書き手の注意点
・予約は任意
・予約後一週間経過で予約取り消し
・本スレ投下前にしたらばの一時投下スレに投下する時も、
予約スレに予約をおこなうこと。
・トリップ必須(捨てトリ可)
・無理して体を壊さない
・完結に向けて諦めない
・予約はしたらば「予約スレ」にてお待ちしてます
キャラが死んでも、泣かない、暴れない、騒がない!!
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
優勝賞金は10億円。
また、1億円を主催者側に払うことで途中棄権の権利が購入できる。
参加者には食料などの他1000万円分のチップが支給され、
他者からの奪取やギャンブルルームでのやりとりが許されている(後述)。
ちなみに獲得した金はゲーム終了後も参加者本人のものとなる。
【支給品】
数日分の食料と水、1000万円分のチップ、地図、コンパス、筆記用具、時計
以上の物品が全員に均等に振り分けられる他、
ランダムに選ばれた武器や道具が0〜3品支給される。
【ギャンブル関連】
主催者側が管理する「ギャンブルルーム」が島内に点在。
参加者は30分につき1人100万円の利用料を支払わなければならない。
施設内には様々なギャンブルグッズが揃っており、行うギャンブルの選択は自由。
また、賭けるものは、金、武器、命など何でも良い。
ギャンブルルーム内での暴力行為は禁止されており、過程はどうであれ結果には必ず従わなければならない。
禁則事項を破った場合、首輪が爆発する。
【首輪について】
参加者全員に取り付けられた首輪は、以下の条件で爆発する。
・定時放送で指定された禁止エリア内に入ったとき
・首輪を無理矢理取り外そうと負荷を加えたり、外そうとしたことが運営側に知られたとき
・ギャンブルルームに関する禁則行為(暴力、取り決めの不履行等)を犯したとき
なお、主催者側の判断により手動で爆発させることも可能である。
【定時放送】
主催側が0:00、6:00、12:00、18:00と、6時間毎に行う。
内容は、禁止エリア、死亡者、残り人数の発表と連絡事項。
【作中での時間表記】 ※ゲームスタートは12:00
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
真昼:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【参加者一覧】
【アカギ 〜闇に降り立った天才〜】3/8
○赤木しげる(19歳)/●南郷/●安岡/●市川/●浦部/●治/○平山幸雄/○鷲巣巌
【賭博黙示録カイジ】2/7
○伊藤開司/●遠藤勇次/●船井譲次/●安藤守/●石田光司/●利根川幸雄/○佐原
【賭博破壊録カイジ】1/4
●大槻/○一条/●坂崎孝太郎/●三好智広
【賭博堕天録カイジ】1/3
●坂崎美心/●村岡隆/○兵藤和也
【銀と金】3/8
○森田鉄雄/○平井銀二/●有賀研二/○田中沙織/●神威秀峰/
●神威勝広(四男)/●吉住邦男(五男)/●川松良平
【天 天和通りの快男児】3/4
●天貴史/○井川ひろゆき/○原田克美/○沢田
【賭博覇王伝零】1/4
○宇海零/●板倉/●末崎/●標
【無頼伝涯】1/3
○工藤涯/●澤井/●石原
【最強伝説黒沢】3/4
○黒沢/○仲根秀平/○しづか/●赤松修平
【残り18/45名】
【予約について】
キャラ被りを防ぐため、任意で自分の書きたいキャラクターを予約することができます。
したらばの「予約スレ」に、トリップ付きで予約するキャラクターを宣言をしてください。
有効期間は予約当日から一週間。
期限が切れても投下はできますが、混乱を招くため歓迎されません。
間に合いそうにない場合は、【期限が切れる前に】延長を申請するか、予約破棄宣言をお願いします。
延長申請がない場合、予約は解消され、そのキャラクターはフリーになります。
【他、書き手の注意点】
作品投下はトリップ必須(捨てトリ可)。
内容に自信がなかったり、新たな設定を加えたりした場合は
本投下前にしたらばの「一時投下スレ」に投下するとアドバイスをもらえます。
さるさん規制を喰らった場合もそちらにどうぞ。
>>1乙…圧倒的に乙…!
前スレの感想を。本文長すぎるってなんだよ…
>分別 そうきたか! というかんじでした。断片的な情報がまとまっていくさまがすごく面白かった。
3人寄れば文殊の知恵っていうけど、天才の頭脳をもつ零と、ある意味行動力のあるカイジ2人で10人分の価値ありそう
零のもつ標のメモと、カイジの実際に会った人物、容姿や特徴などを書き込んだらもっと精密なリストになりそう。
涯や沢田、他の仲間とも共有できるし、今後の行動にすごく有効活用できそうですね。
>愚者 仲根と黒沢、沙織としづか、遠藤と佐原…あらゆる対比、因縁、思惑が絡み合って面白かった。
涯と赤松の関係みたくなったら、仲根も救われてたかもしれない…タイミング悪かったな。あとで黒沢、後悔しそう。
佐原は一線越えてしまったか…殺意をはっきり持って殺した所が遠藤と違う所ですね。
俺以上の愚か者、と言ったのが印象的。佐原、ライフルを使いこなせるようになればやっかいなマーダーになりそう。
>>1スレ立てありがとうございます
前スレ最後に投下された「愚者」の感想!
前後編の大作投下乙でした
まず、黒沢さんのロワ内での女運の良さ(悪さ?)がなんとも言えないw
3人しかいない女性参加者をコンプリート・・・!
しづかは強い女だね
沙織もある意味ではそうなんだけど、かわいそう
山場が近い雰囲気だけど二人ともがんばってほしい
遠藤の退場も惜しいんだけど、何よりも佐原の今後が気になります
佐原はかなり波乱万丈なロワライフだよね・・・
愚者読んだけど佐原が何故遠藤を撃ったか理解できない
中で遠藤が4人を殺そうとしているのに外から先手しかける理由がないでしょ
他の4人に反撃されたり逃げられたりするかもしれないのに
遠藤の仕事が終わってから仕掛けても十分だと思うんだけど
佐原が遠藤さんを撃ったことについては、たしかに
>>12の指摘通りだよね。
でも、ロワの中での精神状態に整合性を求めすぎるのもどうかなってところ。
自分は、状況が判断できないような状態だったのかなと素直に解釈することにした。
っていっても佐原も冷静に五人全員殺そうって考えてるわけだし、
遠藤が四人を殺そうとしてるっていう状況も理解出来てる。
今までの話の中で、佐原は一貫して生還重視で物事もちゃんと判断してきてるから
その疑問自体(何故遠藤を撃ったか?)については否定できないかなぁと思う。
14 :
◆uBMOCQkEHY :2011/06/10(金) 21:23:24.79 ID:SRFwO8eY
ご意見ありがとうございます。
佐原の件ですが、全員、殺害する気だったので窓に近い遠藤から狙ったというつもりだったんです。
遠藤が窓に寄りかかることで残り全員が逆に狙いづらく、逆に遠藤が窓から消えれば、後は全員銃殺するのは容易いと考えて。
>>12様が言うように待てば良かったのですが…。(メタ的に言うと待ったところで遠藤は殺害しないのですが…)
どうしましょう。
破棄の方がよろしいでしょうか。
指摘は全体の一部分についてだけですので、破棄という言葉を出すのは早計すぎるかなと・・・
したらばの議論スレで話し合うのはいかがでしょうか
>>12さんの意見で論点は明らかになっているので、
そのあたりを修正できるかどうかの意見交換をしません?
作者さん的に修正不可だと思われたりしてるようでしたら話はまた変わるんですけども
いずれにしても、ここで話すよりはしたらば向きの内容になってくると思います
16 :
◆uBMOCQkEHY :2011/06/11(土) 03:53:23.60 ID:DhfhZ3HG
そうですね。
どのように修正すべきか、議論スレにて意見を募りたいと思います。
ご返答ありがとうございます。
お久しぶりです。
愚者(後編)の改訂版をしたらばの一時投下スレに投下しました。
お時間がある方はどうか確認をよろしくお願い致します。
18 :
◆uBMOCQkEHY :2011/06/16(木) 19:28:53.29 ID:0mLo4E+w
先日は大変失礼いたしました。
先日の「愚者」であった矛盾点を修正した話をしたらばの一時投下スレにあげました。
お時間がありましたら、どうか問題がないかどうか確認をお願い致します。
先日はご迷惑おかけして申し訳ございませんでした。
「愚者」(後編)の修正が完成しましたので、投下します。
霧も、東からの日光によって大分霞みつつある。
それでも、霧と同系色の鈍色の色彩は森に溶け込み続け、なお不吉さを仄めかしている。
その森の中を佐原は歩いていた。
風の音に人の気配を感じ、佐原はあの場から逃げ出した。
逃げて隠れて、また、逃げて――。
自分はどこへ向かっているのか。
何から逃げているのか。
佐原自身にも分からない。
「南郷……」
疲弊した佐原の意識の中心を占めていたのは死にゆく南郷の姿だった。
南郷の首が弾ける直前、佐原は南郷を抱きかかえた。会話もした。
その南郷が自分の目の前でたんぱく質のかたまりになり果ててしまったのだ。
もし、過去に戻れたら――。
南郷の足の痛みを察し、肩を貸していたら――。
南郷は今頃、穏健に頬笑みながら、佐原の隣にいたのかもしれない。
「南郷……すまねぇ……」
佐原の頬に熱い涙が一滴滴り落ちる。
しかし、それとは対照的に、心には冷めた論理が蛇のようにとぐろを巻いて潜んでいた。
「南郷は……優しすぎた……」
南郷の優しさが佐原の支えとなっていた時もあった。
平常時であれば、その成熟した気質に恭敬の念を抱いていたのかもしれない。
しかし、今回、それは佐原に別の面を見せてしまっていた。
「これは殺し合いなんだ……甘さを見せれば…気を緩めてしまえば…次に死ぬのは自分っ……!」
死ねば、何もできなくなる。
どんなに無様でも生き続けなければ、これまで紡いできた生の歩みが全て無駄になる。
南郷の気遣いは生きるチャンスの放棄――生存競争からの脱落である。
生への渇望が至らなかったばかりに――。
「そうさ……俺達のような弱者はいつのまにかどんどん隅に追いやられ……ふと気がついたらはじき出されていたという愚か者……このまんまじゃ……椅子取りゲームで椅子をもらえなかった落ちこぼれだ……」
皮肉にも、その言葉はカイジが限定ジャンケンの際に導き出した人生の道理そのものであった。
「俺は……死にたくないっ……!!!」
心からの願望を口から漏れ出したその時だった。
乾いた銃声が轟き渡った。
「なっ!!」
佐原はとっさに木の陰に隠れて目を凝らす。
銃声の方角にあったのは一軒の民家であった。
「あそこからだ……」
危険人物が潜んでいる可能性がある。
生きる本能からなのか。
濁っていた神経が、まるで涼風に吹き払われたかのように研ぎ澄まされていく。
今後のためにどんな人物か確認しておいた方がいいと判断した佐原は一流のスパイの如く俊敏に走ると、民家の壁に身体を預け、窓を覗きこむ。
(えっ!)
佐原の背筋に冷たい汗が滲む。
室内にいたのは棒立ちになっている4人の男女、そして、窓に背を向けた遠藤の姿であった。
4人の男女は凍りついた表情で遠藤を見つめている。
当然である。
遠藤の手には拳銃が握られているのだから。
(あいつ……)
あの4人に待ち受けている事象は小学生が習う算数の解答ぐらい明瞭なものだろう。
(遠藤はこいつらを殺すっ…!)
佐原は帝愛のゲーム、そして、このバトルロワイアルを経て、一つの真理に辿りついていた。
(人生ってのは自分のものじゃない……奪い取った誰かの物なんだ……勝ち続けなければ、武器を持って戦い続けなければ……死ぬしかないっ……!)
「これが現実ってもんだっ……!」
佐原は静かな足取りで歩み出した。
目的地は窓の延長線上にある一本の木。
その木に寄りかかると、ライフルを肩づけして構え、スコープを覗きこんだ。
遠藤の背中がスコープに映る。
遠藤と佐原の距離は50メートルぐらい。
下手な行動と取らなければ気付かれることはないだろう。
「遠藤……」
佐原はゆっくり息を吐いた。
ライフルの銃身に心拍と呼吸を合わせていく。
遠藤はまもなくあの4人を殺害するだろう。
遠藤が4人を殺害した直後、遠藤の頭部を撃つ。
こうして、室内にいる5人全員を処理する。
必ずしも完璧とは言えないが、勝算は高い。
「俺はやれるっ……!俺はっ……!」
佐原は何度も同じ言葉を繰り返す。
人を殺す決心はついた。
後は時期に投ずるのみである。
しかし、その威勢のいい言葉とは裏腹に、ライフルを持つ腕は痙攣を起こしているかのように震えていた。
「なっ……!」
我に返り、己の身に降りかかっている異常に気付いた。
腕だけではない。
膝は一歩でも動かせば、跪いてしまいそうなほどに脱力し、顔からは怯えが皮膚の下から滲み出ている。
明らかに精神は殺人を拒んでいた。
「何をやっているんだ、俺はっ……!」
己を叱咤し、佐原は再び、ライフルを構え直す。
しかし、スコープは路頭に迷ったかのように泳ぎ続け、遠藤の頭部どころか、窓すら全うに写そうとしない。
佐原は殺人への畏怖に呑まれていた。
生物とは文字通り、『生きている物』。
それ故に、命を奪う者は敵である。
もし、人を殺せば、他の人間は自分を敵――殺人という卑しき行為に及んでしまった不浄の存在――と認識してしまうだろう。
一度、敵と見なされた存在に待ち受けているのは、周囲からの排除行為――報復の殺人。
行為の軽さに反して、その代償はあまりにも高すぎた。
「やらなくちゃ……俺は……やらなくちゃ……死ぬしかないんだ……」
体中の震えを止めることができぬまま、自分自身への鼓舞はいつしか“可能”から“義務”へと変化していた。
「遠藤っ……早くあいつらを撃ち殺してくれ……」
(あのオヤジ、銃を持っていやがったかっ!!)
しづかはギリリと歯噛みして遠藤を睨みつけた。
ぎこちない動作で立ちあがり、窓に寄りかかっているところから、身体のどこかを負傷しているようではある。
そのような弱体の男をぶちのめすのは、本来のしづかにとって造作もない。
しかし、その右手に握られている拳銃が反撃の妨げとなっていた。
(くそっ!!!あの銃さえ奪うことができりゃあ……!)
しづかは一条に復讐するために、確実に息の根を止めることができる凶器を欲していた。
もし、遠藤から取り上げることができれば、立場が優位になるどころか、復讐への大きな足掛かりとなる。
(あいつからどうやって奪うかだが……)
遠藤は左手にノートパソコンとディバックを抱えている。
身体が不自由なため、どこか煩わしそうである。
(あのノートパソコンとディバックが左手からずり落ちた時に……その隙をついて……)
可能性がないわけではないが、あまりにも都合が良すぎる展開だ。
(あの男の隙をつく方法なんて……えっ……あれは……?)
鈍色の光が窓に映った。
しづかは目を凝らし、その正体に絶句した。
金髪の男がこちらに向かって銃を構えている。
「外に銃を持った野郎がいるっ!!!!!」
「何っ!!!」
遠藤はハッと振り返り、表情を凍らせた。
「あいつは……」
半ば悲鳴に近い声で、遠藤はしづか達に叫ぶ。
「お前ら、逃げろっ!!!!!」
「何っ!!!」
佐原は苦々しそうに漏らす。
ここに来て、遠藤が佐原の存在に気付いてしまった。
遠藤は取り乱したように背後の4人に叫んでいる。
「まずいっ!!!」
佐原の脳天に電撃が走った。
遠藤達は一目散にあの場から逃げていくだろう。
もし、彼らが佐原のことを広めれば、佐原にはそれ相当の報いが来るはずである。
佐原の排除――報復の殺人。
僅か数秒の間に、思考が暗転し、これまでの記憶が駆け巡る。
脳漿を飛び散らせる南郷。
細切れの肉片になり果てていく板倉。
他の誰かに殺され、彼らのようになってたまるものか。
「俺は……」
ふと、記憶の中で遠藤の言葉が過った。
――――棄権費用がほしいんだろ……?殺るなら今だぞ…
「……死にたくねぇっ!!!!!」
狂乱に啼きながら佐原は引き金を引き絞った。
銃の轟音と砕け散るガラスの音が響き渡る。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
しづか達はその場にしゃがみ込んだ。
「何が起こったんだっ!!」
しづかは反射的に窓の方を見上げた。
遠藤は何が起こったのか分からないという表情のまま、上半身をぐらつかせている。
その胸部は血に染まっていた。
「う…撃たれたっ…!」
しづかを含め、全員の顔から血の気が失せる。
窓の外に暗殺者がいて、自分達は狭い部屋の中で身を寄せ合っている。
これを追いつめられた獲物と言わず、なんと表現すればいいのか。
遠藤の身体が崩れ、床に倒れたのが合図だった。
「逃げろっ!!!!!」
黒沢はとっさに沙織を俵のように抱きかかえ、玄関に向かって走り出した。
「くそっ!」
しづかも全力で駆けた。
しかし、玄関ではなく、遠藤の方にである。
「何をしているっ!!しづかっ!!」
仲根は手を伸ばし、しづかを呼び止める。
その必死な声を無視し、しづかはうつ伏せになっている遠藤の手から拳銃とノートパソコンをはぎ取った。
「しづかっ!!!」
仲根はしづかの腕を強く引っ張る。
何発もの銃声を背にし、二人は廊下を走り抜けた。
二人が外へ出た頃には、黒沢と沙織は霞みそうなほどに遠くを走っていた。
ふと、しづかは横目を使って仲根を伺う。
仲根は切なげな表情で黒沢の背中を見つめていた。
見知らぬ土地に一人取り残されてしまった幼子のような寂しさを滲ませて――。
遠藤は力の限りの呼吸を繰り返し、自力の延命を続けていた。
失血で意識が霞む。
身体が床に縫い付けられたかのように重く、身体の中心はただ、熱いとしか感じられない。
肺に穴が空いてしまったのだろう。
口から血が逆流する。
自分の命はもう長くはない。
受け入れざるを得ない事実であった。
「遠藤……まだ、生きていたか……」
佐原は遠藤の傍らに歩み寄った。
遠藤は忌々しげに睨みつける。
「どう……して……撃ちやがっ……」
遠藤の言葉は途中で切れた。
佐原がライフルの銃口を遠藤の頭部に突き付けたからだ。
「俺には時間がない……」
佐原の声はがらんどうの洞を吹き抜ける隙間風のように虚ろでありながら、その瞳は銃口と同じように揺れ動かない。
「ショッピングモールで言ったお前の言葉……“参加者を殺して、棄権費用を稼ぐか、優勝を狙うかしかないな…”って……それが俺に残された選択だって……今なら分かる……その意味が……」
「なっ……!」
遠藤は愕然とした。
それは遠藤が佐原に対して投げかけた試金石の言葉。
遠藤の愚かさ、佐原の賢さを決定づける分岐点となった言葉でもある。
あの時、二人の明暗を分けた言葉が、今、ここで新たな分岐を生み出している。
「あぁ……言っていたな……俺は……」
泣きたいのか、苛立っているのか、滑稽なのか、惨めなのか。
自分でも理解しがたい感情は、もはや皮肉めいた苦笑でしか表現できない。
「くそっ……」
一体、どこで自分の運命が狂ってしまったのか。
治を殺してしまった時なのか。
沙織に襲われてしまった時なのか。
森田と別れてしまった時なのか。
森田と出会ってしまった時なのか。
帝愛に騙されてこのゲームに参加させられてしまった時なのか。
もし、それらのどこかで別の選択をしていたら――
「まぁ……いいか……」
運命に『もし』なんて存在しない。
それはその時の最良の選択をした後で、もう一方の破天荒な道はどうだったのか…と覗く行為、いわば運命への冒涜だ。
「佐原……これ…だけは…言っておく……」
遠藤は最後の最後、残された力を振り絞って、今の佐原にとって最もふさわしい言葉を吐き捨てた。
「お前は…俺以上の…愚か者だっ……!」
佐原は黙って引き金を引いた。
銃声の轟きはただ一発。
呆気ないほど短く響き、遠藤の命を摘み取った。
こちらで以上です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
まとめ読みしてる最中
ここは濃いな…
書き手が本気で書いているのが伝わるよな。
薄かったら福本じゃないもんなw
賭博覇王伝零再開オメ!
予約きたぁぁぁぁ><
今回は長くなってしまい、
一つにまとめるとwikiに収録しきれないので前後編に分割しました。
まず前編を今から投下します。
田中沙織を抱えながら、黒沢はひた走った。
腕の中で暴れる成人女性一人に加え、
様々な武器やいくつもの支給品一式を背負う逃避は確実に黒沢の体力を奪ったが、
もう佐原から狙われることはないと言い切れるだけの距離を移動できたのは
黒沢自慢の体力に加えて火事場の馬鹿力が発揮されたからかもしれない。
かくして二人は民家から十分に距離を取り、
佐原が追ってくるとしてもしばらくは安全だろうと言えるだけの状況になっていた。
黒沢にとって解決するべき問題は、
“佐原から逃げること”ではなく“沙織を落ち着かせること”に変化している。
道中、絶えることなく混乱したようすで悲鳴をあげていた沙織に、
黒沢はいっそ口を塞いでしまおうかとさえ思ったものだ。
当然、あのような――突然に目の前の人間が撃たれるという事態に直面すれば
誰だろうと少なからず動揺する。
それでも、生きるためには逃げるしかない。
佐原以外にも敵がいるのだということを意識しながら、そして逃げるしかないのだ。
沙織を置いて逃げることなど出来はせず、
半ば反射的に彼女を引き連れて黒沢は民家を飛び出した。
はじめこそ大人しくしていたものの、
遅れてきた恐怖に怯えて腕の中で暴れ叫ぶ沙織に呆れ、そして焦りながらも
ようやく身を隠せそうな森に入り込むと、そこで黒沢は足を止めた。
「落ち着いてくれっ・・・頼む・・・」
息を整えながら沙織を地面に下ろす。
黒沢が二言目を紡ぐより早く、沙織は乱暴に武器類を抱え込んだ。
とりわけ石田の首輪を大事そうに撫でながら、覚束無い足取りで黒沢から後ずさる。
黒沢が歩み寄ろうと体を動かすだけで、沙織はヒステリックに悲鳴をあげる始末だ。
荒い呼気からもわかるように、錯乱状態なのだろう。
佐原の陰に怯えているのか、
すでに存在しないはずの何かを見ているのだろうか、
沙織の開かれた瞳孔には、敵意を欠片も見せない黒沢だけが映る。
黒沢は努めて冷静な調子で、沙織を宥めた。
「近くにはもう敵がいないから大丈夫だが・・・オレから離れると・・・危ない・・!
オレは襲わないぞっ・・・オレはあんたを守る・・・だから安心しろ・・・・!」
白み始めた空の光が、森に染み渡りつつあった。
暗闇に姿を隠すことは、もう出来ない。
大きな声で問答を繰り返していては、格好の餌食になるだけだ。
沙織が地面にへたりこんだのを見て、ひとまずは落ち着いたと判断し、
黒沢はデイパックからマップを取り出した。
ただただ走り続けてきたため、今どのあたりにいるのか、方向感覚が失われている。
ひとまずは現在地を確認するのが先決だろう。そう判断したのだ。
改めて現在位置を知った黒沢は愕然とする。
この森、石田の死に場所が近い。
もしも沙織がそのことに気づいてしまったら――更に精神状態が悪化する可能性は十分にある。
沙織が察する前に、森から移動するのが最善だろう。
「だが・・引き返すことは出来ない・・・!」
元来た道を引き返せるほどの度胸はない。
そうとなれば進むしかないのだが、当て所もなく歩き回っても事態は好転しないだろう。
どこか身を隠せる場所、沙織を匿える場所を探さなければならない。
黒沢の視線がマップ上を行き来する。
「病院か・・・」
黒沢の目に留まったのは、現在地から南に位置する病院だった。
さほど距離は離れておらず、森を抜けてしばらく歩けば簡単に辿り着けそうに思われる。
それに加えて、黒沢には病院に惹かれる理由が芽生えていた。
田中沙織が正気を失っているのは間違いない。
これが演技だとしたら、彼女は並々ならぬ手練手管の持ち主だ。
もし真実がそうであるならば、黒沢自身どうしようも騙されるしかない。
黒沢の思考が、数時間前に遡る。
沙織と出会ったときのことを、思い返す。
『私、昔は医療に携わっていたことがあるので…』
そう、沙織はかつて医療関係者だった。
治を診た様子からも、このことが嘘だとは思えない。
「記憶喪失の人間が昔の思い出に触れることで記憶を取り戻す・・・。
よくあるストーリー・・・!ドラマ・・・映画・・・よくあること・・・!
だとすると・・・あるかもしれないっ・・・・!彼女の場合も・・・」
沙織を病院に連れていくことで、
そこで見る何かがきっかけになって正気を取り戻すのではないか。
黒沢の考えはそう至る。
彼女が正気を取り戻したとき、また黒沢を襲うことがあるかもしれないが
それでも現状よりは、話が通じるだけまともだろう。
沙織がいつまでもこの状態では黒沢も彼女を守りきれない。
気がふれた人間を正常に戻すことが簡単だとは思わないが、
可能性を捨てることはできなかった。
「田中さん、行こう・・・!病院へ・・・!」
俯き座り込んでいる沙織を支えながら立ち上がらせると、黒沢は明るい声で言う。
「少し歩けば着くから頑張ろうっ・・・・!
こんなときこそ・・・・明るくっ・・・前向きに・・・!」
沙織は焦点の合わない目で黒沢を見返した。
抵抗の意思はない、と判断した黒沢は、沙織の手を引いて歩き始める。
民家から逃げくる時とは打って変わり、道中沙織は大人しく黒沢の後を付いて歩いた。
少しの寂しさと同時にどこか間の抜けた安心感を纏いながら、二人は森を進んでいく。
程なくして森を抜け、目前は薄暗い鬱蒼たる景色から、近代味を感じさせる開けた風景へと変わる。
舗装された道路の先には、病院らしき建物の影が確認できた。
「あれだ・・・!」
『安全』という病院のイメージからかけ離れた重苦しい雰囲気に
黒沢は戸惑いを感じながら、それでも目的地への到達を目指して更に行く。
振り返り、沙織の様子を確認すると、
どうやら何かしら感じる部分があるらしく、険しい表情で小さく何かを呟いていた。
相も変わらず石田の首輪を大事に握り締めながらも、
移動に慣れてきたのか、足取りはしっかりとしている。
そうして沙織の手を引きながら、道路に沿って移動していたその時だった。
突然に近くの茂みが揺り動いたのだ。
咄嗟のことで何の対応もできずに、黒沢は立ち止まるほかなかった。
一歩後をついて歩いていた沙織の体が、黒沢の背中にぶつかる。
不思議そうにする沙織の顔を伺う余裕もなく、黒沢は茂みの向こうを睨みつける。
様子からして、茂みを動かすその存在は猫やうさぎといった小動物ではない。
相手が人間だろうことは疑いようがない状況だった。
がさり、と再び草草が擦れ合う音がなる。
事態に気づいた沙織が、震えながら声をあげた。
「何っ・・・!?いや・・・いやっ・・・・こないでっ・・・!」
沙織の声で、もはやこちらの存在は確実に知れてしまっただろう。
再び沙織を抱えて走り逃げるだけの体力は、今は残っていない。
黒沢はデイパックに突き刺したスコップを抜き、
沙織を背後に庇う体制をとりながら構えた。
「出てこいっ・・・・!」
黒沢の低く唸るような声を受けて草むらから登場したのは、
人間味を感じさせない白髪の若い男であった。
彼の手に黒く光るそれは、拳銃。銃口は黒沢に向いている。
「ぐっ・・・!」
予想していなかった、といえば嘘になるだろう。
しかしながら、その銃口の奥の深い闇は、黒沢を動揺させるには十分であった。
「あんただけでも逃げろっ・・・!」
黒沢は、足が竦んで動けずにいる沙織を一喝するが
それでも彼女は黒沢の背中から離れられない。
石田の首輪を強く抱きしめながら、肩を丸めて慄いている。
「くそぅっ・・・・!」
黒沢の、スコップを握る手に力がこもる。
数歩近づかなければスコップを振り下ろしたところで男に届かない。
対する白髪の男は引き金を引きさえすれば、
今この瞬間にでも黒沢を撃ち抜くことができるだろう。
体格差は明白であり、肉弾戦に持ち込めれば勝ち目は見えるはずなのだが、
銃器を前にした黒沢には怖じ恐れる気持ちが湧き出て止まらない。
目前の男は二回りほど年下に見えるが、それでも歴戦の風格を持ちあわせており
黒沢にとっては、さながらライオンに狙われる獲物のような、生きた心地のしない数秒が続く。
何故撃たないのか、何故動かないのか。
黒沢は全てを計り兼ねたまま、額に汗が流れるのを感じていた。
殺すつもりならば、様子見の必要などないはずだった。
出会い頭に発砲してしまえば、黒沢たちに為す術などなかったのだから。
黒沢と沙織が強力な武器を持っている可能性を危惧していたとしても
――事実、沙織は遠距離攻撃可能な武器を持っているのだが
例えそれを知っていたとしても、先手を打つ余裕はあっただろう。
「逃げろっ田中さんっ・・・・・!」
張り詰めた空気に耐え切れなくなった黒沢は、喉の奥から再び声を絞り出した。
相手から見て黒沢の背後は死角。田中沙織の存在は視認できないはずだ。
姿こそ見えないものの、声を聞かれてしまっているため
当然こちらが二人組だということは知られている。
それでも、動きが読めない位置にいる沙織を頼るのは効果的である。
沙織が何らかの行動を起こしてくれさえすれば、おそらく相手に僅かな隙が生まれる。
その隙を利用して 黒沢が体ごと突進でも出来ようものならば、状況は一転するだろう。
「田中さ・・・」
黒沢が沙織の名前を繰り返しかけた瞬間、白髪の男がそれを遮るように呟いた。
「田中沙織・・・?」
「し・・・知り合いかっ・・・田中さんの・・・あんた・・・」
黒沢は思わずスコップを構える腕を降ろし、聞き返す。
依然として銃口は黒沢を捉えて離さないが、心なしか男の表情が切り替わったように思えた。
田中沙織の前科を鑑みれば、この男が沙織を憎んでいる可能性も十分にある。
沙織の名前を安易に出してしまったことを一瞬後悔するが、
しかし黒沢は場を切り抜けるため、覚悟を決めて男を見据えた。
「田中さんは今・・・まともに会話もできない・・・!
だが・・・あんたに危害は加えない・・・!オレも・・・田中さんもっ・・・・」
まずは、こちらに戦意がないことを伝える。
どう逃げたとしても、これだけの近距離で銃を構えられていては無傷で済まないはずだ。
黒沢が現時点で相手の男に危害を加えるつもりがないことは確かだった。
加えることが出来ない状況である、というのが正しいのだが、
それでも争いなど望んでいないことは本心だ。
平和的に解決できるのであれば、それこそ望む道であり選ぶべき道なのだ。
とにかく、時間稼ぎであったとしても会話の余地があるのならば試すべきで、
もしかするとそこから突破口が見えるかも知れないと、黒沢は期待していた。
「オレは黒沢ってんだ・・・見知らぬ男から襲われたところを逃げてきた・・・!」
白髪の男が銃口を下げるのを見計らって、黒沢もスコップを地面に投げる。
一触即発の空気は僅かに緩み、黒沢に深呼吸をするだけの余裕を与えた。
相手は少なくともあの遠藤のように沙織を忌んでいるわけではないのだとわかる。
黒沢は続けて言葉を発していく。
「オレは・・・田中さんのことを詳しくは知らない・・・・!
会って間もなく彼女はこんな状態になっちまったもんだから・・・」
沙織と出会ってから今までのことを詳細に話すようなゆとりはない。
かなり大雑把に掻い摘んだ経緯ではあるが、黒沢は正直に告げる。
白髪の男は黙ってそれを聞いていた。
何かに納得するかのように数度頷いてから、男は口を開く。
「田中沙織、あんたを探しまわってる人間がいる」
その人物は“味方”なのか?
黒沢がそう問おうとするが、突然に背後の気配が一変する。
沙織の体が小刻みに震え出す。黒沢にも背中越しに伝いくる程の震え。
続いて呼吸が乱れ始め、小さかった震えは次第に沙織の肩を大きく揺らすほどになる。
明らかに様子がおかしい。
唐突な変容に驚きながら、黒沢は振り返り、沙織を落ち着かせようと試みる。
「田中さんっ・・・」
「いやぁっ!」
差し伸べられた黒沢の手を勢い良く振り払うと、沙織は尻餅をついて後ずさった。
視線は黒沢の向こうを彷徨っている。
その先は白髪の男なのか、それも違うようで、
どうやら見えない何かに怯えているようであった。
しかし、黒沢には状況がわからない。
黒沢の視点から考えると、沙織は白髪の男に対して恐怖しているのだと解釈するほかない。
「・・・ジ・・・こないで・・・」
徐々に沙織の声が大きくなる。
繰り返し呟かれているその言葉を聞くべく、黒沢は耳を傾けた。
「カイジっ・・・とう・・かいじ・・・こないで・・・あっちいってっ・・・・!」
「えっ・・・カイジ?」
沙織の口から紡ぎだされる言葉は、黒沢にとって意外そのものであった。
この状況でカイジという単語が出てくるということは、
即ち沙織は、この白髪の男をカイジと呼んでいるのではないか。
この男がカイジ?沙織はカイジと面識がある?
そして、沙織は恐慌状態に陥るほどにカイジを恐れている……。
黒沢は現在までに、三人の人物からカイジの名を聞いたことになる。
美心の大切な人である“カイジ”。
石田が誇らしげに『凄い青年』と称した“カイジ”。
沙織がひどく恐れる“カイジ”。
黒沢は混乱した。
美心のいう“カイジ”。彼女にとって特別な人間であるということしかわからない。
石田が言う“カイジ”は、ホテルでのルール説明時に目立っていたあの男。
間近で顔を確認したわけではないが、
髪色からして現在接している白髪の男とは別人であると考えられる。
最期に、沙織の知る“カイジ”は、どうやら白髪の男のことらしい。
先程から頻りに「こないで」と呟いている様子からも、決して友好的な関係ではないことが伺えた。
石田の指すカイジは黒髪。沙織の指すカイジは白髪。
全ての人間が嘘をついていないとするならば、カイジは最低二人、最高で三人存在することになる。
思案の果てその結論に達した黒沢は頭を抱えた。
(まさか・・・まさか複数・・・!?
この島に・・・カイジという男が何人もいるのかっ・・・?)
しかしその考えも、数時間前の記憶を手繰り寄せれば否定せざるをえなくなる。
遠藤の支給品であるノートパソコンを覗いたときのこと。
黒沢の脳裏に焼き付いているのは赤松の雄姿、そして改めて直面した美心や治、石田の死である。
されども、さらに深く記憶を掘り返してみれば、カイジについての情報も見えてくる。
ノートパソコンと対峙したその時、黒沢は自身の目的を忘れきってはいなかった。
美心のために、カイジを捜すという約束――謂わば決意。
赤松への想いで胸中一杯であったことは事実だが、無意識に黒沢はカイジという名前を探していた。
ノートパソコンの画面上に目を走らせたとき、
カイジという名前が複数あればいくら黒沢といえども気がついたはずなのだ。
黒沢の覚えている限りでは、カイジという名前は伊藤開司ただ一人であった。
すると、当然カイジ複数人説は潰える。
「田中さん大丈夫だぞっ・・・!襲ってきたりはしないから・・・大丈夫・・」
黒沢は思考を巡らせながらも、過呼吸気味の沙織に再度手を差し伸べる。
沙織は冷や汗を滲ませながら、石田の首輪をきつく抱きしめていた。
その顔面は、恐怖のあまりか蒼白である。
恐怖で蒼白。
そのワードが脳裏を過ぎった瞬間、新たな閃きが黒沢に訪れる。
(恐怖で血の気が引く・・・白くなる・・・白・・・・白髪・・・
そうかっ・・・!恐怖だっ・・・!!恐怖のショックで白髪に・・・!)
ホテルで見知らぬ少年を庇った黒髪のカイジは、
もちろん石田の知るカイジであり、そして美心の大切な人であった。
カイジはこの島で巻き起こったゲーム、何らかの衝撃的な事態の中で
極めて激しいショックを受け、その結果白髪になってしまう。
黒髪のカイジと、白髪のカイジは同一人物だったのである。
これが、最終的に黒沢が行き着いた答えであった。
そう、偶然にも出会ったこの男こそが、捜し求めたカイジなのだ。
「カイジ君・・・カイジ・・・ぐうぅ・・・!」
黒沢は美心や石田のことを思い出し、
感極まって鼻水混じりの涙を流しながら白髪の男へと向き直る。
何故、沙織はカイジを恐れているのか。
その疑問は解かれないまま――そもそも黒沢はその点を疑問視せずにいるのだが、
美心、そして石田が求めた“カイジ”なる人物が目の前にいるのだと思うと、
流れる涙を止めることなど出来ようがなかった。
これまで黒沢は、美心の慕うカイジという人物、
おそらくは美心の親類である、その男を探すという目的を持ってきた。
それは、美心のメッセージをカイジに届けるため。
美心の最期を伝え、そしてラジカセを託すためである。
石田の言葉が後押しとなり、カイジに会わなければならないという気持ちは大きいものとなっていた。
赤松が死に、仲根ともあのような別れ方をしてしまった以上、
黒沢にとって会いたいと思える人物は残すところカイジのみ。
そのカイジが、まさか目の前にいるとは……黒沢は必死に声を噛み殺しながら泣いた。
当然、いつまでも泣いてはいられない。
顔をぐしゃぐしゃにしつつも、黒沢は白髪の男に伝えるべき言葉を伝える。
「渡さなければならないものがあるっ・・・!この・・・声を・・・!
美心の声を聞いてやってくれ・・・!どうかこの・・・メッセージをっ・・・・!」
黒沢は溢れでてくる鼻水を拭ってから、ナップザックに手を突っ込みラジカセを探し出す。
つかつかと白髪の男に歩み寄り、美心の支給品であったラジカセを差し向けると
男は変わらぬ無表情で、それを受け取った。
「カイジ君・・・美心はっ・・・オレの美心は天国にっ・・・・・!」
「美心・・・?」
「わかるっ・・・・死を認めたくない気持ち・・・痛いほど・・・!」
尚も溢れる水分で顔中を濡らしながら、黒沢は深く頷いた。
美心と過ごした幸せな時間、美心を守りきれなかった後悔や、
美心のためにラジカセを届けると決めたその覚悟。
様々な感情が黒沢の中を駆け巡っている。
美心の意志をカイジに伝える――この目的は達成された。
充実感を覚えながらも、黒沢にはもう一つの為すべきことが思い浮かぶ。
そう、石田の意志を継ぐことだ。沙織を、守ることだ。
かつて美心を守れなかった自分を、黒沢は恥じていた。
惚れた女の一人も守れないとは、これではあまりに哀しい恋物語だ、と嘆いていた。
そこに、現れたのが沙織の存在である。
警戒するべきなのは事実であったが、
沙織が保護者を必要としている現状を実感している。
彼女の容姿が美しいということもポイントの一つではあったものの、
やはり大きいのは、田中沙織を守って死んでいった石田の心を継がなければならないという気持ちだ。
(今度こそは・・・田中さんの正気を取り戻して・・・彼女を正しい道へ導き・・・そして・・・!)
ちらり、と沙織を見やる黒沢。
視線など感じもしないのか、沙織は両腕で頭を守るような姿勢で蹲っていた。
右手に握られた石田の首輪が、ちょうど頭上に掲げられて鈍く光っている。
さながら、それは天使の輪のようで、黒沢は再び白衣の天使という言葉を思い出していた。
(きっと田中さんも本来は天使・・・・!悪魔などではなく・・・死神などではなく・・・・!)
美心を守り切ることが出来なかったこと。
仲根に正しい道を伝えきることが出来なかったこと。
そして、沙織を守るために散っていった石田。
黒沢は三人の姿を描きながら『沙織の正気を取り戻して見せる』と腹を決めた。
草を踏む音で、黒沢の思考は現実に引き戻される。
白髪の男が、黒沢を横切り、通りすぎて沙織へと歩み寄っていく音であった。
「あっ・・・カイジ君っ・・・・!」
これ以上沙織の容態を悪化させるわけにはいかないと、黒沢も白髪の男の後を追う。
沙織は相変わらず縮こまって震えていた。
一歩一歩悠々とした足取りで、白髪の男は沙織に向かって声をかける。
「田中さん、あんた・・・」
その瞬間であった。
白髪の男から声が発せられた瞬間、沙織は悲鳴をあげながら弾けるように立ち上がり、
辺りに放っていた武器や支給品の類を背負うと、足をもつれさせながら森へ後戻りだしたのだ。
「いやああっいやっ・・・!ごめんなさいっ・・・!ごめんなさい・・!許して・・・」
辺りに響き渡る沙織の声。誰に向けた謝罪なのか、黒沢は知る由もない。
ただ一つ、沙織は白髪の男から逃れるために立ち上がったことは、確実だと言えるだろう。
「あらら」
さして驚く様子でもなく呟き立ち止まる白髪の男を追い越しながら、黒沢は叫ぶ。
「田中さん・・・!森に戻ったら危ない・・・!」
黒沢の忠告など意に介さず、沙織は森の中へ逃げこもうと進んでいった。
追いかけるしかない。黒沢は荷物を背負い直し、疲れきった足腰に鞭打って走りだす。
ここでカイジと別れるのは惜しい。それでも、黒沢は沙織を守ると決めたのだ。
「カイジくん!」
黒沢は振り向き様、白髪の男へと声をあげた。
沙織との距離が開かないうちに、彼女を保護しなければならない。
カイジに伝えたいこと、カイジと話したいことは山のようにあるが、
黒沢は大切だと思われることを選んで、白髪の男に伝えた。
「石田さんは・・・石田さんは君を探してた・・・・!
でも・・・田中さんを守るために散った・・・!勇敢に・・・
そのことも・・・カイジ君に伝えておくっ・・・・!」
沙織に向き直ると、いつの間にやら彼女は移動速度を早めて、
もはや逃げ走るような形で森を目指していた。
木々の中に入り込まれてしまっては、見失う危険性がある。
白髪の男を一瞥してから、黒沢は走りだした。
黒沢は、沙織のために目的地に設定した病院を目前にしながらも、
沙織のために森へ駆け戻っていったのである。
【D-5/森の前/早朝】
【黒沢】
[状態]:健康 疲労
[道具]:不明支給品0〜3 支給品一式×2 金属のシャベル 特殊カラースプレー(赤)
[所持金]:2000万円
[思考]:沙織を正気に戻す 沙織を保護する 情報を集める 自分のせいで赤松が・・・
※デイバック×2とダイナマイト4本は【C-4/民家】に放置されています。
【田中沙織】
[状態]:精神崩壊 重度の精神消耗 肩に軽い打撲、擦り傷 腹部と頬に打撲 右腕に軽い切傷 背中に軽い打撲
[道具]:支給品一式×3(ペンのみ1つ) 30発マガジン×3 マガジン防弾ヘルメット 参加者名簿 ボウガン ボウガンの矢(残り6本) 手榴弾×1 石田の首輪
[所持金]:1億200万円
[思考]:カイジから逃れる 石田(の首輪)を守りたい 死にたくない
一条、利根川、和也、鷲巣、涯、赤松、その二人と合流した人物(確認できず)に警戒
※沙織の首輪は、大型火災によって電池内の水分が蒸発し、2日目夜18時30分頃に機能停止する予定。(沙織は気がついていません)
※標の首を確認したことから、この島には有賀のような殺人鬼がいると警戒しています。
※サブマシンガンウージー(弾切れ)、三好の支給品である、グレネードランチャー ゴム弾×8 木刀 支給品一式、有賀が残した不明支給品×6がD-5の別荘に放置されております。
※イングラムM11は石田の側にありますが、爆発に巻き込まれて使用できない可能性があります。
※石田の死により、精神的ショックをさらに受けて幼児退行してしまっています。
※石田の首輪はほぼ無傷ですが、システムに何らかの損傷がある可能性があります。
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前編は以上です。
後編は時間を置いて投下します(といっても日付が変わらないうちに)。
後編を投下します。
市川との一戦を終えたひろゆきと平山は、ギャンブルルーム前で佇んでいた。
どのような形であれ、人の死は精神を摩耗させる。
市川が晴れ晴れしい気持ちで死んでいっただろうことを知っていても
特に平山の心は鬱々としていた。
「まさかこんな短時間に二人も殺すことになるとはな・・・」
薄ら明るい空を仰ぎながら呟く平山の肩を、ひろゆきはそっと叩いた。
利根川も市川も、乗り越えなければならない壁だった。
殺傷に貴賎などありはしない。
それでもひろゆきは平山に、
前を向いて歩いていくだけの資格があるのだということを伝えたかった。
アカギは市川の亡骸まで歩み寄りしばらくそれを見下ろしていたが、
目当ての首輪が跡形もないと気付くと、再びギャンブルルーム前まで戻ってくる。
「あんたらはこれからどうする」
アカギの問いに、ひろゆきと平山は顔を見合わせた。
平山にとって第一に目的としていた首の針具の取り外しは達成された。
利根川が死んだ今、最も恐れていた人物は潰えたことになる。
気になるのはカイジの状況と、田中沙織のこと。
そして、先刻受けた何者からかの宣戦布告だった。
ひろゆきは、今後平山と行動を共にしていく心積もりでいるものの、
アカギと真正面からの博打がしたいという気持ちは未だ捨てられずにいる。
市川と囲んだ卓だけでは、満足できないという本音があった。
しかしながら、第三回放送の時間が迫っている状況で再びギャンブルを持ちかけても、
それが叶う公算は極めて低いだろうとわかっていた。
そして、天の死を前にしたことで、自分本位な目的の他に、
このゲームを止めなければならないという使命感が生まれたのも事実である。
二人に共通して挙げられる具体的な目標は、『カイジとの合流』になるだろう。
アカギの述べた“これからどうする”という言葉からは、
アカギ自身は既に行先を定めているのだろうと推測できる。
「・・・お前はどうするんだ」
聞き返す平山に、アカギは薄く笑いながら答えた。
「もう一人・・・厄介なジジイを探さなきゃならない」
再び、ひろゆきと平山は視線を交わす。
気味の悪い宣戦布告を受けたこの状況で、
ひろゆきも平山も、アカギと別行動をしたいとは思っていない。
人探しとなれば、ひろゆきの持つ首輪探知機が役に立つことは予想できるため、
尚の事、三人で立ち回ったほうがいいはずだ。
しかし、厄介なジジイ――つまり市川の他にも
アカギに因縁を持つ老人がいるということだろうか。
また市川戦のような出来事に出くわすことになるかもしれない。
数秒の沈黙の後、ふと平山があることを思い出す。
ひろゆきと平山は、病院で出会った老人から、アカギへの伝言を預かっていたのだ。
「そういえば・・・アカギ。お前への言付けを頼まれているんだ」
「ああ、そうだった。僕達が病院にいたとき・・・三、四時間前だったか・・・
鷲巣って爺さんが言っていた・・・!“病院で待機している”と・・・」
鷲巣、という名前を憎々しげに扱いながら、ひろゆきがアカギに話す。
「なぁ、厄介なジジイっていうのはひょっとしてこの・・・」
眉を顰めるひろゆきに、アカギはいつものように底の知れない笑みを浮かべた。
「丁度いい・・・別行動だ・・・!オレは病院に戻るよ・・・!」
アカギはもう一人の老人
――鷲巣に会うため、単独で病院に向かうと言う。
ひろゆきは鷲巣に良い印象を抱いてはいない。
異常に攻撃的であり、とりわけ平山に対して執拗に突っかかってくる
子供じみた言動で傲慢な、まさしく厄介者であると認識していた。
足手まといな老人の一体どこにアカギの気を引く要素があるのだろうか。
「伝言を頼まれたのは四時間近く前の話だっ・・・!
鷲巣は怪我をしていたし・・・第一あの爺さんが何の役に立つ・・・?」
少し声を荒らげながら、アカギを引きとめようとするひろゆき。
対するアカギは、ひろゆきを横目に悠然とした様子で答えた。
「鷲巣には“情報”を集めさせている・・・。
そして・・・・意味がある・・・!あの場所に戻ることには・・・・・!」
言葉でアカギを止めることなど出来ようがない。
ひろゆきは口に手を当てて溜息をついた。
鷲巣との合流は都合が悪い。
それに加えて病院を警戒する理由が、ひろゆきにはあった。
盗聴器を持っていたのは利根川。
盗聴器の声の主は利根川の一味――頂点に和也を置く危険グループの人間である。
天に爆発物で攻撃をしかけたのも、おそらくは利根川たちだ。
病院付近で利根川と一条という男が、事の顛末を見張っていたのは間違いない。
また、病院前のギャンブルルームに一人滞在していた光点が兵藤和也である確率は高い。
すると、病院付近は利根川、一条、和也たちの本拠地だという可能性が生まれる。
黙りこんでしまったひろゆきに続いて、今度は平山がアカギに食い下ろうとする。
「でもっ・・病院付近は危険だっ・・・!まだ爆発物が仕掛けられているかも知れない・・・!
それに病院方向っていえば、盗聴器の・・・あの声の主が・・・」
そこまで言いかけた言葉を、はっと飲み込んで
平山は気まずそうにアカギの様子を伺った。
当初は和也グループを奇襲するという強気な策さえ練っていた平山であったが、
それ以上に強気な態度でターゲット宣言を下した盗聴者に恐ろしさを感じていた。
これまでの状況を組み立てていけば、盗聴器の向こうにいる正体は凡そ見当がつく。
そして、病院前のギャンブルルームが彼らの拠点であることもおそらくは事実である。
病院に近づくということは、盗聴者に近づくことなるかもしれないのだ。
もはや奇襲など不可能なのではないか。
盗聴者――ギャンブルルームの和也は、
今まさに火にいる夏の虫を待っている状況なのではないか。
しかし、アカギがそれを恐れるだろうか。有り得ない。
アカギは例えそこが業火であろうとも飛び込んでいく。
事実、平山の言いかけた言葉に反応して、アカギは口の端を不気味に上げた。
もはや、アカギが病院方向へ戻ることを止めは出来ないだろう。
仕方なく、ひろゆきはアカギへ新たな提案を持ちかけた。
「病院まで同行する・・・!僕には首輪探知機がある・・・・!役に立てるだろっ・・・!
病院内に存在する光点の動きが不穏ならば相応の対策を打つことが出来るだろうし・・・」
鷲巣と会うという点には賛成できないが、
病院に戻ることについてはひろゆきも候補として考えていたところだった。
天の遺物の確認と、遺体の弔いを行いたかったからだ。
「お、おい、ひろゆきっ・・・!」
平山は焦り顔でひろゆきを見る。
首輪探知機によって事前に危険を回避できるとはいえ、不安は付きまとい続けるだろう。
ましてや、危険値の高い病院に乗り込むとなれば、尚更である。
そもそもが、病院などの建造物は首輪探知機と相性が悪い。
例えば病院内で探知機の画面に3つの光点が映しだされていたとして、
光点の主が別々の階にいる場合でも、光は画面上同じ平面に並ぶ。
横の探知は出来ても、縦の探知は出来ない。
これが首輪探知機の欠点であることは、以前病院を訪れたときに学んでいた。
また、自信満々に平山たちを殺すと言ってのけた盗聴器の向こうの声に対して
こちら側が持ち合わせている武器はひろゆきの日本刀と利根川が遺した拳銃のみ。
アカギがどのような武器を隠し持っているかはわからないが、
少なくとも平山自身は、身を守れるアイテムを持っていない。
敵地――かもしれない場所――に乗り込むには、戦力不足が過ぎる。
しかし消極的な平山を余所に、アカギは病院へと歩き出してしまう。
同行なら勝手にしろと言わんばかりのその背中を、ひろゆきも追いかける。
そうなると平山も、置いて行かれてはたまらないと仕方なく
二人と共に病院に向かうことにしたのだった。
* * *
一行は、もうしばらく歩けば病院が見えるだろう、というところで立ち止まり
草むらで身を隠しながら首輪探知機の電源を入れた。
ここは、数時間前アカギの後を追うために探知機を確認した場所と凡そ同じはずだ。
前回の探知結果と照らし合わせることが出来れば、より深い情報になるだろう。
平山は数時間前の記憶を呼び起こしながら画面を覗き込む。
病院付近には六つの光点が存在していた。
前回と同じ位置に光る点は二つ。
まず病院から離れた場所に光る一点。
この光は病院のちょうど正面にあるギャンブルルームあたりに位置している。
そこに何者かが一人で滞在している、ということも自ずと導きだされる。
アカギと合流する前から変わらずに、その人物はギャンブルルームに滞在し続けていることになる。
ひろゆきと平山の予想が正しければ、この光点は兵藤和也である。
「こいつは一人で何時間も・・・・一体何をしているんだ・・・・・?」
平山が当然の疑問を口にする。
利根川は死んだ。一条はギャンブルルームに戻っていないらしい。
ただ一人、動くことなくギャンブルルームに滞在する様子からは並々ならぬ余裕を感じさせる。
興味深そうに画面を見ていたアカギは顔を上げると、「なるほどな」と独りごちた。
草むらに位置する動いていないもう一つの光点は、おそらく前回の考察の通り死者の首輪だろう。
平山はそのことをアカギに伝えると死体を探しだしかねない、と思い触れずにおく。
「あ・・・」
病院内に位置するだろう光点に目を移しそうとしたその時、平山は思わず声をあげた。
病院前、天貴史の光にあたるものがない。
つまり、天の首輪が探知機に反応していないか、探知範囲外に移動したと考えられる。
首輪が爆発してしまったのか。
あるいは、アカギのように平気で人の首を切ろうとする人間がいないとも限らない。
どちらにしても、天を深く慕っていたひろゆきに見せたい様子でないことは確かだった。
「平山、どうした・・・?」
「い・・・いや・・・なんでもない・・・!」
ひろゆきも馬鹿じゃない。既に気づいているのかも知れない。
平山は気まずさを覚えながら、病院の中で寄り添うように動く二つの光点に視線を移した。
「このどちらかが鷲巣か、あるいはどちらも違うかも知れない・・・。
利根川の仲間という可能性も十分にあるが・・・・」
ひろゆきの言葉に、アカギと平山は頷いて答える。
一条が病院付近に出戻ってきている可能性は十分に考えられた。
鷲巣が未だ病院内で待機しているのならば、この光点は鷲巣と一条か。
しかし銃を持っていた一条に手負いの老人を殺すことなど容易いはず。
そう考えると、鷲巣は既に死亡していてもおかしくはない。
何にせよ、いずれかの光点が鷲巣であるという考えは超希望的観測に他ならないのだ。
前回と同じ位置にある二つの光点。
病院内で移動する二つの光点。
それらについて簡単な推測を行ってから、ひろゆき達は残りの二点に目を移す。
北の森林から南下してくる二つの光点――現時点で最も無視できないものだ。
このまま進めば、この二点とひろゆき達は病院前でかち合ってしまうだろう。
ひろゆきは口元に手をあてて悩んだ。
「歩くスピードを早めて、彼らより先に病院に到着するか・・・?
逆にしばらく待機して、彼らの動きを見るというのもアリだが・・・」
この二点の正体は皆目見当がつかなかった。
移動速度は早くない。
互いにかなり近い距離で歩いているため、この二人は味方同士か、
とにかく、追って追われての関係でないことだけは確かだ。
「利根川たちの仲間かもしれない・・・様子を見たほうがいいんじゃないか・・・・?」
平山の意見に、ひろゆきも首を縦に振る。
しかしアカギだけは、服についた土を振り払いながら立ち上がり、
どうやらただ待つつもりはないらしい。
「今からその二点と接触する・・・!」
「・・・はぁっ!?」
アカギの言葉に、平山は素っ頓狂な声をあげながら反論の意を示す。
この二つの光点は、自分たちにとって敵であるか、味方であるか、
あるいは敵になってしまうか味方になってくれるかわからない相手だ。
「草陰からこいつらの正体を確認して・・・それから考えても遅くないだろっ・・・!」
平山の意見は尤もであった。
ひろゆきも同意するが、アカギは引かない。
アカギに機嫌を損ねられては困る、ということで
またしても、ひろゆきと平山が折れることで事態は収束する。
接触のためのプランはこうである。
まず、光点がこのまま南下を続けることを前提として、
通り道になる場所付近でアカギが待機する。
アカギから離れた地点で、ひろゆきと平山は待機。
光点を発する二人と接触するのはアカギ一人。
一人で接触を計りたがるアカギと、
こちらから向かっていく必要はないという平山の主張を折衷した待ち伏せ案だった。
同時に、首輪探知機という貴重なアイテムを持つひろゆきを優先的に守る意味もある。
草むらの影から相手がやってくる様子を観察し、
三人が知る限りの危険人物ではなければ、アカギは利根川の拳銃を構えながら道路へ出る。
手の打ちようがない危険人物、あるいは人目でそうとわかる状態の人物ならば
アカギはそのまま草むらで待機。
当然、光点の正体が見知った仲間であれば、銃を構える必要もなくなるだろう。
数分後、予定通りひろゆきと平山は、
アカギから離れた場所でしゃがみ込んで待機することとなった。
もしも不穏な事態が生じた場合、
ひろゆきたちは防犯ブザーを鳴らして相手の注意を引きつけるつもりでいる。
アカギから借りたロープで、防犯ブザーには簡単な仕掛けが施されていた。
二人が隠れている場所から離れた木に防犯ブザーをくくりつけ、ロープの端を結びつけておく。
ロープの逆端を引けば、ブザーが鳴る。
数メートル離れた場所からでもブザーを鳴らすことが出来る仕組みだ。
運がよければ、相手はブザーの方に注意を向けてくれるかも知れない。
この辺りは人間の背を覆うほどの高さまで草が育っていため
草むらに後退して逃げさえすれば、相手から激しい攻撃を受けることなく済むはずだ。
つまりは、一瞬でも相手に隙が生まれれば、逃げおおせる勝算がある。
投下乙です。
沙織はアカギとカイジを重ねちゃったか…。
抜けているようでやる男、黒沢。
頑張れ…マジ頑張れっ!
でも、沙織の動向次第では危険かも。
後編も楽しみにしております。
草葉の合間から時折のぞく白髪を眺めながら二人がしばらく待っていると、
道路の先から体格のいい大男が歩いて来るのが見えた。
彼が光点の正体である。
その歩き方から、もう一人はすぐ背後にいるらしいとわかるが、
ひろゆき達の位置から確認することは出来ない。
「平山、あの男誰だかわかるか・・・・?」
「いや・・・知らないな・・・」
緊迫した表情ではあるが、ユーモラスな顔つきの中年男である。
見たところ、両手に武器は持っていない。
もしもこの大男が背負っているスコップを武器としているのならば、
拳銃を持つアカギに勝ち目はある。
「後ろが気になるが・・・」
「見えないな・・・ここからじゃ・・・」
いくら手前の男が大柄とはいえ、
歩いている最中にすっかり全身が隠れてしまうほどなのだから
大男の後ろにいる人物は小柄だと言えるだろう。
「おい平山、足元を見てみろっ・・・!」
「え?」
「違う、あの男の足元だっ・・・」
自らの足元を見下ろす平山の頭をはたきながら、ひろゆきが示すのは
大男が歩くたびに足の間から見え隠れする、もうひとつの光点の正体である。
「あれは・・・女・・・?」
歩き方、細さ、靴――確信を持てはしないが、女である可能性は高そうだ。
大男は時折後ろを気にしながら、道路沿いを進んでくる。
落ち着いているのか、単に注意が不足しているだけなのか、
ゆったりとした足取りで、堂々と道路の真ん中を歩く姿は
息苦しいこの島ではなかなか見られないものだろう。
男は丁度草むらの、アカギが隠れているあたりで立ち止まる。
「気づかれたか・・・?」
ひろゆきが呟くとほぼ同時に、大男の背後から女性の細い声があがった。
「何っ・・・!?いや・・・いやっ・・・・こないでっ・・・!」
その叫びが辺りに反響する間に、
大男は覚悟を決めたか、スコップを構えて草むらに向かって吠えだした。
「出てこいっ・・・・!」
アカギは大男に従って素直に草むらか道路へと歩み寄る。
警戒のためなのか、拳銃を大男に向けながらも、
果たして撃つ気があるのかないのか、それは実銃ではなくモデルガンである。
当然、緊張感に包まれている相手側も、
アカギから距離を置いて観察しているひろゆき達にもそのことはわからない。
「やっぱり後ろは女か・・・」
先程の悲鳴を受けて、ひろゆきが呟く。
女、というとまず思い浮かぶのは田中沙織である。
彼女以外にも女性参加者が複数いるようならば、
いよいよ主催者の外道具合が浮き彫りになるな、とひろゆきは思った。
尤も、このようなゲームを開催している時点で参加者の性別など関係なく
十分に怒りの矛先になりうるのだが。
「しかし・・・大丈夫か・・・?」
「出会い頭なんて大体あんなもんさ・・・うまくいってる方だよ」
心配そうな表情の平山に、ひろゆきは自身の経験を照らし合わせながら答えた。
大男の注意は完全にアカギに引きつけられている。
周囲に他の人間がいる可能性など、考えもできない状況なのだろう。
ひろゆきと平山が小声で会話をしていても、こちらに気づく気配はない。
そのまま――アカギと大男が沈黙を保ったまま、しばらくの時が流れる。
拳銃を突きつけられている大男はともかくとして、
何故アカギはアクションを起こさないのだろうか。
大男がどのようにしてこの局面を切り抜けるのか、見定めようとでも言うのか。
膠着状態を打ち破ったのは大男の方であった。
「逃げろっ田中さんっ・・・・・!」
男は背後に向かって、搾り出すような声をあげる。
“田中”という言葉に、草むらで待機中のひろゆき達も反応する。
「まさか・・・田中沙織・・・?」
「これって・・・やばいんじゃないかっ・・・・・!」
田中沙織――彼女についての情報は、ひろゆきと平山で交換してあった。
二人の知る限りでは、沙織は少なくとも一人は殺している。
武器や支給品の類をカイジから奪い去り、棄権のために動いているはずだった。
彼女が既に棄権が不可能だと知っているのか、それとも知らないのか、
棄権不可と知った上で優勝狙いに切り替えている可能性もある。
この大男を上手く利用することで、効率よくのし上がっていくつもりなのかもしれない。
田中沙織は現段階で、危険人物とまでは言い切れなくとも、
準危険人物、要注意人物であることに間違いはない。
その田中沙織がもしこの場にいるのならば――
そして、アカギが沙織のことを知らないようであれば、事態がどう展開するのか想像がつかない。
「田中沙織・・・?」
「し・・・知り合いかっ・・・田中さんの・・・あんた・・・」
しかし、ひろゆき達の予想に反して、アカギは田中沙織を知っているようだった。
先刻黒沢が叫んだ“田中さん”というワードに反応し、
その正体が田中沙織であるかどうかを、大男に問うたのだ。
それに対する男の答えから、どうやら彼の後ろに隠れているのは沙織であるとわかる。
そして大男が述べる次の言葉は、ひろゆき達の予想に再び反するものであった。
「田中さんは今・・・まともに会話もできない・・・!
だが・・・あんたに危害は加えない・・・!オレも・・・田中さんもっ・・・・」
まともに会話できない――その言葉が何を意味するのか、
可能性があまりに多すぎて、特定しようがない。
順当なところで、深い怪我を負っているため喋れない、という状況だろうか。
相変わらず大男の影に隠れている沙織にやきもきしながら、
ひろゆき達は成り行きを見守っていた。
「オレは黒沢ってんだ・・・見知らぬ男から襲われたところを逃げてきた・・・!」
大男は“黒沢”と名乗ると、スコップを地面に投げ置いた。
敵意がないことの証明らしい。
その後、黒沢は沙織を“こんな状態”と称して状況を簡単に説明した。
やり取りのさなか、全く姿を見せない沙織に、
ひろゆきと平山は、暗い想像を巡らせる。
まともに会話できない状態とは、一体どのような姿を指すのだろう。
「カイジのことを考えれば・・・田中との接触は望むところだったはずなんだが・・・」
複雑な表情で溜息をつく平山に、ひろゆきも同意する。
「しかし・・・アカギも田中沙織のことを知っていたんだな・・・。
どの時点で面識を持ったのかによるが・・・場合によっては危ないな・・・」
ひろゆきと平山は、沙織がどのような行動をとってきたのか
その負の側面を一部ではあるが知っている。
だが、アカギがどの程度の情報を持っているのかは、まったく未知である。
こんなことならば、アカギとも精密に情報交換をしておけばよかったと、
当然のことながら二人は後悔していた。
二人の後悔と不安を余所に、
アカギは意外にもひろゆき達が求めるに近い言動をする。
「田中沙織、あんたを探しまわってる人間がいる」
直入に切り出すアカギ。
どうやら、アカギは沙織とカイジの関係を知っているらしい。
この発言が吉と出るか凶と出るかはわからないが、
少なくとも沙織にカイジの想いを伝える切欠にはなるはずだ。
おそらくカイジは今なお、沙織のために走り回っている。
平山は、最後にカイジと出会ったときのことを思い出しながら
どうか生きていてくれ、と心から願った。
「おい平山・・・様子がおかしいぞ・・・!」
ひろゆきの声に、平山は現実に引き戻される。
いつのまにやら黒沢はこちらに背を向けているが、
それに加えて位置取りが変わったおかげで、隠れて見えなかった沙織の姿が確認できる。
そう、その女性は間違いなく田中沙織であった。
酷い外傷は見受けられず、自身の足でしっかりと立っている。
しかし、そう見えたのも一瞬のことで、
次の瞬間には黒沢の手を振り払いながら尻餅をつき、震えて縮こまる沙織がいた。
視線はアカギの方向へ向いているが、焦点は定まらず、涙を流している。
明らかに、正常な人間の反応ではなかった。
「まさか・・・“まともに会話できない”ってのは・・・・」
薄々勘づき始める二人の耳に、決定的な言葉が聞こえてくる。
「カイジっ・・・とう・・かいじ・・・こないで・・・あっちいってっ・・・・!」
沙織の口から飛び出したのは、カイジという単語。
当然、ここから見える範囲にカイジなどいない。
それでも、まるでカイジが見えているかのように、彼女は震えていた。
「おかしくなっちまったのか・・・・?」
平山は唖然とした表情で沙織を見た。
もしかして、という可能性が確信に変わる。
沙織の精神はもはや均衡を失っているのだろう。
「それにしても・・・突然“カイジ”って・・・どういうことだ・・・?」
それまで静かに黒沢の背後に隠れていた沙織が、
アカギの一言を切欠に急変した。
“あんたを探しまわっている人がいる”という言葉がそんなにおそろしく思えたのだろうか。
そこからすぐにカイジという人物を結び付けられるものだろうか。
ピンとこない様子の平山に、ひろゆきは自分の見解を話す。
「もしかして・・・田中沙織は“声”でパニックを起こしてるんじゃないか・・・?」
「どういうことだ・・・?」
「似てないか・・・?アカギとカイジの“声”・・・!」
なるほど、本人たちの雰囲気や紡ぐ言葉が似つかないためわからなかったが、
“声”のみに注意して聞いてみると、確かに似ているかも知れない。
加えて、「探し回っている」という単語もポイントだったのだろう。
ひろゆきは、カイジと田中沙織の経緯を思い返し、
あのような別れ方をしたカイジと再会したくないのだ、と解釈した。
「田中さん大丈夫だぞっ・・・!襲ってきたりはしないから・・・大丈夫・・」
黒沢は必死に田中を宥めている。
銃をもつ相手に平気で背を向けるとは、
それでよくここまで生き抜いてこれたな、とひろゆきは感心する。
しかし、アカギへの警戒心よりも沙織へ保護欲が上回っているのだとすれば、
黒沢という男は沙織にとって最高のボディーガードだ。
沙織の、カイジと口論していた様子、そして赤松と涯に相対していた姿が脳裏に過ぎる。
生きるために敵意のない人間をも裏切り、そして無抵抗の人間にも攻撃を加える。
この状況で、自ら生還のために行動を起こせる女が、
か弱いただの庇護対象で済むはずなどない。
一連の行動全ては黒沢を騙し利用するための演技なのではないか。
そんな下賎な予測さえ思い浮かんでしまう。
しかし、先程からの沙織の言動は彼女にとってメリットがない。
すると、精神崩壊したことは事実である、と信じるしかないのか。
考え込むひろゆきの隣で、平山は表情を翳らせていた。
「あんな状態じゃ・・・もしも本物のカイジと再会でもした日には・・・」
カイジは沙織を探しているはずだ。
沙織を守るためのカイジの行動だが、裏目に出かねない。
心神喪失状態である沙織が、人を殺し続けているとは思えないことだけが
カイジにとっての救いになり得るかも知れない、と平山は思った。
黒沢は事態を理解出来ていないようで、棒立ちで佇んでいる。
またアカギも、平山と間違われるのならばまだしも、
似通わない人違いをされているとは思っていないだろう。
ここは、状況を把握した自分たちが間に入って話を落ち着かせるべきなのではないか。
そういった考えに至った平山は目配せをするが、
一方のひろゆきは険しい表情で首を横に振った。
自分たちが弁明すれば沙織や黒沢も納得するだろうと考えた平山に対し、
ひろゆきは真逆の可能性を危惧していた。
彼を足止めさせるのは、田中沙織と面識があるという事実である。
平山も、以前沙織と出会っている。
ひろゆきに至っては、沙織がカイジを置き去ったその場面に居合わせていたのだ。
カイジの虚像に怯えるほどにまで陥っている沙織の状況を考えれば、
顔見知りが二人も登場したとなった時、事態の悪化も有り得る。
出ようにも出られない。アカギを見守るしかない。
ひろゆきと平山は、仕方なく草むらで待機することを選んだ。
ちょうどその時、黒沢が突如唸り出す。
「カイジ君・・・カイジ・・・ぐうぅ・・・!」
肩を震わせ始めた黒沢に、ひろゆき達は面食らった。
涙声でアカギに振り向いた黒沢の顔は、想像に違わず涙まみれである。
体のどこにそんな大量の水分があるのだと問いたくなるほどに顔を濡らしている。
「今カイジって言ったよな・・・あの男まで誤解を・・・?」
黒沢の醜態に驚きつつも、ひろゆきは冷静に状況を分析する。
沙織とカイジは面識がある。
黒沢とカイジは――面識がないのだろう。
沙織がアカギを“カイジ”と呼んだため、黒沢もそう思い込んでしまったのだ。
しかし、カイジを全く知らない人間ならば、この反応はおかしい。
つまり黒沢は、カイジの名前のみを伝え聞いていたと考えられる。
それにしても、あの涙は何を意味するのか。
ひろゆきの疑問は黒沢の次の言葉で氷解した。
「渡さなければならないものがあるっ・・・!この・・・声を・・・!
美心の声を聞いてやってくれ・・・!どうかこの・・・メッセージをっ・・・・!」
黒沢はどこか満足気な表情でそう言うと、“カイジ”に何かを手渡した。
カイジにそれを渡すため、カイジを探していたのだろう。
顔も見知らぬはずの相手を探していた――
言葉の中にあった“美心”という人間に頼まれでもしたのか。
渡したかったものを、渡したかった人に手渡すことが出来る。
当然のようで、この島ではあまりに難しい。
渡した何かがよほど重要なものならば、黒沢が涙を流すのも理解できるだろう。
「カイジ君・・・美心はっ・・・オレの美心は天国にっ・・・・・!」
感情が昂ったか、次第に黒沢の声のトーンがあがっていく。
“カイジ”という単語があがる度に、沙織の顔色は悪くなり、体を抱えながら震え続けている。
黒沢という男、何かに夢中になると周りが見えなくなるタイプなのだろう。
アカギはどんな顔をして黒沢の話を聞いているのか。
こちらに背を向けた彼の表情はわからないが、
すっかり“カイジ”扱いされていることを肯定も否定もせず、
流れに身をまかせるつもりなのかも知れない。
黒沢の鼻をすする音だけがしばらく響いていた。
今度の沈黙を破ったのは、アカギの行動である。
アカギは黒沢を通り越し、沙織へと歩み寄りはじめたのだ。
「ばっ・・・バカ、あいつなんで近づいたりなんか・・・!」
歩き出したアカギを見て、平山は思わず身を乗り出した。
理由がわからないにせよ、沙織がアカギを怖がっていることは
当事者のアカギにだってわかるはずだ。
「首輪だ・・・!」
ひろゆきはしゃがみこんでいる田中沙織の手元を指さした。
沙織の手の中に光るもの、それは首輪。
それも大きな損傷のない、謂わば完全品と見受けられる。
どういった経緯で手にしているのかはわからないが、
ナップザックや衣服に隠すでもなくそれを持ち歩いている様子から
沙織にとってその首輪は何か意味があるのだろうということだけは推測できた。
利根川の遺体を切り落とそうとしてまで求めている首輪、
それを見とめたためにアカギは沙織に歩み寄ったのだろう。
平山も気付き、そして呆れたように溜息をついた。
アカギは黒沢に止められても尚、沙織に接近する。
「田中さん、あんた・・・」
挙句、沙織に声をかける始末である。
わざとやっているのだろうか、しかし沙織はその声に過剰に反応する。
「いやああっいやっ・・・!ごめんなさいっ・・・!ごめんなさい・・!許して・・・」
弾けるように立ち上がると、病院とは正反対の方向へ駆けだしてしまった。
黒沢も、沙織を追って走りだす。
「おいおいどうするんだよっ・・・!」
草陰から心配する平山達を余所に、アカギは黒沢と沙織の様子をただ見つめていた。
黒沢はそんなアカギに“石田”という人物についての言葉をかけて、森へ走り去っていく。
「・・・・なんだったんだ」
防犯ブザーの出番がなかったことに少し安堵しながらも、
平山は気抜けした調子で声をあげる。
「僅かだが情報は得られたし・・・接触は成功なんじゃないか・・・?
アカギが何の目的を持っていてそれを達成したのかどうかは計り知れないが・・・」
「まぁ・・・そうだな・・・結果的には・・・」
誰一人怪我をせずに事態が収束したのは大きい。
加えて、黒沢という男はゲームに乗ってはいないらしいことと
田中沙織の現状を確認できたのだから、今回の接触の成果はあったと言える。
沙織はカイジを恐れている――カイジにとって嬉しくはない情報だろうが、
それでも、保護してくれる人間と出会えていることは確かだ。
沙織があのような精神状態になっていたことは、
顔見知り程度のひろゆきや平山にとっても少なからずショックであった。
沙織を探しまわっているカイジともなれば、打ちのめされることは間違いない。
沙織については良い情報、悪い情報がイーブンといったところか。
小さくなっていく黒沢の影をいくらか見送ってから、
アカギは再び草むらに分け入り、ひろゆき達の元へと帰ってきた。
「おいアカギっ・・・!おまえ何を考えて」
一連の流れを見ていて溜まった不満を、平山はアカギにぶつけようとする。
しかしそれは、アカギの言葉に遮られてしまった。
「代わりに伝えておいてよ」
ラジカセを投げよこすアカギに、二人は狼狽する。
「伝えておいてって・・・カイジを探してこれを渡せってことか・・・?」
「アンタ、その探知機があるんだから適任だろ・・・。
ここから先は一人で動かせてもらう・・・!」
何が面白いのかアカギはクククと笑うと、
呆然とする二人を一瞥して再び草むらをかき分け道路へ向かい出す。
利根川絡みのこと、沙織絡みのこと。カイジに話しておきたい事項は多い。
いずれはカイジと合流したいと思っていたし、
ひろゆき、平山共に、機会があればカイジを捜索しようと考えていた。
しかしこのタイミング――
病院を前にした今は、この場にいる身内の安全確保が優先である。
一人で乗り込もうというアカギを引き止めるのが先決だ。
「病院は危険な場所だぞ・・・!この島のどこだって危険に決まっているが・・・・
僕たちと行動すれば探知機によって危険度を軽減できる・・・・!」
危険度など、アカギが気にしているとは思えない。
それを理解してはいるものの、今のひろゆきにはその程度のことしか言えなかった。
そしてやはり、アカギの返答はひろゆきが望んだものとはかけ離れていた。
「最後にカイジにあったのはE-2エリアだったかな・・・
第二回放送の前田から随分経つが・・・」
「カイジの捜索なら病院での用事が済んでからでもっ・・・!」
割合に引き際の悪いひろゆきを横目に、
平山は今になって再び、天の遺体のことを思い出していた。
アカギとカイジ、どちらをとるのかという状況。
目の前にいるアカギ、そして自分によくしてくれたカイジ。
選択は悩ましい。
けれど、そこにひろゆきが加わるとどうか。
病院に乗り込むということは、危険に飛び込むということ。
もしもそこで乱戦でも起きて、命を落とすことになったら――
そうでなくとも、例えば現在自分たちの命綱になっている探知機を奪われでもしたら
損害は計り知れない大きさになるだろう。
平山は結局どちらの側にもつけないまま、状況を見守るに留まっていた。
だが例え平山がひろゆきに加勢したとしても、結果は変わらないだろう。
「探知機の情報ならさっき見せてもらっただけで十分・・・・!
どうせ室内でそれは大して役に立たない・・・
敵の手に渡るリスクを負うくらいなら別行動だ・・・!」
アカギが尤もらしい理由を述べるが、それでもひろゆきは納得しなかった。
「だけどっ・・・」
「危険など・・・構わない・・・むしろ望むところさ・・・・!」
アカギは最後にそう残すと、草むらをすり抜けて道路へ出てしまう。
あまりのスピードに反応しきれず、結局置いてけぼりを食らう形で、
ひろゆき達は目的をカイジの捜索へと切り替えざるをえなくなった。
アカギと数時間行動を共にしてわかったのは、
この男を止めることなど出来はしないということだ。
【E-5/道路沿い/早朝】
【赤木しげる】
[状態]:健康
[道具]:ロープ3本 不明支給品0〜1(確認済み)支給品一式×3(市川、利根川の分) 浦部、有賀の首輪(爆発済み)対人用地雷 デリンジャーの弾(残り25発) ジャックのノミ モデルガン 手榴弾 ICレコーダー カイジからのメモ
[所持金]:700万円
[思考]:もう一つのギャンブルとして主催者を殺す 死体を捜して首輪を調べる 首輪をはずして主催者側に潜り込む
※主催者はD-4のホテルにいると狙いをつけています。
※2日目夕方にE-4にて平井銀二と再会する約束をしました。
※鷲巣巌を手札として入手。回数は有限で協力を得られる。(回数はアカギと鷲巣のみが知っています)
※鷲巣巌に100万分の貸し。
※首輪に関する情報(但しまだ推測の域を出ない)が書かれたメモをカイジから貰いました。
※参加者名簿を見たため、また、カイジから聞いた情報により、 帝愛関係者(危険人物)、また過去に帝愛の行ったゲームの参加者の顔と名前を把握しています。
※過去に主催者が開催したゲームを知る者、その参加者との接触を最優先に考えています。 接触後、情報を引き出せない様ならばギャンブルでの実力行使に出るつもりです。
※危険人物でも優秀な相手ならば、ギャンブルで勝利して味方につけようと考えています。
※カイジを、別行動をとる条件で味方にしました。
※和也に、しづかに仕掛けた罠を外したことがばれました。
※和也から殺害ターゲット宣言をされました。
【平山幸雄】
[状態]:左肩に銃創
[道具]:支給品一式 カイジからのメモ 防犯ブザー Eカードの耳用針具 Eカード用のリモコン 針具取り外し用工具 小型ラジカセ ロープ1本
[所持金]:1000万円
[思考]:カイジに会う 田中沙織を気にかける
※カイジからのメモで脱出の権利は嘘だと知りました。
※カイジに譲った参加者名簿、パンフレットの内容は一字一句違わず正確に記憶しています。ただし、平山の持っていた名簿には顔写真、トトカルチョの数字がありませんでした。
※平山が今までに出会った、顔と名前を一致させている人物(かつ生存者)
大敵>利根川、一条、兵藤和也 たぶん敵>平井銀二、原田克美、鷲巣巌 市川
味方>井川ひろゆき、伊藤開司 ?>田中沙織、赤木しげる 主催者>黒崎
(補足>首輪探知機は、死んでいる参加者の首輪の位置も表示しますが、爆発済みの首輪からは電波を受信できない為、表示しません。)
※和也から殺害ターゲット宣言をされました。
【井川ひろゆき】
[状態]:健康
[道具]:日本刀 首輪探知機 懐中電灯 村岡の誓約書 ニセアカギの名刺 アカギからのメモ 支給品一式×2 (地図のみ1枚)
[所持金]:1500万円
[思考]:この島からの脱出 カイジに会う 極力人は殺さない 赤木しげるとのギャンブル
※カイジからのメモで脱出の権利は嘘だと知りました。
※和也から殺害ターゲット宣言をされました。
--------------------------
以上で投下終了です。
誤字や改行などはウィキ収録の際に訂正します。
何かありましたらご指摘お願いします。
79 :
マロン名無しさん:2011/07/13(水) 00:02:02.02 ID:T+IWwXQJ
投下乙です。
良かった…誰も死ななかった(最近、退場者が連発していたので)
まさかここでハギーネタが出るとは思いませんでした。
確かにアカギとカイジの声はそっくり…というかほぼ同一人物ですね。
病院へ走っちゃったアカギ。
和也達でも勝てる気がしない…何なんだ、この頼もしさは。
迷走する黒沢・沙織コンビ。
どうなるんだろう。
録なことにはならないんだろうな…。
長編投下乙です。
声優ネタ(?)きたw
ひろゆきおコンビは頭脳派同士だけどぶつかり合うことなく互いの長所を活かし合ってて好きだ。
考察とかも微妙に別角度だから面白い。
アカギの持ち物にデリンジャーの弾しかないけど(前話でも)
利根川の持ち物は拾ってるからデリンジャー自体も持ってるんだよね?
>>80様
申し訳ございません。
それは前作『逆境の闘牌』で私がやってしまったミスです。
wikiでは修正します。
投下乙です。
黒沢さんの妄想が場違いなほどメルヘンでかわいいです。
このまま黒沢さんがヒーローでいてほしいなぁ。
久々に笑ったよ!
いやぁ面白かった
声ってのはアニメ見てないからわからんけど声優一緒なんだなぁ
イメージ湧かない…w
ところで定時放送はまだなんかな?
銀さん、原田、森田がまだ早朝時間帯にいるから放送はもうちょっと先っぽい
放送を先に投下してそれに合わせて到達してないキャラの話を
辻褄合わせながら投下するのも有りっていえば有りだけど
でも森田は定時放送までにやることいろいろあるし…
放送が近づいてきてることは確かだよね
放送到達記念でラジオとか投票とか、またやるのかな?
投下乙!
目の付け所がいいですね。確かに同じ声で「田中さん」呼ばれると、沙織からしたら怖いw
前編読みながら、「えぇー間違えるかなー?」と思っていたら、後編の解明編(声が似ていたから)というのが判明って感じで
凝っていて面白かった!
歪みねぇ黒沢さんと、黒沢の盛り上がりっぷりを見ても微動だにしないアカギ…wwwじわじわくるwww
>>84様
ラジオは絶対やります。
ゲスト様も数名候補がおります。
投票もできればやりたいと考えております。
ただ、書かなくてははいけないキャラがその3人のほかに黒崎もおまして…
正直、この4人はどうすればいいのか分からないというのが、私の今の状態です。
けど、最近投下を再開してくれたジャッサンなら…
何とかしてくれるはずっ…!
アイディアが欲しいです…。
あららワロタw
88 :
マロン名無しさん:2011/07/24(日) 11:48:09.24 ID:OyufeQZh
保守
来た…っ
予約っ!!!
商店街の端に位置する家屋の前で、原田克美は一人立っていた。
埃っぽい家屋から解放されて触れる外気は程よい冷たさで、
原田の中に残っていた僅かな眠気を取り払っていく。
軽く伸びをすると、背骨が鳴る。
平井銀二という男は只者ではない。
敵ではないと頭でわかっていても、どうしても体は緊張してしまうようだ。
原田は無意識にスーツの内ポケットへと手を伸ばした。
されど目当てには触れられない。
タバコもライターも主催側に取り上げられている。
空のポケットに指を入れるまで忘れていたその事実に、原田は苦笑いした。
先ほど「一服したい」という原田の申し出を快く受けいれた銀二は、
当然原田が服するタバコを持ち合わせていないことに気づいていたはずだ。
どんな顔をして屋内に戻ればいいのやら、眉根を寄せて考える。
* * *
ここに腰を落ち着けて数時間、原田は平井銀二と共に病院の見張りを続けてきた。
銀二の思惑を遂げるためには「病院」を、観察することが不可欠だという。
原田の立場上、銀二の行動に従うほかない。
また、原田自身の考えも銀二に従うべきなのだろうと着地していた。
見張りの中で、原田はこの島で殺し合いが起きているという事実を改めて知る。
深夜から早朝にかけて、病院付近では幾度かの交戦があった。
その全てを銀二はメモに記録し、また原田にもそのように促していた。
――AM1:00頃、病院内を移動する光あり。明かりのついた部屋がひとつ。
メモは、銀二が記したこの一文から始まる。
「病院」という響きから連想されるイメージは大きく分けて二通り。
まず一つ目は、“恐怖”である。
例えば、幼子が注射を嫌がるような。
あるいは心霊番組で取り上げられる廃病院に戦慄するような。
そして二つ目が、“希望”だ。
命を救う、命を繋ぐための施設なのだから必然であろう。
このゲームに参加させられた人間たちがどちらの印象を抱いているのかは知れない。
それでも、ゲームが進行するにつれて増える怪我人たちが
病院に救いと希望を求めて集うのは想像に難くない。
そしてそれを狙う狡猾な輩の存在も、おそらくはある。
この数時間の間に、病院内で参加者間の争いが起きたことは
原田自身 目の当たりにしている。
原田はあくまでそれらの傍観者であり、現場の惨状を詳細に知ることはできない。
それでも――ヤクザである原田でさえ経験したことのない喧騒が
病院を取り巻いていることは事実であった。
生と死が隣合わせであるとはよく言ったもので
原田にとって、まさしく今病院がその象徴のように思えてならない。
――AM1:30頃、病院前で爆破音。地雷か。立て続けに銃声。
二階を移動していた光が階下へ。
病院前一回目の交戦は最初のメモの一文から三十分後のことである。
この時、原田らが滞在する家屋には一人の訪問者がいた。
森田鉄雄、強運を持つ男。
銀二に代わって、病院の見張りは原田が務めていたが
爆破音や銃声は銀二、森田の耳にも届いたはずだ。
まさか爆薬の類が支給されているとは思いもよらずに若干の動揺を見せた原田に対し
二人は変わらず会話に集中していた。
なるほど、銀二が頼るだけのことはあるのか、と森田に感心しながら
原田はメモにペンを走らせ状況を記録したのだった。
それまで見張りをしていた銀二曰く、
病院では少なくとも三つのグループが動いていたらしい。
そのうち二つは同一勢力の可能性もあるというが、
なにせ深夜の出来事であったため、詳細はわからない。
地雷、銃声の交戦を受けて、二階をうろついていた光の主たちが階下へ移動。
彼らは危険な階下まで移動せずとも、二階から外の様子を伺うことが出来たはずだ。
わざわざ移動したということは、現場を直接確認する必要があったのではないか。
銀二はのちに、地雷と銃声を伴う交戦に仲間が巻き込まれ、
彼らはそれを助けるために二階から駆けつけたのではないかという推察をしている。
――AM1:40頃、人の出入りあり。依然明かりのついた部屋がひとつ。
爆破音の直後二階から一階へと移動した光がそのまま、このとき玄関付近でちらついていた。
周囲を気にしてか、何度か消灯と点灯を繰り返し、最後に消灯して辺りは静まった。
騒動の現場、そこには死体が転がっているのかもしれない。
相変わらず一階のとある一室は照明が点いたままであった。
病院前が静けさを取り戻そうという頃、森田は銀二との対話を終えて立ち上がった。
主催側と首輪の回収をかけてギャンブルしているという森田。
まさに先ほど首輪が落ちている可能性の上がった病院へ向かうのだろうか。
そう予想した原田だったが、銀二は思わぬ言葉を口にする。
「…原田さんがギャンブルで勝った相手に村岡という男がいる」
銀二は森田に村岡の存在を伝える。
言葉だけを見れば親切心で情報を与えたように思われるが、
その実、「村岡のいるE-2エリアへ行きなさい」と誘導しているかのような調子であった。
やり取りの中に、おそらく二人にしかわからない暗黙の了解が含まれているのだろう。
これから森田も銀二の下、共に動く仲間となるはずなのだから。
原田はそう考えながら、民家を後にする森田を見送った。
残った銀二に、原田は走り書きを渡す。
『病院周辺はゴタゴタしとる。迂闊には近づけん』
爆破音と銃声、当然銀二も事態を理解している。
原田の渡した紙をくしゃりと握りつぶしながら頷いた。
視線を病院に戻しながら、原田は森田についての印象を思い返していた。
切れ者、銀二と再会するだけの運の良さも持ち合わせている。
落ち着いていたし、頼りがいのある仲間になるだろう。
自然と口の端があがる。戦力が増えるのは大歓迎だ。
しかし、銀二は原田とは対照的に一抹の寂しさのようなものを漂わせる。
森田の去った方向を見つめながら、力強く言うのだった。
「森田はもう来ませんよ・・・私の前には・・・仲間としてはね」
『森田は仲間になりえなかった』――銀二の言葉は、原田の期待していたものとは正反対だ。
なぜ?と純粋な疑問が浮かぶ。
森田は銀二と気心の知れた関係だったはずだ。
それに加えて、原田もこのゲームで共闘するにあたり森田に好印象を抱いている。
何よりも森田が持っている可能性がある“ゲーム主催者と直接交渉窓口”は
原田の求めていたものだったのだから、森田を逃すのはあまりに惜しいのだ。
銀二から森田と袂を分かつ理由を説明されても、
蚊帳の外の原田からすれば到底納得できるものではない。
釈然としないまま、それでも銀二を問い詰めることもできずに原田は見張りを再開したのだった。
――AM2:00頃、玄関前で時折光が見える。何かの作業中か。
――AM3:00頃、ようやく玄関前から人影が消える。
森田が去ってからまもなく、玄関前で再び光が点灯する。
病院内から持ち出した懐中電灯だろう、あまりに無用心にその光は闇夜を照らしていた。
死体漁りでもしているのだろうか。
しばらく黙って様子を見ていたが原田だが、玄関前の人影は作業をしつづける。
遺品を持ち去るだけにしては、時間がかかりすぎであろう。
また地雷を埋めているのか?いや、もしかしたら死体を埋葬しようとしているのか?
時間をかけて何らかの作業を遂げた人影は、一時間後に玄関前から姿を消す。
首をかしげる原田に、部屋の隅で何やら作業をしていた銀二が声をかける。
「森田の来訪でろくに仮眠もとれなかったでしょう・・・」
見張りの交代の申し出であったが、原田はそれを断った。
行動に支障があるほどの強い眠気はもう去っている。
普段どおり動ける程度には、体の調子を保てていた。
仮眠などよりも、原田は銀二に問いたいことが積み重なってそればかり気になったのだ。
『いつまで見張りを続ける?』
カメラの死角を意識しながら、原田はメモに率直な疑問を綴り銀二にぶつけた。
民家に腰を落ち着けてからこの時点まで、2時間は経っていた。
銀二から告げられたのは行動方針の一部のみであり、
そしてそれは主催を打ち倒すための手段にしてはあまりに地道なものだった。
こうしてここで病院を見張り続けることで、いったい何がわかるというのか。
森田と三人で病院に乗り込めばよかったのではないか。
何故、あのように森田を病院から遠ざける言動をとったのか。
「しかし・・・森田が主催と契約を交わしていたとは思いませんでした。
彼の行動が吉と出るか凶と出るかわかりませんが・・・・」
「主催と対話できる可能性ってもんがわかっただけでも十分や」
カモフラージュのための会話を交わしながら、原田は銀二からメモの返答を受け取る。
『今まで理由も告げずに行動を縛ったことを謝罪する。
スキャンダルを掴むには病院の捜査は最重要。
そのために見張りは欠かせない。見張りの意味は確かにある。
まず第一に、私はマークされているため病院を調べる機会に限りがある。
来たるべきチャンスに備えて無駄な動きを控え、病院の近くで待機したい。
第二に、私はとある可能性を疑っている。
病院に目をつけているのが我らだけではない、という可能性を。
スキャンダルを知る者が他にいたらどうか。
その人物が、我らと同じ目的とは限らない。
スキャンダルの“証拠探し”ではなく“証拠潰し”を狙う連中がいるかもしれない。
聡明な貴方のこと、察しているだろうが
私はこの“証拠”を掴めさえすれば命をも厭わない。当然方法も厭わぬ。
巨悪と共に心中する覚悟がある。
そして原田さんはメッセンジャー・・・確実に生き延びてもらわなければ困る。
謂わば、貴方は生を誓った者・・・私は死を誓った者・・・!』
原田が痺れを切らしはじめていたことに気づいていたのだろう。
いつまで見張りを続けるのかと原田が問う前から、この文章は用意されていたようだ。
メモの一枚目には見張りの理由が書かれている。
主催にとって不自然に思われない位置から、病院に不自然な動きがないか見張る。
なるほど、銀二の立場からすれば意味があるともいえる。
原田にとって説得力に欠ける内容であることは事実だったが、
複数枚に及ぶメモに目を通すため、適当な会話と相槌で場を取り持つしかない。
「森田が頼りにならないとなると・・・人材探しも本腰を入れる必要がありますね・・・
赤木しげると伊藤開司、村岡隆とは再会の目処が立っている・・・。
私から推薦したいのは先程の通り宇海零という少年です・・・!
あとは・・・井川ひろゆきくん・・・でしたか」
「他にも主催を倒すために動いてる人間がいれば積極的に引き入れたいところやな」
原田が静かに一枚目のメモをずらす。
下から現れる二枚目のメモにはこれからの行動について書かれていた。
病院を見張り続けるだけでは埒があかないと考える原田には最も興味深い部分である。
『これから原田さんには島南を回ってきてほしい。
目につくものがないか、大まかで構わない。
G-4が禁止エリアになったことから、港の存在は確定的と見ている。
また、主催陣が港の詮索を危惧していることもほぼ確定的。
首輪が作動している限り港に入れなくなった今、
我々は秘密裏に港を探る必要はない。むしろ港を目眩ましに利用する。
私はその間別行動を取るが、一時間後再びこの民家に集合のこと。
電灯なしで室内が見渡せる時刻になってから病院に移動(日の出がAM5:30前後)。
主催は私や貴方のように“見込みのある人物”には易々と手を下せない事情がある。
そのため、あるラインまでは一種の安全圏。
一線を越えたその時に私の身に何が起きるかはわからない。
そしてその一線は我々の目には見えない。
慎重に慎重を重ねても不十分なほどのギャンブル。
しかしその一線を越えると決めた限りは引き下がれない。
こちらはギリギリまで悟られぬよう尽くすことで抵抗する。』
今までの銀二からの言葉に比べ具体的なそのメモの内容に、原田は思わず目を見張る。
『島南、港を探せ』というメモを受け取ったのは第二回の放送前だったか。
港の捜索はG-4が禁止エリアになったことで先延ばしになっていたのだ。
港を目眩ましに利用する、とはつまるところ
銀二の関心の先が病院ではなく港であるというアピールの実行を意味するのだろう。
表面上のためだけだった会話を、徐々にシフトしていく。
二人が別行動をとっても違和感がないように、
原田が港へ向かっても不自然にならぬように、足場を固める必要があるからだ。
「もう一つ・・・気になることがあるんですよ・・・!
我々がどうやってこの島に連れてこられたか・・・その手段・・・!」
「手段か・・・たぶん空か、海やろな・・・・」
「そうでしょうね・・・。
島の大きさや参加者の人数を考慮すると、海路が濃厚・・・!」
「参加者全員を乗せて来られるだけの大きさの船なら港が必要やな・・・
海岸線沿いを見てまわるか・・・?脱出の手がかりがあるかもしれん」
「フフ・・・そうですね・・・港探しは、同じように考える人間・・・
優勝狙いではなく脱出を見据えることが出来る人間と会う切欠になるでしょうし・・・」
「となれば・・・行動あるのみや」
「二手に分かれましょう・・・・原田さんは南下してください。
私は南東方向を回ってきます・・・
目ぼしいものが見つからずとも・・・日が昇る前に再びこの民家に戻ってきてください。
第三回放送が近いですし、長時間の単独行動は控えたい・・・。
この辺りは外灯もあり道も開けていますからくれぐれも周囲の気配に気をつけて・・・」
会話の合間、原田は三枚目のメモに目を通す。
『本来ならば、病院の捜査という命の危険を伴う行為は
ゲームに終止符を打てるタイミングで行いたかった。
例えば、カイジら対主催グループが十分に成熟した時。
主催陣がそちらに目をとられるだろう時。
私は対主催グループを隠れ蓑に使う心積もりだ。
先ほどまで私は、更に病院捜査のための準備を続け、
病院に突入するのはアカギやカイジと一旦合流した後を予定していた。
しかしその予定は変更。我々も森田の行動に合わせる。
森田のことだ、主催からの依頼は達成すると見込んでいる。
森田の狙いは第3回放送までに依頼を達成した場合の報酬、
進入禁止エリアの解除権と思われる。
この解除権が行使されるタイミング――
つまり主催と対主催陣営が大きく動くと予想されるタイミングこそが
我々が行動するにふさわしいチャンスとなる。
第3回放送がAM6:00、解除権の行使はAM7:00まで。
この時間帯が勝負。森田の強運に乗る形を取る。』
銀二がスキャンダルの裏付けを病院に求めていることは、既に原田も承知している。
その裏付け――証拠を掴むことが出来るのならば、命を投げ出す覚悟だということも。
証拠を掴むまでは、そうと主催に気取られてはならない。
掴んで以降も、折角の証拠を潰されてはたまらない。
となれば、対主催グループが主催を追い詰めている時分に
その裏でスキャンダルの証拠探しをするというのは理にかなっている。
証拠を掴む頃、対主催の人間が主催陣の喉元まで迫っていれば、
もしくは脱出の目処が立っているようならば尚の事都合がいい。
しかし、先刻の来訪者である森田がイレギュラーだった。
森田は既に主催とのギャンブルという段階にまで至っていたのだから。
彼は“仲間”ではないが、決して敵でない。銀二を邪魔するような動きはしない。
なるほど、と原田は納得する。
銀二は森田をも利用して、己の思惑を遂げようというのだ。
荷物をまとめながら、原田は紙を捲る。
四枚目、メモは最後だ。
『病院の捜査については、私に任せていただきたい。
どこまであなたに協力してもらうことになるか、現段階ではわからないが
少なくともスキャンダルを掴むまでは、あなたを危険には晒せない。
あなたを頼りにするのは証拠を手にしたあとのこと。
私が掴んだ証拠を告発まで持ち込むのがあなたの使命である。
容易いことではない。
あなたはこの島から確実に生還する必要がある。
殺しに乗って優勝狙いを頼むことになるかもしれない。
対主催が優勢ならば勝ち馬に乗らせてもらえ。
私とあなたが戦う相手は人間ではない。
人間を殺すのではない。巨悪を喰い破るのだ。
くれぐれも身の安全を第一に。あなたに死なれては困る。』
“あなたに死なれては困る”。
原田が日常的に聞いてきた言葉だった。
部下がそう言う度に、自分は死ぬような無茶をする男ではないのだ、
買いかぶるな、と複雑な心境になったものだった。
銀二の端正な文字が、原田の目に焼き付いた。
元よりむざむざ死ぬつもりなどなかったが、
生きなければならないという重さと意味が、原田の肩にのしかかる。
「それでは・・・一時間ほど別行動といきましょうか・・・」
「・・・せやな」
こうして二人は一度民家を後にしたのだった。
銀二と分かれ、原田は海岸線を目指した。
この周辺は外灯と月あかりのみで十分に行動できる。
それだけ原田の身も明るみに晒されることになるのだから
細心の注意をはらって移動する必要があった。
ルートは南西気味に取る。
民家からまっすぐに南下しては、進入禁止エリアのG-4に着いてしまう。
地図上にエリアの線引きがしてあったとしても
現実にそのラインが見えるわけではない。
どこまで近づくと危険なのか、首輪が爆発してからでは遅い。
「南東方向を目指す」という銀二の言葉を正面から受け取る訳にはいかないが
それならば、と原田はバッティングセンター側を回って海岸に近づくことにしたのだった。
程なくして、崖と海が見えた。周囲に人の気配はない。
職業柄立場柄、人の気配や殺気には敏感な原田である。
この島でも己の嗅覚を生かしていた。
ヤクザの頭を務めている原田は、常にある種の覚悟を持っている。
一般人の枠組みから外れている自覚はあった。
そして、何時誰から襲われることがあったとしても受容するだけの矜持があった。
立場に縛られる生き方を歩んできたのは事実だが、
その中で養ってきたものは確かであると、そう信じきることが出来た。
己の足元に数多の犠牲が転がっていることも、十分に理解していたのだ。
何故自身が選び出され、この島に連れてこられたのかはわからない。
帝愛、蔵前、在全の三グループが主催するギャンブル。
原田は今、そのカードの一枚として扱われているに過ぎない。
されど、これだけ大規模な企画である。
銀二の話では、兆を超える額が動くだろうというゲームだ。
原田はふと、自分が試されているような錯覚に陥る。
今まで生きてきた全てを持って、このゲームに挑まなければならないような錯覚に。
バトルロワイアルという仕組まれた舞台――潮流。
我々は突如大海に投げ出された無力な人間だ。
流される者、溺れゆく者、逆らい泳ぐ者、限られた救出ボートを狙って争う者。
全てを安全な客船から眺める傲慢な首謀者達。
その船を転覆せしめようという輩が出てくるのも当然のこと。
そして、銀二の行為は“海”そのものを支配しようというもの。
客船を沈めるだけでは足らぬ、ということだ。
原田は己の持ちあわせる渾身で、海を泳ぎきるつもりだ。
銀二の思惑を遂げるために。無論、自身のためにも。
叶うのだろうか。我々のなそうとしていることは、果たして叶うのか。
原田の目前に広がるのは、執拗に闇を抱えた暗い海である。
月明かりを反射しているものの、その正体は圧倒的な闇。
底が知れない深い深い海。
潮風がぶわりと吹いた。
背中を押そうとしているのか、それとも挑発してるのか。
原田は軽く頭を左右に振ると、海沿いを見渡した。
今は形だけだとしても、「港を探す」という目的を忘れてはならない。
海岸に視線を這わす。想像以上に夜は視界が悪い。
目を凝らすと、数百メートル先の地面がコンクリートであることがわかる。
桟橋らしきものも見受けられる。
ただし、その辺りは建物がいくつか建っており、見通しが悪い。
船が停泊しているかどうかまではわからなかった。
建物は、倉庫か何かなのかも知れない。
あの辺りが禁止エリアに設定されたG-4だろうか、と原田は考える。
もう少し近づいて確認したいところだったが、
銀二の「身の安全を第一に」という指針は守らなければならない。
時計の文字盤を確認する。
夜闇で見えない文字盤を、舌打ちをしながら月明かりに照らそうと動かした。
うまく照らせたと思っても、文字盤を覆うプラスチックに光が反射して見えない。
そうして幾らか一人格闘していた原田だったが、文字盤の横にあるボタンに気がついた。
ボタンを押すと、文字盤のバックライトが点灯する。
懐中電灯ほどの強さではないが、手元を照らすぐらいにならギリギリで使えるだろうか。
思わぬ発見を少し嬉しく思いながらも、頃合いだということで原田は海岸を後にした。
原田が民家に戻ると、銀二は既に待っていた。
これまでカメラの死角近くを定位置としていた銀二だったが、
どうやら今はそのつもりもないらしく、堂々と部屋の中心に鎮座していた。
こちらに背を向けているため、表情は窺えない。
「港らしきもの、あったで・・・!」
原田の報告に、ようやく銀二は振り向く。
そして、その姿を見た原田は、この一時間で一体何があったのか、
銀二に問い詰めたい衝動に駆られるのだった。
「私の方は少し痛手を負いましてね・・・大したことはないのですが」
銀二の顔には複数の擦り傷、スーツも汚れている。
何よりも驚くべきは、左腕の状態である。
「お・・おい・・・!それ折れてるんやないかっ・・・?!」
原田の素直な反応に、銀二は満足そうな視線を寄越す。
これも策の一部ということか。原田は末恐ろしい気持ちで銀二の回答を待った。
「何せこの夜闇、視界の悪さでしょう。足を滑らしたらそのままゴロゴロと」
体を揺らすジェスチャーを交えながら、銀二はややコミカルに語る。
意図的に腕の骨を折ったというのならば始末が悪い。
利き手でではない左を狙ったことは明らかである。
転落時に枝が刺さったのか、スーツ越しに血が滲んでいた。
「ゴロゴロって・・・どうにか処置せんと」
ため息混じりに告げた原田。その言葉に、銀二は眼光を鋭くする。
そして原田もようやく銀二の意図に勘づくのであった。
「・・・病院や。
そういえば・・・この島に病院があったやろ・・・!
止血と消毒・・・・・痛み止めの薬もあるかもしれん・・・!」
そう、銀二は病院に向かうための理由を自ら作り出したのである。
カメラの死角をついた筆談で思惑は伏せられる。
それでも、銀二が病院に向かえば、主催側が不信感を抱く可能性があった。
病院に向かっても不自然ではない状況作り。
怪我人ならば病院を目指しても何らおかしくはないのだ。
そして、その提案が原田から生まれたのならば尚更に真意が悟られにくいだろう。
「なるほど・・・尤もな意見ですね・・・!
しかし・・・・・少し休ませてもらえませんか。全身の打撲が辛くて敵わない」
銀二は緩慢な動作で窓際へ移動する。
見た目よりも怪我の具合は悪くないはずだ。
夜明けを迎えるまで病院の見張りを続け、
その後は原田の肩を借りるパフォーマンスでもしながら病院に向かおうという魂胆か。
まったく食えない男だ、と原田は苦笑いする。
見張りを再開して間もなく、病院付近で動きがあった。
――AM4:10頃、病院内を移動する光あり。二階へ向かう。
――AM4:30頃、光は二回を徘徊。何かを探している?
この何者かの行動を、銀二は「まずいかもしれない」と形容し、注視した。
病院内を探査しようという銀二の目的。
『病院でのスキャンダル』の裏づけを取ろうという行動。
病院内を移動するこの人物が、
銀二と同じように“証拠探し”をしようと徘徊しているのならばまだいい。
“証拠潰し”のために病院を嗅ぎまわっているのかもしれない。
それが恐ろしい、と銀二は原田に伝える。
懐中電灯のものか、その光は病院内を行き来しながら照らす。
よほど強力な武器を持ち合わせているのか、自信家なのか。
傍から見ると不用意にさえ映る様子だったが、
もしかするとこの人物は、病院内に敵がいないことを知っているのかもしれない。
銀二は目を細めて、病院を見つめ続けていた。
――AM4:40頃、光が一階へ移動。外が明るみ始めたので光の視認が難しくなる。
日の出が近づくにつれて、周囲が明るくなっていく。
おそらくカメラ越しでは銀二は眠っているように見えるだろう。
原田は時折地図を眺めてみたり、支給品の整理をしてみたりしながら、
銀二の手がメモの上を器用に滑るのを感心に思うのだった。
そして、病院で二回目の交戦が観測される。
――AM4:50頃、一階で爆破音。 一帯が破損。
窓ガラスが外にまで飛び散り、煙が空へのぼっていった。
拳銃という武器を持つ原田だったが、幾度も爆発が起きるような場所に赴いて
果たして無傷で済むのだろうかという不安が浮かぶ。
三時間半ほど前に聞いた爆破音とは違うように思えた。
規模は小さいものだったが、辺りの惨状を見るに爆発力は十分だと言えるだろう。
予定ならば、そろそろ病院へ向かおうかというところだが
病院内で争いが起きているとわかった今、どうするべきなのか。
爆破音から十分ほど経った頃、
銀二はメモを取り終えると時計を確認し、起き上がった。
「あぁ・・・おはようさん」
「相変わらず体の痛みが酷いですが・・・」
原田の挨拶に、銀二は頷きながら目配せをする。
先の爆発は無視できないが、森田の行動と時間を合わせるのならば、
銀二にも時間的余裕がないのが事実だった。
少し迷ってから、原田は銀二の視線に答えた。
「・・・時間が経ってもっと酷くなると困るやろ。
明るくなってきたしそろそろ病院に行くのはどうや・・・?」
「ええ・・・肩を貸してもらえますか・・・!」
今まで見張り続けてきたその場所に向かうのは、どこか不思議な感覚である。
浮ついた気持ちを落ち着けるために、原田は銀二に一つの申し出をしたのだった。
「その前に・・・一服してきてええか・・・?」
* * *
原田のスーツの内ポケットには、タバコの代わりにメモが入っている。
銀二との筆談の記録。そして、病院前を観察し続けた記録。
必要な時がきたら、処分するように。
銀二はそう告げながらメモの全てを原田に託した。
これから乗り込むという病院で、銀二は巨悪のために命を張ろうというのだ。
生き続けなければならない己が、その一切を見届けるのは
半ば使命のようなものなのかもしれない、と原田は思った。
「行くか」
紫煙のかわりに早朝の空気を肺に溜めると、原田は銀二の待つ家屋へと戻っていった。
【F-4/商店街家屋内/早朝】
【平井銀二】
[状態]:全身打撲 かすり傷 刺し傷(軽傷) 左腕骨折
[道具]:支給品一覧 不明支給品0〜1 支給品一式 病院のマスターキー
[所持金]:1300万
[思考]:病院を探索する 証拠を掴む 猛者とギャンブルで戦い、死ぬ 見所のある人物を探す カイジの言っていた女に興味を持つ
※2日目夕方にE-4にて赤木しげると再会する約束をしました。
※2日目夕方にE-4にいるので、カイジに来るようにと誘いました。
※『申告場所が禁止エリアなので棄権はできない』とカイジが書いたメモを持っています。
※原田が村岡に出した指令の内容、その回収方法を知っています
※この島で証拠を掴み、原田、安田、巽、船田を使って、三社を陥れようと考えています。※森田が主催と交わした契約を知りました。
* * *
原田のスーツの内ポケットには、タバコの代わりにメモが入っている。
銀二との筆談の記録。そして、病院前を観察し続けた記録。
必要な時がきたら、処分するように。
銀二はそう告げながらメモの全てを原田に託した。
これから乗り込むという病院で、銀二は巨悪のために命を張ろうというのだ。
生き続けなければならない己が、その一切を見届けるのは
半ば使命のようなものなのかもしれない、と原田は思った。
「行くか」
紫煙のかわりに早朝の空気を肺に溜めると、原田は銀二の待つ家屋へと戻っていった。
【F-4/商店街家屋内/早朝】
【平井銀二】
[状態]:全身打撲 かすり傷 刺し傷(軽傷) 左腕骨折
[道具]:支給品一覧 不明支給品0〜1 支給品一式 褌(半分に裂いてカイジの足の手当てに使いました) 病院のマスターキー
[所持金]:1300万
[思考]:病院を探索する 証拠を掴む 猛者とギャンブルで戦い、死ぬ 見所のある人物を探す カイジの言っていた女に興味を持つ
※2日目夕方にE-4にて赤木しげると再会する約束をしました。
※2日目夕方にE-4にいるので、カイジに来るようにと誘いました。
※『申告場所が禁止エリアなので棄権はできない』とカイジが書いたメモを持っています。
※原田が村岡に出した指令の内容、その回収方法を知っています
※この島で証拠を掴み、原田、安田、巽、船田を使って、三社を陥れようと考えています。※森田が主催と交わした契約を知りました。
【原田克美】
[状態]:
[道具]:拳銃 支給品一式
[所持金]:700万円
[思考]:銀二に従う もう一つのギャンブルとして主催者を殺す ギャンブルで手駒を集める 場合によって、どこかで主催と話し合い、手打ちにする
※首輪に似た拘束具が以前にも使われていたと考えています。
※主催者はD-4のホテルにいると狙いをつけています。
※2日目夕方にE-4にて赤木しげるに再会する約束をしました。カイジがそこに来るだろうと予測しています。
※村岡の誓約書を持つ限り、村岡には殺されることはありません。原田も村岡を殺すことはできません。
※村岡に「24時間以内にゲーム主催者と直接交渉窓口を作る」という指令を出しました。中間報告の場所と時間は次の書き手様にお任せします。
※村岡に出した三つ目の指令はメモに記されています。内容は次の書き手様にお任せします。成功した場合、原田はその時点で所持している武器を村岡に渡す契約になっています。
※『島南、港を探せ』『病院内を探索する』『黒幕は帝愛、在全、蔵前』『銀二はアカギや零とは違う形の対主催体制をとる』という内容の銀二のメモを持っています。
※森田が主催と交わした契約を知りました。
----------------------------------------
以上です。改行かえたら投下の数がズレてしまいました。
森田は回想での登場のようなものなので状態表を省略します。
誤字などはwikiで修正するので指摘お願いします。
矛盾点などありましたらお願いします。
自分で気付いた
>>90の12行目“空の”はないものとして読んでください
投下乙です。
銀さん達も病院に移動。第二次病院大戦勃発となるのかっ…。
ドキドキしました。
投下乙!
銀さんの体を張った策略がかっこいい…だが「ゴロゴロ」発言に思わず笑ってしまう…不意打ち…これは仕方ないっ…!
果たして病院に探しているものはあるのか?すごく楽しみです。
そろそろ第3放送の季節かな?
病院やばいな…
113 :
マロン名無しさん:2011/08/11(木) 00:02:31.15 ID:vqwmBehW
保守…っ!
114 :
マロン名無しさん:2011/08/19(金) 06:57:18.63 ID:QVQ04R+6
保守
少し遅くなってすみません
投下します
しづかは後悔していた。
これほどまでに明確な後悔ははじめてだった。
そして不安になった。ただ不安だった。
この気持ちを解決する術を、しづかは知らなかった。経験がなかった。
ただ今までの全てに後悔していた。
空が明るくなりはじめている。
それだけでしづかの気持ちは楽になる。
今まで夜に恐怖を抱いたことなどなかったのに。
この島の全てがおそろしくてたまらない。
振り返る。しづかの数メートル後ろに仲根がついて歩いていた。
黒沢と別れて以降、仲根は意気消沈していた。
190センチはあろうという巨体が、今では随分と小さく見える。
しづかは思わず唇を噛んだ。
でかい図体をして、情けない。本当に情けない。
戦える体をしておきながら、どうしてそれを生かさない。腹が立つ。
さっきの女も大概だ。泣けば守ってもらえると思いやがって。
大人だろ。ふざけんなよ。鬱陶しいから死んじまえ。
黒沢とかいう親父も、売女に惑わされやがって。
クソジジイとクソババアでお似合いだ。仲良く死ね。心中でもしちまえ。
頼りになると聞いて行ったのに、やっぱりダメじゃないか。
汚い。悔しい。あんなやつらを頼らざるをえなかった状況が悔しい。
何も思い通りにならない。悔しい。腹立たしい。苛々する。
「おい仲根!さっさと歩けよっ・・・!」
怒鳴りちらしても肩透かし。仲根の反応がない以上、虚しいだけだ。
しづかは大げさにため息を吐く。
絶えず湧く苛立ちを消費するには、足元の枝に当たるしかなかった。
もうあんな目に会いたくない。
辛うじて生き延びてきているものの、しづかの目前で何人もの人間が死んでいった。
次は自分かもしれない。生きているのが不思議な心地だった。
この島は悪人だらけの牢獄で、このゲームの参加者たちは例外なく私を狙っている。
この島の中にも、もしかしたら信用出来る人間がいて、助けてくれるかも知れない。
正反対の二つの思いが、しづかの中で拮抗していた。
神威勝広は死んだ。
板倉も死んだ。天も遠藤も、死んでいった。
「違う・・・死んだんじゃない・・・・!殺されたんだっ・・・・!」
しづかは拳を震わせる。
勝広は、しづかに一切手を出さなかった。
自身の復讐を遂げさえすれば、あとはしづかに協力してくれると言った。
この島に連れてこられたばかりで隙だらけのしづかを、
勝広はただ気遣い、守ってくれた。
板倉もそうだ。中学生を殺すなど、そうと決めれば簡単なこと。
それでも、いたわってくれた。
今思えば、天という男も同じ。庇い守ってくれた。
命をかけて、何の役にも立ちはしないちっぽけな子供を、守ったのだ。
遠藤にしても、思い返せば恨みようがない。
しづか達を殺すと告げておきながら窓の外から狙われているとわかったとき、
彼は「お前ら、逃げろ」と叫んだのだから。
死体は口を聞かない。
殺された男たちが、腹の底で何を考えていたかはわからない。
しかし、しづかにとって殺された彼らは望みでもあった。
死んだ人間は裏切らない。だから、きっと。きっと彼らは悪人ではないのだ。
しづかの都合のいいように理想を押しつけても、死体相手では裏切られようがない。
喉の奥がちくちくと痛む。
しづかは仲根から分けてもらった水を、一気に喉へ流し込んだ。
哀しい気持ちは湧きでるのに不思議と涙は出なかった。
泣きたいとも思わなかった。
一人で歩くのだ。強くなければ生きられないのだ。
泣いた瞬間に負けてしまいそうで、涙を流すわけにもいかないのだった。
殺されていった中には、しづかが信じさえすれば救えた人間もいる。
それに対する罪悪感を僅かに覚えながらも、それでもしづかは一貫して
信じて裏切られるくらいならば、裏切られる間もなく疑い尽くしたほうがマシだと思っていた。
死者へは半ば許しのような感情で、恨む気持ちさえ湧かないが、
彼らを殺していった人間は、明らかにしづかを裏切っていった人間は、確かに存在するのだ。
勝広を殺した青年も、板倉を殺し、しづかを辱めた一条も、しづかを騙した利根川も、
そして、板倉を裏切った上に遠藤を殺した佐原という男も、許すわけにはいかない。
同時に、その状況を招いた自分自身を戒めなければ、過ちを繰り返すばかりだろう。
死にたくない。それ故に、他人を信じない。頼らない。
けれども誰かに縋りたい。そして縋れない。信じてはいけないのだから。
しづかが死者たちに極めて希望的な想いを抱いているのは、
しづかが誰も信じないと決めたからこそである。
生身の人間に縋れないのならば、死者を信じる事で精神の均衡を保とうという本能だった。
「だいぶ明るくなってきたな・・・」
仲根は変わらず無言であるため、会話は成立しない。
しづかが歩みを速めれば、仲根もそれについてくる。
速度を緩めれば、仲根もそれに従うまでだった。
まるでロボットのようなその様子に、しづかは呆れさえ感じる。
夜が明けたとは言え、この島に来て、まだ一日も経たない。
時間の進みが遅く感じられた。
警察は今頃動いてくれているのだろうか。
しづかは一週間やそこら、酷いときは一ヶ月近く家に帰らないこともザラだった。
こうしてしづかがこの島に来ても、いつもどおり娘が一日帰らないだけ。
親が捜索願を出すとは思えない。
学校も同様。いつもどおり不良が登校してこないだけ。騒ぎになんてなりようがない。
助けて欲しい。こんなことなら、真面目にしてればよかった。
毎日学校に行って、毎晩家に帰ってればよかった。
こんな怪しい企画になんて、参加しなければよかった。
後悔を繰り返した分だけ、しづかに苛立ちが募った。
爆発しそうな感情を、鎮めておくことこそ強さなのだ。
辛く惨めな思いにさいなまれても、それが背負うには大きすぎるものだとしても、
投げ出しはしない、放り出しはしない、生き抜いてみせるのだと、
そう自分自身に言い聞かせることで、苛立たしい気持ちを抑えていた。
佐原から逃げてしばらくは、狙われにくいように木々の合間を走って移動した。
やがてしづかが落ち着きを取り戻し、仲根も冷静になったように思われたため
今、速度は軽く息が弾む程度までに落としている。
目的地はない。現在地もわからない。そもそも、しづかは地図がわからない。
嫌な思い出のある場所には近づきたくはなかったし、
身を守る何かが手に入るのならばそれが一番いい、という程度の考えである。
しづかは仲根に、何か当てになる場所や人間がいるかどうか、と尋ねたが
仲根は「兄さんしかいない」とだけ返してきた。
「冗談言うなバカ」というしづかの言葉を最後に、二人の間に会話はなかった。
ゆえに、この数分間当てどもなく歩き続けているのだ。
しづかも仲根も、先々のことまで考えられるほどに大人ではない。
こうして移動しているだけで、二人の精一杯であった。
仲根が人を殺しているという事実を、しづかは出来る限り無視していた。
黒沢と仲根のやり取り、そしてその後の仲根の様子を見ても、
彼の殺しは黒沢のために良かれと思ってやったこと。
当然人殺しが良いわけがないのだが、それでも仲根の苦痛は理解できる気がしたし
仲根を信じ頼り続けることができなくとも、避けようとは思えなかった。
苛立ちや肩透かしの虚しさはあれど、常に仲根への気遣いはあったのだ。
「このまま進めば・・・海に出るかな」
民家を逃げでてから道を曲がった記憶はない。
道無き道を選んできたため、直進し続けられているとも言い切れないが
頭の中で朧気に地図を思い浮かべると、そろそろ島の端につくように思われた。
海に出たからといって何があるわけでもないが、
この島が外の世界と繋がっているのだと目視して安寧を得たいという気持ちもあった。
「なぁ、仲根」
何気なく振り向く。
定期的に仲根――味方だと認識している人間を視界に捉えておきたい。
自分の信じること、信じかけているものが間違っていないと確認したいからかも知れない。
しかし、しづかの望みは裏切られる。そこに仲根の姿はなかった。
「おいっ・・・!仲根・・・?」
周囲への警戒などは吹き飛ぶ。しづかは取り乱しながら辺りを見回した。
仲根はどこへ行った?いつからいなくなった?置いていかれた?裏切られた?
「仲根っ・・・・!」
なりふり構わず、しづかは声を張る。
この瞬間に限っては、死の恐怖よりも仲根がいないことへの不安が上回っていた。
そのとき。木々の合間から仲根の頭髪が見える。
程なくして仲根は懐に何かをしまいながら、しづかの立っている場所へやってくる。
仲根が追いつくのを待たずして、思わずしづかは駆け寄った。
「おま・・・おまえどこに・・・!なんで!」
頬を引っぱたいてやろうか、と思う。
しかし、その考えは仲根の眼を見た途端に消えてなくなった。
どこかで見たことがある。その眼の光にしづかは後退りする。
「仲根・・・・」
「しづか、火あるか」
ずいぶん久しぶりに聞いたように思えた仲根の声に、安堵するよりも奇妙さを感じる。
発言の真意も掴めないまま、しづかは小さく答えた。
「ない・・・なんで」
目を合わせられない。何かが、何かおかしいのではないか。
「ここに来る途中に一件でかい家があった・・・・引き返すぞ・・・・!」
言うやいなや、仲根は踵を返す。
これまでただ しづかの後を付いて歩いていただけの仲根が、
何かをきっかけに主導権を握ろうとしていた。
「家なんてあったかよ・・・!それにっ・・・・なんだ・・・!
なんなんだよ突然っ・・・・!おまえ・・・私がどれだけ心配したと・・・・」
仲根は、ただ声を抑えるようにジェスチャーする。
それが、しづかの神経を逆なでした。拳が震えるのを抑えずにはいられなかった。
「仲根・・・!なんだよ・・・意味わかんねぇ!」
体格の大きい仲根の歩幅に合わせて進むだけで、しづかにとっては運動だった。
息があがっているのを悟られないようにすることで、弱さを隠す。
「仲根っなんか答えろよ・・・・!」
ドスをきかせたはずの声も、強がりにしか聞こえない。
仲根は、しづかにただ一言告げた。
「やっぱり兄さんだ・・・・!ああ言われて・・・それでわかった・・・・!
オレには兄さんしかいないんだ・・・・・!」
以降、何を聞いても返らない。
数分前と同じ静けさ。またしづかは苛立ちを募らせる。
数分前までと決定的に違うのは、主導権がしづかから仲根へと移ったことだろう。
黒沢という男を、仲根は異様に慕っている。
黒沢のために人殺しにまでなり、その決死の好意を踏みにじられてもなお、
敬慕の情は変わりないとでも言うのだろうか。
あんなにも消沈していた仲根が、こうまでも行動的になったのは何故か。
やはりいくら問いかけたところで、仲根は無言を貫いた。
「あ・・・ほんとに家が」
引き返して数分歩くと、仲根の言うとおりに民家――別荘が現れる。
しかし、屋内にいるところを佐原に狙われてからそう時間は経っていない。
しづかには大きな不安が残る。また狙撃されはしないだろうか。
同時に、「ここで休めたら」という期待も生まれた。
サイズの合わない靴を履いて移動するのには体力が奪われる。
佐原から逃れて緊張が緩みかけ始めると、身体面での不調が目立つようになった。
休める場所があるというのなら、願ってもない話だ。
仲根は先客の確認のためか家の周りを窺った。
玄関が一つ。裏口が一つ。大きな窓が二つ。カーテンもついている。
外から見えないようにできる。尚且つ脱出経路が複数ある。
万が一佐原が追いついてきても、逃げ切れるだろう。
きっと大丈夫だ。
しづかの心が、休息へと傾き始めた。
そして今の仲根に強く反論すると見放されるかも知れないという怖さを感じている。
仲根が正面玄関から扉を押しあけて入る後に、しづかは大人しくついて歩くしかなかった。
「台所を見てくる」
しづかを玄関に置いて、仲根は廊下を進んでいく。
一人玄関に残ったしづかは何ともなく下駄箱を開けた。
無意識に近い、意味もない行動だったが、しづかは思わぬ収穫を得る。
「あっ・・靴・・・これ23.5センチ・・・・・履けるかも・・・!」
棒のように感覚のない足をマッサージしながら、しづかは見つけた運動靴を試し履きする。
今度の靴は少し小さめだったが、それでも板倉のものと比べると俄然歩きやすい。
今まで借りていた板倉の靴は、悩んだ末に民家の玄関に置き去ることにした。
「ありがとな・・・・助かったよ」
しづかは板倉の靴に対してこれまでになく優しい声をかけると、仲根の待つ部屋へと移動した。
廊下には、おかしな臭いが漂っている。
覚えがある。この島に来てから、幾度と無く遭遇した臭いだ。
血。血なまぐさい。ちょっとやそっとではない。充満している。
廊下を進めば進むだけ、視界さえも赤く濁って見えてくるかのようだった。
どこかに死体が転がっているのだろう。
そう思うと背筋が凍る。
幸い、生きている人間が潜んでいる気配はない。
それでも、しづかは到底この民家で休養する気にはなれなかった。
仲根を見つけたら、即座にここを出たい。
「ライター・・・下駄箱の中にあったぞ」
開かれた扉を覗き込むと、その部屋に仲根はいた。
部屋は大窓があり、どうやらカーテンは仲根が引いたようだ。
埃っぽくはあるが血の臭いはなく、しづかは廊下から部屋に入ると扉を手早く閉めた。
「なぁどうして火なんか・・・・」
部屋の中央に置かれたテーブルに、仲根の支給品が乗せてある。
ライターをしまうため、しづかは何気なく仲根の荷物に手をかけた。
その時、ナップザックの中から、映画やドラマで見るような物々しいアイテムが垣間見える。
「お、おいっ・・・!これってダイナマイト・・・・?」
とすれば、火を探していた理由もわかる。
目を丸くするしづかに、隠すわけでもなく仲根は言う。
「さっき拾ったんだ・・・・」
「さっきって・・・・あ・・・あの時か」
突然に姿を消した仲根。彼が再び木々の影から現れた時、懐に何かを隠していた。
それが、このダイナマイトだったのだろう。
しかしなぜ、それ以降彼の言動が変わったのか。
変化のきっかけがダイナマイトを拾ったことだとすれば、仲根が考えているのは――。
「仲根・・・・おまえ・・・」
その時、しづかの小脇にあるノートパソコンから電子音が発せられる。
まるでしづかの推測が言葉になるのを遮るかのようなタイミングだ。
慌ててノートパソコンを開き、音声をミュートに設定する。
「パソコン・・・電源ついてたのかっ・・・・・!」
最小サイズになっているウィンドウを拡大すると、
そこにはマップのようなものが表示される。
ざっと眺めるだけで、しづかは理解した。
特段に機械に強いというわけでもない彼女だったが、やはり現代っ子である。
これは、参加者のデータだ。現在地や、その他ざまざまな情報が掲載されている。
デスクトップにデータ受信という名前のアイコンがあることから、
古い情報を新しい情報に更新することが出来るのだろう。
力のないしづかにとって、このパソコンはどんな武器よりもありがたかった。
仲根が画面を覗き込む。
少し警戒しながらも、しづかは二人で見れるようにパソコンを傾けた。
「参加者の情報だ。現在地とか・・・・わかるっぽい・・・
データ受信・・・・・してみるから」
受信アイコンをクリックと、受信状況を表すバーが出た。
データのダウンロードが始まったようである。
受信には時間がかかるらしい。
現在マップウィンドウに表示されているのは前回受信のデータなのだろう。
何十分、あるいは何時間前のデータなのかはわからなかったが
しづかと仲根の名前が同じエリアに表示されているところを見ると、そう古いものでもなさそうだ。
もう参加者の生き残りは20人前後しかいないのだと見て取れる。
しづかの隣で仲根が「まだこんなにいるのか」と呟いた。
真逆だった。しづかとは真逆の感想を、仲根は抱いていたのだ。
ホテルのホールに集められた参加者は、ひとクラス分以上の人数だったはずだ。
殺された人間の名前は放送で読み上げられる。
実際にしづかは目の前で人が死ぬのを見てもいる。
それらがしづかに与えた印象は、単純に死ぬことへの恐怖だった。
こうして整然とまとめられたデータを前に、彼女は改めて“殺される”のだと自覚する。
もう20人しか残っていないのだ。最後の1人へ、着々とゲームは進行している。
次に殺されるのは自分かもしれないという恐怖が体を這っていく。
同時に、仲根への違和感が湧き出る。やはりそうなのか?
“もう”のしづかが狩られる側だとしたら、“まだ”の仲根は……。
データ受信完了の文字が、しづかの思考を画面へ引き戻した。
しづかと仲根の名前がD-5エリアに表示されている。
そこで初めてしづかは、自分がD-5エリアにいるのだと知った。
紙の地図など読んだことがないしづかにとって、このノートパソコンの存在は大きい。
「ひろゆき」「平山」「一条」「鷲巣」。
画面を見渡して知っている名前を探す。
どうやら「利根川」は死んだらしい。「佐原」は近くにはいない。
「神威」「板倉」「天」、目の前で死んでいった人間の名前が嫌でも目に付く。
そして――。
「・・・仲根。ここを早く出よう」
D-5エリア、しづか達が今滞在しているこのエリアに「黒沢」の名前が表示されている。
共に並ぶ「田中沙織」はおそらく泣きわめいていた女だろう、としづかは推測する。
あいつらが同じエリア内にいる。
冗談じゃない。特にあの田中という女とは二度と会いたくなんかない。
仲根の返事を待つより先に、しづかは一層声を荒げた。
「おい仲根っ!ここを出るぞ!別のエリアに・・・」
「ああ・・・!そうする・・・・」
反論されるという考えから語気を強めていたしづかは、
仲根が存外あっさりと従ったことで肩透かしを食らう形となった。
仲根は黒沢という男を崇拝している。
一度ははぐれたものの、また再会する機会があるのならば縋るはずだ。
しづかはそう考えていた。
半ば期待はずれの仲根の返答に、しづかは戸惑いつつ確認をとる。
「・・・あの親父が同じエリアにいる」
「ああ」
「・・・・いいのか? 移動しても」
「まだ会えない・・・・!兄さんに認めてもらえなきゃ・・・
認めてもらえなくても・・・・・戻れないっ・・・・!終わらせなきゃ・・・!
だから最後だ・・・・!兄さんと会うのはオレの最後の・・・!」
己に言い聞かせるような調子の仲根。
仲根に対して湧く感情に、その感情自体に、しづかは戦慄する。
これまでの違和感が、繋ぎ合っていく。確信に変わる。
そうか、そうなんだ。
仲根は、味方じゃない。仲根は、逃げる側から抜け出している。
仲根は、私と同じではない。同じだと信じようものなら、間違いなく裏切られる。
私はまた同じ過ちを犯すところだったのか。
同級生だろうと、誰であっても……敵なのだ。
この男を、信じようなどと思ってはいなかったか?
しづかは、頭の中の熱がひくのを感じた。
冷静になる、を通り越して冷たくなっていく。
「・・・・仲根。
死ぬのは怖いよ・・・・私は死にたくない。死なない」
しづかは自分の荷物をたぐり寄せ、仲根と距離をとる。
仲根は、黒沢のために人を殺せる男だ。
黒沢としづかを天秤にかけた時、仲根にとって重いのは当然に黒沢なのだ。
黒沢のために人殺しになり、金を集めた。それは無駄だった。
棄権はできない。黒沢にも認めてもらえなかった。
それでも、仲根にとっての優先順位は依然黒沢がトップ。
そうとなれば、仲根が次に考えるのは棄権以外で黒沢を生還させる方法。
否、考えるまでもない。黒沢を優勝させればいい。
黒沢も仲根を認めざるをえない。
殺すのも、死ぬのも、全部、全部黒沢のため。
黒沢を優勝させるべく、殺し、死んでいく覚悟を持ってしまったのだ。
「おまえが今まで人を殺したことは・・・・気にしない・・・忘れる・・・・!
でも・・・・私は死にたくない・・・私は・・・」
ポケットの中で拳銃を握りしめた。
仲根がその気になれば、しづかに勝ち目はない。
ダイナマイトなんて使うまでもなく、殺されてしまう。
杞憂であってくれ、と心のどこかで声が聴こえる。
疑わなければ殺される、と頭の中がざわめきだす。
しづかの言動を、仲根はただ眺めていた。
二三度の瞬きの後に、ひとつ深呼吸をしてから、仲根が口を開く。
「殺さない・・・・」
「え・・・?」
しづかはふっと気を緩めそうになる。
考えすぎの勘違いだったのか。
しかし無常にも、仲根は言葉を続けた。
「お前はまだ・・・殺さない・・・・!」
息を飲む。しづかの目が、見開かれる。
まだ殺さない。いつか、殺される?
咄嗟に仲根と自分との距離を確認する。
仲根は、特に攻撃してくる素振りはない。
「察してる通り・・・・オレは・・・・・兄さんのために・・・・・」
仲根の顔はもう見れなかった。
ノートパソコンを乱暴に抱えると、しづかは仲根を突き飛ばすようにしてカーテンを開ける。
一刻も早くこの部屋から出る。玄関まで走る気力もない。
手をもつれさせながら窓を開け放すと、背後から声が聞こえる。
「でも・・・お前はまだ殺さない・・・まだ・・・・殺せない」
隙だらけのしづかの背中を襲わないということは、確かに今殺す気はないのだろう。
だからといって、もう一緒にはいられない。
仲根を信じてはいられない。頼ってはいられない。
まだ殺さない、という言葉だけを最後に信じて、また一人で行動することになる。
仲根の声に耳を塞ぎながら、しづかは民家を飛び出したのだった。
【D-5/別荘/早朝】
【仲根秀平】
[状態]:前頭部と顔面に殴打によるダメージ 鼻から少量の出血
[道具]:カッターナイフ バタフライナイフ ライフジャケット 森田からのメモ 支給品一式×2 ダイナマイト3本 ライター
[所持金]:4000万円
[思考]:黒沢を優勝させる
※森田からのメモには23時の時点での黒沢の状況と棄権が不可能であることが記されております。
【しづか】
[状態]:首元に切り傷(止血済み) 頭部、腹部に打撲 人間不信 神経衰弱 ホテルの従業員服着用(男性用)
[道具]:鎖鎌 ハサミ1本 ミネラルウォーター2本 カラーボール 通常支給品(食料のみ) アカギからのメモ コルトパイソン357マグナム(残り3発) ノートパソコン(データインストール済) CD−R(森田のフロッピーのデータ)
[所持金]:0円
[思考]:誰も信用しない ゲームの主催者に対して激怒 一条を殺す
※このゲームに集められたのは、犯罪者ばかりだと認識しています。それ故、誰も信用しないと決意しています。
※和也に対して恐怖心を抱いています。
※利根川から渡されたカラーボールは、まだディバックの脇の小ポケットに入っています。
※ひろゆきが剣術の使い手と勘違いしております。
※森田の持っていたフロッピーのバックアップを取ってあったので、情報を受信することができます。 データ受信に3〜5分ほどかかります。
----------------------------------------
以上で投下終了です。ありがとうございました。
投下乙!
仲根、いよいよマーダー化か…頭も腕っぷしも度胸もあるから、手強そうだ
冒頭のしづかの後悔、もっと普通にしときゃ良かったっていう感情に
齢相応の人間らしさが感じられて良かった。
投下乙です
ああ、マーダーと化したか…確かに手強いだろうな…
しづかも可哀そうだがギリギリだよな…
133 :
◆uBMOCQkEHY :2011/09/01(木) 00:05:36.53 ID:qrt/ouT5
お久しぶりです。
作品が完成しましたので投下します。
134 :
出猟1:2011/09/01(木) 00:09:51.23 ID:???
雷鳴のような銃声と同時に目の前で鮮血がはじけ飛ぶ。
鮮血は無機質な台所と佐原の半身を赤く染めた。
佐原はライフルを力なく下し、遠藤の亡骸を見下ろす。
遠藤の頭部は、スイカ割りでものの見事に砕かれたスイカの如く、果実のような肉片を辺りに散ばせていた。
遠藤の首輪がカランと音を立てて床に転がる。
「死んじまったんだよな…遠藤…」
本当に遠藤を殺害したのはオレなのか。
酩酊に近いまどろみが佐原の心に沁み込んでいく。
精神の安定をはかろうとする本能からなのか、佐原は呆然とその惨状を眺めながら、事実を持て余していた。
しかし、腕に残る痺れるような発砲の感覚と、鼻腔に絡みつく異臭が“これが現実なのだ”と佐原に訴えかけている。
「あ……」
佐原はぱらぱらと涙を落としていた。
一人の人間の命を奪った。
遠藤が積み上げてきた人生の積み木を考えもなく壊してしまった。
死ぬことに怯え、その恐怖に耐えきれず一線を越えてしまった。
覚悟を決めていたにもかかわらず、その現実を突き付けられた途端、罪の重みが佐原の心に圧し掛かる。
135 :
出猟2:2011/09/01(木) 00:11:20.07 ID:???
「遠藤……」
遠藤だけではない。
南郷の命も踏み台にして生を貪っている。
自分はそこまでして生き延びる価値がある人間なのだろうか。
「俺は……」
佐原は虚ろな表情で、ライフルの銃口を己の顎に押し付けた。
「頭……ふっとべば……楽になるかな……」
人間の頭部は、強固な頭蓋骨の中に柔らかい脳髄が詰まっている。
弾丸が人体に与えるダメージは弾丸重量と弾速によって決まる。
弾丸が脳髄に命中して運動エネルギーが人体に伝わると脳髄内での通過経路上に、瞬間空洞と呼ばれる空洞が生じる。
瞬間空洞が発生すると、外へ押し出そうとする力が働き、脳髄は瞬間的にギュッと圧縮される。
この圧力に耐えることができないために、結果的に頭蓋骨は破裂してしまう。
「愚か者か……」
遠藤に言われた言葉を失笑混じりに呟いた。
楽になりたい。
無気力な感情のままに、佐原はその引き金を引く。
ライフルの銃口が火を噴いた。
水飛沫のような血煙が再び、空気の中で舞い上がった。
136 :
出猟3:2011/09/01(木) 00:12:50.50 ID:???
「はぁ……はぁ……」
佐原は床に膝をついていた。
顔からは大量の汗がだらだらと滴り落ちている。
血飛沫は佐原の頭部からではなく、遠藤の脊髄からであった。
引き金を引く直前、佐原は銃口を遠藤に向け直し発砲したのだ。
佐原はわなわなと口を震わせ、自分自身に叱責する。
「何やっているんだっ!!俺はっ!!!!」
危うかった。
殺人を犯したという事実を受け入れることができず、まどろんだ感覚で誤魔化そうとしていた。
「くそっ!」
気が緩めば、死神に命を狩り取られる。
南郷の件で悟っていたにもかかわらず、佐原はその甘い誘いに乗りかけていた。
「これは俺の人生だっ!!誰かに取られてたまるものかっ!!!」
佐原は床を何度も悔し紛れに叩く。
それは怯えや無気力、絶望といった死神が好みそうな腐臭を叩きつぶしているかのようでもあった。
「俺は生きるんだっ!!!生きてやるんだっ!!!」
他人の命を奪って生きることの何が悪い。
弱肉強食。
自然の営みの中では至って当然の摂理ではないか。
遠藤達は力がなかったから、死んだのだ。淘汰されたのだ。
なぜ、獣に許されて人間には許されないのか。
しえん
138 :
出猟4:2011/09/01(木) 00:15:06.84 ID:???
「俺は戦えるっ!!!戦ってやるっ!!!」
間違いなく佐原の魂は“生”を求めていた。
それを掴み続けるためならば、幾多の屍を踏み越えていったって構わない。
否、踏み越えなければ、命は簡単に自分の手から離れてしまうだろう。
その覚悟を佐原は改めて己の心に言い聞かせた。
「絶対生き延びてやるっ!!!」
獲物に飛びかかる肉食獣の如き敏捷さで、佐原は遠藤を漁った。
トレンチコートの懐やズボンのポケットなど、至る所に手を突っ込み、自分の延命に繋がる可能性を探し続けた。
「これは……」
佐原は遠藤が握りしめていたディバックを開け、息を呑んだ。
4本のダイナマイトが入っていた。
「武器だ…」
佐原は黙ってダイナマイトを自分のディバックに移し替える。
民家内に点在する別のディバックも物色した。
他の支給品――拡声器などは直接的に役に立たたないものばかりだったので、あえて置いて行くことに決めた。
勿論、石田と遠藤の所持金である1800万円のチップは回収している。
「ほかには……」
佐原は遠藤の首輪に気付いた。
すでに板倉の首輪を持っているため、必要ない代物ではあるのだが、板倉の首輪が破損してしまった時に危険エリアを確かめる手段がなくなってしまう。
それに首輪は爆発機能を備えている。
何かの足しになるかもしれない。
そう考えた佐原は遠藤の首輪もディバックの中に突っ込んだ。
ディバックを閉じる直前、一気に増えたチップに目がとまる。
139 :
出猟5:2011/09/01(木) 00:16:43.83 ID:???
「あと……7200万円か……」
考えてみれば初めて会場に連れてこられた時、参加者の人数は40〜50人ぐらいであった。
このゲームの棄権費用は1億円。
ゲーム開始時、皆、1000万円のチップが手渡されている。
単純に計算すれば、1億円を集めて脱出できるのは4〜5人しかいない。
しかも、参加者によってはギャンブルルームで所持金を浪費している者もいるはずである。
時間が経てば経つほど、島全体の所持金の総額は少なくなってしまう。
黒崎は、棄権者は先着順であり、その席に限りがあることを示唆していたが、なるほど、その通りである。
「急がねぇとな……」
1億円を得るためには誰かを殺して奪わなければならない。
もし、殺害するなら、遠藤が逃がした4人の男女からであろう。
チップ回収の目的もあるが、下手に彼らによって噂が広まれば、佐原が不利な立場になるのは目に見えている。
「まずはアイツらを……狩るっ!!!」
残酷な決意を胸に秘め、佐原は民家を飛び出した。
しえん
141 :
出猟6:2011/09/01(木) 00:21:44.50 ID:???
【C-4/民家/早朝】
【佐原】
[状態]:首に注射針の痕
[道具]:レミントンM24(スコープ付き) 弾薬×19 ダイナマイト×4 懐中電灯 タオル 浴衣の帯 板倉の首輪 遠藤の首輪 支給品一式
[所持金]:2800万円
[思考]:自力で生還する ほかの参加者(特に黒沢・沙織・仲根・しづか)を狩る
※森田が主催者の手先ではないかと疑っています
※一条をマーダーと認識しました
※佐原の持つ板倉の首輪は死亡情報を送信しましたが、機能は失っていません
※黒崎から嘘の情報を得ました。他人に話しても問題はありません。
※遠藤の首輪は、大型火災によって電池内の水分が蒸発し、夜中3時頃に機能停止しました。しかし、佐原は気付いてはおりません。
こちらで以上です。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
投下乙
佐原、精神的には開き直れたように見える
チップ、ギャンブルルームでの消費がけっこうすごいから、一億集めるの難しいな。
でも沙織が一億持ってるのか
投下乙です。
「まずはアイツらを……狩るっ!!!」
黒沢さんと沙織、仲根としづか どちらから「狩る」つもりなんだろう?
そんなん書き手次第なんだから考えても無駄
まあそう言わず君も書いてみないか
147 :
マロン名無しさん:2011/09/11(日) 16:07:53.34 ID:AE8qcJ6h
保守
148 :
マロン名無しさん:2011/09/13(火) 07:53:29.94 ID:1h1M673Z
疑問。
繰返でしづかがノートパソコンの情報を更新しているけど、確かこれって1時間おきに自動受信じゃなかったっけ。
DLじゃなくて解凍かうpデ
了解した。それなら納得。サンクス。
151 :
マロン名無しさん:2011/09/17(土) 22:18:23.53 ID:XH54kg3q
152 :
マロン名無しさん:2011/09/26(月) 18:49:24.06 ID:fa+kLJlm
赤木さん命日保守
久々に一気読みしたよ
相変わらず濃いし面白い
超大作だね
応援してるので書き手さん頑張ってー!
154 :
マロン名無しさん:2011/10/11(火) 03:17:38.78 ID:Q0IoL/em
保守
155 :
マロン名無しさん:2011/10/20(木) 03:51:01.60 ID:gnrGiDK0
保守
156 :
◆uBMOCQkEHY :2011/10/22(土) 20:08:22.43 ID:Y8ukVaQL
お久しぶりです。
短いですが、一つ話ができましたので投下します。
157 :
帰参1:2011/10/22(土) 20:11:26.29 ID:???
「グォ…グォ…」
熊のようなイビキをかいて眠る和也を、村上は横目で見ながらため息をついた。
(もうすぐ一条様と利根川様が戻ってくるというのに…)
話は少し遡る。
村上が誤ってコーヒーを溢してしまい、淹れ直そうとコーヒーメーカーの準備を終えた時だった。
扉から顔を出した和也は村上に言い放ったのだ。
「俺、疲れたから仮眠するわ…あと、よろしく…」
「えっ…」
あと、よろしくって一体何を…。
言葉を把握しきれず、ギャンブルルームへ急いで戻ると、椅子をくっ付け、その上で丸くなって眠る和也の姿があった。
こうして、具体的な指示も与えられないまま、黒服として許される行動であろう屋外の監視を続けているのだ。
158 :
帰参2:2011/10/22(土) 20:12:25.00 ID:???
(普通なら丸投げじゃなくてこうして欲しいとか頼むのが筋なのに…)
今の村上は参加者の肩入れすることを黙認されている黒服。
多少のマニュアルの違反行為は許される。
ただ、許されているとは言っても当然、限度がある。
限度を越えれば、再び、黒崎から厳しい厳罰が言い渡されるのは明白だ。
どこまでが村上という黒服のボーダーラインなのか。
それを探すのはどこに埋まっているのか分からない地雷を避けながら歩くようなものである。
「利根川様、一条様、早く戻ってきてください……」
彼らが戻ってくれば、もう少し具体的に指示を出してもらえるかもしれない。
そんな淡い期待を持ちながら、村上は小窓からの監視を再開した。
159 :
帰参3:2011/10/22(土) 20:14:07.03 ID:???
(アイツも気の毒というか……馬鹿だよなぁ……)
和也はうとうとしながら、心中で村上を嘲笑っていた。
一条は鷲巣に殺害され、利根川はアカギ達に捕らわれたかもしくは殺された。
そうとも知らずに、忠犬のように主人を待つ村上が可笑しくしてしょうがないのだ。
無論、仮眠という選択を取ったのは今後、失った戦力を一人で補うためである。
未だに20人以上の参加者が存在している。
第2回放送が終わった時、名前を呼ばれた参加者は4人しかいなかった。
殺し合いに乗る人間が粗方共倒れしたという線も考えられるが、一番の理由は皆、疲れ始めているからであろう。
疲労困憊の参加者を殺すのは容易い。
しかし、自分も疲れていては意味がない。
仮眠は生気を回復させるための準備。
和也達が最後にギャンブルルーム使用料を支払ったのは第2回放送終了後、三人で3時間――1800万円支払っている。
支払ってから1時間経つ頃、一条と利根川はアカギ暗殺に駆り出されているので、残り1200万円は和也の使用料となっていた。
使用料タイムリミットは朝の7時頃。
(それまでは寝て過ごすとするか……)
今後のことは起きてから考えよう。
和也は大きなあくびを一つすると、夢の世界へと引き込まれていった。
160 :
帰参4:2011/10/22(土) 20:17:03.37 ID:Y8ukVaQL
「一条様…」
サーバーに貯まったコーヒーを眺めながら、村上は呟く。
コーヒーの準備は整った。
後は一条が戻るだけである。
しかし、一条も利根川も戻ってくる気配はない。
時計の針だけが黙々と時間を刻んでいく。
村上の中で一条の身に何かあったのではないのかという不安が過る。
しかし、ふてぶてしい程に眠りこける和也の様子から杞憂だと自分に言い聞かせる。
それが信頼ではなく、開き直りとも知らずに――。
「どうか戻ってきてください…」
村上が切実な願いを口にした時だった。
村上の目に映った人影。
長髪ながら清潔感を感じさせる整った髪、品格ある紺色のスーツ。ゴミ袋のような物を引きずりながらこちらへ向かっている。
それは紛れもなく――
「い…一条様っ!」
161 :
帰参5:2011/10/22(土) 20:19:57.09 ID:???
「何っ!あいつ、死んだんじゃないのかよっ!」
村上の喜びと驚きが入り交じった甲高い声に和也も思わず起き上がる。
「え…?今、何とおっしゃって…」
訴えかけるような村上の鋭い視線に、肝の太い和也も笑みを引きつらせてしまう。
「ほ…ほらっ…一条を迎えに行ってやれよっ!」
和也は話をすり替えるかのように村上の背中を押す。
釈然としないものを感じながらも村上は扉を開けた。
「一条様っ…!」
扉の先には一条が立っていた。
一条は淡い朝日を背に受け佇み、村上を見つめている。
逆光の影から浮かび上がる顔はその光に等しい、否、光以上に晴れやかに輝いていた。
「遅くなったな…村上…」
耳に馴染む凛と澄んだ声。
「い…一条様ぁ…」
歓喜の嗚咽が込み上がってくる。
しかし、それが声となる前に、村上は眉を痛々しげに寄せた。
遠目では気づかなかったが、一条の頬や肩などに、剃刀で切り付けられたような傷が沢山あるのだ。
そこからは血がうっすら滲んでいた。
「一体、その傷は…あっ!!」
村上は驚愕のあまり、声を張り上げる。
一条は村上の視線を察し、驚愕の元凶を持ち上げる。
「アカギは取り逃がしたが、その代わり、上等の獲物を捉えることが出来た…」
一条が引きずっていたのは鷲巣巌であった。
162 :
帰参6:2011/10/22(土) 20:21:59.64 ID:???
鷲巣巌は類いまれなる商才と剛運、華々しい実績と同時に血抜き麻雀愛好家という残虐性を持ち合わせた昭和のフィクサー。
怪奇小説の怪物のような性質に加えて、晩年は表舞台から遠退いていたことから、生きているかどうかさえ疑わしい、都市伝説を形にしたような人物であった。
「まさか…あの伝説の鷲巣巌を捉えてしまうとは…」
村上の口から感嘆のため息が漏れる。
村上の感嘆の理由はこれだけではない。
鷲巣は和也が仲間にしようと熱くアプローチしていた。
主君である和也の願望の一つをものの見事に叶えたのだ。
掛け値なしの手柄と言える。
「和也様、貴方が所望していた男です」
君主に戦利品を差し出す騎士のように恭しく鷲巣巌を和也に見せた。
「お…おぅ…流石だな…一条…」
和也の顔は未だ呆気に取られたまま、固まっている。
「和也様…?」
和也の様子に違和感を覚えた一条と村上が首を傾げる。
和也はハッと表情を取り戻した。
「ス…スゴすぎて、言葉、失っちまったぜっ!だってよぉ、この超怪物に、俺、殺されかかったんだぜっ!それを捕まえちまったんだっ!お前っ!マジ天才っ!っていうか、その傷も鷲巣にやられたもんだろっ?」
捲し立てるように一条を絶賛し、勢いのままに傷について尋ねた。
「その通りです…鷲巣巌が仕掛けた罠に引っかかって…」
と、ここで一条の言葉が切れた。
163 :
帰参7:2011/10/22(土) 20:25:32.64 ID:???
一条の手から鷲巣の体がスルリと抜け、地面に落ちる。
一条の顔が青白い。
貧血を起こしているようであった。
一条の体は重力に引っ張られるかのようにゆっくり崩れていく。
「一条様っ!」
村上は一条を支えようと駆け出そうとした。
「来るなっ!村上っ!」
周囲に轟く一条の怒声。
その剣幕に村上の足はギャンブルルームから出る前に止まってしまった。
一条はよろけながら何とか踏みとどまる。
「お前はここの管理者…お前はお前の勤めを果たせ…」
一条は“俺がそっちへ向かう…”と呟き、自身のディバックを漁り始めた。
「参加者はギャンブルルームを利用する時は…チップが必要だったよな…」
一条は冗談めいた声色で朗らかに語る。
「一条様…まだ、使用料の残金はあります…!払う必要はございません……!」
「えっ!俺の睡眠時間、減らす気か!!!」
和也は素っ頓狂な声をあげる。
さすがにこの言葉には村上もむっとする。
「だったら、ご自身のチップで延長すればいいではありませんかっ!!!」
「えー、ずっとイヤホンに集中して疲れてるんだぜ……」
「貴方の指示に振り回されてきた一条様の方がずっとお疲れなんですっ!!!」
ふてくされる和也に対して、なおも村上は食い下がる。
164 :
帰参8:2011/10/22(土) 20:27:10.87 ID:???
何時の間にこの二人はこんなに仲が良くなったのか。
一条は苦笑を浮かべながら和也に告げる。
「自分の使用料は自分で支払います……」
再び、一条はディバックの中に手を入れる。
その間にも、一条の顔は確実に血色を失っていく。
一晩中、休む間もなくアカギ追跡に奔走し続けた上に、立て続けに起こった鷲巣との戦闘。
疲労は確実に一条の身体を蝕んでいた。
チップを村上に手渡すのが先か、昏倒してしまうのが先か。
「一条様…」
近くにいながら、一条に手を差し出すことすらできない現状に、村上の内でもどかしさが燻っていく。
165 :
帰参9:2011/10/22(土) 20:28:52.29 ID:???
「ったく、しょうがねぇなぁ…」
和也は気だるそうに頭を掻くと自分のチップ2枚を無理矢理村上に握らせた。
「一条っ!お前の分のチップは肩替わりしてやったぞっ!」
周囲に人がいないことを軽く確認した和也は一条の腕を掴むと、ギャンブルルームへ引っ張り込み、村上に押し付けた。
「よしっ!村上っ!お前は一条を手当てして休ませろっ!あと、鷲巣は俺が何とかするっ!」
「は…はいっ!」
普段は物臭のくせに、ここぞという時は妙にカッコをつける。
そんな和也の調子のよさに呆れつつ、村上は一条に声をかけた。
「よくご無事で…」
「お前のコーヒーを飲むまでは死ねないからな…」
「ふふ…そうでしたね…」
村上は自分の肩に一条の腕をまわした。
「すぐに応急処置をします。コーヒーはその後で…」
「あぁ、任せた…村上」
安らかな笑みで一条は答える。
村上への全幅の信頼が滲み出ているようであった。
「かしこまりました…」
この信頼に応えたい。
肩にかかる重みに心地よさを感じながら、村上はゆっくり歩を進めたのであった。
支援
167 :
帰参10:2011/10/22(土) 20:30:28.35 ID:???
村上も一条も仲間のかけがえのなさを噛み締めていた。
それに対して煩わしさを感じていたのは和也である。
和也は地面に横たわる鷲巣を、怒気を含んだ眼光で睨み付けた。
(なんで、こいつを連れてきちまうかな…)
鷲巣を仲間にしたいと言ったのは嘘ルールを広めるための方便。
鷲巣は融通がきかない上に、仲間に加えればいつ寝首を掻いてくるのか分からない危険因子。
できれば、これ以上関わりたくない。
しかし、嘘ルールが怪しまれる可能性がある手前、それを口にすることもできず――
「あーぁ…どうすっかなぁ…こいつ…」
和也は困り果てた顔で疲れたような吐息をもらした。
168 :
帰参11:2011/10/22(土) 20:33:35.61 ID:???
【E-5/ギャンブルルーム内/早朝】
【兵藤和也】
[状態]:健康
[道具]:チェーンソー クラッカー九個(一つ使用済) 不明支給品0〜1個(確認済み) 通常支給品 双眼鏡 首輪2個(標、勝広)
[所持金]:800万円
[思考]:優勝して帝愛次期後継者の座を確実にする
死体から首輪を回収する
赤木しげる、井川ひろゆき、平山幸雄、市川、しづかを殺す
169 :
帰参12:2011/10/22(土) 20:43:21.28 ID:???
※伊藤開司、赤木しげる、鷲巣巌、平井銀二、天貴史、原田克美を猛者と認識しています。
※利根川、一条を部下にしました。部下とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※遠藤、村岡も、合流して部下にしたいと思っております。彼らは自分に逆らえないと判断しています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、その派閥全員を脱出させるという特例はハッタリですが、 そのハッタリを広め、部下を増やそうとしています。
※首輪回収の目的は、対主催者の首輪解除の材料を奪うことで、『特別ルール』の有益性を維持するためです。
※武器庫の中に何が入っているかは次の書き手さんにお任せします。
※利根川は殺されたか、拘束されたと考えております。
※アカギ、ひろゆき、平山、市川、しづかに対して、殺害宣言をしました。
(補足>首輪探知機がある、としづかが漏らした件ですが、それは和也しか盗聴していません。利根川と一条はその頃、病院に爆弾を仕掛けに行っていました。)
170 :
帰参13:2011/10/22(土) 20:44:49.17 ID:???
【一条】
[状態]:身体全体に切り傷(軽傷)
[道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ) 改造エアガン 毒付きタバコ(残り18本、毒はトリカブト) マッチ スタンガン 包帯 南京錠 通常支給品×6(食料は×5) 不明支給品0〜3(確認済み、武器ではない)
[所持金]:3600万円
[思考]:カイジ、遠藤、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
復讐の邪魔となる(と一条が判断した)者、和也の部下にならない者を殺す
復讐の為に利用できそうな人物は利用する
佐原を見つけ出し、カイジの情報を得る
和也を護り切り、『特別ルール』によって村上と共に生還する
利根川とともにアカギを追う、和也から支持を受ける
※利根川とともに、和也の部下になりました。和也とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、 その派閥全員を脱出させるという特別ルールが存在すると信じています。(『特別ルール』は和也の嘘です)
※通常支給品×5(食料のみ4)は、重いのでE-5ギャンブルルーム内に置いてあります。
171 :
帰参14:2011/10/22(土) 20:50:07.58 ID:???
【鷲巣巌】
[状態]:気絶 疲労、膝裏にゴム弾による打撲、右腕にヒビ、肋骨にヒビ、腹部に打撲 怪我はすべて手当済 背中、頭部強打
[道具]:不明支給品0〜1 通常支給品 防弾チョッキ 拳銃(銃口が曲がっている) 鋏(医療用) 松葉杖 革の手袋
[所持金]:500万円
[思考]:零、沢田を殺す
平井銀二に注目
アカギの指示で首輪を集める(やる気なし)
和也とは組みたくない、むしろ、殺したい 病院内を探索する。
※赤木しげるに、回数は有限で協力する。(回数はアカギと鷲巣のみが知っています)
※赤木しげるに100万分の借り。
※赤木しげると第二回放送の前に病院前で合流する約束をしました。
※鷲巣は、拳銃を発砲すれば暴発すると考えていますが、その結果は次の書き手さんにお任せします。
※主催者を把握しています。そのため、『特別ルール』を信じてしまっています。
172 :
◆uBMOCQkEHY :2011/10/22(土) 20:54:59.97 ID:Y8ukVaQL
こちらで以上です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
あと、一条と村上の名前が判明して良かったです。
(あくまで劇場版設定ですが…)
173 :
マロン名無しさん:2011/10/24(月) 17:31:00.06 ID:WZc0elhq
ナイス!!
疫病神のように扱われる鷲巣ww
鷲巣様 昭和の巨魁のはずなのにw
ワシズ時代を知ってると切ない…
まあそれは本家もだけどw
177 :
マロン名無しさん:2011/11/04(金) 02:03:53.52 ID:6NscPofh
保守
なんか…なぁ
過疎っちまったなぁ……
179 :
マロン名無しさん:2011/11/07(月) 18:25:15.63 ID:BZVU10d6
今、放送書いている人がいるから、過疎というよりは詰まっていると言った方がいいかも。
応援カキコ
応援します
応援します!!
183 :
マロン名無しさん:2011/11/28(月) 22:03:32.14 ID:1bdgYHMv
2日かけて、最初から全て見させていただきました・・・!
書き手様、陰ながら応援しています・・・!
ほ…保守!
最初から読んだけど、初回の零と涯がクソだね
生きるために銀さんにイカサマギャンブルで勝とうとした零。(銀さんを踏み台扱い…)
弱者は助からないからと安岡に止めをさしちゃった涯。(反省するのはかなり先の話…)
彼ら、よく成長したなぁ…。
初期というか過去スレを読み直すと、当時の予測と今の状況が大きく違っていて面白い。
(投票数はかなり低いのに、作中ではいいポディションに着いた沢田さん、投票で落選しまい残念がられた村上など…)
187 :
マロン名無しさん:2011/12/05(月) 09:27:42.95 ID:hPHfI/a0
ほす
188 :
◆uBMOCQkEHY :2011/12/05(月) 23:52:10.15 ID:/iRfn0Of
お久し振りです。
話を一つ完成したので投下します。
かなり短いですが、最後まで読んでくだされば幸いです。
189 :
暗涙1:2011/12/06(火) 00:02:51.73 ID:/iRfn0Of
「やっぱり…逃げちまったか……」
小さくなっていくしづかの背中を見つめたまま、仲根は力なく呟いた。
命に固執するしづかとは相容れないものは感じていたが、こんなにも早く関係が解消されるとは思っていなかった。
「まぁ、しょうがないか……」
仲根にとって重要なことは黒沢が生存できるかどうかである。
しづかがどうなろうとも、路傍の石程度の興味しか湧かない。
ここにたどり着いてから、しづかを殺害しようかという考えが何度かよぎってはいた。
しかし、これまでしづかはしづかなりに仲根を理解しようと努めていた。
足を引っ張る結果が多かったが、心の支えになってくれていたのも事実。
しづかを見逃したのはそれへの感謝である。
けれど、その感謝は今回だけ。
次はこうはいかない――。
「さてと……」
仲根はゆっくり腰をあげ、部屋の奥へと進んでいった。
この別荘に足を踏み入れた時から血臭を孕んだ空気が漂っていた。
血臭は奥へ行けば行くほどその濃度を増していく。
普通の人間からすれば、血の臭いは己の身の危うさを知らせる警告だ。
しかし、殺人を許容してしまった今の仲根にとって、血の臭いはどこか親和性を感じさせる何かに変化してしまっていた。
190 :
暗涙2:2011/12/06(火) 00:05:55.60 ID:???
「ここからだ……」
導かれるままに仲根は一番奥の部屋に辿りついた。
血臭の濃度は最高点に達している。
それに臆することなく、仲根は自分の部屋に入るかのように緩慢な動きでドアを開けた。
部屋の中は血臭にふさわしい惨状を呈していた。
パイプベッドと壁は血で赤く染まり、弾丸で撃ち抜かれたような焦げた孔がいくつもある。
奥のクローゼットは半開きであり、その周囲には様々な支給品と思われる代物が散乱している。
そして、ドアの裏側を覗きこむと、上半身にシーツを被せられた死体が横たわっていた。
「あぁ……」
仲根の口から上擦るような声が漏れる。
常人であれば、惨状の現場を発見してしまった故の戦慄声であるが、仲根のそれは違う。
「……武器があるっ!」
凶器を見つけた歓喜の吐息であった。
死体は幸いなことに、包丁を握っていた。
仲根の目標は黒沢と自分の棄権費用を稼ぎ、共に島から脱出することであった。
その過程で人を殺害してしまったことを黒沢に知られ、一時はその決意も揺らいでいた。
しかし、ダイナマイトを見つけた時、仲根の心に新たなる目標が生まれたのだ。
黒沢以外を殺害し、最後は自害する――黒沢を強制的に優勝させればいい――。
191 :
暗涙3:2011/12/06(火) 00:08:14.64 ID:???
確実に人を殺める武器を得ることが目標達成の第一歩。
この部屋にはその足掛かりを発見する可能性に満ち溢れていた。
仲根は屈みこみ、血で厚紙のような質感になってしまったシーツを捲る。
男の顔面はスプーンで潰されたイチゴのように中心部が陥没していた。
毛髪や胴部がなければ、仲根とてそれが人間であったと認識することは出来なかったであろう。
しかし、それを人間と認識する必要はない。
そもそも構う必要などない。
必要なのは武器だけなのだから――。
「こいつがあればっ……!」
新しい玩具を手に入れた子供のように、仲根は声を弾ませ、死体の手からそれを奪う。
新品らしく目立った刃毀れはない。
この一刀でどれだけの人間を片付けることができるのか。
仲根は新たなる戦略を描こうと胸を躍らせるも、その昂揚は一瞬で収まってしまった。
「だが、どうやって、持ち運ぶかだが……」
残念ながらこの包丁には鞘がない。
ディバックに無造作に突っ込めば刃先で破れる恐れがあるし、運が悪ければ背中に刺さる可能性さえある。
相手を刺殺したければ、持ち運びやすいサバイバルナイフで充分である。
仲根は包丁を諦め、床に置く。
192 :
暗涙3:2011/12/06(火) 00:12:09.79 ID:???
気を取り直し、今度はグレネードランチャーと木刀を拾いあげた。
グレネードランチャーは一見すると強力な兵器だが、ここで落ちていたものは弾丸がゴム弾であり、殺傷能力としては低いと言わざるを得ない。
木刀も然り。
刃物ではないので致命傷を与えることは難しい。
木刀で人を殺めようとすれば、急所を何度も狙った撲殺しか手段はない。
それでは効率が悪い。
けれど、集団戦などの可能性を考慮すれば、リーチが長い武器を一つぐらいは所持したい。
「これが日本刀だったらなぁ……」
叶わぬ願いと知りつつも、つい愚痴を漏らしてしまう。
「だが……まだ、武器はあるはずだ……」
仲根は死体のディバックとクローゼットに押し込まれた大量の支給品を物色し始めた。
今度こそは手ごろな武器が見つかるはず。
しかし、期待も空しく、ディバックの中からは一般支給品とチップ、クローゼットに至ってはハズレとしか思えない支給品しか出てこなかった。
「クソッ!!」
仲根は失望のあまり、唇を噛む。
死体のディバックはともかく、クローゼットの中の荷物は元を正せば、殺人鬼・有賀が戦闘に不要と判断して放置したもの。
仲根が欲する銃や刀剣、刃物といった典型的な凶器が見つかることはあり得なかった。
193 :
暗涙5:2011/12/06(火) 00:16:54.74 ID:???
「やっぱり、簡単に武器が見つかる……そんな都合のいい事、起こるわけねぇよな……」
クローゼットの不自然なほどの物量に、そんな予感は少なからず抱いていた。
それでも一つくらいなら“まともな”武器があるかもしれない。
陽炎のような僅かな可能性が、仲根を動かし続けてきた。
「しょうがないか……」
殺傷能力が低いとは言え、グレネードランチャーと木刀が手も入っただけでも良しとしよう。
そう気持ちを切り替えることにした。
「こっちには切り札がある……」
改めて仲根は自身のディバックをさすり3本のダイナマイトの存在と頼もしさを確かめる。
しかし、実を言えば、ダイナマイト自体にも、仲根は一抹の不安を覚えていた。
ダイナマイトは仲根が所持している武器の中でも段違いの広範囲かつ高い殺傷能力を誇っている。
問題はその機動性の遅さであった。
ダイナマイトは導線に点火して、筒の火薬に引火するまで、ある程度の時間を要する。
もし、相手が引火する前にダイナマイトの存在に気付き、逃げ出してしまえば意味がない。
そもそも引火以前のダイナマイトをディバックから出すという作業もかなりの時間のロスである。
これでは逃げられるどころか、その隙をついて襲われてしまうかもしれない。
この時間を短くすることが、ダイナマイトの課題であった。
194 :
暗涙6:2011/12/06(火) 00:22:51.25 ID:???
「どうすりゃあ……」
その時、足にコツンと何かが当たった。
それはコロコロとベッドの下へ転がっていく。
「今、何が当たったんだ……?」
ふいに興味が湧いてしまった仲根はベッドを持ちあげる。
ベッドはアルミのパイプで組まれた簡易的なものだったため、片手でも簡単に持ちあげることができた。
仲根はそれを手に取る。
「なんだ…ガムテープかよ……」
未使用のガムテープ。
おそらくクローゼット内のディバックの中から何かの拍子に飛び出てしまっていたのだろう。
「こんなの武器にすら……」
仲根は突如、身を強張らせた。
落雷にでもあったような閃きが起こったのだ。
仲根は慌ててディバックからダイナマイトを出す。
シャツの袖をまくりあげると、腕に直接、ダイナマイトをガムテープで張り付けたのだ。
これでディバックを肩から下ろすという作業を省くことができる。
普段は袖に隠しているので、相手もまさか仲根がダイナマイトを持っているとは思わない。
利根川が持っていたデリンジャーの仕込み方と同じ要領と言ってもよい。
仲根は3本のダイナマイトを両腕、左の脛に貼り付けて衣服で隠した。
その腕や足を大きく振り回す。
「よし、落ちないっ…!」
195 :
暗涙7:2011/12/06(火) 00:28:38.33 ID:???
布ガムテープは貼り付け箇所に水分があると、糊が水分に溶けて粘着力が弱くなるが、そうではない場合、成人男性でも剥がすのにかなりの力を有する。
振り回した程度ではまず外れることはない。
「ガムテープって頑丈なんだな……」
仲根がその粘着性に感心していた時、ふと視線が包丁を捉えた。
仲根はカッターとバタフライナイフを所持している。
保管をするのに不便な包丁までは持っていくことができない。
それであれば、リーチで優位な木刀の方がまだマシというものである。
せめてこの包丁が木刀ほどのリーチであれば――
「……そうだっ!」
仲根は包丁と木刀を掴んだ。
包丁の柄を木刀の小鎬と密着させると、ガムテープで柄と木刀を巻いてしまったのだ。
外れないように何重にも巻きつける。
木刀は切っ先から余分に刃が飛び出た奇妙な形――銛のような形となってしまった。
「これならば……」
仲根の胸に狂喜の熱さが渦巻く。
刀独特の流れるような優美な形状は失われてしまったが、代わりに更なるリーチと殺傷性を得ることができた。
かつて黒沢はヤンキーとの集団戦に備え、ホームレスたちにリーチが長い薙刀の訓練をさせていた。
これから多くの人間を殺していくのだ。
多かれ少なかれある程度の固まったグループの中に突入するのは目に見えている。
改造木刀は今、仲根が持てうる武器の中では最も集団戦に適した武器と言えた。
196 :
暗涙8:2011/12/06(火) 00:31:39.92 ID:???
仲根はパンと水を胃に流し込むと、ディバックを背負い込んだ。
結局、仲根が回収したのはグレネードランチャーと改造木刀と1000万円分のチップのみであった。
戦闘には役に立たないが、他の支給品も回収するべきかとは考えた。
しかし、機動性を重んじる仲根にとっては荷物以外の何物でもない。
同じ理由で浦部から奪った方の一般支給品もここに置いておくことにした。
仲根は外へ出た。
淀んだ空気から一転、澄んだ風が仲根の身体をすり抜けていく。
その風は蓄積した仲根の疲労を拭ってくれているようであった。
「兄さん……」
これから歩む道は確実に屍を積み重ねていくことになるだろう。
屠る人間は全て黒沢への供物なのだ。
黒沢が生き抜くための――。
仲根の中で、しこりに近い違和感を覚えた。
違和感の元凶をポケットから取り出す。
それは一枚のメモであった。
仲根はメモを広げる。
『黒沢は石田光司、治という参加者と一緒にC-4の民家にいる。
治が昏睡状態のため、よほどのことがない限り、
朝まで移動することはないと思われる。
急げば、合流できるかもしれない。
それと、棄権は不可能だ。
棄権申告はD-4のホテルで申し込むが、そこがすでに禁止エリアとなっているからだ。
この情報を黒沢たちにも伝えてくれ。
そして、人を殺す以外の方法で黒沢を助けるんだ。』
197 :
暗涙9:2011/12/06(火) 00:33:58.04 ID:???
――人を殺す以外の方法で黒沢を助けるんだ。
仲根の中で水を浴びせられたかのような冷めた感覚が広がっていく。
「グッ……」
耐えきれぬ嗚咽が漏れる。
もし、自分が人を殺さなければ、その方法も選択できたであろう。
しかし、殺人を犯した仲根を黒沢は拒絶した。
黒沢は自分を軽蔑しているだろう。
敵意さえ抱いているだろう。
もう黒沢と手を取り合って、共に歩む事などもう出来ないのだ。
仲根がどんなに黒沢に敬服の念を抱いていようとも、かつての冗談を言い合った、穏やかな日常に帰ることなどできないのだ。
黒沢が優勝し、島から脱出する。
それが今の仲根の癒しであり、救いであり、詫び――阿修羅道に墜ちた仲根の悲願なのだ。
「俺には…この方法しか残っていんだ…」
仲根は袖で涙を拭うと、メモを破り捨てた。
メモは風に吹き飛ばされ、朝日の中に消えていった。
198 :
暗涙10:2011/12/06(火) 00:36:09.10 ID:???
【D-5/別荘/早朝】
【仲根秀平】
[状態]:前頭部と顔面に殴打によるダメージ 鼻から少量の出血
[道具]:カッターナイフ バタフライナイフ ライフジャケット グレネードランチャー ゴム弾×8 改造木刀 ダイナマイト3本 ライター 支給品一式
[所持金]:5000万円
[思考]:黒沢を優勝させる
こちらで以上です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
もし、誤字や問題点など見つかりましたら、ご連絡お願い致します。
投下乙です
仲根が順調にマーダー化していってますね…
元々ケンカでもキレてるタイプだったし、殺人への抵抗感ももうないし、
体力、運動神経も抜群だし。やっかいな相手になりそう
乙です
202 :
マロン名無しさん:2011/12/07(水) 04:37:41.37 ID:v2OM5qvH
乙です・・・!
あ、最後から3行目の仲根の台詞ですが脱字?でしょうか
多分「な」が抜けてると思います
待ちわびてた
乙です!
皆様、感想ありがとうございます。
それと誤字のご連絡も大変助かりました。
Wikiで修正しました。
今回の話で私が書きたかった話は一通り終了しました。
それらの話を全て通してくださったこと、本当に感謝いたします。
現在、◆iL739YR/jk様が放送を書いてくださっております。
それが完成するまでしばしお待ちください。
205 :
マロン名無しさん:2011/12/18(日) 17:43:56.83 ID:ldsTC4t4
あげ… あげ…
206 :
マロン名無しさん:2011/12/23(金) 03:17:07.41 ID:nUH3r6zb
あげ…あげ…
207 :
マロン名無しさん:2012/01/01(日) 12:40:14.91 ID:bZW+tuNY
新年おめ!
支援
明けましておめでとうございます
これより第三回定時放送を投下します
AM 4:20
森田はひた走る。
今成すべきことは残された時間に対してあまりに多すぎる。
一つ、首輪を回収すること
一つ、権利を譲渡可能な人材と接触すること
一つ、南郷との待ち合わせ場所へ向かうこと
一つ、ギャンブルルームにたどり着くこと
残り時間はおよそ1時間半…流石に森田の顔にも焦りが浮かぶ……
その焦りはやがて顔だけでなく、全身へと回り……
「!?……うわぁぁ!!」
躓くっ…! 足元の段差に気づかず、派手に声を上げ、転がるっ…!
「(何をしている…こんなことで時間を無駄にしている場合じゃ……)」
立ち上がろうとするも軽く足をくじいたのか、うまく立ち上がれない…
「…そこのお前、何してる?」
不意にかけられた声に森田は慌てて振り返った。
AM 4:35
「放送まであと1時間半はあるな……」
落ち着きを取り戻したカイジに芽生えるのは、 やはり田中沙織の捜索を再開したいという気持ちであった。
零の助言は確かに助けとなった。
冷静にまとめ上げた情報はこれからどう動くにせよ、必ず役に立つはずだ。
「カイジさん、この情報を見てどう思ったのか…だいたい察しはつきます。それでも、今慌てて飛び出すことは避けるべきです! せめて…せめて放送は落ち着いて、ここで聞いていってください…お願いします…」
頭を下げ、頼み込む零の姿にカイジは迷う……
田中沙織の捜索は急務…だが……
「俺もそう思うぞ…イトウカイジ…!」
カイジと零は小屋の入り口を見合う。
そこにいたのは、涯と沢田に連れられてやって来た森田鉄雄だった。
AM5:15
「なるほど…主催、帝愛とのギャンブルってわけか……」
森田は、主催との契約内容、今は壊れたフロッピー、村岡の死体等、これまでの自分の行動を簡単に説明した。
無論、銀二との筆談内容は伏せているが……
契約書を見ながら、それを聞いたカイジは己れの経験を振り返り、しみじみと森田に向けて呟いた。
「ああ、もう時間もない。そこでだ…頼みがある。宇海零…!」
「…首輪の提供と、エリア解除権の譲渡……ですね?」
「流石に聡明だな。話が早くて助かる…」
森田の幸運は、声を上げて躓いたおかげでカイジと零に接触出来たこと、そして、両者を比較することが出来たこと。
「(カイジ…お前は優しい人間だ。田中沙織の捜索を熱望しているくらいに……だが、そうである以上、俺はお前に解除権は託せない)」
実際に両者を目の前にし、その資質…比較しようがないほど秀逸…!
銀さんが目をつけるのも無理がない……!
だが、強いていうならば…零を選ぶ。
今のカイジでは、打倒主催よりも、田中沙織との再会を優先させる可能性を拭い去れない…!
「それで…首輪はいくつ必要なんだ?」
涯は厳しい口調、鋭い眼差しで森田に問いかける…事と次第によってはただでは済まさないとでもいわんばかりに。
「涯くん…心配いらない。首輪はあと一つで十分だ。赤松の墓を荒らすようなことは決してしない…!」
森田とてその理由を察することの出来ぬほど愚鈍ではない。
優しく語りかけるように返答し、再び零と向き合う。
「俺の申し出…受けてくれるか、宇海零くん?」
森田の言葉を聞き、真剣な面持ちで何か考えていた零の顔が一瞬曇る…何か良くないことに気づいたかのように……
「……分かりました。森田さんが契約達成した場合、『解除権を譲り受けます』!」
しかし、表情一変。そう言うと、零は首輪を取り出し、森田に手渡す。
「森田さん…すみません…俺、こんなことしか出来ません…それでも…本当に…」
「大丈夫だ…ありがとう…零くん!」
本当はもう少しここで話していきたい。
だが、森田には時間がない……
そして……森田は悩むも信じる。
僅かな時間しか話していないが、目の前の彼らを…!
「これは俺がフロッピーの情報を…覚えきれずに書けるだけ書いたメモだ…何かの参考にしてくれっ…!」
手帳を床に置き、そう言うと、森田は立ち上がる。
「騒がせて悪かった。首輪は大切に使わせてもらう…それと、カイジ…!」
森田は真剣な眼差しでカイジを見つめる。
「お前が田中さんに会いたい気持ちはよく分かる…分かるが…それでも、割り切れ! 彼女を見捨てる、というのではなく … 一刻も早く…主催を倒すことが、田中沙織を救うことに繋がると割り切れ…! 俺はそうしている……」
「森田……」
カイジと森田…どこか似通った二人の間に緊張が走る…
「世話になった…じゃあ、運が良ければ…また会おう!」
軽く挫いていた足の痛みも気にせず、慌てて飛び出す森田。
「後は頼んだぜ……」
小屋を振り返り、森田はそう呟いた。
AM 5:55 G-5 ホテル前
「(…時間がない。あと5分……)」
南郷との約束の時間はすでに1時間近く遅れている。
道中、何もトラブルに巻き込まれなかったのは流石森田の強運というべきか。
「(足の痛みなんか気にしてられるか…今は、早くG-6のギャンブルルームへ!)」
AM 5:59 G-6 ギャンブルルーム前
「(南郷…いないか…)」
ひたすらに駆けてきた森田。
ゴールに待つべき仲間はいない…それが何を意味するのか……
今はそれに思いを馳せるべきではない…心の中で南郷に詫びながらも…森田はギャンブルルームに駆け込む。
「使用料は…」
「ほらよ、1人分だ!」
森田は乱雑に、黒服にチップを渡す。それを黒服が丁寧に確認する時間さえもどかしい。
「確かに…入れ」
開かれた扉…駆け込んだ森田は開口一番に宣言する!
「首輪は集め終わった。契約達成だ!」
AM 6:00
第三回定時放送が鳴り響く。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…参加者の諸君、黒崎だ…これより第三回定時放送を行う。
例のごとく、今回も復唱はしない……よく聞いてくれたまえ…
ではまず、前回から今回の放送までの間に敗れ去った敗者の名を発表する。
『天貴史』、『石田光司』、『村岡隆』、『治』、『利根川幸雄』、『市川』、『南郷』、『遠藤勇次』
以上8名。再びペースが上がってきたこと、非常に結構だ……
勝つためには、弱者を切り捨てるしかないということを、皆、良く分かってきたようだな。
その調子で隙あらばどんどん勝利することだ…健闘を祈る…
続いて、禁止エリアを発表する。
重要事項であるため、聞き逃さないように願いたい……
『E-2』、『C-5』
……以上の2箇所だ。
最後に…諸君、前回の放送を覚えているだろうか?
このゲームに不満を感じ、抵抗を試みようとしている一部の参加者には“それ相応”の報いがあるという話を…?
この放送が最終警告だ…そろそろ真剣に現状を見直すことをお勧めする。
……では、以上で放送を終了する。 引き続き、諸君の健闘を祈る」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
AM 6:02
「さて、森田くん。契約の確認といこうか…」
放送を終えた黒崎は即座にモニタと音声を切り替え、森田と対話し始める。
「ああ…約束通り、『第三放送終了前』までに、俺は首輪を揃えてギャンブルルームにやってきた…その辺の時刻は、そちらの方がしっかり把握出来てるだろ?」
「確かに…到着時刻は契約に反していない…が、肝心の首輪の個数は……?」
森田はバックから取り出した首輪をテーブルの上に並べる。
「死体から回収した首輪が3個…そして……」
ゆっくりと…それでいて力強く…森田は己れの首を指差す。
「森田鉄雄の首輪が1個…これで首輪6個カウント達成…契約成立だっ……!」
ざわ…
ざわざわ……
予想はしていた…
しかし、森田の胸はざわめく……
己れの首輪を主催に明け渡す…その意味はすなわち……
「…よかろう。森田鉄雄、契約達成だ」
黒崎のこの一言に森田はほっと一息つくも、まだざわめきは止まらない。
「権利の譲渡の件は…?」
「先ほど宇海零との会話音声を確認した。権利の譲渡も問題ない…森田…ご苦労様……そして……さようなら…!」
AM 6:02 E-3 民家
放送を聞き、皆、それぞれ思うところがある……
中でも、零が気になるのは一点…
「(放送で呼ばれなかった…森田さんの名前が……)」
詰まるところ、零は森田が自分の首輪を主催に明け渡すつもりだと見抜いていた。
他のメンバーは契約書の存在に気を取られ、そこまで気が回っていなかった、もしくはカイジのように他のことに気が向いていたか……
とにかく、森田が契約達成した場合に、その命が失われるであろう可能性にたどり着いていたのは、あの時点では零だけであった。
森田が零に解除権を譲渡したのは、その辺の聡明さも見抜いてのことであろうが……
「(森田さんが死んでいない…これは契約が達成されていないと見るべきなのか…それとも……?)」
零は考え、そして口を開く。
「皆さん…俺は…森田さんが契約を達成し、エリア解除権が俺に『譲渡』されたものとして、これから動きます…!」
AM 6:03 G-6 ギャンブルルーム
「…俺は、生きてるのか?」
首輪に手を触れ、まだ自分の元に残っていることを森田は確認する。
「勘違いしてもらっては困るよ、森田くん。我々はそう簡単に参加者に死んでもらっては困るのさ……」
黒崎は嫌な笑みを浮かべながら、森田に話しかける。
「私は『これまでの君』にさようなら…と言ったに過ぎない…君の首輪は我々が『回収』した。君は為すべきことをしてほしい…我々の望む…為すべきことをね……」
「…そういうことか。外道が…! 俺が素直に従うとでも…?」
「君に拒否権はない…放送を聞いていなかったのか…?」
『抵抗を試みようとしている一部の参加者には“それ相応”の報いがある』
『この放送が最終警告だ…』
『真剣に現状を見直すことをお勧めする』
「我々が『回収』した首輪をいつ、どのタイミングで『処分』するかなど、こちらの自由だ…生き残るには他の参加者を始末し、優勝する以外ありえない……どうだね、『現状を見直すことをお勧めする』よ…森田くん…?」
以上で投下終了です
題名は「第三回定時放送 〜契約〜」です
乙です
役者が揃ってきましたね
森田が手駒に、鍵は零に…
今後の展開がわくわくです
ジョーカー対主催って今まであったっけ
221 :
マロン名無しさん:2012/01/03(火) 08:48:16.16 ID:fA3J8zIu
明けましておめでとうございます!
新年からドキドキさせてもらいました!
ホテルか灯台か…零たちがどこを解除するのか楽しみです。
222 :
◆uBMOCQkEHY :2012/01/04(水) 17:52:47.46 ID:i77GrRod
投下乙です!
森田の零へ解除権譲歩という英断、森田を駒にした黒崎がどう動くか楽しみです。
今の黒崎はかなりのドヤ顔ですが、そんな貴方に会長の影が忍び寄っていますよと伝えたい…。
とうとう福本バトロワ、放送を突破することができました。
ただの一書き手の私が言うのも、おこがましいですが、
書き手の皆様、読み手の皆様、本当にありがとうございました。
かなり前から予定していた、人気投票と福本ロワラジオを開催したいと思うのですが、皆様どうでしょうか。
いつがいいなど、ご意見頂けると幸いです。
あと、1月6日、2chパロロワ辞典@Wikiのパロロワ毒吐き別館のパロロワ企画交流雑談所・毒吐きスレ7にて、福本ロワ語りが開催されます。
お時間がある方は是非、参加してください。
223 :
マロン名無しさん:2012/01/15(日) 16:06:27.08 ID:GUdXL2vl
ほす
224 :
マロン名無しさん:2012/01/19(木) 00:48:02.09 ID:PUnNX9N4
あげ・・・あげ・・・
ゆとり
はげ
227 :
マロン名無しさん:2012/02/07(火) 19:03:28.30 ID:rCcDS7sW
age
228 :
マロン名無しさん:2012/02/07(火) 21:03:40.77 ID:hIs6d2tg
つまらん
保守
230 :
マロン名無しさん:2012/02/24(金) 20:30:39.11 ID:1ozTjDw9
保守
久しぶりに投下します。
「最後にカイジにあったのはE-2エリアだったかな…。
第二回放送の前だから随分経つが…」
アカギが別れ際に残した情報。
平山、ひろゆきの二人はそれを頼りに西へと歩を進めた。
途中、第三回放送の時刻が迫っているのに気づいたひろゆきの提案で、
二人はE-4、商店街の西側に位置する店の中で、一度腰を落ち着けることにした。
ぼんやりとけぶる薄闇の中、商店街入り口に設置されたスピーカーから、ショパンの円舞曲が流れ始める。
二人は口をかたく結んだまま、放送に聞き入っていた。
………ではまず、前回から今回の放送までの間に敗れ去った敗者の名を発表する………
ひろゆきは平山の方へ目を向けた。平山はじっと目をつぶって放送に集中している。
………『利根川幸雄』、『市川』………
最後に参加者を挑発する言葉を投げかけ、放送は終わった。
ひろゆきは、今までに聞いた一回目、二回目の放送と比べ若干の違和感を覚えた。
『優勝を目指し努力していただきたい』と、余裕を以って見下ろすような物言いだったのに対し
今回の放送では、『隙あらばどんどん勝利することだ…』と、急かすような言い方であったのが気になった。
主催者側が…黒崎が、僅かに焦っているような。『隙あらば』というのは、つまり…早い者勝ちだと言いたいのだろうか?
カイジから『脱出の権利は嘘だ』と知らされている。
…もし本当に『嘘』なら、主催者の意図はどこにあるのか。
気分の悪い話だが、参加者同士が戦い続け、生存者がいなくなるまでの過程を眺めて『じっくり』愉しむのが、
このゲームの主催者の趣旨なのではないか?とひろゆきは想像していた。
禁止エリアがこの島を覆い尽くすまで。
しかしそれが目的ならば、参加者を焦らせる必要はない。
(つまり…棄権はやはり可能であり、だが用意されている席はほんの数名とか…。
もしくは、このゲームにはもっと別の意図がある…。
あるいは、主催者側で予期せぬ『何か』が起こっている…)
「なあ、平山…」
主催者への考えについて平山の意見を聞こうと、ひろゆきは顔を上げた。平山はまだ目をつぶっている。
「疲れているのか…?」
「いや…黙祷していただけだ」
「黙祷…」
「ああ…。これから先、自分が手にかけた人間を振り返る余裕なんざ…ないだろうからな。
…お前こそ、大丈夫か?」
「フフ…麻雀勝負の時は二日くらい寝ないこともザラさ。そうだろ…?」
「…違いない」
身体に広がる倦怠感を忘れようとして強がってみせると、平山は僅かに口元を綻ばせた。
首輪探知機の範囲は100メートルに設定してある。
バッテリーを持たせようと、探知機をつけるのは5分ごと、平山と確認し、すぐに消す。
ひろゆきは、やや神経質に時計を確認しながら、先ほどの考察を筆談で平山に伝える。
「…ところで、カイジと会った後はどうする?」
主催者の考察をしようにも判断材料が少な過ぎると伝えてから、平山は話題を変える。
主催者の事情よりも、今はひろゆきの心情のほうが気になる。
市川との麻雀。そこで念願の『アカギとの勝負』……とはいかず。
有意義な戦いであったものの、ひろゆきの求める勝負とは別物であることくらい、平山にも分かっていた。
「ゲームと戦う、と言っていたが…本当のところアンタの一番やりたいことは…」
「ああ、そうだな…アカギと会った今も、俺の気持ちは…。
もう一度…次こそは『アカギと真剣勝負する』。それが果たされるまでは死ねないってのが本音…」
平山が呆れた顔をすると、ひろゆきは自嘲交じりの笑みを浮かべる。
「俺がしつこいのは昔からでね。市川の勝負だけじゃあ…」
「まあ、そうだろうと思っていた。それなら、俺はその時までアンタに付き合うさ。
大した武器も持ってないが、単独行動よりはましだと思う…アンタにはずいぶん助けられたし…」
「平山…」
「それ以降のことは…その時になったら考える。
本当は、市川の時のように勝負にも加勢する…と言いたいところだが、足手まといになるからな」
平山は、声に若干の悔しさを滲ませた。
「いや、そんなことはないが…」
「気にするな。命を懸けるような勝負をするんなら、俺は邪魔だ。
それに…俺はやっぱり、死ぬのが怖い。
生きるために向かう勝負ならまだしも、死線を潜るための賭博なんざもうこりごりだ」
「…アンタって、つくづく不思議だな。アカギの名で代打ちやってたんだろ…?」
「名声、金のためさ。俺からすりゃアカギやアンタのほうが意味不明だ。アンタらのほうがおかしい」
平山はやれやれと頭を振った。
隠れ家にしている店の、勝手口の磨りガラスから漏れてくる光を眺める。
荷物を纏め直しながら、ひろゆきは平山に声をかける。
「さて…外も明るくなってきたな…」
「ああ」
「日が高くなると、人目につきやすい。まだ薄暗いうちに移動しようか」
「そうだな、でも…」
「でも…?」
平山が言い淀むのを、ひろゆきは怪訝そうな顔で見る。
「夜はそれだけで沈んだ気分になるが、朝日が昇ると、少しだが…気持ちも明るくなるな。そう思わないか…?」
…この島に来て、初めての夜明けだ。
ゲームの滑り出しは最悪だったが、色々な試練に遭遇し、乗り越え、平山は生まれ直したような気分だった。
プライドを捨てて己の弱さを見つめ、落胆もした。だが、それでもなお自分なりに前に進もう、と心に決めた。
し
◆
「だから、いい加減寝てくださいっ…!」
「だから、大丈夫だって言ってるだろ…!」
E-3、民家。
第三回定時放送を聞いた後、零は、唯一仮眠を取っていない沢田に何度も同じ主張を繰り返していた。
「おっさんだからって甘く見るんじゃねえ」
「いや、おじさんだからっていうわけでは…」
生真面目に狼狽する零に、沢田は苦笑しながら言葉を続ける。
「ったく、ヤクザ舐めるなよ…?身体張る商売なんだ、だから身体が一番の取り柄だよ」
「沢田さん…」
零がなおも続けようとするのを手を挙げてやんわりと制し、沢田は家の中を見渡す。
南側の見える玄関にはカイジが、北側の見える勝手口には涯が、今はそれぞれ見張りについている。
日が高くなってきたので、外には出ず、扉越しに窓から外を見張っている。
カイジは見張りを交代すると言った時、沢田を睨みつけながらこう言った。
「アンタの気持ちは分かる、けどっ…一発殴らせろ…!」
沢田はただ、黙って頷いた。カイジは舌打ちし、沢田の鳩尾に拳を押し付けてから玄関へと歩いて行った。
数分前。第三回放送を聞き終え、森田が生きていたこと、権利を譲渡されたものと認識した零は、
ます先ほどカイジとともに作った表を整理した。
死亡者は8名、『天貴史』、『石田光司』、『村岡隆』、『治』、『利根川幸雄』、『市川』、『南郷』、『遠藤勇次』。
死亡者の名前は表から消し、決して多くは話せなかったが森田の話や、森田の手帳も参考に書き直す。
「田中沙織にとって敵か否か」の表(―は仲間、=は元からの知り合い)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・信用できると判断した人物、10名(確実な人物は☆印)
☆零―☆涯―☆沢田―☆カイジ、銀二―原田―☆アカギ=☆平山―☆ひろゆき、☆森田
・安全とは言い切れない人物、2名。
佐原、黒沢。(森田の手帳から、佐原はゲームに乗っている、黒沢はゲームに乗っていないと予測)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・危険思想を持っていそうな、またはゲームに乗っていそうな人物、3名(4名)
鷲巣、一条―和也(帝愛)、“金髪の男”仲根。(森田の手帳より、涯と仲根の行動から分かった事実)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・現在スタンス不明な人物、1名。
しづか(女性。森田の手帳より、ゲーム序盤の行動から、ゲームに乗っている可能性が否定できない。)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
これで、沙織の敵に回る可能性のある人物は、多くとも17人中7人。
決して少ないとは言えない状況だが、今後の情報次第で、もしかしたら3人は除外出来るかもしれない。
「この手帳…森田さんのフロッピーには膨大な情報が入ってたんだな…」
手帳にはびっしりと、ゲームが始まってから真夜中までの各参加者の情報が並んでいる。
それは一時間ごとに数行ずつ散文的な説明が並んでいるだけであるが、そこから読みとれる参加者の行動がその人となりを物語っている。
「さすがに何度か読まないと覚えきれないな…」
零は言いながら、ふと自分がどこかゲームの進行…人の死に対して冷静になりつつあることに気づく。
先ほど、放送を聴いた直後にカイジが呟いた言葉を思い出す。
『人が死んだってのに…敵が減っても、喜んでいいのか悲しむべきなのか分からねぇ…。
田中さんや森田が生きているのはいいけど、石田さんとか、いい人まで死んじまって…』
カイジにとって、『利根川』『村岡』は敵であったはずの人物。
はっきり言ってしまえば、死んだほうがカイジの、そして沙織の生存確率が上がる人物。
手帳を見ても、二人は序盤から積極的にゲームに乗っていた。
そんな人物に対しても、死が喜べないとは…。否、この島での事で無ければ、それは自然な感情である。
「慣れてきちまってるのかな…」
零は自分の心の変化に、この島に少しずつ適応しつつある精神状態に、薄ら寒いものを感じた。
零、と名前を呼ばれ、顔を上げると、沢田がじっとこちらを見ていた。
「“それ”が人としてどうなのか、なんて今は置いとけ…。考えたところで答えなんて出ねえし、いざって時に足枷になる。
それよりもただ目の前の危機、困難、それを“解いていく”ことを考えるんだ、良い方向に導くために」
「…そうですね」
零は頷いた。非日常であるこの島に、一般的な感覚など通用しない。
「俺は俺のやるべきことを考えます。それが…」
「おい、誰か来るぞ…!」
カイジの鋭い声に、零と沢田は口を固く結んでカイジのいる玄関を注視した。
二つの影が、木の陰に隠れながら少しずつ移動しているのが見えた。カイジは必死にその影を凝視する。
先ほど零と作った表から、『声をかけてはいけない人物』はずいぶん絞られている。
(そのうち、見た目で判断がつかねえのは黒沢だけ…か。しづかは女性、鷲巣はかなりの高齢らしいし。
少しでも姿が見えれば…)
◆
「この周辺…夥しい数の光点があるな」
E-4からE-3へ向かう前。
範囲を1キロに設定変更した首輪探知機を見ながら、ひろは呟いた。
探知機を覗き込みながら、平山は整理する。
「光点は8個…そのうち4つの交点は全く動かない。市川の首輪は爆破しているから除外、光のひとつは利根川のものだな。
先ほどから若干の動きが見られる光は4つ…この4つはどうやら狭い所…同じ建物の中にいる。
その4つからほんの少し離れた所に動かない光点が並んで2つ…。これが気になるところだが…」
「この動いている4つの交点…どう思う?」
「仲間同士だろうな。俺たちにとって敵か味方かは分からねえけど…。
カイジは単独行動していたから、もうここからは離れてしまっただろうか…」
考え込む平山に、ひろゆきは提案する。
「ひとまず、この4人に近づいてみようか?敵でなければ、カイジの目撃情報を得られるかもしれない」
「あ…ああ、そうだな。しかし、どうやって安全に近づく?」
「ひとまず、建物が見えるところまで行ってみよう。…大丈夫、無鉄砲に突っ込んだりしないさ」
平山の不安そうな顔を見て、ひろゆきは苦笑しながら言った。
◆
カイジは、二つの影を息を潜めて凝視した。
迂闊に声をかけた相手が殺し合いに乗っている者であれば、沢田や零、涯にも迷惑がかかる。
しかし、やり過ごそうにも二つの影は少しずつこちらに近づいて来ている。
「こっちに来てるな…」
様子を見に来た沢田が、カイジのように玄関の窓ごしに外を見つめ、小声で話しかける。
「どうする?沢田さん」
「ここに来ることが目的なら、踏み込まれる前に先に威嚇したほうがいいだろう」
「え…?」
「奴らに声をかけ、俺が時間を稼ぐ。敵だと分かったら、すぐにカイジは零と涯を連れて裏口から逃げろ」
「アンタを囮にしろってのか…!」
「まあ、聞け…誰かがしんがりを務めなきゃならん。それに、足を怪我してるお前より俺のほうが逃げ足は速い。
第一、このゲームの間中は俺が零と涯を守ると、ある男に約束してんだ。そう簡単にはくたばらねえよ。
そうだな…落ち合う場所を決めとこう。一時間後にD-2の発電所の見えるあたりでどうだ」
「………」
沢田は話している間も決して窓の外から目を切ることはなく、場数を踏んだ人間の頼もしさを見せる。
素人の浅知恵を絞り出すより、沢田の作戦に乗るほうがよほど理にかなった行動であった。
「…分かった」
カイジは頷くと、ドアから離れ、零と涯に作戦を説明しに行った。
3人は少し言い争ったようだが、最後には折れて勝手口のほうへ行き、いつでも出られる体制になる。
支
シ
「……いい子だ」
沢田は僅かに口角を上げると、少しだけドアを開け、外に向かって言葉を発した。
「…そこにいる二人組、武器を下ろして出て来い…!でないと撃つ…!」
沢田のハッタリに、がさっ、と木立の揺れる音がする。少し経って、声だけが返ってきた。
「待て…撃つな。俺達はアンタ達に危害を加えるつもりはない」
「アンタ“達”…?」
「…ああ。聞きたいことがあるんだ。カイジ…伊藤開司という男のことを知らないか?
カイジに会いたいんだが、もし何か知っていたら教えて欲しい」
「…知っている。だが何のために会う?」
「カイジに会って、あるものを渡したい。それに、力になりたい」
「何の力にだ?」
「ある女性…田中沙織という女性に関してだ」
ここまで話してみて、沢田は相手がカイジの知り合いであること、慎重な人間であること、カイジの敵ではないことを察した。
「カイジはここにいる。俺はカイジの仲間で、沢田という者だ。
今から出て行く。アンタ達も、俺の姿が見えたら出てきて欲しい」
◆
こうして、ひろゆきと平山は無事にカイジに会うことが出来た。
沢田は再び自分が見張りに立つことをカイジに伝え、玄関ドアから外を監視し始めた。涯も裏口での監視に戻る。
カイジは、無事な平山の姿を見て目を潤ませた。
「こうして、本当に三度も会うことが出来るなんてな…!」
「ああ…アンタのお陰だ」
「俺の…?俺はアンタに地図や名簿をもらったけど、俺からアンタに何かしてやった覚えはないが…」
「…いいんだ。気にするな。ところで、これ…」
平山は小型ラジカセを取り出し、カイジに渡す。
「これは…?」
「アカギ…いや、大柄の中年男から預かった。黒沢っていう名前の」
「黒沢…?」
「ああ…それで、この機械に『みここ』という名の人の声が録音…」
カイジは平山の言葉を最後まで聞かず、毟り取るようにラジカセを奪い取った。
カセットがほとんど巻き戻っているのを確認すると、震える指で再生ボタンを押した。
ザザッ…とカセット特有の雑音の後、その女性の声は民家に響く。
ひろゆきは零と情報交換していたが、カセットの音が聞こえるとそちらに視線を送った。
……に、どうしても、会いたかったの。
……まさか、こんなに恐ろしい所だなんて思わなかったけど……
……でも、美心、頑張るから……!カイジ君に会えるまで、頑張るから……!
……だから、受け止めて……美心の乙女心……ハ・ア・トっ……!
……だって、愛してるん…だ…ぞっ…………!
ブツッ ザーーーー……
あまりにもこのゲームにそぐわない、明るい声であった。
この場にいる者たちは、今は亡き声の主がカイジにとってどんな人物であったのか図りかねた。
カイジは、なんとも形容の出来ない面持ちで、固まっている。
悲しみに泣き伏す、怒りに我を忘れる、感情を受け止められず虚脱する、といった表情ではなく、
それでも敢えて言葉で説明するなら、
『それじゃあ僕はこれで…失礼します…』といった表情であった。
カチッ
停止ボタンを押すと、カイジは小型ラジカセに向かって合掌した。
「成仏してくだざい…」
その様子を見て、周囲の人間達は余計に二人の関係が掴めず、ただ困惑した。
「…あ、ええと、そのラジカセは黒沢という人が持っていたんですね?」
微妙な空気を破ったのは零の声だった。
「ああ…といっても直接会ったわけじゃないんだが…。
実は、俺達は黒沢がアカギにそれを託しているのを見ていて、その後、アカギが俺達にこのラジカセを預けて行ったんだ」
平山は説明し、もう一つカイジに告げなければならない“現実”を話す。
黒沢が田中沙織を守るように同行していたこと、沙織は錯乱していて、カイジの声に似たアカギの声に過剰に反応していたこと。
黒沢は変わった人間だが、悪い人間ではなさそうだということ。
「そうですね…森田さんの手帳にもありました。黒沢さんという人について」
零は手帳を開き、確認しながら話す。
「それは…?」
ひろゆきが聞くと、零は森田の所持品だったフロッピーのこと、手帳に真夜中までの参加者の行動が書かれていることを簡単に説明した。
「…それで黒沢という人は、ゲーム序盤、美心さんのことを守っていたんです。
美心さんが闖入者の銃弾に倒れた後も、守れなかったことを悔いていたようです」
「……………」
カイジは手帳を覗き込み、「お礼言わなきゃな…」と呟いた。
「…ところでカイジさん、美心さんとはどういう…」
「さて…!状況は分かったっ…!ところでそんなに俺とアカギの声って似てるのか…?全然違うと思うんだが…!」
零の言葉をあからさまに遮りながら、カイジはひろゆきに聞いた。
「ああ…よく似てるよ。自分では分からないものなんだね」
「そうなのか…?」
「今大事なのは、田中沙織がアンタの声を聞くだけで、罪悪感に苛まれて過剰に怯え、逃げてしまうという事実だ」
「っ……!」
「遠目に見ても、田中沙織の様子はおかしかった。あまり刺激すると、どんどん精神状態が悪化するんじゃないか、と思うくらいにはね。
アンタが沙織を探すのは、もう止めたほうがいい…かえって悪い結果を招く…!」
「ぐっ……!」
カイジは拳を握り締め、うなだれる。見かねた平山がカイジを励ますように言った。
「で、でも、その田中沙織には黒沢って男がついてるんだ。
四十過ぎに見えたが、かなりガタイも良かったし、面倒見もいいようだし、これで良かったんじゃないか?」
「…そうだよ。だから、今は“別のこと”に集中したほうが良い」
ひろゆきも頷いた。
si
「ところで、それは何をやってるんだ…?」
零がデイパックをコの字に並べ、タオルを被せた下で何か書いているのを見て平山は尋ねた。
「あ、このタオルを首に巻いてください」
零に差し出されたタオルを言われるがままに巻き、平山は零の手元を覗き込んだ。
『盗聴、盗撮防止。筆談で』とメモ書きされているのを見て平山は頷く。
零の手もとにある紙には「田中沙織にとって敵か否か」と題された表が書かれていた。
『これは田中沙織さんにとってだけでなく、僕らにとって敵かどうかの表でもあります』
表を作っていたときは『田中沙織にとって敵か否か』という主題で表を作っていたため、
特に盗聴、盗撮を気にせず書き込んでいた。
だが、今後はこの表の書き込みに『主催側』『対主催』の意図がどんどんからんでいくことになるため、
盗撮、盗聴を避けることにしたのだった。
平山はじっとその表を見ていたが、突然弾かれたように顔を上げ、零の持つ『森田の手帳』と『表』を見比べた。
そして零に倣って筆談で、あることを頼んだ。
『その表に書いてある名前の下に、分かるだけの外見の特徴を書き込んでいってくれ。
あと、その手帳を少しの間見せてくれ』
零は頷くと、カイジと協力して参加者の特徴を書いていった。
カイジが多くの参加者を知っていたこと、また平山が黒沢の外見を知っていたことで、
表には参加者全員の外見の特徴が加わり、より充実したものとなった。
唯一外見の不明なしづかも、沙織を除く唯一の女性であることから、判別は可能だと推測できる。
表が完成する間、平山はパラパラとページをめくり、森田の手帳を眺めていた。
熟読するというより、流し読みをしているといった雰囲気である。
「…よし、覚えた」
平山は短く言うと零に手帳を返し、作業の終えた表を眺める。
「…覚えた?」
零が呆気にとられていると、平山は零の作った死角でメモに数行の文章を書き、零とカイジに見せてから言った。
「なあ、ひろゆき…俺たちはゲームと戦っているけど、こいつらの言う『対主催』ってのとは、違うよな」
「え…?」
ひろゆきが聞き返すと、平山は俯きながら話した。
「少なくとも俺は、自分の命で精一杯っていうか…。だから、アンタらの仲間って捉えられると…」
「…いや、すみません。この『田中沙織にとって敵か否か』の表は便宜的なもので…。
あなたを仲間にするとか、強制する意図はないんです」
零は、急いで説明した。カイジは、ただじっと押し黙っている。
「…それならいいんだけどな。ひろゆき…そろそろここを出ないか?アンタはアンタでやりたいことがあるんだろ」
「…そうだね。ここでの役目は終わったし…」
平山に同意し、ひろゆきは荷物を背負い立ち上がる。
「…平山、ひろゆき」
カイジは、二人に向かって深々とお辞儀した。
「ありがとう…!」
「いや、気にするな…」
「…無事にラジカセを届けられて嬉しいよ。じゃあ…」
短く挨拶を済ませ、二人は出て行った。
「…なあ、零。このパンフレットとか、参加者名簿な…」
二人が去った後、カイジはそれらを眺めながらしみじみと言った。
「平山にもらったんだ。“もう必要ないから”と」
その一言で、零はカイジの言わんとすることを察し、黙って頷いた。
◆
「…さて、もう一度アカギを追うってことは…また“あの”病院に向かうのか…」
自分で言い出しておいて、平山はげんなりした顔をする。民家を離れ、木立に紛れて歩きながら二人は小声で話していた。
「危険だと思ったら、慎重に行動するよ。
それに、アカギに会うまでは…あの赤木さんと重ね合わせて見ていたけど…。
似ているようで、やっぱりどこか違う…でも本質はごく近い…。今は執着心より、好奇心のほうが勝っている気がする」
「好奇心で命懸けられるのかよ…」
「フフ…死んだようにただ日々が流れていく人生よりは、幾分いいと思うよ。刺激があってね」
少し楽しそうに見えるひろゆきを見て、呆れながらも、平山は何か思うところがあった。
「……好奇心、か。確かに…そうかもな」
平山は、この島に来てから起こりつつある己の変化に、自分自身に、興味が沸き始めていた。
カイジ達の元に置いてきたメモのことを思う。昨日までの自分なら、絶対あんなことを宣言などしなかっただろう。
『俺とひろゆき、それにアカギは、ゲームに乗っている奴にターゲット宣言されている。
仲間だと思われてはアンタらを危険に巻き込むことになる。
零やカイジのおかげで、島の参加者の外見的特徴、行動など、教えてもらった情報は全て頭に入っている。
俺はその情報を頼りに、近づけそうな人物には近づき、情報を得、ゲームに対抗する手段を探していこうと思う。
情報屋としてネットワークを作り、次に会うときにはもっとアンタらの役に立てるように』
しえん
【E-3/森/朝】
【平山幸雄】
[状態]:左肩に銃創
[道具]:支給品一式 カイジからのメモ 防犯ブザー Eカードの耳用針具 Eカード用のリモコン 針具取り外し用工具 ロープ1本
[所持金]:1000万円
[思考]:情報を集め、ネットワークを作る 田中沙織を気にかける
※カイジからのメモで脱出の権利は嘘だと知らされましたが、ひろゆきとの筆談で脱出の権利についての考えを保留しています。
※カイジに譲った参加者名簿、パンフレットの内容は一字一句違わず正確に記憶しています。ただし、平山の持っていた名簿には顔写真、トトカルチョの数字がありませんでした。
※平山が今までに出会った、顔と名前を一致させている人物(かつ生存者)
大敵>一条、和也 たぶん敵>銀二、原田、鷲巣
味方>ひろゆき、カイジ、零、涯、沢田 ?>沙織、赤木、黒沢 主催者>黒崎
※森田が手帳に書いた、フロッピーを壊すまでの情報を正確に把握しています。手帳には一時間ごとに全ての参加者の行動が数行で記されていました。
※零とカイジが作った『田中沙織にとって敵か否か』の表の内容、生存している参加者全員の外見的特徴を把握しています。
※和也から殺害ターゲット宣言をされました。
【井川ひろゆき】
[状態]:健康
[道具]:日本刀 首輪探知機 懐中電灯 村岡の誓約書 ニセアカギの名刺 アカギからのメモ 支給品一式×2 (地図のみ1枚)
[所持金]:1500万円
[思考]:赤木しげるとの真剣勝負 この島からの脱出 極力人は殺さない
(補足>首輪探知機は、死んでいる参加者の首輪の位置も表示しますが、爆発済みの首輪からは電波を受信できない為、表示しません。)
※カイジからのメモで脱出の権利は嘘だと知らされましたが、平山との筆談で脱出の権利についての考えを保留しています。
※和也から殺害ターゲット宣言をされました。
【E-3/民家/朝】
【沢田】
[状態]:健康
[道具]:毒を仕込んだダガーナイフ ※毒はあと一回程度しかもちません 高圧電流機能付き警棒 不明支給品0〜4(確認済み) 支給品一式×2
[所持金]:2000万円
[思考]:玄関から外を監視する 田中沙織を気にかける 対主催者の立場をとる人物を探す 主催者に対して激しい怒り 赤松の意志を受け継ぐ 零と涯とカイジを守る
※現在ダガーナイフ、警棒以外の支給品は民家の中に置いてあります
【宇海零】
[状態]:健康 顔面、後頭部に打撲の軽症 両手に擦り傷
[道具]:麻雀牌1セット 針金5本 標のメモ帳 参加者名簿 森田の手帳 不明支給品 0〜1 支給品一式
島内施設の詳細パンフレット(ショッピングモールフロアガイド、旅館の館内図、ホテルフロアガイド、バッティングセンター施設案内)
手榴弾×8 カイジと作った参加者リスト(『田中沙織にとって敵か否か』)
[所持金]:0円
[思考]:田中沙織を気にかける 対主催者の立場をとる人物を探す 涯と共に対主催として戦う 森田に譲渡された権利をどうするか決める
※標のメモ帳にはゲーム開始時、ホールで標の名前が呼ばれるまでの間に外へ出て行った者の容姿から、
どこに何があるのかという場所の特徴、ゲーム中、出会った人間の思考、D-1灯台のこと、標が市川と合流する直前までの情報が詳細に記載されております。
※カイジから参加者名簿、パンフレットを預かっています。目を通すまで借りていられます。
※森田から手帳をもらいました。手帳には森田がフロッピーを壊すまで、一時間ごとの全ての参加者の行動が数行で記されています。
※田中沙織に関する情報を交換し、カイジと『田中沙織にとって敵か否か』の表を作りました。生存している参加者の外見的特徴が記載されています。
支援
【伊藤開司】
[状態]:足を負傷 (左足に二箇所、応急処置済) 鳩尾にごく軽い打撲
[道具]:果物ナイフ 地図 小型ラジカセ 支給品一式
[所持金]:なし
[思考]: 田中沙織を気にかける 仲間を集め、このギャンブルを潰す
一条、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
赤木しげる(19)から聞いた情報を元に、アカギの知り合いを捜し出し、仲間にする
平井銀二の仲間になるかどうか考える 下水道(地下道)を探す
※アカギのメモから、主催者はD-4のホテルにいるらしいと察しています。
※アカギを、別行動をとる条件で仲間にしました。
※今日の夕方にE-4にて待つ、と平井銀二に言われましたが、合流するかどうか悩んでいます。
※田中沙織に関する情報を交換し、零と『田中沙織にとって敵か否か』の表を作りました。生存している参加者の外見的特徴が記載されています。
※参加者名簿、パンフレットは一時的に零に預けてあります。
【工藤涯】
[状態]:健康 右腕と腹部に刺し傷 左頬、手、他に掠り傷 両腕に打撲、右手の平にやや深い擦り傷 (傷は全て応急処置済み)
[道具]:鉄バット 野球グローブ(ナイフによる穴あり) 野球ボール 支給品一式×3
[所持金]:1000万円
[思考]:裏口から外を監視する 田中沙織を気にかける 零と共に対主催として戦う
※現在鉄バット以外の支給品は民家の中に置いてあります
258 :
マロン名無しさん:2012/02/26(日) 21:22:54.68 ID:V8wUOQLK
エースお帰りなさいませ。
今回の話は複雑な情報がまとまっていく、零達が生きるための土台を築いていく過程がしっかりしておりました。
安定していくカイジ達に対して、平山達の行き先が不安です。
何度もすみません。
「情報」のタイトルは既に使われていましたので、「集約」に改めます。
申し訳ありませんでした。」
「集約」について、したらばでご意見を頂いたのでまとめサイトのほうで修正いたしました。
今から投下します。
規制を避けるため、9レス分投下し間をあけて再投下します。
しづかは走っていた。
方位磁石を持っていないなりに、太陽の昇り始めた方向へ…東へとただ走っていた。
命を狙ってきた佐原から逃れるために、仲間だった仲根から逃れるために。
そして“あの女”田中沙織から逃れるために。
……参加者の諸君、黒崎だ…これより第三回定時放送を行う……
第三回放送が森の中に響き渡る。
しづかは構わず走り続けた。パソコンでダウンロードすれば、情報は手に入るのだから。
今は少しでも敵から離れたい。そして、どこか少しでも安全な場所に逃れたい。その一心で走り続けた。
◆
仲根は走っていた。
誰を追うでもなく。否、『今は殺したくない』しづかと、『今は会いたくない』黒沢以外の人物なら、誰でも良かった。
殺す。殺して兄さんが優勝出来るように仕向ける。そのためなら何だってする。そう、何だって。
仲根は先に包丁のついた、改造した木刀を強く握り直した。
◆
佐原は走っていた。
C-4から“獲物”を狩るために南東へと向かっていたら、今いる地点…C-5が禁止エリアになったためであった。
放送があってから30分以内にエリア外に出れば問題ないのだが、佐原は生きた心地がしなかった。
D-4のホテルから南郷とともに走らされたことを思い出す。
あの、首輪から発する甲高い音の間隔が少しずつ短くなっていく切迫感。
今思い出しても肝が冷える。
放送にはしっかりと耳を傾けていたが、走る速度を緩めることはしなかった。
「ハァ…ハァ…」
荒い息をつきながら、佐原は周囲を見回した。
右手の方角に“始まり”のホテルが見える。場所はD-5、森の中。
木陰に隠れ、改めて地図に禁止エリアや死亡者をメモし、呼吸を落ち着ける。
佐原の持つ狙撃銃は重い。他にも荷物がある上、5キロ近くある重さを抱えて走るのは骨が折れる。
だが、これは生命線である。遠藤を撃ち殺したときのことを思い出す。
佐原は遠藤を仕留めた事で、ある種の手ごたえを感じていた。
この銃を初めて撃ったときはどうなるかと思ったが、今はもうあんな失敗はしない。
反動に気をつけて慎重に獲物の胴を狙えば…やれる。
ここは戦場だ。そうすると自分の役割は、さながら雇われの兵士か。
決して望んでここへ来たわけじゃあない。
だが来てしまったからには銃を使い、殺される前に殺し、勝利条件をクリアする。
そうだ。これはそういう“ゲーム”なのだ。そして自分の思う“勝利”とは、生き残ること。
手のひら返しの得意な帝愛のことだ。棄権がすなわち日常への生還、と信じきっているわけではないが…。
首輪が全ての行動を制限する。島から脱出するにしても、まずは棄権して首輪をどうにかしてからでないと何も始まらない。
ガサッ…
草を踏む音に、佐原は身体を強張らせた。息を潜めて音のした方角を凝視する。
そこには女が立っていた。C-4の民家にいた4人のうちの1人。
わずかにゆらゆらと身体を揺らし、ぼんやり上を見上げている。
泣き腫らしたその目は焦点が定まっていない。
(狙い放題じゃねえか…!)
佐原は迷わず近くの木の幹に背中を預け、ライフルを構えるとスコープを覗き込む。
「ぁあ…ごめ…なさ……」
沙織はぶつぶつと何かをつぶやいている。
身体を揺らしてはいるが、そこから動き出しそうにない。
がさ…がさ…。
風が吹き、木の葉が擦れ合って音を立てる。
(俺はやれる。すでに一人殺した。あのときと同じようにすればいいだけ…!)
佐原は引き金にかけた指に力を込めた。
「田中さんっ!」
不意に周囲に響き渡った声。
沙織はびくっと身体を竦ませ、しゃがみ込んだ。
バァーンッ………!!
そのとき、ライフルは発射された。
沙織を追ってきた黒沢の声に驚いた佐原は、引き金にかけた指を止めることが出来なかった。
結果、ライフルの弾は沙織の頭を掠め、向かいの木の幹に命中した。
「きゃあああっ!!!」
「「なっ……!?」」
沙織が突然の発砲音に悲鳴を上げるのと、佐原と黒沢が声を上げたのは同時だった。
黒沢が振り向き、二人の目が合う。佐原は慌ててガシャッと音を立てて弾を送り、ライフルを構え直す。
だが、黒沢の踏み込みのほうが早かった。
黒沢とて、ライフルが恐ろしくない訳が無い。だが黒沢の反応は早かった。
黒沢の脳裏にはある光景があった。
『助けが遅れたためにマシンガンの凶弾に倒れ、守れなかった女性』の光景が。
ずっと後悔していた。
次など無いが、もし…もしも時間を巻き戻せるなら、弾丸が彼女を貫く前に時間を巻き戻したい。
もしそんなことが出来たなら、そのときは。
必ず助けるのに…と。
「うがあああああああああああああっ!!!」
横一閃。
黒沢は叫びながら、佐原の頬に渾身の張り手を食らわせた。
たまらず吹っ飛び地面に転がる佐原にすかさず馬乗りになり、てこのようにライフルを無理やりこじって奪い取る。
太い足に胴をがっちりと挟まれ、両手を捕まれた佐原にはいくらもがいても為す術もない。
「ぅわあああっ!!ひいいっ!やめろっ!やめてくれっ……!」
張り倒されたときの衝撃で頭が揺らされ、耳鳴りがする。
どれだけ足掻いても手首はいよいよ万力のように締め付けられ、佐原は恐怖に我を忘れて喚いた。
「何をやめろって言うんだっ!ええっ!?」
「ひいっ…やめ…」
「殺すなってことかっ!?お前はさっき何をした…!?今、何をしようとした…!?言ってみろ!」
激昂した声に、佐原の悲鳴はますます高くなる。
「殺…殺さないで……」
「殺さないっ!」
佐原は耳を疑った。今、何て言った?己の願望による幻聴か…?
「よく聞けっ!俺はお前を殺さないっ…!」
佐原はきつく閉じていた目を恐る恐る開いた。涙でぼやけた視界に、大柄な中年男の顔が広がる。
「殺さない!だからよく聞けっ…!
こんなことして何になる!?多くの死人の上に立って、弱者を…女、子どもを踏みつけて生き残って何になるってんだっ!」
黒沢は後ろを振り返り、沙織にも声をかける。
「田中さんっ!大丈夫か!?弾当たってないかっ…!?」
「ふ…ぅええ…」
沙織はイヤイヤと首を振るとゆるゆると立ち上がり、後ずさった。
「大丈夫そうだな…」
黒沢はホッと息をつき、再び佐原を見下ろした。怒気を含んだ声で言い募る。
仲根にうまく伝えられなかったことを、今なら、この男になら伝えられるかもしれない。
「俺は…お前を殺さない…!殺したくないからだっ…!
アンタだってそうだろ!?見たとこ20そこそこの若者じゃんかっ!これ以上罪を重ねるなっ…!」
「け…けどっ…」
佐原はどもりながら、必死に考えを巡らせていた。
……この男は殺す気が無いと言った。
もしかしたら、この場をうまく切り抜けられる…!?
なら、迂闊なことを言うな…言葉を選べっ…!俺の生死はこのおっさんの手の中…!
「俺…俺は…ただ生きたくって…!こ…こんなこと、本当にしたい訳じゃない…!
誰が殺人なんてしたいと思うかよっ…!!」
「そりゃ、そうだろうが…」
黒沢が口ごもると、佐原はなおも言い募った。
「けど、ゲームに乗らなきゃどうしようもねえっ…!殺されたくない…だから殺すしか…!」
「だからって、最後の一人になるまで殺すつもりなのかよっ…!?」
「え…?い、いや、違う…!俺は優勝なんて考えちゃいない…!
あくまで棄権狙いだっ…!一億で棄権の権利を買う…そのためにあんな…!」
「“そのために”何だ…?」
「あ、あ…いや…」
「何だ、言ってみろ…!何か言いかけただろ…!」
佐原は内心、舌打ちした。黒沢に必死で弁明するうち、言葉がいつの間にか本心…心情吐露になっていた。
南郷が死んだ今、あのことは自分だけの秘密にしておきたかった。
いや、そのうちきっと他の参加者も気がつくだろう。
だが、“早い者勝ち”であることを知っている自分としては“それ”が広まるのはもっと後になって欲しかった。
しかし誤魔化そうにも、相手の男はこちらの心を見透かすように覗き込んでくる。
「地下だ…」
「は…?地下…?」
黒沢は首を傾げる。機嫌を損ねてはまずいと思い、佐原は覚悟を決めて説明を始めた。
「地下には電波が届かない…。
つまり、最初の開会式で黒崎が説明していた、
『棄権を望む者はホテル地下で、一億円にて権利を購入出来る』ってのは本当なんだ…!
今あそこは禁止エリアだが、他のエリアから地下…下水道を通ってC-4、ホテルの真下まで行けば安全に辿り着けるんだ…!」
「一億…棄権…」
「そうだっ…あれはハッタリじゃない、本当のことだったんだ…!」
佐原は、放心している黒沢に懇願した。
「なあ…俺を見逃してくれないか…?その女はもう絶対に襲わないって誓うっ…!
見逃してくれるなら、もう一つ有益な情報をアンタに話す…!」
「…本当に、誓うか…?」
「ああ…絶対だ、この首輪に賭けてもいい」
「……分かった、信じよう…!」
黒沢はゆっくりと佐原から身体をどけた。
佐原は黒沢の巨体に乗られ続け、痺れていた筋肉に鞭打ってようやく身体を起こした。
「……で?有益な情報ってのは?」
「今の話、単なる想像じゃない。俺は一度、地下に潜って見てきたんだ。
確かにあった、棄権の権利を購入出来る場所が。
俺はそのとき一億持ってなかったから、早々に追い返されたが」
「……それが有益な情報?」
「地下に潜っても、首輪が爆発したり不具合が起きない、そして禁止エリアでも地下なら首輪が作動しない、
このことを身をもって証明したんだっ…!
嘘だと思うなら、そのへんの死体から首輪を調達して確かめてみればいい…!」
「……そうか。まあ…信じよう…!アンタが棄権にやっきになっているのは確かなようだし…。
しかし、俺たちが渡されてるのは1000万だ…!10人も殺す気かよっ!?」
「……そのためにギャンブルルームがあるんじゃないか。殺し合い以外でも金がやり取りできるように」
「…あー!あーなるほど!そうか!そうだよな…!」
「……………………」
ゲームが始まって18時間が経過しようとしている。
こんな初歩的な会話を、こんなタイミングで交わすとは思わず、佐原はただ呆れた。
「しかし、ギャンブルか…俺はパチンコくらいしかやったこと無いが、そんな程度じゃ意味ないわな…」
「…俺も似たようなモンだけど…。だから殺して奪うしかないって思って…」
「しかし…それならこのゲームの根底から…主催者を倒すという選択も」
「無理だっ!」
佐原ははっきりと否定した。
「絵空事だ、そんなの…!アンタはこのゲームの主催者、帝愛のことを知らないからそんな言葉が出るんだっ…!
奴らは悪魔だ。何だってやる…歯向かう人間を潰すのに手段は厭わない…さっきの放送で釘を刺されてただろ…!」
佐原の脳裏には、板倉との苦い経験が浮かび上がっていた。
板倉が対主催の勢力を集めようとしていたこと…自分が、板倉をそんな気が無いのに裏切った形になってしまったこと。
ゲームの序盤『対主催グループの間に流れる自分の悪い風説』に怯え、見えない敵に震えて過ごしてきたこと。
人を殺し、金を奪った自分が、今更『対主催』側に入れるわけが無い。佐原はそう決め付けていた。
だがそれを黒沢に言うことは出来ず、言葉にしたのは、ただ主催がとてつもない脅威であるという事実だった。
「……首輪に誓ったアンタとの約束は守る。だが、これ以上アンタの言い分は聞けない…!
俺はどうしても棄権したいんだっ…!」
佐原は勇気を振り絞って言った。
ライフルは放り投げられ、少し離れた場所に落ちている。黒沢との体格差は歴然としている。
本当は再び激昂させるような話などしたくない。だが…。
黒沢は多少抜けているところもあるが、話せば分かる男だ。
今のうちに『殺すな』という意見を取り下げさせておきたかった。
「…アンタ、今いくら持ってるんだ?」
黒沢は唐突に聞いた。
「は…?なんで…?」
「安心しろ…アンタのふところなんて狙っちゃいねえよ…!それに、無用の恨みを買いたくねえ」
「…2800万円」
「一億には遠いな…アンタ、まだ数人殺すつもりなのか…」
黒沢はしばらくの間、黙り込んだ。やがて、おもむろにポケットに手を突っ込むと、佐原に向かって拳を突き出した。
「交換だ…!」
「え…?」
「そのライフルの予備の弾薬、持ってるだろ。それと…今の俺の所持金…2000万円…!
俺と田中さんを殺す代わりに、受け取れ…!」
佐原は呆然と黒沢の顔を見つめた。
「いいのかよ…?」
「いいも悪いもねえっ…!あんまりボケッとしてると気が変わっちまうぞ…!
お前のデイパック、ひっくり返せ!その鞄の中の弾薬を引き取らせてもらう…!」
佐原は言われるままにデイパックを逆さにした。ダイナマイト、懐中電灯など色々なものと一緒に弾薬の箱が出てきた。
弾薬と2000万円を交換すると、黒沢は離れたところに落ちているライフルに目をやり、言った。
「あの中に何発、残っているか知らねえが…。アンタの使える弾はもうそれだけだ。
出来れば人を殺す以外の道を探って欲しいが…アンタの生きたいって希望を、俺に否定することは出来ないっ…。
未来があるもんな…若いアンタには…!」
佐原がデイパックに荷物を戻す間、黒沢は俯いて独りごちた。
「……アンタ、名前何て言うんだ?」
「佐原…だ」
「佐原か…クク…アンタ、少し似てるんだよな…俺の同僚に…!」
佐原が複雑な表情で黙り込むと、黒沢は勤めて明るい声を出した。
「俺は黒沢だ。アンタ、もし気が変わったら…もし…“他の道”を模索するなら…」
佐原がライフルを拾い上げるのを見ながら、黒沢は語りかける。
「“カイジ”ってやつを探すといい。なんかこの島で評判いいんだよな、あの男」
「カイジっ…!?」
佐原は驚いて黒沢のほうを振り返る。
「何だ、知り合いか?」
「……あ、ああ…前にちょっとな…」
「…そうか」
依然として硬いままの表情の佐原に、黒沢はそれ以上追及することをやめた。
佐原は、軽く会釈してから森の中に消えた。
黒沢は佐原の後姿を見送って……。
地面に突っ伏し、頭を抱えた。
「何、情けなんてかけてるんだっ、俺はっ………!!」
◆
佐原はしばらく歩いてから、後ろを振り返った。
木立に紛れ、もう黒沢の姿は見えない。
佐原は棄権以外の選択肢を選ぶつもりなど無い。
すでに人を殺してしまったし、黒沢が最後に言った名前の男のような情けも甘さも、自分は持ち合わせちゃいない。
『なあ…俺を見逃してくれないか…?その女はもう絶対に襲わないって誓うっ…!』
『ああ…絶対だ、この首輪に賭けてもいい』
“首輪に賭けた約束”と明言した以上、約束を破れば首輪が爆発する恐れがある。
ギャンブルルームでの約束でないとはいえ、油断は出来ない。
しかし『黒沢』を襲わない、とは一言も言っていない。
佐原は、あの場を上手くしのげたら黒沢を殺すつもりでいた。予備の弾薬を取り戻し、口封じをするために。
自分のチップを寄越したり、ライフルを返したり、お人よしにも程がある。自分には何の益も無いのに。
そういう人間はいの一番に餌食…!食い物にされる…!それが自然…この世の理…!
(だが………)
佐原は踵を返すと、再び歩き出した。どうしても黒沢を狙撃する気にはなれなかった。
◆
黒沢は、地面に突っ伏したまま、ブツ…ブツ…と独り言を呟いていた。
「2000万円…2000万円だぞ…!俺の通帳にそんな金額入ってたことがあったかよっ…!?
否っ…無いっ…!
しかも借金…この島に来る動機っ…!莫大な入院費っ…!茫然自失の金額…!
人に恵んだりしてる余裕なんて皆無っ…!
『若者には未来があるもんな…』なんて言っちゃって…あるよっ…!俺にだって未来っ…!!」
だが、しかし…涙目になりつつも、黒沢は考える。
自分も優勝なんてハナから考えちゃいない。かといって棄権するために人を殺して金を奪うのも嫌だ。
そうなると…。
「佐原には偉そうに言ったけど…俺、何がしたいんだろうな…。
今まで、この島で知り合った身近な人を守りたいってことばかりに頭がいって…」
黒沢は、そこで思い至った。
そうだっ…。今回は守ることが出来たんだった…!
田中沙織っ…!
危機的状況から女性を守った…!
俺は間に合った…!ついにっ…!快挙っ…!
うおおっ…!俺の行動をきっと石田さんや治、美心も草葉の陰で喜んでくれるっ…!
黒沢は、沙織のほうを振り返った。沙織は変わらずそこに立ち尽くしていた。
ように見えた。
朝もやの中、沙織は口を手で塞がれ、胸にナイフを突き立てられていた。
彼女の虚ろだった瞳が一瞬、朝日を浴びて光を取り戻したかのように見えた。
片方の目から流れた涙は何を物語っているのだろうか。
裏切った者たちへの懺悔か、それともただただ己の死を悲しんでいるのか。
目が慣れてきて、沙織を抱えるようにしている後ろの人物の顔がぼんやりと見えてきた。
金髪の男。だが、ずいぶん背が高い男だ。少なくとも…先程の佐原ではない。
男は、沙織から手を離した。沙織はまるでコマ送りのようにゆっくりと崩れ落ちた。
「兄さん…田中沙織は一億持ってるっ…!」
その男…仲根は目を見開いたまま、ありふれた会話をするように語りかけてきた。
「これで助かるっ…兄さんは一億で棄権できる…!」
◆
数分前。
森の中で黒沢の叫び声を聞いた仲根は、いてもたってもいられず声のする方へ走った。
いくら黒沢に会いたくないからといって、助ける前に黒沢が死んでしまっては元も子もない。
身を挺して助けるつもりだった。
だが、優勢なのは黒沢のほうだった。仲根よりは年上の若い男に馬乗りになり、叫びを上げていた。
「こんなことして何になる!?多くの死人の上に立って、弱者を…女、子どもを踏みつけて生き残って何になるってんだっ!」
仲根はまるで自分が怒られているような気がして、辛かった。耳を塞ぎたくなった。
だが、その後若い男と話し合い…黒沢は、自分が生きるために殺しをするという男を否定しなかった。
仲根はそこに一筋の希望を見出した。自分の考えも、きっと話せば分かってくれる。
しかも黒沢は、その出会ったばかりの男に2000万円も渡してしまった。
黒沢のお人良しぶりに歯噛みしながらも、仲根は嬉しくてたまらなかった。
(…やっぱり兄さんは違う…!どこまでも俺の想像の上を行く男…!)
しかし、やはり2000万円を渡してしまったのはやりすぎだ。
『一億で棄権出来る』のが確実であるという情報を掴んだばかりで2000万円を譲渡するなど、
自分の命の2割を気前良く渡すような行為…!仕方が無い、そこは自分がなんとか稼いで…。
そこまで考えて、ある重大な事実に思いが至った。
田中沙織。
先ほど、しづかの肩越しに確認したパソコンのモニター、何気なくチェックした沙織の項目。
黒沢が必死に庇った女はどんな女なんだろうと気になっていた。
沙織は、一億持っている。
それを知ったとき驚きはしたが、森田から聞いていた棄権が不可能という情報により、
『棄権が出来ないんじゃ今となっては関係ない』と思っていたのだが…。
さっきのあの男の話…『地下で棄権の権利』が本当なら、話は別だ。
(兄さんは、きっと悲しむだろう。けど、俺は兄さんに死んで欲しくない。
兄さんに嫌われ、今以上に遠ざけられてしまうかもしれない。
だが…人を殺しまくった後、兄さんに優勝を譲ろうと覚悟していたことを思えば些細なこと…!
いや、たとえ嫌われようとも構わない…!いつか…きっといつかは分かってくれる…!)
(それに兄さんは生きてなきゃいけないんだ。一本筋の通った、すごい人間だから…!)
……仲根とて、人殺しをしたくてしている訳ではない。
身体に、心にまとわりついてくる気持ち悪さ。不快さ。
深く考えないようにしているが、恐らく罪悪感から来るもの。
仲根は強い人間である。だが、こんな狂ったゲームに乗るなら相応の大義名分がないとやっていけない。
一度は黒沢にそれを否定されたと思った。ショックだった。
だが今はそれでもいいと思う。黒沢が生き残れば、自分の大義名分……願いは果たされるのだ。
黒沢と佐原の間で話が付き、佐原が去った後も、沙織はぼんやりと突っ立っていた―――
仲根にとってそれは絶好の好機であった。
だから、やった。背後からそっと近づき、口を塞ぐと同時に刃を突き立てるのはほんの数秒の仕事だった。
仲根は己の献身的な行いに酔っていた。酔いでもしなきゃ、やってられなかった。
上ずった声で黒沢に語りかける。
「兄さんはこの女性を守りたかったんだよな…。悪いと思ってるよ…!
でも、これが一番いいやり方なんだ。この女がなんで一億も持ってたと思う…?
きっと何人も殺してたからだ…!
本当は守ってもらう権利なんか無いのに、優しい兄さんに甘えてたんだ…!
…でも、そんなことはもう、どうでもいいっ…!
大事なのは、この女さえ殺せば一億手に入るってところ…!現時点で考えられる最小限の犠牲…!」
仲根はなおも語りかける。黒沢がどんな表情をしているか、仲根は気づかない。
「これで兄さんは抜けられる、ゲームから…!
病み上がりなんだから、一刻も早く元の生活に戻って欲しい…。
兄さんを救いたい…!それが俺の願いなんだっ……!
さあ、早く……」
「俺は疫病神か……?」
「は…?」
黒沢の呟きに、仲根は驚いて言葉を失った。
「俺…俺のせいか……。
赤松がこんなゲームに参加して死んだのも……。
仲根が田中さんを殺さなくちゃならなかったのも……。
全部…俺なんかのっ…………………………………」
黒沢は唇を震わせた。ボロ…ボロ…と目から大粒の涙が溢れ落ちる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ……!!!」
黒沢の慟哭が森中に響いた。
「うおお……おお……お…おおおおお………おおっ…………!!!」
黒沢は守りたかった。
身近にいる人間を。隣人を、友人を、知り合いを。
弱者を、女性を、子どもを。自分なんかを頼ってくれる『誰か』を。
ここは殺し合いの場だ。それが何を意味するか、深く考えた行動をしたことがあっただろうか?
守るだけでは何も守れなかった。
ここに来る前、言いようの無い寂しさに打ちひしがれていた時期があった。
だが、今は違う。
少しずつ変わっていって、今は自分のことを慕う人間、自分のことを助けようとする人間がいる。
だが、自分なんかのことを真剣に考えてくれる人間は、いつの間にか死んでしまい、いつの間にか罪を重ねていた。
そんな人間がこのゲームに参加しているのに、自分はその人達について、深く考えた行動をしたことがあっただろうか?
否…無かった。
その結果がこれだ。目の前にあるのは、紛れも無く残酷で静かな『現実』だ。
守ろうとした沙織の心臓は破壊され、救うと言ってくれた仲根は精神を侵され始めている。
……苦しみはいつも、少しだけ自室の押入れを開ければ、そこにあった。
老後とか、貯蓄とか、人生とか、言い知れぬ不安が渦を巻き、その影に怯えてきた。
だが…あれがぬるい苦しみだったとは虚勢でも言えないが……。
今思えば、なんと幸せな悩みであったことだろうか。
……取り返しがつかない。
黒沢は強い人間である。どんなに辛い目に遭っても、飲んで、泣いて、喚いて、やり過ごしてなんとか乗り越えてきた。
だからこそ、今直面している絶望も、頭の片隅でどこか冷静に受け止めていた。
「兄さん…」
仲根は不安そうに見つめてくる。
声も涙も枯れ果て、虚脱していた黒沢だが、今ここで仲根を否定するのは仲根を追い詰め、精神状態を悪化させることになると気づいていた。
「兄さん、早く行こう。他の参加者が来る前に…!
地下…下水道の入り口…探さなきゃ…!」
仲根が沙織の荷物を漁ろうとするのを、黒沢はゆっくりと止めた。
「…待て。田中さんをここに置いていくのは忍びない…。
せめて埋めてやりたい…いい場所を探して…。地下への入り口を探すのはそれからにしよう…」
「おおっ、さすが兄さん…!心優しい…!」
「そんなんじゃねえよ…」
黒沢は沙織の身体を抱きかかえ、南へと歩き始めた。
木陰に隠しておいた荷物や改造木刀を拾い上げ、仲根もすぐ後をついて行く。
【D-6/森/朝】
【しづか】
[状態]:首元に切り傷(止血済み) 頭部、腹部に打撲 人間不信 神経衰弱 ホテルの従業員服着用(男性用)
[道具]:鎖鎌 ハサミ1本 ミネラルウォーター2本 カラーボール 通常支給品(食料のみ) アカギからのメモ コルトパイソン357マグナム(残り3発) ノートパソコン(データインストール済) CD−R(森田のフロッピーのデータ)
[所持金]:0円
[思考]:誰も信用しない ゲームの主催者に対して激怒 一条を殺す
※このゲームに集められたのは、犯罪者ばかりだと認識しています。それ故、誰も信用しないと決意しています。
※和也に対して恐怖心を抱いています。
※利根川から渡されたカラーボールは、まだディバックの脇の小ポケットに入っています。
※ひろゆきが剣術の使い手と勘違いしております。
※森田の持っていたフロッピーのバックアップを取ってあったので、情報を受信することができます。 データ受信に3〜5分ほどかかります。
※第3放送の内容を聞いていませんでした。これからパソコンで確認するつもりです。
【D-5/森/朝】
【佐原】
[状態]:首に注射針の痕
[道具]:レミントンM24(スコープ付き) 弾薬×4(装填済み) ダイナマイト×4 懐中電灯 タオル 浴衣の帯 板倉の首輪 遠藤の首輪 支給品一式
[所持金]:4800万円
[思考]:自力で生還する ほかの参加者(特に仲根、しづか)(黒沢、沙織以外)を狩る
※森田が主催者の手先ではないかと疑っています
※一条をマーダーと認識しました
※佐原の持つ板倉の首輪は死亡情報を送信しましたが、機能は失っていません
※黒崎から嘘の情報を得ました。他人に話しても問題はありません。
※遠藤の首輪は、大型火災によって電池内の水分が蒸発し、夜中3時頃に機能停止しました。しかし、佐原は気付いてはおりません。
【黒沢】
[状態]:健康 疲労
[道具]:不明支給品0〜3 支給品一式×2 金属のシャベル 特殊カラースプレー(赤) レミントンM24の弾薬×15
[所持金]:0円
[思考]:沙織を埋葬する 情報を集める 赤松や仲根に対する自責の念
【仲根秀平】
[状態]:前頭部と顔面に殴打によるダメージ 鼻から少量の出血
[道具]:カッターナイフ バタフライナイフ ライフジャケット グレネードランチャー ゴム弾×8 改造木刀 ダイナマイト3本 ライター 支給品一式
[所持金]:5000万円
[思考]:黒沢を生還させる、その為なら何でもする
※バタフライナイフは沙織の胸に刺さったままになっています。
【田中沙織】※死亡、黒沢が持ち物を沙織の身体ごと運んでいるので、状態表の一部を残しておきます。荷物をどう分けるかは次の書き手氏にお任せします。
[道具]:支給品一式×3(ペンのみ1つ) 30発マガジン×3 マガジン防弾ヘルメット 参加者名簿 ボウガン ボウガンの矢(残り6本) 手榴弾×1 石田の首輪
[所持金]:1億200万円
※沙織の首輪は、大型火災によって電池内の水分が蒸発し、2日目夜18時30分頃に機能停止する予定。(沙織は気がついていません)
※イングラムM11は石田の側にありますが、爆発に巻き込まれて使用できない可能性があります。
※石田の首輪はほぼ無傷ですが、システムに何らかの損傷がある可能性があります。
【田中沙織 死亡】
【残り17人】
***
投下は以上です。
>>269は「慟哭9」です。すいません。
とうとう沙織も脱落か……
投下乙です。
佐原は黒沢との出会いで優しさを取り戻し始めているよう。
皆いい方向に動くかなと思った直後に沙織退場。
やっぱりバトロワだ…。
彼らの続きが楽しみです。
282 :
マロン名無しさん:2012/03/09(金) 10:34:20.68 ID:Nmx9vKsV
乙・・・!
続きが楽しみだ。
投下します。
***********************
……では、以上で放送を終了する。 引き続き、諸君の健闘を祈る……
兵藤和也はギャンブルルームの椅子に座り、第3回定時放送に耳をすませていた。
テーブルに見立てた雀卓に肘を突き、対面や下家に座る男達の様子を横目で伺う。
下家に座る一条は、簡単な応急処置を済ませた後である。放送を聴きながら村上の淹れたコーヒーを飲んでいる。
対面に座る赤木しげるは、村上が場の流れで渋々出したコーヒーに口をつけようともせず、指を組んでじっとカップの中の闇を見つめている。
(……やれやれ、妙なことになっちまってるよなぁ…)
上家近くに立つ村上へちらりと視線をやると、村上も困惑を隠せないまま一条とアカギの顔を見比べている。
少し離れたところにあるソファーには鷲巣巌が、おざなりに仰向けに寝かされたまま、まだ目を覚ます気配も無い。
◆
数十分前。
ギャンブルルームの入り口の前で、和也は地面に転がっている鷲巣を見下ろしていた。
やっかいな人物を連れ飛んできた一条を恨めしく思うも、その原因が自分のせいであることも重々承知していた。
(このまま、殺っちまうか…?)
和也の目に暗い影が過ぎる。村上は今、一条の応急処置にやっきになっている。
一条は明らかに顔色が悪かった、こちらのことを気にかける気力はないだろう。
(…と言っても、『仲間にしたい』っていう嘘がある手前、なんとか上手く事故に見せかけらんねーかなぁ…。
この爺さんの持っている支給品とかで…例えば爆発物がうっかり爆発したとかさぁ…)
和也はしゃがみ込み、ごそごそと鷲巣の懐を探る。
(……って何だこの銃、ひん曲がってるじゃん…!)
それは一度、鷲巣に突きつけられた拳銃。和也は舌打ちした。
「…チッ!そうと知ってりゃ、あの場で殺してたのによ…」
和也は思わず文句を垂れた。
急場を凌ぐ為にとっさに思いついた特別ルールのおかげで後の事が穏便に進んだとはいえ…それとこれとは別である。
「鷲巣が急に目を覚まして銃で俺を撃とうと…そこで銃が暴発…ってシナリオに見せかけるとか…。
いやいや、鷲巣が気絶してんのにどうやって撃たせるんだよ?
俺が撃…ったら俺が怪我するっつーの…!無しっ…!」
和也はあーあ、と空を仰いだ。
視界の隅に人の影が映る。和也はぎょっとしてすぐに視線を向けた。
朝日を背に浴びてゆっくりと歩いてきたのは赤木しげるであった。
盗聴器ごしに宣戦布告したとはいえ、まだ直接の面識は無い。だが、その白い髪、飄々とした出で立ちからすぐに察した。
「鷲巣………」
アカギはつぶやきながら、小型の銃をこちらに向け歩いてきた。
(しまった……!)
和也は慌てた。せっかく在全とのゲームで武器を入手したというのに、ギャンブルルームの中に置いたままだ。
なんという失態…考えられぬ愚行…!
和也の心境を知ってか知らずか、アカギは着実に距離を詰めてくる。
とっさに鷲巣の懐から奪った『曲がった銃』を構え、和也は叫んだ。
「と、止まれっ……!」
「…………」
アカギは全く動じない。あと数メートルというところまで近づいてきて、ようやく立ち止まった。
「お前、殺したのか…鷲巣を…?」
「死んでねえよ…!」
捨て鉢になって和也は答える。
大声を上げれば一条が飛んでくるだろうか、それとも声を上げると同時に撃たれるだろうか、と和也は必死に思考を巡らせた。
「そうか…ならいい」
朝日が逆光になり、アカギの顔はよく見えない。
鷲巣が死んでないなら良い…ということは鷲巣と共闘でもしているのだろうか。
「ちょうど良かった…鷲巣が適任だと思っていたが、アンタなら…より都合が良い」
「あ…?」
「アンタと話をしたいと思っていたんだ…どうだ…?ギャンブルルームの中で話さないか」
「は……?」
和也は面食らった。数時間前、和也はアカギにターゲット宣告をしたはずである。
そんなことを全く意に介さないかのようなアカギの振る舞いに、和也はただあっけにとられた。
「それとも、撃ち比べがしたいのか…?見たところ、その銃が使い物になるようには見えねえが…」
「…チッ…!一体何を企んでいる…?」
暗闇ならともかく、光の中で銃の変形は一目瞭然である。
曲がった銃を自分の懐にしまいながら、和也は聞いた。アカギは薄く笑った。
「中で話すさ」
◆
驚く村上に『鷲巣の分も立て替える、2人で30分』と200万を押し付け、アカギは鷲巣を担いでギャンブブルームに入ってきた。
「和也様…これは一体…!?」
ソファーに座って応急処置をしていた一条も、顔色を変えて立ち上がる。
「あー…なんかアカギが俺に話があるんだとよ…よく分かんねぇけど…!」
「は…?」
開いた口が塞がらないといった表情の一条を一瞥し、アカギは一条の座っていたソファーに鷲巣を乱暴に降ろした。
呻き声を上げる鷲巣に気を留めることなく、アカギはギャンブルルームの中を見渡す。
盗聴器を見つけると、アカギは一人納得したように頷いた。
「で、アカギ、俺に話って…」
「その銃は…利根川先生の……!」
一条がアカギの手にあるデリンジャーに気がつき、睨みつける。と同時に、和也の顔色を伺った。
一条としては利根川が死んだことに特別な感慨は無い。あくまで目的が同じ者同士、一時的に組んでいた人間という感覚だった。
だが和也の手前、多少は『仲間の死』をもたらした人物に対し怒りを見せるというポーズをとっておくべきかと計算してのことだった。
「ああ、アカギが利根川を殺したんだ」
盗聴器である程度の状況を把握していた和也は、アカギを指差して言い切る。だがアカギはあっさりとそれを否定した。
「利根川を殺したのは俺じゃない」
「は…?何だそれ…どういう意味だ…?」
和也はただ不思議そうに答える。一条は和也の様子に、演技する必要は無さそうだと判断した。
「利根川が襲い掛かってきて…俺も、奴を返り討ちにするつもりだったが…色々あってな。
あえて言うなら…奴の死は身から出た錆…。利根川は自分自身に殺されたようなもの…」
「はあ……?」
和也は首をかしげ、一条は鼻で笑った。
「下らない…相手にすることありませんよ、和也様。コイツはただ意味ありげな言葉を並べ、我々を煙に巻こうとしているだけ…!」
「アンタ…名前は確か…」
「生憎、小汚いチンピラに名乗る名前など持ち合わせていませんね…!」
一条の皮肉に、アカギは表情一つ変えずに言った。
「…そうか。“名無しの権兵衛”さん、アンタがそう思うんならそうなんだろう。
俺の目には、アンタも小汚いチンピラに見えるがね…」
鷲巣との戦いでつけられた傷。服もところどころ破れてぼろぼろになっている。
一条のこめかみに青筋が浮き立つのがはっきりと見て取れた。
一触即発の一条とアカギとのやりとりを、和也は心配するでもなく…むしろ興味深く眺めていた。
アカギに銃を向けられ、『話がある』と持ち出されたとき、感じたのは恐怖よりも…好奇心のほうが勝っていた。
“悪漢(ピカロ)”と呼ばれるあの“赤木しげる”が、俺に一体何の話があるというんだ…?と。
飄々として突拍子も無いことを言い出すアカギに、和也は興味を持ち始めていた。
(面白えっ…!この男…面白えっ…!)
一条を早速自分のペースに巻き込み、翻弄しているのを見て、和也はニヤつくのを押さえられずにいた。
「も…もうすぐ第3回放送の時間ですっ…!!」
そこへ、村上が割って入った。
「皆様、コーヒーでも飲みませんか…?コーヒーの香りにはリラックス効果があります…!
身体を休め、落ち着いて放送をお聞きになるのが良いかとっ…!」
雀卓をテーブルに見立て、椅子を用意し、村上は早速コーヒーを持ってきた。
「どうぞ…」
村上は真っ先に一条の前にコーヒーを差し出す。続いて和也、アカギにもコーヒーを出した。
「ああ、ありがとう」
一条は落ち着きを取り戻したようだった。村上はほっと胸を撫で下ろす。
あのままでは、ギャンブルルームの中にもかかわらず撃ち合いでも始めかねなかった。
疲れて気が立っているのだろう。無理も無い。夜通し寝ていない上に島を走り回り、命のやり取りをしてきたのだから。
あえて和也に『後』にコーヒーを出したのは、『参加者に優劣をつけない』という村上なりのさりげない意思表示だった。
……参加者の諸君、黒崎だ…これより第三回定時放送を行う……
放送が始まると、皆黙り込んで放送に聞き入っていた。
……前回から今回の放送までの間に敗れ去った敗者の名を発表する。
『天貴史』、『石田光司』、『村岡隆』、『治』、『利根川幸雄』、『市川』、『南郷』、『遠藤勇次』……
◆
(……やれやれ、妙なことになっちまってるよなぁ…)
放送が終わった後も、一条は済ました顔でコーヒーを飲み、アカギは相変わらず何を考えているのか読めない。
「コーヒー飲まねえの…?」
沈黙に耐えかねた和也がアカギに聞くと、アカギはああ、と興味無さげに答える。
「一応、敵地だからな…。この黒服とアンタらは深い関わりがあるようだし…。ここで出されるものはお茶一杯口にしたくない…!」
村上はムッとした顔をし、一条は嘲笑った。
「つまり、度胸が無いってことですね…?」
「どうとでも取ればいい…」
一条の嫌味を一蹴し、アカギは組んでいた指を解いて和也に言った。
「さて、本題に入ろうか。兵藤和也…」
「おお、やっとか…!待ちくたびれたぜ」
和也は大げさに伸びをしてみせる。アカギは唐突に切り出した。
「これから病院を探索してみないか…?」
「は……病院……?」
「アンタ、病院に興味はないのか…?」
アカギは驚いた顔で逆に聞き返してきた。
「興味っつっても…」
「そうか。興味があるから、このギャンブルルームを選んだのだと思っていた…いつでも探索出来るように…」
アカギの口振りに、和也は苛立ちを覚える。
だが、元来和也は知ったかぶりをしない、率直なところがあった。
「いや、単純に人が多く集まってくるかなーって思っただけだ。アカギは何?あそこに何があると思ってるんだ…?」
「ゲームの根本に繋がるもの…もしくは、ゲームの舞台…この島の歴史があそこにあると推測している…」
「…は?歴史…?」
「どっちにしろ…バトルロワイアル…このゲームを制する者なら…制する可能性のある者なら、
見ておかなきゃあならない…!それを生かすも殺すも当人次第…!」
「ゲームを…“制する者”……」
「俺も、アンタらも、せっかく明確な意思を持ってゲームに参加してるんだ…。
だったら見なくちゃ…!このゲームの原初…根本にあるもの…!」
アカギは薄く笑う。アカギの言葉に、興味をそそられる…惹かれるだけの危うい“何か”があった。
覚悟無く首を突っ込んだら、あっという間に骨まで焼かれそうな“何か”……
ドンッ…!
重い音に、和也ははっと我に返る。一条が雀卓に拳を落したのだ。
「戯言を…!」
一条はアカギを睨め付け、指を指してアカギを詰る。
「この男の言葉はまやかしだっ…!その証拠に何ら具体的なことを示さない…!
言葉巧みに抽象的な言葉を並べ、和也様を操ろうとしているんだっ……!」
「俺が操られる…?」
「そうです!ですから、この男の言葉に耳を傾けては…!」
「お前、誰に向かってモノ言ってる…?」
一条は、はっと口を噤む。和也の目には明らかな怒りの色があった。
「俺は人を見る目があるつもりだ。薄っぺらいペテン師、詐欺師なんざこの目で何人も見てきた。そうそう謀られたりしねえよ…!」
一条は己の失態に歯噛みした。いくら参加者が須らく同等の条件、平等だと謡っても、あるのだ…この世には…差がっ…毅然と…!
「も…申し訳ございません。出過ぎたことを申しました…!」
「…いいよ、もう…!お前だって、俺のことを気遣うあまりに出た言葉だろ…?気にすんな…!」
平身低頭の一条に、和也はひらひらと手を振り、何でもないことだと示す。
「…さて、話を戻そうか。アカギ…病院には何があるってんだ…?
抽象的な言葉だと分からねえよ。もっと俺にも分かりやすく言ってくれねえか…?」
「…抽象的な言葉になるのは、まだ出来ないからだ…断定が…。
この目で見て、情報を得て確信しない限り、話をすることが出来ねえな」
「……ふうん?だが、何かしら見当はついているんだろ…?
仮説でいいから、言ってみ…!それによって同行するかどうか、判断させてもらう」
アカギは少し間を空けてから、切り出した。
「……数年前。この島で人が…おそらく集団で、急に消えている」
「あ……?」
「数十人…いや、数百人か…?この島にいた集団の身に何かが起こった。
そして、この島の規模としては妙に大きい病院…あの病院がその何かに関係していないわけが無い……!」
「……数年前、何かが起きて、この島の住人がいなくなった。
で?それが今やってるこのゲームと何の関係があるんだ?」
「あるさ……このゲームがあの男…カイジの言っていた『見世物』であるなら……」
“カイジ”。
その名前に、一条、和也ははっきりと反応を見せた。
「カイジが何か言ってたのかっ…!?」
和也が興奮した様子でアカギに詰め寄る。
「『帝愛』という組織について、そして帝愛が行っていた大掛かりなギャンブルについて聞いた。
組織については、俺の想像していた主催者像とずれは無かった。だが、大掛かりなギャンブルのことは初耳…。
『見世物』として楽しむ…それだけではなく、競馬のようにゲームの優勝者が誰か、賭けをやっているという話…」
アカギは淡々と答える。
「それ以外のことは…?」
「特に何も…。アンタのこと…兵藤和也、そして帝愛の一条、利根川のことを聞いたくらいだ」
和也は頷きながら言った。
「…つまり、今回のゲームと『病院』に何かあるかもってのを結びつけるのは、アンタ個人の考えってことだな?」
「ああ」
「ふうん…そっか…」
一条は不安げに和也を見る。和也の身に何かあったら、一条にとっての『救済』、和也の特別ルールが消し飛んでしまう。
「病院を探索し終えるまでは互いに休戦、という契約を交わすのはどうだ…?」
アカギが切り出した。
「ギャンブルルーム内と同様、一切の暴力行為禁止…。
病院を探索し、兵藤和也がこのギャンブルルームに再び戻るまで…」
「…その取り決め、アンタに有利な取り決めじゃね?
分かってるか…?俺達、ゲームに“乗ってる”んだぜ…?」
「…なら、特別な取り決めをせずに行くか。俺はそれでも構わないが…。
アンタ、路上でケンカをした経験は…?」
アカギは事も無げに聞いてくる。和也はつい言い返した。
「良いのかよ、そんな態度でっ…!俺は『行かない』って選択も出来るんだぜ…!」
「それならそれでいい。少しだけ情報を纏めるのが遅くなるだけの話…。
それに、アンタは同行するさ…!ゲームの根本を知りたいって誘惑には抗えないはず…!」
「…フン…まあそうだけどなっ…!」
和也は不貞腐れつつも素直に認めた。
「和也様…!」
一条の浮かない顔を見て、和也はむしろ、行かなくてはという思いを強くした。
最後の最後、優勝争いで殺すまでは一条とは『仲間』だから…。
このくらいで尻込みしてるようでは、お先が知れると思われる…!
『病院を探索し終えるまで休戦』の誓約書を和也と取り交わすと、アカギはソファの鷲巣を揺さぶり起こした。
「なっ…何じゃ!?ここはどこじゃ!?」
飛び上がり、慌てる鷲巣に、アカギは簡潔にここがギャンブルルームであること、ギャンブルルーム前で倒れていたのを運び込んだことを伝えた。
「……鷲巣、200万返せよ、今払えるんなら」
アカギが鷲巣のデイパックを指差すと、鷲巣は愚痴り出した。
「100万は勝手に立て替えたんじゃろうが…運び込んで欲しいと頼んだ覚えはないわっ!」
「クク…そうか。そのまま転がしておけば良かったな…。
何にせよ、黒服に『立て替える』と言って入ったのだから、それを反故にするとすればアンタの首輪が爆発…」
「チッ…分かったわっ!払えばいいんじゃろ!ほれっ!」
鷲巣はデイパックに手を突っ込み、アカギに200万のチップを投げつけた。アカギは右手で素早くキャッチする。
「で…これからどうする、鷲巣?」
「どうする、とは…?」
アカギは他にもギャンブルルームを使用している者達がいることをあごで示す。
「ああああああああああっ…貴様らっ…!」
一条、和也を見た鷲巣は、恐怖とも怒りとも付かない奇声を上げ、近くにあった松葉杖を振り上げて威嚇する。
「元気なじいさんだよな…今更こんなこと言うのもあれだが、仲間にしても共闘出来る気がしねぇよ…!」
「え、では仲間にしないのですか…?」
和也の言葉に、一条は少し驚いた様子で問いかける。
「確かに人数は多いほうがいいと思ってた、少し前までは。けど、今は少数精鋭の方がいいって思うな…!」
「…確かに、じゃじゃ馬がいるとかえって邪魔になることもありますね」
内心鷲巣のことを良く思っていなかった一条は、ここぞとばかりに同調した。
(よっしゃっ…!『鷲巣を仲間に』って嘘、回避出来るっ…!)
内心喜んでいたのは、むしろ和也のほうであった。
「……だ、そうだ。鷲巣」
「あ…?何じゃ…?」
アカギは、鷲巣にあっさりと言ってのけた。
「今すぐにここを出て、全力で逃げたほうが良いようだぜ。
俺は今、兵藤和也と一時的に手を組んでいるが、アンタはこいつらにとって敵でしかないからな…!」
鷲巣の行動は早かった…!どこにそんな余力が残っているのか、満身創痍であることを忘れてしまうくらいに見事な速さで、荷物を抱えてあっという間にギャンブルルームから走り去った。
「さすが、生きたがりの鷲巣巌…!」
皆があっけに取られる中、アカギはクク…と笑い声を漏らす。
◆
数分後。和也とアカギは病院内の薄暗い廊下を歩いていた。
「ここに“何か”がなぁ…。探索っつっても、何を探すのよ?」
アカギは和也の問いに答えず、辺りを見回す。
正面入り口付近にある受付の中を見渡し、台に飛び乗って奥へと入り込む。
「おい、ちょっと待てよ…!」
和也も慌てて後を追った。
受付の奥に事務所の入り口があった。アカギは事務所のドアを回すが、鍵がかかっている。
デリンジャーを取り出し、鍵穴に向かって引き金を引いた。
パァン…!パァン…!
鍵を壊すと、アカギはすかさずデリンジャーの弾を2発装填し直し、木製のドアを蹴破った。
中に入り、薄暗がりの中で目的のものを探す。
「一体何を探してるんだよっ…!」
アカギを追って中に入った和也は、苛立ちを抑えきれずに聞いた。
「鍵だ…この病院内部の部屋の鍵…」
「鍵…?ああ、じゃあその辺りじゃね…?」
和也はアカギの背後を指差す。ドアの入り口付近に背の低い棚があり、棚の上には壁に設置された小さな扉がある。
小さな金属の扉には簡単な鍵がかかっていて、アカギは再びその鍵穴に銃口を向けた。
鍵を壊し、再び弾を装填し直すと、アカギは扉を開ける。中にはキーホルダーつきの鍵が並んでいた。
アカギは近くに落ちていた紐に鍵を通していき、輪にする。じゃら、と音をさせて鍵を懐にしまい、アカギはようやく和也のほうを振り返った。
「おお…カレンダーが3年前のだな…」
手持ち無沙汰の和也は事務所の中を眺めて回ったり、机の引き出しを開けて回ったりしていた。
「なぁ、アカギ…興味深いことがあるぜ」
「何だ…?」
「“紙”が見当たらねぇ…文具とか事務用品は乱雑に入ったままだが。壁のカレンダー以外の紙がさ…。
そこの戸棚もカラッポだ…ファイルとか並んでそうなもんなのによ。
つまり『書類』が全て持ち去られている…見られちゃまずい書類でもあったんだろうなあ…」
「例えば…?」
「そうだなぁ…ここで行われていたのが、新薬の開発とか…?債務者とか集めてさ…人体実験…!
アンタの言う“島で大勢の人間が消えた”ってのは、薬の実験で死者が大勢出たのかもな」
和也は世間話をするような軽い口調で言う。アカギも特に感情を表すことなく、頷いた。
「そうかもな…」
「うちの組織…『帝愛』やら、主催者の奴らが、過去に島をそんな風に使っていたとしても不思議は無いしな。
俺は直接の関わりは無いが、聞いたことがある…一夜限りのギャンブル船の敗退者を、どこぞの島に送って…」
「ギャンブル船…カイジの言っていたあれか…」
「…負ける奴が悪いのさ。そんで嵌められる奴が悪い…!そう思わねえか…?」
和也はクク…と残忍な笑みを漏らす。
アカギはそれに反論せず、行くぞ、と呟くと部屋の外に出て行く。和也も後を追った。
「……で、次は何を探すんだ…?」
アカギの後ろを和也は嬉々として付いて行く。アカギは廊下を真っ直ぐ歩きながら、和也に聞き返した。
「アンタ、この島に来る直前に病院には行ったか…?」
「は…?来る前に病院…?」
「こんな島での殺し合いだ…予防接種を受けていないか…?破傷風の…」
「……いや、受けてねぇな。あ〜、受けときゃ良かったかも…」
和也は頭をかいた。
「まあ、この島では気休め程度にしかならないだろうが…」
「アンタは受けたのか?」
「いや…」
アカギは首を横に振った。
廊下の端まで来ると、アカギは行き止まりの壁を注意深く観察し始めた。
「この周辺の壁が新しい…」
アカギの言葉を聞いて、和也も壁の端を凝視する。確かに、正面の壁に塗られた塗装と側面の壁とでは、境目で色が僅かに変わっている。
和也は目を爛々とさせながらアカギに聞く。
「じゃ、この先に何かが…?」
「ああ…」
「あの事務所にあったであろう書類なんかより、よほど目に触れちゃならねぇモンが…?」
「察しがいいな…こうして、一見して分からないように隠しているのが何よりの証拠……!」
「“パンドラの箱”ってやつかっ…!」
和也は喉をごくりと鳴らした。
「…で?どうやってこの壁を破る?」
「下がってな」
アカギは手榴弾を取り出した。和也は慌てて後ろに下がる。
壁から数十メートル下がり、アカギは安全ピンを抜くと手榴弾を壁に向かって投げつけた。
ドォンッ……!!!
薄いコンクリートの壁が弾け飛び、大きな穴が開く。
コンクリートの中には薄いベニヤ板があるだけで、易々と爆発で吹き飛ぶのも無理はなかった。
アカギは臆することなく壁の穴を潜り、中へ入っていく。
和也も追って中に入ると、そこには…下へ下りていく階段が存在していた。
いつの間に持ってきていたのか、アカギは事務所から失敬した懐中電灯を取り出し、階段を下りていく。
(地下へ続く階段か…いかにも何かありそうな舞台設定だぜっ…!)
和也は心躍る思いでアカギの後をついて行った。
果たして、階段の下には鉄の扉があった。
扉には鍵がかかっている。アカギは先程の鍵の束を取り出し、合いそうなものを片端から試そうとする。
「貸してみ…!」
和也は鍵穴を観察し、鍵の束を一瞥すると一本の変わった形の鍵を摘み上げた。
「たぶんコレだろ…!ここの鍵穴だけ、上の病院の部屋についてる鍵の種類とはずいぶん異質だからな…!」
ガチャリ…
『パンドラの箱』は、存外簡単に封印を解くことが出来た。
ギギィィ…………
錆びた扉を軋ませながら開く。
埃っぽい空気に混じり、異臭が鼻を突く。和也はハンカチで口元を押さえ、暗闇の中に入った。
アカギも入り、懐中電灯を部屋の中に向ける。
「うおっ……」
部屋の光景に、さすがの和也やアカギも息を呑んだ。
そこには夥しい数の死体が転がっていた。
奥のほうから手前まで白骨化…そしてミイラ化した死体が床に乱雑に並べられている。
地獄…まさに地獄であった。和也やアカギでなければ、正視に耐えられるものでは無かっただろう…!
「“当たり”…か…!アンタの予想通り…島で急に人が消えたってヤツ…!
そして、その原因はやはり、新薬の実験失敗……」
「いや…その線は薄くなった…むしろ…!」
アカギは死体を見渡しながら呟く。
「死体を見て、何か気がつかないか…?」
「は…?」
和也は近くにあった死体に目を凝らす。
「この死体…本当にギャンブルに負けた『債務者』か…?」
「あっ…」
足元の死体は、どう見ても子ども…服装から言って、女の子のようであった。その傍に成人女性と思しき死体…。
気がついてみれば、ここには老若男女…死体の服装から見て様々な年齢の人間の死体が転がっている。
「もちろん、奴ら主催が分け隔てなく、どんな人間にも同じ実験をしていたのなら話は別だが…」
「…いや、それはない。というか別枠だ…新薬の実験に使われていたのはだいたい成人後の男が大半…。
女は売春とか、別の場所に回される…」
「……じゃあ、この島で行っていたのは…少なくとも、ここにある死体の死因は『新薬の実験』ではないんだろう」
「えっ、じゃあ何だっていうんだ…?」
「ほぼ同時期に大勢の人間が一度に死んだこと…争った形跡が無いことが死体の状態から分かる。
そして、ここが“病院”である事実…考えられる死因は…?」
「…………“病気”……集団で……」
和也はアカギのほうに向き直った。
「“伝染病”…!細菌兵器の開発か……!」
「ああ…確信はある…だが、アンタはどうだ…根拠は…?」
「いや…俺も小耳に挟んだことがあるって程度だ。都市伝説並みの噂…ただ…親父達ならやりかねねぇさ。
それに…聞いたことがある。『人買い』の話…」
「人買い…?」
「参加者に『平井銀二』ってのがいるだろ」
和也の言葉に、アカギは僅かに眉を寄せた。
「これも、噂で聞いた程度なんだけどな…。
奴は以前、借金で頭が回らなくなった人間どもを集めて、金を貸してたって話だ…。
絞りとれそうな者には多目に金を渡し、他の闇金に見つからぬよう、家族でしばらく潜るように指示する。
で…助けた恩人…自分だけに、居場所を教えるようにと言うんだとさ」
「…それで?」
「…この部屋、いろんな年齢の人間が死んでるだろ…この子どもと女なんて、まるで親子のようじゃないか?
つまり、ここにいる人間はかつて“逃げてきた”人間たちと、その家族ってこと…!」
和也の言葉にアカギは頷き、口を開く。
「今の話を聞いて色々と納得した点がある…。
まず…この島には娯楽施設が多数存在すること…。
地図上の“アトラクションゾーン”…見てきたが、遊具施設がまだ10年程度しか経っていないような比較的新しいものだった…。
宿泊施設はともかく、娯楽施設は必要が無いのさ…単なる『新薬の実験台』のための施設ならな…!」
「まあ、それは大げさなカモフラージュかも知れねえがな…商店街もさ。島に病院を建てる、表向きの理由のためのな…!」
和也はキキキ…と嗤いを漏らした。
「今の話をまとめるとさ…かつてここは、口車に乗せられて身を隠すために逃げてきた人間たちにとっての『新天地』…!
つまり『夢の島(ドリームランド)』…だった、ってことだよな…!
だが実態は…極秘に進められていた『細菌兵器』の開発…その実験場…!
ククク…とんだ『悪夢の島』だぜっ…!」
「…それで島の施設や民家など…生活の跡が残っていたんだな…」
「そういうことじゃね…?」
「クク…よく分かった」
アカギもニヤリと笑い、和也に語りかける。
「主催者の息子である兵藤和也…!アンタからは関係者ならではの情報…俺の想像の裏づけ…それを求めていた。
以前は鷲巣に頼もうと思っていたんだが、いい流れ…予想以上の収穫…!」
「……だけどよ、その『細菌兵器』の実験と、このゲームの根本ってのは…どう結びつくんだ…?」
「さっき話したろ…このゲームは競馬のように賭けられている…つまり、外部の人間…ギャラリーが見ている…」
「それが…?」
「ここで『細菌兵器』が開発されていた…それを知って脅威に感じる者は…?」
「……」
和也は言葉に詰まった。
『細菌兵器』…その事実に思い至り、何気なく言葉にしながら、和也には内心、背筋が震えるような感覚があった。
『主催者の関係者』寄りの和也でさえ…幾度となく間近に死を見てきた自分でさえそう感じるのだから、
『傍観者』であったギャラリー達は、主催者達が保有する凶悪な『兵器』の存在…その事実についてどれだけのプレッシャーを感じるだろうか。
当然、今のやり取りは何らかの方法でギャラリー達に『鑑賞』されているであろう…。
「…これって、開けちゃいけねぇ箱だったんじゃねえか…?」
額に冷や汗をかきながら、和也は呟く。アカギは顔色一つ変えずに言う。
「主催者達が本当にどうしても隠したいものであるのなら…それにしちゃ、隠し方が杜撰だ。
事実、こうして俺たちは簡単にここに…『兵器』の存在に辿り着いたじゃねえか…?」
(…むしろ、暴いて欲しかったってことか…親父たちは…!それがゲームを執り行った『狙い』の一つ…!)
和也は改めて部屋を見渡し、奥歯を噛み締める。
この凄惨な光景…主催者達にとって重大な秘密…恥部…大スキャンダル…!
だが、主催者達はそれを逆手に取った…!
あまりにことが重大過ぎる為に、『スキャンダル』として扱うにはリスクが大き過ぎる…!
「見るべきものは見た…。そろそろ戻るか」
アカギは部屋の扉を開ける。和也も慌てて後を追った。
「これはもう必要無いな…」
悪夢の部屋から出ると、アカギは鍵の束を足元に捨てた。
じゃらり、と反響して不気味な音を立てる。
階段を上りながら和也はアカギに問う。
「なあ…こんな事実を知ったからって、ゲームが有利に進められるとは思えねえよ…!」
「アンタ次第だろう…俺は『真の意図』も測れずにゲームに勝つことは出来ないと踏んでる…」
「『真の意図』だと…!」
「そうだ。俺達は今、少し近づいた…主催者の思惑に…!」
アカギは階段を上る足を止め、後ろの和也を見下ろした。
「だが、リスクもあったな…避けられないこととはいえ…」
「あ…?」
「さっき『島に来る直前に予防接種をしたか』とアンタに聞いただろ…?」
……和也の顔色が、みるみる悪くなっていく。
「…と言っても、『細菌兵器の実験』が起こったのは事務所にあったカレンダーを見るに3年ほど前…。
俺達が『ああなる』可能性は低いだろう…」
「………アカギ……」
「だが、この島にいる主催者や関係者…そいつらが用心のためワクチンを打ってからこの島に上陸したのは想像に難くない…」
「……アカギ………てめぇ………………………………」
「“パンドラの箱”か…確かに、言い得て妙だ……」
「アカギっ…!!!」
アカギは再び階段を上り始める、和也は思わず叫んだ。
「アカギっ…!てめぇっ……!嵌めやがったな……………!!!」
「嵌めた…?俺が『確信』を持ったのはあの扉を開き…あの光景を見てからだ…。
それまでは『新薬の実験』…もしくは『以前にも行われていたかも知れないバトルロワイアルの跡』…。
そんなものを想像していた。扉を開くまでは気づきようも無い…」
「嘘つけっ…!お前は気づいていたはずだ…!この可能性にっ…!」
和也は激昂し、懐から拳銃…一条に借りておいたトカレフを懐から抜き、アカギに銃口を向ける。
アカギは和也の持つ銃を無感動に見つめる。
「“誓約書”を交わしたことをもう忘れたのか…?死ぬ気で俺を殺す覚悟があるなら、それでも構わないが…」
和也はギリッと唇を噛み締め、やがて震える銃口を下に向ける。
「何を恐れているんだか…。
仮にお前が保菌者になっていたとして、優勝すればいいだけの話…!
主催者は確実に持っているだろう…ワクチンを…!
ここは“殺し合い”の島…命懸けで情報を集めるのは当然のこと…。今更何を怯えている…?」
アカギは、和也になおも畳み掛ける。
「アンタの連れ…ギャンブルルームにいたのは“一条”だったな…。
あの男は自分本位…おそらく、利が無ければ誰かに付き従うことなど絶対に無いって性格…。
それがアンタには平身低頭…以前に自分の所属していた組織の、トップの息子だったとはいえ…!
おそらく…アンタは一条に何か吹き込んでいる…『自分に付き従えば、生き残れる』とか何とか…」
「なっ……!!」
和也は今度こそ背筋が凍りつくような思いに駆られた。
「そして、それは嘘…アンタの立場を利用したハッタリ…!
何故なら“面白くない”から…!主催者達にも、ギャラリーにとっても…『身内びいき』は…!
だが…それも含めて、主催者達の視点から見てアンタの考え出した『嘘ルール』はどうか…?
『嘘ルール』を吹聴すること自体には何の問題も無い…。
かえってゲームの心理戦…駆け引きを鑑賞する楽しみが増えるというもの…!」
階段の上、アカギが開けた壁の穴から僅かに光が届いている。
逆光の中、アカギは薄く嗤っていた。
「安心しなよ…俺はアンタの嘘を誰にも話すつもりは無い…“面白くない”からな…。
だが、気をつけることだ…参加者によってはあっさり見抜くだろう…」
「………………」
「……アンタ、今まで“真に”このゲームに参加していなかっただろ…?
どこか傍観者…他人事のように捕らえていたんじゃないか…?」
“悪魔”……。和也の脳裏にそんな単語が浮かんだ。
今、対峙しているのはおおよそ自分の…人の想像の範疇を超えたもの。魑魅魍魎、悪鬼…羅刹の類っ…!
「……だが、今日明日死ぬかも知れないと…己の死を身近に捉えることで、アンタはようやくスタート地点…。
真にゲームに参加し始めたんだ…ここからどう動くかはアンタ次第…!」
「アカギっ…お前は…」
和也は叫んだ。その質問は、どうしようもない怒りよりも『好奇心』が勝った故の言葉…。
「お前は死が怖くねえのかっ……!」
アカギも『保菌者』になったかも知れない…その事実。
どうしてアカギは平然としてられるのか、和也には全く分からなかった。
「死は怖くない…それよりも『自分の意思』が大事だ…!」
アカギはやがて階段を駆け上がり、穴の外に消えた。
足の感覚が無い。よろよろと階段を上がり、和也が元の廊下に戻ってきた頃にはアカギの姿は無く…。
元来た道を戻ると、入ってきた非常口付近には『誓約書』と書かれたメモが破り捨てられていた。
「ち…っくしょ…………!!」
和也は非常口のドアを力任せに殴りつけた。
ガァン…!
重い金属音が、空しく病院内に響く。和也は懐の誓約書を取り出すと、ビリビリに引き裂いた。
『細菌兵器』。
ギャラリーに対する主催者達の意図。
保菌者になってしまったかも知れない事実。
己の覚悟の足りなさを見抜かれ、安易な嘘を暴かれたこと。
あらゆることが一度に起きすぎて、和也は内側から噴きあがってくるマグマのような怒りを持て余していた。
ただ一つ、確実に心に決めたことがある。
「アカギ…殺すっ…てめぇは絶対に…殺すっ……!!」
もしアカギに『伝染病の保菌者』である事実を吹聴されれば、元々ゲームに乗っていない者達からでさえ、
感染を恐れて真っ先に殺すターゲット対象にされかねない。
それは病気を発症すること以上に危険な状況と言えた。
それに『嘘ルール』についてもだ。誰にも話すつもりは無い、などとアカギは言ったが信用出来る訳がない。
だが、そんな理屈はどうでも良かった。
あまりにも激しい怒りは、逆に頭の芯が冷えていくような感覚なんだと、和也は初めて知った。
殺す。そして一刻も早く優勝し、ワクチンを手に入れ、俺は生き残る。
この俺を虚仮にしたアカギに…ゲームに…世間に…復讐する。
和也はきつく拳を握り締め、強く決意した。
そして、何事も無かったかのように平静を装うと、ギャンブルルームへと戻って行った。
◆
……アカギは西へと走っていた。
鷲巣を起こすとき、鷲巣の懐に次に落ち合う場所と時間のメモを入れておいた。メモに鷲巣がいつ気がつくかは分からないが…。
兵藤和也。奴は今まで『土俵に立っている』自覚が無かった。
それでは面白くない。もっと強敵でなければ…!!
このゲームに『悪役』…『ゲームに乗る者』の存在は必要不可欠である。
ゲームに乗る者がいなくなれば、バトルロワイアルの意味が…主催者達にとっての『ギャンブル』の意味が無くなる…!
意味が無くなれば、主催者達がゲームを放棄する…全員の首輪を爆発する可能性も出てくる…例えギャラリーの非難を浴びようとも…!
だが…おそらく今後、ギャラリーは主催者たちを非難することが出来ない、とアカギは推察した。
アカギが暴き出してしまったから…このゲームの『罠』を…。
参加者達への『罠』ではない…ギャラリーへ、主催者達が張った『罠』っ…!
主催者達が『細菌兵器』を保有しているという可能性…!
事実がどうあれ…恐ろしい兵器の保有…その可能性をギャラリー達が脅威に感じない訳が無いっ…!まさに泥沼…!
ここまでは主催者達の思惑の範疇…だが…主催者達の掌の上でいつまでも転がされているアカギではない…!
(ククク…面白い…狂気の沙汰ほど面白い……!)
**********************************
以上です。>289は「悪夢7」です…。
状態表は本日の昼ごろ投下します。すみません。
【E-5/ギャンブルルーム/朝】
【一条】
[状態]:身体全体に切り傷(軽傷)
[道具]:改造エアガン 毒付きタバコ(残り18本、毒はトリカブト) マッチ スタンガン 包帯 南京錠 通常支給品×6(食料は×5) 不明支給品0〜3(確認済み、武器ではない)
[所持金]:3600万円
[思考]:カイジ、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
復讐の邪魔となる(と一条が判断した)者、和也の部下にならない者を殺す
復讐の為に利用できそうな人物は利用する
佐原を見つけ出し、カイジの情報を得る
和也を護り切り、『特別ルール』によって村上と共に生還する
※和也の部下になりました。和也とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、 その派閥全員を脱出させるという特別ルールが存在すると信じています。(『特別ルール』は和也の嘘です)
※通常支給品×5(食料のみ4)は、重いのでE-5ギャンブルルーム内に置いてあります。
【兵藤和也】
[状態]:健康
[道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ)チェーンソー クラッカー九個(一つ使用済) 通常支給品 双眼鏡 首輪2個(標、勝広) 拳銃(銃口が曲がっている)
[所持金]:800万円
[思考]:優勝して帝愛次期後継者の座を確実にする
死体から首輪を回収する
赤木しげる、井川ひろゆき、平山幸雄、しづかを殺す
※伊藤開司、赤木しげる、鷲巣巌、平井銀二、天貴史、原田克美を猛者と認識しています。
※利根川、一条を部下にしました。部下とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、その派閥全員を脱出させるという特例はハッタリですが、 そのハッタリを広め、部下を増やそうとしています。
※首輪回収の目的は、対主催者の首輪解除の材料を奪うことで、『特別ルール』の有益性を維持するためです。
※武器庫の中に何が入っているかは次の書き手さんにお任せします。(武器庫のことはこれから一条に話す予定です)
※アカギ、ひろゆき、平山、市川、しづかに対して、殺害宣言をしました。
※病院の探索により、この島の秘密、主催者の意図の一部を知ってしまったと考えています。保菌者になった可能性があります。和也はその事実を重く見ています。
※アカギが和也の『特別ルール』の嘘を暴いたことを重く見ています。
※一条から拳銃を借りています、ギャンブルルームに戻ったらすぐに返す約束です。
(補足>首輪探知機がある、としづかが漏らした件ですが、それは和也しか盗聴していません。利根川と一条はその頃、病院に爆弾を仕掛けに行っていました。)
【E-4/草むら/朝】
【赤木しげる】
[状態]:健康
[道具]:ロープ3本 不明支給品0〜1(確認済み)支給品一式×3(市川、利根川の分)浦部、有賀の首輪(爆発済み)対人用地雷 デリンジャー デリンジャーの弾(残り21発) ジャックのノミ モデルガン ICレコーダー カイジからのメモ 懐中電灯
[所持金]:700万円
[思考]:もう一つのギャンブルとして主催者を殺す 死体を捜して首輪を調べる 首輪を外して主催者側に潜り込む
※主催者はD-4のホテルにいると狙いをつけています。
※2日目夕方にE-4にて平井銀二と再会する約束をしました。
※鷲巣巌を手札として入手。回数は有限で協力を得られる。(回数はアカギと鷲巣のみが知っています)
※首輪に関する情報(但しまだ推測の域を出ない)が書かれたメモをカイジから貰いました。(試してみたが駄目だと分かりました。)
※参加者名簿を見たため、また、カイジから聞いた情報により、 帝愛関係者(危険人物)、また過去に帝愛の行ったゲームの参加者の顔と名前を把握しています。
※過去に主催者が開催したゲームを知る者、その参加者との接触を最優先に考えています。 接触後、情報を引き出せない様ならばギャンブルでの実力行使に出るつもりです。
※危険人物でも優秀な相手ならば、ギャンブルで勝利して味方につけようと考えています。
※カイジを、別行動をとる条件で味方にしました。
※和也から殺害ターゲット宣言をされました。
※病院の探索により、この島の秘密、主催者の意図の一部を暴いたと考えています。保菌者になった可能性がありますが、伝染病が蔓延したのは数年前のことなので可能性はごく低いと割り切っています。
【鷲巣巌】
[状態]:気絶 疲労、膝裏にゴム弾による打撲、右腕にヒビ、肋骨にヒビ、腹部に打撲 怪我はすべて手当済 背中、頭部強打
[道具]:不明支給品0〜1 通常支給品 防弾チョッキ 鋏(医療用) 松葉杖 革の手袋
[所持金]:300万円
[思考]:零、沢田を殺す
平井銀二に注目
アカギの指示で首輪を集める(やる気なし)
和也とは組みたくない、むしろ、殺したい
※赤木しげるに、回数は有限で協力する。(回数はアカギと鷲巣のみが知っています)
※主催者を把握しています。そのため、『特別ルール』を信じてしまっています。
※今は西に逃げていますが、アカギが懐に入れたメモに気がついていないため、別の方向に行く可能性もあります。次の書き手氏にお任せします。
******************
投下は以上です。
307 :
マロン名無しさん:2012/03/15(木) 03:48:36.51 ID:JOSJ1Qxl
投下乙です。
アカギと和也、二人によってゲームへの核心に近づきましたね。
銀さんや原田がどんなアプローチでこの事実にたどり着けるのか楽しみです。
投下 乙です
和也坊ちゃんが何時キレるか、ハラハラした。
309 :
マロン名無しさん:2012/03/15(木) 09:56:02.62 ID:lZf/Bavm
投下……圧倒的乙です……!
物語も佳境、和也もようやくの本気……、凄く面白かったです。
キャラクター人気投票だけでなく、コンビとかチームの人気投票とかもしあったなら、間違いなく一条と村上に入れる……!コーヒー飲めて良かったよぉ〜。
310 :
マロン名無しさん:2012/03/30(金) 11:40:01.71 ID:oHp845dy
ほす
311 :
マロン名無しさん:2012/03/31(土) 16:56:33.28 ID:Kvm/nPep
保守
保守
保守…!
314 :
マロン名無しさん:2012/04/09(月) 12:48:42.14 ID:Bz1NMoAp
保守
保守
保守
317 :
マロン名無しさん:2012/04/29(日) 19:13:04.69 ID:/pZA/xYl
保守
318 :
マロン名無しさん:2012/05/03(木) 20:59:48.23 ID:FOqq6mEH
保守
保守ありがとう、でもsageてくれ
保守
ホシュ
322 :
マロン名無しさん:2012/05/28(月) 16:46:03.93 ID:Z8eel2s0
保守
予約キター!!
保守
ゆっくり投下します
さるったら時間空けて投下再開します
途絶えてもさるさん解消されたらもどってくるので気にしないでください
しづかの目の前に広がるのは、恐怖を覚えるほどに穏やかで美しい景色だ。
昇りたての太陽の光が、水面をきらきらと輝かせる。
無駄のない景観。一切の不純物がない、澄んだ景観だ。
視界の端から端までが、海と空で満たされる。
仲根の元から逃げ、ただひたすらに歩き続けたしづかは
彼女の望んだとおり島の東端へと到着していた。
疲れた、休みたい。
周りに敵がいるかもしれない。
まずはノートパソコンを確認しなければならない。
頭の中では冷静になすべきことを考えている。
それでも眩い景色を前にして、しづかは少女らしく感動していた。
こんな状況でなければ、この美しさにもっと浸れたものを。
否、この状況におかれているからこそ、純粋に美しいと思えたのかもしれない。
「あぁ・・・なんにもねぇ」
焦燥感や不安が和らぐのを感じる。
和らいだのではなく、誤魔化されただけかもしれない。
圧倒されて、ほかのことに関する感覚が鈍くなっているのかもしれない。
そして、目前にある美しさは残酷な現実も教えてくれる。
どんなに眼を凝らしたところで、ほかの島の影すら見えない。
海と空の間に一本線が入っているだけの、簡素な眺望。
泳いで逃げるなど以ての外、
ボートであっても十二分な設備がなければ島を出るのは自殺行為なのだとわかる。
“死”はしづかの想像よりも遥かに広範囲を取り込んでいる。
この島だけではない。
どうすれば、どこまで行けば助かるのか、考え始めると途方がない。
思考を無理やり停止させる。
「・・・禁止エリア」
ぽつりと言葉がこぼれる。
木陰に移動してしゃがみこむと、しづかは抱えていたノートパソコンを膝の上で開いた。
一度座ってしまうと、足の疲労がじんわりと主張をはじめる。
痛むふくらはぎをさすりながら、最新のデータを見ることにする。
必要最低限の情報だけを拾って、そこから導き出した最もマシだと思われる場所へ移動しよう。
それが一番いいだろう。それくらいしか出来ない。
なすすべがない。しづかには、何もない。
“今”殺されないように、“今”死なないように尽くすこと。選択肢はそれ以外になかった。
パソコンの画面に映し出される最新情報。
これがしづかの武器だと言えるかもしれない。
第三回放送で禁止エリアに指定されたのはE-2、C-5。
表示によると現在しづかがいるのはC-7エリアである。
C-7エリアにはしづか以外誰もいないらしい。
危険が差し迫っているような状況ではない、と考えてよいのか。
仲根と佐原の名前を探そうと視線を動かすと、その二人よりも先に目に付くものがあった。
現在地エリアの真上、B-7エリアに並ぶ名前である。
表示は赤字――つまりこの名前の人物はすでに死んでいる。
『田中沙織』『坂崎美心』
「田中・・・死んだのか・・・・」
しづかは田中沙織を敵視していた。憎しみに近い感情さえ抱いていた。
それでも、胸の中がすっきりとしないのはどうしてなのだろう。
もやもやとする。
どんな内容であれ強い感情を持って接していた相手が消えうせてしまうということは
それだけに喪失感が大きいのかもしれない。
もしかしたら、悲しい、のかもしれない。
「誰が・・・」
純粋な疑問だ。黒沢が田中を守るような行動を取っていたのは明らかである。
こんな島の端のエリアで、どうして田中はぽつんと死んでいるのか。
しづかの思考はパソコンの予想外の動作で無理矢理に途絶えさせられた。
『充電してください』
画面に表示される非情な一文、しづかが反応するより先にあっさりと画面が暗くなる。
「はぁっ!?なんだよ!なんだこれ・・・!」
思わず素っ頓狂な声をあげながら、しづかはノートパソコンを揺さぶった。
無論、反応はない。バッテリー切れだ。
「壊れっ・・・壊れたのか!?えっ充電って・・・」
混乱する頭を落ち着けながら、電源ボタンを連打する。
数秒後、パソコンが起動したかに思われたが
『充電してください』の画面を再表示した後に電源は落ちてしまった。
それ以降、いくら電源ボタンを押しても画面は真っ暗、
疲れきったしづかの顔が鏡のように映っているだけだった。
「そんな・・・!ウソだろ・・・」
唯一頼りにしていたノートパソコンにまで裏切られた。
しづかはいよいよ悲しく、それ以上にむなしくなる。
機械に感情を振り回されていることへの腹立たしさが、余計にしづかを落ち込ませた。
すっかりノートパソコンに頼りきっていたしづかの頭の中には、
役に立つ情報はほとんど残っていなかった。
自分が今いるのはC-7エリア、真上のB-7エリアには二つの死体。
たったこれだけで、この先どうしていけばいい。
仲根、佐原、黒沢がどこにいるかの確認さえ出来なかった。
禁止エリアは何一つ記憶していない。
第三回放送で新たに禁止エリアに指定された場所も、
確かめはしたのだが、覚えていない。
今いるエリアの近くには禁止区域はなかったはずだ、ということだけが
おぼろげに頭の中にあった。ただそれだけだった。
ただでさえ手詰まり感があったしづかの行動に、
さらに大きな壁が立ちはだかる。
もう何も出来ないじゃないか。
「クソッ」
ノートパソコンを掴み、頭上に振りかぶる。
少し前までのしづかならば、このままノートパソコンを地面に叩きつけていただろう。
情報を見れないんじゃあ、こんなもの邪魔なゴミだ。
そう思いながらも、ノートパソコンは再度膝の上に収めた。
壊れたわけではないのならば、充電さえ出来れば、また使える。
苛立ったところで、僅かの得にもならない。
「はぁ・・・どうするかなぁ」
一方で、充電という一つの目的が出来たことは、しづかにとって幸いだった。
死にたくない、逃げなければならない、それがしづかの思考だ。
しかし、それでは果てがない。
逃げ続けていれば助かる、などとは到底思えない状況だ。
わかりやすい目的は、しづかの心の拠り所になりえる。
充電には電気が必要になるはずだ。
島の中には、ホテルや民家や病院などの施設が点在していることはわかっている。
そういった建物には、当然電気も通っている。
電気が通っている施設ならば、コンセントもあるだろう。
とにかく安全に電源を確保したい。
「・・・充電器とかどうなんだろ」
コンセントとパソコン本体を繋げるような装置は見当たらない。
コードの類は持ち合わせていない。
ノートパソコンを裏返して、バッテリーのあたりを開けてみようとするが
思いのほか蓋が固く閉まっており、壊してしまう前に諦めることにした。
「電池式・・・なわけないよな」
電源を確保できたとしても、コードの類がなければ
コンセントからパソコン本体へ電気を送ることができない。
「同じ型のパソコンがあれば・・・」
そんな都合の良いことがあるだろうか。
しづかの持つノートパソコンと同型のパソコンがどこかにあれば
その近くに電源コードも存在するかもしれない。
また、しづかは気づいていないが、ノートパソコンの中にはCD-Rが入っている。
このCD-Rは森田のフロッピーのコピーである。
代替のパソコンさえ見つかれば、データの再受信は可能なのだ。
「充電できる場所をヘタに探し回って、何が起きても文句言えねぇよなぁ・・・」
この島の地理はさっぱり頭に入っていない。
禁止エリアについての記憶もおぼろげである。
今C-7エリアにいるということ、先刻のデータの段階では周囲のエリアに他の参加者はいなかったこと、
しかしB-7エリアには、田中沙織ともう一体の死体が存在していること。
しづかの持ちあわせている情報はこれだけ。
C-7エリアの周囲にしづか以外の生きた人間がいなかったという点だけが救いだ。
それでも、いつまでその状況が守られるかはわからない。
ここでじっとしているわけにもいかない。
この限られた情報から打てる手は僅かだった。
しづかは、B-7エリアを目指すことに決める。
遥か東方の空に、どすぐろい雨雲が広がっている。
先ほどのデータ受信時点で敵がいないのだと確認できたエリアは
B-7とC-7エリアの二箇所だけだ。
地理がわからない状況で他所のエリアを闇雲に歩き回ることはできない。
受信したデータを信じるとすれば、即座に襲われるという状況はありえないだろう。
だからこそ、安全であると思える時間内にこのエリア内でやるべきことは済ましておきたい。
いつまでもB-7、C-7エリアがしづかだけのスペースであるとは限らないことも事実なのだ。
しづかがB-7エリアを目指した理由はシンプルだった。
田中沙織の死体があるからだ。
誰かに殺されたのか、なぜ殺されたのか。
黒沢はどうしたのか、仲根はどうしたのか。
本当に死んでしまったのか。
歩き出したしづかの胸には純粋な疑問があった。
そして、今後のためのひとつの目的も持っていた。
* * *
海岸沿いにしばらく歩みを進めると、どうやらB-7エリアに入ったようだ。
爽やかな風が吹く崖に不似合いな墓標が見えた。
近づくと、二つの盛り土にそれぞれ小枝が突き立てられていた
小枝が墓標代わりになっている。
その下に何かが埋められているのは間違いないだろう。
もしその何かが人間の死体であるとすれば――
つまり坂崎美心と田中沙織が埋葬されているのならば
バトルロワイヤルの最中にあって、
ここまで丁重な弔いを行った誰かがいるということだ。
左側の盛り土の周りの足跡は、より新しく見える。
新しい墓である左側に田中沙織、右側に坂崎美心が埋葬されているのだろう。
「これは・・・」
沙織のものと思われる墓標の横に、
ゲーム開始時に支給されたディパックが置かれている。
しづかは中身を検めることにした。
水、食料。
放置されていたディパックの中身を地面に並べていく。
冊子、広げると中身は名簿のようだった。
手榴弾。映画や漫画でよく見るままの形だ。
時計。コンパス、筆記用具。
物によっては複数個入っている。
「コンパス三つもいらねぇだろ・・・」
他の参加者から奪ったものなのか。
複数のデイパックの中身をまとめてこの一つに詰め込んであるようだ。
そして、最後に出てきたのは目当ての品。地図だ。
「あった・・・地図・・・!
マシだろ・・・ないよりは絶対に・・・!」
田中沙織の死体の元へ向かった目的のうちの一つが、
こうして地図を手に入れることだったのだ。
数時間前、佐原の襲撃から逃げる際に
黒沢と沙織は二人分以上のデイパックを持っていった。
中身が何なのかはわからない。
主催から支給されたままの内容かもしれないし、ゴミいれになっているかもしれなかった。
それでも、沙織らが複数の支給品セットとそれに含まれる複数枚の地図を所持している可能性はある。
おそらくは黒沢が荷物もちのような形で移動をしていたはずなので、
沙織の死体のそばに沙織の荷物が置かれているとは限らなかった。
それでも、そこに荷物が残されている可能性はある。
沙織の荷物が誰かにあらされ、漁られ、奪われているかもしれなかった。
それでも、しづかの求めるものが残されている可能性はある。
しづかは、あるかもわからぬ沙織の荷物のなかに眠っている、
あるかもわからぬ地図を頼りにしてB-7エリアに移動してきたのだった。
B-7エリアに移動することのデメリットがほとんどないために出来た行動である。
再びデータ受信できる環境を作るためには、この島の情報が必要だった。
具体的には、島内地理の知識――地図が必要だった。
しかし、地理情報に関して、しづかはデータ受信に頼りきっていた。
ノートパソコンを使うためには地図が必要で、
地図を見るにはノートパソコンが必要……しづかは困窮状態にあった。
それを打破するすべとして、多少の心許なさは承知で紙の地図を求めたのだ。
「今はB-7エリア・・・ここか」
沙織の死体から地図を回収できた場合のメリットとして、
現在地がわかるという点があった。
データに代わる地図を手に入れたとき、
その地点が地図上のどこだかわからないという状況も、しづかには十分ありえた。
沙織の死体があるのはB-7エリアの崖沿いである。
このことはしづかが持ち合わせている数少ない情報だ。
沙織の死体のそばから地図を入手できたので、
現在地が地図上のどこに位置するかということが把握できる。
しづかは、ノートパソコンの問題を解決するために目ぼしい施設をピックアップする。
「病院・・・はもう行きたくねぇな・・・」
しづかをかばって死んでいった天の姿が脳裏に浮かぶ。
「G-5のホテル・・・も嫌」
板倉や一条との記憶がよみがえる前に、しづかはサッと視線を移す。
「ショッピングモール・・・」
ショッピングモールは
現在地から移動するのに苦労はなさそうな場所に位置している。
地図を頼りに歩くという経験がないしづかでも、
海岸沿いに南下する程度ならば迷わずに辿り着けるだろう。
しかし、ショッピングモールがある南方へ顔を向けると、
ただならぬ様子が現在地からも伝わってきてしまう。
青白い空に黒い煙がもくもくとあがっていく。
ショッピングモール付近で小規模ではない火災があったことがわかる。
「暗いうちは気づかなかったけど・・・火事か爆発か・・・・」
思い返せば、移動中に焦げ臭さを感じた瞬間もあったかもしれない。
「あとは・・・発電所?」
ノートパソコンを使うためには電気が要る。
電気といえば発電所だ。
そんな稚拙な連想で、しづかは発電所に注目する。
だが、発電所に移動するには島内を横切らなければならない。
それだけでも危険であるというのに、どこが禁止エリアに指定されているかわからないのだ。
B-7エリアの現在地からC-1エリアの発電所を目指すのは地雷原を走るようなものだった。
「そう・・・禁止エリアだよなぁ」
しづかの入手した地図には書き込みがあった。
禁止エリアとして、二箇所のエリアがチェックされている。
B-3とD-4エリア。
「たしか一度の放送で2つか3つくらい禁止に指定してたから・・・
この地図は第一回放送までの情報しか載ってないってことか」
ほかの地図には何の書き込みもない。
すでに第三回の放送まで行われているのだから、禁止エリアは増えている。
余裕がなかったといえばそれまでだが、
しづかは放送内容を良く聞き、記憶しておかなかったことを後悔した。
第二回・第三回の放送で、
しづかが今目星をつけた施設も禁止エリア内に取り込まれてしまっているかもしれない。
病院、ホテル、発電所――
地図を手に入れたところでいずれを目指すのも危険であるといえた。
しづかは地図さえ手に入れれば状況が打開できるのだと前向きに考えていたが、
改めて思考を詰め、身動きがとれないのは変わらないのだと気づいた。
「そこまで頭まわんなかったよ・・・チクショウ」
ため息をつきながら、しづかは地面に広げた支給品たちを見る。
必要なものは頂いていこう。
死者の食料を持ち歩くのは、いくら不良少女のしづかでも気分が悪い。
水と食料は持ち合わせていたものを使うこととし、
しづかは自分の持ち物をデイパックに詰めていった。
沙織の持ち物であった手榴弾は、
持ち歩きやすく、また十分な武器になるだろうと思われたので拝借する。
残念ながら、ほかに武器になりそうな収穫はない。
「あいつ・・・もっといろんなもん持ってたと思ったんだけどな」
生前の沙織を思い返す。
黒沢と沙織の荷物はこんな量ではなかった。
ヘルメットやら、矢やら、嵩張りそうなものをたくさん持っていたはずだ。
「あのクソ親父が持ち去ったのか」
クソ親父……黒沢が大きなスコップを持っていたことを覚えている。
そのため、しづかはこの埋葬を行ったのは黒沢なのではないかと考えていた。
黒沢と沙織は敵対関係ではないように見えたし、
黒沢が沙織の死体を弔おうと考えるのは不自然ではないように思う。
「まぁ・・・田中沙織を殺したやつが他にいるなら、の話だけど」
不本意にも沙織を失ってしまった黒沢が、沙織を埋葬する。
それならば理解できた。
もしも黒沢が沙織を殺して埋めたのならば、笑えない。気味が悪い。
沙織を守るように行動していた黒沢が、沙織を殺すなんてあるはずがない。
そう信じたい。
「・・・どうでもいいけどな」
しづかの脳裏に、しづかを守って死んでいった男たちの顔が過ぎる。
頼んでもいないのに勝手に守って勝手に死んだのだ。
そして同時に、しづかを守るような素振りを見せておきながら、
非道な所業に走った一条の顔も浮かんだ。
誰かを守る。
そういった行動の裏にどんな感情があるのかは、守られる側からはわからない。
しづかは、ふと沙織の墓の横に視線を移す。
もうひとつの盛り土。坂崎美心が眠っている。
坂崎美心は、かなり早い段階で死んでいたはずだ。
第一回の放送で、一名だけ女の名前が呼ばれた。
しづかは、それが美心であったと記憶している。
この島で会うのは男――それも敵いそうもない男ばかり。
そんな中、放送で女の名前が呼ばれたので、よく覚えていた。
美心が死んだのは第一回放送よりも前。
沙織が死んだのは第三回放送前後ということになるだろう。
そして、二人は並べて埋葬された。
丁寧に、同じ方法で弔われた。
これが何を意味するのか、しづかにも一部は理解できた。
「同じ人間が・・・たぶん黒沢って親父が・・・・
二人を埋めたんだ・・・!」
美心と沙織の関係。沙織と黒沢の関係。黒沢と美心の関係。
しづかの知るところではない。
だが、違うタイミングで、おそらく違う場所で死んだだろう二人を
同じ場所に埋めようという考えの発端は何なのか。
しづかは、沙織のデイパックから取り出してあった参加者名簿をめくってみる。
内容は、ノートパソコンでも見られたようなものである。
島の中で起きた最新の情報が掲載されていない分、データよりも格段に劣る。
しかし、しづかにとってノートパソコンに送られてくる情報は過多だった。
こうして紙面にシンプルにまとめられた参加者情報は、
思いのほか読みやすく、しづかの頭に入ってくる。
一気に読むとさまざまな感情に押しつぶされそうになるので、
今はぱらぱらと流し読みをするにとどめた。
「うわっぶっさいくだな・・・」
坂崎美心という名前の横に、顔写真が載っていた。
この女は、もう死んだ。もういない。目の前の土の中に埋まっている。
しづかは眉根を寄せながら名簿をめくっていく。
田中沙織という名前の横にも、同じように顔写真があった。
しづかの持つ沙織の印象とはかけ離れた、
少し気が強そうで、しかし利発そうな顔をした女性の写真である。
綺麗な人だ、としづかは素直にそう思った。
この顔写真の女は凛とした表情をしている。
それが、どうだろう。しづかの前で赤子のように泣き叫んでいた沙織と同一人物なのだ。
「三人・・・」
目を通し終えた名簿冊子をパタンと閉じて、しづかは呟いた。
この参加者名簿に掲載されている女はわずか三人。
ここに全参加者の名前があるというのならば、
女性参加者三人のうち、すでに二人は死んで、残る女はしづか一人だ。
複雑な感情がしづかを包んだ。
それを無視するかのように、しづかは地図と参加者名簿を懐にしまう。
これまでノートパソコンで――デジタルで手に入れることが出来た情報は
地図と参加者名簿というアナログに取って代わってしまった。
しづかは、今は使えないノートパソコンをデイパックに突っ込んだ。
銃があるので、鎖鎌などの武器もデイパックに入れる。
ここで手に入れたものは地図と参加者名簿、
失ったのは時間と僅かな体力だけなのだから選択としては正解だった。
しかし、しづかの疑問は変わらず解けないまま。
沙織を殺したのは誰か。
美心と沙織を埋葬したのは――黒沢だと思われるが
黒沢は二人とどのような繋がりがあるのか。
あらためて支給品を詰め終わったデイパックを背負うと、
周囲に何か落ちていないか、しづかは墓の周りをぐるりと見回す。
「・・・なんだこれ」
沙織のものだと思われる墓に突き立てられた枝に、
ひとつの首輪がかかっていたのだ。
しづかはそれを手に取った。
「・・・・?
なんかまだ光ってるっぽいけど・・・」
たしかに参加者の首につけられたものとよく似ている。
しかし、主催側曰く首輪を無理に外そうとすると爆発する。
それでは、この首輪は誰のものなのだろうか。
誰かから外したものではないということなのか。
またひとつ、しづか一人では解けそうもない疑問が生まれた。
しづかは、その首輪をポケットに突っ込んで顔を上げた。
禁止エリアがどこなのかもわからないままだが、
ノートパソコンさえ使えれば解決する。
そのノートパソコンを使うためには禁止エリアについて悩まざるをえない。
堂々巡り。
いっそいつまでもここにいたほうが安全なのか。
安全といえば、そうかもしれない。
このエリアに誰もこない可能性だってある。
しかし誰かが――例えば仲根がしづかの前に現れる可能性もまた、存在するのだ。
考えなければならない。
さぁ、どこへ行こうか。どうしようか。
【B-7/崖沿い/朝】
【しづか】
[状態]:首元に切り傷(止血済み) 頭部、腹部に打撲 人間不信 神経衰弱 ホテルの従業員服着用(男性用)
[道具]:支給品一式 参加者名簿 鎖鎌 ハサミ1本 カラーボール アカギからのメモ コルトパイソン357マグナム(残り3発) ノートパソコン(データインストール済/現在使用不可) CD−R(森田のフロッピーのデータ) 石田の首輪 手榴弾×1
[所持金]:0円
[思考]:誰も信用しない ゲームの主催者に対して激怒 一条を殺す
※このゲームに集められたのは、犯罪者ばかりだと認識しています。それ故、誰も信用しないと決意しています。
※和也に対して恐怖心を抱いています。
※利根川から渡されたカラーボールは、まだディバックの脇の小ポケットに入っています。
※ひろゆきが剣術の使い手と勘違いしております。
※森田の持っていたフロッピーのバックアップを取ってあったので、情報を受信することができます。 データ受信に3〜5分ほどかかります。
------------------------------------
以上です。ありがとうございました。
投下乙です
墓前という形とはいえ三人の女性が一同に会する、黒沢との繋がりなど
静かな中に深みを感じる話でした。
ノートパソコンの充電機、遠藤が持っていただろうけどしづかはパソコンだけを奪ったので
今は佐原が持っているかな?
保守
保守
保守
保守
保守
保守
349 :
マロン名無しさん:2012/08/27(月) 21:28:14.07 ID:/rvxSRMM
ほしゅ
350 :
マロン名無しさん:2012/09/13(木) 17:26:02.43 ID:uERGI2Uj
保守
え…?美心でっか…?
保守
ほしゅ
保守
355 :
マロン名無しさん:2012/11/07(水) 06:50:45.16 ID:3HvNHjMN
保守!
せやな
ほ
し
ゅ
ほ
361 :
マロン名無しさん:2012/12/25(火) 17:33:44.66 ID:Qnctp0bm
し
362 :
マロン名無しさん:2012/12/28(金) 19:38:10.26 ID:r+sM3f6V
ho
ほしゅ
今年はたくさん投下がありますように…
ほす
ほしゅ
ほす
369 :
マロン名無しさん:2013/01/19(土) 00:07:10.73 ID:RlFfA5b6
ほす・・・
ほす
コテつけずに書き込むけど、書き手の一人です
正直、今後どんな風に話を作っていけばいいかわからない
特に主催者が書けない
読み手でも書き手でも、ROMの人でもいい、何か意見をくれませんか
自分は最近ログを読み始めたばかりだから何とも言えないや…
本当に面白くて魅力的な話ばかりで、いつも楽しませて貰ってるのに、何も役に立てず、申し訳ない…
ほ
>>372 371です
レスありがとう、気長に考えてみます
375 :
マロン名無しさん:
俺もこのロワは好きだ
そして完結してほしい
読者だからこんな無責任なことしか言えんが頼みます