなかった。沢近の瞳から、
もう一度涙が溢れる。

―――もう、イヤ。
どうして私ばっかりこんな目に遭うの?
一人にしないで。
誰か助けて。
誰か――――――
118and I close to you:04/05/14 17:56 ID:UP3rarDA
「おい、そこのバカども」
「!」
突然、一人の男が不良たちの前へと歩み出た。驚きの表情で、沢近が男の顔を見つめる。
何度沢近が目をこすってみても、その男は間違いなく播磨だった。
「取り込み中のとこワリーけどよ、そいつを離してやってくれねーか? とんでもねー女だけど、
一応俺の舎弟なんでな」
軽い口調で、播磨が不良たちに声をかける。その顔を見て、不良たちの表情が一変した。
「は、播磨さん! そ、そうとは知らず失礼しました!」
「お、おい、何やってんだ、逃げるぞ!」
蜘蛛の子を散らすように、そそくさと不良たちが逃げてゆく。残された播磨と沢近は、どちらともなく
顔を見合わせた。
「……何で助けに来たのよ」
「あん? ま、舎弟を守るのは不良の務めだからな」
「そうじゃなくて、何であの娘を放ってこっちに来たのかってことよ!」
「……『先輩の所へ行ってあげてください』だとよ。まったく、できた娘さんだぜ」
「―――!」
頭を掻きながら、播磨が答える。驚きのあまり、沢近はそのまま黙り込んでしまった。二人の間に、
しばしの静寂が訪れる。
119and I close to you:04/05/14 17:57 ID:UP3rarDA
「……じゃあ、さっさと戻ってあげなさいよ。あの娘、心配してると思うけど」
長い沈黙の後、沢近が静かに口を開いた。それに対し、播磨が訝しげな表情で聞き返す。
「何でだ? 荷物は持って来てるし、金もちゃんと払ってきたが」
「だって、その……あなた、あの娘と付き合ってるんでしょ?」
「はぁ!? ちょっと待て、どこをどうしたらそんな話になる!?」
「……違うの!?」
「当たり前だ! 誰だそんなこと言ったヤツは!」
「じゃ、何であの娘とデートなんかしてたのよ!? 学校中の噂になってるじゃない!」
「デ、デート!? そ、それはだな……」
沢近に問いつめられて、播磨は答えに窮してしまった。不良の播磨としては、まさか自分が漫画を
描いていて、そのことで八雲に相談に乗ってもらっていたなどとは言えない。しばらく考えた後に、
播磨は重々しい口調で説明を始めた。
「……猫だ」
「……はぁ?」
「いや、妹さんは黒猫を一匹飼っててな。そいつがまた可愛いんだ。『将を射んとすればまず馬を射よ』
って昔から言うだろ?」
「……」
「……」
気まずい空気が、辺りの空間を支配する。考えてみれば、不良のくせに猫好きというのも妙な話だろう。
そもそもとして、仮にも高校生である沢近が、こんな稚拙な言い訳を信じるはずはない。
もっと上手い誤魔化し方はなかったかと、播磨は激しく後悔した。
120and I close to you:04/05/14 17:59 ID:UP3rarDA
しかし、
「……ぷっ」
「……?」
「アハハハハハハハハ!」
しばらくして、沢近は腹を抱えて笑い出した。その笑いっぷりに、さすがの播磨も顔を赤くする。
「なっ、何がおかしい!」
「だ、だって、そんな顔して猫だなんて、おかしくって」
「う、うるせぇ! だからって、そこまで笑うことはねーだろ!」
播磨が何を言っても、沢近の笑いは止まらなかった。心の中のわだかまりが、笑いと共にどこかへと
吹き飛んでゆく。ひとしきり笑い終えると、沢近はようやく播磨の方に視線を向けた。
「ま、そういうことなら別にいいわ。今日は悪かったわね」
「ん? あ、ああ。ま、こっちも言い過ぎたからな」
先程までの諍いが嘘のように、お互いが素直な謝罪の言葉を口にする。沢近の表情には、もう
播磨への憎しみはなかった。播磨の表情からも、安堵の色が見て取れる。その時、
「あら? 何かしら、これ?」
沢近は、播磨の足下に小さな紙が落ちているのを発見した。手を伸ばしてそれを拾い上げ、表側を
確認する。
「動物園の……チケット?」
それを聞いて、播磨は慌てて自分のポケットをまさぐった。その様子からすると、どうやら
チケットは播磨のものだったらしい。焦った様子で、播磨が沢近へと迫る。
「か、返せ!」
「イヤ。これは私が拾ったものよ」
「バ、バカ野郎! それは俺がバイトして稼いだ金で買った大切な……」
播磨の表情は、かつてないほどにせっぱつまったものだった。万年金欠状態の播磨にとっては、
動物園のチケット一枚といえども痛い出費である。少し考えた後、沢近は思いついたように
話を切り出した。
121and I close to you:04/05/14 18:00 ID:UP3rarDA
「……そうね、だったら一つ条件を出すわ。それを呑んでくれたら返してあげてもいいけど」
「わ、わかった! 何でもいいから早くしろ!」
その申し出を、二つ返事で播磨が承諾する。沢近は軽く呼吸を整えると、そのままゆっくり
言葉を続けた。
「……一回しか言わないから、よーく聞きなさいね。今週の土曜日午前11時、この動物園の
前に来なさい。そうしたらこのチケットは返してあげるわ。ただし、あなたはもう一枚私の分の
チケットを用意してくること。それから、絶対に時間には遅れないこと。わかったかしら?」
それを聞いて、播磨の目が点になる。頭の中でもう一度沢近の言葉を整理してみたが、どうも
よく状況が飲み込めない。幾分少なくなった髪を掻きむしりながら、播磨は呆れたように沢近のことを
見つめた。
「……はぁ? 何言ってんだお前」
「う、うるさいわね! あなたみたいな不良がこの私とデートできるのよ!? むしろ光栄に
思いなさい!」
「あぁ!? んなもんこっちから願い下げだっつーの! 舎弟の分際で何様のつもりだテメェ!」
「お黙りなさい! もしすっぽかしたりなんかしたら、その頭のことを学校中に言いふらしてやる
 からね! 覚えときなさい!」
「なっ!? ちょ、おい、待て! それだけは勘弁してくれ! 頼む!」
顔を真っ赤にして歩く沢近の後ろを、慌てて播磨が追いかけてゆく。子供のようにまっすぐな男と、
素直になれない意地っ張りな女。こういった二人も、案外「お似合い」と言えるのかもしれない。
122and I close to you:04/05/14 18:01 ID:UP3rarDA
というわけで、おにぎり風味の旗を一本。
今回の本編はホント旗でしたね。先生ズ大好きの自分としては悲しいですが。
絃子先生マダー?(AA略)

それにしても、ホント長くなってしまいました。申し訳ありません。
当初予定していた描写も結構削ったのですが、うーん……。
123Classical名無しさん:04/05/14 18:32 ID:ndwaBcT.
最高です(*´Д`)
旗もおにぎりも大好きですよ、はい。もちろんお姉さんズも。
心理描写巧いですね。萌えました。
グッジョブでした、
124Classical名無しさん:04/05/14 20:28 ID:qWTM3Kjg
これはまたいいツンデレな旗ですね
削られた部分も読んでみたくなります
125遅いけど:04/05/14 22:31 ID:RWKgMOsM
 >>96
 涙ぐんでしまいました。SSや同人作品でこんな風になったのは、初めてです。

 良い作品を、ありがとう。
126Classical名無しさん:04/05/14 22:35 ID:0DbqYm0M
>>122
旗を一本、美味しくいただきました。

「他人にうまく甘えることができない」
っつー沢近の不器用なとこがうまく描写できててぐっじょぶです。
127Classical名無しさん:04/05/15 01:57 ID:JZmhiykM
>>122
素晴らしいものを有難う。
中盤の沢近の客観履歴読んでて何故か飛影の話思い出した。
128Restorative magic:04/05/15 08:01 ID:EJDGC9Tw
外は雨 湿った空気が気持ち悪い
青いはずの空を覆う灰色の雲が今の気分を一層盛り下げる

 ――昨日のあれは…何だったんだろう――

彼――花井春樹はそんなことをぼやきながら ただぼんやりと窓の外を眺めていた
 昨日のあれは…何だったんだろう
 山篭りの修行中… 食料調達の為に町に降りて
 何故か外国人と格闘(喧嘩ではない)することになり
 そこに通りすがりの八雲君と『奴』が…
 そして
 …奴の 帽子が…

129Restorative magic:04/05/15 08:02 ID:EJDGC9Tw
「花井」
思考を遮る声、振り返ると幼馴染の見慣れた顔がこちらを覗き込んでいた
「何さっきから馬鹿みたいに窓の外ばっか見てんだ?」
学校は終わり 今は道場
既に胴着姿になっている彼女――周防美琴は
怪しいものでも見るかのような顔で質問した
「ん… いや…  なぁ周防」
「ん?」
「お前…禿げは好きか?」
「……はぁ?」
彼が馬鹿みたいに窓の外ばかり見ている原因はもちろん昨日のこと
つまり 『八雲君が好きなのは禿げな男なのか?』ということである
昨日帰ってきてからずっとこんな調子である
「だから禿げてる男は好きかと… いや、何でも無い」
「???」
周防美琴が禿が好きかどうかなんて正直どうでもいい
彼にとって重要なのは『塚本八雲が禿げ好きかどうか』なのだ

 …そもそも彼女はどんな髪型が好きなんだ…?
 いや、それ以前に彼女はどんなタイプの異性が…
 ……よく考えてみれば 彼女の好きな食べ物も 好きな色も よく見るテレビ番組さえ知らない
 嗚呼!何てことだ!僕はそんなことも知らないで彼女にアタックし続けていたのか!!

一度思い立つとそこからは早い
「花井?」
「…学校にいってくる」
「おい、もうすぐ稽古始まるぞ!」
「今日は休む」
「あぁ!?」
130Restorative magic:04/05/15 08:03 ID:EJDGC9Tw
「……で、わざわざココまで来たわけですか」
茶道部の部室、事情を聞き 『へー…』と、特に感想も無く答えるサラ
「うむ、サラ君なら何か知ってると思ってね」
本人に直接聞くのが一番いいんだが… と、付け足す
部屋にいるのは机をはさんで向かい合っているサラと花井だけ
八雲と晶は二人ともバイトで今日は来てないらしい

「八雲の好きなタイプ…ですか」
訊いたこと無いな〜 と考え込むサラ
「ん〜…あ、そういえば」
ぽんっと手を打つと
「八雲、確か『続・三匹が斬られる』が大好きだって言ってましたね」
『続・三匹が斬られる』…有名な時代劇ドラマだ もちろん花井も知っている
「その中で万石役をやってる役舎丸広事のファンでこの間サイン色紙を…先輩?」
補足トリビアは既に聞こえていない
「時代劇…髷…マゲ……やはり…そうなのか?」
「??」
「八雲君は…やはり禿げが好きということに…」
「どうしてそうなるんですか」
呆れ顔で突っ込むサラ
131Restorative magic:04/05/15 08:04 ID:EJDGC9Tw
「男らしい人が好きなのかも」
「男らしい人…?」
「英国紳士というよりは侍って感じ…まぁ、安直な意見ではありますけどね」
「侍…か」

脳裏に『奴』の顔がよぎる

「男らしい…か」
 もしかしたら八雲君はああいうアウトローっぽい男が好みなのかもしれない
 八雲君はマジメな娘だから…自分とは違う臭いのするアイツに惹かれているのかもしれない
 そんなところに八雲君は…

「僕では…駄目なのかな…」
「先輩?」
「学業に打ち込んでいるだけのつまらないメガネ男じゃあ…やっぱり播磨には勝てないのかな」
「播磨先輩に? 何の話を…」
「僕は播磨のように…カッコ良くないからなぁ…」
そう言って自嘲的に笑う…
ついさっき、好きな異性のタイプを訊くためだけに道場から学校まで戻ってきた人間とはとても思えない
132Restorative magic:04/05/15 08:06 ID:EJDGC9Tw
「……………………」

静寂
雨音だけが窓越しに部屋の中に響きわたる

それを先に破ったのはサラだった
席を立ち花井のもとまで寄ると
「先輩はカッコ良いですよ」
そっとメガネに手を掛ける
「サラ…君?」
こめかみをくすぐるように動くサラの細い指が
花井の鼓動を僅かに高める

「鼻筋も通ってるし 目も…」
ゆっくりとメガネを外す
「メガネで隠すなんて もったいないです」

「本当に、先輩はカッコ良いです そうやって黙ってれば…」

「・・・・・・」

「私はいつもの先輩が好きですけどね」
さも、当然のことを今更説明するような素っ気無さでそう付け加えると
「静かな先輩って 何だか先輩らしくないと思います」
133Restorative magic:04/05/15 08:08 ID:EJDGC9Tw
「僕らしくない……」

 自分らしい自分 自分らしくない自分
 いつもの僕…
 道場にいるときの僕 八雲君といるときの僕
 どっちがいつもの僕なんだろう
 『どんな僕が僕らしい僕なんだろう?』

「ハッハッハ!」
「!!?」
いきなり高笑いをしだすサラ
いつのまにか取り上げた花井のメガネを装着している
「サ、サラ君…?」
花井の声を完全に無視しテーブルの上に置いてあったハーブティーを口に運ぶサラ
「旨い! これはまさに恋の味だー!!」

・・・・・・

「・・・・・・」
五分間…
延々と花井のモノマネをしていたサラはニッコリ微笑みながら尋ねてきた
「これが私が知ってるいつもの…今日部室に来た時までの先輩です 思い出してくれましたか?」
「う、うむ… まぁ…一応」
自分の物まねをされるというのは何とも気恥ずかしいものである
「取りあえず…メガネを返してくれないかな…」
「あ、そうでしたね」
134Classical名無しさん:04/05/15 10:37 ID:VYocZ.72
支援(遅ひ…)
135Classical名無しさん:04/05/15 11:22 ID:xvBQ9CvE
・・・はっ、つ、続きは?
まさかこんないいとこで中断?
136Restorative magic:04/05/15 11:23 ID:EJDGC9Tw
 ――?

メガネを外したサラの顔が僅かに…いやかなり紅潮している
「サラ君…もしかして恥ずかしかった?」
「そうですね、まぁ そこは気合いでカバーです」
とても恥ずかしがっていたとは思えないハッキリとした口調で サラリと肯定する
実際、言うほど簡単なことでもないだろうに
「…恥ずかしいのならやらなければいいのに…」
 そんなに気を使わなくても…
「先輩はそんな事気にしなくて良いんです!」
「あ、ああ…それもそうだ」

サラは不満そうな顔をして
「うーん…何だかまだ元気が足りないなぁ…」
何か無いかしら…と腕組みをして考え出す

そんな彼女を見ながら 花井はボンヤリと小学生の頃を思い出していた

 不登校になっていたあの頃…アイツも…ミコちゃんも こんな風に考えていたんだろうか
137Restorative magic :04/05/15 11:24 ID:EJDGC9Tw
考え込むこと十数秒
ポンッっと拳を手のひらに落とす仕草をするサラ
花井のほうを向くと
「先輩、これから元気の出るおまじないをしてあげます」
「む?」
「だから…少しの間 目を閉じてください」
「……え?」
 おまじない?目を閉じろ?
「サラ君…?それは…」
「いいから早く閉じてください!」
強気なサラに圧されて仕方なく目を閉じる
目を閉じる…ただそれだけで何だか落ち着かない気分になる

二度目の静寂
聞こえてくるのは窓越しに部屋に入ってくる雨音と
……自分の心音
どうにかして胸の高鳴りを抑えようと
必死に冷静になろうとする花井(この時点で既に矛盾しているわけだが)
しかし鼓動はドンドンと激しくなっていく…
 (一体…一体何が来ると言うんだぁぁぁ!!!)
138Restorative magic :04/05/15 11:25 ID:EJDGC9Tw
―――――コツンッ

「あいたっ!」
「ハイ、おまじない終了です」
思わず目をあけてしまった花井の驚いた瞳に 明るくそう答えるサラ
「…え……っ…と」
予想外(予定外?)の展開に言葉が思うように出ない
額に受けた軽い衝撃が何なのかを検索するのでいっぱいのようだ
「え…あ…うん…でこピン…でこピンだ…」
「ハイ、でこピンです。 あ、もしかして先輩 何か期待してましたか?」
悪戯な笑みを見せながら問い掛けてくる
……明らかに分かっていて訊いている
「いや…まぁ その通りなわけだが ハハハ」
照れ笑いする花井に
相変わらず正直ですねと微笑むサラ
ついでといった感じで質問してくる
「元気 出ましたか?」
「ウム! おかげですっかり元通りだよ! HA・HA・HA!!」
本当である
さっきまでのウジウジ悩んでいた自分はどこかへ行ってしまったようだ
「微妙な古さのネタですね 分からない人にはわかりませんよ?」
と、言いながらも どこか安心したような顔
「一つ借りを作ってしまったかな…」
「いいえ、私 貸し二つ分はがんばりました!」
「……じゃあ 借りは二つで」
「ハイ♪ 絶対返してくださいね」
「ウム 了解した!」
139Restorative magic :04/05/15 11:36 ID:EJDGC9Tw
そんなやり取りをしながら ふと思う

雨の中わざわざココまで戻ってきたのは
塚本八雲の好みのタイプを訊きに来たのではなく
こうなると――落ち込むと分かっていたから
ただ…サラに慰めてもらいたくて来たんじゃないか…
ただ…サラに会いたくて来たんじゃないか…と
「…ありがとうサラ君」
「先輩…? どうしたんですかいきなり?」
 勝手に暴走して勝手に落ち込むような様な駄目な自分をを心配してくれる彼女は…
 助けてくれる彼女は…
「ヒーロー…」
小さく…そう呟く
「え?」
「サラ君… 君は ヒーローだ」
「先輩… それを言うならヒロインですよ」
人差し指をツイと上げ 訂正するサラ
「いや…ヒーローだよ」
「?」
140Restorative magic :04/05/15 11:43 ID:EJDGC9Tw
「さて、今帰ればまだ稽古に間に合うな」
わけが分からないといった顔のサラに 特に説明することも無く
そう言って席を立つ花井
「それでは今日はここらで帰るとしよう」
 今日は来てよかった――
「先輩」
「む?」
「今度来る時は もっとゆっくりお茶を楽しみましょうね」
「うむ! そうしよう」
そして…
「しかしその前に 体育祭だ!…そこで『奴』との決着を…」
「……うーん…」
微妙に間違った方向に闘志を燃やす花井
そんないつも通りの彼の姿を見て苦笑を洩らすサラだった

外は雨 湿った空気が気持ち悪い
だが 雲の隙間から時折差し込む夕日の眩しさが
じきに止むと 教えてくれる
きっと明日は良い天気だろう
141Restorative magic おまけ?:04/05/15 11:44 ID:EJDGC9Tw
ドアを出る所で 何か思い出したように立ち止まる花井
「ところでサラ君」
「何ですか?」
「参考までに訊くのだが サラ君が好きなのはどんなタイプの異性なのかな?」
「それならさっき言いましたよ」
「え?」
「ちゃんと聞いてなかったんですか?」
「う…すまない! もう一度だけ教えてくれないか…?」
「駄目です 一度だけしか言いません」
「うぅむ… 仕方ないか」
『では、また』と潔くあきらめて帰っていく花井

「ちゃんと聞かなかった先輩がいけないんですよ」
その背中を見送ってから サラはポツリとつぶやいた

「『いつもの先輩が…』って言ったのに」
142Classical名無しさん:04/05/15 11:45 ID:EJDGC9Tw
とりあえず今から投下してみます
初めてなんで 誤字脱字、
表現がおかしい・幼稚、
そもそも何が言いたいのかまるで分からん
など色々あるかもしれませんが
笑って許してくださいな…
143Classical名無しさん:04/05/15 11:48 ID:EJDGC9Tw
↑ とりあえず今から投下
投下前に入れるつもりだった文 投下後に書いてしまった…

…ホントすいません
144Classical名無しさん:04/05/15 11:54 ID:ndwaBcT.
縦笛もいいですが、この二人の話もいいですね。
サラの茶目っ気と慈愛さがバッチシ決まっていたと、自分は思いました。
…花井は落ち込んでいた方が良い思いが出来ますねw
145Classical名無しさん:04/05/15 13:48 ID:TShaintE
花井と『ヒーロー』って言葉はなんか良いですよね
146Classical名無しさん:04/05/15 16:51 ID:KPuxYtec
>>143
サラ最高です。GJ!
ただ、敢えて言うなら花井の思考がちょっと不自然な気もしますた。
サラ八雲に加えて美琴まで気にかけてるようで…。
147夕空と恋心と:04/05/15 19:55 ID:fT3u6vK6
夕方、太陽が沈みだし、空が少しずつ茜色に染まっていく時間帯。一日の中で最も綺麗な時と、多くの人が言うだろう。
そして同時に、多くの人々が帰るべき場所へと戻っていく時間帯でもある。
「先輩、今日は付き合ってくれてありがとうございました」
「いや、予定もなかったしな、いいさ」
映画が終わり、映画館から出たところで、サラは麻生に感謝の意を述べた。
麻生はサラの言葉に答えると、夕日に染まる町をサラと共に歩き始めた。


二人がこうして一緒に映画を見に行くことになったのは、数日前
サラから「今度の休みに一緒に映画を見に行きませんか?」と誘われた麻生を誘い、麻生は丁度予定も無かったため、サラの誘いを承諾したのだった。
こうして二人は一緒に映画を見に行く事になった。

しかし当日、麻生は二つの事に驚かされた。
一つは、見る映画が恋愛物であったこと。
麻生はまさか恋愛物の映画をサラと一緒に見ることになるとは予想していなかったのだった。
そしてもう一つは、サラの髪型がいつもと違う事だった。
サラはいつもとは違い、髪をおろしていたのだ。
髪をおろしたサラは、いつもよりも少し大人っぽく見え、そして綺麗だった。
こうして二つの事に驚かされた麻生だったが、髪型がいつもと違おうとサラはサラであったし、映画も予想に反していい物だったため、周りの客はカップルばかりだったが、しばらくすると自然と気にならなくなっていた。


「あの映画、良かったですね」
しみじみと、見た映画を思い出しながら言うサラ。
148夕空と恋心と:04/05/15 19:56 ID:fT3u6vK6
「ああ、以外と楽しめた」
サラの言葉に麻生は頷き返す。
「そうですか、恋愛物だから苦手なんじゃないかとちょっと不安だったんです」
「苦手なのは苦手なんだがな、今回のは俺でさえ良かったと感じた」
少し苦笑いを浮かべるサラに、麻生は正直な感想を述べる。
「そう言ってもらえると誘った方としては嬉しいですね」
にっこりと微笑みながら喜びを表すサラ。
「しかし、何で俺を誘ったんだ?お前なら俺を誘ったりしなくても相手くらいいるだろう」
麻生は、自分が誘われた時から思っていた疑問をサラに問いかけた。
「女の子同士で行くのも寂しいかなと思ったし、それに……」
ふと足を止めるサラに、麻生は自分も足を止め振り返る。
「先輩と行きたかったんですよ」
満面の笑顔を麻生に向けるサラ。
二人の間を暖かくも柔らかい風が、まるで頬をなでるかのように吹いていく。
髪を少しなびかせながら、笑顔を向けるサラは、いつもの明るい少女ではなく、どこか大人の女性のような雰囲気で、その魅力に麻生はサラへと風と共に心も流されていた。
「……何言ってやがるんだか」
そんな自分を悟られまいと、麻生はそう呟くと、サラに背中を向けて再び歩き出した。


「ちょっと休憩していきましょっか」
しばらく歩いていると、サラが近くの公園のベンチを見て麻生に言った。
149夕空と恋心と:04/05/15 19:56 ID:fT3u6vK6
サラの提案に麻生も頷き返す。
ベンチに着くと、麻生はサラに「ちょっと待ってろ」と言うとしばらくして両手に缶コーヒーを持って帰ってきた。
「夕方とはいえ、冷えるからな」
「ありがとうございます」
缶コーヒーを受け取りながら言うサラ。
二人は、しばらくあったかいコーヒーを飲みながらゆっくりと息をつく。
「先輩、彼女はいないんですか?」
突然、サラが麻生に問いかける。
「いたらお前と映画を見に来たりしてねぇよ」
サラの質問に何をいまさらという感じで返事を返す。
「じゃあ先輩、好きな女の子のタイプは?」
「そうだな、タイプっていうよりは相性だな。一緒にいて落ち着くとか楽しいとか」
「私はどうですか?」
「お前か?……そうだな、少なくとも退屈はしない」
サラの質問に答えていく麻生。
しかし、自分が聞かれてばかりもどうかと思ったのか、サラと同じように質問を投げかける。
「そういうお前はどんな奴が好みなんだ?」
「そうですね、無愛想で不器用で、でもすごく優しい人です」
「そんなやついるのかよ」
「いますよ」
麻生の目をはっきりと見つめながら言うサラ。
「先輩、まだ気づいてくれないんですね。鈍感にも程があります」
150夕空と恋心と:04/05/15 19:56 ID:fT3u6vK6
サラはそう言うとふぅっと溜息をつく。
「私はずっと先輩に魔法をかけ続けてるのに、先輩ったら全然気づいてくれないんですから」
「魔法って何だよ・・・・・・」
どこか拗ねたような口調で言うサラに麻生が尋ねる。
「好きな人にしか見せない、女の子の恋の魔法です」
まだ解らないんですか?というような表情で言うサラ。
すると、麻生は相変わらず表情を変えずにすっと立ち上がった。
「それなら心配ない」
麻生は、飲みきって空缶になった缶を、ごみかごへと投げ入れると、サラへと向き直った。
「その魔法になら、とっくにかかってるからな」
遠くで母親が子供を呼ぶ声と、子供がかけよっていく音が聞こえた。
「そろそろ帰るぞ」と声をかけサラへと背を向けようとする麻生をサラは呼び止めた。
麻生が振り返ると、彼の眼前にはサラの顔が迫ってきて、
――瞬間、触れるだけのキス。
麻生が驚きで固まっていると、サラはするりと麻生の脇を通り抜け、自分の缶をごみかごに捨てた。
余韻も感じさせない一瞬の事に、麻生はさっきの出来事が幻とさえ思えてしまう。
しかし、かすかに残る唇の感触と、安っぽい缶コーヒーの香りが、現実だと訴えかける。
麻生はなんとか驚きから立ち直り、サラの方へと向き直った。
「帰りましょうか」
サラは微笑みながら麻生に呼びかけた。
その頬がやや赤みがかっていたのは、夕日のせいなのか照れなのかは解らない。
「・・・・・・とんだ魔女の魔法に囚われちまったな」
麻生はふぅと息をつくと、やれやれという雰囲気で自嘲気味に、けれどどこか楽しそうな表情で呟いた。
そして二人は、夕日に赤く染め上げられる空と街を背に、ゆっくりと帰途につく。
151Classical名無しさん:04/05/15 20:09 ID:fT3u6vK6
ちょっと落ち着いた雰囲気で書いてみました。
最近サラ最高ーーー!!な気分になってきてサラが書きたくなって、今回は髪をおろしたサラに登場してもらいました。
結果的にはサラ×麻生だけど心の中ではサラが主役です。

っていきなり誤字が…三点リーダーになってないとこが_| ̄|○
152Classical名無しさん:04/05/15 21:21 ID:L2E4sP2.
>>147-150
GJ!
153Classical名無しさん:04/05/16 01:46 ID:w0Bdqwto
SS投下しまーす
154黄昏の世界:04/05/16 01:51 ID:w0Bdqwto
 夕日が山陰に沈んでいき、現と幻の境界線があやふやになる時間。茜色に染まった部室
で晶は一人静かに小説のページを繰っていた。校内に残っている者はほとんどおらず、聞
こえるのは、紙のすれる音と、グランドからかすかに届く運動部の掛け声だけだった。そ
んな一時が晶は好きだった。
 最後の一行を読み終えると、晶は満足そうにうなづき、そっと本を閉じた。
 とその時、不意に部室のドアが開く。が、晶はさほど驚く様子も無く、ドアの方向へ向
き直った。
「……?」
 ねぎらいの言葉でもかけてやろうと口を開きかけたが、そこに立っていたのは晶が考え
ていた人物とはとは別人だった。
「どうしたの、サラ」
晶は慌ただしく部室に駆け込んできたブロンドの後輩の背中に質問を投げかけた。
「忘れ物です」
 そう言って振り向くと、サラは顔の高さの位置で花の種の入った袋をひらひらと振り、
晶に問い返した。
「周防先輩、まだ戻ってこないんですか?」
「ええ。全く、何も考えずに係を選ぶから……。」
先日、結構得意な教科だから、という理由で生物の係になった美琴は、最後の授業が生物
である金曜に、度々自実験の片付け等に狩りだされる羽目に陥った。今日は近くの自然博
物館から借りてきた、実験器具の運搬のため、ホームルームもそこそこに、ワゴン車に飛
び乗って学校を後にした。その際に美琴が忘れていった財布を返すため、晶は学校に残っ
ていたのだった。
「そうですか、それじゃあ私も八雲を待たせてるんで、さようなら、先輩。」
 そう言うとサラは入ってきた時と同じように慌ただしく部室を飛び出していった。
 その姿に少し眉をひそめたあと、晶は視線を窓の外に移す。そこには、真っ赤な夕焼け
が広がっていた。
「もう少しゆっくり出来ないのかしら。もったいないわ。」
 そういって晶は目を閉じた。
 後ろから聞こえてくる足音を聞きつけ、八雲はまぶたを開けた。
「ごめーん」
155黄昏の世界:04/05/16 01:51 ID:w0Bdqwto
 駆け寄ってくる親友に八雲は微笑を浮かべる。
「ううん……。帰ろう」
その言葉を聞くとサラの表情は非常に気まずそうな物へと変わった。
「あの、そのことなんだけど、一緒に帰れなくなっちゃった」
「え……」
「どうしてもはずせない用事が入っちゃって……。ホンットにごめん!」
 肩で息をしながらなんとか言葉を搾り出すサラに、心配そうに八雲は声を掛けた。
「大丈夫?あの、わたし、待ってようか?」
 サラは首をフルフルと横に振った。
「きっと遅くなると思うから。」
 ごめんね。そういい残してまた校舎の方に駆けていくサラの後姿をしばらく不思議そう
に見送った後、サラは姉の待つ家に帰るべく、ゆっくりと歩き出した。
 ふとドアの前で歩みをとめる。茶道部の部室には人の気配がした。こんな時間に、まだ
残って部活をしているのだろうか。好奇心にかられて花井は茶道部のドアを開けた。部屋
の中には、晶だけが部屋の中央に置かれたテーブルに座っていた。
 花井の姿を認めると晶はあからさまに大きな溜息をついたが花井は全く意に介さない様
子できょろきょろと室内を見回した後、晶に尋ねかけた。
「八雲くんはもう帰ったのか」
ええ。そう答えを返そうとして、晶はふとさっきのサラの言動を思い出した。
「もしかしたら花壇にいるかも」
 晶はそう言ったあと、自分の軽率な発言に心の中で舌打ちをした。どうしてこの馬鹿に
そんなことを喋ってしまったののだろう。
そんな晶の考えを地響きのような音がかき消した。晶が顔をあげると、もうそこに花井の
姿は無かった。
「うむ、こんな時間まで花の世話をしているとは、さすが八雲くん。不肖ながらこの花井
春樹、助勢しよう!」
 (そしてあわよくば会話を通してより親密な関係に……。)
そんなことを考えながら花井は愛する人のもとへと駆け抜けていくのだった。
156黄昏の世界:04/05/16 01:56 ID:w0Bdqwto
すみません残りは明日に、「夕空の恋心と」と最初が似ていますが偶然です、すみません。
ちなみにこれもサラSSです。
157Classical名無しさん:04/05/16 01:57 ID:EJDGC9Tw
期待age
158Classical名無しさん:04/05/16 10:17 ID:17IfhYw2
サラ祭り開催中!?!
159Classical名無しさん:04/05/16 11:00 ID:tAcBZYPE
>155
12行目の「サラは姉の待つ家に〜」は「八雲は」の間違いではないでしょうか?
続き期待しております。
160Classical名無しさん:04/05/16 12:23 ID:xvBQ9CvE
>>142
まさか続きの催促した1分後に投下が始まるとは(笑)。
落ち込んだ花井を慰めるサラというのは既に定番になりつつあるのか〜っ!!
(・∀・)イイ!!

>>151
サラ祭り開始?
サラ×麻生も(・∀・)イイ!!

>>156
やはり今週末はサラ祭りなのか〜っ!!
ちなみに>>159で指摘されてる以外にも誤字ありますね。
161One day:04/05/16 12:51 ID:TShaintE
「いやー、塚本くんの淹れてくれたお茶は旨いなー」
「そのお茶を淹れたのは、実は私」
「なっ!?」
「先輩、嘘ですよ。今日のは私が淹れたんです」
「サラ君までっ!!」

この部室ではよく見られる光景
花井に対し嫌がらせをする部長、
そして花井をを庇ったり追い打ちをかけたりするサラ
それをみてオロオロしたりポカーンとする八雲

しかし今回の話の主人公がこの中にいるかと言われるとそうではない
162One day:04/05/16 12:51 ID:TShaintE

「僕は塚本くんの淹れてくれたお茶が飲みたいっ!」
花井は八雲の腕を掴もうとする、が
突然、何者かに腕を捻り上げられる
「色ボケの回収に来ました」
「な、なに? 周防、回収だと?」
あきれ顔で花井を見る少女、周防美琴
「私が呼んだのよ」
高野はさも当然の事のように言い放つ
「ほら、行くぞ!」
花井はズルズルと引きずられて行く
「あぁー塚本くんー」
「えと……」
「先輩、また来てください」

――バタンッ
163One day:04/05/16 12:52 ID:TShaintE

「ったく、どうしてお前は……」
「周防に迷惑かけてる訳じゃないだろう」
「かかってるだろ、たった今」
ホコリを払いつつも、周防の一歩後ろを追うように歩く花井
「塚本の妹も迷惑してんだ、馬鹿な事はもう止めろ」
「……」
「だいたいお前は安直すぎるんだよ、もっと後先をかんが……」
「何が…わかる」
「なんだって?」
「お前に何が分かる」
「な、なにぃ!?」
「僕のすることにいちいち文句を言うなと言ってるんだ。
それにまだ八雲君に拒絶されていない。挑戦権はあるはずだ!」
「べ、別に私は……そういう意味で言ったんじゃ」
「僕の気持ちが色恋のイの字も出ない奴に分かるはずがない」
「な、に……? 」
「僕だってわきまえている。もう余計な事はしないでくれ」
「ふ、ふざけんな! この色ボケヤロー!!!」
手元にあった手提げカバンを投げ付け全力疾走する
後ろの方ではカバンが角に当たったらしく、鈍い音と声が聞こえた
花井の痛みが治まる頃には周防の姿は無くなっていた

164One day:04/05/16 12:53 ID:TShaintE

「あ、雨か……」
「空にはドス黒い雲が出来ている
天気予報でも確かに雨と言っていた
しかし、半ば逃げるように学校を後にしたため傘を忘れてしまった
学校に戻るのも気が乗らないので、雨宿りしようと思っていると、
雨が本格的に降りだしたので、適当なところに駆け込んだ


「ここって……」
静かで、薄暗い
雰囲気の良いバーという所だ
完璧な選店ミスだ

「すみません、開店はまだなんですよ」
カウンターの裏には本当にグラスを拭いてる人がいる
「あ、すみません、雨宿りがしたくて……」
「そうですか、ではその辺にかけてください」
「す、すみません」
165One day:04/05/16 12:53 ID:TShaintE
不思議な感じのする店内、なぜか落ち着く
高校生にこういう場所に来る機会など無いので、新鮮に感じる部分が自分の中に在る
外の景色が見えにくい構造になっているせいか、世界から遮断された気分になる
「はい、タオルです」
「あ、ありがとうごさす」
今、無意識のうちに自分が濡れた髪を服で拭っていたことに気付いた
受け取ったタオルはふわふわして気持ち良い
「……何かあったのですか?」
「え?」
当然、そんなことを聞かれた
「長いことマスターと呼ばれていると分かってくるんですよ、悩みを抱えてる人ってのが……」
「あの、その……」
視線を下の方に落とす
「では、こうしましょう」
「……?」
「貴女の悩みを解決する。それが雨宿りの条件です」
「……いじわるですね」
マスターはにこりと微笑む
166One day:04/05/16 12:53 ID:TShaintE
どれ位の時間が経っただろう
自分のなかにあるモヤを吐き出すように話し続けた

幼なじみの事

そいつが女を追い掛けてる事

そのときの彼はとても生き生きしていて楽しそうな事

それをみて苛立っている自分の事

辛く当たることも少なくない事

マスターは全て聞いてくれた
アドバイスもしなかった
ただ聞いていてくれた
167One day:04/05/16 13:03 ID:TShaintE

「そうですか……」
「私は、なんなんでしょう……」
日は暮れていた、夕日が燃えつきようとしていた
美琴の表情はは微かに入る赤い陽で隠されていた
「私はグラスを拭いています」
「……はい」
「お酒を飲む為のグラスは、本当は時間をかけた自然乾燥が好ましいのです、ですが私にはそれをするだけの時間もグラスもありません」
「……」
「そのグラスに入れたワインはとてもおいしいものです」
「……あ」
「大切にするべきです」
マスターはにこりと微笑んだ
「話し疲れたでしょう、コレは私からのおごりです」
そういってあったかいホットミルクが差し出された
「ありがとう……それと」
「どうしました?」
「あの、ずっと言った方がいいか言わないほうがいいか迷ってたんだけど……」
「どうぞ、遠慮なく言ってください」
「それじゃあ……言います」
「はい」
168One day:04/05/16 13:04 ID:TShaintE


「……何やってんだ、ハリマ?」


「何を言うんです、私は小さな店のただのマスターで、こたびは……」
「いや、バイトだろ」
美琴はバイト播磨と書かれた名札を指差す
彼女は笑っている
「お前はいつもこういうことしてんのか? 趣味なのか?」
「趣味って訳じゃねーよ」
「なんかノリで相談までしちゃったじゃねーか」
「そんなん知るかよ」
「医者だったり神様だったりバーのマスターだったり、忙しい奴だな」
「全部成り行きだ」
美琴はホットミルクをほとんど一気に飲み干すと立ち上がった
「でも、ま、……ありがとうマスター」
「あ、おうよ」
口調はどうであれ、こうやって礼をきちんとするのが彼女のいいところなのだろう
すこし歩いて入口の前で振り向く
「ちゃんと勉強もしなよーっ」
「そりゃお前だろ、大学行くんだろ?」
「う、覚えてたのか……」
169One day:04/05/16 13:05 ID:TShaintE

「だから、ここにの部分を仮にAとして……」
「花井〜こっちも頼む!」
「分かった、少し待ってろ」

「忙しそうだね、花井君」
「まあ、コレしか能のない奴だからな」
「聞こえてるぞ、周防、失敬な!」
「だってそうじゃじゃねーか」
「何をっ!!?」
「まあまあ夫婦喧嘩はその辺にして」
 「「なんだとっ!?」」

この教室ではよく見られる光景
勉強を教える花井
教えられる男子生徒(モブ)
よこからチャチャを入れたりする周防美琴
そしてからかわれる二人

この中に日常が在る

ケンカして、仲直りも出来る

そう遠くない未来、この日常は音を立てて変わる

だから、それまでの間は……

誰もが願う日常を

170One day:04/05/16 13:08 ID:TShaintE
連続投稿規制受けるし
間違えて萌えスレにやってしまった_| ̄|○
今回ボロボロ
171Classical名無しさん:04/05/16 13:49 ID:S7lmo8hA
>>170
オチにワロタ。
そしてミコチン萌え。*´Д`)ハァハァ
172Classical名無しさん:04/05/16 14:42 ID:SfLQyw0s
>>170
GJ
面白かったよ。美琴と播磨は、ノリ突っ込みに違和感がないね。

誤爆に関しては、最近の専ブラは誤爆回避機能付きだから、導入をお勧めする。
173Classical名無しさん:04/05/16 15:37 ID:xvBQ9CvE
>>170
マスター=播磨というのは意外だったが納得できる配役。
このシチュだと播磨×美琴も悪くないよなーと思ってしまうな。
やっぱり美琴はイイ女。
174Classical名無しさん:04/05/16 15:44 ID:w0Bdqwto
「黄昏の世界」、投稿します誤字脱字多かったんでもう一度最初から投下させて
いただきます、
175Classical名無しさん:04/05/16 15:45 ID:ndwaBcT.
鉛筆SSと思って読んでしまった(*´∀`)
やっぱりこの二人はいいね
176黄昏の世界:04/05/16 15:46 ID:w0Bdqwto
 夕日が山陰に沈んでいき、現と幻の境界線があやふやになる時間。茜色に染まった部室
で晶は一人静かに小説のページを繰っていた。校内に残っている者はほとんどおらず、聞
こえるのは、紙のすれる音と、グランドからかすかに届く運動部の掛け声だけだった。そ
んな一時が晶は好きだった。
 最後の一行を読み終えると、晶は満足そうにうなずき、そっと本を閉じた。
 とその時、不意に部室のドアが開く。が、晶はさほど驚く様子も無く、ドアへと向き直
った。
「……?」
 ねぎらいの言葉でもかけてやろうと口を開きかけたが、そこに立っていたのは晶が考え
ていた人物とは別人だった。
「どうしたの、サラ」
晶は慌ただしく部室に駆け込んできたブロンドの後輩の背中に質問を投げかけた。
「忘れ物です」
 そう言って振り向くと、サラは顔の高さの位置で花の種の入った袋をひらひらと振り、
晶に問い返した。
「周防先輩、まだ戻ってこないんですか?」
「ええ。全く、何も考えずに係を選ぶから……」
先日、結構得意な教科だから、という理由で生物の係になった美琴は、最後の授業が生物
である金曜に、度々実験の片付け等に狩りだされる羽目に陥った。今日は近くの自然博物
館から借りてきた、実験器具の運搬のため、ホームルームもそこそこに、ワゴン車に飛び
乗って学校を後にした。その際に美琴が忘れていった財布を返すため、晶は荷物をとりに
帰ってくるであろう美琴をまっていたのだった。
「そうですか、それじゃあ私も八雲を待たせてるんで、さようなら、先輩」
 そう言うとサラは入ってきた時と同じように慌ただしく部室を飛び出していった。
 その姿に少し眉をひそめたあと、晶は視線を窓の外に移す。そこには、真っ赤な夕焼け
が広がっていた。
「もう少しゆっくり出来ないのかしら。もったいないわ」
 そういって晶はまぶたを閉じた。
 後ろから聞こえてくる足音を聞きつけ、塚本八雲はまぶたを開いた。
「ごめーん
177黄昏の世界:04/05/16 15:50 ID:w0Bdqwto
 駆け寄ってくる親友に八雲は微笑を浮かべる。
「ううん……。帰ろう」
その言葉を聞くとサラの表情は非常に気まずそうな物へと変わった。
「あの、そのことなんだけど、一緒に帰れなくなっちゃった」
「え……」
八雲は不思議そうにサラの顔を見た。こんな時間に、学校に残らないといけないような理
由は、八雲には思いつかなかった。
「どうしたの……?」
「どうしてもはずせない用事が入っちゃって……。ホンットにごめん!」
 肩で息をしながらなんとか言葉を搾り出すサラに、心配そうに八雲は声を掛けた。
「大丈夫?あの、わたし、待ってようか?」
 サラは首をフルフルと横に振った。
「きっと遅くなると思うから。」
 ごめんね。そういい残してまた校舎の方に駆けていくサラの後姿をしばらく不思議そう
に見送った後、八雲は姉の待つ家に帰るべく、ゆっくりと歩き出した。
 ふとドアの前で歩みをとめる。茶道部の部室には人の気配がした。こんな時間に、まだ
残って部活をしているのだろうか。好奇心にかられて花井は茶道部のドアを開けた。部屋
の中には、晶だけが部屋の中央に置かれたテーブルに座っていた。
 花井の姿を認めると晶はあからさまに大きな溜息をついたが花井は全く意に介さない様
子できょろきょろと室内を見回した後、晶に尋ねかけた。
「八雲くんはもう帰ったのか」
ええ。そう答えを返そうとして、晶はふとさっきのサラの言動を思い出した。
「もしかしたら花壇にいるかも」
 晶はそう言ったあと、自分の軽率な発言に心の中で舌打ちをした。どうしてこの馬鹿に
そんなことを喋ってしまったののだろう。
そんな晶の考えを地響きのような音がかき消した。晶が顔をあげると、もうそこに花井の
姿は無かった。
「うむ、こんな時間まで花の世話をしているとは、さすが八雲くん。不肖ながらこの花井
春樹、助勢しよう!」
 (そしてあわよくば会話を通してより親密な関係に……)
178黄昏の世界:04/05/16 15:52 ID:w0Bdqwto
そんなことを考えながら花井は愛する人のもとへと駆け抜けていくのだった。
 息を切らせながら周防美琴は廊下を駆け抜けていた。思ったよりも片付けに時間がかか
りすぎた、下手をすれば帰り着く頃には練習が始まってしまう。
 ようやく階段にたどりついたとき、美琴は思わず足を止めた。突き当たりの廊下に顔見
知りの後輩が一人、たたずんでいた。いつもの活発で明朗な印象は今の彼女からはうかが
えず、ただぼんやりと山の瀬に沈む夕日を眺めている。そんな彼女の様子に、声をかける
ことははばかられたが、かといってそのまま立ち去ることも出来ず、美琴はサラの横顔を
ぼんやりと見つめていた。
 人の気配に気付いたらしく、サラは首だけを美琴の方へ向けた。その瞳にかすかな動揺
がはしる。
 一瞬の沈黙。このまま時が止まってしまうのではないだろうか、なぜか周防の脳裏には
そんな骨董無形な想像が浮かんだ。
 場の変な雰囲気を消し去るべく、美琴は意識的に明るくサラに声を掛けた。
「よっ」
片手をあげて挨拶する。
「こんにちは、先輩」
挨拶を返すサラの表情は普段のそれに近くなってはいたが、やはりどこか憂いげな雰囲気
を漂わせていた。
「今日は一人か?」
 とりあえず美琴は無難な話題をふる。
「ええ……」
 そうとだけ答え、サラは視線を足元に移した。
 再び奇妙な沈黙が訪れた。どうしたものかと美琴が頭を抱えていると、今度はサラが話
を切り出してきた。
「あの」
その言葉には、強い決意の感情がこもっていた。
「お時間、ありますか?」
「あ、ああ」
本当は時間など全く無いのだが、断れる雰囲気ではないように感じられたので、美琴は思
わずそう答えた。
179黄昏の世界:04/05/16 15:54 ID:w0Bdqwto
「良かった……。実は、先輩に相談したいことがあるんです」
「あたしに?」
美琴は首をかしげた。サラの一番の親友といえば八雲だろうし、先輩に相談したいのであ
れば晶が妥当だろう。それとも茶道部の面々には話せないような内容なのだろうか。
 美琴はそこで思考を打ち切った。もともと気の長いほうではない彼女は、とにかく聞け
ばわかる。と結論付けた。
「なんだ?」
「少し長くなると思うんで、座りませんか」
そういってサラは1−Dの教室を指差した。
 がらり、と少々たてつけの悪いドアを開くと、室内は湿気がこもっており、少々蒸し暑
かった。
「暑いですね」
そういってサラは何枚かの窓を少し開けた。
「ああ、暦じゃもう秋だってのにな」
美琴は手近な席に腰を下ろす。続いてサラも美琴と向かい合うように座った。
「じゃあ、相談ってのを聞かせてもらおうか」
そういって美琴は話を促すがサラはもじもじするばかりでなかなか話そうとしない。
 そうこうしているうちに、どこからか、人の走る足音が聞こえてきた。
「ほらほら、早くしないと、誰か人がきたらこまるだろ?」
美琴の言葉にサラは無言でうなずくと、口を開いた。
「最近八雲と話していると、よく、ある男性のことが話題に上るんです」
「へえ、だれだよ」
「播磨先輩です」
「播磨?」
美琴は意外そうに片眉を上げた。
「なんていうか、意外だな」
「そんなことは無いですよ。播磨先輩、動物にとても詳しいし、優しい人ですし」
「まあ、確かに根は悪いやつじゃねーな」
金髪ツインテールの仕打ちに日々耐えている播磨の姿を思い出し、美琴は答えた。
180黄昏の世界:04/05/16 15:56 ID:w0Bdqwto
「八雲、自分では気付いていないみたいですけど、きっと播磨先輩のこと、好きなんだと
思うんですよ。」
「ふむ、で、相談ってのは播磨と八雲をくっつける手伝いをしてくれってことか?悪いけ
どあたしそういうのはあんま得意じゃねーんだよな、その手の話なら晶とかに……」
「あっ違います違います」
そういってサラは慌てて首を横に振った。
「八雲なら、私の手助けなんて無くても、きっと上手くいくと思うんです。ただ……そう
なった時に、傷つく人がいるでしょう?」
 そのサラの言葉を聞いて、美琴は心底めんどくさそうな顔をした。
「あー、あんなもんほっといていいと思うぞ、あたしは」
「けど、花井先輩の八雲への想いは本物だと思います。もし、八雲と播磨先輩が付き合う
ようになったら、花井先輩、すごく傷つくと思うんです」
「ははは、しばらく学校に来なくなったりしてな」
そういって笑う美琴にサラは真剣な眼差しを向けた。
「先輩は、花井先輩のことどう思ってるんですか?」
「はっ、はい?」
サラの不意打ちに、美琴は自分でも間抜けだと思うような素っ頓狂な声をあげた。
「先輩なら、花井先輩のこと、支えてあげられると思うんです」
「なっなんであたしががそんなことしなけりゃいけないんだよ」
まずい、非常にまずい。話が変な方向に進んでいる。美琴は慌てた。
「先輩は花井先輩と幼馴染なんでしょう?それに、先輩と話している時の花井先輩は、他
の人と話している時とは違って、すごくのびのびとしているように見えるし……」
「まあ、お互いに遠慮はないわな……ってあたしはあいつのことなんかこれっぽっちもそ
んな風に考えたことなんて無いからな!」
そう言って美琴は顔を真っ赤にしながら全身を使って否定のジェスチャーを示した。
「そうなんですか……」
その様子を見てサラは少し意外そうな顔をした。
「いや、だからほっときゃ良いんだって。あんな馬鹿」
「けど、あの人の落ち込んでる姿なんて、見たくないから……」
「へ……?」
181黄昏の世界:04/05/16 16:01 ID:w0Bdqwto
サラの発言に、美琴は一瞬停止した。
「そ、それって……」
その時になってようやく、美琴はサラの愁いを帯びた瞳の正体に気付いた。
 それは、恋をした女の目だ……。
 硬直した美琴に、サラは弱々しく微笑みながら言葉を続けた。
「私、花井先輩のこと、好きになっちゃったみたいなんです。」
「な、なんでまた」
「一途なところとか……。男らしいところとか」
「い、一途って言っても度が過ぎりゃただのストーカーだぞ」
周防の言葉にサラはふふふ、と小さく笑った。
「けど、それならあたしになんて頼まずに自分で花井のこと慰めてやればいーんじゃねー
のか?」
その言葉を聞いて、サラの表情が不意に曇る。
「わたしじゃ、だめだから……」
「なんでだよ」
「花井先輩と話すことはよくあるけど、それはわたしが八雲のそばにいるからであって、
個人としてのわたしには花井先輩は興味が無いと思うから……」
そう言ってサラはうつむいた。
「ふう」
美琴はそんなサラの姿をみて溜息を一つつくと、力強くサラの肩を叩いた。
「大丈夫!」
「!?」
突然の美琴の行為にサラは驚いて顔を上げた。美琴は、サラの目をしっかりと見据えなが
ら励ましの言葉を続ける。
「大丈夫、はっきり言ってお前は同姓から見てもすごくかわいいと思う。性格もすごくい
い。もっと自信をもて」
「そうでしょうか……」
「ああ。それともう一つ」
そう言って美琴はゆっくりとまぶたを閉じ、そして開いた。
「今きちんと自分の想いを伝えておかないと、きっと後悔することになると思うよ」
182黄昏の世界:04/05/16 16:04 ID:w0Bdqwto
そう言った美琴の顔は、どこか寂しげだった。
サラは少しの間、迷ったような顔をしていたが意を決したように、口を開いた。
「……そうですね、わたし、もう少し積極的に頑張ってみます」
「ああ、頑張れよ」
そういって美琴は立ちあがった。
「さてと、すっかり日も落ちちまったな。あたしは練習があるからこれで。サラも早く帰れよ」
「はい。ありがとうございました」
「いいって」
 そういって手をふると、美琴は再走り出した
 ようやく目的の場所につき、花井は走るのを止めた。荒れた息を整えながら周囲を見渡
すが、そこには八雲の姿は無かった。
「おのれ高野、さては謀ったか」
仕方が無いから帰ろうかと思った時、どこからか女性の声が風に運ばれてきた。
「む?」
さては八雲くんかと周囲を見渡すと、八雲のクラスである1−Dが目に付いた。少し窓が
開いており、どうやらそこから声が漏れ出して来ているようだ。
 八雲かどうかを確かめるべく、花井は1−Dの教室に近づいた。
 カーテンは閉まっており、中の様子をうかがうことは出来なかったが、聞こえてくる声
は、間違いなく美琴とサラのものだった。
盗み聞きは良くないとは思ったが、その意外な組み合わせに興味をそそられ、花井は二人
の会話に耳を傾けた。
「八雲、自分では気付いていないみたいですけど、きっと播磨先輩のこと、好きなんだと
思うんですよ。」
 花井をハンマーで殴られたような衝撃が襲った。
 花井も八雲の播磨への態度が他の男子に対するそれとは違うことにうすうす気付いては
いたが、こうして第三者の口から聞くと、相当に堪えた。
「くっ!」
何とか平常心を保とうとしていると、続いて幼馴染の声が耳に飛び込んでくる。
「いや、だからほっときゃ良いんだって。あんな馬鹿」
183黄昏の世界:04/05/16 16:07 ID:w0Bdqwto
(くっ、周防め、好き勝手言いおって)
 幼馴染の容赦ない発言に花井は拳を震わせた。
 と、その時、花井は思いがけないサラの言葉を聞いた。
 運動部の掛け声も、風にざわめく木の葉の音も、消え、花井の脳内にはサラの言葉だけ
が響いた。
「私、花井先輩のこと、好きになっちゃったみたいなんです。」
花井がその言葉を完全に理解するまでに数十秒を要した。
(な、なにぃーーー!?)
花井は心の中で叫び声をあげた。
(サ、サラ君がこの僕に恋心を気付いていたとは……ぼ、僕はいったいどうすれば……)
 とにかく、今ここで見つかってはまずい。そう判断を下すと花井は中の二人に気取られ
ないようにそそくさとその場を後にした。
「いつの間に紛れ込んだの」
「なっ、何をする高野、うをっ!?」
廊下に放り出された花井の前で、部室のドアは無常にもぴしゃりと閉じられた。
 なんでもない日常。
「ぬうう、高野め、僕は八雲くんの真意を聞き出さねばならんというのに……」
投げ出された際にしこたまうちつけた左肩をさすりながら悪態をついていると、不意に後
ろから声を掛けられた。
「大丈夫ですか?」
その声に花井の鼓動は高鳴った。振り返るとそこには、サラが立っていた。
 (平常心、平常心だ)
昨日のことを思い出し手しまい、赤面しながらも、花井は平静を装った。
「う、うむ。大丈夫だ」
そう答えた花井の前に、サラの白い手が差し伸べられる。
「どうぞ」
「あっ、ありがとう」
そういって握ったサラの手は、やわらかかった。
それじゃあ。といって立ち去ろうとしたその時、さらに呼びとめられた。
「あ、あのっ!」
184黄昏の世界:04/05/16 16:09 ID:w0Bdqwto
「む?」
振り向いた花井の目の前には映画のチケットが二枚差し出されていた。
「あのっ、花井先輩。もし良かったら、今度の日曜、一緒に映画を見に行きませんか!」
「あ、ああ」
頬を朱に染めて、目をつぶっているサラの手から、花井はチケットを受け取った。
「……良かった」
そういって胸をなでおろしたサラの笑顔は、とても魅力的に感じられた。
 教室にむかいながら花井はじっと手の中の映画のチケットを見つめていた。
「どうしたものかな、これから……」
そうつぶやき、ポッケットにチケットをしまうと、花井は教室のドアを開けた。
[了]
185Classical名無しさん:04/05/16 16:11 ID:w0Bdqwto
どうも、本人黒サラのつもりで書いたんですけど、表現しきれたかが心配です
もっとストレートに書いたほうがよかったかな?
186Classical名無しさん:04/05/16 16:19 ID:Z8H.zqG.
これを白サラと呼ぶのだと思う。
意外な展開にGJ!
187Classical名無しさん:04/05/16 16:39 ID:EJDGC9Tw
白い…白いですよ
だがしかし GGJ!!
188Classical名無しさん:04/05/16 17:12 ID:LHwzOGdY
白サラだー!
黒サラだったら
播磨と八雲の密会現場を見せつける
     ↓
ショックを受けた花井に漬け込む
     ↓
  ハッピーエンド
この三大スライド方式になると思う
189Classical名無しさん:04/05/16 17:12 ID:LHwzOGdY
GJ忘れてター
190Classical名無しさん:04/05/16 17:36 ID:S0tXLyyE
GJ!サラ祭りイイ!(・∀・)

で、ちょっと気になったんですが
(サ、サラ君がこの僕に恋心を気付いていたとは……ぼ、僕はいったいどうすれば……)
            ↑恋心を抱くの間違いですよね?
191Classical名無しさん:04/05/16 17:41 ID:EJDGC9Tw
そういえば忘れてた
骨董無形ではなく荒唐無稽だと思います
192書いた人:04/05/16 18:27 ID:w0Bdqwto
ああ、誤字脱字が……。ちなみにちょっとした遊びを入れています。サラの行動、
細かなしぐさですがいくつか話の展開に不可欠な物があります。
193Classical名無しさん:04/05/16 19:27 ID:Z8H.zqG.
ああなるほど。今気がついた。
サラが花井がいること知ってたのならば、
  そ り ゃ 真 っ 黒 だ な 。
194Classical名無しさん:04/05/16 19:53 ID:Ur5yrgpw
黒かろうが白かろうがサラは(・∀・)イイ!!



この際、白と黒でぷりky(パケロス
195Classical名無しさん:04/05/16 20:43 ID:HW1RrCao
あぁそっか。ミスディレクションで
うまく他の人間の行動をコントロールしたわけか。
よく出来てますね。こりゃ。
196子豚物語:04/05/16 22:33 ID:6gWpwnUI
ぼく、ナポレオン。
播磨さんに会いたくて、学校に来た。
播磨さんは、驚いていた。
他の生徒に見つかるからと、校庭のはずれに案内された。
「どうしたんだ、一体?」
ぼくは播磨さんに訴えた。
もっと、ぼくたちに会いにきてと。
「ぶひぶひっ」
播磨さんは、黙って聞いてくれた。
「……そうか 最近、お前たちに会いに行ってなかったな。 じゃ、次の日曜日に行くか」
 その言葉を聞いて、ぼくは嬉しくなった。
思わず播磨さんの顔をペロペロする。
「おい、くすぐってぇじゃねぇか」
 そんな事を言いながらも、播磨さんも嬉しそうだ。
 やがて、播磨さんは体を離し、ぼくに言った。
「ぼちぼち騎馬戦だから、行かなくちゃならねえ。 ここで待ってるんだぞ」
197子豚物語:04/05/16 22:34 ID:6gWpwnUI
 播磨さんは説明してくれた。
 今日は、体育祭と言う日であること。
 これから、騎馬戦と言う競技に参加すること。
 だから、ここにはいられないということを。
心配するぼくに播磨さんは笑い掛けた。
「大丈夫だ。 体育祭が終わったら、一緒に動物園に帰ろう。 な?」
「ぶひっ!」
 ぼくは、うなずいて返事をした。
「じゃ、いってくるぜ」
播磨さんは、駆け出していった
198子豚物語:04/05/16 22:35 ID:6gWpwnUI
 あ、播磨さんが出てきた。
 金髪の女の人を3人で上に載せていた。
 あれ? あの人、播磨さんに蹴りを入れた女の人じゃないかな?
 そうだ、間違いない!
 怒ったぼくは、女の人に体当たりしようと思った。
 でも、やめた。
 おとなしくしてるって播磨さんと約束したから……

 播磨さんは、活躍したみたいだ。
 上に乗った女の人が、はちまきってヤツを一杯取ってた。
 播磨さんも、走り回って蹴りとか入れてた。
 そんな播磨さんを見て、ぼくは嬉しくなった。
199子豚物語:04/05/16 22:34 ID:6gWpwnUI
 騎馬戦が終わって、播磨さんは戻ってきてくれた。
「おっ、おとなしく待っていたみたいだな。 いい子だ」
 ぼくの頭を撫でてくれた播磨さん。
「ぶひ?」
 ぼくは尋ねた。
「ああ、おまえが見ててくれたから、活躍できたぜ。 ありがとよ」
 播磨さんは、そう答えてくれた。
「ぶひぶひ」
 ぼくも、嬉しくて播磨さんに体を摺り寄せた。
200子豚物語:04/05/16 22:36 ID:6gWpwnUI
 しばらくじゃれていると、播磨さんが言った。
「お、こんな時間か。 ちっと、リレーってヤツに行ってくるからよ」
 播磨さんは説明してくれた。
 リレーの選手の人に、僕が体当たりして、ケガをさせてしまったことを。
 そういえば、播磨さんを見つけたとき、誰かに当たった覚えがあった。
 あれがリレーの選手の人だったんだ。
「ぶひ……」
 落ち込むぼくを、播磨さんは励ましてくれた。
「そんな顔すんな。 俺がそいつの代わりに走って1位になっってやるからよ」
「ぶひ?」
ほんと? と聞いたぼくに播磨さんは力強く言った。
「ああ、約束だ。 リレーが終わったら、一緒に動物園に帰ろうな。 じゃ、いってくるぜ」

 リレーに出場するため、駆け出していく播磨さんを見て、ぼくは思った。
(いいご主人にめぐり会えたな) と……
 
おわり
201子豚物語:04/05/16 22:39 ID:6gWpwnUI
ナポレオンの視点でSSしてみました。 どんなもんでしょうか?
202Classical名無しさん:04/05/16 22:48 ID:w0Bdqwto
斬新な視点ですね、かわいいです。
203Classical名無しさん:04/05/16 22:53 ID:fT3u6vK6
SS投下いきます。
204いつか想いを:04/05/16 22:55 ID:fT3u6vK6
放課後、私は一人茶道部の部室にいた。
窓の外からは運動部の人達の声が、校舎の中からは吹奏楽部の楽器の音や、合唱部の人たちの歌が聞こえてくる。
高野先輩も、八雲も今日は用事でいない。
私は、紅茶を飲みながら、窓の外に広がる空を流れる雲を見つめていた。
そうして窓の外を眺めていると、ドアが開く音がして、播磨先輩が入ってきた。

「こんにちは、播磨先輩」
「うっす、妹さんはいるか?」
私に尋ねる播磨先輩、どうやら八雲に用事のようです。
「八雲なら今日は用事で先に帰りましたよ」
「そうか……」
私がそう言うと播磨先輩は少し残念そうな表情になりました。何か大切な用があったんでしょうか。
「八雲に何か用事があったんですか?」
「いや、ちょっと相談があってな」
「相談ですか…もしよければ私が聞きましょうか?」
「あーいや……」
とても言いにくそうな播磨先輩。八雲と二人の秘密なのかな?
「もしかして八雲のお姉さんの事ですか?」
「な、なんで天満ちゃ、塚本がでてくるんだ」
私が聞くと、播磨先輩がとても動揺した声でそう言いました。
「先輩、塚本先輩のことが好きなんでしょう?」
205いつか想いを:04/05/16 22:56 ID:fT3u6vK6
「な、何故それを!?」
すごく驚いた表情で私に聞く播磨先輩。
その態度は認めてるのと同じですよ、と内心私は苦笑する。
「先輩、塚本先輩の事を話す時、いつも天満ちゃんって言いそうになってますし、それに」
「それに?」
食いついたように私に問い返してくる播磨先輩。
「態度で丸わかりです」
私は笑顔を浮かべながら言いました。
播磨先輩はその言葉がショックだったのか、少ししょんぼりなってしまいました。
私はそれを見て、ちょっと可愛いと思ってしまいました。すいません播磨先輩。
「とにかく座ってください。おいしい紅茶も出しますから」
私はしょんぼりとなっている播磨先輩を椅子に座らせると、おいしい紅茶を用意するため席をはずした。

「先輩、どうぞ」
私は入れたての紅茶を播磨先輩の前に出しました。
播磨先輩はまだしょんぼりしたままで、無言でカップを取ると、一口紅茶に口をつけました。
「うめぇ」
一口飲むと、播磨先輩はそう言い、紅茶を一気に飲みだしました。
私はその姿を見て、紅茶はゆっくり味わう物なんだけどな、と思わず苦笑してしまいます。
「もう一杯いいか?」
播磨先輩は飲み干したカップを差し出し私に聞いてきました。
「ええ」
206いつか想いを:04/05/16 22:56 ID:fT3u6vK6
私は、紅茶を飲んですっかり元気になった播磨先輩を見て、いつしか笑顔になっていました。
「先輩、八雲とはいつもどんな事を話してるんですか?」
二杯目の紅茶を出しながら私は尋ねる。
男性が苦手な八雲が、唯一自然に接する事のできる播磨先輩。
恋愛感情までいっているかは解らない。けれど播磨先輩は八雲にとっては特別なのだ。
だから、私はいつも播磨先輩と八雲がどんな話をしているのかが気になっていた。
「そうだな、妹さんの飼ってる猫のこととか、あとはまぁ相談事だったりだな」
やっぱり相談の内容は秘密みたい。
ちょっと残念な気もするけど仕方ないかな。
だから私は、もう一つ気になっていた事を聞いてみることにした。
「ところで先輩、どうしていつもサングラスをかけてるんですか?」
播磨先輩はいつもサングラスをしている。
だけど、どうしてサングラスをいつもかけているかが、とても気になっていた。
先生達からは怒られたりする事もあるだろう。
それに、播磨先輩は整った顔立ちをしてるから、もったいないなといつも私は思っていた。
「ん?あー……ちょっとな」
ちょっと言いにくそうな、それでいてちょっと恥ずかしそうな播磨先輩。
しょうがない、気になるけど深く追求はしないでおきましょう。
でも、サングラスをかけてる理由はともかく、私は素顔を少し見たくなってしまいました。
「ちょっとすいません」
私はそういいながら身を乗り出し、播磨先輩のサングラスをひょいと取ってみました。
隙をつかれた播磨先輩は、その言葉に反応して顔を上げるもあっさりとサングラスを取らました。
見てみると、播磨先輩はやっぱり丹精な顔立ちをしていました。
207いつか想いを:04/05/16 22:57 ID:fT3u6vK6
私が播磨先輩の顔を覗いていると、ぱっと目があってしまいました。
「あ、す、すいません」
その鋭くも優しそうな目と、目があってしまい、私は迂闊にもドキっとしてしまい、思わず謝りながらサングラスを返しました。
「ん、ああ、気にすんな」
私が謝った事に対してそう言う播磨先輩。
私がドキっとしてしまったことはなんとかバレずにすんだようです。
内心ホッとしつつも、でもやっぱりそういう事にはにぶいんだな、と思わず苦笑する私。

その後、私と播磨先輩は一時間ほど色々な話をしました。
初めは相談に乗ってあげるつもりだった私だけど、普通に喋ってただけになっちゃいました。
「色々世話になったな。んじゃそろそろ帰るわ」
「はい、また来てくださいね。八雲も喜びます」
私はそう言いながら笑顔で播磨先輩を送り出す。
播磨先輩が帰ると、私一人になった部室は途端に静かになった。
そしたら、突然私の中に寂しさやがわき上がってきた。
どうしてだろう、今まで寂しいなんて思った事は無かったのに。
播磨先輩が帰ってしまっただけで、心の中の私は寂しさで泣いている。
それは、一人になってしまったから?
それとも……
208いつか想いを:04/05/16 22:57 ID:fT3u6vK6
「私、もしかしたら……」
――播磨先輩が好きなのかもしれない
口には出さずに心の中でそう呟くと、その言葉が自然と私の中に広がっていく。
ああ、やっぱりそうだったんだ。どうして今まで気づかなかったんだろう。
私の感じていた寂しさは、好きな人が帰ってしまったからだったんだ。
もっと播磨先輩と話したかった、もっと見ていたかった。
そして私を見て欲しかった。
ふと窓から外を眺めると、校門を出て帰る播磨先輩の後ろ姿が見えた。
ただそれだけで私は満たされるような感覚になった。
「八雲や、八雲のお姉さんに負けられないな」
呟くと共に私はそう決意した。
播磨先輩の一途さは良く知っているし、八雲も、そして播磨先輩の想い人である八雲のお姉さんもとても素敵だ。
だから、この恋がそう簡単にいくとは思えない。
けれど、きっと素敵な恋になるだろう。
私は目を閉じ、播磨先輩の姿を思い浮かべる。
そして、その姿に向かって私は言う。
あなたへの想いを言葉に乗せて。



あなたが好きです。
209Classical名無しさん:04/05/16 23:02 ID:TShaintE
サラ祭りだっ!!!
196、203、共にGJ!!
210Classical名無しさん:04/05/16 23:04 ID:fT3u6vK6
サラ視点でSSを書いて見ました。
昨日「夕空と恋心と」を書いたばっかりなのに、
二日連続サラSSを書いて何やってんだ自分、という感じです。
楽しんでもらえれば幸いです。
やっぱサラは最高だね!
211Classical名無しさん:04/05/16 23:38 ID:ndwaBcT.
>>210
GJ!(゚д゚)ウマー
実に萌えました。サラ視点良いですね
212Classical名無しさん:04/05/17 01:38 ID:6jwp6NAY
うひょー!サラ×播磨(・∀・)イイ!!
213Classical名無しさん:04/05/17 01:53 ID:xvBQ9CvE
>>192
説明なかったら普通の白サラ話として読んじゃうね(俺の読解力がないだけかも)。
こういうちょっとした裏のある話は表現が難しいなあ。
とりあえずそれ以外で気になったのが八雲とサラが別れた後。
場面が変わって視点も花井に変わっているのだが、文章が八雲視点から連続で
続いているので非常にわかりづらい。
行を空けた方が良いのでは?

>>201
ごめん、個人的にこういうの苦手。
出来不出来関係なく、動物の擬人化+ぼく言葉は萎える性分なんで・・・。

>>210
積極的なサラが(・∀・)イイ!!
今週末はサラ好きにはたまらん祭りになったなあ。
214Classical名無しさん:04/05/17 02:59 ID:KPuxYtec
>>210
んー…口調が途中で変わるのは一体…?
215Classical名無しさん:04/05/17 13:21 ID:JZmhiykM
本編で沢×播がテンパイしてからというもの旗派SSは減り、反比例して
対抗SSが続々とw
216Classical名無しさん:04/05/17 14:11 ID:HW1RrCao
本編で満たされた分は脳内補完の必要がないからなw
217Classical名無しさん:04/05/17 18:09 ID:HW1RrCao
これから投下します。
218The shining man:04/05/17 18:10 ID:HW1RrCao
体育祭も最終種目男子リレーを残すばかりとなり、
2年の部ではD組がC組に同点とすることに成功していた。
つまり、最終種目での勝者がそのまま体育祭での勝者となる情勢である。

そして、職員控所では祈るような面差しの谷教諭と
余裕の笑みを浮かべる加藤教諭の姿があった。

目下のところ、D組はC組を半周の差をつけてリードしている。
スタートで天王寺の巨体を生かしたスタートに巻き込まれ
花井が転倒。すかさず体勢を立て直して再スタートを切ったものの
身体に似合わず敏捷な天王寺に追い付くことはできなかった。

その後、今鳥・麻生などの好走者を繰り出すものの
学年一のエリートを自称するD組も劣らず、
最終走者に至るまで差を縮められずにいるのである。
しかも、D組のアンカーは3倍速い男とも言われる
ハリー=マッケンジーである。
加藤の態度も根拠がないものではないのだ。
219The shining man:04/05/17 18:28 ID:HW1RrCao
少し離れた所に立っていた長髪の美女−刑部絃子は呟いた。
「安全圏だな・・・」

傍にいた笹倉葉子は、それを聞き首を捻った。
「あれ?刑部先生。応援していないんですか?」
目的語を省略しているがそれはむろんC組、
いや正確にはC組のアンカーである播磨拳児のことを指している。
ちなみに笹倉は教師たちの中で絃子と播磨拳児の血縁関係を知る
唯一の人物である。

「いや、だから安全圏だよ。これぐらいなら追い付くだろう。」
そういって絃子は笹倉に真意を説明した。
しかし笹倉は俄かにはその言葉を信じることができなかった。
グラウンドではすでにバトンを受け取ったハリーが
凄まじいスピードで駆け出している。
前評判は伊達ではなかった。

このリレーは変則ルールで最終走者だけは
三周を走るといっても、すでに一周近くの差がついている。
ハリーの速さ、そしてこの距離。
追い付けるとしたら、それは人間業では−ない。
220The shining man:04/05/17 18:49 ID:HW1RrCao
「なんせあいつがガキの頃、逃げ出したら私でも捕まえるのが大変だった。」
絃子の言葉を、なんだ絃子でも身内びいきがすぎることがあるのね…
と思って聞き流そうとした笹倉であったが、そこで記憶の石に蹴躓いた。

「えっ!?ちょ、ちょっと待って。
昔、隣町の山を一晩で超えてったあなたよりまだ速い!?」
「しっ、笹倉先生。声が大きいですよ!」
慌てた表情で−それは絃子がめったにしない顔ではあるが−
笹倉の声を止めようとした絃子であったが、
時すでに遅く、ちょうどカルテを置きに来た養護教諭の姉ヶ崎に聞かれてしまった。

「え…この辺りからあの山まででも20km近くありますよ?なんでまたそんな。」
思わず二人の話に割り込んだ姉ヶ崎に対して
「いやまぁ…あの時は色々事情があったもので・・・」
と曖昧な返事を絃子は返した。
「そんな・・・太宰治の小説じゃあるまいし・・・」
「あぁ、でも確かにあの時のことを一言でいうと『絃子は激怒した』って感じだったわね。」
聞き返す姉ヶ崎の横でそう呟いた笹倉に対して
「笹倉先生、何だったら今ここで激怒してみせましょうか?」
と笑顔で(目は笑ってない)言う絃子に、
ごめんごめん、もう言わないからと慌てて止める笹倉を見た姉ヶ崎は
あまり触れない方がいいんだと感じて、それ以上追及するのを止めた。
221The shining man:04/05/17 19:07 ID:HW1RrCao
「そっか。ハリオって足速いんだ。」
二人にも聞こえないほどの大きさで呟いた姉ヶ崎が
顔を上げると、そこにはようやくバトンを受けた播磨が
ありえない速度で駆けていく姿が目に映った。



勝負はあっけなかった。
光を帯びた一人の男は、瞬く間に前を走る者を抜き去りテープを切った。
ゴールラインの前で彼の後頭部を拝むことになったハリーは
「そんなバカな。C組のハリマはバケモノか!?」
そう呻くのがやっとであった。
この日、その男を見た者の一人は後にこう語った。
「まるで光速のようだった。あれぞまさしく閃光者だ。」と。

しかし、その日の晩から絃子は頭を抱えることになる。
何があったか知らないが、珍しく本気を出した播磨は
帽子をすっとばしてしまい、今現在の時点で
もっともさらけ出したくない秘密を全校生徒の前でさらけ出すことになったのだ。
この図体で強面に似合わず、意外と傷つきやすい小学生のような一面を持つ男が
すでに出席日数が危なくなってるにも関わらず再び登校拒否に陥るのを
どうやって学校に行かせるか、絃子は頭を悩ませることになったのだ。
(完)
222Classical名無しさん:04/05/17 21:31 ID:2XlkntVE
>>216
じゃあ、今度は満たされなかった下っぱの妄想を実現させる
SS書いてやれw
223Classical名無しさん:04/05/17 21:36 ID:k01SN6nU
>>221
GJ!
面白かったです。久々にお姉さんズが(´∀`)
しかし播磨は全力で走るとホントに帽子取れますよね。どうするんだろう
224Classical名無しさん:04/05/17 21:44 ID:BfIB0Bks
帽子はちゃんと頭に縫いこんであるから無問題
225Joker/hide mind:04/05/17 22:09 ID:qmlfIyEQ
「晶ちゃんおはよー」
 学校の昇降口、今日も朝からどこかハイテンションな――もちろん、それも彼女の魅力の一つなのだが――天満に、
おはよう、とこれもいつも通りに素っ気ない返事を返す晶。はたから見れば微妙な光景ともとれるものの、滅多に表に
感情を出すことがない彼女の場合、それは別段普通のやりとりであり、天満の方もまったく気にする素振りを見せず、
今日もいい天気だね、などと話しかけている。
 ――と。
「ん――」
 晶が開けた下駄箱から何か白い物が落ちる。
「手紙?」
「みたいだね」
 答えてから封を開き、内容に目を落とす晶。その表情がほんの一瞬緊張の色を帯びる。
「……晶ちゃん?」
 そんな変化に気がついたのか、心配そうに声をかける天満に、何でもないよ、と答える。
「そっか。ならいいんだけど……あ、でね、それってやっぱり」
 ラブレター、という小声の問に。
「……似たようなものね」
 いつもと同じ、相も変わらぬポーカーフェイスで晶はそう言った。
226Joker/hide mind:04/05/17 22:09 ID:qmlfIyEQ
「どうしたの天満、何だか様子がおかしいみたいだけど」
「……え?そそ、そんなことないよ?」
「いや、どう見てもなんかあるだろ。ほらほら、話しちまえよ」
 朝の教室、気怠い授業が始まるその前に、とそこかしこで会話に花が咲くその中で、早速天満は沢近と美琴に
問い詰められていた。
『みんなには内緒にするから安心してね』
 などと先ほど晶と約束した手前、話すわけにはいかない……のだが、そこは天満、陥落は時間の問題のようである。
 一方、当の晶はと言えば、どこか難しそうな顔をしたまま――とは言っても、ある程度彼女と親しくなければ見分けが
つかないほどの変化である――何かを考えている様子を見せていたが、やおらすっくと立ち上がる。
「あら?どうしたの晶」
 きょとんとした顔の沢近と美琴、そしてまだあたふたとしている天満に向かって一言。
「――早退」
 は?、と三人の声が思わずそろうが、そんなことはどこ吹く風、といった様子で鞄に教科書を詰め直す。
「ちょっ、待ちなさいよ! 何よいきなり……大体理由は何なのよ、理由は」
 思わずそのまま見送りそうになったところを、どうにか気を取り直して尋ねる沢近。対する晶は、そうね、と小さく呟いてから。
「……頭痛?」
「疑問形はねーだろ、いくらなんでも」
 お約束のようにきっちりツッコんだ美琴もスルーして、それじゃ、と片手を上げて出て行こうとする――その背中に。
「晶ちゃん!」
 それまで右往左往していた天満が、ガタン、と椅子を鳴らして勢いよく立ち上がる。右手を胸元でぎゅっと握りしめ、表情に
浮かべているのは不安の色。どこか尋常ではないその様子に、晶も足を止めて振り返る。
「どうしたの? 塚本さん」
 落ち着いたその声を聞いて、我に返った様子で口ごもる天満。沢近や美琴からも訝しげな視線を向けられ、取り繕ったような
笑顔を浮かべて言う。
「……えっと、月曜日にはまた会える……よね」
「――うん、そうだね」
 何故そんなことを訊かれたのか分からなかったのか、一拍の間を置いてからそう答え、今度こそ教室を出ていく晶。それを
見送ってから、ふう、と大きく息をついて席に着く天満。その表情はやはりまだ暗い。
227Joker/hide mind:04/05/17 22:10 ID:qmlfIyEQ
「塚本、どうかしたのか?」
 気遣うような美琴の声に、しばらく迷うような気配を見せていた天満が、あのね、と今朝の出来事について話し始める。
「――っていうことがあったんだけど……」
「……そりゃまあ珍しい気もするけどさ、それぐらい別に普通だろ?」
 首を捻る美琴に、そうなんだけど、と自信なさそうにする天満だったが、それで、と沢近に促されて続ける。
「そのときはなんだかちょっと様子が変だな、って思っただけだったんだけど」
 さっきの晶ちゃんは、とそこで一度言いよどむ。
「――さっきの晶ちゃん、何処か遠くに行っちゃうような気がして」
 そう口にした後で、でもそんなわけないよね、と笑ってみせる天満。
 けれど。
「それはさすがに考え過ぎかもしれないわね。でも」
「でも?」
「正直、あんな晶を見たのは私も初めてよ。何かあるのは確かね」
 いつになく真剣なその表情に、へえ、と驚いてみせる美琴。
「何よ、その反応は」
「悪い。そういう見るとこ見てるってやつ、お前にしちゃ珍しい、って思ってね」
「……私もこれで一応、あの子との付き合いも長いのよ。さすがにそれくらいは、よ」
 少し照れたような表情を見せる沢近に微笑んでから、で、どうすんだ、と話を戻す美琴。
「そうね……別に何もなければいいけど……」
 そう言って少し考えてから、あなたさっき月曜日、って言ったわよね、と天満に話を振る。
228Joker/hide mind:04/05/17 22:10 ID:qmlfIyEQ
「うん。さっきちらっと中が見えちゃってね、待ち合わせが明日っていうのだけは確かだよ」
 時間と場所は分からないけど、と申し訳なさそうに答える天満。
「それだけ分かってれば十分よ――よし」
「よし、ってお前まさか……」
 そのまさかよ、と事も無げに答えてから、いい、と言葉を続ける沢近。
「さっきも言ったけどね、何でもなければそれでいいの。でもね、あれはどう考えたって普通の反応じゃないでしょう?」
「まあ、そうだな」
 頷く美琴に、でしょう、と確認をとってから、今度は天満の方を見やる。
「それに、天満も時々鋭いところがあるし、ね」
「愛理ちゃんありがとう!」
 その言葉を聞いて、思わず沢近に抱きつく天満。
「きゃっ! もう天満、やめてよ!」
 口調とは裏腹に、どこか嬉しそうな様子を見せながら、それであなたはどうするの、と美琴に尋ねる沢近。
「決まってるだろ、そんなの。塚本と沢近だけに任せたりなんてしたらロクなことにならないしな」
 私も行くよ、と冗談めかして美琴も笑顔でそう答えた。
229Joker/hide mind:04/05/17 22:10 ID:qmlfIyEQ
 翌土曜日、『何か』があるその当日である。
 時刻はまだ七時過ぎ、といったところだが、既に晶の家が視認出来るところで張っている三人。
「大丈夫かな……」
「フタを開けなきゃ分からない、ってとこだろ。にしてもさ、こんなに早くから来る必要あったのか?」
「念には念を入れて、よ。どこか遠い場所かもしれないでしょう?」
 それに、とさらに続ける沢近。
「晶のことだからね、いろいろ考えておかないと……」
 などと言っているうちに、その晶が家から出てくる。当然と言えば当然だが、特におかしな様子はまだ見えないが、ともあれ予定通りに
その追跡を始める三人。いいのかな、と今更のように呟く天満に、まあな、と美琴。
「確かにあんまり褒められたことじゃないけどさ、でも何かあるって思ったんだろ、塚本も」
「……うん」
「だったら自分を信じろよ」
 ぽん、とその頭を軽く叩いてから、何事もなきゃ途中で帰ればいいんだしさ、と笑う。
「……そうだね」
 うん、と気を取り直したように微笑む天満。そして、そんなやりとりをしている間に駅へとたどり着く一行。
「電車か……面倒だな」
「これくらいで何言ってるの、ほら」
 言って沢近が差し出すのは、隣駅までの切符三枚。
「精算なんて降りるときにすればいいの、行くわよ」
 その手際のよさに驚く美琴に、こうすればいいって教えてもらったのよ、と沢近。誰にだよ、と訊きたいところだったが、さすがに
そんな場合でもない、とそれは心に留めておく美琴。
 ともあれ。
 そうやって電車に乗り、幾つかの乗り継ぎをし、この付近で最も大きなターミナル駅まで辿り着いたところで――
「……撒かれたわね」
 してやられた、という顔でぼやく沢近。ここまでは着いてこれたはず、と思うものの、もはや雑踏の中に晶の姿を見つけることは出来ない。
230Joker/hide mind:04/05/17 22:11 ID:qmlfIyEQ
「諦めるか?」
「うん、しょうがない、よね……」
 落ち込んだ様子の天満。けれど、まだよ、と言って携帯を取り出す沢近。手慣れた仕草で誰かに電話をかけ、話し始める。どういうこと、と
きょとんとしている二人を余所に、短い通話を終わらせると、わかったわよ、と言う。
「いや、分かった、って何がだよ」
「だから、晶の行き先よ」
「は?」
 期せずして、天満と美琴の声が重なる。確かに、晶本人に訊いたわけでもなし、電話一本でそんなものが分かる方が不思議である。
「誰に電話したら分かるんだよ、そんなの」
「誰って……ウチの執事の中村だけど」
「……執事?」
 私たちだけで晶と張り合えるか分からなかったし、念のため頼んでおいたの、と何でもないように答える。
「いや、その考えはいいんだけどさ、執事だからどうこう出来るってもんじゃないだろ?」
 ややげんなりしつつも尋ねる美琴に、え、と驚く沢近。
「『万事に置いて卒のない規範を示してこそ執事』、ってお父様も言ってたんだけど……」
 もしかして、と首をかしげる。
「執事ってそういうものじゃないの?」
「……いや違うだろ、絶対」
 すごいね、などと感心している天満の横で、美琴は溜息をついた。
231Joker/hide mind:04/05/17 22:11 ID:qmlfIyEQ
 一方の晶。
 こちらもこちらで、考え得る限りの状況を踏まえて――さすがにその中にクラスメイトを撒く、などというものはなかったが――電車を
乗り継ぎ、人混みを縫うように抜け、自分の足跡を消すようにして目的地へと向かった。
 昼下がり、最寄りの駅前の噴水――そこが指定された日時と場所。果たして、探すまでもなく晶の視界には季節外れのコートを着た男の姿。
正直な話、周囲とは明らかに異彩を放ち、この陽光の下では目立つことこの上ない。
 やがて、男の方も晶に気がついたのか、やあ、と言って片手を上げながら近づいてくる。
「うん、さすがだね。時間通りだ」
『何の用かしら』
 にこやかに話しかけてくる男に対し、晶の口から出たのは異国の言葉。気休め程度にしかならないとしても、周囲にあまり聞かれたくはない、
という態度の表れである。
『そうか、そうだね……悪かった、まずは僕が謝ろう』
 言って軽く頭を下げる。
『さて、何の用、か。まあいろいろあるんだけど……』
 思わせぶりに微笑んでから、まずは、と続ける男。
『君に会いに来た、と言ったら信じてくれるかな』
『さあ、どうかしら?』
 そんな真顔の問いかけに、にべもなく答える晶。狸か何かの化かし合いのような会話は結構、というように口を開く。 
『それじゃ、本題に入りま――』
 しょうか、と続けようとした言葉が一瞬途切れる。男の背後、その先にありえないもの――撒いてきたはずの三人の姿を認めでしまったから。
 そして、その一瞬を男は見逃さない。
『おや、どうかしたのかな――?』
232Joker/hide mind:04/05/17 22:12 ID:qmlfIyEQ
「……なんとか間に合ったみたいね」
 呟いた沢近の視線の先には、ちょうど壮年に差し掛かったところ、という着崩したスーツに季節外れのコートを纏った長身の男と
向かい合う晶の姿。
中村の言葉に従って、スタート地点に戻ってきたのが正解だったようである。
「ねえ、あの人……だよね」
「……だな」
 どこか野暮ったい、冴えない雰囲気を宿した男。極論してしまえば、遠目であることを差し引いても、晶と釣り合うような
相手にはとても見えない。
「晶ちゃん……」
 それでも、晶が普段にない様子を見せた以上、何かしら思うところのある相手に違いない――そう考えてもっとよく見ようと
したのか、隠れていた物陰から身を乗り出そうとする天満を、ダメよ、と引き留める沢近。あの子がそういうのに鋭いの、あなたも
知ってるでしょう、と諭そうとしたそのとき。
「おい、マズ――」


                            §


『おや、どうかしたのかな――?』
 ほんの刹那、揺らいだ晶の視線を見逃さず、何気ない様子で声をかけてくる男。ただし、その目の奥にあるのは先ほどまでは見せて
いなかった剣呑な光。
『……』
 晶は答えない。何をやってもマイナスにしかならない状況下に置いては、何もしないことが最善の策――そんな身体に染みついた
経験をただ行使する。それでも致命的とも言えるミスを犯したのは事実、ふむ、などと言いながら肩越しに振り返る男に視線を
固定したまま、考え得る手立てをシミュレートする。
233Joker/hide mind:04/05/17 22:12 ID:qmlfIyEQ
『成程、成程ね』
 やがて正面の晶に向き直った男は、したり顔でそんなことを呟きながら何度も頷き、では、と左手をすっとコートの内側に差し入れる。
「――あなた」
 その仕草を見てわずかに身構える晶に、おやおや、と肩をすくめる男。
「何もしやしないさ。ほら」
 戻した左手は無手のまま――けれど。
「……どういうこと?」
 晶が見つめるその先、つい今しがたまで無手であった右手には魔法のように二枚のチケット。
『うん、そうだな、分かりやすく言うと――』
 いつのまにか瞳の奥の剣呑な光は消えて、人を食ったような笑みを浮かべて男は言う。
『――デートをしよう、アキラ』


                            §


「……気づかれたかしら、今の」
「どうかな……あ、おい」
 自分たちの方に向けられた晶の視線に、慌てて息をひそめていた三人の向こうで歩き出す二人の姿。どうしよう、と言う天満に、
そうね、と難しい顔をする沢近。
「これ以上は晶のプライベートかもしれないけど……」
 濁した語尾の裏には、ここからでも分かった晶の態度。例えるなら、それは剣道の授業でも彼女がときたま見せた『真剣勝負』の気配。
「でもやっぱり何かおかしいよね、晶ちゃん」
 その言外の意味を汲み取ったのか、同意を示す天満。そしてそれに頷き、訊かなくても分かるけどさ、と前置きしてから、で、どうする、
と美琴。
「……なら、決まってるわね」
 踏ん切りをつけるように、力強く宣言する沢近。
「――追いかけるのよ、最後まで!」
234Joker/hide mind:04/05/17 22:13 ID:qmlfIyEQ
 ――数時間後。
『ほう、これは――』
 男の口から感嘆の声が洩れる。
 ひとしきり彼の言う「デート」を堪能した後で、晶が案内したのは神社の裏を抜けた高台――街を一望することの出来る場所だった。
 時は夕刻、眼下には淡い橙色に染まる街並が広がっている。
『……私はこの街が好き』
 しばらく黙ってその光景を見下ろしていた晶が静かに口を開く。
『そして、この街に住んでいる人たちが好き。だからもし、あなたが』
『そこまでで結構』
 その先は君のようなお嬢さんが口にする言葉じゃない、とそれを遮る男。
『いや、今日は実に有意義な時間が過ごせた。何せこの歳になると若いお嬢さんと話す機会なんて滅多にない』
 加えてこの職業だ、と肩をすくめてみせる。飄々とした口調、けれどその裏に最初に感じたような敵意はもはや感じられない。
『でもね、こんな職業だからこそせめて人間らしくありたいと思うんだよ、僕は』
 ふっ、と自嘲気味の笑顔をもらした男を晶はじっと見つめる。その視線を受け止めるように、一旦口をつぐんだ男だったが、やがて
今度は先ほどとは違う柔らかな笑みで続ける。
『君のような人に会えてよかった。それにあの君の愛すべき友人たちにもね』
 だからこの仕事はなかったことにしよう、そう言って大きく頷いてみせる男。そしてそれを見て、この日初めて苦笑めいた笑みを
わずかに浮かべる晶。肩越しに振り返った先には、隠れているつもりであろう三人の姿。
『……まったく、本当に』
『真の友というのは得難いものだよ、君は実に幸せ者だ』
 では、と大仰に一礼をしてから立ち去ろうとした男だったが、ああ、と何かを思い出したように立ち止まる。
『すまないね、最後にもしよければでいいんだが……』
 そう言って右手を晶に向かって差し出す。応えるようにして、晶も黙って差し出された手を取って、しっかりと握手をする。
『ありがとう、アキラ』
 君とは仕事抜きでまた会いたいものだ、そう言って男は微笑むと、そのままくるりと背を向けて、今度こそ去っていく。
陽が沈む方向へと向かうその姿は、晶からはまるで夕日を連れている――そんな風に見えた。
235Joker/hide mind:04/05/17 22:13 ID:qmlfIyEQ
 そして。
「ね、ねえ、晶ちゃんこっちに来るみたいなんだけど……」
「おい、どうすんだよ」
「そんな、どうするもこうするもないじゃない!」
 自分たちが隠れている茂みに向かって、脇目もふらずに歩いてくる晶を見て途端に慌て出す三人。
「……何をしているのかしら」
「えーっと……」
「あー、たまたま通りかかってだな……なんて言っても信じるわけないよな」
 一応言い訳してみようとするものの、晶の真っ直ぐな視線にいたたまれなくなる天満と美琴。それを見て、仕方ないわね、
と口を開く沢近。
「正直に言うわよ。あなたが何か変だったから、ちょっと様子を見に来た……それだけよ」
「……心配してくれたんだ、愛理」
 直球でそう返され言葉に詰まる沢近。そっぽを向いて、余計なお世話だったみたいだけどね、とだけ言う。
「そんなことないよ」
 けれど、対する晶の返事はそんな答。それを聞いて、う、と益々赤くなる沢近。
「か、感謝するなら天満にしなさいよね」
「そんな、私は別に……」
「ん、まあそうだな。そもそも言い出したのは塚本だしね」
 戸惑う天満と頷く美琴。そんな三人の様子に、どういうこと、と尋ねる晶。
「天満がこう言ったのよ」
 それに答えるのは沢近。


「『――さっきの晶ちゃん、何処か遠くに行っちゃうような気がして』」
236Joker/hide mind:04/05/17 22:14 ID:qmlfIyEQ
「そう……」
 その言葉を聞いて、晶は短くそれだけを答える。
 そして思った――つまり友達とはそういうものだ、と。
「ありがとう、塚本さん」
 ――だから、晶は口にしない。
 例えば、彼が何故自分のところにやってきたのか。
「愛理も美琴さんも、ありがとう」
 例えば、彼が裏世界でその名を知られる者であること。
「それじゃ――」
 ――だから。
 夕日を背に、逆光の中で。
 絶対に三人からはその表情が見えないようにして。
 それでも確かに。
「――帰ろうか」
 それでも確かに、透き通るような満面の笑顔でそう言ってから歩き出す。
 まるで昇る朝日のように見える、そんな沈む夕日を連れて。
237Joker/hide mind:04/05/17 22:17 ID:qmlfIyEQ
晶大暴走。そして地雷にして鬼門と知りつつオリキャラもどき。
……次は大人しく、非恋愛で花ミコかサラ天満にします。
しかし、晶はなあ……
238宣伝:04/05/17 22:53 ID:w0Bdqwto
ども、俺とスクランBBSでリレー参加者募集してます。
ルールは一つ。「一つの作品として面白い物を目指す」です。参加希望の方は
BBSで名乗りをあげて下さい。よろしくお願いします。
239宣伝:04/05/17 22:56 ID:w0Bdqwto
GJ!いや、こう言うシチュエーション大好きです。次はうって変わってほのぼの系ですか
楽しみにしてます。
240Classical名無しさん:04/05/18 01:40 ID:xvBQ9CvE
>>217
実際に原作でも使われそうなオチが良かったです。

>>237
晶は原作でも公開されている設定が少ないので、どうしてもオリキャラ&オリジナル
設定(もしくは妄想、深読み)を織り交ぜないと厳しいよね。
独り善がりにならないギリギリのところで上手く処理してると思います。
241ねこ大好き 1/1:04/05/18 19:55 ID:crfBbw.Y
 ガサゴソという音が校庭の隅に座る俺の近くで聞こえた。直後、花壇から猫が顔を出す。
 んー、こいつは確か…… って、あの額の傷は忘れようがねえ。天満ちゃん家の伊織だ。
 バイク通学するほどの距離じゃねえけど、この高校まで結構遠いように思うんだが。
 冷静になっても空腹なだけのいつもの昼休みに現れたこの珍客、どうもてなしたもんか。

 ハラが減っているのはこいつも同じだろうから、とりあえず何か買ってくることにする。
 リッチに奢るには俺の財布が軽すぎるから、学食のもう熱くねえコロッケを半分分けだ。
 まあ、これくらいの量なら飼い猫に与えたとしてもそれほど問題はねえだろ。

 ケチ臭くゆっくり半個ずつのコロッケを味わう俺たち。しばし訪れる沈黙。

 ん? 俺より先に食べ終わった伊織がこちらを見据えている。やっぱり足りないか?
 じっと見つめるその視線の先を振り返ると、すぐ傍に、―――静かに微笑む女神がいた。

「あはは……。播磨くん、猫好きなの? その子、私の家で飼ってる伊織っていうんだ」

 言われる前から知っていたぜ、天満ちゃん! こんな所で二人きりになれるなんて!
 にぎやかな雰囲気が苦手なのか気を利かせたのか、伊織ももう姿を消してくれている。  
「いや、動物はみんな好きだぜ? もちろん塚本、お前も大好きだ」

 気付いてくれたかどうかは鈍いだけに確信が持てねーが、言えた! ついに言えた!
 ろくに返事ももらえないまま昼休みは終わっちまったが、照れてるんだよ ……な?
  
《おわり》
242Classical名無しさん:04/05/18 19:57 ID:crfBbw.Y
まあ、タイトル通りの思いつきネタです。
天満との接点に伊織を利用しようと思わない播磨はすごくいい奴。
243Classical名無しさん:04/05/18 20:51 ID:orkrp2sA

今日は矢神高校と御川高校の合同ハイキングの日である。
長い長い山道を登って頂上に着き、そこで昼食ということになった。

工具楽我聞は、播磨、花井、今鳥、麻生、奈良、冬木達2−Cの男子生徒と
國生陽菜は、沢近、周防、天満、晶、一条達、2−Cの女子生徒と
共に弁当を食べることになった。

周防「沢近、あんた、工具楽と一緒に食べればいいのにー」
天満「そうだよ、愛理ちゃん。私達に遠慮することなんかないよ」

しかし沢近は
「ううん、いいの・・・いつも話しているんだし。それに工具楽くんだって、他の
男子生徒と話したいんだと思うんだし」
と首を振った。

244Classical名無しさん:04/05/18 20:51 ID:orkrp2sA

一方・・・
播磨「工具楽、お前、顔に似合わず、体つきがいいな」
花井「うむ、武道をやっている僕も顔負けの筋肉だ。きっと日々鍛錬しているのだろう」
奈良「いいな。僕も体を鍛えようかな」
工具楽の逞しい肉体を見て、それぞれの生徒が感嘆の声を漏らした。

すると、工具楽の卓球部仲間の佐々木が
「こいつ、毎日、朝早く起きてトレーニングしてるんだぜ。体育祭でも
トップとったくらいだぜ」
と自分のことを自慢するかのように言う。
「俺も体育祭で1位を取ったが、どっちが早いか競争してみないか?」
と麻生が工具楽に誘いをかける。
「その競争、のった!」
工具楽が調子よく答える。すると周囲がざわめいて
「よし、工具楽と麻生のどっちが勝つか賭けしねえか?」
と声が上がった。
「これはやっぱり工具楽だろ」
「いや、案外、麻生が勝つかも知れないぞ」

「よーい、ドン!」
冬木の掛け声で、工具楽と麻生がダッシュする。しかし、結果はすぐに現れた。
工具楽が麻生を追い抜いて10秒早くゴールしたのだった。
周防「沢近!あんたの恋人、すげーじゃねーか!あんなに早く走れるなんて」
沢近「ふふふ。だって、彼は毎日、厳しい修行をしているんですもの」

245Classical名無しさん:04/05/18 23:38 ID:MiXfTRD2
究極の沢近キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!
http://henachoko.homeip.net/uploader/updata/20040518232756.gif
246Classical名無しさん:04/05/19 03:43 ID:tZVj.OvU
>>245
旗派うぜーよ
お前いろんなスクランスレに貼ってんじゃねーよ
247Classical名無しさん:04/05/19 12:04 ID:FTeCbFLM
いくら昨日が火曜日だからって、生ゴミ捨てるなよ…
248Classical名無しさん:04/05/19 15:11 ID:n39U417w
>>246
そいつは、旗派なんかじゃねーよ。ただの

  あ   ら   し

だ。
249Classical名無しさん:04/05/19 16:51 ID:JZmhiykM
削除依頼へRight now!
250宣伝:04/05/19 17:18 ID:w0Bdqwto
なんか楽しそうなノリだな、上の人の言い方
251Classical名無しさん:04/05/19 17:19 ID:G5VnBQro
今週の沢近のセリフだろ
252Classical名無しさん:04/05/19 19:34 ID:w7anRfBQ

おえびのえちぃ絵を見ててふと思ったんだけど
エロパロでなくこのスレでは、エロはどこまで許されるもんなんだろうか?


253Classical名無しさん:04/05/19 21:08 ID:tZhEwmU6
マガジンでOKなくらい
254cat meets girl:04/05/19 21:23 ID:qWTM3Kjg

 ララ・ゴンザレスはメキシコからの留学生、レスリング部が誇る名選手である。
 そして、留学中の最大の目的は、己が強いと認めたライバルである少女を打ち倒すこと。
 少女の名前は一条かれん、ララにとっては因縁深い出会いと名前を持つ少女だ。

 同じ部活のライバルである彼女を倒すため、ララ・ゴンザレスはあらゆることに全力を尽くす。
 日々のトレーニングはもちろん、体調管理や精神的な特訓もつんでいる。
 そして、それは食生活まで及び、毎日栄養やカロリー、消化の良し悪しまで考え抜いた
 いわゆるバランスのいい食生活を過ごしている。

 つまり、お弁当箱の中身は残さず食べなければ意味がない。 
 ……なので、先ほどから自分の目の前で、ひたすらじーっと焼き魚を見つめる黒猫に
 その焼き魚をあげるわけにはいかないのだ。
255cat meets girl:04/05/19 21:23 ID:qWTM3Kjg

「……」
「……」

 一人と一匹の間を、奇妙な沈黙が包む。お互いがお互いの目を睨みつけ、その眼差しは鋭い。
 二人の間にある空間は、まるでなにかが圧縮されたかのように密度が濃い。
 傍から見れば、喧嘩でもしているのではないか、と思わせるほどの緊張感。
 長すぎる一瞬、先に動いたのは伊織だった。

 シュバッ!

 ほんの僅かに体を沈めたかと思うと、全身を使って箸に向かって飛び掛かる。
 その速さは常人では、反応すらできないほどのスピードを有していた。
 だが、対峙する相手も只者ではない。いちはやく相手の体重移動を見極め、反応する。
 高速の動きで箸を横にずらす。完璧に行動を読んでいた。
 しかし、ララの予想以上だった黒猫の動きに、かすかに箸に猫の前足が当たった。
 ししゃもが箸から落とされてしまう。お互い、ししゃもに視線を送り、一蹴だけ動きが止まる。
 今度はララが先に動いた、動物の反射神経を上回る動きに、伊織にも驚きの色が隠せない。
 バレーの回転レシーブの要領で、前転しながらもししゃもを拾い上げるララ。
 素早く体勢を立て直し、黒猫を睨む。

(ただのネコではないナ…コイツ、デキル!)

 黒猫は、いったん距離をとる。ララから数メートル離れた地点で、左右に動く。
 それでも目線はただ一点、ララの右腕にあるししゃも。
 動きが止まった。
256cat meets girl:04/05/19 21:23 ID:qWTM3Kjg

(……クルカ!)

 黒い風が巻き起こった。人間にはできない四足歩行を駆使した最高スピード。
 全身を使ったしなやかにしてダイナミックな走りで、一直線にララに向かって突き進む。

「コイ!」

 迎撃体勢をとるララ、先ほどで奴の速さは学習済みだ。
 例え飛び掛って来ようとも、今度は間違いなく防げはずだ。
 しかし、黒猫はララの予想と全く違う行動を行なった。

「ナ、ナニ!」

 黒猫は飛び掛ってこなかった。そのままララの両足を駆け抜けたのだ。
 予想外の攻撃に、しばらく思考と動きが停止してしまう。
 慌てて振り向くと、すでにネコの姿はない。果たしてどこにいったのか。
 聴覚がなにかを捕らえる、ほんのわずかだが、葉っぱがゆれる音がした。

(上カ!?)
「ハァッ!」

 確認する暇はない、自分の肉体を最大限まで使った速さで後方へと飛ぶ。
 わずか間半髪、先ほどまで自分がいた場所にをなにか黒いものが落ちてきた。
 ヤツか!? それを確認しようと、すぐさま視線を下へと向ける。
 その瞬間、ララは何かを感じた、風の動きか、第六感か、ともかく後ろだと感じたのだ。

(……ナニ!?)

 振り向いたララが見たものは、躍りかかってくる黒猫の姿だった。
257cat meets girl:04/05/19 21:25 ID:qWTM3Kjg

(バカナ……さらにフェイントだト!?)

 素早く腕を下ろす、が、遅い。いや、動き自体が速くとも反応が遅かったのだ。
 ララの腕が降りきる前に 伊織はその顎で、まんまと獲物をくわえることに成功した。
 スタッと華麗に着地し、素早くししゃもを咀嚼する。
 自然界の掟、食べれるものはすぐに食べておく、その教えを忠実に守る伊織。
 わずか数秒でララのししゃもはキレイさっぱり伊織のお腹の中へと消えていった。

 ララは打ちひしがれていた。
 猫ごときと侮っていたワケではない、最初に対峙した時から只者ではないと感じていた。
 しかし、さすがのララも、猫を猫としか見れなかったのだ。
 まさか、獣である猫が、二つもフェイントを織り交ぜた頭脳プレイをしてくる、
 というのは想像の埒外だった。
 いや、何も言っても所詮は敗者の戯言、今回はヤツに完膚なまでに負けたのだ。

「……今日のショウブは、ワタシのまけダ」

 黒猫を睨みつけながら、ララは言葉を紡ぐ。

「しかし、次回こそワタシが勝ツ! ソレマデ待ってイロ!」
258cat meets girl:04/05/19 21:25 ID:qWTM3Kjg

 ビシっと人差し指を突き立てて、声高に宣言するララ。
 対して黒猫はなにも言わない、ただ、ララの目からひと時も視線を外さない。
 伊織はしばしララを見つめたあと、音もなく立ち去って行った。
 どうやら、言葉は伝わらなくとも、意味は通じたようだ。

「Ahi nos vemos」(また会おう)

 ララは主観的に相手に自分の言葉が伝わっている、と確認すると、くるりと振り返る。
 そして、堂々とした足取りで校舎へと帰っていった。
 その後姿は、好敵手にめぐり合えた歓喜と、それを打ち倒すべく決意した高揚が漂っていた。

 ……ちなみに、それを傍から見ていたアマレス部の友人は、
 ししゃもで、猫と熱いバトルを繰り広げた友人にたいして、どう声をかけたものか迷っていたそうな。


 fin?
259cat meets girl ♭:04/05/19 21:28 ID:qWTM3Kjg

「……イチじょーハいるカ?」

 2−Cの教室の入り口に立っていた、セミロングの可愛らしい女の子に尋ねる。
 少女は、突然のララの質問にやや戸惑いながらも一条の名前を呼ぶ、しかし、返事は無かった。
 ララ自身も教室を見回すが、やはり姿は見えない、どうやらここにはいないらしい。

「あの、一条さん教室にいないみたいです」
「そうカ、アリガトウ」

 女子生徒は女の子らしく微笑むと、やや窓際の後ろ側の席へと向かっていく。
 ここにいる理由は無くなった、ララは無言で2−Cの教室を後にした。


 仕方がないので、一人で昼食をとることにする。
 とりあえず、中庭の日当たりのいい場所で腰を下ろし、てきぱきと包みを開ける。
 人気のない寂しい場所だが、食堂といった人の多いところだと、周りの視線がうざったいのだ。
 外国人で美人、ということもあるが、ララのモデルのような体型と異国情緒溢れる顔に
 好奇の視線を贈るのは、なにも異性だけではない。
 
 静か過ぎる、食事の時間が始まった。

 食事を始めて数分後、いつのまにやら黒猫が近寄っていた。
 最初はお互いが無視をし合い、なにごともなく食事の時間が過ぎていくだけだった。
 しかし、ララがオカズの一つ、その雰囲気は風雲急を告げるが如く突然かわった。
 それは、ニホンで教わった魚料理の一つししゃも取り出した瞬間だった。
260cat meets girl ♭:04/05/19 21:28 ID:qWTM3Kjg

(コレは……殺気カ!?)

 ララは、五感に叩きつけるような殺気が放たれているのを感じた。
 素早く視線を動かし、耳を周囲に傾ける。が、周りに人の気配はない。
 確認できたのは……やたら食い入るような視線でララの右手を見つめる黒猫が一匹だけだった。

「……」

 無言で右手のししゃもを右に動かす。
 すると、猫の目線も右に動く。
 左に動かすと、猫の目線も左に動く。
 上下左右、どのように動かしても猫の視線はしっかりついてきた。

「……」
「……」

 奇妙な沈黙が二人を包んだ。
261cat meets girl ♭:04/05/19 21:28 ID:qWTM3Kjg

「……ワルイが、これをキサマにやることはデキない」
「にゃあ」
「ナゼナラ、このショクジはエーヨーバランスをカンガえたもので」
「にゃあ〜」
「ダカラ、ハヤくどこかへ行ケ」
「にゃう」

「……」
「……にゃあ」

 ララは本気で困り始めた。


「……フン、喰エ」

 最後は結局ララが折れた、ぽいっとししゃもは投げ捨てる。
 素早く黒猫は近寄ると、美味しそうに食べだした。

「マッタク…」

 不満をこぼしつつも、ララも自分の食事へと戻る。あらから食べ終わると、以前黒猫はそこにいた。
 そして、再びその小さな黒い瞳から、視線をこちらに向けてきている。

「モウないゾ、アッチへ行ケ」

 手でシッシと追い払うジェスチャーをするが、猫は動かない。むしろ、近づいてきたではないか。
 そして、ララの膝元までくると、その柔らかい頬を擦り付けだした。
262cat meets girl ♭:04/05/19 21:30 ID:qWTM3Kjg

「……ワルイが、これをキサマにやることはデキない」
「にゃあ」
「ナゼナラ、このショクジはエーヨーバランスをカンガえたもので」
「にゃあ〜」
「ダカラ、ハヤくどこかへ行ケ」
「にゃう」

「……」
「……にゃあ」

「……オイ、コラ………マッタク、ナンだというんノダ?」

 再び、二人の間に沈黙が包む。しかし、先ほどのような棘々しさはない。
 ゆるやかな昼の日差しの中、時間はゆっくりと過ぎていった。

 しばらくすると、黒猫は体全体を使ってララに擦り寄る。さらに時間が経つと、ぴょん、とララの
 ひざの上に乗り、小さな体をさらに丸めて気持ちよさそうに目をつぶった。

「……」

 ララはゆっくりと黒猫に手を伸ばす。黒い毛に覆われた体に触れた瞬間、ピクッと黒猫が反応した。
 慌てて手を引っ込めるララ。しかし、猫はこちらを向き、目を開いて「なんで?」と言いたげに首を
 かしげる。 もう一度、手を伸ばし、頭に触れる。黒猫は目をつぶり、心地よさそうにその手を
 受け入れた。猫は再びララの膝枕に顔をうずめる。

 ナデナデ ナデナデ ナデナデ……


 しばらく、のんびりと歩いてゆく時間が二人に流れた。
263cat meets girl ♭:04/05/19 21:30 ID:qWTM3Kjg

 キーン、コーン、カーン、コーン

 逢瀬の時間、というには大げさすぎて短すぎるか、ともかく二人の…いや失礼、
 一人と一匹の静かな時は授業のチャイムという、やや味気の無い電子音で終わりを告げた。

「ジャアナ……」

 いつもよりも無表情に立ち上がる、黒猫はこともなげに、ぴょんと地面に飛び降りた。
 小さな首を精一杯上に向け、何度目かの視線を送る。ララはそれを受け取ると、もう一度だけ
 あたまをなでてやろうと腰を下ろした。

「……あ、ララさ〜ん、なにしてるんですか?」
264cat meets girl ♭:04/05/19 21:31 ID:qWTM3Kjg

 突然の呼びかけに、ビクっとして立ち上がる。慌てて振り向くと、そこにはレスリング部の友人が。
 不必要なほどに素早く相手に向く、相手はその様子に少しビックリしているようだが、
 そんなことにララはかまっていられない。

「ナ、ナンでもナイ!」
「? そうですか、もうチャイムなりましたから、急がないと」

 分かっている、とだけ応えて、相手が向こうに言ったのを確認する。すぐさま振り向くが……
 そこには猫のしっぽの陰すら残っていなかった。ララの整った顔が日に陰る。 

「……」

 校舎の方向へと顔を向ける。気持ちのよい昼下がりでも、彼女の表情は冴えていない。
 それでも、授業はもう始まる、急がなくてはならない。ララが駆け出そうとしたそのとき

「にゃ〜」

 猫の鳴き声が聞こえた。
 慌てて振り返ってもソコには誰も見えない。しかし、その声は確かにララに届いていた。
 いろいろな想いを込めて、ララは静かに返事をする。

「……マタナ」

 見えない友人にそう告げると、静かになりだした校舎へと早歩きで帰っていく。
 もう一度だけ、嬉しそうな猫の鳴き声が聞こえた―――


 fin
265cat meets girlの中の猫派の犬:04/05/19 21:32 ID:qWTM3Kjg

 順 番 間 違 え ま し た  _| ̄|○

 本来なら お姉さん→○○(予定だった)→美琴→天満→最後の女の子、のハズだったんですが……
 二人もすっ飛ばしてしまいました、痛恨のミス、かなり恥ずかしいです。

 とまあ、どちらにしろ間違えているので>>33の方が言っていたララを追加してみました
 なぜ二本? かというと、今回はどちらにするか決められなかったからでして……
 (このシリーズは毎回、各キャラごとに二本ずつ書いて、どちらにするか選んでます)
 一本目はララらしく、二本目はこのシリーズらしくしたのですが、
 今回はどちらか決めることが出来なかったので、せっかくだからと二本とも投下しました
 いや、ララはこういう二つの部分で可愛いと思うのですよ
266Classical名無しさん:04/05/19 22:17 ID:3amBDnRA
>>265
ごちそうさまでした。
個人的には前者が良かったです。なんともララチック。
こういった緊迫した描写はifスレでは少ないので、そう言った意味でもディモールトベネ。
そして伊織に引っかけられたししゃもを渡さないララに萌え。勝ったら食べる気だったんだろうか?
267Classical名無しさん:04/05/19 23:23 ID:PYw28SP2
播磨と沢近のSSが書きたくなったから、初めてだけど書いてみた。

タイトルとか決めんの恥ずかしいけど、とりあえずは

『オープニング』

で。

そいじゃ、投下します。何か修正点とか助言とかあったら言ってくれい。
268Classical名無しさん:04/05/19 23:25 ID:PYw28SP2

「こないだみたいに後ろでジタバタすんなよ。本当に事故っちまう」

「・・・・シャラップ。あんたが必要以上にスピード出すからいけないのよ。
危なっかしいったらありゃしなないわ。」

私は手渡されたヘルメットをかぶって後部座席にまたがり、離れないようにしっかりとしがみついた。
バイクはドッドッドッと騒がしい音を立てながら田中商店を後にしてスピードを上げていく・・・・

――――――

部屋につくと、私はいつものように台所に行く。
あいつはそのまま自分の部屋へ行く。きっと漫画の続きでも書いてるのだろう。
私はエプロン姿になって髪をポニーテルにした後、今日買ってきた食材を紙袋から取り出し、
お鍋に火をかけたりして下拵えに取り掛かる。ここの台所の使い方にも結構慣れてきた。

ニンジンの皮をむいてちょっと大きめにカットする。
たまねぎが目にしみるのを我慢する。
ジャガイモをレンジにかける。

そう、私は今あいつにカレーを作ってやってる。

『あの日』以来、イトコさんが当直とかで家を空ける日はこうして私が晩御飯を作りに来てやっているのだ。
あいつがご飯を作れないと言うわけじゃないんだけど、
私の作るほうが美味しいに決まってるし、イトコさんも快く承諾してくれたから、あいつも黙っている。

―――そういえば、今日でちょうど『あの日』から一ヶ月だ――――
269落馬後:04/05/19 23:29 ID:6gWpwnUI
 ドサッ 落馬した愛理。
 何故かは分からなかった。
 でも、播磨の帽子を落ちないようにしている自分がいた。
「おい お嬢……平気か?」
心配した播磨が愛理に尋ねる。
しかし、愛理は返答せず、
「あんたのせいで負けたのよ。 このハゲ駄馬」
 ぼそっと呟いた。
 クラスメイトから歓声と拍手が沸きあがる。
「ありがとう! でも播磨君たちも頑張ったのよ!」
 播磨に対する態度とは正反対に、にこやかに歓声に応える愛理。
 プルプルと怒りに震える播磨。
 しかし、愛理の足の運びの異常に気付いた。
270『あの日』にまつわるお話:04/05/19 23:29 ID:PYw28SP2

烏丸君が転向する日が決まった。

一週間前に先生が、ホームルームの時間にそのことを発表してからずっと、
私は「告白するべきだ」と天満にいい続けてきた。
天満の気持ちはバレバレだったし、何より、
このまま終わるのは良くないことだと私の中の価値観が主張していたのだ。

だけど天満は私が促す度に「―――カレーのが」とか、「―――河童だから」とか、
とやかく言い訳をして、臆病に機会を拒んで、ためらい、怖がって・・・・

―――ついには、烏丸君が出発する2日になってしまい、私がこれまで以上に強く天満に促すと、
天満が

「どっちみち離れ離れになっちゃうんだから、私一人でしまっておいた方が・・・」

と、そんなことを涙目であきらめがちに言ったりするから、
私はいろんな気持ちが錯綜して、「このっ、意気地なし!!」と叫んで彼女の頬をたたいてしまった。


――――次の日、天満は学校を休んだ。
271落馬後:04/05/19 23:30 ID:6gWpwnUI
あ、すいません。 投下中止します。
272オープニング:04/05/19 23:36 ID:PYw28SP2
便宜上、名前にタイトルつけることにするわ。以後続き。


『あの日』

烏丸君がアメリカに発つ日、天満は午後になってから学校にはきたものの、
その様子は、彼女を知ってる人なら誰が見てもおかしいと思う位、違和感と寂しさが漂っていた。

本人はいつも通りにしようとしてるつもりでも、どうしても
「無理してる」のが透けて見えてしまって、それが余計に
私の胸を苦しくさせて・・・・・・何も言うことは出来ないのだと思ってしまった。

どうしてか涙が出そうになるのを必死でこらえながら
(ここで私が泣いてしまったら天満はもっと悲しむだろう)、
そのまま授業を受ける。こんなにつらい授業は初めてで、
でも、私にはどうすることも出来なくて・・・・


―――急に外からバイクのアクセル音が聞こえた。


びっくりして思わず外を見てみると、そこにはあのハゲ―――
(そういえばあいつも今日見かけなかった)
の姿はもうなく、ちょっとした間の後に思い切り教室のドアが開いた。


273オープニング:04/05/19 23:40 ID:PYw28SP2

驚いてその方向を見る。
あいつはここまで走ってきたのだろう。
息を切らしながら天満の座ってるところまで行くと、
驚いたままの天満を強引に引っ張り出して、
校庭にそのままにしてあったバイクのところにまで連れてった。
そのとき、あいつと天満は何か話してるようだったけど、
私はあいつが「・・・・・乗れ」と言ってるのしか聞こえなくて―――

天満が後部座席に乗るとバイクはスピードを上げて校門の外を出て行った。


―――空港に向かったのだろう。
烏丸君は3時の便で出発すると言っていたから、十分間に合うはずだ。
というよりも、お願いだから間に合って欲しい。
そう願わずにはいられないでいる私に、
不意に美琴が肩をたたきながら

「大丈夫、きっと間に合うって」

なんてやさしく言うから、私はこらえきれずに美琴の胸で泣いてしまった―――


あいつが学校に帰ってきたのは、夕方になってからだった。
今日のことでイトコ先生から事情を説明するよう呼び出されたらしい。
(イトコ先生、どうやら今日は当直で家に帰ることが出来ないみたいだ)
皆は天満の家に向かったが、
私は生活指導室から出てきたところを待ち伏せて、あいつと屋上で話をすることにした。

天満を叩いてしまったときに錯綜した感情を整理するためにも
どうしても聞きたいことがあったからだ。こいつにも、自分自身にも・・・・
274オープニング:04/05/19 23:43 ID:PYw28SP2

夕焼けがまぶしい。
あいつはサングラスをしているから平気なのかもしれないが
私には十分目に沁みた。

早速あいつに聞いてみる。

「どうしてあんなことしたの?好きだったんじゃなかったの?」

あいつは柄にも無く真剣な口調で言った。

「・・・・俺だって最初は、ラッキーだって思ってたよ。」

「だったら何で?」

私はさらに突っ込んで聞いてみる。

すると、あいつは、ふぅ〜っと大きなため息をついて、

「けど、やっぱ俺は天満ちゃんにほれてたんだよ。」

とだけつぶやいた。

その瞬間、その一言で私の中で必死に塞ぎ込んで、
溜め込んでいた感情が一気に溢れ出した。

「・・・・・ほんと馬鹿よね、大馬鹿。」

体が震えるのが、我慢できない。
言葉を選べない。
もう自分でもどうなってしまうかわからない・・・
275オープニング:04/05/19 23:45 ID:PYw28SP2

「・・・どうしたお嬢?なんで泣いてんだ?」

・・・デリカシーのないやつ。
今日の私はほんとおかしい。
こんなやつの一言で余裕がなくなって、泣いてるところまで見せるなんて・・・

「知らないわよ、そんなこと。
それよりもう『お嬢』って呼ぶのやめてくれない?ついでに『金髪』も禁止!」

私が気の向くままにまくし立てる。混乱してしまってか、まだ涙は止まらない。
そうこうしてる内に
"ぐうぅ〜"
っという呑気な音があいつの腹から聞こえてきた。

私はそれを聞いて、

「なに?お腹すいてるの?デリカシーのない体質してるじゃない。
・・・そうだ、これから私が夕食をご馳走してあげるわ。
この私の手作りが食べれるんだから光栄に思いなさい。」

と自分でも訳のわからないことを言ってしまった。
しかし、私の本能はそれに納得してるらしく、どうしても訂正する気にはならない。

そして私は『どうしてそうなるのか分からない』って表情をしてる
あいつを強引に引っ張りながら、屋上を後にした。
あいつに触れるとちょっとだけ気分が落ち着いた。

献立は勿論カレー。
最高に腕を振るってやろう。

あと・・・・天満には明日ちゃんと謝ることにしよう・・・・
・・・・その後に告白がどうなったかもちゃんと聞こう。


とりあえずここまで。続きはまだ推敲中。

>>落馬後さん、申し訳ない。あいがとです。
277落馬後:04/05/19 23:52 ID:6gWpwnUI
PYw28SP2さん、すいませんでした。
じゃ、続きを投下します。
278落馬後:04/05/19 23:54 ID:6gWpwnUI
 
「おい、その足はどうした? 引きずってるじゃねえか」
 播磨の指摘に動揺する愛理。
「こ、これくらい大丈夫よ。どうってこと……」
 愛理の返事を最後まで聞かずに足を触る播磨。
「な、何触って…いたっ」
「着地の時にやったんだろ? 無理すんじゃねえ」
 そんな播磨の言葉に弱みを見せたくない愛理は強がった。
「大丈夫だって言ってるじゃない! これくらい平気よ!」
「これでもか?」
 先程と同じ所を少し強く押してみる播磨。
「うっ」
 痛さに顔を顰める愛理。
しゃあねえなと播磨は愛理を抱き上げた。
「ちょ、ちょっと! なにするのよ!」
 予想外の播磨の行動に慌てる愛理。
「暴れるな。 保健室につれてってやるだけだ」
「だ、だからって、こんな格好で……」
「日本じゃ、『お姫様抱っこ』つってな、女の子憧れのポーズなんだぞ」
 その言葉に、愛理は反応した。
(お姫様? 私が? わかってるじゃない)
「じゃ、つれてってもらうわ ハゲ」
「ハゲは余計だ」
 互いに悪口を言い合いながら、保健室に向かう二人だった。
279落馬後:04/05/19 23:54 ID:6gWpwnUI
 保健室には、新任の姉ヶ崎先生がいた。
 入ってきた播磨たちに声を掛ける。
「あらハリオ。 どうしたの?」
「コイツ、騎馬戦で足をやっちまったんだ。 ちっと診てくんねえかな」
「じゃ、まず足を洗って砂やホコリを落としましょうか」
 その言葉に従い、足を洗い始める愛理。
 一方、姉ヶ崎先生と播磨は部屋の隅で会話を交わしていた。
(なにコソコソ話してるのかしら)
 愛理がそんな事を思っていると、
「じゃ、俺 外にいるからよ」と播磨は出て行ってしまった。
「あ、ちょっと! 待ちなさいよ」
 愛理の言葉を聞かず、ドアを閉める播磨。
「もお……バカ」
 小声で呟く愛理だった。
280落馬後:04/05/19 23:54 ID:6gWpwnUI
「じゃ、診てみようかしら」
 姉ヶ崎先生の診察が始まる。
「ふむ。 軽い打撲ってとこかな? 後は見学してた方がいいわね」
 愛理は訴えた。
「で、でも私、この後のリレーに出なくちゃいけないんです! なんとかなりませんか?」
 その言葉を聞いた姉ヶ崎先生はフフッと笑った。
「よし、じゃ湿布とテーピングでどうにかしましょう」
 愛理の顔がパアッと明るくなる。
「ハイ! お願いします!」
281落馬後:04/05/19 23:55 ID:6gWpwnUI
 テーピングをしながら、姉ヶ崎先生は愛理に話し掛けた。
「でも、ハリオの言った通りになったわね」
「え、播磨君が何ていったんですか?」
「『アイツはリレーに出るって言うはずだから、どうにかしてくれっって』 そう言ったの」
 自分の行動が播磨に予想されていた愛理。
 顔がみるみる真っ赤になっていく。
 そんな愛理に姉ヶ崎先生は更に続けた。
「そういえばアナタ、ハリオの好きなコ、誰だかしってる?」
 意外な質問に戸惑う愛理。
「え? どういう事ですか?」
「彼ね、告白してダメだったら、退学するって言ってたの。 まだいるって事はうまくいったか、返事がまだかなって」
 姉ヶ崎先生の言葉に過去の思い出が蘇る愛理。
(え? 告白して返事がまだって……もしかしたら わ、私?)
 混乱している愛理をよそに、テーピングが完了する。
「はい、終わり! でも、無理しちゃだめよ?」
「あ、有り難うございました。 あの、播磨君には…」
「大丈夫、内緒にしてあげる。 さ、いってらっしゃい!」
282落馬後:04/05/19 23:55 ID:6gWpwnUI
 
 保健室の外には、播磨が待っていた。
 播磨の顔を見た途端、真っ赤になる愛理。
「おう、終わったか。 ん? 顔が赤いぞお嬢?」
「だ、大丈夫よ! これはアンタのせいなんだからね!」
 播磨に指摘され、その場を走り去る愛理。
「あ、おい、待てよお嬢!」
 播磨がその後を追ってゆく。

「フフ 若いっていいわね」
 二人を見送る姉ヶ崎先生だった。
  
おわり
283落馬後:04/05/19 23:59 ID:6gWpwnUI
えー、投下前に確認を怠り、かぶってしまいました。 すみません。
さらに、ケガの処置ですが、これどうなんでしょうね。
今後は色々考えて投下します。
284Classical名無しさん:04/05/20 00:07 ID:ZNzTzS4c
>>276
良い感じに盛り上がってきましたねー
続きが早く読みたいです。沢近一人称(・∀・)イイ

>>283
GJです。
理想的な展開じゃないですか。お姉さんと沢近の絡みはぜひやって欲しい。
本編もジャージが発動しそうだし、旗絶好調ですな。
285Classical名無しさん:04/05/20 01:33 ID:TkdmkZQo
>オープニング
説明不足の描写が多すぎる気がします。
特に沢近の内面が書ききれていなく、
天満に対する感情はどっかにいってしまい、
いつのまにかそのまま播磨に対する感情にすりかわっているように読めてしまいます。
細部を直せば、とっても良いストーリーになると思うので、頑張ってください!

>cats meets girl
なにぃっ!
以前のストーリーにも、二本目があるんですかっ!?
超読みたいですっ。
ちなみに、私は後半の方が好きです。
なんかララに親近感が沸きますね。

>落馬後
こんなストーリーになるといいなぁ・・・尽丹・・・
後、作者の沢近に対する愛情が伝わってくるSSで良かったと思います。
それから、これは聞き流して欲しいんですが、
お姉さんはもっと播磨にべたべたして来る方が、私の好みです(w
286Classical名無しさん:04/05/20 01:53 ID:JZmhiykM
誰か新興派閥の匁派SSに挑戦してくれる猛者はおらんものかね?
287Classical名無しさん:04/05/20 02:36 ID:LGpehjfg
SSを初めて書いてみました。

とりあえずWhiteAlbumの緒方理奈シナリオを進めて参考にしつつ…

そ ん な ん で 大 丈 夫 な の か ?

まだ激しく導入部分なんですがちょっと投稿させてください。
では…
288二人の…:04/05/20 02:45 ID:LGpehjfg
 "本日のタイムサービスは…なんと!あわせて350円♪ きゅうりが3本で100円!"
夕ご飯前のこの時間、スーパーマーケット店内はすごく賑わっている。
最近、私は学校帰りにスーパーに寄ることが日課になっていて、もうこの雰囲気にもすっかり慣れてしまった。
今日はとりあえず鮮魚コーナーっと…

「お、愛理ちゃんいらっしゃい!今日の献立はなんなの?」
「あ、おばさま、こんにちは。今日はペスカトーレに挑戦してみようと思って…」
パートのおばさまたちにもすっかり顔を覚えられてしまって、
毎日必ず誰かから声をかけられるようにもなってしまった。 この人は鮮魚売り場の田中さん。
「ペスカトーレ? 聞いたことないねー」
試食用のむきえびをホットプレートで調理しながらおばさまはお話を続ける。
「ああ、えっとー魚介類を使ったスパゲッティっていう感じで…」
ムール貝、あさり、いか、ツナ、トマトソースをつかった海鮮スパゲッティってところかな。

 「それにしても愛理ちゃんとこのご両親がうらやましいわー こんな可愛い娘にご飯作ってもらえるんだからねぇー
 うちのムスメなんてあれよ、なんっにもとりえなくって ほんっとにあはははは」
こっちを向いて笑いながら塩コショウをサッサッと振って…
そ、そんなのでちゃんと味付けできているのかしら…ちょっと不安。
「そ、そんな…」

289二人の…:04/05/20 02:45 ID:LGpehjfg
 それにしても、どのおばさまたちもだいたい話の流れはいつもこんな感じ。
かならず"ご両親は愛理ちゃんにお夕飯作ってもらえて幸せね"みたいな感じで終わる。
おばさまたちとのちょっとした話は凄く楽しいけど…この話題になるといつもちょっと…
ブルー…

 だって、お料理作ったって、いくら美味しく出来たって食べるのは私と…あと―
うちのシェフが味見してくれるだけ。
一番食べて欲しい人…お父様はめったに家に帰ってきてくださらないし…
 確かにいつもかごには優に3人分の食材は入っているけど、
それは単に材料が一人分で売っていないからというだけで余った分はいつも捨ててしまう。
うちの厨房はスーパーで買ってきた食材なんて使わないし…。

 「それじゃがんばってね これはおばちゃんからの選別だよ」
おばちゃんが差し出したつまようじには赤みがかったソースがのった2尾の小さなエビ。
「ふふっ、ありがとうございます。」
店の、しかも試食用のものに餞別も何もないんだけど、とりあえず頂くことにした。
口に入れるとぷりぷりしたエビ、かかっているソースはどこにでもおいてあるような
ものだったけど十分に美味しい。 

そして、塩コショウは意外にも上品に味付けされていた。
290二人の…:04/05/20 02:53 ID:LGpehjfg
ふう…やっちまいました。
完結できるんやろうか・・・?

シェフが厨房使わせてくれないあたりの問題をクリアするの忘れてましたがまあそこらへんは省略ってことで…

さて、次くらいから話を動かしていきますか…
291Precious person:04/05/20 03:27 ID:qmlfIyEQ
 冬が終わって春が来て、やがて初夏が訪れて、次第に日足は長くなったものの、それでも夜の来ない日はない――ということで、
ここ、矢神町の教会にも夕暮れが舞い降りていた。
「ごめんね八雲、せっかく来てもらったのにいろいろ手伝ってもらってばっかりで……」
「ううん、そんなことないよ」
 みんなと遊ぶのは楽しいし、と笑顔を見せる八雲。その周りでは、にぎやかに子供たちが走り回っている。初めてのときこそ
警戒心を示していた彼らだったが、ものの一時間としないうちにすっかり『ヤクモ姉ちゃん』に懐いてしまい、今では週に数回
訪れる彼女を待ち遠しにしている、といった状態である。
 もー帰っちゃうのかー、などとまだまだ遊び足りない様子の子供たちを、ワガママ言わないの、と軽くたしなめてから、ちょっと
苦笑するサラ。
「ヤクモ姉ちゃんヤクモ姉ちゃん、って、みーんな八雲に取られちゃったみたい」
 私はお姉ちゃん失格かな、とおどけてみせる。
「そんな……」
 冗談と分かっても照れてしまう八雲に、サラ姉ちゃんも大好きだぞー、と子供たち。ありがと、とその頭をなでてから、
でもホントに助かったよ、とあらためて八雲にお礼を言う。
「何かお返し出来ればいいんだけど……」
 うーん、と思案顔のサラに、だったら、と一つ提案をする八雲。
「明日、ウチに来る? いつも私ばっかりお邪魔してるし……」
 どうかな、と普段自分から何かを言い出すことの少ない彼女らしく、控えめにサラの様子を窺う。対するサラは、嬉しいんだけど、
と少し複雑な表情でちらりと子供たちに視線を向ける。
292Precious person:04/05/20 03:28 ID:qmlfIyEQ
「あ――」
 それを見て、教会という場所の都合上、むしろ休日の方が何かと忙しいのでは、と事情を察する八雲。そんな八雲に、参ったなあ、
といった様子で先ほど同様、苦笑を浮かべながらごめんね、とサラが言おうすると。
「行っておいでよ、サラお姉ちゃん」
 子供たちの間から声が上がる。
「せっかくヤクモ姉ちゃんがさそってくれてるんだぜ?」
「るすばんくらいできるって!」
「……みんな」
 驚いたように周囲を見回すサラに、ただーし、と条件を付ける子供たち。
「こんどヤクモ姉ちゃんもいっしょにどこかに遊びにつれてってくれること!」
 こーかんじょーけんだ、などと慣れない言葉を使って、にかっ、と笑う彼らをぎゅっと抱きしめて、うん、ありがとう、とサラ。
「――八雲」
 どこか泣き笑いにも見える表情のサラに、うん、と頷く八雲。
「それじゃ、明日のお昼過ぎくらい……かな」
「そうだね……それじゃ待ってるから」
 うん、と今度は満面の笑みで答えて教会の外まで八雲を見送るサラ。その姿が見えなくなるまで見守ってから、今度は子供たちに
さ、それじゃみんなも帰ろうか、と声をかける。そんなサラに、サラ姉ちゃんさっきちょっと泣いてたよな、と誰かが言う。すると、
まるでつられるように、よなーよなーの大合唱。
「コラ、そういうことは言わないで黙ってるの」
 もう、といった様子で言ってみせるサラだが、その表情は笑顔。そしてそれが分かっているからまだまだやめる素振りのない子供たち。
そんな様子に、しょうがないなあ、と言いながらも嬉しそうに溜息を一つついてから空を見上げるサラ。
 夕闇の迫るそこには、一番星の姿があった。
293Precious person:04/05/20 03:28 ID:qmlfIyEQ
 ――翌日。
「ん……」
 外を行く車の音に、ゆっくりとベッドの上で身体を起こす八雲。随分と熟睡していたのか、いつになく気怠げな仕草で枕元の時計に
手を伸ばす。アナログの時計の長針と短針は綺麗に重なり、正午を示している。
「十二時……」
 そう呟いて時計を戻そうとした八雲の手がぴたりと止まる。
「え……?」
 もう一度視線を時計に戻す。
 針の後ろの文字盤には「XII」の文字――なら、時計がひっくり返っている、などということはない。
 窓の外には柔らかな陽射し――なら、まかり間違っても真夜中ということはない。
 ――つまり。
「っ……!」
 寝過ごした、という単純極まりない事態に、滅多に顔色を変えない八雲の表情に焦りの色が浮かぶ。時計を元に戻すや否や――ただし
丁寧に――即座に着替えに取りかかる。着る服自体は決めてあったためそれほど時間はかからなかったものの、脱いだそれを綺麗にと
畳むであるとか、きちんとベッドメイクするであるとか、生来の几帳面さがこういうところでは裏目に出るもの、そうこうしているうちにも
時計の針はくるくると進んでいく。
 ようやく片付けを終え、ぱたぱたと急ぎ足で階下に降りる。飛び込むようにして開けた居間の襖の向こうには、昼食の準備をしている
天満の姿。あ、やっと起きてきたね、おはよう、と笑顔で声をかけてくる。
「……おはよう、姉さん」
 その笑顔を見ると、さすがにどうして起こしてくれなかったの、などと問い詰めるわけにもいかず、とりあえずと腰を下ろす。食卓の上には
料理を不得手とする――小火を出すのは不得手などというレベルではないのではないか、というのにはこの際目をつぶる――天満らしく、
シンプルにトーストとサラダの昼食。
「ほんとは朝起こそうと思ったんだけどね、なんだか八雲、あんまり幸せそうに寝てるし……」
 起こせなかったよ、と笑ってみせる天満に、ごめん、と何故か謝ってしまう八雲。もちろんどちらが悪い、ということでもないのだろうが、
こういうところでもそれぞれの『らしさ』が出る姉妹、といった様相。
294Precious person:04/05/20 03:29 ID:qmlfIyEQ
「あの、姉さん。ゆっくりしてるところ悪いんだけど……」
 ともあれあまりのんびりとしているわけにもいかず、気を取り直して天満に事情を説明する八雲。すると、今度はそれを聞いて、ごめんね、
と頭を下げる天満。
「そんな、ちゃんと起きられなかった私が悪いんだよ。だから姉さんは気にしないで」
「……そう?」
 申し訳なさそうにこちらを窺う天満に、そうだよ、と頷いてみせる八雲。
「……うん、ありがと、八雲」
 それだけでまた笑顔に戻る天満。相手が相手なら現金とも取れる態度だが、そこが天満の魅力なのか、それをいたって自然に感じさせる。
脳天気というよりはおおらかでマイペース、それが塚本天満である。
 一方、元気を取り戻した姉の姿に微笑んでから、それでね、と話を元に戻す八雲。
「午前中にお茶請けにケーキでも買ってこようかと思ってたんだけど……」
「あ、それじゃ私が行ってくるよ」
 八雲のためなら、と即座に立ち上がりかける天満だったが、待って、とその八雲に引き留められる。
「ごめんね姉さん。やっぱり私が自分で行きたいから……」
「そっか。そうだよね、サラちゃんって大事な友達だっていつも言ってるしね」
 その言葉に、うん、とどこか気恥ずかしそうにする八雲。そんな妹を玄関まで見送りつつ、それじゃお姉ちゃんがしっかり留守番してて
あげるから、安心して行ってらっしゃい、と微笑む天満。
「すぐ帰ってくるつもりだけど……」
「大丈夫、お姉ちゃんに任せなさい!」
 どこからその自信がやってくるのか、どん、と胸を叩いてみせる。そんな仕草に思わず微笑んでから、頼りにしてるからね、と八雲は家を出た。
295Precious person:04/05/20 03:29 ID:qmlfIyEQ
「さて、と……」
 八雲を送り出して居間に戻った天満、まずは、と洗い物を手早く済ませ、部屋の掃除に取りかかる。
「せっかく来てもらうんだから、気合い入れないとね」
 鼻歌交じりにてきぱきと作業をこなしていくその姿はどこか家庭的、播磨辺りが見れば一発で、といった様子である。
 ともあれ、そんなことをしているうちに、玄関の方から呼び鈴の音が聞こえてくる。
「はいはい、今出まーす」
 とてとてと駆けていく玄関先、からからと開けた引戸の先にはサラの姿。
「こんにちは、塚本先輩」
「いらっしゃい、サラちゃん」
 一昨年の花火の際に会って以来、八雲を介して何度か会っていることもあり、既に気安い関係になっている二人。八雲今ちょっと出てるから
少し待っててね、という天満の言葉に、そうなんですか、と頷きながらその後に続いて居間に向かうサラ。
「素敵なお部屋ですね」
 ぐるりと見回して、そんな感想を抱くサラ。見るからに豪勢、ということはないものの、置かれている調度品は自己主張しすぎない程度に
味のあるものばかり。そこに紛れてぬいぐるみの姿も見え隠れしているのはご愛敬、といったところになるだろうか。
「うん、そういうのって八雲が好きでね、バイト代でやりくりしてるみたい」
 そうなんですか、と返事をしつつ、茶碗や漆器をじっと睨んでいる八雲の姿を想像してみるサラ。なかなかどうして、それが似合って見えて、
小さく笑みがこぼれる。
296Precious person:04/05/20 03:29 ID:qmlfIyEQ
「あれ?どうかした?」
「いえ、ちょっと……」
 想像しちゃって、と説明するサラに、うん、あのときの八雲はすごいよ、と天満。
「なんだか真剣勝負、っていう感じだし……それに」
 なんと、と重大な秘密でも話す様子に小声になる。
「値切っちゃったりするんだから」
「八雲が、ですか?」
 確かに見かけによらず真の部分では譲れないものをしっかりと持っている八雲だが、サラの知っている限り、他人に対して前に出ることは
ほとんどと言っていいほどない。
 そんな驚いているサラの様子に、そうだね、と言葉を続ける天満。
「うん、八雲ってあんまり自分から出ていくっていうタイプじゃないし」
 そういうときはいいんだけど、学校とかちょっとだけ心配してたんだ、と少し遠い目をして言う。
「先輩……」
「でもやっぱり心配しすぎだったよ。ちゃーんとサラちゃんみたいないい友達も出来たし」
 にこにこと微笑みながら言う天満に、そんな、と少し赤くなるサラ。
「私の方こそ、こっちに来て最初に仲良くなれたのが八雲でよかった、って思ってます」
「そうなんだ。それじゃお互いいい人に会ったんだね」
 どこか気恥ずかしさを感じつつも、はい、とその言葉に頷くサラ。確かに、あれ以来自分たち二人の交友関係はずいぶんと広がりを見せた、
と思い出の中を振り返る。
297Precious person:04/05/20 03:31 ID:qmlfIyEQ
「でも、やっぱり八雲は八雲だよね。サラちゃんみたいにもっとみんな分かってくれたらな」
 暖かい眼差しでそう口にする天満に、私のことはともかくとして、と断ってから、そうですね、と頷こうとして。
「――あ」
 そうか、と一つのことに気がつくサラ。
「あれ?私おかしなこと言ったかな」
「そんなことないですよ。ただ……」
「ただ?」
 首をかしげる天満に、分かったんです、と笑顔で言うサラ。
「どうして八雲が塚本先輩のことが好きなのか、その理由」
「え?なになに、どういうこと?」
「ダメです、こういうのは秘密だからいいんですよ」
 その言葉に、むむ、と眉をひそめて考え込む天満に小さく苦笑しつつ、ぴんと指を立てて、それじゃヒントです、とサラ。
「八雲が塚本先輩のことを話すときなんですけど――」
 うんうん、と頷く天満。
「――姉さんは姉さんだから、って。嬉しそうによくそう言ってるんです」
 それが先ほど言った自分の言葉と同じだと気づいているのかいないのか、それがヒント、と考え込む天満。その姿に、そういうところが
ですよ、と思いながらも口にしないサラ。
 空回り、勘違い、失敗することはあっても、いつだって一生懸命、どこを向いても常に全力のベクトル。
 詰まるところ、そんな『塚本天満らしさ』こそが彼女の魅力そのものであり、それを無償の愛情として受け取っている八雲からしてみれば、
好きになる道理こそあれ嫌いになる理由はない、といったところ。
 姉さんみたいになりたい――そんな八雲の言葉を思い出しながら、まだ難しい顔をしている天満に、そんなにややこしく考える必要ないですよ、
と言おうとするサラ。
298Precious person:04/05/20 03:31 ID:qmlfIyEQ
 ――と。
「ただいま」
 玄関の方から声がする。
「あ、帰ってきたみたいだね、八雲」
「ですね」
 つい今しがたの表情はどこへやら、ぱっと明るい表情に戻る天満。さっきの答え、今度までに考えておくからね、と宣言までしてみせる。
分かりました、と笑顔でサラが頷いていると、廊下から顔を出す八雲。
「いらっしゃい」
 ごめんね、待たせちゃって、とこんなときまで律儀に謝ってみせる八雲に、そんなことないよ、とサラ。
「塚本先輩ともいろいろお話し出来たし、全然気にしてないよ」
「ありがとう、サラ」
 その言葉に笑顔でそう返し、それじゃもうちょっと待っててね、と台所に向かう八雲。
「あ、私も何か……」
 それを見て立ち上がりかけたサラに、だーめ、と立ち上がって腰に手を当てる天満。
「お客さんはじっとしてるのが仕事なんだよ」
 それじゃ待っててね、と八雲の後を追うように台所へぱたぱたと駆けていく。やがて聞こえてくるのは、にぎやかな姉妹の声。
お茶の準備一つでお祭りめいたその様子に、ちょっと困ったような、でも優しげな八雲の表情が脳裏に浮かぶサラ。
「……お姉さん、か」
 くすりと微笑みながら、思わずそんな言葉がこぼれる。
 窓の外に目を向ければ、穏やかな風が吹く晴天の空。見上げる日はまだまだ高く、これからやってくるだろう時間のことを思って、
サラはもう一度微笑んだ。
299Precious person:04/05/20 03:34 ID:qmlfIyEQ
八雲が骨董好きなんて設定はどこにもありはしませんが……
サラ天満のはずがメインは八雲。どうしたものやら。
300オープニング・中の人:04/05/20 07:41 ID:LvKfmb5c
>>284
サンクスコ。頑張るよ。

>>285
了解。
とりあえず書いちまったとこまでについては、脳内で補完しといてくれw
続きはもっと描写書き込んで、頑張るよ。



SSって世界一むずかしーわ。
脳内で妄想してる文章はSSじゃ全然使えないじゃない。
まぁ、好きなんだけどね。

こんなの思いついちゃった。とっとと続き頑張るよ・・・
301Classical名無しさん :04/05/20 16:27 ID:6gWpwnUI
大丈夫かな?
体育祭おにぎり編を投下します。
302体育祭おにぎり編:04/05/20 16:28 ID:6gWpwnUI
「せーの、よいしょっと」
八雲とサラは、体育祭の実行委員だった。
スポーツ万能の八雲だが、競技は苦手なので、裏方に回っていた。
一人じゃ大変だからと、自分も立候補したサラ。
二人は、大道具の片付けを担当していた。
「これさえ片付ければ、楽になるよ。 がんばろ、八雲」
サラが八雲にニコッと笑いかける。
「うん」
 八雲もつられて微笑んだ。
 静かな午後だった。
 あの騒動が起こるまでは。
303体育祭おにぎり編:04/05/20 16:29 ID:6gWpwnUI
「どこだー!」
「そっちに行ったぞ 追えー!」
遠くから騒がしい声が近づいて来た。
「ねえ、八雲。 何か騒がしくない?」
 声に気付いたサラが八雲に尋ねる。
「うん、ぞうだね…」
 八雲も気付いてはいたが、正体が分からないのでは、相槌しか打てない。
 そんな会話をしていると、ドドドドドド…という音が二人に近付いてきた。
 
音の正体は、播磨だった。
小脇に子豚を抱え、猛スピードで走ってくる。
「あ、播磨先輩だ。 どうしたんだろ?」
 サラが疑問を口にしたとき、播磨は叫んだ。
「スマン! ちっとばかし、匿ってくれ!」
 即座に二人は反応した。
「八雲!」 「うん!」
 スッと人一人が隠れるスペースが作られる。
「ありがとよ! 二人とも!」
 播磨が駆け込むと同時に、カモフラージュする八雲とサラ。
「ワリイ。 誰が来ても、とぼけておいてくれねえか?」
 何か事情があるのだろう。 二人は互いに頷いた。
304体育祭おにぎり編:04/05/20 16:30 ID:6gWpwnUI
 播磨が隠れて数分後、生徒会の面々がやって来た。
「こっちに子豚が逃げてきませんでしたか?」
 その問いにサラが答える。
「その子豚なら、さっき、向こうの方にいきましたけど…」
 とんでもない方向を指差すサラ。
 それは、校門の外だった。
「くそっ、校外に逃げられちゃ仕方がない。 あきらめよう」
 生徒会の面々は、あきらめた様子で帰っていった。
 
「もういいですよ、播磨先輩」
 しばらくして、播磨を外に出す二人。
「おう 悪かったな、二人とも」
 安心した様子で、礼をする播磨。
「おい、お前からも礼を言っとけ」
 傍らの子豚に播磨が言うと、「ぶひっ」と返事をした。
「あれ? このコ、ひょっとして…」
 サラの疑問に播磨が答える。
「ああ、ナポレオンなんだ、こいつ」
「へえ、こんなに大きくなって…ってどうしてココに?」
「ああ、それなんだがな…」
 播磨が語り始めた
305体育祭おにぎり編:04/05/20 16:31 ID:6gWpwnUI
「コイツ、俺に会いたくて、脱走して来たらしいんだよ」
「ええー? だ、脱走?」
 即座に播磨が二人を制する。
「シッ 声が大きい」
 人差し指を口に当て、二人に小声で話すようにと言う播磨。
「でよ、それだけならよかったんだけどよ」
「何か、凄い事やっちゃったんですか?」
ハアーと溜息をついて播磨は言った。
「コイツ、パン食い競争のパンを全部食っちまったんだ」
「プッ クスクススクス」
 こらえきれずに、笑い出す八雲とサラ。
「それなら、生徒会の人達も怒りますよね」
「だろ? それで隠れるところを探してたって訳なんだ」
 それを聞いて、サラは言った。
「じゃ、ココに隠れてればいいですよ。 私たち以外は誰も来ないし。 ね、八雲?」
 八雲もサラに同調した。
「う、うん。 体育祭が終わるまで、私たちが見てます」
「いいのか? そんじゃ、なにか礼をしなきゃな」
「なら、ふたつあります」
サラが何かを思いついたようだった。
306体育祭おにぎり編:04/05/20 16:32 ID:6gWpwnUI
「ふたつ? 俺でよけりゃ、なんでもするぜ」
「大丈夫です。 播磨先輩しか出来ない事です」
「な、なんだそれは?」
 動揺する播磨にサラが続ける。
「ひとつ、八雲と一緒にこのコを動物園に返しに行くこと」
 意外と簡単な要求に、播磨はほっとした。
「ああ、それぐらいなら、お安い御用だぜ」
「いいえ、ここからが重要です」
ビシッと指差すサラ。
「私を『サラ』、八雲を『八雲ちゃん』と呼んで下さい」
「そ、それは…」
 返答に窮する播磨にサラは畳み掛ける。
「いつまでも、『妹さん』や『妹さんの友達さん』は嫌なんです。 私達にだって、名前があるんです。 播磨先輩、名前で私達を呼んで下さい!」
サラの必死な表情に、播磨も観念した。
「わ、わかった。 でも、呼び捨てでいいのか?」
「ええ、構いません。 仲のいい人には、そう呼んで欲しいんです」
 にっこりと微笑むサラ。
「ね? 八雲もその方がいいよね?」
 いきなり話題を振られた八雲は、真っ赤になって俯いてしまう。
307体育祭おにぎり編:04/05/20 16:32 ID:6gWpwnUI
『八雲ちゃん』
 言って欲しい言葉。
 夢にまで見た言葉。
 言われたら、どんなに嬉しいことだろう。
(呼ばれたい でも…恥ずかしい いいえ、ここで言わないと…)
 複雑な思いが八雲の中を駆け巡る。
 必死になって、何かを話そうとする八雲。
 暫くの逡巡を経て、八雲は決意した。
 消え入りそうな声で、播磨に言った。
「お、お願いです…… 私を…名前で呼んでください…」
よほどの決意があったのだろう、八雲は目に涙を浮かべて播磨に訴えた。
その様子に播磨も決意した。
「わかった…『八雲…ちゃん』」
 小さい声だったが、確かに呼んでくれた。
「うれしい…」
 八雲に涙が溢れ出す。
 サラがそっとハンカチを差し出す。
八雲が涙をぬぐっていると、放送が入った。
『2年生の騎馬戦の選手は、入場門に集合してください。 繰り返します…』
「お、もうそんな時間か。 じゃ、ワリイがコイツ頼む」
「はい、頑張ってきてください」
「おう じゃ、行って来るぜ サラ! 八雲ちゃん!」
 真っ赤になって走っていく播磨。
 その後姿を見送って、サラは言った。
「よかったね、八雲…」
 
秋の午後、騎馬戦が始まろうとしていた。
 
おわり
308体育祭おにぎり編:04/05/20 16:32 ID:6gWpwnUI
体育祭で、八雲の出番がなかったので、SSしてみました。
どうでしょうか?
309Classical名無しさん:04/05/20 16:37 ID:ZNzTzS4c
また八雲の名前落ちかよ!?!



…すみません。聞き流してください。
GJです。ナポレオンが出てきた時点で、八雲と絡んでくれないかなぁ…
と思っていたので、楽しませていただきました。
310Classical名無しさん:04/05/20 16:46 ID:TShaintE
八雲→ちゃん
サラ→呼び捨て

……あれ? もしかして黒い?
311Classical名無しさん:04/05/20 16:52 ID:k01SN6nU
…黒サラの方がメインでしたか…
前言撤回です。さっきの言葉は本当に聞き流してください。
また、ただの八雲の名前ネタループだと思ってしまったので。
すみませんです。
312Classical名無しさん:04/05/20 17:14 ID:q.5BsPFE
いや、気持ちは分かる。
八雲ネタは呼び名しかネタないのか・・・
って時々俺も思うから。
313体育祭おにぎり編:04/05/20 18:56 ID:6gWpwnUI
あー、なるほど。
いつまでも妹さんはねぇだろと名前呼びにしてみたんですが。
じゃ、それ以外でおにぎりやってみます。
314Classical名無しさん:04/05/20 20:20 ID:w7anRfBQ

名前オチは確かに多いね
まあ、おにぎりSS全てのオチがそれとは限らないけど
315Classical名無しさん:04/05/20 22:24 ID:HoYLmJ2A
>313
ごめんね。
あなたのSSが悪いわけじゃ、絶対ないから・・・
316体育祭おにぎり編:04/05/21 00:02 ID:6gWpwnUI
名前呼び以外でおにぎりと黒サラです。 投下します。
317喫茶店でおにぎり:04/05/21 00:03 ID:6gWpwnUI
 土曜日の昼下がり。
 駅前の喫茶店に播磨はいた。
 八雲にマンガを見て貰う事が、最近の土曜日の習慣だった。
「……だと思うんです」
 マンガの感想を述べる八雲。
「ふーむ、なるほどな」
播磨も八雲の言葉は素直に聞いている。
一通り推敲を済ますと、夕暮れ時だった。
「お、もうこんな時間か。 よかったら送って行くけど、どうする?」
 播磨の問いに、八雲は申し訳なさそうに言った。
「すみません、これからサラと買い物の約束があって…」
「そっか。 じゃ、また土曜日に持ってくるからよ」
「はい、お待ちしています」
 播磨が腰を浮かしかけた時、サラが店に入ってきた。
318喫茶店でおにぎり:04/05/21 00:04 ID:6gWpwnUI
「八雲、おまたせ…って、お邪魔だったかな?」
悪戯っぽい仕草で、二人を見比べる。
「いや、そんなことないぞ。 丁度終わったとこだ」
 なあ? と八雲に同意を求める播磨。
 八雲も、コクコクと頷いている。
「そうなんですか? いいですけどね。 あ、ちょうど播磨先輩に見せたい物があるんですよ」
 そう言いながら、カバンの中から一枚の写真を播磨に見せる。
「なっ? これは…」
 サラの肩をガシッと掴み、店の奥に移動する播磨。
「ちっと、待っててくれ。 すぐに終わるからよ」
八雲にそう言って、サラの元に戻った。
「サラサン? コレハ?」
 愛理に対しての態度のような播磨。 写真を指差す。
 それは、天満と体の入れ替わった伊織が播磨にじゃれ付いている写真だった。
「いや、あの、これは…」
 しどろもどろになる播磨。
「八雲が知ったら、傷つきますよね?」
 サラの一言に、播磨はうっと詰まる。
 ショックを受ける八雲。 天満が心配する。 それは困る。
 どうしたらいい? 悩む播磨にサラが言った。
「写真をわたすには、条件があります」
 サラの提示した条件は、意外なモノだった。
319喫茶店でおにぎり:04/05/21 00:04 ID:6gWpwnUI
「一言でいいんです。 八雲に言って下さい」
「いいのか? それで」
 拍子抜けした感の播磨にサラは言った。
「どうしよっかなぁ、この写真」
「わ、わかった! 言う!言うから返してくれ!」
 懇願する播磨。
「じゃ、言ってくれますね?」
 サラの念押しに播磨は覚悟した。
「わかった。 ホントに返してくれるんだな?」
「ええ、もちろんです」
320喫茶店でおにぎり:04/05/21 00:05 ID:6gWpwnUI
 時間にして数分。
 播磨とサラの様子を八雲は見ていた。
 明らかにいつもの播磨ではない。
 心配していると、話がついたのか播磨が戻ってきた。
「播磨さん、大丈夫ですか?」
 八雲の問いにぎこちなく頷く播磨。
 そして、意を決した表情で八雲に言った。
「あ、明日 オレとデートしてくれないか、妹さん」
 それだけ言って真っ赤な顔で俯いてしまった播磨。
 突然の申し出に混乱する八雲にサラが助け舟を出す。
「ちょうどココに遊園地のチケットが2枚あるんだ。 行っておいで、八雲」
 チケットを手渡し、微笑むサラ。
「わ、わかりました。 行きます」
 八雲もそれだけ言って、俯いてしまう。
「じゃ、決定ですね。 明日、頼みましたよ?」
 念を押しながら、播磨に写真を手渡すサラ。
「それじゃ、私はこれで。 明日のデート頑張ってね、八雲」
 そう言って、サラは店を後にした。
(今度から、この手で二人を仲良くさせよう)と思いながら…
 
おわり
321喫茶店でおにぎり:04/05/21 00:06 ID:6gWpwnUI
結構すごいSSになってしまいました。
一日に2つもSS投下して何やってんだろオレ…
322Classical名無しさん:04/05/21 00:25 ID:fnDew4Ao
>それは、天満と体の入れ替わった伊織が播磨にじゃれ付いている写真だった。
って意味不明。
323Classical名無しさん:04/05/21 00:31 ID:uEHLkSGA
…何故天満とじゃれついていたら八雲が傷つくんだろう…
そして、播磨は何故八雲が傷つくと思ったんだろう…


…聞き流してください
GJです。二作品も投稿していただき、感謝です。
324Classical名無しさん:04/05/21 00:34 ID:w7anRfBQ
>>322

今月のマガスペの話でないの?

それにしても、このスレのせいで
サラの好意が裏のあるように見えて仕方がない(笑)

>>321
話の内容はオーソドックスな感じで良いと思います
ただ、播磨がデートに誘った時の八雲の描写を
もっと詳しくえがいて欲しかったですね
325Classical名無しさん:04/05/21 01:00 ID:HW1RrCao
いや、マガスペの話なのはわかるけど
天満と播磨がじゃれついてたら八雲が傷つく と播磨が認識
→八雲が播磨に好意をもっており、かつ、そのことを播磨自身が知っている
ということになる。今の時点でその条件をちゃんと説明せずに書くのは行き過ぎかと。
326宣伝:04/05/21 01:17 ID:w0Bdqwto
度々すんません。リレー小説の広告に参りました。
「俺とスクラン」BBSでリレー小説の企画を立ち上げています。
もう少し人数が欲しいので、よろしければ参加お願いします。
327Classical名無しさん:04/05/21 01:46 ID:KPuxYtec
>>325
→八雲が天満に強い好意を持っているから。
だと思われ。別におかしかないよ。

…ただ、八雲があっさりデートを承諾するのはどうか、と思ったけど。
328Classical名無しさん:04/05/21 02:39 ID:0RxPSUyE
つーかよ、八雲の名前オチが安易だというなら、
無理やりサラが八雲と播磨をくっつけたがっている、という
設定ももうすでにお腹一杯
329Classical名無しさん:04/05/21 08:09 ID:fnDew4Ao
>>327
>かつ、そのことを播磨自身が知っている
330喫茶店でおにぎり:04/05/21 08:43 ID:6gWpwnUI
んー、色々なご意見どもです。
じゃ、サラ抜きでおにぎり考えてみます。
331Classical名無しさん:04/05/21 09:15 ID:Ok/m7zDo
>>265遅レスだがGJ!
二作ともララらしくて良かったと思う
そして俺もボツになった前の作品が激しく見たいんだが
332オープニング・中の人:04/05/21 22:07 ID:gilGbVU2
続き投下。

指摘された点が直ってるかは自分では確認できないから、つっこみとか宜しく。

私はカレーが焦げないように、お丁寧にかき混ぜながら、あの日のことを思い出していた。
今こうして思い出してみても、あの日の私の行動は理解の出来ないものばっかりだなと思う。

「ほんと、突拍子の無い真似しちゃったわよね。」

私は一人でつぶやきながら、味見をしてみる。

・・・少し甘口になってしまった。
あいつは辛いほうが好きだからもう少しスパイスを足そう。
私は冷蔵庫からスパイスを取り出し、それをカレーの中に加えていく。

あいつ、辛いのが好きだから・・・・
スパイスを加えて、おなべをかき混ぜながら考える。

――――あいつ。

あいつの部屋に来るようになってから、
私はあいつについて今まで知らなかった、いろんなことを知って、
これまでこいつのことで色々と誤解していたのだと分かるのに、それほど時間はかからなかった。
漫画のこと、バイクのこと、
イトコさんとのこと(最初は誤解してひどく狼狽してしまった)、
姉ヶ崎先生とのこと(また膝蹴りを入れてしまった)、
動物に好かれること、動物園に通ってること・・・・・
本当のこいつは思ったほどワルじゃなくて、やさしくて、まっすぐで純粋なのだ。
ただ、とことん不器用で、タイミングが悪い。

そして、そんなあいつの素性を改めて知るたびに、私の中で衝動が駆け巡って・・・

それは、あの日に溢れ出してしまったわけの分からない感情にとても似ていて、
いつでも、どこまでも私を狂わせようとする。

不意に私を喜ばせ
なぜか私をイライラさせ
つい膝蹴りをかましたくなる

あまりにも不安定な感情

――――私はあいつのことがずっと前からあいつのことが好きなのだ。
335オープニング:04/05/21 22:12 ID:gilGbVU2

その正体が分かったのはついこの間。

美琴から急に

「あんたも好きならはっきり言っちまいな。近頃のあんたは見てるこっちがヒヤヒヤするよ。」

と言われ、その時情けないながら気が付いたのだ。

それのせいでイライラしていたのだろう。
天満へ強く接してしまったのも、
まるでそれを自分自身のことのように感じたからかもしれない。

自分自身のこととなるとこんなにも鈍感だったなんて・・・・
336オープニング:04/05/21 22:14 ID:gilGbVU2

―――あいつのことが、好き

今この瞬間も、私はその想いのせいで、身が焦がれそうになる。
ふとしたときのあいつの仕草が、
動物を見てるときの横顔が、
あいつの何もかもが好きで好きでたまらない。

いつを独り占めして、あいつに独り占めされたい。
いつもでたまらなくそう思ってしまう。


あいつはどうなのだろう?

天満のことはふっ切れたのだろうか?
あいつは天満を空港に送りに行った張本人だし、
天満のこれからの想いにもきっと気が付いてはいるのだろう。
それでもあいつは、もしかしたら・・・・


私と過ごすこの時間をいつもどのように感じているのだろう?

前よりも普通に会話をする機会は増えたけど・・・・
時折、冷やかされることがあって、私がしどろもどろになりかけてるのに、
こいつはそんなときはいつも、そっぽを向いて何もしゃべらないし、無反応みたいだし・・・・・

憶測で物事を語ってもどうにもならないということは知ってるけどどうしても気になってしまう。
337オープニング:04/05/21 22:17 ID:gilGbVU2

これからもこのままの関係でいることについて、
あいつはどう思っているのだろうか。

もうあの日から一ヶ月も経ってる・・・・


出来れば――――


「・・・・あ、やっちゃった」

考え事が過ぎたせいか、スパイスを入れすぎてしまった。
もう一度、味見をしてみる。

うぅ、やっぱりちょっと辛すぎるかも・・・・

ため息が漏れてしまう。
けどこれ以上手を加えてもよくなりそうな感じもしないし・・

「まぁ、出来たもんは出来たんだし、食べれないって程じゃないし、
これ以上待たせても悪いし、別にこれでも大丈夫でしょ。
・・・さてと、あいつを呼ばなきゃ。」

私は独り言をして自分自身を納得させると、
お鍋の火を止めて、あいつの部屋の前まで行きドアをノックした――――
338オープニング・訂正箇所:04/05/21 22:21 ID:gilGbVU2
>私はあいつについて今まで知らなかった、いろんなことを知って、
 これまでこいつのことで色々と誤解していたのだと分かるのに、それほど時間はかからなかった。

→私はあいつについて今まで知らなかった、いろんなことを知って、
これまで色々と誤解していたのだと分かるのに、それほど時間はかからなかった。

>あ
 いつを独り占めして、あいつに独り占めされたい。

→あいつを独り占めして、あいつに独り占めされたい。


すまね。とりあえずここまで。てかこんなに長くなるはずじゃなった・・・・orz
339Classical名無しさん:04/05/21 22:40 ID:VYocZ.72
GJ!
良いですね、沢近の語り
基本的な文章力は凄いあると思うので、慣れてくれば素晴らしく上手くなるヨカーン
これからも頑張って下さい、応援してます。そして続きに期待(´∀`)
340Classical名無しさん:04/05/22 01:48 ID:JZmhiykM
アンタ、最高にいい読者さんだよ。
341Classical名無しさん:04/05/22 02:40 ID:w7anRfBQ
そんなことをわざわざ言うアンタも良い人だよ
342Classical名無しさん:04/05/22 02:46 ID:TShaintE
そして、何と無くアンタも良いヒトだよ・・・・・・
343Classical名無しさん:04/05/22 03:27 ID:G5VnBQro
俺は悪い人なんで感想など書かない
344二人の…A:04/05/22 17:54 ID:A8ij7L4w
ひととおり材料も買い物かごに入れ終わってスパゲッティ売り場にむかおうとしたそのとき
「あ」
出会った私とアイツは同じ言葉を発してしまった。
「な、なんであんたがここにいんのよ」
「何言ってんだ、俺はここの常連だっつうの お、おめえこそなんでこんなとこにいんだよ」
このバカの名は播磨拳児。私に告白してきたくせにそんなそぶりも見せないわけわかんないヤツ。
そして変態。
「だいたいなんでお嬢様のおめーがこんなスーパーで買出ししてんだよ。
 毎日おかかえのコックが高級料理作ってくれるんじゃねーのか」
わたしは下目使いで
「はッ、なめないでよね、わたし沢近なのよ?そこいらの貧弱なお嬢様方と一緒にしてほしくないわね。
 買出しから調理までできるってのよ」
と私は答える。男とのデートのときはこんな小憎ったらしいことは言わないんだけど、
こいつにはこんな態度をとってしまう。
だって、しょうがないじゃない。 いっつもイライラさせるコイツのせいなんだから。
「ほォ…言うじゃねーか、で、その沢近お嬢様は何を作るってんだ?」

そのとき わたしは ふいに 変なことを口走ってしまった
345二人の…A:04/05/22 17:56 ID:A8ij7L4w
「カ、カレーよっ!」
あああ、今晩はペスカトーレのはずだったのになぜか口をついて出た言葉は"カレー"、
なにがなんだかわかんなくなってきちゃった…
「なに…?カレーだと…・・・? そいつは聞き捨てならねえな…」
つっかかってきた、そして心のどこかでわたしはこうなると分かっていたのかもしれない。そしてそれを…
「か、かれーがどうしたのよ」
「ク・・・ッ、カレーが好きなやつはいいやつだっつう俺のジンクスが…」
「ど・う・い・う・意味よ!」
「ふんっ、本当におめえカレーなんてつくれんのか?」
アイツはわたしの買い物かごを下目使いでちらっと見ながら言った。 中にはエビや貝など
海の幸ばかりである。カレーの定番のじゃがいも、牛肉とかは入ってない。
「シ、シーフードカレーなのよっ、今晩はっ!」

どんどん心拍数が上がっていく

「わ、わたしが料理を作れるってこと疑ってるようね…」

頭が混乱していく

「なら、見せてあげるわ!わたしがおいしいカレーをつくれるってこと!!(どーん)」

「へ・・・?」
アイツは面食らったまま。
「ほら、行くわよ、あんたのうちのキッチン借りるから、いいわね!」
346二人の…A:04/05/22 17:58 ID:A8ij7L4w
もう自分で自分の考えていることがわかんない!止められない!
腕を引っ張りながらレジへと進む
「ま、待てって!」
強い力でアイツは抵抗する な、なによ、そんなにイヤだっていうの!?
「カ、カレーのルーはどうすんだ!?」
「あ…」
…もちろん入ってるわけなかった。
「ふふふ…おもしろそうじゃねーか」
「え…?」
「俺も作るぜ」
「な…っ、ど、どういう意味よ」
「ほんで、おめーのカレーとどっちがうまいか勝負だ。 その高い鼻をへし折ってやるぜ!」 
わたしを指差してアイツは言った。あれ…? どうしてこんなことになったんだろう
「ふ、ふふん…っ、望むところよ、わたしの腕を見せ付けてやるわ」
わたしのひょんな一言からカレー対決がはじまってしまった…
勝負事は好きだ。体がゾクゾクする。でもそれだけじゃなく感じるこの、胸の、高鳴り…
なんだろう…こんなにドキドキするのは初めて。
でも、この気持ちは気づかれぬようなんでもないようなフリをしてアイツの隣を
少し離れながら歩く。
二人とも言葉はなかったけど、憎まれ口をたたく余裕さえ私にはなかった。
347二人の…A:04/05/22 18:02 ID:A8ij7L4w

とりあえずあいだ空きましたが続きです。
なんだかノリでぐわーっと書いてしまいました。
やっと話が流れて…きたのかな?
ではまたいつか
348Classical名無しさん:04/05/22 18:32 ID:wZcod4w2
Cross Sky以降、連載アタリマエの雰囲気になっているが
個人的には止めて欲しい。早く読んで欲しい気持ちも分かるが
一度まず全文を完成させてから投下、という流れで行ってもらいたい。

連載は以前の話を忘れてしまうと読んでも何も面白くなくなってしまうし
なにより職人さんの初心に、途中の様々な感想が入って、元からの作品の方向性も
変わっていく可能性があるからだ。

その変化自体は悪いわけではないが、やはり一つの作品で書き始めの気持ちが薄れていくのは
読んでいて切ない。
さらに言えば、作品に対する感想もつけにくい。
起承転結の4つで話を分けて連載投下した場合
やはり一番レスしやすいのは転と結だろうが、転はあくまでそのパートに対する感想に対して
結のレスは作品通しての感想となってしまう。同じ感想だが質は全く異なることが分かるだろう。

どちらも感想だから問題ない、とは思わない。
各パートごとの感想は、総じた感想に比べてやはりどこかおざなりになるだろうし、その逆もある。
何より文章の流れがぶつ切られるため、人物の心理変化が伝わりにくくなってしまう。

連載という形式をとらなければ、面白かっただろうと思う作品をここ最近よく見かける。
よってこれらのことを一度考えてみて、職人さん達は連載形式を行って欲しい。
以上、最近のスレの傾向を憂いて長文失礼しました。
349Classical名無しさん:04/05/22 18:44 ID:qWTM3Kjg
あと追記で、連続投稿規制はどうとでもなります
実際自分は17連続で投稿できました
しばらく時間をおいたり、ほかのスレに書き込んだりすれば連続書き込みは可能です
ちなみに、自分はギコナビを使ってます
350Classical名無しさん:04/05/22 18:46 ID:4IuKXFcg
正直勢いで書いてもあとで後悔するぞ
ゆっくりと練っていこうぜ
351Classical名無しさん:04/05/22 18:47 ID:4IuKXFcg
ageてしまいました
すいません
352Classical名無しさん:04/05/22 19:05 ID:tQsUfcM2
俺は連載好きだけどな・・・
SSだけだと出来ないネタもあるだろうし・・・
353Classical名無しさん:04/05/22 20:00 ID:0DbqYm0M
100連投とかしてもいいのか?
いいって言われても、俺は嫌だぞ(疲れるから)
354Classical名無しさん:04/05/22 20:39 ID:/RxT/GZ6
連載形式に関してですが、個人的にはよほどの長編ではない限り、
一つのSSとして完結した形で投稿するのが一番いいのではないかと思います。

起承転結が完結してない状態の連載だと、どうしてもぶつ切り状態になってしまい
ストーリーに勢いが無くなってしまうと思います。
また、自分のHPかなにかで連載するのならいいと思うのですが、
多数の投稿者がいる掲示板などでは、連載の合間に他者の投稿が入ってしまい、
新しい連載が来たとき、以前の印象が薄れしまって、
「あれ?前回の話、どんなんだっけ?」ということになりかねないと思うのですが……

長編の場合だと、うpろだかなにかに、テキスト形式であげてもいいのではないでしょうか?
355Classical名無しさん:04/05/22 20:43 ID:aGbitVp2
んー、良く判んないけど、>348-349が言いたいのは、投下しながら話を考えるのを
止めるべきって事じゃないの?
個人的には、話を完結させてからの分割投稿はOKだと思う。
ま、投下時にアンカーを付ける等の配慮は欲しいけどね。

あと、349は勘違いじゃ無いの?
確か板全体で、同じIPからの投稿が一定数を超えたら規制に掛かったと思う。
17連投出来たってのは、恐らく他のスレに誰かが書き込んでいたから。

エロパロで一本投下中に、二回規制に掛かったことがある人より。
356Cross Sky 作者:04/05/23 00:26 ID:w7anRfBQ
なんか、連載の発端を作ってしまったようなので俺も書かせてもらいます

なんであのSSを連載にしたかというと
やっぱ、単純に長いからです

初投下した時は、まだデート編も書けてなかった上に
あの頃は私生活がちといそがしかったので、それで仕方なく分割したんです
もちろん、書けてないとはいってもラストまでの構想は練れてましたが

自身のSSを書く手順は
構想→書く→推敲→今度は読者の視点で読む、
そこでおかしな文法や表現があれば手直しを加える、といった感じです
行き当たりばったりや勢いで書いていたわけではないので、どうかご容赦を
事実、あれ以外のSSはちゃんと一回で投下してますんで

個人的意見を言わせて貰えば、分割は長編で無い限りするべきではないと思います
ワードで10ページ位の作品であれば、イメージが薄れてしまうので
357Classical名無しさん:04/05/23 01:11 ID:tagza2BM
>>348
>>354
同意。
358Classical名無しさん :04/05/23 12:18 ID:6gWpwnUI
投下します。
359リレー前:04/05/23 12:19 ID:6gWpwnUI
 体育祭も、終盤に差し掛かっていた。
 八雲は体育祭の裏方で、片付け担当だった。
 同じ担当のサラは、次の競技に出場するため、ここにはいなかった。
「ふう、こんなもんかな」
 あらかた片付いた様子を見て、一休みすることにした。
「よいしょっと」
 空いたスペースに腰を下ろす八雲。
 すると、手に妙な感触がした。
「え?」
 手の先を見る八雲。
 そこには、ナポレオンがいた。
360リレー前:04/05/23 12:20 ID:6gWpwnUI
「ぶひぶひっ」
 懐かしい顔を見つけ、擦り寄ってくるナポレオン。
「え? なんでブタさんが…… あら?」
 首輪のネームプレートに、ナポレオンの名を見つけ、納得する八雲。
「そうなの。 大きくなったわね、ナポレオン」
「ぶひっ」
 嬉しそうに鳴く、ナポレオン。
「もしかして、100m走に乱入してきたブタって……」
「ぶひぶひっ」
「そうよね、あなたしかしないわね」
 そう言いながら、背中を撫でる八雲。
 ナポレオンも、気持ちよさそうだった。
361リレー前:04/05/23 12:19 ID:6gWpwnUI
「そういえば、どうしてココにいるの?」
 夏休みに動物園に引き取られたはずである。
 八雲の疑問も、もっともだった。
「ぶひ…」
 答えに窮する、ナポレオン。
 顔をそらした途端、何かに気付いてダッシュし始めた。
「あ、待って! 何処にいくの?」
 慌ててナポレオンを追う八雲。
 少し走ると、播磨の姿があった。
362リレー前:04/05/23 12:20 ID:6gWpwnUI
「おう ここにいたか、ナポレオン。 探したんだぞ」
「ぶひー!」
 嬉しそうに播磨の胸に飛び込むナポレオンだった。
 ようやく追いついた八雲、播磨に話し掛ける。
「あ、あの 播磨さん。 そのコ……」
「おお、妹さん。 コイツが世話になったみてぇだな。 礼を言うぜ」
播磨とナポレオンが、八雲にペコッと頭を下げる。
「いえ、いいんです。 でもこのコ、何でココにいるか聞いたら……」
 そう言って、黙ってしまう八雲。
「ああ。 それはオレのせいなんだ」
 意外な答えに顔を上げる八雲。
363リレー前:04/05/23 12:20 ID:6gWpwnUI
「え、どうしてですか?」
 播磨がナポレオンを撫でながら話しはじめる。
「ここんとこ、マンガばっかり描いてたろ? その分、動物園に行けなくてな、会いに来たらしいんだ」
 ごめんなとナポレオンに謝る播磨。
「す、すみません 播磨さん」
「ん? どうして妹さんが謝るんだ?」
 播磨の問いに八雲は申し訳なさそうに言った。
「私が播磨さんのマンガを見せて貰う日って、日曜日じゃないですか。 本当なら、動物園に行く日なのに… 私のせいで… 私の…」
 涙を浮かべて謝罪する八雲。
「あ、あー 妹さんよ」
 播磨が困惑して言葉を掛けようとした時だった。
364Classical名無しさん:04/05/23 12:24 ID:TShaintE
支援
365リレー前:04/05/23 12:36 ID:6gWpwnUI
「ぶひー!」
 ナポレオンが八雲に近付き、足に擦り寄った。
「え あ、あの ナポレオン?」
 ナポレオンのスリスリに戸惑う八雲。
「妹さんのせいじゃねえ。 だから元気出せ。 そう言ってるんだよ」
 播磨の解説に、ナポレオンを抱き上げる八雲。
「そうなの、ナポレオン?」
「ぶひっ!」
 八雲の疑問に元気良く返事をするナポレオン。
「そう… うん、わかった」
 八雲の言葉に顔をペロペロなめ始めるナポレオン。
「あ、やだ くすぐったい」
 ナポレオンに微笑む八雲。
 その時、放送が流れた。
「二年男子のリレーの選手は、入場門に集合してください。 繰り返します…」
 それを聞き、播磨が焦った。
「お、そんな時間か? ワリイ、妹さん。 コイツ見ててくれねえか?」
「え 播磨さん、リレーの選手なんですか?」
 八雲の疑問に、ナポレオンを撫でながら播磨が答える。
「ああ、コイツが転ばせたヤツな、ウチのリレーの選手だったんだよ。 で、俺が代わりに出るんだ」
「そうなんですか。 はい、わかりました」
「おまえも、いい子にしてるんだぞ」
播磨の念押しにぶひっと返事をするナポレオン。
「じゃ、行ってくるぜ」
 入場門に走る播磨を見送る八雲とナポレオン。
「播磨さんなら、大丈夫。 ココで待ってようね」
 やさしくナポレオンに語りかける八雲だった。
 
おわり
366リレー前:04/05/23 12:39 ID:6gWpwnUI
連投規制にひっかかってました。
サラ抜き、名前呼称なしのおにぎりです。
おにぎりが最近うまくSSできません
367オープニング:04/05/23 17:49 ID:DYfOOzRU
投下するっちゃ。これで最後(当たり前だけど)



あいつは窓の外を向いてベットに腰掛けていた。

「出来たわよ、カレー」

そういってやると、あいつは「おう、サンキュー」とかいいながら立ち上がり、
そのまま台所へ行こうと部屋を出ようとする。

それはいつも通り。

――――私が部屋まで呼びに行って、一緒にとりとめも無い話をしながら
カレーを食べて、その後あいつに途中まで見送ってもらいながら帰宅する―――

そんな『いつも通り』の中の一つ

この一ヶ月間の『いつも通り』

・・・ゃ・・・・ぃゃ・・・・

もう耐え切れない。このままの関係なのは・・・
あいつの気持ちが知りたい。私のことをどう思ってるの?
368オープニング:04/05/23 17:51 ID:DYfOOzRU

部屋を出ようとするこいつ腕をつかんで、
強引に部屋のなかに押し返し、またベットに腰掛けさせる。

「ね、寝かせたほうが美味しくなるから、まだ駄目。もうちょっと待ちなさい。」

私はそういいながら、あいつの隣に腰掛けた。

オレンジ色の夕日が窓から差し込んで、ドアは半開きのまま
、あいつは窓の外の方を見ながら、黙ったままで何もまだ話そうとはしない・・・・

はっきりとさせたい。こいつとのことを――――

私は腰掛けたまま緊張と不安とで声が出ないでいた。

普段と一緒のとりとめの無い話をするために、
私は今こうしてるのではないのだ、と思うと逆に押しつぶされそうになる。

あいつはあいつで窓の外を見ながら、何もしゃべりかけてこない。
こっちを向いてくれないせいで、話すきっかけもなかなか掴めない。

―――沈黙が続く。

369オープニング:04/05/23 17:53 ID:DYfOOzRU

(こういうときこそ先手必勝よね)
私はそう自分自身を鼓舞させると、意を決して話し掛けた。

「・・・あれから一ヶ月よね。烏丸君うまくやってるかしら。」

そういってあいつの方を見てみる

あいつはほんのちょっとうつむいて、「・・・ん」とか言っただけ。
ほとんど何の反応も返さない。

まだ窓の外を向いたままだし、サングラスもかけてるから表情も読み取れない。


私の中の不安が無限大に膨らんでゆく。


あいつの中にはまだ、言葉に出来ない想いが残ってるのかもしれない。
私と一緒に居るくらいじゃ、
以前の憎たらしい位の力強さを取り戻すことは出来ないのかもしれない。
あの日、空港に送っていったことを後悔しているのかもしれない。
・・・天満のことをまだ・・・

沈黙が悔しくなる。

心の中に住み着こうとする醜い不安が、私をそのまま食い殺そうとしてる。
わたしはそれ感じて、ついイライラしてしまい、勢いでまくし立ててしまった。
370オープニング:04/05/23 17:55 ID:DYfOOzRU

「なによ、まだフッ切れてないわけ?
似合わない真似して感傷に浸っちゃって・・・
どんな情けない表情(かお)してんだか、私に見せてみなさいよ。」

そういいながら、私は、窓の方を向いてるあいつの正面まで行くと、
あいつのかけてるサングラスを強引にはずした。

自分を止めることが出来ない。悲しい。

これから涙目のこいつを見て
醜く笑って
馬鹿にして
それでさすがにあいつもそれには怒って・・・

部屋を追い出されて、私は泣きながら帰るのだろう―――

371オープニング:04/05/23 17:56 ID:DYfOOzRU


・・・・・・・・?

あれ?

なんだかこいつ(こっち向いてなかったから分からなかったけど)
顔は真っ赤だし、目が点になってて、
悲しいって感じじゃない。

どちらかというと、緊張して固まってるって感じ?

予想してなかった事態に私がきょとんとしていると、
あいつは、たどたどしくしゃべり始めた。

「いや、その、フッ切たとかそう言うのじゃなくて、
天満ちゃんにも烏丸にも頑張って欲しいし・・・その・・・・それよりも、
お前の作るカレーのがずっとうまくて、いや、最初からうまかったんだけど、
それが嬉しくて満たされるっつーか、これからも作って欲しいっつーか・・・」

ちょっとだけこっちを見て、目が合ったかと思うと、
さらに顔を赤くして、また目を逸らしてうつむいたまま固まってしまう。

―――なに?
――――もしかして、こいつ
372オープニング:04/05/23 17:57 ID:DYfOOzRU

「で、何がいいたい訳?」

私が確認のつもりでもう一度聞いてみると、
あいつは小声だけどはっきりと言ってくれた。

「だから、その・・・お前と一緒にいたいんだよ」

勘違いしてた(嬉しいけど)・・・・

こいつは私が思ってた以上に単純だ。


――――――この状況に照れてただけだ。


自分の部屋で私と二人っきり、ベットの上に腰掛けてる。
そんな状況がこの上なくたまらなかったんだ。
(緊張してたのはあいつも一緒だったんだ)

こいつがさっき言ってくれた言葉、それを感じて、
反芻する度にさっきまでの醜い不安が消えていくのが分かる。

こいつも私に傍にいて欲しいんだ。
373オープニング:04/05/23 18:02 ID:DYfOOzRU

うれしい。
緊張してきて、あいつの顔がまともに見れない。
けど、まだ足らない。

今まで何も伝えてくれないせいで、私はこの一ヶ月すごく混乱したんだから・・・
どういうつもりで一緒にいたいのかを、ちゃんと言ってくれるまで
満足してあげないんだから・・・・

「・・・・声が小さすぎて、聞こえなかった。・・・もっと・・・・・・ちゃんと言って・・・」

私は声が裏返りそうになりながらもそう訊いてみた。

そしたらあいつ、立ち上がって私の両肩を手で押さえると、
正面から私を見つめてきて・・・
両肩をすごい力でつかまれて少し痛みを感じるけど、
それさえも心地よくて、心のゾクゾクが最大限に高まってゆく。

―――そして

あいつは私が待ちに待った言葉を言ってくれた。

「・・・いいか、俺はなぁ、お前のことが好きなんだ。誰――――」

私は「好き」と言う言葉を聞くと、我慢できなくて、
まだしゃべろうとしてたあいつに思い切り飛びついて、キスをした。

―――大好き―――
374オープニング・これから:04/05/23 18:05 ID:DYfOOzRU

やっぱりカレーは辛かったけど、
あいつは美味しいと言いながらおかわりまでして食べてくれた。

夕食を食べ終えて、二人で並んでソファーに座りテレビを見ている。
ベタベタのラブストーリーで、主人公とその彼女がイチャイチャしてる場面が
かれこれ15分も続いてるから、すごくむかついて私はあいつに抱きついた。


「!?」

「あんなドラマになんか負けられないじゃない。私たちもみせつけてやりましょ。
・・・・ね、キスして・・・・」

不意なことに混乱気味のあいつをよそに、私はもっと体を密着させる。

「テレビと張り合うなって・・・ったく。キスもついさっきしただろーが。・・・かれこれ何回目だよ・・・」

照れちゃって・・・かわいい

「いいじゃない、減るもんじゃないし。それに、
私がこの一ヶ月どれだけ悲しかったと思ってるの?
それを考えたら一日中キスしてたって足りないんだから。
それとも・・・私とキスするのはもういや?」

目を潤ませながら、私がそう言うと、あいつは無言のまま顔を近づけて、そのまま唇を重ねてきた。



・・・・これから先は二人だけの秘密
375オープニング・中の人:04/05/23 18:23 ID:DYfOOzRU
>>339
嬉しかった。ありがとう。

書いてるうちに色々と思いついたネタがあるんだけど、
もうちょっと勉強してから・・・・


>連載形式について
正直すまんかった。てか、気合と勇気が足りなかった。反省します。

>>348>>356
賛成です。(俺自信は反省です。)

けど、>>352にも同意。
連載でしか出来ないような面白みって言うのは
あると思う。

てことで、自分は一定以上長くて、連載として魅せていこうとしてるような場合には
連載でもいいと思う。
すげ―あいまいなこといってるってのは分かってるけど、そんな感じ。
376Classical名無しさん:04/05/23 20:11 ID:VYocZ.72
>>375
GJ!
正統派な旗ですな。
まさにラブストーリーって感じで良かったです。
心理描写もしっかりしてて良いですね。
次回作期待してます。
377Classical名無しさん:04/05/23 23:41 ID:HW1RrCao
・・・・これから先は二人だけの秘密


やっちゃったんすかー
378Classical名無しさん:04/05/24 00:31 ID:ORQZEd7g
面白いとは思ったけど、何か播磨に違和感を感じる

まぁただの一旗派としての意見なんで気にしなくてもいいですよ
379CALL TO ME:04/05/24 00:48 ID:Ji.f0ClU
私は自分の名前が好きだ。
だからこそ、名前であの人に呼ばれたい。
こんなことを言うとバカかと思う人もいるかもしれない。
でも、私は決してそう思わない。名前に意味がある。
名前をつけてくれた人が込めた意味がある。
その名前を呼ばれることでそれが初めて意味となり、声になり、音となり、
気持ちになり、安らぎになり、うれしさになり、想いとなり、それらが伝わる。
初めて知り合った人を名前で呼ぶことで親しくなるきっかけを与える。
仲の良い友人になると、呼び捨てになったり、あだなになったりと、
その親しさを表してくれる。
雑草にでさえ名前がある。でも、その名前を知らないということは、
その雑草にまったく関心がないということである。
それは人間も同じことではないだろうか。
私はまだあの人に名前を呼ばれたことがない。苗字でさえも。
もしかしたら、私の名前を知らないのかと不安になってしまうこともある。
それは、私に興味がないということを表すことだから。
確かに、それほどたくさん話したことがあるというわけでも無いかもしれない。
でも、思ってしまう。あの人に名前で呼ばれたい。
そして、それをきっかけにもう少し仲良くなれたらと思う。だから、この機会に――
380CALL TO ME:04/05/24 00:49 ID:Ji.f0ClU
まだ、夏の暑さが残っているためか、日光が直接当たる屋上は暑く少し汗ばむ。
それにもかかわらず、むしろその暑さに負けないくらいに何か真剣に話し合っている二人がいる。
そう、播磨拳児と塚本八雲である。どうやら、今日もまた播磨は漫画の原稿を見てもらっているらしい。
「どうだい妹さん、今回の話は?」
「ええ、とても面白いと思います。ただ……」
どこか難しそうな、それでいて何かためらっているような顔をして、八雲が言いよどんでいる。
「ん、なんだ妹さん? 気になることがあるのなら、ぜひはっきりと言ってくれ!」
それでもなお迷っているのか、顔を下に向けて考え込んでしまった。播磨はそんなじれったそうな
様子にぐっとがまんしてこらえていた。はたから見ると、睨んでるようにも見える。
「たいしたことではないと思うんですが……」
そこで一呼吸おいて、八雲は何か決心したように顔を上げた。
「この新しい相談役の女の子の――」
と言いかけている途中、とつぜん屋上の扉が音をたてて開いた。二人が驚いてそちらを見ると、
その扉をあけた人物は塚本天満だった。播磨は持っていた原稿を慌てて後ろに隠した。
「やっぱりここにいたね、播磨君」
ふー、と一息ついてから、いぶかしげに彼らを見た。
「あれ、今何か隠さなかった? それに八雲もなんでここにいるの?」
「天満ちゃ……。じゃなくて、塚本、何も隠してないし、妹さんとは偶然ここで会っただけだ。
それより、俺に何か用か?」
「あ、そうそう、播磨君、今日、日直でしょ。まだ、仕事が残っているみたいだよ」
「なに、そうか。わざわざ、すまないな」
彼なら普通日直なんかやらないと言いそうだが、天満に言われたらやらないわけにはいかない。
また、天満に原稿のことがばれたくないために、播磨は一刻も早くここを立ち去りたいという
気持ちもあったようだ。
「というわけで、悪いな妹さん。この続きはまた今度にでも」
「はい、わかりました……」
口ではかまわないようなそぶりで言っているが、八雲は内心どこか残念そうである。
播磨は慌てていたせいかそれに気づく様子もなく、そそくさと屋上を離れていった。
「それじゃ、せっかくだから、一緒に帰ろうか、八雲」
「うん……」
381CALL TO ME:04/05/24 00:50 ID:Ji.f0ClU
今はもう放課後。教室には誰もいなく、普段の活気から考えるとそれはとても寂しく、
お祭りが終わった後の残念さのようなものまで感じる。
でも、それは私が結局、彼に声をかけることができなかったのが原因かもしれない。
そんなことを考えながら、私は日直の最後の仕事である日誌を机に向かって書いていた。
その時、播磨君が2−Cの扉を開け、教室へ入ってきた。
「あ、播磨君」
私はいやもうなく心臓がはちきれそうになるくらい高鳴ってしまった。
声が上擦ってないか心配である。
「いや、すまない。すっかり日直のことを忘れていた」
日直のペアは男女それぞれの同じ出席番号同士がペアになる決まりである。
そして、私のペアは席が隣である播磨君というわけである。
とはいっても、もう放課後だったりするので、気づくのが遅すぎたりもする。
いや、私も朝からずっと声をかけようと努力はしたんだけど、結局放課後に
なっちゃったからあまり人のことは言えないんだけど……。
「いえ、こちらこそすいません。一人でも大丈夫だと塚本さんに言ったんですけど……」
私は席からあわてて立ち上がって彼のほうを向き、頭を下げって謝った。
「俺が悪いんだから気にするな。それより、とっとと終わらしちまおうぜ、――」
播磨君に初めて自分の名前を呼ばれた。今日はもう無理だと諦めてかけていたのに。
その言葉を聞いて、私は驚き、嬉しく、それでいて少し泣きそうで、頬を真っ赤に染めるという、
なんとも複雑な表情をしてしまった。そして、その言葉の響きに少しの間、余韻にいたってしまった。
「どうかしたか?」
播磨君がこう聞くのも無理はないかもしれない。
私はころころと表情を変えて少しの間、固まってしまったのだから。
変な子と思われたらどうしようと、今さら心配になってきた。
でも、なんとか嬉しさを顔に出さないようにしようとしたがそれは無理という話である。
「えっと、何でもありません。それより早く仕事を終わらせてしまいましょう、播磨君」
日直の仕事が早く終わらないで、この時間がずっと続けばいいのにと、口にしたことと
逆のことを考えながら、今の自分の想いを全て乗せて彼の名前を呼んだ。

――Fin.
382あとがき:04/05/24 00:52 ID:Ji.f0ClU
というわけで、八雲の名前ネタと見せかけて隣子の名前ネタです。
一応ミステリーで言うところの叙述を意識して書きました。
成功していれば幸いです。
383Classical名無しさん:04/05/24 01:08 ID:qWTM3Kjg
騙された人の数 →1

いや、上手いです、やられました
384Classical名無しさん:04/05/24 01:17 ID:mX.yvNyQ
なんだ、また八雲の名前ネタかよ・・・ん?

うぉぉぉぉぉ隣子キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
はい、騙されました。いい隣子SS頂きましたよGJ
385Classical名無しさん:04/05/24 02:02 ID:JZmhiykM
騙された人の数 →2get
上手いし下手に長いSSじゃないとこがイイ。
考えるだけなら何人かいただろうけど実行したアンタは叙述GJ!!
386Classical名無しさん:04/05/24 02:15 ID:8aeYyx1o
GJ!
いままでの流れを逆手にとったナイスな叙述トリックです。
前半部に、読み返したときに「ああ、あれが伏線だったんだ」ってわかるのがあればもっと良かったです。
387Classical名無しさん:04/05/24 06:44 ID:jCJ2GJLk
GJ
すっかり騙されましたよ
播磨と隣子が同じ出席番号だとしたら
バトロワ2だったらペアですねw
388Classical名無しさん:04/05/24 14:40 ID:uhvQ7cmI
やっぱ隣子は最高だな
389Classical名無しさん:04/05/24 15:22 ID:VYocZ.72
GJ!
ホントに久々の隣子SSだ
隣子に飢えてましたよ私は(つд`)
390Classical名無しさん:04/05/24 18:59 ID:tcTE1JoY
上手い話の流し方ですね…。
一本取られますた。

391Classical名無しさん:04/05/24 21:37 ID:FlKPYKGU
>382
隣子主役のSSやー! 五ヶ月くらい待ってた気がする。GJ!
名前も知らないのにすごく興味はある俺達がこれに騙されるのは必然。
392Classical名無しさん:04/05/25 13:35 ID:1oSSvnh6
「先輩」
「なんだ?」
「体育祭お疲れさまでした」
「あぁ、お前もな」
「騎馬戦大活躍でしたね」
「花井たちほどじゃない」
「周防先輩と息ピッタリでしたね」
「そうか?」
「なんか抱きついたりとかしてたし…普段から仲いいんですか?」
「いや、別に」
「でも先輩もまんざらじゃなさそうでしたよ」
「…まぁ俺も男だからな」
「へぇ〜、やっぱ先輩も胸は大きいほうが好きなんですか?」
「あー…いや別に周防だから特別嬉しいってわけでもないけどな」
「本当ですか?」
「てか別にいいだろ、俺のことは…」
「いいえ、よくありません」
「???」
「洋の東西を問わず女の子にとって胸の大きさのことは常に悩みの種です。
男の人がどういう目で見てるのかも重大な関心事です。どうでもよくはありません」
「そうか」
「それに…先輩みたいなタイプの人がどうなのか個人的に興味があります」
「…俺はそんな傍から見てわかりづらいか?」
「はい、知りたいです」
「……」
「……」
「勘弁してくれ、俺はそういうの苦手なんだよ」
「あ、先輩!逃げないで下さい…絶対に逃がしませんよ」

Fin。
393Classical名無しさん:04/05/25 13:43 ID:YEWWQ0xA
>>392
サラキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!

>絶対に逃がしませんよ
のところ、黒サラだったら((((;゚Д゚)))ガクブル…w
394「WOMEN IN BLACK」 Er ◆i//qLXXY :04/05/25 17:40 ID:SMYnl9Mc
小ネタな上にネタかぶりな悪寒 _| ̄|○
絵板で漫画風にできればよかったんですけど、絵心が……。
395○麻生 広義、休憩中。○:04/05/25 17:40 ID:SMYnl9Mc

体育祭に彩りを添える、二年生女子による応援合戦が始まった。
チアガール姿の女子が華やかにグラウンドに舞う。
殺伐とした戦いは一時中断し、誰もがしばし心和ませながらそれを眺めていた。
「麻生センパイ!」
聞き慣れた声に呼ばれ振り返った麻生。見上げると、その顔を
バイト先の後輩であるブロンドの娘が友人とともに覗き込んでいた。
「今日は大活躍ですね」
「ああ、そっちもな」
「あ、応援してくれてるんですか?」
「たまたま目に付いただけだよ」
鮮やかな金髪を指差して素っ気なく答える。
予想通りの反応だったのだろう、おかしそうに微笑むサラ。

「紹介します。先輩もご存知でしょうけど……
 こちら私の親友で、先輩のクラスメートの塚本さんの妹の八雲です。
 こちらが前に話したバイトの先輩の麻生さん」
「あ……初めまして」
「……どうも」
「先輩が結婚式の新郎役をすっぽかしちゃうから、いつか八雲に
 謝ってもらおうと思ってたんです」
「即断っただろうが。勝手に話を進める方が悪いんだよ」
「お芝居とはいえ八雲をお嫁さんにできるチャンスに優先する用事なんてあり得ません!
 おかげで花井先輩に代役を頼んで八雲が困ったり、播磨先輩が襲ってきたりして
 大変だったんですよ?」
「俺のせいかよ。指を差すな、指を」
半ば理不尽な主張に、本気で言ってるわけではないと知りつつも
アホくさ……とため息をつく。

「……ところで何だ、その格好」
二人は男物の学ランを着込んでいるのだ。
「応援合戦のユニフォーム! 一年女子はこのカッコでやるんです」
留学生のサラは、詰襟の学生服に以前から興味を示していた。
それを着られて嬉しくてしょうがないといった感じだ。
対して照れを隠そうともせず、所在なげにたたずむ八雲。
カワイイでしょ? とばかりそんな八雲を麻生の前に押しやる。
が、あまり芳しい反応を示さない麻生に
「チアガール姿じゃなくて残念でした?」
「アホか! ほら友達も困ってるぞ。早く行け」
軽く拳を振り上げて追っ払う仕草に、頭をかかえ大げさに逃げまどう。
「今日は先輩を八雲に紹介したかったんです。それじゃまた!」
「……あの……さようなら」
ひらひらと手を振って別れを告げる。そのままなんとなく後姿を見送る麻生。

正直ホントに『チア姿でなくて残念』という気持ちは別に持っていない。
モトがよければ着ているものが何だろうと輝いて見えるものだ。
というより学ランに短パンという組合せがむしろ個人的にはグッとくるものが……
397○写真はしっかり撮っている。○:04/05/25 17:42 ID:SMYnl9Mc

「……おい」
「はい?」
「なに人の横でぶつぶつ言ってんだ、冬木」
「いや、麻生の心の声を代弁しようかな、と」
「思ってねえ、んなコト!」
「でも実際カワイイもんね。いかにアソでもつい見とれちゃうのも無理ないよなあ」
「見とれてないっての。アイツはただのバイトの同僚であって──」
「あれ? てっきり八雲ちゃんのこと見てると思ったんだけど」
「ん……なっ!?」
「そうかあ。アソの本命はサラちゃんかぁー」
「くっ……俺に絡んで楽しいか? 意味あんのかよ」
「愚問だね。俺はいつだって恋する女のコの味方なんだぜ?」
「……ワケわかんねえ」
この手の話題は苦手なのだろう、そそくさと逃げるように立ち去る麻生の背中に向け、
冬木はポツリとつぶやく。
「このくらいしなきゃオマエは気づかないだろ? ……自分の気持ちさえ」
振り向いた視線の先には──遠目でも目立つ、黒衣に身を包んだ少女達の後ろ姿。
「気持ち、届くといいな……サラちゃん」

 〜fin〜
398Classical名無しさん:04/05/25 20:08 ID:JZmhiykM
冬木上手くシメタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!
399Classical名無しさん:04/05/25 20:11 ID:XyXtWpMc
冬木がいい味出してますね。
400Classical名無しさん:04/05/26 02:01 ID:r/msx7U6
最後に冬木が全部持ってイッタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!
401Classical名無しさん:04/05/26 22:32 ID:jupstpJs
ダレモイナイ… ビンジョウスルナラ イマノウチ…

《投下》
402歌に願いを 1/8:04/05/26 22:33 ID:jupstpJs
 夜の駅前は秋口だというのに予想外に冷え込んで、軽装の俺を苛む。
「打ち上げの会場、どこだよ……」
 俺は今、自分のクラスが打ち上げ会をしているはずの場所を探していた。
 確か打ち上げの一次会は居酒屋、二次会はカラオケと花井の野郎は言っていた。
クラスの仕切り役が酒盛りを奨励どころか先導するなんざ正気の沙汰とは思えねえが、
金欠だもんで一次会はパスする事にした。家賃もろもろを考えると今月も相当きつい。
あんな高くて不味い店に何日分もの食費を使うなんて金の無駄としか思えねえ。
 ……ほろ酔い姿の天満ちゃんが確実に見れるのなら給料の前借りくらいするんだがな。
 ともかく二次会から出てやると返事したんだ。何処なんだよそのカラオケボックス!

 ようやくビルの三階に聞いたような名の店を見つけたのは、それからおよそ二十分後。
夜中にサングラスなせいかと思っていたが、これは偶然無しには見つけられた気がしねえ。
教師の巡回があるという噂を考えてのものだろうが、俺にとっちゃ迷惑な話だ。

 火災時の対策を一切考えていないような狭い階段を上り、カラオケボックスに到着。
 店内に入ると、有線の騒音をものともせずカウンターに女店員が気忙しげに立っていた。
酔っ払いがいる事を考慮して、高校生だと悟られねえよう幹事の名前だけ口にする。
「ちょっとすまねえ。代表者・花井ナントカ っていうグループが来てると思うんだが」
「はい、右の05号室から07号室までの3部屋です。ごゆっくりどうぞー」
 ここで間違いなかったようだ。安堵のため息をつく。
 打ち上げ会の連絡が回っていた時に播磨イヤー(地獄耳)を駆使して聞き取った結果、
天満ちゃんは妹さんと「日付が変わるまでには帰る」とちゃんと約束してきたらしい。
つまり一緒にいられるのは少なく見積もると今からだいたい1時間弱ってところか。
 このチャンス、男・播磨拳児、絶対に無駄にはしねえ!!
403歌に願いを 2/8:04/05/26 22:35 ID:jupstpJs
 とはいえ、今日の俺の目的は天満ちゃんの女神のごとき歌声を心ゆくまで聞くことだ。
 俺のマツケンサンバ(ver.レッド)で痺れされるという予定も当然あるし、
願わくばデュエットなんか一曲歌っていい雰囲気にという思いも強くありはするんだが、
今日はクラスの他の連中も見てるんだ。そう見せつけるわけにもいかねえよな。
 もちろん天満ちゃんがそれを望むのであれば他の連中なんて知ったこっちゃねえが。
 しかし、外側からじゃどの部屋にいるのかわからねえな。とりあえず全部見ていくか?
 まずは07号室のドアを開け、音が漏れないうちに入ってすぐそれを閉める。

「噂に聞こえたすごい奴ー♪ キック・アタック・電光パンチ!」

 なんだ? 中では今鳥の奴が、マイクを持ってアニメの主人公の名を絶叫していた。
 天満ちゃんがいないかどうか、狭い部屋全体に一瞬で視線を巡らせる。
名前をすぐに思い出せる奴は、今鳥・周防・一条。隅で酔ってぶっ倒れているのは花井か。
俺を含めずに全部で6人。どうやらここには天満ちゃんはいないようだな。 
「お、播磨。やっと来たんだな。ジンジャーエールでいいな?」
 聞いてすぐ了承もないままフロントにコールする周防。どうやらワンドリンク制らしい。
時間が勿体ねえが、その飲み物が届くまではこの部屋から出ない方がよさそうだ。

 とはいえ歌うつもりはないので、することもなく今鳥の歌を眺める俺。
見ていた記憶もないない古いアニメの歌だが…… 聴衆のほとんどが呆れちまってねえか?
あろうことか今鳥本人までがつまらなすぎて困ったような顔をしながら熱唱している。
 まともにあの歌を理解しているのは、どうやら微笑みながら聴いている一条だけだ。
軟派野郎の今鳥がここまで女に嫌われかねない真似をするなんざ、一体どういうわけだ?
404歌に願いを 3/8:04/05/26 22:35 ID:jupstpJs
 一条の友人らしき探偵漫画に出てきそうな女と眼鏡女も、小声であいつを罵っている。
「何アレ? 今鳥君ってW−indsとかケミストリーが得意って言ってなかったっけ?
みんなの雰囲気を無視してアニメソングを歌うようなヲタクじゃないと思ってたのに」
「あー、でもなんかさ。なんか見てると一条だけ嬉しそうにしてるように見えない?
ひょっとしたら彼、かれんのためだけにあの曲を歌ってくれたのかもよぉー?」

 場外馬券売り場とか毛虫取りが得意というのも俺にはよくわからねえ話だが、
むしろ今鳥のあの表情から考えるに、何らかの作戦に失敗したような印象を受けたんだが。
そう、まるで特定の誰かに嫌われたいがめにそういった曲を選択していたかのような。
 そう思って右を見ると、一条が何かを思いついたらしくリモコンに入力を始めた。
画面に表示された予約曲は、んー、映画の主題歌にもなった宇多田ヒカルのあれだ。
 それに気付いた今鳥がより深い落胆の表情を浮かべる。……どういうことだ?

 なんて考えていただけなのに、ドアが開いてジンジャーエールが届けられた。早いな。
歩きどおしで疲れていたので一気に半分ほど飲み、この部屋からおさらばすることにする。
 あばよ、今鳥。なんだかよくわからねーがもう諦めるこった。
 
 周防が上手くもなければ下手でもないドリカムを歌いだす中、俺は廊下に出た。
 あとは06号室か05号室。どちらかに天満ちゃんがいることは間違いない。
 そんな俺が廊下で目にしたのは、06号室に入ろうとしている高野の姿。
 周防の奴は花井と幼馴染みかなんだかで天満ちゃんたちと離れ離れだったとして、
高野ならあの仲良しグループで一緒にいるはずだ。俺は06号室に飛び込んだ。
405歌に願いを 4/8:04/05/26 22:36 ID:jupstpJs
 結論から先に言おう。
 俺が甘かった。こいつが一般的な女子高生とはかけ離れた存在な事に気付くべきだった。
「氏ね 氏ね 氏ね氏ね氏ね氏ね氏んじまえー♪ 黄色い豚めをやっつけろー♪」
 ここは西本ら4人と高野という異色の面子が上のような歌を楽しげに合唱する、魔境だ。

 もちろん天満ちゃんはいない。いや、表現が違うな。こんなところにいてたまるか。
 これほどの狂宴を悪の悪の幹部然とした表情で見続ける紅一点の高野の精神状態を疑う。
 すぐに去るべきだとは思ったが、こいつらが他にどんな曲を歌うのかどうも気になった。
俺の知っていそうな普通の曲も予約されているのかどうか、リモコンで確かめてみると……

 1・サムライガンマン 斬 ザザーン
 2・アフターマン
 3・勝利者達の挽歌
 4・つボイノリオ メドレー
 5・そんな目で見るな
 6・White night
 7・スターウォーズのテーマ
 8・ゆけ! ゆけ! 川口浩
 9・虎のプライド
10・GOGO ブリキ大王

 知っている曲がスターウォーズしかねえよ。でもあれに歌詞なんてあったか?
 消去法で05号室に天満ちゃんがいるとわかっただけで充分だな。とっとと出て行こう。
 と、どうやら俺はリモコンを持ったまま出ようとしていたらしい。高野に呼び止められた。
「播磨君、そのリモコン借りるよ。それとも先に何か入れる?」
 とんでもねえ。こんな異空間で真人間の俺がカラオケができるか。すぐに渡す。
 曲目リストなんて読みもしていなかったのに、リモコンに手際良く数字を打ち込む高野。
さっきの不気味な歌が終わって切り替わった瞬間に予約された曲名が表示される。
 『みかんのうた』
 知らない歌だが、この雰囲気の中の紅一点が選ぶ曲にしてはやけにかわいい題だと思った。
 だが、こんな奴等に興味はねえ。俺はかぶりを振って05号室へ向かった。
406歌に願いを 5/8:04/05/26 22:37 ID:jupstpJs
 そしてついに辿り着いた05号室。ずいぶんと無駄な時間を過ごした気がするぜ。 
 冬木がタッキ―気取りで歌っていたが、それは自らが音痴であることを自慢したいのか?
まあ気がついていない奴に何を言っても無駄なので、邪魔しねえよう手振りだけで挨拶。
 そのまま視線を走らせると、いた! 薄い私服姿の天満ちゃんだ。
 やっぱりカワイイよなぁ……。清楚な感じがまたたまらねえ。
 でもそのボリュームがないせいで隙間のできてしまっている胸元はセクシーすぎるぜ!
 俺の熱い視線に気付いたのか、なんと天満ちゃんから話し掛けてきてくれた。

「あー! 遅かったんじゃない? 播磨くん。この場所って見つけにくかった?」
「何? コイツも来る予定だったの? 折角気持ちよく歌えてたのに」

 気にしないことにしたかったんだが、嫌でも視界に入る上にそこまで言いやがるか。
何だよお嬢様ならせめてそれらしく夜遊びくらい禁止されてやがれ沢近のヤロウ。
天満ちゃんだけ見ていたいのに、その無駄に目立つサラサラの金髪が目障り極まりねえな。
 天満ちゃんが端でその隣りがお嬢だったので、隣は諦めて真正面の席に座ることにする。
 ここにいたのも俺も含めずに6人。二次会に出席したのは全部で20人ってことだな。
打ち上げで二次会まで参加する人数にしては多いほうだろ。よくわからねえけど。

 冬木が歌い終わり、お嬢がそのマイクを受け取る。天満ちゃんの番はまだかよおい。
 どうせお嬢のことだから歌うのは俺には聞き取れねえ洋楽か何かだろうと思いきや、
聞こえてきたそのメロディには、どうも昔どこかで聞いたような覚えがあった。 
 不思議に思って画面表示を確認してみると…… 岡村孝子だと?
「しょうがないじゃない。向こうでは日本のCDが売っている店なんて興味なかったし、
日本の歌なんてマムが持ってたこういう歌か童謡しか聞いたことがなかったんだから」
 聞きもしないうちから俺に向かって弁解を始めやがった。大人しくしてろこの英国人。
 前奏が終わりそうなのか、急いで画面に向き直ってマイクを構え、歌いだす。
407歌に願いを 6/8:04/05/26 22:37 ID:jupstpJs
 ……そして聴き終わった今、正直に言おう。
 予想以上に上手かった。なんて音域と正確さだよ。絶対音感とかいうやつか?
ここは素直に賞賛しておくべきだろう。あいつの性格はひどいもんだがその声に罪はねえ。
 歌い終わって軽く深呼吸をしていたお嬢に声をかける。 
「いい声してるじゃねえか。聞き惚れちまったぜ」
「なっ! 何言ってんのよこのハ…… リマ君。それより何か歌いたい曲でも入れれば?」
 天満ちゃんの前でハゲをばらされるかとヒヤヒヤしたが、そういう配慮はできるらしい。
 よし、確かにカラオケなんだから俺も歌っとくとするか!
 
 しかしだ、歌手名別リストで「松平」の項目を探しながら俺は考えた。
 やっぱり天満ちゃんと歌いてえッ!
 デュエット曲はよく考えたら無理だな。天満ちゃんがどれを歌えるのか俺は知らねえ。
聞けば当然わかるわけだが、まあ…… なんだ。どう考えても恥ずかしいしな。
つまりここは相乗りしかねえ。天満ちゃんが歌おうとする曲を一緒に歌わせてもらう!
 そう決めたらずいぶんと気分が楽になった。あとは機会を待つのみ。
 リモコンを握り締めて待つ俺。相乗りなんてやった事ねえからドキドキしてきたな。
できれば天満ちゃんが俺も知っているような曲を入れててくれればいいんだが……。。

「あ、曲入れ終わったんなら次は俺に使わせてね」
 うわっと。冬木の奴、まだ歌う気かよ。自覚なき騒音公害も結構恐ろしいもんだな。
一瞬渡すのをやめようかとも思ったが、何も入力しないままそのリモコンを手渡した。
なに、一番近い位置で被害を受けるのはあの下っ端だしな。すぐ帰る俺は我慢すりゃいい。 

 その下っ端が外見通りのどうでもいい曲(多分B’z)を歌う中、
ようやく天満ちゃんがそわそわしだしたのが見て取れる。お、そろそろ順番が来るのか? 
一緒に歌わせてもらうとときになんて言やあ格好いいか、よーく考えておかねえとな。 
目を閉じ、考える人のポーズ。これが一番考え事をするには落ち着くんだ。
 扉が開いて誰かが出て行く気配があったが、気にしてる暇はねえ。決め台詞を考えろ俺。
408歌に願いを 7/8:04/05/26 22:38 ID:jupstpJs
 なかなかいい言葉が浮かばねえまま悩んでいると、お嬢の急かすような声が聞こえた。
「ほら、次はアナタでしょ? 今更何を恥ずかしがってるのよ」
 ほお、天満ちゃんは恥ずかしがってるのか。目を閉じたままでも状況が目に浮かぶぜ。
「あーもう、じれったいわね。歌いたくない理由でもあるっていうの?」
 お嬢の言葉が効いたのか立ち上がる音。よし、言うなら今しかねえ!

「悪ぃ、俺も一緒に歌わせてもらっていいか? この曲好きなんだよ」
 完璧と自負したくなるタイミングで俺がそう言いながら顔を上げると、
―――そこにいたのは、白いパーカーを羽織ったミディアムヘアのちっちゃい女。
 あれ? 背は合ってるけど、髪の長さと色が何か違うなぁ…… ああ、そうか。 
天満ちゃんは教室では俺の左隣なわけで今目の前にいる奴はその逆で右隣、つまり、

 まー ちー がー えー たー!

 まあ幸か不幸かすごく困ったような顔をしているから、向こうから断ってくれるだろ。
……って、おい。戸惑いの表情を浮かべたまま俺に予備のマイクを渡してきやがった。
絶体絶命ってやつじゃねえのか? 俺は天満ちゃんと歌いたいだけだったはずなのによ。
 というかよく見たらそもそも天満ちゃんがいねえ。一体何処へ行っちまったんだ?

「ただいまー。共用トイレなのに花井くんが手洗い場でのびててびっくりしたよー。
あれ? ふたりともマイク持ってるって事は、一緒に歌うの? すごーい!」
 扉を開けて当の天満ちゃんが戻ってきた。
 さっきの気配、お手洗いに向かう天満ちゃんだったらしい。俺の馬鹿野郎。

 そうこうするうちに前奏が始まった。
 ……この曲かよ!? 恥ずかしがる気持ちもわかるぜ。
「えっ!? この歌を播磨くんが歌うの? ……すごく楽しみ」
「同感ね。こんなかわいい曲をこの不良がどう歌うのか、見せてもらおうじゃないの」
「播磨、お前はすごい! 芸人の鏡だ! クラスメイトとして誇りに思う!」
 沢近も冬木もうるせえ。隅でボーっとしてる下っ端を見習って黙ってろ。
 もうヤケだ。バイト中に有線で何度も聞いて覚えているし、ノリノリで歌ってやる!
409歌に願いを 8/8:04/05/26 22:38 ID:jupstpJs
 ―――そして歌い終わる俺達。
 拍手喝采を浴びて、ようやく俺はとんでもなく威厳を失墜させちまった事に気付いた。
「愛し合うー 二人 幸せの空♪」なんて不良が歌ってたら当然といや当然なんだが。
一緒に歌ったこいつも途中でチラチラとこっちを覗き込んでやがったし。笑いてえのか?
 まあ、天満ちゃんの「モーイッカイ!」の合いの手があまりにもかわいかったから、
大抵の事は許せる気分だけどな。とりあえず許せそうにない部分だけ処理しておくか。

「おい冬木、さっき撮っただろ。今すぐ消せ」
「ええっ? な、何のコトかな。俺はただ恋する女の子の表情を撮っただけで……」
「消すのはお前の記憶のほうでもいいんだぜ? ちょっと荒っぽくなるがよ」
「……ワカリマシタ」
 とりあえず証拠さえなければどんな噂も流言飛語の類と切り捨てる事ができる。
かわいらしいため息が近くで聞こえたが、誰だ? まあ何はともあれ一安心だな。

 そんなことをしていると、急に天満ちゃんが大声をあげた。
「ああっ! なんでもうこんな時間なの? 急いで帰らなくちゃ!」
 ん? まだ天満ちゃんが帰らなきゃいけない時間には余裕があると思ってたが……。
まあいい、海への旅行の時のようにバイクで家まで送るとするか。それが男の義務だよな。 
 その歌声を聴けなかったのは残念だが、帰り道に同行できるならここは納得しねえと。
「はいはい。じゃあちょっと待ってね天満。車を待たせてあるから一緒に帰りましょ」
 その声はお嬢か。イヤガラセにも程があるぞテメエ。わざとではないにしても。

 恨みがましい目で見つめる俺に気が付いたのか、その金髪は俺に向かってこう言った。
「んー、何? アンタも乗せて欲しいの? ……しょうがないわね。
今度の休日に荷物持ちとして働いてくれるなら、乗せてあげてもかまわないけど?」
 バイクで来てるんだっつーの。なに考えてんだこのお嬢は。
 天満ちゃんがいない打ち上げになんてもう用はねえ。俺もとっとと帰るか。
俺は清算を済ませるとすぐ駅前に置いておいたバイクに乗り、久々にメットも被った。
 もちろん安全面を考えての事だ。決して悔し涙を隠すためじゃあ…… ない。 

《おわり》
410401:04/05/26 22:39 ID:jupstpJs
各人の歌唱力はテキトーです。播磨一人称よりは三人称のほうが良かったかも。 
あと、晶の部屋(06号室)の曲が半分以上わかった人はけっこう重症だと思います。

……にしても、また台詞ないな。緊張してたはずだけどちゃんと歌えたんだろうか。
411Classical名無しさん:04/05/26 23:05 ID:5nel5xEs
悲惨な話だなー。でも、面白かったです。
特に晶の部屋。
5番はコミックビームのCMか?
トリがアキラ編だったのが笑えた。
412Classical名無しさん:04/05/26 23:26 ID:w7anRfBQ
ラストかなりワロタw
本編でもありそうな展開ですな

オールキャラ出演なのに、とても読みやすかった
その職人さんの腕前に脱帽です
413Classical名無しさん:04/05/26 23:34 ID:sER5x2.6
オールキャラでここまで読みやすくできるのは流石ですね。
播磨の一人称も良かったです。GJ!
414Classical名無しさん:04/05/26 23:56 ID:yIKjrU9Q
晶の選曲イカスなぁw
まさに魔境のボスの歌だw
めちゃ笑かしてもらいました。GJ!
415toosweet&:04/05/27 02:06 ID:w0Bdqwto
「ほら、拳児君、昼飯だ」
 そういって絃子は播磨に向けて紙袋を放り投げた。
「っとと」
思いもよらぬ不意打ちに慌てながらも何とか播磨は紙袋を受け取った。
「?」
首をかしげながら紙袋を開けてみるとそこには大量のチョココロネとチョコレートドーナ
ッツが入っていた。
「なんだこりゃ。絃子」
「聞こえなかったのか。君の昼飯だ」
当然といえば当然の答えに一応うなずくが播磨にはどうも納得がいかなかった。今まで絃
子が昼食を用立てしてくれたことなど一度も無い。そしてこの従兄弟が日頃しないような
ことをするという事はつまり……。
 何かを企んでる
 播磨はチョココロネを一つ取り出し、匂いをかぐ。特に変な匂いはしない。しかし油断
は出来ない、実際に少し舐めてみようとチョコレートを指ですっくてみる。とその時絃子
と目が合った。彼女はあからさまに気分を害しているようだった。
「拳児君……何をしている」
「い、いや、別に一服盛られてんじゃねーかとか疑っているわけじゃねーぞ」
絃子のただならぬ気迫に気圧されながら、播磨は懸命に弁明する。
「ほう、そんなに私は信用が無いかね?」
「そ、そーじゃなくて、いつもはお前こんなことしね−だろ?それが今日に限ってこんな
もん渡してくるもんだから不思議に思ってだな」
その言葉に絃子は一瞬きょとんとしたような顔をしたあと、大きく溜息をついた。
「な、なんだよ?」
「なんでもない。そのチョココロネはただの気まぐれだ。気にするな」
そう言うと絃子は半ば押し出すようにして播磨を家から送り出した。
 バタンと音をたててドアが閉まり、室内に静寂が訪れた。しばらく絃子は少しあきれた
ような表情でドアを見つめていたが、また大きく溜息をつくと。自分も学校におもむくべく準備にとりかかった。
 昼休み。2−Cの教室では、一人の男子がクラス中の注目を一身に受けていた。
416too sweet&enough:04/05/27 02:10 ID:w0Bdqwto
(なんだってんだ?いったい……。俺の顔になんかついてんのか?)
 先ほどから皆の注目を集めているのは解るが、その理由が解らない。このなんとも居心
地の悪い状況を打破すべく、コロネをほう張りながら播磨は現在の状況を分析してみた。
(今は昼休み。ここは俺の教室だ。皆いつもどうりに飯を食って雑談をしている。俺も自
分の席で昼飯の菓子パンを食っている。特におかしいことは無い。まあ俺が昼休みに飯ら
しい飯を食うのは久しぶりっちゃあ久しぶりだが、いくらなんでもそれだけでクラス中の
注目を浴びることは無いだろう。すると……)
 やはりさっぱり解らない。
「ねえねえ播磨くん」
播磨が頭をひねっていると、横から小柄な少女が話しかけてきた。
「なっなんだ?塚本」
いきなり想い人に話し掛けられ、少なからず動揺する播磨。
「うんちょっと、そのチョココロネどうしたのかな−って思って」
「あ、ああこれか。いや、今日はちょっと財布に余裕があってよ、安かったからまとめて
買ったんだ」
 素直にもらったなどと言って、誰にもらったか聞かれたりしたらまずい。そう判断した
播磨はとっさに嘘をついた。
「あんたばか?」
天満の向こうから金髪の悪魔、沢近が顔を出す。人を小ばかにしたような顔が心底憎い。
「……なんだよ」
「あー播磨。なんだ、今日なんの日か知ってるか?」
今度は周防がなんともいえない表情で訪ねてきた。
「?」
 そう言われてとりあえず携帯で日付を確認する。
 「二月十四日」液晶に映る文字をしばし見つめ、その日付がもつ意味を考える。
「あ」
 播磨は自分の馬鹿さ加減が嫌になった。うかつだった。うかつすぎた。なんでこんな大
事な日を忘れていたのだろうか。今日は、今日はバレンタインデー。恋する乙女がチョコ
レートに想いを託して憧れの人に渡す日。
 ふと自分の机の上に目をやる。そこには食べかけのチョココロネとチョコレートドーナ
417too sweet&enough:04/05/27 02:11 ID:w0Bdqwto
ッツが転がっていた。バレンタインデーの昼休みに食べるには痛すぎるチョイスだ。あま
つさえ天満ちゃんには自分で買ったなどとのたまわってしまった。
(どうする、どうする播磨拳児!どうやってフォローする!?)
頭を抱えて必死に案を練るが、この状況を打開するような名案はそう簡単に浮かばない。
(くそっ、絃子のやつこれが狙いか。ちくしょー、人の不幸がそんなに楽しいのかよ!)
「っのやろう!」
従姉弟のあまりにも非道な仕打ちに播磨の口から怨嗟の言葉が漏れる。
「野郎ってことはそれ男の子にもらったんだ」
いつもの鉄面皮で晶がポツリとつぶやく。
「んなわけねーだろうが!」
反射的に突っ込んでしまう播磨。
「へえ、それじゃあ女の子にもらったんだ」
「なっ……!」
晶の見事な斬り返しに播磨は絶句した。
「まさか本当に自分で買ったわけじゃないんでしょ?}
そう言って晶は普段めったに見せない笑みを播磨に向けた。といってもその笑みは攻撃的
なものであったが。
「えっ!?えっ!?ねえねえ誰にもらったの?」
晶の言葉に天満がすばやく反応し、身を乗り出して播磨に問い掛ける。
「いっいや、そっそんなんじゃねえよ!ちょっとした知り合いがきまぐれでくれただけだ
って」
「えー本当ー?」
もともとこの手の話しが大好きな天満は簡単には引き下がりそうも無い。
 何とかして誤解を解こうと四苦八苦する播磨に意外なところから救いの手がさしのべら
れた。
「馬鹿ね−天満。バレンタインデーに菓子パン贈るような人いるわけ無いでしょ。誰かが
馬鹿をからかっただけよ」
「ぐぬう……」
播磨は沢近のとげのある言い方に反感を覚えたが、正にそのとおりなので何も言い返せない。
418too sweet&enough:04/05/27 02:13 ID:w0Bdqwto
「ほら、そんな馬鹿ほっといてチョコ食べましょ」
そう言って沢近はカバンから菓子包みを取り出した。
「うひゃー、なんか高そうなチョコだなおい。」
その上品なパッケージに気後れしたのかわずかに美琴は身を引いた。
「ナッツが香ばしくて美味しいわよ。」
沢近に奨められ、美琴は恐る恐るチョコレートを口に運ぶ。
「……美味い」
「でしょう?」
美琴の驚いた顔を見て沢近は満足げに微笑んだ。
「わたしももらうねー」
「へえ、いろんなクリームが層になってるんだ」
天満と晶も美琴に続く。
やはりそのチョコレートのあまりの美味しさに驚きの声を発する二人をよそに、沢近は少
し考え込んだ後、播磨のほうに向き直った。
「なんならあなたにも一つぐらい分けてあげてもいいけど?」
そう言ってきた沢近に播磨はそっけない答えを返す。
播磨のあまりにもそっけない態度に一瞬たじろぎながらも沢近は余裕の笑みを浮かべ話を
続ける。
「あら、いいの?この機会を逃したらあなた二度と食べられないかもしれないわよ?」
「……ふん、恩着せがましくくれたもんなんか美味くねーんだよ」
「……!!」
播磨の言葉に沢近は怒りで顔を高潮させた。
「まあ落ち着けって沢近」
一瞬にして緊張した雰囲気を取り繕おうと、美琴が二人の間に割って入った
「播磨もそんなこと言わね−で食ってみろって。マジで美味いからさ」
そう言って美琴は播磨にチョコレートを差し出した。
 内心その高級チョコレートに興味があった播磨は、黙って美琴の手からチョコレートを
受け取り、口の中に放り込んだ。
「なっ!?」
419too sweet&enough:04/05/27 02:16 ID:w0Bdqwto
自分と美琴に対する播磨の対応のあまりの差に沢近は抗議の声をあげる。
「なんならもう一個食うか?」
「おう」
チョコレートを取ろうと振り返った美琴を待っていたのは怒りに震える沢近の刺すような
視線だった。
「えっ?、な、なんだよ?」
驚く美琴をしばらく睨みつけた後、沢近はふてくされたようにあさっての方をむいて黙り
込んだ。
「え、えーと。ほらよ……。」
とりあえず播磨にチョコレートを渡し、美琴は席についた。
 なんとも気まずい沈黙が流れる。沢近は相変わらずあさっての方を睨みつけ、手持ち無
沙汰な美琴と天満は控えめにチョコレートをかじっていた。晶だけが、いつもと変わらず
マイペースに文庫本をのんびりと眺めていた。
 その時教室の引き戸が勢い良く開かれた。場の空気を変えるきっかけになるかと美琴は
顔を輝かせて教室の入り口に視線を向けた。が、その顔はすぐに曇った。確かにこの人物
ならば十分に場の雰囲気を変えるほどのインパクトを持っている。が同時にさらにうっと
うしいことになるだろうことが容易に想像できた。
 そんな美琴の危惧などお構いなしに、花井春樹はづかづかと天満達の方へと近づいてき
た。
「塚本、八雲くんを知らないか?」
 花井は天満の前で止まると良く響く声で簡潔に用件を伝えた。
「うーん、こっちには来てないけど。部室じゃないの?」
「うむ、僕もそう思っていってみたんだがいたのはサラ君と師匠だけだった。サラ君も知
らないと言うし……。」
「いったいどこいっちゃったんだろう。八雲ったら……。あ、そういえば花井くん何か八
雲に用があるの?」
「うむ、実は八雲くんにチョコレートを貰おうと思ったんだが……。」
「いや、くれるあてもね−ってのに自分から貰いに行ってんじゃねーよ」
「積極的なのもいいけど、度を超すと逆に嫌われるわよ。」
「……うざい。」
420too sweet&enough:04/05/27 02:18 ID:w0Bdqwto
女性陣の口から次々と非難の言葉が上がるが、花井は全く耳を傾けはしなかった。いや、
実際聞こえていないのかもしれない。
「あっ、それなら放課後に茶道部の部室においでよ。昨日わたしと八雲でたくさんチョコ
チップクッキー焼いたんだ」
「おお!!そうか、そうしよう。ありがとう塚本。」
そう言うと花井は上機嫌で自分の席へと戻っていった。
「余計なことを……」
晶が恨みがましい目で天満を非難する。
「えー、けどきっと大勢の方がにぎやかで楽しいよ」
「にぎやかっつーか、お前の妹にとっちゃ迷惑以外の何者でもないだろ」
「そんなこと無いと思うよ。あ、美琴ちゃんも愛理ちゃんももちろんくるよね。あっ、そ
ーだ播磨くんも……あれっ?」
播磨の席には、置き去りにされたパンの袋だけがぽつんと残っていた。
「播磨くん、どこ行っちゃったんだろう?」
天満は不思議そうに播磨の席を見つめたが、すぐに友人の雑談の輪へと戻っていった。
421Classical名無しさん:04/05/27 02:21 ID:w0Bdqwto
どうも、時期はずれなSS書いてすみません。しかも結構長くなりそうですので、気長に
お付き合いいただければうれしいです。それにしても、俺の書く播磨は口数少ないな……。
422Classical名無しさん:04/05/27 02:27 ID:uEHLkSGA
GJ!
リアルタイムで読むことができました、遅くまで起きてて良かったよ。
初っぱなから絃子さんにやられました。
四人に追求されてうろたえる播磨とか(・∀・)イイです。
続きが実に気になります。
423Classical名無しさん:04/05/27 03:35 ID:NGTREzOc
>>421
連載ものは文句出る危険性があるからオススメできな(ry
いや話自体はは面白いですよ。
424Classical名無しさん:04/05/27 09:49 ID:ue2yhb4A
連載ものは2〜3回程度ならいいけどね。
というか連載は回数が増えるにつれクオリティの高さが要求される諸刃の剣。
425Classical名無しさん:04/05/27 10:31 ID:FTeCbFLM
連載良いと思うけどな
今回のは話も面白いし
426Classical名無しさん:04/05/27 10:49 ID:JZmhiykM
>>401
かなり楽しめました。っつかブリキ大王がカラオケにあったのか、知らなかった。
427Classical名無しさん:04/05/27 12:18 ID:f6JHWdLY
いやもうマジで続きが気になる
播磨はどこへ?
428Classical名無しさん:04/05/27 14:51 ID:OmRFJmDE
>>415-420
グッジョブ!
序盤で絃子先生に終盤で沢近に萌えました(*´Д`)
特に絃子先生、牽制してるのか(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

続きが早く読みたいです。
429401:04/05/27 21:15 ID:ttl8tMRc
隣子さえ幸せなら播磨が少しくらい悲惨でもかまやしません(←をい)

>411
大正解。コミックビーム創刊時のCMソングです。
歌っていた片割れは今や「やまだひさし」という名のラジオDJ。
>426
ごめんなさい。どの通信カラオケにも存在しない曲が混じっています。
確かゲームソング系は全滅? にしてもブリキ大王の知名度意外と高いのね。
430Classical名無しさん :04/05/27 23:30 ID:6gWpwnUI
さて、込んでるみたいですが大丈夫かな?
431騎馬戦が終わって:04/05/27 23:32 ID:6gWpwnUI
一条のニンフズ・ダンスで決着がついた騎馬戦。
2−Cは、2点差でトップを走っている。
「かっこいい! 一条ぉ!」
「よっしゃ! このまま優勝だぜ!」
 盛り上がるC組の生徒達。
 しかし、播磨は違っていた。
(ま、正直どうでもいいこった。 俺は豚にエサをやらにゃならんのだ あばよ マイクラスメーツ!)
 グラウンドを後にナポレオンの元に向かう播磨だった。
 
「ぶひー!」
 ナポレオンは、播磨の言い付けを守ってじっとしていた。
「おう、待たせたな。 さ、飯だ」
 用意していたエサをナポレオンに与える播磨。
「ぶひぶひ」
 嬉しそうに食べ始めるナポレオン。
 のどかな午後のひと時だった。
432騎馬戦が終わって:04/05/27 23:33 ID:6gWpwnUI
「ぶひっ」
 ナポレオンが播磨に何か訴える。
 播磨はすぐに理解した。
「お、そうか。 喉が渇いたか……って、どうしたもんかな」
 播磨は考え始める。
 体育祭に乱入した張本人のナポレオンを人前には出せない。
 人目につかない水飲み場……播磨は考えた。
(みんなグラウンドにいるから、反対方向がいいな……ん、まてよ?)
「そうか、校舎の方は人がいないはずだ。 いくぞ、ナポレオン」
「ぶひっ!」
 ナポレオンを連れ、校舎に向かう播磨。
 そこには、意外な人物がいた。
433騎馬戦が終わって:04/05/27 23:33 ID:6gWpwnUI
 グラウンドから遠く離れた水飲み場。
 そこには沢近愛理の姿があった。
「あたた……ドジったわね」
 騎馬戦で落馬後、足を怪我したのである。
 誰にも気付かれずにここまで来て、足を冷やしていたのだった。
「ふう、こんなもんかな」
 満足行くまで足を冷やした時だった。
「何やってんだ、お嬢」
 不意に声を掛けられた。
「え、きゃっ!」
 振り向いた途端、足に痛みが走り、バランスを崩す愛理。
「おっと」
 転びかけた愛理を抱き止めたのは、播磨だった。
434騎馬戦が終わって:04/05/27 23:33 ID:6gWpwnUI
「……なにやってんのよ、ハゲ」
「助けてもらって、そのセリフかよ」
 互いに悪態をつく二人。
「もしかして、足やっちまったのか?」
「だ、大丈夫よこれくらい! あんたこそ、そのブタはなによ!」
「こ、こいつは…」
 播磨が返答に窮したとき、ナポレオンが愛理に近寄った。
「ぶひー」
 愛理の足を鼻で指し示すナポレオン。
「な、なによ」
「なるほど。 お前、そこを痛めてるな?」
「うっ」
 播磨とナポレオンの指摘に詰まる愛理。
「まさか、その足でリレーに出るんじゃねえだろうな?」
 播磨の問いに、愛理は強がった。
「出るわよ! これくらい、どうってことないわよ!」
 じゃあね、愛理が播磨に背を向け歩き出した途端、痛みが走った。
435騎馬戦が終わって:04/05/27 23:33 ID:6gWpwnUI
「いたっ」
 思わずしゃがみこむ愛理。
「やれやれ……どこが『どうってことない』って?」
 播磨の問いに、足を押さえながら愛理は言った。
「大丈夫よ! 騎馬戦だって、活躍したじゃない!」
「その騎馬戦で足を痛めてこうなったと」
「うるさいわね! アンタのせいでしょ? アンタが帽子を取られかかるから」
「帽子の原因はお前だろうが」
 ギャーギャーと互いに憎まれ口を叩く二人。
 こう着状態になった時、先に口を開いたのは播磨だった。
436騎馬戦が終わって:04/05/27 23:34 ID:6gWpwnUI
「なあ、お嬢。 本当にそれで走るのか?」
「平気よ! トラック1周くらい、大丈夫よ」
「これでもか?」
 愛理の足を押す播磨。
 愛理の顔がゆがむ。
「無理すんな リレーは交代してもらえ」
「嫌! 言ったでしょ、『やるからにはマジメに そして勝つ』って」
 愛理の決意に、播磨の中の何かが変わった。
「どうしても出るのか?」
 播磨の問いに頷く愛理。
「体が冷える。 羽織ってろ」
 自身のジャージを愛理に羽織らせる播磨。
「え、で、でも」
 戸惑う愛理に播磨は続ける。
「ほれ、コイツ持ってろ」
 ナポレオンを抱かせる播磨。
 訳がわからない状態の愛理を、播磨は抱き上げた。
「きゃっ な、なにするのよ、降ろして」
 騒ぐ愛理に播磨は言った。
「リレーで負けたのは俺のせいって言われたくねえからな、保健室に連れてくぞ」
 抱き上げながら、播磨は続ける。
「やるからにはマジメに そして勝つんだろ? なら、湿布でもしてもらえ」
 意外な言葉に、愛理は顔が赤くなった。
「わ、わかったわよ。 大事に運ぶのよ、ハゲ」
「だから、ハゲは余計だって言ってるだろうが」
 
互いに悪口を言い合いながらも、保健室に向かう二人だった。
体育祭はクライマックスへ向かっていた。
 
おわり

437騎馬戦が終わって:04/05/27 23:36 ID:6gWpwnUI
今週号の続きを予想してSSしてみました。
どんなもんでしょうか?
438Classical名無しさん:04/05/28 10:32 ID:ILdD9Oco
その後で、
代走した播磨の雄姿を沢近が保健室の窓から遠目で見てたら
もっと活きたかも。
439Classical名無しさん:04/05/28 13:09 ID:nz/MbDJo
いいと思うけど、もうちょっと描写が欲しいです。
セリフばっかりではなくてね。
440Classical名無しさん:04/05/28 18:07 ID:Fn0u1M2w
確かにもっと描写が欲しいな。
441Classical名無しさん:04/05/28 19:39 ID:oZe4A9Rc
>410
みかんのうたを歌う晶にうけ、
さくらんぼを歌う隣子に萌えでした。
天満とみことの選曲はなんだったのか気になりますね。
一行空けが適当なところにあったのでとても読み易かったです。

>421
クリスマスにチョココロネを食ってる状景は、
想像するだけで痛いですねw
イトコさん、そういうプレイだったりして。
ちなみに播磨は、保健室でお姉さんに捕まっていると予想してみる
442Classical名無しさん:04/05/28 19:43 ID:fighBjP6
……40kbオーバー。
もっと短くなる予定だったんだけどなぁ。

ということでこれから投下します。
内容は絃子さんプロローグって感じで。
443Killer Queen:04/05/28 19:45 ID:fighBjP6

 パンッ、パーンッ

 屋内故によく響く発射音とあたりを照らすマズルフラッシュ。
目と耳を刺激するそれらは、普段は斜に構えている彼女でも抗いようなく気分を高揚させられる。
 空中に舞った薬莢が小さな放物線を描き、ちんっ、ちんっ、と床に落ちた。
 まるでその音がスタートの合図のように彼女は駆けだす。

 セーラー服に身を包み、手にはメタリックなハンドガン。小川のように流れる黒髪を照明に
キラキラと反射させ、睨みつけるは標的の三人。
 整った顔立ちはあどけなさをもう残さない。
 才色兼備を地でいく少女、刑部絃子はあたりに薄く漂う硝煙をものともせずに、目標の手前
にある遮蔽物の影に飛び込んだ。
 コンマ数秒遅れて彼女の動きをトレーするかのごとく数多の銃弾が床を穿つ。
 物陰まで火線が辿り着くと、足跡を撃っていた今までの猛烈な銃撃がピタリッと止んだ。
(ふぅ、やれやれ……)
 絃子は先程から耳をつんざくReroadの警告音にいらつきを覚えながらも思案に暮れる。
 ここに至るまで予備のマガジンも使い切り、さっきの二発の射撃で残弾はあと三発。
 マンストッピングパワーと信頼性を重視して45口径を選んだのが失敗だった。
 情報以上の敵の数、そのどれもが銃撃戦をかいくぐってきた猛者ばかり。
 多対一の状況には慣れているとはいえ、この圧倒的な火力の差でよくここまで持ちこたえられた
ものだ。
 現在の状況も忘れて思わず自画自賛してしまう。
444Killer Queen:04/05/28 19:45 ID:fighBjP6

 そんなことを考えながらちらりと絃子は物陰から顔を覗かせた。
 その瞬間を待ってましたとばかりに、再び雨あられと弾丸が降り注ぐ。
 3つの瞬く光が目に入りあわや被弾する直前で絃子は顔を引っ込めた。
(移動は……していないのか。ふむ……)
 敵の弾切れはこれまでの攻撃から考えて期待できない。何よりそんな時間的猶予もないだろう。
それにサブマシンガン三丁の前で籠城戦はジリ貧確実。こちらの残弾が少ないことも敵は
知っているかもしれない。
 そう、残弾。
 このいかんともしがたい現実が冷静な彼女を焦らせる。
 本来、複数の目標に対して位置を確認してから狙いを定めるような遅い撃ち方を絃子はしない。
 目標を視野に入れると同時に狙いもつけておく。
 一つずつ狙うのではなく、一度に全部の狙いをつけるのだ。
 あとは正確な動作で引き金を引くだけ。
 これこそが絃子の得意とする射撃術なのだが、残り三発となっては流石の絃子も慎重にならざるを
得なかった。
 再び三人の銃口が火を噴くのを止める。
 がさがさと移動し始める気配。
(くっ、限界か!?)
 思考を中断し、絃子は飛び出した。
 目算では必殺の射程まで後2m。飛び出した勢いでまず1m。
 絃子が物陰から姿を現したことに気が付いたようだ。
 各々が手に持つ獲物で彼女に狙いを定める。
 ――だが遅い。
 狙いを定めている間に1mを踏破した絃子は白魚のような両手でしっかりと銃を固定し、
絞るように三度トリガーを引いた。

 パンッ、パンッ、パーンッ!

445Killer Queen:04/05/28 19:46 ID:fighBjP6


 ガチャッとハンドガンを模したコントローラーを筐体のポートに差し込む。
 絃子はふうっと一息ついた。
 それと同時に沸き上がる小さな歓声。
 ゲームに集中していたためか、知らぬ間に多くのギャラリーが筐体から少し離れたところ
で取り巻いていたことに絃子は今更気が付いた。
 大きな声ではないが口々に「すげぇー」だの「マジかよ……」だの驚きと尊敬の念が籠もった
話し声が聞こえてくる。
 だがそれらに大した感慨も覚えず、足下に置いていた学生カバンを手に取ると絃子はさっさと
筐体から離れていった。

(まだ少し、時間に余裕はあるか)
 腕時計にちらりと目をやり、これからの予定を考えてみる。
 世間、というか学生の間ではいわゆる夏休みの時期に相当する昨今だが、絃子はほぼ毎日
入学した学校に通う日々を送っていた。
 何も成績が悪かったため補習授業を受けているわけではない。
 むしろそんな生徒は彼女の学校には存在しないだろう。
 彼女の学校は県下でも有数の進学校として名高く、中でもその教育カリキュラムには定評がある。
 日々の高密度な授業だけでなく、こうした長期休暇でも生徒を登校させ半日以上の授業を
執り行ったり、生徒と教師のマンツーマンによる個人指導も盛んで、日付を越えるまで校舎から
明かりが消えないなどよくあることだ。
 また多くの生徒達も学業に対して熱心で、今日のように午前中の授業の後、予備校などに
行く者も少なくない。
 それも卒業を控えた三年生だけではなく全学年こぞって、まるで競り合うかのごとくだ。
 そんな雰囲気になじめない絃子はどうしてもクラスでは浮いた存在になっていた。
一応成績は上の下程度はキープしているとはいえ、両親や学校教師の推薦(というよりも
半分は泣き落とし)に従って一人入学したこの高校では、未だに友人と呼べる存在はいない。
 一年以上在学した今でもだ。
446Killer Queen:04/05/28 19:46 ID:fighBjP6

 改めて自らの夏休みを考えてみると、今し方新入荷のゲームをクリアーしたばかりだというのに
少しばかり気分が落ち込む。
 ストレスの発散と新作ゲームの為に、わざわざ家とは逆方向のそれも普段はあまり訪れない
ゲームセンターに寄り道したというのに、これでは何の意味もない。
 絃子はそんな気分を入れ替えるためにも一つ息を付いた。

「あははは、お姉さん下手だねぇ〜」

 とりあえず店を出ようと考えついた矢先、そんな軽薄そうな声が聞こえてくる。
 思わずさっきのゲームでの醜態を笑われたのかと思い絃子は辺りを窺ってしまう。
 店内は様々な筐体が十色の音を奏でているが、けたたましい笑い声のおかげで声の主を
さほど労力を使わずに発見することができた。
 笑い声は三つ、入り口近くに設置してあるUFOキャッチャーの筐体にたむろしている
男達からだ。
 ぱっと見ただけで男達が自分以外の相手と話していることが分かった。
 こちらからでは男達の背中しか見えないが、おそらく一人の女性を取り囲むように立っている
のだろう。

「さっきから見てたんだけどさぁ、それでもう二千円ぐらいになるよねぇ」
「ちょっと俺にまかしてくんない?こう見えても二個取りとかタグ引っかけができるほど
俺、超うめーからさ」
「えっ、あの……その」
 少々困惑した女性の声が聞こえる。
 騒々しい店内なのに何故かその声は不思議とよく通っていた。
 さらに言えば、どこかで聞いたような気さえする。
「バーカ、テメェがやってるところなんて見たことねぇよ。ま、ここは俺が手取り足取り腰取り
お姉さんに教えてやるからよ。おまえら帰れ。な?」
「帰んのはテメーらだっつうの。ねー、お姉さん?」
「チッ、わかったよ。じゃお姉さん、こんな奴等放って置いてどこか行こっか?」
「あ、あの……ちょっと、手を――」
447Killer Queen:04/05/28 19:47 ID:fighBjP6

 そこまで聞いて絃子は興味をなくした。
 こういった所ではよくある光景の一つだし、男達と面識があるわけでもない。
 なによりこのタイミングでしゃしゃり出れば確実に面倒事に巻き込まれるだろう。
 別段何か予定がある訳ではないが、好きこのんでそんな騒ぎに飛び込むほど酔狂でもない。
 それについ最近、あの手の男達と不本意ながら派手に一騒ぎ起こした後だ。
 これ以上の厄介事は御免被りたいところだ。
(第一、女一人で来ればこんな事が起こるぐらいは予想が付くだろうに)
 未だ顔すら見えない女性にそんな感想を抱きながら、絃子は何事もなかったかのように店の
出入り口へ歩を進める。
 喧々囂々と騒ぐ集団を後目に自動ドアまで後数歩、真夏の眩しい陽ざしがガラス越しに
目に入る直前に至り――

「あ、刑部さん」

 ――突然あらぬ方向から声をかけられた。
 ぴたりと足を止める絃子。
 聞こえた方向から察して一瞬考える、が渋々振り返ることにした。
 そこにはこちらを見つめる三人と一人、特にその中の一人は朗らかな表情を浮かべ微笑んでいる。
 柔らかく淑やかな長い髪、上品な物腰と優雅な佇まいはこの喧噪の中に小さな異空間を
作り出しているかのようだ。
 教室で見かける彼女と寸分違わない目の前の女性、笹倉葉子が小さく手を振っていた。
448Killer Queen:04/05/28 19:48 ID:fighBjP6

 はぁと一つため息。
 現状を理解しているのか疑いたくなるその立ち振る舞いに、絃子は振り返ってしまったことを
少しばかり後悔していた。
 だが対応してしまったものはしょうがない。
 さっさとこの場をやり過ごし、より建設的かつ生産的な時間を過ごすことにしよう。
 そう考えを纏めると彼女は早速ネゴシエーションを開始した。

「……笹倉さん」
「はい」
「こんなところで合うなんて奇遇だね」
「そうですね」
「…………」
「…………」
「じゃ、お友達のみなさんも待っているようだし。私はもう行くよ」
「あ、はい」

 爽やかに片手を上げ、別れの挨拶を済ませる絃子。
数時間ほど前に他のクラスメートが葉子に教室で交わしたものと変わることのない、ごく一般的な
仕草を真似てみる。

「では、また明日…………じゃなくてですね刑部さん。あの、この状況を見て何か感じませんか?」
「…………」
 あたかも何も知らない様を演じてみたが見事に看破される。
特に成績が良かったとは記憶していないが(逆に悪いとも思っていないが)こんな古典的な手では
葉子を誤魔化すことはできなかったようだ。
(見かけによらず冷静なのかもしれないな。状況を理解していないわけではなさそうだし……)
 次はどうやってはぐらかすべきか、そもそも何故彼女が声をかけてきたのか(大方の予想は
つくが)などと絃子が思案していると今まで黙っていた男達が彼女たちの会話に割って入ってきた。
449Killer Queen:04/05/28 19:49 ID:fighBjP6

「おっ、なになに?このおねぇちゃん友達?」
 ピクッと絃子の眉が一瞬つり上がる。
「へぇ〜かなり可愛いジャン。俺こっちの方がタイプかなぁー」
「お姉ちゃんも一緒に遊ばない?このままじゃちょっと男が多いしさ」
 彼らの中ではもはや葉子は確定済みとなっているらしく、話の矛先は完全に絃子に向きつつ
ある。
 が、そんな彼らに返事を返すこともなく淡々と絃子は葉子としゃべり続ける。
「別に何も感じないような無感動な人間じゃないよ、私は」
「あっ、ごめんなさい。別にそういう意味で言った訳じゃ……」
「謝る必要もない。君に悪気があった訳じゃないことも分かっているよ」
「……おいおい、おねぇちゃん。無視しないでくれよ」
 口調はおどけた感じだが、有無を言わせぬ雰囲気を持って男達の一人が再び口を挟んできた。
 それと同時に絃子の肩口へ伸ばしてきた手を、確認することもなくスッと絃子は避ける。
 そのあしらわれ方があまりにも鮮やかだったため残った男達は笑わずにはいられない。
 避けられた男のきょとんとした顔がさらに彼らの笑いに拍車をかける。
「えーっと、じ、じゃあ刑部さんはこういったところによく来るんですか?」
「どちらかといえば普段はあまり行かないかな。そういう笹倉さんも……行かないみたいだね」
「あれ、分かります?」
「UFOキャッチャーに二千円もつぎ込む人間が通い慣れているはずがないよ」
「あら、どうしてその事を?……って聞いていたんですね話」
「おっとこれは薮蛇――」

「無視してんじゃねーって言ってんだろうがよー!」
450Killer Queen:04/05/28 19:52 ID:fighBjP6

 店内の騒音を一瞬かき消すほどの大声量。
その声は店の奥まで届いたのだろう、こちらの様子を窺う人々がちらほらと見受けられる。
当然男はそんな視線を気にすることなく、体をわなわなと震えさせ絃子を睨みつけている。
「あーあ、切れた。」
「可哀想にお姉ちゃん達」
 残りの男達は怒れる男からやや離れた位置でこの状況を楽しむつもりらしい。
大声にすくみ上がった葉子と、さして動じることのない絃子を交互に見てニヤニヤしている。
「…………」
「…………」
「俺は無視されんのも嫌いだがよ、ナメられんのは最高に頭に来るぜ! 特にテメェみてーな
スカしたヤローは一番ムカツクッ! こっちが下手に出てりゃチョーシに乗りやがって、あぁん!?
ちょっと可愛いからって――」
(はぁ、万事が計算通りにはいかないものだな……)
 目の前で自らの不満を吐露し続ける男を意識の片隅にどけ、絃子は心底不幸続きの我が身を
呪っていた。
 夏休みに入ってからというものの、事あるごとにこんなイベントが勃発している。
 昨年は平穏無事で有意義な日々を過ごせていたと記憶しているが、今年の夏休みは大げさかも
しれないが、一日たりとも心安らぐ日が訪れない。
 これは何かの前触れなのかと非科学的な発想までしてしまう。
 そんな日々を払拭するため、また彼らのためにも葉子との会話を円滑に終了させ、邪魔者である
自分は早々に立ち去るつもりだったのだが、絃子の想定以上にこの男は短気だったようだ。
 未だに喋り続ける彼の顔は赤を通り越して、黒ずんできているように見える。
451Killer Queen:04/05/28 19:53 ID:fighBjP6

「――って聞いてんのか、このアマ!」
「いや、すまない。あまり聞いていなかった。少々考え事をしていたものでね」
「――!! このっ!」
「あっ!」
 今まで黙していた葉子から声が上がる。
男と彼女の立ち位置の関係上、彼が激情に駆られて何をするつもりか見て取れたのだろう。
 男は今までポケットにつっこんでいた右手をビュッと真っ直ぐ絃子の襟元へと伸ばしてきた。
その勢いに手加減は感じられず、膨れ上がった怒気も、積もっていたリビドーも一緒くたにして
豊かな胸元の上部を彼の手は目指す。
452Killer Queen:04/05/28 19:54 ID:fighBjP6

 スカッ

 が、しかし男の手は空を切る。
 最初から虚空でも掴もうとしていたのか、そう疑問を投げかけられてもおかしくない格好で
手は、腕は、静止している。

「……アラ?」

 間髪入れずに聞こえてくる嘲笑。
 発信源はもちろん二人の男達。
 彼らから見れば目標であろう絃子の『真横』へ男が掴みかかったようにしか見えなかったからだ。
「乱暴だな。悪気がなかったとはいえ、私は自らの非礼を詫びて――」
「ッラァ!」
 絃子への返事とばかりに放った二撃目は握りしめた拳。
 彼の中では既に絃子という存在が捕縛対象から攻撃対象へとシフトしている。

 スカッ

 だが、それでも男は絃子をとらえきれない。
 彼の拳速が特別遅いわけでも、絃子が特別速いわけでもないというのに、次々と放たれる攻撃は
掠りさえもしない。
 その代わりに彼の耳がとらえるのは、ごちゃ混ぜになった筐体のBGMと爆笑の渦。
連れの男達によって響き続ける笑い声は、荒い男の動きを益々がたがたにさせていく。

 そして笑い声も消え、もう何度目になるか分からない渾身のパンチが、やはり彼女に当たること
なく振り抜けてしまい、ついに男は息が切れた。
453Killer Queen:04/05/28 19:54 ID:fighBjP6

「ハァ……ハァ……、糞っ! テメェ、何かやってやがるな」
「……はぁー、またその質問か」
 見るからにウンザリした様子で絃子は口を開く。
「残念ながら君たちが考えているようなものは拾得していない」
「フカシこいてんじゃ、ねーぞ! ハァ……ハァ……」
「嘘を付いて一体どんなメリットが私にある? それよりもいい加減帰っていいかな?」
 十分に謝ったことだし、と事も無げに言う彼女に男の枯れかけていた気力が再び盛り返す。
「フ・ザ・ケ・ル……なっ!」
 息を継ぐため曲げていた体のまま、男は躍りかかる。
 完全に虚をついた攻撃。
 加えて距離も近い。
 誰しもが次の瞬間、絃子の組み伏せられる様を想像していた。
 それだけ男の動きは獣じみたほど速く、無駄がなかったためだ。
 そう皆が思い描いた。
 たった一人の例外、絃子本人以外は。

 ズザーッ

 重たいものが滑る音に三人は息をのむ。
 結果は彼らの想像とは真逆だった。
 二人の男達の足下へ、その体を使ってモップがけをした男が一人。
 黒い髪を靡かせて半回転した女が一人。
 それが目の前の結果だった。
454Killer Queen:04/05/28 19:55 ID:fighBjP6

「巫山戯てなどいなかったのだが、ってもう聞こえていないかな」
 何事もなかったように絃子は身支度を整える。
 襟元を正し、スカートを払い、少しばかり辺りを見回す。
「じゃ、笹倉さん。あとは宜しく」
「……っえ? えっ!?」
 突如話を振られて、今まで傍観しているだけだった葉子の脳は再活動を開始する。
 が、開始するもののすぐさま混乱に陥ってしまう。
 てっきり事態の収拾まで付き合ってくれる(有り体に言えば助けてくれる)ものとばかり
思っていた彼女は、こんな修羅場の渦中で主導権を渡されるとは思っていなかった。
「いやっ、あの、ちょっと刑部さん? えっと……冗談、ですよね?」
「冗談なんか言わない。降りかかる火の粉も払ったことだし、後は帰るだけだ」
 表情一つ変えず、絃子はそう言い残すと踵を返す。

「それをマジで言ってんなら、オマエあたま悪りぃだろ?」
「ダチがやられっぱなしで帰すと思ってんのか?」

 しかし、そんな彼女を遮るように、剣呑な二つの声はフロアに寝ている男の方から聞こえてきた。
 気にすることなく立ち去ることもできたが、彼らの一言、特にある部分がどうしても癪に障り
絃子は足を止め、再び彼らと向き合う。
「頭が悪いと言われるのは心外だな。是非とも撤回してもらいたい」
「はっ、頭が悪ぃヤツに悪いって言って何が悪い」
 三度目のため息。
 どうして、今そこで男が一人寝そべる過程を見てきたばかりなのに、そういった発言ができるのか
絃子は不思議でならなかった。
 男の猛攻を途中から笑わなくなったため、てっきり自分との(彼らにとっては不可解な)力量差を
理解したものとばかり思っていたのだが、どうやらそう言うわけではなかったようだ。
 じりじりと近づいてくる男達を会話で止められるとは思わないが、最後の忠告として絃子は
言葉を紡ぐ。
455Killer Queen:04/05/28 19:54 ID:fighBjP6

「君たちがどう思っているかは知らないが、アレは極めて正当な防衛だ。付け加えるなら私自身は
殆ど何もしていない。言ってしまえば彼が勝手に転けた――」
「「ごちゃごちゃウルセー!!」」
 その一言が起爆剤となった。
 絃子が喋り終わるのを待つまでもなく、男達二人はほぼ同時に突進してくる。
 十分なスピード、みなぎるパワー、どれをとっても女性一人に向けるものではない。
 それを二人がかり。
 対して絃子は泰然自若。
 ただ一つ先の交戦(?)と違うのは、その手にカバンを持っていないだけ。
 事態の成り行きを見つめるしかできない葉子の目の前で、そんな三人は交錯した。

 ゴンッ! ガンッ!

 重たい何かがぶつかる音。
 三人が衝突する直前に手で目を覆った葉子が、まず最初に知覚できたものがその音だ。
 常に何かしらの音に鼓膜を振動させられる空間にいても、そのリアルなサウンドはイヤな想像を
加速させる。
 そっと手の平を広げ、指の間から葉子は結末をのぞき見た。
 果たして彼女の目に映ったものは、UFOキャッチャーと写真をシールにする筐体の前に
それぞれ転がっている男二人と涼しげな顔の絃子であった。
456Killer Queen:04/05/28 19:55 ID:fighBjP6

「…………」
「はぁ〜、またやってしまった……」
 だが涼しげな顔だったのは一瞬だった。
 片手で顔を覆い、何やら苦悩じみた言葉をこぼす絃子。
「どうにもこういった場合はうまく話し合いで収めることができない。一体何故だ……」
「……わざと、じゃなかったんですね?」
 本人は独り言のつもりだったのだろうが、近寄ってきた葉子がその一言に反応する。
「む。わざとだって?」
「いえ、私から見てみれば刑部さんが挑発しているようにしか見えなかったので……」
 そこまで聞くと、絃子は一人難しい顔する。
「君までそう見えたのか……ただの子供の世迷い事と聞き流していたが……」
 言葉尻は声が小さくなって聞き取ることができなかったが、同じような事を以前に誰かから
指摘されたことがあるらしい。教室でもあまり他の人と話しているところを見かけない彼女に
そのようなことを言う人がいることが、葉子の好奇心を刺激させる。
 思い返してみれば、絃子のことは運動神経が良くて成績がいいという程度にしか知らない。
 彼女の好みや趣味はもちろん、どんな部活に入っているのか、どうしていつも一人なのか
さっきからあの男の人たちに何をしているのか、謎だらけだ。
 考えていくと色々聞いてみたいことはあるが、とりあえず今、最も疑問に思っていたことを
葉子は口にしてみる。
457Killer Queen:04/05/28 19:55 ID:fighBjP6

「それで、結局何をしたんですか?」
「ん? 『何を』って何の話かな?」
 床で横臥する『二人』の男達をちらりと見て、葉子は言及する。
「あの男の人たちにですよ。やっぱり刑部さん、何か格闘技とか武術とか、そういうものを
やっているんですか?」
「ああ、その話か。さっきも言ったように、私はそういった類のものは習ってはいないし、あまり
興味もない」
 さもどうでもいい事のように、絃子は抑揚なく話す。
「だけど、強いて言うならば……『計算』していた、とでも言えばいいのかな」
「『計算』?」
 床に置いていたカバンを手に取り、違う意味で騒がしくなりつつある店内をキョロキョロと
見回しながら絃子は続ける。
「強いて言えばね。さて、詳しい話をしてもいいけど場所を移さないか? 流石にここだと目立ち
すぎる」
 彼女のように葉子もあたりを見てみる。
 なるほど、先程の大声でこちらの騒ぎに気付いた他の客達が、露骨に彼女たちを見つめているのが
よく分かる。
「そうですね、じゃあ出ましょうか」
 葉子も頷き絃子同様、床に置いていたカバンを手に取る。まさにその瞬間――

「そうはいかねぇけど、なっ!」

 ――嗄れた声は葉子の真後ろから聞こえてきた。
 絃子がその存在を確認するより早く、一番最初に倒された男は葉子を後ろから羽交い締めに
していた。
458Killer Queen:04/05/28 20:00 ID:fighBjP6

「キャッ!」
「おーっと、動くなよ。この女がどうなってもいいのか?」
 赤剥けた顔を興奮でさらに赤くして、男は絃子に制止をかける。
 その手にきらりと光る刃、どこから取り出したのか男は躊躇することなくそれを葉子に向ける。
「……嗚呼、これはきっと夢だ。私の体は今もレム睡眠中で目の前の光景は以前体験したものを
脳が焼き回しているだけに違いない。きっとそうだ……」
「んなわけネーだろが! 馬鹿かオマエはっ!」
 男の怒声が再び店内に響く。
 二人の男達を相手取った後から、姿が見えない目の前の男の行方を気にしていた絃子だったが
まさか『また』このようなシチュエーションになってしまうとは、嘘でもいいから夢だと言って
欲しい心境だった。
「……いい加減、勘弁してもらえないだろうか。大体そうまでして何がしたい?」
「テ、テメェ……まだ余裕ぶっこきやがんのか!? これがどういう事かワカンネーのか!」
 手に持つナイフを振り回しながら、熱弁する男。
 こちらを見つめていた野次馬達も事態の急展開に、その輪を広げる。
「お、刑部さん。できれば……あの、あまり刺激して欲しくないです……」
 身動きのとれない葉子は少しばかり震える声で弱々しく主張する。
 無理もない。
 興奮して錯乱気味の、それも刃物を所持した男の腕に捕らえられていては、それこそ生きた心地が
しないだろう。
「ふぅ、……で、何が条件だ?」
 これ以上、彼に言葉をかけるのも億劫になってきた絃子は、単刀直入に打開案を聞いてみる。
「は、ははははっ。いいぜぇ、分かってきたじゃねーか」
「…………」
「よし、そこを動くな! いいな、絶対動くなよ」
 男はそう言い放つと、葉子を片腕で押さえつけながら一歩ずつ絃子に近づいてくる。
459Killer Queen:04/05/28 20:02 ID:fighBjP6

 一歩。

 スッ

 また一歩。

 スッ

「って動くなっつっただろうが! 下がんじゃねー!」
 赤黒い顔に血管まで浮き上げさせて男は叫ぶ。
 歩けど歩けど絃子が遠ざかったためだ。
「何をするか分からない人物を近寄らせたいと思うのか?」
「こ、こここ、こ・の・ア・マ〜、こっちには人質がいるんだぞ!?」
 ぐいっと葉子を抱き寄せて、男は握りしめたナイフを彼女に近づける。
「……刑部……さん」
 涙ぐみ、足を震えさせ、瞳で訴えかけてくる葉子。
 はぁ、と本日もう何度目になるか分からないため息をつき、絃子はゆっくりと話し始めた。
460Killer Queen:04/05/28 20:03 ID:fighBjP6

「いいか? 何か勘違いをしているようだから、はっきりと言っておくが、彼女と私は別に姉妹でも
なければ友達でもない。ただのクラスメイトだ。だから彼女を盾に私を脅迫しても、何の効果も
意味もない」
 ここまで喋り、絃子は一呼吸おく。
 男の様子を観察してみるが、黙って彼女の話を聞くつもりなのか、この時点では
何も言ってこない。
 ただ話を理解していないだけのようにも見えるが、問題ない。
 葉子の方も少々青ざめているように見えるが、こちらは絃子の言い分を理解しているようだ。
 絃子は話を再開する。
「要求する内容が大したことのないものだったら呑むつもりだったが、私の身が危険に晒される
というならば話は変わってくる。安易にその条件を呑むわけにはいかない。しかもその条件で
彼女を解放してくれるという保証もない。笹倉さん、君が逆の立場だったらどうする?」
「ぇ?」
 絃子から発せられる辛辣な言葉に、絶望感を受けていた葉子は思いも寄らぬ彼女からの水入りに
顔を上げる。
「いや、彼女の立場でそれを聞くのも酷だな。つまり至極一般的な結論はこうだ」
 葉子の返事を待つことなく、くるりと絃子は反転し、彼女達に背を向ける。
 向かう先は数メートル先の自動ドア。
 淀みなく、絃子は歩き始めた。
「じゃあね、笹倉さん」
 絃子は振り返ることもなく軽く片手を上げて、その場を立ち去っていく。
 その姿に、今までぽかーんと話を聞いていた男が急に声を上げる。
「ちょっ、待て! この女はどうなってもいいのか!?」
 声に含まれるものは焦り。
 やっと小生意気な女からアドヴァンテージをとったと思った途端、その女が全く相手にしてこない
となれば、画策していた計画は一気に水の泡となる。
 彼が焦るのは当然だった。
 だが上がった声に応じることもなく絃子は歩き続ける。
 その姿こそが返事といわんばかりに動じる様子は欠片もない。
461Killer Queen:04/05/28 20:03 ID:fighBjP6

「…………」
 葉子は考えていた。
 絃子が今話した内容は確かに理が通っている。
 彼女には葉子を助ける義理も、メリットも何もない。
 しかも自分を羽交い締めにしている男は彼女をひどく恨んでいる。
 彼女が言ったように逆の立場だったら、自分だってそうしていたかもしれない。
 ならば彼女の行動に間違いはない。
 だけど一つだけ。
 一つだけ自分は肝心なことをやり忘れている。
 これを言った後で彼女がどうするかは分からないが、今できる最大限のことがこれだ。
 そこまで考えて、葉子は大きく息を吸い込んだ。

「お願いです! 刑部さん、助けてください!」
462Killer Queen:04/05/28 20:04 ID:fighBjP6

 出口まで後僅かの位置で、絃子は立ち止まる。
 なにやら考えているような仕草を取り、ふむ、と一言。
「『お願い』か……そうだな、クラスメイトの『お願い』なら無碍には断れないな」
 まるで彼女自身に言い聞かせるように独りごちると絃子はゆっくりと葉子に向き合う。
 自然と目と目があった。
「もしかしたら、怪我などをさせてしまうかもしれない。それでも構わないと?」
「……はい。構いません」
「分かった」
 短い問答を済ませ、再び絃子は男と対峙する。
「ということだ、彼女を解放してもらおう」
 突然大声を上げた葉子にびっくりしていた男は、絃子のその一言でやっと事態の変化を理解する。
「は、はんっ、放せといわれて素直に放――」

 パパパッ!

「ってぇー!」
 口上の途中で上がるガスの射出音と金属のぶつかる音。
 カラーンと床にナイフが落ちる。
 すぐさま絃子はセレクターを調節して、もう一発パスッとナイフに撃ち込む。
 その一発でナイフは床をすべり、野次馬達の足下まで離れていった。
「ヤロウ! 何しやがっ……た……」
「理解したようだな」
 いつの間にか絃子の手には黒光りする金属物が握られていた。
 それは世間一般で言うところの『銃』というものと形状において極めて相似している。
 異なる点は射出した弾がプラスチック製で発射音が極めて静かなことと、スライドが後退しても
薬莢が排出されないどころか銃口からの閃光も硝煙もない点。
 つまるところガスガンだ。
463Killer Queen:04/05/28 20:04 ID:fighBjP6

「銃は剣よりも強し、いやこの場合は拳か。まぁともかくこれで勝敗はついたな。さぁ、彼女を
放してくれ」
 ナイフを握っていた手(というか指)が赤紫色に変色していく様子を見て、しかし銃口を
下げることなくセレクターを再度いじり、絃子は男に促す。 
「勝敗が……ついただと……」
「痛っ!」
 またしても彼女の一言が男の逆鱗に触れる。
 沸き上がる怒りのため、葉子を押さえていた男の腕に力が入り彼女の顔が苦痛にゆがむ。
「まだこっちには! この女が残――」

 パパパッ!

「ウガァッ!」
 鼻の下、上唇のやや上を狙ったプラスチック弾は三発とも命中し、男を仰け反らせる。
 被弾した場所が場所だけに、彼の筋肉は弛緩し、がくりと膝をつく。
 その隙に乗じて葉子は男の腕の中から脱出した。
「刑部さん」
「やれやれ、呆れるほどタフだな」
 絃子の元へ駆けつけてきた彼女をちらりと見て、また視線を元に戻す。
 そこには膝をガクガクさせながらも、もの凄い形相で立ち上がる男がいた。
464Killer Queen:04/05/28 20:05 ID:fighBjP6

「へっ、へへへ……そんな豆鉄砲が、お、俺に通じると、思ってんのか?」
 歯を食いしばり、強引に体を起こす姿を見せては説得力に欠けるというものだが、それでも男は
軽口を叩きながら闘志を漲らせる。
「通じると思っていたのだが、正直少々驚いている」
 絃子のその言葉に嘘はない。
 こういう用途に使えるように、しっかりとカスタマイズした(レギュレーション違反という言葉が
冗談に聞こえるような)お手製のガスガンから二度も被弾して、なお立ち向かってくるとは彼女の
予想にはない出来事だった。
「んなもんはな、我慢しちまえば、何とでもなるんだよっ!」
 己を鼓舞して男は絃子に勢いよく飛びかかる。
 人質を手放し、武器も失っい、頭に血の上った彼が唯一とれるものは正攻法。
 無策無謀に男は絃子目指して突っ込んでいく。
 そんな彼をつまらないものでも見るかのように冷めた視線で一瞥し、絃子は顔色一つ変えず
引き金を引いた。
465Killer Queen:04/05/28 20:05 ID:fighBjP6

 パパパッ!

「ッギャ!」
 そして葉子の手を引き、絃子は場所を空ける。
 片手で持っていたカバンを投げて。

 ガッ!

 まさに急転直下。
 視界を失い、勢い余った男は絃子の計算通りにカバンに躓き――

 グシャッ!

 ――床へとキスをした。
 この場ではあり得ないはずの一瞬の静寂があたりを包む。
 ピクピクと体を震えさせ、男が再度立ち上がってくる気配なはい。
 こうして男達の闘いは幕を閉じた。
「一応言っておくが、ちゃんと眼孔を狙った。失明はしていないはずだ」
 発射された弾を両目の縁と眉間にそれぞれ当てる離れ業をこなしながらも、外科医の執刀のような
冷静さで銃撃した箇所を申告して、絃子はカバンを手に取る。
 事態の決着にあたりがざわめく中、ガスガンを仕舞うとおもむろに彼女は葉子の手を掴んだ。
466Killer Queen:04/05/28 20:06 ID:fighBjP6

「さて、笹倉さん」
「……あ、はい」
 映画でしか見ることがないような圧倒的な展開を垣間見て惚けていた葉子は、その握られた
柔らかい手といつものフラットな声で現実に引き戻される。
「足は速いほうだったかな?」
「いえ、どちらかというと遅い……と思います」
「やっぱりそうか。じゃあ、とにかく頑張ってくれ」
「え?」
 何をですか、という疑問を上げる暇はなかった。
 絃子は彼女の手を力強く握り直すと、一気に駆けだす。
 タイミング良く、客が店内へ入店してきて自動ドアが開く。
 その一瞬を逃さず、絃子は葉子と共に店外へ走り出した。
「ちょっと、刑部さん!?」
 引っ張られる形になりながらも、懸命に足を動かし葉子は目前の絃子を追走する。
「話は後だ。いいから今は走ってくれ」
 前をいく絃子は振り返ることも、速度を落とすこともなく走り続ける。
 今や離れつつあるゲームセンターからは彼女たちを呼び止める声が聞こえてくるものの
先導する彼女がそれを気にする様子はない。
 酸素が足りなくなっていく頭でこれ以上考えることを止め、葉子はただただ走ることに
集中していった。
467Killer Queen:04/05/28 20:07 ID:fighBjP6


「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」
 何も考えず、吸って吐く。
 横隔膜を動かし、心臓を全力で稼働させ、少しでも多くの酸素を血中に取り込み、体中に
行き渡らせる。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」
 額を伝ってくる汗を手で拭う。
 その拭った手も汗だらけだったのを拭った後から気付く。
「ハァ、ハァ、ヒャアァッ!」
「もっと運動することを勧めるよ、笹倉さん」
 突如背中に冷たい物体を押し当てられ、訳の分からない声を上げる葉子。
 手に持つ二つのスポーツドリンクの一つを彼女に渡しながら、全く悪びれることもなく絃子は
呆れたような声を出していた。
「こんなに、走った、のは、久しぶり、だったので……」
「まぁ、そう言うことにしておこう」
 徐々に息を落ち着けつつある葉子を見つめながら、絃子はプルトップを開け中身を口にする。
 あれから彼女たちは暫く走り続け、繁華街から離れた公園まで来ていた。
 真夏の空の下、気温が最高潮になる昼下がりに走り続ければ絃子だって汗をかくし、息も上がるが
目の前であえぎ続ける彼女ほどではない。
468Killer Queen:04/05/28 20:08 ID:fighBjP6

「それにしても今日も暑いね」
「そんな日に、全力で走らされるとは、思っていませんでしたよ」
「じゃあ君はあそこで、さらに面倒ごとに巻き込まれても良かったと?」
「すぅぅー、はぁぁー……。ふぅ、あれ以上あそこで何か起こるんですか?」
 時間はかかったが何とか呼吸を整え、葉子も絃子が座る木陰のベンチに腰掛ける。
「気が付かなかったかな? 私たちが店を出てから聞こえた店員の声が」
「あ……はい。聞こえました」
「あの騒ぎできっと店は警察でも呼んだんだろう。被害者の私たちには店側としても残って
欲しかっただろうね」
「…………」
 あの冷徹とまで言えるほどの応対をしてなお『被害者』と言いきる絃子に葉子は返答しかねる。
「これでしばらくの間、あそこへは行けなくなったな」
 やれやれと残念そうに顔を上げ、木漏れ日に目を細める絃子。
469Killer Queen:04/05/28 20:08 ID:fighBjP6

「……すいません、私のせいで……」
「ん? いや、気にすることはない。最終的に関わることを決断したのは私の意志だ。それに
もっと穏便に事を収めるやり方があったはずなのに、それができなかった。これは私の失態だ」
 騒ぎの発端となったことを謝罪する葉子に対して、絃子はいつもの調子でそれを否定する。
「そう言う意味では謝るべきなのは私の方かもしれないな。君にまで怖い思いをさせてしまった
ことだし……」
「そんな! そんなことありません! あれは私の方からお願いしたことです。刑部さんは、ただ
私のために、私の願いを聞いてくれただけです。刑部さんが、謝るなんて……」
 謝る必要なんてありません、と語尾になっていくほど声は小さくなったが彼女らしからぬ
威勢のいい出だしに少々絃子は面食らった。
(見た目で人は判断できないとはよく言うが、彼女もまさにそれだな)
 未だに開封しないドリンク缶をじっと見つめて口を閉ざす葉子を少し見つめて
絃子は缶に残る飲料水をぐいっと一気に飲みきる。
「ま、お互い悪かったということでいいかな?」
 少し離れた箇所にあるゴミ箱目指してスローイン。
 見事に空き缶はカラーンと軽い音を立てて収まった。
「…………そうですね」
 言葉とは裏腹に納得しかねている雰囲気だが、葉子も頷きドリンクを開封した。
470Killer Queen:04/05/28 20:10 ID:fighBjP6

 そして数分ほど静かな時間が流れる。
 青々とした木々を撫でるように吹く風の音と、少しずつゆっくり嚥下する音だけが
抜けるような青空の下でエチュードを奏でる。
「……そういえば笹倉さん。UFOキャッチャー、何を狙ってた?」
 そよぐ枝葉を見つめながら、絃子はふと思いついたことを口にする。
「え? えっと、ぬいぐるみです」
「いや、それは分かっている。どんなぬいぐるみなのか聞いているんだよ」
「猫です。ちょっとつんけんした感じの黒い猫を狙っていました。結局取れませんでしたけどね」
 小さく照れ笑いを浮かべ、飲み終えた空き缶で手遊びをしながら葉子は答えた。
「二千円を賭けて勝負に出るほどの猫、か……ちょっと見てみたかった気もするな」
 葉子の言うつんけんした感じというものがどういったものかは分からないが、大枚をはたいて
狙ったというぬいぐるみならさぞかし可愛いものなのだろう。
「あっ、その、えと……」
「ん?」
 手遊びをぴたりと止め、葉子は何故か口ごもる。
「どうかしたかな?」
「実は……二千円じゃないです。あの子を取ろうとした金額……」
「ほぅ……」
 UFOキャッチャーでいつの間にか財布が空になっていたという話はよく聞くものだ。
 隣でまたもじもじとやり始めた彼女も、そう言う人たちと同じ過ちを犯したのだろう。
471Killer Queen:04/05/28 20:11 ID:fighBjP6

「ああいったぬいぐるみの原価、知らない訳じゃないだろう?」
「はい、もちろん知っています。だけどあそこにしかなかったんです。あの中にしか……」
 少し悔しさの籠もる声。
 投資した金額に見合う結果が得られなかったのだから当たり前といえば当たり前だ。
「で、結局いくら使ったんだ? 三千……四千……五千?」
 徐々に金額を増やすものの葉子は変わらず手元を見続けている。
「六千……七千……って、まさか一万円以上かけているとか……」
「プラス五千円です」
「…………はぁー……馬鹿か君は」
 思いも寄らぬ回答に絃子は軽いめまいを覚える。
「原価はその百分の一程度だぞ? それだけの金額を払えば店側だって諸手をあげてぬいぐるみを
くれたに違いない。そもそもぬいぐるみごときでその出費というのが信じられない……」
 大きくかぶりを振り、彼女に関わったことをやっぱり後悔する絃子。
 それだけの大金をぬいぐるみ一つにかけている姿は目立つことこの上ないだろう。
 途中からとはいえ目撃されては、ああいった軟派な男達から言い寄られても当然だ。
472Killer Queen:04/05/28 20:12 ID:fighBjP6

「そんなのダメですよ。きちんとクレーンで取ってこそUFOキャッチャーです。それにあの子には
それだけのお金をかける価値がありました。あの可愛らしさが刑部さんには分からないだけです」
「ああ、きっと生涯分かることがないだろう。無駄遣いの極みだな」
 頬をふくらまし抗議してくる葉子をあっさりと切り捨てる。
 そんな箸にもかけない絃子の扱いに彼女のふくれっ面はますます顕著になる。
「もぅ、今度あの子を取ることができても、刑部さんには見せてあげませんからね」
「……君のその腕ではあといくらつぎ込んでも無駄だ。おとなしく諦めることを推奨する」
 風船のごとく膨らんでいた頬から一気に空気が抜ける。
 絃子の何気ない一言が、さくっと葉子の泣き所を刺し貫いたのだ。
 がっくりと葉子は肩を落とし、見るからに傷つきましたオーラを発し始める。
「…刑部さん……いい人…思って……っぱり………きつい……」
 ブツブツと呟く声は聞こえる範囲で批判的。
 残り僅かの缶をちゃぷちゃぷ振りながら、葉子は少々項垂れている。
(存外に子供っぽいんだな)
 隣で落ち込む彼女をフォローすることもなく絃子はそんなことを考える。
473Killer Queen:04/05/28 20:12 ID:fighBjP6

 やがてその小さな声も聞こえなくなり、今度は控えめにウンウンとうなる声。
 恐らく彼女の思考は次のステップへ進んだのだろう。
「むー。よし、決めました」
 難しい顔から一転、にこっと爽やかに微笑み、葉子は考えついた計画を口にする。
「刑部さん、いま何か困っていることとかありませんか?」
「また唐突だな」
 何やら考え込んでいたので何を言い出すかと思えば、彼女なりの意趣返しのつもりだろうか?
 どうせ彼女のようなタイプが何をしようと問題にはならないが、嘘を付くのも億劫なので絃子は
正直に答えた。
「……特にない。差し当たって今のところはね」
 それがどうかしたのか、と絃子はいきなり消沈しかけている葉子へ疑問を投げ返す。
「本当に、本当にありませんか? 何でも構いません。どんな些細なことでもいいですから」
 すがるような声で言われてもないものはない。
 自分の問題は自分で解決することをもっとうにしている絃子に対してその問いは愚問とも言えた。
 それでもあえて上げるとするならば、今日のような事態に遭遇しない方法とか、あのような状況
でも何の衝突もなく解決する方法とか、凡そ葉子がどうすることもできないものしかない。
 言うだけ無駄というものだ。
(我ながらそんな剣呑とした悩みしかないのか……)
 やれやれと少し顔をしかめながら再度断ろうとして

「あ――」

 一つだけ思いついたものがあった。
474Killer Queen:04/05/28 20:12 ID:fighBjP6


 今週末は気温も今年一番。
 湿度も高い日本の夏は総じて不快指数が高くなる。
 蝉の鳴き声をBGMに開け放たれた窓からは、風も吹き込んでこない。
「ただいまー!」
 玄関から聞こえる元気な声。
 昼のこの時間帯は無人になることが多い絃子の家だが、そんなことお構いなしに
家中に聞こえる声で帰宅を告げる。
 持っていた手荷物を玄関に放り捨て、間を置かず軽快な足音を響かせる。
それは廊下から階段、そしてドアの前まで響き――

「絃子姉ちゃん! ケンカのやり方教えてくれるってホントか?」

 ――大きく開かれたドアからまさに転がり込む勢いで現れたのは、こんがりと日に焼けた肌に
短く切りそろえられた髪、顔には絆創膏が数枚張られた、やんちゃ坊主を体で表している男の子。
 播磨拳児だ。
 しかし大仰な登場に動じることなく、簡素なテーブルでアイスコーヒーを口にしていた絃子は
座ったまま闖入者に話しかける。
475Killer Queen:04/05/28 20:13 ID:fighBjP6

「いつも言っているが拳児君、部屋に入るときはまずノックだ」
「おう、わかった。でさ、ケンカ! 早く教えてくれよ」
(返事だけはいいのだがな……)
 絃子の部屋での毎度のやりとりを済ませ、やはり今回もため息をつく絃子。
「アレだよな、アレ。絃子姉ちゃんが前に言ってたヤツ。今日こそ教えてくれるんだろ?」
 シュッシュッとその場でシャドーボクシングらしい動きをして拳児は期待に瞳を輝かせる。
 いつものことではあるが、昨日彼に話した内容と彼が今理解している内容には大きな隔たりが
あるようだ。
「君の勘違いと早とちりは大きくなる前に治しておいた方がいいな。まぁその前に、だ。何か
気が付かないのか?」
 放っておけばどんどんボルテージを上げかねない拳児の様子を察して、絃子は水を向ける。
「んあ? ってそういえばこのおねえさん誰?」
 ピクッと絃子の眉が一瞬つり上がる。
 あの時から考えているが、どうしてか絃子は『お姉ちゃん』と言われることが多い。
 自分と同じ年頃ならば皆そうなのだろうと思っていたが、葉子に対するリアクションでそれが
間違っていることに気付いた。
 些末事ではあるが、一度気になり始めるとイヤでもその違いに反応してしまう。
 だが今はそんなことを話しているときではない。
 何かと好奇心旺盛な(というか子供らしく散漫的な)拳児に対しては淀むことのない会話が
必要とされるためだ。
(まぁ、このことは後で本人に小一時間ほど問いつめることにしよう)
 心の中で今日の予定を一つ増やし、拳児の疑問に答えるべく何故かウチに来てからずっと
にこにこしている葉子へ手を向ける。
476Killer Queen:04/05/28 20:13 ID:fighBjP6

「紹介しよう。彼女は私のクラス――」
「絃子お姉ちゃんの『友達』の笹倉葉子っていうの。葉子お姉ちゃんって呼んでくれると
うれしいな」
 絃子の言葉を塞ぐように葉子は拳児に自己紹介する。
 その行動は礼を失しているとも言えるが、それ以上に友達という単語を強調して言ったことが
絃子には引っかかった。
 プレッシャーをかけるつもりでじっと睨んでみるが、葉子は微笑み返してくるだけで糠に釘だ。
「俺、播磨拳児。拳児って呼んでいいゼ」
「うん、じゃあ拳児君。初めまして、今日はよろしくね」
「おう。よろしくな葉子姉ちゃん」
 絃子が葉子の行動を訝しんでいる間にそれぞれの紹介は終了していた。
 第一印象は可もなく不可もない、といったところだろうか。
 表情から簡単に読める拳児はともかく、葉子の方もそのような雰囲気だ。
477Killer Queen:04/05/28 20:14 ID:fighBjP6

「では話を元に戻そう」
 少し落ち着いてきた拳児が葉子に促されるようにテーブルに付いたのを見計らって、絃子は改めて
拳児に話しかける。
「昨日も言ったように、今日は拳児君、君の健やかな成長のために教鞭を執ることにする」
「おっしゃー! ついに教えてくれるんだな?」
 座ったばかりの拳児は、またがばっと立ち上がる。
 自分も客だというのに、てきぱきと拳児の前にグラスを置き、アイスコーヒーを注ぐ葉子が
興奮する拳児を宥めるも、燃え上がりつつある闘魂の火はその程度では消えるはずがない。
 今度は空中に向かって正拳突きを繰り出し始める。
「あわてるな。本日の講師は私ではない」
「え?」
 鋭く放った中段正拳突きをその構えのままに拳児は固まる。
「それに毎回言っているように『確率統計学的な行動予測に基づく危険回避術』は喧嘩のための
技術ではない。ただの護身術であり、端的に言えば算術だ」
 つまり算数と理科の応用だ、と拳児にもわかりやすく説明するが当の本人は聞いていない。
「え〜、何だよソレ。折角期待してたのによー」
「人の話を最後まで聞かない君が悪い。弟を持ったのだから、もう少し自重というものを
覚えることだ」
「こっちに来てまでシュージの話なんか聞きたくねー」
 明らかさまにブー垂れる拳児に絃子はぴしゃりと言い放つ。
 生後間もないと言うことで、今年の夏休みは拳児だけが絃子の家へ遊びに来ていた。
 言ってしまえば厄介払いなんだろうが、毎年恒例のことだけに特に思うことはない。
478Killer Queen:04/05/28 20:14 ID:fighBjP6

「刑部さん」
「ん? トイレなら階段を下りて右だ」
「いえ、そうじゃなくて。何なんですかその『危険回避術』って?」
 絃子に説き伏せられ、不承不承座り直しアイスコーヒーを飲みだした拳児に替わって、今度は
葉子が絃子に質問する。
「そういえば笹倉さんには話していなかったな。前に言っていた『計算』のことだよ」
「ああ、あれですか」
 ぽんっと手を合わせ、葉子は以前に言っていた絃子の台詞を思い出す。
「詳しく話すと長くなるが……どうする?」
「ちょっと興味があるので、お願いします」
 彼女の返事にふむ、と一言。
 絃子はアイスコーヒーで喉を潤す。
「たとえば対人時だが」
 こほんと一つ咳払い。
 居住まいを正し、絃子は語り始める。
「人体は可動領域に限界がある。どんな技術や武術を身につけたところで、動きには必ず際限が
存在する。その絶対域を予め統計学の見地から求め、一般解を算出。同様に相手の性別や体格
所作、所持品から服装に至るまであらゆる要素を等級化、数値化し適宜それを組み合わせていく。
そうすることで相手の行動に予測をつける事が可能となり、あとはそのデータから自身に
フィードバックさせ、最も高い確率で相手のアクションを避けたり、阻害できる場所や姿勢を算定
することができる。これらを状況に応じて瞬時に計算、行動すること。それが私の護身術
『確率統計学的な行動予測に基づく危険回避術』だ」
 一度に話し終え、絃子はまたグラスを手に取る。
「えっと……それってもの凄い計算量になるんじゃ……」
 絃子の弁に合いの手も入れずに聞き続けた葉子の感想は、やはり彼女の予想通りのものだった。
「幸い暗算は得意なんでね。五桁程度の掛け算だったら三秒以内に答えられる自信がある」
 計算式も最適化している、と当たり前のように続ける絃子。
 彼女のそんな超然ぶりには慣れてきたと思っていた葉子だったが、またしてもその認識は
甘かったと痛感する。
 一体どこの世界に護身術を理論化する女子高生がいるだろうか。
479Killer Queen:04/05/28 20:14 ID:fighBjP6

「でさー、誰が教えてくれるんだよ絃子姉ー」
 グラスを空にして、すっかり待ちくたびれた風体の拳児が横から口を挟んでくる。
「この部屋には私と、彼女と、君しかいない。私じゃないとすれば答えは見えてくるだろ?」
「えっ!? つーことは、葉子姉ちゃんかよ」
 まるでカルチャーショックを受けたかのように惚けていた葉子だが、拳児のその一声ではっと
我に返る。
「あ、そう。そうだよ拳児君。今日の先生は私ですよ」
「……葉子姉ちゃんって強いのかよ?」
 無遠慮にじろじろと葉子を見つめ、拳児は懐疑の声を出す。
 目の前の涼しげな女の人が絃子のような猛者とは到底思えない。
 とはいえ絃子のそう言った面を見ることができたのは、拳児も今年の夏休みが初めてだ。
 今まで凄い人だと思ってはいたが、自分を助けてくれた絃子はまさにスーパーマンだった。
 どう見ても、力でも、速さでも、敵いようのない相手なのに絃子はかすり傷一つ負うこともなく
彼らを撃退した。
 マンガやアニメでさえ主人公は一度苦戦するものなのに、彼の従姉妹はそんな素振りを微塵も
見せることがなかった。
「えーっと……」
「ああ、強い。それは私が保証しよう」
「「え?」」
 なんと返答しようか思案していた葉子に、絃子は助けを入れる。
 彼女の物事に対する情熱や、芯の強さは絃子にはないものだ。
 頻繁に話すようになって幾日も経っていないが、一度見せてもらった彼女の絵画がその全てを
物語っていた。
 その見かけから華奢なイメージを抱きがちだが、彼女の精神的な強さは絃子も一目置いている。
 もっとも本人は当然言っていない。
 増長する彼女の姿が想像に難くないからだ。
480Killer Queen:04/05/28 20:15 ID:fighBjP6

 よって絃子にすればもはや事実であることを口にしただけだが、その一言は彼女以外の二人を
驚きの表情にさせていた。
(……君まで驚いてどうする)
 彼女の様子に思わずツッコミを入れたくなるが、拳児の手前なので心中で留めておく。
「そっか……、絃子姉ちゃんが言うなら信じるぜ!」
 拳児の覚えてる範囲で絃子が嘘を言ったところは見たことがない。
 時にはからかわれることもあるが、彼にとって絃子はいつも正しく、常にカッコイイ存在だった。
 そんな彼女が言うならば、きっと葉子も強いに違いない。
 見た目だけで判断できないことは、絃子の件で拳児も学習しつつあった。
「じゃさ、早速教えてくれよ!」
「ふふ、元気だね拳児君。あ、立ち上がらなくていいから」
 立ち上がろうとする拳児を制して、がさがさと自らのカバンを漁る葉子。
 何かの紙の束と筆記具らしきものを取り出し、拳児に見せることなく膝上に置くと葉子はにこり
と微笑み、話を切り出す。
「じゃあ、まずは質問ね」
「おう!」
481Killer Queen:04/05/28 20:15 ID:fighBjP6

(友達……か)
 我が身に起こった問題は自己解決を心がけていた絃子だが、誰かに頼るということも悪くない
とこの光景は彼女にそう思わせる。
(彼女にしてやられたのかもな)
 葉子の次の言葉は予想が付く。
 彼女の従兄弟がどういった反応を見せるか楽しみだ。
 絃子はクスッと笑い、向かい合う二人を見つめる。

 そのとき青葉の香りがする少し強めの風が吹き込んできた。
 止まっていた絃子の室内の空気が入れ換わる。
 興味津々の拳児に流れる髪を押さえながら葉子は笑みを崩さず、こう言った。

「拳児君、絵は、好きかな?」


482Killer Queenを書いた人:04/05/28 20:17 ID:fighBjP6
前スレの絃子さん祭りに便乗するのが怖くて
時期をずらしていたら、さくっとスレが終了……

えっと、(色々な意味で)正直スマンカッタ orz
483Classical名無しさん:04/05/28 20:24 ID:TShaintE
長編乙。
いまでも葉子姉ちゃんて呼んでたらかなり良い(*´Д`)
484Classical名無しさん:04/05/28 20:28 ID:ZNzTzS4c
GJ!!
マジで(゚д゚)ウマー
神ですね。もの凄い大作、堪能しました。
特に文章力・表現力がプロ級ですな。感動した
しかも絃子さんと葉子さんがメインとは非のうち所がありません。

ぜひ続きを書いて欲しいです。播磨が荒れ始めて悩んでるところとか…
まあ気が向いたらお願いしますm(_ _)m
485Classical名無しさん:04/05/28 21:38 ID:5P6Kb016
しかし上手いなー
オープニングって事は続編があるに違いない
486Classical名無しさん:04/05/28 22:44 ID:9u9mt3js
>>443-481
GJ!
いやホントに良かったですよ。上手いとしか言いようがない。
実に本格的で読み入ってしまいました。
昔の絃子さん格好良いですね。
笹倉先生もいいキャラに仕上がってますね、全然違和感ない。
もし続編を書かれるなら、僕も>>484氏と同じく
播磨が荒れてきたときの絃子さんとかを補完して欲しいです。
やられたなぁホントに・・・⊂⌒〜⊃*。Д。)-з
487Classical名無しさん:04/05/28 23:42 ID:HW1RrCao
すいません。一つだけ質問。
『確率統計学的な行動予測に基づく危険回避術』だ」
これってもしかして元ネタはガン=カタ?w
488Classical名無しさん :04/05/29 14:25 ID:6gWpwnUI
だいじょうぶかな? 投下します。
489愛理の涙:04/05/29 14:27 ID:6gWpwnUI
 ある土曜日の夜。
 塚本天満は妹の八雲と過ごしていた。
 いつもの夕食。
 いつもの談笑。
 いつものTV番組。
 いつもの土曜日だった。
 あの電話が鳴るまでは……
 
ジリリリリン ジリリリリン
塚本家の黒電話が鳴った。
「はい、塚本です。 あ、晶ちゃん どうしたの?」
電話の主は友人の晶だった。
「播磨君が車にはねられて、入院したんだって」
「ええー? 播磨君が車にー?」
 その言葉に、八雲も天満のそばにやってきた。
「落ち着いて、天満」
 動揺する天満を落ち着かせる晶。
「でね、最近事故が多いから、車に気を付けろって連絡網で電話が来たの。 次の人に回してね」
「う、うん わかった」
ガチャリと受話器を置く天満。
心配する八雲に電話の内容を説明し、次の級友へ連絡する。
「大丈夫かな、播磨君? 前もトラックにはねられたし…」
「姉さん、明日になったらお見舞いに行こうよ」
「うん、そうだね。 じゃ、そろそろ寝ようか」
 灯かりを消そうとした時、天満の携帯が鳴った。
490愛理の涙:04/05/29 14:30 ID:6gWpwnUI
ピリリリリ ピリリリリリ 公衆電話からの物だった。
(誰だろう、こんな時間に? 間違い電話かな?)
 いぶかりながらも、電話に出る天満。
「もしもーし、どなたですか?」
「天満……あたし……グスッ」
 友人の愛理の声だった。 明らかに泣き声である。
「愛理ちゃん? どうしたの? なんで泣き声なの?」
「播磨君の事…聞いた?」
「う、うん さっき連絡網で… 愛理ちゃん、なにがあったの?」
 深刻そうな様子に、八雲も黙って姉を見つめている。
「アイツ…アイツ、私を庇って車に……今、ICUにいるの……うわ言で天満の名前を呼ぶの……グスッ
天満ちゃん、天満ちゃんって……迷惑だって解かってる……でも、アイツに会ってあげて……お願い、天満……」
 電話口の向こうで、泣きじゃくる愛理。
「播磨君が私を呼んでる? どうしよう……」
 困惑する天満に八雲が言った。
「行こう」
「え、八雲?」
「行こう、姉さん。 行かなくちゃ!」
 八雲の気迫に気おされる天満。
「代わって、姉さん」
天満の携帯を受け取り、話し出す。
「もしもし、沢近先輩? しっかり! どこの病院ですか? …はい、 …はい、判りました。 では後ほど」
 あっけにとられる天満に八雲は言った。
「矢神総合病院だって! すぐに迎えが来るから、急いで支度して!」
 あたふたと準備を始める天満達。
 5分ほどして、チャイムが鳴った。
491愛理の涙:04/05/29 14:30 ID:6gWpwnUI
ピンポーン
八雲が応対に出ると、初老の紳士が立っていた。
「こちら、塚本様のお宅でございますね?」
「は、はい あの…あなたは…」
「申し遅れました。 私、沢近家執事の中村と申します。 お二人を病院までお連れ致します。 さ、どうぞ」
 恐縮しながら車に乗り込む二人。
 そこには、意外な人物がいた。
「やあ、こんばんは」
「こ、こんばんは、刑部先生。 え? どうして…」
 困惑する姉妹に、絃子は言った。
「説明は後でする。 中村さん、急いで下さい」
「かしこまりました」
 ぐぅっと加速する車。
 病院までの時間が長く感じられた。
492愛理の涙:04/05/29 14:30 ID:6gWpwnUI
 10分後、車は矢神総合病院へ到着した。
 中村に礼を言い、病院に入る3人。
 ロビーには、愛理がポツンと佇んでいた。
「愛理ちゃん! 大丈夫?」
愛理に駆け寄る3人。
「天満……八雲に先生まで…」
 顔をあげた愛理は、目が真っ赤になっていた。
「ありがとう、天満。 来てくれて……」
「ううん、いいの。 それより播磨君は?」
 あそこ、と愛理が指差した先に、ICUの文字があり、播磨のフルネームが書いてあった。
「あたしがいけなかったの…あたしが道路に飛び出したから…アイツが…あたしを庇って…」
 俯く愛理の肩を抱きしめる絃子。
「拳児君なら、大丈夫だ。 しっかりしろ沢近君」
「え? 拳児君って……先生は一体?」
 播磨を拳児君と呼んだ絃子に質問する八雲。
「ああ、説明してなかったな。 私は彼と従姉弟同士であり、保護者でもあるんだよ」
「そ、そうなんですか」
 説明を聞き、納得する3人。
「で、なんでこんな事になったか、説明してくれるかな?」
「はい」
愛理は説明を始めた。
493愛理の涙:04/05/29 14:31 ID:6gWpwnUI
土曜日の夕方。
愛理は、スーパー田中屋にいた。
カレーの一件があってから、土曜日の夕食は彼女手作りのカレーだった。
「さてと、今日はどうしようかな」
(先週はチキンだったから…うん、ビーフカレーにしよう!)
 牛肉、ジャガイモ、ニンジン、玉葱、……材料を籠に入れていく。
レジで精算を済ませ、外に出る。
すると、ザーっと雨が降り出していた。
「もお、予報じゃ雨は夜って言ってたじゃない! 傘持ってきてないし…」
 途方に暮れている愛理に傘を差し出す男。 播磨だった。
494愛理の涙:04/05/29 14:42 ID:6gWpwnUI
「入っていくか、お嬢?」
 断ろうとも思ったが、止みそうにないので入って行く事にした。
 雨の中、歩き始める二人。
「前にも、こんな事があったわね」
「ああ、そうだっけな」
取り留めのない会話を始め、やがてカレーの話題になる。
「…だからよ、牛肉ってのは先に入れちゃダメなんだよ」
 意外にも、カレーの知識は豊富な播磨。
 愛理の知らない事を色々教えてくれた。
「ふーん、そうなの。 じゃ、今度ウチにいらっしゃい。 美味しいカレーをご馳走するわ」
 いいわね? といいつつ、ギラリと播磨を睨みつける愛理。
「ハイ、ワカリマシタ」
 その眼光に、抗う術を知らない播磨だった。
 やがて、雨が上がり、交差点に差し掛かった。
「じゃ、ここでいいわ。 来週、必ず来るのよ?」
 播磨に念押しし、駆け出す愛理。
「あ、おい! 信号!」
 愛理の前に車が迫る。
 キキーッ 急ブレーキする車。
 硬直して体が動かない愛理。
 ぶつかる! そう思ったとき、後から突き飛ばされた。
495愛理の涙:04/05/29 14:42 ID:6gWpwnUI
「あ、あれ? あたし、車に…」
 むっくりと起き上がり、状態を確認する。
「たしか、後から押されて…」
 はっとして振り返る愛理。
 そこには、播磨が倒れていた。
播磨に駆け寄り、声を掛ける愛理。
「は、播磨君! 大丈夫? しっかり!」
 愛理の言葉に反応し、顔を上げる播磨。
「お、おう…大丈夫だ。 お前は…どうだ?」
「私なら、大丈夫! しっかりして播磨君!」
「そうか……よかっ…た」
愛理の無事を確認し、ガクッとくずれ落ちる播磨。
「ちょっと、播磨君! 播磨君てば! しっかりして! だ、だれか救急車呼んでー!」
496愛理の涙:04/05/29 14:42 ID:6gWpwnUI
「――それで、ICUに入ったら、天満を呼ぶんです… 天満ちゃん、天満ちゃんって……わたし、そんな播磨君見ていられなくて…」
 ひと通り説明が終わったあと、俯く愛理。
「そうか、君を庇って事故に…… 沢近君、いま、面会はできるのかな?」
「はい、許可は取ってあります」
「そうか。 じゃ、塚本君。 彼に会ってやってくれ、頼む」
 頭を下げる絃子に、一同は驚いた。
「あんなヤツでも、私には大事な従姉弟なんだ。 教師としてではなく、彼の身内として頼む。 会ってやってくれ」
 なおも頭を下げる絃子に、天満は決意した。
「頭を上げて下さい、先生。 わかりました。 播磨君に…会います」
 天満の言葉に安堵する絃子。
「ありがとう、塚本君。 じゃ、入ろうか」
「はい、こちらです」
 愛理の案内で入室する一同。
 そこに播磨の姿があった。
497愛理の涙:04/05/29 14:42 ID:6gWpwnUI
 ピッ ピッ ピッ ピッ
 電子音だけが響く、無機質な部屋。
 その真ん中に播磨はいた。
「天満ちゃん……天満ちゃん……天満ちゃん……」
 天満の名を呼びつづける播磨。
 その様子に言葉を失う天満達。
 愛理が播磨に話し掛ける。
「播磨君、天満が来てくれたわよ! 聞こえる?」
 しかし、播磨は応えない。
 天満は播磨の手を握り締め、叫んだ。
「播磨君! しっかりして! 私ならここにいるから! 起きて、播磨君!」
 愛理も播磨に叫ぶ。
「天満が来たのに起きないつもり? 約束したでしょ、カレーを食べるって! このままだったら、許さないから! 起きなさい!」
 そのときだった。 播磨が意識を取り戻した。
498愛理の涙:04/05/29 14:43 ID:6gWpwnUI
「う、うう… ここは?」
「病院よ! しっかりして播磨君!」
「すぐに医者を呼んでくる。 頼んだぞ」
 慌てて医者を呼びに部屋を飛び出す絃子。
 周囲の喧騒をよそに、ボーっとしている播磨。
 愛理が経緯を説明し、納得したようだ。
「そっか、うわ言でな…すまねえ。 ありがとよ、塚本」
「ううん、いいの。 よかったね、播磨君。 安心したよ」
(こんなに俺を心配してくれるなんて…くぅー! 今日は何て日だ)
 播磨がそんな事を思っていると、絃子が医者を連れて戻ってきた。
 診察の為、部屋の外で待つ一同。
 数分後、出てきた医者が説明を始めた。
「意識はしっかりしてますし、脳波も異常なし。 外傷はスリキズ程度です。 念の為、ひと晩様子を見ましょう」
 ほーっと息をつき、よかったと喜ぶ一同。
「さて、一度帰るか。 送っていくぞ、塚本姉妹」と絃子が切り出す。
「あ、それなら、ウチの中村に送らせます。 外で待機しているはずですから」
「じゃ、ご好意に甘えるとするかな。 沢近君、君は残るのか?」
 愛理は俯いて答えた。
「ええ、色々話す事がありますし…」
「そうか、じゃ、お先に失礼するよ」
「またね、愛理ちゃん」
「おやすみなさい、沢近先輩」
 挨拶する3人に手を振る愛理。
エレベータまで見送って、病室に引き返した。
499愛理の涙:04/05/29 14:44 ID:6gWpwnUI
カラ 引き戸が静かに開いて、愛理が入室した。
「ん、帰ったんじゃなかったのか、お嬢?」
 播磨の問いには返答せず、愛理は尋ねた。
「どうして? どうして私を庇ったりしたの? ねえ、どうして?」
 あー、それかと頭をかきながら、播磨は答えた。
「あれはな、体が勝手に動いたんだよ。 どうしてって言われても、それしか言えねえ」
「それによ、約束しただろ?」
「約束?」
 どんな約束したっけ? と思いつつ、播磨の言葉を待つ愛理。
「来週、美味いカレーを食わせてくれるんだろ? 約束したじゃねえか」
 播磨の言葉に、目を潤ませる愛理。
「そんな……そんな約束の為に?」
 思わず、愛理は播磨に抱きついていた。
「ばか! ばかばかばかぁ! 播磨のばかぁぁ……」
 播磨の胸で泣きじゃくる愛理。
「カレーなんか、いくらでも作ってあげるわよ! なのに、こんなになって… ばかなんだから…」
 泣きつづける愛理に優しく語り掛ける播磨。
「じゃ、来週は、ビーフカレーな」
「うん」
「辛口と、中辛のルーを半分ずつ入れて」
「うん」
「隠し味に、インスタントコーヒーを少し入れるんだ」
「うん」
 (いつまでも、リクエストはよくねえな。 そろそろ言うか)と播磨が切り出す。
「じゃ、そろそろどいてくれねえか?」
「いや。 もう少し、もう少しこのままでいさせて……」
 自分の胸で泣く愛理を、そっと抱きしめる播磨。
 そんな二人を月が照らしていた…
  
おわり
500愛理の涙:04/05/29 14:59 ID:6gWpwnUI
暗い話になってしまいましたが、交通ルールを守って欲しいという気持ちからです。
歩行者の方は車に、車の方は飛び出しに気を付けて下さい。
501Classical名無しさん:04/05/29 15:15 ID:H6nAMYN6
うぬぅ、GJでした。
旗派なのか王道なのか、播磨がいまいちはっきりしないような…
戯言と思ってくださって結構ですが。
502Classical名無しさん:04/05/29 17:21 ID:EJDGC9Tw
>>501
スクランっぽいってことで良いんじゃないですか?
503Classical名無しさん:04/05/29 18:00 ID:Fn0u1M2w
>>500
沢近のキャラがなんか不自然な気が…
播磨に対しても塚本姉妹に対しても、そこまで自分の弱い所を見せないと個人的に思った。
見せるにしても、それに至る過程が弱いというか、描写が足らないというか。
504Classical名無しさん:04/05/29 19:00 ID:VYocZ.72
描写を加えればキャラの行動にも説得力が出てぐっとよくなると思いますよ。
まあ描写、つまり表現力を上げることが一番難しいんだけどね。
頑張って下さい。アイディアが豊富で良いですね
505Killer Queenを書いた人:04/05/29 20:07 ID:Njt2g1MA
ガンスリンガー絃子伝説!
捏造してみました。

元々は時々本スレなどで見かける「絃子さんは元ヤン(レディース)なんだよ」
という一言を覆したくて書き始めました。
絃子さんはそんなんじゃないやい(´Д⊂)
どちらかというと「不良狩り」というか「剣呑巻き込まれ型」というか……

えと、何故かアンコールの声が挙がってきていてびっくりです。
やっぱり会話途中でぶった切ったのが、後読感を引いたんですかね。
一応この話はここで終わりのつもりですけど……誰かバトンいりません?(笑)
受け取ってもらえないなら……続き書かないとダメ、かな?(´・ω・`)

あと今回はタイトルがすっきり作品に収まった感じです。
女王(絃子)の勢いを殺す(葉子)ってことで。
某殺人鬼に感謝。

>>487
理論値において攻撃効果で120%、防御面では63%の向上です。
506Classical名無しさん:04/05/29 21:33 ID:d7LLBH16

体育祭も残るはリレーのみとなった。
その頃、保健室では一仕事終えた姉ヶ崎先生がお茶を飲みながらのんびり寛いでいた。
と、その時、扉の外に人影が見えた。
笑顔で誰だーと扉を開ける姉ヶ崎先生。扉の向こうには、沢近が立っていた。
とりあえずイスにかけて十七茶を勧める姉ヶ崎先生。
怪我したの?という質問を否定する沢近だったが、じゃあ何をしに?と返されて、やっぱり怪我ですと返答。
湿布だけもらえればいい、という沢近に、柔らかく微笑む姉ヶ崎先生だった。。
とりあえず傷を見せてと処置に取り掛かる先生だったが、沢近は、
「・・・随分慣れてるんですね。初めて会った時はそうとは思えませんでしたけど・・・」
そんな沢近を軽く見つめ、、
「え?・・・何処かで会ったかしら・・・?」
不思議顔。
507Classical名無しさん:04/05/29 21:34 ID:d7LLBH16

沢近のことを覚えていない様子の姉ヶ崎先生に、彼女はショックを受けていた。
『憶えてない? あれを? 全部? 私なんか眼中になかったってわけ?』
呆然とする沢近に、だが姉ヶ崎先生がぽんと手を打った。
自分が播磨を押し倒したときに居合わせた娘だと思い出したらしい。実際は告白シーンに出くわしているのだが。
押し倒しは事故だから気にしないで、と軽く笑っていた。
「ひっさびさにハリオに会ってねー」
「あ、あの・・・ハリオって・・・?」
「あ! ハリマ君! 播磨君ね!」
姉ヶ崎先生は沢近の目を見つめながら言い直す。
「ごめん、つい『昔のクセ』でそう呼んじゃうの」
「へ、へえ」
昔のクセ、を強調する姉ヶ崎先生に、すこし気圧されるような沢近。
508Classical名無しさん:04/05/29 21:35 ID:d7LLBH16

二人は知り合いだったのか、と尋ねるが、姉ヶ崎先生の答えは
「一言じゃあ説明しづらいなーーー・・・」
だった。
『・・・・・・・・・・・・・・・なんなのよ』
まあ、私が大家で向こうが借主?と曖昧に返事を返す姉ヶ崎先生。
だから気にしないで、と柔らかい笑み。
何がですか、と聞き返す沢近に
「ヤキモチ妬いてるのかなーって思って」
場の空気が凍る。一瞬の沈黙の後―――
ふっと沢近が吹き出した。なに言ってるんですか?と。
美人保健医と有名な不良がワケアリとくればちょっと気になっただけだと言いながら、席を立つ。
微妙な空気を残したまま、沢近は保健室から出て行こうとした。
「ホントに平気?」
そう言う姉ヶ崎先生の目は、沢近がかすかに引き摺っている左足を見ている。
「・・先生は本当にお優しいんですね。でも、ご心配頂くには及びませんわ」
優雅に、微笑んだ。
そしてスタートするクラス対抗リレー女子の部。
ズキンズキンと響く足の痛みを感じながら、沢近は髪を縛った。
――――負けてたまるか
そして受け取ったバトン。ついに4走者の沢近が走り出した。。
――――来い
509Classical名無しさん:04/05/29 21:35 ID:TShaintE
バレにつき注意    






510Classical名無しさん:04/05/29 21:52 ID:uEHLkSGA
>>505
俺的には続き書いて欲しいですけど、書きたいもの書くのが一番ですからね。
あなたの文章力なら何書いても凄いものができそうですし。
続くにしろ、また新しいものを書くにしろ、次回作期待してますよ。
511 :04/05/29 22:51 ID:w0Bdqwto
too sweet&enoughの続き投下しマース
512too sweet&enough:04/05/29 22:53 ID:w0Bdqwto
「あー、気持ちわりい」
 播磨はむかむかする胸を抑えながらゆっくりと屋上への階段を上っていた。
「やっぱあんなもん一気に食うもんじゃねーよなー」
あるものは残さず食う。が心情の播磨は、どうやら二回に分けて食べる。という発想が湧
かなかったようである。
小気味良い金属音を立ててドアが開くと、思わぬ強風が吹き込んできて播磨は帽子を抑え
た。
「うおっ。すげ−風だな、おい」
そういいながら播磨は目当ての人物を探した。が見つからない。
「んー、この風だし帰っちまったかな?」
悪いことしちまったな、と反省しつつ自分も帰ろうと思い、きびすを返したその時、視界
の片隅にうずくまる人影が見えた
「妹さんっ!?」
播磨の死角にいた八雲は力なく壁にもたれかかるようにして座り込んでいた。慌てて駆け
寄り、播磨は八雲をゆすった。
「おい、妹さん!しっかりしろ」
「すー、すー」
「へ?」
どうやらただ眠っているだけの様だ。
「あーびっくりした。おーい、妹さん。起きろ、起きろって」
がくがくゆすってみたり、ぺちぺちほっぺたを叩いたりしてみるが、八雲は一向に起きる
気配を見せなかった。
「うーんどーしたもんかなー。もうすぐ授業も始まっちまうし、妹さんに授業をサボらせ
るわけにはいかねーよな」
頭を掻きながら播磨はしばし黙考する。
「ま、とりあえず保健室にでも連れて行くか」
そうはいってみたものの、どうやって連れて行ったものか、それが問題である。
「やっぱこれしかねーよな」
そういうと播磨は八雲の両手を自分の首に回し、八雲をおぶった。
「ひゃー軽い軽い
513toosweet&enough:04/05/29 22:55 ID:w0Bdqwto
八雲の体はとても細く、播磨が少し力を入れればぽきりと折れてしまいそうだった。
 足を滑らせないようにゆっくりと階段を降りていく。すでに授業は始まっており、校舎
は静かだった。かすかに教室の中からもれてくる教師の講義の声と、自分の足音。それだ
けが全てだった。
(こう言う雰囲気も結構いいかもな……)
 そんなことを考えながらのんびりと保健室までの道を歩いてゆく播磨。ふと窓の外を見
てみると。2-Cの生徒たちが体操着姿でグランドに集まっている。
(そういや次は体育だったな……。天満ちゃんはどこかな?)
天満はベンチで沢近と談笑をしていた。その前をソフトボールの道具一式を運んでいる男
女が横切る。
(ちっ、邪魔だボケ。ん?ありゃメガネと周防か)
何か笑いながら話をしていた二人だが、視線を感じたのか周防がひょいと顔をこちらにむ
け。驚いた顔をして動きを止めた。
(やべっ!)
変なうわさをたてられて、天満ちゃんの耳にでも入ったら大事だ。播磨は慌てて窓から離
れようとした。が、それよりも早く周防の異変に気付いた花井が周防の視線を追って顔を
上げようとし、次の瞬間、周防の強烈な突きを顔面に喰らい、派手に吹っ飛んだ。いきな
りの周防の凶行に周囲の人間たちはパニックに陥り、異常を察知した体育教師が教官室か
ら飛び出してきた。必死に弁明する周防の背中を見つめながら、播磨はそっと窓から離れ
た。
(なんか知らんが恩にきるぜ周防……)
今度ココイチで飯でも奢ってやろうかなんて事を考えながらグランドの喧騒をよそに播磨
は保健室へと歩みを進めた。
「ハリオはコーヒーと紅茶どっちがいい?」
 保健室に姉ヶ崎の朗らかな声が響く。八雲はベッドで熟睡しており、姉ヶ崎は鼻歌を歌
いながら流し台に向かっていた。手持ち無沙汰の播磨は、ソファーに腰を沈めたままぼん
やりと天井を見上げていた。
「じゃあコーヒーで」
「はーい」
程なくして姉ヶ崎がコーヒーの入ったマグカップを両手に持って戻ってきた。
514toosweet&enough:04/05/29 22:59 ID:w0Bdqwto
「はい」
「どうも」
目の前に置かれたマグカップを手に取り、ゆっくりと口に近づける。鼻腔をコーヒーの香
ばしい香りがくすぐる。
しばらくの間、無言でコーヒーを味わう二人。先にその沈黙を破ったのは姉ヶ崎だった
「ねえハリオ、あの娘がハリオの彼女なの?」
姉ヶ崎の質問に播磨は思わずコーヒーを吹き出しそうになった。
「ケホッ、いや、そんなんじゃ無いっすよ。」
播磨の答えに、姉ヶ崎は少し意外そうな顔をした。
「なーんだ、違うんだ」
「なんすか、いきなり」
少し非難めいた口調で播磨は姉ヶ崎に問い返す。
「うん、いまふとそう言えばまだハリオの彼女紹介してもらってないなーって思って」
その言葉を聞いて播磨の体がビクンと震えた。
「学校に来てるって事は成功したんでしょ?告白」
「え、いや、あの」
一瞬のうちに播磨の頭の中にいくつかの言い訳が浮かびあがる。しかし、姉ヶ崎の無邪気
な笑みを見たとたん、それらは綺麗に吹き飛んだ。
「実は……」
播磨は俯いて告白に失敗したことを姉ヶ崎に包み隠さず話した。
「そうだったんだ……」
「くっ、情けねぇっ……あんな大口叩いておいて」
あんな重要な場面で手紙を取り違えてしまうような間抜けな自分。その後も結局自分の想
いをきちんと伝える事が出来なかったふがいない自分。そんな自分が播磨には許せなかっ
た。
 肩を落とし、歯を食いしばる播磨を見つめながら、姉ヶ崎はそっと口を開いた。
「ほんと、情けないね」
再び播磨の肩が震える。正直なところ、慰めの言葉を期待していなかったといえばうそに
なる。しかし。姉ヶ崎の口から出た言葉は、それとは正反対の物だった。
「そんな事でうじうじしてるハリオはホント見てて情けないよ」
515toosweet&enough:04/05/29 23:01 ID:w0Bdqwto
「……」
「ハリオは何もしてこなかったの?」
「……いや」
「じゃあ何でそんなにうじうじしてるの?」
「何でって、結局告白できてねーし……」
「じゃあまたアタックすればいいじゃない。何度でも、何度でも」
「……」
「あのね、ハリオ。人生の先輩として言わせてもらうけど恋愛って言うのは、そんな簡単
なものじゃないんだから。特に本気の恋はね……」
 播磨は、優しく微笑む姉ヶ崎の顔を瞬きもせずにじっと見つめた。
「もう、私がいったい何回ふられたと思ってるの?」
そう言っていたずらっぽく笑う姉ヶ崎につられて播磨の顔にも笑みが浮かぶ。
「そいつらの気が知れねえ」
「もう、ハリオったら上手いんだから」
「ははは」
「ふふふ」
ひとしきり笑った後、姉ヶ崎は思い出したように立ち上がった。
「そうそう」
そう言って机の上においていたカバンから小さな包みを取り出し、播磨に渡した。
「はい、チョコレート」
「え」
「それ食べて恋も漫画も頑張るんだぞ!いつでもハリオのこと応援してるからね」
その言葉を聞いて播磨の目に熱いものがこみ上げてくる。
「すまねえ、お姉さん。いつもよくしてもらって……」
「もーハリオったらー」
「へへへ」
 その時八雲が寝ているベッドで物音がした。
「おこしちゃったかな?」
そう言って姉ヶ崎はカーテンをめっくて中をのぞいたが、八雲はすうすうと安らかに寝息
を立てていた。
516toosweet&enough:04/05/29 23:02 ID:w0Bdqwto
「寝返りうっただけみたい」
そう聞いて播磨はほっと胸をなでおろした。
「良かった。あんま聞かれてうれしい話じゃなかったしな」
「そうだね、そう言えばこの子とはどんな仲なの?」
「あ、最近マンガのアドバイスをもらってるんすよ。あ、そうだ、お姉さん久しぶりに俺
のマンガ読んで見てみてくれよ」
「うん、見る見る」
そう言って姉ヶ崎は播磨の隣に座ると原稿を覗き込んだ。
「うわー、絵上手くなったねー」
播磨は少し恥ずかしそうに頭を掻いて答えを返した。
「いや、スクリーントーンとか使ってみたんすよ」
「話の展開も良く出来てる」
「あ、それは妹さ、あの娘にアドバイスもらったんですよ」
「へーそうなんだ。けど、ここをこーゆう風にしたらもっと話に深みが出ると思うけど」
「なるほど確かに……さすがはお姉さん。」
「もー、もう褒めても何にもあげるもの無いよ?」
「いや、そんなんじゃ無いって。」
 二人でマンガの話で盛り上がっている内に5時限も終わり、播磨は天満ちゃんと一緒に
授業を受けるために教室に戻っていった。
 播磨の後姿を見送った後、姉ヶ崎はドアを閉めた後、再び八雲が眠っているベッドのカ
ーテンを開けた。
「さっきの話は内緒だぞ」
答えは無かったが、八雲の背中が少し動揺したかの様に動いたのを姉ヶ崎は見逃さなかっ
た。
「ふふっ」
かすかに笑うと姉ヶ崎はカーテンを閉め、再び仕事へと戻って行った。
517中書き:04/05/29 23:05 ID:w0Bdqwto
どうも、皆さんご意見ありがとうございました。なるべくコンパクトにまとめるよう努力してみました
後は同じくらいの長さのをもう一回投下する事になると思います。姉ヶ崎先生
のキャラがつかめんかった……orz
518Classical名無しさん:04/05/29 23:11 ID:8Uj/GFCM
>>517
GJ!
なにげに美琴の行動がツボだったり・・・
残りも頑張ってくださいね。
519Classical名無しさん:04/05/29 23:20 ID:Fxxuq7bM
>ID:w0Bdqwtoさん
 会話の調子と「笑う」の使用頻度が多かったように感じました。
 まだ、もう一回投下が残っているので、話自体の感想はそのときに。
520Classical名無しさん:04/05/29 23:20 ID:Fxxuq7bM
 ミス
>会話の調子が少し違和感があったのと
521Classical名無しさん:04/05/29 23:32 ID:TShaintE
GJ!!
なぜか八雲に清楚って言うか、清らかって言うか可憐というかイノセンスというか……
ものすごくそう思った。
八雲がチョコを握り締てた……みたいな描写が欲すい(´・ω・`)
522 :04/05/29 23:45 ID:Njt2g1MA
>>517
メインは播磨のようですが、話の重心がまだよく分かりません。(バレンタインのドタバタ劇そのものがやりたいのでしょうか?)
あと、前回同様話の引きが少々弱いと思います。折角の連載ですから、毎回メリハリを見せて欲しいです。
さらに推敲がされていないように感じます。
括弧の閉じ忘れや、改行の不備、句点読点の打ち位置などそこかしこにアラが見られます。
投下する前にまず一読。
SSは読ませてなんぼですから。

単体のシーンそのものは良いと思います。
ただ前述したように読みにくいです。書いている本人は分かっているが、読者には伝わっていない。
そういった文章になっているため、面白いシーンもその価値を半減してしまっています。
あとは>>519さんに同意です。
最後の投下での大化けに期待しています。
523Classical名無しさん:04/05/30 02:32 ID:Fn0u1M2w
>>517
連載の場合は>>416-420という感じで、以前の話にアンカーを張っておくと良いと思います。
次回は是非宜しくお願いします。

あと以下のセリフの前に一行空けた方が自然かと。
>「ハリオはコーヒーと紅茶どっちがいい?」
524Classical名無しさん:04/05/30 06:45 ID:ZBIfuZO6
>>517
展開としてはこの先も楽しみでっす
続きがんばれ。
525Classical名無しさん :04/05/30 23:12 ID:6gWpwnUI
>>517 最後の投下に期待します。
526Classical名無しさん :04/05/30 23:17 ID:6gWpwnUI
なんでか判らないけど、
ノートンのインターネットセキュリティーを有効にしていると、書き込めない。 はて?
ま、無効にすると、書き込めるんで、投下やレス時は無効にしなきゃダメか…
ついでにIDが変わったみたいだ。 あれー?
527Classical名無しさん:04/05/30 23:23 ID:6gWpwnUI
あれ? live2chで読み込めなくて、IE6で読み込める?
IDもそのまま?
あれ?
528Classical名無しさん:04/05/30 23:35 ID:4n0GJDt2
…なんというか…なんでそうなってるのか、自分で調べてみようや、な。
529Classical名無しさん:04/05/31 00:14 ID:FTeCbFLM
何でわざわざここで言うのよ
530Classical名無しさん:04/05/31 01:04 ID:gnXFNSJg
厨だからさ。
531Classical名無しさん:04/05/31 02:50 ID:Fxxuq7bM
流れを切って悪いんだけど、IFスレとエロパロすれのラインって何処で分かれてる?
個人の意見でもなんでも良いんで、教えてください。
532Classical名無しさん:04/05/31 07:38 ID:VYocZ.72
マガジンでOKなくらいじゃないの?
直接の描写があるならエロパロスレかと
533Classical名無しさん:04/05/31 21:53 ID:sMmixXNU
ちくびが出るかどうか
534Classical名無しさん:04/06/01 12:43 ID:H6nAMYN6
想像におまかせしますならIF
描写を書くならパロでしょ
535Classical名無しさん:04/06/01 23:08 ID:Fxxuq7bM
サンクス。
参考にしておきます。
536Classical名無しさん:04/06/02 09:27 ID:.KKhM2kw
意外にハラグーロなお姉さん、妙先生のSSキボンヌ
537Classical名無しさん:04/06/02 11:33 ID:JZmhiykM
>>536
エロパロにすんごいの来てるからきっと君の望むものだと思う。
538Classical名無しさん:04/06/02 13:11 ID:.KKhM2kw
>>537
エロパロの方か、最近行ってなかったから
覗いてみる、THX
539Classical名無しさん:04/06/02 20:47 ID:4JkJGEX6
エロパロ行っても分からんのだがどれだ凄いのって?
540Classical名無しさん:04/06/02 20:58 ID:tRvy5ObI
244〜255のやつかと思われ
541Classical名無しさん:04/06/03 00:15 ID:4JkJGEX6
>>540
お姉さんじゃなくて黒サラなんだけど…
542537:04/06/03 00:54 ID:JZmhiykM
保健室のやつね。今週号のピンク版ということで楽しみなさい。
543Classical名無しさん:04/06/03 23:12 ID:2/xo3W9.
なんでいきなり書き込み減ってんだ?
544Classical名無しさん:04/06/03 23:47 ID:RiXqjlkk
さあ?ネタギレ?
545Classical名無しさん:04/06/04 00:24 ID:3oZNqpJc
本編が凄過ぎるからじゃね?
546Classical名無しさん:04/06/04 01:30 ID:vhyht2/c
重いからじゃない?
547Classical名無しさん:04/06/04 01:54 ID:4JkJGEX6
ギコナビとか使ってないと人多すぎでスレ見れない状態だからな
548 :04/06/04 02:56 ID:b8J5RuKY
一昔を思い出させる雰囲気だ。
それにしても重いな。
携帯電話さまにはご勘弁願いたいところ
549Classical名無しさん:04/06/04 08:58 ID:FTeCbFLM
本スレや関連スレ全く書き込めない状況だからな
これじゃネタも浮かばないだろうな
550537:04/06/04 11:15 ID:JZmhiykM
docomoのパケホのせいで携帯からの閲覧が急増し、鯖危機な予感。
551Classical名無しさん:04/06/04 22:36 ID:HNsdU24c
本作がSSに近づいていってるような気がする
552Classical名無しさん:04/06/04 23:33 ID:HW1RrCao
というか、こんなにSS作ればその内一つぐらい本編とかぶりそうw
553Classical名無しさん:04/06/05 07:14 ID:3ew2GO.M
そういや以前投下されたSSに「これってバレ?」ってレスがついたことがあったな(w
確か会話モノだったっけ
554Classical名無しさん:04/06/05 10:32 ID:2DVQhtII
かぶらないように作るんじゃない?
今はジャージイベントを如何に外してくれるかが楽しみ。
予想通りだったら萎え。
555Classical名無しさん:04/06/05 10:41 ID:1ie.FWTY
さすがにそこまでSSを意識してるはずがないでしょ
556Classical名無しさん:04/06/05 10:43 ID:c5.ribgQ
SSでのキャライメージと、関係者間でのキャライメージも大分違うだろうし。
557Classical名無しさん:04/06/05 21:37 ID:2Cv7oITM
初めての体育祭SSを投下します。旗派にとっては嬉しい展開かも?
558Classical名無しさん:04/06/05 21:38 ID:2Cv7oITM

クラスメートの賞賛を受けながら、その姿のごとく華麗に走る沢近。
しかし、天満だけは違和感を感じていた。。
「愛理ちゃんは・・・もっと速いはずなのに・・・」
その頃、校舎内ではグラウンドの歓声を背に、梅津が播磨に対峙していた。
播磨は、ナポレオンの世話をしている。
「俺が怪我したのはその豚が乱入してぶつかったからなんだぞ!!」
俺の代わりにリレーに出てくれと必死な梅津。円との恋もかかっているから尚の事であった。
しまいには口喧嘩になってしまったが、そこにお姉さん登場。
「沢近さんて騎馬戦の時に変な転び方でもした? ハリ・・播磨君、一緒の騎馬だったでしょ?」
なんで? と疑問の声を上げる二人。。
それに対して、お姉さんは沢近がさっき保健室に来たことを伝えた。
「たいしたケガじゃないって言ってたけど、やっぱり気になってね・・・」
『――――ま・・・まさか・・・』
播磨の脳裏には、沢近が身を呈して帽子をキャッチしてくれたあのときの光景がフラッシュバックした。
『あの時・・・か?』
ケ!俺には関係ねえぜ、とナポレオンに話し掛けつつも、小脇に抱えてその場から離れようとする播磨。
「・・・・・・・どこ行くの?」
「・・・・・・・・・・え、エサを」
その頃グラウンドでは。
『ああもう! 痛いったらないわ! あと何mあるのよ!』
『痛い・・・もたないかも・・・でも・・・でも・・・!』
『負けたくない!』
停止する空気。息を呑む観客たち。そして。
バトンが、地面に落ちた。
「愛理ちゃん!!」
沢近が転倒する。。
すぐ起き上がり、バトンを探すも、その間にも後続の走者に次々と抜き去られていく。
「バトン・・・バトンは・・・!!」
559Classical名無しさん:04/06/05 21:39 ID:2Cv7oITM

「これでヨシ! もう大丈夫よ!」
グラウンドから離れた木陰で、お姉さんの手当てを受ける沢近。。
「・・・・・・・・・・・・。ありがとうございます」
グっと左手を握り締めながらも、礼を言った。
そこに天満がやってきて男子リレーを見に行こうと誘ったが、もうしばらくここに居るからとやんわり断った。
グラウンドでは、次の男子リレーに勝たないと優勝はない、と花井が熱弁を振るっていた。
梅津の代走者を探していたが、D組に勝てる足を持つ男子がいないと弱っていた。。

560Classical名無しさん:04/06/05 21:40 ID:2Cv7oITM

そして、教室でナポレオンにエサをやっている播磨。
「良い子にしてろよ、ナポレオン」
ナポレオンの頭をポンポンと叩き、そのまま、教室から出て行った。

遠くに聞こえる歓声を耳にして、沢近は膝に顔を埋めた。。
ザ・・
ふと足音が聞こえた。
ファサ・・と何かが、肩にかけられた。
「え・・・」
目の前に、播磨が立っている。沢近は、彼を不思議そうに見上げていた。。
「ちっ、ここで逃げたら物笑いだぜ!」

「勝ちゃあいいんだろ、勝ちゃあ!!」
561Classical名無しさん:04/06/05 21:44 ID:TShaintE

以上バレでした
562Classical名無しさん:04/06/05 22:05 ID:jrv0mCSw
↑普通にやればよかったと書き込んでから後悔
563Classical名無しさん:04/06/05 22:07 ID:jrv0mCSw
↑ID違うけど同一人物
564Classical名無しさん:04/06/05 23:04 ID:E8aDiyY2
                 , ..:::´:  : : :.:.:.:.: : :.:.:.:.:.:.::.:.::::::.:.\
               ,..:´::.:.: : :     . .:.:. . .    : :.:.:::.::ヽ
              /::/::.:.: : : . : :.:.:.:.:.:::::::::::::.:.:.: : : .  : :.:.:.: ::',
             〃//:::::::.:.:.:::/::::::::/:::::::::::::::::.::.:.:: :  :.:.:.: ::',
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ `ヽ ///:::::::::::::::::::/l::::::〃:/l:::::::::i:::::::::.:.: :  :.: : :.:!
             レ':/:::::/:::::::::,へ|::/ //  !::::::ハ:::::::i:.:.: : :  : :.:.l
    ヒ    ゲ   {l l||:::/::::l::::/ ぇレ\l|    !::l| l|::::ll::.:.:. : : . : :.:.l
             | { {/レ1ハ/ / ,_)::::lヽ   Nj  !|::::!|:::||:.:i:.:.:.:::::/
     ア    ラ    | /:::::l{hl| {  {L_::j     テ〒ミ、ラll:::l::.:.:::/〉
             | /:::/:yヽj   ゞ='       ,ヘ)::::lヾ} !::l|::::/_/ ̄ヽ
    !   ウ   /:::/::/::::::|  ::::::   ,    lヒ=ン } l|/l/:::l``ヽ:::',
            ./:::::::〃::::l:::',            ` ̄´ /リイ::::::i:::!  }:::}
        ト  /:::://_ム__.ヽ   f⌒ヽ        /i:::::|::::::l:::l  j:::j
\__________, --y'⌒ヽ´ ̄ヾ`ヽ  /\   ノ    , ィ'´:::::::l|::::l::::::l::::!. ノノ
    , ---7  /     ヽ  ヽ ゙、    ー─ァ"「ト、 /:::::::j|:::::!:::::l:::::l ´
   ノ   l  (⌒ ー' / |   ヾ.、        /  j | \:::/ !::::|:::::|::::::!
  厂l   |  `r一"  l    ヽ\    /   //    Yl::|::::'::::::!::::i:|
  ! |   |   j,     ゝ、    \`ヽ、__,//    }|::|::::::i:::::!:::l::!
  | {    {   )_      ヽ ..__  `ー─一'     /::!::l:::i:::|::::l、:}::}
  ゝ_ゝ‐一' ̄ ̄  `‐- ∠    ))         | /::/::/l::|:::l::::!}:}::!
    \         | !`ー‐''"  ∩ ∩      !/::/::/ /:j::::l、}ノl:{
565Classical名無しさん:04/06/05 23:04 ID:E8aDiyY2
隔離、と。
56696:04/06/06 00:09 ID:V3kQJTq6

「アフターストーリーは多分書かない」とか自分で言っておきながら
あの続きのネタがかなり固まってしまいました
(まだ、全然書いてないんですが)

完成したら、投下…してもよろしいでしょうか?
迷惑ならばやめておきます

567Classical名無しさん:04/06/06 00:15 ID:qmlfIyEQ
読み手として断る理由はないと言うか、むしろ推奨する方向を自分は取りたいのですが。
最近まったり気味なことですし、ここいらで一つ、と期待しております。
568Classical名無しさん:04/06/06 01:05 ID:JZmhiykM
本編の今の状態はSS職人殺しとしか言い様がない。
何書いても本編以上の旗SSは書ける気しない。
569Classical名無しさん:04/06/06 01:16 ID:Fxxuq7bM
 普通、もともとがそうだ<本編以上は無理
 よほど原作がへぼでもない限り、アマが編集つきのプロを超えるなんてできない。
570Classical名無しさん:04/06/06 01:58 ID:.uydhGJs
書き手が遠慮するようなスレは嫌です。
読みたいです、是非お願いします
571Do not forget:04/06/06 02:21 ID:qmlfIyEQ
読みたいです、と言っておきながら自分も花ミコで書いていた手前、待っていると
お蔵入りになりそうな予感がひしひしと、ということで。ひっそりと行きます。
572Do not forget:04/06/06 02:21 ID:qmlfIyEQ
「どうしたー、もう終わりかー」
 美琴のそんな声が響く道場、その周りには大の字になって寝転がる子供たちの姿。
「あー、やっぱ勝てねえよー」
「無理だー」
 そんな声が方々から上がる。そりゃさすがにお前らに負けたらシャレにならないって、と笑う美琴。
「……で、どうすんだ?まだやる?」
 その言葉にゆっくりと起き上がって隅の方に集まって相談を始める子供たち。
「……?」
 きょとんとしてそれを見ている美琴。やがて相談事が終わったのか代表して一人が向かって来る。
「えーと、協議の結果だな」
「うん」
「やっぱ無理だから今日はどっか遊びに行こうぜ、先生」
「……は?」
 唖然とする美琴に、たまには休まないと、などと即席の理由を並べ立てる。
「いや、さっき昼飯食ったばっかりだろお前ら」
 それに花井がそんなこと許可するわけないだろ、と肩をすくめてから、なあ、とその花井に声をかける。
573Do not forget:04/06/06 02:22 ID:qmlfIyEQ
「……ん?」
 聞いていなかったのか首をかしげる花井に、説明する美琴。
「――ってわけなんだけどさ」
 無理に決まってるよな、と言葉を続けるその前に。
「確かにたまにはいいかもしれないな」
「……は?」
 もう一度、ただし先ほど以上に唖然とする美琴。
「お前、今なんて……」
「だから時には息抜きも必要、という話だろう?」
 何でもない、というようにあっさり返答する花井に、めずらしく話がわかるなー、とまったくフォローになっていないフォローを
入れる子供たち。
「ただし、だ。今日一日はきっちりやるべきことをやってからだ。そうしたら明日は皆でどこかに行くことにしよう」
 いいな、と言い聞かせてから、周防もそれで構わないか、と伺いを立てる花井。
「あー、私は別に構わないけどさ」
 理由は分からない、ただどこかその様子がいつもと違う気がして、珍しい、というその最後の言葉は飲み込んでおく美琴。
「じゃあもっかいやろうぜ先生!」
 そんな様子に気がついているのかいないのか、俄然活気づく子供たち。
「お前らなあ……んじゃ手加減なしでいこうか?」
 そう軽く笑いながら構えてみせる美琴。一人目の相手がかかってくるその前に、横目に見た花井の姿――それはやはりいつもと
どこか違っていた。
574Do not forget:04/06/06 02:23 ID:qmlfIyEQ
 翌日。
 突発的な話だったために少々もめたものの、目的地に選ばれたのは近場のテーマパークだった。いくつか軽めのアトラクションを
流した後に、それじゃそろそろ気合い入れて行くぞ、と何やら盛り上がり始める子供たち。その向かった先は――
「ティーカップ?」
 気合などというものだから、てっきり絶叫系にでも行くのかと思っていたため、怪訝そうな顔をする美琴。
「へっ、甘いな先生」
「すごいんだぜ、これ」
 そんな美琴に得意気な様子の子供たち。どういうことか、と思っていた美琴だったが、アトラクションがスタートしてようやくその
理由を悟る。放っておいても全体を乗せている円盤、そしてカップ自身と二重の回転が行われることになるのだが、カップの中央に
ついている丸いテーブル。これを回すことにより、乗っているカップの回転を増すことが出来るのである。
 ――つまり。
「こういうこと、ね」
 視界の隅で不穏な――そうとでも表現する他ない――勢いで猛回転を続ける一つのカップ。乗っているのは……言うまでもない。
「まだまだ行けるぞー」
「くっ、お前ら少しはだなっ!」
 そんな声が時折聞こえるような気もするのだが、全力で気のせいということにしておく美琴。その方がいろいろと幸せだ、と思う。
何せ、端から見ればむやみやたらと回転数の高いカップが一つだけある、というのはなかなか恥ずかしいものがある。
「先生、負けてる負けてる」
「無茶言うなって、これくらいで我慢しな」
 呆れつつも適度にピッチは上げる美琴。やがて運転が終了し、ぞろぞろと降りてくる一同……と、一人足下がややふらついている花井。
「……大丈夫か?」
「ん、まあこれしき……」
 大丈夫、と答えようとした花井の手を取って、んじゃ二回目行くぞー、と搭乗口に駆け出す子供たち。
575Do not forget:04/06/06 02:24 ID:qmlfIyEQ
「何!? いや待てお前たち、おい!」
 不意をつかれたせいなのかどうなのか、抗議虚しく引きずられていく花井。先生はー、という声も聞こえるが、私はいいや、と苦笑いしつつ
手を振ってみせる美琴。嫌いだとは言わないが、さすがにあれに付き合わされるのは、といったところである。
「がんばれよー」
 一応そんな声をかけてみたところで、再びスタートするアトラクションと急ピッチで回り始める一つのカップ。
「……がんばれよ、いやほんとにさ」


「がんばるね……」
 思わず美琴がそう呟いてしまうのも無理はなく、既に搭乗回数は五回を数えている。まだまだやる気満々の子供たちに、もはやどうにでもなれ
といった様子の花井。止めるべきかと考えているうちに、またしてもカップは回り始める。
「よくやる……ん?」
 そこで、自分の方に向かって戻ってくる一人の男の子の姿を捉える美琴。その足取りはどこかしょんぼりとしたもの、どうやらあの勢いに
身体の方がついていけなくなった、というところだが、当人としてはそれが納得出来ていない、という様子。
「どうした?」
 それを見て取り、何気ないようにして声をかける美琴。対する少年はしばらく黙っていたが、やがてぽつりと呟く。
「……僕も強くなれるかな」
 不安げな、けれど真摯なその表情。
 たかがアトラクション、されどアトラクション。
 些細なことと言ってしまえばそれまでではあるものの、だからこそそれを『負け』ととらえてしまうのだろう、と考える美琴。
 ちゃんと男の子してるじゃん――揶揄ではなくそう感心して、言うべき言葉を探して。
「そうだね――」
 あんまり関係ないかもしれないんだけど、そう前置きをしてから話し始める。
576Do not forget:04/06/06 02:25 ID:qmlfIyEQ
「花井のやつもさ、昔は私より弱かったんだ」
「そうなの?でも今だって……」
「あー、そりゃあいつが本気で私に向かってこないからそう見えるだけ」
 なんだかんだ言っても、やっぱ女だと思われてんだ、と小さく苦笑。
「ちょっと悔しいけどさ……っと、それはまあいいや。で、だ。そんなあいつだっていつの間にか大きくなって、今は私の前を歩いてる」
「……」
「昔は……そうだね、弟みたいに思ってたこともちょっとあったかな。今じゃそんなこと言えないけど」
 だからさ、とそこでその瞳を正面から覗き込む。
「なりたいと思ってりゃ何にだってなれるさ。ただしその気持ち、絶対に忘れないこと」
 いい、とそう言ってから、再び視線を正面へと戻す。そこにはふらふらになりながらも、どうだ、と胸を張っている花井の姿。
「ま、ああいうとこは見習わなくてもいいと思うけど、さ」
 微笑みながら冗談めかしてそう締めくくった美琴に、うん、と大きく頷いてから花井の方に駆けていく。どうやら自分も、と頼んで
いるらしい。そして若干引きつった笑みを浮かべつつそれに応えて再び搭乗口へと向かう花井。
「まだまだこの先控えてるのに無理しちゃって」
 男の子だね――そんなことを呟きながらも、一応応援でもしてやるか、と一つ伸びをしてから美琴もそちらへと向かった。
577Do not forget:04/06/06 02:25 ID:qmlfIyEQ
「じゃーなー」
「楽しかったぜー」
「お前たち、明日は覚えていろよ……」
 結局その後、所謂絶叫系のアトラクションも散々引き回され、散会となったのは日も落ちた頃。子供たちは十分満足したらしく、
疲れ切った花井の恨み言も耳には届いていない様子で、それぞれの家路を駆けていく。
「お疲れさん」
「……まったくだ」
 ぐったりした様子でそう言いながらも、どこか吹っ切れたように小さく笑う。そんな花井に、それじゃ悪いんだけど、と美琴。
「ちょっと付き合って欲しいんだけど」
「……何?」
 寄り道寄り道、と楽しげに言いながら返事も聞かずに歩き出す。
「待て周防、一体何を……」
「だから、ちょっと寄り道だよ」
 いいだろ少しくらいさ、と笑う美琴に仕方がない、と半ば引きずられるようにしてついていく花井。
 そして連れてこられたのは。
「……道場?」
 まだ訳が分からず、何を、という顔をしている花井だったが、いいからあっちで待ってな、という美琴の言葉に従って縁側に向かい
腰を下ろす。視界に入るのは空、そして真円にも見える月の姿。
「――ほう」
 思わずそんな溜息をもらしたところに、どうだ、とその背後から美琴の声。
「こっからだとちょうど綺麗に見えるんだよ。十五夜にゃちょっと早いんだけどね」
 言いながら花井の隣に腰掛けるその手には。
「……お前、僕が弱いの知ってるだろう?」
 一升瓶と二つの猪口。親父んとこからくすねといたんだ、と笑う美琴。
578Do not forget:04/06/06 02:25 ID:qmlfIyEQ
「ま、たまにはいいだろ、たまにはさ」
 半眼になる花井をそう軽くあしらい、ほらよ、と猪口になみなみと酒を注ぎ、その目の前に差し出す。
「まったく……」
 断ったところで断り切れるものではない、と不承不承ながらもそれを受け取る花井の様子に、そうそう、と頷きながら自分もなみなみと
注いだそれに口をつける。
「美味いだろ?」
「まあな」
 まったく飲めないわけでもない花井、ちびちびとやりながら、楽しげにそう訊いてくる美琴に短く答える。その返事に満足したのか、
ん、とこちらも軽く答える美琴。
 そしてそれきり、会話は途絶える。
 場にあるのは、鈴を転がしたような虫の鳴き声、涼しげな秋の夜風、どこか遠くから聞こえてくる車の音――そんなものだけ。
 決して気まずい沈黙ではなく、穏やかな空気が辺りを支配する。
 どれくらいそうしていたか、やがて口を開く花井。
「周防」
「……ん」
 何も訊かないのか――出掛かったその言葉。それをちらと盗み見た美琴の横顔に心の奥に押し戻す。
 そこにあったのは、じっと静かに月を見つめる優しげな表情。
 だから、少し考えてからあまり言う機会のない、そして言いたかった一言を口にする。
「――いつも、世話かけるな」
 返事は一言。
「ばーか」
579Do not forget:04/06/06 02:26 ID:qmlfIyEQ
 ――数十分後。
 未だちびちびと猪口を傾け続ける美琴、そして。
「ったく、これくらいで……」
 その隣にはあっさりと酔いつぶれ一人船を漕ぐ花井の姿。予想通りと言えば予想通り、けれどもあまり面白くないのもまた確か。
「ま、しょうがないか」
 苦笑いを浮かべつつ、くいとその一杯を空にして、起きろ、とその身体を軽く揺する――が、すやすやと寝息を立てる花井に
起きる気配は微塵も感じられない。
「おい、いい加減……っと!」
 今度は強く揺さぶり過ぎたのか、崩れるようにして美琴の方にもたれかかってくる花井の身体。
 そして。
「……っ」
 流れのままに横に倒れ、その頭は膝の上――所謂膝枕、というやつである。思わずひっぱたくなり押しのけるなりしようとしたものの、
未だ寝転けているその様子に、あまり無下に扱うことも出来ない。さてどうしたものか、と嘆息気味にその寝顔を見つめていた美琴だったが、
ふと思いついて。
「……」
 眼鏡をひょいと外してみる。そこにあったのは、昔道場で自分に引き回されていた、そんなあの頃と変わらないあどけない表情。
「あー……」
 なんとはなしに見上げた夜空には、切り抜いたように白い月一つ。
「――嘘、ついちまったかな」
 次に微笑みとともに口をついたのはそんな言葉。
 人は変わりたいと願い、変わろうとし続ければ変わっていくことが出来る。それは何より確かなこと。
 けれど。
「変わらないものもある、か」
 そしてそれはきっと悪いことではないのだろう、と。そんなことを思いながら、もう少しだけ、と手にした猪口を再び満たす。
「ほんとさ――」
 小さな呟きが、緩やかな秋風に紛れて消える。
「――変わってないよ、全然」
580Do not forget:04/06/06 02:29 ID:qmlfIyEQ
時代に逆らって非恋愛ものですが、ご容赦をば。
しかし、あれは全国一律高速回転出来るシロモノなのでしょうか。
いや、なんとなく。
581Classical名無しさん:04/06/06 09:23 ID:oiO2zsN6
すげー良かったです。
保護者みこちん。
こんな彼女がほしー!
582Classical名無しさん:04/06/06 09:26 ID:gmSKtKcA
>>580
(・∀・)イイ!! 激しく萌えたっ!
恋愛物もイイですが、こういう幼馴染を地で行く展開も(・∀・)イイッ!!

>>566
投下してくださって構いませんというかなんというか
寧ろ投下してくださいお願いします*´Д`)
583Classical名無しさん:04/06/06 11:32 ID:JZmhiykM
今から初投稿させて頂きます。
ホントは後で出そうと思ってたんですけど昨日の夜本編の展開を知り、今出さ
ないと乗り遅れると感じました。
批評等宜しくデス。
584Unpaint faced ball:04/06/06 11:34 ID:JZmhiykM
そろそろ日が暮れ始め、強い西日が差し込む職員室。
ホームルームが終わり教師達の出入りが激しく、空気に従来の落ち着きのない
喧騒の中、最もこの場所にふさわしくないとも言えるサングラスをかけた男が
担任の教師と向かい合っていた。
「…だからな、播磨。他の先生方から苦情が来てるんだよ。」
「……」
「恐いとか、風紀を乱すとか、まぁ色々だ。」
「…隣のクラスにもいるじゃねえか、何で俺だけなんだよ?」
「彼は留学生だし授業態度も悪くない、だけど播磨お前は…」
ぐぅ、と唸り何も言えない播磨。素行や授業態度のことを言われるのは弱い。
「そこでだ。とりあえず明日一日だけ外してみないか?」
「なっ!?…どうしても外さなきゃ駄目か?」
「んー従っておいた方がいいと思うぞ。学年主任直々のお達しだから」
と、そこまで言った担任の顔が気のせいか少し引きつってみえた。どうもこの
担任の心の機微を読むのは難しい。
播磨も播磨で悩んでいた。
このままじゃ素行不良かなんかで何かの処分を食らわせられるのは目に見えて
る。しかし、かと言って外しちまったら天満ちゃんに…うおおどうすればいい
んだ!
放課後の職員室、自嘲気味に遠くを見つめる教師と頭を抱えて唸る不良が向か
い合っていた。
585Unpaint faced ball:04/06/06 11:35 ID:JZmhiykM
翌日。
一晩かけて悩み抜いたあげく、播磨はサングラスを外していくことに決めた。
但し、バレて気付かれたらどっちにしろ学校にはいられなくなるのでバレそう
になったら即撤収を念頭に入れての決断である。
「じゃあよイトコ、先出るわ。」
玄関で靴を履きながら居間の方に向かって声を張り上げる。
「待て待てケンジ君、キミ大事なものを忘れてるぞホラ。」
と、播磨愛用のサングラスのつるを指先に引っ掛けながら、居間から彼と従兄
弟の関係にある女性が顔を覗かせた。
「今日はソレ必要ねーんだ。んじゃ行ってくる!」
言いながらバタン!!とドアを閉めて出て行く播磨を見て、ああ、そう。とだけ
居間にいる女性は呟く。
そしてコーヒーメーカーからコップにコーヒーを注ぎながら考えた。
「必要ない…フられてしまったか可哀想に。」
そんな言葉とは裏腹に、彼女は唇端を少しだけ持ち上げ楽しそうにし、入れた
ばかりのコーヒーを1口啜った。
586Unpaint faced ball:04/06/06 11:36 ID:JZmhiykM
学校の教室前。播磨はドアを開けるのに躊躇していた。
登校中にも他の生徒から指を指されたり、こちらを向いて何事かヒソヒソ話を
したりしている場面に直面した。わかってるよ、俺が恐ェ目つきしてるなんて
こたぁよ。…他の奴らはどうでもいい。
「……っと」
問題は天満ちゃんだ。いつもの調子だったら大丈夫だろうがたまにスゲー勘の
鋭い時があるからな。今日に限って冴えてるなんてのはナシだぜ、マイハニー。
「ちょっと、ハ…アンタ。何ドアの前で突っ立ってんのよ。教室に入れないじゃ
ない、邪魔。」
その声を聞いて播磨は一瞬にして誰の声か理解した。天敵とも言える女、お嬢
だ。チッ、朝からこいつに絡まれるなんて厄日だな。
「うるせーな、今ちょっと考え中だ。黒板側のドアから入りゃいいじゃねーか」
「何よそれ!ちょっとアンタ態度が…悪、い…」
言い終わらない内に沢近は黙ってしまった。今はただ呆然と播磨の目をしげしげ
と見つめているだけでいつもなら矢継ぎ早に出てくる文句が出てこない。
お?やっぱお嬢でも俺の目つきにビビってんのか?
そう播磨が考えていると沢近は、ハッと目を廊下の窓の方に逸らした。
「な…何よ?別になんでもないわよ。ホラッ、さっさと教室入る!」
そう言ってドアを開け、嫌がる播磨の背中を押して教室の中に押し出した。
お嬢には効果ナシ…か。
播磨は内心ちょっと悔しがっていた。
587Unpaint faced ball:04/06/06 11:38 ID:JZmhiykM
いつもとは違うクラスメートの顔のせいでクラスの中は普段のそれに輪をかけて
ざわめき立っていた。クラスメイトの視線は自ずと教室窓側の後ろの方に集中し
てしまっている。
そんな中担任が教室に入ってきて朝のホームルームが始まった。
「おー播磨ちゃんとしてきたなー結構結構。それじゃ出席取るぞー。」
担任は何食わぬ顔でそう言うと出席番号順に生徒の名前を読み上げていく。どう
やらクラス内の微妙な雰囲気の違いに気付いていないようだ。しかし…
おかしいな、天満ちゃん遅刻か?
そう、播磨にとってサングラスが大事な意味を持つ肝心の塚本天満がまだ来てい
なかったのである。少し不思議に思いながら緊張の面持ちでドアを開けて遅刻し
てくるであろう天満を待つ。すると、
「塚本!…あー塚本は風邪で今日休むって彼女の妹さんが言いにきたな。次は…」

いよー……っしゃっ!

播磨は心の中でそう叫び、軽く右拳を引いた。勿論本来なら塚本天満に会えない
日の学校など彼にとって何の楽しみもないだろうが、サングラスをかけていない
今日に限っては話は別である。
前言撤回、最高の日だ。今日の俺の背中には毘沙門天がついてるに違いねぇ。こ
れで今日一日正体がバレることもないし、あまつさえ妹さんに漫画見てもらうの
に託けて天満ちゃんのお見舞いに…。
そんなことを企みつつ、安心したせいかいつものように机に突っ伏して居眠りを
はじめたのだった。
588Unpaint faced ball:04/06/06 11:39 ID:JZmhiykM
異変が起きたのは昼休み。
「やっぱ天満がいないと静かだよ。なぁ?」
「ちょっと寂しい気もするわねー。」
「そう?少なくとも通路には黄色い声が溢れてるけど?彼目当てのね。」
いつものメンバーと話をしていた沢近は晶の目線を追って通路側に目を向けた。
なるほど、確かに他のクラス他の学年からこのクラスを見ようと人が沢山集まっ
ている。しかも何故か女子生徒の方が多い。正確にはクラスを見ようとしてるの
ではなく彼、そう播磨目当ての人だかりだった。
「皆物珍しいんでしょ?不良の素顔って。」
…何なのよ。今まで見向きもしなかったコたちが。って私にカンケーないでしょ。
アイツはアイツでふてぶてしく寝ちゃってるし。
通路側の窓に映る携帯で何事かをメールで打ってる子や、はしゃいでいる子を眺
めながらボンヤリとそんなことを考える。そしてふと播磨に再び目を写すと、彼
に話しかけようとしている二人の女子生徒が目に写った。

「ねえねえ、播磨君。」
「……」
「ちょっと梢、起こしちゃマズいんじゃない?」
「大丈夫だよ多分。おーい、ちょっと起きてよ。」
「…んぁ〜?」
けだるそうに播磨が目を開けたその瞬間通路からざわめきと歓声の声が上がった。
589Unpaint faced ball:04/06/06 11:40 ID:JZmhiykM
「ありゃ?あのコ、ウチのクラスの…」
「三原さん。一緒の子は他のクラスの友達みたいね。」
と、晶はこっちを見ながら説明する。何よ、私にはカンケーないじゃない。
「晶、言っとくけど私何とも思ってないわよ。」
「私は愛理にどー思ってるかなんて聞いてないケド?」
うぅっ、と言葉に詰まり結局黙る。ちゃんと否定したつもりなのに晶の前では何故
か墓穴を掘る羽目になってしまう沢近だった。そんな様子を美琴はたじたじといっ
た感じで眺めている。
…それにしても何話してるのかしら?三原さん達。あー、もうここからじゃ聞こえ
ないわよ。席離れてるし。隣の男子のグループの声がウルサイわね。そう思うや否
や沢近は隣の席で話をしているグループに言った。
「ちょっとうるさいわよ。静かにしてて頂戴。」
と、静かに、それでいて冷たく言い放った。
「す、すまんダス…」
沢近のただならぬ気配とギロリと睨まれたことで男子グループはすぐさま押し黙る
こととなった。
ふう、これで何とか聞こえるかしら。別にどーしても聞きたいって訳じゃないけど
ま、あのハゲの新たな笑いのネタになるかもしれないしね。そうよ、ただの好奇心
でよ。好奇心。

一方、顔を通路側に向けたまま熟睡から目覚めた播磨は上体を起こそうともせずに
二人の女生徒の方を見た。いや、睨んだと言ってもいいだろう。
590Unpaint faced ball:04/06/06 11:41 ID:JZmhiykM
「あっ、やっと起きた?アハハ、今日サングラスかけてないから起きてるか起きて
ないかわかりやすいなー。」
「…何の用だ?っつかそもそも誰だ?」
「ヒドーイ。同じクラスの三原だよー、三原梢。こっちは私の友達ね。」
「それで何なんだ…?」
「うん、あのさぁ播磨君てカッコイイんだね。」
「はぁぁ?」
「ええっ!?」播磨はおろか沢近までが驚きに声をあげる。
「愛理、どうしたの?」
そしらぬ顔で晶が尋ねてくる。しかし沢近はその質問には答えず、次に紡ぎ出され
るであろう言葉に全神経を集中させた。
「普段サングラスかけてたからわかんなかったよー。でお願いがあるんだけど。」
「…金ならないぞ。」
どうやらカッコイイと誉められたことに裏があると考えているらしい。馬鹿である。
「お金じゃないって。あのさ写メ撮っていい?他校の友達が欲しいって言ってて。」
「からかうのはやめろって。メンドいしパス。」
それだけ言うと播磨は再び目を閉じ寝息を立てた。沢近もホッと一息つく。…って
何でほっとしなきゃなんないのよ。
「どーするー?播磨君寝ちゃったよ。」
「ねぇ梢、彼寝顔もカワイイじゃん。いいから撮って送って自慢しちゃおうよ。」
そして彼女が携帯のカメラを播磨に向けると、なら私もー、と通路の生徒達も携帯
を取り出しはじめた。このままでは播磨の撮影の順番待ちをしかねない状況になり
つつあった。
591Unpaint faced ball:04/06/06 11:42 ID:JZmhiykM
「ちょ、ちょっと、ちょっと待ちなさいよ!」
止めに入ったのは沢近だった。いつの間にか席を離れ携帯カメラのレンズを遮る。
「あれー、沢近さん?どーしたの?」
突然の意外な乱入者に梢は驚いて声をあげた。沢近はふぅ、と一呼吸置いて言葉
を続ける。
「ね、ねえ三原さん達、この馬…播磨君を撮るなんて止めておいた方がいいわよ。
 カメラを通して馬鹿が移るんだから。それに、カレ昼寝を邪魔されるのが嫌
 いみたいだから起こしたら何されるかわかんないわよ。」
あくまでもにこやかに、且つ優雅に構えて沢近は説得した。
「でも、さっきは別に…」
と、梢の友達が反論しかけると、
「さっきはたまたまよ、運が良かっただけ!ホラ、貴方達も携帯しまいなさいな。」
そう通路側の生徒にも呼びかける。えーっ、でもー、関係ないじゃん〜等の不満の
声が沢近の耳に入り流石の沢近もイライラしはじめてきたその時、タイミングよく
予鈴の鐘が聞こえてくる。
「ホラホラ次の授業始まっちゃうわよ。教室に戻らないと。Right now!」
穏やかではあるがただならぬ迫力のある笑顔の前に、集まっていた生徒達は蜘蛛の
子を散らすように2-Cから離れていった。
『お見事。』
席に戻った沢近に親友の二人からこの言葉がかけられた。
「…何よ。」
『別にー。』
またもや二人に声を合わせて言われ、沢近は急に恥ずかしくなり顔を紅潮させなが
ら必死に二人に弁明した。
592Unpaint faced ball:04/06/06 11:44 ID:JZmhiykM

!!……っ?…眩しいな……クソ。

瞼の裏に感じる白い光。強烈な眩しさを感じ播磨は目を覚ました。
目の前に広がるは夕陽に照らされ橙色に染まった教室だった。どうやら放課後まで
寝てしまったらしく生徒は皆帰ってしまったらしい。放課後特有のざわめきはなく、
運動部の掛け声とブラスバンドの全体練習の音がひどく遠くから聞こえるように感
じる。
あー、そっか。サングラスないから西日が顔に当たって…ん?
初夏の強い西日と播磨の間に影を作るように一人の生徒が座っていた。西日を背に
受け、髪の毛が橙色に輝いて見える。顔が影になっていてよく見えない。
日差しから守ってくれるなんて…この優しさ、まさか天…!!
そう思うと同時にガバッと上体を起こす播磨。
「あら、やっと起きたのね?ハゲ」
そこいたのは携帯を操作しながら座っている沢近だった。
「…その名前で呼ぶんじゃねぇ。」
そうだよ天満ちゃんは風邪で今日休みだし、コイツ金髪なんだから陽射し受けて輝
くの当たり前じゃねぇか。ガックリと肩を落としうなだれる。
「いいじゃない。他に誰もいないんだから。先生が後で職員室に来いって。感謝し
 なさいよ?伝言役買って出た上に今まで待っててあげたんだから。」
「そいつはご苦労なこった。何だよ起こしてくれりゃあいいじゃねえか。」
「え、えっと、まぁいいじゃないの。アンタ男なんだし細かいこと気にしないの!」
593Unpaint faced ball:04/06/06 11:45 ID:JZmhiykM
そう言って沢近は立ち上がり椅子を戻した。播磨も背伸びと欠伸を大きくしながら
立ち上がる。そうしてドアを開け、通路側に出たところで沢近が立ち止まり俯いた
まま口を開く。
「アンタ、何で今日はサングラスしてなかったの?それはいいけどこれからずっと
 サングラスしないで学校来るつもり?」
「あー、わかんねーな。だけど俺としちゃもうゴメンだな。女にはからかわれるわ、
 陽射しは眩しいわ良いことないしな。それを担任に直談判しに行くんだ。」
「そっか…」
そっか、ともう一言だけ呟き沢近は顔を上げて播磨を方を見る。
「それはあたしも賛成ね。アンタの目見たら今以上に人が避けて通るわよ。女の子
 や子供にいたっては泣いちゃうかもね。それに…」
播磨はテメェ…と沢近を睨みつつ、言いかけの言葉を待つ。
「それに、変な虫も増えるしね。」
「はぁ?変な虫ぃ?」素っ頓狂な声を出す播磨。
「そう。アンタの周りにね。これ以上増やされたらたまったもんじゃないわ。」
何のこっちゃわからない播磨は周りをキョロキョロ見ている。どうやらその変な虫
とやらを探しているらしい。沢近は照れを隠すかのように顔を陽射しの方へ向け、
目を細めながら言う。
「ホ…ホラッ!先生のとこ行くんでしょ?早く行きなさいよ。」
「お、おう。まぁなんだ伝言ありがとな。」
軽く手を上げ謝礼の意を述べると播磨は踵を返し職員室へと向かう。

放課後の教室の前、一人の女生徒が遠ざかる男の背中を見つめていた。左手には
携帯電話が握られ、その液晶にはつい先程男が起きる直前に撮った帽子姿の男の
如何にも間抜けな寝顔が映し出されていた。

                       
                           -end-
594おまけ:04/06/06 11:47 ID:JZmhiykM
そろそろ日が暮れ始め、強い西日が差し込む職員室。
ホームルームがとっくに終わり、教師達の出入りが比較的ゆるやかになった中で
一人の男子生徒とその担任の教師が向かい合っていた。
「…だからな、播磨。他の先生方から苦情が来てるんだよ。」
「……」
「今度は他のクラスまでが浮つきはじめただの。体育時や昼休みに2-Cに視線が
 集中して落ち着かないだの…まぁ色々だ。お前の場合ハリー君の場合と違って
 ギャップがありすぎたんだなぁ。」
「で?」
「で、だ。明日からはまたサングラスかけていいよ。いや、むしろかけてくれ。」
!!よぉし、何だか知らんが助かったぜ。これで天満ちゃんに気付かれる心配はない!
「全く外せって言ったりかけろって言ったりコロコロ変わるよなぁ。」
そうと分かればお見舞いだ!しかし今日このまま行ったら用事もないし不自然だな。
「学年主任なんだから自分で言えばいいのに忙しいからって押し付けるし。」
仕方ねぇ、茶道部に行って妹さんに漫画を見せるがてら…って駄目だ!グラサンは
家に置きっぱなしじゃねーか。かと言って明日にはもう治ってるかもしんねーし。
くそう、どーする!?
放課後の職員室、自嘲気味に遠くを見つめる教師と頭を抱えて唸る不良が今日も
向かい合っていた。その光景は他の教師の注目を集めるのに充分なインパクトを
持つものだったようだ。

ところ変わって、下校中のある男子生徒が携帯電話をかけている。
「あ、もしもし?ユッキー?うん、そう。安心しろよバッチリ撮ったぜ。うん。
 あー休み時間のうちに携帯カメラのシャッター音消す裏技使ってさー。でも
 物好きな友達もいるもんだねー。ま、ユッキー達との合コンの為ならお安い
 御用さ。だから約束忘れんなよ。…OK。じゃ今から送るわ。」
後日、驚異のネットワークを持つこの男によって播磨の素顔の画像が瞬く間に出回
ったのは言うまでもない。

595594:04/06/06 11:52 ID:JZmhiykM
以上です。スレ汚しスンマセン。
実際Upしてわかったんですけど見にくい事この上ないです。
地の文の主観点もわかりづらいし。

要は三原が書きたかっただけってことですね。
それでは失礼しましたー。
596 :04/06/06 13:03 ID:J87YA0AE
>>595
まぁ、あなた以外にも言えるのだが
職人たるもの自らの作品を貶めるな。
もっと自信を持って欲しいです。

内容は体育祭後の沢近って感じですね。
こうツンの中に見え隠れするデレって感じがまたなんとも( ´ー`)
あとちょっと各キャラの話し方(特に美琴の沢近呼称)が気になりました。
地の文もそうですが、もう少し読みやすさと方向性の統一がされるとなお良いかと。
597Classical名無しさん:04/06/06 13:52 ID:MEeVVd3Q
>>595
GJ!
沢近に萌えました。素顔の播磨を見たときの反応が(*´Д`)イイ!
グラサンを外して周りが〜っていうのはとても好きな展開なので
いつか本編でもやってほしいです。
あと、十分上手いと思いますよ。自信持って下さい
598Classical名無しさん:04/06/06 14:28 ID:Z5D.8LL6
ttp://simotuki26.hp.infoseek.co.jp/index.html
いつの間にかサイト作ってる人がいた。
599Classical名無しさん:04/06/06 17:13 ID:m2/N8Yc.
>>595
沢近であれば>>591のあたりの言い訳で
「それよりもっとイイ物撮らせてあげようか?」
と言って、播磨のハゲご開帳という展開の方が自然に感じたり…

ってそれじゃあ萌え展開にならないか orz
600Classical名無しさん:04/06/06 21:07 ID:jCJ2GJLk
グッジョブ!!
読みやすい文章だしとてもおもしろかったです
601Classical名無しさん:04/06/06 23:03 ID:9u9mt3js
>>595
萌えました。GJ!
素顔播磨いいねー
602595:04/06/07 02:19 ID:JZmhiykM
どんな批評されてんのか怖くて開くの今になってしまいました。
皆さんの意見嬉しいもんですね。
それと569さんのおかげで投下に踏み切ることができました。
ありがとさんです。
603Classical名無しさん:04/06/08 14:17 ID:b9QnmDZc
「なぁ播磨」
「ん?何だオメー」
「あのさぁ、お前沢近と何があったんだ?」
「何って別に…何もねぇよ」
「いや何もないってこたぁないだろ…髪剃られたりだとか」
「…あぁ、あん時オメーもいたんだっけか」
「それだけじゃねぇだろ」
「ん?…あぁ、そういや夏休みに一度あのお嬢になぜか追っかけられてる時に
オメーに捕まってそこにお嬢が乱入してきたことがあったか」
「あー、あんときは逃げた沢近を追いかけてすっ転んで服破けちゃって大変だったよ…」
「それでか…実はその後オメーんちわかんねぇから上着とカバン花井の道場に持ってったら
花井のヤローがいきなり『キサマ周防に何をした』って飛びかかってきやがってな」
「なっ…あ、あのバカ何早とちりしてやがんだよ…ちったぁクラスメートを信用しやがれってんだよなぁ…あはははは」
「ま、オレは不良だし仕方ねーけどな」
「…悪かったな播磨、あたしのせいで迷惑かけちゃったみたいで」
「なーに、いいってことよ…それにそれだけ花井がオメーのことを大事に思ってるってこったろうしな」
「なっ、何言ってんだよ、あいつは塚本の妹しか…ってそれよりお前と沢近の話だよ」
「…だから何もねぇっつってんだろ」
「何もねぇってこたぁねぇだろ。最近の沢近のお前に対する態度は明らかに普通じゃねぇし
それにあの日だって手ェ取り合って見つめ合ってたじゃねぇか…あ」
604Classical名無しさん:04/06/08 14:18 ID:b9QnmDZc
「なっ…あ、あの日ってどの日だよ…」
「お前が復学する少し前…お前が神社で神サマやってた時の少し後ぐらいかな」
「あっ、あれはだから…その…告白しようとしたら間違えたっつーか…」
「つまり人違いってことか?…かぁー、それで沢近お前のことあんな目の敵にするようになったってわけかよ…」
「あ、あぁ…」
「…で結局お前が本当に好きなのは誰なんだ?」
「い、いや…それは言えねぇっつーか…」
「ってかそもそもお前なんで学校休んでたんだ?んで戻ってきたんだ?」
「いや…それが情けねぇ話なんだが好きな娘に惚れた男がいるってわかってな、それで学校行く気
なくなっちまったんだよ。もともとその娘のためだけにここに入ったようなもんだったしな」
「へぇ〜、そうだったのか…それで?」
「でもその娘が『学校来なよ』って言ってくれてな」
「!!!」
「それにまだはっきりフラれたわけじゃねーしまだまだチャンスあるんじゃねーかって思い直して
また学校来ることにしたんだよ…っておい、どうしたオメー顔が赤いぞ?熱でもあんのか?」
「あー、その…なんだ、つまりそれってやっぱ…ごめん播磨、しばらく考えさせてくれ!じゃあな!!」
「お、おいどうしたんだよ…ったく、一体なんなんだ」

Fin。
605Classical名無しさん:04/06/08 15:01 ID:vCw45AcI
播磨グラサン無しで沢近悶えるは
そろそろキャッチフレーズがほしいだ。
606Classical名無しさん:04/06/08 15:23 ID:0a17CV9Q
播磨またもや変なフラグを・・・
面白かったです。GJ!
607 :04/06/08 17:01 ID:eDPfRfws
>>604
( ゚Д゚)ポカーン  ( ゚Д゚)ポカーン  ( ゚д゚)ハッ!
こ  の  展  開  が  あ  っ  た  か 
ネ申
608Classical名無しさん:04/06/08 17:31 ID:m4cwhP4I
やっぱり鉛筆っていいね
609Classical名無しさん:04/06/08 18:55 ID:7s8.gwHY
鉛筆(・∀・)ニヤニヤ
610Classical名無しさん:04/06/08 19:41 ID:yRovJj7Y
>>604
播磨×美琴は二人の間に流れる雰囲気が良いよね
会話文だけでニヤニヤ出来たのは久しぶりです。
GJ!
611Classical名無しさん:04/06/08 20:46 ID:tg8EYgdQ
美琴はいい女だなぁ
ホントいい女だ
GJ!!
612Classical名無しさん:04/06/08 21:01 ID:Zwc7X1Os
鉛筆は大好きだ…

GJ!!
613Classical名無しさん:04/06/08 21:16 ID:R8yxKrxg
ニヤリングが止まんねぇ・・・
鉛筆はイイ!
614Classical名無しさん:04/06/08 22:42 ID:Ur5yrgpw
鉛筆派が大流行してるな…

こんな時こそ。
ヤクモンマダー?(チンチンAA略
615Classical名無しさん:04/06/08 23:41 ID:ZHveUu7c
播磨と八雲の、ラヴ・ストーリーを
キボンヌ。
616Classical名無しさん:04/06/09 06:38 ID:eGGcmc2k
エロパロとあわせて
ミコチン大量摂取させていただきました。
反応がすっごいかわいいね。
しばらく考えさせてくれといって悩むミコチン萌え

 ぜ ひ と も 続 き キ ボ ン ヌ ! !
617Classical名無しさん:04/06/09 13:19 ID:H6nAMYN6
>>613
ニヤリングこれから使わせていただきます。
618BABY DON'T CRY:04/06/09 20:43 ID:SYlJOgA6
ファサ・・・
「え・・・」

沢近愛理は顔を上げた。
自らの転倒で女子リレーを台無しにしてしまった。
誰にも顔を合わせられない。
誰にも顔を合わせたくない。
そう思って、誰も来ない裏庭に逃げて来たのに。
よりによって、今一番顔を合わせたくない奴に、
播磨拳児に出会ってしまった。
それなのに、愛理はどこかほっとした気持ちになっていた。
拳児はいつものように、どこか居心地の悪そうな佇まいで、
顔を背けるようにして立っていた。

「・・・足、大丈夫か?」
「・・・うん・・・」
「話は聞いた。結構重症だったんだな」
「・・・・・・関係ないわ。私が単にドジだっただけよ」
「そうか」
「そう、ケガなんて関係ない・・・。全部私が悪いの・・・・・・」

顔を合わせればいつも喧嘩腰の会話しか出来ない二人。
それでも今は、素直な気持ちで話ができる。
・・・こいつといると、天満や美琴、晶と話しているような、
私の親友と話をしているような、そんな錯覚に陥る・・・。
愛理はどこか他人事のように拳児と話をしている。
619BABY DON'T CRY:04/06/09 20:47 ID:SYlJOgA6
「全く、お嬢は塞ぎ込んでるし、梅津の野郎はウルせえし、
おちおちナポレオンの餌をやってる暇もねぇぜ」
「なっ!なんで私が塞ぎ込まなきゃならないのよ!」
「じゃあ何でこんな所にいるんだよ」
「・・・・・・足が痛いだけよ」
「はいはい、分かったよ」
「なんかムカつくわね」
「いちいちからむんじゃねぇよ」

ふと、拳児が振り向いた。
サングラスの向こう側に、彼女の父のような、
優しい眼差しを見たような気がして、
愛理は思わず震えた。

「いいか。一回しか言わないから、よく聞いとけ」
拳児も心なしか顔が上気しているように、愛理には見えた。
「この後俺が走る。てめえが走れなかった分、
俺が走ってやるから、グラウンドに戻って来い」
「え?」
「こうも外野がうるさくちゃ、寝覚めが悪いんでな。
それに、お嬢がいなきゃ、塚本達も心配するだろうし・・・」
620BABY DON'T CRY:04/06/09 20:53 ID:SYlJOgA6
拳児は再び背中を向け、言葉を続けた。
「・・・だから、お前も泣くんじゃねぇ」
その言葉で、愛理は初めて、
自分が涙を流していることに気が付いた。
頬を伝う熱い雫が、彼女を狼狽させた。
(え?なんで私泣いてるの?あいつは私を慰めてる訳じゃないんだから。
私は全然嬉しくないんだから・・・)

「とにかく、こっちに来いよ。みんなが待ってる」
それだけ言うと、拳児はグラウンドへ向かっていった。
「全く、お嬢のあんな顔を見せられたんじゃ・・・」
拳児は何とは無しに呟いた。
「・・・ここで逃げたらもの笑いだぜ!」

「待って・・・・・・!」
愛理は叫んだ自分に気が付き、呆然とした。
拳児はそれに気が付いた風も見せず、立ち去っていく。
(今、行かないで欲しいって・・・何で私、こんな気持ちに・・・)
身を切られるように切なく、そしてとても暖かい気持ち。
段々と小さくなる拳児の背中が歪んで見える。
愛理は顔を覆い、肩を震わせて泣いた。
621BABY DON'T CRY:04/06/09 20:57 ID:WPumZD.6
初投稿です。
今週号を読んで、旗派万歳!の勢い一発で書いてしまいました。
ご意見・ご批判をよろしくお願いします。
622Classical名無しさん:04/06/09 23:54 ID:Fxxuq7bM
>>603
GJ!!
会話だけという難しい縛りの中、思わず唸ってしまう作品でした。

>>621
投下、乙。
単純な描写が多すぎかと思われ。
「泣いている」のを、連続で使っているしね。
()で直接キャラの心情を出さないで、動作だけ(頷く、手を伸ばすなど)
で表現してみるのも一つの手かも。
えらそうにスマン。
623Classical名無しさん:04/06/10 00:04 ID:8x2PjPcE
>>618-621
GJ
微笑ましい風景。イイ(・∀・)

しかしあえて叩かれるためのSSS投下しようかなとかも思います。
同じ?初SSですがこっちは文章が稚拙ですし作品の余韻を壊す?
(外し)目的で書いたので不快なら読み飛ばしてください。

 驚いた沢近の顔が、播磨の視界に消えて間もない頃。
男子リレーの観戦のためにほとんどの生徒がグラウンド
に消えていく中、流れに逆らう影があった。
「おい、播磨。意外とヤるな。オイ」
 突然播磨の視線に飛び込む、二つの丸い影。
「見ーてーたーぞーー。」
(おっ 周防か。 そっ、それに天満ちゃん)
「かっこよかったよ。 ジャージ オトコらしいね ハリマ君」
天満は笑って播磨を見つめる。
「どっ、、どうしてここに。」
播磨の喉から出る、驚き慌てた声が、渡り廊下に響く。
「やっぱり愛理ちゃんが心配だから
 戻ってきたけど・・・播磨君がねぇ・・・」
クスクス笑う声が耳をくすぐる
「それにしても、やっぱりオメー沢近のことが・・・」
(周防のやつ、なにニヤニヤした顔してんだ)
「意外に女の子にやさしいんだね」
(テ、、天満ちゃんまで・・・くそっ)
「そ、、っそれは俺のハ(ゴニョゴニョ)を・・・隠・・」
624Classical名無しさん:04/06/10 00:14 ID:8x2PjPcE
「照れなくてもいーのに。ねぇ」と天満。
「悲しんでる乙女にジャージ・・・ 今さら何ごちゃごちゃ
 言ってんだよ。この大胆告白野郎」と美琴。
ニヤケと笑い二重奏。
(はぁ、なに言ってんだ)
播磨は恥ずかしそうな顔をしながらも、今度ははっきりと言った。
「イッ、、いやお嬢が柄にもなく凹んでて・・
 汗かいてっから、寒そうだと思ったからよ・・・
 しかも落ちてたジャージだぞ、そこに、コレ」
「・・・」
「ショージキ 本気だすきもねーんだけどな。
 たいしてキョーミねーし。まあ勝ちゃあいいんだろ勝ちゃあ!!
 ちっ たりぃけどリレー出なきゃな。 じゃ悪いが俺は行くぜ」
一言吐いて走り去る播磨、唖然として立ち尽くす天満と美琴。
その横を、やけに冷たい風が一筋通り、そして消えていった。
「りっ、、、リレーがっ、、頑張ってねハリマ君・・・。」
播磨の姿が消えてから 天満は言った
「ねぇ あれって恥ずかしがってるんだよね。 きっとそうだよね?
 じゃなきゃ愛理ちゃんまた・・・。」
しばらくして、美琴がボソリとつぶやく。
「・・・知らねーぞ おい」


初&勢いで書くとよくないですね OTZ
某所の書き方とかも見たのに・・・全然
生かせませんでした。 でも今後も
小林尽先生 このスレの先生方に期待。
625Classical名無しさん:04/06/10 00:16 ID:9vGUIyyE
>>623
一刀両断でスマンが、その二人はハゲの事を知っている筈・・・・
626Classical名無しさん:04/06/10 00:19 ID:WiBE5f36
知っているとわかっていても愛する人の前では口に出したくないもの

と擁護してみる
627Classical名無しさん:04/06/10 00:26 ID:Gevq3D9w
もう、なんというか、言い訳にならない言い訳が素敵です。
628623:04/06/10 00:33 ID:8x2PjPcE
>>625
スイマセンスイマセン ゴメンナサイゴメンナサイ(AA略
血迷いました ごめんなさい。
#79みててっきり・・・orz
久々に回線切って吊ろうかと思いました。
諸先生方 次から気をつけます。
629Quo Vadis domine:04/06/10 00:51 ID:qmlfIyEQ
「どうぞ、先生」
「……ん。ああ、ありがとう」
 サラが笑顔で差し出した紅茶に、難しい顔をして溜息混じりに書類とにらめっこをしていた絃子が顔を上げる。これで一息
つけるよ、そんなことを言いながらカップを口元へと運ぶ。
 時は放課後所は部室、活動方針からその内容まであってないが如くのこの部活、いつものように閑古鳥が鳴く中で、そこに
いるのは現在サラと絃子の二人だけである。
「――うん。いつもながら素晴らしいね」
「私の腕じゃなくて、先生が用意してくれる茶葉がいいんですよ」
 でもそのお言葉はありがたく受け取っておきます、そう笑ってから、あの、と言葉を続けるサラ。
「何かお悩み……ですか?」
 気を煩わせることもない――そう考えて、いや、と否定しようとした絃子だったが、先刻からの自分の様子を顧みれば、
今更隠したところで仕様がなく、小さく肩をすくめてみせる。
「そんなに大したことじゃないんだ。ただちょっと……身内のことでね」
 いつもの泰然自若とした語り口も、濁した語尾と一緒にどこかに影をひそめているような絃子。そんな様子に、なら、とサラ。
「私でよければ伺いますよ。お力になれるか分かりませんけど、普段似たようなこともしてますし」
 似たようなこと、というのにわずかに首を捻った絃子だったが、すぐにその理由に思い当たる。
「ああ、確か君の所は教会だったね」
「はい。……と言っても、話を聞くのは子供たちから、ですけど」
 そう言って少し気恥ずかしそうに笑うサラだったが、逆にそれこそが大切なことだと知っている絃子は口を開く。
「それは立派なことだよ。教師だから言うわけじゃないけど、子供の話を聞く方が余程大変だ」
「時と場合によりけり、ですね。シンプルだから難しい、っていうこともありますから」
 少し考えながらそう言ってから先を続けるサラ。
「それで、難しいかどうかはともかくとして、そうやって話を聞いてあげた後に、教会としては本当ならありがたいお話の一つも
 しないといけないんですけど……」
「君はそうしない、ということかな」
630Quo Vadis domine:04/06/10 00:53 ID:qmlfIyEQ
「はい。神様だとかそういうものって、あまり意識しすぎるものじゃないですから」
 信じるな、っていうわけじゃないんですけど、と一つ苦笑い。
「信じてるから頑張れる。それは別に、神様なんて特別なものじゃなくてもいいと思うんです」
 友達、恋人、指折り数えていたそれを一旦区切って。
「――それに、家族でも」
 すっと自分の方を見据える視線に、見透かされているかな、と胸の奥で苦笑いする絃子。
「成程。そういう考え方もある、か」
 それでも顔には出さず、さらりとそう答えてから、どっちにしても、と続ける。
「私はその神様に嫌われてるんだよ、きっと」
 意識したわけではなかったものの、どこか自嘲めいた呟き。
 それに対して。
「だったら、振り向かせればいいんですよ」
 ――誰もが誰かにとって特別で、そしてだからこそ普通に接すればいい。
 あっさりと、何一つてらうことなくそう言ってのけるサラ。
「……」
「……あの、先生?」
「……いや、参った」
 参ったよ、もう一度繰り返しながら、笑いが堪えきれないといった様子で肩を震わせながら、もしかすると似ているのかも
しれない、と腐れ縁の友人――笹倉葉子を思い起こす絃子。
 もちろん具体的にどこがどう、というわけではない。それを言ってしまえば、容姿から性格に至るまで、共通点を探す方が
難しいかもしれない、そんなまるで違う二人である。
 ただ、その身に纏う雰囲気、それが似通っている、そう考える。
 決して強制ではなく、けれどふと気がつけば相手を自分の領域に引き込んで包み込む、そんな一風変わった強さと優しさ。
「うん、どうやら君の方がよっぽど大人のようだ」
 こういう『友人』は本当に心強い、そう思いながら楽しげに言う絃子。そしてさすがに正面切って言われると恥ずかしかったのか、
はにかんだような表情で、そんなこと、とサラ。
631Quo Vadis domine:04/06/10 00:53 ID:qmlfIyEQ
「それにしても不思議だね、私は何も話してないはずなんだが、ずいぶんと楽になった気がするよ。それとも乗せられたかな?」
「さあどうでしょう」
 冗談交じりの絃子の牽制を煙に巻いてから、でも、と続けて。
「お役に立てたならよかったです」
 そう笑ってみせる。ありがとう、と返す絃子も当然笑顔。
「それじゃ先生、私そろそろ……」
 言いながら空になったカップを手にシンクの方に向かいかけるサラを、構わないよ、と引き留める絃子。
「今日は世話になったからね。せめてそれくらいはさせてもらうさ」
「……いいんですか?」
「いいんだよ、ほら、私の気が変わらないうちに行った行った」
 そんな冗談めいた言葉に、若干きょとんとしていたサラも、それじゃあお言葉に甘えます、とカップをテーブルへと戻す。
「それじゃ今度こそ、お先に失礼しますね」
「ああ。今日は本当に助かったよ、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。では」
「うん」
 そんなやりとりを最後に、ぱたんと音を立てて閉じる部屋のドア。そのドアに向かって、もう一度だけ小さくありがとうと
呟いてから、カップを両手にシンクへと向かう絃子。気分は上々、といった様子で小さく鼻歌交じりにさっと洗い物をこなす。
「さて――」
 それが終わると今度は窓際へ向かい、閉めきっていたそれを開け放つ。
 外にあるのは緩やかな陽射しの降る穏やかな景色。
「――私の神様は振り向いてくれるのかな」
 どこか歌うように、それこそ神様しか聞いていないような、そんなことを呟いて。
 絃子は一人微笑んだ。
632Quo Vadis domine:04/06/10 00:56 ID:qmlfIyEQ
果たしてこれはスクランなのかどうなのか、のギリギリを狙っ……た挙句に踏み外したような。
そこはかとなくサラを完璧超人に仕立て上げつつ。
633Classical名無しさん:04/06/10 01:20 ID:cIgNq3N6
>623
ジャージは騎馬戦直後からずっと着てたような気がするので、
直前で拾ったってのもありえないと言ってみる

>629
うーん、何の話をしているのかの想像もつかないので、
何を楽しめば良いのかがわかりません・・・
オレノドッカイリョクガナイダケカモ、ゴメンナサイ
634Classical名無しさん:04/06/10 10:00 ID:Vofe40cQ
>>632
こいつはさりげないながら(・∀・)イイ播弦SSですね。
こういう間や空気、とても好きです
635ある一つの可能性:04/06/10 18:43 ID:zkvYR5QE
「あっ、美コちゃんお疲れー」
美琴がクラスの応援席に戻ってくると、いつぞやのプールホッケーの時のように
どこからか調達してきた学ランを着込んで応援の準備に余念がない天満が声をかけた。

「なぁ…沢近は?」
「あ、うん…さっきあっちにいたんだけどね」
二人の顔が曇る。人一倍プライドや責任感が強く勝負事に対するこだわりが大きい友人が
今どんな気持ちでいるかを考えるといたたまれない気持ちになる。
「…やっぱ探してきたほうがいいかな?」
不安げにそう尋ねる天満に今は一人にしといたほうが、と美琴は答えた。

「そうだね…せめて男子が勝ってくれて優勝できればいいんだけど…」
そう思って気合入れてみたんだけどね、と言って学ランを美琴に見せるように両手を広げてみせる天満。
何も考えてないようで実はちゃんと考えてたりする友人の姿にそうだな、と頷きながら
美琴はハチマキをきゅっと締めなおして立ち上がった。(頼むぜ、お前ら絶対勝ってくれよ…)
636ある一つの可能性:04/06/10 18:45 ID:zkvYR5QE
パァン、という乾いた号砲が響き歓声が上がる。男子リレーが始まったようだ。
愛理は播磨のジャージを握り締め一人堂々巡りを繰り返していた。

自分は播磨のハゲを隠そうとして落馬して足を挫いた。そしてそのまま無理をしてリレーに出て転んだ。
だからアイツは責任を感じてリレーに出る、ただそれだけのことだ。このジャージにだって深い意味はない。
「これから走るからジャージをどこかに置かないといけない」というのがまずあっての思いつき、単なる気まぐれ…
――だってそもそもアイツの髪を剃ったのは自分なのだから――

そこでまた考えが振り出しに戻る。そう、そもそも播磨の髭を誤って切ってしまいそれを謝りに行ったはずが
なぜかなりゆきで髪まで剃ってしまったのは自分なのだ。しかもそのことを謝ることすらできてない。
そのために自分が落馬して足を挫こうが完全に自業自得である。しかもその足で無理にリレーに出ようとしたのも自分なのだ。
播磨が責任を感じなければならない謂れなど本来どこにもないはず。それならなぜアイツは…
637ある一つの可能性:04/06/10 18:47 ID:zkvYR5QE
 聞いてくれ…俺は…前から君のことが好きだったんだ
 やっと…やっと言うことができた

あの時の告白を思い出し愛理はまたぶんぶんと首を強く横に振った。「違う…そんなことあるわけないわ」
播磨が愛理への愛ゆえに走る、そんなことがあり得ないというのは夏休みの様々な出来事でさんざん思い知らされた。
だいたいあの告白の直後に姉ヶ崎先生が現れていちゃつき出し自分が播磨にシャイニングウィザードを叩き込んでるのだ。

「姉ヶ崎先生…?」
負けたくない、そう思って自分はスタートラインに立った。果たしてそれは何に対してだったのだろう。
ほかのクラスに?ケガに?それとも大人の余裕を見せる何やらアイツと特別な関係っぽいあの"美人保険医"に?
…冗談ではない、それでは何かまるで自分が姉ヶ崎先生が言うとおりヤキモチでも焼いてるみたいではないか。
そう、アイツと私は何でもない、ただ単に私は自分が播磨の髪を剃ってしまったからそれを隠そうとして落馬しただけ。
それで私が足挫いてリレーに出て転んだからアイツが責任感じてリレーに出る、ただそれだけ…
また何度目かの出発地点に戻ってしまった愛理は思わず苦笑する。

「…もう、私らしくないわよ!」
とにかく誰のせいであろうが優勝の行方は今行われている男子リレーに委ねられたのだ。
自分でもよくわからない自分の気持ちにとらわれてうだうだしてても始まらない。
とにかく自分の目で全てを見届けよう。それで何かがわかるかも知れない。
愛理はまだ少し痛む足で小走りにトラックの方へ駆け出した。
638ある一つの可能性:04/06/10 18:48 ID:zkvYR5QE
「ちっ、何の因果で俺がこんな…」
播磨は吐き捨てるように一人ごちた。愛しの天満ちゃんのためならともかく憎き宿敵・沢近愛理のためにリレーを走るハメになったのだ。
自分のハゲを隠すために落馬して足を挫きそれが原因でリレーで転んだとはいえ、そもそも自分の髪を剃ってくれやがったのが
他ならぬその沢近自身である。それ以前に足を挫いて走れないなら自分に交代出場を迫った梅津のように誰かに代わって貰うべきではないか。
無理をして走った結果転んでクラスに迷惑をかけた、その決断はあのお嬢がお嬢自身の責任で行ったもののはずだ。
オレには関係ねぇはずだぜ、そう播磨は呟いた。

「…とは言ってもなぁ。」しかし播磨はそう続ける。あのお嬢には負い目がある。間違って告白したり
全裸で羽交い絞めにしたりしたのは紛れもない事実だ。誤爆告白はともかく海の一件は本来オレは悪くないはずなんだが
対応間違えて思いっきりビビらせたのは確かだしな。全くあの時いつも冷静なあの女が来てなけりゃどうなってたかわかりゃしねぇ。
「それに…」俯いて座り込む沢近の様子を思い出す。「さすがにさっきのあのへこみっぷりは見てらんなかったからな…」
あーいうプライドの高いタイプは案外打たれ弱かったりするものなのだろうか。どうもオンナというのはいまいちよくわからん。

(オンナ、か。)そろそろリレーゾーンに出なきゃならんようだ。ハリーの野郎と目が合う。D組とは今のところ僅差、
オレとコイツの勝負に全てがかかってきたってことか。よーし、このいけ好かねぇ軟派野郎の鼻あかしてやるのと
あとはナポレオンのために一丁やってやるか。あとついでにあのお嬢の分も少しは入れてやっていいかもな…
(まぁとにかくあんなのでも一応オンナはオンナだし、ここでやらなきゃ男がすたるってもんよ)
639ある一つの可能性:04/06/10 18:49 ID:1oSSvnh6
愛理がトラックの見える位置まで戻ってきたときまさに播磨がバトンを受け取ってスタートを切ったところだった。
「行けー、は…」思わず叫ぼうとしたその言葉をあわてて飲み込む。しかし言い直そうとした別の単語もこのシチュエーションで
大声で叫ぶにはいささか恥ずかしい。しかしほんの一瞬のためらいの後思い切って声に出す。

「行けー、ハリマー、がんばれー、お願い、勝って、播磨君…」

無論播磨に聞こえていようはずがない。愛理の姿に気づくはずもない。
播磨は真剣に前だけを見据えて全力で走っていた。それでも叫ばずにはいられなかった。

ハリーとのデッドヒートは全くの互角のまま第3コーナーに突入、ハリーがうまくカーブの内側をとり一歩前に出る。
一瞬息を呑む愛理。しかし播磨はカーブの外側からハリーを抜き返して第4コーナーを曲がりきり、
最後のホームストレートでハリーが追い上げるもわずかに早く播磨の身体がゴールラインを駆け抜ける。
その瞬間思わず愛理は駆け出した。




「おぉ、沢近君じゃないか」
少し足を引きずりながら駆け寄る愛理に最初に気づいたのは麻生や今鳥たちと共に播磨を囲みその走りを称えていた花井だった。
ハリーとお互いの走りを称えあい硬い握手を交わしていた播磨がその声に気づいて振り向いた瞬間――

「ん、どうしたお嬢、足大丈夫かぁぁぁっ?」
640ある一つの可能性:04/06/10 18:51 ID:1oSSvnh6
「播磨、よくやったーーー!!!」
……なぜか美琴が播磨に抱きついていた。

美琴は一通り播磨の力走を称えて頭や背中をばんばんと叩いたあと花井や今鳥など他の選手にも言葉をかけようとして
ようやく自分の周囲の異様な状況に気がついた。「あ…」

明らかに面食らってる播磨。
麻生は何とも表現しがたい微妙な表情で明後日の方向を向き今鳥は露骨に播磨を羨ましがってる。
花井は「や、八雲君ばかりか周防まで…」となぜかこの世の終わりのような顔で周りにネズミを引き連れ
美琴と一緒に駆け寄ってきた天満や一条その他2-Cの面々はただあっけにとられるばかり。
そして愛理が完全に石化する周りを冬木の切るシャッター音だけが空しく響いている。

体育祭は終わったがこちらの闘いはまだ始まったばかりのようだ。


ごめんなさいすいません上の鉛筆SSS読んでこんな外しもあり得るんじゃないかってつい出来心で
…吊ってきます。
641Classical名無しさん:04/06/10 20:07 ID:w0Bdqwto
最高。本編でもこういった美琴の鈍さゆえの誤解ネタやって欲しいな。
642Classical名無しさん:04/06/10 20:46 ID:Pp4HmIL.
>>640
極めて(・∀・)イイ!そして萌えました。GJ!
こんな神展開期待したいです。
播磨と美琴は最近接点薄いから絡めて欲しいですね。
643Classical名無しさん:04/06/10 20:47 ID:U6vYhFXA
軽く鉛筆の香りが・・・
644Classical名無しさん:04/06/10 21:42 ID:9D4aE3vA
美琴が喜んだのは沢近のためだってのがミソですな(w

麻生は「自分も騎馬戦で抱きつかれたから反応が薄い」
「自分だから抱きつかれた訳じゃなくてわかってたけどちょっとガッカリ」のどっち?
64596:04/06/10 22:16 ID:V3kQJTq6

ブームになってる鉛筆にガクブルしながらも
なんとか完成しました

「Cross Sky」の続き物なんで、そっちの作品を未読の方は
先に読んでくれたら幸いです

というか、読んでないと、置いてけぼりをくらうと思うんで(苦笑)
646Promise Sky:04/06/10 22:16 ID:V3kQJTq6
美琴はある決意を胸に秘めていた。
それは自分にとって、とても勇気を必要とする大変なこと。
他人にとってはどうでも良いことではあるが、彼女にとっては非常に困難なことであった。
(今日こそ……言ってみせる)
気持ちを落ち着かせる。その『決意』を達成するために。

―――――美琴はある決意を胸に秘めていた


二人が成人を迎えて初めての春休み。
紆余曲折はあったものの、花井と美琴はようやく心を通い合わせることができたのだった。
互いに、至福の時間を桜の木の下で共有した、決して忘れることのできない瞬間。
相手が『幼なじみ』から『恋人』になった、夢と錯覚してしまいそうな事実。
そして駅のホームで別れる際、花井は美琴に、指輪に替わる新しい約束をした。
「夏休みにまた会おう」という約束を。
それから季節は巡る。日差しが強く、陽が長く昇り、暑さを感じる今は夏――――


花井が矢神町に帰郷してはや一週間経っていた。
そう、彼は約束通り、美琴に会うために実家に帰ってきていたのだった。
再びおとずれた待ちに待った瞬間。三ヶ月ぶりの再会。
こっちにいれるのは十日ほどだが、その間にまた、楽しい思い出を作ろう。
春休みに再会した時は、よそよそしさが目立った。だが、今度はそうならないだろう。
もういらぬ遠慮をすることはないのだ。何故なら、自分達は恋人同士なのだから。
花井はそんな気持ちを抱いて帰ってきた。
それなのに、だ。

「周防」
「えっ、…な、何だよ」
「……」
647Promise Sky:04/06/10 22:18 ID:V3kQJTq6

道場で花井が彼女に話しかけるたび、これである。前にも増して、つれない態度をとる美琴。
理由を言ってしまえば、先ほど述べた『決意』が起因しているのだが。
彼女の心内を知らない花井は、そんな彼女の対応に顔を曇らせる。
折角、彼女に会うために帰ってきたのに、美琴がずっとこんな様子では。
花井にとって今回の帰郷は、まったくの徒労に終わってしまう。

「周防、僕はお前に何かしたのか? なんでそんなおかしな態度をとるんだ?」
稽古が終わり、二人並んで帰路につく途中。
この一週間、変わることのない彼女の態度に、本来言おうとしていたことを思わず遮り、
花井は美琴に問いかけた。
「べ…別に、何もおかしくなんかないだろ?」
花井の問いかけをはぐらかそうとする美琴。
しかしどもりながら、焦りながらのその返答に、花井の胸に、つい不安がよぎる。
彼女が何を考えているのか分からない。
一体、どうしたのだろう。自分がいない間に、何かあったのだろうか。
「で、なんか用事があったんじゃないのか?」
美琴の言葉に我に返る花井。
彼女に抱いた気持ちを隠しながら、花井は今度こそ本題を切り出した。

「実はな、今夜夏祭りがあるらしいんだが…行かないか?」
昨日、矢神町内の神社で祭りがあるということを、親に教えてもらっていたのだ。
それを知ったと同時に、花井は美琴を誘おうとすぐに決めた。
自分と彼女の間に、以前と同じような距離感を感じるのならば。
以前と同じように、きっかけを作れば良い。出来た溝は、また埋めていけば良いのだ。
それに、彼女との新しい思い出もできることだろう。
648Promise Sky:04/06/10 22:19 ID:V3kQJTq6

「どうだ? 周防」
「あ…うん、行くよ。嬉しいよ、誘ってくれてさ」
少々ぎこちなさがあったものの、頬を少しだけ赤く染めて、美琴は笑顔を見せる。
言葉通り、純粋に嬉しさを見せた彼女に、先ほどの不安が小さくなっていく。
それと同時に、フッと安堵の表情を見せた。
時計の針は今、五時を指している。祭りが始まるのは六時からだ。
「少し早いが、今から行くか」
「あ、ちょっと待って」
歩き出そうとした花井を制する美琴。
「稽古終わりだから、一回家に戻りたいんだけど…いいかな?」
「そうか、そうだったな…」
「先に行ってていいからさ。頼むよ」
必死に頼み込む。そんな彼女の様子に花井は、自分が折れることにした。
「分かった。じゃあ、神社の入り口で待っている」
「ありがと。なるべく速く行くからな」
そこで一旦別れる。
花井は神社に、美琴は家に向かってそれぞれ歩き出した。


(遅いな…周防のヤツ、何をしているんだ?)
神社の入り口で、一人の人物が少々苛立ちをみせながら腕時計を覗き込んでいる。
その人物とは、もちろん花井。
ここに着いてから、結構な時間が経っていた。
祭りはもう始まっていた。境内からはいかにも楽しそうな喧騒が聞こえてくる。
美琴はまだ姿を現さない。
家に帰り、シャワーを浴び、着替えてくるだけならここまで時間はかからない筈だ。
一体、彼女はどうしたのだろうか。
何かあったのかもしれないが、連絡は無い。
花井の胸を、何度も不安と苛立ちが交錯する。

649Promise Sky:04/06/10 22:21 ID:V3kQJTq6

その時。

「お待たせ」
背後から、聞きなれた声が耳に届く。
同時に、花井はフウッと安堵とも鬱屈ともとれるため息をついた。
そして振り向きながら、彼女に対して口を開く。
「お前、こんなに待たせて一体何…を…」
最後まで言えなかった。

「あ、あの…似合う……かな?」

花井の目の前に立っているのは、美琴のはずなのだが。
そのことを認識するのに、彼は少々時間を要した。
何故なら彼女は、浴衣を身につけていたのだ。
鮮やかな藍色に黄色い花が所々に散りばめられたその柄は、彼女を存分に際立たせている。

「着替える途中で、これがあったのを思い出してさ」

浴衣に合わせて、自慢の髪の毛も稽古の時のように高い位置で結い上げているだけでなく、
うなじが見えるよう、そこから更にピンでまとめ上げていた。そして、横髪はストレートのまま。
その髪型と浴衣が見事に合わさり、改めて彼女の魅力に気付く。

「一人で着替えてたから、思ったより時間が掛かっちまって……ゴメン」

遅れた理由を端的に述べる美琴。
だが、花井の耳には届いていないようだ。
「…………」
今まで見たことの無い美琴の容姿に、花井は言葉を失う。
その姿が、あまりにも綺麗だったから。
650Promise Sky:04/06/10 22:22 ID:V3kQJTq6

「い、いい加減…何か言ってくれよ」
いつまで経っても黙ったままの彼に不安を感じたのか、感想を聞きたがる美琴。
「いや…その……何と言えばいいのか…」
うながされて口を開いたは良いが、出てきたのは何とも歯切れの悪い言葉。
そんな花井の様子を、美琴は否定的に捉えた。
「何だよ。似合わないって思うんだったら、素直にそう言えばいいだろっ」
口を尖らせ、プイッと顔を逸らして拗ねた様子を見せる。
そんな彼女に、花井はようやく彼女のその姿の印象を口にした。
「いや、あまりに似合っていたんで…その、吃驚しただけだ」
「今更そんな嘘言っても騙されねーよ」
ジロリ、と視線を花井のほうに向け憎まれ口をたたく。
どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。
(本心なんだがな…)
つい苦笑しながら、頭を掻く。
「そう、拗ねるな」
「誰のせいだよ」
そう言いながら、一人先に境内に入っていく美琴。
そんな彼女の後を、笑みを湛えたまま花井はついていく。

「あー、やっぱ祭りって良いもんだなー」
出店を眺めながら、なんとはなしに呟く。
「そうだな、お前と来るのは随分と久しいな」
「塚本や、沢近とかは来てんのかな?」
「さあ、これだけ人が多ければ分からんな」
「お、あれ面白そうだな」
ことごとく無視する美琴。花井はついため息をつく。
651Promise Sky:04/06/10 22:23 ID:V3kQJTq6

「分かった分かった。周防、さっきのことは謝るから、いい加減機嫌を直してくれないか?」
仕方なく、謝罪を述べる。
本心を言ったのに、信じてもらえないことのなんと辛いことか。
「分かりゃいいんだよ」
そこで、美琴はようやくフッと笑顔を見せる。
「で、何が食べたいんだ?」
「え、奢ってくれるのか? …貧乏生活してるのに」
浴衣を着て来たのに、良い返答を得られなかったことにまだ不満があったのか、
つい意地悪な台詞を吐いてしまう美琴。
笑顔ではあったが、その顔には少々、皮肉の色が浮かんでいる。
「そうか、嫌なら別に…」
「さぁーて、何から奢ってもらおっかな〜?」
駆け出して、急に店を物色し始める。
「…………お前な」
そんな彼女の態度に呆れた様子を見せながらも、再び彼女の後を追う。
だが、これで彼女の機嫌が直るのなら安いものだ。
「おーい、財布! 速く来ーい!」
「誰が財布だ、誰が」
焼きそばの店の前で手招きしながら、憎まれ口を叩く美琴に言葉を返す。
そして、近付きながらポケットに入っている財布を取り出した―――――


「やっぱこういう所の食べ物は美味いなー!」
「…よく食うな、お前」
思わずぼやく花井。
それもそのはず、焼きそばを食べた後、たこ焼きや焼きとうもろこしなんかも、
あっという間に平らげている。
予想外の彼女の食欲に、財布が少し涼しくなってきた。
「稽古終わりとはいえ、お前そんなに食ったら太…んぐっ!」
突然、彼女が手に持っていた綿あめを口につっ込まれる。
652Promise Sky:04/06/10 22:24 ID:V3kQJTq6

「……そんなに食ったら、な  ん  だ  っ  て  ?」
三白眼で花井を見つめる。
「いや………何でもない」
美琴の迫力に圧倒され、冷や汗を流しながら言葉を撤回する。
やはりこの男の辞書に、デリカシーという横文字は存在しないらしい。
(今日はコイツを不機嫌にさせてばかりだな…)
心の中で反省する花井。
反省するくらいなら、思ったことをすぐ口にするのは止すべきだと思うのだが。
またしても美琴を不機嫌にしてしまったことで、会話が止まる。
話題を変えようとしたその時、花井の目にある出店が飛び込んできた。
「周防、あれを久しぶりにやらないか?」
「あれって…?」

そこにあった店とは、射的。

美琴が花井に対する気持ちを認識させられるきっかけとなった、おもちゃの指輪。
二人が悠久の約束を誓い、想いをこめた銀の指輪。
そして、その指輪を手に入れた時に行(おこな)ったのが出し物が、この射的である。

「あたしは見てるだけで良いよ」
「そうか? しかし…」
「いいから」
今までと違い、柔和な表情を見せる美琴に、花井はそれ以上、誘うことをやめた。
そして、店のおじさんに金を払い、銃を受け取る。
「さて、何が欲しい?」
そう言いながら、美琴の方を向きながら構える。
「でも、やるのは久しぶりなんだろ? そう言って落とせなかったら格好…」

パンッ
653Promise Sky:04/06/10 22:25 ID:V3kQJTq6

音がしたと同時に、小さなぬいぐるみが台から落ちる。
「何か言ったか?」
得意げな顔を見せる花井。まだまだ腕は落ちていない様子。
「へえ、大したもんだな。…もう一回見せてくれねえか?」
「お安い御用だ」
また銃を構える。
(初めてコイツを格好良いと思ったのは、これやってる時だったっけ)
昔に思いを馳せる。
言うなれば、一番最初のきっかけ。
久しぶりに、この姿をまじまじと見たかったから。
だから、美琴は彼と一緒に射的をするのを断った。
さっきまでの不機嫌さが嘘のように、懐かしさが彼女を取り巻き、胸が高鳴る。

そうだった、あの頃のコイツは弱虫で。
今みたいな性格になるなんて、思ってもみなかった。
ましてや、恋人同士になるなんて。
だけど、あたしが欲しがった指輪をとってくれた時、初めて意識したんだっけ。
花井も男なんだなって。
そういや昔はあたしのこと、「ミコちゃん」って呼んでたんだよな…懐かしいな…。
………ぁ…


そこまで思いに耽(ふけ)っていた美琴だったが、そこであることを思い出す。
とても勇気を必要とする、『決意』をしていたことを。
(ど、どうしよう、このままじゃとても言えねえよ……)

「どうした? 周防」
「え?」
気付けば、花井は射的を終え、自分のそばで佇(たたず)んでいる。
手には、弾数と同じ数の景品。どうやら全発命中させ、それらを手に入れたようだ。
654Promise Sky:04/06/10 22:26 ID:V3kQJTq6

「あ…な、なんでもないよ」
「じゃあ、そろそろ行くか」
「え? どこに行くんだよ。祭りはまだ終わってないぜ?」
神社の外へ向かおうとする花井に、美琴は声を上げる。
「近くの河川敷で、もうすぐ花火が上がるらしいんだ。だからそこへ行こうと思ってな」
「へぇ、そうなんだ。花火か…楽しみだな」
「ならば、速く行こう。もうそろそろ混んでいるかもしれんからな」
そう言いながら、歩みだす花井。
その時。
腕が引っ張られた。
前もこんなことがあったような気がする。
振り返ると、自分の手をしっかりと繋いだ美琴。
三ヶ月前は指だけだったのだが、今度はちゃんと手を握っている。
「……なんだよっ」
ついつい攻撃的な口調になる。が、それが照れ隠しなのは一目瞭然。
「いや? 別になんでもないぞ?」
そのことに満足したのか、口調が軽くなる花井。そして、そっとその手を握り返した。


「うわ…やっぱ混んでるな」
「川岸まで行かずに、坂の上から見たほうが良いな」
花火が打ち上がる河川敷に到着した二人。
坂の下は、ビニールシートを敷いた先客で、人ごみが溢れている。
一方、坂の上では、人もまばらである。というより、この場所で見ようとしている人が
見当たらない。
どうやら、ここは河川敷の中でも少々はずれの位置にあるようだ。
「立ち見になるが…構わないか?」
「いいよ、そのくらい」
手を繋いだまま、夜空に目線を向ける美琴。
花井は腕時計に目を通す。
655Promise Sky:04/06/10 22:28 ID:V3kQJTq6

「そろそろだな」
そう言うと、彼も視線を空に向ける。
そして――――


ドーーーーーン!


大きな円形の花火が対岸から打ち上がった。
二人の顔が、花火の色に合わせて変化していく。
互いに何も言わない。
言わなくても、繋いだ手が気持ちを代弁していた。
花火はなおも、立て続けに上がり続ける。

ドーン! パラパラパラッ
ドーン! パラパラパラッ

夜空に咲く幾つもの大輪の花が、咲き乱れ、そして消えてゆく。
赤い花、青い花、黄色い花、緑の花。
その全てが、重なり、色合いをなし、徐々に色を変え闇にまぎれていった。
そして、その一つ一つが二人の脳裏に焼きついていく。

花火が始まったことで、移動する人はほとんどいなくなった。
ましてや坂の上、しかもはずれの位置で見物する人など皆無である。
ここにいるのは、花井と美琴の二人だけ。
辺りには誰もいない。


656Promise Sky:04/06/10 22:29 ID:V3kQJTq6


「周防」
花火から視線を逸らさないまま、声をかける。
「何?」
「実はな…僕は明日にはもう、戻らなければならないんだ」
その言葉に、美琴は彼の顔に視線を向けた。弾かれるように。
それに合わせるかのように花井も、彼女に顔を向ける。
「本当は明後日のはずだったんだが、バイト先が人が足りないと言うんでな」
途端に、寂し気な表情になる美琴。
その顔が、まるで置いてけぼりをくらう幼い子供のように見えた。
つい俯く。
「……そっか」
それだけを口にする。
本当は引き止めたい。少しでも一緒にいたい。ただでさえ、普段は会えないのだから。
しかしそれを言えば、花井を苦しめることになるだろう。
その代わりに、彼女はまた、憎まれ口をたたいた。
「あたしより、バイトの方が大事なんだ」
足元にあった小石を蹴る。
自分との時間より、バイトを優先した彼の行動に、どうしても納得がいかなかった。
そんな彼女に、花井は言葉を返す。
「僕だって本当は、少しでも長くいたいさ。だが…お前に、帰ってきてから
ずっと避けられている感じがしてな」
口調が重くなった。本当は言うつもりでは無かったのだろう、その言葉。
美琴はハッとなる。
657Promise Sky:04/06/10 22:30 ID:V3kQJTq6

自分の決意を優先するあまり、花井が帰ってきてからも、あまり彼と会話しなかったことを。
話しかけられてもつれない態度をとってしまっていたことを思い出す。
「何故そんな態度をとったかは訊かん。お前のことだ、何か考えがあったんだろう?」
自分の態度を後悔してるであろう美琴を庇う花井。
彼の不器用な優しさが、見え隠れする。
しかし、それと同時に、彼女の不条理な態度を責め立てたいのも本心で。
「ただ…」
「…?」
そこで、一旦言葉を切る。次に彼の口からついてでたのは彼女に対する、一番の不満。
花井の表情が翳(かげ)る。

「帰ってきてから……一度も僕の名を呼んでくれなかったな」

「…!」
その言葉に美琴は声を上げず、顔を強張らせた。
そう、美琴は花井が帰ってきてから、まだ彼の名前を一度も口にしていない。
もちろん、今日も。
他人からすれば、それは非常につまらないことだ。
それでも、愛しい存在に名前を呼んでもらえないということは、やはり辛いことなのだろう。
この一週間、声をかけるのは決まって花井のほうからだった。
だが、それには理由がある。それは彼女の『決意』の核心なのだ。

「ゴ、ゴメン…」
手を離し、また俯いて謝る。今までに無い殊勝な態度。
(少し、言いすぎたか)
そう思い、彼女を優しく抱きしめる。
「そこまで自分を責めるな、周防。僕も言い過ぎた」
「でも…」
658Promise Sky:04/06/10 22:32 ID:V3kQJTq6

なおも謝ろうとする美琴。
花井は彼女の頬を指先でそっと撫でた。
「もういい」
言葉を制する。
「もういいんだ、周防」
花火はなおも続いている。打ち上がる音がひっきりなしに二人の耳に届く。
「僕は何も望まない」
その言葉に一瞬、絶望的な顔になる美琴。
花井は、彼女が早とちりをしてしまったのだと悟る。
そんな彼女に、かすかに微笑みながら伝えたい言葉を口にした。


「お前がいれば、それでいい」


「………」
何も言えかった。
美琴は花井のその言葉に、どう返して良いか分からない。口を開くことが出来ない。
だから。
自分を抱きしめる男の胸に、身体を預けた。
これが、返答代わりだと言わんばかりに。
「周防…」
その言葉と共に、抱き寄せていた腕を解き、そのまま肩に添える。
それが、何を表すのか分からない美琴ではない。

過去に一度、やったことがあるのだから。

顔をお互い向け合う。
途端に、頭の芯から足元まで、身体全体が痺れていく感覚に陥る。
659Promise Sky:04/06/10 22:33 ID:V3kQJTq6

前の時と同様に、視界が狭まり、息苦しくなってきた。花井の顔が近付く。
だけど、今なら。
どんなに勇気を振り絞っても言うことができなかった言葉を、すんなり言える気がした。
目を閉じながら、美琴は自身でも聞き取れるかどうかの小さな掠れる声で。
言いたくて、ずっと言えなかった言葉を口にする。


「春樹……」


やっと言えた。やっと。
美琴は幼なじみではなく、恋人としてのちゃんとした証が欲しかったのだ。
だから今度彼の名を呼ぶ時は、苗字ではなく、「名前」を呼ぼうと決めていた。
それが、彼女の『決意』。
もっとも、ここまで大変だとは思わなかったが。
その時、おそらく最後なのだろう、今までにない位、大きな花火が打ち上がる。
ヒュルルルルッと、火種の筋が空を切り裂き昇っていく。

ドーン、と最後の花が咲いたと同時に、その光でシルエットになった二人の顔が重なる―――



「美琴ちゃーん!!」

ドンッ!
ズザザザザザザッ!!

唇が触れ合うまさに直前。
突然響いた自分を呼ぶ声に美琴は、目の前にいた花井を無意識に突き飛ばした。
その予想外の行動に、無抵抗だった花井は、豪快に坂を転げ落ちていく。
660Promise Sky:04/06/10 22:35 ID:V3kQJTq6

「つっ、つつつ塚本!?」
そんな花井を気にする余裕もなく、美琴は自分に声をかけた人物に返事をする。
「久しぶりだねー美琴ちゃん! うわー、その浴衣、すっごく良く似合ってるよ!
…あれ、なんで顔真っ赤なの?」
いきなり現れ、幾つもの台詞を立て続けに口にするのは。
そこにいたのは、相変わらずな様子の塚本天満。すぐ後ろには妹の八雲もいる。
「……姉さん、だから声をかけちゃ駄目だって…」
姉よりも幾分、男女の機微に聡い妹は、何度も声をかけるのをやめるよう制したみたいなのだが。
天満はその言葉に構わなかったらしい。
「えー? 折角、久しぶりに会ったんだから声かけなくちゃ悪いでしょ? ね、美琴ちゃん!」
「え? あ、ああ、そうだな」
いきなり自分を取り巻く雰囲気が変わっていくのに、ついていけない美琴。
「ほらー! 美琴ちゃんもこう言ってるでしょ? まだまだだなぁ、八雲は!」
えっへん、鼻の下を擦りながら、得意げな顔になる天満。
相変わらず、彼女はあまり成長してないようだ。
その時、

「周防〜! お前なぁ〜!!」
坂から這い上がってきた花井が姿を現す。
身体の至る所が汚れてしまっている。よっぽど酷い落ち方をしたようだ。
「あ、ゴ、ゴメン花井!」
そんな彼の姿を見て、慌ててそばに駆け寄る美琴。
「あれ? 美琴ちゃん、花井君と一緒にいたの?」
どうやら天満は花井には気付いてなかった様子。
「……だから、言ったのに」
誰にも聞こえないように呟く八雲。
その言葉に、花井は顔を向ける。
661Promise Sky:04/06/10 22:36 ID:V3kQJTq6

「おお、天満君に………八雲君か、随分と懐かしいな」
「あ…花井先輩、お久しぶりです…」
挨拶を交わす花井と八雲。
ちなみに天満は美琴との話に夢中である。
花井を無視するのは少しひどいとは思うが、天満も美琴と久しぶりに出会ったのだ。
積もる話もあるだろう。
花井は、そこにいるもう一人のほうに視線を向けた。
「元気そうだな、八雲君」
「あ…花井先輩も、変わりませんね」
「そうかな? 自分では、少し変わったつもりなんだが」
二人が会うのは、卒業式以来だ。
あの時の花井の想い人はまだ八雲だった。
桜が散る校庭で、花井が彼女への想いを告げ、玉砕したあの時のことが二人の頭を巡る。
思わぬ所での意外な人との再会。
昔の花井ならば、八雲に心をすぐに読まれ、また敬遠されたことだろう。
だが、今は違う。何故なら―――

(………分からなくなってる)
八雲は気付く。花井の心が読めなくなっていることに。
そして、彼は美琴と一緒にいた。二人っきりで。
あれから随分時も経つ。
そしてさっきの二人の雰囲気。
そこまで考えが巡らすと、結論は自然と出た。
推測が確信に変わる。


「姉さん、もう行こう?」
「え? でも、今会ったばっかりなのに…」
「姉さん」
普段は天満の言うことに従う八雲だが、この時は珍しく、自分の言葉を貫く。
662Promise Sky:04/06/10 22:37 ID:V3kQJTq6

「わ、分かったよ」
妹の思わぬ言動に、動揺しながらも言うことを聞く。
「塚本、また今度ゆっくり話そうな」
「うん、分かった。それじゃ、また今度ね!」
そう言って、天満はその場を離れていく。
八雲もそれに続く。が、くるりと二人のほうを向き、一言言い放った。

「あの…お二人とも、おめでとうございます…お幸せに」
「「え?」」

思わぬ言葉に、つい言葉を漏らす二人。
八雲はそのまま振り返り、天満の後をついていった。

「どうやら、八雲君は気付いたみたいだな」
「そうだね」
少しだけ寄り添いながら、言葉を交わす二人。顔も少しだけ赤くなる。
花火が終わった夜空は、いつもと同じように闇に包まれていた。
「そういえば、周防」
「ん? 何?」
「お前、さっき何か言ってなかったか?」
美琴の胸の鼓動が大きく跳ね上がった。
彼に伝えたい言葉ではあったものの、いざこのように言われると、どう答えたら良いのか分からない。
「い、言ったけど…別に良いだろ? 気にすんなって」
「気になるんだが」
間髪いれずの返答に、「う……」と、口をつぐんでしまう。
しばらくそのまま黙り込んでしまっていたが、やがて、意を決して答えた。
「……うち…」
「え?」
「そのうち…教えてやるよっ」
そう言うと、そこから歩き出す。
663Promise Sky:04/06/10 22:38 ID:V3kQJTq6

祭りも花火ももう終わった。あとは家に帰るだけ。

「送っていこう」
「え? いいよ、いいってば」
彼のほうを向きあわてて断る。
「いくらお前が強いとはいえ、夜道を女性一人で歩かせられるわけないだろう。それに…」
「? それに、何だよ?」
言葉を続ける花井に、ついつい尋ねる。
「それに…お前のその姿を、もう少しだけ見ていたい」
「…えっ?」
美琴の手をとりながら、花井は答える。
「さ、さっきは似合ってないって言ってたじゃねえかよっ」
「言ってない。お前がそう解釈しただけだ」
「で、でも…」
「僕が嘘をつく人間かどうか、お前はちゃんと理解しているはずだぞ?」
「…………」
言いくるめられてしまった。
花井が自分の手を握る。
それを、少しだけ、ほんの少しだけ握り返す美琴。
「…そういうことに、しといてやるよ」
彼の顔を見ずに、一言だけ返した。

664Promise Sky:04/06/10 22:39 ID:V3kQJTq6

手を繋ぎ、帰路につく。
今の夜空には、何もない。ただ闇が広がり、雲が流れているだけ。
だけど、二人には。
まだ、花火が咲き乱れる夜空がしっかりと焼きついている。
「また…来年も一緒に見れるかな…?」
「見れるさ、きっとな」
「………うん」
新しい約束を、今度は花火にこめる。
幼い頃にも、手は何度も繋いだことはあった。
だけど、その時と今とでは、その意味合いはまるで違う。
今の二人は手だけではなく、心も繋がっているのだから。


665Promise Sky:04/06/10 22:40 ID:V3kQJTq6



時が経てば、人の気持ちは当然変わっていく

しかし、相手を想う気持ちだけは永遠に変わることはない

いつか、また

楽しい思い出ができた時

二人の絆がより強まることを

そして、互いに新しい約束を交わした時

その時が二人にとって

最高の幸せであることを

心から願って―――――――

 
                      ―終―
666Classical名無しさん:04/06/10 23:43 ID:AqwHHpFk
鉛筆派が最近元気で縦笛分の補給が少ない中、
素晴らしいSSをどうもありがとうございますつ∀`)

中々花井を名前で呼べない美琴に激しく萌え死にました⊂⌒〜⊃*。Д。)-з
667 :04/06/11 01:10 ID:RWKgMOsM
 ええなぁ・・・。すばらしい縦笛をありがとう!


 でももし、続きがあるとしたら・・・









  2 1 禁 ですか?
668八雲独白。:04/06/11 13:35 ID:hwbYpdGs
うむ21禁だな。
669Classical名無しさん:04/06/11 13:37 ID:hwbYpdGs
うわ古いクッキー食べ残してた shinu
670Classical名無しさん:04/06/11 17:53 ID:yRovJj7Y
>>665
文章は凄く上手いけど二人のキャラが何か違うような気が…

まあ素人の感想なんで聞き流して下さい。
671Classical名無しさん:04/06/12 16:33 ID:reqfo5k2
>>670
確かに少々異なるが、現在より未来を想定した話なので
各人の成長と変化、という方向で受け止めて読めばヨロシ。

>>665
改めていい縦笛でした。
自分の脳内では、絵板は交差天氏、SSは>>665氏が縦笛の代名詞となっています。
加えて長編の雄としてのご活躍もIFスレに活気をもたらしてくれてありがたいです。
これからの作品も大いに期待しています。縦笛じゃなくても。
672Classical名無しさん:04/06/12 17:40 ID:KsXUl.Hs
俺も>>665氏の縦笛以外が読みたいなー
673Classical名無しさん:04/06/12 20:06 ID:TRxtQ9Z.
>>672
禿同
674665:04/06/12 20:24 ID:V3kQJTq6
>>671

そこまで評価していただいて嬉しい限りです
自身の拙い作品を読んでくれた上にレスまでいただけて、
重ねてありがとうございます

これからも頑張ります

>>672>>673

実は縦笛以外も書いたことあるんですよ
保管庫にある「a chance」「Trinity」っていうのがそうです

今見たら、赤面モノの出来ですが…
675Classical名無しさん:04/06/12 20:59 ID:Fxxuq7bM
>>629
 微笑ましい作品でした。題名からはとても想像できないw
 私はこういった作品は好きですよー
>>674
(*・∀・)人(・∀・*)ナカーマ
昔の作品ほど恥ずかしいものはないよね。そんな私が貰ったアドバイス。
「昔の作品は昔にしか書けない」
でも、やっぱり多少の修正をしてしまうこともあります。

さて、私の方は、しばらくレポートにかかりきりになるかも。
このスレが落ちる前には1本ぐらい投下したいところ。
676Classical名無しさん:04/06/12 21:29 ID:VK7AADpo
かなり長くなってしまったのですが、投下したいと思います。
677Classical名無しさん:04/06/12 21:31 ID:VK7AADpo
 リレーは男女別に行われ、まず女子から先に行われる。
 女子リレーは開始時間を迎え、すでに第一走者がスタートラインへと並び、他の走者達
は待機場所に控え自らの出番を待っていた。
「もうすぐね…」
 待機している選手の一人がぽつりと呟いた。
 その言葉にみんなの顔つきが引き締まる。
 

(そうよ、もうすぐ始まる……、なのになんでこんなっ…!)
 2−Cの女子の部の第四走者である沢近、自分の番を目前に控えながら今一つ
集中することができずにいた。
(保険室なんて行かなきゃよかった…)
 それというのも、保健室で交わした姉ヶ崎妙との会話が原因だった。
(誰がヤキモチなんて焼いてるって言うのよ! 結局、足も診てもらえなかったし)
 元々は牙船で落馬した時に痛めた足を診てもらうためだった。それほど酷い痛み
ではないものの、リレーの走者ということもあり大事を取って診てもらうつもり
だった。
 だが、つい会話が妙な方向へと流れてしまった。自分でも何故あんなことを聞いて
しまったのか、何故あんなことを言ってしまったのかが解からない。解かるのは自分
がバカだということだけ。
 結局、変な意地を張ってしまい当初の目的も果たさぬまま、逃げるように出てきて
しまった。
(ホントなにやってるんだろ、私…)
678Classical名無しさん:04/06/12 21:32 ID:VK7AADpo
パァン!

 響き渡るピストルの音に沢近はハッと顔を上げた。スタートの合図と同時に第一走者
たちが一斉に駆け出していた。
 2−Cの第一走者である周防美琴は早くも集団から体一つ飛び出していた。そしてその
差をグングンと広げていく。
 そして2位とはかなりの差をつけて、第二走者へとバトンを渡す。
 だが、第二走者のところで2位の2−Dに抜き返され、そのまま第三走者へ。
 そして第三走者が走り出し、次に控えていた沢近はスタートラインへと移動した。
(大丈夫、痛くない、これなら走れる)
 つま先で軽く地面を蹴り、足の具合を確認する。不安を振り払うかのように伏せていた
顔を上げるとリレーは第三走者が最終コーナーを抜け直線に入ろうとしているところだ
った。
 だがその直線ですぐ後ろに迫っていた他クラスに抜かされてしまった。
 そして3位のまま第4走者である沢近へとバトンが渡された。
「沢近さん!」
 沢近は差し出されたバトンを鮮やかに受け取ると、力強く駆け出した。
 最初の一歩を踏み出すとやはりわずかに痛むものの、走るのに支障があるほどではない。
それがわかった途端、元来持ち合わせている負けん気と溜まっていた鬱憤が爆発し凄ま
じい勢いで加速していく。
(負けてたまるか!!)
 元々足に自信のある沢近である。あっという間に二位を抜き去り、一位との差を見る間
に縮めていく。
 校内でも有名な、特に男子からは多大な人気を誇る沢近の活躍に大きな歓声が挙がる。
 一位を走る2−Dとの差も詰まり、最終コーナー直前でとうとう一位に並ぶ。
 歓声がさらに高まり、熱気が辺りを包む。
679if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:33 ID:VK7AADpo
 勝てる! そう沢近は確信した。
 このままいけば一位を抜き、ある程度の差をつけてアンカーへとバトンを渡せるはずだ。
そうすれば2−Cのアンカーは陸上部の実力者城戸円である。まず間違いなく一位をキープ
し、ゴールしてくれるはずだ。
 2−Dの走者と並走したままコーナーを走りぬける。だが次の瞬間、追い詰められたこと
に焦ったのか外側を走る2−Dの走者がコースを外れインへと食い込んだ。
 両者の肩がドッとぶつかり、沢近がバランスを崩す。
 普段の状態ならば問題はなかった。沢近はどうにか踏みとどまろうとして、大きく足を
踏み出した。だがこの時、沢近が踏み出したのは痛めている方の足だった。
 踏みおろすことに一瞬の躊躇が生まれた。
(いけない!)
 踏み出された足が地に着くことなく空中にとどまろうとする。しかし、支えを失くした体
はとどまることなく、宙を泳ぐかのようにバランスを失う。一瞬の停滞ののち、遅れて踏み
下ろされた足に体勢を立て直そうとあらんかぎりの力が込められる。
「痛っ!」
 その瞬間、足に激痛が走った。沢近は痛みに耐えかねるように崩れおれ、転倒した。
 歓声が水を打ったように静まり返った。沈黙と遠ざかっていく足音が倒れた沢近を打ちの
めす。
(ダメ、立たなきゃ…)
 本当はなにも考えたくなかったし、動きたくも無かった。それでも、このまま倒れていて
も、さらに自分を貶めるだけだと解かっていた。
 最後尾のランナーに抜かれるのと、沢近が立ち上がるのは殆ど同時だった。しかし、今や
完全に痛めた足と、折れた気力では抜き返すことはかなわず、最下位のままアンカーへと
バトンが渡された。
680if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:35 ID:VK7AADpo
 城戸の健闘も空しく、結局2−Cは4位、2−Dが一位で女子リレーの幕は閉じた。
 競技を終えて戻ってきた選手たちを迎える2−Cの面々の態度は、どこかぎこちないもの
だった。健闘をたたえればいいのか、悔しがればよいのか、どうするべきなのかわからず、
慰めの言葉も思いつかない、そんな態度だった。
 なんともいえぬ重い空気がたちこめ、その原因が自分にあるのだと思うと沢近の表情は
一層暗いものとなった。
「気にするなよ、あんたはよく頑張った。ただ、たまにはああいうこともある。誰だって。
ただそれだけの話なんだから」
 美琴がそっと沢近に言った。
「美琴…」
 沢近が美琴の方へ振り向くと、美琴は穏やかに微笑んで小さく頷いて見せた。
「みんな、よく頑張ってくれた!」 
 突然、沈んだ空気をまるで意に返さない大声が響きわたった。花井である。
「しかし女子の健闘も空しく2−Dに一位の座を譲ることになってしまった。これで我々が
優勝するには、次の男子リレーで一位を取るしかなくなってしまった!」
 花井が片手を腰に当て、もう一方をこぶしを握り振りかざしながら力説する。
「だがしかし! ここで僕が活躍し優勝すれば八雲君へのまたとないアピールになる
だろう!!」
 学校中に響き渡る大声で花井が叫ぶ。そしてなぜか斜め45度を見上げている。
 間違いなく本心からのその言葉に、呆れたような失笑があちこちからもれる。
681if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:37 ID:VK7AADpo
「お前のためにやってるんじゃねぇ!」
 斜め上を見上げたままの花井のガラ空きの胴に美琴のミドルキックが決まる。
 そのやり取りに、先ほどまでの空気もどこへやら、クラスに大きな笑いが湧き起る。
「でもま、確かにわかりやすくなった分だけやる気がでるな」
 麻生が言った。冷静で物事に関心の薄い麻生には珍しい発言である。
「おお、珍しい! 麻生が燃えてるぞ」
 麻生と仲の良い数人が、こぞって麻生をはやしたてる。
 すでにいつもの雰囲気に戻っているクラスメートたちを、沢近は少し離れた場所から
眺めていた。
「愛理」
 声をかけられて振り向くと、いつの間にいたのか高野晶が背後に立っていた。
「膝とか、血がでてる」
 晶に言われて見てみると、転んだ時に擦り剥いたのだろう、膝や肘などから血が流れ
ていた。
「洗ってきたほうがいいよ」
「そうね、そうするわ」
 沢近はそう言ってその場から発とうとした。
「でも、男子のリレーが始まる前には戻ってこないとダメだよ」
 その背中に晶が声をかける。
「晶、ありがとう」
 沢近は振り向かずにそう言うと、水飲み場へと向かった。
682if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:38 ID:VK7AADpo
「〜〜〜っ!」
 傷口が染みる痛みに、声にならない呻きが漏れる。
 沢近は一通り傷口を洗い終えると、そのまま水飲み場に腰掛けた。
 どうして自分はこうなのだろう? 強がって、関係ないとか、どうでもいいとか言って
おいて、そのくせ馬鹿みたいに意地張って、そしてバカをやってしまう。
 ちゃんと足を診てもらってれば、痛めたことを正直に話してれば、意地なんて張らなけ
れば、きっとこんなことにはならなかった。
 みんなに散々発破かけておいて、あのハゲにも偉そうなこと言っておいて、その結果が
これだ。あんなに頑張ったのに、みんなもあんなに頑張ってたのに……。
 腿に何かが当たる感触に思考から引き戻された。見てみると水滴が垂れたように濡れて
いた。肘を洗ったときの水が垂れたのだと思った。だが、違った。
 泣いているのだ、それも子供みたいにダラダラと。
 だが沢近はそれを拭おうという気にはならなかった。みっともないかもしれないが、そ
れでも構わない気がした。涙が流れた分だけ、気持ちが軽くなっていくのを感じていた。
「ゲ、お嬢!」
 沢近の反応は早かった。その声が誰の声か気づいた瞬間、水道の蛇口を目一杯捻ると頭
を水の中に突っ込んだ。
「な、なにやってんだオメェ…?」
 いきなり頭から水を被り始めた沢近に播磨が恐る恐る声をかける。
「なによ! なにしにきたのよ!! なんだっていいでしょ!!!」
 真っ赤な目で睨み付けながら、物凄い剣幕で沢近が怒鳴る。
「イヤ,ソノ、腹ガ減ッタノデチョット水ナドヲ飲ミニ…」
 沢近のあまりの形相に恐れをなした播磨は思わずカタコトになる。
「なによそれ…。いいのよ、どうせ私を笑いにきたんでしょ……」
 先ほどの剣幕とは打ってかわって、暗く重い口調で沢近が言った。
「……笑うといいますと?」
「とぼけないでよ! リレーでのこと、見てたんでしょ!」
「いや、なんのことだか知らねーが、とにかくリレーは見てねーんだ」
「見て、なかったの…?」
「ああ、ちょっとやることがあったもんでな」
683if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:41 ID:VK7AADpo
 見られていなかったなら、醜態を見せずに済んでよかったはずだ。そのはずなのに、見て
くれていなかったことに寂しさを感じるのは何故なのか。
「そう、ならいいわ…」
「全然よさそうに見えねぇよ、―――ちょっと待ってろ」
 そう言うと播磨は走り去ってしまった。しばらくするとジャージを手に戻ってきた。
「ほら、これでも着てろ」
 播磨はジャージを沢近に向けて放った。
「え,なんで・・・・・・?」
「馬鹿,自分の格好をよく見てみろ。汗かいたあげく,そんなずぶ濡れじゃ風邪引いちまうぞ」
たしかに髪から滴る水のせいで沢近の体操儀はびしょびしょといっていいほどに濡れていた。
「別に後で制服に着替えればいいし・・・」
「だったらそれまでの間でいい,着てろ」
「ジャージ濡れちゃうし,血もついちゃう」
「かまやしねぇよ」
 そこまで言われてはと,沢近はジャージを肩にかけるように羽織った。かまわないとはいわれ
たものの,袖を通すと肘の血がついて汚してしまうので袖は通さなかった。
 それから二人は何を言うわけでもなく互いを見やる。
「・・・・・・何か用なの?」
 沢近がおずおずと口を開いた。
「あ〜,その,なんだな。俺はリレーは見てなかったんだが,何があったかつーのはなんとなく
想像できる」
「・・・だから?」
「だから,まぁ,気にすんなってことよ」
「どういうつもり……?」
「何でアンタがそういうこと言うわけ? このジャージといい、どうして……」
684if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:43 ID:VK7AADpo
「そりゃ…」
 播磨は頬を掻きながら、言いにくそうに口ごもる。だが、一呼吸置いてからハッキリと
言った。
「女に泣かれてちゃ、知らんぷりはできねーからな」
 自分で言って恥かしいのか少し赤い。
「泣、泣いてなんてないわよ! 水よ水!」
 それ以上に赤くなりながら沢近が叫ぶ。
「そんな赤い目して何言ってやがる」
「うるさいわね! それ以上言うとひどいわよ」
「別にいいじゃねぇか、俺だってたまには泣くこともあるぜ」
 興奮する沢近とは対照的に、落ち着いた声で播磨が言った。
 播磨の意外な言葉に沢近が驚く、そこにはからかいや嘲笑といったものはなく、本気で
言っているように思えた。播磨がどうにか見せようとしている不器用な優しさが、見える
ようだった。
「だから何よ。アンタみたいなのに泣かれたったムサ苦しいだけよ」
「…っのアマ。人がガラにも無く慰めてやろうとしてるってのに…」
 沢近の言葉に多少ムッときた播磨だったが、沢近がハァ〜っと大きな溜息をつくと、言い
かけた文句を途中で引っ込めた。
「ホント情けないわね、私」
 溜息の後沢近が呟くように言った。
「だから気にすることなんかねぇって。もしこのまま負けちまっても、お前一人の責任って
わけじゃねぇ。他の競技で負けちまった奴らが勝ってりゃ、リレーに関係なく勝ってたはず
だからな」
 沢近の言葉にまだ落ち込んでるのかと思った播磨は、まくしたてるように喋った。
「ちがうわよ」
「それにあれだ、結構点差があったはずだし、まだ負けが決まっちまったってわけじゃねぇ
だろ? 結局、最後に勝ってれば誰がどんな失敗したかなんてみんな忘れちまうよ」
「だから、ちがうって」
685if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:44 ID:VK7AADpo
「ん、何がだ?」
 喋りつづけていた播磨が沢近の言葉にようやく気づき言葉を止めた。
「情けないのは、アンタなんかに慰められなきゃならないってことがよ」
 沢近が悪戯っぽく笑いながら言った。
 だが言葉とは裏腹に、沢近は自分の胸の中が暖かくなっていくのを感じていた。先程まで
の落ち込んだ心が、嘘のように満たされていた。さっきまで泣いていたはずが、もう笑うこ
とができている。
 美琴や晶も気遣ってくれていたが、彼女たちでは得られなかった。求めていたものが得ら
れたというようなこの感覚。
 もう、いい加減認めるべきなのかもしれない。自分の気持ちを、この暖かさを。すぐには
できなくても、少しずつ。
「ねぇ」
 沢近は先程の沢近の言葉に憤りながらプルプル震えている播磨に声をかけた。
「アナタ足って速いの?」
「ん? ああ、まぁそれなりにな」
 沢近の突然な質問に、意表を突かれながら播磨が答えた。
「それなりってどのくらい?」
「ん〜、そうだな……」
 播磨が考え込むように言った。自分のタイムを覚えていない播磨は、ほかの解かりやすい
答えがないものかと考える。
「そうだな、中学の時にナントカっていう陸上部の奴に勝ったな」
「ナントカってなによ?」
「いや、よく知らねぇがなんか結構有名な奴だったんだと」
「へぇ〜、じゃ随分と速いんじゃない?」
「かもな」
「じゃあ、さ」
 沢近がかすかに緊張した声で言った。
「責任とってよ」
686if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:45 ID:VK7AADpo
「は、責任?」
 なんのことかわからず播磨が訝しげな表情をする。
「そう、責任。アナタのせいで元気が出てきちゃったから。これで2−Cが負けちゃ
ったら、私また落ち込まないといけなくなっちゃう」
「え〜、その、つまり?」
 沢近が何を言いたいのか解からない播磨は、ますます混乱した表情になる。
「勝ってきてよ、私のために。勝てば私の責任なんてどっかいっちゃうんでしょ?」
 沢近が播磨から目をそらしながら言った。その横顔は少しだけ赤くなっていた。特に私の
ために、で。
「でもよ、リレーの選手ってもう決まっちまってるんだろ?」
 さすがにそこまでする気は無かった播磨が少し困ったように言った。
「そうだけど、梅津君が怪我しちゃったから一人枠が空いてるはずよ」
「怪我?」
「そう、何故か学校に入ってきた豚に蹴躓いちゃって」
(ナ、ナポレオン!? そんなことしてたのか!)
 思い切り心当たりのある播磨が心の中で思わず叫ぶ。
687if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:47 ID:VK7AADpo

「ウチのクラス他に足の速い人っていないから、どうするかって揉めてたのよ。アナタ足速い
んでしょ、だからリレー出て欲しいのよ」
 播磨は考え込んでいた。確かに沢近に勝てばいいと言ってしまったし、梅津とかいうのが
怪我をした責任の一端は播磨にある。だが、何故かリレーにでるということが、何かを背負い
込むことになるような気がしてならない。
「その、勝ってくれたら私謝るからさ」
 沢近がおずおずと言った。
「謝る?」
「ヒゲとかハ…頭のこととか、他にも色々とやったことについて」
 このお嬢がここまで言い出すとは、播磨はこれはかなり本気に違いないと感じた。
「ち、仕方ねぇな。解かった、出てやらぁ」
 播磨の言葉に沢近が表情を一瞬輝かせた。だがそれをすぐに引っ込めた。
 結局、責任や義理、誠意といったものを重んじる播磨は出ないわけにはいかないと考えた。
 そうと決まれば他に代走が決まってしまう前に申し出なければならない。播磨は沢近に背を
むけてクラスの方へ向かおうとした。
「あ、ちょっと待って」
 播磨が呼び止められて振り返ると、播磨の顔のすぐ目の前に沢近の顔が近づいてきていた。
688if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:48 ID:VK7AADpo
「あれ、塚本と沢近は?」
 美琴が辺りを見回しながら言った。
 もうそろそろ男子リレーの開始時間になろうとしていた。美琴はせっかくだから一緒に観戦
しようと思っていたのだが、二人の姿はどこにも見当たらなかった。
「塚本さんならあそこ」
 横にいた晶が体育委員用のテントを指差しながら言った。美琴がテントの方を見やると、何故
か《一等賞》という大きな字を書道している烏丸と、その周りをうろつく塚本天満がいた。
「烏丸って体育委員だったっけ? てか、彼は一体何をしてるんだ」
「確か違ったと思うよ」
 二人はなんと言っていいかわからぬまま、烏丸の書道を見守った。ちなみにかなりの達筆で
ある。
「じゃあ、沢近はどこに?」
「愛理は傷口を洗いに水飲み場にいったよ」
 気を取り直して美琴が聞くと、晶が淀みなく答えた。
「そうか。でも、それにしちゃ長くないか?」
「そうね」
 美琴はう〜んと少し唸ったあと、何かを思い切ったように頷いた。
「よし、あたし少し様子を見てくるよ」
「今は、いかない方がいいと思うよ」
「わかってる、なんかアイツ柄にもなく落ち込んでたみたいだし。確かにそっとしておいた
方がいいってこともあるかもしれないけど、でもやっぱりちょっと心配だしさ」
 放っておけないだろ、と美琴は言った。
「そうじゃなくて」
「大丈夫、これでも沢近のこと結構わかってるつもりだしさ。うまくやるよ」
 そう言って美琴は水飲み場の方へ行ってしまった。後に残された晶は、どこから取り出した
のか湯飲みで茶をすすりだした。
「それはそれでオモシロそう」
 そしてそう呟くとクスリと小さく笑った。
689if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:51 ID:VK7AADpo
「沢近〜、いるか〜?」
 美琴が呼びかけながら水飲み場のほうへ近づくが返事はない。
「こっちじゃないのか?」
 美琴は周囲を見渡すが沢近らしい人影はいない。遠間からも目立つ姿なので見落としてる
とは思えない。こちらの水飲み場にいないということは校舎の裏手の水飲み場だろうか。一人
になりたかったのだとしたら,そちらに行っている可能性の方が高いように思える。
 美琴は校舎裏の方へと回り,水飲み場の手前の角までたどり着くと,人の気配が感じられた。
沢近かと思った美琴は角から首だけ出して,水飲み場の方を覗き込んだ。
(なっ!!)
 美琴は自分の見たものが信じられず,すぐさま首を引っ込めた。そしてもう一度恐る恐る
覗きこんだ。
 そこには誰かと抱き合っている沢近の姿があった。ここからでは後姿しか見えないが,あの
金髪のツインテールは沢近愛理その人以外には考えられない。
(な,なにやってんだよ! しかもあれってキ・・・)
 沢近は相手の男の首に腕を回すようにして抱き合い,さらに二人の顔は重なり合うような
位置にあった。
690if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:52 ID:VK7AADpo
播磨が振り返ると沢近がすぐ目の前まで近づいてきていた。
 そしてスッと播磨の頭の後ろに手を回す。
「お,おい」
「ちょっと動かないで」
 突然の沢近の行動が理解できず、播磨はされるがままになってしまう。
 播磨は今にも触れてしまわんばかりの距離で、まるで抱き合うようにしているこの状況に、
いかに天満一筋の播磨といえども、鼻腔をくすぐる甘い香りと柔らかな肢体を意識せずには
いられなかった。
(くそ! 前に羽交い絞めにした時は何ともなかったってのに、やけにドキドキしやがるぜ)
 播磨が思いもかけない自らの心の動きに戸惑っていると、頭の後ろでモゾモゾと動いてい
た沢近の手が不意に止まった。
 そして次の瞬間、頭が強烈に締め付けられた。
「ぐえっ」
 何が起きたのかと播磨が頭に手をやると、ベレー帽の上から何かが巻きつけられているの
がわかった。その何かに手を沿わせていくと、頭の後ろから垂れ下がっているのがわかる。
それを持ち上げ、首を回して見やると、それは赤いハチマキだった。
「どう? それなら走っても帽子取れないでしょ」
 そう言われて播磨は軽く飛び跳ねてみたが、帽子は固く結び付けられているためビクとも
しなかった。
「なるほどな、恩に着るぜ」
「いいのよ、アナタには勝って貰わないといけないし」
「じゃ、ちょっくら行ってくるぜ」
「うん。応援、するから」
 播磨が小走りでクラスの方へ走っていくのを沢近は見送った。
691if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:53 ID:VK7AADpo
 それから沢近もクラスの方へ戻ろうと、ゆっくりと歩き出した。
 校舎裏の狭い道から抜け出し、校庭へ出るところで植木の陰に誰かがいるのを見つけた。
「……美琴?」
 友人によく似たその誰かに沢近が声をかけてみる。
 呼ばれたことにビクッと肩を震わせ、ばつが悪そうに陰から出てきたのはやはり周防
美琴だった。
「いや〜、あはは、はは」
 美琴は頭を掻きながら照れたような、困ったような笑みを浮かべていた。
「何やってるの、そんなところで?」
「いや、その、沢近を探しにきたんだけどな」
「いくらなんでもそんな所には居ないと思うわよ…」
 それでも曖昧な笑みを浮かべつづける美琴を訝しりながらも、沢近はそのまま歩き出す。
 美琴はあれからそれ以上見てられなくなり、しかし沢近を呼びにきた以上このまま帰る
わけにもいかず、ずっと角の手前でうろうろしていた。そして誰かが水飲み場のほうから
やってくるのに気づくと思わず隠れてしまったのだった。
 ふと美琴は沢近が肩にかけているジャージが、明らかにサイズの違う男物だと気がついた。
それに沢近の髪が随分と濡れている。一体何があったのかひどく気になった。が、先程見た
(と美琴が思っている)ものの手前、聞いてみるわけにもいかなかった。
 ちらりの沢近の着ているジャージの名札を見ると、そこには播磨の文字があった。
(播磨か、なんとなく納得しちまうな……)
 とかくこの二人は何かと因縁があったが、あれも照れ隠しの一種なのかと思い至ると、
美琴はなんだか可笑しかった。
「なに笑ってるの?」
「いや、なんでもねーよ」
 そう言いながら、実は自分よりも恋愛下手だと思われる親友を好ましげに見つめていた。
692if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:53 ID:VK7AADpo
「では代走は奈良ということでいいか?」
 播磨が2−Cの集合場所に着くと、そんな花井の声が聞こえた。
「ちょっと待ちな!」
 播磨は慌てて叫び、人垣を押しのけて花井の前に立った。突然の播磨の登場にクラスが
がやがやとざわめきだす。
「ム! 播磨、一体何の用だ」
「リレーには俺が出るぜ」
 播磨の発言にクラスはさらに色めきたった。しかし
「だめだ、代走はたった今決まったところだ」
 花井がにべもなく言い切った。それどころかその口調にはどこかしら棘がある。
「なんだとメガネ、つべこべ言わずに俺を出せや」
 花井の口調にカチンときた播磨がケンカ腰になる。播磨と花井が睨み合う中、気の抜けた
情けない声が聞こえた。
「あの〜、播磨君が出るっていうなら、僕はそれでいいです〜…」
 奈良が小さく手を挙げながら言った。元々奈良はリレーに出る気など毛頭無かったのだが
塚本天満に奈良君やってみたら? と言われてその気になってみただけだった。実際勝てる
気などまるでしていなかったので替わって貰えるならそれに越したことはなかった。
(まぁ、出なくてもやる気は見せたわけだし、好感度アップしたかも)
などとも考えているが、そんなことはない。
「本人がああ言ってるぜ、メガネよ」
「クッ、仕方ない。播磨、貴様足は速いんだろうな!?」
「テメーよりはな」
693if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:53 ID:VK7AADpo
 再び播磨と花井が睨み合う中、体育委員とおぼしき生徒が2−Cに近づき恐る恐る言った。
「あの〜、リレーのオーダーを決めてもらいたいんですけど…」
「ム、そうだった。2番菅、3番今鳥、4番麻生、アンカーが僕、播磨は奈良と入れ替わり
だから1番だ」
「ちょっと待てコラ! 俺がアンカーに決まってるだろが!」
 出るからには天満ちゃんにいいとこを見せなければ! そう考える播磨の頭の中ではすでに
播磨はアンカー以外のなにものでもない。
「勝手を言うな播磨! アンカーはこの僕だ!」
 三度播磨と花井が睨み合う中、またしても一人の生徒が2−Cに近づいてきた。ひっつめた
髪を後ろで結んだ、精悍な顔つきをしたその男は2−Dの東郷だった。
「花井よ、最後の決着をつける時がきたな」
「そうだな、だが勝つのは我々2−Cだ」
 東郷に気づいた花井が向き直り言った。
「それは終わってみればわかることだ。だが、その前に俺達の決着もつけねばなるまい。俺は
4番走者としてリレーにでる。そこで勝負だ」
 そう言うと東郷はむやみに颯爽と去っていた。
 播磨は後ろから花井の肩にポンっと手を置くと
「決まりだな」
 と、勝誇った表情で言った。
「いや、だがしかし……」
 納得いかない花井がなんとか抗議しようとする。
「テメ―、男と男の勝負から逃げんのか?」
 花井は播磨の言葉に抗弁を詰まらせた。それでも割り切れない花井がなんのかんのと言って
はいたが、既にこの時には晶が体育委員にオーダーを告げていた。
 結局、1番菅、2番今鳥、3番麻生、4番花井、5番播磨というオーダーになった。
694if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:57 ID:VK7AADpo
 沢近と美琴が戻った時には既に、リレーの走者達が位置につこうとしているところだった。
沢近と美琴は晶の姿を見止めるとその横に腰を下ろした。
「あれ、花井の奴アンカーじゃないのか?」
 選手たちの待機位置で、播磨の前にいる花井を見つけた美琴が晶に尋ねた。
「播磨君と替わったみたい」
「へぇー、播磨とねぇ。アンカーやるってあんな息巻いてたのに。それに播磨のことをなん
だか敵視してたみたいだったのにな」
「まぁ、すんなり交代ってわけにはいかなかったけどね」
 だろうな、と美琴は苦笑いした。
「美琴さんはやっぱり花井君にまず目がいくんだね」
 晶がとても真面目な声で言った。彼女にとってはこれがからかいの声に当たる。
「ば、馬鹿。そんなんじゃねえよ!」
 慌てふためく美琴を放置して晶が沢近の方を見やる。
「ところで愛理、素敵なジャージだね」
「あ、ああこれね。汗かいて冷えたからちょっとあのハゲから強奪したのよ」
 沢近は今まで肩にかけっぱなしだったジャージを慌てて脱ぐと、丸めて背後に隠した。
「へぇ〜〜、私はてっきり……」
 晶は妖しく微笑みながら言った。
「ほら、もうすぐ始まるわよ」
 必要以上の大きな声で晶の声を遮りながら、沢近がグラウンドの方を指差した。
 沢近の言う通りリレーは今まさにスタートを迎えようとしていた。
695if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:58 ID:VK7AADpo
 各クラスの選手たちがスタート位置につく。
 全員が位置に着いたことを確認すると、審判がスッとピストルを空へと向ける。
 パァンッ
 ピストルが鳴ると同時に選手達が一斉に駆け出した。
 スタートダッシュで抜きん出たのは2−Aだった。むしろフライング気味ともいえるその
スタートに他のクラスは一歩出遅れる形となった。その後ろから2−Dの選手と2−Cの菅
が追い上げ、差を詰めていく。トラックを半周ほど周ったところで二人は2−Aを追い抜いた。
そのまま2−Dが僅かに先を行く状態で第二走者へとバトンが渡される。
 この段階で2−Dと2−Cがほぼ並び、その後ろに2−A、2−Aに僅かに遅れて他クラス
が固まっていた。2−Dの第二走者と今鳥では今鳥のほうが僅かに早く、1/3程走ったとこ
ろで今鳥が2−Dを抜く。このまま差を広げていくかと思われたが、最終コーナーを抜け、直
線に入ったところでそれは起こった。
 先頭を走る今鳥に一際大きな声援が送られた。その声は一条かれんのものだった。普段はお
となしい彼女だが、想い人である今鳥の活躍に応援にも思わず力がこもる。その鍛え上げらた
腹筋から放たれる声は非常によく通り、今鳥の耳にも確かに届いた。そしてその声に反応して
今鳥の足が僅かに鈍った。今鳥のすぐ後ろを走っていた2−Dは突然減速した今鳥を避け切る
ことが出来ず、追突しもつれ合うようにして転倒する。さらに、転倒した二人を避けようとし
てバランスを崩した2−Aが転倒、その2−Aの後ろで固まっていた他クラスたちが転倒した
2−Aの選手に蹴躓き、みんなまとめて団子のように転げまわった。
 ほんの僅かの間にトラックの中に立っているものは誰も居なくなっていた。その惨状に全校
生徒が呆然となる。
696if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:00 ID:VK7AADpo
「ナニヲヤッテイル! 立タンカー!」
「立てー! 今鳥ぃー!!」
 静まり返った中二つの声が同時に響く。2−Dのララと美琴だった。
 まず最初に立ち上がったのは今鳥の上にのしかかるようにして倒れた2−Dだった。立ちあ
がろうとする今鳥を押しつぶして立ち上がると、転んだダメージがあるのかゆっくりと先頭を
駆け出す。乗っかっていた2−Dが居なくなると今鳥も立ち上がり走り出すが、やはりその足
取りは重い。しかし、その他のクラスは立ち上がるのも苦労するような有様であり、この時点
で実質2−Dと2−Cの一騎打ちとなった。
 フラフラになりながらも2−Dが第三走者へとバトンを渡し、遅れて今鳥も麻生へとバトン
を渡す。
 2−Dの第三走者は天王寺だった。その巨体に似合わぬ足の速さで地響きを立てながら走っ
てゆく。だが速いといっても体格の割にはなので、リレーに出る選手達のなかでは遅い部類に
入る。麻生は見る間に天王寺との差を詰め、その背に張り付いた。
 だがそこまでだった。速さで劣る天王寺はその巨体を生かした巧みなブロックで麻生に前に
出ることを許さない。あからさまなその行為に周囲からブーイングが飛び出すが、元々ヒール
である天王寺には全く堪えない。
(そっちがその気なら、こっちだってやってやるよ!}
 足で勝りながらも抜くことが出来ない苛立たしさに、麻生の心の中で火がついた。
 麻生は天王寺の後ろにさらに近づくと、天王寺の蹴り足を軽くつま先で払った。思わぬ攻撃
に天王寺の体がバランスを崩し、横によれる。麻生は一気に加速すると、天王寺とは逆側に回
りこみ抜きにかかった。
697if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:01 ID:VK7AADpo
 元々短気な天王寺は反撃を受けたことで頭に血が上っていた。麻生が抜きにかかろうとして
いることに気づくと、麻生に向かって腕を振り回した。走るために腕を振るのとは全く違い、
誰がどう見ても裏拳である。しかし、その丸太のような腕は麻生の頭上を掠め空を切った。
 天王寺の攻撃を読んでいた麻生は低くしていた身を起こすと、その隙に天王寺を抜き去り一気
に突き放した。一度抜かれてしまえばスピードで劣る天王寺になすすべはなく、その差は開く
のみとなった。
 だが既に半分以上の距離を走っていたためにそれ程大きな差は開かず、3メートル程の差が
開いたところで花井へとバトンが渡される。
 バトンを受け取ると、花井は猛然と駆け出した。それまでのランナーたちと比べても一段速い
花井の走りに、大きな歓声があがる。だが2−Dの第四走者である東郷は、その花井と比べても
全く互角の足を持っていた。
 2−Cと2−Dのアンカーである播磨とハリーはスタートラインに立ったまま、花井と東郷
の走りを眺めていた。
「ほぅ、東郷と張り合うとはな」
「なかなかやるじゃねーかメガネ」
 二人は花井と東郷の走りに感心したように声をあげた。
698if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:02 ID:VK7AADpo

「だが、あの程度の差ならばどうということはない…」
 ハリーはそう呟くと、既に勝ったような笑みを浮かべ播磨の方を見やった。
「見せてもらおうか、日本のサムライの性能とやらを」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる。てめぇには原稿と帽子の借りがあるからな、ここでキッチリ
ケリをつけてやるぜ」
 サングラス越しに二人の視線が交差する。リレーへと視線を戻すと、花井と東郷はもうすぐ
そこまで近づいてきていた。
 花井と東郷は最初についていた差から全く変わらぬまま、アンカーへとバトンを渡した。
「残念ながら引き分けといったところか」
「ああ、そうだな」
 花井と東郷は走り終えると荒い息を整えながら話しだした。
「だが、優勝は俺達2−Dのものだ」
「勝負はついていないというのになにを。それに有利なのは僕達のほうだ」
「フッ、2−Cのアンカーが何者かは知らんがハリーに勝てるはずがいない」
 東郷は花井から視線を外し、播磨とハリーの二人の走りを見つめながら言った。
「ハリーは向こうじゃ≪彗星≫とまで呼ばれた男だからな。」
699if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:03 ID:VK7AADpo
(クソ! こいつマジで速え!!)
 播磨は焦っていた。
 花井からバトンを受け取った播磨は凄まじい走りを見せつけた。花井や東郷と比べてもさらに
速い播磨に観衆は割れんばかりの歓声が湧き起った。だが、その後から走り出したハリーはその
播磨をさらに上回る走りを見せ、これには観衆も驚愕の叫びを挙げざるを得なかった。
 このままでは抜かれる、播磨はその痛いほどの確信に焦りを隠すことができなかった。
(それに、この、邪魔くせえったらねぇ!)
 播磨が走るたびに播磨のサングラスがグラグラと上下にずれる。そのたびに播磨は視界がブレ
集中を乱されていた。そのせいか今ひとつ走りにキレがない。
「チィ、邪魔だ!」
 播磨は忌々しげにサングラスをむしり取ると、あさっての方向にかなぐり捨てた。視界がクリア
になると播磨の走りは一段と鋭さを増す。それでも、ハリーとの差が縮まるスピードが遅くなった
だけで、以前として差は縮まり続けていた。
「これほどとは…。だが、私の敵では無い!」
 ハリーはさらに加速すると一気に差を詰め、最終コーナー手前で播磨に追いついた。
「速え〜……」
 美琴は呆然とした表情でそう呟いた。
 播磨の速さにも驚いたが、さらに上をいくハリーの速さには驚きを通り越して呆れるしかない。
2−Cのほとんどの生徒がすでに勝負を諦めていた。誰が見てもハリーのほうが速い。追いつかれ
てしまった以上抜き返すことは不可能だった。もはや応援することも忘れ、ただぼんやりと眺める
他なかった。
700if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:04 ID:VK7AADpo
「頑張れーーー!!!」
 静まり返っている中、沢近は殆ど怒鳴るように叫んだ。皆の視線が沢近へと集まる。
「頑張りなさいよ! 勝ってくれるんでしょ!!」
 だが沢近は周囲の視線を気にすることなく声を挙げつづける。
「頑張れー!」
 その次に声をあげたのはボブカットの女の子だった。そしてそれに釣られるように次々と応援
の声があがる。2−Cのみならず他のクラスでも応援の声があがり始める。さらにハリーへの応
援も加わり播磨とハリーの二人への応援はあっという間に巨大なうねりへと成長していく。
(お嬢のやつ、本当に応援してやがった)
 今はもう凄まじい大歓声にかき消されて聞こえないが、播磨にも沢近の声は届いていた。
(勝ちてぇのは山々だが、追いつけやしねぇ!)
 最終コーナーの手前で追いつかれた播磨はすでに抜かれ、さらに2メートル近い差をつけられ
たまま最後の直線を迎えようとしていた。
(チクショウ、このままじゃ…)
 いっこうに縮まらない差に、播磨の心にも諦めの文字が浮かぶ。だが播磨はあるものに気づいた。
(あ、あれは!!!)
 ゴールのさらに向こう、直線の延長線上にある体育委員用のテント、その中に愛しの塚本天満
の姿があった。
(天満ちゃんが俺を応援している! しかもあんな紙まで用意して!!)
701if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:05 ID:VK7AADpo
 負 け ら れ ネ ェ!!!!!!!
 ≪一等賞≫と書かれた大きな紙を掲げながらこちらを見て微笑む塚本天満を見つけた瞬間
播磨の中の全てがどうにかなってしまった。
 次の瞬間には播磨はハリーに並んでいた。そしてその次の瞬間にはハリーを大きく引き離して
いた。あっという間に播磨の背中が遠くなっていく。
「日本のサムライは化け物か…!!」
 その人間の限界を完全無視した播磨の走りにハリーが唸る。ハリーは持てる全ての力で走るも
のの地面を砕くように跳ね上げ走る播磨との差は離れるばかりだった。
 そして最初からついていた差以上の差をつけて、播磨がゴールへと飛び込むと、絶叫に近い歓
声が巻き起こった。
702if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:06 ID:VK7AADpo
限界を超えた走りを見せた播磨は、ゴールと同時にその場にへたりこんだ。
その播磨の元へ2−Cのクラスメートたちが駆け寄る。一番最初にやってきたのは、元々近く
にいた同じリレーの選手である花井達だった。
「残念ながら見事だったと言わざるを得ないな!」
「ヒゲ、お前すげ―のな」
「すごかったぜ、播磨」
 口々に播磨を褒め称えるが、播磨はうつむいたまま顔を上げる元気もなかった。
 少し遅れて他のクラスメート達もやってきた。その先頭にいたのは沢近だった。
「その、ありがとうね…」
 沢近は播磨に小さな声で言った。播磨は俯いたまま手を軽くあげてそれに応えた。
 他のクラスメートたちも播磨や他の選手たちのことを称えだした。
「お疲れさん」
 美琴はそう言って花井に向かってスポーツドリンクのペットボトルを投げ渡した。
「すまんな」
 花井はそれを受け取るといかにもうまそうに飲みだす。
「ミコチ〜〜ン、俺には無いの〜〜?」
 それを見た今鳥がうらめしそうに美琴にせがむ。
「いや、お前にはあたしが渡さなくてもさ」
 美琴はそう言うと今鳥のに後ろを向くよう目配せした。今鳥が振り向くとそこには一条がおず
おずと立っていた。
「あの、今鳥さんよかったらどうぞ」
 一条はそう言って水筒を差し出した。
 今鳥が硬い表情でそれを受け取ると、一条は嬉しそうに微笑んだ。
(これ、プロティンとかステロイドとかはいってねーよな…)
 今鳥は妙なところで不安になりながら、どこか遠くを眺めていた。
703if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:07 ID:VK7AADpo
「播磨君も何か飲む? よければなにかもってくるけど」
 美琴や一条の様子を見た沢近が播磨に尋ねる。
「いや、ありがてぇが遠慮しとくぜ」
 播磨はリレーが終わってから初めて口を顔を上げて口を開いた。
「えっ…」
 沢近が固まった。
「フー、さすがにちょっとバテちまった」
 大きく深呼吸して立ち上がると播磨はなにか妙な雰囲気に気がついた。みんながみんな自分を
凝視している。
「な、なんだ?」
「…そ、そんな顔してたのね」
「顔?」
 沢近が呟くのを聞いた播磨は訝しげに自分の顔に手を当てた。そして気がつく。
「サ、サングラスが無ぇ!!」
「かっこいいー!」
 リレー中に投げ捨てたことをすっかり忘れていた播磨は慌ててサングラスを探しにいこうと
した。だが嬌声をあげる女子数名に腕をとられ身動きがとれなくなってしまった。
704if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:09 ID:VK7AADpo

「すごーい。そんな顔してたんだ〜」
「かっこよくない? っていうかかっこいいよね〜」
「なんで今までサングラスしてたの?」
 先ほどのリレーでの活躍も加わり、播磨に興味を持った女子が群がる。
「ワリィけどちょっと離してくれ、サングラス取ってこなきゃいけねーんだ」
「え〜、無い方がいいよ〜」
「俺には必要なんだよ!」
 播磨はなんとか女子の中から抜け出ようともがく。その様子を沢近と美琴は遠間から眺めていた。
「意外だなー、播磨の奴あんな顔してたんだな」
 美琴が沢近に向かって言った。
 だが沢近はそれに答えず強張った表情を浮かべている。
「沢近……?」
「え、ああ、そうね」
 沢近は反射的に返事をしたが、心ここにあらずなのは明らかだった。
なによあんなデレデレしちゃって。みんなも現金よね、ちょっと格好いいからってあんなに
態度変えちゃって。私は別にそういうじゃないし、ってなんで私がでてくるのよ、関係ない
じゃない。意地にならないって決めたのに、意地になんかなってない。もっと素直に、ああ
なんか腹立つわね、鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!!
705if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:11 ID:VK7AADpo
「へー、播磨君そういう顔してたんだ〜」
 播磨はその声に慌てて振り向く。
「ヒゲがないと随分違うね〜〜」
 その声はやはり塚本天満の声だった。播磨の顔から凄まじい勢いで血の気が失せる。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイ! ばれちまう!!!)
 ばれたら終わっちまう、何もかもが。播磨は恐怖に竦みあがった。
「こっちのほうが全然格好いいねー」
「そうだな、こっちのほういいな」
 美琴が天満に相づちを打つ
(気、気づいてない!? それに格好いいだと!!!!)
 神は俺と共にあった! 播磨は思わず天を仰いだ。
「そ、そうか、格好いいか」
 播磨の表情が目も当てられないほどだらしなくなる。
 素直になる。沢近の結論はでた。自分の思ったとおりに行動するのだ。
 沢近は播磨に向かってスタスタと歩み寄っていく。その足取りには微塵の迷いもない。
「播磨君」
 沢近がにっこりと笑いながら声をかける。
「ああ、お嬢か」
「ハチマキ返して貰いたいんだけど」
「あぁ、そうか。ちょっと待ってな」
 播磨は結び目をほどこうと頭の後ろに手をやろうとした。だがそれよりも早く沢近の手
が動いた。沢近はハチマキの端を掴むと、それを力任せに思い切り引っ張った。

 スポン!

 小気味よい音とともにハチマキとベレー帽が宙を舞った。
 播磨の頭上に輝かしい光が生まれ、その光の中で金の髪と悪戯な笑顔が踊っていた。
 そしてその日一番の叫びがあたりに響き渡った。
706Classical名無しさん:04/06/12 22:15 ID:VK7AADpo
というわけで長々とすいませんでした。
書いたのが先週のマガジンの前だったので沢近のリレーの
ところとか本編と違いますが、それも含めてifということで。
さらに冒頭の部分が貼れてなかったというミスをかまして
しまいました。ああ、なんてこった。

707Classical名無しさん:04/06/12 23:59 ID:opBzHrkk
今日はネタバレスレで体育祭祭(←なんか変な感じだ)やってるからタイミングが悪かったね。
なんにせよ乙

どうでもいいけど、まとめサイトの中の人、更新期待しております
708Classical名無しさん:04/06/13 00:59 ID:2/xo3W9.
神と呼んでいいですか?
709Classical名無しさん:04/06/13 02:23 ID:m2/N8Yc.
>>676-706
なんて気持ちのいいSSなんだ。
本編のリレーより気に入った!!
家に来て妹をFuckしていいぞ。
710Classical名無しさん:04/06/13 06:45 ID:jCJ2GJLk
乙です。
テンポよくてすごい楽しめました。
ちょっと素直な沢近がすごくかわいいですね。
711Classical名無しさん:04/06/13 11:46 ID:9Wb3Irnk
>>676-706

少しだけだけど奈良を出してくれてありがとう。

奈良厨(六商健一)
712Classical名無しさん:04/06/13 11:50 ID:VzxpbRqA
もう490KBって表示されてないか? 誰か立てて―!
 
713Classical名無しさん:04/06/13 12:08 ID:VK7AADpo
ハートマン軍曹からお褒めがいただけるとは…。
まだ体育祭終わるまで何週かあるって思ってたら
3話一挙放送で次で終わりとは…、少しタイミング
悪かったかも知れませんね
714浮舟:04/06/13 12:39 ID:1HPeLaRY
次スレ立てました。

スクールランブルIF09【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1087097681/
715Classical名無しさん:04/06/13 12:42 ID:JZhPq7ak
716Classical名無しさん:04/06/13 12:43 ID:JZhPq7ak
あら…かぶった…
717Classical名無しさん:04/06/13 12:47 ID:JZhPq7ak
スマソ(;´Д`)
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1087098062/
がタイムスタンプ遅いので、次々スレに再利用するなりして下さい。
削除依頼だしましょうか?
718Classical名無しさん:04/06/13 12:49 ID:1HPeLaRY
_| ̄|○ すみませんです。次スレ立てる旨を送信したはずだったんですが…
719浮舟:04/06/13 13:06 ID:1HPeLaRY
・・・どちらを削除依頼出しますか?
720浮舟:04/06/13 13:21 ID:1HPeLaRY
一応、削除ガイドラインに則した判断で
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1087098062/
の方を削除依頼しておきました・・・
_| ̄|○ 迷惑をおかけしましたー。
721Classical名無しさん:04/06/13 14:17 ID:JZhPq7ak
>>720
スマソ(;´Д`)
迷惑かけますた
722Classical名無しさん:04/06/13 16:37 ID:9u9mt3js
>>706
GJ!
マジで神ですね。面白かったです。
けどラストが。・゚・(ノД`)・゚・。
723Classical名無しさん:04/06/13 17:57 ID:0XNUd2Yw
>>706
この時期に何とも挑戦的なSSですね。

播磨の素顔バレ、ハゲ落ちなどは各スレで語り尽くされている感がありますが
それを上手に纏めて各キャラがそれぞれよく書けていると思います。

ですが少々違和感を感じるところもしばしば。
ララの口調やハリーのカタカナ表記、って難しいものばかりですが(;´Д`)

あとは沢近に対して播磨が優しすぎるような気がします。
もう少しツンケンした間柄で話を進めた方がラストは盛り上がったかと。

でも全体を通してレベルの高い文章だったと思います。
かなりの長文を一度に読ませるその筆力は、これからの作品も期待してしまいます。

以上、長々とした感想ではありますが、最後に一言。
面白かったです。
724Classical名無しさん:04/06/13 21:51 ID:IM/J8nsg
>>635-640の鉛筆オチも面白かったけど
こういう直球旗展開もいいですな

ああ、水曜日が待ち遠しい…
725Classical名無しさん:04/06/14 11:57 ID:8A0sLFPU
今後どう展開させるにしても「結局播磨が好きなのは誰なのか」で一悶着は必須だろうし
そこで女の戦い編で完全に消化されたかどうか不明でむしろ播磨断髪式話で強化されてるようにも見える
鉛筆誤解伏線を起爆剤に使う展開はかなり面白そうだけど、それは何も播磨と美琴の間にイベント起こさなくても
例えば保管庫の無題(43)みたいな持っていき方でも十分だからなぁ…

というわけで今回の展開予想としては直球旗展開を推しておく。
726埋め:04/06/14 23:46 ID:yDGxjJHk
>14
お姉さん、あれだけ美人で積極的なのにどんな理由で振られ続けてるんでしょうね。
猫特有のきまぐれな行動で翻弄するかと思いきやつれない態度の伊織もそれはそれで。
>20
なんで結婚してるのかとか全部すっとばして書きたいものだけ書く姿勢、嫌いじゃない。
面白いとは思ったので、あとは読みやすくするために何度も推敲することをオススメ。
>37
不良どもが証明書を出しているのに推測でそこまで言う播磨の破天荒さに笑いました。
晶までが播磨に惹かれたりしてたらこの先いったいどうなっちゃうんだ一体。
>54 >73
縦笛神に言葉では言い尽くせないほど感謝! 花井の一言一言が全部胸にきました。
完結おめでとうございます。そして、二人がいつまでも幸せでいてくれますように。
>65
右向け―、右ッ! 何いきなりここでエロパロやろうとしてますか貴方は。
色々ありますが神津視点・美琴視点・三人称と目まぐるしく切り替わるのは流石に。
>107
「人の気持ちを弄ぶのは」なんて言っちゃう実はかなり素直な沢近にやや萌え。
重厚な描写に大満足したので次はさらに削って展開重視がいいなーとか言っちゃいます。
>128
サラがめちゃかわええっ! ちゃんと性格は黒いのに何故だ(笑)
五分間も壊れた状態の花井のモノマネをする彼女の照れ具合を想像して萌え尽きました。
>147
麻生の奴め、それだけはっきり言われてるのにぶっきらぼうにもほどがあるぞ!
そして常に男を弄ぶ立場として描かれるサラの位置取りにちょっと同情。
>161
GJ。しかしそのオチに「ありうる」と思ってしまう今までの本編の展開っていったい。
悩みを吐き出す美琴と聞く事に徹するマスターの姿がなんとも微笑ましく思いました。
>176
まっすぐそう言われたら美琴は確実に退くと知っていたその黒さ。いいぞ黒サラ!
でもその甘い罠に毒はないぞ花井。そして高野はとっとと美琴に財布返せ(笑)
727埋め:04/06/14 23:47 ID:yDGxjJHk
>196
騎馬戦の蹴りまで誉めている純粋なナポレオンかわええ。でも梅津については反省しる。
そして実は「一緒に動物園に帰ろう」で檻に囚われ見世物にされる播磨を想像して爆笑。
>204
ああもうっ! 読んでるこっちが恥ずかしくなるほどの素晴らしいサラをありがとう。
ラストのくだりのサラの決意がいいなぁ。ごちそうさまです。
>218
何故か絃子さんのほうが気になりました。若い女性が夜道の一人歩きはいけませんよ?
光を帯びて通常の三倍状態のハリーより速くなる播磨は…… V−MAXか!!(違
>225
沢近と天満に挟まれてツッコミ放題という美味しくない状況にある美琴に萌え。
エージェント設定なんてどこにもないはずなのに、晶は随分と不憫なキャラです。
>241
縦読み乙。高校は天満が歩いて通っているのでそう遠い場所ではないと思われ。
動物と同列で好きと言われても、それを理解しろってほうが無茶ですわなぁ……。
>254 >259
そこまでしてまでししゃもが食べたかったのか伊織。この手のコメディは大好きです。
「セミロングの生徒」で肩甲骨近くまである髪を想像してそれは違うだろと思いましたが。
>268 >333 >367
播磨や美琴といった周囲の言葉の一言一言に重みがあって好き。
回想の沢近が周囲の人間関係について知りすぎている気もしますが、年度末ですしね。
>269
軽い捻挫ならしっかりとテーピングしておけばちゃんと走れます。痛いですけど。
お姉さんがもう少し積極的に、例えばライバル宣言なんてしてたらと思うとわくわく。
>288 >344
SSにするときはボリュームに注意。他を参考にするとどうしても長くなります。
沢近が本編以上にいやな性格をしていて好感が持てました。あとは惨敗フラグだ!
>291
天満が幸せそうだなぁ。妹の親友が招待されて家に来る時ってこんな感じか。
ヤクモンの骨董品のお買い物、値切るより先に割り引いてもらえるような気がします。
728埋め:04/06/14 23:47 ID:yDGxjJHk
>302
流石ナポレオン。体育祭プログラムに不可能の文字を刻み付けやがった!
八雲が名前で呼ばれた喜びを外に出しすぎなのが気になりました。嬉しがるならひっそり。
>317
その写真で八雲が傷つく理由を播磨が理解していたらそれは鬱展開というやつでは。
ここは播磨が不幸にならない修治と姉妹でダブルデートとかいう神展開を信じてます。
>359
お互いがナポレオンの脱走に責任感を感じている律儀な性格なのがいいですね。
行動と言葉だけで周囲やら表情やらの描写が寂しいので一度過剰描写への挑戦を希望。
>379
ニヤニヤさせられましたよ。卑怯臭くも感じるけれどその叙述トリックはGJ!  
名前で呼んであげたいけれど読者にはその手段が未だありませぬ。萌へ。
>392
麻生もこんなプレッシャーが追尾してきたらたまったもんじゃないでしょうな。
本心は「好きかどうかは別にして、すごく気持ちよかった」であったろうと予想。
>395
毎回思いますけど、編集者顔負けのタイトル通りの話をよく書かれますねぇ……。
冬木の代弁に大笑いしました。麻生が完全にむっつりスケベ扱いされちゃってるよ。
>402
どれが誰のなんという曲かという説明がほとんどない不親切さがいい感じ。
天満のマキシCDが待ちきれないので播磨の気持ちはよーくわかります。そして隣子萌え。
>415 >512
オールスター最高。花井の顔面に突きを叩き込む美琴の容赦のなさに爆笑しました。
地味でこそあるものの序盤に晶の出番が多かったあたりにも喝采を送りたい。
>431
沢近を抱きとめ、さらには抱き上げる。さああとは日頃の恨みを込めて放り投げれ(違
ナポレオンにちゃんと役割を与えているところがいいなと思いました。
>443
超高速演算少女絃子さん、激燃え。完全先読み理論はもはやゼロシステムの領域です。
葉子お姉さんが教えて播磨が強くなったというのはすごく愉快なことのような気が。
729埋め
>489
意識しっかり、脳波異常なし、外傷はスリキズ程度…… ってこら播磨(笑)
入室が許可されるはずもない集中治療室に忍び込んだのであろう沢近に萌え。
>572
少年も過去の花井のように、彼女の「強さ」を目標にしてゆくのでしょうか。
息抜きを許可した花井のらしくない態度にも何らかの理由があったと思いますが、省略?
>584
三原さん参戦は素顔ネタで天満不在という穴を埋めるのに充分な威力でした。GJ。 
#2あたりでは新任教師に裏拳入れる不良だったんだから処分なんて恐れるなよ播磨。
>603
素晴らしきかな鉛筆フラグ。その「学校来なよ」を伏線と捉える観察眼には驚嘆です。
今の人間関係を大きく動かすにはそのイベントが一番効きそうですね……。
>618
お約束まっしぐらの少年漫画そのものな展開、勢いもあって実にいいですな。
欲を言えば私情が出すぎているのが惜しい。播磨も沢近には素直に優しくしないほうが。
>623
うわー! 天満にこんな勘違いされたら立ち直れないぞ播磨。リレー前に気付くなよ?
間違いなくヅラなタレントがそれを外さないと同様、ハゲは隠し通すのがマナーですね。
>629
「誰を」はわかるとして「どういった理由で」心配するのかというヒントはなし?
抽象論に過ぎて伝道師サラに篭絡されてしまう絃子さんはちょっと弱すぎるのではと。
>635
各登場人物の心情がのめり込むのに充分なほどリアルでわくわくしながら読めました。
鉛筆外しというよりオチの麻生の態度こそが最萌えだと感じてしまったので吊ってきます。
>646
あんまり変わってない美琴に笑い、確実に変わった花井に羨望を含んだ敵愾心(を
十年以上続けた呼び名を変えるのは勇気がいりますよね。言ったそばから違和感とか。
>677
ある種理想的だと思っていた本編を遥かに凌駕する熱く萌えるこの展開。神!
隣子を含めた全員に見せ場を用意するそのエンターティナー魂、堪能させて頂きました。

もう(・∀・)があっても羞恥心がなくなりました。次スレも楽しみにしてます。