もちろん、南京錠を取り付けること自体は、侵入者対策のためである。
しかし、なぜ、しづかに聞かれないように、話が切り出されたのか。
――しづかが安心して、ホテル内を自由に散策することを避けるため・・・だろうな・・・。
板倉のこれまでの行動から、一条は板倉のシナリオをこのように推理する。
――オレにオブトサソリの毒を打ち、血清の存在を伝え、しづかの元へ向かわせる。
そして、21号室にたどり着いた直後、血清を奪おうとするオレを殺害し、しづかの信用を得る・・・というところか・・・。
この時、しづかが21号室で閉じこもっていなければ、このシナリオは成立しない。
だからこそ、板倉はしづかに南京錠の存在を伝えなかったのだ。
――このタイミングで、殺害計画・・・どこまでも似たような考えを持っている・・・。
一条は南京錠をディバックにしまった。
「さようなら・・・姫、そして、我が思考の双生児よ・・・」
一条はホテルを後にした。
【F-6/ホテル周辺/夜中】
【一条】
[状態]:健康
[道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ) 改造エアガン 毒付きタバコ(残り18本、毒はトリカブト) スタンガン 包帯 南京錠 通常支給品×6 不明支給品0〜4(確認済み、武器ではない)
[所持金]:6000万円
[思考]:カイジ、遠藤、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
復讐の邪魔となる(と一条が判断した)者を殺す
復讐の為に利用できそうな人物は利用する
佐原を見つけ出し、カイジの情報を得る
【F-6/ホテル内/夜中】
【しづか】
[状態]:首元に切り傷(止血済み) 頭部、腹部に打撲 人間不信 神経衰弱 全裸
[道具]:なし
[所持金]:0円
[思考]:ゲームの主催者に対して激怒 誰も信用しない 一条を殺す
※このゲームに集められたのは、犯罪者ばかりだと認識しています。それ故、誰も信用しないと決意しています。
※和也に対して恐怖心を抱いています
以上です。
投下乙…!圧倒的どS…!
一条がどんどんヤバくなっていくのが読んでて楽しかったですっ…!
(なんつー感想だ)
しづか…可哀相だが、この事態を乗り越えてたくましく変貌するような気がする。
非常用はしごのないホテル、ロッカー、ソファ、南京錠…。
舞台装置や仕掛けがすごい。
読み進めるたびにハラハラしました。
圧倒的展開…!
一条ドSすぎだろwwww
代理投下をしてくださった方、感想を下さった方、
ありがとうございました。
実は前々からしづかには土下座させたいと思っておりました。
黒沢への大人狩り→下半身羞恥プレイの流れに理不尽さを感じていましたので、
じつかも同じ目に合って、黒沢の苦しみを思い知ればいいかなぁと…。
ちなみに、脱がせたのは、先日のラジオで脱衣拳様から脱がせちゃいなよとアドバイスをいただいたため。
お風呂に入ってという状況ではないですが、こちらの方も達成できて良かったです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
久々の投下キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
やっぱり投下きたら嬉しいな。
作者さんも代理も乙
しづか頑張れ。とりあえず板倉のシャツを着るんだ!
おちんちん、おっきしたお(^ω^)
俺たちが今
保守したり保守されたりしてるのは
実はスレッドじゃねえんだ
プライドなんだよ……
投下します。
支援
三人に見守られながら、赤松は息を引き取った。
「あああっ…!」
零は赤松の死体にしがみつき、泣き崩れた。
涯は拳を握り締めながら、必死に嗚咽をこらえている。
沢田は赤松の上体を支えながら、最期の言葉を反芻していた。
『ホテルでゲームの説明を受けた時、こんな予感があったんです…。
“自分はおそらくここを生きては出られないだろう”と…』
(俺も全く同じことを感じていた…。
そして、どうせならばこのゲームを潰してから死んでやろう、と。)
『涯君と零君を…頼みましたよ…』
赤松は最期にそう告げて逝った。
(――託されちゃあ、簡単に死ぬわけにはいかねえな…。
せめて、ゲームの終盤まで…!
二人の安全が確保されるまでは…なんとしても生き延びなければ…!)
「………落ち着いたか?」
しばらくして沢田は、零と涯に声をかけた。
二人の心情を考えると急かすのも憚られたが、ここでじっとしているのはまずい。
森の出口であること、目の前が崖で行き止まりなのを考えると、
他に誰かがやって来た時、または万が一沙織が再び戻ってきた時、応戦しにくい。
「はい…すいません」
零は涙を拭いながら返事をし、涯は険しい表情のまま小さく頷いた。
「よし…ここから移動するぞ。いいな?」
まだ脱力している二人を立ち上がらせ、沢田は赤松の亡骸を背負った。
自分自身、この赤松という男に『侠』を見、共感しただけに、
心中に空虚が広がっていくのを感じていた。
だが、赤松に二人を託されたという使命感が、今の沢田に力を与えていた。
「赤松さんの体…。弔ってあげたいですね…。」
零がぼそりと言った。
「そうだな…」
ゆっくりと崖沿いに南下しながら、沢田は返事をした。
涯は歩きながら、崖の向こうに見える建物を睨み付けていた。
――それは、この悪夢の始まった場所。D-4禁止エリアのホテル。
ここで棄権申請をしろ、と言ったにも拘らず、禁止エリアにすることであっさりと状況を覆してきた主催者。
(そのために田中沙織は絶望し、赤松を死に追いやった…。
他に方法を模索しようとせず、優勝を狙い、田中を気遣っていた赤松を殺した…!
許すことは出来ないっ…。そして、主催者はもっと許せない…!)
E-3の中央辺りまで来ると道はなだらかになり、坂道も終わりが見えた。
涯は再び背後を振り返った。ホテルは、暗闇の中で光もつけず、薄気味悪く聳え立っていた。
しばらく歩いて行くと、木々の間から大通りが見えた。
ぽつんと小さい木造の民家が姿を現す。
「着いた…。」
沢田が一言漏らすと、零と涯は「?」と疑問符を表情に出して沢田を見る。
「この家は、俺が昼間に見つけて、少しの間居座っていたんだ。
中に入る前に、アンタらに告げておくべきことがある」
沢田は二人の方を振り返り、また口を開いた。
「俺はここで一人殺している…。今もまだ死体が玄関先に転がっているはずだ」
零の顔に驚きの表情はない。第一放送直前、沢田からあらかじめ聞いていたことだからだ。
そして、漠然と歩いていたのではなく、沢田がまっすぐここを目指して歩いていたのだと気がつき、
一人納得して頷いた。
涯を見ると、張り詰めた顔でじっと沢田を見ている。
沢田は怒りとも悲しみともつかないような表情のまま、口の端を持ち上げて笑って見せた。
「…返り討ちにしてやったんだ。毒のついたナイフを持っていたのが幸いだった。
互いに『死』を覚悟しての戦いなら、不意打ちだろうと、武器に頼ろうと、同じ土俵での戦い…。
恨みっこなしさ。そうだろ…?」
普段の沢田なら、こんな言い訳じみたことは言わない。
だが、今は特別な事情があった。どうしても涯に話しておきたかったのだ。
涯はじっと己の右腕を見た。
返り血が乾ききって指や腕にこびりついたままになっている。
人を殺した。
その罪悪感が消えることはない。
だが、ここに同じ痛みを知っている者がいる。その者は、痛みをありのまま受け止めている。
人知れず黙って内に秘めているだけでは、どうにも解れなかった重苦しい黒い塊が、
胸のうちで少しずつ解れていくのを、涯は感じていた。
他人に共感する。
今までは己の『弱さ』だと思い込み、忌み嫌っていた感情。
(だが…そうじゃない…。この暖かさ、強さは…。)
今の涯は、その感情を受け入れることが出来るようになっていた。
「…弔うつもりで戻って来たんですね…?」
零が沢田に聞くと、沢田は曖昧な笑みを浮かべた。
「元々、休む場所を探そうと考えていてここを思い出した、ってのが本音だがな。
手伝ってくれるか…? 零、涯」
二人は頷いた。
民家から大槻の死体を運び出し、家の裏手に三人で穴を掘った。
シャベルになりそうなものは見当たらなかったので、細長い板を見つけてきて掘り返した。
やがて、二人分の穴ができると、それぞれの穴に死体を横たえ、また土をかけた。
「何か墓標になりそうな物はないかな…?」
沢田は周囲を見回した。
「いや…沢田さん、このままのほうがいい…」
零は、額の汗を拭いながら沢田に言った。
「墓だって分からない様にしておいたほうがいい。墓荒らしに荒らされないように…」
「何だって…?」
「死体の首輪を狙って、掘り返す不届き者がいるかもしれない」
沢田は一瞬呆気に取られたが、零の言わんとすることに思いが至り、ああ、と声を漏らした。
首輪なんか狙ってどうするのかと思ったが、死体から首輪を剥ぎ取り、
その首輪で実験しようとする参加者がいてもおかしくはない。
内部構造はどうなっているのか、どのような状態で爆発するようになっているのか…。
しかし、その行為自体は、自身の首輪から逃れるための試行錯誤であり、生き延びるための必要悪である。
「…エゴだと分かっているんです。けど…。ここの墓は荒らされたくない…。」
赤松の死体を埋めた辺りを見つめながら、零は言った。
三人は民家の中に入り、ひっくり返っていたちゃぶ台を元に戻した。
涯は、沢田が探してきたタオルを濡らして顔や腕を拭き、体についた血や泥を落とした。
支給品で簡単に食事をしてから、三人が今持っている支給品の確認に入った。
涯が預かっていた赤松のデイバックを空ける。
中には通常支給品、手榴弾8個、そして、首輪が出てきた。
「これは…。まさか…」
あの赤松が…死体から…? と、疑問に感じた涯だったが、零が否定した。
「いや…。標のメモに記してある。『村岡、死体から首輪、赤松さんに渡す。目的は仲間になること』
この村岡という人間が、標と赤松さんに首輪を渡したらしい」
首輪をよく見ると、死体から無理やり剥ぎ取ったのだろう、ところどころ血が輪の内側に付着している。
繋ぎ目の金具が、石か何かの硬いもので叩き壊されて凹んでいる。よく首輪が爆発しなかったものだ。
首の骨が折れるのを覚悟で、首の後ろ側の金具を叩き壊せば…。
首輪の前部分の装置に大きな衝撃を与えないよう気をつけて、
繋ぎ目の噛み合っている金属がひしゃげる位に金具を叩き潰せば、
力技ではあるが、首輪が外れる、ということだ。
ただし、ひしゃげるのは首輪だけじゃないわけで…。
……生きている人間の首輪には応用できない方法である。
涯は首輪を念入りに調べた。ところどころ螺子の穴らしきものがあるが、螺子は無くなっている。
繋ぎ目の金具を丹念に調べてみたが、特殊かつ複雑な構造で、素人には分析しきれない。
まるで知恵の輪のようだ。
零は先程から熱心に標のメモを読み込んでいる。
このゲームが始まってから標が見たこと、聞いたことが小さな文字でびっしりと書かれているらしい。
涯は首輪に目を戻したが、食事をした後ということもあって急に眠気が襲ってきた。
眠気を振り切るように首を振る。自覚すると急に体が重く感じる。
「二人とも、今日はもう休め。俺が見張りをする」
沢田が涯と零に声をかける。
「でも…」
零が言いかけるのを遮り、沢田は続けた。
「いいか…これからは体力勝負になる。疲労が溜まると緊急時に正常な判断ができなくなることもあるはずだ。
だから今はできるだけ体を休めたほうがいい…。夜の間は俺が見張りをする。
明け方になったら起こすから、交代してくれ。昼まで休息をとらせてもらう。」
零は頷いた。
「それなら…わかりました。では、次の放送がもうすぐなので、それを聞いてからにしましょう。
で、次の6時間後の放送までに起こしてください」
「分かった」
沢田は、再びメモに目を落とした零と、今にもちゃぶ台に突っ伏しそうな涯を交互に見た。
零と涯を必ず守る。赤松に託された二人の『息子』を…。
(息子か…)
実の子供や妻は昔に出て行ったっきり、今どうしているのかも知らない。
(俺は…。罪滅ぼしをしたいのかも知れねえな…。)
沢田はふっと息をついた。ちゃぶ台に乗せた腕の時計をちらりと見る。
(そういえば、もう次の放送か…。)
【E-3/民家/真夜中】
【工藤涯】
[状態]:健康 右腕と腹部に刺し傷 左頬、手、他に掠り傷 両腕に打撲、右手の平にやや深い擦り傷
[道具]:鉄バット 野球グローブ(ナイフによる穴あり) 野球ボール 手榴弾×8 石原の首輪 支給品一式×3
[所持金]:1000万円
[思考]:零と共に対主催として戦う 首輪の構造を調べる 休息をとる
※石原の首輪は死亡情報を送信しましたが、機能は停止していません。
【宇海零】
[状態]:健康 顔面、後頭部に打撲の軽症 両手に擦り傷
[道具]:麻雀牌1セット 針金5本 標のメモ帳 不明支給品 0〜1 支給品一式
[所持金]:0円
[思考]:対主催者の立場をとる人物を探す 涯と共に対主催として戦う 標のメモを分析する 休息をとる
※標のメモ帳にはゲーム開始時、ホールで標の名前が呼ばれるまでの間に外へ出て行った者の容姿から、
どこに何があるのかという場所の特徴、ゲーム中、出会った人間の思考、D-1灯台のこと、
利根川からカイジへの伝言を託ったことなど、標が市川と合流する直前までの情報が詳細に記載されております。
【沢田】
[状態]:健康
[道具]:毒を仕込んだダガーナイフ ※毒はあと一回程度しかもちません
高圧電流機能付き警棒 不明支給品0〜4(確認済み) 支給品一式×2
[所持金]:2000万円
[思考]:対主催者の立場をとる人物を探す 主催者に対して激しい怒り 赤松の意志を受け継ぐ 零と涯を守る
見張りをする
投下乙です。
赤松さんが埋葬されて良かった…。
ついでに大槻も。
赤松さんの意志を継ぐ三人に託された標のメモ帳。
これが今後、どんな働きをするか期待です。
乙でしたー!
891 :
マロン名無しさん:2009/08/09(日) 23:30:58 ID:wMxJPf/z
大槻・・・
乙でした!
このパーティは今のところ一番安定してるんじゃないか?
信頼関係って面でもそうだし、福本主人公きっての頭脳派と肉体派と
そして侠の男沢田。
三人とも福本キャラにしては常識人だしな。
武器が心許ないのは確かけど、期待。
読んでいただき、感想いただきありがとうございました。
そして、大変申しわけないのですが…。
したらばで少々話し合いがありまして、一旦この話を破棄させていただきます。
実は他にも零、涯、沢田の話を考えている方がいらっしゃって、
その方の話を順序を先にして、私の話をその後につなげたほうがいいということになりました。
ですので、一旦私の話は破棄しますが、その方が投下された後に
修正して再び投下させていただくことになると思います。
…ということなのですが…説明が下手で申しわけない。
えーっと、この話の前に1エピソード挟むってことだよね?
>>894 そういうことになります。
そのほうがストーリー的にもっと面白くなると思いますので。
…そろそろ次スレがいりますかね?
前スレが501Kで落ちたのを考えると…。
おはようございます。
本日は本スレで修正したいところが出てきたため、書き込みました。
修正箇所は81話『獣の儀式』。
作中で沙織が首輪の警告音を聞いて、一旦道を戻る描写があるのですが、
そこを削除して、次の場面に繋げたいと考えております。
理由は沙織が崖に到達する前に首輪がなってしまうという
事態が生じているためです。
64話『人間として』で崖から零が落ちかけ、
88話『希望への標』で赤松達がたどり着いた崖はその崖と
繋がっている、その崖はアトラクションゾーンへ続く道と並行に
走っているという設定となっております。
今回、修正が決まった『息子』では零達が崖に沿って
歩いております。
もし、81話『獣の儀式』の設定を採用してしまうと、
88話『希望への標』、『息子』でも
首輪の警告音がならないとつじつまがあわなくなってしまいます。
ちなみに、削除した場合、崖に到達する前に、
沙織がここはどこなのだろうと、疑問に思い立ち止まる
話の流れになるため、話全体に支障は生じません。
修正してよろしいでしょうか?
話に支障がでないなら構わないと思います。
81話『獣の儀式』修正しました。
お騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした。
皆様にお伺いしたいことがあります。
予約について。
ただ今、予約の期限は三日間になっております。
これを一週間の期限に変更したいのですが、よろしいでしょうか?
理由としては、福本漫画バトロワはかなりSSのクオリティを求められるため、もう少し余裕を持って推敲できるように。
もちろん、予約して即日投下でも問題ありません。
それとは別にもう一つ。
したらばの一時投下スレに投下するときも、できれば予約をお願いします。
ただ、元々予約は任意でしたので、強制ではありません。
いかがでしょうか?
ご意見をお願いいたします。
>>901 賛成します。
最近、書き手さんたちが、「クオリティの高いSSにしなくては」と意気込みすぎで大変なのでは?
という感じもします。
応援していますが、あまり「ハイクオリティ、ハイクオリティ」と根を詰めすぎないで、もっと気楽にやってもいいのでは?
と思っています。
>>902 ありがとうございます。
私個人で言えば、わりと気楽にやってます。
一方、ハイクオリティーを目指して書かれる方も、楽しんで書かれてると思うんですね。
以前書かれていた方や、新規の方にも参加しやすい雰囲気を、これから模索していきたいですね
今の投下ペースなら一週間でも問題ないでしょ
ハイクオリティを目指すことと楽しんで書くことは決して両立しないものじゃない。
ここの書き手陣も気負っているわけじゃなく、きっと楽しむためにやってるんだよ。
心配無用さ。
予約が2つも
キタ━━(゚∀゚)━━!!!
うおおっ…きたっ…きたっ…!
お久しぶりです。
作品が完成したため、投下します。
909 :
マロン名無しさん:2009/08/20(木) 00:13:19 ID:acchDIDM
支援
ククク…
聞くだけ聞こうではないか…
愚民の嘆きを
E-5ギャンブルルーム前。
月下に照らされ、浅く生えた雑草の上に一人の男の死体が横たわっている。
その肉体は上半身しか存在していない。
胴から下は、まるで豚のミンチをぶちまけたかのように、細かな肉片となって散乱している。
この男にとって、自分の死は突然のことであったのだろう。
まるで自分が死んでいることに気づかず、これから何かを語ろうとしているかのように、口が半開きになっていた。
そして、その頭部は胴体から離れていた。
その男を見下ろす男がいた。
額と手に焼け爛れたやけどの跡が残る男――利根川幸雄は死体の前にしゃがみ込んだ。
利根川は死体の首と胴の切り口をそれぞれ見比べた。
爆発によって吹き飛んだ胴は焼け焦げ、そこから流れる血はすでに乾いていた。
時間がかなり経過しているようである。
その死体のすぐ近くには、強い力でこじ開けられたかのように破損した、手に収まるくらいの円盤状の物体が転がっていた。
――形状からして地雷か・・・それを踏んで胴体が吹き飛んだ・・・しかし・・・
利根川は足元の雑草の中に隠れていたチップを拾い上げた。
――支給品は奪われていない・・・。
ほかの支給品も爆発で遠くへ吹っ飛ばされ、散らばっている。
もし、この男が死んだ時、仕掛けた者が近くにいたのであれば、支給品を拾っていくはずである。
――近くにいられる状態でなかったか、その必要がなかったのか・・・。
どちらにろ、これを仕掛けた者は優勝狙いの輩か・・・。
それ以上に、利根川には気がかりなことがあった。
乾いている胴体に対して、首の断面は水道の蛇口を閉めたばかりのホースのように血が漏れ、首輪が持ち去られているのである。
――胴体と首の犯行にはかなりの時間差が存在している・・・。
同一人物であれば、2度も同じ場所に来ていながら、
支給品を回収せず、首輪のみを持ち去ることは不自然・・・
故に、首切断は地雷を仕掛けた人物とは別人の可能性が高い・・・
そして、その人物が首輪を持ち去った理由はただ一つ・・・
首輪解体かっ・・・!
首輪を持ち去った人物は、おそらく対主催もしくは脱出派のスタンスをとる者だろう。
――今後のために、どんな人物の犯行か知る必要がなるな・・・しかし、今は・・・
利根川は立ち上がると、周囲を物色し始めた。
死体の男――神威勝広の支給品を回収するためである。
探し始めて5分程、チップが13枚、ノミ、スコップ、箕が発見された。
利根川は退屈そうなため息をつく。
――所詮・・・ガラクタかっ・・・
チップとノミはともかく、スコップと箕は爆発の衝撃からか、ひしゃげてしまい、使い物にならない状態となっていた。
仮に傷一つない状態だとしても、嵩張る割に用途が限られた支給品など荷物になるだけである。
――最も使えそうなものはチップか・・・だが、拾ったところで・・・
和也、一条と同じように、利根川もまた、帝愛で揉まれてきた人間である。
棄権申請のD-4エリアが禁止エリアに指定された時、棄権の道が閉ざされたことに勘付いた。
初めこそは、棄権費用の一億円を集めて、和也を脱出させることを考えていたが、
棄権不可、優勝以外助かる道がないと分かった今、和也を助ける理由も存在しなくなった。
利根川の目的は和也を優勝させることより、
カイジをギャンブルで倒し、自身が優勝することに重きを置き始めていた。
――そうだとしても、チップは駆け引きの手段としてまだ有効っ・・・!
ギャンブルルームの利用としても・・・。
利根川はノミとチップをディバックの中にしまうと、死体の前に建っているギャンブルルームの扉を開けた。
さっそく中から一人の黒服が現れる。
「何か用・・・」
黒服は利根川の顔を見るなり、蛇に睨まれた如く表情を青ざめる。
辛うじて動く半開きの口で言葉を漏らす。
「と・・・利・・・根川様っ・・・!」
利根川はその黒服の反応を見るや、眉を吊り上げた。
「仰々しく“様”などつけるなっ・・・!
オレは、今、このゲームでは参加者の一人でしかないのだっ・・・!
黒服ならどんな参加者に対しても公平に扱わぬかっ!」
黒服は“申し訳ございませんっ!利根川様っ!”とひたすら頭を下げる。
利根川は“こいつに何を言っても無駄か・・・”と言わんばかりに呆れたようなため息を漏らした。
とりあえず、この件は置いておくことに決めた。
「もうよい・・・それ以上頭を下げるな・・・・・・村上・・・」
黒服――村上は怯えるように、“はい・・・”と力ない返事をするとサングラスを外し、利根川を上目遣いで見つめた。
村上は帝愛の資金源の一つ“裏カジノ”で、一条の右腕として働いていた男である。
利根川も以前、この裏カジノを利用していた経験があったため、村上の存在を覚えていたのだ。
「・・・裏カジノの時は世話になったな・・・」
「い・・・いえ・・・あれは店長が・・・」
ここまで話した所で、村上は思わず口元を手で押さえ、“一条が・・・”と言い直す。
カイジとの勝負で敗北し、地下王国に落ちた時点で、一条は裏カジノのオーナーではなく、罪人でしかない。
そうとは分かってはいるが、一度、身に染みてしまった畏敬の念をそう簡単に拭い去ることはできない。
村上はそれを改めて悟り、思わず苦笑してしまった。
――話の節目で言葉を遮る奴だっ・・・!
利根川は村上にじれったさを感じた。
しかし、ほしい情報は村上が握っている。
下手に怒鳴りつけて、事を荒立たせるよりは、用だけを済ませて、早々に立ち去った方が建設的である。
利根川は苛立ちの表情を抑え、村上を直視する。
「担当直入に問う・・・表で何があった・・・?」
村上は“あの・・・”と返答の言葉を濁し、しばし逡巡する。
利根川は村上の反応に勘付くものがあったのか、ギャンブルルームの内部を見渡した。
床には赤い絨毯が敷かれ、天井には目を刺激させない柔らかい色合いの照明が照らされている。
壁は白を基調とし、ギャンブルに差しさわりがない程度の絵画が数点展示されている。
簡素ながらも品のある雰囲気を維持するためであろう。
窓は入り口付近にある、開閉式の小さな小窓のみで、その視界は限りなく狭いものであった。
また、防音設計らしく、風で木々が揺れる音――外部の音はまったく入ってこない。
つまり、ギャンブルルームは外部から完全に遮断されるように設計されていた。
参加者に誰が利用しているのか知られないようにするためであろうが、それは同時に黒服への情報の遮断にも繋がっていた。
利根川は村上に尋ねる。
「もしや、ゲームが終了するまでの間、表へ出ることを許されていないのか・・・?」
村上は無言で頷く。
――黒服に対しても、最低限の情報しか与えない・・・
当然と言えば、当然のことか・・・。
利根川は一言、付け足す。
「知りえる情報は限られているようだな・・・お前の分かる範囲で構わぬ・・・」
「実は・・・私の趣味なのですが・・・」
村上は小さなマッチ箱くらいの機械とそれに繋がったイヤホンを差し出した。
「ギャンブルルームの備品の盗聴器です・・・
このマイクを勝手に扉の表側に仕掛けていたんです・・・
なので、外で何があったかは把握しております・・・ただ・・・」
「ただ・・・?」
村上のニュアンスに、利根川は訝しげに目を細める。
村上は気まずそうに俯く。
「黒服は参加者に情報を尋ねられた場合、チップを受け取れば話すことが可能という規定はあるのです。
けれど、これまでここを利用した参加者がどんなギャンブルを行っていたのかなど、
ギャンブルルーム内の情報を他の参加者に話してはいけないということになっております・・・
つまり、お話できるのは、事前に決定しているルールなどに限られるんです・・・」
利根川は“ほう・・・”と呟きながら、口角を吊り上げる。
「村上・・・その黒服の規定の中に
“ギャンブルルームの外で起こった情報を話してはいけない”という事項は
盛り込まれているのか・・・」
村上は弱々しい声で“いいえ・・・”と首を横に振る。
「確かに、違反事項には盛り込まれておりません・・・
しかし、私が勝手に行った行動・・・なので・・・その・・・」
「しかし・・・黒服は“外部”を盗聴してはならないという規定もないのだろう?」
村上の話を全て聞く前に、壁に掲げられている絵画に足を止めると、それを裏返しにした。
「利根川様・・・何を・・・」
村上は言葉を失った。
利根川が持っていたものは、盗聴器のマイクであった。
村上の顔はみるみる蒼白する。
「まさか・・・それは本部が仕掛けていた物・・・」
利根川は室内を一周する。
「ギャンブルの内容を確認したければ、まずはカメラを天井に・・・
参加者の表情が見るために左右の壁にも・・・
それから、マイクがテーブルの下に・・・」
村上が愕然としている間に、利根川は本部が仕掛けた、部屋中の盗聴器と監視カメラを全て見つけ出した。
「つまり・・・お前の行動は筒抜けということだ・・・村上・・・」
利根川は初めに見つけた盗聴器のマイクを村上に手渡す。
「ここまで監視されていながら、主催側からのお咎めはなしっ・・・
つまり、お前の行動は許容範囲ということだっ・・・!」
村上は納得がいかないという表情を浮かべる。
「しかし、それは屁理屈・・・」
「村上・・・」
利根川は近くにあった椅子に座り、テーブルの上で手を組んだ。
その姿は威圧的なその雰囲気は、かつての帝愛ナンバー2の威厳を放っていた。
「確かにルールで禁止されていることを行えば、それは違反・・・
罰せられて当然・・・自業自得だ・・・
しかし、裏返せば、ルールで禁止されていないということは何を行っても可能・・・
今回、“ギャンブルルームの外で起こったことは話してはならない”という規定がなかったのは・・・」
利根川は壁を軽く叩く。
音が反響することなく、壁に吸い込まれていった。
「防音壁に、視野の狭い窓・・・
主催者は外部から完全に隔離された構造によほど自信を持っていたのだろう・・・
その傲慢さが“ギャンブルルームの外で起こったことは話してはならない”という規定の失念、
お前のイレギュラーな行動の黙認へと繋がってしまった・・・
ルールの裏をかくということはそういうことだ・・・
カイジのようにな・・・」
かつて利根川はカイジとのEカード勝負の際、耳を賭けることを条件にゲームを開始。
カイジの耳にはそれを果たすための専用の器具が取り付けられていた。
ルールには器具を取り外してはいけないという条件はなかった。
器具は一度、取り付けると外れなくなるシステムのため、ルールに盛り込む必要がなかったのだ。
しかし、カイジはその裏をかき、耳を切断し、器具を外してしまうという暴挙に出たのだ。
それ以後、ゲームの流れはカイジに傾き、結果、利根川は幹部の地位を剥奪された。
「カイジ・・・」
村上もまた、カイジにゲームの裏をかかれた者の一人である。
カイジが裏カジノの『沼』において、ゲージ棒の細工、ビルを傾けるなどのルールに記載されていない暴挙を行わなければ、
今頃、一条は帝愛の幹部入りを果たしていたはずだった。
村上の心にヘドロにも似た怨嗟が溢れ、それが激流のように体内を駆け巡る。
――カイジ・・・お前さえいなければっ・・・!
村上の心は、主催者から指示を淡々とこなす黒服ではなく、一条の部下へ戻っていた。
村上は、自信に満ちた笑みを浮かべる利根川を見据える。
――利根川様の言う通り、
規定には“ギャンブルルームの外で起こったことを話してはならない”
という事項は存在しない・・・
ならば、オレがするべきことは・・・決まっているっ!
「利根川様・・・表で起こったこと、私の分かる範囲でよろしければ全てお話いたします・・・」
利根川はうねりのような予感を感じた。
――流れがきているっ!
村上は決意に満ちた眼差しを利根川に向けた。
「意外に思われるかもしれませんが・・・あの死体が踏んだ地雷を仕掛けたのも、
その後、首を切断したのも、全て兵藤和也様によるものでございます・・・」
「何っ・・・和也様がっ・・・!」
利根川は腕を組んだまま、目を見開いた。
今まで、地雷と首切断は別の人物による犯行、ましてや、首切断は帝愛に刃向かう者によるものと結論付けていた。
村上は事の経緯を説明し始めた。
ゲームが始まってから1時間が経過した頃、和也がここを訪れ、ギャンブルルーム前に地雷を仕掛け、待ち伏せた。
その後、全身血まみれの男と髪を染めている少女の二人組がこのギャンブルルームを通りかかり、男の方が地雷を踏んでしまった。
少女はそこで逃げるかと思いきや、和也を発見し、襲い掛かった。
窓の視界から外れてしまったため、どのような戦闘があったかまでは分からなかったが、軍配は和也の方に上がったらしく、少女は逃げていった。
和也もここに長居しては危険と感じたらしく、早々に立ち去っていった。